ゲームキャラ・バトルロワイアル Part2

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1創る名無しに見る名無し
様々なジャンルのゲームキャラを用いた、バトルロワイアルのクロスオーバー企画、
『ゲームキャラ・バトルロワイアル』のスレへようこそ。


【使用上のご注意】


『ゲームキャラ・バトルロワイアル』には、版権キャラクターの暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています。
CEROで言えばD辺りに相当するかもしれません。
この作品は『バトルロワイアルパロディ』です。
苦手な方が読むと、後々の嫌悪感の原因となったり、
心や体などに悪い影響を与えたりすることがありますので、絶対におやめください。


☆前スレ
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1255255563/


☆まとめwiki
ttp://www29.atwiki.jp/gamerowa/


☆したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/13051/



参加者名簿


7/7【東方project】○霧雨魔理沙/○博麗霊夢/○十六夜咲夜/○レミリア・スカーレット/○アリス・マーガトロイド/○風見幽香/○東風谷早苗
5/7【ポケットモンスターシリーズ】○レッド/●グリーン/○キョウ/○サカキ/○シルバー(金銀ライバル)/○アカギ/●タケシ
6/6【ファイナルファンタジーW】○セシル・ハーヴィ/○カイン・ハイウィンド/○リディア/○バルバリシア/○ルビカンテ/○ゴルベーザ
5/5【メタルギアシリーズ】○ソリッド・スネーク/○ハル・エメリッヒ/●サイボーグ忍者(グレイ・フォックス)/○リボルバー・オセロット/○雷電
5/5【ペルソナ4】○主人公/○花村陽介/○里中千枝/○天城雪子/○足立透
4/4【星のカービィ】○カービィ/○メタナイト/○デデデ大王/○アドレーヌ
3/3【ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】○アイク/○漆黒の騎士/○アシュナード



【34/37】


2創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 13:48:49 ID:sE5T2Ia6
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる
生き残った一人だけが、元の世界に帰る+ひとつだけ願いを叶えてもらえる
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる



【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収
(義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない)
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される


「ランダムアイテム」は作者が「エントリー作品中のアイテム」と「現実の日常品」の中から自由に選択 
 必ずしもデイパックに入るサイズである必要はなし
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムは企画頓挫の火種、注意
3創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 13:51:06 ID:sE5T2Ia6
【「首輪」と禁止エリアについて】
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ
(例外はなし。不死の怪物であろうと、何であろうと死亡)
開催者側は、いつでも自由に首輪を爆発させることができる
この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている
24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい
(下手に無理やり取り去ろうとすると、首輪が自動的に爆発し死ぬことになる)
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである
(実際に盗聴されているかどうかは、各企画の任意で
 具体的な方法や、その他の監視の有無などは各企画で判断)
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると、首輪が自動的に爆発する



【放送について】
放送は六時間ごとに行われる。


放送内容
「禁止エリアの場所と指定される時間」
 →出来るだけ離れた地点を二〜三指定。放送から二時間前後で進入禁止に
「前回の放送から今回の放送までに死んだキャラ名」
 →死んだ順番、もしくは名簿順に読み上げ
「残りの人数」
 →現在生き残っている人数。
「管理者(黒幕の場合も?)の気まぐれなお話」
 →内容は書き手の裁量で



【状態表について】
SSの最後には必ず状態表を入れ、今どんな状況なのかをはっきりさせる。

4創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 13:52:54 ID:sE5T2Ia6
【場所/何日目/時刻】
【キャラ名@作品名】
[状態]:健康とか怪我の具合とか色々
[装備]:武器とか防具とか
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
(支給品を確認したら支給品の名前@作品名を記入。現実世界から出す場合は@現実で)
[思考]
基本方針:ゲームに乗るかどうか等そのキャラが行動する元になる考え
1:
2:1から優先順位が高い順番に行動方針を記入。4とか5とか作っても大丈夫だし減らしてもおk
3:



【使用例】


【A-1/一日目/深夜】
【霧雨魔理沙@東方project】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ポーション×3@FFシリーズ、金属バット@ペルソナ4
[思考]
基本方針:ゲームを止める
1:アリス達と合流する
2:やばそうな相手には自分から関わらない



支給品解説
【ポーション@FFシリーズ】
HPを小回復する液体。



【金属バット@ペルソナ4】
主人公専用の武器だが、他の人でも扱うことは可能かと思われる。
クリティカル率がやや上昇する。

5創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 13:54:15 ID:sE5T2Ia6
【予約について】
予約はしたらば(ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13051/1254284744/)で行います。
予約する人はトリップをつけて「○○(キャラ名)と××を予約します」と書き込んで下さい。
予約期間はは原則として3日です。事情があったりするときは追加の延長(2日程)もできます。
延長したい場合は、再び予約時と同じトリップをつけて延長を申請して下さい。
が、延長を連発するのは避けて下さい。
何らかの理由で破棄する場合も同様です。キャラ追加予約も可能です。


予約期限を過ぎても投下されなかった場合、その予約は一旦破棄されます。
その時点で他の人がそのキャラを予約する事が出来るようになります。
また、前予約者も投下は可能ですが、新たな予約が入った場合はそちらが優先されます。



【荒らしについて】
荒らしや煽りは徹底スルーで。どうしても目にとまるのなら
専用ブラウザを導入してNG登録すること。

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6創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 13:55:27 ID:VpWBhe7v
>>1乙です
7創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 14:21:23 ID:sE5T2Ia6
あ…新規の方の為に普通の名簿を張ればよかったorz
8創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 18:43:31 ID:X1icQ7Mc
>>1
9創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 22:46:04 ID:C1nOalLO
代理投下します
 

 
「ペルソナ?シャドウ?もう少し詳しく教えなさい」
 
「充分詳しく教えたつもりだが…」
 
二人は森から出てすぐの湖の周りを歩いていた。少年と、とても幼い少女の二組で。
パッと見れば危ない構図だが犯罪の匂いがまったくしないのは少年の顔が整ってるからか。
それともこんなイレギュラーな状況だからか。
レミリアは内心嬉しがっていた。いやそういう意味じゃなくて。
それはこの殺し合いの参加者が自分の知っている外とはさらに別の世界から集められたという事についてだ。
それは推測の域だが、瀬多の話を聞くとそういうことになる。
私の知っている外の世界の住人は機械と科学に特化しながら殆どの住人がその仕組みはまったく知らず、
携帯電話という機械を耳に当てて独り言をするというどうしようもない奴らだが…
こいつは違った。瀬多はペルソナという僕(しもべ)という操り、シャドウという妖怪を駆逐し、刑事という悪者をやっつける為に戦った。
それは瀬多の仲間にしても同じ事が言える。
そして
「(セシル・ハーヴィという少年…あいつも別世界から来たのかも知れない)」
そう考えた。幻想郷では見たことが無い服装、装飾。それは瀬多からも聞いたが、見たことが無い服装らしい。しいて言うならファンタジー小説の挿絵とかなんとか。
(幻想卿の住人の殆どが変わった服を着ているが、それでも見たことが無い服装だった)
瀬多も私が『吸血鬼』だと言っても信じてもらえなかった。瀬多の世界には吸血鬼なんていない、吸血鬼もファンタジー小説の住人らしい。
(余談だが、「じゃあお前はどうなんだ?」と聞いたら「そうかもな」と適当に返された。)
そして全てを物語っているのは支給品のある一冊の本だった。
別世界。外の世界とは違う世界。
私はけっこう興味があるわけで。つまり異文化交流とかがしたいのだ。嬉しい理由はそこにある。
外の世界以外の世界と交流する事が出来るなんて幻想卿に居たら吸血鬼の私でも一生機会がないかもしれない。
 
「…貴方の住んでる場所って楽しそう。このくだらない遊戯を壊したら貴方の世界に遊びに行く事にしようかしら」
「唐突にどうしたんだ」
 
☆ ☆ ☆
 
自分にとっては全てがイレギュラーだった。すべての騒ぎが終わったと思えば今度は謎の生物から殺し合いをしろ、と命令され、ワープし、気が付いたら森の中で突っ立っていた。
すぐにペルソナが使える事に気付いた。ここはテレビの中なのか、と考えてみたがあの生物の「普段出来ない事ができる」という言葉を思い出し、ここはテレビの中では無いかも知れない、という疑問が生まれてしまった。
それにバトルロワイアル。……昔、出版された小説に状況が似てる様な気がする。最後の一人になるまで殺し合いか…
さらにあいつの存在だ。足立透が何故ここにいるんだ?
分からない事だらけの状態で唯一分かった事はペルソナが使える事ぐらい。
そんな混乱に満ちた状態で最初に目撃したのは少女と男の戦い。
無意識にその戦いに身を投じた。
結果、男は消え、少女は『殺し合いに乗っていないが人は襲う』という訳の分からないスタンスの持ち主だった。
しかも吸血鬼。本物らしい。少女、レミリアは自分に幾つかの質問をした後、この遊戯の参加者は異世界から集められたというのだ。
そうレミリアが言った後、更に混乱した。異世界の存在を信じろという。
信じられないが…マヨナカテレビの延長上と考えれば少しは理解できる。
さらにマルクに反抗した少年、セシルという少年の着ている服装も自分の住んでる地域ではまったく見れない物だった。
最初はコスプレの類だと思ったが。しかしなぜこの状況でコスプレするメリットはあるのか?と聞かれればないだろう。
それが普段着なら別だが。
それにレミリアが住んでいる世界、幻想卿の話を聞くと信じざるをえない。
そして全てを物語っているのは支給品のある一冊の本だった。
あと足立透は……異世界から連れて来られるんだ。拘置所から連れては来れないって事はないだろう。
しかし警戒はした方が無難だろう。
 
「…貴方の住んでる場所って楽しそう。このくだらない遊戯を壊したら貴方の世界に遊びに行く事にしようかしら」
 
と、前触れも無くレミリアが言う。
 
「唐突にどうしたんだ」
「幻想卿に何年も閉じこもっていると退屈するの。たまには旅行も…」
 
と、また唐突に音が聞こえた。バシャバシャと。そして水滴が落ちてきた。雨の様に。
  
「……水しぶきの音ね」
「ここまで音が聞こえるとはな…それに雨かこれは?」
「えぇ。地図からしてこの先で戦闘がおきてるわね」
「…音が聞こえた方向に行こう。戦闘が行われてるかも知れない」 

☆ ☆ ☆

ここはあきれかえるほどさつばつとしたゲーム、バトルロワイヤルのしま。そこのとあるみずうみで、
そとがあかるくなるか、ならないかのじこくにデデデ大王とリディアはじょうほうこうかんをしていました。

  
「で、そのゼロムスっていうのをやっつけて世界に平和を取り戻した訳か」
「そう。そのあとカインは行方不明になったの。でもこのゲームに呼ばれてる。もしかしたら……」
「…そう悲観的にかんがえないほうがいいぞ。ポジティブにかんがえたほうがいい」
 
先ほどの警戒しあっていた空気とは裏腹に和やかな空気が流れていた。(ただしそれはデデデ大王が自分の情報を話していた時に限る)

デデデ大王は考える

リディアの話を聞いているとおれさまは胸がいたくなってくる。村を燃やされて、道中で仲間に二度も裏切られても尚、
挫けずに星を守った。なんて献身的で強くて、良い子なんだろうか…この子は守ってやらなければ!
しかし…こんな武器じゃ守ることなんて……カービィみたいにコピー能力なんてもっていないし…
……そうだ!リディアから支給品を少しだけ譲って貰おう!

 
一方リディアは考えていた。
 
私たちの他に知り合いがいるかもしれないと思って名簿に目を通したらバルバリシア、ルビカンテ、更には月に残ったゴルベーザまでいるの?
なんてこと。さらには幻獣王妃様とも疎通が出来なくなってしまった……
そしてカイン。もしかしたら……。いや、考えるのはよした方がいいのかしら……?
あと、セシル。ローザが死んで、もしかしたらパニックになってるかもしれない……。
もしかしたらゴルベーザが助けてくれるかもしれない。
ルビカンテは……紳士的な人だから手助けしてくれるかも…わからないけど…
……なにもかも断片的で不確かすぎる情報だらけだ。どうすればいいの?武器も無いし…
…そうだ!支給品があったわ!
 
「そうよ!支給品の事を忘れてたわ!」
「リディア!支給品をみせてくれい!」

 
「「へっ?」」


二人がそれを言ったのはほぼ同時だった。

☆ ☆ ☆

「デデデ、使い方分かった?」
 
デデデ大王が大きめの銃を調べていた。ベタベタと触って見るがよくわからない。

リディアはデイパックから取り出したものはよくわからず、デデデ大王に聞いてみたがよくわからない。
リディアのデイパックから出てきたものはトンプソンM1921。
別名シカゴタイプライター。あの有名なギャング、アル・カポネが使った民間向けのサブマシンガンだ。
が、リディアもデデデ大王も「タイプライター」や「アル・カポネ」「サブマシンガン」なんて単語は見た事も聞いた事がないだろう。
しかし、説明書には不運な事にその事だけが書いてあり使い方等は一言も書いてなかった。
 
「……駄目だ。どうやってつかうかおれさまにはわからん。武器には間違いないとおもうが」
 
「デデデもわからないのね。どうしようかしら……」
 
デデデ大王からトンプソンを返してもらう。
リディアは内心焦っていた。早く、セシルかカインと合流したい。またできたらゴルベーザにも協力してもらいたい。
が、動かなくては会うもなにもできない。早くこの場から移動したかった。
でも、ここは殺し合いの場だ。バルバリシアの様な危険人物に遭遇してしまう可能性があるのだ。
そのときに武器が無くては心細い。それに自分の魔法は補助的な物だ。強力な魔法や召喚魔法は時間がかかってしまうものだ。
召喚途中に殺されてしまうのがオチだ。考えたくもない。
デデデ大王は結構強そうだが、彼の持っている武器も心細い物だ。それに自分の武器も使い方が分からない怪しい代物だ。
 
「…そう浮かない顔をするな!」
「…え?」
 
そのとき唐突に彼は言った。

「そんな浮かない顔してると幸せがにげるぞ!こんな状況でもあかるくいこう!…とある奴の真似事だがな」 
 
……デデデは多分、私のことを元気付けようとしているのだろう。よくわからない励まし方だが。
 
「……ありがとうデデデ!もう大丈夫よ!」 
「……そうそう、笑顔でがんばるぞ!例え襲われてもお前はおれさまが守ってやる!………あいた!」
 
満面の笑みで返したその時だった。デデデが小さい悲鳴を上げる。
 
「どうしたのデデデ?」
「あたまになにかふってきたぞ!なんだこれは?」
 
デデデ大王はそれを拾いあげる。
 
飴だった。空から振る物は雨が常識だが、振ってきたのは飴である。
そのうちまた飴が振ってきた。一つの飴。二つの飴。三つの飴。飴。飴。飴。…数え切れないほど振ってきた!
デデデ大王とリディアは空を見上げる。
飴はまだ降り注いでいる。そしてその中心に……
 
「……カイン!?」

蒼の鎧に身を包んだ青年は。修羅の道を征く。 
腐った愛に身を包み、愛した者を助ける為に。
その思いは仲間であった、リディアを貫いた。

 
☆ ☆ ☆

 
カインは支給品を調べていた。
バトルロワイアルが開始してすぐにルビカンテとヤンの様な東洋人との戦闘になった為に支給品はロクに調べていなかった。
ナイトキラー。自分にとって一番使い勝手の良い武器だった。
そして沢山の飴、飴、飴。
「ふしぎなあめ」。ポケモンの能力が強くなる文字通り不思議な飴である。
それが、少なくとも百個以上だ。
あとレミントンM870。という『銃』らしい。
あのバブイルの巨人の様な、機械仕掛けの武器、と認識する。
……だが使い方は分からない。とりあえず、背中に掛けておこう。


以上がカインの支給品だ。
武器が未知なる物ということは痛手だが使いやすい槍だけ良いということにしよう。
それに武器が少ないよりも気になっていることがあるのだ。
 
「……ルビカンテとバルバリシアがなぜ?」
 
名簿には『バルバリシア』『ルビカンテ』『ゴルベーザ』という名前があった。
バルバリシアもルビカンテも自分たちが打ち破った筈だ。それがなぜ?
『ゴルベーザ』もあの星に残った筈だから居るわけが無い。
 
じゃあ、何故?……と思考を巡らせるがすぐにやめる。
 
「…いや、どうせ殺すんだ。無駄な考えはよそう」
 
ゴルベーザも、ルビカンテも、バルバリシアも、結局は全員殺す事になるんだ。
 
      ・・・・・
そう、かつて仲間だったセシルも、リディアもだ。
      
 
 
「……俺は、ローザの為なら、修羅になろう。例えこの体が朽ちても、だ」
 
☆ ☆ ☆

 
「(あれは…!?リディアじゃないか…!)」
 
移動を始めると目の前にはペンギンの様な生き物とリディアは喋っているのを発見した。
首輪をしているからあれも参加者かもしれない。
どうやらこの殺し合いを仲間を作って打破しようって魂胆だろう。
……リディアは顔色が悪い。どうやらこの殺し合いの瘴気やあの惨劇、ローザの……
 
「(……くそ!そんな事は考えてる暇なんかない!例え、リディアであろうと、殺す!)」
 
カインはジャンプする。それはとても高く、いつもより高かった。
 
「(せめての情けだ…!一撃で、苦しみの無いように…!)」
 
そして、リディアにその槍の標準を向けて、やがて下降する。
 
しかし、ジャンプの衝撃で、デイパックは開いてしまった様だ。
当然、デイパックに入っていた沢山のふしぎなあめは重力により落ちる。
カインと一緒にだった。
 
「(…っく!しまった……!)」
 
飴の一つがペンギンもどきに直撃する。
そしてこちらに気付いてしまった。
 
「……カイン!?」
「ハァアアアアアア!!」

カインが叫ぶ。そして降下してくる。 
リディアが体を捩る。頭部に刺さる筈だった刃は腹部に刺さった。
 
「キャアアアア!」
 
悲鳴が上がる。カインはすぐに刃は抜き、宙返りをし、森を背に向けた。デデデ大王とリディアは背水の陣である。
槍が引き抜かれたリディアの腹部からは血がどくどくと出ていた。

「カインっ………!!……なんでっ……!」
「……苦しみの無い様に殺したかったが…避けなければよかったものの…」
 
リディアは立ち上がれなかった。そのリディアにカインはナイトキラーを向ける。
しかし、それをデデデ大王が遮った。
 
「……なぜ殺そうとするんだ?友だちを、なかまを?」
 
「俺は、ローザの為ならなんだってする。修羅になろう……そうだ、友達を殺してまでもだ」

「理解できんぞい。リディアはお前の事をしんぱいしていたんだぞ。友を殺すっていう事がどれだけひどい事がわからんのか。
お前の様な人間に生き返らせて貰ってもローザっていう女が喜ぶ筈がない。目をさませ!」
 
「…!だっ黙れ!」
 
デデデ大王がカインに言う。しかしそれをすぐに突っ放した。図星だったのだ。
それを否定したい一心でカインは槍をデデデ大王に向けて突く。
デデデはそれを星屑のロッドで受け止める。その衝撃でロッドにはヒビが入った。
16創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:03:43 ID:sE5T2Ia6
 
「(なっなんて威力だ!こんなのくらったらひとたまりもないぞ!だれかたすけてくれぇ〜!)」
 
「デデデッ……!もうすこし耐えてっ……!!」
 
リディアが言う。リディアの方を見やると腿からの出血は止まらなかった。
 
「…早く殺させろ!中途半端な傷は苦しむだけだ!」
 
カインが言う。確かにこのままだと失血死だ。
しかしだ。リディアは言った。『耐えて』と。なにか策があるのだろう。
再び、カインはそれを引いてまた突き刺す。
それをまた、デデデ大王は星屑のロッドで受け止める。
小さいロッドで受け止めるのはとても危険だ。二回も受け止められたのは奇跡といって良いレベルだろう。
 
「(かっ考えるんだおれさま!秘策を!えっと…槍はこう棒状だから…リーチが大きいぶん…ああいう攻撃がくれば!)」
 
「くっ!悪あがきを!リディアも召喚魔法なんて使おうなんて寿命を縮めるだけだ!」
 
「…な!?リディア!?召喚魔法?回復魔法じゃないのか!?」
 
プププランドにだって魔法の概念はある。
しかしデデデ大王はてっきり止血とかの魔法を使うかと思っていた。
がなに?召喚魔法?なぜ?なんで?
 
「リディア!?なんで回復魔法をつかわないんだ!?」
 
「回復しても…結局は……あとで…やられるわ!それに……!」
  
「あと!?なんだ?!」
 
デデデはリディアに焦りながら聞く。
 
「終わらせてやる!」
 
カインがそう言った時だった。カインが槍を弾いて、回して、横薙ぎにデデデに当てようとする。
 
「このときをまってたぞ!」
 
デデデは槍の刃部分をロッドを受け止める。遂にロッドは砕け折れてしまった。
遠心力で勢いを保っていた槍だったがそのせいで勢いを無くす。
いまだ と棒部分を片手で掴む。
デデデ大王は怪力の持ち主だ。自分の何倍の重さもあるハンマーを両手で操る。
(最近使ったハンマーはワドルディに軽量化などの改造したものがあるがそれは別として)
人一人なんて片手で飛ばせるだろう。
そう、この瞬間だ。
 
「う お お お お お お お ! ! !」
 
「なっ!?」
 
そのまま湖の方に投げつける。ハンマーのように。リディアを飛び越し、カインは水しぶきをあげる。
 
「……きたわ!」
 
そのときだった。リディアの召喚魔法は発動される。
 
リヴァイアがその場に現れた。

 
「(なっなんて威力だ!こんなのくらったらひとたまりもないぞ!だれかたすけてくれぇ〜!)」
 
「デデデッ……!もうすこし耐えてっ……!!」
 
リディアが言う。リディアの方を見やると腿からの出血は止まらなかった。
 
「…早く殺させろ!中途半端な傷は苦しむだけだ!」
 
カインが言う。確かにこのままだと失血死だ。
しかしだ。リディアは言った。『耐えて』と。なにか策があるのだろう。
再び、カインはそれを引いてまた突き刺す。
それをまた、デデデ大王は星屑のロッドで受け止める。
小さいロッドで受け止めるのはとても危険だ。二回も受け止められたのは奇跡といって良いレベルだろう。
 
「(かっ考えるんだおれさま!秘策を!えっと…槍はこう棒状だから…リーチが大きいぶん…ああいう攻撃がくれば!)」
 
「くっ!悪あがきを!リディアも召喚魔法なんて使おうなんて寿命を縮めるだけだ!」
 
「…な!?リディア!?召喚魔法?回復魔法じゃないのか!?」
 
プププランドにだって魔法の概念はある。
しかしデデデ大王はてっきり止血とかの魔法を使うかと思っていた。
がなに?召喚魔法?なぜ?なんで?
 
「リディア!?なんで回復魔法をつかわないんだ!?」
 
「回復しても…結局は……あとで…やられるわ!それに……!」
  
「あと!?なんだ?!」
 
デデデはリディアに焦りながら聞く。
 
「終わらせてやる!」
 
カインがそう言った時だった。カインが槍を弾いて、回して、横薙ぎにデデデに当てようとする。
 
「このときをまってたぞ!」
 
デデデは槍の刃部分をロッドを受け止める。遂にロッドは砕け折れてしまった。
遠心力で勢いを保っていた槍だったがそのせいで勢いを無くす。
いまだ と棒部分を片手で掴む。
デデデ大王は怪力の持ち主だ。自分の何倍の重さもあるハンマーを両手で操る。
(最近使ったハンマーはワドルディに軽量化などの改造したものがあるがそれは別として)
人一人なんて片手で飛ばせるだろう。
そう、この瞬間だ。
 
「う お お お お お お お ! ! !」
 
「なっ!?」
 
そのまま湖の方に投げつける。ハンマーのように。リディアを飛び越し、カインは水しぶきをあげる。
 
「……きたわ!」
 
そのときだった。リディアの召喚魔法は発動される。
 
リヴァイアがその場に現れた。
18創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:04:27 ID:sE5T2Ia6

 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
―――――――――――――――――タイダルウェイブ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
湖から水流の柱が現れ、カインを飲み込み、彼は見えなくなった。
 
そして、雨の様に、水飛沫が振ってくる。それと同時にリディアも膝から崩れる。
 
「……カインはっ…仲間だからっ……もしマルクの話に……カインが乗せられてたら…せめてわたしが……」
 
「リディア!もうしゃべるな!無駄なたいりょくをつかってしまうだろう!」
 
仲間だったカインを、友達だったカインを、自分の手で殺したリディアの心境を考えると耐えられない物だろう。
気持ちが昂ぶったデデデは叫ばずには居られなかった。
19創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:06:05 ID:sE5T2Ia6
 
 
それにだ。出血が止まっていない。
 
「リディア!かいふく魔法はつかわないのか!?」
「…私、白魔法の殆ど、忘れちゃって…使えないの……そのことを言おうとして…」
 
…どうする?おれさま?
 
止血しないと!―――そんな道具はない!
おれさまが魔法をつかう?―――つかえるわけがないだろう!
じゃあほっとく!?――――論外だぞい!

「…かんがえるより行動がさきだぞい!」
「……えっ?……きゃっ!?」
 
リディアを背中に担ぐ。少し悲鳴をあげるが、そんなことは気にしていられなかった。
背中にドロリと生暖かいものを感じる。なんてことだ。重症じゃないか。
治療道具を探すか、それともカービィを探すか。
すぐに見つかるか?
 
「…いや、みつけてやるぞい。おれさまに不可能はない!」
 
そう、デデデ大王が決意した、その時だった。
 
 
 
 
 
 
 
「どこへいく?」
 
こんな危ない目にあったのだ。もうその声は聞きたくなかったのに。
後ろを向くと、その声の主であるカインが立っていた。
 
「……カイン。生きて…いたのね」
 
リディアが言う。背中でリディアの息遣いを感じる。
 
「ああ。生きていたさ。そして、この遊戯についてよく理解した」
 
カインは慢心創痍だった。声も疲れきっているし、竜を模った鎧も所々剥げている。水が滴っていた。
 
「この遊戯は殺し合いだ。これは当たり前のことだ。だが、これは皆、喜々として殺しあってる」
 
「…そんなことはないわ。デデデの様…に脱出を考えてる人も…」
 
「違う。お前のことを言ってるんだ。リディア。お前は俺を殺そうとした」
 
その言葉にデデデが反応する。

「なにいってるんだ!?リディアは…」
 
「ああ。あとでお前も殺すつもりだろうな」
 
「はっ!?なっ、なにいってるんだ!?」

カインの言葉に驚く。いや、まさかそんなことはない筈だ。
 
「……私はデデデを…殺そう…なんて…そんなことは…」
 
「本当か?では何故俺を殺そうとした?殺し合いに乗ってるからだろう」
 
「だっ!黙れ!リディアは!!そんなことしない!」
 
デデデが叫ぶ。デデデはこの遊戯でのローザの惨劇、カインとの命の取り合いによるストレスにより判断力が鈍っていた。
もしかしたらリディアも殺し合いに乗ってるのか?
いやそんな筈はない。でも本当に?
もしリディアが乗っていたとしたら…?カービィやメタナイトも…?
そんなことデデデは考えたくなかった。気がつくとデデデは叫んでいた。
21創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:06:59 ID:sE5T2Ia6
「どこへいく?」
 
こんな危ない目にあったのだ。もうその声は聞きたくなかったのに。
後ろを向くと、その声の主であるカインが立っていた。
 
「……カイン。生きて…いたのね」
 
リディアが言う。背中でリディアの息遣いを感じる。
 
「ああ。生きていたさ。そして、この遊戯についてよく理解した」
 
カインは慢心創痍だった。声も疲れきっているし、竜を模った鎧も所々剥げている。水が滴っていた。
 
「この遊戯は殺し合いだ。これは当たり前のことだ。だが、これは皆、喜々として殺しあってる」
 
「…そんなことはないわ。デデデの様…に脱出を考えてる人も…」
 
「違う。お前のことを言ってるんだ。リディア。お前は俺を殺そうとした」
 
その言葉にデデデが反応する。

「なにいってるんだ!?リディアは…」
 
「ああ。あとでお前も殺すつもりだろうな」
 
「はっ!?なっ、なにいってるんだ!?」

カインの言葉に驚く。いや、まさかそんなことはない筈だ。
 
「……私はデデデを…殺そう…なんて…そんなことは…」
 
「本当か?では何故俺を殺そうとした?殺し合いに乗ってるからだろう」
 
「だっ!黙れ!リディアは!!そんなことしない!」
 
デデデが叫ぶ。デデデはこの遊戯でのローザの惨劇、カインとの命の取り合いによるストレスにより判断力が鈍っていた。
もしかしたらリディアも殺し合いに乗ってるのか?
いやそんな筈はない。でも本当に?
もしリディアが乗っていたとしたら…?カービィやメタナイトも…?
そんなことデデデは考えたくなかった。
22創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:09:43 ID:sE5T2Ia6

 
「……お喋りをしすぎたみたいだ。ここで死ね」
 
カインが槍をデデデに向ける。万事休すっていう状況か。そうデデデは思う。
槍の刃がこのまま進み、デデデもリディアも貫くだろう。
が、それは行われなかった。
 
「ペルソナ!!」
 

少年の声が聞こえた。 
 
 
☆ ☆ ☆
  
 
 
「瀬多。私がやる。下がってなさい」
 
状況は明白だった。あの竜の鎧の男が少女を背負ったペンギンを殺そうとしているということは誰が見てもわかるだろう。
ペルソナを発動させ、男を吹き飛ばす。先ほどよりも危険な状況だったせいか力が入り、先ほどよりも遠くに吹き飛んだ。
 
「……わかった」
 
レミリアにそう言われ、イザナギを直ぐに消す。
レミリアは吹き飛ばした方向に走っていく。
 
「しょっ!少年!助けてくれ!」
「落ち着け。いま助ける」
 
ペンギンが叫び、少女を下ろす。少女の腹部には血が鈍黒く光っていた。
このままではやばいだろう。それは治療しなかった場合だが。
幸い、支給品には回復薬があった。最高級の物らしい。
瓶に入っている『エリクサー』を少女の口に入れる。
効能など、怪しいがそんなこと言ってる暇は無かった。それにこれは異世界の物かもしれない。
常識にとらわれてはだめだ。この殺し合いでは。
きっと、レミリアの様に、この薬は自分を驚かしてくれるだろう。
…しかしだ。
 
「…どうなってる?」
 
☆ ☆ ☆
23創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:10:59 ID:sE5T2Ia6

 
「あなたは何故殺し合いに乗っているの?」
 
「愛しの者を救う為」
 
「私だったらそんな腐った愛なんか入らんな」
 
「そんなことはどうでもいい。ただ、殺す」
                                ・・・・
「…キチ●イめ。会話することも忘れたのか。お前の様な下賎な人間は生まれて初めてみるぞ」
  
「…餓鬼に言われたくない」
 
幼き吸血鬼と、堕ちた竜騎士による
 
「餓鬼はお前だ。さっさと死ね」
 
「…断る。俺は…ローザの為に…」
 
殺し合いが始まった。
 
レミリアは左手にグングニル形成する。投擲はせずにこの1本だけでなんとかするしかない。
いつもなら、ばら撒くようにすぐ形成できたが、その形成に時間がかかるのだ。糞、忌々しい。
時間を掛ければ弾幕は生成できるが、相手は弾幕を使えない。それなら正々堂々とこちらも槍で戦ってやろうじゃないか。
満身創痍の奴に正々堂々っていうのは笑えるが。
 
槍がなんどもぶつかり合う。
24創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:11:44 ID:sE5T2Ia6
 
「っく!」
 
なんて力だ。そうカインは思う。
少女とは思えない怪力で、槍がぶつかる度に槍がもってかれそうになる。
このままでは負ける。このままではローザを…!
 
「っぐあ!」
 
自分が持っていた槍が吹き飛ぶ。
そのまま槍は湖に落ちた。
 
「チェックメイトよ。……もう殺し合いに乗った詳しい動機なんてどうでもいいわ。どうせ、貴方は死ぬもの」
「…………。」
 
このままでは、駄目だ。ローザを生き返らせられない。
セシルの様に、守れずに死ぬのか。俺は。
ローザにもう会えずに死ぬのか。
もう武器は無い。このまま殺されるのを待つのか。
まて、武器はまだ、あるじゃないか。しかし……使えるのか?
だが、やらないよりはマシだ。
 
「…どうしたの?黙んまりして。泣き叫ぶの?それともなに?」
「……俺は、まだ死ねない!」
 
背中に掛けてあった『銃』を後ろに手を回し、取る。
それがもし、銃口が上を向いていたら
それがもし、引き金が下を向いていたら
それがもし、背中に掛けずに、デイパックに仕舞っていたままだったら
それがもし、引き金が偶然、人差し指にかかってなかったら。
 
それは、偶然より、奇跡に近かった。
そしてレミリアにとってはそれは不運だった。それとも呪いといったほうがふさわしいか。
 
「……なんだそれは」
 
銃声が鳴り、鮮血が舞う。
 
 
☆ ☆ ☆
25創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:13:10 ID:sE5T2Ia6

 
「……リディア。おれさまは…」
 
リディアはもう事切れていた。
カインがデデデに槍を向けた時にはもう物言わぬ死体になっていたのだ。
 
「………………。」
 
瀬多は黙っていた。ただひたすら。
 
「…すまん。守ってやれなくて……本当に…すまんかった……」
 
デデデの目には涙が溜まっていた。止め処無く流れる。
 
この殺し合いは危険な物だと瀬多は思う。
どうやら自分が体験したマヨナカテレビよりも酷い非現実だ。
あの小説よりも状況は酷い。吸血鬼や、あの鎧の騎士の様なファンタジーな奴らが参加して、もしかしたら乗っているのかも知れないのだ。
たしかあの小説は、中学生が殺し合いさせられる話だった筈。確か疑心暗鬼になって友達を殺してしまう登場人物が居た。
もしかしたら…?いや、そんなことは無い筈。彼らは仲間だ。そんな事は絶対に…
 
銃声。
 
「……なんの音だ?」
 
ペンギンは意気消沈しているようで、力なく聞いてきた。
 
「……少し待っててくれ。見てくる」
「そうか…おれさまは…リディアの…墓を作る」
 
その言葉を聴き、レミリアの方に向かう。
 
☆ ☆ ☆
26創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:15:21 ID:C1nOalLO
あ、書き込める。支援

 
「……あんな下賎な人間に負けるなんて、私も落ちたものね」
 
レミリアはその場で尻餅をついていた。
カインが使ったあの道具は、噂に聞く外の世界の武器だろう。
なんて威力だ。右目は潰れ、腹が抉れた。それを受け止めようとした右の手の掌は殆ど形を残していないし、指は千切れた。さらに膝をやられたらしい。立ち上がれない。
心臓に当たらなかったのは運が良かったからか。それとも運命が狂ったからか。
頬を貫いたその弾幕の一つが口の中にある事に気付き、吐き出す。小さな鉄の塊が出てくる。
 
「銀じゃなくて本当によかったわ。次に会ったら確実に殺す。それだけ貴方の罪は重い」
 
カインはもうその場には居なかった。一発放って、私が怯んでいる時に逃げてしまった。
…銃の威力。気をつけなければ。
吸血鬼でも喰らったら命が危ない。この私でもだ。
 
「……やばいな。このままでは」
 
力が抑えられている今、一人で戦うのはやはり難しいらしい。他の奴らのバックアップがあれば楽にあのマルクに格の違いを見せ付けられるだろう。
力を貸して貰うのはプライドに反するが、そうこういってる場合じゃない。
 
「…治癒速度も抑えられてるのか。忌々しい」
 
このままでは格の違いも見せ付けられぬまま死ぬ可能性があるのだ。
自分は死とは無縁だと思っていたが、こんな事でそれを思い出すとは。
 
「レミリア!大丈夫か?」
 
瀬多が走ってきた。焦っているのは表情を見れば明らかだ。
 
「瀬多。私を担げ。あの下等な妖怪と下賎な人間は自分の立場をよくわかってないらしい」
 
☆ ☆ ☆

「おれさまは、デデデ大王。プププランドの王様だ」
「改めて、私はレミリア・スカーレット。吸血鬼よ」
「瀬多総司だ。宜しく」
 
ファンタジー世界の住人に、吸血鬼。で、絵本から抜け出してきたような風貌の生き物。もうなんでもありか。
そう瀬多は思う。
 
「で、あの少女は?」
「……しんでしまった」
 
レミリアが無神経にもデデデに軽く質問する。
どうやらレミリアと自分では価値観が違いすぎる。
普通なら気を使うだろう。そうか、とレミリアが返す。
 
「瀬多。私はお前と同行する事に決めた」
 
その言葉に少し疑問を持つ。
 
「同行する気じゃなかったのか?」
 
「そうよ。貴方から異世界の話を聞いた後はもう個人で行動しようと思ってた。
水飛沫の音が聞こえたときも、異世界人同士の戦いが見てみたかったし、異世界人と戦ってみたかっただけ。その後は一人で行こうとした。
全ては好奇心の為に行動したの。でも…」
 
レミリアの言葉が詰まる。そして直ぐに言葉は紡がれた。
 
「舐めていた。外の世界の道具も。人も。そして力の制限も。このままじゃ、負けるわ。皆、死ぬ。だからここは力を合わせた方が得策よ。
あなたたちは脱出出来ればいいし、私はアイツに格の違いを見せ付けられれば良い。どうかしら?」
 
「……そういうことか。」
 
つまり、手伝えと言いたいらしい。
 
「そういうことでいいかしら。大王。私の手伝いをしてもらうわ」
 
「………おれさまは別にてつだってやってもいいぞ」
 
デデデは力なく答えた。どうやらリディアの事をまだ引きずっているらしい。
レミリアはその偉そうな言葉に少しだけムスッとするが気に留めなかった。
 
「そう。じゃあ、寝床を探すわよ」
 
レミリアが言う。寝床?いまから夜が明けるのにか?
と疑問に思ったが、吸血鬼だから太陽が駄目なのかと自己解決した。
 
「こんな傷、いつもなら直ぐに治るのに、治癒能力も押さえつけられてる。一度睡眠を取らなければ回復しない。さらに、朝が来るわ。」
 
そうレミリアが右手を掲げながら言う。いや、右手だったものを。
右手と右目、腹部の傷口は少しずつだがグニグニと動いて再生していた。
確かに太陽はまだ顔を出していないが、周りは明るくなってきていた。
 
「さて、ではさっそく行動するわ。大王。あなたの世界の話を聞きながらね。瀬多。私を担ぎなさい」
「わかった」
  
もうすぐ、夜が明ける。
 
☆ ☆ ☆

 
殺し合い。まったく酷い悪夢だ。マヨナカテレビの出来事より十倍、万倍も厄介な問題だろう。
……自分の仲間は今、何をしてるのだろうか。
戦闘に巻き込まれて、死んでいるのではないだろうか。
最悪な事象しか思い浮かばないのは、目の前で人が死んだのを見たからなのか。
それともそれが正常なのか。異常なのか。それさえもわからない。
もしかしたら、もしかしたら、自分の仲間が、殺し合いに乗っているかもしれない。
それだけは考えたくない。
今は、仲間を信じよう。
 
【D−4/一日目/黎明】
【瀬多総司@ペルソナ4】
[状態]:健康、精神的不安、レミリアを担いでるよー
[装備]:お払い棒@東方project
[道具]:基本支給品一式、確認済み支給品×1、エリクサーの空瓶
[思考]
基本方針:レミリアの事を手伝いながら、仲間と合流し、殺し合いから脱出する
1:太陽光を遮る建物を探す。
2:元の世界の仲間を探したい。足立は警戒する。
3:殺し合いに乗る気は全くないが、正当防衛はする
4:レミリアは…信じていいのか?
※ペルソナ4の主人公です。
※ペルソナ能力が使えることに気付いています。使えるペルソナはイザナギのみです。
※真ENDルート、イザナミと出会う前からの参戦です。
※レミリアから幻想卿について少し教えてもらいました
 
☆ ☆ ☆
 
殺し合い。なんて愉快で忌々しいのだろうか。
あんな下種に言われなければ嬉々としてのった。……かはわからないが、奴には怒りの感情しかででこないのだ。
さらに、カイン・ハイウィンド。なんて下賎な人間なんだろう。
最後の一人になったら願いが叶う?なんて馬鹿馬鹿しい冗談なんだ。
そしてその馬鹿馬鹿しい冗談を信じたカインはさらに馬鹿馬鹿しい。反吐がでる。
結局は奴の掌の上での出来事。奴が願いを叶える訳が無い。それにそんな力を持っている様には思えない。
少し考えれば分かるのに。
まぁ、良い。結局は皆、死ぬ。私を怒らせた罪は重いわよ。マルク。そして、カイン・ハイウィンド。
―――後悔する準備はできたかしら?貴方たちの運命はもう決まってるの。
 
【D−4/一日目/黎明】
【レミリア・スカーレット@東方project】
[状態]:疲労大、右目損傷、腹が抉れてる。右掌損傷(5指全て損傷)、左膝損傷で歩けない、治癒中、瀬多に担がれてるよー
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、未確認支給品×3
[思考]
基本方針:主催者を倒し、どちらが支配者かを思い知らせる。
1:先ずは寝床。
2:手下を作りながら共に脱出。マルクとカインは殺す。
3:邪魔する者・目障りな者は排除する。
4:異世界の話をもうすこし聞きたい。
※ここが幻想郷でないということに勘付いています
※能力の制限に気付きました
※瀬多からペルソナ世界を少し教えてもらいました。
※時間さえ掛ければ傷は治癒しますが、休息をとらない限り疲労感は回復しません
※弾幕を撃つのに溜めが必要。威力も制限されています。
 
☆ ☆ ☆

リディア。おれさまはどうすればいい?
カインは殺し合いにのってしまっていた。それはわかるんだ。
だが、その先がみえないんだ。おれさまは。
カービィなら答えをすぐにだしただろう。でもおれさまには難しいもんだいらしい。
カービィ、メタナイト、アドレーヌ。おまえらならわかるのかどうかもわからない。
おれさまは……
 
【D−4/一日目/黎明】
【デデデ大王@星のカービィ】
[状態]:疲労大、精神的疲労大、リディアを救えなかった罪悪感、疲れからくる思考能力低下
[装備]:折れた星屑のロッド@ファイナルファンタジーW
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2 (本人確認済み、武器は無い)
リディアのデイパック(基本支給品一式、トンプソンM1921(30/30)、ランダム支給品1〜2(本人確認済み。武器は無い))
[思考]
基本方針:おっかないのでさっさと脱出する。殺し合いには消極的
1:おれさまはどうすればいい…?
2:レミリアと瀬多に強力する。
3:カービィ、メタナイト、アドレーヌと合流し、脱出について考える。
※名簿に目を通しました。
※リディアからFF4世界の旅の道中について詳しく聞きました
 
 
【リディア@ファイナルファンタジーW 死亡】
【残り33名】
 
 
☆ ☆ ☆
 
「……俺は……生きてる」
 
死を覚悟していた。だが、生きていた。
奇跡が起きたといっても過言では無いはずだ。
あの大きい音『銃声』が鳴った瞬間、目の前には崩れた少女が現れた。
なんて威力なんだろうか。この銃というのは。
しかし驚くべき事はまだある。
あの少女が生きていた事だ。
目が抉れ、腹も抉れ、右の掌は形も残っていなかった。
しかし、生きていたのだ。どうみても致命傷だというのに。
やつは魔物の類なのか。あのデデデというのも魔物なのかもしれない。
あの少年もリディアの様に、召喚魔法も使っていた。
この殺し合いで一人になるのは一筋縄ではいかないらしい。
先ほどの様に、妄言を言って、他の参加者を混乱させるのも良いかもしれない。

 

『理解できんぞい。リディアはお前の事をしんぱいしていたんだぞ。友を殺すっていう事がどれだけひどい事がわからんのか。
お前の様な人間に生き返らせて貰ってもローザっていう女が喜ぶ筈がない。目をさませ!』
 

『私だったらそんな腐った愛なんか入らんな』
 
 
あの二人の言葉が嫌に酷く耳に残る。
しかし、諦める訳にはいかないのだ。
ローザを生き返らせる為には一人になるしかない。
それに、もう戻れない。リディアを殺したのだ。友を。仲間を。
俺は誓った。ローザを生き返らせるためなら、なんでもすると。
例え、生き返らせて、ローザに嫌われる運命だとしても。

【D−5/一日目/黎明】 
【カイン・ハイウィンド@ファイナルファンタジー4】
[状態]疲労大、腕に軽度の火傷、鎧に損傷、ずぶ濡れ、疲れから来る思考能力の低下
[装備]レミントンM870
[道具]支給品一式、レミントンM870(7/8)
基本方針:優勝してローザを生き返らせる
1:殺し合いに勝ち残り優勝する
2:ルビカンテを倒す
※作中からの参戦時期はルビカンテと面識がある以降、時期不明
 

※D−4のリヴァイア湖周辺にふしぎなあめが多数散らばっています。大体100個ぐらい。
※リヴァイア湖周辺(C−3、C−4、D−3、D−4)で、タイダルウェイブの音が響き渡りました。
また、周辺に水飛沫が飛びました。時間にして、数十秒の擬似雨が振りました。
※リヴァイア湖の水かさが少しだけ減った様な気がします。
※リヴァイア湖にナイトキラーが沈みました。
32創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:38:37 ID:C1nOalLO
代理投下終了

途中投下の方ありがとうございました。
色々ご迷惑をお掛けしてすみません。
33創る名無しに見る名無し:2010/08/14(土) 11:22:41 ID:Q2z1Cjal
投下乙!
34創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 08:13:30 ID:vvzvvF7F
投下乙。レミリア・瀬多コンビは冷静だなあ。カインはもうダメだな…
「幻想郷」が「幻想卿」になってるのと「いらん」が「入らん」になってるのは誤字だよね?
35創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 22:36:44 ID:pnFJd415
投下乙
せっかく出来た仲間を失ってデデデはしばらく立ち直れないだろうな
レミリアはなんとか大丈夫か吸血鬼ぱねぇ
36創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 23:17:17 ID:QMIl3EFv
投下乙。
レミリアぱねぇ。リディアは死んじまったけど、マーダー不足だから丁度いいかも

予約もきて、このまま過疎ロワ脱出かな
37創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 23:38:29 ID:SV+0Wzz+
新作投下乙!と思ってたら、もう既に他の予約がきてただと…!?
やべえ、俺も久々に書いてみようかな
38創る名無しに見る名無し:2010/08/17(火) 14:15:11 ID:SgB3oxRx
投下乙!
リディア…詠唱の早いシルフかドレインを使えば助かったかもしれないのに、
仲間だから力を奪うなんてことはできなかったのか…?
もうみんな言ってるけどレミリアマジパネェ。普通の人間だったら致命傷だろそれw
カインもこれで吹っ切れてマーダー路線一直線だろうし、これからの展開が楽しみだ。
39 ◆5WJyYTYBtI :2010/08/17(火) 22:07:08 ID:1Z0daZR0
ルビカンテ、花村陽介 投下します
40 ◆5WJyYTYBtI :2010/08/17(火) 22:10:32 ID:1Z0daZR0
 結局、俺は一人になった。


 槍を持って鎧まで装備した、まるでゲームから出てきたような男。
 片や、炎を纏い操る真赤なマント男。
 しかも、お互い知り合いときた。

「……聞きたいことは山ほどあるってのに」

 炎男ことルビカンテは、自分の名を名乗ると「ゴルべーザ様を探さねば」などと言ってどこかへ消えてしまった。こんな森の中であんな炎男がぶらついてたら火事でもおきやしないか心配だ。

「でも、ルビカンテは悪い奴じゃあないのか……な。助けてくれたし」

 今俺の手に握られているのは、一本のスパナ。かなり大きめで、工具としてだけでなく武器としても十分なサイズだ。
 ルビカンテが去り際に渡してくれたものだ。本人は使わないから、らしい。確かに、漫画か何かからそのまま出てきたみたいな奴には不要な代物だろう。
 一般ピープル・花村陽介にとっては、武器の存在は重要、ありがたく使わせてもらう。
 元々は二本セットになっていたのだが、両手を塞ぐのはマズいと思ったのでもう一本はデイパックにしまうことにした。

「俺の残りの支給品で武器になりそうなものといえば、こんなのだったもんなあ……」

 デイパックを開けると嫌でも目に入る、スタンドマイク。
 カラオケ大会でもやれってか。殺し合いよりはマシだな、うん。でもここで歌うと殺されるよな、俺。
 ……ってか、なんでこのサイズのデイパックにこんなスタンドマイクがそのまま収まってるんだ!?

「……四次元ポケット?」

 ……あまり驚かない自分に驚いた。
 テレビの事件で慣れたんだな、俺。
 スパナをしまい、デイパックを閉じて立ち上がる。
 コンパスと地図を確認する。目指すタウロスタウンは東。こんな森をうろつくより、町に出れば何かわかるだろ。

「よし、行くか!」

 一人作戦会議終了。
 さっきより少し慎重に足を踏み出し、歩き出した。
41 ◆5WJyYTYBtI :2010/08/17(火) 22:11:47 ID:1Z0daZR0



「花村陽介、か……」

 先程邂逅した少年、花村陽介。
 見たところ、何の力も持たない、ただの人間。
 しかし、私の心には何かひっかかるものがあった。
 先程は助けに入ってしまったが、もし助けが入らなければ奴はどうしていたのだろうか?
 花村は間違いなくただの人間、しかも戦いの心得もないような少年だった。
 だが――私がカインを止めに入らなかったとしても、奴が槍に突き刺されて死ぬような気が、しなかった。
 私はゴルべーザ様を信じているが、私自身の感覚も同様に信じている。
 何か……見えない力が、花村陽介にはある。私の直感がそう言っている。
 よって、私は一旦花村と別れる事にした。奴が本当に得体の知れぬ力を持っているのならば、私が味方せずともこの殺し合いとやらを生き延びる事は出来るだろう。
 死んでしまうようならそれまで、だ。
 
 花村と別れ、随分歩いた。木々はいっそう生い茂り、月の光もあまり届かぬ道を進んでいく。
 目指すはあの巨大な木。地図では世界樹となっていたが……相当な大きさの木だ。ずっと見えているのに、これほど歩いてもまだその下にたどり着くことが出来ない。
 木々をかきわけるように進む。進む。
 その時だった。
 
 巨大な世界樹に、一本の閃光が走る。
 同時にその光は炎と変わり、木を侵食し始めた。

「なんだ、あれは!」

 猛烈な炎が、世界樹を焼き尽くそうとしているのが、この離れた場所からでもよく見える。
 おそらく、あの勢いだと世界樹が倒れるのも時間の問題だろう。

 私は世界樹へ向けた足を早め、走り出した。
 あれほどの巨大な木を燃やす程の力を持つ者は、そうそう居ない。
 かなりの手練れ、しかもあれほどの力を放ったということは、それ相応の敵が居たという事。
 炎を上げ、木々を焼きながら走り続ける。
 一体誰が、あの世界樹の下に居るというのか! それを思うと、私はもう走る事をやめることができない。
 もしかすると、ゴルべーザ様があそこにいらっしゃるのかもしれない。
 そうでなくても――戦いが待っている。
 
 高まる期待に応えるように、炎が燃え上がる。

 戦士、ルビカンテは行く、強者を求めて。

【B-3 森/一日目/黎明】
【ルビカンテ@ファイナルファンタジー4】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品未確認×2
基本方針:ゴルべーザ様を探し、指示に従う。強者との戦いを望む。
1:世界樹へ向かう
2:花村陽介か・・。
※作中からの登場時期はカインと面識がある以降、時期不明としておきます。
42 ◆5WJyYTYBtI :2010/08/17(火) 22:12:42 ID:1Z0daZR0



「なんだよ、あれ!?」
 森を抜け、ふと振り向くと、世界樹が燃え上がっていた。
 ――まさか、ルビカンテか!?
 炎を操っていたあいつなら、あんな事も簡単にできそうだ。なんだか「俺は強いぞ」オーラ出てたし。実際、槍男はビビって逃げたし。
 別れて良かったのか、悪かったのか……とにかく、あの世界樹の下にはルビカンテかそれくらいヤバい奴が居るに違いない。
「向こうには行けねえな……」
 少し急ぎ足で進む。街は……見えた!おそらくあれがタウロスタウンだ。

 もう一度、燃える世界樹を振り向く。

 ――あいつら、あそこに居ないだろうな……

 名簿には、俺の仲間……瀬多、里中、天城の名前があった。
 あいつらが、さっきの槍男みたいなヤバい奴に出会ってたら……
 
「……早く合流しねえとヤベーな」

 心配より、信頼だ。あいつらならきっと大丈夫さ。

 デイパックを背負いなおし、街へ向けて駆け出した。


【B-4 橋付近/一日目/深夜】
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]健康
[装備]熟練スパナ@ペルソナ4
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1(武器にはならない)、スタンドマイク@星のカービィ
[思考]
基本方針:殺し合いはしない。まず仲間達と合流、その後行動方針を決める
1:瀬多総司、里中千枝、天城雪子を探す為にタウロスタウンに行ってみる。
2:世界樹の方へはしばらく行かない
3:カインを警戒。
4:ペルソナが使えるか試したい。
※カインの名前はルビカンテがカインと呼ぶのを聞いています。
※ランダム支給品を一つ消費しました(ゴルフクラブ@ペルソナ4)
が戦闘により破損しました。
※作中からの登場時期に関しては真ルート突入前、ペルソナはジライヤ
足立に関しては頼りない刑事の印象です。


【熟練スパナ@ペルソナ4】
 大きなスパナ。二本セット。ゲーム中では花村陽介の使用武器。工具としても使える。

【スタンドマイク@星のカービィ】
 何の変哲もないスタンドマイク。小型のスピーカーが付属していて、拡声器としての機能がある。
 カービィがこれで歌を歌うと周りの敵を一掃することができる。
43 ◆5WJyYTYBtI :2010/08/17(火) 22:14:19 ID:1Z0daZR0
投下終了。問題点があったら指摘おねがいします。
44創る名無しに見る名無し:2010/08/17(火) 23:53:26 ID:vtzT6nXO
投下乙です
世界樹の炎が目立ってきたか。危険人物が集まるかも
そして、ルビカンテに誤解フラグが…
45創る名無しに見る名無し:2010/08/17(火) 23:57:49 ID:2OGE40dF
また投下だとっ!?
投下乙です。
46創る名無しに見る名無し:2010/08/18(水) 00:04:59 ID:nZq8pXgK
あっ題名無いみたいだからWIKIに「タイトル未定」で乗せとくね
題名決まったらおしえてくれい
47 ◆5WJyYTYBtI :2010/08/18(水) 09:05:21 ID:9twmnFbx
タイトルを載せ忘れました。wikiの方で訂正しておきます。
48 ◆5WJyYTYBtI :2010/08/18(水) 09:06:40 ID:9twmnFbx
wikiのページ名変更ができないので記事を作り直して対応します。
49◇WBRXcNtpf.氏 代理投下:2010/08/19(木) 00:37:36 ID:L5Rd2atQ
代理投下します

登場人物ソリッドスネーク、メタナイト。
題名『PANIC FANCY』
50◇WBRXcNtpf.氏 代理投下:2010/08/19(木) 00:39:14 ID:L5Rd2atQ
 
 
伝説の傭兵。ソリッドスネーク。彼の行動は極めて理に適っている行為であり、無駄も殆ど無かった。
モンスターボールについての仕組みはわからないが、「こういう物」と自分を理解させる。
質量保存の法則がどうなってるかなどはどうでもよかった。仕組みについてはオタコンから後で聞けばいい。
それにここは戦場だ。銃撃戦の途中で銃の仕組みが気になったりすることはありえない。つまりそういうことだ。
アーボという「ポケモン」をボールに仕舞った後、町へ向けて移動を開始した。
ポケモンについては説明書に書かれていた。詳しくとはいかなかったが。
「UMAが自分の命令を聞く」とだけ覚えておいた。アーボは食べる自身は無い。
どこかの国で遺伝子操作でもされた動物なのかどうか。あの国ならやりかねないか?いや、案外あの国かもしれない。
それに、あの部屋にも何匹かいた様な気がする。
 
船を調べようとしたが、それは禁止エリアにされない限りいつでも出来ること。
優先すべきことは自分の仲間、つまりオタコンと雷電との合流である。
この殺し合い、武器や食料が不足することは目に見えている。
そういうものは町で補給できる。彼らもその事を把握している筈だ。
オタコンも首輪を解除する為の道具やパソコンを集める為に町に向かうだろう。
しかしだ。それは他の参加者も同じ事。特に、サイボーグ忍者やリボルバー・オセロットとの遭遇は避けたい。
彼らとは武器の確保や、状況理解してから会いたいものだ。
警戒しながら、前に進む。周りは緑に囲まれているが、樹木はあまり生えていない。
西側は茂っているが、こちらの海に沿っている方は少ない。海は近いせいなのかはわからないが。
隠密に動きたいが、自分の体を隠す物が少ないと少し安心できない。
重火器が無い今の状況での戦闘は圧倒的に不利だろう。
自分の支給品はサバイバルナイフ、「アーボ」が入ったモンスターボール、「どせいさん」という謎の生物の像。
どせいさんの像はハズレなのかはわからないが、投擲ぐらいには使えるだろう。
(どせいさんもアーボと同じポケモンなのかもしれない)
今の状況は遠距離向けの武器が無い、ということ。この状態で敵と遭遇し、相手が重火器を持っていたら一発アウト退場だ。
だから他の参加者に見つからない様に、移動に時間を掛けている。隠密行動はもうお手の物だが、油断と慢心はしていない。
 
ただひたすら進む。船はもう随分遠くに見える。スネークの周りを取り巻く物は風と葉が擦れる音しかなかった。
やがて、森を抜ける。草原だった。殆どが草原である。たまに木が数本生えてる程度。
草の背は自分の背ぐらいに高かったり、足首ぐらいに低かったりと酷く不均一だ。
少々危険だ。狙撃者でもいれば格好の的じゃないか。
現在位置は多分C−4だろう。海が見えるということはA−4、B−4も草原が広がっているってことか…
これで町へ入る事は更に難しくなった。
 
「…ん?」
 
煙が上がっている。戦場で焚き木か。呑気な物だ。……いや、まてよ。
あの部屋では、確か一般人も居た筈だ。もしかしたらその一般人が焚き木をしていたのかもしれない。
少しおせっかいかもしれないが、危険という事を伝えていくか。
……と思ったら煙が途絶えた。その事に気付いたのか。それとも襲われたのか。
接触はした方がいい筈だ。たとえ一般人でも仲間が居れば心強い。
危険人物であっても、そいつが「危険人物」と分かっただけでも収穫になる。

その時だった。ガサガサと草むらが揺れる。草むらの中になにか動いているのが見える。野ウサギか? いや、それにしてはでかい。
なんだ?ポケモンか?と、ナイフを用意し、警戒する。
草むらから出てきたのは、
 
「…………………ッ!」
 
スネーク………!圧倒的唖然………!
目の前に現れたのは………!
自分の膝ぐらいの………!
球形の………生き物……!圧倒的球形………!
 
「……すまないが、あなたは殺し合いにのっているか?」

喋った………!しかも……礼儀正しい……!
51◇WBRXcNtpf.氏 代理投下:2010/08/19(木) 00:40:25 ID:L5Rd2atQ
 
☆ ☆ ☆
 
「はぁ……はぁ……」 
 
この草むらは厄介だ。
背が低かったり、高かったり。
先ほど自分が緑髪の少女と戦ったあの場所は草の背が低く、自分にも戦いやすい場所だったが、進むにつれて不均一になっていく。
進みやすい場所があったりなかったりだ。
 
「弱ったな。これでは……」
 
先ほどから移動を続けているが、全く進んでいないような気がする。
カービィやデデデ大王、アドレーヌと合流したいが、自分がこんな所で手間取ってはいつまでも会えないではないか。
……いまはこの草むらを抜ける事を考えよう。
少しずつ、進む。やがて抜けた。ここまで長かった。
しかし、想定外の事が起きた。
目の前にアドレーヌの様な大人の男が現れたのだ。
 
「(………なっ!しまった!この男性が殺し合いに乗っていたら!?)」
 
しかし、男性は目を丸くしてこちらを見ている。
……どうやら殺し合いに乗っていないのかもしれない。
一応、聞いてみるに越したことは無い。
 
「……すまないが、あなたは殺し合いにのっているか?」
 
するとさらに目を丸くした。
まるで『喋っただと!?』とか言いそうな雰囲気だ…
 
「喋っただと!?」
 
………この男性は私がどの様な生き物に見えたのだろうか?
 
 
☆ ☆ ☆
52◇WBRXcNtpf.氏 代理投下:2010/08/19(木) 00:41:38 ID:L5Rd2atQ
 
「驚かせてすまない。私の名前はメタナイト。プププランドで騎士を務めている」
 
メタナイトとスネークは草むらにいた。
周りはスネークの背より草が高く、上からでも狙撃されない限りそこに二人がいることはばれないだろう。
 
「俺の名前はソリッド・スネーク。……唯の傭兵だ。スネークって呼んでくれ」
 
軽く自己紹介を済ませる。
…しかし、このメタナイトはどういう生き物なんだ?
小動物にしては知能が高い。
 
「なぁ、メタナイト。お前はポケモンなのか?」
「……ポケモン?なんだそれは?」
 
どうやらポケモンではないらしい。では別のなにかか。
それに「プププランド」。どこの国だ?
どこかの国の絵本かアニメになってそうだな。
たとえば日本とか。ニンテンドーあたりがヒデオゲームもつくってそうな勢いだ。
 
「……スネーク。私の手伝いをしてくれないか?」
 
メタナイトが少し考え込んでから、自分に質問してきた。
神妙そうな顔をしている。
 
「どんなことだ?」
「このくだらない遊戯を潰す為にだ」
 
「……ああ。喜んで手伝おう。だが……」
 
メタナイトは自分と同じ志を持つ者に会えて嬉しかった。が、その先の言葉が気になる。
 
「よくそんなことを口に出せたな。盗聴機能があったら爆発するだろう」
 
「……なっ!しまった!」
 
 
 
ボン!爆発音の音がした!
 
【メタナイト@星のカービィシリーズ 死亡】
【残り32名】
53◇WBRXcNtpf.氏 代理投下:2010/08/19(木) 00:42:49 ID:L5Rd2atQ

 
「なんてことにならないでよかったな。もっとも盗聴機能は確実にある筈だが」
「…………ではなぜ私の足の輪は爆発しないんだ?」
 
よくよく考えればその可能性は考えれば充分に分かった筈だ。
軽々しく口に出してしまうとは…
 
「単純に盗聴機能が無いのか、それとも奴に絶対的な自信があるかのどちらかだ。奴の場合は後者だと思うが」
 
スネークがそう説明する。確かにあの道化師は自分に絶対的な自信がありそうだ。
あの道化師、マルクは確かカービィの善意を踏みにじり、プププランド、いや、ポップスターを自分の物にしようとしたのだ。
もっともカービィはそのままマルクの野望を阻止してくれたが。
道化師はまたギャラティックノヴァより新しく、面白く、そして強い玩具でも見つけたのだろうか。
ギャラティックノヴァはカービィにより壊された筈だ。そしてマルクも力を失い、そのまま行方不明になった。
しかし、またもこう、力を付けて現れたとなるとだ。奴はまた面白いものを見つけたのかもしれない。
この殺し合いの目的はカービィに復讐でもする気なのか。
それとも、ギャラティックノヴァの様な願いを叶える新しい星を見つけて、それを起こす為の儀式なのか。
それはわからない。ただわかることは自分に絶対的な自身を持っていることだ。
あれ程までカービィにコテンパンにやられたのだ。勝算が無ければまた戦いを挑むなんて考えられない。
しかしだ。
 
「…しかしそういう奴程、抜け目があるものだ。スネーク。改めて言おう。私の手伝いをしてくれ」
 
☆ ☆ ☆
54◇WBRXcNtpf.氏 代理投下:2010/08/19(木) 00:45:29 ID:L5Rd2atQ
 
 
 
 
 

数十分経った。
スネークはプププランドについて詳しく聞いたし、自分の体験したシャドーモセスの事件についても話した。
そしてマルクについても少しだけ。メタナイトはマルクの事を間接的に聞いたらしく、詳しくは聞けなかった。
……少々ファンタジーな話だが。ドラッグには縁は無い筈なんだが。
どこかのだれかも今頃同じことを思ってそうだ。それともその事を一般人に聞いたりしてるかもしれない。
 
「…で、そのデデデ大王は大王を名乗っているが、統治はしないのか?治安はどうなってるんだ?」
「大体、カービィか私がなんとかしている。それにそんな大事件は稀にしかおきない。」
 
プププランドの話を聞いていると夢物語の様な話が出てくることもある。
自分には無縁な話だった。たまには自分も戦いを忘れてみたいものだ。
しかし、これは一種の宿命なのだと自分に言い聞かせた。
その時だった。
55◇WBRXcNtpf.氏 代理投下:2010/08/19(木) 00:46:34 ID:L5Rd2atQ
 
轟音。
 
「…なんの音だ?」
「どこかで、闘が行われている。スネーク。音の方へ征くぞ!」
 
すこし雨が降ってきた。しかしそれはすぐに止む。
一緒に行く。しかしそれはできないことだった。
 
「…すまないが俺には行くべき所がある」
「人が襲われているかもしれない。そんなこと言っている場合ではない!」
 
メタナイトが激昂する。しかしそれでも行くことはできなかった。
 
「これを取る方法を見つける為だ。」
 
首輪をトントンと指で叩く。
町でオタコンや雷電と合流する為だ。
それが出来なくてもパソコンぐらいは調達できる筈だ。
 
「……そうか。わかった。では私は征くぞ」
 
メタナイトが行こうとする。
しかしまだ行かせる訳には行かない。
 
「まってくれ。これを持ってけ!」
 
サバイバルナイフを投げる。刃がでて危ないがそれをメタナイトは柄を丁度良くキャッチする。
 
「騎士ならそれの方が使い勝手がいいだろう」 
「…感謝する。代わりにこれを」
 
メタナイトがデイパックからあるものを取り出し、スネークに投げる。
それは放物線を描き、スネークの掌に落ちた。
それは自分にとって使い勝手の良いものだった。
 
「メタナイト。礼をいう」
「私にはそれが使い方がわからない。……後に町で合流するぞ」
 
メタナイトはその言葉を言うと草むらに消えていった。
 
メタナイトが投げた物は回転式拳銃、ナガンM1895。
ダブルアクションであり装弾数は7発。さらにサプレッサー付き。ご親切に弾丸もセットでくれたみたいだ。
……この銃はリボルバー・オセロットがつかいそうだな。
 
☆ ☆ ☆
56◇WBRXcNtpf.氏 代理投下:2010/08/19(木) 00:47:34 ID:L5Rd2atQ

草を薙ぎ捨てながら前に進む。
スネークがナイフをくれたお陰で進みやすくなった。
……とてつもない轟音だった。
確実に戦闘が起きてるに違いない。
水が激しく踊る様な音だ。つまりこの先には湖がある筈だ。マップには『リヴァイア湖』との表記がある。
この様な轟音を出すのは相当な手練れだろう。そしてそれと戦う者も相当な手練れか。
戦闘になるということは殺し合いに乗っているものがいるということだ。惜しい。
あれ程の戦闘になって自分と同じ志を持つ物が死んで、殺し合いに乗っている者が生きているということは絶対になってはならない。
味方の数はあればあるほど良い。しかしここでその数が減ってしまっては不利になるだろう。
急がなければならない。
あの道化師の思い通りになってはならないのだ。
 
【C-4 草原/一日目/黎明】
【メタナイト@星のカービィシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:基本支給品一式、サバイバルナイフ@現実
[思考]
基本方針:ゲームを破壊する
0:音が出た方向に向かう
1:カービィ、デデデ大王、アドレーヌと合流
2:武器が手に入ったら、緑髪の少女を止める
3:後にスネークと合流
※足首に首輪がついてます
※スネークが体験したシャドーモセス島事件や、他の事件等を詳しく聞きました。
 
☆ ☆ ☆
57◇WBRXcNtpf.氏 代理投下:2010/08/19(木) 00:48:44 ID:L5Rd2atQ
 
どうやら自分は少し夢を見ているのかもしれない。
質量保存の法則を無視したボールに、ポケモンという名のUMA、アーボ。
そしてプププランドという架空の国に住む騎士、メタナイト。
メタナイトの話は常識を飛び出したものだった。
なんども頬を抓っていた。痛いっていうことは現実ということである。バーチャルだったらどんなにいいものか。
なんどもいうがドラッグには縁が無い。
……いや、今はそんな事どうでもいいだろう。
プププランドの話や、マルクの存在でも情報は情報だ。
もうドラッグやら幻覚やらUMAなんていいだろう。
驚くという行為は戦場で命取りだ。無理やり自分を理解させたほうがいいだろう。
取りあえずは脱出の為の手立てを揃えなければならない。
その為には多少危険を冒しても町へ向かうべきだろう。
それに、この先には魔法をつかう緑髪の少女がいるとメタナイトが言っていた。
……UMAがいるんだ。魔法ぐらい存在したって殆ど変わらんだろう。現にワープしているしな。
科学も魔法みたいなもんだとメイ・リンも言ってた様な気がする。
さて、自分もそろそろ行くとするか
この草むらからなにがでるのか。
鬼がでるか、蛇がでるか。
まぁ、今更なにがでても驚かんが。 

【C-4 草原/一日目/黎明】 
【ソリッド・スネーク@メタルギアシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:サプレッサー付きナガンM1895(7/7)
[道具]:基本支給品一式、モンスターボール(アーボ)@ポケモン
サプレッサー付きナガンM1895(7/7)@現実、ナガンM1895の弾丸(残り30)@現実、どせいさんの像@カービィSDX
[思考]
基本方針:殺し合いの阻止
0:魔法…か。信じられんな。
1:町へ向かう。仲間が居なかったらパソコンの調達ぐらいはする。
2:ハル・エメリッヒ、雷電との合流。
3:サイボーグ忍者、リボルバー・オセロットを危険視。
※MGS2エンディング後、MGS4本編開始前からの参戦
※メタナイトからプププランドの事を詳しく聞きました。マルクの事は少しだけ聞きました。
また緑髪の少女(東風谷早苗)についても聞きました。
※プププランドの事や魔法を多少疑問視してます。
58創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 00:50:16 ID:WhRYlBCY
支援
59創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 00:53:08 ID:sRyj0jIY
 
【ナガンM1895セット】
俗にいう当たり支給品。
銃声を消すサプレッサー、専用の弾丸がセットで付いている
装弾数7発。弱点はリロードに時間がかかる事ぐらい。
メタナイトに支給されたものをスネークが譲り受けた
 
【どせいさんの像@星のカービィSDX】
いにしえのどうくつに隠されていたお宝。
120000G。ロワ仕様でコンクリ製。ぽえーん。


60創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 00:54:23 ID:sRyj0jIY
投下終了。
 
ヒデオゲーム吹いた
61創る名無しに見る名無し:2010/08/20(金) 23:23:58 ID:1laJtDYD
投下ラッシュktkr
62創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 01:38:11 ID:hKNXY2on
保守
63創る名無しに見る名無し:2010/08/28(土) 01:24:28 ID:721/uZtD
やべえ…すげー面白い
64創る名無しに見る名無し:2010/08/31(火) 23:33:39 ID:U8pQgQOs
急に過疎になったな。
また規制か?
65創る名無しに見る名無し:2010/09/09(木) 22:18:07 ID:tzGTWbBe
保守
66創る名無しに見る名無し:2010/09/14(火) 20:54:56 ID:Vh5y1cUo
>>64
どこもこんな感じよ
67創る名無しに見る名無し:2010/09/17(金) 16:20:04 ID:KBFYGEcF
過疎ぎみだが投下が来てるから死んではいない
気長に待とうよ
68創る名無しに見る名無し:2010/09/24(金) 23:01:55 ID:6JWDNSzT
保守だけはしとく
69創る名無しに見る名無し:2010/09/27(月) 00:19:13 ID:PzdVXzG+
ほしゅ
70創る名無しに見る名無し:2010/09/30(木) 03:51:20 ID:KGGABfbS
ほしゅ
71創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 23:55:08 ID:YxhJIRxQ
age
72創る名無しに見る名無し:2010/10/05(火) 20:39:41 ID:J87A0O2l
爆発音の音がしたってわざとだよな?
73創る名無しに見る名無し:2010/10/05(火) 22:14:20 ID:mBryeU1a
書き込めるかな?
予約とかしてませんが衝動的に書いちゃったのでしたらばの仮投下スレに投下しました
アク禁になってたと思ったけどこれが書き込めたらこっち直書きで別に大丈夫だったな
74SURVIVAL VIEWER/CAMOUFLAGE:2010/10/05(火) 22:17:07 ID:mBryeU1a
 ジャリ。  ジャリ。  ジャリ。
 靴の分厚い革底が、乾いた地面をゆっくりと踏みにじる。靴の踵に付けられた拍車が、時折カラ
カラと乾いた音を立てて回った。
 ジャリ。  ジャリ。  ジャリ。
 その男……齢は既に初老の坂を越えたと思しき、白くなりきった長い髪と、しかしその年齢に似
合わぬ精力的な瞳を持つ男は、ひとり、ゆったりと荒野を進む。
 北東に向かえば近場にオンセンやアミューズメントパークがあり、ずっと東に抜ければ街がある。
近い微妙な施設か、遠い優良施設か、現状ではどちらもほとんど等価値とも思える二択。男は東の
町へ荒野を抜けて進んでいくことを選んだ。なぜなら、そう、ガンマンには荒野が似合うからだ。
この男は、そういう美学の持ち主だった。
 ジャリ。  ジャリ。  ……ザッ。
 男は不意に歩みを止める。目の前には誰もいない。しかしその男の脳内には、十数歩先、銃を腰
に下げてこちらを睨みつける好敵手の姿がはっきりと映っていた。
 一陣の風が吹き抜ける。ここはマカロニ・ウェスタンの銀幕の中ではないから、観客の目に緊迫
感を知らせるタンブルウィードは転がってはこないし、そもそもその観客さえも誰もいないのでは
あるが、それでも男は銃を華麗に抜き放つ。銀の光が男の周辺を目まぐるしく駆け回り、美しい軌
跡を描いて再び腰へと戻る。
「来い」
 両の手の三本の指で、目の前の相手に銃を突きつけるかのようなポーズ。男の脳内で、迷彩服と
フェイスペイントに身を包んだ好敵手が、バンダナの下の目を鋭く細める。
 空気が張り詰める。また、一陣の風が吹いた。
「ハアッ!」
 気迫。光が走る。目にも留まらぬ速さで、男の腰から光が抜き放たれて目の前の好敵手へと向け
られる。
 無音。そして、数秒の沈黙が続いた。映画なら、もしくは本当の決闘なら、実際に銃声が鳴り響
いていたところだろうが、さすがに空想決闘で発砲するほど男は愚かではない。ただ構えただけだ。
しかし、男の口は悔しそうに歪んだ。
「追いつけん、か」
 呟いた。脳内の好敵手から銃口を外し、銃を華麗に回してからホルスターに戻した。
 今の早撃ち勝負は惨敗だった。自分がこの重い銃をようやく引き抜き構えようとしたときには、
脳内の好敵手……彼にとっての、永遠の憧れであり、絶対の存在……は麻酔弾で自分の額の真ん中
をヘッドショットし終わっていた。
75SURVIVAL VIEWER/CAMOUFLAGE:2010/10/05(火) 22:18:18 ID:mBryeU1a
「私では、追いつけんのか」
 男は、右手を憎悪と悲哀の篭った目で睨み付けながら、搾り出すような声で呟く。
 条件の悪さを理由にすることはできる。自分の愛銃であるコルトS.A.A.ではなく、不慣れなD.E.
では、いつものキレが出るわけがない。ましてD.E.はS.A.A.の2倍近い重量の大型拳銃であり、早
撃ちに向いた武器ではない。
 また既に一度戦闘を行い、腕に疲労が溜まっていた。それどころか、肘に若干の違和感さえも感
じる。
 手持ちの武器も、自分の体も、万全ではない。しかし、戦場で常に万全が期待できるわけがない
ことは、兵士ならば誰だってわかりきっていることだった。戦場においては、敗因などという言い
訳に意味はない。理由があろうがなかろうが、敗北の前にあるのは死だけであるのだから。
 そう。あの男は。単身異国の地に乗り込み、その身と乏しい装備だけでジャングルを這い回って
戦ったあの男は、万全とは程遠い状況で、過酷な任務をやり遂げたではないか。それを考えれば、
この程度のハンデがなにほどのものか。現在の状況は、むしろ恵まれているとさえ言っていいほど
のものだ。
 敗因はただひとつ、兵士としての能力が及ばないから。それだけのことだった。
「あの男本人にも、あの男の『模造品』にも、私は及ばない、か」
 また、呟いた。
 偉大なるあの男には、模造品が3人いる。男は、その中の2人に味方のフリをして接近して間近
で観察し、また残り1人とは(もろもろの都合で、負けてやらねばならない八百長試合だったうえ、
これからというところで邪魔が入ったが)直接銃弾を撃ち合って戦った。いずれの模造品も、あの
男から単なる兵士としての能力以外なにも受け継いでいないかのような出来損ないばかりではあっ
たが、その戦闘能力の高さは評価に値するものであることはしっかりと確認している。
 さらには、男は自らの右腕を失っており、代わりに模造品1人の右腕を移植して使っていた経験
がある(その腕は、なぜか現在は自分自身の腕に戻されているようだが)。その模造品の腕は、長
年戦場を駆けてきた男本人の腕よりも、はるかに華麗に正確に銃を操ることができた。古の戦士は
「人殺しは体で覚えろ」と言ったものだが、伝説の兵士の遺伝子から作られた腕には殺しの経験が
刻み込まれているのだなと感心したものだった。
 あの男は、本人はもちろん、模造品であろうが、模造品の腕だけになろうが、自分をはるかに超
える戦士の素質の塊であり続けているのだ。
「フフフ。やはり、そうでなくてはな。偉大なるボスは、そうでなくては」
 また小さく呟き、笑う。それは憧れに追いつけぬ自分への悲哀(ソロー)でもあり、また憧れが
決して犯されない神聖なるものであることを再確認できた歓喜(ジョイ)でもあった。
76SURVIVAL VIEWER/CAMOUFLAGE:2010/10/05(火) 22:19:58 ID:mBryeU1a
 突然、ズキリ、と、右の肘が痛んだ。先ほどの戦闘で、銃を乱射した影響だ。物理学の法則から
すれば当然のことだが、銃の威力が大きければ反動も同じだけ大きくなり、撃った側にも相当の負
担が強いられる。特に世界最強とも評されるD.E.は、撃った側が肩や肘の脱臼などの大怪我を負う
例さえも珍しくない。ついつい慣れ親しんだ片手撃ちのスタイルで使ってしまったが、本来なら両
腕でしっかり支えて使うべき銃なのである。
(そもそもお前はオートマチックに向いていない、リコイルの衝撃を肘を曲げて吸収する癖がある)
 懐かしい声が思い出される。知らず知らずの癖は直らないものだ、と男は苦笑する。下手に肘で
吸収しようとするぶん、肘に大きく負担がかかったのだろう。
 しかし、拳銃の名手として名を馳せ、銃の名を冠した異名で知られた男が、いかにハンドキャノ
ンと恐れられる規格外の銃とはいえ、両手で使うわけにもいくまい。それは、自分を偽ることに慣
れている男が、ただひとつだけ決して曲げたくはない矜持だった。
「だが、気をつけねばな。事故(アクシデント)が原因で負けたなどと言おうものなら、あのお方
にまた笑われてしまう」
 呟きながら、銃を引き抜く。腰から走った光の筋が、円を描いて宙に上り、ぴたりと目の前で止
まった。
 自動拳銃(オートマチックピストル)。銃弾を発射した反動(リコイル)を利用して、銃上部の
スライド機構を動かして薬莢の排出と次弾の装填を同時に行う仕組みの銃だ。引き金を引くだけで
連射ができる利点があるが、しっかりと支えずに銃の衝撃を下手に逃がしてしまうと排莢ミスが起
こって弾詰まり(ジャム)の原因になりやすいという若干の欠点も持っている。
 そう。自分の欠点を指摘して、リボルバー使いに転向するようアドバイスをくれたのも、あの男
だった。手の中のD.E.をもてあそびながら、男はそう考える。
 思えば、かつての自分には自己というものがなにもなかった。親の記憶もなく、ただ兵士として
の殺傷能力だけを叩き込まれ、スパイとして己を偽り他人を騙す術ばかりを仕込まれて育ってきた
男にとって、自分のアイデンティティと呼べるものは、ただ優秀な兵士、優秀なスパイであるとい
う矜持しかなかった。そんな空っぽな自分を、マカロニ・ウェスタンの主人公に……いずこからか
現れ、荒くれどもをなぎ倒し、またいずこかに去っていく無敵のガンマンに……なぞらえてみても、
所詮はただの空虚な妄想に過ぎなかった。
77SURVIVAL VIEWER/CAMOUFLAGE:2010/10/05(火) 22:21:20 ID:mBryeU1a
 そんな鬱屈した自分の前に、あの救いの英雄が現れてくれた。自分を正面から圧倒し、欠点を厳
しく指摘し、長所を正確に評価してくれて、さらにはリボルバーという己の利点をもっとも生かせ
る道まで指摘してくれた。あの瞬間、ただの人形、権力者に都合よく使われる駒(ポーン)のひと
つに過ぎなかった自分は、ひとりの戦士になれたのだ。その恩義は片時も忘れたことはない。
「そうとも、恩は必ず返す。山猫は、高貴な生き物なのだ」
 また、呟く。手のひらの中のD.E.は、光の輪となって男の体の周りをぐるぐると旋回し、腰のホ
ルスターへと吸い込まれていった。

 そう。山猫は義理堅い。
 男の命は、ただの1匹の山猫をリボルバー・オセロットという戦士にしてくれた大恩人である
「伝説の英雄」「最高の兵士」……BIGBOSSのためだけにある。その心は変わらない。目的も変わら
ない。迷いもしないし、揺らぎもしない。

 そう。山猫は残虐だ。
 BIGBOSSを救う。男の頭の中にあることはそれだけ。このイカれた戦場には……まあ、兵士として
生きる身には刺激的な場所であることは確かだが……用はないのだ。とっとと脱出し、愛国者たち
への対抗作戦を進めなければならない。そのためには手段は選ばない。邪魔する者に容赦はしない
し、邪魔しないものであっても利用価値がなければ生かしておく必要もない。

 そう。山猫は狡猾だ。
 しかしそれでもなお、ほかに取りえる道はあるかも知れない。だから、何段にも構えておかねば
ならない。全員を殺して最後の一人になることが最も生存確率が高いだろうと計算はしたものの、
これはあくまで現時点での話であって、今後状況が変わったり情報が増えたりすればこの結果はい
くらでも変わりうる。その変化に対応できるよう、手変わりの余地を残しつつ進めるべきだ。もし
万が一の事態が起こったとしても、殺人者の悪名は自分に降りかかることはないようにするなどの
工夫は怠るべきではない。

 そう。山猫は冷静だ。
 自分は先ほど、ソリッド・スネークの名を騙った。今後もこの手で行くことにしよう。
「私の……いや、俺の名は……ソリッド・スネーク……いや、違うな」
 名乗りに違和感を覚えて、男は小さく首を振る。
「俺は……ソリッド・スネークと呼ばれている。いや……」
 ぶつぶつと、小声で何度も名乗りを繰り返した。頭をフル回転させて、ある男について叩き込ん
だデータを総動員して考える。あの男はどういう性格なのか? 外面的に知っている情報だけでな
く、その生い立ちや経歴からの推測まで交えて考えに考える。
「名前が必要だと思ったことはない。……任務では、スネークと呼ばれていた」
 低く、小さく呟く。その声は、さきほどまでのややしわがれた老人の声から、低く張りのある声
に変わっている。
 強烈な自己暗示。それは男が知らず知らずのうちに持っていた才能であり、彼を優秀なスパイた
らしめていた最高の能力であった。
 集中するあまり頭の毛細血管が切れたのだろうか、その目から真っ赤な血涙が垂れた。その姿は、
かつてとある特殊部隊の一員であったソ連出身の霊媒師の男によく似ていたが、それは男には知る
由もない話ではあった。
78SURVIVAL VIEWER/CAMOUFLAGE:2010/10/05(火) 22:24:11 ID:mBryeU1a
 垂れる血涙を、手のひらで拭う。その手は、足元の土くれをひとつ拾い上げ、握りつぶしてごし
ごしと擦って落とした。土埃が付着したのは許せないが、荒野を抜けて草原地帯になったら草で擦
ればいいだろう。
「……待たせたな」
 男はそう一言呟き、周囲を警戒するように眺めると、少し背をかがめながらゆっくりと歩き出した。
 リボルバー・オセロットはもういない。ここにいるのは、ソリッド・スネークだ。

 そう。山猫は……蛇への擬態を好む。




【リボルバー・オセロット@メタルギアシリーズ】
[状態]健康・スネークに『擬態』中
[装備]デザートイーグル7/7+1発@メタルギアソリッド ステルス迷彩@メタルギアソリッド
[道具]支給品一式 マガジン×2(残り13発)
[思考・状況]基本方針:緊張を楽しみながら優勝、ただし生存が最優先であり方針転換も視野に入
れる

※咲夜は死んだと思っています。
※咲夜の能力を瞬間移動またはそれに類する何かだと思っています。
※参戦時期は少なくともリキッドの腕を移植した後ですが、右腕は本人の腕です。


ステルス迷彩(光学迷彩)について;
姿を見えなくする装置(ただし熱源感知ゴーグルなどの、肉眼に頼らない方法では見える)。
体だけでなく、メガネやバンダナ、手に持った武器など、身に付けているものすべてに効果がある。
ただしダメージを食らったり、なにかにぶつかったりすると、強制的に解除になる。
今回オリジナルの制限として「使用時間は10分のみ」「一度使うと3時間使えない」条件がついてい
る。

『擬態』について:
自己暗示によって他人になりきる特技。思い込みが強ければ本人に完全になりきることも可能。
ただし現状では、声の変化も「よく似ている物真似」程度、格闘技術なども劣化コピーが限度。
かかりが甘いぶん、いつでも自在に解除できる。
79創る名無しに見る名無し:2010/10/06(水) 02:20:58 ID:XTgY75Uy
おつおつ

擬態かぁ。メタルギアは2までしか知らんからよくわからんが
これが今後どうなるかに期待だな
80創る名無しに見る名無し:2010/10/06(水) 13:01:01 ID:xVAiJuDh
あああああ 投下きてた乙すぎるぅぅぅ
 
オセロットはどう転ぶかどうかわからんな
81創る名無しに見る名無し:2010/10/06(水) 13:28:10 ID:xVAiJuDh
あっ トリップないと混乱するからトリップお願いしますだ
82創る名無しに見る名無し:2010/10/07(木) 02:35:09 ID://KX0cOC
このロワは予約なしのゲリラ投下禁止だろ
没だな
83SURVIVAL VIEWER/CAMOUFLAGE:2010/10/07(木) 11:51:50 ID:jrMU9ecK
了解です
じゃあ没にしといてください
84創る名無しに見る名無し:2010/10/07(木) 12:05:24 ID:ufaFIpUw
それは余りにももったいないなあ。
じゃあ改めて予約して、その直後に投下でいいんじゃない?
85創る名無しに見る名無し:2010/10/07(木) 18:23:41 ID:AL21m/UP
破棄で正解
メル欄にどーでもいい自分語りしてるしな
後でいろいろ問題起こしそうだ
86創る名無しに見る名無し:2010/10/08(金) 00:03:26 ID:4kr9qolv
ゲリラ投下は禁止だけど勿体無い。
改めて予約して投下してもらいたいわ。
勿論トリップありで。
まぁ書き手が破棄するってならそれでいいけど
87創る名無しに見る名無し:2010/10/10(日) 13:06:52 ID:GMEit8y1
書き手の返信がないので、このまま没でいいよね?
没SSに収録しときました。
88 ◆dGUiIvN2Nw :2010/10/11(月) 13:27:02 ID:q3rw6i9u
問題なさそうなので、こちらに投下します
89道具 ◆dGUiIvN2Nw :2010/10/11(月) 13:27:55 ID:q3rw6i9u
「くっ……!」

足の痛みがひどい。
歩く度にじくじくと疼いて来る。その痛みを感じる度に、心の奥底で漠然と感じている孤独という不安が重くのしかかる。しかし、霊夢はその想いを無理やり押さえつけ、怪我のことだけを考える。

流れ出る血を見て、霊夢は舌打ちする。
思ったよりもやばいかもしれない。
歩く度に汗が噴き出る。

しかし、霊夢は歩かざるを得なかった。何かしていなければ、どうしようもない負の感情で押しつぶされてしまう。そんな気がして、霊夢はただただ痛む足を動かしていた。

「シャンハーイ…?」

心配そうに、上海人形が顔色を窺う。

「大丈夫よ。……ええ、大丈夫。きっと」

自分でも弱気になっていると感じる。しかし、それでも生きる為に何かしなければ……。
生きる為? 何故、自分はそんなことを考えるのだろうか。今までどんなことがあっても、難なく乗り越えてきた自分が、こんなところで死にかけているというのか。

「お嬢さん。ちょっといいかね?」

思わず身構えて振り返る。そこには中年の男がいた。

「む。これは大変だ。怪我をしている。ほら、そこに座って。応急処置だけでもしておかないと」

敵ではない……か?
どっちにせよ、治療してくれるというのならそれに越したことはない。見たところただの人間のようだし、いざとなったら力技で倒せるだろう。
表面上は自分の力に自信があるように見える。だが、実際は押しつぶされそうな孤独感を拭いたいだけだった。

「…じゃあ、悪いけどお願いするわ」

男は紳士のような笑みでこう言った。

「任せなさい」

上海人形は、にこやかに笑う男をずっと睨んだままだった。
90道具 ◆dGUiIvN2Nw :2010/10/11(月) 13:28:40 ID:q3rw6i9u


「それにしても、お互い災難だったね」

サカキが即席の包帯を霊夢に巻きながら、まるで独り言のように言った。

「突然こんな殺し合いに巻き込まれるなんて、普通では考えられない不幸だよ。特に君なんて、まだ若くて遊びたい盛りだろうに」
「……別に。普通の人よりはこういったことにも慣れてるしね。大して気にしてない」

強がりだ。足は痛むし、早く見知った人に会いたいという気持ちがずっと離れない。
霊夢は、既にこの場所に恐怖感を抱いており、すぐにでも幻想郷に帰りたいと願っていた。

「そうか。君は強いんだな。……私は、駄目だ。怖くて、とてもじゃないが一人でいられなかった」

霊夢はサカキの言葉に無関心のように振る舞いながらも、心の底から同意していた。足の痛みは止むことなく、未だ霊夢を蝕んでいる。

「実は……、この殺し合いに息子も参加しているんだ。シルバーと言ってね。あまり父親らしいことをしてやれなかった身だが、今はとても心配でいてもたってもいられない。こうしてる間にも息子に危険が迫っているのかと思うと……気が狂いそうだ」
「じゃ、どうして見ず知らずの私の治療なんかしてるのかしら?」
「……そうだな。矛盾してるとは思うよ。しかし、君が怪我をしてるのを知って、放っておくことが出来なかった。やはり、馬鹿な行為だと思うかね?」
「ええ、そうね」

躊躇なく答える霊夢にサカキは苦笑で答えた。

「なんにせよ、我々一般人は逃げ隠れするのが一番だ。……魔法使いなんて本当にいるとは到底思えないが」
「魔法使い!?」

突然、霊夢は身を乗り出すようにして叫んだ。

「あ、ああ。すまないね。いきなり荒唐無稽なことを言って。混乱させるつもりはなかったんだ。忘れてくれ」
「いえ。混乱なんてしてないわ。さっき魔法使いって言ったわよね? もしかして魔法使いに会ったの?」

しばらくじっと霊夢を見つめる。

「……ああ。会った」
「そいつ、金髪で白黒の服を着てなかった。いかにも魔女って感じの」
「まさしくその通りだ」

やっぱり、と呟いてため息をつく。
それは、心の底からの安堵を押し殺したものだった。

「で、どっちに行ったの?」
「待ってくれ。君達は一体どんな関係なんだ? それを教えてくれたっていいだろ。もしかして、君も魔法使い?」
「いいえ。私は巫女よ。まあ、あなたから見たら魔法使いと同じようなものよ。魔理沙と私は仕事を奪い合う敵同士って感じかな」
「敵?」
「ええ。敵。で、どっち行ったの?」
「……いや、止めておいた方がいい。君の怪我は戦闘を行うには少しひどい」
「いいのよ別に。で、どっち?」
「いいかい? 君は怪我人なんだ。いくらなんでも、追いかけて倒そうなんて無茶だ」

霊夢は思わず笑ってしまった。
一体何を勘違いしているのか。少し面白いからこのままからかってやろうか。

「だいじょうぶ。あんな奴に負けるほど落ちぶれちゃいないから。幻想郷最強と言われる齢2000歳の魔女で、一晩にして村の人間を茸と一緒に平らげちゃうような奴でも私にかかれば全然平気よ」

こう言ったら普通の人間なら怯え震えるだろう。しかしサカキは逆だった。眼光を鋭く光らせ、真剣な表情で首を横に振った。

「駄目だ。ここは私の命令に従ってもらおう。実は……彼女は殺し合いに乗っているんだ。今彼女を追うのは危険だ」

ぴたり、と霊夢の動きが制止した。
91道具 ◆dGUiIvN2Nw :2010/10/11(月) 13:29:22 ID:q3rw6i9u
「いま、なんて?」
「……彼女は、殺し合いに乗っている」
「へぇ。そう」
「ああ。そうだ。だから危険──」
「趣味で異変解決して、妖怪たちに喧嘩売って、それでも飄々と呑気に笑ってるような奴が、殺し合いに参加?」

震える足で立ち上がり、後ずさりする。その手に持つ八卦炉は、サカキの方を向いていた。

「有り得ないわ。ええ、有り得ない。たとえ他の誰が殺し合いに乗ろうと、魔理沙がそう簡単に乗るなんて思えない。……ったく、この怪我のせいで勘も鈍っちゃったわね。つまらない冗談のおかげで功を奏したけど」

サカキは蹲ったまま動く気配がなかった。
霊夢の言う通りだった。サカキが、霊夢の言ったこと全てを真実だと考えたわけではないが、霧雨魔理沙が悪人で、霊夢にとって敵であることはまず間違いないと判断してしまったのだ。

霊夢が幻想郷のノリで、ひいては魔理沙の真似事として意味なしジョークを言ってみようなどと思わなければ、“霧雨魔理沙が殺し合いに乗っている”などと、サカキが自分に都合の良いように事実を改ざんすることもなかった。

博麗霊夢ともあろう者が、珍しく孤独を感じていたことが、このような冗談を誘発し、おかげでサカキが魔理沙と敵対するものであることが分かったのだ。

「少し質問。あなたは殺し合いに乗ってるの?」

霊夢は怪我をしていた。そして、サカキは霊夢を最初、普通の女の子だと思っていた。殺し合いに乗っていたのならば即刻殺しにかかっていたはずだ。

「……違う。だが、霧雨魔理沙とは仲違いした。見解の相違というやつだ。君が彼女と憎からぬ関係のようだったので、少し懲らしめてやろうという気持ちになった。出来心だったんだ。…すまなかった。こんなこと、考えることではなかった。今は反省している」
「どうだか。さっきのあなた、出来心で言っているようには思えなかったけど? 私には、とても冷静に見えた」
「大人というものは世間体がある。表面上はそう見せていても、実際は不安なことで胸をしめつけられている」
「そんな大人なら、ここでそういうことは言わないんじゃない?」

こいつはどこぞの氷妖精よりも馬鹿だ。まだそんな言い訳が通じると思ってる。
上海人形に合図して、武器を隠していないか探させる。サカキは先程から、自分が無害であることを主張するかのように両手を頭の上に乗せていた。
サカキが何を言ったところで、もはや霊夢の信頼を取り戻すのは不可能だ。それは誰が見ても明らかで、そしてそのことを誰よりも理解していたのはサカキ自身だった。

「……君は、私が馬鹿なのだと思ったかね?」
「え?」
「君はこう思ってる。“お前が何を言おうと、もう絶対に信用なんかするもんか”とね。確かにその通りだ。この状況なら誰もが君と同じ態度を取る。無論、君と同じ立場になれば私だってそうする。ただ一点を除いてはね」

霊夢は内心動揺を隠せなかった。何なんだこの男は。こちらが圧倒的有利であるにも関わらず、冷や汗一つかいていない。
そこには幻想郷の住人にはない凄みがあった。たった一人で世界を震撼させるほどの組織を作り上げたその手腕、自信、そこから培われたカリスマが霊夢に恐怖を抱かせていた。

「そう。私も君と同じことを考えてる。こいつは馬鹿だ、とね。何故なら、この状況で私が長々と喋ることに、何の疑問も感じていないのだから」

背後に気配を感じ、はっとなって振り向く。
が、少し遅かった。サカキに気を取られ過ぎていた霊夢は、その一本の大木のようなモンスターに地面へと叩きつけられるかのように踏みつけられた。

「がはっ!」

肺が潰れるかと思うほどの圧力が霊夢を襲う。

「シャ、シャンハーイ!」

慌てて霊夢のところへと戻ろうとする上海人形。しかし、そんな隙だらけの人形をサカキが放置するわけもない。
デイバックから素早く剣を取り出して、一刀の元に斬り捨てる。
上海人形は、その一撃で地面に転がり、動かなくなった。

「ごほっ! が、あ…くっ…」

息が苦しい。だが、それは致命傷には程遠い。霊夢にはもはや確認する余裕などないが、サカキが手加減するように命令していたのだ。

「ナッシ〜〜」

その大木のモンスターはそんな雄叫びをあげて、ぎりぎりと霊夢を踏みつける力を増していく。
92道具 ◆dGUiIvN2Nw :2010/10/11(月) 13:34:09 ID:q3rw6i9u
「このポケモンという“物”は、とても便利だとは思わんかね?」

もはや声をあげることすらできない霊夢にサカキは言った。

「モンスターボールを開発した人間を尊敬する。世界の支配者たる人間が持つべき素晴らしい道具だ。しかし時々私は考える。このボールに、他の動物を入れることは出来ないのかとね。
そう、たとえば人間だ。人間ほど信用ならん生き物はいまい。が、それ故に“使える”。時にはポケモン以上にだ。君をこのボールに入れれば、生涯私に尽くすようにはならないか。ん? 気になるかね。そんなに首を振って。入ってみたいのかね?」

赤と白のボールを掲げ、霊夢へと近づける。髪を乱暴に掴み上げ、そのボールを霊夢の額に押しつける。
が、すぐにボールをポケットにしまった。

「冗談だよ。心配せずとも、モンスターボールの効果があるのはあくまでポケモンだけだ。私は科学者ではないので、メカニズムなど知ったことではないがな」

そう言って、サカキはクックと笑う。
霊夢は胸を圧迫する痛みと共に、ぞっとした。この男は狂ってる。どこかネジが一本取れた狂人だ。何をする気かまったくわからない。

「私は狂人などではない」

まるで心を読んだかのように、サカキは言った。

「これは……そうだな。言うなればパフォーマンスだよ。これから君に色々と喋ってもらう。それは私にとって想像を絶する話になるはずだ。君にとって荒唐無稽と思えるような嘘をついても、私にはおそらく分からない。
だからこそ、君が嘘をつかないという保証が欲しい。そして、人間を一番信用出来る状態というのが、恐怖心から相手に屈服した時だ」

サカキが指を鳴らす。
大木のモンスターは、力を入れていた足をふいに上げた。霊夢に久しく苦痛のない時間が訪れる。

「ごほっ。はあ…はあ」

が、それはすぐに終わった。

「はぐっ!!」

今度は先程よりも強く、モンスターの『ふみつけ』攻撃が霊夢の背中を圧迫した。
93道具 ◆dGUiIvN2Nw :2010/10/11(月) 13:35:02 ID:q3rw6i9u
「さてと」

サカキは何事もなかったかのようにぱんと両手を合わせてみせた。

「そろそろ尋問タイムといこうか。いや、拷問タイムか? まあどっちでもいい。まず最初に聞いておきたいのは……そうだな。霧雨魔理沙のことだ」

サカキは近くに転がっていた大きな石に腰かけ、足を組んだ。
ここで葉巻の一つでもあれば最高の余興となっただろうに、とサカキは思う。

「彼女の素性。能力。魔法使いとはどういうものか。君の知っていることを洗いざらい、全て教えてくれ」

霊夢は何も答えない。
サカキの合図で、ナッシーは容赦なく霊夢の背中を踏みつける。
が、今度は両手で口をおさえ、苦悶の声をあげることさえしなかった。
これは意地だ。博麗霊夢に残った最後の意地。このまま友を売るような真似だけはしないという決死の覚悟だ。

サカキは表情を変えることなく立ち上がり、霊夢へと近づいた。
デイバックから再び鋼の剣を取り出す。霊夢は血の気が引いていくのがわかった。

「私は戦士ではない。私は生涯、組織のトップであり、ボスであり続けた。だからこそ、私は誰かに迎合したことなど一度もない。戦士とは、尽くすべき主人がいなければただの木偶の坊だ。しかし、私は違う。だからこそ、こんな剣など使ったこともない」

サカキは霊夢の手を掴み、自分の元へと引っ張った。

「私は剣の使い道をよく知らない。たとえば、こんな風な使い方くらいしか思いつかないのだよ」

ザクリ
小指が霊夢の手から離れ、あまりにもあっけなく、ぽとりと地面に落ちた。
霊夢の目があらん限りまでに見開かれ、その口が大きく開いて悲鳴を……。

「むぐうぅっ!!」
「悲鳴はあげるな。周りに人がいるとも限らんからな」

支給された紙を丸めて口に敷き詰められ、叫ぶに叫べない。ただただ、手から伝わる痛みに耐えるほかない。

「さて。喋る気になったら首を縦に振ってくれたまえ」

ザクリ
今度は薬指が落ちた。
もはや悲鳴をあげる元気すらなかった。この男は悪魔だ。鬼だ。いや、それすらも越えたどす黒いなにかだ。幻想郷では見ることのなかった悪の権化だ。

「やはりこれは使いにくいな。ハサミでもあれば楽なのだが」

そう言って再び指を切ろうとする。
霊夢は大慌てでこくこくと何度も何度も頷いた。

「ふむ。なかなか素直だな。今時珍しい素直な娘だ」

そう言って、サカキはにこやかにほほ笑んだ。
94道具 ◆dGUiIvN2Nw :2010/10/11(月) 13:40:03 ID:q3rw6i9u


「……以上が…魔理沙の……全て…です」

嗚咽を交えながらの吐露にサカキは顎に手をやって考え込んでいた。
全てが順調、というわけにはいかなかったが、ほとんどサカキの想像通りに事が運んだ。彼女を遠目から見かけた時、治療もろくにせずに歩く姿から殺し合いに乗っていないと当たりをつけ、支給されたポケモン、ナッシーを遠くに配置させた。

もしもの場合は“両の手を頭に乗せる”という合図で背後から敵に攻撃を仕掛けるようにと命令しておく。サカキの読みは大当たりだったし、ナッシーの奇襲も予想以上にうまくいった。そうして今、彼女はサカキにとって有益な情報をペラペラと喋ってくれている。

霧雨魔理沙がどのような人間で、魔法使いがどういうもので、霧雨魔理沙がどんなことを出来るのか、その全てを知った今、彼女に対する処遇をどうするか。
結論は既に出ている。即刻、殺すべきだ。

この場所から脱出するための術も知識も持たない彼女など、サカキにとって、いる必要のない人間だ。なにより自分の悪評を広められることがとても痛い。
殺す人間は殺すが、それを悟られたのでは情報が集めにくくなる。それはサカキのよしとするところではない。
だが問題はそんなことではない。

問題は、博麗霊夢や霧雨魔理沙の住む世界だ。魔理沙について話を聞き、その要所要所で質問を挟んであらかた理解した幻想郷という世界。神が存在し、妖怪が存在し、まるで空想そのものが現実となったかのような世界。
サカキの世界に存在する伝説のポケモンと同等レベルの化け物がうじゃうじゃといる世界。
殺し合いの主催者が幻想郷出身であるかどうかは分かるはずもないことだが、少なくとも、幻想郷で生きる者には、この場所から脱出する術を持つ者がいてもおかしくはない。

本来ならば、先に他の参加者達の情報を集めるところだが、好奇心に駆られてサカキは聞いた。

「ここから脱出できる術、またはその知識を持つ知り合いはいるかね?」
「……はい。います」

サカキは心臓が高鳴るのを抑えることができなかった。
いる、だと? しかも、彼女は即答した。
それだけ博麗霊夢がその人間(人間である可能性は限りなく低いと思われるが)の能力を信頼している証であり、こんな場所に連れてこられてもその力を疑う余地などないということだ。
これはかなり有力な情報だぞ。

「その者について、知ってる情報を吐け」
「…八雲、紫。スキマを操る……妖怪…です」

スキマ? いまいちよくわからない。
サカキは、霊夢がとろとろと喋る情報を辛抱強く聞いた。

幻想郷が俗世と交わり、妖怪の力が衰えてしまう前に八雲紫は結界による幻想郷と世界との分離を提案し、博麗大結界が考案された。
スキマを操る八雲紫と博麗の巫女によって管理、運営される博麗大結界のおかげで、幻想郷の住人は人間に知られず、妖怪たちは幻想郷の外では作り物の中だけの存在となっている。

そのことを、霊夢はゆっくりだが、理路整然とサカキに話した。
95道具 ◆dGUiIvN2Nw :2010/10/11(月) 13:41:27 ID:q3rw6i9u
「……今、何と言った?」
「……え?」
「博麗大結界を管理しているだと? つまり、貴様が死ねば結界はその効力を失うということか?」

霊夢はサカキの真意を測りかねるように力なく頷いた。
サカキは舌打ちしたい気持ちを必死で押さえて、霊夢に背を向けた。
八雲紫がここからの脱出を可能にする妖怪だと? 馬鹿を言え! 八雲紫などよりも、博麗霊夢の方がよほど重要な存在ではないか!

博麗大結界を成し得るには境界を形作る紫の力が必要不可欠だということも確かにそうだ。が、しかし、それは全て博麗の巫女がいればこその話。
けっきょくのところ、そのような大規模な結界を張る力は博麗の巫女にしかないということだ。結界を張る力があるということは、無論壊す力もあるということ。そして、幻想郷とこの場所の性質はどこか似通ったところを感じる。

つまり、この殺し合いの場が博麗大結界に似た“何か”で形作られている可能性が極めて高いということだ。
ちらりと霊夢を一瞥する。
もはや抵抗する気もないらしく、死人のような目であらぬ方向を見つめている。
この大馬鹿者め! 自分がどれほど貴重な存在かも理解していないとはッ!
思わず口を手で覆いながら必死でこれからどうすべきかを考える。

こうなっては霊夢を殺すという選択は論外だ。もしかしたら唯一無二、この場所からの脱出を可能にする人間なのかもしれないというのに、何のメリットもなくここで殺すなど馬鹿のすることだ。
博麗霊夢一人に固執するつもりは毛頭ないが、博麗大結界と似た結界を敷かれている可能性が高い現状、自分の命の次に大事にしなければならない存在だ。

そして、外部勢力による救出を当てにするとしても博麗霊夢は生きていなければ都合が悪い。八雲紫はまず間違いなく霊夢を探している。
もしかすればこの場所を特定するかもしれない。しかし、そうなったとしても紫の目的はあくまで博麗霊夢一人だけだ。霊夢の死亡を確認すれば、彼女に他の参加者を助ける理由などない。
どちらにしても、博麗霊夢が生きていなければ成し得ない脱出方法であり、今はそれしか考えつかない。

殺すのは論外。しかし、彼女は心底自分を恐れ、そのためにもはや腑抜け同然の存在にまでなってしまっている。
このまま生かしておくとしても、そうなれば彼女の身を守るのが大変になる。ただでさえ戦力不足で、自分の命を守ることで精一杯だというのに、生きることさえ諦めてしまった腑抜けをどうして守り切れるというのだろうか。
それならばいっそここで彼女を殺してしまった方がいい。デメリットばかりの決断だが、命あっての賜物。ここからの脱出も、全ては生き残るためだということを忘れてはならない。

せめて、彼女が自分の有益さを武器に交渉してくるような知性と度胸があればどれほど都合が良かったのだが。
自分でその性根を叩きつぶしてしまったことが今になって悔やまれる。
サカキは霊夢を睨みつけ、地面へ置かれていた剣に手をかける。
仕方がない。殺す。殺すしかない。
それこそ死ぬほど惜しい存在だが、それ以外に方法はない!
96道具 ◆dGUiIvN2Nw :2010/10/11(月) 13:43:04 ID:q3rw6i9u


もう、痛いのは嫌だ。
早く死んでしまいたい。この苦しみから解放されたい。
今までどうして生きてきたのか。それが不思議に思えるほど、今の霊夢は死を切望していた。両の瞳は開かれていながら何も見ていない。視覚も、聴覚も、その五感全てが麻痺したように何も感じない。ただ痛みだけが、鋭い痛みだけが霊夢の身体を支配していた。

「……博麗霊夢。貴様は巫女だと言ったな?」

突然、今までずっと黙っていたサカキが話し始めた。
霊夢の耳にはほとんどその内容が入ってこない。ただただ、その話が終われば再び自分に拷問するのではないかという恐怖があるだけだ。

「当然、神を信仰しているのだろうし、確か実際に存在するのだったな? 現実に存在している神を信仰するなど、当然といえば当然のような気もするが」

そう言ってサカキは苦笑する。
何か逡巡しているように、サカキは話を続ける。

「貴様にとって幻想郷とは何だ? 貴様が何を考えて幻想郷に住み、異変解決などという仕事をしてきたかは知らんが、私に言わせればこれほど温い場所もない。
スペルカードルールなどという平和の象徴のようなものを掲げて戦争を回避していた貴様らは、揃いも揃って平和ボケしてしまっている。だからこそ貴様は今地べたを這い蹲り、無様にも死を願っている」

霊夢は、サカキの言葉を話半分に聞いていた。思考していたわけではない。ただ耳を通っていただけともいえる。だがそれでも、その言葉を理解する程度には話を聞いていた。

「貴様にとって未知の経験だっただろう。拷問し、敵から情報を奪うのは、戦争と名のつく闘争なら至極当然のものだ。そして、この場所は戦争などよりもずっと陰惨な場所なのだ。
……さて、貴様は神を信仰しているのだろうが、信仰とは一体なんだ? 貴様は神が何を考えているのか理解している。自分達と同じように暮らし、同じように酒を呑み、宴会して笑い合う姿を何度も見ている。私から言わせれば、そんなもの、神などとは呼ばん」

吐き捨てるようにサカキは言う。

「神とはッ! いいか、神とはッ! 人間の、自らの思考の、その想像を遥かに超えたところに存在するッ!! 自分では決して届かない崇高さ。溢れんばかりのパワー。この身を捧げても良いとさえ思えるほどの信望を持たせる者だけが神と呼ばれる存在なのだッ! 
力じゃない。種族じゃない。その人間が考えた、そうであると感じた存在こそが神なのだ。神の精神を越えることが出来るなどと、そんなことを考える人間はいない。しかし、逆を言えば、そのような存在こそが、神なのだ」

霊夢を押さえていたモンスターの力が抜ける。
今なら抜け出せる。そう思うが、何故か逃げる気にはならなかった。ただ呆然と、サカキを見つめていた。

「貴様は巫女だ。巫女は神に仕える存在だ。では、貴様にとっての神とはなんだ? 貴様にとっての神は、一体どこのどいつだ?」
「あ……わ、私……は…」

言葉がでてこない。それもそのはず、霊夢は確かに博麗の巫女だが、博麗神社に住まう神を、これまで心の底から信仰したことなど一度もないのだ。
自分自身それでいいと思っていたし、そもそも博麗の巫女という肩書自体に大した執着もなかった。何事にも縛られず、何事にも動じない。それが博麗霊夢であるはずだった。

だが、今はどうだ? 今の自分は、本当に博麗霊夢なのか。いつも心に余裕をもって事を運んで来た霊夢は、今生まれて初めて“本気”を経験している。本気の恐怖。本気の願い。そして、目の前にある本気の凄み。

わからない。自分がどうすべきなのか。どうあるべきなのか。その全てがわからない。もうどうでもいい。そんな気さえしてくる。このまま殺されてしまえば、こんなことを考えることもなくなる。

「……わから…ない」

霊夢はそれだけ答えた。地面を見つめ、まるで首を差し出すかのようにして、霊夢はただただ執行の時を待った。

「……そうか」

冷え切った言葉。それと共に振り上げられる剣。それは雄々しく風を切り、肉を切り、骨を切った。
辺りに、血が舞い散った。
97道具 ◆dGUiIvN2Nw :2010/10/11(月) 13:44:17 ID:q3rw6i9u


痛みはない。もはや痛覚など機能していないのだろう。頬にかかる生温かい血も、まるで自分のものではないように感じる。
そこでようやく、違和感を感じた。未だ欠損した指跡はじくじくと痛むし、モンスターに踏みつけられていた背中の圧迫感も拭えていない。散々傷つけられた痛みはある。なのに、今回の一撃に至り、痛みがないなんて、そんな不合理な話があるはずがない。

「……え?」

目の前を見て、その光景を霊夢はただ呆然と眺める他なかった。
ポタポタと滴り落ちる血液。
血に濡れそぼったサカキの手。
その手には、小指が一本なくなっていた。
それを理解した時、霊夢は慌ててサカキの顔を見つめた。これがどれほどの痛みを伴うか、先程嫌というほど経験したばかりだ。泣き叫び、心から死を望むほど苦しいものだ。
なのに、何故なのだろう。何故この男は、叫びもせず、涙さえ見せず、不敵にも笑っていられるのだろう。

「これが“力”だ。貴様がむせび泣いたこの痛みをものともしない。この意思と覚悟がパワーだ」

そう言って、欠損した小指をサカキは見せつける。
あまりにも痛々しいその姿に、霊夢は目を逸らした。
なんという男だ。この男は、自分が屈服してしまった恐怖を乗り越えた場所にいる。自ら指を切り、それを覚悟だと豪語するサカキ。霊夢にとってその存在はあまりにも強く見え、そして自分などでは決して到達できない境地に立っている気がした。

「神に仕える巫女ならば、自らの神を定めてみせろ! 貴様の神はいったい誰だ!?」

胸倉を掴み、サカキは叫んだ。
神。自分にとって神とは誰か。
自分に出来ないことを平然とやってみせたサカキ。自分に出来ないことをやってみせる者は幻想郷には山ほどいた。だがそれはほとんどが能力的なものだ。
それにひけを取られると考えたことは一度もないし、事実そうだった。いつも気楽で、いつも余裕があって、本気で勝てない相手などいないと思っていた。

だがサカキはどうだ。サカキは自分の知っているどんな者とも違う。恐怖や痛みを克服する精神力と、決して衰えることのないギラついた野心がある。妖怪にはない確かなパワーがある。決して届かないと思わせる精神の力がある。
そのパワー。圧倒的なパワー。霊夢は、そのパワーに惹かれている自分がいることを自覚した。

神は人間の信仰心を糧にする。信仰が力になる。その意味が今わかった。
ある言葉を胸の内で唱える。それだけで、先程までの恐怖がすぅっと消えていくのがわかった。恐怖も、孤独も、何もなかったかのように消えていった。
霊夢は、今度は実際に声を出して言ってみた。

「……サカキ…様」
「もう一度言え」
「……サカキ、様」
「もう一度」
「…サカキ様」
「もう一度!」
「サカキ様!!」

サカキは手を離した。霊夢はそのまま尻もちをつく。

「貴様がそう思うのなら、ついて来い。そして、私にその全てを捧げてみろ。それこそが神に仕える巫女のあるべき姿だ」

霊夢の瞳には、はっきりとサカキの姿が見えた。先程のサカキの姿。あれを思い出すと心の奥底からウズウズと何かが這い上がって来るような奇妙な興奮を感じる。
そうだ。神とはこういう人のことを言うのだ。自分には決して手の届かない所にいるこの人こそが神なのだ。

サカキを信仰している間は、自分が自分でいられる。自分というものを見失わずにすむ。自分を保っていられるだけの力を、サカキは与えてくれる。
霊夢は今、心の底から幸福を感じた。芯から安心を感じることができた。サカキという神を構築した霊夢は、それを支えに壊れかけた心を繋ぎ止めた。
それが意識的にせよ無意識的にせよ、霊夢は恐怖に取り込まれることなく、その瞳に光が灯った。先程までとは少し違う、奇妙な、しかしとても人間的な光が。
98創る名無しに見る名無し:2010/10/11(月) 17:26:46 ID:KcaR+240
 
99道具 代理:2010/10/11(月) 21:20:10 ID:nBjOyO/6
うまくいった。……なんとかうまくいった。奇跡という他ない。
博麗霊夢がこの殺し合いに心底参っており、どこかで支えを欲しがっていなければこうはならなかった。
そういう意味でも、霊夢に殺し合いというものを教え込んだ最初の襲撃者には感謝しなければならない。
彼女が甦ってくれるのなら、小指の一本など安いものだ。

だが、安心してはいけない。未だ彼女が不安定であることには変わりない。今は一種の酔っ払い状態だ。
信仰というアルコールが彼女の脳を麻痺させている。
このままずっと私に尽くしてくれる可能性もあるが、いつ熱が冷めるとも限らない。
彼女の動向は逐一注意しておかなければならない。

……だが、それでもこれは最上の展開だ。
あの最悪だった印象がこれで一気に消し飛んだ。
しかも、これからは私の身をも守ってくれる。彼女は本当の戦いを知らないだけで、その強さは私など遥かに上回っている。戦い方を教えてやれば最高の持ち駒となるだろう。

気は抜かない。
一つ一つ地道に教え込ませ、その上で私という存在を崇高な者であるように逐一擦り込ませる。私への尊敬を忘れなければ、彼女が裏切ることはないだろう。
最高の駒が増えたといっても勝負はこれから。
足元を掬われることだけはないように気をつけなければならない。

100道具 代理:2010/10/11(月) 21:21:14 ID:nBjOyO/6
「とりあえず応急処置は終えた。これで出血は抑えられるだろう」
「申し訳ありません。サカキ様のお手を煩わせてしまって」

本当に申し訳なさそうに、霊夢は伏し目がちに呟いた。

「構わん。貴様は私の手足も同じだ。大事にしなければな」
「…も、勿体ない……お言葉、です」

霊夢の敬語はどこか拙い。それも、霊夢がこれまで敬語など使ったことがなかったからだ。

「それで、貴様はどこに向かうつもりだったんだ?」
「あ、はい。とりあえず、怪我の治療をと思い、テトラ研究所というところへ…」

サカキは何も言わず、地図を見つめた。
殺し合いの場において、身体を治癒するようなアイテムを支給したり、配置したりするわけがないと考えてはいるが、ここでそれを告げるべきか否かを考える。それが影響する霊夢の自分に対する印象はどんなものか。

「……まあ、それもいいか。とりあえずはそこへ向かうとしよう」

敢えて自分の真意が別にあるような言い回しでサカキは目的地を研究所にすることを決める。霊夢は自分の意見が認められたと思ってか、どこか安心するように微笑んだ。

「だが、今はどこか休息できる場所を探そう。もうすぐ放送だ。この場所では情報が命だからな」
「……はい、わかりました」

サカキはナッシーをモンスターボールへと入れた。
護衛は霊夢一人で事足りるだろうとの考えからだ。

「不満か?」

荷物を整理しながら、サカキは言った。
霊夢は一瞬びくりと震えた。まさかばれているとは思わなかったのだ。

「す、すみません。…別に、意見するつもりではないのですが、
……その、ここで放送を聞いても良いのではと思いまして」
「先程から私達は騒ぎ過ぎている。誰かがこちらに近づいてくることがないとは言い切れん。
参加者との接触に、慎重し過ぎるということはない。放送前は特にな」

霊夢は、サカキがそれほどまでに考えているとは思ってもみなかった。

「し、失礼しました!」

慌てて頭を下げる。


101道具 代理:2010/10/11(月) 21:23:35 ID:nBjOyO/6
「よい。むしろそういう意見はありがたい。私は機械を部下にしたつもりはないからな。
自分で考えることを止めてしまっては、それは人間とはいえない」

荷物をしまい、自らの武器である鋼の剣を手に持ち、サカキは霊夢へと振り向いた。

「では、行こうか」
「っ!!」

その言葉に、いや正確には、サカキの手に持っているものを見て、霊夢は慌てて後ろに下がる。その過剰反応に、サカキは何も言わずに剣をしまった。

「も、申し訳ありません。ど、どうしても、刃物は……」
「何度も謝るな。誰にでも得手不得手はある」
「……どうしたら、サカキ様のように、恐怖を克服できるのでしょうか」

サカキは薄く笑って、森の中を歩いて行った。

「それを知る為に、ついて来るのだろう?」
「あ、は、はい!」

霊夢はそれに慌ててついて行く。
未だ拙いところはあるが、その忠誠心は上々だ。
ナッシー。そして、脱出のキーとなる博麗霊夢。
せいぜい、私の役に立ってくれ。便利な道具達よ。
サカキは、人知れず笑みを漏らした。その笑みは、あまりにも悪魔らしく、あまりにも人間らしい、邪悪に満ちた笑みだった。

【B-2 北東 早朝・一日目】
【サカキ@ポットモンスター】
[状態]:健康、脛に軽傷 左小指欠損(治療済み)
[装備]:M1911A1の予備弾(21/21)
[道具]:基本支給品一式、はがねの剣@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡、モンスターボール(ナッシー)@ポケットモンスター
[思考]
基本方針:脱出方法を模索しながらも、殺し合いには乗る
1. 落ちつける場所で放送を聞き、テトラ研究所へ向かう
2. 博麗霊夢の理想の神でいる
3. 利用できる者は利用する。
4. 魔法に関する情報を得る。
5. シルバーを捜す
6. 魔理沙は見つけ次第殺す
※参戦時期は、少なくともトキワジムでレッドに負ける前です。
※この殺し合いが魔法を軸に動いていると考えています
※この場所が博麗大結界に似た何かで形作られているのではないかと考えています。
しかし、あくまでも仮説の一つであり、それに拘るつもりはありません。
※霊夢から幻想郷や、参加者達の詳細な情報を聞きました。ただし、襲撃者(レッド)のことは聞いていません

102道具 代理:2010/10/11(月) 21:25:18 ID:nBjOyO/6
【博麗霊夢@東方project】
[状態]右足の太ももに銃創(貫通傷、治療済み)、左小指と薬指欠損(治療済み)、精神疲労大、袖が破けている 妄信状態?
[装備]ミニ八卦炉
[道具]基本支給品一式、デデデ大王のハンマー@星のカービィ、Ipad@現実
[思考]
基本方針:全てはサカキのために
0:落ちつける場所で放送を聞き、テトラ研究所へ向かう
1:恐怖を克服する
2:知り合いと再開しても、サカキが気に入らなければ……
3:少年(レッド)を警戒
※これを異変だと思っています。
なお、参戦時期は永夜抄の異変解決後あまりたってないので
東風谷早苗を知りません。
※マルクの裏に黒幕がいると思っています。
※名簿に書かれているデデデ大王には気づきませんでした。
※レッドの名前は知りません。
※金属板(Ipad)は山小屋で拾ったものです。霊夢は使い方がまったくわかりません。
※刃物に対して一種のトラウマを感じています。

……………
…………
………
……


誰もいなくなった森の中。ところどころに散った血の跡が、この場所で戦闘のあったことを物語る。
そこに一つの自動人形があった。背中に大きな裂傷があり、地面に伏している。

「……シャン……ハイ…」

声が聞こえる。人間は誰もいない。
上海人形の発した声だった。
上海人形の傷は浅くはない。何もしなければ一時間もしない内に壊れてしまうだろう。しかし、やらなければならないことがある。

上海人形は思った。
霊夢は自分を責めるようなことなんて一切なかった。自分のミスで怪我をしても、自分を元気づけてくれた。
彼女の為に何かしたい。しなければ駄目だ。
あの男は悪魔だ。あの悪魔が、霊夢を唆してしまった。誰かに助けを求めなければならない。あの悪魔から、彼女を解放してくれる誰かに。

上海人形はふらふらと立ち上がった。どことも知れず、歩いて行く。
このまま誰にも会えず壊れてしまうかもしれない。それでも、上海人形は歩くことしかできなかった。

【上海人形】
[状態]背中に大きな裂傷
[思考]
1. 誰かに霊夢を助けてもらう
※このまま何も治療しなければ、1時間程で絶命します。
※サカキと霊夢の会話は全て聞いていました。
103道具 代理:2010/10/11(月) 21:28:46 ID:nBjOyO/6
代理投下終
104創る名無しに見る名無し:2010/10/11(月) 21:52:09 ID:EciwMxv1
投下乙
ここの霊夢は弾幕使えないんだっけか
サカキ様が悪のカリスマすぎていい意味でヘドがでるぜ
105創る名無しに見る名無し:2010/10/11(月) 23:17:40 ID:nBjOyO/6
感想わすれてたぜ…
 
サカキひどすぎだろwだがそこにしびれるあこがれるぜ
霊夢は弾幕使えてればサカキなんてケチョンケチョンに…
 
最近のロワにはない鬱っぽいSSは久々に見れてよかったぜ
 


106創る名無しに見る名無し:2010/10/12(火) 13:01:12 ID:3dK1nxIA
投下乙です
サカキ様が悪過ぎて実に素晴らしいです
107創る名無しに見る名無し:2010/10/14(木) 19:22:31 ID:IdgJXGlo
サカキ極悪すぎわろた

面白かったです
108創る名無しに見る名無し:2010/10/15(金) 13:50:30 ID:2I3pCBZl
投下乙です
サカキ様!サカキ様!なんというカリスマサカキ様

シャンハーイが会える助けてくれそうな人って誰がいる?ルビカンテぐらい?
レッドに出会ったら叩き壊されそうで怖い
いや、ポケモンと思って治療してくれるかもしれないけど…
何にせよ続きが気になる話だ、GJ!
109創る名無しに見る名無し:2010/10/15(金) 17:00:29 ID:EJzIpfgm
投下乙。ロケット団結成か。
となるとギンガ団もだな
110創る名無しに見る名無し:2010/10/15(金) 22:39:47 ID:SsoD/EKP
読み手結構いるみたいなのに書き手不足だな
結構前に書いてそのままのパートは、自己リレーしてもいい?
111創る名無しに見る名無し:2010/10/15(金) 23:25:43 ID:QqZJKExB
いまはほぼ二人で回してるようなもんだしな
自己リレーは……最終手段だろう。
もしあれだったらしたらばの議論スレでいいかわるいか聞くべき
112代理:2010/10/18(月) 21:47:13 ID:/ViNDj2U
  

 
「……あれ?あの紅白の玉、落としちゃったか?…まぁいいか」
 
あいつから逃げる為に休まず移動を続けていた。あの男、サカキとかいったか。
あいつのせいで無駄に体力を使ったような気がする。
まぁ、しょうがないか。殺し合いだし。
(全然しょうがなくない。殺し合いに巻き込まれてなにがしょうがないのか)
それでだ。奴から逃げ切り、もう安全だと思ってデイパックを開けた。
なぜ開けたかというと、実は喉が渇いて仕方が無い。全速力で逃げたからか。
水筒(名前はバットポトスだった気がする。)を開け、水を半分飲んだ。
しばらくは大丈夫だったがやはり、喉は時間と共に渇く。
私はそれを我慢して、水筒をデイパックにしまった。水は後に貴重になるだろう。節制しなくては。
ついでに紅白の玉を無くした事に気付き、少し落ち込む。あとでよく調べたかったんだが…
そう思い、デイパックから地図と首輪探知機を取り出す。
実はこの首輪探知機は現在位置もわかる代物らしい。 
 
「…えっと、ここはA-2か。便利だなこれ。………あっ!水だ!」
 
移動を続けていると目の前に湖が現れた。紅魔館の近くの湖より大きい。
喉がカラカラの私は直ぐに口を湖につけた。しかしだ。

「……ん!?ゲホっ!……はぁはぁ…。塩水かよ!…余計喉が渇くじゃないか!」
 
しかしだ。湖の水は塩水だった。私は驚いて吐き出す。
 
「……なんで塩水なんだよ。……って事はこれは海なのか?」
 
……塩水が沢山集まった物が海だと聞いた事がある。
それにここは砂が沢山あった。噂にいう砂浜っていうものなのかもしれない。
じゃあ多分、海だ。私は紅魔館の擬似海しかみたことがないが、海だと思う。水の量は想像以上だな…
遥か彼方まで水が続いているし。
そして、その先には大きな島が一つ。向こうの砂浜には人影があった。……え?
113代理:2010/10/18(月) 21:48:40 ID:/ViNDj2U
  
  
「…って人影!?おおーい!助けてくれよ!おおーい!」
 
もしかしたら、こちらに気付いて助けてくれるかもしれない。
そう思い私は手を大きく振り、大きな声を出した。
向こうも気付いてくれたようで、手を振り返している。
 
「やったぜ!これでこの趣味の悪い遊戯から脱出できるぞ!」

私は興奮して思いっきりジャンプをした。
向こうも興奮しているのか同じようにジャンプをする。
しかし、なにかが可笑しい。
あっちにいる奴は私の状況をわかっているのか?
 
「おおーい!助けてくれよ!」
 
大きな声を出すと喉が渇いてくる。
どうやら奴はこちらがただ手を振っているだけだと思っているらしい。
 
「あああああ!もう!なんだってんだよ!」
 
結局こちらの意図が通じず、助けてもらえるのは無理だと感じた。
落胆し、砂浜に寝転んだ。脱出できると思ったのに急に出来なくなるとわかると残念で仕方が無い。
 
空を見上げると、星が見える。綺麗だな。……なんだあの星座は?名前を付けるなら御座とか餃座とかにしよう。
(もしかしてここって外の世界なのかな?)
南の方向を見てみると、山が高い。違った。高い山があった。多分、活火山。だと思う。そして更に高い木が聳え立っている。
……木なのかあれは。山よりも高いって規格外にも程があるだろう。
空を飛べればあの山も木もひとっとびだし、海も簡単に超えられ、ここから見える島に簡単に着くだろう。
しかし、なぜか飛べない。『箒がないから本調子ではない』ということでもない。
本当に飛べない。マルクの言っていた『普段できることができたりできなかったり』っていうアレなのだろうか。
大体、そんな事を許すわけが無い。仮に飛べたとしても首輪が爆発してしまうか。
困ったものだ。いや、弾幕が撃てるだけマシかな。
114代理:2010/10/18(月) 21:50:04 ID:/ViNDj2U

 
……………ん?
 
私の頭に一つの疑問が浮かんだ。この殺し合いの意味についてだ。私はすぐに起き上がり思考する。
あの男、サカキはなぜ魔法を使わなかったのか。
それはあいつが魔法をつかえないからだ。
そこだ。そこが可笑しい。
それならこれは、殺し合いではない。ただの一方的な虐殺に成り果てる。
あの吸血鬼や、花の妖怪がいるのだ。
奴らが普通の人間と同じぐらいの性能に制限されないかぎり、殺し合いとして成り立たないだろう。
そして、魔法の存在。魔法が使える奴と使えない奴の違いは酷く差ができてしまうのだ。
しかしマルクは支給品の存在も付け足した。ここの時点で意味が分からない。
これは魔法が使えない『一般人』と『一般人以外』の差を縮める為の措置だろう。
これで、『一方的な虐殺』は『殺し合い』に戻った訳だ。
 
…呪いの一種に『蟲毒』というものがある。紅魔館の門番から教えてもらったものだ。
やり方は『毒を持った蟲を壷に沢山入れて、殺し合わせ、最後に残った蟲は魔力を帯び始める。
その毒蟲は生け贄と引き換えに家に冨を運ぶ。
それを応用して、標的の家に少しの金品と虫を送ると標的は毒蟲を養えず死んでしまう』というものだ。
(だいたいそんな感じだった筈だ)
もっとも、実行する前に、毒蟲を集めている間に刺されて死んじまう奴が圧倒的に多いらしいが。
私は一度、この殺し合いがその呪いを応用した『蟲毒』ならぬ『人毒』だと思ったが…
そう、『蟲毒』というのは一番強い毒虫を選ぶ方法なのだ。
それなら
『普段できることをできなくしたり』
『普段出来ないことをできたりしたり』
『支給品の支給』なんかする必要は無いのだ。
そんなことをすれば、『一番強い奴を決める』ことはできない。これだと唯の博打みたいなものだ。
これで『人毒』の可能性は消えた。じゃあ、なぜ殺し合いを始めたのか? と聞かれてもまだ答えられないが。
それに『蟲毒』は多いほうが効き目がある。37人は少なすぎるだろう。
115代理:2010/10/18(月) 21:51:16 ID:/ViNDj2U
 
行動というものは目的を達成する為の行為だ。
この殺し合いを開催した理由は絶対ある筈だ。
それにマルクは『願い』を叶えると言った。
奴が叶える訳がない。いや、そこは重要じゃない。
自分の願いを自由に叶えるという単語だ。
奴には願いを叶える手段があると仮定する。
そしてこの殺し合いはそれを願いを叶える為の過程だとする。
そして○○が▼▼で、××(以下略
 
 
 
 
 
 
 
「……余計混乱してきたぜ。やっぱ知り合いと合流してから考えようかな」
 
私に考え事は似合わない。そう理由付け、考えるのをやめた。
それに今、それを考えるのは早すぎる。
今は脱出方法を明確にしなければいけない。
名簿にもう一度目を通す。頭の中で協力してくれそうな知り合いを探す為だ。
 
博麗霊夢。
異変解決に役立つ博麗の巫女。
……まぁ、アイツならなんとかなるか。少し平和ボケし過ぎているが、やるときはやるやつだ。
会う前にくたばる様な奴じゃない。運もいいし。
(幻想郷の住人は皆、平和ボケしている。もちろん私も自覚はある)
 
アリス・マーガトロイド。
人形使いの魔法使い。……少し心配だ。
だってあいつは本気を出そうとしない。負けると後が無いとか理由をつけて本気をださないのだ。
弾幕ごっこでも余裕あるふりをして、実は余裕が無い。
逆に考えれば、私はアリスの本気を見たことが無い。だからこそ心配なんだ。
私の想像以上に強ければいいんだがな…
 
レミリア・スカーレット。
……あんまり会いたくない。
プライド高いし、それに見合う力を持っているし、頭脳明晰。
彼女と組めばこの殺し合いの打破は楽になるはずだ。
だけど、会いたくない。少なくともこの殺し合いという状況では。
もしかしたら殺し合いに乗ってるかも……いや、レミリアの性格からしてそれはないな。
今頃マルクに怒り狂ってるんだろうな。
 
風見 幽香。
………………ああ。こいつもいたのか。会いたくないな。
花の妖怪ってもうちょっと可憐で儚いイメージだったのにな。
人間と協調できないってのが心配だ。どこかで誤解されてそうだな。
まぁ紳士的だし大丈夫……なのか?
 
東風谷 早苗。
………………………うん。なんでこう性格に癖がある奴を集めたのか。
もうちょっと普通の奴がいただろう。こーりんとか阿求とか。
強いけどなぁ……。あまり会いたくない。
 
十六夜 咲夜。
紅魔館のメイド。多分、ここに呼ばれている中で一番まともだろう。
冷静沈着であり、結構強い。頭も切れる。
あの妖精メイドをまとめる統率力もある。
116代理:2010/10/18(月) 21:52:26 ID:/ViNDj2U
 
そういえば幻想郷には普通の奴なんか珍しいぐらいだった。
まぁ、知り合いが殆どが難有りっていうのはしょうがないのか。
しかし彼女らは彼女達だけにしかない良い所もあるし、理解しあえる所も沢山ある。
彼女達に合流してもデメリットは無いだろう。(殆ど無いはず。)
それに私だけではこの問題の答えは……
 
「……まったく思い浮かばん。スキマ妖怪でも居れば楽に異変解決なんだが」
 
いや、答えは浮かぶには浮かぶが、1つの方向から物事を考えては駄目なものだ。
色々な方向から考え、様々な可能性があるから知り合いと合流する必要がある。
知り合いでなくてもいいから一緒にこの答えを考えて欲しいね。
 
……スキマ妖怪。八雲紫のことである。彼女が居ればこの会場からすぐにでも脱出したい。
しかし、残念ながらこの殺し合いに参加していない。(なにが残念ながらなのか)
ここは幻想郷じゃない。幻想郷には海がないからここは幻想郷じゃない筈だ。
なんとも簡単な理由なんだけど、本当にそうだから仕方が無い。
はぁ、どうすればいいんだろうな。
それに、紫はこちらの居場所に気付いても霊夢だけを助けて、他は置いていくみたいな真似をしそうだ。
 
ため息を付き、海を眺める。
これが海ね。そんなに見たくはなかったが、一度は見てみたいと思っていた。
こんな形で見ることになるとは。よく見ると少しイメージと違う。青と聞いていたのに今、目の前に広がっているのは黒色の海だ。
夜だから、黒色なのかな?朝とか昼とかになっても黒色だったらイメージが完全に崩れてしまうぜ。
 
「……ん?」
 
海からなにかが流れてきた。
それを拾い上げる。
酒瓶だ。霊夢の好きな銘柄だ。私はこの銘柄は苦手なんだがな。
中には、紫色のボールが入っていた。あの紅白の玉とよく似ている。
……どうやって中に入れたんだこれ?瓶を割り、取り出してみる。『M』と書いてある。
そして紙が貼り付けてあった。
 
『三度目の朝まで、クリスタルを。』
 
「………なんだこれ」
 
訳の分からん事が書いてあった。どこから流れてきたんだこれ?
あの島かな?向こうにいる奴が流したのか?
なぜこんな訳の分からない物を流したのか。
こんなものを流す前に助けて欲しいね。

そのときだった。
海の向こうの島が少し、光った。あの光はどこかで見たことがある。
いや、自分がよく使っているものじゃないか?
 
あれは……マスタースパークだ!
いや、まてよ!まさか……!?
 
私は恐る恐る後ろを見てみた。
マスタースパークの光が空に向かって伸びていた。
じゃあもしかして……


117代理:2010/10/18(月) 21:53:23 ID:/ViNDj2U
 
 
「……ループしてる!これじゃあ脱出方法ないじゃんか!……ってことは私が手を振っていたのは」
 
向こうの島に居るのは自分だったのか。自分自身に手を振っていたのか私は。
海の向こうに見える島は自分達が連れてこられた島ってわけであって。鏡写しの形にループしてるのらしい。
つまり、向こうの島に飛んでいっても、向こうから飛んでくる自分とすれ違って、また状況は元通り、ってわけだ。
……あれ?じゃあ、このボールはどこから流れてきたんだ?
向こうの島から私が流したわけじゃない。わけわからん。
 
「……まぁ、後で考えるか。……全ての事を後回しにすると駄目人間になってしまいそうだぜ」
 
それに独り言も癖になってしまいそうだ、とつい独り言を洩らしそうになるが、本当に癖になってしまいそうになり、ぐっと我慢した。
さて、これからなにをするか。
先ずは私の八卦炉で暴れている馬鹿を懲らしめに行くかな。
戦闘が起きている筈だし、助けない訳にはいかないだろう。
どっちも殺し合いに乗った悪い奴だったら、その時は八卦炉だけ返して貰って逃げればいいしな。
………うわ。木、凄い燃えてる。私以外が使ってもあんな威力をだせるなんて、結構強い奴なのかもな。用心しなきゃいけないぜ。
 
拳銃を持ち直し、デイパックに紫色の玉をしまう。
ついでに防弾チョッキを着直した。(蒸れるから)
 
「よし、行くかな。戦闘には巻き込まれたくないが。スペルカードルール以外での戦いはあまりしたくないぜ」
 
と、また独り言を洩らしてしまった。
まぁ、いいか。この方が寂しさも紛らうしな。
118代理:2010/10/18(月) 21:54:40 ID:/ViNDj2U
 
 
【A-2 砂浜/一日目/黎明】
【霧雨魔理沙@東方project】
[状態]:健康、喉が渇いた。寂しい。
[装備]:M1911A1(6/7)@メタルギアソリッド、防弾チョッキ@現実
[道具]:基本支給品一式(飲料水を消費)、首輪探知機@現実、拡声器@現実、マスターボール@ポケモン
[思考]
基本方針:主催者を倒しゲームを止める
0:独り言が癖になりそうだぜ
1:八卦炉を取り戻す為、世界樹に向かう
2:知り合いと合流。早めに。
3:「殺し合いの開催理由」と「脱出方法」を考える。
※弾幕を撃つのに溜めが必要、という制限がかかっています。威力は変わりません。
※空が飛べないことに気付きました。
※会場がループしていることに気付きました。
※参戦時期は東風谷早苗と知り合ってから、明確な時期は不明。
※サカキに警戒してます。
※マルクが殺し合いを開催した理由に疑問を持ってます。
※モンスターボールの使い方がわかりません。 
※首輪探知機には自分の居場所もわかるようです。
 
※A-2の砂浜に割れた瓶が転がってます
※会場は鏡写しにループしていますが、注意深く見なければ気付かないです。
 
【マスターボール@ポケモンシリーズ】
絶対にポケモンを捕まえる事が出来る代物。
どこかのだれかが、海に流した。
中に入っているポケモンは不明。
とある条件が無ければ開かない。
謎の暗号が一緒に張り付いてある。
『三度目の朝まで、クリスタルを。』
119創る名無しに見る名無し:2010/10/18(月) 21:57:46 ID:/ViNDj2U
代理投下以上。

◆WBRXcNtpf氏の作品。
題名は『ふしぎデカルト(The Siren's Song, the Banshee's Cry)』です。
120創る名無しに見る名無し:2010/10/19(火) 20:55:58 ID:i7q+RJSe
一日遅れだが乙
読んでるから頑張って
121創る名無しに見る名無し:2010/10/20(水) 23:05:56 ID:8HMKlkR0
また投下きてたな。乙。
マスターボールか、これは終盤のフラグになりそう。
122創る名無しに見る名無し:2010/10/21(木) 01:03:56 ID:TYydrgsW
投下乙
鏡写しにループなのか。マルクの作った仕掛けなら何か意味があるのかも
魔理沙は考えをまとめたようだし後はどう行動に移していくかだな
しっかし、東方メンツは協調性のなさそうなのばっかだw
123 ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/04(木) 03:09:08 ID:PLD4DXIU
投下します
124意地と誇り  ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/04(木) 03:09:52 ID:PLD4DXIU
「セシル……」
……なんだ? 一体誰の声だ? 
それよりも殺し合いはどうなった? ぼくは仲間を、カインやリディアを守らないと。
それにしてもこの声、聞いているととても安心する。どこか聞きなれたような……
「セシル、起きて。セシルったら」
セシルは未だぼんやりとした思考でゆっくりと目を開く。しかし自分の側にいる人物を確認すると、すぐに飛び起きた。
「ロ、ローザ……」
それが最愛の彼女だとわかった途端、セシルは自分を制御することもできずに抱き寄せた。
「い、いきなりどうしたの?」
「怖い夢を見た。とても、とても怖い夢を」
「……安心して。ここはあなたのよく見知っているバロン王国よ。あなたはその国の王様で、世界はとても平和だわ」
まるで赤子をあやすようなローザの腕。そのぬくもりを感じ、セシルは心の底から安堵した。
あれは夢だったんだ。ローザが死ぬなんて、そんなはずがない。そんな不合理があってたまるか。
「ローザ。ぼくは君と一緒に──」



「ぽよっ!!」
目を開けたセシルの視界にピンクの球体が映った。
その顔はとても心配そうで、しかしセシルが目を覚ましたことを確認すると、とてもうれしそうにほほ笑んだ。
「よかったぽよ〜。このまま目を覚まさないかと思ったぽよ」
弛緩したカービィの表情とは裏腹に、セシルの表情は固まったままだった。
(……そうか。夢、だったんだな)
自分に都合の良い夢を見ていただけ。現実はこっちだ。ローザが訳も分からず殺されたこっちが現実。不合理で、悪意に満ち満ちているこっちの世界が本物。
「……ずっと、夢を見ていたかった」
セシルが身体を起こして呟いたその言葉の真意が分からず、カービィは首を傾げた。



「そうか。君はずっと看病してくれていたんだね。ありがとう」
「ぽよっ!」
十分程度の会話で、カービィの能力のことも把握できたセシルはひとまずお礼だけ言ってカービィとは別れるつもりだった。
今のところ殺し合いに乗るつもりはなかったが、これ以上仲間を増やしたくはなかった。重荷はもう増やしたくない。自分のせいで不幸になる人間をこれ以上増やしてはいけない。そう思っての行動だった。しかし、
「ぼくはセシルといっしょにいるぽよ!」
と言って、カービィは言う事を聞いてくれない。何度言っても頑として離れようとしないカービィに、セシルは仕方なしに行動を共にすることを承諾した。
カービィはそれを聞くと、「ぽよっ! ぽよっ!」と言って大きく飛び跳ねて喜んでいた。
カービィがセシルの精神状況を心配していることなど露知らず、自分がこれからどうするべきなのかも分からない。セシルはただこの殺し合いというゲームの会場を漫然と歩き回ることにした。
125意地と誇り  ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/04(木) 03:11:32 ID:PLD4DXIU

「……ところで、全然関係のない話なんですけど、あなたのその格好は……何?」
「何とはなんだ? ちゃんと言葉にしてくれないとわからない」
「ご、ごめんなさい」
「別に謝る必要はない」
「……は、はい」
二人で行動することになってしばらく経つが、雪子は未だにアイクに慣れずにいた。アイクのつっけんどんで無愛想な雰囲気と、元々の引っ込み思案な性格が相なって、なかなか馴染めずにいるのだ。
(まぁ、命を張って私を助けてくれたんだから、悪い人じゃないんだろうけど……)
未だに笑顔一つ見せないアイクに、雪子は戸惑いを覚えていたのだ。
自然、口も重くなり、アイクとの会話は数分に二言三言という具合になった。
そんなわけで、二人の間では大した情報交換もされていない。今歩いているのもアイクが「こういう毒々しい建物は好きになれない」と言うので、とりあえず湖に向かっているだけなのだ。
雪子からしたら、湖などよりもこういった町の方が馴染みがあるし、仲間も集まりそうな気がする。アイク自身にそう言えば町に留まってもらえるのだろうが、自分の用事に付き合ってもらってる身としてはなかなか言いにくいものがあった。
雪子は黙って歩くアイクの横顔をちらりと盗み見た。
自分よりも遥かに強い少年。なのに、自分の目的を果たすことなく雪子に付いてくれているということに今更ながら疑問を抱き始めていた。
「あの、どうして私の用事に付き合ってくれるんですか?」
「理由はさっき言ったが?」
雪子と、そして雪子の仲間を死なせたくない。アイクはそう言ってくれた。しかし、アイクと雪子は出会って間もなく、お互いのことなど何も知らない。
それどころか、あのとてつもなく強い鎧の男から雪子の身を守ってくれた時など、おそらく顔すらきちんと見ていなかっただろう。そんな人間を命懸けで守ろうとするなんて、雪子には普通とは思えなかった。
「赤の他人で、あなたにとって足手まといな私を、殺し合いなんて馬鹿げたゲームの最中に、どうして助けてくれるのか。それが知りたいんです」
「死ぬ必要のない人間が無闇に殺されるのを黙って見ているというのは俺の信念に反する。それに……」
「それに?」
「雪子をあのまま死なせたら、妹にこっぴどく叱られるような気がした」
それは雪子にとってあまりにも予想外な答えだった。
「妹さんが、いるんですか」
「幸い、この腐った催しには参加していないがな」
そう言って、アイクは初めて微かに頬を緩ませて笑った。
その笑顔から、雪子は本物の愛情を感じ取った。妹を誰よりも愛する兄の想い。アイクと出会い、まだまだ知らないことだらけではあるが、その想いだけは確かなものなのだと雪子は確信した。
「雪子は雇い主だ」
突然、アイクは言った。
「え?」
「雪子は警護役として傭兵を雇った。報酬は……そうだな。無事、あのマルクとかいう奴を倒せたら、飯をおごってもらうってのは…どうだ?」
その申し出がアイクの優しさだということに気付くのに大した時間はいらなかった。
自分を見捨ててどこかに行ってしまうのではないか。そう雪子が考えて不安になっているのだとアイクは思ったのだろう。
口数は少なく、滅多に笑わない無愛想な剣士。しかし、彼の優しさと気高さが本物だということが、雪子には分かった。
「…はい。ありがとうございます」
だからこそ雪子は、笑顔でアイクに、そう返事をすることができた。
126意地と誇り  ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/04(木) 03:12:45 ID:PLD4DXIU

雪子達の足取りは心なしか以前よりも軽く、会話も先程よりも数倍は多くなっていた。アイクの無愛想は変わらなかったが、それでも雪子は気にならなかった。
先程までは千枝達が心配でどこか塞ぎがちだった雪子も、アイクの優しさに触れ、心なしか気も楽になっていた。
引っ込み思案な雪子には珍しく、自分から身の上話をしていると、突然アイクが彼女を庇うようにして立ち止った。
「……誰か来る。二人組のようだ。ベオクとラグズだな。天使のような出で立ちで、球体のような姿をしている。かなり小さい」
ベオクとは俗に言う人間のことで、ラグズというのは侮蔑的な意味でいわれる半獣のことだということは既にアイクから聞いて知っている。ラグズは元々の身体能力が高い者が多い。もしも敵なら強敵である可能性が高いといえる。
自然、雪子も身構える。が、アイクはすぐに警戒を解いた。
それもそのはず、正面からやって来るラグズがぶんぶんと小さな手を振っていたのだ。まったくもって邪気のない、敵意の欠片も感じさせないにこやかな笑顔を振りまきながら。
127意地と誇り  ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/04(木) 03:13:33 ID:PLD4DXIU

「そう、なんですか。恋人を、あの場所で」
「…君が思い悩むことじゃない。すまない。突然こんな話を切り出してしまって」
アイク、雪子、セシル、カービィが集まり、互いに情報交換を始めたはいいが、セシルの抱える重い事実を聞かされると、雪子はどうしても暗い気分になってしまうのだった。
もしも千枝達が死んでしまったら……。そう考えてしまうに足る現実の厳しさを雪子は目の辺りにしているのだ。
「それで、お前はローザのために殺し合いに乗る気はないんだな?」
まるで疑っているかのような口調でアイクは言った。
「ア、 アイクさん! もう少し言い方を考えて……」
「すまん。よく注意されるんだが、どうもこれは直らないらしくてな。もう気にしないことにした」
「気にしないことにしたって……」
呆れてものも言えずに呆然としている雪子を尻目に、アイクは渋面を作った。
「そもそも、セシルの言い方が気に入らない。なんでもかんでも自分のせいだ自分のせいだと。そんな暗いオーラで親しい人間が死んだ話なんてされてみろ。嫌でも自分の友人の安否が気になって不安になる。恋人が死んで気の毒だとは思うが、お前こそもう少し言い方を考えろ」
本当にズバズバと思ったことを口にする人だ。
雪子は呆れを通り越して感動すら覚えていた。
「ぽよっ! セシルをいじめると許さない!」
身体全体で怒っていることを表現しながらカービィが前に出る。
しかし、それはセシルの手によって解かれることになった。
「いいんだ。彼の言う通りだよ。そう……僕は、誰にでも不幸の種を撒き散らしてしまうんだ」
「また始まった……」
アイクは額に手を当てて軽く首を振った。
「アイクさんは少し黙ってて!! セシルさんも、そんなに後ろ向きな考えじゃ、まだ生きているお仲間を守れませんよ」
優しく諭すように雪子は言葉を紡ぐ。
「ぽよ。ぼくもおちこんでばかりじゃだめだと思うぽよ。にこにこしてないとしあわせがにげちゃうぽよ」
「うん。カービィちゃんの言う通りだよ」
二人がかりでセシルを励ましていると、そのやつれた顔で弱々しくだが、笑顔をみせてくれた。
「二人ともありがとう。君達から少し元気をもらったよ」
セシルの笑顔に、二人はまるで大切に育てていた芽から花が咲いたかのように喜び合った。
「それじゃあ、さっそく「お前達は下がっていろ」
雪子の声を遮り、アイクがすっと歩き出す。アイクの歩く先をセシルもじっと睨んでいる。
雪子とカービィだけが、意味が分からず首を傾げていた。
「僕も手伝った方が……」
「うじうじと迷ってばかりの剣なんかいらん。俺一人でやる」
アイクは七色に輝く剣を構える。
彼が最も得意とする上段の構えだ。
「姿を見せろ。奇襲なんて盗賊みたいな真似は止めてな」
出てこないこともアイクは想定していたが、意外にも素直に襲撃者は木の影から姿を現した。
「お、お前は……!」
セシルの驚いた声。その声に反応して、襲撃者がぴくりと反応する。
「カイン! 無事だったか!!」
今にも駆け寄りそうなセシルをアイクは待ての一言で制止させた。
「セシル。この殺気をお前も感じ取っているだろ。こいつは……敵だ」
セシルは黙り込む。雪子もカービィも、どうすべきか分からずにいる。その中で、カインが口を開いた。
「セシル。正直に言おう。俺は、お前に会いたくなかった。恋仇で、ローザを奪い去るお前が憎くて悪の道に染まりもしたが、それでも…俺はお前に会いたくなかった。お前がどう思おうと、お前は俺の唯一の親友だった」
すっと手を水平に挙げる。その直線上にはアイクがいる。が、その距離は遠い。弓でもあれば届くだろうが、あいにくカインの手にあるのは取っ手のついた奇妙な筒のようなものだけだ。
「あ、あれは……!!」
いち早くそれが何であるかを察し、雪子は青ざめる。
「俺は、殺し合いに乗った。ローザを生き返らせるために、敢えて悪の道に進むことを決めた。そのためなら、お前だって殺す。リディアを手にかけた俺に、迷いなどないっ!!」
「え?」
「アイク!! 避けて!!」
セシルの戸惑いと雪子の叫びが交差する中、一発の銃声が鳴り響いた。
128意地と誇り  ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/04(木) 03:15:05 ID:PLD4DXIU

「……っ!」
その威力に、アイクは驚きを隠せなかった。雪子の声に反応して考えるよりも先に身体が動いていなければ、今頃は腹から血を噴き出して倒れていたに違いない。
アイクの背後にある木に開いた穴を見れば、そんな想像も容易にできた。
あんなものがあれば弓など子供の玩具のようなものだ。
「ちっ」
短い舌打ちと共に再度筒をこちらに向けようとカインが動く。
「あの銃口、穴が開いたところから鉛弾が飛び出る仕掛けになってる! 注意して!!」
あのスピードは確かに脅威。だがタネがわかればこちらのものだ。
アイクは敢えて、カインとの距離を詰めるために突進した。
戦場において、戦いを行う際に禁忌とされるものがある。それらは山のようにあるが、今回のカインとの戦いもその一つだ。
曰く、慣れない武器で戦うな。
武器とは本来、自らの身体と同化させるほどに使いこなして、初めて達人ともいえる技が扱えるようになる。それがまったく扱ったことのない武器となれば、まさに豚に真珠。武器の長所どころか、自らのスペックをも武器に振り回されることによって衰える。
今のカインがまさにそれだ。確かに銃というものを知らない人間ならば殺せもするだろう。だが、知ってしまった今となっては、明らかに銃の扱いに慣れていないカインなど、剣の技を磨き続けたアイクにとって雑兵にも劣るものだ。
雪子からの忠告に従い、筒に開いた穴がこちらを向いたと思った瞬間にはその軌道上を反復飛びで避けるようにしながら一気に距離を詰めると、そのまま面倒な筒を一刀のうちに両断した。
「ぐっ」
カインは飛びのいて距離を取るが、デイバックから武器を取り出すようなことはしない。どうやらカインの持っている武器はあれで最後だったようだ。
が、最後まで気を抜かないのが戦いの基本。戦闘慣れしたアイクにはその手の心得は十二分に把握している。
「勝負ありだ。本来ならこのまま斬り殺すところだが、雪子がうるさそうだからな。今は拘束するだけで生かしておいてやる。もっとも、今後の話し合い次第では即刻斬り伏せることになるだろうが」
アイクがそう言って拘束しようとカインに近づいた時だった。
突然、大きな笑い声が聞こえたのだ。ぎょっとしてアイクとカインが振り返ると、そこには腹を抱えて大笑いしているセシルがいた。その有様は恐怖を感じさせるに十分な光景だった。
「カインがリディアを殺した!? はっはっは!! 守ろうとした人間が、守ろうとした人間に殺された。なんて愉快なんだ。こんなにおかしいのは生まれて初めてだ。はっはっは!! 
これでぼくは何もできなくなった。仇を討つことも。悲しみに耽ることも。ローザを想うことも。仲間を守ることがぼくに残った唯一の道だったのに。はっはっは!!」
それまで大笑いをしていたセシルは突然、ぴたりとそれを止め、無表情のまま虚空を眺めて呟いた。
「ぼくは……無になった」
「セ、セシルさん! そんなことありません!! カインさんだって、セシルさんがきちんと説得すればきっとわかってくれるはずです!」
「そうぽよ! あきらめたらだめぽよ!」
今にも自殺するのではないかと思われるセシルに、雪子もカービィも必死になって説得を試みた。肩を揺すっても、何を言っても、セシルの表情は一切変わらない。
「……雪子、カービィ。今すぐそこから離れろ」
「アイクさん! それはあまりにも冷た過ぎ──」
「さっさと離れろ!! そいつは既に“乗ってる”ぞ!!!」
雪子もカービィも、アイクが何を言っているのか理解できなかった。が、しかし、次の瞬間、セシルが身に纏っていた美しい金色の鎧がどす黒い暗黒の鎧へと変化した時、その全てを理解した。
アイクが全速力で雪子達の元へと走る。
間に合うか!? いや、間に合わせる!!
いつの間にか手にした剣を構え、セシルは言った。
「暗 黒」
漆黒の衝撃派が、カービィと雪子を襲った。
129意地と誇り  ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/04(木) 03:20:08 ID:PLD4DXIU
「素晴らしい動きだ」
セシルは感慨もなく、そう答えた。その二メートルほど先には頭部から血を流し、片膝をつきながらも剣を構え、左手で雪子達を庇うアイクがいた。
雪子もカービィもたいした外傷はないが、頭部を強く打ったらしく気を失っているようだ。
そして、セシルとアイクの間には、まるで大蛇が通った跡のように大地が砕けていた。
(…くそっ。危険な奴だとは思っていたが、あれほどすぐに心変わりするとは)
瞬時にセシルから発せられる殺気に反応したは良いが、先程放たれた技は凄まじいものがあった。
頭部の出血はさほどでもないが、先程の技、暗黒を正面から受け止めたことで全身に打撲を被り、ひいては左手、右足の傷は致命傷とは言わないまでもかなりのダメージだ。
セシルの周りに漂う、先程まではなかった禍々しいオーラを感じ取り、アイクは自分の迂闊さを呪った。
「その剣も、ただの剣ではないようだな。僕の暗黒を多少なりとも跳ね返して相殺するとは。とはいえ、彼女達を庇って出来た傷は軽傷ではあるまい」
まさしく図星だった。
が、それでも眼光だけは決して衰えることなく、アイクはセシルを睨みつける。
「僕もパラディンとして戦ってきたからわかる。仲間をかばいながら戦うというのは辛いものだ。回復魔法を使ってくれる仲間がいない君の場合は特にね」
セシルは徐にデイバックから一本の槍を取り出した。
何をするのかとアイクが警戒するも、セシルはそれをあらぬ方向へと投げ捨てた。いや、あらぬ方向ではない。あの方向は……
「使え」
カインのすぐそばで地面に突き刺さった槍。セシルはそれを一切見ずに言った。
「ぼくは殺し合いに乗った。しかし、優勝する気はない。ぼくは君の補佐に殉ずる」
「……どういうことだ?」
それはアイクの口から洩れた言葉だが、カインが問いかけようとしていたものと同じだった。
「ぼくは生きていても仕方がない。そういう結論が出た、ということさ。しかし、そのまま死ぬわけにはいかない。ぼくには辛苦を共にしてきた仲間がいる。
彼らを助けるまで、ぼくは死ぬわけにはいかない。そして、リディアが死んでしまった今、ぼくの目的を叶える方法は一つしかなくなった」
「優勝の褒美か…!」
吐き捨てるようにアイクは言った。しかし、セシルは動じるどころか、一瞬たりとも表情を変えずに頷いた。
「カイン。その代わり、君が望むのはローザの命じゃない。この殺し合いに参加させられた全ての人間の救済だ。僕と君、二人だけになったら僕は自害する。そうなったら、君はこのゲームに参加した全ての人間を生き返らせるように願ってくれ。
全員が生き返ったことを確認すれば、僕はみんなの元を去る。誰にも会わず、誰にも関わらずに生きて行く。ローザも君に任せる。彼女には僕は死んだと伝えてくれ。君なら彼女を幸せにできる」
130意地と誇り  ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/04(木) 03:23:34 ID:PLD4DXIU
「下種な発想だ! それじゃマルクの思うつぼだということが何故分からない! この世にそんな都合の良いことなどあるわけがない」
「ならば、君はこの殺し合いをどう説明する」
アイクは言葉に詰まった。セシルの言わんとすることがわかったからだ。
「服を見ればわかる。君も、雪子も、カービィも、我々とはまったく異質な世界の人間だ。事情があって僕は自分の世界にはかなり詳しいんだが、それでも君達のような人間は見たことがない。
もしも僕達が異質な世界から集められているのだとしたら、マルクがその世界を渡り歩けるのだとしたら、死者を蘇生させることが常識とされる世界だってあるのかもしれない」
確かに、アイクが雪子と出会った町は、アイクの世界では到底有り得ないような構造のものばかりだった。
建築物に詳しくないアイクでも、自分達の世界よりも遥かに進んだ文明によって作り出されたものだと理解できた。雪子の語っていた道具の数々はアイクには想像もつかないものだった。
実際、アイクに不可能だと思われた技術が別世界では使われている。ならば、死者を蘇らせる技術があってもおかしくはない。
「……しかし、マルクが馬鹿正直に従うとは思えない。殺し合わせることが目的なら、俺達は死んでいなければならないはずだ」
「ならば何故さっさと殺してしまわない。僕達を悟られずに拉致できるほどの力を持ったマルクだ。殺すことなんて造作もなかったはずだ。殺さなかったのは、あくまでも僕達の命自体には興味がないからだ。
マルクにとって必要なものを得るために僕達は死ぬ必要があった。だから死ぬ。それだけだ。マルクの目的が僕達の命ではない以上、死者蘇生の技術を持ったマルクは願いを聞いてくれるかもしれない」
「かも、だろ。確証がない。そんなものに命を預けられるか」
「君はね。だが僕はできる。何故なら、僕にとって命はないに等しいからだ。そして、リディアが死んでしまった以上、ぼくが守るべき人間はカインだけ。
そのカインが殺し合いに乗っているというのだから、これが最善の道なんだ。可能性があるだけ、そちらに賭ける方が賢明だ」
もはや何を言っても無駄だ。
一種の狂気に取りつかれでもしたかのように、セシルは完全に吹っ切れてしまっていた。
度重なる悲惨な出来事で脳がオーバーヒートを起こし、負の感情そのものを忘れてしまっているのか、先程までの暗い雰囲気は一掃されている。
131代理投下:2010/11/04(木) 16:49:50 ID:KZIgsN/e
アイクは身体を奮い起こして立ち上がる。説得が無駄だと分かった以上、これ以上時間をかけてはいられない。カインがセシルの提案を呑めばただでさえないに等しい勝機が……
「わかった。お前を信じよう」
その言葉を聞いて、アイクはあからさまに舌打ちした。
「馬鹿か。あんなことを言ってるが、本心ではお前を殺そうとしてるかもしれないんだぞ」
「お前こそ、俺とセシルの何がわかる。この男がそう断言したのなら、事実そうなのだ。それを信じれるだけの友情と信頼が、俺の中にはある」
そう言って、カインは槍を地面から引き抜いた。
最悪の展開だ。傭兵団にいた頃でも、ここまでのピンチはなかった。そう思えるほどに、ここにいる二人は一騎当千、手練中の手練。しかも、今のアイクには二人も助けなければいけない無力な保護対象がいる。
「……あんたら、その恰好は騎士のものだと見受ける」
アイクはいちかばちかの賭けにでた。現状、勝機が唯一あると思われる戦法だ。弱冠ご都合主義で、敵如何では即刻殺されることもあるだろうが、何もしないよりもましだ。小さな可能性に賭ける。
それが、セシルが今やろうとしていることと同じだということに一種の皮肉を感じ、アイクは少しだけ苦笑する。しかし、すぐに顔を引き締め、その手に持つ剣を空に掲げ、それからカインの方へと剣先を向けた。
「一騎討ちを申し込む。騎士として、剣士として、あんたに勝負を挑む」
二人とも、黙ってアイクを見つめていた。
「あんたが勝ったら好きにしろ。どんな拷問だって受けてやるし、死だって辞さない。だが、もしも俺が勝ったら……せめてそこの二人を、見逃せ」
セシルではなくカインを指名した明確な理由があるというわけではない。ただ、何となく、セシルよりもカインの方が勝ちを拾いやすいと感じただけだ。
これは勘でしかないが、傭兵として瞬時に相手の力を把握する能力を培っているアイクだ。この勘は頼りになるものだと自負している。
「……いいだろう。受けてやる」
そう言ったのは、カインではなくセシルだった。
「おいセシル。そんなことをするのは無意味だ」
「無意味じゃない。君の現在の精神状況を計るには、この戦いはうってつけのものだ。僕はそれを知りたい。なに、ただの余興だ。それとも、アイクに勝つ自信がないか?」
カインは少し逡巡したが、やがて殺気でぎらついた瞳でアイクを睨み、頷いた。
「……わかった。俺が…奴を殺す」
こうして、アイクの三人分の命を背負った決闘が始まった。
132代理投下:2010/11/04(木) 16:50:39 ID:KZIgsN/e
「うおおおおおおっ!!」
虹色の剣が幾多の弧を描き、カインの槍を弾き落とそうとでもするかのように素早く鋭い斬撃を繰り出す。荒々しい獣のような猛攻。その剣技と気迫に明らかにカインは呑まれていた。
その様を冷めた瞳で見つめるセシル。今のところ約束は守るつもりらしく腕を組んでただ事の成り行きを見守っている。
(くっ……。何故だ。剣技もまるで劣っているわけではないというのに……!!)
明らかにカインは劣勢だ。その事実がカインを焦らせ、その結果さらに技を鈍らせることになる。到底カインがアイクに勝つことはなさそうだ。それなのに、セシルは一向に手を出さない。
まるでトラのように突進してくるアイクに、カインは堪らず槍を振り回す。槍はリーチが長い分、確かに剣よりも有利だ。しかしそれも懐に入られていたのではまったく逆効果である。
だからこそ槍と剣での戦いは両者の距離が重要になってくる。戦いの中心となる距離が遠ければそれだけ槍が有利であるし、逆ならば剣が有利。アイクは最初の特攻めいた一撃でその一番重要なポジションをカインから奪っていたのだ。
(だがそれだけじゃない。なんだ……この力はっ!)
カインは連戦の身だ。しかし、疲労こそすれ、さしたる怪我はしていない。だがアイクは違う。セシルの奇襲でかなりの傷を受けている。それでもなお、カインを力押しできるほどに力が漲っている。
(そうだ。俺は…この力を知っている)
胴を両断しようと横なぎにされる剣を間一髪で防ぐ。
(いつも見ていた。隣で、ずっとずっと見ていた姿。これは……仲間を守り、その絆と信念を武器に戦っていたセシルだ)
時には仲間を庇い、時には率先して敵に突っ込み、いつも活路を切り開いてきたセシルと、アイクは同じ原動力を持っている。
(何故だ? 何故勝てない。何故俺は、いつもお前に勝てないんだ!)
アイクの猛攻を縫って、セシルの姿が目に入る。
ただ黙ってこちらを見据えるセシルの瞳。それを見て、カインは何故か理解できた。
(……そうか。俺は、迷ってたんだな)
リディアを殺し、吸血鬼達に自らの行いを否定され、知らぬ間に自棄になっていたのだ。
(これじゃ、この男は倒せない。こんな弱い心じゃ、信念に生きるこの男は倒せない)
セシルはそれを気付かせたかったのか。
だが、それを自覚したから何になる。ローザのためにリディアを殺し、誰も望まない未来を望むことを、今では自分すらも疑問に思っている。こんなボロボロな状態で、一体何を信じればいいというのだ。
「……カイン」
ふいに、セシルが言った。
「迷うな。恐れるな。自分を信じれないというのなら、この僕を信じればいい。お前の想いを受け入れている人間が、ここに一人いることを忘れるな」
133代理投下:2010/11/04(木) 16:51:26 ID:KZIgsN/e
カインの瞳が見開き、先程までとは段違いの素早さで槍を回転させる。アイクがそれを防いでいる間にカインは一気に跳躍して距離を取った。
「……アイクといったな。お前の力、凄まじいものがあった。技もさることながら、その精神力はどんな騎士にも劣るまい」
アイクは何も言わない。ただ剣を構えているだけだ。しかし、肩で息をしているその様子は、限界が近づいている証拠だった。
「だが、お前に信念があるように、俺にも信念がある。お前に支えてくれる友がいるように、俺にも友がいる。俺は竜騎士だ。俺は、竜騎士としてこの殺し合いに乗り、優勝してみせる!」
次に攻めるのはカイン。地面を抉るほどの脚力でアイクに突進し、その槍を一撃二撃と繰り出す。アイクはうまくその攻撃を捌くも、防戦一方だ。カインの突きの速さはアイクから攻撃に転じる余裕をなくさせていた。
が、そこは百戦錬磨のアイク。剣を使って突きをうまく逸らしていたが、このままでは不利とみて、無理やりカインの懐に潜り込む。弾丸のような突きが頬を掠めるが、気にも留めない。
これで槍は封じたと思いきや、アイクが想像していた以上に素早くカインが後方へと下がる。構わず剣を振るうアイク。両者の武器が火花を散らしてぶつかりあう。
「…なかなかやるな。さっきとは大違いだ」
「お前こそ、俺が手を下すに相応しい相手だ」
互いに力を込めて武器を振り切る。その反動で二人とも地面を削りながら後方へ下がる。
しかし、それは小休止の合図などではない。後方へ下がったと思いきや、すぐさまアイクが距離を詰め、横なぎの一撃をお見舞いする。
が、手応えはまったくない。
カインの姿はこの場から消えていた。

カインの得意技、ジャンプ。

一瞬で敵の視界から姿を消し、死角である上空から改心の一撃を狙う技。数多もの戦いで活躍したカインの最も得意とする技。
カインは、アイクの頭部に狙いをつけ、槍を突き出すべく身体を捻った。

ヒュンヒュン……

ふいに、何かが空を切る音が聞こえた。
上空だ。思わず顔をあげる。
そこには回転しながら宙を舞い、朝日に当てられ虹色に輝く剣があった。
まずい。
長年培ってきた勘から、危険性を察知する。
その刹那、先程まで下にいたアイクが宙にあった剣を握り、大車輪のように回転して隼のごとくカインに襲いかかった。
「天 空!!!」
大気をも斬り裂く、一文字の斬撃がカインを襲った。
134代理投下:2010/11/04(木) 16:53:12 ID:KZIgsN/e
………妙に清々しい。
こんな気分は生まれて初めてだ。雄大な草原で、爽やかな風にでも当たっているような、奇妙な感覚。
これが死か。
全てが初めての経験だ。死にそうになったことは幾度もあったが、死がこれほど心地良いものだとは知らなかった。
冷たいはずの地面が、まるで母親の羊水の中のように暖かく感じられる。……いや、これは、地面ではなく己自身の血液による暖かさなのだろう。急激に血液がなくなり、一気に身体が冷えたからこその感覚だ。
地面に倒れ伏す男、アイクの耳に随分と遠く感じる声が届いた。
「何故、手を出した」
「君がやられそうだったからだ。言っただろ。僕にとっての希望は君だけなんだ、カイン」
「しかし……」
「志半ばで死ぬのが君の望みなのか?」
「……いや。そうだったな。すまん。助けてくれたことに感謝する」
「感謝はいらない。結果さえ残してくれれば」
……そうか。俺は、カインではなくセシルにやられたのか。
自分が誰にやられたのかも分からないくらいに、アイクはカインを倒すことに必死だった。アイク程の人間なら、一騎討ちとはいえ常にセシルを意識して動けたはずだ。それができなかったのは、一重に先に受けた傷と、カインが想像以上の強者だったからに過ぎない。
天空を仕掛ける寸前、カインに意識が集中した時に暗黒で狙い撃ちされた。
だというのに、アイクの心に過ったのは、卑怯だと相手を罵倒する気持ちでもなく、悔しいと怒り嘆く気持ちでもなかった。それは安堵だった。死の淵にいてなお、アイクはカインとの一騎打ちで敗れたのではないということに心の底から安堵していた。
一騎討ちならばカインに勝っていた。その事実が、アイクにはなによりも重要だった。アイクは、どこまでいっても純粋なまでに騎士だった。
「それにしても、先程の技は凄まじいものがあった。おそらく、攻撃と回復を同時並行する技だったのだろう。僕があくまでも一騎打ちに拘って手を出さなければ、君も僕もやられていたかもしれない」
「……だが、俺達は勝利した。大事なのは結果だ」
「その通りだ。君も、迷いを振り切れたようだ。この男との戦いは、君にとってかなり有益なものだったのだろう。先程までにはない強い意思が感じられる。そういう意味では、この男に感謝しなければならない」
「そうだな。もしも願いが叶ったら……。いや、そういう話は止めておこうか」
ただでさえ聞きとりづらい声がどんどん小さくなっていく。
(これは……もう、駄目…だな。……すまん、ミスト。約束、守れなかった)
カインが歩く音が地面を通して伝わってくる。しかしセシルは動かない。どうやらこの場を離れるのが目的ではないようだ。
では何を…? そんなことを最後に考えながら、アイクの意識はどんどん薄れゆく。
「この二人を殺せば、とりあえず戦闘は終了か」
その言葉で、既に閉じられるところだったアイクの瞳に再び炎が宿った。
135代理投下:2010/11/04(木) 16:54:43 ID:KZIgsN/e
「…! カイン!!」
近くに落ちていた剣を拾い、カインに向かって剣を振るう。しかし、既に致命傷を受けたアイクの攻撃などカインほどの男なら容易に回避できた。
「貴様っ! まだ動けるのか!」
「………せ、…ない。……殺……させ…ない」
暗黒によって穿たれた傷から血が吹き出る。足がガクガクと震える。
しかし、それでもアイクはしっかりと二の足で立って、剣を構えていた。
もはや思考もままならない。それでもアイクはその剣先をカインに向けていた。
カインが雪子やカービィに近づこうものなら、すぐにでも襲いかかれるように。
敵は瀕死。もはや数分も立っていられないような状況。それでも、カインはアイクの鬼のような気迫を感じ取り、動けずにいた。
「……カイン。すぐに楽にしてやれ。このままでは忍びない」
セシルに言われ、カインは自らの槍を構える。そして……
ドシュ
その槍は一切ぶれることなくアイクの胸元に突き刺さった。
「これで終わ……っ!!」
思わず槍を離して後方へたたらを踏む。槍の攻撃などものともせず、アイクが剣を振るってきたからだ。
有り得ない。明らかに人間のキャパシティを越えている。セシルもカインも、アイクの執念ともいえる力に息を呑んだ。
「……俺……が、…守……る。……雪……子は……俺………が………」
剣を構えたまま、がくりと頭が垂れる。しかし、その足は未だ地面を踏みしめて立っていた。
「し、死んだか?」
狼狽を隠し切れず、セシルは呟いた。
「すぐに確認するんだ! この男は、ここで確実に殺しておかなければならない!」
カインが慌てて落ちてあった小石をアイクに投げた。それはアイクにぶつかって地面に落ちる。しかし、アイクはぴくりとも動かなかった。
セシルはそれを見て、すぐさまアイクの側に近寄り、心音を確かめる。
「……死んでいる。確かに死んでいる」
「…立ったままか?」
「ああ、確かだ。しかしなんという豪傑だ。本当に、ここで殺せてよかった」
二人は心から安堵のため息をついた。
死んでなお、仁王立ちで二人を守ろうとしているアイクの意地は、この二人の強者を確かに恐怖させたのだ。
136代理投下:2010/11/04(木) 16:56:19 ID:KZIgsN/e
「……セシル。お前が仲間になってくれて助かった。改めて礼を言う」
「……」
「もしも俺一人だけだったら、さっきの戦いで死んでいた。…正直なところ、一人では限界を感じていたんだ。だが今は違う。お前という仲間がいてくれるというだけで、俺はなんでもできる気がするんだ」
「…それを言うのは僕の方だ。君がいてくれなかったら、それこそ僕は何もできない腑抜けになっていた」
セシルが守るべきだったのはリディアとカイン。だが殺し合いに生き残れるのは一人だけ。その事実がセシルに殺し合いに乗るという選択肢を奪い、自分の無力さに苦しむことしかできなかった。皮肉にも、カインがリディアを殺したことで、
その呪縛から解き放たれ、一つの目的に邁進できるようになったのだ。
だからセシルは、カインを責めるつもりなど一切なかった。リディアが死んだことは悲しいことだが、それがあったからこそ、一つの希望に縋って生きていくことを選択できたのだ。全ての人間の救済。
その大義のためなら、たとえどんな汚らしい手でも使ってやる。そう決意できたのだ。
「……なぁ、セシル。ゴルベーザのことは……」
「もしかしたら仲間になってくれるかもしれないが、袂を分かつというのなら、相手になるだけだ」
二人は沈黙した。ゴルベーザが味方になってくれればそれこそ百人力だ。だが、術が解け、自らの行いに悔いを抱いているゴルベーザが仲間になってくれるかは、二人にもわからなかった。
「……それじゃあ、さっさとこの二人も殺すぞ。いつ起きてくるかもわからんからな」
アイクに突き刺さった槍を引き抜き、カインは側で気絶している二人に槍を向ける。
カインは何の躊躇もなくその赤黒く染まった槍に力を込め、そのまま貫いた。
「……なんのつもりだ?」
貫いた、と思われた槍はその後ろをセシルによって掴まれたために、ギリギリのところで止まっていた。
「カイン。僕からの最後の頼みだ。……この二人を、今しばらく生かしておいてやってくれないか?」
カインは黙ったままセシルを見つめた。
「僕は、ここに連れてこられてからずっと塞ぎこんでいた。それを、何の打算もなく二人は励ましてくれたんだ。だからこの一回だけ、見逃してやってくれ。それで、僕は過去の自分と決別できる」
普段なら、即座にノーと言うところだ。しかし、先程アイクにあれほどのものを見せつけられて、騎士を名乗る人間で揺さぶられない者などいない。セシルとて、言っていることに嘘はないのだろうが、
アイクという男の信念に尊敬の念を抱いたことこそが今回の頼みを提案する大きな要因となったのだろう。
「……わかった。今回だけだぞ」
「すまない」
「お前に約束を反故されることを思えば何ということはない」
そう言ってカインは苦笑した。
釣られて、セシルも薄い笑みを浮かべ、眩しく光る朝日を眺めた。
「……こうしていると、昔を思い出す。王の命令でクリスタルを奪っていた赤き翼の暗黒騎士だった頃を」
「忘れたい過去か?」
しばらく考え、セシルは首を振った。
「いや、そうでもない。あの時があったからこそ、今の僕がいる。こうして、暗黒の道を進めるぼくがいる。確かに周りは闇ばかりだが、その果てには一つの希望の光があると信じられる道だ。この道は暗黒騎士だからこそ渡れる道なんだ」
「そうか。ならば新たな結成だな」
「なにをだ?」
「新生、赤き翼をさ」
137代理投下:2010/11/04(木) 16:57:05 ID:KZIgsN/e
【一日目 早朝 D-5】

【チーム 赤き翼】

【セシル・ハーヴィ@ファイナルファンタジーW】
[状態]疲労(小) 暗黒騎士化
[装備]銀の大剣@ファイアーエンブレム 蒼炎の軌跡
[道具]支給品一式×4、キラーボウ(15/15)@ファイアーエンブレム 蒼炎の軌跡、不明支給品(2~5)
[思考]基本方針:カインを優勝させ、ローザを含む全ての参加者を救済する
1. カインと共に、参加者を一掃する
2. 悲しみを捨て、暗黒の道を行く
3. ゴルベーザに執着は……ない
4. 自分の命はもういらない
※カービィ、雪子、アイクの支給品を全て回収しました。虹の剣はアイクが所持しています。

【カイン・ハイウィンド@ファイナルファンタジーW】
[状態]疲労大、腕に軽度の火傷、
[装備]グングニル@ファイナルファンタジーW
[道具]支給品一式、レミントンM870(7/8)
[思考]基本方針:優勝し、ローザを含む全ての参加者を蘇らせる
1. セシルとの約束を果たし、この殺し合いを共に勝ち進む
2. ゴルベーザには仲間になってもらいたい
3. ルビカンテを倒す
138代理投下:2010/11/04(木) 17:00:13 ID:KZIgsN/e
こうして、二人のか弱き者は生き永らえることが出来た。
天城雪子は、自分を守ると約束してくれた者の亡骸を前に、悲嘆に暮れるだろう。カービィは、自分が守ろうとした男に裏切られたことを実感し、落胆するだろう。
彼女達に立ち憚る現実の壁は高い。しかし、それでも彼女達は生きている。その事実をどう捉えるかは、彼女達次第。
守護者のように立ち尽くすアイクの背後で眠る二人。まるで彼女達の生を祝福するかのように、暖かい朝日が差し込んでいた。

【天城雪子@ペルソナ4】
[状態]気絶中、SP消費(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考]基本方針:殺し合いを止める
1:瀬多君、花村君、千枝を捜す
2:アシュナード、漆黒の騎士、鎧の男、足立に警戒
※真ENDルート、イザナミと出会う前からの参戦です。
※ペルソナはコノハナサクヤです。
※アイクと情報交換しました。

【カービィ@星のカービィ】
[状態]気絶中、エンジェルカービィ
[装備]なし
[道具]なし
[思考]基本方針:ゲームには乗らない。困った人は助けたい
1. マルクはたおしたはずなのに……?
※名簿、支給品は確認済みです
※銀河に願いをクリア〜の時期での参戦です


【アイク@ファイアーエンブレム 蒼炎の軌跡 死亡】

218 名前: ◆dGUiIvN2Nw[sage] 投稿日:2010/11/04(木) 03:39:52 ID:NBua8Ebc0
以上です
申し訳ありませんがどなたか代理投下お願いします

代理投下終了

最後まで守り通したアイクの格好良さに感動、
まさかのマーダー転向、新生赤き翼誕生と、
最後まで見応えのある面白いSSでした!投下乙です!
139創る名無しに見る名無し:2010/11/05(金) 09:47:26 ID:caeBqUSh
投下乙。
アイク死んだ…
カービィの口調、漫画版準拠? カービィの口調は修正したほうがいいと思います。
140創る名無しに見る名無し:2010/11/05(金) 19:11:52 ID:wzaNHbVB
投下乙
セシルマーダー転向で、アイク死亡か。
これ、雪子・カービィもどうなるかわからないね。

カービィの口調が前の話と変わっているのがかなり気になりました。
修正した方がいいと思います。
141 ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/05(金) 20:42:59 ID:lzWPBb/q
了解しました。早速修正したいと思います
…ところで、カービィの口調はどこで把握すればいいのでしょう。少し見たところ漫画基準でもないようですが
カービィがしゃべってるゲームってありましたっけ?
わかる方がいらっしゃれば、教えてほしいです
142創る名無しに見る名無し:2010/11/05(金) 20:59:59 ID:+t75ddsw
オリジナルのキャラ付けみたいだし、少年っぽい口調にしとけば細かいとこはいいんじゃないの
とりあえず前回普通に喋ってるからぽよぽよはないな
143 ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/05(金) 21:10:27 ID:lzWPBb/q
なるほど。わかりました。できるだけ早く修正して投下したいと思います
わざわざありがとうございました
144意地と誇り(>>124の修正)  ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/05(金) 21:18:53 ID:lzWPBb/q
「セシル……」
……なんだ? 一体誰の声だ? 
それよりも殺し合いはどうなった? ぼくは仲間を、カインやリディアを守らないと。
それにしてもこの声、聞いているととても安心する。どこか聞きなれたような……
「セシル、起きて。セシルったら」
セシルは未だぼんやりとした思考でゆっくりと目を開く。しかし自分の側にいる人物を確認すると、すぐに飛び起きた。
「ロ、ローザ……」
それが最愛の彼女だとわかった途端、セシルは自分を制御することもできずに抱き寄せた。
「い、いきなりどうしたの?」
「怖い夢を見た。とても、とても怖い夢を」
「……安心して。ここはあなたのよく見知っているバロン王国よ。あなたはその国の王様で、世界はとても平和だわ」
まるで赤子をあやすようなローザの腕。そのぬくもりを感じ、セシルは心の底から安堵した。
あれは夢だったんだ。ローザが死ぬなんて、そんなはずがない。そんな不合理があってたまるか。
「ローザ。ぼくは君と一緒に──」



「ぽよっ!!」
目を開けたセシルの視界にピンクの球体が映った。
その顔はとても心配そうで、しかしセシルが目を覚ましたことを確認すると、とてもうれしそうにほほ笑んだ。
「よかった〜。このまま目を覚まさないかと思った」
弛緩したカービィの表情とは裏腹に、セシルの表情は固まったままだった。
(……そうか。夢、だったんだな)
自分に都合の良い夢を見ていただけ。現実はこっちだ。ローザが訳も分からず殺されたこっちが現実。不合理で、悪意に満ち満ちているこっちの世界が本物。
「……ずっと、夢を見ていたかった」
セシルが身体を起こして呟いたその言葉の真意が分からず、カービィは首を傾げた。
145意地と誇り(>>127の修正)  ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/05(金) 21:21:47 ID:lzWPBb/q

「そう、なんですか。恋人を、あの場所で」
「…君が思い悩むことじゃない。すまない。突然こんな話を切り出してしまって」
アイク、雪子、セシル、カービィが集まり、互いに情報交換を始めたはいいが、セシルの抱える重い事実を聞かされると、雪子はどうしても暗い気分になってしまうのだった。
もしも千枝達が死んでしまったら……。そう考えてしまうに足る現実の厳しさを雪子は目の辺りにしているのだ。
「それで、お前はローザのために殺し合いに乗る気はないんだな?」
まるで疑っているかのような口調でアイクは言った。
「ア、 アイクさん! もう少し言い方を考えて……」
「すまん。よく注意されるんだが、どうもこれは直らないらしくてな。もう気にしないことにした」
「気にしないことにしたって……」
呆れてものも言えずに呆然としている雪子を尻目に、アイクは渋面を作った。
「そもそも、セシルの言い方が気に入らない。なんでもかんでも自分のせいだ自分のせいだと。そんな暗いオーラで親しい人間が死んだ話なんてされてみろ。嫌でも自分の友人の安否が気になって不安になる。恋人が死んで気の毒だとは思うが、お前こそもう少し言い方を考えろ」
本当にズバズバと思ったことを口にする人だ。
雪子は呆れを通り越して感動すら覚えていた。
「ぽよっ! セシルをいじめると許さない!」
身体全体で怒っていることを表現しながらカービィが前に出る。
しかし、それはセシルの手によって解かれることになった。
「いいんだ。彼の言う通りだよ。そう……僕は、誰にでも不幸の種を撒き散らしてしまうんだ」
「また始まった……」
アイクは額に手を当てて軽く首を振った。
「アイクさんは少し黙ってて!! セシルさんも、そんなに後ろ向きな考えじゃ、まだ生きているお仲間を守れませんよ」
優しく諭すように雪子は言葉を紡ぐ。
「ボクもおちこんでばかりじゃだめだと思う。にこにこしてないとしあわせがにげちゃうよ」
「うん。カービィちゃんの言う通りだよ」
二人がかりでセシルを励ましていると、そのやつれた顔で弱々しくだが、笑顔をみせてくれた。
「二人ともありがとう。君達から少し元気をもらったよ」
セシルの笑顔に、二人はまるで大切に育てていた芽から花が咲いたかのように喜び合った。
「それじゃあ、さっそく「お前達は下がっていろ」
雪子の声を遮り、アイクがすっと歩き出す。アイクの歩く先をセシルもじっと睨んでいる。
雪子とカービィだけが、意味が分からず首を傾げていた。
「僕も手伝った方が……」
「うじうじと迷ってばかりの剣なんかいらん。俺一人でやる」
アイクは七色に輝く剣を構える。
彼が最も得意とする上段の構えだ。
「姿を見せろ。奇襲なんて盗賊みたいな真似は止めてな」
出てこないこともアイクは想定していたが、意外にも素直に襲撃者は木の影から姿を現した。
「お、お前は……!」
セシルの驚いた声。その声に反応して、襲撃者がぴくりと反応する。
「カイン! 無事だったか!!」
今にも駆け寄りそうなセシルをアイクは待ての一言で制止させた。
「セシル。この殺気をお前も感じ取っているだろ。こいつは……敵だ」
セシルは黙り込む。雪子もカービィも、どうすべきか分からずにいる。その中で、カインが口を開いた。
「セシル。正直に言おう。俺は、お前に会いたくなかった。恋仇で、ローザを奪い去るお前が憎くて悪の道に染まりもしたが、それでも…俺はお前に会いたくなかった。お前がどう思おうと、お前は俺の唯一の親友だった」
すっと手を水平に挙げる。その直線上にはアイクがいる。が、その距離は遠い。弓でもあれば届くだろうが、あいにくカインの手にあるのは取っ手のついた奇妙な筒のようなものだけだ。
「あ、あれは……!!」
いち早くそれが何であるかを察し、雪子は青ざめる。
「俺は、殺し合いに乗った。ローザを生き返らせるために、敢えて悪の道に進むことを決めた。そのためなら、お前だって殺す。リディアを手にかけた俺に、迷いなどないっ!!」
「え?」
「アイク!! 避けて!!」
セシルの戸惑いと雪子の叫びが交差する中、一発の銃声が鳴り響いた。
146意地と誇り(>>128の修正)  ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/05(金) 21:23:19 ID:lzWPBb/q

「……っ!」
その威力に、アイクは驚きを隠せなかった。雪子の声に反応して考えるよりも先に身体が動いていなければ、今頃は腹から血を噴き出して倒れていたに違いない。
アイクの背後にある木に開いた穴を見れば、そんな想像も容易にできた。
あんなものがあれば弓など子供の玩具のようなものだ。
「ちっ」
短い舌打ちと共に再度筒をこちらに向けようとカインが動く。
「あの銃口、穴が開いたところから鉛弾が飛び出る仕掛けになってる! 注意して!!」
あのスピードは確かに脅威。だがタネがわかればこちらのものだ。
アイクは敢えて、カインとの距離を詰めるために突進した。
戦場において、戦いを行う際に禁忌とされるものがある。それらは山のようにあるが、今回のカインとの戦いもその一つだ。
曰く、慣れない武器で戦うな。
武器とは本来、自らの身体と同化させるほどに使いこなして、初めて達人ともいえる技が扱えるようになる。それがまったく扱ったことのない武器となれば、まさに豚に真珠。武器の長所どころか、自らのスペックをも武器に振り回されることによって衰える。
今のカインがまさにそれだ。確かに銃というものを知らない人間ならば殺せもするだろう。だが、知ってしまった今となっては、明らかに銃の扱いに慣れていないカインなど、剣の技を磨き続けたアイクにとって雑兵にも劣るものだ。
雪子からの忠告に従い、筒に開いた穴がこちらを向いたと思った瞬間にはその軌道上を反復飛びで避けるようにしながら一気に距離を詰めると、そのまま面倒な筒を一刀のうちに両断した。
「ぐっ」
カインは飛びのいて距離を取るが、デイバックから武器を取り出すようなことはしない。どうやらカインの持っている武器はあれで最後だったようだ。
が、最後まで気を抜かないのが戦いの基本。戦闘慣れしたアイクにはその手の心得は十二分に把握している。
「勝負ありだ。本来ならこのまま斬り殺すところだが、雪子がうるさそうだからな。今は拘束するだけで生かしておいてやる。もっとも、今後の話し合い次第では即刻斬り伏せることになるだろうが」
アイクがそう言って拘束しようとカインに近づいた時だった。
突然、大きな笑い声が聞こえたのだ。ぎょっとしてアイクとカインが振り返ると、そこには腹を抱えて大笑いしているセシルがいた。その有様は恐怖を感じさせるに十分な光景だった。
「カインがリディアを殺した!? はっはっは!! 守ろうとした人間が、守ろうとした人間に殺された。なんて愉快なんだ。こんなにおかしいのは生まれて初めてだ。はっはっは!! 
これでぼくは何もできなくなった。仇を討つことも。悲しみに耽ることも。ローザを想うことも。仲間を守ることがぼくに残った唯一の道だったのに。はっはっは!!」
それまで大笑いをしていたセシルは突然、ぴたりとそれを止め、無表情のまま虚空を眺めて呟いた。
「ぼくは……無になった」
「セ、セシルさん! そんなことありません!! カインさんだって、セシルさんがきちんと説得すればきっとわかってくれるはずです!」
「そうだよ! あきらめたらダメ!」
今にも自殺するのではないかと思われるセシルに、雪子もカービィも必死になって説得を試みた。肩を揺すっても、何を言っても、セシルの表情は一切変わらない。
「……雪子、カービィ。今すぐそこから離れろ」
「アイクさん! それはあまりにも冷た過ぎ──」
「さっさと離れろ!! そいつは既に“乗ってる”ぞ!!!」
雪子もカービィも、アイクが何を言っているのか理解できなかった。が、しかし、次の瞬間、セシルが身に纏っていた美しい金色の鎧がどす黒い暗黒の鎧へと変化した時、その全てを理解した。
アイクが全速力で雪子達の元へと走る。
間に合うか!? いや、間に合わせる!!
いつの間にか手にした剣を構え、セシルは言った。
「暗 黒」
漆黒の衝撃派が、カービィと雪子を襲った。
147 ◆dGUiIvN2Nw :2010/11/05(金) 21:25:58 ID:lzWPBb/q
カービィの口調だけ変えてみました。
これでいい……よな?
お手数ですが裁量のほど、よろしくお願いします
148創る名無しに見る名無し:2010/11/05(金) 22:58:56 ID:wzaNHbVB
修正乙 問題ないと思います
wikiを更新しておきます
149創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 17:24:38 ID:9v1kExEZ
予約二件きたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおお
150創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 18:50:32 ID:yLIrd2Zc
キョウに予約入ってるな

そういやキョウって、前投下ではござる口調だったけど
赤緑の台詞は「〜よ!」「〜(なの)だ」口調
アニメが「〜ござる」口調だったような
151創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 19:35:28 ID:ch/bf/HL
アニメ準拠なってたのか。まぁ投下時には誰も突っ込んでなかったんしこれからもそれでいいんじゃないか?
投下がきてゲーム準拠だったら作者に修正してもらえばいいし。
まぁゲーム準拠が当たり前だが
152創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 20:54:45 ID:yLIrd2Zc
うん
「ゲームキャラ」だからゲーム準拠のほうがいいかもな
ジムリーダーは台詞メモがあるから必要だったら力になれそうだ
153 ◆WBRXcNtpf. :2010/11/15(月) 22:43:17 ID:VRY4undd
やっと書き終わった……
オセロット、咲夜、漆黒、足立、投下します。題名は『へっくしゅん』
154へっくしゅん  ◆WBRXcNtpf. :2010/11/15(月) 22:44:18 ID:VRY4undd
 
「へっくしゅん!……ずずず……はぁはぁ」
寒い。濡れた衣服が服に纏わりつく。頭も痛い。結構な時間を濡れたままで過ごしている。
早く変わりの服を見つけたいがあの男、ソリッドスネークがまだここらをうろついているかもしれないのだ。
下手に移動もできない。能力を制限されてなければ時間を止めながら移動でもしているが、今、能力を如何せん体力を酷く使う。
それに疲労感も拭いきれない。息も荒くなっている。どうやら風邪を弾いたらしい。
少々心配になってきた。自分も、知り合いの事も、そして主の事も。幻想卿で暮らしている人間、妖怪は外の知識に関してはかなり疎い。
そんな状態で外の世界での『戦士』に外の武器、『拳銃』などで襲われたらひとたまりもない。
そうだ。その状況が今、私に降りかかっている。自分の能力を駆使して尚、負けてしまった。
能力の制限さえなければ私は勝っていただろう、と言い訳がましい事をを見えない誰かに呟く。
なぜこんなことになったのか。私は昨日、自分の館でいつも通り、一通りの家事をこなして、いつも通り就寝した。
それなのに今は趣味の悪い遊戯に参加させられている。
奴は、マルクは私達をどの様な方法で拉致をしたのか。……八雲紫。私の頭にその名前が浮かんだ。しかしそれは直ぐに消えた。
あの妖怪がこの催しに手を貸す筈が無い。つまりマルク自身がスキマ妖怪だろう。
奴がもしスキマ妖怪じゃないとしても、他の黒幕の妖怪がいるだろう。
それにマルクにはそんな力があるには到底思えない。奴は道化師だ。嘘も本当も交えて喋る。
果たしてその道化は本物か偽物かどうか。
「………へっくしゅん!……でもこんなこと考えてる暇は…」
無い。正直そんなことより、服が欲しい。数時間も奴に警戒しながら移動を続けているのだ。
精神力も使うし、体力も使う。濡れた状態ではさらに体力を使う。こんな状態を主に見られたら笑われてしまう。
1時間ほど少しずつ移動を続けているがまったく進まない。
草むらをを掻き分け、樹木に隠れながら、あるいは時間を1秒だけ止めて、こんなことをしていてはいつまでたっても前に進めない。
だが、そうしなければいけない。例え体力が無くなったとしても、命は必要だ。体力も命には代えられない。
木から垂れるよくわからない植物を掻き分けながら進む。そして、目の前に唐突に現れた。あの亡霊の館、とまではいかないが豪華だ。
それは旅館だった。やっと、建物は見つけた。緊張がすこし解れる。しかしだ。まだ、まだ安心してはいけない。
奴がいるかもしれない。奴ではなくてもこの遊戯に乗った人間がいるかもしれないのだ。
落ち着け。周りを確認。人影は無い。足を進めて、続いて旅館の中を確認。人影は無い。それに気配も感じられない。
受付を見ると『クツロギ温泉受付』と書いてある。寛げるから、クツロギ温泉なのだろうか。
簡単な名前すぎるだろう。なんとも面白みがない。いや、逆にあるほうなのかもしれない。
地図を見たときは温泉としか書いてなかったから旅館とはわからなかった。
……旅館なんだ。服ぐらいはあるだろう。探すか。
155へっくしゅん  ◆WBRXcNtpf. :2010/11/15(月) 22:45:07 ID:VRY4undd

そう思い、また一歩を踏み出した。その時だった。爆発音。そして、壁が崩れた。壁の向こうから強い光が漏れてきた。
「…な、に!?」
その衝撃で天井を支えていた柱が私の目の前に飛んでくる。
それは、避けきれない。無理だ。顔面にそれは衝突し、私の意識はどこかに飛んでいく。
 
☆ ☆ ☆
 
困ったものだ。鎧に掛けられている女神の祝福が消えてしまっていたとは。
自分の鎧は鉄球により凹み、砕けて使い物にならなくなってしまった。いま自分に残っているのは申し訳ない程度に残った兜だけである。
ディープスロート殿が使った方法はいったいどの様な方法だったか。それを調べる為、鉄球が飛んできた箱を調べる。
火薬の匂い、数発残った鉄球、そして鉄線に繋がれた引き金。
つまり、鉄線に引っかかると引き金が火薬を叩き、爆破される。その爆発によっても鉄球が幾つをも発射される。
それも、風よりも早く発射されるのだ。この様な物を考えるとはどの様な技術者なのだろうか。
さらに凄いのは、元々あった武器を上手く転用するディープスロート殿だ。やはりかなりの手垂れだったのだろう。
惜しい。なぜ、なぜ彼は浮かれていたのか。もし彼が普通の状況、精神状態で私と戦っていたとしたら、結果はわからなかっただろう。
しかし戦いというのはそういうものだ。油断すれば、死ぬ。
そうだ。それでいいじゃないか。彼は油断をしていて、結果、私に打ち倒された。何があったかはそれだけでいい。
だが、なにかが引っかかる。なぜ、彼は油断をしていたか。
彼は相当の手垂れだ。殺し合いという会場に急に呼び出されても、彼が軍人なら油断も慢心もしなかった筈である。
何故か。
「……拉致をした時間の違いか?」
ある考えが浮かんだ。私の最後の記憶はナドゥス城の戦いで、崩壊に巻き込まれた。あの崩壊により私は死んだ。
しかし実際は違う。あの時、ガウェインの息子、アイクと戦っていたのは確かに私だが、私の肉体ではなく、鎧と精神を送り込んだものだ。
私は死んだ訳ではなかった。そして精神が元の肉体に戻った矢先にこの催しが始まったのだ。
もしもの話だ。もし私があの時ナドゥス城の戦いで、仮初めの鎧で戦ったのではなく、生身の肉体で戦い、崩壊に巻き込まれたら確実に死んでいただろう。
そして、死んだ矢先にこの催しに招待されたら?
156へっくしゅん  ◆WBRXcNtpf. :2010/11/15(月) 22:46:02 ID:VRY4undd

わたしだったら、その時は喜ぶだろうか、それとも驚嘆と疑念に駆られ野垂れ死ぬのか。どちらかはわからない。
しかし驚嘆するのは間違い無い筈だ。死んだのにまだ生きている。これほど不思議な事はない。
つまりだ。彼が、ディープスロート殿が死んだ後に蘇生されこの催しにつれて来られたとしたら?
だとしたら彼は疑念と驚嘆に塗れた事だろう。そして私に敗れた。
「……馬鹿馬鹿しい。私が御伽話の様な事を考えるとは」
そう独り言を呟き、それを否定した。人が生き返るという事は絶対にありえない。
しかし、マルクは言った。願いを叶えると。人を生き返らせると。
奴は道化師だ。道化師は嘘と真を入り交え喋り人を欺く。奴の言う事など聞く奴はいない。
もし奴が蘇生術を持っていたら?そして時間を巻き戻せたら?そうしたら私は………
「……ふん」
 
☆ ☆ ☆
 
「……これは?」
漆黒の騎士の目の前には桟橋に止めてある三台のボートがあった。
橋を渡ろうと思ったが、視界にこれが入ってきたので気になって近くに来たのである。
しかし近くに寄ってよく見えたとしても漆黒の騎士にはこれがなんなのかがよくわからない。
「……一見、船に見えるがこの変わった舵はなんだ?それに帆も張られていないとは」
漆黒の騎士はこの変わった船はデイン王国、いや、テリウス大陸全体をもって尚見たことがなかった。それも当然だが。
その変わった船は漆黒の騎士の好奇心を突き動かす。
漆黒の騎士がボートに乗り込んだ。そして色々と調べる。エンジン、舵、船首…
そしてついにキーを手にかた。どうやら廻るみたいだ。漆黒の騎士はそれを回してみる。
「…!?これは!」
竜によく似た咆哮をあげる。もはやこれは鉄で出来た竜なのか。しかし呼吸は聞こえない。
舵に手を書ける。そして前に進んだ。
「これは爽快だ。海をこうやって自由に進めるとは。しかし…」
157へっくしゅん  ◆WBRXcNtpf. :2010/11/15(月) 22:46:51 ID:VRY4undd

初めてのボートだ。そして初めての運転。百戦錬磨の漆黒の騎士であってもこの異世界の乗り物は乗り回せないだろう。
ぐるぐるとその場を廻ったり、そして急に真っ直ぐに進んだり。
まるで舵を失った船だ。しかし、彼は仁王立ちをしている。舵から手を離して。
「…………やはり、慣れない物には手をださない方が良いな」
円盤に針が廻っている。ゆっくりと右に寄っていく。そして針は振り切る。それがスピードを指す物とは漆黒の騎士もわからないだろう。
やがて、船は、崖に向かって走り出した。このスピードでは大きな方向転換はもうできないだろう。
「…む、このままでは少々危険か?……いや、あれを利用すれば大丈夫か」
崖の少し手前にある岩に向かって、少し舵を切る。そして岩にぶつかる。
しかし、そのまま船は沈まずに、空を飛んだ。岩がジャンプ台の代わりになったのだろう。
そしてこのスピードにより、船はずっと高く、高く、高く、飛んだのだ。
その高さは崖を越える。
「初めての鉄の竜だが、上手くいくものだ。さて、空を飛ぶにはどうするのだろうか?この出っ張りか?」
いや、飛びませんよ漆黒の騎士さん。それは船です。竜じゃないです。
続いて、漆黒の騎士はボタンを押す。
船に取り付けられたライトが元気一杯に点灯された。
「やるではないか!魔法を使うとは!」
いや、魔法じゃないです。ただのライトです。
そして、着地地点は変わった建物。先ほどの場所はボロボロ墓場という墓地地帯だった。そしてこの近くの建物は、クツロギ温泉だろう。
そう頭の中で整理。空中で。
やがて、着地。壁を突き壊しながら滑りながら進む。漆黒の騎士は微動だにせず。
この程度で死ぬことはない。と自分で自覚しているから動かないのか。それとも本当に動けないのかどうかは誰も知らない。
「この音で参加者がこちらに来る可能性もあるがそれもいい。見事打ち倒してみせよう」
旅館が崩れる音は結構響いた。この音でこちら側に来る者は、殺し合いに乗ったものしかいないだろう。
唯の市民ならこちらの方向からは逃げていくだろう。
「……む?」
視線をしたに下ろすと、ずぶ濡れのメイド服を着た少女が居た。死んでいるのか。そう思い、呼吸を確認。どうやら生きているらしい。
少女の鼻は折れ曲がっていた。どうやらこの衝撃により破片が顔面に飛んできたらしい。
「……これは無礼な事をした。この償いはどうすべきか」
 
158へっくしゅん  ◆WBRXcNtpf. :2010/11/15(月) 22:48:38 ID:VRY4undd

☆ ☆ ☆
 
「爆発音、ではないな。この音は、船のエンジン音か。そしてコンクリートに、木造建築物……それの破壊音か?」
移動を続けていると、何かが壊れた音が響いた。迅速にその音を分析。
頭の中でシミュレーションをする。なんてことは無い。船が住宅等の建造物にに突っ込んだのだ。
しかし、船が建造物に突っ込む?どういう状況なのか。……いや戦場では何があるのかは予想出来ないのだ。
戦場で、常識を持ってはならない。あの女も妙な手品を使って瞬間移動をしたではないか。
常識なんか捨ててしまえ。この右手も、どうやってここにつれて来られたとかの理由も、どうでもいいことだ。
そこに参加者が居て、私が殺す。それだけでいいのだ。戦争は。殺し合いは。
私は焦燥を、快感を、緊張を。 
「それを感じればそれでいいのだ。そう、ここでは。」
リボルバー・オセロットは歩き出す。ただ、そこに居るものが逃げ惑う弱者では無い事を願おう。
 
☆ ☆ ☆
 
「あん?何の音だ?」
爆発音、にしては周りには煙が上がってはいない。つまり、この音は爆発ではなく、ただの破壊音だな。
あの餓鬼共だったら確実に殺してやろう。それ以外だったら、猫を被って利用をしてやろうじゃないか。
自分はここに来てからは興奮しっぱなしである。まるで新しい玩具を与えられたみたいに。
「あのマルクっていうには気に入らねえが、なかなか面白いことを考えてくれるじゃないの。」
入れ替わって運営するのもいいねぇ。そういえば、あの餓鬼から奪った支給品、まだ確認してなかったな。
………ん?剣が一つだけ?それに穴が開いていやがる。どこかに落としたのかあいつは。やっぱ餓鬼はこういうことをするから嫌いなんだ。
せめて俺の役に立てってんだよ。……『魔剣グルグラント』?へっ、たいそうな名前を付けやがる。
「……でけえんだよ。こんなもんどうやってつかえってんだ」 
この重さじゃ、自分では扱えない。デイパックにしまっておこう。……どうなってんだこのデイパックは。まあどうでもいいかそんなことは。さあてと行こうか。精々俺を楽しませてくれよ。

☆ ☆ ☆
 
159へっくしゅん  ◆WBRXcNtpf. :2010/11/15(月) 22:50:39 ID:VRY4undd

「咲夜さーん!咲夜さんってば!」
うーん。ここはどこなのだろうか。
「咲夜さん!やっと起きましたね!咲夜さんが珍しくお昼寝してるなんて…」
目の前には美鈴が居た。ここは…紅魔館? 
「あら、咲夜。珍しいわね。お昼寝なんて」 
それにパチュリー様もいる。やはり、ここは紅魔館なんだろう。 
「そんなんじゃあ、この館のメイドは務まらないわよ」
レミリア様まで。じゃあ、いままでのは夢だったのか。
「……すいません。私、疲れていたみたいですわ。」
そう、悪い夢だ。あの悪夢も、あの男も。
急にあんなところに招待されるなんてことは普通ありえないだろう。
そういえば、洗濯はもうしたのかしら。妖精メイドは私が居ないと全く働いていないから困る。
「すいません。この紅魔館に相応しいメイドとして、今日も善処します」
そうレミリア様に謝った。紅魔館の一日を、途中からだが、また始まる。
「え?紅魔館?なにいってるんですか咲夜さん」
そのときだ。美鈴が訳のわからない事を言い始めた。
「…?ここは紅魔館でしょ?なに言ってるの?美鈴」
そう返した。しかし、混乱は続く。
「寝ぼけているの咲夜?ここが紅魔館ですって?」
パチュリー様もまた、変なことを言う。
そして、続いて、レミリア様も。
「咲夜。ここはしっこくハウスでしょう?何を言っているの」
しっこくハウス?どういうことだ一体。
「レミリア様まで私の事をからかう気ですか?残念ですが、私はレミリア様が望む良いリアクションなんてできませんわ」
そう丁寧に返す。しかし返答は斜め上を行くものだった。
「レミリア様?なにを改まって敬称なんてつかって。いつも通りレミリアでいいのよ」
「そう。なんで私にも敬称を使っているのかしら。パチュリーでいいわよ」
二人とも訳の分からない事を続いて言った。
どこかが可笑しい。私はいままで二人を呼び捨てにしたことはない。
しかし、いままで敬称を使わずに呼び捨てをしていた事になっている。
なんだこれは。
「…レミリア様、パチュリー様、私を最後までからかう気ですか?レミリア様も、パチュリー様も目上の人だから敬称をつかっているのですわ。ましてやこの館の主であるレミリア様の事を呼び捨てになんてできません」
どこかが可笑しい。私は白昼夢でも見ているのだろうか?
あれが夢で、これも夢なのか?どれがどれだかわからない。
「私がこの館の主ですって?面白い冗談ね。あ、そろそろあの御方が起床するわ」
どうやら、私は悪い夢を見ているらしい。しかしあの出来事が夢で、これも夢で、
「咲夜さん、出てきますよ。あの扉から」
「咲夜、敬意をもちなさい」
「咲夜さん」
「咲夜」
「咲夜」
ここは紅魔館じゃない。いやだ。これは酷い夢に決まっている
やがて、扉から何者かがでてきた。
160へっくしゅん  ◆WBRXcNtpf. :2010/11/15(月) 22:51:47 ID:VRY4undd

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「やあ、(´・ω・`)ようこそ、しっこくハウスへ」
  
  
  
☆ ☆ ☆
 
161創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 22:53:53 ID:u/5OsAgv
支援
162へっくしゅん  ◆WBRXcNtpf. :2010/11/15(月) 22:54:18 ID:VRY4undd

「うわぁぁぁっ!………………………………………ゆ…ゆ、め?」
「起きたか。おはよう」
なんという悪夢だろうか。思わず飛び起きてしまった。なんだあのもふもふは。どうやら酷く疲れてるらしい。自分の思ったよりもだ。
ここはどこだろうか。どうやら布団の中にいるらしい。
布団から出て、周りを見渡す。……その時、初めて衣服を着ていない事に気付く。つまり全裸。
そこには兜を被った男が居た。
「私はデイン王国四駿、名は漆黒の騎士。どうやら私の無用心で貴婦人を怪我させてしまったみたいだ。
どうかこの無礼を許して欲しい……貴婦人、にはまだ若すぎるかだろうか?」
「……十六夜咲夜。咲夜でいいですわ」
どうやらこの男が突っ込んできたせいで私は気絶してしまったのだろう。
……つまりこちらの方が現実だったらしい。
あの夢の方が現実だったとしたらどんなにいいことか。
あの白いモフモフに仕えるのは嫌だが。
掛け布団で素肌を隠し、バスタオルの様に体に巻いて、隠すところは隠した。
この男はどこを見ているかはわからないが、私にだって羞恥心はある。
「咲夜殿。なにか償いをさせてもらいたい。そのまえに……」
「その前に貴方は殺し合いに乗っているのかしら?」 
刹那。話を切り、咲夜は男の後ろに回りこんでいた。そして手には宝剣ギャラクシアを持ち、男の首筋に当てている。
時間を止めて、移動したのだ。ついでに武器になりそうな物をデイパックから奪って。
看病をしてくれたが、この男が危険人物ではないと確証はない。安全の確保をするにはこうやって脅し聞くしかないのだ。
「……どうやったは知らないが。私はその質問に答えよう。乗っていないと言えば嘘になる」
男はこの瞬間移動に驚く素振りを見せるが、それは微小なものだった。その反応からこの男は場慣れしていると感じる。
「では、なぜ私を助けたのかしら?」
そう質問をした時、体が言うことを聞かなくなってきた。
…やばい。体力はあまり回復をしていなかった。時間を止めたのは失敗だったか。
「私は騎士道精神を重んじる。正々堂々とした戦いが望みなのだ。しかし咲夜殿を奇襲の様に怪我をさせては私の精神に反する。
さらにそれが女子供ならば尚更だ。」
「じゃあ、な…ぜ…?」
163創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 22:57:15 ID:u/5OsAgv
さるった…
164代理投下:2010/11/16(火) 00:35:32 ID:BDg/YBKD

聞きたいことは沢山ある。しかし意識がまたどこかに飛んで行きそうになる。
しかし、剣を落として、私はまた倒れる。
「……無理をするな。その瞬間移動の手品も体力を使うだろう。」
「はぁ…はぁ…私を…殺す…のか…しら?」
「それはしない。まだ償いをしていないからな。先ずは咲夜殿の鼻を治すとしよう」
「…鼻?」
その時に初めて自分の鼻の違和感に気付いた。触ってみると何かが可笑しい。まさか折れているのか。
そして、男が、なにかを取り出す。文鎮だ。丁度習字で使うような。
いや、ちょっとまて、まさかそれを。
確か鼻の骨折、脱臼の治療は麻酔も効かない物であり、更に鉄の棒を穴に入れて向きを修正するという荒療治ではなかったか。
それは想像を絶する痛みの筈だ。 
「…まって…心の準備が…」
「その体で私を襲う気力があるのだ。これぐらいの痛みは我慢できるであろう?」 
漆黒の騎士は私の鼻にそれを突っ込む。充分これだけでもいたいのに。
「では。歯を食いしばるがよい。……む?この様な錆びれた鉄棒では安心できないか?その点は安心するがよい。ちゃんと熱湯で消毒をしたものだ」
「ちょっ……!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そういう問題では無い、と突っ込みを入れようとした瞬間に言葉にならない痛み。
ゴリゴリと。 
「! ! ! ! !…!…! !い!あ!」
「戦場で鼻の骨折は命取りと言われている。圧力の関係で視界が可笑しくなってしまうからだ。最悪の場合は眼球が飛び出してしまう」
「んぐ!!!!つああああ!!!」
ゴキンと、私の頭の中で心地よい音が響いた。
そして、文鎮が抜かれると、鼻血が噴出す。
「元に戻ったみたいだな。意外と早く終わった。咲夜殿が動かなかったお陰だ。気絶しないだけ偉いぞ」
「あ…あ…あ…」
動きたくても、しっかりと抑えられて動けなかっただけだ。私はそのまま敷き布団に倒れる。鼻血を垂れ流しながら。まだ鼻がキンキンと響く。
もうなにも考えたくない。
「……さて、では本題だ。私は咲夜殿をもはや奇襲の様な形で怪我をさせてしまった。
なにか償いをしたい。なにをお望みか?……と聞いてみたが、痛みで耳には届いていないらしいな」
「……………」
答える気力なんてない。ああ、私が何をしたっていうのか。今日はなにかと運が悪い。
ぐっすりと休みたい。例えば温泉に入って。
 
「あ……温泉」
「温泉?」
165代理投下:2010/11/16(火) 00:36:54 ID:BDg/YBKD

☆ ☆ ☆
 
チャポン、といい音がした。
このクツロギ温泉で湯に漬かっているのは男女二人。しかし混浴というわけではなく、ちゃんと壁によって分けられていた。
咲夜は本当は露天風呂の方に行きたかったが、残念ながらそちらの方は湯が枯れていて入れなかった。
「咲夜殿。湯加減はどうか」
「最高ですわ。疲れが吹き飛ぶ、なんて言っても過言ではないかと。殺し合いという状況でなければ完璧ですけど」
本当にこの温泉はいい湯だ。ソリッド・スネークと戦った時の疲労は全て取れた。さすがに胸の骨は治らないが。
温度も丁度いい。頭痛もすっかり消え、冷え切った体を温めてくれる。お肌もつるつるになりそうな勢いだ。
……彼は温泉に入っても兜は外しているのか、とどうでもいい事を気にしてしまう。なぜか、一緒のタイミングで入ることになってしまった。
「咲夜殿。お望みはもうお決まりか?早く決めて欲しい」
「あら。レディに催促なんて。そんなんじゃモテないわよ。漆黒の騎士さん…本当の名前はなんというのかしら?名簿にも『漆黒の騎士』って記載されてるけど」
漆黒の騎士。名前に『の』が入るのは可笑しいだろう。どこからが苗字でどこからが名前なのか。
そんな疑問は生まれるわけではないが、この名前が正式な名前とは思えない。
「……ゼルギウスだ。……本当の名など、どうでもいいであろう?」
「私にとっては結構重要な事ですわ。情報というのは持てるだけ持ったほうがいいもの。
それと、望みについては出てからじっくりと考えることにします。ここから脱出する為の、ね」
情報、それがこの殺し合いで一番重要なものだろう。
しかしだ。こいつの話はまるで役に立たない。デイン王国?テリウス大陸?それにベオクにラグズ?
どこのファンタジー小説だそれは。……まさかこいつは『外の世界』以外の『世界』が存在するとでもいうつもりなのか?
馬鹿馬鹿しい、と一蹴りしそうになったが、自分の住んでる幻想卿も殆どそんな感じなのでやめた。
情報は情報。情報がなければこの会場で右往左往しながら死んでしまうだろう。まずは情報収集。次に首輪の解除だ。
今、体に身に着けているのはこの首輪しかない。
そして、向こうも身につけているのは首輪だけだろう。
漆黒の騎士、ゼルギウスは、殺し合いに乗っているのだ。
だから私がデイパックを自分が介抱されていた部屋に置いて来させたのだ。
これなら彼は私を殺す事はできないだろう。
それに、彼は、私に借りがあるらしく殺そうとはしてこないだ。
それならデイパックを置いてこなくてもよかった のでは。そう思うが、念には念をだ。そっちの方が安心だろう。
「……脱出?」
「ええ。あなたが殺し合いに乗っているのが当たり前の様に、私はこの会場から脱出するのが当たり前なのよ。
……まさかどこかのオジサマみたいに殺さない方が可笑しいだなんて、貴方は言わないわよね?」
「脱出、か。面白いではないか。見事、成功することを願おう」
予想外の返事が返ってきた事に自分でも驚いた。殺し合いに乗っているのに、私を殺さず、そして脱出を願う?何を言っているんだ。
「……よくわからない人ですわ。貴方の意図がよくわからない。私を混乱させてから殺そうっていう魂胆?」
「咲夜殿。何度も申しあげるが、私は騎士だ。その様な卑しいやり口は好みではない。正々堂々と戦う事が私の望みなのだ。咲夜殿が脱出しようがしまいが私には関係無い」
壁の向こうから強調する様に返答が来る。つまりだ。この男は戦闘狂だ。ソリッド・スネークよりは良心的な戦闘狂。
危険人物である。ここで始末してしまおうか。知り合いに被害がでても良い気分ではないだろう。
しかし、この男は私に借りがあるのだ。もっとも勝手に借りていかれた、という代物だが。
償いをしたいと私に言うのだ。まだ、利用価値がある。脱出の手立てに仲間が居れば心強い。
166代理投下:2010/11/16(火) 00:39:53 ID:BDg/YBKD

「ねぇ、漆黒の騎士さん。私の望みがが『殺し合いをやめろ』だったらどうするかしら?」
「出来ぬ相談だ。償い、といってもそれ相応の償いしか私は出来ない」
「あら、『出来ぬ相談』ですって?それに『それ相応』?こんな少女を怪我させて、服を脱がせて痴態を晒させて、挙句の果てに酷い荒療治で死ぬほどの痛みを味あわせたのよ」
「咲夜殿。調子に乗るな。私は騎士だ。戦うことしかわからない騎士だ。それなのに『殺し合いに乗るな』?馬鹿も休み休み言え。それに私はもう一人、葬っている。もうその願いは聞き入られない。
そうしなくては私が葬ってきた者が報われないのだ。だから私は咲夜殿に償いをしたくてもそれだけは絶対に出来ない」
「では、『殺し合いに乗るな』では無く、『脱出を手伝う』っていうのはどうかしら?良い案でなくて?勿論、私だけじゃなくて知り合いも…」
「いい加減にしろ。私はそこまで言う事を聞く様な犬ではない。それ相応、と言っただろう。戦場では骨折や想像を絶する痛みは当たり前だ」
……駄目だ。こいつは。交渉決裂。こちらも譲歩したというのに。こいつは根っからの戦闘狂ではないか。もはや、交渉の余地は無い。
「……先に部屋に戻ってるわ。そのあとで、また交渉を再開しましょう」
 
☆ ☆ ☆
 
交渉を再開する気など、無い。とっととここをおさらばしよう。ついでにデイパックを奪って。
……濡れたままのメイド服がデイパックの隣に丁寧に畳んで置いてある。凹んだ防弾チョッキと、下着も。
あの男が黙々と脱がしたのだろうか。想像をしたくない。あの男は『かっこいい』部類にはいるだろうが、それはそれで嫌だ。デリカシーが無いじゃないか。
代わりの服を見つけて早く知り合いを探そう。
デイパックを担ぐ。もちろんゼルギウスの物もだ。
「……望みはあなたのデイパックってことにしておきましょう。それであなたは納得するわよね」
それを独り言の様に呟いた。彼は償いをしたいと言っていた。それならこれぐらいはしても怒られはしないだろう。
そう思い、部屋から飛び出す。早歩きで。(走ると巻いた布団がはだけるから)
彼だってのんびりと温泉に漬かってる訳ではないだろう。こちらの意図に気付いて戻ってくるかもしれない。
早く服を探さなければ。
だが、想像通りに上手くいかないものだ。
それは旅館の廊下を飛び出した時だった。あの嫌でも耳に残る音がまた鳴った。
 
銃声。

167代理投下:2010/11/16(火) 00:41:02 ID:BDg/YBKD

その音が響いた瞬間、壁に銃創が出来上がる。ああ、なんてことだ。後ろを振り向くと老人が銃を持っていてそこに立っていた。
「あら、そんな姿をしていたのね。私、スネークさんの姿を見れて大変嬉しいですわ。出来たら二度、いや一度も見たくなかったけど。近眼で外してくれて大変助かるわ」
「生きていたか小娘よ!……外した?いいや、わざとだ!頭に当たって、一発というのもあっけないだろう!?」
最悪の展開だ。やはり今日の私は運が悪いらしい。夢の中でも、現実でも。なんでこうタイミングが悪いのだ。
しかも今は防弾チョッキを着ていない。あの威力であの速さの弾を喰らったらひとたまりもない。
唯一の安心点は弾幕では無い事ぐらいだ。だが、私はあんなものと正々堂々と戦う程の無鉄砲ではない。ここは逃げる方が得策だ。
「この私を欺くとは、とんだ手品師だ!いや、魔術師かっ!?それとも超能力者っ!?いや、そんなことはどうでもいい!今一度楽しもうではないかっ!この緊張をっ!」
「丁重にお断りさせて頂きますわ。私にはそんな暇ないですの」
オセロットが銃を向け引き金に手を掛けたその瞬間、咲夜の姿が消えた。 また銃声が鳴り、壁に銃創を作る。
どこに消えたのだあいつは。オセロットはその疑問を浮かべる。
その咲夜も、時間を止める度に体力を使うのだ。先ほど、温泉に入って大分楽になったものの、時間を操る為にはやはり体力を削る。
長い時間を止められないから近くの部屋に逃げ込むくらいしかできなかった。その部屋の襖に小さく隠れる。
「……くくく。どこに隠れた?私には聞こえるぞ!お前の心音が加速していくのがな!」
隠れた矢先にその言葉を発する。こちらの方の戦闘狂は気でも違ってしまったのか。どの様な環境で育てばこうなるのかが気になるわね、と思う。
実際、心臓音は加速している。緊張を楽しもうだって?こんな吐き気を催す様な緊張なんか感じたくない。
こうなってしまってはあの銃と戦うことも考えなければ。デイパックの中に入った使えそうな武器は剣が二本。ナイフだったらいいがそんな贅沢なんか言ってられない。
それを取り出し、構える。
そして奴は、この部屋に入っていた。
「どこだ?隠れてるだけではどちらも緊張を楽しめないぞ?」
また奴が言葉を発する。このままどこかに行けばいいのだ。が、私はとんでもないミスを犯してしまう。
能力の使用により、削られた体力は呼吸を荒くさせた。それがいけなかったのか。
胸の骨が肺を圧迫させ、息がむせる。そして。
「………………………ごほっ」
「そこか!」
なんてことだ。居場所がばれてしまい、奴はゆっくりとこちらに近づいてくる。襖の隙間からそれが見える。
もう逃げる場所は無い。奴がこちらに銃を向ける。万事休すか。だが、ただでやられるほど私はお人良しではない。
襖を破り、剣を投げた。投げナイフを投げる様に剣を投げた。重かったが、それでも目標には向かっていく。
しかし、奴は軽々と避けた。
「…………拍子抜けする。なにか奥の手があると思ったが、ただ、剣を投げてきただけだと?……つまらん」
「………私と戦う事は貴方に利益は無いわよ。そんなに戦いたいなら、その後ろの人と戦えばいいのではないのかしら」
その時、オセロットは気付く。後ろを振り向くと漆黒の兜を被った男が立っている。こいつはいつからいたんだ?
咲夜はオセロットに剣を投げた訳ではなく、漆黒の騎士に投げ渡したのだ。
「漆黒の騎士さん、あなた、私に償いをしたいのでしょう?なら、私を助けて、というのはどうかしら?」
「了解した。それで私の罪が晴れるなら軽い物だ。ただし次に出会うことがあったならば、その時は咲夜殿、私と正々堂々と戦っても貰おう。」
ついでにデイパックもくださいな、と心の中で付け足す。もう二度と会いたくない。
私は二人の間から、その部屋を抜け出した。
 
☆ ☆ ☆


168代理投下:2010/11/16(火) 00:42:08 ID:BDg/YBKD


「……私はデイン王国四駿、漆黒の騎士。貴殿はなんと申す?」
「ほう、今から殺し合いをするというのに、名を名乗るだとっ!?面白い男ではないか!それに、私は銃だというのに、お前は剣だっ!どうやって戦うのか見ものじゃないかっ!
まるでドンキホーテ、或いは後先を考えないコヨーテだっ!いいだろう、冥土の土産に教えてやる!私の名はソリッドスネーク!さぁ!殺しあおうじゃないか!」
「よく喋るではないか。これから殺し合いだというのに。面白い男だ」
戦いが始まる。二人は似たもの同士であって、対極の位置にいる。
銃が漆黒の騎士に向けられ、引き金が弾かれる。
「……なんだ!?」
「『なんだ!?』だと!?まさかお前も銃を知らないとでもいうのか!?」
漆黒の騎士の右腕に銃創が作られる。いままで感じたことが無い痛みだ。槍以外で作られる貫通傷は騎士を驚かせた。
漆黒の騎士はオセロットに剣を振り回すが、それは中々当たらない。間合いが足りない。また、一発、一発、一発。次々と漆黒の騎士に当たる。
しかし、オセロットはなにか違和感を感じた。
奴の心臓を狙っている筈なのに、当たるのは腕や脚部ばかりである。それに、この銃はデザートイーグルだ。この口径の銃は象を一撃で気絶させる程の痛みがあるのだ。
しかし、奴は立っている。悲鳴も上げずに、そこに立っているのだ。
カチ、と音が鳴った。弾切れだ。
「……小さな大砲の様な物か。ディープスロート殿が使った物によく似ている。生きていた中で一番の痛みかもしれんな」
「……冗談にしか聞こえんぞ?それにディープスロート、だと?」
まさか、こいつは、標準をずらしているのか?体を捻って、致命傷を避けているのか?ありえない。
いや、それでもデザートイーグルの痛みに耐えられる訳が無い。
「次は、私の番だ。―――――――――月光」
その時だ。奴が間合いを物凄いスピードでつめて来た。
そして、剣を自分に振り向ける。
これは、受けられるのか!?
「ぐっ!」
なんとか、銃で剣を受け止める。
しかし、なんて力だ。これは、受け切れない
「ぐああああ!」
体ごと、吹っ飛ぶ。そして、壁に自分のシルエットを刻む事になった。
こちらも攻撃を再開しなければ。しかし、銃弾を込める暇なんかない。奴は剣だ。刃物に弾切れなど存在しない。
「私の奥義を受け止めるとは、ご老体の身でなかなかやる。しかし私の敵ではない!」
やつが剣を上げ、ゆっくりとこちらに近づいてくる。早く体を動かさなければ胴体と首は二つに分かれるだろう。
しかし、腕が壁にめり込み、動かない。それも切られた筈の腕だった。なんという皮肉だろうか。
「スネーク殿、見事であった。貴殿の名を私の記憶に刻み、二度と忘れない」
「……ぐっ、こんなところで死ぬわけにはいかないっ!ビックボスの開放、そして新しい秩序の為にっ!死ぬわけにはいかんのだあああああああああ!」
奴が剣を下ろす。そして、それは自分の頭部を―――――
その時だった。自分がめり込んでいる壁の反対の方から、黒い球体の様な物が突っ込み、漆黒の騎士、そして自分もそれにあたり、吹き飛ぶ。
そしてあの女、十六夜咲夜も吹き飛ばされた物の中にいた。
 
☆ ☆ ☆


169代理投下:2010/11/16(火) 00:43:17 ID:BDg/YBKD

「…あった。下着はないけど、まぁしょうがないわね」
すぐ近くに戦闘音が聞こえるので一刻も早くここから脱出したいが、服がないのだ。
この布団一枚の状態で外にでたらまた体調を悪くしてしまうだろう。そんな状態で襲われたくはない。酷ければ強姦される。
見つけた服は和服だった。稗田の子が着ているようなものである。これを着こなす自身はないが、無いよりはマシだろう。
着る方法はちゃんと身に着けてある、仮にも紅魔館のメイドだ。覚えていて一度も役にたったことはないが、こんなところで役にたつとは。
すばやく着た。脱ぐという動作は殆どなかったので、あっさり終わった。贅沢言うが下着も欲しい。
さすがにここには下着はないだろう。多分この和服は女将さんが着るようなものだと思う。ちなみに凹んだ防弾チョッキも着た。
地図を見る。ここはE−2か。自分は町に向かっていると思い込んでいたが、どうやら方向を大幅に間違えたらしい。
そしてデイパックに方位磁石が入っていることもすっかり忘れていた。なんというミスだろう。
こちらに来なければ、鼻の骨を折り、荒療治されることも、ソリッド・スネークに会う事もなかっただろうが。
しかし過ぎた事をごちゃごちゃ言ってる場合ではない。次に自分がすべきことを決めなければ。
私の知り合いが集まりそうな所。とっとと知り合いと再開して脱出方法を見つけ異変解決しなければならない。
ここは幻想卿じゃない。つまり、スペルカードルールもへったくれも無い。弾幕も放てない。そして美しさとか、そんなものもない。
下手すれば死ぬ。つまり、妖怪でないかぎり自分の命が危ないのだ。
私の主はきっと太陽光を遮る所にいるだろう。町とか。……他の知り合いは、多分大丈夫だろう。
どうせあの魔法使いは、キノコ集めとか行って森にでも向かってるのだろうか。それとも霊夢は神様が居そうな所にいるとか。
自分にしては馬鹿馬鹿しい考えだ、と思い廊下に飛び出す。
その時だった。
「ねえ、お嬢さん。こんなところでなにをしているんだい?」
男の声に気付き、後ろを振り向く。
そこにいたのは青年だった。身に着けているのは外の世界の職業『サラリーマン』が着る物だ。
「ここ、戦闘音が聞こえるね。君も早くここを離れよう。こっちだ」
青年は良い人そうだ。こちらの身を案じてくれている。
しかし、この男は何かが可笑しい。どこか、『演技臭い』のだ。
だから私はこの男に付いて行く事はできなかったのだ。
「君、どうしたの?ここから離れないと巻き込まれるかもしれないよ」
「……あなた、なんでデイパックを二つ持っているのかしら?殺して奪ったとか?」
一つ、ブラフを掛けてみよう。しかし彼は動揺はしない。
「これかい?これはタケシっていう少年が持っていたものさ。死んでしまったけどね。守りきれなかったんだ……」
「……そう。貴方、名前は?」
悲しそうな顔をする。しかし、どこかが演技臭いのだ。信用できない。
「僕かい?僕の名前は足立透。警察だよ」
「警察?……ああ、自警団みたいなものね。で、あなたはなぜここに向かってきたの?」 
「ああ。それは、ここから爆発音が聞こえてね。一般市民がいるかもしれないと思ってここに来たんだ。そしたら君みたいな和服の美人さんを見つけた訳さ」
「………その服に付いている血はなに?」
「なっ!?」
彼は自分の服を見回す。まて、俺は電撃で奴を殺した筈だ。血など付いていない筈。
170代理投下:2010/11/16(火) 00:44:22 ID:BDg/YBKD

「……冗談よ。なのに、何故そんなに慌てたのかしら」
「そ、それは、このスーツが奥さんから貰ったものだから、汚しちゃいけないと思ってさ」
「それなのに結婚指輪はしていないのですね。先ほど、あなたは少年を守りきれないと言ってたけど、どんな人に襲われたのかしら?」
彼は、足立透は黙った。
「それに、爆発音がしたからこちらに来た?なにを言ってるんだか。あなたから正義感なんか微塵も感じられないわ。少年が死んだのなら、普通、墓ぐらい作るでしょう?それなのに貴方は土埃すらついていないわ」
「そ、それは精一杯だったんだ。あいつから逃げたから墓なんて作る暇なんか」
「墓を作る暇はないのに、デイパックは回収したのね。面白いお方だこと。はやく、誰に襲われたか教えてくれないかしら?」
また黙った。こいつは、この殺し合いに乗っている。私のことを騙すつもりだったのだろうか。私を騙すなんて百年早い。
「…………誰に襲われたかって?」
急に彼の雰囲気が変わる。先ほどの明るい感じはどこにいったのか。
いや、こちらの方が彼にとって正しいらしい。
「こいつだよ!」
奴が苦しそうになにかを搾り出す様な動作をする。彼は頭を抱える。そして、彼の目の前になにかが現れる。
「……これは!?」
こいつはなんだ。人の形をしたものが出てきた。薙刀を持っている。妖怪か?いや、違う。これは、人形の様なものか?
 
――――――――マハガルダイン
 

「がっ!?」
私の体が衝撃波により、吹き飛ぶ。そして、壁に叩きつけられた。
「ゴホっ、ゴホっ、ゴホっ」
息ができない。時間を止めなければ。しかし、止められない。息が詰まり発動できないのだ。体が動かない。
「やっぱぁ、餓鬼は嫌いだ。世間じゃお前みたいな奴を『マセガキ』って言うんだぜ。大人を馬鹿にしやがって」
謎の生物は消えた。足立透が何かを取り出し、床に投げつける。その玉は霊夢を彷彿させる。
玉から黄色い生物が出てくる。その生物は愛らしく、抱きつきたくなる様な生物だ。
しかしその生物をこいつがもっているのだ。きっとろくな生物ではない。
「ピカ……」 
「おい。ピカチュウ。ボルテッカーだ。まったく、騙して殺してやろうと思ったのにな。大人に逆らうとこうなるってことを教えてやるよ」
その生物は嫌そうに自分の周りに黒い玉を発生させ、やがて大きな黒い玉を生成する。
その黒い玉は私に体当たりをしてきた。
それは避けきれない。体さえ動かせば。
私は悲鳴さえ上げられなかった。

171代理投下:2010/11/16(火) 00:45:24 ID:BDg/YBKD
 
☆ ☆ ☆
 
「何者だ?奇襲をするとは、下衆が」
「ハハハ、兜だなんて、本物を始めてみたよ。どこの原始時代から来たんだかわからないねぇ」
「ぐ……新手か。……それも日本の、ビジネスマンだと?」
「ゴホっ、ゴホっ……最悪、の、状況。ね……」
「ピカ……ピカピ…」
息ができない。そしてこれは、電気か?体が遂に痛覚が麻痺をした。
上手く動かなくなっている。立ち上がるのも一苦労だ。
この和服と防弾チョッキのお陰で、直撃を回避できた。肌を露出している部分が少なく、絶縁体で厚手の物だったからだ。もしメイド服のままだったら死んでいた筈だ。
それでもこの威力はないだろう。体中がピクピクと痙攣している。
この状態で、殺し合いに乗った奴ら三人に囲まれているのだ。最悪最低の状況だ。あの生物、ピカチュウは申し訳なさそうにこちらをみていた。
「漆黒の騎士よっ!お前はさっき『ディープスロート』と名乗る奴と戦ったのか!?あの死に損ないと!?」
「そうだ。彼はとても強かったが、私の敵ではなかった。……死にぞこない?やはり私の予想通りか」
「面白いじゃないかっ!死人が歩き、戦うとはっ!あの生物は、マルクは、もはや新しい秩序よりも素晴らしい者を与えてくれるかもしれんっ!」
二人の戦闘狂は私達が突っ込んできたのにも関わらず話を続ける。
「おいおいおい、なんだ?死者蘇生?面白いじゃないの。奴は神様か何かだってことか?ハハハ、もしかしてマヨナカテレビのアレも神様によるものだってことか!?もう最高じゃないか!」
「ゴホっゴホっ…神様なんてそんな珍しいものじゃないでしょう」
足立がその会話に割って入り、訳の分からない事をいう。
私はそう突っ込みを入れるが、それがいけなかったのか、スネークは私の方を見てきた。
「珍しくは無い、だと!?面白い事を言うじゃないか小娘よっ!まるで神様と友達みたい言い草じゃないかっ!」
「ゴホっ……あなた達は外の世界の人間だから神様なんか信じてなんかいないでしょうけど」
「ハハハ……自分が異世界出身だってことを言い回す関わりたくない子、か。そういうの同級生にいたなぁ。知ってるか?こっちの世界じゃ君みたいな子を『中二病』っていうんだぜ」
足立が皮肉たっぷりにそう言った。私も貴方達とは関わりたくない、と悪態を付く。
正直ここから逃げ出したい。しかし電撃のせいか体が上手く動かない。これ以上時間も止められないだろう。弾幕も放てない。
絶対絶命だ。持っている武器は湿った手榴弾と黄金の剣。どうしようもないじゃないか。
「……私にとって、神などどうでもよい。戦えば充分じゃないか。青年よ。今一度名乗ろう。
私の名は漆黒の騎士。正々堂々と手合わせ願おう。咲夜殿も、ここであったのが二度目だ。全力を尽くしていただく。」
「名乗っているのに固有名詞か。変な奴だな。それが本名だとしたら
俺だったら親に抗議する為に自殺するね。あ、俺の名前は足立透。警察官さ」
「平和ボケしたあの国の警察か!あの国は駄目だ。平和ボケしすぎて侵略する気にもならん!
お前が軍事訓練などもしていない身でどうやって戦うのか見物だなっ!それにその黄色の生き物はなんだっ!?
遺伝子操作された犬か?それとも猫か?はたまた鼠か?なんにせよその電撃はメタルギアを凌駕するかもしれんぞ?私の名はソリッド・スネーク!楽しもう!この緊張を!」

172代理投下:2010/11/16(火) 00:47:14 ID:BDg/YBKD

漆黒の騎士は私も敵としてみていた。やっとのことで立ち上がる。
私はどうすればいいか。デイパックから手榴弾を取り出す。
もう逃げる事は無理だ。それならなにもしないで殺されるより戦って死ぬ方がいいだろう。
「俺から行かせてもらうぜぇ!」
先手は足立が切った。またあの人形が目の前に現れる。そして同じような衝撃波が飛んできた。
私はまた壁に叩きつけられる。漆黒の騎士は尚、受けきる。スネークはその衝撃波を受けたが、壁に向かって受身を取った。
「お前も超能力者か!面白いじゃないか……!?」
受身を取ったオセロットに漆黒の騎士が近づく。
「月光」
「ぐっ!」
オセロットはそれをなんとか避けた。その剣は壁を真っ二つに割る。
「またも避けるか。これはそう何度も使える技じゃないのだ。それを二回も避けるとはよくやるじゃないか」
「そうか、混戦だからな。いかなる状況であっても安心なぞしてはいけないのを忘れていたっ!私に弾を込めさせる暇を与えぬお前もよくやるじゃないかっ!」
そのときだ。足立が二人の所にピカチュウを差し向ける。
「ボルテッカーだ。ピカチュウっ!」
「ピカ……」
その二人に向かってピカチュウがまた黒い玉となり体当たりをしかけた。二人はそれを間一髪で避ける。
壁は完全に壊れた。
その時だ、私にある考えが浮かぶ。思い立ったら直ぐに行動に移すのが私の性分だ。手榴弾2つを壁に投げつけた。
屋根を支えてる壁はあと二枚だ。あと一枚壊せば完全に崩れるだろう。壊せば形成を逆転するかもしれない。
しかし、爆発はしなかった。
やはり湿った手榴弾では駄目なのか。他の手は無いのか? ふと三人の方を見る。漆黒の騎士と足立は戦っている。
漆黒の騎士は今まで通り剣で。足立はあの人形で、或いはピカチュウを仕えて。……まて!スネークはどこ行った!?
「小娘っ!何をボーっとしている!?ここは戦場だ!そこは蚊帳の外ではないぞっ!」
「なっ!?が、は、あ、あ、」
首を透明の片手で掴まれる。また光学迷彩か。それで私は息が出来なくなる。息苦しい。
このままでは窒息死だ。
「が、あ、は、」
「苦しいか?苦しいだろうっ!女子供が戦場に来る方が悪いのだっ!殺されても、或いは強姦されても誰にも文句は言えんっ!」
スネークがそういいながら腕に力を更に加える。ヤバイ。私の意識は、このまま、消えてしまう。
その時だった。
「…なっ!?ゲホっ…ゲホっ…ゲホっ…」
「このまま呆気なく死ぬのもつまらんだろう?抵抗して精々私を楽しませてくれ!」
スネークは首を絞めるのをやめた。こいつは、最悪だ。まさか趣味が拷問とか言わないだろうな。
「ゲホ…ぐっ!?」
スネークはそのまま私の腹部に蹴りを入れる。なんて蹴りだ。
私はそのまま手を突いてしまう。
「オエっ……ゲホ…ゲホ…」

173代理投下:2010/11/16(火) 00:49:16 ID:BDg/YBKD

嘔吐物が私の顔の前に飛び散る。そこには少し血も混じっていた。
もう駄目だ。しかし、唯でやられるわけにはいかない。ここで、賭けに出よう。
私は、最後の力を振り絞り、時間を止めた。
すぐさま、剣を拾い、手榴弾の方に投げつけた。手榴弾に剣が刺さった。
衝撃を与えれば爆発をする筈だ。
そして、時は動き出す。
「……!?またあの手品か!だがここから逃げるのには至らなかったなっ!」
「あ、ま、た、ぐ、あ、あ、あ」
スネークはまた私を掴み、首を閉めてきた。
早く、爆発をしろ!
私は手榴弾の方を見やる。
しかしだ、手榴弾は、爆発しなかった。
「もはやお前は捕虜にもなりはしないっ!ここで死ね!」
先ほどよりも強い力で首を絞められる。
もう悲鳴も出ない。ああ、私はこんなところで死ぬのか。
もう、目を瞑ろう。ここから足掻いたって、この状況を覆すのは無理だ。
「お前もやるじゃねぇか!だが、ここで終わりにしてやる!ピカチュウ!ボルテッカーだ!」
「足立殿もなかなかやるではないか。その人形と犬を仕えて戦うとは。騎士ではなく、軍師拠りの戦いだ」
二人の声が聞こえる。なんだ。まだ彼らは戦っていたのか。幻想卿ではありえない光景だ。
私の主なら、この戦いについてこられるだろう。
…なんだ。レミリア様の事を思い出すなんて、これは走馬灯と呼ばれるものだろうか。
ああ、レミリア様。最後まであなたに仕える事が出来ませんでした。申し訳ないです。

174創る名無しに見る名無し:2010/11/16(火) 00:58:31 ID:I/7cqpFm
sienn
175代理投下:2010/11/16(火) 13:44:01 ID:4Lpy1liW
 
 
 
【十六夜咲夜@東方project 死b―――――――――――――――マハガルダイン】
 
  
 
……え?
また、あの衝撃波が来る。
どうやら、足立はピカチュウのボルテッカーに自分の人形が出す衝撃波を被せ、漆黒の騎士の戦いに終止符を打とうとしたらしい。
その衝撃波は手榴弾に刺さった剣を少し進めさせた。
勿論その先に待つのは爆発である。
「なんだとっ!?小娘っ!!まさかこれが狙いだったかのかっ!」
「……ほう。戦場そのままひっくり返すとは。」
「おいおいおい!勘弁してくれよっ!どうなっちまうんだ!?」
そのまま、屋根は崩れる。私達はそれに覆いかぶされられた。
176代理投下:2010/11/16(火) 13:44:59 ID:4Lpy1liW
 
☆ ☆ ☆
 
「………っ、っ、っ、……っ」
意識を取り戻す。咽るが音がしない。声を出そうとするが声がでない。
どうやらスネークのお陰で声帯が潰れたらしい。何てことだ。
しかし、自分は生きている。不思議な気持ちだ。これは現実なのか。
「………っ!!ひゅ、ひゅ、」
腹部と肺の痛みが私を突き刺す。やはり現実らしい。声は出ず、風が喉を通るだけである。
ここは瓦礫の中だった。しかし私のいる所は奇跡的に空洞になってた。他の三人は巻き込まれて死んだのだろうか?
自分だけ生き残ってるなんてなんて運がいいのだろうか。あの時、足立があの技を使わないかぎり死んでいただろう。
しかしよく見ると所どころ火がついている。このままでは火消しでもこない限り炎上確実だろう。100%パーセントこないだろうが。
ここを急いで出なければならない。
「ピカ、ピカピカ?」
「…?」
ふと横を見るとあの足立に仕えていたピカチュウがいた。
不思議な表情でこちらを見ていた。申し訳なさそうに、また心配そうに。
ピカチュウは、あの紅白の玉を持っていた。
「ピカ、ピカピカチュウ、ピカ?」
どうやら、連れて行ってくれ、と言っているらしい。
いいわ、どうせ足立にも無理やりやらされたのでしょう。心の中で許可を出す。
その紅白の玉を持つと、その紅白の玉は赤い光を出し、ピカチュウを吸い込んだ。
どうやらこの玉は、召喚魔法の様なものらしい。幻想卿で召喚魔法は見たことがないが。
さて、これからどうすればいいのか。
正直、ぐっすりと眠りたい。それかあの温泉にもまた入って、体力を回復させたい。
それが出来ないのが凄く悔しい。早く、主に、知り合いにも会いたい。
「……っっっっ!」
へっくしゅん。そう声が出る筈だったが声帯が潰れてるのでそれはでなかった。どうやら風邪をぶり返したらしい。
せっかく温泉に入って体を温めたのに。またお風呂に入りたい。しかしそう我儘言ってる場合でもない。
自分のすべきことは、町への移動だ。風邪を弾こうが襲われようがすべきことはしなければならないのだ。
瓦礫を慎重に片付ける。下手すれば崩れ下敷きだ。せっかく拾った命だ。つまらないことをして死ぬことはしたくない。
やがて自分は外の光を浴びれた。
太陽が出ている。どうやらもう朝らしい。つまり、もう少しで放送だ。知り合いの名前が呼ばれないことを祈ろう。
177代理投下:2010/11/16(火) 13:45:45 ID:4Lpy1liW
……ここは幻想卿ではない。ここは戦場だ。そう心の中に刻む。
よく考えたら幻想卿は平和すぎたのではないのだろうか?
ここはどうなっている?老人がくだらない理想を掲げ、絶滅寸前の騎士道精神をまだ持っている騎士に、分かりやすい芝居をする警察官。
彼らが幻想卿にいれば笑いものになるだろう。だが、ここは戦場だ。彼等にとってそれが当たり前。
私が異常なのだ。彼らの方がここでは有利だし、きっと彼らは心のどこかで私を笑いものにしているだろう。
油断はしていては駄目だ。幻想卿の常識は捨ててしまえ。
 
「………ひゅ、」
 
声に出して、それを決意しようと思ったが、声はでなかった。風が虚しく喉を通過する。
私はそれが馬鹿らしくなり、それをやめて歩むことにした。
目指すは町。放送は移動中でも聴けるだろう。急がなければ私の命が危ないから。
私は、得体の知れない武器で襲われ、川に落ちようが、鼻の骨が折れてそれを無理やり治療されようが、電撃を浴びて体が麻痺しようが、屋根が落ちてきて下敷きにされようが、まだ生きているのだ。次は確実に死ぬだろう。
先ほどまでは自分が運が良いのか悪いのかわからなかったが、確実に今は言い切れる。私は運が悪い。
  
【E-2/半壊したクツロギ温泉/早朝】
【十六夜咲夜@東方project】
[状態]疲労大、胸骨にヒビ、風邪、鼻の骨の陥没(治療済み、衝撃を与えるとまた陥没する恐れあり)腹部に痣、吐き気、
まひ(痛覚や触覚が鈍っている、体が上手く動かない)、声帯の潰れ(声が出せない)、下 着 を つ け て い な い
[装備]和服、防弾チョッキ
[道具]支給品一式(食糧はなし)、ピカチュウ@ポケモンシリーズ、自分の衣服(濡れている)、
[思考・状況]基本方針;ピエロを倒して異変解決。油断はしない。幻想卿の常識は捨てる。
0:……………ひゅ、
1:知り合いを探す為に町へ向かう。放送は移動しながら聴く。
2:ソリッド・スネークに報復する
※リボルバー・オセロットを視認しました。また、リボルバー・オセロットのことをソリッド・スネークだと思っています
※漆黒の騎士の名前を聞きました。
※FE世界の事を聞きましたが、信じてません。
※漆黒の騎士、ソリッド・スネーク(リボルバー・オセロット)、足立透は死んだと思ってます
 
☆ ☆ ☆
178代理投下:2010/11/16(火) 13:46:31 ID:4Lpy1liW
十六夜咲夜がこの旅館から脱出して数分後。
瓦礫の中から、勢いよく誰かの片手が飛び出した。
そして今度は体全体が出てきた。リボルバー・オセロットその人であった。
「ふ、ハハハハハっ!面白いじゃないかっ!小娘よっ!負け犬に相応しい死に方だっ!他を巻き込み自爆とはっ!」
そう瓦礫の中に向かって叫ぶ。リボルバー・オセロットもまた瓦礫の空洞に身を潜めていたのだ。
面白い。面白い。面白い!この緊張は、なんだいったいっ!?どの闘争よりも、また拷問をしている時よりもこの快感は、緊張は、焦燥は味わえないっ!
それに、『サイボーグ忍者』、グレイフォックスだと!?死人がこの会場に呼ばれている!?
どうなっている!?まさかVR(バーチャル)か!?いやVRでもこの緊張は生みだせん。
では、あのマルクは言った『願いを叶える』というのは、本当だったのか。
どうせ嘘だろうと思いこの遊戯で一人になったらマルク諸共拷問にかけて殺してやろうと思ったが、嬉しい誤算だ。
面白いっ!新しい世界、新しい秩序、自分の思い描く世界が滝の様に出てくる。
ロシア再建だとっ!?馬鹿馬鹿しい!私の夢は、理想は―――――――――――――――
その為には一人になるしかないのだ!
そうと決まればこの銃に変わる武器を見つけなければ。
先ほどの戦いでは、あの騎士、漆黒の騎士に苦戦した。このデザートイーグルを喰らって尚、立っていたのだ。
何者だあの男は?弾のリロードの暇も無い戦いだ。
あの超能力者も、あの遺伝子操作された生物も自分にとっては初めての物だ。
弾の無い銃ほど役に立たないものは無い。脅すぐらいはできるが、それも餓鬼の考え。脅しで勝利などつかめない。
刃物は趣味ではないが、それがあれば有利になるだろう。それに弾にも限りがある。
「む?これは……皮肉か?くっくっく」
右手に木片が刺さっていた。それは引き抜くことができない。しっかりと刺さっていたのだ。
皮肉。この右手は、あのリキッドの手を移植したもの、だった筈だがここに来て自分の手だと気付く。
あのマルクが再生させたのかは知らんが。やはり最初から無かった物は使えなくなる運命なのか?
面白いじゃないか。この右手を守りきって優勝すればあの忌々しいリキッドに意識を乗っ取られずに済む。
この右手の木片を抜ける物を探さなければならない。
さぁ、ここからが本当の戦い。楽しもう。この緊張を。
………そういえば、またソリッド・スネークの名を騙ったが、また無意味になってしまった。まぁいい、か。


【リボルバー・オセロット@メタルギアシリーズ】
[状態]疲労大、右手に木片が刺さっている
[装備]デザートイーグル(0/7)@メタルギアソリッド ステルス迷彩服@メタルギアソリッド
[道具]支給品一式 マガジン×2(残り13発)
[思考・状況]基本方針;緊張を楽しみながら優勝し、ビックボスを開放する
0:死人が歩く、か。面白いじゃないか
1:弾の切れない武器(刃物)を探す
2:右手の木片が抜ける物を探す
※十六夜咲夜、漆黒の騎士、足立透は死んだと思っています。
※咲夜の能力を瞬間移動またはそれに類する何かだと思っています。
※参戦時期は少なくともリキッドの腕を移植した後ですが、右腕は本人の腕です。

☆ ☆ ☆
179代理投下:2010/11/16(火) 13:47:27 ID:4Lpy1liW
 
さらに数十分後。
 
「糞!糞!く、そ!」
 
地団駄を踏む。瓦礫の中から出てきたのは足立透だった。スーツが酷く汚れて、脚からは木片が刺さり血が滲み出ていた。
苛々する。あの餓鬼はなんだ!?それにあの騎士にあのジジイだ!
自分が望む事に限って全て斜め上の方向に進むのだ。あの餓鬼も騙していい様に使って殺してやろうとおもったが、あちらの方が上手だったらしい。
くそ!くそ!なんだってんだ一体!糞、糞糞糞!!!!それにピカチュウはどこ行った!?
糞!使えない奴め!こういう肝心なときに消えやがって!
どうせあのジジイも騎士も古い考えしかもっていないのだろう?少しは新しい物を取り入れろ。
……しかしだ。この瓦礫の中じゃあ、まず助からないだろう。はは、ざまあみろだ!
だがそれでも苛々は止まらない。それは脚の痛みと重なってある理由がある。
それは自分のペルソナについてだ。威力が弱まっているだと?
なんだマルクは?何をしたいんだ?自分も楽しみたいのだろう?なのに力の制限だ、と!?
俺を玩具に、コケにしているのか?!……自分が楽しもうと思ってる、のに、どうやら自分は楽しませてた方らしい。
 
「なんだよ…!お前もかっ!みんなで俺のことを笑ってなにが楽しいんだっ!?」
 
手品を使う少女に、謎の剣士、そして透明になる老人。そしてペルソナ使いの自分。
これはまるで映画のワンシーンだ。そしてマルクはその映画の鑑賞者。

これではもう、駄目だ。この殺し合いは楽しむ必要は無い。自分も、マルクもだ。最高に楽しくない展開でこの殺し合いで一人になってやる。
そして一人になったらマルク、お前も利用して、殺してやろう。
足立は血が滲む脚で歩き始めた。どこへかは足立にしかわからない。
 
【足立透@ペルソナ4】
[状態]:疲労大、右足に木片が刺さっている、SP消費、苛々(判断力低下)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×2(確認済み)、タケシのデイパック(基本支給品一式、魔剣グルグラント、穴が開いている)
[思考]
基本方針:苛々するんだよっ!(冷静になれば本来の目的に修正します)
※十六夜咲夜、漆黒の騎士、リボルバー・オセロットは死んだと思っています。
※作品からの参戦時期は真ENDルート突入前、ペルソナはマガツイザナギ固定です。
※どこに向かうかは次の書き手さんに任せます
 
☆ ☆ ☆
180代理投下:2010/11/16(火) 13:48:18 ID:4Lpy1liW
 

 
「遂に兜も凹んでしまった。これはもう使い物にもならん。」
 
一方、ここは浴場。実は誰よりも早く漆黒の騎士はこの瓦礫の中から脱出していたのだ。
クツロギ温泉は完全には崩れてはいなかった。ただし火がついてしまっているので時間が立てばここにも火が回り崩壊するだろう。
温泉はまだ丁度いい温度を保っている。もう一度ここでゆっくりと過ごしたいが、それが出来ないのが惜しい。
しかし、それが当たり前だ。戦場で寛ぐ馬鹿がどこにいるというのだ?
……先ほどは理由があるにせよあの行動は愚の骨頂だった。しかし、それは自分の騎士道精神を守る為だ、と理由をつける。
もしスネーク殿がもうすこし早くこちらにきていたら私は死んでいたのかもしれない。
自分が戦ったあの三人は、もう死んだのかもしれない。あれほどの崩壊だ。生きていたとしてもなにかの下敷きにでもなってるだろう。
助ける義理はない。奇襲の様に怪我させた咲夜殿でもだ。
この戦いで学んだことがある。自分の知らない戦法や武器の存在だ。
あの速度で打ち出される鉛玉。そして人形に雷を操るラグズもどき。
もしかしたらこの後の戦いでもお目にかかれるかもしれない。
漆黒の兜を浴槽の入れる。使えないのだから捨てる。投擲に使えるかもしれないが自分の戦法にそれは合わない。
それにすぐに戦う気にはなれない。両手両足は貫通傷で上手く動かない。スキル『治癒』で治療中だが、それでも痛みは癒えない。
しかももうすぐ放送だ。自分の知っている名が呼ばれることはないと思うが、放送ぐらい静かな所で聞きたい。
そうと決まれば静かな場所に移動しよう。ここはすこし騒々しい。

【漆黒の騎士@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】
[状態]:疲労大、四肢に貫通傷(スキルで治癒中)、(^∀^)
[装備]:神剣エタルド
[道具]:基本支給品一式神剣エタルド@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡
[思考]
基本方針:強者と戦いたい
0:良い戦いだった。
1:休む場所を探す。
2:ガウェインの息子(アイク)と決着を付ける
3:アシュナードは…どうしようか
※名簿確認しました。
※参戦時期はナドゥス城の戦い後です。
※鎧は兜しかつけてません。
※サイボーグ忍者(グレイ・フォックス)の正式名称は知りません。
またリボルバー・オセロットの名前をソリッド・スネークだと思ってます。
 
 
☆ ☆ ☆
181代理投下:2010/11/16(火) 13:49:46 ID:4Lpy1liW
 
ここはどこなんだろうか。
僕がそう思っていると、僕が呼び出された。
知らないお兄さんが二人。
そのお兄さんはもう一人のお兄さんに「かみなり」をさせようとした。
僕はしたくなかったけど、命令を背こうとすると吐き気に似た嫌悪感を催し、
『「かみなり」をしなければならない』と思って、僕はかみなりをしたんだ。
そのお兄さんは丸焦げになって、僕は凄く嫌な気持ちになったんだ。
それからも、凄く嫌な命令をされた。
だけど、背けなかったんだ。このまま命令を背くと、死んでしまうのかもしれない、と思ったから。
だけど、今、僕の持ち主は綺麗そうなお姉さん。だめもとで連れてってと頼んだんだ。
そしたら僕が傷をつけたのに連れて行ってくれた。この人はやさしいかもしれない。でも、この人も死にそうなんだ。
僕は今、ここがどこで、どういう状況なのか理解できないんだ。
早く、元の持ち主に帰りたいなぁ。確か僕の最後の記憶はあのシロガネ山で知らない誰かのポケモンとバトルしてたんだ。
だけど、意識が消えて、気がついたらここにいたんだ。
凄い心配だよ。レッド。君はいまどこでなにをしているの?会いたいよ。
 
【ピカチュウ】
[状態]PP消費、精神的不安
[思考]
0:このお姉さんは良い人そう
1: レッドに会いたい
※レッドのピカチュウです。覚えてる技は「かみなり」「十万ボルト」「ボルテッカー」とあと一つです
※レッドと同じ時期につれてこられてます。
  
※クツロギ温泉が半壊してます。火が付いているので時間が立てば完全に火がまわるでしょう。
※ボートが突っ込んでます。もしかしたらガソリンに引火するかもしれません。
※宝剣ギャラクシアは行方不明です。もしかしたら壊れてるかもしれません。
※B-1からD-2のライン上にタケシが落とした支給品が一つ落ちてるかもしれません。
182代理投下:2010/11/16(火) 13:50:27 ID:4Lpy1liW
以上代理投下終了

投下乙です!
二転三転する戦い!楽しませていただきました!
183創る名無しに見る名無し:2010/11/17(水) 00:13:51 ID:HKjceICl
投下乙
漆黒の騎士見事なマーダーホイホイっぷりw そして咲夜さん本当に災難でした。
ピカチュウはレッドのか……再会出来たとして今のレッドを見てどう思うか……
184創る名無しに見る名無し:2010/11/17(水) 01:08:19 ID:B+HBRWmW
しっこくが色々と面白過ぎるw
船頭多くして、どころか一人で大ジャンプして旅館に突っ込んでるし。
咲夜の悪夢といい、色気のあるシーンかと思いきや
鼻に文鎮突っ込んだりと一体何してんだこいつはw

一方で、咲夜も実に機転が利くなあ。論理的に足立の本性見破ったり、
しっこくをうまく利用したりとなかなかに面白い。
足立やオセロットも負けじと非常にいい味を出していた。
ともあれ、大作執筆&代理投下お疲れ様でした。

もしかして今回の題名って、ニコニコ動画の某手書き漫画で使われている
曲のタイトルからとりましたか?あちらのは物凄くシリアスでしたが。
185創る名無しに見る名無し:2010/11/17(水) 12:09:10 ID:8c6bpCyW
巣から出て来るなカス
186創る名無しに見る名無し:2010/11/17(水) 12:57:45 ID:gEQlC0Yk
タイトルはただ単に作者が音楽好きなだけなんじゃ? 今までのタイトルも何かの曲名だし。
>>185も煽るのもやめろ スルーでいいだろうに
187創る名無しに見る名無し:2010/11/19(金) 23:04:12 ID:7cAILm9x
咲夜さん涙目だなおい 声だせないって事は他の参加者とやり取りが出来ないんじゃ。
漆黒の騎士はなんか我が道を行くって感じ
足立は足立らしいな。まぁすぐ冷静なると思うけど。
まぁ投下乙!
188創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 08:30:48 ID:CRimILtb
お、新作来てた。投下乙です
戦闘スタイルも出身世界も完全に違う4者の戦い面白かったです


そしてこのロワって、ポケモン勢のキャラが戦いへ巻き込まれても、ただ巻き込まれるままじゃないのが新鮮に感じるw
189創る名無しに見る名無し:2010/12/03(金) 00:46:34 ID:q2RJa6G9
補習
190創る名無しに見る名無し:2010/12/05(日) 12:09:36 ID:lPWNbBAA
12月16日に別館でロワ語りです。
191創る名無しに見る名無し:2010/12/18(土) 11:30:19 ID:cM2nu+wg
保守
192創る名無しに見る名無し:2010/12/25(土) 22:50:47 ID:8TGCrrZG
予約がきたぞおおおおおおおおおお前らあああああああ
193創る名無しに見る名無し:2010/12/26(日) 13:37:06 ID:BtTV28e3
予約が来たのか。大作wktk
俺も書こう書こうと思ってはいるんだがなぁ。

とりあえず、まだ登場話しか書かれていないキャラは六人。
アカギ、バルバリシア、ゴルベーザ、里中千枝、オタコン、キョウ。
194創る名無しに見る名無し:2010/12/26(日) 13:41:04 ID:BtTV28e3
あ、東方のアリスもか。
訂正:アカギ、アリス、バルバリシア、ゴルベーザ、里中千枝、オタコン、キョウ。
195創る名無しに見る名無し:2010/12/26(日) 15:42:02 ID:C3xtw7cO
予約が、またきたからアリス、ゴルベーザ、里中、オタコン、キョウだね。
いつキョウの口調は修正されるのかな?
196創る名無しに見る名無し:2010/12/26(日) 16:42:26 ID:fegecc/p
予約二件キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
両書き手に期待

>>195
キョウの口調って、わざわざ修正する必要あるか?
確かに、上にあるようにゲームは口調が違うけどさ。
もともと台詞自体少ないんだし、多少の肉付けは仕方ないんじゃね。
197創る名無しに見る名無し:2011/01/02(日) 20:40:25 ID:Hyya7qx3
wikiに収録されたけど、本スレに投下は?
198創る名無しに見る名無し:2011/01/02(日) 22:47:18 ID:1xQJuk/s
収録されてないぞ?なにいってんだ?
199創る名無しに見る名無し:2011/01/02(日) 22:57:02 ID:jqbiWKNX
ページの更新だけで中身は更新されてないから無問題じゃないのか? 他のロワでも先に目次だけ入れることはよくあるし
200創る名無しに見る名無し:2011/01/02(日) 23:27:34 ID:1xQJuk/s
あー、そういうことね。理解するのに時間かかったわ
タイトルだけだから問題ないんじゃないのか
201197:2011/01/03(月) 00:33:34 ID:qhrNvLyJ
すまん早とちりしてしまった…
本投下待ってます。
202 ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:05:36 ID:PmqbQTcS
ちょっとdGU氏より先に投下させていただきますね。
避難所で先に投下なさってるから問題はないよね……?
バルバリシア、アカギ、投下します。題名『冷血なりせば』
203冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:06:50 ID:PmqbQTcS

研究所。そこには色々とよくわからない実験道具が散乱していた。
ホワイトボードには「弾幕が発射されてからのスピードの方程式」やら「シャドウを人工発生する方法」など、よくわからない単語が色々と殴り書きされていた。はっきり言うとだ。めぼしいものはない。三階立てという小さな研究所だ。めぼしいものも期待していなかったが。
しかし、まだ調べていないところもある。床に散乱している割れたフラスコなんか構わずに他になにかないか探した。机の引き出しや、パソコンの中のファイル、それに本棚の下にある埃の溜まった隙間。しかしでてくるのはやはり埃と役に立たない情報であった。
役に立たない情報。前述した『弾幕』やら『シャドウ』やら『クリスタル』やらの単語が沢山出てくる実験の観察やその結果のテキストファイルばかりである。このテキストファイルはなんてことはない。ただの『ブラフ』である。
このようなブラフでマルクは参加者を混乱させるのが目的だろう。奴は私たちを弄んでいるでしかないのだ。
しかしその所業に怒っている場合ではない。これは試練だとしたら、あのポケモン、マルクもディアルガとパルキアの傀儡でしかない。つまり今回のこの騒動には怒る相手も憎む相手もいないということである。少なくとも参加していない側には。
我が野望、実現の為には早急に脱出しなければならない。しかしだ。まだ自分には情報が少ない。
あの自称吸血鬼とよくわからない、ポケモンか、いやそれとも、違う『何か』を操る少年。
あの二人が何者かがわからない限り、少々危険だ。つまり調べなければならない。
情報の収集。これがまず始めに行ったほうがいい筈である。参加者のことがこの研究所に詳しく書いてある、なんてことはありえないと自分でもわかっているが。しかしそれでも探さなければならない。
砂粒程のヒントがこの研究所にあるかもしれないのだ。試練というのはヒントがなければ成り立たないものである。
試練は暗記テストの『問題』みたいなものだ。情報がなければ問題は解けない。つまりそれは唯の教師の横暴にしかならない。
きっとこの会場にもヒントはどこかにある筈である。砂粒程の大きさのヒントがだ。そのヒントが見つかれば脱出も容易い。その時、ふとあることに気付く。スパコンをまた立ち上げて、その可能性を調べてみた。結果はやはり駄目である。
パソコンがあるということは外界へのコンタクトができる、と考えたがこのパソコンの回線はこの研究所で独立しているらしい。
出来るのは一階のスパコンから三階へのスパコンへメールを送る事ぐらいであった。スパコンとは『スーパーコンピューター』と略称である。
演算処理能力が高い、とだけ覚えている。しかしそれがどうしたのか。ただ計算が速いだけである。この会場では役に立たないだろう。それに壁に組み込まれているタイプの為、持ち運びもできない。回線も繋いでない。しかしだ。これは『ヒント』かもしれない。
この会場から脱出する為の。地図を取り出して『テトラ研究所』に印をつける。今後、脱出のヒントになるものには印をつけることにする。 
「(……しかしだ。私は脱出のスタンスでいいのだろうか?)」 
この研究所で色々と探していると自然にその疑問が浮かんでくる。というより、アカギは最初からこの殺し合いのスタンスは明確には決めていない。
いや、まだスタンスを決める事のはまだ早いか? 
「(……あのレミリア・スカーレットやあの少年の様に得体の知れない者、そして生身の体であの様な力を持っている参加者がいるかもしれない)」 
そうだ。自分は生身の体である。そしてあの吸血鬼の少女(本当かはわからないが)には絶対に勝てないだろう。少なくとも生身では。しかし、彼女の様な者が殺し合いに乗る側に居て、対主催側にそのような人が居ない、ということはないだろう。
きっと対主催側にもレミリア・スカーレットの様な少女も居る筈である。その様な人物をこちら側に引き込めば心強い。では、私のやることは、先ず仲間を得ることである。そいつが熱血で私の様な冷血な人間ではない、正義感溢れる者だったら尚更いいだろう。 
「(……そうと決まれば、先ずは他の参加者との接触か。……ん?)」
ふと、窓を見ると煙が上がっていた。アレは焚き木でもしているのだろうか?
接触すべきだろうか?……いや、きっと唯の一般人だろう。殺し合いが行われている異様な島で敵に見つかるような行為をするのは自殺行為。あの様な事をしては殺し合いに乗った者に丸見えで、いつ狙われても可笑しくはない。
そしてそれを全く想像が出来ない一般人を仲間に引き込まんでも脚を引っ張られるだけだろう。つまり接触をすべきではない。
204創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 01:07:44 ID:45AUkCev
支援
205冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:07:59 ID:PmqbQTcS

そう、結論づけたその数秒後、煙が絶えた。そのことに気付いたのだろうか。それとも襲われたのだろうか。
私にはどうでもいいことである。そのときだった。外からガサガサと物音が聞こえる。この研究所の周りは草むらが腰まで伸びていて凄く寂れていた。そのようなところを音を出さずに歩くのは困難である。
もっとも音を出さずに歩いているようには聞こえないが。慎重に窓からそれを見る。
「……酷いわね。薮蚊も多くて……あぁ!苛々する!」 
そこには露出の多い女性が歩いていた。確かに美しいが、言葉使いからして『レディ』ではないと推測する。しかし、その女性はさらにアカギを驚かせる。 
「……むかつくわね!」 
女性が手をかざすと突風が発生して、草むらは唯の土に変える。そして窓硝子がすべて割れた。
「……!!」 
硝子が頬に刺さったが悲鳴を出すわけにはいかなかった。こちらの居場所を知らせるわけにはいかない。なんだあの風は?風を操るのか?ポケモンの様に、生身の人間が?
「……酷いわね。痒いわ…苛々する。あれ以降、誰にも遭遇しないし……で、なにかしらこの建物は?」
女性が建物の前で止まる。断言しよう。この女性は危険人物だ。危険人物ではなかったとして、接触をしてもきっと一癖も二癖もある性格だろう。まともな情報交換は出来ない。
それにこの女性は少しだけ服が乱れていた(服、にしては薄すぎるし、髪の方で判断した)この乱れは戦闘を行ったものだろう。 
「まぁ、ゆっくり調べようかしら」 
女性がドアノブの手をかけた。いま接触するわけには行かない。
いまの現在位置は三階だが幸い、裏口に非常口があった。音を出さないようにゆっくり廊下に移動して、非常口のドアを開ける。ドアの向こうには鉄製の螺旋階段。
音を出さないようにゆっくりと降りる。 
やがて階段を降りきった。頬に刺さった硝子を引き抜く。血が吹き出る。舌を動かし口の中を確認。すると頬からピンク色の舌を覗かせる。
どこかで治療方法を探すか?……たしかこの研究所にも医務室はあったが、中身は医務的な道具は殆ど無くて蛻の殻であり、この殺し合いで役に立つのは包帯とベッドぐらいしかなかった筈だ。
包帯を持ち出せばよかったが、この傷を閉じるのを包帯で閉じるのは無理だろう。針と糸が必要である。出血は…止まらなそうだ。支給品のタオル(正直、マルクに悪意を感じた物)で抑えておく。
「……(殺し合いに唯乗るのはやはり危険か。やはりこちらのスタンスで正解だったか)」 
殺し合いにただ、乗る。つまり人を見かけたら殺す、という事だ。よほど自分に腕がなければ優勝は無理だろうが。
あのような女性がいるのだ。生身でポケモンの様な力を持つ人間と自分は戦えないだろう。
ではどうするか。先ほど考えたとおり、協力で使いやすい仲間、いや『手駒』を集めるしかないそして優秀な手駒を集め脱出方法を探す。それで脱出が無理だとしたら?
簡単だ。裏切ればよい。柔軟な対応をすればいいのだ。悪評を広められたとしたらそいつの悪評を広めればよい。手駒がニコニコとこちらに接触したらニコニコ対応すればよい。つまり、どんなことをしてでも私は生き残らなければならなかった。
明確にスタンスを決める必要は無い。柔軟な対応で、生き残ればいい。使える手駒で前へ進む。簡単だ。ポケモンが人間に代わっただけである。そうと決まれば行動。使える人物を探す。
レミリア・スカーレットは……危険人物に変わりはないが、彼女の悪評を広めてもメリットはないだろう。こちら側に引き込めたら引き込めばいい。できるか怪しいが。
 
☆ ☆ ☆
206創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 01:09:34 ID:45AUkCev
自己支援
207冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:09:37 ID:PmqbQTcS

 
「……数分までここに誰かいたのかしらね?」
荒れ放題の研究所内を見てそう思う。窓の近くには血が少し飛び散っていた。私をここから覗き見ていた?だとしたら趣味が悪い。
しかし、見たことの無い建造物だ。否、見たことの無い家具だ。更に否、なにもかもがみたことがない。普通の建物なら、建物ごと吹き飛ばしてやろうかと思ったが、変わった建物だったので少し調べて見たかっただけである。
「……なんなのかしらこれは?」
バルバリシアの目線にあるもの。それは自分の世界では絶対に見られないものばかりだった。例えばホワイトボード。黒い墨の様な物で文字が書かれており、それを専用の硬い布でふき取れる。
なんて画期的なものだろうか。バルバリシアはそこに書いてあることよりもそれ自体に好奇心を揺さ振られていた。他にもボールペン、顕微鏡、マッチ……
「楽しいわぁ。こんなにも面白い物があるなんてぇ……」 
バルバリシアの好奇心はもう止まらない。そして30分ぐらい輪ゴムで遊んだ後に我に返った。
「……なにやってるのかしら私は」 
そうだ。今はなんの時間だ?殺し合いじゃないか。なのに私はよく分からない道具で遊びまわって何をやってるのだ?違うだろう。私は殺し合いを楽しむの……
「……え!?ちょっと?なにこれ!?」
あるものに目が行く。窓が光っている。そしてその窓の下にひかれた幾何学状の文字が書かれたボタン。
そして銀色の紐で繋がれた半楕円形のボール。スパコンである。アカギが電源を消し忘れたものである。もっともこの異常な状況では消すつもりにもならなかったか。
兎に角、バルバリシアはそのパソコンに興味津々であった。そのパソコンをみた瞬間、バルバリシアは一瞬過ぎった迷いも忘れていた。まるで、いや、そのままの光景であった。
パソコンを見たことのない露出の多い服を着た女性がマウスを動かして遊んでいる。そんな光景。人間は新しい物が好きだ。彼女は人間ではないが、いま一番人間らしい彼女がここにいる。
そしてまた数十分後、我に返る。
「……馬鹿馬鹿しいわぁ。本当に」 
スパコンの画面に手をかざし、破壊した。私はなにをやっているのだろうか?殺し合いを楽しめるのにこんな所で時間を潰してしまうなんて。
こうしているうちに獲物はどこかに逃げたり、他の参加者によって殺されてるのではないだろうか?だとしたら私はとても損をしている。
「……まだ近くにいるかもしれないわね」
なら、いまからでも間に合うだろう。私を覗き見していた参加者と遊ぶのは。そうときまれば捜索開始。
「でもその前に、支給品でも確認しようかしら」
まだ自分は支給品を確認していなかった。自分には必要が無いと思ってたが、自分の知らない未知の道具があるかもしれない。この研究所には未知の道具が沢山あった。だとしたらこのデイパックの中にも?
もしこの研究所に尋ねなければ好奇心が刺激され、支給品を確認することはなかっただろう。ゴソゴソとデイパックに手を突っ込む。出てきたのは紅白の玉であった。
説明書が張り付いていて、剥がしてそれを読む。『モンスターボール』というものらしい。使い方の通り床に投げる。赤い光が飛び出し、そこに、気高き赤き竜が現れた 
「あら?結構強そうじゃないの。……ホホホ。私の言うことを自由に聞くのね…えっと『ブラストバーン』?」 
そこにいたのはリザードンであった。炎・飛行タイプであり、比較的強い方だ。バリバリシアは説明書に載っていることを本当か確かめようと実際に命令をしてみる。しかしだ。
「…………………。」
「……聞こえなかったの?『ブラストバーン』よ!はやくやりなさい!」
リザードンはうんともすんとも言わなかった。ただジッとバルバリシアの目を見据えている。それは睨んでるだけで虚勢を張っているのか。それとも自分が仕えるのに相応しいかを見極めているのかはわからない。
そして、予想もしなかった行動をリザードンは取ったわけである。
「…GYUAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
208冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:13:56 ID:PmqbQTcS

「え!!?な、なによアンタ!!私の言うことが聞けないっていうの!?」
リザードンは咆哮を上げて、バルバリシアの目の前に顔を近づけた。
その差、約5cm。この目は、見たことがある。俺はお前になんか屈しない。命令なんか聞かないぞ。という事を訴える目だ。
今までこの目をする奴は片っ端から遊んでやったし、また、直ぐに屈して、『許してくださいバルバリシア様』と命乞いをさせるのが当たり前だった。
しかし、それをこいつにさせるのは困難だと感じる。この巨体、そしてプライド。そしてなにより、見ただけで分かる戦闘力の高さ。
もしかしたら、こいつは私より、ゴルベーザ様より強いんじゃないか、という考えが過ぎった。だが、その考えが過ぎった瞬間、私のプライドが反発した。
「……言うことを聞きなさい。リザードン。私を誰だと思っているの……?」
「……GUHUUHUUUU」
まだリザードンとの距離は詰めたまま。数十秒経った後リザードンはそっぽを向いた。
リザードンはそっぽを向いているが、どこかには行かない。いや、行けないのか?モンスターボールを私が持っているから?
こいつを服従させるにはどうすればいいか。……いや、服従させる必要はないのか?
だいたい、私の目的は少しずれている。好奇心を満たす為に支給品を確認したのに、今はリザードンを服従させる為に躍起になっている。
「……リザードン。戻りなさい。……苛々させるわねぇ」
リザードンがまた赤い光に包まれて、モンスターボールの中に戻る。本来ならこの高飛車なプライドを崩す為にリザードンを攻撃し、屈服させるがこいつは私の所有物だ。
攻撃したい気持ちを抑えリザードンを元に戻す。きっといつか私の役に立つはずだ。モンスターボールをデイパックに戻し、他の支給品を探す。
出てきたのは、大きめな救急箱。説明書が張り付いてある。こんどはマルクの汚い字で説明されていた。『いろいろ入った医療道具なのサ!まぁ完璧に使えるわけないと思うけど(苦笑)』と。
「……馬鹿にしてるかしらぁ?この私を?」
説明書をおもいっきり床に叩き付けた。リザードンの件で唯でさえ苛々していたのに、ここでマルクの嫌がらせみたいな説明を見たのだ。余計に苛々する気持ちを抑える。
「……さてと。覗き見をしていた趣味の悪い人でも探そうかしらね……?」
ようやく本来の目的に行動を移す。この血の持ち主を探す。この建物からでようと立ち上がったその時だった。
 
ピンポンパンポーン
   『あーあー、この研究所にいる女性に告ぐ。今すぐ一階の資料室に来て欲しい』
                                    ピンポンパーパっ がちゃん
 
「……………戦線布告かしらね?ホホホ、いいわよぉ?そっちに行って上げるわぁ!!」
 
☆ ☆ ☆
 
209創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 01:15:52 ID:45AUkCev
支援
210冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:15:59 ID:PmqbQTcS

本来ならこの研究所から直ぐに離れるつもりだったが、あのポケモン、リザードンの声が聞こえた。私に支給されたものは、タオル、ケーシィ、栄養ドリンク(ポケモン用ではなく人間用だ。)のみだ。心細い。
仲間を探す前に死んでしまうかもしれない。そうなってしまうのを防ぐ為には護身用の武器、ポケモンが欲しかった。
だからここまで戻ってきたのだ。しかし、どうやって彼女からリザードンを奪取するか。いやそれとも交渉か?いや、どちらでもよかった。欲しい結果はリザードンをこちらの所有物にすること。
それにいま、私は入念に準備をしているではないか。交渉に失敗したときの為に出入り口は自分の後ろにしておく。そして研究所内に転がってあるよくわからないものを自分に有利になるように動かしておく。
これで完璧だ。問題はどうやってこちらに彼女を呼び寄せるか。なにかないかと思い、探す。そして所内放送を見つけた。マイクのスイッチを入れるとこの殺し合いの場に似合わないファンシーなチャイムが研究所内の鳴り響く。
『あーあー、この研究所にいる女性に告ぐ。今すぐ一階の資料室に来て欲しい』
そういった後、すぐに罠の仕掛けてある部屋に戻る。そして待つ。直ぐに女性は研究室に入ってきてくれた。なんの疑問も、そして警戒も無く。
「あなたが私を呼んだのかしらぁ?私を呼びつけるなんていい度胸ねぇ?しかもあなた、覗き見していた人?ホホホ、頬に穴が開いて綺麗な歯が見えるわよ?」
女性はニヤニヤしながらこちらを見ている。それを指摘され、直ぐにまたタオルで押さえつける。
「私の名前はアカギ。あなたのお名前は?」
「あらぁ?先に名乗るなんて礼儀を知っているのね。いいでしょう。私は、ゴルベーザ様に仕える四天王、バルバリシア、風のバルバリシアよ。それで私に何のようかしら?」
「……交渉が
「まさか、『交渉がしたい』なんていうんじゃないんでしょうね?唯の人間ごときが私に?……で、交渉に失敗した時、自分はいつでも逃げられる様に出入り口の近くにいるのね?」
「……そうだ。………わかった。ここから離れよう。これで対等だ。」
どうやら彼女はふざけた言動と自分勝手な一面を持っているが、頭は切れるらしい。
しかしだ。ここまでは誰にでも予想が出来た展開だ。私もバルバリシアも。だいたい不自然だろう。あからさまな位置に私はいたのだから。
「……対等?あなたと私がぁ?面白いことをいうじゃない。で、交渉というのは?」
「……貴方が持っているポケモンと私の持っているポケモンを交換してほしい。」
「交換?…………フフフフフフホホホホホホ。」
ここまでも予想通りだが、交渉内容を出した途端、バルバリシアが笑い出したのだ。警戒をする。
「ねぇ。あなた、自分がなにを言っているのかわからないのかしら!?この私に交渉をしているのよ!?ただの人間が!!この私に!」
「……なんでもしよう。バルバリシア、いや、バルバリシア様。私は貴方の奴隷になろう。」
「は?……ホホホホホホホ!面白いじゃないの!?自ら奴隷に成り下がる人なんて生まれてから一度も見たことが無いわ!……それで、忠誠の証は?」
「……?」
「忠誠の証よ。『わたくしめは奴隷です。なんでもします』っていう証よぉ?」
忠誠の証。失念していた。この場合、どうすればいいのか。例えば小指を切って謙譲するとか?それとも腕にサインでも刻むか?
それは駄目だ。この殺し合いでは小さな傷でも命取りになるだろう。塵も積もればなんとやら、というのは防ぎたい。
ではどうするか?
「……脚を舐めましょう。それで忠誠を誓えるのなら。」
「ふーん、小難しい顔しながら、忠誠を誓う方法をしっているのねぇ。それでいいわ。……にしてもこの『リザードン』の為にここまでするなんて。
まぁ貴方ごときに手懐けられるとは思わないわよぉ。この私でさえ無理だったんだから」
そういいながらバリバリシアは椅子に座る。デイパックを机に置き、脚を差し出す。
「跪きなさい……やん、くすぐったいわぁん。犬みたいよあなた」
言われた通り、跪く。そして脚をゆっくりと舐める。これで偽りの忠誠は誓えた筈だ。
211創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 01:17:30 ID:45AUkCev
自己支援、
212冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:17:33 ID:PmqbQTcS
 
しかし、バルバリシアはこれでリザードンを交換してくれる訳がない。
こいつはここまでして欲しがっているのだ。だとしたらこのポケモンはかなり良いものでは、と思うに違いなかった。だからこうやって偽りの忠誠を誓い、時間を掛けて交渉する。
それで譲って貰えたらテレポートかなにかで逃げればよい。逃げるのが不可能だとしたら、忠誠を誓ってるふりをして一緒に行動すればいい。
で、対主催側と戦闘になったとしたらバルバリシアを裏切ればいいのだ。で対主催の奴にはこう説明しよう。『脅されてたんだ。助けてくれてありがとう』と。
「…ぁん…や……顔を上げなさいアカギ。もういいわよ……?」
顔を上げる。バルバリシアはニヤニヤしながら恍惚の表情をしていた。しかし、その表情は少しずつ何かに代わっていった。
「アカギ。真っ直ぐこちらをみなさい。」
「……どうかなさったか?」
なんだ?バルバリシアの顔は……怒りに満ちていた。なぜ?私はどこかで襤褸をだしたのか?
「……その目よ」
冷え切った表情、そして冷え切った声で静かに言った。
「……どうかなさいましたか?」
「その目よ、っていったのよ!その目はリザードンと同じ目なのよ!」
そのときだった。バリバリシアが手をかざし、そして突風が吹いて私を吹き飛ばす。
「な!?がっ」
鈍い音が響く。棚に叩きつけら得た。鉄製の棚だったが、それは薄かったので棚が凹み、クッションの代わりになった。しかしそれでもダメージは大きい。
「あなたは本当に忠誠なんて誓ってないわ!!その目は、何度も見てきたのよ!!……ホホホ!やっぱり人間ね。もう少しで騙されるところだったわ」
息が出来ない。吸い込めない。
「がぁ…はぁはぁ……目だと?」
「あなた、奴隷側にいたことないでしょう?私も奴隷側にいたことがないからわからないけど、あなた、プライドがあるのよ。
人間が忠誠を誓うときは二つあるの。ひとつはその人物に心酔したとき、もう一つは命乞いをする時。でもあなたはどちらでもなかった……!」
バルバリシアは怒り狂った。そしてまた手をかざす。私はまた吹き飛ばされた。今度は床に叩きつけられた。
「ぐ、あ、あ……」
「まぁ、どっちにしてもこうやって貴方を殺すつもりだったけどねぇ、ホホホ」
笑いながら、怒りに身を任せて、こいつは私を殺すだろう。だが、まだ私は生きている。そしてこれも、計算の内、予想の内だった。
「……メガ……ック」
「……あらぁ?遺言かしら?いいわよ。聞いてあげるわ」
バルバリシアは私に顎を掴む、そして傷口をなぞりはじめる。悲鳴をあげそうになるが、だせなかった。
「メガトンキックだ!ケーシィ!」
「え?…な!?」
ケーシィに命令を出せないから。ケーシィを本棚の後ろに待機させておいたのだ。威力の高いメガトンキックの命中率は低い。だが生物ではなく物体ならば確実にあたるだろう。
213冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:20:25 ID:PmqbQTcS

結構な重さのある本棚は少し床を滑りながら、バルバリシアに体当たりして圧し掛かった。本棚からよく分からない専門書がバサバサと出てきた。
「いたいじゃないの!この私をなにしようっていうの!?これをどかしなさい!」
「……ゲホ、断る。デイパックを貰うぞ」
机においてあるバルバリシアのデイパックの中身を全て取り出す。全て。
「私のものよ!?返しなさいよ!」
本棚の下敷きになっているバルバリシアが叫ぶ。幸い、風を操れる手も本棚の下だった。出ているのは長い髪と美しくも怒りで染まった汚い顔であった。
「ケーシィ、戻れ。リザードン、出て来い」
バリバリシアを無視して、ケーシィをモンスターボールに戻し、リザードンを取り出す。
「……GUYUYUUU」
リザードンは唸る。そして真っ直ぐアカギの目を見据えた。
「私でさえ手懐けるのが無理だったのよ!?あなたになんかむ、ムグゥ」
「五月蝿いな。蝿みたいな声をキーキーと出すな。耳障りだ」
バルバリシアの口に自分の血が付いたタオルを巻きつけた。うーうーとバルバリシアと唸る。
「いいか、お前はポケモンを知らないみたいだから冥土の土産に基礎知識を教えてやろう。ポケモンを手懐けるにはモンスターボールに入れる必要がある。
それでもレベルの高いポケモンや強力なポケモンは言うことを聞かない。ならばどうするか。脅して言うことを聞かせるか、それともポケモントレーナーのとしてのレベルをあげるかだ」
「ぐ、うーうー!!」
アカギは本棚の上に座る。更に重さがかかりバルバリシアは苦しそうにする。リザードンはまだアカギの目を見据えていた。
「前者の方法は愚か者が小動物系のポケモンにすることが多い。しかし大きなポケモンや強力なポケモンを脅したりしては自分の命が危ない。
お前もビビってこいつを脅せなかっただろう?だがな、私はこのポケモンが、リザードンが怖くないのだ」
リザードンはようやくアカギから目を逸らした。だが、バルバリシアの時とは違いそっぽは向かなかった。
「なぜなら私は自負している。ポケモントレーナーとしてレベルが高いとね」
「うー!うー!」
バルバリシアの目は怒りで一杯になっていた。アカギを睨む。
今すぐお前を殺してやるぞ、拷問にかけて殺してやる、と訴えている。
「それで、だ。バルバリシア。君には残念だが、死んでもらうしかないのだ」
「ん!?うー!うー!?」
「困るんだ。わたしが他の参加者から支給品を奪った事を知っている奴がいるのがね。例えそいつがこの殺し合いに喜々として乗る人物だとしても。私は『信用』が必要なんだ。
もっともこの遊戯に乗った人物が『あいつは悪い奴だ』とか言い振り回しても聞く耳を持つ参加者などはいないと思うが」
「うー!?うー!?」
バルバリシアは唸り続けた。しかしその目は数刻ほど前の目とは違っていた。怒りに、驚嘆が混じっていた。
こんなところで死ぬの?しかも人間ごときに殺されるの?そう心の中で叫ぶ。
「本来なら君に色々な情報を吐いてもらっていたが、リザードンの鳴き声で尋問中に他の参加者と遭遇、っていうのは避けたい。拷問でもしようかと思ったが、運が良いな君は。
それでは、バルバリシア。ごきげんよう。きっとお前も私も地獄に堕とされるだろうな。地獄でまた会おう」
死後の世界なんて信じちゃいないが、と呟き研究室から退出した。それと同時にリザードンが『ブラストバーン』をその部屋に向かって吐き出した。
214冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:27:29 ID:PmqbQTcS

 
【A-3 研究所近く/一日目/黎明】
【アカギ@ポケットモンスターシリーズ】
[状態]:疲労(少) 、頬に貫通傷(治療済み)、全身に痣
[装備]:リザードン
[道具]:基本支給品一式、モンスターボール(ケーシィ)、モンスターボール(リザードン)、リポビタンD、治療道具一式
[思考]
基本方針:もとの世界に戻り、野望を達成する。自己保身優先。手段は問わない。
1:この場から移動。
2:殺し合いに乗っていないように振舞い、仲間と情報を集める。
3:伝説のポケモンによって試されているのか?
4:主催者に反抗するか、殺し合いに乗るかは明確に決めていない(決めない)。
※ここが異世界であることを、なんとなく認識しはじめました。
※ケーシィは疲れています。
※リザードンを完璧に使いこなせません
※雷電たちの焚き木を目撃しました。
 
【リザードン@ポケットモンスター】
火炎ポケモン。
レッドの物かは不明。覚えている技は「ブラストバーン」他3つ。説明書に使用できる技が記載されている
 
【治療道具一式@現実】
ただの絆創膏から素人には難しい専門的な薬まで色々詰まった箱。
他の世界の治療品も詰まってるかもしれない。
 
215冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:31:25 ID:PmqbQTcS

☆ ☆ ☆ 
 
アカギが去った後の研究所。研究所は完全に焼けてはなかった。
火災報知器があり、スプリンクラーが作動したためか、形は完全に残っていた。だが、アカギはその点も考えていた。
研究室のスプリンクラーは棚により隠れていて消火するのに時間はかかり、バルバリシアは結局焼かれていった。
その研究所の廊下。水が天井から滴り、暗い廊下を鏡の様に映す。そしてそこに真っ黒い得体の知れない物体があった。ふらふらと歩く。
真っ黒でところどころ肌色も見える。しかしそこも爛れて、それは水溜りに堕ちた。
それはバルバリシアだった。やっとのことで本棚から脱出したその体は全てが焼け焦げており、女性に一番大事な顔は原型も留めていない。眼球は皮膚が爛れて、瞼を完全に閉じた。
女性独特の胸の凹凸も面影がない。服にしては薄すぎた布も完全に焼けて肌に張り付いている。
口はタオルが巻かれ、言葉を発せないようになっている。アカギの血で染み付いていた為、タオルは原型を留めていた。そしてバルバルシアの頬周りも守られていてキメ細やかな肌が見えた。
タオルが廊下に落ちた。頬の肌色と淡い赤色でどこか妖美な唇はその黒こげの塊の中で唯一生き物らしい部分だった。しかし声は発せられない。熱い空気を吸い込んだ為か肺は殆ど機能していなかった。
バリバリシアは人間ではない。しかしリザードンの灼熱の炎は防ぎきれなかった。
バルバリシアの敗因は二つ。自分の力を最大限に発揮できない狭い建物内であったこと。そしてアカギを舐めてかかったからである。
幾重にも張り巡らされたアカギの思考、作戦。そして自分の力を過信し過ぎてていたバルバリシア。バルバリシアが負けるのは必然であった。たとえ百戦錬磨であっても。
バルバリシアはふらふらと歩く。人間にはない耐久力は逆にバルバリシアを苦しめた。
上手に呼吸が出来ない。体は全て火傷で爛れ、酷い所は真っ黒に焦げ落ちていくが、尚、バルバリシアは生き永らえていた。
しかし、いまその命の灯火も消えた。何も言わずに廊下に倒れこんだ。何を思って死んでいったのかは誰にもわからなかった。当事者のバルバリシアであっても。
 
【バルバリシア@ファイナルファンタジーW 死亡】

 

※研究所内部はスプリンクラーが作動していて水浸しです。1階の資料室は色々焼け焦げており、本棚が倒れたりと散々な有様です。
また研究所内一階廊下にバルバリシアの死体が転がってます。またスパコンはバルバリシアによって破壊されました。
※研究所は三階立てであり、結構色々は部屋がありますが、アカギにより荒れ放題です。
 

☆ ☆ ☆
 
216創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 01:37:02 ID:yDrQ4zhE
支援
217冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:46:06 ID:PmqbQTcS
訳のわからないところでさるさん
--ココカラ--

「あちゃー、4つの中で一番分かりやすいところにあるのにスルーするとか面白い奴なのサ。えっと、バルバリシア死亡っと。結構良いペースなのサ。君もそう思うでしょ?」
 
「………………。」
 
「……人が話しかけてるのに無視するのー?まったくつまらないのサ」
 
「…………すこし考え事をしてたの。で、どこか一番簡単なの?……まだ色々考えたいからあまり話しかけないで頂戴」

「簡単な方なのサ。……えー。ただ中間管理職同士仲良くって思ったのサ」
 
「仲良く?私は無理矢理つれてきたのは誰かしら?仲良くできるわけ無いじゃない」
 
「僕じゃないのサ。」

「あぁ、そうだったわね。で、あいつは今なにやってるのかしら?」

「……(静かにして欲しいのサ!ここも盗聴されてるのに…!アイツ呼ばわりなんかしたらなにされるか……!!)」
 
「あら、わざとよ。わ・ざ・と。」
 
「……僕は放送っていう大事な仕事があるからメンタルをあまり傷つけないでほしいのサ……。」
 
「精一杯に噛むことを願うわ」

「そんなこと言われると噛みそうになるから本当にやめて欲しいのサ!」

「冗談よ。お酒でもどう?毒は入ってないわ。こんな仕事、お酒でも飲みながらじゃないとやっていけないと思うけど」
 
「……遠慮しとくのサ」
 
--ココマデ--
 
投下終了



218冷血なりせば  ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 01:48:39 ID:PmqbQTcS
投下終了。最初と最後の二行は気にしないでください
219 ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 11:32:08 ID:ZsHSf6v4
投下乙!
貴重なエロ要因がああ!! アカギ、許せん!
…それにしてもなんだろう。このアカギ、なんかすっげぇいじめたい
ちなみに、仮投下の方の文章を必死で縦読みしてたのは内緒だ

すみません。リアル事情で本投下遅れました。
今から投下します
220託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 11:34:35 ID:ZsHSf6v4
コンクリートで舗装された道路。そこを歩く一人の男がいた。
彼の名はアシュナード。デイン王国に君臨する狂王である。
彼は世界の改変を望み、混沌を望み、そうして颯爽と現れた勇者によって打ち倒される運命にあった。
しかし、今は違う。この殺し合いに放り込まれたことで、アシュナードの運命は大きく変わった。
場所が変わろうがどうなろうが、アシュナードのすることは変わらない。戦いを望み、殺戮を望み、ただただ強者が支配する世界を見たいがために、彼は行動する。
「……一人、死んだか?」
ふと、そんな感覚が彼の中で沸き立った。死に行く者の絶望、殺した者の絶望、それを目撃した仲間の絶望。
アシュナードの中にあるメダリオンの瘴気。彼の中に潜む魔物が、それらを敏感に察知し、こう告げる。

もっと狂乱を。
もっと闘争を。
この場所全てを埋め尽くしてもまだ止まらない、負のオーラでもっともっとこの身を満たせ。

「よかろう。我にとって、それはむしろ喜ばしいことだ」
アシュナードが求めるのは闘争である。弱者が死に、強者が生きる絶対的な世界である。
その世界の覇者は、最強でなくてはならない。その世界の王は、無敵でなくてはならない。その世界の支配者は、闘争を求め、常に強者であり続けなければならない。
「ならば行くしかあるまい。闘争の場があれば我はそこに君臨し、弱者を屠り、蹂躙し、我が想う我の世界を創造するのだ」
自分でもよくわからない微細な感覚。しかし確かに感じる負のオーラ。そちらに向けて歩みを進めようとし、止まる。
「……ついでだ。余興として、少し参加者を増やしておくか」
先程別れたあの小僧。シルバーが向かった先へと方向を変え、アシュナードは人間とは思えないスピードでその場から消え去った。
221託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 11:37:04 ID:ZsHSf6v4


「ふぃ、ふぃたいふぇふ〜!」(い、痛いです〜!)
「え〜? なあに? よく聞こえなかったんだけど。もっとはっきりした発音で喋りなさい。そうしたら止めてあげるから」
「ふぃ、ふぃふぉえふぇるふぁふぁいふぇふか〜〜!!」(き、聞こえてるじゃないですか〜〜!!)
頬をこれでもかとばかりに引っ張られ、涙目になっているアドレーヌ。それを見て、思わず息を呑んでしまいそうなくらいの素敵な笑みを浮かべている風見幽香。
彼女達は通常よりもかなり遅いペースで歩いていた。
それも無理からぬことで、行軍の合間合間に幽香のスキンシップ(という名の虐待)が入るからである。
ようやく解放された自分のほっぺを擦りながら、アドレーヌはきっと幽香を睨んだ。
「痛かったです!!」
「だから?」
「…………」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。アドレーヌは何も言えずに不満そうに頬を膨らませる。
「え? なあに? もしかしてこの私に文句を言いたいのかしら。あらあら、それは困ったわね〜。戦闘になったら誰があなたを守ると思ってるのかしら」
意味もなく怪我のしない訓練用の斧で殴られたり、もげるかと思うくらいの勢いで耳を引っ張られたりした挙句、いつもこの文句で幽香は締めくくるのだ。
結果強く咎めることもできず、アドレーヌは幽香の玩具のように扱われるのである。
(うう〜。こんなことなら一人で行動すればよかった)
アドレーヌが本気で後悔し始めた時だった。
突然遠くから地響きのような音が聞こえてきた。
アドレーヌは思わず幽香の影に隠れ、幽香はただ黙って震源地を見つめていた。
「……な、なんだったんでしょう」
「殺し合いでしょ」
「そ、そうですよね…。ここ、そういう場所なんですよね…」
アドレーヌの言葉はだんだん尻すぼみになっていく。
そんなアドレーヌの心境を知ってか知らずか、幽香はその震源地、つまりは戦闘が行われたであろう場所へと歩を進めた。
「ゆ、幽香さん。そっちは……」
「なに? 怖いから行きたくないって? あなた、お友達を捜してるんでしょ。なら、少しでも人のいる可能性のあるところに行った方が効率的じゃない」
幽香の言う通りだ。アドレーヌは自分の友達を探すために幽香と行動を共にしているのだ。恐怖に震えながらも、アドレーヌはこくりと頷いた。
「そ、そうですね。……よし。行きましょう! 幽香さん!!」
声は勇ましく、しかし身体は幽香の背中にぴたりとくっつけて、アドレーヌは言った。
「……アドレーヌ。敵と出くわした時の良い撃退方法を思いついたわ」
ふいに幽香が口を開いた。
「え! どんな方法ですか!?」
「ここで私達を襲う連中っていうのは、大抵皆殺しが目的でしょ。だから、わざと撒き餌を放り投げてそっちに気を取られている内に仕留めるの。良い方法でしょ?」
「……その撒き餌って?」
「ふふふ」
嗜虐的な笑みで、幽香はアドレーヌを見つめた。
自分の身体から血の気が引くという経験を、アドレーヌは今初めて体験した。
咄嗟に幽香から距離を取ろうとしたが、その気配を察知され、襟首をむんずと掴まれてしまった。
「いやだーー!! 私エサなんかじゃありませんー!!!」
宙に浮いた身体でばたばたと暴れるが幽香相手には無駄な抵抗だった。
「あー面白そう。はやく誰かと遭遇しないかしら」
「おにーーー!! あくまーーー!!」
アドレーヌの叫びは、むなしく木霊するだけだった。
222託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 11:37:52 ID:ZsHSf6v4


最初こそどうにかこの束縛から解き放たれようともがいていたアドレーヌだったが、震源地に近づくにつれ、どんどん大人しくなっていった。
おそらく恐怖のためなのだろうが、幽香にとっては都合が良かった。まるでナップサックのようにアドレーヌを担ぎ、何も喋らない幽香。それが、周りに対する警戒のためであることは誰よりも自分がよく理解していた。
幽香は強い。参加者の中でも最上級クラスの強さだろう。しかし、彼女は誰かを守る戦いをこれまでしたことがない。
戦いはいつも一人だった。敵が複数人いても、幽香だけはいつも一人で戦っていた。それで相手に遅れを取ることなど一度もなかったし、なによりそのスタイルが自分に向いているとも幽香自身思っていた。
だが、今回は違う。いつものように考えなしに戦っていては駄目なのだ。そういう意味で、幽香にしては珍しく慎重な態度を取っていた。アドレーヌを自分の手から離さないのはその為なのである。
「……誰かいる」
幽香は言葉短くそう伝え、アドレーヌは心持ち縮こまる。
周りは木々が邪魔でよく見えない。だがそれでも、幽香には誰かの存在を感知できた。一人じゃない。詳しくは分からないが、おそらく数人だ。
しかし、幽香の歩みは止まらない。慎重ではあっても、退くという言葉を幽香は知らない。
アドレーヌを意識して動く必要がある。それが面倒だ。それくらいの認識しか幽香にはない。
アドレーヌがいるから敵に負けるなどという発想は一切ない。敵を打ち倒し、アドレーヌもきっちり守り切る。それくらいのことができる力を自分は持っている。それは幽香の妖怪としてのプライドでもあり、数々の妖怪を屠ってきた自負でもある。
木々を抜け、震源地であろう湖が視界に入った。
223託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 11:38:33 ID:ZsHSf6v4


ばったり、という効果音がこれほどまでに似合うシチュエーションは早々ないだろう。
怪我をしたレミリアを担ぐ瀬多総司。その後ろをトボトボと歩くデデデ大王。その三人に、風見幽香は遭遇した。
「っ!! 敵だ!! 応戦しろ、デデデ!!」
後ろに下がり、慌てて戦闘態勢を取ろうとする瀬多とデデデ。その様を幽香はじっと見つめていた。
何も相手取ろうとしない幽香に、二人が怪訝な表情を浮かべ始めた時だった。
「……はっ」
ふいに、幽香が口を開いた。
「あっはっはっはっはっはっは!!!」
大爆笑。
誰がどう見ても腹を抱えて笑っている。
瀬多は雪子の爆笑癖を思い出しながらも、とりあえず声をかけてみることにした。
「えっと、あんたは──」
「何がそんなにおかしい」
それを遮るように、明らかに不快そうな声が背中から聞こえた。
「はっはっは!! そ、そりゃ…くっくっく。おかしいに決まってるでしょ。普段息巻いて調子乗ってるから、そうやってボロボロになるのよ。幻想郷最強の種族が聞いて呆れるわ」
そう言って、再び笑い始める。
瀬多はレミリアと出会ってさほど時間が経ってない。しかし、その人となりはそれなりに理解できていた。こうやって笑い物にされれば彼女がどう思うかくらいは。
途端に瀬多の身体が軽くなる。先程まで背中に背負っていたレミリアが既にそこにはいない。
瀬多がその姿を感知した時には、レミリアの左腕が幽香を襲っていた。その銃弾のような鋭い攻撃を幽香はいとも簡単に片手で受け止めてみせ、にやりと笑う。
「あらあら。まだそれなりに元気は残っているようだけど、幻想郷最強を謳うにはちょぉっとキレのないパンチね」
「……そっちこそ、今までどこで遊んでたのかしら。またお得意のお花屋さんごっこ? 年増の老後生活は気楽でいいわね」
「ま、遊んでいたといえば遊んでいたわけだけど。私にしてみればこんな殺し合い、遊びの延長みたいなものよ。あなたと違ってね」
幽香はレミリアの拳を掴んだまま、それを瀬多の方に放り投げる。レミリアにしてみれば屈辱的な行為だが、右手と左足を怪我している今の段階ではそれを防ぐ手立てはない。そのまま瀬多にキャッチされ、その時の衝撃で全身に痛みが走る。
「あ、ごめんなさい。大怪我して死にそうな餓鬼は労わってあげないといけないことを忘れていたわ」
「……っ!!」
再び攻撃を仕掛けようとするレミリアを瀬多が慌てて止めた。
「と、とにかく今は情報交換が先だ。あんたとレミリアは知り合い同士だろうけど、俺達の話は興味があるだろ?」
「まあね」
軽く返事をする幽香。あまり興味がありそうな様子ではない。
「デデのだんな? もしかして、そこにだんながいるの!?」
しかし、幽香がぶら下げている一メートルにも満たない少女は、かなり興奮した様子だった。
224託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 11:43:14 ID:ZsHSf6v4


「デデのだんな!」
「アドレーヌ! 無事だったんだな」
二人が両手を握りあってピョンピョン飛び跳ねる様子を見ながら、幽香は口を開いた。
「異世界があるっていう話は、まあ分かったわ。魔界や霊界も同じようなものだしね」
「日本、プププランド、幻想郷、そして魔界や霊界か。認知度の問題なのか。まったく別次元のものなのか。今はまだ判別がつかないな」
プププランド、瀬多の住む日本、幻想郷。後の二つは接点もあるが、プププランドに至ってはまったくそういうものはない。完全に孤立した世界だ。
魔界などと同様に、出入り口はあるが誰も知らないだけなのか。それとも、パラレルワールド的なものなのか。今の情報だけでは分からない。
「たかだか殺し合いするためだけで、偉く手の込んだことをするじゃない。複数の世界を行き来? スキマ妖怪でもあるまいし」
「その辺りのことをもう少し詳しく聞きたい。地図にある別荘まで行ってから落ちついて全員で話はできないか?」
「どっかの足手まといに合わせるのは癪だけど、まあいいわよ」
「……悪かったわね」
さすがのレミリアも、いちいちキレていたら身が持たないことを理解したらしい。ムスっとした態度を取ってはいるものの、それ以上は何も言わなかった。
「アドレーヌ。そういうわけだから、一旦別荘を目指すわよ」
「はーい!」
間延びし、どこか浮かれた返事だ。念願だった知り合いに会えたのだから、それも仕方のない事なのだろう。
幽香が離れたのを機に、瀬多はレミリアに耳打ちした。
「……なぁ、幽香ってどんな妖怪なんだ? 協調性のなさそうな性格の割に二人で行動しているようだし」
「知らないわよそんなこと。宴会で時々顔合わせるくらいなんだし。ただまあ、あいつが誰かと行動してるっていうのなら、そいつは御愁傷様ってやつね。どうせストレスのはけ口にされるのがオチなんだから」
言い方からして、どうやらレミリアはかなり拗ねているらしかった。全快時ならどうということもないのだろうが、完全に優劣がはっきりしている現状が、彼女には気に入らないのだろう。
225託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 11:44:05 ID:ZsHSf6v4
瀬多としては、今回の合流は正直なところ良かったのか悪かったのか、判断しづらいところがあった。ただでさえ操縦しづらいレミリアの機嫌を敢えて損なうような言動を連発する幽香の性格に、少し問題を感じていたのだ。
この二人だけを見て判断するのはいささか軽率な気もするが、とにかく幻想郷の人間は我の強い者が多いようだ。自分から折れるようなことは一切しない。妥協も何もなく、ただ自分のために今を生きる。
それは確かに強さになるだろうが、チームを組むとなるとこれほど大変な連中もいない。レミリアはまだ協調の必要性を感じている部分もあるが、幽香からは一切そういうものが感じ取れない。
デデデもアドレーヌも、あまり場を纏めるようなタイプではないことは、出会って十分も経たないうちに分かってしまった。自分一人でこの二人を制御できるのか。瀬多にはあまり自信がなかった。
「あ、そうそう。そういえば、ここらへんでおっきな地震みたいな音しなかった? 私達、あれがあったからここまで来たんだけど」
アドレーヌが無邪気に聞いたその言葉に、デデデは見るからに気落ちしていた。
「……どうしたの? もしかして、なにかあった?」
しん、と静まりかえる。
レミリアも、事情を察した幽香も、口を挟む気はないらしい。瀬多が事実を伝えようとした時、それを遮るようにデデデの明るい言葉が割って入った。
「てきをたおしたんだ!」
「てき?」
「そうだ! あの地震は……えーっと……そ、そう。レミリアの攻撃のせいなんだ。おれさまも一緒に戦ったから、その時の疲れがちょっと出てただけだぞ。殺し合いに乗ったって言っても、大人数で戦えばなにも怖いことなんかない!」
悲しいことなんて起きなかった。自分達の未来は希望に溢れている。
それは先程の別れを経験した今のデデデにはとても辛く、心に沁みる言葉だった。しかし、リディアと何の接点もなかったアドレーヌにも、自分と同じような苦しみを味あわせることはしたくない。
(ごめんよ、リディア。でも、プププランドに帰ったら、リディアのことはおれさまの友達全員に話してやるからな。とっても強い子だったって、絶対にみんなに教えてやるからな)
「ふーん。吸血鬼ってすごいんですね」
何も知らずにただ感心している様子のアドレーヌに、レミリアは不遜な笑みを浮かべた。
「当然でしょう。この私が本気を出せば、ここら一帯吹き飛ぶわよ」
デデデの嘘に対してレミリアは何も言わなかった。それが嘘だとも、本当だとも。
レミリアが何を思っていたのか、瀬多には分からない。分からないが、レミリアはレミリアなりに、デデデを気遣ったのではないかと、瀬多は思った。
226 ◆S33wK..9RQ :2011/01/03(月) 13:06:27 ID:PmqbQTcS


「遅い。もっと早く歩け」
「これ以上はいざという時に支障が出る。我儘を言うな」
別荘に向かう道中、かれこれ三度目になる問答に、瀬多は辟易していた。
瀬多がレミリアを背負っているのでその行軍は通常よりも少し遅いものとなっていた。そのことはレミリアも承知しているが、彼女の理屈としては「なら、瀬多がもっと早く歩けばいいじゃない」という結論に達するのだ。
唯我独尊のレミリアにとって自分が足を引っ張っているなどということはたとえ天変地異が起ころうと考えないのである。
「誰に向かって口を聞いている? お前は私の下僕なんだから、言う通りにしていればいいのよ」
いつ下僕になったんだ、というツッコミは話をややこしくするだけなので敢えてしない。
「はぁ。部下に当たり散らすなんて情けないわね。求心力の薄さが目に見えるわ」
部下じゃないけどな。
心の中で瀬多は呟いた。
「ふん。自分の部下を捨てて隠居生活するような老婆に言われたくないわね。案外、部下に見放されて泣く泣くお花畑に水をやってるんじゃないの?」
「プライドだか見栄だか知らないけど、自分で管理できないくらいの妖精を雇い入れるような馬鹿よりはマシだと思うけど? 私はどっちにも当てはまらないけど」
「……」
「……」
二人は見るからにイラついていた。幽香はあからさまに舌打ちしているし、レミリアの指は先程から瀬多の肩に食い込んでいる。いつ血が滲み出てもおかしくないくらいに痛い。
「お、お二人ともそんな喧嘩しないでくださいよ。ほ、ほら! もうすぐ日が昇りますよ!! 綺麗なお日さまを見ながらみんなでお話しましょう」
「そうねえ。じゃ、ここらで休憩しましょうか。皆で朝日を楽しみながらお喋りするのはさぞ楽しいでしょうし」
見るからに嗜虐的な笑みでレミリアを見つめる幽香。それを見て、アドレーヌはようやく地雷を踏んだことを実感したらしい。両手で口元を押さえている。
「……殺す。もう殺す。絶対殺す!」
「ま、待て! 落ちつけ! これ以上怪我がひどくなったらどうする!」
「そうだぞ! このままじゃいつまでたっても怪我が治らん」
背中から飛び出そうとするレミリアを瀬多とデデデが慌てて止める。
「幽香さん! そんないちいち癇に障る言い方しなくてもいいじゃないですか!」
アドレーヌがキッとなって幽香を諫める。
「何? 私が悪いって言いたいわけ?」
「い、いえ別に…そういうわけじゃないですけど」
しかしそれも幽香の視線一つで尻すぼみ状態である。
怪我をしているという点で押さえやすいレミリアに対し、幽香は常にフリーダム状態だ。一番注意できる立場にあるアドレーヌの言う事も聞かないのだからもう手がつけられない。
瀬多は溜まっていく一方である精神的疲労から、思わずため息をついた。
227託された希望 代理:2011/01/03(月) 13:08:28 ID:PmqbQTcS

そんなやりとりを三度くらいこなしていると、ようやく目当ての別荘に辿り着いた。
早速中に入り、先客がいないかを慎重に確かめる。その工程を終えて居間に集まると、ようやく一服できる時間がやってきた。
「とにかく、ここでレミリアの回復を待つのが得策だな」
「それはいいけど、話があるのならさっさと終わらせてくれないかしら?」
ここに来る道中であらかたの情報交換は終わっていたが、それでも瀬多は全員に話し、聞いておきたいことがあった。
「そうだな。それじゃあとりあえず全員集まってくれないか?」
居間はかなりの広さではあったが、その分家具は充実していないようで、椅子やテーブルの類もあまり置いていなかった。必然的に床に直接座ることになる。全員が輪になって、各々の場所に腰を下ろす。
窓から少し差しこんでいる太陽の光が、今の時間を物語っていた。
「さて。まずはみんなにこれを見て欲しい」
そう言って瀬多が取りだしたのは、一冊の本だった。
「何なのだこれは?」
デデデがそれを受け取り、ペラペラとページを捲る。
しばらく本を眺めていたデデデが、突然目を大きく見開いた。
「こ、これは!! なぜおれさまとカービィのことが載っているのだ!?」
その声に興味を惹かれたのか、瀬多以外の人間が本を覗き込む。
「あら、私と霊夢の初顔合わせのことも載ってるわね」
「あっ! 私のことも載ってる!! なんか恥ずかしいなぁ」
「で、このふざけた本は一体何なのかしら」
全員が少なからず興奮状態にある中、幽香はひどく冷静な態度で瀬多に聞いた。
「“攻略本”らしい。このゲームのな」
「ゲーム、というのはつまり、殺し合いのことですか?」
アドレーヌの言葉に瀬多は頷く。
「参加者とその世界の説明が簡潔に載ってある。ただそれだけじゃなく、色々と殺し合いをする上でお得な情報もあるみたいだな」
「得? 強力な武器が会場に隠されてるとか、そういうこと?」
「まあそんな感じだ。中でも一際目立つ情報がこれだな」
そう言って、瀬多が本のとあるページを開いて皆に見せた。
「……どういうこと?」
「どういうことも何もない。本に記載されている通りだ」
その本の見出しにはこう書いてあった。
『爆弾首輪を外すためのお得情報!! 各エリアに隠された四つのクリスタルを見つけろ!』
その下にはクリスタルなるものの隠されている詳細な位置が書かれていた。
「よ、よくわからないぞ。どうしてそんなものを教える必要があるのだ?」

228託された希望 代理:2011/01/03(月) 13:10:17 ID:PmqbQTcS
「俺の考えを言ってもいいか?」
全員が瀬多を見つめる。それを了承の合図と受け取り、瀬多は話し出す。
「ここに書かれていることが真実である可能性は低いだろう。主催者にとって、この首輪は殺し合いを促すためのものであるはずなんだ。デデデの言う通り、主催者側にこんな情報を俺達に教えるメリットなんてない。ただ、この情報が殺し合いを促進するというのなら話は別だ」
「え、え〜っと……どういうことでしょう?」
アドレーヌの疑問の声があがる。
「簡単に説明しよう。そもそも首輪が殺し合いを促すというのは、放送で流れる禁止エリアによる影響が一番強い。一所に隠れられなくすることで遭遇確率を高めるってわけだ。
で、そういう行動を取ろうとする人間は、自分の力に自信を持っていない奴が比較的多いだろう。…アドレーヌ。もしも君が殺し合いに優勝しようと思ったら、どうする?」
「え!? えっと……」
突然質問を振られ、慌てて考える。
「そう、ですね。やっぱりずっと隠れてます。禁止エリアに指定されたら動いて、別エリアに入ったらまた……あっ! そうか!!」
「そうだ。おそらく主催者はそういう状況を避けたかった。だからこんな回りくどい真似をして参加者の動きを活性化させようとしたんだ。
首輪さえ解除されればこのゲームはクリアしたも同然だからな。禁止エリアに入って、あとはずっと隠れていればいい。24時間の間に死者が出なければ首輪が爆発するというルールがある以上、それで優勝は確定だ」
殺し合いはあくまで殺し合いでなければならない。ただ隠れて逃げのびるだけでなく、命のやり取りに参加しなくてはならないのだ。

それが娯楽目的なのか、他に何か意図があるのか。現段階では何とも言えないことだが。
「ここから読み取れる情報はいくつかある。まず一つは、主催者はどの参加者にどの支給品を支給するのか、あらかじめ決めていた可能性が高いということ。この攻略本が幽香やレミリアのような強者に渡ったら、その効力はまるきり無駄になるからな。
徒党を組みそうな人間を選ぶ必要があったっていうわけだ。そしてもう一つは、この攻略本に書いてある、情報の正誤を比較的簡単に確かめられるものは、全て真実だということだ」
「根拠は?」
「情報の過ちが分かれば、即座にこの本は参加者にとって不要なものになる。だから参加者の生い立ち、各世界の説明は信用できる。序盤でも活発に動けばけっこうな参加者と遭遇することが出来るからな」
ここにきて、程度の差はあれ、全員が瀬多に感心していた。対主催派にとって、支給品はいわば敵からの贈り物である。
主催者に対する反発が強ければ強いほど、支給品の信頼性は落ちる。特にそれが情報関係のものなら尚更だ。瀬多は見事その信憑性を得ることに成功したのだ。
「ここまでの話は理解したわ。それで? 結局あなたは何が言いたいわけ? その攻略本が一定の信用に足るものだとわかりましたって、それだけ伝えるためにわざわざ私をここまで同行させたんじゃないでしょうね」
「まさか。今ようやく話のスタート地点に立ったところだ」
その言葉にアドレーヌもデデデも苦い顔をした。これまでの話でも付いて行くのが辛かったというのに、まだ話は半分にも達していないのだ。


229託された希望 代理:2011/01/03(月) 13:11:49 ID:PmqbQTcS
「この本の信頼性がある程度高いことは分かってもらえただろうと思う。そこから俺は、一つの仮説を潰したかったんだ」
「仮説?」
「このゲームは攻略可能かどうかっていうことだ」
瀬多の言葉に、幽香とレミリアはどこか意図を汲みかねたように首をかしげ、アドレーヌとデデデは逆に食い入るように瀬多を見つめた。
「どういうことかさっさと教えなさい」
「殺し合いに乗る人間にとって、おそらく最も割合の高い動機が、実際に当てはまるのかってことだ」
幽香とレミリアは未だしっくりとこないらしい。
「幽香、レミリア。二人はどういう動機が一番多いと思う?」
「動機なんて……そりゃあれでしょ。あの……最強を証明したいとか」
「主催者をぶっ殺すためのかけ橋よ。優勝したらやっぱり顔くらい見せるでしょ? その時に刻んでやるのよ」
瀬多の想像以上に物騒で力押しな答えだった。
「……正解は、勝てるわけがない、だ」
「「はぁ?」」
面白いほどに声が重なった。
それにしてもと瀬多は思う。どうしてこの二人は、これほど自信満々なのだろうか。自分の命を握られているという自覚が足りないのではないか。
「要するに、全知全能の神がいたら刃向っても無駄だと思うだろ。それと同じ理屈だ」
「そんな奴がいたら私が逆さにして吊るしてやるわ」
「あたしなら串刺しにして、にんにく漬けにするわね」
「……あんたらの意見はわかった。けど、この仮説を崩すのはけっこう重要なんだ。こういう場所で真に危険なのは強者じゃなく、弱者だ。それも、一見味方のような奴がな」
何となく文句を言いたそうな顔をしている二人を無視して瀬多は話す。
「強い奴は確かに脅威だが、行動を予測しやすい。だが、情緒不安定な奴は、何をしでかすか分からないという点でかなり危険なんだ。
食べ物に毒を盛るかもしれない。寝込みを襲われるかもしれない。このゲームで重要なのはチームを作ることだ。
チームを作り、いかにそれを瓦解することなく保ち続けるか。それが勝負の鍵だ。強い奴だけじゃなく、機械や魔法に詳しい奴も必要だし、チームをまとめる人間も必要になってくる。
そんな中で、いかに全員がぶれずに動けるか。そのためにはまず、主催者は神なんかじゃないという絶対的な事実が必要なんだ」




230託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 13:34:26 ID:ZsHSf6v4
アドレーヌもデデデも、どちらかといえば弱者側だ。だからこそ瀬多の言い分、その本質を理解できた。
必ず攻略できるという確信がなければ、ゲームを根気よくプレイすることは出来ない。ゴールがあるから人はそれに向かって動ける。瀬多はまず、このチームの芯を作るために、そのゴールを見つけたかったのだ。
「このゲームを成り立たせる要素は多くない。そして、そのほとんどが個人にとっては神がかり的なものであり、参加者全体の視点で見れば大したことのないものだ」
攻略本で得た知識を瀬多は語る。ワープを可能にする杖。博麗大結界やマヨナカテレビ。
それらの存在を全て兼ね合わせれば、この殺し合いを始めるために起こさなくてはならない奇跡のほとんどが可能なのだ。
「マルクに大した力はない。ただ様々な世界を行き来できるというだけだ。あいつ自身には何の力もない。そして、奴が俺達の常識を併せ持った存在だというのなら、俺達が力を合わせれば、奴を倒すことだって難しいことじゃない」
瀬多が紡ぎ出した仮説。それはアドレーヌやデデデにとって、確かに希望の光のように思えた。
首輪によって命を押さえられ、殺し合いを強要され、まさしく神のように遠い存在だと思っていたマルクとの距離が、一気に縮まった気がした。
「私達はどうやって拉致したの?」
幽香の冷めた声が聞こえた。
「あなたたちがいつどうやってここに連れてこられたかは知らないけど、私の場合は本当にあっという間だったわ。まばたき一つした瞬間、妙な場所で首輪をつけられていた。このイリュージョンはどうやって説明するつもり?」
その言葉に全員が黙った。
ワープする杖があったとしても、それを使用する間に何らかのモーションがあったはずだ。それにすら気付かずこの場所に飛ばされる。幽香やレミリアといった強者を相手に、そんなことが簡単にできるとは思えない。
「……方法はないわけじゃない」
これまで流暢に話していた瀬多が初めて言い淀んだ。しかしそれでも、その方法に心当たりがあると、確かに瀬多は言ったのだ。
アドレーヌやデデデだけじゃない。今度ばかりはレミリアや幽香も、瀬多の言葉に耳を傾けていた。
「だが、確証がない。そして、それを今皆に言うことはできない」
「希望がないからか?」
レミリアは馬鹿にするように笑った。
「……とにかく、そのことについては俺が少し考えてみる。だから今は追及しないで──」
ピタリとレミリアが動きを止めた。それと同時に幽香もアドレーを自分の元に引き寄せる。
ガシャアン!!
団欒の時間の終わりを告げるチャイムが、今鳴り響いた。
231託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 13:36:25 ID:ZsHSf6v4
ガラスを突き破り、別荘の中へと放り込まれた何か。それが五人にぶつかろうという時、幽香の拳が唸り、地面に叩きつけられた。
「ちっ。随分と悪趣味なことをするわね」
殴った手をひらひらと振る。そこからは夥しい血が流れていた。
「ゆ、幽香さん! 血が!!」
「私のじゃないわ。それよりあなた、少し目を瞑ってなさい」
オロオロしながらもアドレーヌは、幽香が叩きつけた物体に目を落とした。
「ひっ!!」
それは明らかに人間だった。いや、人間だったものだった。
「どこからどう見ても人間の死体だな。…ふん。ただの奇襲にしてはなかなか凝った演出じゃないか」
ただただ事態が把握できずに困惑していたアドレーヌは、青い顔で目を背けた。
「どうやらあっちからお出向きするつもりはないようね。これだけ心地良い殺気を放っておいて、随分と身勝手な奴だわ」
幽香はアドレーヌを瀬多の元へと引き渡し、スタスタと先程死体が放り投げられた窓の方へと歩いて行く。
「幽香! 一人でどこに行くつもりだ」
「決まってるでしょ? これを投げつけた失礼極まりない奴をぶっ殺しに行くのよ」
そう言って笑う幽香に、瀬多は、アドレーヌは、デデデは、戦慄を隠し切れなかった。その表情から湧き出る感情があまりにも場違いで、理解し難いものだった。
愉悦。
幽香は、誰の目にも明らかなほど、この残忍極まる襲撃者の来襲を喜んでいた。
やっと戦える。
鮮血をほとぼらせ、骨をきしらせる戦いがようやく出来る。
幽香のあまりにも凄まじい飢えに、瀬多達はまるで捕食者にでもなったかのような恐怖を覚えた。
「おい。あまり調子に乗ったことするんじゃないわよ。…あいつ、なにかおかしいわ」
負の感情、闘争本能を引き立たされる奇妙な感覚。それを自分の身に実感しながらも、レミリアは言った。
「私を誰だと思っているの? さっさと殺してきてやるから、怪我人は大人しくしておきなさい」
幽香はそれだけ言うと、割れた窓からさっさと出て行ってしまった。
232託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 13:38:07 ID:ZsHSf6v4


六時間ぶりに拝む日光に目を細め、幽香は目の前にいる男に対して笑ってみせる。
「あらあら。もっと陰湿そうな顔してるかと思ったら。こんなおじ様だとは思わなかったわ」
「それは我も同じだ。一番の強者と戦うために、わざわざ待ってやっていたというのに、出てきたのは小娘だというのだから」
「……今も、そんなことを考えられるかしら?」
対峙する幽香とアシュナード。
視認すら出来るのではないかと思うほどの闘気が、覇気が、二人を包み込んでいた。
「まさか。久々に高揚しているところだ。これほどの強者をこの手で屠れるというのだからな」
「その自信、根本からへし折ってやるわ」
自分のデイバックから一本の斧を取り出す。
それに合わせて、アシュナードも刀を取り出した。
目の前の標的を確認し合うように互いの武器で相手を指し示す。
一瞬の静けさ。
どちらからともなく、二人の武器は交差した。


233託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 13:39:48 ID:ZsHSf6v4


「レミリア。俺達も幽香の援護に行った方が……」
「止めときなさい。そんなことしたら幽香に殺されるわよ。あいつが死ぬなんてこの私が死ぬ次の次くらいに有り得ないから心配する必要はないわ」
そう言って、フラフラな身体で小さなソファまで行くと、そこにゴロンと横になった。
「い、いくらなんでもリラックスしすぎだ! 敵は眼の前にいるんだぞ」
「何度も言わせるな。幽香が向かったんなら、少なくとも小一時間は安全だ。その間にちょっとでも回復しておきたい。いい加減おちょくられるのも我慢の限界なの」
「だからって……」
言いかけて、瀬多はこれ以上先の言葉を呑みこんだ。
たった少し横になっただけで眠りに落ちてしまったレミリアを見れば、彼女の負傷がどれほど酷いものなのかは理解できる。いくら吸血鬼で再生能力が高いといっても、やはり限界が近かったのだろう。
彼女としても自分と同等の力を持ち、無傷だった幽香を見て焦りを覚えていたのかもしれない。
「寝顔だけ見れば可愛いんだけどな」
苦笑して、自分も腰を下ろす。いざという時に全力を出せるように、できるだけ体力を回復しておきたかった。
ふと、そこでずっと黙って下を向いているアドレーヌに気付いた。
「どうしたのだ、アドレーヌ? お腹でも痛いのか?」
デデデもそれに気付き、優しく声をかける。
「……幽香さん、喜んでた。私を守ってくれるって、そう言ったのに」
デデデも、そして瀬多も、それを否定することが出来ず、黙り込んだ。
「幽香さんにとって、私はただのエサだったんだ。私と一緒にいたのも、けっきょく強い人と戦いたいだけ。……私のことなんて、ホントは嫌いだったんだ」
「……アドレーヌは、幽香を信じてるのか?」
アドレーヌは思わずデデデを見つめた。
「幽香は、アドレーヌのために戦ってるんだぞ。そんな奴が、アドレーヌのことを嫌いなわけない。だから、幽香を信じてやらないといけないぞ」
アドレーヌは俯いて、デデデの言葉を聞いていた。
「幽香もレミリアも、俺達とは少し違う。強靭で、裏打ちされた絶対的な自信がある。我が強くて、非情で、一見すると何を考えてるかよくわからない。
でも、それでも二人は、殺し合いに乗らず、俺達と一緒に行動してくれてる。俺もデデデと同意見だ。俺達は守られるばかりじゃない。二人を信じてやらなくちゃいけないんだ」
アドレーヌは、割れた窓に目をやった。そこから幽香を確認することはできないが、戦いの音がそこから聞こえてくる。
「……そう、ですよね。私が…幽香さんを信じてあげなくちゃ」
「そうだぞ。おれさまも、…おれさまだって、リディアをずっと…信じてたんだから」
デデデは、ここにきて、ようやくその言葉を言う事ができた。カインの甘言に戸惑うことはあった。けれど、自分はリディアが死ぬその瞬間まで、彼女をともだちだと思っていた。
それを今、実感することができた。
「リディア? それはだれ?」
デデデは流れ落ちそうな涙を我慢し、アドレーヌに向けて微笑んだ。
234創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 13:40:30 ID:PmqbQTcS
支援
235託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 13:42:13 ID:ZsHSf6v4
「リディアはな。おれさまの──」

ドゥン!

「とも……だ…ち……?」

デデデは当惑する。突然声が出なくなった。突然背中が暖かくなった。突然激痛が走った。
蒼白になり、今にも叫び声をあげようとしているアドレーヌが目に映る。休息していた瀬多が驚愕と共に立ち上がる。
デデデは、後ろを振り向くことなく倒れ伏した。
「ひゃーはっはっは!! 再生完了だぜ」
先程まで、眼を背きたくなるほどボロボロだった死体が起き上がり、豪快に笑っている。
何が起こったのか。そんなことを考える暇など瀬多にはなかった。
「ペル──」
「遅えええ!!」
男の隠し持っていた銃が今度は瀬多に向けられる。
ドゥン!!
慌てて避けるも足を取られ、そのまま転倒してしまう。
「二人目ええええ!!!」
転倒した瀬多に馬乗りになり、そのままリロードを素早く済ませて、今度は外さないように瀬多の眉間に照準を合わせる。
「死ねえええ!!!」
「うるさいぞ」
「は?」
瞬間、男に向かって鮮血のように紅い槍が放たれる。それは男の腹に風穴を開き、しかしそれでも勢いは止まることなく、男と共に別荘の壁を貫通した。
「ちっ。……魔力精製に時間がかかるのはかなりネックだな」
未だフラフラした状態のレミリアはソファーから起き上がった。
「……おい、アドレーヌ。一体何があった?」
「デデのだんな!! 起きて!! 起きてよぉ!!」
泣きじゃくるアドレーヌはレミリアの問いが聞こえなかったようだ。未だデデデを揺さぶっている。
レミリアは見るからに苛々した様子でアドレーヌに近づき、その頬をぴしゃりと叩いた。
「しっかりなさい。デデデはまだ生きてるわ。戦闘不能だろうけどね。あんた以外に誰がこいつの治療をするのかしら」
一瞬だけぼーっとしていたアドレーヌだったが、レミリアの言葉の意味を理解すると、慌てて応急処置の準備を始めた。
ようやく冷静さを取り戻したアドレーヌに、レミリアはやれやれとため息をついた。
「で、何があったのか、さっさと教えなさい」
「わ、私にもよくわかりません。最初に投げ込まれた死体が、いきなり……」
手の動きは一切止めずに、涙をぽろぽろ流しながらも、アドレーヌは必死にデデデを助けようとしている。
レミリアは何をするでもなく顎に手をやって考え事をしていた。
「ゾンビってこと? さっきの死体にしては随分と小綺麗だったけど」
言いながらも、レミリアは一つだけ心当たりがあった。以前、従者である咲夜と肝試しに行った時に出会った人間。『蓬莱の薬』を呑み、不老不死になった人間。
もしもあいつがそれと同じなら。
力のない人間といっても、この殺し合いの中ではかなり厄介な相手だ。
「おい、瀬多。いつまで寝ている。さっさと起きろ」
そう言って足蹴にするも、瀬多は一向に起きる気配がなかった。怪訝に思い、胸倉を掴んで揺さぶってみる。それでも動かない。息はしてるし心臓も動いている。なのに何故か、一向に目覚める様子がなかった。
236創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 13:42:31 ID:PmqbQTcS
支援
237託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 13:43:56 ID:ZsHSf6v4
「やりやがったなこのガキイイィ!!」
穴の開いた壁から再びあの男が現れた。ぽっかり開いていたはずの腹の穴は当然のごとく塞がっている。
「蓬莱の薬を飲んだな、餓鬼」
瀬多から手を離し、男と向かい合う。今の自分の状態では相性の悪過ぎる相手だが、幽香がもう一人の敵を片付けるまでは自分が引き受けるしかない。
「蓬莱ぃ? 名前なんか知らねえが、妙なもんを飲まされたのは確かだな」
「お前のような屑には勿体ない代物だ。未だ人間気取りのような奴は特にな」
「あぁ?」
「不死になったんだろう? だが、お前の周りには恐怖が纏わりついている。息巻いてはいるが、お前は痛みなどという矮小なものにさえ怯えている」
男は黙っている。
「おおかた、ここに放り込まれたのも無理やりだったんだろ? こんな特攻を思いついて実行するような奴には見えないからねぇ。
お前は怖いものだらけだ。ここに放り込んだ奴も怖い。痛みも怖い。そしてこの私も。お前は無敵になったつもりかもしれないが、私から見ればなんてことはない。お前はただの精神的惰弱者だ」
赤い瞳が輝くように光る。牙をむき出しにして笑う。
たとえ身体が小さくとも、そこにいるのは正真正銘の吸血鬼だ。
「……うるせえ」
小さく、男は言った。
「うるせえうるせえうるせえうるせえ!!! 俺は弱くねえし餓鬼でもねえ!! 俺はシルバーだ!! クソ親父だって越えれる男だ!! てめえなんかを怖がって堪るかあ!!」
シルバーはレミリアに向けて銃を向ける。レミリアの怪我を思えば、圧倒的なピンチであるにも関わらず、彼女は余裕の表情で笑っていた。
「この状態の私でも貴様を屠る程度のことは造作もないぞ? さぁ来い、弱者。人間を止め、それに縋りつく者よ。私が直々に教えてやろう。人外というものを」
シルバーとの距離を、まるで瞬間移動でもしたかのように詰め、その頭を片手で掴むと、そのまま地面へと叩きつけた。
引き金を引く。それだけの動作すらさせてもらえない。
あまりの勢いに地面がへこみ、シルバーは声にならない悲鳴をあげる。
「どうした? 怖くないんじゃなかったのか? 今のお前は私に対する恐怖でいっぱいに見えるぞ」
片手片足が使えない状態とは到底思えない力の差。それを目の当たりにして恐怖を覚えない者などいるはずがない。
自分の立ち位置を思い出させる力。
自分は所詮、捕食者なのだ。
シルバーの絶望と、レミリアの愉悦。双方入り混じる別荘に、轟音が響き渡った。
238創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 13:44:52 ID:PmqbQTcS
支援
239託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 13:45:52 ID:ZsHSf6v4


斧と刀がぶつかり合う。その度に大気は震え、火花が散る。
何度となくぶつかり合う二本だが、武器の質としては決して上等とはいえない。しかし、使い手がその質の悪さを完全にカバーしていた。その圧倒的な力で。
「素晴らしいぞ!! よもやここまで戦えるとは。化身せぬところを見れば貴様もベオクのようだが、これほどの女は初めて見る」
「私はよく見てるわね。あなたみたいに自分が最強だと勘違いしてる弱者は」
一際強い一撃を受け合う二人。その反動で距離が開く。
「我を弱者呼ばわりする奴も初めてだ。つくづく我の興味をそそる」
ここまでの凄まじい打ち合いなどなかったかのように、二人は汗一つかいていない。
「お喋りはそれで終わり? さっさと済ませたいんだけど」
「仲間が気になるか?」
幽香はただ黙ってアシュナードを見つめている。
「フン。分かっているだろう。貴様はこちら側の人間だ。我と同じように強者を求め歩いている。強者と戦い、勝利することこそ我々の存在意義なのだ。なのに何故群れをなす。何故互いの傷を舐め合う弱者に与する」
アシュナードは言葉を切り、すっと手を差しだした。
「我と共に来い。我が貴様にとっての理想を実現してやろう。強者が生き、弱者が死ぬ世界。強者こそが正義となる世界を我が作ってやる。だから…我の妃になれ」
あまりにも直球なプロポーズ。
照れの一つなく言い切ったアシュナードの言葉に、当の幽香は眉一つ動かさない。
「NOよ。あなたの世界もあなた自身も、私には微塵の興味もないの。私は私のやりたいようにやるだけ。強い奴がいれば闘うし、そこに花があればそれを愛でるし、私はいつだって私の好きな様にする。それともう一つ訂正ね」
言葉の合間を縫って、幽香は一足でアシュナードの懐へと入り込んだ。
「私は人間じゃない。史上最強の妖怪よ」
隙をついた横なぎの一撃。それはアシュナードの鎧を粉砕し、そして自分の斧までも砕け散らせた。
斧を捨て、拳による二撃目を繰り出す前にアシュナードの蹴りが幽香の腹に突き刺さる。
もう一度距離を取る二人。
「少し甘かったか」
「ああ、甘い。それに温い。貴様はどこかで力をセーブしている」
「よく分かったわね」
「何故本気を出さん」
「出す必要がないからよ」
「フン。つまらん嘘をつくな。自分で自分を制御出来ないからだろう?」
図星を突かれたのか、幽香はピクリと反応する。
「我の周りから出るメダリオンの瘴気。残留したものとはいえ、闘争本能の塊である貴様にはなかなか堪えるものがあるのだろう?」
幽香は強者の多い幻想郷の中でも突出して戦闘力が高いことで有名だ。だから好き好んで幽香に戦いを挑む者など一人としていない。スペルカードルールも考案された現在、幽香が全力で戦うことなどまずないのだ。
パワータイプの幽香が本気になれば周りなど見えなくなる。おそらく自分の愛する花畑を壊しながらでも闘うだろう。
久々の全力、さらにメダリオンによる瘴気が渦巻くフィールド、そして守らなければならないもの。この三つの要素は幽香を制止させるに十分なものだった。
「どうした? 本気を出したくて仕方がないという顔をしているではないか。全力を出しても壊れない玩具がここにあるのだぞ? 貴様にとっては絶好のチャンスではないか?」
その通りだ。確かにその通りだ。
しかし、幽香の中で何かが歯止めしている。
その時だった。
よく知った、背筋に鳥肌がたつような感覚が幽香に走る。
アシュナードもそれを感じ取ったのだろう。幽香と同じ場所を振り向く。
そこには二人の男がいた。遠目からこちらを窺っているが、攻撃してくる様子はない。しかし、その殺気と佇まいから、彼らが殺し合いに乗っていることは明白だった。
アシュナードは幽香を一瞥し、にやりと笑う。
すっと音もなく手を伸ばし、アシュナードは別荘を指差した。
幽香はアシュナードが何をしているのか一瞬分からなかったが、すぐにその意図を察した。
「あ、あんた何を!!」
「貴様の心配の種を一つ減らしてやろうとしているのだ。感謝しろ」
二人組の男はアシュナードの意図を汲むと、そちらへ向かって走って行った。
「これで、貴様は我をいち早く倒さねば──」
アシュナードの頬に幽香の拳がぶち込まれた。
地面をバウンドして転がり、慌てて立ち上がったアシュナード。しかし既にその前には幽香が拳を引いて立っている。
刀を振るう。が、それは幽香の拳によっていとも簡単にへし折られた。
「ふはははは!!! いいぞ!! この強さ、この狂気。これこそ我が妃に相応しい!!!」
拳を武器に、二人は狂気に駆り立てられるかのように殴り合った。
240創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 13:46:01 ID:PmqbQTcS
しえん
241創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 13:50:32 ID:PmqbQTcS


「やったか? カイン」
セシルの冷静な声が別荘に木霊する。
アドレーヌはもはや言葉すら出ない。デデデも意識はあるが、朦朧としている。瀬多に至っては未だ気絶した状態。シルバーは先程のレミリアの一撃が効いているのか、再生中で状況を確認する余裕すらない。
突然現れた鎧の男。まるで隕石のように天井を抜いて落下してきたカインの一撃に、レミリアは頭からどくどくと血を流して倒れていた。
ここに来る前、セシルはカインと情報交換を済ませると、強敵であるレミリア・スカーレットを弱っている内に倒すことを主張し、カインもそれに乗ったのだ。それは今の状況を見ても妙案だったということがわかる。
「いや。ギリギリでかわされた。槍で頭を一突きにするつもりだったんだが、蹴りをいれるので精一杯だった」
しかし、その蹴りも『ジャンプ』によって威力は何倍にも膨れ上がっている。吸血鬼であるレミリアでなかったら明らかに即死だ。そしてレミリアも死は免れたが、さすがに意識を失ってしまっている。
「だが、この状況を見れば、このチームは壊滅したも同然だな」
気絶した瀬多とレミリア。瀕死のデデデ。戦闘力のないアドレーヌ。幽香は外で戦っている。遠目から見た様子では外で戦っている二人は戦力的に拮抗している様子だった。
それならばまだ時間はたっぷり残っている。
ここにいる死にぞこないを全員殺せるだけの時間は。
「ま、待ちやがれ!! こいつは俺のえも──ぎゃああああ!!!」
「黙れ」
再生したシルバーに間髪入れず斬撃を繰り出す。両腕を切断され、のたうつシルバーを無視してセシルは構える。
「面倒だ。まとめて片付ける。カイン、離れていろ」
アイクを沈めた全体攻撃、暗黒を放つ構えだ。
暗黒のことを知らずとも、アドレーヌには何か強力な技を相手が使おうとしていることがわかった。
「だ、だめです!! ぜったいに、だれも殺させたりしません!!」
レミリアを引きずり、できるだけ三人を近くへと引き寄せる。暗黒を防ぐ方法などアドレーヌにはない。
しかし、それでもどうにかしたい。
一人だけでも生き残らせたい。
自分が盾になれば一人くらいは生き残るかもしれない。アドレーヌは残された時間で必死に皆を引きずり、そして一人セシルの前で手を広げた。仲間を守る為に。
「暗 黒」
無慈悲な声が響き渡り、アドレーヌの視界が黒い光に包まれた。
思わず目を瞑る。
痛みが全身を貫き、真っ赤な鮮血が……
「あれ? 痛くない」
思わず自分の身体を確認する。怪我一つしていない。一体どうして。そう思った時、一つの声が聞こえた。
「少し見ぬ間に強くなったな、アドレーヌ」
自分よりも小さな体。しかし凛とし、大人びた雰囲気を漂わせるマントを羽織った球体の男。
「メタナイトさん!!」
小さな、しかし正義を貫く強さを持った剣士がそこにはいた。


242創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 13:51:13 ID:PmqbQTcS

どこだ、ここは。
瀬多総司が最初に感じたのはそんな疑問だった。
振動する地面。その不規則な揺れから、今自分が立っている場所そのものが移動していることがわかる。
目を開くと、そこに立つ自分をしっかりと確認することができる。
凹凸の激しい道を走っているのだろうか。再び地面が揺れる。
「俺は……一体」
自分の両手を確認しながら、思わず呟く。
辺りを見渡すまでもなく、瀬多は実感していた。
そう。自分はここをよく知っている。豪勢なソファー。カラス張りのテーブル。車の中とは思えない、広く調度品の多いこの場所を。
突然、聞き慣れた老人のような声が響いてきた。
「ようこそ、ベルベッドルームへ」
思わず顔を上げ、そこにいる者を睨みつける。
「お前か、イゴール」
「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。…フフ。あなたには無用の説明でしょうね」
肩を揺らして笑うイゴール。その度に長く突き出た鼻が揺れ、瀬多を苛立たせる。
「ここにいるということは、やっぱりお前が絡んでたんだな」
「はてさて。それはどうでしょうか。…しかし、あなた様はそれを確信していらっしゃる。だからこそ、ここに来ることが出来たのです」
イゴールの煮え切らない答えを無視して、瀬多は口を開いた。
「お前が絡んでいる可能性は、ここに来た時から考えていた。この殺し合いを開催する力。それだけを考えれば、一番実現可能な人物だからな」
イゴールについては瀬多自身も知らないことだらけだ。ペルソナを生成することができ、異次元空間を作ることができる。瀬多の夢にまで干渉できたことを考えると、人の意識を絶った状態で特定の場所に連れて来ることも出来そうだ。
「フフフ。まあ、お堅い話は置いておきましょう」
「お前が絡むといつもお堅い話になるんだがな」
イゴールについて分かることは二つだけ。おそらくこいつもペルソナ使いで、相当の実力者だということと、どんな事件が起こっても絶対に直接的な干渉はして来なかったということだ。
マヨナカテレビの事件だって、イゴールが出てくれば簡単に解決しただろう。なのに、あくまでもサポートに徹するのみだった。事件そのものを解決することは出来ずとも、少なくとも死者を出さないようには出来た筈だ。
目的のためならば、死人が出ても構わない。それくらいのことは考えていると思っていいだろう。
「今回、あなたをここに呼んだのは、私の存在に感づいたということもありますが、もう一つ、契約を果たしてもらうためでございます」
「……契約?」
「その通り。それも、今この瞬間に結ぶ契約でございます」
そう言って深々と頭を下げ、どこか含んだ笑みを浮かべた。
「……聞こう」
「そう言って下さると思っておりました。あなたは人よりも冷静で柔軟な頭をお持ちだ」
「前置きはいい。用件だけを言え」
「フフ。せっかちな人も嫌いではありません。では契約内容をお話しましょうか」


243託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 19:53:19 ID:/NOSqbHW
長話をする前の一呼吸。その演出的な喋り方も、瀬多は気に入らなかった。
「その前に一つご質問を。あなたにとって、最高のゲームとは何でしょうか?」
「ゲーム?」
そう言われて思いついたのは、トランプやゲーム機、ボードゲームの類だ。どれも人並みにはやるが、最高とまで言えるようなものは特に思いつかなかった。
「それがこの契約と何の関係がある? いや、そもそも俺がその契約を結ぶとも言ってない」
「話は順番に。何をそんなに慌てておられるのです?」
そうだ。何を俺は慌てているんだ? 
イゴールに言われ、とにかく少し黙りこむことにする。しかし、どこかそわそわした感覚が離れない。
何か、重要なことを忘れている気がする。しかしそれが何なのか。一向に思い出せない。
「万人にとって、遊びの定義は様々です。お子様方ならばおままごとや砂遊びなどがそうでしょうし、少し歳を取れば縄跳びや野球といったものになる。
人はその人のキャパシティの中で出来ること、全力で取り組めることを遊びとしてきました。
遊びを遊びとする定義はたった一つ。その者がそれを行い、楽しいと思えるかどうか。楽しいと感じる行為。
その行為に一定のルールを添えたものがゲームと呼ばれるものでございます」
「……このゲームの主催者は、遊び感覚で俺達を集めたって言いたいのか? そして、他でもない、俺達とゲームをしてると?」
「フフ。それも一つの答えでしょうな」
にやりと笑うイゴール。
イゴールの反応から、自分の答えが正しかったのかを判断しようと考えていたのだが、それは不可能だったようだ。
「私はこの会場内のどこかにいます。私を探し出し、再びこうして相対した時、真実をお教えしましょう。私とあなたにとっての真実を」
「どういうことだ? お前の言っていることはいちいち分かりづらい。そうやって俺を動き回らせて、殺される確率を高めようっていう寸法か?」
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。何を信じるかはあなた次第でございます。ただ…そうですね。
これだけ、一つだけお約束致しましょう。再び私と相まみえる時、あなたの首輪はこの私が外してさしあげます」
「……それが契約か?」
「あなたが契約を結ぶメリットの一つでしょうな。さらにメリットを挙げるとするならば、あなたと契約することで、私も他の参加者と同じ扱いになるということでしょうか。
そうなれば当然、こうしてベルベッドルームに逃げることも出来なくなる。この会場内で私を殺すことも出来ないことではないでしょう。
今回のような接触は、契約を結ぶ結ばないに関わらず今回限りでございます。賢しいあなたなら、私の言っていることはわかると思いますが?」
瀬多の推測通り、今回の参加者をここまで運んで来たのがイゴールであるとするならば、その存在は到底無視できないものだ。
どうにかしてうまくこの殺し合いから脱出できても、また第二第三の殺し合いに招かれる可能性がある。それだけは断じて避けなければならない。
「……それが本当だという確証は?」
「私、嘘をつくことだけは致しません。あなたが死んでも、他の誰かが私を突き止めれば、契約は実行されましょう」
「根拠としては薄過ぎるな。少なくとも、他の連中を納得するには足りない」
「交渉の足しにでもするつもりですかな? フフフ。まあいいでしょう。それならばうってつけのものがあります」
ぱちんと指を鳴らすと、テーブルの上に古ぼけた紙が現れた。
「これは血の契約書と呼ばれるものでございます。これで契約すれば、あなたも私も契約内容を破ることはできません」
「それは行動を縛るということか?」
「そうではありません。ただ、契約にそぐわぬ行動を取ろうとすれば、この契約のことを知った参加者は全て死んでしまうでしょうな」
思わずテーブルを叩き、イゴールを睨みつけた。
「ふざけるなっ! そんな契約認められる訳がないだろ!!」
「しかし、これは対等な契約でございます。貴方と同じだけのリスクを私も背負うことになる」
そう言われれば、瀬多は考えるより他にない。歯を食いしばり、冷静になるように努める。
「私を見つけようと考えるなら、他の方の助力は必要不可欠。そこを理解しているだけでも、十分冷静でございますよ」
瀬多が考えていることを予測してか、イゴールはそう言った。
「……契約不履行のまま俺が死んだらどうなる?」
「その時は、この契約を知っている者の誰かがランダムに選ばれ、貴方の代わりになってもらうことになります」
次なる生贄ってわけか。
そう吐き捨てたくなる気持ちをぐっと押さえて、瀬多は口を開いた。
「いいだろう。受けてやる。その契約」
244託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 19:55:08 ID:/NOSqbHW
契約内容を何度も吟味し、抜かりのないことを確認する。それが終わると、瀬多は自分の指を歯でかじり、流れ出た血で自らの名前をその紙に綴った。
途端、自分の右腕に紋章のような浮かび上がった。
「それが契約の証でございます。私の腕にもほら」
そう言って指し示すイゴールの右手にも、瀬多と同じ紋章が記されてあった。
「……契約にそぐわぬ行為といったが、俺の場合はどういうものなんだ?」
「貴方の最重要目的が私の発見だということでございます。当然、あなたの命よりも。やり方は貴方の思うようにすればよろしいでしょう」
「イゴール。最後に聞く。これも、ゲームの一環か?」
「一環でもあり、私自身の望みでもある。私の役目は、お客人を手助けすることでございます。いずれにせよ、真実は次にお目見えする時までということで」
手助け。その言葉を、瀬多はただの戯言だと受け取った。
今回はマヨナカテレビの時とはまったく違う。イゴールが直接介入してきている。その時点で手助けもあったものではない。本当にその気があるのなら、もっとうまい動き方があるはずなのだ。
「……そういえばこの契約、正式に発動するのは俺がここから離れたらだったな」
瞬間、瀬多の目の前にカードが舞い、それを握り潰す。イザナギが現れ、雷がイゴールを襲う。
ソファーが電流によって焼きこげる。しかしそこにイゴールの姿はない。
「フフフ。本当にせっかちな人だ。しかし、私の相手をしている暇はないのではないでしょうか?」
そこでようやくハッとする。
そうだ。今は仲間のピンチだった。
死体だと思われていた男が起き上がり、デデデに斬り付け、応戦しようとしたところで意識が途切れたのだ。
「イゴール!! どこだ、出て来い!!」
「それでは瀬多様。再び出会えることを願っております」
その言葉を皮切りに、瀬多の意識は再び途切れた。
245託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 19:59:19 ID:/NOSqbHW
「メタナイトさん! どうしてここに!?」
「凄まじい音が聞こえたのでな。同士の危機と感じて馳せ参じた」
凛々しくナイフを構えフッと笑う。その姿はあまりにも小さく、初めてメタナイトを見た者ならば油断してもおかしくはない。
が、先程の『暗黒』の軌道を逸らした竜巻のような技を警戒し、セシルとカインは早計に手を打ってはこなかった。
元々戦力足り得るのはメタナイトただ一人。焦りさえしなければこちらの勝利は揺るがない。
「アドレーヌ。怪我はないか? できればここから逃走して欲しいところだが、倒れた仲間がそう多くてはそれも無理か」
「ゆ、幽香さんが外で戦ってます。敵をやっつけたら、きっと助けに来てくれるはずです」
「幽香? 強いのか? 信用できるのか?」
一瞬言い淀む。が、すぐに口を開いた。
「強いです。そして、信用できます」
「…わかった。ならば彼女が来るまでの間、時間稼ぎといこう」
「あ、メタナイトさん。こっちの武器を使ってください。そのナイフよりはマシだと思うから」
「かたじけない」
煌々と紅く輝く緋想の剣を手渡し、アドレーヌは後ろに下がる。
戦闘となればもはや自分が足手まといであることは十分に理解している。
「我ら『赤き翼』を前にして、時間稼ぎができるとは。随分と舐められたものだ。そんな心配よりも、自分の命の心配をした方が身のためだぞ」
「抜かせ外道。弱者を寄ってたかっていたぶるその精神。もはやその生き様は騎士道に反する!」
「俺達は俺達のやり方で目的を達成する。それが俺達の騎士道だ!」
カインが出て、メタナイトと剣を交える。メタナイトの高速の斬撃をカインは見切り、その全てをいなす。
(こいつ……。かなり、やる)
メタナイトの淡泊な感想は、しかしかなり的を得た感想だった。
カイン相手に押されている訳ではない。むしろ実力は伯仲しているといえる。だからこそ、メタナイトは焦燥を抑え切れない。
(この二人。私だけで押さえ切れるのか)
二人の間から感じ取れる厚い信頼。そしてその何気ない所作から、二人が長年共に闘ってきた相棒であることが一目でわかった。
息の合ったパートナーが共に戦えば、その実力は二倍にも三倍にも膨れ上がる。そうなればこちらの勝ち目は万に一つもなくなってしまう。
(せめて、この二人を引き離すことができれば…!)
だが、それにはこちらも最低二人の戦力がなければならない。一人の身で二人を引き離す方法などメタナイトには思いつかない。
「…実力ははっきりしたな。カイン、僕も加わろう」
(まずい。まずいぞっ! こうなったらアドレーヌだけでも逃がして……)
ふと、あることに気付く。
今までどうして気に留めなかったのか、不思議なくらいだ。しかしそれは確かにあった。あまりにも場違いで、あまりにも異質なそれ。
それは……
「……ダンボール?」
瞬間、セシルとカインがその場から跳躍し後方へと下がる。
メタナイトにはよくわからなかったが、二人がいた場所に小さな穴が開き、少量の煙が昇っていた。
セシルが凄まじいスピードで突進し、その段ボールを一刀のもとに斬り伏せる。が、中は空だ。
「上かっ!」
セシルの予想は的中した。真上を向くと、銃を構える男の姿。
セシルはすぐに横飛びで弾丸を回避する。
「空中では身動きできまい!!」
すかさずカインの『ジャンプ』が男を襲う。
「アーボ!!」
しかしそれも、縄のようにしなる蛇が遠くの照明に巻き付き、それを利用して軌道を変えることで回避に成功する。
男はくるくると回転し、音もなく着地した。
「何者だ。まったく気配を感じなかったが」
「職業柄、隠密行動は得意でね」
そこにいるのはシャドーモセス事件をたった一人で解決した稀代の英雄だった。
「スネーク!!」
メタナイトの歓喜の叫びに、スネークは軽く手を挙げて応える。
246託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 20:01:16 ID:/NOSqbHW
「数時間ぶりだな、メタナイト」
「どうして貴殿がここに」
「なに。お前と別れた後に、ちょうどこの二人を見つけてな。お前と同じ方向に向かっていたのでもしかしたらと思ってつけてみれば、案の定というわけだ」
その言葉にセシルもカインも内心動揺を隠し切れないようだった。奇襲には最大限の注意をしていたというのに、気配の一つも気取れなかったのだ。
「一つだけ聞きたいのだが、何故ダンボールに? あんな目立つものに隠れていてもあまり意味はないだろう」
「目立つ? 馬鹿を言うな。ダンボールは潜入任務の必需品だぞ」
「…………」
とにかく、この加勢はメタナイトにしてみれば最高のものだった。
「スネーク。二人はかなり熟練したパートナーだ。どうにか引き離して戦いたい」
「なるほど。了解した。ではお前はあの鎧兜の方を頼む」
こちらの出方を窺っているカインをメタナイトは睨みつけ、こくりと頷いた。
「御意」
戦力は均衡していた。
メタナイトは羽根を使って宙を飛び交い、カインのジャンプをうまく防いで高速の斬撃を繰り出す。カインもそれに応戦し、負けじと鋭く素早い突きを連発する。
スネークとセシルは、実力差こそ明白であったが、戦いのセンスはスネークの方が上だった。
うまく距離を取ってセシルの剣技を回避し、『暗黒』が放たれそうになると銃で威嚇する。カインとセシルが合流することも、スネークが機敏に動いて防いでいた。
カインとメタナイトの実力は拮抗していたし、スネークはその技術と経験でうまくセシルの攻撃をいなしていた。
アドレーヌはなんとか二人分の治療を済ませ(瀬多はどこが悪いのか分からなかったので安静にしていた)、できるだけ戦闘の被害が出ない場所に皆を引きずっていた。
全員が全員、自分のことで精一杯。周りのことに目を配る余裕などなかった。
だからこそ、この場で一人、フリーな人間がいることにメタナイトやスネークはもちろん、アドレーヌも気づかなかった。
「再生完了」
激闘のさなか、確かに聞こえたその声に、アドレーヌはびくりと身体を震わせた。
「あれだけくっちゃべってくれたくせして、自分はおねんねかよ。ククク。まあ、そっちの方が好都合だがなぁ」
銃を構え、ゆっくりと近づいて来るシルバー。
メタナイトもスネークも、目の前の敵以外を構う余裕などない。
倒れた仲間を守れる人間は一人だけ。何の力もない、非力なアドレーヌ一人だけ。
「こ、こないで!!」
デデデのデイバックから零れ出ていた拳銃を取り出し、その銃口をシルバーに向ける。瀬多達との情報交換で、これがどういうものかは理解している。
人を殺す道具。それを聞いた時、自分は絶対に使わないだろうと考えていた。
「近づいたら撃つわよ。う、う、嘘じゃないわよ。すっごく痛いんだから!」
カタカタと震え、そのため狙いが定まらない。これじゃ駄目だとわかっていても変えられない。
シルバーも最初は顔を引きつっていたが、アドレーヌの様子を見て、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。
「撃ってみろよ。ただし、てめえの下手な発砲で、お仲間に当たっちまっても知らねえがな」
「え?」
一瞬の躊躇。その隙をシルバーは見逃さなかった。手にしていた銃を蹴りで払われ、尻もちをつく。
「どうした? ほら、撃ってみろよ。ほらほらほら!! ヒャハハハハ!!!」
どうしようもなく涙が出て来る。皆が頑張っているというのに、自分は何も出来ないということが何よりも悔しい。自分に対する無力さが重くのしかかってくる。
「そうそう。そうやって諦めときゃいいのさ。どうせ俺に殺され──」
247託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 20:04:43 ID:/NOSqbHW
一際大きな轟音と、屋敷全体を揺らすほどの地響きが響き渡る。
まるで石ころのように吹き飛んで来たのは、アドレーヌのまだ見ぬ男。
しかし、シルバーの蒼白な顔を見れば、それがシルバーと組んだ殺し合いに乗っている悪い奴だということがすぐにわかる。
そしてそいつがやられているということはもちろん……
「幽香!! ……さ…ん」
等身大の女性が開けたとは思えない巨大な穴を通り、歩いて来る風見幽香。
その瞳にアドレーヌの姿は映っていなかった。
他に戦っている者達も、倒れ伏す仲間の姿も、彼女の瞳には映っていなかった。
幽香の目に入っているのはただ一つだけ。倒れ伏す敵の姿。自分が殲滅すべき敵の姿。
それ以外は何もいらない。何も知る必要はない。
必要なのは一つの認識だけ。
敵を殺す。ただそれだけ。
幽香は一気に跳躍し、倒れ伏すアシュナードの眉間に情け容赦のない突きを繰り出す。が、それはすんでのところで止められる。
気絶していたと思われたアシュナードの蹴りが幽香の顎に突き刺さり、そのリーチのために届かなかったのだ。
空中に浮かびあがる幽香の身体。そこに渾身の殴打をお見舞いする。その一撃は幽香の腹に直撃したものの、構わず幽香はアシュナードの顔面を殴る。
殴打。殴打。殴打。
もはやこの二人の戦いは人のそれではなかった。
「んだよこりゃ…」
拳の軌道上に障害物があれば容赦なく抉り取る、あまりにも非現実な戦いに、アドレーヌだけでなくシルバーさえも呆然としていた。
メタナイト達も自らの戦いに集中しながらも、二人の激闘のフィールドには入らないように間合いを取っている。
ここにいる全員が同じ認識を持っていた。ここで暴れる二人の獅子は、異物だと。化け物同士の共食いだと。
「……違う」
力なく、しかしはっきりとアドレーヌは言った。
「幽香さんは、私を守るって言ってくれたんだもん」
額から血を流し、しかしそれでも狂気的な笑みを絶やさず殴り続ける二人。それを見ても、アドレーヌの考えは変わらない。
「意味もなく小突いたり、おちょくったり、いつも人を怒らせるようなことばかりしてるけど、私は幽香さんに勇気づけてもらった。支えてもらってた」
『……アドレーヌは、幽香を信じてるのか?』
先程デデデに聞かれた疑問を、今でははっきりと答えることができる。
「信じてる。私は、幽香さんを信じてる」
ぐっと目を瞑り、そして今度こそ正面から真実を受け入れる。
幽香が暴走しているというのなら、それを止めるのは、きっと……きっと自分の役目なのだ!
「幽香さん!! 私を守ってくれるんでしょ! だったら……だったらちゃんと、私のことを見てください!!」
その声に反応するかのように、幽香の動きが一瞬鈍くなる。その隙をついてアシュナードの拳が二発三発と命中し、そのまま壁に叩きつけられる。
「あ…」
自分の腕を握りしめ、幽香の無事を願う。
しばらくして、がらがらと瓦礫を押しのけて、ぬっと幽香が姿を現した。
「アド……レーヌ?」
その瞳は、ちゃんとアドレーヌを見ていた。アドレーヌの声が聞こえたのだ。
アドレーヌは、思わず顔をほころばせた。
「幽香さ……!!」
ぞくりと背筋が凍る。
アシュナードが、人間とは思えぬ憤怒の表情をもってアドレーヌを睨みつけていたのだ。
「シルバー」
アシュナードの短い言葉に、シルバーは我に帰る。
「そいつを殺せ」
シルバーに命令を違える理由はない。銃がアドレーヌの頭部に当てられる。
「ま、待ちなさい!!」
慌てて幽香が向かおうとするが、それをアシュナードが阻む。
全力の幽香のストレートを腕を交差して受け切る。
「そこで見ているがいい。何に拘っているかは知らんが、我がそれを断ち切ってやろう」
「アドレーヌ!! さっさと逃げなさい!!!」
防御に回られれば、いくら幽香でもアシュナードを押しのけることは不可能だ。
かといってアドレーヌがシルバーから逃れることはそれ以上に不可能。
「どっちにせよ、チェックメイトというやつだ。潔く諦めるがよい」
「ふざけないで。妖怪はね、一度交わした契約は絶対守り通すのよ」
とは言うもののもはや幽香にアドレーヌを助ける術はなかった。
幽香が暴走などしなければ。アドレーヌのことを意識して動いていれば。
数々の『れば』が幽香の脳内を駆け巡る中、シルバーの指が引き金にかけられた。
その時だった。
248託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 20:08:22 ID:/NOSqbHW
「ペルソナ!!」

何者かの声が別荘内に響き渡った。
「ぎゃあああ!!」
どこからともなく現れた守護霊のような巨大な男。そこから発せられた雷がシルバーの身体を襲った。
「せ、瀬多さん……」
何度呼んでも決して目を開けなかった瀬多総司が、そこには立っていた。
「全員戦闘を中止しろ!! この戦いは、殺し合いは無意味だ!!」
もう一度、今度は何もないところに雷を放ち、周囲の注意を引く。
その目立つ攻撃と、その興味深い言葉から、戦闘を行っていた者が徐々に戦いの手を休めていった。
「フン。この状況でよくそんなことが断言できる。我々は殺し合う以外に道はない。参加者の中で、最強の者こそが生きる権利を与えられるのだ」
幽香に心底惚れ込んだ今のアシュナードは、そんなこと甚だ考えていない。が、今は瀬多の温い発言を嘲弄するために敢えてそう言った。
「最強? そんなものがこのゲームで計れる訳がない。このゲームで最も重要なのは力じゃない。運だ」
全員が黙って瀬多の言葉を聞いている。しかし、その全員が聞き耳をたてながらも、周囲の警戒だけは解いていない。
「いくら強い奴でも、連戦連勝を迫られれば必ず消耗する。そうなれば、実力では劣る奴が強い奴を倒すこともあり得る。
そんな不確定要素の多いゲームで、本当に最強の参加者が決められると思うのか?」
「殺し合いは無駄だと言ったが、それはこの殺し合いを打破する可能性を見つけた、ということか?」
剣を下げ、見た目だけで言えばかなり無警戒なセシルが言う。
「そうだ」
その問いに、瀬多は躊躇なく頷いた。
そして、瀬多は自分の手の甲に浮き出た紋章を見せた。
「ほぉ。これはまた懐かしいものが出てきたな」
アシュナードの含んだ言い方に疑問を持つが、今はそれを無視して瀬多は叫ぶ。
「俺はイゴールという奴と契約した。そして、イゴールは俺と約束した。自分を探し出すことができれば、この首輪を解除すると」
「眉つばだな」
「嘘ではないぞ」
カインの呟きに、瀬多ではなくアシュナードが答える。
「あの紋章は『血の契約』をした証だ。かなり拘束力の強い契約で国家間の交渉にも使われている。
支給品にしては度の過ぎたものよ。どういう契約をしたのかは知らんが、下手な嘘は契約違反と見なされる。見るからに甘い性格なその男が、ここでそんな危険は冒さん」
言外に、この契約が他者に影響を及ぼすことを仄めかし、アシュナードはクックと笑う。
「で、でも、いつの間にそんな契約を。さっきまではそんな紋章なんてなかったのに…」
「良いところに気がついたな、アドレーヌ。俺が言いたかったのはまさにそこなんだ」
にやりと笑ってみせる瀬多。
瀬多の狙いはただ一つ。殺し合いの打破。殺し合いに乗った者の改心。それを成すだけの情報を今の瀬多は持っていた。
「俺はさっきまで気絶していた。そして、その気絶している間に俺はイゴールと契約したんだ」
勘の鈍い者は首を傾げ、鋭い者は眉間に皺をよせる。
「なるほど。つまり少年はこう言いたいわけか。俺達をこんなところに集められる力を持った奴を、契約に則って殺してしまおう、と」
スネークの的を得た言葉に、瀬多はこくりと頷いた。
「イゴールは無敵だ。夢と現実の狭間を行き来し、参加者に気付かれることなく、この殺し合いの会場へと拉致した。だが、今は違う。この会場にいる今は」
「契約内容に、そのイゴールの弱体化も織り込んだ、というわけか」
「イゴールは自分を参加者だと言った。契約にもそう書かれていた。殺し合いの参加者だということは、俺達に殺せる存在でなければならない。
夢の中へ逃げることも、この会場にいる限りは不可能だ。……イゴールはここでしか倒せない。
そして、イゴールを倒さなければ、たとえ優勝しても殺し合いから抜け出せたとはいえない。
イゴールをここで倒し、殺し合いの輪廻を断ち切る。それが俺達全員に共通した目的であるはずだ」
「殺し合いなぞしている場合ではない。そういうことか?」
「優勝して、これ以上殺し合いに参加しないことを確約してもらうって手もある。だが、それはあんた達の望みとは違うものだろ?」
249託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 20:12:06 ID:/NOSqbHW
全員が沈黙している。しかし、それは瀬多の問いに対してイエスと答えているも同然だ。
瀬多の視界の隅に、倒れ伏したレミリアとデデデが映る。アドレーヌの様子から、二人とも生きていることは確かなようだが、それでも瀕死であることに変わりはない。
(大丈夫だ。俺がミスらなければ、これ以上の被害は出ない。二人とも生還できる)
「協定を結ぼう。あんた達の行動を強制するつもりはない。だが、イゴールを倒すだけの間は、他の参加者を襲うようなことはしないで欲しい。
その間に、必ず俺がここから脱出する方法を考える。イゴールを倒すことに関しては、俺達の目的は一致している。お互い悪い話じゃないはずだ」
両手を広げ、こちらに攻撃の意思がないことを示す。他の人間に強制することはできないが、それでも効果はあるはずだ。
「いいか。マルクの力は、それぞれの世界の常識を集合させたものに過ぎない。この中に死者を蘇らせる術を知ってる者がいるか? そんな奴、どこを探してもいやしない!! マルクはただ、俺達をゲームの駒に見立てて楽しんでるだけだ!!」
声を大にして、高揚した気持ちを吐き出すように、瀬多は訴えかける。
「マルクは倒せる。こんな見え透いた首輪なんかで俺達を縛ってる時点で、あいつが万能でないことは証明されてる。イゴールさえ倒せれば、俺達はここから脱出できる!!」
肩で息をしながら、周りの反応を窺う。
カインは全員の動きを機敏に観察し、どのようにも動けるようにしている。セシルは何か考えているかのように、眉間にしわを寄せて立ちつくしている。
シルバーはぽかんとしており、アシュナードは黙って瀬多を睨んでいる。
スネークもメタナイトも、幽香もアドレーヌも、その様子を緊張した面持ちで窺っている。瀬多の説得に応じるかどうか。それはもはや誰にもわからなかった。
この均衡状態において、一番最初に行動を起こしたのはセシルだった。
「……行くぞ、カイン」
その言葉に一番驚いたのは、他ならぬカインだった。
「本気かセシル!? 本気であの小僧の言う事を信じるのか!?」
セシルは剣を仕舞い、横目で瀬多を見遣る。
「信じたわけではない……が、今は退こう」
それだけ言って、セシルは背を向けて割れた窓へと歩いて行った。
「……フン」
何も言わず、アシュナードも背を向ける。シルバーも一瞬慌てるが、それでもアシュナードの側へと移動する。
元より部下になることを約束した身だ。王の決定に背ける訳がない。
それを見て、アドレーヌはヘナヘナと崩れ落ち、心の底から安堵のため息をついた。
「……瀬多さん。勝ちましたね」
決して無傷だったとはいえない。デデデの傷が危険なことには変わりないし、レミリアもいつ起きるか分からない。
しかし、誰も死んでいない。これほどの危機を前にして誰も死んでいない。
それは、確かに一つの成果だった。
喜ぶべきではない。しかし、それでも瀬多は、戦いを回避できたことを嬉しく思い、自分に出来たことを誇らしく思った。
セシルが背を向けたことで、カインもメタナイトとの睨み合いを切り上げた。
「…俺は納得したわけではない。貴様とはまた別の機会に決着をつける」
「望むところだ」
下がるカインを見届けて、メタナイトは自分の武器を仕舞い、くるりと背を向けた。
「アドレーヌ! デデデの怪我の具合は──」
「馬鹿野郎!! 油断し過ぎだ!!!」
その言葉を、メタナイトは一瞬理解できなかった。
それを理解したのは、先程身を引いたはずのセシルが、自分を斬り付けようと迫るところを確認した時だった。しかし、それはあまりにも遅過ぎる反応だ。
再び武器を取り出す暇もなく、メタナイトの視界は赤に染まった。
250託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 20:16:11 ID:/NOSqbHW
「……スネー……ク?」
しかし、その血はメタナイトのものじゃない。斬りつけられる瞬間、スネークが間に割って入ったのだ。
「がっ……」
袈裟懸け状に血を噴出させ、スネークはその場に倒れ込んだ。
「き、貴様あああああ!!!!」
自らを竜巻へと昇華させ、高速の斬撃を繰り出す。しかし、セシルは後方へと下がりながらそれを防御し、全てを捌き切った。
瀬多は、アドレーヌは、その様子をただただ目を見開いて傍観することしかできなかった。自分の説得は成功したのではなかったか。
理屈からしても、瀬多の提案は乗るに値するものなのではないのか。
「二人ともしっかりしなさい!!」
幽香の言葉にはっとする。アシュナードによって投擲されたシルバーが迫っていたのだ。
「スラッシュ!!」
瀬多のペルソナ、イザナギが手に持つ大剣を振るう。
シルバーの身体をまともに受け切り、そのまま後方へと吹き飛ばす。
「何故だ!? 俺の言う事が信用できないのか!?」
自分の言葉が足りなかった。必死の思いで説得したというのに、誰の心にも届いていなかった。絶望に打ちひしがれそうになりながらも、瀬多は叫んだ。
「信じるも何もない。貴様の言葉など、我々が聞くに値するようなものではない」
メタナイトの猛襲を防ぎながら、セシルは事もなげに言ってのけた。
メタナイトの高速の斬撃は確かにセシルを上回るものがある。しかし、パワーでいえばセシルのそれはメタナイトを遥かに上回る。
一撃。宙から振り下ろされた一撃が、メタナイトのナイフとぶつかる。メタナイトはそのまま踏ん張り切ることができず、後方へと飛ばされる。
「瀬多、とか言ったか。はっきり言おう。貴様は我々にとって、脅威の何物でもない」
指を差し、一切迷いのない目で睨まれ、瀬多は動揺した。
「我々にとって、もはや選択肢などというものはない。我々は勝つしかないんだ。勝って、優勝して、そして願いを叶える他、自らを律することが出来ないんだ。
 貴様はそのたった一つの希望に翳りを与える存在だ。我々の存在理由を根本から否定する可能性を秘めている。
 そして、我々の敵になる者達の旗頭になる可能性を秘めている。貴様は、貴様だけは、ここで殺しておかなければならない」
 瀬多にとって、この言葉はショック以外の何物でもなかった。説得しようと言葉を紡いだ結果、より殺害意欲を増加させる結果となったのだ。
「ククク。瀬多よ。我はお前の言ったこと、半分以上は真実だと踏んでいるぞ」
アシュナードは愉快そうに言った。
「イゴールとかいう奴を始末しなければならないとも考えている。そして、貴様の力が必要だともな。だから我はこう考えたのだ。貴様を我の配下に加えてやろうとな」
「……は?」
言っている意味がわからない。瀬多は、この狂王がどれほど傲慢な存在か、まるきり理解していなかった。
「貴様のような参謀も、国には必要だということだ。貴様にはその素質がある。この殺し合いから抜け出す方法を編み出すだけの将来性もある。だから、貴様は幽香と共に、我がもらう」
自分勝手、という言葉も霞んでしまう傍若無人。
アシュナードは決して自分の願望を言っているわけではない。実際にそうなると心から信じ、そう言っているのだ。
手に入れたいものは、竜の王族だろうが何だろうが手に入れてきたアシュナード。そんな男だからこそ、その歯止めの利かぬ欲望は常人に計り知れるものではない。
「ふん。狂王め。お前のような男と一緒にされるというのも、随分気に入らない話だ」
カインが吐き捨てるように言い、アシュナードが笑う。
「ククク。面白いことを言う奴だな。貴様ら二人もなかなか気に入ったぞ。我の傘下に入る気はないか?」
「断る。我らの主は、我らが決める。貴様など、その器ではない」
「その独立した精神。ますます気に入ったぞ。…が、優先順位で考えれば、貴様らの相手は後回しだな」
アシュナードが瀬多に向かって歩いて来る。セシルとカインが瀬多に向かって歩いて来る。
それを、幽香と、メタナイトが阻止すべく対峙する。
「「どけ。奴は我(我々)がもらう(殺す)」」
251託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 20:19:40 ID:/NOSqbHW
それが再戦の合図だった。
メタナイトは一人でセシル達と斬り結び、幽香はアシュナード相手に再び肉弾戦を挑む。
瀬多が望んだのは争いの回避だった。殺し合いに乗った人間も含め、誰も犠牲者を出すことなく脱出することが望みだった。
しかし、懸命な努力の末がこのありさま。
凄まじい勢いで展開する白兵戦。
その犠牲者は既に現れている。そして、これから確実に増え続ける。下手をすれば全滅だって免れない。
「瀬多!! いい加減しっかりしなさい! こっちの戦力は明らかに不足してるのよ!!」
アシュナードとの息もつかぬ攻防の最中、幽香が叫ぶ。
セシルとカインも、アシュナードとシルバーも、狙っているのは対主催チーム。つまり、瀬多達だ。
瀬多の提案を退けた今、優勝を目指す彼らにとって同じスタンスの人間は等しく貴重な存在。
そして、対主催側がチームを組んでいるというのなら、両者の利害関係は一致している。
何の打ち合わせをせずとも一種の協定を結んだかのようにお互いを攻撃し合うようなことはしない。
「……その…お嬢さんの……言う通り、だ。…少年」
メタナイトが怒涛の勢いでセシル達を相手に奮闘している中、アドレーヌが動いてスネークを戦闘圏外へと連れ出していた。
「瀬多さん。この人はまだ生きてます。まだ誰も死んでません! だから、だから…諦めないで!!」
「……諦めるなって言ったって……」
無理だ。スネークがやられ、もはやパワーバランスは崩れた。メタナイトが二人相手にしているが、それもいつまでもつか分からない。
あの説得が唯一のチャンスだった。自分達が生き残れる最後の道だった。
なのにそれを…それを、自らの手で閉ざしてしまった。
自分の命をも顧みず決死の思いでイゴールと契約を結んだというのに、けっきょく自分の出来ることには限界があった。その限界を思い知らされた。
奮闘していたメタナイトがこちらに吹き飛ばされて来た。慌ててその身体を受け止める。
「だ、大丈夫か!?」
大丈夫なわけがない。体中傷だらけで、左腕が欠損しているうえに羽根も一本根元から折れてしまっている。
どれもこれも、自分の責任だ。自分のせいだ。
瀬多にはもう、立ち上がり踏ん張るだけの力がなかった。このまま終わる。それが自分達の運命だと、諦めた。
252創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 20:22:54 ID:GY2nWrKF
支援
253託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 20:23:53 ID:/NOSqbHW


「……ここで死ぬのが…お前の運命か? ……瀬多総司」



聞き慣れた声に瀬多は思わず振り向いた。
もはやこの戦いにおいて、決して立ち上がることはないと確信していた人物。レミリア・スカーレットの姿がそこにはあった。
「貴様が何をやったのかは知らん。何を落ち込んでいるのかも、何を絶望しているのかも私にはわからん。
 だがな、一つだけ確かなことは…諦めたら、そこで終わりだということだ」
額から血を流し、手足をだらんと垂らしながらも、その残った手に紅き槍を携える。
魔力によって生成されたそれは、まるで光の塊のようにこうこうと瀬多達を照らしていた。
「気高さを忘れるな、瀬多総司。自らの存在に誇りを持て。強かろうが弱かろうが関係ない。それが、生きるということだ」
槍を掲げ、その弱々しい身体のあらん限りの力を込めて、レミリアは叫ぶ。
「貴様ら下賤な弱者は、この私に屠られるのがお似合いだ!! 身の程知らずはかかって来るがいい。見る目のある者は、私の元で膝を折るがいい。
 どちらも出来ぬ者は、黙ってそこで見ているがいい。私の名はレミリア・スカーレット! この会場に降り立った最強無敵の吸血鬼。
 敗北という運命が決まっているというのなら、私はその運命さえも変えてみせる!!!」
飛び出してきたカインを相手に、レミリアは自らの槍で応戦する。身体はボロボロ。しかしカイン相手にまったく退けを取らない。
その強靭な精神力が足りない部分をカバーしていた。
「だが、それもただの意地だ。意地は、ほんの小さなことがきっかけで…瓦解する!!」
セシルの剣から放たれた衝撃派が、対主催チームを包み込む。
……かと思われたが、すんでのところで大剣に阻まれ、暗黒を放つタイミングを逸する。
そこには、瀬多の心の化身、イザナギが立っていた。
「……そうだ。俺の命はもう、俺だけのものじゃない。俺は、諦めてはいけないんだ!!」
イザナギの剣と時折放たれる雷。それらはセシルに暗黒を撃たせる余裕をなくしていた。負傷者を多数背負うこちらにしてみれば、暗黒は最悪の技。
それを理解しているからこそ、瀬多は畳みかけるように技を連発する。
誰も死なせない。全員生きてここから脱出する。
その意思を、高貴な意思を忘れないために。
254託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 20:25:39 ID:/NOSqbHW
おれさまはやっぱりバカだ。
曇った視界に映る天井を眺め、デデデはそう思った。
リディアを失い、もう誰も死なせたくないと誓い、挙句の果てがこのザマ。
何もしてない。
何もできてない。
アドレーヌに対し、いつもみたいに偉そうに説教を垂れただけ。
なにがデデデ大王だ。これのどこが王様だ。ともだち一人救えなかった自分。みんながピンチなのに、何もできない自分。
けっきょくおれさまは、何もできなかった
「違う!!」
突然、目の前にいたアドレーヌが叫んだ。焦点の合わない目で、デデデがアドレーヌを見つめる。
いつの間にか、デデデは自分の心境を声に出してしまっていたようだ。
「わたし、デデのだんなのおかげで幽香さんを信じれたよ。だんなのおかげで、幽香さんが、わたしたちを守るために戦ってくれてる。
 わたしたちが今も生きていられるのは、だんなのおかげなんだよ」
おれさまの……おかげ?
デデデには何の実感もない。むしろ足手まといになっていると感じていた。
しかし、アドレーヌは涙を流し、自分を必要だと言ってくれる。
リディアを死なせた自分。カインを説得できなかった自分。何をするわけでもなく敵にやられ、足手まといになっている自分。
どれもこれも、どうしようもなく駄目な自分。

そんなおれさまでも……できることがあるのか?

「私も……だ」
メタナイトが無理やり立とうとして、慌ててアドレーヌが手を貸す。
「敵の甘言を信じ、最後の最後で油断してしまった。挙句、スネークをこんな目に。助けに入ったはずが助けられるなど…。自分自身に腹が立つ」
「……違うぞ。メタナイト」
確かな声量で、スネークは喋っていた。
「俺がこうなったのはお前のせいじゃない。俺は俺の意思でお前を助けた。他の誰でもない。この結果は、俺が決めたことだ。
 俺自身が見つけて、選んだ道だ。俺は俺のやりたいようにやる。昔も、今も、…そして、これからも」
むくりと起き上がり、そのまま立ち上がる。ふらつきはしているが、先程までの瀕死の状態には見えない。
「なあ? お前もそうだろ」
そこには、ただ黙って突っ立つシルバーがいた。手に持つ銃にアドレーヌは警戒する。
「……勝ち組になる。それだけが俺の望みだった。殺し合いに勝ち残って、強者になって、アシュナードの腹心にさせてもらって。
 ……俺は親父を越える。俺を捨てて逃げた親父なんか絶対に越えてやる。そう思ってた」
ぼそぼそと感情も何もなく喋り、突然咆哮するかのように身体をくの字に曲げた。
「俺は!! てめぇら全員殺して勝ち組になるんだ!! 俺はいらない子供だったんじゃない。親父が俺をちゃんと見てなかったんだ。
 俺は優秀だ。優秀な俺を、親父は知らずに捨てやがったんだ。だから俺は、いつか親父の前に立って、「どうだクソ親父。俺はこんなにすげえんだぞ」って、そう言って… …口汚く……罵ってやろうって……」
いつの間にか涙を流し、銃からも手を離していた。
スネークが持っていたのは、『マキシムトマト』というアイテムだった。体力を回復することができる、シルバーに支給されたアイテムだった。
255託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 20:28:21 ID:/NOSqbHW
「ロケット団なんかただの雑魚集団だ。本当に強い奴は、一人で戦える奴だ。一人で何でもできる奴だ。……だから、俺はてめえらなんか大嫌いだったんだ。
 ……けど、…けどよぉ、……あの、瀬多って野郎は…手加減しやがったんだ。俺は不死で、あいつの敵で、……あいつの仲間だって傷つけた。
 ……なのに、あいつの攻撃は…痛くなかった。……痛くなかったんだ」
幽香も、レミリアも、セシルも、そしてアシュナードも、全員が致命傷になるほどのダメージをシルバーに与えていた中で、瀬多総司だけはその攻撃を緩めていた。
万が一にも死なないように。誰も死ぬことなく、この殺し合いを止められるように。
「誰が何と言おうと、俺は人間なんだよ。痛いのはこええよ。死ぬのは、もっとこええ。他の人間なんて知らねえ。俺は俺が良ければそれでよかったんだ。
 強くなって、本当に強くなって。それで、誰かに認めてもらえれば、それでよかったんだ。
 ……親父に、俺はいらない子じゃないって……認めてもらえればよかったんだ」
目頭を拭い、それでも飽きずに流れ出る涙。
不死になろうと、何になろうと、そこには人としての感情があった。
「……アシュナードは、俺のことなんてどうでもいいと思ってる。そんなもん、最初にここに放り込まれた時から理解してた。
 それでもあいつの命令通りに動いてたのは、怖かったからだ。強い奴に見捨てられるのが怖かった。いらない奴になるのが怖かった。
 ……でも、それももう終わりにする。 俺は瀬多みたいにはなれない。それでも、俺は……俺は、あいつに認めてもらいたい。あいつの希望を、俺は信じたい」
強者。シルバーが追い求めていたもの。その器を、サカキでもなく、アシュナードでもなく、瀬多総司に、一介の高校生に、シルバーは感じていた。
瀬多の言葉は、希望だ。
殺し合いが怖くて、その想いを断ち切るために率先して殺し合いに乗って、怒りで自分を誤魔化して。
そんな惨めでどうしようもない自分を変えれるかもしれないと、瀬多の言葉を聞いてシルバーは思ったのだ。
この希望を紡げば、支えることができれば、自分は、自分の知らない、もう一つの強者の道を歩めるのではないかと。
「人はいつだって誰かに認めてもらいたがる。だがそれは駄目なことじゃない。そうやって足掻いて、見つかるものもある。
 ……俺も同じだ。俺も、あの少年を信じたい。希望を、……未来を」
スネークはマキシムトマトを二つに割り、デデデとメタナイトに差し出した。
「完全には回復しない。血が止まって、歩けるようになるくらいの効果だ。……俺達はもう、この殺し合いでは足手まといだろうな」
そう言って、スネークは笑う。
「そ、そんなこと……!!」
アドレーヌの両肩に、ぽんと手が置かれる。デデデと、メタナイトの手だった。
「なにより我々が理解している。この回復は気休め程度しかない。数十分も歩けば、身体は動かなくなるだろう」
「それでも、できることはある。アドレーヌがおれさまに教えてくれたことだぞ」
デデデもメタナイトもスネークも、戦場へと向けて歩いて行く。
「ま、待って。何をするつもりなの? 止めてよ。行かないで! お願い!!」
「……人は死ぬ。だが、死は敗北じゃない。誰が言った言葉かは忘れたがな」
「答えになってない! そんなの……ぜんぜん答えになってないよ」
「アドレーヌ。お前は生きてくれ。カービィを見つけて、きっとみんなで生き残ってくれ。おれさまは、それで満足だ」
へたり込み、泣きじゃくるアドレーヌ。
しかし止めることなどできない。
彼らの意思は、もはや誰に変えれるものではない。
「私……だって……みんなの…役に……たちたいよぉ。戦いたいのに……私だって戦いたいのに」
「それでいい、アドレーヌ。お前はそれでいい。お前のような人間が見ていてくれるから、私達は戦える。だから、見守っていてくれ。見届けてくれ。私達の戦いを」
四人は今の戦況を再確認する。
幽香とアシュナードは相も変わらず殴り殴られの肉弾戦。ハリケーンのような勢いで周りのものを破壊しながら戦っている。
カインとレミリアも拮抗してはいるが、それでもやはりレミリアは押されて来ている。
セシルと瀬多も同様だ。戦闘経験でいえば、セシルに一日の長があるのだろう。瀬多の攻撃を最小限の動きでかわし、着実に相手のスタミナを削っている。
このままではごり押しで確実にこちらが敗北する。
「だが、このままでは済まさない。……済ますものか」
その決意の言葉はメタナイトだけじゃない。ここにいる全員に共通した意思だった。
「……よし。行くぞ。希望を託しにな」
スネークの合図と共に、四人は戦場へと飛び出した。
256託された希望  ◇dGUiIvN2Nw 代理:2011/01/03(月) 20:31:01 ID:/NOSqbHW
「はぁ……はぁ……。どうした……。もう……降伏か……?」
息も切れ切れに、しかし不敵な笑みだけは崩さず、レミリアは言った。
確かに強い。自分一人で勝てる相手じゃない。
だが今は一人じゃない。相手は万全じゃない。
セシルの提案を信じて正解だった。この女は、確実にここで殺しておかなければならない。そう改めて確信し、カインはもう一度突撃する。
「はあっ!!」
一閃。
渾身の一撃を頭部に目掛けて放つ。
ガキイイン
しかし、いくらなんでも、何のフェイントもない一撃をまともに食らうほどレミリアも弱っていない。上部へと槍を逸らし、その攻撃を回避する。
が、
「ごふぅ!!」
次の瞬間、レミリアの顎に槍の持ち手部分が直撃した。レミリアの回避に合わせて、カインが槍を回転させたのだ。
首の骨が折れるのではないかと思われるほどの勢いで頭部が弾き飛ばされる。
ぐらりとレミリアの身体が揺れ、地面に膝を折る……
ガン!!
槍を地面に突き刺して身体を支える。
絶対に倒れない。こいつを殺すまでは何があっても立っている。
そんな意思を、レミリアの睨みつけてくる瞳を見て感じ取った。
「……その根性は敬服する。だが、もう終わりだ」
こちらが槍を振り上げても、がくがくと身体を震わせるのみだ。もはや動こうと思っても動けないのだろう。
しかし、一切目を逸らそうとしない。自分の死の瞬間も、全て受け入れる。それがレミリアの誇りであり、吸血鬼のプライドだ。
しかし、今回ばかりはそのプライドも無用の長物だ。何故なら、既にカインの腰にはしっかりと抱きついて離さないデデデがいたのだから。
「お、……まえ」
目を見開き、驚愕するレミリア。
「カイン!! もう殺し合いなんて止めろ! リディアも…それに、ローザって人も、きっとそれを望んでる!」
「……うるさいっ!!」
ドス!
デデデの肩に槍が突き刺さる。しかし、デデデは歯を食いしばってその手を離さない。
「ぜったいに離さない。おれさまにだってできることがある!」
ドス! ドス!
次々と身体に風穴が開く。しかし、それでもデデデは一切手の力を抜かなかった。
「や……めろ…!!」
叫ぶだけの体力もない。それでも、レミリアは叫ばざるを得なかった。
「やめない!! ぜったいにやめないぞ!!」
ドスドスドス!!
叫んでいる内にも次々に槍が突き刺さる。すでに地面には血溜まりが出来あがっていた。
レミリアが決死の思いで身体を奮い起す。立ち上がろうともがく。だが、言う事を聞かない。身体が悲鳴をあげ、なかなか立ち上がることができない。
レミリアにとって、人の命は重いものではない。
しかしそれでも、自分の為に命を賭けるような相手を、そのまま放置しておくような礼儀知らずでもない。
自分を慕い、自分に尽くす相手には、相応の態度を示すのが主の役目だ。
部下を持ったなら、その部下を守るのが主の役目だ。
(動け……! 私の身体。さっさと動け!!)
しかし、動かない。
レミリアは既に限界の限界を越えている。今までで既に十分奇跡的だったのだ。
許容量を超えた身体が崩れ落ち、そのまま地面に横たわる瞬間、何者かがその身体を支えた。
「アド……レーヌ?」
瞳を涙で濡らし、それでもレミリアを担いで後方へと下がる。
「待て……。私を……あっちに…つれてけ。……デデデの奴を……」
「あなたを下がらせろという、みんなの最後の願いです。死んでも聞けません」
気丈に言い放つアドレーヌ。しかし、ポロポロと零れる涙は決して隠せるものではなかった。
257創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 20:34:17 ID:BYwFylM5
しえん
258託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 20:46:03 ID:BYwFylM5


(くっ。駄目だ。やはり強い!)
瀬多がこの戦いに勝機が薄いことに気付いたのはつい先程だ。
それまでは実力差など大してないと感じていた。しかしそれは、セシルが瀬多の力を計っていたに過ぎない。その計りを終えた今、セシルは本気で瀬多を殺しにかかっていた。
(慎重で隙がない。だというのに、ここぞという時には大胆に攻め込んで来る。戦闘に関しては確実に向こうの方が上だ)
経験も、素質も、能力も、全てにおいて向こうが勝っている。瀬多が出来るのは時間を稼ぐことと、『暗黒』をどうにか撃たせないようにすることくらいだ。
しかし、そんなジリ貧がそう長く続くはずもない。
瀬多が『暗黒』を意識して攻撃を畳みかけ、そのために疎かになった防御面を器用に打つ。セシルは傷一つつかず、瀬多は傷つく一方。もはやどちらが勝つかは一目瞭然である。
「攻撃が緩くなったな。防御を意識したか? だが、それはお前にとっての敗北だ」
後ろに飛び、『暗黒』の構えを作るセシル。
(しまった!)
慌ててイザナギでセシルを追う。が、それこそがセシルの罠。素早く『暗黒』の構えを解き、イザナギの懐へと肉薄する。
不意をつかれたイザナギは、そのまま大剣によって両断……
「おおおおおっ!!!」
される寸前、戦闘不能だと思われたスネークが飛び込んできた。思わぬ伏兵にタックルされ、手元を狂わせる。
すぐさま横なぎに剣を振るう。しかし、まったく知らない体術で身体を組ませられ、右手が動かない。
「死にぞこないめ。そんなに息の根を止められたいか!」
「死なんて怖くないさ。怖いのは、何も出来ない自分だ!」
「そうまでして戦うか。貴様を駆り立てるのはなんだ。何の為に戦う。正義か。友情か!?」
このまま腕を折ろうとするが、すんでのところでスネークの腹に蹴りが入る。
「ぐはっ!」
みぞおち深くに突き刺さった蹴りだ。人間の自然な摂理として、当然力が緩む。
その隙を見てセシルは逃げ出そうと試みる。が、
「なっ!?」
何かが巻き付き、セシルの自由を奪った。
「お前は……」
それはもう一匹の蛇。スネークに支給されたポケモン、アーボだった。
スネークが最初に戦闘不能になった時、既にアーボへの命令は途絶えていた。以来、誰にも命令されていないアーボは自主行動が取れる状態となっていた。だというのに、アーボはまるでスネークの意思を尊重するかのように、彼に力を貸していた。
スネークはポケモンのことなど知らない。もちろん、モンスターボールの性能もよくわかっていない。しかし、アーボのその瞳を見れば、彼が自分の意思で手を貸してくれたことはわかった。
「そうか。お前も…俺と同じなんだな」
アーボが巻き付いてくれた腕を再び取る。
ゴキリという鈍い音と共に、セシルの関節が外れた。
「俺達はいつだって、自分の為に戦っている!!」
そのままの勢いでセシルを押していく。その先にあるのはカインと、血だらけでしがみついているデデデ。
「今だあああ!!! メタナイトおおお!!!」
スネークの声と共に小さな影が走る。カインとセシルの間に入り込むかのような位置でメタナイトはマントを翻した。
「ギャラクシア・ダークネス!!!!」
目に見えない一閃が、宙に走った。
259創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 20:46:29 ID:GY2nWrKF
支援
260託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 20:48:17 ID:BYwFylM5


この激しい殴り合いが始まって、どれほどの時間が経っただろうか。十分か、二十分か。おそらくはそれより長い。その長い時間、彼らはスタミナの切れることなく拳でぶつかっていた。
拳と拳がぶつかり、衝撃派のような突風が舞う。それでも二人の拳が砕けるようなことはない。アシュナードの顔をまともに肘が激突する。メキリという音と共に鼻が砕ける。それでも一切躊躇することなく、幽香の頬を殴り抜ける。
口の中に溜まる血を唾のように吐き出し、幽香は再び腰をひねり、砲弾のような一撃を放つ。
「っ!」
しかし、それは軽くアシュナードに回避される。先程まで言葉通りの殴り合いをしてきた二人だ。避けられるということを完全に頭から除外していた幽香は必要以上に攻撃が大振りになっていたのだ。
腕を取られ、さらに首に腕を巻かれて締め上げられる。
「貴様の戦い方はずぶの素人同然だ。拳法も何もあったものではない」
メキメキメキ
「あっ……か…!!」
気道が塞がり、息が出来ない。
妖怪同士の戦いで首を絞められるなんてことは一切なかった。未知の苦痛が幽香を襲う。
「これでも、我は少し戸惑っているのだ。どうすれば貴様が我のものになるのか。……たとえば、苦痛を与えるというのはどうだ?」
何の躊躇もなく、アシュナードは幽香の足の指めがけて思い切り踵を振り下ろした。
グシャ、という嫌な音と共に鋭い痛みが全身を駆け巡る。
「ククク。こんなもので屈服するような安い女ではないな。しかし幽香よ。先程と比べ、今のお前はあまりにも弱々しいな。あの竜の如き圧倒的な力を持ったお前はどこに行った」
左肘でアシュナードの腹を狙うも、見事に予想されており、あっさりと避けられる。
「まあいい。貴様は適当に嬲って連れ帰る」
気道を塞いでいた腕がふいに解かれる。
「かはっ。はぁ、はぁ、はがっ……!!!」
その瞬間、髪の毛を掴まれ、そのまま近くにあった机に叩きつけられる。瞬時に机は粉々に砕かれ、それでもアシュナードは同じ場所に幽香の顔面を叩きつける。
グシャ
今度は机を突き抜け、地面にぶつかる。
盛大な音とともに、何度も何度も地面に叩きつける。
その度に地面に穿たれ、徐々にクレーターが大きくなっていく。
「かひゅっ。…はっ、はぶっ!!!」
もはや呼吸をする暇もない。一際強い力で地面に叩きつけられた幽香は、ピクピクと身体を震わせるのみで、動かなくなった。
「ふう。ようやく大人しくなっ──」
途端にアシュナードの身体が縮こまる。だがそれも致し方ない。男性ならば誰もが苦手とする急所に、幽香の蹴りが見事に命中していたのだ。
「ぐ、お、お」
「げほっ。はぁ、はぁ。よくも……やってくれたわね。…ごほっ」
身体くの字に曲げてもだえるアシュナード。その頭部を両手で支え、幽香の膝がモロに鼻を直撃した。
浮かび上がるアシュナードの身体。その顔面に再び渾身の右ストレートをお見舞いする。
身体を回転させてアシュナードは吹き飛んだ。
「生憎と、やられる方は好きじゃないの。ドSキャラは一人で間に合ってるわ」
アシュナードはやられたまま、しばらく動かなかったが、やがて何事もなかったかのようにむくりと起き出した。
「ククク。やはりいいぞ。我の妃に相応しい豪傑だ」
「あなたの妃になるくらいなら、そこらへんで野たれ死んでる方が遥かにマシね」
軽口を叩くも、幽香は内心焦っていた。
アシュナードのあの様子。まだまだ余力を残しているようにみえる。対してこちらの体力はかなり消耗している。
幽香には知るはずもない話だが、アシュナードには回復というスキルがある。それ故に普通の人間、妖怪よりも自然治癒が早いのだ。
満足な得物もなく、どうやってあいつを追い出すか。そんなことを頭の片隅で考えている時だった。
261託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 20:52:08 ID:BYwFylM5
「……何の用だ? シルバー」
その新たな敵に、幽香は忌々しげに舌打ちした。
アシュナードだけでも厄介な現状で、さらなる敵が増えることもさることながら、その手にある剣が、幽香にとって何よりの不安要素だった。
「アシュナード。敵から奪ってきた。こいつを使ってくれ」
ヴァーグ・カティと呼ばれる名剣。それを手にし、ヒュンヒュンと軽く振る。
「フン。少し軽いが、なかなかだ。でかしたぞシルバー」
その時、幽香は少しだけ嫌な予感がした。
強敵に武器が渡り、さらにもう一人倒さなければならない敵が増えたというだけで、幽香にとってはかなりピンチなのだが、そういった危険とは違う違和感のようなものを幽香は感じ取っていた。
(そうだ。あの餓鬼。あいつの、何か決意したような目)
あの目は幽香もよく知っている。何百年も昔、自分を人類の敵だと信じて戦いを挑んできた人間ども。圧倒的なまでの戦力差であろうと決して屈しない強さを持った瞳。
幽香はあの瞳が好きだった。敵であり、殺すべき相手であったが、あの気高さを持った瞳を見た時は高揚すら覚えた。
それとまったく同じ目を、シルバーはしているのだ。
幽香は躊躇しなかった。そして、それが正しいという確信が自分の中にあった。
幽香は強力な武器を携えるアシュナードに、何の策もなく突っ込んでいた。
「馬鹿っ! その男を甘く見るな!!」
だが、幽香の助言も、突攻も、全ては無意味だった。
シルバーの心の蔵に、ヴァーグ・カティは寸分の違いなく突き刺さっていた。
「フン。幽香の言う通りだ、小僧。我を油断させて背後を突くつもりだったか? その心意気は買うが、逆に殺されても文句は言えまい?」
ずぶりと引き抜かれる剣。血が吹き出て、地面が赤に染まる。
そして、シルバーの身体の崩壊が始まった。
足の先から砂のように散っていく自分の身体。それをシルバーは呆然と見つめていた。
「本当に不死になったと思ったか? 馬鹿め。殺し合いの中で、不死になれる薬などあるはずがなかろう」
もはやシルバーなぞに用はない。そう言うかのように、アシュナードは崩壊が始まっているシルバーを無視して幽香の方へと歩いて行く。
グイ
ふいに、何者かにマントを引っ張られる。犯人が誰かは簡単に見当がついた。
「しつこいぞ、シルバー。貴様なぞ──」
ピン
何かを外したような音がした。
シルバーの手には、アシュナードの見たことのない楕円形の何かが握られていた。
現代で言われる手榴弾というものだ。
「道連れだぜ。逝けよ、狂王。てめえが生きていてもろくなことにならねえ」
途端、アシュナードを光が包み込んだ。
262託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 20:53:20 ID:BYwFylM5


「駄目です!! ぜったいに行っちゃ駄目です!!」
「もう…どっちも……終わった。さっさと……結果だけ…でも」
必死でレミリアを押さえていたアドレーヌは、その言葉で我に返ったかのように振り返った。
死屍累々。そんな言葉がこの場所ほど似合う所もないだろう。家具はもちろん、天井、壁、地面、どれもボロボロ。
そして、それよりも酷いのが、そこに散らばる死体の山だ。
腕、足、胴体。斬り刻まれたそれが一帯に散らばっている。その中で膝をついたまま微動だにしない騎士が一人いた。力を振り絞り、その命をも使い果たして放った一閃は、確かにこの戦いを終結させた。
もう一方では、未だ爆煙が舞っている。敵が潜伏していてもわからない状態だが、幽香が少しふらついた足取りでこちらに歩いて来ていることから、勝負は決したのだろう。
「幽香さん! 無事だったんですね」
心の底からほっと溜息をつく。
「…あら。……ボロ…ボロ……じゃない。…最強の…妖怪じゃ……なかった……の?」
「……あんたの方がよっぽどボロボロでしょ」
二人の悪態にも、前ほどの元気はなかった。
「シルバーは死んだわ。完全な不死ではなかったようね。彼についての事情は…まぁ、だいたいわかる」
幽香はあっさりとその死を口にした。不死であったシルバー。デデデに致命傷を負わせた、本当なら憎むべき敵。しかし、最後には改心し、味方になってくれた。
アドレーヌは、複雑な感情を抱きながらも、ちゃんとその冥福を祈ることができた。
「肝…心…の……奴は?」
レミリアの問いに、幽香はしばらく黙り、そして言った。

「生きてる」

短い言葉。ただそれだけを。
ガン
次いで、メタナイト達が闘っていた辺りから音が聞こえた。瀬多が、悔しさのあまり地面を殴りつける音だった。
「……何で、見つからないんだ。あるはずなのに。……どこかにあるはずなのに…!!」
「瀬多……さん…?」
嫌な予感を、そんなはずはないと打ち消しながら、アドレーヌは呟くように言った。
「他の奴の死体はあるんだ。デデデや、スネークや、メタナイトの死体は。最後の、自滅覚悟の攻撃でバラバラになったが、それでも周りに落ちてる。……なのに! あの二人の死体が、どこを捜しても見つからない!!」
絶望。その言葉以外に、今のこの状況を的確に表現できる言葉はなかった。
「見たんだ。最後の最後、攻撃が決まる瞬間、地面に何か魔法陣のようなものが浮かび上がるのを。あれは……『リワープ』だ。瞬間移動する杖だ」
攻略本に載っていたアイテムの一つ。瞬時に場所を移動することができるという魔法の杖だ。
レミリアが歯を軋らせ、アドレーヌがその場にへたり込む。
「ギリギリのところで、逃げられた。……畜生。……ちくしょおおおお!!!!」
瀬多の咆哮は、留まることを知らなかった。
263創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 20:54:37 ID:GY2nWrKF
しえn
264託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 20:55:56 ID:BYwFylM5


「大丈夫か? セシル」
心配そうなカインの声。しかし、セシルは至って平静だった。
「心配ない。関節を外されただけだ」
ゴキッ、という音と共に腕が元に戻る。ぐるぐると回して状態を確認するも、行動に支障はなさそうだった。
「この貴重なアイテムをこうも早く消費してしまうとはな」
「だが、代わりに三人も殺した。俺達の夢への大きな前進だ」
「そうだな」
一時休息を取る為に、二人は近くにあった切り株に腰を下ろした。
「しかし、何故奴らの近くにワープして再戦しなかった? 奴らを全滅させる絶好のチャンスだったじゃないか」
「もう一方の戦い。あっちも決着がつきそうな気配だった。そうなればあの狂王と女、どちらかと戦わなければならなくなる。それを避けたかった。まだまだゲームは序盤だ。功を焦ることもない。こんなところで下手な怪我をしても、他の奴らを喜ばせるだけだ」
「なるほど」
セシルはデイバックから参加者名簿と地図を取り出した。
「もうすぐ放送が始まる。カインも用意しておいた方がいい」
「……セシル。お前は不安を感じないのか? あれほど強い奴がいて、しかも主催者に反抗する奴らは簡単に徒党を組んでくる。俺達だけで、本当に勝ち残れるのか?」
「徒党を組むという点では、僕達だってそうさ。今回の戦いも、大した怪我もなく切り抜けた」
「ああ。だが、あの狂王も仲間を連れていた。俺達も、もっと戦力を強化しなくてはならないんじゃないか?」
セシルはじっとカインを見つめた。
「ゴルベーザのことを言っているのか?」
「そうだ。彼が仲間になってくれれば、部下であるバルバリシアとルビカンテも仲間になるだろう。そうなれば、もはや怖いものなど何もない」
「……僕達の目的は彼らにとって何のメリットもないものだ」
「そんなことはない! セシル。お前がいるだろう。ゴルベーザとお前は、実の兄弟だ。二人が生き残る唯一の道だと言えば、きっと」
「…………」
確かに、ゴルベーザを味方にできればこの殺し合い、勝ったも同然だ。しかし、セシルは出来ればゴルベーザと会いたくなかった。
今の自分を見られるのが嫌というわけではない。もしかしたらゴルベーザを殺さなければならないということを恐れているわけでもない。
ただ、再びゴルベーザに、殺戮を強要したくなかったのだ。ゼムスによって長い時間を憎悪の念で操られていたゴルベーザ。
せめて、この殺し合いでは自分の意思で行動を決めて欲しかった。自分の存在で、ゴルベーザを縛りたくなかった。思い出も、何も覚えていないセシルにとって、それがせめてもの兄への思いやりであった。
「……そうだな。そうなるといいな」
できれば、ゴルベーザには今度こそ正義の道を進んで欲しいと思う。仲間と共に戦い、主催者を打倒し、自分に代わって英雄に……。
セシルは自嘲気味に苦笑した。
馬鹿な妄想だ。もしそうなったとして、自分とゴルベーザは戦う運命にある。どちらか一方の願いしか叶わない。そして自分は、自分の願いを譲る気など毛頭ない。
相反する願いを携え、セシルは放送の時を今か今かと待ち構えていた。
265創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 21:00:07 ID:/NOSqbHW
  
266託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 21:03:08 ID:BYwFylM5


【E-4 一日目 早朝】

【チーム 赤き翼】

【セシル・ハーヴィ@ファイナルファンタジーW】
[状態]疲労(中) 暗黒騎士
[装備]銀の大剣@ファイアーエムブレム 蒼炎の奇跡
[道具]支給品一式×4 キラーボウ(15/15) 不明支給品1~3
[思考]基本方針:カインを優勝させ、ローザを含む全ての参加者を救済する
1. カインと共に参加者を一掃する。特に瀬多は優先して殺す
2. ゴルベーザには、自分の道を……

【カイン・ハイウィンド@ファイナルファンタジーW】
[状態]疲労(大) 胸に軽度の火傷
[装備]グングニル@ファイナルファンタジーW
[道具]支給品一式
[思考]基本方針:優勝し、ローザを含む全ての参加者を救済する
1. セシルとの約束を果たし、この殺し合いを共に勝ち進む
2. ゴルベーザには仲間になってもらい、戦力強化を計りたい



「ぐっ……」
体中が痛む。やはり最後の爆発が効いた。
「あの小僧。最後の最後にこんな置き土産を残すとは」
鎧のおかげで致命傷は受けずに済んだが、あのまま幽香と戦って勝てる可能性は極端に低くなってしまった。不死の薬で多少なりとは使えるものになったが、やはり子供は精神的に弱過ぎる。
「我の配下は、相応の強さを持った人間でなければな。…そう。あの風見幽香のような」
今思い出しても震えが止まらない。
あの強さ。
あの狂気。
メダリオン使用状態の自分と対等に渡り合えるような女が他にいるか。
いない。いるわけがない。よってあの女は自分の妃だ。妃にしなければならないのだ。
「それに瀬多総司。あとはあの二人組。ククク。本当にこの殺し合いは退屈しない」
この四人を配下に加えればこの殺し合いでも自分は王になれる。デイン軍を率いる狂王として、この殺し合いを制覇することができる。
「何とかして我の配下共はデインへと持ち帰りたいものよ。そのためにも、瀬多には頑張ってもらわねばな。クククク」
アシュナードにとって、もはや彼らが自分の部下となることは決定づけられたこと。否定するというのなら、どこまで追い詰めて無理やりにでも頷かせるまでだ。
良心も慈愛もかなぐり捨てて、王の座さえも奪い取って来たアシュナード。狂王とまで呼ばれるほどの彼の欲望は留まることをしらない。
「それに……ククク。わざわざ我が手を出さずとも、いずれあの集団は解体される。我としては、幽香があのアドレーヌとかいう小娘を八つ裂きにしてもらえれば言う事はないな」
アシュナードは笑う。際限なく笑う。
おかしくて堪らない。楽しくて堪らない。
彼の様な狂王にとって、バトルロワイアルというものほど、面白いものなどこの世にないのだ。
267託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 21:03:53 ID:BYwFylM5



【D-4 一日目 早朝】
【アシュナード@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】
[状態]メダリオン使用状態 疲労(中) 全身を軽い火傷 鼻、頬骨骨折 顔は痣だらけ(全て回復中)
[装備]ヴァーグ・カティ@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡
[道具]支給品一式 書店で取った本を何冊か
[思考]基本方針:戦を楽しむ
1. 幽香を妃にする
2. 瀬多を軍師として起用し、鎧の二人(セシルとカイン)も部下にする
3. 上記二つを叶えるため、脱出方法も一応考える。しかしほとんど瀬多頼り
4. 弱者は滅する

※参戦時期は最終章でメダリオンを使用した直後。
※メダリオン使用していますが制限が掛かっています。
※鎧は爆発の影響でボロボロの状態です
※マルクが自分の考えに賛同してると思ってます。
268託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 21:05:26 ID:BYwFylM5


もはや古ぼけたどころか崩壊寸前となった別荘。遺体を埋葬し、生き残った四人は呆然としていた。
レミリアはあの後すぐに気絶してしまい、ずっと眠った状態だ。回復するのに少なくとも二三時間は掛かるだろう。
瀬多はアドレーヌからシルバーやデデデ達の事を聞き、どう反応していいか分からず放心している。
アドレーヌは未だ悲しみから立ち直れずにいて、逃げ切ったマーダー達のことを考えては恐怖に慄いていた。
そして幽香は……
「さて。それなりに体力は回復したし、私はそろそろ行くわ」
突然、幽香はそう言って立ち上がった。
「ど、どうしたんですか? いきなり。瀬多さん達と一緒に行動するんじゃないんですか?」
「最初はそのつもりだったけど、気が変わった」
そう言ってスタスタと歩いていってしまう幽香。アドレーヌは慌ててその後を追おうとして、
「言っとくけど、アドレーヌ。あんたともお別れよ」
「……え?」
それはアドレーヌにとって、あまりにも突然な話だった。
「何を言ってるんだ! レミリアが気絶している今、頼れるのは幽香しか──」
「怖くなかったの?」
幽香の言葉に、瀬多は首を傾げ、アドレーヌは下を向いた。
「そっか。あんたはその間おねんねしてたんだったわね。……じゃ、アドレーヌに聞くか。あなた、私が怖くなかった?」
怖くなかったかどうか。そう聞かれれば、アドレーヌの答えはYESだ。
本気の幽香。戦闘を心の底から楽しみ、破壊を愉悦としか考えていない闘争心の権化。いつもどこか余裕のある幽香とは似ても似つかない姿だった。
あれが妖怪の本気。風見幽香の全力。
岩を砕き、肉を引き裂く圧倒的な力がこちらにまで及ぶのではないか。そんな恐怖が、アドレーヌの中にないわけではなかった。
負の気の極端に強い幽香が、メダリオンの瘴気に触れた結果だということを知らない二人は、あの暴走が再び起こることを危惧していた。
「いつああなるか、私にもわからない。案外、これが私に科せられた制限なのかもしれない。それでも、あなたは私と一緒にいる? あなたを殺してしまうかもしれない私を」
幽香の言う『ああなる』というのがどういうものなのか、瀬多は知らない。だからこそ何も言えずに押し黙った。今ここで何か言う権利を持っているとしたら、それはアドレーヌだけだ。
「安心して。別行動は取るけど、基本的にはあんたたちの味方になってあげるから。殺し合いに乗った奴がいたら殺してやるし、瀬多の言うイゴールってやつのことも他の参加者に伝えとくから。ま、もう弱者の保護なんてまっぴらだけど」
そう言ってひらひらと手を振り、少しだけびっこを引きながら歩き出す。
一度も振り向きもしない。一切スピードを緩めもしない。何の未練もなく、幽香はその場を立ち去ろうとした。
「約束!!」
その言葉に、幽香の足はピタリと止まる。
「約束、まだ守ってない。私まだ、カーくんと会ってない!」
走り寄り、幽香の腰にしがみつく。涙で服がぬれるのも構わずアドレーヌは叫んだ。
「私、もうやだよ。もう誰とも別れたくない。…たとえ殺されるとしても、幽香さんと離ればなれになりたくない!!」
幽香はただ黙って、アドレーヌに揺らされていた。
知り合いを一気に二人もなくしたアドレーヌ。自分の無力さを十分に噛み締めたアドレーヌ。しかしそれでも、誰かと一緒に共に過ごし、笑ったり、泣いたり、怒ったりしたかった。
たとえそれが自分の我儘だとしても、メタナイトが最後に残した『自分はそれでいい』という言葉を信じたかった。
突然、アドレーヌの両頬がむんずと掴まれる。
「ふぃ、ふぃふぁいー!! ふぃぎれる〜!!」(い、いたいー!! ちぎれる〜!!)
「はぁ。まったく、しょうがない駄々っ子ね。……レミリアが起きるまで。それまでは一緒にいてやるわ。奴が起きたら、また考える。……あんたも考えときなさい」
その言葉に、瀬多はほっと溜息をつき、アドレーヌは顔をほころばせた。
269託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 21:07:41 ID:BYwFylM5
「で、瀬多。あんた、イゴールの居場所に見当はついてるの?」
「ひょ、ひょっほ!! もうひょろひょろはらひてくらはい〜!!」(ちょ、ちょっと!! もうそろそろ離してください〜!!)
まるで餅のようにアドレーヌの頬を伸び縮みさせながら、幽香は言った。
「……ないわけじゃない。可能性としては低いが」
攻略本を取り出し、ぱらぱらとページをめくる。そこから出てきたのは、先程見ていた隠しアイテムの欄だ。
四つのクリスタルを集めることで首輪を解除できるというもの。最初に瀬多がフェイクだと言った情報だった。
「首輪解除というところだけを見れば、この情報とイゴールの契約には似通った部分がある。まさかとは思うが、もしかしたらという可能性も」
「じゃ、当面はそのクリスタル探し?」
「そうだな。どうやら施設に置いてあるらしいが、詳しい場所までは記載されてない。直接行って探すしかなさそうだ。他にも何か情報がないか、レミリアが起きるまで攻略本を読み漁るつもりだ」
自分はもう契約した身だ。どの程度の割合で、イゴールの探索を続ければいいのかは分からないが、それでも出来るだけ手持無沙汰で過ごすことは止めておいた方がいい。
「……悪いな。契約内容を聞いたことで、幽香達も被害を被るかもしれないのに」
イゴールの言葉は、そっくりそのまま二人に伝えてある。自分が死ねば契約が誰か移ること。自分が下手なことをすれば、契約について知っている者が死んでしまうこと。
「ま、あの状況じゃ一番最適な行動だったし、なによりイゴールを潰さなきゃいけないってのは私も同感だしね。あんたが死なないで、イゴールを突き止めればそれで済む話よ」
「そうですよ。仲間なんですから、危険は分かち合ってとうぜんです」
二人の言葉に、苦笑と感謝の言葉で返し、瀬多は攻略本に目を向ける。
希望は見えた。しかし、その希望はまだまだか細いものだ。それに必死でしがみつくことしか瀬多にはできない。
(そうだ。俺は俺のできることをやろう)
死んでいった仲間達の為にも、自分に出来る最大限のことを。
瀬多はそう強く自分に言い聞かせた。
『キャハハハハ!!!』
甲高く、不愉快な笑い声がどこからともなく聞こえた。
この腐ったゲームを主催した敵。人々を死に追いやり笑っている悪魔。
マルクの声が今この場に響き渡る。
夜は明け、最初の放送が始まった。
270託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 21:08:53 ID:BYwFylM5


【D-4 一日目 早朝】
【瀬多総司@ペルソナ4】
[状態]疲労(大)
[装備]お祓い棒@東方project
[道具]基本支給品一式×5 攻略本 トンプソンM1921(30/30) サプレッサー付きナガンM1895(6/7) どせいさんの像@カービィSDX レミントンデリンジャー(2/2) 銃の弾(残り15発) 緋想の剣
[思考]基本方針:レミリアを手伝いながら、仲間と合流し殺し合いを脱出する
1. イゴールを見つけ出し真実を問いただす。
2. 放送を聞く
3. 半信半疑だが、攻略本に書いてある『クリスタル』を探してみる。
4. 元の世界の仲間に会いたいが、足立は警戒する
5. 殺し合いに乗る気はまったくないが、正当防衛はする
6. 死んでいった者のためにも、誇りをもって生きる
※ペルソナ4の主人公です
※使えるペルソナはイザナギのみです
※真ENDルート、イザナミと出会う前からの参戦です
※イゴールと『血の契約』を交わしました。瀬多は「イゴールを探索する」という目的を最優先しなければなりません。なお、瀬多が死ねば契約を知る者に契約権が譲渡されます。誰になるかはランダムです
※瀬多は、イゴールが参加者を拉致した者であり、この殺し合いの元凶だと考えています

【攻略本】
ゲーム攻略の必需品。今回の殺し合いに関する様々な情報が載っている。参加者やアイテムの簡単な説明等。詳しい内容は他の書き手さんに任せます。
なお、クリスタルは計四つあり、どこかの施設に隠されています。どの施設に隠されているか、諸々の詳細などは他の書き手さんに任せます。

【レミリア・スカーレット@東方project】
[状態]気絶中 疲労(極大) 額に裂傷 右目損傷 腹が抉れている 右手損傷 左膝損傷(全て回復中)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式
[思考]基本方針:主催者を倒し、どちらが支配者かを思い知らせる
1. 気絶中
2. 手下を作って脱出する。邪魔立てする奴は殺す
3. さっさと傷を治して、これ以上部下を殺させないようにする
※時間さえかければ傷は治癒しますが、休息を取らなければ疲労感は回復しません
※弾幕を撃つのに溜めが必要。威力も制限されています


271託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 21:09:52 ID:BYwFylM5


長い長い戦いは終わった。全員が全員、しばしの休息を迎えていた。
幽香はけっきょく、しばらくアドレーヌと行動を共にするようだ。いつまた暴走が起きるとも分からないが、それでもアドレーヌは幽香と共にいることを望んでいる。
しかしである。
果たしてメダリオンを使用した人物からメダリオンの瘴気は出るものなのだろうか。
出るとしても、幽香が自分を制御できないほどに暴走するものだろうか。
「……あれ? 私、こんなメダル持ってたっけ? なんだか光ってるけど…」
放送が始まり、慌てて自分のマップと名簿を取り出していると、中から小さなメダルが現れた。アドレーヌの手の中で、まるで水を得た魚のように青く爛々と光るメダリオン。
少し離れたところで瀬多と幽香がペンを握り、マルクの放送を聞いている。
それを見て、アドレーヌはすぐにそれを仕舞い込んだ。今は放送を聞くことに集中しなければならない。そう判断したアドレーヌは、マップと名簿を取り出して、皆のところに駆けて行った。奇妙なメダルのことは既にアドレーヌの頭から消えていた。
アドレーヌが極端に正の気が強くなければ。瀬多にそのメダルのことを話していれば。幽香を引き止めていなければ。
最悪の未来の可能性は、閉ざされていたかもしれない。

【アドレーヌ@星のカービィ】
[状態]深い悲しみ
[装備]なし
[道具]基本支給品一式 メダリオン@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡
[思考]基本方針:ゲームには乗らない。できれば人も殺したくない
1. カーくんを見つけ出し、みんなで脱出する
2. もう人が死ぬのは見たくない
※メダリオンを所持していますがアドレーヌは正の気が強い為、暴走状態になりません。
※アドレーヌはメダリオンを見落としていました。よって、メダリオンのことはアドレーヌしか知りません

【メダリオン@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】
デイバックに入れていれば軽減されますが、戦闘に呼応してその場の負の気が増大されます。しかし一般人ならば何の効果もありません。メダリオンに触れれば負の気に冒され、暴走状態になります

【風見幽香@東方project】
[状態]疲労(大) 顔を中心とした打撲 足の指損傷
[装備]なし
[道具]基本支給品一式 不明支給品0~2
[思考]基本方針:向かって来る敵は排除する。自分から殺し合いにはいかない。
1. レミリアが起きるのを待って、それから身の振り方を考える
2. アドレーヌの友人を探す。アドレーヌもついでに適当に守ってやる
3. 絵の具と筆を探す。


【デデデ大王@星のカービィ 死亡】
【メタナイト@星のカービィ 死亡】
【スネーク@メタルギアシリーズ 死亡】
【シルバー@ポケットモンスター 死亡】
【アーボ@ポケットモンスター 死亡】

【残り28人】


272託された希望  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/03(月) 21:11:45 ID:BYwFylM5
投下終了
長かったー! 投下だけで一日かかるとかどんだけだよ
支援、代理投下してくださった方々、改めてありがとうございました
273創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 21:34:44 ID:/NOSqbHW
投下乙! おもしろかったあああ!
誰もこれもがかっこいい生き様と死に様だった!
イゴールが出てきた後の瀬多の説得で一度退いたように見えたときは、
まさかの対主催大躍進かと思ったら!
そりゃあセシル達にとったらたまんねえよなあw
ナイス引っ掛けだっったぜ
死んだ奴らもかっこよかったけど、生きた奴にも色んな繋がりや結束、フラグができたなあ
特に幽香はいろいろ美味しいことになってるw
久しぶりに妖怪らしい強い幽香が見れてよかった
その幽香を第一形態で互角以上にもっていけるアシュナードもラスボスパワーを魅せつけてくれたぜ
274創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 22:12:40 ID:GY2nWrKF
両書き手はもちろん、代理投下、支援した方みなさん乙です。
冷血なりせば…アカギはずるいというか、狡猾な男ですごく悪い大人感が出ていて良かったです。
託された希望…容赦ないマーダー陣に吹いたw対主催側の絶望感もありありと伝わってきました。

275創る名無しに見る名無し:2011/01/04(火) 01:15:57 ID:vv+b0kIw
投下乙!
シルバーの死に様がかっこよすぎて濡れた
276創る名無しに見る名無し:2011/01/04(火) 09:17:38 ID:BeEuR4a7
……………
アシュナードっ!!
アシュナード!!
アシュナード!!

いいなあこのアシュナード。まさに狂王の名に相応しい。
なんという傍若無人かつ大胆不敵。救いようのない戦闘狂。
でも決して馬鹿ではないからなおさらに性質が悪い。
かりそめとはいえ、部下も部下なら主も主だわ。

ともあれ、投下乙です!
277創る名無しに見る名無し:2011/01/04(火) 11:59:09 ID:pk9yb0rK
両書き手様投下乙です!
うおおおお!キャラの全てが素晴らしすぎる!
278創る名無しに見る名無し:2011/01/04(火) 14:50:30 ID:FvEQS+F+
メタナイト、スネーク、アーボって結局誰が殺したことになるんだ?
最終的な死因をつくったのって誰だろう?wikiには力を使い果たしたってあるけど。
セシルかカインのどっちかかな?
279創る名無しに見る名無し:2011/01/04(火) 15:05:27 ID:vv+b0kIw
ごめん、俺が編集したんだけど、ちょっと混乱させてしまったね。とりあえず空白に戻しておいた。
相応しいものに編集しといてくれ
280 ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/04(火) 18:30:08 ID:HtNcgQkk
最後のメタナイトの攻撃は
敵味方問わず周辺のものを高速で切り裂く技です(大乱闘スマッシュブラザーズXの必殺技)
よって、殺したのはメタナイト。味方を巻き込んでの大技だったけど逃げられた。
メタナイト自身はセシル&カインにやられた傷で致命傷な状態に関わらず大技を使った反動で死亡

…うーん。ちょっとわかりにくかったかな。修正しといた方がいいですか?
281創る名無しに見る名無し:2011/01/05(水) 16:46:21 ID:J4bLUV05
どうなんだろう。したほうがいいと思うなら、したほうがいい気もするし…。

wikiにいけないんだが自分だけ?
282創る名無しに見る名無し:2011/01/05(水) 20:02:04 ID:J4bLUV05
とりあえず、死亡者更新しといた。
あれであってるかどうか確認おねがい。
283創る名無しに見る名無し:2011/01/07(金) 19:58:06 ID:wlRQ+UnY
あってるとおもうよ
それと修正は必要ないと思う
284創る名無しに見る名無し:2011/01/08(土) 00:23:11 ID:uh+IZPkT
このロワってロワ充マーダーは大量にいるけどステルス系はいないのな
285創る名無しに見る名無し:2011/01/09(日) 18:07:25 ID:yY407Hfn
展開によっては足立とかがそうなるかもな

まあ無差別のが本人楽しそうだけどw
286 ◆.dRwchlXsY :2011/01/11(火) 23:54:33 ID:QdUa9Uxf
投下します。
287 ◆.dRwchlXsY :2011/01/11(火) 23:56:57 ID:QdUa9Uxf

傷ついた体を引きずりながら僕は歩く。
右腕の痛みが今になってだんだん増してきた。
頭から流れる血も止まらない。
隠れた太陽が少しずつ顔を覗かし、雲の隙間からは徐々に薄い光が射し込んできていた。
そんな僅かな輝きでさえ今の僕にはとても眩しく映る。

僕は研究所に向かっていた。
さっきの戦いで傷ついた体を少し休ませたかったからだ。
ポケモンバトルと『殺し合い』は違う。
これは、肉体的にも精神的にもかなりの疲労を伴う。
実際僕の体は、特に右腕はもうボロボロだ。

殺し合い。

一流のポケモン・トレーナーとして名を馳せた僕が、こんな非現実的なことをしているなんて知ったらみんなどう思うだろう?

僕と共に歩いたポケモンたちが。
僕と戦ったライバルたちが。
僕に憧れた子どもたちが。
僕を育ててくれた母さんやオーキド博士が。
そして、シロガネ山の『彼』が。

心配してくれるのかな?
僕を心配して待っていてくれるのかな?
それとも、こんな僕を怯えた目で見たりするのかな?

でもしょうがない。

実際、楽しかったんだ。
ポケモンバトルと同じくらい、もしかしたらそれ以上にワクワクして面白くてウキウキしてハラハラしてドキドキして熱くて凄くてとても魅力的で最高に気持ちよかったんだ。
感情が溢れだし、胸の高鳴りが僕を高く高く高い場所へ押し上げるんだ。
早く、早く早く、もっともっと戦いたい。
他にこんな気持ちを味わえたのは『彼』、シロガネ山の『彼』だけだ。
彼とも早く戦いたい。
288 ◆.dRwchlXsY :2011/01/12(水) 00:00:06 ID:x2CYY2uh
どれぐらい歩いただろう。
頭部の出血はいつのまにか止まっていた。
右腕は相変わらずズキズキと痛む。
そんな時にようやく研究所らしき建物の外観が見えてきた。
辺りはうっすらと霞がかっている。
あそこで怪我の手当てと、何か武器を得ることができればいいが。

そう思った矢先だった。
研究所を見てすぐに不思議に思った。
何かがおかしい。
どこがどうおかしいだとかではなく、そびえ立つ研究所を見て直感的にそう感じた。
僕は歩を早める。
茫々に生えた草木を乗り越え、両目ではっきりと確認できる距離まできて、僕は何がおかしいのか理解した。

「ハハッ」

思わず声に出して笑ってしまった。
そこにはボロボロの建物があった。あちこちが焼け焦げ、黒色の炭に染まり、既に半壊となった研究所が。
誰かがここで戦っていたんだ。
高ぶる気持ちを抑え、僕はボロボロになった研究所に足を踏み入れる。
中は水でびしょびしょになっていた。歩くたびにぴしゃりとした音がする。

焼け焦げた扉を開けると、そこには壊れたコンピューターがあった。
誰が壊したんだろう。何で壊したんだろう。
そんな疑問を抱え、奥へと向かう。
すると、廊下を歩いてすぐの所で何かを見つけた。
誰かが倒れている。
僕は一瞬、それが相手の罠かもしれないと思った。
僕を油断させておいて、いきなり攻撃してくるんじゃないか。
そう思った。
でも、それは僕の取り越し苦労だったようだ。近づいてみてすぐに分かった。
死体だ。
相手はどう見ても死んでいる。
全身真っ黒で、顔も識別できないほどの酷い状態、幾らか残る体の膨らみから、かろうじて女性だということしか分からなかった。
これほどまでにしたのは誰なんだろう。
まだここにいるのか。それとも、もうどこかへ行ってしまったのか。
気持ちの高ぶりを押さえ切れず、死体を前にして笑みが零れた。

そのまま、死体を放置して先に進むと階段が見えた。
壁に貼り付けられた案内図を見ると、どうやらここは三階建ての建物のようだ。
医務室が一階にあるのが分かったので、そこへ向かう。
廊下を曲がり、先へ進むと相変わらず辺りはずぶ濡れで水音だけが研究所に木霊する。
289 ◆.dRwchlXsY :2011/01/12(水) 00:02:29 ID:x2CYY2uh
ん?なんだろうあの光は?
途中、妙な光が僕の視界に入った。
視線を先の一部屋に向ける。
あそこだけが妙な光を放っている。
青白い不思議な輝きを。
その部屋に入り、光のもとへ向かった。ゆっくり、ゆっくりと。
胸の心臓がどくん、どくんと動いているのが分かる。
そして、部屋の中心で鎮座している光り輝く『それ』を目にしたとき、僕は時間が止まったかのような錯覚を覚えた。
あまりの美しさに思わず見とれてしまったのだ。
それは、目も眩むほど美しかった。
そうだ、こんな気持ちを僕は前にも味わった。

ポケモンを初めて見たとき。

幼いころ、この目で初めてポケモンを見たときと同じ気持ちだ。
目をきらきらと輝かせ、夢中になってはしゃいだのを今でも覚えている。

結晶体を手に取り、壁に腰を掛ける。
本当にきれいだ。
体の痛みや疲れなんてもうどうでもよくなっていた。
これを手にしているだけで、言葉にできないような不思議な気持ちが湧いてくる。
そう思わずにはいられないほどの力と魅力をこれは持っていた。
これが何なのか、何に使うのかは全く分からない。
分からないが―――――これは僕のものだ。
僕だけのものだ。
絶対に渡さない。誰にも。絶対に。

部屋の窓からは陽の光が射し込んでいた。
眩しく見えた光が、今は全然眩しくなかった。
この結晶体、クリスタルがこの世のどんなものよりも輝いて見えるからだ。

そろそろ放送だ。
それまで少しだけ体を休ませよう。
僕はクリスタルを強く抱き寄せ、そして瞳を閉じた。
290 ◆.dRwchlXsY :2011/01/12(水) 00:04:00 ID:x2CYY2uh
【A-3 テトラ研究所 一階の小部屋/一日目/早朝】
【レッド@ポケットモンスター】
[状態]:右手首損傷、右肩脱臼(右腕は使い物にならないレベル)、精神疲労少、精神的安堵感および高揚感、痛覚麻痺、帽子無し。
[装備]:コルトパイソン(5/6)@現実
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(武器ではない)、クリスタル
[思考]
基本方針:生きて帰り、少年と再戦する
1:殺し合いに勝ち残り優勝する
2:このクリスタルは誰にも渡さない
3:使いやすい武器を探す

【クリスタル】
不思議な力を秘めている謎の結晶体。
291GLAMOROUS ◆.dRwchlXsY :2011/01/12(水) 00:06:11 ID:x2CYY2uh
投下終了です。
292創る名無しに見る名無し:2011/01/12(水) 00:33:16 ID:KWHx+QaJ
投下乙!
うわー、いやな奴にクリスタルが…
ここのレッドは着々と道を外れていってるな
293創る名無しに見る名無し:2011/01/12(水) 23:16:45 ID:wghl7bC0
投下乙です!
レッド非道すぐる
294創る名無しに見る名無し:2011/01/14(金) 00:00:56 ID:FR56bCrP
投下乙です!
なんとも色々と屈折しつつ、純粋なバトル狂になりつつあるなぁ
まっすぐにねじれて行くような感じだ
ある意味非常に純粋なゆえに手がつけられない
レッドがクリスタルを手にして、一体どうなっていくのか
295The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/17(月) 23:45:31 ID:bHHaWJCh
雪子、キョウ、アリス、カービィ、ゴルベーザ投下
296The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/17(月) 23:46:37 ID:bHHaWJCh
 
 
ショッピングモールをでたあと、結構ゆっくりと移動を続けた。朝日が私を照らし、夜中に冷えた体を温めてくれた。
目的地は無い。しかし行ってみたい所も沢山あった。『遊園地』とか『カジノ』とか。
外の世界の建造物の名称だ。たしか『楽しいけどお金が無くなる』場所と『お金が無くなる場所』だった様な気がする。
一度ぐらいはそういう外の建造物を見てみたい。どうせあの紅白も白黒も珍しがって外の建造物の観光でもしてるだろう。出会ったら一緒に行動すればいいし。
しかし、外の世界の建造物の名前が地図に載っているという事は、幻想卿の外に連れてこられたということだ。マルクには相当な力を持っているらしい。侮ってはいけないか。
「……しかも弾幕が放てないなんてね。人形が無ければ魔法の糸も意味ないし。襲われたらどうしようか」 
弾幕が放てないというのはスペルカードルールに慣れている幻想卿に住む者にとっては結構なハンデであった。(勿論吸血鬼と華の妖怪は含めない)
それにこの銃もよく使い方がわからないもの。安全装置を外してなんやらかんやら。
よく弄っておいてその時が来るのを待とう。極力使いたくないが。
で、移動をまだ続ける。どこに向かうかは自分でもわからない。しかし知らないことで困ることは無い。寧ろこの方が私の性にあってる。 
「……あら?あれはなにかしら」 
そこに唐突に現れたのは、太陽光が爛々と降り注ぐ場所に蒼髪の凛々しい青年がいた。虹色に輝く剣を持ち、仁王立ちをしていた。その顔は決意に満ちていた。しかしなにかが可笑しい。
その顔は少し下に向いており、そして目はずっと閉じられたままである。まるで作りかけの人形の様に。
そして、その後ろには黒髪の、それもとても可愛い少女が倒れている。そしてその傍らには、別の意味で可愛い……妖怪か?なんなんだろう。
無視する理由はなかった。近くに駆け寄り、声を掛けてる。
「……………もうたべられないよ〜」
そのピンク玉は寝言を言う。持ち上げ、ペチ、と顔を叩いた。
「……ふわぁ?お姉さんだれ?……雪子ちゃんは〜?」
よだれをふきながらそのピンクの玉はあたりを見回す。そして、私の手から降りて、それに気付いた。
「……アイク?なんで立ちながら寝てるの?」
私はピンク玉のその言葉を聞いたとき、全てを理解した。なぜこの青年はこの二人を背にして立ちながら寝ているのか。答えは簡単だった。この青年は二人を守ったのだ。そして死んだ。
まだ地面に突っ伏したままの少女を急いで揺さぶり起こす。
「……うぅん……」
「起きなさい。大変なことになってるわよ」
少女はフラフラを立ち上がる。頭に傷が出来ているので頭を強く打ったと伺える。
そして、ピンク玉の様にその単語を口に出した。
「…………アイクさん?どうしたんですか?」
 
☆ ☆ ☆
 
297The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/17(月) 23:48:14 ID:bHHaWJCh

一人の男がこの殺し合いの場では相応しくない演舞をしていた。それは忘れた何かを思い出すように、何度も同じ事を繰り返していた。
動きやすくなっている服は上半身だけ脱いでおり、そして露出したその肉体は日々の鍛錬の賜物か、完全に鍛えられていた。
汗が飛び散る。そしてその汗は太陽光により光り輝きながら地面に飛び散っていく。
いつもなら子供達がわいわいと遊ぶ空間ではあるし、例え早朝でもこれぐらいの大きさなら一人ぐらいは居るだろう、しかし今は小鳥の囀る声しか聞こえなかった。
奥にはショッピングモールが見え、母親が子供をここに置いてショッピングを楽しむ、なんてこともできるだろう。(公園で演舞しているような不審者が居なければの話だが。)
この公園は運動するのにはぴったりだったが、この殺し合いの場では大変危険な行為であった。銃で狙われたらひとたまりもないだろう。
しかし、男が確信していた。この公園の近くには誰もいないことを。彼は忍術を極めた者でだった。気配も直ぐに感じることができた。
ポケモンがいる世界では、彼の様に忍術を極めたり、或いは超能力を極めたり、また或いは空手を極めたりする者はごく少数であった。
人間はスポーツや格闘術、超能力を極めても、特定のポケモンには劣るし、またそういうものを極めても、結局ポケモンで勝負することが多いのだ。
だから極めても趣味程度に終わる者が多かった。しかし、男は、キョウは違った。忍術を己の限界までに極め、また限界を超えようと今も修行に日々であった。
勿論、ポケモンバトルについても彼は極めていた。主にどくタイプのポケモンを操り、強さだけではないポケモンの奥深さ等を学び、日々、極めていく。
しかしだ、最近は色々事件がありすぎた。ロケット団解体により、カントー地方に平和が訪れたと思った矢先にサカキの失踪。
サカキはロケット団党首であった。失踪するのも当然のことであった。この事はジムリーダーと四天王、そしてごく一部にしか知られていない。失踪した理由は正式には公表されてなかった。
トキワジムは蛻の殻となり早急に代役を立てることになった。ポケモンリーグチャンピオンになった(数分間だが)グリーンに決定された。
この事が決定してやっと安堵できると思ったら、今度は四天王、キクコが引退するという話が持ち上がり、カントー地方のジムリーダー達や関係者は仕事や会議に追われることになった。
そして昨日も会議があり、何ヶ月も忍術もポケモンに関する事も勉強する時間もなかったのだ。
だからキョウは体が訛っていた。公園で演舞をしていた理由はそこに尽きた。
引き続き、キョウは演舞を続ける。そしてそれを唐突にやめた。人の気配に気付いた。
いや気配の問題ではなかった。歩くとガシャン、ガシャン、と音を発するのだ。
そしてフェンス越しにそれは現れた。向こうの道路は公園よりも地面が低くなっておりその鎧の男は今は頭部しか見えなかった。
「…………何者でござるか?」
「……私は修羅だ。どうしようもない修羅だ」
「……もしやこの遊戯に乗った者でござるか?そうだとしたら拙者はお前を打ち倒さなければならぬ」
「打ち倒せるものなら打ち倒してみせろ」 
ゴルベーザは飛び上がり自分の何倍もあった段差、そしてフェンスを飛び越える。これでやっとキョウの視線とゴルベーザの視線の高さはほぼ同一となった。
キョウはラグネルを構える。
「……来い」
「御意」

☆ ☆ ☆
 
298The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/17(月) 23:49:21 ID:bHHaWJCh

「……アイク。僕達の事をまもってくれたんだね。ごめんね。ぜったいに悪い奴を倒すからね」
「グスッ……アイクさん……ありがとうございました」
雪子とカービィは泣きそうになりながら(雪子は完全に泣いていたが)アイクに土を被せる。
アリスの支給品にスコップがあったのでそれで少し移動し郊外の住宅街にあった空き地の地面を掘り返し、即席の墓を作っていたところである。
本来ならばもう少し手厚く弔うべきだが、この状況でそんな事は出来なかった。だからアイクの遺留品である虹の剣も剥ぎ取った。
「……残念だけど、こんな所でグズグズして泣いてる場合じゃないわ。それで、何があったのか詳しく教えてくれないかしら?」
気を使い、雪子達を傷つけないように質問した。人間と価値観が違うには違うが、アリスは元は人間だ。
ただ「何があったのか」なんて聞いたら私の印象は悪くなるだろうし、雪子達は精神的にも悪いだろうし。
「えっと、私とカービィちゃんの他に、セシルさんっていう方がいたんですよ。そして情報交換している時に……」
「襲われたのね。それでそいつはどんな奴だった?」
「えっとね、藍色の鎧を着た人間の男の人だよ。名前はカインっていう人。見るからに悪そうだったんだ」
カービィが怒りながら言う。藍色の鎧の男。気をつけなければならない。
「(……結構、沢山の馬鹿がいるのね)」
アリスがそう思った理由は一つ。この殺し合いに乗った人物が意外に多かったことである。
雪子から聞いた黒い鎧の男、ゴルベーザに、私を襲ってきたシルバー。最後に藍色の鎧を着た男、カイン。3人もいるのだ。
この三人が殺し合いに乗っていて、そして人を殺し、そして扇央しながらなら尚更危険である。その三人に感化され殺し合いに乗る者もこれからでるかもしれない。
「……私が思ってたより、自体は深刻なようね。早い所脱出方法を見つけなくちゃ。それで、アンタ達はこれからどうするの?」
「え……?私は……これから……えっと……」
「僕はこれからセシルを探して説得するよ」
戸惑う雪子の言葉を遮りカービィがそれを言った。その顔は決意に満ちている。
しかしアリスはその顔を見ては呆れた。純粋すぎる。この妖怪は『悪意』とか『憎しみ』とか知っているのだろうか。
「カービィ。アンタ達の話を聞いてる限り、セシルはこの殺し合いに乗った様にしか聞こえないわ。それなのに
「それなのに?アリスは何を言ってるの?」
今度は私の言葉を遮ってきた。
「セシルはね、恋人を失って凄く悲しんでたんだ。だから、助けなくちゃいけないよ」
「……カービィちゃん。」
雪子は目に涙を溜めたままカービィを見つめる。
……心底、呆れた。純粋すぎる。欲望や憎悪などをも知らない子供の様に、そして絵本に出てくる様な勇者の様に。
こいつは、それを言ってのけた。呆れた。確かに呆れたが……この妖怪は好きだ。
決意に満ちていて、そして不思議な力を感じる。こいつならそのセシルを説得できるんじゃないか、という錯覚に襲われる程であった。
「……わかったわ。それで、アタシも一緒に行っていいかしら?ホントは一人で行こうって思ってたけど、アンタ達二人だと凄い不安だしね」
「え?アリスさん、いいんですか?ありがとうござ……」
 
299The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/17(月) 23:55:51 ID:bHHaWJCh

雪子がアリスにお礼を言おうとした時、それは唐突に鳴った。
破裂音。 
「いまの音は!?」
「セシルがいるかもしれない!」
カービィが音の方向に駆けて行く。
「カービィ、一人じゃ危ないわよ!」
アタシと雪子はそれを追い駆ける。向かう場所は私が先ほどいたショッピングモールだった。アクリルで出来た屋根に太陽光が当たり私達を照らす。それはとても眩しかった。
 
☆ ☆ ☆
 
「……お主、何者でござるか?その火炎の技、そして流氷の技。……そして、何故本気を出さぬ?」
「お前こそ何者だ?その動き、実戦は少ないと見た。しかし体術がそれをカバーしている。……戦えば戦うほどわからないな」
 
キョウは消耗していた。火炎の術や、隠れ身の術、などの忍術は何年も忍術を学んだキョウは楽々と使える。
……しかしだ。忍術は魔法ではない。火炎の術には火薬や火種を必要とし、隠れ身の術にはそれを使用するための布が必要だ。
悪く言えば手品だった。キョウは魔法は使えない。そしてキョウが住んでいる世界には魔法なんて存在しなかった。
もし、キョウに忍術を使うための種や準備が万端ならば戦いは直ぐに決着が付いてたかもしれない。
それにキョウは実戦が少なかった。襲われることは余り無かったからである。ポケモンに襲われたとしても忍術や体術ではなくポケモンで撃退していた。
忍術が使えないキョウと魔法が使えるゴルベーザ。どちらが有利なのかは目に見えていた。それに、ゴルベーザは、まだ本気を出していなかった。
キョウには絶望的な状況だった。
「……もういいだろう。諦めろ」
「……負ける訳にはいかないでござる。」
だが、ゴルベーザはキョウを相手していなかった。いや、相手にする必要はなかったかもしれない。
ゴルベーザの目的は参加者の結束を固める。そしてキョウには断固たる意思がもうあったので、必要がなかった。
それにキョウを殺すわけにはいかない。主催に反抗する者が減ってしまっては困るのだ。例え自分が殺し合いに乗っていたとしても。
しかしこちらが手をひこうとしても、キョウは諦めなかった。
「……これで終わりにしよう。殺しはしない。『ブリザガ』」
氷の塊がキョウを襲う。……様に見えたが、その近くにあったドラム缶に衝突した。
破裂音が豪快になり、ドラム缶の中にあった得体のしれない液体が公園に飛び散る。
公園は舗装されており、子供が転んでも怪我をしないように少し柔らかい素材が使われていた。
舗装されているので液体は地面に吸収されなかった。
「(外したでござるか?いや違う!)」
急いで地面から離れようとするが、手遅れだった。
300The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/17(月) 23:58:41 ID:bHHaWJCh
足袋が凍り、身動きが取れなくなる。
「……出直して来い。私を倒すのはお前では無理だ。次、会ったときは容赦しない」
「……く、不覚。……!?、お主、拙者を殺さないのかっ!?」
キョウは殺されると思っていたが、ゴルベーザは殺そうとしてこなかったことに驚いた。
しかし、ここで逃すわけにはいかない。脚を動かすが、動かない。足袋も脱ぐこともできない。
キョウはゴルベーザが去っていくのを指を咥えてみてるしかなかった。
先ほどと同じように、アイクを見逃す様に、またその場から離れようとする。しかし、そこにまた、唐突に何かが現れた。
「あ!見るからに悪そうな奴!」
そう言ったのはピンク色の球体。カービィであった。
「しゃ、喋るポケモンでござるかぁ?」
「……見るからに悪そうな奴、か。そう言われるのも仕方ないじゃもしれんな。それで、お前は何者だ?」
驚くキョウを尻目に鎧の中で苦笑いをしたゴルベーザはキョウに背を向けながらカービィに言葉を放つ。
「僕の名前はカービィ!そこのオジサンを助ける為にここまで来たんだ!……本当はセシルを探しにきたんだけどね」
「!?……セシル、だと?……ふむ。」
ゴルベーザは一瞬だけ驚嘆の意に襲われるが、それは微少な物だったので誰にも気付かれなかった。誰にも気付かれなかった。
「カービィちゃん!一人で行ったら危な……あなたは!」
「……あら、人間なのに、強い魔力を感じるわね。何者かしら?」
続いて雪子達も続いて集合した。
「先ほどの小娘ではないか。あの男はどうした?見当たらないが」
カービィとキョウとアリスが警戒しながらゴルベーザを睨む。しかし、雪子の視線は沈んでいた。
「……死んだのか?小娘よ。召喚士としての才を持ちながら尚、死なせたのか。私に猛り、退かせてみせた少年を?……なんてザマだ」
「雪子は悪くないよ!悪いのは
「悪いのは殺した者とでもいうのか?くだらん事を言う。ここは戦場だ。戦いはもう始まっている」
カービィの主張も遮り、雪子に罵声を浴びせる
「っく!なんて非道でござるか!?歳もいってない少女にそんな酷い事を言うとはっ!?下衆めっ!お主は拙者が打ち倒してみせるぞ!」
足場が凍り、動けないキョウが叫ぶ。キョウの視線にはゴルベーザの後ろ姿しか見えていないが。
アリスは黙ってゴルベーザを睨み続ける。
「……確かに、私は……なにがおきたかも理解できなかった……」
数秒間の沈黙の後、雪子がボソボソと喋り始めた。
301The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/18(火) 00:00:17 ID:YlDCCAJm

「アイクさんの事を守れなかった。いや、守ってもらってた。ペルソナを使えるのに、守ってもらった。」
ゴルベーザは鎧の中から雪子を見つめる。キョウもカービィも何かを察したようで、黙り始める。
「守ってもらってばっか。アイクさんが死んだのを知ったとき、どうしようもない何かが私を襲った。このまま絶望の淵に立った状態で居た方がマシだった。」
雪子は長く喋ったせいか、息継ぎをする。今聞こえるのは雪子の声の残響音と風が吹く音だけ。
「でも。カービィちゃんがね。とても強くて良い子だった。あんな事になっていても、カービィちゃんだけは諦めてなかった。だから、私も、諦めちゃだめだって」
「雪子ちゃん……」
カービィが名前を小さく呟く。照れ隠しの様なものだった。
「だから、泣くのは、もうちょっと、後にしたいの!!!!ペルソナ!」
泣くのは後にしたい、なんて言った雪子だったが、顔はまだ涙に濡れていた。
コノハヤサクヤが現れ、ゴルベーザに戦闘態勢をとる。
「これはなんと面妖な……?……な!?」
キョウが驚いた声を張り上げると、足場を凍りつかせていた氷はアギラオの炎により溶け、動けない体を自由にした。
「私は、この殺し合いが終わるまで、アイクさんの様に、強く、そして優しくなって、泣かない!そう決意するわ!」
雪子が叫び、決意する。その目は真っ直ぐゴルベーザを見据えていた。その目は絵本に出てくる様な勇者の様に、カービィの様に輝く。
「……ほう、面白いじゃないか。もう一度聞きたい。それでお前らの名はなんだ?」
「天城雪子よ」
「アリス・マーガトロイド」
「僕はカービィ」
「拙者はキョウでござる」
「……そうか。お前らなら私は、――――――打ち倒されてもいい。だが、私はまだやらなければいけないことがある」
ゴルベーザが進むのは、戦闘態勢を取る雪子たちではなく完全に明後日の方向だった。
「アンタ逃げる気?」
「逃げるのではない。お前らではまだ、私を打ち倒せない。もう少し、力をつけて、私に挑んで来い。私は……」
確かに、雪子達は勝てる気がしなかった。アリスは弾幕を放てないし持っている銃では鎧を突き抜けることはできない。カービィはコピーを出来る物が周辺にはなかった。
キョウは忍術を使えない。雪子はペルソナ能力が使えるが、一人ではゴルベーザの相手は出来ないだろう。彼らが勝利をもぎ取るのは難しかった。
「……そうだ。二つ失念していたことがあった。名を名乗ろう。私の名はゴルベーザ。覚えておくがいい。それと、」
思い出したかの様に踵を返す。名を名乗った後、ゴルベーザは息継ぎをした。それは何か戸惑いを感じさせた。
「聞きたいことがあった。……セシルに会ったのか?最後の姿はどうだったのだ?」
…………聞きたくはなかった。だが、聞かずにはいられない。ゴルベーザは直接ではなく、間接的に聞く事にした。
「……最初は僕と一緒に居たんだけど、カイン・ハイウィンドっていう奴に襲われた。その後、セシルの鎧が黒くなって……」
「……それ以上は言うな。つまらぬことを聞いたな。すまぬ。それでは」
302The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/18(火) 00:04:56 ID:YlDCCAJm


また明後日の方向に向き、そこから去ろうとした。
「ゴルベーザ!君もセシルが殺し合いに乗ったと思ったの!?」
そこにカービィが大声で質問をゴルベーザにする。ゴルベーザは脚を止めた。
カービィはなぜか、ゴルベーザとセシルの関係を知っていたかの様だった。実際は何も知らないのだが……
「そんなことないからね!セシルは、強い子なんだよ!僕はセシルを信じてる!」
その言葉をカービィが言い終えると、ゴルベーザはまた歩き始めた。
 
☆ ☆ ☆
 
「ちょっと。カービィとキョウ、アッチに行っててちょうだい。ほら、パン屋があるわよ。そこで食料でも確保してなさい」
「え、ホント?わ〜い!」
「む?なぜでござるか?」
「いいから向こうに行ってて!そんなんじゃ娘に嫌われるわよ!」
アリスはキョウに激昂する。キョウは慌ててカービィの後を追った。
アリス達はショッピングモールに戻ってきていた。あれから時間は結構たったのでシルバーはもういないだろう。
出入り口に血とモデルガンが落ちていたのが気になるのが、キョウが気配がしないので安全だ!……というので安全なんだろう。
雪子は、ショッピングモールの中心の噴水にあるベンチに腰掛けていた。
「アンタまだ泣いてるの?泣かないんじゃなかったの?」
「アリスさん…ぐす、ぐす、ええええん!!」
「あー……はいはい。泣いていいのよ。」
雪子はアリスに抱きつき、身に着けているの服を濡らし、そして自分よりデカイ胸を押し付けてきて不快感があったが、怒るに怒れない。
「なかな、いって、ぐす、決めたのに、」
「出来ないことを無理に約束したりするんじゃないのよ。ほら、アイツら今パン屋の方だから好きなだけ泣いてもばれないし。私が言わなければ、泣いたことにはならない」
鼻水をすすりながら泣く雪子を励まして元気つける。
「ありが、とう、ぐす、ごZぁいます」
「なにをいってるんだか……」
だが、こんな事をしてる場合じゃなかった。
「アリスさ、ん。ぐす。アリスさんは怖くない、んですか?」
泣きながら聞いてくる。
きっとこの子はこうやって泣いたりすることはあまりないんだろうと感じた。泣くのに、成れてないというか。いや、慣れてたらそれはそれで関わりたくないが。
いや、そんなことも考える暇もない。
「何が怖くないって?」
「知り合いが、死んじゃう、のは、ぐす、怖くない、んですか?」
「大丈夫よ。ていうかアイツら殺しても死ななさそうだし。」
303The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/18(火) 00:06:31 ID:YlDCCAJm

大丈夫じゃない。知り合いは私の様に力が抑えつけられているだろう。知り合いが死ぬ。この殺し合いを打破しようとしているものが死んでいく。それだけは阻止しなくてはいけない。
雪子の様に、カービィの様に、キョウの様に、そして私の様に、特殊な能力を持ち、その人にしかない良い所がある。
もしかしたら、一人欠けてしまったら、この殺し合いを打破する事ができなくなるかもしれないのだ。
「アリス、ぐす、さん、?」
「大丈夫よ。大丈夫……」
どうやら私の思っていたより深刻な事態である。(先ほども同じ表現をしたが、今はそれ以上の事態ってことだ)
焦るのは何年ぶりだ?そしてこうやって知り合いを心配するのは初めてだったか?
「アリス殿!カービィが全て食べてしまったでござる!しかし、心配するな!まだ食品コーナーは手付かずでござる!」
「え?食品コーナーもあるの?わーい!」
「し、しまったでござる!」
キョウとカービィが戻ってきた。急いで雪子の顔をハンカチで乱暴に拭いて何事もなかったように振舞わせる。
「アンタ達。もう少しで放送よ。メモの準備をしなさい。食品コーナーはあーと」
「む、承知したでござる。カービィ。メモの準備……む?そういえばデイパックは?雪子殿もないではないか」
「キョウさん、今頃気付いたんですか……」
 
しかし、この喧騒を聞いていればどうとでもなる気がした。強く決意をしたカービィと雪子。そして忍術に長けたキョウ。

「(見てなさいマルク。アンタのつまらないゲームは私が潰して見せるわ。これなら紅白も白黒も必要ないかもね)」
 
もうすぐ放送が始まる。
 
【E-5 ショッピングモール/一日目/早朝】
【アリス・マーガトロイド@東方project】
[状態]:健康
[装備]:シングル・アクション・アーミー(5/6)@メタルギアシリーズ
[道具]:基本支給品一式、スコップ、不明支給品×2 、調達したもの(不明)
[思考]
基本方針:脱出の手立てを探す。
0:知り合いが心配。
1:早急に知り合いと再開
2:人殺しは基本的にしないつもり。正当防衛及び危険人物排除はするけど。
3:操れる人形が欲しい。
4:魔理沙と霊夢は……別に探さなくてもいいか。
5:アシュナード、漆黒の騎士、足立、ゴルベーザ、カイン、サカキに警戒
※ショッピングモールで何か調達したようです。
※雪子、カービィ、キョウと情報交換しました。
304The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/18(火) 00:07:34 ID:YlDCCAJm

【天城雪子@ペルソナ4】
[状態深い悲しみ、強い決意、SP消費(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考]基本方針:殺し合いを止める
0:アイクさん、私頑張ります。 
1:瀬多君、花村君、千枝を捜す
2:セシルを探す。
3:アシュナード、漆黒の騎士、足立、ゴルベーザ、カイン、サカキに警戒
※真ENDルート、イザナミと出会う前からの参戦です。
※ペルソナはコノハナサクヤです。
※アイク、アリス、カービィ、キョウと情報交換しました。


【カービィ@星のカービィ】
[状態]腹二分目、強い決意
[装備]なし
[道具]虹の剣@星のカービィ
[思考]基本方針:ゲームには乗らない。困った人は助けたい
0:パンうめえ
1:マルクはたおしたはずなのに……?
2:セシルを探す。殺し合いに乗っていたら……
3:アシュナード、漆黒の騎士、足立、ゴルベーザ、カイン、サカキに警戒
※名簿、支給品は確認済みです
※銀河に願いをクリア〜の時期での参戦です
※気絶中にコピー能力は解除されてしまったようです。
※アリス、キョウ、雪子と情報交換しました。
 
【キョウ@ポケットモンスターシリーズ】
[状態]:疲労中
[装備]:神剣ラグネル
[道具]:基本支給品一式、
アドレーヌの絵描き道具一式@星のカービィ、 コイキング@ポケモン 、神剣ラグネル@FE蒼炎
[思考]
基本方針:マルクに天誅。
1:先ずは仲間を探すでござる。
2:仲間を得る為に移動するでござる。
3:レッドとグリーン、タケシを見つけたら保護。
4:アシュナード、漆黒の騎士、足立、ゴルベーザ、カイン、サカキに警戒
※アリス、雪子、カービィと情報交換しました。
 
☆ ☆ ☆
305The sadness will never end  ◆S33wK..9RQ :2011/01/18(火) 00:09:14 ID:YlDCCAJm

 
あの小娘は、雪子はもう心配がないだろう。少し行き過ぎた事を言ってしまったが……
カービィ、アリス、キョウ、雪子。もしかしたら殺し合いに乗っていない者の結束を固めるのは必要なかったかもしれない。
最初から強く決意した者がいたのだから。

嗚呼、我が弟よ。セシルよ。なんということだ。
あの厳しい試練を乗り越え、パラディンになったというのに、お前はまた闇の道へと行くというのか。
今のお前はなんと醜い姿なのだろう。兄弟揃って闇の道など、なんて悲しい事なのだろう。
お前がそのまま闇の道へ、闇の果てへ堕ちるとういうのならば。
 
だが、セシルよ。お前はまだ完全には死んではいない。お前を思う、友、そして仲間がいる。

しかし、お前を思う、友、仲間が居なくなり、孤独に闇に身を任せるのなら。

せめて、私の手で、葬ろう。もはやこれまでだ。

嗚呼、マルクよ。お前はなんてことをしてくれた。我が愛しい弟に何をしてくれたのだ。
 
お前も、私の手で、葬ろう。お前も悲しき道に進んでいる事に気付け。気付くのだ。
 
闇に進む者は全て、闇の道に進んでしまった私が打ち倒そう。
 
私が葬っても、尚、闇の道へ進むというのならば。
 
【ゴルベーザ@ファイナルファンタジー4】
[状態]:鎧に少し焦げ目、鎧に傷、魔力消費(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]
基本方針:殺し合いにあえて乗り、殺し合いに抗う者たちの結束を固める
0:セシルよ……
1:殺し合いに抗う者たちと戦う。
2:殺し合いに乗っている者達も抗う者達に有利になるように力を削ぐ
3:闇の道に行ったセシルに会ったら……?
4:セシルが本当の意味で孤独になったら引導を渡す。
※エンディング後からの参戦です
※セシルが殺し合いに乗ったのを確信しました。
 
※ショッピングモール内のパン屋のパンは消滅しました。
306 ◆S33wK..9RQ :2011/01/18(火) 00:17:02 ID:YlDCCAJm
投下終了。推敲5回ぐらいしたけど誤字脱字は案の定しまくりです。はい。
WIKIに収録した後に擬似脱字は修正させていただきます。
307創る名無しに見る名無し:2011/01/18(火) 13:15:40 ID:1wAOQVy/
投下乙です!
308創る名無しに見る名無し:2011/01/19(水) 08:55:48 ID:rERyi50p
投下乙です
カービィは良い子だなぁ…と思ったらパンうめぇwww
ほのぼのしてるけど地味に戦闘力の高い対主催チーム結成なんだな
今後が楽しみだ

セシルは戻って来れるのか…
ゴルベーザに会ったらちょっと揺らぎそうではあるんだが
309 ◆S33wK..9RQ :2011/01/20(木) 15:10:53 ID:TJXqoQ3A
wiki内で修正しました。
修正箇所はまず誤字脱字を減らしました。
それと4人の備考欄の『情報交換』の部分を『少しだけ情報交換』に差し替えました。
 
それと、思ったことなのですが、3+2日ルールというのは短いな……と感じたので
いま避難所の議論スレにて5+2日にしてほしい、という趣旨のルール改定をお願いしています。
何か問題や意見がある方は避難所に来て欲しいです。
310創る名無しに見る名無し:2011/01/21(金) 08:23:24 ID:Ecv7z4jQ
セシルが乗ったのは親友が仲間を殺しちゃったせい、と
ゴルベーザの思考に反してるのが何とも言えないな

パン屋に黙祷
311創る名無しに見る名無し:2011/01/21(金) 22:19:38 ID:lh7p5W/e
乙。
ゴルべーザとカービィは、それぞれまっすぐだな…

wiki収録分見たけど、誤字らしき場所がまだあったよ。
あと、アリスの一人称は「アタシ」じゃなく「私」だと思う。
312 ◆.dRwchlXsY :2011/01/26(水) 13:39:48 ID:X6OE3N7K
遅くなってすみません。ルビカンテ投下します。
313 ◆.dRwchlXsY :2011/01/26(水) 13:42:59 ID:X6OE3N7K
ルビカンテが世界樹に辿り着いたときには、既に世界樹は全身を巨大な炎で包み込まれ、その短い一生を終えようとしていた。
パチパチとどこか小気味よい音を立て、今にも崩れ落ちそうな状態だった。
火の勢いは止まることを知らず、周囲を明るく真っ赤に染め上げる。
うっすらと朝靄が立ち込める中、世界樹のあるそこだけが異様なほど赤かった。
辺りはしんと静まり返り、天までそびえるかの如く巨大な樹木が燃え崩れる音だけが響いている。

その光景を目にし、ルビカンテは自身に流れる血が強く脈打つのを感じた。
またルビカンテの纏いし炎も、世界樹に共感するかのように激しく陽炎のように揺らいだ。
ルビカンテは笑った。
強大な力を持つ者の存在を、この樹を通して確かに感じとったからだ。

「少し、遅かったか……」

しかし、同時に少なからず落胆したのも確かだった。
周囲の気配から、相手が既にこの場を離れていることが分かったからだ。
殺し合いが始まって早数時間。
夜の闇はすっかり顔を潜め、この島には最初の朝がやって来ようとしていた。

ルビカンテはなかなか自分の全力を出せる程の相手に出会えぬことに不平を抱いていた。
事実、これまでにルビカンテが遭遇したのは、仇敵のカインと、年端もゆかぬ青年の花村陽介だけであった。
殺し合いの始まる直前に起きた惨劇、"ローザの死"により狂気に走ったカインとは一悶着あったが、あの時は互いに挨拶程度交えただけで、とても闘争と呼べるものではなかった。
花村陽介と別れたあと、燃ゆる世界樹に強者の気を感じそこに向かった時も、途中で誰か強敵と遭遇しないものかと期待していた。
しかしそれは叶わなかった。
それだけで終わることなく、たどり着いた世界樹も既にもぬけの殻だと分かった今、ルビカンテの闘争への期待が一気に下がったのは言うまでもない。
早く強者と戦いたいという自らの欲求が満たされないのは、残念至極でならなかった。
314 ◆.dRwchlXsY :2011/01/26(水) 13:45:30 ID:X6OE3N7K
だがそれでもルビカンテは笑った。
たとえこの場に誰もいないとしても、激しい戦闘の跡や濃厚な血の匂いは確かに此処には残っていたからだ。
削り取られた木々。地面に飛び散った幾つもの血痕。そして猛火に包まれた世界樹。
それを目にするだけで十分だった。
強者がいたという事実は確かなのだから。

ルビカンテは思った。
今はまだ出会えなくても、殺し合いが続けばその時は必ずくる。
例え場所や時代が変わろうとも、いつの世も弱肉強食の定めにあるのは変わらないのだ。
最後に残るのは絶対的強者のみ。
それが自然の摂理、と。

ルビカンテは目線を上げて、炎にそびえる世界樹をしばらく見つめ、そして言った。

「雄大なる大木よ、見事であった。――今はただゆっくりと眠るがいい」

ルビカンテはそう告げ踵を帰すと、静かに、そして素早くその場を駆けていった。
全ては強者と闘うが為。
灼熱を纏いし、熱を帯びたその様はまるで弾丸の如く。

【B-2 世界樹/一日目/早朝】
【ルビカンテ@ファイナルファンタジー4】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品未確認×2
基本方針:ゴルべーザ様を探し、指示に従う。強者との戦いを望む。
1:早く強者と戦いたい。
2:花村陽介か・・。
※作中からの登場時期はカインと面識がある以降、時期不明としておきます。
315さまよえる紅い弾丸 ◆.dRwchlXsY :2011/01/26(水) 13:47:32 ID:X6OE3N7K
以上で投下終了です。
316創る名無しに見る名無し:2011/01/27(木) 12:08:51 ID:PcmQqffp
投下乙です
魔理沙と遭遇するのかと思ったけどそんなことなかったぜ
317 ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/29(土) 20:36:33 ID:0QRfhOvB
あー、炎上を見てそう感じるのか。なぜかそういう発想がなかった
ルビカンテは実に戦闘狂らしいなぁ

筆が進まなかったりテストがあったりインフルエンザにかかったりで
すんごいオーバーしてしまいましたが、ようやく完成しました。
オタコン、千枝、咲夜投下します
318 ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/29(土) 20:38:28 ID:0QRfhOvB
洋風の家が建ち並ぶ繁華街。レンガ造りの家々によって形成された通りに、オタコンと思しき人間がいた。
いつものコート姿ではなく、華美なマントを羽織り、その姿はまさしくファンタジー映画に出て来る魔法使いそのものだ。
突然、正面から槍を構えた兵士が突進してくる。
オタコンは顔色一つ変えず、冷静に後ろへと下がる。
スピードでいうのなら相手の方が遥かに速い。しかし、オタコンはこの突然現れた敵との接触を恐れていない。
むしろ接触することを望むかのように、指定の位置につくと立ち止まり、敵が充分に近づいて来るまで待機する。
一秒。
二秒。
大した時間もかからずに、敵はオタコンの攻撃圏内へと入って来た。
その決定的なチャンスをオタコンは逃さない。すぐに手に持っていた魔道書を開き、宣言した。
「ハイウィンド!!」
無数の風が刃となり、兵士の身体を切り刻む。兵士はその場で倒れ伏し、その身体は光となって消えた。
319一匹狼  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/29(土) 20:41:47 ID:0QRfhOvB

「ふぅ〜。これであと三体か」
オタコンは眼鏡のブリッジを中指であげて、再び意識を集中させる。
彼の手には小型の携帯用ゲーム機。
そう。オタコンは、殺し合いという心身張り詰める過激な催しの最中に、家庭用ゲーム機で遊んでいたのだ。
「ねぇ〜。まだ終わんないのぉ?」
不満を隠そうともしない千枝の声を無視し、オタコンはボタンを押す。
今オタコンがプレイしているゲームは、俗にいわれるシミュレーションRPGというものだ。
自軍のキャラクターを駒に見立てて動かし、自分の駒が全滅する前に敵を全て倒すとゲームクリアとなる。
自分が駒を動かせば次は相手が動かす番。その次はまた自分と、ターン制でゲームは進んでいく。いわば将棋やチェスのようなゲームである。

オタコンはこれまでに一度ゲームオーバーになっている。つまり、今は二回目の挑戦ということだ。
いくら自軍が一人しかいないといっても、いくら敵が大勢いるといっても、ここまで来て再びゲームオーバーというのは、彼にとっても許せることではない。
画面の中に映る、オタコンに非常に良く似たキャラクターが指定位置に移動する。そこで自分のターンが終了し、敵のターンとなる。
敵は自分の移動できるギリギリまでオタコンに近づいて来るが、攻撃範囲には届かない。よって、その場でターンは終了する。
敵が距離を詰めてきたおかげで攻撃範囲に入っている敵を、オタコンは再び風魔法である『ハイウィンド』によって体力パラメーターをゼロにする。
「よしよし。今回はうまくいってる」
前回は突如目前に現れた敵の増援によって悲惨な結末を迎えたが、今回はその反省を活かしてうまく自軍の駒を配置した。
操作できる駒が一人だけというのはかなり苦しいものがあるが、それでも増援のタイミングさえ覚えてしまえばヒットアンドラン戦法で難なくクリアできるだろう。
「ちょっとオタコン!! 無視すんな! いいかげんゲームから離れろ!!」
「大和撫子は声を荒げないものだよ。それに、ゲームは所有者がプレイするためにある。それを僕がプレイすることに何の問題もないだろ?」
「それあたしの支給品だし! 所有者あんたじゃねーし! つか、そもそもあたし大和撫子なんか目指してないから!」
「大丈夫。千枝ちゃん可愛いから十分通じるよ」
「か、かわ……。って、今はそんな話してないっての!!」
微妙に頬を染めながら憤慨する千枝の声を右から左へ聞き流しながらも、そろそろ限界だろうとオタコンは考え始めていた。
千枝とオタコンが情報交換を始めたのが数時間前。遊園地を出て少し歩いたところでお互いの支給品を見せ合うことになり、千枝のデイバックの中から携帯型ゲーム機が出てきて以来、ずっとここでゲームをしている。
千枝としては一刻も早く仲間を探しに行きたかっただろうに、オタコンという戦闘力のない、保護すべき人間を置いていくことが忍ばれるのか、ずっと付き合ってくれている。
彼女としてはフラストレーションが溜まる一方なのだろう。
320一匹狼  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/29(土) 20:44:51 ID:0QRfhOvB
「……君は今回の殺し合い、どう見てる?」
あくまでもゲーム機から目を離さずに、オタコンは聞いた。
「どうって……こんな悪趣味なもん開催した奴なんて、ぎったぎたにした上で八つ裂きにしてもまだ足りないって思ってるくらいだけど……」
彼女があまり頭を使うタイプではないことは、出会って十分もしないうちに理解できたことだ。
オタコンはため息をついて、再びメガネのブリッジをあげた。
「僕の見立てを言おう。このゲーム、主催者が超常的な力を用いている割に、あまりにも脆過ぎる」
先ほどまでがなりたてるようにしてオタコンの真横で仁王立ちしていた千枝が、急に大人しくなってその場に座った。
「どういうこと? オタコンはここから脱出する方法をなんか思いついたわけ!?」
「そうじゃないよ。でも、その隙は十二分にあると思うね」
淡々と、しかし理知的な言葉を、オタコンは紡ぎだす。
「僕が最初に注目したのはこの首輪。脱出を目指す僕たちにとっては一番重要な要素で、それは主催者にとっても同じはず。なのに、首輪はこんなにお粗末なものでできている」
「え? うーん、これってお粗末かなぁ」
自分の首輪を指でなぞりながら、千枝は疑問の声をあげる。
確かに荘重な銀の光沢が輝く首輪は、見た目からしてもお粗末なものとは思えない。
自分の首にフィットしているにも関わらずまったく違和感も息苦しさも感じないところなど、最新技術が端から端まで行き届いているような気持ちにさせる。
爆弾に明るくない千枝にとって、この首輪がどれほどの技術で作られたものかはわからない。しかし、それは確かに古臭さなど微塵も感じさせないものだった。
「この手の爆弾なんて簡単に作れるよ。この形状の首輪だって、僕がやろうと思えば一週間もかからずに同じものを作ってみせれる」
潜入捜査には、もっと高性能なアイテムがたくさん必要になってくる。そんな中からみても、遠隔操作できる爆弾など本当に単純なものだ。
千枝の見てきた世界の技術と、オタコンの見てきた世界の技術。その差が印象の違いを生んでいた。
321一匹狼  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/29(土) 20:45:41 ID:0QRfhOvB
「会場へのワープ。ファンタジーな能力を開放したり制限したりする力。これらに比べ、この首輪は明らかに見劣りする。何故だろうか?」
そう言われれば、千枝も納得できるものがあった。
爆弾を作ることに比べ、自分達を一瞬にして拉致した能力についてはその片鱗さえも理解できていない。まさに神の所業だ。
「何故って……、たまたま…こんなのしかなかった……とか?」
オタコンの言ってる疑問は確かに分かるが、だからといってその答えを千枝が持っているわけではない。必然、自分でも「それはないだろう」と分かるような答えしか出すことができない。
「ちなみに、君の言っていたマヨナカテレビって、物理的な世界なのかい? ほら、アニメとかでよくある精神だけが入れる世界ってあるじゃないか。ああいうものじゃないんだよね?」
「う、うん。普通に身体からずっぽり入れるよ」
「体内のマクロファージは正常に活動するし、当然遺伝子配列が変化することもない。肉体的にはテレビの外でも中でも変わらない」
「たぶん……」
「だったらやっぱりおかしいね。僕は首輪なんかよりもよっぽど適切な脅しの道具を知っている。それを使えばまず解除は不可能だし、ほとんどの人間は諦めるようなものなのに」
フォックスダイ。
リキッド・スネークの息の根を止めた、遺伝子治療の専門家であるナオミ・ハンターが作り出した驚異のウィルス。
認識酵素により事前にプログラムされた、特定の遺伝子配列を持つ者にだけ活性反応を示すこのウィルスを事前に注入しておけば、首輪などで脅さなくても、主催者側は参加者の命綱を握ることができるのだ。
こんな専門の道具が何もない場所ではワクチンなど到底作ることができない。首輪を解除することと比べればその難易度は雲泥の差がある。
「それだけ僕たちを舐めているのか、それとも首輪に拘る理由があったのか」
それとも、すでに保険として参加者全員にフォックスダイは注入されているのか。
最後の仮説だけは言葉にせず、心の中でだけ呟く。
「ここがテレビの中なのか、そうじゃないのかはわからないけど、それでもこれらの条件を鑑みれば、主催者側が他にも何か手を打ってくる可能性は非常に高いといえるね」
「手を打ってくる?」
「僕達に対して何らかの干渉をしてくる可能性が高いってことだよ。そもそもこの殺し合い自体、どうにもおかしいことだらけだ。心理的実験をするにしては参加者同士の環境に差異があり過ぎるし、娯楽目的にしては少し強制感が薄い。
殺し合うこと自体に意味があるのか、何らかのシュミレーションなのか…。
はっきりしたことは分からないけど、僕には主催者が何か別の意図を持って動いているような気がしてならない。だから今は主催者の意図を探るのが先決だと判断したんだ。それで重要なのがこのゲームだよ」
千枝は首をかしげている。まだよく分かっていないようだ。
「彼らの目的が殺し合いを促進することだと仮定しよう。すっきりしないけど、現状はこの可能性が一番高いしね。そうなると、このゲーム機はいったい何だと思う? つまり、主催者はどういう目的でこれを千枝ちゃんのデイバックに入れたのか」
「……えーっと……」
「プレイして欲しいからだよ。要は、これが主催者の干渉なんだ」
答えが出そうにないのでオタコンが先に答えを言った。
「主催者は何かを伝えたがっている気がする。それがわざわざ首輪を使用した理由で、このゲームを支給した理由。そう考えると、この殺し合いも随分と色合いが変わってくると思わないかい?」
322一匹狼  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/29(土) 20:47:09 ID:0QRfhOvB
「……つまり、あたしたちをここに連れて来た理由は殺し合いをさせるためじゃないってこと?」
「さぁ、それはどうだろうね。今の段階ではなんとも……あっ!!」
突然、オタコンが叫び声をあげた。
「な、なによいきなり! びっくりするなぁもう」
「ご、ごめん」
謝罪の言葉を漏らすが、千枝の方を振り向きもしない。目線はゲーム機の画面に釘付けだ。
何事かと千枝が画面を覗き込むと、すぐにその理由がわかった。
以前プレイした時に出現した敵の増援。オタコンはそれを警戒して自軍の駒を後方に下がらせていた。
しかしどうしたことか、今回の敵の増援はまったく別方向からのものだった。それも、ちょうど後方へと自軍の駒が下がった地点に三体も。
図らずも、前回とまったく同じ展開になってしまっていた。
「うわー。運ないねぇ。こりゃ今回も駄目っぽいな」
「……なるほど。これで確信したよ。これは当然の帰結なんだ」
「どういう意味?」
オタコンの独り言のような呟きをキャッチし、千枝が疑問を投げかける。
「僕がどこに駒を動かそうと、敵は駒のすぐ近くに出現するようになってるんだ。ほら見てよ。前回はちょうどマップ端だったから増援が来ても不思議じゃなかったけど、今回はマップの、繁華街のど真ん中だ。いくらなんでもこれは偶然とはいえない。明らかに作為的なものだ」
オタコンはゲーム機を投げ出すように地面に置くと、そのまま大の字になって寝転んだ。
「あーあ。とんだ時間の無駄使いだ。こんなゲーム、クリアしようがない」
元々防御の低い駒なのだ。三人もの敵を一気に捌くのは不可能に近い。
オタコンが嘆いたとほぼ同時に、既に思考はゲームについての様々な事柄を遮断していた。
オタコンは生粋の理系人間だ。計算で判断し、無理だと分かればすぐに切り捨て、他のことを考える。
しかし体育会系は違う。誰かが不可能だというのなら、やってみせようと言うのが真の体育会系だ。大のカンフー映画好きで、『修行』と銘打って日々足技の練習をしているような人間なら尚更。
この段階でゲーム機は主催者側のブラフだと判断し、自分の思い描く主催者像の調整を行っていたオタコンに向けて、千枝はにやりと笑ってみせた。
「よーし。じゃ、あたしがやってみせようじゃない」
奇妙なまでに血の騒いでいる千枝が腕まくりしてみせる。
「無理だよ。君の知能じゃ」
「あ! 言ったなこのインテリオタク!! 見てろ〜。あたし、追い詰められたらすごいんだから」
いったい何が凄いんだい? というツッコミすらする気力が起きず、オタコンは空を仰いでいた。
323一匹狼  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/29(土) 20:47:56 ID:0QRfhOvB
しかし、そのポーズもすぐに解除されることになる。
突然、千枝があっと叫んだからだ。
「どうしたの? もしかして壊しちゃった?」
そう言ってゲーム機の画面を覗き込む。
オタコンも、思わずあっと叫んでいた。
その画面には、千枝に良く似たキャラクターが表示されていた。
軽装ではあるが、要所要所には防具を装備し、画面内で軽いフットワークをこなしている。
もちろん味方だ。
「ちょっと貸して」
オタコンはゲーム機を奪い、その千枝に似たキャラクターのステータスを表示させる。
オタコンのような魔法使いタイプとは違い、戦士タイプのようだ。攻撃力が高く、防御力もそこそこある。
この駒をうまく囮に使えば、増援で増えた敵も倒せるかもしれない。
「なるほど。ゲームに触った人間と似たパラメーターの駒が使えるようになるわけか」
ものすごいスピードでボタンを押しながらオタコンはぶつぶつと一人呟く。
みるみるうちに敵の体力を減らし、次々と打ち倒していく。
敵はあっという間にいなくなり、画面には大きくclearの文字が浮かび上がった。
「……すご」
いくら味方が一人増えたからといって、あれほど不利だった状況がこうも簡単に覆せるとは千枝には思ってもみなかったのだ。
「伊達にオタコンなんて呼ばれてないよ。インドアならなんでもお任せだ」
そう言ってオタコンはにこりと笑って見せた。

『キャハハハハハハ!!!』

突然の笑い声に千枝もオタコンもびくりと身体を震わせた。
『第1ステージクリア〜〜!! 凄いのサ! こんな短時間でクリアする奴がいるとは思わなかったのサ』
画面いっぱいに映し出されたマルクの姿に、二人は口を挟むこともできず硬直していた。
『でも、まだまだ完全クリアまでの道程は長いのサ! このゲームは全5ステージ。全てをクリアしないとなぁんの意味もないのサ。た・だ・し。見事全ステージをクリアすれば、その首に巻き付いた邪魔な爆弾は解除してあげるのサ。ま、せいぜい頑張るといいサ』
「え!?」
その言葉に強く反応したのは千枝だった。オタコンは渋い顔でじっとマルクを睨みつけている。
『そゆことで、バイバイなのサ〜』
そこでマルクの姿が画面から消え、先程とは違う森のステージが現れた。
「なにそれ、どういうこと? 首輪が解除って……ホントなの?」
千枝は興奮を隠し切れない様子で、オタコンを見つめた。
「……千枝ちゃん。さっきの質問の答えが出たよ」
オタコンは画面を睨みつけたまま呟くように言った。
(……僕の考え過ぎ、見当違いだったか)
頭の中で主催者像を修正し直しながら、オタコンは口を開く。
「何故フォックスダイを使わないのか。この首輪は脅しなんかじゃない。僕達に対する餌なんだ。首輪解除という目で見える安心を買わせるためのね」
324一匹狼  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/29(土) 20:48:56 ID:0QRfhOvB
「……よ、よくわかんないけど、このゲームをクリアすりゃ首輪は外れるんだよね。こっちにとっちゃラッキーなことじゃん。そんな深刻になること?」
「第2ステージ。地形と敵を見ればわかる。これはせめてあと一人くらい仲間がいないと到底勝てない。つまり、僕達はこのゲームをクリアするためにも仲間を探さなくちゃいけないということさ」
積極的に行動し、仲間を集める。それをデメリットとしてオタコンは考えていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。それってどういうこと? あんた、ずっと隠れてるつもりなの?」
「ずっとじゃないよ。仲間とは合流して今後の行動について話し合いたい。僕の専門は後方支援だからね。けど、下手に参加者と接触するのは御免だ。僕は何の力もない無力な科学者だからね」
それは千枝には聞き捨てならない言葉だった。
「こうしてる間にも誰かが殺されてるかもしれない。なのにただ黙ってゲームしてろって? 助けられる命があるなら助けるのが人間でしょ!」
「誰もゲームをするとは言ってないよ。もちろん、これは攻略するつもりだけど、一番の目的はマルクを倒し、ここを脱出することだからね。そのための下準備に時間を使うつもりだ。君は、そういう努力は無駄だと言いたいのかい?」
「そ、それは……」
オタコンの主張は正論だ。それ故に、千枝も言い淀む。しかし、そこで引き下がる千枝ではない。
千枝はキッとオタコンを睨みつけた。
「……でも、それでも目の前の命を助けたい。そっちこそ、それが無駄だって言いたいわけ!?」
重苦しい空気が流れる。
千枝はずっとオタコンを睨んだまま目を離さない。しかしオタコンに自分の行動方針を曲げるつもりはない。
オタコンは自分の出来ることを知っている。そして、しなければならないことも知っている。
より多くの人間を救うためにはここで千枝の主張に頷くことはできないのだ。
「……しっ」
ふいに、人差し指を口に寄せ、オタコンは周囲を警戒する。
「なにか物音がした」
「え?」
言われて、千枝も耳をそばだてる。
確かに、誰かが林の中を歩いて来ているようだった。あまり体調は芳しくないようで、歩いているにしては音が不規則で、時々立ち止まったりしているようだ。
「わ、私達の声、聞かれたかな?」
「まず間違いなくね。でも、会話の内容から僕達が殺し合いに乗ってないことは分かってるはずだ。それでも敢えて音を出して近づいて来るというのは……どういう意図があるんだろうね?」
殺し合いに乗っているなら確実に殺す為にも奇襲を仕掛けて来るはずだ。
殺し合いに乗っていない、いわば同士なのだとしたら、声くらいかけてもいいはずだ。
なのに、そのどちらもない。
来訪者が何を考えているのか計ることができず、オタコンは対処に困っていた。
325一匹狼  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/29(土) 20:49:38 ID:0QRfhOvB
「……とりあえず、姿を隠そう。安全第一だ」
千枝としては少し不満ではあったが、有無を言わさぬオタコンの言葉に押され、こくりと頷いた。
音をたてないように草むらの中を移動し、近づいて来る参加者と距離を取る。
バタリ
そんな折だった。その参加者が何故か地面に倒れたのだ。
「わ! な、なに!? 死んだ!?」
「声をあげちゃ駄目だ!」
オタコンの制止もむなしく、千枝は立ち上がって慌てて倒れた参加者へと走り寄る。
「雪子……! ……じゃないよね。和服だからもしやと思ったけど、やっぱそうそううまくはいかないか」
オタコンもため息をついて立ち上がり、千枝の後を追った。千枝の視線の先には、煌びやかな銀色の髪をした美しい女性がいた。
千枝の言うように和服姿で、どこか顔が熱っぽい。風邪をひいているようだ。
「ねえ、大丈夫!?」
千枝もそれに気付いたのか、彼女の肩に手をやって少しだけ揺すってみた。
「……ひゅー」
どうやら意識は失っていないようだ。
ジェスチャーで喉を強調し、それから額に手を当てるようにして熱があることを主張している。
「喋れないみたいだ。声帯を潰されたか」
「あ、もしかしたら、これなんか効くかも」
先程確認した時に見つけた、支給品として入っていた治療薬だ。
千枝はそれを彼女に渡すと、すぐさまそれをひったくってごくごくと飲み干した。
「……ごほっ!! ごほっ! ……まず。なによこれ」
「あ、喋ってる」
「凄い効き目だね。何ていう薬?」
「えーっと……『万能薬』?」
「…………」
咲夜の様子を見る限り、確かに万能な薬らしい。
326一匹狼  ◆dGUiIvN2Nw :2011/01/29(土) 20:50:44 ID:0QRfhOvB

「とりあえず、お礼は言っておくわ」
「い、いや、それはいいんだけど」
礼を言っているにしては高圧的で、冷めた態度だった。
「あー、ようやく幸運が巡って来た。反動が来そうで怖いけど」
そう言って、咲夜はつかつかとオタコンへと歩み寄る。
「な、なに?」
鼻先まで近づかれ、さすがに動揺を隠し切れないオタコンを無視し、咲夜は彼の来ているコートを徐に脱がし始めた。
「これ、借りるわよ」
自分の身体にそれを包み、「は〜、あったまるー」などと感嘆を漏らしながら咲夜は地面に座り込んでしまった。
オタコンと千枝は思わず顔を見合わせた。
「……ちょっと聞きたいんだけど」
随分と自由な咲夜に戸惑いを覚えながらも、千枝は口を開いた。
「なに? 簡潔にしてね。私、けっこうしんどいの」
「その怪我、どったの? 誰かにやられた……は当然か。どういう奴にやられたのかわかる?」
「どういう奴? そうねぇ。戦闘狂で気持ち悪いくらいにテンションの高い糞じじい、といったところかしら」
「は、はぁ」
「あー、思い出すとなんだか腹がたってきたわ。制限なんかなかったらちゃっちゃと殺してやれたのに」
殺すという言葉を、咲夜はまるで、片手間に料理を作る程度の軽さで使用した。それも子供が使うような短絡的なものではない。
確かな殺意と、殺人を忌避なく実行に移せることを言外に含んでいた。
「ちょ、ちょっと。殺すって本気? それ、本気で言ってるの?」
咲夜は横目でちらりと千枝を見て、何を驚くことがあるのかと言いたいかのように首を傾げる。
「本気だけど? それが何だって言うの?」
千枝の頭にかあっと血が昇るのを感じた。
「本気って、人の命をなんだと思ってるのよあんたは!」
「はあ? 話ちゃんと通じてる? 私、殺されそうになったんだけど」
「それでも、人を殺すなんて発想おかしいでしょ!? たとえそいつが殺人犯だろうとなんだろうと」
誰も殺さず、誰も殺させずに事件を解決してきた千枝だからこそ言える言葉だった。
誰も死なせたくないという想いがあったからマヨナカテレビに纏わる連続殺人事件を解決できたのだ。
他の仲間だって皆同じ想いでここにいるはずだ。
そう信じれるからこそ、千枝は声を大にして叫んだ。
殺人なんて、しちゃいけないと。
327代理:2011/01/29(土) 21:49:09 ID:hipzy2S/
千枝は、その時の咲夜の顔を見て、思わずぞっとした。
無表情。そこからは何の感情も読み取ることができない。
ただ、その瞳。そこには、本当に何の感慨もなく人を殺せるような、氷のような冷たさがあった。
「そろそろその鬱陶しい偽善者じみた正義感はなりを潜めてもらいたいわね」
「なっ!?」
思わず面喰ってしまった。
まさかここまで直接的に否定されるとは思ってもみなかったのだ。
「人の命は尊い。尊重すべきだ。はっ。まったくもって冗談じゃないわ。なんだってそんな価値観を押し付けられなきゃいけないのよ。オタコンだっけ? 同情するわ。こんな餓鬼と一緒じゃ、疲れて仕方がないでしょう」
再び頭に血が昇る。
ここにきて、千枝は確信した。この女と自分は、おそらく一生そりが合わないだろうと。
「あんたねぇ! 言わせておけば好き勝手に言ってるけど、人の命は大切なものだって学校で教わらなかったわけ!? そんな当たり前なことも理解できないあんたの方がよっぽどおかしいわよ! 誰かを助けられるのなら助けるのが人間として当たり前でしょ! 殺すなんて論外よ!」
「へぇ。人を助けるのが当たり前ねぇ。それは凄いわ。尊敬しちゃう」
誰が聞いても馬鹿にしているとしか思えない。
千枝が再び食ってかかろうと身を乗り出すが、それをオタコンが前に出て諫めた。
「まあまあ、二人とも落ちつこうよ。とりあえずは情報交換でもしてさ。ね?」
千枝としてはまだまだ言い足りないものがあったが、そう言われれば引き下がるしかない。
自分が間違っているなんて甚だ思わないが、それでも今は少しでも情報が欲しい時なのだ。

「何故?」
しかし、咲夜にはそんな気は一切ないようだった。
「……君も、ここで生き残るには情報は必要だろう?」
「まあ、そうね。でも、あなた達と情報交換して得るものがあるとは思えないわね」
確かに、オタコンも千枝も、これといって話せるような情報は持っていない。あるとすれば先程のゲームの話か、自分の知り合い、または自分の世界のことくらいだろう。
「お嬢様は一人でもやっていけるだろうし、私も誰かと群れる気は毛頭ない。本当なら少しはここで時間を潰してもいいんだけど、そこの餓鬼が五月蠅そうだしさっさと行くわ」
「ちょ、ちょっと! そんな勝手が──」
「私ね。人間って種族が世界で一番嫌いなの」
その刺々しい口調と、未だ研ぎ澄まされたナイフのような光を放つ瞳から、彼女が本気で人間を毛嫌いしていることがわかった。
328代理:2011/01/29(土) 21:50:14 ID:hipzy2S/
「じゃ、そういうわけだから」
そう言ってスタスタと歩いて行ってしまう咲夜を、オタコンが慌てて止めた。
「ま、待って!」
オタコンは、このまま咲夜を行かせてもよかった。彼の目的は仲間との合流であり、不確定要素を抱え込むのは得策ではない。
ましてや咲夜は他人と協調するという概念すらも存在しないような人間だ。そんな人間を呼び止めてもメリットなどない。
オタコンはそのように判断していた。それなのに、声をかけてしまった。
「……なに?」
「君は僕達の貴重なアイテムを消費したんだよ。なら、相応の代価を支払うのが大人ってものじゃないかな」
「脱げってこと?」
「ち、違うよ! そうじゃなくて、えーっと……ぼ、僕達のボディーガードというか、戦力としてしばらく行動を共に出来ないかっていう提案だよ」
咲夜は黙っている。どうやら考えているようだ。
なんだかんだと言っても、貴重なアイテムを分け与えられたことに対しては恩義を感じてくれているようだ。
「……じゃあこれでどう?」
そう言って、咲夜はおもむろにボールを取り出して適当に放り投げる。すると、淡い光と共に中から奇妙な動物が現れた。
「……ピカ?」
「何これ、かっわいい〜」
千枝はボールから出てきたねずみポケモン、ピカチュウを抱き寄せ、頬ずりし始めた。
ピカチュウはそれを少し嫌そうにしながらも甘んじて受けているようだ。
「かなりの戦力になることは保証するわ。身を持って実践済みだし」
それほどの支給品を相手に渡す程に、彼女は人間と一緒にはいたくないということらしい。
「じゃ、これで言うことはないわね」
「ま、待ってくれ!」
それでもオタコンは引き止める。
咲夜も、さすがに鬱陶しそうに眉をひそめた。
「まだ何かあるの?」
「え、えーっと……」
オタコンにはもう彼女を呼び止める理由がない。
しかし、どうしても咲夜と行動を共にしたかった。
あの冷たい瞳。この世界で、自分以外誰も信じていないような瞳。狼のような気高い孤独な心。
昔、自分が好意を抱いた、あのスナイパーウルフのような……。
このまま行かせれば、彼女はきっと、あの時のウルフと同じ結末を辿る。そんな非論理的な考えがオタコンの中に確信としてあった。
「き、君に……その。こ、好意を…抱い…たんだ」
「「はあ?」」
咲夜だけでなく、千枝までもが疑問の声を漏らしていた。
先程会って少し話をしただけだというのに、そんなことを言われれば誰でもそうなる。

329代理:2011/01/29(土) 21:51:46 ID:hipzy2S/
「……ぷ」
「あははははは!!」
しかし咲夜は、何故か腹を抱えて笑い出した。
「あーおもしろ。初対面でそんなこと言われたの生まれて初めてだわ」
笑うだけ笑うと、咲夜は千枝に抱えられているピカチュウをボールに仕舞った。
「あー! 何すんのよ!! 人がせっかく楽しんでるってのに!!」
「一応私が飼い主だから。ペットが嫌がることはさせないようにするのが飼い主の務めでしょ?」
ぎゃーぎゃーと喚く千枝を、咲夜は冷めた調子で受け流す。そんなやり取りをしばらく繰り返してから、咲夜はオタコンの方を振り向いた。
「仕方がないから少しの間だけ一緒に行動してあげるわ。ただし、あなた達と私は仲間じゃない。この行動が私にとって害にしかならないと分かればすぐにでも出て行くわよ」
オタコンはしばらくぽかんとしていたが、やがて慌てて頷いた。
オタコンにとって、この邂逅は決して恋の先駆けとは言えないだろう。
しかし、過去の清算は出来るかもしれない。ウルフが死ぬ時、何も出来ず、ただ銃を持って行ってやることしか出来なかった自分が、ウルフのような女性を今なら助けることが出来るかもしれない。

オタコンは過去を清算するために戦ってきた。メタルギアという自分が生んだ怪物を悪用されないように。
過去を悔いてばかりいた自分。時代に、権力に翻弄され何も出来なかった自分。スネークと出会うことで、そんな自分を変えることができた。
過去はずっと自分に付き纏う。それはこの殺し合いでもそうだ。だからこそオタコンは、それを振り払うのではなく抱えて生きて行こうと決めた。
全てを抱え切ることはできないだろうが、それでも近くにいる女の子二人くらいは守ってやれるかもしれない。
千枝は自分とは少し考え方が違う。まるで昔の自分のように、世界の本当の暗黒さを知らない。しかし、その頑なで純粋な正義感はきっと守るべきものだ。
咲夜だって冷酷かもしれないが、きっとどこかに優しさがあるはずだ。ウルフがそうであったように、本当の孤独を知る人間は、きっと人に優しくできる。

「すぐに放送が始まるから、準備をしておいた方がいいよ」
オタコンがそう告げると、二人はそれぞれ自分のデイバックを漁り始めた。
「にしてもさ、あんたってほんとに強いの? 全然そうは見えないけど」
「強さなんて私は重要視してないわ。勝つか負けるか。生きるか死ぬか。それが殺し合いでしょ。……ああ、あなたには“殺す”は禁句だったっけ」
「……もういい。どうせ言ってもわかんないんだし」
「あら、殊勝な心がけね」
「……その上から目線が果てしなくむかつく」
ぶつくさと文句を言いながら千枝はペンと名簿、地図を取り出した。
咲夜も自分のそれを取り出し、千枝の方を見ないで口を開いた。
「……まあ、今の私の状態じゃ、とても勝ち抜ける気はしないわね。あのソリッド・スネークとかいう男に手も足も出なかったし」
「スネーク!? 今、スネークと言ったのかい!?」
今か今かと放送を待ち構えていたオタコンが思わず身を乗り出した。
「ああ、知り合い? ほんっと、嫌な友達を持ってるわね。どれだけ迷惑かけられたか」
自分は誰よりもスネークを知っている。伝説の英雄で、その名誉に恥じることのない男だ。
そんな男が殺し合いに? 何故だ? 
有り得ない。そんな考えが即座に浮かぶが、咲夜がここで嘘をつくわけがない。そんなメリットなど彼女にはないのだ。
そんなことを考えているうちに、第一回目の放送の時間になる。
まるで、オタコンの混乱に乗じるように、マルクの声が辺りに響き渡った。


330代理:2011/01/29(土) 21:52:48 ID:hipzy2S/
【一日目 早朝 E-2 東】
【ハル・エメリッヒ@メタルギアシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、携帯型ゲーム機 確認済み支給品0〜2
[思考]
基本方針:マルクの見極めと計画の阻止
1:スネークが……?
2:放送を聞く
3:ソリッド・スネーク、雷電との合流
4:サイボーグ忍者、リボルバー・オセロットを危険視
※MGS2エンディング後、MGS4本編開始前からの参戦

【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]:アメリカ製のライター
[道具]:基本支給品一式、万能薬×2
[思考]
基本方針:この事件を解決する
1:この女(咲夜)むかつく!
2:放送を聞く
3:瀬多総司、花村陽介、天城雪子の捜索
4:足立の仕業……?
※真ENDルート、イザナミと出会う前からの参戦です。
※ペルソナはトモエです。


331代理:2011/01/29(土) 21:53:38 ID:hipzy2S/
【十六夜咲夜@東方project】
[状態]疲労大、胸骨にヒビ、鼻の骨の陥没(治療済み、衝撃を与えるとまた陥没する恐れあり)腹部に痣、下 着 を つ け て い な い
[装備]和服、防弾チョッキ 、オタコンのコート
[道具]支給品一式(食糧はなし)、ピカチュウ@ポケモンシリーズ、自分の衣服(濡れている)、
[思考・状況]基本方針;ピエロを倒して異変解決。油断はしない。幻想卿の常識は捨てる。
0:あー、やっぱ喋れるっていいな
1:知り合いを探す為に町へ向かう。放送は移動しながら聴く。
※リボルバー・オセロットを視認しました。また、リボルバー・オセロットのことをソリッド・スネークだと思っています
※漆黒の騎士の名前を聞きました。
※FE世界の事を聞きましたが、信じてません。
※漆黒の騎士、ソリッド・スネーク(リボルバー・オセロット)、足立透は死んだと思ってます


※携帯型ゲーム機
ファイアーエムブレムと非情によく似たSRPGのゲームカセットが入ったゲーム機。
全5ステージまであり、ゲーム機に触れた参加者を自軍のキャラクターとして操れる。

※万能薬
異常状態を回復する薬。

332創る名無しに見る名無し:2011/01/30(日) 16:49:39 ID:cCNeSqYm
オタコン絶好調過ぎるwでもスネークが…
咲夜さんマジクール
333Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/01/31(月) 23:41:47 ID:0tQ2H5fu
dGu氏乙です。
わお、また首輪解除の鍵が。これをきっかけに参加者が活性化するのを期待。
 
わてくしも足立さんと魔理沙を投下します
334Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/01/31(月) 23:42:42 ID:0tQ2H5fu


「……少し浮かれすぎていたかも知れねぇな。こりゃ。……えっと『僕は足立透。』……違うな。なんでだぁ?……『僕は足立透。』……ちょっと違うか?」

クツロギ温泉を後にして、先ほど居た場所まで進む。目指すは閑古鳥村。本来向かおうとしていた村だ。
太陽が自分を照らし、夜中に冷えた体を温めてくれる。しかしその太陽さえ今は鬱陶しい。
脚に刺さった木片はペルソナを使っても抜けてくれなかった。もう筋肉が硬直してしっかり刺さっているのだろう。
忌々しいが…… 
「まぁ、自業自得だよな。クソ。……『僕は足立透。』……おお。これだ。この感覚」
あの戦いでアドレナリンが絶え間なく吹き出ていたが、戦いが終わった今は、自分でも驚く程、冷静になっていた。反動ってやつだろう。
冷静になった頭で考えると、苛々しても、勝ちは勝ちだ。あの3人は死んだのだから。
しかし、勝利を噛み締めている場合でもない。この脚に刺さった木片を抜く方法を探さなければ。
それと、自分の演技について。何故あのメイドは自分の事を怪しいと思ったのか。
先ほどまでは理由がわからなかったが、やはり、冷静になった頭なら直ぐにわかってしまった。そのせいで、今の冷静さも苛々する要因になってしまっているが。
先ず、自分の様な一般人はあの様な戦闘が行われている場所には喜んでいかないだろう。自分に自身が無い限り。
もう一つは自分は浮かれていた、ということだ。まるで修学旅行前夜の学生みたいに。きっとあのメイドの前で自分は……ニヤニヤしていたことだろう。
気を使う振りをした正義感溢れる警察官。だが口がニヤニヤしていたら近づきたくは無い。
ニヤニヤしていた理由はきっと、このゲームが心底楽しいものだから心躍っているせいだろう。そのせいか、自分は少し演技が下手になっている気がする。
「『僕は足立透。』……そうそうこれこれ。『警察官をしてるんだけど……困った状況だねこりゃ』。これで完璧かな。」
ここに来る道中に何度も練習をしてそれを取り戻すことができた。しかしこれではまだ足りないだろう。
どうすれば信用を勝ち取れるか。
例えば無力な警察官を演じる。ペルソナ能力なんてものも持ってない普通の警察官。
設定はこうだ。
『開始早々、タケシという少年と遭遇。二人で行動していた所、ある人物に襲われ、タケシを守れずに命からがら逃げる。』
いや、これだとデイパックの点が不審だな……。じゃあ、『タケシからデイパックを託され、逃してもらった。』
それで、『その後、温泉に知り合いがいると思い、向かったところ、ゲームに乗った3人に襲われる。』
……いや、考えるんだ俺。乗った人物が3人も同じ場所に居るわけがない。あのメイドは乗っていなかった筈だ。
335Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/01/31(月) 23:43:23 ID:0tQ2H5fu

『そこで、メイドの少女と遭遇。しかし二人の人物によりまたもやメイドを守れずに、敗北』
いいじゃないか。何も守れなかった悲劇の警察官。この設定で、襤褸を出さなければ同情の嵐だろうなきっと。
「『始めまして僕は足立透。職業は警察官。』……完璧じゃないか」 
さて、これで演技がばれることはなくなった筈だ。さて、ではこの演技をどこで使うことにするか。
タケシみたいな餓鬼の場合はすぐに殺してしまったが、使える奴は一緒に行動をすればいい。
そう、この殺し合いを打破する警察官、を演技して、最高のタイミングで裏切れば、最高に面白いじゃないか?
「ハハハ。じゃ、先ずは参加者を探そうかな……。お?」
そこに現れたのは黒こげの死体。自分が先刻殺したタケシであった。 
「『タケシ君……救えなくてごめんよ……』」
そう口で言ったが、勿論、そんなことは毛頭思っていない。
タケシの死体を見るが、黒こげであまり見ていても気分が良いものではない。確かに自分は人を殺したが、死体で遊んだり死姦したりする鬼畜ではない。
だから死体を見てもすぐに目を離した。 
さて、移動を始めるとしようか。

『……あ…ぶ……』
 
その時だった。声が聞こえた。若い女の子の様な声だ。こ声の方向に向かう。
しかし周辺を探すがまったく見つからない。
引き続き、近くを捜索する。
 
『……ぶ……い……!』
 
また声が聞こえる。こっちにいるのか?草を書き分けると。そこに現れたのは、、いや、それは唐突すぎた。
 
「あぶないって!」
 
タケシの死体の近くでした声の主とは違うようだった。
金色の髪をした少女で、魔女にしてはどこか履き違えている服装。コスプレなのか。とか考えてる暇はなかった。
なにせ、自転車(それも前輪が二輪ある三輪車タイプの物で)で突っ込んできたんだから。
そこで待つのは衝突。 
「うわ!」
足立に命中、はしなかった。間一髪のところで避けた。
「誰かとめて!ぐふ」
魔女はそのまま漫画みたいな体勢で石につまずき、1回転して転ぶ。そして三輪車はバラバラになる。
暫く、その魔女は動くことがなかった。
 
☆ ☆ ☆
336Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/01/31(月) 23:44:24 ID:0tQ2H5fu
「ゴホゴホ……なんだこりゃ」
 
パチパチと火の粉が魔理沙に降りかかる。しかし温度は低いので燃えることは無い。
この大木の寿命はそろそろ尽きてしまうだろう。生き物の最後には居合わせてその歳を重ねることで堆積していく魔力に肖りたいが、そんな暇は無い。
世界樹周辺を捜索するが人は見つからず。変わりに血のついた帽子を発見するが、これは役にはたたない。とりあえずデイパックに入れておいたが。
「……熱いぜ。あまりここには長いしたくはない」
そう結論づける。塩水を飲み、更には酷く高い山を登り、そしてそれを下ってきた。その状態でこの熱気が取り巻くこの場所にいたらすぐに脱水症状になってしまうだろう。
私は飲料水に口をつける。これで完全に消費してしまった。
八卦炉を持つ人物は結局見つからなかったが、しょうがない。
さて、移動を再開しようとしたそのときだ。
「……ハーイ」
「ん?上海人形の声?」
アリスが操る人形の中で一番のお気に入り(かどうかはわからないが)の上海人形の声がした。
結構前に拝借しようとしたが、かなり怒られた。いや、あれはキレられたレベルだ。その事を考えるとかなりのお気に入りの人形なのだろう。
その癖、よく似た人形を投げつけて爆破させたりしてるのにな。
いかん、話がずれた。
「おーい。上海?いるんだろう?」
声をかけてみる。姿は見えないが声は聞こえる。幽霊の真似事でもしているのか……
「っておい!?上海!?」
「シャンハーイ……」
目の前に現れたかとも思ったら驚いたことに背中についていた羽は切られていて、そこに大きい切り傷が出来ていた。人形は血はでないが、この背中に開いた穴から魔力が流れでていつか動かなくなるだろう。
つまりこのままじゃ絶命する。人形に絶命っていう表現があっているのかは分からないが。
いや、そんなことはどうでもいい。
「おい、なにがあったんだ!?」
「シャンハーイ……」
上海は弱々しく、ある方向に指を指す。
何がそこにあるかは予想はできた。しかし、今はそこに向かうわけには行かない。上海をやった人物を倒すより、上海の命の方が優先順位が高い。
湿気に塗れた土を蹴り、少しでも急いだ方がいい。脚の疲労は限界を迎えていたがそれでも上海人形を救う為には走るしかなかった。
走る。走る。走る。煙が容赦なく私の肺を襲う。後ろを振り返ると焼けた世界樹がこちらを覗いていた。
想定外の大きさなのか、それとも移動していないのかはわからないが、それは私を焦らせる。
向かう所は山小屋。一番近い施設だ。そこでなら治療方法が見つかるかもしれない。あくまで可能性だが。
しかし、一向にそれらしきものは見当たらなかった。体力もそろそろ限界である。
今、私の胸の中には絶望でいっぱいだった。
サカキに襲われた事でこのくだらない遊戯に乗った人物が居ることや制限により空を飛べないこと。(しかもその状態で二階の窓から飛ぼうとしていたことに驚きである)
しかし、そんな弱音を吐くのは私らしくない、とそれを我慢してきた。だがそれでもこの現実が襲ってくる。
337Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/01/31(月) 23:45:33 ID:0tQ2H5fu

 

どうすればいい。
「……ん?」
その時だった。草むらに金属で出来たわっかが刺さっていた。あまりにも異質なそれは私をひきつける。
それを引っ張り出すと、車輪が付いたよくわからないものがでてくる。説明書が張り付いているので、これは誰かの支給品だったのだろう。
それは確か香霖堂で見掛けたガラクタに似ていた。前についていた金属製の箱は凹んでいたのが気になるが、これがあれば移動に時間はかからないだろう。
少し練習が必要だと思うが、そんな時間は無い。
腰をその何か(サドル?)に腰を下ろし、また脚を何か(ペダル?)にかける。確か外の人間はこれの二輪を乗りこなしているらしいが、私にそんな高等技術は無理だろうな、とか考えると同時に脚に力を込める。
すると前に進む。なるほど、これなら楽だ。
脚に込める力を大きくしてさらにスピードを上げる。すっと走りっぱなしだったので悲鳴を上げていた脚は少し休ませることが出来た。
風が私を包み込む。汗で滲んだ下着や防弾チョッキは風により冷える。しかし太陽が私を暖めてきたのであまりかわらない。
「シャンハーイ……」
「大丈夫だ!私が助けてやるからな!」
凹んだ籠の中で上海は弱々しく動く。人形に痛覚があるのかはわからんが、弱っているのは確かであった。早く背中の傷を防ぐ必要があった。
このまま動かなくなったら動かない唯の人形になるだろう。アリスに渡せば直してくれるだろうが、もうその状態では『前の上海人形』ではなくなってしまう。
上海人形というのは完全に自立している訳ではない。主人により命令を出されても一定時間立ったら、また命令し直す必要があるのだ。
しかし今の上海人形の様子を見ると命令された訳でもなく、自分の意志で動いてる様にしか見えなかった。マルクはこんな所まで細工していたのかはわからないが。
ガタガタと車輪が音を鳴らす。どうやらこの乗り物が土の地面を走るものでないらしい。じゃあどこを走ればいいのか。
そんなくだらないことを考えながら走らせるとようやく山小屋が見えてきた。
……外までガラクタが出ていて香霖堂のそっくりでここで上海人形を直す物が見つかるか怪しいが、ここにかけるしかなかった。
私はそこで止まろうと取手(ハンドル?)を曲げる。
そのときだった。

ポキン

「……え゛」
 
取れた。否、折れた。ん?どっちなんだろうな。まて!どっちでもいいだろそんなこと!
  
「ちょっ まっ」
 
止まらない。脚を下ろし、地面でブレーキをかける。しかしそれでも止まらない。それも必然。なぜなら坂だから。
 
あぁ、何故。こんなことに。
 
私は、この『前二輪三輪車(大人用)』が落下による衝撃により殆ど壊れてる状態だった事は後で知ることになる。
 
☆ ☆ ☆
338Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/01/31(月) 23:46:27 ID:0tQ2H5fu

 
「いやーよかったぜ。足立のお陰で助かったぜ。」
「いや、いいよ。お互い面倒なことにまきこまれちゃってさ」
 
閑古鳥村の民家内。足立透と霧雨魔理沙、そして上海人形が滞在していた。
その名の通り、寂れた村で、急に人が居なくなった様な村で足立は寒さを感じた。ホラーゲームが題材の映画を昔見たが、それに雰囲気が凄く似ている気がする。
あまりここに長居はしたくなかったが、この魔女、霧雨魔理沙はそんな事も、気にせずに情報交換を持ち出してきたのだ。
情報交換を持ち出したということは信用を勝ち取れた、って事だが、ここで情報交換する必要はないだろう。いや本気で。
しかし、驚いた。幻想卿にスペルカードルール。なんともファンタジーな世界じゃないか。
異世界を信じることは容易だった。もっともマヨナカテレビの事があるのだ。今なら何が起こっても信じられる。
向こうから情報は沢山貰ったが、こちらの情報、ペルソナやマヨナカテレビの事は話していない。つまり自分はやはり無力な警察官を演じていた。
「シャンハーイ!」
元気になった上海人形が声を上げる。この民家で見つけた裁縫道具で縫ったのだ。嘘の様に元気になる、ってわけでない。背中に付いた羽の根元が弱々しく動く。
「それで、情報交換を続けようなじゃないか。それにしても、まともな奴にあえてよかったぜ本当」
「え?まともな奴って?」
「いやさ、さっき襲われてね、私の魔法で撃退したけど。サカキっていう男だ」
どうやら殺し合いに乗った人物はあの二人よりも多いらしい。となるとあのソリッドスネークが言っていた言葉は案外本当なのかもしれない。
まさか‘‘殺さないほうが異端‘という言葉は本当に的を得ているとは。
「サカキ、ね。本当、殺し合いに乗った人物が多いね……僕もさっき襲われてさ、タケシっていう少年を守れなかった」
「……案外、ヤバイ状況だな……」
魔理沙は顎に指を当てて考え始める。何を考えているのかはわからないが、深刻そうな顔だ。
「その後、戦闘音が聞こえて、旅館に向かったんだけど、そこでも二人に襲われて、そこでメイドの子を守れなかった。」
「え!?メイド!?」
その食いつきに驚く。
「え……戦闘の衝撃で旅館が崩れてさ……」
怪しまれないように本当のことを伝える。ここで真偽の怪しい事を伝えては怪しまれるだろう。
「……そうか。」
魔理沙は急に黙り込む。また何かを考え始めた。
きっとこの魔女は絶望に怯えているだろう。だが、
「……魔理沙ちゃん、きっと大丈夫だよ」
「……え?」
「こんな所でまだ諦めるわけにはいかない。魔理沙ちゃん。ここで諦めたら、全て終わりだよ」
「……そうか、そうだよな。」
……ここで優しい言葉をかければ、この餓鬼は希望を持つだろう。そうすればこの少女は完全に俺を信じる筈だ。
 
☆ ☆ ☆
 
339Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/01/31(月) 23:47:58 ID:0tQ2H5fu

「サカキ、ね。本当、殺し合いに乗った人物が多いね……僕もさっき襲われてさ、タケシっていう少年を守れなかった」
その言葉に絶望を覚えた。
もしかしたら、この異変を解決するのは無理なんだろうか。こんな巫山戯た遊戯に乗る人物はいないと思っていたが、そんなことはなかった。
そして世界樹まで来たのに、そこには血糊と血が付いた帽子。
「(……幻想卿の常識は通じないってことか。いや、私の常識か?)」
幻想卿じゃ争いごとで人が死ぬことなんてなかった。だから殺し合いなんてそんな非現実な事はありえなかったし、人殺しが居ること自体が異常なのだ。
だが、ここでは人が死んだ。殺しあう奴が居る。ではもしかしたら、私の知り合いも?それだけは考えたくない。
それで、知り合いが死んでしまったら、私はどうすればいいのだろう。
「その後、戦闘音が聞こえて、旅館に向かったんだけど、そこでも二人に襲われて、そこでメイドの子を守れなかった。」
「え!?メイド!?」
だが、現実は非情だった。
「咲夜が死んだのか!?アイツが!?殺しても死ななそうな奴が!?嘘だろ!?」
「え……戦闘の衝撃で旅館が崩れてさ…」
「……そうか。」
知り合いが死んだ。別に親友ってわけでもないが、宴会で集まったら酒を飲みあう仲だ。悲しくないわけがない。
じゃあ、咲夜の他にも知り合いが死んでいたら?霊夢が、アリスが、東風谷早苗が?もしかしたら花の妖怪と吸血鬼も?
考えたくもなかった。平和ボケは自覚していたが、ここまでの弊害がでるとは思わなかった。
「……魔理沙ちゃん、きっと大丈夫だよ」
その時だった。唐突に、足立が言った。
「こんな所でまだ諦めるわけにはいかない。魔理沙ちゃん。ここで諦めたら、全て終わりだよ」
……諦めたら、全てが終わり。そうだ。そうじゃないか。諦めるなんて私らしくないじゃないか。
それに殺し合いに乗ってない奴もいるじゃないか。ここに、足立がいるじゃないか。
「そうか、そうだよな。」
ここで負ける訳にはいかない。異変解決の為にはまだ、死ぬわけにはいかないのだ。
希望はそこにある。私は努力家だと自負している。それなら努力してこの状況を打破すればいいじゃないか。
「(待ってろよマルク、お前のくだらない遊戯はぶっ潰すぜ)」
 
☆ ☆ ☆
 
340Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/01/31(月) 23:49:26 ID:0tQ2H5fu

「足立、お前武器持ってないだろ?これ貸してやるよ」
「え、いいのかい?魔理沙ちゃんも武器もってないんだろう?」
「大丈夫だぜ、魔法があるし、なあ上海」
「シャンハーイ!」
 
正直、気味の悪いくらい上手く信じてくれた。その証拠にこの魔女は自分に武器を譲ってくれたのだ。
さて、この魔女をどのタイミングで裏切ってやろうか。何もかも上手くいかずにまた絶望の淵に立っている所を堕としてやろうか。
それとも何もかも上手く行き、希望の壇上に立っている所を引きずりおとしてやろうか。
しかし、いまはそのときじゃない。
その時だった。
「え?私にも紙とペンをだって?いいけど……」
上海人形が魔理沙にペンを借り、そして紙に文字を書いていく。
自分にとっちゃどうでもいいことだったが、魔理沙にとっては大変な内容だった
「な!?霊夢がサカキに!?」
「え?どうしたんだい?」
しかしどうでもいい事でもその様子を見ると何があったのか知りたくなった。
上海が書いた手紙を覗くとその理由が納得できた。
『霊夢がサカキに洗脳された!』
なるほど、洗脳か。いやしかし洗脳なんてどうすればできるのか。洗脳することが出来る支給品でもあるのか。
まぁ規格外の支給品もあったのだ。それならそんな物も支給されているかもしれない。
「今すぐ行こう!」
「ちょっと待ってよ!今から放送だし、僕の事一人にしないでよ!」
「大丈夫だよ足立なら!なんか不思議な力を感じるし、拳銃持っているし」
不思議な力を感じる、という言葉に少し同様してしまうが、それを隠す為に努力した。
しかし、自分勝手な奴だ。苛々するなおい。
だが、脚に刺さった木片を引き抜いてもらったり、その後民家にあった衣服を包帯代わりにして巻いてくれたりしたのは根が良い奴だからなのか。
341Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/01/31(月) 23:50:28 ID:0tQ2H5fu

そのお人好しが命取りだが。
「その方向に僕も向かうよ。だから今は放送を聞こう。禁止エリアを聞き逃して首輪が爆破、っていうのは勘弁だからね」
「ついてきてくれるのか!?ありがとう足立!」
「うわ。驚かせないでくれよ」
喜ぶ魔理沙に抱きつかれる。想定外の事で驚く。
そんな自分はすっかり放送のことなど忘れていた。魔理沙は上海からメモ用紙を取りあげた。自分も取り出すことにする。
この放送で魔理沙の知り合い、あのクソメイドの名前以外にも呼ばれたのならしっかり元気付けなければならない。
そうすることで、自分の信用は格段にあがるだろう。そういうことなら脚の傷も少しは我慢できる。

「(マルク、絶望しかない遊戯に私達を落としたつもりだが、希望はまだあるぜ。お前は高みの見物だろうが、その場所に居る事を後悔させてやる。
それと、待ってろよ霊夢。私がサカキをやっつけるぜ。あと咲夜、安らかに眠れよ……。まぁこんな事言うと怒られるかもしれんが)」 

そんな決意を心の中でしている魔理沙だったが、足立は全く反対の事を考えていた。

「(なあ、魔理沙ちゃん、君の持っている希望は仮初めの物だってことをわかるかな?気付く時は何も言えなくなってると思うけど。)」

足立により希望を持った魔理沙。
希望を与えたつもりじゃない足立。
二人はこのあとどの様な運命を歩むのか二人は知らない。
今は、不敵に笑う足立透の姿だけが確かな物であった。
 
342Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/01/31(月) 23:52:56 ID:0tQ2H5fu

【C-2 最南端の民家/早朝 放送直前】
【足立透@ペルソナ4】
[状態]:疲労中、SP消費、冷静、右足脚に貫通傷(治療済み)
[装備]:M1911A1(6/7)
[道具]:基本支給品一式、M1911A1(6/7)@メタルギアソリッド、ランダム支給品×2(確認済み)、
タケシの穴あきデイパック(基本支給品一式、魔剣グルグラント@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡)
[思考]
基本方針:ゲームを楽しむ
1:放送を聞く
2:霧雨魔理沙を最高のタイミングで裏切る
3:しょうがないから魔理沙についていくか
※十六夜咲夜、漆黒の騎士、リボルバー・オセロットは死んだと思っています。
※作品からの参戦時期は真ENDルート突入前、ペルソナはマガツイザナギ固定です。
※どこに向かうかは次の書き手さんに任せます
※魔理沙と情報交換をしましたが、自分の情報(マヨナカテレビやペルソナ能力)は何も話していません。
※普通の警察官で正義感が強い、という役作りをしています。
またこれまでの行動は『タケシ少年と遭遇した後、何者かに襲われ、デイパックを託され、逃して貰う
その後、戦闘音が聞こえた為、旅館に向かった所、十六夜咲夜と遭遇。しかしそこでもソリッドスネーク、漆黒の騎士に襲われ、善戦するも咲夜を守れず一人生き残る』
という設定になっており、魔理沙にはそう説明をしました。

【霧雨魔理沙@東方project】
[状態]:疲労中、両足パンパン、衣服が汗まみれ、悲しみ、確かな希望
[装備]:防弾チョッキ@現実、上海人形
[道具]:基本支給品一式(飲料水を完全消費)、
首輪探知機@現実、拡声器@現実、マスターボール@ポケモン、レッドの帽子、上海人形
[思考]
基本方針:主催者を倒しゲームを止める
0:咲夜……
1:放送を聞く
2:上海が指を刺した方向(B-2東)に向かい、霊夢をサカキから助ける。
3:「殺し合いの開催理由」と「脱出方法」を考える。
※弾幕を撃つのに溜めが必要、という制限がかかっています。威力は変わりません。
また空が飛べないことに気付きました。
※会場が鏡写しにループしていることに気付きました。
※参戦時期は東風谷早苗と知り合ってから、明確な時期は不明。
※モンスターボールの使い方がわかりません。 
※マスターボールの事は足立に話していません。
343Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/02/01(火) 00:01:53 ID:VEjqsoDe

 
【上海人形】
[状態]背中に大きな裂傷 (かなり荒い治療済み。汚い布と汚い糸でこれでもかと汚く縫われている。)
[思考]
1:魔理沙と足立と共に霊夢を助けに行く
2:アリスにちゃんとした裁縫をしてもらいたい。
※サカキと霊夢の会話は全て聞いていました。
またその事を魔理沙と足立には簡潔にしか伝えていません
※羽が無い為、空を飛べません。
 
※閑古鳥村のどこかにバラバラの前二輪三輪車(大人用)@現実が放置されてます。
また、それはタケシの支給品です。
344Chelsea Smile  ◆S33wK..9RQ :2011/02/01(火) 00:03:30 ID:VEjqsoDe
投下終了。
抜けてた部分がありました
338の

その食いつきに驚く。
「え……戦闘の衝撃で旅館が崩れてさ……」
 
の行間に

「咲夜が死んだのか!?アイツが!?殺しても死ななそうな奴が!?嘘だろ!?」
 
を追加します
345創る名無しに見る名無し:2011/02/01(火) 11:28:28 ID:Rm31DdPs
投下乙
まりさならあっさり見抜くかなぁとか思ったらそんなことはなかったぜ
今ロワ初のステルスだな。良い感じにかき回してくれるのを期待する
346 ◆fRBHCfnGJI :2011/02/01(火) 16:19:23 ID:I7YjqhAk
投下乙です
足立のステルスに期待
347創る名無しに見る名無し:2011/02/01(火) 16:20:23 ID:I7YjqhAk
何故か酉が出てしまいました
失礼
348 ◆fRBHCfnGJI :2011/02/02(水) 23:38:46 ID:Wvs+Blro
349 ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/03(木) 02:11:17 ID:maqtZj/W
投下します。
350勘違いの連鎖  ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/03(木) 02:12:41 ID:maqtZj/W
マヨナカテレビの事件が無事解決し、俺は帰って来た日常を満喫していた。
瀬多と『愛家』でラーメン食ったり、完次の奴を冷やかしたり、四人でどこかに遊びに行ったり。
非日常に焦がれることもなく、俺は順風満帆な生活を送っていた。なのにこの殺し合いに参加させられ、挙句の果てに命まで狙われた。
はっきり言ってめちゃくちゃだ。こんなヤバいところ、さっさと抜け出したい。
幸いなことに、俺には頼りになる仲間がいる。
瀬多。お前はどんな時も冷静で、皆を引っ張ってってくれる。どんな不可能なことでもお前がいれば何とかなる。そんな気がする。
里中。馬鹿みたいな発言が多いけど、時々的を得たこと言うし、その行動力はピカ一だ。きっとここでも弱い人間を助け回っているだろう。
天城。頭良くて、回復系のスキルも持ってて、未だにちょっとキャラ掴めないとこあるけど、それでもその強さは折り紙つきだ。
そう。誰もこんなところで死ぬ訳ない。俺だって、この一年何もしてこなかった訳じゃない。俺も、あいつらも、皆すげえ強くなったんだ。だからきっとこんな殺し合い屁でもねえ。

そんなことを考え、新たな決意を抱いた俺は今、

走っていた。
351勘違いの連鎖  ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/03(木) 02:13:24 ID:maqtZj/W
「うおおおおっ!! 誰か助けてくれえええ!!」
「逃がしません! くらえ妖怪!!」
色とりどりの弾幕が花村を襲う。身をかがめ、そのむちゃくちゃな弾幕をかろうじて避ける。
「だから俺は妖怪じゃねえって言ってんだろ!!」
まさかお試し感覚でペルソナを出現させたところを目撃されるとは思ってもみなかった。しかし、それを見られて有無をいわさず攻撃されるなんてさらに思ってもみなかった。
「……少年は、ああ言っているが?」
「嘘に決まってます! 雷電さんは人が良すぎですよ! この世のどこに悪魔を召喚する人間がいますか」
「いるんだよここに!! つか、ペルソナは悪魔じゃねえ!!」
必死で叫ぶも、どうやら彼女には届かないらしい。
「むむ。妖怪のくせに口が減りませんね。ならこれでどうです! グレイソーマタージ!!」
星型の弾幕が突如出現し、それが形を変えて花村に襲いかかる。
(よ、避け切れねえ!!)
接近する光り輝く弾幕に、思わず目を瞑る花村。しかし、それとほぼ同時にがくんと身体が浮いた。
無我夢中で走っていたため気付かなかったが、この先は急な坂になっていたのだ。
「おわああ!!」
そうとは知らずに全速力で走っていた花村は、そのままの勢いでゴロゴロと転がりながら坂を落ちて行った。ちょうど茂みが深い場所であったことも幸いし、花村の居場所は分からなくなった。
「あー。また逃げられてしまいました」
そう言って早苗は軽くため息をつく。
「……なぁ、早苗。本当にあの少年は妖怪だったのか?」
「あなたもしつこいですね。悪魔を召喚する人間なんていません! この私が保証します!!」
その目は爛々と輝いていた。
「そ、そうか。しかしだな、やはり話も聞かずに攻撃というのは……」
「まったく。これだから雷電さんは」
まるで田舎者を馬鹿にする都会人のように、早苗は鼻を鳴らした。
「いいですか? 話なんて、倒してから聞けばいいんですよ。た と え 相 手 が 味 方 で あ ろ う と !」
「…………」
「これ、幻想郷の鉄則です」
「……ああ、そう……だな。……うん。確かに……そういうもの……かもしれないな」
「かも、じゃなくて、そうなんです! これを認めないとこの世界じゃやっていけませんよ? まあそうですね! 先輩である私がちゃんと雷電さんを一人前にしてあげますから安心してください! 一日も経てばあなたも妖怪退治マスターになれます」
早苗はどこか嬉しそうだった。いや、実際嬉しいのだろう。
幻想郷に来てからは先輩面されることはあっても先輩面することはなかったのだから。
ただ、早苗が教えているその大半が間違っているなんて、彼女は頭の片隅にも考えていなかったが。
352創る名無しに見る名無し:2011/02/03(木) 02:14:46 ID:Dk9hjd0Z
 
353勘違いの連鎖  ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/03(木) 02:14:58 ID:maqtZj/W
【一日目 早朝 B-3 東】
【雷電@メタルギアシリーズ】
[状態]:ダメージ(大)疲労(中)全身に裂傷
[装備]:強化外骨格、スローイング・ナイフ(2/3)
[道具]:基本支給品一式、確認済み支給品1〜2、グリーンの全支給品一式(未確認)
[思考]
基本方針:妖怪退治をしながら仲間探し
1:……なにか、とてつもなく間違った方向に向かっている気がする
2:ソリッド・スネーク、ハル・エメリッヒとの合流
3:グリーンのためにも自分の出来ることをする
4:バルバリシアに対する怒り
5:リボルバー・オセロットを警戒
※MGS2エンディング後、MGS4本編開始前からの参戦
※人間の体を成してないものは全員妖怪で、人間に化けている妖怪もいると思っています。また、妖怪は等しく人間の敵だと思っています

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品(0〜3、すべて未確認)
[思考]
基本方針:神奈子様の仰るとおりに
1:妖怪退治をしながら仲間探し
2:雷電に妖怪退治の何たるかを教える
3:ゴムボールの妖怪(メタナイト)と次に合う時は逃がさない
4:ピエロの妖怪を退治して、元の世界に帰る
354勘違いの連鎖  ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/03(木) 02:15:48 ID:maqtZj/W
「うおおっ! 腰打った! 腰めっちゃ強く打った!!」
まるで腰の曲がった老人のようにしながら、花村は歩いていた。
後ろを何度も振り返り、あの二人が追って来ていないことを確認する。
「あー、走り過ぎてマジ疲れた。もうだるいわ。あったかい布団で眠りてー」
突然襲われて坂を転げ落ちておまけに腰を打った。踏んだり蹴ったりとはこのことである。
しかも、絶対行きたくないと思っていた世界樹の方へと移動している。
いつまたあの勘違いコンビに襲われるか分からないのだ。できるだけ彼らから離れておく必要があった。
「……瀬多の奴、どうしてっかな」
ふいに考えるのは、自分の親友のこと。
あいつはこの殺し合いでもちゃんと自分の役目を見つけて、それを全うしているだろう。
「……会いたい、な」
瀬多じゃなくてもいい。千枝や天城。苦楽を共にしてきた仲間に、会いたい。
「って、なにナーバスになってんだ俺は」
自分で自分の頬を叩き、気持ちを切り替える。
「うし。さっさとこっから脱出して、また青春を謳歌するんだ」
自分に言い聞かせるようにそう宣言すると、再び重い足を動かし始めた。
ガサリ
誰かが茂みを通る音がして、びくりと身体が震える。
まさかもうあの二人が追いついてきたのか。自然、身体に力が入る。
緊張で、思わず喉を鳴らし、花村は武器であるスパナを身構える。
ガサガサと音が鳴る度に心臓が揺れる。スパナを振り被り、いつでも殴打できる姿勢で固まる。
突然、ぬっと人影が姿を現し、慌ててスパナを振ろうとして……止めた。
「む。またお前か」
「……そりゃこっちのセリフだ」
そこには、つい数時間前に別れたルビカンテの姿があった。
355勘違いの連鎖  ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/03(木) 02:16:48 ID:maqtZj/W

ルビカンテは二度目の再会に、しかし少しだけ失望した。
強者じゃない。戦える力は持っているのだろうが、それでもこの男は強者じゃない。
それがルビカンテが失望する理由だった。
「で、どうした? 謎の少年」
「それもこっちのセリフだっつーの!!」
何故か怒っている。
この数時間で色々とあったのだろう。
「こっちは大変だったんだぜ。巫女風の女の子とガイコツみたいな恰好した男に追いかけ回されて」
「ほぉ。そいつらは強いのか?」
「え? うーん……まぁ、たぶん」
歯切れの悪い返事だ。
しかし、もしかしたらその二人があの大樹を燃やした犯人かもしれない。
「そうか。ならばその二人組、私が倒してやろう」
「お、マジで! そりゃ助かるわ。わけわかんねーイチャモンつけられて困ってたんだよ」
花村から容姿についての詳細を聞き、それを頭にインプットする。
「よし。それではもう会う事もないだろうが、達者でな」
そう言って、ルビカンテはマントを翻して二人組がいる方向へと足を進める。
「あ、ちょ、ちょっとタンマ!」
「……なんだ?」
「あ、いや。……えーっと、…こういうのもなんだけどさ。一緒に行動しねぇ? 共同戦線っていうか……」
「共同戦線。それはつまり共に戦い、共に傷を癒すということか」
「そ、そうそう! 俺、仲間探しててさ。んで──」
「断る」
ルビカンテは無碍もなく一言でそう言った。
「な、なんでよ?」
「強者は常に一人。群れるのは弱い証拠だ」
「そりゃ、そうかもしれねえけど……。でも別に群れてる奴が弱いなんてことねえだろ。リーダーとか、皆を引っ張って行く奴は一人で生きてる奴より全然強えと思うし」
そう。あの瀬多総司のように。
あいつがいたから平静でいられた。あいつがいたから切り抜けられた。
そんな場面を思い出す度に、あいつは本当に凄い奴なのだと実感できた。
「誰か心当たりがあるという顔だな。そいつは強いのか?」
「……強いぜ。間違いなく強い」
花村は自信を持ってそう言えた。あいつは強い。そんじゃそこらの問題なら何でも解決できるくらいに。
ルビカンテは、花村のその絶対的な自信を興味深げに観察していた。
ゴルベーザ様に刃向うセシル達。彼らもまた複数の人数で寄り添い合って闘ってきた。結局一度も相対することはなかったが、彼らがこれまで生き残って来たのは、花村の言うような強さを持った人間がいたからなのかもしれない。
356勘違いの連鎖  ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/03(木) 02:17:59 ID:maqtZj/W
「……何故私を仲間に引き入れたいのだ? 私が強いからか?」
その言葉に、花村は少しだけ動揺した。
さすがに、「一人じゃ寂しいからです」なんて言えない。
「い、いや。お前ってけっこう良い奴だと思うからさ」
「良い奴? ……良い戦士ということか?」
「? ああ、まあそんな感じ」
ルビカンテはその言葉に柄にもなく感動していた。
フェア精神で今まで戦ってきたルビカンテだが、それを相手側が汲み取ってくれることなどまずない。一対一で戦うために回復させてやれば突然仲間を呼びに行ったり、不意打ちを食らわせようとしたり。戦士としての誇りなんてほとんどの人間は持っていなかった。
そんな中で花村は、自分の戦士としての精神を評価してくれた。それはルビカンテにとってこの上もなく嬉しいものだった。
(そうか。こいつは俺に憧れて、同行を申し出ているのだな。そういえば、私は弟子らしい弟子を一度も取ったことがない)
「貴様、戦闘経験はあるのか?」
「はぁ? まあけっこう豊富な方だとは思うけど」
(豊富とな! 軽薄そうでいてちゃんと稽古を励んでいるということか。一兵士でもない一般市民がこうも自信を持って言えるくらいだ。相当の経験を積んでいるのだろう)
花村の言葉の真実は、自分の世界では、という言葉が初めにつく。ルビカンテの住む戦乱の世界とは違い、悪く言えば平和ボケした世界だ。
つまるところ、そういう世界の人間達に比べると戦闘経験はある、という意味で花村は言ったのであり、ルビカンテの思う一般的な戦闘経験が既に花村達の世界ではキャパシティを越えていることをルビカンテは理解していなかった。
「……よし。いいだろう。同行を許可する。しっかり私の動きを見ておけ」
「いいの!? なんだかよくわかんないけどおっしゃあ!!」
「か、勘違いするな。俺は別に貴様を弟子に取ろうなどと、そんなことは微塵も考えていない」
「は、はぁ」
何言ってんのこいつ? という極めて自然な疑問を口には出さない。下手な事を言って、せっかくの同行許可が反故にされたら堪ったものではないからだ。
「別にお前のことなど何とも思っていないんだからな。本当に勘違いするなよ」
「……ツンデレかよ」
「ツンデレ!? なんだその心沸き立つような言葉は。まさか戦士に対する敬意の言葉か何かか?」
「あー、……まぁ、あんたみたいな人を言う言葉なんだけど……」
「そこまで私を買ってくれるか! あ、いや……。ごほん。まあいい。とにかくその言葉はありがたく受け取っておこう。これからはツンデレのルビカンテと呼ぶがいい」
「いや、それはさすがに遠慮したいっていうか。逆にこっちが恥ずかしくなるわ」
「フフフ。真実を語るのに恥ずかしいことなどない。まだまだ青いな」
「……そっすか」
下手に反抗しないのが吉だと見た花村は曖昧に返事をしておいた。
こうしてルビカンテは、花村が弟子になりたがっていると勘違いし、ツンデレの意味すら勘違いしてしまった。この誤解が後々大きな波乱を生むことになるかもしれない。
……たぶんないだろうが。
357勘違いの連鎖  ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/03(木) 02:19:29 ID:maqtZj/W
【一日目 早朝 B-2】
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]健康
[装備]熟練スパナ@ペルソナ4
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1(武器にはならない)、スタンドマイク@星のカービィ
[思考]
基本方針:殺し合いはしない。まず仲間達と合流、その後行動方針を決める
1:瀬多総司、里中千枝、天城雪子を探す為にタウロスタウンに行ってみる。
2:ルビカンテと行動を共にする
3:カインを警戒。
4:ツンデレのルビカンテって……
※カインの名前はルビカンテがカインと呼ぶのを聞いています。
※作中からの登場時期に関しては真ルート突入前、ペルソナはジライヤ
足立に関しては頼りない刑事の印象です。

【ルビカンテ@ファイナルファンタジー4】
[状態]ツンデレのルビカンテ
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品未確認×2
基本方針:ゴルべーザ様を探し、指示に従う。強者との戦いを望む。
1:弟子か。……いいかも
2:ツンデレ。何とも素晴らしい響きだ。
3:花村と行動を共にする。戦いを通じて自分の技を教える。
※作中からの登場時期はカインと面識がある以降、時期不明としておきます。
※花村が自分の弟子になりたいと思っていると勘違いしています。また、ツンデレという言葉を敬意ある戦士に送る言葉だと思っています。
358 ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/03(木) 02:21:19 ID:maqtZj/W
簡単ですがこれで投下終了です。
…何気に、このロワで初めて支援もらった気がする。
ありがとうございます!
359創る名無しに見る名無し:2011/02/03(木) 09:47:43 ID:iz3DwPhL
投下乙です
ちょwwwツンデレ違うwwww
ルビカンテ師匠に期待せざるを得ない

早苗さんが普通に怖い件
彼女に妖怪認識されないのって極一部だよなぁ…
360 ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/03(木) 12:39:15 ID:cME9wY21
感想ありがとうございます。あー、やっぱこういうのすごい励みになるなぁ

少しだけ訂正。
マップの位置ですが、B-2ではなくB-3に変更します。
361創る名無しに見る名無し:2011/02/03(木) 13:23:49 ID:01uLlodN
ツンデレのルビカンテwww
これは用語集載せられるレベルww
早苗さを独走中じゃないか
投下乙です
362創る名無しに見る名無し:2011/02/03(木) 17:44:33 ID:D08T8hKI
投下乙です
ツンデレのルビカンテってwww
363 ◆.dRwchlXsY :2011/02/04(金) 20:48:20 ID:i6RVbEkR
アカギ投下します。
364 ◆.dRwchlXsY :2011/02/04(金) 20:49:14 ID:i6RVbEkR
辺りはうっすらとした鼠色で覆われ、少しばかりひんやりとした空気が漂っている。
余す所無く黒色の闇に染まっていたこの島も、今はすっかり明るい色を取り戻したようだ。
夜明けが近づいていた。
そんなしんと静まり返った場所に一つの影が見える。
その影は"ギンガ団"と呼ばれる組織を束ねる長として君臨していた。
名はアカギ。
ギンガ団は表向きは新エネルギーの開発、研究をしている研究機関として知られている。
しかし、その実態は世界を壊滅させて、新たな世界を生み出すのが目的の集団である。

静寂に包まれた草原を歩きながらアカギは考える。

今の私に必要なもの、それは"有益な情報"と"優秀な手駒"だ。
この状況を打破し――いや、この試練を突破するためにはどちらも必要不可欠だ。
特に情報。
参加者の素性、性格や能力、危険人物の存在。
それらを知っているか否かで難易度は大きく変わる。
これまでの件からも分かる通り、この島には様々な世界の住人が集められている。
異なる世界の住人が持つ、それぞれの情報を利用すれば必ず何かが見えるはずだ。
だから、一刻も早く他の参加者たちと合流する必要がある。
勿論、先のバルバリシアのような凶人ではなく、善人や優秀な者とだが。

アカギは先刻の研究所でのことを思い返していた。

風を操るという、人間では為せぬ力を持つ魔物バルバリシア。
無能な女だったが、あの力には少々驚いた。
もう少し利口な頭を持っていたら、おそらく私は生きてはいないだろう。
そういう意味で私は幸運だったといえる。
しかし、参加者の持つ力のレベルとはどれ程なのだろうか。
名簿を見るに、おそらく私やレッド(まだ本人かどうかは未確認だが)のような一般人が参加しているのは確認できる。
バルバリシアレベルなら私でもそれなりに対抗できると思うが、問題はそれ以上の力の持ち主。
例えば、私の策略を問答無用でねじ伏せるような相手に遭遇したら、私はあっという間に殺されてしまうだろう。
他の参加者との合流や、強力な支給品を手に入れることが出来れば多少は違うのだろうが。
現状、今の私の手駒ではいささか心許ない。
それでも、ポケモンを二体所持できたのは不幸中の幸いだろう。
まだ使い慣れていないと言え、リザードンもケーシィも優れたポケモンだ。
だが、彼らには何より知能が足りない。
私の考えを聞き、意見し、従う優秀な手駒が必要なのだ。
できれば利害が一致する者がいいのだが。
とにかくだ、利用できるものは何でも利用しなければ、この殺し合いでは生き残れない。
365 ◆.dRwchlXsY :2011/02/04(金) 20:51:16 ID:i6RVbEkR
それからしばらくアカギは歩き続けた。
もちろん最善の注意を怠ることなく、周囲に気を配りながら一歩一歩慎重に進めるのは忘れない。
そうしている間にも島には徐々に光が射しこみ、辺りの情景は刻々と変わり続ける。
そしてアカギは歩みを止め、辺りを注意深く伺いながら近くの林に身を潜めた。

この先は先程研究所から見えた焚き火が上がっていた場所。
まだ何者かが潜んでいる可能性があるが――はたして接触すべきかどうか。
まず、このような状況・場所で焚き火を上げるなど、謂わば自殺行為。
自分の居場所をわざわざ晒すなど愚の骨頂。
それを知らないような参加者と接触、合流し行動を共にするのはリスクが高い。
もしくは、ワザと焚き火を上げ、参加者の目を引き、それに乗ってくる者を襲いにかかるような戦闘狂の可能性もある。
そんな輩はもっぱら御免だ。
ろくな会話もできないまま殺されるのが落ちだろう。
どちらにしろ、安易な接触は危険。
だが、接触に成功したときのメリットは十分ある。
さてどうするか。

アカギは右手を顎に沿えて少し考え、そしてすぐに結論を出した。
彼にとっては容易な選択なのだろう。

やはり、近づいてみて少し様子を見てみるのが一番安全だろう。
しばらく観察し、有能そうな者なら合流、無能もしくは危険人物と感じたなら回避。
自分でも少し慎重すぎるとは思うが、このような状況ではむしろ全てにおいて慎重にいくべきだ。
石橋を叩いて渡るということわざもあるぐらいだ、別に間違いではない。
問題は、相手に気づかれずにうまく近づけるかどうか。
気配を探るのに長けた者がいてもおかしくはない。
だがまあ、焚き火をするような馬鹿相手なら、おそらく大丈夫だろう。

アカギはそこまで考え、それから腕時計に視線を向けた。

午前五時五五分。
放送まであと五分か。
放送で得られる情報は大きい。
行動を起こすのは放送を聞いてからでも遅くはない。
私はこんな所では死ねない。
私の野望を達成するまでは。
新世界を創造し、その世界における神になる為にも――。
366 ◆.dRwchlXsY :2011/02/04(金) 20:52:24 ID:i6RVbEkR
【A-4/一日目/早朝】
【アカギ@ポケットモンスターシリーズ】
[状態]:疲労(少) 、頬に貫通傷(治療済み)、全身に痣
[装備]:リザードン
[道具]:基本支給品一式、モンスターボール(ケーシィ)、モンスターボール(リザードン)、リポビタンD、治療道具一式
[思考]
基本方針:もとの世界に戻り、野望を達成する。自己保身優先。手段は問わない。
1:殺し合いに乗っていないように振舞い、仲間と情報を集める。
2:伝説のポケモンによって試されているのか?
3:主催者に反抗するか、殺し合いに乗るかは明確に決めていない(決めない)。
※ここが異世界であることを、なんとなく認識しはじめました。
※ケーシィは疲れています。
※リザードンを完璧に使いこなせません
※どこに向かうかは次の書き手にお任せします
367放送五分前 -始まりの終わり- ◆.dRwchlXsY :2011/02/04(金) 20:55:34 ID:i6RVbEkR
投下終了です。
これで次は第一回放送でしょうか?
368創る名無しに見る名無し:2011/02/04(金) 22:10:03 ID:JLGpcw+q
投下おつです
アカギの保守的な行動はこの後、吉とでるか
369 ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/04(金) 22:51:43 ID:OxO5RfHO
投下乙!
アカギは妖怪退治組と合流したらどう見るかな。
気になるところだ

ではでは、第一回放送をこれから投下します
370 ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/04(金) 22:54:37 ID:OxO5RfHO
今まで闇が覆っていた殺し合いの会場も、既に朝日が立ち上り、その不気味な会場を照らしつけている。
そんな時、どこからか甲高い笑い声が聞こえ、会場中央にマルクの姿を模したホログラフが現れた。
「はーい! みんな元気に殺し合いをしてるようで何よりなのサ。それじゃあこれから放送を始めるから、みんな注意して聞くように! えー、ではでは、みなさんお待ちかね。死亡者の発表から始めたいと思うのサ!
死亡者は──

アイク
グリーン
サイボーグ忍者
シルバー
ソリッド・スネーク
タケシ
デデデ大王
バルバリシア
メタナイト
リディア

以上10名なのサ!
うーん。想像以上の減り具合。みんなよく頑張ってるのサ。
それじゃあ次に禁止エリアの報告なのサ。
8時にA-2、10時にF-1、12時にF-4をそれぞれ禁止エリアに指定するのサ。死にたくなかったらそれ以降は絶対入っちゃいけないのサ。

以上で放送終わり!
これからも今まで以上のハッスルを期待しているのサ。それじゃあまた六時間後に、お会いしましょー! なのサ」

短い放送を終えて、マルクの姿は会場から消え去った。そこにあるのは静寂のみ。
新たな惨劇の会場が、そこに佇むのみであった。
371第一回放送  ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/04(金) 22:55:24 ID:OxO5RfHO

暗い暗い、これまた暗いとある場所。そこでコト、コトと不規則に何かが動く音が聞こえていた。
「チェック」
声を発したのは、どこにでもいそうな男。中性的な顔立ちで、特筆すべき点をあげるとするならば、そのガソリンスタンドの定員のような衣装だろう。真っ暗闇で、薄くスポットライトを当てられたような薄気味悪いこの場所とはまったくもって対照的な赤い服。
男は小さな椅子に座り、これまた小さな丸テーブルの上に置かれたチェス盤をにやにやしながら見つめている。
対する女性も、男と同じように椅子に座り、何も喋らずただただゲームに集中している。
それを見て、男は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「おっかしいよなぁ。君、本当にこんなに弱いの? 月の頭脳が聞いて呆れるねぇ」
熟考し、駒を一つ下げてから女は言った。
「造物主のあなたに比べたら、誰が相手でも呆れるくらいに弱いんじゃないかしら」
「そうかなぁ。買いかぶり過ぎだって」
言いながら、ほとんどノータイムで駒を動かし、もう一度「買いかぶり過ぎだな」と呟いた。
「えーーりーーん!!」
ドタドタと走る音が聞こえる。マルクが放送を終えて戻って来たのだ。
「聞いてた!? ちゃんと噛まないで放送できたのサーーー!!」
まるで無邪気な子供が母親に甘えるように飛び付いて来る。
「あーはいはい。よかったわね」
「ちょっとその反応は冷た過ぎるのサ! ねえねえ、どこもミスなんてしてなかったでしょ?」
「少し待ってなさいな。今集中してるところだから」
そう言って、八意永琳は再び盤面に集中する。
「……僕は君達の動きに関与するつもりは一切ないよ」
突然、ガソリンスタンドの男が言った。
「他の奴らは知らないけど、俺はあんたらが自由に動いてくれること、むしろ歓迎するくらいだ。ゲームってのはイレギュラーがないと面白くない。変な茶々をいれて、またはいれられて、楽しみをなくしたくないんだ」
「……これをただのゲームだと思って見てるのは、あなたぐらいのものよ」
永琳はそう言ってしばらくしてから駒を動かす。男は再びノータイムだ。
さすがの永琳も、嫌そうに眉をひそめた。
「何事も楽しく、は生きてく上での基本だろ? それに、代々神ってのは人間と精神構造が大して変わらないのさ。遊び好き酒好き女好き。俺もそんな大衆的な神様となんら変わらない」
「そのわざとらしいキャラクターも、楽しむために?」
「そりゃそうさ。それに、こう見えて俺はこの姿を気に入ってる」
そう言って愉快そうに笑う。
なにがこう見えて、だ。心底楽しそうにしているくせに。
永琳はこの男が嫌いだ。鼻もちならない。胡散臭い。そして何より、何を考えているのかまったく想像できない。
372第一回放送  ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/04(金) 23:00:25 ID:OxO5RfHO
駒を動かす。
先程までとは違う、どこか優しささえも帯びた笑みを男は浮かべた。
「チェックメイトだ。やれやれ。本当に手応えがなかったね。遠慮してるの?」
「さっきも言ったでしょ。造物主に勝てるような頭脳は冥王星まで探してもいない」
「そう。……じゃ、少し君の考えを分析してあげよう」
そう言って、椅子に座り直し、こちらに身体を寄せて来る。永琳は身じろぎ一つしないが、永琳の周りでうろうろしていたマルクはすぐに彼女の背中に隠れた。
マルクはこの男が苦手らしい。……いや、苦手でない者が果たしているのかどうか。
表情こそ変えないが、永琳はそんなことを思った。
「今回君がこの勝負を持ちだしたのは俺の考え方を理解するためだ。駒の出し方、癖、勝負に対する姿勢。その他諸々から俺がどういう人格なのかを分析していた。それが今回チェスを誘った理由であり、本当の目的。だろ?」
「…………」
永琳は何も答えない。続けて男は言った。
「君は勝つ気がなかった。手応えがないのも当たり前だよな。……俺がなにより嫌いなのは、試されることと、無為な時間を過ごすことさ。だから少し君のことをいじめたくなってきた」
早口でまくしたて、ギラリとその瞳を光らせる。
永琳は眉一つ動かさず、ただじっとしている。
「お返しに、俺が少し君のことを分析してあげよう。君はひどく冷静で慎重だ。歳相応、もしくはそれ以上に物事を俯瞰し、常にリスクとリターンを考えてる。
感情をコントロールできる人間は有利だよねぇ。こうして呑気にお茶の間を演じたり、気楽そうにチェスをしたりもできる。そう、本当は気が狂いそうになるくらい心配なことがあってもね」
そう言ってクックと笑う。
永琳も随分と長く生きているが、ここまで相手に対し殺意を抱いたのは初めてのことだった。
「君の人生はまさに罪そのものだな。罪に捉われ、罪に生きてる。しかし罪を償うために死ぬことも許されない。絶え間ない、狂おしいほどに抱え込まれた罪を、人々への善行で紛らわしている。
それが君にとって生きること。君の罪を具現化したかのようなお姫様を守り、仕えることで君はアイデンティティーを確立できる。何千と生きていても、月の頭脳と持て囃されようとも、君の根本は常に単純明快だ。
しかし、だからこそ複雑だともいえる。善を行うことを生とし、かつ生のために悪を平然と行えるのだからね。君の持ち味はまさにそこ。
誰を味方するか、誰と敵対するか。感情で動かず理性で動く。しかしその理性は矛盾を抱えている。矛盾した循環論法だ。だから君の考えを読むのは限りなく難しい」
複雑な人格って、めんどくさくて嫌だよねぇ。男はそう言って肩をすくめる。
「一つ良いことを教えてあげよう。おそらく俺は君よりも長生きしてるからね。老婆心ながらってやつさ」
俺は老婆じゃないけどね。そう言いながら男は立ち上がった。
「生き物ってのはね、計算だけで成り立つような単純なものじゃないんだよ。君の安っぽい分析じゃ、せいぜい猿山の大将を理解できるくらいだね。あ、言っとくけど、僕が将を務める山は、もっと知的生物で溢れかえっているよ」
男は椅子を元に戻すと、マルクに手を振ってみせる。しかしマルクはより一層永琳の背中に隠れてしまった。
嫌われたもんだ、と男は一つため息をついて苦笑した。
「じゃ、俺はもう行くよ」
そう言って部屋を出て行く寸前、永琳の耳元でぼそりと呟く。
「君の狂った愛情を受け入れた、愛しい愛しいお姫様の様子も見にいってあげないといけないしね」
表情こそは変わらない。しかし血が出るのではないかと思うほどに握られた拳は、今の永琳の気持ちを最大限に表していた。
乾いた笑い声が部屋中に響き渡る。
その声が届かなくなったところで、永琳は机に置かれたチェス盤を力の限り壁に叩きつけた。
「人の心に土足で入り込んで! ……あんな奴に私達の何がわかるっていうの!!」
分析されたことがどうした。馬鹿にされたところであんなものどうってことない。
しかし、姫を侮辱されるのは許せない。自分と姫の関係を狂っているなどと評されるのは我慢ならない。
「お、落ちついてよ。いつもらしくないのサ。その……、き、きっとなんとかなるサ!!」
怒りのために肩で息をしている永琳は、ちらりとマルクの方を見て、それから気分を落ちつけるために髪をかきあげた。
「……ありがと。少し落ち着いたわ」
373第一回放送  ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/04(金) 23:01:04 ID:OxO5RfHO
それを聞いてマルクはにこりと笑う。
「あなた。聞いてたよりもずっと純情なのね」
「ジュードー? なんかカッコイイ名前なのサ! どういう意味?」
「あなたは優しいわねっていうことよ」
「うーん……。でもプププランドではイタズラばかりしてたのサ。よく怒られたりもしたし」
「あら。どうして悪戯なんか?」
「だって楽しいのサ! みんながあたふたしてるところを見るとすごくおかしいのサ。……だからこの殺し合いってなんか嫌いなのサ。死んじゃったらあたふたするところなんて見れないのに……。それに、みんなすごくかわいそうなのサ。死んじゃう人達も、それにえーりんも」
「……そう」
永琳は思う。
自分のことなどどうでもいい。しかしどうにか、姫とこの無垢な子だけでも助けることはできないかと。
「例のゲームはどうなった?」
「え、えーりん! そのことは言っちゃまずいのサ!!」
「大丈夫。仮にも神を名乗る男が無干渉を決め込むと言った。それは信用できるわ」
この場所に盗聴器はない。あったとしても、全てあの男が処分しているだろう。
なにせ、自分達が捕まれば、このゲームの面白みは半減してしまうのだから。
「えと、第一ステージをクリアしたところさ」
「遅過ぎる。これじゃ手遅れになるわ」
「そ、そうは言っても、みんなアレをそこまで重要視してないのサ。あれ以上興味を惹かせるご褒美なんて考えつかなかったし、さすがにこれ以上は限界なのサ。それに、万が一にも奴らに見つかったらそれこそ僕達が殺されちゃうのサ」
この殺し合いを開催した本命達は、この殺し合いをまったくといっていいほど監視していない。一番熱心な奴も、その関心は自分が楽しむことにしかない。
きっと彼らは、監視などというものは下賤な生物の仕事だと信じているのだろう。
“神”という種族ほど高慢な生物もいないな、と永琳は思った。
「監視組には何か勘付かれた様子はあった?」
マルクは首を振る。
「支給品の選択はこっちに一任されているのサ。さすがにアレが重要アイテムだとは思っていないみたいだったのサ」
「そう。……でも油断しないで。彼らもそれほど熱心じゃないとはいえ、一番気付かれる可能性の高い奴らなんだから」
「アイアイサー!」
敬礼のポーズを取るマルクを、永琳は軽く撫でてやった。
自分達がかろうじて投げることができた一石。うまくはまれば、それは水面に浮かぶ月を破壊し、参加者を丸々こちらの味方につけることができるだろう。
落ち込んでなどいられない。心配などしてられない。
ここに連れて来られたその時から、おそらくは自分が死ぬ時まで、正念場は永遠に続くのだから。
374 ◆dGUiIvN2Nw :2011/02/04(金) 23:09:59 ID:OxO5RfHO
投下終了です
375創る名無しに見る名無し:2011/02/04(金) 23:33:20 ID:JLGpcw+q
投下乙!
イザナミさん黒幕かと思ったけど傍観者なのか
真の黒幕は誰なのか。
えーりん!えーりん!
376創る名無しに見る名無し:2011/02/05(土) 00:26:41 ID:Q0Fwwld0
うし!
じゃあ放送も終わったことだし、自分の好きな話と好きなキャラでも挙げてくか!
「とある廃人の記録」はやっぱ外せないなー
あとは「常識のとらわれなくなった結果がこれだよ!!」
早苗さんの迷走っぷりはすさまじいものがある
あと「不思議デカルト」と「GLAMOROUS」も地味に好き

好きなキャラは多すぎて挙げられん!
が、早苗雷電コンビはいろんな意味で目が離せないな。
377創る名無しに見る名無し:2011/02/05(土) 00:34:44 ID:gm4z0pfI
そうだな放送終わったから好きな作品をあげたり、あと用語作ろうぜ
へっくしゅんが好きだな。あとやっぱり託された希望も外せない。シルバーかっこよす
 

378創る名無しに見る名無し:2011/02/05(土) 13:53:13 ID:2d6+pL2V
「冷血なりせば」「意地と誇り」とか好きだなー
アカギはあれ…こんなにかっこいいキャラだっけ…?と思わされた
セシルとカインのマーダーコンビ結成のうわああああ感も好き

好きなコンビはゆうかりんとアドレーヌ・ツンデレと花村かな
殺伐としてるロワだからこそ和める組み合わせが良いw

でも一番気になってるキャラはゴルベーザ
兄さん…セシルとカインに会ったらどうするんだ…
379創る名無しに見る名無し:2011/02/07(月) 17:51:52 ID:L/QuhcYN
少し見てないうちに、第一回放送来てたのか!
いやー、長かった。最近は早いけど。
とにかく、おめでとう!
380創る名無しに見る名無し:2011/02/08(火) 20:46:49 ID:XlNIrnAu
レッドの登場話「とある廃人の記録」が好きだな
自分も純粋なポケモン好きから廃人になっていったから気持ちがよくわかる
ポケモンバトルも熱い
というかこの作品でこのロワに興味を持ったよ

あと、「勘違いの連鎖」が好きだ
>話なんて、倒してから聞けばいいんですよ。た と え 相 手 が 味 方 で あ ろ う と !
には笑ったww
381創る名無しに見る名無し:2011/02/09(水) 01:46:07 ID:tHbe9U7/
雷電はなぁ
こんなんだからダメなんだよ
スネークなら早苗説得できてたよ
こんなんだからスネークなら〜〜とか言われるんだよ
でもそこがスキ
382I'm Not Okay (I Promise)  ◆S33wK..9RQ :2011/02/09(水) 16:36:11 ID:npjZpeqz
サカキ、レッド、脇、投下します
383I'm Not Okay (I Promise)  ◆S33wK..9RQ :2011/02/09(水) 16:36:54 ID:npjZpeqz

  
放送が終わった。禁止エリアをメモ用紙に書き取る。
「霊夢。死人は生き返る事が可能なのか?」
「え?……えっと、幻想卿では、半霊半人や、亡霊などが居ますし、稗田という人物は閻魔に転生を……」
「……私が欲しい答えは一つ。『はい』か『いいえ』かで答えるんだ」
「し、失礼しました!……え…と……申し訳ないですが、私には答えが分からないです」
「……そうか。」
その様子を見ると死人を生き返らせるのはほぼ不可能だということがわかった。
このことから、マルクも人を生き返らせない。『よく似た世界』から『よく似た人物』をつれてきて、ハイオシマイ。……だろう。なるほど。巫山戯るな。
霊夢は自分が何回も聞いた謝罪をしてきた。先ほどから疑問点や幻想卿についての事を霊夢に質問するが、霊夢は殆どの質問を『わからない』『知らない』で受け答えてくる。
しかしそれも当然だろう。常識は無知を生む。私だってパソコンを使用するが、その仕組みはわからない。だから霊夢を怒る気にはならなかった。
この世界観の違いの弊害のお陰で霊夢は自分の重要性が理解出来なかったのだろう。それとも単純に気付かなかったのか。……この様子を見ると後者の方が確立が高いが。
「あの、サカキ様」
「なんだ?」
「……ポケモンとは、なんなんでしょうか」
そんな霊夢が珍しく質問をしてきた。「なんなんでしょうか」という敬語のおかしさは彼女が今まで敬語を使う機会が無かったのを物語っている。
そういえば、ポケモンについては説明をしていなかった。
「ポケモンっていうのはな…」
……説明が出来なかった。世界観の違いから来る弊害が自分にも現れるとは思わなかった。そもそもポケモンとはなんだったのだろうか。
手下だったか。それとも、友になり得る存在だったか?それとも……?
「……お前らの世界で言う妖怪みたいなものだ」
「……持ち運べる妖怪ですか?」
「そうだ。モンスターボールに入れることで持ち運び、命令を聞いてくれる」
「じゃあ……私も、サカキ様の『ポケモン』なのでしょうか?」
無知は罪。心底苛々させる質問だったが、霊夢はきっと純粋な疑問からこの質問をしてきたのだろうが……
「お前はモンスターボールに入らないだろう。それにお前は人だ。人とポケモンは決定的に違うのだ」
「どういった点が……?」
「頭の良さだ。それも個々では無く、沢山集まれば集まるほどそれは発揮される」
そうだ。人間とは頭が良い。あの下等なポケモン(この際、妖怪かどっちでもいい)に知らしめてやるのだ。真の支配者とは何かを。
 
「(……シルバー。最後ぐらい顔を見てやりたかった)」
 
放送で呼ばれた名前が頭の中でグルグルと回っている。あまり父親らしい事をしてやれなかった。
しかし、最後まで私が父親だって事を誇りに思わせることが父親らしい事ではないか。もっとも悪事を働く父親を誇りに思ってくれるかはわからないが。
一人になって願いを叶える等という愚の骨頂と言える行為はする気にもなれない。ならば、やはり今まで通りの行動をすればいいのだ。それが弔いになるならばの話だが。

☆ ☆ ☆
 
384I'm Not Okay (I Promise)  ◆S33wK..9RQ :2011/02/09(水) 16:38:00 ID:npjZpeqz

「(……10人)」
 
自分にとってはその人数は多すぎた。今、私のデイパックに入っている『デデデ大王のハンマー』の持ち主の名前も。どのような人物だったのだろうか。
もしやスペルカードルールはやはりサカキ様の言っていた『平和の象徴』なのかもしれない。
そして、もしかしたらこの世界は、この殺し合いこそが世界の正しい姿なのかもしれない。このゲームは世界の縮図。強い者が残り、弱い者は淘汰される。
だが、幻想卿は違った。自分が制定したスペルカードルールのお陰で皆が皆、平和ボケしている。例えば、幻想卿自体を脅かす者が現れたら、私達は無事に幻想卿を守れるのか。
否、守れないだろう。私は、私達は人が死ぬのに、慣れていない。だから放送の内容に驚愕していた。
自分は幻想卿を否定的に考える事など初めてだ。しかし、他の世界と比べると、幻想卿は特殊すぎたのだ。
だが、だからと言ってスペルカードルールを改定する気にもなれない。私は平和が好きだ。好き過ぎてたまらない。
だからこそ、恐怖を克服したかったし、もっと色々な事を学んでいきたいと思ったのだ。そしてサカキ様はそれを教えてくれる。そう強く信じている。
サカキ様について行けば世界の全てが見えるのだから。幻想卿では学べない事。 
「(……でも、サカキ様が私の知り合いを気に入るのかしら)」
ふと気付いた事。魔理沙やアリスの事をサカキ様は気に入ってくれるのだろうか?それで気に入らなかったら?
それが堪らなく怖くなった。
「(じゃあ、死んでいたら?)」
酷く、非現実な事柄が頭に浮かんだ。そしてそれを否定した。あいつらが死ぬわけがない。
いや、死ぬわけが無い? 何を非現実な事を考えているのだ私は。ここでは死ぬ。力が制限されている今、私達は造作も無くしんでしまうだろう。
ではここで願うことは、知り合いと出会わないこと。今の自分はそれしか願えなかった。そしてどこかで(死んでいればいい)なんて考える私を心の奥底にしまって。
「霊夢。」
「へ?は、はい。」
「間の抜けた応答だな。さて、あれがなんだかわかるか?」
サカキ様が指を刺す。そこには白っぽい建物があったが、それは所々黒っぽく、焦げていた。
「あれが我々の目指していたテトラ研究所、か。どうやら一騒動あったみたいだ」
「調べましょうか?」
「私はな。お前も行くのか?惨殺死体と鉢合わせしても私は知らんが」
「……私は行かなくてもいいんでしょうか?」
「お前は今、精神的に参っている。そんな状態で惨殺死体を見て、更に精神的ダメージを与えたくは無い。部下を守るのも私の仕事だ」
そうサカキ様は言うとニヤリとしてこちらを見る。サカキ様はなんて優しいのだろうか。幻想卿でこうやって人を労る人物は少ない。神という存在なら尚更で少ない。
だがサカキ様は違う。こうやって私を労ってくれる。本当にサカキ様は私にとっての神様なのかもしれない。
ならば最初から最後まで、仕えるのが巫女の仕事だ。ああ、今まで仕事をしないでだらだらと過ごしてきたのに、今は何か熱い物が胸からこみ上げてくる。
充実感。異変解決後のそれや、宴会で知り合いと他愛無い会話で感じるあれでもない。新鮮な充実感だ。
「……お言葉に甘えさせて頂きます。ありがとうございます」
「では、そこで見張りをしていてくれ。それと治療できるものがあったらとってきてやろう」
そういうとサカキは鋼の剣を取り出し、入っていく。その刃物を見る度に動機が激しくなり、目を逸らした。
いい加減慣れなければいけない。こんな状態で戦闘に巻き込まれたら足手まといになるのではないか。今はどうしようもないけど。
 
☆ ☆ ☆
385I'm Not Okay (I Promise)  ◆S33wK..9RQ



 
「(……酷い匂いだ)」
 
エントランス。そこは水浸しで所々焦げているところがある。戦闘で重火器が使われたのは間違いない。しかしスプリンクラーが作動したお陰で全焼はせずにすんだらしい。
鼻を劈くこの匂いは焼死体があるのが原因だろう。幸い目の前には水溜りしかないがいつかは出くわすだろうが。
霊夢を連れてこないで正解だった。もし連れてきていたらこの匂いでへたり込んでいただろう。
貴重な道具だから、あまり精神的に追い詰めたくはない。必ず役に立つののだからいつまでも虚けた顔をされても困るが。
「(しかし、放送の内容。どこかおかしい)」
シルバーの名を呼ばれた時に動揺はしていない。覚悟はしていた事だ。精神年齢も身体も全て発達不十分の子供を殺し合いに参加させれば造作も無く死ぬは目に見えている。
グリーン、シルバー、タケシ。どれもこれも、死んだのは若い者だけ。レッドが生きているのが不思議である。
だが、彼ならどんなポケモンを支給されても自分の身を守ることはできるだろう。ポケモンを支給されたならの話なら。この事を考えると放送で呼ばれた名前は事実である可能性が高い。
そして、禁止エリア。A-2、F-1、F-4。A-2は住宅街があるが、如何せん島の端である。F-1も島の端。
禁止エリアは参加者を移動させる為の主催から唯一の干渉。しかし、本当に移動させる気はあるのか、という場所が選ばれている。
無作為に選んで、主催の望まないエリアが選ばれたのか。それともそのエリアに見せたくないものがある、とか。
「(主催がどこに潜んでいるかはわからんが、確実にこの三つのうちのどこかに含まれているかもしれない)」
完全に無作為に選ばれていないなら主催は自分の現在所在地を選ぶだろう。まだ可能性の話だが。それと、もう一つ。
「(……マルク。お前は本当に道化師なのか?)」
思えば、この放送。最初から最後まで、『台本通り』に読み上げられている気がしてならない。
思えばあの陰惨なオープニングからだ。マルクは道化師。あの口調もわざとだと思っていたが、どうやら違うらしい。
では主催はマルクの他にもいる可能性がある。もっともこちらの可能性は著しく低い。ただ、放送に違和感を感じ、それを追求しただけのこと。
マルクのこの微小な違和感はごく一部にしか気付かないだろう。ごく一部というのは私側、悪側の人間にしか。
「……!これは、酷いな」
廊下を歩き続け、曲がるとそこに居た、いや在ったのは黒焦げの何か。この匂いの元凶。
胸の膨らみから女性と判断できた。逆に言えばその膨らみしか人間らしい部分がないのだが。
しかしここまで黒こげに出来るとはどの様な物が支給品されたのだろうか。ここまで出来る物が支給された人物と鉢合わせになったら自分が抵抗できるのだろうか。
否、出来ないだろう。鋼の剣だって振り下ろすのが精一杯。しかしここに霊夢を連れてくる訳にもいかない。
ここにこれをやった参加者が居る可能性は低いが、油断はできない。注意を散漫させない様に調べる。
ここを調べる理由は『施設のある理由』を調べる為。決して霊夢の傷を治す為ではない。だいたいここに治療道具はありそうにない。