【ライダー・戦隊】スーパーヒーロータイム!【メタル】
277 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 07:17:19.10 ID:7gnrSxSR
17話、以上です。
ええい、今回は投下中に睡魔に負けるとは。
278 :
創る名無しに見る名無し:2012/03/21(水) 01:32:07.65 ID:un/CzcSz
>>278 鋼も砕くキック!キック!!キック!!!
18話@
山下山男刑事は極秘文書、レイモンドファイルを閲覧した。
そこに記されたかつての仮面ライダー、卜部武政の悪行を知り、孫であり現在の仮面ライダーたる京也を危険視。
スラッシュ=御杖峻と都市保安庁の協力を得て卜部京也の身柄を確保した。
/
六十数年前、卜部武政は二人の人鬼の戦闘に遭遇する。
18話「馴れ合いは好かんが」
無数の針と巨大化した剣。
鬼二匹の必殺技が激突し、空間に爆発を呼ぶ。
この戦闘にマッカーサーが気付く可能性がある。
害意ある人鬼がどちらだろうが、今はこの戦闘を止めるのが先決。
必殺技で全ての針を消費したヤマアラシ型の鬼の身体中に、すぐさま新たな針が生える。
武政は二人の人鬼に向かって屋上から飛び降りた。
/
六十数年後、拘束された京也は、都市保安庁が管轄する留置所で山下山男から身体検査を受けていた。
しかし、変身に使用する肝心の念珠が見当たらない。
「無駄だぜ?山下刑事」
独房の外から御杖峻がそう告げる。
「奴の念珠やおれの呪符は時空断裂境界に隔離されている。万が一境界から取り出せたとしても、使用者の意思で再び空間を越え、ソイツの元へ召喚される」
だから無駄。人鬼の変身を封じる手段は無い。
「人鬼を止めるには人鬼をぶつけるしか無ぇ。だからおれはてめえに加勢した」
京也はしばし押し黙り、山下山男を向いた。
「少し御杖峻と二人で話したいんですが」
同じ頃、京南大学附属病院では少なからず混乱が生じていた。
卜部医師が出勤しない。
どころか、連絡すらつかない。
「麗ちゃん、メールはどう?」
「ダメです。完全に電源切ってる感じですね」
ナースステーションのその騒動を、斎の友人、涼ちゃんが待合室から観察していた。
涼ちゃんは京也に対して良い感情を持ってはいない。
京也は美丈夫というにはいささか野性的で、闊達と呼ぶにはいささか疲れたルックスをしている。
しかも愛想が無い。
友人である斎はそうもつまらない京也へ好意を抱いているようだし、看護師らも彼の行方を案じている。
「看護師さん」
王 麗華に言い放つ。
「あたし捕まえてくっから。何か卜部って医者ムカつくんで」
麗華は一瞬呆気に取られ、すぐに笑う。
「お手柔らかにね。先生、あれで結構打たれ弱いから」
京也という男を殴りたくなったので、診察をキャンセルし病院を飛び出した。
無論、探すためだ。
18話A
しかし、すぐに涼ちゃんは己の迂闊さを呪った。
何をアテに探せば良いのだ。
竜頭蛇尾。涼ちゃんは大人しく大学へ帰った。
その涼ちゃんを、斎が待ち受けていた。
いかな理由か、斎は鬼の存在や、彼らが用いる念珠の位置を感知する能力を持っている。
斎は、京也の気配を探り、彼が何処かへ監禁されている可能性に思い至ったのだ。
凉ちゃんの袖を引っ張る。
「ゴメン、車貸して!」
「…あんたペーパーじゃん」
そうだった。となると電車で行く他無いか?
推定される場所への最寄り駅を検索してみる。落ち着きが無くなっている。
「ちょイツキ、どうした?」
「卜部さんが捕まったみたい!多分…都市保安庁に」
凉ちゃんにとって都市保安庁といえば、謎の生物同士の戦いに巻き込まれ負傷した自分の医療費を、腹に残った傷の整形費用まで込みで立て替えてくれた妙に親切な省庁だ。
「立て替えた人は御杖峻とか言ったっけか。気になるね…イツキ!あたしが車出すから乗れ!」
二人は午後の講義を欠席、都市保安庁管轄の留置所へ向かった。
/
六十数年前。
人鬼の激戦に割って入る武政。
「へい待て待てお前らケンカをやめて!オレの為に争わないで」
「どけっ!」
ヤマアラシに似た人鬼が針を投げた。
間一髪で回避する武政。
「ちょー刺さりそうだったんですけど!」
危険を感じた武政。
「召鬼」の念珠を握った右拳を天に突き上げ、振り下ろす。
「変身っ!」
人鬼が三体。ヤマアラシ。蛭。そしてカマキリ。
「現れたか仮面ライダー…撃滅する!」
先に動いたのはヤマアラシ型。
多量の針が植わった、さながら鋸を思わせる腕で仮面ライダーへ切りかかる。
対する仮面ライダーも腕の生体カッターで迎撃するが、無数の針で構成された鋸は受けた衝撃を分散させ、ダメージを軽減させてしまう。
で、あれば特殊攻撃が妥当か。
そう考える仮面ライダーへ、今度は蛭に似た人鬼が空中から刀を振り下ろしてくる。
間一髪、脚のカッターでそれを止める仮面ライダー。
ヤマアラシ型と距離が開いた。
その隙にヤマアラシが五本程度の針を一気に投擲する。
脚で蛭の刀を抑えながらその針を掴み取る仮面ライダー。
針は明らかに、自分と蛭型、双方を狙っていた。
「今、お友達にも針が刺さるとこだったよ?」
「そのような裏切者、巻き込まれて当然!」
蛭を見る仮面ライダー。
18話B
18話B
「蛭さん、お友達を裏切ったら良くない。ヤマアラシさんも元お友達をすぐ殺しにかかるのは良くない。…お仕置きタイムだ」
強化形態、オメガフォームへ変身した仮面ライダー。
生体波動銃バーサークショットで二人を続けて撥ね飛ばす。
/
六十数年後、都市保安庁管轄留置所。
鉄格子を挟んで背中合わせに立つ京也と御杖峻。
「分かってるな?てめえが変な真似をすればおれが変身して止める」
「その間、あんたは俺の独房を監視し続ける必要があるな」
「フッ…持久戦だ。てめえが寝ればおれの勝ち。おれが寝ればてめえの勝ち」
「…俺は厄介なオペが続いて127時間不眠不休だった事があるが」
腕組みしたまま少しうつむいた後、背後の御杖峻を振り返る京也。
「…なあ御杖峻。この我慢大会、あんたにとっても命懸けじゃないのか?仮にあんたが先に眠れば、俺は時空断裂境界から念珠を召喚し変身する。つまり俺の勝ちだ。その時、あんたはどうする?俺があんたを殺して脱出する可能性だってある」
不敵に笑っていた御杖峻も京也を振り返り、形相を鋭く変える。
「だから寝られんのだ。命を懸ける価値はある。危険な卜部の血統…中でも人鬼を虐殺し根絶やしにした卜部武政。その力を継承したてめえだ。命を懸けては悪いか?」
「それがあんたの正義か…」
溜め息を吐き、再び御杖峻へ背を向ける京也。
御杖峻もそれに倣う。またも背中合わせになった。
/
六十数年前。
蛭に似た人鬼と生体剣バーサークグラムで切り結ぶ仮面ライダー。
その背後を手に持った針で襲うヤマアラシ型の人鬼。
しかし仮面ライダーの左手には、既に生体槍ディザストスピアーが握られていた。
針のリーチ外からヤマアラシに似た人鬼の首筋へ槍を突き付ける仮面ライダー。
「ハリとヤリ 一字違いで オレ有利 …季語がねえな」
仮面ライダーの舐めきった態度に腹が立ったのか、ヤマアラシに似た人鬼は「昂鬼」の呪符を発動した。
「ライダーアイアンメイデン!」
体中に生えた針を、全方位へ一斉に噴射する。
蛭に似た人鬼はいち早く逃走。
仮面ライダーは亜空間バリア、ライダーシールドを展開し至近距離からの針を全弾防御する。
この距離でもバリアは張れるのだ。
しかし、防御に専念している間にヤマアラシに似た人鬼も何処かへ消えた。
18話C
とりあえず、マッカーサーの一団は無事に都市保安団へ入ったようだ。
あとは視察を終え、GHQ総司令部へ帰り着くまでこの秘密の護衛を続ければ良い。
仮面ライダーは一旦武政の姿へ戻る。
仮面ライダーとしての姿をレイモンドに見られた。変身を維持したままは得策でない。
その時、武政の背後に一陣の風が吹き、それが止むと斎が立っていた。
「来た。人鬼の気が重複したから」
遠目から都市保安団のビルを見守りながら頷く武政。
「針を使う鬼と刀を使う鬼が仲間割れしてた」
刀、と聞き、斎はメモ帳を広げる。
以前、ディグとの地下での戦闘を妨害した謎の人鬼。彼も刃を使った。
「ただ、今回の人鬼は刀を持っていた、と言ったわね」
斎の指が直江と御杖、二つの名を指す。
「直江の鬼は刀を持つ。御杖の鬼は己が体を刃とする」
つまり、今回現れた蛭型の鬼は直江家の出自というわけか。
/
六十数年後、都市保安庁管轄留置所にズカズカと入る二人の女子大生。
対人に弱い斎が、受付を気合いで正面から睨む。
「卜部京也さんがここに捕まってるハズなんです。釈放して下さい!」
「確かに留置しております。容疑については追ってご連絡差し上げます。お引き取り下さい」
受付の極めてマニュアル的な応対に苛々する。代わりに凉ちゃんが前に出た。
「じゃあさ、都市保安庁に御杖峻っているよね。そいつ連れてきて」
その旨を独房の前に鎮座する御杖峻へ電話で伝える受付。
「山内凉か…しかしおれには卜部京也を監視する任務がある」
「え、でも山内様は御杖さんに面会したいと…」
マニュアル外の事態にうんざりした様子の受付嬢の声。
それが唐突に悲鳴へ変わった。
電話から事態を問う御杖峻の耳に、受付嬢とは異なる女声が入った。
「御杖峻!?あたし山内凉!壁破ってザラキの奴が出た!何とかして!」
人鬼の第三の眼を開く峻。
アリ型の改造兵士が、留置所や山内凉と梳灘斎らを襲撃している様を知覚する。
改造兵士の前に都市保安庁直属の機動隊が立ち塞がるものの、勝敗は分かりきっている。
「ここに仮面ライダーがいる筈だ。出してもらおうか!」
アリ怪人はそう怒鳴りながら、口から吐く蟻酸で周囲の壁を溶解してゆく。
/
六十数年前、御杖邸。
御杖喜十郎はバナナを片手に西洋椅子に腰掛け、一人の青年と話していた。
「『ニードル』…大石君。直江君の裏切りに心当たりは?」
18話D
「は、御杖殿!自分に心当たりは無いであります!」
一つ頷き、ワインを青年に差し出す。
「では、状況だけ説明してもらえるだろうか?」
「は!本日一四三○時…」
マッカーサーの一団を囮に、仮面ライダーを誘き寄せる。
その作戦のため彼、大石成紀(オオイシシゲノリ)はザラキのアルマジロ怪人、及びもう一人の人鬼
「フルンティング」直江聡(ナオエサトシ)を伴って都市保安団近くで待機していた。
しかし、マッカーサーらが作戦区域に入る寸前、直江が突如フルンティングへ変身。
仲間である筈のアルマジロ怪人と自分に刀を向けてきた。
やむ無く自分も「ニードル」へ変身して対抗。
結果、作戦は失敗に終わった。
「裏切り者、直江君の居場所は未だ掴めずか。まさかあの男、仮面ライダーに協力するつもりか?あ、もう一本」
給仕に持ってこさせたバナナを実に旨そうにかじる御杖喜十郎。
大石に見せつけているのだ。
仮面ライダーを倒せば闇市を漁る必要も無い。バナナのような高級品も買える報酬が手に入る、と。
工場の仕事が早く済んだ父親と共に美月屋で夕食を取る鏑木三次。
学校が復旧して少し経った。
「どうだ三次?教室に気になる娘とかいるのか?」
「え〜…今いないけど…」
日本そのものの復興も近いかも知れない。戦争の傷痕を感じさせない他愛ない父子の会話。
それを聞きつつ、キヌは厄介な二人の下宿客の関係について考えていた。
「…斎ちゃん。あんたにとって卜部さんって人は、何?」
その今一つ不明瞭な関係の二人は、進駐軍の駐屯地近くまで来ていた。
都市保安団の視察を終えたマッカーサーを、駐屯地まで人知れず送り届ける任務。
午後六時、マッカーサー一団が駐屯地に到着した。
漸く任務が終了した、と思ったのも束の間。物陰から駐屯地を覗き見る人物がいる。
その人物の腰には…オニノミテグラ。
武政は笑んで、その人物へ声をかける。
「よう人鬼さん。オレはこういう者です」
その人物に念珠を見せ接近する武政。
「念珠…?貴様、仮面ライダーか!」
その人物、大石成紀の腰にはオニノミテグラを内包したベルトが形成されている。
今この瞬間に変身し、進駐軍へ殴り込もうとしていたのだろう。
「この大石成紀、ザラキ天宗の命により仮面ライダーを抹殺する!変身!」
18話E
顔の右横に、右手に握った「召鬼」の呪符を掲げ、それをオニノミテグラと接触させて大石成紀は針に覆われたヤマアラシ型の人鬼「ニードル」へ変身を遂げる。
「頭ん中大日本帝国で止まってるな…前進させてやろ」
念珠を握った右拳を天に掲げ、それをオニノミテグラへ接触させた上で右斜め横に振り降ろす武政。
「変身っ!」
/
六十数年後。
機動隊によるアリ怪人への射撃は、敵が吐く蟻酸により銃弾を溶解され、然程の効果は無い。
山下山男も、斎と凉ちゃんを背後に庇いながら慣れないデザートイーグルで怪人を射撃するものの、アサルトライフルが通じない敵には意味を持たない。
第三の眼でその状況を透視しつつ、独房の前で苛立つ御杖峻。京也を見る。
「てめえの居場所を嗅ぎ付けるとは…」
「ザラキとの内通者がいるんじゃないのか?警察かマスコミ…或いはあんた達都市保安庁に」
冷静な京也にまたも苛立つ御杖峻。
「ち…しかしおれはこの拘置所の隅々を知っている。例えば監視カメラの死角!」
そこへ隠れ、スラッシュへ変身する。
「おれが出る。動くなよ…ライダーシフト!」
時空の壁を切断し、敵の眼前に瞬間移動するスラッシュ。
改造兵士に応戦する機動隊だが、敵の蟻酸に苦戦を強いられる。
そんな機動隊、及び山下山男の前に空間を切り裂き、スラッシュが出現した。
「御杖さん!」
スラッシュは山下山男、および蟻酸で溶解した外壁を見渡し、アリ怪人を睨む。
「てめえ…この施設は都市保安庁の管轄だ。壊されれば減給。出世に響く。これ以上は許さねえ」
凉ちゃんは少なからず驚いていた。以前、自分を囮にした怪人。彼が「御杖」と呼ばれ、アリ怪人に立ち向かっている。
「あんたが御杖峻…?」
スラッシュは自在に空中を舞い、アリ怪人を誘導。機動隊らを敵が吐く蟻酸から遠ざける。
しかし、アリ怪人の武器はそれだけに留まらなかった。
一人の機動隊員からは、怪人の影が盛り上がったように見えた。
直ぐにそれが無数の黒い「アリ」である事に気付き、気付いた数秒後に彼の意識は闇へ溶けた。
怪人は体内に無数の小アリを飼っており、それを体外へ放出。
強力な蟻酸とアゴを持つ小アリは敵にまとわり付き、食い尽くす。
瞬時に二人の機動隊員が骨に変えられた。
更に小アリは他の隊員らにも迫る。
隊員の一人に小アリが食い付いた。
「は、離れろ!御杖さん、助けてくれ!」
18話F
素早く腕に時空衝撃波を集約するスラッシュ。
だが、波動の刃、スラッシュレイを投げる事ができない。
高笑いするアリ怪人。
「お前の弱点はそこだなスラッシュ?お前は全てを切断する。小アリを引き剥がそうとすれば、隊員の体も切断してしまう」
人鬼が持つ絶大な破壊力、それこそが弱点となった。
スラッシュが躊躇している隙に、その隊員も白骨と化す。
接近する小アリを机にあったライターで燃やしながら山下山男は斎と凉ちゃんを庇い続けるが、小アリは次々と怪人の体から生産されてゆく。
もう逃げ場は無い!
その苦戦の様は、京也の額に眠る第三の眼に確と映っていた。
「俺の出番か…」
京也の両目が赤く輝く。
独房の鉄格子をおもむろに掴み、一気にこれをねじ曲げた。
変身せずともこれだけの力を発揮できる。
しかしその力に感嘆する事無く、京也は「召鬼」の念珠を握りしめ駆け出した。
「スラッシュレイ!」
床に這う小アリを時空衝撃刃で薙ぎ払うスラッシュ。
山下山男らは救えたが、他の機動隊員は尚も小アリにたかられる。
その時。
「ライダーフレイム!」
声が轟き、小アリが一斉に燃え上がる。
その炎で小アリは一掃できたが、周囲は火の海。
炎の中から、気象を操作する仮面ライダー・ディザスターフォームが現れた。
「ライダーフラッド!」
仮面ライダーは続いて「鬼雫」の念珠を使用。
水を操るこの念珠の力で留置所の中に雨を降らせ、火の海を消し止めた。
「卜部…さん!いや、これ以上動くな!」
仮面ライダーへ銃口を向ける山下山男。
だが、その手を斎が押さえる。
「卜部さん!…お願いします」
既に事態は凉ちゃんの想定を超えていた。
卜部。あの腹の立つ医者。今回都市保安庁にまで出向かされた元凶。
彼がこの、仮面ライダーとかいう怪人だと?
「漸く現れたな仮面ライダー!だが、奴らにたかる数万のアリ共を引き剥がす事ができるかな?」
更に小アリを生産するアリ怪人。
小アリを攻撃すれば、たかられた機動隊員にまで被害を与えてしまう。
「考えがある。スラッシュ、大アリを止めろ」
「フッ…小アリは任せてやってもいい」
スラッシュがアリ怪人に飛びかかる間、仮面ライダーは重力を操る「鬼圧」の念珠を使う。
「ライダーアトラクター!」
18話G
自分の右手へ重力を発生させ、小アリを吸引。
同時に左手からは反重力波「ライダーリアトラクト」を放ち、機動隊員を撥ね飛ばして子アリから引き剥がす。
その間、スラッシュの爪がアリ怪人の腹部に突き刺さる。
「ライダーネイルスタッブ!」
爪から生じる超振動がアリ怪人を苛む。
苦し紛れに蟻酸を吐くアリ怪人だが、スラッシュは再び空間を引き裂いた。
「スラッシュシールド!」
時空間を切り裂き、仮面ライダー同様の亜空間バリアを形成、蟻酸を無力化する。
その間に仮面ライダーは隊員らからの子アリ除去を済ませた。
「超変身!」
仮面ライダーはウィザードフォームへ変身。
球形に展開した極小規模なライダーシールドで回収した小アリを囲い、数万の小アリが充満した「アリ爆弾」を作ってアリ怪人へ投擲する。
炸裂した子アリの行動パターンは二つに分かれた。
一つは再び機動隊員や仮面ライダーらに襲いかかるタイプ。
もう一つは、生みの親を栄養源として食い始めるタイプ。
仮面ライダーは再びディザスターフォームへ変身し、稲妻を呼んだ。
「ライダーサンダーボルト!」
電撃が一匹の小アリを襲うや、全ての小アリが一斉に感電、炎上する。
この電撃はアリ怪人に食いついていた小アリにも伝達され、アリ怪人は小アリが燃える炎に包まれる。
その隙に腹部を蹴り、反動で後退するスラッシュ。
同時に空中で、技の切れ味を高める「鬼爪」を発動。
仮面ライダーもブレイクフォームへ戻り、破壊力を高める「昂鬼」を発動する。
白骨化した隊員らの遺骸を見る仮面ライダーとスラッシュ。
「襲われるのは俺一人で良かった筈…許さん。来い大アリ。俺が相手だ」
「最後まで公務員様として戦い抜いたこいつらを…許さねえ…紅に染まれぇーっ!」
仮面ライダーの拳に、スラッシュの手刀に時空衝撃波が集束する。怒りのままに駆ける二人。
「ライダーパンチ!」
「ライダーチョップ!」
仮面ライダーの拳に頭蓋を砕かれ、スラッシュの手刀に胴を裂断され、体内の小アリと共についにアリ怪人は爆砕した。
「で…山下刑事。どうしますか」
変身を解き、山下山男へ迫る京也。
今回京也を拘束したのは警視庁としてではなく、あくまで都市保安庁に協力しての事だった。
つまり山下山男個人としての逮捕。
「法的な拘束力は無いし、君はここでもレインボーブリッジでも一般人を救助したし…」
18話H
正義感、使命感、京也への感謝等様々なものに押し潰され、悩む山下山男。
そこへ都市保安庁本部との連絡から帰ってきた御杖峻が割り込んだ。
「卜部京也、釈放。ちなみに施設破損の修繕費用は警視庁から半分出してもらう」
失望とも安堵ともつかない溜め息を残し、山下山男は手に馴染まないデザートイーグルを御杖峻へ返す。
そして、アリ怪人に殺害された機動隊員らの遺骸への敬礼。
その後、京也へ愛車のキーを返却する。
「凉ちゃん…帰りは私が運転しよっか?」
斎も未だ事態を飲み込めていない凉ちゃんを連れ、ほぼ全壊した留置所受付を出る。
「あの…山下さん、私と凉ちゃんを守ってくれて、ありがとうございました」
はにかみながら頭を下げる斎。
山下山男としては、京也を拘束した自分の方が頭を下げたい気分だった。
御杖峻もまた、隊員らの遺骸に手を合わせる。
そして京也の背中へ声をかけた。
「おい!…礼を言っておいてやるぜ、『京也』」
京也は少し立ち止まり、御杖峻を振り返る。
「彼らを弔ってやってくれ。『峻』」
それだけ言い残し、愛車「レイブン」で京也は職場へ向かった。
/
六十数年前、ニードルと仮面ライダーはほぼ互角の戦闘を繰り広げていた。
仮面ライダーはオメガフォームへ変身すれば剣に槍、銃まで持てる。
針による接近戦に勝機は無い。
そのため針を棒手裏剣として投擲する遠距離戦で挑戦した。
だが一方の仮面ライダーは、通常形態ブレイクフォームを維持したまま。
「何故強化変身せぬ?この大石成紀、全力での勝負を望む!」
「ニードルさん、元海軍と見た。礼儀正しそうだしお友達になりたい」
敵の棒手裏剣をかわしつつ、ニードルを仲間へ勧誘する仮面ライダー。
だがニードルは針を、仮面ライダーの顔目掛けて投げてきた。
「断る!自分はザラキの傭兵となったのだ。この日本で裕福に生きる事を切望するゆえ!」
間一髪、針を掴んで止めた仮面ライダー。
「その軍人根性が古いっつってんのよ!」
針を投げ返す。
それを新たな針で弾くニードルだったが、最初に投げ返した針は囮。
既に仮面ライダーはニードルの真上に跳躍していた。
「ライダーキック!」
仮面ライダーの剛脚は、同じ人鬼にも充分なダメージを与える。
超重力の蹴撃が胸を襲い、動けなくなるニードル。その首筋を掴む仮面ライダー。
「どーする?オレにつくかザラキにつくか」
290 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 02:42:33.95 ID:N/KNA9Jh
18話I
左手でニードルの首を締め上げ、右手はいつでも決定打、すなわちライダーパンチを放てるよう拳を握りしめている。
その時、事態を静観していた斎が声を上げた。
「武政さん!防御して!」
ニードルを離してオメガフォームへ変身、ライダーシールドを展開し第三者からの攻撃を跳ね返す。
跳ね返してから、その攻撃が人鬼の共通移動手段「鬼葉ライドリーフ」である事に気付く。
ライドリーフは辛うじて軌道を立て直し、主の元へ戻る。
「鬼葉」の呪符を持つのは、病的に顔の蒼白い青年だった。
彼がライドリーフを操り、自分達へぶつけてきたのか。
「直江!この裏切者が…」
男を見て怒りを顕にするニードル。
直江…刀を操る人鬼の家系。ならばニードルと仲間割れをしたのはこの男か。
直江は蒼白い顔に目を爛々と輝かせ、顔全体が口になったかと思うほど大袈裟な笑顔を浮かべる。
笑顔のまま、「召鬼」の呪符を示す。
「邪魔しないでよ仮面ライダー。ニードルは僕のエモノなんだ…変身!」
呪符がオニノミテグラと接触。
力の嵐に包まれ、直江はあの蛭を思わせる人鬼「フルンティング」へ変貌した。
フルンティングは「鬼刀」の呪符を取り出す。
「ライダーソード!」
生体強化外骨格の細胞から、日本刀を構築し腰に装着する。
刀にはご丁寧に鞘まで付いている。
その鞘から刀身を引き抜き、ニードルへ向けるフルンティング。
「さぁ、刀に君の血を吸わせよう」
高揚した声音に薄気味悪さを覚えつつも、バーサークグラムでライダーソードを止める仮面ライダー。
「待った。オレはニードルの話を聞いてみたい」
フルンティングは仮面ライダーを向く。その肩が小刻みに痙攣を始めた。
これは、怒りの感情か?
「邪魔する?邪魔する?邪魔する?ねえ邪魔する?」
両手でライダーソードを握り、全力で仮面ライダーへ切り込むフルンティング。
仮面ライダーはバーサークグラムで防ぎ、一気に後退する。
「そうか、君も僕の邪魔をするの。良いよ、まずは仮面ライダー、君の血が吸いたい!」
怒りのまま仮面ライダーへ突進するフルンティング。
起き上がり、体から再び針を引き抜き逆襲を図るニードル。そして仮面ライダー。
人鬼の戦いが、またしても三つ巴の様相を呈した。
続く。
次回、19話「既婚者です」
大分間が開いてしまいました。
18話、以上です
291 :
創る名無しに見る名無し:2012/04/15(日) 17:42:26.66 ID:VtratMCy
292 :
創る名無しに見る名無し:2012/04/15(日) 20:42:32.88 ID:bbcoGbGU
ご冥福をお祈りします
293 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/05/14(月) 01:28:37.86 ID:ZGsySNj1
ご無沙汰しております。
先ずは荒木氏にご冥福をお祈りします。
私用がようやく片付いたためネメシスの続きを載せようかと思ったのですが、まだ四十九日の最中でした。
最低でも来月の三日までは自重させていただきます。
294 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 01:45:50.86 ID:trM9Z8QY
19話@
「朝子さん。麗華さんを知らないだろうか」
京南大学附属病院。
卜部京也からその質問を受け、藤堂朝子は年配女性に特有の笑みを見せる。
「今日は休みですよ?大体、あのコ彼氏いるし。残念でしたね」
「残念?」
京也は、真実意外そうに首を傾げる。
「俺はあの人に渡した書類に不備が無いか確認したかっただけだし、別にあの人に交際相手がいようが興味無いが」
朝子は内心で息を吐いた。
京也は優秀な医師だ。社交性の欠落を除けば。
仮面ライダーネメシス第19話「既婚者です」
その王麗華は、相棒のカスタムバイク「蒙ちゃん」へ寄りかかり、あるドライブインで交際相手と待ち合わせていた。
15分ほど遅れて、相手が到着した。
「遅刻は許すけどね隆司。もうちょっと気の利いたデートスポットは無かったの?」
「いや、会社から近かったからさ。それより僕のバンドでこの間さぁ」
またバンドの話か。
麗華は、少々うんざりしながら、そのドライブインの脇に広がる貯水池を眺める。
県境にあるこの貯水池。それに隣接するこのドライブインは、実は評判が悪い。
建物が大きくL字型に抉れているのだ。
そのスペースを駐車場として使うでもなく、単に3平方メートル程度の更地。
まるで、その地下に遺跡でも埋まっているような。
/
六十数年前、何処かの暗闇。
ザラキ天宗の高僧、董仲はトリカブト型の改造兵士へ任務を与えていた。
この改造兵士が体内に蓄積する毒を貯水池へバラまくこと。
その後、一定の犠牲者が報道された上で自分達の犯行声明を出し、暫定政府へ主権の移譲を迫る。
「人鬼が争い合っている今が好機だ。頼むよ」
争い合う三匹の人鬼。
激戦、と言ってよかった。
ニードルは体から生じる針をダーツのように投げ、フルンティングは刀を振るってそれを弾きつつ、鞘で卜部武政=仮面ライダーを突き飛ばす。
「血だ!君達の血だ!」
そして、この場面の主人公はフルンティングであった。
高揚を代弁するように、彼の身体中に垂れ下がる触手が振動している。
先刻の敵対は今いずこ。気付けば仮面ライダーは、ニードルと共にフルンティングと戦っていた。
仮面ライダーは刀に対し優位に立つべく、リーチに勝る長槍、ディザストスピアーを召喚。
仮面ライダーが刀を迎撃する間にニードルは距離を開け、ダーツを投擲してフルンティングを攻める。
295 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 01:54:41.57 ID:trM9Z8QY
19話A
ダーツがフルンティングの体を覆う、蛭に似た触手状の器官へ突き刺さり、ゴムホースを針で突いた様に多量の血液が噴出する。
「つまり、防御力そのものはカスか!」
勝機が見えた。仮面ライダーは風のエネルギーを操り、その竜巻の中心点に生じたカマイタチを打ち出す。
「タービュランスダガー!」
風の刃が迫る。
だが所詮は空気の流動。時空波動に敵う筈もない。
フルンティングは生体剣、ライダーソードを引き抜いた。
「フルンティングレイ!」
刀身より飛ぶ時空衝撃刃がカマイタチを寸断し、仮面ライダーに迫る。
だが、既に迎撃準備は整っていた。
「ライダーシールド!」
亜空間バリアで仮面ライダーがフルンティングレイを封じ、その隙にニードルが跳躍、「昂鬼」の呪符を手にする。
「ライダーアイアンメイデン!」
ニードルの体より無数の針がフルンティング目掛けて放射される。
対して、フルンティングも必殺技を繰り出した。
「ライダーエペタム!」
時空衝撃波を纏い巨大化した刀身が針を薙ぎ払う。
仮面ライダーは再びのライダーシールドでニードルを守りつつ、瞬間移動能力、ライダーシフトを発動した。
バリアに守られるニードル。フルンティングの視界より消えた仮面ライダー。
だが既に、敵はフルンティングの背後へ瞬間移動を完了していた。
鈍い音。
仮面ライダーがフルンティングの背へ、自らの生体剣バーサークグラムを突き刺した音。
触手の痙攣が苦痛の余り度を超し始めたフルンティング。
だが仮面ライダーは、剣を抜かない。
防御力が低いとはいえ、再生能力自体はフルンティングも他の人鬼に劣らない。
先刻、ニードルの針に貫かれた傷は既に治癒している。
このまま致命傷を与える必要がある。刺した剣から炎を放つか、或いは傷口に時空衝撃波を叩き込むか。
そう考えていたので、ニードルが自分に向けて針を発射するなど全く予想外だった。
「ライダーリアトラクト!」
反重力子の障壁を築き、すんでのところで針を跳ね返す。
だがニードルは尚も針を手に、仮面ライダーへ襲いかかる。
ニードルを迎撃するため、フルンティングから思わず剣を抜く。
針と剣で組み合う。その隙に、フルンティングはライダーソードを抜いた。
だが、仮面ライダーを斬る余力は無い。
「ライダー…シフト…」
ソードで空間を切り裂き、何処かへ逃走した。
296 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:00:18.73 ID:trM9Z8QY
19話B
「ちょっと!逃げられちゃったじゃんよ!」
憤る仮面ライダーに対し、ニードルは冷淡だった。
「あの傷では永くあるまい。先にも話したが仮面ライダー。私の使命はフルンティングと貴様、双方を葬る事にある!」
だから二人をまとめて倒そうとアイアンメイデンを放った。
もとよりニードルには、仮面ライダーに協力するつもりなど無かったのだ。
ニードルとは仲良くなれない。明らかに危ない性質のフルンティングは逃亡。
仮面ライダー=武政は少々イライラしていた。
「ニードルさん。人鬼は背中に剣ブッ刺したぐらいじゃ死なないんだよ…実証してやろっか」
言うや、仮面ライダーの姿がニードルの視界から消えた。
危険と判断し、ニードルはアイアンメイデンを全方位に放射。
だが既に、仮面ライダーはライダーアクセラレート=超加速状態へ突入していたのだ。
「ライダーハイスピードブレード!」
加速した仮面ライダーの、バーサークグラムによる斬撃。
極めて遅緩しながら飛んでくる針を全弾切り落とし、ニードルの脇腹へ一太刀を浴びせる。
実際には一度の加速で数百回の斬撃を浴びせニードルを完全に粉砕する事も可能だったが、そうしなかったのは仮面ライダーがニードルに対して殺意を抱けなかったためである。
「個人差はあれ、その切り傷も人間じゃぶっちゃけあり得ないスピードで回復する。」
脇腹の傷を押さえ倒れ込むニードルへ手を差し伸べる仮面ライダー。
同様に、剣を刺されたフルンティングもあれだけでは死なない。
人鬼は総じてめちゃくちゃタフだし。
「おたくを殺したい訳じゃない。協力してもらえんかな」
しかし、差し出されたその手をフルンティングとは別の時空衝撃刃が襲った。
「不意討ちの多い日だな!」
仮面ライダーの眼差しの向こうに立つ人鬼。
流線形で無駄の無い外観が、何処と無くサメ等の回遊魚を彷彿させた。
「帰るぞニードル。ライダーシフト!」
回遊魚に似た人鬼は左手の鋭い爪で空間に亀裂を形成し、右手へ集束させた時空衝撃波を刃として仮面ライダーへ投擲する。
「スラッシュレイ!」
思わずバーサークグラムで防御する仮面ライダーだが、波動が刀身に直撃した瞬間、その衝撃で体がやや後退した。
「ライドリーフ!」
ニードルは生体サーフボードを召喚するとそれに騎乗し、新たな人鬼の開いた亜空間トンネルへ逃げ込む。
297 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:12:59.57 ID:trM9Z8QY
19話C
続いて新たな人鬼本人も、仮面ライダーを一瞥した後、時空の狭間へ消えた。
手の甲から伸びるバーサークグラムを見る仮面ライダー。
スラッシュレイとの接触で、煙を噴いていた。
「スラッシュ…格が違うな」
/
六十数年後、都市保安庁情報部特務執行課。
御杖峻は、留置所をアリ怪人に襲撃された事件について、上司に幾つか質問をぶつけていた。
「仮面ライダー…卜部京也を釈放したのは本部の指示と聞いたんですがね」
「仮面ライダーは結局変身し、独房を破壊した。拘束などという物理的手段では無力、と判断されたのだ。人鬼の家系が断絶している以上、奴を監視できるのは唯一君だけ」
しかし、御杖峻とて一人で京也を24時間監視する事は不可能。
そもそも、もし京也が仮面ライダーの力を悪用したとして、自らの力、スラッシュでは彼に勝てない。
それはこれまでの戦いで幾度も思い知らされた。
「それに御杖君、何故君は現地にいたにもかかわらず、仮面ライダーと交戦しなかった!」
「アリに食い殺された連中はやむを得ん。だが、生存者や民間人もいました。だから救助を…」
上司が渋い形相で遮って言う。
「加速程度が君の力の限界。違うだろうか」
痛い所を突かれた。
スラッシュは炎も水も重力も操れない。
それらを操り被害を減らしたのは、自分ではなく卜部京也だ。
苛立ちを露わにする表情の峻に、上司は高圧的だった。
「何だね御杖君、君は一人では仮面ライダーに勝てないから、いつも奴を援護しているのかね?」
その言葉は峻に棘のように刺さる。
峻自身のプライドもさることながら、斎らを救おうとして殺害された機動隊員の姿が脳裏をよぎった。
「ウチの庁の隊員が数名犠牲になってるんですがねぇ。おれの力ではあいつらからアリを引き剥がせなかった」
だから犠牲を増やさぬよう仮面ライダーの協力に甘んじた。
そう幾度も言ったし報告書にも記載した。
にもかかわらず、この上司は峻を非難する。
仮面ライダーを倒すというお題目に縛られた愚鈍な役人。
そんな上司の人となりは当初より明らかで、だから峻にはこの上司を敬うつもりなどさらさら無い。
お忘れのようですが、と峻は彼のデスクを両手で叩き、その脂ぎった面を覗き込む。
「課長。おれは雇ってもらってるんじゃない。人鬼として『雇われてやってる』んだ」
298 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:19:39.36 ID:trM9Z8QY
19話D
妖魔、改造兵士、そして仮面ライダー。
彼らの抑止力となれるのは自分、スラッシュのみ。
そう言って峻は、かつてこの庁に自分を売り込んだ。
「確かにスラッシュの力は仮面ライダーに劣る。だがそれでも、おれ抜きで、てめえらだけで連中に対処できるとは思えんがな?それでもおれが邪魔と言うなら…」
峻の指先がデスク二段目の引き出しを打つ。
上司は青ざめた。そこには彼の護身用の拳銃が入っている。
因みに米軍制式ピストルのベレッタM92だ。都市保安庁の特性上、政府から特別に所持が許可されている。
「フッ…撃ってみるが良い。おれは弾丸が射出された事を認識してから変身を開始し、おれの体に着弾する前に変身を完了し、未だ着弾しない弾丸をこのビルと課長もろとも切断する事ができるがな?」
沈黙し立ち尽くす上司へ市役所的スマイルを送り、自席に戻って冷めた紅茶を啜る。
鬼は人の狂気。人鬼は狂気の具象化。そんな基礎を忘れていた。
これは都市保安庁への脅迫だ。
そして都市保安庁は、それだけの怪物を内に飼ってしまった。
峻の行動を黙認しなければ、自分たちが彼の餌食だ。
「御杖君…何が望みだ」
「毎月の安定した給与と社会保障の継続ですかねぇ。ローンや愛車の維持費も大変ですから」
現在の地位に居座るつもりらしい。
物腰こそ柔らかいものに戻ったが、全身に常に纏う殺気、狂気は消えない。
無敵の力。命令違反の給与泥棒。上司を脅迫。
仕事では人鬼、プライベートでは公務員の肩書きをひけらかす。
安定した収入と曾祖父の遺産による裕福な生活。ガラが悪く皮肉屋。
組織から嫌われる条件の大半を満たす峻。
上司も撃てる事なら彼を撃ちたい。
「テスト?」
京也は自室にて、目分量だけで適当に入れたインスタントコーヒーを斎に差し出しながら聞き返す。
頷く斎。
「大学がそろそろ試験期間なんです。で凉ちゃんが卜部さんに教えてもらおうって…」
卜部京也。名門、京南医大を卒業したいわばエリート。しかしだ。
「斎ちゃん、君ら医学部だったか?」
「人文学部です」
なら専門外だ、と素が出る。
しかし、凉ちゃん…山内涼が自分とのコミュニケーションを望んでいるとはどういう事だろう。
仮面ライダーとしての自分を見て、それでも?
「彼女は俺を恐れていないのか?」
「凉ちゃんって…いわゆる異端な人には優しいんです」
299 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:28:15.75 ID:trM9Z8QY
19話E
そういえば、斎も集団に溶け込めない性格だった。
そんな意味では彼女もマジョリティに対する異端だし、人外の力を手にした京也も異端なのだろう。
ただ、と京也は斎に言付けした。
「斎ちゃん。君は異端になりたいのか?」
「え…」
言葉に詰まる斎。
京也は熱を保ったコーヒーを構わず飲み干し、続ける。
「自分を異端だと思っている間は、真の意味での異端にはなれない」
京也はソファーから立ち上がり、斎に背を向けた。
「学校に行った方が良い。単位を落とすと後々困るぞ」
背を向けたままの京也へ斎は頭を下げる。
「ごめんなさい…お邪魔しました」
少し早足で去ってゆく斎の足音を聞く。
もう少しソフトな物言いでも良かったろうか。
京也は自身に対して溜め息を吐く。
言いたい事を言ってから、後で物言いの厳しさに気付く。
自分の悪癖だ。
/
六十数年前、美月屋、というより美月キヌをレイモンド・マグラーが訪ねていた。
「キヌ、これは進駐軍としてではなく私個人として君に聞きたいんだが」
抹茶を楽しむような手つきで白湯をすすり、正面からキヌを見る。
「一月程前、隅田川の河川敷で会った時、君は日本に人間を襲う未知の怪物がいる…と言っていたね」
そんな事もあったか。
確か武政が仮面ライダーであると知り、神経質になっていた時期のことだ。
「実はマッカーサー元帥の護衛中、私は謎のモンスターを目撃した。キヌ、君が言う怪物と関係あるかも知れない。詳しく話を聞きたい」
キヌも、物陰から聞いていた武政もまずいと思った。
目撃されたのは、武政がニードル、フルンティングと交戦する直前の事だ。
だが、何とか弁解しようと考える武政より先に、斎がレイモンドの前に出た。
「都市保安団の梳灘 斎です」
言って保安団のバッヂを示す。
彼女の身分に驚くレイモンドに構わず、斎は矢継ぎ早に嘘八百を連ねた。
「我々の調べに曰く、キヌが隅田川で目撃した生物は貴国の空襲により水底で眠っていた石炭紀の生物が浮上、密かに内陸部へ侵入していたものと思われます。調査は万全を期して。以上です」
よくもああベラベラと、とキヌは饒舌な斎に苦笑していた。
一方で武政は、その嘘八百を詳細に筆記する。
後で斎の属する都市保安団へこの件で電報を打ち、口裏を合わせてもらうのだ。
とりあえず、斎の言でレイモンドは納得したようだった。
300 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:34:19.42 ID:trM9Z8QY
19話F
「ではモンスターの話は終わらせ、進駐軍としての話をしたい。他殺死体が連続して発見されたのだが、不審人物を見た覚えは無いだろうか?」
最大の不審人物は武政と斎だが、一応キヌは首を横に振る。
それにも了解してジープへ戻るレイモンドに、漸く武政が声をかけた。
「ちなみにさ、どんな死体なの?」
「切断されているんだ。極めて鋭利な刃物でな」
/
六十数年後、京也は本日二人目の来客にはコーヒーも出さなかった。
斎ならともかく、何せ御杖峻だ。
出す必要も無いらしい。
峻は図々しくソファーに腰を下ろし、マイ水筒から勝手に紅茶を飲んでいる。
京也は本日二度目の溜め息。その後、ふと凉ちゃんを思い出した。
「そういえばあんた、妖魔の囮にした件で、山内凉に頭は下げたのか?」
「謝罪文は送ったな。形式的に。まあ訴訟食らう可能性もあるが、裁判所がおれとスラッシュの関連性を立証できんさ。万一立証されたとしても都市保安庁の圧力で何とかなる。最悪でも罰金…それもてめえら市民の税金から出るからおれにダメージは無いな」
「…ふうん」
処置無し。
峻は平然と紅茶を飲みながら、鞄より幾つかの書類を出す。
「てめえら市民は情報弱者だから興味無いんだろうが、近々横浜で大エジプト博覧会が開かれる」
その程度は知っている。確かファラオのミイラやその装飾品が展示されるのだ。
黙って峻に背を向けたままコーヒーを啜る京也。
「おい無視するな。寂しいだろうが」
この男は自分が嫌われている事を理解できないのだろうか。
構わず峻はファイルを出し、話を進める。
「ソイツに展覧するミイラの一体が輸送中に消息を絶った。都市保安庁の人間も輸送に立ち会っていたにも関わらず、だ」
「あんたらの問題だろう。俺を巻き込むな」
京也がやっと反応を示した事が嬉しいのか、峻は気味の悪い笑顔で話を続ける。
「問題は、だな。このミイラを奪ったのがザラキの改造兵士である点」
言ってエイに似た怪人の画像を見せる。
京也の反応が変わった。
「改造兵士か…コイツの能力は?」
「電気を吸収。要はコイツが侵入した施設はあらゆる機器が電力を失い、ブラックアウトする」
体内に貯蓄した電力を武器として使う事もできるようだが、寧ろ国家として見た時の脅威は、この吸電能力の方だ。
また尾に毒針があるらしいが、人鬼には然程の効果はあるまい。
301 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:39:46.98 ID:trM9Z8QY
19話G
「で…ザラキが何故ミイラを欲しがる?」
「おれが知るか。ともかくエジプト政府から当局に苦情が来てやがる。力を貸せ」
お願いしてやっているという態度は気に入らないが、エイ怪人が脅威である事に変わりはない。
/
六十数年前、武政はレイモンドに混じり犯行現場へ来ていた。
確かに、何らかの鋭利な刃物で被害者は…恐らく一撃で…寸断されている。
それにも飽き足らず、犯人は即死したであろう被害者の遺骸を幾度も切り刻んでいる。
確かに改造兵士かも知れないし、単に危うい人物が快楽的に起こした事件かも知れない。
しかし、フルンティング。そしてあの強力な人鬼、スラッシュの存在。
両者とも刃を用いる。
犯人像が広すぎる。
武政は捜査官でもなく捜査する義務も無いが、ただ自身が決着をつけなければ、と思っていた。
フルンティング。少なくとも彼は危険だ。
そう思った時、武政の第三の眼が突如開いた。
強い毒物の反応があった。
「レイモンド、オレ帰るから!」
捜査官でない武政を検分に立ち会わせる道理は無いので、レイモンドは走り去る武政を見送るより無かった。
その頃、斎はキヌと共に電報局へ行き、都市保安団宛に口裏を合わせるよう電報を打ち、既に帰路についていた。
「ありがと斎ちゃん。あたしを庇ってくれて」
「気にしなくて良い。でも、部外者に余計な事を言わないで」
進駐軍の兵士が部外者だろうか?
敗戦直後にまたも日本を揺るがすやも知れない事件が起こっているというのに。
「ザラキの件は都市保安団と武政さんで…日本人だけで始末をつける。外国に知られたくない」
キヌの方を見ず歩みを進めながら、斎はまるで政府を代表したような口振りをする。
しかし、傍らには空襲で焼け焦げたままの街路樹。
政府に委せたから日本はこれほど惨めに負けたのではないか、とキヌは思う。
それに、斎はどこか常に自己を殺している印象がある。
自分の使命を全うするのが最優先。
それは自分の人生より重いのだろうか。これでは斎は人生を楽しめないではないか。
「あんたね〜、そこまでツンツンしてると殿方できないわよ?」
斎の個人の在り方が心配になり、少し茶化すようにそう忠告するキヌ。
だが斎は立ち止まり、初めてキヌを向く。
「…いるわ」
「へ?やっぱ卜部さん?」
斎はうつむき、外套に隠した刀を握る。
「違う…私には夫がいるから」
302 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:49:00.10 ID:trM9Z8QY
19話H
/
六十数年後、横浜のとある博物館。
深夜二時、警備員がエジプト展用展示物を見回す。
ミイラが一体盗難にあったため、この時間帯でも照明が灯っている。
その照明が落ちた。
同時に手持ちの懐中電灯も切れ、手探りで探しあてた非常ベルも作動しない。
周囲に冬のセーターを脱いだような音が始終響いている。
目が暗闇に慣れ、その音の主がエイに似た怪物だと知った頃には既に怪物はこちらへ毒針を向けていた。
だが次の瞬間に窓を割り、一台のオフロードバイクが突っ込んできた。
バイクは怪物を撥ね飛ばし、そのライダーはヘルメットを外す事もなく「逃げろ」と言う。
やむなく警備員は、博物館より脱出した。
帯電した右腕で京也へ殴りかかるエイ怪人。
パンチは手で止めるが、その拳より京也の体へ電撃が放たれる。
「鬱陶しい…」
放電するならすれば良い。
気にせず京也は怪人の懐を蹴り、博物館の庭まで弾き飛ばす。
「今度は王妃の棺か…何が狙いだ」
一応聞いてみるが、返答が欲しいわけでない。
敵の言い訳に真実があるとは思えないから。
また、怪人にも応えてやろうという気力は沸かなかった。
こういう場合「冥土の土産に〜」とか言って教えてやるのがパターンというものだ。
しかし京也は、変身せずに放電に耐えたのだ。
エイ怪人としては、この強敵を冥土へ送る自信が無い。
悪い事は重なるもので、京也は「召鬼」の念珠をベルトへ滑らせ、一種の死刑宣告を放った。
「…変身!」
人鬼の気が増大した。それを感知した峻も愛車セカンドローチで現地へ向かう。
到着と同時に、怪人を攻め立てる仮面ライダーが視界に入った。
「てめえもよくよく物好きだな…」
血筋の事で幾度も挑発し、侮蔑した。
そんな自分に京也は何故協力するのか。峻は怪人目掛けて愛車を飛ばす。
「変…身!」
愛車に跨がったままスラッシュへ姿を変え、続いて「鬼馬」の呪符を発動する。
自己主張の強い、幅広で紫色のアメリカンの各部に生体強化外骨格が発生。
直後には既に車体色の主体は外骨格の白。地の紫はラインでしかなかった。
「行くぜ、スラッシュワイバーン!」
白いマシンがスラッシュを乗せ、エイ怪人へ突進する。
/
六十数年前、武政は仮面ライダーに変身し、貯水池に陣取った怪人を追い詰めていた。
303 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:58:35.80 ID:trM9Z8QY
19話I
県境に位置する、とある貯水池。
敵は体の各所より伸びる鞭状の触手とそこから分泌毒液で仮面ライダーに対抗するが、どちらも決定打には程遠い。
「あの斬殺事件の犯人はおたくか?」
そう口では言ってみたものの、仮面ライダーは疑問を抱いていた。
現在の怪人が犯人だとして全戦力で自分に挑んでいるとするなら、この怪人の武器は触手と毒液であるハズだ。
(刃物は持ってねえよな…?)
つまり、このトリカブトに似た怪人が犯人である可能性は薄い。
奴は自分の毒液を貯水池に流そうとしただけで、斬殺死体とは恐らく無関係。
ならば早急に片付けよう。
そう考え、仮面ライダーはオメガフォームに変身。
バーサークグラムで敵の触手を切断する。
しかし、傷口から垂れた血液が近場のコンクリートを溶解した。
敵は、血液さえも猛毒。
「またも全身毒まみれか!」
わざとらしくトリカブト怪人は傷口からの血を撒き散らし、仮面ライダーの足元を溶かしてゆく。
後世の者が血の染み込んだ土地を恐れ、立ち入り禁止にするほどの猛毒。
「そういう事だな。仮面ライダー、俺を下手に傷つければ流出した猛毒が街を汚染するぞ。どうする?」
「こうするよ。ライダーバインド!」
仮面ライダーは重力波動を放ち、敵の動きを封じその場に固定する。
同時に、炎のエネルギーを左手の生体波動銃、バーサークショットへ集束した。
「待て!俺を傷つければ…」
「ライダーフレイムショット!」
超高熱を帯びた時空衝撃波がトリカブト怪人へ突き刺さる。
更に仮面ライダーは力を解放する。
「ライダーシールド!」
炎上し始めたトリカブト怪人を亜空間バリアで包囲し、密閉した。こ
れなら毒液の流出は有り得ない。閉鎖空間の中で炎に包まれ、もがくトリカブト怪人。
「出せ…出せ!ぐああ!」
「オレね、お前みたいな奴が世界で二番目に嫌いなんだわ」
怪人は焼死し、残留した毒液も完全に消える程に燃え尽きるまでそう長い時間はかからなかった。
さて、と仮面ライダーは背後を向く。
元よりこのトリカブト怪人に興味は無かった。
興味があるのは背後にいるこの男。
「仮面ライダー。フルンティングを破るため一時の休戦を申し入れる」
「会いたかったよニードル…大石さん」
大石はニードルに変身せず、大石の姿のままで現れた。つまり彼に戦意は無いのだろう。それを察し、武政もまた変身を解いた。
続く
19話、以上です
次回。第20話「PQC防衛司令」
20話@
日本では「PQC」と呼ばれるシステムが研究、実験段階に入っていた。
光量子触媒型発電システム。
「ある事故」を受け、エネルギー政策の大幅な転換を求められた日本政府が推し進めるプロジェクトである。
既に幾つかの研究所は実践段階へ入り、関東地方の電力量を多く賄っている。
しかし、問題も無い訳ではない。
高温プラズマを発生させる強烈な発電効率から、このプラズマを兵器へ転用できる可能性が生じた。
リスクの無い裕福は有り得ない。
そうした意味で、PQC発電システムの抱えるリスクは、前世代が推進してきた発電システムと本質的には変わりなかった。
仮面ライダーネメシス第20話「PQC防衛指令」
横浜の博物館。
ミイラの奪取を画策したエイ怪人は、体内に蓄積した電気をビームに変換し放出するが、スラッシュの愛車、スラッシュワイバーンの強固な装甲には意味をなさない。
「フッ…スピードのおれ、鉄壁のコイツ。無敵だろうが?」
言ってスラッシュはシートより跳躍、エイ怪人へ飛びかかる。
/
六十数年前。
武政はニードル=大石と共に、トリカブト怪人から救われた貯水池にいた。
壁にもたれる武政と対照的に、大石は背筋を伸ばし屹立している。
先に武政が開口した。
「…どこで戦った?」
「ミッドウエー」
「そりゃお疲れ様で」
人鬼としてではなく、従軍時の話題を先行させた。
取り敢えず皆にとって共通の話題だからだ。
大石は呪符を取り出し、それを日に翳す。
呪符を通過し日光が大石の目に刺さる。
「海戦に負け、日本自体も敗戦。死を意識した私に呪符を渡したのがザラキ天宗だった」
武政は薄く、苦く笑んだ。大石の弁に嘘を見い出したからだ。
「つまり大石さん。おたくは自分が寄り掛かれる場所が欲しかったわけね。前は軍…大日本帝国がそれだった。で、今はザラキに寄り掛かってる。報酬のためってのは嘘じゃないんだろうけど、丸っきり本当でもない」
「よく分かるな。陛下は人間に成り下がってしまわれた。私は生きる意欲を失った。だがザラキは私にできる事があると…」
しかし、と足下の石を蹴る。
「直江は…フルンティングは作戦を妨害した!それどころか奴は鬼の力を楽しんでいる!」
鬼の力。やはり例の斬殺死体は奴の仕業か。
そう考えた武政に、大石は頭を垂れる。
「フルンティングを葬るまでの期限付きで休戦、および共闘を申し込む」
20話A
頭を下げる大石。渋る武政。
「え〜せっかくなら永遠のお友達になろうよ。この際だからザラキと縁切っちゃえって」
/
六十数年後、エイ怪人が空間に起こす稲妻をかわし、或いは手で払いながらスラッシュは接近する。
「ライダーアクセラレート!」
「鬼走」の呪符をベルトへ滑らせ、スラッシュは異なる時間流に乗り超高速化する。
姿の見えないスラッシュを恐れ、エイ怪人は周囲一帯に放電する。
しかし、スラッシュにとっての稲妻は空中で静止している。
稲妻の網をくぐり抜け、エイ怪人の間近に立つや空中へ蹴り飛ばす。
そして手を振るい、陽炎の刃を投げつけた。
「スラッシュレイ!」
空中のエイ怪人に突き刺さる時空衝撃刃。
スラッシュは幾度も疾走、跳躍。
位置を変え高度を変え、その度にスラッシュレイを投擲する。
加速効果が終了し、スラッシュは着地。
スラッシュレイの乱射で微塵に切りとされたエイ怪人は、空中で爆発炎上した。
人間の目には、放電していたエイ怪人が突如空中へ跳躍し、同時にミンチと化す奇異な光景しか映らない。
変身を解き、「鬼走」を示しながら京也を嘲笑う峻。
「フッ…羨ましいだろうが。ライダーフェザーと組み合わせれば瞬間的な爆発力はてめえにすら勝る。さあ勝負と…」
犬の吠え声を聞き流すように京也は愛車、レイブンへ跨がる。
必要事項のみ纏めた。
「王妃のミイラは無事だ。だがこれで諦めるとも思えん。この施設の警備は怠るな。それから…壁を破ったから修理代立て替えてくれ」
悪びれずに病院へ走る。
舌を打ち、峻はその旨を本部へ伝えた。
/
六十数年前。大石は下げた頭を上げた。
フルンティング撃破まで休戦という取引に、武政が乗らない。
「何故だ?私は勿論の事、フルンティングは君にも脅威だろう!」
「オレの条件は、おたくが永遠にザラキと手を切る事。フルンティング倒すまでって期限付きじゃ乗れないな」
米が食いたかった、とディグは言っていた。武政は同じ人鬼をもう殺したくなかった。
だが、大石はそんな事情を考慮しない。
「単純に敵が一人減るのだ!それだけで有利だろう。私と組め!」
成る程ね、と武政は路上に屈み、小石を拾いながら応じる。
「その注文はさ大石君。おたくがオレに殺される可能性を孕んでるんだよ?分かってる?」
意を解しかねる大石を横目で見ながら、武政は拾った小石を積み重ね始める。
20話B
「つまりさ。フルンティングを倒すまでとゆう条件を付けるって事は、フルンティングが死んだらおたくはオレを殺しにかかるって事だろ?」
言いながら武政は、石を三つ重ねた。
「で、殺しにかかるって事は、命の危険を感じたオレに返り討ちにされる可能性があるって事だよね?」
武政は立ち上がらない。四段目をどの石にすべきか迷っている。
「確かに大石君。肉弾戦ならおたく…ニードルはオレより強い。殴れば針が刺さるし、距離をおけばダーツを投げてくる」
四段目が乗った。
安堵の息を石に吐きかけそうになり、口を抑える。
「で、おまけに必殺技は『全方位』への『遠距離攻撃』だ。とりあえずの隙は無い。ただ、それでもおたくがオレに勝てるか?」
オメガフォーム。
確かに以前あの姿と戦った際、ニードルのあらゆる攻撃が無意味だった。
大石の足元で小さな崩落音がした。六段目で石が崩れた。
大袈裟に溜め息を吐きながら、漸く武政は立ち上がる。
手の砂を拭いながら続ける。
「生理的にアレだからまだ試してないんだけどね、今度『ライダーエスケープ』って技を使おうと思ってる」
片頬で笑いながら漸く大石を正面から見た。
「ジガバチの子育てがヒントなんだけど、まず全身をライダーシールドで覆う。次にライダーシフトを使って、シールドごと敵の体内に瞬間移動するんだ」
大石の背筋が漸く冷え始めた。
「そうするとどうなる?敵は体内から破裂する。オレはシールドのおかげで無傷のまま敵の残骸ん中から登場」
大石の肩を叩き、悠然と去る武政。
「よーく考えとけよー。ザラキと縁を切ってくれたらそんなエグい技使わないからさ」
大石は、振り返る事ができなかった。
武政を好漢だと思っていたからこそ、闇と血の臭いに満ちた彼の言葉が凶器だった。
武政は、仮面ライダーは恐怖こそを刻み込んで敵を葬るのだ。
恐怖の塊は去りつつ、大石にトドメの言葉を撃ち込んだ。
「あ、もう一つ。敵になるならオレは容赦しないよ?前にディグに手心加えてみたらボコられた事があったからさ」
/
六十数年後、なぜ今回のミイラ強奪計画にエイ怪人が選ばれたのか、峻は博物館を周回しつつ思考していた。
敵は吸電と放電が武器。
侵入した施設を吸電により停電させ、邪魔者を放電で始末する。
だが、施設を停電させては、ミイラを保存する機材も停止し、狙い目のミイラをわざわざ劣化させるのではないか。
20話C
にもかかわらず、ザラキ天宗はこの改造兵士を選択した。
ならば奴にはミイラ強奪と、それに付随する都市保安庁の撹乱、更にもう一つ何らかの目的があったのではないか。
「発電所…か?」
峻は、エイ怪人の尾に存在した毒針を思い出した。
本部へ再び連絡し、その毒針の成分を分析させる。
同時に、関東一円の発電所における最近の発電量をグラフ化するよう指示を出した。
無論、最新式発電システム「PQC」の研究所が実験的に発電している分も含めて。
京南大学附属病院。
王 麗華は入院患者の採血を終え、ナースステーションに戻る最中だった。
「王さんってゆうの」
「あの王さんの親戚かい?」
高齢の患者は大概…恐らく悪意無く…そう言う。
あだ名だって昔から「王様」だった。
単に両親が在日中国人だっただけで、麗華自身は生まれも育ちも国籍も日本だ。
さっさと結婚してしまえばこの名字から逃れられるのだが、幸いにも今の職場は下の名で呼んでくれる者が大半だ。
それで結婚への動機付けが弱まる。
しかし、結婚に対して消極的な自分に焦る自分もまたいるのだ。
「やっぱり隆司しかいないかなあ…」
そんな事を考えながらふと待合室を見ると、看護師長の藤堂朝子が大きな体で一人の女性を叱咤している。
朝子は自分より12、3は年上で、優しい分厳しい。
「あの、どうしました?」
「麗ちゃんも言ってあげてよ。卜部先生はお忙しいの。分かるでしょ大学生なら」
ああ、と麗華は思った。
ザラキによる連続爆破テロ以降、頻繁に外科の卜部京也医師を訪ねる女子大生だ。
麗華はあえて、少しおどけて彼女に手を合わせる。
「ごめんなさいね、卜部先生、緊急オペが入ってるの。二時間ぐらい待ってくれないかな?」
朝子も、迷惑な女子大生の斎も当然驚いた。
「え…はい、待たせてもらえるなら」
「じゃあ食堂が良いかしら。あ、でもカードが無いと入れないのか。私が入れてあげるからそこで待ってて?」
朝子に向かって肩を竦め、麗華はスタッフ用の食堂へ勝手に斎を連れていった。
北川町に設置された国内最大規模のPQC研究所が、着々とザラキ天宗に占領されている事も知らずに。
てっきり朝子に叱られると思っていたので、ナースステーションに戻った際彼女に苦笑を向けられ、麗華は拍子抜けした。
「困るわよ?麗ちゃん勝手に」
「すいません。どうしても会いたそうだったから」
20話D
待たせるのはきっかり二時間。麗華は現在の時間をメモしておく。
「分かんないでもないけどね」
朝子はそう言う。
「卜部先生、今まで女っ気が全く無かったじゃない。心配だったのよね」
母親気取りだ。
麗華は吹き出し、そして斎を思い出す。
「結婚できたら良いですね、卜部先生」
「それより麗ちゃんが結婚して頂戴。あたしゃもう気が気じゃなくて」
結局母親気取りだ。
峻は本部から送られた各発電所の電力グラフを重ねていた。
時間帯はまちまちだが、各々がある時期、数分間だけ通常運用では考えられない電力を消費している。
そしてそれら発電所の床から、エイ怪人の毒針と同じ分子構造の極微量な有害物質が検出されていた。。
そして、これらの形跡を持たない発電所が一つだけあった。
「北川PQC研究所…」
峻は愛車、セカンドローチを飛ばし、単独で向かう。
どうも神は京也に休息を与えて下さらないようだ。オペを終えれば看護師の王 麗華から来客の報せを受けた。
「ミイラの念?」
「はい…感じるんです。盗まれたミイラが魔界と繋がってる」
ザラキが魔界と東京の境界を破壊したために妖魔は現れた。
だが、これまで妖魔とザラキの間に協力体制は無かった。
せいぜいが東京に出現済みの妖魔を魔方陣を使って自分の近くに呼び出す程度で、後は妖魔の自由意志が優先された。
「だがザラキは改造兵士に妖魔の細胞を組み込み、そして今回は…」
「ザラキはミイラの呪いの心を利用して新しい妖魔を召喚して、それを操るつもりなんです!」
まじないと呪いはイコールだ。試しに君も「まじない」と入力し変換してみよう。
ミイラに意思があるなど医師の立場から認める訳にはいかない。
だが、一旦「意思がある」という前提で考えてみる。
「あのミイラはあまり幸福な死に方をしなかったと聞いた。彼は五千年間世を呪い、怨念を溜め込んでいたろうな」
納得した。
ザラキはその溜まりに溜まった怨念を呪力、魔力へ変換して妖魔を操ろうとしている。
改造兵士に妖魔を合成する事がいかに危険か、連中も承知している筈だ。
「でも、妖魔を操ればザラキ側に損害は無い。それに妖魔を研究したい時にも役に立つんです!」
京也は白衣を脱いだ。
「斎ちゃん、コーヒー淹れてくれ。…いや、水で良い」
ともかく喉が渇いていた。
そしてまた今から喉が渇く作業を始める。
「ミイラは何処にある?」
20話E
/
六十数年前。
蛭が身体中に貼り付いたごとき無数の触手を垂らす人鬼は、物陰から通行人を切り裂き、その血を愛刀にじっくりと塗り付けていた。
染み込ませるように。
そんなフルンティングは背後の気配に気付いて変身を解き、病的に蒼白い素顔を見せる。
とはいえ、栄養不足のこの時代、顔色が悪いのはむしろ必然であり、直江の前に現れた血色の良い男の方が珍しいのだ。
「業が深いねぇ」
血色の良い紳士、御杖喜十郎はフルンティングに斬られた死体を見て笑顔でそう言う。
「直江君。君という人材を私もザラキも惜しんでいるよ。しかし見たところ、君には我々の下に戻る気は無いようだね?」
笑顔を絶やさない御杖喜十郎。
その泰然かつ不気味な様は、卜部武政に通じるものがあった。
「すみません。でも僕はもっと斬りたいんです。貴方達の作戦でも確かに人を斬れる。でも僕はそれだけじゃ足りない。もっと沢山斬りたい!この疼きが制御できない。人を斬るのが楽しくて我慢ならないんです!」
身悶えるように、全身で殺戮の喜びを訴える直江。
御杖は苦笑して首を振る。
「そうか…残念だな。私は同じ人鬼として、そしてディグやニードル以上の実力者として君に目をかけていた。だが君の心は既に完全なる鬼と化している…そうなってしまえば制御はできない」
人の狂気。それこそが人鬼。
卜部武政の父親がとある山村で起こした連続殺傷事件が御杖喜十郎の頭をよぎる。
最早フルンティングは、御杖の制御下におけない。処分が妥当。
「人鬼を止めるには人鬼をぶつける他無い…覚悟は良いかね?」
御杖喜十郎の目が赤く輝き、腰にはオニノミテグラが形成される。
時空断裂境界より「召鬼」の呪符を取り出し、ベルトへ接触させる。
同時に、喜十郎の体が力の嵐へ包まれた。
喜十郎は嵐の中、左手で右斜め上を、右手で左斜め下を指差し直江を見る。
「変…身…」
そう呟いた直後、喜十郎はあの謎の人鬼「スラッシュ」へ変貌していた。
「さあ変身したまえ直江君。刃の鬼同士で勝負といこうじゃないか」
「流石。良く分かってくれてますね御杖さん。僕も斬りたくてたまらない。変身!」
再び直江はフルンティングに変わり、直ぐ様ライダーソードを引き抜く。
「フルンティングレイ!」
刀身から放たれた時空衝撃刃。
だが、スラッシュは優雅に手を振った。
「スラッシュレイ!」
20話F
発射されたのは、同様の時空衝撃刃。
しかし、エネルギーの密度が異なった。
スラッシュレイは激突したフルンティングレイを割り、そのままフルンティングへ向かう。
/
六十数年後、北川PQC研究所へセカンドローチを止め中の様子を伺う峻。
彼の元に、京也も駆けつけた。
「おれの方が先に来ていたぜ?しかしよくここが分かったな。てめえの事だ、あの女の直感に頼ったんだろうが?それにひきかえおれは幾つものデータを検討し推理した結果…」
「状況は」
一言で黙らせた。
何とか京也の上に立ちたい峻だがここは忍耐だ。再び内部を覗きながら説明する。
「計画のボスはあのハエ怪人。ミイラは既に妙なシステムに組み込まれてやがる。この研究所が作る電力は、全てあのシステムに供給されてるようだぜ」
この北川PQC研究所は、関東地方の電力の55%を供給している。
ミイラを組み込んだのはそれだけの電力を必要とするシステムであり、それだけの電力が都市から消える事でもある。
京也は病院に電話をかけた。
「卜部先生?今どちらに…」
まだ停電してはいなかった。少し息を吐き、指示を出す。
「麗華さん、直ちに病院の全システムを自家発電に。理由は後から話す。一刻も早くだ」
「は、はい!」
一方で峻も都市保安庁に連絡を入れ、関係各所にその旨を伝える。
「さて、お次はスタッフの連中だなぁ」
死傷者はいないらしい。
何せ兵器転用が可能なシステムだ。
これ以上無いほど専門的かつ危険な分野だから、発電システムの稼働そのものは、ザラキ天宗に脅迫されたスタッフが代行している。
彼らが電力をシステムへ供給し、そのシステムの中核にあるミイラへザラキの法師らが祈りを捧げている。
「ただ…あのシステムが何なのか今一分からん。てめえはどう思う?」
峻に聞かれ、京也は苦く笑った。
「ミイラの怨念を利用した妖魔召喚システム…斎ちゃんのカンだが」
半信半疑の峻だが、少なくともザラキが関東の電力を一斉に停止させようとしている事は確かだ。
「京也、飛び込むか?」
「周辺機器へ影響を与えないよう戦え」
法師らの祈りの声が高潮、システムの出力が上昇を始めた。
システムの上空に空間の亀裂が生まれ、そこから白い柔毛に包まれた腕が覗く。
ハエ怪人に逆らえば殺される。
従っても、空間を割って現れたこのモンスターに殺される。
職員らは絶望に染まっていた。
20話G
だから、ドアが吹き飛ぶけたたましい音が、天上の歌声に聞こえた。
「そこまでだ。病院を停電させるな」
「そこまでだ。自販機を止めるんじゃねえ」
京也と峻がドアを蹴破り、PQC研究所へ突入した。
恐慌する法師らを一瞥し、ハエ怪人を睨む。
このシステムを起動するには法師らの念と、PQCの膨大な電力が必要だったのだ。
「説明してやろうか?」
職員を逃がしながら峻が開口する。
「あのエイ怪人。奴が本来は妖魔召喚システムのバッテリーだった。だから電力を集めるため、そこかしこの発電所から電力を頂戴していた」
「しかし、改造兵士の肉体にも限度がある。この北川PQC研究所のエネルギーを吸収する容量は無かった。だからここだけ侵入を避けた」
「しかもだ。よりによって奴がおれ達に殺られたから、てめえらは肝心のバッテリーを失った」
「それでこの研究所を直接バッテリーにしようと企んだ…どうだ?」
京也と峻の指摘は全て的を射ていたようだ。
ハエ怪人は笑う。
「その通りだ人鬼ども!そして、既に一匹目の妖魔は召喚に成功した!」
空間の亀裂から伸びる白い腕は、既に肩まで見えていた。
「どうだ人鬼ども?この場で戦えばPQCは破損。巨大なプラズマ火球が発生するぞ?」
怪人に同調するように、法師らは一斉に黒い戦闘員へとその姿を変えた。
ゆったりとした衣装に白い頭巾、手に持つ薙刀等が、織田信長に滅ぼされた比叡山の僧兵を彷彿させた。
京也は無感動に念珠を、峻は不敵に笑って呪符を取り出す。
「てめえら、忘れてはいないか?人鬼も空間を歪められるんだぜ」
言って峻は「召鬼」を滑らせる。
「変…身!」
力の嵐から飛び出すや僧兵の二、三人を手刀で斬り倒し、スラッシュは妖魔へ向かう。
「こいつはおれに任せろ。てめえはハエを!」
「分かった。…変身!」
仮面ライダーは僧兵の薙刀を拳でへし折り、ハエ怪人に向かう。スラッシュは妖魔と接触した状態から空間を切り裂いた。
「ライダーシフト!」
瞬間移動能力により、妖魔はスラッシュと共にPQC研究所の外へ転送されてしまう。
ハエ怪人は、施設各所に待機させていた数cmのハエ型ロボット数万台を集結させ、仮面ライダーを攻撃させる。だが。
「超変身!」
自然のエネルギーを操るディザスターフォームは冷気を発生させる。
仮面ライダーにまとわりつこうとするロボットは一斉に機能を停止。
20話H
更に仮面ライダーは、槍へ炎を集約した。
「フレイムスピアー!」
槍から放たれた火炎がロボットを一気に破壊する。
だが、その隙をつかれた。
僧兵が薙刀から光線を放つ。自分が回避すれば、PQCが損傷する。
「ライダーリアトラクト!」
反重力波動のバリアで辛うじて光線を止めるものの、背後をハエ怪人につかれた。仮面ライダーを羽交い締めにし、右腕に生えた半透明の刃を近づける。
それは高速で振動しており、正にハエの羽根を思わせるものだった。
「妖魔は呼べた。ここで仮面ライダーも殺せる…俺の手柄だ!」
だがカッターを持つ右腕へ仮面ライダーは冷静に左拳を付ける。
「超変身!」
そう聞こえた。即座にハエ怪人は妙な喪失感を覚えた。
自分の右腕そのものが吹き飛んでいるせいだと気づくまで、そう時間はかからなかった。
バーサークフォームに変身した仮面ライダーは時空波動銃バーサークショットの接射でハエ怪人の腕を粉砕。
拘束を解き、僧兵ら目掛けて駆け出す。
バーサークグラムで数人をまとめて切り裂き、仮面ライダーは包囲網を脱出。密集した敵へバーサークショットを向ける。
「デッドリーウェーブ!」
バーサークショットから弾丸状の波動を一斉に乱射、僧兵を壊滅させる。
爆風に巻き込まれ、地を這うハエ怪人に歩みを進める仮面ライダー。
「手柄は半分だな」
そう言って眉間にバーサークグラムを突き刺す。
そのまま後頭部まで貫き、体全体を両断した。
ミイラを内包したシステムを止めるべく駆け寄る仮面ライダー。
だが、ハエや僧兵とは別の気配を感じた。
PQCより離れた箇所へ自分と妖魔を転送したスラッシュだが、敵のパワーに苦戦していた。
身長は10mはあるだろうか。白い柔毛に包まれたゴリラ。いや、雪男を思わせた。
直径がスラッシュの上半身程もある拳から放たれるパンチは問答無用の破壊力を秘め、直撃を受けたスラッシュの意識が遠のく。
二度目のパンチで撥ね飛ばされ、三度目は辛うじてかわすものの、空振った拳は竜巻を起こす。
止めようとしたスラッシュに、雪男は口から冷気を吐きかける。
スラッシュの体が凍結し始めた。
この状態でパンチを浴びれば確実に粉砕される。
「ち…恥をかかせやがって!」
「鬼爪」「鬼走」の呪符を同時に取り出した。
「ライダーフェザー!」
全身に時空衝撃刃を纏わせ、氷を弾き飛ばす。
20話I
構わずパンチを放つ雪男。対するスラッシュ。
「ライダーアクセラレート!」
雪男の視界よりスラッシュが消えた。
妖魔の目でも捉えられない程の高速化。
拳を軽々と回避し、ライダーフェザーで強化した手刀に力を溜める。
「アクセラレート・ライダーチョップ!」
TNT換算値17万tのエネルギーを秘めた手刀が幾度となく雪男に振り下ろされる。
最初の数発で拳も含めた腕を輪切りにし、敵が痛覚を認識できない内に跳躍、胴体を執拗に切り裂いてゆく。
アクセラレート・ライダーチョップ。
加速状態へ突入した僅かな間に、強化した手刀を効果が切れるまでひたすら浴びせ続ける新たな必殺技だ。
程無く、効果が切れた。
数十の破片となりながら爆炎をあげる雪男。
スラッシュは瞬間移動術ライダーシフトで研究所側に移動。
「スラッシュシールド!」
亜空間バリアを築いて空間の連続性を断ち、雪男の死に伴う爆風からPQCを守った。
「おい仮面ライダー。こいつは中々の威力だぜ…ん?」
研究所内部へ戻ったスラッシュは、仮面ライダーと見たことのない男が対峙する状況に遭遇した。
若い僧侶だと思った。
別に坊主頭というわけではないが、粗末な法衣や柔らかい物腰を見る限り、恐らくは僧侶なのだろう。
「初めまして。私は玄達。ザラキ天宗の律師です。御杖峻様ですね?」
二人の人鬼を全く恐れていない風がスラッシュの気に障る。
「貴方のひいお祖父様、御杖喜十郎様には昔随分助けていただきましたよ」
「喜十郎さんがてめえらを助けただと…?」
玄達はそれ以上何も言わず、ミイラが入ったままの妖魔召喚システムに手を触れる。
玄達の足元の空間が歪み、彼はシステムと共に何処かの空間へ転移した。
丁度スラッシュが雪男を研究所から追い出したやり方と同様に。
「どういう事だ…」
二つの空間亀裂…つまり雪男型妖魔を呼び出したものと玄達が消えたもの…は同時に消滅した。しかしスラッシュは明らかに動揺していた。
「喜十郎さんは戦後、スラッシュの力で政府やGHQに反抗するクズどもを切り裂いていた」
そしてザラキの活動が停止した後卜部武政に殺された…と峻は聞いていた。レイモンドファイルにもそう記述されていた筈だ。
「だが喜十郎さんがザラキを助けていただと?」
仮面ライダーとスラッシュは変身を解く。
山下山男に伝えねば。事実が何者かに歪曲されていたらしい。
315 :
ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 07:17:34.56 ID:DrTXFwBD
20話、以上です。
次回21話「潰されたスラッシュ」
21話@
「『鬼』という言葉自体はそう古いものではない」
卜部京也はとある喫茶店で水を啜りながら、山下山男へそう切り出す。
仮面ライダーネメシス第21話「潰されたスラッシュ」
終戦直後の仮面ライダーによる人鬼虐殺を記した「レイモンドファイル」。
だがその内容は、何者かに改ざんされた形跡がある。
京也はファイルの存在に右往左往していた山下山男を呼び、その旨を伝えると同時に「鬼」に関する蘊蓄を披露していた。
「疫病や天変地異といった災厄。古代人はその災厄に原因を求めた」
求めた、という表現に山下山男が食いつく。
「その災厄を古代人は望んだ、という事か?」
京也は僅かに苦笑し、
「災厄の原因を究明したかった、という事です。しかし、例えば疫病にしても、当時の人々に病原菌を発見できた筈がない。発見できないのは『いない』と同義だ。災厄の原因は不明。しかし原因、つまり犯人は確実にいる。『いる事を望んだ』わけです」
コーヒーへ口を移して京也は続ける。
「彼らはここで、悪意を持つ超常的な存在が現れたと解釈する。理解できない力を持つ者なら、理解できない災厄をもたらすのも当然だと考える。彼らの中で解答は出た。そこで思考は停止する」
「ああ、その超常的な存在が例えば神の怒り、祟り、呪い、そして…鬼だと」
頷きつつ京也は、珍しく饒舌な自分を興味深く見ていた。
レイモンドファイルに誤りがあろうと、自分の家系が鬼と呼ばれる異常者を続けて産み出したのは事実。
仮面ライダーになる前から京也は「鬼」という文化に興味を持っていたのだ。
だから京也は、しかし、と付け加える。
「卜部の血筋に凶悪犯が多いのも事実。本人の性格の問題だけとは思えない。何らかの資質…凶暴化する因子が継承されるらしい」
言って京也は、無意識に額を抑える自分に気付く。
父親の付けた古傷。
恐らく父親もそうだった。
この因子が発動した人間は正に「鬼」と呼ぶべき者になる。
どうにも多面的だ。
災害や疫病の比喩としての「鬼」もあれば、血や暴力を好む実際的な「鬼」もある。
そして京也や卜部武政は、実際的な鬼だ。
嗜好を考慮すれば、父親もそうなのだろう。
ちなみに、『鬼』という漢字の語源は中国。
但し中国の『鬼』は幽霊や妖怪など、霊的な存在の総称であり、日本人の考える鬼とは意味合いが異なる。
21話A
「『オニ』という発音は『隠』が変化したものだと言われます。姿の見えない存在。また、人から隠しておきたい存在でもあった」
何処かの暗闇。
邪教、ザラキ天宗の本殿。
彼らは横浜の博物館より、エジプトのミイラを奪取した。
それを中枢へ備えた無機的な機械を眺めつつ、一人の僧、董仲が過去を振り返る。
「我らが活動を開始したのは戦後間もなく」
そしてそれ以来、董仲僧正は一切歳を重ねておらず、それは若くして律師の地位に立った玄達も同様だった。
「西洋文化は気に食わんが、我らの不老がこの秘薬により保たれている事は確かだ」
言って董仲は、エリクサーと称される薬瓶を手に取る。
フランスの怪人、サンジェルマン伯爵の産物。
この秘薬にて不老長寿を得、六十数年間を待った甲斐があった。
妖魔召喚システム。
これさえあれば妖魔を何処へでも出現させ、自分達の意のままに操る事ができる。
「かつての妖魔一斉召喚は卜部武政に阻止された…。だが今度はそうはいかん!」
/
六十数年前、東京。
「フルンティングレイ!」
「スラッシュレイ!」
スラッシュ、フルンティング。
二匹の鬼の放つ時空衝撃刃が空中で激突する。
だがスラッシュレイは、圧縮した時空間の密度でフルンティングレイを上回り、あっさりこれを突破してフルンティング本人に炸裂した。
全身から鮮血を吹き出しつつ、爆発と共に転倒するフルンティング。
自分の衝撃波が辛うじてスラッシュレイの威力を減衰させていたらしく、致命傷には至らなかった。
しかし傷が深い事には変わりなく、ライダーソードを携えるのもやっとの状態。
その上、スラッシュは素早く間合いを詰めて腕に蹴りを見舞い、ソードを取り落とさせた。
変身前の紳士然とした御杖喜十郎からは連想できないアクティブな戦闘スタイルだ。
「君の戦闘の核は刀。それを失えば君は無力も同然!」
持ち主の手から離れたライダーソードは粒子化し、分解する。勝ち誇るスラッシュ。
だが、スピードではフルンティングも劣っていなかった。
フルンティングは「昂鬼」の呪符をベルトに滑らせ、スラッシュの前で跳躍する。
「ライダーキック!」
スラッシュに油断があった。
フルンティング程ではないが、人鬼の中では比較的防御力の低いスラッシュ。
思わぬ反撃に地を這った。
21話B
その隙にフルンティングは「鬼刀」の呪符を用い、再び手にライダーソードを発生させた。
だが、スラッシュレイによる傷は深い。
スラッシュに刀を振り下ろそうとするも、逆にフルンティングが膝を折ってしまう。
「くそ…ライドリーフ!」
時空断裂境界から出現した生体サーフボードは暫しスラッシュの周囲を飛び回りこれを翻弄した後、フルンティングを乗せ、何処かへ飛び去った。
「逃げても無駄だ。君の罪は仮面ライダーも把握している」
誰がトドメを刺すかは重要ではない。
仮面ライダーがフルンティングを倒すのも良いだろう。
どちらにせよ、フルンティングという邪魔者が消える結果さえ得られればそれで良い。
そう考え、スラッシュは御杖喜十郎の姿に戻り、ほくそ笑む。
「え、ニードルの仲間になるの断ったの?何で?」
美月屋。茶葉が無いので白湯を武政に持ってくるキヌ。
「ニードル…大石君は悪い奴じゃない。ま正直オレもビビらせすぎたよ」
しかし、大石はザラキ天宗の援助に尽力する事を喜びと捉えている。
その彼と協力する訳にはいかない。
大石は生粋の軍人だったのだろう。
恐らく、彼自身も軍人である事に誇りを持っていた。
「でも日本は負けた。あんにゃろの信じてた神国の威光は叩き潰されて、奴は寄り掛かる場所を失った」
これは完全に武政の憶測だ。
しかし説得力があったのは、武政自身にも、少なからず近い意識があるからかも知れない。
「だから協力もできないけど、敵だって断じる事もできないわけ?」
キヌの問いに黙して頷き、欠けた茶碗の端を少し見て、思い出したように再びキヌを向く。
「あ、あとさ、しばらく夜道は控えてくれんかな」
レイモンドの述べたバラバラ殺人。犯人の目星は付いた。
恐らくはフルンティング。だが、確証が無い。
「だから、オレと斎で交代しながら夜回りするから」
恐らく、フルンティングの行動範囲はそう広くない。
これまでの犯行は全て東京で発生している。
ニードルはともかく、フルンティングは完璧な快楽殺人者。
滅ぼす事に躊躇は感じない。
「夜遅くなるだろうし、戸締りしてくれて良いから。オレか斎かどっちかが倒すよ」
「そういう事じゃないでしょ?」
虚を突かれた風の武政。キヌは憤りを隠せない。
21話C
「斎ちゃんがどういう存在なのか聞いちゃいけないって言われた。でも…見た感じ斎ちゃんはあたしより年下っぽいでしょ。そんなコに殺人鬼を調べさせる?そういう感覚がさ」
「良いの。キヌ」
黙って都市保安団への報告書を書いていた斎が漸く開口した。
「私は負けないから」
買い物に行くから、程度の口調で言ってのける斎。
彼女とキヌを見比べ気まずそうに笑う武政。
「実利的ね、アンタたちは」
嘆息し、キヌは帳簿の整理に戻る。
この得体が知れない二人の身を必死に案じている自分がおかしかった。
/
六十数年後。
このところ見知った患者が多いので、京也は息を吐いた。
「まあ…かすり傷でも油断は良くない。良くないが…」
凉ちゃんが三段ボックスの角に膝をぶつけたので病院に来た。
心配だから斎もついてきた。
「これって治る?」
「二週間もすれば痕も残らん」
「先生って年収いくら?」
「君に心配される事じゃない」
「先生って改造人間とかなわけ?」
「ついでのように聞くな」
診察室の外から会話の様子を伺う斎。
言うまでもないが、凉ちゃんのかすり傷は名目である。
実際は京也に、変身について質問してみたかったからだ。
しかし、京也自身が必要最低限の事しか話さないタイプなので、いきおい斎にとっては既知の情報しか上らない。
そもそも斎は、京也の変身自体は彼の祖父が残した念珠によるものだが、それを示唆したのは自分であるという事を、まだ凉ちゃんに伝えていなかった。
聞き耳立てる斎は、背後より肩を叩かれ飛び上がる。
いつの間にやら看護師長、藤堂朝子が立っていた。
「あなたもよくよく暇なコだわね」
「あ、ご、ごめんなさい!凉ちゃんの診察が終わったらすぐ帰りますから!」
ふくよかな頬を不気味に歪めて朝子が笑う。
診察室のドアと斎を見比べ、斎に顔を近づける。
「で、どっちが卜部先生を狙ってるの?」
このオバ…いやババ…女性、直球で聞いてきた。しどろもどろの斎。
「えっとですね、凉ちゃんは、あのただわたしを心配してくれてるだけで、でもわたしも卜部さんが好きとかそうゆう事じゃなく…」
朝子はますます笑って背後を通る看護師を振り返る。
「女から積極的にいかないと婚期逃すわよ?ねえ麗ちゃん」
「や、やめて下さい患者さんの前で!」
王 麗華といったか。以前、斎を食堂まで案内した看護師だ。
21話D
自分よりやや長身。
顔つきが幼いので一見自分と同い年程度に見えるが、看護師である以上それは有り得ない。
「こういう綺麗なコでも婚期逃すんだから、早い内が吉よ?」
「まだ大丈夫ですってば!もお」
先輩の朝子を軽く小突いて笑っているが、どこか常に落ち着きを保っている。「淑女」とはこういうものだろうかと思った。
「ごめんなさいね、卜部先生って本当に仕事熱心だからあまりお話できないでしょう?」
病人でも怪我人でもない自分が本来なら頭を下げるべきなので、先に頭を下げる麗華に戸惑った。
「いえ、あの別にそんな…」
二人で妖魔に関する云々を話し合っているとも言えないので、続く言葉を失う斎。
「良いコなのにね、斎さん」
カルテを胸に抱き、麗華は壁に寄りかかる。
「卜部先生って、人の気持ちを察するのが上手くないのよ。先生自身が感情表現が下手だしね」
斎はとりあえず頷く。
「多分、あなたにもそうなんじゃないかな。最低限必要な事を伝えて、無駄口は一切叩かない」
「よく…分かりますね」
京也と会話する度に生じる空虚感はそういう事だったのか。
斎は内心で膝を打ち、そんな京也が余計に心配になってくる。
「じゃあ卜部さんって病院でも…」
「浮いてるね」
麗華に代わって朝子が応えた。
「必要事項は一片残さず報告する。無駄な事は一切言わない。ドクター同士の飲み会に参加しないどころか合コンにも行かない、他人に愚痴さえこぼさない」
不言実行が過ぎて他の医師からは疎まれ、その無機質、機械的な風貌から看護師らからも敬遠されている。
「だからね、病院であの人と仲良しなのはあたしと麗ちゃんぐらいなもんなのよ」
麗華は京也のストイックな人間性に共感し、彼とはあえて挨拶と仕事以外の話をしない事にしている。
逆に朝子は年の功を活かし、未だ二十代の京也に母親気取りでしつこくお節介をやく。
功を奏し、京也はこの二人には比較的好意的だ。
「それに、あたしはあの子と付き合い長いしね」
自慢げな朝子。
あの子、とは京也の事か。
確かに朝子は京也より明らかに年上なのだが。
「あの子が額を切られた時からだから…もう17、8年ぐらいの…」
「朝子さん!」
麗華にたしなめられ、思わず朝子は口を抑える。
額の傷については禁句だった。
「ま、まあとにかく先生と仲良くしてあげてちょうだいね。麗ちゃん、103のお婆ちゃんにメルカゾール」
21話E
まずい事を言ったという顔で足早にナースステーションに戻る朝子。
朝子が京也にお節介をやくのは分かる。
だが、麗華は何故京也と同調しようと思ったのか。
廊下を連れだって歩きながら、斎は質問してみた。
「そりゃあ…病院の仲間だもの」
簡潔な解答。だから多分、麗華自身は京也に特殊な感情を抱いているわけではないのだろう。
斎はホッとし、ホッとした自分が意外だった。
「じゃあね斎ちゃん。朝子さんも言ってたけど婚期は逃さないようにね」
二階へ向かう麗華を見送る斎。
この麗華という女性は、自分よりも遥かに多くの時間を京也と共に過ごしているのだ。
そう考え、斎は心に前述とは異なる種類の妙な空虚感を抱いた。
しかし、何故ああも婚期を気にするのか。
まだ焦る年齢でもなかろうに。
昼休み。
朝子から来客の報を受けた京也は、自室のソファに陣取る御杖峻を見てまたも息を吐いた。
「…ミイラの件か?」
「てんてこ舞いだ。ミイラが盗まれた。エジプト政府が外務省に怒る。外務省は都市保安庁に怒る。そして、都市保安庁はおれに怒る。世界中の怒りを一身に背負った罪深きおれなのさ」
口上は無視してコップに冷水を注ぐ。
コーヒーを作る手間が惜しかった。
しかし、峻は実際にてんてこ舞いだった。
曾祖父とザラキ天宗との関連性を調査する暇も無い程に。
妖魔を召喚し思いのままに使役するシステムが、テロリストの手へ渡ったのだ。
この件はアメリカにも報告された。
つまり、在日米軍が妖魔に対し武力行使する可能性が高まった。
「システムの所在を突き止めなくては、ザラキ事件に米軍が干渉する…か」
一人ごちるように日本のイラク化を懸念する京也。
対して峻は愛車、セカンドローチのキーを突きつける。
「というわけでだ京也。あの斎って女を貸せ。ザラキや妖魔を感知できるんだろう?ならシステムも発見できるかも知れん」
「断る」
即答した。斎が事件の中核であろう存在だからこそ、事件に巻き込みたくない。
峻は怪訝な顔をする。
斎の力を行使すれば、事態は有利に動く筈だ。
いつもは自分以上に機械的な判断をする京也が私情を挟む。挟んでいるように見えた。
「…京也、あの斎ってのはてめえの女か?」
「俺の女じゃない。そして、女性を男性の所有物と認識する男性は好かん。帰ってくれるか」
21話F
大衆にとり有益な事態は、必ずしも個々人にとっても有益とは限らない。
京也はそう考えているのだろうし、そんな事は峻も察せる。
だいいち、京也は一度決断したら曲げない。説得は無駄だ。
「分かった。帰ってやるが…京也」
峻は、ドアノブに手をかけた状態で京也を振り返る。
「てめえは斎を利用したくないと言う。なら、どうすればてめえは満足する?」
妖魔召喚システムを発見し破壊する上で、最も手っ取り早いのは斎の超感覚。
今すべき事はシステムの破壊。
だから斎を利用する必要がある。
それも否定できない一面の真実。
しかし、斎を利用するという過程を嫌ってシステムを破壊するチャンスを逃すというなら、京也は。
「理想主義者…或いは偽善者。俺の嫌いな言葉だったが…」
自嘲したまま、それ以上の言葉を続けない京也。
峻は冷めた視線を彼に向け、ドアを引く。
瞬間、外側からドアが押し開けられて、峻は壁とドアの間に押し潰された。
「麗華さん?急患か」
「卜部先生、テレビ!」
飛び込んできた麗華と共に待合室のTVを見に行く京也。
ドアに押し潰され紙の如くペラッペラになった峻は別段気にしなくて良い。
/
六十数年前。何処かの暗闇。
御杖喜十郎がニードル=大石と共にそこにいた。
更に高僧、董仲僧正も現れる。
董仲に敬礼する大石と頭を下げる御杖喜十郎。
「申し訳ありません董仲殿!自分は仮面ライダーとの交渉に失敗したであります!」
「私もフルンティングをあと一歩で仕留め損ねた。面目無い」
董仲は笑い、二人の肩を叩く。
「貴方達はよくやってくれました。仮面ライダーが強い事が悪いのです」
確かに、と大石は思った。
実力の差だけではない。仮面ライダーは恐怖を敵に刻み込んで勝利する。
だからスラッシュと自分で、何としても仮面ライダーを倒さねばならない。
だがフルンティングが敵に回ったため、ザラキは戦力を仮面ライダーに集中させられない。
大石は、自分を脅迫した武政の言を二人に伝えた。
「ライダーエスケープ…敵の体内に瞬間移動し破裂させる戦法。自分がザラキと手を切らねばこの戦法を使う。そう奴は抜かしておりました」
身を震わせる大石だが、董仲が笑った。
「ならば護衛をつけましょう。黴の卒塔婆!出番だ!」
黴の卒塔婆と呼ばれた改造兵士が三人の前に姿を現す。
21話G
そのモチーフは今一不明瞭だったが、全身に黒いヒダが垂れ下がり、青い斑点が所々に散見する。
それら全てが黴(カビ)である事にようやく気付き、大石は吐気を催した。
「彼はカビの性質を持つ改造兵士。敵を毒性の胞子で攻撃する他、自分の体をカビの塊へ変質させる事で、体を破壊されても再生できるのです」
なるほど、ライダーエスケープで破裂してもカビ化し再生する。
うまく行けば、毒胞子を仮面ライダーへ感染させられる。
「有り難き幸せ!」
大石は嫌悪感を抑え、この強力な護衛と手を組んだ。
同じ頃、隅田川の河川敷に座すフルンティング=直江。
再生能力で辛うじて外傷を塞いでいるが、疲弊そのものは誤魔化せない。
そこへ自転車をこぎこぎ一人の男が到着した。
最初は牛乳配達かとも思ったが。
「君は…仮面ライダー?」
「よう直江くん。手酷くやられたね。…スラッシュか?」
頷く直江。川面を見る武政。
「オレの相棒は鼻がきく。特に人鬼の匂いはね」
武政は自分を殺しに来たのだ。
それが分かっていても、直江は立つ事が出来なかった。
「レイモンドから聞いたよ。麻布で八件、麹町で六件のバラバラ遺体。全部おたくだろ?なんであーゆー事するわけ」
武政もどうやら自分の行いに憤りを持っている。
この衰弱した状態では、どの道勝てない。それならそれで良いという気が直江にはした。
「理由は二つあるね。一つ。僕は人を斬るのが好きなんだ。二つ目。僕の刀は血を吸えば吸うほど、そしてその血の主が強ければ強いほど、その切れ味を増す」
「なるほど、だから刀を強化して気持ち良く斬るために、オレとかニードルを狙ったわけだ」
この武政という男は自分の行動原理をよく理解してくれる。
嬉しい。
直江は徐々に高揚してきた。そして、立ち上がった。
「ありがとう仮面ライダー。僕は自分の嗜好を理解してくれる人に出会えて本当に嬉しいよ」
先程の諦念が消えた。
自身の理念を語ってみると、人を斬り殺すあの爽快な感触を思い出した。
ここで死ぬなんて馬鹿げている。もっと斬りたい。
「変身!」
人鬼の力。その根元は人の狂気。
それを表出しエネルギー化した事で、直江は完全にダメージから回復した。
武政の前に立ちはだかる、全身に蛭を這わせた鬼。
「人を斬るのは楽しいよ?知ってるんじゃないか?」
痛い所を突かれ、武政はやや戸惑った。
21話H
仮面ライダーへ変身した自分は、確かに戦いを楽しんでいる事がある。
「だから嫌いなんだよな…変身っ!」
川面に波紋を作る小規模な烈風と共に、武政は戦いを楽しむ姿、仮面ライダーへ切り替わる。
「良いよ…君を斬ったらどれだけ気持ち良いだろう!」
振り下ろされるライダーソードを腕の生体カッターで留める仮面ライダー。
「血だ!君やニードル達の血が欲しいんだ!」
狂気を爆発させ、腕に力を込めるフルンティング。
仮面ライダーは彼の姿に、自分の邪悪な一面を見た。だからこそ怒る。
「言っちゃダメかも知んないけどさ…それっておたくの気分的な事…なんじゃねーのっ!?」
自らの醜さを振り払うように、仮面ライダーはフルンティングのみぞおちに怒りの拳をぶつける。
/
六十数年後。京南大附属病院。
「先生、急患が激増するかも知れませんよぉ」
顔をしかめて軽口を叩き、TVを見る朝子。
だがその口調からは、どちらかと言えばザラキ天宗への怒りが感じられた。
映っているのはザラキ天宗の若き高僧、玄達。
全チャンネルで同じ映像。一種のメディアジャックだ。
「日本政府へ告ぐ。直ちに主権を我らザラキ天宗に委譲せよ。要求が飲めぬなら心苦しいが」
カメラは玄達からその背後の建造物…北川PQC研究所へ切り替わる。
PQC。光量子触媒発電システム。
高温プラズマを発生させる程の効率を持つ次世代発電システムだ。
「この施設を破壊し、東京をプラズマにて焼き払わせて頂く。我らは人体改造にて難を逃れるが、諸君はそうもいかん」
施設の上空には翼竜、プテラノドンを彷彿とさせる妖魔が滞空している。
京也は無言で峻を見る。
意見を求めていると察し、頷く。
「連中、妖魔を操れるようになったから気が大きくなっていやがる。これだけの盛大なアピールは異例だぜ」
二人は京也の自室へ戻る。
京也は一旦「召鬼」を取り出し、少し考えて「鬼空」に変える。
「最初からウィザードフォームで行く。バイクを飛ばしている暇は無い」
ライダーシフトで直接研究所まで瞬間移動するつもりだ。
峻は溜め息混じりに苦笑し、「召鬼」と「鬼移」を同時に取り出した。
「ロマンがねえな。変…身!」
同時に二枚の呪符を読ませ、峻は空間に開いた穴へ飛び込む。
京也もそれに続いた。
「…変身」
直接ウィザードフォームへ変身、病院からその姿を消した。
21話I
空間に歪みが生じた。
それを感知した玄達は、翼竜型妖魔にその「歪み」の方向を向かせる。
鋭い嘴を持つ口より火球を吐く翼竜妖魔。
だがその火球は、歪みの中から発射された時空衝撃波に相殺された。
歪みの中から、ウィザードアローを持った仮面ライダーとスラッシュが出現する。
「さぁて、紅に染ま」
「待て」
ノリノリで決め台詞を吐こうとしたスラッシュだが、制止する仮面ライダーの手に当たってコケた。
起き上がって反論を試みるスラッシュだが、その前に地面の異常を察した。
熱い。翼竜の火球とは別に、地下に高熱を発生させる何かがある
直後、地面から真っ赤な粘液が噴水の如く立ち上る。高熱の溶岩だ。
間一髪回避する仮面ライダーとスラッシュだが、周囲の地面そこかしこから次々と溶岩は噴出。
よくできた事に、玄達には近づかない。
その上、噴出した溶岩の一部が仮面ライダーを追尾し始めた。
足下からの溶岩。自分を追って飛ぶ溶岩。
更に、翼竜が火球で爆撃をかける。
仮面ライダーとスラッシュは火炎地獄の真っ只中。
「この溶岩…生きているのか?」
スラッシュが、自分の肩を踏み台に翼竜へ蹴りかかる。
それを無視して玄達へ問う仮面ライダー。
「そういう事ですね」
翼竜と交戦するスラッシュを眺めて玄達は笑う。
「奴は妖魔の一種だ。生きている溶岩です」
溶岩自体が意思を持って吹き出し、仮面ライダーへ襲い掛かっている。
上空の翼竜も標的を仮面ライダーに切り替え、火球を吐きつけてくる。
火球は回避したものの、その爆発の余波に転倒する仮面ライダー。
彼を空中から、地下から一斉に溶岩が包み込む!
「はは!これで仮面ライダーも終わり。さあ御杖様。曾お祖父様のように、貴方も我らザラキ天宗に協力して頂きましょうか」
爆笑する玄達。
たとえ仮面ライダーであろうと、全身を寸分の隙間無く高熱の溶岩で焼かれれば助かる筈がない。
だが、翼竜の火球を回避しながらスラッシュは玄達に嘲笑を返す。元より表情の無い顔だが。
「フッ…バカめ!溶岩程度で死ぬ雑魚なら、おれも楽なんだがなあ?」
笑みを消す玄達。溶岩に包まれた仮面ライダーを見る。
仮面ライダーの全身を包む溶岩は黒く変色、凝固していた。
錫杖で触れてみれば、その錫杖が氷結した。
21話J
溶岩自体が凍結している。
それに気づくかどうかの内に凍結した溶岩が吹き飛び、槍を携えた仮面ライダーが姿を見せた。
自然界のエネルギーを操る形態、ディザスターフォームだ。
「馬鹿な!貴方は溶岩に包まれ焼かれたはず…」
唇を噛みしめる玄達。仮面ライダーは冷静に応じる。
「確かに溶岩は俺を包んだ。だがその瞬間に俺はディザスターフォームとなり、冷気を起こして溶岩を凝固させた。悪いな」
たじろぐ玄達。即座に翼竜へ指示を出す。
翼竜の火球を受け、凍結した溶岩が再度帯熱し、仮面ライダーへ飛びかかる。
「ライダーリアトラクト!」
反重力波動で溶岩を止め、その間に「鬼凩」で風を呼ぶ。
「タービュランスダガー!」
背後の翼竜を真空波の刃が襲う。
体勢を崩した翼竜の喉元へ蹴りが打ち込まれた。
「てめえの相手はおれだ!」
翼竜をスラッシュへ任せ、仮面ライダーは再び吹雪を起こす。
「ライダーブリザード!超変身!」
一瞬にして溶岩を凝固させた仮面ライダーは続いてウィザードフォームへ変身。
亜空間バリア「ライダーシールド」で溶岩を覆った。
翼端の爪や巨大な嘴をスラッシュに突き立てんとし、それが回避されるや火球を吐いて狙撃する翼竜。
二発はかわした。だがスラッシュの眼前に三、四発目が迫る。
「ライダーアクセラレート!」
逃げられない。ならば敵を遅くする。
スラッシュは超加速状態へ突入し、火球とそれを吐く翼竜を飛び越して両腕を交差する。
「スラッシュレイ!」
両腕を開いて二発の時空衝撃刃を発射。
それが突き刺さるのを見届ける前に着地し、敵の胸へ向けて両腕から執拗に波動を投擲する。
「フ…ゴミクズの手下に成り下がったのがてめえの不幸だ」
加速状態を終了させ、通常時間に戻ってきたスラッシュの背後で、ズタズタに切り裂かれた翼竜が爆砕する。
凝固した溶岩を再び発熱させるだけの熱量を持つ翼竜の体に接触したくなかったので、スラッシュは遠隔からの攻撃で決めたのだ。
シールドへ封印された溶岩妖魔。
仮面ライダーの意思を受け、シールドに出入口が発生した。
そこへ仮面ライダーはウィザードアローを向ける。
「ライダーサイコブラスト!」
鬼の心そのものを敵に叩き込む「精神エネルギー波動」だ。