>>26のシチュをお借りしてSSを書こう!と思ったら、なんか違うものになったけど投下
少年×青年で、一応、サイキックファンタジー風味
よろしかったらどうぞ
「お帰り」
エントランスのドアを静かに閉めた瞬間、そう声をかけられた少年は、ほんの一瞬、僅かに肩を竦め
て、相手の方へと振り返った。
相手の方へと、振り返った瞬間、短く整えられた少年の淡い空色の髪が真夜中過ぎの暗闇の中で
揺れる。
「うん、ただいま。まだ、起きてたんだ」
少年は彼のことを待っていたプラチナブロンドの青年に向かって、何事も無かったかのように、微笑
んだ。
それから、羽織っていたモッズコートとジャケットを脱ぎ、それを近くのコートハンガーに無造作に引
っ掛けると、両手に嵌めていた黒い革手袋を外して揃えて持ち、軽く俯いてから、小さく息をつい
た。
その間、彼を見ていた青年の方はと言えば、先程、一度、少年に声をかけてからは、一切、声を発
していない。
ただ、静かな表情で、目の前の相手に対して少々きつい印象を与えている、自らの青銀の瞳の
視線の先を、淡い空色の髪の少年の方へと、合わせたきり、そのまま、じっと彼を見つめていた。
「うっ! ……ごめん!! ……えっと、……予定より、その……ちょっと……手こずって」
その気まずい雰囲気に耐えられなくなった少年は、自らの顔を思い切り良く上げ、視線を青年の
方へ向けると、自分の非を認めて早々に謝った。
そんな少年の様子を見て、青年は壁に寄り掛かったまま、軽く溜息をついた。
「……で? 途中まで付けられてた?」
「うん。相手を撒くのにちょっと時間がかかった」
自分が投げかけた質問の答えを聞くと同時に、青年は少年を自らのもとへと引き寄せた。
その弾みで、少年が手に持っていた手袋が彼の手を離れ、小さな音を立てながら、床へと落ちた。
青年はそれに気を留める事なく、目の前の少年が無事であることを確認するように、しなやかな
その少年の身体をそっと抱きしめた。
「……エル、良いけど、あまり心配させるな」
「……ん、ごめん……」
エルにとって、自分とたった三つしか年が違わないのに、目の前の青年は、十五になったばかりの
自分自身と比べると、随分と大人びて見えた。
いつものことではあるのだが、この青年のしっかりと体躯で、こんな風にして抱きしめられると、エル
は、いつも自分自身がどうして良いのか判らなくなる。
彼にこんな風にされると、普段は自分の内に完全に封じ切っている、熱く激しい感情が急に引き出
されるような気がする一方で、とても切ない、痛みを伴うような感覚さえも、一緒になって、エルの心
中をひどくかき乱しながら、覆ってゆくような気がするからだ。
だから、エルは青年自身が自らその腕を振りほどいてくれるまで、いつもその場で、身動きひとつす
ること無く、青年に自らの身体を委ねたままでいることが多かった。
それに、こうして青年に抱きしめられながら、互いの体温を感じている、この時だけは、自分が紛れ
もなく、命ある生命のひとつなのだと実感できているような気がしたからだ。
ただ、それは、この青年が、エルの背中にある、あの証の解放を求めたりしない場合に限られては
いたが。
「ん……シオン、駄目だ! ……嫌だ! ……俺の背中には手を出すなと言った筈だ!!」
シオンと呼ばれたその青年の腕が、一層力強く自分自身の背中へと廻された、そのとき、エルは、
彼の腕の中で、喘ぐようにして、その行為の制止を求めた。
それと同時に、普段の自らの腕力にも、全くもって遠く及ばない、頼りないといった程度の力しか
出せていない分自身の手をシオンの腕へと重ね、彼の行為を止めにかかる。
だが、シオンは、そんなエルの言葉や仕草にも慣れているらしく、その腕の力を緩める様子は無い。
それどころか、エルを抱きしめるその体勢を保持したまま、エルの躯のその場所に、更に力をかけな
がら、エル自身の意識がその一点へと向かうように仕向けていく。
それと同時に、シオンはエルの耳元でいつものように、甘い声で囁く。
「エル、もう、誰も見ていないのだから、大丈夫だ」
「……っ、う……嫌だって、ば……」
この状況になると、今、エルの背中にかかるシオンの腕の力が弱まることは、エル自身がシオンの
意思に従うまで絶対にありえない。
エル自身も、そんなことは、何度も経験しているから、解りきっている。
それなのに、毎回、無駄な抵抗を試みる自分が、こんな隙を見せることなど、本来なら、絶対に無
い筈なのに、唯一、シオンにだけは、幾度かこんな目に遭っていても、尚、全くもって敵わない自分
が、本当に嫌になる。
「……く……うっ、嫌だ……あぁっ!!」
「……エル、本当に嫌?」
耳元で囁かれる、シオンの優しく心地良い声と、自分自身の背中へと、徐々にかかってくる、熱く、
痺れるような、それでいて、身体の芯が疼いてくるような熱量を帯びた感覚が、いつものように、エ
ルの意思と思考力を少しずつ、削ぎ取るようにして、鈍らせていく。
「……うぁ……っあ、や、嫌っ!……っ、あ!」
「エル、もう、それを自分の能力で抑えるな、俺は、今、君のそれが見たい」
こんな風に、シオンからそれを解放することを肯定され、促されたとしても、嫌なものは嫌だ。
だから、エルは、エルなりに、いつも自分が保つところまでは、必死でその言葉への抵抗を試みる。
エルの背中にかかるその掌の力は、普通、世間一般の人々が、感じるものとしては、大きな痛み
を伴うものではないし、彼自身にとっても、肩を壊したりする類のものではない。
それでも、彼自身の身体が、世間一般で言うところの人間と大きく異なるものであるという、あの
証が、シオンの力の所為で抑え込めなくなる。だから、嫌なのだ。
「あっ……もう……嫌だ……や、あぁあっ!!」
自分の背中が、徐々に熱を帯びていくその激しい感覚に耐えかね、エルがシオンの力に抗うこと
を止めた瞬間、それは彼の背中に現れた。
彼の背中へと現れたそれは、虹色の透き通った輝きを持つ4枚の大きな羽根だ。
それは、彼が身につけている衣服などを損なうことなく、その背中に唐突に出現していた。
恐らく、エルが自身の能力を併せることによって、他には影響が及ぶ無事の無いようにとの配慮
をしたのだろう。
そして、その光輝く羽根が背中に在るというだけで、元から端正な姿をしているエルは、傍から見
ている者には、彼自身が現実の世界には存在しない神々しい次元からからやってきた、精霊や
妖精といった類の存在のようにさえ、思わせた。
だが、エル自身は、自分がそういった類の者ではないことを、自覚している。
そう、自分は、この世の金持ちの気まぐれと、その莫大な資金と、遺伝子科学などの最先端技術
の全てを注ぎ込まれた結果として生まれた、人工生命体なのだということを。
それ故に、この容姿と、その羽根を背中に封じ、なおかつ、普通の人間には成しえない奇跡を成
す力 ー そう、俗にサイキックといわれる能力 ― を持ち合せているのだから。
同じ能力持ちの彼、シオンに自らの本来の姿を晒すという、ただ、それだけのことなのに、それで
も、自分が人工生命体であることを改めて実感することになる。
「っ、あぁ……」
「相変わらず、美しいな」
シオンはエルを抱きしめたまま、背中に現れたその羽根に目を遣りながら、そう言った。
シオンが幾度となく、エルのこの在りのままの姿が好きだと言ってくれていても、正直、エルにとって、
この姿の自分自身の存在自体が受け入れ難い。
だから、嫌なのだ。
エルにとって、これを改めて認識することは、未だに、この上ない嫌悪感に満ちたものだ。
それに、これを自分の意思から外れたところで、シオンに引き出されるのは、毎回、無駄に抗う所為
からか、自らの身体に大きく負荷がかかる。
また、直後にほんの少しの間ではあるが、自分自身の身体がとても気だるくて、普段のようには動く
ことなど出来はしない状態に陥るということが、エルがこれに嫌悪感を抱く状況に更に拍車をかけた。
シオンは、エルのそんな気持ちを知ってはいたが、それでも、今となっては、自分だけが良く知ってい
るこの少年の在りのままの姿をただ、純粋に見たいと、そう思ったから、無理を承知で、その背中へ
と自分の能力の一遍を充てた。
そうでもしない限り、エルは、滅多なことでは、この美しい羽根を纏った姿を見せてくれはしない。
今回は少々無理矢理が過ぎただろうかと、幾分反省をしながら、自分の腕の中で、未だに少し震
えるようにして、身体を預けたままでいるエルの体調を気遣いながら、シオンは声をかけた。
「……エル? 済まなかった。まあ、何とか大丈夫そうかな……
羽根が出現していても、君の能力は、まだコントロール出来ているみたいだね」
「……この鬼っ!! アンタには、これが無いから……だから解んないんだよ!!」
エルは、シオンの腕に支えられ、抱きしめられたその状態のまま、相手に向かって、少し投げやりな
気持ちになりながら、そう言った。
彼と同じように、遺伝子科学の粋を集めて生み出された身の上であることには、代わりは無いのに、
シオンの背中には、羽根が無かった。
それとあわせて、シオンがその身に兼ね備えている特殊能力の方が、自らの能力よりも秀でている
という現実が、エルの心の深い処に在る傷を抉る。
そう、自分は、どちらかといえば、裕福な身の上の人間の観賞用として役割も果たすようにと、創ら
れた存在なのだということを改めて思い知らされる気がするのだ。
その上で更に、自分自身が、所詮、権力者達の気まぐれによって生み出された存在なのだというこ
とを改めて、突き付けられている気さえする。
そんなことも全て解っている癖に、エルが嫌がるその背中の羽根を度々見たがるこの青年の気持ち
など、エルには、全くもって理解できなかった。
だから、いつもは絶対の信頼を寄せている存在だとしても、今、この瞬間は、この青年の傍から、と
にかく離れたかった。
「シオン、もういいから、手を放せ」
「まだそんなこと言える状況にはないだろう、無理はするな」
エルはそう言って、シオンの腕を振りほどこうとしたが、やはりまだ足元がおぼつかない為に、すぐに
よろけそうになった。
その様子を見かねたように、シオンは再び自らの片腕でエルをしっかりと支えると、それ同時に、空
いている方の手をエルの羽根の根元辺りへと添える。
「……っ、うぁ!! ……触るなっ!!」
「何で?」
「……何で、って……真顔で聞くな! 馬鹿!」
エルの身体のその場所は、唯でさえ、まだじんわりとした熱く疼くような感覚を残し続けていた。
だからこそ、今、シオンには、絶対にそこに触れて欲しくなかった。
相手に今、ほんの少し、触れられただけで、こうなのだから、もう暫くの間とはいえ、このままこうして、
シオンに身体を預けていなければならないのかと思うと、エルはそれだけで気が遠くなりそうな気持ち
になった。
「……っ、ぁ! ……触るなって、言ってるだろ!!」
そんなエルの言葉を耳にしても、シオンは感覚が鋭敏すぎるままになっている彼の身体を抱きしめ
ることを止めなかった。
ただ、いつものようにエルの身体をしっかりと受け止めるようにして、彼の心と身体に拡がっている
熱を帯びた感覚が落ち着いていくのを静かに待っていた。
それでも、今日は何故か、エルの身体に籠る熱が引いていく様子は一向に無かった。
むしろ、こうしてシオンに抱きしめられていればいる程、エルの身体の熱は、昂っていくような気がし
た。
自らの身体の傍に、相手の身体の熱を感じている状況に在るというだけなのに、自らの身体が受
けるこの感覚が生み出し、もたらしていく、痺れるような熱量の力から受ける影響の方が大きい。
それは、背中だけではなく、全身に熱く、疼くような感覚として、拡がったまま、和らいていく気配は
一向に無かった。
それどころか、その熱さは、エル自身に、再び自らの身体の芯へと向かってゆく、痺れと熱量を増
していくような感覚さえ起こさせた。
「……シオン……もう、いいから……俺……このまま、アンタと居ても、落ち着かないから……」
「エル、俺の前では、もう、そんな風に振舞わなくて良いから」
「……えっ、何……」
エルが少し顔を上げた瞬間、シオンは、エルの唇を塞ぐようにして軽く口付けた。
エルがそれに驚いて口を開けた瞬間、シオンは、その柔らかな唇を割って、更にほんの少しだけ
深く口付けるようにしてから、それを止めた。
「……っ、どうして……!!」
唇を解放されたエルは、今、この状況で、自らが持て余す程の熱を既に帯びている自分自身の
身体に対し、その感覚を更に強くするような口付けを相手から施されたことに、ただ、驚いていた。
今までにも、身体の芯が熱く融けていくようなこの感覚の中で、まるで何かに焦れているかのよう
な自分の姿を、今、目の前にいる相手に情けなく晒すことになったことは、確かにあった。
それでも、彼は、シオンが、エルにこんなことをしたことは、今までに一度も無かった。
彼は、今までずっと、エルの気持ちと身体の状況を推し量るように、待っていてくれただけなのだ。
互いが、互いにとって、ただ、それまでの関係でしか無い筈なのに。
エルは熱を帯びた感覚を引きずっている所為で潤んでいる瞳で、自らの気持ちを諮りかねている
のだとでも言いたげな表情のまま、シオンを見つめていた。
そのエルの視線に応じるように、シオンは自らの眼差しを再びエルの方へと向けた。
それから、ほんの少しの間を置いて、シオンは小さな声で呟くように、その言葉を告げた。
「君が好きだから」
「……なに言って……」
相手から突然告げられた言葉に対して、エルは、ただ、相手を見つめることしか出来なかった。
嘘だ。だって、いつだって、俺の方が、一方的にアンタに身体を預けているだけで。
ただ、それだけの関係なのに、アンタが俺を好きだなんて、そんなの、絶対にあり得ないだろう。
エルのそんな戸惑いを乗せた想いは、言葉にさえならかった。
その様子を黙って見ていたシオンは、エルのしなやかな線を描く身体を再び引き寄せるようにして、
彼を抱きしめる腕に力を入れ直してから、強い意志の宿る真摯な眼差しを改めてエルへと向けた。
「もう一度、言おうか?」
「……もう、いい……」
エルは、シオンに対して、それ以上の言葉を掛けることなく、シオンの肩越しに自らの腕を絡め、相
手の身体を抱き返した。
それが、今のこの自分が抱えている感情に最も近しく、それを素直に表した行為だと思ったからだ。
今は、ただ、目の前の相手の身体から感じるこの体温だけが、エルが欲する全てだった。
そして、それは、自らが此処に存在する唯一の証のように思えた。
その気持ちを察したように、シオンは自らの腕の中に留まっている、エルの身体を強く抱きしめ直す
と、その唇へと再び口付けた。
それが、今、相手に示すことができ唯ひとつの証だから。
【END】
久々に書いたらなんか色々難しかったよ!
お目汚し失礼しました
投下乙です
二人の距離感が良いですねー
楽しませていただきましたw
>>127の続きを投下
青年×少年で、サイキックファンタジー風味
今回分だけでも一応、読めるようになっているはず…
よろしかったらどうぞ
窓から見える空が青い。
こんなに、雲ひとつ無く晴れ渡った日の朝だというのに、青年の隣で眠る淡い空色の柔らかな髪と
端正な顔立ちをした、その少年が目を覚ます気配は、一向に無かった。
そもそも、昨晩、少年が帰って来た時刻が真夜中過ぎではあったので、まあ、これはこれで、仕方な
いか、などと思いながら、流れるようなプラチナブロンドと青銀の瞳の精悍な顔立ちをした青年は、
今日、何度目かの溜息をついた。
そうして、今、このベッドの上で、少し背中を丸めるような姿勢になりながら、相変わらず、穏やかな
顔つきで眠り続けている少年の方へと改めて目を遣った。
これまで、この少年と付き合ってきた経験から察するに、少年は、今、このまま彼が起きれば、その
瞬間、ひどく不機嫌な表情をすること、この上ない格好で眠っている。
少年が、今、身に着けているのは、そもそも穿いていた少し細身のカーゴパンツと、申し訳程度にかかるブランケットのみだ。
この年頃の少年としては、見た目にもバランスがとれた柔らかな筋肉を兼ね備え、滑らかな線を描く
彫像のような美しさを見せているその上半身には、何も身につけてはいない。
まあ、それは、昨晩、少年自身が、上半身に何か着たまま寝るのは、鬱陶しいので、脱がせてくれと
言った所為なのだが。
更に、若干背中を丸めたような姿勢のままで眠っている、少年の背中には、彼が普通の人間と異な
る者であるということの最大の証となっている、四枚の透明な羽根が出現していた。
今、少年は、今、本来であれば、彼が滅多に見せることのない、生来の姿のままで、眠りに落ちてい
たのだ。
朝の陽射しを受け、様々な色合いで淡い光を反射している透明な羽根を身に纏ったその少年の姿
は、昨日の真夜中に見ていた時よりも、より一層、その姿が何か現実離れした存在のようにも思え
た。
また、それは、少年本人にとっては、少年自身が自分の存在を酷く否定しがちな要因をともなって
いたが、他人から観賞されるという趣向を踏まえて創られた、人工生命体としての彼の端正な容姿
もあって、この殺風景で、決して広ない部屋では、彼の存在が相当場違なものにも感じられる。
「まあ、このままだと、昨日、何かあったのかと疑いたくなる光景にはあるかな……」
青年は、ベッドに片肘をつき、自らの上半身を少し起こしたその姿勢のまま、溜息をつきながら、小
さな声で独りごとを言った。
それでも、少年の方は、先程から、同じベッドの上で背中を丸めるようにして、眠り続けたまま、起き
る気配など全く無い。
「……にしても……本当に相当、疲れてたのかね? 無防備もいいところだと思うぞ、エル」
エルと呼んだその少年の反応が無いことを承知の上で、青年は小声のまま、続けてそう声をかけた。
そうなのだ、エルがいつもは自身の能力をもって封じている羽根を晒した本来の姿のままで、こんなに
も無防備な状態でいることは、極めて珍しい。いや、むしろここまでの状況は無かったといっていい。
エルが自らの意思で背中の羽根を彼に見せてくれたのは、二人が研究所を出ることになったあの時
だけだったし、その後は、その場の状況に応じて仕方なく、というものばかりだった。
そういった時でさえ、羽根を封印しても差し支えない状況に戻れば、即座にそれを封じていたというの
に。
これだけ深く眠っているとはいえ、こんな状況は今までに無かった。
青年は、そう思いながら、昨晩の真夜中にエルが帰って来た時の状況を思い返す。
まあ、いつもよりも無理強いが過ぎたのは認めるし、エル自身の反応もいつもより若干強かったとは
思うが……結局、あの後、ベッドまで運んで、上着を脱がせてやって、こうして添い寝までする破目に
なっただけだ。
思い返したところで、結局、青年には、エルが無防備な状況のまま眠っている理由は、今のところ全
く思い当たらなかった。
青年は昨日のこと思い返しながら、それでもまだ、この状況の原因を探すように努力はしていたが、
不意に、あの時、自分自身がエルに対して、想いを告げた瞬間、それを受けた相手方の反応を思
い返すと、それだけで、少し笑ってしまいそうになる程、なんとも可笑しな気持ちになった。
あの時、エルは、「好きだ」と告げた、自分の言葉にとても驚いていた。
まあ、彼がこちら側の気持ちになんぞ、全く気付いていないというのは、十分理解しているつもりだ
ったが、エル自身が、自分自身の気持ちの揺れに対しても、全く無自覚なのだということが解って、
今更ながら、それがなんだか余計に可笑しかった。
そんな風にして、いつもエル自身の方は、全く無自覚に振舞っているくせに、昨日、彼をベッドの上
へと運んでいった際には、自分の目の前で涙を零しながら、お願い……傍に居て……とか言うのだ
から、本当に性質が悪い。
おまけに、それ以前に、いつも自分に対して、あれだけ気があると言っているかのようにも受け取れ
る素振りを素で見せているくせに、その本人が全く気付いていなかったなんて、無自覚が過ぎるだ
ろう。
……それに、研究所を出る際に、俺の気持ちが変わる程に、力強く口説いてきてくれたのは、君の
方なのにね。
「……シオン! 俺は貴方のことが好きだよ! 俺にとって、貴方は必要な人で……大切な人だよ。
だから……これから先もずっと、貴方と一緒に居たい。……それじゃだめかな?」
青年は、あの時、生来の姿を晒すことも厭わず、自分の方へと手を差し伸べながら、真摯な眼差しを
もってそう言った、エルの姿を思い出した。
その所為もあって、目の前で眠り続けている少年の姿を眺めたまま、自らの面ざしに浮かべていた微
笑みを一層強くしながら、笑い出しそうになるのを堪えた。
「……う……シオン?」
そんなシオンの様子に気付いたのか、隣で眠っていたエルがようやく目を覚ましたようで、片手で瞼を
擦りながら、青年の名を呼んだ。
「おや、おはよう、エル、そろそろ、目が覚めた?」
「……おはよう……」
エルの思考は、どこかまだぼんやりとしているようで、今、シオンが先程と同じように、その横で間近に
様子を見ている限りでは、エルが昨晩深夜からこれまでの状況を把握できているとは言い難いようだ
った。
シオンは、未だにベッドに横たわったままの自分と向きあうように、ゆっくりと顔を上げたエルの額へと
軽く口付けてから、相手の体調を気遣うようにして、再び声をかけた。
「エル、体の具合はどう? 先に言っておくけど、
あれから、特に手出しはしていないから、そういった意味では安心して良いと思う」
「えっ、あ……その、すまない! ……って、うあぁっ!!」
それを聞いたエルは、急に我に返ったようで、すぐに飛び起きるようにして身体を起こそうとした瞬間、
バランスを崩して、ベッドの上から落ちそうになった。
シオンは、そんな風にバランスを崩しかけたエルの片手を引き、それとほぼ同時に自らの身体を起こ
すようにして、エルがベッドから落ちる前に抱き留めてやる。
「大丈夫?」
互いにベッドの上で膝をつくような体勢になってはいるが、昨日と同じように、エルを自らの腕の中に
抱き留めたその体勢のまま、シオンは、エルに再び問いかけた。
それに対して、先程よりも更に相手に詫びるべき項目を増やす事態に陥ったエルは、目の前のこの
事態にまだ少々、混乱しながらも、シオンに対して、詫びる言葉を早々に口にした。
「えっ、ああっ、もう!! ……その……ごめん! 昨日は、本当にすまなかった、ごめん!!」
「ここに帰って来てからの件なら、エルのが謝るようなことは何もないよ?」
「……いや、俺の方が……また色々と迷惑をかけた」
「こちらこそ、無理強いして済まなかった。
……えーっと、それにしても、その背中……ていうか、そのままで大丈夫なのか?」
二人はどこか咬み合あわないような会話を続けていたが、エルが未だに、背中の羽根を封じていな
い上、更に彼が上半身に何も身につけていなかったことに改めて気が付いたシオンは、それを気遣
うように、声をかけた。
エルの背中の羽根は、いつもなら、もう、とっくに彼自身が封じている筈の状態にあるものなので、
今までにこんな風に声をかけたことなど無かった。
おまけに、エル自身は、それ程、気にしていないらしく、機嫌を損ねたりしている訳ではないのだが、
こんな風にエル自身が平然とした状況で、なおかつ、衣服を身につけていない彼の背中の近くへ
と、自らの掌が触れることなど、今までには無かったことなので、正直、シオンの方が、今、この状
態に在ることに驚いていた。
「……ああ、そういえば、このままだと、少し寒いかな……。
それから、これは、アンタが望むなら、それは、それで良いかなと思って。
これからは、封印しなくても済む状況の時は、なるべくそのままにしようかと思ってるんだ。
まあ、そのままにしとくと、色々と邪魔なんで、必要が無い時は、普段も封じるようにはするけど」
エル自身は、そのことを特段気に留める様子もなく、普段と同じように、シオンに微笑みながら、返
事を返した。
自分の心の内を素直に思えば、今も自分の背中に、この羽根があることについて、肯定的になりき
れている訳では全くない。
それでも、シオンが重ねて好きだと言ってくれている、自分自身を構成する要素の一つだと思えば、
少しでも、これについて、嫌悪している自分の気持ちを和らげることができるような気がしたのだ。
だから、エルは、自分が唯一、信頼しているシオンがこの羽根を現すことを望んだ時にまで、敢えて
逆らうようにしないことを決めた。ただ、それだけのことだ。
ただ、それだけのことで、他に何が変わったという訳ではないが、エルは、自分自身の気持ちが、何
処か少しだけ軽くなったような気がしていた。
そうして、自分が人工生命体であるという事実から目を反らすことなく、何時も強い気持ちでいられ
る自分で在りたい。
少しずつでも良いから、そんな自分自身の想いに自分を近づけていくようにしたい。
エルは、そんな想いを新たにしていた。
「えっ、それはちょっと……
要するに、これからは君が、ああいう表情をすることが、あんまり無くなるってことだよね」
シオンは、自分の腕に抱かれたままの状況にいながら、強い意思を宿す瞳で、こちらの方を見つめて
いたエルに対して、ほんの少しだけ驚いたような表情をした。
「……っ、何だよ、シオン! それって、どういう……」
「いや、別に……そういうところも全部含めて、君が好きだってことだよ」
先程からエルを抱きしめたままでいたシオンは、自らの片方の手をエルの後頭部へと添えて、その額
に軽く口付けてから、小さな声でそう言うと、ようやく自らの腕を振りほどいた。
「えっ、あっ、それって……」
エルが驚いた表情のまま、その場で一瞬、固まったように、動くことを止めていた合間に、シオンは、
エルの身体からベッドの上へと落ちていたブランケットを自らの手元に手繰り寄せ、エルの前へと差
しだした。
それから、ベッドの淵に手をついて立ち上がり、再び、エルが膝をついて座っていたままのベッドの
方へと振り向くと、普段の朝と変らない、いつもの笑顔で、エルに声をかける。
「さて、紅茶でも淹れてくるよ。ミルクティーでいい?」
「えっ、あ、うん」
そのまま、シオンの後ろ姿を見送ったエルは、ようやく少しおちついた気持ちを取り戻しながら、小さく
息をついた。
そうして、自らの背中羽根か一瞬にして封じ、シオンから渡されたブランケットをふわりと羽織るよう
にしてから、肩にかけながら、これからのことに想いを馳せる。
昨晩、遭遇した追手は、そう遠くないうちに、この場所を特定するだろう。
それでも今は、それが少しでも遅れることを祈らずにはいられなかった。
いずれは、今のこの場所からも去らなければならないだろうし、いつもシオンの足手纏いになりがち
な、自分のことを考えると、また、シオンとも、別れなければならない時がやってくるかもしれない。
「それでも、俺は、今は、ただ、シオンの傍に居たい。ただ、それだけが、俺の望みなんだ」
シオンが去っていった後、今は、ただ一人きりになった、この部屋のベッドに座ったまま、エルは小さ
な声で、そう呟いた。
【END】
レスありがとうございました!
ちなみに、エルには、普段からどちらかといえば、寝起きは良くない方…なんて設定があったりします
細かい設定を色々と考えるのも大好きなのですが、SSにあまり活きない裏設定の方が多くて困るw
以上、お目汚し失礼しました
154 :
創る名無しに見る名無し:2011/06/07(火) 22:23:54.60 ID:oxbF8Gqo
性表現ってありなの?
全年齢板だよねここ
自分で考えた上で、小学生に見られても良いと思う物を投下すればいい
157 :
創る名無しに見る名無し:2011/06/22(水) 04:40:42.28 ID:quEXYunC
あ
一応保守
保守
162 :
転生:2011/08/06(土) 15:30:21.07 ID:vPFfUNMD
保守ついでに投下
うん、よくある転生ネタです
163 :
転生 1/2:2011/08/06(土) 15:31:55.12 ID:vPFfUNMD
はじめて君を見た時は、そりゃ驚いたさ
正直あり得ないと思ったね
俺が長いこと流転を繰り返しながら
探し求めていた貴女が、
まさか男として転生していたなんてね
だけどね、君のその笑顔を見る度に、
やっぱり、俺は貴方が好きなんだなぁ…って、
それしか、思い浮かばなくなった
164 :
転生 2/2:2011/08/06(土) 15:34:11.97 ID:vPFfUNMD
だから、たとえ、
君自身が俺のことを覚えていなくても、
世間一般でいうところの恋人同士のように、触れ合うことさえ、叶わなくても
実際の距離が近いとか、遠いとか、そんな形式なんかも、もう、どうでもいいから
ただ、君の傍に居たいんだ
俺は、君が好きだよ
愛している
この想いだけを胸に
俺は、いつものように君に笑顔を向けた
−end−
165 :
転生:2011/08/06(土) 15:36:33.04 ID:vPFfUNMD
相変わらず、SSにするまでの気力がなくてごめん
皆も気が向いたら、ネタとか、設定とか
思いつくままに投下してくださいな
花王デモ、日時確定。
9/16 11時集合 11時30分開始
集合場所:中央区坂本町公園
【ひと夏の思ひ出】
あの夏、俺は初めて男に抱かれた。
それは唐突かつ不可抗力としかいいようがなかった。
男は何故か俺の秘密を知っていた
おちんちん
そう、生殖器の機能を俺は海外での事故で失っていたという事を事前に男は知っていたのだ
俺の沽券と股間に関わるデリケートな問題だった。
当時、俺には婚約者がいて婿養子となる身だった
彼女はそんな俺でも良いと言ってくれていたが、
彼女の両親は生殖機能のない男との結婚を許さないだろう
彼女は1人娘で子供が産まれないとしたら名家の血筋が絶えてしまう
彼女の両親には絶対に知られるわけにはいかないのだ
男は臭かった
いつも大量のコロンを使用しているスカした奴だった
当主の秘書であった奴は俺の身辺調査をして秘密を知ったのだ
俺は奴に服従するしか方法がなかった
そしてあの悪魔は俺にこう言った
「さあ絶望を見せてやろう。恥辱と快楽に咽び泣くお前自身の姿をな」
そこにはビデオカメラに映る無様な俺の姿があった。
俺は京子のことを片時も忘れたことがなかった。
しかし俺はあの時、ただ目先の快楽を求め続けていた。
男の眼鏡には何かに縋るような俺が映っていた。
ネクタイをきつく閉めすぎて、男は俺は死んだ。
男に惹かれた俺の京子への愛情というアイデンティティは、
…完全に死んだ。
今年の夏、また新しいアイデンティティを手に入れる
>>167 ジャンルなど投下し忘れました
リーマン/ノンケ→ホモ/凌辱/女出演有/安価
斬新な設定ですね
>>167 ざ…斬新すぎる…バイトをサボってまで見てしまったではないか…
171 :
創る名無しに見る名無し:2011/09/19(月) 03:53:06.45 ID:lYBmlWfJ
いいじゃないですか、こういったの好きです
172 :
創る名無しに見る名無し:2011/09/19(月) 22:52:50.72 ID:iSCTILqM
ほしゅ
少年漫画において、男女関係がまったく描かれないのを『腐媚び』というならまだしも、
美少女キャラからの男キャラへの想いがなかなか報われないのや、
男キャラからの矢印が描かれないまたは男キャラからの矢印が女キャラからの矢印より少ないのをさして、
『腐に媚びてるからだ』という意見を聞くとこの意見は女のそれだなと思う。
青少年漫画にそういう傾向があるのは青少年漫画が基本的に男が主人公に感情移入するのを前提にしてつくられることと、
自分の分身×女の子より自分の分身←女の子のが優越感に浸れるからってのがそれらの一番の理由だろ。
青少年漫画から腐媚びが消えてもこの傾向は変わらないわ。
カプオタ女が好きな男女関係と腐女子が好きな男女関係もちがうが
男の好きな男女関係とカプオタ女の好きな男女関係も違うんだから。
なに全部女のせいにしてるんだか。
176 :
創る名無しに見る名無し:2012/04/17(火) 07:00:28.23 ID:ijcjxpp3
「雨に咲く花」
http://shiguresakuya.yukishigure.com/ 【舞台設定】
郊外に佇んでいる寂れた建物
そこは知る人ぞ知る高級遊郭
そこで男娼として働く時雨と咲也
ネコ同士の二人はそれぞれのお客様の
相手をしてからでも求め合い・・・
【時雨】
15歳 156cm 細身で華奢
色白で黒髪の碧眼 少年らしいシャツと半ズボン B型
小さい頃から母親の再婚相手の義父から暴行を受けていた
それを知っていた母親も助けてくれなかったことがトラウマで
両親の愛に飢えているくせに
それを望んでも叶わなかったことで
誰も愛せない性格になってしまった
家出同然に飛び出した繁華街で
この高級遊郭の上客に見初められ
もう帰る家もないと諦めた態度で連れてこられる
誰に抱かれても快感を感じてしまう淫乱
その分誰のことも愛せないで冷めた性格だったが
咲也と出逢い徐々に内面が変わっていく
咲也の最初の「教育係」として
咲也の初めてを全て奪った先輩
今でも乱暴な客が咲也につかないようにと
自分が身代わりになるなど
無意識に咲也を気遣っている
【咲也】
14歳 152cm 少女と見紛う容姿
和風を好むお客のために用意された和室と着物姿 AB型
実業家の一人息子として両親の愛をたくさん受けて育ったが
事業に失敗し多額の借金を残して父親が自殺してしまう
お嬢様育ちで病弱な母親の入院費用のため
父親の取引相手だった人物から高級遊郭の存在を知らされ働くことに
女みたいとからかわれるのが嫌で護身術と兼ねて習っていた
柔道はかなりの腕前だが普段は人見知りの大人しい性格
遊郭に売られて初めての「教育」を時雨にシてもらったため
時雨に特別に懐いている
時雨への依存にも似たヤンデレ
時雨がお客から「いきすぎたプレイ」をされたりすると
普段の大人しさからは想像できないような執着を見せ
お客に手を上げてでも時雨を守ろうとしてしまう
>>176 投下乙!切ない設定に萌えました!
が、ここは全年齢板ですから、
直接的なエロ表現を含むページへの誘導は駄目ですよ!エロは!
微エロ位までの表現に留めてくださいませ!
よろしかったら、801板の方にも遊びにきてね
(あ、18歳未満の方は遊びに来ちゃだめだよ!!絶対だよ!!)
華麗な誘導乙
179 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/07(月) 23:14:55.04 ID:n6lFBy8I
EUREKA Act.1 Olam Atziluthいかがでしたでしょうか?
ビブリオマニアクスさんにて売ってます
神様がほしゅしてるよ…
183 :
創る名無しに見る名無し:
>大阪府三島郡島本町の小学校や中学校は、暴力イジメ学校や。
島本町の学校でいじめ・暴力・脅迫・恐喝などを受け続けて廃人同様になってしもうた僕が言うんやから、
まちがいないで。僕のほかにも、イジメが原因で精神病になったりひきこもりになったりした子が何人もおる。
教師も校長も、暴力やいじめがあっても見て見ぬフリ。イジメに加担する教師すらおった。
誰かがイジメを苦にして自殺しても、「本校にイジメはなかった」と言うて逃げるんやろうなあ。
島本町の学校の関係者は、僕を捜し出して口封じをするな
>島本町って町は、暴力といじめの町なんだな
子供の時に受けた酷いイジメの体験は、一生癒えない後遺症になるなあ