【ライダー・戦隊】スーパーヒーロータイム!【メタル】

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1創る名無しに見る名無し
本日9/5より、『仮面ライダー000/オーズ』がスタートしました。
視聴しながら、「俺だったらこうする!」なんて創作魂に火をつけた人もいるのではないでしょうか。

SSでもイラストでも!
オリジナルでも二次創作でも!
設定妄想だけでも一発ネタでも!
ええやん?

細かいことは気にするな。ここはそういうスレ。どれほどのものかは、書き込んでみれば分かる。
2創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 20:55:40 ID:nbdBurZb
即落ちってのも面白くないので、
投下のハードルを下げつつ保守してみようと思う。
3創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 20:56:30 ID:nbdBurZb


「ヒュー! オレ達は秘密結社“悪の華”の重機動極悪戦隊!」
「泣く子も黙る“アラスンジャー”!」
「ちなみにボードレール先生とは関係ありそうで関係ない!」

 のどかな昼下がり。街の広場にくねくねと躍り出る怪しげな黒い影! その数はわずか
に三! だがそれは、公園の制圧などたった三人で充分という意味!
 彼らこそ、悪のために悪さを働く謎の団体、その破壊工作員アラスンジャーなのだ!
4創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 20:57:21 ID:nbdBurZb
 悲鳴を上げて逃げ惑う人々。スナック菓子がぶちまけられ、子供の手を離れた風船は空
の果てで破裂し、鳩は糞を落とす! 石畳に散乱するは平穏の残骸か。

「……最近、こうやって問答無用で逃げられるのも空しくなってきたね」
「そうね」
「いいダイエット食品ない?」

 打ち捨てられた屋台のクレープを摘み食いしながらウンコ座りでだべるアラスンジャー
のまがまがしさよ!
 警察を呼べ? 馬鹿な、官憲ごときが何の役に立つというのか? ヤツらの黒い全身タ
イツは、拳銃弾をもポップコーンのように弾くというのに!
5創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 20:58:18 ID:nbdBurZb
 誰にも止めることはできない。あまりにも、ヤツらは強すぎ、そして悪すぎた。
 だが!
 しかしッ!

「待てぇい!」

 高らかに響く声がある!
 齢は分からぬ。少年か。青年か。
6創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 20:59:02 ID:nbdBurZb
 それはどこから。ああ、広場の隅っこに設えられたトイレの出入り口あたりから!
 最近めっきり視力が落ちたアラスンジャーAの目にも、クレープと悪戦苦闘していた同
B、舟を漕いでいた同Cの目にも、その詳細はぼやけて不明ッ!

「見ていたぞ、ワルインジャー。お前達の神仏をも恐れぬ悪行三昧!」
「アラスンジャーです」
「すみません」

 素で間違えた。
7創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 21:00:38 ID:nbdBurZb

「というか、だっ、誰だっ!? 何者だぁっ!」
「俺か?」

 そいつはにやりと笑ったようだった。手首には無骨な腕時計、いや、あれは変身のため
のブレスレット型アイテムなのか!
 指先まで気合の入ったカッコいいポーズをびしっと決め、ひと声で空気を変える。

「創発ッ!」

 それはキーワード。戦うための姿となるための言霊といえるか。
 青年の長身がびかーと発光。あんまりマブくて目を開けていられないほど!

「ぐっ、ぐわああああっ!?」

 その輝きだけで、アラスンジャーCの睡魔が吹き飛んだ。
8創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 21:01:54 ID:nbdBurZb
 莫大な光はわずか数秒で嘘のように消えた。恐る恐る目を開き、ほっと息をつく重機動
極悪戦隊アラスンジャー。
 だがそれでいいのか? 爆心地には、あれだけの光をまるごと凝縮してのけたかのよう
な、煌びやかなる黄金の甲冑が顕現しているぞ!
 猛禽のような兜。眼光は射殺すように鋭く。

「誰だと聞いたな。何者だとも聞いただろう。ならば」

 そいつは威風堂々と名乗るのだ。我が名を。
9創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 21:03:07 ID:nbdBurZb
 背後でカラフルな爆煙が上がるまで、あと3、2、1……!

「俺は正義の味方、ソウルハートマン! またの名を……“創発男”」

 魂が。
 心が。
 震えだす時、それは今っ!

「ソウルハートマン……だと……?」
「いきなり必殺っ! ソウルハートアタァァック!!」

 そうして。
 ここに、伝説が、始まった――!
10創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 21:04:44 ID:nbdBurZb
 ご愛読ありがとうございました。
 そのうち書くかもしれない次回作にご期待ください。
11創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 21:12:37 ID:12PbAOgC
俺は期待してるぜ
OOO見逃したけどな!
12創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 22:39:45 ID:+n7wpK8Q
盛り上がれ!
13創る名無しに見る名無し:2010/09/08(水) 20:50:37 ID:KpbfKZe+
戦隊の名前でなんかテキトーにかっこいい響きのない?
意味はこじつけるので
14創る名無しに見る名無し:2010/09/08(水) 21:00:32 ID:RQowK4BV
ゾルギアス
15創る名無しに見る名無し:2010/09/08(水) 21:04:32 ID:KpbfKZe+
斬新杉ワロタ
16創る名無しに見る名無し:2010/09/08(水) 21:14:03 ID:RQowK4BV
賄賂戦隊ゾルギアス
〜黒い社会との調和方法〜

時間 356分

内容 これ一本見ればアナタは賄賂の達人!一気に課長になれるかも!?

値段 15800円

オプション 低反発枕
17創る名無しに見る名無し:2010/09/08(水) 21:49:11 ID:dYtyT10P
全員女子高生の戦隊モノが見たい!
あえて悪の組織目線で!
どこかで見たような気がする!
そしてエロパロでやれって言われそう!
18創る名無しに見る名無し:2010/09/08(水) 21:53:09 ID:agOvVmH6
>>10
なんとなくスレ開いたんだけど地味におもしろかったよ
ネタが出たら次回作よろしく
1910:2010/09/11(土) 01:57:17 ID:T26jaflB
レスthx
調子に乗ってちょっとだけ続く。期待はするな。

>>17
探せばありそうな気がする。
昔ファミ通文庫でバッドダディ?だったか、そんな父娘物があったが、
あまり知名度はなさそうだな。
20ソウルハートマン(2):2010/09/11(土) 01:58:53 ID:T26jaflB

 悪の秘密結社“悪の華”の重機動極悪戦隊アラスンジャーが、謎めいた正義の味方ソウ
ルハートマンにより撃退されてから、だいたい一週間くらい。
 構成員の悪さだけでなく、フットワークの重さにも定評がある秘密結社“悪の華”の極
悪大幹部たちが、遂に『第一回正義の味方ソウルハートマン対策会議』を開いた!

「凄まじい力だな……」
「いきなり必殺技とはなんと無粋。しかし――強い……!!」
「これが」

 再生される映像資料は、先の戦闘を録画したもの。
 十二の席を配した円卓を囲う、そうそうたる顔ぶれ! しかし、部屋を支配する濃密な
暗がりは、そのシルエットの悉くを永遠の謎とする。
 欠席も多い! ひたすら油断しているのようでもあるが、それもむしろ組織の不気味な
余力をすら感じさせた。

「ソウルハートマン、か」
「まさか、悪の総合商社として各所からベンチマーキングの問い合わせが絶えない我ら秘
密結社“悪の華”の超科学技術、機動力、そして悪さを上回るとはな……」

 いい感じに加工された声が場を飛び交う。何だかでっかい悪さの予感。

「しかし調子に乗っていられるのもいまのうちだ」
「奴ら(アラスンジャー)はしょせん極悪偵察員上がり。戦うために生まれた極悪戦闘員
をぜいたくに起用した、重機動極悪戦隊ブッコワスンジャーの悪さは、あんなものではす
まない」
「既に秘密結社“悪の華”の極悪諜報員も動き始めている。あの怪しげな男の正体が白日
のもとに晒されるのも時間の問題というわけだ。……ははっ、こいつは傑作だ!」
「うん」
「そうだね」

 影たちがしきりに肯く。馴れ合いのような空気でもあるが、悪党たちの黒く密接な関係
を窺わせる一コマでもある。
 チームワークも完璧だというのか……恐るべし、まことにもって恐るべし秘密結社“悪
の華”! これでは何ぼ正義の味方ソウルハートマンといえども、付け入る隙などないか
もしれない!

「ならばわたしも、別の方向からソウルハートマンを炙り出してみるとしましょう。あれ
だけの力……候補は限られてくる」
「そしてあの猛鳥を崇める原始宗教の神官のような兜。……充分な手掛かりだ」
「ならば吾輩は重機動極悪戦隊ブッコワスンジャーにテル(電話)しておくである」
「……それでは、次の会議で会おう」
「ビバ・フラワークラウン!」
「俺も、ビバ・フラワークラウン!」
「ビバ!!」
「ヴィヴァ!!」
「ビバ・フラワークラウン!!」

 合言葉の唱和が会議室に響き、一斉にフェードアウトしていく。
 危うしソウルハートマン! お前は狙われている!
 そして、“ビバ・フラワークラウン”、その意味するものとは、いったい……!?
 謎が謎を呼ぶ秘密結社“悪の華”の主戦力と、我らがソウルハートマンが激突するスー
パーヒーロータイムは、恐らくこの後すぐ!!
21ソウルハートマン(2):2010/09/11(土) 02:00:59 ID:T26jaflB
すまん、今回はここまでだ
つか人イネー
22創る名無しに見る名無し:2010/09/11(土) 07:04:00 ID:oKHKPpsz
>>20
投下乙!
馴れ合いというとあれだけど
リアルなアットホームさのあるいい秘密結社じゃないか!

>>17
魔女っ子戦隊 パステリオンを思い出したけど
高校生じゃなくて小学生だったぜ
23創る名無しに見る名無し:2010/09/11(土) 13:49:50 ID:kHP41cFl
>>17
中学生だけどセーラームーン
24創る名無しに見る名無し:2010/09/11(土) 18:33:01 ID:hLUvKN18
>>17だけど
女子高生が部活のノリで戦隊ヒーローやってて
主人公は悪の組織のスパイとして高校に潜入しているという設定とか
もし無かったら書こうかなと思ったり
25創る名無しに見る名無し:2010/09/11(土) 18:47:05 ID:tZoSaFtK
後のケイオンジャーである。

というのはジョーダンだが、仲間が増えるのは楽しみだ。
待ってる。
26創る名無しに見る名無し:2010/09/11(土) 20:45:36 ID:hLUvKN18
ケイオンジャーだったら…
赤=唯
黒=澪
青=律
黄=紬
桃=あずにゃん

やっぱりこうなるか
27創る名無しに見る名無し:2010/09/12(日) 00:28:04 ID:Wm8g4RES
レッド=唯
ブルー=澪
イエロー=律
ピンク=紬
グリーン=梓

だと思う。
2817:2010/09/12(日) 13:21:39 ID:J01zyFzy
投下します
2917:2010/09/12(日) 13:23:29 ID:J01zyFzy
『部活☆戦隊★女子れんじゃあ!』第0話「ぷろろぉぐ!」

「ねー、もうサクッと殺っちゃって良いんじゃない?」
「まあまあ萌黄さん、落ち着いて下さい」
「そこは色で呼ばないと、ピンク先輩!」
「煩いガキどもめ……何故こんな奴らと協力しなきゃいけないんだ」

「行くわよ! ファイナルレンジャーアターック!!」
「「「「おー!」」」」

 ドゴォ、ボカーン。怪人は死んだ(笑)。

「はい終了〜。今日も楽勝だったね〜」
 “レモンイエロー”こと大岩萌黄が腕を伸ばしながら言った。
 萌黄は自称「イマドキノジョシコウセイ」で髪を茶色に染め、顔も少し褐色気味だ。
「うふふ。それでは今夜も私の家でパーティでもしましょうか」
 “サーモンピンク”こと松山カトリーヌ桃子が提案する。
 桃子の家はやたら広い割に両親とも海外を飛び回っていて、ほとんど帰って来ない。
 一人っ子である桃子が家に帰ると、大型犬のアームストロングと執事のロドリゲスだけ
が出迎えてくれる。
「わーい。カレー食べようよ〜」
 喜ぶ萌黄。この女、やたら食べる。特にカレーはヤバい、超ヤバい。鍋ごと丸飲みする
勢いだ。
 でも体型は変わらない。何それ、卑怯じゃん。
3017:2010/09/12(日) 13:25:48 ID:J01zyFzy
「ボクも行きたーい」
 同じく“エメラルドグリーン”こと明日香ミド。
 ミドはスポーツ万能でボーイッシュな女の子(←ここ重要)。
 メンバー内では一番背が低く、さらに貧乳(←さらに重要。テストに出ます)である。
「言っておくが私は行かないからな」
 別に訊かれたワケでもないのに答えるのは“セルリアンブルー”こと新命アオイ。
 一応、孤独を好むニヒリストらしい。ちなみに高校では生徒会長をしている。
「じゃあ、4人で桃子の家で祝賀会ね!」
 “クリムゾンレッド”こと海城朱音がグイッとアオイの体を押して言った。
 普段はそうでもないが戦闘時にはリーダーとして活躍する。
「何するんだ朱音。押すんじゃない」
 アオイも負けじと抵抗する。
「アオイちゃんは帰るんでしょ、家はあっちだよ」
「おい、いつもは無理矢理引っ張って行く癖に何だよ」
「たまには一人寂しく帰れば良いじゃない」
 一人寂しく。そのフレーズがアオイの耳に引っかかる。
「いや待て、生徒会長としてあまり夜遅くまで遊ぶのを見逃すワケには……」
「え、何だって?」
「仕方がないから一緒に行ってやる。隠れて高校生としてあるまじき行為に及ばないよう
監視しないと」
3117:2010/09/12(日) 13:27:37 ID:J01zyFzy
 そして、5人は桃子の家へ――そう、彼女たちこそが秘密結社“ブラッククルセイド”
の脅威から地球を守る為に選ばれた5人の戦士、部活戦隊ジョシレンジャー(仮称)で
ある。

 ――――え、続けるの?
3217:2010/09/12(日) 13:31:26 ID:J01zyFzy
やっちまった感アリアリですが…あとは煮るなり焼くなりご自由に。
33創る名無しに見る名無し:2010/09/12(日) 20:10:02 ID:N3WICnIJ
のほほんキャラで戦隊を創りたいのだがいいキャラいないか?
候補
アンパンマン
ドラえもん
ミッキー
34創る名無しに見る名無し:2010/09/12(日) 22:00:39 ID:moIk8ijD
>>32
このエモいわれぬグダグダ感とスイーツ感。・・・たまんないな。ツッコんでるうちに終わっちまった
つかネーミングやべぇwww
1話が待ち遠しい

>>33
そいつらのほほんか?
強いて入れるならミッフィーとか、ハローキティとか・・・?
しかしその前に、食パンとカレーパンがそっちを見てるぞ!
35創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 23:05:11 ID:EnYU1cRN
ス・レ・を
ageげて
や・る・ぜ
36創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 04:39:29 ID:0nSkqpGA
仮面ライダーディケイド衝撃の最終回、「ライダー大戦は劇場へ」から1ケ月が経った。
テレビ朝日には今なお多くのライダーファンによる苦情が殺到している。
ネットでは日々、ディケイドを譲歩する人間と批判する人間が口論している。
彼等は知らない。この論争が、この騒ぎが
ウルトラショッカーによって仕組まれたものだと!

テレビ朝日はディケイド・クウガ編放送時に、ウルトラショッカーに乗っ取られていた。
テレ朝・東映関係者、ディケイドのスタッフ・キャスト達は全員、ワームが疑態した偽物。
本物は既に全員、惨殺されている。しかもディケイド関係者だけではない。
過去のライダー作品に関わった人間をゲストだろうがエキストラだろうが
神経質なぐらい一人残らず抹殺した。

赤ん坊だろうが関係無い。目的のためなら誰であろうとぶっ殺す。
まさに地獄行き確定の地獄の軍団、それがウルトラショッカーだ。
37創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 05:23:45 ID:0nSkqpGA
ウルトラショッカーとは何なのか?
ショッカーとは、怪人とは、架空の存在ではなかったのか?
ウルトラショッカーが何なのかは分からない。ただ分かる事は一つ。
彼らがこの世界を征服しようとしていることだけだ。

ウルトラショッカーの最初の作戦、それはライダーファン同士を争わせ
ライダーファンを凶暴な人間へと人格形成する「RFヒス作戦」!
何でターゲットがライダーファンだけの小規模な作戦かというと
自分達の宿敵、ライダーのファンである彼らがムカつくから
俺達の手の平で踊らせてやるというシンプルな理由から。
しかし地獄の軍団の彼らでも、作戦の巻き添えを食らう
怪人ファンに対しては罪の意識を感じている。

地下にあるウルトラショッカーアジト。ブラック将軍が
最近買ったばかりの自前のノートパソコンを持って、首領の部屋に入って来た。
ブラック将軍「御覧下さい首領!2ちゃんねるで愚かな人間共が争いを繰り広げております」
首領(ゲルショッカー首領(赤面マスク))「くくく、争え争え!もっと荒れろおぉぉ!!」
38創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 06:13:29 ID:0nSkqpGA
同刻、トイザラスでガンバライドをしている少年。
名は頼駄雄宅(らいだ たくお)16歳。通称タク。重度のライダーオタク。
この日彼はガンバライドのカードを続けて買いまくっていた。
彼がカードの排出を待っていた時、事は起きた。

キイ-ン……
タク「ん?この音は真司がミラモンの出現を感知した時の音!? 一体どこから!?」
突如、目の前のガンバライドの画面からゲルニュートの腕が出てきた。
ゲルニュートはタクの顔を両手で掴み、ミラーワールドへ引きずりこんだ。
タク「そんな馬鹿な!どうしてゲルニュートが!? ミラーワールドが!?」
タクが思った事を口に出し終えたと同時に
タクとゲルニュートはミラーワールドを出た。
出た先は映画で見た大ショッカーのアジト。
そこには死神博士、地獄大使、ジャーク将軍やザコ怪人達がつっ立っていた。
「映画と同じだ!あいや待て、死神博士はいなかったな…」
この非常時にブツブツと細かい事を言い始めるタク。
ジャーク「えぇーい黙れ。これはフィクションではない。その気になれば
     いつでも貴様など殺せるのだ。死にたくなければ黙れ!」

おじけづいて黙るタク
大使「貴様はディケイドの有資格者に選ばれた!
   ウルトラショッカーに選ばれたことを光栄に思うがいい!自慢するがいい!」
タク「俺がディケイドの有資格者だって…!?」
39創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 16:41:37 ID:0nSkqpGA
死神「貴様のライダーに関する知識は素晴らしいものだ」
将軍「そして運動神経は上の中、ディケイドの性能を使いこなせるのは貴様だけ」
大使「しかも怪人についての知識も豊富。貴様が指揮をとれば
   一体一体の怪人も無駄にせず、フル活用出来る」
タク「…つまり、俺にウルトラショッカーに加入しろと言ってるのか?」
将軍「その通り!ウルトラショッカーに加入すれば、それなりの地位をやる
   世界征服出来た暁には、国も一つやる。どうだ?いいこと尽くしだぞ」
タク「………魅力的だな、いいだろう。入ってやるよ、ウルトラショッカーに!」
将軍「よくぞ決断した!ほれ、ディケイドライバーだ。
   DX玩具じゃなくて正真正銘本物のな」
ディケイドライバーを受け取るタク
タク「これが本物の…」
将軍「さあ!変身するのだ!」
タク「変身!」

カメンライド ディディディディケ-ド!

タクは仮面ライダーディケイドに姿を変えた。
40創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 17:42:15 ID:0nSkqpGA
タク「これが…俺…」
将軍「よしテストだ。手始めにクウガにカメンライドしてみろ」
タク「わかった」

カメンライド インビジブル!

将軍「馬鹿者!それはインビジぶぅ!」
将軍が突然吹っ飛んだ。そう、透明になったディケイドに顔面を殴られたのだ。
大使「貴様裏切るのか!?世界を手に入れるチャンスを逃すのか!?貴様馬鹿か!」
タク「馬鹿はお前らの方だ!ストロンガーの教訓を忘れたか!一般人を勧誘する時は
   脳改造は必須だぜ!」
ざわめく怪人達

「この世界は俺が格好良く守ってやる!」
アジト内の怪人達は一時間もかからず倒された。
「ふう、何とか片付いた。さて、外への出口はどこだ?」
「出口はこっちです!」
聞き覚えのある声が聴こえた。ディケイドタクが後ろを振り向くとキバが居た。
「キバ!?本物の!?」
興奮するタク

「たった一人でこの100体近い怪人を倒したんですね。上出来です」
やや上から目線の言葉に苛立つも、怒りを抑えタクは皮肉を交え聞いた。
「一体どうしてあなたがここに?いたなら一緒に戦ってくれてもよかったのに…」
「詳しい話は後です。とりあえずここを出ましょう」

ディケイドとキバは、ウルトラショッカー沖縄支部アジトをあとにした。
41創る名無しに見る名無し:2010/11/17(水) 19:41:57 ID:FRrQt2v0
タク「あんた何か知ってるんだろ?教えてくれ。この世界に一体何が起こってるのか」
キバ「彼ら…ウルトラショッカーは、この世界とは別の異世界からやって来たんです」
「異世界!?」
「僕と他の仮面ライダー達は協力して、その世界でウルトラショッカーと
 戦っていたんです。
 しかしウルトラショッカーの1億を越える圧倒的な数の怪人達に僕らは敗れ
 その世界はウルトラショッカーのものとなってしまいました。
 そしてウルトラショッカーはその世界だけでは飽き足らず、異世界行き行きマシーンを
 開発して、他の世界の侵略も始めたのです!」
(怪人が一億……)
タクはウルトラショッカーに加入しなかったのを恐れから若干後悔した。

「生き残ったライダー達は重傷を負って、すぐに異世界に行って
 ウルトラショッカーを追いかける事が出来ませんでした。
 誰よりも早く回復した僕は、一人すぐにこの世界に来てウルトラショッカーの
 動向を隠れて観察していました。」

回想
ローズオルフェノク「どうやらこの世界では我々や仮面ライダーは架空の存在として
          人間達に認知されている様ですね」
ガミオ「現在TVで放送されているディケイドという我々が見た事もないライダー
    とてつもない戦闘能力を持っている」
死神「素晴らしい。ウルトラショッカーの科学力でこのディケイドライバーを
   作り出した後、変身する有資格者を見つけ、ディケイドを配下に置くのだ!」
42創る名無しに見る名無し:2010/11/17(水) 20:19:49 ID:FRrQt2v0
ローズ「……しかし不愉快ですねえ。架空の作品とは言え、この世界では
    我々怪人達はライダーにやられたい放題」
    (ま、私は結構綺麗な最期を迎えましたけど)
ガミオ「私なんかおめえ、この間ディケイドの撮影現場見に行ったらよ
    私がディケイドとクウガにボコボコにされていたのだ。涙目になったよ」
死神「ならばテレ朝乗っ取って、作品も我々が作って、ライダーファンも泣かせてやるか」
ローズ・ガミオ「サーセンw」

タク「な…、このディケイド最終回騒動はウルトラショッカーによるものだったのか!」
キバ「そうです。一人では勝てないと判断して、僕は隠れて見ている事しか出来ず…」
「…」
「しかし今日!本物の最強ライダー、ディケイドが誕生した!
 僕と無敵のあなたの二人が力を合わせれば、なんとか戦えるかもしれない!
 これから一緒に戦いましょう!」
「ああ…わかった!」(やだな〜怖い)
「しばらく経てば仲間のライダー達も、この世界にやって来ます
 仲間が揃った時、その時がウルトラショッカーとの全面戦争開始の時です!」

こうして仮面ライダーディケイドと仮面ライダーキバの短期間の戦いが幕を開けた。
43創る名無しに見る名無し:2011/01/02(日) 21:56:10 ID:Ho7v3Ain
>>42
こういう大雑把なノリ好きだよ。
怪人の軽さが何かwwwwww
44ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/03(木) 11:19:03 ID:buz9ifZX
ちょっと相談を聞いてもらえたら嬉しい。
ご存知の方もおられるかも知れませんが、私は以前この板の今は亡き類似スレで数話書いていた者です。
作品名を仮面ライダーネメシスといいます。
その後、結構続きが書き溜まってきたので、こちらに(今回はこちらだけに)載せたいと思うんですが、そこで悩む。
ご存知でない方のことを考えると、前に載せた一話〜六話あたりまでを、もう一度載せたいと思う。
でもご存知の方にとっては、それらは既読の話だ。
個人的には一話からまた載せたいと思うんですが、やはりウザいでしょうか?
45創る名無しに見る名無し:2011/02/03(木) 11:42:41 ID:T2Pyg9DI
俺は歓迎するよ
ただ、全話一気に投下されるよりは、一週間に一話とかにしてもらった方がありがたいかな
46ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/03(木) 12:13:39 ID:buz9ifZX
>>45
ありがとうございます。
じゃあ少し手を加えて週末ごろにまたお邪魔します。

私、規制を食らって書けなくなる、というパターンがよくあるので、少し怖いですが。
またよろしくお願いします。
47ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/05(土) 15:21:37 ID:9qPPOGh1
※グロ注意

仮面ライダーネメシス第一話「そうだ、島根、行こう」

 南洋の戦地。一匹の「鬼」は積み重なった幾つもの屍体の中へ顔を突っ込んでいる。
 日本軍も連合軍も、今の鬼には関係無い。数分前まで兵士だったこれらは、単なる食べ物だ。
 屍肉を噛み裂き、引き千切り、片端から貪り喰らう鬼。灰色の目を光らせ、カブトムシのように枝分かれした角を真っ赤に染め。
 腹が満たされれば、最早この島に用は無い。鬼は地面へ拳を叩き込む。
 拳の刺さった箇所から火球が広がり、その島を覆いつくしてゆく。
 さほど後世に認知されてはいないが、この時、地図より小島が一つ消えた。
 1945年、8月の初頭のことだ。


 それから六十と数年、四捨五入すれば七十年が過ぎた。島根県のとある駅へ下車する、一人の少女。
 アルバイトと奨学金だけで大学に通っている苦学生で、経済的な余裕はゼロに等しいのだが、年に一度は必ずこの地に旅行したくなる。理由はよく分からない。
 少女は勝手知った足取りで、ある河川へ向かう。

 風が流れていた。 国が産まれた頃と寸分違わぬ風。そこで何かを思い出したというわけではないが、少女は風を浴びて、暫しその河辺に佇んでいた。
 斐伊川、という。

 東京の一等地に京南大学附属病院があり、その中に一際若い外科医が勤務している。
 医師を、卜部京也(ウラベキョウヤ)といった。

 五年前、京也の祖父は「頼む」の言葉と一つの勾玉を彼に残し、他界した。
 五年前といえば京也はまだ単なる医大生だった。オペを終え、52時間ぶりの仮眠。京也は微睡みつつ、祖父を回想していた。

 平安時代より続く自分の血筋には時折、人並み外れた狂暴性を顕す者が生まれる。旧時の人々はそんな卜部家の者を「人鬼」と忌み嫌い、近世になってからも法の厄介になった者は少なくない。
 京也の父親もそうだった。二十年前、何の前触れもなく包丁を振り回した父親の奇怪な形相は頭にこびりついて離れない。そして、その際京也の額と心に刻まれた深い切り傷。
「ち…寝られやしない」
 傷が疼き、目が冴えた。普段は飲まないレンドルミンを入れ、強引に眠ろうとする。

 無論、外科医が神経を患っているなど大っぴらには明かせない。
 京也はこの病院の前院長、および看護師長と個人的に懇意だから、特別に服用を黙認されている。それまでの事だ。

「医者の不摂生…か」

 少しだけ自嘲した。
48ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/05(土) 15:29:23 ID:9qPPOGh1
一話A

 暗闇。きつい香の匂いが漂う。幾つかの灯火に照らされ、その中に何十もの人影が揺らめく。
「皆さん!いよいよ大和を我らの元へ還す聖戦の開幕です!」
 甲高い男の声が暗闇に響く。炎の揺らぎの中に、暗闇に建つ何者かの像が見えた。しかしいまいちディテールは判然としない。
「マカリザラキシワンヤ!」
 マントラと響きは似るがやや異なる言。甲高い男の声に続き、周囲の何十人もその言を復唱し続けていた。

 島根に一泊した後、少女は自宅のある東京へ帰ってきた。自宅といっても、一人用の小さなマンション。家族はいない。そもそも彼女に家族の記憶はない。
 そろそろ講義が始まる。梳灘 斎(クシナダ イツキ)は、誰もいないマンションの一室に
「行ってきます」
 の声をかけて鍵をかけて大学に駆けた。

 しかし、と思った。マンションを出るとすぐに駅が見えてくるが、その駅がごった返している。
 通勤ラッシュではない。逆だ。皆が駅より我先に出ようとしている。
 斎はその中から、数少ない大学の友人を一人見つける。
「お、お早う涼ちゃん…何かあったの?」
「自爆テロ!」
 山内凉(ヤマウチスズ)もまた、切羽詰まった表情で斎に知らせる。
 この日本で、それも庁舎などない至極標準的な街でなぜ?

 涼ちゃんに曰く、複数の犯人が線路から駅にかけて陣取り、連続して自爆しているのだという。
「イツキ!あんたも早く逃げな!」
 涼ちゃんに服を引かれながら、斎は妙に落ち着いた自分を自覚していた。
「開かれる」
 そう口走ったが、なぜそう口走ったのかは分からず、ただ斎は凉ちゃんと共に駅から距離をおいた。

 自爆テロによる負傷者が次々と運び込まれ、京也は対応に追われる。体に突き刺さったガラス片を傷が残らぬよう祈りながら取り除く。

 自分の様に、理不尽な悪意のために傷を負う者を増やしたくない。そう考えて医者になったのだから。
 傷を拡げぬよう丹念にガラス片を除く。その中に、幾つか奇妙な破片を見つけた。ガラスやコンクリートではない。青銅だ。

 結局、この日東京の七ヶ所で同時に自爆テロが発生。犯人も含め、死傷者はかなりの数にのぼった。
 しかし、犯人グループもその目的も、そもそも犯行声明すら発表されず、都民は不安な一夜を過ごす事と相成った。

 ようやく仮眠を許された京也だがそれに甘える事なく、テロの被害地点に関する資料を片端から集めていた。
49ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/05(土) 15:50:05 ID:9qPPOGh1
一話B

 京南大学附属病院は、常勤医であればとりあえずの個室を与える。
 自室にてPCや文献を睨んでいた京也は、ノックの音に集中力を削がれ、軽く溜め息を吐いた。
「卜部先生、コーヒーお持ちしましたけど」
 王 麗華(オウ レイカ)という看護師だ。
「そこに置いて」
 京也はそれだけ言って、再び資料を睨み始める。
 なぜつまらぬ線路や駅の土地から青銅が出土した。あの土地に遺跡でもあったろうか?
「少しは休んでくださいね?」
「分かった」
 最低限の返答。京也が無口で無愛想な事は麗華も承知しており、黙って部屋を出る。

 出てみれば、恰幅の良い看護師がニヤニヤと笑いながら麗華を待ち受けていた。
「どうだった?」
 藤堂朝子(トウドウ アサコ)という看護師長。
 麗華は一つ頷き、京也の個室を見る。
「何が気になってるんでしょうね。あとは警察の仕事だと思うけど…」
 いやさ、と朝子は笑って手を振った。
「麗ちゃん、今日は彼とデートじゃなかった?」
「もうキャンセルしました。あたし、そこまで呑気じゃありませんから」
 朝子は尚も笑い、ナースステーションへ帰る。
 麗華はあと半年で三十路へ突入するが、未だに独身だった。彼氏はいるものの、結婚に踏み切れない。
 焦っているのは確かだが、日本そのものが安全でなくなった事を示すような今回の事件を見れば、小さな悩みだと思った。

 京也にはもう一つ、気にかかる事があった。祖父より託された勾玉。
「これだけはいつも持っておけ」
 と言われ、以来肌身離さず持っている「召鬼」という記述が見える勾玉。それが、患者から摘出した青銅片に反応するように光り輝いたのだ。
「目の錯覚なら良いんだがな…」
 京也はそう呟き、オペの合間を縫って爆発現場へバイクを飛ばした。
 TADAKATSU-XR420レイブン。三年前に新車で購入した、実用一点張りのオフロード車が京也の愛車だった。

 到着した頃には、既に黒山の人だかり。野次馬根性に嫌気がさし、そんな自分の野次馬根性にも嫌気が差した。
「山下山男警部補!」
「フルネームで呼ぶな」
 機嫌の悪い若い刑事が陣頭指揮を取っている。あの山下山男という男もまた、青銅に着目しているようだ。
 この状態では実りある発見など望めないだろう。京也は再び愛車に跨がる。病院に帰ろう。そう思った矢先、野次馬の一人と目が合った。
50ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/05(土) 15:57:44 ID:9qPPOGh1
一話C

 蒼白い肌、ボブの髪は染めているのか天然なのか知らないが明るい赤。年の頃は十代後半だろうか。
 その少女に京也は見覚えがあった。祖父の文机に大切に保管されていた一枚の写真。終戦直後に撮ったものだというから、既に六十数年前の代物。
 その写真に祖父と共に一人の女性が写っていた。祖母ではないらしいし、祖父は生前、その女性の素性を一切語らなかった。
 眼前の少女は、その女性と酷似している。京也と目が合った少女の唇が動いた。声は聞こえなかったが、京也はその唇の動きを読み取った。

「タ・ケ・マ・サ・サ・ン」

 メットを投げ捨て、京也は彼女に詰め寄る。
「君は誰だ」
 居丈高な物言いになってしまった。
「武政は…俺の祖父の名だ。君は祖父の何を知っている?」
 少女は困惑した風。
「分からない…私、武政さんなんて知らない。知らないはずなんです!」
 知らない記憶が存在する。脳や神経に関しては専門外だったため良く分からないが、少女の言葉が異常であり、また祖父と関係している事は理解できる。
 彼女の話を聞きたくなった。京也は職場で彼女と話そうと予備のメットを取り出すが、その耳に断末魔の悲鳴が刺さった。それも、複数。
 野次馬の数名が有り得ない方向に体をねじ曲げ、血を吐いている。
 目に見えぬ顎に貪り食われている者もおり、顎が不可視だから犠牲者は自分が咀嚼される様を衆目へ克明に披露した。

「こ、これは何だ?」
 思わぬ事態に拳銃を取り出す山下山男刑事。だが標的の姿が見えぬため、対応できない。
 何も為せないまま、鑑識の人員も八つ裂きにされてゆく。敵の気配が徐々に自分へ近づくのを山下山男は感じていた。
 そして、その気配が突然遠退くのも感じた。気配はその姿を現した。
「見ツけた」
 人語が聞こえ、「それ」がテロによる爆発の中心点より飛び出した。

 蜘蛛に似ていた。体長は4〜5mだろうか。
 円形に牙が配列された口と背から生える二本の触手を除けば、本当に蜘蛛に似ていた。

 蜘蛛は巨大な脚で野次馬達を薙ぎ払う。剛力と先端の爪が容易く彼らを切り裂く。
 振り下ろされた爪から間一髪で少女を救う京也。蜘蛛はどうやら、彼女を狙っているらしい。

「乗れ。逃げるぞ」
 京也はヘルメットケースを外すや背後に少女を乗せ、愛車を全速力で飛ばす。だが蜘蛛も、体躯に似合わぬ素早さで二人を追う。
51ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/05(土) 16:11:48 ID:9qPPOGh1
一話D

 蜘蛛は八本足で走りつつ、口から糸を吐きつけてくる。
 それを京也はバックミラーで視認し、紙一重で避けてゆく。自分の反射神経の良さが意外だった。
 京也は軽のミニバンも持っているが、基本的な移動はこの愛車、レイブンで済ませる。
 蜘蛛の攻撃を四輪車では回避できまい。運が良かった。

 逃げながら、京也は懐の勾玉が強く熱を帯びている事に気付いた。この蜘蛛に反応しているのか、それとも背後の少女か。

「念珠…」

 少女がそう呟き、それに気をとられた隙にスリップ、飛びかかった蜘蛛の爪が小さな廃工場の壁を破る。

 スリップの勢いで、京也と少女もその廃工場へ突っ込んだ。
 蜘蛛は勝ち誇ったように口から嫌な音を立てる。牙が密集したあの口に噛み砕かれればさぞや痛いだろう。

 暗くカビ臭い廃工場の中、京也は少女を背後に庇いながらじりじり後退する。
 もはや逃げ場が無い。その時、少女が京也の胸に手をあてた。
「『召鬼の念珠』を使ってください」
「…何?」

 召鬼。あの勾玉か。怪物に狙われ、祖父と関係があると思しき少女の言葉。
 従うより他無いやも知れぬ。言葉通り、『召鬼の念珠』を取り出す。
 その時、心で一匹の獣が吠えた。壊したい、殺したい。京也が全力で封印してきた、卜部家特有の殺戮衝動。いわば「鬼」の心。

 転倒した愛車のバックミラーに、自分の両眼が紅く輝いているのを発見する。自分を内より呑み込もうとする殺戮衝動が全身を痙攣させる。
 その衝動の高ぶりが一つの基準を越えた時、京也の腰に骨盤状の器官が出現した。
 骨盤の中心には赤く輝く球体が埋め込まれており、その球体と手に持った『念珠』が紅い稲妻で繋がる。共鳴しているのだ。

 京也は時折、フラッシュバックに襲われる。父が自分の額を切り裂いたあの光景の。
 そして今も、唐突にフラッシュバックが生じた。だが、脳裏に浮かんだ光景は狂気に満ちた父の顔ではなかった。

 古く小汚ない衣服を着た青年が、自分と同様、手に勾玉を握っている。青年の腰には自分と同様の「ベルト」が生まれていた。
 青年はベルトと勾玉を接触させ、何事かを叫んだ。
 京也は衝動のまま、DNAに組み込まれた見知らぬ記憶のまま、そしてフラッシュバックの青年が叫ぶままに、彼と同じ文句を呟く。

「変…身…」
52ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/05(土) 16:22:05 ID:9qPPOGh1
一話E

 腰の球体から、どす黒い何らかのエネルギーが嵐となって京也の全身を包む。
 心の衝動が物理的な力へ変化し、京也の体を内から変える。
 体は黒一色、筋骨隆々に変容し、そこに白い金属片が集結して装甲を形成する。
 僅かな間の嵐が鎮まった後、そこには刺々しい白い外骨格で体の各所を覆った異形があった。

 昆虫のそれに似た赤い複眼は顔の中点で一つのV字を描き、そのつり目の上部、いわば眉の部位にまたもV字型に角が延びる。
 額からも天に向かって一本の角が伸び、その根元には赤い発光部「第三の目」が生まれている。
 体の各所を外骨格で覆い、肩、腕、腿の装甲からは鋭い刃が伸びる。
「…何だと」

 これが自分の、卜部家に継承され続けた鬼の姿か。
 京也は戸惑いつつ、それでも沸き立つ衝動に抗えず、蜘蛛へ突進する。八本の脚がそれぞれ爪を突き刺そうとするが、手足の動きだけでそれらを弾く。
 蜘蛛の腹部に滑り込み、振り上げた拳の一撃で天井へ吹き飛ばす。何とか天井へ着地した蜘蛛は京也へ糸を吐きつける。
 首を締め上げられる京也。だが本能のままに左腕へ力を込める。同時に腕の尖鋭部が高速振動を開始、その腕を振るって糸を切る。
 蜘蛛は残った糸を吸収し、背の触手を伸ばして京也の周囲を包囲、跳躍して八本の脚全てを同時に振り下ろす。
 危うい所で八本脚を押さえ込む京也。だが馬力ではこの蜘蛛に劣っているかも知れない。爪が徐々に京也の胸との距離を狭める。

 その時、成りゆきを見守っていた少女の声が聞こえた。
「『昂鬼』の念珠!」
 『昂鬼』と、京也は念じる。その瞬間、空間に波紋が浮かんだ。そこから勾玉が飛び出す。
 勾玉を果実と例えるなら、空間はそれを生らした枝の下に流れる川。
 熟した果実が水に没する様を水中から観察しているようだった。

 確かに、空間の歪みから飛び出した勾玉には『昂鬼』と刻まれていた。
 その勾玉は再び赤い稲妻を放ち、ベルト状の部位と共鳴する。

 直後、京也の全身を陽炎が包んだ。その陽炎に触れた廃工場の壁が、微細に分解される。
 この陽炎は標的を分解するらしい。更に、全身に力がみなぎる。外骨格の振動も高速化する。
 今の状態なら勝てる。京也は確信した。
 強大化した腕力で蜘蛛の爪をへし折り、腹を掴んで空中へ投げ飛ばす。直後に跳躍する。
53ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/05(土) 16:35:19 ID:9qPPOGh1
一話F

 京也は、またもフラッシュバックに襲われた。
 自分と同じ姿の『鬼』が跳躍し、爬虫類を彷彿させる怪人へ向かって急降下、右足を伸ばす光景。
 『鬼』は、右足から生じる破壊力のみならず、怒りそのものを右足から怪人へ叩きつけるように見えた。『鬼』は叫んだ。

「ライダー…キイィック!」

 落下してくる蜘蛛と上昇する京也の高度が重なった。
 フラッシュバックの『鬼』に倣い、一気に京也は右足を伸ばす。
「ライダー…キック」
 聞き覚えの無い単語が衝動と共に沸き上がり、脚力と足の装甲に生じる振動、更に陽炎を蜘蛛へ突き立てる。
 唾液のような血のような吐瀉物を飛ばし、撥ね飛ばされる蜘蛛。腹を上へ向け、衝撃から立ち直れずもがいている。
 着地した京也は右の拳を強く握りしめ、間合いを詰めて蜘蛛へ向かう。再度跳躍、空中で一回転して蜘蛛の腹へ飛び乗る。

 「昂鬼」により強化された力はまだ尽きていない。右腕へ陽炎を集める。

「ライダーパンチ!」

 腕力、全体重、装甲の振動、陽炎の分解作用が合致し、拳に強大な破壊力を産み出し、蜘蛛の体へクレーターを作る。
 僅かな返り血。八本の脚が弛緩したと思ったのは一瞬の事で、直後の蜘蛛は火柱を上げ爆散していた。

 蜘蛛の欠片は長い時間燃える事もなく、すぐに火柱は収まった。その残留物たる煙の中から、京也が京也の姿に戻り現れた。
 掌中の勾玉…『念珠』を眺め、少女に問う。
「俺は卜部京也…君は?」
「梳灘…斎です」

 京也もそうだが、少女も混乱していた。
 少女は、当人たる京也以上に「念珠」の知識を持っていた。
 そして、口をついて出てきた「武政」の名。

 覚えのない記憶の発露を気味悪く思ったが、
 その少女・斎は東京の風が島根で感じたものと少し違う、と呑気に考えてもいた。

第一話、終。
54ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/05(土) 16:36:12 ID:9qPPOGh1
以上です。何か気になったらご指摘お願いします。
55創る名無しに見る名無し:2011/02/10(木) 21:26:54 ID:RAF2eQK6
乙。
何か微妙に分かりづらいが、戦闘シーンにハッタリが利いてて面白くなりそうな気配がする。
こんな和風っぽいのに名前ネメシスなのか・・・
56創る名無しに見る名無し:2011/02/11(金) 01:33:57 ID:XaahAsoz
>>55
>何か微妙に分かりづらい

描写や解説の表現が、二重三重に言葉を重ねて
さらに改行なしでいってるから読みづらいのかも。
(その方が小説らしくなるし、持ち味だと言えばそれまでだけど)

あと1話に詰め込みすぎる感も。
それでも続きが挙がってくればたぶん読む。
57ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/11(金) 08:35:48 ID:3Oqy3iQ6
ありがとうございました。いくつか重ねて質問したいのですが。
・言葉を沢山重ねてるということですが、説明過多、ということでしょうか。
それとも単に一文一文にハッタリをきかせ過ぎている、とかかな?
・それから、「改行無し」ということですが、極端な話、「。」が入ればもう改行、ぐらいの意識で書いた方が良いのでしょうか。
・ここはage推奨でしょうか。

このあたり、答えていただければ助かります。
しかしそうか。詰め込み過ぎの部類に入るのか……
58創る名無しに見る名無し:2011/02/11(金) 10:32:52 ID:9/wiK4dU
ここは過疎地、創作は正義。
当然、ageあるのみ!
レスがつく可能性がちょっと上がる。かも。


・詰めこみについては、シーンが短く頻繁に変わって読者が馴染む?暇がないのかなと。
映像ならシーンで区切っても絵で分かるけど、小説では必ずしもそうはいかないというか。

・突き放した視点で書かれていて、
キャラが何を考えているのか、どんな感情を抱いたのかが分からず
いまいち共感しづらいのかなと思ったり。


なんでか特撮スレは、楽しくやれりゃいいよ的な創作発表板寄りのノリよりも、
ここをこうしたらよくなるよ的な創作文芸板寄りのノリになるなw
昔特撮板にあった頃からの伝統かな。
別に批評するの止めても俺は全然いいと思うけど。
59創る名無しに見る名無し:2011/02/11(金) 14:41:29 ID:XaahAsoz
こっちは書くプロでも熟練者でもないんで
「そんな声もある」程度に受け止めてもらいたいんだけど。

こういう文章は読むうちにリズムみたいなものができて
サクサク読んでいけると思うんだけど若干もどかしい。
じゃどうすればいいの?と聞かれそうだけど熟練者じゃないのでわからないw
バトルシーンでは1行にかける文字を減らしたほうがいいかも?くらい。

詰め込みすぎなのは展開かな。
1話でプロローグやって、主人公も副主人公も変身して必殺技出して対峙する。
実際の平成ライダーでも1話でここまでやらないでしょ。
伏線がありすぎるもの。
60ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/11(金) 16:10:29 ID:3Oqy3iQ6
分かりました。その旨注意しながらまた土曜か日曜に参ります。
突き放した視点というのは少々改善しにくいかも知れませんが…

>>59
なるほど、一話で天道の描写すっ飛ばしてキャストオフクロックアップ、ザビー登場までやっちゃったような感じでしょうか。
それは確かに入り込みづらいかも。

>>58
特撮厨って基本的に真面目だからねw
有り難く頂戴しておきます。
61創る名無しに見る名無し:2011/02/11(金) 16:45:37 ID:v4WQ90x3
サブタイの時点で読む気が失せてしまう。
なぜここでギャグに走るんだ?
フラフラするな。
シリアスでかっこいいモノを書く気ならそれに専念しろよ。
62ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 14:18:37 ID:NHOreoaL
二話@

仮面ライダーネメシス
第二話「寄生する神馬」

 どう見ても勾玉だが、正確には「念珠」というらしい。
 外科医、卜部京也(ウラベキョウヤ)は、一人の少女から示唆を受け、鬼へ変身。
 巨大なクモを粉砕した。

 変身に用いた「召鬼」の念珠は祖父から託されて以来、常日頃から携帯していた。
 それが何をもたらすものかも知らずに。
 しかし、破壊力を上昇させる「昂鬼」の念珠は、
京也がそれを望んだ時に空間に浮かんだ波紋から出現した。

 ともかく、「昂鬼」の力で巨大クモは燃え尽きた。
 変身は、京也自身の意志一つで解除することができた。
 しかし、変身に使用した「召鬼」の念珠は、「昂鬼」と同様、空間の波紋へ吸収されてしまった。

 京也は少女、梳灘 斎(クシナダ イツキ)を見る。
 斎自身も、自分に備わっていた未知の知識に動揺しているらしかった。
「とりあえず…ここを出ないか」
 黙って頷く斎。
 クモを目撃したのは、自爆テロの現場検証にあたっていた刑事も同じこと。
 あの刑事が来れば京也も斎も、参考人として様々な聴取を受けることになろう。
 だから京也は斎と共に逃げた。
 そもそも二人とも、自分たちに何が起きたのか現状では全く分からない、説明のしようがないのだから。

 クモを粉砕した工場から3kmばかり離れた、小さな公園。
 京也はブラックの缶コーヒーを自販機で二本購入し、斎へ一本を渡す。
 二人してベンチへ腰を下ろす。しばし空を眺めて言葉を探し、先に京也が口を開いた。

「まず第一に。変身に使ったあの『念珠』はどこへ行った?」
 コーヒーをすすり、斎は頷いて応じる。
「時空断裂境界。鬼だけが占有できる亜空間で、念珠はそこに隔離されてます」
「なぜ、そんな事を知っている?」
 重ねて京也が問うが、これに斎は首を振った。
「分かんないんです」
 そうか、と京也は軽く溜め息をついた。
 他にも幾つか訊いてみた。みたが。
「祖父の名をどこで知った?」
「分かりません」
「あの『念珠』とは何だ?」
「分かりません」

 あらゆる質問にこれである。
 こうなると、彼女の知識は記憶ではなく、体に染み付いた本能のようなものだと考える他無いらしい。
 しかし、どういう経緯でそんな本能が染み付く事になったのか。
 斎は沈んだ風で、ほとんど缶へ口をつける様子が無い。
63ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 14:49:45 ID:NHOreoaL
二話A

 良くも悪くも、大人しそうな風貌の少女だ。
 不安でいっぱいなのかも知れない。
 聴取を恐れた京也だが、斎にとっては自分の質問に答えることが聴取を受けているようなものなのだろう。

「…悪い。君自身訳の分からない状況で尋問のようなマネを」
 斎はまた、首を横に振る。
「ブラックコーヒー、キライなんです」
 意外にワガママだった。

 翌日、警視庁庁舎に山下山男刑事の怒声が響いていた。
「何故です!」
 相手は上司だ。
 自爆テロの現場から蜘蛛モンスターは確かに出現し、野次馬と鑑識班の数名が奴の犠牲となった。
 にも関わらず、上層部はその報告書を無視した。
 テレビにも新聞にも自爆テロの件ばかりが報道され、モンスター自体に関する報道は皆無。
 これは明らかな情報統制だ。
 山下山男が抱く憤りと同種のものを卜部京也も感じていた。
 眠れぬ夜を過ごして職場、京南大学附属病院へ帰った。
 病院は複数社の新聞を常備しているが、全ての新聞にクモの表記が見当たらない。

 往診の最中、看護師長の藤堂朝子へ訊ねてみた。
「朝子さん、テレビのニュースでクモがどうとか言っていなかった?」
「ああ、バードイーターって奴ですね?あんなの日本にいたらあたし気絶しますね」
 役には立たなかった。
 テレビも新聞も、インターネットすら情報を統制されている。
 数人が引き裂かれ、工場に穴まで残っているのに。

 とりあえず斎から聞き出せたのは、あの巨大蜘蛛が「妖魔」の類いで、
 自分が「念珠」を使って「変身」できる事だけ。
 「妖魔」が何なのかも、なぜ祖父、武政の名を知っているのかも斎は分かっていないらしい。

 幾つかの炎が揺らぐ暗闇。香の匂いがきつい。
 その中で、只でさえ甲高い男の声が更に甲高くなって響いた。
「何!地蜘蛛が死んだと?」
 声の主が歯軋りしているのが聞こえる。
 強敵の復活を恐れているのだ。
「まさか…卜部武政の遺産…」
 男達は焦っていた。
 自分たちの信念を現実とするため、魔界の扉を開き妖魔を召喚したというのに、その妖魔が死んでは意味が無い。
 「仮面ライダー」の復活を恐れる声が暗闇のあちこちから聞こえる。
「もしも本当に仮面ライダーだとすれば、妖魔を狩りに現れる…」
 暗闇から姿を現した、人と蝙蝠(コウモリ)の合の子のような異形。
 鋭い牙を輝かせる。

「私が妖魔を調伏し、仮面ライダーを殺させましょう」
64ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 15:10:50 ID:NHOreoaL
二話B

 日も落ちた頃、京也は自爆テロの、そして巨大蜘蛛出現の現場を再訪していた。
 そこは既に警察ではない何らかの政府機関によって厳重に封鎖されており、京也は遠巻きに見る他無かった。
 自爆テロは同時に数ヶ所を襲ったから、ここ以外の被災地も同様であろう。
 しかしもう一人、自分同様現場を遠巻きに見る者がいた。
 確か、クモが現れる直前まで現場を検証していた刑事。
「青銅…ですか?」
 出来るだけ、初対面を装って話し掛けてみる。
 どうやら図星。山下山男刑事もまた、爆発によって現場から飛散した青銅に着目していた。
「そう…ここに遺跡の類いがあったという記述はどこにもない」
 だが青銅が飛散し、モンスターも現れた。
 そこまで言って山下山男は京也を見る。
「…君は見たか?あのモンスターを」
 しまったと京也は思った。
 しかし、クモが現れた事と自分が変身した事は問題が違う。
 そもそも山下山男は、クモが死んだ事を知らなかった。
 監視の目があるため、二人は場所を移す。

「あの管理している連中は…どこの省庁なんです?」
 そう京也は訊いてみる。意外にも山下山男はあっさり応じてくれた。
「ああ…都市保安庁さ」
 都市保安庁と警視庁は、互いに手柄を競い合っているという噂を聞いた事がある。
 そう言うと、山下山男は苦笑した。
「そんなにいいモンじゃないさ。都市保安庁は、何かにつけ我々に圧力をかけてくる」
 本来は警察の仕事なのだろうが、あのモンスターに関しては都市保安庁に委任されている。

「理由が分からないんだよな…」
 山下山男はそう一人ごちる。
 例のクモは自分が葬った。
 それを公言するのが憚られたので、京也は山下山男に患者の体から摘出した青銅片の写真を数枚渡して帰路についた。

 病院に向かう僅かな間に、京也は様々な不安材料を拾い上げる事ができた。
 妖魔は他にもいるのではないか。
 自爆テロは何者かが妖魔の封印を解くための手段で、その封印に青銅が使われていたのではないか。
 そして、自分を鬼に変えた『念珠』とは何なのか。
 なぜ祖父、武政はこれを自分に託したのか。

「ただいま…どうした?」
 病院の待合室は、TVの前に人だかりが出来ていた。
 東京上空に、未確認の生物が出現したというニュースだ。
 現場中継からは、蝙蝠と人間の合の子のような生物が、先程とは別の自爆テロ現場へ向かって飛んでゆくのが映された。
65ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 15:39:54 ID:NHOreoaL
二話C

 警視庁は機動隊を総動員、航空自衛隊にも出動要請を出したらしい。

「どういう事だ…?」
 昨日の巨大蜘蛛は一切報道されないというのに、このコウモリ怪人は大々的に報じられている。
「このコウモリも妖魔…なのか?」
 だが、それならクモ同様、情報が隠ぺいされるはずだ。
 疑念を抱きながらも、京也は脱いだばかりのメットを被り直した。
「待って下さい!どちらに?」
 看護師の王 麗華(オウ レイカ)が京也を止めた。
「少し調べたい事があるだけだ。気にしなくて良い」
 そう言って目をそらすが、麗華は尚も止める。
「あのコウモリみたいなのが何者なのか分からない。もし危険な生物なら今ドクターに離れられると迷惑なんです」
 確かに、京也の事情は二の次で然るべきだ。
 京也はこういう時、うまく口が回らない。
「すぐ戻るから」
 それだけ言って、麗華を振り切り、
愛車「TADAKATSU-XR420レイブン」を走らせた。

 人間コウモリは、体から発生させる超音波で機動隊の接近を防ぎ、その間に地面へ法陣を描く。
 人間にそれなりに似ている口から奇怪な呪文がつむがれ、暫しの後、地を割り人間コウモリ以上の異形が現れた。
 蠍(サソリ)に似ていた。
 短い脚が左右に十本、シャコに似る胴体、長細いハサミ、鰭が形成された尾。水中を泳ぐように空を往く。
「とりあえずは呼び出せたか…だが、調伏には至らん」
 人間コウモリは、羽に生えた鋭い爪で機動隊員を切り裂き、自分が描いた法陣へその血を落とす。

 直後、大サソリの動きが止まった。
 満足げに笑い、人間コウモリは近場のビルを指差す。
「倒壊させろ。下敷きにしてしまえ!」
 人間コウモリの指示に従い、大サソリが巨大なハサミでビルを薙ぎ倒す。

 機動隊員へ降り注ぐ瓦礫。
 その下に動くものが存在しない事を確認した後、サソリは人間コウモリの描いた法陣に大人しく鎮座する。
「さあ邪魔者は消えた。ハネサソリ、魔界よりお前の仲間を呼べ!」
 ハネサソリ、と呼ばれたサソリは法陣の中心にハサミを突き刺し、その亀裂から自分の同族を招こうとする。
 だが、その動きが止まった。
 飛び出す目は東の方を凝視する。法陣からハサミを引き抜く。亀裂は消え、サソリの仲間を呼べなくなった。
 驚く人間コウモリ。
 更にサソリは尾の一振りでコウモリを撥ね飛ばし、一直線に東へ飛翔する。
66ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 15:54:57 ID:NHOreoaL
二話D

「あいつら…仲間じゃないのか?」
 様子を伺っていた京也も愛車を飛ばし、陰からサソリを追う。
 この方角に何がある?

 バイトを終え、斎は家路を急いでいた。
 別に急いで帰っても誰かが待っているわけではないが。
 自分のあの知識は何だろう。妖魔、念珠、そして卜部武政の名。
 何処で学んだわけでもあるまいに。
 自分は何者か。そんな疑問はベタな哲学でなく、真に斎を悩ませた。
 だがその苦悩は直ぐに危機感に掻き消される。
 斎の上空より迫り来る、シャコのような胴体に飛び出した目、顎の下から伸びる二本のハサミ。

「ハネサソリ!」
 その化物の名を呼び、襲いくるハサミを辛うじて回避する。
 回避した後で、自分がその化物の名を知っている事に気付いた。
 反射的に壁を背にしてしまったため、斎には逃げ場が無くなった。
 動けない斎。迫るハサミ。
 そのハサミを、バイクのホイールが止めた。

 小さな砂塵を巻き上げ、急停車するオフロード型のマシン。
「無事か!」
 京也だ。彼の目が赤く輝く。例の姿に変身するつもりだ。
 だが、と京也は躊躇した。

 鼓動が高まり、身が震え、心に鬼の声が響く。
 殺せ、殺せ、殺せ。

 卜部家は、「人鬼」と侮蔑されるほどに人間離れした猟奇犯罪者を幾人も輩出した、呪われた家系。
 京也は悟った。
 自分が変身した、あの姿。それは卜部の血に伝わる鬼の姿、殺戮衝動そのものだ。

 自分自身が危険だ。鬼に心を奪われてしまう。
 その衝動を意志の力で抑え込む。
 蠍の突撃をかわし、斎に予備のメットを投げ渡す。
「…逃げるぞ!」

 またも背後に斎を乗せ、愛車レイブンを飛ばす。
 蠍の入り込めない狭い路地を疾走し、何とか振り切ろうとする。
 しかし、サソリは腕のハサミで周囲の建物を切り裂きながら、尚も二人を追う。
 それどころか、サソリが飛行する速度はレイブンよりも上だ。

 広い通りに出た。深夜で、人通りが無かったのが幸いだ。
 だが、サソリはついに二人を追い越す。
 回り込まれた。
 正面から、二人に向かって突進するサソリ。
 鉄筋コンクリートを容易く切り裂く鋭い刃先が京也へ迫る。

 首まであと数ミリ。
 その時、彼の腰に骨片を繋ぎ合わせて作ったようなベルトが出現した。
 空間へ波紋が浮かび、そこから飛び出した勾玉、
 いや、変身を制御する「召鬼」の念珠がベルトと接触する。
67ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 16:24:16 ID:NHOreoaL
二話E

 どす黒いエネルギーの嵐が京也を一瞬だけ包む。

 京也の首を捉えたように見えたサソリのハサミ。
 だが、あと数ミリにまで迫ったところで逆に掴み取られた。
 ハサミを掴み取ったのは、白く刺々しい姿の魔人。
 あの一瞬の間に京也は変身を完了していたのだ。

 変身した京也は敵のハサミを掴んだままレイブンから降車し、
 ジャイアントスイングの要領でサソリを振り回し、地面へ叩きつける。

 同じく降車して、斎は言い知れぬ不安を抱いた。
 変身した京也の赤い眼が、クモを倒した時より一層強く輝いている。
 獣のように重心を低くし、手は力の大きさを制御しきれず痙攣している。

 サソリを追って、コウモリ怪人も二人の前に現れた。
 変身した京也を見て、コウモリは心底仰天しているようだった。
「やはり復活していたか…仮面ライダー!」

 仮面ライダー。
 それが変身した京也の名か。
 斎は自分でも不思議なくらい冷静にそう考えたが、当の京也は衝動のままコウモリとサソリを殴り飛ばす。
 だが、京也は妙な行動を取る。
 近場のガードレールを腕力で引き裂き、アスファルトを拳で叩き割った。
 今の京也にとり、殺せれば、破壊できれば対象は何でも良い。

 殺戮を悦ぶ卜部の血が暴走している。

「卜部さん!」
 斎は思わず叫んだ。
 その声に、かろうじて京也は我を取り戻す。
 迫る二匹へ回し蹴りを打ち込み、変身した姿のままレイブンに斎を乗せ、自分も跨がる。
 追い縋る二匹をバックミラーで視認し、京也は自分の衝動を必死に抑えつける。
 そんな京也へ斎が声をかける。
「卜部さん、『鬼馬』の念珠を使って!」
 今は、と京也は震える声で呟いた。
 殺戮を悦ぶ鬼の意志に全力で抵抗する、疲弊した声。
「今は…頼む、今は力を使わせないでくれ」

 二匹から完全に逃げきり、二人は真夜中の公園で息を整えていた。
 変身を解除した京也へ、斎が缶コーヒーを渡す。
「すみません…卜部さんを巻き込んじゃったみたいで」
「妖魔が現れて俺は念珠を持っている…どの道巻き込まれていたんだ。気にするな」
 カフェオレのように甘ったるいコーヒーを啜り、一つ息を吐く。
「変身するのが怖かった。念珠が疼く。俺の中の鬼が全てを八つ裂きにしろと命じる」
 変身した事で、京也は衝動に飲まれた。
 危うく斎を巻き添えにするところだった。
68ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 16:49:32 ID:NHOreoaL
二話F

 ある意味、予想はできていた。
 だから京也は、最初にハネサソリと接触した際に変身を拒んだのだ。
「俺がこの力に飲まれない保証は無い…斎ちゃん、君はもう関わるな」
 鬼を制御する自信が無い。
 だが、斎は飲みかけのコーヒーを置いて立ち上がった。
「でも!コウモリとかサソリを無視したりできません!」
 京也は憮然として斎を向く。
「分かっている。あとは俺がやる。君は帰れ」
 暴走しない保証は無い。
 ならば京也が斎に対してできることは、戦いから遠ざける事だけ。
 そんな京也を、斎も見返す。
「わたし…サソリの居場所、分かりますけど」
「分かる…?何故」
 僅かに視線をそらす斎。
「分かりません…理由は分かりませんけど、サソリの居場所は分かるんです」
 それだけ言うと、斎は止める京也を無視し、一人で駆け出して妖魔の気配を探し始める。

 奇妙な感覚だと斎は思った。
 サソリの姿は見えない。サソリの声は聴こえない。
 だがそれでも、斎には奴の所在が手に取るように分かる。
 念珠の知識、妖魔を感知できる超感覚。
 自分をいぶかしむ材料としては充分だが、生憎とそんな暇は無かった。
 自分に家族はおらず、親しい者も少ない。
 だからこそ、その親しい者を傷つける可能性があるあのサソリを斎は放っておけなかった。

 斎を追う京也。
 その際、サソリに壊された街の瓦礫が見え、蠍に襲われた警官の遺体が運び出されるのが見えた。
 サソリに切り裂かれた雑居ビルの客の亡骸もある。
 そして、サソリが雑居ビルを切り裂いたのは、自分が逃げたせい。
「俺が変身していれば…こうはならなかったか」
 遺体を運び出す都市保安庁の査察官ら。
 その内の一人が、走り去る京也を憎々しげに睨んだ。
「…てめえか」
 若い青年で、少し顎が長い。

 午前三時。
 夜明け前に妖魔の仲間を再び呼び出すため、コウモリ怪人は何とかハネサソリを捕捉。再び法陣で囲う。
 コウモリ怪人の狙いは、妖魔を自分の配下へおくことだった。
 それを調伏と呼ぶ。
 調伏の儀式を行うには法陣が必要で、その法陣を完成させるには人間の血液が必要だった。
「さて、お前を完全に調伏するには人間の血がもう少し欲しいところだが…おやおや」
 コウモリ怪人とハネサソリのいる倉庫。
 そこへ足を踏み入れた者がいる。
 妖魔の気配を追ってきた斎だ。
「ほう、君は仮面ライダーと一緒にいた娘だな」
69ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 17:06:41 ID:NHOreoaL
二話G

「…妖魔を呼んで、何をする気なんですか」
 気丈にも斎は自分の方からコウモリに問う。
 コウモリはそんな彼女を嘲笑う。
「我々の志を阻む仮面ライダーを倒すためさ。ちょうど良い。調伏の儀式には君の血を使おう」
 迫るコウモリの牙。
 そこへ爆音が響き、倉庫内のガラクタを撥ね飛ばして一台のバイクが滑り込む。
「卜部さん!」
「戦える力が無いのに無茶をするな!」
 斎をそう一喝し、直後に京也は、戦える力があるのにそれを行使しなかった自分を嫌悪した。
 山下山男という刑事を誤魔化し、職場の仲間である麗華を誤魔化した。
 そんな自分の卑劣さもまた、自己嫌悪には充分なファクターだった。
「命を救える手段があるなら、それに賭ける…医者の基本なのにな」
 しかし、今嫌悪すべきは自己ではない。
 コウモリを睨む。
「斎ちゃん、君は君の持つ『覚えのない知識』で無意識の内に妖魔の名を知った」
 そしてコウモリ。
 斎がいた事で、奴の計画が狂った。
 クモは斎に対して「見つけた」と言った。
 どうやら妖魔は、斎に接触すれば反射的に彼女を最優先に抹殺しようとするらしい。
 だからサソリはコウモリ怪人の調伏を離れ、暴走した。
「そうだ。復活した仮面ライダーを呼び寄せ、同族を大量に呼び出して倒す手筈だった」
 だが、怪人の持つ呪術知識をもってしても、妖魔を調伏するのは難しい。
 だから法陣とハネサソリを利用し、妖魔を自分たちがどれだけ忠実に調伏させ、使役できるかを試したかったのだ。
 だが、調伏の儀を始める前にこのサソリは単独で暴れた。
 怒るコウモリを無視し、サソリは最優先抹殺対象たる斎に今にも飛びかからんとしている。
 人間に少しだけ似た口許が歪む。コウモリはうめいた。
「ええい!なぜ仮面ライダーは来ない。お前に説明しても仕方ないというのに!」
 コウモリ怪人は、その時点ではまだ、仮面ライダーとしての京也の姿にしか接点は無かった。
「ここにいるが」
 そう京也は言う。コウモリ怪人は、ようやく思い至った。
 なぜ眼前の男は、仮面ライダーと同じバイクに乗っているのだろう?

 京也は虚空へ手を伸ばす。
 空間に波紋が生じ、時空断裂境界より「召鬼」の念珠が飛び出した。
 それを掴み取る京也の目が赤く輝いた。
 腰には、骨片を繋ぎ合わせたようなベルトが「オニノミテグラ」が形成される。

 もう死なせない。
 自分には行使すべき力がある。
70ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 17:23:48 ID:NHOreoaL
二話H

 念珠を握った右拳を、ベルト中央の宝玉と接触させる。
 直後に「鬼の意志」が物理的エネルギーの嵐と化して京也を包む。
 どす黒い嵐を全身に浴び、赤く輝く両眼でコウモリ怪人とサソリを睨む。
 京也の心に鬼の声が響く。
 殺せ、殺せ、殺せ。
 その衝動を封じ込めるため、嵐の中、京也は呟いた。

「…変身」

 嵐が止み、京也の体は再び白い外骨格に包まれた邪悪な魔人の姿へ変貌していた。
 変身が完了した事を自覚し、京也は「召鬼」の念珠を空中へ放り投げる。
 空間へ波紋が生まれ、その中へ吸収された。
「お…お前が仮面ライダーだったのか?」
 変身した京也「仮面ライダー」は、手のひらを内側へ向け、腰を低くする独特の戦闘態勢をとる。
「来い。俺が相手だ」
「おのれ!仮面ライダーめぇ!」
 コウモリがそう口走る。
 法陣を抜け、自分達に向かって飛んでくるサソリ。
 これを正面から殴り飛ばし、鋭い蹴爪の生えた足先でコウモリに蹴りつける。
 腹の肉を抉られ、悲鳴と共に倒れ込むコウモリ。
 それを無視して斎に襲いかかるサソリ。
 先刻、コウモリはサソリを一度は配下におけたにもかかわらず
「調伏の儀が始まる前に」
 と言っていた。
 恐らく、本能だけで活動する妖魔に知識や自分たちの思惑まで伝達し、
 その通りに活動させられるよう調教して初めて調伏は完了するのだろう。

「その娘に手を出すな」
 斎に迫るハサミを、鎌が生えた腕の装甲で止める仮面ライダー。
「『昂鬼』!早く!」
 斎の指南を受け、空間に波紋を呼ぶ。
 そこから「昂鬼」の念珠を呼び出し、ベルト中央の宝玉に呼応させる。
 これは全身の運動能力や外骨格の振動を活性化させ、更に強力な破壊エネルギーを発生させて攻撃力を強化する念珠だ。
「ライダーチョップ!」
 そう叫び、挟まれた腕を振るう。
 強化した腕力と加速した鎌の振動により、鋏はいとも容易く切り落とされる。
 悶絶するサソリは倉庫内を転げ回り、空間を切り裂いて元の魔界へ逃走した。
 コウモリ怪人は焦る。こうなれば仮面ライダーの次なる標的は自分。
 コウモリは体から超音波を発振し、仮面ライダーが怯んだ隙に倉庫の天井を破り、空へ逃げる。
「…逃がさん」
 斎が先刻示唆した「鬼馬」の念珠を時空断裂境界から呼び出す。
 それをベルトと呼応させる。
 直後、京也の愛車レイブンに異変が生じた。
71ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 17:33:46 ID:NHOreoaL
二話I

 仮面ライダーの体の各所を覆っている、白く刺々しい生体強化外骨格。
 それと同じものが、無機物であるレイブンへ寄生し、その車体を包んでゆく。

 仮面ライダーと真正面からやり合って勝てる筈がない。
 夜空を自分達のアジトへ向かって駆けるコウモリ怪人。
 しかしその眼下に、白い外骨格に包まれたマシンを駆る仮面ライダーの姿が入った。
 仮面ライダーは疑似生命体マシン・スカルゲッターの前輪を浮かせ、上空の蝙蝠に向かってマシンごと跳躍。
 コウモリは飛行高度を上げその突撃を回避するが、仮面ライダーは近場のビルをスカルゲッターのジャンプ台にし、尚もコウモリに近接する。
 スカルゲッターのカウルが歪み、そこから骨を磨いで作ったような刀が伸びる。
 空中でカウルを振り、コウモリの切断を図る仮面ライダー。
 しかし元来跳躍によって高度を保っているため空中での機動力には欠け、中々コウモリに決定打を与えられない。
 失速するスカルゲッター。
 その時、車体から伸びた触手が真っ直ぐ近場のビル壁面に突き刺さり、同時に硬化してマシン本体を空中で固定させる。
 仮面ライダーは再び「昂鬼」の念珠をベルトへ呼応させる。
「ライダーブースト!」
 全身の力が高まり、さらに破壊エネルギーの陽炎が仮面ライダーの全身から立ち昇る。
 スカルゲッターのシートを手で叩いて蝙蝠へ向かい跳躍、右足を伸ばす。
「ライダーキック」

 鋭く鈍い音。
 神速の蹴りが、蝙蝠の片翼をへし折った。
 車体から新たに伸びた触手を掴み空中に待機する仮面ライダーと、バランスが保てず落下する蝙蝠。
 更に仮面ライダーは、車体を蹴り、地表へ向かって跳躍する。

 逃げた妖魔の再来は期待できない。
 200m上空から叩きつけられ、アスファルトがコウモリの血で染まる。
 落下した際に流れた血というより、切断された片翼から落ちる血だ。
 飛行能力を失っても全力で立ち上がろうとする。しかし、三日月を背に急降下し拳を放つ鬼が見える。
 それが、コウモリが見た最期の光景だった。

「ライダーパンチ!」

 仮面ライダーの拳がコウモリの頭蓋を粉砕し、その衝撃が一直線に伝達され、胴体まで真二つにした。
 両断されたコウモリは炎に包まれ、爆砕した。
72ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 17:49:21 ID:NHOreoaL
二話J

 翌朝、京也は自分が不在だった昨夜のカルテを読み、不審を覚えた。
「麗華さん、なぜこれほど少ない?」
 コウモリにやられた機動隊の生き残りは、警察病院が引き受けたらしい。
 それにしても、サソリに切り裂かれた雑居ビルの客を含めればもっと多い筈だ。
 麗華は困ったように笑う。
「さあ…自衛隊に訊いてもらえませんか?」
「自衛隊?」
 京也はあわただしく新聞を捲る。
 コウモリ怪人は航空自衛隊が撃墜したという報道がなされ、またサソリに関しては一切報道されていなかった。
 コウモリ怪人と妖魔は全く別種の存在。
 そして妖魔の存在は、国にとって都合が悪い事らしい。
 国の情報統制に呆れながら、京也は一枚の写真を眺めていた。
「じいさんが生きていれば、詳しい事が聞けるのかも知れんが…」
 若き日の祖父が、斎に酷似した少女と共にいる写真。


 六十数年前、東京に美月屋という宿屋があった。
 この店は二階を宿に、一階を飯屋にしており、また一階には高級なラジオが設置されていた。
 その放送に耳を傾ける事もなく、一人の男が欠けた椀で食事をとっている。
「別にすいとんでも良いんだけどさ、オレきつねうどん食べたいんだけど」
「あればわたしが食べてますから」
 宿屋の看板娘をからかう、二週間前に南洋から帰国した男。
 男の名を、卜部武政といった。

二話、了。
73ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/12(土) 17:51:43 ID:NHOreoaL
時間がかかりました。
申し訳ない。

>>61
サブタイに関しては少しかっこつけてみましたが、こんなんでいかがでしょうか?
74創る名無しに見る名無し:2011/02/15(火) 01:53:39 ID:nPYJXMJw
乙。
敵のパターンが珍しいな。
無垢な怪獣を操る宇宙人とかならいたような記憶があるが。
これからもこんな流れで話が進んでいくのだろうか。
ぐっと複雑になって振り落とされそうだが、頑張って付いていこう。
75ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 14:05:26 ID:mVNLWCbQ
>>74
ありがとうございます。
では三話投下します。
書き溜めてから投下したいんですが実は私携帯厨でして、
毎度時間がかかります。
どうかご容赦ください。
76ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 14:24:30 ID:mVNLWCbQ
仮面ライダーネメシス
第三話「史上最強の鬼」@

 元から無愛想なタイプだったが、あの自爆テロ事件を機にその性質が増幅した。
 看護師の王 麗華は、常勤医の卜部京也を見てそう感じていた。
 何かあったのだろうか。そう訊いて素直に応える性格ではない。
「先生は臆病なのよ。人付き合いに対してね」
 彼と付き合いの長い看護師長、藤堂朝子はそう言う。
 京也の額の傷。それは父親につけられたもの。
 前院長、朝子、麗華しか、その事実を知らない。

 当の京也は自室にて、PCの前でため息を吐いていた。
 怪物どものデータベースを作ろうとしたが、情報が少なすぎてすぐに手を上げたのだ。
 結局、メディアはあのコウモリ怪人が「改造兵士」である事しか伝えない。
 改造したのは誰か、使役したのは誰なのか、それが重要だというのに。
 しかし、怪人や妖魔と交戦した京也はある程度事態を把握できた。
 あのコウモリが所属する組織が、どうやら自爆テロを首謀した。
 その目的は、魔界の扉を開き、この世界に妖魔を召喚する事。
 そして、と思う。
 前回の戦いで自分はハネサソリを仕留め切れなかった。
 奴はまた来る。

 香の匂いがきつい暗闇。
 甲高い声の男は仮面ライダーに敗れたコウモリ怪人の戒名を紙に書き付け、それを燃やし、その灰を正体不明の立像へ捧げる。
 これが彼ら式の供養らしい。
「久々ですな…仮面ライダーへの怨念を込めて同士の戒名を書くのも」
 男は、六十年以上前に自分たちを襲った悲劇を回想し、拳を握りしめた。


 昭和二十年九月十五日、東京。
 終戦を迎えて丁度一月が経っていた。
 そこに立つ一軒の下宿屋で、少女が大勢の客らに監視の目を光らせている。
 美月屋という店。
 この店は一階を飯屋、二階を下宿屋にしている。
 辛うじて空襲から焼け残り、それなりに蓄えも残っている。
 これを盗みに来ようとする輩が多いのだ。
 とにかく今この国には物資が無いのだから、泥棒の気持ちも分からないではない。
 ないが、こちらも食っていかねばならない。
 自分たちは文字通り、明日の飯にも事欠いている。
 だから店主の娘である少女、美月キヌは一階の食堂に来た客の動向を逐一注視している。
 そんなキヌに、復員服を着た一人の青年が声をかけた。
「ね、美月屋ってこちら?連絡してた卜部ですけど」
77ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 14:33:51 ID:mVNLWCbQ
三話A

 外地部隊の復員を乗せた船、高砂丸が帰国するまでまだ十日前後はかかると聞いた。
 この男、どうやって帰国したのだろう?
 いぶかしむキヌをよそに、店に入るやその青年、卜部武政(ウラベタケマサ)は凄まじい勢いですいとんを食らう。
 一階の食堂には、飯だけ漁りに来る者も多い。
 その青年、卜部武政は髭を剃って身だしなみを整えればまあまあ男前と思えた。
「すいとんでも良いんだけどさ、オレきつねうどん食べたいんだけど」
「あればわたしが食べてますから」
「じゃあおかわり!」
「無いです」
 無茶をぬかす武政と、軽く流す美月キヌ。
 武政は一つ笑い、懐からずり落ちそうな「勾玉」をそっと直した。

 同じ頃。暗闇。香の匂いがきつい。
 そこに六十数年後と変わらぬ甲高い男の声が響いた。
「皆さん!我らへの従属を拒んだ結果、やはり日本は敗戦を迎えました。今こそ、大和の覇権を我らのものに!」
 暗闇の中、別の男が拝礼の席より立ち上がった。
「今の日本の民が欲しいものは…金。それには…仕事を与えれば良い。私が参ります」
 男の顔は蜥蜴(トカゲ)に似ていた。

「何で東京に?仕事探し?」
 美月屋。下宿する上での書類を書きながら、武政はキヌとだべっていた。
「人探しだね。悪い人探し。で、多分この街にソイツがいるな」
 硬く粗悪な鉛筆で手が疲れたのか、道端で拾った埃っぽい新聞を店内で堂々と広げる。
 記事はこぞってGHQの宣伝、戦争の愚かさを書き連ねている。
 つい一月前まで意図的にねじ曲げた情報を流し戦意の高揚を煽っていたのはどこの誰だ。
「HGだな」
 武政はそう呟く。キヌは首を傾げる。
「エイチジーって?」
「腹黒いの意味」
 分かるか。
 武政の雰囲気が軽いためか、キヌも客という立場を忘れ、敬語を排していた。
 しかし、武政としては読んでいて気分が悪くなったので、その新聞を風呂の薪として宿に寄付した。


 六十数年後、卜部京也はネットニュースをチェックし、腹を立てていた。
 やはり今日も、妖魔に関する記事が無い。
 コウモリ怪人の情報は公開するのに、妖魔の情報は頑なに隠蔽する政府。
 明らかな危険を、国民に知らせない。
 何らかの意図はあるのだろう。
 しかし、クモやサソリの犠牲者、遺族が浮かばれないではないか。
 京也は自室で啜っていたコーヒー用のマグカップを机に叩きつけ、訪問してきた梳灘 斎をその音で驚かせた。
78ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 14:47:38 ID:mVNLWCbQ
三話B

「あ…すまん。少し神経質になっていて…」
「あのこれ…コウモリとハネサソリから助けてもらったお礼です…」
 蒼白い顔を真っ赤にし、斎は手作りと思しきサンドイッチを京也に渡す。
「お昼にでも…どうぞ…そ、それじゃ私大学がありますから!」
 終始俯いていた、という印象を残しながら、斎は全速力で京也の部屋から遠ざかっていった。
 廊下を走るな、と叱る間もなかった。
「俺に礼を言うより、自衛手段を考えるべきじゃないのか…?」
 斎は念珠の知識を持ち、妖魔を感知でき、その妖魔に率先して襲われる。
 そして、祖父、卜部武政と何らかの繋がりがある。
 確実に危険な状態にある彼女を守るため、自分は何を為せば良いのか。
 そう考えながら、京也は次のオペに備えてサンドイッチを口にした。
…何故サンドイッチに納豆を入れた。

 山下山男刑事は自爆テロ現場から出現したー記録は抹消されたが確実に出現したー巨大グモと、
 噂で聞いた巨大サソリの関連性を気にしていた。
 巨大サソリが目撃されたのも別の自爆テロ現場周辺である。
 また、都市保安庁に現場を封鎖されたが、雑居ビルが何者かに切断されているのも見た。
 ひょっとして、東京の地下には奴らの巣があって、
 それが青銅製の断層によって都民との接触をこれまで拒んできたのでは?

 と、自分では良い線いっていると思う推理を展開する。
 しかし、物的証拠は全て上層部や都市保安庁に抹消された。
「どうすれば市民に伝えられる…」
 上層部への苛立ちを隠せず、コーヒーを飲み干した紙コップを握り潰す。
 そんな山下山男を、物陰から都市保安庁の若い査察官が眺めていた。
「フッ…公務員様にも仕事熱心な奴がいるなあ」
 長い顎を撫でて密かに嘲笑した。

 昼からの講義。斎は基本的に常時陰気な表情だが、今日はいつも以上だ。
 心配する唯一の友人、山内凉(ヤマウチスズ)。
「イツキさ、また振られた?」
「…違うの」
「何か欲しいモンとかあるわけ?」
「…ピストル欲しい」
 友人が硬直してしまった。斎が考えた自衛手段である。
 貧乏な自分とは逆に、友人は社会的に誉められない種類のアルバイトで結構稼いでいる。
 しかし、友人を巻き込む訳にもいかない。
 だからやはり、友人にピストル買ってもらうはやめる。
「自分で買おっと…」
 そう呟くので、涼ちゃんは尚も固まるより無かった。
79ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 14:57:48 ID:mVNLWCbQ
三話C

 オペを終わらせ、京也は仮眠を取る前にコウモリ怪人を倒した地点、
 および、そこからサソリの調伏が試みられた法陣の描かれた倉庫へ向かった。
 サソリはまだ死んでいない。
 他にも妖魔はいるのかも知れないが、とにかくサソリだけは仕留めてしまいたい。

 倉庫には既に法陣どころかその痕跡も無かったため、京也は再び自爆テロ現場へ乗り込む必要性も視野に入れた。
 しかし、再び愛車へ跨がる前に、空中から攻撃を受けた。
 間一髪それをかわす。
「来たか…今度は逃がさん」
 ハネサソリが滞空している。
 昨夜の戦いにてライダーチョップで切断されたためか、片方のハサミが異常に小さく再生していた。
 その横に、人間大の草が生えている。
 草の見た目は、大きさを度外視すれば食虫植物サラセニアに似ていた。
 だが植物は、根を地上に出し、それを脚の様に用いて京也へ突進してくる。
 心の鬼が目を覚まし始めた。超人的な反射神経でサラセニアの突進をさばく。
 だが京也の足下を狙い、サラセニアが何らかの溶液を飛ばす。
 直撃を受けた鉄パイプが、瞬時に溶解した。強酸だ。
 食虫というより、もはや食人植物。
 植物は奇怪な声で咆哮している。京也と会話する意図は無いらしい。
 恐らくこちらも、組織の改造兵士ではなく妖魔の一種なのだろう。

「行くぞ」
 空間に波紋が浮かび、そこから京也は「召鬼」の念珠を取り出す。
 同時に骨片を組んだようなベルトが腰に発生、目が紅く輝く。
 殺戮を命じる鬼の意志に抵抗しながら、念珠とベルトを接触させる。
 鬼の心がどす黒い「力の嵐」となって京也を包む。

「…変身」

 嵐の中、そう呟くのは、鬼に変容するのはあくまで肉体のみと自分を律するため。
 心から沸き立つ邪悪な意志を具象化し、京也は刺々しい白い外骨格に武装した魔人「仮面ライダー」へ変化する。
「来い。俺が相手だ」
 手のひらを内側に回し、腰を落として二匹の妖魔と睨み合う。


 六十数年前、美月屋の食堂。
「おい!向こうの角で妙な奴が働き手を募ってるぞ!」
 一人の男が、食堂にたむろする男達に声を掛けた。
 近隣住民の八割方は、飯はなく家も焼かれた。
 土方でも何でも良い。仕事があると聞いては黙っていられない。
 男の報告が終わらぬ内に、店にいた殆んどの男連中が我先にとその妙な奴が待つ角へ走った。
 だが武政は、店に残っている。
80ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 15:13:14 ID:mVNLWCbQ
「行かないの武政さん?あれじゃすぐに募集締め切っちゃうよ?」
 そうキヌが問うが、武政は闇市で買ったブドウ糖の欠片をかじりながら呟く。
「おかしいよな。このご時世、雇う側だって賃金が出ないっしょ。でも人を集めてる…」
 ブドウ糖の残りを紙にくるみ、懐の勾玉を握り込む。
「ちょっと見てくる」
 武政はそのまま、その妙な奴が待つ角へ向かった。
 男連中は集められた角から、少し広めの焼け跡に誘導される。
 しかし三十人前後がひしめきあっているので、結局狭い。
 そんな彼らの前に、小綺麗な洋装の若い紳士が現れる。
 金を持っていそうだ。男達は期待をもって彼に仕事の内容を問う。
 だが、紳士は残酷に告げる。
「皆さんには、我らの生体改造をグレードアップするための実験台となってもらいます」
 突如、紳士の皮膚が無数の緑のイボで覆われる。
 目が肥大化し、口からは異常に長い舌が伸びる。
 南洋に棲息する、カメレオンという蜥蜴(トカゲ)の一種に似ていた。
 そのトカゲは周囲に合わせて体の色を変化させ、敵の目を欺くのだという。
 怪物の出現に逃げ惑う男連中。
 だがこのカメレオン怪人は、体のイボから黄色い霧を噴射。
 これを吸った男らが次々倒れる。

 改造素体、確保完了。
 カメレオンはそう確信し、巨大な口を歪めて笑った。
 だがその顔面に、磨り減った靴底が叩きつけられる。

「卜部武政、見参!さて、おたくの業務内容を教えなさい」

 妙な邪魔者が現れた。
 カメレオンは再び霧を噴射するが、武政には効かない。
「何故だ!何故眠らない!」
「いやあ、鬼がうるさいもんでして」
 要は、武政は心中の鬼、すなわち破壊衝動の昂りで睡魔を封じている。
 件の甲高い声の男の部下であるカメレオンは舌を伸ばし、武政を捕らえようとする。
「危ねっ!」
 幾度も伸縮し襲いかかる舌を回避しながら武政は眠った男らを観察する。
 この舌を使えば彼らを簡単に殺せる。
 だが、そうしなかったのは彼らが必要だから。
 しかし武政を殺そうとしている以上、彼らに慈悲をかけたわけではない。
「つまり…あの人たちはおたくの労働力だね?」
 カメレオンの動きが一瞬止まり、不気味に笑った。
「少し違うな。我々は実験用の生体が欲しい」
 カメレオンが所属する組織は、人間をより高度な生物へ進化させる改造手術を行っている。
 成功例がこのカメレオンだ。だが、失敗も皆無ではない。
81ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 15:30:07 ID:mVNLWCbQ
三話E

 武政は何度か頷いた。
「なるほど。実験が沢山やりたいからその被験者が欲しいわけだ」
 そして実験により得たデータで改造兵士の能力を上げ、
 またその頭数を増やすために被験者となる改造素体が必要。
「あのさあ」
 武政はカメレオンを真っ直ぐに向く。
 日本は敗けた。
 731部隊でもあるまいに、今更人体実験というのは馬鹿馬鹿しい。
「ヤバいんだ。オレ、ちょっとムカついてきた」
 ポーカーフェイスのまま、怒りを表出する武政。
 その懐から「召鬼」と記された勾玉…「念珠」が現れる。
 両目が赤く輝き、腰には骨欠を組み合わせたような形状のベルトが出現する。

 卜部家は血と殺戮を好む形質が遺伝する、呪われた家系。
 武政の意志に卜部の、心に巣食う鬼が語りかける。
《殺せ、殺せ、殺せ》
 武政はその衝動を全力で抑制する。
 衝動に身を委せれば、眠った男ら全員を八つ裂きにしてしまう。
 八つ裂きにするのはカメレオン一匹で充分だ。
 怒りで鬼の意志が爆発しそうだが、念珠を握った右拳を高く振り上げる事で鬼より自分自身の意志を昂らせる。
 振り上げた右拳をゆっくり腹まで下ろし、ベルト中央の宝玉と接触させた後、一旦左肩に引いて一気に右腰側へ振るう。
 自らの意志で鬼の力を制御するため、右拳を振るった瞬間、武政は叫んだ。

「変身っ!」

 宝玉から生じた、鬼の意志が変容したどす黒い嵐。
 武政の全身の筋肉が黒く発達し、白い金属片が体を包み、例えば目や口が明らかに変形しているのが分かる。

 嵐が止み、武政は邪悪な姿に変わっていた。
 筋骨隆々の黒い身体の各所を白い外骨格で覆っている。
 肩と腕、腿の装甲より禍々しい棘が天を向く。
 紅い目の質感は昆虫の複眼に似るが、つり上がった形状が顔に「V」の字を描く。
 牙と化した歯や周囲の顎は、イナゴかカマキリのそれに似ていると感じた。
 魔人と化した武政は一度首を回し、カメレオンを指差して言う。

「オレね、お前みたいな奴が世界で二番目に嫌いなんだわ!」

 眼前の魔人は自分と同じ改造兵士なのだろうか?
 カメレオンは少し後退するが、武政は跳躍の後、彼の肩口へ蹴り込む。
 よろめいたカメレオンの頭部を掴まえ、腹に二回膝を入れ、体重をかけて両肘を打ち込む。
「ぐ…貴様は何者だ…」
「ナマハゲ…的な?」
 悪い奴に敏感な鬼なのだ。
82ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 15:54:06 ID:mVNLWCbQ
三話F

 地を這うカメレオンの腹を蹴る武政。
 強烈な衝撃に思わず吐血する様が、武政には愉快だった。
 その時、武政の背後から何者かが高速で突っ込んできた。
「うわっ!…いってぇ」
 武政の前に、もう一体の怪人が姿を見せた。
 自分と同じく、カマキリに似ていた。
「生憎だな。邪魔者はこいつが始末する事になっているのさ」
 カマキリ怪人は、どうやらカメレオンの護衛らしい。
 両手に持った鋭い鎌を振りかざし、異常な瞬発力で武政の身体に連続して斬り込む。
「のやろ…オレより早いし!」
 抵抗できず、一方的に鎌を浴びる武政。
 文字通り、目にも止まらぬ早業。
 急ぎ距離を開ける武政だが、カマキリは鎌を振るって真空波の刃を形成、武政へ投げつけてくる。
 真空波の直撃で武政の体表に火花が散るが、その勢いで後方に跳躍、カメレオンへ再び蹴りを見舞う。

 だが、射程に入っていた筈のカメレオンが一瞬でその姿を消した。
「うそん!」
 キックが空振りに終わり、たたらを踏む。
 強敵と見たカメレオンは擬態色を使って不可視化したのだ。
 更にその状態から更に舌を伸ばし、武政の首を拘束する。
「…うざっ」
 苛々した武政は、舌を掴んでそのままカメレオンを投げ飛ばす。
 しかし背中の羽根で滞空していたカマキリから、真空波による爆撃を喰らった。

「くく…我らを妨げるから悪い」
「どうした?我らが嫌いだから殲滅するんじゃないのか?」
 武政を嘲笑う二体。
 よろめく足を叱咤し、何とか武政も立ち上がる。
「あのさ…言い訳させてくんない?」
 吹き出すカメレオン。爆笑するカマキリ。
 命乞いですらない。この期に及んで「言い訳」とは。
「よし、聞いてやろう。どんな言い訳だ?」
 武政は一つ頭を下げ、自分の体を指差す。
「正直、この姿って汎用性が無いんだ。だから手こずった」
 そう言って武政は、虚空に手を伸ばす。
「つーわけで…本気出す」
 空間に波紋が生じ、そこから飛び出した「鬼神」と記された念珠を掴み取る。

「超変身っ!」

 そう叫び、ベルトと『鬼神』を呼応させる。
 直後、緑の光がベルトから生じ、武政の全身を包む。
 その光の中、更なる異形へ変貌する武政。
83ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 16:19:53 ID:mVNLWCbQ
三話G

 赤く輝いていた目、ベルトの宝玉、額の第三の目は緑に変色。
 胸の厚い装甲には両脇から爪のようなディテールが生じ、肩角は後ろに向かって伸びる。
 右腕には鋭い断崖の如き多層の刃が沿い、手の甲から剣が伸びている。
 左腕には盛り上がった外骨格から洞窟の如き穴が覗く。
 そして、背中から鳥類の骨格標本に似た、骨で形成された翼が開いた。

「さあて、第二ラウンドだ」
 姿の変わった武政。
 先手必勝とばかりにカマキリは真空波を投げつける。
 しかし、武政は時空断裂境界から「鬼盾」という念珠を取り出し、それをベルトと呼応させる。
「ライダーシールド!」
 念珠をベルトに読ませた直後、武政の全身が空間の歪みに包まれた。
 歪みは陽炎に似て半透明で、武政の姿は見える。
 そしてその歪みが防壁となり、カマキリの真空波を跳ね返した。
 その防壁の中で、武政は続いて「鬼移」の念珠を呼び出す。
「ライダーシフト!」
 防壁の中から武政は突如消失。二匹が驚くよりも先に、その二匹の背後から出現した。
「何だと…」
 振り返る間もなく、カマキリ怪人は武政の右手から伸びる剣に斬りつけられた。
 背の翼など、鈍重そうに見える武政の姿だが、当人は素早い剣さばきで今度はカマキリを一方的に斬り苛む。
 バリアの中から、空間転移による瞬間移動。
 危機と見てカメレオンは、再び不可視化。
 その上で舌を伸ばす。だが。
「ライダーフィール!」
 「鬼眼」を呼び出した武政。
 直後、額の第三の眼が輝き、その目にカメレオンの姿を鮮明に写す。
 その視覚に従い、向かってくる舌に対して左腕を構える武政。
 武政の左腕の装甲は、盛り上がった部位に穴が覗いている。
 その穴に陽炎が生じ、その陽炎が高速で飛翔、舌を切断する。
 この左腕は「時空振動骨」を形成しており、「時空衝撃波」を射出する生体銃になっているのだ。

 更に生体銃から波動の弾丸を連発する。
 擬態色が解け、武器を奪われ、焦燥するカメレオン。
 気付けば、カマキリ怪人も勝ち目が無いと踏み、空中へ逃走を図っている。
「逃がすかっ!」
 武政は跳躍、そのまま背の翼で飛翔し、カマキリの正面へ回り込む。
「そこをどけ!」
 必死に真空波を飛ばすカマキリだが、武政はその全てを左手からの波動弾で相殺する。
「どかない」
 カマキリは、最後の力を振り絞り、自慢の目にも止まらぬ高速斬撃を放った。
84ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 16:44:27 ID:mVNLWCbQ
三話H

 だが既に、武政は新たな念珠を手にしていた。『鬼走』と刻まれている。
「ライダーアクセラレート!」
 武政に向かって振り下ろされた鎌が静止した。
 いや、武政は異なる時間流に乗り、一時的に超高速化している状態。
 静止しているようにしか見えないカマキリを睨み、右手から伸びる剣を一閃した。
 更に、敵が痛覚を感じるよりも早く身体中をその剣で切り刻む。
 カメレオンも、当のカマキリすら知覚できない虐殺。

 加速効果が終了した。
 空中にあるのは、カマキリ怪人だった無数の肉片。
 華麗に着地する武政は、その肉片が落下するより先に異なる念珠を呼び出していた。
 念珠は時空断裂境界に隔離されている。
 その時空断裂境界と繋がる空間の波紋を、ベルトに密着して発生させる事で、武政はこれほど素早く技を繰り出している。
 ともかく『鬼雷』を使用した。

「ライダーサンダーボルト!」

 電撃を操る念珠。
 カマキリの肉片へ強烈な落雷を浴びせ、地面へ落下する前に炭化させた。

「ああ…」
 戦意を喪失したカメレオン。
 剣と生体銃を両手に備え、悠々と接近してくる武政に背を向け、脱兎の如く駆け出した。
「だから逃がさないっつってんのに分からん人達だな」
 武政の手には、既に重力を操る「鬼圧」の念珠がある。
「ライダーバインド!」
 手から放たれた重力波動が、逃げるカメレオンの動きを封じた。
 そのまま武政は、重力波の方向を変える。
「ライダーアトラクター!」
 重力波で動きを止め、更に自分の側へカメレオンを吸引する。
 引きずられながら命乞いするカメレオンを冷たく見やり、『鬼幻』の念珠を呼び出した。
「ライダーイリュージョン!」
 武政の姿が三体、五体、八体へと分身する。
 本体も含めた分身は、吸引されたカメレオンへ右手の剣を振るう。

「ライダー・イリュージョンブレード!」
 四方八方からの斬撃を同時に浴び、カメレオンもやはり無数の肉片へ変わる。
 分身体の消滅した武政だったが、すぐに『鬼焔』の念珠を使った。
「ライダーフレイム!」
 炎を操る念珠だった。
 武政の念じた地点が発火し、カメレオンの肉片を焼き尽くす。

 意識を取り戻した男衆を確認し、美月屋への帰路につく武政。
「取り敢えずは初勝利だぜ、斎」
 念珠に向かい、そう一人ごちた。
85ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 16:47:56 ID:mVNLWCbQ
三話I


 それから六十数年後、卜部京也の変身した仮面ライダーは二匹の妖魔に苦戦していた。
 溶解液による遠隔攻撃を得意とする食人サラセニア。
 更に奴は蔓を伸ばし仮面ライダーの足を止める。
 そこへ真正面からハサミを突き出し、サソリが突進を敢行する。
 蔓を振りほどいている暇はない。その隙にハサミにやられる。
 ハサミを受け止めればその間に食人サラセニアの溶解液を食らう。
 この時点で京也は、武政ほど力を使いこなせているわけではなかった。
 サソリはもう目の前だ。どうする、仮面ライダー!

続く
86ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 16:50:22 ID:mVNLWCbQ
ひとまず三話は以上です。
どうも時間がかかって申し訳ない。
87ネメシス ◆z87r6N2.xY :2011/02/19(土) 17:10:32 ID:mVNLWCbQ
いかん>>81
×「骨欠」→○「骨片」
申し訳ない。
何か他にもありそうだなあ…注意します
88ネメシス:2011/02/26(土) 16:08:21.98 ID:nlB9USjI
申し訳ありません。
書く事ができなくなりました。
本当に申し訳ありません。
89創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 18:05:53.46 ID:7TE5GpiQ
どうしたん?
90創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 17:18:52.61 ID:1IcZ3WMe
>>89
トリップついてないから偽物でしょ
91創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 18:37:17.11 ID:kjCvPrjS
あー、そっか。そりゃそうだよなぁ。

あいつらどんだけ暇なんだよw
92創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 03:07:09.66 ID:wAVxr7XQ
93創る名無しに見る名無し:2011/05/28(土) 00:47:40.68 ID:yaMHBJhh
ツーカイ!ユカイ!アンノウン!!

時は超古代
無駄に広い神殿内に闇の力は居た。食事をとっている。
ドタドタドタドタ……
何者か達が闇の力の居る神室に近づいて来る。
バン!(神室の扉が開く)
水のエル「神!我々はもう限界です!」
水、風、地の3大エルロードが大勢のロード怪人達を率いて
激しい怒りを表にして室内にズカズカと入りこんで来た。

闇の力「どうしました?そんな鬼の様な形相をしてウンコですか?トイレはあっちですよ」
風「違います!大事な話があって来たんです!」
地「我々の分身とも言うべき動物達が人間達に家畜にされ殺され食われたりされてるのが許せません!」
アントロード女王「アリなんか意味も無く踏み潰されたりしてるんですよ!」
        「年間何億匹のアリが人為的な死を迎えているか!
         アリを踏み潰す時の人間の子供の笑顔!私の顔より恐ろしい!!」
闇の力(いや、それはない)
水「とにかく!皆の怒りは我慢の限界です!!今すぐにでも人間共を殲滅しましょう!!!」
闇の力「……あなた方の気持ちはよく分かりました…。殲滅しましょう。
    人間達を…」(魚肉、鶏肉、牛肉を食いながら)
アンノウン達「おい!!!!!!!!」

94創る名無しに見る名無し:2011/05/28(土) 01:09:32.21 ID:yaMHBJhh
引っ掛け

岩石大首領「私が全ての悪の組織を操っていた……全てを仕組んでいたのだ!」
ストロンガー「えっ、じゃあブラックサタンと関係ないと思っていたデルザーも!?」
首領「そうだ!」
アマゾン「ゲドン、ガランダーも!?」
首領「そうだ!」
X「GODも!?」
首領「そうだ!」
1号「「仮面ライダー対ショッカー」で女の子が異様にパンチラしてたのも!?」
首領「そうだ!………!」
1号「引っ掛かったな首領!」
首領「だから何だ!」
95創る名無しに見る名無し:2011/06/20(月) 22:16:40.00 ID:kqMBtfCX
96創る名無しに見る名無し:2011/06/20(月) 23:56:10.87 ID:+AtMoNpy
このイナズマ男、一味違う……っ!
97創る名無しに見る名無し:2011/07/30(土) 07:27:04.86 ID:XYa1pP9v
>>87
過去ログ見ました・・・
面白いです!
ただ時間の変化が少しわかりにくいかな〜と思ったり。
とにかくがんばって続き書いてください!
98創る名無しに見る名無し:2011/09/02(金) 19:15:06.32 ID:VS9C9xth
この↓2つを装着して「超人HALサンダー」
http://www.cyberdyne.jp/robotsuithal/
http://www.thunderman.net/products/TP-R2G2.php
99創る名無しに見る名無し:2011/10/16(日) 01:28:28.13 ID:jhDsDAle
139 : 名無しさん@涙目です。(コンデ砦) : 2011/10/15(土) 11:04:02.74 ID:I1jj8a5U0 [1/2回発言]
いいなこれ
これだと来年からスーパーヒーロータイムがなくなるけど水戸黄門も終了したんだしこれも時代の流れって奴だろうw


大昔から東映特撮部門と暴力団の関わりの深さは有名だがお前らもいい加減仮面ライダーから卒業したし、どうでもいいよな?

http://logsoku.com/thread/hatsukari.2ch.net/news/1318642522/139

暴力団排除条例があると何で「スーパーヒーロータイム」がなくなるのか、これは納得・理解できん。
100創る名無しに見る名無し:2011/10/16(日) 21:30:35.96 ID:VY5gu9EQ
頑張れネメシス
101ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 01:43:03.90 ID:iRwMqc1H
頑張れと言ってくれた方。
本当に長いことお待たせして申し訳ありませんでした。
言い訳はしません。
もはやコテハンの作り方も忘れましたが、
何とかそれでも続きを書かせていただきます。
よろしくお願いします。
102ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 02:02:09.81 ID:iRwMqc1H
四話@

 空を泳ぐ妖魔、ハネサソリ。
 および食虫植物サラセニアに似た植物型妖魔。
 二匹の挟撃を受ける仮面ライダー=卜部京也。
 脚にはサラセニアの蔦が絡み、正面からサソリが飛びかかる。
 一瞬の判断だった。仮面ライダーは「鬼馬」の念珠をベルトに読ませる。
「スカルゲッター!」
 転がっていた愛車が仮面ライダーの声を受け、彼と同様の生体強化外骨格を纏い、主へ向かって自走を始めた。
 スカルゲッターの車輪に踏み千切られるサラセニアの蔦。
 自由を取り戻し、迫るサソリのハサミをすんでのところで掴み抑え込む。
「ライダーブースト!」
「昂鬼」の念珠を読み、全身の力を増大。
 ハサミごとサソリをねじ伏せ、脚を掲げて息を整える。

「ライダーキック!」

 仮面ライダーは、サソリの顎めがけて高速で回し蹴りを見舞った。

四話「天災の槍」


 六十数年前、京也の祖父、卜部武政は旧京南帝国大学を訪ねていた。
 仕事を斡旋すると偽り、改造兵士とやらの素体を集めようとした二体の怪人。
 謎の組織が、改造兵士を使役し何かを始めようとしている。
「…にゃるほど。それでアイツ、オレにこれを使えっつったわけだ」
 掌に落ちた勾玉状の宝玉「念珠」を見入る。
 これを用いて武政は人外の怪物へ変身し、その超能力をもって二匹の改造兵士を撃滅した。
 その改造兵士を作る、大元の組織を知りたい。
 大学には本も新聞もあるから調査には適している、と思っていた。
 だが大学図書館では、進駐軍が検閲の真っ最中だった。
 調べものなどできる風ではない。
「本ぐらい良くね?」
 そう呟き、彼らのジープを眺めながら、下宿先の美月屋へ帰る。
 中秋の名月を味わう余裕は無かったが、子供達の目線までしゃがみこんでチョコレートを渡す兵士がいて、それは少し印象に残った。
「へえ…米英も鬼畜だけじゃねえんだ」



 六十数年後、その京南大学に、卜部京也がバイクで乗り付けていた。
 この大学こそが京也の母校なのだが、あいにく感傷に浸るほどの余裕も思い出も持ち合わせが無かった。
 目的は斎だ。
 二匹の妖魔を、あと少しの所で逃した。
 初めて遭遇したクモ型妖魔の言動を見る限り、連中は斎を敵視している。
 もしも連中が斎を追って大学まで来ていたら、と思うと気が気でなかった。
103ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 02:23:46.73 ID:iRwMqc1H
四話A

 しかし、と京也は気付き、自分の迂濶さを呪った。
 斎の電話番号も、バイト先も、大学での専攻も知らない。
 今日の彼女が何処で授業を受けているのか分からない。
 困ったので、とりあえず学食で缶コーヒーを啜る。
 缶コーヒーとはいえ、メーカーによって味に差異がある。
 京也が嫌いなメーカーの自販機しか無かった。
 学食だが学生が少なかったので、まだ昼休みには早かったのだろうと思った。
 そんな京也の面相を、一名の元ヤン風の女学生が覗き込む。
「…うわ、ぜってーストレス溜めてる」
 確かに京也は、27歳という実年齢より上に見られる事が多い。
 ただ、急に現れてこの娘は何なのだ。
 眉間にシワを寄せる京也には構わず、彼女は誰かを手招きする。
「いたよイツキ!この人?」
「うん、ありがと涼ちゃん」
 涼(スズ)ちゃんと呼ばれた元ヤン風の娘に呼ばれ、目当ての斎が姿を現した。
「頑張れイツキ」
「何を?」
 という噛み合わない会話を残し、涼ちゃんは講義に戻っていった。
「友達なんです。…念珠の気配がしたから卜部さんだと思って…」
「…友達は選べ」
 今のところ、大学に妖魔は現れていないようだ。
 となると、サソリはやはり自分に復讐せんとしている。
 一度目の戦いでハサミを切り落とし、二度目で顎を砕いた。
 自分への憎悪は生半可ではないだろう。
 京也は一つ息を吐き、近場の情報誌を手に取ってみた。
 しかし、サソリを召喚したコウモリ怪人の事は大々的に報じられているにもかかわらず。
「妖魔は報道されないんです…」

 なる程、コウモリ怪人は都心にテロを起こすため「ザラキ天宗」なる組織が放った「改造兵士」であり、これは航空自衛隊が撃破した。

 そんな文意でしかなく、怪人以上に被害を広げた妖魔については全く記載されていない。
 どこかで、情報が操作されている。
 コウモリ怪人が死んだのは事実だ。
 情報を操作した何者かも、その事実を知っている。
 つまり、仮面ライダーの存在はその何者かにとって既知。
 コウモリ怪人もまた、仮面ライダーという存在を知っている印象があった。
 京也は再び息を吐き、メットを手に取る。
「邪魔した」
 斎は妖魔から狙われている。
 京也は妖魔と組織から恨まれている。
 この二人が共にいてはいけない。
 そう京也は判断し、斎の制止も聞かず、愛車にキーを差した。
104ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 02:24:55.33 ID:iRwMqc1H
四話B
105ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 02:59:55.31 ID:iRwMqc1H
四話B

「こんにちはー」
 都心のビル街の一角に、小さな喫茶店がある。
 京也が勤務する京南大学附属病院の看護師、王 麗華(オウ レイカ)は、その店の常連だった。
 カウンターで皿を磨いているのは、店主の鏑木三次(カブラギサンジ)。
 既に老境と言える歳だが、背筋も意識もしっかりしている。
「いらっしゃい。コーヒー?」
「…カフェオレで」
 麗華はブラックコーヒーが好きでない。
 鏑木も理解しているので、これは平常の通過儀礼に過ぎない。
 ただ、と鏑木は麗華を見る。
 平常なら職場の愚痴をたっぷり吐き出す麗華が、今日はやけに静かだ。
「何か…あったかね?」
「いえ。ただ…卜部先生が最近妙なんです」
 京也の面相は誰から見てもストレスの蓄積されたものだ。
 目つきも暗い。
 しかし、今朝方の彼は目が血走っていたのだ。
 何かに焦っている印象を、麗華は受けた。
 そう。あの自爆テロの前後、或いはコウモリ怪人が現れた夜から。
「鏑木先生は、どう思われます?」
 麗華が喫茶店のマスターを「先生」と呼ぶのには理由がある。
 鏑木は元々、京南大附属病院の前院長だった。
 引退後、道楽で始めた喫茶店が意外に好評だった。
 だから、病院関係者は来店時に鏑木を「先生」「院長」と呼ぶ事が多い。
 鏑木は、皿を磨く手を止めて考える。
「…京也君、ああ見えて脆いからねえ」
 他人に弱みを見せないのが京也だ。
 全てを一人で抱え込むから、日常の突然の変容に疲れているのではないか。
 そう鏑木は言う。
 実際に京也の変容を見た麗華は納得が行かないが、その気分は能天気な着信音にかき消された。
『麗ちゃん?すぐ戻ってちょうだい!』
 出てみれば、看護師長、藤堂朝子であった。
「急患ですか?」
「違うのよ。卜部先生がまたどっかに消えちゃったのよ!」
 休憩時間のキャンセル。医療従事者の宿命だ。
 麗華は代金をカウンターへ置き、軽い会釈だけで病院へ帰る。
 それを見送り、鏑木は呟く。
「京也君…まさか武政さんと同じ道に…?」


 六十数年前、武政は美月屋の看板娘、キヌの質問責めを食らっていた。
「結局のとこ、人を募集してた仕事って何だったわけ?」
「いや何つーか…トカゲとカマキリで一攫千金?的な…」
 言葉を濁す。
 ただでさえ東京は空襲で焼け野原。
 これ以上の不安を与えたくない。
 武政は、謎の組織を単独で調べる事を密かに決意していた。
106ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 03:12:46.30 ID:iRwMqc1H
四話C

 そんな武政の決意を察せず、質問責めを続けるキヌ。
 誤魔化そうと女将、すなわちキヌの母親にすいとんのおかわりをねだるが、断られた。
「欲しがれません。負けたから」
 武政は適当に仕事の話を切り上げ、大人しく厨房で皿洗いを手伝った。


 六十数年後、周囲を巻き込む事を恐れた京也は、行くあての無いまま愛車を走らせる。
 その間にも妖魔の行動原理だけは考えていた。
 確かに自爆テロの現場、即ち魔界と現世の扉は未知の政府機関によって厳重に監視されているが、それで間に合うのか。
 斎と出会い、初めて仮面ライダーに変身したあの日。
 魔界から解放されたのはクモやサソリのみではないのでは。
 それにコウモリ怪人が法陣でサソリをある程度操れていた事を考慮すると、妖魔は決められた扉、即ち自爆テロ現場から一度解放されれば、後は現世と魔界を自在に行き来できるのではないか。
 そう考えると、病院の同僚や実家の母が心配だ。
 いつ彼らも妖魔に襲われるか知れない。
「…俺は何をやってる」
 バイクを路肩に停めた。
 ならば、あの怪物どもを狩れる自分が逃げてはいけない。
 片端から妖魔を潰す他無いか。
 それには自分の力と…知識が必要だ。
 その知識の持ち主が、反対車線を挟んだ向こうにいた。
「…斎ちゃん」

 結局東京に残る他無いようだ。
 情報が欲しい、と告げると、斎は自宅のあるマンションに京也を案内した。
 小さな部屋だったが、飾り気がまるで無いので、空虚さが部屋をだだっ広く感じさせた。
「男の人が部屋に来るのって…久しぶりだから…」
 涼ちゃんには学食で「がんばれ」と言われた。
 斎は蒼白い顔を赤くし、可愛げの無い銀色のカップにコーヒーを注ぐ。
 ただ、京也は特にそういう意識は無い。
 とりあえず、斎は念珠や妖魔の知識を見につけているが、どこで見につけたかは不明。
 だから京也は、今必要な情報を訊く。
「あの妖魔、ハネサソリを倒したい。奴を呼び出す方法は分かるか」
 ハネサソリは撤退したが、仮面ライダーも無傷とはいかなかった。
 妖魔は、京也の血の匂いを覚えている。
「こっちの世界では妖魔は夜…丑三つ時が一番活発に動きます。その時に地面に描いた五芒星に卜部さんが血を垂らせば、多分何処からでも来ます」
 ただ、と斎は付け加える。
「ハネサソリは協調性のある妖魔です。一匹で無理なら二匹、それでもダメなら三匹で来ます」
107ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 03:32:31.77 ID:iRwMqc1H
四話D

 二度目の戦いで、確かにハネサソリは人喰いサラセニアを連れていた。
 次は更にもう一匹がハネサソリを守るという事か。
 ならば、今度こそ三匹まとめて倒さねば。
 京也の手元に念珠は無い。
 ただ、京也が念じれば空間に歪みが生じ、そこから京也の望んだ念珠が飛び出す。
 この空間の歪みを、斎は「時空断裂境界」と呼ぶ。
 今のところ、
変身に用いる「召鬼」
バイクを生体メカへ変える「鬼馬」
破壊エネルギーを全身に回し攻撃力を高める「昂鬼」
 この三種類しか使っていない。
 京也は、大量に蓄積された未使用の念珠を見る。
 そういえば、斎は祖父の名を知っていた。
 これもまた、由来の分からない知識だ。
「祖父がどんな人間で、どういう経緯で念珠を手に入れたのか…そういう知識は無いんだな?」
「…はい。わたし、両親の記憶も無いですから」
 しまった、と京也は思った。
 斎曰く、バイトと奨学金で何とかやってはいるらしい。
「親がどっかにいるなら、一度甘えてみたい…卜部さんは?」
「俺は…父に殺されかけた」
 今度は斎がしまったと思った。
 京也は、前髪を不自然に伸ばしているとは前から思っていた。
 それは、医者らしからぬ額の傷を隠すためだったのだ。
 小学生の頃、突然包丁を振り回した父親にやられたのだという。
「結局それも、俺の血筋に伝わる異常性だ」

 卜部は「人鬼」と呼ばれるほど、凶暴で残忍な形質が遺伝する呪われた血筋。
 彼の曾祖父は、東北のある村で四十人を殺傷した。
 動機は無い。衝動、としか言わず。
 恐らくは京也の父も、同じ衝動に襲われたのだ。

「祖父はそういう事が全くなかったらしいが…とりあえず、俺は誰かに甘えるのが怖かった」
 それはそうだろう。
 最愛の家族に殺されそうになったのだ。
 他人を拒むのも道理だ。
「怖かったですか?」
「ああ、怖かった」
 斎は責任を感じていた。
 自分の謎の記憶に従わせ、京也を変身させ、戦いに巻き込んだ。
「…わたしは家族も彼氏もいないから、大切な人って少ない。だから、その人達を信じていたい」
 京也もそうだった。父親を信じていたのだ。
 しかし裏切られた。
 だがだからといって、斎もそうなるとは思わない。
「俺は父親に殺されそうになって、怖かった」
 そして今、妖魔に殺されそうになり、京也と同様の恐怖を味わっている者達がいる。
 医者として、放ってはおけない。
108ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 03:49:04.27 ID:iRwMqc1H
四話E

「斎ちゃん、君は大切な人が多くないと言った。なら、その数少ない大切な人は手離すな」
 手離させない。
 京也はメットを抱え、コーヒーを飲み干し椅子から立つ。
「あの…!」
 斎が制止した。
「『鬼風』は、自然を操れる念珠です。…多分」
 斎のその示唆を確りと記憶し、京也は再び愛車を走らせた。

 斎の言葉に従う。
 深夜二時、京也は十字路に五芒星を描き、その中心に職場の注射器で抜いた自分の血を数滴垂らす。
 直後、空間に亀裂が生まれ、目標が現れた。
 眼前には人間大のサラセニア、空を往く体長5mのサソリ、更にそれと同等の体躯を持つハチ。
「やはり…三体か」
 京也は虚空に手を伸ばす。
 空間の歪みから「召鬼」の念珠を取り出した。
 同時に腰に骨盤状のベルトが生じ、瞳は紅く輝き、心の奥底より殺戮を求める鬼が騒ぎ出す。
 呼吸を整える京也。
 鬼の声は、曾祖父や父を狂わせた卜部の衝動そのものであろう。
 しかし、殺戮本能はこの妖魔共にのみ向けねばならない。
 念珠を握った右拳を、ベルト中央の宝玉に接触させた。
 直後、宝玉よりどす黒い「力」の嵐が生じ、京也を包む。
 嵐はそれ自体が破壊力を持ち、妖魔の接近を阻む。
 その中で、京也は呟く。

「…変身」

 姿が変わる。白い外骨格に包まれた、カマキリに似る鬼神=仮面ライダー。

 敵の出現を待ちわびていた妖魔が各々の武器を繰り出す。
 サソリは尾とハサミを振るい、食人サラセニアは溶解液を吐き、巨大蜂は尾から無数の毒針を銃弾のように掃射する。
「スカルゲッター!」
「鬼馬」の念珠で、愛車を生体メカへ変型させた仮面ライダーは、それに跨がり攻撃を回避する。
 そして、斎から示唆のあった「鬼風」の念珠を空間の歪み「時空断裂境界」から呼び出す。
「どの程度かは知らんが…」
 取り出した「鬼風」を、変身などと同様、ベルトの宝玉に接触させる。
 同時に仮面ライダーの体へ異変が生じた。
 紅く輝くベルト中央部、両眼、第三の目は紫へ変色。
 鋭く天を向く肩角は、二の腕を保護するように下部へ曲がる。
 外骨格に守られた全身の黒い強化筋肉も、各所に紫のラインが走る。

「…ほう」
 姿を変えた仮面ライダーは、素早く念珠「鬼槍」をベルトへ読ませる。
 彼の拳部分の外骨格が増殖、一部が拳から離れ、空中で更に変形、肥大化する。
 蜂の針を跳躍でかわし、肥大化した外骨格細胞を掴んだ。
109ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 04:00:59.41 ID:iRwMqc1H
四話F

 その形状は、長槍だった。
 姿を変えた仮面ライダー=「ディザスターフォーム」の専用武器、
「鬼槍ディザストスピアー」だ。
 蜂の放つ毒針を薙ぎ払い、サラセニアの胴を正面から突き、そのまま地に叩きつける。
 更に地面へ槍を刺し、それを支柱に空中から襲い来るサソリを蹴り飛ばす。
 三匹とやや距離を置けたが、サラセニアが吐いた溶解液が、仮面ライダーの外骨格を僅かに溶かす。
 この飛び道具を脅威と見た仮面ライダーは、ベルトへ「氷鬼」の念珠を読ませる。
 瞬間、仮面ライダーの周囲に猛烈な吹雪が生まれる。
 吹雪の中心にいる仮面ライダーに対してサラセニアが再び溶解液を吐きつける。
 しかしそれは吹雪と接触し瞬間的に凍結、固形化して仮面ライダーの足元へ落下する他無かった。
「なる程…そういう能力か」
 攻撃を封じられたサラセニアへ、ディザスターフォームは拳を突き出す。
 彼に呼応し、それまで全方位を取り巻いていた吹雪が一直線にサラセニアを襲う。
「ライダーブリザード!」
 絶対零度の吹雪を浴び、サラセニアの溶解液噴出管は完全に凍結、機能を停止した。
 サラセニアの動きを封じた仮面ライダーは、続いて「鬼凩」の念珠を読ませる。
 前方、後方から仮面ライダーを挟撃する蜂とサソリ。
 だが二匹は、彼の周囲に生まれた竜巻に弾き飛ばされる。
 「鬼凩」は風を操る念珠。
 サソリは体勢を立て直すのに精一杯だが、蜂は吹き飛ばされながらも尾から毒針を発射し、逆襲を図る。
 どうやら、このディザスターフォームは通常よりも皮膚の強度が低下するらしい。
 接触した針が、そう軽くもないダメージを仮面ライダーへ与える。
「…分かった」
 竜巻の中、次に仮面ライダーが用いた念珠は「鬼焔」。
「ライダーフレイム!」
 彼の周囲に火炎を召喚し、毒針を焼き払う。
 更に火炎は渦状に変化し、毒針を放つ蜂の尾を焼き切った。
 地に転がる蜂。
 仮面ライダーは再び風を操る「鬼凩」を呼び出し、それを今度は、ベルトではなく槍に読ませる。
 槍の穂先へ風が集約する。
 更に仮面ライダーは、溶解液噴出管を凍らされながらも背後より迫るサラセニアの気配を察していた。
 風の刃を纏った槍をかざし、蜂へ突進する。

「タービュランススピアー!」

 起き上がる蜂。
 だがその腹部へ、風を纏い加速した槍が、深々と突き刺さる。
 その体勢のまま念珠「雷鬼」をベルトに読ませた。
110ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 04:17:14.35 ID:iRwMqc1H
四話G

「ライダーサンダーボルト!」
 仮面ライダーの背後へ落雷が発生。
 稲妻は、彼の背後を襲ったサラセニアを直撃した。
 一太刀浴びせる事叶わず、炎に沈むサラセニア。
 風の槍を食らった蜂も暫し顎や足を動かしていたが、その体の各所が燃焼を始め、程無く二匹同時に燃え尽きた。

 仮面ライダーは再度「召鬼」の念珠を翳し、赤い目を持つ通常の姿「ブレイクフォーム」へ戻る。
 更に「昂鬼」の念珠を使う。
「ライダーブースト!」
 「昂鬼」により破壊力と運動能力を高め、飛び掛かるサソリを射程においた。
 尾の一振りを押し止め、その尾をジャンプ台に蠍の死角、すなわち上方へ飛び上がる。
「ライダーキック!」
 落下速度を利用し、踏み潰すようにサソリの背へ踵を浴びせる。
 悲鳴と共にアスファルトへ打ち付けられるサソリ。

 戦いは、すなわち死の恐怖と向き合う事。
 それは妖魔とて同じことだろう。
 父親に殺されかけた京也は、その恐怖を誰より知っている。
 だから、三度に渡り自分と戦ったサソリの苦しみを京也は理解した。
 だが、そんな苦しみを自分の周囲の人間にまで味わってほしくない。

「終わりにしてやる…ライダーパンチ!」

 羽蠍の腹部に、鬼の拳が突き刺さる。
 三度に渡った死の恐怖。
 だがこれで最期。
「もう…恐れなくて済む」
 慈悲だったか否かは京也自身にも分からない。
 ただ重要なのは、拳を引き抜かれたハネサソリが巨大な火柱を上げ、爆砕した事のみだった。

 翌日、講義が終わりいつ妖魔が現れるかハラハラしながら帰路につく斎。
 そこへ、黒一色のオフロード型バイク『TADAKATSU-XR420レイブン』に跨がった医者が現れた。
「バイトだろ。乗っていくか?」
 斎に予備のメットを投げ渡す。この日、斎の「数少ない大切な人」は一人増えた。

「御杖君」
 都市保安庁という省庁がある。
 その庁舎の内の一室で、デスクに足を乗せ、ふんぞり返っている若い男がいる。
 その男より明らかに年配の男性が、どこか腰低く近寄る。
「御杖君。やはり三体の妖魔は、卜部の鬼が撃滅したと思われる」
 御杖と呼ばれた青年は、長いアゴを掻いて下劣に笑う。
「分かってますよ課長。マスコミのクズ共が嗅ぎつける前に」
「分かっている!情報の隠蔽は完璧だ!」
 今日の夕刊には、妖魔のよの字も載るまい。
 御杖は笑い、次いで顔を歪めた。
「卜部…ゴミが!」
111ネメシス@jtpmwp86gqa:2011/10/22(土) 04:20:09.11 ID:iRwMqc1H
四話、了。
次回、第五話「怨念の蛇」の予定。
ところで、コテハンの使い方が間違っていたらご教授願いたいです。
112創る名無しに見る名無し:2011/10/22(土) 08:02:36.54 ID:FF8+a//X

@じゃなくて#なー
その文字列はバレたのでもう使っちゃだめだよ
113ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/22(土) 08:07:20.93 ID:iRwMqc1H
>>112
ありがとうございます
これで良いのかしらっ?
114創る名無しに見る名無し:2011/10/22(土) 12:31:14.69 ID:r70u1seA
だな
115ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 01:26:40.53 ID:3AHW6sgY
五話@

「ねイツキ、あの医者ってどうなん?」
 京南大学人文学部。
 梳灘 斎に友人の涼ちゃんがそんな事を聞いてくる。
 涼ちゃんはガラが悪いが面倒見が良い。斎の彼氏まで斡旋してくる。
 苦学生である斎はバイトに奨学金に忙しく、クラブに入っている暇が無い。
 故に通常は出会いも無いのだ。
 だから涼ちゃんは、あの卜部京也という医師との出逢いを好機と見ているようだが。
「どうって…別に付き合ってるわけじゃないし…」
 俯き加減で応える斎に、目を丸くする涼ちゃん。
「え、まだヤってねえの?」
「まだだよ!」
 講義中に大声を出したので先生に怒られた。

 第五話「絡みつく蛇

 その日、卜部京也は緊急オペに駆り出された。
 コブラに噛まれた、という患者が運び込まれてきた。
 本来の治療法である血清の投与だけでは間に合わない。傷が深く、また異様に大きいためだ。
 不可解だ、と感じた。
 コブラに噛まれたという。脇腹には確かに噛み傷がある。
 問題は、その傷が大き過ぎる点。どちらかといえば、ワニか何かのそれだ。
 だから外科病棟の緊急オペが必要となった。
 ワニ程度の巨大な口を持つコブラ。実在するとすれば、尋常の体躯ではない。
「…妖魔でなければ良いが」
 オペの合間に、京也はそう呟く。
 京也が変身する「仮面ライダー」は、斎の示唆を受け、自然界のエレメントを操作する「ディザスターフォーム」の力を発揮した。
 その力で三体の妖魔をまとめて葬ったが、足りない。やはり魔界から解放された妖魔は相当数に達するらしい。

「卜部先生!」
 別の医師が、悲鳴に近い声を上げる。
 被害者の血液が、徐々に透明に変色している。
 コブラの毒が、人間の血液組成そのものを変質させている。
「…輸血」
 越権行為だが、他に手が無い。急遽新たな血液パックを準備する。
 だが、コブラが打ち込んだ毒は、その新たな血液すらも侵食し変質させた。
 血液が変質したため、血清も効果は無い。
 コブラではない。少なくとも、既存の有毒生物ではない。
 更に京也は「コブラ」との名詞に引っ掛かりを覚えた。


 六十数年前、香の匂いがきつい何処かの暗闇で、声の甲高い男は驚いていた。
「馬鹿な!虹色ヤモリらが死んだと?原因は!?」
 虹色ヤモリ。そして草猟畜。各々、カメレオンとカマキリを模した改造兵士。
 現在、敗戦国日本は、国全体が貧困に喘いでいる。
116ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 01:38:49.92 ID:3AHW6sgY
五話A

 二人の改造兵士は、そんな貧困にあえぐ市民に対し、職を与えてやると言葉巧みに誘導した。
 目的は、改造兵士の素体とするための一斉拉致。
 そこまでは、この声の甲高い男…ザラキ天宗における高僧、董仲も把握している。
 しかし、その使者が死者となった詳しい経緯は董仲も知らなかった。

 二人はその素体をアジトへ運ぶ前に、卜部武政に計画を見破られ、更に武政が変身した鬼神によって葬られた。
 しかし、武政の件は組織内でも知られていない。
 彼らが知るのはただ、改造兵士が何者かに抹殺された事実のみ。
 暗闇の中から、また別の男が立ち上がった。
「二人の作戦を私に引き継がせて下さい。最低でも、彼の死因程度は報告させていただきます」
 男の顔は蛇に似ていた。

 東京にて焼け残った数少ない宿屋、美月屋。
 そこに何かを運び込む音が響いた。美月キヌがその音の主を発見する。
「武政さん、それってバイク?」
 長期の下宿が前提になっている客、卜部武政だ。
「何か壊れてっからさ、進駐軍が捨ててた。で拾ってきた。良いだろ」
 別に良くない。壊れているし、今の日本の庶民にガソリンが買える筈もない。
 屑鉄にでもする気だろうか?しかし武政は、ボロボロのバイクを嬉しそうに磨いている。
「でさ、聞いた?」
 廃車を磨きながら、武政はキヌに訊く。
「何か防空壕を整理するのに人を募集してんだって」
 ならば力仕事だろう。自分には関係無い。
 そう考えながら、キヌは数日前の奇妙な人材募集を思い出していた。
 武政はその仕事について「トカゲ関係で一攫千金みたいな」と言っていたので、まあ綺麗な仕事ではなかったのだろう。
 しかし、今回はどうだろうか?
「ちょっと様子見て来よっか」
 武政が、珍しくやる気のある表情を見せた。

 その防空壕整理工事現場で、一人の男が悲痛な叫びをあげていた。
「辞めさせてくれ!」
 仮設テントに設置された事務所で男が現場監督に土下座している。
 二人きりの状態。困るんだがね、と現場監督は顔を渋らせる。
「だって…俺は聞いたんだ!あんたらは俺達を化け物に作り替えるつもりで集めたんだろ!」
「知られていたか…やむを得んな」
 現場監督は椅子より立ち上がり、その肉体を鱗に覆われた毒蛇に似た姿へ変貌させる。
 右腕を蛇のように長く伸ばし、テントより逃げようとした男を締め上げる。
 窒息寸前の男の首に、鋭い毒牙を突き立てた。
117ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 02:02:44.80 ID:3AHW6sgY
五話B

 男は断末魔をあげる事もなく即死し、注入された毒素がその遺骸さえも分解してしまう。
「敗戦国の分際で矜持だけは高い…」
 コブラ男は、遺骸の分解を見届けた上で現場監督の姿へ再変身する。
 他の労働者を取り仕切ると共に新たな働き手、即ち改造兵士の素体を待った。

 大王子町。戦前は繁華街だった筈だが、既に焼け野原。
「景色を見渡せるだけ、南方よりはマシか」
 武政はそう呟き、人が群がる求人広告を遠目から眺める。
 何故か壊れたバイクを引きずりながら。
 
 武政自身、広告を眺めているのか、群集を眺めているのかよく分からなかった。
 その中に、一際幼い少年を発見した。
 少年は採用基準の詳細を読み、落胆しているらしかった。
 恐らく、と武政は周囲を見渡す。
 戦禍で手足を欠損した人々が路上へゴザを敷き、右や左の旦那へ声をかけている姿。
 広告には「健康かつ五体満足であること」と条件が記されている。
 この少年の親も、戦禍によりその条件を満たせないのだろう。
 落胆を隠さない少年。踵を返した所に、武政の声が聞こえる。
「五体満足ねぇ…このご時世、ハードルたけえよな」
 微笑んでみせる。
 少年は泣き、武政はその頭を撫でてやった。


 六十数年後、京也は朝一番で携帯の着信音に叩き起こされた。
 相手は山下山男…クモ妖魔が現れた際に知り合った刑事だ。
 結局、巨大コブラに噛まれた患者は助からなかった。

 尋常な死に様ではなかった。
 患者は血液組成の変質に拒否反応を起こし、心停止。
 直後、全身の筋肉が溶解し、液体に近い状態にまでなった。
 謎のコブラ毒への血清は作れない。
 何故なら、患者の血液が変質してしまうから。
 無力感。その落ち込む気分を薬で誤魔化し、外出の準備。
 待ち合わせたのは、何故かうどん屋。
 山下山男は朝からカレーうどんを食していた。
「悪いね、朝早く呼び出して。例のモンスターに関して話せるのが君だけだから」
 モンスター=妖魔はマスコミによる情報統制がなされており、報道される事はない。
 ただ、と山下山男は朝刊を引っ張り出す。急に呼び出されたから京也は未読だった。
 そこには、クモが死んだ後に出現したコウモリ男の正体が詳細に報じられていた。
 コウモリ男は「ザラキ天宗」が作り出した改造兵士。
 ザラキ天宗は終戦直後から日本の支配を企てていた、非人道的テロ組織。
118ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 04:06:28.96 ID:3AHW6sgY
五話C

 記事は必要以上に口を極めて組織を罵っている。
「しかし、だ卜部さん。例のクモモンスターや、噂になっている巨大サソリもザラキ天宗の仲間だとすれば、そいつらも報道される筈なんだ」
「奴らとザラキ天宗は別の存在…そして、クモやサソリはその実在がオープンになれば政府が困る存在」
 京也は多少の直感も交えてそう言う。
 情報を開示しない理由は不明だが、取り敢えず現世と魔界の境界を破ったのがそのザラキ天宗である事だけは分かった。
「しかし、クモやサソリは一体どうなったのか…」
「モンスターはもう一匹います。そいつに倒された…と聞きました」
 恐らく、妖魔について情報を開示しないのは、あの未知の省庁、都市保安庁の仕業だろう。
 だが、京也は自分が妖魔を倒したという情報を開示しない。
 結局のところ、都市保安庁と同じだ。
 京也は僅かに自嘲した。


 六十数年前、武政は地下の防空壕にてツルハシを持ち、肉体労働に精を出していた。
 武政はこの求人の正体を探るため、自ら雇われてみたのだ。
 給料が良いからこれくらいはな、と武政の隣の男が言う。
「良いっつーか、破格ってレベルですよね?何か裏にあんのかな」
 そう呟く武政にもう一人の男が同調する。
「ここに来た連中が何人か行方知れずって噂がある」
 自分は南京で大活躍だったから大丈夫だが。との自分語りを無視し、武政は周囲に気を配る。
 二十人はいる労働者。彼らをどうするつもりだろう?
 その時、天井が崩落し、土砂と武政のバイクが落下、出入口を塞いでしまった。
「素体は…確保できたな」
 その土砂の上に座る現場監督。
 彼の言葉を考察する余裕もなく、男達は土砂を除こうとする。だが、彼らを現場監督は蹴り倒した。
「君達には別の仕事がある。改造兵士としてのな」
 現場監督の衣服が破れ、毒蛇…コブラの顔を持つ青黒い怪人へ姿を変えた。
 一瞬にしてパニック状態に陥る現場。


 六十数年後、京也は病院に戻る。同僚や、看護師長の藤堂朝子から一斉に睨まれた。
「どこ行ってたんです?昨日のコブラ毒、今日は15人の患者さんが来てますよ」
 しまった、と思った。
 ドクターたる自分が、致死率100%の毒が蔓延した状態でなぜ病院を離れた。
「…失礼した」
 すぐさまオペに取りかかる。
 しかし血液と反応する毒は、その成分を分析すらできない。
 何もできぬまま、ただ死を待つだけ。
119ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 08:47:49.78 ID:3AHW6sgY
五話D

 京南大学附属病院は京也の職場である。
 だが、この朝はそこを斎が来訪していた。
 男ができない斎を案じた涼ちゃんからハッパをかけられ、積極的になろうと京也の職場を訪ねてみた。
 通りかかる京也へ頭を下げるが、京也は斎を振り向きもしない。
「あの…お早うございます」
「お早う。朝子さん、警察は何と言ってる?」
 恰幅の良い看護師長は、京也と斎を少しの間、見比べる。
「はあ…ペットの毒蛇が逃げ出した報告は無いって言ってましたねえ」
 京也は一つ頷く。朝子と自分の足元ばかりを見て、斎を見向きもしない。
「あの、卜部さん」
 そう呼ばれても、京也は、まるでその場に斎がいないように振る舞った。
「とりあえず警察に協力を頼むか」
「蛇に咬まれないように注意しろって事ですね。保健所の力も要りますかねえ」
 京也は苛立つ。自分に。
 なぜ、山下山男と呑気に憂国談義を交わしていた。その間に血清の研究ができたのではないか。
 被害者は増えた。自分の責任だ。
 そんな京也の肩を斎は叩く。
「あの卜部さん」
「ジャマだ。消えてくれ」

 凍りつく斎。
 声音だけでも寒々しいのに、京也は尚も凍てついた眼光をもって斎を見る。
「これが新種の有毒生物なら危険だ」
 被害者はこの未知の毒で、血液組成を変えられている。
 血清が作れないのだ。
「今、スタッフは人の命のかかった仕事をしている」
 ドクターの自分が一時、職場を離れた。
 同僚らは、その分をカバーしてくれていた。
 だから京也は、全力で働かねばならない。
「学校をサボって君は一体何をやっている?目障りだ。帰れ」

 泣きながら帰る斎を見送りもしない京也。
 看護師の王麗華が、京也の前に立ちふさがった。
 何と訊く前に、京也の頬を張った。
「…何か」
 麗華はにこりと笑う。
「あのコの痛みの百分の一でも、分かっていただけたら、って」
 京也は、大仰に溜め息をつく。
 確かに、職場を離れたのは自分の落ち度なのだが、ならばそれを責めれば良い。
「俺が彼女に、間違った事を言ったと?」
「いいえ。正しいんですけどね」
 納得行かぬまま、仕事へ戻る京也。

 納得できないのは、警視庁の山下山男刑事も同様だった。
 上層部から、この毒蛇事件の捜査を止められた。
 曰わく、これは動物の仕業で、これを解決するのは警察の仕事ではない。
 一面、正しいが。
「先輩、従うべきだと思いますか?」
120ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 09:11:48.52 ID:3AHW6sgY
五話E

 大林という先輩刑事は笑う。
「まあまあ、飲みに行こうや」
 あのザラキ天宗とやらが起こした自爆テロと、その現場から出現した巨大グモ。
 あの日以来、上層部が神経質になっている。
 いつにも増して隠匿主義、事なかれ主義を貫いている。

 結局、巨大コブラに咬まれた全員が助からなかった。
 ただ、これ以上の被害者を出さないための収穫がいくつかあった。
 一つは、咬まれた時刻はまちまちなのに、その現場は全員が大王子町の旧地下鉄付近であること。
 つまり、未知の毒蛇はまだそこにいる可能性が高い。
 もう一つの収穫。
 京也はコブラに咬まれた患者の体に付着していた鱗を見た。
 再び、山下山男へ連絡を取る。
 飲み屋の耳障りな嬌声はこの際無視する。
「何だよ卜部さん、こっちゃあ今、愚痴るのに忙し…」
「コブラは大王子町の旧地下鉄にいます。人払いを願います」
 それだけ言って一方的に通話を切り、バイクで自分のマンションへ一旦戻る。
 「コブラ」という点に引っ掛かりを覚え、実家から持ってきた書類を片端から捲る。
 これらは死んだ祖父、武政が残したものだ。
 京也はかつて、父親に殺されかけた。
 父が逮捕された後、父親以上に父親の役目を果たしてくれたのが武政だった。
 だから京也は、武政を尊敬していたし、彼の遺した様々なものを受け継いだ。
 この書類の束もその一つだ。
 その中には、武政と共にいる斎に似た女性の写真も挟んであったが、生憎と京也には斎を思いやる余裕が無かった。
 今はコブラが先決だ。
 あった。
 祖父の描いた地図。
 大王子町三丁目に赤丸と、「コブラの腕に注意されたし」という注記がある。
 確かに患者らは皆、大王子町周辺で巨大コブラに噛まれたと言っていた。
 調べてみるか。京也は愛車を飛ばした。
 恐らく、幼い時分に何かの拍子であの地図を見たのだろう。
 その記憶からコブラに引っ掛かりを覚えたのだ。
 しかし、なぜ祖父はこのような地図を?そして、今回の事件との場所的な共通点は何を意味する?

 示された現場。敵が妖魔なら然程人気の多い場所は好むまい。
 京也は、現在は廃止された地下鉄に降りてみた。
 その天井に穴が開いている。埋まっていた何かがそこから飛び出したような…
 そう考える京也を巨大な蛇が襲った。
 それは改造兵士ではなく、まさしく妖魔だった。
 胴体から尾まで、推定20mはある。
121ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 09:39:58.33 ID:3AHW6sgY
五話F

 その巨体、胴体右側から人間大の腕が一本だけだらりと垂れる。
 それらを度外視すれば、まさしくコブラであった。
 コブラは京也を睨み、こう口にする。
「卜部、武政…仮面、らイダー」
「…何?」
 武政…京也の祖父も仮面ライダーだったという事か?
 もう少しこの妖魔に話を聞きたいが、敵は口から言葉でなく毒を吐きつけてくるので無理らしい。
 やむ無く京也は「召鬼」の念珠を取り出した。
 目は赤く輝き、骨片を繋ぎ合わせたようなベルトが腰へ出現する。
 その中心にある紅い宝玉へ念珠を接触させ、どす黒い嵐を浴びる。

「…変身」

 コブラは長大な尾をムチとして用いるが、「鬼」の姿を顕した京也はその尾を腕で弾く。
「フッ…仮面ライダーねえ」
 その様子を、スーツ姿のアゴの長い青年が遠目から見ているのに京也は気付かなかった。
 強固な拳で逆に自身の尾へダメージを受けるコブラ型妖魔。
 その巨体へ、仮面ライダーは蹴りを見舞う。
 よろめき、血を吐くコブラ。
 だがその直後、コブラが吼えた。
 同時に、周囲の壁面がことごとく悪趣味な蛇柄へ変色する。
 その壁面から、コブラの尾に似た触手が伸び、仮面ライダーの足を捕らえた。
 腕力に任せ、その触手を引きちぎる仮面ライダー。
 コブラは、口からの毒液で仮面ライダーを狙撃する。
 辛うじてそれを回避するが、コブラは無尽蔵に毒液を吐き出し続ける。
 飛び道具が必要か。
 仮面ライダーは「鬼風」の念珠をベルトへ接触させ、紫の目を持つ「ディザスターフォーム」へ変身した。
 再び吐き出される毒液。仮面ライダーは「鬼凩」の念珠で暴風を呼ぶ。
「ライダータービュランス!」
 竜巻を集束して撃ち出し、その毒液を散らした。
 更に「鬼槍」で、自分の細胞から長槍「ディザストスピアー」を形成する。
 コブラは、あくまでも間合いを取り、毒液による遠距離戦を挑むようだ。
 竜巻でその毒液を散らし、更にその風のエネルギーから刃を作る。
「タービュランスダガー!」
 真空波が剃刀となって、妖魔へ突き刺さる。
 たじろぐコブラ。尚も距離を置く。
 ならば、懐に入ってやる。仮面ライダーは「鬼圧」の念珠を使った。
「ライダーアトラクター!」
 この念珠は、重力を操るらしい。
 強烈な重力波を発生させ、コブラを自分の側へ吸い寄せた。
 続いて「鬼焔」で、槍の穂先へ火炎を纏わせる。

「フレイムスピアー!」
122ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 10:00:26.69 ID:3AHW6sgY
五話G

 炎の槍が、コブラを貫く…かと思われたが、突然コブラの姿がかき消えた。
 標的を見失い、焦る仮面ライダーを、壁面からの触手が打ちのめす。
 紫の目を持つこのディザスターフォームは、通常の姿、赤い目を持つブレイクフォームより打たれ弱い。
 仰け反ったところへ、再びコブラが実体化する。毒液を吐きつけた。
 一瞬の内に、仮面ライダーは思考する。
 重力を操ることができた。ならばその逆も。

「ライダーリアトラクト!」

 反重力波を発生させ、その反発力で防壁を築いて毒液を弾いた。
 だが、コブラは先刻の尾を、今度は突き出す形で仮面ライダーへ放った。
 よく見れば、尾の先には刃が生えている。
 更に、周囲の空間から一斉に伸びた触手がそれを手伝い、反重力バリアをあっさり突破した。
「くっ…」
 今度は風の力を槍に込める。
「タービュランススピアー!」
 この高速の槍で一気に貫こうとしたが、コブラはその姿をまたも消失させてしまう。
 攻撃が空振りした仮面ライダーを、壁面からの触手が襲う。
 この攻撃を回避するのに手一杯で、実体化したコブラを捕捉する余裕が無い。
 コブラは尚も毒液を吐き、無防備な仮面ライダーを攻め立てる。
 ようやく京也は気づいた。
 この妖魔は、空間自体を歪め、自分に有利な環境へ作り替えているのだ。
 だから位相の異なる不可視領域へ突入し、攻撃を回避できる。
 自分の存在する可能性を増大させ、様々な方向から触手を一斉に振るう事ができる。
 ならば、と思う。
 自然を操ったところで、仮面ライダーに手は無い。


 六十数年前、工事現場はコブラ男の恐怖に支配されていた。
「貴様らは我らがザラキ天宗の僕となるのだ!逆らう者は…」
 労働者の一人を掴み上げ、毒牙をむく。が、その口腔に石が投げ込まれた。
 石の主は続いてコブラ男に飛び蹴りを浴びせ、男を逃がす。
「卜部武政…何のつもりだ?」
 武政は既に理解していた。奴の狙いはカメレオンやカマキリ同様、改造兵士にする素体を集める事。
 そして、彼らの組織の名はザラキ天宗。
「んで、その計画に気付いた人をコブラの毒で始末…だろ?」
 武政の乱入に機を見て必死に逃げる労働者達。
僅かな隙間を潜って地上に出る者、逆に地下奥深く隠れる者もいる。
 せっかく敗戦から立ち直ろうとしている日本の人々を、尚も苛むか。
123ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 10:07:24.12 ID:3AHW6sgY
五話H

 武政の中に怒りの炎が湧き、その炎が「鬼の意」を覚醒させる。
「おたくさ、今のご時世、五体満足がどんだけラッキーだと思ってんのよ。そんなラッキーな連中をバケモンに改造するだあ?」
 武政は「召鬼」の念珠を取り出した。
 瞳が紅く輝き、腰に骨盤状のベルトが出現する。
 念珠を握る右拳を高く掲げ、それを腰の位置まで降ろす。
「変身っ!」
 拳を一気に右斜め下へ振るう。
 ベルト中央の宝玉より、鬼の衝動が変換されたどす黒い「力の嵐」が生じ、武政を包む。
 身体中の筋肉組織が異常発達し、それを白く鋭い外骨格が包む。
 額に新たな知覚器官「第三の目」が生まれ、武政は赤い目を持つ鬼の姿へ変わる。

「オレね、お前みたいな奴が世界で二番目に嫌いなんだわ」

 言って空間の亀裂、時空断裂境界より「鬼馬」の念珠を取り出し、それをベルトに読ませる。
 直後、武政が進駐軍からもらった、壊れていた筈のバイクが起動。
 車体各部を武政と同様の生体強化外骨格が覆い、別物へ変わる。
 そのマシン…「スカルレイダー」に跨がる武政。
「卜部武政…貴様、何者だ!」
 スカルレイダーのバックミラー、足元の割れた硝子に映る自分の姿を見る。
「仮面…ライダー…とかどうだろ?」
 素体のマシンからは考えられないほど鋭く軽快な動きでコブラ男の周囲を跳ね回り、外骨格や車輪をぶつけて直接的なダメージを与えるスカルレイダー。
 更に仮面ライダー自身も車体から飛び出してコブラ男の腹に拳を見舞う。
 吹き飛んだコブラ男とそれを追う仮面ライダー。両者は地上に出る。
「くく…成る程、虹色ヤモリを倒したのは貴様か。それは報告せねばな」
「オレ噂になるの嫌いだし」
 右腕を鞭状に伸ばし襲いかかるコブラ男。
 仮面ライダーはそれを跳躍でやり過ごし、空中で「鬼神」の念珠をベルトに読み込む。
 着地と同時に目、ベルトの宝玉、額の第三の目は緑に変色。
 胸の装甲に爪のような部位が生じ、肩角は後ろに向かって伸びる。
 右腕には鋭い断崖に似た多層の刃が沿い、左腕には盛り上がった外骨格から洞窟の如き穴が覗く。
 姿を変えた仮面ライダー=オメガフォームは右腕の装甲より鬼剣バーサークグラムを伸ばし、コブラ男の長い右腕を切断する。
 吹き飛んだ右腕は地を転がり、工事現場の穴へ落下する。
「ぐわあ!俺の腕を…おのれ!」
124ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 10:31:46.00 ID:3AHW6sgY
五話I
 苦痛に苛まれるコブラ男は仮面ライダーへ毒液を吐きかけるが、仮面ライダーは「鬼盾」の念珠を用意した。

「ライダーシールド!」

 毒液が当たらない。
 仮面ライダーの周囲に空間の歪みが生じ、その歪みが盾となって毒液を跳ね返しているのだ。
 この絶対的な防御力に、コブラ男はたじろいだ。


 六十数年後、コブラ妖魔は仮面ライダー目掛け、周囲の空間から一斉に毒液を噴射させる。
 反重力波と竜巻を同時に発生させても防ぎきれない。
 仮面ライダー=京也には、これしか防御手段が無いというのに。
 更にコブラ妖魔は尾を伸ばし、仮面ライダーの胸へ刺突を浴びせる。
 防御を突破され、火花が散った。
 地を転がりながら、仮面ライダーは「雷鬼」の念珠を用いる。
「ライダーサンダーボルト!」
 稲妻がコブラを襲ったが、コブラは再び不可視領域へ移動し、攻撃を回避する。
 敵の姿が見えない。


 六十数年前、ライダーシールドに身を包む仮面ライダー=武政。
 その防壁には、コブラ男の攻撃がまるで通用しない。
 ここは撤退より無い。
 そう判断し、コブラ男は自分が掘らせた穴から地下へ逃げる。
 しかし、仮面ライダーは「鬼眼」という念珠を用意していた。
「ライダーフィール!」
 一定の透視能力を秘めた、額の第三の眼。更に五感を強化し、敵の所在を看破する念珠だ。
「わり。とっくに見えてんだよね」
 地下に隠れた敵を捕捉し、洞窟に似た突起=鬼砲バーサークショットを備えた左腕を突き出す。
 その周囲に見える陽炎がコブラ男目掛けて飛んでゆく。
 二発の陽炎=時空衝撃波がコブラ男の背中を深くえぐった。



 六十数年後、ようやくの隙を見つけて仮面ライダーは「氷鬼」の念珠を発動した。
「ライダーブリザード!」
 絶対零度の吹雪がコブラ妖魔へ迫るが、その吹雪は敵へ命中する寸前でかき消された。
 うめく仮面ライダー。
 この空間は、妖魔のためのもの。
 攻撃が届かない。
 勝てる筈が無い。


 六十数年前。
 勝てる筈が無い。尚も逃走を図るコブラ男。
 彼を睨み、仮面ライダーは指を鳴らす。
「ライダーブリザード!」
 直後、コブラ男の足元に吹雪が生まれ、その下半身から凍結してゆく。
 続いて「鬼幻」の念珠を発動した。
「ライダーイリュージョン!」
 凍結するコブラ男に仮面ライダーの声が届く。
「まあ、はなから逃がすつもりも無いからね」
125ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/10/28(金) 10:42:56.63 ID:3AHW6sgY
五話J

 最後の「からね」にエコーが掛かった。それもそのはず。
 仮面ライダーの姿が三体出現し、コブラ男の周囲を包囲したためだ。
 どれかが幻影、どれかが本物。しかしコブラ男にそれを見破る術はなく、そもそも凍結した彼には抵抗すら難題だった。
 三方より、鬼剣バーサークグラムが振り抜かれる。
「イリュージョンブレード!」
 それらの斬撃は、各々がコブラ男の体を無慈悲に引き裂いてゆく。
 仮面ライダーは幻影を作ったのではなく、周囲の時間軸を交錯させ、一時的に自分自身を三体形成した。
 即ち分身は、全て実体だったのだ。
 コブラ男をバラバラに寸断した仮面ライダーは、再び一体へ集約する。
「オレの勝ちっ」

 さて、他の労働者を救出し、切り落とした腕を処分せねば。
 しかし、武政には誤算があった。コブラ男の死に伴う爆発が、工事で脆弱化した地盤へ亀裂を産んだ。
 このままでは労働者が生き埋めになる。
 仮面ライダーはそれを救出するのに手一杯で、切り落としたコブラ男の右腕は土砂に埋もれ、ついぞ発見できなかった。

 六十数年後、斎は京也の後を追い、地下へ降りていた。
 そこに待つ地獄絵図。
 仮面ライダー=京也はあらゆる攻撃を無力化され、壁面から伸びる触手に首を締め上げられていた。
 コブラ妖魔は、刃の生えた尾を虚空へ振るう。
 その斬撃が波紋となり、空間もろとも仮面ライダーの首を切り落としたのだ。

「卜部さんっ!」
 悲鳴をあげる斎。
 彼女から見えない位置で、アゴの長い男、都市保安庁の御杖は笑いをかみ殺していた。
「卜部の継承者が…ザマアねえなあ」

 吹き飛んだ仮面ライダーの首。
 妖魔はそれを牙に捉え、一気に噛み砕いた。

 続く。
 次回、第六話「時空の魔術師」

 今回途中で睡魔に負けました。すみません。
126創る名無しに見る名無し:2011/10/30(日) 11:41:37.01 ID:GFxGZe6G
某ブログサイトで、ダイレンジャーのコウを主役にした小説書いてるんですが、原作から結構外れたような展開になってます。


原作を意識すると、性格改変は設定変更よりも成長によってなるってスタンスはいいと思いますか?
127ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 15:31:48.77 ID:e0wuC5AV
6話@

 「卜部さんっ!」
 廃線された旧地下鉄に、斎の悲鳴が響く。
 仮面ライダー=卜部京也は、コブラに似た妖魔に首を跳ねられた上、その頭部を噛み砕かれたのだ。

第六話「時空の魔術師」

 何故だか奇妙な安心感を、斎は覚えていた。理由は知らないが、京也は大丈夫だ。
 首から上を喪失し、赤い血を噴き出して倒れ伏す仮面ライダーの胴体。
 その生々しい断面から、肉を裂くような、または骨を砕くような異音が聞こえた。
 実際は、その音が持つイメージと仮面ライダーに起こった現象は合致しなかったが。
 胴体から、すぐさま仮面ライダーの頭部が復元された。
 斎は笑んで頷き、コブラ型妖魔はたじろぎ、仮面ライダーは呆然と首を撫でる。
「何…?」
 首を落とされた記憶はある。何故だか、頭部を噛み砕かれる瞬間の記憶すらある。
 ただ、自らの再生能力に自失しているヒマは無い。
 現時点での問題は、眼前のコブラ妖魔だ。
 自らの姿は、斬首される寸前の姿「ディザスターフォーム」を維持している。
 コブラ妖魔が吐きつける毒液のために、飛び道具を持たない通常の接近戦形態「ブレイクフォーム」では不利だ。
 だから、自然界のエレメントを操るディザスターを選択したのだが、その攻撃は尽くコブラ妖魔の周囲に巡らされた障壁に阻まれる。
 この地下空間は、妖魔の魔力によって、妖魔にとり有利な占有時空間へと変容している。
 恐らく眼前の妖魔と仮面ライダーの間には、極めて僅かな空間の位相のズレが存在している。
 そのズレが、仮面ライダーの攻撃を妨げる。
 更にそのズレを拡大する事で、妖魔は不可視領域へ突入し、視界から消失した上で敵の攻撃を無力化する。
 とはいえ、手を打たないわけにもいかない。
 風を操る「鬼凩」の念珠をベルトへ接触させ、竜巻を生み出す。
「ライダータービュランス!」
 撃ち出された竜巻がコブラ妖魔へ迫るが、それもまた、寸前で打ち消されてしまう。
 手が無い。
 黙っていられず、斎が口を開いた。
「卜部さん!『鬼馬』の念珠!」
 何故ここに、と訊く余裕は無かった。
 示された通りの念珠をベルトへ読み込ませる。
「スカルゲッター!」
 京也の愛車、TADAKATSU-XR420レイブン。
 その車体を、仮面ライダーと同様の生体強化外骨格が装甲する。
 そして、地下へ潜行し、自律的に仮面ライダーの元へ走り寄る。
128ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 15:34:59.34 ID:e0wuC5AV
6話A

 コブラ妖魔は、敵の周囲の壁面からも触手を伸ばす超能力を持つ。
「タービュランススピアー!」
 槍を構え、自身の周囲へ旋風を発生させ、触手を弾き飛ばしてスカルゲッターへ駆け寄る。
 辛うじて搭乗に成功するが、アクセルを踏む前にまたも周囲からの触手に絡め取られる。
 京也は、このマシンの扱いを知っている。
 知っている筈だ、という無根拠な確信があった。
 この拘束を逃れたい、という思念をマシンへ伝達する。
 直後、マシン本体を包む外骨格が変形し、周囲へ刀のように伸びる。
 その刀を装備したまま、一気に車体を回転させる。

「ゲッタージャッジ!」

 触手を切断し、拘束を逃れた。
 だが、同じ手が眼前のコブラに通用するとは思えない。
 先刻、仮面ライダー=京也は、無根拠な確信を元に車体から生体剣を伸ばす事ができた。
 ならば、と京也は再び無根拠な確信に頼り、マシンへ念を送る。
 カウルが変形し、脊髄に似た突起がせり出す。
 これは、砲塔だ。そう無根拠な確信が告げる。
 脊髄に似た砲塔。その先端に、陽炎が浮かんだ。

「ゲッターキャノン!」

 陽炎は、波動の弾丸と化してコブラへ飛翔する。
 そして、異なる位相に存在する筈のコブラを直撃した。
 悲鳴をあげるコブラ。直撃点の空間に一瞬だけ歪みが生じ、妖魔の肉を抉った。
 傷口から流血は生じない。枯葉色に風化するのみ。
 このエネルギー波を用いれば、妖魔へ致命傷を与える事は可能かもしれない。
 ただ、戦場に斎がいる。妖魔が多彩な遠距離攻撃手段を持つ以上、斎の避難が優先だ。
 再びゲッターキャノンを発射し、一度は自分の首を跳ねた尾の刃を破壊する。
 妖魔が激痛に悶絶している隙に、仮面ライダーは斎と共に、敵のフィールドを脱出した。
 それを見送り、アゴの長い青年、御杖は舌を打つ。
「ち!あの程度じゃ、卜部の鬼は殺せねえか」
 男の声音は、真実憎々しげだった。

 京也から指示された通り、山下山男刑事はこの地下鉄跡地で人払いに奔走していた。
 京也いわく、血清が作れない新種の毒蛇は、この跡地へ潜伏しているらしいから。
 だが、そんな山下山男の耳に背後からエンジン音が刺さる。
 オフロード車に二人乗りした男女が、非常な勢いで跡地を後に去ってゆく姿が見えた。
 人払いが完璧でなかったのか。また被害者が増えるのだろうか?
129ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 15:38:24.35 ID:e0wuC5AV
6話B

 歯噛みする山下山男の傍らに、スーツを着崩したアゴの長い青年が姿を現す。
「君!ここは立ち入り禁止だぞ!」
 そう叱責し、初めて山下山男は、青年の胸に輝くバッヂに気付いた。
 このデザイン。この男、都市保安庁の人間か。
 山下山男の狼狽を見透かしたように、青年は嫌らしく笑う。
「フッ。そうだ。てめえら警視庁の出る幕じゃねえ。そう圧力をかけたハズだがなあ?」
 都市保安庁へ一任する。
 だから上層部は、毒蛇の調査打ち切りを決定したのか。
 山下山男は納得し、ついで怒りを表出した。
「なら!もっとあんた達が大々的にこの地区を立ち入り禁止にすべきだろう!」
 先程の男女は毒蛇に咬まれていないだろうか。
 都市保安庁だというなら、責任をもって事に当たるべきだ。
 だが青年は、爆笑した。
「市民とかいう国家予算を食い潰すウジ虫の命を守る。それがてめえらの仕事だろうが?」
 調査せぬよう圧力をかけ、それでいて被害者は警察の怠慢だと主張する。
 必死に怒りを抑えようとする山下山男であったが、あまり巧くはいっていなかった。
「市民の命は…どうでもいいと?」
 青年の答えは明確だった。
「虫けらが幾らくたばろうが、どうでもいいぜ?おれ達は何より国家のメンツが大事だ」
 怒りを虚脱した。
 何を言う気にもなれない山下山男。
 彼の携帯電話へ上司から、単独行動に対する叱責が届く。
 脱力したまま警視庁へ帰る。
 精悍な顔立ちを、下劣な笑みで歪めて山下山男の車を見送る御杖。
「てめえも卜部も、ゴミクズを守って何が楽しい?」
 そう一つ呟き、情報端末機のソナーで地下のコブラ妖魔を再び監視し始めた。

 ある程度、敵のフィールドから離脱した後、京也と斎は川縁へ座り込んだ。
 京也は、さほど人付き合いの良い方ではない。
 斎も他人と話す事に臆病な方だから、少しの間、沈黙が走った。
 埒が開かないので、京也が開口する。
「武政さん…俺のじいさんも、改造兵士の言っていた『仮面ライダー』だったということだな?」
 妖魔は京也の姿を見て、武政と仮面ライダーの名を呼んだ。
 斎は逡巡する。
 斎は確かに、六十数年前、京也の祖父、卜部武政が仮面ライダーとして戦っていた事を知っている。
 だが、そんな知識が斎に備わった経緯が分からない。
 自分に酷似した女性が武政と共にいる、あの古い写真も何を意味するのか分からない。
 だから斎は、曖昧に頷いた。
130ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 15:41:03.09 ID:e0wuC5AV
6話C

 しばし川面を見守り、やはり先に京也が開口する。
「…仮面ライダーとは何だ」
「えっと…卜部の血筋に取り憑いた『鬼』を具象化したのが…」
「違う。あの生命力は何だ。俺はどんな生き物へ変身しているんだ」
 首を落とされ、その頭部を噛み砕かれた。
 にもかかわらず、頭部は脳髄も含めて再生したのだ。
 変身によって頭部を維持しているのではないかと恐れたが、いざ変身を解除してみれば、京也の顔は京也のままだった。
「一度脳髄を失ったのに、再生すれば五感も、思考も、記憶にも変化が無い。これは、生命体なのか?本当に?」
 斎は膝を抱え、顔を伏せた。
 京也が恐かった。覚えの無い知識を持つ自分も恐かった。
「卜部さん…わたし、そろそろバイト行かなきゃダメなんです」
 そう言い訳をして、立ち上がった。
 川縁から道路へ出て、少しだけ京也を振り返る。
「あのコブラの妖魔…『鬼空』の念珠が一番合ってると思います」
 それだけ言って、駆け出した。逃げるように。
「鬼空」。未使用の念珠の一つだ。
 あらゆる自然現象を操るディザスターフォームでも勝てないあの妖魔を、その念珠で倒せるのか?
 京也は一旦の休息をとるため愛車のアクセルを踏み込み、職場へ戻る。
 途中、ペットショップに立ち寄った。

 何処かの暗闇。
 律儀に剃髪し法衣を羽織った男、董仲。
 その姿はありふれたどこぞの僧侶にしか見えないが、炎に照らされ彼にかしづく信者らの姿は、明らかな異形だった。
 ザラキ天宗。
 信者を人外の改造兵士とし、異形の神を信仰する邪教。
 董仲は、その中でも高位の僧の一人である。
 彼の元へ、一段下位の僧衣を纏った男が駆けつける。
 洗礼名を玄達といい、剃髪を拒否しているが、優秀かつ董仲へ従順なので黙認されている。
「報告致します。毒蛇型の妖魔、負傷の模様」
「ほう…?卜部の鬼もトドメを刺せたわけではないのか」
 東京と魔界を繋ぐ霊的拠点を爆破し、妖魔を東京へ解放したのはザラキ天宗だ。
 だが、玄達が「毒蛇型」と称する妖魔はイレギュラーな存在だった。
 本来は液体状の無力な妖魔だった。
 それが六十数年前、卜部武政に切り落とされたまま地下に沈んでいたコブラ型改造兵士の腕へ寄生。
 改造兵士の遺伝子情報を元に肉体を構成した。
 それがコブラ型妖魔で、だから人間サイズの腕が一本だけ垂れている。
 玄達は複雑に頷く。
 妖魔が負傷したのは事実。
131ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 15:43:31.44 ID:e0wuC5AV
6話D

 だが仮面ライダーを追い詰めたのも事実。
 董仲は、信者らを見渡して再び玄達を向く。
「その妖魔、折伏は可能か?」
 気の流れ、時期、妖魔の特徴などを読み、法陣等を駆使して妖魔を自らの配下とする。
 これを折伏(しゃくぶく)と呼び、それを実践するためザラキ天宗の信者らは呪術を学ぶ。
 董仲のこの問いには、玄達は首を横に振った。
 あの毒蛇型妖魔は、無力な下級妖魔と改造兵士の混合体。
「いわば新種です。あの妖魔を折伏する方策がありません」
 董仲は呻く。ならば、ザラキ天宗の配下にはできない。
 妖魔の殺戮本能が再び仮面ライダーを狙うことを願うより無い。
 ザラキ天宗は、日本を救済したい。
 だから、今の腐った日本は浄化のため、自分たちに明け渡されるべきだと考えている。
 そしてそのためには、仮面ライダーが邪魔だ。
「皆さん」
 董仲は、信者らへ声をかける。
「どうか、妖魔が仮面ライダーを無に帰しますことを、ザラキ天へ祈りましょう」
 暗闇。炎に照らされ時折、これまた異形の石像が浮かぶ。

 翌朝、大学へ向かう斎。
 その正門に貼り紙がある。
 同じ講義を取る学生が、新種の毒蛇に咬まれ死亡したと。
 人だかりができていた。
 泣く者。驚く者。野次馬根性で騒ぐ者。知らない、と笑う者。
「うす」
 肩を叩く涼ちゃんの手を、斎は反射的に振り払う。
 貼り紙の内容と斎の様子に、涼ちゃんは二重に驚かされる。
「…ごめん涼ちゃん」
 斎の声は、自分でぎょっとするほどに低く響いた。
 携帯電話を取り出す。
「先に講義出てて。わたし、ちょっと電話したいトコがあるから」
 呆気にとられた涼ちゃんを尻目に、斎は校舎の裏に入る。
「…許さない!」
 本来ならば自分があの妖魔を倒してやりたい。
 だが、その力が自分には無い。

 警視庁。山下山男は毒蛇が潜伏しているらしい地点の、本日の状況を都市保安庁のホームページから閲覧する。
「被害ゼロ…か」
 背後で、大林という刑事が笑っている。
「な?最初から俺達の出る幕は無かったってことだ」
「ですけど先輩、気になりませんか?」
 PCのモニターを指し示す。
 被害ゼロにもかかわらず、何故立ち入り禁止区域が広がっているのだ。

 京南大学附属病院。
 看護師の王 麗華は、京也の自室へカルテを届けに来ていた。
 だがドアを開けた瞬間、強烈な刺激臭が麗華の鼻を襲う。
 思わずむせる。
132ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 15:47:50.38 ID:e0wuC5AV
6話E

 恐らく原因は、ビーカーに入った液体。
 塩酸だ。
「ああ…失礼」
 京也は顔をしかめた麗華を見て、初めて換気扇を回す。
 換気扇の存在を失念しているらしかったし、この臭気の中でカルテに目を通しながら平然とコーヒーを啜る京也が理解し難かった。
 それ以上に、と麗華は、デスクに置かれたシャーレを見る。
 正確にはその中の、泥色のー恐らくは有機体と思しき破片。
「あの先生、それ…」
「ああ、プラナリア」
 下等な環形動物だが、異常な再生能力を持つ。
 二つに切断すれば二匹の、百体に切れば百匹のプラナリアが生まれる。
 その上、下等生物なりに学習能力があり、再生した個体にもその記憶が同様にコピーされる。
「何で…今更?」
 小中学校の理科で散々切ったではないか。
 京也は平然としている。
「切りたくなった。それより、毒蛇の被害者は」
 塩酸の臭気に辟易しつつ、麗華は応じる。
「…はい。今のところはゼロです」
 未だ血清が作れない。ゼロは有り難い。
「昨夜の大学生が最後か…」
 自分は何者だ、という意識が京也の中には常にある。
 首を切られても再生した自分が、プラナリアとダブった。
 ただ、プラナリアといえど、或いはトカゲの尻尾といえど、すぐに再生できるわけではない。
 仮面ライダーの首は、瞬時に再生した。
 自分は、この連中よりも高度な再生能力を持つ。
 しかし、噛み砕かれた頭部からはなぜ自分の分身が生まれないのだろう。
 プラナリアの機構と、自分の機構は違う。恐らくは。
 沈黙した京也。
「ねえ先生…」
 その時、京也の電話が鳴った。
「斎ちゃんか?どうした」
 斎。昨日、京也が怒鳴りつけて追い返したあの少女か。
「…分かった」
 言って通話を切る。
 京也は白衣を脱ぎ、カルテを麗華へ押し付けるように返す。
 残ったコーヒーを飲み干し、鍵の束を掴む。
「少し出てくる」
「こんな時に?」
 京也は気まずそうに視線を逸らし、プラナリアの破片を塩酸へ落とした。
「すぐ戻るから」

 出て行く京也を見送る麗華。
 塩酸の中で、プラナリアの破片は呆気なく溶解し消滅した。
 麗華は一つ息を吐く。
 卜部京也は優秀な医師だが、時折理解できない側面を見せる。
 そう思考し、麗華は自嘲した。
ー時々、お前が理解できないー
 麗華は、交際相手からそう言われた事がある。
 何を理解できないのか、どの言動がどう間違っているのか。
133ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 15:51:32.69 ID:e0wuC5AV
6話F

 麗華には分からないので直しようも無い。
 確かに麗華は、両親共に在日中国人だ。
 しかし、だから理解できないとでも言うのだろうか。
 麗華自身は日本で産まれ、日本国籍を持つ日本人なのだが。
「ま、誰にでも色々あるか」
 麗華はナースステーションへ向かう。
 センチメンタルになっている暇は無い。

 京也は愛車を駆り、斎から指定された場所へ向かう。
 この愛車も、仮面ライダーの力によって生体マシンへ変化する。
「ゲッターキャノン」といったろうか。
 妖魔へ深手を負わせたあの砲塔。
 砲塔は、陽炎に似たエネルギー波を発射し、それは異なる次元位相から襲いかかる妖魔を直撃した。
 あの陽炎は、通常の姿「ブレイクフォーム」が自分の攻撃力を上昇させる「ライダーブースト」を発動した際に立ち上るものと同じだ。
 あの陽炎に似たエネルギー波を弾丸として浴びせれば、異次元の敵も狙撃できるというわけか。
 だが、敵が不可視領域へ突入すれば、そのエネルギー波で狙いを定める事もできない。
 毒液を吐き、周囲から触手を伸ばす。尾の刃も強力。
 愛車だけでは力不足だ。

 都市保安庁の専属機動隊は、妖魔が潜む地下鉄跡地周辺を固めていた。
 かつて卜部武政に切断された、改造兵士の腕。
 六十数年間の怨念と、その間に生じていた、その地との「地縁」と呼ぶべきものが妖魔と結合し、強力な妖魔が出現した。
 今回の妖魔は、素体が改造兵士の腕。
 埋まっていた箇所を自らの占有時空間とし、更に地縁をエネルギー源とし、徐々にフィールドを拡大させている。
 だから都市保安庁は、立ち入り禁止区域を広げた。
 しかし、傍観もできまい。
 勤勉な機動隊をよそに、折り畳み式の椅子へふんぞり返っている男。
 彼の通信機へ、上司から連絡が入った。
「御杖君!何をサボって…」
 途中で上司の声音が、卑屈で弱々しいものへ露骨に変わる。
「いや、あの…そろそろお願いできんかな」
 御杖は、長いアゴを掻いて嫌味に笑う。
「フッ。了解しました」
 立ち上がろうとした時、機動隊員の一人が緊急報告に来る。
「御杖実務官!作戦区域に侵入者の模様!」
 御杖は笑い、再び椅子へふんぞり返る。
「手は出すんじゃねえ」
「しかし!」
 機動隊員を、御杖は手を挙げて制する。
「恐らくソイツは卜部京也だ。妖魔か卜部か…どちらかが死ねば万々歳。違うか?」
 押し黙る隊員を、御杖は嘲笑う。
134ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 15:55:20.52 ID:e0wuC5AV
6話G

「もし卜部でなければ妖魔に喰われるだろうな。万が一生還した場合は…」
 御杖は親指で、自分の首元をなぞる。
「…消せ」

 無論、地下への侵入者は卜部京也だった。
 ただもう一人、斎がいる。
「危険だ。帰れ」
「帰れないです。わたしにも…意地とかあるから」
 少々むくれた様子の斎。
 昨日怒鳴ったのが堪えたのか、と京也はようやく思い至った。
 斎が意地になるのは、もう一つの理由がある。
 同級生を死なせてしまった。
 それは決して斎の責任ではないが、仮面ライダーの能力をもっと詳細に京也へ教えていれば、妖魔はすぐに倒せたかもしれない。
 仮面ライダーの能力を把握している自分がベストを尽くさなかった。
 そういう意味で、斎は意地になるし、あの時ベストを尽くしていた京也に怒鳴られるのも道理だった。

 しばし坑道を進み、ようやく妖魔の住処を発見した。
 京也らには気付いていないらしい巨大コブラ。
 すっかり尾の刃は再生していた。
「…行ってくる。ここにいろ」
「あの!『鬼空』ですよ!」
 黙して京也は頷き、坑道から飛び降りる。

 妖魔の眼前に着地する京也。
 見上げれば、坑道の穴までかなりの高さがある。
 にもかかわらず足に痛みが無い。
 試しに塩酸に指を突っ込んでも何の問題も無かったのだから、当然か。
 とりあえず、と京也は掌上に「召鬼」の念珠を呼び出す。
 目が赤く輝き、骨盤の集積したようなベルトが発生した。
 そのベルト中心部、赤い宝玉へ念珠を打ち付ける。
 どす黒い力の嵐を浴びる。

「…変身」

 リベンジだ。京也は赤い目を持つ、仮面ライダーの格闘用形態「ブレイクフォーム」へまず変身する。
 そして破壊力を上昇させる「昂鬼」の念珠を使用した。
 やはり、体から立ち上る陽炎に似たエネルギー波は、ゲッターキャノンが発射したものと同じだ。
 これを発生させた状態で突撃すれば、妖魔と自分の間にある位相のズレを突破し、ダメージを与えられる筈だ。
 だが、跳躍寸前に妖魔が不可視化。
 狙いの定まらない仮面ライダーへ毒液が吐きかけられる。
「ぬっ…」
 後退する仮面ライダー。姿を現す妖魔。
 仮面ライダーは再び攻撃を試みるが、周囲の壁面から伸びる触手がその動きを封じる。
 腕力に任せてそれを引き千切る仮面ライダーだが、再度の毒液が仮面ライダーを襲う。
 直撃し、爆発が生じた。
135ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 15:58:37.48 ID:e0wuC5AV
6話H

 やはり、知識ある者には従うべきだと思った。

 時空断裂境界から、斎の示唆した「鬼空」の念珠を取り出す。
 それをベルト中心部へ接触させる。
 異変が起こった。
 再び仮面ライダーの体を力の嵐が取り巻き、目やベルトの宝玉が淡い青へ変色する。
 手足や肩の生体カッターは丸く縮退し、代わりに背中から、鳥類の骨格標本を模したような骨の翼が広がった。

 新たな姿へ変身した仮面ライダー。コブラ型妖魔は、毒液を吐きかける。
 跳躍で回避する仮面ライダー。その時、背の翼が羽ばたいた。
 何の原理で揚力を発生させているのか不明だが、とりあえず仮面ライダーは、跳躍からそのまま空中を飛行している。
 背後へ回る仮面ライダー。必死に噛みつこうとするコブラ。
 仮面ライダーは空中で高い機動力を発揮し、コブラの牙をかわす。
 しびれを切らし、コブラは周囲の壁面から一斉に触手を伸ばした。
 これに対処する方策を、京也は知っている。
 無根拠な確信。
 仮面ライダーは新たな念珠「鬼走」を取り出した。
「ライダーアクセラレート!」
 「鬼走」をベルトへ読み込ませる。
 同時に、迫る無数の触手が、そして妖魔自体の動きが静止した。
 いや、極めて微細に、遅緩して動いてはいる。
 しかし仮面ライダーから見れば「静止した」と言って良いほど、彼は超高速状態にいる。
 迫る触手を回避し、或いは拳で払いのけ、妖魔へ高速の蹴りを見舞う。
 だが、位相のズレが障壁となり、やはり攻撃を無力化する。
 距離を置き、一旦加速を終了させた。
 飛行や超高速は良いのだが、あの陽炎に似たエネルギー波が欲しい。
 仮面ライダーへ、斎の声が届く。
「『鬼弩』の念珠!」
「…分かった」
 斎の言葉の通りにその念珠を読ませる。
 同時に、生体強化外骨格の一片が掌へ落ち、それが両端に刃を備えた弩(いしゆみ)へ変化する。

「鬼弩・ウィザードアロー」を装備した仮面ライダー。
 そのトリガーを引く。
 ボウガンに似ているので弦を引くアクションが必要かと思ったが、トリガーを引いただけでエネルギー波が発射され、位相の障壁を破ってコブラ型妖魔を直撃した。
 そのエネルギー波は、陽炎に似ていた。
 これならいける。そう確信し、もう一発を発射しようとする。
 だが、死角から伸びた触手が仮面ライダーの足を捕らえた。
 体勢を立て直し、妖魔は毒液を吐きつける。
136ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 16:01:37.27 ID:e0wuC5AV
6話I

 仮面ライダーは「鬼移」の念珠を用いた。
「ライダーシフト!」
 直後、仮面ライダーの姿が消失した。
 妖魔の毒液は自分が張った触手を溶解するに留まる。
 更に次の瞬間、妖魔の頭上に仮面ライダーが現れる。
 瞬間移動により、拘束を回避したのだ。
 ウィザードアローを妖魔の頭部へ発射した。
 位相の障壁は陽炎に似たエネルギー波に意味を為さず、妖魔は仮面ライダーの銃撃をまともに喰らってしまう。
 障壁が無力化した。その隙を逃さず、同一の次元にいる妖魔へパンチを浴びせた。
 しかし、全く効いた様子が無い。
 身をよじらせるコブラに跳ね飛ばされる仮面ライダー。
 腕力もスタミナも低下している。
 自然界のエレメントを操る「ディザスターフォーム」も身体能力は低かったが、この姿はそれ以下だ。
 怯んだ仮面ライダー。好機と見て、コブラ妖魔は尾の刃へ力を込め、斬撃を放った。
 尾から放たれる、エネルギーの刃。
 この刃は空間ごと敵を切り裂き、仮面ライダーの首すら落とした強力な武器だ。
 迫る刃が、非常にスローに見える。
 仮面ライダーは、ベルトの間近に時空断裂境界を呼び出し、「鬼盾」の念珠を使用した。

「ライダーシールド!」

 刃が止まった。
 仮面ライダーの周囲に、次元のズレが発生している。
 その次元のズレ「亜空間バリア」が、刃を止めたのだ。
「ライダーシフト!」
 瞬間移動で仮面ライダーはバリアの中から離脱し、コブラ妖魔へ銃撃を加える。
 怒る妖魔は、接近戦に持ち込もうとした。
 腕力の低いこの姿で接近戦は辛い。だが、それをカバーする念珠がある筈だ。
「ライダーイリュージョン!」
 「鬼幻」の念珠を使うや、妖魔の眼前で仮面ライダーが三体へ分身する。
 飛行能力で突進を回避すると、コブラの背へ三体同時に跳び蹴りを叩き込む。
 どうやら、この分身は各々実体を持っている。
 「仮面ライダーが存在する可能性」を増大させているのか、或いは時間を一時的に交差させているのか。
 仮面ライダーは得物、ウィザードアローを鎌のように振るう。
 弓両端の刃。それは接近戦用の武器となり、この「ウィザードフォーム」が持つ、格闘が苦手という弱点をしっかりカバーしていた。
 更に、分身がその動きをトレースする。
 結果、妖魔は同一箇所に三度の斬撃を浴びる羽目になる。
137ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 16:04:31.35 ID:e0wuC5AV
6話J

 一体へ再融合した仮面ライダーへ毒液を吐く妖魔だが、再び形成されたライダーシールドには通じない。
 そもそも、妖魔はとっくに戦意を喪失していた。
 毒液で牽制しつつ、不可視領域へ逃げ込んだ。
 だが、仮面ライダーは「鬼眼」の念珠を取り出す。
「ライダーフィール!」
 五感、更に一定の透視能力を持つ額の「第三の眼」を極限まで強化し、異次元に隠れた敵の所在を見破る技である。
 そして、コブラを捕捉した。
「逃がさん」
 ウィザードアローが放つエネルギー波は、次元を超えて敵を襲う。
 波動が炸裂。強力な斬撃を繰り出す尾を破壊され、再びこちらの次元へ戻ってきた。
 ディザスターフォームは、単に風や炎を操るだけでなく、槍にその力を付加する事ができた。ならば。
 仮面ライダー・ウィザードフォームは「鬼幻」の念珠をウィザードアローへ読み込ませる。
 半死半生のコブラ妖魔へ狙いを定めた。

「イリュージョンアロー!」

 発射された波動の弾丸。それが「鬼幻」の効果によって無数に分裂し、散弾銃のように妖魔を一斉に直撃した。
 既に、原形をとどめている箇所の方が少ない。
 大量の波動を一気に叩き込まれた妖魔はその肉体を崩壊させ、火柱を上げて爆砕した。
 だが、斎の叫びが仮面ライダーに届く。
「卜部さん!まだ本体が!」
 灰燼の中から、半透明の液体が這い出る。
 かつての仮面ライダー、卜部武政に切り落とされたコブラ型改造兵士の腕へ寄生し、それを基に強力な肉体を手にした液体状の下級妖魔。
 仮面ライダーは、相変わらずの無根拠な確信で、その液体妖魔へウィザードアローを向ける。

「ライダー・サイコブラスト!」

 精神エネルギーをアローへ伝達、ビームに変えて照射した。
 この一撃で液体妖魔も炎上し、ようやくコブラ騒動は完結した。

「斎ちゃん」
 坑道の穴で仮面ライダーは京也の姿へ戻る。
 超高速。瞬間移動。分身。バリア。千里眼。
 訊きたい事は山ほどあるが、彼女の助言が無くては勝てなかった。
「…昨日は言い過ぎた」
 聞いて斎は、少々顔を赤らめた。
「と…とりあえず、地上に出ませんか?」

 地上。
 ソナーから妖魔の死を確認し、御杖は相変わらず下劣に笑う。
「フッ。さすが卜部の鬼…というべきか、殺したくて仕方ねえ、というべきか」
 そして、侵入者を排斥しようとする機動隊を止める。
138ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/03(木) 16:08:02.89 ID:e0wuC5AV
6話K

「構うな!おれは『侵入者が卜部じゃねえ場合は』消せと言ったんだ。そもそも奴は卜部の鬼だぜ。てめえらが勝てる相手じゃねえ」
 御杖は、ふと笑みを消す。
「卜部…どうせなら武政の方を切り刻みてえモンだがなあ」


 六十数年前、卜部武政は美月屋に下宿しながら誰かを待っていた。
 しかし腹が減った。闇市で何か買ってこよう。
 その闇市を疾走する少年がいた。彼を追う中年もいた。少年の手には、芋が四つ。


続く。
次回、第七話「悪鬼は正義にあらず」
139ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/04(金) 18:33:49.83 ID:2uW9mRcZ
六話終了です。
失礼しました。この板の礼儀を分かってなかったようです。
序盤はとりあえず、主人公がどれくらい強いのかの紹介を重視したいです。
140ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/12(土) 23:46:13.93 ID:UFFPQjoT
第七話@

 1945年九月、東京。
 芋四つ抱えて闇市を逃走する少年。それを追う中年の男。出くわした卜部武政。
 ともかく中年男に話を聞いてみよう。興奮しているらしい男に何と声をかけるか…よし。
「おっさん!男色?」
 おっさんに限らず闇市一帯が凍結した。その中心で自画自賛する武政。
「うまい事言うな〜オレ」

七話「悪鬼は正義にあらず」

 話を聞いてみれば何の事はない。
 少年が自分の店から芋を盗んだから追っていたのだという。しかし、四つとは。
 少年にも話を聞いてみたが、彼は一人っ子だそうだ。兄弟はいない。
「なら芋四つも要るかね?」
 武政の問いに、表情を曇らせる少年。
「実は今、家にお父さんが二人いるんだ」


 六十数年後、東京都心の一角。
「モースタン」という喫茶店のドアが開く。
「いらっしゃい」
 卜部京也は、店主、鏑木三次に軽く会釈してカウンターへ座る。
 看護師の王 麗華らも利用している馴染みの店だ。鏑木からコーヒーを受け取る。
 鏑木は、自分で焙煎した豆を販売もしている。京也はコーヒーを啜りつつ、その袋を指差した。
「五パック下さい。それから…」
 一瞬だけ言い淀む。溜め息を吐き、指を三本立てた。
「アルプラゾラム、三十錠」
 鏑木は、僅かに目を見開く。
「また再発したのかい?」
 そう訊かれ、京也はカウンターに両肘をつき視線を逸らす。
 答える気が無い、と鏑木は長年の付き合いで了承している。

 警視庁。山下山男刑事は地下より出現した巨大グモ、および巨大サソリやコブラの件を調査したかった。
 だが、上層部や都市保安庁の圧力で妨害され、半ば強制的に、入院した仲間の見舞いに行かされた。
 京南大学附属病院。卜部京也の勤務先だ。
 京也と山下山男は、巨大グモを共に目撃し、互いが知る情報を交換した仲。
 仲間と通り一遍の話を交わした後、再び京也と会談しようと考えていた。
 しかし、京也の姿が見当たらない。藤堂という看護師長に訊いてみた。
「ああ、休憩中ですからねえ」
「で、どちらに?」

「モースタン」という喫茶店の名を訊き、山下山男は病院を飛び出す。
 藤堂朝子の肩を、看護師の麗華が突く。
「良いんですか?教えちゃって」
「なに。先生の交友関係が広がるってんなら良いじゃないの」
 呵々と笑う朝子を、麗華は複雑に見る。確かに京也は友達が少ないが。
 彼は、プラナリアを刻んでいたのだ。無意味に。
141ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/13(日) 00:19:30.55 ID:Cdl1hsaA
七話A

 ただ黙してブラックのコーヒーを啜る京也。
 その横に、知った顔が座った。
「よう卜部さん!随分探したよ」
 山下山男。クモ型妖魔を共に目撃し、互いが知る情報を交換した仲。
 山下山男自身は巨大グモが「妖魔」という存在である事も、京也が「仮面ライダー」である事も知らないが。
 それでも山下山男は事件を調査したい。
 しかし、警視庁もマスコミもザラキ天宗に関わる話題で支配されており、蜘蛛モンスターに関しては一切無視を貫いているという。
 鏑木の目がある為、二人は場所をカウンターから奥へ移す。
「つまりだ卜部さん。ザラキとあのクモは仲間じゃないんだ。そしてクモは、正体を探られると上層部が迷惑する存在」
 山下山男はそれだけ理解している。
 知っているとも言えず、黙って二杯目のブラックを啜る京也。
 京也に構わず、山下山男は疑問点を列挙する。
「上層部はザラキ天宗ばかりを敵視し、なぜモンスター共を無視するのか。モンスターを始末しているのは何者なのか。卜部さんはどう思う?」
 京也はカップを、やや粗雑に置いた。目を伏せる。
「帰って…もらえますか」
 カップに残ったコーヒーに浮かぶ波紋が、京也の苛立ちを示していた。
 困惑する山下山男。
「何か気に障ることでも…」
「帰ってくれ。俺は何も知らん!」
 知らず、テーブルを叩いた。
 目を白黒させる山下山男を睨み、初めて忘我を自覚した。
「…失礼。ただ俺には何も言えません」
 それだけ言って、荒い呼吸と共に額を手で抑えた。
 理由は分からないが、気分を害したらしいので山下山男はこれにて退散する。
 ただ、そういえばこのマスターの写真が病院の額縁に入っていたっけ、と山下山男は思った。
 刑事が去り、相変わらず荒い呼吸を続ける京也を老人は見守る。
「京也君。病院以外で何かあったね」
 でなければ、精神安定剤を三十錠も欲さないだろう。
 鏑木は、京也の病院の前院長だ。
 京也は腕こそ確かだが、情緒不安定な傾向がある。
 それは鏑木も看護師長の朝子も理解しており、その上で院長だった鏑木は京也を雇用した。
 いわば、黙認だ。
 そして鏑木が個人的に精神安定剤を渡す事で、京也は平常に業務に就いている。
「京也君。お父さんは、どうだい?」
「仮出所はしたようですが…会いたいとは思いませんからね」
 ようやく平常心に回帰した京也。しかし、額の古傷を撫でている。
 既にそれは彼の癖。
142ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/13(日) 00:31:52.93 ID:Cdl1hsaA
七話B

 京也の父親は十五年ほど前、突如、卜部家の「鬼の心」に覚醒した。
 破壊、殺戮衝動に抗えず、家族に向かって包丁を振り回し、京也の額と心に深い傷を刻み込んだ。
 その傷を診たのが当時の院長、鏑木であった。
「以降、君はお母様と二人三脚で頑張ってきた」
 三杯目のブラックを啜り、京也は鏑木を見上げる。
「先生も確か…」
「私も片親だ。君とは逆に、空襲で母が死んだ。あの時代には珍しくなかったがね」


 六十数年前、少年…鏑木三次(カブラギサンジ)の代わりに芋の金を払って武政は彼の家へ赴いてみた。
 空襲は、物流をも焼き尽くした。芋といえど高級品だ。
「どっからあのお金が出てくるんだろう…」
 卜部の家とは、それほども名家なのか。それとも軍需産業で儲けたのか。
 武政の富豪ぶりを羨みながら、羨んでも仕方ないので下宿屋の娘、美月キヌは風呂場の掃除を続けた。

 三次の家は、その周辺の空気が恐ろしく荒んでいた。
 それに、この一帯では確か連続強盗殺人事件が発生している。犯人は捕まっていないはず。
 三次の家に入る武政。家には、左目を眼帯に覆い右足が見当たらない男が小さく縮こまっていた。
「三次の…父です」
「相当激しい戦いだったっぽいっすね」
 命があるだけマシだ、と父親は自嘲する。武政も先の戦争で多くの戦友を失った。
 どうやら金が無いため病院にもかかれず、父親を見るのに手一杯で貯えが底を尽き、
「思い余って芋どろぼー。なるほどね」
 その家の戸を、やけに派手な洋装の女が開けた。
「ただいま。三次、ご飯は?」
「これから作るよ…芋煮で良いね」
 その女を見て三次が肩を落としたのが見て取れた。
 この女…母親か。その母親の脇に一人、旦那より若い男がいる。
 三次が台所へ向かったのを確認し、三次の父、晋也は妻に憤りの視線をぶつける。
「その男を連れてくるなと言ったろ。三次はまだ八つだ」
 しかし妻、早苗はあっけらかんとしている。
「文句言わないでよ働けないくせに。それに私と太吉は愛しあってるもん」
 横の若い男、太吉と笑い合う。なるほど、旦那が動けないのを良い事に公然と不倫か。
 正面から早苗を叱責する武政だが、彼女の意志は揺るがない。
「私と旦那の間に愛は無い。私は太吉と出会った事で愛を知ったの。不倫と言われるなんて意外だったわ」
 太吉は堂々と食卓に腰を下ろす。まるで自分こそが早苗の夫であるかのように。
143ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/13(日) 00:50:12.74 ID:Cdl1hsaA
七話C

 三次の父、晋也は動かない体を目一杯動かし、太吉に詰め寄る。
「もう出ていけ…ここは俺の家。早苗は俺の妻だ」
 土間で三次を手伝いながら、聞き耳を立てる武政。
「悪いが、俺は早苗に惚れている」
 太吉のナルシスティックで身勝手な言い分。
 しかし早苗も太吉に惚れているらしいので、ここに第三者が介入すべきか迷う武政。
 三次と武政の作った芋煮の八割は早苗と太吉が食ってしまった。食事を終え、再び出かける二人。
 この時代に、母親があれほどの快楽主義者だった事が三次の不幸か。
 子供は親を選べない。残った僅かな芋を分ける、三次と晋也。
 少年の目に涙。哀れだと思った。
 武政は、懐に隠しておいたコンビーフ缶を開け、三次と晋也へ譲った
「食っときな。今後進駐軍からこんなんばっか食わされるよ」
「しかし…」
 感謝よりも困惑が先に立つ晋也へ、武政は笑う。
「二人で何してんのか、ちょっと見てきますわ」
 言って武政は、早苗と太吉、二人の後をつけた。
 呆然と見送りつつも、とりあえず父子は贅沢な肉料理を食した。
「あんなお金、どっから出てるの?」
 三次は武政に対し、キヌと同じ感想を抱いた。

 暗がり。早苗は懐から幾らかの金銭、進駐軍の缶詰め等を取り出し、太吉に譲っている。
「あんなもん…何処で手に入れたわけよ」
 そういえば、と武政は思った。そもそも早苗は服装から化粧品から高級なものだ。
 欧米いわく、日本は男尊女卑が激しいらしいし、その上この敗戦による貧困。
 一人の主婦がどんな仕事であれだけの大金を得る?
「とりあえず、早苗さんは太吉さんに金を渡してるのが確定。さて、その金の出どころはっと…」


 六十数年後、四限目の空いた斎は凉ちゃんと共に学食にいた。
「てかイツキさ、まだあの医者と付き合ってないの?」
「そりゃ卜部さん格好良いけど…そういう関係じゃ…」
 念珠の使い方を示唆し、京也を戦いに招いたのは自分だ。
 だからこそ、これ以上深い関係にはなりたくない。
 そもそも、自分が何故仮面ライダーの記憶を持っているのか理由が分からない。
「良いと思うけどな医者。もうさ、ヤっちゃってさ、既成事実作ったら?」
「駄目だよ!わたし…いっつもマグロって言われるから…」
 一応、斎にも男性経験はある。ただ、対人が苦手で自信が無い。交際自体も一週間続けば長い方だ。
 四十人近くを食った凉ちゃんには分からない苦労なのだ。
144ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/13(日) 01:09:12.06 ID:Cdl1hsaA
七話D


「いかん、お絞りが切れた」
 鏑木三次は店番を京也に任せ、裏口から倉庫へ向かった。
 休憩時間はそろそろ過ぎる。京也も病院へ戻りたいのだが。
 だが突如、京也の耳に悲鳴が刺さった。先程の倉庫からだ。
 店を無視して駆けつけてみれば、巨大な蜥蜴(トカゲ)の傍らに、流血し倒れた鏑木がいる。
 言葉より行動より先に、京也は怒りを表出した。
 目は赤く輝き、腰にベルトが形成される。
「…貴様」
 卜部の血筋には時折、快楽殺人者が出現する。
 呪われた血筋。心の鬼が命じる殺戮。
 父親を支配し、自分の額と心に深い傷を刻んだ卜部の鬼の衝動。
 だが今の京也には、鬼に抗う必要を感じなかった。
 「召鬼」の念珠を、叩きつけるようにベルト中央の宝玉「オニノミテグラ」へ接触させる。

「変身!」

 鏑木は、実の父よりも自分の父親でいてくれた人。
 咆哮と共に、京也は白い外骨格に覆われた魔人へ姿を変える。
 心を憎しみに支配されれば、卜部家の者は殺戮を歓ぶ「人鬼」へ変貌してしまう。
 悪鬼に体を、心を乗っ取られる。
 仮面ライダー=京也はその危険性をも忘れ、大トカゲへ飛びかかってゆく。

「駄目…鬼に呑まれないで!」
 学食のど真ん中で斎はそう呟いた。
 斎の脳に、直接何らかの信号が入力されてくる。
 京也の異変を感知したのだ。
 呆気に取られた凉ちゃんを尻目に鞄を取る。
「ごめん、今日のゼミ休むって言っといて!」
 斎は京也の元へ、全力で駆け出した。


 六十数年前、早苗と太吉を尚も追う武政。
 スラムを出て、比較的人通りのある道へ出た。すると早苗は一人の老人を物陰に連れ込み、身ぐるみ置いてゆくよう要求する。
「おいおいカツアゲか?」
 止めようとする武政。これが派手な服装、贅沢な食糧の理由か、と思った。
 だが、武政の見通しは眼前の光景より甘かった。
 断る老人を冷たく見やり、腰に出現したベルトのスイッチを入れる早苗。
 と同時に、彼女の体は変質した。
 体色こそ赤いが、全体的にはヤモリに似る。
 ヤモリ女は鋭い爪で近場のコンクリート壁を引き裂く。
 改造兵士、との呟きを武政は何とか飲み込む。
「さ、こうなりたくなかったら金を出すのね」
 金を出してもコイツの姿を見た。どのみち殺される。せっかく戦火に耐え抜いたのに。
 観念する老人。その時。
「やめれっ!」
 武政だ。ヤモリ女に跳び蹴りを浴びせ、老人を逃がす。
145ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/13(日) 01:35:41.64 ID:Cdl1hsaA
七話E

 何処かの暗闇。邪教、ザラキ天宗の本拠地。
 早苗を怪人へ改造した董仲僧正と、同じく改造され董仲ら高僧にかしづく信者ら。
 だが、高僧でもないのに一人だけ、董仲に真っ向から意見する者がいた。
「鏑木早苗…あれほど好きにさせて良いのだろうか?」
 御杖喜十郎というこの男は、信者ではない。あくまで一協力者に過ぎない。
 董仲は笑ってみせる。本心を悟られないように。
「彼女は抑圧されていたのだ。我らの教義に出会い、その抑圧から解放された。少しは自由にさせてやっても良かろう」
 御杖喜十郎は、苦笑して息を吐く。
 派手に暴れていれば、遅かれ早かれ進駐軍は異常に気付くのに。

「あんた…また邪魔を!」
 早苗が変身したヤモリ怪人は怒りを顕わにするが、武政は手を振る。
「息子さんの健全な成長を邪魔する母親も良くない」
 切り砕いたコンクリート片を投げつける怪人だが、武政は拳でそれを跳ね返す。
 怯んだヤモリ怪人。そこへ。
「早苗!ケガ無いか!」
 太吉が駆けつけ、醜悪なヤモリ怪人を庇う。
 ヤモリ女と太吉、二人と対峙する武政。
「つまり何か。早苗さんは改造兵士で、その力で人殺して金盗んで太吉さんに貢いでいた…と」
「私は彼に何かしてあげたかったの!」
 互いを愛しあっている。互いを想う気持ちは本物。
 それで強盗殺人、育児放棄か。
 だが、太吉も武政に負けない。
「俺は彼女が改造兵士であると知っても構わずに愛した!」
 我が意を得たり、と同調するヤモリ女。
「そうよ。これは種をも越えた愛なのよ!」
 そう言われ、隠して武政の怒りが沸点に達した。
「ガキの前で不倫を美談みてーに語ってドヤ顔してんじゃねえよ」
 この周辺で連続して発生していた強盗殺人は、この母親、鏑木早苗の仕業。
 金品や食料を奪い、男に与えるために。
 早苗は言う。
「三次は旦那に託すわ。あの人ならきっと立派に育ててくれる」
「てめえで育てる意欲は無しですか…ヤバイな、もー怒った」
 泰然たる表情の武政。しかしその両目が赤く輝き、腰に骨片を繋いだようなベルトが出現する。
「人の親を殺すってのも気い進まねえけど」
 しかし、彼女はこれまで幾度も見知らぬ者を男のために殺してきた。
 それはこれからも止まぬだろう。二人が愛しあっている限り。

「悪いね…変身っ!」

「召鬼」の念珠をベルトと接触させて心の「鬼」を表出し、武政は刺々しい魔人へ姿を変える。
146ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/13(日) 01:59:05.58 ID:Cdl1hsaA
七話F

 武政が変身した、その姿に驚愕するヤモリ女と太吉。
「あんた…その姿は何?」
 赤い目を持つ仮面ライダー・ブレイクフォームは、拳を開いては握りを繰り返す。
「問題です。カマキリ男、カメレオン男、コブラ男。さて誰に殺されたんでしょう」
 仮面ライダーは、立ち竦んだままの太吉を退かせ、ヤモリ女の顔面を殴打する。
「ぐふっ…」
 地を這う怪人へ、言い放つ。
「オレは仮面ライダー。おたくの敵。でもって三次の味方」
 怯えるヤモリ女。
 武政が変身したこの仮面ライダーとかいう怪人、文字通り桁違いの腕力を誇る。
 だから、哀願に移った。
「お願い、私達の愛を邪魔しないで!恋愛は個人の自由、権利でしょ?」
「親んなったら権利の前に義務だろ常識的に考えて。しかも育児放棄とかさ…」
 仮面ライダーは一旦手を叩き、その母親=改造兵士ヤモリ怪人を指差した。

「オレね、お前みたいな奴が世界で二番目に嫌いなんだわ!」

 ようやく立ち上がったヤモリ怪人。
 元が女だろうが関係無い。跳躍すると、仮面ライダーは怪人の顔面へ膝を入れる。
 よろめく怪人、着地する仮面ライダー。
 その反動で突進し、強烈なショルダータックルを決める。
 仮面ライダーの肩には鋭い角が生えている。
 それが脇腹に突き刺さり、吐血するヤモリ怪人。
 間合いに入った。仮面ライダーは敵の首を掴み、そのまま持ち上げた末、体重をかけてヤモリを地面に打ちつける。
 その時、成り行きを見守っていた太吉が仮面ライダーを羽交い締めにする。
「早苗!今だ逃げろ!」
 仮面ライダーの力では、太吉を振りほどこうとするだけで彼の体を破壊してしまう。
 二人の愛は本物。だが、その為に一体幾人を傷つけた。
 太吉を見捨て、逃走を図るヤモリ女。
 仮面ライダーは「鬼馬」の念珠を使う。
「逃がさねえよ。スカルレイダー!」
 進駐軍が棄てた、既に動かぬバイク。
 それを仮面ライダーの装甲と同質の生体強化外骨格が覆い、生体マシン「スカルレイダー」へ変貌する。
 無人で走り込んできたスカルレイダーが、逃走するヤモリ怪人に体当たりを浴びせた。
 更にスカルレイダーはその場で高速回転、周辺に強風を巻き起こす。
 その風圧で音吉を振りほどくと、仮面ライダーは再び跳躍、スカルレイダーの車体を蹴り反転する。

「ライダーキック!」

 その叫びと共に、右足をヤモリ怪人へ叩き込む。
147ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/13(日) 02:10:48.52 ID:Cdl1hsaA
七話G

 自分が引き裂いたコンクリート壁に沈むヤモリ怪人。
 そこへ、尚も仮面ライダーは助走を付け突進する。
「早苗っ!」
 太吉の叫びを無視して。

「ライダー…パァンチッ!」

 怒りの拳はヤモリ怪人を、コンクリート壁ごと微塵に粉砕した。

 燃え尽きたヤモリ怪人=早苗。その焼け跡を見て嗚咽をもらす太吉。
「何て事を…いつもの礼に、俺が豚汁を作ってやろうと思ってたのに…」
「その作り方誰から教わった?」
「別れた前の女房…」
「もうお前一緒に死んじゃえよ」

 ヤモリ女=早苗は死亡。武政は太吉を警察へ連行する。
 しかし、改造兵士と共謀して強盗殺人に加担していたと正直に言ったところで逮捕してくれるだろうか?
 と心配だったので、あっさり逮捕してくれたのに驚いた。
「政府は…改造兵士の存在を知ってるっつう事か?」
 早苗が死んだ今、太吉は遺族へ一生かけて償いをせねばなるまい。
 三次にも近づけぬだろう。そう考えると多少気分は良かったが、三次に何と言えば良いのか考えるとやはり気が重い。
 そして、国は何を知っているのか。


 六十数年後、仮面ライダー=京也はトカゲ妖魔をひたすらに殴っていた。
 周囲を飛び回り、衝撃で瓦礫が落ちようと自分には蚊が刺した程度にも感じない。
 ともかく眼前のトカゲ妖魔を血祭りにあげる。
 その事のみに心を支配されているため、傍らに倒れた鏑木を全く気にしていない。
 その様を遠目から見物し、ほくそ笑んでいる青年。
「フッ。それでいい…卜部の鬼。そのゲスな本性を見せるんだな!」
 都市保安庁の使者、御杖は長いアゴを掻いて笑う。

怒りと高揚の雄叫びをあげる仮面ライダー。
 彼の元へ走る斎。
「卜部さん、鬼に乗っ取られないで…自分を取り戻してっ!」

続く
次回 第八話「正義の羅刹となるべし」
148ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/13(日) 02:14:53.43 ID:Cdl1hsaA
七話、以上です。
>>145ですが正しくは
「そう言われ、隠していた」です。
「いた」が抜けていた。
冷静にやらなきゃいかんですね
149創る名無しに見る名無し:2011/11/14(月) 00:18:36.43 ID:lx85p2rL
常駐はしてないですが見ました。がんばれー

誤字脱字は落とす前に確認するか、落とした後に気づいたらもう放置するべきだと思います。愚考ですが
150ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/14(月) 21:38:31.42 ID:EsG6otte
八話@

 父親同然の鏑木前院長を妖魔に傷つけられた。
 卜部京也=仮面ライダーの怒りは、力の源となる「鬼」と同調した。
 結果、仮面ライダーは殺戮を求める「鬼」の意思に支配された。
 彼は周囲へもたらす被害を一切気にせず、ひたすらに妖魔を攻めたてる。

仮面ライダーネメシス第八話「正義の羅刹となるべし」

「卜部さん…?」
 現地に到着した斎。予想通りの惨事。
 仮面ライダー=京也は全てを破壊する魔神と化している。
 卜部の血筋には、殺戮を愛好する「鬼」と呼ばれる因子が宿る。
 これが卜部の血に遺伝する「鬼」の姿か。
「やめて、卜部さん!」
 仮面ライダーは動きを止め、斎を振り向く。
 だが正気を取り戻してはいない。京也は、眼前の赤髪の少女をも抹殺対象と見なした。
 自分を遮る者は全て敵だ。
 握りしめた拳が斎へ襲いかかる。
 直接荷重のみでTNT換算値55t。外骨格の振動による分子結合の弱体化で、敵に与えるダメージはその六倍となる。
 そんなパンチが斎を襲い…寸前で止まった。
 斎の眼光が、鋭く厳しいものに変化している。
 京也を支配している鬼が、この眼光に逆らえず拳を止めたのだ。
「やめてと言ってる…意志を強く持ちなさい」
 眼光同様の鋭く毅然とした声音。いつもの気弱なイメージとは全く異なる。
 そこで漸く、拳から力が抜けた。
「斎ちゃん…大丈夫か…」
 鬼の意思の暴走。そのキックバックに耐え切れず、膝を折る仮面ライダー=京也。
 しかし、斎は未だ厳しい態度を崩しはしなかった。
「自失してる場合じゃない。早くあの人を病院へ」
 仮面ライダーはトカゲ妖魔とその足元に転がる鏑木を見る。
 辛うじて仮面ライダーは京也としての冷静さを取り戻し、「鬼風」の念珠を取り出した。

「…超変身!」

 赤い目が紫へ変わる。
 自然現象を操る特殊形態「ディザスターフォーム」へ変身した。
「ライダーブリザード!」
 「氷鬼」の念珠で吹雪を呼び、妖魔を凍結させて鏑木を救出する。
 妖魔に止めを刺す暇など無い。一刻も早く、病院へ鏑木を運ばねば。

 鏑木を連れ、去っていった仮面ライダーと斎。
 それを遠目から眺め、スーツ姿にアゴの長い男、御杖は軽く舌を打つ。
「ち!暴走を止めるとはな」
 凍結したトカゲ妖魔。御杖はそれに、発信器を取り付けた。
 この妖魔が復活すれば、今度こそ仮面ライダーは怒りに忘我するだろう。
 その時が勝負だ。
151ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/14(月) 22:23:41.46 ID:EsG6otte
八話A

 卜部の鬼は殺戮を愉しむ怪物である、と市民へアピールし、その上で怪物として始末するのだ。
 この妖魔は、卜部の鬼=仮面ライダーを釣り出すエサになる。
 だから御杖は、妖魔を放置した。
 スーツ姿に似合わないアメリカンスタイルのバイクを駆り、その場を去る。
 走りつつ思考した。
 仮面ライダーの暴走を止めた、あの少女は何者だ。
 御杖はあの顔に見覚えがあったが、どこで見たのかは思い出せなかった。

「鏑木先生!」
 看護師長、朝子の悲鳴。血塗れで辛うじて呼吸を保っている鏑木。
「オペの準備。急いで」
 京也はそう朝子へ告げる。平静を保っていないのは震える声音から明白だった。
 手術室へ運ばれる鏑木。その手前で待たされる素早く仕事着に着替える京也。
 だが、鏑木はかなりの高齢だ。
 素人の斎から見ても、手術に耐える程の体力は無さそうに思えた。
 オペが始まった。
 執刀しつつ、自らの暴走を呪う京也。その間、妖魔は動かなかったようだ。
 凍結が長時間続いたか、或いは仮面ライダーの暴走により深手を負ったか。
 時折、京也の執刀の手が鈍る。恐怖に目を見開き、呼吸も荒い。
 それでも長時間のオペを終え、その後京也は真っ直ぐ便所に駆け込んだ。
 斎の耳に、苦悶し嘔吐する京也の声が響く。
 およそ十五分後、青ざめた面で姿を現した京也。
「卜部さん…?」
「…どいてくれ」
 弱々しい声、おぼつかぬ足どりで斎を拒絶し、控え室へ入って扉を乱暴に閉める。
 息を吐く斎。京也のふらついた足に踏まれた床を何気なく見渡し、白い錠剤を発見した。
 京也が落としたものか。ラベルの名を読む。
「アルプラ…ゾラム?」

 控え室には先客がいた。看護師の麗華だ。
「お水、置いときましたから」
 見れば、テーブルに確かに水の入ったコップ。
 京也は深く椅子に座り込み、麗華を見返す。
 つまり、さっさと頓服薬を飲めと言いたいのか。
「俺は薬物には依存していない。…そういう前提で働いている」
 麗華は苦く笑う。
「私も、ただ先生が疲れただろうと思って水を汲んだだけです。体裁としてはね」
 言って立ち去る麗華。
 京也は素早く私服から錠剤を取り出す。
 ただ、三錠入れておいた筈だが、一錠足りない。


 六十数年前、卜部武政は困惑していた。鏑木三次の母親を殺した自分。
 彼女は改造兵士で、またその力を使い人々を殺傷、金品を奪っていた。
152ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/14(月) 22:33:05.55 ID:EsG6otte
八話B

「だからって…この業は消えねえんだよなあ」
 そう呟く。
 三次の家にはもう、片目片足を失った父親しかいないのだ。
 やりきれなくなり、それでも不安で三次の家を再び訪ねる武政。
 だが、母親が行方不明という体裁になっている割に、三次の機嫌は悪くなかった。
 見れば進駐軍のジープが止まっている。
 車上の同僚らを待たせながら、一人の兵士が三次ら近所の子供達にチョコレートを配っている。
 こういった場合、走る車からばらまくのが一般的であるが、その兵士はしゃがみ、子供達一人一人に目線を合わせて菓子を配っていた。
「アメリカ軍は、もーちょい上から目線の人達だと思ってました」
 一通り菓子を配り終えたその兵士に、挑発的に話しかける武政。だが兵士はあくまで冷静に返す。
「どの国でも子供は大事。それに彼らは一方的な戦火の犠牲者だ」
 饒舌な日本語に仰天する武政。兵士は、大喜びで家路につく三次を見送り呟く。
「今、最も心配なのはあのサンジです。障害を持った父親しかいない。食べてゆけるとは思えないから」
「んじゃ何か片足でもできる仕事を紹介してやってよ」
 と武政は兵士に注文する。
 無茶な注文だと武政自身も思ったが、兵士は笑顔で頷く。
「へえ、日本人より大和魂持ってるね。オレは卜部武政。おたくは?」
「レイモンド・マグラーという」


 六十数年後、斎の持ってきた錠剤を受け取り、三錠を一気に流し込む京也。
「卜部さん、それって…精神安定剤じゃ…」
 頷く京也。手術中、フラッシュバックに襲われた。
 十五年前、父親に殺されかけた際の記憶がオペ中幾度も鮮明に蘇った。
 京也は通常、そのフラッシュバックを薬剤で抑えているのだが。
 しかし今回は鬼の心に飲まれかけ、怪我をした鏑木への処置を忘れた自分への憎しみが強い。
 それゆえ精神の平衡を欠き、発症してしまったようだ。
「もっと早く治療が出来ていれば無事に済んだんだが…今は予断を許さん状態だ」
 集中治療室で眠る鏑木。
 出来る限りの処置は施した。あとは鏑木次第。
 しかし既に齢七十を超える身。無事に回復する可能性は高くない。
「俺の責任だ…」
 なぜもっと早く病院へ運ばなかったのか。
 左腕で体を抱き込み、右手で顔を覆う京也。呼吸が荒く、全身を震わせている。

 祈らずにいられない。彼は自分の本当の父親だから。
「ごめんなさい…卜部さんも辛いのに偉そうなコト言っちゃって」
153ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/14(月) 23:34:11.23 ID:EsG6otte
八話C

 震える京也の手に自分の手を重ねる斎。
「よしてくれ」
 京也は反射的に手を引っ込め、初めて斎の気遣いに気付いた。
「いや…失礼した」
 斎は笑い、改めて京也の額の古傷を見る。
 これを刻んだのは、京也の実の父親。京也はその男を、父親ではないと必死に自分に言い聞かせている。
 だから鏑木に父性を感じるのだろう。
 薬剤の効果で、何とか不安感を払拭した京也はその古傷を撫で、自分を制した斎の言動を回想する。
「正直…驚いた。君からああも強い言葉が出るとは」
 斎は微笑み、京也は視線を逸らす。
 ただ、鏑木の回復を祈る点で二人は共通していた。

 香の匂いがきつい、何処かの暗闇。
 ザラキ天宗の高僧、董仲の声が響く。
「卜部の鬼の暴走か…ならば今奴と戦えば、奴は再び暴走する」
 そうなれば、国はザラキ天宗のみならず、卜部の鬼をも敵と見なすだろう。
「砂の水樽!」
 董仲に呼ばれ、サボテンに似た改造兵士が立ち上がる。
「お前に任務を与えます。雷蜥蜴を折伏。共に卜部の鬼と戦いなさい」
 雷蜥蜴とは、仮面ライダーに敗れ負傷した、トカゲ型の妖魔。
 折伏とは調伏とも呼び、妖魔を法術で配下におくことを表す。
 改造兵士は、仮面ライダーを再び暴走させるため出陣した。


 六十数年前、香の匂いがきつい何処かの暗闇。
 ザラキ天宗の高僧、董仲は焦燥を隠さなかった。
 改造実験の素体を集める任務に従事していた改造兵士らが、続々と消息を絶った件だ。
 改造兵士らは自分達ザラキ天宗の信者であると共に、日本を攻撃するための貴重な戦力でもある。
 その事ですが、とコンドルに似た怪人が立ち上がる。
 改造兵士らの相次ぐ失踪を訝しんだ董仲ら高僧は、超高空を飛行する能力を持ったこの改造兵士にヤモリ女=鏑木早苗の動向を監視させていた。
「彼女は殺害されました。…これは御杖様に申し上げるべきことかと存じますが」
「私に?」
 御杖と呼ばれた、四十代前後の紳士が首を傾げる。コンドル怪人は頷く。
「卜部の鬼が覚醒し、よって鏑木早苗は殺害されました。これまで失踪した同志らも、恐らくは卜部に」
 御杖喜十郎は、笑った。やや長いアゴを撫でる。
「フッ。確かに私の出番かな」
 ならば、卜部の鬼への対策は御杖に任せよう。
 そう董仲は判断し、コンドル怪人へ指令を下す。
「鏑木早苗には夫と子がいたね。何かを知っているとマズい。始末しなさい」
「御意!」
154ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/15(火) 00:08:26.66 ID:rEps40XD
八話D

 飛び立つコンドル怪人を見送る董仲。
 建て前としては、改造兵士の家族だった人間ならどんな秘密を知っているか分からないから始末しろ、ということ。
 しかし正直、夫や子が早苗について何を知らなくともザラキ天宗には関係ない。
 夫は戦禍で片目片足を失ったらしい。そんな欠陥品なら、改造兵士にしようが無力も同然。
 子共々、死んでもらって問題無かった。

 自宅へ向かって駆ける三次を空中から狙う影がある。
 コンドル型の改造兵士。三次を始末しに来た。
 彼は愚かにも、董仲の建て前を信じていた。
「改造兵士の親族ね…どんな秘密を知っているかも知れん。ここで消してくれる」
 そう一人ごちた直後、自分を突き刺す鋭い視線を感じた。
 数ヶ月前の東京大空襲。
 その瓦礫の中に凛と立つ一人の少女。手には、日本刀。

「散りなさい」

 その言葉と同時に少女は抜刀する。
 コンドル怪人は少女の上空約30mに在ったが、その刀は確かにコンドルを捉え、周囲の次元ごと切り裂いた。
 素粒子レベルで寸断されたコンドル怪人はその存在を三次に気付かれる前に呆気なく四散。
 少女は刀を鞘に納め、突然の爆発音に吃驚している三次へ歩みを進める。
「美月屋を知らない?」
 三次が硬直していることなど、少女には無関係。
 少女は、一切の色を放射しない眼光で三次に問う。


 六十数年後、斎は京也に頼み込み、彼が祖父、武政より託された全ての念珠を召喚させた。
 斎はその中から「昂鬼」「鬼馬」「鬼弩」を拾い上げる。

「時空衝撃波」

 斎はそう言う。京也は首を傾げる。
「それは?」
「時空の歪み、それ自体をエネルギーにして相手にぶつけて分解する。それが時空衝撃波で、変身した鬼でしか発生させらんないエネルギーです」

「昂鬼」は通常形態、ブレイクフォームの念珠。物体を分解する陽炎を手足に発生させ、破壊力を強化する。
「鬼馬」は京也の愛車を生体バイク、スカルゲッターへ変形させる念珠。ゲッターキャノンという砲塔から、陽炎に似たエネルギー波を放射する。
「鬼弩」は特殊形態、ウイザードフォームの武器、ウイザードアローを形成する念珠。ウイザードアローは陽炎状のエネルギー波を矢として発射できる。

 なる程。あの陽炎が、時空衝撃波。
 ならば、時空衝撃波を連続で叩き込めばダメージは大きい。
 自分は医者だ。患者を看るのが最優先。戦いは出来るだけ手早く済ませたい。
155ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/15(火) 00:25:30.28 ID:rEps40XD
八話E

 ならば、やはりブレイクフォームで「昂鬼」だろうか。
 だが斎は、未使用の念珠「猛鬼」を拾い上げた。
「この念珠も、仮面ライダーを別の姿に変身させるヤツです」
 でも、と斎は言いよどむ。
「この姿に超能力は無いんです。ただひたすら、相手を破壊する能力に特化した姿」
 ならば尚のこと力に飲まれないよう注意せねば。
 京也は錠剤をもう一錠入れ、自分、母親、鏑木で写った写真を胸ポケットに入れ精神を落ち着かせる。
 妖魔は倒さねばならない。自分の精神的な脆さを知り、それでも働かせてくれた鏑木三次のためにも。
 卜部京也は、京也として鬼の力を制御してみせる。

 六十数年前、三次の家でレイモンド・マグラーがカマボコ板と睨めっこしていた。
「鏑木、ね。鈴木じゃないからね」
「サンジ。黙っててくれるかい?」
 いつの間にか、三次とレイモンドはすっかり懇意になっていた。
 前の表札が戦火で炭になったので、この家の新しい表札を作るのだ。
 しかし父親は筆を握れる体でなく、三次は字を習っていない。
 そのためレイモンドが赤紙の表記に従って、妙に角ばった漢字をゆっくりと記していく。

を使えば良い?」
「『猛鬼』ですね。完全に敵を破壊する事へ力を特化する念珠」
 ならば尚のこと力に飲まれないよう注意せねば。京也はもう一錠プロザックを入れ、自分、母親、鏑木で写った写真を胸ポケットに入れ精神を落ち着かせる。

 六十数年前、三次の家でレイモンド・マグラーがカマボコ板と睨めっこしていた。前の表札が戦火で炭になったので、この家の新しい表札を作るのだ。
 しかし父親は筆を握れる体でなく、三次は字を習っていない。そのためレイモンドが赤紙の表記に従って妙に角ばった漢字をゆっくりと記していく。


 六十数年後、斎が妖魔の気配を察知した。
「来ました!」
 京也は一つ頷き、斎の指示した場所まで愛車を走らせる。
 見ればサボテンに似た怪人と、凍結を脱した巨大トカゲが暴れている。
 改造兵士と思しきサボテン怪人は棍棒とそこから飛ぶ針、トカゲ型の妖魔は口から吐く電撃球を武器にしているようだ。
 あのトカゲが、鏑木三次を。
 再び憎悪の衝動が京也を襲うが、それを一旦飲み込む。
 鬼の心に支配されてはいけない。
 しかし、既に腰にはベルトが形成されている。恐らく目も赤く光っているのだろう。

 怒りを武器にしろ。怒りに飲まれるな。
156ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/15(火) 00:46:29.22 ID:rEps40XD
落ち着け俺。>>155は無かった事に。

八話E

 ならば、やはりブレイクフォームで「昂鬼」だろうか。
 だが斎は、未使用の念珠「猛鬼」を拾い上げる。
「この念珠も、仮面ライダーを別の姿に変身させるヤツです」
 ただ、と斎は言いよどむ。
「この姿に超能力は無いんです。完全に敵を破壊する事へ力を特化する姿」
 ならば尚のこと力に飲まれないよう注意せねば。
 京也は錠剤をもう一錠入れ、自分、母親、鏑木で写った写真を胸ポケットに入れ精神を落ち着かせる。
 京也は、京也として鬼の力を制御してみせる。
 自分の脆さを知り、その上で働かせてくれた鏑木三次のためにも。


 六十数年前、三次の家でレイモンド・マグラーがカマボコ板と睨めっこしていた。
 前の表札が戦火で炭になったので、この家の新しい表札を作るのだ。
 三次とレイモンドはすっかり懇意になっていた。
「鏑木だからね。鈴木じゃないからね」
「サンジ。黙っててくれるかい?」
 父親は筆を握れる体でなく、三次は字を習っていない。
 そのためレイモンドが赤紙の表記に従って、妙に角ばった慣れない漢字をゆっくりと記していく。


 六十数年後、斎が妖魔の気配を察知した。
「来ました!」
 京也は一つ頷き、斎に指示された場所へ愛車を飛ばす。
 見れば、サボテンに似た怪人と凍結を脱した巨大トカゲが暴れている。
 改造兵士と思しきサボテン怪人は棍棒とそこから飛ぶ針、トカゲ型の妖魔は口から吐く電撃球を武器にしているようだ。
 あのトカゲが鏑木を。
 再び憎悪の衝動が京也を襲うが、それを一旦飲み込む。
 鬼の心に支配されてはいけない。しかし、既に腰にはベルトが形成されている。
 恐らく、目も赤く光っているのだろう。

 怒りを武器にしろ。怒りに飲まれるな。

 相反する二つの自戒を心に刻み、「召鬼」をベルトへ接触させる。

「…変身」

 白く禍々しい影が、愛車を降りた。

 暴れるサボテン怪人の聴覚器官に、何かが背後から接近する音が届いた。
「おい、街中で騒ぐな」
 振り返れば奴がいた。
 仮面ライダーは、トカゲ妖魔を観察する。
 魔法陣らしいものが、脇腹に描かれていた。
 前回の戦闘では見られなかったものだが、その図形に見覚えはある。
 以前、コウモリ怪人が妖魔ハネサソリを召喚するため描いたのと同じものだ。
 やはりザラキ天宗の改造兵士は、妖魔を配下に置く術を持っているのか。
157ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/15(火) 00:58:30.65 ID:rEps40XD
八話F

「出たな仮面ライダー!お前にとっては憎くて憎くてたまらん妖魔を連れてきてやったぞ…ぐへっ」
 自慢気にトカゲ妖魔を紹介するサボテン怪人だが、そのサボテン怪人が先に仮面ライダーに殴られた。
 何の術かは知らないが、ともかくこのサボテン怪人はトカゲ妖魔を手懐けたようだ。
 自分はもう鬼には飲まれない。
「先ずは…貴様からだ」
 右拳を右腰に、左手の平を自分の側へ向け重心を低くする独特の構えを取る仮面ライダー。

「来い。俺が相手だ」

 仮面ライダーは真っ先にトカゲ妖魔へ飛びかかるものだと思い込んでいたサボテン怪人はすっかり狼狽。
 しかし、自分がいなければトカゲ妖魔をここまで誘導出来なかったのだから仕方ない。
「くそ…食らえっ!」
 体の突起物をもぎ、それを爆弾として投げつけるサボテン怪人。
 仮面ライダーはそれを回避しない。否、回避の必要が無かった。

「超変身!」

 目が薄青に変わる。
 時間と空間に干渉する「ウイザードフォーム」へ姿を変え、「鬼盾」の念珠を発動する。
「ライダーシールド!」
 仮面ライダーの周囲に時空断裂境界が生じ、亜空間バリアが展開。
 爆弾を完全にシャットアウトする。
「おのれっ…」
 必殺の爆弾を破られたサボテン怪人。
 破れかぶれで棍棒から針を発射する。同時にトカゲ妖魔も、口からの電撃球で仮面ライダーを襲う。
「手早く決めさせろ…ライダーアクセラレート!」
 声が轟くと共に針も電撃球もそれらの主も遅緩し、動いているのは仮面ライダーただ一人。
 「鬼走」による超加速化だ。
 直ぐ様仮面ライダーはウイザードフォームの専用武器「鬼弩ウイザードアロー」を構成し、本来は仮面ライダーを分身させる「鬼幻」の念珠をウイザードアローに読ませる。
 時空衝撃波を矢として撃ち出せるこの弩。
 ほぼ静止したサボテン怪人へ狙いを定める。

「イリュージョンアロー!」

 時空衝撃波を射る仮面ライダー。
 同時に波動の矢が無数に分裂、サボテン怪人へ一斉に突き刺さる。
 分身を形成する「鬼幻」を弩に適用する事で時空衝撃波を分身させたのだ。
 通常の時間流に回帰した仮面ライダーは針や電撃球の弾道から外れ、サボテン怪人の体はその大部分が分解されていた。
 爆弾が暴発したのだろうか?
 そんな疑問が、サボテン怪人の最期の思考となった。爆散するサボテン怪人。
 残るは、トカゲ妖魔のみ。
158ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/15(火) 01:12:11.33 ID:rEps40XD
八話G

 怒りに飲まれるな。
 京也は再び己に言い聞かせ、一旦通常形態ブレイクフォームへ戻った後「猛鬼」の念珠を取り出した。

「超変身!」

 ベルト中央の宝玉「オニノミテグラが」「猛鬼」と呼応し、赤から黄に染まる。
 目も同様に黄へ、体の筋肉組織を走るラインは金へ変わる。
 ブレイクフォームであれば天を向き尖る肩角は、肩を包囲し守るように変形、そこから横へ向けて尖鋭な形状へと更に変容する。  右腕の生体強化外骨格に見える振動カッターは鋸状に変化し、更に前方へ長く伸び刀の様相を呈する。
 左腕の外骨格は肥大化、中心に洞窟のような窪みを持つガントレットに似た形状へ変化し、その窪みより脊髄の断面を思わせるグロテスクな突起が覗く。
 姿を変えた仮面ライダーを襲う、トカゲ妖魔の鋭い爪。
 それを右腕の刀で切り払い、懐に左腕のガントレットを向ける。
 同時に件のグロテスクな突起から陽炎、時空衝撃波が発生し、トカゲを撥ね飛ばした。
 その隙に、後方へ跳躍して距離を置いた。
 右腕に刀、左腕に銃。
 正に敵を破壊する為の姿「バーサークフォーム」
 妖魔の腕力と拮抗した右腕に疲労が残る。
 腕力が低下している。だが、脚力や瞬発力は上昇しているらしい。
 どうやら、一気呵成こそこのフォームの持ち味。
 撥ね飛んだトカゲへ左腕より波動の弾丸を連発しつつ、距離を縮める仮面ライダー。
 長大な尾が仮面ライダーを襲うが、それを右腕の刀「鬼剣バーサークグラム」で切断する。
 しかしトカゲ妖魔は全く臆する事無く、仮面ライダーを正面に捉え電撃球を吐き出す。
 腰溜めにした左腕の時空衝撃波動銃「鬼砲バーサークショット」より再び波動を放ち、電撃球を相殺する。
 がら空きになった口へバーサークグラムを突き立てんとするが、その仮面ライダーの足に何かが絡まった。
 切断した尾だ。尾が自律的に動き、仮面ライダーを攻撃している。
 巨体に似合わぬ敏捷な動きで仮面ライダーと距離を取るトカゲ妖魔。
 口へ電撃が集中している。身動きの取れない仮面ライダーへ電撃球を吐くつもりだ。
 仮面ライダーは尾にバーサークグラムを突き刺すと、発射された電撃球をギリギリまで引き付けバーサークショットで相殺。
 その際の爆風で尾を振りほどく。
 自分自身をバネに尚も仮面ライダーへ突撃しようとする尾。
 対して仮面ライダーはバーサークショットによる集中砲火を浴びせ、黙らせた。
159ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/15(火) 01:36:22.17 ID:rEps40XD
八話H

 切断された尾は粉砕された。
 しかし、妖魔自身の尾は既に殆んど生え替わっている。いい加減勝敗を決さねば。
 妖魔へ向かい疾走する仮面ライダー。
 連続的に吐きつけられる電撃球を刀で弾き、波動銃より数発の波動を浴びせて動きを封じる。
 妖魔の懐で跳躍し、回転を生かし、柔らかい腹をバーサークグラムで切りつける。
 大きく仰け反る妖魔。着地する仮面ライダー。顔に飛沫く返り血が鬱陶しい。
 仮面ライダーは、更に首筋へ一太刀浴びせる。

 絶叫をあげ妖魔が転倒する。そこへバーサークショットより波動弾を三発続けて撃ち込み、終わらせた。

 燃え尽きる妖魔。そこに斎が駆けつけた。珍しく朗らかな笑顔で。
「鏑木さん、意識が回復したそうです!」

 本来ならめでたい状況なのだが、遠目から舌を打つ男の姿があった。
「暴走どころか制御だと?」
 卜部の鬼は、暴走しなければならなかった。
 国家をあげて駆逐する大義名分を整えるために。
 京也を眺めて御杖は吐き捨てる。
「てめえの祖父さん…卜部武政の虐殺はレイモンドファイルにしっかり記載されてんだぜ?」


 六十数年前、三次は父親の仕事が見つかった事を律儀に武政へ報告しに来ていた。
「良かったじゃんよ!なるほどね紡績の仕事か…」
 三次の後ろにいる自慢気なレイモンドが少々うざいが。
 彼が紹介したらしい。また、仕事に使う義足等も彼が用意したそうだ。
「ったくさー戦勝国は余裕があって良いよなー」
 皮肉を隠しもしない武政だが、それでも食い扶持が見つかった事は素直に喜ばしい。
 晴れ晴れとした気持ちで、自宅へ帰る三次を見送った。
 その自宅の玄関には、カマボコ板に下手な漢字で「鏑木」と書かれた表札がかかっている。


 六十数年後、完全に復調した鏑木の退院を見送る京也。
 あのトカゲも妖魔ではなく、やはり「ザラキの生物兵器」として世間には報道された。鏑木に複雑な笑顔を向ける。
 そんな京也の肩を叩く鏑木。
「私を襲ったトカゲだが…死んだのかな」
 曖昧に頷く京也。
 鏑木は、傍らの斎を見る。
「そうか…また仮面ライダーが来てくれたんだな」
 そう呟いた。
 怪訝そうにする京也と斎を尻目に、鏑木三次は悠々と自力で帰宅した。
「…斎ちゃん。多少落ち着いて戦えた。ありがとう」
「私が何かしてあげられたんなら、凄く嬉しいです」
160ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/15(火) 01:40:30.81 ID:rEps40XD
八話I

 鏑木三次を見送りながら、痩身の青年医師、卜部京也と赤髪の少女、梳灘斎は互いに目をそらした。
 照れにより。


 六十数年前、美月屋。
 美月キヌは店を訪ねてきた少女の姿に少々驚いていた。
「い…らっしゃい」
 服装は木綿シャツにモンペと一般的だが、髪は三つ編みでなく、肩にも届かない辺りで切っている。
 またその髪色が赤い。
 それに懐の長細い荷。刀でも入っていそうな。
 少女の眼光は何の色も放射しない。ただ、凛とした声を鳴らす。
「卜部武政を呼んでもらえる?」
 その時、ちょうど武政が通りがかった。
「よぉ、来たか斎!」

少女は宿の台帳に「梳灘 斎」と明記した。

続く。

次回第九話「カニバリズム」
161ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/11/15(火) 02:00:14.37 ID:rEps40XD
>>149
ありがとうございますそして申し訳ないまたやらかした。
何とか冷静に落とせるよう努めたいのですが。
そして、放置できるほど俺の神経は太くないのですw

ちなみに今回で戦闘フォームが揃いました。。

・ネメシス・ブレイクフォーム
京也、武政双方が変身する基本形態。目は赤。
スタミナと腕力に優れる格闘型だが、能力の汎用性に欠ける。
必殺技は自分の破壊力を上昇させるライダーブーストと、その状態から打ち出すライダーパンチ、ライダーキック。

・ディザスターフォーム
京也が変身する特殊形態。目は紫。武器は長槍。
炎、氷、風、雷、重力など自然のエレメントを武器として操る。
身体能力は低い。

・ウイザードフォーム
京也が変身する特殊形態。目は薄青。武器はビームボウガン。
時空間へ干渉し加速、ワープ、透視、バリア、分身などの超能力を発揮する。
身体能力は全フォーム最低。ただし単体で飛行が可能

・バーサークフォーム
京也が変身する特殊形態。目は黄色、武器は剣と銃。
超能力が無い分、身体能力に優れる。
腕力やスタミナはブレイクに劣るが瞬発力に優れ、二つの武器で遠近問わずに戦える。

・オメガフォーム
武政のみが変身する強化形態。目は緑。
ブレイク以外のディザスター、ウイザード、バーサークの能力を同時に行使できる。
そのため技のバリエーションは最強。
ただし、京也はこの姿に変身できない。
オメガの能力を細分化させる何らかの事情があったのかもしれない。
162創る名無しに見る名無し:2011/11/20(日) 17:26:23.40 ID:+mulO309
>>161乙 がんばって!
163ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/01(木) 19:09:28.51 ID:bkq9X8mG
九話@

 警視庁査問会に山下山男警部補の姿があった。
 招致された理由は簡単、ザラキ天宗の解放したモンスターについて彼が単独調査を進めているためだ。
 上層部はそのモンスターに関する一切を隠匿している。
 山下山男にもそれを遵守させねばならない。
「何故ですか!自分はただ市民が心配なだけで…」
「警察の仕事ではない。これ以上介入するなら…君の首も危ういぞ」

第九話「カニバリズム」

 六十数年前、何処かの暗闇。
 邪教、ザラキ天宗にて高僧が集う「本殿」である。
 カメレオン男、コブラ男、ヤモリ女を抹殺した「仮面ライダー」と名乗る謎の存在に、その暗闇の住人は戦慄していた。

 当の仮面ライダー=卜部武政は闇市で出会った少年、鏑木三次と昼間から相撲をとっていたが。
 宿泊費三ヶ月分を前払いした上、場合によってはその延長も考えているらしい武政は美月屋にとっては確かに良い客だが、仕事をしている風でもないのにあの羽振りの良さ。
 美月屋の娘、キヌは首を傾げる。
「ね、斎ちゃんなら卜部さんについて何か知ってんじゃないの?」
 三日前、武政を美月屋に訪ねた謎めいた少女。
 彼女なら武政の素性を知っているとキヌは踏んだが。
「武政さんは南洋に出征し、私と知り合った。それだけよ」
 斎もそれしか言わず、結局分からない。


 分からないのは六十数年後の山下山男も同様だった。
 市民を危険から救うのが警察だというのに。
 上層部は、巨大クモや電撃を吐く巨大トカゲもザラキ天宗の生物兵器で、これらは自衛隊が殲滅したと公式に発表している。
「なら良いんじゃないか?」
 大林という先輩刑事はそう言うが。
「だから先輩。その説明が納得行かないんですよ」
 生物兵器を倒したなら、その残骸程度は回収される筈。
 だがその現物を拝見していない。
 それどころか、回収したという話をそもそも聞かない。
 つまり上層部は、組織の末端に情報を与えたくないのだ。
 となれば、生物兵器という公式発表も怪しくなる。
 だから調べていた。しかし。
「山下。これ以上調べれば首が飛ぶぜ?」
 大林は真摯な口調でそう忠告する。
「自衛隊がやっつけてるなら、自衛隊に任せりゃ良いじゃねえか」
 大林が、自分を気遣ってくれているのは理解している。
 ただ、山下山男個人は全てを知らねば納得できない。
 机を思いきり叩き、この問題について唯一語り合える人物の居所へ向かった。
164ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/01(木) 19:32:03.04 ID:bkq9X8mG
九話A

 父親は所謂出稼ぎ労働者だった。
 日本で働く内、同じく在日中国人という立場を持つ母親と出会い、日本に永住する事になった、と聞く。
 午前十時。そんな母親から声をかけられる。
「いつまで寝てんの。ぼちぼち起きなさい」
 王 麗華は、半分微睡んでケットを抱き寄せる。
「今日は久々の非番なの。好きなだけ寝かせてよ」
 あと数ヶ月で三十代に突入する女性の言う事ではないが、ザラキ天宗の自爆テロ以来、休息というものに縁遠かった。
 そして多分、と麗華は寝床の中で思う。
 肉体面の疲労はさしたる問題ではない。
 ただ、ああした事件があった以上、東京都民が精神までも休息させ得るのは難しいのではないか、と。
 京南大学附属病院。
 麗華は、職場を気に留めた。
 怪物に襲われたという特殊な急患、今日は来るだろうか。

「これ以上調べれば首が飛ぶ…だとさ」
 京南大学附属病院、屋上。
 山下山男がこの問題について愚痴りあえる唯一の相手、卜部京也医師。
 屋上で二人してコーヒーを飲んでいる。
 因みに山下山男はクリーム必須、角砂糖を二つ。京也はブラックのみ。どうでもいいが。
「卜部さん。前にモンスターがもう一匹いて、そいつが巨大クモを倒したと言っていたけど…」

 と言われて、と京也はその夜、バイト帰りに病院へ立ち寄った斎に愚痴る。
「仮面ライダーについて誤魔化すのに相当苦労した」
 京也は仮面ライダーだが、もし仮面ライダーの正体を自分だと暴露したらどうなる。
 日常は騒がしいものに変容する。
 それが嫌だ。ただ山下山男の心情を考慮すれば、やはり話すべきなのかとも思うし。
「俺達は警察と一括りに言うが、怠慢や汚職が横行する一方で熱心な人間もいる。妖魔や仮面ライダーを隠すのは、少々後ろめたい」
 そう言っている間にまた緊急オペが入ったので仕事にかかる京也。
 斎は、既成事実を作るチャンスをまたも逃した。

 何処かの暗闇。ザラキ天宗本殿。
 董仲という高僧が、ピラニアに似た男を静止している。
 ピラニアに似た男は仮面ライダーを倒そうと考えているらしい。
「忘れたか!六十数年前に我らを襲った…仮面ライダーによる虐殺を!」
 しかしピラニア怪人は不敵に笑む。
「俺はもうそれを体験した世代じゃないんだ。仮面ライダーは俺達の脅威なんだろ?勝手にやらせてもらうぞ」 出て行く怪人を、苛立って見送る董仲。
 若い僧、玄達を手招きする。
165ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/01(木) 19:48:08.93 ID:bkq9X8mG
九話B

「出来るならあ奴を死なせたくはない。手は無いか」
 信者の独断専行は、ザラキ天宗自体の壊滅に繋がる。
 現日本政府は、妖魔や仮面ライダーの情報を隠蔽した上で自分達の活動を非難しているのだから。
 玄達はしばし考え込み、首を振る。
「…警察の活動を妨害する手はありますが、自衛隊や仮面ライダーに捕捉されれば同じかと」
 だから恐らく彼は、仮面ライダーに殺される。
 董仲は、他の信者を向く。
「皆さん…またも我らの中から殉教者が出てしまうかも知れません。せめて彼の魂がザラキ天に救われるよう…」
 暗闇は、彼らが崇める「何らか」への祈りの声で満ちた。

 それから数時間後、体の60%前後を欠損した惨殺死体が東京の各所で発見され始めた。
 ザラキ天宗の仕業か。
 それとも巨大なモンスターか、何らかの異なる要因か。
 まずそれが判然としないので、警視庁はとりあえず捜査本部を置く。
「科捜研の榎田さんに曰く、ガイシャは何らかの生物に下水道へ引きずり込まれ、そこで食い殺されたらしい」
 敵は一匹。
 しかし下水道を高速で泳ぎ回っているため、発見は困難だという。
 下水道に人食い怪物。ザラキ天宗の改造兵士か、或いは例のモンスターの仲間だろうか。
 山下山男は単独で出動せんとするが、大林刑事に止められた。
 後は自衛隊の仕事だそうだ。
「しかし!無数に枝分かれした東京の下水道で一匹の生物を見つけられるんですか!?」
「ならお前なら見つけられるとでも言うのか山下」
 反論出来ない。しかしじっとしてはいられない。
 上層部が隠す何かの糸口かも知れないのだ。
「すいません!」
 大林を突き飛ばし、一人パトカーに乗り込んだ。

 腕に生えたカッターをフックに人間を下水道へ引き込み、自慢の顎で食い殺す。
 これで20人目だろうか?
 ピラニアの能力を移植されたこの改造兵士は、仮面ライダーの到来を楽しみに待ち望んでいた。
 これだけ殺せば必ず現れると。

 だが先に自衛隊が動いた。下水道が包囲され始めた。
 しかし山下山男が言った通り、東京の下水道は網の目。必ず手薄な箇所はできる。
 そこに配置された隊員を殺害し、他の隊員を誘導する。
 面倒だ。このまま海に向かおう。そうピラニア怪人は考えた。

 警視庁の捜査本部も動いた。
「陸自より報告。敵は改造兵士の模様。大至急応援を要請すると」
 必然的に、大林は山下山男の後を追う形となった。
166ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/01(木) 20:07:32.94 ID:bkq9X8mG
九話C


 六十数年前、美月屋。
 武政に皿洗いを手伝わせながら、キヌは正面から疑問をぶつける。
「正直さ、卜部さんってどこからお金貰ってんの?」
「…それ聞いてどーすんのさ」
 皿を磨く武政の手が一瞬だけ止まった。
 好機と見てキヌはより突っ込んだ質問をする。
「もしかして戦争ん時に何か凄い功績を立てて…とか?」
 手が止まった武政の「やめろ」という蚊の泣くような呟き。
 震える手で皿を置き、武政は厠へ走る。
 厠の扉を閉める間もなく、開け放しで嘔吐する武政。
 単に吐くのみでは足りぬのか、喉に指を突っ込み、胃の中のものを全て吐き出してしまおうとする。
「う…卜部さん?」
「やめろ…あの味は思い出したくないっつの!」
 これまで見た事もない、武政の感情の発露。それも怒りや悲しみ、憎悪など様々に入り組んだ。
 戸惑うキヌ。そこに斎が現れた。
 武政の肩を優しく抱く。
「大丈夫よ。ここは日本。もう殺さなくて良い」
 吐き続ける武政を、凛と通る涼しげな声で落ち着かせる。
 吐き終えたのか、厠から出て土間に座り込む武政。
 居辛いキヌを、怨念に満ちた目で睨む。
「あっち行ってくれ…じゃなきゃ…殺すよ」
 そう告げ、台所の包丁に手を伸ばす。
 その手は斎の平手で払われ、武政は落ち着くと共に落涙した。
「キヌ」
 斎にそう呼ばれ、戸惑う。お客様である以上、確かに呼び捨てにされても文句は言えまいが。
 それに、武政の情緒は未だ不安定らしいし、そうさせたのは自分らしいし。


 六十数年後、東京。
 突如下水道から出現するピラニア怪人の奇襲を受け、警察官らにも被害は及んでいた。
 山下山男は、車内の無線機を叩きつける。
「何で豊島区に現れた!」
 無線では、足立区に出現したと聞いたのに。
 先刻は練馬で目撃されたと情報が入った、その直後に港区へ出現して犠牲者が出た。
 通信が何処かで改ざんされているのだ。
 GPSもエラーばかり。
 何者かが、警察の通信網を妨害している。

 自衛隊、警察と改造兵士の戦いはTVでも中継されていた。
 妖魔は映さない。ザラキの改造兵士は映す。
 そんな偏向報道に虫酸が走るが、自衛隊だけに任せておけず、京也も愛車『TADAKATSU-XR420レイブン』に飛び乗った。

 ピラニア怪人としては、現状は好都合だった。
 何者かが情報をねじ曲げ、自分の殺戮を手助けしてくれている。
167ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/01(木) 20:28:38.34 ID:bkq9X8mG
九話D

 調子に乗った怪人は、殺戮のペースを上げる。
 またもやマンホールを吹き飛ばして地上へ出現し、警ら中のパトカーを襲撃した。
 車体は怪人の腕のカッターに簡単に両断される。
 地面を転がる山下山男。歯を鳴らすピラニア怪人。
 その鋭利な牙。巨大な顎。
「…巨大な?」
 山下山男の背後には飲食店用のプロパンガス。足元にはパトカーに常備していた小型消火器。
 山下山男は、怪人に発砲し挑発する。
 怪人はあっさり挑発に乗った。巨大な顎で食いかかる。
 その顎目掛けて消火器を投げ込んだ。
 反射的にそれを噛み砕き、口内から洩れる白い噴煙に焦燥する怪人。
 無茶苦茶にカッターを振り回し、それがプロパンを切り裂いた。
 怪人は巨大な爆炎に巻き込まれる。
 やったか、と思ったが、炎の中からあっさりと出現する。
 しかし、ダメージは無いわけではない。
 特に火炎を浴びた目が痛む。
 パトカーのサイレン、ヘリの爆音に気付き、怪人は山下山男を放置して川へ飛び込んだ。
「逃がすか!」
 山下山男は、無断駐輪されたバイクに警官の特権で乗り、怪人を追う。
 この川、この下水道を通るなら、敵は東京湾に向かっている。
 水中を素早く行き交い、自衛隊のアサルトライフルも回避する相手に自分のP230がどの程度通じるかは疑問だが、何もしないよりマシだ。
 自衛隊はひたすら敵の尻を追いかけ回しているだけらしい。
「先回りする知恵も無いのかよ!」
 後手後手の彼らに苛立ちも隠さず、車を東京湾へ走らせる。

 同じく、京也は「召鬼」と「鬼眼」の念珠を持つ事で仮面ライダーの力を感覚器官に限定して発動、敵の所在を確かめる。
 更にその所在を携帯の道路地図と照らし合わせれば…敵の目的地は東京湾。

 湾に出たピラニア怪人は水陸を跳ね回り部隊を撹乱、一人づつ血祭りに挙げてゆく。
 制限速度完全無視で愛車を飛ばし「召鬼」の念珠を取り出す京也。
 メットの下で目が紅く輝き、腰に宝玉「オニノミテグラ」を中核とするベルトが形成され、そこへ「召鬼」を接触させる。

「…変身」

 前方からの風、体内からの風。
 全身を白い外骨格に覆う魔人は更に「鬼馬」を用い、愛車を擬似生体マシン、スカルゲッターへ変貌させる。
 現地へ急行する仮面ライダー。
 マシンの走行速度は、マッハ3。


 六十数年前、武政の唐突な豹変に唖然とするキヌ。
 彼女を斎は外へ連れ出した。
168ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/01(木) 20:42:21.60 ID:bkq9X8mG
九話E

「何でよ!もしかして卜部さん…自分の部隊が全滅したとか?」
「声を抑えて。武政さんに戦友の事を聞いてはいけない」
 何の色も放射しない眼。
 斎はあくまで冷静だった。
「彼はもっと…嫌な経験をしているわ」


 六十数年後の東京湾。
 仮面ライダーは港に怪人の姿を捉えた。
 奴の足元のマンホールが破られている。
 下水道から出る際に食い破ったのだろう。牙の威力は大きい。
 スカルゲッターをウイリーで走らせ、怪人を撥ね飛ばし自衛官を救出する。
 そこへ山下山男の拝借したバイクも駆け込んだ。
 怪物が二匹。
 一匹はザラキの改造兵士。
「…じゃあ、あれが卜部さんの言ってた、もう一匹…?」
 もう一匹=仮面ライダーは愛車を降りると左掌を内側に向ける独特の体勢を取る。
「来い。俺が相手だ」

 その様子を、物陰から都市保安庁の使者が密かに観察していた。
「フッ…。課長。警視庁の刑事と卜部の鬼が接触した模様です」
 そう、アゴの長い青年は携帯電話で本部へ連絡する。
 あの刑事は確か、コブラ妖魔事件でこの自分にくってかかった身の程知らず。
「お役所仕事に真剣に取り組むとはなぁ」
 御杖は、物陰から山下山男の愚直さをあざ笑った。

 腕のカッターを突き刺し敵を捕らえ、強力な顎で瞬時に噛み砕く。
 それがピラニア怪人のスタイルであるが、常人の数万倍の五感、反射速度を持つ仮面ライダーに接近戦は意味をなさない。
 むしろカッターを振るう度に隙を作り、そこへすかさず蹴りを入れられるため、ピラニア怪人の方が不利と言える。
 ならばとピラニアは水中へ飛び込んだ。自らのフィールドだ。
「…乗ろう」
 仮面ライダーはスカルゲッターに跨がると、そのまま海面へ向かって走る。
 着水したスカルゲッター。しかし沈む事無く、地上同様に海面を走っている。
 ピラニアの水中からのジャンプ攻撃を水飛沫を上げて回避するスカルゲッター。
 そのカウルから、生体強化外骨格の剣が伸びた。

「ゲッタージャッジ!」

 骨の刃が敵の腕に輝くカッターを切り落とした。
 すぐさま体勢を戻し、ピラニア怪人を正面に捉える。
「ぐ…ここはひとまず!」
 危機と見てピラニア怪人は、海中深く潜った。
「水中か…」
 水上ならスカルゲッターでも戦える。仮面ライダーは地中や水中でも呼吸できる。
 しかし、今度の敵は「水中にてマシンの機動力を活かし戦う」事が最善の対処法。
169ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/01(木) 20:52:58.94 ID:bkq9X8mG
九話F

 仮面ライダーは「鬼砦」の念珠をベルトへ読ませた。

「スカルダイバー!」

 スカルゲッターの車体に融合した強化外骨格が変形、各所より短い角が生え、その角同士が互いを指差すように湾曲する。
 姿を変えたバイクに跨がる仮面ライダー。
 同時に、湾曲した角より生じた力の膜が仮面ライダーも含めた車体全体を覆った。
 亜空間バリア。
 仮面ライダーが、時空間へ干渉する「ウィザードフォーム」へ変身した際に展開できる、空間の歪みを利用した防御壁。
 仮面ライダー自身は通常形態、ブレイクフォームであるにもかかわらず、その防壁が車体を覆っている。
 バリアを展開した状態で水中へ飛び込む。

 水上を走れたと言えど、恐らく水中でバイクは使えまい。
 仮面ライダーは水中にては素手で自分と戦う他無い。
 そうなれば自分の勝利だ。この牙で仮面ライダーの喉笛を食い切ってやる。
 そんなピラニア男の期待は、水中へバイクを駆り進行してきた仮面ライダーの姿に一瞬で打ち砕かれた。
 変形したバイク「スカルダイバー」は更にカウルの装甲を変容させ、時空衝撃銃「ゲッターキャノン」を形成。
 戦闘ヘリを思わせる機動力で水中を往き、銃より放つ波動で怪人の右腕を吹き飛ばす。
 このスカルダイバーは、車体を亜空間バリアで常に防御する。
 敵の攻撃を無力化する他に水中、地中、宇宙、あらゆる環境に適応し、負荷から車体と搭乗者を守る事が出来るのだ。
 再びの時空衝撃波がピラニア怪人の背鰭を吹き飛ばした。
 スカルダイバーをスクリュー状に回転させ突進する仮面ライダー。
 動きの鈍った怪人を水上に弾き飛ばす。

「超変身!」

 ダイバーから自らも水上に跳躍し、仮面ライダーは右腕に刀、左腕に時空衝撃銃が発生した「バーサークフォーム」へ切り替わる。
 左腕より時空衝撃波の連弾を浴びせ、宙に浮いたピラニア怪人をスカルダイバーの車体へ打ち付ける。
 そのまま落下と共に右腕の刀「バーサークグラム」を伸ばす。
 ピラニアの顎が唸るより早く、刀身が脳天を真っ直ぐ突き通した。
 脳を破壊され、活動不能に陥ったピラニアはだらしなく口を開く。
 その口中に時空衝撃波を見舞い、同時に刀を引き抜いて仮面ライダーは敵の頭部を完全に粉砕した。

 スカルダイバーからスカルゲッターへマシンの姿を戻し、それで水上を走り、ピラニア怪人の爆発を背に陸へ戻る仮面ライダー。
170ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/01(木) 21:00:08.79 ID:bkq9X8mG
九話G

 だがそこに、一部始終を観察していた山下山男の姿があった。
 白い外骨格に包まれ、カマキリに似て、バイクすら駆る「もう一匹」の怪人。
 確かに、人間を好んで捕食するピラニア怪人を始末してはくれた。
 だが、敵同士の内乱でないとも限らない。
「お前は…誰だ」
 このカマキリに似た怪人もまた、好んで人肉を食らうのかもしれない。
 銃口を向けて問う。答えに窮する仮面ライダー。
 二人の間で海風の流れが止まる。


 六十数年前、斎はキヌを宿の裏へ連れ出し、話を切り出した。
 誰にも言わないよう前置きした上で。
「武政さんは南洋の戦地で…仲間の死肉を食べて生き延びたの」

続く

次回、第十話「舌に残る地獄」
171ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/01(木) 21:04:19.76 ID:bkq9X8mG
九話、以上です。
172創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 15:04:59.87 ID:B3fmE6Iy
その時、不思議な事が起こった
173創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 15:16:53.45 ID:XxGFL0GY
キャーネメシスサーン
174創る名無しに見る名無し:2011/12/05(月) 00:48:15.19 ID:oG+YkJvm
ネメシス氏には頭が下がるな……
そのうちちゃんと感想書くから頑張ってくれ。
175ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/07(水) 23:32:05.68 ID:i+XUsRIf
十話@

 改造兵士ピラニア怪人を撃破した仮面ライダー。しかし、その戦闘を山下山男刑事に目撃されてしまった。
「お前は…誰だ」
 銃口を向け、仮面ライダーにその素性を問う。
「生憎だが、銃で俺は殺せん」
 そう告げ、カマキリに似た怪物=仮面ライダーは、愛車スカルゲッターで去ろうとする。
 しかし山下山男も引き下がらず、バイクの前に陣取る。
 少なくともこの怪物も事件の関係者なのだ。
 怪物=仮面ライダーは少し躊躇し、「鬼空」の念珠を取り出した。
「…超変身」
 怪物の赤い眼が淡青へ変わり、背から羽が生えた。
 時空を操るウィザードフォームへ変身。更に「鬼移」の念珠を使用する。
「ライダーシフト」
 瞬間移動能力を発動し、バイクごと山下山男の前から姿を消した。
 ピラニア怪人に勝るとも劣らぬ怪物にも関わらず、奴とはコミュニケーションが成立した。
 怪物が去ってから漸く山下山男は驚いた。

十話「舌に残る地獄」

 研修医が入る、という話を卜部京也は勤務先で看護師長の朝子から知らされた。
「で、その指導は卜部先生にお任せだそうです」
 言って朝子は、その研修医に関する書類を京也へ渡す。
 京也は長身だが痩身。
 顔の彫りは深いが顔色は青白く、目が細い。
 父親に切り裂かれた額の傷を隠すため、右の前髪は下ろしている。
 それが京也を一層陰気に見せるのだが、書類に添付された研修医の顔写真を見る限り、京也と印象は真逆だ。
 血色は良く、目は生気に満ち、爽やかな熱意溢れる好青年に見えた。
 看護師の麗華が、その書類を覗き込む。
「闇暗 征魔くんですか…」
「いや、夜御蔵 誠馬じゃないのか」

 夜御蔵 誠馬(ヤミクラセイマ)

 何と痛々しい名前だ、と麗華は感じたが、京也は別段何も感じていないらしかった。
「そんなわけで先生、可愛がってやって下さいね」
 朝子にそう言われ、京也は露骨に眉を寄せる。
「可愛がる、とはどういう意味だろうか。夜御蔵くんは研修医で俺は指導。厳しい事も言うだろうが可愛がるというのは愛玩するということだ。彼を可愛がれというのは彼を指導するなという意味だろうか?看護師長としてそうした怠慢を推奨するかのような」
「はいはいあたしが悪かった。厳しく指導して下さいね」
 京也は言葉のあやを察せない、と朝子は長い付き合いで承知している。
 ただ、京也は京也で不安だったのだ。
 戦う様を、あの刑事に見られた。
176ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/08(木) 00:06:28.74 ID:UvG0lLjE
十話A

 彼は自分を、仮面ライダーをどう捉えた?
 警察の上層部は自分に如何な判断を下す?
 そして今後、あの刑事とどういった顔をして付き合えば良い?
 そういった不安を、朝子にぶつける形となった。
 俗に八つ当たりと呼ぶ。
「…いや、失礼した」
 勿論、朝子が理解している京也の弱点は、京也自身も理解しているのだ。

 斎は大学とそこからバイト直行の準備をせわしなく整えていた。
 使い古した鞄にテキストとノート、そして、年期の入った御守りを入れる。
 夜の新宿だった、と聞いている。
 16年ほど前、三つか四つだった自分はその路上へ座り込んでいるところを保護された。
 出生記録も戸籍も、その時点では無かった。
 年相応に親を呼ぶことも、そもそも保護される以前の記憶すら無かった。
 ちなみにその時期から、髪は赤いままだ。
 恐らく生まれつきなのだろう。
 以来ずっと施設で育ち、大学の入学を期にようやく独り立ちした。
 ただ、名前だけは保護されたその当初から、はっきりと覚えていたのだった。
 自分から名乗る事ができた。「梳灘 斎です」と。
 そして、と梳灘斎(クシナダ イツキ)は御守りをしっかりと鞄へしまい込む。
 保護された当初、自分にあったものは名前と、この御守りだけだった。
 それを肌身離さず持ち、誰もいない部屋へ今日も声をかける。
「行ってきます」


 六十数年前、ヤボ用を終えて美月屋に帰ってきた武政と会い、美月キヌは一瞬固まる。
 仲間の死肉を食って生き延びたという彼の凄惨な過去。
 それを彼を知る少女、梳灘斎から教えられ、以降武政と距離を置いている。
 武政本人は気にせず、ギブされたチョコレートを縁側でかじっている三次の肩を叩く。
 三次は、どこか得意気に武政を見返す。
「卜部さん、アメフトって知ってる?」
「アメフトォ?名前だけしか。オレラグビーもよく知らねーからなあ」
「俺、ルール知ってるんだ」
 三次は自慢気な様子を隠しもしない。武政も微笑む。
「すげえな。誰から教わったの」
「レイモンドだよ」
 レイモンド・マグラー。
 進駐軍の兵士で、三次とその父親、鏑木晋也の生活を陰ながら支えている。

 縁側の様子をキヌは台所から眺める。
 三次のアメフト談義に陽気な笑顔で応じる武政が、斎の言う像とどうにも被らない。
「キヌ。私…余計な事言った?」
 赤髪の少女、斎。無表情だが、声音は謝っている風。 
177ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/08(木) 00:33:32.17 ID:UvG0lLjE
十話B

「別に良いけどね。でも、卜部さんの明るさはその過去の裏返し…?」
 卜部武政は、陽気な人物だ。
 キヌからすれば、病的な程に。
 そもそも、昨日自分に向けて「殺す」と口にし、嘔吐までした。
 キヌとしては、陽気や陰気というより、武政の情緒がとても不安定に思える。
 陰気といえば斎も陰気だ。
 この宿に来て以来、笑顔を見た試しがない。
「斎ちゃん、これ」
 入場券を、キヌは斎へ差し出した。
「…これは?」
「漫才の興行。汽車で大阪から来るんだってさ」
 大阪も空襲を受けた、と聞く。にもかかわらず、東京の住民に娯楽を提供してくれるのか。
 斎にも笑ってもらおう、と考え、キヌは彼女の分の券も買っていた。
 しかし、斎は感情を動かされた様子が無い。
「必要無いわ」
 それだけ言って、斎は券をくず入れへ投げ捨てる。
「ちょっと…!」
 憤るキヌを、何の色も放射しない瞳で見て、斎はポケットを探る。
「いくらだったの?返すわ」
 そう言われた瞬間、台所を高い音が支配した。
 キヌが斎の頬を張った音。
 ただ、打たれて尚、斎は無表情にキヌを見ている。
「何か…気に障った?」
 無表情にそう訊くから、キヌも怒声をあげる気力を失った。
「レイモンドといえば」

 空襲で廃墟と化した東京に沈む夕日を眺めながら、武政は独り言のように呟く。
「外で何かレイモンドが疾走してたなあ。やっぱ見てこ」
 じんべいを羽織り、レイモンドの元へ向かった。三次や少女二名には目もくれず。
 確か、武政は東京に「悪い人探し」に来たと言っていた。
 一体武政は何者で何をしているのだ。キヌは斎の制止を振り切り、武政を追った。

 現場は既に進駐軍の管轄下であったが、武政とキヌ、斎は兵士に囲まれた一人の死骸と目が合った。
 顔の半分以上の肉が溶けて無くなっている。
思わず後退るキヌ。斎は遺骸を少し観察してからキヌの様子に気付き、彼女を現場から遠ざける。
 一方の武政は、全く気にせずレイモンドに声を掛けている。
「珍しい死体だねレイモンド。野犬か何かに食われたのかな?」
「いや、この遺体、濃硫酸か何かで体表を溶かされている。更に、内臓が欠落している。跡形も無くな」
 体表を溶かし、臓器を好んで奪ったという事だろうか。
「死体見るの初めて?」
 隅では斎がキヌを気遣っていた。
「初めてじゃないよ、空襲でよく見た。けど…」
 当時は感覚が麻痺していた気がする。
178ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/08(木) 00:47:31.94 ID:UvG0lLjE
十話C

 ただ、終戦を迎えて尚ああも惨たらしい遺骸を見るとは思わなかった。
「強い溶解液を浴びて崩壊した所を内臓のみ吸収されたみたいね」
 死体に何の嫌悪も見せず、冷静に状況を判断する斎。

 美月屋に帰り、武政の部屋に斎が入ってゆく。
 病的に陽気で不安定な武政と、冷徹な斎。
 キヌは扉に付き、聞き耳を立てる。
 しかし、斎に対する武政の言は、やはり訳が分からなかった。
「ヒトデ…だと思うんだ」
 部屋の中。首を傾げる斎。
「レイモンドに聞いた話をまとめるとだ」
 内臓欠損溶解殺人事件はこれで三例目。
 未確認の事例を含めればもっと多いだろう。
 被害者は、例えば濃硫酸に浸した風呂敷で全身を包まれたように、身体の広範囲を溶かされている。
 もう一つ。被害者には棘が刺さっていた。
 その棘を一本、武政が拝借していた。
「沖縄なんかにいるオニヒトデじゃないかなって」
 ヒトデは、体外に自分の胃袋を露出し、貝を包んで溶かしながら食すと聞いた事がある。
 つまり、ヒトデの性質を持った改造兵士が人間を食らうため暴れている。
「人食いか…腹立ってきたな」
 ドアを勢い良く開き、聞き耳を立てていたキヌにはやはり目もくれず、街へ情報収集に向かった。
 宿を訪ねてきたレイモンドにさえ会釈もせず。
 武政は怒っている。食人を嗜好する怪人と、かつて食人に手を染めた自分に。
 しかし、それをキヌやレイモンドには明かしたくない。
 怒っている様子の武政に、呆然とするレイモンド。
 いつもは朗らかな彼が。
「私はレイモンド・マグラー。タケマサの知り合いだ。彼はどうしたんだ?」
 赤髪をかき上げながら、躊躇する斎。
 人間を捕食する怪人にかつての自分を見て怒っている、とは言えない。
 そしてもう一人、武政と斎の奇怪な会話に警戒心を抱くキヌもいた。


 六十数年後、京南大学の学食では斎がケバい友人、涼ちゃんと共に昼食を取っていた。
 赤髪がスープに浸からぬよう留意しながら。
 斎にとり、大学での友人といえば涼ちゃんが唯一というものだ。
 そして今日、涼ちゃんの機嫌が妙に良かった。
 昼食を奢ってやるというので、学食のラーメンを三杯おかわりした。
 それでもやはり、涼ちゃんは笑んでいる。
「ね、何かあったの涼ちゃん?」
「昨日さ、一晩デブヲタの相手してやったら十万くれたから」
 斎は息を吐く。
 涼ちゃんは快活で豪気で面倒見も良い。 
179ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/08(木) 01:20:09.88 ID:UvG0lLjE
十話D

 ただ唯一、ビッチであるという欠点を持つ。
 気弱な斎は、涼ちゃんがセッティングした合コンの後、ノリに流されたままさほどタイプでもない男に初めてを奪われた苦い経緯がある。
「そーゆーのは好きな人にあげようよぉ…」
「好きな奴と結婚すんのも資金要るじゃん」
 涼ちゃんは、毎度そう言ってはばからない。
 斎はふと首を傾げる。
「でも、そのデブヲタさん、何でそんなお金持ちだったの?」
「あ?ああ…PQCの研究スタッフとか言ってたっけ」

 PQC。光量子触媒型発電システム。

 この時代、「ある事故」によって日本はエネルギー政策の大幅な見直しを迫られていた。
 PQCはその選択肢の一つであり最有力候補だが、未だ実用化には至らない。
 その上、実験段階で発生させたプラズマエネルギーを貯蔵するソレノイド磁場リングの安全性を懐疑する声も多い。
 早期実用化を求めるアメリカに「協力」して日本で実験している、というのが表向きの理由だ。
 つまりアメリカの圧力に屈したのだということは、よほど幸福な者でない限り日本人なら誰でも知っている。

 そう。何処かの暗闇の住民も知っているのだった。
 香の匂いがきつい、ザラキ天宗、本殿。
 董仲僧正は、ピラニア怪人を死なせてしまった事を後悔していた。
 仮面ライダーが暴走し続け、国と敵対してくれれば良かった。
 しかし現実に仮面ライダーは暴走を抑え込み、妖魔・雷蜥蜴とサボテン怪人を葬った。
 かつての卜部武政同様、今の仮面ライダーもその力を自分のものとして制御している。
 だから脅威だと言うのにピラニア怪人は血気に逸り、死んだ。
 そして、PQCの導入。
 ザラキ天宗は、自分達の教義で日本を救済したい。
 だが肝心の日本は、戦後の欧米化に米軍基地の建設。PQC導入。
 どれほどアメリカなどに尻尾を振れば気が済むのか、と思う。
 だから自分達がまず日本を占領し指導し、外国文化の一切を排斥するのだ。
「岸の甲冑!PQC実験施設を狙いなさい」
 岸の甲冑、と呼ばれた蟹に似た怪人が暗闇から現れた。
 日本がアメリカから独立するには、あんな研究を中断させ意志を示さねば。
「ですが董仲僧正。施設を破壊すれば被害は甚大です」
 若い僧、玄達が口を挟む。
「玄達?欧米にかぶれた今の国民を哀れむのかね」
「いえ。ただ、被害が拡大すれば邪魔者も増えます」
 成る程、と董仲は笑う。ではそれも排斥せねば。
180ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/08(木) 01:48:14.97 ID:UvG0lLjE
十話E

「達磨繭はどこに?」
 玄達もまた、笑った。
「既に霞ヶ関へ」
 蟹怪人の狙いはPQC実験施設。
 もう一体の狙いは、警視庁。

 警視庁で、ザラキ事件の物証を再び調べ直す山下山男。
 彼らの自爆テロ。現場から飛散した青銅。改造兵士の肉片。
 だが、あのバイクを駆る怪人の情報は何処にも無い。
 恐らく、改造兵士を自衛隊が屠っていたという公式発表も虚偽だ。
 あのバイクを駆る怪人に倒されていたのだろう。
「なあ山下。そろそろ上から目ぇ付けられてんぞ?」
 先輩刑事、大林もやんわりと捜査の中断を薦めるが、山下山男の信念の炎は消えない。
「自分は確かに見ました。カマキリに似た怪人がピラニア怪人から自衛官を救出したのを!」
 大林刑事は山下山男の肩をそっと叩き、小声で言う。
「俺が話した事誰にも言うなよ。…カマキリ怪物の名は仮面ライダー。俺に言えるのはそれだけだ」

 一仕事終わらせ、病院の自室で息を吐く京也。
 夜御蔵 誠馬とかいう研修医が来るのは明後日だ。
 しばらくは休息も取れまい。ここぞとばかりにブラックコーヒーばかり啜る。
 相変わらず、新聞は妖魔を妖魔として報道しない。
 ただ、ネットの世界では妖魔と改造兵士の相違点が指摘されているらしい。
 自分もあのモンスターを、斎が妖魔と呼ぶからそう呼んでいるだけなのだが。
 京也はPCの輝度や部屋の照明を落としている。節電のために。
 京也個人としては、PQCに賛成だった。
 節電節電というが、ここが病院である以上、いざという時の電力は確保すべきなのだから。
「…PQC?」
 ふと考えた。
 ザラキの連中が、未だ実験段階のあれを放っておくだろうか?

 電車の中。
 バイト先へ直行しながら斎は自分の能力の不自由さを恨んでいた。
「妖魔だけじゃなく改造兵士の動きも分かれば、もっと卜部さんの役に立てるんだけどな…」
 物心ついた頃から持っている御守り。
 何気なくそれを握った瞬間、斎の五感は研ぎ澄まされた。
 電車の騒音のみならず、枯葉が地を擦る音さえ騒音。
「な…何これ!」
 強烈な感覚に立っていられなくなる斎。
 更に、その耳に奇妙な羽音が刺さる。
 上空を見れば、何か…斎の目は巨大な毒蛾の像を捉えた…が飛んでいる。
 急ぎ電車を降り、京也へ連絡を取る。
「怪人が二匹?」
「はい!一匹は埼玉の西川口…多分PQCの実験施設です!もう一匹は、多分霞ヶ関…」
181ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/08(木) 02:02:27.19 ID:UvG0lLjE
十話F

「霞ヶ関…警視庁か?」
 日本の治安そのものへの挑戦だ。
 自分が治安を維持してやる義理は無いが、治安を維持する力を持つ連中が全滅すればどうなる。
「しかし…」
 愛車のキーを鷲掴みにしながら、京也は珍しく弱音を吐く。
 PQC実験施設も狙われている。
 二カ所への同時攻撃は初めてのケースだ。
 どちらを優先すべきか。


 六十数年前、鬼の力を感覚器官に限定して発動し、武政は棘の持ち主すなわち犯人を探していた。
 そのやり方は正しかった。
 全身を棘に包んだヒトデ怪人が、一人の中年男性を掴み上げ、腹より袋のようなものを膨らませている。
 恐らくあれが奴の胃袋。男性をその胃袋で包み、溶解するつもりだ。
 おもむろに近場のコンクリート片をその胃袋に投げ込む武政。
 動きが止まるヒトデ怪人。
「どおよ!胃袋に石はキツいわな」
 男性を逃がし、ヒトデ怪人の前に立ち塞がる武政。
 しかし、ヒトデ怪人は武政の顔を見て突然その動きを止めた。
「おや、君は俺達の部隊を壊滅させたジャップじゃないか」
 変身を解除したヒトデ怪人。
 その姿は、長身の白人だった。
 武政は狼狽を隠せない。
「おたく!そうか、おたくも生き延びて…日本でザラキに改造されてたわけだ」
 いつもの余裕が消え、その白人へ怒りの形相を向ける武政。
 その武政を、いつの間にか遠巻きからキヌが見つめていた。
 ヒトデ怪人がどうこう、という会話を聞いて生まれた警戒心。
 武政を探しここまで来た。
 だが、白人の方が彼女に気付いた。
「知ってるかいお嬢さん。彼は我々の部隊に味方を皆殺しにされた」
 一人残った武政は、逆にこの男の部隊を全滅させた。
 そして武政は死んだ仲間の肉を食って生き延び、
「私は改造されて生き延び、今同じ日本にいる。滑稽だよな」
 嘲笑うように白人は再びヒトデ怪人へ変身、狙いをキヌに定めた。
「ヒトデって、コイツの事だったの!?」
 迫るヒトデ怪人。
 怪人を蹴り飛ばし、キヌの手を取る武政。
「何とか斎説得して漫才、見に行かねーとな」
 口ではそう言って笑うが、武政の手の震えがキヌにも伝わる。
 怪人は倒したいが、キヌに変身を見られたくはない。
 武政は彼女を連れ、逃走を図る。
 だが背後より、ヒトデ怪人の声がかかる。
「人肉は、旨かったろ?」
 キヌを連れる武政の足が止まった。
「卜部…さん?」
 思わず彼を振り返るキヌ。
182ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/08(木) 02:20:19.45 ID:UvG0lLjE
十話G

 彼女は、武政の両目が紅く輝いているのを発見した。
 怒りの余り全身が小刻みに震え、その腰にベルトが出現する。
 ベルトは骨に似ていた。
 空襲の中、川へ飛び込んで煮殺された人々。
 川の流れの中、彼らの肉が腐り、剥げ落ち、内部から突き出る骨。
 武政のベルトは、否応無しにそんな光景を思い起こさせた。
 武政は声すら震えていた。
「許さねえよ…オレのいちっばん触れられたくねえトコを」
 キヌの手をほどき、ヒトデ怪人に正対する。
 この男、あんな怪物相手に何をどうするつもりなのかとキヌは思う。
 武政が天に伸ばした右手。
 その周囲の空間に波紋が浮かんだように見えたし、その波紋から勾玉に似たものが武政の手に落ちた。
 武政は「召鬼」の念珠を握り込んだ。
 此方に向かって斎が駆けてきたが、もう遅い。
「殺す」
 その物騒な台詞は、ヒトデ怪人に向けてのもの。
 キヌの眼前で武政は骨に似たベルトとその勾玉を接触させ、叫んだ。

「ヘンシンッ!」

 その言葉にどんな漢字をあてれば良いのか、一瞬だけ考えたキヌ。
 だが、次の瞬間に把握できた。
 どす黒い何らかの力が嵐を生み、その中で武政は「変身」した。
 赤く輝く目を持ち、白い外骨格に武装された、カマキリに似る魔人の姿。
「卜部…さん?」
 斎は深い溜め息をもらす。
 キヌなどという常人に人鬼の秘密をばらすとは。
「き、貴様、その姿は何だ!」
 狼狽するヒトデ怪人。仮面ライダーは「鬼神」の念珠を取り出す。
「人食ってたってのは、つまりオレが鬼だからなんだよ!」
 ベルトに「鬼神」を呼応させ、緑の目、翼、右腕に剣を備えたオメガフォームへ変身する。
「ライダーアトラクター!」
 大地の力、重力を操り、逃走するヒトデ怪人を強引に自分の側へ引き寄せ、右腕の剣「バーサークグラム」で片手片足を切り落とす。
 しかし、ヒトデ怪人には余裕があった。
「ヒトデは良いぞジャップ。本体も、破片も再生できるからな」
 新たに手足が生え変わり、切られた手足からも各々新しい本体を形成しようと体組織が成長し始めている。
「ありゃあ」
「さあどうするジャップ?仲間の肉を食ったお前だ。その肉はさぞ旨いんだろうな」
 ヒトデ怪人にとって、人肉は非常なご馳走なのだろう。
 手足から再生した二匹のクローン体と共に仮面ライダーへ襲い掛かるヒトデ怪人。
183ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/08(木) 02:35:00.94 ID:UvG0lLjE
十話H

 対する仮面ライダーの左手には、外骨格細胞で形成された長槍「ディザストスピアー」が出現する。
 切っても無駄、突いても無駄。ならば
「焼きゃ良いんだろ!」
 槍を一体のクローン体に突き刺し、そのまま槍の穂先に雷電の力を発生させた。
「サンダーボルトスピアー!」
 強烈に感電したクローン体はそのまま燃え上がる。
 燃える一体を槍に刺したまま、その槍を右手に持ち左手をもう一体に向ける。
 左腕に発生している生体銃「バーサークショット」。
 通常は時空衝撃波を発射するが、今回は炎の弾丸を連続発射する。
「フレイムショット!」
 体の各所を焼き貫かれたクローン体も同じく炎上、槍に刺さったまま燃えるもう一体を叩き付けられ、二匹まとめて炭化した。
「さあオレの傷に塩塗りやがって。覚悟はできてるな?」
 あっさり攻略法を見つけてしまった卜部武政に恐怖するヒトデ怪人。
 もはや戦闘する気概も無い。
「安心しな。食ったりはしない。火炙りと八つ裂きのセットってだけだ」
 残虐な死刑宣告。
「ライダーフレイム!」
 仮面ライダーが手を掲げると同時に、ヒトデ怪人の体が体内より燃え始めた。
 痛みより恐怖が勝るヒトデ怪人。その胸に、バーサークグラム、ディザストスピアーによる剣と槍の二段斬りが決まる。
 再生するからと言って、痛覚が無い訳ではない。
 昏倒するヒトデ怪人。
 炎に包まれ地を這う「彼」を、仮面ライダーは槍で幾度も幾度も突く。
「死ね!死ね!死ね!」
 と連呼しながら。
 戦争の記憶、
 自らの舌に染み付いた「仲間の死肉」という地獄の味を振り払うかの如く。
 炎に包まれたヒトデ怪人を幾度も幾度も滅多刺しにする仮面ライダー。
 炭化した破片を一つ残らず微塵に砕き、漸く武政の衝動は鎮まった。
「斎…オレ誰か関係ない人巻き込まなかった?」
「大丈夫よ。ただ…」
 鋭い表情に淡く苦みを浮かべる斎。
 その視線の先には、一部始終を見ていたキヌの姿があった。
「あんた達…一体何なのよ…」
 脱兎のキヌ。逃げた、という表現が正しい。
 どう言い繕ったものか、武政と斎はしばし動きを止めた。


 六十数年後、京也は夜御蔵誠馬へ書き置きを残し、霞ヶ関へ到着していた。
 首都圏の治安を守る建物が占拠されれば、国民は支配へ抵抗する気力を失う。

 同じ頃、都市保安庁ではアゴの長い男が霞ヶ関の様子をモニターし、爆笑していた。
184ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/08(木) 02:43:41.82 ID:UvG0lLjE
十話I

「見て下さいよ課長。卜部の野郎はPQCより警察を選んだらしいですねえ」
 上司にモニターをアゴで示す男。
 PQC導入は与党の決めたこと。
 自分たち公務員が与党に逆らえるものか。
 しかし仮面ライダーには、そうした事情が分からない。
「最強の割には情報弱者だなぁ?おい」
 モニターの京也を、青年はそう嘲笑った。

 当の警視庁では、屋上のヘリポートへ着地したドクガ怪人のために恐慌状態が発生していた。
 山下山男も、PCをそのままにして怪人鎮圧へ向かう。
 そのPCにはこうあった。
 仮面ライダーの名前でようやく発見したキーワード。
「レイモンド・ファイル」

次回、11話「みんなのために」
185ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/08(木) 02:47:52.46 ID:UvG0lLjE
十話、以上です
>>174
ありがとうございます。割と心配でドキドキしてます。
>>173
京也がネメシスさんと呼ばれるのは実は結構後の話になります
>>172
何で俺がてつを厨だって知ってるんですか
186ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 18:28:21.01 ID:XroAeHie
11話、投下します。
投下と言っても携帯から打ち込むので時間がかかります。
ご寛恕ください。
187ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 18:56:48.38 ID:XroAeHie
11話@

 霞ヶ関の警視庁。
 西川口の、PQC実験施設。
 ザラキ天宗は改造兵士を使役し、この二ヶ所を同時に攻撃した。
 その六十数年前、卜部武政は仮面ライダーに変身し改造兵士を抹殺する様を、美月キヌに見られてしまう。

11話「みんなのために」

 下宿先の美月屋に戻ってきた武政と斎。しかし、キヌはまだ帰っていないという。
「そりゃまあ…怖いわな」
 武政はそう呟く。
 自分だって怖かった。あの日、あの戦地で初めて目にした、己が内に棲む鬼の姿。
 最初に変身した際、水面に映った自分の姿を見て「白い蟷螂(カマキリ)」だと思った。
 腕のカッターや鋭く巨大な複眼からの連想だ。
 そろそろ日も暮れる。武政と斎はキヌを探す事にした。



 六十数年後、警視庁。
 屋上のヘリポートへ座した、毒蛾に似た怪人。
 京也は、額に眠る「第三の眼」を開き、その透視、遠視能力で怪人を地上から目視した。
 こうした能力程度なら、変身せずとも行使できる。
 しかし、戦闘にはやはり変身が必要となる。
 「召鬼」の念珠を握り、戦闘へ突入せんとして僅かに逡巡した。
 ザラキ天宗は今回、警視庁と次世代発電システム=「PQC」実験施設の二ヶ所へそれぞれ怪人を送り込んだ、と斎から聞いている。
 ドクガ怪人を相手にしている間が長ければ、PQC実験施設が被る危機が増す。
 警視庁の手前まで来て京也は迷い、迷っている暇が無いことを思い出した。

「…変身」

 とにかくドクガを倒す。その後考えよう。
 つい先刻まで「レイモンドファイル」という謎の単語を表示していた山下山男刑事のPCが、突然ダウンした。
 屋上に陣取る怪人を確保すべく、全警官が動こうとした、その矢先の出来事だ。
 山下山男のものだけではない。全員のPCやプロジェクターがダウンした。
 直後、それらモニターへ一斉にドクガ怪人の姿が映る。
「諸君。俺が体から放つ鱗粉は、高い揮発性を持っている。それらは今、この庁舎全ての空調設備を循環している」
 そうドクガ怪人はメッセージを出す。
 にわかに色めき立つ庁舎内。警視庁を焼き払うつもりか。
 すぐさま換気システムを作動させようとするが、コマンドが拒否される。
 避難通路に目を向ければ、外部からのコマンドを受けたのか、対テロ用の隔壁が下りていた。
 この庁舎に閉じこめられた状態。
「仕方ない!」
 山下山男が窓ガラスへ発砲する。
188ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 19:20:50.54 ID:XroAeHie
11話A

 しかし生憎と防弾ガラス。
 自衛隊の援護を要請しようにも、全ての回線が不通。
 怪人が電波を狂わせているのか、携帯電話も駄目だ。
 警視庁は完全な陸の孤島と化した。どうやら、庁舎のあらゆるコンピューターが怪人に支配されている。
 一応、モニターを通じてリアルタイムで怪人と会話ができる。
「どうしてこんな事を!」
 PCへ向かって激昂する山下山男に、怪人は冷静だ。
「我らザラキ天宗の教義において、米国の属国たる今の日本は悪だ。悪の治安を守るお前達は許されん」
 憤りつつも山下山男は周囲を見渡す。
 先輩刑事、大林の姿が無い。
「先輩をどうした!」
 再びモニターへ向かう山下山男を怪人は嘲笑う。
「大林、といったか。奴の記憶を読み取らねば、この庁舎を制圧できなかったろうな」
「じゃ…先輩は?」
 怪人の返答を訊きたい。
 怪人の返答を訊きたくない。
 怪人は返答した。
「記憶さえ奪えれば、奴の生命など不要だ」
 山下山男は、反射的にPCを掴んだ。
「貴様あ!よくも…」
 そのPCは割れたが、他のモニターでも会話できるのでさしたる問題ではなかった。
 目の前の一台を握り潰しても、周囲のモニターに映り続ける怪人。
 警視庁全体の存亡がかかった問題だが、山下山男はむしろ、尊敬する先輩が殺害された事態の方が問題だった。
「殺してやる…」
 刑事でなく一個人として、怪人を睨みつけて口走った。


 六十数年前、キヌは空襲の折に飛び込んだ川の流れを見つめていた。
 多少苛つくが誰にでも優しく陽気な武政。
 彼が人肉を食らうような狂気を秘め、そしてあの怪物に変身し…。
 沈む夕日。キヌの影が縦に伸び、その影が横へも伸びた。
 進駐軍のレイモンド・マグラーだ。
「君、早く家に帰った方が良い。今の日本は夜に出歩けるほど安全な国ではないんだ」
「街を焼き払ったのは誰よ…」
 武政への疑念、恐れ、アメリカへの恨み。
 それらが一言に詰まって響いた。
「あたしより怪物を心配してよ。日本では知られてない怪物が人間襲ってんだから」
 不可解な言葉に驚くレイモンド。その隙に立ち上がり帰路につくキヌ。
「おい君!」
 レイモンドの呼び止めも無視して。
 街を焼き払った国の人間に心配されたくなかった。
 早足のキヌ。彼女に声をかける者がいた。
「…よ」
 武政だ。

 美月屋へ戻る。
 お察しの通り、と武政は部屋で話し始めた。
189ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 19:35:42.85 ID:XroAeHie
11話B


「オレと斎はあの怪人…改造兵士を作る組織を潰す為に東京に来た」
 南洋の戦地で目覚めた武政の鬼の力。
 鬼に関する知識を持つ斎。
 彼女の導きで武政は組織…ザラキ天宗を壊滅させる仕事を引き受けた。
「要は斎に面倒見てもらってんだオレ」
 斎は国と何らかの付き合いがあり、その談合で斎に金が流れ、その金で武政は悠々自適にやっているらしい。
「情けないっしょ」
 苦笑する武政。そして斎が武政と共にいるのは、やはり件の「鬼の力」を監視するためだそうだ。
 しかし、やはり理解し難い。キヌは首を傾げる。
「でも、何で卜部さんに鬼の力なんか…」
 卜部家は平安時代より続く由緒ある家柄。
 だがその血筋には時折、異常な残虐性を持つ、鬼と呼ぶ他無い者が現れる。
 それは人鬼と呼ばれ、古人は侮蔑した。
「オレの親父は戦前、村人四十人を殺して自殺した。動機が分かんないんだけど、まあアレも鬼に支配されたんだろうね」
 武政はその鬼が心でなく体に現れた、ただそれだけだという。
「オレ自身は、戦争行ってからも別に鬼に支配されることは無く、鬼畜米英とノンキに戦ってたんだけどさ…」
 一旦言葉を切り、顔を曇らせる武政。
「オレの部隊は…オレ以外全滅した。ソレがきっかけなんだよね」
 南洋の激戦区に放り込まれた自分達の部隊。
 慣れぬ気候に体力を吸い取られ、そこへ敵の奇襲を幾度も食らった。
 一人減り、二人減り。残ったのは部隊長と自分を含め、僅か四名。
 だが武政が食糧を取りに行った隙をつかれ、三人は敵の火炎放射器と機銃掃射に倒れた。
 この時、武政は降伏も自決も選ばなかった。
 怒りと恐怖が感情の制御を解除し、父親より受け継いだ「鬼」の衝動が表出したのだ。
 自分の生命よりも敵の抹殺を優先する「鬼」に従って死を恐れずに暴れた結果、気が付けば武政は敵の一個小隊を単独で壊滅させていた。
 しかし、それで何かが満たされた訳ではない。
 武政は抹殺した敵兵より奪った自動小銃を、周囲の遺骸に乱射した。
 粉々になった肉片と血溜まりに突っ伏し、それがまたも「鬼」を目覚めさせた。
 敵味方問わず、その遺骸を滅多切りにし、その肉を食らった。
 その行為は武政の心のみならず、いつしか肉体までも「鬼」へ変質させていた。
 こうなると鬼の暴走は止まらない。もっと殺戮を、もっと残虐な。
 武政は人肉を食料にして数日間、殺戮する対象を探し密林をさ迷った。
190ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 19:58:50.65 ID:XroAeHie
11話C


「そこに、斎が現れた」
 状況を説明する武政の声が明朗なので、かえって不気味だった。
「鬼の心を鎮めて」
 まるで天より舞い降りたが如くその少女は武政の前に現れ、そう言った。
 少女は自身を「梳灘斎」(クシナダ イツキ)と名乗った。

 「という訳でオレは東京に来たんだけども」
 その言葉が余りに軽く、また場所も美月屋の縁側なので、キヌは今一つ事の異常性が把握できなかった。
 ただいつの間にか部屋に斎がいて、壁に背をもたれていた。
「話したのね」
「見られたししゃーないだろ。それより…オレもレイモンドと同じで三次が心配だ」
 三次。改造兵士となった母親に育児放棄された少年。
 母、鏑木早苗は武政が抹殺した。
 しかし美月屋に来る際、斎がその三次を狙った改造兵士を倒している。
 つまり敵に、鏑木早苗の親族を狙う者がいる。
「キヌちん」
 名前にちんを付ける武政をぶん殴りそうになったがここは忍耐だ。
「オレら、もう少しここに下宿したい。ここからだと三次ん家が良く見えるんだ」
「ちょっと…考えさせて」
 キヌは俯き、部屋を出る。
 人肉を食らった怪物を泊めるということに、どうしても抵抗があった。
 斎の脇を通り過ぎる。斎は何も言わない。
 やはり、この少女は他人の気持ちに無頓着らしかった。


 六十数年後、異常に鋭敏な感覚を自分に与えた御守りが気になる斎。
 警視庁へ向かった京也も気になるが。
「御守りを握った瞬間…だったよね。何か入ってるのかな…」
 外装は平凡な御守りだが、その中に何が入っているのか。妙に膨らんでいる。
 開けるのも気がひけるので、御守りでなく京也を気にする事にした。

 京南大学附属病院。
「卜部先生、ドコに行ったの…?」
 仕事の合間、麗華は呟き、朝子へ視線を向ける。
 警視庁が占拠されるなどという大変な時に。
「携帯にかけた方がいいですか」
「ああ、ムダムダ」
 朝子は手を振り、あっけらかんと笑う。
「先生が何か隠し事をしてるのは本当だろうけど、あの人の性格なら拷問にかけても答えないでしょ」
「そうですね…」
 京也はそもそも人望が無い。
 同僚にも上司にも、患者にも愛想を使わないし、当人もそれで善しと考えている節がある。
「でもこの状態じゃ、先生の立場が…」
 不安げな麗華へ朝子は尚も笑い、仕事へ戻りつつ言う。
「あの人は自分の立場なんか気にしないさ」
「そうでしょうか?」
191ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 20:30:18.23 ID:XroAeHie
11話D

「あの人の事だ。『下される評価は一面だけを見る第三者によるものでしかない』だの何だの面倒な屁理屈立てるんでしょうよ」
 思わず、麗華も笑った。
 研修医、夜御蔵 誠馬は到着が遅れている。
 怪人は警視庁の一匹だけではないという。
 少しは笑っていたかった。

 もう一匹。
 西川口のPQC実験施設を狙う、カニに似た怪人。
 PQC導入はアメリカの圧力によるもの。日本政府の一存では実験を中止できない。
「だが、怪人にぶっ壊されたって言い訳なら、不可抗力だよなあ?」
 施設の門をハサミで破壊し侵入するカニ怪人の姿を、都市保安庁のエージェント、御杖峻は笑いながら見物していた。


 六十数年前、何処かの暗闇。
「御杖君。同士の一割を君に預ける」
 ザラキ天宗の高僧、董仲は信者らが変身した改造兵士の名簿を、一人の協力者へ手渡す。
「承りました。そこの君」
 協力者、御杖喜十郎は、アマゾンの巨大魚、ピラルクに似た改造兵士を手招きする。
「鏑木早苗の家を監視し、卜部の鬼と交流があるようなら報告したまえ」
 彼の報告によっては、御杖喜十郎は自身の呪術的知識を用いて「仮面ライダー」に対抗せねばならない。
 仮面ライダーとは最も残虐な血脈、卜部の鬼の事だろう。
 仮面ライダーを倒さなくては、ザラキ天宗の存続が危うい。

 その仮面ライダーを泊めている美月屋。
 とても厨房の仕事に集中できず、キヌは再び武政の部屋へ向かった。
 戸がほとんど閉められ、内から声が聞こえる。
 一方は武政、もう一方は斎か。少し聞き耳を立ててみる。
「そういやさ斎。キヌちんにひっぱたかれてなかった?」
 斎の返答は聞こえないが、影の動き方から、彼女が軽く頷いているのが分かる。
「何で?」
「分からない」
 これには即答する斎である。自分が怒った理由が理解されていないというのが情けなかった。
「おっけー。質問を変えるか。何があったのよ」
「彼女は、漫才だか寄席だかの入場切符を私に渡したの。私には必要無かったからそれを捨てた。その分の金を返そうとしたら殴られた」
 淡々と、事実関係のみを羅列する斎に腹が立った。
 殴ったのではなくひっぱたいたのだ、とふすまを開けて主張したかったが、辛うじて飲み込んだ。

「そりゃお前が悪いさ」

 武政の言葉は、明確に斎を非難する調子だった。
「あのコはお前を寄席に連れてくつもりだった。でもその誘いが捨てられた」
192ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 20:58:55.14 ID:XroAeHie
11話E

 口調こそ軽いが、真摯な声音の武政にキヌは驚く。
 斎もまた困惑しているらしかった。
「…私には不要。それに彼女はあの切符を買ったのだから、その分は返さないと…」
「ソコだよ。寄席がどうって問題じゃない。あのコはお前との距離を縮めたかったんだ。それを金で済む問題と思われちゃ、腹も立つってモンじゃね?」
 武政の口調は明快かつ、斎に劣らず論理的だ。
 死した戦友の記憶を掘り起こされ狼狽した男と同一人物とは思えなかった。
「寄席に誘ったのは、あのコがお前に思いやりを持ってる証拠だよ。切符代いくら、とかじゃなく、思いやりには思いやりで応じなよ」
 言葉を切り、武政は僅かに自嘲した。
「…ま、友達の死肉食ったオレが言えた義理でもねえか」
 キヌは、足音を立てぬよう注意しながら再び厨房へ向かった。
 何だか嬉しかった。
 全くの第三者であるハズの武政が、キヌの言いたい事を全て代弁してくれた。
 先刻よりも心地良く仕事に入れた。

 だから、突如として厨房へ入ってきた斎に肝を冷やした。
 背後には、何故だかホウキとチリトリを持たされている武政がいた。
「キヌ」
 斎は、真っ正面からキヌを見る。そして訊いた。
「あの切符、今は何処」
「あ…あんたが捨てたから、外のゴミ袋の中だけど?」
 一つ頷き、斎はそのゴミ置き場へ直行。ゴミ袋を片端から破り始めた。
 それを武政が掃除し、新しい袋へ片付けてゆく。
「ちょ、あんた何してんの?」
 斎は答えない。ひたすらゴミをあさり、手を汚し顔を汚す。
 臭気にも全く顔をしかめず、あさり続ける。
「…あった」
 腐臭の付着した指を気にも留めず、斎はゴミの中から一枚の紙切れを拾い上げた。
 それは、キヌが渡した寄席の切符。
「汚いから交換してくる。どこで買ったの」
 呆然としたままのキヌから劇場の名を訊き、斎はそこへ駆け出した。
 掃除を続けながら、武政は苦笑する。
「ああゆう奴なんですよ」
 キヌにはよく分からなかった。
 二人が悪い客でない事しか分からなかった。


 六十数年後、警視庁。
 全警察官が閉じ込められた。
 彼ら全員の生殺与奪は、ドクガ怪人一匹に握られている。
 空調機には敵の揮発性鱗粉が仕込まれている。
 このまま、死を待つより無いのか。絶望感が庁舎に漂い始めた。
 ただ、山下山男は別の意味で絶望していた。
 先輩刑事、大林の死。
 何気なく彼の椅子に座ってみた。
193ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 21:26:05.96 ID:XroAeHie
11話F

 力無く彼のデスクの引き出しを開け…奇妙なものを見つけた。
 大林と、彼の妻子の集合写真。
 どこぞのリゾート地で撮ったものだろう。
 今は撮れなくなった、楽しい家族旅行の写真。
 しかし、ならばなぜ、妻子の顔を釘が貫いているのだ。

 そろそろ爆破しても良かろう。
 巨大な羽を持つドクガ怪人は、屋上のヘリポートから上空へ飛翔する。
 だが怪人は、背後の空間に亀裂が生じた事に気付かなかった。
 その亀裂から、淡青の眼と骨の翼を持った鬼=仮面ライダー・ウィザードフォームが姿を現した。
 怪人へ掴みかかり、そのままヘリポートへ落下させる。
「良いのか?仮面ライダー」
 墜落した怪人は同じくヘリポートに着地した仮面ライダーと正対。
 肩で息をしながら、それでも勝利を確信していた。
「俺は、この建物全ての空調へ揮発性鱗粉を循環させた。俺の合図一つで、それが一斉に起爆するぞ!」
 仮面ライダーは、平然と手に持った球体を掲げた。
 透明な球体に蓄積された、毒々しい色の粉末。
「鱗粉なら、俺が全て回収した」
 狼狽する怪人。

「確かに貴様は鱗粉を循環させた。だが俺はディザスターフォームで風を操り、鱗粉を一点へ吸引した上でこのバリアへ封じ込めた。悪いな」

 ディザスターフォーム。
 炎や氷、重力など自然のエレメントを操る姿。無論、風も例外ではない。
 そして眼前のウィザードフォーム。
 この姿は時空間を操り、亜空間バリアを展開できる。
「おのれ!」
 もう一つの武器、口吻からの毒矢を吐きつける怪人。だが仮面ライダーは。
「ライダーシールド!」
 『鬼盾』の念珠でやはりバリアを展開し、その攻撃を遮る。
 更に、『鬼移』の念珠をベルトへ滑らせた。
 同時に空間へ亀裂が生じる。
「ライダーシフト!」
 仮面ライダーは、その亀裂へ鱗粉の塊を投げ込んだ。
 瞬間移動術。これを応用して自分の背後へ出現したのかと、怪人はようやく悟った。
「鱗粉は宇宙へ捨てさせてもらった。次は貴様だ」
 再び『召鬼』の念珠を持つ仮面ライダー。
「超変身」
 赤い眼の、格闘戦に優れた通常形態、ブレイクフォームへ戻る。
 ドクガ怪人は接近戦が得意ではない。
 拳をかわし、上空への退避を試みる。
 だが仮面ライダーにも、その程度は予測済み。
『鬼翼』という新たな念珠を取り出した。

「逃がさん。スカルウィング!」
194ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 22:07:36.44 ID:XroAeHie
11話G

 地上へ駐輪していた京也の愛車、XR420レイブン。
 その車体を仮面ライダーの装甲と同質の生体強化外骨格が覆い、さらにその鎧自体が左右に広い、エイのような形状へ変化する。
 そして、屋上へ向かって飛び立った。

 生体バイク、スカルゲッターの飛行形態、スカルウィングに飛び乗る仮面ライダー。
 サーフボードのように、車体の上で屹立している。

 おおよそマッハ20の速度で、文字通り瞬く間に怪人の退路へ回り込んだ。
「ゲッターキャノン!」
 カウルからせり出した波動銃からの射撃が怪人の羽をもぎ取った。
 落下する怪人へ仮面ライダーはスカルウィングで突撃、その勢いで再びヘリポートへ叩きつけた。

 翼手を奪われ、満身創痍の怪人にトドメを刺そうとする仮面ライダー。そこへ、声が聞こえた。
「待ってくれ!」
 仮面ライダーの前に、全速力で屋上まで駆け上がってきた山下山男が立ちはだかる。
 背後の怪人へ、絞り出すように告げる。
「もうネタはあがってますよ。先輩」
 観念したように、怪人は変身を解く。
 山下山男が推理した通りの答えだった。
 そこには山下山男の先輩、大林刑事がいた。
 怪人の作戦は、庁舎の内部構造を熟知しなければ実行できない。
 そして大林が行方不明。
 だから、可能性は二つに絞られる。
 一つは、怪人が大林から庁舎の構造を聞き出して殺害、または監禁した可能性。
 もう一つは、怪人が大林である可能性。
 そして、一つ目の可能性を採用するのであれば、大林が妻子の写真に釘を刺す理由は無い。
「…どうしてですか。刑事のイロハを教えてくれたあなたが」
 両腕を深く欠損しつつも、大林は失笑できた。
「組織の腐敗に嫌気が差してな。そんな時にザラキ天宗の教義に出会った」
 ザラキ天宗が指摘した今の日本の過ちは、大林が抱いていた組織への不信と直結した。
 だからザラキ天宗へ入信し、法律などという枠組みを超えた真実の正義を行う決意を固めた。
「だがな、救済を受けるためには自分が現世で得た汚いモンに別れを告げなきゃいけねえ」
 だから妻子の写真に釘を打ち、汚物と別れる決意を表明した。
「先輩…あなたは間違ってる!」
「じゃあ山下。お前は自分が正義の側にいるとでも言うのか?」
 返答に詰まった。
 自分が行っているのは、あくまで組織にとっての正義だ。
 急速に信仰が揺らぐ。大林には大林の思想があり、それは個人の自由だ。
195ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 22:40:20.11 ID:XroAeHie
11話H

「確かに…先輩の行いは許されませんが…自分は…その行いに至る思想までを否定する事は…」
 思考が空回りする山下山男。そこに、仮面ライダーの冷徹な声が届く。
「もう良いだろうか」


 六十数年前、半信半疑ながら夕食を武政の部屋へ持ってくる斎。
 しかし武政はそれを口にしない。
 斎が散らかした分の掃除で疲れている筈なのに、外出の準備をしている。
「斎、間違いないのな?」
 いつの間にか帰ってきていた。
 頷く斎。三次の家に怪しい男が近づいている。
 斎の眼力を信じるなら、奴は改造兵士。
「って事で行ってくっから留守宜しく!」
 下駄を鳴らして奴が行く。
 彼を見送り、しばし惑うキヌ。しかし、意を決し、斎の手を取った。
「ね、あたしも連れてって!卜部さんって人の何たるかを確かめたい!」
 武政はその男と接触、単刀直入に改造兵士か否かを問うた為、反撃を食らった。
 敵はアマゾンの怪魚ピラルクに似た改造兵士。やはり改造兵士の親族たる三次を警戒し来訪した。
 そこへキヌと斎も駆けつけた。
「ごめんなさい武政さん。止めたんだけど…」
 キヌは恐れを捨て、真摯な目で武政を見据える。
 キヌの手には、斎から渡された真新しい切符が握られていた。
「あんたらはウチの客で正義の味方。そう信じてるから」
 破顔する武政。その顔を怪魚人に向ける。
 腰にオニノミテグラが生じ、目は紅く輝く。
「召鬼」の念珠を握り込んだ右拳を高く掲げ、それを下ろしてオニノミテグラと接触、一気に右斜め下へ振り下ろす。

「変身っ!」

 力の嵐が武政を包み、白い外骨格に包まれた魔人の姿を成す。
「オレね、お前みたいな奴が世界で二番目に嫌いなんだわ」
 怪魚人を指差してそう宣告し、跳躍する。


 六十数年後、山下山男は、仮面ライダーから思わず大林を庇った。
 大林は再びドクガ怪人の姿へ変身するが、それは人間の姿では傷が痛むからだけであった。
「頼む仮面ライダー!先輩を見逃してくれ!」
 仮面ライダーは、歩みを止めない。
「頼む!先輩には先輩の思想があるんだ!個人の思想までを他人が否定するなんて…」
「慈悲深いな」
 とてもつまらなそうに、仮面ライダーは山下山男へ言い放つ。
「だがその慈悲は、怪人があんたの先輩だったから…じゃないのか」
 違うと言いかけ、山下山男は「ドクガ怪人」へ殺意を抱いた自分を思い出した。
 そして、と仮面ライダーは言う。
196ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 23:16:14.07 ID:XroAeHie
11話I

「死は思想すら奪う。ソイツはあんたの同僚全てに死を与えようとした。思想などという個人の名目で」
 拳を握りしめる山下山男。
 確かに大林に慈悲を与える事は、警視庁の全員の命を軽視する事と同義だ。
 加害者は思想があるから見逃されていいのか。被害者にも思想があるのに。
「思想という名目で多くの命を軽視した貴様は…この俺が許さん」
 仮面ライダーは、無理やり山下山男を退かせ、怪人の首を鷲掴みにした。
 時空の裂け目、時空断裂境界から『昂鬼』の念珠を取り出し、ベルト中央の宝玉「オニノミテグラ」にそれを当てる。
「ライダーブースト」
 全身に時空衝撃波を纏わせた。
「やめろお!」
 殺戮者たるドクガ怪人が処刑されるのに、山下山男刑事はそう叫んだ。


 六十数年前、勝負は決まった。
「ライダー…キィック!」
 仮面ライダーの踵落としが怪魚人の脊髄を破壊した。
 全身を動かせず、地を這う。
 そこへ、全体重を乗せた仮面ライダーの右拳が突き刺さる。

「ライダー…パァンチッ!」

 仮面ライダーは、みんなの命のために怪魚人を粉砕した。
 キヌの声援を背に。


 六十数年後、勝負は決まった。
「ライダーキック」
 仮面ライダーはドクガ怪人の首を掴んだまま、腹へ強烈な膝蹴りを浴びせ吐血に至らせる。
 そして、えぐり込ませるように右拳を再び怪人の腹部へ打ち込んだ。

「ライダーパンチ」

 仮面ライダーは、みんなの命のためにドクガ怪人を粉砕した。
 山下山男の罵声を背に。


 六十数年前。
 斎がゴミを漁ったその翌日、キヌは武政を少し呼び止める。
「卜部さん…珍しく良い粉が入ったからさ、うどんでも食べる?」
「え…はい喜んで」
 無邪気に笑む武政。
 斎の分も打ってやりながら、キヌは多少気持ちに整理がついた。
 卜部武政はウチの客で、正義の味方である、と。


 六十数年後、うなだれる山下山男を無視して仮面ライダーは再びスカルウィングへ騎乗した。
 西川口のPQC実験施設も守らねば。
 そんな仮面ライダーに、山下山男の恨みがましい声がかかる。
「先輩を庇って…何が悪い…」
 だが仮面ライダーは、どこまでも冷淡だった。
「思想の名目で大量殺人を企てた輩を見逃してくれ、というのがおかしい」
 それだけ言って、離陸した。

 だが、到着した仮面ライダーは、妙な光景を眼下に捉えた。
197ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 23:19:11.82 ID:XroAeHie
11話J

 PQC実験施設の駐車場。
 カニに似た怪人がもう一体、回遊魚…強いて例えるならサメ…に似た怪人に蹴りを打ち込まれ、血を吐いていた。
 サメに似た怪人は目が紅く光り、体の各部位を白い装甲「生体強化外骨格」に覆っている。
 カニは既にハサミも戦意も失い逃走を図っているが、サメ怪人の方はその隙を見せず、腕の生体カッターで的確に敵を追い込んでゆく。
「頼む!許してくれ!」
「許せんな、このゴミクズが」
 サメ怪人はカニ怪人を冷たく断罪し、「鬼爪」と表記された御札を「時空断裂境界から」取り出す。
 どこか、声音に自酔している風があった。
 御札でベルト中央の赤い宝玉「オニノミテグラ」を撫でた。
 直後、サメ怪人の体に「時空衝撃波」の刃が走る。

「ハデスチョップ!」

 カニ怪人を両断したのは、サメ怪人の手刀であった。
「…奴は?」
 PQCは救われた。だが、あのサメ怪人は…
「俺に…似ている」
 サメ怪人は、上空の仮面ライダーを一瞥してどこかに去っていった。

 京南大学附属病院。
 ロードレース型のバイクで乗り付けた青年は、朝子に仰々しく頭を下げる。
「遅れて申し訳ありません。研修医の、夜御蔵誠馬です」
 青年は、いかにも爽やかそうに笑んだ。

続く

次回、十二話「その名はスラッシュ」
198ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/15(木) 23:20:07.66 ID:XroAeHie
11話、以上です。
時間がかかりすぎた。
もう一度ごめんなさい。
199ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 17:21:29.83 ID:42VzqVPT
12話@

 山下山男刑事の先輩、大林刑事はザラキ天宗の改造兵士となって警視庁の爆破を企てるが、仮面ライダーの前に敗死した。
 一方、別の改造兵士を手刀によって抹殺する、仮面ライダーに似た謎の怪人が現れた。

 仮面ライダーネメシス第12話「その名はスラッシュ」

 夜御蔵 誠馬。
 この若い研修医が着任して早々に、看護師長の朝子は麗華へハッパをかけた。
「あのコ、良いんじゃない?年下だし」
「そうですか?私は別に…」
 二十九歳独身の麗華だが、さほどこの研修医には関心を抱いていなかった。

 夜御蔵。
 この若く優秀な研修医は、麗華のような例外もいるが、基本的には京南大学附属病院にて女性看護師らの注目を一心に集めていた。
 つい三日前までは。
「先生!例のヤツです!」
 麗華が夜御蔵、および彼の指導を担当する京也を呼びに来た。
 ここ三日間、毒キノコの中毒症状と思しき患者が異常に多い。
 それは「例のヤツ」で通じるほどに頻発していた。
 京也は眉一つ動かさず、頷く。
「分かった。夜御蔵くん、行くぞ」
「はい!」
 ただ、京也や夜御蔵の腕をもってしても、患者を救えるなどと麗華は思っていなかった。
 現在、この症状による致死率は100%。
 毒の摂取経路も不明。
 更に問題なのは、その被害が永田町に集中している点。
 この症状を放置すれば、政府高官らが危うい。
 現在、その抗体と毒の摂取経路が調査されている。


 六十数年前の朝、東京では久々に学校が始まっていた。
 墨塗りの教科書を風呂敷に包み、鏑木三次も元気良く登校している。
 そんな様子を眺め微笑む、斎のヒモもとい卜部武政。
「な?やっぱオレが東京に来たからこそ三次は笑顔に…」
「あのレイモンドって人のお陰でしょうよ」
 キヌが冷たく突っ込む。メザシを一本つけるという豪華な朝飯を出しながら。
 ただ、キヌの指摘は武政にとり、極めて重苦しかった。
 自分が三次にしてやれた事は、彼の母親を殺す事。
 彼の生活や笑顔は進駐軍の兵士、レイモンド・マグラーの援助に支えられている。
 レイモンドと比べ、自分には何ができるだろう。
 そんな気分を紛らわせようと隣で黙々と箸を動かす斎の肩をつつく。
「あのさ、メザシの頭だけもらってくんね?苦くて嫌いなんだよ」
「好き嫌いは良くないわ」


 六十数年後、京南大学。
 涼ちゃんは学食で、隣で黙々と箸を動かす斎の肩をつつく。
200ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 17:47:23.13 ID:42VzqVPT
12話A
「あのさ、キノコサラダもらってくんね?椎茸嫌いだから」
「え、好き嫌いは良くないよぉ…」
 昨日まで学食のAランチにはポテトサラダが付いていたのに、急にキノコサラダに変わっていた。
 よくあるといえばよくある事だが。
 しかし無神経だ、と涼ちゃんが言う。
 永田町で頻発する毒キノコ中毒。
 ニュースが幾度もキノコへの注意を喚起しているこの時期にキノコサラダというのはやめてほしい。
 しばらく昼食はコンビニのパンに固定する意志を固める凉ちゃんと、いつでも手弁当の斎。対照的だ。

 ちなみに警視庁。
 山下山男の昼食はカレーうどんだった。
 というより、彼はこれが日課だ。
 そもそも、警視庁のカレーうどんは美味いと紹介してくれたのは大林刑事だった。
 日課といえど、このメニューを頼めばどうしても大林を思い出す。
 頼りになる先輩だった。
 彼を殺した仮面ライダーを許せないが、警視庁の爆破を目論んだ大林が悪であるのは明白だ。
「刑事が…悪の滅亡を悲しんじゃいけないな」
 そこに同僚が現れ、毎日同じカレーうどんを食する山下山男をからかう。
 彼らも各々異なるメニューを頼んでいる。
 それを見て初めて、山下山男は今回の毒キノコ事件に違和感を覚えた。
 思わず呟く。
「全員が同じ毒キノコを同じタイミングで食うか?」
 キャンプ等で、というなら話は分かるが。
 更に奇妙な点は、被害者の内数名はこの三日間、キノコを全く口にしていないという事。
 キノコ毒には潜伏期間を持つものもある。
 しかし、新種のキノコを三日前に永田町在住の人間が一斉に食すなど考え難い。
「キノコの毒を…人為的に撒いている奴がいる」
 その毒は、空気感染をする。
 山下山男は、病院へ向かった。

「卜部さん!いるかい?」
 知り合いの病院関係者。京也である。
 京也の部屋に先客が二名あった。
 一人は研修医、夜御蔵誠馬。突然の刑事の来訪に驚いているらしかった。
 山下山男に会釈だけして、京也は押し黙っている。
 夜御蔵の視線を受け、思い出したかのように手を出して山下山男を示す。
「こちらは山下刑事」
 それだけ言って、また京也は押し黙る。
 不審そうな夜御蔵に、傍らの老人に肩をつつかれてようやく気付く。
「…ああ。ザラキ天宗の自爆テロが縁で知り合った」
 なぜ、これほどコミュニケーション能力が低くて医者をやれるのか、山下山男には不思議で仕方ない。
201ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 18:08:28.32 ID:42VzqVPT
12話B

 気の無い京也を苦笑して見る老人は、前院長、鏑木三次。
 連続キノコ中毒の件が気になり、京也と話しに来たそうだ。
「私のような老いぼれが言うのも何だが、ヨーロッパカエンシメジとサバンナドクヒラタケを同時に摂取しないとあんな症状は見られん」
 両者とも日本では採取できない毒キノコだ。
 やはり両者の毒性を兼備した新種という事だろうか。
 しかし、仮にそれが永田町に自生したとして、それを三日前に住人らが一斉に食すだろうか?
 それよりも、毒を撒いている何者かの存在を仮定した方が理に叶う。
「これは…テロだな」
 毒を撒き政府高官の命を狙っている。
 そう判断し、山下山男は京也と鏑木の話を写したメモを懐に戻す。
 その際、別のメモ用紙が懐から落ちた。
 拾ってやる鏑木。そこには「レイモンド・ファイル」と記されていた。
 山下山男が得た、仮面ライダーに関する唯一の手掛かり。
 ただ「レイモンド」というありふれた名のみしか分からないため、結局八方塞がり。
 だがその名を見た鏑木の表情がほころんだ。
「いや…子供の頃世話になった、レイモンド・マグラーって進駐軍の兵士を思い出してね」

 都市保安庁。
 実務官、御杖峻は堂々と遅刻した。
「いやあすいませんねえ課長。おれは輪郭がシャープですから、ひげ剃りには時間がかかって」
 単にアゴが長いだけだろ、と思ったが言わない。
 その上司は、御杖へ新聞を手渡した。
「どうだね御杖君。スラッシュが現れたというのに各社とも全く無視だ」
「フッ。課長達が手を回したんでしょうが?」
 PQC−光量子触媒発電システム。
 その実験施設をザラキから救った、鮫に似た怪人を御杖らは「スラッシュ」と呼んだ。

 香の匂いがきつい暗闇。ザラキ天宗、本殿。
 高僧、董仲は毒キノコ中毒の被害者リストを持ち、死亡者の名にバツを付けていた。
「流石だ。さて、そろそろ国防長官も中毒になってもらおうか」
 やはり今回の事件はザラキ天宗によるテロだった。
 猛毒の胞子を放つキノコ型改造兵士を永田町に送り込み、その胞子を空気感染させ要人を手にかけていたのだ。
 しかし、国もそろそろ永田町が怪しい事に気付く筈。
 董仲は更に、アリジゴクに似た改造兵士を呼び出した。
「玄達。魄兵をつけてあげなさい」
 そう命じられ、董仲よりも若い僧、玄達はアリジゴク怪人に、一着の僧衣と薙刀、赤黒い液体の詰まったビンを手渡した。
202ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 18:54:48.82 ID:42VzqVPT
12話C

「仮面ライダーも、スラッシュもいる。これだけでは力不足かも知れんが、生憎と妖魔を手懐けている暇が無い」
 玄達もまた、鮫に似た怪人を「スラッシュ」と呼んだ。

 本庁からの連絡で、急遽永田町へ向かう事になった山下山男。
 テロとの見方は正しかったらしい。
 急ぎ車へ戻る山下山男を夜御蔵と共に見送りながら、京也は連絡の内容を聞き逃さなかった。
「永田町…だな」
 山下山男は現地に向かい、鏑木三次は帰路についた。
 それを見届け、夜御蔵は笑う。
「卜部先生。面白いお知り合いをお持ちですね。ザラキ事件の関係者か…」
 その笑みは、これまで見てきた爽やかな笑みとは異なる邪悪なもの。
 京也は不気味に笑う夜御蔵を、軽くたしなめる。
「勘違いをしない方が良い。俺達は患者を救うのが仕事だが、ザラキ事件に首を突っ込む立場にはいない」
「卜部先生?」
 夜御蔵は詰め寄る。
「私は、京南大の卒業生だからこの病院に来たわけじゃないんです。私には目的がある。それを遂行するために…」
 目が血走っていた。
 困惑し、眉をひそめる京也。夜御蔵も我に帰る。
「…失礼しました」
 感情的になった自分を恥じるように、夜御蔵は院内へ駆け戻る。
 それを呆れて見てから、京也は愛車のキーを握りしめた。
 山下山男には以前、仮面ライダーとしての自分の姿を見られている。
 彼の先輩を、正義の名の下に殺害したのも自分だ。
 山下山男とは別のルートで京也は、永田町へ愛車『TADAKATSU-XR420レイブン』を走らせる。

「王さん、卜部先生はどちらに?」
 病院。
 夜御蔵は麗華に声をかけた。
 興奮状態から虚脱し、落ち着いてみれば京也が見当たらない。
 苦笑する麗華。
「私用でしょうね。最近卜部先生、こういう大事な時にばっかりいなくなるんですよね」
 夜御蔵は、薄く失笑した。
「こんな時にですか…卜部京也。よくドクターが務まりますね」
 怪訝そうにした麗華へ頭を下げる。
「では失礼」

 その京也は、愛車を飛ばしながら、時空の裂け目「時空断裂境界」より「召鬼」の念珠を取り出した。
 ヘルメットの下、目は赤く輝く。
 腰には宝玉、オニノミテグラを中心に抱いたベルトが出現した。
 その宝玉へ「召鬼」を接触させ、どす黒い「力の嵐」を浴びる。

「…変身」

嵐の中、卜部京也の体は黒く筋骨隆々に変化。
 そこへ白い金属片が集約され、装甲を形成する。
203ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 19:07:26.08 ID:42VzqVPT
12話D

 嵐が収まり、そこに異形がある。
 強靭そうな黒の肉体に白い外骨格を纏い、腹にはベルト、
 その中央にオニノミテグラ。
 手足の装甲は一部が尖鋭化し刃となっている。目は赤い。
 顔はカマキリを思わせた。
 仮面ライダーは、更に「鬼馬」の念珠をオニノミテグラへ接触させ、愛車を生体マシン、スカルゲッターへ変型させた。
 目指すは、改造兵士に狙われた永田町。

 研修医としてオペを手伝いつつ、夜御蔵も永田町の方角を一瞬だけ見やる。
 マスクの下で呟いた。
「…父さん。僕はあなたを越えてみせる」

 永田町。毒キノコテロの調査のため、内閣からの命令で都市保安庁の調査官らが現地入りしている。
「フッ。おれ達が死んでも与党様は困らねえってことか」
 軽口を叩くアゴの長い男。
 しかし、駐車した彼らの車が突如地面に沈んだ。
 アゴの長い調査官が慌てて車に駆け寄るが、既に路面が溶解、蟻地獄の様相を呈して車を呑み込んだ。
 更に道路そのものが蟻地獄となって陥没。
 永田町はあっさり陸の孤島となった。
 慌てる調査官らの前に、キノコで全身を覆ったような怪生物が一匹。
 そしてキノコほど装飾過多ではないにせよ、人間のシルエットを持つ黒い異形が数十。
「永田町は我らが占拠した。さあ、総理にご登場願おうか!」
 すくむ調査官の足が地面に落ち込んだ。
 どうやら、地底にもう一匹の改造兵士がいる。
 それが作る蟻地獄だ。動けない!

 京也に手製の弁当を届けに来た斎。
 だが既に彼は病院におらず、待合室のTVには改造兵士により占拠された永田町の様子が映っている。
 戦いに行ったのだ。
 そう確信し、何気なく御守りを握り込む斎。
 念珠、即ち持ち主である京也が永田町へ疾走しているのを感知できる。
 だが、その気の流れに、僅かな淀みがあった。
 一瞬、人鬼の感覚が重複したような…
 気になった。自転車を引っ張り出して永田町へ向かう。

 永田町に続く道路は大渋滞。
 巡査が車を出て確認に向かったところ、道路に巨大な蟻地獄が出来ているという事らしい。
「永田町を孤立させるつもりか!ザラキの奴ら…」
 憤る山下山男の車を、白い影が掠めた。
 マッハ3の速度で走行しているため山下山男には判別出来なかったが、それはスカルゲッターを駆る仮面ライダーであった。
 仮面ライダーは蟻地獄の手前で車体をジャンプさせてこれを飛び越え、永田町に向かう。
204ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 19:32:35.44 ID:42VzqVPT
12話E

「ちい!おれのバックには政府がいるんだぜ?」
 蟻地獄から抜け出せない御杖は、懸命に国家の威光を振りかざす。
 だが、国家の転覆を目論むザラキ天宗の信者が、威光にひれ伏すわけも無かった。
 キノコ怪人が御杖に迫る。
「俺の毒性胞子…お前にも感染させてやろう」
 御杖がこの世ならざる悲鳴を上げたその瞬間に走り込む白い影。
 フロントタイヤがキノコ怪人を弾き飛ばした。
 仮面ライダーが辛うじて到着した。
 仮面ライダーは「鬼砦」の念珠を取り出す。
「スカルダイバー!」
 スカルゲッターを、車体全体にバリアを展開する形態へ変型させ、地下へ突入。
 蟻地獄よりアゴの長い男を救出する。
 早く逃げろと言う間もなく、全力で逃亡するアゴの長い御杖。
 仮面ライダーはキノコ怪人、地上へ現れたアリジゴク怪人、更に四、五十はいるかという戦闘員に対峙した。
 キノコ怪人には、余裕があるように見えた。
「これを見ろ仮面ライダー!」
 怪人は、地面に一着の僧衣と一振りの薙刀を置き、その上にビンから赤黒い液体を垂らした。
 直後、砂の中から地面からまるで生えるように、人型の異形がいくつも這い出した。
 地面に置いた僧衣は一着だった筈だが、何の不思議か数十体の異形が全て同じ僧衣を羽織っている。
 薙刀も同様で、さながら信長に滅ぼされた比叡山の僧兵を思わせた。
 キノコ怪人は、複製したらしい僧衣と薙刀を回収する。
 たった今、地面から這い出した異形。
 先刻よりキノコ怪人の背後にいる戦闘員。
 同じ姿だ。だから同じ方法で生み出したのだろうと仮面ライダーは判断する。
 僧兵らは、腐敗し、肉が削げ落ち、骨の覗く面相で、方々から仮面ライダーへ意味を成さない奇声を発している。
 キノコ怪人は得意気だった。
「魄兵(バクヘイ)。成仏できぬ霊魂を具象化した兵士さ」
「…そうか」
 仮面ライダーにとり、兵士の素性は重要ではない。
 重要なのは、いかに倒すか。
「来い。俺が相手だ」
 魄兵と呼ばれた戦闘員は、薙刀の刃ではなく、柄の側を仮面ライダーへ向けた。
 その柄から、無数の矢がマシンガンのように飛び出した。
 接触すると爆発する矢をことごとく弾き、キノコ怪人に近接する仮面ライダー。
 強烈な拳を見舞うが、すぐに仮面ライダーはまずいと感じた。
 キノコ怪人の体液には例の猛毒胞子が含有されている筈。
 単に体を破壊しただけでは被害はむしろ拡大する。
205ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 19:46:33.26 ID:42VzqVPT
12話F

 仮面ライダーとの直接戦闘をキノコ怪人と魄兵に任せ、地下へ潜るアリジゴク怪人。
 奴の通った岩盤が溶解し、たちまち蟻地獄を作り仮面ライダーさえ飲み込もうとする。
 仮面ライダーはスカルダイバーを呼び脱出するが、この状態では地に足を付けて戦えない。
「スカルウィング!」
 「鬼翼」の念珠で、スカルダイバーを更に飛行形態スカルウィングへ変型させ、そこに騎乗。
 地に足を付けない状態で怪人らに挑む。
 スカルウィングを手足の如く操り、魄兵の一斉掃射を掻い潜る。
 その上で車体より強化外骨格の刀を伸ばし、「ゲッタージャッジ」で魄兵十数体を寸断した。
 急上昇するスカルウィング。
 キノコ怪人に狙いを定め、急降下しながら「鬼風」の念珠を取り出す。
「超変身!」
 目が赤から紫へ変じる。
 自然を操るディザスターフォームへ変身。
 「鬼焔」の念珠をベルトへ、「雷鬼」を長槍、ディザストスピアーへ接触させ、効果を同時に発動させる。
「ライダーフレイム!」
 手をかざし、キノコ怪人の肉体を発火させる。
 猛毒胞子ならば、熱で破壊する。
 更に、ディザストスピアーが電撃を帯びる。
 炎上を始め、もがき苦しむキノコ怪人の胸を、雷の槍が貫いた。

「サンダーボルトスピアー!」

 電撃と火炎の相乗に、キノコ怪人は自慢の胞子諸共に焼却された。
 一片残さず炎上し、炭化したキノコ怪人。
 それを見て漸く息を吐く仮面ライダー。
 しかし、改造兵士はもう一体いる。アリジゴク怪人。
 更にその周囲に幾十かの雑魚。
 戦闘態勢は崩さない。
 そんな仮面ライダーの耳に、拍手の音が聞こえた。
 振り返れば、逃げた筈のアゴの長い男が悠然とこちらへ歩を進めてくる。
「フッ。お見事…とでも言ってやれば、てめえのケチな自尊心は満たされるのか?卜部の人鬼よ」
 卜部の人鬼だと。
 この男、只の役人ではない。何を知っている?
 男は仮面ライダーに正体不明の笑みを向ける。
「生憎と、おれには熱系統の技が無くてな。機動隊を呼んで火炎放射でも良かったんだが、面倒だからてめえに手柄を譲ってやった」
 先刻の悲鳴は何処へやら。
 青年は一旦敵陣営を見渡し、再び仮面ライダーを向く。
 警戒する仮面ライダー。
「…何者だ」
「おれは御杖 峻。またの名を…スラッシュ」
 御杖峻(ミツエ シュン)が時空断裂境界より取り出した呪符。
 そこには「召鬼」の文字が見える。
206ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 20:05:25.44 ID:42VzqVPT
12話G

 驚く仮面ライダーにシニカルな笑みを向けた御杖峻の目が赤く輝く。
 腰には骨片を繋ぎ合わせたようなベルトが出現し、そのベルトの中央に光る「オニノミテグラ」へ「召鬼」の呪符を滑らせる。
 ベルトから仮面ライダー同様に、どす黒い「力の嵐」が生じた。
 その中にある御杖 峻は右腕で左腰を、左手で右肩を抱く。
 同時に赤く輝く目で怪人を睨み、ハッキリと宣言する。

「変…身!」

 嵐の中、御杖 峻の体は黒く筋骨隆々に変化。
 そこへ白い金属片が集約され装甲を形成する。
 嵐が収まり、そこに異形があった。
 強靭そうな黒の肉体に白い外骨格を纏い、腹にはベルト、その中央にオニノミテグラ。
 手足の装甲は一部が尖鋭化し刃となっている。目は赤い。
 但し顔に関して言うなら、カマキリを彷彿とさせる仮面ライダーとはかなり異なる。
 赤い目は仮面ライダーのそれより長細く、頭部はアーメットと呼ばれる15〜16世紀のヨーロッパで用いられた兜に似ている。
 その滑らかに後退した頭頂のエッジは、アーメットは無論だがどこかサメの背鰭をも思わせた。
 もう一人の鬼「スラッシュ」へ姿を変えた峻は、跳躍と共に空を蹴り、着地してアリジゴク怪人らを向く。

「さあて、感謝しろ。血の花で彩ってやる」

 スラッシュは再び跳躍。
 空中で体を高速回転させ、魄兵の矢を跳ね返す。
 着地した、と思いきや次の瞬間には戦闘員らの陣営に飛び込んでいた。
「常人の目なら…捉えられまい」
 スラッシュのスピードを観察し、仮面ライダーはそう評した。
 スラッシュの両腕が動いた。
 爪や腕の装甲が、仮面ライダー同様に微細振動を繰り返している。
 スラッシュは魄兵の包囲の中、優雅に踊っている。
 しかし、その手に触れた魄兵が、次々とバラバラに切断されてゆく。
 舞踊の一手一手が、兵を切り裂く刃として放たれている。
 瞬発力と敵を切断する能力に長けているようだ。
 最早七、八人しか残らぬ魄兵は辛うじてスラッシュの殺人舞踊を逃れる。
 しかし、矢や薙刀の刃で反撃する暇は無かった。
 腰溜めにしたスラッシュの右掌に「陽炎」が生じる。
 あれは仮面ライダーが発生させる破壊エネルギー「時空衝撃波」と同一のものだ。

「スラッシュレイ!」

 言ってスラッシュは、すくい上げるように腕を振り上げ、波動を投げる。
 ただ、その波動の形状は仮面ライダーが放つものより尖鋭であった。
207ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 20:26:34.72 ID:42VzqVPT
12話H

 波動は魄兵に突き刺さり、彼らをまとめて裂断せしめた。
「フッ。独りぼっちは哀れなもんだなあ?」
 アリジゴク怪人を挑発するスラッシュ。
 仲間を失ったアリジゴクは、死に物狂いでハサミ状の角をスラッシュに向ける。
 その攻撃は回避されるものの、角が刺さったブロック塀がたちまちに風化してゆく。
 この角から生じる高速振動でアスファルトを崩壊させ、蟻地獄を作っていたらしい。
「貴様らも生き埋めにしてやる!」
 再度地中に潜るアリジゴク。
 戦いの経過を見守っていた仮面ライダーが動くが、スラッシュが止める。
「手出しは無用だぜ。こんなゴミクズに、おれは倒せん!」
 スラッシュは三度跳躍し、空中から地上に向け、尖鋭化した時空衝撃波「時空衝撃刃」を投げる。
「スラッシュレイ!」
 波動はアリジゴク怪人よりも深い位置まで地面を叩き割り、怪人を強引に地表へ露出させた。
 スラッシュは時空断裂境界より「鬼爪」と記載された呪符を取り出し、それでオニノミテグラを撫でる。
 直後、巨大な陽炎が生まれた。

「ハデスフェザー!」

 変身の折と同様、左手を右肩に、右手を左腰に回し、重心を低くする。
 同時に時空衝撃刃がスラッシュの全身を包み込む。
 宙を舞い、アリジゴクと一気に距離を詰めるスラッシュ。その足が動いた。

「ハデスキック!」

 俗に言う後ろ回し蹴り。
 足先は時空衝撃刃を帯びてそれ自体が剣と化し、敵の角を切り折った。
 恐慌するアリジゴク。
「ぐああ…俺の角があ!」
「フッ。安心しろ。すぐに角なんざ気にならなくなるぜ」
 スラッシュは、天に掲げた右手を下ろしながら呼吸を整え、体を回転させながら左右の手刀を連続で打ち込む。

「ハデスチョップ!」

 時空衝撃刃を纏った手刀を二発、続けざまに浴び、アリジゴクの体も裂断。
 スラッシュの宣言通り、傷口より噴き出した血潮が花の様相を呈した。
 そしてその花も桜同様、刹那に散る。
 怪人は爆発炎上した。

「嬉しいぜ?ようやく最強の鬼、卜部の継承者と会えるとはなぁ」
 仮面ライダーに対し、スラッシュは皮肉な声音で出会いを喜んでみせる。
 巻き舌に嘲笑が混ざり、極めて神経に障る口調だった。
 徒歩で現地に到着していた山下山男、そして斎の前で二人の鬼が対峙している。
「スラッシュ…あんたも俺と同じ『鬼』か?」
「フッ。あの戦闘を見ても同類だと気付けねえ程のバカなのか?」
208ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 20:33:52.51 ID:42VzqVPT
12話I

 どうも、他人の揚げ足を取る事に命を懸けている風がある。
「シンプルに答えろ。イエスかノーか」
「フッ。イエスだな。ただ、おれは国家の密命で動いてる。危険な殺戮者…卜部と一緒にするんじゃねえ!」
 敵意を剥き出しにした言葉。
 直後に、スラッシュの腕から時空衝撃刃が投擲された。
「スラッシュレイ!」
 迫る鋭い陽炎。
 仮面ライダーに逃げ場は…

「超変身!」

 「猛鬼」で黄色い眼のバーサークフォームへ変身した仮面ライダー。
 左腕の波動銃、バーサークショットから時空衝撃波を放ち、スラッシュレイを相殺する。
「それでいい。卜部の悪鬼。てめえはこのおれが切り刻む!」
 跳躍し、華麗なる手刀を繰り出すスラッシュ。
 右腕の剣バーサークグラムを振るう仮面ライダー。
 一瞬の沈黙の後、二人の刃が交差した!

続く


次回、第13話「もう一人の鬼神」
209ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/22(木) 20:34:31.06 ID:42VzqVPT
12話、以上です。
210ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/29(木) 20:20:15.75 ID:O69RfyJv
 都市保安庁の実務官、御杖峻は「スラッシュ」を名乗るもう一人の人鬼へ変身。
 アリジゴク怪人を葬った後、突如仮面ライダーに襲い掛かった。

仮面ライダーネメシス13話「もう一人の鬼神」

 仮面ライダーは、眼の黄色いバーサークフォームへ変身。
 右腕に生える鋸刀バーサークグラムで、スラッシュの腕の生体カッターを押し留める。
 両者とも左腕が空く。
 スラッシュは仮面ライダーの腹に爪を突き刺そうとするが、仮面ライダーは左腕の生体銃バーサークショットを突きつけ、その手を止める。
 だから仮面ライダーもスラッシュも動けない。
「やめろ、俺に戦う気は無い」
 スラッシュの説得を試みる仮面ライダー。しかし、相手はそれを巻き舌で嘲笑する。
「フッ…人鬼を根絶やしにした卜部の血脈が何を!」
「何…?」
 仮面ライダーは驚き、一瞬力を緩めた。
 その隙にスラッシュが懐へ入る。素早く「鬼爪」の呪符を発動した。
「ハデスチョップ!」
 時空衝撃波の刃をまとう手刀が、仮面ライダーの腹を抉った。
「ぐっ!」
 たじろぎながらもバーサークショットを放ち、スラッシュを牽制しつつ後退する。
 傷口からは、明らかに人間と同様の赤い流血。
 しかも、その傷が中々塞がらない。
 以前、コブラ妖魔に首を落とされた際、仮面ライダーは即座に再生したのに。
 鬼の心が細胞一つ一つにまで干渉し敵の抹殺を遂行しようとするため、通常、仮面ライダーは多少の肉体的損傷から直ぐに回復する。
 腕や首を切断されても0、2秒程度、
 脳やオニノミテグラを含む全身を焼却、或いはプラズマ化、原子分解されようと15〜30時間もあれば再生できる。
ただし、同種の敵による攻撃は例外だったようだ。
 攻撃の重量はさほどでもないが、とにかく。
「速い…」
 そう呟く仮面ライダー。
「フッ。てめえ、意外に遅いな?」
 スラッシュは自らの美技に酔いしれている。
 ただ、敏捷な動作から繰り出される鋭い技は彼の自信を裏打ちするに十分だった。
「…超変身」
 仮面ライダーの目が紫に輝いた。
 自然現象を操作するディザスターフォームとなり、「鬼凩」の念珠で手中の槍へ風の力を付与する。
「タービュランス…スピアー!」
 旋風により、速度と切れ味を増した槍がスラッシュを襲う。
 それを避け、尚もスラッシュは笑う。
「フッ。これでおれのスピードと同等か…だがなあ」
 腰溜めにした掌へ、陽炎を発生させる。
211ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/29(木) 20:39:08.45 ID:O69RfyJv
13話A

 人鬼の発生させる陽炎。
 それは時空の歪みを圧縮した破壊エネルギー「時空衝撃波」であり、更にスラッシュはその波動を刃に変えている。
「パワーが違うんだよ!スラッシュレイ!」
 高速で飛ぶ波動の刃。
 時空の歪みに旋風で拮抗できる筈も無く、仮面ライダーは槍を吹き飛ばされた。
 二体の怪物の戦いに茫然自失しながらも、車の列から何者かが駆け出すのを山下山男は発見する。
 距離を開いた仮面ライダーとスラッシュ。
 その間に割って入る影。
「やめて下さい!」
 斎だ。危険と見て下がらせようとする仮面ライダー。
 だがスラッシュの右腕に陽炎が集まる。
「ち…邪魔だぜ女!」
 斎に駆け寄る仮面ライダー目掛け、スラッシュレイが放たれた。
 斎もろともやる気か。
 山下山男の前で斎が爆発に飲み込まれた。
 間に合わなかったか、と思われたが、爆風から斎の姿が覗いた。
 彼女の全身は陽炎に包まれている。
 斎の背後にあったのは、ウィザードフォームへ超変身した仮面ライダー。亜空間バリア「ライダーシールド」を展開し、咄嗟に斎を守った。
「貴様…いい加減にしろ」
 「鬼走」の念珠を取り出す仮面ライダー。
 超加速能力「ライダーアクセラレート」を発揮し、異なる時間流から不可視の速度でスラッシュを攻め立てる。
 鬼弩ウィザードアローより時空衝撃波を放ったと思えば弓両端の刃でスラッシュを切りつける。
 だが、スラッシュにはまだ余裕があった。
 スラッシュも、「鬼走」と表記された呪符を取り出したのだ。

「ハデス・アクセラレート!」

 ベルト中央の宝玉、オニノミテグラへ呪符を滑らせた瞬間、スラッシュも仮面ライダーと同じ超高速状態へ突入した。
「これで同じ土俵だなぁ?それなら、やはりおれの方が速いぜ」
 超能力に特化した分、身体能力が犠牲となったウィザードフォーム。
 元より俊敏な上、仮面ライダーと同等の加速能力を持つスラッシュ。
 どちらが有利かは明白で、だから仮面ライダーは超加速領域においてもスラッシュの手刀に手こずる。

 互いの加速が終了した。
 手刀に執拗に切り刻まれ、倒れ込む仮面ライダー。勝ち誇るスラッシュ。
 それでも立ち上がる仮面ライダーへ、斎が新たな念珠を示唆した。
「『一鬼』!」
 その効力を訊いている暇は無い。
「ハデスアクセラレート!」
 再びスラッシュが超高速で襲いかかる。
 仮面ライダーは、念珠を取り出す。
212ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/29(木) 20:56:31.78 ID:O69RfyJv
13話B

「一鬼」
 その念珠を握りしめ、そこに残る祖父の記憶を頼りに、オニノミテグラへ滑らせた。

「ライダーフリーズ!」

 瞬間、世界が止まった。
 時計の針が動かない。
 落ち葉は風に舞わず、斎も山下山男も、そしてスラッシュも直前の体勢のまま硬直している。
 静止した世界で動ける、仮面ライダーただ一人。
 写真の中に迷い込んだ気分。
「時間を…止めたのか」
 この静止した世界は気分が悪い。
 仮面ライダーは「鬼幻」で、弩、ウィザードアローへ分身効果を与えた。

「イリュージョンアロー!」

 時空衝撃波がいくつにも分裂してスラッシュへ向かう。
 そこで時間停止効果が終了し、スラッシュはイリュージョンアローの直撃を浴びた。
「ぐああっ…!」
 ライダーフリーズ。
 自分とした事が、その能力への対策を忘れていた。
 自嘲するスラッシュの首を鷲掴みにし、仮面ライダーはブレイクフォームへ戻って拳を握りしめる。
 しかし、ライダーパンチを放つ直前に視界に斎が入った。
「…分かった」
 斎の意を汲み、握った拳を再び開き、スラッシュを解放する。
「な…フッ。後悔するぜ?」
 敵に慈愛をかけられた。スラッシュは一旦口に出そうとした言葉を呑み込み、人間の目に捉えられない速度で仮面ライダーらの前から消えた。


 六十数年前、進駐軍のレイモンド・マグラーは、足立区の地下に発生した謎のトンネルを調査していた。
 このトンネルが開いた為に、戦火から焼け残った幾つかの公共施設が地下へ陥没した。
 彼ら進駐軍のキャンプも被害を受けたのだ。
 水道管か何かが壊れたのだろう。
 そう考え事態を重要視していなかった武政だが、斎に呼び出された。
「調査に行って」
 有無を言わせぬ口調。
 どうやらトンネルは東京の中心部を目指して掘られており、その進行方向には皇居、また斎に資金を出している都市保安団の本部もあるらしい。
「敵は攻撃に用いる通路を築いている」
 斎はそう言う。
 正直気が乗らない武政だが…
「私からの援助を断ちたいなら、好きにすればいい」
「行かせていただきます」
 こういう時、ヒモは辛い。
 トンネルに降りるが、一切の光源が無いトンネルを自分のライトだけを頼りに、尚且つレイモンドらに見つからないよう進むのは結構な苦行だった。
 一方、調査を依頼した斎は美月屋でキヌを手伝っていた。単なる雑巾掛けだが。
213ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/29(木) 21:07:40.42 ID:O69RfyJv
13話C

 空腹を訴えるキヌに、彼女の母親に聞こえぬよう耳打ちする斎。
「缶詰めがあるけれど、食べる?」
「うっしゃ!絶対だよ言質取ったからね」
 少女二人はのどかだった。
 土埃にまみれてむせる一人のヒモの事など忘れて。


 六十数年後、戦闘で飛散したコンクリート片で軽い切り傷を負った斎は京也の病院で手当を受けていた。
「…何故割り込んだ」
 消毒液を塗りながら、いつになく厳しい声音で斎に尋ねる京也。
 危うく死ぬところだったのだ。仮面ライダーがいかに万能とはいえ、好んで一般人それも多少なり親交のある人間を危険に晒そうとは思わない。
「それに、何故奴を…スラッシュを庇った?」
「あの人も卜部さんと同じ人鬼だから…」
 だから分かりあえる、とでも言いたいのか。
 京也の表情は不快感が顕となる。
 人間同士はおろか、同じ東洋人でさえ互いに嫌い合う。
 一般人を攻撃に巻き込もうとしたスラッシュとなど分かりあいたくもない。
 どこかしこりを残したまま、斎は病院を出て帰路につく。
 その頃、警視庁図書館で「レイモンド」の名を片端から調べる山下山男。
 先輩刑事、大林を殺した仮面ライダーとまたも遭遇した。
 彼がもう一体の、サメに似た俊敏な怪人を何故見逃したのか山下山男には理解できなかったが。
 仮面ライダーに繋がるキーワードは、このレイモンドという名のみ。
 ただ、鏑木三次が言っていた「進駐軍兵士レイモンド・マグラー」という名も気にはなる。
 だが山下山男は非常に几帳面なので、マグラーを集中的に調べる事で情報整理の順序が乱れる事を嫌い、結局レイモンドの名がつくあらゆる人物を当たる非効率な作業に戻った。
 因みに、山下山男はスラッシュがアリジゴク怪人を倒し、仮面ライダーと接触した時点の状況しか把握できなかった。
 だから、御杖がスラッシュに変身した事実をまだ知り得なかった。

 翌朝、オペを終わらせ病院の中庭で息をつく京也の耳に、昨日聞いたばかりの耳障りな声が入る。
「卜部武蔵。九歳で傷害事件、十三歳で殺人事件を起こし医療少年院に送致。出所後、臨 マヤと結婚。しかし息子、卜部京也に対する殺人未遂事件で再び逮捕。その後の取り調べで他の二件の殺人も自供し起訴、と」
 ファイルをわざわざ京也にしか聞こえない声量で読み聞かせてやる、アゴの長い男。
 都市保安庁実務官、御杖峻。
 またの名をスラッシュ。
214ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/29(木) 21:31:13.70 ID:O69RfyJv
13話D

 僅かに眉をひそめる京也。
 父親の存在は京也にとって恐怖そのものだ。
 父に殺されかけたトラウマを払拭できずに薬剤に依存しているというのに、この男はその話題を笑いながら出す。
「卜部京也の曾祖父は、東北の山村でミステリー小説の題材にもなった四十人殺しを決行。その叔母は大正の日本を震撼させた『首風呂事件』の主犯格。フッ。中々の家柄だなぁ?」
 京也は壁に背をもたれ、御杖を向かぬままブラックコーヒーを啜る。
 天を仰ぎつつ問う。
「調べたのか…都市保安庁も暇だな。それで?あんたは何故俺と戦った。斎ちゃんを巻き込んでまで」
「分からんか?卜部の人鬼は危険だ。そしておれは仕事柄、危険と判断されたてめえの抹殺を試みた」
 御杖は自分の人鬼の力を保安庁に売り込んで報酬を得ている。
 彼にいわく、人外の狂暴性を遺伝的に持つ所謂「人鬼」はそう少なくはない。
 しかしその狂暴性を物理的な力に変換し「変身」した者は少なく、また彼らはかつて卜部武政という最強の人鬼に駆逐されたため、確認しうる中で現在まで血脈が残っているのは当の卜部家以外には御杖家くらいだという。
 それに、卜部の血筋は他の人鬼と比較にならないほど残虐な習性が遺伝する。
 三代中なら二人は必ず誰かを殺す。
 前述以前の時代でも相当なものだ。江戸時代に六代続けて人を殺めた家系が他にあったろうか。
「ここまで説明してやらねえと分からんか?頭脳が腐ってやがるな」
「それでも構わんが。つまり、卜部の鬼は最強最悪と?」
 挑発に乗らない京也に拍子抜けしながらも、御杖峻は相手を指差す。
「そういう事だな。てめえにはザラキの抑止力になってる自負があったかも知れんが、国はてめえを危険視してる。おれもな」
 病院で再び戦う気か、「召鬼」の呪符を取り出す御杖峻。やむ無く京也も「召鬼」の念珠を手にする。
 その時、峻の携帯電話が鳴った。
 同時に、看護師の麗華が京也を呼びに来た。
「お電話ですよ…何持ってるんです?」
 素早く念珠を隠す。
「別に。誰から?」
「クシナダ…イツキさん。卜部先生に取り次いでくれって凄い調子で」
 斎が連絡してきたなら、妖魔か改造兵士の出現。
 御杖峻へ、京也は手を挙げる。
「御杖峻、悪いが急用ができた」
「フッ。おれもだ。また今度、な」
 京也は忙しいし、夜御蔵誠馬は病院長である父親が急死したので東京での研修を辞め九州の実家へ帰ったし、慌ただしい。
215ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/29(木) 21:48:58.45 ID:O69RfyJv
13話E


 六十数年前、トンネル内を探索する武政を突如、灰色のモグラに似た怪人が急襲した。
 その数、十数体。明らかにザラキ天宗の改造兵士。
「計画の邪魔をする者は我らが許さん」
「終戦の復興を邪魔する奴らはオレが超許さん」
 この連中が主官庁を崩落させるためにトンネルを掘っていたのか。
 敵は腕にドリルを備え、武政に我先にと攻めかかる。

「変身っ!」

 時空断裂境界から取り出し、天にかざした「召鬼」の念珠をベルトの宝玉、オニノミテグラへ接触させた。 
 念珠を握ってた右拳を右斜め下へ振るい、体をどす黒い「力の嵐」に包む。
 仮面ライダーに変身した武政は四体をまとめて蹴り飛ばし、距離をおく。
「超許さんから一気に行くぜ!」
 「鬼神」の念珠で緑の眼を持つオメガフォームへ変身し、超加速能力「ライダーアクセラレート」を発動。
 不可視の速度でバーサークグラムを振るい、モグラ怪人共を片っ端から切り捨ててゆく。


 六十数年後。
 斎に指示された線路上に到着した京也。
 そこでは、全長10mはあろうかという巨大なムカデが暴れていた。コブラのように上半身をもたげている。
 現地には既に斎も到着していた。
「卜部さん、お願いします」
「分かった」
 時空断裂境界より「召鬼」の念珠を取り出し、ベルトと接触させどす黒い「力の嵐」を浴びる。
 細い目が赤く光り、ムカデを無感情に見やって呟く。

「…変身」

 京也の変身した仮面ライダーは、鋭い爪が生えた敵の節足を腕の生体カッターで弾き、掌を内側へ向ける。
「来い。俺が相手だ」
 敵の足は毒爪を持つ上に各々が長い。どちらかというならゲジゲジに近いものがあった。
 ブレイクフォームでの接近戦は危険か。
 そう考える仮面ライダーの前に、座高の低い、アメリカンタイプのバイクが滑り込んだ。
 メタリックパープルの車体から颯爽と降り、華麗にヘルメットを脱ぎ捨てたライダー。
「よう。狙いは同じ…か」
 御杖峻。
 都市保安庁も、妖魔撃滅を彼に依頼していたのか。
 「召鬼」の呪符を取り出す御杖峻の目が赤く輝き、腰にはベルトが出現。
 その中心にあるオニノミテグラへ、呪符を接触させる。
 発生したどす黒い「力の嵐」の中、左手で右肩、右手で左腰を抱き、妖魔を睨む。

「変…身!」

 回遊魚を思わせる流線型のスタイル。
 スラッシュに変身した御杖峻。一旦跳躍し、宙を蹴って着地する。
216ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/29(木) 22:03:23.39 ID:O69RfyJv
13話F

「さあて感謝しろ。血の花で彩ってやる」
 手足の生体カッターを存分に活かし、敵の長い節足を迎撃するスラッシュ。
 そのカッターが振動を始めた。
 再び節足での攻撃を試みるムカデだが、スラッシュの手に触れると同時に切り落とされた。
 後退するムカデ。
 スラッシュは更に跳躍し、時空衝撃波の刃「時空衝撃刃」を投擲する。
「スラッシュレイ!」
 鋭利な陽炎がムカデの頭部の触角を切除した。
 着地するスラッシュ。触角や節足を失い、たじろぐムカデ妖魔。
「所詮は虫けらか、呆気ねえなぁ」
 トドメと行くか。
 だが、そんな余裕が仇となった。
 ムカデの顎。
 そこから突如巨大な牙が飛び出し、ブーメランの如く飛翔、スラッシュの脇腹を直撃した。
「ぐ…」
 牙ブーメランはムカデの意志でコントロールされているらしく、軌道を変え再びスラッシュへ襲い掛かる。
「超変身!」
 仮面ライダーはバーサークフォームへ変身。
 バーサークショットを発砲してブーメランの動きを止め、バーサークグラムでムカデの側へ弾き飛ばした。
「ち、てめえなんぞに助けられるとは…」
「下がっていろ。俺がやる」
 弾かれたブーメランが自らの胴に刺さり、怯むムカデ。
 バーサークショットの銃口を向ける仮面ライダー。
 だが、スラッッシュが仮面ライダーの肩に手をかけた。
「フッ…虫けらの分際で、このおれを手こずらせるとはなぁ?」
 仮面ライダーに救われた事が腹に据えかねたのか、スラッシュは痛みをおして跳躍、ムカデの頭部を蹴る。
 次の瞬間には背面へ移動、ムカデが体勢を変えた時には既に右の死角へ移動し、手刀を見舞う。
 彼には仮面ライダーと同様、自分を高速化させる「鬼走」の呪符があった筈だ。
 それを使わずして、これ程のスピードか。
 生え替わった牙がスラッシュを挟みこもうとするが、その牙よりスラッシュの一挙一動の方が早い。
 再び牙ブーメランを放つものの、スラッシュは逆にそのブーメランの上へ立ち、その軌道を利用して上半身をもたげたムカデの懐へ飛び込む。
 ムカデの残った足爪が、次々と手刀に弾かれる。
 腹に二発の蹴りを打つ次の瞬間には敵の頭頂へ移動する。
 そのスピードを維持したまま「鬼爪」の呪符をオニノミテグラと接触させた。

「ハデスフェザー!」
 彼のパワーソース、時空衝撃刃がスラッシュの身体を覆う。
 その状態から飛び降りた。
「ハデスキック!」
217ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/29(木) 22:20:55.14 ID:O69RfyJv
13話G

 鋭い刃を帯びた脚が、敵の右側節足を大量に踏み潰す。
 着地と同時に脚を蹴り上げ、その衝撃波で左側の節足も切断した。
 逃走を図るムカデ。
 だが、その眼前にスラッシュが走り込んだ。
「おれという高貴な存在に恥をかかせた罪…血で償え」
 掲げた右手を下ろし、呼吸を整える。

「ハデスチョップ!」
 ムカデの眉間に手刀を突き刺し、その勢いで駆け出し敵の頭部から尾まで一直線に貫くスラッシュ。
 尾まで完全に貫通するや、すぐさま跳躍。
 真っ二つとなったムカデの胴体目掛けてスラッシュレイを両手から乱発し、微塵切りとした。
 が妖魔の肉片の只中へ着地するスラッシュ。同時に大爆発が生じた。
 爆煙から姿を覗かせたスラッシュ。
 仮面ライダーに歩みを進めるが、その足どりがおぼつかない。膝をつく。
「ち…不覚を取ったか」
 変身を解いた御杖峻の脇腹に流血が見える。
 先刻、ムカデの顎にやられた部位だ。眼前に卜部の人鬼がいるというのに動けない。
「大丈夫ですか?」
 仮面ライダーより先に御杖に駆け寄ったのは、斎だった。
「な…!何故おれを」
 斎の手が触れる。動揺する御杖。
「PQCの施設を守ってくれたの、あなただから」
「…フッ。ほんの気紛れだ」
 覇気を失い明らかに動揺している御杖峻を見て、仮面ライダーも変身を解いた。
「ウチの病院で看てもらうか?」
 斎同様、京也も御杖に手を差し伸べた。


 六十数年前、トンネルの暗闇の中。
 超加速した仮面ライダーの斬撃
「ライダーハイスピードブレード」
 の前にモグラ怪人共は抵抗する暇も無く、次々と斬り倒されてゆく。
 最後に一匹が残った。
 一旦加速を解く仮面ライダー。
「おたくがトンネル計画のボスか?」
「ち、違う!首魁は別にいる。み、見逃してくれ!」
 別にいる。ザラキの事か、それとも現場指揮官が別にいるという事か。
 もう少しこのモグラ怪人を詰問しようと思ったが、仮面ライダーの耳に崩落音と悲鳴が刺さった。
 この方向には、確か進駐軍の調査隊が。
「レイモンド!」
 モグラ怪人を蹴り飛ばし、仮面ライダーは調査隊の方向へ駆ける。
 その頭上、すなわち地上に何者かの気配を感じながら。
 その何者かは、腰のベルトに赤い宝玉「オニノミテグラ」を抱いていた。
続く

次回、14話「因縁の卜部」
218ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2011/12/29(木) 22:40:25.36 ID:O69RfyJv
13話、以上です

京也が変身した仮面ライダーは「鬼馬」の念珠で京也の愛車、Tadakatsu-XR420レイブンを生体マシン、スカルゲッターへ変身させることができる
仮面ライダーと同じ生体強化外骨格を持ったスカルゲッターは主の意志を感知し無人走行も可能
マッハ3で地上を疾走し、外骨格を伸ばして敵を切り裂くゲッタージャッジや波動銃ゲッターキャノンなどの武装を持つ
空中をマッハ20で飛行するスカルウィング、
車体と搭乗者をバリアで守り、地下、水中に突入するスカルダイバーという二つの特殊形態へも変型が可能で、
これらの形態でも前述の武装は使用可能
また武政の仮面ライダーもスカルレイダーというマシンを所持している。
基本的な武装や変型能力は同様だが、廃車となった進駐軍のバイクが元なので、変身前は乗れないし馬力などのスペック面は低い。
レイダーの走行速度は毎時1840kmぐらいである
219 ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 00:28:50.42 ID:1dS5twmf
この板に初めて投下させていただきます。
2年前に雑談板で貰ったアイディアを参考に、仮面ライダーWの2次創作を書かせていただきましたので投下させていただきます。

よろしかったら、お目汚しにどうぞ。
220仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 00:32:49.86 ID:1dS5twmf
ある年の12月31日、新東京国際空港の到着ロビーにて左 翔太郎と鳴海 亜樹子はひとりの男の到着を待っていた。
「確か・・・そろそろだよな、亜樹子?」
翔太郎が自身の腕時計をのぞきながら言う。
「そうね・・・でもまあ、荷物がなかなか来なかったり、
 あと無いとは思うけど税関で止められちゃったりすると予定通りには・・・
 あ!竜くぅ〜ん!!」
突如会話を中断し、大きく手を振る亜樹子。
その目線の先には、いつもの皮ジャンではなく、ビシッとしたスーツを着込んだ照井 竜の姿があった。
「お帰りなさい!どうだった、会議は?」
亜樹子が嬉しそうに聞く。
「所長、ただいま。とりあえず、世界中の警察機関に対してガイアメモリの悪用を抑制するための活動の必要性を
 自分なりには訴えてきたつもりだ。・・・だが、警察の中には『ガイアメモリを我々の手で解析し、
 それを警察官や軍に使用したらどうか?』なんて言ってきた奴らもいた・・・。
 あいつらは何も分かっていやしない、ガイアメモリによって悲しみを知った者たちの気持ちなんて・・・。」
照井が少し悔しそうな表情を見せる。

遡ること6日前。
照井はアメリカで開催された『全世界警察機構会議』に特別講師として呼ばれていた。
講演内容は『ガイアメモリの危険性』・・・つまり、風都署特別犯罪捜査課の課長として
最前線で見てきたガイアメモリ犯罪について報告し、そして世界各地にも広がりつつある
ガイアメモリ犯罪を未然に防ぐ方法を講じるのが目的であった。
だが、会議参加者の中にはガイアメモリによる肉体強化や特殊能力付加に興味を持ってしまい、
一部の者はガイアメモリの軍事転用を言い出す始末であった。

かつてウェザーのガイアメモリを持った男=井坂 深紅郎に両親と妹を奪われた照井にとって、
この軍事転用発言は悔しくてたまらなかったのだった・・・。

「・・・元気出してよ、竜くん!」
暗い顔をする照井に亜樹子が大きな声をあげる。
「そんなアンポンタンなんて、竜くんのエンジンブレードで振り切っちゃいなさいよ!
 それに、今度は私も会議に付いて行ってあげるから!!・・・で、変な発言者を見つけたら、
 コイツで・・・バチコーンっ!!!ってやってあげるからさっ!!!!」
そう言って、自身の持つポシェットから『ファイトいっぱつ』と書かれたスリッパを出す亜樹子。
そんな彼女の様子に、照井は少し笑うのであった。
「ありがとう・・・所長。」
「さて・・・立ち話も済んだことだし、帰るとしますか。」
この様子を見ていた翔太郎が言う。
そして、彼らが駐車場に向かおうとしたその時、照井があることに気付いた。
「・・・ん?左、その右手はどうしたんだ?」
照井が言う。
彼の目線の先には、包帯が巻かれ、その下に湿布が貼られた翔太郎の右手があった。
「ん?・・・ああ、これな・・・実はちょっと・・・な?」
「・・・ドーパントか?」
「ああ、照井がアメリカへ行った直後にな。今回はちょっと大変だったぜ・・・。」
「いったい何が・・・?」
「ちょっと!ふたりとも立ち止まってないでよ!!」
すでに駐車場の入り口近くにまで移動していた亜樹子が叫ぶ。
一方の翔太郎と照井は再度立ち話を始めてしまったために、ほとんどその場を離れていないでいた。
「あ、いけね。亜樹子!すぐ行く!!照井、細かい話は車の中で良いか?」
「了解した。」
そう言って、ふたりは亜樹子のもとへと駆けて行くのであった。
221仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 00:37:04.72 ID:1dS5twmf
「あちゃ〜・・・渋滞だよ、コリャ。」
運転席でハンドルを握る亜樹子が言う。
彼女の目線の先には、異様なほどに車が集まった高速道路が広がっていた。
「・・・でだ。左、俺がいない間に何があったんだ?」
助手席に座る照井が聞く。
「ああ、その話だな。照井・・・『風都ワイン』って知ってるよな?」
翔太郎が後ろの席で横になりながら言う。
「『風都ワイン』?・・・ああ、風都で採れる香り米を原料にした蒸留酒のことか。」
「そう。『風花饅頭』、『風都ラーメン』、そして『風都ワイン』!これがいわゆる『風都三大名産品』ってやつさ。」
「それとお前の怪我がどう関係あるんだ?」
「あのね、竜くんがアメリカに行った次の日に『風都ワイン』の製造元から依頼があったのよ。
 『「風都ワイン」の倉庫の警備をして欲しい』ってね。」
亜樹子が言う。
「ああ。最初、俺は断ろうかと思ったよ。俺たちは便利屋じゃねぇんだからさ。ところが・・・。」

5日前・・・。

「「龍を見た?」」
翔太郎と亜樹子が同時に言う。
この問いかけに対し、鳴海探偵事務所へ相談にやってきた『風都酒造』社長の莫迦須 不動(ばかす ふどう)が
顔を曇らせながら答えた。
「ハイ・・・二週間前に我が社の第三貯蔵庫が風都ワインの強奪と倉庫の放火に遭いまして・・・それ以降、
 全ての倉庫に防犯カメラを取り付けるようにして防犯対策を採っていたつもりだったんです。」
「ところが、今度は第四貯蔵庫が同じ被害にあった・・・と。」
そう言って、不動の前に新聞を置く翔太郎。
その新聞には『風都酒造倉庫全焼 また放火か?』と大きく銘打たれた記事が掲載されていた。
「そこで、警察の方とともに燃えた第四貯蔵庫を調べてみたんです。
 そうしたら、運良く防犯カメラが燃えずに残っていまして・・・それを調べてみたら『龍』の姿があったんです・・・
 あ、その様子を写真に起こしたのがこれです。」
そう言って、1枚の写真を取り出す不動。
そこには、不動の言うとおり『龍』の姿をした何者かが貯蔵庫に眠る風都ワインの樽の前に立ち尽くす姿が、
不鮮明ながらも映し出されていた。
「正直なところ・・・本当は警察の方に倉庫を護衛していただきたかったのですが、
 現状では無理だと言われてしまいまして・・・で、どうにかならないかとしつこくお願いした結果、
 超常現象犯罪捜査課の刃野さんという方からここを紹介していただきまして・・・。」
「なるほど・・・。」
222仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 00:47:18.52 ID:1dS5twmf
engawaの調子・・・悪い?

----------------------------------------------------------------------

「龍・・・さしずめ、伝説獣の記憶を宿した『ドラゴン・ドーパント』ってところか?」
車中にて、照井が翔太郎に聞く。
「ビ・ン・ゴ!」
一方の翔太郎は、何故か嬉しそうな声を上げながら返答するのであった・・・が、すぐに彼の口調はトーンダウンした。
「だが、コイツが強敵だった・・・。」
そう言って、翔太郎は右腕の包帯をぼんやりと見るのであった。

4日前・・・。

風吹山にある風都酒造の第二貯蔵庫を、翔太郎とともに警護していたと亜樹子。
そんな彼女の前にひとりの男が現われた。
「・・・うん?あのぉ・・・風都酒造の方ですか?」
気が付いた亜樹子がその男に聞こうと近づく・・・が、次の瞬間、亜樹子の足が止まってしまった。

非常に酒臭いのである。

「あのぉ・・・えぇっと・・・風都酒造の・・・方ですか?」
とりあえず、手で鼻を軽く押さえつつ、再び質問する亜樹子。
だが、男は無言のままだった。
「・・・おい、亜樹子!どうしたん・・・ん?どちら様?」
続いて現われる翔太郎。
そして、続けて何かを発しようとした・・・が、風に乗って漂う男からの酒の臭いに、おもわず閉口してしまった。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
倉庫内で展開される、翔太郎・亜樹子・謎のヨッパライの三すくみ。

だが、その平静はヨッパライの一言で打ち破られた。
「酒を・・・くれ・・・。」
「「・・・え?」」
男から発生られる酒枯れした声に対し、同時に変な声を上げる翔太郎と亜樹子。
「酒をくれと・・・言っているんだ・・・。」
「いや・・・あの・・・私たち、ここの倉庫にあるお酒の警備の者でして・・・酒屋さんじゃないんで、勝手に売ることは・・・。」
「・・・。」
亜樹子の言葉を聞き、睨む男。
その直後、何かを思い出したのか、男はズボンのポケットから何かを取り出そうとした。
「・・・じゃあ・・・これを見て・・・同じことが言えるか?」
「・・・これ?」
「俺の・・・ヨッパライ・ロードへの・・・パスポートだ・・・。」
「・・・!亜樹子、逃げろ!!」
ヨッパライの声が何かの琴線に触れたのか、叫ぶ翔太郎。
・・・と同時に、男はポケットから<D>のガイアメモリを取り出し、ためらうことなく自身の左手の甲に挿すのであった。

DRAGON!

メモリから発せられるガイアウィスパーをきっかけに、体を変貌させる男。
その姿は、まさに伝説の生き物である龍そっくりであった。
223仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 00:56:03.16 ID:1dS5twmf
「そこの女・・・俺から酒を奪うつもりなら・・・倒す!」
そう言って、ドラゴン・ドーパントは腕を振り上げ、亜樹子に襲いかかるのであった・・・が、その腕が彼女に触れようとした瞬間、
何者かの拳が隙間に割って入った。
「何だ・・・お前は・・・?」
何者かを見るドラゴン・ドーパント。
その目線の先には、黒い装甲に紫の模様が刻まれたひとりの戦士が立っていた。
「仮面ライダー・・・ジョーカー!」
そう言い放つや否や、ロストドライバーに刺さったジョーカーのメモリを抜き、
マキシマム・スロットに装填する仮面ライダージョーカー=左 翔太郎。

JOKER!!MAXIMUM DRIVE!!

「ライダーアッパー!」
拳に集約された力を解放し、右腕一本でドラゴン・ドーパントを放り投げる仮面ライダー。
その勢いはすさまじく、2m以上はあろうかという敵の巨体は倉庫の天井を突き破って月明かり輝く夜空に舞い、
その数秒後には再び天井を突き破って空きの酒樽群に己の体を叩きつけていた。
「翔太郎くん!」
「亜樹子、下がってろ・・・おい、そこのウワバミ野郎!てめぇの罪を数えてもらうぜ!!」
そう言って、構える仮面ライダー。
その目線の先には、体にまとわり付いたバラバラの酒樽を払い、立ち上がるドラゴン・ドーパントの姿があった。
「へぇー・・・メモリブレイクに耐えるとは大した奴だな。」
「・・・酒・・・だ・・・。」
「あぁん?」
「酒をくれなきゃ・・・お前を・・・焼き尽くす・・・。」
「おいおい・・・俺は仮面ライダーであって、サンタクロースでもハロウィンの時の親御さんでもないんだぜ?
 そんなに酒が欲しかったら、こんな犯罪になんて手を染めず、汗水たらして労働を・・・。」
ジョークを言う仮面ライダーであったが、そんな言葉に耳を貸す訳の無いドラゴン・ドーパントは腹に力を溜め始めた。
「・・・うん?何だ?」
仮面ライダーが敵の行動に気づき、構えたその瞬間であった。
ドラゴン・ドーパントの口が大きく開かれ、そこからは直径30cm以上もある青白い火球が・・・しかも一発・二発ではなく、
まるでマシンガンのように放たれるのであった。
「!危ねぇっ!!」
とっさに近くにあった酒樽に身を隠す仮面ライダー。
避けられた火球は倉庫の壁や天井、そして酒樽へと引火するのであった。
この光景を見て、仮面ライダーがハッとする。
「亜樹子!今すぐ、この倉庫から脱出しろ!!」
「・・・え?!」
隠れていた場所からヒョッコリ顔を出す亜樹子。
「この倉庫にある風都ワインの原液はアルコール度90%・・・つまり、ほぼ燃料みたいな物だ!
 大半の原液は第一貯蔵庫に移したとは言え、囮用の原液はまだいくつか残っている!!それに引火したら、火だるまになるぞ!!!」
「『脱出しろ』って言っても・・・出口はあのドーパントの後ろよ!」
指を指す亜樹子。
その先には、第二貯蔵庫に残っていた風都ワインの原液を樽ごと飲むドラゴン・ドーパントの姿と、
先ほど放たれた火球の炎に照らされる倉庫の扉があった。
224仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 01:00:06.91 ID:1dS5twmf
「こうなったら・・・亜樹子!俺に任せろ!!」
そう言うと、仮面ライダーはどこからかトリガーマグナムを取り出し、トリガー・メモリを挿入した。

TRIGGER!!MAXIMUM DRIVE!!

傾いた銃口を持ち上げ、亜樹子近くの壁に向かってトリガーマグナムを放つ仮面ライダー。
その銃弾は倉庫の壁を砕き、新たな出入り口を形成するのであった。
「亜樹子!」
「分かった!」
阿吽の呼吸で脱出する亜樹子。
一方の仮面ライダーはトリガーマグナムを手に持ったまま、ドラゴン・ドーパントの姿を再確認する。
だが、ドラゴン・ドーパントは既に囮用として置かれていた風都ワインの原液五樽を飲み干した後であった。
「・・・まだ・・・酒は・・・残っているのか・・・。」
「・・・ああ、第一貯蔵庫にたんまりとな。だが、お前さんが飲むことはねぇ・・・神妙にメモリブレイクされな!」
「・・・だったら・・・ここに用は無い・・・。」
そう言って、再び腹に力を込めるドラゴン・ドーパント。
すると、今度は火球ではなく体内に溜まったアルコールがガスとして・・・しかも全身から霧のように噴き出した。
「何しやがる?!」
叫ぶ仮面ライダー。
だが、次の瞬間、ドラゴン・ドーパントの居た辺りから小さな火球が現われ、同時にその炎は倉庫を充満するガスに引火、
最終的には仮面ライダーごと第二貯蔵庫を木端微塵に砕くのであった・・・。

「・・・で、それが原因での傷か。」
渋滞を抜け、風都に向かってスイスイと直走る車内で照井が言う。
「ああ。あの時はさすがにヤバいと思ってな・・・とっさにメタル・メモリを挿入して防御に徹したものの・・・
 爆発にはさすがに耐えられんわな、ホンマ。」
何故か、最後にエセ関西弁で語る翔太郎。
「結果として、ドラゴン・ドーパントは地中に潜って逃亡。翔太郎くんは大事にまで至らなかったものの、怪我で一時的に入院。
 唯一のラッキーは・・・今回の事件がドーパントの仕業ってことが分かっての警察動員かしらね。」
亜樹子もハンドルを握りながら言う。
「それで・・・最終的にはどうなったんだ?」
「慌てなさんな、照井 竜。この物語のハイライトはここからなんだからさ・・・。」
そう言って、翔太郎は再び語りだした。
225仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 01:06:05.40 ID:1dS5twmf
2日前・・・。

「・・・ところで、翔太郎の意識は戻らんのかい?」
<左 翔太郎>と書かれた名札か張られた病室の前で、刃野 幹夫刑事が亜樹子に聞く。
「右腕を怪我した以外は至って問題無いんですが・・・まるで死んだように眠っちゃって・・・。」
「・・・ったく、こっちは年末の特別警戒で忙しくて人が足りないのに、眠り姫を気どりやがって・・・あの探偵!」
刃野刑事の隣りにいた、部下の真倉 俊が文句を言う。
「まあまあ・・・怒りなさんな。亜樹子ちゃん、俺たちはとりあえず第一貯蔵庫に行って来る。
 知り合いの機動隊に応援も要請出来たし、完璧な守りが出来る・・・とは断言しかねるが、まあやってはみるさ。」
そう言いながら、刃野刑事は両肩にかかったツボ押しをグイグイと押すのであった。

その時だった。
勢いよく開く病室の扉。
その中から、扉に体を預けて立つ翔太郎の姿が現われた。
「探偵!」
「翔太郎!」
「翔太郎くん!大丈夫なの?!」
おもわず、翔太郎の体を抱き抱える真倉と亜樹子。
「刃野さん・・・俺に考えがある・・・。」
「考え・・・?」

「ここに・・・酒が・・・ある・・・。」
風都の中心部から少し離れた市街地にある、風都酒造の第一貯蔵庫。
その扉の目の前に、ドラゴンのメモリを持つ男が立っていた。
「この世界の酒は・・・俺の物・・・風都ワインは・・・俺だけの物・・・。」

DRAGON!

左手にメモリを挿し、ドラゴン・ドーパントへと変身する男。
そしてドーパントの力を利用し、木で出来た重厚な扉を破壊すると、一目散に風都ワインが入った樽群に向かうのであった。
「・・・酒だ・・・酒だ!」
一心不乱に樽酒を飲むドラゴン・ドーパント。
手前にあった樽はすぐに空となり、続いて2つ目・3つ目と酒が進んでいく。
そして30分後には、倉庫内にあった全ての樽酒がドラゴン・ドーパントの胃袋へと収まるのであった。
「これで・・・酒は俺だけの物・・・これで・・・俺だけの・・・。」
「残念ながら、お前さんの望み通りにはならなかったぜ!」
ドラゴン・ドーパントの言葉に割り込むように聞こえてくる声。
その声の主は左 翔太郎であった。
「仮面・・・ライダー・・・。」
「どうやら俺たちの計算通り、酒樽を空にしてくれたようだな。」
「計算・・・だと?」
「まず、計算その1!お前さんはここを第一貯蔵庫だと思っているようだが・・・残念ながら・・・。」
翔太郎が言葉を発した直後、第一貯蔵庫の壁が波を打つように揺れ始め、そして入り口の扉を除く全ての壁が闇夜に消えた。
「・・・これは?!」
「ああいうこと。」
指を指す翔太郎。
その先には、デンデンセンサーとルナ・メモリを持ってニコニコしている亜樹子の姿があった。

ドラゴン・ドーパントが第一貯蔵庫だと思っていた場所・・・
それはデンデンセンサーとルナ・メモリのマキシマムドライブによって作りだされた幻影であった。
226仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 01:11:10.21 ID:1dS5twmf
「計算その2は・・・まあ、追って説明するか。」
そう言って、翔太郎はロストドライバーを腰に付けるのであった。
「俺・・・変身!!」

JOKER!!

翔太郎の体を包み込む、黒い風と紫の装甲。
そして、翔太郎は仮面ライダージョーカーへと化した。
「さあ・・・お前の罪を・・・数えろ!!」
そう言って、ドラゴン・ドーパントに飛び掛かる仮面ライダー。
だが、体を掴んだと思った瞬間、ドラゴン・ドーパントの剛力で今度は仮面ライダーが投げ飛ばされたしまった。
空になった酒樽に体を叩き付けられ、黒い体に多量のチリを落とす仮面ライダー。
また、右腕の傷が治っていないために、立ち上がろうとするが、右腕を押さえたままその場に膝をついてしまうのであった。
「酒で良くなった気分を・・・害す奴は・・・燃やす!」
そう言って、腹に力を込めるドラゴン・ドーパント。

この瞬間を、仮面ライダージョーカーは待っていた!

まだ自由の効く左腕を使い、サイクロン・メモリを取り出す仮面ライダー。
そして、膝を床に付けたまま、メモリをマキシマム・スロットに装填するのであった。

CYCLONE!MAXIMUM DRIVE!!

「これで終わりだ・・・仮面ライダー!」
そう言って、火球を放つドラゴン・ドーパント・・・であったが、出て来た火球の一発目はソフトボール大の物しか出ず、
2発目以降はガス欠が起きたかのように小さな種火ばかりであった。
「何?!ならば・・・。」
そう言って、今度は第二貯蔵庫を爆破に追い込んだガス噴射を行おうとするドラゴン・ドーパント。
だが、体から可燃性のガスが出てくることは無かった。
「何が・・・何が起きている・・・?!」
「それが計算その2・・・『ベラミスの剣』って奴だ!」
そう叫ぶと、翔太郎はマキシマム・スロットのスイッチを押し、体に多量のつむじ風を纏うのであった。
「ジョーカー・サイクロン・・・三段キック!!」
つむじ風の勢いを利用してライダーキックを放つ仮面ライダー。
そのキックはドラゴン・ドーパントの一点に当たると、反動で仮面ライダーの体をつむじ風のもとへ戻るが、
仮面ライダーは再度キックを敢行。
再び放たれたライダーキックは、先ほど攻撃した箇所を寸分違わず攻撃し、仮面ライダーの体は三度つむじ風のもとへ。
そして、三発目のキックの体勢に入った時、仮面ライダーは全身全霊の力を右足に集中させた。
「これでメモリブレイクだ!!」
先ほど二回の攻撃で狙っていた箇所に三発目のキックを当てる仮面ライダー。
その瞬間、二度の攻撃でドラゴン・ドーパントの傷ついていた箇所は砕け、
晒された内部へサイクロン・メモリの強大なエネルギーが流れ込むのであった。
「そんな・・・馬鹿な・・・。」
キックの衝撃で後退し、さらに苦しみだすドラゴン・ドーパント。
そして、仮面ライダーがキックから体勢を立て直して地面へ着地した直後、
ドラゴン・ドーパントの体は大爆発を起こし、諸悪の根源であったメモリも粉々に砕け散るのであった。
227仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 01:15:54.62 ID:1dS5twmf
「とうちゃあ〜く!」
風都にある鳴海探偵事務所の前に車を止め、嬉しそうな声を上げる亜樹子。
そして、少し間隔を置いて助手席から照井が、後ろの席から翔太郎が外へと出るのであった。
「左・・・ひとつ聞いて良いか?」
「何だ?」
「『ベラミスの剣』って何だ?」
照井が少し納得しない顔で翔太郎に聞く。
「え・・・あ、ああ。昔、漫画で知った知識さ。」
「漫画・・・?」
「ああ・・・かつて、ほとんど同じ力を持った戦士がいてな、そのひとりが戦いに決着をつけるためにもうひとりの戦士の武器を、
 いつもよりちょっとだけ重い物にすり替えて、その重さによって生じた隙を狙って相手を討った・・・ってな創作故事さ。」
「・・・その故事と今回の事件がどう繋がるんだ?」
「実はね、偽の第一貯蔵庫にあった風都ワインの原液には、翔太郎くんの提案で細工をしてあったのよ。」
「細工・・・?」

簡単に説明すればこうである。
まず、入り口近くの樽には原液そのままの風都ワインを入れ、その奥にある酒樽には原液を水と9:1で割った物を、
さらに奥には8:2で割った物を、そのさらに奥には7:3で割った物を・・・と繰り返し、
最終的に一番奥の樽には1:9・・・いや、ほとんど水に近い物が入っていたのであった。
だが、ドラゴン・ドーパントは除々に薄まっていた風都ワインの味に気付くこと無く全てを飲み干し、
アルコールで満たされていると思われていた体にはほとんど水しか入っていなかったのであった。

「だから、火球が打てなかったりと敵は攻撃に精彩を欠いていたのか。」
「そう言うこと!・・・でも、よくそんなアイディア、翔太郎くんが思いついたわね。」
「・・・。」
亜樹子の言葉に黙りこむ翔太郎。
しかし、何か決心すると、重苦しく口を開くのであった。
「・・・フィリップが・・・教えてくれたのさ。」
「フィリップくん・・・?」
228仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 01:20:17.18 ID:1dS5twmf
病院に担ぎ込まれたあの日、翔太郎は夢を見ていた。

それは、いつもの鳴海探偵事務所のベッドの上。
頭をぼんやりさせつつ立ち上がると、翔太郎は何かに魅かれるようにリボルギャリーのあるドックへと足を運ぶのであった。
ドックへのドアを開ける翔太郎。
かつてなら、この目線の先に翔太郎の相棒であるフィリップがおり、
『地球(ほし)の本棚』に入っては気になったことを一心不乱に検索したり、メモリガジェットの開発をしたり・・・。

そう考えていたその時だった。

「翔太郎、ちょっと来てくれ!」
本来なら誰もいるはずのないドックに響く、ひとりの青年の声。

その声は、まさしくこのドックの主であったあの男の声であった。
だが、彼はユートピア・ドーパントとの戦いで死んだはず・・・?
でも、あいつの声は確かに聞こえた・・・。

「何をブツブツ言ってるんだい、翔太郎?」
考え込む翔太郎の前にヒョッコリと顔を見せる青年。
それは、紛れも無く園崎 ライト・・・つまりフィリップであった。
「フィ・・・フィ・・・フィリ・・・。」
突然の事態に言葉が出ない翔太郎。
だが、フィリップはそんな状況を無視し、翔太郎をリボルギャリーのバイク・スペースに無理やり引っ張るのであった。
そこには、長めのテーブルと十一個のコップ、そして脇には半分くらい無くなった風都ワインと水があった。
「翔太郎、キミは確かお酒が飲めたはずだよね?」
「え・・・あ・・・え・・・あ?」
「・・・どうしたんだい?もう一回聞くよ、キミはお酒が飲めるんだよね?」
「あ・・・まあ・・・嗜む程度に・・・。」
「まず、何から説明したら良いか・・・とりあえず、一番右端のコップを味わってくれ。」
そう言って、彼らから見て右端のコップを指差すフィリップ。
対する翔太郎は、理解出来ないままコップに口を付けるのであった。
「どうだい?」
「・・・これ・・・水か?」
「そう・・・水のみだ。」
「???」
「続いて、左端のを飲んでみてくれ。」
そう言って、今度は左端のコップを指差すフィリップ。
対して、翔太郎は拒否することなくコップに口を近付ける・・・のであったが、
その直後、咳とともにすぐさまコップをテーブルに置くのであった。
229仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 01:26:03.35 ID:1dS5twmf
「おい、フィリップ・・・ゲホゲホ!これ・・・原液だろっ!!」
文句を言う翔太郎。
だが、一方のフィリップは満足そうであった。
「さすがに、原液と水の違いは分かるだろう?じゃあ、次は真ん中の三つを『右から順々』に飲んでくれ。」
「ゲホゲホ・・・え?真ん中?」
そう言って、真ん中に置かれた三つのうちの右のコップを手に取る翔太郎。
その味は、アルコールは強いが先ほどの原液と比べて程良い味となっており、また香り米による甘い匂いも心地よい物となっていた。
続いて、真ん中・左と飲んでいく翔太郎。
どちらのコップも程良い味と香りがしていたが、違いについて彼自身はよく分からなかった。
「どうやら、僕の思惑通りになったみたいだね。」
「思惑って・・・何か仕掛けでもしたのか?」
「ああ・・・この三つはそれぞれ希釈率が違うんだ。右が6:4、真ん中が5:5、左が4:6・・・ってね。」
「・・・まさか、この十一個って・・・全部希釈率が変えてあるのか?」
「冴えてるね、翔太郎。右端の原液を皮切りに9:1、8:2、7:3・・・最後は0:10の水ってね。
 だが、真ん中の三つを味わって分かったように、希釈率が違ってもその違いを翔太郎は感じ取れなかっただろう?」
「ああ・・・最初の6:4の味と香りが鼻と口に残ったままだから、5:5、4:6も同じように感じちまった。
 人間の味覚なんていい加減な物だな。」

「・・・そう、それがあのドーパントを倒すヒントだ。」

「・・・え?」
フィリップの言葉が聞こえた直後、おもわず顔を上げる翔太郎。
だが、ドックの中にフィリップの姿も先ほどまであったテーブルも無く、そこには翔太郎ただひとりしかいなかった。
「フィリップ?・・・フィリップ・・・フィリップぅううううう!!!」

夢の中で、翔太郎の悲しい叫びが木霊した。
230仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 01:30:43.44 ID:1dS5twmf
「そんなことがあったのか・・・。」
翔太郎の話を聞き、少し暗めの声を出す照井。
「フィリップの助言のおかげでドーパントを倒すことが出来た・・・だが・・・。」
「だが?」
「・・・俺は、未だにフィリップの力を欲しているのかもしれない・・・哀れなハーフボイルドだよ、まったく・・・。」
「・・・。」
黙りこむふたり・・・であったが、そんな空気を変えようと、亜樹子が『何か』を抱えて彼らの前に現われた。
「ジャーン!!」
そう言って、ふたりの前にその『何か』を見せる亜樹子。
それは、未開封の風都ワインであった。
ドラゴン・ドーパントによる事件以降、亜樹子は風都酒造から報酬とともに風都ワインを特別に一本貰っていたのだった。
「翔太郎くんも、いつまでもウジウジしない!ハーフボイルドならハーフボイルドらしく堂々としてなさい!!」
「・・・おい、俺は別にスキ好んでハーフボイルドになった訳じゃねぇよ。」
「兎にも角にも・・・寂しい時や悲しい時には酒が一番の薬!それに、今日は大晦日だし、三人で飲んじゃいましょう!!」
「・・・そうだな・・・話には聞いていたものの、風都ワインを味わったことはまだ無かったしな。」
照井が言う。
「賛成一票!翔太郎くんは?!」
「え・・・あ・・・。」
「沈黙は無効票と見なされ、賛成二票・反対ゼロ票で可決となりましたっ!!」
そう言って、風都ワインをふたりの前に置き、三人分のグラスを取りに行く亜樹子。
その姿を見て、翔太郎が思いついたように叫ぶ。
「・・・亜樹子!グラスは四つにしてくれ!!」
「四つ・・・?・・・ああ!OK!!」
231仮面ライダーW ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/01(日) 01:35:55.12 ID:1dS5twmf
照井によって封が切られる風都ワイン。
中に詰められた液はボトルから放たれ、大き目の氷が入った四つのコップに並々と・・・そしてほぼ同じ量が注がれた。
そして、亜樹子がそのうちのひとつを手に取ると、立ち上がって語り始めた。
「さて・・・今年はミュージアムやら財団Xやらの大騒動がありましたが・・・無事、年末を迎えることが出来ました!
 来年も鳴海探偵事務所および風都警察が無事に活動出来ますよう・・・乾杯!!」
「乾杯!」
「乾ぱ・・・!!」
翔太郎がふたりのグラスに自身のグラスを付けようとしたその時だった。
翔太郎は全身に謎の感覚を感じ、そしてグラスを握ったまま近くの窓から外をのぞくのであった。
「どうしたのよ、翔太郎くん!」
「今・・・フィリップの声が・・・聞こえた気がした・・・。」
「フィリップくん・・・?」
翔太郎の言葉に、ふたりの窓の側へ駆ける。
だが、窓の先には薄暗い曇り空が広がっているのみであった・・・と思われたが、
その数秒後、風都の街に白い雪が舞いだすのであった。

この光景に、三人の顔は満足そうであった。

「フィリップくん・・・雪が好きだったもんね。」
「ああ・・・。」
雪を見て言う、亜樹子と照井。
一方の翔太郎は黙りつつも、嬉しそうな顔をしながらグラスを口に傾けるのであった。

粉雪舞う風都の街。
その上空に、人知れず飛ぶエクストリーム・メモリの姿があった。

誰も気づかないような高い場所から、鳴海探偵事務所を見つめるエクストリーム・メモリ。
その目線の先には、風都ワインを楽しむ左 翔太郎・鳴海 亜樹子・照井 竜の姿があり、
そして彼らが囲む机の上に四つ目のコップがあることに気付いた。
エクストリーム・メモリが言う。
『照井 竜、亜樹ちゃん、それに翔太郎・・・君たちと新年を迎えられなくて残念だ・・・
 だが、僕はもうすぐ君たちの前に現われる。そして、次の新年は一緒に祝おう・・・
 三人と四つではなく、四人と四つでね・・・。』

そう言うと、エクストリーム・メモリ・・・いや、フィリップは空の彼方へと飛んでいくのであった。

おわり

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以上です、失礼いたしました。
232ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/15(日) 15:11:14.98 ID:3IJJsWwq
14話@

 六十数年前、主官庁を沈没させるべく東京の地下にトンネルを築いていたモグラ型改造兵士らは、仮面ライダーの必殺技「ライダーハイスピードブレード」で一匹を残して壊滅した。
 しかし残る一匹を尋問する寸前、仮面ライダーは進駐軍の兵士達が落盤に巻き込まれる音を聞いた。

仮面ライダーネメシス14話「因縁の卜部」


 六十数年後、香の匂いがきつい何処かの暗闇。
 董仲僧正の肩を叩く、もう一人の若い僧。
「相変わらずのしかめ面でいらっしゃる。卜部の鬼…ですか?」
 頷く董仲。
 卜部の鬼により常に妨害される自分達ザラキ天宗の謀略。
 妖魔ですら軽々と粉砕する卜部の鬼にとっては、自分達の改造兵士など屁でもなかろう。
 そんなことは六十数年前の時点で分かりきっていた筈だが。
 しかし、当時と今は状況が異なる。
 妖魔が東京に解放されたという点だ。
 若い僧…玄達は笑む。
「改造兵士に妖魔の力を組み込めば良い」

 ムカデ妖魔の牙が刺さり、京也の病院に連れて来られた御杖 峻=スラッシュ。
 但し、体内に流入した毒そのものは鬼の生命力で既に無効化されており、病院に着く頃には既に単なる脇腹の軽い切り傷でしかなかった。
「おれは非常に気分が悪い。何故だか分かるか?てめえが嫌いだからだ」
 京也に消毒薬を塗られながらそう毒づく御杖 峻。
 しかし京也は気にしない。柄の悪い患者なら慣れている。
 それより、と聞いてみる。
「御杖峻。あんた保険証持ってるか?ここ初診だろ?」
「…あっ」
 保険証が無かったので、代金が一万超えた。
 都市保安庁宛の領収書を受け取り、紫のハーレー型に乗って帰ってゆく。
 もう少し突っ込んで話をするべきだ、と彼の後ろ姿を見送りながら京也は思った。


 六十数年前、レイモンド・マグラーの開いた視界に日光が射し込んできた。
 いつの間にか地上に戻れていた。周囲では、部下達も一様に息を吐いている。
 そしてもう一人、卜部武政がいた。
「まさか、君が助けてくれたのか?」
「うん、埋まってるの見るとざまあ見やがれって思ったんだけど、やっぱ三次の事があるからねぇ」
 レイモンドは救出できた。だがモグラ怪人の最後の一匹を逃がした。それに、落盤が発生した際頭上に感じた奇妙な気配。
 あの落盤はレイモンドらの殺害、或いはモグラ怪人の救出を目的とした人為的なものだ。
「モグラがもう一匹いたって事かな。それとも…」
233ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/15(日) 15:33:23.36 ID:3IJJsWwq
14話A

 様々な可能性を捨てきれないまま、武政は一先ず斎への中間報告のため、美月屋へ戻る。


 六十数年後、御杖峻を見送った翌日。
 午前の診療中、卜部京也は患者の中に知った顔を見つけた。
「山内涼…」
 凉ちゃん、と呼ばれる斎の友人だ。
「今日はどうした」
「先生さ、愛想無くね?イツキは気い弱えぇんだから普段からもっとソフトに」
 余計なお世話だ。
 足首に内出血がある。
 どうやら満員電車に乗った際ドアに挟まれたらしい。
「こーゆーのって鉄道会社訴えられねーの?」
「やめておけ。訴訟費用の方が高くつく」
 凉ちゃんはバイト先を変えたため、大学から池袋を経由し、慶修線という路線を使っている。
 自殺の名所がある為か、この路線はよくダイヤが乱れる事で有名だ。
 そういえば、昨日ムカデ妖魔を倒したのも慶修線の線路上だっけ。

 同じ頃、警視庁図書館。
「フッ。刑事が刑事課の仕事をサボっていいのか?」
 背後に突然現れたアゴの長い男に驚く山下山男。
「君は…コブラ事件の時の…」
 男は自分のIDカードを見せる。
「都市保安庁の御杖峻だ。てめえはレイモンドファイルの閲覧手段を知りたい。
 彼の熱意に御杖峻は笑みを向ける。皮肉めいた暗い笑み。この刑事は利用できる。
「レイモンドファイル…作成者はレイモンド・マグラー。1945〜47年、東京に駐留していたGHQの兵士。あとはてめえで何とかしろ」
 そう告げ、紫のハーレーで走り去る。

 六十数年前、頭に包帯を巻いたレイモンドへ三次が駆け寄る。
「大丈夫?あの地下トンネルで怪我したの?」
「ああ。しかし生き埋めになった我々を助けてくれた者がいた」
 どうやってあの人数を素手で掘り起こせたのか。
「やはりまだ日本にはニンジャがいるのか?」
 苦笑するキヌ。
「あたし昭和生まれだからお目にかかってはいないわね」
 そんな食堂の様子を脇に見ながら武政は畳に地図を広げ、鉛筆でモグラ怪人が築いたトンネルの経路を書き込み斎に示す。
「一匹取り逃がした。ただ、アイツだけならそこまで大規模な穴は掘れないと思う」
 問題はその最後の一匹が口にした「首魁は別にいる」の言葉と、レイモンド救出時に感じた何者かの気配。
「その何者かが首魁で、秘密を守ろうと落盤を起こしてレイモンドを生き埋めにした…んではねえかな、と思う」
 黙って聞いていた斎が口を開いた。
234ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/15(日) 15:51:50.87 ID:3IJJsWwq
14話B

「進駐軍が展開している状況だから武政さん、貴方は一旦追及を断念した。もう一度現地へ行こうと思ってる。何故なら」
 頷く武政。
「そゆコト。モグラ怪人は、アレが最後の一匹じゃねえな。作戦には落盤を起こせる誰かがもう一人参加してる」
 一方、東京郊外。とある屋敷に来客があった。
「立和田君。トンネル計画は失敗したようだな?」
 口髭を蓄え、煙管を燻らせる紳士。
 その紳士に頭を下げる、立和田と呼ばれた若い男。
「申し訳ありません。しかし、モグラ男の残る一匹を仮面ライダーから逃がす事には成功しました。これで秘密は守られます」
「よし、今度こそ都市保安団を沈没させるんだな。せっかくの人鬼なんだ。有効に使ってくれ」
 口髭を蓄えた紳士、御杖喜十郎はそう言って笑み、立和田に「召鬼」の呪符を渡した。


 六十数年後。
 講義終了からバイトが始まるまでの僅かな間、病院に京也を訪ね、他愛ない話をする。
 それが斎の日課となっていた。
「凉ちゃんが来たんですか?」
「足首にアザを作って。骨に異常は無かった。心配する程じゃない」
 言って京也は一人でブラックコーヒーを啜っている。
 来客に茶を出す気配りを、この男は知らない。
 斎の方も、この居心地の悪さに多少は慣れた。
 時計を気にしつつ、斎は懐より御守りを取りだし、京也に示す。
「実は…西川口のPQC研究所が襲われた時、わたし…」
 言葉が途中で止まった。
 顎の長い嫌な面が見えたからだ。
「よう卜部京也。デートか?卜部の血脈の分際で」
 御杖峻だ。嫌味を言いに職場に来たのか。
「…遠慮を覚えるがいい。ムカデにやられたあんたのケガを見たのは俺だが」
「金は払ってやった。差し引きゼロだろうが?」
 なぜこうも尊大なのだろう。
 卜部の人鬼。御杖峻は京也をそう呼び蔑む。
 しかし、と斎は思う。
それはすなわち恐怖の裏返し。
「あの…御杖さん。あなたは、卜部さんが怖いんですか?」
 京也は国家の脅威かも知れないが、それ以上に御杖峻には何処か、京也への個人的な執着が見える、と斎は感じていた。
「…そうなのか?」
 斎の指摘を聞き、京也もようやく気付いた。
 御杖は一瞬だけ固まり、直ぐに皮肉気に笑んだ。
「フッ。お前、女の分際で鋭いな」
「一定の社会的地位にあるなら親交の無い女性をお前と呼称したり性差別を肯定する発言は控えろ」
 こういう時にだけ、京也はやたら饒舌になる。
235ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/15(日) 16:14:48.41 ID:3IJJsWwq
14話C

 斎の洞察力と京也の堅苦しさに苛立ちながら、御杖峻は頷いた。
「そう、個人的な執着だ。だが怖いんじゃねぇ。許せねぇんだ。おれの曾祖父は、卜部武政に殺された」
 そろそろバイトの時間だが、斎は御杖の話を聞きたくなった。
 だがその時、切り忘れていた彼女の携帯が鳴った。
「ごめん凉ちゃん、今病院に…」
「助けてイツキ!電車にザラキの…」
 切れた。
 凉ちゃんが助けを求めている。
「卜部さん!パソコン貸して下さい!」
 そこから線路の情報を閲覧してみる。
 確かに、事故によるダイヤの乱れが生じていた。
 原因は、テロ。ザラキの改造兵士か?


 この日、看護師の王麗華は病院にいなかった。
 休暇なので家で寝るかゲームするかしていたかったのだが、交際相手に飲みに誘われた。
 洒落たバーというのは嫌いではないが、どうにも相手の話がつまらない。
「僕の友達にも医者がいるって前に言ったろ?」
「ソイツからメールが来てさ、スーパーで買い物して帰ってきたら別の店が大特価だったんだって」
「そんなもん朝のチラシをちゃんとチェックしとけって感じだろ?」
 相手の話に、曖昧に相づちを打ちながら若いワインをくゆらせる。
 彼の話が麗華の耳からするすると抜けてゆく。
 昨日、卜部医師が連れてきたあの患者はどう考えてもおかしい。
「出血量と外傷が比例しないわ…」
 思わず口に出してしまい、相手の怪訝そうな視線を食らった。
 その時、運良く携帯が鳴った。職場からだ。
「朝子さん?麗華です」
「休日返上してちょうだい。電車でテロだって!」
 麗華はカウンターに諭吉を一枚叩きつけ、バッグを掴んで駆け出す。
「ごめん隆司。また今度ね!」
 走り去った麗華。置き去りにされた交際相手。
 カウンターの内で、マスターが微かに笑った。


 六十数年前、武政は美月屋の壁に架かる竹槍を見つけた。
「キヌちん、この店にも竹槍ってあるんだね」
「ほら、B29に対抗する為とか言ってやらされた訓練。正直、あれに何の意味があったのか未だに分かんないんだけど」
 全く使用された痕が無い綺麗な穂先を見て武政は考える。
「これ高速で回せばドリルになるよな…」
 モグラ怪人の武器もドリルだった。
 だからどう、という訳でもないが。ただ、と思い、武政は呟く。
「官庁を物理的に地下に沈め、自分らの意志を表明する。モグラの皆さんは明確な目的意識で行動してるな…」
236ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/15(日) 16:26:58.00 ID:3IJJsWwq
14話D

 竹槍を見てそう呟く武政に対し、斎は彼の考えを見抜く。
「徳野村四十人殺し…貴方のお父様が犯人だったのよね」
「…痛いトコ突くねお前」
 斎は、愛らしい風貌で容赦なく事実を指摘する。
 やや顔をしかめながらも、武政は彼女の言と真意を察し肯定した。
「そうだね…モグラは、ザラキは目的を持って暴れてる。反対に、親父はただ人を殺したくなったから村で四十人殺した。鉈が血脂で錆びたら竹槍に持ち替えたんだってさ」
 ザラキと父親、すなわち京也の曾祖父。
 どちらがマシか、などと低次元な話はしたくない。
 ただ、理不尽な悪意に愛する子息を奪われた親の涙。それは自分の父親とザラキ、どちらが犯人だとしても流れる。
「涙は少ない方が良い…もっかいやっつけてくるわ」
 言って武政は再び敵の地下トンネルに向かった。


 六十数年後、斎は京也に簡単に状況を説明する。
「卜部さん!慶修線に事故があって、凉ちゃんとも携帯繋がんないんです!」
 同時に御杖峻の携帯も鳴った。マナーの低下が嘆かわしい。
「はい御杖。…慶修線にクラゲ型の改造兵士。了解」
 妙だと京也は思った。
 これまでなら、多少の目的を持った破壊活動をしてきたのに。
「改造兵士がそこまでの無差別破壊を…?」
「恐らく敵の狙いは妖魔の召喚だろうぜ。あのゴミクズ共は血の臭いを敏感に察知するからな!」
 どこか、状況を楽しんでいる風の御杖峻。
 京也は白衣を脱ぎ捨て駐輪場へ向かうと、愛車『TADAKATSU−XR420レイブン』に跨がったまま腰のベルトと「召鬼」の念珠を接触させる。

「…変身」

 主が仮面ライダーへ変身すると共に、愛車も生体マシン、スカルゲッターへ変貌する。
「慶修線は地下を通る。コイツで穴を開け、突入する。スラッシュ。あんた、バイクは?」
 既にスラッシュへ変身した御杖峻。
 余裕綽々で一枚の呪符を取り出す。

「おや、まだコイツは使ってないのか?ライドリーフ!」

 スラッシュは「鬼葉」の呪符を読み取る。
 同時に空間が割れ、木の葉に似た形状の全長3m程の刃が出現した。
 薄暗い駐輪場。
 低空に浮揚する刃、ライドリーフ。
 スラッシュはその上に屹立し、空中をサーフボードの如く駆ける。
「ついて来るか仮面ライダー?妖魔が来る前に、改造兵士を血祭りにあげる!」
「…俺もそのつもりだ」
 スラッシュを追い、仮面ライダーもスカルゲッターを走らせた。
237ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/15(日) 16:34:30.92 ID:3IJJsWwq
14話E


 六十数年前、腕のドリルで都市保安団の基礎を破壊、陥没させようと企むモグラ怪人。
 そこへ声がかかった。
「せっかく逃がしてあげたのにさあ…心を入れ替えなさいよ」
 武政が変身した仮面ライダーだ。
 跳躍し、トンネルの天井を蹴りモグラ怪人の背面へ回り込み、一気に殴り飛ばして都市保安団ビルの基礎から引き離す。
「オレね、お前みたいな奴が世界で二番目に嫌いなんだわ」
 少々自分に酔う仮面ライダー。
 何せ前の戦闘では十数匹を一度に葬ったのだ。
 対して今回のモグラ怪人は一匹。勝利は決定的。
 しかし、モグラ怪人にもどこか余裕が見えた。
「生憎だな仮面ライダー。確かに俺一人じゃお前を倒せない。だから、トンネル計画の首魁が来てくれてる」
「へぇ?やっとお出ましかいね」


 六十数年後、地下の慶修線。
 クラゲ型の改造兵士は脱線した列車の中に入り、触手からの放電で乗客を一人づつ抹殺してゆく。
 その触手が凉ちゃんに触れる寸前に止まった。
 トンネルの対向から、ライドリーフに乗ったスラッシュが飛んできた。

「さあて感謝しろ!血の花で彩ってやる!」

 ライドリーフ。
 このスピードボードは、周囲に仮面ライダーと同じく亜空間バリアを形成し、地下や水中にも潜航する事が出来るのだ。
「来たな御杖の人鬼、スラッシュ。死ねぇ!」
「電気クラゲの化け物め。てめえこそ死ね!」
 スラッシュは初っぱなからクラゲ怪人に近接する。
 生き残った周囲の乗客を気にもとめず。
 やや遅れて仮面ライダーもスカルダイバーに搭乗し走り込む。
「スラッシュ!生存者の救出を優先しろ!」
「ならてめえがやれ仮面ライダー。おれの任務は改造兵士の殲滅だ!」
 やむ無く仮面ライダーはクラゲ怪人をスラッシュに任せ、列車の外壁を腕力で引き剥がし、閉じ込められていた乗客に脱出を促す。
 しかし、仮面ライダーもまた、クラゲ怪人同様の異形。冷静に行動できる乗客など多くない。
 そんな彼らの頭上に巨大な影が現れた。
 暗がりが増す。
 10mはあろうかという…三葉虫が滞空している。
 妖魔だ。
 クラゲ怪人が撒いた血の臭いを嗅ぎ付けたか。
 スラッシュはクラゲと激突の真っ只中。
 仮面ライダーが一人で乗客らの避難を完了する必要があるというのに。
 三葉虫がトンネルの外壁に衝突し、一部が崩れ、欠片が落下する。
 その方向にいたのは…凉ちゃん!
238ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/15(日) 16:46:09.50 ID:3IJJsWwq
14話F


 六十数年前、仮面ライダーの背後に現れる細身の男。
 彼がトンネル計画の首魁か。
「よう仮面ライダー。お前の事はザラキの中じゃもっぱらの噂だ」
 仮面ライダーの牙から、ふっという吐息が漏れる。
 苦笑い特有の吐息だ。
「噂になるのは親父の犯行だけで十分です。…おたく、ザラキの信者か?」
 男もまた、苦く笑う。
「信者じゃない。俺は腹が減ってるから協力してるに過ぎない」
 首を傾げる仮面ライダー。
「言われたのさ。お前を倒せば組織での立場を保証するってな。こんな時代だ。立場と食料は誰だって欲しいだろ」
 この男はザラキに洗脳されている訳ではない。
 自分の意志で協力している。
「誰に言われたの」
「御杖…喜十郎と言った。この呪符も奴からもらったもんだ」
 その呪符にはしっかりと「召鬼」の文字が書かれ、男の目は赤く光っている。
 驚く仮面ライダー。というより、武政。

「変身!」

 そう言って腰の宝玉「オニノミテグラ」へ呪符を接触させる男。
 ベルトより「力の嵐」が生じ、その中で男は赤い複眼、黒い皮膚、白い生体強化外骨格を備えた「人鬼」へ変貌した。
 武政と同様に。
「おたく!お仲間だったのか…」
「俺の名はディグ。ザラキの障害、都市保安団と仮面ライダー。お前らを抹殺するのが仕事だ!」
 ディグと名乗った人鬼はモグラ怪人を下がらせ、時空断裂境界から「鬼角」の呪符を取り出した。

「ライダーホーン!」

 ディグの左腕から鋭い角が伸びた。
 それがドリルのように回転する。
 ディグは仮面ライダー目掛け、一直線に突貫を試みた。
「うぉい、ちょっと待て!」

続く

次回、15話「情を棄てたくて」
239ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/15(日) 16:59:43.28 ID:3IJJsWwq
14話、以上ですが、何でこう丁寧に書けないのかな私は。
>>233の御杖峻と山下山男の会話

「都市保安庁の御杖峻だ。てめえはレイモンドファイル」の閲覧手段を知りたい。

と、わけの分からない事になっていますが本来は

「都市保安庁の御杖峻だ。てめえは山下山男とか言ったな。『仮面ライダー』についてお調べのようだが」
 ―悪法もまた法なり―
 御杖峻はソクラテスの言葉を引用する。
「仮面ライダーは上層部の更に上…政府レベルの機密事項だ。て事は?危険な事象だ。てめえのような一介のデカが首を突っ込むな」
 山下山男はポケットから数枚の写真を取り出す。
 あの日、蜘蛛モンスターに食い殺された男の残骸。
「黙ってろというのか?冗談じゃない。俺は東京に何が起こってるのか突き止める!」
 その為には仮面ライダーと接触を取りたい。
 その仮面ライダーに関するデータベース、「レイモンドファイル」の閲覧手段を知りたい。
 彼の熱意に御杖峻は笑みを向ける。皮肉めいた暗い笑み。この刑事は利用できる。

です。
何でこう落ち着きが無いのか悔しいな
240ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/26(木) 01:48:32.66 ID:6iNUsldN
15話@

 クラゲ型改造兵士と奴に呼び寄せられた三葉虫型妖魔。この二体により地下鉄に閉じ込められた多数の乗客。
 乗客を省みず戦うスラッシュと乗客の救助に奔走する仮面ライダー=卜部京也。
 だが斎の友人、凉ちゃんに向かって瓦礫が落下してくる。
「超変身!」
 仮面ライダーはウィザードフォームに変身し、超加速能力「ライダーアクセラレート」を発動、駆け出した。

仮面ライダーネメシス15話「情を棄てたくて」


 その六十数年前、仮面ライダー=卜部武政はもう一人の人鬼「ディグ」の猛攻を受けていた。
 敵は腕から生えた生体ドリル「ライダーホーン」で仮面ライダーを執拗に攻め立てる。
「よせっての!おたくもオレと同じ人鬼だろ?」
 ディグは仮面ライダーを倒す事でザラキ天宗における地位を約束されたらしい。
 終戦直後だ。食糧を得られるだけの立場は誰でも欲しい。
 しかし、武政とディグは同じ人鬼だ。分かりあえるかも知れない。
 だが、そう言う仮面ライダーをディグは嘲笑う。
「ザラキの改造兵士も元は人間…彼らを殺してきたのは仮面ライダー、お前だろう?」
 一瞬の迷いが生じる。その一瞬にライダーホーンが唸りを上げた。
「ぐあ!…ってぇ…」
 足を僅かに抉られた。その傷を庇いながら、今度は仮面ライダーがディグを嘲笑う。
「そうだね…仲間の肉も食った事だし!」
 モラルの面では既に武政に怖いものは無い。
 仮面ライダーはオメガフォームへ変身、生体剣バーサークグラムでライダーホーンを防ぎ、生体銃バーサークショットによる狙撃でディグをはね飛ばした。


 六十数年後、超高速化した仮面ライダーは無事に凉ちゃんを救出した。
 救出と同時に加速の効果が切れ、すぐ脇に瓦礫が落下した。
 しかし仮面ライダーの目に、クラゲ怪人、三葉虫型妖魔、そしてスラッシュの三体に囲まれた他の乗客の姿が映る。
「フ…面倒だ。まとめて切り裂いてやる」
 スラッシュが取り出した呪符は「鬼爪」。
 彼の必殺技を発動する呪符だ。乗客まで巻き込むつもりか。
「やめろ!」
「黙ってろ…ハデスフェザー!」
 仮面ライダーの声は届かず、スラッシュの身体が時空衝撃刃を纏う。
 このまま攻撃を放たれれば乗客も巻き添えだ。

「ハデスチョップ!」

 スラッシュは必殺の手刀を見舞うが、その一撃に切り裂かれた者は妖魔、改造兵士も含め誰一人いなかった。
241ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/26(木) 01:56:00.71 ID:6iNUsldN
15話A

 寸前で仮面ライダーが亜空間バリア「ライダーシールド」を展開し、ハデスチョップを抑え込んだのだ。
「おれのハデスチョップでも…破れないだと…?」
 仮面ライダーは更に専用の弩、ウィザードアローから時空衝撃波を放ち、妖魔を弾き飛ばす。
 続いて瞬間移動能力「ライダーシフト」でクラゲ怪人の背後に回り、弓の両端の刃でこれを切り苛む。
 転倒するクラゲ怪人。振り返る仮面ライダー。目が合って怯える乗客ら。
 しかし、仮面ライダーはスラッシュだけを見ていた。
 鈍い音が響いた。無言で一発だけ仮面ライダーがスラッシュを殴った音だ。
「フ…卜部の鬼にしては、随分と甘ちゃんだな」
 殴られて尚仮面ライダーを挑発するスラッシュ。仮面ライダーは乗客を向く。
「車両の壁は全て剥がした。早く逃げろ。スラッシュ!敵を追え!」
「フ、言われなくとも!」
 凉ちゃんも含め、天井に開いた穴や駅のホームに殺到する乗客ら。
 スラッシュは生体サーフボード、ライドリーフに乗り、妖魔とクラゲ怪人を追撃する。
 妖魔はザラキが描いたと思しき法陣に飛び込み魔界へ撤退した。そのため目標はクラゲ怪人のみとなる。
 下半身をクラゲに似た無数の触腕へ変形させ、高速で逃走するクラゲ怪人。
「しつこい奴め、食らえ!」
 触手に蓄積した電気エネルギーをビームに変えて放つが、空を往くライドリーフの機動力の前には命中さえしない。
「ゴミクズの分際で逃げ足は早いな…フルスロットル!」
 ライドリーフが速度を上げた。これまでは出力を抑えていたのだ。
 マッハ6、或いはそれ以上の速度で一気にクラゲ怪人を追い抜き、逆に正面から突進する。

「ハデスチョップ!」

 加速をつけた手刀がクラゲ怪人を両断、爆砕させた。


 六十数年前。
 一旦ペースを掴むと早かった。
 ドリルによる近距離戦に特化したディグには遠距離攻撃の手段が無いらしく、生体銃バーサークショットの狙撃に防戦一方。
 その隙にやはりリーチの長い槍、ディザストスピアーを呼び出し、仮面ライダーは中、遠距離から怒涛の攻めを叩き込む。
 ライダーホーンを備えた右腕をディザストスピアーにねじ伏せられ、そこへバーサークグラムで切り込まれ、遂に変身が解けるディグ=立和田一郎。
「おっしゃ、@ザラキの事全部吐く。Aオレの銃で原子分解される。どっちにする?」
 バーサークショットを突き付け、立和田を脅迫する仮面ライダー。
242ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/26(木) 02:12:18.68 ID:6iNUsldN
15話B

 だがその刹那、彼の額に備わる第三の眼が、自分に向かって飛んでくる強い力を感知した。
「スラッシュレイ!」
「ライダーシールド!」
 咄嗟にバリアを張り、自分を狙った「力」即ち時空衝撃波を止める仮面ライダー。
 その間に立和田は撤退していた。
 時空衝撃波を放った主の気配も既に無い。変身を解く武政。
「あの波動、オレのより鋭かったな…剃刀っぽい」


  六十数年後、スラッシュは御杖峻の姿に戻り、駅に集う警察、救急車、マスコミを傍目に見ながらベンチでくつろいでいる。
 医師として現場で尽力する京也の姿も、御杖にとっては滑稽だった。
 そんな彼に、京也を追ってきた斎が缶コーヒーを持ってきた。
「…このおれが紅茶派だという事を知らんのか?」
「私のお金です。何奢ろうが自由です」
 二人は缶入りの甘ったるいコーヒーを啜り、暫し駅の喧騒を無言で見る。
 先に斎が口を開いた。
「あの…卜部さんから訊きました。何で…ハデスチョップに乗客を巻き込もうとしたんですか?」
 チョップの際生じる衝撃波が及ぶ範囲を考えれば、あの瞬間に乗客らが全滅していた可能性もある。
 否、仮面ライダーがバリアを張らなければ確実に全滅していた。
 しかし御杖峻はシニカルに笑う。
「攻撃の邪魔…だったからな。改造兵士と妖魔の撃滅、それが任務の最優先事項だ。乗客の安否など知った事じゃない」
 そうですか、と斎は再びコーヒーに口をつける。
「あなたの攻撃で何十人が死ぬトコだったのに…もし死んでも気にはならないんですか?」
「フ…ならんな。ハデスチョップが成功して連中が死んだとしても、警察は全てをザラキの仕業と結論付けるしマスコミもそれに同調する。おれは悠々と公務員様を続けられるのさ」
 欠如している。この男には人の倫理観が。
 だが、それならそれで、やはり斎には納得がいかない。
「…なら、なんでPQCを守ったんですか」
 PQC。光量子触媒発電システム。
 スラッシュはその実験施設を改造兵士から守った。
 民間人の命など無価値と言うなら、何故。
「わたしは…あなたが優しい人なんだって思います。だからムカデ妖魔にやられた時、ほっとけなかった。で…今のあなたは、その…自分の優しさをムリして否定してるっぽいから…」
 途中で斎の言葉が止まった。
 御杖峻は、斎の喉元へ指先を突きつけ黙らせた。
「黙れ…女の分際で」
243ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/26(木) 02:27:23.15 ID:6iNUsldN
15話C

 斎とて、自分の命は惜しい。
 これ以上続ければ、御杖峻はスラッシュへ変身し、その爪で自分の喉を切り裂くのだろう。
 だが御杖の手を、先刻まで応急処置に奔走していた筈の京也が捻り上げた。
「彼女までも傷付ける気か」
「フッ。下らん博愛を吐くから脅かしただけの事だ」
 京也は御杖峻によく似た男を思い出した。額の古傷が疼く。
「この女もてめえも、おれを責めるがな…」
 御杖峻は京也の手を振り解き、指を差す。
「大体だ卜部京也。ザラキの改造兵士も元は人間。それを殺してきたのはてめえじゃないのか?」
 その指摘は正しい。
 人の命。それを奪ってきた自分。
 それを何とも思わない御杖峻、そして…自分の父親。
 その時、救急車の側から京也を呼ぶ女性の声が聞こえた。
「卜部先生!搬送しますから乗って!」
 看護師、王麗華に頷く。御杖峻と斎を無視して。
「…急患が増えた。失礼する」
 京也はそう言い残し、救急車へ乗り込む。
 御杖峻をもう一度殴りたかった。彼への憤り、自分が戦う意味の揺らぎ、父親への恨み、全てを込めて。


 六十数年前、ある屋敷で立和田一郎は自分の雇い主、御杖喜十郎に頭を下げていた。
「申し訳ありません。仮面ライダーを倒せず…次は必ず!」
 御杖喜十郎は煙管を燻らせながら笑う。
「やむを得んさ。仮面ライダーは強い。よし…改造兵士に君を援護させよう。董仲僧正に頼んでみるよ」

 一方、美月屋では鏑木三次が下手な絵で紙芝居を作り、見よう見まねでレイモンド・マグラーに日本のヒーローを教えていた。
「バハハハハハ!え〜っと次何だっけ?」
「『何とかバトンを受けてみよ!』じゃねえの?つあー染みる染みるって!」
 縁側で三次の紙芝居ごっこに付き合いながら、ディグにやられた足の傷をキヌに手当てされる武政。
 とはいえ、鬼の治癒力がその傷を迅速に塞いでいるが。
「でもその…卜部さんと同じ力を持った奴って?」
 レイモンドらに聞こえぬよう、声を抑えて問うキヌ。武政も同程度の声量で応じる。
「同じじゃない。オレの方が強かった」
 そういう話ではないが。一方の斎はわら半紙に幾つかの家名を書き並べていた。
「武政さんを襲ったのは、恐らく立和田家の人間が変身した人鬼。念珠の代わりに呪符で鬼を覚醒させる…考えたわね」
 武政としては、自分と同種の力を持つディグ=立和田を殺したくはなかった。
244ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/26(木) 02:37:06.43 ID:6iNUsldN
15話D

 しかし斎は逆に、ディグを危険視していた。
 改造兵士など比べ物にならない力を持つ人鬼がザラキに与すれば、それは脅威だ。
「武政さん…可能なら、ディグを殺して」
 歯に衣着せぬ率直な斎の物言い。戸惑う武政。


 六十数年後、凉ちゃんは無事大学へ復帰していた。
「大したケガが無くて良かったねえ」
 のんびりした、それでいて満面の笑みを浮かべる斎。
「うん、顔やられなくてラッキーだった。顔に傷とか付いたらあたし副業できねーからさ」
 副業。ああ、街角に立つあれか。
 とりあえず退院祝い、と斎が大学の最寄り駅近くの公園で二人分の手作り弁当を広げた。
「イツキ、あんた作ったの?あざっす」
「うん。遠慮しないでね」
 御杖峻はああ言っていたが、凉ちゃんが無事という事は、京也と御杖峻の連携はうまくいったのだろう。
 やはり人鬼同士、分かり合えるものだ。
「でさあイツキ、仮面ライダーって聞いた事ある?」
「ほぇっ!?な、無いよ?」
 唐突な問い。
 凉ちゃんに曰く、怪物らに囲まれた際、その中に一匹だけ自分達を助け、脱出を手伝ってくれた者がいたという。
「そいつ白黒で目が赤くてカマキリに似てるんだけどさ、それ言ったら刑事が『やはり仮面ライダー…』とかって」
 山下山男刑事だ。
 しかし、斎には言えない。自分がその仮面ライダーを覚醒させた張本人だなどと。
 で、と凉ちゃんは自慢気に携帯電話を取り出し、画面メモから斎にとある個人サイトを見せる。
 これは古今東西の都市伝説を収集、紹介しているサイトで、終戦直後の日本に「仮面ライダー」という謎の生物が出現した逸話も掲載されている。
「この話は他にも何個かのサイトが載せてたんだけど、いつの間にかそのサイトがほとんど閉鎖してんの。生き残ってたのはここだけ」
 政府からの圧力か。
 そして終戦直後の仮面ライダーというと、やはり自分が何故か名を知っていた、京也の祖父「卜部武政」だろうか。
 明るい陽光に似合わぬ物憂げな表情を浮かべる斎。
 そんな陽光を影が遮った。
 いつの間にか頭上に滞空していたのは、京也と御杖峻が取り逃がした三葉虫型妖魔だ!
「はあ!?コイツ死んだって聞いたんですけど!」
 マスコミからは、自衛隊が倒したという報道がなされていた。
 倒せていないにもかかわらず。
 以前に狙った獲物は追い続けるのか、妖魔は凉ちゃんに襲い掛かる。
245ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/26(木) 02:41:52.10 ID:6iNUsldN
15話E


 六十数年前、都市保安団ビルの地下。
 基礎周辺に空いた穴に一匹の人外が蠢いていた。
 暗闇の中から現れ、その人外に話しかける青年。
「よ…トンネル計画はまだ進んでたのかよ」
 人外はモグラ怪人、青年は武政だ。
「都市保安団は進駐軍と結託し我らザラキ天宗を社会的に消そうとしている。その保安団のビルを倒壊させれば、我らの正義の証明にもなるだろう」
 そうモグラ怪人が演説をぶつので、武政は失笑する。
「正義は我にあり…てか。でもやり方が宜しくない。出てきなよ、『立和田』さん!」
 瓦礫の影から現れた立和田。
 そしてモグラ怪人とは別の新たな改造兵士。アリクイに似ていた。
「仮面ライダー!お前を倒して俺は地位を得る!変身!」
 赤く光る目。顔の右横に掲げた「召鬼」の呪符をベルトに接触させ、立和田は人鬼「ディグ」へ変身する。
「出世したら、この二人を大事にしろよ。出世させる気無いけどさ!」
 「召鬼」の念珠を握った右拳を天に突き上げる武政。
 目は赤く光り、腰にベルトが形成される。

「変身っ!」

 右斜め下へ拳を振り下ろす。同時に力の嵐が生じ、武政も人鬼「仮面ライダー」へ変身する。
 モグラ怪人は地中での活動能力を極め、アリクイ怪人は腕力と巨大な爪で挑んでくる。だが。
「スペックが違う!」
 確かにアリクイ怪人はスタミナがある。しかしそれは他の改造兵士と比較しての事であり、仮面ライダーにとっては木綿豆腐か絹ごしか、の違いでしかない。
 仮面ライダーの連続パンチを浴び、自慢の爪を振るおうとするも逆に投げ飛ばされあっさりダウンするアリクイ怪人。
 モグラ怪人もドリルで必死の抵抗を試みるが、仮面ライダーの生体強化外骨格を貫く事が出来ない。
「正直、おたくを殺したくなくなっちゃったんだけど…とりあえず殴らせて。悪い」
 という事で「とりあえず」のパンチを浴び、気絶するモグラ怪人。さて、先にディグとの決着をつけようか。
 地下トンネルの壁を幾度も蹴り、ジグザグな軌道を描いてディグに飛び込む仮面ライダー。
「ライダーキック!」
 強烈な飛び蹴りが叩き込まれた、かと思いきや、仮面ライダーの方が撥ね飛ばされた。
 ディグは「鬼冑」の呪符を読み、体を高速回転させて攻撃を受け流す防御技「ライダースピンディフェンダー」を発動していたのだ。
 思わぬ反撃によろめく仮面ライダーをディグの生体ドリル、ライダーホーンが突き飛ばす。
246ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/26(木) 02:51:26.51 ID:6iNUsldN
15話F

 倒れ込む仮面ライダー。そこへのし掛かるアリクイ怪人。
「…やべっ」
 仮面ライダーが危ない。ディグは仮面ライダーと同じ「昂鬼」の呪符を読み、全身の力を高める。
 突き出したライダーホーン。
 ディグは空中に浮遊し、ライダーホーンを中心に回転を始めた。

「ライダードリル!」

 ディグ自身が巨大なドリルと化して放つ必殺の突撃技。
わライダードリルは仮面ライダーとアリクイ怪人に直撃、爆発が生じた。
 爆煙から浮き上がったのは、ディグと仮面ライダーの姿。
わアリクイ怪人はディグのライダードリルをマトモに食らい、爆死を遂げたのだ。
 荒い息でディグを睨む仮面ライダー。
「おたく…ザラキでアイツと仲間だったんじゃないの?」
「仮面ライダー。お前を倒すのは俺だ。俺が手柄を独占しなければ出世できない。奴に手柄を奪われてたまるか!」
 はあん、と頷き、仮面ライダーは屹立した。
「オレね、お前みたいな奴が世界で二番目に嫌いなんだわ」


 六十数年後、空中から破壊光線を吐き、或いは頭の触覚を鞭の様に用いて公園を破壊してゆく三葉虫妖魔。
 そこへ生体空中サーフボード「ライドリーフ」へ乗ったスラッシュが駆けつけた。
「今度は逃がさん。てめえの血、見せてもらうぜ」
 妖魔と対峙し、初めてスラッシュは妖魔が背後の女子大生を狙っている事に気付いた。
 良い囮になる。
 斎は、自分が優しい人間だなどと知った口を叩いた。
 鬼である以上、非情でなくてはいけない。
 PQC発電システムを守ったのは、アメリカが強く推すこのシステムを、ひいては日米同盟を守るため。
 研究員らの命を惜しんだからではない。
 そうであってはならないのだ。
 スラッシュは斎の腕を掴むと、そのまま妖魔の付近へ投げ飛ばした。
「痛っ…何するんですか…」
 妖魔の狙いが変わった。
 妖魔は、斎を本能的に狙う謎の習性を持つ。
 だから眼下の斎に襲いかかった。
「イツキを囮にすんのかよありえねーだろ!」
「喚くな、耳が腐る」
 抗議する凉ちゃんを突き飛ばし、妖魔の隙を伺う。
 腹を見せた。今だ。
「スラッシュレイ!」
 スラッシュの手から、剃刀に似た波動、時空衝撃刃が飛ぶ。
 波動は三葉虫妖魔を直撃する。だが、敵の強固な鱗が波動を跳ね返した。
「何だと!?」
 ザコ妖魔に自分の技が効かない。狼狽するスラッシュ。
 そこへ再び狙いを変えた妖魔が破壊光線を吐いてきた。
247ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/26(木) 02:58:41.03 ID:6iNUsldN
15話G

 光線をかわしつつ敵の隙を伺うスラッシュ。今回も妖魔の撃滅が任務。
 二人の女子大生の生命などどうでも良い。
 後でマスコミが都合良く歪曲した報道をしてくれる。
 そんな思考が悲劇を生んだ。
 破壊光線の爆風に吹き飛ばされた凉ちゃんが全身を強打し、意識を失ったのだ。
「凉ちゃん!?」
 愕然とする斎。しかし、スラッシュにとっては有利。
 少なくとも理性では、この状況を有利だと判断した。
 涼ちゃんを庇おうとする衝動を、理性で抑え込んだ。
 破壊光線を吐いた直後に露出する口を狙えば良いと気づいた。
「スラッシュレイ!」
 再びの時空衝撃刃。
 しかし、敵も自分の柔らかい部位が分かっている為か、今度は素早くスラッシュレイを回避する。
「くそっ!スラッシュレイ!」
 右腕、左腕、交差した両腕、そこから開いた両腕より計六発のスラッシュレイを見舞うが、その全てが三葉虫妖魔のスピードに回避されてしまう。
 万策尽きたか?スラッシュ、斎、凉ちゃんへ破壊光線が吐かれる。
 その時、

「スカルダイバー!」

 車体にバリアを発生させるスカルゲッターの特殊形態、スカルダイバー。
 これを駆る仮面ライダー=京也が戦場に滑り込み、ダイバーのバリアで光線を弾いた。
「斎ちゃん…状況は?」
 冷静に問う京也がとても頼もしく思えた。
「…凉ちゃんがケガ、妖魔は固い甲羅とスピードを併せ持ってます!」
「固い甲羅とスピード…分かった。超変身!」
 仮面ライダーはウィザードフォームへ変身。
 分身を形成する「鬼幻」
超加速する「鬼走」
敵の居場所を看破する「鬼眼」
 この三つの念珠の属性を、ウィザードアローへ同時に伝達させた。
 再び破壊光線を吐かんとする妖魔。
 力を蓄積したウィザードアローへ手をかける仮面ライダー。

「イリュージョンアロー・アクセルホーミング!」

 発射された時空衝撃波は「鬼幻」の効果で無数に分裂、一斉に妖魔を直撃する。
 スラッシュレイでも破れなかった表皮。
 しかし多量の波動を同時に撃ち込まれたために各部に次々と破損が生じる。
 不利と見て逃走を図る妖魔。だが波動には更に「鬼走」「鬼眼」の効果が付与されている。
 このために「無数に分裂した」時空衝撃波が「超高速で」「敵を追尾する」効果が生まれる。
 逃げ切れず、破れた表皮から体内へ無数の波動を撃ち込まれた妖魔は爆発炎上、消滅した。
248ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/26(木) 03:08:17.39 ID:6iNUsldN
15話H

「凉ちゃん、凉ちゃん!」
 妖魔は撃滅したが、仮面ライダーに息をつく暇は無かった。
 意識の無い凉ちゃんへ必死に呼び掛ける斎。
「…病院へ運ぶ。斎ちゃんは救急車を呼んでくれ。待っている間に少しでも応急措置をしてみるが…」
 愛車に繋いだバッグから応急措置セットを取り出す京也。
 斎を助手に応急措置を始める。
 仮面ライダーとて万能ではない。人の傷を癒す技は持っていないのだ。
 だから京也は、京也の力で彼女を救わねばならない。
 一方、スラッシュ=御杖峻は、見事にプライドを打ち砕かれていた。
 全力で戦おうが情を棄てようが、卜部の鬼には及ばない。
 無力感に支配された御杖峻に、足元で毒々しいダリアの花から伸びた触手が妖魔の肉片を採取していた事など、気付く余裕は無かった。


 六十数年前、仮面ライダーはひたすらに通常形態ブレイクフォームによる肉弾戦でディグを追い詰めていた。
 オメガフォームへ変身すれば楽、なのだが、仮面ライダー=武政は今、とにかくこのディグをぶん殴りたかったのだ。
 腕のライダーホーンはかわす。
 かわしたら一発打ち込み、隙ができたら三、四発と続ける。
 仮面ライダーは武器が無いにも関わらず、ディグを圧倒していた。
 それはこれが本気を出せばどうなるのか、ディグを恐怖させるに充分だった。

「ライダーキック!」

 仮面ライダーの飛び蹴りが放たれるが、ディグは防御技ライダースピンディフェンダーで迎撃する。
 しかし、それも計算の内。
 狙い通り弾かれるライダーキック。
 だがこの場は地下。天井がある。だから仮面ライダーは吹き飛ばされながら体勢を整え、天井を蹴る。
 その反動で再び降下、回転の中心、ディグの頭頂を狙った。
「ライダーキック!」
 生体強化外骨格に守られているとはいえ頭部。
 鋭い蹴りがディグの意識を遠のかせた。
 ふらつくディグへ突撃する仮面ライダー。ディグも錯乱する意識の中、辛うじて「昂鬼」の呪符を発動した。

「ライダーパンチ!」
「ライダードリル!」

 二人の人鬼の必殺技が激突し、空間に歪みが生じる程の破壊的反発力が発生、巨大なエネルギー爆発を作る。
 その爆発が止んだ頃には、既にディグも、気絶したままだったモグラ怪人も姿を消していた。
「…まだだな。トドメは刺せちゃいない」
 そう武政は呟いた。
249ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/01/26(木) 03:12:36.26 ID:6iNUsldN
15話I

 しばらくの後、とある屋敷で御杖喜十郎は窓から外を眺めていた。
 背後には、居心地悪そうな立和田とモグラ怪人最後の一匹。
「ふむ…改造兵士も借り受けたが仮面ライダー撃破には至らなかった…か」
 煙管を燻らせながら窓を締める。
「すまんが立和田君。私は割と短気なタチでね」
 立和田の横にいるモグラ怪人を見据える御杖喜十郎。

「スラッシュレイ!」

 御杖喜十郎の振るった手から放たれた「時空衝撃刃」がモグラ怪人を寸断した。
 驚く立和田の前に在る者は既に御杖喜十郎ではなく、鮫を思わせる人鬼の姿。
「スラッシュ…と呼んでくれたまえ」
 この人鬼の怒りを買えば自分もこのモグラ怪人と同じ運命。
 立和田に残された道は、仮面ライダー=卜部武政完全抹殺だけだった。

続く

次回、16話「敵対関係について」
250創る名無しに見る名無し:2012/01/26(木) 03:13:26.15 ID:6iNUsldN
15話、以上です
251ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 11:20:17.66 ID:pryQxcSt
16話@
 御杖峻=スラッシュは妖魔を破るため斎の友人、凉ちゃんを囮に利用、そのため彼女に怪我を負わせてしまう。
 妖魔は仮面ライダーに倒されるが、その破片を何者かが回収していた。

16杯目「敵対関係について」


 六十数年前、立和田一郎は御杖喜十郎より頂戴したワインを転がしていた。
 仮面ライダー撃破という任務、これに失敗すれば御杖喜十郎に処刑される重圧。これらに挟まれた立和田本人としてはもっと強い酒が欲しいところだが。
 数週間前、自分の暮らしていた村にザラキ天宗の使者が呪符を携えて来訪した。
 使者は、立和田家から幾人もの猟奇殺人犯が輩出されている事を知っていた。
 その人鬼の血は一郎にも流れている。その血脈を活かした仕事を紹介しに来たという。
「報酬は金塊でお支払します。東京にお越し下さい。そして、我らザラキ天宗にお力をお貸し下さい」
 彼らの言うがまま呪符を使う事で、自分は強大な力を持つ人鬼「ディグ」へ変身できた。
 当初立和田は事態を楽観視していた。
 仮面ライダーとかいう邪魔者を、この力と改造兵士への指揮権を活かして始末すれば、報酬がもらえる。
 しかし、仮面ライダーは圧倒的に強い。これほどのハードワークだとは予想していなかった。水のようにワインを飲み干す。


 六十数年後、香の匂いがきつい暗闇。ザラキ天宗、本殿。
 董仲と玄達。二人の僧が、ダリア型改造兵士の回収した妖魔の肉片へ経文を書き込んでいた。
「本当に大丈夫なのか玄達?改造兵士へ妖魔の力を組み込むなどと」
「かつての仮面ライダー…卜部武政に魔界の扉を封じられて六十数年。その間、私が妖魔の研究をしてこなかったとでも?」

 そんな暗闇でほくそ笑む玄達など露知らず、京也は直ちに涼ちゃんを自分の勤める病院へ運び込んだ。
「オペに入る。御杖峻、あんたは帰ってくれ。目障りだ」
 静かな怒りの伝わる声音。御杖峻の返答を待つ事もなく手術室へ向かう京也。
 隣にいる斎とも目を合わせづらく、しかし任務である以上謝る気も起こらず、ただ明後日の方を向きながら頭をかく御杖峻。
 その彼を、目に涙を溜めて睨む斎。
「バカ!」
 極めて単純な罵声を浴びせる。
 押し黙る御杖峻を、斎はひとしきりなじり続けた。ひたすらに
「バカ!バカ!バカ!」
 と連呼して。
 恐らくこの赤髪の少女は、人を罵る語彙を「バカ」しか思い付けなかったのだろう。
252ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 11:24:58.43 ID:pryQxcSt
16話A

 六十数年前、ディグを見失ったままひとまず美月屋へ帰る武政。
 仮面ライダーを倒して立場と報酬を得る。
 その為に人鬼の力でザラキ天宗に与するディグ。斎はボソリと呟く。
「ディグに生きる価値があるとは思えないわ」
 小声だったが異常な凄みを秘めていたため、武政とキヌを凍らせた。
 恐らくこの赤髪の少女は、人を罵る語彙をいくらでも思いつけるのだろう。
 斎は無表情のまま、武政を見る。少しその氷の眼光が和らいだ。
「武政さん、何者かの妨害が入って取り逃がした、と言ったわね」
 時空衝撃波を刃に変え飛ばしてきた。恐らく、ディグとは別の人鬼。
「刃なら直江家の人鬼か、または御杖家…」
 自分が人鬼の家名を羅列したわら半紙を見つめ、またも眼光を氷に変える斎。
「武政さん、今度こそディグを殺して」

 夕暮れ。安い食事にありつくため今日も美月屋の食堂へ独身のむさ苦しい野郎共が集う。
 キヌと彼女を手伝う斎のダブル看板娘により集客力はアップしたが、斎自身の愛想の無さが唯一のネックであった。
 厨房が一段落したところで、キヌは鍋を洗いながら斎に声をかける。

「ね、もうちょっと柔らかい物言いしてみない?」
 言葉の意が飲み込めず、キヌを振り向く斎。苦笑するキヌ。
「だからさ、モロに『殺して』とか『今度こそ』とか言っちゃうと、卜部さんも本来の力、出せないよ?」
 茶碗を洗う手を止める斎。氷の目に、少し寂しさが浮かぶ。
「ザラキを潰すのが最優先。それに私、人の気持ちを考えるの、苦手だから…」
 本来は、何処かの田舎で農業に精を出して暮らしていたいのかも知れない。
 キヌは、寂しげな斎の背を見て、そう感じた。


 六十数年後、凉ちゃんの容態は漸く安定し一般病棟へ移された。
 眠る彼女を見て息を吐く京也と斎。
 あとは整形外科の仕事だ、と京也は呟く。腹に傷痕が残ってしまった。
「じゃあ凉ちゃん副業できないんだ…街角に立つヤツ」
「そういう系列の副業は辞めさせてやってくれ…彼は?」
 御杖峻は先に都市保安庁へ帰ったという。
 負傷そのものは妖魔の攻撃によるもの、即ち天災。
 しかしその事態を招いたのは彼女を囮にした御杖峻だ。この場合、どこから保険が下りるのだろう。
「山内凉。新宿でもかなり治安の悪い地域に住んでるな」
「でも優しいコなんです。人の気持ち考えたり、友達作ったりするのが下手な私の初めての友達になってくれて…」
253ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 11:46:22.97 ID:pryQxcSt
16話B
斎は常に遠慮がちで気弱。だから他人と積極的に接するのは苦手なのだろう。
「斎ちゃん、プライベートな話だが、山内凉以外の友達は?」
「いないんです…ゼミにもバイト先にも全然」
 こういう共通項のためだろうか、京也が斎を妙に意識するのは。

「どーしたんだろうねぇ卜部先生」
 ナースステーションにて、看護師長の朝子は息を吐く。
 目障りだ、などと感情を露呈した京也の姿が意外だった。
 父親直伝のジャスミン茶を淹れながら、麗華も苦笑した。
 苦笑しながら思う。
 追い返されたあの男、そして山内涼に泣きすがっていたあの赤髪の少女。
「どうも…病院以外で人脈を作り始めたみたいですね」
 それが善きにせよ悪きにせよ。

 追い返された男、御杖峻は勤め先の上司に怒られていた。
「民間人を負傷させたのはまあ良いとしよう。ただ、仮面ライダーに手柄を取られるとはどういう事だね」
 御杖峻は森羅万象を切り裂くその力を活かし、ザラキの改造兵士、妖魔、仮面ライダーを全て抹殺するのが使命。
 しかし妖魔に苦戦し、仮面ライダーに救われ、その仮面ライダーも倒さなかった。
「君の曾祖父…御杖喜十郎氏の功績は知ってる」
 御杖峻が持つ呪符。
 これを書き上げたのは喜十郎だった。
 彼は六十数年前、スラッシュとして政府やGHQを妨害するあらゆる敵を斬滅してきた。
「だが、仮面ライダー…卜部武政に殺された。君だって曾お祖父さんの仇は取りたいだろ」
 そう。それが京也を敵視する根元的理由。
 しかし、御杖峻にはこの時点で既に迷いが生じていた。
 卜部武政と卜部京也は、同じ血脈とはいえ別人。二人を同一視して良いものだろうか。
 それに、自分が負傷させた女子大生の存在。
 彼女を囮にした自分、彼女を救った卜部京也。そして少ない語彙で自分を精一杯罵ったもう一人の女子大生。
「フ…どうした、おれは」
 御杖峻は自嘲する。
 あの女子大生、梳灘斎の指摘を思い出した。
 PQC=光量子触媒型発電システム。
 斎は、その実験施設をザラキ天宗の攻撃から何故守ったのかと自分に訊いた。
 このシステムの実験を日本で進めているのは、アメリカからの半ば強制に近い要請を受けてのこと。
 それが気に食わない御杖峻は、ザラキ天宗により破壊されたという口実を付け、施設を見捨てようと思った。
 ただ、施設の職員数名が改造兵士に殺害される様を見て、我慢ならなくなった。
254ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 11:57:31.60 ID:pryQxcSt
16話C
 自分は「鬼」であり、鬼は非情でなくてはならない。
 にもかかわらず、峻は施設の職員を見捨てられなかった。だから守った。
 非情になりきるべく、山内涼とかいう女子大生を囮にした。
 だが、非情ならば、何故「バカ」となじる斎に反論できなかったのだろう。
 結局自分は、山内涼にも、施設の職員にも罪悪感を覚えている。
 鬼になりきれない。
 そんな御杖峻の耳に、非常警報が突き刺さった。
「警視庁より都市保安庁へ連絡。ザラキ天宗の破壊活動を確認」
 モニターに映し出される、ダリアを彷彿とさせる改造兵士。そして、僧兵を彷彿とさせる戦闘員。
 敵は伊勢崎町方面を破壊している。
「フッ。クラゲに続いてまたも無差別破壊…狙いは妖魔の召喚か?」
「いや御杖君。今のあの怪人にその必要は無いようだぞ」
 ダリア怪人は、目から強烈な光線を放ち、ビルに穴を開けてゆく。


 六十数年前、闇市での買い出しが終わった卜部武政の前にディグの男、立和田一郎が現れた。
「面は割れてたか…おたくの前で変身しちゃったもんね。しょうがないね」
 飄然とした武政に厳しい眼差しを向ける立和田。
 今の自分の立場が嘲笑われているかのようで、武政が本当に憎らしかった。
「貴様を倒す!でなければ、俺は報酬も貰えないまま、あの男に切り刻まれる…」
 スラッシュに瞬時に寸断されたモグラ怪人の姿が脳裏をよぎり、立和田は呼吸を荒くする。
 対して武政はまだ笑っている。
「つーかおたくさ、今日は部下のモグラさん達は一緒じゃないわけ?そっか、オレを一人で倒せって命令されたな。お前に預ける兵は無いってか」
 武政の言葉が逐一図星で、余計に立腹する立和田。


 六十数年後、御杖峻は確信していた。
 怪人が放つ破壊光線は、仮面ライダーに倒された三葉虫型妖魔が吐いていたのと同じもの。
 妖魔の鱗に似たディテールが改造兵士、及び戦闘員の体表に見られる。
「クズどもが…妖魔の力を体内に取り込んだな?」
 改造兵士の放つ破壊光線が陸自のヘリを撃墜する。
 その威力を見て、御杖峻はこの光線の爆風に吹き飛ばされたあの女子大生を思い出した。
「おれは…あのエネルギーを…あの女にぶつけるところだったわけだな」
 今も病室で眠っているであろう女子大生。
 その友人がひたすらに自分を「バカ」と連呼した、その時の涙。
「ちっ…おれが行きます」
 言うや課を飛び出す御杖峻。
255ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 12:01:33.95 ID:pryQxcSt
16話D
 出動する場合は本来、書類を提出し承認を待つ。その手間も惜しかった。
 御杖峻の独断専行に右往左往する事務官らの耳に、アメリカン特有の騒音が届いた。
 本当に勝手に出動してしまったらしい。


 六十数年前、立和田と対峙する武政。
「ぶっちゃけ、ガチでテンパってんだろ」
 武政の言語感覚は時代の先を行き過ぎており、立和田には通じなかい。そのため
「正直なところ、本当に焦ってるだろ」
 と言い直す。
「ああ、焦ってる。ディグの力も強大だから、お前にああも手こずるとは予想外だった」
 だが、倒さぬ訳にはいかない。組織での立場、報酬、自分の命。
 仮面ライダーを倒せば全てが保証されるのだ。
「戦え仮面ライダー!そして俺の踏み台として死ね」
 立和田の目が紅く輝き、腰にオニノミテグラを供えたベルトが現出する。
 時空断裂境界より「召鬼」の呪符を取り出す立和田。
「変身!」
 顔の右横に呪符を回してそう口にし、呪符をオニノミテグラへ滑らせる。
 ベルトより力の嵐が生じ、立和田は鋭い鼻角と手足に鋸状の棘を備えた人鬼「ディグ」へ姿を変えた。
「殺らなきゃ殺られるか…戦争ん時と変わんねーな!」
 「召鬼」の念珠を天に突き上げる武政。それを一気に右斜め下へ振り下ろす。

「変身っ!」

 仮面ライダーとディグ、二人の人鬼が睨み合う。先にディグが動いた。

「ライドリーフ!」
 「鬼葉」の呪符を読むと共に時空断裂境界より巨大な刃が出現、ディグを乗せ滑空する。
「乗り物勝負ね…スカルレイダー!」
 仮面ライダーが「鬼馬」の念珠を読む。
 同時に美月屋の倉庫にしまわれた軍用バイクが起動。車体に生体強化外骨格を纏い、仮面ライダーへ向かって自走する。
「ライダーホーン!」
 ディグの腕から生体ドリルが生える。
 ライドリーフにより飛行しながら仮面ライダーへ突き刺そうとするが、武器の性質上いかんせん近接する必要があり、避けられれば隙ができる。
 そこをスカルレイダーの車体から身を乗り出した仮面ライダーに狙われ、蹴りを食らう。
 空中のライドリーフ、地上のスカルレイダー。暫し並走しつつ一進一退の攻防を続けていたが、その内に仮面ライダーが飽きてきた。
「千日手じゃん。ひっくり返してやろ。スカルウィング!」
 スカルレイダーの装甲を形成する生体強化外骨格が変型、エイに似たフォルムを成す。
 そのスカルウィングも離陸した。
256ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 12:10:55.67 ID:pryQxcSt
16話E
 同じフィールドで戦ってやる。とはいえ、ライダーホーンを武器とするディグに対し、仮面ライダーは明らかに有利だった。
 ライドリーフで空中のスカルウィングへ迫るディグ。
 しかし、スカルウィングの外骨格が刀の如く伸びた。
「レイダージャッジ!」
 変型した外骨格で敵を切り裂く、マシンによる必殺技だ。
 この一撃ではライドリーフを包む亜空間バリアを破れない。しかし、既にスカルウィングのカウルに時空振動銃が形成されていた。
「レイダーキャノン!」
 カウルより放たれた時空衝撃波の弾丸がライドリーフのバリアに過負荷を与える。
 亜空間のエネルギーが減退を始めた。そこへ仮面ライダーが飛び込む。

「ライダーキック!」

 単純な飛び蹴り。しかし亜空間エネルギーは時空衝撃波で完全に抑圧され、バリアは破られた。
 ライドリーフより墜落するディグ。
 そもそもマシンの攻撃力の面だけで、仮面ライダーはディグを遥かに上回っていた。
 着地した仮面ライダーに、必殺の回転突撃技「ライダードリル」を見舞うディグ。しかし
「ライダーシールド!」
 仮面ライダー側の亜空間バリアに攻撃を遮られるディグ。
 仮面ライダーは着地と同時に「鬼神」の念珠でオメガフォームへ変身していたのだ。
「さあて、痛いぞ」
 オメガフォームの右腕から伸びる剣、バーサークグラムがディグの表皮に火花を散らす。


 六十数年後、御杖峻は伊勢崎町、改造兵士らのど真ん中で愛車を降りた。
「御杖…スラッシュだな!妖魔の力を体に取り込んだ我らに一人で敵うと思って…」
「思ったから来た。さっさと切り刻まれろ」
 スーツの釦を外し、「召鬼」の呪符をかざして不敵に笑う御杖峻。
「御杖の人鬼のサンドバッグ…てめえらゴミクズの存在意義なんざそれしかねえからなぁ」
 血に酔った目で御杖峻は、ダリア怪人と周囲の戦闘員を見渡す。
 顔面に巨大な一つ目が開いている。ここから例の破壊光線を照射するようだ。
 どこまでも不敵な御杖峻。彼に怒り、今にも襲いかからんとする怪人ら。
 その耳にバイクの爆音が届いた。銀と黒のオフロード車。
「斎ちゃんが病院であんたに怒る声。丸聞こえだった」
 滑り込んだマシンはTADAKATSU-XR420レイブン。
 メットを外し降車する、卜部京也。
 彼を見て不満の色を顕にする御杖峻。
「フッ。自己満足に浸りに来たか?助けなら無用だぜ?」
257ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 12:23:52.30 ID:pryQxcSt
16話F
 京也の眼光は冷たい。
「あんたを助けようという意欲は沸かん」
 御杖峻が生きようが死のうが興味は無い。
「ただ…あんたが何故無策で敵陣に飛び込む?」
 これ迄なら、自分に有利な状況を作ってから敵に挑むのが御杖峻の常だった。
 妖魔と改造兵士が合体した難敵ならば尚更だと思ったが。
 対して御杖峻は不敵に笑む。京也を正面から見て。
「あの女がビービーうるせぇからなぁ」
 御杖峻をバカと罵り続けた斎の流した涙。
「卜部京也。女を泣かせたくねぇ…てめえも、そう考えてやがるな?」
 御杖峻はあくまでニヒルに、それでも何処か優しさを湛えた微笑みを見せた。
 心の内を見透かされた京也は少々押し黙り、すぐに素っ気なくちらりと笑った。
「貴様ら…状況が分からんようだな。人鬼が一人増えようが、妖魔を取り込んだ我らには勝てん!」
 笑みを消す京也。笑みに狂気の色が加わる御杖峻。
 ダリア怪人を見据え、「召鬼」の念珠と呪符を同時に示す。
 二人の目は赤く輝き、腰にベルトが現出する。
 念珠をベルトに接触させ、敵を睨む京也。
 呪符をベルトに接触させ、右肩と左腰を抱く御杖峻。

「…変身」
「変…身!」

 力の嵐に包まれた二人は仮面ライダーとスラッシュ、二体の人鬼へ変貌する。
「来い。俺が相手だ」
「感謝しろ。血の花で彩ってやる!」

 戦闘員とそれを率いるダリア怪人に取り囲まれた二人。しかし、心配は杞憂に終わる。
「ライダーシフト!」
 スラッシュは素手で空間を引き裂き、異次元へ飛び込む。
 この時空間より消失したと思いきや、次の瞬間には空中に亀裂が生まれ、スラッシュが飛び出してくる。
 仮面ライダーが用いる瞬間移動とはややシステムが異なるものの、効果は同等だ。
 空中より降下しながら交差した腕を振り開くスラッシュ。
「スラッシュレイ!」
 二発の時空衝撃刃による爆撃が、戦闘員数体をまとめて粉砕した。
 着地と共に振られるスラッシュの手。触れた戦闘員は光線を放つ隙も無く、次々切り裂かれてゆく。

「超変身!」
 淡青の眼と背の翼。
 ウィザードフォームへ変身した仮面ライダー。
 亜空間バリア「ライダーシールド」を展開し、戦闘員の光線を押し留める。
 防御を維持しつつ繰り出した新たな念珠。「鬼還」

「ライダーリバース!」

 ライダーシールドに止められた光線が逆に戦闘員へ照射され、これを粉砕してゆく。
258ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 12:34:03.16 ID:pryQxcSt
16話G
 ライダーリバースは、ライダーシールドにより亜空間へ封じられた攻撃エネルギーの極性を転換する能力。
 すなわち、敵の攻撃をそのまま敵に撃ち返す秘技である。
 光線が無効と悟り、攻めあぐねる戦闘員。
「超変身」
 対して仮面ライダーはディザスターフォームへ変身し、標的を発火させる「ライダーフレイム」を使用、戦闘員が光線を放つ為の一つ目を焼き払う。
 既に光線は無効。
 生体槍、ディザストスピアーへ電撃を纏わせる。
「サンダーボルトスピアー!」
 槍による薙ぎ払いの直撃を受けた者、その直撃点から生じた放電に巻き込まれる者。
 スラッシュと仮面ライダーの前には、戦闘員などものの数では無かった。

 焦燥するダリア怪人。
 本来の武器である触手ムチと毒花粉、そして妖魔から受け継いだ破壊光線。
 これらを乱発して二人を近づけまいとする。
「ち…仮面ライダー、燃料切れを待つか?」
「冷静になれスラッシュ。俺が止める。超変身」
 仮面ライダーはバーサークフォームへ変身。
 迫るムチを右手の生体剣、バーサークグラムで切り落とす。
 敵の破壊光線を左手の生体波動銃、バーサークショットで迎撃し、これを押し返す。
「今だスラッシュ!」
 仮面ライダーの反撃に怯むダリア怪人。その懐に入り込むスラッシュ。
「ハデス…ネイルスタッブ!」
 爪を揃えて敵の体を突き刺す技。
 貫かれた部位から生じた振動が、改造兵士の装甲として備わった妖魔の鱗を飛散させる。
 絶叫を上げるダリア怪人から爪を引き抜き、後退するスラッシュ。
「決めるとするか、仮面ライダー!」
「分かった。超変身」
 通常の格闘形態、ブレイクフォームへ戻った仮面ライダーが持つ「昂鬼」の念珠。
 スラッシュが持つ「鬼爪」の呪符。
「ライダーブースト!」
「ハデスフェザー!」
 辛うじて立ち上がるダリア怪人を前に、二人は攻撃力を増幅する能力を同時に発動させた。
 跳躍する仮面ライダーとスラッシュ。二人の足を時空衝撃波が包む。

「ライダーキック」
「フッ…『ライダー』キック!」

 破壊と切断、二つの効果が重複して敵を襲う必殺の剛脚。
 ダリア怪人の体はキックを受けた箇所より断裂しつつ、原子レベルで崩壊。
 爆発だけを残して無に帰した。


 六十数年前、ディグの命は最早風前の灯火だった。
259ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 12:40:00.09 ID:pryQxcSt
16話H
 ライダーホーンは生体剣バーサークグラムに抑えこまれる。
 動きが止まった僅かな間に生体銃バーサークショットの狙撃を浴びる。
 吹き飛べば仮面ライダーは「ライダーシフト」を駆使し、ディグの背後へ転移。
 落下する前に、バーサークグラムで空中のディグを幾度も切りつける。
 剣が届かない位置まで吹き飛ばし銃で追撃し、壁際へ叩き付ける。
 息も絶え絶えのディグの首筋へ、バーサークグラムを突きつける仮面ライダー。
「助けてくれ…俺はただ…報酬が欲しかっただけなんだ!」
「それだけで命狙われる方の身にもなれっての!」
 大きく振りかぶり、バーサークグラムを振り降ろす。
 思わず悲鳴をあげるディグだが、その剣が寸前で止まった。

 ついこの間まで「大日本帝国」と称されたこの国。
 アメリカへ宣戦布告し、連合軍を悪とする教育で子供達を洗脳し、出鱈目な戦力投入でどんどん国力を浪費した。
 挙げ句東京、大阪大空襲を招き、更によく分からない新型爆弾を落とされ、敗戦。
 現人神は人になってしまわれた。
 今の日本より貧しい国は何処かにあるだろう。しかし、今の日本より惨めな国があろうか。
 ディグは、立和田はその惨めな国で懸命に生きようとしただけ。
 南洋の戦地で、機銃掃射に散った戦友を思い出した。彼は血を吐きつつ
「日本へ帰してくれ。白い米が食べたい」
 と言い続けながら死亡した。
 懸命に生きようとするディグの姿が、彼と重なった。剣を、振れない。

「バカが!」
 突如起き上がり、ライダーホーンを打ち込むディグ。
「お前には弱点があるな仮面ライダー!」
 好機と見たディグの猛攻。
「人鬼である俺を見て、仲間だと思っちまう事さ!」
 体勢を戻せない仮面ライダー。
「優しさを捨てられないお前なんぞ、俺の敵じゃない!」
 ディグは懸命に生きようとしている。たとえ、他者の優しさを踏みにじってでも。
「俺の勝ちだ!食らえ、ライダードリル!」
 ライダーホーンを中心に回転し、突撃するディグ。
 だがその突撃を、風が止めた。
 暴風、などと言う表現は生温い。
 人鬼の必殺技を相殺する程の圧力を持つその風はディグにのみ吹き付け、仮面ライダーには全く影響が無い。
 ライダードリルを維持出来ず、転倒するディグ。
 風が止んだ時、そこに赤髪の少女が立っていた。
「…斎!」
260ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 12:46:04.53 ID:pryQxcSt
16話I
 斎は仮面ライダーを見て、何に対してか一つ頷き、その視線を直ぐにディグへ向け、歩みを進める。
 静かに腰に手をかける斎。そこに日本刀が覗く。
「き、貴様は仮面ライダーの仲間か?あんな風をどうやって…しかしお前のような小娘が俺に勝てる訳が…」

「黙って」

 言うや斎は抜刀、ディグを一閃する。
 斬撃による断裂は、装甲となる生体強化外骨格や強化筋肉にまで至った。
 余りに鋭利な切れ味はディグに痛みを認識させず、ただ脱力させるのみであったが、既に彼の体には異常が起きていた。
「おい…これは何だ?」
 ディグの体の各所が粒子状に崩壊し始めた。
 致命傷を負い、これ以上生命活動を維持できなくなった為、鬼の力そのものがディグの体を食い始めた。
「待ってくれ、お前が付けた刀傷のせいだな?塞げ、切ったものなら塞ぐ事も出来るだろ、塞げ、塞いでくれ!」
 斎はディグに背を向けたまま黙する。
 剣も鞘に収めた。ディグに対して抜刀する事はもう無い。
 最早、彼に残された時間は無い。
「嫌だぞ、こんな…消え去るなんて俺は嫌だ!悪かった仮面ライダー…助けてくれ!」
 ディグの腹部で宝玉、オニノミテグラが割れ、蓄積したエネルギーが逆流しディグを包む。
 粒子化は加速。既に彼は陽炎のように透き通り、実体を保っていない。
 ただ、苦しむ声だけは聞こえる。
「頼む、助けてくれぇ!どうしてだ…戦争に負けた国の奴が…地位や金を欲しがって…何が悪い…」
 仮面ライダーの五感は人間の数十万倍に達する。聞きたくなくてもディグの怨み節が聞こえる。
「助けてくれ…俺はただ…白い米を腹一杯食いたかった…だけなんだ…」
 斎が僅かにディグを振り返り、漸く口を開いた。
「だから?」
 と。
 慈愛など欠片も無い少女の言葉。それがディグ、立和田が聞いた最後の他人の言葉だった。
 あとの立和田には、泣き叫ぶ自分の悲鳴、自分が崩壊してゆく音しか聞こえなかった。
 陽炎が消失したと思うと、直後に爆発が生じる。ベルトから逆流したエネルギーの余剰だ。
 そして、それがディグ、立和田の死を証明していた。

 人鬼の死に様を見て、すぐには立ち上がれない仮面ライダー。
 爆風で乱れた髪を手櫛で直しながら、斎は仮面ライダーの腕から生える剣を見る。
「なぜ斬らなかったの?武政さん、甘過ぎる」
 そう問うや踵を返し、美月屋へ向かう斎。武政はディグが爆発した箇所を一度振り返る。
261ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 12:50:04.46 ID:pryQxcSt
16話J
 変身を解除し、卜部武政の姿へ戻り、力無く斎を追った。
 戦争と同じだ。
 そう呟いて。

次回、17話「露呈」
262ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/05(日) 12:50:35.91 ID:pryQxcSt
16話、以上です
263創る名無しに見る名無し:2012/02/11(土) 08:30:12.54 ID:juRLLPJ+
仮面ライダーを企画するには変身ガジェットと
対となる2号ライダーはデフォ
でもいつも変身アイテムを考えてたら既存のしか思いつかないの・・
メダル、スイッチ、携帯、GPS衛星・・
264創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 11:36:43.05 ID:RW2cJRyD
>>263
エンジンをモチーフに・・・

1号(芝刈り機のエンジン)
ベルトに付いたヒモを引っ張ってエンジン始動 → その爆発力で変身

2号(ブルバックモーター)
ブレスに付いたギアを壁や敵などを使って勢いよく擦る → ギアが回転し、その際に発生したエネルギーをベルトに伝えて変身

・・・2号ライダーの変身の仕組みが少しボウケンジャーっぽくはなったけど、どうだろう?
265創る名無しに見る名無し:2012/02/15(水) 23:36:35.60 ID:WbnBbgbi
「誰でもいい、そいつを!」
放物線を描いたそれは階下へ向けて落下した。音もなく校庭に落ちたベルトを全員がフェンスから乗り出して目で追う。
運動部の生徒たちが走りまわる横を、たくさんの生徒が家路に向かっていた。
そして、最初にそれに気付いたのはいかにもヲタク風情の長身ガリガリな男だった。
男は周囲を見渡すと隠すようにして腰へ巻いた。
続いて右手を高く上げると「変身!」とつぶやき、
ベルト前部のスロットルへ腕を振りおろした。
タービンが作動して周囲へ放電が始まった。

最悪の事態が生じた。それまで対峙していた両群に緊張が走り、一斉に階段へ向けて走り出した。
「いかん、に、逃げろぉー!」


266創る名無しに見る名無し:2012/02/18(土) 01:37:04.60 ID:syMi5/xU
「おまえの運命は俺が決める」
ガリガリ男は親指で鼻をこするとそうセリフを決めた。
そして逃げまどう彼らの背後から容赦なく飛びかかった。

「リミットブレイク!」
「ほわーちゃーっ」
強烈スーパーコンボが炸裂するかのごとく、ガリ男の猛烈ラッシュによって
彼らが次々と宙に舞って行く。まるで伝説の映画マトリックスのワンシーンのように。

「ほわーちゃー!あちゃあちゃああちゃあちゃあちゃーっ!」
男の乱暴は一向に治まらない。予想されたどおり最悪の展開になった。
267ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 01:02:43.49 ID:7gnrSxSR
17話@
 御杖の人鬼が仮面ライダーと共闘するとは予想外だった。
 香の匂いがきつい暗闇に、董仲僧正と玄達のため息が響く。
 妖魔の力を組み入れた自慢の強化型改造兵士も仮面ライダーとスラッシュに敗れた。
 こうなると六十数年前と同様、仮面ライダーに対抗するため人鬼の力が欲しい。だが。
「…董仲僧正。御杖以外の人鬼の血脈は全て卜部武政に?」
「ああ、絶やされた。ただ今回の共闘がスラッシュの独断によるものなら…日本政府側が仮面ライダーに何らかの対抗措置をとるかも知れん」

仮面ライダーネメシス17話「露呈」

 凉ちゃん=山内凉の退院が決まった。
 因みに入院費、腹部に残った傷も含めての治療費は、全て都市保安庁のツケとなった。
 二度も彼女を妖魔の囮にした御杖峻からの詫びらしい。
「あの人、良い人なんじゃないんですか?」
 凉ちゃん退院の前祝いに来た斎がそう聞いてくる。
 彼女が来るつい数分前まで病院にいた「あの人」御杖峻。返答に窮する京也。
 病院より紫のアメリカンで走り去る御杖峻を窓から見下ろす。
「いや…どうだろうな」
 少なくともガラは悪い。それに、つい数分前、自分の愛車をバカにされた。
 TADAKATSU-XR420レイブン。
 徹底して機能性のみを追求したオフロード車。軽量ながら頑強な車体と燃費の良さ、踏破性を兼備している。
 京也の愛車で、発売から三年も経っていないが、既に愛好家の多くはタダカツブランドのバイクで最高傑作と評している。それを
「つまらんマシンに乗ってるな」
 と貶された。
 御杖峻いわく、男たるもの常に見栄えを気にしなくてはいけない。バイクも同様。
「アメリカンを愛するおれに言わせればレイブンは細すぎる。カラーも銀と黒で地味だ。機能美や質実剛健といえば聞こえは良いが、個性やアピールがゼロ。てめえの気弱さや地味さを如実に語るマシンだな」
 バイク一つでこれほど他人を貶せるのは、ある意味この御杖峻の才能かもしれない。
 少し苛々したので京也も逆襲しておいた。
「あまりゴテゴテしたマシンは好きじゃない。燃費が悪い、騒音も大きい。あんたが乗ってるSIGETOMOのセカンドローチは正にそんな走る公害だな」
 紫のアメリカンスタイルの国産車、SIGETOMO-セカンドローチをチラリと見る京也。
 かなり険悪なムードだが、とにかく皮肉を言い合えるだけの距離にはなった。
268ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 01:10:45.10 ID:7gnrSxSR
17話A
 走り去るセカンドローチの爆音が煩い。
 大体セカンドローチってネーミングがおかしい。釣りだろうか。


 六十数年前。
 卜部武政は美月屋でごろ寝を楽しんでいた。
 その無気力な姿を心配するキヌ。武政の部屋に箒をかけながら。
「米が食いたかった…んだってさ」
 天井の木目を数えながらそう口にする武政。
 ディグ、立和田の断末魔が忘れられない。
「それで…同情しちゃったとか?」
「したら斎に怒られるけどね。でもやっぱ同情しちゃうわなあ」
 戦争の相手は人間。改造兵士も人間、人鬼も人間。
 23年生きてきた中で、自分は何人の命を奪ったろう。
「てかさ、斎」
 仏頂面で窓を磨いていた斎の手が止まる。
「ディグにトドメ刺したのってお前じゃん。報告書読むとオレが倒したっぽく書かれてんすけど」
 斎は部屋に無造作に置かれた刀を一度見て、窓磨きに戻りながらついでのように応える。
「確かに私は改造兵士も、人鬼も切り裂ける。でも都市保安団には私の力を知られたくない。知られれば私は国防の最終手段として利用されるから」
 だから自分でなく仮面ライダーの力を必要以上に強く報告した。
「便利なスケープゴートなんだねオレは」
 皮肉げにそう口走り、再び天井の木目を数える作業に戻る武政。

 武政は無気力、斎は無愛想。
 父は工場の仕事が、レイモンドは最近進駐軍の会議が忙しい。
 せっかくの放課後なのに暇そうな鏑木三次は、美月屋の縁側で足をぶらつかせている。
「お父さんはしょうがないけど、三日もレイモンドが顔を出さないってのも珍しいわね」
 箒を片手にそう言って、さり気なく三次の相手をするキヌ。
 斎が応答した。
「明日、都市保安団をマッカーサーが訪問する。その警備に関する会議だと思うわ」
 成る程、そこを襲われる可能性があるという事か。
 反米派や、或いはザラキ天宗に。
 斎は相変わらず寝転がる武政を向く。
「武政さん。明日は貴方も陰からマッカーサーを護衛して…ほしい」
 キヌに言われた「物言いはもっと柔らかく」との助言。斎にはこれで精一杯。


 六十数年後、都市保安庁特務執行課にて、御杖峻は課長の大目玉を食らっていた。
「仮面ライダーを仕留めるどころか、改造兵士を撃滅するため奴に協力しただと?どういうつもりだ!」
 対する御杖峻は明らかに不満を露にしていた。
 溜め息まじりに弁解する。
269ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 01:19:22.53 ID:7gnrSxSR
17話B
「今回出現した改造兵士は妖魔の体組織を移植されたニューモデル。このような改造兵士の前例は無い。万全の態勢で臨む必要がありました。だから仮面ライダーに協力を」
「仮面ライダーこそ脅威!だから我々は奴に対抗し得る君を雇っているんだ。このまま仮面ライダーを抹殺できないようなら、君の生活は保証せんぞ!」
 課長は捨て台詞を残し、憤怒の形相のまま上層部会議に向かう。
 あの課長も御杖峻同様、レイモンドファイルを閲覧した一人だ。
 戦後、進駐軍の兵士、レイモンド・マグラーが書き記した国家レベルの機密文書。
 そこにはかつての仮面ライダー、卜部武政の悪行と脅威が、これでもかと書き連ねられている。
 課長を見送り、どっかりと椅子に腰を下ろす御杖峻。
「フッ…おれの公務員生活か。無くすには惜しいな」


 六十数年前。
 寝転がりながら、斎より預かった現地の地図と当日のスケジュールに目を通す武政。
 邪魔にならぬよう斎とキヌは外出。
「キヌ…私って怖い?」
 闇市への道中、唐突に質問してくる斎。応えづらいのでキヌは天を仰ぎ、斎は独り言のように続ける。
「今の私は単に口汚く武政さんを罵っているだけ…時々そう感じる」
「まあ、あんたらって二人になると仕事の話しかしないからねえ」
 キヌ自身は軽く茶化したつもりだったが、すぐに言葉の危うさに気付いた。
 時折斎は寂しげな顔を見せる。にもかかわらず自分の今の言い種では、まるで武政が、斎との付き合いを仕事と割り切っているようではないか。
 自分の言葉をフォローしようと右往左往するキヌをしばし見る斎。
 僅かに片頬が上がった。
「…ありがとう、キヌ。気を遣ってくれて」
 意外だった。仏頂面の斎から礼を言われるとは。
 しかし、当の斎はすぐに笑みを消し、歩みを進める。キヌとしては、こういった無愛想な斎の方が話し易い。
 話し易くなったのでそれとなく聞いてみる。
「斎ちゃんが尖ってるのは天然だと思うけど、卜部さんは何であんたと距離をおくんだろ?」
「武政さんは…薄々私の正体に勘づいている。だから…恐ろしいのだと思う」
 斎の正体。それを追及すべきかキヌが迷っている間に二人は闇市へ着いた。


 六十数年後、御杖峻は警視庁に山下山男を訪ねていた。
 自分の顔を見て思わず身構える山下山男に苦笑する御杖峻。
 どうやら、例のファイルに目を通したらしい。二人きりで話せる屋上に連れ出す。
270ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 01:25:41.62 ID:7gnrSxSR
17話C
「どうだった?例のレイモンドファイルは」
「ああ、パスワードが分からなかったが、京南大附属病院前院長、鏑木三次の名を入れたら閲覧できたよ」
 山下山男はレイモンドファイルを見た。
 という事は、御杖峻の正体も知った筈だ。
「御杖喜十郎の曾孫、御杖峻…スラッシュ!頼む、仮面ライダーを拘束するため力を貸してくれ!」
「奴は…卜部の人鬼はてめえのお友達じゃないのか?…まあ、ファイルの内容を読めばそうなるよな」
 警視庁が仮面ライダーの存在を黙殺しているため、山下山男は仮面ライダー確保において同僚の協力も、自分の組織の車両も拳銃も使えない。
 御杖峻は、都市保安庁本部へ車両と人員、及び銃器を手配する。
「デザートイーグルやヘッケラー&コッホ。RPG-7まで回してもらえるらしい。…言っておくが山下刑事、気休めにもならんぜ」
「バカな!RPGはロケットランチャーの事だろ?あれはヘリさえ落とすらしいじゃないか」
 御杖峻は再び苦笑し、自分の右拳を指す。
「おれの、スラッシュのパンチ力は35t。TNT換算でな。卜部の鬼はそれよりも15〜20tは上だぜ。『通常時』ならな」
 驚愕する山下山男に対し、御杖峻は説明的に言葉を続ける。
「仮面ライダーは『ライダーブースト』で自分の破壊力を上昇させられる。総合的に見れば、エネルギー量は六千倍にまで」
 仮面ライダーの通常のパンチ力をTNT換算値55tと仮定して、その六千倍とすれば
「TNT換算で…33万t!?」
「そんな破壊力を持つ人鬼だ。防御力も推して知るべし…だろうが?」


 六十数年前。
 マッカーサー護衛を明日に控え、卜部武政は最後の確認を済ませるとさっさと寝てしまった。
「…で?」
「で…って?」
 虫の声しか聞こえない夜。キヌは斎に、根本的な疑問点を聞く。
「卜部さんが人鬼とかいう奴だって事は分かった。で、斎ちゃんは何者なの?」
 押し黙る斎。足元のちゃぶ台には濃い茶が乗っている。
 キヌは今夜、その疑問を解消するまで寝ないつもりらしい。
「南洋でボロボロの卜部さんの前にいきなり現れたって言ってたわよね。やっぱりあんたも人鬼なの?」
 斎は漸く口を開く。
「私は人鬼ではないわ。…でもキヌ、私が何者かを本当に知りたいの?」
 普段から光の無い斎の目が、気付けばいつも以上に濃い闇を発していた。
 殺気、というものか。
271ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 01:33:24.43 ID:7gnrSxSR
17話D
「キヌ、あなたは人間。あなたが私の事を知れば、日本人が全て絶える事になる。それでも良いなら…」
 日本人を絶やせる筈が無い。
 そう言いかけて、キヌはこの少女が人鬼を手なずけ、または人鬼を両断できる存在であると思い出した。
「日本人全部を人質にしても言いたくないってわけ?」
「…言いたくない。私だって、こんな存在になりたくなかった。…お休み」
 そう言い残し、自分の部屋へ戻っていった。相当厄介な客を泊めた、とキヌは今更に溜め息を吐いた。


 六十数年後、京也は苛立ちながら病院の地下駐輪場へ向かった。
「急患か」
「いえ。SIGETOMOの彼、今日も来てますけど」
 麗華の報告に、京也は露骨に息を吐いてコーヒーを飲み干し、駐輪場へ降りる。
 本日もまた、御杖峻がしつこく訪問してきた。
「…バイク談義はお断りする。その上で要件を聞こう。三分で済ませろ」
 その几帳面さが滑稽で、セカンドローチに腰掛けたまま吹き出す御杖峻。
 だが吹き出してばかりでは話が進まない。
「忠告しに来た。レイモンドファイルという機密文書が警視庁から閲覧された。そこには先代の仮面ライダー…てめえの祖父の悪行が余すところなく記載されてる。人鬼は継承されるもの。祖父が危険なら孫も…と判断されるかも知れないぜ」
「ご忠告は有難いが…戴いた所でどうにもならん。お引き取り願う」
 火の粉がかかれば払えば良い。踵を返す京也。その背中に声をかける御杖峻。
「待て、『臨 京也』!」
 その名で呼ばれ、京也の足が止まる。思わず御杖峻を振り返る。
「役所のデータにあった。てめえが母方に引き取られた時の名だ。しかし20歳の時、再び元の名、卜部京也に改名してる。何故だ?」
 京也の手が震え始めた。父親、卜部武蔵に付けられた額の古傷が疼く。
 そんな彼に御杖峻は追い討ちをかけた。
「親父…だからか?」
「帰れ…」
 京也の体が一瞬光を発したと思うと、次の瞬間に彼の姿は仮面ライダー・バーサークフォームに変身していた。
 右腕から伸びる生体剣バーサークグラムを、御杖峻の首筋に突きつける。
「…帰れ」
 絞り出すような声で御杖峻を威圧する仮面ライダー。
 二三度頷き、無言のまま御杖峻はセカンドローチに跨がり、病院を後にした。
272ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 01:40:16.55 ID:7gnrSxSR
17話E
 その後も暫し、仮面ライダーは変身を解かなかった。
 包丁を振り回し、狂気に支配された父親の形相がフラッシュバックする。
 そこから逃れる為に、バーサークグラムで駐輪場を破壊したい。
 京也は衝動と理性の板挟みとなり、仮面ライダーの姿のまま暫し立ち尽くした。


 六十数年前、美月屋の東方約2kmが騒然とし始めた。
 マッカーサーが都市保安団を訪問する騒ぎだ。
 武政は見物人を装い、群衆の動きに目を光らせる。
 ただ、美月屋を出る前、斎の放った言葉が魚の小骨のように武政の中に引っ掛かっていた。

「武政さん!…私も、望んでこの刀を手にしたわけじゃない…」
「ああ、分かってますって!」

 今思うと、自分の感情など二の次で常に客観的事実しか語らない斎が、何故自分のアイデンティティーを問うような訴えを…?
「困るよなあ。悩み相談とか慣れてないんだ」
 だが、今は斎よりマッカーサー。その時、武政の額に隠された第三の眼が何かを感知した。
 念珠や呪符により人鬼を具象化させた者の額には「第三の眼」が覚醒し、変身せずともある程度の超感覚は発揮できるのだ。
 それは透視、遠聴のみならず「気」の流れや時空間の歪みも察知する。
「改造兵士が一体…人鬼もいるな」
 その気配を頼り、武政は群衆をくぐり抜け裏道へ向かった。


 六十数年後、京也は斎から小さな御守りを見せられていた。
 西川口のPQC(光量子触媒発電)研究所がザラキに襲われた際、この御守りから奇妙な感触が伝わった。
 その直後、改造兵士の動きを察知できるようになった。
 斎も自分がいつからこの御守りを持っていたのか記憶がはっきりしない。
 手に持ってみれば見た目よりも重い。
 これが斎の感覚を鋭敏にしたらしい。人鬼が持つ第三の眼に近い効果を持っているというわけか。
「斎ちゃん。まとめると君は俺の祖父と念珠、人鬼の知識を持ち、また妖魔や改造兵士を感知できる…」
 冷静に考えれば、訳が分からない。
 そして、その斎の超感覚が再び発揮された。
「!…出ました」
 妖魔だ。斎に詳細な場所を聞き、待合室から地下駐輪場へ向かう京也。
 しかし、その待合室で患者らに紛れ、京也を監視する者がいた。
 懐に忍ばせたイリジウム通信機から都市保安庁へ彼の動きを報告する。
「動いたぞ。これより仮面ライダーを確保する」
273ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 07:03:30.71 ID:7gnrSxSR
17話F
 御杖峻が率いる都市保安庁直属の機動隊が現地へ向かう。
 そこに山下山男も含まれていた。

 東京湾からレインボーブリッジへ上陸する、巨大なガマガエル。
 伸びる舌で周囲の自動車を薙ぎ払い、更に強靭な脚力でブリッジの支柱を破壊する。
 海面へ滑り落ちる車とその運転手ら。
 海面が間近に迫るが、寸前で車も含めた彼らの動きが止まった。

「ライダーアトラクター!」

 仮面ライダーだ!
 ディザスターフォームに超変身して重力を操り、落下する人々を吸引する。
 そのままブリッジの支柱が破壊されていない部分へ投げ飛ばし、避難を促すと同時に「鬼焔」で炎の壁を形成し、ガマの攻撃を遮る。
 炎を浴び後退したガマへ牽制とばかりに近場の自動車を投げつける仮面ライダー。
 だが、直撃した自動車は爆発する事無く、溶解した。
 見ればガマの皮膚より白い体液が分泌されている。
 その滴が落ちた箇所よりアスファルトが溶けてゆく。
「ガマの油か…接近戦では不利だな」
 伸びる舌を掻い潜り、「鬼凩」を発動する。
「ライダータービュランス!」
 仮面ライダーの発生させた暴風がガマを空中へ吹き飛ばす。
 最早、縄の吊り橋にも劣るレインボーブリッジはこの暴風の余波で完全に沈没したが、避難が完了しているのでどうでもいい。
 仮面ライダーは更にディザストスピアーへ「氷鬼」を適応させ、「鬼凩」を中断させる。
 旋風に吹き飛ばされたガマが空中より落下してくる。
 その背中目掛けてディザストスピアーを突き出す。
「ブリザードスピアー!」
 氷の力を帯びた槍がガマを貫き、その体液もろとも凍結する。
 凍結した今なら体液、に接触しても溶解されない。
 これが解凍される前に決着を付ける。
「超変身!」
 通常形態ブレイクフォームへ戻り、ライダーブーストを発動する。
「ライダーキック」
 蹴撃を受けた顔面、槍が刺さった背中へ亀裂が生じる。間髪入れず、脇腹へ拳を叩きつける。

「ライダーパンチ!」

 全身に亀裂が入ったガマはこの一撃でバラバラに砕け散り、再生する間もなく炎上した。
 妖魔は倒れた。
 スカルゲッターへ跨がり、帰路へつく仮面ライダー。
 だが、レインボーブリッジより200mほど離れた箇所で黒塗りのジープに囲まれた。
「仮面ライダー…卜部京也!貴方を確保する!」
 警察とは思えない重武装の機動隊と共にジープから降車したのは、山下山男。
274ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 07:04:15.22 ID:7gnrSxSR
17話G
275ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 07:10:27.69 ID:7gnrSxSR
17話G

 六十数年前。
 群衆を避け、裏道へ入った武政は、背後の壁が砕ける音を聞いた。
「バレットスクリューボール!」
 壁が吹き飛び、中から体を丸めた改造兵士が武政の眼前に飛び出してきた。
 直撃は免れたが、この体当たりにより壁には大穴。
「狙いはもっと正確につけようぜ…変身っ!」
 アルマジロ型改造兵士の前に立ち塞がる仮面ライダー。
 マッカーサー、或いは自分の抹殺を図り先制攻撃を仕掛けてきたというところだろう。
 しかし、仮面ライダーの予想に反してアルマジロ怪人に戦意は見られない。寧ろ何かを警戒している。
「助けてくれ仮面ライダー!確かに我々は、お前の命を狙った。だが…その任務のために雇った筈の二人の人鬼が仲間割れを始めたんだ!」
 思わず仮面ライダーはアルマジロ怪人から目を逸らし、彼が脱出時に開けた穴を覗き込む。
 成る程、脱出手段として必殺技の回転体当たりを使ったというわけだ。
 仮面ライダーが自分に背を向けた。
 その瞬間、つい先刻まで逃げ腰だったアルマジロ怪人に再び戦意が芽生える。好機。
「バレットスクリューボール!」
 如何な状況でも、仮面ライダーが隙を見せるなら抹殺して当然。
 回転体当たりが仮面ライダーへ迫る。だが、仮面ライダーは瞬時にオメガフォームへ変身。
「ライダーフリーズ!」
 時間を止め、怪人を回転する体勢のまま静止させた。
 更に右手へ、鬼弩ウィザードアローを出現させる。
「ライダーツインショット!」
 左手のバーサークショット、右手のウィザードアローから同時に時空衝撃波を乱射。
 アルマジロ怪人は、静止した時間の中で呆気なく粉砕された。
 再び動き出す時間。二挺銃を下ろし、息を吐く仮面ライダー。
 だがそこへ、銃を携えた人影。
「What are you…?」
 レイモンドだ!
 直ちに瞬間移動術ライダーシフトを発動し、彼の前から姿を消す。


 六十数年後、軍用ジープに囲まれた仮面ライダー。
 自分に銃口を向ける山下山男。正体を知られたらしい。
 以前と同様、ライダーシフトでの逃走を図る。
 だがウィザードフォームへ変身する寸前、山下山男の脇をくぐり、御杖峻が現れた。
「てめえ、おれに力を使わせる気か?」
 人鬼に対抗し得るは人鬼のみ。
 仮面ライダーの力を使えば御杖峻もスラッシュの力で対抗する。
 無駄な戦いに彼らを巻き込んでしまう。
「分かった…連れていけ」
276ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 07:15:13.27 ID:7gnrSxSR
17話H
 仮面ライダーは、京也は山下山男の前で変身を解いた。


  六十数年前、転移した先のビル屋上で、武政は眼下の奇妙な光景を観察していた。
 しばし呆然とした。
「どういう状況ですかねコレは…」
 一人は生体強化外骨格が剣山の如く発達し、無数の針を湛えた背中がさながらヤマアラシを思わせる人鬼。
 もう一人は鋭い刀を持っている。
 いやに光沢を持つ強化筋肉が常時脈動し、外骨格にもヌメリが見え、さながら水牛に食らいついて巨大化した蛭を思わせる、人鬼。
 此方を気にも留めず、二人の人鬼が戦っていた。
 ヤマアラシに似た人鬼は体表の針を引き抜き、それを蛭に似た人鬼へダーツのように投擲する。
「フルンティングレイ!」
 蛭に似た人鬼は手にした刀より時空衝撃波の刃を飛ばし、その針を撃墜する。
 互いにベルトの中枢、オニノミテグラへ呪符をかざす人鬼。

「ライダーアイアンメイデン!」

 ヤマアラシに似た人鬼は身体中の針を一斉に噴射する。

「ライダーエペタム!」

 蛭に似た人鬼は刀に時空衝撃波を纏わせ、形成した巨大剣をふるってその針に対抗する。


 六十数年後、都市保安庁へ連行される卜部京也。


 六十数年前、人鬼らの戦いを注視する卜部武政。

続く。

次回、18話「馴れ合いは好かんが」
277ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/02/19(日) 07:17:19.10 ID:7gnrSxSR
17話、以上です。
ええい、今回は投下中に睡魔に負けるとは。
278創る名無しに見る名無し:2012/03/21(水) 01:32:07.65 ID:un/CzcSz
279創る名無しに見る名無し:2012/03/23(金) 10:29:38.22 ID:r+g3H9A6
>>278
鋼も砕くキック!キック!!キック!!!
280ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 01:30:38.34 ID:N/KNA9Jh
18話@

 山下山男刑事は極秘文書、レイモンドファイルを閲覧した。
 そこに記されたかつての仮面ライダー、卜部武政の悪行を知り、孫であり現在の仮面ライダーたる京也を危険視。
 スラッシュ=御杖峻と都市保安庁の協力を得て卜部京也の身柄を確保した。


 六十数年前、卜部武政は二人の人鬼の戦闘に遭遇する。

18話「馴れ合いは好かんが」

 無数の針と巨大化した剣。
 鬼二匹の必殺技が激突し、空間に爆発を呼ぶ。
 この戦闘にマッカーサーが気付く可能性がある。
 害意ある人鬼がどちらだろうが、今はこの戦闘を止めるのが先決。
 必殺技で全ての針を消費したヤマアラシ型の鬼の身体中に、すぐさま新たな針が生える。
 武政は二人の人鬼に向かって屋上から飛び降りた。


 六十数年後、拘束された京也は、都市保安庁が管轄する留置所で山下山男から身体検査を受けていた。
 しかし、変身に使用する肝心の念珠が見当たらない。
「無駄だぜ?山下刑事」
 独房の外から御杖峻がそう告げる。
「奴の念珠やおれの呪符は時空断裂境界に隔離されている。万が一境界から取り出せたとしても、使用者の意思で再び空間を越え、ソイツの元へ召喚される」
 だから無駄。人鬼の変身を封じる手段は無い。
「人鬼を止めるには人鬼をぶつけるしか無ぇ。だからおれはてめえに加勢した」
 京也はしばし押し黙り、山下山男を向いた。
「少し御杖峻と二人で話したいんですが」


 同じ頃、京南大学附属病院では少なからず混乱が生じていた。
 卜部医師が出勤しない。
 どころか、連絡すらつかない。
「麗ちゃん、メールはどう?」
「ダメです。完全に電源切ってる感じですね」
 ナースステーションのその騒動を、斎の友人、涼ちゃんが待合室から観察していた。
 涼ちゃんは京也に対して良い感情を持ってはいない。
 京也は美丈夫というにはいささか野性的で、闊達と呼ぶにはいささか疲れたルックスをしている。
 しかも愛想が無い。
 友人である斎はそうもつまらない京也へ好意を抱いているようだし、看護師らも彼の行方を案じている。
「看護師さん」
 王 麗華に言い放つ。
「あたし捕まえてくっから。何か卜部って医者ムカつくんで」
 麗華は一瞬呆気に取られ、すぐに笑う。
「お手柔らかにね。先生、あれで結構打たれ弱いから」
 京也という男を殴りたくなったので、診察をキャンセルし病院を飛び出した。
 無論、探すためだ。
281ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 01:39:03.47 ID:N/KNA9Jh
18話A

 しかし、すぐに涼ちゃんは己の迂闊さを呪った。
 何をアテに探せば良いのだ。
 竜頭蛇尾。涼ちゃんは大人しく大学へ帰った。
 その涼ちゃんを、斎が待ち受けていた。
 いかな理由か、斎は鬼の存在や、彼らが用いる念珠の位置を感知する能力を持っている。
 斎は、京也の気配を探り、彼が何処かへ監禁されている可能性に思い至ったのだ。
 凉ちゃんの袖を引っ張る。
「ゴメン、車貸して!」
「…あんたペーパーじゃん」
 そうだった。となると電車で行く他無いか?
 推定される場所への最寄り駅を検索してみる。落ち着きが無くなっている。
「ちょイツキ、どうした?」
「卜部さんが捕まったみたい!多分…都市保安庁に」
 凉ちゃんにとって都市保安庁といえば、謎の生物同士の戦いに巻き込まれ負傷した自分の医療費を、腹に残った傷の整形費用まで込みで立て替えてくれた妙に親切な省庁だ。
「立て替えた人は御杖峻とか言ったっけか。気になるね…イツキ!あたしが車出すから乗れ!」
 二人は午後の講義を欠席、都市保安庁管轄の留置所へ向かった。


 六十数年前。
 人鬼の激戦に割って入る武政。
「へい待て待てお前らケンカをやめて!オレの為に争わないで」
「どけっ!」
 ヤマアラシに似た人鬼が針を投げた。
 間一髪で回避する武政。
「ちょー刺さりそうだったんですけど!」
 危険を感じた武政。
 「召鬼」の念珠を握った右拳を天に突き上げ、振り下ろす。

「変身っ!」

 人鬼が三体。ヤマアラシ。蛭。そしてカマキリ。
「現れたか仮面ライダー…撃滅する!」
 先に動いたのはヤマアラシ型。
 多量の針が植わった、さながら鋸を思わせる腕で仮面ライダーへ切りかかる。
 対する仮面ライダーも腕の生体カッターで迎撃するが、無数の針で構成された鋸は受けた衝撃を分散させ、ダメージを軽減させてしまう。
 で、あれば特殊攻撃が妥当か。
 そう考える仮面ライダーへ、今度は蛭に似た人鬼が空中から刀を振り下ろしてくる。
 間一髪、脚のカッターでそれを止める仮面ライダー。
 ヤマアラシ型と距離が開いた。
 その隙にヤマアラシが五本程度の針を一気に投擲する。
 脚で蛭の刀を抑えながらその針を掴み取る仮面ライダー。
 針は明らかに、自分と蛭型、双方を狙っていた。
「今、お友達にも針が刺さるとこだったよ?」
「そのような裏切者、巻き込まれて当然!」
 蛭を見る仮面ライダー。
282ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 01:39:52.13 ID:N/KNA9Jh
18話B
283ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 01:47:38.57 ID:N/KNA9Jh
18話B

「蛭さん、お友達を裏切ったら良くない。ヤマアラシさんも元お友達をすぐ殺しにかかるのは良くない。…お仕置きタイムだ」
 強化形態、オメガフォームへ変身した仮面ライダー。
 生体波動銃バーサークショットで二人を続けて撥ね飛ばす。


 六十数年後、都市保安庁管轄留置所。
 鉄格子を挟んで背中合わせに立つ京也と御杖峻。
「分かってるな?てめえが変な真似をすればおれが変身して止める」
「その間、あんたは俺の独房を監視し続ける必要があるな」
「フッ…持久戦だ。てめえが寝ればおれの勝ち。おれが寝ればてめえの勝ち」
「…俺は厄介なオペが続いて127時間不眠不休だった事があるが」
 腕組みしたまま少しうつむいた後、背後の御杖峻を振り返る京也。
「…なあ御杖峻。この我慢大会、あんたにとっても命懸けじゃないのか?仮にあんたが先に眠れば、俺は時空断裂境界から念珠を召喚し変身する。つまり俺の勝ちだ。その時、あんたはどうする?俺があんたを殺して脱出する可能性だってある」
 不敵に笑っていた御杖峻も京也を振り返り、形相を鋭く変える。
「だから寝られんのだ。命を懸ける価値はある。危険な卜部の血統…中でも人鬼を虐殺し根絶やしにした卜部武政。その力を継承したてめえだ。命を懸けては悪いか?」
「それがあんたの正義か…」
 溜め息を吐き、再び御杖峻へ背を向ける京也。
 御杖峻もそれに倣う。またも背中合わせになった。


 六十数年前。
 蛭に似た人鬼と生体剣バーサークグラムで切り結ぶ仮面ライダー。
 その背後を手に持った針で襲うヤマアラシ型の人鬼。
 しかし仮面ライダーの左手には、既に生体槍ディザストスピアーが握られていた。
 針のリーチ外からヤマアラシに似た人鬼の首筋へ槍を突き付ける仮面ライダー。
「ハリとヤリ 一字違いで オレ有利 …季語がねえな」
 仮面ライダーの舐めきった態度に腹が立ったのか、ヤマアラシに似た人鬼は「昂鬼」の呪符を発動した。

「ライダーアイアンメイデン!」

 体中に生えた針を、全方位へ一斉に噴射する。
 蛭に似た人鬼はいち早く逃走。
 仮面ライダーは亜空間バリア、ライダーシールドを展開し至近距離からの針を全弾防御する。
 この距離でもバリアは張れるのだ。
 しかし、防御に専念している間にヤマアラシに似た人鬼も何処かへ消えた。
284ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 01:56:59.35 ID:N/KNA9Jh
18話C

 とりあえず、マッカーサーの一団は無事に都市保安団へ入ったようだ。
 あとは視察を終え、GHQ総司令部へ帰り着くまでこの秘密の護衛を続ければ良い。
 仮面ライダーは一旦武政の姿へ戻る。
 仮面ライダーとしての姿をレイモンドに見られた。変身を維持したままは得策でない。
 その時、武政の背後に一陣の風が吹き、それが止むと斎が立っていた。
「来た。人鬼の気が重複したから」
 遠目から都市保安団のビルを見守りながら頷く武政。
「針を使う鬼と刀を使う鬼が仲間割れしてた」
 刀、と聞き、斎はメモ帳を広げる。
 以前、ディグとの地下での戦闘を妨害した謎の人鬼。彼も刃を使った。
「ただ、今回の人鬼は刀を持っていた、と言ったわね」
 斎の指が直江と御杖、二つの名を指す。
「直江の鬼は刀を持つ。御杖の鬼は己が体を刃とする」
 つまり、今回現れた蛭型の鬼は直江家の出自というわけか。


 六十数年後、都市保安庁管轄留置所にズカズカと入る二人の女子大生。
 対人に弱い斎が、受付を気合いで正面から睨む。
「卜部京也さんがここに捕まってるハズなんです。釈放して下さい!」
「確かに留置しております。容疑については追ってご連絡差し上げます。お引き取り下さい」
 受付の極めてマニュアル的な応対に苛々する。代わりに凉ちゃんが前に出た。
「じゃあさ、都市保安庁に御杖峻っているよね。そいつ連れてきて」
 その旨を独房の前に鎮座する御杖峻へ電話で伝える受付。
「山内凉か…しかしおれには卜部京也を監視する任務がある」
「え、でも山内様は御杖さんに面会したいと…」
 マニュアル外の事態にうんざりした様子の受付嬢の声。
 それが唐突に悲鳴へ変わった。
 電話から事態を問う御杖峻の耳に、受付嬢とは異なる女声が入った。
「御杖峻!?あたし山内凉!壁破ってザラキの奴が出た!何とかして!」
 人鬼の第三の眼を開く峻。
 アリ型の改造兵士が、留置所や山内凉と梳灘斎らを襲撃している様を知覚する。
 改造兵士の前に都市保安庁直属の機動隊が立ち塞がるものの、勝敗は分かりきっている。
「ここに仮面ライダーがいる筈だ。出してもらおうか!」
 アリ怪人はそう怒鳴りながら、口から吐く蟻酸で周囲の壁を溶解してゆく。


  六十数年前、御杖邸。
 御杖喜十郎はバナナを片手に西洋椅子に腰掛け、一人の青年と話していた。
「『ニードル』…大石君。直江君の裏切りに心当たりは?」
285ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 02:04:42.33 ID:N/KNA9Jh
18話D

「は、御杖殿!自分に心当たりは無いであります!」
 一つ頷き、ワインを青年に差し出す。
「では、状況だけ説明してもらえるだろうか?」
「は!本日一四三○時…」
 マッカーサーの一団を囮に、仮面ライダーを誘き寄せる。
 その作戦のため彼、大石成紀(オオイシシゲノリ)はザラキのアルマジロ怪人、及びもう一人の人鬼
「フルンティング」直江聡(ナオエサトシ)を伴って都市保安団近くで待機していた。
 しかし、マッカーサーらが作戦区域に入る寸前、直江が突如フルンティングへ変身。
 仲間である筈のアルマジロ怪人と自分に刀を向けてきた。
 やむ無く自分も「ニードル」へ変身して対抗。
 結果、作戦は失敗に終わった。
「裏切り者、直江君の居場所は未だ掴めずか。まさかあの男、仮面ライダーに協力するつもりか?あ、もう一本」
 給仕に持ってこさせたバナナを実に旨そうにかじる御杖喜十郎。
 大石に見せつけているのだ。
 仮面ライダーを倒せば闇市を漁る必要も無い。バナナのような高級品も買える報酬が手に入る、と。

  工場の仕事が早く済んだ父親と共に美月屋で夕食を取る鏑木三次。
 学校が復旧して少し経った。
「どうだ三次?教室に気になる娘とかいるのか?」
「え〜…今いないけど…」
 日本そのものの復興も近いかも知れない。戦争の傷痕を感じさせない他愛ない父子の会話。
 それを聞きつつ、キヌは厄介な二人の下宿客の関係について考えていた。
「…斎ちゃん。あんたにとって卜部さんって人は、何?」

 その今一つ不明瞭な関係の二人は、進駐軍の駐屯地近くまで来ていた。
 都市保安団の視察を終えたマッカーサーを、駐屯地まで人知れず送り届ける任務。

 午後六時、マッカーサー一団が駐屯地に到着した。
 漸く任務が終了した、と思ったのも束の間。物陰から駐屯地を覗き見る人物がいる。
 その人物の腰には…オニノミテグラ。
 武政は笑んで、その人物へ声をかける。
「よう人鬼さん。オレはこういう者です」
 その人物に念珠を見せ接近する武政。
「念珠…?貴様、仮面ライダーか!」
 その人物、大石成紀の腰にはオニノミテグラを内包したベルトが形成されている。
 今この瞬間に変身し、進駐軍へ殴り込もうとしていたのだろう。
「この大石成紀、ザラキ天宗の命により仮面ライダーを抹殺する!変身!」
286ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 02:13:19.67 ID:N/KNA9Jh
18話E

 顔の右横に、右手に握った「召鬼」の呪符を掲げ、それをオニノミテグラと接触させて大石成紀は針に覆われたヤマアラシ型の人鬼「ニードル」へ変身を遂げる。
「頭ん中大日本帝国で止まってるな…前進させてやろ」
 念珠を握った右拳を天に掲げ、それをオニノミテグラへ接触させた上で右斜め横に振り降ろす武政。

「変身っ!」


 六十数年後。
 機動隊によるアリ怪人への射撃は、敵が吐く蟻酸により銃弾を溶解され、然程の効果は無い。
 山下山男も、斎と凉ちゃんを背後に庇いながら慣れないデザートイーグルで怪人を射撃するものの、アサルトライフルが通じない敵には意味を持たない。
 第三の眼でその状況を透視しつつ、独房の前で苛立つ御杖峻。京也を見る。
「てめえの居場所を嗅ぎ付けるとは…」
「ザラキとの内通者がいるんじゃないのか?警察かマスコミ…或いはあんた達都市保安庁に」
 冷静な京也にまたも苛立つ御杖峻。
「ち…しかしおれはこの拘置所の隅々を知っている。例えば監視カメラの死角!」
 そこへ隠れ、スラッシュへ変身する。
「おれが出る。動くなよ…ライダーシフト!」
 時空の壁を切断し、敵の眼前に瞬間移動するスラッシュ。

 改造兵士に応戦する機動隊だが、敵の蟻酸に苦戦を強いられる。
 そんな機動隊、及び山下山男の前に空間を切り裂き、スラッシュが出現した。
「御杖さん!」
 スラッシュは山下山男、および蟻酸で溶解した外壁を見渡し、アリ怪人を睨む。
「てめえ…この施設は都市保安庁の管轄だ。壊されれば減給。出世に響く。これ以上は許さねえ」
 凉ちゃんは少なからず驚いていた。以前、自分を囮にした怪人。彼が「御杖」と呼ばれ、アリ怪人に立ち向かっている。
「あんたが御杖峻…?」
 スラッシュは自在に空中を舞い、アリ怪人を誘導。機動隊らを敵が吐く蟻酸から遠ざける。
 しかし、アリ怪人の武器はそれだけに留まらなかった。
 一人の機動隊員からは、怪人の影が盛り上がったように見えた。
 直ぐにそれが無数の黒い「アリ」である事に気付き、気付いた数秒後に彼の意識は闇へ溶けた。
 怪人は体内に無数の小アリを飼っており、それを体外へ放出。
 強力な蟻酸とアゴを持つ小アリは敵にまとわり付き、食い尽くす。
 瞬時に二人の機動隊員が骨に変えられた。
 更に小アリは他の隊員らにも迫る。
 隊員の一人に小アリが食い付いた。
「は、離れろ!御杖さん、助けてくれ!」
287ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 02:21:40.19 ID:N/KNA9Jh
18話F

 素早く腕に時空衝撃波を集約するスラッシュ。
 だが、波動の刃、スラッシュレイを投げる事ができない。
 高笑いするアリ怪人。
「お前の弱点はそこだなスラッシュ?お前は全てを切断する。小アリを引き剥がそうとすれば、隊員の体も切断してしまう」
 人鬼が持つ絶大な破壊力、それこそが弱点となった。
 スラッシュが躊躇している隙に、その隊員も白骨と化す。
 接近する小アリを机にあったライターで燃やしながら山下山男は斎と凉ちゃんを庇い続けるが、小アリは次々と怪人の体から生産されてゆく。
 もう逃げ場は無い!

 その苦戦の様は、京也の額に眠る第三の眼に確と映っていた。
「俺の出番か…」
 京也の両目が赤く輝く。
 独房の鉄格子をおもむろに掴み、一気にこれをねじ曲げた。
 変身せずともこれだけの力を発揮できる。
 しかしその力に感嘆する事無く、京也は「召鬼」の念珠を握りしめ駆け出した。

「スラッシュレイ!」
 床に這う小アリを時空衝撃刃で薙ぎ払うスラッシュ。
 山下山男らは救えたが、他の機動隊員は尚も小アリにたかられる。
 その時。

「ライダーフレイム!」

 声が轟き、小アリが一斉に燃え上がる。
 その炎で小アリは一掃できたが、周囲は火の海。
 炎の中から、気象を操作する仮面ライダー・ディザスターフォームが現れた。
「ライダーフラッド!」
 仮面ライダーは続いて「鬼雫」の念珠を使用。
 水を操るこの念珠の力で留置所の中に雨を降らせ、火の海を消し止めた。
「卜部…さん!いや、これ以上動くな!」
 仮面ライダーへ銃口を向ける山下山男。
 だが、その手を斎が押さえる。
「卜部さん!…お願いします」
 既に事態は凉ちゃんの想定を超えていた。
 卜部。あの腹の立つ医者。今回都市保安庁にまで出向かされた元凶。
 彼がこの、仮面ライダーとかいう怪人だと?

「漸く現れたな仮面ライダー!だが、奴らにたかる数万のアリ共を引き剥がす事ができるかな?」
 更に小アリを生産するアリ怪人。
 小アリを攻撃すれば、たかられた機動隊員にまで被害を与えてしまう。
「考えがある。スラッシュ、大アリを止めろ」
「フッ…小アリは任せてやってもいい」
 スラッシュがアリ怪人に飛びかかる間、仮面ライダーは重力を操る「鬼圧」の念珠を使う。
「ライダーアトラクター!」
288ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 02:29:05.41 ID:N/KNA9Jh
18話G

 自分の右手へ重力を発生させ、小アリを吸引。
 同時に左手からは反重力波「ライダーリアトラクト」を放ち、機動隊員を撥ね飛ばして子アリから引き剥がす。
 その間、スラッシュの爪がアリ怪人の腹部に突き刺さる。
「ライダーネイルスタッブ!」
 爪から生じる超振動がアリ怪人を苛む。
 苦し紛れに蟻酸を吐くアリ怪人だが、スラッシュは再び空間を引き裂いた。

「スラッシュシールド!」

 時空間を切り裂き、仮面ライダー同様の亜空間バリアを形成、蟻酸を無力化する。
 その間に仮面ライダーは隊員らからの子アリ除去を済ませた。
「超変身!」
 仮面ライダーはウィザードフォームへ変身。
 球形に展開した極小規模なライダーシールドで回収した小アリを囲い、数万の小アリが充満した「アリ爆弾」を作ってアリ怪人へ投擲する。
 炸裂した子アリの行動パターンは二つに分かれた。
 一つは再び機動隊員や仮面ライダーらに襲いかかるタイプ。
 もう一つは、生みの親を栄養源として食い始めるタイプ。
 仮面ライダーは再びディザスターフォームへ変身し、稲妻を呼んだ。
「ライダーサンダーボルト!」
 電撃が一匹の小アリを襲うや、全ての小アリが一斉に感電、炎上する。
 この電撃はアリ怪人に食いついていた小アリにも伝達され、アリ怪人は小アリが燃える炎に包まれる。
 その隙に腹部を蹴り、反動で後退するスラッシュ。
 同時に空中で、技の切れ味を高める「鬼爪」を発動。
 仮面ライダーもブレイクフォームへ戻り、破壊力を高める「昂鬼」を発動する。

 白骨化した隊員らの遺骸を見る仮面ライダーとスラッシュ。
「襲われるのは俺一人で良かった筈…許さん。来い大アリ。俺が相手だ」
「最後まで公務員様として戦い抜いたこいつらを…許さねえ…紅に染まれぇーっ!」
 仮面ライダーの拳に、スラッシュの手刀に時空衝撃波が集束する。怒りのままに駆ける二人。

「ライダーパンチ!」
「ライダーチョップ!」

 仮面ライダーの拳に頭蓋を砕かれ、スラッシュの手刀に胴を裂断され、体内の小アリと共についにアリ怪人は爆砕した。

「で…山下刑事。どうしますか」
 変身を解き、山下山男へ迫る京也。
 今回京也を拘束したのは警視庁としてではなく、あくまで都市保安庁に協力しての事だった。
 つまり山下山男個人としての逮捕。
「法的な拘束力は無いし、君はここでもレインボーブリッジでも一般人を救助したし…」
289ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 02:35:41.45 ID:N/KNA9Jh
18話H

 正義感、使命感、京也への感謝等様々なものに押し潰され、悩む山下山男。
 そこへ都市保安庁本部との連絡から帰ってきた御杖峻が割り込んだ。
「卜部京也、釈放。ちなみに施設破損の修繕費用は警視庁から半分出してもらう」
 失望とも安堵ともつかない溜め息を残し、山下山男は手に馴染まないデザートイーグルを御杖峻へ返す。
 そして、アリ怪人に殺害された機動隊員らの遺骸への敬礼。
 その後、京也へ愛車のキーを返却する。
「凉ちゃん…帰りは私が運転しよっか?」
 斎も未だ事態を飲み込めていない凉ちゃんを連れ、ほぼ全壊した留置所受付を出る。
「あの…山下さん、私と凉ちゃんを守ってくれて、ありがとうございました」
 はにかみながら頭を下げる斎。
 山下山男としては、京也を拘束した自分の方が頭を下げたい気分だった。
 御杖峻もまた、隊員らの遺骸に手を合わせる。
 そして京也の背中へ声をかけた。
「おい!…礼を言っておいてやるぜ、『京也』」
 京也は少し立ち止まり、御杖峻を振り返る。
「彼らを弔ってやってくれ。『峻』」
 それだけ言い残し、愛車「レイブン」で京也は職場へ向かった。


  六十数年前、ニードルと仮面ライダーはほぼ互角の戦闘を繰り広げていた。
 仮面ライダーはオメガフォームへ変身すれば剣に槍、銃まで持てる。
 針による接近戦に勝機は無い。
 そのため針を棒手裏剣として投擲する遠距離戦で挑戦した。
 だが一方の仮面ライダーは、通常形態ブレイクフォームを維持したまま。
「何故強化変身せぬ?この大石成紀、全力での勝負を望む!」
「ニードルさん、元海軍と見た。礼儀正しそうだしお友達になりたい」
 敵の棒手裏剣をかわしつつ、ニードルを仲間へ勧誘する仮面ライダー。
 だがニードルは針を、仮面ライダーの顔目掛けて投げてきた。
「断る!自分はザラキの傭兵となったのだ。この日本で裕福に生きる事を切望するゆえ!」
 間一髪、針を掴んで止めた仮面ライダー。
「その軍人根性が古いっつってんのよ!」
 針を投げ返す。
 それを新たな針で弾くニードルだったが、最初に投げ返した針は囮。
 既に仮面ライダーはニードルの真上に跳躍していた。

「ライダーキック!」
 仮面ライダーの剛脚は、同じ人鬼にも充分なダメージを与える。
 超重力の蹴撃が胸を襲い、動けなくなるニードル。その首筋を掴む仮面ライダー。
「どーする?オレにつくかザラキにつくか」
290ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/04/05(木) 02:42:33.95 ID:N/KNA9Jh
18話I

 左手でニードルの首を締め上げ、右手はいつでも決定打、すなわちライダーパンチを放てるよう拳を握りしめている。
 その時、事態を静観していた斎が声を上げた。
「武政さん!防御して!」
 ニードルを離してオメガフォームへ変身、ライダーシールドを展開し第三者からの攻撃を跳ね返す。
 跳ね返してから、その攻撃が人鬼の共通移動手段「鬼葉ライドリーフ」である事に気付く。
 ライドリーフは辛うじて軌道を立て直し、主の元へ戻る。
 「鬼葉」の呪符を持つのは、病的に顔の蒼白い青年だった。
 彼がライドリーフを操り、自分達へぶつけてきたのか。
「直江!この裏切者が…」
 男を見て怒りを顕にするニードル。
 直江…刀を操る人鬼の家系。ならばニードルと仲間割れをしたのはこの男か。
 直江は蒼白い顔に目を爛々と輝かせ、顔全体が口になったかと思うほど大袈裟な笑顔を浮かべる。
 笑顔のまま、「召鬼」の呪符を示す。
「邪魔しないでよ仮面ライダー。ニードルは僕のエモノなんだ…変身!」
 呪符がオニノミテグラと接触。
 力の嵐に包まれ、直江はあの蛭を思わせる人鬼「フルンティング」へ変貌した。
 フルンティングは「鬼刀」の呪符を取り出す。
「ライダーソード!」
 生体強化外骨格の細胞から、日本刀を構築し腰に装着する。
 刀にはご丁寧に鞘まで付いている。
 その鞘から刀身を引き抜き、ニードルへ向けるフルンティング。
「さぁ、刀に君の血を吸わせよう」
 高揚した声音に薄気味悪さを覚えつつも、バーサークグラムでライダーソードを止める仮面ライダー。
「待った。オレはニードルの話を聞いてみたい」
 フルンティングは仮面ライダーを向く。その肩が小刻みに痙攣を始めた。
 これは、怒りの感情か?
「邪魔する?邪魔する?邪魔する?ねえ邪魔する?」
 両手でライダーソードを握り、全力で仮面ライダーへ切り込むフルンティング。
 仮面ライダーはバーサークグラムで防ぎ、一気に後退する。
「そうか、君も僕の邪魔をするの。良いよ、まずは仮面ライダー、君の血が吸いたい!」
 怒りのまま仮面ライダーへ突進するフルンティング。
 起き上がり、体から再び針を引き抜き逆襲を図るニードル。そして仮面ライダー。
 人鬼の戦いが、またしても三つ巴の様相を呈した。

続く。

次回、19話「既婚者です」


大分間が開いてしまいました。
18話、以上です
291創る名無しに見る名無し:2012/04/15(日) 17:42:26.66 ID:VtratMCy
292創る名無しに見る名無し:2012/04/15(日) 20:42:32.88 ID:bbcoGbGU
ご冥福をお祈りします
293ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/05/14(月) 01:28:37.86 ID:ZGsySNj1
ご無沙汰しております。
先ずは荒木氏にご冥福をお祈りします。
私用がようやく片付いたためネメシスの続きを載せようかと思ったのですが、まだ四十九日の最中でした。
最低でも来月の三日までは自重させていただきます。
294ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 01:45:50.86 ID:trM9Z8QY
19話@

「朝子さん。麗華さんを知らないだろうか」
 京南大学附属病院。
 卜部京也からその質問を受け、藤堂朝子は年配女性に特有の笑みを見せる。
「今日は休みですよ?大体、あのコ彼氏いるし。残念でしたね」
「残念?」
 京也は、真実意外そうに首を傾げる。
「俺はあの人に渡した書類に不備が無いか確認したかっただけだし、別にあの人に交際相手がいようが興味無いが」
 朝子は内心で息を吐いた。
 京也は優秀な医師だ。社交性の欠落を除けば。

 仮面ライダーネメシス第19話「既婚者です」

 その王麗華は、相棒のカスタムバイク「蒙ちゃん」へ寄りかかり、あるドライブインで交際相手と待ち合わせていた。
 15分ほど遅れて、相手が到着した。
「遅刻は許すけどね隆司。もうちょっと気の利いたデートスポットは無かったの?」
「いや、会社から近かったからさ。それより僕のバンドでこの間さぁ」
 またバンドの話か。
 麗華は、少々うんざりしながら、そのドライブインの脇に広がる貯水池を眺める。
 県境にあるこの貯水池。それに隣接するこのドライブインは、実は評判が悪い。
 建物が大きくL字型に抉れているのだ。
 そのスペースを駐車場として使うでもなく、単に3平方メートル程度の更地。
 まるで、その地下に遺跡でも埋まっているような。


 六十数年前、何処かの暗闇。
 ザラキ天宗の高僧、董仲はトリカブト型の改造兵士へ任務を与えていた。
 この改造兵士が体内に蓄積する毒を貯水池へバラまくこと。
 その後、一定の犠牲者が報道された上で自分達の犯行声明を出し、暫定政府へ主権の移譲を迫る。
「人鬼が争い合っている今が好機だ。頼むよ」

 争い合う三匹の人鬼。
 激戦、と言ってよかった。
 ニードルは体から生じる針をダーツのように投げ、フルンティングは刀を振るってそれを弾きつつ、鞘で卜部武政=仮面ライダーを突き飛ばす。
「血だ!君達の血だ!」
 そして、この場面の主人公はフルンティングであった。
 高揚を代弁するように、彼の身体中に垂れ下がる触手が振動している。
 先刻の敵対は今いずこ。気付けば仮面ライダーは、ニードルと共にフルンティングと戦っていた。
 仮面ライダーは刀に対し優位に立つべく、リーチに勝る長槍、ディザストスピアーを召喚。
 仮面ライダーが刀を迎撃する間にニードルは距離を開け、ダーツを投擲してフルンティングを攻める。
295ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 01:54:41.57 ID:trM9Z8QY
19話A

 ダーツがフルンティングの体を覆う、蛭に似た触手状の器官へ突き刺さり、ゴムホースを針で突いた様に多量の血液が噴出する。
「つまり、防御力そのものはカスか!」
 勝機が見えた。仮面ライダーは風のエネルギーを操り、その竜巻の中心点に生じたカマイタチを打ち出す。

「タービュランスダガー!」

 風の刃が迫る。
 だが所詮は空気の流動。時空波動に敵う筈もない。
 フルンティングは生体剣、ライダーソードを引き抜いた。
「フルンティングレイ!」
 刀身より飛ぶ時空衝撃刃がカマイタチを寸断し、仮面ライダーに迫る。
 だが、既に迎撃準備は整っていた。
「ライダーシールド!」
 亜空間バリアで仮面ライダーがフルンティングレイを封じ、その隙にニードルが跳躍、「昂鬼」の呪符を手にする。

「ライダーアイアンメイデン!」

 ニードルの体より無数の針がフルンティング目掛けて放射される。
 対して、フルンティングも必殺技を繰り出した。

「ライダーエペタム!」

 時空衝撃波を纏い巨大化した刀身が針を薙ぎ払う。
 仮面ライダーは再びのライダーシールドでニードルを守りつつ、瞬間移動能力、ライダーシフトを発動した。
 バリアに守られるニードル。フルンティングの視界より消えた仮面ライダー。
 だが既に、敵はフルンティングの背後へ瞬間移動を完了していた。
 鈍い音。
 仮面ライダーがフルンティングの背へ、自らの生体剣バーサークグラムを突き刺した音。
 触手の痙攣が苦痛の余り度を超し始めたフルンティング。
 だが仮面ライダーは、剣を抜かない。
 防御力が低いとはいえ、再生能力自体はフルンティングも他の人鬼に劣らない。
 先刻、ニードルの針に貫かれた傷は既に治癒している。
 このまま致命傷を与える必要がある。刺した剣から炎を放つか、或いは傷口に時空衝撃波を叩き込むか。
 そう考えていたので、ニードルが自分に向けて針を発射するなど全く予想外だった。
「ライダーリアトラクト!」
 反重力子の障壁を築き、すんでのところで針を跳ね返す。
 だがニードルは尚も針を手に、仮面ライダーへ襲いかかる。
 ニードルを迎撃するため、フルンティングから思わず剣を抜く。
 針と剣で組み合う。その隙に、フルンティングはライダーソードを抜いた。
 だが、仮面ライダーを斬る余力は無い。
「ライダー…シフト…」
 ソードで空間を切り裂き、何処かへ逃走した。
296ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:00:18.73 ID:trM9Z8QY
19話B

「ちょっと!逃げられちゃったじゃんよ!」
 憤る仮面ライダーに対し、ニードルは冷淡だった。
「あの傷では永くあるまい。先にも話したが仮面ライダー。私の使命はフルンティングと貴様、双方を葬る事にある!」
 だから二人をまとめて倒そうとアイアンメイデンを放った。
 もとよりニードルには、仮面ライダーに協力するつもりなど無かったのだ。
 ニードルとは仲良くなれない。明らかに危ない性質のフルンティングは逃亡。
 仮面ライダー=武政は少々イライラしていた。
「ニードルさん。人鬼は背中に剣ブッ刺したぐらいじゃ死なないんだよ…実証してやろっか」
 言うや、仮面ライダーの姿がニードルの視界から消えた。
 危険と判断し、ニードルはアイアンメイデンを全方位に放射。
 だが既に、仮面ライダーはライダーアクセラレート=超加速状態へ突入していたのだ。
「ライダーハイスピードブレード!」
 加速した仮面ライダーの、バーサークグラムによる斬撃。
 極めて遅緩しながら飛んでくる針を全弾切り落とし、ニードルの脇腹へ一太刀を浴びせる。
 実際には一度の加速で数百回の斬撃を浴びせニードルを完全に粉砕する事も可能だったが、そうしなかったのは仮面ライダーがニードルに対して殺意を抱けなかったためである。
「個人差はあれ、その切り傷も人間じゃぶっちゃけあり得ないスピードで回復する。」
 脇腹の傷を押さえ倒れ込むニードルへ手を差し伸べる仮面ライダー。
 同様に、剣を刺されたフルンティングもあれだけでは死なない。
 人鬼は総じてめちゃくちゃタフだし。
「おたくを殺したい訳じゃない。協力してもらえんかな」
 しかし、差し出されたその手をフルンティングとは別の時空衝撃刃が襲った。
「不意討ちの多い日だな!」
 仮面ライダーの眼差しの向こうに立つ人鬼。
 流線形で無駄の無い外観が、何処と無くサメ等の回遊魚を彷彿させた。
「帰るぞニードル。ライダーシフト!」
 回遊魚に似た人鬼は左手の鋭い爪で空間に亀裂を形成し、右手へ集束させた時空衝撃波を刃として仮面ライダーへ投擲する。

「スラッシュレイ!」

 思わずバーサークグラムで防御する仮面ライダーだが、波動が刀身に直撃した瞬間、その衝撃で体がやや後退した。
「ライドリーフ!」
 ニードルは生体サーフボードを召喚するとそれに騎乗し、新たな人鬼の開いた亜空間トンネルへ逃げ込む。
297ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:12:59.57 ID:trM9Z8QY
19話C

 続いて新たな人鬼本人も、仮面ライダーを一瞥した後、時空の狭間へ消えた。
 手の甲から伸びるバーサークグラムを見る仮面ライダー。
 スラッシュレイとの接触で、煙を噴いていた。
「スラッシュ…格が違うな」


 六十数年後、都市保安庁情報部特務執行課。
 御杖峻は、留置所をアリ怪人に襲撃された事件について、上司に幾つか質問をぶつけていた。
「仮面ライダー…卜部京也を釈放したのは本部の指示と聞いたんですがね」
「仮面ライダーは結局変身し、独房を破壊した。拘束などという物理的手段では無力、と判断されたのだ。人鬼の家系が断絶している以上、奴を監視できるのは唯一君だけ」
 しかし、御杖峻とて一人で京也を24時間監視する事は不可能。
 そもそも、もし京也が仮面ライダーの力を悪用したとして、自らの力、スラッシュでは彼に勝てない。
 それはこれまでの戦いで幾度も思い知らされた。
「それに御杖君、何故君は現地にいたにもかかわらず、仮面ライダーと交戦しなかった!」
「アリに食い殺された連中はやむを得ん。だが、生存者や民間人もいました。だから救助を…」
 上司が渋い形相で遮って言う。
「加速程度が君の力の限界。違うだろうか」
 痛い所を突かれた。
 スラッシュは炎も水も重力も操れない。
 それらを操り被害を減らしたのは、自分ではなく卜部京也だ。
 苛立ちを露わにする表情の峻に、上司は高圧的だった。
「何だね御杖君、君は一人では仮面ライダーに勝てないから、いつも奴を援護しているのかね?」
 その言葉は峻に棘のように刺さる。
 峻自身のプライドもさることながら、斎らを救おうとして殺害された機動隊員の姿が脳裏をよぎった。
「ウチの庁の隊員が数名犠牲になってるんですがねぇ。おれの力ではあいつらからアリを引き剥がせなかった」
 だから犠牲を増やさぬよう仮面ライダーの協力に甘んじた。
 そう幾度も言ったし報告書にも記載した。
 にもかかわらず、この上司は峻を非難する。
 仮面ライダーを倒すというお題目に縛られた愚鈍な役人。
 そんな上司の人となりは当初より明らかで、だから峻にはこの上司を敬うつもりなどさらさら無い。
 お忘れのようですが、と峻は彼のデスクを両手で叩き、その脂ぎった面を覗き込む。
「課長。おれは雇ってもらってるんじゃない。人鬼として『雇われてやってる』んだ」
298ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:19:39.36 ID:trM9Z8QY
19話D

 妖魔、改造兵士、そして仮面ライダー。
 彼らの抑止力となれるのは自分、スラッシュのみ。
 そう言って峻は、かつてこの庁に自分を売り込んだ。
「確かにスラッシュの力は仮面ライダーに劣る。だがそれでも、おれ抜きで、てめえらだけで連中に対処できるとは思えんがな?それでもおれが邪魔と言うなら…」
 峻の指先がデスク二段目の引き出しを打つ。
 上司は青ざめた。そこには彼の護身用の拳銃が入っている。
 因みに米軍制式ピストルのベレッタM92だ。都市保安庁の特性上、政府から特別に所持が許可されている。
「フッ…撃ってみるが良い。おれは弾丸が射出された事を認識してから変身を開始し、おれの体に着弾する前に変身を完了し、未だ着弾しない弾丸をこのビルと課長もろとも切断する事ができるがな?」
 沈黙し立ち尽くす上司へ市役所的スマイルを送り、自席に戻って冷めた紅茶を啜る。
 鬼は人の狂気。人鬼は狂気の具象化。そんな基礎を忘れていた。
 これは都市保安庁への脅迫だ。
 そして都市保安庁は、それだけの怪物を内に飼ってしまった。
 峻の行動を黙認しなければ、自分たちが彼の餌食だ。
「御杖君…何が望みだ」
「毎月の安定した給与と社会保障の継続ですかねぇ。ローンや愛車の維持費も大変ですから」
 現在の地位に居座るつもりらしい。
 物腰こそ柔らかいものに戻ったが、全身に常に纏う殺気、狂気は消えない。
 無敵の力。命令違反の給与泥棒。上司を脅迫。
 仕事では人鬼、プライベートでは公務員の肩書きをひけらかす。
 安定した収入と曾祖父の遺産による裕福な生活。ガラが悪く皮肉屋。
 組織から嫌われる条件の大半を満たす峻。
 上司も撃てる事なら彼を撃ちたい。

 「テスト?」
 京也は自室にて、目分量だけで適当に入れたインスタントコーヒーを斎に差し出しながら聞き返す。
 頷く斎。
「大学がそろそろ試験期間なんです。で凉ちゃんが卜部さんに教えてもらおうって…」
 卜部京也。名門、京南医大を卒業したいわばエリート。しかしだ。
「斎ちゃん、君ら医学部だったか?」
「人文学部です」
 なら専門外だ、と素が出る。
 しかし、凉ちゃん…山内涼が自分とのコミュニケーションを望んでいるとはどういう事だろう。
 仮面ライダーとしての自分を見て、それでも?
「彼女は俺を恐れていないのか?」
「凉ちゃんって…いわゆる異端な人には優しいんです」
299ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:28:15.75 ID:trM9Z8QY
19話E

 そういえば、斎も集団に溶け込めない性格だった。
そんな意味では彼女もマジョリティに対する異端だし、人外の力を手にした京也も異端なのだろう。
 ただ、と京也は斎に言付けした。
「斎ちゃん。君は異端になりたいのか?」
「え…」
 言葉に詰まる斎。
 京也は熱を保ったコーヒーを構わず飲み干し、続ける。
「自分を異端だと思っている間は、真の意味での異端にはなれない」
 京也はソファーから立ち上がり、斎に背を向けた。
「学校に行った方が良い。単位を落とすと後々困るぞ」
 背を向けたままの京也へ斎は頭を下げる。
「ごめんなさい…お邪魔しました」
 少し早足で去ってゆく斎の足音を聞く。
 もう少しソフトな物言いでも良かったろうか。
 京也は自身に対して溜め息を吐く。
 言いたい事を言ってから、後で物言いの厳しさに気付く。
 自分の悪癖だ。


 六十数年前、美月屋、というより美月キヌをレイモンド・マグラーが訪ねていた。
「キヌ、これは進駐軍としてではなく私個人として君に聞きたいんだが」
 抹茶を楽しむような手つきで白湯をすすり、正面からキヌを見る。
「一月程前、隅田川の河川敷で会った時、君は日本に人間を襲う未知の怪物がいる…と言っていたね」
 そんな事もあったか。
 確か武政が仮面ライダーであると知り、神経質になっていた時期のことだ。
「実はマッカーサー元帥の護衛中、私は謎のモンスターを目撃した。キヌ、君が言う怪物と関係あるかも知れない。詳しく話を聞きたい」
 キヌも、物陰から聞いていた武政もまずいと思った。
 目撃されたのは、武政がニードル、フルンティングと交戦する直前の事だ。
 だが、何とか弁解しようと考える武政より先に、斎がレイモンドの前に出た。
「都市保安団の梳灘 斎です」
 言って保安団のバッヂを示す。
 彼女の身分に驚くレイモンドに構わず、斎は矢継ぎ早に嘘八百を連ねた。
「我々の調べに曰く、キヌが隅田川で目撃した生物は貴国の空襲により水底で眠っていた石炭紀の生物が浮上、密かに内陸部へ侵入していたものと思われます。調査は万全を期して。以上です」
 よくもああベラベラと、とキヌは饒舌な斎に苦笑していた。
 一方で武政は、その嘘八百を詳細に筆記する。
 後で斎の属する都市保安団へこの件で電報を打ち、口裏を合わせてもらうのだ。
 とりあえず、斎の言でレイモンドは納得したようだった。
300ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:34:19.42 ID:trM9Z8QY
19話F

「ではモンスターの話は終わらせ、進駐軍としての話をしたい。他殺死体が連続して発見されたのだが、不審人物を見た覚えは無いだろうか?」
 最大の不審人物は武政と斎だが、一応キヌは首を横に振る。
 それにも了解してジープへ戻るレイモンドに、漸く武政が声をかけた。
「ちなみにさ、どんな死体なの?」
「切断されているんだ。極めて鋭利な刃物でな」


 六十数年後、京也は本日二人目の来客にはコーヒーも出さなかった。
 斎ならともかく、何せ御杖峻だ。
 出す必要も無いらしい。
 峻は図々しくソファーに腰を下ろし、マイ水筒から勝手に紅茶を飲んでいる。
 京也は本日二度目の溜め息。その後、ふと凉ちゃんを思い出した。
「そういえばあんた、妖魔の囮にした件で、山内凉に頭は下げたのか?」
「謝罪文は送ったな。形式的に。まあ訴訟食らう可能性もあるが、裁判所がおれとスラッシュの関連性を立証できんさ。万一立証されたとしても都市保安庁の圧力で何とかなる。最悪でも罰金…それもてめえら市民の税金から出るからおれにダメージは無いな」
「…ふうん」
 処置無し。
 峻は平然と紅茶を飲みながら、鞄より幾つかの書類を出す。
「てめえら市民は情報弱者だから興味無いんだろうが、近々横浜で大エジプト博覧会が開かれる」
 その程度は知っている。確かファラオのミイラやその装飾品が展示されるのだ。
 黙って峻に背を向けたままコーヒーを啜る京也。
「おい無視するな。寂しいだろうが」
 この男は自分が嫌われている事を理解できないのだろうか。
 構わず峻はファイルを出し、話を進める。
「ソイツに展覧するミイラの一体が輸送中に消息を絶った。都市保安庁の人間も輸送に立ち会っていたにも関わらず、だ」
「あんたらの問題だろう。俺を巻き込むな」
 京也がやっと反応を示した事が嬉しいのか、峻は気味の悪い笑顔で話を続ける。
「問題は、だな。このミイラを奪ったのがザラキの改造兵士である点」
 言ってエイに似た怪人の画像を見せる。
 京也の反応が変わった。
「改造兵士か…コイツの能力は?」
「電気を吸収。要はコイツが侵入した施設はあらゆる機器が電力を失い、ブラックアウトする」
 体内に貯蓄した電力を武器として使う事もできるようだが、寧ろ国家として見た時の脅威は、この吸電能力の方だ。
 また尾に毒針があるらしいが、人鬼には然程の効果はあるまい。
301ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:39:46.98 ID:trM9Z8QY
19話G

「で…ザラキが何故ミイラを欲しがる?」
「おれが知るか。ともかくエジプト政府から当局に苦情が来てやがる。力を貸せ」
 お願いしてやっているという態度は気に入らないが、エイ怪人が脅威である事に変わりはない。


 六十数年前、武政はレイモンドに混じり犯行現場へ来ていた。
 確かに、何らかの鋭利な刃物で被害者は…恐らく一撃で…寸断されている。
 それにも飽き足らず、犯人は即死したであろう被害者の遺骸を幾度も切り刻んでいる。
 確かに改造兵士かも知れないし、単に危うい人物が快楽的に起こした事件かも知れない。
 しかし、フルンティング。そしてあの強力な人鬼、スラッシュの存在。
 両者とも刃を用いる。
 犯人像が広すぎる。
 武政は捜査官でもなく捜査する義務も無いが、ただ自身が決着をつけなければ、と思っていた。
 フルンティング。少なくとも彼は危険だ。
 そう思った時、武政の第三の眼が突如開いた。
 強い毒物の反応があった。
「レイモンド、オレ帰るから!」
 捜査官でない武政を検分に立ち会わせる道理は無いので、レイモンドは走り去る武政を見送るより無かった。

 その頃、斎はキヌと共に電報局へ行き、都市保安団宛に口裏を合わせるよう電報を打ち、既に帰路についていた。
「ありがと斎ちゃん。あたしを庇ってくれて」
「気にしなくて良い。でも、部外者に余計な事を言わないで」
 進駐軍の兵士が部外者だろうか?
 敗戦直後にまたも日本を揺るがすやも知れない事件が起こっているというのに。
「ザラキの件は都市保安団と武政さんで…日本人だけで始末をつける。外国に知られたくない」
 キヌの方を見ず歩みを進めながら、斎はまるで政府を代表したような口振りをする。
 しかし、傍らには空襲で焼け焦げたままの街路樹。
 政府に委せたから日本はこれほど惨めに負けたのではないか、とキヌは思う。
 それに、斎はどこか常に自己を殺している印象がある。
 自分の使命を全うするのが最優先。
 それは自分の人生より重いのだろうか。これでは斎は人生を楽しめないではないか。
「あんたね〜、そこまでツンツンしてると殿方できないわよ?」
 斎の個人の在り方が心配になり、少し茶化すようにそう忠告するキヌ。
 だが斎は立ち止まり、初めてキヌを向く。
「…いるわ」
「へ?やっぱ卜部さん?」
 斎はうつむき、外套に隠した刀を握る。
「違う…私には夫がいるから」
302ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:49:00.10 ID:trM9Z8QY
19話H


 六十数年後、横浜のとある博物館。
 深夜二時、警備員がエジプト展用展示物を見回す。
 ミイラが一体盗難にあったため、この時間帯でも照明が灯っている。
 その照明が落ちた。
 同時に手持ちの懐中電灯も切れ、手探りで探しあてた非常ベルも作動しない。
 周囲に冬のセーターを脱いだような音が始終響いている。
 目が暗闇に慣れ、その音の主がエイに似た怪物だと知った頃には既に怪物はこちらへ毒針を向けていた。
 だが次の瞬間に窓を割り、一台のオフロードバイクが突っ込んできた。
 バイクは怪物を撥ね飛ばし、そのライダーはヘルメットを外す事もなく「逃げろ」と言う。
 やむなく警備員は、博物館より脱出した。
 帯電した右腕で京也へ殴りかかるエイ怪人。
 パンチは手で止めるが、その拳より京也の体へ電撃が放たれる。
「鬱陶しい…」
 放電するならすれば良い。
 気にせず京也は怪人の懐を蹴り、博物館の庭まで弾き飛ばす。
「今度は王妃の棺か…何が狙いだ」
 一応聞いてみるが、返答が欲しいわけでない。
 敵の言い訳に真実があるとは思えないから。
 また、怪人にも応えてやろうという気力は沸かなかった。
 こういう場合「冥土の土産に〜」とか言って教えてやるのがパターンというものだ。
 しかし京也は、変身せずに放電に耐えたのだ。
 エイ怪人としては、この強敵を冥土へ送る自信が無い。
 悪い事は重なるもので、京也は「召鬼」の念珠をベルトへ滑らせ、一種の死刑宣告を放った。

「…変身!」

 人鬼の気が増大した。それを感知した峻も愛車セカンドローチで現地へ向かう。
 到着と同時に、怪人を攻め立てる仮面ライダーが視界に入った。
「てめえもよくよく物好きだな…」
 血筋の事で幾度も挑発し、侮蔑した。
 そんな自分に京也は何故協力するのか。峻は怪人目掛けて愛車を飛ばす。

「変…身!」

 愛車に跨がったままスラッシュへ姿を変え、続いて「鬼馬」の呪符を発動する。
 自己主張の強い、幅広で紫色のアメリカンの各部に生体強化外骨格が発生。
 直後には既に車体色の主体は外骨格の白。地の紫はラインでしかなかった。
「行くぜ、スラッシュワイバーン!」
 白いマシンがスラッシュを乗せ、エイ怪人へ突進する。


 六十数年前、武政は仮面ライダーに変身し、貯水池に陣取った怪人を追い詰めていた。
303ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:58:35.80 ID:trM9Z8QY
19話I

 県境に位置する、とある貯水池。
 敵は体の各所より伸びる鞭状の触手とそこから分泌毒液で仮面ライダーに対抗するが、どちらも決定打には程遠い。
「あの斬殺事件の犯人はおたくか?」
 そう口では言ってみたものの、仮面ライダーは疑問を抱いていた。
 現在の怪人が犯人だとして全戦力で自分に挑んでいるとするなら、この怪人の武器は触手と毒液であるハズだ。
(刃物は持ってねえよな…?)
 つまり、このトリカブトに似た怪人が犯人である可能性は薄い。
 奴は自分の毒液を貯水池に流そうとしただけで、斬殺死体とは恐らく無関係。
 ならば早急に片付けよう。
 そう考え、仮面ライダーはオメガフォームに変身。
 バーサークグラムで敵の触手を切断する。
 しかし、傷口から垂れた血液が近場のコンクリートを溶解した。
 敵は、血液さえも猛毒。
「またも全身毒まみれか!」
 わざとらしくトリカブト怪人は傷口からの血を撒き散らし、仮面ライダーの足元を溶かしてゆく。
 後世の者が血の染み込んだ土地を恐れ、立ち入り禁止にするほどの猛毒。
「そういう事だな。仮面ライダー、俺を下手に傷つければ流出した猛毒が街を汚染するぞ。どうする?」
「こうするよ。ライダーバインド!」
 仮面ライダーは重力波動を放ち、敵の動きを封じその場に固定する。
 同時に、炎のエネルギーを左手の生体波動銃、バーサークショットへ集束した。
「待て!俺を傷つければ…」
「ライダーフレイムショット!」
 超高熱を帯びた時空衝撃波がトリカブト怪人へ突き刺さる。
 更に仮面ライダーは力を解放する。
「ライダーシールド!」
 炎上し始めたトリカブト怪人を亜空間バリアで包囲し、密閉した。こ
 れなら毒液の流出は有り得ない。閉鎖空間の中で炎に包まれ、もがくトリカブト怪人。
「出せ…出せ!ぐああ!」
「オレね、お前みたいな奴が世界で二番目に嫌いなんだわ」

 怪人は焼死し、残留した毒液も完全に消える程に燃え尽きるまでそう長い時間はかからなかった。
 さて、と仮面ライダーは背後を向く。
元よりこのトリカブト怪人に興味は無かった。
 興味があるのは背後にいるこの男。
「仮面ライダー。フルンティングを破るため一時の休戦を申し入れる」
「会いたかったよニードル…大石さん」
 大石はニードルに変身せず、大石の姿のままで現れた。つまり彼に戦意は無いのだろう。それを察し、武政もまた変身を解いた。

続く
304ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/04(月) 02:59:57.94 ID:trM9Z8QY
19話、以上です
次回。第20話「PQC防衛司令」
305ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 00:35:42.40 ID:DrTXFwBD
20話@

 日本では「PQC」と呼ばれるシステムが研究、実験段階に入っていた。
 光量子触媒型発電システム。
「ある事故」を受け、エネルギー政策の大幅な転換を求められた日本政府が推し進めるプロジェクトである。
 既に幾つかの研究所は実践段階へ入り、関東地方の電力量を多く賄っている。
 しかし、問題も無い訳ではない。
 高温プラズマを発生させる強烈な発電効率から、このプラズマを兵器へ転用できる可能性が生じた。
 リスクの無い裕福は有り得ない。
 そうした意味で、PQC発電システムの抱えるリスクは、前世代が推進してきた発電システムと本質的には変わりなかった。

 仮面ライダーネメシス第20話「PQC防衛指令」

 横浜の博物館。
 ミイラの奪取を画策したエイ怪人は、体内に蓄積した電気をビームに変換し放出するが、スラッシュの愛車、スラッシュワイバーンの強固な装甲には意味をなさない。
「フッ…スピードのおれ、鉄壁のコイツ。無敵だろうが?」
 言ってスラッシュはシートより跳躍、エイ怪人へ飛びかかる。


 六十数年前。
 武政はニードル=大石と共に、トリカブト怪人から救われた貯水池にいた。
 壁にもたれる武政と対照的に、大石は背筋を伸ばし屹立している。
 先に武政が開口した。
「…どこで戦った?」
「ミッドウエー」
「そりゃお疲れ様で」
 人鬼としてではなく、従軍時の話題を先行させた。
 取り敢えず皆にとって共通の話題だからだ。
 大石は呪符を取り出し、それを日に翳す。
 呪符を通過し日光が大石の目に刺さる。
「海戦に負け、日本自体も敗戦。死を意識した私に呪符を渡したのがザラキ天宗だった」
 武政は薄く、苦く笑んだ。大石の弁に嘘を見い出したからだ。
「つまり大石さん。おたくは自分が寄り掛かれる場所が欲しかったわけね。前は軍…大日本帝国がそれだった。で、今はザラキに寄り掛かってる。報酬のためってのは嘘じゃないんだろうけど、丸っきり本当でもない」
「よく分かるな。陛下は人間に成り下がってしまわれた。私は生きる意欲を失った。だがザラキは私にできる事があると…」
 しかし、と足下の石を蹴る。
「直江は…フルンティングは作戦を妨害した!それどころか奴は鬼の力を楽しんでいる!」
 鬼の力。やはり例の斬殺死体は奴の仕業か。
 そう考えた武政に、大石は頭を垂れる。
「フルンティングを葬るまでの期限付きで休戦、および共闘を申し込む」
306ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 00:45:56.01 ID:DrTXFwBD
20話A

 頭を下げる大石。渋る武政。
「え〜せっかくなら永遠のお友達になろうよ。この際だからザラキと縁切っちゃえって」


 六十数年後、エイ怪人が空間に起こす稲妻をかわし、或いは手で払いながらスラッシュは接近する。
「ライダーアクセラレート!」
 「鬼走」の呪符をベルトへ滑らせ、スラッシュは異なる時間流に乗り超高速化する。
 姿の見えないスラッシュを恐れ、エイ怪人は周囲一帯に放電する。
 しかし、スラッシュにとっての稲妻は空中で静止している。
 稲妻の網をくぐり抜け、エイ怪人の間近に立つや空中へ蹴り飛ばす。
 そして手を振るい、陽炎の刃を投げつけた。

「スラッシュレイ!」

 空中のエイ怪人に突き刺さる時空衝撃刃。
 スラッシュは幾度も疾走、跳躍。
 位置を変え高度を変え、その度にスラッシュレイを投擲する。
 加速効果が終了し、スラッシュは着地。
 スラッシュレイの乱射で微塵に切りとされたエイ怪人は、空中で爆発炎上した。
 人間の目には、放電していたエイ怪人が突如空中へ跳躍し、同時にミンチと化す奇異な光景しか映らない。
 変身を解き、「鬼走」を示しながら京也を嘲笑う峻。
「フッ…羨ましいだろうが。ライダーフェザーと組み合わせれば瞬間的な爆発力はてめえにすら勝る。さあ勝負と…」
 犬の吠え声を聞き流すように京也は愛車、レイブンへ跨がる。
 必要事項のみ纏めた。
「王妃のミイラは無事だ。だがこれで諦めるとも思えん。この施設の警備は怠るな。それから…壁を破ったから修理代立て替えてくれ」
 悪びれずに病院へ走る。
 舌を打ち、峻はその旨を本部へ伝えた。


 六十数年前。大石は下げた頭を上げた。
 フルンティング撃破まで休戦という取引に、武政が乗らない。
「何故だ?私は勿論の事、フルンティングは君にも脅威だろう!」
「オレの条件は、おたくが永遠にザラキと手を切る事。フルンティング倒すまでって期限付きじゃ乗れないな」
米が食いたかった、とディグは言っていた。武政は同じ人鬼をもう殺したくなかった。
 だが、大石はそんな事情を考慮しない。
「単純に敵が一人減るのだ!それだけで有利だろう。私と組め!」
 成る程ね、と武政は路上に屈み、小石を拾いながら応じる。
「その注文はさ大石君。おたくがオレに殺される可能性を孕んでるんだよ?分かってる?」
 意を解しかねる大石を横目で見ながら、武政は拾った小石を積み重ね始める。
307ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 00:53:14.48 ID:DrTXFwBD
20話B

「つまりさ。フルンティングを倒すまでとゆう条件を付けるって事は、フルンティングが死んだらおたくはオレを殺しにかかるって事だろ?」
 言いながら武政は、石を三つ重ねた。
「で、殺しにかかるって事は、命の危険を感じたオレに返り討ちにされる可能性があるって事だよね?」
 武政は立ち上がらない。四段目をどの石にすべきか迷っている。
「確かに大石君。肉弾戦ならおたく…ニードルはオレより強い。殴れば針が刺さるし、距離をおけばダーツを投げてくる」
 四段目が乗った。
 安堵の息を石に吐きかけそうになり、口を抑える。
「で、おまけに必殺技は『全方位』への『遠距離攻撃』だ。とりあえずの隙は無い。ただ、それでもおたくがオレに勝てるか?」
 オメガフォーム。
 確かに以前あの姿と戦った際、ニードルのあらゆる攻撃が無意味だった。
 大石の足元で小さな崩落音がした。六段目で石が崩れた。
 大袈裟に溜め息を吐きながら、漸く武政は立ち上がる。
 手の砂を拭いながら続ける。
「生理的にアレだからまだ試してないんだけどね、今度『ライダーエスケープ』って技を使おうと思ってる」
 片頬で笑いながら漸く大石を正面から見た。
「ジガバチの子育てがヒントなんだけど、まず全身をライダーシールドで覆う。次にライダーシフトを使って、シールドごと敵の体内に瞬間移動するんだ」
 大石の背筋が漸く冷え始めた。
「そうするとどうなる?敵は体内から破裂する。オレはシールドのおかげで無傷のまま敵の残骸ん中から登場」
 大石の肩を叩き、悠然と去る武政。
「よーく考えとけよー。ザラキと縁を切ってくれたらそんなエグい技使わないからさ」
 大石は、振り返る事ができなかった。
 武政を好漢だと思っていたからこそ、闇と血の臭いに満ちた彼の言葉が凶器だった。
 武政は、仮面ライダーは恐怖こそを刻み込んで敵を葬るのだ。
 恐怖の塊は去りつつ、大石にトドメの言葉を撃ち込んだ。
「あ、もう一つ。敵になるならオレは容赦しないよ?前にディグに手心加えてみたらボコられた事があったからさ」


 六十数年後、なぜ今回のミイラ強奪計画にエイ怪人が選ばれたのか、峻は博物館を周回しつつ思考していた。
 敵は吸電と放電が武器。
 侵入した施設を吸電により停電させ、邪魔者を放電で始末する。
 だが、施設を停電させては、ミイラを保存する機材も停止し、狙い目のミイラをわざわざ劣化させるのではないか。
308ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 01:03:57.40 ID:DrTXFwBD
20話C

 にもかかわらず、ザラキ天宗はこの改造兵士を選択した。
 ならば奴にはミイラ強奪と、それに付随する都市保安庁の撹乱、更にもう一つ何らかの目的があったのではないか。
「発電所…か?」
 峻は、エイ怪人の尾に存在した毒針を思い出した。
 本部へ再び連絡し、その毒針の成分を分析させる。
 同時に、関東一円の発電所における最近の発電量をグラフ化するよう指示を出した。
 無論、最新式発電システム「PQC」の研究所が実験的に発電している分も含めて。

 京南大学附属病院。
 王 麗華は入院患者の採血を終え、ナースステーションに戻る最中だった。
「王さんってゆうの」
「あの王さんの親戚かい?」
 高齢の患者は大概…恐らく悪意無く…そう言う。
 あだ名だって昔から「王様」だった。
 単に両親が在日中国人だっただけで、麗華自身は生まれも育ちも国籍も日本だ。
 さっさと結婚してしまえばこの名字から逃れられるのだが、幸いにも今の職場は下の名で呼んでくれる者が大半だ。
 それで結婚への動機付けが弱まる。
 しかし、結婚に対して消極的な自分に焦る自分もまたいるのだ。
「やっぱり隆司しかいないかなあ…」
 そんな事を考えながらふと待合室を見ると、看護師長の藤堂朝子が大きな体で一人の女性を叱咤している。
 朝子は自分より12、3は年上で、優しい分厳しい。
「あの、どうしました?」
「麗ちゃんも言ってあげてよ。卜部先生はお忙しいの。分かるでしょ大学生なら」
 ああ、と麗華は思った。
 ザラキによる連続爆破テロ以降、頻繁に外科の卜部京也医師を訪ねる女子大生だ。
 麗華はあえて、少しおどけて彼女に手を合わせる。
「ごめんなさいね、卜部先生、緊急オペが入ってるの。二時間ぐらい待ってくれないかな?」
 朝子も、迷惑な女子大生の斎も当然驚いた。
「え…はい、待たせてもらえるなら」
「じゃあ食堂が良いかしら。あ、でもカードが無いと入れないのか。私が入れてあげるからそこで待ってて?」
 朝子に向かって肩を竦め、麗華はスタッフ用の食堂へ勝手に斎を連れていった。

 北川町に設置された国内最大規模のPQC研究所が、着々とザラキ天宗に占領されている事も知らずに。

 てっきり朝子に叱られると思っていたので、ナースステーションに戻った際彼女に苦笑を向けられ、麗華は拍子抜けした。
「困るわよ?麗ちゃん勝手に」
「すいません。どうしても会いたそうだったから」
309ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 01:11:38.22 ID:DrTXFwBD
20話D

 待たせるのはきっかり二時間。麗華は現在の時間をメモしておく。
「分かんないでもないけどね」
 朝子はそう言う。
「卜部先生、今まで女っ気が全く無かったじゃない。心配だったのよね」
 母親気取りだ。
 麗華は吹き出し、そして斎を思い出す。
「結婚できたら良いですね、卜部先生」
「それより麗ちゃんが結婚して頂戴。あたしゃもう気が気じゃなくて」
 結局母親気取りだ。

 峻は本部から送られた各発電所の電力グラフを重ねていた。
 時間帯はまちまちだが、各々がある時期、数分間だけ通常運用では考えられない電力を消費している。
 そしてそれら発電所の床から、エイ怪人の毒針と同じ分子構造の極微量な有害物質が検出されていた。。
 そして、これらの形跡を持たない発電所が一つだけあった。
「北川PQC研究所…」
 峻は愛車、セカンドローチを飛ばし、単独で向かう。

 どうも神は京也に休息を与えて下さらないようだ。オペを終えれば看護師の王 麗華から来客の報せを受けた。
「ミイラの念?」
「はい…感じるんです。盗まれたミイラが魔界と繋がってる」
 ザラキが魔界と東京の境界を破壊したために妖魔は現れた。
 だが、これまで妖魔とザラキの間に協力体制は無かった。
 せいぜいが東京に出現済みの妖魔を魔方陣を使って自分の近くに呼び出す程度で、後は妖魔の自由意志が優先された。
「だがザラキは改造兵士に妖魔の細胞を組み込み、そして今回は…」
「ザラキはミイラの呪いの心を利用して新しい妖魔を召喚して、それを操るつもりなんです!」
 まじないと呪いはイコールだ。試しに君も「まじない」と入力し変換してみよう。
 ミイラに意思があるなど医師の立場から認める訳にはいかない。
 だが、一旦「意思がある」という前提で考えてみる。
「あのミイラはあまり幸福な死に方をしなかったと聞いた。彼は五千年間世を呪い、怨念を溜め込んでいたろうな」
 納得した。
 ザラキはその溜まりに溜まった怨念を呪力、魔力へ変換して妖魔を操ろうとしている。
 改造兵士に妖魔を合成する事がいかに危険か、連中も承知している筈だ。
「でも、妖魔を操ればザラキ側に損害は無い。それに妖魔を研究したい時にも役に立つんです!」
 京也は白衣を脱いだ。
「斎ちゃん、コーヒー淹れてくれ。…いや、水で良い」
 ともかく喉が渇いていた。
 そしてまた今から喉が渇く作業を始める。
「ミイラは何処にある?」
310ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 01:17:29.65 ID:DrTXFwBD
20話E


 六十数年前。
 蛭が身体中に貼り付いたごとき無数の触手を垂らす人鬼は、物陰から通行人を切り裂き、その血を愛刀にじっくりと塗り付けていた。
 染み込ませるように。
 そんなフルンティングは背後の気配に気付いて変身を解き、病的に蒼白い素顔を見せる。
 とはいえ、栄養不足のこの時代、顔色が悪いのはむしろ必然であり、直江の前に現れた血色の良い男の方が珍しいのだ。
「業が深いねぇ」
 血色の良い紳士、御杖喜十郎はフルンティングに斬られた死体を見て笑顔でそう言う。
「直江君。君という人材を私もザラキも惜しんでいるよ。しかし見たところ、君には我々の下に戻る気は無いようだね?」
 笑顔を絶やさない御杖喜十郎。
 その泰然かつ不気味な様は、卜部武政に通じるものがあった。
「すみません。でも僕はもっと斬りたいんです。貴方達の作戦でも確かに人を斬れる。でも僕はそれだけじゃ足りない。もっと沢山斬りたい!この疼きが制御できない。人を斬るのが楽しくて我慢ならないんです!」
 身悶えるように、全身で殺戮の喜びを訴える直江。
 御杖は苦笑して首を振る。
「そうか…残念だな。私は同じ人鬼として、そしてディグやニードル以上の実力者として君に目をかけていた。だが君の心は既に完全なる鬼と化している…そうなってしまえば制御はできない」
 人の狂気。それこそが人鬼。
 卜部武政の父親がとある山村で起こした連続殺傷事件が御杖喜十郎の頭をよぎる。
 最早フルンティングは、御杖の制御下におけない。処分が妥当。
「人鬼を止めるには人鬼をぶつける他無い…覚悟は良いかね?」
 御杖喜十郎の目が赤く輝き、腰にはオニノミテグラが形成される。
 時空断裂境界より「召鬼」の呪符を取り出し、ベルトへ接触させる。
 同時に、喜十郎の体が力の嵐へ包まれた。
 喜十郎は嵐の中、左手で右斜め上を、右手で左斜め下を指差し直江を見る。

「変…身…」

 そう呟いた直後、喜十郎はあの謎の人鬼「スラッシュ」へ変貌していた。
「さあ変身したまえ直江君。刃の鬼同士で勝負といこうじゃないか」
「流石。良く分かってくれてますね御杖さん。僕も斬りたくてたまらない。変身!」
 再び直江はフルンティングに変わり、直ぐ様ライダーソードを引き抜く。
「フルンティングレイ!」
 刀身から放たれた時空衝撃刃。
 だが、スラッシュは優雅に手を振った。

「スラッシュレイ!」
311ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 01:27:28.63 ID:DrTXFwBD
20話F

 発射されたのは、同様の時空衝撃刃。
 しかし、エネルギーの密度が異なった。
 スラッシュレイは激突したフルンティングレイを割り、そのままフルンティングへ向かう。


 六十数年後、北川PQC研究所へセカンドローチを止め中の様子を伺う峻。
 彼の元に、京也も駆けつけた。
「おれの方が先に来ていたぜ?しかしよくここが分かったな。てめえの事だ、あの女の直感に頼ったんだろうが?それにひきかえおれは幾つものデータを検討し推理した結果…」
「状況は」
 一言で黙らせた。
 何とか京也の上に立ちたい峻だがここは忍耐だ。再び内部を覗きながら説明する。
「計画のボスはあのハエ怪人。ミイラは既に妙なシステムに組み込まれてやがる。この研究所が作る電力は、全てあのシステムに供給されてるようだぜ」
 この北川PQC研究所は、関東地方の電力の55%を供給している。
 ミイラを組み込んだのはそれだけの電力を必要とするシステムであり、それだけの電力が都市から消える事でもある。
 京也は病院に電話をかけた。
「卜部先生?今どちらに…」
 まだ停電してはいなかった。少し息を吐き、指示を出す。
「麗華さん、直ちに病院の全システムを自家発電に。理由は後から話す。一刻も早くだ」
「は、はい!」
 一方で峻も都市保安庁に連絡を入れ、関係各所にその旨を伝える。
「さて、お次はスタッフの連中だなぁ」
 死傷者はいないらしい。
 何せ兵器転用が可能なシステムだ。
 これ以上無いほど専門的かつ危険な分野だから、発電システムの稼働そのものは、ザラキ天宗に脅迫されたスタッフが代行している。
 彼らが電力をシステムへ供給し、そのシステムの中核にあるミイラへザラキの法師らが祈りを捧げている。
「ただ…あのシステムが何なのか今一分からん。てめえはどう思う?」
 峻に聞かれ、京也は苦く笑った。
「ミイラの怨念を利用した妖魔召喚システム…斎ちゃんのカンだが」
 半信半疑の峻だが、少なくともザラキが関東の電力を一斉に停止させようとしている事は確かだ。
「京也、飛び込むか?」
「周辺機器へ影響を与えないよう戦え」

 法師らの祈りの声が高潮、システムの出力が上昇を始めた。
 システムの上空に空間の亀裂が生まれ、そこから白い柔毛に包まれた腕が覗く。
 ハエ怪人に逆らえば殺される。
 従っても、空間を割って現れたこのモンスターに殺される。
 職員らは絶望に染まっていた。
312ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 07:03:12.28 ID:DrTXFwBD
20話G

 だから、ドアが吹き飛ぶけたたましい音が、天上の歌声に聞こえた。
「そこまでだ。病院を停電させるな」
「そこまでだ。自販機を止めるんじゃねえ」
 京也と峻がドアを蹴破り、PQC研究所へ突入した。
 恐慌する法師らを一瞥し、ハエ怪人を睨む。
 このシステムを起動するには法師らの念と、PQCの膨大な電力が必要だったのだ。
「説明してやろうか?」
 職員を逃がしながら峻が開口する。
「あのエイ怪人。奴が本来は妖魔召喚システムのバッテリーだった。だから電力を集めるため、そこかしこの発電所から電力を頂戴していた」
「しかし、改造兵士の肉体にも限度がある。この北川PQC研究所のエネルギーを吸収する容量は無かった。だからここだけ侵入を避けた」
「しかもだ。よりによって奴がおれ達に殺られたから、てめえらは肝心のバッテリーを失った」
「それでこの研究所を直接バッテリーにしようと企んだ…どうだ?」
 京也と峻の指摘は全て的を射ていたようだ。
 ハエ怪人は笑う。
「その通りだ人鬼ども!そして、既に一匹目の妖魔は召喚に成功した!」
 空間の亀裂から伸びる白い腕は、既に肩まで見えていた。
「どうだ人鬼ども?この場で戦えばPQCは破損。巨大なプラズマ火球が発生するぞ?」
 怪人に同調するように、法師らは一斉に黒い戦闘員へとその姿を変えた。
ゆったりとした衣装に白い頭巾、手に持つ薙刀等が、織田信長に滅ぼされた比叡山の僧兵を彷彿させた。
 京也は無感動に念珠を、峻は不敵に笑って呪符を取り出す。
「てめえら、忘れてはいないか?人鬼も空間を歪められるんだぜ」
 言って峻は「召鬼」を滑らせる。
「変…身!」
 力の嵐から飛び出すや僧兵の二、三人を手刀で斬り倒し、スラッシュは妖魔へ向かう。
「こいつはおれに任せろ。てめえはハエを!」
「分かった。…変身!」
 仮面ライダーは僧兵の薙刀を拳でへし折り、ハエ怪人に向かう。スラッシュは妖魔と接触した状態から空間を切り裂いた。
「ライダーシフト!」
 瞬間移動能力により、妖魔はスラッシュと共にPQC研究所の外へ転送されてしまう。

 ハエ怪人は、施設各所に待機させていた数cmのハエ型ロボット数万台を集結させ、仮面ライダーを攻撃させる。だが。
「超変身!」
 自然のエネルギーを操るディザスターフォームは冷気を発生させる。
 仮面ライダーにまとわりつこうとするロボットは一斉に機能を停止。
313ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 07:08:25.01 ID:DrTXFwBD
20話H

 更に仮面ライダーは、槍へ炎を集約した。
「フレイムスピアー!」
 槍から放たれた火炎がロボットを一気に破壊する。
 だが、その隙をつかれた。
 僧兵が薙刀から光線を放つ。自分が回避すれば、PQCが損傷する。
「ライダーリアトラクト!」
 反重力波動のバリアで辛うじて光線を止めるものの、背後をハエ怪人につかれた。仮面ライダーを羽交い締めにし、右腕に生えた半透明の刃を近づける。
 それは高速で振動しており、正にハエの羽根を思わせるものだった。
「妖魔は呼べた。ここで仮面ライダーも殺せる…俺の手柄だ!」
 だがカッターを持つ右腕へ仮面ライダーは冷静に左拳を付ける。
「超変身!」

 そう聞こえた。即座にハエ怪人は妙な喪失感を覚えた。
 自分の右腕そのものが吹き飛んでいるせいだと気づくまで、そう時間はかからなかった。
 バーサークフォームに変身した仮面ライダーは時空波動銃バーサークショットの接射でハエ怪人の腕を粉砕。
 拘束を解き、僧兵ら目掛けて駆け出す。
 バーサークグラムで数人をまとめて切り裂き、仮面ライダーは包囲網を脱出。密集した敵へバーサークショットを向ける。
「デッドリーウェーブ!」
 バーサークショットから弾丸状の波動を一斉に乱射、僧兵を壊滅させる。
 爆風に巻き込まれ、地を這うハエ怪人に歩みを進める仮面ライダー。
「手柄は半分だな」
 そう言って眉間にバーサークグラムを突き刺す。
 そのまま後頭部まで貫き、体全体を両断した。

 ミイラを内包したシステムを止めるべく駆け寄る仮面ライダー。
 だが、ハエや僧兵とは別の気配を感じた。

 PQCより離れた箇所へ自分と妖魔を転送したスラッシュだが、敵のパワーに苦戦していた。
 身長は10mはあるだろうか。白い柔毛に包まれたゴリラ。いや、雪男を思わせた。
 直径がスラッシュの上半身程もある拳から放たれるパンチは問答無用の破壊力を秘め、直撃を受けたスラッシュの意識が遠のく。
 二度目のパンチで撥ね飛ばされ、三度目は辛うじてかわすものの、空振った拳は竜巻を起こす。
 止めようとしたスラッシュに、雪男は口から冷気を吐きかける。
 スラッシュの体が凍結し始めた。
 この状態でパンチを浴びれば確実に粉砕される。
「ち…恥をかかせやがって!」
 「鬼爪」「鬼走」の呪符を同時に取り出した。
「ライダーフェザー!」
 全身に時空衝撃刃を纏わせ、氷を弾き飛ばす。
314ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 07:13:05.22 ID:DrTXFwBD
20話I

 構わずパンチを放つ雪男。対するスラッシュ。
「ライダーアクセラレート!」
 雪男の視界よりスラッシュが消えた。
 妖魔の目でも捉えられない程の高速化。
 拳を軽々と回避し、ライダーフェザーで強化した手刀に力を溜める。

「アクセラレート・ライダーチョップ!」

 TNT換算値17万tのエネルギーを秘めた手刀が幾度となく雪男に振り下ろされる。
 最初の数発で拳も含めた腕を輪切りにし、敵が痛覚を認識できない内に跳躍、胴体を執拗に切り裂いてゆく。
 アクセラレート・ライダーチョップ。
 加速状態へ突入した僅かな間に、強化した手刀を効果が切れるまでひたすら浴びせ続ける新たな必殺技だ。
 程無く、効果が切れた。
 数十の破片となりながら爆炎をあげる雪男。
 スラッシュは瞬間移動術ライダーシフトで研究所側に移動。
「スラッシュシールド!」
 亜空間バリアを築いて空間の連続性を断ち、雪男の死に伴う爆風からPQCを守った。

「おい仮面ライダー。こいつは中々の威力だぜ…ん?」
 研究所内部へ戻ったスラッシュは、仮面ライダーと見たことのない男が対峙する状況に遭遇した。
 若い僧侶だと思った。
 別に坊主頭というわけではないが、粗末な法衣や柔らかい物腰を見る限り、恐らくは僧侶なのだろう。
「初めまして。私は玄達。ザラキ天宗の律師です。御杖峻様ですね?」
 二人の人鬼を全く恐れていない風がスラッシュの気に障る。
「貴方のひいお祖父様、御杖喜十郎様には昔随分助けていただきましたよ」
「喜十郎さんがてめえらを助けただと…?」
 玄達はそれ以上何も言わず、ミイラが入ったままの妖魔召喚システムに手を触れる。
 玄達の足元の空間が歪み、彼はシステムと共に何処かの空間へ転移した。
 丁度スラッシュが雪男を研究所から追い出したやり方と同様に。
「どういう事だ…」
 二つの空間亀裂…つまり雪男型妖魔を呼び出したものと玄達が消えたもの…は同時に消滅した。しかしスラッシュは明らかに動揺していた。
「喜十郎さんは戦後、スラッシュの力で政府やGHQに反抗するクズどもを切り裂いていた」
 そしてザラキの活動が停止した後卜部武政に殺された…と峻は聞いていた。レイモンドファイルにもそう記述されていた筈だ。
「だが喜十郎さんがザラキを助けていただと?」
 仮面ライダーとスラッシュは変身を解く。
 山下山男に伝えねば。事実が何者かに歪曲されていたらしい。
315ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/05(火) 07:17:34.56 ID:DrTXFwBD
20話、以上です。
次回21話「潰されたスラッシュ」
316ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/06(水) 14:31:09.76 ID:fpGM/7Bd
21話@

「『鬼』という言葉自体はそう古いものではない」
 卜部京也はとある喫茶店で水を啜りながら、山下山男へそう切り出す。

 仮面ライダーネメシス第21話「潰されたスラッシュ」

 終戦直後の仮面ライダーによる人鬼虐殺を記した「レイモンドファイル」。
 だがその内容は、何者かに改ざんされた形跡がある。
 京也はファイルの存在に右往左往していた山下山男を呼び、その旨を伝えると同時に「鬼」に関する蘊蓄を披露していた。
「疫病や天変地異といった災厄。古代人はその災厄に原因を求めた」
 求めた、という表現に山下山男が食いつく。
「その災厄を古代人は望んだ、という事か?」
 京也は僅かに苦笑し、
「災厄の原因を究明したかった、という事です。しかし、例えば疫病にしても、当時の人々に病原菌を発見できた筈がない。発見できないのは『いない』と同義だ。災厄の原因は不明。しかし原因、つまり犯人は確実にいる。『いる事を望んだ』わけです」
 コーヒーへ口を移して京也は続ける。
「彼らはここで、悪意を持つ超常的な存在が現れたと解釈する。理解できない力を持つ者なら、理解できない災厄をもたらすのも当然だと考える。彼らの中で解答は出た。そこで思考は停止する」
「ああ、その超常的な存在が例えば神の怒り、祟り、呪い、そして…鬼だと」
 頷きつつ京也は、珍しく饒舌な自分を興味深く見ていた。
 レイモンドファイルに誤りがあろうと、自分の家系が鬼と呼ばれる異常者を続けて産み出したのは事実。
 仮面ライダーになる前から京也は「鬼」という文化に興味を持っていたのだ。
 だから京也は、しかし、と付け加える。
「卜部の血筋に凶悪犯が多いのも事実。本人の性格の問題だけとは思えない。何らかの資質…凶暴化する因子が継承されるらしい」
 言って京也は、無意識に額を抑える自分に気付く。
 父親の付けた古傷。
 恐らく父親もそうだった。
 この因子が発動した人間は正に「鬼」と呼ぶべき者になる。
 どうにも多面的だ。
 災害や疫病の比喩としての「鬼」もあれば、血や暴力を好む実際的な「鬼」もある。
 そして京也や卜部武政は、実際的な鬼だ。
 嗜好を考慮すれば、父親もそうなのだろう。
 ちなみに、『鬼』という漢字の語源は中国。
 但し中国の『鬼』は幽霊や妖怪など、霊的な存在の総称であり、日本人の考える鬼とは意味合いが異なる。
317ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/06(水) 14:38:45.49 ID:fpGM/7Bd
21話A

「『オニ』という発音は『隠』が変化したものだと言われます。姿の見えない存在。また、人から隠しておきたい存在でもあった」

 何処かの暗闇。
 邪教、ザラキ天宗の本殿。
 彼らは横浜の博物館より、エジプトのミイラを奪取した。
 それを中枢へ備えた無機的な機械を眺めつつ、一人の僧、董仲が過去を振り返る。
「我らが活動を開始したのは戦後間もなく」
 そしてそれ以来、董仲僧正は一切歳を重ねておらず、それは若くして律師の地位に立った玄達も同様だった。
「西洋文化は気に食わんが、我らの不老がこの秘薬により保たれている事は確かだ」
 言って董仲は、エリクサーと称される薬瓶を手に取る。
 フランスの怪人、サンジェルマン伯爵の産物。
 この秘薬にて不老長寿を得、六十数年間を待った甲斐があった。
 妖魔召喚システム。
 これさえあれば妖魔を何処へでも出現させ、自分達の意のままに操る事ができる。
「かつての妖魔一斉召喚は卜部武政に阻止された…。だが今度はそうはいかん!」


 六十数年前、東京。
「フルンティングレイ!」
「スラッシュレイ!」
 スラッシュ、フルンティング。
 二匹の鬼の放つ時空衝撃刃が空中で激突する。
 だがスラッシュレイは、圧縮した時空間の密度でフルンティングレイを上回り、あっさりこれを突破してフルンティング本人に炸裂した。
 全身から鮮血を吹き出しつつ、爆発と共に転倒するフルンティング。
 自分の衝撃波が辛うじてスラッシュレイの威力を減衰させていたらしく、致命傷には至らなかった。
 しかし傷が深い事には変わりなく、ライダーソードを携えるのもやっとの状態。
 その上、スラッシュは素早く間合いを詰めて腕に蹴りを見舞い、ソードを取り落とさせた。
 変身前の紳士然とした御杖喜十郎からは連想できないアクティブな戦闘スタイルだ。
「君の戦闘の核は刀。それを失えば君は無力も同然!」
 持ち主の手から離れたライダーソードは粒子化し、分解する。勝ち誇るスラッシュ。
 だが、スピードではフルンティングも劣っていなかった。
 フルンティングは「昂鬼」の呪符をベルトに滑らせ、スラッシュの前で跳躍する。
「ライダーキック!」
 スラッシュに油断があった。
 フルンティング程ではないが、人鬼の中では比較的防御力の低いスラッシュ。
 思わぬ反撃に地を這った。
318ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/06(水) 14:43:40.96 ID:fpGM/7Bd
21話B

 その隙にフルンティングは「鬼刀」の呪符を用い、再び手にライダーソードを発生させた。
 だが、スラッシュレイによる傷は深い。
 スラッシュに刀を振り下ろそうとするも、逆にフルンティングが膝を折ってしまう。
「くそ…ライドリーフ!」
 時空断裂境界から出現した生体サーフボードは暫しスラッシュの周囲を飛び回りこれを翻弄した後、フルンティングを乗せ、何処かへ飛び去った。
「逃げても無駄だ。君の罪は仮面ライダーも把握している」
 誰がトドメを刺すかは重要ではない。
 仮面ライダーがフルンティングを倒すのも良いだろう。
 どちらにせよ、フルンティングという邪魔者が消える結果さえ得られればそれで良い。
 そう考え、スラッシュは御杖喜十郎の姿に戻り、ほくそ笑む。

「え、ニードルの仲間になるの断ったの?何で?」
 美月屋。茶葉が無いので白湯を武政に持ってくるキヌ。
「ニードル…大石君は悪い奴じゃない。ま正直オレもビビらせすぎたよ」
 しかし、大石はザラキ天宗の援助に尽力する事を喜びと捉えている。
 その彼と協力する訳にはいかない。
 大石は生粋の軍人だったのだろう。
 恐らく、彼自身も軍人である事に誇りを持っていた。
「でも日本は負けた。あんにゃろの信じてた神国の威光は叩き潰されて、奴は寄り掛かる場所を失った」
 これは完全に武政の憶測だ。
 しかし説得力があったのは、武政自身にも、少なからず近い意識があるからかも知れない。
「だから協力もできないけど、敵だって断じる事もできないわけ?」
 キヌの問いに黙して頷き、欠けた茶碗の端を少し見て、思い出したように再びキヌを向く。
「あ、あとさ、しばらく夜道は控えてくれんかな」
 レイモンドの述べたバラバラ殺人。犯人の目星は付いた。
 恐らくはフルンティング。だが、確証が無い。
「だから、オレと斎で交代しながら夜回りするから」
 恐らく、フルンティングの行動範囲はそう広くない。
 これまでの犯行は全て東京で発生している。
 ニードルはともかく、フルンティングは完璧な快楽殺人者。
 滅ぼす事に躊躇は感じない。
「夜遅くなるだろうし、戸締りしてくれて良いから。オレか斎かどっちかが倒すよ」
「そういう事じゃないでしょ?」
 虚を突かれた風の武政。キヌは憤りを隠せない。
319ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/06(水) 14:49:33.93 ID:fpGM/7Bd
21話C

「斎ちゃんがどういう存在なのか聞いちゃいけないって言われた。でも…見た感じ斎ちゃんはあたしより年下っぽいでしょ。そんなコに殺人鬼を調べさせる?そういう感覚がさ」
「良いの。キヌ」
 黙って都市保安団への報告書を書いていた斎が漸く開口した。
「私は負けないから」
 買い物に行くから、程度の口調で言ってのける斎。
 彼女とキヌを見比べ気まずそうに笑う武政。
「実利的ね、アンタたちは」
 嘆息し、キヌは帳簿の整理に戻る。
 この得体が知れない二人の身を必死に案じている自分がおかしかった。


 六十数年後。
 このところ見知った患者が多いので、京也は息を吐いた。
「まあ…かすり傷でも油断は良くない。良くないが…」
 凉ちゃんが三段ボックスの角に膝をぶつけたので病院に来た。
 心配だから斎もついてきた。
「これって治る?」
「二週間もすれば痕も残らん」
「先生って年収いくら?」
「君に心配される事じゃない」
「先生って改造人間とかなわけ?」
「ついでのように聞くな」
 診察室の外から会話の様子を伺う斎。
 言うまでもないが、凉ちゃんのかすり傷は名目である。
 実際は京也に、変身について質問してみたかったからだ。
 しかし、京也自身が必要最低限の事しか話さないタイプなので、いきおい斎にとっては既知の情報しか上らない。

 そもそも斎は、京也の変身自体は彼の祖父が残した念珠によるものだが、それを示唆したのは自分であるという事を、まだ凉ちゃんに伝えていなかった。

 聞き耳立てる斎は、背後より肩を叩かれ飛び上がる。
 いつの間にやら看護師長、藤堂朝子が立っていた。
「あなたもよくよく暇なコだわね」
「あ、ご、ごめんなさい!凉ちゃんの診察が終わったらすぐ帰りますから!」
 ふくよかな頬を不気味に歪めて朝子が笑う。
 診察室のドアと斎を見比べ、斎に顔を近づける。
「で、どっちが卜部先生を狙ってるの?」
 このオバ…いやババ…女性、直球で聞いてきた。しどろもどろの斎。
「えっとですね、凉ちゃんは、あのただわたしを心配してくれてるだけで、でもわたしも卜部さんが好きとかそうゆう事じゃなく…」
 朝子はますます笑って背後を通る看護師を振り返る。
「女から積極的にいかないと婚期逃すわよ?ねえ麗ちゃん」
「や、やめて下さい患者さんの前で!」
 王 麗華といったか。以前、斎を食堂まで案内した看護師だ。
320ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/06(水) 14:53:54.72 ID:fpGM/7Bd
21話D

 自分よりやや長身。
 顔つきが幼いので一見自分と同い年程度に見えるが、看護師である以上それは有り得ない。
「こういう綺麗なコでも婚期逃すんだから、早い内が吉よ?」
「まだ大丈夫ですってば!もお」
 先輩の朝子を軽く小突いて笑っているが、どこか常に落ち着きを保っている。「淑女」とはこういうものだろうかと思った。
「ごめんなさいね、卜部先生って本当に仕事熱心だからあまりお話できないでしょう?」
 病人でも怪我人でもない自分が本来なら頭を下げるべきなので、先に頭を下げる麗華に戸惑った。
「いえ、あの別にそんな…」
 二人で妖魔に関する云々を話し合っているとも言えないので、続く言葉を失う斎。
「良いコなのにね、斎さん」
 カルテを胸に抱き、麗華は壁に寄りかかる。
「卜部先生って、人の気持ちを察するのが上手くないのよ。先生自身が感情表現が下手だしね」
 斎はとりあえず頷く。
「多分、あなたにもそうなんじゃないかな。最低限必要な事を伝えて、無駄口は一切叩かない」
「よく…分かりますね」
 京也と会話する度に生じる空虚感はそういう事だったのか。
 斎は内心で膝を打ち、そんな京也が余計に心配になってくる。
「じゃあ卜部さんって病院でも…」
「浮いてるね」
 麗華に代わって朝子が応えた。
「必要事項は一片残さず報告する。無駄な事は一切言わない。ドクター同士の飲み会に参加しないどころか合コンにも行かない、他人に愚痴さえこぼさない」
 不言実行が過ぎて他の医師からは疎まれ、その無機質、機械的な風貌から看護師らからも敬遠されている。
「だからね、病院であの人と仲良しなのはあたしと麗ちゃんぐらいなもんなのよ」
 麗華は京也のストイックな人間性に共感し、彼とはあえて挨拶と仕事以外の話をしない事にしている。
 逆に朝子は年の功を活かし、未だ二十代の京也に母親気取りでしつこくお節介をやく。
 功を奏し、京也はこの二人には比較的好意的だ。
「それに、あたしはあの子と付き合い長いしね」
 自慢げな朝子。
 あの子、とは京也の事か。
 確かに朝子は京也より明らかに年上なのだが。
「あの子が額を切られた時からだから…もう17、8年ぐらいの…」
「朝子さん!」
 麗華にたしなめられ、思わず朝子は口を抑える。
 額の傷については禁句だった。
「ま、まあとにかく先生と仲良くしてあげてちょうだいね。麗ちゃん、103のお婆ちゃんにメルカゾール」
321ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/06(水) 14:59:50.17 ID:fpGM/7Bd
21話E

 まずい事を言ったという顔で足早にナースステーションに戻る朝子。
 朝子が京也にお節介をやくのは分かる。
 だが、麗華は何故京也と同調しようと思ったのか。
 廊下を連れだって歩きながら、斎は質問してみた。
「そりゃあ…病院の仲間だもの」
 簡潔な解答。だから多分、麗華自身は京也に特殊な感情を抱いているわけではないのだろう。
 斎はホッとし、ホッとした自分が意外だった。
「じゃあね斎ちゃん。朝子さんも言ってたけど婚期は逃さないようにね」
 二階へ向かう麗華を見送る斎。
 この麗華という女性は、自分よりも遥かに多くの時間を京也と共に過ごしているのだ。
 そう考え、斎は心に前述とは異なる種類の妙な空虚感を抱いた。
 しかし、何故ああも婚期を気にするのか。
 まだ焦る年齢でもなかろうに。

 昼休み。
 朝子から来客の報を受けた京也は、自室のソファに陣取る御杖峻を見てまたも息を吐いた。
「…ミイラの件か?」
「てんてこ舞いだ。ミイラが盗まれた。エジプト政府が外務省に怒る。外務省は都市保安庁に怒る。そして、都市保安庁はおれに怒る。世界中の怒りを一身に背負った罪深きおれなのさ」
 口上は無視してコップに冷水を注ぐ。
 コーヒーを作る手間が惜しかった。
 しかし、峻は実際にてんてこ舞いだった。
 曾祖父とザラキ天宗との関連性を調査する暇も無い程に。
 妖魔を召喚し思いのままに使役するシステムが、テロリストの手へ渡ったのだ。
 この件はアメリカにも報告された。
 つまり、在日米軍が妖魔に対し武力行使する可能性が高まった。
「システムの所在を突き止めなくては、ザラキ事件に米軍が干渉する…か」
 一人ごちるように日本のイラク化を懸念する京也。
 対して峻は愛車、セカンドローチのキーを突きつける。
「というわけでだ京也。あの斎って女を貸せ。ザラキや妖魔を感知できるんだろう?ならシステムも発見できるかも知れん」
「断る」
 即答した。斎が事件の中核であろう存在だからこそ、事件に巻き込みたくない。
 峻は怪訝な顔をする。
 斎の力を行使すれば、事態は有利に動く筈だ。
 いつもは自分以上に機械的な判断をする京也が私情を挟む。挟んでいるように見えた。
「…京也、あの斎ってのはてめえの女か?」
「俺の女じゃない。そして、女性を男性の所有物と認識する男性は好かん。帰ってくれるか」
322ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/06(水) 15:05:38.25 ID:fpGM/7Bd
21話F

 大衆にとり有益な事態は、必ずしも個々人にとっても有益とは限らない。
 京也はそう考えているのだろうし、そんな事は峻も察せる。
 だいいち、京也は一度決断したら曲げない。説得は無駄だ。
「分かった。帰ってやるが…京也」
 峻は、ドアノブに手をかけた状態で京也を振り返る。
「てめえは斎を利用したくないと言う。なら、どうすればてめえは満足する?」
 妖魔召喚システムを発見し破壊する上で、最も手っ取り早いのは斎の超感覚。
 今すべき事はシステムの破壊。
 だから斎を利用する必要がある。
 それも否定できない一面の真実。
 しかし、斎を利用するという過程を嫌ってシステムを破壊するチャンスを逃すというなら、京也は。
「理想主義者…或いは偽善者。俺の嫌いな言葉だったが…」
 自嘲したまま、それ以上の言葉を続けない京也。
 峻は冷めた視線を彼に向け、ドアを引く。
 瞬間、外側からドアが押し開けられて、峻は壁とドアの間に押し潰された。
「麗華さん?急患か」
「卜部先生、テレビ!」
 飛び込んできた麗華と共に待合室のTVを見に行く京也。
 ドアに押し潰され紙の如くペラッペラになった峻は別段気にしなくて良い。


 六十数年前。何処かの暗闇。
 御杖喜十郎がニードル=大石と共にそこにいた。
 更に高僧、董仲僧正も現れる。
 董仲に敬礼する大石と頭を下げる御杖喜十郎。
「申し訳ありません董仲殿!自分は仮面ライダーとの交渉に失敗したであります!」
「私もフルンティングをあと一歩で仕留め損ねた。面目無い」
 董仲は笑い、二人の肩を叩く。
「貴方達はよくやってくれました。仮面ライダーが強い事が悪いのです」
 確かに、と大石は思った。
 実力の差だけではない。仮面ライダーは恐怖を敵に刻み込んで勝利する。
 だからスラッシュと自分で、何としても仮面ライダーを倒さねばならない。
 だがフルンティングが敵に回ったため、ザラキは戦力を仮面ライダーに集中させられない。
 大石は、自分を脅迫した武政の言を二人に伝えた。
「ライダーエスケープ…敵の体内に瞬間移動し破裂させる戦法。自分がザラキと手を切らねばこの戦法を使う。そう奴は抜かしておりました」
 身を震わせる大石だが、董仲が笑った。
「ならば護衛をつけましょう。黴の卒塔婆!出番だ!」
 黴の卒塔婆と呼ばれた改造兵士が三人の前に姿を現す。
323ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/06(水) 15:11:31.83 ID:fpGM/7Bd
21話G

 そのモチーフは今一不明瞭だったが、全身に黒いヒダが垂れ下がり、青い斑点が所々に散見する。
 それら全てが黴(カビ)である事にようやく気付き、大石は吐気を催した。
「彼はカビの性質を持つ改造兵士。敵を毒性の胞子で攻撃する他、自分の体をカビの塊へ変質させる事で、体を破壊されても再生できるのです」
 なるほど、ライダーエスケープで破裂してもカビ化し再生する。
 うまく行けば、毒胞子を仮面ライダーへ感染させられる。
「有り難き幸せ!」
 大石は嫌悪感を抑え、この強力な護衛と手を組んだ。

 同じ頃、隅田川の河川敷に座すフルンティング=直江。
 再生能力で辛うじて外傷を塞いでいるが、疲弊そのものは誤魔化せない。
 そこへ自転車をこぎこぎ一人の男が到着した。
 最初は牛乳配達かとも思ったが。
「君は…仮面ライダー?」
「よう直江くん。手酷くやられたね。…スラッシュか?」 
 頷く直江。川面を見る武政。
「オレの相棒は鼻がきく。特に人鬼の匂いはね」
 武政は自分を殺しに来たのだ。
 それが分かっていても、直江は立つ事が出来なかった。
「レイモンドから聞いたよ。麻布で八件、麹町で六件のバラバラ遺体。全部おたくだろ?なんであーゆー事するわけ」
 武政もどうやら自分の行いに憤りを持っている。
 この衰弱した状態では、どの道勝てない。それならそれで良いという気が直江にはした。
「理由は二つあるね。一つ。僕は人を斬るのが好きなんだ。二つ目。僕の刀は血を吸えば吸うほど、そしてその血の主が強ければ強いほど、その切れ味を増す」
「なるほど、だから刀を強化して気持ち良く斬るために、オレとかニードルを狙ったわけだ」
 この武政という男は自分の行動原理をよく理解してくれる。
 嬉しい。
 直江は徐々に高揚してきた。そして、立ち上がった。
「ありがとう仮面ライダー。僕は自分の嗜好を理解してくれる人に出会えて本当に嬉しいよ」
 先程の諦念が消えた。
 自身の理念を語ってみると、人を斬り殺すあの爽快な感触を思い出した。
 ここで死ぬなんて馬鹿げている。もっと斬りたい。
「変身!」
 人鬼の力。その根元は人の狂気。
 それを表出しエネルギー化した事で、直江は完全にダメージから回復した。
 武政の前に立ちはだかる、全身に蛭を這わせた鬼。
「人を斬るのは楽しいよ?知ってるんじゃないか?」
 痛い所を突かれ、武政はやや戸惑った。
324ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/06(水) 15:16:49.36 ID:fpGM/7Bd
21話H

 仮面ライダーへ変身した自分は、確かに戦いを楽しんでいる事がある。
「だから嫌いなんだよな…変身っ!」
 川面に波紋を作る小規模な烈風と共に、武政は戦いを楽しむ姿、仮面ライダーへ切り替わる。
「良いよ…君を斬ったらどれだけ気持ち良いだろう!」
 振り下ろされるライダーソードを腕の生体カッターで留める仮面ライダー。
「血だ!君やニードル達の血が欲しいんだ!」
 狂気を爆発させ、腕に力を込めるフルンティング。
 仮面ライダーは彼の姿に、自分の邪悪な一面を見た。だからこそ怒る。
「言っちゃダメかも知んないけどさ…それっておたくの気分的な事…なんじゃねーのっ!?」
 自らの醜さを振り払うように、仮面ライダーはフルンティングのみぞおちに怒りの拳をぶつける。


 六十数年後。京南大附属病院。
「先生、急患が激増するかも知れませんよぉ」
 顔をしかめて軽口を叩き、TVを見る朝子。
 だがその口調からは、どちらかと言えばザラキ天宗への怒りが感じられた。
 映っているのはザラキ天宗の若き高僧、玄達。
 全チャンネルで同じ映像。一種のメディアジャックだ。
「日本政府へ告ぐ。直ちに主権を我らザラキ天宗に委譲せよ。要求が飲めぬなら心苦しいが」
 カメラは玄達からその背後の建造物…北川PQC研究所へ切り替わる。
 PQC。光量子触媒発電システム。
 高温プラズマを発生させる程の効率を持つ次世代発電システムだ。
「この施設を破壊し、東京をプラズマにて焼き払わせて頂く。我らは人体改造にて難を逃れるが、諸君はそうもいかん」
 施設の上空には翼竜、プテラノドンを彷彿とさせる妖魔が滞空している。
 京也は無言で峻を見る。
 意見を求めていると察し、頷く。
「連中、妖魔を操れるようになったから気が大きくなっていやがる。これだけの盛大なアピールは異例だぜ」
 二人は京也の自室へ戻る。
 京也は一旦「召鬼」を取り出し、少し考えて「鬼空」に変える。
「最初からウィザードフォームで行く。バイクを飛ばしている暇は無い」
 ライダーシフトで直接研究所まで瞬間移動するつもりだ。
 峻は溜め息混じりに苦笑し、「召鬼」と「鬼移」を同時に取り出した。
「ロマンがねえな。変…身!」
 同時に二枚の呪符を読ませ、峻は空間に開いた穴へ飛び込む。
 京也もそれに続いた。
「…変身」
 直接ウィザードフォームへ変身、病院からその姿を消した。
325ネメシス ◆tGQDjD.pyA :2012/06/06(水) 15:21:29.25 ID:fpGM/7Bd
21話I

 空間に歪みが生じた。
 それを感知した玄達は、翼竜型妖魔にその「歪み」の方向を向かせる。
 鋭い嘴を持つ口より火球を吐く翼竜妖魔。
 だがその火球は、歪みの中から発射された時空衝撃波に相殺された。
 歪みの中から、ウィザードアローを持った仮面ライダーとスラッシュが出現する。
「さぁて、紅に染ま」
「待て」
 ノリノリで決め台詞を吐こうとしたスラッシュだが、制止する仮面ライダーの手に当たってコケた。
 起き上がって反論を試みるスラッシュだが、その前に地面の異常を察した。
 熱い。翼竜の火球とは別に、地下に高熱を発生させる何かがある
 直後、地面から真っ赤な粘液が噴水の如く立ち上る。高熱の溶岩だ。
 間一髪回避する仮面ライダーとスラッシュだが、周囲の地面そこかしこから次々と溶岩は噴出。
 よくできた事に、玄達には近づかない。
 その上、噴出した溶岩の一部が仮面ライダーを追尾し始めた。
 足下からの溶岩。自分を追って飛ぶ溶岩。
 更に、翼竜が火球で爆撃をかける。
 仮面ライダーとスラッシュは火炎地獄の真っ只中。
「この溶岩…生きているのか?」
 スラッシュが、自分の肩を踏み台に翼竜へ蹴りかかる。
 それを無視して玄達へ問う仮面ライダー。
「そういう事ですね」
 翼竜と交戦するスラッシュを眺めて玄達は笑う。
「奴は妖魔の一種だ。生きている溶岩です」
 溶岩自体が意思を持って吹き出し、仮面ライダーへ襲い掛かっている。
 上空の翼竜も標的を仮面ライダーに切り替え、火球を吐きつけてくる。
 火球は回避したものの、その爆発の余波に転倒する仮面ライダー。
 彼を空中から、地下から一斉に溶岩が包み込む!

「はは!これで仮面ライダーも終わり。さあ御杖様。曾お祖父様のように、貴方も我らザラキ天宗に協力して頂きましょうか」
 爆笑する玄達。
 たとえ仮面ライダーであろうと、全身を寸分の隙間無く高熱の溶岩で焼かれれば助かる筈がない。
 だが、翼竜の火球を回避しながらスラッシュは玄達に嘲笑を返す。元より表情の無い顔だが。
「フッ…バカめ!溶岩程度で死ぬ雑魚なら、おれも楽なんだがなあ?」
 笑みを消す玄達。溶岩に包まれた仮面ライダーを見る。
 仮面ライダーの全身を包む溶岩は黒く変色、凝固していた。
 錫杖で触れてみれば、その錫杖が氷結した。
326ネメシス ◆tGQDjD.pyA
21話J

 溶岩自体が凍結している。
 それに気づくかどうかの内に凍結した溶岩が吹き飛び、槍を携えた仮面ライダーが姿を見せた。
 自然界のエネルギーを操る形態、ディザスターフォームだ。
「馬鹿な!貴方は溶岩に包まれ焼かれたはず…」
 唇を噛みしめる玄達。仮面ライダーは冷静に応じる。

「確かに溶岩は俺を包んだ。だがその瞬間に俺はディザスターフォームとなり、冷気を起こして溶岩を凝固させた。悪いな」

 たじろぐ玄達。即座に翼竜へ指示を出す。
 翼竜の火球を受け、凍結した溶岩が再度帯熱し、仮面ライダーへ飛びかかる。
「ライダーリアトラクト!」
 反重力波動で溶岩を止め、その間に「鬼凩」で風を呼ぶ。
「タービュランスダガー!」
 背後の翼竜を真空波の刃が襲う。
 体勢を崩した翼竜の喉元へ蹴りが打ち込まれた。
「てめえの相手はおれだ!」
 翼竜をスラッシュへ任せ、仮面ライダーは再び吹雪を起こす。
「ライダーブリザード!超変身!」
 一瞬にして溶岩を凝固させた仮面ライダーは続いてウィザードフォームへ変身。
 亜空間バリア「ライダーシールド」で溶岩を覆った。

 翼端の爪や巨大な嘴をスラッシュに突き立てんとし、それが回避されるや火球を吐いて狙撃する翼竜。
 二発はかわした。だがスラッシュの眼前に三、四発目が迫る。
「ライダーアクセラレート!」
 逃げられない。ならば敵を遅くする。
 スラッシュは超加速状態へ突入し、火球とそれを吐く翼竜を飛び越して両腕を交差する。
「スラッシュレイ!」
 両腕を開いて二発の時空衝撃刃を発射。
 それが突き刺さるのを見届ける前に着地し、敵の胸へ向けて両腕から執拗に波動を投擲する。
「フ…ゴミクズの手下に成り下がったのがてめえの不幸だ」
 加速状態を終了させ、通常時間に戻ってきたスラッシュの背後で、ズタズタに切り裂かれた翼竜が爆砕する。
 凝固した溶岩を再び発熱させるだけの熱量を持つ翼竜の体に接触したくなかったので、スラッシュは遠隔からの攻撃で決めたのだ。

 シールドへ封印された溶岩妖魔。
 仮面ライダーの意思を受け、シールドに出入口が発生した。
 そこへ仮面ライダーはウィザードアローを向ける。
「ライダーサイコブラスト!」
 鬼の心そのものを敵に叩き込む「精神エネルギー波動」だ。