VOCALOID関連キャラ総合スレ7【なんでもアリ】

このエントリーをはてなブックマークに追加
9A sort of short story
.

船が成層圏に突入する。
軽い振動が伝わってくる。
漆黒の宇宙空間に代わって、ブルーのグラデーションが映し出される。

やがて目の前に真っ白な雲海が見えてくる。
船の後方には深い藍色、周囲は抜けるような青色に満たされる。
気圧が徐々に高まり、古い船は軋み音をたてている。

コクピット――といっても、味も素っ気も無いコンソールパネルが並んでいるだけ――のシートに掛け、インジケーターおよび計器類を確認する。

――オール・グリーン、本日も異状なし……っと。

マイクに向かってクリアランスを申請する。宙港の管制から、機械的に許可をもらう。

男がこの5年間、ずっと繰り返しているルーチン・ワークだ。


♪ ♪ ♪

.
10A sort of short story:2010/08/16(月) 03:12:18 ID:peB718xY
.

星間連絡船(通称ミッド・シップ)のパイロットをしながらチャンスを待ち、5年後には新たな惑星を求めて旅立つ探査船のクルーになる……。
それが、彼の目標だった。
「夢」ではない。必ず実現させる、「具体的目標」そのものだった。


ミッド・シップは、食料・資源や建設資材などを惑星から惑星へ輸送する船である。
ときに客船の役割も果たす、もっとも“庶民的”なスペースクラフトだ。

彼は自嘲気味に、自らの立場を思う。
輝かしい任務に就くために手に入れたスペースシップ・ライセンス。それを、ありふれた資材運搬船を転がすことに使っている。

――しょせん、こんなものか。

思い描いた理想と現実の仕事との間には、小さくない隔たりがあった。
しかし、それも昔の話。
彼は諦め、虚しい気持ちでルーチンワークをこなす。

現実に敗れた、というにはあまりにも陳腐過ぎた。


♪ ♪ ♪

.
11A sort of short story:2010/08/16(月) 03:13:20 ID:peB718xY


.

コロニーの待機スペースで休憩していると、向こうのほうが賑やかになってきた。
何かと思い、同僚と共にそこへ近づく。


ロビーの一角にしつらえたステージの上には、一人の少女が立っている。
コバルトブルーの髪をお下げのように結わえている。

髪先が微かに揺れる。
少女は、歌を歌っていた。

伸びやかな歌声、ゆったりと心地良いビート。
ドームを透かして見える、青く輝く惑星をバックに歌っているその姿が、男の心を捉えた。


「お、ミクがライブやってるな」
「ミク?」
後ろからやってきた同僚の声に、男は首を傾げる。

「知らないか? 『VOCALOID 2 初音ミク』。歌うアンドロイドさ」

その名前を聞いたことはあった。しかし実際に姿を目にし、その歌声を聴くのは初めてだった。

まだあどけなさの残る顔立ち。
ちょっと舌っ足らずな歌い方。

けれどその歌に、彼は強く惹きつけられた。

エレクトリックピアノのきらきらとしたアンサンブルに、澄んだ歌声が溶ける。
初めて聴くはずのその歌が、何だかとても懐かしく、温かく感じた。


♪ ♪ ♪

.