恋愛シナリオ
1/10
携帯の画面に西日が差し込み反射して、メールの文字が見えなくなった。
校門に背もたれていた優子が軽く舌打ちをして携帯を閉じ顔を上げると、校舎は夕焼けで赤く染まっていた。
時計塔を確認する。もう少し待たねばならない。まだ家に帰る時間ではない。優子がホッとしたその時、吹奏楽部がG線上のアリアを演奏し始めた。
二階の音楽室から荘厳なメロディーが学校を包み込む。県内屈指の実力だけあって音に歪みがない。澄んでいる。優子は顔を顰めた。
何故、こんな悲しい曲を、こんな寂しくなる時刻に毎日演奏するのだろう。人を悲しくさせる為だけに生まれたようなアリアの旋律を優子は憎んでいた。
これを聞くといつも死にたくなる。土足で自分の心の奥深くに踏み込まれ陵辱さたような感覚に苛まれる。
演奏が終わって暫くすると、俊夫が「待たせちゃってゴメン」と息を切らせ優子へと駆けつけた。
「いいよ、気にしないで、君を待つの好きだから」と優子は答えたが、正確には『いいよ、気にしないで、もっと遅くていいのに』と思った。
そもそも君でなくても誰でもいいの、家に帰るのを遅らせる理由が出来ればそれでOK。家に帰えるのが嫌だから街で時間を潰すってのはリアル過ぎて駄目。いつか本当に自殺してしまう。
だから君を待つって理由で時間を潰してるだけなの、利用してゴメンね俊夫君、だから君は私に謝らなくていいんだよと優子は内心思ったが、そんな言葉が出ることはなかった。
俊夫と一緒に家に帰るのは小学校や中学校の時から続いてることで、それが高校生になっても続いてるだけ。優子はそう自分の心すら誤魔化すことでなんとか心の平穏を得られた。
「そ、そう……」好きって言葉に俊夫は顔を少し赤らめた。『綺麗だな』と優子はそんな俊夫を見て思う。顔が整ってるし、清潔感あるし、何より自分のように心が歪んでない。
だが好きという感情は持てなかった。幼馴染ということもあるが、相手を思ったり思われたり、何かを要求したりされたりするのが面倒な感情に思われたからだ。
とはいえ一人は寂し過ぎる。
いつまでも優子に都合の良い友達でいて欲しかった。だから彼女は今までに一度も彼に何かを頼んだことがなかった。何かを頼めば何かを頼まれることもあるからだ。
でも今日はどうしても俊夫にお願いしたいことがあった。
「待つのはいいんだけど……ねぇ、俊夫って吹奏楽部の部長だよね?」
「うん、他の部員より上手いって訳でもないんだけど、何故か投票で選ばれちゃって、まぁ、部長と言っても特にやることないから引き受けたんだけどね」
「最後の演奏、いつも曲、アリアだっけ、あれって俊夫の選曲なの?」
「あれは顧問の先生、アニメオタクなんだ、あの曲が流れるアニメが好きで、だから最後に演奏させるんだ」
自分の好みしか興味を示さず、他人に好みを無理に押し付けるのがオタクだ。そういうタイプの人を優子はよく知っていた。だからもう駄目なことは分かったが一応、お願いしてみることにした。
「俊夫、お願いがあるんだけど」
「うん? 何?」
「先生に言ってあの曲を別に変えられないかな? 毎日、最後はあの曲ってどうかなと思うんだ、別の曲も聞きたいかなって」
「……実は以前、吹奏楽の音を合わせるのに不向きな選曲なので変えようって意見が部員の中から出たことがあったんだけど先生がね……。明日お願いしてみるけど無理だろうな」
「そっか、ううん、気にしないで、何となく思っただけだから、じゃあ、またね!」
丁度、いつもの分かれ道になったので二人はそこで分かれた。
優子の足取りが重くなる。自宅の高級マンションの前まで来ると吐き気がしてくる。なんとか我慢して居住者カードをスキャナに通して暗証番号の誕生日を入力した。何故、私は生まれて来たのだろうか。
エレベーターで五階に上がり部屋のドアを開けると優子の母親が鬼の形相で立っていた。
派手な化粧と衣装、キツイ香水、TVドラマに出てくるヤクザの情婦そのままの姿だが、実際、優子の母は四年前に抗争相手の組の幹部を殺して服役中のヤクザの女房で、つまり優子は人殺しの子だった。
「お前なぁ、今日は七時からハイクラスの予定が入ってるから早く帰れって言ったろ?」
「ごめんなさい……お母さん」俊夫との会話とは全く違った可細い声で答える優子。
「化粧はいいから早く着替えて、ヒルトンの1514、これからタクシー呼ぶから、あと今日は厄日だろ?」そういってラップに包まれたピルの錠剤を優子へ投げ付けた。
優子はピルを口に入れると台所へ行き、冷蔵庫から牛乳を取り出してそれを紙パックままゴクゴクと喉へ流し込んだ。
2/10
現役女子高生で美少女の部類に入った娘を母は安売りしなかった。とはいえ一晩500万は金持ちの道楽のレベルを超えている。相場の百倍以上だ。
でも多くのハイソが自分達の見栄や度量を示す為、そして話のネタにする為に優子を買っていった。
そんな上流しかいない客の中で母はわざわざハイクラスと言ったのだ。名の知れた実業家や芸能人が相手でも母はそんな言葉を今まで使ったことがなかった。
もしかしたら組関係の人だろうかと優子は思う。
彼女が稼いだ金の全ては母に渡り、その金の殆どが父のいた組へと流れる。母は父が出所した時の為に組の若頭に金を渡していた。組の為に人を殺しても今の時代、幹部にはなれない。
暴力に対する報酬を取り締まる法律が出来た。だから新しく組を作る。組に金を渡してシマを切り取りして貰う。その為にはもっと金が必要だったし、人脈も必要だった。
優子は今までヤクザに抱かれたことはなかった。覚せい剤を打たれるのが怖かったし、なにより母のような人間になりたくなかった。以前、ヤクザを相手にするよう母に言われた時、それだけは嫌だと半狂乱に泣いて断った。
娘が自殺すると困るし、薬物注射で腕に傷の付いた娘は商品価値がなくなるとも思い直して、その時は母は別の娘を自分の替え玉にしたが、ヤクザにもピンからキリまである。
広域組織の上層との繋がりが出来るなら母は喜んで自分を差し出すだろうなと優子は思った。そしてもう彼女はそれでもいいと思っている。
もう疲れた。楽になるなら薬でも自殺でも何をやっていいのではないかと思う。
だがそんな優子の杞憂は外れる。彼女が部屋のドアをノックすると、どうぞとドアを開けたのは上半身裸で刺青のあるヤクザではなく、とても優しそうな目をした紳士だったのだ。
シックなグレーの高級スーツに身を包み、葉巻を銜えている。
部屋へ通される時、すれ違った男のスーツからは香水をふり掛けているのか清々しい香りがして、気分が静まった。男はパタンと静かにドアを閉め、奥のソファーに座りなさいと優子に言った。
クリスタルのテーブルを挟んでソファーに座って相対する二人。
男は新しい葉巻をシュガーケースから取り出し、パチンと奇妙な挟みで端を切るとシルバーのライターを胸から取り出し火を付け口元へ近づけ
そしてようやく対面に座る娘の顔を見ると驚いた顔をして、火をつけたばかりの葉巻を灰皿に置いて、マジマジと優子の顔を眺め始めた。
そういえば今日は化粧をして来なかった、自分のことは不細工ではないと思うが、しかし期待外れだったのだろうかと優子は申し訳ない気になった。
たまにだが、ガッカリだよとズケズケと言う客もいる(そうは言っても全員優子を抱いた)そりゃそうだと思う。一晩で500万円なんて馬鹿げた金額に吊り合うとは自分でも思えない。
何十分時間が過ぎただろう、男は優子が戸惑ってることにようやく気付き、そして「……いや失敬、君は私の娘に似ている、似すぎている、まるで生き写しだ」などと言い始めた。
いきなりこの男は何を言い出すのかと優子は訝しく思った。そして、あぁ、父娘プレイというのをご所望で、プレイはもう始まっているのだと気付いた。
なかなかこの親父も好き物のようだ。娘が本当にいるのかどうかは知らないが、つまりは血の繋がり要素を含んだロリコンなのだ。
平気です、大丈夫です、以前、中年のオタク野郎にアニメを二時間掛けてみせられ台詞を覚え、自分の声をヒロインの声色に近づけるボイストレーニングを三時間やらされ行為に及んだこともあるのです。
だから娘好きの変態といっても気にすることはないです。頑張って完璧に演じますわ。
と言いたくなったが、そんなことを言ってしまえば興が覚めてしまう。
取り合えず、お父さんと言ってみようかと思ったその時、男が嗚咽を漏らし「すまん、娘は7年前に丁度、君くらいの年に癌で死んでしまったんだ」と言った。
これはややこしいことになったと優子は思った。
3/10
それから暫く男の嗚咽が続いた。こんな年配の男性がここまで悲しみ、泣く姿を優子は見たことがなかった。演技なのか本当のことなのか分からなくなって、どうしたら良いのか、ただ無言で男の背中を擦ってあげた。
少し落ち着いた男は「すまなかった、お嬢さん夕食はまだかい? 私は泣いたからかお腹がペコペコなんだ、ご一緒して頂けるかな?」と優子をヒルトン最上階のレストラン月光へと誘った。
今、二人は夜景を眺め共に食事をしていた。
BGMは平均律第1巻第1番のプレリュード。
東京には星がないが、人々の暮らしの明かりが星の代わりとなる。つまり金を出さないと星すら見えない、優子は改めてお金の大切さを実感する。
体を売った金は母へ振り込まれるが、たまにお客が優子へお小遣いをくれる。こつこつと貯めて今は200万くらいにはなる。
今は未成年で部屋を借りれず、職も満足に見つけられないが、高校を出たらこの金で誰も自分を知らない何処か遠くの街へ行って、そこで部屋を借りて真面目に生きようと思う。それが優子の夢であり、生きる希望だった。
何かになりたいという夢ではなかった、ただ両親のようになりたくなかった。結婚もしたくない。子供なんて絶対に欲しくなかった。小さい頃から両親に虐待され続けた。
TVで心理学の教授が「幼い頃に虐待を受けた子は自分が親になった時、自分の子に虐待をするケースが多い、虐待は負の連鎖をする」と話してるのを聞いて吐きそうになった。
私は絶対に両親のような生き方はしない。しかしどうだろう。今の生活は。
母も若いときは、もしかしたら自分と同じように体を売る仕事をし、今の自分と同じように親と同じにはなりたくないという考えだったのかも知れない。あぁ、ウンザリする。
「どうかね、ここの料理は不味いだろ?」
「えっ! いえ、あの、その、えぇ……まぁ……」急に話し掛けられ吃驚する優子。
確かにこのスープは不味かった。味付けは悪くない、香りも悪くない、温度も悪くない、ただ何か欠けてるような……ていうか何で、わざわざ不味いと思うレストランへ招待するんだ、爺。
「高い値段で美味しい料理を出す店ならどこにでもあるが、高い値段で不味い料理を出すところはそうないものだ」
それは私への皮肉かと優子がムッとすると男は「私の娘がね、ここから見える夜景が好きでね……」と言い出すので、口に含んだスープを噴出しそうになった。まだ父娘プレイが続いてたのか。やはり本当の話だったのか。
死んだということであれば、この方の娘さんを演じるのは冒涜となるだろう、しかしこの爺は娘と来たレストランに私を連れてきた。それは娘さんと私を重ねているということ。
つまり私は不完全にこの人の娘さんのように接しなければならない。
それは凄く面倒なことに思えた。半分自分で半分彼の娘になる、素の自分も出さなければならない、見せ掛けの人格を望んでるのではなく、ある面は本物であらねばならない。
面倒臭い。でも金を貰ってる、それもかなりの大金なんだろう。仕方ない、やるか。
優子は取り合えず爺の娘さんについて会話を広げ、それを糸口にして彼女の人格をある程度掴み、表面上は彼女風の人格を偽装して、話の程度によって自分の素を出すという戦術を練った。
そして優子が『お嬢様、ロマンティストでしたのね、小父様』と切り出し男性への橋頭堡を築こうとしたその時、男が
「私の格好悪いところを見せたんだ、君のカッコ悪いところも見せてくれないか、話してくれ、君のことを」と言って優子の出鼻を挫いた。
何百万も払って私のことを知りたいのかコイツ、折角、私は娘さんと似た容姿なのだ、娘と一緒にいるかのような甘美な錯覚に酔えば良いのだ。昔を懐かしむもよし、背徳の関係を望むもよし、色々と楽しめるだろうに。
優子は少しガッカリした。私の素性を知りたいという客も過去に何人もいたが全員下らない人間だった。
説教をして優越感に浸ろうとする輩、自分の素性も話して情を交わした気になりセックスの快楽をより引き出そうとする輩、まぁ、この爺の目的は分からないが客にこう聞かれた時の為に用意した想定問答を優子は思い出し、答えた。
この答えに嘘は混って無い。ハイソは変態で性格の悪い奴が大半だが馬鹿ではない。嘘はたちまち感づかれてしまう。
30分掛けて自分の身の上を話終えると、暫く爺は真顔で何やら考え、そして携帯を取り出して「今日は泊まるから先に寝ててくれ」と何処かの誰かに話をした。
なんだやっぱ私を抱くのかと優子はまた少しガッカリした。
4/10
部屋に戻ると男は先にシャワーを浴びた。優子は自分も一緒に入るのかと思ったら、後で入りなさいとのことだった。暇なんでバックから携帯と避妊具を取り出す。
ピルを飲んでるがそれだけで完全に避妊出来る訳でもないし、病気になる恐れもある、しかし男性用の避妊具は相手が付けてくれないかも知れない、この売春は金額が異常に高いのでノーマルな行為で終わることは少ない。
だから優子は女性用の避妊具をシャワーの後にコッソリと付けることにしている。しかしこれでは避妊は出来ても病気は防げない。それでもいいやと思う。
自分はもうどうでもいい。相手が病気になるリスクを考えずに自分を求めるなら、自分もリスクを考えることなく相手を受け止めようと思う。
携帯を弄ってると男がバスルームから出てきた、白いガウンを着ている。
続いて優子が入ろうとすると「今日中に仕上げたい仕事が少しあるんだ、君はシャワーを浴びたらベットに入って待っててくれ、眠くなったら寝ていい」と言って奥の部屋へと消えていった。
男に言われた通り、シャワーを浴びて、髪を乾かし、避妊具を付け、裸でベットに入って待っていたが、何時間経っても男は奥の部屋から出てこなかった。夜中の12時を過ぎると優子は寝てしまった。
頬にチクチクする感触に優子が目覚める。背中から男に抱きしめられ頬に男の口髭が当たっていた。背中に密着した男の体が暖かい。お尻に男のペニスが当たっている、どうやらまだ勃起していないようだ。
何時なのだろう。窓の外も部屋も真っ暗で、闇で何も見えない。
暫くして「恵美……」と言って男は嗚咽し始める、じっとしていようと思ったが、背中を抱きしめるのは悲しすぎる。ゆっくりと身を捻って優子も男を抱きしめた。二人は黙ってお互いを抱きしめ合い、そして男の嗚咽が寝息に変わった。
恵美お嬢さんの夢を見れればいいなと思う。でも私は何の夢を見ればいいのだろう。男の髪の毛を撫でながら、優子はここまで親に愛される恵美さんに少し嫉妬した。
翌朝、男は部屋に居なかった。メモが置いてある。『仕事があるので帰ります。可愛い寝顔の貴方を起こせなかった。ありがとう』とあった。優子は顔が赤くなる。
何なのだろうこの感覚、まさかあんなのに? そんな馬鹿なと思う。そもそも彼が愛してるのは私じゃなく恵美さんだ、そしてその愛は彼の死んだ娘への親としての愛情だ。
なんでそんな……と考えてみたら、なんのことはない簡単なことだった。簡単過ぎて涙がポロポロと零れ落ちた。
そうか、そういえば私はまだ一度も親に愛して貰ったことがなかったじゃないか、彼の娘への、自分への愛情ではない偽りの愛情が、私が初めて感じることが出来た親の愛なんだ。
自分が余りにも惨めに思えた。しかし彼と抱きしめ合った時に感じた幸福感は優子の頭の中に焼付いて離れない。多分、一生忘れることはないだろう。まるで麻薬じゃないかと優子は思った。
5/10
それから数日後の朝、俊夫と一緒に学校へ登校し昇降口で別れ、優子が教室に入るとクラスメイト達は妙に余所余所しく彼女の方をチラチラと見る。
訳が分からず席に着くと隣の小沢さんが「ちょっと、アンタ大変なことになってるよ、コレ、25ページ」と声を掛け週刊誌を優子へ手渡した。
優子がペラペラと雑誌を捲ると、日本最高価格の援助交際少女とか、弊社は売春価格世界一をギネス社に申請したと下らない記事が続き、最後に誰か分からないよう目の部分に黒い斜線が入った写真が載っていた。
優子を知ってるが見れば一目瞭然だろう。
「アンタが売春をしていると騒いだ生徒がいてさ、コレそいつが持ってた雑誌、だから取り上げたんだけど、噂はもう学校中に広まってる」
優子は小沢さんとは余り話もしたことが無かった。雑誌のことよりクラスで人気者の彼女が自分なんかの為に何かをしてくれたことの方が意外に思えた。
「そっか……ありがとう小沢さん」と礼を言って雑誌を返そうとすると「いやいいよ、捨てときなよ」と言って少し赤くなって、小声で
「私もさ、昔、エンコーしててビデオ撮られたことあるんだ、隠し撮りでさ、今でもネットにあるんだ、自分の顔は出さない癖に私の顔は隠さずに、そういう卑怯者が許せないんだよ」と囁く。
「アイツの名前や住所が分かったらボッコボコにしてやるんだけど、よく分かんないし……アンタどうなの? 知ってる奴なの?」
どうだろう、そういえば一ヶ月程前、携帯で何枚か寝顔を撮った客がいたことを優子は思い出した。消すように頼んで削除したのを確認したつもりだったが、もっと注意してあげるべきだったと後悔する。
今日帰れば母にこの件について相手の名を聞かれるに違いない。私は母に逆らえない。喋るだろう。そうなったらあの客がどうなるのか優子には容易に想像が付いた。
客の中では若く30前後、人懐っこい笑顔の可愛い人だった。私に嘘を付いた卑怯者なのかも知れないが根っからの悪人ではないと思う。まだまだやり残したこともあるだろう。
父だけでなく母も殺人なんか何とも思わない。今までに組員を使って自殺に見せかけ殺した人の数は……いや、もうこれ以上考えるのはよそう。頭がおかしくなりそうだ。
ホームルームが終わると優子は担当に校長室へ連れて行かれた。
学年主任と教頭、その真ん中に校長が座っていた。学年主任がさっき優子が読んだのと同じ雑誌を机に置いて「これだが、お前はもう読んだのか?」と問う。
優子が読みましたと答えると「単刀直入に聞くがこれはお前に間違いないか?」と畳み掛けた。優子が「はい」と答えると、教師達は皆絶句した。
校長が頭を抱える。優子の横で真っ青な顔をしている担当に向かって「君は一体生徒にどういう指導をしているんだ! 売春など……」と叱責し始めた教頭を「ちょっと待て!」と、校長が止め、席を立ち、机の雑誌を手に持ち優子の方へ歩み寄る。
「森澤優子さんだったね」
「はい」
「森澤さん、この写真よーく見てね、君に似てはいるけど、私にはちょっと違うような気がするんだが……どうかね?」
「……」
「私はね、この学園にそんなことをする生徒がいないと信じてるよ、都内有数の進学校で去年は東大に30人も合格してる。君の成績もさっき見せて貰ったが実に素晴らしい、このまま行けば東大も合格圏内だ」
「……」
「でも退学したら受験出来ないよね、輝ける希望に満ちた将来はパーだ、パー」
「……いえ、私、進学するつもりない……です……」
その言葉を聞いて校長は教頭へ振り返り、ニヤニヤと笑みを浮かべ「この子、ちょっと疲れてるみたいだ」と言うと、教頭は「軽い受験ノイローゼでしょう」と応じ、そして
「これ君じゃないんでしょ? 似てるからちょっと自分だって思っちゃったんだよね? そうなんだろ」と教頭は優子の胸倉を掴んで体を揺らし、壁に叩き付け、怒鳴りつけたた。
「オイ聞いてんだよ! 本当は違うんだろ!」
母の虐待がフラッシュバックしてパニックとなった優子は「すみません、すみません、ごめんなさい、違います、私じゃありません、ごめんなさい、違います」と鼻水を流し、ボロボロに泣き始めて何度も繰り返し謝ろうとする。
その姿を見て満足そうに「そうか、わかった」と言って優子から手を離す教頭。
校長は軽く頷き、椅子に座り「森澤さんは体調が優れないようだから早退させなさい」と床に蹲っている優子を学年主任と担任に抱えさせ退室させた。
6/10
落ち着くまで保健室で横になっていた優子は、昼休みになってやっと起き上がり顔を洗って教室へ戻った。昼食中だったクラスメイトの視線を一身に浴びながら鞄に教科書を入れる。
「気にすることないから」と小沢さんが言ってくれたのは救いだったが、ありがとうと返そうにも、声が出なかった。
いつも帰宅を遅らせていたので、夕暮れ時でもない時刻に校門をくぐったのは本当に久しぶりのことだ。これからどうしようかと思う。家に帰りたくない、でも学校にもいられない。
ポロポロと涙が零れ落ちた。本当にどうしたらいいんだろう。次第に足取りがゆっくりとなって完全に止まったとき「優子!」と呼ぶ声が聞こえた。
「俊夫!?」
俊夫は前かがみになってハァハァと息を整え「教室行ったら、お前が帰ったっていうからさ、急いで追いかけたんだけど、追いついてよかった」と微笑んだ。
「何で……俊夫、まだ授業あるじゃない、部活だって……」
「俺らいつも一緒に帰ってるジャン だから今日も一緒なんだ」
「馬鹿……」優子も微笑んで、そして泣いた。
二人はいつもの分かれ道をそのまま進んで街を縦断する川まで歩いて行った。川岸の階段に二人腰をかけ河を眺める。口数を減らす彼なりの配慮なのだろうか俊夫は黙って煙草を吸っている。
「俊夫、煙草吸えたんだ」
「カッコいいだろ?」
「うん、でも医者の息子が煙草なんてお父さんに怒られるよ……」
「いや親父ヘビースモカーなんだ……それより優子、大切な話がある」
優子はドキリとした。あぁ、はやり雑誌のことを聞くのか、うん仕方ないよね、私達長い付き合いの友達だ、売春をしてるって事実を隠してたこと、俊夫、怒るだろうなと思う。怖かった。長い付き合いだったからこそ私達の関係が壊れるような気がした。
都合のよい友達として付き合った罰が当たったのかも知れないと思った。
しかし俊夫の口から出た言葉は意外なものだった。
「あのさ、俺、学校辞めて働こうって思うんだ」
「……」
「何処か遠くで、誰も知らない所で、だから、その、もし良ければ優子も……」
「俊夫……」
「うん?」
「それって私が売春をしてたことを知ったからなんだよね?」
「……」
「駄目だよそんなの、一時の感情で一生を棒に振るようなことしちゃ、俊夫は進学してお父さんの病院を継いで頑張んなよ、そしたら私なんかよりズッと俊夫に相応しい人、見つかるって」
「優子、俺は今、プロポーズしてんだよ」
「えっ……」
「お前が好きだった、前からだ、小学校の時にお前と出会ってからだ、覚えてるか? 俺が公園の隅で一人で泣いてたら、お前が俺に声を掛けて来たんだ、引っ越して来たって、友達になろうよって、それからズッと好きだったんだ」
「うん……覚えてる」
「俺のこと嫌いか?」
優子は俯いて頭をフルフルと横に振った。
「お前はどうすんだよ、体売ってるのって好きでやってる訳じゃないんだろ? あの親に無理やりやらされてるんだろ? このまま続けるのか? 二人で一緒に暮らそう、貧乏な暮らしだろうけど絶対にお前、幸せにするから」
優子は俊夫が自分と同じ夢を語ってくれたのが本当に嬉しかった。
二人暮らす生活を思い描いてみる。今まで優子が思い描いていた夢よりも色鮮やかに頭にイメージされ、心が温かくなった。
でも最後に俊夫が言った『幸せ』という言葉に優子は一瞬で現実に引き戻される。
私と一緒になって俊夫が幸せになれる訳が無いじゃないか。いつか私も私の両親のようになるに違いない。子供に虐待を加えるような腐った人間になるに違いない。
殺人犯の両親を持ち、ギネス記録申請中の娼婦の私が、どう俊夫が幸せにすると言うのだ。不幸せにするだけじゃないか。
「ありがとう俊夫、嬉しかった、でも一緒にはなれない、俊夫のことは友達としか考えられない」
俊夫は優子をジッと見つめ、そして目線を落として「そっか……ふられたか」と照れておどけた口調で返す。
優子が立ち上がる、俊夫は座ったまま俯いている、コンクリートの階段に俊夫の涙が落ちていた。
7/10
いつの間にか夕刻となり優子は家に帰った。母はまだ週刊誌の記事についてまだ知らないのかリビングでのんびりTVドラマをみていた。優子はホッとして自室に入ろうとしたとき、母は優子の方を見ないで
「優子、今日の予定変更になったから、プリンスホテルじゃなくて、ヒルトンの月光ってレストランに九時、この前のハイクラスのお客、覚えてるだろ? あいつだ」と投げやりに言った。
彼か……。二人で抱き合った夜のことを思い出して顔が少し赤くなる。
でも予定が途中で変わること余程のことがない限り今まで無かったことだ。
「うん、わかった……でもハイクラスってどういう人なのかな? 政治家なの?」と優子が恐る恐る聞くと、母は呆れ顔で
「アンタ本当に馬鹿ね、相手の素性なんて関係ないわよ、それが私に何の関係があるの、ハイクラスってのは私にお金を沢山払ってくれる人達って意味よ、普通より多く払ってくれるからハイクラスなの」と吐き捨て韓流ドラマの続きを見る。
そうだ私は馬鹿だ。一体何を私は思い違いをしていたのだろう。確かに相手のことなんて関係ない、娼婦と客の繋がりは、お金しかないのだ。いや、そうあるべきなのだ。
ヒルトンホテル最上階への直通エレベータは優子一人だけだった。音も無くスルスルと上昇を続ける。ガラスの向こうの街の夜景が非現実的で幻想的なものへと変わっていく。
彼とセックスがしたかった。
そうすることで彼に与えられた親の愛を打ち消せる気がした。
俊夫を失った喪失感も埋められる気がした。
今夜、もしこの前のように抱き合うことがあったらそのまま彼を篭絡させ結ばれようと思う。いくら娘を思う親でも健全な肉体であれば誘惑出来る筈だ。
行為の後は嫌われるだろう、軽蔑されるだろう、でも構わない、私は娼婦なのだ、愛されようとは思わない。
セックスで結びついた愛なら何とか抑えられる、でも親の愛は抑えられない、彼にのめり込んでしまう、もう心の奥底の脆弱な私が傷つくのは嫌だった。
ドアが開く、眩しい程に明るい。レストラン月光へ向かう、華やかに着飾った紳士淑女が笑顔で会話をして、幸せそうに不味い料理を食べている。BGMはパルティータ第2番。
ボーイに自分の名を告げ、席へと案内されると、彼は虚ろに外の夜景を眺めていた。
「こんばんわ、ご指名ありがとうございます」と優子は素っ気無くいって席に着く。
ガラスに映った優子を眺める男、目を閉じて静かに「君は私の娘だ」と言った。
「わかりました。じゃあ、貴方をお父さまとお呼びします。私の名は好きに付けて下さい」と優子が答えると。男は外を眺めるのを止め「優子、君も私の娘だ」という。
優子は彼は何を言ってるんだろうと思った。貴方がわたしの父親な訳がないだろう。あの親の子でありたくないと何度役所に行って戸籍を調べたことか……。そう私は養女でもなく正真正銘、人殺しのヤクザの実子なのだ。
「貴方は私の親じゃないし私は貴方の娘でもない、でも貴方が望むなら貴方の娘として振舞います、私を買ったのですからその時間をどう使うか貴方の自由です、私は貴方の望むまま何でもします、だって私は娼婦なんですもの」
優子を見つめるだけで男は暫く何も喋らなかった。店内のBGMがロ短調ミサ曲に移る。男はボーイを呼んでワインといくつかの料理を注文し、葉巻を吸い大きく煙を吐き出した。
「分かった、じゃあ今夜は私の話を聞いて貰おう。長い話だ。退屈かも知れないが最後まで聞いてくれ。先ず恵美の話からだ」
8/10
娘は癌だった。骨肉種の悪性で発見が遅れ、娘が若かったというのもあって進行が速くて見つかった時にはもう手遅れだった。全身に転移して処置できるものでは無かった。でも私はそれを受け入れられなかった。
この子が死ぬという現実が非現実的に思えた。助けられる筈だと思い込もうとした。必死にやれば奇跡が起きると思った。医者である私が自分の娘の病を見過ごした罪悪感、自己嫌悪もあって正常な判断が出来なかった。
何度も大きな手術をして癌細胞を一つ残らず取ろうとした、メスを入れられない箇所は臨床試験も済んでない強力な抗がん剤を外国から取り寄せて使った。
娘はやつれてね、髪の毛も抜けて、治療をしているのか娘を痛めつけているのか分からなくなってしまった。私は娘の残された貴重な時間を奪ってしまった。
もう殆ど時間が無くなった時、ようやく私は治療を止めた。娘に何でもしてあげようと望みを聞いた。そしたらこのレストランで家族と食事をしたいと言うじゃないか。
母親は昔に亡くなってる。私と娘と小学生になったばかりの息子の3人でこのレストランの、この席で食事をしたんだ。娘は苦しそうだったが、最後まで笑顔だったよ。
ここの不味い食事をオイシイ、オイシイと、もう味も分からなかったろうに。
食事が終わると娘の衰弱が酷いので部屋をとってホテルに泊まることにしたんだ。
明日の朝、娘の体調が良くなってから家に帰る予定だった。
部屋に入ると娘は食べた物を全て吐いた。モルヒネを打って痛みを和らげようとしたが、娘は拒否した。話があるって言ってね、ベットに横になって私と息子に語り始めるんだ。
それは娘の昔の記憶だったり、今日の食事の話だったり、弟である息子や私への感謝の言葉だったり、叱咤激励であったり、長い話だった、最後に私達の手を強く握って何を言いたかったのか、私にも息子にも聞き取れなかった。
私達は冷たくなった娘の体を擦って暖かくしようとしてね、必死で話しかけてね、そしたら生き返ると思って、ほんと私は医師失格だ。
今日、君が川岸の階段で息子と話をしているのを見た、君とゆっくりと話がしたくて学校の外で君を待っていたんだが息子に先を越されたという訳だ
勿論、何を話してたかまでは知らない、でもこの年になると何となく察しは付く。
息子は君に姉の姿を重ねている。あの子は幼い頃から姉が大好きでね。年の離れた姉を母のように慕って、いつもくっ付いて離れなかったよ。甘えん坊なんだ。あいつは姉が死んだ悲しみで心を閉ざしてしまった。
それを開けたのが君だ。姉の面影を君に感じ取ったのだろう。
君が息子と恋人まで関係を進めなかったのは、自分がいつか自分の親と同じになってしまうという恐れと、娼婦という現実にあったのだろうと私は思う。
でも、君だけが心の中に闇を持っていたのではないのだよ。
息子も君と恋人まで関係を進めなかったのは、自分が君を思う気持ちは君を姉に重ねているだけで君じゃなく姉を愛しているだけなんじゃないかという恐れなのだ。
息子は本当に甘えん坊でね、出来の悪い子供程に可愛いという言葉があるが、私は息子が付き合ってる幼馴染の少女が息子に相応しいか否か、見極めようとした。
探偵を雇って君の素行を調査させた。君の情報を週刊誌に売ったのは彼だ。私に情報を渡すだけでなく、週刊誌にも高く売れると思ったのだろう。君には申し訳ないことをした。スマナイと思ってる。
……しかし彼の持って来た君の写真を見て吃驚したよ。娘とソックリだったからね。まさか息子の幼馴染がそんな子だとは思いもしなかった。
あいつ黙ってたんだよ。家にも連れて来ない。息子は私に姉とそっくりな彼女がいると知られたくなかったのだろうな。恥ずかしいのか、それとも私に盗られると思ったのか、まぁ、愚息のことなど、もうどうでも良かった。
私は君に会いたかった。どうしても、もう一度、娘に会いたかった。
9/10
彼の長い話が終わった。料理にもワインにも手を付けられることはなかった。
優子は混乱していた。娘である恵美さんを失った親の悲しみというものがどんなに深いものかを知って今までの自分の言葉や行為に罪悪感を覚え
目の前の男が俊夫の父親という事実と、俊夫が自分に姉を重ねていたという事実にどう接すれば良いのか分からなかった。
「私を買ったのですからその時間をどう使うか貴方の自由です、私は貴方の望むまま何でもしますと、君は言ったね?」男はニヤリとした。
「は、はい」優子は上手く声が出なかった。
「じゃあ、明日から本当の私の娘になって貰おう、君はもう私が買い取った、昔なら身請けというのか、5億も掛ったよ、病院を親戚に売り払ったんだ」
「なっ……」
「養女としてではなく君には私の息子……いや愚息の嫁になって貰おうと思う、それなら君を他家に嫁にやることもないからね」
「ふ、ふざけるな、あんたさっき、俊夫は私じゃなく、お姉さんを私に重ね、お姉さんを愛してるだけだと言ったじゃないか、私に近親相姦の真似事、いやそもそも結婚させるって何だよ、あんたにそんなこと決める権利……」
「権利ならあるよ、君は私が買ったんだ、君の気持ちなんか関係ない、君を買い取った私が君の人生を決定するんだ、息子と結婚して、私をお父さんと呼んで貰う」
「……」
「大丈夫だ、息子の嫁にまた裸で抱き合ってくれとは言わんよ」
優子の顔が真っ赤になる。BGMがアリアに代わった。私の一番嫌いな曲だ。何でこんな時にこんな曲が流れるのだろうと優子は頭を抱える。ニヤニヤした男の顔がスッと真顔に変わる。
「この曲、恵美が好きだった、恵美はここの景色と音楽を愛していた。綺麗だと……。この曲はね、この店の最後に流れる曲なんだよ、もう閉店だ」
男は灰皿に置いていた葉巻を取り「私も、もう長くはない、この煙草がね……肺ガンで、もう転移している、本当に私はヤブ医者だ、娘の後を追うには遅いが、もう死んでいい頃だと思っていた」
顔が真っ青になる優子、ショックで言葉が出てこない。
「でも君は娘の温もりを思い出せてくれた、掛け替えのない命というものの温かみを実感出来た、もう少し生きていたいと思った、君らの子供、孫の姿もみたいからね」
男は灰皿に葉巻を押し付け、火を消した。
「君らはまだ若い。私のように過去に囚われては駄目だ」
男が咳き込み始める、優子が背中を擦ろうと立ち上がると、男は手を優子へ伸ばし、手を広げ、来るな座ってろ、話を聞けと怒鳴った。
「息子は姉の姿を君に重ね、だから君に告白するのを躊躇った、そういう過去は確かにあった、でもな、そんなへタレが君へプロポーズしたんだぞ、これからは姉じゃなく君が好きになって行くんだよ」
男はまた大きく咳き込み始める。苦しそうだった。男が口を押さえたハンカチに血が付いている。優子が、分かりました部屋で休みましょうと言っても男は聞かなかった。
私にはもう少し話さなければならないことがあるんだ、頼むから最後まで話させてやってくれ、聞いてやってくれと懇願する。
「君もそうだ、親のような人間になるに違いないから人を愛せないとか、娼婦だったから駄目なんだとか、そんな悲しいことを言うな、これからの君はそんな下らないものに引きずられることなく生きて行くんだよ」
アリアの演奏が終わろうとしている。
「お前達は私が無理にでも結婚させる、こんな他人に強制された下らない始まりの恋愛は嫌だろう、でもなそれもいつか過去の話になる、幸せになるか不幸せになるか、そんなのは私は知らん、それはお前達が築き上げるんだ」
10/10
それから私はお父さんの家で暮らすこととなった。
俊夫がまだ結婚出来る年齢で無かったので籍にはまだ入ってなかったけど
小さな教会で結婚式を挙げた。
式には私と俊夫、お父さんと、あと小沢さんが来てくれた。
お父さんはその一年後に亡くなられ、二年後に私は妊娠した。
幼い頃に虐待を受けた子供が親になると子供を虐待するケースが多いと心理学者は言う。
虐待の連鎖が起きたらって心配は正直まだ私の心の中に少しある。
不安になったら私はアリアを聴く。
すると、あの月光で聞いたお父さんの言葉が蘇る。
そして、お父さんに死んで欲しくないと願ったことを思い出す。
命の大切さを教えてくれたお父さん。
虐待を連鎖させない、お父さんの言葉を子供に伝え、心を連鎖させる。
その時には美しいアリアの曲を流そうと思う。
了
次回の上級先生の作品にご期待下さい。