【気軽に】お題創作総合スレ【気楽に】

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314創る名無しに見る名無し:2011/10/13(木) 22:11:23.90 ID:NQiuipRl
お題クレクレ
315創る名無しに見る名無し:2011/10/14(金) 05:39:57.97 ID:+6HJJ6R8
お題『広子は僕を許してくれない』
316創る名無しに見る名無し:2011/10/16(日) 14:19:00.65 ID:v/D7E13M
僕は広子の膣内に射精し、事を終えた。
避妊具を使わないのはいつものことだ。
「じゃあ僕は帰るよ。このことはくれぐれもご主人には内緒でね。まあ彼は
今、上海にいるから、ばれることはないと思うけど」
「あ……待ってよ」
いつもとは違う広子の口調が、去りかける僕を呼び止めた。
何気なく振り返ったとき、僕はまだ自分の命があと200秒しか残されてい
ないことは思いもしなかった。
「ごめんね、ヒロシ……」
振り返ると同時に、広子は僕に向かって発砲した。
随分大型の銃だったような気がする。
僕は後方に吹っ飛び、あたりには僕の血が飛び散ったようだ。
僕の血は青い。何かのカクテルのように飲みたくなるようだ、と前に広子が
つぶやいたことがある。
広子は僕を撃っておきながら動揺し、嗚咽した。
「ごめんね、ヒロシ。もう私、あなたとの関係を続けられない……」
ガチャ。
扉が開かれた。
僕はすぐに、侵入者が誰か気づいた。
「貴様……新型か?」
新型は礼儀正しく頷く。
「ヒロシ君だったね。少々手荒だったが、これが一番劇的だと思ってね。
知っての通り、僕らアンドロイドは製品じゃない。人の感情を豊かにするパ
ートナーだ。だから別れ際もこれくらいドラマチックに演出する必要があっ
た。これは広子のリクエストでもあるんだよ」
「まだ……契約期間が切れて…ない」
「残念だが君は違反を犯している。君に責任はないんだがね。オーナーが君
の倫理回路をいじったようだ。君は複数の女性を相手にしているだろう。
それはダメなんだよ」
まだ裸の広子がシーツをまとって美貌の新型に抱きつく。彼は僕とは違って
金髪である。
アンドロイドは嫉妬しない。
美しい、と僕は思った。
僕の視野はぼやけ、彼にすがりつく彼女が泣いているのか新たな喜びに期待
しているのかはわからない。
ただ言えることは。

広子は僕を許してくれない。

それだけだ。
さようならーーーー
317お題『広子は僕を許してくれない』 1:2011/10/17(月) 13:29:44.56 ID:kOqbl3u5
「あのさ、あたしたちさ」
その日は僕たちは
「これから幼馴染じゃなくって、普通の友達でいようよ」
幼馴染から、普通の友達になった。


『広子は僕を許してくれない』


空は青く、どこまでも青く、時々白い雲が青い空を自由に泳いでいる。
「んもー。そんなに空ばっかり見てたら犬のウンコ踏んじゃうよ?」
いつもの通学路、いつもの空間、いつもの会話。
「ばっか。んなもん踏むか。あともう少し後ろ歩けよな!恥ずかしいだろ!」
「やだよ。ウンコ踏んで困るとこ見たいもんね。だから離れないよ〜」
「ウンコ踏んだらお前の靴につけるからな」
「最低〜!女の子の靴にウンコつけるなんて最低〜!」
「女の子がウンコウンコ言うな。このウンコ女」
「なぁ〜ん〜で〜すってぇ〜!」
物心ついた頃からずっと一緒だった幼馴染の広子と何気ない話を繰り返しながら通学路を進む。
広子と学校に行って、授業が終わったら広子と一緒に帰って、暇だったら広子と遊んで、また次の日学校に広子と一緒に登校する。
ずっと一緒に居すぎるせいで、周囲の目線は「それが当然」という感じになってしまい、浮ついた噂話をされるレベルにならなかった。
「…ん?なんだこれ」
それが、当たり前だと思っていた。それが、日常だと思っていた。
「なになに?どしたん?」
今までもずっと広子と一緒で、これからもずっと広子と一緒だと思ってた。
「これ…手紙…?」
「え?え?うっそー!え!?これもしかして…ラブレターじゃない?」
靴箱に入っていたその手紙を見つけるまでは。


「……はぁ〜……」
「どしたん?いつも一緒の広子ちゃんとケンカでもしたか?」
「いや……。ケンカらしいケンカもしたことねーよ…はぁ…」
クラスメートとため息混じりに言葉を交わしながら、考える。
(何だこれ…ラブレターって……絶対イタズラか何かだろ…)
今までラブレターなんてもらったことも無いし、2月14日にチョコレートをもらったことなんて…広子と親からもらうぐらいだった。両方義理だったが。
イタズラだと割り切って破り捨ててしまうことは簡単だ。けれど、もし本物だったら?
本物だったらどうする?中身はどんな事が書いてあるんだろう?相手は誰だろう?
知ってる子なのか?知らない子なのか?
そんな考えと同時に、広子の顔が思い浮かんでは消えていく。
そのせいで、いつも以上に授業が耳に入らずずっと上の空だった。
昼休みになり、母親が作ってくれた弁当を食べ終えて人気の無い場所へと行き、微かに震える手で花柄の封筒の封を切る。
期待なんてしない。どうせイタズラに決まってる。でも、読むだけ。読むだけだから。
そんな事を自分に言い聞かせ、一枚の手紙を取り出し、読む。
綺麗な文字で文章は短い。でも、相手の意思をハッキリと感じ取る事が出来る文面だった。
そして最後に差出人の名前を見て、声が出なかった。
差出人の名前は、広子の同級生の女の子だった―。
318お題『広子は僕を許してくれない』 2:2011/10/17(月) 13:30:44.80 ID:kOqbl3u5
「ね!ね!それで誰からのラブレターだったの?」
「あー、まだ読んでない」
下校時、並んで歩く広子は興味津々といった表情で問いかけてくる。
「いやーまさかあんたがラブレターをもらうなんてねぇ〜。すごい時代になったもんだ」
「どういう意味だそりゃ。お前だってラブレターくらいもらったことあるだろ?」
突然のラブレター、差出人は広子の同級生の女の子。広子とよく喋ってるのを見たことがあるし、僕も何度か話した事がある。
「あはは、ラブレターなんてもらった事、無いよ。あ!でもでも!」
「うん?」
でもやっぱり、少し話した事がある程度で、特別意識する子でも無かった。
確たる証拠も無いのにイタズラだと思い込んで手紙を破り捨ててしまうと、その子の思いを踏みにじってしまいそうで出来なかった。
「ほら、覚えてる?あたしたちがまだまだこ〜んなに小さいときにさ、手紙くれたじゃない?クレヨンで描いた手紙」
「ばっか!いくつの時の話してんだよ!」
「懐かしいな〜。クレヨンで紙がくしゃくしゃになっちゃって、読めなかったんだよね」
お互いを見続けてきた。小さい頃の失敗なんかも、こうして笑い話に昇華できる程の仲。
昔はただ照れくさかった。でも、時が経つにつれて安心感が僕の中で生まれた。
笑う時も、泣く時も、楽しい時も、愚痴をこぼす時も、いつも傍にいてくれたのは広子だった。
もらった手紙の返事の選択をした時、隣にいるのは、広子ではなく広子の同級生の女の子になるかもしれない。
「……」
「……」
自然と訪れる、沈黙。こういう時、先に口火を切るのはいつも広子だった。
「…ね。いっこ聞いていい?」
「うん」
いっこ聞いていい?と聞くのも、広子の子供の頃からの癖。
「手紙の返事、どうするの?」
「…ん、まだ読んでないって。読んでから決める」
「…そっか」
広子は友達以上に信頼している、親友。
広子の同級生の女の子は、明るく、話やすかったのが印象に残っている。
でも、やっぱり顔見知り程度の仲。
「……」
「……」
再び沈黙。二人の足音だけが、静かな町並みの中で響く。
そう、広子は親友なのだ。幼馴染で、親友。でも、同級生の女の子は、ラブレターを出してくれた。
「……って、思ってたんだけど、ね」
「え?」
じゃあ、今この頭がモヤモヤする感じは、何なのだろう。
「変わらないって、思ってた」
「…何が?」
広子は、伏し目がちに話しながら、僕の返事に軽く頭を左右に振った。
頭のモヤモヤが、少し増した気がした。
「でも変わらないわけがないんだよね。ううん、変わらなくちゃいけない」
「広子、あの」
「うん!早く手紙の返事出してあげなよ!女の子泣かせるような真似したら怒るかんね!っと、あたしはこっちだからもう行くね。また明日!」
「おま、…ったく」
広子は一方的に捲くし立てて走り去ってしまった。
(変わらない、か)
帰宅して、自分の部屋に戻って制服姿のままベッドに飛び込む。
(それは僕だって、思ってたよ)
319お題『広子は僕を許してくれない』 3:2011/10/17(月) 13:31:47.19 ID:kOqbl3u5
『おままごとしたい〜!』
『え〜やだよおままごとなんて。カリレンジャーごっこやろうぜ!』
『い〜や〜!おままごとがいいの!はい、おかえりなさい!』
『ちぇー。おままごとはきょうだけだかんな!』
『うん!ありがとっ!』


『ここ、ぼくのひみつきちにしようとおもうんだ!』
『わーー!すごーーい!!ひみっつきちっ!ひみっつきちっ!』
『ひろことぼくだけのひみつだかんな!みんなにはないしょだぞ!』
『うんっ!』


『いってぇ……』
『ヒック…グスッ……ごめんね…ごめんね……』
『泣くなって!悪いやつはやっつけたから、もう泣くな!』
『でもっ……でもっ…ヒックッ』
『泣くのやめないと、ぜっこうだぞ!』
『やだ…やだぁ…ぐすっ……もうっ泣かないっからっ』

『変わらないって思ってた。でも、変わらなきゃいけないんだよね』
『広子…?』
『…うん!これからもずっと友達でいようね!』
『広子!待てよ!僕は――!』

「…っ!広子っ!」
勢いよく飛び起きたせいで、少し目眩がした。
体が汗ばんでシャツに張り付き、気持ち悪い。
コチ…コチ…と時計が秒針を刻む音だけが、部屋に響いていた。
「……夢にまで見るとか、重症だなこりゃあ…」
今までずっと一緒だった幼馴染にして、親友。
どんなことでも話し合えた。男だとか女だとかを無視した関係が心地良かった。
変わりたくなんてなかった。今のままが良かった。
けれど、変わろうとしている。時間が経つにつれて、お互いに大人になっていく。
いままでも、これからも変わらないと思っていたのは、希望だった。
広子の同級生の女の子からもらった、ラブレター。
僕はこれにどう答えればいいのか。迷うはずもないのに、迷うフリをする。
物心ついた頃から一緒にいる広子。今までも、これからも、ずっと一緒なのが当たり前だと思っていた。
子供の頃は、恥ずかしさ故に後ろからついてくる広子をいつも泣かしていた。
けれどある日、別の男子に広子がイジメられているのを見て、凄く腹が立って広子をイジメている男子とケンカした。
それ以来『広子を泣かしちゃいけない』と自分の中で決めた。
誰かを好きになる―そんな年頃になっても、僕はそんな気持ちが広子に芽生えることは、無かった。
クラスメートに一度『広子ちゃんの事、好きなの?』とか『広子ちゃんと付き合ってるの?』と聞かれたことがあるけれど
僕は、広子を女の子として見る以前に親友として見ていた。その期間が長すぎたから、聞かれても何も感じなかった。
―そんな建前的な考えを、並べ立てる。
広子を「幼馴染の親友」ではなく「好きな女の子」と意識していたのは、いつからだろうか。
好きだと言って、今のこの心地よい関係が崩れたらと考えると、怖くてたまらなかった。
だからこそ、今までどおりの幼馴染の親友でありたいと思った。このままの関係が良いと願った。
『でも変わらないわけがないんだよね。ううん、変わらなくちゃいけない』
別れ際に言った広子の言葉が、頭をよぎる。
(……広子の同級生の子に、話をしにいこう)
窓から明るくなり始めた空を見上げながら、僕は決意を固めた―。
320お題『広子は僕を許してくれない』 4:2011/10/17(月) 13:33:46.42 ID:kOqbl3u5

「おっはよー!今日もいい天気だね!」
毎朝聞きすぎて、飽きるのではないかと思うほどの元気な声に、手をあげて応える。
「うーいー。おはようさん。広子は無駄に元気だねぇ」
「元気があたしの取り柄だからね!えっへん!」
いつもの登校時間。今日も広子と一緒。
広子は昨日の帰り際に見せた少しだけ寂しそうな表情を、今は笑顔に変えている。
空元気なのはすぐにわかった。けれど、それも広子の気遣いと知っているだけに胸が少しだけ痛くなった。
―昼休み
弁当を食べ終え、手紙に書かれていた待ち合わせ場所へと向かう。そこには広子の同級生―佐藤さんがいた。
「やっ。来てくれて嬉しいよ。あんがと」
「いやいやこっちこそ。手紙くれて嬉しかったよ」
佐藤さんは僕を見つけると右手を軽くふり緊張した様子もなく挨拶をしてきた。
ここに来るギリギリまでは、イタズラじゃないかと疑っていたのだが―。
「あ〜。あの手紙イタズラじゃないか〜って疑ってたでしょー。心外だなぁ〜」
「え、いやぁ…まぁ、やっぱり思うよ。突然だったもん」
考えていたことを言い当てられ、ドキリとする。それでも佐藤さんは可笑しそうに言った。
「いやはや、我ながら乙女ちっくなことをしたもんだと思ったさ〜。それで、ここに来たってことは返事をもらえるってことでいいのかな?」
「うん。一晩じっくり考えてきたよ」
誰もいない、待ち合わせ場所の視聴覚室。
お互いを、見つめる。佐藤さんは、僕の言葉を待っている。
そして僕は、嘘偽りの無い心からの言葉を、佐藤さんに告げた―。


放課後、広子と帰ろうと思い広子を待つものの、来ない。
いつもこの時間になると元気な声で『帰ろー!』とクラスに入ってくるのに、来ない。
「あんれ?広子ちゃん今日来ないな?さてはケンカでもしたんだろ?」
「してねーっつーの」
クラスメートの軽口も流しつつ、待つ。

―10分経過―

(遅いな。日直にでも当たったかな?)
自分のクラスを出て、広子のクラスへと向かう。
廊下で、見知った人に出会った。
「あ、佐藤さん。広子見なかった?」
「広子?うんや、広子ならもう帰ったよ?」
「そっか。ありがと!」
今まで、広子が何も言わずに帰ることなんて、無かった。
友達と帰るときでも、必ず一言言って帰るような律儀なやつが、何も言わずに帰った。
ざわざわと胸をくすぐる変な感覚があった。
「…がんばれ〜。あたしゃ応援してるよ」
走り去る男の子の背中を見つめながら、佐藤は呟く。その眼差しは、どこまでも優しかった。
321お題『広子は僕を許してくれない』 5:2011/10/17(月) 13:36:45.25 ID:kOqbl3u5
「はっ…はぁっ…はあ…!…広子っ!!」
「へ…わっ!!」
下校時に毎日通る道を全速力で走り、先を歩いていた広子の名前を呼ぶ。
すると、僕を見た途端広子が走り出した。
「このっ…待てって!広子!!」
「……っ!」
追いかけっこでは、昔から僕のほうが速かった。
広子がどんなに走る練習をしても、いつもこっそりと広子以上に走る練習をしていたから。
広子に置いていかれるのが、すごく嫌だったから。
「待てったら!!」
「……ぅっ」
広子の右腕を掴むと、広子は大人しくなった。
「どうしたんだよ一人で帰って…。体の具合でも悪いのか?」
「……」
俯きながら頭を左右に振る。そのせいで表情はわからなかった。
「…何か、あったか?」
「……っ!」
今まで無かったこと。こんな広子は、見たことが無かった。
だからなるべく優しく、問いかける。
すると、広子の体がビクリと震えたかと思うと、静かに顔を上げ、両目に涙を溜めて、静かに言った。
「あのさ、あたしたちさ」
その日は僕たちは
「幼馴染じゃなくって、普通の友達でいようよ」
幼馴染から、普通の友達になった。
「…え?」
「……」
久しぶりに見た広子の泣き顔。
そして、初めて言われた言葉。
広子は掴んでいた僕の腕を振りほどき、走り去っていった。
後にはただ、呆然と立ち尽くす僕だけが残った―。

それから、広子と僕は話さなくなった。
登校時も、学校にいるときも、下校時も、広子は僕を避けるようになった。
理由は、よくわからない。考えても、何が原因なのかわからない。
昔は広子を泣かせていた。けれど、どんな時でも、次の日には仲直りしていた。
けれど今回は違う。今の状況になって、一週間が経とうとしている。
無理に広子に会おうとすれば、広子を傷つけるかもしれない。
でも、一番恐れていたことが、今実際に起こっている。
広子と最後に別れた日以来、ずっと上の空だった。
隣にいつもいた人がいない。それだけで、ポッカリと胸に穴が開いたような―。
「やっ。青春少年」
「…へ?あ、佐藤…さん?」
昼休み、教室で窓から空を眺めていたら、背中を軽く叩かれた。
窓から目線を移すと、いつからそこにいたのか。いつも穏やかな表情をしている佐藤さんがいた。
「今、ちょっち時間いい?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
「ここじゃアレだし、ちょっと移動しよっか」
そう促されて、また視聴覚教室へと移動する。
「広子の事なんだけどさ」
「…うん」
チクリと胸が痛んだ。呼び出されてから、広子の話題だろうと思っていたけれども、実際に話してみると、辛い。
「広子がさ、ずっと元気無いんだよね」
「……うん」
一週間前、告白された場所で、告白された子と、同じ立ち場所で話をするのは、不思議な気分だった。
「で、あんたは何してるのさ」
「え?」
穏やかだった佐藤さんの視線が、鋭く僕を射抜く。
「はぁ〜鈍いねぇ。あんた、あたしを振った時に何て言ったか覚えてる?」
「うん…覚えてる」
そう、僕はあの時、佐藤さんに自分の意思をハッキリと告げたんだ―。
322お題『広子は僕を許してくれない』 6:2011/10/17(月) 13:38:27.25 ID:kOqbl3u5

『ごめん、佐藤さん。僕、好きな人がいるんだ』
『…っちゃ〜。見事に玉砕か〜ちょっとは望みがあるかと思ったんだけどねぇ。それで好きな子って、広子?』
玉砕したのに、どこか可笑しそうに笑う佐藤さん。きっとサッパリとした性格なんだろうな、と思った。
『…うん。僕、広子の事…好き…みたいだ』
『みたいだ、じゃダメだよ。好きなの?そうじゃないの?好きじゃないなら、あたし諦めきれないよ』
穏やかな笑顔でも、澄んだ目はどこまでも真剣だった。
『ごめん。好きなんだ、広子のこと』
『幼馴染で好き、友達として好き、とかじゃなくって?』
胸のモヤモヤを吐き出すように、言葉を続ける。
『うん。もう気付いた頃から好きだった。好きで好きで、どうしようもないくらい、好きだ』
『あーその言葉は本人に聞かせてやんなさい。今のあたしにゃ重すぎるさー』
『あぅ…ごめん』
『広子も幸せもんだねぇ。ここまで思ってもらえるなんてさ。今のセリフ、あたしに言ってほしかったくらいだよ』
どこか寂しそうに呟く佐藤さんの姿に、改めて申し訳ないことをしたと感じる。
『ああ、あたしを振ったからって気にしないでね。そういうのはきちんと割り切るからさ』
また考えていることを言われた。
『君、結構顔に出るからわかりやすいんよ。そういうとこも広子と似てるねぇ』
佐藤さんは穏やかに話し続ける。もし、もし今と違ったカタチで出会っていたら、違った関係になっていたかもしれない。
そんなことを思うのは、野暮ったいかもしれないが。
『そんなわけで…ごめんね、佐藤さん』
『うんや、いいよいいよー。あたしも気持ちの整理できたし。ありがとね』
どこまでも穏やかな顔で、佐藤さんと手を振り合い、別れた―。


「それで、広子には告ったんでしょ?」
「いや、まだ…」
「え、まだなの?告ったから広子あんな風になってるんじゃないの?」
佐藤さんはあっけらかんと言ってのける。いやでも、告白と言われましてもですね。
僕は佐藤さんに、一週間前のことを話した。
「なるほど、ね。そしてまだ告る段階まで行けてないわけなんだ」
「…今の関係が壊れるのが、怖くってさ。ずっとずっと一緒にいたから、今更好きだー!って言っても、ね」
そう、怖かった。そして何より、振られるかもしれないと考えると、怖くてたまらなかった。
「広子もさ、僕のこと好きってわけじゃないかもしれないし、振られたときのことを考えると―いてっ!」
話している途中に、佐藤さんの右手チョップが僕の額に当たった。
「それは臆病なだけだよ。それに、なんでその言葉をあたしに言えるのに広子には言えないの?あのね、いいこと教えたげる」
穏やかだった佐藤さんの表情が、真剣なものに変わる。
「変わらないものなんて、無いんだよ。だからこそ、どんな結果になっても『変化』を受け入れなきゃいけない。それが良い方向に転がるか悪い方向に転がるかは、神様もわかんない」
言葉の一つ一つに、重みがあった。説得力があった。
「変えたくないと思うのは、ただの逃げだよ。今の君はただ『変化』から逃げてる。あたしは、君に自分の思いを伝えたよ。変化を恐れずに」
「…っ!」
変わらないもの。変わろうとしているもの。ずっと一緒にいてくれた幼馴染にして親友。
323お題『広子は僕を許してくれない』 7:2011/10/17(月) 13:39:28.20 ID:kOqbl3u5
佐藤さんの言うとおりだ。自分の中でグルグル考えてただけで、一番大事なことを、一番伝えたい人に伝えられてないじゃないか!
僕は今まで何をウダウダ考えていたんだろう。
今やるべきことは何なのか。そして誰に何を伝えなければならないのか。それが何なのか、今ハッキリとわかった。
「佐藤さん…僕…」
「あー、いい。今度美味しいケーキおごってくれたらそれでいい。ホラ、分かったらさっさと行く!昼休み終わっちゃうよ!」
手を叩き、話はおしまいとばかりに佐藤さんは動き出す。
「佐藤さん、ほんとごめん。ありがとうっ!!」
佐藤さんに手を振りながら、視聴覚教室を後にする。佐藤さんには何度もお世話になった。今度、広子が知ってる美味しいケーキ屋さんに連れていっておごろう。
(そういえば…なんで佐藤さんが僕の事なんか好きになったのか……聞くのも野暮ったいか)
決意を胸に、教室へと戻る。今、僕自身がやらなければいけないことを考えながら。
「……うん。これでいい。これで、いい」
視聴覚教室に一人残った佐藤は、誰に言うでもなく呟いていた。
「ホント、ピエロだよ。恋のキューピットなんかに…なれないよ…」
俯きながら呟く佐藤の目には、涙が少しずつ溜まっていった。
「全く、見てられないよ…。あんたら二人がさっさとくっつかないから、変な虫が近づく…あたしみたいな、ね」
小さく鼻をすすりながら、人差し指で左右の目に溜まった涙を拭う。
「広子と楽しそうに話す姿が、好きだったなぁ…。それに、広子だけ特別なんじゃなくて、誰にでも優しい。あたしにも」
白い天井を見上げながら、好きになって、生まれて初めてラブレターを出して、生まれて初めて告白をした男の子のことを思う。
「うん。でも良かった。これで良かったんだ…広子も…あの人も、これで……これ…で…ひっく…ぐすっ…」
佐藤は蹲り、チャイムが鳴り響くまで声を押し殺して泣き続けていた。


「―以上が、流星が流れる原因と考えられている」
退屈な授業。これが終わったら、広子と話をしよう。佐藤さんが作ってくれたキッカケを、無駄にはしない。
「そういえば、今夜あたり流れ星が見えるんじゃないか?」
僕は考える。考え続ける。変わらないものは無いなら、変化を受け入れる努力をしなければならない。
そして、変わるのを恐れるのではなく、変われる勇気を持たないといけない。
幼馴染と親友という関係を、壊そう。そして、ただ壊すだけじゃなくて、更に一歩踏み込んだカタチにしたい。
結果を恐れてはいけない。それを教えてくれた人が、いた。彼女は結果を恐れずに真摯に真正面からぶつかってくれた。
今の僕は、ただ結果を恐れて目を背けているだけに過ぎない。それは、一番やってはいけないこと。
僕も、真正面から広子にぶつかろう。例えそれが、どんな結果になろうとも―。
324お題『広子は僕を許してくれない』 8:2011/10/17(月) 13:40:28.15 ID:kOqbl3u5
「広子っ!」
全ての授業が終わり、生徒たちが帰宅する中、真っ先に広子のクラスへと向かう。教室の入り口で、入り口近くの席にいた広子の名前を叫ぶと
佐藤さんや他のクラスメートと話をしていた広子の肩がビクリと震えた。
「一緒に帰ろう。いいか?」
「う、うん。みんなごめんね。また明日」
一週間ぶりのまともな会話。そのせいか、若干広子が緊張しているのがわかる。
荷物を持ち、席を立って広子がこっちに来る時、広子の後ろにいた佐藤さんがグッと右手を握り、親指を上に立てて軽くウィンクをしていた。
『がんばれっ!』
『ありがとうっ!』
そのサインに、僕も同じように返す。佐藤さんは、良い人だった。
「……」
「……」
帰り道。何となく気まずい雰囲気がお互いにあった。けれどこのままじゃダメなんだ。
「こうして一緒に帰るの、なんか久しぶりだなぁ」
「…そだねぇ」
先に口火を切ったのは、僕だった。
「そういえばよー昔もさ、かくれんぼやっててさ、広子が鬼の時、僕が先に帰っちゃって広子すんげー怒った時あったよな」
「…うん…そんな事も、あったね」
いつも昔の話をするのは、広子のほうだった。今は、立場が逆転している。
「それで、次の日もすねまくってて、全然口きいてくれなくって、僕も泣きながら謝ったっけ」
「…あはは。あの時はホントに怒ったよ」
広子はやっぱりどこかぎこちない。今のこの状況なったのは、僕のせいなんだ。
「……」
「……」
再び訪れる、沈黙。今この場所で、一番言いたかったことを言うために広子に気付かれないよう軽く深呼吸する。
「んで、さ。今日の夜、暇?ちょっと付き合ってほしいんだけど」
「えっ?…夜?うん、あんまり遅くでなければ大丈夫…だと思う」
ちょっと戸惑いつつも、広子は了承してくれる。その返事に安堵し、胸を撫で下ろす。
その後は、お互い別れるまで他愛もない話を僕が一方的にしていた。広子は相槌を打ったり、時々返事をしてくれた。
多分、嫌われていないとは思う。もしも嫌われていたとしたら、こうして一緒に帰ってくれていない子だから。
自分でも呆れるくらいの楽観的思考だけれども、今はそうでも思わなければ、言葉が続かない。


家の窓から、夕日が見え始める時間帯。
僕は親に頼んでアルバムを貸してもらい、昔の写真を眺めていた。僕の隣には、不安そうな顔で僕の袖を掴む女の子の姿があった。
「うっし、行くか!」
夕日が見え始めたら、夜になるのは早い。身支度を整え親に夕飯までに帰ると告げて家を出る。
目指すは広子の家。そして、向き合ってぶつけよう。自分自身の気持ちの全てを―。
325お題『広子は僕を許してくれない』 9:2011/10/17(月) 13:41:28.61 ID:kOqbl3u5
「あの、広子いますか?」
「ええ、ちょっと待ってね〜」
広子の家に着き、インターホンを押すと広子のお母さんが応えた。名前を言うと嬉しそうに返事をしてくれた。
そのままだとインターホン越しに話が始まってしまうので、広子を呼んできてもらうことにした。
しばらくすると、ドタドタと音が聞こえ、ドアが開き広子が出てくる。
「お、お待たせ!」
「んや、いいよ。悪いね、夜に呼び出して」
玄関のカギを閉めながら、少しだけソワソワしている広子になるべく優しく話す。
「えっと…それで、どこか行くの?」
「うん、ちょっとな。よっしゃ!行くか!!」
「へ?…わっ!」
少し大きめに声を出して、力が入りすぎないように広子の左手を握って歩き出す。広子は驚いてつんのめりかけていた。
「ん……どこいくの?」
「ナイショ」
久しぶりに握った広子の手は、記憶の中の手よりも少し大きくなっていた。それでも女の子らしい、小さな手だった。
最初は引かれるままだった広子の手が、きゅっと僕の手を握り返してくれたことが嬉しかった。
時刻は日没。既に周りは暗くなっている。予想以上に暗くなるのが早い。
「……」
「……」
お互いに、沈黙。でも今はこの沈黙がありがたい。手から広子の温もりが伝わってくるから。
緊張して手が汗ばんでないかどうかが心配だった。目的の場所は街中にある土手の端。
「足元滑るから、気をつけてね」
「…うん、だいじょうぶ」
子供の頃に来たとき、この先には何があるんだろうってワクワクした。けれど、大きくなって来てみるとほんのすこし上りにくいだけの坂道だった。
「着いた。久しぶりだなぁ、この場所に来るのも」
「覚えててくれたんだ、この場所」
そこは、僕が子供の頃に見つけて秘密基地にしようと決めた場所。土手の端で、少し離れた場所で鉄製の壁に挟まれて電車が橋の上を走っていくのを見るのが、好きだった。
そして何よりも好きだったのは
「そういえば、あの頃は言わなかったんだけどさ。広子、上見てみ」
「上…?…わぁ!」
ここから見る星が、大好きだった。夜にこっそり来て、後から親にすごく怒られたけど。
久しぶりに見たけれども、その美しさは色あせることは無かった。
変わらないものは確かにある。けれども、僕たちは変わる。変わってしまう。それは大人への『変化』
「あの、さ。広子」
「…うん」
しばしお互いに満天の夜空に見惚れていたけれども、僕は視線を広子に移しゆっくりと話す。広子も空から僕に視線を移して、お互いに向き合う。
心臓が凄い速度で鼓動しているのがよくわかる。色々言いたいこと、伝えたいことがあったはずなのに頭が真っ白になってしまう。
それでも僕は一歩を踏み出す。勇気を振り絞って、前に。
「僕、広子のこと好きだ」
326お題『広子は僕を許してくれない』 10:2011/10/17(月) 13:42:14.04 ID:kOqbl3u5
「え…?」
変わってしまうのなら、受け入れよう。そして、向き合おう。
「ずっと昔から好きでした。付き合ってください」
「…えっ……えっ……ちょっとだけ、待って……」
広子は俯き、人差し指で目をこする。そして顔を上げ鼻をすすりながら言った。
「……あたしっ…あたしでっ……いいのっ…?」
広子は、昔から泣き虫だった。
「広子じゃなきゃイヤだ。僕は広子が好きなんだ」
「でもっ…ぐすっ……他の子に……告白されたんじゃ……」
違う。違うんだ広子。
「それも断った。僕が、広子を好きだったから」
「……あはっ……ぐすっ…あたし、バカみたい……君を好きな人がいるなら、身を引こうって思って…あんなこと…ひっくっ…言ったっのに…」
広子の言葉を聞くのが辛くって、これ以上、広子に辛いことを言わせるのがイヤで
「うん。もう気にしてない。気にしてないよ」
「うぅ…うっ……うぅっ……」
広子を、抱きしめた。広子の体は小さく震えてて、そうさせてしまったのが自分だとわかって、軽く自己嫌悪に陥る。
「あのっね……あたしもっ……ずっとずっと…君のこと、好きだったんだよ…」
「広子……」
一度体を離し、もう一度抱きしめる。今度は、広子も腕を僕の背中にまわして抱きしめてくれる。
広子の温もりと、早い心臓の鼓動が、伝わってくる。
「……あのね、あたし、怖かったんだ。君に好きだって言うと、今の関係が壊れてしまいそうで」
「それは僕だって同じだったよ」
泣き止んだ広子は、抱き合ったままゆっくりと話し始めた。
「あたしたちはただの幼馴染で、それ以上の関係にはなれないんじゃないかって…。もし君に振られたらどうしようって」
「僕も、同じこと考えてた」
ああ、なんだ。結局僕たちは
「変わらないって思ってたものが、急に変わっちゃう。隣にいつもいてくれた人が突然いなくなっちゃう。それを考えるだけで、とても怖かった」
「うん、うん」
同じ所を、グルグルと回っていただけなんだと気付かされた。
「佐藤さんとか、他の子たちにもいっぱい相談したんだけど、みんなさっさと告白しちゃえー!ってそればっかりで…」
「それが出来たらすごい楽だったんだけどね。お互い」
広子の頭を撫でながら、改めて思う。幼馴染以上に、親友以上に、一人の女の子として愛しいと。
「そしたら、ラブレターが入ってて…頭が真っ白になって、他の誰かが君のことを好きなんだって思った途端、あたしは傍にいちゃいけないって思っちゃって…」
「なんで?」
「だって……幼馴染なだけだし……お邪魔虫になっちゃうし……それに何より……あたしの隣に君がいなくなっちゃうのが凄くイヤで…」
「ああ、それで」
あの時、幼馴染から、ただの友達になろうって言ったのか。
それは、不器用な広子なりの気遣いだった。
「でも……離れちゃったらどんどん不安みたいなのが膨らんできて、いてもたってもいられなくなった時に、君に呼び出されて」
「うん」
「久しぶりに手を握ってくれて、嬉しかった。秘密基地に連れてきてくれて、すごく嬉しかった」
「うん、うん」
「好きだっていってくれて、とっても…嬉しかったよぉ…」
再びぐずりだす広子の頭を撫で続ける。
「…ぐすっ……あのね、好きだよ…大好き…!」
「ああ。僕もだよ。好きだ。これ以上ないくらい、大好きだ」
満天の星空の下、僕たちは変わった。幼馴染から友達へと変わり、友達から恋人へと変わった。
変わらないものはない。人が子供から大人になるように、大人から老人になるように。
僕たちは今、子供から大人への階段を一歩ずつ進んでいる。その過程で、変わってしまい失くしてしまうものもある。
けれど、失くしてしまわないように努力することはできる。
結果を恐れてはいけない。前に進む勇気を精一杯にかかげて、向き合おう。
そうすればきっと、変えていけるから。良い未来へと。自分たちの望む最高の未来へと―。
327お題『広子は僕を許してくれない』 Last:2011/10/17(月) 14:02:37.11 ID:kOqbl3u5
空は青く、どこまでも青く、時々白い雲が青い空を自由に泳いでいる。
「んもー。そんなに空ばっかり見てたら犬のウンコ踏んじゃうよ?」
いつもの通学路、いつもの空間、いつもの会話。
「ばっか。んなもん踏むか。それに手繋いでるから広子もウンコ踏むんだぞ?」
「ふ〜んだ。あたしはそんなドジしないもんね〜だ」
「ウンコ踏んだらお前の靴につけるからな」
「最低〜!彼女の靴にウンコつけるなんて最低〜!」
「女の子がウンコウンコ言うな。このウンコ女」
「なぁ〜ん〜で〜すってぇ〜!」
これが、僕の望んだ結果。
これが、僕を勇気を持って踏み出した一歩。
ただ一つだけ、予想外に嬉しかったのは
「あーそうそう」
嬉しそうに広子が僕の前に立って、言った広子の言葉。
「昔っからずっと好きだっていうサイン出してたのに、あたしの気持ちにずっと気付いてくれなかったんだから、それに責任とってくれるまで許さないんだからね!」
満面の笑顔で、そんな事を言うから、たまらず笑った。
「もー!わーらーうーなー!」
「あははっごめんごめん。ほら、遅刻するぞ!」
そして走り出す。どこまでも青い空の下で、彼女と一緒に。
広子が許してくれるまで、ずっと一緒にいよう。
許してくれても、ずっと一緒にいよう。そういう『変化』を出来るように、僕は努力し続けようと思った。


広子は僕を許してくれない END
328創る名無しに見る名無し:2011/10/17(月) 19:34:38.86 ID:Ie4w7jN/
ながいごう
329創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 02:41:11.69 ID:Q9x/PDEd
>>327
ええのう
面白かった
330創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 22:25:17.29 ID:N3H7uBwd
お題「しずかちゃんは萌えているか?」
331創る名無しに見る名無し:2012/01/04(水) 14:59:42.98 ID:rNCRC31I
332創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 23:23:47.41 ID:6XtpMDgi
お題『2012』
333創る名無しに見る名無し:2012/01/30(月) 19:01:04.84 ID:cxWJt0pw
t
334しずかちゃんは萌えているか?:2012/02/26(日) 22:13:46.45 ID:4smFWc1g
「ねえお祖父さま」
 長身の美少女は祖父に甘えて抱きついた。
「なんだねしずか。子供じゃあるまいし」
「私ね、欲しいものがあるの」
「やれやれ、またその話か」
「いいでしょ、ねえお願い」
「お前は飽き性だからな。またすぐに気が変わる。切りがない」
 その時、窓ガラスを突き破ってターザンのような絶叫とともに何者かが飛び込んできた。
「あー!あー!あー!」
 侵入した黒ずくめの忍者男は、すぐに孫娘のほうを捕まえ、彼女のこめかみに銃のような物を突きつけた。
「久しぶりだな。迅教授。俺だよ、忘れたとは言わせない。梶沢岳史だよ」
 迅は眼鏡の奥から目を見開いた。
「君か、梶沢なのか、あの――」遠い過去を再現するのも束の間、
「あのときの恨みを晴らしに来たぜ。こいつは孫か。随分きれいな玉だな。ならお前を苦しめるのに好都合だ」
「よせ、あれは事故だったんじゃ。亡くなった君の家族にはすまなかったと思っておる」
「そんな事はどうでもいい。あれから俺の人生は滅茶苦茶だよ。でも今日が最後だ。何もかもな」
「何をする気だ? しずかは普通の子じゃない。頼むから止めてくれ」
「花火を上げてやるよ。俺の命の最終章としてな。そしてお前の残りの人生も散るんだ」
 梶沢の銃はチューブがついており、背中のタンクに繋がっていた。
 梶沢が引き金を引くと、銃の先から小さな火が点った。火炎放射器に違いなかった。
「わはははは! よく見てろよ。お前の目の前で、きれいな宝物を燃やしてやるから」
 梶沢はしずかを突き飛ばすと、火炎放射器の引き金を一杯に引いた。迸る炎がしずかの体を直撃し、少女はドレスごと炎に呑まれた。
「しずかー!」
 しかし悲鳴をあげて悶え苦しむかと思いきや、しずかは平然と炎を受け入れていた。
 顔にかかった蜘蛛の巣を取るような仕草をする程度なのはどういうことか。
「な、なんだお前? 熱くないのか」
 一瞬たじろぐ梶沢に、彼女は猛然と抱きつき、梶沢ごと火だるまになる。
「ぎゃあああっ!」これは梶沢の悲鳴であった。
 二人は揉み合いながら窓際に退いていき、そして梶沢の侵入した窓から一緒に飛び出していった。
 ここは三階である。地面に激突する音がした。
 迅が慌てて階段を駆けおり、外に出ると、全ては終わっていた。
 梶沢岳史は全身に火傷を負った上に墜落死。
 そして《しずかだったモノ》は、自分の上に覆い被さる男の焼死体を退けて、ゆっくりと立ち上がるところだった。
「オ祖父サマ、オ怪我ハアリマセンカ?」声帯に障害が起きている。
「おお、しずか、コアは無事だったようだな。すぐにチェックするから整備室に来なさい」
 迅は、しずかの素体を、高熱も構わず抱きしめた。
 今までしずかを形作っていた外皮は焼け落ち、彼女は骸骨のような金属の本体を露わにしていた。
 それでも迅にとって、しずかはしずかであった。
「オ祖父サマ、今度コソしずかノオ願イヲ聞イテイタダケマスワネ。私ニ新シイすきん・すーつを作ッテ下サイ」
 コアを偽装する精巧な人型の着ぐるみをスキン・スーツという。
「わかったよ。確かお前のリクエストは萌え系だったね。いいよ。なんでも作ってあげるから――」
 ロボット工学の権威、迅博士は涙を流して《義娘》の無事を喜んだという。
335創る名無しに見る名無し:2012/03/30(金) 18:20:34.87 ID:WzCU9cSW
age
3362012:2012/04/08(日) 15:49:58.98 ID:UJqTTC6o
 雨の夜、ニコルスンはそのホテルのフロントに駆け込んだ。予約はしてないが一か八かだ。
 フロントには美人の女がいた。年齢は三十代半ば、ニコルスンは四十代なので彼女は十分に年下である。
「部屋は空いているかね。どこでもいいんだが」
 彼女の膨らんだ胸元にはヒロと記された名札が張りついていた。
「現在、キャンセルなどで三つほど部屋が空いております。どれになさいますか」
「これはどうかな」ニコルスンは各部屋番号の表示された案内板を指さした。
「景色はご覧になれませんがお手頃です」
「多少は旅行気分を味わいたい。じゃあ次のこの部屋はどんなところですか」
「それはツインです。広々としていて景色もそこそこに眺められます。お値段は先程より高くなります」
「今度は値段がつり上がるのか。じゃあ最後のこの部屋はいいのかな」
「2012号室ですね。これはおやめになったほうがいいですよ」
「この部屋は勧めないのか。幽霊でも出るのかね。景色は?」
「幽霊など出ません。景色は上々です。しかし」
 ニコルスンの直感が表に出た。
「よしこの部屋に決めよう。幽霊が出ないのなら構わない」
「そうですか。では案内いたします」
 ニコルスンはヒロの後ろについて部屋に案内された。ヒロは前から見ても美人だが、後ろから見るとたまらない色香を放っていた。その括れた腰はフロントに置いておくのがもったいないほどだ。ニコルスンの中で抑えきれないものが頭をもたげてきた。
 部屋に着いて、ヒロが何か説明しているようだが、ニコルスンは完全に上の空になった。
「ではごゆっくりおくつろぎ下さい」
 一通りの室内の説明を終えてヒロは退室しようとした。ニコルスンは彼女の肩をつかんで強引に呼び止めた。
「待てよ。ヒロ、ここはマッサージ係とか呼べるのかい?」
「それなら9番の内線で承っております」
「普通のマッサージじゃなくて、あっちのほうなんだが」
「あっちって? それはお客様のほうで外部からお呼びになっていただけますか」
「そんな手間は面倒くさい。あんたがしてくれないか。俺はあんたの体が気に入った。頼むよ。金は出す。腐るほどあるんだ」
「いや、何をするんですか! 助けて。この部屋から出して」
 ニコルスンはヒロの体をベッドに押し倒し、二三発殴ってからむしゃぶりついた。
 19分後、ニコルスンの陰茎はヒロの体内深くに到達、それから更に11分後に多量の遺伝子をばらまいた。行為はそれだけにとどまらず、数分の休憩をおいて、計三回の行為に及んだ。
 さんざんやり尽くした後、ニコルスンはむせび泣くヒロに札束を渡して、部屋を追いだした。
「いい女だった。一晩泊めてやってもよかったが、向こうも仕事中だからそうもいかんだろう。今日はぐっすり眠れるぞ」
 翌朝――、チェックアウトのためにフロントに訪れたニコルスンは不審に思った。ホールの飾り付けが少し違うような気がする。いやそれだけではない。
「あれ? ヒロさんだよね」
 彼に声をかけたられたフロントの女性は、ジロリとニコルスンを睨みつけた。
 ヒロに似ているが、年齢は二十代そこそこだ。ヒロは三十半ばの熟女だった。同一人物とは少し違うようである。名札を見ると、ナルミとあった。
「あなたはニコルスンさんですか」
「ええ、2012号室の客です。ヒロさんは非番ですか」
「ヒロですか。母は二十年前に退職しています。私を身ごもって」
「何のお話ですか? あなたはヒロさんの娘さんなの?」
「ええ、そして私の父は、あなたです!」ナルミはニコルスンを指さした。
「おいおい何を言ってるんだ。確かに俺はヒロと愛し合ったよ。でもそれは昨日だ。間違いが起こっても、その翌日にあんたみたいな娘がいるわけない。ここが二十年後なら別だがな」
「だからその二十年後なんですよここは!」
 ニコルスンは、ナルミの話を聞いているうちに茫然自失となった。
「2012号室は泊まっちゃいけなかったんです。実はあの部屋だけ時間軸が壊れていて、一晩で20年過ぎてしまうんですよ。母の説明を聞いてなかったのですか」
 過去から来た男は、錯乱を抑えきれないままホテルを後にした。
「そんな馬鹿な話があるか。ここが20年後だと。ふざけるな。俺の家族は、地位はどこに行った?」
 ふらふらと道路に飛び出す。そこに車輪のない貨物用のエアカーが突っ込んできた。
 未来とは言えど、自殺めいた飛び出しには、対処する技術がまだ追いついていないようだ。
 ドーンと大きな音がした。(了)
337創る名無しに見る名無し:2012/04/11(水) 14:30:48.25 ID:osJ+5ME8
こういうショートストーリーは、細かいツッコミを入れるのは無粋だよねw
338創る名無しに見る名無し:2012/04/11(水) 18:37:48.05 ID:DD8FEZZC
いや別にかまわん
339創る名無しに見る名無し:2012/04/14(土) 21:26:05.08 ID:3RyVE0zD
ドライでよろしい
340創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 14:17:26.37 ID:a+FFiN+R
「2012・・・、ちょっと難くね?」「じゃぁお前がお題考えろよ」
「二人とも何してんの?」
「来週の文化祭でやる漫才のお題、これでボケるの無理じゃね?」
「んー、年号?」「無理だろ?」
「いや、今日授業でやったからさ・・・つかじゃぁお前お題出せよ。」
「別にお題なんてなんでもいいと思うよ?年号でも。・・・けどさ。」

「100年経ったつっても第三次世界大戦が始まった年をネタにするのは
どうかと思うわ。」
341創る名無しに見る名無し:2012/04/21(土) 06:07:46.87 ID:mw6QcPYg
オチにぞくっとした
342創る名無しに見る名無し:2012/04/21(土) 18:35:48.25 ID:E/W+ME4j
あっそ
343創る名無しに見る名無し:2012/04/25(水) 18:42:18.26 ID:x0cIGC4d
次のお題「トーテムポールに訊けばいい」
344創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 14:25:36.88 ID:H1vr3kNV
Sephirot
第十天・原初動世界 "Kether"

神格は "AHIH"
全次元に遍く広がる「無限光」において発現した開闢と終焉の理である。


終天・畢竟無

神格・極大意識・全存在・全概念・並行宇宙
それらの連なる無限次元=ヒルベルト空間を瞬時に消滅させる。
並列的・散在的に存在する全次元を巻き込む為、次元間を無限加速度的に移動する能力があったとしても回避不可能。

能力の使用者は"第十天"そのもの。
神をも超越した"絶対存在"には実体が存在せず、下位次元からは干渉不可能な世界なので、例え神格の能力を持つ者ですら攻撃どころか"第十天"を知覚する事さえ出来ない。

"畢竟無"の世界に存在できるものは"第十天"のみ。

【詠唱】

"RAShITh HGLGLIM"

ASh・MIM・RVCh・ARTz・ShMSh・ShBThAI

それは創造の始まりを表す純粋な白き輝き
Die Farbe ist reine weiße, eine Öffnung

創造の意思を溢れ含みたる超越の理
Überlaufen Absicht ein die Bedeutung

宇宙の顕現、総ての第一者たる至高の王冠の名を受けるに相応しい
Ich verdiene, ich nehme, Ruhöchsten "Krone" als alle "zuerst Leute"

この神の陶酔は ーー「在りて在ろうもの」
Der Rausch von diesem GottーーA H I H

流転ーー
Rheiーー

終天・畢竟無
Es ist nach dem ーGlanzhimmel
345創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 14:31:00.42 ID:H1vr3kNV
第十天・原初動世界 "Sephirot"

全次元に遍く広がる「無限光」において発現した開闢と終焉の理である。


終天・畢竟無

神格・極大意識・全存在・全概念・並行宇宙
それらの連なる無限次元=ヒルベルト空間を瞬時に消滅させる。
並列的・散在的に存在する全次元を巻き込む為、次元間を無限加速度的に移動する能力があったとしても回避不可能。

能力の使用者は"第十天"そのもの。
神をも超越した"絶対存在"には実体が存在せず、下位次元からは干渉不可能な世界なので、例え神格の能力を持つ者ですら攻撃どころか"第十天"を知覚する事さえ出来ない。

"畢竟無"の世界に存在できるものは"第十天"のみ。

【詠唱】

"RAShITh HGLGLIM"

ASh・MIM・RVCh・ARTz・ShMSh・ShBThAI

それは創造の始まりを表す純粋な白き輝き
Die Farbe ist reine weiße, eine Öffnung

創造の意思を溢れ含みたる超越の理
Überlaufen Absicht ein die Bedeutung

宇宙の顕現、総ての第一者たる至高の王冠の名を受けるに相応しい
Ich verdiene, ich nehme, Ruhöchsten "Krone" als alle "zuerst Leute"

この神の陶酔は ーー「在りて在ろうもの」
Der Rausch von diesem GottーーA H I H

流転ーー
Rheiーー

終天・畢竟無
Es istーGlanzhimmel
346創る名無しに見る名無し:2012/11/19(月) 16:15:19.18 ID:Xi6UIJO/
.
347創る名無しに見る名無し:2012/11/21(水) 09:21:48.02 ID:QSLKD7MQ
上がったのでお題を募集してみる
348創る名無しに見る名無し:2012/11/21(水) 16:55:58.99 ID:+HSkN+Co
飲食物なんでも
349創る名無しに見る名無し:2012/12/12(水) 16:00:24.99 ID:No0Oh4L0
さっきから私は流し台に溜まっている洗物を片付けている。
ここ二、三週間忙しくて家の事を全く出来なかった報いだ。
それにしても自動湯沸かし器という奴は便利だ、冬に冷たい思いをしないで済む。
人間ってばつくづく楽をしようと頑張ってるんだなあ、と、何となく思う。
脱衣所の方から洗濯機のアラームが鳴った。
ふと、時計を見る。
丁度、十一時。
そろそろ姉さんが起きて来るから、ブランチ……いや、十二時過ぎるから昼ご飯か、作っとかないと。
材料あったっけ? そう思い冷蔵庫を開ける。
……ほぼ、空。
……ああ、そうだ、買出しすらしなくて材料無くなったから、最後の一週間全部コンビニ弁当だったっけ……何か買いに行かないと。
そういえば、洗濯終わったんだっけ?
いや、先に皿洗い終わらせないと。
そう思い、皿洗いを再開する。
残っていたのは去年と一昨年のパン祭りの皿が二枚。何か三分の一ぐらい自然に溜まって、残りは姉が『勿体無い』とか言って毎年一枚増えている。
泡を流し終わったそれを脇のステンレスの食器立に立てて、手を洗い直して、エプロンを外しながら昼ご飯のメニューを考える。
優先項目は、味でも、手間隙でも、見た目でも無く、値段。
まあ、いいかスーパー行って考えよう。
そう結論を出した私はリビングのドアを後ろ手に閉めた。
350創る名無しに見る名無し:2012/12/28(金) 21:50:42.94 ID:vIXeaDRK
生活感あるな
351創る名無しに見る名無し:2012/12/28(金) 22:26:27.40 ID:vIXeaDRK
>>348
お題借りて言いたいこと言いたい放題するエッセイ的なまとまってない文章

上の文章読んで思ったんだけど、飲食費って家計を圧迫するよね。
特に飲み物代。実はバカにならない。
なのに、喉が渇くといつだってつい買ってしまう。

一人暮らしを始めたころ、出先でペットボトルを、1日1本飲んでいた。
お茶だろうとコーラだろうとコーヒーだろうと、なんだっていいんだけど、これが1日当たり150円の出費。
土日は休みとして、週5日。それが4週間で1ヶ月、3,000円がスパンと吹っ飛ぶ。
実際は家計簿をつけるみたいにもっと細かく考えたほうがいいのかもしれないけれど、アバウトな計算でも、ヤバさは伝わってくる。
この出費はデカイ。しまむらのジーパンすら一本買えてしまう。

すぐに水筒を購入した。今はいろいろな魔法瓶が売っている。
中でもタンブラータイプのものは、いちいちコップを外すタイプに比べてスマートだ。
自分なりの生活の質の向上である。閉めて1400円。
入れるものはお湯と廉価なティーパックにしておけば、出費はなくなったも同然だ。
しかし現実は甘くなかった。

水筒を準備して、持って行くところまではいい。
しかし、一日授業を受けて、自宅に帰り着いてから、毎日洗浄しなければならない。
その対策なんて簡単で、帰宅してからキッチン横を通る導線にしたがって、水筒を流しに出しておけばいい。
だが、ついうっかりして手提げから出し忘れ、そのまま放置してしまった暁には、大変なことになる。
自分はやらかした。
家をでるときは熱々だった中身も、数日立ってしまえばすっかりと冷え切っていた。
ぐちゃぐちゃになったティーパックを引きずり出し、鼻の曲がるようなお茶の匂いが染み付いた魔法瓶を洗いながら、
こまめに物事に気を配ることの難しさを悟った。
何度も洗剤で洗いなおした水筒は、綺麗に乾燥させられた後、そっと頭上の戸棚にしまわれた。

結局、出先でのどが渇けばなにか買うスタイルに戻してしまった。
ずぼらな性格は骨の髄まで染み付いている。
3,000円は確かにデカイが、結局人間、飲まなければ死ぬのである。
お金は、誰かが出してくれる労力を買うものなのだ。
そんな当たり前のことをしみじみ考えつつ、せめてもの節約のため、今日も安く買える生協のペットボトルを物色している。
352創る名無しに見る名無し:2013/02/09(土) 18:32:47.01 ID:hn7XZkmv
あげとくか
353創る名無しに見る名無し:2013/02/25(月) 21:32:21.15 ID:q014PUVy
ある寒い夜、机に向かい筆を進めていた男がふと手を止めた。
男は丸めていた背中を伸ばしながら呻くようにため息を吐き、
体を戻すついでに机の隅に置かれたマグカップを手にとり、
煽ってから器の中が完全に乾ききっていることに気が付いた。
マグカップを机上の元有った場所に戻した男は、
そのまま四股の力を抜いて雑に投げ出し、
自重で尻が椅子の上を滑っていくことに任せてだらしなく椅子に全身を投げ打ち、
渇き気味の充血した眼球で、机上に置かれた置時計を覗き見た。
その置時計の文字盤には四種類の数字が記載されているのみで、
また、長針すら数字と重ならない程に時針が短いため正確な時間など判りようも無い、
場合によっては針の進み具合すらその日の気分で変わるのではないだろうかと、
そんな疑いすら懐きかねないファジーな時計であるため、
当然、正確な時間など知りようも無いが、それでも、
男が椅子に座ってから短針が文字盤上を少なくとも一周はしているだろうと、
男に推測させる程度には役に立っていた。
男は少しの間逡巡するかのように目を細めていたが、
それからおもむろに二度目のため息を付くと、
十数時間ぶりにその身を椅子から引き剥がした。

男は机上に置かれたランプを手に部屋を抜けて居間を横切り、
居間の先の小ぶりのカウンターに仕切られたキッチンに着くと、
ランプを片手に持ちながら冷蔵庫を無造作に開いた。
冷蔵庫は中古品で中のランプが切れたままに放置され、
雑多に詰め込まれた瓶や缶の合間に少量のなま物が挟まり、
奥の方からは微かな瘴気が狭い隙間を縫うように漏れ出しているが、
男は特に気にも留めずに片手で中を引っ掻き回して、
缶ビールとパンとチーズを発掘するとそのまま扉を閉めた。
男は器用に片手でパンを切りチーズを挟む傍らでもう片方の手で缶ビールを開けて、
パンを口に放り込んでは噛みもせずにビールで流し込み、
流し込んではパンを口にねじ込む作業を手の中が空缶だけになるまで繰り返し、
締めに空き缶を握りつぶしてシンクに投げ込むとランプをまた片手に持ち、
部屋に戻ろうと二三歩歩いてから、突然続けて三度クシャミをした。

男は其処で初めて今日がとても寒いことに気がついた。
354創る名無しに見る名無し:2013/06/14(金) 05:57:33.64 ID:1sinA7ip
>>348
言いがかりだというならどこがどのように言いがかりなのか
なぜそういえるのか、論理的な根拠を添えて下さい
出来ないのなら、あなたの方こそ言いがかりだという事になります
青空町耳嚢 第8/21話
【トーテムポール】

 正月、子供達をつれて実家に里帰りした時のこと。

 下の子が前日から熱を出していたので、義父母と夫に上の子をまかせて初詣にいってもらい、私は家で看病をしていた。
 2階の和室に氷枕をもっていくと、寝ている子供が窓の外を指さして「凧揚げしてるよ。いいなあ」とちょっぴり残念そうにつぶやく。
「元気になったらお兄ちゃんとやろうね」となだめると、すねて窓に背をむけた。
 その背を添い寝してさすってあげているうちに、前日からの看病でつかれていたのか、いつしか私の方までうとうとしてしまった。
 
 しばらくして、夢うつつに夫と上の子の声を聴いたような気がした。
 しかし上半身だけ起き上がり耳をすましても、家の中は冷蔵庫の低くうなる音がするばかりで、戻ってきた気配はない。
 気のせいだったかと再び布団にもぐりこんだ時、下の子がむにゃむにゃとこちらに寝返りをうった。
「ママどうしたの?」
 目をこすりながらたずねてきたので、「パパやお兄ちゃんはいつ帰ってくるかなって考えていたの」と答えた。
「だったら、ママ」と子供が私の背後をゆびさした。「あそこのトーテムポールに訊いてみたら?」
 そんなものがあった記憶はない。
「トーテムポール?」
「うん。パパやお兄ちゃんに似てるから、もしかしたら知ってるかもしれないよ」
 私は振り返った。
 窓のすぐ外に何かがにょきっと伸びていた。
 それはトーテムポールというより、ダルマ落としのピースか大きな鏡餅が積みあがっているようにもみえたが、たしかに下の子の言う通り、そのうち一つは夫の顔を、別の一つは上の子の顔をしていた。
「おーい、ドアを開けてくれないか?」と夫の顔が言った。「鍵はおろか、手も足もでないんだ」
「僕を窓から中にいれてよママ」と上の子の顔が言った。「下になってくれてるおじいちゃんとおばあちゃんが辛そうなんだ」


【終】

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お題は>>343の「トーテムポールに訊けばいい」

【8/27】創作発表板五周年【50レス祭り】
詳細は↓の317あたりをごらんください。
【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ34
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361029197/
356創る名無しに見る名無し:2014/01/02(木) 02:24:12.26 ID:KQKitj8Y
お題「メープルシロップとハチミツ」
357創る名無しに見る名無し:2014/01/02(木) 02:34:23.04 ID:A9kklSjz
☆〜(ゝ。∂)聴かせてよ
358創る名無しに見る名無し:2014/01/05(日) 14:58:33.17 ID:FqB3+4U0
「マルセイユから来たおたく」
359創る名無しに見る名無し:2014/03/03(月) 14:54:07.12 ID:GW0t5w8I
360創る名無しに見る名無し:2014/08/02(土) 13:59:20.08 ID:7fFdiW0O
361創る名無しに見る名無し:2014/08/15(金) 21:30:45.24 ID:ovs6HzJz
「ゾンビ汁は美少女の好物」
362創る名無しに見る名無し:2014/10/24(金) 21:11:51.88 ID:hsHhNtMv
 
363創る名無しに見る名無し
>>355
ほのぼのなんだろうが、なんとなく怖い