ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+2匹目

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138「 グレートサラマンダーZ 」:2011/03/01(火) 00:54:34.86 ID:oM++3WLR

「あのーっ、チィミコちゃん。ちょっといいかな?」

 グレートサラマンダーZを通し山間にうぱ太郎の声が響いた。
どうどうとなだめる声とともに勢いを落としながら2頭の馬が止まる。
呼びかけられたチィミコはすぐに馬から降りる。

「オロチ様、もう話していいのか?」
嬉々とし、チィミコはグレートサラマンダーZの前に駆け寄りしゃがみこんだ。
「えぇ、どうも。……それで、あと村までどのくらいかな?」
相変わらずの顔の近さに苦笑いしながらうぱ太郎は村への距離を聞く。

「もうすぐだ。オロチ様見えるかな、あの山のふもとだ」
そう言ってチィミコは後方の山を指差す。近いとは言えないが途方に暮れるほどの距離でもない。
「あ、うん、わかった。そんな遠くなさそうだね。……それでちょっとお願いがあるんだ」
「何だろう?」

 うぱ華子との会話を頭の中で整理しながらうぱ太郎は話し出す。

「チィミコちゃんの村に呼んでくれたのはすごく嬉しいし助かるんだけど、あの、さっきのことも
あるしいきなり僕が行ったら村の人たち驚いて怖がると思うんだ。それで出来れば誰か先に行って
僕のこと話しておいて貰いたいんだ、怖くないよって。
 それと僕、大山椒魚なんだけどオロチじゃなくてグレマンって名前なんだ。だからこれからは
オロチ様じゃなくてグレマン様って呼んでほしくて」
うぱ太郎の声にチィミコはしゃがんだまま両手で顔を覆い考え込む。そして理解したのか
軽く両手を叩いて答えた。

「わかった。オロチ様でもオーサンショーウオでもなくてグレマン様な。
あとグレマン様のことはテンとツギを先に行かせて村の者に話してもらうよ。それでいいか?」
「うん、それでお願いしたいな」

 うぱ太郎の返事とともにチィミコは立ち上がった。そして振り向きテンとツギに声をかける。
「ということでテン、ツギ。お前たち先に帰ってグレマン様のこと村の衆に話しておいてくれないか?」

「……あぁ。……だけどチィミコちゃん、俺はうまく伝えられないかもしれないぞ?」
チィミコの指示に荷馬の手綱を持ったテンが答えた。
しかし不満や不安があるのか返事は今ひとつ煮え切らない。

「大丈夫。タカオにお米横取りされそうになったところを助けてもらったって言えばみんなわかって
くれるさ。これは間違いのないことだ。それにグレマン様はオロチじゃない。怖くないよ」
屈託のない笑顔でチィミコはテンを諭す。しかしテンとツギの表情はまだ硬いままだった。
「わかった。よし、村までもう少しだ、急ぐぞツギ」
「……あぁ」
特に反論もせずチィミコに背を向け、テンはツギを従えてすぐに発とうとした。

「あのっ!」
「「!?」」

 荷馬とともに駆け出そうとした2人にグレートサラマンダーZから声がかかる。
足を止め、手綱を引いたままゆっくりとテンとツギは振り返った。
139「 グレートサラマンダーZ 」:2011/03/01(火) 00:55:56.40 ID:oM++3WLR

「テン、ツギ。あの、さっきはすいませんでした。僕もみんなと争う気はなかったんだ。でもいきなり
石斧で殴られそうになってつい立ち上がったけど、いつもはおとなしいから怖くないから大丈夫です」

 スムーズに村に受け入れてもらおうとうぱ太郎はテンとツギに怖くないとアピールする。
しかし呼び捨てに慣れてないせいかその口調はぎこちない。
 相容れないものがあるのかうぱ太郎の声にテンとツギは振り返っただけでその場から動こうとはしなかった。
グレートサラマンダーZに呼び止められたテンの口が開く。

「……こっちこそすまなかった。村の衆にはちゃんと話すからどうか村に寄ってくれ。先に行ってる」
照れ隠しなのかテンの口元に少しだけ微笑が浮かぶ。うつむき加減のツギはグレートサラマンダーZと
目を合わせようともしなかった。
そしてうぱ太郎の返事を待つこともなく2人はすぐさま振り返り荷馬とともに駆け出した。

 走り去る馬の後姿を見送りながらうぱ太郎は改めて頭の中を整理し始める。
残されたチィミコは馬を撫でながらグレートサラマンダーZの様子を伺っていた。

「……チィミコちゃん、ちょっといいかな?」
「何だ?」
まるで恋人の声を待っていたかのようにチィミコの表情が明るくなる。
「チィミコちゃんの村に行ったらちょっと大切なこと話さないとダメなんだ。それでチィミコちゃんと
2人きりで話したいんだけどそういうところはあるかな?」
「私1人で住んでるけど、私の家の中でいいか?」
躊躇いもせずチィミコはうぱ太郎の質問に答えた。

「……うん。……ごめん」
あまりにも真っ直ぐな純朴さにあてられ、うぱ太郎は思わず謝罪の言葉を口にする。
「大切なことって何かな。なんかドキドキするな。いま誰もいないけどここじゃ話せないことなのか?」
「……うん。出来れば落ち着いて話したくて」
騙しているつもりはなかった。
しかし罪の意識をあらわすかのようにうぱ太郎の胸の鼓動は早まっていた。

「わかった、話は家に帰ってから聞こう。じゃあ私たちもそろそろ行こうか?」
「……うん」

 よいしょとひと声かけ、しかし苦もせず馬の背にまたがりチィミコは手綱をさばく。
散歩でもするかのようなゆったりとした脚でチィミコの馬が歩み始めた。

――とりあえず第一段階突破……。

 僅かに心苦しさを覚えながらも順調に話が進みうぱ太郎は胸をなでおろした。
そしてアクセルをゆっくりと踏み込み、チィミコの馬の隣を歩いた。
140創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 00:57:15.83 ID:oM++3WLR
今日はここまで。
141創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 00:58:34.97 ID:oM++3WLR
以上代行です。
142「 グレートサラマンダーZ 」:2011/04/15(金) 12:10:17.55 ID:fkDrFDOq

 チィミコの乗る馬。うぱ太郎が操るグレートサラマンダーZ。
西日になりつつある穏やかな光を受けながら、互いの距離に足を踏み入れることもなく
山に囲まれた平地を並んで進んでいく。

「ところでグレマン様の国は何処にあるんだ?」
馬の上からチィミコがグレートサラマンダーZに問いかける。
好奇心か未知なる者への憧憬か、チィミコの瞳は期待の色で溢れかえっている。
早速きたかと思いながら、うぱ太郎はうぱ華子の提案した設定を暗唱し質問に答えた。

「……海の向こうにあるよ」
「えっ、ホントに!?」

 グレートサラマンダーZの返答にチィミコは目を丸くする。
乗り主の意を理解したのか、チィミコを乗せた馬は静かに立ち止まる。

「え? ……う、うん」
驚きの声と突然立ち止まった馬にうぱ太郎は戸惑う。しかし戸惑いを隠せないうちにさらに
チィミコから怒涛の質問が繰り出された。

「凄い凄い凄いっ!!! あーん、グレマン様わかるかな?お日様が昇る海?それともお日様が
沈む海?どっちの海越えて来たの?どっちどっち?どうやって来たの?」
「えっ? ……あ、あの」
思いもよらぬチィミコの反応と早口に捲くし立てられ、うぱ太郎は言葉の意味を見失う。

「お日様の昇る海は太平洋、沈むのは日本海よ!」
動揺するうぱ太郎を見かねてか、すぐに後ろの席でうぱ華子が小声でつぶやいた。
「!?」

――太平洋越えてアメリカは無理。日本海越えて中国なら行けそう。

「……えーと、ここから見たらお日様が沈むほうかな?」
うぱ華子の助言を基にうぱ太郎はどうにかチィミコの質問に答えた。
「凄ーいっ!!!もしかして大陸から来たの?海どうやって渡ったの?泳いで?飛んで?」
うぱ太郎の一言一句にチィミコは激しく興奮する。
だがチィミコの驚きぶりに怯みつつも、うぱ太郎は落ち着きを取り戻しはじめた。

「……泳いだり飛んだりしてたんだけど、嵐に遭っちゃって」
「嵐?」
「……うん。凄い風がいきなり吹いてそれで吹き飛ばされちゃって、気がついたらここにいたんだ」

――大丈夫、設定通り言えている。

「……そうか」

 チィミコの笑顔に少しだけ憂いが滲んだ。

「……確かにそよぐ風はいい風だけど、強い風が吹くといろいろ大変になるからな。私の村でも強い
雨と風で稲が倒れて酷い目に遭うことがあるよ」
「……あの、そういえばさっき北の国のお米がなんとかって言ってたけど?」
チィミコの変化を見逃さずに、うぱ太郎は話題を切り替える。

「ああ、あれな。よそはどうか知らないけど私の村のあたりは前の夏凄く寒くて、いつもの年の
半分ぐらいしかお米が取れなくてな。それでいつも祭り旅に行っている北の国の村々から種になる
お米を少しずつわけてもらったんだ。いまはその帰り道だ。とんだ邪魔者がはいったけど」
うぱ太郎の予想通りチィミコは話に食いついてくる。
暗い話題にもかかわらず、喋り好きなのかチィミコの舌は滑らかに回り続けた。
143「 グレートサラマンダーZ 」:2011/04/15(金) 12:11:40.44 ID:fkDrFDOq

「じゃあ、いま食べるお米無いの?」
「いや、ちゃんと数えてるし少ないけどあるよ。でも前はお米に木の実が混じってるって
感じだったけど、今は木の実にお米がちょっと混じってるって感じであまり美味しくないんだ。
種になるお米もあるんだけど育ちが悪かった稲の種だし、またお米が取れないとそれこそ大変な
ことになるから仲良くしてもらってる村から種わけてもらったんだ。それに北の国のお米だから
少しは寒さにも強いかなって思ってな」
「……大変だね」
馬の上で諦めたかのように笑うチィミコに、うぱ太郎は同情の声をかける。

「しょうがないよ。どんなに祈ったってお日様には逆らえないし……。
でも、もう春だしこれからいっぱい食べ物とれるようになるからお米の残りが少なくても何とかなるさ。
大丈夫だよ、そんな困ってはないから」

――逞しいというか楽観的というかポジティブというか……。なんか考え方が華ちゃんに似てる。

 さして悲壮感も見せずさばさばと語るチィミコを見て、うぱ太郎は後席のうぱ華子を気にかける。

「あ、グレマン様は何食べるんだ? なんかいっぱい食べそうだな」
言葉の止まったグレートサラマンダーZに今度はチィミコが問いかけた。
「……えーと、僕は何も食べなくていいんだ」
一瞬考えた後、うぱ太郎はそう答える。
「ん……? 何も食べなくていいって何も食べないのか?お腹すかないのか?」
「……うん。ちょっと分りにくいからチィミコちゃんの家に行ってから話すよ。さっき言った大切な
ことでもあるし」
頭の中に準備していた返事でうぱ太郎はチィミコの質問をうやむやにする。

「……そうか、わかった」
曖昧な返事を問い詰めることもなく、チィミコは小さくうなずいた。
そしてすでに友達同士であるかのようにグレートサラマンダーZを顎で促し、軽く手綱を振った。

「でも驚いたなぁ。人のほかにも人の言葉喋る奴がいるなんてびっくりだ。グレマン様の国じゃ
人の言葉喋る生き物いっぱいいるのか?」
再び歩み始めた馬の上で楽しそうに笑みを浮かべチィミコが尋ねる。
うぱ太郎もグレートサラマンダーZを動かしながら答える。

「いや、ほとんどいないよ。人の言葉を喋れるのは限られてるから」
「やっぱりそうか。あ、もしかしてグレマン様ウマの喋ってることわかる?」
「いや、僕も馬とは喋れない」
「そうか、神様っていうかどっかの主ぽいからわかるかなって思ったけど、やっぱり無理か」
「……チィミコちゃん、馬のこと知らなかったみたいだけどこの馬はどうしたの?」
チィミコを取り込む。
うぱ華子の言葉は確かに頭にあった。しかし特にそれを意識することもなくうぱ太郎は自然に
チィミコとの会話を進めていた。

「祭り旅の途中で見つけたんだ」
「さっきも言ってたけど祭り旅ってなに?」
「私の村の巫女は夏に北の国の村をまわって踊りを舞うのが慣わしでさ、それを祭り旅って言ってる。
このウマは前の前の夏だけど北の国に向かう砂浜でぐったりしてるところを見つけたんだ。
それで水やったり草やったり世話したらその後私たちについて来てな。それで可愛いから北の国一緒に
まわって村に連れて帰ってきたんだ。
6匹倒れてたんだけどそのうち2匹は助けてやることが出来なかった。かわいそうなことしたなって
思うけど残った4匹はなついてくれたから、たぶん私たちのことを許してくれてると思う。
祭り旅はひたすら歩くことになるから凄くきつかったんだ。でも今はウマが私たちを運んでくれるから
歩くのも半分になって楽になったし北の国に着くのも早くなった。ちゃんと水と食べ物と休みやってれば
ウマは何も言わないで動いてくれるんだ。もうウマのいない暮らしには戻れないよ」
そう言ってチィミコはぽんぽんと馬の肩口を叩く。
チィミコの話が分っているかのように、馬はぶるると小さく鼻息を鳴らし応えた。
144「 グレートサラマンダーZ 」:2011/04/15(金) 12:12:37.57 ID:fkDrFDOq

――野生の馬って簡単に人になつくのか? それとも、もともと人に飼われてた馬だったのかな?

「グレマン様、ちょっとだけ急いでいいか?」
「あ、うん」
会話が途切れた後チィミコは空を仰ぎ、あたりをぐるりと見渡した。
「すまない。今の速さでも暗くなる前に着くけど村の衆やテンとツギを待たせるのは悪いから」
「チィミコちゃんに任せるよ。僕はついていくだけだし」
ありのままにうぱ太郎は答えた。その返事にチィミコの手が動く。
ゆったりとした歩調から一転、軽快に馬の脚が回り始めた。

 淡い色合いの空、眩しさを失った太陽。
チィミコの言葉と視聴覚モニターの映像から午後4時頃と見当をつけナビの時計を合わせた。
そして馬に遅れないように、うぱ太郎は少しだけ強くアクセルを踏み込んだ。



――凄いとこ来ちゃったな……。

 薄暗い森を走り、小さな峠を越えた。
そこで突如眼下に広がった光景に、うぱ太郎は軽い眩暈を覚えた。

 奥深い山間の村。
案内がなければ間違いなく素通りするだろうと思われる山道を抜けた場所にその村はあった。
 きのこのかさのような屋根をもつ住居と思われしきものと、高床式の建物が連なり、
神社の鳥居のような、不思議な形で組み合わされた背の高い柱が数箇所に立っている。
そして田畑と思われる平地が山の隙間を縫うように奥へ奥へと続いている。

「おっ、やってるやってる」 
見晴らしのいい高台の上、チィミコは両手をぶんぶんと大きく振り始めた。
広場らしき場所に多数の人が集まっている。その者たちを相手にしているのか、馬を連れたテンと
ツギと思われる人影が集団と少し距離を取って立っている。

「グレマン様。すぐに私の家にいってもいいし、村人を見たいならあそこにいってもいい。
どうしようか?」
傍らのグレートサラマンダーZにそう話しかけチィミコは群衆を指差した。
「うん、村の人に声かけておきたいな。そのあとでチィミコちゃんの家にいきたいと思う」
第一印象は大切だからと、うぱ太郎はうぱ華子に相談せずに即答する。
同じ考えだったのかうぱ華子も後ろの席でその判断に小さく頷いた。

「わかった。じゃあ私の後ろに付いてきてくれ。私がちょっとグレマン様のこと話すからそのあと
なんか喋ってもらえるかな。みんなびっくりするぞ。えへへ、どんな顔するか楽しみだ」
いたずらっ子のように無邪気な笑みでチィミコは馬を繰り出した。
そして、馬の上でただいまーと大きな声で叫びながら右手を振り続けた。
145「 グレートサラマンダーZ 」:2011/04/15(金) 12:13:41.31 ID:fkDrFDOq

「もう笑っちゃうくらい凄いとこだね」
チィミコが先に行ったことを確かめ、うぱ太郎は振り返りうぱ華子たちの反応を見る。
「風情があっていいんじゃない? スローライフとかロハスな生活を満喫できるわよ」
「……そういう問題じゃない気がする」
あまりにも想像とかけ離れた世界だったのか、うぱ華子の返事に珍しくうぱ倫子が口を挟んだ。
「倫ちゃんはいままで不健康な生活だったからここで静養すればいいよ。わたしはそうだな、
とりあえず冒険する!」

――なんていうか……

 呑気だね。と出掛かった声をうぱ太郎は飲み込んだ。
脱力しそうなうぱ民子の提案。しかしそんなうぱ民子の声に何度か助けられたのも事実だった。
途方に暮れる時期は過ぎた。あとはこれからどうするか。と胸に秘め、話を進める。
「えっと、とりあえず村の人の前で手短に挨拶するんで、何か思うことがあったら教えてくれないかな」
「任せるわ。なんだかんだで太郎ちゃん対応できてるから問題ないでしょ」
「はーい、リーダーにお任せしまーす」
「…………」
三者三様の答えが返ってくる。
「……うん。じゃあ、行きます」
視聴覚モニターを見つめ距離を確認する。そしてハンドルを握り直しうぱ太郎はチィミコの馬を追った。



「ただいまー。いやー疲れた疲れた」
「チィミコちゃん、また変なの拾ったきたの?」

 4、50人ほど集まった村人の前でチィミコは馬から降りた。
馬の世話係なのかテンが駆け寄り、チィミコから手綱を受け取る。
 幼児から青年壮年、年寄りまで。
男女問わず集まった村人の服装はいずれも薄汚れた白い布が基本だった。季節に合わせた重ね着や毛皮、
中には藁で編み込んだマントのようなもので身を包んだ者もいる。

 チィミコに話しかけたのは5、6歳と思われる幼い少女だった。
少女の声にチィミコは苦笑いを浮かべながらも、しかしすぐに鼻高々に話し始めた。
「変なの言うな。聞いてびっくり見てびっくり。オオシカも凄かったけど今度はもっと凄いぞ!」
そしてくるりと振り返る。

 得体の知れない何か。
近づくにつれ、住民のどよめきが強くなる。しかし構わずチィミコはグレートサラマンダーZを
手招きする。

「聞いたと思うけど、さっきタカオたちといざこざがあってそのとき助けてもらったんだ。
それでそのお礼もかねてうちの村にしばらく居てもらおうと思ってる。
名前はグレマン様。みんなもそう呼んでくれ。怖そうに見えるけど実は全然怖くなくて優しいから
心配しなくていいよ。それではグレマン様どうぞー!」
「おおー!?」

 高まるどよめき。
その中をうぱ太郎はゆっくりとグレートサラマンダーZを前進させ、チィミコの隣に構えた。
146「 グレートサラマンダーZ 」:2011/04/15(金) 12:14:43.64 ID:fkDrFDOq

 自慢の友達でも紹介するようにチィミコは得意げな顔で村人達を見渡した。
歓迎の拍手なんて期待はしていない、ほんの少しでいいから受け入れてもらえれば。とうぱ太郎は
願いを込め、ゆっくりと口を開いた。

「あの、こんにちは。僕、グレマンって言います。どうぞよろしく」

 人とはかけ離れた何かが言葉を口にした。
一瞬の沈黙のあと、集まった村人からより一掃のどよめきが沸き起こる。

「喋った。本当に喋った……」
「こんにちは」
「嘘だろ……」
「でっかいなぁ……」

 未知なるものとの対峙。
確かに極端に怯える者はいない。しかし歓迎の笑みを浮かべる者もほとんどいなかった。
僅かに聞こえた好意的な声は恐れを知らない子供たちだけである。

――ちょっと甘かったか……

 奇異なものを指差すような視線とひそひそ話が横行する。
事前に説明されていた筈だが、予想を上回ったのか村人のざわめきが止む気配はない。
コックピットの中で、この場をどう乗り越えようかとうぱ太郎は考える。

「チィミコちゃん、グレマン様っていっしょに遊んでくれるの?」
「ごめん。実はまだそこまで仲良くないんだ。だからこれからグレマン様と話しして聞いてみる。
でも今日はもう遅いからどっちにしろだめだよ」
コックピットでうぱ太郎が思案する最中、少女がチィミコに近寄り話しかけた。
グレートサラマンダーZの挨拶にこんにちはと返した唯一の者である。

――前に似たことがあったな。……その子ちゃん。嬉しかったからまだ覚えてる。

「チィミコ」

 うぱ太郎が明日にでも一緒に遊ぼうかと言おうとした寸前、男の声が広場に響いた。
けして大声でがなりたてた訳でもない。しかしその一声で広場のざわめきは瞬く間に消え去った。

 少し腰の曲がった老齢な男が、杖を片手に群集を割りチィミコの前に立つ。
そしてグレートサラマンダーZを見下ろしたあと難ありげな表情で口を開いた。

「……おまえ、本当にその者を村に置くつもりなのか?」

 男の声に、一瞬、眉間にしわがよる。
だが、すぐに笑顔を作りチィミコはさらりと男に言いのけた。
「ああ。グレマン様は恩のある人だし、それにちょっと困ってるみたいだからしばらく村に
居てもらうつもりでいる。明日の祭りも一緒に出てもらうつもりだ」
「テンとツギにそのグレマン様は強い風を起こしたと聞いた。その者は村に災いをもたらす
のではないか?」
返事を良しとせず、男は厳しい表情でチィミコに問い続ける。
しかし、何の問題も無いようにチィミコはひょうひょうと答えた。
「大丈夫だよ村長。グレマン様が風を起こしたのは私が怒らせるようなことを聞いたからで
グレマン様のせいじゃない。私が悪いんだ」
「怒らせるようなこと?」
そう言ったチィミコに、眉をひそめ村長は聞き返す。
147「 グレートサラマンダーZ 」:2011/04/15(金) 12:15:53.50 ID:fkDrFDOq

「ああ。グレマン様の前で申し訳ないけど、さすがに人喰いを連れて帰る訳にはいかないから
聞いたんだ、人を喰うのかって。そしたら本気で怒られた。凄いよ、びりびりきた。
でもそれでグレマン様は嘘をついてないって分ったんだ。悪い奴ならそこで嘘ついて入り
込もうとする。でもグレマン様にそれはない。正直な人だよ。だから心配しなくていい」

 テンとツギを含め村人たちは村長とチィミコのやり取りを固唾を呑んで見守っていた。
その中で険しい表情の村長に動じることなく、チィミコは己の主張を言いきった。


―― …………。

 罪悪感のあらわれか、うぱ太郎は視聴覚モニターに映るチィミコを直視できず下を向く。

「……どうやらお飾りの巫女って訳でもなさそうね」
小さな舌打ちのあと、誰に聞かせるわけでもなくうぱ華子は小声でつぶやく。


「……しかしだな」
グレートサラマンダーZの前、それでもチィミコの返事に村長は不安を隠そうとしなかった。
「いや、村長は心配しすぎだよ。オオシカの時もそうだったけど、そうやって新しいことを
受け入れようとしないのはもったいないよ。大丈夫、私に任せてくれ。グレマン様が来たせいで
村に災いが起こるなんてことはないから」

 村長とチィミコの視線がぶつかる。
見守る村人に、その間に割って入れる者はいない。チィミコに素直だが頑固なところがあるのは
村の誰もが知っている事実だった。

 我慢比べの沈黙の後、村長の口から大きくため息が漏れる。

「……いつもいつもしょうがない奴だな。わかった、チィミコに任せよう。その代わり少しでも
怪しいことが起きたらグレマン様には悪いがすぐに出て行ってもらうぞ」
「うん、ありがとう」
 硬い表情が解け、チィミコはにっこりと微笑む。
笑顔に誤魔化されているのは承知しているかのように村長もしぶしぶと苦笑いを浮かべる。

「あの、お世話になります。どうぞよろしく」
2人の会話が終わるやいなや、うぱ太郎は間髪いれず少し見上げる姿勢で村長に話しかけた。
ばつの悪そうな顔をしながらも、村長は言葉を貰ったグレートサラマンダーZに答えた。

「……グレマン様といったか。テンとツギから話は聞いたが、タカオのことはすまなかった。
いまはよその村に住むがもともとはこの村の生まれでな。村分れで新しい村に行ったが
あいつのことはよく知っておる。しかしいくらなんでもいきなり斧を向けたのは許されないことだ。
今度あったらわしも一言言っておこう。
この村にはタカオのようにいきなり暴れたりする者はいない。どうぞゆっくり休んでいってくれ」
「どうもありがとう。あの僕も余程のことがないかぎり暴れたりしないので、あまり
心配しないでいいですから」

――ちょっと胸が痛いけど、ここまでくれば……

 深く息を吐き、うぱ太郎は視聴覚モニターを見つめ直した。
不意に突付かれて後ろを振り返ると、うぱ華子が無言で親指を立てていた。
148「 グレートサラマンダーZ 」:2011/04/15(金) 12:17:00.11 ID:fkDrFDOq

「よし、話は決まりだ。村長ありがとう!」

 話を打ち切るようにチィミコは大袈裟に声を張り上げた。
そしてまだざわつきの残る広場の中、隣に村長とグレートサラマンダーZを置いたまま、続けて
村人たちに向けて話し始めた。

「まずみんなにひとつ謝らないといけないんだ。グレマン様から聞いたんだけど、オオシカだけど
本当はウマって言うらしいんだ。でももうみんなオオシカって呼び慣れてるからそれでいいと思う。
ただ、本当はウマって言うことはちゃんと憶えててほしいんだ。ごめん、私が間違ったこと教え
ちゃったせいだけどそのほうがオオシカも喜ぶと思うから」
「ウ……マ?」
「変な名前」
チィミコの発表に先程までとは違った和やかなざわめきがおこった。
振られた話を種に大人たちは笑顔で談笑し、子供たちは声を揃えてはやしたて始めた。

 場の雰囲気が変わりチィミコは満足そうに頷く。
「グレマン様は私たちの知らないこといっぱい知ってるんだ。だから私はしばらくグレマン様と
一緒にいて話を聞きたいと思っている。なので今日は私とグレマン様2人きりにしてもらいたい。
それと明日の祭りはいつも通りやるから男衆も女衆もお備えをよろしく頼む。お米が少ないから
焼き米は食べられないけど、お神酒はいっぱい作って寝かせてある。ちょっと薄めたけどね。
だから楽しくやれるはずだ。
もうすぐ田植えも始まるから元気に乗り切れるようにみんなで一緒に祈ろう!」

「おおー!」
チィミコの声に、一斉に歓声が沸きあがった。

「チィミコちゃんたち間に合ってよかった」
「やっぱり祭りがねえと田植えは始まらないからな」
「飲みすぎんなよ」
「お米の代わりに豆か栗でも焼こうかしら」
「うーん俺の家の藁、濡れてて燃えないかもしれん」
グレートサラマンダーZの存在も忘れ、集まった村人たちはおもいおもいに話し始めた。
村長とチィミコはその光景を穏やかな表情で眺めていた。そして思い出したようにチィミコは
手綱を引いたテンとツギに声をかけた。

「テン、ツギ。私はこれからグレマン様と話をするから、悪いけどオオシカから荷物降ろして
休ませてやってくれないか。それと北のお米は蔵に入れておいてくれ。明日の祭りの時にうちの
お米と一緒に祓うから。
それが終わったらゆっくり休んでくれ。もしお神酒ほしいならやるぞ。私たちがんばったからな、
前祝だ、罰も当たるまい」

 チィミコの声にテンは一仕事を終えた安堵の表情を見せた。
一方のツギは充実感よりも疲労感を色濃く匂わせていた。
「ああ、わかった。俺はお神酒はいい。久々の家だ、みんなとゆっくり過ごすさ。ツギはどうだ?」
「俺もいいな。それよりいまはすぐにでも横になりたいよ」
2人の返事にチィミコは少しだけ残念そうな顔をする。
「……そうだな、雪道はつらかったもんな。テン、ツギ、オオシカのおかげだよ、ありがとう。
最後に仕事言いつけて悪いけどあとちょっと頼む」
「ああ、大丈夫だ。なんてことはない」
「テン、さっさとやっつけてしまおうぜ」
「ああ」
そう言って男2人は小さく手を振り、馬を連れチィミコに背をむけた。
149「 グレートサラマンダーZ 」:2011/04/15(金) 12:18:03.21 ID:fkDrFDOq

「……そいつがグレマン様かい? ずいぶんおっかなそうだな」
テンとツギが去った後、入れ替わり鹿の毛皮を纏った男がチィミコに声をかけてきた。
「あっ、火起こし。ただいま」
チィミコとさほど背丈はかわらない。だが、ぶ厚い胸板に丸太のような太い腕とただならぬ
体躯を持つ男だった。怖そうと言った割にはまたっく物怖じしている気配はなく、温厚そうな
丸顔ながらも、どこか攻撃的な雰囲気を漂わせていた。
グレートサラマンダーZをちらりと見て、男はチィミコに用件を伝えた。

「チィミコ。家の前に火皿置いてあるからな。炭多くしたからしばらく明るいと思うぜ」
「おおっ、ありがとう。あとお神酒のほうはどうだ?ちゃんと仕上がったか?」
火起こしの声にチィミコの表情がぱっと華やぐ。
そんなチィミコを見て火起こしはにやりと笑う。

「ああ。まぁ前の巫女様に比べればまだまだだがチィミコの割には美味く仕上がってたぜ。
毎日味見して気持ちよく酔えたからな、上出来だ」
「……お前毎日酔っ払うまで味見してたのか?」
驚いた顔でチィミコは火起こしに聞き返した。さもありんと火起こしは堂々と答える。
「あたりまえだ。任されたんだからな、きっちり仕事はしたぜ。ちょっと飲みすぎたかもしれんが」
「……おまえは本当にがっつり飲むからな。まぁしょうがないか、他に任せられる人もいないし」
「はは、大丈夫だぜ、祭りの分はちゃんと残してある。まぁ俺もちょっと水で薄めたが」
そう言って火起こしは笑う。最後の一言にがっくりと肩を落とし、チィミコは深くため息をつく。

「ところで、グレマン様はだいぶ強そうだな。タカオの斧当たらなかったって聞いたけど本当か?」
火起こしの話が切り替わった。話題をふられるかもしれないとコックピットの中で
うぱ太郎はごくりとつばを飲み、2人の会話に集中する。
「ああ、本当だ。……火起こし。お前も変なちょっかい出すなよ」
何か思うところがあるのかチィミコは表情に少しだけ不安の色を滲ませていた。
「俺をタカオと一緒にするなよ、そんなことするか」

「あの、グレマンって言います。どうぞよろしく」
チィミコの隣から機嫌を伺うように、うぱ太郎は火起こしに話しかけた。
「おお、本当に喋れるんだな。こいつは凄い。俺は火起こしだ。そのまんま火を起こすのが
俺の仕事でだから火起こし。簡単だろ? あと前は村の守人(もりびと)もやっていた」
難しいそぶりも見せず、火起こしは普通の人同様にグレートサラマンダーZに接してきた。
 マッチもライターも無い時代、火起こしの名前の由来は理解できた。そのまま話の弾みで
うぱ太郎は守人の意味合いについて尋ねてみる。

「あの、守人って」
「あ、グレマン様。あとで私が教えるよ」
会話にチィミコが割ってはいる。
話を遮られたことを別段気にもせず、火起こしはグレートサラマンダーZに話しかける。
「グレマン様、明日祭り出るんだろ? 俺と力比べしようぜ」
そう言って火起こしは己の力を誇示するように右腕を曲げ力こぶを作った。

「火起こし。お前ほんと力比べ好きだな。でもグレマン様とは無しだ。大事なお客様だからな」
笑みを浮かべたまま、チィミコは火起こしを軽く睨めつけた。
「そうか、それは残念だな。グレマン様、気が向いたらでいいんでいつかやろうぜ。この村で俺が
負けるわけにはいかないからな」
「……はいはい。力自慢はいいから行った行った」
邪魔者を払いのけるような仕草でチィミコは手を振る。
「はいはい、わかったよ。じゃあグレマン様、明日な」
チィミコの邪険な扱いにも慣れているのか火起こしは陽気に、しかしどこか挑戦的な口調でグレート
サラマンダーZに話しかけ去っていった。

「まったく、そんなに力自慢したいのかね男は……」
火起こしの後ろ姿を呆れ顔で眺めながらチィミコは呟く。
150「 グレートサラマンダーZ 」:2011/04/15(金) 12:19:00.36 ID:fkDrFDOq

――ガラが悪いって訳じゃないけど、明らかに挑発されてる……

「……えーと、力比べってどうやるんだろう?」
火起こしを見送りながら、うぱ太郎は力比べの方法をチィミコに聞く。
「綱引きだよ。祭りのとき男たちはそれで遊ぶんだ。お神酒飲んで酔っ払ってからやるから
滅茶苦茶でな。まぁほとんど笑って終わりなんだけど、たまにもめることがあるんだ。
村で一番強いのが火起こしでな。ツギがその次に強い。あとは似たりよったり。
 守人というのは村を守る者のことなんだ。滅多にないことだけど、たまによそ者が村に
入り込むことがある。そのときは頭になって村を守る。それが守人の仕事だ。いまはテンが
守人の長(おさ)なんだけどその前は火起こしが長だったんだ。いまでも争いごとは自分が
一番強いって思ってるよ。そういう気持ちがないと勤まらない仕事だったから……」
しんみりとチィミコは語る。どことなく寂しさを思わせる遠い目をしていた。

「相手になるか分らないけどやってみてもいいかな。村の人と仲良くしたいし」

 あまり思い出したくないことだが、うぱ太郎は警察と一戦交えた時を頭に浮かべていた。
立ち上がったグレートサラマンダーZにロープが巻かれ、動けなくされそうになった。
しかしパワーにものを言わせ力技で振り切った。
相手がどんなに力がありそうでも一対一ならたぶん負けないと心の中で思い浮かべる。

「グレマン様は優しいっていうか、いい人だな」
言葉の止まったグレートサラマンダーZをまじまじと見つめながらチィミコが答えた。
「え……? まぁ、その、……嫌われたくないから」
コックピットの中でうぱ太郎の心が揺るぐ。

「あはは、グレマン様は本当に正直だな。知らない場所で知らない人と仲良くするのって
意外と大変だし疲れるよな、私もそうだ。だから無理しなくてもいいよ、気が向いたらでいい」

―― ……チィミコちゃんの方がよっぽど優しいよ。

 チィミコの笑顔が眩しくてうぱ太郎は返事が出来なかった。
嫌われたくない、仲良くしたい。確かにそう思っている。しかしそれは純粋なものではない。

「……うん。……じゃあその時にどうするか決めるよ」
間をおいたあと、歯切れの悪い返事がグレートサラマンダーZからなされた。
気にも留めずチィミコは答える。
「ああ、それでいいよ。……じゃあそろそろ私の家に行こうか」
「……うん」
うぱ太郎の声にチィミコはあっちだと家の方向を指差し歩き始めた。
半歩遅れてチィミコの背中を追うようにうぱ太郎はゆっくりとアクセルに力を入れた。

「……太郎ちゃん、先手必勝よ。彼女の家に入ったらすぐにここから降りてあたしたちの
姿を見せるわよ」
チィミコの後ろを歩き始めた矢先、うぱ華子が小声でうぱ太郎に話しかける。
だが、うぱ太郎は振り返らず無言で頷くだけだった。
「……チィミコちゃんっていい人だね」
「……うん」
うぱ華子にならってうぱ民子とうぱ倫子も小声で会話を交わし始める。
しかしその時間も僅かなものだった。5分と歩かないうちに地面からかやぶき屋根が生えている
ような家の前でチィミコは立ち止まった。
151「 グレートサラマンダーZ 」:2011/04/15(金) 12:20:08.50 ID:fkDrFDOq

「ここが私の家だ。いま家に火入れるからグレマン様ちょっと待っててな」

――竪穴式住宅……?

 遠目で見て理解はしたつもりだった。
だが実物を目の前にして、その異様さとある種の迫力にうぱ太郎は困惑を隠せなかった。
 7、8メーター四方の葦やススキの束で造られた小山のような、屋根だけで窓はおろか
壁といえる部位も見あたらない家だった。
少し離れた場所には木造の壁を持ち、宙に浮いたような高床式の建物が並んでいる。

「……太郎ちゃん、さっきも言ったけど家に入ったらすぐにグレマン様から降りるわよ」
チィミコが家に入った隙を見て、うぱ華子はうぱ太郎に話しかける。
「……うん。わかってる。……大事な話しって事で降りたら改めて自己紹介するよ」
上の空でぼんやりとうぱ太郎は答える。

「太郎ちゃんは人と一緒に暮らしたことは無いわよね?」
もやもやしているうぱ太郎に、小声ながらもいつになく険しい声でうぱ華子は確認する。
「……うん」
「あたしたちを見てチィミコちゃんは間違いなく笑うわ。でもキレたりしちゃ駄目よ。
それとこのロボット越しだと感じないかもしれないけど、人はあたしたちより遥かに大きいわ。
むこうに悪気が無くてもちょっとしたことで致命傷になる程のダメージ受けることも起こりえる。
だからきちんと距離をとってやたらと触られることがないようにしなさいよ」
「……了解」

 気がつけば西の空に太陽の姿はなく、東の空は夜の始まりを告げていた。
コックピットでうぱ華子が口やかましくうぱ太郎に話している最中、チィミコは大好きな友人でも
迎えるような笑顔で家の前に置かれた炭の乗った大きめな皿3枚を家の中に運び入れていた。
そしてしばらく後、招き入れる準備が整ったのか入り口から離れた場所で待機していた
グレートサラマンダーZに叫びかけた。

「グレマン様、どうぞ入ってくれ」
「……うん、じゃあお邪魔します」

 すぐには向かわず、うぱ太郎は振り返り小声でうぱ華子たちに話しかけた。
「じゃあ、これから行くんでみんなよろしく」
「つかみがOKならあとは貰ったようなものよ。あんまり緊張しないようにしなさいよ」
「ヤバイ、わたしがドキドキしてきた」
「……民ちゃんはあんまり関係ないと思う」
「ひどいなー。わたしだって当事者のひとりじゃん」

 相変わらずのうぱ民子とうぱ倫子は無視し、うぱ太郎は姿勢を戻し視聴覚モニターを見た。
チィミコがドア代わりの藁で編まれたすだれのようなものを手で押さえ、笑顔で待っている。

――疲れたな……。でもここでしくじれば元も子もないから慎重に。

 チィミコの脇、家の中を覗き込む。
暗くてよくわからないが極端な段差は無く、入り口の横幅も含め、中に入るのに苦労はなさそうだった。
 ため息混じりの深呼吸をひとつ。
そしてうぱ太郎は何も言わずじわりとアクセルを踏み込んだ。
152創る名無しに見る名無し:2011/04/15(金) 12:22:39.33 ID:U+fWjl6x
今日はここまで。

規制のせいもあるが、久しぶりにそれこそ一年ぶりに他所へ投下したらそれで満足
してしまい、すっかりここが停滞してしまった。
153創る名無しに見る名無し:2011/04/15(金) 18:01:17.35 ID:uZWYE/V3
154創る名無しに見る名無し:2011/04/17(日) 19:40:20.12 ID:SiOpEA02
うーむ乙。とりあえず一安心、というには早いか
155創る名無しに見る名無し:2011/06/27(月) 03:52:49.91 ID:HTIdR89+
156創る名無しに見る名無し:2011/06/27(月) 04:01:00.03 ID:LU7Wb6zx
ウラトさんなにしてんすかw
157創る名無しに見る名無し:2011/06/28(火) 05:28:09.79 ID:hScauEz6
なんかかわいいと思ってしまったww
158創る名無しに見る名無し:2011/08/19(金) 22:07:27.03 ID:23irzv//
159創る名無しに見る名無し:2011/08/19(金) 23:20:44.53 ID:jXaPeEcr
ウパまでw
160「 グレートサラマンダーZ 」:2011/09/16(金) 23:03:51.94 ID:GKvmSnu1

――ちょっと暗いな……。

 入り口対面。かまどや暖炉と呼ぶには少し大雑把な作りの炉の中で薪が燃されていた。
火皿と呼ばれた皿の上でも赤く焼けた炭と木片が控えめ灯りを揺らめかせている。
 視聴覚モニターの補正機能が働き、屋内の様子が明らかになってくる。
部屋の中央と四隅に太い柱。縄で縛り組み上げられたはりと垂木。
かまど付近を除き壁や床は藁で覆われ、単純な作りの棚には土器と思われる雑貨物が整然と並んでいる。
室内は楕円状で12、3畳ほどの広さがある。しかし低い屋根のせいで壁際の天井には余裕がなく、
キャンプテントの中にいるような狭苦しさをうぱ太郎は覚えた。

「グレマン様は火、大丈夫か?」
少し居心地の悪そうなグレートサラマンダーZにチィミコは笑顔で尋ねる。
「あ……うん、大丈夫」
「じゃあこの上で休んでくれ。長さ全然足りないけど」
そう言ってチィミコはかまどの前で広げられた毛皮の敷物をぱんぱんとはたいた。
「……うん。ありがとう」
全長3メートル強のグレートサラマンダーZ。迂闊に動かせば酷いことになるのは目に見えていた。
しっぽに細心の注意を払い、うぱ太郎はそっとアクセルを踏み込む。

「グレマン様はホントに食べるものいらないのか?」
かまどの前で落ち着いたグレートサラマンダーZに問いかけながらもチィミコの視線は、床に並んだ
いくつかの器を追っていた。

「うん。大丈夫」
チィミコの素振りなど気にもせずうぱ太郎は即答する。
グレートサラマンダーZの返事に、チィミコは少し困ったように小さく笑う。
「……えーと、私お腹すいちゃってさ。それで私のぶん火起こしが気を利かせてここにあるんだけど、
私、食べてもいいかな?」

 もう外はとっくに日が暮れている。
だが、コックピットから降りることで頭の中がいっぱいなうぱ太郎には、チィミコの食事のことを
気にする余裕などどこにも無かった。
「チィミコちゃん。その前にちょっと大事なこと話していいかな?」

「……えーと、食べる用意だけはしていいか? 火にかけるだけだからすぐ終わる」
家主と言う立場も忘れたかのように、チィミコは遠慮がちにグレートサラマンダーZに聞き返す。

―― ……落ち着け、はやるな。……先手必勝だけど焦っちゃ駄目だ。

「……ごめん、どうぞ。……僕、気がきかなくて」
小声のチィミコにうぱ太郎は思わず心の中で猛省する。
グレートサラマンダーZの返事を受け、チィミコは土鍋を火にかけ串の入った魚を炙るように炭のそばに置いた。
言葉通り手短に準備を終わらせ、改めてグレートサラマンダーZの正面に座り直す。
「これでよしと。グレマン様、私はもういいぞ」
「あ。ありがとう。……じゃあ、ちょっとややこしいけどこれから大事なこと話します」

――なるべく分りやすいように……。

 心の中で何度もつぶやく。
手持ちの限られた設定の中、理論整然と上手に説明できるとは思っていない。
しかしいまだ釈然としない世界でも、自分の役割を務めようとうぱ太郎は必死に言葉を探した。
そしてモニターに映る少女に向けて、うぱ太郎はゆっくりと話し始めた。
161「 グレートサラマンダーZ 」:2011/09/16(金) 23:04:51.56 ID:GKvmSnu1

「……チィミコちゃんは遠くに出かけるとき、たぶん馬に乗って行くよね?」
「ああ、そうだな。遠くに出るときはほとんどウマに乗って行くな」

 グレートサラマンダーZの質問に、火の具合を見ながらチィミコは明朗に答える。
返事を確認し少し頼りない灯りの中、うぱ太郎は淡々と話しを続けた。

「チィミコちゃんがあっちに行きたいと思って馬に合図すれば馬はチィミコちゃんの思ったほうに
動いてくれるよね?」
「ああ。でもそうなるまでだいぶ苦労したけどな。嫌がって落とされたときは死ぬかと思った」
しかしそれもいい思い出なのか、チィミコは目を細め笑う。

「だけど馬に乗ってどっかに行ってもチィミコちゃんはチィミコちゃんで馬は馬だよね?」
「……ああ。ウマはウマだし私は私だ。……それでいいのか?」
当たり前のことをいかにもらしく問うグレートサラマンダーZを、チィミコは僅かに首をかしげ
少し訝しげに見つめ返した。

「うん。馬は馬だしチィミコちゃんはチィミコちゃんだよね。それでちょっとややこしくなるんで
今まで黙ってたけど、チィミコちゃんが馬に乗るように僕もグレマン様に乗ってるんだ。
いまチィミコちゃんの前にいるグレマン様はグレマン様なんだけど、いまチィミコちゃんと話しを
しているのはグレマン様じゃなくて、グレマン様に乗っている中の人なんだ。グレマン様は自分では
全然喋らなくて代わりに僕が喋ってるんだ」

――ちょっと唐突だったかも……。

「グレマン様に……乗ってる……?」

 チィミコの顔つきが明らかに変わった。
理解を得ているかは分らない。だが、うぱ太郎はそのまま話を続けることしかできなかった。

「うん。チィミコちゃんは馬に乗ってあちこち行ったり、旅に出て遠くまで行ったりする。
それと同じように、僕、うぱ太郎って名前だけど、僕もグレマン様に乗って旅をしてるんだ」
「……うぱたろう?」
「うん。それが僕の名前なんだ。チィミコちゃんが馬に乗るように、僕、うぱ太郎も
グレマン様に乗ってるんだ。あと僕のほかにも3人グレマン様に乗ってるんだ」
「わからないな。……グレマン様に乗ってるって?」

 笑顔はすでに消えていた。
 困惑。
チィミコの表情が疑念が混じる。

「うん、ごめん。僕が降りないとよく分らないと思う。だからこれからグレマン様から降りるよ」
「……降りる?」
「うん。……ごめん、いまグレマン様の口開けるからちょっと離れてくれるかな。これから降りるから」
「…………」

 理解不能、意味不明。
そう言いたげなチィミコが視聴覚モニターに映っていた。

――話しがきちんと着地できなかったけどしょうがない。あとは野となれ山となれ!

 コックピットの中、うぱ太郎は振り返り目配せする。
うぱ華子、うぱ民子、うぱ倫子それぞれが無言でうなずく。
モニターでチィミコの位置を確認する。近すぎず遠すぎず程々の場所であぐらをかいて座っている。

 おもむろにうぱ太郎はグレートサラマンダーZの口開閉スイッチを押した。

 目の前の怪物が大きく口を開いた。
その姿は一度見た。それでもその禍々しさにチィミコは大きく後ろにのけぞった。
162「 グレートサラマンダーZ 」:2011/09/16(金) 23:06:20.23 ID:GKvmSnu1

――大丈夫、なんとかなる!

 胸の奥で、強く自分を奮い立たせる。
そしてうぱ華子たちを確認しうぱ太郎は勢いに任せ、半ばやけ気味にグレートサラマンダーZの
コックピットから降りた。ぞろぞろとよたよたと、うぱ華子たちが小亀の行列のように続く。

「?????」

 足の生えたナマズ。
それが想像の限界だった。
だが、1匹を除きあまりにも華やかでありえない奇異な体色が自ら引き出した答えを否定する。
 怪物の口の中から突如現れた小さな、そして珍妙な客。
謎の笑顔を浮かべるその4匹を、ただぽかんと口を開け眺めることしかチィミコには出来なかった。

――思ったより大きいな……

 あぐらをかいたまま瞬きもせず愕然とするチィミコを見上げる。
 15歳の少女。
しかしその姿は、人間と共に暮らしたことのないうぱ太郎を圧倒させるには充分だった。

 いつのまにかうぱ華子たちはうぱ太郎の隣に並び、ピンク、黄色、白とグレートサラマンダーZの前で
隊列を組んでいる。

「こんにちはっ!」
「……こんにちは」

「――!?」

 なんの前触れも無くうぱ民子から威勢のいい挨拶が飛び出した。うぱ倫子もそれに続く。
しかし突然の女声にチィミコはびくりと体を震わせ座ったまま口をぱくぱくとさせるだけだった。
「……あの、……こんにちは。僕、うぱ太郎っていいます」
うぱ民子たちに遅れをとりながらも自己紹介の一声を発した。
 視聴覚モニター越しに何度も人と話し、渡り合い、やりあってきた。
だがグレートサラマンダーZという鎧を外したうぱ太郎のその声は、か弱く力ないものだった。

 凛とした太い眉。印象的な黒い瞳。桃色の少し大きめな唇。
しかし一向に驚き顔のままで、チィミコに笑顔が戻ってきそうな気配はない。
うぱ太郎もある種の気まずさを感じ無言になる。しかしすぐに顔をあげ、再びチィミコに話しかけた。
「……チィミコちゃん、こんにちは。僕、うぱ太郎っていいます」
名を呼び、改めて名乗る。
「――!?」
相変わらずチィミコは問われるたびに体を震わせるだけだった。

「………………」
うぱ華子たちのフォローは無い。名案も思い浮かばない。
仕方なくうぱ太郎はチィミコを見上げ、ひたすら一方的に喋り始めた。
「チィミコちゃん。僕のことは太郎ちゃんって呼んでください。グレマン様に乗ってあちこち
行ったり旅したりしてます。あと僕の隣のピン…赤っぽいのが華ちゃん。黄色の子が民ちゃ……?」

「……喋った。……ナマズ。……足はえてる」
放心状態のチィミコからやっと言葉が出る。しかし会話はまったく噛み合わない。
「…………」
うぱ太郎は押し黙る。
しかしその返事に困った僅かな時間、瞬く間にチィミコの頬は紅潮し大きく膨らんだ。

「……ダメだこりゃ」
無言のうぱ太郎の隣でうぱ華子が言い捨てる。それと同時だった。
163「 グレートサラマンダーZ 」:2011/09/16(金) 23:07:25.60 ID:GKvmSnu1

「ぶふっ! あはっ、あーははははっ!」
薄暗い室内には不釣合いな大きな笑い声が響いた。

「あははははっ、何、何っ? 神様??? うははははっ!」

 指をさされ笑われる。

――まぁ案の定と言うか、予想通りって言うか、想定内っていうか。

 そう思いながら、うぱ太郎から諦めに似た大きなため息が漏れた。

「へっ変な顔、うははははっ!」

 腹をかかえてチィミコは笑う。しかしたいして怒りや憤りは感じなかった。
いいか悪いかは別として、とりあえず事は進展したと苦笑しながらもうぱ太郎は胸を撫で下ろす。
ただ、そう思ううぱ太郎とは対照的にうぱ華子とうぱ民子は怒りをあらわにしていた。

「……別に慣れてるからいいけどね。でもチィミコちゃんてちょっと馬鹿っぽいよね?」
言葉とは裏腹に、憮然とした表情でうぱ民子はチィミコを激しく睨めつけていた。
「うふふ、太郎ちゃん。キレちゃ駄目よ、キレちゃ……」
冷静を装っているが、うぱ華子の頬も明らかに引きつっている。

――みんな沸点低すぎ……。

 華ちゃんさっきの注意はなんだったんだよと、うぱ太郎は心の中で笑う。

「……可愛い」
「「「 は? 」」」
突然、うぱ倫子がぽつりとつぶやいた。

「……箸が転がってもおかしい年頃だから」
チィミコをかばうように、うぱ華子、うぱ民子をなだめるかのようにうぱ倫子が続ける。

「……これだから、不思議ちゃんは」
少し間をおいた後、そう言ってうぱ華子はくすりと笑い、うぱ民子からは諦めたようにため息が漏れた。
依然チィミコはひたすら笑い続けている。しかしうぱ倫子の一言で場にはびこっていた怒気が薄れた。

「……まぁいいわ。珍しいものを見たら笑ってしまうって言ってたからね。ちょっとのあいだ辛抱よ」
冷静さを取り戻し、周りに言い聞かせるようにうぱ華子は声に出す。
「いやー、なんか止まりそうな気しないけどなー」
「そのうち止まるんじゃないかな?」
うぱ民子、うぱ太郎が思ったままに答える。

「あーははははっ! うひゃひゃひゃひゃっ!」
「……チィミコちゃん?」
「へっ変な顔、神様!うははははっ!」

 うぱ華子たちが呆れる中、まるで唯一の理解者でもあるかのように、うぱ倫子は笑い転げるチィミコに
そっと声を掛ける。

「……あの、……チィミコちゃん?」
「あははは、はひっ? えぶふっッ!!!」

「「「 ――!? 」」」

 突然、チィミコが派手に噴出した。
164「 グレートサラマンダーZ 」:2011/09/16(金) 23:09:00.01 ID:GKvmSnu1

「げへっ、げほっ、げほっ」

 呼びかけに答えようとして息継ぎが狂ったのか、うぱ太郎たちの前でチィミコが激しく
咳き込み始めた。

「ごふっ! げほっ、げほっ、げほっ」
「あはは、やっぱ馬鹿だ」
咳き込むチィミコの前で、いい気味だと言わんばかりにうぱ民子は冷笑する。

 しかし悠長に構えてる暇はない。
幼子のように手で口を覆うことも知らず、つばを飛ばし激しく咳き込むチィミコはうぱ太郎たちに
とってもはや災いをもたらす狂った巨人でしかなかった。
 
「ごほっごほっ!!!……ぶへっ! げほっ、げほっ」
「退避よ退避っ!」
飛び交うつばと衝撃波にうぱ華子が血相を変えて叫ぶ。
「ぶふっ! ごほっ、ごほっ」
「うわー……」
「汚いなー、もー」
雨宿りでもするかのように、そそくさとうぱ太郎たちは開いたままのグレートサラマンダーZの
口の中に逃げ込んだ。そして手の施しようのない巨人の行く末を見守った。

「えぶ、ふ、ぶはっ!!!」
「……チィミコちゃん大丈夫?」
グレートサラマンダーZの中からうぱ倫子が咳の止まらないチィミコに話しかける。

「ひっ、……げほっ、げほっ、げほっ!」
「……チィミコちゃん?」
むせる原因になってしまったことを気にしてか、うぱ倫子は心配顔で呼びかける。

「げんげんっ! ……げへっ、ごほん。……げんっ!!!」
聞くに堪えない酷い声が少女の口から発せられる。
「……おほん、ううん、あはん。 げんげんっ!!!  ……ふー。死ぬかと思った」
だがそれで喉の具合を取り戻したのか、チィミコは薄く滲んだ涙を拭いグレートサラマンダーZの前に
座り直した。

「……チィミコちゃん?」
幾度とうぱ倫子は呼びかける。

「もう大丈夫だ。えーと白の子は……」
頭をかがめ、チィミコはグレートサラマンダーZの口の中を覗き込む。
「……うぱ倫子。……倫ちゃんて呼んでもらえれば」
もじもじと、少しはみかみながらうぱ倫子は答える。

「リンちゃんな、わかった。それにしても凄いな。グレマン様どうなってんだ?
やっぱりオロチ様か? 丸呑みした魚戻したのか? って言うかなんでナマズが喋るんだ?」
165「 グレートサラマンダーZ 」:2011/09/16(金) 23:10:05.04 ID:GKvmSnu1

「……チィミコちゃん、もう喉は大丈夫かな? つばとかせき飛んでくるとちょっと
僕たち辛いんだけど……」
巨大な顔を目の前にして若干動揺しながらも、うぱ太郎はチィミコに話しかける。
「もう心配ない。それよりタロウちゃんでいいのかな?」
「……うん」

 会話がまわり始める。
うぱ倫子は咳が止まったのよほどが嬉しかったのか、瞳をキラキラと輝かせチィミコを見つめていた。
人との直接対話に慣れてないせいか、うぱ太郎は怯えた子猫のようにチィミコの挙動を伺っていた。
 謎の笑顔を浮かべるウーパールーパー。
しかしその表情から心情を察することは不可能に近い。
困惑気味なうぱ太郎には気づきもせず、チィミコは興奮を隠し切れず盛大に喋り始めた。

「グレマン様も凄いけどタロウちゃんたちも凄いな。なんか足生えてるし、角みたいなのも生えてるし、
なんて言っても人の言葉話せるし。やっぱりタロウちゃんたちは神様じゃないのか!?」

――古代の日本にウーパールーパーなんているわけないし。僕以外派手な色だし。でも……

「……僕は、……僕たちは神様でもナマズでもないよ」

「分りやすく言えば、そうね、あたし達は蛙の仲間よ。赤い腹のイモリでもいいわ」
歯切れの悪いうぱ太郎にとって代わり、すぐさま隣のうぱ華子が話し始めた。

「凄い色だな。えーと、なんて呼べばいい?」
うろたえ、そして笑い転げていたのが嘘のようにチィミコは笑顔でうぱ華子に尋ねた。
「褒め言葉として受け取っておくわ。あたしはうぱ華子。華ちゃんて呼んでちょうだい」
うぱ太郎を押しのけただけあって、うぱ華子の会話運びには余裕がある。

「わかった。でもハナちゃん、カエルってけろけろ鳴くカエルだよな? 全然似てないけど?」
「チィミコちゃん、大人になる前の蛙の姿見たことない?」
「大人になる前……?」
うぱ華子の問いかけにチィミコはよりいっそう顔を近づけて聞き返した。
うぱ太郎は少したじろぐ。だがうぱ華子は会話の主導権を握るかのように堂々と振舞う。

「そう。春に田んぼとか水たまりで泳いでるわよね、頭にしっぽがついたような変なの。
それが次第に手足が生えてきて、その代わりしっぽがどんどん縮んでいく。そして最後にはしっぽも消えて、
大人の蛙として生きていく。小さいから気にもしてないかもしれないけどチィミコちゃんは手足が
生え始めた頃の蛙って見たことない?」
「あーあるある。あはは、そう言われればおたまじゃくしってとぼけた顔してるもんな」
幼生期の蛙の様子を思い出し納得したのか、チィミコは笑顔でぱちりと手を合わせた。

「とぼけた顔ってひどいなー」
「あはは、ごめんごめん。菜の花みたいだな、名前は?」
チィミコの返事に不満を覚えたのかうぱ民子が口を挟む。

「わたしはうぱ民子。民ちゃんでいいよ。て言うか、チィミコちゃん、あんた笑いすぎ。
わたし達のこと変な顔とか凄い色って言うけど、それはチィミコちゃんが世の中のことを知らないだけで
変な顔の生き物なんて他に数え切れないくらいうようよいるよ。
まぁ笑われるのは慣れてるけどチィミコちゃん、珍しいもの見たら笑うって癖は直したほうがいいね。
わたし達は別にいいけど相手が違ったら取り返しのつかないことに成りかねないよ?」
いつになく真剣な表情でうぱ民子はチィミコに忠告する。
「あはは、ごめんなさい。ところで、もしかしてみんなは南の海の生まれなのか?」
しかしチィミコはあっさり受け流し話題を変えた。

「…………」
グレートサラマンダーZの中、一瞬、顔を見合わせる。
そしてチィミコの質問にうぱ太郎が返した。
166「 グレートサラマンダーZ 」:2011/09/16(金) 23:10:51.68 ID:GKvmSnu1

「……どうしてそう思うのかな?」
「いや、私も見たことはないんだけど、南の海に行くと凄い色した魚がうようよ泳いでいるって
聞いたことがあるんだ。タロウちゃんは魚っぽいけどハナちゃん達みたいな色の魚は私の村の近くじゃ
見ることないからもしかしたらって思ってさ」

――熱帯魚のことかな? テレビどころか本だってあるわけないからそう思われても仕方ないか……

「たしかにもともとの生まれは海の向こうのここよりはずっと南のところよ。
ただ、さっき言ったようにあたし達は蛙の仲間で魚じゃないわ。海じゃなくて沼で生まれたのよ」
思案中で言葉が出ないうぱ太郎に代わり、うぱ華子が答えた。
チィミコからすぐさま次の質問が飛んでくる。

「沼か。じゃあ、海にかかわらず南の国には凄い色した生き物がいっぱいいるってことなのか?」
「いっぱいってことでもないけどここの村よりは確かに多くいるでしょうね。
でもそれはさっき民ちゃんも言ったけどチィミコちゃんが知らないだけであたし達にとっては別に
珍しいことでも何でもないの。それに何も凄い色をしてるのはあたし達だけじゃないわ。
……でも、その話しを始めると物凄く長くなるから今は駄目ね。
ところでチィミコちゃん、喉はもう大丈夫かしら? あたし達グレマン様から出ても大丈夫?」
何か思惑があるのかそう答えてうぱ華子は会話の流れを断ち切った。

「ああ、すまない、もう大丈夫だ。さっきはごめんなさい」
うぱ華子の声にチィミコは真顔に戻り詫びを入れる。そしてうぱ太郎たちが出やすいようにと
後ずさりして場所をあけた。

「大丈夫そうね。なら、みんな出ましょうか?」
うぱ華子の呼びかけに応え、うぱ太郎たちはまたよたよたとチィミコの前に出た。
「みんな面白いって言うか、なんか可愛いな」
あらためて出揃ったうぱ太郎たちをチィミコはまじまじと見つめる。

「えへへ」
「……ありがとう」
「…………」

――社交辞令……? 民ちゃんと倫ちゃんは分りやすいな。

 チィミコの言葉にうぱ民子とうぱ倫子は照れたような仕草を見せる。
しかし、和気あいあいと成りつつある場でうぱ華子はその言葉にふれもせず真剣な表情で話し始めた。

「チィミコちゃん。大事な話しまだ終わってないんだけど続けていいかしら?」
167創る名無しに見る名無し:2011/09/16(金) 23:11:31.67 ID:GKvmSnu1
今日はここまで
168創る名無しに見る名無し:2011/09/16(金) 23:28:17.39 ID:GAAev32p
投下乙
和解できたようで良かった
169創る名無しに見る名無し:2011/09/17(土) 12:48:29.72 ID:abb7vJTO
投下乙!
170創る名無しに見る名無し:2011/10/16(日) 01:13:59.35 ID:NSOTXTxF
171創る名無しに見る名無し:2011/10/16(日) 01:49:12.28 ID:mAxm+vuw
ちょwww
172創る名無しに見る名無し:2011/10/16(日) 21:27:19.48 ID:k1egDnXB
怪物じゃねーかw
173創る名無しに見る名無し:2011/12/12(月) 11:01:38.36 ID:qZrNTFuj
「ウーパー(以下略)」という名称は、創価学会員が珍獣ブーム当時に銭儲けを企んで
日本で商標登録した、根拠も何も無い「偽名」である。しかも当人は借金踏み倒して夜逃げしたらしい。

学校や家庭でも、この動物を飼う際には、教育上カルト信者の付けた偽名を常用するのはいかがなものか?
アホロートルが嫌なら、メキシコサラマンダーと呼べばいい。
174創る名無しに見る名無し:2011/12/12(月) 16:06:26.22 ID:f3aLEawu
メキシコサラマンダー、つまりウーパールーパーは流通名。
メキシコ語で「愛の使者」。商標でもなんでもねーよバーカバーカ
175創る名無しに見る名無し:2011/12/16(金) 08:29:45.69 ID:Ya81dHRr
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176創る名無しに見る名無し:2012/01/30(月) 19:18:43.25 ID:cxWJt0pw
t
177「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:09:39.81 ID:tuSg0i0y

「ああ、すまない。続けてくれ」
「さっきグレマン様、海を渡ってる途中で嵐に遭って風で吹き飛ばされてしまって気がついたら
ここにいた。って言ったわよね?」
「ああ。それで帰り道がわからなくなったんだろう?」

 藁で覆われた床や壁。暖房と照明をかねた、暖炉やかまどと呼ぶには少し抵抗のある薪の燃やし場。
部屋の片隅に置かれたつやの無いさまざまな形の土器や木器。
 しかし現代社会とはおよそかけ離れた異質な住居の中にあってもうぱ華子はまるで意に介さず、
チィミコの返事を聞き朗々と話を続けた。その隣でうぱ太郎は心もとなげに二人のやり取りに耳を傾けている。

「そう。でもそれもそうなんだけど実はもっと困ったことになってしまっててね。グレマン様、
風に吹き飛ばされたはずみで怪我しちゃったのよ」
「怪我……?」

 疑問を感じたのか、チィミコはうぱ華子からグレートサラマンダーZに視線を移した。

「……そう。グレマン様ぴんぴんしてるからそう見えないかもしれないけどね。
海を渡るってすごい大変なことなのよ。どんなに大きな船でも大波とか強い風を受けてひっくり
返ったり、そのまま海の底に沈んじゃうことがいっぱいあるわ。だからもし帰り道が分っても怪我したままの
グレマン様に乗って海を渡るなんてそれこそ死にに行くようなものなのよ」

 グレートサラマンダーZに怪我らしき外傷は見当たらない。
それでも会話の流れに従い、チィミコはグレートサラマンダーZを眺めながら同情を思わせる静かな声で答えた。
「……海を渡るのは命がけっていうからな。聞いた話だけど」
「そう、命懸けよ。それで大事な話というかお願いなんだけど、あたし達グレマン様の怪我が
治るまでこの村にいていいかしら?」

―― それにうまく立ち回ればあたしたちは神になれるわ。

 うぱ華子の声が蘇る。とくんと鼓動が波打つ。
騙そうとしているわけではない。ただ通じない言葉を分り易くして、過去の人間に助けを求めてるだけ。
そう強く、うぱ太郎は心の中で唱えた。

「ああ、別にいいよ。始めからそのつもりだったし」
揺れ動くうぱ太郎のことなど眼中にないように、チィミコは二つ返事で快く承諾した。
 了解は得た。
しかしそれで良しとせず、うぱ華子は伏し目がちに話を重ねた。

「ありがとう。……でもね、ここが一番大事なとこなんだけど、もしかしたらグレマン様の怪我
治らないかもしれないのよ」
「……治らない?」
「そう。むしろ一生治らないって思ってたほうがいいくらいだわ」

 まだ幼さを匂わせる顔から笑みが消える。
ぱちりぱちりと焼けた炭の砕ける音だけ薄暗い部屋に響いた。

 交渉。もしくはぎりぎりのやりとり。
自分の踏み込めない沈黙に堪えきれず、うぱ太郎は思わずごくりとつばを飲む。
 少し陰のあるうぱ華子の返事にチィミコはなにか重大な会議でもしているかのように、
腕を組み眉間にしわを寄せ、そして答えた。

「……グレマン様に効くか分らないけど私の村には痛くなくなる薬あるぞ、私作ってるんだけど。
どっか痛いんなら飲ませてみるか?」
178「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:10:44.83 ID:tuSg0i0y

――こんな時代に薬なんてあるのか? 薬草とか……?

 グレートサラマンダーZに薬が効くことはない。
ただ薬を作ってると言う意外な返事に、うぱ太郎は腕を組んだままのチィミコを食い入るように見つめ直した。

「……ありがたいけど薬は効かないと思うの。そうね、人に例えるなら歯が1本欠けたような感じなのよ。
ちょっと喋りづらかったり食べ物食べづらいけど、そのうち慣れてくる。でも欠けた歯はもう元に戻る
ことはない」
「……歯か。確かに欠けたり抜いたりしたら歯は元通りにはならないな。……じゃあ、もしかしたら
グレマン様の歯が治らない限りハナちゃんたちは大陸に帰れないってことか?」
「実際怪我してるのは歯じゃないけど、そうなるかもしれないわね。まだ決まったわけじゃないけど」
腕組みをほどき両手で顔を覆った。そしてチィミコは手を離し姿勢を正した。

「……そうか。……まぁそうだな、田植えが始まるまでは暇だしこの村でゆっくり休んでればいいよ。
それからのあとのことはおいおい考えていこう。いずれにしてもハナちゃんやタロウちゃん達は
大事なお客様だから村のことは気にしないでいい」
 僅かに静寂があった。
しかしそう言った後、何事も無かったようにチィミコに笑顔が戻った。

――華ちゃんもチィミコちゃんも話が早いな。……だけど信用してもらえるのは嬉しいけど
  こんなに簡単に決めちゃっていいのかな?

「太郎ちゃん、田植えってゴールデンウィークの頃よね?」

 不意にうぱ華子から小声が飛んでくる。

「……えーと、たぶんその頃だと思う。準備とかあるからもっと前のこと言ってるかもしれないけど」
「明日が春分の日ということだから余裕で半月以上はあるわね。とりあえずはOKとしましょうか?」
「……うん」
何か得体の知れないわだかまりを感じながらも、うぱ華子の呼びかけにうぱ太郎は小さくうなずいた。
 だがその一方で、うぱ倫子は憧れの人を見るような眼差しをチィミコに向けたままで、うぱ民子は
つまらなそうにエラをいじっている。

「……じゃあチィミコちゃん、先のことはどうなるか分らないけどしばらくお世話になるわ。よろしくね」
うぱ倫子とうぱ民子の態度に少し顔をしかめながらも、うぱ華子はチィミコに礼をつくした。
手のひらで軽く胸元を叩きチィミコもそれに応える。
「ああ。小さいことは気にしないでゆっくりしてってくれ。私も大陸の話とか聞きたいし」
「ねーねー、チィミコちゃん。お水ある? わたし喉乾いた」

――うわー、またかよ……。

 唐突にうぱ民子がうぱ華子とチィミコの会話に割り込んできた。
小さな舌打ちが出る。それを悟られないようにうぱ太郎は黙って下を向く。

「あー、ごめんごめん。気がつかなかったな、今出すよ」
だがうぱ太郎のそんな小さな悪態など気づく訳もなく、チィミコはいかにもすまなさそうに立ち上がり、
棚から小さめの洗面器のような皿を持ち出しうぱ太郎たちの前に置いた。そして壁沿いに置かれた取っ手の
付いた壷に手を掛ける。
「かなり冷たいと思うけどいいか……?」
そう言いながら、チィミコは壷に入った水を両手で皿に注ぎ始めた。

 水を注がれたのを見届け、うぱ民子は皿に近づき縁に両手をかける。
そして心配顔のチィミコが見守る前で、身を乗り出しそっと水に口をつけた。
179「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:11:41.33 ID:tuSg0i0y

「おー! いい水だ」
「おっ、そうか? いい水か!?」
うぱ民子の一言に、チィミコの声が弾む。
「うん。すがすがしい山の水だね。みんなも飲めば?」
なぜか得意顔でうぱ民子はうぱ太郎たちに水を勧めた。
一通り顔を見合わせたあと、うぱ太郎たちも皿に近寄り四方からそれぞれ水を飲み始めた。

「当然といえば当然だけど薬臭さは全然ないわね。確かにいい水だわ」
「……おいしい」
「うん、いい水だと思う」
「チィミコちゃん、あとその焼いてる魚食べていい? ちょっとでいいんだけど」

 先に水を飲み終え一息ついたうぱ民子が客人としての立場を利用してか、それとも単に
遠慮を知らないだけなのか、魚を食べたいと何の気兼ねもなくチィミコに無心する。

――結局、民ちゃんはいつでも誰とでもあの調子なんだ。

「いいよ。うちの村で獲れた魚じゃなくて海の魚だけどいいか?」
うぱ民子の注文に特に嫌な顔もせず、チィミコは焼き上げ中の開いた魚の串を手にした。

――僕もあんな風にふてぶてしくしてた方がいいのかな? ……出来そうにないけど。

 遠慮という言葉を知らなさそうなうぱ民子を横目で見る。
浅ましい図々しいと思う反面、場の空気を読まないで好き勝手に発言するうぱ民子を
うぱ太郎はどこか羨ましくも思う。

「うん、いいよ。それで太郎ちゃん、ちょっと味見してみて」
「え……? ……僕?」
いきなりうぱ民子に問いかけられ、言葉が詰まる。
「うん。脂多そうだから合うかどうかってことで」
「……うん。まぁ、いいけど」
焼いていた魚は小ぶりな鯵の開きのようなもので問題はなにも感じなかった。
少し空腹を感じていたこともあり、流れのままにうぱ太郎は味見役を引き受けた。

 大切な話。
それが済んだことを理解しているように、チィミコはうぱ太郎とうぱ民子の話をにこやかな顔で
やり過ごし、楽しそうに焼いた魚の身を素手でほぐし、息を吹きかけて冷ました。
そして一切れを指でつまみ、瞳を輝かせながらそっとうぱ太郎の前に差し出した。

「このくらいでいいか?」
「あー、あの、……もうちょっと小さくしてもらえるかな、口に入らないから」
少し高い位置で出された魚の身はとても一口で食べられる大きさではなかった。
うぱ太郎の注文を聞きチィミコはふんふんと鼻歌を歌いながら、つまんでいた魚の身を更にほぐした。

「このくらいか?」
「……うん、それで」
満面の笑みでチィミコはあぐらをかいたままぺたりと身体を折り曲げた。
そしてゆっくりとうぱ太郎の前に魚を出した。

「じゃあ、どうぞ」
「……ありがとう。いただきます」

 まだ悠然と構えられるほど人との直接対話には慣れていない。
ただチィミコに悪意や危害を加えられるような気配はまったく感じられなかった。
 恐る恐るではあるがうぱ太郎は両手をあげ、木の実を大事そうにかかえるリスのようにチィミコの
指から魚の身を受け取った。
180「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:12:38.78 ID:tuSg0i0y

「ん?」
「……?」

 無事に魚は受け取れたはずだった。
しかし魚の身を持つうぱ太郎の上空で、笑顔から一変、チィミコの瞳に険しさが混じった。

「んんっ?」
疑問符を残し、今度は身を乗り出してうぱ太郎の足のあたりを注目する。
「……な、何かな?」
大きな瞳にじろじろと見られ、うぱ太郎は不安げにチィミコに尋ねた。

「ぶふっ!」
「な、何っ!?」
思わず貰った魚の身を落としそうになる。うぱ太郎の前でなぜか突然チィミコが噴き出した。

「うはははは、足の指5本あるのに手の指4本しかないっ!何で何で!?」

―― …………。

 魚を手にして固まっているうぱ太郎の前でチィミコが豪快に笑い始めた。

 初めて見るウーパールーパー。
単純でありきたりな疑問。笑われてはいるが貶されている訳ではないと理解はしている。
しかし蓄積した疲労からか、ふてくされたような小声がうぱ太郎の口から漏れた。

「……何でって言われても。……生まれつきこうだから」

「じゃあ聞くけどチィミコちゃんの手の指はどうして5本あるのかしら? その気になれば別に
4本でも生きていくうえではそんなに困らないんじゃない?」
疲れや苛立ちが見え隠れするうぱ太郎の返答にうぱ華子がすかさず助け舟を出した。

「……何でだろ? ……そう聞かれれば答えられないな」
笑うのを止め、そう言ってチィミコは顔の前で両手を大きく開いた。そして5本あるのを確認する
かのように両手の指を1本1本折り始めた。
「チィミコちゃんが答えられないのと同じことよ。太郎ちゃんが言った通り生まれつきこうだから。
それにあたしたちは蛙の仲間って言ったわよね。たいていの蛙も手の指は4本、足の指は5本だわ」
「……そうなのか? 蛙の足の指も5本あるんだ、知らなかった」

「ねーねー。指の話はもういいからさぁ、魚食べようよ。せっかくばらしてくれたんだから」
食べ物を目の前にしながら話が脱線していくのを嫌ったのか、うぱ民子がこれ見よがしにうんざりした
声で言い放った。
「あはは、ごめんごめん。タロウちゃん食べてみてくれ。海の魚だ、美味いぞ!」
うぱ民子の声にばつが悪そうに謝り、チィミコはまた笑顔でうぱ太郎に魚を勧めなおした。

「……うん。……じゃあ、いただきます」
手にした魚の身からは僅かな熱と焼いた脂の匂いが漂っている。
言われるがままにうぱ太郎は口の中に放り込んだ。

「……あ、美味しいや」
「ホント?」
「うん。脂もそんなきつくないし、焼いてあるから噛みごたえもあるし」
「じゃー、わたしも食べる」
181「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:13:32.29 ID:tuSg0i0y

 うぱ太郎の感想を聞き、うぱ民子は皿の脇に寄せられた魚の身を取った。
すぐにうぱ華子うぱ倫子も集まり、皿に手を伸ばした。

「なかなかいけるわね」
「……おいしい」

そんなうぱ太郎たちをチィミコは何も言わずにこやかに眺めている。
「ご馳走様でした」
「えっ、もういいのか?」
しかし二切れほどで食べるのを終えたうぱ民子に驚きの声をあげる。

「うん。わたしそんなに食べなくても大丈夫だから。美味しかったよ」
「そうか……」
皿に盛られた魚の身は半分も減っていない。
うぱ太郎は三口目をほおばっているが、うぱ華子たちはそれぞれ二切れ食べて終わりだった。

「……タロウちゃん達は魚の他になに食べるんだ? 好きなものとかあるのか?」
魚を気に入らなかったと思ったのかチィミコはうぱ太郎に食べ物の嗜好を確認する。
口に含んでいた魚をごくりと飲み込む。そしてしばらくうぱ太郎は考え込む。

「……えーと、ミミズとか小さい魚とか、あとはあまり固くない虫とかかな?」
「ミミズをきれいに洗って、叩いて動かなくしてくれればそれでいいわ。あと魚はいま食べた
みたいに身のところ小さくほぐしてくれれば海の魚でも川の魚でもどっちでも構わない。
でもさっき民ちゃんが言ったけど、あたしたち体も小さいしそんなに多くはいらないのよ。
1日1回、今ぐらいのものが食べられたらそれでお腹いっぱいよ。2、3日食べなくても
なんてことないから」
うぱ太郎の声に続き、うぱ華子が解説をつけ加えた。

「ミミズってにょろにょろするミミズだよな? そんなんでいいんだ」
「ええ、それで構わないわ。ただ細くて短いミミズよ。大きいのは食べきれないから」
「そうか。それなら私一人でも出来るな」
うぱ華子の声にチィミコはふむふむとうなずく。
そしてうぱ太郎たちを見つめ返したあと、グレートサラマンダーZに視線を移した。

「……あとはグレマン様だな」

――……あれだけじゃ納得してくれないよな。

 グレマン様は何も食べなくていい。
少し困ったようなチィミコのつぶやきを聞き、うぱ太郎はまだ自分の姿を晒す前にチィミコに
向けて言ったことを思い出していた。
そして少し間を置き頭の中を整理して、頬に手をあて考え込んでいるチィミコに話しかけた。

「グレマン様は僕の言うことしか聞かないから、グレマン様のことは気にしなくていいよ。
チィミコちゃん。あとで大きい川があるところ教えてくれないかな。そしたら僕がグレマン様に乗って
水やったり食べ物やったりするから」
 多くは語らなかった。
チィミコに説明しても理解してもらえるとは思えなかった。
182「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:14:25.05 ID:tuSg0i0y

「……それでいいのか?」
少し不思議そうにチィミコは真顔でうぱ太郎に問い返す。
尻尾を含めれば大人の倍近くありそうな体とそれこそ化け物じみた巨大な口。
グレートサラマンダーZが肉、魚、なんでも食い尽くす大食漢に見えるのは仕方のないことだろう。
「うん。それでいいよ」
しかし疑問を受け流すように、うぱ太郎はさらりと答えた。

「そういえばさっきからグレマン様、口開けたまま動かないけど怪我してるせいか?」
うぱ太郎の返事を素直に受け入れたのか、チィミコの口から新たなる疑問が湧き出る。

 にわかに信じがたいことではあるが何千年も前の時代にいる。
素性を隠す必要はない。しかしロボットという言葉を説明する気力もなく、うぱ太郎は単刀直入に
ありのまま答えた。
「……えーと、グレマン様は僕の言うことしか聞かないって言うか、僕が乗らないと動かないんだ」
「またまたー。オオシカって言うかウマなんてほったらかしにしたらどこにでも遊びに行くぞ?
やっと最近になってちゃんと帰ってくるようになったけど」
うぱ太郎の返事にチィミコは大袈裟に疑うような声をあげた。
軽く笑いながらすぐにうぱ太郎はチィミコの疑問に答えた。

「あ、ホントに。今だったらグレマン様にさわってもうんともすんとも言わないよ」
「……ホントに? ……さわってみてもいいか?」
「うん、どうぞ」
うぱ太郎の声にチィミコは口を開けたままのグレートサラマンダーZに近づき、恐る恐る
右手で頭を撫でた。
 グレートサラマンダーZはぴくりとも動かない。
怪訝な顔つきのまま、更に無理矢理押さえつけるようにチィミコはグレートサラマンダーZ
の頭を撫でた。しかしうぱ太郎の言うとおりグレートサラマンダーZは微動だにしなかった。

「……凄いな。……どうやってしつけたんだ?」

 種明かし。しかしそんな言葉も通じるか不明な時代。
グレートサラマンダーZの前でぽかんと口を開けているチィミコが急に滑稽に思え、うぱ太郎は声を出して笑った。

「ぷっ、あはははは」
「ん? なんか私変なこと言ったか?」
「あー、ごめんごめん。なんでもないんだ」 

――ロボットって言ったところで通じるわけないし。操り人形って言ったって分らないだろうし……

「さっきも言ったけどグレマン様は僕が乗らないと動かないんだ。だからグレマン様の世話は
僕にしか出来ないんだ。僕がやるからグレマン様のことは気にしなくていいよ」
「グレマン様はオオシカみたいに機嫌悪かったら勝手にどっか走って逃げたり暴れたりしないのか?」
不思議そうな顔でチィミコはうぱ太郎に問いかけた。
「うん、それは大丈夫。いきなり暴れたりはしないよ」

――僕しだいだけど……。

「……本当か?」
素性の知れないものを村におくことになるためか、チィミコはうぱ太郎に念を押すように確認する。
183「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:15:15.47 ID:tuSg0i0y

「チィミコちゃん。信じられないかもしれないけどグレマン様は太郎ちゃんの言うことしか聞かないよ。
だからわたし達とかチィミコちゃんが動けって言っても、動かそうとして叩いたりしても絶対動かないよ。
馬だったらチィミコちゃんの言うこと聞くかもしれないけどグレマン様はチィミコちゃんに動かすことは
出来ないね。なんだったら叩いてみてもいいよ」

 なぜかうぱ太郎の隣でうぱ民子が自慢げに喋りだした。
そしてチィミコに気づかれないように、下がれとでも言いたげに手のひらをくいくいと動かした。
 うぱ民子の仕草の意図はすぐ理解できた。
グレートサラマンダーZから距離をとれば自動で口は閉まる。その瞬間、閉まれと言えば、いかにも
言うことをきいたように見える。
 距離感覚は身体が憶えている。
しかし1メートルも後ずさるのは骨が折れるし、どうみても不自然極まりないことでもある。

――まったく人使い荒いな、こっちの身にもなってよ。

 心の中で愚痴りながらも、うぱ太郎は人知れず後ずさりを始めた。
案の定チィミコは軽く拳を握り、遠慮がちにグレートサラマンダーZを叩き始めた。
「チィミコちゃん、グレマン様って硬いから程々にしないと怪我するよ?」
適当に見えて実は結構観察しているんだなと、チィミコに注意を促すうぱ民子をうぱ太郎は
ちょっとだけ見直した。そしてじわじわと後退し、あとわずかという位置で待機する。

「……チィミコちゃん。叩きすぎ」
「手痛くしても知らないわよ」
反応の無いグレートサラマンダーZを意地でも動かすつもりなのかチィミコは無言で拳を振り続けている。
双方を心配してかうぱ倫子とうぱ華子が声を掛けた。しかし返事は無い。

「チィミコちゃん。いくらなんでもそんなに叩いたらグレマン様痛いから」
貸したおもちゃが無下に扱われているような怒りを感じ、うぱ太郎は語気を強めた。
注意にはっとし、行き場の失った拳をごまかすようにチィミコはその手で頭をかいた。
「チィミコちゃん、危ないから気をつけて。グレマン様、口閉じて」
反省は見える。大人げないとも思う。
だがうぱ太郎は意地悪を意地悪で返すように、そう言って一気に後退した。

「うわっ!?」

 うぱ太郎の声と共にグレートサラマンダーZの巨大な口が威勢よく閉じた。
驚き飛びのく。はずみでチィミコは派手にしりもちをついた。

「あはは、だから言ったじゃーん。グレマン様は太郎ちゃんの言うことしか聞かないよって」
「……チィミコちゃん。グレマン様が口開いているときはなるべく近づかないようにしてちょうだい。
グレマン様は人を食べたりしない。だけどグレマン様にイタズラしようとして口に手とか入れたら
簡単に食いちぎるからね。村の人たちにもあとで話さないといけないわね」
したり顔でうぱ民子は笑い、冷めた口調でうぱ華子は話しかける。
だがチィミコは足をだらしなく広げ、ただ呆然とグレートサラマンダーZを見てるだけだった。
184「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:16:14.60 ID:tuSg0i0y

「……チィミコちゃん、そのまま離れてて。……グレマン様、口開けて」

 続けざまにそう言って、うぱ太郎は一歩前に出た。
 声と同時にグレートサラマンダーZが大きく口を開いた。

「――!?」

 怪物。そうとしか呼べないものが激しく動いた。
のけぞりしりぞく。そして命令を下した奇妙な生き物に目を向ける。
「……本当にタロウちゃんの言うことしか聞かないんだな」
いまだ半信半疑な表情でぼんやりとチィミコはつぶやいた。

「 …………。」

――ちょっとやりすぎたかな……

 チィミコと目が合う。
前いた場所から明らかに離れた場所にいる。しかしチィミコはまるで気づいていない。
そしてついさっきまで見せていたあどけない笑顔も、戻って来そうな気配はなかった。

「ねーねー、太郎ちゃん、まだ水飲む?」
「えっ? ……僕はもういいけど」
不自然に映らないようにじわじわと前進しているうぱ太郎に、うぱ民子からまったく脈略のない
話が振られた。

「そう?じゃあ、水浴びしていい?」
うぱ民子は水の入った器をちらりと見る。
「あ、うん。僕は別にいいけど」
「……わたしも水入りたい」
「僕は構わないよ。華ちゃんは?」
「どうぞ。あたしも飲み水はもう要らないわ」
うぱ太郎とうぱ華子の返事にうぱ民子とうぱ倫子はそそくさと水を飲んだ皿に向かう。
そして少し窮屈そうに、それでも嬉しそうに並んで半身を水に沈めた。

「うはー、生き返るー」
「……気持ちいい」

「……タロウちゃんたちはいつもは水の中で暮らしてるのか?」
気の抜けたうぱ民子の声に険しい表情が緩み、チィミコに笑顔が戻った。
「うーん……。元々は水の中だったんだけどいろいろあって、今は水の外でも大丈夫。
まぁ、蛙と同じだと思ってもらえればいいかな」
派手にグレートサラマンダーZを動かし、脅かせたことを少し悔いている。
ここぞとばかりにうぱ太郎はチィミコへの気遣いの言葉を探しだす。

「……ところでチィミコちゃん。チィミコちゃんはご飯食べなくていいのかな? なんか火に
かけっぱなしだけど。もう充分煮えてるんじゃないかな」
「あーっ、忘れてた!」
うぱ太郎の声にチィミコは勢い良く立ち上がり、藁で編まれた鍋つかみのような手袋をはめ、
急いで火に掛けていた鍋を下ろした。

「タロウちゃん、ホントに魚もういらないのか?」
そして今度は身がほぐされた魚の乗る皿を手に取り、チィミコはうぱ太郎に尋ねた。
「うん、僕はもういいけど」
食べろと言われれば食べられるが、胃袋はもう充分満たされている。
遠慮しているわけでもなくうぱ太郎は素直に答えた。
185「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:17:20.57 ID:tuSg0i0y

「じゃあ私残り食べていいか?」
「うん」
うぱ太郎の返事にあからさまにチィミコの顔つきが変わる。
「じゃあ、こんだけ明日の分ということで」
手袋を外しチィミコは素手で魚の身を少しとりわけ皿の隅に寄せた。
そして皮や頭のついた焼き魚をそのまま鍋に入れ、近くにあった木製の大きなへらの
ようなもので鍋をかき回し始めた。

「うはは、あったかいの久しぶりだな。いただきます」

 左手に再び藁の手袋をはめ鍋を押さえる。
すぐに右手でへらを持ち、チィミコは鍋から中身をすくった。

――おかゆ……?

 鍋の中身は見える位置にない。
ただスプーン状のへらにはわずかに乳白色の汁がついているのが分る。
ふうふうと息を吹きかけ、チィミコは嬉しそうに口元にへらを運んだ。

「うわちちちっ!」
まだ熱さが取れていなかったのか、一口すすって慌ててチィミコはへらから顔を離した。
繰り返し息をかけ、そしてまた口を近づける。
「うん、フキだ。やっぱ春はこれだな」

――春でフキと言えば、ふきのとう……?

「海の魚も久しぶりだな」
二三口すすったあとチィミコは左手の手袋を外した。そして鍋からすでに原型をとどめていない
焼き魚をすくい上げ、空いている皿に寄せた。

――えっ……?

 うぱ太郎たちを気にすることもなく、チィミコは魚の頭を片手で取り、わずかについた皮や肉を
そぎ落とすようにしゃぶり始めた。

「……チィミコちゃんは魚の頭まで食べるんだ?」
小ぶりな魚で、それほど大きいものではない。
手にした魚の頭をチィミコは猫のように犬歯のあたりでがしがしと噛んでいる。
そしてうぱ太郎の質問に食べかけの骨を置き、チィミコは右手の指を軽く舐めた。
「食べるよ。っていうか村の者全員食べるぞ。歯が少なくなった年寄りは無理だけど。何か変か?」

――ふきのとうに魚の骨。昔の人って何でも食べるんだ……

「……いや、別に変じゃないけど。……美味しいのかな?」
 野蛮。
ふとそんな言葉が脳裏をよぎる。
そして米の作が悪かったとチィミコが言ってたことも思い出す。
「美味しいぞ。そんな大きくなくて骨もそんな硬くないしな。それに硬いところはあとで炙って
食べるんだ。これがまたカリカリして香ばしくて旨いんだ」
「……ふーん。僕には無理だな」
「チィミコちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
うぱ太郎が気のない返事をした直後、うぱ華子がチィミコに問いかける。
186「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:18:04.15 ID:tuSg0i0y

「何だろう。食べながらでもいいか?」
「いいわよ、そのままでいいから聞いててちょうだい」
うぱ華子の声に再びチィミコはへらを手にした。そして鍋をかき回してはへらを口に運んだ。
頃合を見計らい、うぱ華子は問いかける。

「さっきはご馳走様、美味しかったわ。ところでこの魚、海の魚って言ってたわよね。ここに来るまで
海はなかったと思うんだけど、この村の近くに海があるのかしら?」
「近くはないけどオオシカで行けば1日はかからない。夏だったらその気になれば行って帰ってこれるくらいだ」
ずるずるとお粥のようなものをすすりながらチィミコは答える。
そういえば海はなかったなと、二人の会話を何の気なしにうぱ太郎はやり過ごす。

「その海はお日様が昇る海? それとも沈む海?」

―― !?

 うぱ華子の問いかけにはっとする。
そしてチィミコの返事を聞き漏らさないようにうぱ太郎は耳に意識を集中させる。

「昇る海だ。沈む海はずっと遠い。オオシカで行っても6日いや7日は見たほうがいいな。……ウマだった」
「そう、ありがとう。あとこの村は冬、雪は降るのかしら?」
「いや、うちの村は山に囲まれてるけどそんなに降らないな。北の国みたいにずっと真っ白って
ことは滅多にないよ。降ってもお日様が出たら2、3日ですぐ消える」

――季節感は高速を走ってたところとほぼ一緒……。
  何千年何万年前か分らないけど場所的にはタイムスリップする前とほぼ同じか……?

「ありがとう。ごめんね、ご飯食べてるところなのに。って、あら?」
唐突にうぱ華子の声が止まった。
少しでもこの世界の情報が欲しかった。すぐうぱ太郎は聞き返す。
「どうしたの?」
「まったくお気楽極楽なご身分だこと。やけに静かだと思ったら寝てるわ、こいつら」
そう言ってうぱ華子はくいと後方を指差した。
「あちゃー」
指の先では皿の上で何事も無かったような寝顔を浮かべ、うぱ民子とうぱ倫子が重なりあって眠っていた。

 ふう。とうぱ華子からため息が漏れる。
「まあ、しょうがないわね、長い1日だったし。確かに疲れたわ。チィミコちゃん、お皿まだある?
あたしも疲れたから民ちゃんたちみたいに休みたいんだけど」
「あるよ。水、注げばいいか?」
鍋を置き、すぐにチィミコは立ち上がる。

「えぇ、お願いするわ。太郎ちゃんも疲れたんじゃない?」
「……うん、……まぁ」
少しうんざりした表情でうぱ華子がつぶやく。
この世界のことを探る腹づもりが水を差され、うぱ太郎の返事は曖昧になる
「はい、どうぞ」
ベッド代わりの水の張られた皿がチィミコによって手際よく用意された。
すぐにでも眠りに入りたいのか、うぱ華子はありがとうとチィミコに礼を言い、うぱ太郎を横目に
水の張られた皿に乗り上げた。そして取り残されたうぱ太郎に一声掛ける。
187「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:21:00.60 ID:VADjoWcU

「なんだったら太郎ちゃん、一緒に寝る?」

 思いもよらぬ言葉がうぱ太郎を直撃する。

「は……? な、な、何言ってんのさ?」
予期せぬ誘いにうぱ太郎はうろたえる。だがうぱ華子は意地悪げに笑いながら、更に追い討ちを掛ける。
「あら、恥ずかしがらなくていいのよ、太郎ちゃん?」
「そっ、そ、そんなんじゃないし。い、いいよ僕グレマン様の中で寝るし考えたいことあるし」
あきらかに動揺し早口で捲くし立てるうぱ太郎を見て、うぱ華子はぷっと小さく吹き出した。
「そう。まあそれもいいかもね。チィミコちゃん、明日チィミコちゃんが起きたらあたしたちも
起こしてくれないかしら。それで明日、村の人たちにあたしたちのこと教えてくれない?」

「……ああ、分った。明るくなる前に起きるけど大丈夫か?」
どこか心残りがあるような残念そうな顔でチィミコはうぱ華子に確認する。
「大丈夫よ。ところで太郎ちゃん、邪魔になるからグレマン様、外に出したほういいんじゃない?」
そう言ってうぱ華子は部屋の真ん中に堂々と鎮座するグレートサラマンダーZに顔を向けた。

「え? ……あ、うん。……そうするよ」
「タロウちゃん、大丈夫だぞ。私一人だし寝る場所あるし別にグレマン様邪魔じゃないぞ?」
 確かにうぱ華子の言うとおりだった。
チィミコからすぐに問題ないと声が入る。しかし、からかわれた気恥ずかしさも手伝って
うぱ太郎は少し意固地になって答えた。

「あ、大丈夫。本当にちょっと一人で考えたいことあるからグレマン様外に出してその中で寝るよ」
「そうか。外暗いけど大丈夫か?」
少し心配そうにチィミコはうぱ太郎に尋ねる。ことなげにうぱ太郎は答える。
「うん、大丈夫。じゃあチィミコちゃん、明日みんな起こしたら僕のところにも来てくれないかな。
この家の周りの邪魔にならなさそうなとこで寝てるから」
「ああ分った。でも本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。グレマン様の中だったら怖いことないし」
頑なさに気づいたのか、チィミコはうぱ太郎をとどめようと言葉を繰り返す。
しかしうぱ太郎は、その声を振り切るようにグレートサラマンダーZに乗り込み、口を閉じた。

「……分った。別に家の周りそんな邪魔になるものないけど気をつけてな。いま入り口開ける」
「うん、ありがとう」
押し切られるようにチィミコは立ち上がり、家の入り口に進んだ。
うぱ華子たちに注意を払いながらゆっくりとうぱ太郎はグレートサラマンダーZを動かした。

「じゃあタロウちゃん、気をつけてな」
「うん、ありがとう。みんなおやすみなさい」
入り口の藁編みのすだれのようなものを手で押さえ、チィミコはグレートサラマンダーZを見送りに出た。
 入り口から漏れた光が地面を照らした。しかし、数メートルほどの状況が分るぐらいで行く先は
見事なまでの暗闇だった。

「太郎ちゃん、道草しないでちゃんと寝なさいよ?」

 踏み出そうとした瞬間、コックピットのモニタースピーカーからうぱ華子から声が流れた。
疲れのせいか、すぐにでも眠りにつける安堵感からか、何もかもが急にわずらわしく感じて
うぱ太郎の口から思わず本音が飛び出した。
188「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:21:48.95 ID:VADjoWcU

「……うるさいなー」
「なんか言った?」
「何でもないよ。おやすみ」
苦笑いを浮かべ立っているチィミコにおやすみと一声掛けて、うぱ太郎はゆっくりと
グレートサラマンダーZを前進させた。
 視聴覚モニターにはかすかに星影が映っているだけだった。それでもうぱ太郎はただ闇雲に
アクセルを踏み続けた。

「ちぇっ、なんだよみんな好き勝手にやりたい放題でさ。大体僕なんて人間と一緒に暮らしたこと
ないし急に人前で寝ろたって寝れないよ。それに何だよあれ。ふざけるのも大概にしろってんだ」

 ほとんど無言のうぱ倫子。空気を読まずに好き勝手に発言行動するうぱ民子。
そしてまともだと思ってたのに最後の最後でからかうようなこと平然と言ううぱ華子。
腹立たしさのままにうぱ太郎の独り言は荒くなる。

「だいたい何なんだよここ。街灯のひとつも無いなんて何て田舎だよ!」

 補正が入り視聴覚モニターがかろうじて明るくなる。
しかし、わずかに星の数が増え、空と地面の境界が分るくらいで真っ暗と言っていい状態だった。

そしてコックピットにただ1人となり溜まった毒を吐き出せたおかげか、うぱ太郎は冷静さを取り戻した。

「……まいったな。……本当に真っ暗だ」

――本当に電気どころか火を起こすことさえままならない時代なんだ……

 無意識に、踏んでいたアクセルを戻した。
安全運転を常に心がけている。煽るようなまねもしたことはない。危ないと思ったらすぐに止まる。
 腹の虫が治まらないままにグレートサラマンダーZを進ませた。
しかしそれでも身体に染み込んだ安全意識がアクセルをコントロールしていた。
独り言でぼやいたのも十数秒なはずだった。

――30メートルも進んでないはずだけど……。ここで大丈夫か?

 視聴覚モニターを凝視する。
空と地面との区別はついている。しかし見渡す限り地上から光を出すものは一切無く、一寸先さえ闇だった。

「たぶん大丈夫と思うけど一応コックピットから出て確認したほうがいいな。星が出てるから
肉眼だったらもうちょっと見えると思うし」

 誰に聞かせるでもなく独り言を言う。
ナビの時計表示を見る。午後8時をわずかに過ぎている。
 チィミコの家は、他の家から少し離れたところにあった。間違いは無いはずだった。
しかし、もし他所の家の前にグレートサラマンダーZを停めていたらと思うと確認せずにはいられない。

「大丈夫だと思うけど念のため……」
そうつぶやき、うぱ太郎はグレートサラマンダーZの口を開け、コックピットから降りはじめた。
189「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/15(水) 00:22:57.17 ID:VADjoWcU

「――!?」

 その神々しさに息が止まった。

「…………凄い。……本当に星が落ちてきそうだ」

 未知の色彩がうぱ太郎を貫く。
果てしなく深い紺碧の瑠璃の中で、うぱ太郎の存在をあざ笑うかのように幾千もの星が瞬いていた。
 力を抜けばそのまま宙に吸い込まれ、小さな星屑に変えられてしまいそうな感覚に見舞われ、
うぱ太郎は思わず身体を硬くして身構えた。

 神話の時代。

 見上げた先の星空は、あまりにも美しく、あまりにも荘厳で、
そしてまるで終焉の時を迎えたかのように、あまりにも絶望的だった。



「ははっ。あははははっ!」

 暗闇に空虚な笑い声が響く。

「くくくっ、どおりで携帯もナビも動かないわけだ。そりゃそうだ、石器時代に携帯の基地局とか
GPS衛星とかある訳ないし」

 充分理解したつもりでいた。
しかし心のどこかで、まだ覚めない夢の中にいると思っていた。
リセットスイッチを押せばテレビの電源を切るように虚構は消えると信じていた。

 全ては繋がり、世界は完結する。
もう突きつけられた現実から目をそらすには、ただ、笑うしかなかった。



「あはは、あはははは。タイムスリップってありえない。いったい何の罰ゲームですか?うぱ松さん!」

―― 僕はもう……

「くくくっ、参ったな、星座図鑑持ってくればよかった。北斗七星くらいしか分らな……い」
 
 空に向け強がりを吐く。
しかし成すすべもなく、いにしえの静寂に紛れ消えていった。



 かすかな光がひとすじとなって低い空を流れた。

 星に願いは届かない。
季節外れのホタルのように儚く消えたその光は、うぱ太郎の頬を伝う涙だった。

190創る名無しに見る名無し:2012/02/15(水) 00:23:46.82 ID:VADjoWcU
今日はここまで。
191創る名無しに見る名無し:2012/02/24(金) 21:19:30.26 ID:psxIOpd9
お帰りー
192「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/24(金) 23:02:49.27 ID:rbSNxtEl

「あたーらしい朝がきた きぼーおのあさーだ!」

―― …………。

「よろこーびに胸をひーらけ 大空あおげー!」

―― ……うるさいなー。

「ラジオーの声にー 健やーかな胸をー!」

―― ……まったく、ラジオ体操の歌なんてどこの小学生だよ!

「このかおーるかぜーにひらーけよ それ、いち、にぃ、さんっ! 太郎ちゃんおはよー!!!」

―― っ!?

「……太郎ちゃん、お早う」
「グレマン様、タロウちゃん、起きてるか?」

―― …………。

 著しく理解不能。

「はいはいはいっ!寝ぼけてんじゃないわよ。ちゃっちゃと起きなさい、ちゃっちゃと!」
「うえっ! お、おはよう……?」

 両手で大きな皿を持つ少女が、淡い薄闇の中で微笑んでいた。
皿の上には、白、黄色、ピンクのウーパールーパーが並んでいる。

 それが映し出されるのは、
グレートサラマンダーZコックピットの視聴覚モニター。

―― ……そうか。……そうなんだ。

 混乱が解け、それは諦めに代わる。

 タイムスリップというあまりにも馬鹿げた現実に打ちひしがれた。
ただ星空を見続けた。そして逆境に立ち向かう冒険者のようにもなれずに、逃げるようにコックピットへ
退いた。もうその後のことはよく憶えていない。


「……ゴメンゴメン、ちょっと寝ぼけてた。って随分早いな、みんな眠くないの?」
目をこすりながら見るナビの時計表示は00年3月21日午前5時10分。
白み始めた空からすれば時間に大きな狂いはなさそうだった。
「水が合うのかなー、目覚めバッチリ絶好調!って感じ」
「……気持ちよく眠れた」
「早寝早起きは健康への第一歩よ。それより太郎ちゃん、チィミコちゃんが話したいことあるんだって。
チィミコちゃんちに戻るわよ。大丈夫?寝ぼけてない?」
三者三様の返事が返ってくる。
身体をほぐし、シート位置を確認しながらうぱ太郎は答えた。

「うん、大丈夫だけど。……話って何かな?」
「それは全員揃ってからのお楽しみみたいだよ、チィミコちゃん教えてくれないもん」
「ふーん」
モニターに映るチィミコを見る。
昨日と同じ白い服を着て穏やかな笑顔を浮かべている。しかし会話に入ろうとはしない。
193「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/24(金) 23:03:29.10 ID:rbSNxtEl

 グレートサラマンダーZを少し動かし周囲を確認する。見るかぎりチィミコの家まで20メーターほど。
少し離れて村人のものと思われる住居が点在しているが、今のところ人の姿は無い。
「えーと。じゃあ行こうか?」
「行こう行こう。うおー、なんか燃えてきた!」
「……民ちゃん、意味わかんない」
「はいはい、ちゃっちゃとぱっぱと。無駄口叩かない」
皿の上のうぱ華子たちのやり取りに苦笑いを浮かべながら、チィミコはうぱ太郎の声にうなずき、歩き始めた。
後を追うように、うぱ太郎もゆっくりとアクセルを踏み込んだ。


「太郎ちゃん、魚の残りあるよ、食べれば?」
「うん、ありがとう。……とりあえず水が欲しいかな」

 グレートサラマンダーZから降りた直後にうぱ民子から声を掛けられる。
すでにうぱ民子たちは朝の身支度が済んでいたのか、チィミコの前に並び話が始まるのを待っている。
 用意されていた水に入った後、一番小さな魚の身を選んで口に放り込んだ。
そしてうぱ太郎は身を整え、うぱ華子の隣についた。

「じゃあ、みんないいか?」
うぱ太郎が列に加わったところでチィミコは確認する。
小さな返事があがる。一呼吸置き、うぱ太郎たちの前でチィミコは笑顔を振りまく。
「昨日なんで指5本あるのかって話なっただろ? それで私考えたんだ。そしたら肝心なこと
忘れてたことに気づいてさ。それでその話、したいと思うんだ」

――話があるって、それ……?

 別にどうでもいいように思えた。
うぱ太郎同様に拍子抜けしたのか、チィミコの語り掛けにうぱ華子たちも無言でうなずくだけだった。
しかしそんな心中など知るはずもなくチィミコは意気揚々と話し始めた。

「私の指は5本ある。両手で10本だ。でも、なぜ指5本なのかは解らない。昨日タロウちゃんや
ハナちゃんがはじめから4本だったからって言ったけど、その通りで私の指も始めから4本だったら
気にしないし、たぶんそんな困ってないと思う。……だけど、やっぱりそれじゃいろいろと困るんだ」
 まるで答えになっていなかった。
しかし誰も口に出すことはなく、沈黙を相づちに代えた。
変わらずチィミコは楽しそうに喋り続けた。

「話は変わるけど、タロウちゃんとこでも分かれの日ってあるのか?」
「……言い方は違うけど、……あるよ」
昨日の説明で今日が春分の日ということは承知している。全員で顔を見合わせた後、うぱ太郎が代表で答えた。
「じゃあ今日が分かれの日だよって誰が教えてくれるんだ?」
「えーと、カレン……。いや、あの、……教えてくれる人がいるんだ。今日は何の日だよって」
 カレンダー、新聞、テレビラジオ、時計、何もない時代。そう答えるのが精一杯だった。
すぐにそうそうと、うぱ太郎に同意するつぶやきがうぱ民子から聴こえた。その声にチィミコの
瞳がよりいっそう輝きを増した。

「そうだろ? お日様の加減で何となく今日かなって思うけど、やっぱり教えてくれる人いないと
分らないよな?」
「……うん、そうだね。……気にしてないときは教えてもらわないと分らないと思う」
「そうだろ? それでな、その今日は何の日だよって村人に教えるのが私の仕事なんだ。
話戻るけど、なぜ指が5本なのかは解らない。だけど日にちを数えるには指が5本じゃないと困るんだ」
194「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/24(金) 23:04:12.73 ID:rbSNxtEl

「日にちを数える……?」
イベントを心待ちに、カレンダーを見つめあと何日と数えることはある。
だがそれはチィミコの意図することとは明らかに意味合いが異なるだろう。
「そう。ホントのところ指だけじゃすぐ忘れるから木とか石も使うんだけど、元となるのは両手なんだ」
「……チィミコちゃん、今日が春の分かれの日なんでしょ? 次に来るのは夏の分かれの日よね?
その日まで指でどうやって数えるのかしら?」
うぱ太郎の隣で静かに耳を傾けていたうぱ華子がチィミコに問う。
うぱ華子の質問に、チィミコは得意気な笑顔を浮かべ、胸の前で大きく両手の指を開いた。

「うはは、ハナちゃんたち指4本だから数えづらいかもしれないけど、数え方教えるから指5本の
つもりで一緒にやってみてもらいたいんだ。分かれの日の次の日から数えるってことで。
 うちの村は4日働いて1日休むのが決まりなんだ。田植えと米の刈り取りのときは忙しくて
そうならないときもあるけど、4日働き1日休む4日働いて1日休むを繰り返すんだ」
そう言ってチィミコはうぱ太郎たちに見せるように手を突き出し、数を数えながら右手の親指から
順番に折り始めた。

――10日で2日休みか。

「それで、両手の指が全部折れたら、一区切りになるんだ。それで今度はそれを9回数えるんだ」
「1、2、3、4、休み、1、2、3、4、休み。で一区切り。それを9回数える。と」
うぱ民子とうぱ倫子が口にしながら指を折り数えはじめた。
「そう。それで右手でも左手でも、親指でも小指でもどっちでもいいんだけど最後に残った指が
分かれの日になるんだ」
「……なるほどね。分ったわ」

――10日で一区切り。それを9回で90日。それに1日足して91日。
  だいたい3ヶ月、期間的には問題無い。

「それでな、今度は分かれの日が何回来たかを数えるんだ。うちの村は春の分かれの日が
一番目で冬の分かれの日が最後になるんだ。それをまた指で数えるんだ。春、夏、秋、冬。
そしたらまた指が1本余るだろ? その日が、一年の分かれの日だ」
春、夏、秋、冬と声に出しチィミコは指を折った。そして最後に小指を見せびらかすようにして、
ゆっくりと折り曲げた。

――91の4倍、364。プラス1。 ……凄いな、365日であってる。

「凄いわね……。あたしたちのとことは数え方違うけど数は合ってるわ」
「うはは。でもな、まだ続きあるんだ。なんか知らないけどこの数え方で行くと何十年もすると
ちょっとずつお日様の位置がずれちゃうんだ。なんか大昔の人が気づいたらしいんだ。
村長が言うにはやぐらで見る限り1年じゃあまり差はないけど20年もすればはっきり差が出るらしいんだ。
それを直すために」
「一年の分かれの日を指で数えて、4年目に小指の分を1日足すのね?」

――うるう年のことも知っているのか……?

「そう、当たり」
そう言ってチィミコはうぱ華子に向けてぱちぱちと拍手を贈った。
「凄いよな、昔の人ってそこまで解ってたんだ。私なんかたぶん巫女になって数え方聞かなかったら
一生気づいてないと思う。っていうか人任せにするしな。
ということで、答えにはなってないけどやっぱり指は5本ないと困るんだ」
「ありがとう、面白かったわ」
「……逆算?」
「凄いな、僕も教えてもらわないと気づかなかったと思う」
単純な指遊びの計算だが確かに辻褄は合っていた。素直にうぱ太郎は感服する。
感心の声に気を良くしたのか、チィミコはうぱ太郎たちの前で得意げに腕を組み、うんうんとうなずいた。
195「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/24(金) 23:05:00.51 ID:rbSNxtEl

「ねーねー、チィミコちゃん。太郎ちゃんは何故4本か分らないって言ったけど実は理由があるんだ。
……聞きたい?」

 そんな自慢げな笑顔のチィミコに、少し意地悪そうにうぱ民子が話し掛けた。

――実は負けず嫌い……?

 探るようにうぱ太郎はうぱ民子を眺めた。
何をどう力説するのか期待する半面、どこか不安もある。
「聞きたい聞きたい。何で何で?」
うぱ太郎の心配をよそに、チィミコはうぱ民子の前に手をつき身を乗り出した。
えへんと咳払いをひとつ。早速うぱ民子が語り始めた。

「チィミコちゃん、龍って知ってる?」
「リュウ?」
「そう。わたし達からすれば神様みたいな生き物なんだけどね。聞いたことあるかな?」
「あー、なんか聞いたことあるな。おっきい蛇みたい奴で空も飛べるんだろ?」
「そうそう。でも大きい蛇なんてもんじゃないね、それこそグレマン様の何倍も何十倍もあるんだ。
それで、格好は蛇っぽいんだけどちゃんと手足もついてるんだ」
「凄いな。大陸にはそんなのいっぱいいるのか?」
「まあね。でも、さっき言ったように神様みたいなものだから滅多に見ることは出来ないよ」
「……そうか。……大陸の神様もやっぱり人前には出てこないんだな」

――いきなり龍か。ドラゴンじゃないだけましだけど大丈夫かな……?

 神妙な顔つきでチィミコはうぱ民子の話を聞いている。
話の展開が読めず、うぱ太郎は不安げにちらりとうぱ民子を見た。同様に感じたのか横目で覗く
うぱ華子と目が合い、思わず揃って苦笑する。
そしてうぱ太郎たちを気にすることもなく、うぱ民子はチィミコ相手に淡々と話を続けた。

「そう。まず見ることは出来ないね。でさー、その神様だけど五爪の龍って呼ばれてるんだ」
「ごそうのりゅう?」
「そう。それでねー、五爪って爪が五つあるってことで、わたし達と違って手の指が5本あるんだ。
……チィミコちゃん、もし6本指の人がいたらどう思う?」
「えっ?」
突然の問いかけにチィミコは押し黙る。
そして手のひらを開き、何度も5本の指の動きを確認した。

「……そうだな、びっくりって言うかちょっと怖いと思うかもしれない」
「でしょー? わたし達も同じで、指が4本なのが普通なわけ。だから指5本の五爪の龍は怖いって
言うか特別な神様なんだ。
 それでね、わたし達は神様でもなくて特別でもないから指が4本しかないんだ。それにみんながみんな
5本指だったら誰が五爪の龍かわかんなくなっちゃうでしょ? だからわたし達の指は4本なんだ」
「……なるほど。……じゃあタミちゃんたちとか、そこら辺うろちょろしてるトカゲやイモリで
指5本な奴いたら神様なのか?」
「違うよ。わたし達の手の指はもう4本って決まってるんだ。あと手の指5本のイモリとかトカゲ
いるかもしれないけど人の言葉話せないはずだから神様じゃないね。
でも指5本の奴は珍しいから見つけてもそっとしてあげたほうがいいよ。神様の友達だったりするから」

――五爪の龍って中国の言い伝えだっけ?

 うぱ華子の話が無事に着地できそうで、とりあえずうぱ太郎は胸を撫で下ろす。
チィミコも納得できたのか、話を結びに入ろうとしていた。
「なるほどな。やっぱりよその国の話って面白いな。ゴソウノリュウか。私も見てみたいな」
「チィミコちゃんは会わないほうがいいね」
「ん? 何でだ?」
しかしうぱ民子の即答に、少し不服そうに聞き返した。
196「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/24(金) 23:05:58.01 ID:rbSNxtEl

「五爪の龍はあくまでわたし達の神様だからね。わたし達が見れば神様だ!って思うけど、
チィミコちゃんが見たら化け物だ!って思うかもしれないでしょ? そうやって五爪の龍を怒らせた人が
いたみたいで、ばちがあたって目が潰れちゃったって話も聞いたことあるしね」
「……そうか。……神様の世界もおっかないな」
うぱ民子の説明に不機嫌そうな表情が消え、チィミコに神妙さが戻った。
だがうぱ民子はとどめを刺すように言葉を続けた。

「そう、怖いよ。……チィミコちゃん、わたし達グレマン様から降りたとき思いっきり笑ったじゃん?
別にね、わたし達神様じゃないし、笑われるのも慣れてるから別にいいんだけどね。
 でも、もしグレマン様に乗ってたのが怒りっぽい神様だったら今頃間違いなくチィミコちゃんの目は
潰されてるよ、笑った罰だってね。
だから神様に会いたい気持ちはわかるけど無理に会おうとはしないほうがいいよ。怖いこともあるから。
……ってことで、この話はおしまい」

――さわらぬ神に祟り無しか。上手いことまとめたな。
  っていうか笑われたこと絶対根に持ってるし。なんかチィミコちゃん落ち込んでるし。 

 胸の中で苦笑しながら、横目で隣のうぱ華子を様子を確認する。
特に不満そうな顔もせず黙って話を聞いていた。さらに隣では、うわの空でうぱ倫子がぼーっとしている。
そう言えばと昨日の夜のことを思い出し、うぱ太郎はチィミコに話を切り出した。

「ごめん。ちょっと話変わるんだけど、チィミコちゃん。あとで大きい川があるところ教えてくれないかな?
それと、僕たちとチィミコちゃんが会った場所にも行っておきたいんだ。ちょっと僕、道憶えてなくて。
グレマン様乗ってついていくから出来れば馬に乗って連れてってくれないかな?」
うぱ太郎の問いかけで、チィミコに笑顔が戻る。すぐ、気を取り直したように声が返ってきた。
「いいよ。でも私祭りの準備あるからテンでもいいか?」

――テンか。昨日あまりうまく話せなかったけど……

「あ、うん。テンが大丈夫なら」
案内人がチィミコでないことに不安を覚えた。
ただ何事も一筋縄ではいかないことは分っている。人見知りな性格を隠すようにうぱ太郎は明るく答えた。

「わかった。あとで話しておくよ。それでな、タロウちゃんたちさ、もうちょっとで石置きが始まるんだ。
そのときタロウちゃんたちのこと村のみんなに教えたいと思うんだけど、いいか?」
「チィミコちゃん、石置きってなーに?」
「あ、さっき話しただろ、日にち数えるの指だけじゃすぐ忘れるって。それで今日は分かれの日で
祭りの日だから村のみんなで今年も春を迎えたよって、やぐらの広場に分れの日のしるしの石を置くんだ。
 村長と男衆の仕事だから私なにもしなくていいんだけど、夜の祭りの準備で私ちょっと忙しくなるから
いまのうちに教えたいと思ってな。村人みんな集まるし」
人に説明するのが好きなのか、うぱ民子の質問にチィミコは楽しそうに答えた。
すぐさま今度はうぱ華子から要望が出る。

「ええ、それでいいわ。ただお願いっていうか気をつけてもらいたいことがあるんだけどいいかしら?」
「なんだ?」
「チィミコちゃんがあたし達見て笑ったように、あたし達面白い顔してて珍しい色してるでしょ?
そうすると寄ってくるのよ、子供がね。それで大抵の子供はあたし達にさわろうとするわ。
 まぁ、さわるだけならいいんだけど、中には無理矢理引っ張って遊ぼうとする子も出てくるの。
もしそんなことされたら、小さいしあたし達なんかすぐに怪我して死んじゃうのよ。
だからこう言っちゃなんだけど、小さい子供はなるべくあたし達に近づけないで頂戴。
お互い気をつけていれば嫌な思いはしないで済むはずだから」
197「 グレートサラマンダーZ 」:2012/02/24(金) 23:06:42.21 ID:rbSNxtEl

 思い当たるふしがあるのかしばらくチィミコは黙り込んだ。
そして姿勢をただし、あらたまった口調で答えた。

「わかった。うん、確かに小さい頃はヘビ捕まえて振り回して遊んでたな。あとでちゃんと食べたけど。
石置きの時みんなにちゃんと言うよ。そうだな、私と一緒じゃないと近づけさせないようにする。
それにこの家は巫女の家で余程のことがない限り誰もはいらないから大丈夫だ。心配しなくていい」

―― 蛇を、ちゃんと食べた……?

 真面目な顔でチィミコは大丈夫と言い切った。
しかし、何気ない一言が小さな棘となってうぱ太郎の胸に突き刺さる。
思わず隣を見る。しかしうぱ華子たちに動揺の色は無い。

――いや、魚の頭も食べてるんだ。……気にするな。

 その時だった。
遠雷のような響きが、かすかに空気を振るわせた。

「お、始まったな。そうだな、とりあえずみんな昨日みたいにグレマン様に乗ってついてきてくれないか?
石置きが終わったら村人に話するから」

 チィミコが立ち上がる。
軽く衣服をはたく。髪の毛を少し気にする。そしてうぱ太郎たちに向けて微笑む。
 どんどん、どんどん。と、太鼓と思われる音が次第に大きくなっていく。
その響きに煽られるように、うぱ太郎の心臓が脈打つ。

――もう何回繰り返したろう? ……僕に足りないのは勇気と覚悟だ。腹をくくれっ!

「うん、分った。じゃあみんなグレマン様に乗ろうか?」
さりげなくうぱ華子たちに声を掛けた。
「はーい、出発シンコー!」
「……民ちゃん。いちいちうるさい」
「はいはいはいっ、無駄口叩かない。ちゃっちゃっと、ぱっぱと」

 まるで遠足気分だなと心の中で笑う。
そして不安と緊張をひた隠し、うぱ太郎はグレートサラマンダーZに乗り込んだ。
198創る名無しに見る名無し:2012/02/24(金) 23:07:23.48 ID:rbSNxtEl
今日はここまで。
199創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 23:42:08.57 ID:ccqcde+F
200創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 23:48:51.69 ID:iGbGCa4k
オオサンショウウオにしか見えないw
201創る名無しに見る名無し:2012/03/30(金) 19:37:15.11 ID:LgVLc2E7
                      
                           
 < ̄ ̄ ̄ヽ, '  ̄ ̄ ̄ヽ / ̄ ̄ ̄>
.<ニニニニニV            Vニニニニニニ>
. <____{ ●      ● }、___>
       八  、___,  八        < うぱと契約して
        ヽ、 _  _ .ノ           モバイル適正者になるうぱ
          ,'    '. 
202創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 00:13:22.23 ID:+L+3tjzw
うーうーうぱうぱ
203「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:30:42.83 ID:gZEGwHFi

―― ストーンサークル……? 時計、いや……

 視聴覚モニターには、時計の文字盤に似た直径5メートルほどの円状に並べられた石と、その周りを
取り囲むように座っている子供達。そしてその子供を見守る大勢の人々の姿が映っていた。
 12時3時6時9時の場所にはそれぞれひと目で大きいと分る石が陣取っている。そしてその延長線上
には鳥居ように組み合わされた背の高い柱が立っていた。

 グレートサラマンダーZに乗り込んだうぱ太郎たちが案内されたのは、石置きという行事が行なわれる
場所から少し離れた土手のような、先の広場を見下ろすには都合のいい場所だった。
 チィミコと共にその場に着いたが村人達はグレートサラマンダーZに特に興味を示すこともなく、
おのおの談笑に夢中だった。当のチィミコは村長に話をしてくるとすぐにその場から離れ、広場へ駆けていった。
 ナビの時計表示は午前6時を廻ってしばらく経つ。
かすかに混じる薄い蜜柑色の光もやがては消えゆき、抜けるような空色に変わるだろう。

「ねーねー、あれって日時計?」
「……たぶんカレンダー。10日ごとに石置いて春分の日用に大きい石置くと思う。
あとあの柱は太陽の位置見るためだと思う。チィミコちゃんそんなこと言ってたから。
……ピラミッドなんかもそんな役割果たしているから昔の人の知恵で太陽の位置測ってるんだと思う」

 すでに完成している石の円12時から3時までの外周を、更になぞるように石が置かれている。
区切りの日となる今日、内側の円と同様3時の位置に大きな石を置くことになるだろうと容易に推測できた。

「倫ちゃん詳しいね。古代文明とか好きなの?」
コックピットの中、モニターを見つめたまま、それでも機嫌を伺うようにうぱ太郎はうぱ倫子に話しかける。
「……知ってることしか解らない」
「あはは。そりゃそうだよね……」
しかしながら、いまだうぱ倫子との会話の距離感は掴めていない。
気を取り直し今度はうぱ華子に話題を振ってみる。

「華ちゃんはストーンサークルとか古代文明とかそういうの興味ある?」
「残念ながら興味はないわね。それに忘れてるかも知れないけどあたしはメキシコ生まれよ。
地元の古代の話だってろくに解らないのに日本の古代のことなんか知ったこっちゃないわ」
さばさばとうぱ華子は答えた。
しまったと苦笑いを浮かべながらもうぱ太郎は続ける。

「あ、そう言えばそうだったね。……メキシコってなんだろ? サボテンとかアステカとか
しか思いつかないな」
「普通そんなもんでしょ? あえて言えばマヤ文明が有名だけど、あたしもB級雑誌の人類滅亡
とかのゴシップ記事読んでそんなのあったなってレベルだからたいそうなことは言えないわ」
「マヤ文明か……。僕も何かで読んだ気がするな。なんで人類滅亡するんだっけ?」
「……長期暦。マヤ文明でもいろんなこよみの計算があって、その中で一番長い何千年単位で
計算される長期暦の終わる時が2012年の冬至の頃。
 長期暦の終わりが来たら新しいこよみを迎えるために全てのものが終わって新しく生まれ変わる。
って、輪廻転生みたいな思想もマヤ文明の一部にあって、それで人類滅亡に繋がってるんだと思う。
……わたしは大丈夫だと思うけど」
204「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:31:17.66 ID:gZEGwHFi

―― ワームホールとか言ってたしやっぱ好きなんだ。でも、それ言ったらまた止まるから……

 不自然にならないように少し考えてうぱ太郎は口を開く。

「なるほど。でもさっきのチィミコちゃんの1年の数え方もそうだけど、星とか月とか太陽見て
こよみ計算するなんて凄いよね、古代の人って。そう言えば三蔵法師だっけ? 日食の日わかってて
それ利用して妖怪退治するの」
「……そう。でも三蔵法師は実在したみたいだけど西遊記はフィクションだから、その時代の人が
日食や月食の正確な日にち理解してたかどうかはわからない」
ほんのちょっとだがうぱ倫子の声が弾んだように思えた。

「ふーん、なるほど。……ちなみに倫ちゃんは日食の日とか計算できるの?」
「……季節ごとの星座の位置とかは知ってるけど、日食月食の日までは解らない」
「さすがにそこまでは無理だよね」
「……うん」
 少し近づけたかなと、心の中でガッツポーズをとる。
そしてさらに盛り上げようと、うぱ太郎は昨日の夜のことを話し始めた。

「昨日倫ちゃんたちすぐ寝ちゃったけど、僕あのあと外に出てみたんだ。
なんて言うか、なんかびびっちゃうぐらいに星が凄かった。ちょっと怖いって思うほどだったもん。
僕は北斗七星とオリオン座ぐらいしか分らないけど下手なプラネタリウムより凄いんじゃないかな。
倫ちゃんも夜になったら見てみればいいと思うよ。大袈裟じゃなくてびっくりすると思うから」
「あはははは。朝っぱらからチィミコちゃん元気だなー」

 唐突にうぱ民子が笑い出した。

―― 朝っぱらからジャイアンリサイタル開いてる民ちゃんほうがよっぽど元気だよ。
   って言うか空気読めよ。

 何事かとモニターを見れば、村長との話が終わったのかこちらに向け走ってくるチィミコの姿が
小さく映し出されていた。
 そしてうぱ太郎が苦々しく思うことも束の間、無邪気な子鹿のようにあっという間に土手の
斜面を駆け上り、チィミコはグレートサラマンダーZの隣に立った。

「……お待たせ。……えーと、タロウちゃん以外にも聴こえているんだよな?」
吐く息はまだ白い。はぁはぁと少しあがった息をチィミコは身だしなみと共に整える。
「えーと、うん。大丈夫。みんな声も聴こえるし石置きの広場も見えてるよ」
「つくづく凄いな。一体どうなってんだグレマン様って?」
「……まぁ、いろいろと。持って生まれた力というか」
「あはは、そうなんだ」

 返事を深く追求しようともせずチィミコは明るく笑う。
そして合図を送るように大きく両手を振った後、通常姿勢のグレートサラマンダーZの隣に膝を
かかえ座り込んだ。
 しばらく止んでいた太鼓の音がひとつ響き、ざわついていた村人達が静まりかえる。
間もなく村長と思われる男が石の円の中央に立ち、話を始めた。しかしそれほど長い話でもなく、
連打される太鼓の音と一緒に円から外れていく。

「さあ、石置きの始まりだ。面白いと思うからみんなで見ててくれ」
身体をひねり覗き込むようにしてチィミコはグレートサラマンダーZに話しかけた。
「うん」
平然と返事はするが、モニターいっぱいに映るチィミコの笑顔に戸惑いうぱ太郎は思わずのけぞる。
「チィミコちゃんっていちいち顔近いよねー」
「……可愛い」
「眉毛の手入れぐらいしないのかしら?」
マイクが音を拾わないことをいいことに、うぱ太郎の後ろでは好き勝手に言い放っている。
205「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:32:12.71 ID:gZEGwHFi

 どどどど、どんっ。

 広場に太鼓の音が響き渡る。
神聖な儀式なのだろう、太鼓の音に合わせ膝を折りチィミコは広場に向け襟を正した。

 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
太鼓のリズムに合わせ、村人達から掛け声が沸き起こる。

―― お御輿……?

 モニターの片隅に、木製のはしごのようなものを担ぐ4人の男が映る。
中央の台座には大玉なスイカほどの黒っぽい石が乗っている。太鼓と村人の掛け声に合わせ、
その神輿のようなものは4人の担ぎ手によってゆっくりと広場の石の円に向かっていく。
 
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょーっ。
ひときわ大きい掛け声とともに、神輿は円から10歩ほど離れた場所に下ろされた。
 村長の声が響く。
同時に4人の男に入れ替わり、遠目でも幼稚園児ほどと分る4人の子供が神輿の四隅についた。

―― 子供だけで担ぐつもりなのか……? 何キロあるか分らないけど無理だ。

 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
また掛け声が始まる。しかしうぱ太郎の予想通り神輿は子供の力ではびくともしなかった。
 どんどん、よいしょ、どんどん、よいしょ。
それでも掛け声は続く。徐々に笑い声や励ます声が混じりはじめる。
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょーっ。
まったく動かせないまま4人の子供は神輿から手を離した。それでも広場には労をねぎらう声が上がった。
そして少し恥ずかしそうにしている4人に、出番を待っていたかのようにさらに4人の子供が加わった。

―― 子供でも8人ならいけるかな?

 一呼吸置いて太鼓が鳴り始めた。
掛け声もあがる。だが次第に頑張れ踏ん張れと応援の声が増してくる。
 神輿が少し持ち上がったのが分る。その都度広場は歓声で盛り上がる。
だがやはり担ぎ上げられることはなく、最後の掛け声も虚しく神輿はその場から動けずにいた。

―― 今度の4人は中学生くらいか……

 動かない神輿の前にさらに4人が加わった。
大人とは言い切れないが最初の子供に比べ明らかに身体は大きく、2度目に加わった子供と違い、
事前の8人になにやら指示を出し場所を確認しながら神輿に全員揃って手を掛けた。
そして神輿の先頭をになう一人が大きく片手を揚げる。

 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
みたび、掛け声が沸き起こる。しかし今までとは違いどこか確信めいた力強さがあった。
 声援も笑いも無い。ただひたすらに太鼓と掛け声だけが広場に響く。
そして最後に加わった4人が8人の子供を促すようにひときわ威勢よく叫んだ。

 よいしょー!!!

 神輿が担ぎ上げられた。
 怒号に似た歓声が響いた。
太鼓と掛け声が小気味よく続く中、神輿は12人の手により円の3時の位置にじわじわと向かっていった。
206「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:33:13.02 ID:gZEGwHFi

「意味のないことやってると思うだろ?」
「え……? あ、うん」

 突然、チィミコに話を振られ、うぱ太郎は言葉に詰まる。

「はじめから終わりまで大人が担げばいいだけのことなんだけど。……でも、そうじゃないんだ」
「…………」
どう答えればいいのか分らずうぱ太郎はコックピットの中で黙り込んだ。
かまわずチィミコは話を続ける。
「私の村はな、生まれて6年たったら村の仕事にたずさわるんだ。それで一番最初の仕事が
この石置きなんだ」

―― 1年の数え方は教わった。でも何月何日なんて数え方じゃない。
   6年目とか言うけどそもそも村の人誕生日なんてわかってるのか?
  
「えーと、チィミコちゃん。ここの村の人は自分がいつごろ生まれたってみんな知ってるのかな?」
少し気になりうぱ太郎は尋ねる。

「みんな知ってるよ」
「どうやって?」
うぱ太郎の問いにチィミコは胸元に手を入れ、衣服の下、紐で首にかけられていた文庫本ほどの
大きさの木片をグレートサラマンダーZの顔の前に差し出した。

「あ……」

 その木片上部には、眼下の石の円に似た円状の模様が刻まれていた。
そして下部の上の位置に手の形に似た5本の放射状の線の塊が3組。

「よその村のことはよく分らないけど、うちの村では生まれたときにこの札をつけてもらうんだ。
あの石置きの丸と同じなんだけど、私は春の分かれの日の前に生まれたからここに印がついている。
それで生きた年は手の指の印で数えてて、ひとつ5年でそれがみっつで15年だ」
そう言いながらチィミコは木片の印に指をさした。
「当然小さいときは生きた年数の印自分じゃつけられないからその家の人につけてもらうんだけど、
6年目から自分でつけれるように、それまでみんなで教えるんだ。それで生きた年、6年になったら
その次の分かれの日の石置きのときから石を担ぐんだ」
「それ村の人全員持ってるの?」
「ああ、全員持ってるよ。みんな少なくても分かれの日ごとに必ず見てるから忘れることはない。
あと間違って燃やしたり割ったりする人いるけど、そのときは作り直す。怒られるけどな」

―― 昔の人の知恵か……。

 カレンダー代わりの石の円を眺めながらうぱ太郎は想う。
そしてあらためて現代社会とはかけ離れた場所に来てしまったことを痛感する。
木片を胸元に戻し、チィミコはどこか懐かしむような優しげな微笑を浮かべ広場を向いた。

「小さな子供だけじゃ石置きの石担げないことはみんなわかってる。それでも最初は子供4人に
担がせるんだ。初めて担ぐ子はその重さに驚く。そしていかに大人に力があるかを思い知る。
でも、子供だけでも力を合わせれば何とかなることに気づく。そこが一番大事なことなんだ」
「…………」
「ただ、石を動かせばいいってことではない。石が落ちたりしたら危ないからな。
それでそうならないように面倒を見るのが何回も石置きをやってきた年上の者だ。
小さい子が怪我しないように注意しながらみんなをまとめ、力をあわせ石を担ぐんだ。
 でも何も初めてやる子だけが教わるんじゃないんだ。何回も石置きをやった上の子もそうやって
自分が教わってきたことを下の子へ伝えることをちょっとずつ学んでいくんだ。
この村の者はみんな石置きをやって大きくなってきた。石置きはこの村の大事なならわしなんだ」
「…………」
207「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:34:01.63 ID:gZEGwHFi

―― 蛇食べるって聞いたときどうなることかと思ったけど、ちゃんと考えてるんだな……。

 カレンダーはおろか紙さえも無いと思われる時代。だが少なからず秩序や道徳的な教えはある。
自ら作りあげてしまった幻想を恥ずかしく思い、うぱ太郎は胸の中で小さく反省する。

 モニターには神輿から石を降ろし、収まる穴に向け石を転がす男の姿が映っている。
占いの要素でもあるのか、石が動くたびに広場は歓声やため息で埋まった。
そして石が穴に収まったところでひときわ大きい拍手と歓声が沸き、続いて村長の話が始まった。
ところどころで横やりな声が掛かる。どっと笑い声があがる。だがたいして長い話でもない。
長く続く拍手が終わりを告げていた。

「よし。じゃあみんなそろそろ行こうか」
儀式を見届け、チィミコは立ち上がり軽く衣服をはたいた。

「……うん」
少しどきりとする。そしていよいよかと心の中でため息をつく。

 大勢の人の前に出る。
人の姿の無いうぱるぱ王国で過ごしてきたうぱ太郎にとって未知の経験である。
 うぱるぱ救出活動で何度も人とやりあって来た。何度も理不尽な目にも遭った。
しかしその体験どれもがグレートサラマンダーZという鎧に守られての事である。

「うおー、盛り上がってきましたよー!」
「……民ちゃん、いちいちうるさい」
「あんたら余計なこと言わないでよ」
人の気も知らないで。と、後ろの席で遠足気分ではしゃぐうぱ民子を少し恨めしく思う。
 
「それでさ、私が村のみんなに話すから悪いんだけどタロウちゃん、私の言うとおりグレマン様
動かしてもらっていいかな?」
屈託のない笑顔でチィミコはグレートサラマンダーZに話しかける。
「いいけど……。どんなことするのかな?」
少し自信なさげな声でうぱ太郎は聞き返した。

「うん。私やテンやツギは見たからいいけど、グレマン様いきなり立ったり口開けたりしたら村の
みんなびっくりすると思うからあらかじめ見せておきたいんだ。それにそうなったときは危ないから
近寄るなって小さい子にも言っておきたいし。その後タロウちゃんたち出てきてもらえればさっき
ハナちゃんが言ったみたいにさわろうとする子もいなくなると思うから」
「あー、うん、わかった。じゃあチィミコちゃんに任せるよ」
「うん。悪いようにはしないから安心しててくれ」

―― 大丈夫。チィミコちゃんがフォローしてくれる。

 気づかれないように大きく息を吐き、ハンドルの位置を確かめた。
そして坂を下るチィミコに続き、うぱ太郎はゆっくりとアクセル踏み込んだ。
208「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:35:27.21 ID:gZEGwHFi

「昨日も話したけど、しばらく村にいてもらうグレマン様だ。
でな、昨日私の家でいろいろグレマン様と話したんだけど、とにかく凄いんだ。
ウマ。まぁオオシカでいいんだけど、オオシカも凄かった。でもそんなもんじゃない。
とにかく凄い。みんなびっくりすると思う。ホントにびっくりするはず。
って言うことでグレマン様よろしく」
「……どうも。……よろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします!」
「「「 ……………。」」」

 チィミコに連れられて、いよいようぱ太郎たちを乗せたグレートサラマンダーZは
村人達の前に出た。だが案内された場所はよりにもよって石置きが行なわれた石の円の内側で、
ばちがあたるのではと、うぱ太郎の不安と緊張をさらに増幅させた。
 乳飲み子を抱く女から杖を持つ老人まで100人近くと思われる村の人々が、チィミコの
指示に従い半円を取り囲むように立ち並んだ。
 円の内側に入らなければどれだけ近づいてもいい。というチィミコの声に、小さな女の子が
いの一番で最前列に立った。そして怖いもの見たさか数人の若い男女が少女の隣に並んだ。

―― たしかあの子昨日も返事くれたよな。蛇とかトカゲとか好きなのかな?

 ほとんどの村人は無言で、不安げにグレートサラマンダーZを見つめている。
その中での少女の元気な返事は、ほんのわずかだがうぱ太郎の心の支えになった。

「えー、昨日私とテンとツギは見たんだけど、実はグレマン様って2本足で立てるんだ。
それでまずはみんなにグレマン様立ったところ見てもらいたいんだ。いきなり暴れたりは
しないから大丈夫。怖がらなくていい。じゃあグレマン様よろしく」
「え、えーと。じゃあこれから立ちます。……いきなり暴れたりしないから大丈夫です」
簡単な打ち合わせどおりにチィミコは話を進めた。声に従い、モニターで人が危険な位置にいないことを
確かめ、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを立ち上がらせた。

「おいおいおいおい!」
「待て待て待て待て!」
「うわ、でかっ!」
「そりゃ反則でねーすか?」

 グレートサラマンダーZの動きに村人からどよめきが沸いた。
かまわずチィミコは場慣れした司会者のように話を続けた。

「はい、次はちょっと怖い。小さい子は泣いちゃうかもしれないからお母さん方よろしく。
当然と言えば当然だけど、グレマン様も口開けるときがある。でも何も知らないでその姿見ると
喰われちゃうかもって心配になってしまう。だから前もってその姿を見ておいてほしいんだ。
じゃあグレマン様、口開けてくれないか? できればなるべくゆっくりでお願いします」
「はい。えー、これから口開けます。いきなり暴れたりしないから大丈夫です」

 ぱかっ!

「「「 ――っ!? 」」」

「おいおいおいおい!」
「待て待て待て待て!」
「うわ、怖っ!」
「や、やんのかコノヤロー!!!」
「びゃー、えーんえーん」
「そりゃ反則ですって……」
209「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:36:33.95 ID:gZEGwHFi

―― やっちゃった……。

 緊張のせいか、うぱ太郎は無造作に口開閉スイッチを操作してしまう。
案の定、少女やもの好き連中含め、村人がいっせいに身を引いた。
慌ててチィミコがフォローを入れる。

「暴れたりしないから大丈夫。ホントに大丈夫だから心配しないでくれ。
……泣いちゃった子はさがってもらったほうがいかな。ごめんな。
それでな、グレマン様立ったり口開けてるときは近づかないで欲しいんだ。危ないから。
て言っても、あはは。これじゃ誰も近づきたいなんて思わないよな」

「「「 …………。」」」

「えー、グレマン様、口閉じていつもの格好に戻ってもらえるかな?」
「じゃあ、これからいつもの格好に戻りますです」
気まずさを隠すようにチィミコは笑顔を振りまいた。
うぱ太郎もそそくさとグレートサラマンダーZの口を閉め、通常状態に姿勢を戻した。

 安堵のため息が広場を埋め尽くす。

「うわー、グレマン様、凄い!面白い!」
「まぁ今日はこのぐらいで勘弁してください」
「こいつ本当におとなしくしてるのか? オオシカみたいに機嫌悪かったら蹴ったりしないのか?」
「たまげたなぁ。ほんとに化け物っているんだ」

 ひと通り村人の反応を見回した後、チィミコはごほんと咳を打った。
そして最前列はしゃがみ後ろの人は前に詰めるようにと村人をまとめ、本題を切り出した。
「えー、世の中には私たちの知らない、信じられないことやびっくりすることがたくさんある。
オオシカの時もそうだし、隣で言うのもなんだけどグレマン様にもびっくりだ」
 チィミコの声に最前列の少女が興味深げにこくこくとうなずいた。
釣られるように、周りからもうんうんと声が漏れた。

「でも本当に凄いのはこれからだ。またグレマン様に口を開けてもらう。暴れはしないから
怖がらずにみんなよく見ててくれ。
 たぶんみんな信じられないと思う。けど信じてもらうしかない。
これからグレマン様から降りてもらう。みんなびっくりする準備してくれ。
まぁ、簡単に言えば人の言葉を喋る手の生えたナマズだ。神様じゃないけどとにかく凄いぞ。
じゃあタロウちゃんたち。グレマン様から降りてくれないかな?」

―― いよいよか……。

 覚悟を胸に秘め、うぱ太郎はゆっくりと口開閉スイッチを操作する。
 振り返る。
昨日チィミコの前に出たこともあり、無表情だがうぱ華子、うぱ倫子も準備は出来ている。
「 …………。」
だが何故かうぱ民子はへらへらと笑っている。
「……民ちゃん。もうちょっと真面目に出来ないのかな?」
深刻になれとは言わない。しかしうぱ民子の態度はうぱ太郎にはあまりにも不謹慎に思えた。
「あはは。太郎ちゃん緊張しすぎ。表情硬いよ?」
だが、うぱ民子はあいかわらずの調子だった。

「はいはいはい。太郎ちゃんいちいちイラつかない。サクっとやっつけるわよ。サクっと」
「……太郎ちゃん。いつもあんな感じだから右から左へ受け流せば大丈夫」
「あれれ? わたし悪者?」

「いいよ、もう。じゃあ行こうか?」
何もかもが馬鹿らしく思えた。爆発させたい怒りを押し殺し、うぱ太郎は後ろを振り返らずに
グレートサラマンダーZから降りはじめた。
210創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 00:38:34.37 ID:gZEGwHFi
今日はここまで。
211代行:2012/04/18(水) 00:39:30.19 ID:gZEGwHFi
以上、避難所より代行でした
212創る名無しに見る名無し:2012/04/21(土) 06:08:53.45 ID:mw6QcPYg
投下乙、代行の人も乙
213創る名無しに見る名無し:2012/05/15(火) 05:41:13.67 ID:B/Z8iC2v
ウーパールーパーといえばミズゴロウかな
214創る名無しに見る名無し:2012/05/21(月) 19:40:43.69 ID:82eSnuIl
215創る名無しに見る名無し:2012/06/17(日) 13:50:04.27 ID:T8UowzIv
うおー、いい所で止まってた
wktk

>>213
どう考えてもウパー
216創る名無しに見る名無し:2012/08/17(金) 08:07:11.67 ID:vA0y2lHU
うーぱーまーけっと
217グレートサラマンダーZ:2012/11/15(木) 00:16:00.55 ID:68qg6dqr
「誰だよタロウちゃんて?」
「チィミコちゃん。グレマン様のほかに誰かいるの?」
「なに始まるんだ?」
「…………」

 口は開いたが、一向に変化のないグレートサラマンダーZ。
無言のチィミコとグレートサラマンダーZにじらされ、次第に村人がざわめきたつ。

「「「 ????? 」」」

 だが、一瞬にしてそのざわめきは消え去った。

 うぱ太郎、うぱ華子、うぱ民子、そしてうぱ倫子。
怪物の口から這い出た、一匹を除けば神々しささえ感じる鮮烈な体色の見慣れぬ生き物。
石置きの円最前列を陣取った者たちは、ただ無言で事の顛末を見守ることしかできなかった。

「おはようございます!うぱ太郎といいます! タロウちゃんって呼んでくださいっ!!!!!」
「「「 !!!!!っ 」」」

 半ばやけくそ。
グレートサラマンダーZの前で横並びになったうぱ太郎は、呆然と立ち尽くす村人たちを見上げ、
開口一番あらん限りの声で叫んだ。

「「「 …………。」」」

 続く沈黙。
そして、ぽつりぽつりと困惑の声。

「あれ? この子グレマン様と同じ声だ」
「私、寝ぼけてるのかな?なんか魚が喋った気がする」
「……気のせいじゃね?」 
「なんか気色悪い色の魚だな」
「誰か叫んだやついる?」
「えーと。……どうなってんだ?」

「あたしはうぱ華子。華ちゃんて呼んで頂戴」

「「「 !!!!!っ 」」」

 どんなに目をこらしてもチィミコの隣に立つ者はいない。

 その声は間違いなく、怪物の中から突然現れた不可思議な生き物が発していた。
何ひとつ変わらない朝日の中で、受け入れきれない事実が現実に混じり始めた。

「おいおいおいおい!」
「ちょ、ちょっと待てコラ!」
「ふざけんな!」
「……嘘でしょ?」
「ありえねー」
「ナマズが喋っただと?」
「すげー色だな。神様か?」
「神様? イモリじゃねーのか?」
「長生きするもんじゃのう」
「世の中まちがってる……」

 広場がどよめきで溢れかえる。
事を確かめようと一斉に石の円に詰め寄ってくる村人たちを、にたにたと満足げに眺める。
うぱ太郎たちとの距離を確かめ、グレートサラマンダーZの隣に座り込む。そしてチィミコは
腕を伸ばし指を指しながらうぱ太郎たちの紹介を始めた。
218グレートサラマンダーZ:2012/11/15(木) 00:16:32.98 ID:68qg6dqr
「黒っぽいていうか一番魚っぽいのがタロウちゃんだ。赤っぽいのがハナちゃん。それで白の子が」
「……うぱ倫子。……倫ちゃん」
「わたし、うぱ民子。民ちゃんって呼んでねー。チィミコちゃん、つば飛んでくるからあっち向いて喋って」

 気後れしたのか、消え入るような声のうぱ倫子。
そして村人の反応などまったく意に介さないうぱ民子。

「あーっ!」
「――!?」
交差するざわめきに混じり、最前列の少女が大きく声を上げた。
びくりと、うぱ太郎含む4匹が一斉に身を引いた。

「朝、変な歌うたってた声だー!!!」
まるで探していた宝物を見つけたかのように弾む声。
そして少女はしゃがみ込み、物怖じすることなくうぱ民子に向けて身を乗り出した。

「あの歌、教えて教えて!」
「えーと……」
少女の勢いにたじろぎ、少し気まずそうな表情でうぱ民子はうぱ太郎やチィミコを見やる。

「トリノちゃん。タミちゃんの歌聴いてたのか?」
「だって私んちからグレマン様見えてて、すぐそばだから聴こえてきたもん!!!」
 少女は口を尖らせる。
負けん気の強い返答に苦笑いを浮かべ、なだめるようにチィミコは話しかけた。
「そうか。……でも今すぐはだめだな。そうだな、あとでタミちゃんたちと相談するから、
今日は我慢してくれないか?」
「うん、わかった」
返事に納得したのか、トリノと呼ばれた少女は期待に満ちた笑顔でぺたりと地べたに座り込んだ。

「またまたわけ分んねー奴連れてきたな、おい。 ……チィミコ。そいつら村におくって言うけどな、
いまうちの村にそんな余裕なんかねーだろ。おまえ本気か?」

 収まる気配のないざわめきの中、今度は少し気難しい表情をした男がチィミコに言い寄ってきた。
わずかな沈黙が広場の中に生まれる。そしてそうだそうだと男に同調する声がぽつぽつと上がる。
 男にむやみやたらと手を出してきそうな粗暴な印象は無い。ただ、トリノの突然の大声に懲りたのか
うぱ太郎たちはいつでもグレートサラマンダーZに乗り込める位置まで下がっていた。

「ナギタ。どういう意味だ?何を言いたい?」

 笑顔は崩れない。
立ち上がり膝をはたく。そしてチィミコは余裕の表情で注目の的となった男に問い返した。
だがその態度が面白くないのか、これ見よがしにナギタと呼ばれた男から舌打ちが漏れる。

「テンから聞いたけど、タカオとのいざこざ鎮めてくれたのはありがたいと思うし、確かに礼も
必要だろ。でもな、今うちの村にそんな余裕あんのか? グレマン様のそのなりじゃ肉でも魚でも
ばりばりかなりの量食うんだろ? 自分の食う米さえ無くてひーひー言ってんのに、いくら助けて
もらったからってそんな化け物に村の食べ物何日も恵んでる場合かって話だ」

―― 食べ物のせいにしてるけど、ようは村に居てもらいたくないってことだよね。たぶん……。

 心の中で溜息をつくうぱ太郎。無表情のうぱ華子うぱ倫子。相変わらずへらへらしているうぱ民子。
しかし、そんなうぱ太郎たちのことに気づくわけもなく、チィミコは大袈裟に頭を掻きながら話を進めた。
219グレートサラマンダーZ:2012/11/15(木) 00:17:15.35 ID:68qg6dqr
「あー、ごめんごめん。うん。言いたいことは分った。でも大丈夫だ。グレマン様の食べる分は
グレマン様が川に行って自分で魚獲って食べるから心配しなくていい。
あとタロウちゃんたちの分は私たちが一口で食べる魚の身があればそれで一日過ごせるらしいんだ。
それに魚がなければミミズでもいいみたいなんだ。だからグレマン様に村の食べ物が食べつくされる
とかそんな心配はまったくしなくていいよ。私が食べる分ちょっとタロウちゃんたちに分けてやれば
いいだけのことだから大丈夫だよ。ごめんな、村の食べ物のことまで心配してくれてありがとう」

 そう言ってチィミコはぺこりと頭を下げた。
それでも気がすまないのか、腕を組みナギタは執拗にチィミコに食い下がる。

「……分った。じゃあ食べ物のことはいい。……だけどな、本当にそいつら暴れないのか?
オオシカの時も酷かったよな。機嫌悪けりゃ暴れるわ蹴られるわで相当痛い目にあったよな?」
「大丈夫大丈夫。確かにオオシカも最初は酷かったけど今じゃ村一番の働き者だ。
簡単なことだよ。グレマン様に嫌がることを言ったりやらせたりしなければいい。それだけだ。
なんてったってグレマン様は人の言葉が分るんだ。私たちが変なことを言わない限り暴れたりする
ことはない。さっき見てただろ? ちゃんと話せばちゃんと通じるんだ。みんなと同じだよ。
怒る怒られるようなことしなければおとなしくしてるよ。それだけだ」
「……分った。……でももう一回聞く。まぁ、変な言い方だけど、俺たちはオオシカのときみたいに
やたらと気を遣わなくてもいいってことだよな?無理してなだめたりしなくてもいいってことだよな?」

「……ナギタ。おまえまだオオシカに蹴られたこと根に持ってんのか?」
「おわっ!?」

 いつのまにか火起こしがナギタの隣でにやついていた。
その火起こしのひと言で、少し不穏がかった重苦しい空気が払拭される。

「う、うるせーよ火起こし。おまえだってオオシカ乗れるようになったのつい最近だろ」
「ふんっ。俺はおまえと違って一回二回蹴られたくらいじゃ懲りないんだよ。それにな、
うちの巫女とか若い奴らはオオシカ乗れるのに大の男が乗れないなんて格好悪いだろ」

 火起こしの返事に今度は俺も乗れる私も乗れると、得意気な幼い声が盛んに混じる。

 顔つきから30歳前後で火起こしと同じ年代だろう。
しかし場に飛び交うオオシカに乗れるという声につまみ出され、次第にナギタは立つ瀬がなくなる。

「ちっ、どいつもこいつもオオシカ乗れるぐらいでいい気になってよ。そんなにオオシカに
乗れんのが偉いのかよ」
「おいおいナギタ。そんなことでいちいち拗ねんなよ」
「拗ねてねーよ!!!」

 火起こしとナギタ。
2人がやりあうたびに笑いや冷やかしの声で広場が盛り上がる。

―― ちょっとうわーって思ったけど、なんだかんだでみんな仲いいみたいだな。

 心の中で安堵の声が漏れる。
そしてうぱ太郎の思ったことを裏付けるように、トリノがくるりと振り返り2人に向かって叫ぶ。

「ナギタも火起こしも頭悪いなあ。もう忘れたの? オオシカじゃなくてウーマっ!!!」
「「……いいだろ別にオオシカで」」
「ウマっ!!!」
「「……はいはい。わかったわかった」」

 幼い子供には敵わないとでも言いたげに、火起こしとナギタ2人揃って肩をすくめた。

―― この村でうまくやっていけるのかな? ……僕。

 まるで奇妙な者たちの姿など目に入らないかのように、何も変わらない朝日の中、朗らかな数々の
笑い声が、いつまでも広場に響いた。
220創る名無しに見る名無し:2012/11/15(木) 00:17:52.62 ID:68qg6dqr
今日はここまで。
221代理:2012/11/15(木) 00:18:27.93 ID:68qg6dqr
以上、代理でした
222創る名無しに見る名無し:2013/01/28(月) 21:22:09.21 ID:SqkOYo4M
過疎ってるみたいなので
「アホロートルのあほチャン」のAAを
置き逃げしよう。
つ ∋(*=_=*)∈
223創る名無しに見る名無し:2013/03/25(月) 02:36:59.20 ID:ILJgN33c
224創る名無しに見る名無し:2013/03/25(月) 02:40:29.63 ID:8MCnuLVI
やめてw
225創る名無しに見る名無し:2013/05/21(火) 23:41:16.70 ID:hNX8xHVI
うぱーぱうぱ うぱぱ
226創る名無しに見る名無し:2013/06/11(火) 21:20:32.58 ID:Ayt4cQXs
>>225

うぱぱーうぱうぱ
227創る名無しに見る名無し:2013/07/04(木) NY:AN:NY.AN ID:/K3wPCQI
+(・―・)+
228創る名無しに見る名無し:2013/07/06(土) NY:AN:NY.AN ID:gz2+MMs2
+(・ー・)+
229創る名無しに見る名無し:2013/07/22(月) NY:AN:NY.AN ID:4RR7C5OT
ぬーぽーるーぽー
230創る名無しに見る名無し:2013/09/20(金) 23:01:09.49 ID:h1DNRRPv
うぱっが
231創る名無しに見る名無し:2013/10/14(月) 21:15:48.38 ID:/c+mIhy8
うpってうぱって
232創る名無しに見る名無し:2013/10/30(水) 13:59:49.92 ID:1MZlBUS+
>>56
 r──────────┐
 | l王三王三王三王三l o==ニヽ
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     °。 /_  _  フフフ `~`'ヽ、
  ZZZzzz... ( . ._,,.ノ >__(_ )  )
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                 `"''"
233創る名無しに見る名無し:2014/02/21(金) 02:10:13.66 ID:KLgMJHh2
うぱぱー
234創る名無しに見る名無し:2014/02/21(金) 02:11:06.29 ID:Fr97EjUk
天然パーマ男死ね。バケモン。気色悪すぎ。天然パーマ男死ね。バケモン。気色悪すぎ。
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235創る名無しに見る名無し:2014/03/03(月) 23:03:53.02 ID:RdLbJlIi
うぺぱ
236創る名無しに見る名無し:2014/03/26(水) 17:30:15.31 ID:EuU9Axaw
ぱーうー
237創る名無しに見る名無し
ウパトロン