ジャスティスバトルロワイアル Part1

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11 ◆yCCMqGf/Qs

「正義と悪はどちらが強いのか」
そんな単純かつ深淵なテーマを元にバトルロワイヤルを行うリレー小説企画です。
この企画は性質上、版権キャラの残酷描写や死亡描写が登場する可能性があります。
苦手な人は注意してください。

したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14034/

まとめwiki
ttp://www35.atwiki.jp/justicerowa/pages/1.html



21 ◆yCCMqGf/Qs :2010/08/11(水) 00:31:42 ID:DVDtTBV4
★参戦作品別名簿

【Fate/stay night】5/5
○衛宮士郎/○アーチャー/○言峰綺礼/○藤村大河/○間桐慎二
【MONSTER】5/5
○天馬賢三/○ヨハン・リーベルト/○ハインリッヒ・ルンゲ/○ニナ・フォルトナー/○ヴォルフガング・グリマー
【DEATH NOTE】5/5
○L/○夜神月/○メロ/○松田桃太/○夜神粧裕
【未来日記】4/4
○天野雪輝/○我妻由乃/○平坂黄泉/○雨流みねね
【ジョジョの奇妙な冒険】4/4
○東方仗助/○空条承太郎/○吉良吉影/○DIO
【金田一少年の事件簿】4/4
○金田一一/○高遠遙一/○七瀬美雪/○剣持勇
【バットマン】4/4
○バットマン/○ジョーカー/○ポイズン・アイビー/○ジェームズ・ゴードン
【武装錬金】3/3
○武藤カズキ/○蝶野攻爵/○武藤まひろ
【聖闘士星矢 冥王神話】3/3
○テンマ/○杳馬/○パンドラ
【魔法少女リリカルなのはシリーズ】3/3
○高町なのは/○アリサ・バニングス/○月村すずか
【天体戦士サンレッド】3/3
○サンレッド/○内田かよ子/○ヴァンプ将軍
【侵略!イカ娘】3/3
○イカ娘/○相沢栄子/○相沢たける
【MW】2/2
○結城美知夫/○賀来巌
【仮面ライダークウガ】2/2
○五代雄介/○ン・ダグバ・ゼバ
【デュラララ!!】2/2
○竜ヶ峰帝人/○折原臨也
【キン肉マン】2/2
○ロビンマスク/○悪魔将軍
【めだかボックス】2/2
○黒神めだか/○人吉善吉
【仮面ライダーSPIRITS】1/1
○本郷猛
【ウォッチメン】1/1
○ロールシャッハ
【Yes! プリキュア5】1/1
○夢原のぞみ
【Vフォー・ヴェンデッタ】1/1
○V

60/60
31 ◆yCCMqGf/Qs :2010/08/11(水) 00:32:54 ID:DVDtTBV4

★分類別名簿

【正義】17/17
○アーチャー@Fateシリーズ
○衛宮士郎@Fateシリーズ
○L@DEATH NOTE
○金田一一@金田一少年の事件簿
○空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険
○黒神めだか@めだかボックス
○五代雄介@仮面ライダークウガ
○高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ
○テンマ@聖闘士星矢 冥王神話
○天馬賢三@MONSTER
○バットマン@バットマン
○東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険
○本郷猛@仮面ライダーSPIRITS
○武藤カズキ@武装錬金
○夢原のぞみ@Yes! プリキュア5
○ロビンマスク@キン肉マン
○ロールシャッハ@ウォッチメン

【悪役】17/17
○悪魔将軍@キン肉マン
○雨流みねね@未来日記
○折原臨也@デュラララ!!
○吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険
○言峰綺礼@Fateシリーズ
○ジョーカー@バットマン
○高遠遙一@金田一少年の事件簿
○蝶野攻爵@武装錬金
○DIO@ジョジョの奇妙な冒険
○パンドラ@聖闘士星矢 冥王神話
○V@Vフォー・ヴェンデッタ
○ポイズン・アイビー@バットマン
○結城美知夫@MW
○夜神月@DEATH NOTE
○ヨハン・リーベルト@MONSTER
○杳馬@聖闘士星矢 冥王神話
○ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ

41 ◆yCCMqGf/Qs :2010/08/11(水) 00:33:42 ID:DVDtTBV4
【一般】26/26
○相沢栄子@侵略!イカ娘
○相沢たける@侵略!イカ娘
○天野雪輝@未来日記
○アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのはシリーズ
○イカ娘@侵略!イカ娘
○ヴァンプ将軍@天体戦士サンレッド
○ヴォルフガング・グリマー@MONSTER
○内田かよ子@天体戦士サンレッド
○我妻由乃@未来日記
○賀来巌@MW
○剣持勇@金田一少年の事件簿
○サンレッド@天体戦士サンレッド
○ジェームズ・ゴードン@バットマン
○月村すずか@魔法少女リリカルなのはシリーズ
○七瀬美雪@金田一少年の事件簿
○ニナ・フォルトナー@MONSTER
○ハインリッヒ・ルンゲ@MONSTER
○人吉善吉@めだかボックス
○平坂黄泉@未来日記
○藤村大河@Fateシリーズ
○松田桃太@DEATH NOTE
○間桐慎二@Fateシリーズ
○武藤まひろ@武装錬金
○メロ@DEATH NOTE
○夜神粧裕@DEATH NOTE
○竜ヶ峰帝人@デュラララ!!

60/60
51 ◆yCCMqGf/Qs :2010/08/11(水) 00:34:23 ID:DVDtTBV4
【実験のルール】

1、【基本ルール】
 実験のため強制的に集められた参加者達は、3つのグループに振り分けられ、各々異なる勝利条件を目指し、48時間を過ごす。

・Hor(正義)グループは、Set(悪役)を全て殺すか、Isi(一般)を助け、ロワ終了時まで一人でも生かしておくこと
・Set(悪役)グループは、Hor(正義)に属する者を皆殺しにすること
・Isi(一般)グループは、ただ時間内生き残ること

 実験開始時に、これらグループに誰が属しているかは明かされない。
 優勝者(たち)には主催の出来る範囲で願いが叶えられる。

2、【首輪】
 参加者の首には首輪が装着され、首輪は以下の条件で爆発し、首輪が爆発したプレイヤーは例外なく死亡する。
・首輪を無理やり外そうとした場合
・禁止区域エリアに入った場合
・ロワ会場から逃走しようとした場合

3、【放送について】
 制限時間は48時間。
 6時間毎に途中経過がアナウンスされる。

4、【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は一部を除き没収。
 支給品として、2日分の食べ物、水に、地図、名簿、メモ用の紙数枚、小さな方位磁針と時計と鉛筆付きのマニュアル手帳がある。
 その他、各作品や現実からランダムに選ばれたもの1〜3個が渡される。


5、【特殊ルール】
・参加者は三人の参加者を排除した場合、特別な報酬を得る権利を与えられる。
・特別報酬は、怪我の治療、物資の補給等の他、他の参加者に危害を加えたり、ロワを棄権する以外の事が出来る。
・詳細は、達成した後に首輪の前の部分を触って確認できる。
61 ◆yCCMqGf/Qs :2010/08/11(水) 00:35:15 ID:DVDtTBV4
【書き手参加ルール】

1.【書き手参加の基本】
・書き手参加をする場合、トリップを使い識別できるようにする。

2.【予約、及び延長期限】
・現時点で予約されていないキャラクター、修正提案期間を過ぎたキャラクターを、SSを書くのに使用したい場合、「予約スレ」にて予約をすることが出来る。
・予約されているキャラクターは、期限内において、予約をした書き手に優先使用権があり、他の書き手がSSに使用したり予約したりすることは出来ない。
・予約期限は 5日間 とする。
・予約期限内に、やむなくSSを完成し投下することが出来ない場合、延長を申請できる。
・延長期限は、2日間 とする。
・予約期限内に延長申請がなかった場合、又、延長期限内にSSを投下できなかった場合、予約されていたキャラクターの予約は解かれる。

3.【修正、修正議論に関して】
・投下されたSSには、24時間の間に、「修正提案」をする事が出来る。内容の不備、矛盾等がある場合、書き手はそれを受けて修正を申請する事が出来る。
・「修正提案期間」の投下後24時間以内は、他の書き手は投下されたSSのキャラクター、展開を引き継いだSSの投下、予約は行えない。
・「修正提案」 が逢った場合、そのSSについて、専用JBBSの「議論スレ」にて、議論を行う。
・「修正議論」は2日間を期限とし、その間に結論が出なかった場合、24時間以内の期限で「トリ出しの書き手による評決」を行う。

4.【その他の留意点】
・序盤など、特に自己リレーは控えるよう気を付ける。
・キャラクターの能力、アイテムなどの制限は、投下されたSS、又はそれらを元にした議論などで決まったものを基準にする。
・みんなで仲良く殺りましょう。

5.【作中での時間表記】
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
71 ◆yCCMqGf/Qs :2010/08/11(水) 00:36:16 ID:DVDtTBV4

本スレのPart1ですので、
OPを張ります
8OP『より強き世界』◇JR/R2C5uDs:2010/08/11(水) 00:37:34 ID:DVDtTBV4
日誌 ロールシャッハ記
 1985年10月12日

 今朝、路地裏で犬の死体を見つけた。
 裂けた腹にはタイヤの跡が付いていた。
 この世界は俺を恐れている。
 素顔を覗いた俺を。

 この世界はドブも同然だ。
 人の血が流れるドブだ。
 いつか下水道が溢れれば、クズ共は全員溺れ死ぬだろう。

 そして、今日。
 それが起こった。


 そのとき、俺が居たのは、ドブの底だった。
 暗闇には慣れている。慣れているが、それは完全な闇だった。
 つまり、光がまるで無い、完全な闇。

 此処は何処だ? 
 何故こんな所に?

 顔を触ると、そこには俺の顔があった。紛れもなく、俺自身の顔。ロールシャッハの、世界を映し出す顔。
 衣服にも問題はない。いつものコートに、いつもの帽子。
 装備を確認するが、いくつか無くなっているように思えた。
 だがそれをきちんと点検するよりも先に、全てが白く染め上げられた。

 光。
 光と言うものがこれほど暴力的だと言うことを、クズ共はよく知っているだろう。
 容易く、いとも残酷に、薄っぺらな己の姿を暴き立てる。
 俺も知っている。誰よりもそれを知っている。
 真の闇から一転して、そこは完全な光の世界となった。
 声がする。
 地獄の底から響くかの様な、と表現するのは、余計な虚飾だ。
 ドブの底の、さらなる底から、吹き出した声。
 ただそれだけだ。

9OP『より強き世界』◇JR/R2C5uDs:2010/08/11(水) 00:38:30 ID:DVDtTBV4
◆◆◆

 身体が少し揺れた。
 何かが、彼にぶつかったのか、或いはただ振動が伝わったのか。
 ハ、っと息を呑む。
 まぶしい。
 目が慣れるのを待つよりも、慌てて辺りを見回す。
 人。人。人。
 人が居る。人に溢れている。
 次第に慣れてゆく視界の中、一様に、呆然とした、或いは不安げな表情の人の群れ。
 どれほどの人が居るのだろうか。
 見回すが、壁一面、天井一面、そこかしこにある柱など、全面鏡張りのようになっている。
 光と鏡像が乱反射し、人の数どころか広さすら分からない。
 手を見る。
 汚れていない。
 人工的で無機質な、白と黒と灰色の石材タイルの床は、滑らかで真新しく、汚れも傷も無い。
 素材も造りも分からないが、ただそれが、見たこともないほど完璧な人工物であることだけが分かる。
 ひとまずはそのことから、ヴォルフガング・グリマーは一つ、理解する。
 "正義の味方・超人シュタイナー"は、現れてはいない。

 その壁が、急に様々な光景を描き出した。
 周りからのざわめき。どよめき。或いはその中に、自分の声も入っていたかも知れない。
 鏡面部の一部、半分以上の面が、ある種のモニターの様になっているのか。
 しかし主観的には、自分達が一瞬にして別の空間へと移動したかにすら思える臨場感。

 次々と切り替わる、様々な映像。様々な光景。
 音は無く、ただ映像だけが流されている事が、唯一それを、「目の前で起きている現実の光景ではない」 と理解させる。

 漠とした意識に、その映像の意味が次第に入り込んで来る。
 血。銃。刃。爆発。
 撲殺。絞殺。刺殺。銃殺。
 或いはもっと、意味も手段も分からぬ、様々な死。
 或いはまるで、ハリウッド映画のような特撮映像であるかの破壊の様。

 感情も無く、呆然とそれを見ながら、その中に自分の姿がないことをグリマーは願っている。


『突然のことで戸惑っているかもしれないが…』

 声が響いた。
10OP『より強き世界』◇JR/R2C5uDs:2010/08/11(水) 00:39:24 ID:DVDtTBV4
『単刀直入に、言おう』

 空間に。或いは、意識のひだに。
 その声は甘く柔らかなようで、また、ある種の抗いがたい威厳の様なものを備えていた。 

『君たちには、ある実験に協力して貰いたい』

 機械的に加工されているのか、性別も年齢もうかがい知れぬ。
 それなのに、一つだけ明確に分かる。 

『そんなに難しい事じゃあない。
 ちょっとした殺し合い、だ』

 この声の主の、危険性が。

 グリマーは思い出す。
 511キンダーハイムの事を。
 実験の元に集められた子ども達のことを。
 そして、そこで起きた、悲劇のことを。
 グリマーは思い出す。
 震えながら、超人シュタイナーの助けを待っていた、小さな子どものことを。

◆◆◆

「殺し合い…だと?」
 思わず声が漏れる。
 無意識に漏れたその声に、自分自身がまず驚いて、慌てて口をふさいで辺りを見る。
 様々な色、様々な光景が踊る奇妙な部屋の中、ざわめく人の群れは、そんな夜神月にはまるで注意を止めた様子もない。
 反応はそれぞれに異なっている。
 不機嫌そうに唾を吐く者。
 能面の如き白く整った顔に、皺一つ浮かべずにいる者。
 或いは ――― 楽しげな者。
 人種も風体も千差万別で、明らかに日本人ではない者も、仮装パーティーか何かから現れたような妙な恰好の者も居る。
 危険だ。
 月の中で、警告音が鳴っている。
 此処にいる者達は、危険だ。
 デスノートを使い、完全なる世界秩序を目指す新世界の神。
 その中で、多くの経験をしている月は、おそらくはごく普通の一般人よりも、人の奥底に潜む危険性を見抜くだけの経験と観察力がある。
 鏡張りの部屋の、全ての者達を見て取れるわけではないが、この中にいる者達は一様に、「尋常ならざる」 ものがある。
 そう感じる。
 意識が戻ってすぐに確認した事。今ここに、デスノートも無く、自分にだけ見える死神リュークも居ないという事実が、月の上に重くのしかかる。

『…とは言え』

 言葉が続く。
 姿もなく、どこから聞こえるかも分からない。
 相変わらず陰惨な光景を描くモニターや、磨き上げられた鏡だらけの壁や天井に、スピーカーらしきものが取り付けられている様にも見えない。
 だとしたら、壁の中に内蔵されているのだろうか?
 その声には、聴く者の意識を強引にもぎ取り、引き込むかのような圧倒的な力が感じられた。
11OP『より強き世界』◇JR/R2C5uDs:2010/08/11(水) 00:40:44 ID:DVDtTBV4
『ちょっとしたルールがある。
 細かいことはまたあとでマニュアルでも読んで貰えばいいが、最も大事の事をここで述べておく』

 事務的な、或いは機械的な声。
 それなのに、それがただの冗談のように思えないのは何故だ?
 月の脳内では、警告音が最大となり鳴り続けている。

『君たちは3つの属性で分類されている。
 それぞれの分類で、勝利条件は異なる。
 名前を教えておこう。
 Hor、Isi、Setの3つだ』

◆◆◆

『Horグループは、Setを全て殺すか、Isiを助け、実験終了時まで一人でも生かしておくこと』

 黒衣の男。
 荒ぶる獣性を魂の内に秘めた、ゴッサムの闇の騎士が、口を真一文字にしたままそれを聴く。

『Setグループは、Horに属する者を皆殺しにすること』

 仮面舞踏会に赴くが如き、けばけばしい蝶のマスクをつけた蒼白い男が、不機嫌そうに口元を歪ませる。

『Isiグループは、ただ時間内生き残ること』

 艶やかな長い金髪を揺らしながら、まだ幼さとあどけなさを残す聡明な少女が、小さく息を呑む。

『君たちがどのグループに属しているかは、今は教えない。
 それらを解き明かすことも、実験の内だ』

 笑い声が響いた。

◆◆◆

 HA  HA  HA  HA  HA
   HA  HA  HA  HA  HA! 

 まるで壊れた玩具のようなけたたましく甲高い哄笑。
 静かにざわめく部屋の真ん中辺りに、スポットライトの如く光が集まり、痩せた男が浮かび上がる。
 紫のスーツに、白粉を塗りたくったような真っ白な顔。髪の毛は緑色に染められ、顔は長く、口元は裂けたように広がっている。

「こいつは面白ェ。
 リドラーのパズルよりは上等なゲームだぜ。なあ、ミスター・クエスチョン?」

 自然と、周りにいた者が少し避けた。

「だが…」
 男の声音が変わる。
「俺はプロデュースをするのは好きだが、されるのは性に合わねぇ。
 特にこんな、FOXでも扱わねぇような三流の企画じゃあな。
 ホープ・ビーチのコメディクラブだって、もうちっとはマシな脚本を書くだろうよ。
 こんなのじゃあ会場大爆笑ってわけにゃあいかねぇぜ」

『ああ、そうだ。これじゃまだ足りない』
12OP『より強き世界』◇JR/R2C5uDs:2010/08/11(水) 00:41:51 ID:DVDtTBV4

パっ、と、一面のモニターが切り替わり、瞬間的に様々な顔が映し出され、消えた。

 ざわめき、驚きの声、怒り、悲鳴。
 大きくはないが、少なからぬ反応。

『今のは、今回の実験の参加者全てだ。
 知っている人間は居たかい? 想い人は? 憎い敵は?
 家族、親友、恋人は?』

 緑の髪をした道化が、軽く眉根を寄せていた。
 誰かが、見覚えのある誰かが居たのかも知れない。

『それと、勿論ただでやれと言うほど、ケチじゃない。
 実験が終了し、勝利した暁には、報酬もある』

 モニターがさらに切り替わる。
 冨、権力、愛情、名声…。
 そこにある数多の映像の中に、それぞれの参加者にとって意味のあるであろう何か ――― そしてそれはおそらく、その当人にしか分からないような何か ――― が映し出されている。

『罰もある』

 また映像が切り替わる。
 最初に映されていたのに近い、またも無数の人間の姿。
 だがその全てが一瞬にして、首から爆発して、無惨な屍と化した。

◆◆◆

『この映像の中で、彼らがつけているのと同じ様な首輪を、君たちにもつけて貰っている』

 手をやる。
 野太い首元に、冷たい金属の感触。
 今まで気がつかなかったことが不思議なほど、それは急に重たい存在感を示す。
 或いは、今その瞬間に、不意に現れたかの様に。

 警視庁刑事部捜査一課の警部である剣持勇は、悲鳴や嗚咽の聞こえる室内を見渡す。
 先程のモニターで示された、「全参加者」の中に、知り合いの少年探偵、金田一一と、その友人の少女、七瀬美雪の顔が映っていたように思えたからだ。

『この首輪は、実験場から逃げだそうとしたり、立ち入り禁止区域に入ったり、期限内に最終的な勝利条件を満たせなかったりしたときに、爆発させることになっている。
 或いは、それを外そうとしても同様だ。
 勿論、そんな事はしたくない。それじゃ実験の意味がない。
 他にもこの首輪にはちょっとした不可効果があって、主に全体のバランス調整に使われるのだが ――― それは、自身で確かめて欲しい』

 実験。
 繰り返し発せられるこの言葉に、剣持は言いようのない不吉さを感じている。
 現時点での主犯の行動は、拉致、監禁、及び傷害…。
 薬品などを使って昏倒させ連れ込んだのか、殴りでもしたのか。ここに至る前後の記憶がなく細かいことは分からない。
 流されている映像は本物か? 特撮やCGでは無いと言えるか?
 分からない。
 分からないが、数多くの犯罪者、殺人鬼…例えば高遠の様な、異常な犯罪者達…を見てきた剣持には、この主犯が尋常ならざる精神構造をしているだろう事が察せられる。
 例え、あの映像が本物でなかったとしても、きっとこいつは、殺しうる。
 内心の焦りが、表情に出るのも構わず、金田一達を見つけようとするが。
 それから ――― 視界が歪んで ―――。
13創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 00:48:21 ID:FysdVmV3
さるさん?
14OP『より強き世界』◇JR/R2C5uDs:2010/08/11(水) 00:48:55 ID:DVDtTBV4
◆◆◆

「残りの細かいことは、君たちの手荷物に入れたマニュアルを参照して欲しい。
 食べ物や地図や名簿、それと便利な道具などもあるから、粗末にしないように。
 以上、健闘を祈る」

 足元から透けて見える、階下にあった、それぞれの空間に居た者達は、最後の言葉を聞くか聞かぬかのうちに、全てそこから消え去っていた。
 残るのはただの、静寂。

 黄金に耀くその室内には、これもまた巨大なモニターがあり、それぞれに異なる場所の映像が映っている。
 下にあった無機質な空間と異なり、華美な装飾があちこちに施されているが、その意匠にはある共通項がある。
 古代エジプトをモチーフとしたものだ、という事だ。

 男はインカムを外して、小さく息を吐く。
 金髪碧眼の整った容貌に、しなやかな肉体。
 それを包む衣装も又、華美で鮮やかだ。
 そう、まるで、スーパーヒーローのように。

 テクノロジーの粋を集めて作られたかのようなコントロールルームの背後には、それとは不似合いな祭壇があり、3種類の神像が祭られている。
 真っ白な大理石で作られた、隼の頭部を持つ太陽神、ホルス。
 灰色の石灰岩で作られた、豊穣の女神、イシス。
 漆黒の黒曜石で作られた、犬の頭部を持つ、嵐と戦争と災厄の神、セト。
 その祭壇には、同様に白、黒、灰色の、各々の神像に対応した色の駒が並べられている。
 それは神々への供物か、或いはまた別の何かを現すのか。

 ここは、王の居室であった。
 ラムセス二世。
 又は、エイドリアン・ヴェイト。
 或いは、オジマンディアス。
「地球で最も利口な男」の、孤独の要塞である。

 アナウンスも終わり、もはや語ることもない今、それでもどこからか小さく声がした。

「タキオンの…せいで…未来が…不確実性…の…何が起こるか…見通せない…」

 うっすらと、青白く光るその空間に、ただ小さな呟きが響く。
 その声を聴きながら、ヴェイトは小さく返した。

「君が本物ジョンならば、こんな実験などする意味も必要も無いのだろうな」

 孤独の要塞で、その声に答える者も返す者もなく、ただ静寂のみが支配していた。
15創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 00:49:45 ID:2Twc7cHE
支援
16創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 00:50:00 ID:FysdVmV3
しえん
17OP『より強き世界』◇JR/R2C5uDs:2010/08/11(水) 00:50:56 ID:DVDtTBV4
◆◆◆

 軽い目眩と嘔吐感が、何に由来するするのかといえば、おそらくは先程自分の身に起きたこと、つまり、瞬間移動だ。
 あの部屋から、一瞬にしてこの場所に移動している。
 原理や、真偽はどうとも問えない。ただ結果を見れば、これは瞬間移動と言うことになる。

 辺りを見回すと、足元にバックパックがあり、その中に小さな手帳があった。
 『実験の手帳』 と表書きされたそれは、厚めの革表紙で、そこに小さな方位磁針と時計が埋め込まれており、細いチェーンで鉛筆まで付いている。
 中には、折りたたみの地図と、名簿と、メモ用の無地が数枚。そして、「マニュアル」。

 曰く、「制限時間は48時間。6時間毎に途中経過がアナウンスされる」
 曰く、「途中経過の報告毎に、エリア内に禁止区域が出来る。これは、人数の減少を加味したもので、この禁止区域に入れば、首輪の爆破による止む得ない処分がある」
 曰く、「実験促進のため、参加者は三人の被験者を排除した場合に、特別な報酬を得る権利を与えられる。特別報酬には、怪我の治療、物資の補給等の他、他の被験者に危害を加えたり、実験を棄権したりする以外の事が出来る。
     詳細は、達成した後に首輪の前の部分を触って確認すること」
 曰く、「バッグの中に何らかの支給品がある。2日分の水と食料。それと、身を守り、目的を達成するのに使えるかもしれないもの。
     それらを使い、知恵と勇気を振り絞って、奮闘して貰いたい」

 確認する。
 それ、はしっかりと手に握られる。
 それ、は死をもたらすものか。
 それ、は助けをもたらすものか。
 或いは。

 音がする。
 気配が。
 人?
 誰か、他の誰かが近くにいるのか?
 グループ分け、という言葉が脳裏を過ぎる。
 助けること。殺すこと。生き残ること。
 自分は、何をすれば良いのか?

 音は次第に近づいてくるように思え、手の中のそれが存在感をより強くする。
 そして ―――。




『より強き世界となる。
 より強き、愛ある世界となる。
 我らはその中にて死す』

       ― ジョン・ケイル
181 ◆yCCMqGf/Qs :2010/08/11(水) 00:52:29 ID:DVDtTBV4
以上で
テンプレ張り&OP再録

は終了です。
支援を感謝します
19創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 00:53:26 ID:FysdVmV3
>>1乙です
20創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 00:54:11 ID:2Twc7cHE
一乙
21創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 00:54:22 ID:AdZNaVTw
>>1
22創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 00:54:57 ID:FysdVmV3
あ、あげてもたw
23創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 00:56:48 ID:2Twc7cHE
>>22
ドンマイw
24創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 01:23:04 ID:zDbZ0vDe
1乙!相変わらず頼れる1さんだ( * )∀゜)
これまでのお話を貼る案があったがさるさんあるしWiki見れ、でいイカな?
予約状況は延長絡んで複雑なんでいっぺん向こうで整理してからここに貼る、ってところでイカがか
25創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 01:49:03 ID:FysdVmV3
さすがに量が多いからWikiを見てねでいいと思う
26創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 09:51:24 ID:DVDtTBV4
本郷猛
DIO
人吉善吉
夜神粧裕

代理投下します
拝啓、お母さん。
お元気でしょうか? 僕は元気です。
箱庭学園に入学して早数カ月、ようやく僕も学園生活に馴染み始めた頃です。

幼馴染のめだかちゃんは相変わらずで、支持率98%、どこの独裁者だ、ってレベルで生徒会長に就任しました。
めだかちゃんも変わらず元気です。元気すぎるぐらいです。

ついこの間も、箱庭学園で秘密裏に進められていたされていた世にも恐ろしい『フラスコ計画』。
天才がどうして天才なのかを解明し、人道的に天才を作り出すなんてびっくり計画です。
そしてその実態は全生徒を犠牲にしたうえでの、天才の開発。

勿論めだかちゃんがこんなものを放っておくわけがなく、てんやわんやの大乱闘。
死闘に苦闘を重ねて、なんとか首謀者を一網打尽。
めだかちゃんは悪党からの『ごめんなさい』が聞けて大満足。
これにて一件落着、という刺激的な学園生活に僕も非常に充実感をおぼえています。

さて、ここまで書いて懸命なお母さんならこう疑問を抱かれるかもしれません。
『どうしてあのドラ息子がわざわざ手紙なんてものを書いてるのだろうか?』、と。
事件が無事に終わって生存確認? 母親を心配させまいと安全確認?

違います。
お母さん、俺はどうやらとんでもないものに巻き込まれてしまったようです。
そう、それこそ『フラスコ計画』なんて目じゃないほどの、もっとはっきりとしていて、それでいてとんでもない『実験』に。

お母さんへ。
私、人吉善吉は今、『殺し合い』に巻き込まれています。







「ハァ……ハァ……ハァ……!」
「くそ、なんだっていうんだよ、いきなり……!」
月がちょうど頭の上を過ぎていく時間、真夜中。
たださえ一面真っ暗なか、覆い茂る森が辺りをさらに暗くする。
そんな中を走っている一組の少年少女。状況が状況ならば、ロマンチックなワンシーン。

だが違う。二人の間に流れる空気が違う。
ラブもロマンスも、ファンタジーやメルヘンもない。
汗をたらし、歯を食いしばり、全身を動かし一歩でも前に。

必死の形相、という言葉がぴったりな二人は走っていく。
暗闇の中、どこへ行くのかもわからずただ我武者羅に。
二人の荒い呼吸音、少年が後ろを振り向き舌打ちをする音、芝生を踏みしめ疾走する音。

「ああッ!」

ふいに少女の体が宙に舞う。暗闇の中、突き出た木の根に足を取られバランスを崩したのだ。
宙返りする視界、反転する月。恐怖のあまり彼女は目をつぶる。

だが予期していた痛みも衝撃もない。
やわらかく、しなやかなクッションに支えられているような感触に、恐る恐る目を開く。

「よっと、大丈夫か?」

気がつけば少女は少年の腕の中で抱きしめられていた。俗に言う『お姫様だっこ』というやつである。
そしてそのままなにごともないかのように全力疾走を続ける少年。
自分のおかれている状況と、自分をモノともせずに走り続ける少年の凄さに目を白黒させる少女。

「あー、こっちのほうが早いかな、って思ってな。それに粧裕ちゃんもこっちのほうが楽だろ?」

少女は黙って頷いた。恥ずかしいのか、照れくさいのかそのまま顔を下に向ける。
人吉はそんな少女をみて苦笑いを一瞬だけ浮かべるも、すぐさま視線を前に向ける。
とりあえずの目標は『アイツ』からできるかぎり離れること。
それも一秒でも早く、一センチでも遠く。

「!」
「……ッと!」
だがいつのまにか善吉たちが辿り着いて『しまった』のは森のはずれ。
木の切れ目を前に急ブレーキ、広がる平原は彼らにとって大誤算。
善吉は即座に反転、再び森の中に駆け込もうとする。

(こんな開けた場所じゃ良い的だ! それに隠れる場所もない!)

再び駆けだす善吉。だがその足はほんの数秒で完全に止まる。
急ブレーキ、そして再スタート、さらにまたもやブレーキ。
腕に抱かれた状態で俯いていた粧裕は訝しげに顔をあげる。

その額にぽとりと一滴の水滴。
それは善吉の額を伝い、顎から流れ落ちた汗。

粧裕は感じ取った、善吉の震えを。そしてその震えは『恐怖』からの震えであることも。
うっそうとした森の奥から、人影が一歩、また一歩近づいてくる。
なのに善吉は動くことができなかった。そしてそれは粧裕もだった。

くるぶし程度の芝を踏みしめる音。
冷たい夜風が森を揺らし、木の葉と木の葉がサァ……と音を立てる。
男と善吉たちの距離、およそ10メートル。

二人は動けない。蛇に睨まれた蛙、頭をよぎったのはそんな言葉だった。
男がさらに一歩踏み出す。その男を木の間から覗いた満月が照らしだした。

「君たちは……『採食主義者』と聞いて……どんなことを考えるかな?」

男は美しかった。
スポットライトかのように照らし出された姿はまさに芸術、そう思えるほどだった。

氷のように鋭く冷たい視線、黄金色の頭髪、ガラス細工のような透明感のある肌、そして妖しい色気。
身に纏う黄色の衣装は不思議と違和感を感じさせない。
丁寧に織り込まれたものはさぞかし値段の張るものであろう。

「菜食主義者の彼らは随分と味気ない人生を送ってるように思えないかな? 食べることは生きることだ……。
 生きる楽しみの一つである食、それを自ら制限するというのだから、彼らを変り者とは言えないだろうか?」

なにげないしぐさひとつひとつが様になる。男は微笑を浮かべると脇にある木に寄りかかる。
そんな姿でさえ、まるで一種の絵画的な美しさがあった。

「だが私はこうも思うんだよ。
 つまり彼らにとっては『食べないこと』が当たり前であって『食べないこと』が幸せに繋がるのではないか、と……。
 こう考えると納得はできないかね?
 そしてこうも思う。『当たり前の食事をとる』、こんな異常事態だからこそ私もそんな幸せを楽しみたいな……と」

一段と強い風が通り抜ける。木を揺らし、草を揺らし、そして二人の心さえ揺るがした。
一瞬で雰囲気が変わったのを善吉は肌で感じ取った。
ノーマルの直感だ。目の前のコイツは……とんでもないものだ。
ゆっくりと、視線を男から切ることなく、粧裕を地面に下ろす。
かばうように前に立ちはだかると、カラカラに乾いた唇を湿らせ口を開いた。

「何が言いたいんだ、アンタ。このふざけた実験が始まった直後から俺たちを付け回しやがって、挙句の果てに『菜食主義者』がどうのって……」
「フフフ……それは失礼した。このDIOとしたことが……まさかばれてるとは思わなかったのだがね」

よく言うぜ、善吉は小さくつぶやく。
きっかけはなんでもなく、またなんでもあるものであった。

この殺し合いに巻き込まれて、善吉が最初に出会ったのが粧裕だった。
見たところ14,15歳程度の少女。恐怖のあまり震えていた彼女を善吉は放っておくことができなかった。
それは彼からしたら当然のことであった。
恐怖に震える少女を保護する。それは彼にとっての『正義』であった。

恐怖に脅える粧裕に対して、自分が害を加える意志がないことを善吉は示す。
時間はかかったもののなんとか粧裕を落ち着かせることには成功した。

そして二人で現状の確認、知り合いの有無をチェックしようとしていた時だった。
生物としての本能、粧裕に説明する暇もなく、逃げざるを得ない何かを善吉は感じ取ったのだ。
手をとり、粧裕と一緒に走り出した善吉。わけもわからず、ただ逃げる粧裕。
そして今に至るというわけだ。

「そうだ……DIO、それが私の名前だ。これもなにかの縁だ……どうだい、君の名前を教えてはもらえないかね?」
「……人吉善吉」
「善吉君……フフフ……正直に言おうか、私は君に魅かれている。なぜだがわからんが、そうだな……君とは『イイ友達』になれそうだよ」
「……俺はそう思えないけどな」
「恐れることはないさ、友達になろう……。それに君もそれを望んでるのだろう? なにせ君は私のために御馳走を用意してくれたのだからな……!」
「お前なにを言って……!?」
「ンン〜〜、やはり君はおもしろい。このDIOがこんなにも饒舌になってしまうとは……我ながら驚いてるよ。
 100年……伊達に長くは生きてないが、それでもこんな風に初対面の誰かに、このDIOが僅かでも心を開いてしまうとは……!」

ジャリ、と音を立てDIOが一歩前に出る。反射的に二人は一歩下がる。
本能の部分で二人はDIOの危険性を感じ取ったのだ。そんな二人を前にDIOはさらに笑みを深める。

「善吉君……ひとつ、提案しよう。今すぐ私に『食糧』を提供してくれないかな? そうしてくれたなら私は君に手を出さないことを誓おう。
 だが君がそれを拒否するというならば……それはお互いにとって残念な結果になってしまうだろう。
 そう、後ろに隠れている彼女にとっても、ね。」
「お前は一体……」
「俗に言う『吸血鬼』というやつだよ、善吉君。私としては『人間を超越したもの』と言って欲しいがね」
善吉は決して馬鹿ではない。DIOの言葉の意味も、そしてその異常性も理解してる。
後ろに隠れている粧裕を横目で見る。恐怖で震え、顔は今にも倒れそうなほど真っ青だ。
再び視線をDIOに戻す。DIOと善吉たちの距離、およそ7メートル。
再び二人の間を風が通り抜けていく。その風にまぎれて善吉が何かをつぶやいた。

「つまり……粧裕ちゃんを差し出せ、ってことか?」
「話が早くて助かるよ、善吉君」

DIOは嬉しそうに微笑を浮かべた。善吉の表情は読めない。
自分の無力さを噛みしめているのか、狩られる側の恐怖におびえているのか。
手を広げ差し出された生贄を受けてろうとにじり寄るDIO。

「でも断るッ!」
「ッ?!」

だが不用意に近づいたのは間違えであった。それ以上にDIOは人吉善吉という人物を見誤っていた。
返事代わりの足蹴りがものすごいスピードでDIOに迫る。
かわせない、すくなくとも人間では反応できない速度だ。

善吉の足に衝撃が走る。決してそれを止めてはならない。このまま押し切らなければ……負ける!
原形をとどめまい、そんな気迫のこもった嵐のようなラッシュ。
右から左へ、左から右へ。善吉の持てる限りの力を振り絞った攻撃だった。

やがて立ち上っていた砂埃がおさまる。肩で息をする善吉は確かに手ごたえを感じていた。
足の裏に走った何かを折るような感触、そして鈍い衝撃音。
男から滲み出る異常性はめだか以上だった。それでもある程度はダメージを与えることができただろう。

「なっ……!?」

それが直撃していれば、だが。

「残念だよ……善吉君。君とは仲良くやってけると思ったのだがね……」

目の前には真っ二つに折れた大木。ついさっきまで森の入口にいたはずが内部深くまで移動してる。
一瞬前、時間にして0.001秒前、確かにDIOに一撃を当てたはずだ。
だが現実は違った。蹴ったものただの木、移動したのは自分。
そして振り向いた先、自分がついさっきまでいた地点にはDIOが、そしてそれと……

「ンン〜〜……前菜としては充分じゃないか! 200年物のワインのように濃厚な! とはいかないが……年相応のまろやかさがある。
 例えるなら、そう、これはモーニングコーヒーに似た一杯だ。君たちからしたら夜だが…私は夜とともに目覚めるのでね……フフフ!」
首筋に爪をつきたてられた粧裕。否、粧裕だったもの。

「うわあああああああああああああ!」

冷静さを失った一撃はまたも直撃した。DIOではなくまたも木に。
音もなく、またも超能力のように自分の居場所が変わっている。
そしていつの間にか背後に回ったDIOが、優しく肩に手を置く。

「可哀想に……震えているじゃないか。脅えなくていいんだよ……君はまるでどぶに捨てられた犬のようだ
 そんな君にもう一度だけチャンスをあげよう。私の友達になる気はないかな?
 なにも考えなくてよい……ただ私を信頼してくれ。それだけで君は楽になれる。そう、それを人は『幸福』と呼ぶんじゃないか?」
「……!?」
「さぁ、善吉君。力を抜きたまえ……私たちはもう友達だろ? そんな緊張する必要はないさ」

甘い声でささやくDIO。仕上げまでもう少しかと判断し、もう一押ししようとさらに口を開いた。
だがそこでDIOは違和感を感じ取った。
自分を照らしていたはずの月が陰っている。まるでなにかが光を遮ってるかのように……!

「ヌウ……!」

見上げた先にいたのは一人の、いや、ひとうの弾丸。
月を切り裂き、みるみる間に影は大きく、そして素早くDIO目掛けて加速して……

「ライダァアアーーー! キックーーー!」

善吉が巻き上げた以上の砂埃が立ち込める。善吉は衝撃に吹き飛ばされ、思わず尻もちをついた。
飛んできた飛来物の衝撃は凄まじく、直径2m弱のクレータが出来上がっていた。
そしてその中心に、月の光を反射し立ち上がる怪人が一人……。

「大丈夫かい、少年?」

そしてその目をもう一人の怪物へと向けた。
さきほど同様にいつの間にか善吉の脇をすり抜け、月を背に立ちはだかる男、DIOへと。

「このDIOの朝食を邪魔するとは……貴様、何者だ?」

善吉は見た。DIOの脇に搾りかすのように投げ捨てられた粧裕だったものを。
そしてそれを一瞥した目の前の怪人が悔しさに握りこぶしを震わせていることを。
怪人が視線をDIOへと向ける。その視線が鋭くなったのを善吉は感じる。
そして怪人が胸を張り、背をシャンとのばし大声で叫ぶのを聞いた。

「仮面ライダー、力なき人々を助ける……正義のヒーローだッ!」

その声を聞いただけで善吉の中に安堵が広がる。
その男、まさしく正義のヒーローにふさわしい男だった。




【夜神粧裕@DEATH NOTE 死亡】
【C-6 /森と緑地の境目:深夜】
【本郷猛@仮面ライダーSPRITS】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [思考・状況]
 基本行動方針:仮面ライダーとして力なき人々を守る。
 1:少年を保護、目の前の男を倒す。
 [備考]
 ※参戦時期は次の書き手さんにお任せします。

 【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康+粧裕の血液
 [装備]:
 [持物]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [方針/目的]
  基本方針:帝王はこのDIOだッ!
  1:とりあえず食事を邪魔した輩を処分する。
  2:善吉に妙な親近感
 [備考]
 ※参戦時期は次の書き手さんにお任せします。
 
 【人吉善吉@めだかボックス 】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [持物]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [方針/目的]
  基本方針:???
  1:???
 [備考]
 ※参戦時期はフラスコ計画終了後です。



善吉は気づかなかった。自分が安堵したのは正義のヒーローが現れたからではない。
そう、善吉が安心したのこれ以上DIOと話さないで済んだからである。
DIOは何人もの部下を持ち、悪の救世主と呼ばれるほどのカリスマを持った男である。
そう、無意識のうちに二人は魅かれあっていた。
何者であろうと友達に『なってしまう』人吉善吉。
彼はDIOのカリスマ性を垣間見ていたのだ……。だがそれがこれから二人にどう影響を与えるのか。
それはわからない。
ただ悪も正義も関係なく、友達となる人吉善吉。
彼ははたしてノーマルと言えるのであろうか?
代理投下終了です
35創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 13:14:11 ID:kG5Qfp3Y
めだかBOXは最近の新シリーズまで流し読みだったので、善吉の能力を知ったばかりだけど
DIOの悪のカリスマと互いに惹かれ合うってのは面白い。

参加者に自分の属性が知らされていないってのが効いてきそう。
36創る名無しに見る名無し:2010/08/11(水) 18:14:07 ID:Rq8bcwA7
投下乙です

善吉の能力とDIOの悪のカリスマが惹かれあうとかこれはどうなるんだろう
DIO以外の悪党にはどうなるか、DIOに惹かれ始めた善吉はどうなるか
そして本郷さんVSDIOか。これは好カードだ
よかったです

粧裕は南無w
37 ◆John.ZZqWo :2010/08/12(木) 08:45:54 ID:V3tx4BJw
ロールシャッハ、L を投下します。
38Monochrome clearness  ◆John.ZZqWo :2010/08/12(木) 08:46:48 ID:V3tx4BJw
ヒーローってのはスーパーパワーがあるとか、コスチュームを着てるって事じゃない。
自らの意思でもって世界を良くしようと戦う人々の事を言うんだ。


     ,,,〓)


深い海の底の様に黒に限りなく近い青色。そんな色の夜空に煌々と、
遥かな過去も、遠い未来にも、その姿を変えぬ真っ白な月が円を描いてぽっかりと浮かんでいた。
そんな月から降り注ぐ白い光に街の中にある様々は影を押し出され、それぞれのシルエットを浮かび上がらせる。

何に濡らされたのかじめじめとした黒い路面には誰かが落としていった片方だけの靴が転がり、
消火栓の上に被さった新聞紙がカサカサと虫のような音を立てている。
そして、そんなものに気を取られていれば路上にばら撒かれた酒瓶の欠片を踏みかねない。
避けて道の端へと寄れば側溝からは鼠の糞の匂いが立ち昇り、
顔を背ければそこには破けたゴミ袋から猫の死骸が顔を覗かせていた。
錆びついた金網がゲタゲタと悪魔の様に笑えば、割れたままのガラス窓が悪魔の牙をカチカチと鳴らす。

酔いを醒ますには最適で最悪な、気分が悪けりゃ便所の変わりにだってなる腐れきった路地。
そこに”ロールシャッハ”はいた。

着古して染みだらけのトレンチコートに、同じ薄茶色のソフト帽。
それだけを見ればなんてことはない。少しばかり時代錯誤な、パルプ誌の中のスパイか探偵の格好をした男でしかない。
だがしかし、その男の”顔”は異質だった。

目も鼻も茫洋と定かでない白地の上には何とも言い切れぬ、まるでインクを零したかのような黒い染みが浮かんでいる。
そしてその染みは彼の表情を表すかのように、しかし余人には決して想像できぬ形を持って度々形を変えるのだ。
これが、彼の”顔”だった。この怪人物こそがロールシャッハであった。



「HURM.」

溜息とも何かの確認とも取れる奇妙な嗄れ声を吐き、男は手にしていた手帳を閉じる。
なにやら年季の入った手帳にはとても後で読み返せそうもない字で何かが記されていたのだが、どうやらメモか日記らしい。
本人としては納得がいったのか、ペンを挟むと手帳を懐にしまいこんだ。

次に男はしゃがみこむと、傍に置かれていたボーイスカウトが背負っていそうバックを無遠慮に開き、中身を確認しはじめる。
どうやら中身についてもそれはボーイスカウトが背負っているバックに入っていそうな物ばかりのようだ。

一冊の新品の手帳。ルールブックを兼ねたそれをパラパラとめくり、一通り確認するとバックの脇に置く。
水の入った透明のボトルに、紙ではなくビニールでラッピングされたパン。
色付の地図に、奇妙な名前の羅列された名簿。何の変哲もない方位磁石に、最新の時計。
その他諸々。ひとつずつ確認すると脇に置き、全て確認し終えると彼はバックから出した全てをそのままバックに戻した。

取り立ててすぐに使う物はなかったらしい。バックの口をきつく縛ると彼はそれを肩にかけて立ち上がった。
と、ここで彼は胸元に手を当て、友人から貰った武器(ワイヤーガン)がなくなっていることに気づいた。
他にもなくなっている物はないか――もっとも、手帳とワイヤーガン以外に元々たいした物など所持していないが、
彼はコートのポケットにひとつずつ手をつっこみ確認する。
どのポケットの中も綺麗に空っぽになっていた――いや、何かの感触が手袋に触れた。

取り出してみればそれはスマイリーフェイスの缶バッチだった。
50セントもしない、今時おまけにもなりやしないそれには黒ずんだ血がこびりついている。
”コメディアン”と呼ばれた男の血である。彼の死がロールシャッハにとって今回の事件の発端だったのだ。

マスクを被り(身元を隠し)、犯罪者の前に現れては既存の法を無視し独自の判断で成敗するヒーロー(怪人物)。
30年代に現れ始めた彼らの中、その黎明より活躍していたひとりがコメディアンと呼ばれる男であった。
同じくコスチュームヒーローであるロールシャッハとは仲間という間柄にあった男だ。
39Monochrome clearness  ◆John.ZZqWo :2010/08/12(木) 08:48:06 ID:V3tx4BJw
実感としてはつい先ほど、今現在巻き込まれている奇妙な事態に遭遇する直前にロールシャッハはバッチを拾った。
コメディアンと呼ばれる男の遺品。無論、勝手に拝借したのだが、そこには弔いの精神よりも先に何かきな臭い予感があった。
彼は何者かによって殺されていた。ならば他のヒーロー達も狙われるかもしれない。
予感に従い、ロールシャッハは友人宅へと足を進め――その途中でこの奇妙な事態に巻き込まれたのである。

コメディアンの死と今回の奇妙な事態。そこに因果関係はあるのか。それはまだはっきりとしない。


     ,,,〓)


チカチカと明滅する壊れかけの街灯に誘われるように、ロールシャッハは深夜の街を当て所なく歩く。

ゴミと汚物に塗れた通りは不潔で汚い。だが今は、ある意味で清潔で綺麗であった。
ここには下品(そのまま)な言葉でしつこく呼びかけてくる娼婦も立っていなければ、膨らんだ上着の中に麻薬を隠し持つ売人もいない。
一軒一軒店を訪ねては店主に小遣いをせびり、色付きを見れば追い立てて暴力を振るう悪徳警官の姿も見えない。
ディナーの食卓に一品加える為に人を刺す馬鹿もいなければ、戦争帰りだと哀れみを請う嘘吐きもいない。
まるで暴動が起きた翌朝のような、”掃除”しきった次の日の朝みたいな、清々しくも白けた綺麗な光景であった。

ロールシャッハを苛立たせるあらゆる人間はここにはいない。だから彼は考え事に集中しながら歩くことができた。
考えながら彼は歩く。思考にあわせて顔面の柄が奇妙に蠢き彼の内面を投影する。



思考する。この奇妙な事態――実験の主は、これもコスチュームヒーローの仲間であったオジマンディアスに違いない。
声を聞けばそれは明らかなことだ。そしてどうやら厄介なことに、この実験には同じくDr.マンハッタンが協力しているようだった。
瞬間移動などという超能力は本物の超人である彼にしかできないことであるからだ。
ならばこれはコメディアンが殺されたことと関係するのだろうか? そして他の仲間達も関与しているのだろうか?
確認した名簿の中に見知った名前は存在しなかった。
ただ、ロールシャッハが奇妙だと感じたのは、そこにどうやら日本人らしき名前が多数並んでいたことであった。

日本。正義の鉄槌(原爆投下)から40年。
築き上げた領土を解体され、アメリカの監視下、戦うことを放棄させられ、再び狭い島の中へと押し込まれた奴等は
以来、経済再生とその発展のみに注力し、仕事中毒だと揶揄されながらも日本という国を世界という舞台に押し戻してきた。

TVコマーシャルで日本製品を見るのももう珍しくはない。メイドインジャパンは今や一つのブランドだ。
例えば時計。例えば携帯型ステレオカセットプレイヤー。
今年打ち上げられた宇宙船の乗組員の中にも日本人の名前があった。
彼は地球に帰還すると自分を取り囲むインタビュアに対しこう言ったという――「宇宙からは国境線は見えなかった」

その発言の意図をロールシャッハは気にしたりはしない。
宇宙から地球を見た際の素直な気持ちであっても、地上で訓練していた頃から考えていた決め文句でもどちらでもいい。
ただ、その通りだと彼は思うだけだった。
この地球には国境線なんか引かれてはいない。それはアイディンティの確立に囲いを必要とする人間の中にしかないものだ。
目には見えない。普通の人間には見えないのは当たり前でしかない。
見えるのは人間の心を覗くことができる者だけ――なぜなら、その線は人間の中に引かれているのだから。



余計なことを考えてしまうのはこの夜が静かすぎるからか。そう思った時、ロールシャッハは通りの先に男が立っているのを発見した。


     ,,,〓)
40Monochrome clearness  ◆John.ZZqWo :2010/08/12(木) 08:48:51 ID:V3tx4BJw
奇妙な若者だった。

一見して東洋人だとわかる肌の色と顔つきだが、背が高い。
ロールシャッハは標準より小さい小柄な男ではあったが、それよりも頭ひとつ以上は高いのだから長身と言える。
もっとも、不健康そうな猫背の姿勢なので視線の位置はロールシャッハとそう変わらないのだが。

白い無地の長袖シャツにブルージーンズ。足元はくたびれたスニーカーを裸足で履いている。と、随分とラフな格好をしている。
質屋に全てを預けた帰りの苦学生か、はたまた夜中に窓を開けて突然ポエムを朗読し始める近所迷惑な輩か。
こんな夜の街にはそぐわない奇妙な清潔感があるというのがロールシャッハの第一印象だった。

しかしそのような印象は若者の目を見て軽く吹き飛んだ。
目が何よりも印象的であった。正確には目と、その下にはっきりと黒く浮かんだクマに強い印象があった。
それは何日も、いや何年も眠らずにいたかのような、まるで生まれてからずっと起きていたと思わせるような濃いクマ。
ならばこの若者はその両目で何を見続けていたのか。何を見張り(watch)続けていたのか?
若者はそんなことが気になる目の持ち主であり、”異様”な人物であった。



「――どうもロールシャッハさん。私は”L”です。」

私は”何”だと言った? 一瞬、ロールシャッハは疑問に思ったが、すぐに名簿の中に「L」とだけ短く記されていたのを思い出した。
自分の名前が知られていたことは取り立てて疑問に思わない。名誉か不名誉か、ロールシャッハの名前は知れ渡っている。

ロールシャッハは目の前の奇妙な若者に対し、何者かと問うた。どう対応すべき相手なのか、まだその材料が揃っていないからだ。

「Lと名乗ったはずですが。社会的な立場と言われれば、私は探偵です。
 ……確認しますが、あなたの名前はロールシャッハで間違いありませんか?」

とてもそう見えるような風体とは言い難いが、若者は探偵なのだという。しかし嘘を言っている風でもない。
僅かな驚きを内心に隠したままロールシャッハは若者の言葉を肯定した。ロールシャッハとは”自分自身”に他ならない。

「そうですか。見た目からあなたがロールシャッハではないかと推測し、反応を窺おうと呼びかけさせていただきましたが
 当たっていたようで何よりです。恥をかかなかったですし、こともスムーズに進行するでしょう」

反応(テスト)だと? ロールシャッハの顔の模様がぐにゃりと歪む。

「ええ、名前を呼んだ時に会話を求めるか、それとも問答無用で襲い掛かってくるのか。それを試させていただきました。
 そしてあなたは少なくとも後者ではないと判明しました。
 これは幸いなことです。多少、自衛の心得はありますが襲われないことにこしたことはありません」

ロールシャッハの若者に対する奇妙な印象はなお深まった。
この若者には全くといって悪びれる様子がない。そして言葉の中に嘘もごまかしも存在しないのだ。
自分のことを棚に上げて、ロールシャッハは若者に対して気味の悪い奴だと内心思った。

「ロールシャッハと名簿には記されていましたが本名とは思えませんね」

なんとも間の抜けた発言だ。だがしかし裏を読めば意味深な発言でもあった。こいつは俺がロールシャッハであることを疑うのかと?

「私のLという名前もひとつの呼び名にすぎませんが……ところで、そのマスク面白いですね。初めて見ます。
 もしよろしければ脱いで素顔を見せてもらってもいいでしょうか?」

これが俺の顔だ。とロールシャッハは若者の要求をにべもなく断る。
さて少しは喰いついてくるのかと思いきや若者はじゃあいいですとあっさり引き下がった。全く掴み所がない男である。
41Monochrome clearness  ◆John.ZZqWo :2010/08/12(木) 08:49:38 ID:V3tx4BJw
「なるほど、いいでしょう。私も見せていただけるとは思っていませんでしたから。
 では場所を変えましょうか。こんな所で立ち話というのも無用心ですから」

言うと、若者はロールシャッハの意思も確認せずくるりと踵を返した。まるでその必要はないとばかりに。
無視することも放置することもできたが、しかしロールシャッハはその背中に問うた。どうして自分がついてゆく必要があるのかと。

「簡単なことです。二人ならお互いに助け合うことができます。
 ……私はこの”事件”を独力で解決できる確率は極めて低いと見積もっています。それは不可能と言っても差し支えないぐらい。
 なので手を貸して欲しい。……あなたもそうだとは思っていませんか? 協力者が不可欠だと」

ロールシャッハの中に否定する為の理由は存在しなかった。
むしろ膨らむのは疑念だ。
目の前の若者はどうしてこうもあっさりと自分を信用するのか。あるいは、信用ではなく利用なのか。窺い知ることができない。
途中で反応(テスト)という言葉を若者は使った。ならば今もそうなのかもしれない。
これは彼なりの利用できる相手を見極める”面接”なのではないかと――。

しかしそこまで考えても結局、ついて行かない理由は生まれなかった。増えるのは放置できない理由ばかりだ。
若者が悪人だとはっきりわかるならば話は簡単だが、そういうわけでもない。

結局、ロールシャッハは遠ざかる若者の背を追って歩き始めることにした。


     ,,,〓)


あらかじめ目星をつけていたのか、Lは十字路の角にあるコーヒーハウスに入るとそのまま一番奥のテーブルについた。

「……………………」

ロールシャッハのLについての奇妙な印象はますます強くなる。
若者は椅子の上に座っていた。いや、このままでは何の変哲もない当たり前のことだが座り方に特徴があった。
椅子の上に足を乗せ、膝を抱えるような姿勢で座っている。
まるで猿のような座り方だった。日本人を猿と例えるのはポピュラーな比喩表現だったが、この若者はそのままだ。
いぶかしむ目を向ければ、この座り方で頭の回転が40%上昇するらしい。

さてテーブルにはついたが、ウェイトレスもいなければ二人とも座ったままなのだからテーブルの上に温かいコーヒーがあるはずもない。
若者は長い腕を伸ばしてテーブルの端に置かれたシュガーポットを取ると、
自分の前に置き、蓋を開けると中から角砂糖をつまみ上げ、そのまま口の中へと放り込んだ。
ひとつ、ふたつ、みっつ、あわせて10個ほどつまむと、シュガーポットをロールシャッハの前へと差し出す。

「あなたもどうですか? 頭を使う時には糖分の補給が欠かせません」

ロールシャッハもそれには同意するところだった。それにまだ今晩は夕食をとっていない。腹は空いているのだ。
手袋をしたままの手をシュガーポットに突っ込むと角砂糖を握りこみ、そしてそれをそのままコートのポケットに放り込む。

「……食事の時はと期待したのですが、まぁいいでしょう。
 それよりも本題に入りたいと思います。我々に時間的な余裕はありませんから」

どうやらまだマスクの下に興味があったらしい。油断ならない男である。
若者はテーブルの上にルールブックを兼ねたあの手帳を広げると、なにやらものすごい勢いで文字を書き始めた。
覗いてみると、どうやらそれは『Hor』から始まる言葉の羅列のようである。

「『Hor』『Set』『Isi』――これらの文字列から想像するものはありますか?」

ロールシャッハは唸るだけで答えない。
42Monochrome clearness  ◆John.ZZqWo :2010/08/12(木) 08:50:27 ID:V3tx4BJw
「意味の取れない3つの単語ですが、まずこれは略称ではないと考えます。略称であれば文字は全て大文字のはず。
 しかしこれは頭だけが大文字。つまり、ある単語の頭三文字であると推測するのが妥当でしょう。
 この実験という企画の性質と、主催者の言葉を鑑みるに、
 このルールの根幹となる言葉の意味はいつか誰かが解くもの、解かれるものだということを前提に作られています。
 そうであるならば、私達が全く解けないようなものでは意味がない。
 つまり、これ以上のレベルで疑う必要はない。ある単語の頭三文字であるという推測は100%正解です」

若者はなおもペンを走らせながら己の確信をロールシャッハへと披露する。
難しい問題ではない。言われれば確かにそうだと思えたが、100%かと言われると簡単に首肯することはできなかった。

「そう考えた上でですが、
 『Hor』の3文字から始まる言葉は固有名詞や複数語の組み合わせを含めてもせいぜい200ほどといったところです。
 例えば、すぐに思い当たるものだと『地平線(Horizon)』でしょうか。
 動物であれば真っ先に浮かぶのは『馬(horse)』でしょう。他には『ミミズク(Horned owl)』なんて言葉もあります。
 実験という言葉と掛け合わせるなら『測定器(Horologe)』も可能性はあるでしょうか。
 全く関係なさそうな言葉であれば『空豆(Hoese bean)』など――」

200はあるという単語を全て書き終えたのか、ペンを止めると若者は手帳をロールシャッハの方へと向けた。
あまり読みやすい文字ではなかったが、開いた両側のページに『Hor』から始まる言葉がみっしりと書き込まれている。

「さてロールシャッハさん。これら200ほどの、幸いなことに200程度に絞られたとも言える言葉の群れですが、
 ここから正解となる言葉を見つけ出さなくてはなりません」

そんなことがどうしても必要なのか? ロールシャッハは思い浮かんだ疑問をそのまま若者にぶつけた。
何も億劫だと思ったわけではない。
単純に、こんなことに意味はあるのか。この事態の解決に向かう道は他にあるのではと思ったからだ。
だが目の前の、真摯な目をした若者は必要だとはっきり断言した。

「ええ必要です。
 我々はこの事件を解決しなくてはならないわけですから、この事件の首謀者である存在を上回るためにもまず
 その思想、……つまりこの事件の中に置かれたメッセージを正しく理解する必要があります。
 理解がなくてはそれを上回ること、ひいてはこの事件を解決することもできません」

まるで作り話の中の名探偵だ。自分のことを探偵だなんて言っていたが、この若者は重度のシャーロキアンかもしれない。
それにこの若者は”我々”という言葉を使った。彼からすればロールシャッハはもう仲間なのだ。
無自覚の詐欺師なのかもしれない。ロールシャッハはこの段階ではまだLという男の価値を測りかねていた。

「さて、少し質問しますが、4枚の伏せられたカードがあり、そのうち3枚を開いて『スペード』『クラブ』『ダイア』が出てきた場合、
 残りの1枚には何の印がついていると想像しますか?」

結論を出す前に話を迂回させるのも探偵らしい。
テーブルに拳を叩きつけて話を飛ばしてもいいが、ロールシャッハは素直に『ハート』だと答えた。

「ええ、そうです。ありがとうございます。
 そう考えるのが自然であり、そこに人間の恣意的なものが介在するならばその可能性は少なくとも80%は見積もれます。
 私が言いたいのは、これは『Hor』『Set』『Isi』の3つの言葉に関してもそうだろうということです。
 この3つの言葉には明確な関係性があってしかるべきだと――」

言いながら若者はロールシャッハの目の前で手帳のページをめくってみせる。
そこにはたったひとつだけ大きく 『 H o r u s 』 と書かれていた。
43Monochrome clearness  ◆John.ZZqWo :2010/08/12(木) 08:51:21 ID:V3tx4BJw
「『Horus(ホルス)』――エジプト神話における太陽神です。
 世界中の神話の中に太陽神は登場しますが、例に漏れずホルスも偉大なる者。悪と対する者と捉えられ信仰の対象となっています」

若者は再びペンを取ると、『Horus(ホルス)』の下に『Seth(セト)』『Isis(イシス)』と続けて書き記した。

「これらは同じエジプト神話い登場する神の名前です。
 セトは悪と戦争、嵐の象徴であり、イシスは母性を象徴し、神話の中でイシスの息子であるホルスはセトを討ち滅ぼしました」

ロールシャッハには若者が言いたいことがまだ理解できないでいた。
しかし、エジプト神話から言葉を選ぶのはオジマンディアスらしいと思った。
あの人類最高を極めた男がヒーローの名前として選んだ『オジマンディアス』という言葉そのものが同じくそうであるのだから。

「何も私がこの3つの名前を出したのは都合よく言葉が揃うからという理由ではありません。ルールをもう一度よく見てください」

今度は大きくページをめくり、若者はこの実験のルールが書かれたページを開いた。
ロールシャッハもすでに一度目を通したものだ。そこに書かれているものは記憶の中の一語一句となんら変わりはない。


 『Horグループは、Setを全て殺すか、Isiを助け、実験終了時まで一人でも生かしておくこと』
 『Setグループは、Horに属する者を皆殺しにすること』
 『Isiグループは、ただ時間内生き残ること』


若者は続ける。

「これらの3つの神の名前とこれらのルールは当てはまります。
 ホルスはセトを倒し、セトからイシスの身を守る。
 セトはホルスを倒す。
 イシスはそれを見守り決着を待つ。
 この実験と呼ばれるゲームのルールを端的に表すと、それはつまり――」

正義と悪との対決ということになる。ロールシャッハの前で若者はそう発言した。聞いたロールシャッハの顔の模様がじわりと蠢く。

「ええ。ホルスはセトにイシスを殺害されないようにしながらセトを撃退。または殺害してしまう。
 セトはホルスを出し抜いてイシスを殺害しホルスの勝利条件を奪うか、ホルスを直接殺害し勝利を狙う。
 このルールが明らかになれば、全体の傾向はこう動くだろうというパターンはいくつか想像できます。
 問題はどういった基準で参加者がグループ分けされているかですが、これはこれから情報を得ることで――……」


     ,,,〓)


ロールシャッハは唐突に理解した。
天才の閃きが己の中にあったのではない。これは、単純に、身をもって思い知っていただけの事実だ。

この実験は縮図だ。ヒーロー(正義の味方)とヴィラン(悪役)と、その対決を見守り、時には何かの対象にする民衆。
オジマンディアスはそれをここに再現することで実験と称しているのだ。
天才である彼が何をしたいのかは、どうしてこんなことをしなくてはならないのかは別にして理解することができた。

そして目の前の若者はまだそれを理解できてはいない。実感と伴う所まで到達していない。
イシス――つまりは民衆をホルスとセトが取り合うポイントのように例えたが、それは正しい推察だが完全な正解ではない。
民衆はヒーローを憧憬の対象とすることもある。しかし、賭けの対象にもする。そして、妬みや憎悪の対象にもするのだ。

ヒーローの登場は賞賛を持って迎えられる。しかし、民衆はいつかヒーローを、神を不要だと唾棄する時が来る。
自らが吐き出す罪に塗れた奴らは度し難いほど図に乗りやすく、欲深く嫉妬深い。
高らかに謡われるのは不平の歌で、モラルという名の花畑を笑いながら土足で踏みにじる。

ルールを改めて思い返せば何もかもが明らかだ。民衆(イシス)には負ける条件が設定されていない。
ヴィランが死に絶え、ヒーローが姿を眩ましてもあいつらはちっとも困らない。
むしろ、ヒーローとヴィランの対決など、奴らからすれば娯楽の対象にはなれ、近ければ疎ましい規律そのものでしかない。
44Monochrome clearness  ◆John.ZZqWo :2010/08/12(木) 08:52:05 ID:V3tx4BJw
オジマンディアスは今一度測ろうとしている。正義の存在価値を、悪の存在意義を、善良なる民の存在証明を。
しかし、おそらくこれは現実の再現になるだろう。悪は消え、正義は追放され、堕落の沼につかる醜悪な民衆だけが残る。

何を期待してオジマンディアスがこんなことを始めたのか理解できない。あるいはこれは何かを見切る為の実験なのか。

ロールシャッハはしかし、

ロールシャッハはロールシャッハ以外の何者でもない。自分自身の正義に妥協しないだけだ。
それがいつどこであろうとも。現実でも、仮想の実験場の中でも、例えば悪夢の中でも、そしてここが地獄なのだとしても。


ロールシャッハは妥協しない。彼はその矜持を命綱のように、マスクの下の暗闇の中で強く握り締めた。


     ,,,〓)


しばらく後、ロールシャッハとLの似ても似つかない二人は肩を並べて夜の街の中を歩いていた。


「すでに我々と同じように考え行動を起こしている者もいるでしょう」

何者かとの遭遇を期待しながら歩きつつも、Lは推理を垂れ流す。探偵は日本製らしくマルチタスクだった。

「そして、それらは何もこの事件を解決しようという方向だけにとは限りません。
 ゲームが進行した方が有利だと考える者や、欲に駆られてゲームの決着を急ぐ者。
 なんらかの方法で自身がセトの立場にあると確信して場を乱そうとする者もいるかもしれません。
 まずはできるだけ正確に状況を把握したい。集められた人間というのもこの場合は貴重な情報源です。
 危険を伴いますが人間の善悪関係なしに当たっていかなくてはないないでしょう。
 そこから新しく見えてくる実験の意図というものもあるはずです」

シャッハは結局、この奇妙な男と同行することにした。その理由は単純だ。

「私は悪というものが許せないんですよ。そして正義の力が持つやさしさを信じています。
 なので私はこれまで事件を解決してきた。今回も同じです。私は正義の力でこの事件を解決したいんです」

それは、ともすればヒーローに憧れる子供が言うたわごとのようであったが、しかしLの言葉には真摯さがあった。
嘘矛盾の欠片すら含まない。そして昨日今日に標榜した言葉ではない力強さがあった。
Lは若い。だがしかし”ベテランのヒーロー”であることをロールシャッハはその言葉に感じ取ったのだ。

Lが別世界における最高の探偵であることをロールシャッハは知らない。
迷宮入りとなったものを含め3500件の事件を解決し、10000人を超える犯罪者を刑務所送りにしているとは知らない。


しかし、どこの誰かはわからないが信用に価すると判断した。


そしてなにより、今までいたどの仲間よりも自分と”正義の位置”が近いと感じたのだ。


Lというこの若者も、決して己の正義に”妥協”しない男なのだろうと――




ロールシャッハとLの似ても似つかない、しかしどこかでよく似た二人は肩を並べて夜の街の中を歩いて往く。
45Monochrome clearness  ◆John.ZZqWo :2010/08/12(木) 08:52:50 ID:V3tx4BJw
 【H-8/市街地:深夜】

 【ロールシャッハ@ウォッチメン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:ロールシャッハの手帳@ウォッチメン、スマイリーフェイスの缶バッチ@ウォッチメン、角砂糖
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品x1-3
 [思考・状況]
  基本行動方針:この実験を停止/破壊させ、オジマンディアスに真意を問う。
  1:Lと共に行動。情報を集め事態を解決する糸口を見つける。
 [備考]
  ※参戦時期は、10月12日。コメディアンの部屋からダンの家に向かう途中です。

 【L@DEATH NOTE 】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、シュガーポット、不明支給品x1-3
 [思考・状況]
  基本行動方針:この事件を出来る限り被害者が少なくなるように解決する。
  1:ロールシャッハと共に行動。情報を集め事態を解決する糸口を見つける。
 [備考]
  ※参戦時期は、夜神月と一緒にキラ事件を捜査していた時期です。
46 ◆John.ZZqWo :2010/08/12(木) 08:53:35 ID:V3tx4BJw
以上、投下終了しました。
47創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 09:45:28 ID:8IbyPUAE
二人共格好良い!
展開の都合でさっさと別れたりしないで協力体制を築いて欲しいトコロ。
次に誰に出会うか、が楽しみ。
48創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 10:40:04 ID:+ZQwg+G2
投下乙!
主催と関わりあるシャッハさんと、相変わらずのチート頭脳なLのコンビは良い感じかも
シャッハさんもLもそれぞれ己の正義を貫くんだろうなあ
49創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 10:42:07 ID:wvJcdQdt
投下乙です!
これは新たな名コンビ誕生か!?
参加者中、唯一主催者に面識あるロールシャッハと、
オジマンディアスに匹敵する知性の持ち主L…

二人の織りなす化学反応から目が離せそうもねぇーぜ!
50創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 11:36:13 ID:8IbyPUAE
ロールシャッハが声で分かったってことは、オジマンディアスは正体隠す気は無いってことか。
自分の世界からの参加者をロールシャッハ一人しか選ばなかったってのも何か仕込めそうだね。
51創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 13:02:18 ID:1ufDKyOB
投下乙です

これはなんという名コンビ!
展開の都合だけで組んだだけとは思えない噛み合わせw
それに予期考えたらこの二人は共通点が多いな…

したらばにも来てるので代理投下します
北米のマンハッタン周辺をモチーフにしたこの殺戮舞台において、一際異彩を放つ施設が存在する。

 実際には「その」建物以外にも、周囲の風景と全く馴染まない建物は複数存在する。
 古代の王が眠る墓所として造られた方錐形建造物《ピラミッド》もそうだし、
 数多の血が流れた戦いの跡、ある意味でこの殺し合いの原点とも言える円形闘技場《コロッセオ》もそうだ。
 だが、それらの施設には確かな意味がある。
 墓所やコロシアムは偉大なるモチーフであり、同時にランドマークでもある。
 この催しが単純な「生」と「死」のせめぎ合いと言えない以上、
 両者の存在が参加者になんらかの影響を与える可能性は無視出来ないだろう。

 ――正義と悪。

 その最後の終着点へと至る道程において。

 しかし。
 そんな会場において――ありとあらゆる形而上的な観念から乖離した施設が一つだけ存在する。

 北米大陸をイメージした舞台としてあまりに不釣り合い。
 建造物として特別大きな意味があるわけでもなく、また地図に名前を記す意味も理解出来ない。
 ただただ、参加者に違和感だけを突き付ける――まるで、そのためだけに用意されたかのような。
 もしくは――とある一人の少女に祝福をもたらさんがために。

 海の家。少女にとって何よりも馴染み深い場所から――その「侵略」は始まる。

 ▽

「ライトーライトー! お腹が減ったでゲソ! 早く暖めるでゲソ!」
「……ちゃんとやるから、少し待っていてくれ」
「ふふっ。悪いですね、月君。私の分もよろしく頼みますよ」
「高遠さんまでそんな……分かってますよ。三人分ですね」

 I−3、海の家。
 看板に「れもん」と書かれたその店の中で、妙な三人組がテーブルを囲んでいた。

 一人は若く、そしてハンサムな少年。名前は夜神月。
 スラリと背が高く、引き締まった身体は何らかのスポーツを嗜んでいることが傍目からも伺える。
 眼差しは理知的で、言葉遣いも丁寧だ。好青年と言えるだろう。
 一人は二十代前半の痩せ形長身の男。名前を高遠遙一という。
 口調は月のそれよりも数段落ち着いていて、むしろ丁寧すぎるようにすら見える。
 この場に集められた者の中では最年長者ということもあって、まとめ役のような立ち位置を取っていた。
 そして、最後の一人が。


「千鶴がいない今、この海の家は私の天下でゲソ! ここでは誰も私に逆らうことは出来ないでゲソ!」


 白い三角頭巾のようなモノを頭に被り――頭から十本の触手を生やした少女だった。
 背は低く、おそらく「人間だとしたら」歳は十代前半。
 ウネウネと動く触手をメデューサの如く動かし、ふはははははははと高らかに哄笑している。
 少女の名前はイカ娘。海棲人類という人間を超えた特別な種族であり、
 海を愛し、海と共に生き、海を汚す人間を妥当すべく立ち上がった――将来、世界の支配者となる(予定の)絶対覇者である。
 …………まぁ、現在は借金を返すために海の家でアルバイトをする日々を送っているわけだが。

「……イカ娘君。私と月君は貴女の支配下に入ったわけですが……一つだけよろしいですか?」
「む。どうしたでゲソ、高遠」

 店の奥に設置された電子レンジの前で作業をしている月をチラリと一瞥した後、高遠は人差指をピンと立てて自身の唇に押し当てた。
 そして、声を顰めて言い放つ。

「少しだけ、静かにしましょうか。食事の前に大騒ぎをするのはルール違反です。
 地球の七割を占める海……引いては地球の支配者である貴女にとっては造作もないことのはず。
 これは、ビーチでのマナーにも当たりますね。いかがでしょう?」

 三人は共にこのI−3の海の家付近がスタート地点だった。
 そして、開口一番。コレが殺し合いだということを欠片も理解していないイカ娘が高らかに宣言したわけである。
 『私がこの海の家の支配者でゲソ! ここの建物を使いたければ、私に従うべきでゲソ!』と。
 …………そう。イカ娘は自身がバトルロワイアルの舞台に放り込まれたことを、全く認識していなかったのだ。

 結果、とても人間が出来ている月と高遠はとりあえず彼女のノリに付き合うことにした。
 少なくとも、この中にすぐさま他人を攻撃しようという者が存在しないのはすぐに分かったのだ。
 見た目だけならば、月は好青年であり、高遠は優男。イカ娘は無邪気な子供。
 そこに策謀の影を見出すことの方が難しい。
 ならば、物事を分かりやすく進めるために子供の顔を立てておこう――と考えるのが大人の思考である。

 とはいえ、もちろん夜神月と高遠遙一という人間が隠し持つ――本質を除いた話ではあるが。

「むむっ。言われてみれば……確かに、これじゃあ私自身にレッドカードを出さないといけなくなるじゃなイカ」
 しゅん、と少し落ち込んだ様子でイカ娘が頭を垂れた。
 イカ娘は調子に乗りすぎる部分はあるが、基本的には素直な良い子なのである。
「流石に理解が早くて助かります。……おっと、月君が料理を暖め終わったようですよ」
「全く……どうして僕がこんなことを」
「一番立場が下の者が働くのは当然のことでゲソ!」

 ババン!とイカ娘がテーブルを片手で叩く。
 そんな彼女の様子を見て、お盆の上に三人分の食事を載せて現れた月が大袈裟な溜息をついた。

 ひとまず三人は情報交換と腹ごしらえを兼ねて、海の家の設備を使って食事をすることにした。
 灯りは使用していない。流石に周囲に施設の少ない海の家において、電灯を使うほど平和ボケはしていなかった。
 それに、月明かりと輝く海を照明にして食事をする、というのも中々オツなものだ。

「すいませんね、月君。私は焼きそばを頂きましょう」
「エビカレー! このエビカレーは私のモノでゲソ!」
「慌てなくても誰も取ったりはしない。君はもう少し落ち着いた方がいいと思う」

 月が用意してきたのはイカ娘の支給品である『海の家グルメセット』であった。
 焼きそば、うどん、フランクフルト、おでん、カレー……。まさに「海の家」といった具合の素敵なメニューの数々。
 種類も数も豊富で、月もそれなりの量に熱を通したのだが、未だに軽く数日分は残っていた。
「まぁまぁ。月君もお手柔らかに。これで準備は整ったわけですし」
「準備?」
「ええ」
 イカ娘がスプーンを握り締めながら首を傾げた。高遠は大きく頷く。
「つまり、この世界に散りばめられた数多の謎を推理する――そのための環境が整った、ということです」
 
 パチッと高遠が小気味よい音を立てて、割り箸を二つに割った。
 そして僅かに口元を歪ませる。
 高遠の言葉がまるで理解出来ないイカ娘が頭から疑問符を飛ばす一方で、対面に座る月が微笑でもって応えた。

「……そうですね。始めましょうか」
「二人とも、いったい何をやるつもりでゲソ?」
「簡単なことです。我々は何の力もなく、そして、開き直ることも出来ない臆病者だ。
 けれど『頭を使うこと』は出来る。危機感を覚え、予防線を張ることも――ね。一言で言えば、」

 スゥッと高遠が息を吸い込み、イカ娘と月を見回しながら言った。


「――とにかく、我々にはあまりにも情報が足りなさ過ぎる。そう思われませんか。月君、イカ娘君?」


 ▽


 イカ娘は目の前の二人の男を『頼りになりそうもないが、まあ感じの良い奴ら』であると認識していた。

 彼女は海の支配者であり、同時に将来地球を支配するであろう侵略者だ。
 海を守ることが彼女の最大の目的ではあるが、基本的に荒っぽいことは好みではない。
 楽しく、そしてダラダラと過ごせることが一番なのである。
 故に、こんなよく分からない所からすぐに脱出したいと思っていた。

 それに殺し合い――などという行為は、正直イカ娘にはピンと来ない。
 むしろ、どれだけ説明しても彼女がソレを理解することはないだろう。
 なぜならばイカである彼女にとって、『正義と悪』という価値観はあまりに縁がないモノだからだ。

 生きるために相手を殺し、それを食べる――俗に言う弱肉強食の原理こそが自然界の掟。
 それ以外の理由で、どうして相手を傷つける必要があるのか……?
 イデオロギーや快楽のために生じる正義と悪は、彼女とはある意味で全く別方向に存在する理念なのだ。
 会場に集められた者の中で、この二つの概念に最も遠い場所にいるのがイカ娘であること揺るがないだろう。

 ――が、参加者達はコレが正義と悪を巡る闘争であることなど知る由もないわけで。

 結局、イカ娘はカレーに入ったエビを美味しそうに頬張りながら、二人が積極的に言葉を交わすのを特になにも考えずに眺めるのだった。

「僕も同じ意見です、高遠さん。
 あの声の主は僕達に殺し合いをさせようとしている……けれど、その目的はもっと他の部分に向いている。それは確かです。
 少なくとも、いきなり武器を手に取って他者に襲い掛かる構図を積極的に奨励しているとは思えない」
 
 ライトが割り箸を割り、ズズッとうどんを啜りながら言った。
 うどんはプラスチックの容器に入っており、味付けは薄口の関西風味。
 散らされた一味の赤と長ネギの緑が、透き通ったスープに鮮やかな彩りをもたらす。

「ふふっ……やはり中々話せますね、月君。いきなり君のような相手と出会えたのは大きな収穫だ」
 高遠が眼を細め、同じように焼きそばを食べながら首肯した。
 彼が食べている焼きそばは一般的なソース焼きそばだった。具材は豚肉、人参、ピーマン、赤ショウガ。
 海の家の食べ物ということで多少ボソボソしてはいるが、まさにビーチサイドでの食事を象徴する一品であることに変わりはない。

「実際、今僕達が強制されているのが殺し合いであり、自分や元々の知り合い以外を信じにくい環境であるのは確かです。
 ソレに僕達自身、自分がどの勢力に所属しているかが分からない……クリア条件の分からないゲームに参加しているようなものだ。
 まずは情報を集めること。そして理知的な相手とコンタクトを取ること――この二つが最優先事項だと考えます」
「それとほぼ同じことを私も考えていました。そうですね……シンプルに言うならば、」

 細切りにされた豚肉を咀嚼した後、高遠が言った。

「――知性は隠すべきではない。これは殺し合いなどではありません。むしろ化かし合い……情報戦に近いのですから」

 高遠と月が視線を交わらせる。
 両者が内心、現時点でどのような思考に至っているかを推し測る術はない。
 だが、少なくともしばらくは『待ち』を行動の第一理念にすることだけは共通していた。

 そして、同様に。

         ,. -.、
       ,凵@  ヾ 、
      / / _  ', \
.     く _,.f‐'´   ``‐i..,_ >      <二人とも、私にも分かる言葉で話して欲しいでゲソ!
      ハハX_,∨,_メハハ
     ┌‐| io⌒ ""⌒o! |ー┐
  ,.^ニニノノ\(⌒⌒)/ゝ、ニニ^ 、
  く く. //| | o、 ̄/ | | | |   〉〉
.   く 〉| | | |   `´  .| | | | く 〉
 ̄ ̄ ` く X二) ̄ ̄ ̄(二X > ̄'´ ̄
      彡,ハ}     {ヘ ミ´
      )          (
      ⌒γ⌒V⌒ヽf⌒


 ――ただ一人。イカ娘だけが両者の会話に全く付いていけないことも確かなのだった。

 高遠達が話すのを聞いているつもりだったが、あまりに二人の話が長いためイカ娘はあっという間に飽きてしまった。
 しかも何について論じているのかイカ娘には難しすぎてサッパリ分からないのだ。
 とはいえ、彼女の知性が低いというよりは『殺し合い』というモノに対する想像力が圧倒的に欠如していることが理由であるようだが。
「おっと、これはこれは……すいません。そうですね。
 分かりやすく言うならば、いきなり相手に襲い掛かるような思慮の浅い者でなければ大半の参加者が情報を欲している――ということを言いたかったのです」
「更に言うと腹に一物抱え込んだ巨悪よりも、見境のない小悪党の方がこの場合は危険……とも言える」
「むむむ……」
「まだ難しいですかね?」

 高遠と月の主張を裏付けるのは、やはりこの殺し合いが持つ特有の勝利条件だった。
 イカ娘はそこまで頭が回らないし、逆に二人にとっては当たり前過ぎる。
 故に決して言葉に出されることのない論理がいくつか存在する。

・生き残るために積極的に殺しをする必要があるのは『Set』に属する者だけ。
・三つのグループの人数配分は不明だが、上手く転がせば単純に考えて四十人近い生還者を出すことが可能。

 などといった事柄についてだ。
 そして、二人が特に重要視しているのが一つ目の問題点だった。
 が――少なくとも、このイカ娘という少女はそのような論理とは全く異なる領域にいるわけで。

「というか、私にはあそこで話されたことがサッパリ分からないでゲソ。
 だって他の人を傷つけるのはよくないことでゲソ。
 殴ったり、蹴ったり、切ったりしたら血が出るでゲソ。人が嫌がることをするのはよくないことじゃなイカ?」

 イカ娘がカレーを食べる手を止めて、当たり前のように言った。
 彼女の言葉に高遠と月も思わず、動きを止めた。
 微妙な沈黙。そして数秒後、口元に二人とも、微妙な笑いを浮かべる。
「……その通りです。人を傷つけるのは愚かな行為。決して許されざる行為です。ましてや殺人など……もってのほかですよ」
「ああ。だからこそ僕達は殺人者を止めなくてはいけないし、弱い人間を保護しなければいけないんだ」

 月と高遠がキリッとした真面目な表情で言った。そして、力強い首肯。
 その瞳はこのようなふざけたイベントに放り込まれた怒りで満ちている……イカ娘はそんなことを思った。
 
「おお、カッコいいことを言うじゃなイカ! さすが私の手下でゲソ! …………で、結局のところ、私達は何をすればでいいでゲソ?」

 イカ娘が尋ねた。高遠が肩を竦め、その言葉に答える。
「基本的には『なんらかの方法』で自分達がどの勢力に属しているかを見極めたいところですね。
 おそらく主催側がいくつか手段を用意しているはずですし……特に自分がSet陣営かどうか――というのは非常に重要です」
「先に説明しておくと、Set陣営だけは『積極的に相手を殺さなくちゃ生き残れない』という大きなハンデがあるんだ。
 極論を言えば、Isiなら二日間逃げ回ればいいし、Horだったら今度はIsiと二人で逃げ回ればいい。
 でも、Setだけは絶対に人を殺さなくちゃならない。しかも、この広い会場の中で隠れているHorも含めて皆殺しにする必要があるんだ。不利なんてもんじゃない」

 Setが圧倒的に不利――これは間違いない事実だった。

「結局、この殺し合いの大前提が『Hor』と『Set』の間で行われる戦いにあることは確かです。
 そうだ。ここで少し喩え話をしましょう。
 イカ娘君のために分かりやすく言うと、HorがタコでSetがイカのようなものなのです。そして――」

 焼きそばを食べる手を止めて、高遠はイカ娘が食べていたエビカレーのエビに視線を送った。

「喩えるならば、そのエビがIsiなのです」
「おお……!」
 
 スプーンで三センチ大のむきエビをすくい取ったイカ娘が眼を見開き、ごくりと唾を飲み込んだ。
 そしてなんとも複雑な視線でスプーンの中のエビを見つめる。

「イカ娘君はエビが好きでしょう。ですが、エビを食べるのはあくまでオマケ。目的は宿敵であるタコを倒すことなのです。
 一方でタコ側もエサとしてエビを食べることは出来ますが、最低でも一匹は残さなくてはいけない。
 さて――ここからが応用編ですよ。
 私達は自分がタコなのか、イカなのか、エビなのか、分かりません。
 なんらかの方法でそれらが明らかになる可能性もありますが、あくまで他力本願。確実性はありません。
 無闇に時間を消費する以外に、どのような選択が望ましいでしょうか。分かりますか?」
「むむむ……」
58創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 13:10:53 ID:yq2dQr1z

 イカ娘がエビを見つめながら、唸り声を上げた。
 頭から伸びる触手がウネウネと微動する。が、大体十秒ほど経った後。

「…………全然分からないでゲソ。ヒント! ヒントが欲しいでゲソ!」
「ふむ……ヒント、ですか。なるほどソレは迂闊でした。月君。彼女に手頃な手助けをしてあげてくれませんか」
 楽しそうに笑った高遠が月に話を振った。月は一瞬考え込むような表情を浮かべると、

「……分かりました。いいかい、イカ娘。僕達は非常にあやふやな状況に置かれている。
 そうだな。水槽の中にタコとイカとエビがごちゃ混ぜになっているのを想像して欲しい。
 そして困ったことに放っておけば、共食いを始める危険性がある。これは良くないだろう? 同じ種族は明確な仲間なんだからね。
 だから、極端なことを言ってしまえば、全てのタコと全てのイカと全てのエビが一つに固まればいい。
 当然、その後の戦いのことを考えれば気が重いけれど、味方が沢山いるのは心強い。安全にもなるだろう。ここまではいいかい?」
「タコとイカとエビ……うん、大丈夫でゲソ。私を嘗めてもらっては困るでゲソ!」
 
 イカ娘が不安げながら小さく頷いた。言葉を彼女向けに入れ替えたのが効果的だったようだ。
 ソレに勢力を生き物に喩えたことで、比喩的な表現がしやすくなる。
 ロジックを組むのではなく、単に説明をするだけならば数倍分かりやすくすることが出来る。
 
「ところが――この水槽の中には『悪いタコ』や『悪いイカ』『悪いエビ』が混ざっている可能性があるんだ」
「――ッ!? わ、私は侵略者ではあっても悪いイカなんかじゃないでゲソ!
 そんなに悪いことをしたりはしないでゲソ! 潔癖でゲソ! この触手に誓って!」

 立ち上がったイカ娘が両手を振り回し、取り繕うように言った。月は生暖かいモノを見守るような視線でイカ娘を見つめると、 

「…………いや、君のことじゃない。たとえ話だよ、たとえ話。
 そうだな……簡単に言うと、この悪いイカは、水槽の持ち主が『あえて』潜り込ませた存在なのさ。
 頑張って他の勢力の参加者を減らすため……殺し合いを進めるため、のね。
 実際、そう考えるとイカ……Setの参加者には他よりも悪い奴が多い可能性が高いかもね。
 むしろSetに所属しているのは全員悪いイカだった……なんて考えたくないケースも十分有り得る。
 彼らはどちらにしろ、人を殺さなければいけない立場にある。
 何も出来ない子供を悪趣味に嘲笑うためにSetへ放り込んでいないとは言えないけれど、
 やっぱり人を『殺せる』者がこの勢力に所属している確率はかなりあると思う。少なくとも、僕が水槽の持ち主だったらそうするね」
 月は支給品の水の入ったペットボトルで唇を湿らした。そして言葉を続ける。

「だから高遠さんの質問の答えとしては、この『悪いイカ』を想定して動く……ということが重要になってくる。
 さて、悪いイカはどんな悪巧みをすると思う? 彼らは頭が回るはずだ。
 自分がSetの立場にあってその可能性が濃厚になった場合、タコを的確に殲滅出来るような状況を作りたがるだろう。
 単刀直入に言おう。つまり――自分達が集団を管理してしまえばいいんだ。
 例えば、本来はイカなのに、その悪いイカがタコ集団のリーダーになってしまう……こんなことになったら凄いと思わないか?
 ポイントはここでも『集団を作る』という点にある。集団――群れを作ること。コレが肝だ」

 一つ一つ、ピースが嵌っていく。
 心理の掌握。人間の分析。仮説の構築。
 論理ゲームがこの会場においては強力な「武」になるのだ。

「さぁ話をまとめるよ。さっき言ったことと併せて考えて見るといい。
 一つ・【生き残るためには同じ勢力で固まるのが最良】。一つ・【悪知恵の働く奴らは集団にちょっかいを出したがる】。
 おや? ちょっと面白いことになってきたと思わないかい?」
「んむむ……? こんがらがって来たでゲソ……。
 結局、人を集めればいいのか、集めたら危ないのかが分からないでゲソ……」
「いえ――正解ですよ。イカ娘君。ポイントはそこです。
 『集団を作るのはハイリスクハイリータンである』という事実。そして避けて通れぬ道である、ということ。
 これらの事実を認識し念頭に置いて行動すること――それが我々にとっての第一歩なんです」
61創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 13:14:10 ID:yq2dQr1z

 一見、この殺し合いは「個人戦」であるかのように見える。
 参加者は知り合いこそいるが基本的には個人単位で管理されるし、最初も一人でスタートする。
 自分のスタンスを知る術は現時点では用意されていないし、容易く他の参加者を信頼するのも不安を伴う。
 だが、勝利条件を満たすことが出来るのは「一人だけ」ではないのだ。
 勝利出来るのは複数……ならば、力を合わせるのが道理。生き残るための最も分かりやすいやり方だ。
 つまり「個人戦」をいかにして「団体戦」へと変化させるか。
 もちろん、ソレは仲間割れや無駄な抗争などが起きない――他の団体に勝利するためではなく、生き残るための団体だ。

「さぁ、考えましょう。疑ってみましょう。観察してみましょう。
 我々にコンタクトを取りに来るのはいったいどのような相手なのでしょうか?
 ゲーム破壊のために仲間を集める正義の使者なのか、それとも集団を食い物にしようとする悪の虫なのか。
 なにも考えずに他人を頼ろうとする愚者なのか、それとも理性に基づいた秩序をもたらさんとする知恵者なのか。
 そんな得体の知れない相手と遭遇した時、我々はどんな行動を取るのか?
 極限まで追い詰められた時、我々の心に芽生える感情とは何なのか?
 ……非常に興味深い問い掛けです」

 いつの間にか空になっていた焼きそばの容器の上に、高遠が割り箸を置いた。
 辺りに薄気味悪い沈黙が満ちた。
 月は黙り込み、何も発言しようとしない。高遠も同様だ。
 少しだけ重苦しい雰囲気を感じ取ったイカ娘が、思い出しように言った。

「そういえば、ふと思ったでゲソが」
「どうしました?」
「――月と遙一がその『悪いイカ』だったら、私はとんでもないことなってしまうんじゃなイカ?」
 瞬間、月と高遠が顔を見合わせた。そして。


「ま、そんなことあるわけないでゲソ! 二人ともヒョロヒョロしてて頼りないから、私が守ってやるでゲソ!」
「全くですね。『悪いイカ』がわざわざこんなことをペラペラ喋るわけがありません」
「ああ。常識的に考えれば分かることだね」


 はははははははははははは、と。
 三人は大口を開けて、楽しそうに笑い声を上げるのだった。
 

 ▽

「――イカ娘君はどうしていますか?」
「まだあっちでエビを食べてますよ。何も知らずに、呑気にね。ここを発つ時になったら声を掛ければいいんじゃないですか」

 海の家の裏口。月の光が届かない暗がりの中に二人の男がいた。
 夜神月。そして、高遠遙一。
 が、二人の表情は先程店内で食事をしていた時とは全くの別物だった。
 暗く――腹の中に一物を隠し持ったような顔つき。

「彼女の存在は貴重ですね。本当に、色々な意味で……」
「全くです」

 が――コレが二人にとっての本当の顔なのだから。

 夜神月。デスノートと死神リュークとの出会いが、一介の高校生だった彼を――新世界の神へと変えた。
 彼は世界中の犯罪者を粛正することで、「犯罪者のいない理想の世界」を造り上げようとする存在だ。
 月にはやらなければならないことが山ほどある。
 それ故に、このようなクダラナイ催しに参加させられたことへ大きな不満を覚えていた。

 そして、彼がこの会場で最初に出会ったのが――目の前の男、高遠遙一だった。

「Hor、Set、Isi……つまり『ホルス』『セト』『イシス』。
 ホルスとセトの抗争。そしてセトの姉であるイシス……エジプト神話ですね。私としては『オシリス』という勢力がないことに若干違和感を覚えますが」
「神話では、最終的にはホルスが勝利しましたね。ということは――」
「……勢力の名前を神々から取った以上、何らかの考えがあることは確かでしょう」
月は高遠がどのような人間なのか、詳しくは知らない。
 だが、ある程度言葉を交わしてみて、とある不可解な事実に気付いていた。 

 ――彼は、キラを知らない。

 同じ日本人であるハズの高遠が、キラを知らない――そんなことが有り得るのだろうか。
 考察を続けなければいけない部分だろう。実際、疑惑の種は尽きない。

「……しかし、僕達を勢力分けしている要素とはいったい何なんでしょうね」
「単純な戦闘力、という意味ならば、イカ娘君がSetで我々はIsiになってしまいますが……さて。
 殺す能力、殺す意思……その辺りが妥当でしょうか。ただ、コレでは少々不細工であるようにも思えます」

 同時に月も高遠に対して自身の情報を伝えてはいなかった。

 二人の中では暗黙の内に『お互いのことを追求しない』という共通認識が生まれていた。
 そう。月と高遠はあくまで仮初の協力関係に過ぎない。
 互いがHorとSetであれば、将来殺し合わなければいけない。だが極論を言ってしまえば……それ以外の関係であれば、殺す必要はないのだ。
 結局、誰を殺す殺さない――というのはスタンスにある程度の辺りを付けた上で考えること。

 優先すべきは集団の結成と情報の交換。そして異分子の炙り出し……そちらになるだろう。

「イカ娘は僕達とはかなりタイプの違う参加者です。『比較例』としては中々悪くない……と思いますが。
 『自分以外の人間全てを殺す』と考える者が、どれだけいるかにもよりますね」
「早い段階で脱落すると思いますがね、そういう人間は。
 表立って他人を積極的に殺す者は、少なくとも参加者のスタンスが明らかになる前は誰にとっても『共通の敵』ですから。
 やるなら少しずつ間引きしていく……程度でしょう。
 SetにしてもHorにしても……そういう者を仲間にしたいとは思わないはずです」
 
 現時点では「見」に回る――それが二人の結論だった。
 イカ娘のように、自分達の常識とは異なる参加者が会場内にいる可能性も高い。
 目立った行動を取るよりは、状況を把握するために動いた方が得策だと判断した。

 また、二人がイカ娘と『仲間になった振りをしている』のも理由がある。
 それが比較例――つまり、サンプル。そして「窓口」としての役割だ。

 イカ娘は一言でいってしまえば、非常にバカっぽい。子供であるのもそうだが、単純に頭が悪いようにも見える。
 だが、逆にバカであればバカであるほど、このような場においては意味がある。
 彼女のようなバカと一緒に行動することで、コレから他の参加者と接触することが非常にスムーズになる。
 加えて、彼女の行動を分析することで、自分達との相違点から所属勢力を導き出す助けになるかもしれない。
「仲間……か」

 月にもいくつか思う所はあった。
 同じくこの殺し合いに参加しているLと、妹の夜神粧裕についてだ。
 Lの存在は厄介――ではある。が、所属しているスタンス次第では『非常に信用出来る相手』にも成り得る。
 奴の目的はあくまでキラを逮捕することであり、殺害することではない。
 
 が、逆に粧裕は早急に保護したい――と月は考えていた。
 お互いがHorとSetで兄妹間で殺し合いをすることを望まれている可能性もあるが……。

「なにか、思い当たる節がおありで?」
「いえ……気にしないでください」

 ……やはり、何を仮説にしても決定的に情報が足りない。
 こんなお遊びに意気揚々と付き合っていられるほど、月は暇人ではない。
 利用出来るモノは利用して、早い内に勝利条件を満たしてしまいたいものだ。

 だが、それにしても……この高遠という男、一体何者なのだろう?
 基本的な思考、方針などは月と似通っているようだが、まるで違う拘りを持ち合わせているようにも思える。

 この殺し合いを単なる障害と捉え、他の参加者を蹴落として生き残ろうと考えている月に対して。
 高遠からは、このゲームそのものに関する興味関心が存在する――そんな印象を覚えるのだった。

 ……面倒なことにならなければいいのだが。
【I−3/海の家:深夜】

【イカ娘@侵略!イカ娘】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、海の家グルメセット@侵略!イカ娘、不明支給品1
 [思考・状況]
  1:とりあえず月と高遠に付いていく
  2:栄子、タケルがなにをしているのか気になる

【海の家グルメセット@侵略!イカ娘】
 海の家の定番メニューの詰め合わせ。
 レンジで調理するうどんやカレー、おでん、そのまま食べられる焼きそばやフランクフルトなど種類は多彩。
 それなりの量がまとめられており、バトルロワイアル期間中に普通に飲み食いするには十分過ぎるボリュームがある。

【夜神月@DEATH NOTE】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
 [思考・状況]
  1:イカ娘を利用した、スタンス判別方の模索と情報収集のための集団の結成
  2:「悪意」を持った者が取る行動とは……?
  3:自身の関係者との接触
  4:高遠の本心に警戒
 [備考]
 ※参戦時期は第一部。厳密な時期は未定。

【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
 [思考・状況]
  1:???
代理投下終了です
代理の代理投下乙です

最初は和やかに三人で食事とか予想外。イカ娘はやっぱり把握していなかったのかw
でも可愛いぞw
前半はイカ娘にも判るルール説明はふいたが後半はやっぱり腹黒い展開だわ
そうか、このルールなら悪党同士でも100%組めるのか…余計な事をしなければ協力関係は続けられるが…
69創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 16:59:03 ID:8IbyPUAE
問題は月自身は悪を憎んでいるってトコだなw
70創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 21:49:06 ID:ZHfse4Z9
みんな空気読んだのかここの特色なのか、登場話でガチ戦闘ってのはなかったね
頭脳系キャラが光ってた印象がある
71創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 22:05:33 ID:PqCHDHt2
ガチ戦闘あったじゃないか
ほら、ワカメとか
72創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:26:32 ID:a4yXo2Xz
ルール上は一人しか生き残れない他ロワと違って、うまくやれば大人数で生き残れるってのがここの特色だからな
頭使う意味は他ロワより大きい
73創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:38:46 ID:tsoz3cxH
ただ三人殺害したらご褒美ルールもあるから役に立たない、敵対してる奴は消すのもありかも

作品が来たみたいなので代理投下します
「…………おい、訳が分かんねーぞ……。ちょっと待てよ……今、頭の中整理してみっからよ〜」

 人気の無い深夜の街中、リーゼントヘアに学ランと言う出で立ちの少年が一人ごちていた。
 少年の名は東方仗助。日本のM県S市杜王町に住むぶどうが丘高校の1年生である。
 仗助が住む杜王町にはある大きな特徴がある。それは『スタンド使い』の過密都市であると言うことだ。
 その中には欲望のために他者を傷つけるスタンド使いも存在する。
 そして仗助はそれらの悪しきスタンド使いから、街の人々を守るために戦ってきた。
 自身も強力なスタンド使いであり、そのジョースターの血統に受け継がれている正義の魂故に。
 仗助には様々なスタンド使いとの戦闘経験が有る。その中で常識を無視した奇妙な体験をしたことも、1度や2度では無い。
 だが、これほど異常な体験は初めてだ。
 大勢の人間と一緒に見覚えの無い場所に移動させられて、意味の分からない殺し合いをさせられる。
 その上いつの間にか、逆らえないように首輪まで嵌められていた。

「……この首輪も見たこともねー町並みもよー、スタンドや幻覚なんてもんじゃねー…………全部モノホンだ。
『グレート』。こいつは、とんでもなく厄介なことに巻き込まれちまったみてーだぜ……」

 状況から判断して、恐らく本当に殺し合いに参加させられたのだ。
 ここはその殺し合いのために用意された場所なのだろう。
 だからかなりの規模の市街地なのに、全く人の気配がしない
 紹介された参加者は50人か60人は居ただろうか。
 その中にはあの空条承太郎も居たような気がする。
 まだ年端もいかない子供も居た。
 それらの参加者達も皆、今の状況に困惑している仗助同様
 望んでもいないのに、無理やり
連行されたに違いない。
 そして殺し合い、ほとんどが死ぬことになる――。

 そこまで理解した瞬間、仗助のリーゼントに固められた髪が天を衝くように逆立った。
 怒りによって。本人の言葉を借りれば『プッツンした』と言われる状態である。
 そして仗助の身体から人間型のヴィジョンが姿を現す。
 『クレイジー・ダイヤモンド』。仗助のスタンドである。

「ドラララララララララララッ!!!」

 クレイジー・ダイヤモンドは拳を固め、足元のアスファルトで出来た道路に繰り出す。
 時速約300kmの速さで繰り出された拳は、いとも容易くアスファルトを破壊した。
 しかもそれは1発や2発に留まらない。
 数え切れないほどのパンチを息も付かせず連続で繰り出す、拳の『ラッシュ』。
 ラッシュによる破壊の規模はアスファルトに留まらず、近くにあった電柱やポストにまで及んだ。
 やがてクレイジー・ダイヤモンドのラッシュが収まると、周囲の景色はさながら惨状と言った体を為していた。
 アスファルトで固められていた道路は一面荒野と化し
 ポストは砕け散って中の郵便物が散乱し
 電柱は側面を大きく削り取られ、今にも倒れそうである。
 当の破壊を行った本人である仗助は、先ほどより落ち着いた様子で自分の髪を櫛で整える。

「フー……俺は別にきれちゃあいないぜ。チコッと頭に血がのぼっただけで冷静だ……。
その証拠に、ブチ壊した物もちゃんと直してるからな……」

 仗助の言葉が終わった途端、アスファルトの破片は宙を飛んで元に有った場所に嵌り
 ポストは郵便物を巻き込んで箱に戻り
 倒れかけていた電柱も、元の太さの戻り電線を支える機能を取り戻した。
 これがクレイジー・ダイヤモンドの能力。『破壊された物を直す』ことができる。
 もっとも道路は何故か波打っているし、ポストは球形だし、電柱は途中で捻じ曲がって円を描いていた。
 元通りに戻すだけではなく、変形して直すこともできるのだ。
 今のは狙って変形させたわけではないが。
「頭にのぼった血も降りたことだし、これでようやく考えに整理も付いた。
そして頭の血が降りても、俺の怒りはまだ冷めていねーぜ!
HorだのSetだの殺し合いだの関係ねー! この殺し合いを仕組んだ奴をブチのめすっ!!」

 仗助は愚鈍では無いが、あまり物事を複雑に考える人間ではない。
 そして、それ以上に正義感の強い人間である。
 だから仗助は単純に、そして自分の怒りに正直に決意する。
 この殺し合いを仕掛けた卑劣な主催者を倒す、と。

 決意も新たにした仗助は地面に座り込み、まだ確認していなかったバックパックを開ける。
 目的が定まったとは言え、具体的な方策がある訳ではない。
 そこでとりあえず、支給品の内容を確認することにしたのだ。

「やっぱり承太郎さんが居たよー! こんな所に知り合いが居るのを喜ぶのも不謹慎な話かもしんねーけどよー。
無敵の『スタープラチナ』を持つ承太郎さんなら、ホーレン草を食べたポパイより頼り甲斐があるぜーっ!!」

 名簿を確認すると、やはり空条承太郎の名前があった。
 仗助の甥に当たるが年上の人物。
 スピード、パワー、精密性を兼ね備え時を止められるスタンド『スタープラチナ』を持つ男。
 仗助にとっては最も頼りになる人物と言えよう。

「ほう、そいつは面白そうな話だな」

 不意に声が掛かる。
 まるで重く圧し掛かるような声が。
 仗助が顔を上げると、声の主と思しき人物を確認できた。
 いや、それは人間であるかどうかすら分からない。
 仗助より二回りも大きい全身が金属の鎧で覆われたその姿は、威圧感にあふれている。
 外見の厳しさからだけではなく、その存在そのものが放つ強烈な威圧感に。
 仗助はその姿を見るや否や、名簿をバックパックに仕舞い
 バックパックをそこに置いたまま、立ち上がって警戒態勢を取る。

「は、はじめまして。……いやぁ〜、お互い大変っスね。妙なことに巻き込まれちゃって。
それで初対面の人に、いきなりこんなこと言うのも何ですけど……そこで止まってくれません?」

 出で立ちはさながら一昔前の不良と言った風情の仗助だが、彼は元来温厚で人との不要な衝突は避ける人間だ。
 だから警戒はすれど、話をする上では可能な限り穏当に運ぼうとする。
 『鎧』は先ほどから、何食わぬ調子で仗助に向かって歩を進めているが
 それでも仗助は、何とか穏便に立ち止まって貰うように説得の言葉を掛けた。
 しかし『鎧』の歩みは止まらない。
「いや、こんな状況じゃないっスか。初対面の人をいきなり疑いたくは無いんですけど
そうズカズカ近寄られると、こっちも怖いじゃないっスか。……マジ止まってくんねースか。
日本語分かりますよね? さっき、自分で喋ってたんだし……」

 重ねての制止の要求も無視して近付いてくる『鎧』に、仗助の直感が告げる。
 こいつは危険だと。
 仗助は直感力に優れる。
 虹村億泰のスタンド能力を知る前から、『ザ・ハンド』の右手の危険性を直感で見抜いた。
 鼠のスタンド『ラット』の針の危険性も直感で見抜いた。
 その直感が、最大級の警報を鳴らす。

「だからですねー……近寄るなっつってんだてめー!! それ以上近付くと、問答無用で攻撃するぞコラァー!!」

 激昂した仗助は、自分の右手――と重なるように発現させたクレイジー・ダイヤモンドの右手――で
 コンクリートの壁を殴って、その一部を崩す。
 それを見て『鎧』はやっと立ち止まり、口を利いた。

「クッククククク、何故それほどわたしを恐れる?」
「…………」
「わたしがまるで悪魔にでも見えるのか? 近付くだけで災厄をもたらされるような悪魔に?
だとすれば……………………正解だ!」
(! は、速い!)

 『鎧』は地を蹴り、タックルをするように仗助に飛び掛る。
 その速さは人間のそれを遥かに超えるもの。
 仗助はクレイジー・ダイヤモンドを、自分の前方に顕現して受け止めた。
 が、『鎧』の力を受け止めきれずスタンドごと吹き飛ばされた。
 仗助は数m道路を転がった後、『鎧』を睨みつけながら立ち上がる。

「……なんつう、グレートなパワーだ」
「何だあいつは!? どうやって突然現れた?」
「! てめー、クレイジー・ダイヤモンドが見えるってことはスタンド使いか!?」
「見える? なるほど、その口ぶりからしてそいつはおまえの能力で生み出した物か。
フッ。ただの人間だと思っていたが、少しは楽しめそうだな」

 『鎧』からの威圧感が更に増す。
 クレイジー・ダイヤモンドが見えたことで、仗助は一瞬『鎧』がスタンド使いだと推測した。
 しかし『鎧』の言動と気配から、仗助の直感が別の可能性を告げる。

「…………てめー、もしかして人間じゃねーっつうんじゃねーだろーな?」
「ククク、このわたしを矮小な人間ごときと一緒にするな。
わたしは超人。その中でも悪魔超人の頂点に立つ者、悪魔将軍だ!!」
「……『グレート』。マジで人間じゃねーのかよ…………」
 仗助の直感は当たった。
 悪魔将軍の言葉は嘘ではないだろう。
 超人と言う概念はよく分からないが、人間以上の能力を持っているのは間違いない。
 そして別の直感も当たっていたことになる。
 こいつは途轍もなく危険で、そして邪悪な存在だった。

「おまえにこのわたし……悪魔将軍と戦う栄誉を与えよう」
                      ..............
「超人の悪魔将軍ね、なるほど……………………そいつは良いことを聞いたぜ」

 今度は仗助から悪魔将軍に向かっていく。
 顕現したクレイジー・ダイヤモンドが、悪魔将軍にラッシュを仕掛けた。

「てめーが人間じゃねーってんならよォー……遠慮無くブチのめせるってことじゃねーかっ!!」

 数々のスタンド使いを倒して来た、クレイジー・ダイヤモンドのラッシュは
 1発1発が時速約300kmで打ち出される拳の、正に弾幕。
 しかし、それらは全て空を切るに終わる。
 悪魔将軍はクレイジー・ダイヤモンドの左側面に回り込んでいた。

「プラネットマンのスピード!!」

(こいつ、クレイジー・ダイヤモンドと同等かそれ以上のスピード!)

 そこから、クレイジー・ダイヤモンドは更に追撃する。
 クレイジー・ダイヤモンドは右拳をフック状に振るって、悪事魔将軍の顔に殴りかかった。
 しかし、岩をも砕くもクレイジー・ダイヤモンドのパンチは悪魔将軍に片手で受け止められる。
 そしてそのまま、右拳を握りこまれる。
 クレイジー・ダイヤモンドは力負けし、膝から崩れ落ちる。
 スタンドと連動している仗助も、痛みに呻きながら膝をついた。

「サンシャインのパワー!!」

(パワーじゃ完全に向こうが上か!)

 クレイジー・ダイヤモンドは悪魔将軍の足を掬い取るように、足下に横薙ぎの蹴りを放った。
 悪魔将軍は跳躍して回避。
 そしてまだ握っていたクレイジー・ダイヤモンドの右拳を両手で持ち、捻りを加える。
 クレイジー・ダイヤモンドは右腕から捻り上げられ、立ち上がる。
 悪魔将軍は、きれいに直立するクレイジー・ダイヤモンドの背後に着地。
 クレイジー・ダイヤモンドの両手足を、自分の両手足に絡め
 悪魔将軍はロメロ・スペシャルの体勢に、クレイジー・ダイヤモンドを持ち上げる。
 そのロメロ・スペシャルの体勢のまま、車輪状に転がった。

「ザ・ニンジャのテクニック」

(ど、どんだけ器用なんだおめーはよォーっ!)

 数m道路を転がった後、クレイジー・ダイヤモンドは路上駐車している乗用車に投げ飛ばされた。
 乗用車は側面からクレイジー・ダイヤモンドを叩きつけられ、部品を撒き散らし大破。
 仗助も連動して叩きつけられる。
 仗助は自分の肋骨が折れるのを感じ取りながら、口から血を流した。
「悪魔六騎士のパワーをすばらしい戦闘頭脳で統率する、完全無欠のキングオブデビル。それがこの悪魔将軍だ!」

(つ、強過ぎるぞこいつはよー……)

 悪魔将軍の戦闘能力は、仗助のこれまでの経験を絶するものだった。
 近距離パワー型のスタンドであるクレイジー・ダイヤモンドが、接近戦で圧倒されるほどに。
 戦闘能力ならばスタープラチナに匹敵するかもしれない。
 それでも、仗助の戦意は未だ折れてはいない。

(単純な強さならてめーが上でもよー……クレイジー・ダイヤモンドの能力は、まだ見せていねーぜ!)

 再び立ち上がったクレイジー・ダイヤモンドは、乗用車の屋根を引きちぎって
 悪魔将軍めがけ、投げ付けた。
 回転しながら飛んでくる屋根を、悪魔将軍は邪魔臭そうに片手で軽々と払い除けた。
 そこへ更に、車のボンネットが飛んで来る。
 それも悪魔将軍は軽く払い除ける。
 しかしタイヤ、ガラス、バンパーと車の部品が次々とクレイジー・ダイヤモンドに投げ付けられる。
 だが、その尽くが悪魔将軍に払い飛ばされていた。

「下らん。無駄な足掻きは止せ」

 引き千切られて、先の尖ったフレームが悪魔将軍の顔に投げ付けられる。
 悪魔将軍はそれを、頭を傾けただけで避けた。
 もはや仗助の周囲には、細かい物以外は車の部品は無くなっていた。
 悪魔将軍は、仗助へ詰め寄ろうとする。

「よーく避けたぜ、悪魔将軍よー。ところでてめー、さっき投げたフレームに俺のシャツの一部を巻きつけてたのに気付いたか?
高いシャツだから、破るのはさすがに勿体無いと持ったけどよ〜。ま、別に良いか……すぐに直るんだからな。
クレイジー・ダイヤモンド!!」

 クレイジー・ダイヤモンドが胸元で破れた仗助のシャツに、拳で触る。
 その瞬間、クレイジー・ダイヤモンドの能力が発現。
 巻き付けられたシャツに引っ張られ、フレームが戻る。
 それはちょうどフレームと仗助の中間に位置する悪魔将軍の背中に目掛け、飛び掛る形になった。

 しかし悪魔将軍は後ろ手で、フレームを掴んで止めた。

「遠隔操作か? どうやったかは知らんが、意表を衝かれたぞ。だが、このわたしには背後であろうと死角は無い。
何故ならわたしの体は悪魔六騎士の集合体。つまりわたしのふたつの目の他に、12の目が存在するのだ」

 悪魔将軍は、6人の悪魔超人そのものを身体にしているも同然の存在である。
 だから視覚・嗅覚・聴覚も、通常の超人の7倍なのだ。
 しかも五体そのものとして融合しているのだから、視覚であろうと方向は関係ない。

「呆れたぜ。つくづく隙のねー野郎っスね、おめーはよー。けどよー、『そいつを掴んだ』ってことは……」

 仗助は懐に隠し持っていた車の部品、サイドミラーを取り出し
 それを空中に放って、クレイジー・ダイヤモンドで悪魔将軍へ向け殴り飛ばした。
「おめーの負けだぜ、悪魔将軍!!」

 殴り飛ばされたサイドミラーも、悪魔将軍にもう片方の手で受け止められる。
 すでにクレイジー・ダイヤモンドの能力が使われているサイドミラーを。
 つまり車が直るということ。
 先ほどの戦いで悪魔将軍の周囲には、車の部品が散乱していた。
 それらもクレイジー・ダイヤモンドの能力で、当然直っていく。
 悪魔将軍の四方八方から、車の部品が元の一個に直るべく殺到する。

(俺のクレイジー・ダイヤモンドのパワーとスピードは、直す能力でこそ真価を発揮する。
逃場はねー。てめーで散らかした車の部品に押し潰されちまいな!)

「硬度10 ダイヤモンド・パワー!」

 そう叫ぶと同時に、悪魔将軍の身体に宝石の輝きが宿る。
 殺到する車の部品は、悪魔将軍の五体に突き立った。
 しかし全身が車の部品で埋め尽くされても、悪魔将軍の身体には傷一つ付いていなかった。

「フッ、修復する能力と言うことか。しかしダイヤモンドの硬度を誇る私の身体を破壊するパワーは、無いようだな」
「……体がダイヤの硬さだとォー!? 俺のスタンドがクレイジー・ダイヤモンドだってのに対する皮肉かよォ〜……」

 押し寄せる車の部品を物ともせず、悪魔将軍は前に進む。
 群がっていた部品は悪魔将軍の体表滑るようにして、その後ろに集まっていく。
 悪魔将軍が持っていたフレームとサイドミラーを後ろに放ると、背後で乗用車が完成した。
 悪魔将軍はすでに仗助の間近まで迫っていた。

「てめー、俺を舐めてるだろ悪魔将軍……。不用意に近付きやがって…………
そこはとっくにクレイジー・ダイヤモンドの射程内だぜっ!」

 クレイジー・ダイヤモンドが悪魔将軍の腹にパンチを打ち込んだ。
 途端、仗助の手に激痛が走る。
 手の甲に負傷が出来ている。
 見ればクレイジー・ダイヤモンドの拳にも傷が付いていた。
 しかし悪魔将軍の体には、傷一つ無い。
 悪魔将軍の肉体にクレイジー・ダイヤモンドの拳は負けていた。

(マジでダイヤの硬さかよォー…そんなもん、スタープラチナでもなけりゃぶっ壊せねーぞ)

 悪魔将軍はクレイジー・ダイヤモンドの脇から手を差し入れ、背後で手を組む。
 ダブルアームといわれる体勢。
 そこから悪魔将軍は自分の体を軸に、竜巻のごとくに回リはじめた。
 それはすぐにクレイジー・ダイヤモンドの身体が遠心力で水平になるほどの、強烈な回転(スピン)と化す。

「光栄に思え。人間が、わたしのフィニッシュホールドを喰らってあの世に行けることをな」

 遠心力を利用され、クレイジー・ダイヤモンドは天高く放り投げられる。
 悪魔将軍もそれを追うように跳躍。
 クレイジー・ダイヤモンドの顎に、悪魔将軍が圧し掛かるように折り畳んだ右の脛を当てる。

「地獄の断頭台!!」

 そのまま地面に落下。
 悪魔のギロチンはクレイジー・ダイヤモンドの首に下りた。
 クレイジー・ダイヤモンドも仗助も、地に倒れ伏した。


     ◇


 悪魔将軍には元より、この殺し合いにおけるグループ分け
 つまりHorもSetもIsiも、全く関係の無い話であった。
 悪魔将軍は通常の超人とは違う、それどころか悪魔超人の中でも特異な存在。
 その実体は、言わば悪の思念そのものと言った存在である。
 だから悪魔将軍が悪を為すこと、それは人間の暴力性や殺人衝動などの問題とは次元が違う。
 悪魔超人の中の悪魔超人である、キングオブデビルの存在理念(レゾンデートル)なのだ。
 しかも無始にして無終の存在である今の肉体が滅んでも、決して消滅することは無い。
 何度でも蘇ることができる。
 人間ならば自分がHorである可能性を考えれば、保身のために殺人を躊躇いもするだろう。
 しかし悪魔将軍にそんな躊躇は存在しない。
 人間が己の欲望のために悪を為すのとも、また次元が違う。
 悪魔将軍にとって、悪を為すために己の存在があるのだ。

 だから悪魔将軍はこの殺し合いも、喜びを持って迎えられた。
 無論、キングオブデビルたる自分に首輪を掛けた主催者を許すつもりなど無い。
 ことが終われば、必ず相応しい罰を与える。
 しかし殺し合い自体は楽しめそうに思える。
 恐らく殺し合いの参加者は、人間であろうと超人であろうと恐怖と混乱の中で醜く足掻き争うのだろう。
 ならば自分はそれを助長してやってもいい。
 己は殺しを楽しみ、興が乗れば恐怖と不和を広げ殺し合いを加速させる。
 悪魔が最も心地よい地獄を作り出すのだ。
 名簿に正義超人であるロビンマスクの名前があったが、あの程度が雑魚の存在など全く問題では無い。
 いや、あのアイドル超人を殺してやれば、より他の参加者に絶望を与えてやれるかもしれない。
 何れにしろ悪魔将軍が居るということは、他の殺し合いの参加者は全て彼の玩具でしかないのだ。
 それが悪魔将軍の殺し合いに対する認識であり方針であった。
 そして悪魔将軍が最初に発見したのが仗助である。
 悪魔には悪魔の直感がある。
 仗助を僅かにでも観察して、すぐにはっきりと分かったことが殺し合いの邪魔者であることだ。
 こいつは殺し合いを是としない、むしろ反目して止めようとする
 正義超人共と同じ種類の人間だと。
 ならば塵を片付ける。殺すまで。
 どうせ、ただの人間では楽しむ間もあるまい。
 そう高を括って仕掛けてみたが、仗助は未知の能力を有しており存外に手間取る。
 もっとも、人間如きが多少の力を持っていた所で悪魔将軍が脅かされるわけも無く
 地獄の断頭台を喰らわせて、確実なトドメを刺した。
 筈だったのだが――。

「まだ息があるな」

 仗助はまだかろうじて生きていた。
 意識は朦朧として指1本動かせないようだが、それでも生きているのだ。
 ただの人間が悪魔将軍の必殺技である地獄の断頭台を喰らって、生きているはずが無いのだが。
 その超人界でも最高峰にある戦闘頭脳で。悪魔将軍は原因を思案する。
 やがて何かに気付き悪魔将軍は、道路に転がるクレイジー・ダイヤモンドを蹴り飛ばす。
 その下ではアスファルトが、小石などの混ざった石油になっている。
 それで仗助が助かった理由が分かった。
 理由の1つ目。
 それは地獄の断頭台が決まる直前、クレイジー・ダイヤモンドが着地点に拳で触れ
 アスファルトを原材料まで戻して、僅かにでもクッションにしていたのだ。
 そして理由の2つ目。
 それはスタンドの方に技を掛けたため。
 悪魔将軍はスタンドを知らないが、クレイジー・ダイヤモンドと仗助の受けるダメージが連動しているのは分かっている。
 しかしクレイジー・ダイヤモンドは人間より、はるかに強靭な肉体を持っている。
 つまり、クレイジー・ダイヤモンドは仗助より耐久力が高いのだ。
 だから人間が同じ技を喰らえば確実に死ぬところを、スタンドで受けたから耐えられたのである。
 もっとも、地獄の断頭台を生き延びたからと言っても、ほんの僅かに死期が伸びただけに過ぎないが。

「フッ、ならば今度は人間の方に確実なトドメを刺してやろう」
82創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:51:24 ID:wvJcdQdt
支援
 悪魔将軍は息も絶え絶え、意識も虚ろと言った様子の仗助のもとに行き
 技を掛けるべく、仗助の頭髪を乱暴に掴んで身体ごと引っ張り上げようとする。

「クク、妙な髪形だが掴むのには便利だな」

 僅かに仗助の瞳に光が戻るが、悪魔将軍は気にも留めない。
 そして掴んだ手の中で髪の毛が千切れ、仗助の頭を滑り落とす。

「フン、人間の髪は脆すぎる」

 次の瞬間、悪魔将軍の視界が回転した。
 不意の異常事態。悪魔将軍は六騎士の目も駆使して、状況を確認する。
 異常の原因が判明。
 それは悪魔将軍の身体が、空中を回転しながら飛んでいたのだ。
 空中で体勢を整え、からくも着地。
 その腹にクレイジー・ダイヤモンドの拳が入った。
 ダイヤモンドパワーのボディに凄まじい衝撃が走る。

(あいつの能力!? さっきのも、これに殴られたのか?)

 クレイジー・ダイヤモンドの背後では、仗助も立ち上がっていた。
 先ほどまで虫の息だったはずが、その瞳には意思の光が宿っていた。

 いや、それどころか全身から凄まじい怒気を放っている。

「てめー、今……………………俺の髪に何しやがったああああああああああっ!!!!!!」

 クレイジー・ダイヤモンドの拳が左胸に突き刺さり、ダイヤモンドパワーのボディが砕ける。
 今度は右胸に刺さり、ダイヤが弾けた。
 悪魔将軍の全身に次々とクレイジー・ダイヤモンドの拳が叩き込まれ
 その度にダイヤが砕け散っていく。

(バカな! さっきまでよりパンチが遥かに速くなっている! わたしが回避できないほどに!!
しかも超人界最高の硬度を誇る、わたしのダイヤモンドパワーのボディを破壊するほどのパワー!!)

「ドラララララララララララララララララッ!!!!!」

 クレイジー・ダイヤモンドの、ダイヤモンドを破壊する威力のラッシュ。
 それが悪魔将軍の身体を粉々にしていきながら吹き飛ばした。
 悪魔将軍はコンクリート壁に叩き付けられた。
84創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:52:17 ID:wvJcdQdt
支援
85創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:53:18 ID:wvJcdQdt
支援
86創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:54:12 ID:wvJcdQdt
支援
87創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:57:25 ID:qx3qxZka
支援ー
88創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:57:31 ID:wvJcdQdt
ん、さるさん?
89創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:59:58 ID:qx3qxZka
支援


     ◇


 東方仗助には、幼い頃から心の底に焼きついているヒーローが居る。
 まだ仗助が4歳の頃、高熱に倒れ生死の境をさまよい
 母親に病院に運ばれる途中、積雪に車のタイヤを取られて立ち往生したことがある。
 その時、居合わせた学ランを着たリーゼントヘアの男が自分の学ラン犠牲にして仗助を助けた。
 以来、その名前も知らない男が仗助のヒーローであり憧れであり生き方の手本となった。
 リーゼントの髪形も、その男に憧れて同じ物にしている。
 そしてその髪形を侮辱されることは、その男を侮辱されることと心の底で同じなのだ。
 その怒りは途轍もなく、少しけなされただけで鼻の形が変わる位の攻撃を加えるほど。
 リーゼントの髪形は、仗助の決して犯してはならない聖域なのだ。

 だから朧な意識の中でも、はっきりと捉えられた。
 悪魔将軍のヒーローを侮辱する言葉を。
 悪魔将軍の憧れを侮辱する行為を。

 怒りは仗助を覚醒に導いただけではなく、かつてない力を与えた。
 スピード・パワー共に悪魔将軍を凌駕する、クレイジー・ダイヤモンドのラッシュ。
 それが悪魔将軍の肉体を粉砕した。
 胸や腹には大きく穴が開き、肩や腰が削れている。
 破壊の痕は、悪魔将軍の鎧の中を露出していた。
 それは虚無。
 悪魔将軍の鎧の中は空洞になっていた。

「わたしのダイヤモンドパワーのボディを砕くとはな……。だが、わたしの身体は六騎士の集合体にすぎん。
だから、幾らでも再生できる」

 周囲に散乱していたダイヤが、悪魔将軍に戻っていく。
 それがパズルのように身体に嵌っていき
 悪魔将軍は再び、ダイヤモンドの輝きを持つ自分の身体を完全に取り戻した。
 それでも、まだ怒りの覚めやらぬ仗助は向かっていく。

「再生するってんならよー……もう一度ブッ壊して、今度は原型無いくれーグレートに変形させてやるぜぇー!!
俺のクレイジー・ダイヤモンドの能力でよォーっ!!!」

 再度クレイジー・ダイヤモンドのラッシュを放つ。
 その直前に、悪魔将軍は叫んでいた。

「超人硬度ゼロ スネーク・ボディ!!」

 クレイジー・ダイヤモンドの拳が悪魔将軍の胸に刺さり、歪ませる。
 クレイジー・ダイヤモンドの拳が悪魔将軍の腹に刺さり、背後まで威力が伝わっていく。
 悪魔将軍の身体を次々と変形させていく、クレイジー・ダイヤモンドのラッシュ。
 しかし悪魔将軍にダメージは無い。
 ラッシュの威力は全て、背後のコンクリート壁につき抜け
 コンクリート壁は全面粉々に壊された。
 先ほどまでダイヤの堅さだったのが嘘のように、軟体動物のごとく柔軟な悪魔将軍の身体。
 それがラッシュの威力を全て通過させてしまった。

「ククク。硬度ゼロ。故に打撃では絶対に破壊できん」
「硬度ゼロだ〜!? だがよー……一箇所だけ堅さを保ってる場所があるぜ、悪魔将軍さんよォー」

 クレイジー・ダイヤモンドが、今度は悪魔将軍の顔を目掛けパンチを放つ。
 しかし悪魔将軍は頭を傾け、それを回避。
 そして拳が伸び切って無防備になったクレイジー・ダイヤモンドの頭を掴んだ。

「ご名答。おまえの見抜いた通りこの頭は軟体化できない、わたしの唯一の弱点だ。
だが、それゆえにそこへ来る攻撃だけは特別に警戒しているのだ。
いくらスピードが有っても、おまえのテレフォンパンチを喰らうほど愚鈍ではない。
見ての通り来ると分かっている攻撃なら、回避も反撃も容易い! 喰らえ、魔のショーグン・クロー!」

 悪魔将軍はクレイジー・ダイヤモンドの頭を掴む手に力を込めていった。
 しかし徐々に、クレイジー・ダイヤモンドの方が押し勝っていく。

「俺は今プッツン来てるからよ〜…………てめーに力負けする訳ねーだろーがっ!!!」
「力はな。……だが、テクニックは怒りでどうにもなるまい!」

 突如、頭を抑えている悪魔将軍の手から力が抜けた。
 クレイジー・ダイヤモンドの押している力が相手を失くし、前につんのめった。

「わたしにはザ・ニンジャのテクニックも備わっているのだ! 地獄の超特急!!」

 悪魔将軍はクレイジー・ダイヤモンドの勢いを利用し、腰から背負い投げて道路に叩きつけた。
 クレイジー・ダイヤモンドは頭から落ちて、アスファルトを砕き
 仗助の頭から血が噴出した。
92創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:02:05 ID:ZcSpbNjW
支援
 全身から出血し幾つも骨が折れ、今や仗助は満身創痍の状態だ。
 死んでいてもおかしくない負傷。
 だが、強烈な怒りに支えられ仗助は未だ戦意を保ち立っている。
 その戦意に呼応し、クレイジー・ダイヤモンドもまた立ち上がる。
 追撃せんと、悪魔将軍はクレイジー・ダイヤモンドに右手を伸ばす。

「ドラララララララララララッ!!!」

 その右腕に向け、クレイジー・ダイヤモンドはラッシュを打つ。
 しかし、すでに悪魔将軍の右腕は軟体化していた。
 ラッシュの威力は全て無化される。

「なるほど硬度が0なら打撃は効かねーか……なら、斬撃はどうよ!!」

 クレイジー・ダイヤモンドの右手に、仗助の頭から流れ出た血液が溜まる。
 それをクレイジー・ダイヤモンドのパワーで極度に圧縮。
 刃物の薄さにまでなった血液を、悪魔将軍に向け投げ飛ばした。
 血液による水圧カッター。
 それは硬度0になっている悪魔将軍の右腕を大きく切り裂き
 それでも勢いは衰えず、悪魔将軍の首へと飛んで行く。
 しかし、水圧カッターではクレイジー・ダイヤモンドのパンチより速度に劣る。
 悪魔将軍は容易に回避した。
 そして悪魔将軍の右手は、クレイジー・ダイヤモンドの頭を掴む。

「無駄だ。おまえのスピードとパワーには意表を衝かれたが、そうと分かればどうとでも対処できる」
「対処できる? いいや、手遅れだな。てめーの右腕にはよォー……すでに傷が付いちまったからな!!」

 クレイジー・ダイヤモンドはいつの間にか持っていたコンクリート壁の破片を、悪魔将軍の右腕の傷に押し当て殴りつけた。
 やはり硬度0でダメージは無い。
 しかし、傷は治っていく。
 コンクリート壁の破片と同化しながら。

「…………!?」

 魔のショーグン・クローが右腕の異変に虚を衝かれ緩んだ隙に、クレイジー・ダイヤモンドの頭を引き離す。
 悪魔将軍と同化したコンクリート壁の破片は、道路に散乱していた他の破片と次々に融合していく。
 コンクリートが集まって悪魔将軍の右腕を覆う。それでも成長は止まらない。
94創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:02:48 ID:ZcSpbNjW
支援
95創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:03:00 ID:yP8zqsQ4
支援
96創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:04:01 ID:yP8zqsQ4
支援
97創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:04:11 ID:qpHKvKtg
支援
 やがてそれは悪魔将軍の右腕を中心に、巨大な正方形の形作る。
 更にその下部の面は、破損していた道路のアスファルトとも融合。
 最終的に、道路から生えた悪魔将軍の身長ほどもある正方形のオブジェが出来上がった。
 そこから右腕を軟体化して抜くのは不可能。何しろ融合して、一体化しているのだから。

「味な真似を。だが、残った左腕と両脚で破壊すれば済むことだ」
「手遅れだっつってんだろ。もう俺は『この位置』まで来ちまったんだからよォー。
ここからだと、よーく見えるぜ。てめーの『後頭部』と『首輪』がな」

 仗助の声は悪魔将軍の背後からした。
 悪魔将軍がオブジェに気を取られているうちに、仗助はスタンドの脚力を利用して
 回り込んで、悪魔将軍の背後に立っていた。

「そんだけグレートに固定されたらよー、幾らてめーでも背後からの攻撃を避けることも防ぐことも出来ねーよな?
そして、てめーがどれだけ不死身でも……さすがに頭と首輪をブッ壊されたら死ぬよなぁー!!
でなきゃ、殺し合いにならねーんだからよォー!」

 右腕を固定されてはパワーもスピードもテクニックも、ほとんど発揮しようが無い。
 さすがに頭と首輪を軟体化で防御も出来まい。
 つまり今の仗助は必勝の態勢。
 その必勝の態勢から――。

「ドラララララララララララララララッ!!!!」

 クレイジー・ダイヤモンドで、悪魔将軍の頭部と首に目掛け渾身のラッシュを放った。
 ラッシュは砂の城を崩すがごとく、容易に破壊していく。
 コンクリート製のオブジェを。

「――――!!!?」

 悪魔将軍が居ない。
 悪魔将軍が消えて無くなっていたため、その向こうのオブジェを攻撃する形になったのだ。
 仗助は混乱、と言うより思考もままならなく呆然とする。

「たとえダイヤを……いや、この世の如何なる物質を砕く能力があろうと、わたしを倒すことはできん。
なぜならわたしは――悪そのものだからだ!」

 悪魔将軍の声。
 発生した方向は――直下。
 視線を下げる。
99創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:04:30 ID:ZcSpbNjW
支援
100創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:05:24 ID:ZcSpbNjW
支援
そこに悪魔将軍は居た。仗助の足下に。
 何故そんな所に?
 しかしその疑問は、すぐに解決した。
 悪魔将軍の左腕を見ると、そこからは剣が伸びている。
 そして右腕は、根元から綺麗に無くなっていた。

 悪魔将軍は自分の剣で、自分の右腕を切り落としたのだ。
 背後に居た仗助には、悪魔将軍の巨躯が邪魔をしてそれが見えなかった。
 そして軟体を利用し、素早く仗助の足下に滑り込む。
 仗助には完全に不意を衝かれた、しかも目で追い難い上下の動き。
 仗助にとっては必勝の態勢だったはずが
 悪魔将軍にとって、奇襲に最適の態勢だったのだ。

「悪は不朽! 悪は不滅! この世のいかなる能力でも、わたしを滅ぼすことはできんのだ!」

 クレイジー・ダイヤモンドが悪魔将軍に拳を打ち出す。
 しかし足下への攻撃と言うのは、実は極めて難しい。
 その拳が届く前に、悪魔将軍の剣が仗助の下腹を貫いた。

(な、なんつーグレートな野郎だ……。ま、まだ……切り札を残していたなんてよー…………)

 ジョースターの血統と正義を受け継ぐ、東方仗助。
 悪魔超人の首領、悪魔将軍。
 正義と悪の戦いは、悪の勝利で終わった。


     ◇


 悪魔将軍が左腕の損傷を再生し、自分が置いていたバックパックを拾いに行っているのを
 仗助は、道路に倒れたまま薄れゆく意識の中で眺めていた。
 もう自分には戦う力が一片も残っていない、それどころか命の灯火すら長くないのは分かっている。
 それが悔しいとは思わない。
 自分は全力を尽くして戦った。
 それでも悪魔将軍の底知れない強さには届かなかった。
 ならば、それを認めるしかない。
 自分が力尽きたことを。悪魔将軍の強さを。

 それでも心残りが無いわけではない。
 あの悪魔将軍は途轍もなく強く、そして途轍もなく危険だ。
 放置すれば、間違いなく犠牲者は出る。
 絶対に野放しには出来ない存在。
 しかし、自分の力は届かなかったのだ。

 悪魔将軍を倒す手段に1つだけ心当たりが有った。
 いや、倒す可能性のある人物に。
 しかしそれも、ここで息絶える仗助には関係ない物になってしまった。
 それが何より心残りなのだ。

「そう言えば、おまえは承太郎がどうとか言っていたな」

 悪魔将軍が仗助を見下ろし話し掛ける。
 仗助は無言で、視線だけを向けた。

「名簿にも空条承太郎とある。こいつのことだな? 話せ。こいつはどんな奴だ? おまえのような能力を持っているのか?」

 悪魔将軍が空条承太郎について聞いてきた。
 上等だ。と、仗助は思った。
 そんなに聞きたいなら聞かせてやる、と。

「……お、おめーは…………自分のことを悪そのものだとか……い、言ってやがったけどよー…………。
そ、それなら……おめーは……絶対に承太郎さんには……勝てねーぜ…………。
あ、あの人はよー…………お、おめーみたいな悪を必ず倒す……正義そのものだ……………………」

 悪魔将軍を倒す方法を、仗助は1つしか思い浮かばなかった。
 それは承太郎に倒してもらうこと。
 悪魔将軍は途轍もなく強い。仗助が及ばなかったほどに。
 しかし、あの承太郎なら
 最強のスタンド『スタープラチナ』を持ち、冷静で的確な判断力を備え
 何より、揺るがぬ正義の意思を持つ空条承太郎ならば倒すことも出来る。
 だから悪魔将軍が承太郎に興味が向くように挑発した。
 あわよくば、他の参加者より承太郎を優先して狙うように。

 身勝手なやり方だとは思う。
 自分の知り合いに危険人物を差し向けたのだ。
 しかし殺し合いの中で、弱者が悪魔将軍の被害にあうのを抑えるには
 それが最も効果的な方法なのだ。

「つまり空条承太郎はおまえと同じような能力を持ち、わたしに敵対するような人間なんだな」

 悪魔将軍はどこか楽しげな調子で言った。
 どうやら、挑発は成功したらしい。
 それを確認すると、仗助は今度こそ全ての力を使い果たし
 ゆっくりと目を閉じた。


     ◇


 力を使い果たしたように瞑目した仗助。
 しかしまだ微かに息があると見た悪魔将軍は、ある実験を思いついた。

 右腕から剣を伸ばし、それ仗助の首輪に差し込む。
103創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:06:27 ID:ZcSpbNjW
支援
104創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:08:52 ID:yP8zqsQ4
支援
首輪は爆発。
 仗助の頭は転がっていった。
 これで首輪が本当に爆発するのと、生者の首輪が破損すると爆発するのは確認できた。
 別に首輪を調べて、具体的にどうしたいと言うのがある訳ではない。
 一応情報として、知っておきたいと思っただけだ。

 首輪が厄介だとは思う。
 悪魔将軍の軟体機能を使っても、頭の大きさより狭いものは通れない。
 つまり首輪は外せない。
 それに悪魔将軍は頭部が弱点だ。
 そのすぐ下にある首輪が爆発すれば死ぬ。
 首輪が無いなら無いで越したことはないのだ。

 それでも結局は、首輪があろうがあるまいがすることは変わらない。
 悪魔将軍は人々に恐怖を、苦痛を、死を、あらゆる災厄を与えるのみ。
 それが悪魔将軍の楽しみであり生き方であり存在理由なのだから。

 悪魔将軍は仗助の話に出てきた、承太郎について考える。
 仗助は明らかに、承太郎へ自分をぶつけようと挑発していた。
 そこから、承太郎は仗助以上の戦力を持つと推測できる。

(あの直す能力の男以上に、楽しめる相手と言うことか。面白い、あいつの挑発に乗ってやる。
まずは空条承太郎を捜し出して、殺してやる)

 そうすれば他の参加者にとって、より絶望的なゲームになるだろう。



 悪は恐れない。
 悪は迷わない。
 悪は躊躇わない。
 そして悪は何者よりも強い。
 最強の悪は殺し合いにおいても捕食者でしか無いのだ。

【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 死亡】

【I-8/市街地:深夜】
【悪魔将軍@キン肉マン】
 [属性]:Set(悪)
 [状態]:疲労(中)
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品×2、不明支給品2〜6
 [思考・状況]
 基本行動方針:悪を為す
 1:空条承太郎を見つけ出して殺す
 2:殺し合いを楽しみ、それが終わった後は主催者を殺す
代理投下終了
107創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:17:10 ID:yP8zqsQ4
投下&代理投下乙!
これはグレートな戦いだ……悪魔将軍は把握してないんですけどもこれは強い。
悪は頭脳派が多い印象だったので新鮮な気分
個人的には特に仗助の台詞がすごく彼らしくて面白かったですw
戦闘に入るところの『だからですね〜」のあたりとか原作読んでるみたいで思わず吹いたw
108創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:28:40 ID:CoED6tDb
投下乙
グレートなバトルでした
悪魔将軍が、実に悪魔、実に悪役
頭脳派が「待ち」を選んでいる序盤を引っ掻き回してくれそうだ
仗助、グレート
109創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:34:25 ID:ZcSpbNjW
投下乙!

悪魔将軍強し、強し、強し!
原作でもバッファローマンがいなけりゃ勝てなかった大物悪役はやはり強し!
そして仗助、お前は全力を尽くしたぜ…
そして正義サイド初の死者か…
110 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:34:29 ID:yP8zqsQ4
うし、それじゃ遅くなって申し訳ないですが予約分を投下します
111究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:35:35 ID:yP8zqsQ4
太陽は沈み、暗闇が降り注ぐ地上に足音が響いている。
足音は一つではなく複数で人影の数は二つ。
一歩一歩ゆっくりと進んでいく歩みからは警戒の色が見える。
一人が先導し、もう一人が後をついていく形で彼らは歩いている。
彼らは他の参加者に出会うために移動していた。

「大丈夫、すずかちゃん。疲れたりしてない?」

黒の学生ズボン、赤のTシャツに橙のマフラーを巻いた青年が振り向き、声を掛ける。
青年の名は武藤カズキ。私立銀成学園高校に通う男子高校生だ。

「はい、大丈夫です……」

白い制服に身を包み、流れるような黒髪を揺らす少女が応える。
少女の名は月村すずか。
すずかは殺し合いが始まった直ぐにカズキと出会った。
暗闇に一人放りだされ、寂しさに震えていたすずかが年上のカズキと行動を共にするのはそこまで可笑しい話でもない。

(直ぐに会えたのが武藤さんでよかった……)

何故ならカズキを見て先ず悪い人ではないとすずかは考えた。
真っ先に自分に声をかけ、色々と話をしてくれたのも心配してくれたためだろう。
カズキには見ず知らずのすずかの面倒を見る理由なんてない。
それでも頼みもしないのにカズキから同行を言いだしたのには正直びっくりした。
放ってはおけない。カズキのその言葉に凄く安心し、信じてみようと思った。
だが、全てが順調にいっているわけではなかった。

「なんだか元気ないけど、本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫です! 大丈夫ですけどやっぱりちょっと……」

すずかの脳裏には今もあの光景がこびりついている。
先程見せられた、趣味の悪い映画のように酷い内容。
名前も知らない他人とはいえ、何人もの人間が一瞬の内に死んだのは小学生であるすずかにはあまりにも厳しかった。
自分もあんな風になってしまうのではと思うとどうにかなってしまいそうだった。

「ッ……そうだよね。ごめん、俺、何も出来なかった」
「あ、いえ、武藤さんのせいじゃ」

カズキの方もすすかが考えていることがわかったのだろう。
謝罪の言葉を口にするカズキはとても悲しそうな顔を浮かべている。
もちろん、カズキが悪いわけではなくすずかもカズキに謝られるとは思っていなかった。


「それでもごめん……!」


しかし、カズキは頑なにまるで自分の責任であるかのように振る舞う。
今にも泣き出しそうなカズキの顔は彼の優しさを現しているようだった。
名前も知らない人間の死にも悲しむことが出来るカズキ。
すずかはそんなカズキを嫌いだとは思えなかった。


112究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:36:21 ID:yP8zqsQ4
(……アリサちゃんとなのはちゃんはどうしてるかな……)

暫く歩いている内に、不意に二人の友人をすずかは考え始める。
アリサ・バニングスに高町なのは、共にすずかの友達だ。
二人が誰かに襲われる可能性だって充分にある。
それも命の危険が、たとえば先程の映像のように――。
そこまで考えて、すずがは急に血の気が引く思いを味わった。

(そんなこと、あるわけないよね……)

それは最早願望に近かった。
親友の二人が死んでしまうなんて嘘でも考えたくない。
二人の喪失はすずかにとって家族が失われると同じくらいの意味を持つ。
喧嘩もするけども二人は正真正銘の親友達なのだから。

「い、 いた」

そんな時、すずかは何かに顔面をぶつけた。
つい俯きがちに歩いていたため前が見えなかったためだ。
忌々しげに前を見やるとどこか薄汚れた赤色が映った。
感触から布であることがわかり、上の方には橙のマフラーが生えている。
それは予想以上に広い、カズキの背中だとすずかは理解する。

「どうしたんですか、武藤さん――」

だが、すずかの声は最後まで発されることはなかった。
すずかはただ驚き、思わず呆然としてしまう。
目の前に居る人間が一瞬誰かと考えてしまった。
さっきまでの優しい笑顔や泣きだしてしまいそうな悲しい顔。
それらのどれとも違う険しい表情をカズキは浮かべていた。

「下がるんだ、すずかちゃん!」

カズキの右腕がすずかを庇うように伸ばされる。
すずかにはその腕が見かけよりもずっと逞しく見えた。
背中と同じく、カズキが自分とは別の遠い存在に思えてしまうほどに。
そしてカズキの腕の向こう側、彼が睨むその先にはもっと異質なものが見えた。


「やぁ、君達はまだ生きているみたいだね――リント」


◇     ◇     ◇
113創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:36:28 ID:ZcSpbNjW
支援
114究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:37:01 ID:yP8zqsQ4
確かに自分は斗貴子さんと一緒に銀成学園高校に突入していたはずだ。
なのに気がつけば殺し合いに巻き込まれ、自分は映像の中の人達を救えなかった。
許せなかった。あの男ももちろんのことだが、何よりも自分自身が許せない。
もう誰も死なせない。みんなの笑顔を守るために戦うと決めたのに守れなかった。
だからやることは決まっている。
HorやIsiなどの区分けも関係ない。
拾える命は一つでも拾う、偽りのない信念の下に行動するだけだ。
運よく直ぐに出会えたすずかを守り通し、この場に居る全員を救う。
そのためには今は、決断をする時であることは間違いない。
左胸に右腕を強く当てながらカズキは目の前の存在を強く眼に焼きつけていた。

「どうしたの、何か話してもらえないかな」

雪のように白い服が細身を覆っている。
自分よりも年上か、それとも年下か微妙な線だがどこにでも居そうな青年に見える。
言葉遣いも棘がなくどこか温和な印象を抱かせる。
それでも決定的な違和感がカズキにはこびりついていた。

「お前は、どうなんだ……?」

自分らしくもないと思う。
信じるよりも先ず疑ってしまった。
胸騒ぎがしたから。目の前の青年からはどうしようもない恐怖を感じている。
彼と眼を合わせているだけで自分の中の本能が疼きだす。
逃げろ、戦え、倒せ――自らを護るために自然と闘争心が高まっていく。
この時になって額から流れ始めたものが、緊張による汗だとカズキはようやくわかった。

「よくわからないね。もう少し僕にもわかるように言ってよ」

目の前の青年が一歩ずつ近づく。
そんな時、右腕の後ろで何かが震えたような感触をカズキは感じ取った。
見ればすずかがカズキの右腕にしがみついている。
すずかも何かが変だと思ったのだろう。
小さな手で縋るように寄り添うすずかの姿がカズキを奮い立たせる。

「だったら言ってやる。お前は……誰かを傷つけたりするつもりなのか?
もし、そうなら俺がお前を――」
「僕は好きなようにするだけさ」

だが、青年はカズキの言葉を待たずに口を開いていく。
その様子はカズキの決意を嘲笑うかのようにすらも見える。
事実、青年にとってカズキの言葉などなんら意味はない。
ただ青年が興味を持つかどうかで全ては決まってしまう。
そして現時点での青年のカズキへの興味はゼロにも等しかった。


115究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:37:41 ID:yP8zqsQ4
「だって僕を、“究極の闇”を止められる存在なんて居ないじゃない」


青年の言葉が具体的に何を指しているのかはわからない。
ただ、その一言は決定的な確信へと繋がった。
止めなければならない。この男は危険だ、と。
右腕に力を込め、カズキはありったけの声で叫ぶ。


「武装錬金!!」


両目を大きく見開いたすずかを尻目に全ては一瞬で完了した。
錬金術により生成された金属、“核鉄”がカズキの想いに応え力と成る。
同じく錬金術により生み出された化物、“ホムンクルス”を倒すための唯一無二の力の名は武装錬金。
飾り布を垂らし、竜の頭を模したような銀色の槍がカズキの腕に握られる。
突撃槍(ランス)型の武装錬金、サンライトハートを構えカズキは臨戦態勢へ入る。

「武藤さん……これって……」
「ごめん、すずかちゃん。後で説明するから。絶対に説明するから、今は……!」

背中越しにもすずかの震えが大きくなっているのはわかる。
無理もない話だ。いきなり大きな槍を何もない場所から出せる人間は普通じゃない。
普通じゃない世界に飛び込んだカズキにとって武装錬金は大切な力だ。
大事なものを護るために、大事なものを壊す存在に対抗しうる唯一の手段。
しかし、すずかにとっては武装錬金もホムンクルスと同じく暴力の象徴に過ぎないだろう。
それでもカズキにはこの力を振るう生き方しか出来ない。
先ずは青年の接近を止め、彼を無力化しようとする。

「へぇ……リントの戦士だったんだね、君は」

だが、青年はデイバックを投げ捨て少し眉を顰めただけだ。
武装錬金という異能を眼にしても驚きはあまりない。
向けられたサンライトハートの矛先をただ眺めている。
品定めをするような眼つきからは焦りといった感情は見られない。
そこに存在するのは純粋な興味。
新しい玩具が楽しく遊べられるかどうかを無邪気に考える子供のように笑っている。
カズキにとって青年の笑みはこれ以上なく気味の悪いものに見えた。

116創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:37:53 ID:ZcSpbNjW
支援
117究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:38:29 ID:yP8zqsQ4
「ッ! うおおおおおおおおおおおおおお!!」

青年の笑みを振り切り、カズキの身体が打ち出された弾丸のように加速する。
飾り布は風で荒れ狂うように揺れ、サンライトハートの矛先が真っすぐ青年の元へ向かう。
青年は動かない。逆に例の笑みを更に色濃いものにすらもしている。
やがて青年とカズキとの距離が0に近づこうとする瞬間。
カズキの表情が驚愕に染まった。

(サンライトハートが――)

サンライトハートは確かに青年を捉えていた。
ゆっくりと差し出された彼の右腕からサンライトハートの刀身が伸びている。
だが、それだけだった。


(一ミリも、刺さってない……!)


サンライトハートは青年の右手を貫いてはいない。
刃先が石のように動かないのは青年の腕によって押しとどめられているためだ。
今まで数多くのホムンクルスを倒してきた武装錬金、サンライトハート。
その威力は痩身の青年が受け切れるようなものではない。
ましてや刃先を全く喰い込ませないなど到底無理な話だ。
そう、青年が肉体的な話で限って本当に普通ではあるのなら。
真っ白に染まった、強靱な腕がサンライトハートを軽く跳ね返す。


「どうしたの、リント?」

青年の声に変わりはない。
ただ、彼は既に“人間”の姿をしていない。
人間のような別の何かだ。
筋肉の鎧をまとった白色の体躯は元のそれよりも一回りも二回りも大きなものに見える。
全身のところどころには金色の装飾具が纏われ、どこか不気味さを匂わせる。
何よりも眼を引くものはクワガタ虫を模した複眼を備えた、おぞましい顔だ。
言うなれば異形の者に青年は姿を変えている。
彼こそが超古代、戦闘民族として殺戮の限りを尽くしていた“グロンギ”族の長。
現代で言う人間に当て嵌まるリントから畏怖され、そして “究極の闇”を齎す存在 ――。


「もっと僕を笑顔にしてよ」


ン・ダグバ・ゼバがカズキの前にその姿を見せる。


◇     ◇     ◇
118創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:39:30 ID:ZcSpbNjW
支援
119究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:39:36 ID:yP8zqsQ4
目の前の出来事がすずかに信じられなかった。
唐突に武器を手に取ったカズキ、そして何よりも怪物に姿を変えたダグバ。
平凡で平和な日常を送るすずかにとって両方とも異質そのものでしかない。
だからこそすずかの眼にはカズキとダグバの戦いは化物同士の争いに映っていた。
それも酷くおぞましく、思わず眼を背けたくなるような戦いに。

「くっ! このぉ!!」

すずかの困惑をよそにカズキは闘争心を昂ぶらせサンライトハートを振り続ける。
右へ左へ、ダグバに反撃の隙を与えないように斬撃の速度を上げていく。
おそらく今のカズキの頭にはすずかのことはろくに入っていないだろう。
カズキが他人を軽視するような冷たい人間だと言うわけではない。
むしろその性格からカズキは自身よりも他人の命を重視するぐらいだ。
そんなカズキがすずかのことまで考えが回らないのは一体何故か。
その理由は――カズキにはただ余裕がなかった、それだけだった。

(強い。こいつは今までのホムンクルスとは……全然違う……!)

一回目の突撃を止められた時から予感はしていた。
だが、今でははっきりとした確信に変わりカズキは焦りに襲われていた。
先程からサンライトハートで斬り続けているのにろくなダメージを与えられていない。
そのどれもが刃先を少しでも喰い込ませることが出来ていない。
まるで尖った部分がない丸大を受け止めるように、ダグバは易々と斬撃を止め続けていた。
ホムンクルス以上の未知なる存在に対し、カズキは戦いに集中するだけで精一杯だった。

「大変そうだね」

一方、ダグバは楽しそうに言葉をもらす。
カズキを気遣うようなその言葉には善意なんてこれっぽちもない。
重量のあるサンライトハートを振り続けるカズキを見ての無邪気な感想でしかない。
カズキとは対照的にダグバには焦りはなく余裕しかなかった。
ダグバの様子から圧倒的な力の差をカズキはまざまざと認識させられる。
しかし、それだけで戦意を喪失するようであればカズキは錬金の戦士には成れていない。
実戦経験、血を滲むような特訓、そして譲れない想いを糧にカズキが今一歩前へ踏み込む。

120創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:40:32 ID:ZcSpbNjW
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121究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:40:33 ID:yP8zqsQ4
「そこだ!!」

サンライトハートの矛先をダグバに突きつける。
渾身の一撃がダグバに迫るが彼は軽く腕を払うだけで刀身を弾き飛ばす。
堪らず後ろへ飛びのくカズキだがその勢いに振り回されることなく踏みとどまる。
カズキとダグバの間に空いた数十メートルの距離。
それはカズキの、サンライトハートの距離にも等しい。
サンライトハートを前方に立つダグバに向け、カズキは自身の力の名を呼ぶ。

「サンライトハート――エネルギー全・開!! 」

カズキの咆哮と共にサンライトハートの飾り布が強く輝く。
段々と輝きを増していく飾り布はカズキの精神に呼応している。
エネルギーはカズキの感情から形成されサンライトハートの出力に直に繋がっていく。
その力の色は山吹色(サンライトイエロー)。
優しさと力強さを兼ね合わせた、カズキの象徴ともいえる力の現れだ。

「いいよ、やってみせてよ。それでどうしてくれるのかな?」

一方、悠然と構えるダグバはやはり動こうとはしない。
ただ山吹色の光を目に焼きつけている。
何も変わらないダグバからカズキは依然としてどこか不気味さを感じている。
それでもカズキは止まらない、止まる理由がない。
目の前に危険な奴が居るなら自分がなんとしてでも止めなければならない。
故にカズキは今一度叫ぶ。

「サンライトスラッシャー!!」

ジュースティングスラッシャー改めサンライトスラッシャー。
飾り布のエネルギーを起爆剤とする突撃は、突きに特化したサンライトハートの特性を存分に発揮する。
飾り布から生まれた爆発的な加速により全身を飛ばし、カズキは再び弾丸となる。
その勢いは強力で、すずかにとっては恐らく動きを捉えきることは不可能だろう。
当然、カズキの身体にも負荷は掛かるが彼にとって自身の身体よりも優先するべきものがある。
護りたいものがあればカズキはどんなことでも我慢出来るのだから。
まるでサンライトハートのように愚直なまでに真っすぐな決意。
たとえ偽善者と言われようとも――カズキの意志が折れることはない。
122創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:41:48 ID:MlAtvzLZ
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123究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:41:52 ID:yP8zqsQ4

「貫けぇぇぇぇぇッ!!」


眼前の敵を貫かんと差し出されたサンライトハートに想いを託す。
心臓を核鉄の代用としているカズキにとってサンライトハートは文字通り一心同体だ。
もう一人のカズキであるサンライトハートは力をもってして彼の意思に応える。
サンライトハートの刃がカズキの狙い通りにダグバを捉えた。


「へぇ」


そのダグバが呟く。
短い言葉にはダグバの感情が強く込められている。
ダグバがカズキに対して抱いた感想は単純なものだった。

「残念だね」
「なに!?」

心底失望した様子でダグバは目の前のカズキに問いかける。
答えを必要としない問いはカズキをまるで凍りつかせるように響いた。
カズキは目の前の出来事がまだ信じられないでいる。
全力のサンライトスラッシャーをこれ以上のないタイミングで撃つことが出来た。
だというのにサンライトハートは、ダグバには届いていない。
サンライトハートの刃はダグバに掴まれ、ほんの少しの動きすらも許されていなかった。

「こんなものじゃ――」

124創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:41:56 ID:ZcSpbNjW
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125創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:42:55 ID:ZcSpbNjW
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126究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:43:51 ID:yP8zqsQ4


そういうや否やダグバは握りしめた腕への力を強める。
サンライトハートの刀身からは砂のような粒子が零れ落ちていく。
ダグバの尋常ではない握力はサンライトハートを確実に砕き始めている。
苦痛に表情を歪めるカズキ。武装錬金のダメージはカズキ自身の傷となるためだ。
一端武装解除を試みようとするカズキは意識を左胸に集中させる。
その時、不意にカズキは自身の身体が軽くなったように思えた。


「僕と同じにはなれないね」


ダグバの声と同時にカズキは強烈な衝撃を右頬に感じた。
ダグバは右の拳を軽く振りかぶり、ただ殴っただけだった。
それでも右顔面を根こそぎ持っていかれるような痛みがカズキに走る。
叫ぶ事すらもままならず、カズキの身体はいとも容易く後方に吹き飛ぶ。
戦士長、キャプテンブラボーの指導の下、錬金の戦士としての過酷な特訓をカズキはずっと続けてきた。
一般の男子高校生よりもずっと強固な肉体を培ってきたつもりだった。
だが、ダグバにとってカズキの特訓は何も意味を持たない。
いくら鍛えようが、錬金の力を得ようがカズキは根本的に人間であることに違いない。
それだけでは、とっくに人間という存在を超えたダグバには何もかもが通用しない。
たったそれだけの話だった。


◇     ◇     ◇


127創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:44:52 ID:ZcSpbNjW
支援
128創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:46:17 ID:ZcSpbNjW
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129究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:46:57 ID:yP8zqsQ4

「む、武藤さん! しっかり……しっかりしてください!!」


すずかがようやく声を出せたのはカズキが仰向けに倒れた後だった。
走り出して必死にカズキの身体を揺すりだす。
すずかにとってカズキは知り合ったばかりの人間だ。
それでもカズキは一人でどうしようもなかったすずかに声を掛けてくれた。
そんなカズキを放っておくことは出来なかった。

「無駄だよ。それはもう立てないさ」

段々と近づく声にすずかは思わず尻もちをつく。
未だに怪人態を解いていないダグバの姿は近づけば近づくほど恐ろしいものに見えた。
表情は仮面に隠されているがその声の調子からダグバはきっと笑っているのだろう。
何も抵抗出来ずに、怯えるしかないすずかの様子がダグバには堪らない。
強大な力で他者を蹂躙することこそがダグバの生き方であり、彼が何よりも愛する事なのだから。

「い、いやぁ……」
「逃げないでよ。これ以上、僕を楽しくさせないでよ」

すずかはダグバから逃げようとするが上手く足を動かせない。
すっかり腰が抜けてしまったすずかが逃げられるわけもなく、ダグバとの距離は確実に縮まっていく。
対照的に、ゆっくりとすずかを追い詰めるダグバはやはり余裕そのものだ。
むしろどうにか逃げようとするすずかを見て嬉しがっている様子もあった。
抵抗がないのもつまらない。どうせなら足掻いて苦しむ獲物の方が殺し甲斐もある。
やがてダグバは右腕をすずかの方へ伸ばす。


「……ごめん、すずかちゃん。遅くなっちゃった」
「武藤さん!!」

そんな時、カズキが立ちあがり、すずかとダグバの間に割って入った。
右顔面は酷く腫れあがり、口元からは血も流れている。
それでもサンライトハートを支えにしてしっかりと両足で地を踏みしめている。
地面と擦れ、傷だらけになったカズキの背中はすずかにはとても大きなものに見えた。

130創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:46:58 ID:ASKtYqSJ
 
131創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:47:50 ID:ZcSpbNjW
支援
132究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:48:04 ID:yP8zqsQ4
「少し驚いたよ。もう起き上がれるんだね」
「ああ……かなり効いたけどな。正直、立ってるだけでも辛い」
「だったら、どうしてまだ僕に立ち向かうのかな?」

吐息は荒く、カズキの今の状態は彼が言ったように良くはない。
だが、カズキには立ちあがる理由がある。
ダグバにはわからない、カズキが信じる信念が彼自身に力を与えてくれる。


「お前はきっと誰かを傷つける。
だから……俺はお前を止めるためになら絶対に負けられない!
俺の武装錬金は、俺の命はそのためにあるんだ!!」


ホムンクルスに心臓を貫かれたことに始まり、カズキは様々な痛みを経験してきた。
そのどれもがどうしようもなく痛く、カズキに一つの決意をさせた。
もう誰にも痛い想いをして欲しくない、悲しい想いはさせたくない。
変わらない想いは日々成長する力となり今のカズキを造った。
ボロボロになろうともカズキはダグバに対し一歩も引くつもりはない。
津村斗貴子によって蘇ったカズキの命は、誰かを護るために今も動いている。
たとえそれが錬金術による仮初の命といえど、熱い脈動は変わらない。
溢れ出る感情は闘争心と成り、瞳を曇らせることなくカズキはダグバと対峙する。


「ふふ、面白いね。弱いのに君は、少し面白い」


カズキのその視線を受け、ダグバは何か得心がいったような様子を見せた。
小刻みに全身を震わせるダグバはまるで笑いを押し殺しているようだ。

「なら君はそこの小さなリントも僕から護らないといけないよね?」
「当たり前だ。俺は、お前に誰にも傷つけさせない! 俺の総てを賭けてでもお前を止めてやる!!」

サンライトハートを引き抜き、ダグバに突きつけるカズキ。
しかし、ダグバがサンライトハートの刃を意に介さない。
確かめるように発されたダグバの言葉にカズキは肯定の意を示す。
カズキにとってダグバの問いは考えるまでもない。
すずかを護ることがこの場でのカズキの最優先事項だ。
少し後ろに引き、すずかを出来るだけダグバから遠のける。
一方、ダグバは腰を落とし手を伸ばした。


133創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:48:48 ID:ASKtYqSJ
 
134究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:49:23 ID:yP8zqsQ4
「良い言葉だね。感動を覚えるよ。だけど――」


自らのデイバックを取り出し、ダグバは何かを取り出す。
カズキとすずかにはそれが一瞬なんなのかわからなかった。
ダグバが極自然に手に取ったものは嫌に長細く、肌色と白が混じりあったような色だった。
そう、例えるなら日焼けをしていない人間の女性の――。
逸早く何であるかに気付いたカズキは咄嗟にすずかの眼を隠す。


「君のその言葉は無意味だね。だって、もう僕はこのリントを殺したんだから。
内田かよ子だったかな……まあ、もう意味のない名前だけどね」


成人女性のものらしき片腕をダグバはカズキに見せつける。
楽しそうな様子から自慢の玩具を自慢するような子供の無邪気さが感じられる。
また、片腕の切断面は荒々しいもので刃物による切断とは考えにくい。
それは力任せに引き抜いたものであることが誰の眼にも明らかだった。
その片腕を足元に落とし、ダグバは己の足で踏みつける。
肉をすり潰したような音と液体が跳ねる音が混ざり合い、やがてダグバの笑い声に変わっていった。

「ッ!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

サンライトハートを手元に寄せ、カズキは力強く吠える。
右腕の主の名前は絶対に忘れられない。
後悔とどうしようもない怒りをサンライトハートに叩きこむ。
闘争心で昂ぶる心がもう一度力を穿てと叫び、カズキはその声に従う。
そう、確かに従ったはずだった。


「うるさいな」
「なっ……!」


カズキの動きが急に止まる。
サンライトハートを受け止められたわけではない。
ただ、ダグバはカズキを一睨みしただけだ。
カズキの生物としての本能に直に働きかけるその睨みは一瞬にして彼から全てを奪った。
全身に流れていた血の流れが急速に遅くなり、昂ぶらせていた闘争心にも陰りが生じる。
そしてサンライトハートすらもその形を維持できなくなり、強制的に武装解除が行われる。
何百メートルも離れている距離で、超古代の戦士の戦意すらも喪失させたダグバにはこのくらいの芸当は造作もない。

135究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:50:16 ID:yP8zqsQ4
「終わりだね」
「くそ……」

既にカズキに力はない。
武装錬金を再度使おうにも力が入らない。
全身から吹き出る脂汗に塗れた自分の身体を抑えるので精いっぱいだった。
自分の後ろにはすずかが居るというのに。
女の人が自分の知らない場所で殺されてしまったというのに。
死ぬことに対しての恐れよりも何も護れなかった自分への悔しさが何よりも辛い。


「安心してよ。まだ殺すつもりはないさ」
「!?」

だが、ダグバは止めを刺そうとはしない。
デイバックを担ぎ、カズキの横を通りこしていく。
思わず身を縮こませていたすずかにすらも一瞥をくれない。
既に用は済んだと言わんばかりに歩いていく。

「でも、今度会う時には……もっと強くなってね。君もクウガのようになってくれたら嬉しいよ」

カズキにはダグバの表情が窺えない。
ダグバは背を向けていることもあり、彼には異形の仮面が張り付いている。
それでもダグバが愉しんでいることはカズキには明らかだった。


「だからもっと強くなって、もっと僕を笑顔にしてよ。もし君が弱いままだったら――」


今まで戦ってきたホムンクルスとも、あの蝶野攻爵とも根本的に違う。
絶対に判り合えない存在なんてカズキは居ないと思っていた。
しかし、その認識は脆くも崩れていくようだった。
正真正銘の化物は、確かに今この場に居るのだとカズキは確信する。
そしてなんとかカズキは強引に身体を捻らせようとする。
だが、身体はカズキの思うようには動かない。


「その時は殺すよ。その小さなリントからね」


結局、カズキはその場に倒れ伏せるしかなかった


◇     ◇     ◇


136創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:51:10 ID:ZcSpbNjW
支援
137究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:51:27 ID:yP8zqsQ4
赤く燃え盛る炎を感慨深く眺める怪人が居た。
ン・ダグバ・ゼバ、超古代の戦闘民族グロンギの王にして最強の戦士。
カズキとすずかから別れた後、彼は未だに怪人態のままで観察を行っていた。
激しい勢いで燃え盛る炎が燃やしているのは一本の木だ。
やがて完全に燃え尽きたのを見届けてからダグバは再び人間の姿に戻った。

「なるほどね」

木が燃えていたのはダグバが持つ彼固有の能力によるものだ。
物体の分子を振動させ、物質の温度を高温にまで引き上げ発火させる。
カズキの戦いで使う事はなかった自然発火能力は未だ健在だ。
しかし、その能力はダグバが予想していたものとは少し劣化していた。
カズキとの戦いでも自身の身体がいつもよりも鈍いことはわかっていた。
理由はわからないが自身の身体の不調をダグバは自覚する。
だが、ダグバにとってそれは些細なことだった。

「だけど僕には関係ない。どうせ殺すだけさ」

霊石、“アマダム”の力により変身を行う戦闘民族グロンギ。
その長であるダグバの力は強大そのものだ。
飛びぬけた身体能力だけでもダグバは大抵の相手を圧倒する。
発火能力をカズキに使えばあまりにもあっけないものだっただろう。
始めに出会った参加者とは違い、もう少しじっくりと殺したいという思いがダグバにはあった。
そう、一人目の獲物となった内田かよ子もまたダグバにとっては少し稀有な存在だった。

怯え惑う姿を見ようと早々に変身したがかよ子にはそれほど驚きはなかった。
初対面の人間に対する警戒心だけで怪人態のダグバを特に畏怖するような様子もない。
どこかダグバのような存在に対し慣れているような素振りすらもあった。
その分ダグバにとっても労せずに殺すことが出来たのだが。

好き勝手にかよ子の遺体を弄んだ後、一部分をデイバックに詰めたのは単なる気まぐれだ。
もし心の弱いリントであるならば見せるだけで我を見失うかもしれない。
心が狂ったリントを圧倒的な力で殺していくのもきっとさぞかし面白いものだろう。
“ファイナルゲーム”を行った際のように片っ端から抵抗する間もなく殺していくのも一つの手だろうが。
しかし、3万以上ものリントをファイナルゲームにより虐殺したダグバにとって約60という数はあまりにも少ない。
だからこそダグバは趣向を凝らし、カズキとすずかを一度だけ見逃した。


138創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:53:25 ID:ZcSpbNjW
支援
139究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:53:37 ID:yP8zqsQ4
「もっと僕を憎んで、強くなってね」


ダグバはカズキに期待していた。
ただのリントであるはずなのに異様にしぶとい生命力。
他人を護るために戦うと、ダグバにとっては理解できないその信念。
何よりもダグバにはカズキがこれ以上も力をつけるだろうと見込んだ。
その感覚は確実に究極の闇を齎す存在へ進んでいるあのクウガと同じだった。
どこか不安定で、一つ狂ってしまえば何もかもが崩れてしまいそうな危うさが期待させる。
自分と同じになるか、それともやはり同じにはなれないのか。
どちらにせよ今殺してしまうよりももう少し楽しめそうなのは確かだった。
だが、いつまでも待っているだけではつまらない。


「楽しみだよ。クウガ、そしてカズキ。本当にね……!」


究極の闇になったはずのクウガ、そしていまだ可能性を秘めたカズキ。
彼らとの再会を期待してダグバは闇の中に身を沈めていく。
目につく人間は殺し、戦いを楽しむ。
あの男が言っていたルールすらもダグバには関係がない。
どうせ自分以外の全ては殺しつくすことに変わりはないのだから。
遊び相手は二人で充分だから、もう――見逃す理由はない。
どんな存在であろうとも。


◇     ◇     ◇


140創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:55:52 ID:ZcSpbNjW
支援
141究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:56:36 ID:yP8zqsQ4

幸運だったのか不幸だったのかすらもわからない。
自分が間違いなくまだ生きていることに対しては純粋に嬉しいとは思う。
だが、名前も知らない怪物に今度は殺すと言われた。
きっともう既に誰かを殺してしまった、恐るべき怪物に。
何も力がないすずかにとっては抵抗する術は一つもない。
一欠けらの希望すらも持てない現実が重くのしかかる。
そして何よりもすずがには辛いことがあった。

「武藤さん……」

あんなにも頼もしく見えたカズキの背中があまりにもか細く見える。
両肩を震わせるカズキはすずかに背を向けて何も言わない。
すずかの方もどう声を掛けていいかわからない。
ただ、カズキの悲しみと怒りは痛いほどに伝わってきた。
きっと、内田かよ子の死を自分の責任だと感じているのだろう。
カズキのその性格は嫌いではないがどこか不安だった。
自分一人でなんでも背負いこみ、いつかは燃え尽きてしまいそうな気がしたから。
それでもすずかにとって頼れる人間はカズキしか居ない。

「ごめん、すずかちゃん……。今度こそ絶対にあいつを倒すから……!」
「はい……」

カズキの言葉が何故だか精いっぱいの強がりにしか聞こえない。
それでもすずかはカズキの言葉に弱弱しく応えるしかなかった
142創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:58:12 ID:ZcSpbNjW
支援
143究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 00:58:39 ID:yP8zqsQ4




完敗だった。
自分の武装錬金術が全く通じなかった。
恐らく全力のサンライトクラッシャーも通用しないだろう。
今の自分力ではダグバを倒すには限界がある。
すずかには必ず倒すと言ったものの、今のままでは駄目なのは自分がよくわかっている。
仲間が必要だった。錬金の戦士のように護りたいものを同じとする仲間が。
そして何よりも自分自身が変わらないといけない。
もう内田かよ子のような犠牲者を出さないためにも――





“力”が欲しいとカズキは強く願った。
144創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 00:59:37 ID:ASKtYqSJ
 
145創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:00:12 ID:ZcSpbNjW
支援
146究極の闇 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 01:00:13 ID:yP8zqsQ4
【内田かよ子@天体戦士サンレッド:死亡確認】

【D-3 /北西:深夜】
【武藤カズキ@武装錬金】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:右顔面に大きな痛み
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [思考・状況]
 基本行動方針:救える命は一つでも拾う
 1:すずかを守る
2:ダグバを倒す
 [備考]
 ※参戦時期は原作五巻、私立銀成学園高校突入直後。

 【月村すずか@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [持物]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [方針/目的]
  基本方針:アリサとなのはと会う
  1:カズキについていく
  [備考]
 ※参戦時期は未定。
 

【D-4 /北東の森:深夜】
 【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [持物]:基本支給品一式×2、不明支給品2〜6(本人未確認)
 [方針/目的]
  基本方針:好きなように遊ぶ
  1:クウガとカズキにはまた会いたい
 [備考]
 ※参戦時期は九郎ヶ岳山中で五代を待っている最中(EPISODE48)
 ※かよ子を殺害したのはC-3南付近です。C-3の南、ダグバのデイバックにはかよ子の遺体の一部が有る可能性があります
147 ◆40jGqg6Boc :2010/08/13(金) 01:01:45 ID:yP8zqsQ4
投下終了しました
支援ありがとうございます
何かあればお願いします
148 ◆asM5JTiUrc :2010/08/13(金) 01:15:00 ID:1mNDRva/
もう他の方の投下はないね?
今から投下します
149創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:15:19 ID:ZcSpbNjW
支援
150宿敵 ◆asM5JTiUrc :2010/08/13(金) 01:16:14 ID:1mNDRva/
ここはE-3に有るフロシャイム川崎支部。
正確には其れを模した建物だが、その建物の居間に当たる一室で二人の男が休んでいる。
二人は実験が始まってからすぐに遭遇したがそれぞれ殺し合いはおろか敵対する気も無い、主催者の言うとおりに行動するのは癪に障るとの理由で一緒に行動することにした。
そして他にも周りに参加者がいないか探し回ったのだが、これがまったく見つからない。
探し始めて一時間が経とうとした時に二人の内の一人が疲れたとの事でそのとき偶然発見した建物の中で休む事にしたのだった。
休み始めてから少し経ったとき二人のうち片方が喋り始める。

「そういえばまだ自己紹介お互いにしてなかったよね。
 君の名前はなんて言うの?」
「……そういう時は自分から名乗るものだろう」
「あ、ごめんごめん、そうだよね、じゃあまず私からいくね。
 コホン、我が名はフロシャイムが幹部ヴァンプ将軍なり!!」
「俺はパピヨンだ」
「えっと、パピヨン君だね」
「NON!パピ?ヨン?もっと愛を込めて!!」
「わっ!ちょっとびっくりするからいきなり怒鳴らないでよ、もう…」
「フン…」
「あ、そう言えばパピヨン君にはここに知り合いがいる?
 私の知り合いは天体戦士サンレッドとレッドさんの恋人の内田かよ子さん。
 レッドさんは正義の味方なんだけど対決の時ちっともヒーローらしく戦ってくれなくて。
 でも根は良い人なんだよね。じゃないとかよ子さんみたいな優しい良い娘とは付き合えないよ。
 はぁ〜、二人とも無事ならいいのだけど」

あまり興味なさげにしていたパピヨンだったが急にヴァンプの話に耳を傾ける。
そしてそのまま考え込んだ後、今度は自分からヴァンプに話しかける。
151宿敵 ◆asM5JTiUrc :2010/08/13(金) 01:18:30 ID:1mNDRva/
「おいヴァンプ」
「え、なにパピヨン君」
「そのかよ子とかいうヤツは普通の職業の人間か?」
「かよ子さんは保険の外交員、普通の人だよ」
「…そうか、ではヴァンプ、お前の所属は悪の組織、サンレッドは正義の味方で良いんだな?」
「そうだけど、急にどうしたのパピヨン君?」
「仮説だが俺とお前は同じグループかもしれん」
「え!どういうことですか?」

驚いたヴァンプがパピヨンに尋ねる。
パピヨンは大げさに溜息を付いたあと少しめんどくさそうに説明を始めた。

「これは俺の仮説だが正義=Hor、悪=Set、その他=Isi。これを踏まえて説明するとだな
 俺とお前はSetの可能性が高い。
 第一俺は他人から悪人呼ばわりされてた時期もあったし多少心当たりが有る。お前は悪の組織の幹部だ。
 この仮説の場合俺たち二人はほぼ確実にSet。皆殺しグループだ。
 後は俺の宿敵、偽善者の武藤カズキと正義の味方のサンレッドがHor。
 残りは保険の外交員の内田かよ子とただの女学生の武藤まひろ。こいつらはIsi、だ」
「ふむふむなるほどねー」

感心したようにしきりに頷くヴァンプを見てパピヨンは少し呆れたような顔をしながら(といっても見えないが)話を続ける。

「この仮説は俺たちと似通った人間関係の者ばかりだったら多分この分け方で合っているだろうという希望的見地から導き出したものだ。
 大体がだ。正義や悪などで分けること自体俺から言わせればそれ自体がナンセンスだ。
 必ずしもこの仮説が正しいわけじゃない。そこを勘違いするな。断定するには情報が少なすぎる」
「それでもパピヨン君は凄いよ!人間関係だけでここまで分かるなんて!!」
「…まだ仮説だといっているだろう。
 今後の俺たちの行動は主催者打倒の仲間集めと支給品集めだな。
 お前もそれでいいだろう?」 
「うん!私もあの主催者は許せないよ!!主催者打倒一緒にがんばろう!オー!!」
「話に一段落したら腹が減ってきたな、飯にしよう」

パピヨンがナチュラルにヴァンプを無視しながら食料を出そうとするとヴァンプが待ったの声をかける。

「あ、だったら私が好いもの持ってるからちょっと待ってて」
「ほうこれは…」
「ジャーン!私の支給品の鳥のから揚げだよ!!美味しそうでしょ」

ヴァンプが取り出したのはタッパー一杯に入っている鳥のから揚げだった。
それも一つではなく三つもある。以外に重そうだった。

「確かに蝶・美味そうだな」
「それじゃあいただきまーす」
「ん?」
「あれ?」
「「これ不味くない」か」
「味が無いね」
「ああ…、味の無いから揚げがここまで不味いものだったとは…蝶・サイテーだ」
「う〜ん、あ!そうだ!!こんな時こそ」

そう言うとヴァンプはどこからか割烹着を取り出しパピヨンと共に台所へと向かった。
152創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:18:42 ID:ZcSpbNjW
支援
153創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:20:19 ID:ZcSpbNjW
支援
154宿敵 ◆asM5JTiUrc :2010/08/13(金) 01:20:42 ID:1mNDRva/
☆☆☆ヴァンプ将軍のさっと一品のコーナー☆☆☆

皆さん今晩はヴァンプです。今日紹介する料理はこれ! 

『から揚げのオーロラソース和え』

まず用意するのはから揚げをお好きな量と中濃ソース、ケチャップ、マヨネーズ、あと出来れば市販で売っているデミグラスソース。
デミグラスソースは大きいスーパーのボトルサイズで売っているものがお勧め。
ボトルだったら料理に味を足したいときでもすぐに出せるでしょ。

作り方は簡単。まずケチャップ、マヨネーズ、中濃ソースを大体同じ分量で混ぜ合わせてオーロラソースを作ります。
この時ソースをあまり入れすぎないように注意してね。
隠し味として少しデミグラスソースをオーロラソースに入れてから揚げと混ぜ合わせて完成!
から揚げのオーロラソース和え!お味はどうパピヨン君?

「中々いけるな!蝶・サイコーだ!!」

から揚げに合うソースは他にも市販で売っているスイートチリソースやオイスターソースを効かせた中華風餡かけソースとかがお勧め!
色んなソースで食べ比べて自分に一番合ったものを探したりするのも悪くないかもね!
155創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:21:07 ID:1k0D542/
私怨
156創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:22:38 ID:7xlAsznI
支援
157宿敵 ◆asM5JTiUrc :2010/08/13(金) 01:23:08 ID:1mNDRva/
から揚げを食べた後二人は共にフロシャイムを後にする。
二人は共に知り合いの無事を祈る。
ヴァンプはサンレッドとかよ子を。
パピヨンは宿敵武藤カズキを。
しかし二人は知らない。
ヴァンプはパピヨンがカズキのことを殺したいほどだと言うことに。
パピヨンはヴァンプがサンレッドの事をそれほど憎んでいないことに。
そして二人が相手の無事を祈る理由が正反対だということをこの時はまだ誰も知らないのだ。
宿敵―――この言葉が互いに与えた誤解を知らぬままに二人は主催者打倒の旗を掲げるのであった。

「では行くか。我が宿敵サンレッド共々主催者を討ち果たしてくれるわ!!」
「ククク、待っていろ武藤カズキ!!そして主催者!!この俺が貴様らを地獄に送ってやる!!!!」
「「フハハハハハハハハハ」」
158創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:23:43 ID:ZcSpbNjW
支援
159創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:24:17 ID:1k0D542/
支援
160宿敵 ◆asM5JTiUrc :2010/08/13(金) 01:26:50 ID:1mNDRva/
【E-3/市街地:深夜】
【蝶野攻爵(パピヨン)@武装錬金】
 [属性]:Set(悪)
 [状態]:満腹
 [装備]:蝶のマスク、蝶ステキな一張羅
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:主催者打倒の仲間集め
 1:仲間を集めて主催者の打倒
 2:武藤カズキとは殺し合いで決着をつける
 3:主催者や自衛の為強力な支給品を探す。核鉄優先
 [備考]参戦時期はヴィクター戦前くらいで

【ヴァンプ将軍@天体戦士サンレッド】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:満腹、少し胸焼け
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品、から揚げの入ったタッパー×2、不明支給品2〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:主催者打倒の仲間集め
 1:仲間を集めて主催者打倒。サンレッド、かよ子優先
 2:サンレッドと遭遇しだい対決。殺し合いはNG
 3:から揚げ食べ過ぎてちょっと気持ち悪い
[備考]から揚げはすべてオーロラ和えにしました
161 ◆asM5JTiUrc :2010/08/13(金) 01:29:29 ID:1mNDRva/
投下終了
支援ありがとうございました
162創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:33:51 ID:ZcSpbNjW
投下乙です

続けて次鋒、代理投下いきます!
しかし一晩で4作投下されるとは…すばらしい
16320世紀中年◇wmEUUSe/E6:2010/08/13(金) 01:34:38 ID:ZcSpbNjW
ここはH-8、裁判所の正面玄関前。
分かりやすく説明するなら、何か大きな事件の判決の際に裁判の関係者が「無罪」とか「不当判決」などと書かれた
紙を広げてアピールするあの場所と言えばいいのだろう。
その場所にいるのは剣持勇。泣く子も黙る、警視庁捜査一課の警部殿である。
もっとも、彼は警察官であり検察官ではないので裁判所とはあまり縁はない。
逮捕するのが警察官の仕事で、起訴するのが検察官の仕事だ。
そんな彼が、裁判所の前で一体何をしているのか?

友人の金田一一のように自らの置かれた立場を考え、推理し、予測を立てているのではない。

友人の七瀬美雪のように油断したところを犯罪者に襲撃され、物言わぬ骸に成り果ててもいない。

逃亡中の凶悪犯である高遠遙一のように己の正体を隠し、暗躍しようとしているわけでもない。

その答えは看病。
ある意味彼の職業とは対極にある行為かもしれないが、道端に倒れている一般人を見捨てて捜査をするなど
彼の倫理観から考えてもありえない行為である。
これで看病している相手が妙齢の美人などであったのなら、端から見れば面白い構図ではありそうなのだが
実際の看病相手は剣持より多少若い中年の男。ロマンスは投げ捨てるものである。

「おーい、大丈夫か神父さん」

未だ意識を取り戻さないこの男に何故剣持は神父さんと声を掛けるのか。それは男の服装と持ち物に起因している。
男の服装はカソックで、手に握りしめているのはロザリオ。
これで神父以外の職業を思い浮かべろという方こそ無理があるものだ。

勿論剣持も、ただじっと神父の様子を見ているわけではない。
参加者名簿を開き、この場所に自分の他にも知り合いの金田一一や七瀬美雪が連行されていることを
甚だ不本意ながら再確認し、なおかつあの高遠遙一までもがいることに驚愕する。
日本警察の総力を持ってその所在を追跡してなお未だ逮捕に至らないあの凶悪犯を、いとも容易くこのような場所に
連れてきたその組織の能力に剣持は驚異を感じていた。
最初に意識を取り戻したあの場所で聞いた声の男が、主犯なのかそうでないのかは分からない。
しかしこれだけの大規模な犯罪をたった一人で行うことは不可能であると、立場や目的は大きく違えど組織の一員である剣持は言い切る。

他にも考えることは無数にある。
Hor、Isi、Setの意味や、参加者がどの陣営なのか、そしてそれぞれの陣営に課せられたルール。
この首に着けられた不愉快な爆破物の解除方法。金田一一と七瀬美雪の保護。
問題は、彼は捜査一課の警部とは言うもの、どちらかというと頭より足を使って事件を解決するタイプの警察官なのだ。

(この場所にあのイヤミが居ないことは良いのか悪いのかどっちなんだ)
16420世紀中年◇wmEUUSe/E6:2010/08/13(金) 01:35:35 ID:ZcSpbNjW
そう頭の中で感想を漏らしているすぐ背後から「何か言いましたか剣持君?」とか言いながらあのロスかぶれが
突然出てきそうな気配を剣持は感じたが、その予想は杞憂に終わる。

「ウ、ウウ〜〜」

代わりに聞こえてきたのは神父のうめき声。どうやらまだ意識は取り戻していない様子だ。
何か病気の症状であるのなら、至急安静にできそうな場所へ移動したほうがいいのだろうが
単に悪い夢を見ているだけならこのまま見守っているだけでもさほど問題はない。
それにこの見通しの悪い深夜の時間帯に、大の男一人を背負って移動すると、何者かに襲撃を受けたときに身動きが取りづらい。
神父には悪い気もするが気がつくまで現状維持で待機する。それが剣持の判断だった。

「二人とも無事でいてくれよ……」

言うまでもないがこの二人に高遠遙一は含まれていない。

しかし彼の願いはかなわない。
七瀬美雪は既にその短い生涯を終えてしまった。
それも彼の傍らで魘されている神父のとても、とてもよく知る男の手によって。
その事実を剣持が知る機会が訪れる可能性と、彼が金田一一と無事に再開できる可能性のどちらが高いかは、誰にも予測できない。



【H-8/裁判所前:深夜】

【剣持勇@金田一少年の事件簿】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品、未確認支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:この事件を金田一一と共に解決する
 1:神父(賀来巌)が意識を取り戻すのを待つ
 2:金田一一、七瀬美雪との合流
 [備考]
 ※参戦時期は少なくとも高遠遙一の正体を知っている時期から。厳密な時期は未定。
16520世紀中年◇wmEUUSe/E6:2010/08/13(金) 01:36:26 ID:ZcSpbNjW
私はあの場所で一体何を見たのだ?
確かにあの時、私はMWと一緒に海に飛び込んだはず……
確かに海面に体を叩きつけられ、その尋常ではない痛みと衝撃で意識を失いこの罪深い人生は終わるはずだった。
しかし次に目を覚ました時は、ダンテの神曲のような場所ではなく冷たいコンクリートの床の上。
スピーカーから聞こえてくる声の内容はよく理解できなかったが、地獄で聞くのには相応しい声色だ。
そして様々な人物の顔が見たこともないぐらい巨大なテレビ画面に現れる。地獄にもテクノロジーが導入されているのか。
そこには私と同じ日本人以外の人間が映し出されていた。時折妙な服装の写真が写ったが、何処か外国の風習なのだろう。
次に見せられたのは何人かの首に着けられた爆弾が爆発し、処刑される映像。
これこそ正しく地獄で見せられるべき映像だ。あの島で起きたことを例外にすればの話だが。
スピーカーから流れる声も終わり、また意識が遠くなり、目の前が暗くなる。次に気がついた時が本当の地獄なのだろう……


「何を言っているんだい神父さん」

その声は結城……お前も当然地獄にいたのか。

「いいや違うよ、ここは地獄じゃない」

何を言っているんだ、私が死んでお前がここにいる。地獄以外の何だというのだ!

「ここは死後の世界なんかじゃないよ」

じゃあ何か、私はまだ生きていてさっきの話や映像も現実だというのか!

「そうだよ神父さん」

ちょっと待て、暗闇なのにお前の顔が分かる?

「さあね、今アンタが聞いている声は現実ではないかも知れないけど、さっきのは間違いなく現実だ」

どういうことなんだ……

「俺にとってはどっちでもいいんだよ。またアンタにこうして会えたんだから」

まさか……お前は死んではいないのか?

「それが知りたきゃこの地獄のような現実で俺を見つければいいじゃないか。俺のすることは同じなんだから」

また罪の無い人達を大勢殺ろそうというのか!

「そうだよ、今度こそアンタに止められるかな?」

結城の姿はそう言い残した後、消えていった。そして私はさっきの放送と映像を思い返す。
アレが現実だと? あの爆弾で首を飛ばされた映像も? そんな場所に死んだはずの私を何故連れてきたのだ?

神よ! これも私に課せられた試練なのですか!? 私の罪はこれほどまでに大きいのですか!?
この争いで一体私に何を行えというのですか、神よ!?
16620世紀中年◇wmEUUSe/E6:2010/08/13(金) 01:37:05 ID:ZcSpbNjW
【H-8/裁判所前:深夜】

【賀来巌@MW】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、気絶中
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品、未確認支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:結城美智雄に会う
 1:結城美智雄に会う
 [備考]
 ※参戦時期はMWを持って海に飛び込んだ直後。
16720世紀中年◇wmEUUSe/E6 代理投下:2010/08/13(金) 01:39:06 ID:ZcSpbNjW
代理投下終了

しかし一晩に4作とは…
どれも密度が濃い上に、今日はもう遅いので、感想は纏めて明朝に
それではお休み


イングランドに栄えあれ
168創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:45:34 ID:1k0D542/
どんどん来たな
投下&代理投下乙です

マジでグレートな戦いだぜ
悪魔将軍つえええ、そして貫録あるわw
知能派の駆け引きの最中でどう動くか楽しみだわ
仗助は残念だがここでリタイヤか。お休み

こっちもやっぱりこいつは自重しねえええぇ!
カズキがほとんど歯が立たねえとは…
かよ子はヒドイ死にざまなのがわずかな描写だけで想像できるわ
一応、再戦の流れだがこれは他の悪党に付け入られる悪寒

あら、意気投合してるだと?
そういえばパピヨンは地雷踏まない限り気さくだったっけ
ヴァンプさんはいつものノリだけど殺し合いだということに気づかないと…
将軍の料理ネタとパピヨンのグルメとを絡めたのは上手いなと思った
169創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 01:51:10 ID:1k0D542/
感想書いてる間にもう一つ来たか

剣持さん、美雪はもう…
だけど刑事として頑張って欲しい
それと賀来巌はよく知らんがロワが始まった直後からトラウマ持ちで大丈夫かいな…
言峰辺りに出会ったら1発で…w
170創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 09:54:10 ID:ZBy3QGJM
>>160
装備、支給品の出典(@〜〜)無いけど良いのかな?
171創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:13:11 ID:VpWBhe7v
予約がどんどんきて順調だわ
172創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 23:25:35 ID:ZcSpbNjW
黒神めだか、衛宮士郎、ジョーカー、ニナ・フォルトナー

代理投下します
173「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/13(金) 23:27:48 ID:ZcSpbNjW
 人が。
 人が。
 人が、舞っていた。
 人が。
 人が。
 次々と倒れ、或いはくずおれ、ただ物言わぬ物体と化していった。
 四十二人が死に、四十六の死体が出た。
 人が。
 人が。
 人が、これからまた、次々と死んでゆく。
 赤い薔薇を、散らすように。


 少女が走り去るのを見送って良かったのかどうか。
 ニナ・フォルトナーの心には戸惑いが残っている。
 ドイツ全州で起きた、「中年夫婦連続殺人事件」 の被害者の養女。
 失われた過去。
 呼び覚まされた"赤い薔薇の屋敷"での悪夢。
 全ては、幼き日に別れた双子の兄、ヨハンの中の怪物によるもの。
 ヨハンを怪物に育てた過去に纏わるもの。
 なまえのないかいぶつ。
 彼女は決意した。
全てを終わらせるために、兄を、自らの手で殺すことを。
 決意した、はずだった。

 目が覚めたとき、ニナは自分が死んでいない事を改めて確認した。
 記憶を掘り起こし、足跡を追い、遂に出会った兄ヨハンを、彼女は殺せなかった。
 かつて幼かった頃に"赤い薔薇の屋敷"に連れられて、そこで経験したこと。
 それをニナは兄に話した。何日も何日もかけて話した。
 何人もの人が、人が、人が、赤いワインを飲み、次々と、舞い踊るように斃れ、死んでいった事を。
 それを聞き続けたヨハンは、ニナになった。いや、ニナがヨハンとなった。彼の記憶の中では。
 ヨハンはその記憶を、自らの物として記憶してしまったのだ。
 ニナが体験したこと、見たものを、自らの記憶である、自らの体験であると、そう思いこんでしまった。
 
 なまえのないかいぶつ。
 
 ヨハンが立ち去ってから、ニナは、自ら手にした銃で、自らを撃とうとした。
 ヨハンを怪物にしたのは私だ。幼き日に、彼に与えてしまった記憶こそ、ヨハンが怪物なったはじまりなのだ。
 そのとき、ドクター・テンマが現れ、ニナを止めようとし…。
 
 撃った記憶もない。撃たなかった記憶もない。
 しかし、死んでいない。死なず、何処にいたのかと言えば、何処とも知れぬ部屋の中だ。
 辺り一面が鏡と、モニターに覆われている。
 あの山小屋ではない。もちろん病院等の施設でもない。
 人が、人が、人が、ざわめき、うごめき、そこかしこに漂っている。
174「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/13(金) 23:28:40 ID:ZcSpbNjW
アナウンス。何者かが言う。『実験に協力して貰う』。
 そして、今、此処だ。
 深夜、と言える程に暗い時間帯。
 明かりはほとんど無く、無人の街。
 命の気配のない街並みを見れば、あまりドイツらしく思えない。些か色合いが濃く、鮮やかで、どちらかというと南の色調。
 洒落た石張りの街路に、所々に鮮やかな緑の生け垣。
 そしてニナが居るのは、その一角のカフェテリアの中だった。
 足元に置かれているバッグを、あまり意識のはっきりしないまま開ける。
 水と食料。いくつかの包み。手帳。
 中を開くと、地図、名簿、マニュアル……。
 
 何だ、これは? いったい何が起きているのか?
 "赤ん坊"や、チャペックの組織? いや、彼らにもはやこんな大きな力は残っていないはず。
 まして、彼らの妄執は、こんな実験などを今更必要とはしていないはずだ。
 既に、選別された怪物、彼らが王と掲げるべき人物、ヨハンは居るのだから。
 分からない。何もかもが分からない。
 分かるのは、名簿にある数人の名前。何より、兄、ヨハンの存在。
 そして、手にしている、冷たい金属。

 確認する。
 それ、はしっかりと手に握られる。
 それ、は死をもたらすものか。
 それ、は助けをもたらすものか。
或いは。

 足音がしたのは、そのときだ。
 歩く、というより、走る。
 目的があるのか、一直線に近づいてくる。
 反射的に、ニナはカフェテリアの奥、カウンターの後ろに隠れる。
 しかし視界は広く、全面ガラス張りの窓から、表の通りを見渡せる位置。
 走る靴音は、確固としたリズムですぐに近づいてくる。
 少女だった。
 ニナよりも若い、まだローティーンの様に見える少女。
 彼女は、こちらに気付いた風もなく、真っ直ぐに道を通り過ぎ、そのまま去っていった。

 少女が走り去るのを見送って良かったのかどうか。
 ニナ・フォルトナーの心には戸惑いが残っている。
 こんな事態で、事前に「殺し合え」等と言われ、しかもその手段足る武器まで与えられている。
 状況は知りたい。話もしたい。しかし、信頼に足るかどうかは、また別の話だ。
 ニナは、走り抜けた少女を引き留める事を躊躇した。
 それは単に、状況からくる恐れだけではない。
 目。
 迷い無く、一直線に走るあの少女の目。
 まるで空洞のようなその目に。
 無明の混沌を落とし込んだかのようなその目に。
 言いようもない恐れを抱いたのだ。
175「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/13(金) 23:29:41 ID:ZcSpbNjW
ぼくをみて ぼくをみて
 ぼくのなかのかいぶつが こんなにおおきくなったよ

 息が荒くなり、心拍数が上がっているのが自分でも解る。
 と同時に、果たしてあの少女が本当に走り去ったのか。
 それを確かめずには居られない。
 一歩。さらに一歩。
 ニナはゆっくり、そして慎重に歩を進め、カフェの開けた窓へと近づく。
 そのとき、だった。

「pusy cat baby、仔猫ちゃん、どうしたいそんなこわぁ〜い顔しちゃって?」

 ニナは、反射的に引き金を引いた。

◆◆◆

「聞いたか?」
「ああ、聞こえたぞ、衛宮上級生」
 拙い、と士郎は歯噛みする。
 最初に聞こえたのは、高笑いだった。
 笑い、というべきか、怪音声とでも言うべきか。
 それが笑い声だと分かったのは、一度それを耳にしていたからだ。

 最初に居た、あの部屋、あの空間で、アナウンスの声に異議申し立てをしていた男の声。
 決して相容れぬ事のない響き。そう、"邪悪な"響きだった。
 聞こえたのは微か。決して近くではないが、遠くもない。
 このコロッセオの周辺、何れか近くに彼の男が存在しているかもしれない事にいやな予感がする。
 士郎はめだかと視線を合わせ、確認し合う。
 おそらく、と、おおよその見当をつけ、走り出した。
 地図によるとこの辺りの市街地は放射状に街路が延びているが、細かい路地が多く複雑である。
 下手に横道に逸れると、簡単に方向感覚を失い、迷いかねない。
 広い道にあたるまで、直線で進むのが順当だろう、としたあたりで、今度は銃声と、ガラスの割れる音がした。
 拙い、と士郎は歯噛みした。
 音は、その横道の奥からだった。

 二人がそこにたどり着いたとき、走り去る一つの影と、仰向けに横たわる男の姿があった。
 角にあるカフェテラスの、通りに面した大きなガラス窓は割れて飛び散り、ここで何らかの問題が起きたであろう事は一目瞭然。
 何らか?
 違う。
 殺し合いだ。
 誰かがこの男を撃ち、逃げ去ったのだ。
 士郎が走るより先に、めだかが駆け寄った。
 紫のスーツ、緑の髪。遠目に見ても異様な風体。
 しかし、近づく度に感じられるこの違和感は何だ?
 大股に近寄る士郎の目に、白面痩躯で、異様に引きつったような口元の男の顔が見える。
 その口が、奇妙に歪み、
176「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/13(金) 23:31:18 ID:ZcSpbNjW
「黒神、待っ……」
 
 HA  HA  HA  HA  HA
   HA  HA  HA  HA  HA! 

 笑った。

 二人の前で、男はくるっと足を振り上げて、ばね仕掛けのようにぴょんと立ち上がる。
 そのまま、踵で2回転ターンをして、軽くタップを踏んでから、バっ、と二人に向き直った。
「遅いじゃねぇか、善良なるポーイスカウト&ガールスカウトの諸君。
 今のはなかなか良いシーンだったぜ?
 なんてったってこのジョーカー様が、何処の誰とも分からねぇ小娘に…
 Bang! Bang!
 撃ち殺されるなんて名場面が見れたんだからな!」
 そう言って、再び大声で笑う。
 確かに、ジョーカーと名乗ったこの男のスーツの腹に、銃創と思える穴が空いている。
 しかし、死んで居るどころか、血の一滴すら見えない。

「貴様、無事なのか?」
 めだかは顔色も変えず問う。
 距離が近い、と、士郎が危惧するが、意にも介さないようだ。
「無事ぃ?」
 けたたましい笑い声をピタリと辞め、白面の男は聞き返す。

「無事かぁ? だってェ!? おい、待て、待て、待て、待て、違うだろ? 今は、そうじゃねぇよ。
 無事ぃ? 違うだろ、何言ってんだ?」
 止まらない。
「笑うところだろうが!?
 まるで俺がハズしたみてーなリアクションとってんじゃねぇよ!
 畜生、タイミングか!? おまえらが遅すぎたからか!?」
 激しく怒鳴り出す。
 先程までの躁状態とも言える高笑いと、一転した怒り様に、流石のめだかも眉根をしかめた。
 士郎は再び警戒する。いや、警戒するというのは少し違う。むしろ、恐れというのに近いかも知れない。
 危機や戦いに対する恐れ、ではない。士郎はそう言う場で怖じるタイプではない。
 異質さ。噛み合わなさ。端的に言えば、狂気。
 その片鱗への、畏怖。
 ぴたり、と。またジョーカーの表情が止まる。
「はぁ〜〜〜〜〜……。
 やぁ〜〜〜〜〜っぱなぁ〜〜〜〜〜………」
 溜息と共に、肩を落としてそう呟く。

「殺っちゃうっしかねぇなぁ〜〜〜♪」
 
 懐に、手を伸ばした。

 士郎の認識よりも、めだかの速度は速かった。
 厳密には、速いのではない。早い、のだ。
177「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/13(金) 23:33:11 ID:ZcSpbNjW
 一つに、反応である。
 ジョーカーが手を懐に入れるよりも、懐に手を入れようとする動きを、察知して対応した。
 そしてもう一つは歩法だ。
 それは剣道においては基本も基本の足運びであるが、それを黒神めだかの身体能力ですれば、ただの動きとはならない。
 傍目の認識能力を、遙かに超える。
「貴様が無事なのは善哉。
 だがその了見は頂けんぞ?」
 めだかの左手が、ジョーカーの右手をがっしと掴み、動かない。
「…早いねぇ、お嬢ちゃん♪」
 動けない、というより、動けないようだ。
 ジョーカーの、痩せた、枯れ枝のような体躯で、この体勢を覆せるとも思えない。
 ・ ・ ・
「貴様も」
 めだかが言葉を続ける。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「かつては純粋で冗談の好きな、愛らしい子どもであったに違いない」
 突然の言葉に、士郎がやや面食らう。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「しかし不幸な環境と成育過程の愛情不足で、そのような不埒な言動をする捻れた性根に育ってしまったのだろう」
 ジョーカーは口元を下げ、聞いている。
 ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「私が、失われた幼年期の分、貴様に存分に付き合ってやろう」

 言い切った。
 士郎が、あまりの成り行きに言葉を失う。
 常々、何かにつけてお人好しだと言われている自分ではあるが、この対応、この発言は、それにしても士郎の想定の範疇を超えていた。
 だが。

「…なんで、ワカったんだ……?」
 小さくか細い呟き。
「そうよ、俺ぁちっちぇえ頃からよ。いつも冗談を言っているようなガキだったさ」
 ジョーカーの反応は、さらに士郎の想定の範囲を二重三重にも超えていた。
「貧乏暇無しとはよく言うが、俺のオヤジは違っていて、いつも飲んだくれちゃあオフクロや弟や、俺のことも何かってえとぶん殴る。
 そりゃあヒデェもんさ。俺たちゃ青あざの無ェ日はなかったもんだ」
 途方に暮れたような、何かを懐かしむような、不思議な表情を見せる。
「そんなオヤジが機嫌良くなるのは、俺が何か巧いギャグをやったときだけだ。
 まあ、3回に2回はぶっ飛ばされたけどよ。でも、笑いってのは人を変える。俺ぁそう信じたね」
 押さえられていた右手が、抵抗するでもなく力が抜けてゆく。
「けどな、あるときオヤジが、今までに無いくらいに怒って帰って来たんだよ。賭け事に負けたのか、仕事がまたクビになったのかぁ分からねぇ。
 それでも、今まで以上にヤバいってのはすぐ分かったぜ」
 視線が、めだかを越えた遠い空を彷徨っている。
「俺は、なんとかオヤジを笑わせよう、そうすりゃ機嫌も治るって、そう思って、ズボンのベルトをハズして、駆け寄りながら、ずでーっ…てな。
 コケてみせたんだよ。こいつは、オヤジのお気に入りのギャグだった」
 再び笑う。しかしそれは先程までの狂気に満ちたそれとは違う。まさに子どもの頃のような、あどけない微笑みだった。
「でも、その日は違った。それを見たオヤジは益々怒って、拳で俺をしたかに殴った。俺は意識を失って、気がついたら病院のベッドの上さ。
 そんで、聞かされたんだよ。
178「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/13(金) 23:34:20 ID:ZcSpbNjW
オフクロと…ちっちゃなトミーが、オヤジに殴り殺されちまったって話をよ……」

 その言葉が終わるかどうか。
 めだかが、ビクリと痙攣した。

「おぉ〜〜〜っと、動くなボーイスカウト」
 駆け出しそうになる士郎を、ジョーカーが留める。
 左手に、小さな銃に似た道具を持っていた。
「こいつは、えー…何て名前だったかな〜〜。
 まあ名前なんてどうでもいいやな。
 説明書きによるとな。
 首輪に関しての機能を借り受けできるってーモノらしい」
 ひらひらと手を振って、それを見せる。
「今この娘っ子に、電気ショックを与えたのも、その一つだ」
 めだかは、立ったまま痙攣し、動けない。
「そんでこっちを押すと…」
 士郎の頭に、最悪の予感が過ぎる。
「や、やめろ……!」
 再び、めだかが激しく痙攣した。
「あ、同じボタン押しちまったぜ! 押すと電圧が上がる仕組みだな、こりゃ!」
 おどけた口調で返す。
「ま、とにかく、よ」
 軽やかな足取りで、半ばスキップをするように歩く。

「今、俺はいつでも娘っ子の首輪を爆発できるってわけだ。Boom,Boom,Boom! ってな」
 ボタンを押すような、押さないような、そんな仕草を士郎へと見せつける。
「嘘をつけ…! そんな都合の良いもの…」
 そんなものを主催者が渡してくるわけがない。
 そう思う。
 誰が考えても、これはそう考える。
 そんなものがあっては、あまりに簡単すぎる。
「そうそう。そんなに都合は良かぁない。
 まず、ターゲットの首輪をロックオンするのに、かなり近づかないといけねえ。
 それと、1km離れれば、ボタンを押しても何ともならねぇ」
 ロックオン。
 そのために、敢えてめだかに攻撃するそぶりを見せて、近づかせたというのか?
「何れにせよ、今は"詰み"って状態だよなぁ〜〜〜、娘っ子は〜〜〜〜」
 歯噛みをする士郎。
 ジョーカーの言うことが何処まで真実かは分からないが、今の情況は拙い。
 迂闊にも、手には何も武器はなく、この距離を一気に詰めて、確実にあの装置を奪う、というのは、容易ではない。
「だが、今は押さない」
 ジョーカーが、その装置を握ったまま、手をポケットにしまう。
 いつでも押せる状態。しかし今は押さない、という。
「何故押さないか? さあ、考えろ。
 A.俺様は実は凄く善人で、人殺しなんかしたくないから。
 B.俺様は、美味しいものは一番最後に取っておく主義だから。
 C.俺様は実は女の子には優しいから」

 今度は真剣そうな、それでいて人を馬鹿にしたような表情を作りながら、続けて問う。
「D.………ディレクターとして、おまえらに命令することがあるから」
179「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/13(金) 23:35:49 ID:ZcSpbNjW
◆◆◆

 引き金を引いたのは、全くの事故だった。予期せぬ暴発。
 殺意があってのものではない。
 しかし、既にセーフティーロックを外して、いつでも撃てるように構えていた事に、言い訳は効かない。
「どう…しよう……」
 何のために、あんな厳しい訓練をしてまで、銃の扱いを覚えたというのか。
 これじゃまるで、始めて銃を手にしたずぶの素人ではないか。
 自省をしている場合ではない。とにかく、この人の具合を確かめねば、と駆け寄ったそのとき、
「グフッ…」
 男が、口元を押さえて咳き込んだ。
 ニナは些かに混乱し、覗き込む程に近寄る。
「あ〜〜…だめだ、やっぱり俺は死ぬ、もうどうしようもない…これが俺の運命ってもんだ…」
「そんな…」
 兄、ヨハンを殺すこと。怪物となり、ドイツ各地で人々を操り、多数の人間を殺し、破滅へと追いやってきたヨハンと自分の運命に、自ら決着をつけること。
 それを心に決め、そのための訓練までした。
 覚悟を決めていたはずだった。自分はこの手で、人を殺すのだ、兄を殺すのだと。
 しかし、見も知らぬ誰かを、出会い頭に誤って殺すこと。
 その覚悟までは、出来ていなかった。
「気にするな…お嬢ちゃん、こいつぁ事故だ、アンタが悪いんじゃねぇ…。俺はこうなる運命だったんだよ…」

顔を白く塗りたくった道化が、月明かりを浴びてそう囁く。
「だが…憐れな道化の頼みを、一つだけ聞いてくれ…」
 ニナは、そのか細く小さな声に耳をば立てる。
「バットマン…あいつを探して、ここに連れてきてくれ……。憐れな道化が、此処で死んだと、伝えてくれ……」
 
 
「バットマン…そいつを探し出して、ここまで連れてこい」
 士郎に向かい、そう言い放つ。
「誰だ、それは…?」
「ん? ん? ん〜〜〜?
 俺が思うに、そいつはおまえらの同類だ。
 頭がイカレていて、何かと他人の世話を焼いて、イチイチ首を突っ込んでは、物事をつまらなくしやがる。
 この俺が! 最高のショーを計画して! 盛大な笑い死にパーティーをセッテイングしても!
 あの野郎はノコノコ現れちゃあ、全部ぶちこわしにするのサ!
 HA! 優れたコメディアンってのは、いつだって洒落の分からねぇ野郎に邪魔されるもんなんだよ! ええ、そうだろう?」
 士郎はこの言葉の意味を、素早く正確に理解した。
 つまりバットマンというのは、正義の味方なのだ。
 

「その…人を探すのね? けど、でも、あなたも…」
 助けなければ。この男はまだ死んでいない。なんとか、なんとか出来るかもしれない。
 傷口を確かめようと、手を伸ばすが、止められる。
「足音が…聞こえる。銃声を聞きつけて、誰かが来る…。
 こんな…ところを見られたら…お嬢ちゃんが危ない……。
 ここは……ひとまず………」
 ニナの脳裏に、先程の少女のことが過ぎった。
 まるで空洞のような目をした少女。
 無明の混沌を落とし込んだかのような目をした少女。
 その一瞬の躊躇、その一瞬の逡巡に、さらに道化の言葉が滑り込む。
「お嬢ちゃんも、逢いたいヤツはいるだろ?」
180「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/13(金) 23:37:47 ID:ZcSpbNjW
◆◆◆

 軽快に、ダンスのステップを踏むように、道化は屋根の上を歩く。
 楽しげな、或いは今にも鼻歌でも歌い出しそうな風情だ。
「バァ〜ッツ! 楽しいなァ、ええ、楽しいじゃねぇかよ、このイカレたゲームも、なかなかよ」
 そう囁くジョーカーは、腹のあたりを軽く撫でさする。
 けばけばの原色、色鮮やかな服の内側にあるのは、赤い胴当て。
 ジョーカーの支給品の一つであったが、ジョーカーがこれを着込んだ最大の理由は、防弾防刃耐火性能を求めて、ではない。
 これが、バットマンのサイドキック、ロビンのものだという点だ。
 ロビンのチュニックを着込んでバットマンに見せびらかして、からかってやろうという、それだけの理由だった。
 ただ思いの外、早いうちに、本来の役目を果たしたのだが。
 そして、もう一つの支給品。
 『カーラーコントローラー』と書かれていた、小さな装置。
 首輪に関する一部権限を貸し与えられるというもの。
 これが、黒神めだかの首輪に強烈な電気ショックを与えたものだ。

 ただし、ジョーカーが士郎達に話した説明には、嘘がある。
 ひとつは、これには首輪を爆発をさせる機能は、ない。
 この装置が首輪を通じて出来る事は、3つある。
 一つは、「首輪を4つまで、ロックオン出来ること」
 逆に言うと、ロックオン出来ていない首輪に関しては、何も出来ない。
 士郎にした説明のうち、「ロックオンするためにはかなり近づかなければならない」というのは本当だ。
 ロックオンボタンを押した際に、接近して、きちんと方向を合わせておかないと、信号が届かない。
 もう一つが、実際に使って見せた、「首輪の持ち主に強烈な電撃を浴びせる」 事だが、これに関しても嘘をついた。
 実際には、1kmの射程範囲ではではない。
 これもまた、ロックオン同様、数メートル程の近距離である必要があるのだ。
 従って、この装置を使って誰かを殺そうとする場合、まずかなり近くに寄ってロックオンをし、さらには電撃でショックを与え、
 とどめに射撃武器を使う、という、非常に面倒くさいやり方が必要になる。
 従って、実は一番有用な使い道は、最後の一つなのだ。
 トレーサー機能。
 ロックオンした首輪がその時点で何処に居るかを追跡出来、さらには心拍数等の身体データを参照したりするなど、様々な情報を得られる。

 駆けつけたときの二人の反応から、ジョーカーは黒神めだかと衛宮士郎が、「ヒーロー」側の人間だと察知した。
 ならば、この装置を試してみるのには丁度良い。
 案の定、それは当たった。
 めだか本人や、同行していた士郎が、厄介なスーパーパワーを持っていたり、同行者の生死などおかまいなし、という手合いであったら逃げるしかなかったが、結果としてはおおむね問題なし。
 このゲームをディレクションするのに相応しいキャストだったようだ。
181「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/13(金) 23:38:51 ID:ZcSpbNjW
先に銃を暴発させた少女、ニナに対しては、「自分の死をバットマンに伝えて欲しい」と伝言をした。
 めだかと士郎には、「コロッセオで決着をつけるように呼び出せ」と伝えた。
 コロッセオ。
 古代ローマの闘技場を摸した巨大建築物。
 こんな面白げなものが、真ん中にあるのだから、利用しない手はない。
 いや、こここそ、自分がディレクションする殺戮ショーのステージに相応しいではないか。
 ジョーカーはそうも考える。
 色んな奴らに、色んな嘘を吹き込んで、バットマンや、或いはバットマンの様なヒーロー気取りと、悪党共を一カ所に集めてやろう、と。
 そしたら、奴らがどんな間抜けなアドリブを見せてくれるのだろうか? と。
 仕込みに仕込んだギャグも良いが、時には即興のリズムに乗せたステージも悪くはない。
 勿論自分なりの仕込みを考えてはおきたい。おきたいが、それはそれ。何よりもキャスティングも重要だ。

 カーラーコントローラーに表示される情報を見る。
 名前は黒神めだか。ジャパニーズのティーンエイジャー。
 一緒にいた男の方はロックオンしていないため、情報は見れない。
 しかし、手に取るように分かる。
 お人好しの正義漢。殺し合い等という舞台に、似つかわしくない連中で―――だからこそ、是非ともキャスティングしたい連中。
 ジョーカーは月を見上げて、高らかに笑う。
「ライツ! カメラ! アクション!
 悪くねぇ、全然悪くねぇぜ、このショーの幕開けは」

◆◆◆
 
 ニナは走っている。
 何処とも目当てはなく、ただ闇雲に走り続けている。
 混乱と恐慌と、疑念と
 ヨハンと会い、そして殺そうとするが適わず。
 自分を撃ち、死のうとしたが、それも適わず。
 いつの間にか見知らぬ街に連れてこられ、誤って人を撃ち殺してしまった。
 彼は本当に死んだのだろうか。
 本当にヨハンはこの場所にいるのだろうか。
 ドクター・テンマに逢わなければ。
 バットマンを探さなくては。
 あの少女はいったい何者で、何を目指していたのだろうか。
 駆けつけようとしていた足音の主から逃げて良かったのだろうか。
 あまりに多くの事が立て続けに起き、あまりに多くの事が変わってしまった。
 ニナは走り続ける。
 何処とも目当てはなく、ただ暗闇の奥、さらに奥へと向かって。
182「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/14(土) 00:05:26 ID:ZHvG5ETf
テスト
183「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/14(土) 00:07:32 ID:ZHvG5ETf
黒神めだかは、ただそこに立ち続けていた。
 ジョーカーは二人に「命令」を与えると、今度は右手に持った奇妙な銃からワイヤーを発射し、それを使って近くの建物の屋根へと去っていった。
 甲高い笑い声だけを残し。
「黒神…」
 声を掛ける士郎に、力はない。
 己の迂闊、己の無力故、彼の危険な男をみすみす逃がすことしかできなかった。
 これが、自分だけの事であれば良かった、とは思う。
 自分の首輪を爆破させると脅されたのであれば、まだやりようはあった。
 しかし、めだかの命を、一か八かの賭けに使うことは出来ない。
「……衛宮…上級生」 
 近寄るが、めだかの吐き出す声からは、それでも恐れや不安の色はない。
「私は、怒っているぞ……」
 あれほどの、傍目に見ても強烈な電撃を浴びせられても、めだかは悲鳴も上げなければ膝をつきもしなかった。
 彼女の芯にある炎が、彼女を屈させなかったのだ。
 しかし……。
 ジョーカーの弁によれば、彼の男の1km以内にいれば、めだかはいつでも殺されてしまう。
 また、もう一つ、二人がここに到着する前に立ち去った人物が居たことも気に掛かる。
 結果、ジョーカーは銃弾を受けても尚死んではいないバケモノだったが、おそらくは彼を殺そうとして銃を撃った者も又、この近くに居るかもしれない。
 士郎も、めだかも、この奇怪な実験に呼び出され、初めて出会った者同士が共に正義を求める人間だったから良かったものの、
 すぐ側には同様に、銃で人を殺そうとする者、それを受けても死なず、またさらには首輪を爆発させる装置で人を操ろうとする者も居たのだ。
 ジョーカーによる「ロックオン」。
 銃を撃った人影。
 探すべきバットマンという「正義のヒーロー」。
 行動に起こさねばならない。
 しかし、机上に振る舞っているめだかではあるが、あれだけの電撃を浴びて、体力も消耗しているはずだし、何より自分達の準備が不足していたのも感じる。
 いずれにせよ、二人はただ暗闇の奥、さらに奥へと向かって、足を踏み出さねばならない。
184「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/14(土) 00:08:45 ID:ZHvG5ETf
【E-6/市街・屋根の上:深夜】

【ジョーカー@バットマン】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康
[装備]:アンカーガン、ロビンのチュニック
[道具]:基本支給品、カーラーコントローラー(1/4ロックオン済み)
[思考・状況]
基本行動方針:このゲームをとびっきりのジョークにプロデュースする。
1:とりあえずゴッサムタワーにでも向かう。
2:他に面白そうなヤツがいたらちょっかいをかけて、「バットマンをコロッセオにおびき出す伝言」をしてみる。
3:バッツ(バットマン)をからかって遊ぶ。
4:面白そうな、使えそうなヤツは、ロックオンしてみる。
[備考]
※黒神めだかを「ロックオン」済み。

※ロビンのチュニック@バットマン
 バットマンの相棒、ロビンの防具。
 ケブラー繊維を用いた三重構造の防弾仕様で、表面は優れた耐火性を誇るノメックス生地。
※カーラーコントローラー@オリジナル
・近距離にて装置を向け、ロックオンボタンを押すことで、首輪を4つまで、「ロックオン」する事が出来る。
・「ロックオン」した首輪の持ち主に関して、現在地や名前その他のプロフィール、健康状態など、装置で様々な情報が確認できる。
・近距離において、その首輪の持ち主を一時的に行動不能に出来るだけの電撃(或いは他の何か)を浴びせることが出来る。

【E-6/市街・路地裏:深夜】

【ニナ・フォルトナー@MONSTER】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、混乱
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、ハンドガン、不明支給品0〜2
 [思考・状況]
 基本行動方針:
 1:落ち着く
185「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/14(土) 00:10:08 ID:ZHvG5ETf
【E-6/市街・カフェテリア前:深夜】

【黒神めだか@めだかボックス】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康、電撃による体力の消耗
 [装備]:
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いを止める
 1:衛宮上級生と行動を共にする
 2:ジョーカーを追うべきか? 謎の人影を確認すべきか? バットマンを探すべきか?
 [備考]
 ※第37箱にて、宗像形と別れた直後からの参戦です。
 ※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、現在地他多くの情報が筒抜けになっていますが、本人は気付いていません。
 ※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、1kmの範囲内では、ジヨーカーによって電撃、または首輪の爆発をさせられる、と聞かされています。

【衛宮士郎@Fate/stay night】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康、若干の困惑
 [装備]:
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いを止める
 1:めだかと行動を共にする
 2:ジョーカーを追うべきか? 謎の人影を確認すべきか? バットマンを探すべきか?
 [備考]
 ※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
186「Lights! Camera! Action!」 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/14(土) 00:13:41 ID:ZHvG5ETf
代理投下終了
187創る名無しに見る名無し:2010/08/14(土) 01:07:30 ID:FUjPmMTB
投下&代理投下乙です

ジョーカーもロワ充とは知ってたがノリノリだなwww
これはニナが悲惨すぎる。参戦時期が悪い上に殺したと思いこんでる
誰か助けてやってくれ…
めだかちゃんは本当に善人だが…士郎も今回はいい所なしで散々だな…
188 ◆KaixaRMBIU :2010/08/15(日) 16:50:05 ID:UXmAOdsy
ン・ダグバ・ゼバ、投下します。
189悪ノ王 ◆KaixaRMBIU :2010/08/15(日) 16:51:18 ID:UXmAOdsy

 無数の光点を蒔いた星空の下、白い人影は木々とすれ違う。
 乾いた風が豊かな黒髪をかすかに揺らし、葉の擦れる音だけが耳に残る。
 夜の獣道だというのに、男の歩みには迷いがなかった。それも当然である。
 彼は人ではなかった。星明り程度の光量で、地平線の先まで見通せる。可視領域も人のそれより遥かに広い。
 大小様々な石はバランスを崩すことはできない。むしろ、進行の邪魔をするなら踏み砕かれる。
 人ならざる進み方をする、白き青年はふと違和感を感じて立ち止まる。下げている荷物に、人の指が引っかかっていた。
 彼は小首を傾げ、不思議そうに人の残骸を手に取る。あどけない顔つきにあわせ、仕草はとても幼いものに見えた。
 持ち上げられた指は、かつて内田かよ子と呼ばれていた女性のものであった。
 だが、他者を挑発する際に発音した名前を、彼はもう忘れていた。
 それもしかたない。彼にとって人間は……いや、同族である存在でさえ、等しく犬や猫のようなものだった。
 すれ違っただけの動物を記憶する人間が存在しないように、他者の名前を脳内に残すことなどない。
 つまり、彼は他者を見下しているのではない。ただ、意識の中に存在しないだけなのだ。
 やがて指への興味を失い、無造作に投げ捨てる。流星のように闇の中を、指は燃えながら落ちていった。もはや視線で追うことすらしない。
 彼はン・ダグバ・ゼバと呼ばれる異形の王である。


 かつて、人が稲を育て始めた頃、農耕民族『リント』と狩猟民族『グロンギ』がいた。
 二つの種族は落ちてきた星の雨の中、人体を獣のごとく変化させる石を見つけ出す。
 グロンギは霊石と崇められたそれを身に宿し、人外の力を持って他民族を脅かした。
 無数の霊石を発見したグロンギと違い、たった二つの霊石しか持たぬリントは蹂躙されるより他になく、ただ悲しみの涙を流した。
 他者の嘆きを自らの喜びに変えるグロンギ族の中、ただ一人醒めた目をした存在がいた。
 グロンギの王。究極の闇。グロンギにおける最高位の証、『ン』の称号。
 ン・ダグバ・ゼバ。彼はただ、退屈であった。


 ダグバは圧倒的であった。リントは言うに及ばず、同族であるグロンギすら彼に傷を負わすことは不可能だ。
 誰もが侵すことのできない領域に達して、彼を待ち受けていたのは退屈な日々であった。
 よく笑う少年だった存在は、孤高とも言える位置で傷と心を忘れた。
 リントがなぜ、涙を流すのか。悲痛の叫びを上げるのか。誰かを庇い、無駄とわかって戦いを挑むのか。
 すべての行為をダグバは理解ができなくなっていた。
 絶対の王者が退屈する中、幾多の同族を打ち倒し、姿を見せる存在が現れる。
 地を強く踏みしめる足。黒い甲冑のような上半身。煌々と輝く、金色の四本角。

 そして、吸い込まれそうなほど深い闇の瞳。

 自分と同じく、手を触れず物を燃やせる相手を前に、ダグバは久しく忘れていた笑顔を向けた。
 蘇る喜びの感情のままに、確信を抱く。
 彼は――クウガと呼ばれる戦士は、自分と同じだと。
190悪ノ王 ◆KaixaRMBIU :2010/08/15(日) 16:52:56 ID:UXmAOdsy


 過去に意識を飛ばしていたダグバは、思考を武藤カズキに移した。
 あの日を思い出すのは当然だ。なぜなら、武藤カズキはクウガと同じく霊石を宿し、究極の闇を見せていた。
 今思い出しても体が喜びに震える。
 挑発に応えたカズキは吠え、わずかだが自分から力を奪い、カズキ本人の力へと変えていた。
 ゆえに立ち上がることも、殺意を受けても意識を手放すこともなかった。
 ダグバが霊石と思い込んでいる存在――核鉄の力は自分やクウガとは別種だが、たしかに究極の闇の物だ。
 他のグロンギならば、なぜリントが新たな霊石を持ち得たのか、疑問に思っただろう。
 本来は霊石ではなく、核鉄であると知ることが最優先だった。究極の闇ではなく、ヴィクター化と後に呼ばれる現象だという情報が必要だった。
 だが、グロンギの中の例外であるダグバにとって、そんなことはどうでも良かった。

 自らと同種になれる存在が、クウガの他にいる。
 この力を思う存分振るえる相手がいる。
 殴っても壊れない玩具が現れる。

 だから武藤カズキは特別なのだ。クウガと同じく、力を振るうに値する存在。
 ダグバは自分を呼んだ主催者に感謝する。
 これはいいゲゲル(ゲーム)であった。自らに近づけるため、枷を与えてリントを狩らせるグロンギのゲゲル(ゲーム)よりも、ずっと。
 いつの間にか、ダグバは白き異形へと姿を変えていた。自分でも意識しないほど、ごく自然に。
 歩みを再開する前に、気まぐれに指を鳴らす。
 大樹の一本が、原子を揺らされプラズマと化し、内側から燃え上がる。
 溢れでた炎が木々を飲み込み、赤い光を広げていった。
 ダグバは前と変わらないゆっくりとした速度で、離れ始める。途中、炎が体を舐めるも、痛みも熱さも感じない。
 火の粉が舞う中、ダグバは声に出さず笑った。


 炎は踊るように揺れ動く。
 すぐに燃え尽きる程度の規模なのか、いつまでも燃え続けて他者に被害をもたらすのか、今は判断できない。
 だが、断言できる事実が一つあった。
 たとえ地獄の業火でも、悪ノ王を燃やし尽くすことは敵わないだろう、と。


【D-4 /北東の森:深夜】
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品一式×2、不明支給品2〜6(本人未確認)
 [方針/目的]
  基本方針:好きなように遊ぶ
  1:クウガとカズキの究極の闇に期待。
 [備考]
 ※参戦時期は九郎ヶ岳山中で五代を待っている最中(EPISODE48)

 ※D-4の森が火事を起こしました。規模は後続にお任せします。
191 ◆KaixaRMBIU :2010/08/15(日) 16:54:11 ID:UXmAOdsy
短いですが、投下終了します。
192創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 17:10:30 ID:NqTR1HI6
投下乙
193創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 17:25:33 ID:TsgwbYz8
放送で一度見た程度では中々把握し辛いダグバについて理解の助けになる話だね。
194創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 17:51:06 ID:9wh5FSNe
投下乙
カズキとすずかは運がよかったというか、なんというか
核鉄が霊石と重ならなきゃなんの思いも抱かれず、かよ子さんと同じ目にあっていたのか……
しかし究極の闇とは。いやぁ、五代の参戦時期といい、正義側にも不穏なフラグがぞくぞくとw
195創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 19:19:33 ID:UXmAOdsy
代理投下を開始します。
196夢の続き ◇3VRdoXFH4:2010/08/15(日) 19:20:14 ID:UXmAOdsy


真夜の中でも、この回りは明るかった。
道路を照らす電灯、建築物の照明。
人が機械の文明を手にしたときから、世界はずっと休息を忘れて動き回っている。
空高くから見渡せば、人工物でありながら意図せず生まれた、煌びやかな輝きを魅せてくれる。
そんな地上の星々も近くまで降りて見れば、道には廃棄物が散乱し、路地の隅は腐臭で満ちている。
どんなに美しいものでも近づけば「あら」が目立つ。ならば美しさを保つのは、視点を遠ざけるのが秘訣だろうか。
普段はそれに加えて自動車などの走行音が付いて回るのだが、ここではそれはないようだ。
その高き視点から、赤き弓兵―――アーチャーは地上を見下ろしていた。

あのあとにアーチャーはひとまず建ち並ぶマンションのこの一室に身を潜めた。
気絶した少女1人を抱えてこの戦場を練り渡るのは危険極まる行為なのは明らかだ。
幸いここは高層マンションが立ち並ぶ近代都市、身を隠すには都合のいい地点だった。
そうするのも、主催者とやらの思惑なのだろうか。
保護した少女はベッドに横たえてある。
多量の出血を見たことによるショックの気絶のようだからそう長引きはしない。じきに目を開けるだろう。
衣服を汚してしまっているので少々無礼だが、部屋の一室から下着類と適当に見繕った衣服を並べて置いておく。
それと気を落ちつかせるために紅茶でも淹れようとしたのだが、これがどうして万全に整っていた。
正確にはこれらはこの部屋にあったものではなく自身の手荷物に包まれていたものだ。
選りすぐられた様々な種類の茶葉、厳選されたポット、カップ、スプーン、etc……
無駄に、異様に、必要以上に取り揃えられていた。
少し、主催の意図を掴みかねたアーチャーだったが、一種のからかいだろうというところで落ちついた。
癪なものもあるが、ある以上は、使えるものは使うというのが彼の信条でもある。
一応毒の有無も確かめ、支度にとりかかった。
197夢の続き ◇3VRdoXFH4:2010/08/15(日) 19:21:23 ID:UXmAOdsy

水道、ガス、電気は全て付いていた。部屋の照明は外から気付かれるので切ってあるが。
ポットは先に暖めておく。そうしないと注いだお湯の温度が下がるからだ。
次いでポットに茶葉を入れる。やや大きい葉なのでティーメジャーで山盛り一杯約3グラム。これで1人分。
沸騰した湯は素早く注ぐ。でないと紅茶の成分が抽出されない。
あとは時間をかけて蒸らす。熱湯を注がれたポットの中では茶葉が緩やかに上下に動く。
ジャンピングとよばれる、紅茶の味を引き立たせるのに必須な工程だ。待つ間は大よそ三分以上。
ゴールデンルールと呼ばれる、最も普及、かつ伝統的に伝わる紅茶の淹れ方だ。
出来は上々。生前の経験により家事及び諸事全般が卓越している執事のサーヴァント・バトラーの本領発揮である。



「………………はっ」

我に帰るように漏らすアーチャー。
ここまで終えて、ようやく自分のしていることの気の抜け様に気付いたらしい。
ここで茶を淹れてる位なら外で見張りをしてる方が遥かに効率的なのではなかったのではなかろうか。
……いくら否定したくとも、冬木のブラウニーの異名は来世まで付き纏っているのかもしれない。

「……まあ、淹れたものは仕様がないな」

既に茶に湯を注いだ手前、無駄にするのも何か、気が引ける。
気絶した少女一人を残しておくというのも不安がらせてしまうことになる。
そういうことでひとり納得することにした。

―――それに、時間が欲しかったのも事実だ。
今の自分の状況、ここで行われている実験、これからの行動、考慮することは幾らでもある。
茶が蒸すまでの時間、それに時間を費やすのも悪くない。
ソファに腰を下ろし、そうしてしばらくの間を脳内での思考を構築していった。



198夢の続き ◇3VRdoXFH4:2010/08/15(日) 19:22:52 ID:UXmAOdsy



まず、今自分の置かれた状況。
ここに来られる前の最後の記憶は鮮明に憶えている。
朝焼けの丘。聖杯戦争の終わり。
遠坂凛。己のマスター。
目元を滲ませながらも笑みを崩さない少女。
その狂おしいまでの感情は、今も色褪せることなく脳裏に焼き付いている。
今この瞬間だけの誓いを胸に、自身は再び守護者の任に戻されるはずだった。
『守護者』に記憶の引き継ぎはない。感情の保持はない。
世界を救うただの力として行使され、役目を終えた後消滅する。
知っているのも、ただ広大な本棚に置かれた一冊の本の様に記録されるのみだ。
よって別の、過去か未来の己がその本を読んだところでなんの感慨も湧くことはない。
『5度目の冬木の聖杯戦争で召喚されたアーチャー』でなければ、そこに綴られた感慨を知ることはない。
ならばこの自分は、その『座』へと帰る直前に道を逸らされた、という認識で間違ってはいないだろう。
自信に気付かれることなく聖杯に介入しサーヴァントを、英霊を掠め取る。
可能かどうかはここでは置いておく。そもそも主犯の正体すら掴めていないのが現状なのだから。

手の平を見下ろす。魔力はどうやら補充されているようだ。
消滅には程遠く、だが全力を振るうにはやや不足している量。
「2日間戦い続けろ」というのなら絶妙な塩梅だろう。



それででこの見知らぬ土地で何をさせられるのかといえば、シンプルに一言で表せば声の主の通り、殺し合いである。

誰が?何のために?

正体は未明、目的も不明。
だが、ヒントは多く散りばめられている。そのひとつが名簿だ。
ここに記されている名でアーチャーが知る者は4人。大なり小なり関わりのある人物だ。
199夢の続き ◇3VRdoXFH4:2010/08/15(日) 19:23:55 ID:UXmAOdsy

衛宮士郎。これはもう言うに及ばない。自分にとっての目的であったが、今はその執着も失せている。
語ること、吐き出すものは吐き出したのだ。生きていれば、知らずまみえるだろう。

言峰綺礼。聖杯戦争の監督役。直接の面識の機会などなかったが、直観として良からぬ結果をもたらす気配がある。
監督役としての責務のないここで何をする気なのか、注視ておいて損はない。

間桐慎二。はっきりいって彼は無力だ。だがそれ故に逸脱した行為に踏みかねない。
聖杯の不敵な器とされたところを凛に救われたのなら少しは丸くなってるやもしれないが、楽観できるものではない。

藤村大河。彼女は紛れもない一般人だ。この殺し合いに抗する力を持たない、善良な人間だ。
別段縁故があるわけでもないが保護の対象ではある。それ以外に気にするようなことはない……はずだ。

アーチャーに関してはこんなものだが、他の参加者にとってはそうではないかもしれない。
家族、恋人、友人、宿敵。何らかの繋がりがある者同士をまとめて攫っていってるのではないか。
会いたい者。守りたい者。殺したい者。
これらは十分、危険を冒して動く理由になる。
ひとり民家の中で震えながら期限を待つ、という行動を取るのはごく少数と見ていいだろう。

それはそのまま参加者同士の遭遇を高める意味を持つ。
殺し合いと銘打った以上、殺人を是とする者は当然集められているだろう。
この名簿は参加者の名が記された紙以上に、殺し合いを促進させる心理トラップの側面を持っているのだ。

与えられたもう一つのヒントは組み分け、チーム戦というルールだ。

HorはIsiを守り、Setを全滅させる。
SetはHorを全滅させる。
Isiは唯々生き延びる。
200夢の続き ◇3VRdoXFH4:2010/08/15(日) 19:25:16 ID:UXmAOdsy

一見すれば実に不平等なルールだ。
Horは特定の人物を殺しながら、なおかつ守らなければならない。
だが誰がどのグループに分けられているか判別できない序盤ではその行動には移りづらい。
特にSetは全員皆殺しに等しい。
それに反してIsiは特別な条件がない。守ろうが殺そうが自由なのだ。
もしなんらかの手段で自分の陣営が分かり、それがSetであれば生き残ろうとする気も喪失しかねない。

だが、ここで違う視点でこれらを眺めてみる。
虫も殺せない非力な人間がSetでは不平等に過ぎる。
では容易く人を殺せ、かつ殺人を躊躇しない人物だったら?

HorはIsiを守り、襲いかかるSetを撃退できるだけの力を持つ者、
いやむしろ、率先して人を守ろうとする行為に踏み切る人物ばかりだったら?

Horの勝利条件は単純だが、それは生き残る手段が余りに少ない、誰かを害するだけの力がない者しか組み込まれていないとしたら?

その過程を踏まえると、この殺し合いの意味合いが変わってくる。
これだけの人数を拐してわざわざ組ごとにルールを設定した以上、単に名前順やランダムではないだろうとは思っていたが―――

守る者。殺す者。そして守られ、殺される者。
正義と、悪。
この組み分けがその法則で分けられているとしたらこの実験とは―――



(だが……まだ、断定には早いな)

そこまできて、アーチャーは考察を打ち切る。
仮定はあくまで仮定、個人の脳内で構成された幻想に過ぎない。
この地に足を付けてからまだ半日も経っていない。人間にも殆ど接触していない。
まだ物証があまりにも足りな過ぎる。
仮定を定めたのならその実証に移るべきだ。推察に関しては、保留にしつつ時間と共に進めていけばいい。
201夢の続き ◇3VRdoXFH4:2010/08/15(日) 19:26:22 ID:UXmAOdsy


そう考えを巡らすと、これからの行動の指針も立ってくる。
まず、参加者との接触は積極的にすべきだろう。この場に置いて情報は単純な力量より価
値がある。
情報を共有しそれを広めることで、会場内で起きる疑心暗鬼を早めに収束させる。
単独行動はアーチャーの得意分野だ。同士撃ちの防止にも一役買える。
この序盤で積極的に殺戮に臨んでいるのは高確率でSetであろう。そもそも組み分けなど意に介さないという連中も多いはずだ。
そういう手合いに対しての抑止としても、存在は広く知らせておきたい。
……そのために血を撒くことに、命を摘むことに忌避はない。
忌むにはもう、数を重ね過ぎた。感覚が麻痺してしまった。
だが、今の自分は『守護者』との枷から外れている。
そしてサーヴァントとしての願いも、もう持ち合わせていない。
ならばこの身は、この感情は、■■■としての、己個人としての存在だ。
彼女の笑顔に応えることも、「オレ」の望みを叶えるのも、間違いではないだろう。

そうなるとあの少女はむしろ枷になることに、不満はないが不安はある。
自分のこれからの行いは日常を謳歌してきた一般人には苛烈すぎる。
信頼できるHorを見つけたらそこに託すのがいいだろう。
それまでは、派手に動き回るのは控えてた方がいいか。



部屋の外から、音が聞こえた。
寝室からの、少女のか細い声が。
目を覚ましたようだ。見れば丁度茶も準備が整っていた。
気が動転してるだろうからまずは落ちつかせるのが先決だ。
そうしたら当面は、彼女を護衛しつつ殺し合いに乗ってない参加者との接触に向かおう。
ティーカップに赤い水を注ぎ、寝室へと足を運んでいく。



答えは得た。
頑張っていくと誓った。
だから、大丈夫だよ遠坂。
あの笑顔を曇らせないためにも、今はこの心のままに動こう。




202夢の続き ◇3VRdoXFH4:2010/08/15(日) 19:27:58 ID:UXmAOdsy



「…………あう?」

つい、間抜けた声を出してしまう。
目元をこすりながら、武藤まひろは目を開けた。
暫くぼーっとしていたが、次第に視界も開けあたりを見回してみる。
今、自分はベッドで寝ている。体重をかけるたびに下が沈み、ボヨンボヨンと軽快に跳ねる。
よくわからないがとても高価らしく、いつも寄宿舎で寝ているベッドとは全然違うのはわかった。

……夢?

夢、なのかな。あの怖い出来事も。あの怖い人も。
あの助けてくれた赤い人も。
こんな夜遅くならすぐに眠くなってもおかしくないのに私の目は冴えている。
起き上がろうと思って、下半身、特に股のあたりに冷たい感触が襲う。
視線を下ろしてみると、水に濡れたスカートとショーツ。それが意味するものはとても分かりやすい。
途端、顔から火が出るほど恥ずかしくなってきた。学校での出来事ではそんなことにはならなかったのに。
それは対象が人ならぬ化物であったからなのか。それとも身を呈する友達がいなかったことなのか。
どうしようものかと立ち往生していると、隣に綺麗に折りたたまれていた下着類が目に付いた。
あたりを少し見渡した後、腰に手を当てる。
用意されていた下着はどれもサイズがぴったりで、始めから彼女の為にあったかのようだ。
そこに気味の悪さを、まひろは感じはしなかった。

不意に、扉を叩く音が小刻みに鳴らされる。
それは、この薄い木の扉一つを挟んで「誰か」がいるということ。

「あ、はーい。ちょっと待って下さい!」

そこに悪感情を持つことなく、まるで宅配便が家に来たかのような軽さで応対するまひろ。
それは果たして能天気なのか、芯の強さ故なのか。

着替えは完了。衣服もあったのだがほぼ乾いていたし、この制服はお気に入りなのもあって、脱ぐことはしなかった。
身なりが整ったことを確認し、まひろは許可の返事を返す。
開かれた扉からは、片手に盆を乗せた、大人の男性が姿を見せた。
203夢の続き ◇3VRdoXFH4:2010/08/15(日) 19:28:47 ID:UXmAOdsy

不思議な姿をした人だった。
髪肌は浅黒く、髪は白い。その色合いはなんだか、擦り切れた印象を持たせる。
瞳は鷹のように鋭く、けれど恐ろしさを感じさせない気遣いを思わせる。
黒服の上には鮮烈に赤い服を纏い、否が応にも強く印象に残る。

「……異常はないようだな。それだけでも僥倖だ」

そっけない感じで声を出す男。
そこには本当に安心したような、それだけで報われた思いを感じたのは気のせいだろうか?

「自己紹介がまだだったな。私の名はアーチャーという。差し支えないようなら、君の名前も教えてもらえないだろうか」

丁寧に自己紹介をする男性―――アーチャーさん。
不思議な名前だけど、外国の人はこんなものかとまひろは思う。

「あ、えっと、銀製学園一年A組武藤まひろですっ!」

多少たじろぎながらも応対するまひろ。するとアーチャーさんは腰を下ろしたと思うと、傍の棚にお盆に乗せていたカップを置く。
鼻孔をくすぐるほのかな香り。どうやら紅茶みたいだ。

「まひろ、だな。まずはそれを飲んで落ち着くといい。話すことも多いだろうしな」

湯気を出してカップの中で揺らめく赤い液体。
それを見て、なぜだか肩が震えていた。それほど寒い所じゃないけど、私は寒さを感じていたらしい。
両手でカップを手に取り、その温度を味わう。息で冷ましながらゆっくりと口に流し込んだ。
瞬間。ゆっくりと、私はその味に呑みこまれた。

口に広がる紅茶の風味。鼻と舌で、その深みを堪能する。
暖かみが喉から通って、体中に広がっていく。寒さはいつの間にか消えていた。
特有の苦みも、おいしさを引き出すエッセンスとして機能している。
紅茶をこんなに深く味わったのは生まれて初めてだ。もうこれは芸術だ。
今まで自分が飲んでいた紅茶はなんだったのか。ひょっとしてあれは紅茶じゃなかったのだろうか。
ティーパックとか高級品とかそんなチャチなもんじゃあない、もっと恐ろしい執事の片鱗を味わった……。

「おいしい……!」

「そうか。お褒めに預かり何よりだ」

小さく微笑みながら椅子に腰を下ろすアーチャーさん。
私の反応にとても満足したようだ。それを見て、私もにっこりと笑う。
そんな真夜中ティータイムで、私とアーチャーさんとのお話ははじまったのでした。
204夢の続き ◇3VRdoXFH4:2010/08/15(日) 19:29:48 ID:UXmAOdsy





【I-9/市街地・マンション内:深夜】

【アーチャー@Fate/stay night】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、高級お茶会セット、不明支給品0〜2(確認)
[思考・状況]
基本行動方針:目に映る限りの人を救う
0:武藤まひろと話をする。
1:情報を収集し参加者とのパイプを作り、疑心による同士撃ちを防ぐ。
2:当面は武藤まひろを守り抜く。信頼できる相手がいたらそこに託す。
3:Horは人を守る者、Setは人を殺す者、Horは力を持たない者?

[備考]
登場時期はUBW終了後(但し記憶は継続されています)
投影に関しては干将・莫耶は若干疲労が強く、微妙に遅い程度です。
他の武器の投影に関する制限は未定です。

※高級お茶会セット
至高の茶葉と茶器の詰め合わせ。お茶菓子付き。
少なくとも紅茶類は数種類ある。



【武藤まひろ@武装錬金】
[属性]:一般(Isi)
[状態]:気絶
[装備]:無し 
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(確認済) ワルサーP99(16/16)@DEATH NOTE ワルサーP99の予備マガジン1
[思考・状況]
基本行動方針:人は殺したくない
1:アーチャーさんと話をする
2:お兄ちゃん………

【備考】
参戦時期は原作5〜6巻。カズキ達の逃避行前。
205創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 19:30:35 ID:UXmAOdsy
代理投下、終了します。
206創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 19:37:05 ID:wxaPrPGv
投下&代理投下乙。
藤ねえに関する考察がなんとも痛ましいな……思い出した時には手遅れになってなきゃいいんだが。
207 ◆GOn9rNo1ts :2010/08/15(日) 20:28:42 ID:CzWdgFXf
Kai氏、3V氏両名投下乙です!
ダグバ、お前もロワ充かwww
目をつけられたカズキはかわいそうだなー(棒読み)

アチャまひろはなんか和む、すっごい和む
しかしバトラーのサーヴァントってアーチャーお前はw

そしてこちらも天馬賢三、折原臨也を投下します



――現在、チャットルームには誰もいません――

――現在、チャットルームには誰もいません――


――甘楽さんが入室されました――


《はーい。皆のアイドル、甘楽ちゃんですよー☆》
《全く、大変なことに巻き込まれちゃいましたねー》
《殺し合いなんて、怖くって怖くってぶるぶる震えまくりなのですよう》
《見たところ太郎さんもいらっしゃるみたいですし、とりあえずここに来てみたのですが……》
《太郎さーん、生きてますかー?生きてたら返事してくださーい》
《って皆が皆、私みたいな場所にいるとは限らないですよねー》
《ピラミッドとか墓地とか!海の家ってのもあるみたいだし中々カオスですねえ》
《前二つは、死んだ人たちを埋葬してあげるためなんでしょうか。きゃっ、怖ーい》
《とまあ冗談は置いといて、もしもここを見つけた方がいらしたらどうぞ、遠慮せずにどしどし押しかけちゃって下さい!》
《何故か私のとこではお気に入りに登録されてましたし、他の所でもそうだという可能性は十分あると思いますよう》
《私みたいなうら若き乙女が一人でいるのは色々怖いですし、ネット上だけでも誰かと繋がっていたいんです!》
《それに、出来るだけ多くの人と関わって情報を共有できたら、何か役に立つこともあると思うんですよう》
《……おっと、こんな時間にお客さんが。それじゃ、今のところはこれくらいにしておきますね》
《あれっ?もしかして、これって死亡フラグ!?》
《……やはり太郎さんやセットンさんの突っ込みがないと今一つ盛り上がりませんねえ》
《ということで再度言いますけど、もしもここを見つけて下さったらどうぞ参加して下さい!》
《ログは残る形式になっているようなので、一言でも何か残していって下さると感謝感激雨霰なのです☆》
《ではでは、生きていたらまたどこかでお会いしましょう∞》


――甘楽さんが退出されました――

――現在、チャットルームには誰もいません――

――現在、チャットルームには誰もいません――

◇ ◇ ◇



あんたさ、人を殺したことはあるかい?

そう、人だよ人。豚でも牛でも鶏でも魚でも虫でも化け物でもなく、人間。
俺かい?俺はないよ。人を殺すなんてとんでもない!
こんな場でいっても説得力はないかもしれないけどねえ。
それで、あんたはどうなんだ。そんな立派に銃を構えて中々様になっているじゃないか。
見たところ俺と同じ日本人っぽいけど「平和ボケの国」の普通の人間はそんな堂に入った構え方なんてできないだろ。
もしかして警官とか?それともヤのつく仕事してたり?もしかしてガンオタって人間だったりする?
へえ、お医者さん。それも外国の。それはそれは。
……まあ、向こうでは銃がコンビニとかで売ってるらしいからねえ、銃に慣れるのも当たり前なのかな。

で……質問に答えてよ、ドクター。

あんたは、人を殺したことがあるのか。

それとも、ないのか。

…………。

直接的には殺したことがない、と。
良いよ。それを信じようじゃないか。
うん?あんまりあっさり信じると良くないんじゃないかって?
あはは、情報屋なんて仕事をしてるとね、嘘をついてるか本当のことを言ってるか何となく分かるもんなんだよ。
そうじゃなきゃ商売やってらんないしね。ああ、これはただの愚痴だから。
目だとか口だとか鼻だとか心拍数だとか勘だとか、どんな風に判断してるかは企業秘密だけどねえ。



それで……あんたは間接的に何人殺してきたんだい。



一人?二人?十人?百人?
何人見殺してきた。何人手遅れになった。何人あんたは冥土に送ってきたんだ。
はは、別にあんたを責める気はないさ。俺だって立派な大人だ。世の中の不条理さとか命の儚さとかは十二分に理解してるつもりだよ。
もしもあんたが俺の家族よりも超有名な俳優の手術を優先したとしても、俺は怒らないだろう。糾弾しないだろう。
命の価値は平等だ。だが、それ以外は不平等だ。
影響力。財力。知り合いの多さ。繋がりの深さ。他にも沢山あるだろう。
それらを全て考慮に入れて、どうしようもなくどうしようもなければ、そうするのは間違いじゃない。
俺の家族を優先したとして、得するのはあんたのモラルと良心くらいだろ。
そして、そんなものを得たところで世の中を上手く渡っていける筈がない。
この世界はアニメや漫画とは違うんだ。その場その場の善行で幸せになれるほど簡単単純なものじゃない。
欲望と思惑とが二重三重以上に絡み合い、噛み合い、複雑怪奇の様相を呈している。それが社会だ。
医者ってのは世界で最も大事なものを扱う以上、そういうのに必要以上に囚われやすいんじゃないのかな。


……予想以上にしんみりとした顔をするんだね。色々あったと見える。
まあ、詮索はしないでおくよ。ただ、俺は話し好きで聞き好きだから、幾らでもその辺の話は聞いてあげても良いけどね。
ま、俺はカウンセラーじゃないし、あんまりためになるアドバイスは返してあげられないだろうけど。
まあ、そんな顔をするあんたは偉いさ。素晴らしいさ。
俺の知り合いにも医者、まあ闇だけど、がいるけど、あいつは人格が色々破綻してる。
高校時代に女の子にコクられて、なんて返したと思う?
「君は首から上があるから好みじゃない」だってさ!あはは、面白いジョークだろう。
あいつに比べりゃ、少しでも殊勝な顔をするあんたは医者の鑑だよ。誇ってもいい。

それでさ、俺は思うんだよねえ。


医者は一番目か二番目に神様に近いんじゃないかって。


医者は人を救う。死の淵から命を掬う。
人を殺すのなんて、下手すりゃ3歳の子供だって出来る。そこらの銃はガキをブルース・
リーより強くする。
ああ、今のは例えだから、もしあんたがブルース・リーの大ファンでも気を悪くしないでくれよ?
話を戻そう。命を奪うのは簡単だ。だけど逆は違う。
医者じゃなくとも人を救える?そりゃそうだ、正論だね。
俺たちだって心臓マッサージの真似事くらいは出来るかもしれないし、人工呼吸だって見よう見真似で実行できるさ。


でもさ、あんたは思わないかい。
神ってのは他の人間よりも出来ることが多いから神なんだってさ。
普通の人間と何も変わらず、何も特別なことをできない奴なんて、神と呼べるかい?
今の日本じゃ簡単に「神だ!」とか使っちゃったりするけど、それでもそこらにいる通行人を神とは呼ばないさ。
神ってのはね、特別なんだ。普通とは違うんだ。だから崇め奉られ、時には畏敬されたりする。
普通の人間は、他人の腹を掻っ捌いて中の腫瘍を切り除くことなんかできない。
普通の人間は、他人の脳髄を引っ掻き回して神経を繋ぐことなんてできない。
普通の人間は、銃弾で撃たれた時にどう処置していいか分からないし、包丁で刺された時にどうすれば助かるのか分からない。
でも、あんたは出来るし、分かる。そうだろう、ドクター。
他の人間よりも多くの手段を使い、用い、寿命を引き延ばすことができる。
それは、十分に神と呼べるものだと思わないかい?
神の特殊性を示すのに良く、命を創造するとか死んだ人間を蘇らせる、とか使われるけどさ。
つまるところ、医者ってのはそれに最も近い人間じゃないかな?
壊すのは簡単だが創るのは難しい、上手く言ったもんだよね。
特に、こんな場においてはね。

何が言いたいのか分からない?ああ、そうだろうね。分かるように言ってないから。
ははは、そう怒るなよ。本題はここからさ。
ボディチェックは終わったかな?銃どころかナイフ一本持ってない丸腰の俺をひんむいて満足したかい。

それじゃ、おそらくこの場で、殺し合いの中で、慈悲深く情け深く神に近いあんたに忠告しよう。


無闇に他人は救うな。助けるな。


……銃を下してくれ、ドクター。俺はあんたと争いを、殺し合いをしたいわけじゃない。
ただ、これから一緒にやっていく仲間として、はっきりさせておきたいことをはっきりさせるだけだ。
ああそうさ、俺はあんたと手を組みたい。だからこそ抵抗もせずにボディチェックも受けたし今も無抵抗でいる。
誰だって好き好んで殺し合いなんてするもんか。あんただって殺し合いなんて乗るつもりはないんだろう。
だから、俺たちは生き残るため仲間を求める。
信頼のおける仲間を。有用で有効で優秀な仲間を。
だからこそ、俺は警告しよう。知らない他人を助けるな、と。

……ここで一つ、ちょっとした思考実験をしようか。


今、あんたの目の前に二人の参加者が倒れている。
一人は悪人面した男。銃を片手に腹からどくどく血を流している。
一人はいかにも少女漫画に出てきそうな女の子。臓器を撃ち抜かれ虫の息だ。彼女の前には血に染まった包丁が落ちている。
あんたは直感する。どちらかを助けている間にどちらかは死ぬだろう、と。
そこで、悪人面した男は言うんだ。
「そこの女に不意を突かれて包丁で刺された。俺は必死で反撃してこいつを撃った。
俺は殺し合いに乗っていない。頼む、信じてくれ。俺を助けてくれ」ってね。


あんたは、どうする。


「どちらも助ける」か。ふむ、中々華麗に前提条件を覆してくれてるけど、そこは目を瞑ろう。
どちらも助けた上でどちらも拘束。後で話を聞いてどうするか判断する、か。
普通なら、合格点だ。前提条件を無視しているからー25点。75点はあげてもいい。

だけどね、今回の場合は0点だよ。ドクター。

良いかい、今の状況をしっかりはっきり思い起こしてくれ。
突然の拉致。理屈の分からない瞬間移動。俺たち以外誰もいない会場。殺し合い。
……あんたさ。自動販売機を投げつける男って信じるかい?
それか、おかっぱ眼鏡巨乳の大人し目の女の子が身体の中から日本刀を取り出すところを見たことはあるかい?
首がなくても活動する人型の化け物がこの世に存在することを、あんたは知っているかい?


信じても信じなくても結構。だけど、これは純然たる事実だ。
俺が何を言いたいのか分かるかな。つまり、この世は不思議だらけだってことだよ。
悪人面した男は、手も触れずに俺たちを一瞬で細切れにできる超能力者かもしれない。
虫も殺せなさそうな少女は、拘束をものともしない万力の力を宿したバーサーカーなのかもしれない。
実は、この俺は人間じゃなくて妖怪カマイタチなのかもしれない。
ま、俺はただの人間だけどねえ。あはははは。
分かるかい。この場において全く知らない他人を助けることはどれだけ恐ろしいことなのか。
あんたはさっきの心理テストみたいな状況でも、迷わずどちらも助けようとするだろう。
だけど、それは駄目なんだよ。それじゃあ生き残れない。
一つのミスで、十人が死ぬ。そんなのは許されないんだ。
さっきのテストの模範解答は「どちらも自らの手で殺す」だよ。
不確定要素を排除し、更に三人殺しの特典にも近づくことができる最良の一手だ。
冷血漢となじるかい。悪魔だと罵るかい。
だけど、俺はただの人間だ。力を持たぬ一介の情報屋だ。
俺は死が怖い。自分という存在が消滅し、塵と消えるのが怖くて怖くてたまらない。
だから、俺は『その時』が来たら躊躇わないだろう。戸惑わないだろう。
それが俺の選ぶ道だ。生き残るために選ぶ道だ。


……別に、強要しようってわけじゃない。俺もそこまで身勝手な人間じゃないさ。
あんたが助けたければ勝手に助ければいい。俺は俺で好きなようにやらせてもらう。
ただ、後で「話が違うじゃないか、この極悪人!」とか言って勝手に面倒事にされるのは嫌なんだよ。分かるだろ。
俺は善人気取りをして後で掌を返すような連中とは違う。そこを知ってて貰いたかったんだよ。
この話を聞いてあんたがどうするかは任せるさ。俺と組むか、組まないか。
言っておくが、俺はあんたと組みたい。やはり医者という職業は魅力的だし、あんた自身にも好感を抱いてる。
そこだけは、忘れないで欲しい。


さて、俺の長くてつまらない話はお終い。
そこに俺がかき集めた医薬品がある。より取り見取り、好きなのを持って行ってくれ。
他にも必要なものがあれば探してくるといいさ、俺はその辺は疎いからあんたに任せる。
俺が持つより優秀そうなあんたが持ったほうが良いと、合理的に判断したまでだ。だから遠慮は無し。
ああ、ついでに、出来れば救急車のキーとかも探してきてくれないか。やはり足が有るに越したことは無いからね。
じゃ、俺はこの待合室にいるから。どうするか決まったらまた来てくれよ。


……おまえは神を信じるか、だって?
最近までは信じてなかったけど、今は天国の存在と一緒に信じても良いかな、って気にはなってる。
だって、そっちのほうが面白いだろ?信じる者は救われる、ってさ。
俺にとっちゃ、神様なんてその程度の存在だよ。



◇ ◇ ◇



――現在、チャットルームには誰もいません――

――現在、チャットルームには誰もいません――


――甘楽さんが入室されました――


《ふふふ。皆のアイドル、甘楽ちゃんは不滅なのです☆》
《お客さんは、なんとお医者さんでした!きゃーびっくり><》
《彼ったら強引にアプローチをかけてきちゃって、私ビックリしちゃいましたよう》
《でも、良く見ると結構イケ面だったり、きゃっ(*^o^*) 》
《今は彼をデートに誘ってるんですけど、ちょっと戸惑ってるみたいなんです》
《やっぱりこんなところだから皆緊張してるんですよね、ちょっとデリカシーがなさすぎたかもしれません……》
《まあ、過去は振り返らずに前進前進!甘楽ちゃんの愛の力でこんな殺し合いはきっと止めさせるのです☆》
《皆さんも、是非是非ご協力お願いしますね!》
《それでは、また生きていたら何処かでお会いしましょうー》
《バイバイキーン☆彡》


――甘楽さんが退出されました――

――現在、チャットルームには誰もいません――

――現在、チャットルームには誰もいません――




あはは、面白くなってきた!
医者はHorに分類されるのか。それともIsiに分類されるのか。どうなのかねえ。
まあいいや。移動がてら、色々火種を蒔いていこうじゃないか。
これでこそやりがいがあるってもんだ。あのドクターも色々隠してるようだったし、果たして鬼が出るか蛇が出るか。
……これだから、これだから人間観察は止められない!



さあて、次の一手は……。



折原臨也の「唯一」の友人、とある闇医者曰く。


『折原臨也は、善意なんてひとかけらも持ち合わせちゃいない』


折原臨也の「友達で大事な弟みたいな、捨て駒の王将」曰く。


『折原臨也には絶対に関わるな。あいつは信念が三秒で変わる』



コートの隠しポケットでひっそりと息を潜めている一本のメスが、ギラギラと鈍い輝きを放っていた。



【G-2/市街地:病院】


【天馬賢三】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:コルトガバメントM1911A1(7/7)、予備弾倉4つ
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜2、月の腕時計@DEATH NOTE、医薬品多数
 [思考・状況]
 基本行動方針:ヨハンの抹殺。負傷している者がいれば治療する?
 1:病院内を探索。必要なものを探す。折原臨也に関しては……
 2:ニナ、テンマを探す。
 3:いずれ杳馬と合流する。


【折原臨也@デュラララ!】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康
[装備]:メス(コートの隠しポケットに入っている)
[道具]:基本支給品、セルティの首、属性探査機、属性電池(Isi)
[思考・状況]
基本行動方針:実験を完遂させつつ、その中で活躍してヴァルキリーに認められ、天国へ行く。
1:Horらしき参加者を見つけ、五代達との合流を促して擬似Horによる大集団を作る。
2:Isiらしき参加者を見つけたら、人間観察がてら人間不信に追い込む。
3:Setらしき参加者に遭遇した場合、様子を見て情報収集・擬似Set集団形成促進の為に接触する。
4:属性電池を探索する。
5:ここで活躍できなかった場合の保険の為に、本ちゃんの戦争に必要な竜ヶ峰帝人はなるべく保護したい。


[備考]
登場時期は原作2巻終了後。
吉良吉影と、第一放送後に合流する場所を密かに決めています(詳細は、後の書き手にお任せします)。
216創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 22:59:55 ID:q9jIzBnq
投下&代理投下乙です

ダグバは本能的にカズキの本質を感じ取ったのか
侮れんわ。それと自分以外にカズキを狙ってることをもしパピヨンが知ったら…w

原作でのアーチャーとは違い穏やかだなw
考察、戦術の立て方、そしてあくまでも考察は考察だと割り切ったスタンス、本当に安心できるわ
まひろも今の所は落ち着いてるし安定してるな
ただ藤ねえのことは…

臨也の毒を注ぐ手法がすげええぇ
なんだろう、架空の情報屋のキャラを一つ作りだしてそれで相手の心を誘導してるような…
こいつこええええぇ
217創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 00:27:16 ID:09m6y1Cr
「夢の続き」の誤字指摘しておきます。
>>198
>自信に気付かれることなく聖杯に介入し
自信→自身
>>200
>Horの勝利条件は単純だが
Hor→Isi
>>204
>3:Horは人を守る者、Setは人を殺す者、Horは力を持たない者?
二つめのHorはIsi
>【武藤まひろ@武装錬金】
>[属性]:一般(Isi)
>[状態]:気絶
気絶→健康
218創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 03:40:45 ID:5gPeyDrP
夢の続きでまひろが銀製学園〜と言ってますが正しくは銀成学園ですね
219 ◆uBMOCQkEHY :2010/08/16(月) 20:46:02 ID:Rl5Hk7G3
お久しぶりです。
仮投下ではアドバイスありがとうございました。

これからその修正版を投下します。
220創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 20:49:38 ID:OhQPccdm

221Angel Heart1:2010/08/16(月) 20:50:34 ID:Rl5Hk7G3
木々と雑草が鬱蒼と生い茂る森の中、大河とテンマは森の中を進んでいた。
二人は合流し、軽い自己紹介を済ませた後、とりあえず、南の511キンダーハイムという施設に行ってみようということとなり、南下していた。
森の北側では、木々の間にはまだ隙間があり、足元は落ち葉と雑草だったため、滑りそうな危うさこそはあったが、歩くのには不自由とまでではなかった。
しかし、進むにつれ、大蛇を連想されるような太い蔓が地面を這い、カーテンのように垂れ下がった蔦が二人の行く手を阻む。
森というよりはジャングルの奥地を連想させる。
さすがに並んでは歩けなくなったので、テンマが先頭に立ち、雑草をむしりながら前進していた。
冷え冷えと光る月明かりに照らされた草木は眠りについたように生命力を閉ざし、その閑散さは墓地などの静けさに近い。
その沈黙に耐えかねたのであろうか。
大河は歩きながら、自分のこと、士郎のことをテンマに話していた。
「…でね、士郎って、お料理が上手で、まさに家政婦っ!一家に一台あると便利な子なの……」
「弓が上手くてね、百発百中っ!!だから、高校では弓道部から引っ張りだこ!テンマくんにも見せてあげたいわっ!!」
などと、その話は実に他愛もない。
それに対してテンマは、
「士郎って、すごいんだな」
と、好意的な相槌を打つ。
テンマはあえて口を出さないが、この時点でテンマは自分と大河が別の世界から来た人間ではないかという予感を薄々感じ始めていた。
大河の服装が、Tシャツにロングスカートというテンマの時代では考えられないファッションであることもそうだが、度々大河の口から出てくる“高校”“家政婦”などの聞きなれない単語が決定打だった。
これらの単語自体、テンマの生きた1700年代には存在しない。
テンマと大河の生まれた時代には実に250年近くの隔たりが存在していた。
222Angel Heart2:2010/08/16(月) 20:53:30 ID:Rl5Hk7G3
それでも会話が成立しているのはテンマが口を挟む余裕がないほどに大河が一方的に話していること、
テンマが聞きなれない単語について質問しても、“テンマくんは外国人だから『日本語』が理解できなくて当然よね”と、
テンマを日本語に不自由な外国人扱いし、時代の隔たりから来る概念の違いを自己解釈してしまうからだ。
本来なら、ここで大河の雑談を中断させ、時代の隔たりを説明した方が良かったのかもしれない。
しかし、テンマはあえてそれを行わなかった。
テンマ自身、単語の意味は前後の話から何となく予測できたし、何より気持ちよく話している大河に水を差すのではという考えがそれを押しとどめていた。
要は明るい大河を見ていたい。
それが今のテンマの素直な心境であった。
テンマがそんな気遣いをしているとも知らず、大河は話を続ける。
「……でね、士郎と私の最初の出会いは、冬木市で大火災が起こった後、士郎のお父さんの切嗣さんがね、その震災で身寄りを失った士郎を養子にしたのが……」
「士郎は……孤児なのか……」
ここでテンマは立ち止まった。
テンマの表情に陰りが浮かぶ。
「まさか…テンマくんも…?」
その表情で大河はテンマも士郎と同じ境遇だったことを察した。
「ご……ごめんなさいね……」
大河は辛いことを思い出させてしまったと申し訳なさそうに俯く。
しかし、テンマは首を横に振る。
「いや…気にしなくていいよ……孤児院での生活は辛いこともあったし、寂しさを覚える時もあった……けど、仲間……いや、家族がいた……」
223創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 20:56:09 ID:TJkBP7Au
支援
224創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 20:58:50 ID:TJkBP7Au
支援
225創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 20:59:02 ID:OhQPccdm

226創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:07:43 ID:TJkBP7Au
しえん
227Angel Heart3:2010/08/16(月) 21:20:21 ID:Rl5Hk7G3
テンマの脳裏に幼き頃のサーシャやアローンの姿が蘇る。
皆、身寄りはなかったが、肩を寄せ合い、助けあい、明日に希望を持って生きてきた。
この生活があったからこそ、テンマは今の自分があるのだと理解していた。
テンマにとって、彼らと過ごした日々はかけがいのない思い出であった。
「家族かぁ…」
テンマに同調するように大河はほほ笑んだ。
「士郎と私は血が繋がっていないけど、心は通じ合っている……テンマくんが孤児院の仲間を家族って思うように……私とって士郎は立派な家族なの……」
「そうか…士郎は幸せ者なんだな…」
親がいなくとも、信頼しあえる者が近くにいれば、その心は救われる。
テンマは孤児院の日々でそれを痛感している。
士郎もテンマと同じように寂しさを感じていた時があったのかもしれない。
それでも士郎は大河という懐の大きい女性に支えられていた。
士郎もテンマと同じ考えにたどり着いていたのではないのか。
「会ってみたいな……士郎に…」
テンマがそう呟き、再び歩もうと、目の前の蔓を引きちぎった直後だった。
「ちょっと、何しているのよっ!!」
テンマと大河は声がする方――上を見上げた。
そこには蔦が幾重にも絡み合い形作られた繭。声の主の女性はその繭の上で仁王立ちしていた。
「アンタは誰だっ!!」
テンマは大河を庇うように拳を構える。
女性は緑色の肌に、燃えるような赤い髪。
その容貌から明らかに“人間”でないことが窺い知れる。
しかし、男を知り尽くしているような甘く妖艶な顔。
男の欲望をそそらせるような引き締まった括れに、肉質的な太もも。
人外の姿でありながら、その美貌はどこの女性よりも完成されたものであった。
女性は忌々しげな眼光を鋭く放つ。
228Angel Heart4:2010/08/16(月) 21:25:35 ID:Rl5Hk7G3
「私はポイズン・アイビー……貴方達がどういう目的でここに来たのかは知らないけど……この蔦は私の愛おしい子供たち…それを破壊しようなんて……許さないっ!!!」
女性――アイビーの有無を言わせぬ怒声。
この声を合図とするように、沈黙を守っていた足元の蔓が蠢きだす。
「逃げろっ!!!」
危機感を感じたテンマは大河を突き飛ばした。
「きゃっ!!」
大河は大きくよろけ、尻もちをつく。
これとほぼ同時だった。
蔓一本一本が総身をうならせ、津波のように彼らに襲いかかってきたのだ。
「テンマくんっ!!!」
大河はテンマを守ろうと立ち上がる。
しかし、それよりも早く、テンマは身体の奥から何かを引き出すかのように深い呼吸を吐き、そして――
「ペガサス流星拳っ!!!!!!」
蔓の群れに向かって、拳を放ったのだ。
ペガサス流星拳――天馬星座の13の星の軌跡を描く構えから、毎秒百発以上の音速の拳を繰り出す連続ラッシュ攻撃。
その拳には聖闘士が体内で燃焼させた力――小宇宙が纏われ、それが相手に打ち込まれるや否や、相手の原子を砕く。
シンプルなようでいながら、まさに絶技。
それを表わすかのように、テンマの目の前の蔓はまるで爆竹が弾けたかのように砕けていく。
「何ですって!!!」
思わぬ抵抗に、アイビーは柳眉を逆立てる。
大河も目で追うことができないほどのテンマの“すごい力”を目の当たりにし、呆然としている。
二人の女性はテンマの強靭的な力に言葉を失っていた。
この二人でなくとも、ほとんどの人々が同じような反応を示すはずであろう。
しかし、この絶技の“威力の弱さ”に愕然とする者がいた。
テンマである。
テンマは気付いていた。
(小宇宙が弱まっているっ!!)
229創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:27:38 ID:TJkBP7Au
sien
230創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:28:07 ID:OhQPccdm

231Angel Heart5:2010/08/16(月) 21:28:17 ID:Rl5Hk7G3
小宇宙は一種の気である。
身体の中で小宇宙を練り、それを力とする。
しかし、それだけでは外面を守ることができない。そこで肉体を限界まで鍛え、型と技法に磨きをかける。
そう言った意味では、聖闘士の戦闘は中国武術の長所――呼吸や血流を律することで経絡をめぐる気を鍛える太極拳の“柔”と体を外面から強くして剛力を用いる少林拳の“剛”を併せ持つ闘法と言える。
しかし、中国武術と大きく違うのが小宇宙の特性である。
森羅万象、この世全てのものは原子でできている。
この原子を見定め、破壊することができるのが小宇宙という存在である。
聖闘士の闘法とは、外側からの剛力による破壊と内側からの原子の爆発による破壊、この二つが合わさることで成立する、究極の戦闘スタイル。
それ故に、拳で大地を割るなどの超人的なことを易々と行うことができるのだ。

勿論、アイビーの蔓を砕くなど聖闘士にとっては朝飯前のことである。
現に、テンマはアイビーの蔓を砕いた。
しかし、それはあくまで外側から衝撃を加えた結果でしかない。
内側からの爆発――原子の破壊が伴わっていないのだ。
原子の爆発も生じていれば、蔓など砕いたどころか、まるで内側に仕掛けられた爆弾が爆発したかのような破裂が生じるのだから。
拳から小宇宙がにじみ出ていることから、完全に小宇宙を失ってしまったわけではないようである。
しかし、その量はこれまでが湯水のように溢れ出る程と表現するなら、現在はこんこんと流れ出る湧水程度。
今のテンマの小宇宙は聖闘士候補生レベル――どうやって原子を破壊するかを模索するレベルにまで落ち込んでいた。
232創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:30:10 ID:TJkBP7Au
支援
233Angel Heart6:2010/08/16(月) 21:30:45 ID:Rl5Hk7G3
なぜ、ここまで小宇宙が弱まってしまったのか。
第一に、聖闘士の小宇宙を増幅させる効果を持つ聖衣を身に纏っていないという点があげられる。
しかし、テンマは本能的に感じ取っていた。
明らかに、自分の能力に制限がかかっているのは何らかの力が加わっていると。
制限の根源が何かは分からない。
もしかしたら、首輪によるものなのかもしれないし、会場全体に結界のようなものが張られているためなのかもしれない。
しかし、その原因を追及しなければ、いつか窮地に陥る可能性が出てくるだろう。
テンマはキリリと歯噛みする。
(そうなったら、俺はタイガを……)


「アイビー姉ちゃんの葉っぱをいじめちゃダメだよっ!!!!」
突如、蔓の繭から幼い少年――たけるが顔を出した。


「えっ…」
なぜ、この場で子供がいるのか。
戸惑ったテンマの注意が上空の繭に向けられる。
それは見事な隙であった。
この直後、無数の蔓が鞭のようにテンマの身体に巻きついた。
テンマはそのままビタンと地面に叩きつけられた。
234創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:31:01 ID:OhQPccdm

235Angel Heart7:2010/08/16(月) 21:33:06 ID:Rl5Hk7G3
「テンマくんっ!!!」
大河はテンマの元に駆け寄り、蔓を引きはがそうとする。
しかし、その蔓は巨木の根のようにびくともしない。

アイビーはそのテンマの無様な姿を見下すように鼻先で笑う。
「植物を嬲った罰よ…」
基本的にアイビーにとって、未成年は保護する対象である。
しかし、植物を傷付ければ話は別である。
植物を破壊することがいかに冒涜な行為であるかを理解させる必要があった。


「うぐっ…かはっ…」
テンマの口から苦痛の声が洩れる。
蔓はテンマの身体に食い込み、少しずつ締め上げていく。


「お兄ちゃん……」
テンマが苦しんでいることは、小学生のたけるでも十分理解できた。
たけるはアイビーを見上げた。
「お願い…アイビー姉ちゃん…もうやめてあげて…お兄ちゃん、苦しそうだよ、辛そうだよ…可哀そうだよ…」
今にも泣き出しそうな瞳をアイビーに訴える。
「たける…」
まさかのたけるからの懇願。
アイビーにとって予想外の展開である。
アイビーの心にチクリと小さな針が刺さったかのような痛みが走った。
236創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:35:12 ID:TJkBP7Au
支援
237Angel Heart8:2010/08/16(月) 21:35:41 ID:Rl5Hk7G3
(もしかして、私、間違っていたかしら……)

一瞬、アイビーにそんな迷いが生まれる。
アイビーは自分に言い聞かせるように首を横に振った。

(いいえ、そんなことはないわっ!!)

アイビーはたけるに言い聞かせる。
「彼はね…植物を傷付けたのよ……
貴方だって身体が傷ついたら、嫌だと思わない……?
これは当然の報い……
それに、貴方だって、傷付けていたのもしれなかったのよ…」
たけるは物分かりのいい子供だった。
そういう考えもあるかもしれないとアイビーの言葉を受け入れ、しゅんと俯く。
「だけど……」
ここでたけるは申し訳なさそうに呟いた。
「……あのお兄ちゃん……隣のお姉ちゃん、守ろうとしていたんだよ……
もし、アイビーお姉ちゃんが誰かに狙われていたら、
僕もお兄ちゃんみたいにアイビー姉ちゃんを守っていたと思うよ……」
「それは……」
今回の戦闘はテンマが植物を引きちぎったことが発端である。
テンマの行為は植物を愛するアイビーにとっては許されざることではあるが、テンマ達の視点から見れば、進むために必要かつ無意識の行動であった。
そのテンマ達に対して嫌悪を覚え、一方的に攻撃を仕掛けてきたのは、むしろ、アイビーの方である。
テンマ達の事情も考慮すれば、非があるのはむしろ自分ではないのか。
アイビーの心の疑問がいよいよ大きくなっていく。
(私は……やっぱり…間違っていたのかしら……)
238創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:36:27 ID:OhQPccdm

239Angel Heart9:2010/08/16(月) 21:39:21 ID:Rl5Hk7G3
アイビーが疑心に捕らわれている時だった。
まるでアイビーの心の蟠りに呼応するかのように、テンマに絡みつく蔓が緩んで解けていったのだ。
テンマは訝しげに蔓を眺める。
(何が起こった……?)
その原因を追及するべきなのかもしれない。
しかし、今は少しの隙が命取りに繋がる戦闘状態。
相手より先手を打てるかどうかが、勝敗を決する。
また、アイビーの様子を見ると、何か思案に捕らわれているようであり、蔓が緩んだことに気付いていない。
(今だっ!!!)
テンマが蔓を引きちぎろうと腕に力を込めたその時であった。
「テンマくん、あの人に謝ろう……」
大河がテンマの肩にそっと手を置いた。
「な……どうしてだよっ!!!」
難癖をつけて攻撃を仕掛けてきたのはアイビーの方である。
非がないにもかかわらず、相手に頭を下げるなど、納得できるはずもない。
「分かっているわ、テンマくん…だけどね……」
大河とて、テンマの不満は重々承知している。
それでも大河はテンマを説得する。
「あの人……あの男の子を守ろうとしていたんじゃないかしら……確かに、彼女の行為はちょっと過剰よ……だけど、私たちも彼女に説明を怠っていた部分もあったし、ここって殺し合いの場じゃない……警戒心が強くなりすぎるてもしょうがないわ……」
大河は立ち上がり、アイビー達に手を振る。
「怖がらせてごめんなさいっ!だけど、私たちは殺し合いには乗っていないわっ!!信じて!!」
240Angel Heart11:2010/08/16(月) 21:43:23 ID:Rl5Hk7G3
「何を突然……」
アイビーは大河の行動に面食らう。
敵対する人間に対して、素直に己の非を詫び、その上で信じてほしいと説得する。
これが恐怖からくる命乞いであれば、アイビーも理解はできた。
しかし、はきはきと叫ぶ大河を見ている限り、どうも謝罪の根源は恐怖からではないらしい。
(彼女に応じるべきなのかしら……)
アイビーは目の前の女に対してどう対処すべきかを考えあぐねる。
その答えはたけるが知っていた。
「あのお姉ちゃん、謝ってるよっ!!僕たちも謝ろう!!」
たけるは近くの蔓を引っ張りながら、“下に降りよう”とアイビーを促す。
「けど、たける…彼らは…」
守るべきはたけると植物。
それを狙う者は敵である。
もし、降りてきた直後に彼らがたけるの命を狙ってきたら……。
アイビーはたけるの言葉を受け入れるべきかどうか、逡巡する。
しかし、そんな可能性に思い至らないたけるは“いいから、下へ降りよう”と尚もアイビーを促す。
結局、根負けしたのはアイビーの方だった。
「分かったわ……ただ、彼らが襲ってきても…知らないわよ…」
テンマの身体から蔓が離れていく。
その蔓はアイビー達の繭に向かって伸びていき、あっという間に、階段を形作っていった。
たけるとアイビーはそこからゆっくりと降りていき、テンマ達と対峙した。
241創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:44:21 ID:SBCLHCV9
 
242Angel Heart11:2010/08/16(月) 21:45:08 ID:Rl5Hk7G3
たけるには襲われても知らないと公言しておきながら、それでも彼の身を案じているのだろう。
蔓の階段から降りるや否や、アイビーはたけるを自身の背後に隠した。
また、万全を期するため、森を覆う蔓の先はレーザーサイトのようにテンマ達を狙っている。

「アンタ……」
勿論、テンマもアイビーのことを信用しているはずがない。
テンマは拳を構え、万が一の時はこちらも容赦しないという意思を見せつける。
和解する予定だったかかわらず、二人の間には一触即発のガラスのような緊張が漂っていた。
そのガラスを粉砕したのは、やはりたけるであった。
「お兄ちゃんっ!!」
アイビーの制止する声も聞かず、テンマに詰め寄る。
「首とか足とか手とか大丈夫?痛くなかった?」
「えっと…たけるだっけ…」
テンマは蔓の動きに警戒しながら、とりあえず、知りたかった疑問を口にする。
「どうして、あの女と一緒にいる?…酷いことはされていないか…」
テンマには予感があった。
もしかして、たけるは何らかの方法で脅迫され、彼女と一緒にいるのではないのかという予感が。
もし、そうであれば、たけるを保護する必要がある。
アイビーという女を信用できないからこそ、テンマはたけるの真意を確かめたかった。
「アイビー姉ちゃんのこと…?」
質問に答えないテンマにキョトンとしつつも、笑顔で答える。
「ここで初めて会ったのがアイビー姉ちゃんで、蔓の中はふかふかでとっても温かくて、お布団みたいなんだっ!!」
たけるは、万が一の時は見捨てるなどの発言をされておきながら、アイビーに対して不満を抱いていないどころか、全幅の信頼を置いているようである。
当のアイビーは手を伸ばしたまま、歯痒そうにテンマを睨みつけている。
243創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:47:03 ID:TJkBP7Au
支援
244創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:47:57 ID:TJkBP7Au
支援
245創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:48:25 ID:E/qpKisF
sien
246創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:52:01 ID:TJkBP7Au
支援
247Angel Heart12:2010/08/16(月) 21:53:45 ID:Rl5Hk7G3
「彼女は安心できる人みたいね……」
大河は“ほらごらんなさい”と言わんばかりに肘でテンマの脇を突っつく。
「分かったよ…」
テンマは気まずそうにそっぽを向いた。
テンマはアイビーの人外の容貌、威圧的な言葉、一方的な攻撃から、その性格をかなり歪んだ邪悪なものとして受け取っていた。
実際、テンマの考えは的を射る部分もあるのだが、たけるに対してはアイビーのもう一つの特性である母性が大きく働き、悪しき面は鳴りをひそめていた。
テンマはたけると同じ目線になるようにしゃがむと、その頭を優しくなでた。
「俺は平気だ……それよりも、さっきは植物を傷付けて悪かったな……」
テンマは“あの人の元へ戻れ…心配しているから…”とたけるの背中を押す。
たけるは“うん”と元気に頷くと、アイビーの元に走った。
「たけるっ…!!」
アイビーは大きく手を広げ、たけるを抱きしめる。
このアイビーの行動は無意識によるものだった。
アイビーの母性が働いたからに他ならないが、その行動は毒婦として名を馳せてきたアイビー自身、戸惑いを覚えてしまう。

大河はそんなアイビーの心の内など露知らず、クスリと笑みを浮かべる。
「なんか親子みたいね……」
「親子……」
アイビーは大河の言葉を噛みしめるように反芻する。
アイビーの本名はパメラ・リリアン・アイズリー。
彼女は大学在学中に、ジェイソン・ウッドルー博士の人体実験によって、体内に毒と菌を宿す肉体に改造させられてしまった。
この人体実験の後遺症のせいで、彼女は妊娠できない身体となった。
故に、親子という関係はアイビー自身がどんなに望んでも、実現できない一種の理想でもある。
(もし、パメラ・リリアン・アイズリーとして生きつづけていれば、たけるのような子供に恵まれていたのかもしれない…)
アイビーの心中に郷愁に近い甘い感情が静かに湧きあがる。
アイビーは更にたけるを強く抱きしめた。
(もう…諦めていたことなのに……)
アイビーはどう対処すれば分からない母性に困惑する。
それに反発するためだろうか、吐き捨てるように呟く。
「私は……私のポリシーを貫いているだけ…別に情なんて……」


「親子……」
アイビーと同じように、テンマも大河の言葉を反芻していた。
テンマは寂しげな苦笑を浮かべる。
「タイガ……実は黙っていたんだけど……俺、実の両親に会ったことがあるんだ……」
大河の顔からパッと華やかな笑みが洩れる。
248Angel Heart13:2010/08/16(月) 21:57:06 ID:Rl5Hk7G3
「良かったじゃないっ!!テンマくん!!!」
しかし、その吉報とは裏腹に、テンマの表情の曇りは晴れない。
テンマは俯いたまま、淡々と言葉を継ぐ。
「俺の両親は俺を愛してはいなかった……それどころか、両親は野望の足掛かりにするために俺を産んだ……」
神話時代、ペガサスの聖闘士は冥王ハーデスとの激戦の末、ハーデスの身体に傷をつけた。
神を傷付けた――神殺しの力を持った唯一の聖闘士であり、その魂を持ったのが、ほかならぬテンマであった。
テンマの両親である杳馬とパルティータはその能力に目を付け、テンマを出産。
その神殺しの力をテンマから抜き取ることで自分たちがオリンポスの神々に成り変わろうとしていることをテンマに告白したのだ。
彼らにとって、テンマは悲願達成の道具でしかなかった。
テンマは真っ直ぐとした瞳でアイビーを見据えた。
「血が繋がっていても情愛が存在するとは限らない……それにもかかわらず、アンタは会ったばかりの子供を守ろうとしていて、たけるもアンタの気持ちを理解している…すごいことだよな…それって……」

「テンマくん…」
大河は憂苦の表情でテンマを見つめる。
この少年はどれだけの悲しみを背負っているのか。
覆すことができぬ事実に何度涙を流したことだろうか。
それを想像すればするほど、大河の胸は潰されそうになった。

「テンマ…」
その感情はアイビーも一緒だった。
アイビーは愛情の薄い家庭で育った。
だからこそ、誰かに愛してほしかった、認めてほしかった。
ジェイソン・ウッドルー博士の人体実験を了解したのも、成功すれば、ウッドルーが更に自分を受け入れてくれるかもしれないと確信していたため。
しかし、実験の結果、彼女は正気を失い、それに失望したウッドルーは彼女を捨てた。
愛情が与えられない苦しさ、愛情を否定される悔しさは、他の誰よりもアイビー自身が理解している。
249創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 21:57:51 ID:SBCLHCV9
 
250創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 22:00:40 ID:TJkBP7Au
支援
251Angel Heart14:2010/08/16(月) 22:02:02 ID:Rl5Hk7G3
「私も…攻撃して悪かったわ……」
アイビーが立ち上がった。
それと同時に、それまで行く手を阻んでいた蔦がゆっくりとカーテンを開くように動き始め、道を作ったのだ。
「これでこの子たちを傷付ける必要はないでしょ?さぁ、行きなさい…」
「ねぇ、アイビーさん……」
大河はアイビーに声をかける。
「また、貴方と会えるかしら……」
それに対して、アイビーは女帝の風格を感じさせる、皮肉な笑みを見せた。
「貴方達が死んでいなければの話だけどね…再会したところで……特に持て成しをするつもりもないわよ…」
その不遜な言葉に、大河は頬を膨らませる。
「もう!何でそんな尖った言い方をするの!!だから、誤解されちゃうんじゃないっ!!貴方、本当はとってもいい人なのに……」
「私が……善人……?」
罵られたことは数多くあるが、人から礼賛されたことなどなかった。
痒さを伴った照れがアイビーの全身に広がっていく。
「そんなこと言っても…何も出ないわよ……」
アイビーは大河の警戒心のなさに呆れ果てると同時に、彼女に危うさを感じた。
放っておけば、誰かに足元をすくわれて、命を狙われると。
アイビーはため息をつく。
「本当に貴方は心から平和ボケしているようね…そんな心構えでここを生き残れると思っているの…?」
252Angel Heart15:2010/08/16(月) 22:06:01 ID:Rl5Hk7G3
大河はアイビーに礼を言うと、テンマと共にアイビーの作った道を進み始めた。
「本当に平和ボケしているんだから……」
アイビーは悪態をつきながらも、小さくなっていく二人の後ろ姿をいつまでも見つめ続けていた。
253創る名無しに見る名無し:2010/08/16(月) 22:10:38 ID:OhQPccdm

254Angel Heart15 修正版:2010/08/16(月) 22:13:04 ID:Rl5Hk7G3
アイビーは二人の人物と合流することを忠告した。
一人はマッティー。くたびれたスーツを着た東洋人の男で、アイビーに心酔し、アイビーの知り合いだと説明すれば、協力してくれるらしい。
もう一人はバットマンという男。アイビーとあまり“親しくない”らしいが、場合によっては彼も協力してくれる可能性がある。
「この二人に会えば、とりあえず貴方のような間抜けそうな女でも延命できるんじゃない……?」
「アイビーさん……」
ここまで虚仮にされれば、普通の人間なら腹を立てるだろう。
しかし、大河は冬木市の裏の市長とまで呼ばれる藤村組組長、藤村雷画の孫娘である。
このような屈折した情の表現は藤村組の若衆とのやり取りで慣れている。
「なんだかんだ言ったって、助言してくれる……やっぱり貴方……いい人よ……」
「本当に貴方って……何を言っても無駄のようね……」
アイビーは顔を真っ赤にし、ぷいっと顔を背けてしまった。
「ありがとう…アイビーさん……元気でね……」
大河はアイビーに礼を言うと、テンマと共にアイビーの作った道を進み始めた。
「本当に平和ボケしているんだから……」
アイビーは悪態をつきながらも、小さくなっていく二人の後ろ姿をいつまでも見つめ続けていた。
255代理:2010/08/16(月) 22:24:40 ID:wuqhlRJR
【D-9/森の中:深夜】

【天馬星座のテンマ@聖闘士星矢 冥王神話】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品、未確認支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:聖衣を取り戻し、この場から脱出する
 1:タイガを守る
 2:パンドラを探す
 3:バットマンとマッティーに会ったら協力を頼む

【藤村大河@Fate/stay night】
 [属性]:一般人(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品、未確認支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:みんなと一緒に生きて帰る
 1:士郎を探す
 2:テンマが心配
 3:バットマンとマッティーに会ったら協力を頼む
256代理:2010/08/16(月) 22:25:50 ID:wuqhlRJR
【ポイズン・アイビー@バットマン】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康
 [装備]:ポイズン・アイビーの服
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針: 森を城塞とし、子ども達を助ける。敵対する者は殺す。
 1:森の植物に血を与えて城塞とする。
 2:子ども(未成年)が来たら助けてやる。
 3:バットマンと出会えたら、首輪解除のために共闘する。
※ポイズン・アイビーのフェロモン
 キスにより男を魅了し、支配する事が出来る。
 どのくらいの時間、どの程度の支配力があるかは不明。

【相沢たける@侵略! イカ娘】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:特になし
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(未確認)、ハーレイ&アイビーのDVDとバッテリー付き再生機セット
 [思考・状況]
 基本行動方針:姉ちゃん達と逢いたい
 1:アイビー姉ちゃん大好き!
 2:テンマ兄ちゃんとタイガ姉ちゃんはいい人!
257代理:2010/08/16(月) 22:31:09 ID:wuqhlRJR
代理投下終了です

最初はどちらかが負けるまで終わらんと思ったがこの結果は意外だわ
アイビーツンデレwww
そうか、言われてみればテンマとアイビー、共通点あるな…
藤ねえはよくやった。本来はこういう役がらなんだがギャグの印象が強いんだよなw
たけるはジャスティスロワで本当に純真な子どもポジだな…でも放送聞いたら…
258創る名無しに見る名無し:2010/08/17(火) 00:20:02 ID:3vtW42pH
投下乙です
アイビーかわいいよアイビー
自分の中でアイビーの株が急上昇してるよ
親子ネタに弱い自分にとって、かなりどストライクな話でした
259創る名無しに見る名無し:2010/08/17(火) 02:22:05 ID:gbn8qn6Q
原作星矢既読者でも忘れられがちな隠れチート設定
「聖闘士の原子破壊」を禁止にしたのは英断かと
260創る名無しに見る名無し:2010/08/18(水) 22:05:17 ID:QDFFuvEL
竜ヶ峰帝人、言峰綺礼

代理投下します
「君はこの状況をどう思う。さきほどの対応は、おおよそ正しかったと思うが、冷静なのかな?」

「混乱してるだけですよ。さっきのだって、いきなりあんなことを言うなんて……。
 そっちこそ、なんでそんなに冷静なんですか?」

一言二言、言葉を交わす。まるで世間話のように、心を落ち着けるかのように――あるいは、観察するかのように。
軽い自己紹介であるとか、お互いについてであるとか。
だが、そんな中で、言峰綺礼は唐突に切りだした。まるで――――全て分かった、とばかりに。




「私から見て、君は単なる一般人だ」

「そりゃあ……」

それ以外の何に見えるっていうんだろう、この人は。
まさかダラーズのことなんて、知るはずもないだろうに。

「無論、疑おうと思えばいくらでも疑える。誠実な教師が、実は凄腕の殺し屋だった。クラスメートの少女が貴族の娘で仮面の怪人だった。
 憧れの少女が、妖刀を持った通り魔だった。単なる学生かと思えば正義の味方だった――――まあ、よくある話ではあるな」

「よくあるんですか!?」

流石にそんな話がよくあるだなどとは信じられない。
いや、そりゃあ非現実的な存在は知ってはいる。唐突に、そんな事実を知らされることもあるかもしれない。
友人が実は――――だった、なんてこともありえると、知ってはいるけれど。

「ないわけではない。珍しくはあるが、その手の存在は日常に潜むことが多いからな。
 かくいう私もだ。普段は単なる神父だが、実は異端殲滅を担う代行者でもある」

「異端殲滅に……代行者? なんですか、それ」

こっちを一般人だと言うなら、いきなり専門用語を出さないで欲しい。
というか、単なる神父? とてもそうは見えない。

「分からんかね。我らは神の代理人だとか、ある宗教団体が作り出した武装組織であるだとか、
 化け物退治の専門家――あるいは人間相手でも容赦しない狂信者、などなど。
 日本ではむしろ、一般人の間においてこそメジャーな存在だと思うが」

そんなような話を、誰かに聞いたことはある。まあ確かに、その手の話は色々あるのかもしれない。
テレビのロードショーなんかでも見たことがあるような気もするし、映画のCMなんかも流れていたかもしれない。
しかし、作り話の中の非日常には、そこまで興味を持てなかった。

「いえ、あんまり知りません」

「ふむ?」

言峰綺礼という神父は、奇妙な――少しばかり予想外だ、とでも言いたげな顔をして、こちらを見つめた。
しかしそれは少しの間だけで、そしてむしろ嬉しげ言葉を続ける。
「まあいい。ともかく私はそういう仕事をやっていてね。
 この手の異常事態についても、ある程度の耐性はあるというわけだ」

だから冷静だったのだ、と。言峰はそう言った。

「えっと……今のって、さっきの質問の答えだったんですか」

なぜ冷静なのか、というこちらの問いかけへの答えだったのか?
仕事柄慣れている、ぐらいでいいんじゃないだろうか。

「なに、自己紹介も兼ねてのことさ。戦闘もありえる状況だ。その場合は頼ってくれていい、ということだよ」

「え、頼る?」

なぜ、まるで一緒に行動するのが前提であるような言い方をするのだろう。
はっきり言って、見た目も雰囲気を胡散臭いことこの上ない男が。

「君は一般人だと私は見た。そして私は聖職者だ。
 聖職者であるなら、無力な人間を見捨ててはならないだろう?」

「本気なんですか、それ?」

あんまりにも信用できなくて、つい口に出してしまった。
馬鹿だ! ちょっと話を合わせるぐらいはした方がよかったのに! と、後悔しても遅い。
だが、言峰さんは気を悪くしたようではなく、むしろ上機嫌に、

「私が信用できないかね? それは当然だな。
 しかし、君に選択肢があるとは思えないが。私が君を殺す気なら、もう死んでいるだろう。
 それにこのまま放置しては、君はそれこそ誰かに殺されるぞ。
 相手が混乱した一般人か、殺すことに迷いのない人間かは分からないが」

「えっと、まあそれは……そうですけど」

事実、なのだろう。この神父はついさっき――人間相手にも容赦しない狂信者を例に出した。
それは、自分も人間を殺せると言っているも同然だ。
そんな相手に、自分が殺し合いで勝てるとは思えない。そもそも、自分が勝てる相手の方が少ないだろう。
だったら、このまま言峰さんと別れても、すぐに死んでしまう……のかもしれない。
「君は私に対して、まず殺意の有無を確認したな。
 それは私に、殺し合いに乗りそうだ、という印象があるからだろう?」

そうなんだろうか。あの時は混乱していたし、誰に対してでも似たようなことを言ったかもしれない。
けれど、人間を殺せるというこの人に対しては、正しい印象だったのかもしれない。

「君への第一印象は無力な一般人、あるいは善良な少年か。まあ、そんなところだろうな。
 そういう君と行動を共にすれば、私も動きやすい。安心して、この殺し合いを壊すことに専念できる……どうかね?」

「まあ、言ってることはわかりますけど」

筋は通っている。殺し合いを壊したいが、自分は信用されにくい。
無力な人間と共に行動すれば、信用されやすくなる。だから一緒に来て欲しい。確かに正論だ。
聖職者であるから殺し合いなど許せない、というのも……宗教的なことは理解できないけど、動機としては納得できる。

「でも、どうやって壊すんですか」

「これは実験なのだろう。ならば、想定外の動きをして喜ばせてやればいい。
 例えば――参加者全員が手を取り合って反抗するであるだとか。
 それはそれで、いい実験結果だと納得するのではないかな」

本気かどうかは分からない。信用できないままだ。
けれど、どこか惹かれる。非日常そのものである、この人には。

「難しく考えることはないだろう。君が信用できる相手と出会えれば、そこで別れてもいい。
 君の安全を確保することを優先しよう。私の信用については後回しでもかまわない。
 なんなら、力ずくで連れて行ってもいいのだが」

聖職者――――その言葉通り、まるで聖人君子のように、説得を続ける言峰さん。
まあ、確かに選択肢はない。信じようと信じまいと、同じことにしかならない。
力ずくで、信用を失ってでも君を助けるという宣言をされてしまっては。

「……わかりました」

仕方ない。これは仕方のないことだ。だって逆らう意味もない。
従うしかない状況なんだから……この信用ならない相手に従うのは、仕方がない。

「助かる。では、行こうか」

ついてくるよう促して、そうして歩き出す言峰さんに、声をかける。

「どこへですか?」

「病院だ。こんな場所では、軽い怪我でも致死傷になりうるからな。
 簡単な手当てぐらいはできる状態にしておきたい――――と、考える人間も集まるだろう。
 その後の方針については、君が落ち着いてから話し合うことにしよう。まだ、混乱しているようだからな」

強い意志を宿したその瞳に、従うしかなかった。
不思議なほど、心が高揚したままで。仕方がないと思いながらも、まるで…………ちょうどいい言い訳ができたかのような表情で。


自分自身を偽るというのは、誰しも経験があるだろう。
他ならぬ言峰綺礼にも、似たような経験はある。彼は妻の死を受け入れられなかった。
いや、妻が死んだ時、自分が生んだ感情を受け入れることができなかった。
とはいえ、それは過去のこと。今となっては、妻の死の意味についても考えることができる。
彼はその女を愛していたのか、どうか。歪んではいたが――愛情は、あったのかもしれない。あるいは執着か。
歪んだ人間である彼が、目の前で死なれるのはつらい、と。そう思う程度には。
だから、竜ヶ峰帝人に興味を持った。自分の感情を、受け入れることができるかできないかの、境界にいる少年。
彼がどのような道を進むのか、選ぶのか。あるいはここまで選んできたのか。それを知りたいと思ったのだ。
その過去を知るには、信用を得る必要がある。そして、この少年にはある程度の後ろ暗さを見せた方がいいと判断した。
その後ろ暗さ――――あるいは非日常の匂いに惹かれる人間だろうと、そう感じたからだ。
それは正解だった。言峰綺礼に対し、竜ヶ峰帝人は興味を持った。そして、目的地は決定した。
病院ならば――どこか静かな一室で、互いの過去を語り合うこともできるだろうと、そう考えたのだ。

(さて。彼が興味を持つだろう話はいくつかあるが――――そうだな。ヒロインぐらいはいた方がいいか。
 彼ぐらいの年頃であれば、男だけの戦いよりも惹かれるはずだ。であれば、彼女に登場してもらおうか。
 封印指定の執行者――彼女と行った任務で、特に過酷だったモノなら、十分に楽しんでもらえるだろう)

自覚があるのかないのかの、中途半端な偽り。その不思議な偽りを持つ少年。
そして、この出会いを与えてくれた運命。それら全てに、言峰綺礼は感謝した。



【E-2/一日目・深夜】

 【竜ヶ峰帝人@デュラララ!!】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康(高揚感?)
 [装備]:なし
 [持物]:デイパック、基本支給品、支給品1〜3(本人確認済み)
 [方針/目的]
  基本方針:死にたくないけど……
  1:言峰さんに従うしかない(?)
  2:言峰さんが信用できない
 [備考] 少なくとも原作6巻以降のいずれかより参戦

【言峰綺礼@Fate/stay night】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康
[装備]:なし
[持物]:デイパック、基本支給品、支給品0〜2
[方針/目的]
  基本方針:?????
  1:病院に向かう
  2:竜ヶ峰帝人の観察を続ける
  3:竜ヶ峰帝人の過去を知る
 [備考] 出展時期は他の人にお任せ。
代理投下終了です
266創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 16:28:12 ID:M+iV4B8M
代理投下乙です

言峰はやっぱり洞察力が鋭いなぁ
さて、下拵えは順調。後は…かな
267創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 17:48:57 ID:zv3bzfTY
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/yume/1282205523/
縄奥小説【2ちゃんねる版】
268創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 23:02:19 ID:wmOw5U+N
代理投下します
269:隠し砦の三覆面(+α) ◇yCCMqGf/Qs 代理 :2010/08/19(木) 23:03:36 ID:wmOw5U+N
「まったく、君も正義超人の一員なら、もう少しシャキッとしたまえ」
「うるせぇなぁ…タバコぐらいゆっくり吸わせてくれよ…」
「つーか俺、『正義超人』じゃねーって、ヒーローだけど」
「ハハハ、何を言う。それほどのパワーと風格、それに加えてマスクもあって、
ヒーローを名乗っているから正義超人以外の何者でもあるまい」
「だから…もういいや、メンド臭ぇ。正義超人でいいよ正義超人で」

「H-10」のゴミ処理場の一角にある廃車置き場の、
タイヤもドアもガラスも外され茶色く錆びた、ある廃車のボンネットに、
だらし無く座り込んで煙草をモクモクと吹かすマスクマンがいる。
戦隊ヒーロを思わせる赤いマスクに、ユ○クロで売ってそうなTシャツに短パン、
そしてサンダル履きと、その格好はアンバランス極まりないが、
不思議とこの男の場合、妙にサマになっている。
それもそのはず、この男、その低くドスの利いた雑魚っぽい声色をしてはいるが、
かつては神奈川県川崎市にその名を轟かせたヒーローチーム、
「気象戦隊ウェザースリー」が一角を占めていたヒーローにして、
現在無職の天体戦士サンレッドその人に他ならない。

その傍らに腕を組み背筋をピンと立て、堂々と屹立しているのは、
白銀の鎧と、西洋甲冑風のやはり白銀のマスクに身を包み、
下半身はパンツに頑丈なブーツの覆面レスラー風の男、
イギリスが誇る正義超人にしてアイドル正義超人軍団がリーダー、ロビンマスクその人である。
その同行人たるアリサ・バニングスは廃車の傍らのドラム缶に腰かけ、
何やら物思いにふけっていた。

アリサの友人、高町なのはと月村すずかを探すべく行動を開始した
ロビン・アリサのタッグチームが最初に遭遇したのは、
マルボロをふかし、エビスビール片手に機嫌悪そうにこのゲームの主催者に毒づいていた、
どっからどう見ても夜のコンビニの前にたむろしてるチンピラの同類にしか見えないサンレッドであった。

超人特有の感覚の鋭さと、正義超人軍団最高齢のベテランたる眼力から、
チンピラ風の外見の裏に隠れた優れた能力を見てとったロビンは、
スルーすることを勧めるアリサを説得してサンレッドに接触を執ったのである。

そこからが少々ややこしい。
「ヒーロー」と「悪党」がいる、という点こそ共通しているものの、
サンレッドの世界とロビンマスクの世界のあり方は随分と異なる。
サンレッドの世界にはヒーローは大勢いても超人レスリングなんて無かったし、
当然、キン肉マンもウルフマンもザ・ニンジャもサンレッドの日本にはいない。
270:隠し砦の三覆面(+α) ◇yCCMqGf/Qs 代理 :2010/08/19(木) 23:05:04 ID:wmOw5U+N
故に当然話がかみ合わない訳なのだが、
ロビンマスクはあまり人の話を聞く方でも無いので、
強引に話を進めてしまい、面倒くさくなったサンレッドは、
「イギリスのヒーローらしいし、日本の事なんか勘違いしてんだろ」と勝手に納得して、
ロビンの話に適当に相槌を打っていた。
アリサは世界観の相違を説明してもいいかと思ったが、面倒くさいので止めた。

「ふ〜〜っ…さて、充分休んだし、取り敢えずかよ子の奴でも探してやっかな」
「いいのかね?正義超人同士、協力し合うのが良いのだと思うのだが…」
「いいよ別に。あんた等の探してる「なのは」と「すずか」だっけ?ちゃんとついでに探しといてやるから」
(オメーと話しあわせんのメンド臭ぇんだよ…)
「そうか…では、私達の方も「内田かよ子」さんを探しておこう」

かくして二人の覆面ヒーローは共に歩むことなくそれぞれの道を…

「で?」
「ん?」「んぁっ?」
「ん、じゃないわよ。で、“コイツ”はどうする訳?」

アリサが疲れた表情で、自身の足元に目を遣った。
そこにいたのは…

鳥避け風船のようま奇怪なマスクで顔を覆い、
妙に細くて長い手足を全身タイツの様なピッチリした衣装で包み、
両手に手袋をして、腰にライダーベルト風のベルトを巻いた、今はすっかりノビている怪人物…

どう見ても変態です。
ほんとうにありがとうございました。
271:隠し砦の三覆面(+α) ◇yCCMqGf/Qs 代理 :2010/08/19(木) 23:06:52 ID:wmOw5U+N
額に汗を浮かべながら、ロビンとサンレッドは顔を見合わせる。
(マスクの上から汗をかくなんて双方器用な連中である)

「アンタが気絶させたんだろう、アンタが責任もって面倒みろよ」
「何を言う!君が最初に仕掛けたんだ!だったら君が面倒見たまえ!」
「しかたねーだろうが!こんな変態ルックの奴が片言で喋りながら近づいてきたら、
誰だって反射的に攻撃するだろうが!」
「だからといってドロップキックはやりすぎだ!」
「うるせぇよ!じゃあ、こいつにアルゼンチン・バックブリーカー仕掛けたのはどこのどいつだ!」
「アルゼンチン・バックブリーカーではない!タワーブリッジだ!」
「そういう事は問題じゃねーよ!つーか何であんな技仕掛けたんだよ!?」
「い、いやっ…君がドロップキックを仕掛けたものだから、ついついそれに釣られて…」
「ほら!最終的にはテメェーのせいじゃねぇか!だったらテメェが面倒見ろ!」
「人に面倒を押し付けるなど、正義超人のやる事ではない!」
「テメェが言うかそれを!」

ヒーローだって人(?)の子である。
変態の面倒など見たくはあるまい。

醜いなすりつけ合いを始めたヒーロー二人を尻目に、
アリサは深いため息をついた。
272:隠し砦の三覆面(+α) ◇yCCMqGf/Qs 代理 :2010/08/19(木) 23:09:08 ID:wmOw5U+N
【H-10/ゴミ処理場 廃車置き場/一日目 深夜】

【ロビンマスク@キン肉マン】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:いつものリングコスチューム
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:正義超人として行動する。
1:アリサ・バニングスを含めか弱きものを守る。悪しき者は成敗する。
2:なのは、すずか、かよ子を探す
3:変態(黄泉)をサンレッドに押し付けたい
[備考]
 ※参戦時期は王位争奪編終了以後です。
 ※アノアロの杖が使えるかどうかは不明です。

【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [持物]:デイパック、基本支給品、『良い子の諸君!のガイドライン』の過去ログ百枚程度@現実 
ガソリン20リットルが入ったガソリン携行缶@現実 、画鋲(莫大)@現実(布の袋に入っている)
 [方針/目的]
 基本方針:なのは、すずかと共に元の世界へ帰る
 1:とりあえずロビンマスクと共に行動する予定。
2:何か疲れた…
 [備考]
 ※参戦時期は魔法少女リリカルなのはAs最終話、なのはやフェイトの正体を知った後です。

【サンレッド@天体戦士サンレッド】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]: 健康
 [装備]:お手製マスク
 [道具]:基本支給品一式、マルボロ(1カートン)@現実、ジッポーのライター@現実
 エビスビール(350ml)×9@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:かよ子、ヴァンプ将軍とさっさと合流し、主催者をシメる
1:取り敢えずかよ子と合流する
2:ついでになのは、すずかも探してあげる。
3:変態(黄泉)をロビンに押し付けたい

【平坂黄泉@未来日記】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]: 気絶、頭にたんこぶ、腰に軽傷
 [装備]:変態的ヒーローコスチューム
 [道具]:基本支給品一式、黄泉の正義日記のレプリカ@未来日記、不明支給品(1〜2)
 [思考・状況]
 基本行動方針:ヒーロらしく行動する
1:気絶中…
273:隠し砦の三覆面(+α) ◇yCCMqGf/Qs 代理 :2010/08/19(木) 23:10:51 ID:wmOw5U+N
代理投下終了です

お前らは何をしてるんだwww
漫才トリオ乙w
アリサ、イキロw
274創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 23:17:00 ID:PGifqD7B
>>270
>ロビンマスクはあまり人の話を聞く方でも無いので
ロビンマスク初登場の話でもそうだったけど、何かロビンが「頭の良いバカ」的な扱いされてるのが気になるな…
まぁ悪魔将軍くらい傍若無人な悪役ならともかく、キン肉マン世界の常識的な正義超人だとこういうキャラにしないと逆にキャラ崩壊起こしちゃうのかな
275創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 23:26:18 ID:cgkJIP+S
二世での新しいキャラ付けのせいじゃないか?
ロンドンの若大将みたいな
276創る名無しに見る名無し:2010/08/20(金) 02:32:43 ID:TJ/PC396
むしろ正義超人の面子の中ではテリーと並んで理知的なキャラだよな
初期のころならともかく終盤はまとめ役って感じだったぞ
277創る名無しに見る名無し:2010/08/20(金) 03:03:38 ID:spp/NqNr
初期の支離滅裂な行動が尾を引いているのは確か
まあ作中で誰も気にしてないから裏で何かそれを払拭するイベントを積んだんだろw
278創る名無しに見る名無し:2010/08/20(金) 07:13:47 ID:vsQWUV4m
常識的な人間は変装してシベリア行って超人掻っ攫って調教したりしない
279創る名無しに見る名無し:2010/08/20(金) 07:29:19 ID:a+75h0rV
ロンドンの若大将編では仮面の奇行氏だったからな
婚約者の両親の所に汗まみれの姿で押しかけ、テーブルマナー最悪
道端で全裸になったり、読者のロビン像を徹底的に破壊しながらも
やっぱりこいつも肉たちの同類なんだな…と思わせた
280創る名無しに見る名無し:2010/08/20(金) 09:25:51 ID:DIxdnMk2
肉キャラはキャラ崩壊すると言うこと自体が原作を尊重した描写
281創る名無しに見る名無し:2010/08/20(金) 13:07:09 ID:iPuWpPOj
ネプェ!お前は俺の新たなる闇だ!
282 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:31:00 ID:d0HZL4B4
人吉善吉、DIO、本郷猛、パンドラ、ヨハン、ダグバ投下します
283創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 00:31:41 ID:Aa3vppaX
支援
284 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:33:09 ID:d0HZL4B4

不自然な程静かなその場所。本来ならば、この丑三つ時には死者しかいない筈のスポット。
人を慄かせる雰囲気を纏うそんな墓場に、まったく怖気を感じていない風情の人影がひとつ。
広げた一枚の紙を眺めるその女の名はパンドラ、といった。
眼に怒りの炎を燃やしながら、冥王に仕える妖艶な女傑が周囲を見渡す。
自分が起こした雷のお陰で、僅かな光源が墓場に燈っている。
居並ぶ石碑の全てに、下に眠るはずの死者の名が記されていない。
『墓地』というフィールドを無感情に、知識のみでなぞったようなその異様さに、パンドラが臍を噛む。
死を支配するハーデスの忠臣でありながら、この歪んだ死の象徴を修正させる事ができない。
それが悔しいのだろうか、パンドラの自分とハーデス以外の全てに向ける怒りがより燃え上がる。
と、その感情を遮るように、彼女の耳に聞いた事のない質の音が届く。

「これは……」

墓場に面する運河の方から、その機械音は流れてきているようだ。
パンドラが目を凝らすと、運河の上を走る棺桶のような物体が、向こう岸からこちらの陸地に向かってきていた。
彼女の知識からすればそれは船舶の類に見えたが、速度・形状共に頭の中のそれとは違っていた。
躊躇なく、パンドラが自前の杖を振るう。千里を駆ける雷で、この舞台を這いずり回る愚者に死の断罪を。
小宇宙を感じさせない唯の人間だろうと容赦なく。その鉄の意志で放たれた電撃は、しかし目標に届かない。
先ほど怒り任せに放った雷と同じ場所を抉り、爆ぜさせるだけである。

「馬鹿な! ハーデス様より賜りし我が力が、断罪すべき愚か者に届かぬなど……おのれ、これも奴の仕業か!」

彼女の言う『奴』とは、明確な個人を指していない。
神に寄り添う超越者である彼女からすれば、このゲームの主催者であろうと、憎むべき杳馬であろうと大差なし。
断罪の対象にいちいち心を動かされていては、ハーデスに仕える事などできないのだ。
もっと言うとハーデスの事しか考えていないと断じても過言ではないのだが。
狼狽している間にも船は進み続け、陸地に近づく。パンドラは気を取り直し、杖を退いて嘲笑を浮かべた。

「あははははははっ! まあいい、届かぬというなら、近づいて撃つだけ! 待っていろ、船上の生贄よ!」


心なしか速度を上げたようにも見える船の辿りつく場所を予測して、パンドラが走る。
一見走りづらく見えるような衣装を身に着けているにも関わらず、その速度は人間の常識を超えていた。
走り初めに自分が散らかした墓の破片で きゃん!と転んでタイムロスをしたにも関わらず、
ものの数分で船着場に到着する。船は原動機を起動させたまま、ピッタリと岸について乗り捨てられている。
パンドラが、目の前で唸りを上げる機械の他に、もう一つの離れていく音を察知した。

「船の中に別の乗物を隠していたか……慌てて逃げたのだろうが、すぐに追いついて……」
285 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:34:40 ID:d0HZL4B4

遠ざかる標的を追おうとして、パンドラの動きが止まる。
唐突な違和感。己の中の小宇宙(コスモ)に耳を傾け、その原因を探る。
元凶はすぐに見つかった。"慌てて逃げたと言うなら、なぜこうも綺麗に船が陸につけられているのか。"
パンドラが、無言で船に近づく。岸に触れることなく、板切れを橋代わりに陸に敷いて小船は泊まっている。
雷を見て慌てた人間が舵を取る船が、陸に突っ込む事もなく泊まるはずがない。
この船の制動の名残からは、『焦り』など微塵も感じ取れなかった。
制御室を覗くと、船を動かす切欠になると見える上下式のレバーが起動→停止の表示の"起動"で止まっていた。
いや、正確に言えば上側、"起動"の僅か下で止まっているのだ。何故完全に上げきっていない?
レバーを上げたのは運河に出た余裕のある出足でなく、狙われている事を見抜いた"先程"だったのではないか?
この船の乗り手の思考に、僅かな綻びを見いだすパンドラ。僅かな焦りを見抜いたと言ってもいい。
いつ自分―――雷を放った追っ手が来るかも分からないのだ、余裕はなかったはずだ、と。
だからこそ、レバーの上下という作業の拙さから乗り手の狙いが見え、その行動も見えてくる。
まるで船を止める為に原動機を止めた乗り手が、何故かもう一度原動機に火を入れてから去ったかのようだ。
パンドラが頭を回転させ、この状態の意味を探る。

(この船に乗っていた人間は……船を安全に陸につけた後、わざわざ原動機を起動させた?
 ……慌てて逃げる哀れな子羊を装う為に? ……なるほど、ならば狙いは……)

「待ち伏せか」

パンドラが、喜悦の表情を浮かべる。
人間ごときが、この冥王軍の総轄を陥れようとでも言うのか、と。

「ならば、こうするまで!」

操舵桿を握り、パンドラが船を運河に向ける。
人間の姦計に乗ろうと遅れを取るはずはないが、わざわざかかってやるのも癪に障る。
地図を見る限り、この船はこの島においてかなり有益な道具。
罠に用いた一宝を奪われ、歯軋りをするのが愚者にはお似合いだ。

「あーっはっはっは! 人間風情がこのパンドラと知恵比べなど、己の不遜を死して知るがいい、脆弱者め!」

船の速度を最大に設定して運河を爆進するパンドラ。
しかし彼女は、僅かにでも危惧するべきだった。
見下していた人間が、自分の思考を誘導している可能性に。
そして彼女は、僅かにでも慎重さを発揮するべきだった。
船底に細工が成されていて、運河を進めば進むほど浸水が進行するという事実に気付くためにも。
だが、全てはもう遅い。物言えぬ船は、操者に従って無言で進み続けるしかないのだから。
上機嫌のパンドラが、床に落ちた何かを見つける。


「ん? これは……金髪、か? 長いな……」

286創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 00:34:57 ID:Aa3vppaX
支援
287 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:36:02 ID:d0HZL4B4




――――――その風景は、竜巻に蹂躙されていた。
                            SFX  V F X
俺の目の前で展開されている映像には一切の騙し も映像加工も入っちゃいない。
3Dなんて論外だ。スクリーンから飛び出す瓦礫が頬に傷をつけるか?

――――――闘争が、街灯を/軒家を/植樹を/当たり前の街を/侵して染める。

闇夜に凌ぎを削る二つの怪物が、咆哮を上げて激突し、喰いあっている。
争いながら移動する二人を追って、いつの間にか俺、人吉善吉も新たな戦場・市街地に辿り着いていた。
何故この二人を追ってきたのか―――仮面ライダーが心配だったのか? DIOをもっと見ていたかったのか?
それは分からないが、ともかく……戦闘は、未だ継続している。
速すぎて見えない―――事もない。"何が起きているのか"が分かる。
それは気圏と圏境の奪い合いだった。数十、あるいは数百に及ぶ拳が両者の間を行き交い、穿つ。
手数は、吸血鬼と名乗る怪物の方が遥かに勝っていた。バッタの怪物は、厳選したカウンターで対抗している。
だが、どちらの拳も当たらない。空気を切る無数の打撃が、両者の間に異常気流を起こし、埃と塵を巻き上げる。
舞い上がったビニール袋が、吸血鬼の視界を一瞬遮る。ゴミを払い除けたその腕が、バッタの掌に掴まれた。
動物好きのめだかちゃんに聞いた事があるのだが―――ゴリラの握力は人間の十倍以上らしい。
めだかちゃんもそれくらいの数値は出しかねないだろうが、吸血鬼の表情と手首が粉砕される音から推測して、
バッタの握力は恐らく更にその二倍以上だろう。まさしく赤子の手を捻るように、吸血鬼の右手首を断絶した。
同時に、吸血鬼の身体がホールドされる。バッタはそのまま跳躍し、吸血鬼を空中で背負い投げにかける。
仮面ライダーと名乗るその怪物の技―――名付けるならば、"ライダー返し"とでもいうのだろうか。
柔道やら合気道やらの、人間の技術の範疇を超えた投げ技だった。地面に激突した吸血鬼が血反吐を吐く。
空中に滞空したままのバッタが、吸血鬼を見下ろし、冷酷にトドメを刺そうと足を向ける。

「ライ、ダー……キック!」

バッタがぼそりと死刑宣告のように呟き、吸血鬼が息を呑む。
それは、重力に逆らわないまったく普通の現象でありながら、人間の身体能力では明らかに使用不能な奥義。
空中で一回転してから地面に急降下する、プールに飛び込む時にやろうと思っても決してできない絵空事だ。
その絵空事が、紛うことなく現実となって、再び放たれる。

(いける―――!?)

吸血鬼があの体勢から、地面に2m大のクレーターを作るライダーキックから逃れられるはずもない。
無力な自分の代わりに、あの正義の味方が吸血鬼をやっつけてくれるのだ。
……胸に、痛みが走る。痛みの理由は、分からない。
288創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 00:36:24 ID:Aa3vppaX
支援
289創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 00:37:11 ID:Aa3vppaX
支援
290 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:37:13 ID:d0HZL4B4

爆音が、夜の街を揺らす。全霊で放たれたと見えるライダーキックによって出来たクレーターは、3m強に及んだ。
陥没した石工の大地に立つ仮面ライダーの背中が、異様に大きく見える。
冷たい夜の風に踊る赤いマフラーが、俺の目頭になにか熱い物を込み上げさせた。
この気持ちは―――感動なのか、悔しさなのか。
目の前にいる、偉大な救世主に感謝しているのか、嫉妬しているのか。
どれだけ鍛え上げても、この人吉善吉はあの異形(アブノーマル)にはなれない。
それでもいいと、それでもめだかちゃんの為に鍛え続け、立ち続けると決めたはずだ。それに偽りはない。
だが、そうだと理解していても―――目の前の存在は、あまりに感動的過ぎた。
あの蟲に混ざった身体を、彼がどのような気持ちで動かしているのかを、俺は理解してしまう。
心を殺した戦いの中でも、仮面ライダーの気持ちが分かってしまう。
彼はきっと、悲しいんだ。もがいているんだ。自分を助けてくれと言えなくて、誰かを助ける事をやめられないんだ。
ヒーローの宿命。戦う事を楽しめない、楽しめないのに逃げられない。止められない、使命。
きっとそれは、死ぬまで続くんだろう。あの姿を見れば、彼が苦痛の果ての死を乗り越えた事は容易に想像できる。
拾った命を、消えるまで燃やし続けるなんて……俺には、めだかちゃんの為にしか出来ないだろう。
それを、彼は。誰のためでもなく、みんなの為にやるのだ。当然の、ごとくに―――。

「……!」

感動に耽っている場合じゃない。
仮面ライダーは、俺が浮かべた共感など知るよしもなく、警戒態勢を崩していない。
クレーターの中心に、あの吸血鬼はいなかった。仮面ライダーが蹴りを外したわけじゃない。
吸血鬼が原型を留めない程粉々に砕かれたわけでもない。

そう、それは俺が見た、あの異常性(アブノーマル)―――!

ゆらり、と夜を掻き分けるように、仮面ライダーの眼前に吸血鬼が現れる。
右腕が復元していた。腕を拾って、くっつけたようにも見えるが―――接合部に、奴の物ではない血?
見れば足元に、干からびた粧裕の死体。持ってきていたのか……!

「世界(ザ・ワールド)」

吸血鬼の口が開く。同時に、その脇に金色の体躯が出現した。
仲間か? いや……何か違う。あの存在からは、意思のような物が感じられない。
じっと停止して、何を見るでもなく吸血鬼に侍っている。

「見えるようだな、善吉君。君はスタンド使いじゃないよなァ……どういう事だと思うね?」
291創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 00:38:45 ID:Aa3vppaX
支援
292 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:38:55 ID:d0HZL4B4

吸血鬼……DIOが、俺に話しかける。
仮面ライダーとの激戦の最中も、俺から意識を外していなかったらしい。
だが、言っている言葉の意味は理解できない。スタンド使い……という言葉の響きからすれば、
何かの集団・あるいは特定のスキルの持ち主を指す単語なのだろうが……。
仮面ライダーが、喋るDIOに飛び掛かる。こちらの方は、敵と一切の会話を交わすつもりはないらしい。
鈍い音―――次の瞬間、仮面ライダーが地面に伏していた。金色の≪世界≫が、殴り倒したのか。
俺には、今度こそまったく見えなかった。これが、DIOの真の力だとでもいうのか―――出鱈目すぎる。

「仮面ライダー……とか言ったかな。驚いたぞ……吸血鬼の肉体を凌駕する存在がいたとはな」

倒れた勇者の頭を踏みつけ、DIOが両手を合わせる。拍手している。
嘲笑うように、賞賛している。頭に上りかける血を必死で抑えて、俺は機を待つ。
守るべき粧裕を守れなかった。だから自分を救ってくれた仮面ライダーだけは、俺のためには死なせない。
なんとしても救出して、一緒に逃げる―――生き残る。その決意を固める。

「善吉君。まさかとは思うんだが、私を敵だとか考えてはいないだろうね……これは正当防衛で、
 さっきの少女を殺したのは食事だ。吸血鬼の私、人間の君。文化や常識の違いこそあれど、
 それはきっと歩み寄りで解決できる問題だと思うんだがね……君がうんと言うまで、同じことを言わせてもらうぞ」

「ずいぶんと、気前がいいじゃねーか。蹴り入れられて、二度も拒絶されたってのによ」

「自分でも驚いているよ。君ほど『友達』にしたいと思う人間も珍しい……何もしなくてもいいんだよ?
 ただ私の傍に居てくれればいいんだ。"私には君が必要だ"―――フフ、少し照れる台詞だね」

「……俺にはアンタは必要ない」

「酷い言い草だな……そんなにこのバッタやあの小娘を好いていたのか? 知り合いかね? 一目惚れかね?
 どちらにせよ、私なら彼ら以上に君を夢中に出来ると思うよ……大体、こんな怪しい格好の男に義理立てする
 必要がどこにあるんだ? はっきり言うが、これは怪物だ。私と同じ―――そして、私より弱い」

弱い怪物など、人間にとっていったい何の意味があるのだ? と、DIOが囁く。
……駄目だ。こいつと、"話していたくない"。
早鐘を打つ心臓を必死で抑えて反論を試みる。―――それこそ、無意味だろうが。

293創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 00:39:29 ID:Aa3vppaX
支援
294 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:40:40 ID:d0HZL4B4

「……どんな格好してようが、その人は正義の味方だ。侮辱は気に入らねーな」

「どんな外装をしていても、そいつの中身は変わらない―――かね? そうだろうか……!?」

DIOの言葉が、驚きで中断される。
仮面ライダーが、踏みつけられていた足を払い、DIOを転倒させていた。
生きていた。正義のヒーローは、まだ死んでいなかったんだ―――!
正義の鉄拳が、振り下ろされる。満身創痍だからこそ、その一撃には必滅の威力が宿る……ライダーパンチ!
だが、その拳は、正義ゆえに止まる。DIOが拳の前に突き出した、粧裕の死体―――いや、それは死体だろうか?
その顔には、赤々とした血色が蘇っている。だからこそ、仮面ライダーは拳を止めてしまったのだ。
吸血鬼ならば、それくらいの血の操作は可能だろうと、わかっていても。少女の顔は潰せない。

「なるほど、確かに君の言うとおりだったよ、善吉君。彼は立派な正義の味方だ」

返しで放たれたDIOの拳が、仮面ライダーの脇腹を貫く。

「だが、中身は……我々の物とは、大分違うようだがね」

風穴が開いた腹から湧き出る血に混ざって、機械が露出している。
仮面ライダーは、機械と人間のハイブリットだったのだろうか。 何を求めていたのかは、知らないが。
十三組の十三人の中の一人のように、生物学的に改造された存在ではなく。
健全な機能を持った肉体に機械を埋め込んで改造された、姿なのだろうか。
だとしたら、あまりにも―――人道を、無視しすぎては、いないだろうか?

「誰がこんな酷い事をしたんだろうね……失敗は成功の母だが、失敗作自体には何の価値もないというのに」

何故、こんな物を世に放ったのだろうか、と言っている。
そんなDIOが、含み笑いのまま仮面ライダーを投げ飛ばす。
俺の足元に、息を切らす仮面ライダーが倒れこむ。その姿は、いつの間にか一人の男に変わっていた。
だが、傷は変わらず残っている。
直感が叫ぶ。逃げるなら、今しかない、と。
男を背負い……息を吸わずに走る。視界に、一台の奇妙な形状のバイクが入った。
近づき、キーを確認―――挿しっぱなしだ!
飛び乗り、仮面ライダーを自分の背中に手早く固定して、発進させる。
……おかしい。ここまでに、DIOが俺たちに攻撃を仕掛けられないはずがない。
駄目だと分かっていながらも、振り向いてしまう。すぐ後ろまで来ているのではないか、と。
DIOは、明後日の方向を向いて笑っていた。追ってくる様子はない。
助かった……その思いだけが、心を支配する。
仮面ライダーも意識を取り戻したのか、身動きを起こす。

「・・・。。。・・。。・・」

「え? な、何ですか?」

思わず敬語で話しかけてしまう。
仮面ライダーは今度ははっきりと、こう言った。

「操縦を代わってくれ。こいつは……スーパーマシン、だ」
295 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:42:31 ID:d0HZL4B4

「は、はぁ」

言われた通り、一度止まって席を譲る。
仮面ライダー……なるほど、ライダーか。道理で……。

「うおおっ! 何だこの速度! デビルやべえ……ちょ、ちょっ」

「……ありがとう。君がいてくれなければ、奴にやられていたかもしれない」

時速……時速何キロだこれ!?
風が遅れてバイクの横をすり抜けていく。
瞬く間に市街地を駆け抜けた後、急ブレーキをかけてバイクは止まった。
ほんの数十秒で、まったく見違えた街の景色に息を呑む。
どうやら仮面ライダーの意思で止まったのではなく、バイク自身が減速したらしい。一体どういう仕組みだろう?
ともかく、一息はつけた。バイクから降りて、仮面ライダーと相対する。
……何故か、落ち着かない。緊張感があるというか、威圧感があるというか。
腹の手当てをしよう、とも言い出せないような空気だ。
俺が黙っている間に、仮面ライダーは腹に破った服を巻き付けて行く。

「あの……俺、人吉善吉って言います。っていうか、お礼を言うのはこっちの方っていうか……」

ああ、何故か、とちっちまってる。恥ずかしい。仮面ライダーはそんな俺を能面のような表情で見据えて、

「俺は、本郷猛だ。……人吉、そこに隠れていてくれ。俺は戻って、奴を倒す」

「……って、今からっすか!? 無茶にも程が……」

「このバイク……燃料は満タンだった。俺はさっき町の車を調べてみたんだが、そこらにある車のタンクは空っぽ。
 つまりこのバイクは、あの近くに居た参加者に支給された物である可能性が高いってことだ……」

もちろん、俺と粧裕へ支給された物じゃない。DIOの物でもない、本郷さんの物でもないとすれば……。

「誰かがあの近くにいて……俺にバイクを横取りされて、取り残されてる!?」

「お前が気に病むことじゃない。あの場合では仕方のない選択だ。だから、俺が―――助けに行く」
296 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:43:36 ID:d0HZL4B4

本郷さんが、背を向ける。その姿を見て、俺はようやく気付いた。
この人の姿に、感動したのは……この人が、めだかちゃんに似ていたからだ。
誰かの為に、生きているって信じてる。自分以外が、自分より大事だと、高らかに叫べるんだ。
だから―――放っておけない、そう感じるんだなぁ。
ごめん、めだかちゃん。浮気ってわけじゃねえけど……俺、この人が、結構好きだ。
めだかちゃんに会わせたいくらいに、好きになっちまった。死なせるわけには、いけねぇよな。

「俺も行きます」

「連れて行っては、」

「連れて行け、なんて行ってません! あんたが止めようと、俺は勝手にあんたの後ろを歩いていくんです!」

「……無意味だ。死ぬだけだぞ、人吉」

「無意味なんかじゃないッ!」

叫ぶ。あの感動を、無意味とは言わせない。
本郷さんの目をしっかり見て、俺の意志を伝える。
あんたの気持ちは、分かってるよ。道連れを増やしたくないって思ってることも。
それでも、仲間が欲しいって渇望してる事も。あの孤独な戦いぶりを見てそれを分からない奴なんて居ない。
機械の上から機械を塗りたくって、異形の進化を遂げていく事が本質、みたいな
壮絶さを見せ付けられて、どうして見ている奴が黙っていられると思うんだろう?
ヒーローズ(あんたら)が思ってるほど……一般人(おれたち)は、薄情じゃないんだ。

「……バイクの調子が悪い。どの道連れて行く気はないが、少し、話をしよう」

「俺も話をしたいと思ってたところですよ」


必ず説き伏せて見せる。何、俺にだってそこそこ愉快なアイテムは支給されている。
本郷さんの足手まといにはなっても、あのDIOの足も引き摺り下ろす事くらいはできるはずだ。
それに、死ぬ気はない。めだかちゃんと一緒に生きて帰る気持ちに、一切の揺らぎはない。
ならば、何故戦いに至るであろう道を選ぶのだろうか、とふと疑問に思う。

―――本当の本当は、また、DIOに会いたいだけではないのか。

そんな心に浮かぶ何度目かの疑念を俺は封じ込め、本郷さんと対峙する。
本郷さんは困ったような、少し嬉しいようにも見えなくはない表情で、俺を置き去りにする為の説得を、始めた。
297 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:44:38 ID:d0HZL4B4



「……出てきたらどうかね?」

DIOが、走り去った善吉達を追わなかったのは、彼らの推測通りの理由だった。
異形のバイクの真の持ち主―――計らずも盗難にあった参加者の存在を、感知したから。
あれほどの規模の戦闘を行った者の呼びかけに、その参加者は当然のように応え、姿を現す。
長い金髪の美しい女性だった……少なくとも外見は。女にはちょっとうるさいDIOが、すぐさまその正体を看破する。
DIOに促されるでもなく、その変装を解き、本来の姿に戻った参加者の姿は、やはり美しい、しかし青年だ。

「君は……」

DIOの目が、見開かれる。
一瞬、目の前にいる人間を何か別の生き物と見間違えたかのように。
DIOは、もちろんこの参加者を殺すつもりだった。
今この瞬間も、善吉ほど"見ていたい"と感じる部分はない、ただのエサにしか見えない。
だが、何故か実行する気になれない。己の感情と意志に封をするなど、普段のDIOには有り得ない事だ。

「……立ち話というのもなんだ、そこで座って話さないかね? 私の名はDIO。
 興味をなくすまでは、君を殺さない事を約束しよう。」

「僕はヨハン……ヨハンです。逃げれば、勿論殺されそうですね。分かりました、ご一緒します」

DIOの誘導で喫茶店に入るヨハンもまた、何か落ち着かない様子だ。
恐怖を感じるような人間ではない。ならばそれは好奇心か、それともなにか、別の物だろうか。
喫茶店のドアがベルを鳴らして開き、中に二人の客が入る。
二人とも自分で自分のコーヒーを淹れ、店の中心の対面席に座る。

「ヨハン、と言ったか。いい名前だね。まるで君の雰囲気にあしらわれたようじゃないか」

「……あなたの生涯が、聞きたいんです」

「奇遇だな。私もだよ。君がどんな人間なのか知りたい……何故だろうな、君は私と近い気がするんだ」

この二人は、お互いに好感を持っていない。
それでも、それぞれの身の上、経歴を語る内に、なぜ互いが安寧に語らえるのか、理解し始めた。

「なるほど、私も君も、悪のカリスマとして祭り上げられているというわけだ……フ。面白いな」

「ちょっと、いいですか?」

「ん? なんだ、私に指など指して。……この指に、私の指を合わせろって? 何故?」
298創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 00:47:18 ID:v7ilL1gF
支援
299 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:50:11 ID:d0HZL4B4

ヨハンが、人差し指を突き出して、DIOに同じ仕草を取るように頼む。
まったく理解できない行動だったが、DIOもきまぐれで応じてみる。
しばし指をツンツンさせ合って、やがてヨハンは悲しい顔で指を引いた。
DIOが怪訝気にどういう儀式だったのか、と尋ねると、ヨハンがポツリポツリと仔細を語り始める。
どうやら今の仕草は、ヨハンがどこかで見た映画のワンシーンだったらしい。
人間と怪物が、相容れない存在同士が指を合わせる事で傷を治して心を通わせるお話だと、ヨハンは言った。
無論、DIOの指先の傷……先程の戦闘でついた物は治らないし、お互いの心の奥底も見えない。

「フム……私はそれを知らないが、つまりどういう事なのかね?」

「吸血鬼の貴方と触れ合っても、僕はどうにもなりませんでした……だったら、僕はやっぱり怪物なのかな」

ヨハンが言うには、彼は自分の中の怪物が本当は自分の外にいると気付き、その外因を取り除いた上で、
自分を知っている人間を全て殺してから自分を終わらせる―――『完全なる自殺』を目論んでいるという。
女装し―――妹の姿を装っているのも、自分の存在を知る者を増やしたくなかったから、だと。
そうして自分を知る者を全て殺した後に、自分を救ったテンマか……自分を殺し損ねた、妹に殺されて死ぬ。
それを実行した時、初めて自分も、自分を産んだ世界も救われるのだと、ヨハンは信じきっていた。

「なるほど……確かに君は怪物だな。そんな発想をする人間は見た事がないからな……」

「―――あなたにも、僕の存在を教えてしまった。僕は、あなたも殺さなくちゃならない」

「道理だと思うよ、ヨハン。だがね、私は君を忘れない。つまり、死なないと言う事だ」

「……何故ですか?」

「それは……私が出会った中で、君が二番目に純粋な人間だからだ」

ヨハンが、ぽかんとした顔でDIOを見つめる。
今や、DIOはヨハンに明確な好意を持っていた。好ましい、と感じていた。
それはペットを愛でるような、"友達"と称するDIOの特殊な愛情表現ではなく、
明らかな人間としての親愛の感情だった。
それを感じ取ったのか、ヨハンが何故ですか、と問いかける。
300 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:51:38 ID:d0HZL4B4

「君にも理解できるんじゃあないか? 君は私に自分の本質を語った……それは全て『引力』の成せる事だからな」

「『引力』……?」

「出会いは『引力』だ。私はその力の全てを知る為に多くの出会いを求めている……君は信じるか?
 こんな"味方"と"敵"と"ドーでもいいやつら"がいるゲームに招かれて、私に出会ったのは偶然だと思うか?」

「……」

「まあ、どちらでもいいんだが……さっき言った君より純粋な者……彼もまた、私と出会ったことを引力だと
 信じてくれてね。自分の内面を曝け出してくれた……お互いに心を落ち着かせられる親友となったと言ってもいい。
 君の場合は順序が逆だが……私と親友になれると思ったからこそ、そんな話をしたと考えるのは勝手かい?」

DIOはヨハンの返事を待たず、返礼とばかりに自分の考えている事を縷々と語る。
自分は天国に行く方法があると考えている事。その天国とは精神の力が行き着く先であり、
そこには真の幸福が待ち受けているだろうという期待。ヨハンは半信半疑ながらも、その話を黙って聞く。
いや、話の内容よりも、自ずから心を開け放つDIOそのものに、他人に感じた事のない感情を覚えている。
今までヨハンが怪物として心を覗き、壊してきた人間達はこれほど強壮な存在ではなかった。
僅かな力で暴走させて意のままに操れるような存在ではなく、むしろヨハンをも魅了しようとするこの吸血鬼。
既に興味を失った、DIOと同じ『吸血鬼』の異名を持つ男とは何もかもが違う。

「……あなたが、最後の審判の日まで生きる本物の怪物なら。―――僕の事を覚えていてくれますか?」

「無論だ。私はもう君を親友だと思っている……出会ってすぐだが、君の心の裡は理解していると言い切ろう。
 だから、君にも私を理解して欲しい……そうすれば君の孤独を癒す事は出来ないが、共有はしてやれる。
 お互いを尊重するのが親友と言うものだからな……君の『完全なる自殺』に協力しよう。
 君に骨をプレゼントしたいが……それはもう最初の親友にあげてしまったからな。君に失礼だろう。
 外にさっき食事にした少女の荷物があると思うから、それを活用するといい」

「ありがとう……DIO」

「私の最初の親友は神へその純粋さを傾けていた。君は自分の抹消を純粋に善い事だと信じている。
 その純粋さ……眩しいよ。私は俗な者だからな。本性はもっと下賤なのさ。……君に話すことでもないが。
 さて、そろそろ別れようか。Dr.テンマとニナ・フォルトナー……この二人に会ったら、君に出会えるよう
 上手くセッティングしておくよ。ルンゲ……それと、グリマーだったか。こちらは私が始末しておくから、
 君はテンマやニナに出会う事を優先するといい……私以外に君を知る者が"のこる"のは妬けるがね」
301 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 00:53:22 ID:d0HZL4B4

DIOが席を立つ。ヨハンは名残惜しそうな顔をして、遠ざかる背中を目で追う。
……ヨハンは、驚いていた。自分にも、母親と、テンマと、妹以外に、気になる人間が出来るとは。
DIOが振り向いて、別れの挨拶代わりに質問を投げかける。

「君は……自分を"悪のカリスマ"だと言って近づいてくる自称"悪人"に、何を感じていた?」

問いかけたDIOの脳裏に、幾人かの人間の顔が浮かぶ。
自分に狂信を捧げる、首を刎ねる事をも厭わない忠臣。
狂った息子を愛し、自分に忠愛を捧げる狂った便利な老婆。
兄を見下し、自分を有能だと信じるギャンブラー気取り。
ヌケサク。
自分をも殺そうとした、心地いい野心と殺意を持つ飄々家。

問いかけられたヨハンの脳裏に、幾人かの人間の顔が浮かぶ。
かってただ一人救い上げた、殺人を黙々とこなせる同期生。
数多の、自分によって変質させられた犯罪者。
この手で殺した『怪物の生みの親』、フランツ・ボナパルタ。
孤独に裏の世界で生きてきて死んでいった小柄な男。
悪魔の弟子と呼ばれ、自分に馴れ馴れしくしてきたどうでもいい男。

「特に、何も」

「だろうな」

DIOはその答えを予想していたようで―――自分の解答は述べずに、喫茶店を出た。
ヨハンは天使のような微笑でそれを見送って、再び女装を始める。

「Dr.テンマは、今頃何をしてるかな。僕みたいに、どこかでくつろいでいたりして……」

客が一人になった喫茶店は、それからしばらくして、誰にも気付かれないほど静かに、無人になった。

302 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 01:00:52 ID:d0HZL4B4



凍りついていた。DIOの体温は、限りなく氷点下に近いと錯覚するほどに凍りついていた。
血が冷め、限りなく研ぎ澄まされる意識。肉体の痛みが嘘のように消え、≪世界≫とのリンクも万全。
絶好調、と言うしかない。やや低めのテンションも、頭に血が上りやすいDIOにとっては最高のコンディション。

(……ヨハンのおかげか)

DIOにとって、心の安らぎとはあくまで小休止に過ぎない。
それによって弱者を喰って生きるという信念を変えたり、その残虐性を薄めることなど有り得ない。
ヨハンとの蜜月は、DIOに持ち前の凶暴性を溜め込ませ、醜悪な人間性を高めさせていた。
人間を超越していながら誰よりも人間らしい怪物は、先程出来た新たな親友について考える。
彼は、自分に寄ってきた有象無象を、容易く斬り捨てた。それは正しい。
そもそもDIOにとって、正義や悪という概念は限りなく実感の薄い物だった。
正義も悪も、何かをする時、せざるを得ない時に、自分を誤魔化す為の言葉でしかない。
心持ち一つで簡単にひっくり返るそれは、まるで信用に足らない。
自分も悪だから仲間に入れてくれ、と寄ってきた連中が晒した醜態をDIOは忘れない。
信用できるのは正義や悪などという口先だけのお立ち台ではなく、明確な力だけだ。

「……」

今、目の前に現れた白服の青年もまた、自分に匹敵する力を持つ物だとDIOは直感する。
お互いが無言で、数mの距離を置いて立ち止まる。
絶望に亀裂の入ったような笑みを浮かべる青年。
希望しか持たない不敵な笑みを浮かべるDIO。
DIOが、青年の目を見て勘付いた。
この青年は、本当に、世界など、どうでもいいと思っているのだろう。
自分が楽しめればそれでいいと、一片の欲も、嘘もなく、ただ存在している。
先天的な物なのか、後天的な物なのかはDIOには分からないが―――ともかく、青年は壊れている。
九十九事を考えて生きているDIO達と同じ次元に生きていない。だから、殺しても、その闇は終わらない。
肉を砕き、骨を割り、塵芥となるまで消し飛ばしても、彼の愉悦は消えないだろう。
303創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 01:01:09 ID:Aa3vppaX
支援
304創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 01:02:01 ID:Aa3vppaX
支援
305 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 01:05:34 ID:d0HZL4B4

それは言ってみれば、究極の闇。
圧倒的な力も、王としての地位も、青年にとっては付属物でしかないのだ。
そんな青年もまた、DIOの―――というより、≪世界≫の力を認めていた。
金の力と呼ぶに相応しい謎の秘力と変質した肉体と、何か理解できないもの。

―――殺したい

―――殺すべきだ

殺意が合致し、戦闘が開始される寸前。両者が、同時に踏みとどまった。
ああ、違う、と。二人は、命を懸けて削りあうには、あまりに力の質が違いすぎて、出会いの時が早すぎた。
青年が敵の本体と見た金色の魔人≪世界≫は、感情を曝け出すことが出来ない。
まだ早い―――そう考えて矛を収めたDIO。
これと殴り合っても、何故か楽しくなさそうだと感じた青年。
だから、二人はそれぞれ、自分と出会った者が逃げた方向を指差した。
青年は西の山村を。DIOは市街地の東南を。それは、サービス精神だったのかもしれない。
殺しに愉悦を感じる者達の間だからこそ成立する、狂った善意のやり取り。
二人はしばし考えて……どちらかが、とある方角に向かおうと、歩き出した。
一人が近づき、一人が動かない。必然、すれ違う。
DIOの肩口が燃え上がる。青年の腰に巻いたベルトの一部が、罅割れる。
炎は≪世界≫の拳圧で消え、傷ついたベルトは爆発することもなく、静かなままだ。

「ヅジョギンザベ ジャママシ」

「ギビボボスボドガゼビスババ ビリザ
 ダダバグラゼ ドブド?」

聞きなれない言語を喋る青年の姿は、異形の姿に変わっている。
虫の意匠に胸のベルト。その異形を横目で見ながら、DIOが呟く。

「仮面ライダー……か」

「バレンサギザザ?」

しばし、重い沈黙が流れ……その場は、収まった。
青年……謎の仮面ライダーが去った後で、DIOが歩を進める。
青年が自分の指した方向に向かったとすれば、ヨハンも危ないが……DIOは、彼なら大丈夫だろうと踵を返す。
僅かな時間、安らぎを得た帝王は、再び夜魔としてこのゲームを恐怖に陥れるのだ。
『正義』も『悪』もただの言葉だと言ったDIO。
その言葉がたとえ真実だとしても、彼の胸に滾るどす黒い感情だけは、彼自身にも否定できない。



人はそれを―――『悪意』と呼ぶ。

306創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 01:07:48 ID:Aa3vppaX
支援
307 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 01:08:31 ID:d0HZL4B4



運河に面する岸……一人の女性が、全身ずぶ濡れで座り込んでいる。
女性は運河の半ばで船が沈むという不幸に見舞われ、反対側の岸まで泳いできたのだ。
その名はパンドラ。全裸である。
いや、全裸とはいえないかもしれない。その艶かしい足に巻きつく蛇のアクセサリーだけが、
水を吸って海中に捨てた衣装の中で生き残っていた。他には何も着ていないが。

「な……んという痴態だ! 申し訳ありません、ハーデス様……」

顔を真っ赤にしながら震えるパンドラが、着替えがないかとディパックを漁る。
ぱんつがあった。9歳児用の。
ぱんつしかなかった。9歳児用の。

「くっ……き、きつい……」

しかし、穿かざるを得ない。別に羞恥心があるわけではないが、冥王の従者としての誇りの問題だ。
他の部分を隠すために何かいいものはないかと探してみるが、
岸辺に泳ぎ着いた時に体に引っ付いてきたワカメくらいしかない。
長く、磯ッとしたそれを、見えるとマズイ部分に巻き付け、とりあえずの平穏を得る。

「これではまるで海闘士……本意ではない! 本意ではないが、こんな姿をハーデス様に見られたら……」

しゅごい! 罷免確実!
いくらハーデスの姉の役割を持ち、冥王軍総轄の任を持つパンドラでもただでは済むまい。

「ともかく服だ……服を手に入れるしかない! そしてその後……あの金髪の女に! 冥界を見せてくれる!」

きついぱんつのせいでひょこひょこ歩きになりながら、パンドラは森の中に入っていく。
……いったいどうなってしまうのかー(棒)。



308創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 01:09:32 ID:Aa3vppaX
支援
309創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 01:10:32 ID:Aa3vppaX
支援
310 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 01:11:38 ID:d0HZL4B4


【F-6/市街地:黎明】

【本郷猛@仮面ライダーSPRITS】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:脇腹貫通(処置済み) 疲労(中)
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認) バギブソン@仮面ライダークウガ
 [思考・状況]
 基本行動方針:仮面ライダーとして力なき人々を守る。
 1:人吉を説得して留まらせる
 2:引き返してDIOを倒す
 [備考]
 ※参戦時期は次の書き手さんにお任せします。


 【人吉善吉@めだかボックス 】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [持物]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人確認済)
 [方針/目的]
  基本方針:めだかと合流して生還する
  1:本郷を説得して付いていく
  2:DIO……いけない人ッ!
 [備考]
 ※参戦時期はフラスコ計画終了後です。

【D-5/市街地:黎明】

 【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康 絶好調 左肩に火傷痕 疲労(中)
 [装備]:
 [持物]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [方針/目的]
  基本方針:帝王はこのDIOだッ!
  1:しばらくは様子見しながら会場を回る
  2:善吉に妙な親近感
  3:ヨハンと再会したらまた指をツンツンする
  4:ルンゲ、グリマーを見かけたら殺害する
  5:テンマ、ニナを見かけたらヨハンの事を教える
 [備考]
 ※参戦時期はヴァニラ・アイス死亡後。
 ※山村方面に、ダグバが逃がした参加者がいる事を知りました。

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康 ベルトに傷(極小)
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品一式×2、不明支給品2〜6(本人未確認)
 [方針/目的]
  基本方針:好きなように遊ぶ
  1:クウガとカズキの究極の闇に期待。
 [備考]
 ※参戦時期は九郎ヶ岳山中で五代を待っている最中(EPISODE48)
 ※中心街の東南に、DIOが逃がした参加者がいる事を知りました。
311創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 01:13:01 ID:Aa3vppaX
支援
312 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 01:14:31 ID:d0HZL4B4

【D-6とE-5の境 市街地/一日目・深夜】

【ヨハン・リーベルト@MONSTER】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:疲労(大)
 [装備]:ニナへの女装グッズ@MONSTER、S&W/M37チーフス スペシャル@未来日記
 [持物]:基本支給品×3、不明支給品1〜4(内訳:粧裕1〜3、自分0〜1)
 [方針/目的]
  基本方針:『完全なる自殺』
  1:Dr.テンマかニナに自分を殺してもらい、『終わりの風景』を見せる。
  2:自分を知ったもの全ての抹殺(DIOのみ例外)。
  3:DIOと再会したらまた指をツンツンする
 [備考]
 ※参戦時期はフランツ・ボナパルタを殺した直後(原作最終巻)。


【D-8/森・一日目・深夜】

【パンドラ@聖闘士星矢 冥王神話】
[属性]:悪(set)
[状態]:ややハイテンション 濡れ鼠
[装備]:パンドラの杖 フェイトちゃんのぱんつ@魔法少女リリカルなのは ワカメ@運河
[持物]:基本支給品
[方針/目的]
  基本方針:実験を勝ち抜き、主催者をハーデスの名の下に断罪する  
  1:テンマと杳馬を探しだして殺す
  2:他の参加者も発見次第殺す(金髪の女は特に殺す)
  3:服を探す


【支給品解説】

【船?@現実?】
正確には船らしきものの位置情報と鍵。相沢栄子に支給された。
パンドラ様のせいで運河(D-8)に沈み、詳細不明。

【バギブソン@仮面ライダークウガ】
鍵と位置情報が支給。ヨハン・リーベルトに支給された。
未確認生命体第41号、ゴ・バダー・バがゲリザギバスゲゲルにおいて
「鋼の馬から引きずり降ろし、轢き殺す」というルールの為に使ったオフロードバイク。
このロワではグロンギの霊石が直接埋め込まれており、常に変異した姿のままである。
最高時速400kmを誇るが、最高時速は制限によって半減されており、
また100km/hを超えると30秒で急停止し、30分間起動不能となる。

【フェイトちゃんのぱんつ@魔法少女リリカルなのは】
魔法少女フェイトちゃん(9)の愛用するぱんつ。パンドラに支給された。
色・形などは不明であり、永遠の幻想。たぶんなのはの家の脱衣所とかにある。
当然、着用者の年相応に小さい。
313 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/22(日) 01:15:33 ID:d0HZL4B4
以上で投下終了です。
支援ありがとうございました!
タイトルは「〜悪意は極力隠すこと、それが……〜大宇宙の真理」でお願いします
314創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 13:17:50 ID:lRjO0t5u
乙です。
ダグバとDIOが出会ってどうなってしまうのか!?と思ったら、上手い。
ただ別れさすのではなく、互いに獲物の情報を提供するというのがまたw

パンドラ様は序盤はこんな感じで問題無いと思うけど、度が過ぎるとキャラ崩壊と言われそう。
今後も一話の中でのバランスの取り方が重要かと。

>フェイトちゃんのぱんつ
こんなのが支給されるあたり、支給品の分配担当者はオジマンディアス以外にいそうだなw
315創る名無しに見る名無し:2010/08/22(日) 22:34:19 ID:BMgnhvgs
ぱんつ支給はジョン(?)の可能性もある。

基本、奴はぱんつ一丁で過ごしているから、ぱんつにはこだわりがあるはず…。
316創る名無しに見る名無し:2010/08/23(月) 00:50:16 ID:ToXJQUZB
それは誤情報だ。ジョンは普段全裸で過ごしている。
ジョンがパンツにこだわり出したということは彼の人間性が目覚め始めたんだ。
317創る名無しに見る名無し:2010/08/23(月) 11:44:21 ID:j1UnKsy5
そういえばジョンてウォッチメンのゲームでずっとパンツ一丁だったなw
318 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/25(水) 10:41:45 ID:Z4NcM4cA
松田桃太、空条承太郎投下します
319 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/25(水) 10:42:40 ID:Z4NcM4cA
松田桃太は、東へ歩いていく。


アイビー――ああ、麗しのアイビー――は、指すらもひとつの生き物のように悩ましげに動かす。
地図の「ゴッサムタワー」を指して、その周囲が恐らく彼女の元々の根城、ゴッサムシティの一部レプリカだと唇が告げる。
そしてまずはここを目指すように命じた。
レプリカであろうと何だろうと、バッツ――バットマンが現れるのはあのイカレた愛すべき街、ゴッサム以外にありえないからだ。
ついでに511キンダーハイムとやらを調べれば言うことなし。
人が集まるのはどこだ? 街だ。施設だ。
あとは相手が役に立つかどうかだけ。
――頼んだわよ、マッティー。
何と艶めかしい声だっただろうか!
320 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/25(水) 10:43:32 ID:Z4NcM4cA


松田桃太は、東へ歩いていく。


巴にある程度先行させ、誰かがいるのを感じたら伏せ(ステイ)するように命じたのだが、巴の足並みは止まらない。
――だけどアイビー、出来るならすぐにでも君のフェロモンを辿らせてその腰に触れたいよ。
迂回するようなルートを取ったのは、移動距離が長い方が人を見かけるだろうという考えもあったが、個人的に調べたいこともあったのだ。

――個人的に調べたいこと。

その存在自体が、アイビーのフェロモンが弱まっていることを示していた。
しかし今の松田にとってはそれもアイビーのため。
軽い二律背反。


――これは、世界の果てへの挑戦だ。
意味ありげに区切られた世界。その果てには何があるのか?
そしてその向こう側には?
その時、松田は子供の頃読んだお伽話を思い出した。

世界の果てでは、ただ1つの扉だけが向こう側とこちら側を結んでいる。
しかし扉を守る衛士たちもその扉が何なのか知らずにいる。知らなくても彼らは生きていけるのだ。
だが外にはミノタウロスという怪物がいるという伝承があり、多くの勇士――或いは愚者は姫に見送られ、怪物を倒しに向かうのだ。
今思えば姫の物憂げな態度もアイビーに似ている気がして印象的だ。
果ての向こうで惑っても、アイビーの香こそアリアドネの糸。
糸を辿れば思考の迷宮も現実の迷宮も愛と共に抜けられるだろう。
愛しいアイビーの手によって。
321 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/25(水) 10:44:21 ID:Z4NcM4cA


松田桃太は、辿りついた。


ここから数メートルで【D10の東端】のはずだ。
確かに景色はその向こうにも繋がっているが、水面のような、水銀のような、硝子のような揺らぎが見える。

「巴、ここで座って、僕がダメだったら、この手紙をアイビーに届けるんだ」
それにはLや月、保護対象であろう夜神粧裕の情報、そしてキラの恐るべき能力が綴られていた。
キラの名は名簿になかったが、この会場に本名で呼ばれていないとは限らないのだ。
――流石に吉良吉影でキラ、などということはないだろうが。
森を思ったより安全と見て、明かりがわりの【ハーレイ&アイビー】のDVDを流し見しながら書いた――くだらなすぎて最後まで真剣に見る気になれなかったのだ――見知らぬ誰かに渡すための、形ばかりの遺言状。
渡す相手が出来ただけでも、アイビーと逢えて良かった。
巴は意味が分かったのか分かってないのか、松田の瞳を見つめている。
『あなたも今までと同じでしょう』お伽話の姫。けだるそうなアイビー。
「……君のキスのおかげなのかな。負ける気がしないよ」
ニヤリと笑い両手を伸ばしじりじりと進んでいく。
アリアドネの糸はこの手にある。ならば恐れることはない。

両手が境界に触れた瞬間、空気の塊に触れたような気がした。
松田桃太は恐れず進み、そして――――

322 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/25(水) 10:45:24 ID:Z4NcM4cA


――――光もかくやという速度で巴の首に縋りついた。


「く、く、くく、首輪! ――あ、鳴りやんでる」

何ということはない。“世界”の外は禁止エリアの一種で、首輪が警告音を発したのち爆破するようになっていたのだった。
『会場から逃走しようとした場合、首輪を爆破する』というルール通りに。
警告といくらかの猶予を与えるだけ、主催者は理性的と言えよう。

松田はパニック状態の中で、お伽話の続きを思い出した。
“向こう側”へ出たものはアリアドネの糸の意味も自分の名も忘れ、迷宮を惑い、いつしかミノタウロスと呼ばれた怪物と同化してしまうのだと。
そして、“こちら側”でもその者の存在全てが忘れ去られるのだ、と。
子供の頃の松田はそれがとにかく怖くて――意味を理解していたかはともかく――泣いてしまったのであった。


松田桃太は、拳を握る。


「主催者がいるかもしれないけど、ここは諦めよう。ああ、初めからアイビーの言う通りにしておけば良かったんだ」
巴の温もりを感じながら己に言い聞かせる。
――――そういえば犬笛を持ったままだった。
この犬笛も託さなければ、アイビーは巴を制御できない。
「だから僕は間抜けとか言われるのかな……ごめんよ、アイビー」
遺言書を回収し、再び巴のチェーンを手に取った。
しかし巴は動かない。じっと『ステイ』の態勢を取っている。
呆気に取られた松田は数秒後、ようやく自分の与えた命令を思い出した。
323 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/25(水) 10:46:22 ID:Z4NcM4cA

誰かいたら、伏せて合図しろ。

そしてその“誰か”が松田にも見えた。
大きな歩幅でみるみるうちにその姿が大きくなる。


「煩いと思ったらくたびれたサラリーマンにデカい犬か……やれやれだぜ」


サラリーマンじゃない、刑事だ、と言おうとしたが口が動かない。
刑事として相手をしてきたチンピラとはまるで違う。
それがこの男――空条丈太郎の圧倒的な存在感だった。



松田桃太は――――――




【D-10/東端の山地:黎明】
324創る名無しに見る名無し:2010/08/25(水) 10:46:39 ID:l/nuQl70
sien
325 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/25(水) 10:47:05 ID:Z4NcM4cA
【松田桃太@DEATH NOTE】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、アイビーのフェロモンにより魅了 (?)
 [装備]:背広と革靴
 [道具]:基本支給品一式、ジョーカーベノムガス噴霧器@バットマン、巴の笛@MW、遺言書
 [思考・状況]
 基本行動方針: 謎を解き、実験を辞めさせ、犯人を捕まえる。
 1:目の前の男をどうにか……出来るのか!?
 2:アイビーに従い、ゴッサムシティを目指す。
 3:アイビーに従い、役に立つ人物(L、月、バットマンなど)を集める。
 4:アイビーに従い、子ども達を助け、或いはアイビーの元へ連れて行く。
 5:アイビーの忠告に従い、ジョーカーに注意!
 [備考] おそらく、月がキラの捜査に加わってから、監禁されていた時期を除く、ヨツバキラとの対決時期までの何れかより参戦。
※松田桃太の遺言書
刑事としての習慣か、つい書いてしまった遺言書。
短い定型文とL、夜神月・粧裕、そしてキラについて彼が知ることをメモ用紙にだいたいまとめた手紙。
情報として役立つかはそれを読む人物による。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康 怒り
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品、不明支給品1〜3、511キンダーハイムの資料、コルト・ニューサービス@バットマン
 [方針/目的]
  基本方針:許せぬ「悪」をブチのめす
  1:仗助を見つけて合流する
  2:吉良吉影、DIOは見つけ次第殺す
  3:金髪の少女を警戒
 [備考]
  参戦時期は原作四部、少なくとも吉良吉影が殺人鬼だと知った以降。
326 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/25(水) 10:49:15 ID:Z4NcM4cA
以上で投下終了です。
題名は「殺戮の黎明、岩におおわれた境界(はてし)ない」で。
何かとツッコミ所があるかと思いますが……

ちなみに承太郎が三部だったら
(ティーンエイジャー……だけど、絶対守る必要ない!)とかやらせるつもりでしたw
327創る名無しに見る名無し:2010/08/25(水) 10:52:40 ID:Z4NcM4cA
支援ありがとうございました。続いて代理投下です。
328創る名無しに見る名無し:2010/08/25(水) 10:52:55 ID:l/nuQl70
支援
329代理投下 ◇LKw84Dp5Ls:2010/08/25(水) 10:53:24 ID:Z4NcM4cA
五代雄介は歩きながら考えていた
考えていることは「折原」のことである

(あの人何か恐ろしい物がある)

彼は話している最中に直感的にそれに気がついた。
世界中いろんな人に会った彼だからこそ気づくのは早かった。
五代が出会った人の中にはいろんな人がいた
怪人に父を殺され父の仕事を継いだ少女
怪人に憧れ怪人に会い怪人に夢を閉ざされた青年
常に相棒であり続けていた刑事
自分の周りが次々に殺され最後の標的となった少年
怪人のため仕事に追われ息子に会えない母親
だがいろんな人に会ってきたからこそ、人を疑うのは好きではなかった。

(今はこんなこと考えちゃだめだけど
 折原さんがそうだった時は
 
 俺があの人を止める)

彼がクウガとなった理由は泣いてる人をこれ以上見たくないからである。
人を泣かせる存在となった時は誰であろうと容赦しない。
330創る名無しに見る名無し:2010/08/25(水) 10:55:24 ID:l/nuQl70
支援
331創る名無しに見る名無し:2010/08/25(水) 10:57:28 ID:l/nuQl70
支援
332創る名無しに見る名無し:2010/08/25(水) 10:59:36 ID:l/nuQl70
支援
333進行◇LKw84Dp5Ls 代理投下:2010/08/25(水) 11:10:43 ID:l/nuQl70
「あ、吉良さんちょっと休みませんか?」
五代は思いついたように声を出した

「わかった。」
吉良としては自分が生きていればいい。
自分を知ってる人間がいないであろうこの場所ではあくまで正義や悪というのには興味はなかった
だが自分が生きるためには何をしでかすかわからない悪と距離を保ち、正義に接近するのが一番いいと思っていた
Horであろうこの男に近づきそのままずっといるのが今は一番いい

五代は地べたに座り自分のデイパックの中身を再度確認した
彼は中身を確認はしていたが大体であり細かいところまではしていなかった
出てきたのは基本支給品と『斬り裂く物』であるサバイバルナイフ
『長き物』である鉄パイプ
『撃ち抜くもの』である一条刑事が使っていたコルトパイソン拳銃が入っていた
これは五代にとっては周りの人間が想像する以上に頼れるものであった

「吉良さんは見なくていいんですか?」
「ああ。すでに見たからね」
しかしすでに見た支給品の内容は彼の精神に揺さぶりをかけていた

Queenの楽曲
「Sheer Heart Attack」
「Killer Queen」
「Another One Bites the Dust」しか入っていないCDとウォークマン
もうひとつは爆弾の作り方について書かれている本

これを見た瞬間主催者が彼に何か伝えたいということしかわからなかった
(なんであいつはこれを私に選んだ?)
これは平穏を望む男にとって非常に不愉快であった
334進行◇LKw84Dp5Ls 代理投下:2010/08/25(水) 11:22:03 ID:l/nuQl70
【F-4/田園】


【五代雄介@仮面ライダークウガ】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:アマダム
[道具]:基本支給品、サバイバルナイフ、鉄パイプ、コルト・パイソン (6/6)
[思考・状況]
基本行動方針:誰一人死なせずに、この実験を止める
1:コロッセオに向かい、Horと見た人を仲間に加え、Isiと見た人を保護する。
2:臨也、吉良を守る。
3:臨也を警戒。


[備考]
登場時期は原作35話終了後(ゴ・ジャラジ・ダを倒した後)。
クウガの力の制限については、後の書き手にお任せします。
ペガサスブラストでコルト・パイソンの弾が減るかどうかは後の書き手にお任せします。


【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康、記憶喪失、なんかムラムラする
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、Queenの楽曲三つが入ってるCDとそれが入ってるウォークマン
    爆弾の作り方が書いてある本
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り、平穏の中で幸福を得る
1:コロッセオに向かい、Horと見た参加者を擬似Hor集団に加え、Isiと見た参加者を保護する。
2:自分の"本質"を知り、"抑えられない欲求"を解消したい。
3:『東方仗助』と『空条承太郎』はなんだか危険な気がするので関わりたくない
4:支給品は何か理由があるのか?

[備考]
登場時期は原作で死亡した直後。
記憶の大半を失い、スタンド『キラークイーン』を自分の意思で出せなくなり、その存在も不認知です。
なんらかのきっかけで再び自在に出せるようになるかどうかは、後の書き手にお任せします。


【支給品解説】

【爆弾の作り方が書いてある本】
簡単な爆弾の作り方が書いてある。
素材さえそろえば人に怪我を負わせる程度の威力のものが作れる
335進行◇LKw84Dp5Ls 代理投下:2010/08/25(水) 11:24:50 ID:l/nuQl70
代理投下終了です
336創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 19:45:12 ID:+wkEqgql
剣持、賀来、ロールシャッハ、L

代理投下します
3374人のイカれる男たち ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/26(木) 19:46:33 ID:+wkEqgql
「なんというか…信じがたいことですが、この仮説を受け入れるのが、最も理に適った推論と言わざるを得ません。
 勿論、こんな事を……そうですね……まるで、この世界に死神など言う者が実在し、人を自在に殺す事が出来るとでも言うような、
 荒唐無稽で、まるでマンガチックな仮説ですが…」
 
 上体を丸めたまま、痩せた不健康そうな青年がそう言葉を続ける。
 まるで漫画のような、というのは言い得て妙だ。
 だが、とはいえ。
 この実験等というふざけた殺し合い。
 それだって十分に、漫画みたいなものじゃないか。

◆◆◆

「待った!」
 通りの向こう、闇の中から鋭く声が響く。
 鋭いが、大声ではなく、こちらに聞こえるか否かのぎりぎりのところだ。
「止まれ、そこで止まってくれ。
 こちらには……攻撃の意志はない。
 そちらにもその意志がないなら、まずは止まってくれ!」
 L、は一端ロールシャッハの方を見る。見るが、動くのはマスクの模様だけで、表情などはくみ取れない。
 何を問いたかったか、或いは示唆したかったか、再び顔を声の主に戻すと、やはり先程までと同じ調子で、
「はい。私はLといいます。
 私にも攻撃の意志はありません。
 それより、その方は、まだ生きていますか?」

 その方、というのは、よくよく目をこらせば分かるが、声を発した男が抱えているもう一人の男の事だ。
 暗い闇の中、さらに闇よりも黒い衣服を着ている。やもすれば闇にとけ込み存在すら分からない。
 暫し、ひと呼吸かふた呼吸の間が空いて、
「…大丈夫だ、死んではいない。
 多分…わからんが、うなされているだけで…ううむ…。
 命に、別状は無いと思うが…」
「HUNH...
 確かに、死んではいないし、外傷も無さそうだ」
 声の主が気がついたときには、ロールシャッハは既にその横で、抱えられていた男の様子を看ている。
 息を呑んで何事か声に出そうとするより早く、Lが続ける。
「まずは、この建物…裁判所の中に移動しましょう。
 今は幸いでしたが、こんな目立つ建物の前に居続けるのはあまり感心しません」
 声の主、剣持勇は結局その合理的な提案に従い、賀来神父の身体を、妖しげな覆面男、ロールシャツハとともに中へと運び入れた。
3384人のイカれる男たち ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/26(木) 19:48:11 ID:+wkEqgql

◆◆◆

「ずいぶん…その、目が良いんだな」
 おそらく、裁判所内の陪審員室か何かと思われる一室。
 赤い上質な絨毯が敷かれ、部屋の真ん中に机があり、ぐるりと椅子が囲んでいる。
 部屋の片隅にはカウンターがあり、コーヒーメーカーが据えられている。
 その片隅に、賀来の身体は寝かせられている。
 別の場所からブランケットを探してきて一枚を下に敷き、もう一枚をかけてある。

 覆面男のロールシャッハは、窓際に陣取り外に顔を向ける。
 Lはやはり膝を抱えて椅子に座り、既に煎れていたコーヒーにたっぷりの砂糖を溶かしてちびちび啜っている。
 ドアの近くで部屋全体に目を配りながら、何から話して良いものかという気まずさの中、剣持が他愛もない風を装ってそう聞いた。
「それほどでもありません。
 彼の事が分かったのは、声と、あなたの姿勢です」
 姿勢、はまだ剣持にもなんとなく分かった。確かに、膝をついて賀来の上体を抱えていたからだ。
「声そのものは比較的落ち着いていましたが、完全に冷静という風でもありません。
 何か問題が起きているが、しかし狼狽せずそれに対処しようという意志がある。
 敵意があり手段があれば警告より先に攻撃してますし、敵意があり手段がないなら、もっと慌てているか、もっと落ち着いているかのどちらかでしたでしょう。
 交渉の意志があり、そうすべき責任感があり、そして精神力もある」
 奇妙な調子の分析に、
「名探偵だな」
 と返すも、
「はい。そう言われています」
 と、そっけなく返される。
「まあ、それでももし、今しがた人を殺したばかりで、それを誤魔化すか、さらなる攻撃の手を探っている最中だったというのであれば、ロールシャッハ氏が対処してくれたでしょうし」
 ちらりと、窓際へと目を向ける。
 ロールシャッハ。
 基本的に肉体派で、学問的な事に詳しくない剣持でも、そう呼ばれた奇怪なマスクの顔に浮かぶ白黒模様が、その名前の由来であろう事は分かった。
 ロールシャッハテスト。
 絵の具を落として二枚に折った紙に描かれる、左右対称の模様。

 それを見て、何を連想し、何を発想するかで、その人物の内面を映し出すという精神分析のテストだ。
 正しく、いったいどういう原理なのか見当もつかないが、不気味に変化する、白地に黒く浮かび上がるマスクの模様は、ロールシャッハテストのそれそのものだ。
 そのロールシャッハが、剣持の意識をすり抜けて側に来ていたのは、別に速度の問題ではない。
 端的に言えば、剣持の意識の隙をついた。
 不意に、抱えている賀来の容体について問われ、賀来とLへと意識を向けているうちに、気配を殺して忍び寄っていた。
 剣持とて、警察としての一通りの訓練を積んでいるし、柔道には特に自信はある。
 その剣持すら、出し抜かれた。
 気絶し、うなされた男を抱えているという状態だったとは言え、むしろ彼らに敵意があれば、そこで殺されていたとしてもおかしくはない。
 その意味で、やはり今回、剣持は幸運だったのだ。
 とはいえ、無条件にこの二人を信用できるかというと、そうはいかない。
 今、目に見えて敵意や害意がないからと言って、その相手が心底信用できるかというと、そうではない。
 経験上、惨劇の舞台においては、素知らぬ顔でいる誰かの中にこそ、真犯人は潜んでいる。
 
「剣持警部」
 再び、Lと名乗った不健康そうな青年が口を開く。
「もう一度確認しますが、あなたは日本の警察で、そしてこの実験に連れられて来たときの記憶はなく、名簿には知り合い、さらにはあなたが追っている犯罪者も居る。
 ここまではまちがいありませんね?」
「…ああ、そうだ。高遠遙一。まあ海外まで伝わっているかは分からないが、日本じゃ"地獄の傀儡師"として知られた連続殺人犯だ」
 連続殺人犯、という言葉に、窓際にいたロールシャッハが微かに反応を示したようだったが、高遠遙一自体をこの二人が知らないであろう事は剣持にも読み取れた。
「剣持警部は、キラの事件には?」
「いや、その名前は知らん」
 再び、Lが奇妙に悩ましげな表情を作った…ように感じられたが、部屋は僅かにつけた懐中電灯の明かりのみで、詳しくは読み取れない。
3394人のイカれる男たち ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/26(木) 19:50:33 ID:+wkEqgql
「そちらの神父さんは」
「見つけたときからうなされているよ。さっき意識を戻しかけたようだったんだが…」
 そう言って視線をやると、のっそりと、その屈強な体躯を動かし、くぐもった唸りを上げ近くにいた剣持にのしかかってくる姿。
「おい、神父さ…」
 言うより早く、神父は朦朧としたような顔で、何事かを口にしながら、剣持の首に手を伸ばし…その手を捻り上げられ、地面に打ち倒される。
「くそ…、おい、神父さん。
 目は覚めたか? 意識は?
 全く…どうしてこうなるんだか…」
 腕を見事に決めながら、悲鳴を上げる神父に剣持が聞く。
 それで、賀来神父はなんとか、ひとまずは正気に戻ったようだった。 
 
 剣持にとって、賀来の話す内容は荒唐無稽の絵空事そのものであった。
 某国の残した毒ガス兵器"MW"。それに纏わる政治スキャンダルに、結城という男の連続殺人事件。
 賀来は自らその罪を知りながら看過し、或いは協力してしまったこともあるという。
 しかし最後に、その毒ガスを結城が世界中にばらまくつもりであると知って、ついに彼は、結城と決別を誓い、命を賭けても防ぐべきと行動を起こした。
 そして実際に、飛行機から毒ガスの入ったチューブを奪い飛び降りて、死んだ…いや、意識を失ったのだという。
 賀来神父は真剣に熱弁を振るってはいたが、その全ては剣持の知らぬ事。
 警察機構に身を置く剣持が、そんな大事件が起きていたとして、知らないはずがない。
 まして、賀来に言わせれば、与党の大物まで関わっていた大スキャンダルだというのだ。
 さて、これをどう解釈すべきか?
 剣持に考え得る唯一の解答は、「賀来は混乱して夢や妄想と現実がごっちゃになっているか、狂人であるかの何れか」である。
 しかし、先程出会った二人の感想は、剣持のそれとはまた異なるようだった。

 もとより、ロールシャッハと名乗る男は得体が知れない。
 まず恰好が妖しいし、覆面も妖しい。至る所で何かごそごそと周囲を漁っている風で、手癖もひどい。
 こんな情況でさえなければ、締め上げて覆面をはぎ取り正体を明かせと詰め寄るところだが、流石の剣持も、今それが不味いことは分かる。
 この街は明らかにアメリカか、それを摸して作られた箱庭で、ここが日本かどうかも分からない。
 成り行きとはいえお互い害意がないことを前提に今こうしている以上、その辺りは警戒しつつも後回しにする方が良いだろう。
 自分より先に出会っているLという青年も、覆面男の本名も素顔も知らぬらしいし、かなりの拘りか、或いはそう、顔に大火傷を負っているなどのコンプレックスがあるのかもしれない。
 そのLの方は(そう言えば、こいつのLというのはイニシャルか? こいつも偽名なのか?)、相も変わらずのとぼけた調子でそれぞれに問いかけてくる。
「剣持警部は、今の事件には…」
 皆まで言うな、と首を振る剣持。下手に否定の言葉を言って、賀来を興奮させては不味い。
「ロールシャッハさん。先程、街並みを見て何か考えていましたね」
 賀来に話を振らず、急に窓話にいた覆面男へ問いかける。
「…ああ」
「剣持警部、賀来神父、ニューヨークは?」
「いや、俺は無いが」
 再び別方向へと向けられ、戸惑う剣持に、賀来。
 それでも剣持ははっきりと、賀来は、なんとか意識をLに向けて、口の中でもごもごと否定らしき言葉を返す。
 そこで、少しの沈黙。
 手にしたコーヒー入り紙コップを、飲むでもなくくるくる弄り回し、何か思案している。
 ここで始めて、剣持はLの表情に、ある種人間的な悩ましげなものを垣間見た気がした。 
「…これは、困りましたね」
 それでも、その後に出てきたLの言葉には、剣持も些か気が抜ける。
「いや、おい、それは今更言っても仕方ないだろう」

 拉致、誘拐の挙げ句に、厄介な首輪などを填められ、こんなご大層な都市を丸々使って、実験だ、殺し合えだのと言われているのだ。
 数々の難事件、怪事件、殺人事件に遭遇してきた剣持ですら、こんな途方もない犯罪に巻き込まれるのは初めてだ。
 しかし、だ。

「こんなのは、死神の実在を信じたとき以上の衝撃です」

 さらに続いたLの言葉に、今度こそは剣持も、言葉を見失った。
3404人のイカれる男たち ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/26(木) 19:52:13 ID:+wkEqgql
◆◆◆

 夢、だったのだろう。
 賀来が今そう解釈するのは、それが取りあえず合理的な判断だから、でしかない。
 今も又別の夢ではないという保証は何一つ無い。
 だが、先程結城に死んでいないと言われ、そしてまた口論となり、賀来は思いあまって結城の首を絞めた。
 締めたつもりが、瞬く間に剣持という強面の男によって、地面に叩き伏せられていたのだ。
 意識を戻した暗い部屋には、3人の男が居た。
 剣持は賀来に対して、自分は警察だと言った。
 不健康そうな青年はLと名乗り、窓際に居た奇妙な覆面をしたトレンチコートの男はロールシャッハだ、という。
 ここが何処で、彼らが何者か、という事よりも、彼らの「何があったのか、どうして気絶していたのか」という問いに、
 賀来はどうしようもなく全ての過去 ――― いや、全ての罪を告白せねばならぬ衝動に駆られ、一気に吐き出した。
 日本の警察だという剣持なら、結城の起こした事件はよく知っているだろう、と思ったが、奇妙に悩ましげな表情をするだけで、特に言葉がない。
 それから、Lという青年が、まるで別の事を聞いてくる。
 いったい、それがどうしたというのか?

 賀来は戸惑う、というよりも、はっきりと混乱していた。

「こんなのは、死神の実在を信じたとき以上の衝撃です」

 Lがそう続ける。
 一体、何の話だ?
 
「この建物は、ニューヨーク郡裁判所です。厳密には、良くできたそれのレプリカ、という所でしょうか。
 剣持警部、賀来神父は始めてきた場所でしょうけれど、ロールシャッハ氏は御存じですね」
「HUNH...」
 確かに賀来はこの建物を知らない。というよりもそもそも日本から出たことはない。
「この辺り一帯は、ニューヨークを摸した建物が配置されています。地図によると、この区域はマンハッタン島に似た島の様です。
 サイズが違いますから、配置などもおおまかにしか再現されていないでしょうが、それだけではない奇妙な点があります」
 剣持が遮る。
「待て、待て待て。もっと分かるところから話してくれ。一体何について話したいんだ?
 さっきの死神がどうのとかと関係があるのか? 
 探偵を自称する奴らってのはなんでこう、俺たちに分かる順番で話さんのだ」
 混乱しているのは賀来だけではないようだ。剣持も流れが分かっていない。そのことに些か安堵する。
 覆面男の方はわからないが、話の流れに興味を持っているのか、幾分身体をこちらに向けている。
「すみません、死神の話は一端忘れてください。余計でした」
 Lの言葉に重なり気味に、覆面男が、くぐもったようなしわがれたような声で、
「充電器か」
 と、そう言った。
3414人のイカれる男たち ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/26(木) 19:55:16 ID:+wkEqgql
 3人が、窓際のロールシャッハに注目する。
「ああ、先程探していたのは、充電器、というものだったのですか。了解しました」
「最初にいた通りには、ちゃんと路地に充電器がある、見慣れた街並みだったが、この裁判所の前には無い。
 似ているが、違っている。他にも、色々あるが……」
 やはり、剣持と賀来には、この二人の会話の意味が分からない。
「ロールシャッハ氏の既知のニューヨークらしい区画と、似ているが違う区画がそれぞれにある。そうですね」
 ロールシャツハが同意を示す。
「それは…その、犯人に繋がる事か何かか?」
「はい。そしてそれ以上です。
 今、私たちは二つの信じがたい事実について明らかにせねばなりません。
 …いえ、一つはそれほど問題では無いのですが…。
 そうですね、それをまず片付けます」
 そう言って、コーヒーメーカーの脇から取ってきていたナプキンに、手帳についていたペンで何事かを書き連ねて、こちらへ見せる。
「何だ? 剣を取る…いや、まて、どういう事だ、これは……?」
 剣持が困惑する。
 ロールシャツハが唸る。
 そして、賀来が嗚咽を漏らす。
「…成る程、文字も読めますか。
 『剣を取る者は、剣で滅びる』
 聖書よりの引用ですが、これを、日本語、英語、イタリア語、ドイツ語、フランス語で書いてみました。
 私も語学はそれほど専門ではないので、あまり長い文章が書けるわけでもありませんが、けれども皆さん、この文は全て理解できた…ですね?」
「どういうトリックだ、おい…?」
「私が仕掛けたのではありませんよ、剣持警部。
 もともと、私はロールシャッハ氏と会ったときは英語で会話をしました。二人ともそれで意思疎通できたので、そこで違和感はありませんでした。
 しかし次に剣持警部と会ったとき、私は貴方が日本人と思ったので、日本語で対応しました。賀来神父にも同様です。
 しかし、お二人とロールシャッハ氏の間でも、意思疎通が出来ている。つまり、あなた達の間で、言語の違いが認識されていない、という事です」
 賀来は混乱して何も言葉が無いが、剣持は持ち前のしぶとさからか、なおも食い下がる。
「それじゃ、俺は無自覚に日本語で会話していると思いこんでいるだけで、この覆面とは別の言語で会話している、ってー事か!?」
「そのようです。
 というか…そうですね、それぞれが分かる言語で相手の言葉を認識している…という事でしょうか。
 のみならず、知らないはずの言語で書かれた文字も、理解できてしまう」
 誰もが、どう反応すべきかを決めかねている。
「…ほぼ確実に、この実験の主催者によるものでしょう。ですので、一つ考えられるのは、これです」
 言いつつ、首輪を指さす。
「最先端科学についてそれほど詳しくありません。ですがあくまで推論の一つとして、この首輪の機能の一つに、同時通訳のような機能があり、
 即座に目にした言語耳にした言葉を、自分の認識できる言語へと変換し、認識させる…」
「国際会議とかで使っているような、あれか…」
 やや持ち直した剣持が返すが、それでも声に勢いがない。
「こんな高性能なものは、私の知っている限りでは、有り得ないオーバーテクノロジーです。
 従って、私の世界にあったものではないでしょう。そしてみなさんも…ご存じない」
 知らない。
 賀来はそんなテクノロジーは知らない。
 剣持も同様、黙って首を振るしかない。
「ですので、このテクノロジーは、我々の、それぞれの世界とは異なる世界のモノ、と考えるしかありません。それが、現状を受け入れる一つの仮説です。
 我々四人が、それぞれ異なる歴史、異なる時代背景を持つ別の世界から、さらに別の世界に呼び出されている」
 押し黙る。

 賀来はただ、言葉を聞いてはいるが、何も理解しては居ない。
 理解できるわけもないのだ。
 ただ、ぐらぐらと世界が揺れるのを、身を固くして耐えるほか無いのだ。
3424人のイカれる男たち ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/26(木) 19:58:00 ID:+wkEqgql
◆◆◆

「なんというか…信じがたいことですが、この仮説を受け入れるのが、最も理に適った推論と言わざるを得ません。
 勿論、こんな事を……そうですね……まるで、この世界に死神など言う者が実在し、人を自在に殺す事が出来るとでも言うような、荒唐無稽で、まるでマンガチックな仮説ですが…」
 上体を丸めたまま、痩せた不健康そうな青年がそう言葉を続ける。
 まるで漫画のような、というのは言い得て妙だ。
 だが、とはいえ。
 この実験等というふざけた殺し合い。
 それだって十分に、漫画みたいなものじゃないか。
 いや。漫画のような現実の中で、我々全員が狂ってしまっているのかもしれない。
 それでも。
 剣持にとって、Lの語った"仮説"は、やはりあまりにも荒唐無稽で子供じみていた。
 さしてSFに等に興味もなく、漫画やアニメなども観はしない。
 だから、平行世界だとか異次元だとか言われたところで、そんなのは作り事の戯言でしかない。
 成る程、剣持の知らない最先端テクノロジーで、知らぬはずの言葉が理解できるのだという。それは、飲み込んだ。
 しかし、賀来の言う、「毒ガス兵器の存在により日本中が混乱した歴史を持つ世界」や「死神が実在する世界」 が存在するだの、覆面男の居たアメリカでは、
 剣持やLの知るモノとは異なる街並みや科学技術が使われているだのというのは、妄言の類としか思えない。
 ぐねぐね模様が変わるゴム生地なんて、たしかに剣持の知識にはない。しかし剣持はそもそも、科学技術になんか詳しくはないのだ。

 所詮、子どもか、と、剣持は思う。
 確かに、出会い頭の推理力や洞察力、それに言葉の件などを考えても、知り合いの若き少年探偵、金田一を彷彿とさせる鋭さを感じた。
 自分自身、たたき上げの肉体派と自認しているし、金田一にイヤミな眼鏡の明智という、どう逆立ちしても太刀打ちできない頭脳派に、
 ある意味で見慣れすぎてしまった剣持にとって、Lが「そちら側の人間」だという事は、理解できている。
 それはもう、理屈というより、肌で、だ。
 だが、だからといって言うに事欠いて、「異次元」とこられて、それをすんなり受け入れられるほど、剣持はイカれてはいない。
 そうだ。
 そんな異常な仮説をすんなり受け入れるとしたら、そいつはハナから狂っている。これは、狂人か…子どもの理屈だ。
 賀来は、混乱している。
 覆面男は、見るからにマトモではない。
 そして、それらの戯言から、異次元だとか何だとかの狂った仮説を語るLも、その意味においてイカれている。
 剣持に理解できるのは、そのことだけだ。

「おい、それは、"本気で言っている"のか?」
 並べ立てられた"マンガチックな仮説"を語る言葉の隙間に、なんとか剣持が言葉をねじ込む。
「はい。そうですね…5%くらいは」
 そう返されて、またも剣持は分からなくなる。ふざけているのか、真面目なのか?
「我々全員、気が狂っているのか、或いは強力な催眠術か何かでそれぞれに異なった歴史を信じ込まされている…というのも、あり得ます。
 私の知るベトナム戦争はアメリカの負けですが、ロールシャッハ氏の知るベトナム戦争はアメリカの勝利である、というのもそれで説明は出来ます。
 ですが…」
 剣持がLを見返す。
「自分の記憶が全てデタラメかもしれない、という仮説の方が、私には恐ろしいです」
 急に、剣持は背筋に冷たいものが走った。

 その言葉の意味が、剣持にもある程度理解できたからだ。
 世界の根底が覆されることと、己の根底が覆されること。どちらがより恐ろしいだろうか?
「それに、ロールシャッハ氏によると、この主催…」
 続けるLの言葉が、くぐもった笑い声に遮られた。
3434人のイカれる男たち ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/26(木) 20:02:26 ID:+wkEqgql
「ウフフフフ……。

 アハハハハ……。

 ワハハハハハハ………!!」

 黒衣の神父が、初めは小さく、それから次第に大きな声で、笑い始めたのだ。
 賀来は椅子を蹴って立ち上がっている。
 そして、気が触れたように笑い続けている。
「おい、神父さん…」
 剣持は再び、落ち着かせようと、肩に手を添えるが、勢いよく振りほどかれ、今度は強かに床に尻餅をつく。
「異次元? 別の世界?
 そうだ! 私には分かったぞ!」
 目が血走り、明らかに錯乱しているようだった。
「ここは、煉獄だ!
 ダンテの神曲に書かれたそれとはまるで違うが、死んだ者が神の裁きを待つための場所だ!
 その証拠に、飛行機から太平洋に落ちて死んだ私が、生前と変わらず此処にいる……!」
 身振り手振りも大きくなり、まるで演説のようになって行く。

「実験、というのは誤りだ。これは、試練なのだ。
 我々全員が、裁かれるべき悪なのか、或いは神の身許へ赴くことの許された身なのか……。
 最後の審判の前に与えられた、試練なのだ!」
 そう言って、ふいに今度は、震えたか細い声。
「……主よ……。そうまでして、私の犯した看過の罪を問われるのですか……?
 確かに私は、罪を犯しました……。悪を知り、悪を見逃し、何より悪に荷担しました……」
 再び、その大柄な身体を、さらに大きく見せるように両手を挙げて反り返り、
「ならば……!
 今度こそ、私は自らの手で、悪を打ち倒しましょう!
 結城美知夫を………! あの悪魔を倒しましょう………!!」
 そう叫ぶと、賀来はそのまま、部屋のドアを開けて走り去る。
「あ…、おい、待てよ、神父さん……!
 くそ…!! お前がくだらないことを言うからだぞ!」
 尻餅をついていた剣持は、そうLに吐き捨てる様に言ってから、自分の荷物と賀来の分を手にして後を追いかける。
 なんて面倒な事になったのだろうか。
3444人のイカれる男たち ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/26(木) 20:03:23 ID:+wkEqgql
◆◆◆

「困りましたね…」
 本当にそう思っているのか、声の調子からは分からないが、Lはぼそりとそう呟いた。
「まさか、あそこまで反応されるとは。戻ってきてくれれば良いのですが……」
 その表情から、心配しているのかどうか本当のところは読み取れないが、それを言うならばもう一人はさらに読めない。
「戻ってくれば?
 いや、違うな」
 だがその声はきっぱりと、そして力強い。
「あの神父は悪を知り、その悪と決別し、悪を倒すと行動を始めた。
 どこまで貫けるかはわからんが、ならばそうさせるべきだ」
 ロールシャッハの視線と、Lの視線が、奇妙に絡み合う。
「L。お前は探偵だという。
 推理するのがお前の仕事かもしれん。
 だが、俺は違う」
 ゆっくり、ロールシャツハがLの方へと歩み寄る。
「俺は、ヒーローだ」
 椅子に座り込むLの前で、微かな光源の中直立するシルエットは、圧倒的存在感を持ってそこに在った。
「ヒーローのやるべき事は、椅子に座って頭を使うことじゃない。
 悪を見つけ出し、それを討つこと。
 必要なのは、―――行動だ」
 ロールシャッハも又、自分のパッグを肩に掛け、この部屋のドアから外へと向かう。
「さっきも言ったが、ジョンは本物のスーパーヒーローだし、ヴェイトは世界最高の頭脳を持つ男だ。
 その二人が関わっている以上、何が起きていても俺は驚かん。
 お前の推理とやらもだ」
 ドアの所で立ち止まり、ゆっくりと首だけ向けて振り返り、
「進むか―――待つか。
 お前の行動は、お前が決めろ。
 俺は、決して妥協しない」
 薄暗い一室から、さらなる闇の奥へと続く扉が、Lの、そしてロールシャッハの目の前で、大きく開かれている。
 微かな光に反射して鈍く耀くは、その胸につけられたピースバッチ。こびり付いた赤黒い血の跡。
3454人のイカれる男たち ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/26(木) 20:04:17 ID:+wkEqgql
【H-8/ニューヨーク郡裁判所内部、またはその周辺:深夜】

【剣持勇@金田一少年の事件簿】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式×2、不明支給品2〜6(うち1〜3は、賀来の分)
 [思考・状況]
  基本行動方針:この事件を金田一一と共に解決する
 1:神父(賀来巌)を追い、落ち着かせる。
 2:金田一一、七瀬美雪との合流
 3:異次元? MWという毒ガス兵器? 死神? ばかばかしい…。
 [備考]
 ※参戦時期は少なくとも高遠遙一の正体を知っている時期から。厳密な時期は未定。
 ※Lの仮説を聞いています。

【賀来巌@MW】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、錯乱中
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考・状況]
  基本行動方針:結城美智雄を倒す…?
 1:やっぱりロワは地獄…いや、煉獄だぜー!
 2:悪魔である、結城美智雄を倒す…?
 [備考]
 ※参戦時期はMWを持って海に飛び込んだ直後。
 
【ロールシャッハ@ウォッチメン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:ロールシャッハの手帳@ウォッチメン、スマイリーフェイスの缶バッチ@ウォッチメン、
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、角砂糖、いくつかの日用品類
 [思考・状況]
  基本行動方針:この実験を停止/破壊させ、オジマンディアスに真意を問う。
 1:地図上の施設などをあたり、情報を集め事態を解決する糸口を見つける。
 [備考]
  ※参戦時期は、10月12日。コメディアンの部屋からダンの家に向かう途中です。

【L@DEATH NOTE 】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、シュガーポット、不明支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:この事件を出来る限り被害者が少なくなるように解決する。
 1:情報を集め事態を解決する糸口を見つける。
 [備考]
  ※ロールシャッハより、ジョン・オスターマン、ヴェイトなどについて大まかに聞いています。
  ※参戦時期は、夜神月と一緒にキラ事件を捜査していた時期です。
3464人のイカれる男たち ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/08/26(木) 20:06:15 ID:+wkEqgql
代理投下終了
347創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 20:39:04 ID:156Z8SNU
代理投下乙です

神父、お前ちゅう奴はw
剣持、残念ながらここは普通じゃないぞ
Lは異次元のことに気が付くとは…
シャッハはシャッハで我が道を行く……か
四人のそれぞれの心理描写がよく書けてるな
348 ◆GOn9rNo1ts :2010/08/26(木) 21:11:59 ID:v3r2LX6e
雨流みねね、平坂黄泉、投下します
349創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 21:12:09 ID:iRRhQ3nR
 
350 ◆GOn9rNo1ts :2010/08/26(木) 21:15:16 ID:v3r2LX6e

『実は私、「正義のヒーロー」というのに憧れてましてね』


平坂黄泉は『正義のヒーロー』である。
子供の頃、ブラウン管越しに『聞く』ヒーローに憧れ、焦がれ、彼はそれを目指した。
自前のスーツやら覆面やらを作り、まずは目先のことからと他の人間を助け続けてきた。

お年寄りの荷物を持ってあげようとすると、強盗に間違われた。
不審者を通報すると、己が不審者に間違われ捕まってしまうこともあった。
街をパトロールすると、幼気な子供から石を投げられるなどいつものことだ。

『正義ナンテネ、絵空事デスヨ』

彼は、次第に昔抱いた情熱を失っていった。胸を燃やす正義の意志は、冷めていった。
自分は正義の味方には向いていない。相応しくない。
善行は身体と心の痛みになって返って来る。いくら努力をしても、報われることなどない。
馬鹿らしい。こんなことをしていられるか。正義なんて糞くらえだ。
そう感じて失意にくれていた、ある日。
彼は、たったの50円で『未来日記』を手に入れた。

世界は、変わった。
彼も、変わった。

彼が常日頃己の正しき行いを吹き込んでいたボイスレコーダー。
それは、謎の少女ムルムルによって改造され、平坂黄泉の『未来日記』へと変貌を遂げた。
名付けて12thの『正義日記』
未来の善行を事細かに伝える夢のようなアイテムは、正義執行の大きな力になってくれた。


7時46分。落ちている空き缶を発見。処理。
8時27分。ゴミ置き場がカラスに荒らされている。処理。
9時54分。財布が道端に落ちている。処理。
10時1分。サラリーマンが信号を無視している。処理。
11時59分。警察官の振りをした悪の手下が襲いかかってきた。処理。
12時3分。正義の呼びかけにより悪の手下は改心した模様。
13時6分。帰宅。ドアに何やら紙が貼られていた。処理。
14時46分。悪の組織を探索。未だ見つからず。
15時14分。御目方教なる教壇の情報を掴む。
16時33分。小学生の虐めを発見。処理。
17時7分。ゲームセンター裏でかつあげが行われていた。処理。
18時51分。帰宅。今日も一日正義執行に精が出た。


流される正義の声に導かれ、流され、黄泉は正義を求め街を彷徨うようになる。
そして、見つけた『悪の組織』
6thこと雨流みねねを追い、捕らえ(黄泉が実行犯だが)拷問に尋問を重ね他の所有者の情報を聞き出し、地下牢に監禁する。
御目方教トップ、『千里眼日記』を持つ春日井椿に、黄泉の『正義日記』は悪を感じ取ったのだ。
彼はありとあらゆる手段を使い、邪悪の教団、御目方教を殲滅しようと試みた。
351創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 21:15:41 ID:iRRhQ3nR
 
352 ◆GOn9rNo1ts :2010/08/26(木) 21:15:59 ID:v3r2LX6e

そして、あの晩。1st、2nd、4thが罠ともしれずにのこのこ御目方教にやって来たその日に、黄泉は仕掛けた。
事細かに仕込んだ催眠術により、6thの殺害を謀ったのだ。
春日井椿のDEAD ENDは覆らないはずだった。
彼の『正義の殲滅作戦』は常人には見破れぬ、完璧な作戦だった。
しかし、ここで誤算が生まれる。どうしようもない誤算が、発生する。
2nd。我妻由乃は、彼の手に余るとびきりの『異常者』だったのだ。
1st、天野雪輝を救うため、由乃は黄泉の作戦悉くを破壊し、黄泉本人にも破滅の運命を与えた。
DEAD END。日記所有者の敗北。死を預言された黄泉は、最後の策を講じ、6th殺害を試みた。
雨流みねねから借り受けた爆弾による特攻。ゴ12thによる撹乱作戦。
正しく、決死。勝とうが負けようが死は免れぬ自爆攻撃。


しかし、それすらも春日井椿には、正確に言えば雪輝を救うため彼の前に立ちはだかった我妻由乃には届かなかった。


平坂黄泉は、敗北し、死んだ。


その筈、だったのだ。




もう一度言おう。
平坂黄泉は正義の味方である。
そして、彼にとって正義とは勝つことである。
正義の味方は必ず、最後には勝利する。彼はそれを信じて、盲信して生きてきた。
ヒーローは、どんなことがあろうとも挫けず、屈せず、勝利をもぎ取るのだ。
だから、一人の悪人を殺すのに何十人を犠牲にしても、彼は気にしない。
何人死のうが不幸になろうが、それは平坂黄泉にとっての悪ではない。
単に、正義執行のための犠牲である。それ以上でも以下でもない。
もしかしたら、平坂黄泉は他日記所有者との殺し合いというシチュエーションによって暴走した、狂ったと言っても良いかもしれない。
確認する術など今となっては存在しないし、確認したところで彼が変わるというわけでもないのだが。



なにはともあれ、平坂黄泉は今夜も己の正義を執行するのだ。
353 ◆GOn9rNo1ts :2010/08/26(木) 21:17:23 ID:v3r2LX6e

◇ ◇ ◇



『0時31分。女性が何かに追われるかのようにバイクでかけていく。正義の味方として、助けないわけにはいかない』



「あなたでしたか、雨流女史」

「……お前は」

人気のない夜の闇の中、男と女が出会った。
舞台が舞台なら、キャラがキャラなら、互いが一目で恋に落ちるありきたりなシチュエーション。
古くから使い古された舞台設定は、しかしこの場において何の効力も持たなかった。
一人は、豪快にバイクを吹かし眼帯をつけたテロリスト。
一人は、光から隠れるように路地の隅に佇む陰気な男。
更にこの場は、メロドラマとはかけ離れた殺戮のステージだ。
ドラマティックでロマンティックな空気など、二人の間には微塵も存在していなかった。

「まさかとは思ったが、本当にお前とはな」
「私の方こそ驚きました。些か可能性は考えたとはいえ、本当にあなたがいらっしゃるとは」
「私の他に1st、あの狂った2ndもいる。お前がご執心だった6thはいないみてえだけどな」
「それは……残念です。今なら、この場ならば、あの女を殺すのも容易かったでしょうに」
「んで、遺言はそれくらいか?」

眼帯女テロリスト、雨流みねねは油断した風もなく、デイパックからギラリと尖った光を放つ日本刀を抜き放つ。
切り捨て御免。人気のなさも合わさって、時代劇ならばそのままズバッと行くところだ。
だが、男は慌てた様子もなくそれを『聞いて』ゆっくりと話し始めた。

「私の勘が正しければ、ですが、貴方も私と同様、己の未来日記を支給されている。違いますか?」
「……それがどうしたってんだよ」
「貴方の日記、『逃亡日記』には今、どんなことが記載されています?」
354 ◆GOn9rNo1ts :2010/08/26(木) 21:18:16 ID:v3r2LX6e

みねねは視線をついとずらして、携帯電話に目を向ける。
あれ以降、特に変わった変化はない。逃走経路も単調そのもの。
次の路地を右に行けだとか左に行けだとか、車のナビゲーションのように無機質にみねねが行くべき方向を示し続けている。

「誰がお前に教えるかってんだ」
「今、貴方はこう思ったはずです。この男に関することが日記には書かれていない。
つまり、私は苦もなく逃亡することもなく、この男を殺害することが出来るのだ、と」

悔しいが、当たっている。
逃亡日記は己が生き残る、という一点において恐ろしく高性能だ。
もしも勝てない相手ならば、未来日記はそれを予知し逃走経路を表示する。
つまり、始めから勝ち負けが分かってしまうのだ。
勝てない、殺しきれない相手ならば逃亡日記に従いしっぽを巻いて逃げればよい。

しかし、今回に限っては男に関する記述はない。

それは、みねねが逃亡することもなく、男を殺害できると言うことか。
それとも。

「しかしその考えは外れです。これに、見覚えはありませんか」

みねねがはっと息をのみ、つばをゴクリと飲み込む音を、男は確かに聞いた。

「そう、貴方が所有していた心音爆弾ですよ。
ご丁寧に、主催者はボイスレコーダーで使い方を説明してくれましたから、既に私自身にセットしてあります。
元々は貴方のものだ、威力は身に染みてお分かりでしょう?」

貴方に私は殺せません、と男ははっきりと断言する。
ギリ、と歯を軋ませながらみねねは理解する。
こんな無防備に自分の前に立つということは、この男にもDEAD ENDは立っていないということ。
みねねはこの男を殺さない、と未来日記が予知しているということだ。
ここで、疑問が沸く。自分はこいつに殺されない。こいつは私に殺されない。
逃亡日記に反応は無い。つまり、自分は逃げない。

「しかし、賢い貴方ならば分かるはずだ。逃亡日記が己の役割を果たさない理由を」
「……はん、手を組もう、ってか」


逃亡日記は逃げ道も、DEAD ENDも表していない。
つまり、この男からは逃げる必要がないということ。
それは、男に害意がないということの証明に、なり得る。


「貴方が恐れている何者かは周辺にはいませんよ。いかな暗闇の中でも私の超聴力は誤魔化せません。
これで少しは信頼を得ることが出来れば幸いなのですが、どうでしょう?」
「……逃亡日記に、反応は無い」


なり得てしまう。

非常に面倒なことに。

手を組む?皆殺しを決めた私が、こいつと?
感情的に、納得できない。今は殺せないから手を組もう。なんだそりゃ。
馬鹿にされているようで、ムカつく。この未来を予知した未来日記にも腹が立ってくる。
そんなみねねの気も知らないで、男は楽しそうに話を続けた。
355 ◆GOn9rNo1ts :2010/08/26(木) 21:18:56 ID:v3r2LX6e

「貴方も私の能力はご存じでしょう。きっとお役に立てるものだと思いますが」
「いつからお前はテロリストの片棒担ぐ悪者になっちまったんだ?
正義の味方、ヒーローの名が泣くぜ、12th」
「巨悪の前にはテロリストなんてかわいいものですよ」
「巨悪だあ?」


「このゲームの主催者、あれは私が倒すべき悪です。共に力を合わせ、悪を倒しましょう!」


「……は?」

イライラ、面倒くささが吹っ飛んだ。
唖然として、向かっ腹が立って、最後には笑いがこみ上げてきた。
面白すぎて涙が出る。馬鹿馬鹿しすぎて腹が捻れる。もう駄目、限界。

「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
「……何がおかしいのですか」
「何って、そりゃお前のアホさ加減にだよ!」

いかん、こんなのはキャラじゃないと深呼吸。深く吸ってー、吐いてー。
少し気持ちが落ち着いた。良し、行ける行ける。大丈夫。
どうせこいつによれば近辺には人がいないのだ。大声を出しても差し支えあるまい。

「ククク……この反逆の徒、国際テロリストの雨流みねね様がお前に今回のケースをじっくり教えてやるよ」

いいか、とみねねはまだ少し笑いながら人差し指を立てた。

「一つ、主催者はあの神、デウスのゲームに介入することが出来る力の持ち主だ」

二つ、と中指が思いっきり持ち上がる。

「私達は思いのままに拉致させられて、爆弾付きの首輪をいつの間にか嵌められて……しまいに意味の分からんワープさえ体感しちまった」

三つ、と薬指を立てて、力なくみねねは笑う。

「分かるか、主催者はあの未来日記の『レプリカ』を作れちまう程の技術力を持っている」

結論!とやけくそ気味に大声を出してみねねは宣言した。


「殺せるわけねえだろ、主催者なんてよ」
356 ◆GOn9rNo1ts :2010/08/26(木) 21:19:42 ID:v3r2LX6e


「……正義は勝つ!」
「勝てるわきゃねえだろ現実を見ろおおおおおおおおおおおお!!!」


「そもそもだな、まずこの首輪を外せる人間なんて主催者が用意するわけないだろうが。
あいつは実験といった。お前はマウスの実験にチンパンジーを参加させるか?」
「……力が大きければ大きいほど、その力に溺れ、隙は出来るものでしょう」
「あいつの持つ技術的に考えて、この首輪に盗聴機能くらいはついてそうなもんだが。
隙だらけなのはお前のほうだ。はいお前は反乱分子として首スパーン、短い付き合いだったな12th」
「……私が死んでも正義は死なず!」
「お前、今ここでぶった切ってやろうか?」

ともあれ。

「残念なことに、お前がまだ生きてるってことは主催者の糞野郎はちょっとやそっとでこれを爆発させる気はないらしいな」
「急に糞野郎がつきましたね、女史」
「黙ってろやかましい。だが、それでも首輪に関する、それこそ核心に迫るようなことしたらそこでゲームオーバーだろうな。
主催者は実験がしたいわけであって、別に反乱分子との決戦なんざ望んじゃいねえだろうしよ」

わざわざチーム戦とかいうややこしい真似さえしてんだぜ、とみねね。
つまり、明らかに何らかの結果を求めての実験だと、と男。

「少なくとも、玉入れさせようとしてるのにいきなり棒倒しようぜ!とか言い出して、終いにゃ本当にし始める奴がいたらそいつは一発レッドだろ」
「空気読めてないってレベルじゃないですね」
「お前が言うなよ、変態」

とーにーかーくー、と声を引き延ばして、みねねは言った。

「あの糞外道○○○イカレポンチ□□□主催野郎には、こちとらむかっ腹が立っててグレネードランチャーでも脳天にぶち込んでやりたいところだが」

諦めるように、息を吐く。

「反逆なんざ無理だろ、常識的に考えてよ」

「……言い分は分かりました。それでは、貴方はどうするつもりですか」
「決まってんだろ、糞野郎の掌の上で精々派手に狂喜乱舞してやんのさ」

全員殺しゃ絶対勝てる、とみねねは手に持つ日本刀のようにギラリと目を剥いた。
今までとなんら変わりねえ、とみねねは歪んだ笑みを、その奥の尖った決意を見せつける。
だからお前も、とみねねは敵意と悪意と殺意とを目の前の男に向けて。
357創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 21:20:04 ID:iRRhQ3nR
 
358 ◆GOn9rNo1ts :2010/08/26(木) 21:20:36 ID:v3r2LX6e

「分かりました、それでは主催者を倒すのは諦めましょう」

勢いで、派手にずっこけた。

「あくまでも今は、という話ですよ。もしかしたら奇跡が起こり首輪が外れるかもしれない。
誰かの頑張りによって、主催者に反抗するという夢物語が現実になるかもしれない。
その場合、私は喜んで主催者討伐に参加しましょう。巨悪を滅し邪悪を滅ぼしましょう。
しかし、貴方の話を聞くに『現段階では』明らかに無理そうです。私はそう判断しました。
それならば、まずはこの実験での勝利を目指すまで」

この男にとって正義とは、ヒーローとは、必ずしも『優しさ、慈悲深さ』とは繋がらない。
悪を滅ぼすためならばどんな犠牲も厭わない。守るべき人間が死んだとしても仕方ない。
前に言いましたよね、と男は不気味に微笑んだ。


「正義とは勝つことなのです。負ける正義など、正義であらず」
「狂ってるな、お前」
「さて、どうでしょう。何はともあれ、最初の最初に話を戻しましょうか」


手を組みましょう。


「……私がHor、お前がSet、もしくは逆だとしたらどうするんだ」
「その時はその時です。その時が来てから殺し合えばいい。今は何よりもまず目先の協力を考えるべきでしょう」


みねねは考える。メリットデメリット。その他諸々色々、考えに考えて考え抜く。
まず、この男は通常の千倍の聴力を持っている。
こんな夜、しかも人がいないこの状況では正に人間レーダーとなり得る人材だ。
更に、催眠術とか言う得体の知れない術をかけることも出来るらしい。
裏切りには十分以上に気をつける必要があるが、逆に味方につければ恐ろしく戦略の幅が広がる。

そして、こいつは目が見えない。これを知っているだけで幾つも対処法は頭に浮かんだ。
心音爆弾は元々こちらのものだ。当然対処の仕方など、弱点など、分かり切っている。
しかも、上手く使えばこいつは正に動く爆弾。強者を道連れに出来る駒となり得る。

メリットは大きい。今は無理だが機会を待ち装備を整え、殺そうと思えば殺せるのも良い。
元々どちらも慣れ合う気はないし、変に善人ぶらないのもこの場では高ポイントだ。
359創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 21:20:45 ID:iRRhQ3nR
 
360 ◆GOn9rNo1ts :2010/08/26(木) 21:21:21 ID:v3r2LX6e


しかし、こいつは変態だ。うん、これは大きなデメリットだな。
変態ってのは嫌だなー。こいつを連れ歩いてるだけで周りから
「キャー、変態よ!変態コスプレカップルだわー!」
とか言われるんじゃないだろうか。うわ、嫌だな。こちとら好きで眼帯つけてる訳じゃねえんだぞ。
そもそもこいつの普段着って何なんだ。想像も出来ねえ。
『アレ』を格好いいとか言っちゃう感性の持ち主だから、ぜってえやばげなもんしか持ってないだろ。
まさか普段からあの変態コスチュームで街中を徘徊してるんじゃないだろうな?
……ってか私は何を考えているんだ落ち着け今は殺し合いしてんだぞ。


変態は……嫌だな、やっぱり。


「私に支給されたものをお教えしましょう。正義日記、そして『貴方の爆弾詰め合わせセット』ですよ」


「変 態 上 等 !」


爆弾に釣られた女テロリスト、雨流みねね。
色々かなぐり捨てて、パワーアップである。



◇ ◇ ◇



『1時13分。前方に参加者を確認。正義の潜入工作を行う』



「どうしてこうなった」
361創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 21:21:29 ID:iRRhQ3nR
 
362創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 21:22:16 ID:iRRhQ3nR
 
363創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 21:27:14 ID:+wkEqgql
支援
364◇GOn9rNo1ts氏代理投下:2010/08/26(木) 21:27:35 ID:iRRhQ3nR

平坂黄泉と行動を開始し、一時間足らず。
雨流みねねは今、ゴミに埋もれながらもぞもぞと動いていた。
臭い。ムサい。気持ち悪い。最悪だ。糞。悪態を付きながら。
最早何が何だが区別もできない廃棄物を掻き分け掻き分け、対象に接近していく。
対象。風船のような覆面をかぶり全身タイツに身を包んだ変態。
誠に信じがたいし、信じたところで頭痛に悩まされるだけだが、アレは平坂黄泉の変身姿(変態姿)だ。
あり得ない美的センスである。ああいうのを芸術というのならば、芸術なんて全部吹っ飛ばしてやる。
同盟の証と爆弾をたんまりと頂いたことで出来上がったにやけ面は、とっくの昔に吹っ飛んでいた。

「やっぱりあいつに任せなきゃ良かった……」

事の起こりは更に十数分前。
みねねと黄泉は徒歩で周辺を散策していた。

『バイクなんて使えば私でなくても周りから気付かれてしまうでしょう。
私の耳を信じて、ゆっくり進軍しようじゃありませんか』

理には適っている。そもそもこいつの利用価値の大半は夜間のレーダーなのだから、そのメリットを潰すのは不味い。
しかし、そこから先がいけなかった。最悪だった。

『それじゃ、私はそろそろ本気を出していきますよ』

嫌な予感しかしなかったが、みねねに止める術など無い。
止めたところでこいつは絶対に効かないだろうし、力尽くでいけば最悪二人でドカンだ。
そして……当たってほしくない予感は正しく大当たりした。

『変身〜♪タイツ!』


ああ。


『変身〜♪グローブ!』


もう。


『変身〜♪マ……グギッ、ゲッ、グギギギギ……』


止 め て く れ。


『ドウダイ女史、カッコ良イダロウ……』


変態一丁あがりである。誰も頼んじゃいない。返品させろ。
365創る名無しに見る名無し:2010/08/26(木) 21:29:06 ID:+wkEqgql
支援
366◇GOn9rNo1ts氏代理投下:2010/08/26(木) 21:29:11 ID:iRRhQ3nR

事態は悪化の一途をたどる。


『ムッ、コレハ……』

黄泉の未来日記に加えられた新たな記述。
更に黄泉本人もいくつかの音を感じ取り、いよいよ他参加者との遭遇が近づいてきた。
道中、みねねと黄泉が考えていた幾つかのプランの内、人数、歩幅の大きさ云々から『正義の潜入作戦』が実行される。

『マズハ、私ガコノ魅力テキナ戦闘スーツニヨリ他ノサンカシャノハートヲキャッチ!
殺シ合イに消極テキトミラレルグループニ潜入シ、情報ヲエル』

『その間、私は気付かれないよう近くに潜み、殺せる奴は殺していく』

『私ノ催眠術ニヨッテ上手ク事ヲハコブコトモ出来レバ、戦力ゾウキョウ情報カクトク勝利ヘト近ヅクトイウワケダ!』

最も、みねねはこの作戦にあまり乗り気ではなかったのだが。

『なあ、もっと派手にドカンと行かないのかよ。今ならみねね様お得意の品も手に入ったんだぜ』
『考エタマエ、女史。ドウ考エテモ我々ガコノ場ニイル全員ヲ殺スノハ、効率ガ悪イ。
モチロン、チーム戦トイウ事ヲ考慮シテ、様々ナ人間ガドンナチーム分ケヲサレテイルノカ考エテイルダロウ。
我々ガ狙ウノハ情報ダ。単ナル力押シデハナク、誰ヲ殺セバ良イノカ、誰ト協力デキルノカヲ知ルコトガ勝利ヘノ近道トナルダロウ。
マッタク、コンナコトモ考エラレナイトハ、女史ハヤハリイエローノポジションダナ』

説教された。変態に。変態に。変態に!
思わず手榴弾でも投げつけたくなったみねねだが、押さえる。
イエローってなんだ私は別にカレー好きじゃないぞとか突っ込みたくなったが、押さえる。
この男のいうことにも一理以上のものがあると、みねねは理解していた。

その格好やら正義馬鹿やらで、誤解されやすいことであるが。
平坂黄泉は、決して単純脳足りんな馬鹿ではない。
むしろ、彼は慎重で狡猾で冷酷な男なのである。
VS御目方教壇における用意周到さなど、正義の味方などではなく知能犯に近い思考回路を持つ。
平坂黄泉がもしも、正義馬鹿でなく真面目に日記所有者のゲームに取り組んでいたならば。
もしかするとだいぶ良い線に行っていたのではないか、と思えるほどには有能な男だ。

『サア、ソロソロダ。女史ハドコカニ潜ンデ、私ノ雄志ヲ目ニ焼キ付ケルガ良イ』



上手くいかなかった。主に黄泉のせいで。



そもそもの第一段階目(信頼を得る)から失敗し(当たり前だ馬鹿)みねねは半ば黄泉を見捨てようかとさえ考えた。
爆弾はたんまりといただいたし、執着しすぎて自分まで危険な目にあっては元も子もない。
しかし、黄泉を襲撃した男達(お前らも覆面かよ!)は残念ながら彼を始末する気などないようだった。

(こりゃ見捨てるのは不味いな……もしあいつが私のことをゲロったらこれから動きにくくなる)

みねねのスタイルは主に爆弾による待ち伏せ奇襲戦法だ。
気付かれる前に設置して、気付かれる前に爆殺する。それがテロリスト雨流みねね本来のやり方である。
当然ながら、それがばれると相手に警戒され、殺すことが困難になる。
黄泉の言うとおり、確かに不特定が相手のチーム戦において情報は生命線となり得る。
1stを仕留めきれなかった以上、更なる情報の漏洩は避けたかった。
平坂黄泉は見捨てられたと分かると容易に掌を返し、向こうの奴らと組む可能性がある。
本当に最悪の場合、黄泉だけは殺しておかなければ。

367◇GOn9rNo1ts氏代理投下:2010/08/26(木) 21:30:00 ID:iRRhQ3nR
(ま、今んとこその心配はなさげだな)


今自分が取るべき最良の手は、あの廃車置き場に屯している男達の殺害だ。
逃亡日記は反応しない、つまり向こうの男達に気付かれている訳ではなさそうだ。
平坂黄泉の潜入作戦とやらは失敗に終わったようだし、憂いなく……ぶっ放せる。
これまでに設置した仕込みは上々。近くにあったのが工場ということもあって、ここはみねねに好都合な殺戮場だ。
タイミングは、やはり平坂黄泉の覚醒後であろうか。
賢い黄泉のことだ、こちらの動きを察知し陽動やら何やらに動いてくれるかもしれないし。
もし、万が一、黄泉が信頼を得ることが出来れば、あの男達からたんまり情報やら利益やらを得てから殺すことが出来る。
全ては黄泉次第。あの変態頼みとなるのは頭が痛いが、悔やんだところでもう遅い。


(そうさ、もう遅いんだよ。誰だろうと私の邪魔をするやつは、殺す。
例えガキだろうと女だろうと、殺す。殺す。殺す。みねね様に後悔の二文字は必要ねえ。
この世界は弱肉強食。喰わなきゃ喰われる。私はずっとそうやって生きてきたんだ)


それでも。
幼い金髪の少女、アリサ・バニングスを見るみねねの眼は。
どこか沈んで、濁って、澱んでいるようだった。



【H-10/ゴミ処理場 廃車置き場/一日目 深夜】


【雨流みねね@未来日記】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、参戦前に左目を失明
 [装備]:日本刀
 [道具]:基本支給品一式、みねねの逃亡日記のレプリカ、不明支給品0〜1(火器、爆薬を除く)
     雨流みねねの爆弾セット(大量)@未来日記
 [思考・状況]
 基本行動方針:基本は皆殺しで勝ち狙い。殺せる相手は殺し、厄介ならば逃げる。逃亡日記の記述には基本従う。宗教関係者は優先して殺す。
        黄泉の言うとおり、少しは情報収集にも努める(?)
 1:黄泉とタイミングを測り、工場内の参加者の殺害。
 2:黒衣の男は敵と認識。
3:黄泉も機を見て殺す。出来れば強者と道連れにしたい。

【平坂黄泉@未来日記】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]: 気絶、頭にたんこぶ、腰に軽傷
 [装備]:変態的ヒーローコスチューム、心音爆弾@未来日記
 [道具]:基本支給品一式、黄泉の正義日記のレプリカ@未来日記、雨流みねねの爆弾セット(微量)
 [思考・状況]
 基本行動方針:ヒーローらしく行動することで、正義の潜入工作を成功させる。
1:気絶中……
2:ひとまずみねねと組み、このゲームにおける『勝利』を目指す。

※雨流みねねによって近辺に爆弾(?)の仕込みが行われました、どんなものかは次の書き手にお任せ。
368◇GOn9rNo1ts氏代理投下:2010/08/26(木) 21:31:26 ID:iRRhQ3nR
341 名前: ◆GOn9rNo1ts[sage] 投稿日:2010/08/26(木) 21:27:53 ID:1Rxcl2iM [6/6]
以上で投下は終了となります
どなたかお手透きの方、本スレに転載していただけるとありがたいです

----------
以上で代理投下を終わります。
未把握かつ読みが浅いので感想は書けないのですが、とくにコンビ結成の
流れを面白く読ませていただきました。執筆お疲れ様でした。
369◇GOn9rNo1ts氏代理投下:2010/08/26(木) 21:33:07 ID:iRRhQ3nR
申し訳ない、リロード忘れ。
タイトルは『未来日記モザイク:Diary■■:隠し砦の三覆面(+α+β)』とのことです。
370創る名無しに見る名無し:2010/08/27(金) 10:04:09 ID:GaAyXyFm
代理投下乙

これは予想外
いや、黄泉は正義バカだが原作や外伝を見たら確かに策士で頭いいんだよな…
だが問題はその矛先が正義と言い難いだけで…
あのギャグ話の裏にこんなことがあったとは…これはいい意味で上げ足取られたわw
371 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/28(土) 14:00:38 ID:WAcTptk9
杳馬、投下します。
372 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/28(土) 14:01:21 ID:WAcTptk9
座標H-4に存在するテレビ局。
そこに我が物顔で侵入するシルクハットとタキシードの男1人。
男の名は杳馬――天魁星メフィストフェレスの杳馬。
彼はこの場所をDr.テンマとの待ち合わせ場所とされたが、それも12時間ほど後のことである。
と言っても、彼は長い待ち時間を健気に待つ乙女ではない。


彼が生まれたのは1700年代の日本、徳川泰平の世のことである。
遠く離れたギリシャ、アテナとハーデスの戦いの駒として、彼は魔星に選ばれた。
その前から自覚はあった。殺人衝動、人を不幸に導く言葉。もっともそんな自分が彼は嫌いではなかった。
そして魔星の力を手にした彼は、同じ剣術道場にいた者を、師範や弟子、先輩後輩といった区分が馬鹿らしくなるくらい、ズタズタにゴチャ混ぜに斬り裂いたのだった。
373幕間劇『パルティータ』 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/28(土) 14:02:27 ID:WAcTptk9


――――話を戻そう。要するに、杳馬はテレビを知らない。彼はテレビが発明される遥か昔の人物である。
この施設が何のためのものなのか、把握しておく必要があった。
そして電源が落ちたスタジオにあった小道具やセット、撮影器具を見て彼は本能的に、あるいは小宇宙で感じ取った。
仕組みはわからないが、最初のルール説明で流れたような映像を作り、流す設備のようだ。


――これは俺のためにあるようなモンじゃねェか。


自分が狂わせた人間や聖闘士の人生を劇やダンスに喩える彼。それを幻覚能力の範囲内だけでなく大々的に映し出せるのだ。
人々はそれを見て何を感じるか。義憤か? 悲哀か? 歓喜か? それとも単なる娯楽か?
――ああ、考えただけでもいいマーブルだ。

もしかしたらこの実験の様子もどこかで放送されているのかもしれない。少なくとも主催者という視聴者がいる。
「でも折角なら生で見たいよなァ?」
ここではいくらでも直接、ぐるぐる回るマーブルをプロデュース出来るのだから。
杳馬自身が持つ、対象を遠くから眺める能力が制限されているのが残念で仕方がない、という程度。


――まあ扱いが分かんねェし役者もいないんじゃしょうがねェよなァ。
所内地図をちらりと見るとひらり、ひらりとテロ防止のため複雑化されたテレビ局内を杳馬は迷わず翔ぶ。
そしてひとつのスタジオに辿り着いた。
そのスタジオが特別であるのは唯一明かりが付いているのと、扉に貼られた張り紙を見れば一目瞭然だ。
374幕間劇『パルティータ』 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/28(土) 14:03:41 ID:WAcTptk9


『このスタジオからの放送は会場全体に流されます』


「意地が悪いねェ、この主催者も。もう一度会ってみてェくらいだ。ま、いずれ同じステージでぐるぐる回ることになるさ」


杳馬は興味をなくしたようにスタジオ近くの部屋の窓を破り街へと飛び出した。


杳馬の持つ情報はあまりにも少なかった。
放送の中身――情報は吟味しなければならない。
だが、今まで出会ったのはDr.テンマだけで、知り合いもテンマとパンドラくらいだ。
またそれを大々的に伝える趣味もない――新たなマーブルを生み出すなら別として。

たとえば嘘でテンマが悪人だと喧伝したところで、実際に彼に会ったらその考えを改めてしまうだろう。
親の贔屓目とは思わないが、それが天馬星座であるテンマの性質だ。
何より、地図でテレビ局を確認できるため、参加者が集まる要因を作ってしまう。
それは争いの種でもあるが、逆に大きな集団を作る切っ掛けでもある。
団体行動大いに結構。しかし、それはまず不穏因子を仕込んでからだ。
375幕間劇『パルティータ』 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/28(土) 14:05:05 ID:WAcTptk9


「あちこちで死人が出てから今更戦いはやめましょー、なんて言い出す奴が出るのを待ちましょうかね」


支給品にあったフクロウのストラップをいつもの懐中時計替わりに手癖で回す。
「くっくっく、せいぜい俺の悪知恵を助けてくれよ、パルティータちゃん!」
フクロウのマスコットに軽くキスをして、胸ポケットにしまいこんだ。




【H-4/テレビ局北/深夜】

【杳馬@聖闘士星矢 冥王神話】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品、フクロウのストラップ@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いというマーブル模様の渦が作り出すサプライズを見たい!
 1:面白そうなやつがいれば「闇の一滴」を植えつける。
 2:Dr.テンマが執着するヨハンに会ってみたい。
 3:会場のマーブルが濃くなったら、面白そうな奴に全体放送の存在を伝える。

※フクロウのストラップ@現実
「知恵」を司る鳥のお守り。可愛い。
杳馬の小宇宙に満たされているので、銃弾を弾くくらいは出来るかもしれない。
ただ、普通の人が持つと気分が悪くなるかも……
376 ◆2RguXBg.P2 :2010/08/28(土) 14:06:55 ID:WAcTptk9
投下終了です。
ギミックに是非があるかもしれませんが(広すぎだろ、とか)意見お待ちしております。
377創る名無しに見る名無し:2010/08/28(土) 22:21:45 ID:97IZgcux
投下乙です

ん…頻繁に使用しないのならこれでいいかも
広すぎというが特定のTVだけ映るとかも興ざめだし
378創る名無しに見る名無し:2010/08/29(日) 10:02:28 ID:sai9twvD
放送施設って他の作者さんも上手く使ってくれないと「何だったの、アレ」って感じになっちゃうんだよね。
アニロワ3rdの序盤でそんなことがあった。
379創る名無しに見る名無し:2010/08/30(月) 19:01:09 ID:a0uyLFW+
◆EHL1KrXeAU氏の作品を代理投下いたします
380創る名無しに見る名無し:2010/08/30(月) 19:02:25 ID:a0uyLFW+
この殺し合いという事件を解決するために必要なものがとにかく情報だ。
金田一少年は情報を集めるために残りの支給品の確認をすることにした。
名簿は先ほど確認した。食料、水、コンパスときて地図を見つけ、地図を開いてみた。

「コロッセオってたしかヨーロッパのどこかにあったやつだよなぁ〜ピラミッドまであるし…」

現代の一般的な世界に住んでいる金田一少年にはこの地図に困惑しているようだ。

(この教会まできた記憶も無い。気づいたらここにいた。今までの事件のトリックとは明らかに違う感覚だ。この不自然な建築物の会場も同じなのか?)

数々のトリックを解いてきた金田一少年。そのトリックは奇想天外なものもあるが、どれも一般常識の範囲内。
それを間近で見続けてきた彼だからこそ、理屈ではない違和感として超常現象を受け入れ始めているのかもしれない…

「まぁとりあえずRPGの様なごちゃ混ぜな地図ってことだろ。ゲーマー金田一様を舐めるなよ!こういったマップからヒントを得る位朝飯前だぜ!」

「俺がいるのは教会…でいいんだよな。てことはF-1だな。
ん?なんでここの女神像ってのだけ完全に島になってるんだ?ゴッサムタワーがあるところも一応橋のようなもので繋がってるのに」

探偵というよりゲーマーとしての経験からか、違和感だらけのこの地図の中から特に気になる部分を上げていく。
金田一少年がいるのは地図のちょうど西端。進む場所をある程度限定しないといけない。
しかし、どこに進んでも情報になりそうな気になる建物であふれているため考えが中々纏まらないでいた。

(美雪やおっさんなら一体どこに向かう?俺は気づいたらこの教会の中にいた。
教会と俺を結びつけるものは無い。となるとランダムが可能性として一番高いだろう。
ってことは美雪たちもどこかにランダムな位置からスタートしてるはず。)
381創る名無しに見る名無し:2010/08/30(月) 19:03:42 ID:a0uyLFW+
「あぁ〜もうわかんねぇ〜よ。クソッ!」

思わず愚痴が漏れる。
先ほどからいくら考えても情報が足り無すぎる。
いくら名探偵の孫として数々の難事件を解いてきたからといって、何も神様や、それこそテレビの「ヒーロー」のごとく無から全てを理解できるものではない。
ピースが足りないとパズルが完成できないように、情報がないと推理も完璧には出来ない。
だからといって、考えることを辞めるわけにはいかない。

(落ち着け、俺。今俺に必要なのは情報だ。
美雪やおっさんの居場所も、名簿からのグループ分けの推理も、この会場のことも、そして、この殺し合いを仕組んだ主催者のことも)
「やっぱし自分で調べてみないと始まらないか。気になる建築物は多いが女神像。あそこだけ道が繋がっていない。
な〜んか気になるんだよなぁ。あからさまだけど調べてみる価値はあるか。
海沿いを歩いて行けば病院、海の家、テレビ局なんかもあるし、そっちも人が集まりやすそうな施設だから向かうついでの調べてみよう。
そこで誰かに会えれば美雪たちの情報が手に入るかもしれないしな。」

大体の行く方向を決めていざ出発。

「っと、そうだった。支給品の確認もしなきゃ。」

金田一少年に支給されたものは1つの赤い球と2枚の紙だった。
紙にはこう記されている。

【レイジングハート:インテリジェントデバイス 魔法発動の補助的な役目を果たす。】

「この赤い球がレイジングハートっていうのかな。魔法ねぇ。つくづくRPGっぽいな。
まぁこれはフミのやつが隠れて見てたアニメのおもちゃみたいなものかな。」
382創る名無しに見る名無し:2010/08/30(月) 19:04:34 ID:a0uyLFW+
そう言ってそれを一旦しまい、もう一枚の紙を見てみた。

【箱庭学園風紀委員の一人が自転車殺法に使う自転車 教会の裏に置いておくから持っていってね。】

「自転車殺法……?コッチの紙に書かれているのも怪しいが出発の前に見に行ってみるか。」
広げていた荷物をまとめ、紙の指示通り教会の裏手まで足を運んでみた。
 
「おっ、あったあった。自転車殺法ってのが心配だったが只のママチャリじゃん。これなら俺も乗れるな。」

(護身用の武器になりそうな支給品は無かったな。まぁ武器が出てきても俺には多分使いこなせないし、俺の武器はこの『推理力』だ。
チャリで移動時間が短くできるのは助かる。夜道は多少危ないがライトはつけないほうがいいな。)

金田一少年は自分でできることを必死で考えた。自分にできるのはじっちゃんゆずりのこの推理力だ、と。
この実験では、この推理力を生かさないことには自分はおろか美雪を犯罪者の手から守ることが出来ない。
そのための情報を集めるために自ら会場を動いていこうと考えた。

「美雪、待ってろよ。必ず探し出してやるからな。」

こうして少年は病院に向かうべく、森を抜け市街地へと自転車で走っていった。


そのころ、かばんの中でレイジングハートは考えていた。
何故自分がマスターである高町なのはから離れているのかを。この少年は一体何者なのかを。
マスターの知り合いなのか?それともマスターの敵なのか?

彼女?が状況を知るのはまだ先のようだ。

【Fー1 教会付近の森の中/一日目・深夜】


【金田一一@金田一少年の事件簿】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:風紀委員の自転車@めだかボックス
 [持物]:デイパック、基本支給品、レイジングハート(スタンバイモード)
 [方針/目的]
  基本方針:自分の信じる正義の下、謎を解き明かす。
  0:自分をHorと推測し、それを前提とし行動する。
  1:とりあえず病院に向かう。
  2:その後南下し、海の家、テレビ局周辺施設と調べながら女神像を目指す。
  3:Iriと合流したい。(美雪優先)
  4:高遠を警戒。
 [備考] ※美雪をIri、剣持をHorかIri、高遠をSetと推測し、それを前提に行動しています。
      またその推測が外れている可能性も視野に入れています。

※レイジングハートがベルカ式カートリッジシステムになっているかはまだわかりません。後の書き手様にお任せします。
383創る名無しに見る名無し:2010/08/30(月) 19:05:21 ID:a0uyLFW+
代理投下終了しました
タイトルは「金田一少年の冒険」だそうです
384 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/31(火) 00:55:24 ID:gDYQGeRW
ゴードン、ルンゲ、結城投下します
ウェイン邸から外に繋がる公道はなかった。
ゴッサム郊外に位置し、多くの社交人に足を運ばせた豪邸は、今や森と丘に囲まれて孤立している。
ウェイン邸の所有者……このゲームに『バットマン』として参加している男の名はブルース・ウェイン。
その協力者にして、ゴッサムの治安を守るゴッサム市警本部長、それがこのジェームズ・ゴードン。
彼は木々を薙ぎ倒して進むジョーカーモービルの中から、その光景を引きつった笑みを浮かべて眺めている。
ゴードンが先刻探索したウェイン邸は、細部にいたるまで本物としか思えない出来だった。
生活臭すら残っている、今にも廊下の角からあの老執事(バトラー)が顔を出しそうなリアリティ。
あれほどの贋作を作れるこのゲームの主催者のバックグラウンドはゴードンには想像もつかない。
最も、ゴードンは今も昔も頭で戦うタイプの警察官ではない。

「だが足を使うにしても、その足がこいつではな……」

手元のリモコンを操作しながら、ぼやくゴードンの額には汗。
もしバットマンに遭遇しても、この悪党のお手製マシーンに乗っていては気まずい。
あの男も自分と同じように、よく知る場所に向かうだろうか、とゴードンが意識を回す。
アーカムアサイラムとゴッサムタワー(これらも完全に再現されているのだろうか?)、
そして自分が出立したウェイン邸。やはり、ウェイン邸に来る可能性が一番高いのだろうが……。

「バットマンが、安息の為に旧知の場所に向かうだろうか? 一応ルンゲにメモは渡しておいたが……」

ウェイン邸から出る直前、ゴードンはルンゲにバットマンへの"繋ぎ"となる署名を渡しておいた。
どれ程の数の犯罪者が集められたのか分からないのだ、自分が死ぬ事も予測しての行動であった。
車体前面に備えられた道化の顔の意匠が、折れた木から毀れる葉に覆われる。
ゴードンの見る限りでは、この辺りに群生している植物はゴッサムのそれとは違う。
建物を似せて作ることは出来るかもしれないが、このゲームの為に島の環境を操作する事など出来る筈がない。
つまり、これらの木々はこの島固有の物だと推測できるということだ。
脱出後にこの島に捜査の手を伸ばす為に、採取しておいた方がいいかもしれない。

「まあそれはいつでも出来るか。……む!?」

ふらり、とジョーカーモービルの進行方向に人影が現れる。
場所が森林であり、スピードがほとんど出ていない事が幸いして接触前に機体停止に成功する。
とはいえ、ここまで接近したなら木々を薙ぎ倒してモービルが進む音は聞こえていたはずだ。
ゴードンが険しい顔で、現れた人影に眼を向ける。
……少女だった。年は16,7といったところだろうか?
外見からは危険は察知できないが、容易く用心を解くゴードンではない。
スピーカーを操作して、少女に問いかける。

『何をしている? 何故この車に近づいてきたんだ!?』

「あ……足を……」

呻くように言う少女を見ると、左足を引きずっている。
挫いたのか、それとも骨折しているのか。
ともかく窮地に陥って、助けを求めてきたということなのだろうか。ゴードンは、少女を注意深く観察する。
制服と思われる服装には誰かと争ったような形跡はない。
両手を出しているので、銃を隠し持ってこちらが出てくるのを待ち構えているわけでもなさそうだ。
ディバッグに何かを潜めているのかと見てみるが、身体から少し離れた場所に取り落としている。
疑わしい点はない。そう判断すると、ゴードンは素早くモービルから降りて少女に手を差し伸べた。

「済まない、お嬢さん。待たせてしまっただろうか。なにしろこんな状況だからね。
 私はジェームズ・ゴードン。ゴッサム市警に努めている」

「いえ……当然の事でしょうし……ゴッサム? あの、何処の国の……」

「アメリカだよ。ああ、警察手帳もある。確認してくれ」

警察手帳を取り出したゴードンは、懐にテイザーガンを忍ばせている。
少女が何か敵対行動をとれば、すぐさま取り押さえる準備は出来ているのだ。
その警戒を知ってか知らずか、少女は大人しくゴードンの手を握って立ち上がり、まじまじと手帳を見つめる。
幼さを残すその物腰がゴードンの警戒を和らげ、重々しく引きずる足が庇護心をくすぐる。
ゴードンはとりあえず名前を聞き、"七瀬美雪"と称した少女をモービルに乗せた。

「とんだとんぼ返りだが……あそこには確か医療品も十分にあったはずだ。やむを得んな」

「ごめんなさいね、迷惑をおかけして。でも見ず知らずの私に優しくしてくれるなんて、嬉しいです」

「君はゴッサム市民ではないようだが……市警官としては見捨てるわけにはいかんからな」

「おじさまは警察の方なんですか?」

「ああ。 ……一応聞くが、銃など持っていないだろうな? 君のような子は使い方も知らんだろうし、
 この状況で取り上げるつもりもないが、あんな物は使わんに越したことはないぞ」

「ええ……鉄砲なんて、怖くて私にはとても……私が持っている武器は、あの丸太だけです」

(それにしてもナナセくんは何故丸太を……)

美雪は、護身用に拾ったと言って丸太を持ち運んでいた。
先程は余りに自然に転がっていた為、ゴードンには武器として認識できなかったのだ。
運転席の半分を占領する丸太に眼をやり、ゴードンが冷や汗を流す。
このような持ち運びの不便な物を武器として選ぶなど、かなり精神が衰弱しているに違いない。
一刻も早い治療とメンタルケアが必要だ。ゴードンは無線機を取り出して、ルンゲに通信を飛ばした。






「私はブルース・ウェインだ。この館の所有者だ」

ドイツ連邦捜査局警部、ハインリッヒ・ルンゲは鏡を見ながらつぶやく。
ウェイン邸の一室、様々な美術品が並べられているそこには、人間の全身を映せる鏡が設置されていた。
ルンゲ得意の捜査法……対象になりきってその思考を読み、行動を推察するテクニック。
彼はそれをこのゲームの主催者ではなく、ウェイン邸の持ち主『ブルース・ウェイン』に対して使用していた。
ゴードンから得た、彼についての情報は既に脳髄にインプット済みだ。
虚空でキーボードを打つような仕草をしながら、鏡に映った自分の姿を大富豪に置き換える。

「金は掃いて捨てるほどある。会社の経営は優秀な部下に任せている。間違っても赤字は出ない」

ルンゲの手には、ブルースが経営するというウェイン社の帳簿が握られている。
この館を探索している途中、無造作に机の上に放られていたのを発見したのだ。
ブルース自身がこの帳簿をあんなところに置いて放置していたのだとすれば、
彼は会社の経営……あるいは発展に対して興味がないと考えられる。
会社は部下に任せて遊び人を気取っているという事はゴードンから聞いている。
なるほど、彼は仕事をするタイプの人間ではないらしい。

「……株式や役員報酬などを駆使すれば、金は増えるだけ、女も美術品もかき集め放題。不自由など何もない」

そう、ブルースは金に困ってなどいない。だが。
ルンゲの手にする帳簿には、見る者が見ればすぐに横領だと分かる、使途不明金が乗せられている。
会計収支報告書の項に計上された、数億ドルの“在庫処分費”。どんな人間でも気にする、怪しい金だ。
経営者であるブルースが気付かない筈もないのに、数ヶ月に渡って数億ドルは消え続けている。
ならば、これはブルース自身が行っている事なのだろう。社内上層部に共犯がいれば不可能でない。
何せ、訴える者がいないのだから、警察が介入する可能性もゼロだ。

「自分の会社から横領してまで、人間一人の楽しみには充分すぎる莫大な金を集める理由は……」


もう一度、美術品を眺めるルンゲ。
それら多様な遺物には、展示性も、関連性すらもない。
ただ、高い物をかき集めたというだけだ。
成金が集める美術品なら、そういう事もあるだろう。彼らは美術品の値段以外に興味を持たない。
だがブルースは、街の名士であり、慈善事業に大金を寄付する、洗練されたセレブだ。
そういった社交的ステータスを求めるに相応しい人間が、巨万の富を使ってこんな無秩序な美術品を集めるか?
美術品を集めるセレブは、そのコレクターとしてのセンスをひけらかす事をも目的としている。
同格の人間に見られれば、ブルースのコレクションは質の低いものと看做され、あるいは嘲笑されかねない。
ならば……ブルースの狙いは……。

「……無駄金を使っている遊び人だという"評価"こそが欲しかった。美術品自体に興味はない」

金を湯水のように使い、本当の目的の為により大きな額の金を得ている事を隠す。
能ある鷹は爪を隠す、という事だ。ブルースは何らかの目的の為に、道化を演じている。
地位も名誉も金も手に入れている彼が他人を欺いてまで欲するのは何だ? 権力だろうか?
いや、ブルースは権力を求めるような、他人を積極的に下に置きたがる性質の人間ではないはずだ。
もしそうならば、経営する会社を他人に任せることなどしない。
これ程の規模の屋敷に住んでいるのが、彼と執事一人だというゴードンの言葉が成り立たない。

「私には世間からの評価を歪める必要と、莫大な金を得て何かをする必要があった」

屋敷は全て見回ったが、美術品以外に何か金のかかりそうな物など何もなかった。
例えば重い病気にかかっている知り合いがいるとしても、彼が隠し持つ金の一厘でも使えば
最高の名医と最高の技術で治療に取り組む事ができるだろう。
この規模の額なら、何か画期的な発明開発、あるいは大コストの産業に手を出している可能性が最も高い。
それには巨大な施設が不可欠だろう。ニューヨークのどこかに、彼はそういった工場を所有しているのだろうか。
そこまで考えたルンゲの耳に、無線機の受信音が響く。

「まあいい。これから先は、"友人"に聞くとしよう」

ルンゲはブルースの思考のトレースを切って、無線機を耳に当てた。





「彼女は?」

「ナナセミユキ……日本人らしい」

美雪とゴードンを迎え入れたルンゲは、値踏みするように初対面の少女を見つめる。
うら若き乙女の香水とも体臭ともつかぬ匂いに眉を顰めながらも、危険度がないと判断。
その香りをモービルの中で堪能しただろうゴードンに視線を回し、脅されているような雰囲気がない事も確認。

「ドーモ」

「? ど、どうも……」

日本人に対する礼儀と認識しているお辞儀をしてから、ルンゲはゴードンに向き直った。
頭に浮かんだ疑問を解決する必要があった。なぜ七瀬美雪は丸太を抱えているのか、ではない。

「ゴードン君。お前の親友、ブルース氏は何の隠し事をしている?」

「!? な、なんだ藪から棒に。この館で何か見つけたのか?」

「これだ」

「む、これは……彼が横領をしていると? 彼の会社……ウェイン社からは被害届けも出ていないし、
 そもそもよからぬ企みに大金をつぎ込むような男ではないと私から断言できる男だ、ブルースは。
 仮にこの帳簿操作の犯人が奴だとしても、きっと何か子供のための新しいテーマパークでも建てるんだろうさ。
 そもそもここが本物のブルース邸だという確証もない。彼の人柄を疑わせる為の罠かもしれないじゃないか」

ルンゲが、ゴードンにウェイン社の帳簿を投げ渡す。
受け取るゴードンは一瞬ホッとしたような表情を見せて、帳簿を流し読みして懐に入れた。
テーマパーク云々はジョークだろう。そんな冗談が言えるほどに、ブルースはこの刑事から信頼されているのだ。
それら一連の様子を見たルンゲが、ブルースとゴードンに何か共通の秘密があることを察する。
今の会話と観察で得られた新情報が、指の特徴的な動きによってルンゲの脳に記憶されていく。
『ゴードンはブルースがこの館に何か見つかるとマズイ物を隠匿していると知っている』
『それは裏金を操作している証拠ではない』『市警に所属するゴードンが共に隠す事で何か双方に利益が出る物』
これ以上突っ込んでも、ゴードンは何も話さないだろう。ルンゲはいったん引いて、美雪に興味を移す。

「そうだな。どうも刑事をやっていると他人を疑う事から始めてしまってよくないな。
 ……ナナセくんも彼に疑われなかったかね?」

「はい。でも、刑事さんのような優しい人たちに出会えてよかったですわ。
 あの……差し支えなければ、私の知り合いの事を聞いても構わないでしょうか?」

美雪がそう言うと、ルンゲの目が光る。
人間の人となりを知るには、その者の交友関係を洗うのが基本だ。
名簿を取り出して、美雪がつらつらと挙げていく名前に丸をつけていく。
同時にゴードンとルンゲは頭の中で、美雪が語る人物を先程二人で語った三色に分けている。
"A、、法の執行者"。"B、一般市民"。"C、犯罪者"。
出来すぎている程、美雪の言う人物はそれに当てはまる者たちばかりであった。

「はじめちゃん……金田一一っていう子は私の幼馴染で、あの金田一耕助の孫なんです。
 日本の警察と協力して、いくつもの事件を解決してきた探偵で……あ、普段は学生なんですけどね」

(B。見方によってはA。……金田一耕助? 日本で有名な人物なのか? 聞いた事がないな)

「剣持警部、剣持勇さんは警察官です。私はよく知りませんけど……はじめちゃんとは仲がいいみたいです」

(A、だな。日本からも警察官が呼ばれているという事は、ルンゲの推察にも真実味が出てくる……)

「高遠遥一は日本では有名な殺人犯です。たくさんの人を殺していて、とても危険な人……だそうです」

(C。……やはり聞き覚えがない。あの国でそんな異常な人物が出ればこちらにも噂が届きそうなものだが)

美雪はそこでいったん言葉を区切り、二人の刑事の顔を眺めた。
二人からは、美雪の知り合いを知っているという反応は見えない。
ディバッグから地図を取り出して、美雪は更に続ける。

「他には、そうだ、この島に来てから結城美知夫さんという方にお会いしましたわ。
 彼にえっと……そう、この場所……B-6で、はじめちゃんを見たって聞いて、このあたりを歩いていたんです」

「どんな人物だったかね?」

「……誠実なかたでしたけど、他人を信用できないって言って、私と一緒に行動するのは拒否したんです。
 なんでもお友達の賀来巌という神父様に裏切られたとかで、引き止める間もなくどこかへ走って行かれました」

「酷い男だな。名前からすると君と同じ国の人間だろう? それもこんなお嬢さんを見捨てるとは……けしからん」

「無理もあるまい。この状況ではそれが普通の反応だ。……悪いが、我々は君の言う人物を一人も見ていない。
 これから出会う事も考えて、出来ればもっと詳しい人物像が聞きたいのだが」

「はい……ッ痛……」

ルンゲの質問に答えようとした美雪が、蹲って足を押さえる。
ゴードンが慌てて駆け寄り、治療を失念していた事を恥じて、ルンゲに医務室へ向かう了解を求めた。

「私もこの館の調査の途中だったし、構わないが……見たところ擦り剥いているだけに見えるが?
 恐らく捻挫も骨折もしていないだろう。消毒を済ませたらまた玄関の辺りに戻っていてくれ」

「この状況に巻き込まれている善良な一般人に無理はさせられんのでな。
 お国柄、そっちにはそういう意識はないのだろうが……まあ、あまり荒らさないでくれよ。
 偽物とはいえ、友人の家を物色されるのは余りいい気はせんからな」

「警官らしくもない台詞だ。よほどブルース氏を信用しているようだな」

ルンゲの言葉を最後まで聞かず、ゴードンは美雪に肩を貸して歩き去った。
カタカタと虚空を切る、ルンゲの指が止まる。ブルース・ウェインという人間の推察に必要な情報は全て揃った。
これからは彼になり切って、思考をトレースすることで真実を暴く時間の再開だ。
まず、ゴードンの言葉の一つ、「これは彼を疑わせる罠かもしれない」と言う物に注目する。
この言い方だと、まるでブルースがこのゲームに参加しているようにも感じられる。
ブルースが主催者たちに与していると誤解されている、と感じたゴードンが、それを否定しただけかも知れない。
だがその他にも、バットマンという探偵が収容所でも町の象徴の塔でもなくここに来ると推測したゴードンの判断、
そしてたった今見た、ゴードンのバットマンに対する信頼と、それに酷似したブルースへの信頼。

(仮面で顔を隠す探偵……正体不明のヒーロー……ブルースは自分への評価を歪めていた……。
 それは、何を隠すためだ? ……人の目を欺き、大金を使ってやっている事はなんだ?)

「私、ブルース・ウェインは、バットマンだ」

ルンゲが、結論に辿りつく。
あのジョーカーモービルという高性能の機体は、バットマンの所有物に対抗して犯罪者が作ったものだという。
少し見ただけでもかかる値段が分かるあんな怪物を、金持ち以外に誰が作れる?
バットマンという探偵の正体は犯罪を交えながら、犯罪者を私刑に処するヒーロー気取りの大金持ち。
まともな警察機関なら利用するはずもないが、ゴードンの国ならそんな見世物(ショー)じみた事をやるかも知れない。
だからこそ、ゴードンはバットマンの正体を隠していたのだろう。彼らの正義に従って。
だが、ドイツのルンゲと、アメリカのゴードンの正義は別物だ。ルンゲにはそれがよく理解できている。

「善良な一般人、など存在しない。我々が追うべき者は犯罪を犯した人間。
 守るべき者はまだ犯罪を犯していない人間だ。全ての人間は常に善と悪の二面性を持つのだから」

例えば、あのテンマのように、とルンゲが呟く。ルンゲの正義は、懐疑心を捨てないタイプの物だ。
きっとあのゴードンは、人間の本質は全て善だと考え―――性善説主義で行動しているのだろう。
バットマンはゴードンにとっては正義の味方かもしれないが、ルンゲにとっては……?

(バットマンが私の推察どおりの、悪人を自分の了見で裁く、ヒーローを気取るだけの人間であれば……
 管轄を遥かに超える相手であろうと関係ない。横領と公序良俗違反の容疑者として確保する)

まだ見ぬ蝙蝠男に、ルンゲが静かな炎を燃やし始めた。






消毒措置を終え、ゴードンが美雪の足に絆創膏を貼る。
幸いにも骨に異常は見られず、気を取り直せばすぐにでも普通に歩けるだろう、とゴードンは言う。
タフな彼ならばなんとも思わない傷であっても、少女にとっては辛いものだろう、と理解した上で。

「よし、これで大丈夫だろう。痛みは残るだろうが、少し休めばそれも治まるさ」

「ありがとうございます、おじさま……ところであのルンゲって刑事さん、なんだか怖いわ。
 すごくピリピリしてて、まるで猟犬みたいだと思いませんこと?」

「ハハ、きっとストイックな生活を送っているんだろう。信用できない男じゃあないと思うがね」

「そうかしら……あら。おじさまのお知り合いはまだ聞いていませんでしたわね」

ゴードンが、美雪に自分の知る人物と、ルンゲが語った人物評を教える。
ジョーカーが口が耳まで裂けた怪人だと聞かされると、美雪は顔を真っ青にして怯え、
医者の皮を被った連続殺人犯がうろついていると聞かされるとめまいを起こしたように首をしな垂れた。

「大丈夫か? 安心しろ、君も君の幼馴染も、必ず私たちが保護してやる。正義は必ず勝つんだ、
 君達一般人はただ待っていればいい……と言っても、じっとはしていられないだろうな」

「はい……はじめちゃん達と早く合流したくはあります……でも、ゴードンのおじさまが待てというなら、
 わたし待ってみせますわ。だっておじさま、とっても頼りがいがあるんですもの」

縋り付くように、震える指でゴードンの手を握る美雪。
白魚のように滑らかなその感触に、ゴードンが顔を赤らめる。
息もつかせず、美雪はゴードンの鍛え上げられた胸板に飛び込んだ。
むせるような汗の臭いに上気した顔で、美雪が視線だけを上げてゴードンを見つめる。

「ご、ごめんなさい……でも、怖くて、立っていられないの。おじさま、少しだけでいいから、
 このまま寄り添わせて……お願い、します」

「むう! ナナセ君、落ち着きたまえ。君は恐怖心で正常な判断力を失っている!
 吊り橋効果と言う奴だ……毛布を探してきてあげるから、しばらく眠るといい、そうすれば……」

「この気持ちもおさまるって言うの? でも、これは一時の気の迷いなんかじゃないわ!」

「大人をからかうもんじゃな……ムーーッ!」

悪さをした子供を叱るように口を開いたゴードンの口内に、美雪の小さい舌が滑り込む。
蝶のように飛び回るその悪戯な端子は、ゴッサム市警本部長の鉄の意志をも揺るがす程に手練れていた。
日本という国はこんな子供がこれほどのテクニックを身に付ける程性にオープンな国だっただろうか?
ゴードンは天上の快感を甘受しながらも、理性を引き起こして自分にしなだれる美雪を引き剥がす。
美雪は不満げに頬を膨らませると、唇が離れる間際にゴードンの口ひげを一本、歯で引き抜いていった。

「おじさまのお髭、美味しいですわ……もっと戴いてよろしいかしら?」

「いい加減にしないかナナセ君! 私には妻も子供もいるんだぞ!? こんな事をして懐柔しなくても、
 私はしっかりと君を守る! 見損なわないでもらいたい、まったく……」

「まだそんなことを言っていますの? 私は打算なんてちいとも考えてません。
 おじさまに奥さんがいても、あなたへの気持ちは変えられそうにないのです。あなたが好きです」

「と、ともかく……君と道ならぬ関係になるつもりはな……うおっ!?」

蠱惑的に唇に付着したゴードンの唾液を指でなぞり、泣き出しそうな目をする美雪。
そんな美雪に動揺を見透かされぬよう、一歩下がったゴードンが何かに躓き、転ぶ。
美雪が床に転がしていた丸太であった。顔を赤くしながら立ち上がろうとするゴードンに、美雪が圧し掛かる。
ゴードンの胸板を露出させ、もっさりと生えた胸毛を掻き分けるように撫でる。
篭った汗の臭いと女の香ばしい匂いが混ざり合い、ゴードンの鼻腔をくすぐる。
やがて美雪は男には使う機会がほとんどない、二つの突起を探り当てた。
片方の腕はその乳首を揉み解し、ゴードンの引き締まったヒップに伸びたもう片方の指は、排泄口を刺激する。

「あ……お……おお……」

「おじさま、気持ちいいですか? うまく声も出せませんか? 身動きも取れませんか?」

「く……ぐ……」
 .................
「じゃあ、薬が回ったんですね」

美雪の猥乱な攻勢に、餓体で遥かに勝るゴードンが一切の抵抗が出来ない理由。
ゴードンはそれを、性的な期待ではなく、薬物による弛緩、否、痙攣だと看破していた。
先の口付けのときに、何かを仕込まれたのだろうか?
美雪が懐から、水溶性と思われるカプセルを取り出し、ゴードンに示す。

「これ……ピクロトキシンって言います。安心してくださいね。致死量は盛っていませんから……」

「な……何、のつも、りだ……」

「おじさまのお口があんまり熱かったから……私も少し、効いてきちゃいました」

美雪が官能的に身を捩じらせ、ビクビクと腰を震わす。
何たることか、ゴードンの生殺与奪権は、今やこの少女に完全に握られていた。
全てはこのための芝居だったと言うのか。ゴードンは驚愕し、自身のズボンを下ろす美雪の動きを見ているしかない。
露出したゴードンのゴッサムタワーは薬物による影響だろうか、すっかり萎えてしまっていた。
美雪が懸命に勃たせようと奉仕するが、まるで反応する様子がない。
仕方なく、美雪は懐からもう一つの薬物カプセルを取り出してゴードンの菊座に捻りこむ。
薬学的に異常な速度で、ゴードンの逸物は下半身の血液の急激な流れに乗って逞しさを取り戻す。

「な……何を……」

「なに、死ぬ前にあんたにもいい思いをさせてあげようって思ってのことさ」

美雪の口調が変わる。男勝り、というにも乱暴すぎるその振る舞いはとてもではないが、
ゴードンが今まで見ていた可憐で清楚な少女と同一人物のものには見えなかった。
美雪はそう相手をした事のない領域のサイズの"それ"にも怯まず、激しくゴードンを蹂躙する。
やがてゴードンという雄雄しい花から湧き出していた蜜も枯れ、今にも絶頂を迎えそうに茎が、花が揺れる。
服薬の影響か、ゴードンには一切の性的感覚がなかった。

「お、お前は……何のために、わたしを、殺すと言うのだ……犯罪者なのか……」

「さっき、足を擦り剥いた時。わたし、その傷に唾をつけてね。知ってますか、このおまじない?」

「……?」

「そうすると消毒になって怪我が治るっておまじないなんだがね……ご存知の通り効き目は薄くて、
 歩くのがすっごく遅くなっちゃってねえ。でも、別にそのおまじないを恨んだりはしないよ。駄目元、って奴さ」

「……」

「さて、ここに不治の病に犯された、命がそう長くない男がいたとする。人類が今何億人いるかは知らんが……
 それらを一人殺すごとにね、一秒間だけその病人の寿命が延びるんだ。今考えたおまじないだよ。
 何人殺せば、まともな寿命になるだろうね? 最後までやり遂げて、おまじないの効果がなくても、
 所詮は迷信。吐いた唾と同じように、殺した人間についてもいちいち後悔なんてしないだろう?
 私にとっての殺人とはね、そういう事なんだよ。恨みとかじゃあないんだ。夢……そう、夢のためだよ」

「……」

「喋らなくなったねえ。下の方はこんなに元気なのに。……ああそう、わたしの夢は人類全部を
 私の死の道連れにすることでねぇ。自分が死ぬのに地球と人類が残ってたって仕方ないだろう?
 ……頭がおかしい奴を見るような目で見ないでくれよな。寿命が残っているのに戦争やらなんやらで
 自分から死んでいくような人間より、よっぽどわたしは正常だよ。悪徳と虚栄しかない人類の歴史を
 肯定して、そのくせ正義はこの世にあるだのと のたまう連中よりもよっぽど、ね」


美雪がつらつらと、狂った思想を垂れ流す。
ゴードンはその思考を一切理解できないが、言葉から彼女が本気だという事は思い知った。
恐ろしいのは、この少女はこのように狂っていながらも、悪魔じみた知性を手放していないという事。
ゴッサムの異常犯罪者達のようにケレン味のない、背景のないおぞましさのような物がある。
死の恐怖から異常な行動に走っている、と明言していながらまるで死を恐れていない。
そう、この少女、七瀬美雪は悪魔なのだ。メフィストフェレスとしか言いようのない、悪意そのもの……。
ゴードンが恐怖に支配されはじめた時、彼のスパームが迸る。快感の一切ない、生理現象だった。
子供のような無邪気な顔でその勢いに驚きながら、美雪はゴードンの警察手帳をクスねとる。

「おほっ、出た出た……これで目的は一つ達成。さて、こっちは……むう、流石に住所は書いていないか」

「住、所?」

「うん……このゲームにカタがついたら、君の奥さんと子供をもっと惨く殺そうと思ってね……本気だよ」

「な……!」

「理由? ないよ、人を殺す時はなるべく残酷にやる悪癖がついてしまっているだけでねぇ。
 そうするとね、人間は皆醜い本性を現すんだ。自分をこんな目に合わせたこいつを許せない! 殺してやる!
 ってな具合にね。悪人や汚れた人間ほど、自分のやったことを棚に上げてそういう目をするから面白い。
 おじさまのような真面目な、正義の側の人は、どうなのかな? と思って、試してみるだけさ」

美雪が、平然とそんなことを口にする。
つまり、彼女はこう言いたいのだ。
自分がこのゲームに生き残れば、ゴードンの家族を探し出して皆殺しにする。
それが嫌ならば、これから訪れる死までの短い間、美雪がここで死ぬように呪いかけろ。
運がよければ美雪はここで死に、家族は無事で済むだろう、と。
命乞いは……ゴードンへの物も、家族への物も一切通じないと、美雪は暗に告げている。
ゴードンは、そんな美雪にどう返答するのか? 悪魔を呪い、殺意をぶつけるか? 諦めて、心安らかに眠るのか?

「さあ、わたしを恨んでくれ。憎んでくれ。呪ってくれ。あんたの目が正義とは程遠い色に染まるのがみたいんだ」

「……う」

「うん?」

「違う、と言っ、たのだ、ナナセミユキ。お前は世、界が汚れてい、ると言っ……た。それが、違うと言うんだ」

「……」
396創る名無しに見る名無し:2010/08/31(火) 01:17:58 ID:AWHb3pMY
支援
397創る名無しに見る名無し:2010/08/31(火) 01:22:43 ID:AWHb3pMY
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398創る名無しに見る名無し:2010/08/31(火) 01:43:31 ID:eQsNangP
支援


「悪、徳と虚栄に、人類の全てが呑ま、れている? ハ……ハハハハハ! 狂人め!
 狂っ、ているのは、いつもお前達だけだ! 壊れた、窓から世の中を見て、いるクズが、偉そうに何を語る!?
 お前は真実を見て、悟りを開いたつもりにでもなっているのだろうが、人の本質はお前などとは関わりないッ!
 人は必ず最後には正義に、正しい道に辿りつく! お前もいずれ必ず、バットマンに捕らえられる!
 取るに足らない、アサイラムの一患者として、神でも悪魔でもなく、人間として死んでいくのだ!」

薬の効果さえも超越し、ゴードンが自らの正義を叫ぶ。
ゴードンは、悪に屈して悪になる事も、悪に屈して善を諦めることもしない。
正義を貫き―――そして、眉間に歪な刀身のナイフを打ち込まれ、絶命した。
美雪の表情には、うっすらと笑みが張り付いている。
彼女にとって、その表情こそが悪意の最大の発現。それをさせる程に、刑事の言葉には迷いがなかった。

「言ってくれたね、おじさま。あんたの家族を殺すのが本当に楽しみだよ……」

「っと、忘れちゃいけない。美雪の処女の血をこいつのイチモツに垂らして、と」

「この殺し方はちょっとやりすぎたかな……まあ、処女を奪われた乙女なら、これくらいはやるだろう。
 ナイフは……抜いていかない方がいいか。その方が自然だろう」

美雪は、テキパキと作業を行う。
保存しておいた処女の血をゴードンの亡骸にこぼし、とある状況を作り上げていく。
いずれこの惨状を目の当たりにしたもう一人の刑事が、残酷な勘違いをするように。
そしてその後、この小さな波紋が大きく広がって、このゲームを促進させることを願って。

「さっさとこんなお遊びは終わらせて、新しい計画を練らなきゃいけないんでね……美雪の事を悪く思うなよ、おじさま」

美雪は、その場を去る。
僅かな服の切れ端と、異形のナイフだけを残して。

ゴードンの正義は、今消滅した。
だが、彼の正義は未だ敗北していない。
同じ正義を掲げる者に引き継がれ、そしていつか……。



【ジェームズ・ゴードン@バットマン 死亡確認】
【残り 53人】




美雪の変装用具を取って、結城美知夫が正体を現した。
ウェイン邸を窓から脱出し、調子を取り戻した足でB-4の砂漠に踏み入っている。
ゴードンとルンゲとの出会いは、結城が思っていたより多くの収穫を彼にもたらした。
特に、自分の名前をあの国の警官でさえ知らなかったという事実。
これは、絶対に有り得ないことだ。あれほどあの国をコケにした自分の名前が、
その国の軍部、引いては警察権力に所属する者に知られていないなど有り得ない。
その上、美雪の語った金田一耕助を二人は知らず、そのルンゲとゴードンの間でも、
なにか認識が食い違っているような印象を受けた。
やはり最初に感じたように、このゲームに招かれている者の大半は別の世界から呼び寄せられた者らしい。
もともと、結城美知夫は世界との心的繋がりが薄い男である故に、難なくその考えを信じる事が出来たともいえる。
そういうわけで今暫くは素顔と名前を晒して行動し、他の参加者の反応を見てみようと変装を解いているのだ。

「あのふざけた車は欲しかったが……脱出時にあまり目立ってルンゲに見つかっても困っていただろうしな」

夜の砂漠は寒い。肩を震わせながら、結城はとぼとぼと歩き続ける。
結城がこちら側に来た理由は二つ。
一つは、ルンゲの行動を予測しているから。
ルンゲには、自分がB-6……本物の美雪の死体が転がっている場所に向かうと伝えてある。
脱出する際には、こちらに移動したのが分かるような痕跡は一切残していない。
信頼していた警官に強姦され、その警官を殺して逃げる少女が縋るものが幼馴染の目撃情報だけだと、
あの賢そうな刑事なら簡単に推測できるだろう。ゴードンのような正義の塊のような男が劣情に駆られて
犯罪を犯したと知れば、同じ刑事であれば疑問に思うかも知れない。
だが疑問を抱くからこそ、少女を追いかけて詳細を聞きたがるのは当然だろう。
そしてルンゲは、変わり果てた美雪の死体を見つけるだろう。これで、あの事件の加被害者は全て闇に葬られる。
ルンゲの心には法を守るべき自分の仲間が狂気に駆られたという事実だけが残るのだ。

「そうすればこちらの物……彼は恐怖に駆られ、このゲームを手早く済ます手助けになってくれるかもしれない」

そこまでは望めないにしても、彼が今後出会う人物に警戒を強めることは間違いない。
結城はゴードンがあそこまで信じ、自分の代わりに結城を捕らえてくれると言ったバットマンに、興味を抱いている。
それほどの素晴らしい人物が、友であり刑事でもあるゴードンが少女をレイプして死に追い込んだと聞けば、
どんな表情をするだろう?そして、そんなスーパーマンを殺せば自分はどれだけの快感を得られるのだろうか。
手に僅かに残ったゴードンの精液を舐め取って、他人の不幸と絶望に胸を躍らせる結城。

「ウフフ……まあ、そんなおっかない奴にホイホイ近づくほど余裕があるわけじゃないがね。
 おっと、オアシスが見えてきた。あそこでチョイと休みたくもあるが、そんな余裕もないときた」

砂漠を進む二つ目の理由、それは美雪に支給されていたアイテムの一つが原因だ。
ピラミッドに隠してあるという何らかの乗り物の在り処と、その鍵。
美雪は遠すぎるのと、砂漠を徒歩で横断する自信がなかった事から諦めたようだ。
行きたいところに素早く移動するには、足となる物が欲しい。
結城はそれを手に入れる為に、肌寒い砂漠を静々と歩き続けている。

「ピラミッドってのも一度見てみたいしねぇ。女神像といいカジノといい、
 このゲームの主催者はまったく旅行好きの日本人のツボを心得てるじゃあないか」

自分が死ぬ日に人類の歴史も終わらせると決めている結城にも、
娯楽を楽しむ程度の人間性は残されている。先程猟奇的にゴードンを殺害した事ですら、
結城にとっては娯楽のレベルでしかない。自分と因縁のある人間には、もっとじっくりと甚振る事を好む男なのだ。

「因縁と言えば、俺がこの島で知っているのは神父だけ……だからといってうちの世界から
 来ているのが俺と神父だけだなんて短絡的に考える事は出来ないが、もしそうなら楽なんだが」

結城は、神父……賀来巌に対してだけは、執着らしき感情を持っている。
そして、その感情は神父からも向けられていると自負していた。
彼は本当に、結城の悪事を触れ回って陥れるようなことが出来るだろうか?
結城としては、そう簡単には神父は自分と決別できないと思いたいところだったが、
既に神父と結城の関係は行くところまで行き着いてしまっている。
早めに見つけて、始末してしまった方がいいだろう。

「問題は、この俺が神父を殺せるか、だな……まあ、なるようになるさ、ケセラセラ……」

オアシスを素通りして、結城は砂漠に消えていった。



【B-5/ウェイン邸:黎明】
※ウェイン邸の医務室(医療品が多く保管してある部屋)にルールブレイカー@Fate/stay night
  とゴードンの荷物が全て放置。

【ハインリッヒ・ルンゲ@MONSTER】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、『黒の船』のコミック@ウォッチメン、小型無線機B、不明支給品0〜2
 [思考・状況]
 基本行動方針: ケンゾー・テンマを捕まえ、また今回の事件を仕組んだ犯人も捕まえる。
 1:ウェイン邸をもう少し探索して、手がかりを探す。
 2:ブルース・ウェイン(=バットマン?)に不信感。
[備考]
ヨハンの実在と、テンマの無実を知る以前より参戦。
ゴードンより、バットマン、ジョーカー、ポイズンアイビーに関して情報を得る。
美雪(結城)より、金田一一、剣持勇、高遠遥一、結城美知夫、賀来巌に関して情報を得る。
犯人のグループ分けを、[法の執行者]、[一般市民]、[犯罪者] ではないかと推論。
朝6時に、正午にそれぞれ、ゴードンとウェイン邸かそのほか何処かで落ち合う約束。



【B-4/オアシス前:黎明】

【結城美知夫@MW】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康 左足に擦過傷(処置済み)
 [装備]:丸太 
 [道具]:基本支給品
      カツラ三点セット(栗色のツインテール、ピンク色のセミロング 黒髪のカツラ )
      私立不動高校制服 薬物入りカプセル三点セット(精力増強剤・痙攣誘発剤・???)
      乗り物の鍵と隠し場所の地図
 [思考・状況]
 基本行動方針:生き延びて、世界滅亡の計画を築き直す
 1:しばらく本名と素顔で行動してみて、自分と神父以外に自分の世界から来た人間を探してみる。
 2:ピラミッドに向かい、乗り物を調達する。
 3:バットマンに興味。
 [備考]
 ※原作終了後からの参戦。
 ※薬物入りカプセルの最後の一つの内容は、後の書き手氏にお任せします。
 ※ピラミッドに隠されている乗り物は、後の書き手氏にお任せします。

【支給品解説】

【薬物入りカプセル三点セット@現実】
三種の薬物が入った水溶性のカプセルが5〜20粒づつ収められた徳用アイテム。
現実出典だからといって侮ってはいけない。
全身ブルーレイことDr.マンハッタンの手によって即効性などを大幅に強化されているぞ。

【ルールブレイカー@Fate/stay night】
正式名称は「破戒すべき全ての符」。サーヴァントの一体、キャスターが使用する宝具。
歪な形をした短剣であり、その効果はあらゆる魔術効果の無効化。
武器としての威力は普通のナイフくらい。

【乗り物の鍵と隠し場所の地図@オリジナル】
ピラミッドに隠された乗り物の鍵と隠し場所の地図。
403 ◆2XEqsKa.CM :2010/08/31(火) 01:50:11 ID:HVxYRL4I
以上で投下終了です。
さるの中支援してくれた方ありがとうございました。
404 ◆KKid85tGwY :2010/09/03(金) 01:26:16 ID:pnPIoEWD
ヴォルフガング・グリマー、我妻由乃、人吉善吉、本郷猛、夢原のぞみ、投下します。
405正義の業 ◆KKid85tGwY :2010/09/03(金) 01:27:20 ID:pnPIoEWD
 仮面ライダー、本郷猛は改造人間である。
 彼を改造したショッカーは、世界制服を企む悪の秘密結社である。
 仮面ライダーは人間の自由の為にショッカーと戦ったのだ。
 そしてそれは何もショッカーだけに限らなかった。
 ショッカーの後身組織ゲルショッカー、デストロン、デルザー軍団、ネオショッカー、そしてBADANと
 人間の自由と平和を守る為、数限りない敵といつ果てるとも知れない戦いを今も続けている。
 そう、何より本郷が悪の秘密結社とその尖兵である怪人と戦う理由
 それは改造人間だからでも異形の怪物だからでもない。
 その暴挙が人類の自由と平和を脅かすから、敢然と立ち向かうのだ。

 だから人吉善吉が、彼を正義の味方だと推測したのは全く精確を得ていると言えた。
 仮面ライダーは、まさしく己の正義のために悪と戦う戦士なのだから。
 だが善吉にも分からないことがある。
 仮面ライダーが戦うということの意味を。
 ショッカーの相手でも、ゲルショッカーでも、デストロンでも、デルザー軍団でも、ネオショッカーでも、BADANでもなく
 仮面ライダーが殺し合いを戦うという意味を。

 人吉善吉は未だ知らない。正義の業を。
 本郷猛は未だ逃れられない。正義の業から。


     ◇


 エリアの区分によればG-6の川岸。
 夜明け前ですっかり低くなった月の光が川の水面に帯を作っている。
 そこに1組の男女が佇んでいた。
 男は長身のドイツ人、ヴォルフガング・グリマー。
 女は日本の中学生、夢原のぞみ。
 まるで接点の見出せない2人が、なぜ共に行動しているかと言うと
 それは同じ殺し合いに参加させられた者同志であり
 かつ、その中でも共通した目標に向かっているからだろう。
 2人は今、ドリームコレットの探索を目標に協力していた。

「それじゃあドリームコレットを探しに、しゅっぱーつ!」
「……どこに?」
「だから、ドリームコレットを探しにだよ」
「……うん。だからどの方向に行くとか、どの施設を目指すとかはあるのかな?」

 ただ同じ目標を持つこの2人の間には、若干の温度差が存在していた。
 意気揚々と出立しようとするのぞみをグリマーが呼び止める。
 グリマーの質問にきょとんとした表情を見せるのぞみに、どうやら具体的な目的は無いらしい。
406正義の業 ◆KKid85tGwY :2010/09/03(金) 01:31:56 ID:pnPIoEWD
 しかしなんとなく予想が付いていた事態なので、グリマーは特に動揺するでも無く
 予め考えていた自分の意見を述べた。

「ドリームコレットがここにあるなら、多分それは参加者への支給品という形になる。
つまり人が集まりそうな所に行って、他の参加者と接触しながら情報を収集するのが手っ取り早いんじゃないかな」
「うんうん。……人が集まりそうな所?」

 グリマーは腕を水平まで上げて指差す。
 その先には巨大な円形の人工建造物が見えた。

「とりあえずあのコロッセオは目立つ上に地図上でも中央に位置しているから、人が集まりそうだね。
ここからも迷わずに行けそうだし。その分危険も大きいけど、今は多少の危険をおしてでも動かないと始まらないからな」

 グリマーが目的地として指示したのはコロッセオ。
 現状のグリマーたちは、何を判断するにも圧倒的に情報が足りない。
 だからまずはその収集のために、他の参加者との接触を優先しようと考えた。
 当然リスクも高まるが、グリマーとてかつては旧東ドイツの諜報員。
 危険地帯での立ち回りもそれなりに心得ている。

「うわあ、おっきーい! あれ、もっと近くで見たーい!!」

 コロッセオを見て瞳を輝かせるのぞみに異存は無いようだ。
 状況に対して必要な危機感と緊張感は足りているのか、甚だ不安になるが
 のぞみに対し無闇に心配しても切りが無いことは、出会ったばかりのグリマーにも容易に察しが付いた。

「それじゃあ今度こそドリームコレットを探しに、しゅっぱーつ!」

 コロッセオに向けて走り出すのぞみを、グリマーが慌てて追いかける。
 そして無闇に走ったら無駄に体力を消耗すると、のぞみを説得。のぞみも何とか納得した。
 やはりのぞみには、もう少し落ち着いて欲しいと願わずにはいられない。

「そういえば、君はピンキーキャッチュ以外の支給品は確認したか?」
「ううん、まだだよ」
「実は俺もまだなんだ。出発の前に確認したほうがいい」

 自分のバックパックを探るグリマー。
 その隣から突如、ドオンと何か多大な重量が地面に落ちた轟音が響いた。
 グリマーは緊張に身を強張らせながらも、即座に音の方向を見る。
 そこには窓ガラスまで装甲で覆われている、長方形の巨大な車両と
 傍らでバックパックを落とし目を丸くしているのぞみが有った。

「…………これは一体……?」
「……えっ? ああ、この車、鞄から出てきたの!」
「……これも鞄から出てきた支給品…………」

 窓まで装甲まで覆われた大型車両は、おそらく護送車だと思われる。
 ナンバープレートの表示は日本の物だ。
 こんな物がバックパックに入っているなど、普通ならとても信じられないが
 前後の状況から見て、のぞみの話は事実なのだろう。
 この車が特別製。と言うことではなく、鞄の方が特別なのか。
 車の方は、有用な支給品と言える。
 移動だけでなく、強力な武器や防具にもなり得る。
407正義の業 ◆KKid85tGwY :2010/09/03(金) 01:32:48 ID:pnPIoEWD
 ただこれで移動するとなると、相当目立つ形になるが。

「すっごーい! これなら、あの円い建物まですぐに行けるね!」

 驚き思案するグリマーを余所に、のぞみの方はあっさり事態を受け入れ
 さらに車で移動する気満々のようだ。
 素晴らしく順応性の高い人物である。
 この性格だから、妖精だの異世界だのの話も受け入れてしまえるのだろうか。
 彼女を見ていると余計なことにまで気を回している、自分が馬鹿馬鹿しくなる。

「そうだなァ……体力も温存できるに越したことは無いしねェ」

 どうせ絶対安全な移動方法など無いのだ。
 それなら多少の危険は伴っても、速度を優先させることにする。
 車の運転は、スパイに必要な技能として教わっている。
 グリマーは運転席、のぞみは車両の後部に乗り込む。

「それじゃあ今度の今度こそ……しゅっぱーつ!」

 グリマーはのぞみの能天気さに若干の不安と、そして奇妙な心強さを覚えながら。
 コロッセオに目指してアクセルを踏んだ。


     ◇


 人吉善吉がオープンカフェの席から眺める街の光景は、ひたすら寂寥感に溢れていた。
 色とりどりの看板などで装飾されている店舗は並んでいる。
 道路は隅々まで舗装されている。
 しかしそこには人間が居ない。
 目に映るところにだけでなく、居並ぶ建物の中にも
 それだけではなく街の全てに、人間が居ないのであろう。
 つまりここは市街地の形をしていながら、あらゆる意味でその機能を果たしていない
 文字通りの意味でのゴーストタウンである。

 街を見ても重い気分は晴れないと、善吉はテーブルを挟んで対面の席に座る人物に視線を戻す。
 しかしやはり先ほどまでと同様、町並みを見るより更に気分が重くなる。
 別に相手の人物に嫌悪があるわけでも、相手が無用に威圧してきているわけでも無い。
 だがその人物が無造作に放つ重厚な雰囲気に、どうしても圧倒されてしまうのだ。
 その人物は本郷猛。
 本郷は何をするでもなく、無表情なまま沈黙しているだけだ。
 それでも人格ゆえか、その人格が培ってきた歴史背景ゆえか理由は推し量りようが無いが
 まるで巨大な歴史建築物に囲まれたような、重い威厳があった。

 そもそもなぜ街角のオープンカフェで、男同士が向かい合ってるのかと言うと
 1人でDIOを倒しに行こうとしている本郷と、それに付いて行こうとする善吉が
 意見の相違から話し合いをする流れになったため、2人で
 ちなみにバイクは、本郷がオープンカフェの席の横に止めている。マナーの悪い話だ。
 話し合うといっても善吉の方はすでに気持ちが決まっていて、それもはっきりと伝えている。
 後は本郷の話を待って、それに反論して説得するだけである。
 沈黙をする本郷に焦れながらも、善吉は心中で覚悟を定める。
 自分の意思を、そして本郷が何を言おうとそれを通すことを。
 やがて本郷はゆっくりと、語り出した。

「奴が少女の死体を盾にした時、俺はなぜ攻撃を止めたと思う?」

 しかし、話題は善吉の予想外の方向から来た。
 若干の焦りを覚えながらも、善吉は質問の意味と答えを思案する。
408正義の業 ◆KKid85tGwY :2010/09/03(金) 01:36:53 ID:pnPIoEWD
 本郷さんが夜神粧裕を攻撃できなかった理由。
 そんなものは、正義のためしかないだろう?

「…………そりゃ、粧裕ちゃんが血色を取り戻したからじゃ無いんスか……?」
「あれは奴による血液の操作のためだ。あの状態から人間が生き返るわけが無い」

 いや、分かってたよ! でも他に理由なんて有んのか?
 善吉は内心憤るが、それを表には出さない。出せない
 決して威圧しない本郷の威厳が、相変わらず重く圧し掛かっているからだ。
 本郷は自分の喉元を指す。

「あの状態で少女……粧裕の顔を攻撃していれば、彼女の首輪も破壊している所だった」

 首輪?
 本郷の言葉の意味が分からず、善吉は釈然としない表情を露にした。
 それを見て本郷は初めて、少しだけ笑みを浮かべる。

「俺の目的は人々を守ることだ。そして殺し合いから人々を守るためには首輪を解除しなければならない」

 そこまで説明されれば、善吉にも理解できた。
 主催者が参加者に殺し合いを強要できているのはその命を握る道具、首輪の存在があるからだ。
 逆に言えば、首輪さえ外せば殺し合いは成立しなくなる。
 そして首輪を解除するためにはその内部構造を知り、解除方法を解析しなければならない。
 そのためには当然、首輪を解析するためのサンプルが必要になる。

「首輪はDIOを倒して回収する予定だったが、戦いの中で破損する可能性もある。
その時は粧裕から回収しなければならない。死体の首を切断してな」

 だから粧裕ちゃんの首輪を攻撃できなかったのか。
 たしかに無残に死んだ彼女の首をさらに切り落とすなんて、酷い話だ。
 だがそれだって必要なことだ。それ位、俺も理解している。
 それで軽蔑されるとでも思ってるなら本郷さん、それこそそっちが俺を軽蔑してる。

「どうやら君は誤解しているようだな」
「誤解!? 粧裕ちゃんを攻撃できなかった理由がか?
そんなことは関係ねー! 俺はあんたが正義のために戦っていることを知ってる!!」
「正義のため、か…………。君が誤解していると言うのは俺のこと、そして君自身のことだ」

 本郷さんの瞳に憂いの色が浮かんだ。
 覚悟を決めたはずの善吉は、全くその意思が読めない本郷に気圧される。
 誤解? 何が? この人は何が言いたい?

「俺はDIOを倒そうとしていた」
「……そこはちゃんと理解できてますよ?」
「倒す、とは殺そうとしたと言う意味だ。俺には何もしてこなかったDIOに、一方的に仕掛けてだ」
「……………………」

 分かっているさ。
 それでもあんたはヒーローで、DIOは悪だ。
 俺にだってそれ位の判断は付く。

「そもそも俺が何故、DIOを殺そうとしているのか分かるか?」
「そりゃ、あんなヤバイ吸血鬼を放っておけないでしょう」
「吸血鬼。そう分類される怪物だから殺そうとした、と言いたいのか?」
「……何が言いたいんですか?」
「仮面ライダーの目的は、人間の自由と平和を守ることだ。
しかしそれは…………人類種に無条件で味方することと同義ではない」

 本郷の回りくどい話し振りに、善吉は僅かに苛立つ。
409正義の業 ◆KKid85tGwY :2010/09/03(金) 01:39:20 ID:pnPIoEWD
 そしてそれと裏腹に、何故かこれ以上話を聞きたくないという気持ちに駆られる。
 これ以上話を続けると、何か自分が知らなかった深淵を見そうな予感に。

「俺は悪の秘密結社に改造された改造人間だ」

 そして本郷は語り出した、仮面ライダーの数奇な宿命に彩られた哀しき戦いの歴史を。
 それは決して歴史の表には出ない、血塗られた現代の英雄譚。
 脳改造を免れた改造人間には、僅かな理解者は居ても同じ立場の者は決して存在しない。
 それゆえ、ただ1人で社会の闇に潜む強大な秘密結社との戦いに身を投じた。
 それは同じ改造人間との戦い。
 もしかしたら自分も同じ運命を辿っていたかも知れぬ同種との、しかし脳改造を受けたがゆえの不倶戴天の敵との
 いつ終わるかも分からない、いつ果ててもおかしくない死闘の日々。
 その中で親友を手に掛けたこともあった。
 信じた者に裏切られたこともあった。
 そんな中で本郷にも自分と同じ立場の仲間、新たな仮面ライダーとも出会う。
 仲間の協力を得て長い戦いの果てに遂に悪の秘密結社ショッカーを倒した。
 だが、それでも本郷の戦いは終わらなかった。
 人間の自由と平和を守るための戦いは、本郷の中で自分の生き方にまで昇華されていた。
 続々と現れる人間を脅かす悪の勢力。
 それらとの戦いの中でまた、新たな仮面ライダーとの出会いもあった。
 その中には止むを得ず、本郷自身が改造を施した者も居る。
 そしてその戦いは、今も続いているのだ。

 俺は本郷さんの話をただ黙って聞いていた。
 ただただ圧倒されて言葉を挟めなかった。
 無理やり改造人間にされただって?
 そして巨大な悪の組織とたった1人で戦い始めただって?
 無償で、命を賭けて、自分が守ってきた平和に暮らす人々に省みられることも無く。
 一体どんな信念を持って、どれほど強靭な意志があればそれだけのことが出来るんだ?
 本郷さんの話は大雑把な物だったが、それでも端々から壮絶さは充分すぎるほど伝わってくる。
 本郷さん自身の口から聞いた話じゃなかったら、とても信じられないほどだ。
 俺もフラスコ計画を潰すために、十三組の十三人(サーティーンパーティー)と戦いもした。
 それらの戦いも命懸けの戦いだった。
 でも別にそれは、俺1人で戦えたわけではない。
 俺1人だったら、そもそもフラスコ計画とまともに戦おうとさえ思わなかったかもしれない。
 本郷さんの敵はそれどころじゃない。
 人間をはるかに超えた改造人間を使役する、巨大な秘密結社を相手に戦い抜いたんだ。
 その話を聞いて、分かったことがある。
 俺が本郷さんから感じた感動は本物だ。
 だけど、それは子供がテレビ番組のヒーローから受ける感動と本質的には同じだ。
 憧れ慕うことは出来ても、仲間にはなれない。
 仮に俺が本郷さんと同じ立場に立ったとして、同じように戦えるかと言うと
 残念ながら、否と答えるしかないだろう。
 めだかちゃんを守るのにも精一杯な俺が、悪の秘密結社から不特定多数の人々を守れる
 仮面ライダーになれるはずが無い。
 簡単になれるなんて思うのは、仮面ライダーへの侮辱でしかない。
 憧れて慕い付いていくことはできても、肩を並べて戦うことは決して叶わない。
 テレビの中の架空の存在じゃなく、目の前の現実であっても
 ヒーローってのは、余りに遠い存在だった。
 ――――それは多分、めだかちゃん以上に。

「俺は仮面ライダーだ。悪を討つ理由は有る。だが、君にDIOを殺す理由は有るのか?」

 本郷の問いが、善吉には先ほどまでより更に重い。
 おそらく本郷は正義のためであろうと敵を殺すことの重さを、誰よりも知っている。
 善吉には想像もできないほどに。
410正義の業 ◆KKid85tGwY :2010/09/03(金) 01:44:09 ID:pnPIoEWD
 それでも善吉とて、ただ黙っているわけではない。
 仮面ライダーでなくても、戦う理由はある。
 たとえ肩を並べてることは出来なくても、付いていく位はしなくてはおさまらない。

「…………あいつは、粧裕ちゃんを殺した」
「だから君は命を賭けてDIOを殺しにいくのか? 返り討ちに遭う可能性の方が高いぞ」
「……今は逃げ場の無い殺し合いの真っ只中だぜ!?
あいつを放っておけば、いずれ俺も……めだかちゃんも殺される!」
「そうか、君の知人も居るのか……」
「知人なんてもんじゃない。腐れ縁の幼馴染ですよ」

 黒神めだか。
 善吉が最も信頼し、そしてあらゆる汚れや災厄から守ると誓っている少女。
 そうは言ってもめだか自身が、全ての面において類稀な才能を持ち
 戦闘能力についても、常軌を逸した物を持っている。
 実際の所、善吉が守られる立場に立つほうが妥当なほどだ。
 もっとも、それはあくまでそれは普通の人間を基準にした判断。
 仮面ライダーを一蹴したDIOが相手では、さすがのめだかも分が悪い。
 早急にDIOを倒さなければ安全は確保できない。

「ではDIOが反省した改心したと言えば、君は見逃すのか?」
「えっ……?」
「俺は、DIOが何を言おうどう動こうが殺すつもりだ。
理由は、単純に奴の言葉が信用出来ないからだ。奴はいかなる説得も改心も不可能な悪だろう」

 本郷さんの突拍子も無い意見に、思わずフリーズしちまった。みっともない。
 DIOが反省した改心したと言えば、だって?
 それは粧裕ちゃんを殺したことを涙ながらに謝罪し、土下座して二度と殺し合いに乗らないことを誓うようなことか?
 正直言ってDIOのそんな姿は、ちょっと俺の想像力を超えている。
 しかもその後に本郷さんが言ったことは、もっと突飛だ。
 DIOがそんな想像を絶する反省の仕方をしても、本郷さんは殺すと言っている。
 それではまるでDIOが救いようの無い、邪悪の化身のような扱いだ。
 あまりにも極端な判断じゃないのか?
 ただ、本郷さんの判断に関してはどこか納得できた部分はあった。
 本郷さんはDIOとの戦いで、全く問答無用で一切躊躇無く殺そうとしていた。
 今にして思えばあの本郷さんの容赦の無さも、DIOに対するそんな評価をすでにしていたからだ。
 それが分かったところで、じゃあ『本郷さんは何時どうやってDIOが邪悪の化身だと判断したのか』
 って部分は、まるで見当も付かないが。

「会ったばかりのDIOが『説得も改心も不可能な悪』だって、どうして分かるんですか?」
「様々な悪と戦ってきて培われた勘だ、としか言いようが無いな。根拠は示しようが無い。
だがそれは、君にも感じ取れたんじゃないのか?」
「…………」

 あー、そうさ。
 吸血鬼だと聞く……否、姿を見る前からDIOのやばさは文字通りに感じ取れた。
 だから恥も外聞も無く、粧裕ちゃんを連れて逃げ出したんだ。

「だが同時に君は、DIOに惹かれている。いや、魅入られていると言うべきか」
「……!」

 本郷の洞察に、善吉は思わず絶句する。
411正義の業 ◆KKid85tGwY :2010/09/03(金) 01:45:17 ID:pnPIoEWD
 善吉が本能の次元でDIOを恐れていることも、それとは裏腹に魅了されていることも
 本郷は全て見抜いていたのだ。
 それは善吉が自らも見えない心の奥に封印しようとした、危険な二律背反。
 DIOの恐怖と魅力で揺れる天秤が、善吉の中で再び露になる。

「さっきも言ったが、中途半端な気持ちで行くなら……無意味に死ぬぞ」
「そ、そりゃ……あんたほどの覚悟も決意もねーかもしれない! だけど、座って待ってたら良いなのか!?
俺1人ではどうしょうもない相手だけど、あんただって1人では勝てなかった相手でしょう!?
ここは2人で掛かる方が合理的だし、まだ勝ち目もある!!」

 気勢を上げた反動で、善吉は大きく息を荒げた。
 善吉は先ほどから、ともすれば押し潰されそうなほどの圧力を本郷から受けている。
 今やそれを跳ね返して意見を言うだけでも、多大な力が要った。
 本郷の表情からは、有無を言わさぬ険しさが増す。

「だが、君がもしDIOに懐柔されれば……君は俺の敵になる」

 ……おいおい、あんたそこまで言うかよ。
 たしかに俺はDIOに惹かれていた。それは認めるよ。
 だからって、本郷さんの敵に回ると本気で思ってるのか?
 そんなことがある訳が無い!
 俺はそう口に出して言いたかった。すべきだった。
 だけど、何故かどうしてもそう言えなかった。
 実際の所は自信が無いのか?
 もし本郷さんとDIOを天秤に掛ける事になればどうなるか
 どうしても、そこの所が考えが進まない。
 そして自分でもはっきりしない答えを、いい加減に答えるには
 本郷さんの存在感はあまりにも重たかった。

「俺は人間の自由と平和を守るために戦っている。それは人類種に無条件で味方することと同義ではない。
つまりDIOが人間であっても、同じように奴を……殺そうとしていた」

 空気が更に重くなる。
 深淵は、近い。

「そして君や粧裕が同じ立場に立っていたとしても、やはり殺そうとしていた。
人間と吸血鬼を正義の元に区別するような資格など、改造人間である俺には無いのだからな」

 善吉にも本郷の言葉は、これまでの話から導かれる当然の帰結だと理解できた。
 仮面ライダーは己の正義、つまり道理に基づいて戦っている。
 そこに老若男女や、種族の区別は無いはずだ。
 根拠の無い区別や差別は、道理を曲げることに他ならない。
 だからDIOの立場を善吉自身や粧裕に入れ替わっても、判断に変化は無い。容赦なく殺そうとしていただろう。
 それが本郷のハッタリで無いことは明白だ。
 これまでの積み重ねから導き出せる、当然の帰結なのだから。

「俺は今まで同族の改造人間相手に、ずっとそうして来た。今さら、異種族を相手だからと曲げる理由は無い」

 本郷の言葉が意味するところに気付いて、善吉は身の震えを止められない。
 本郷の言う異種族とは、つまり人間のことだ。
 仮面ライダーが無条件で自分達の味方をしてくれるなんて期待は、たしかに都合が良すぎるかもしれない。
 しかしこの殺し合いにおいては、誰が何時殺し合いに乗ってもおかしくはないだろう。
 そうなった者は仮面ライダーは悪として討つだろう。
 老若男女や種族の区別も無く、一片の容赦も躊躇も無く殺そうとする。
 DIOにそうしたように、怪人にそうして来たように。
412正義の業 ◆KKid85tGwY :2010/09/03(金) 01:46:25 ID:pnPIoEWD
 そして本郷に殺されるということはすなわち、悪の組織の怪人や戦闘員と同じく
 『仮面ライダーに討たれる悪』になり、そして命を果てるという意味だ。
 人間として、家族や友人に囲まれ普通に社会生活を生きて来た者が
 『仮面ライダーに討たれる悪』に堕ちて果てる。
 それはある意味、死ぬより恐ろしいことだろう。
 自分がその立場に立つかもしれないと言う恐怖。
 そして改造人間でありながら、人間の頭脳を持ち
 それでいながら自分の正義を貫くために、同じ人間でも討つと言う
 本郷の壮絶で冷徹な覚悟。
 それを悟り善吉は心の底から震え上がった。

「君自身の意思でどこかに行くと言うのなら、俺から何も言うことは無い。
だが、ただ俺に付いて行きたいというのなら……」

 そこまで話した本郷は、唐突に言葉を止め
 南の方に鋭い視線を送った。

「…………どうしたんスか?」
「車がこっちに向かってきている」

 善吉は急激に今までとは別種の緊張に襲われる。
 車が来ているとなれば、それは他の参加者が接近してくるということだ。
 しかし車の走行音などは一切聞こえない。

「……何でそんなことが分かるんですか?」
「俺の聴覚は特別性だ」

 本郷の浮かべる微かな笑みも、善吉には懐かしいものにすら思えた。

「俺が先回りして様子を見てくる。君はここでバイクを見ていてくれ」
「また置いていくつもりですか」
「DIOを倒すまで無理はしない。怪我も治っていないしな」

 本郷は自分の脇腹の傷を指して、また笑った。
 たしかに本郷がバイクを置いて、どこかに行くとは考え辛い。
 善吉は、この場は本郷を信用することにした。

「無理はしないで下さいよ」

 善吉の言葉を背に、本郷は南に去っていく。
 話をしただけで疲れた身を、善吉は椅子に深く沈み込める。
 頭の中では、本郷の話の様々な要素が渦巻いている。
 本郷が最後に言いたかったことは、漠然とだが想像はつく。
413正義の業 ◆KKid85tGwY :2010/09/03(金) 01:49:45 ID:pnPIoEWD
 善吉は本郷に「付いていく」と言った。
 それは善吉自身の意思でDIOを倒しに行くのではなく、本郷の意思に依存する行為だ。
 そして本郷の行く道、正義のために悪を討つ道は
 依存した人間が行けるような、容易な道では無いだろう。
 それこそDIOのような邪悪に取り込まれかねない。
 おそらく、本郷はそれをよく分かっていた。
 善吉自身は意思を決めていたつもりかも知れない。
 だが、本郷の話を一通り聞いた今となっては認識そのものが甘かったと痛感する。

 しかしそれでも善吉は、やはり本郷を放っては置く訳には行かないと感じられた。
 それは最早、感情的な理由に終始されるものに尽きるのではなく
 何か本郷を死なせるわけには行かない、はっきりした理由があるように思える。
 ただ善吉には、それがどうしてもはっきりとは掴めない。

(…………めだかちゃんでもねー、会ったばかりの本郷さんに随分とご執心じゃねーか)

 ふと、自分が本郷のことで思考が満たされているのに自嘲する。
 何故ここまで本郷に入れ込むのか自分でも分からない。
 ヒーローだから? 命の恩人だから?
 何れにしろ1人の人間にここまで執心するのは、黒神めだか以来だ。
 そのめだかなら、この場でどう判断して動くだろうか?
 善吉はそんなことを考えた。



(少し脅かし過ぎたか……)

 近付いてくる車の音を聞きながら、本郷は先ほどまでの善吉との会話を思い返す。
 我ながら珍しく自分のことで多弁になったと、本郷は反省する。
 本郷は本来、寡黙な人物だ。とくに自分のことを多弁するような真似は、まずしない。
 しかし善吉と話していると、何故か自分のことでも淀みなく話題にできた。
 恐らくそれは、善吉自身の資質に由来するものだろう。
 それは別に超能力の様な特殊な異能ではなく、どんな種類の相手とでも親和できるような資質が善吉にあるのだろう。
 それ自体は素晴らしい資質だが、今の様な殺し合いの場では足を取られる危険が高い。
 だからと言って、本郷が過度に心配しても栓の無いことではあるが。

 善吉に語った内容は本音には違いない。
 本郷は平素には極力、『人間社会』の中での問題に仮面ライダーの力は振るわないようにしている。
 正体が露見すると不味いのもあるが、仮面ライダーの力は無闇に振るう物ではないという自覚があるからだ。
 しかし今は殺し合いの只中。
 人間を相手にする必要も当然出てくるだろう。
 ならば自分は仮面ライダーだ。
 仮面ライダーは人間が相手であろうが、決して正義を曲げるわけには行かない。
 この場で要求される『戦い』のは、恐らく過去の『戦い』とは全く異なる種類の難しさを持つ。
 無害を装い仲間として近付いて、善良な者を手に掛ける。
 そんな狡猾な悪との駆け引きが要求されてくるだろう。
 自分が守ろうとしている者に後から撃たれるのも、充分に想定される事態だ。
 必要なのは、獅子身中の虫を的確に捉える注意力。
 そして、たとえ相手が人間であろうと手に掛けることを躊躇わない覚悟だ。
 もっとも、そんな話もDIOを倒せなければどうしようもないが。

(車中に居るのは2人か。……会話が聞き取り辛いな)

 改造人間である本郷は、常人よりも遥かに優れた五感を持っている。
 それは数km離れた車の走行音のみならず、車中の会話まで聞こえるほど。
 しかし今は近付いてくる車の中の様子がよく掴めない。
 おそらく機密性の高い車体なのだろう。
 だから本郷は自分から接近して行った。
414創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 01:51:08 ID:orGMCddc
しえん
415創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 01:55:02 ID:Yo3xydef
sien
416創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 02:01:52 ID:tVdYQXk2
支援
417創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 02:23:43 ID:jvXu8075
続きはこちらに投下されているようです
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14034/1280938429/
418正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 12:40:43 ID:gm86OnT6
 やがて車内の様子も聞き取れる。

(これは男と、若い女だな)


     ◇


「ふひふぁーふぁんふぁ、ふぉふぁんふぁへふぁいんへふふぁ?」
「俺は今運転中だからな。それより食事しながら喋るのは、行儀が悪いよ」
「ふぁーい」

 コロッセオに向かうのぞみは、護送車に揺られながら早めの食事を始めていた。
 バックパックから大量に出てきた菓子パンを、幸せそうに頬張る姿に
 グリマーも思わず力が抜けそうになる。
 ただ、心底から美味しそうに食事をする姿にはどうしても悪感情は持てない。
 どうにも不可思議な魅力を持った少女である。

「……!」

 バックミラー越しにのぞみを見ていたグリマーは、それに気付くのに遅れてしまった。
 進路上に男が立っているのだ。
 別に避けることが出来ないと言うほど、近い距離ではなかったが
 仮に敵だとしたら、奇襲を受けていたかも知れない。
 男はただ直立しているだけで、どうやらすぐに仕掛けてくるような様子は無いが
 それでも油断は出来ない。
 護送車をゆっくりと減速し、男の前で停車させる。

「どうしたの、グリマーさん?」
「人を見付けてね。これからどうしようかと……」
「ホントに!? じゃあドリームコレットのことが聞けるね!」
「ちょ、ちょっと待って……!」

 のぞみは人が居ると聞いた途端、すでに車のドアを開け始めていた。
 そしてグリマーが制止の声を賭けた時には、もうすでに車外ののぞみには聞こえていない。
 やっぱり、もう少し落ち着いて欲しいと願わざるを得なかった。
 グリマーも仕方なく後を追って車を降りる。

「あ、初めまして。あたし夢原のぞみって言います」

 のぞみは屈託の無い笑顔で男に挨拶をしていた。
 男は僅かに目を丸くしていたが、やがて細めて
 笑みを浮かべながら手を差し出してきた。

「俺は、本郷猛だ。よろしく」

 握手をする本郷を見て、グリマーは直感する。
 本郷は信用できる、と。
419正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 12:41:55 ID:gm86OnT6
 グリマーは旧東ドイツのスパイ時代に、人を見抜く目を磨いて来たが
 本郷の放つ重厚な風格は、経験の無い物だった。
 そしてこれほどの風格を纏う人物が友好的に接してきたのだから、下らない裏は無いと容易に判断できた。

「私はヴォルフガング・グリマーです、ヨロシク」
「よろしく。早速ですまないが、向こうで人を待たせている。
あなた達さえ良ければ、車でそこまで一緒に移動してくれないか?」

 仲間が増えるのなら、異論は無い。
 グリマー達は護送車に乗り、再び北上を開始した。



(危険の無い人たちと合流出来たのは、僥倖だったな)

 本郷は予め車内の会話を聞いていて、のぞみとグリマーが殺し合いに乗っている様子が無いことは分かっていた。
 しかしどちらか、あるいは両方に裏があるかも知れない。
 それを判断するため、車を止めて接触を試みた。
 実際に出会ってみて、のぞみのそもそも裏表の無い純粋さには驚かされた。
 しかしそれとは裏腹に、どこか修羅場を知っている者の気配もする。
 どちらにせよ、不思議な少女だ。
 グリマーは何気ない態度からも、深い人生経験を重ねていることが伺えた。
 そしてそれゆえの正義感を抱えていることも。
 何れも善吉に引き合わせて問題の無い人物であることは間違い無い。
 ただ、所帯が増えて動きが取り辛くなったのが気掛かりだが。
 本郷はグリマーが運転する護送車に揺られ、自分の支給品を確かめながら思案を重ねる。



「ドリームコレットか……知らないな」
「俺も知らねーな。ってか、本当にあんのか、そんな物?」
「ホントにあるよー!」

 グリマー、のぞみ、善吉、本郷の4人は合流してすぐに問題なく同盟を組むことが出来た。
 自己紹介も終えて、殺し合いが始まってから各々のこれまで経緯を情報交換する運びとなる。
 もっともグリマーとのぞみは、始まってすぐ合流したので話せる内容はほとんど同じである。
 妖精や異世界の話に本郷は特に意に介した様子は無かったが、さすがに善吉は戸惑いを見せた。
 しかしそれは、本郷と善吉の話を聞いた時のグリマー程ではなかった。

「本郷、君はその……へ、変身するのか?」
「ああ、疑うならここでしても構わない。だが今は負傷しているから、激しい動きは見せられん」
「……いや、疑ってるわけじゃないんだが…………」

 変身してヒーローになると言うことは、グリマーには特別な感慨を与える。
420正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 12:42:41 ID:gm86OnT6
それは14歳までの人生での数少ない記憶の1つ、『超人シュタイナー』を嫌でも思い起こさせた。
 幼少の頃の憧れでもあり、現在の彼の影でもある存在。
 そんな本来はフィクションの存在が、実在したのだ。
 ただ、それでグリマーが本郷を特別な目で見ることは無い。
 今となっては『超人シュタイナー』は結局、グリマーの内面の問題なのだから。

 話をする中で4人の中で、自然にある共通認識が出来る。
 それは『この殺し合いの中では、何が起こっても不思議ではない』ということだ。
 妖精やら改造人間やら吸血鬼やらすでに当人以外には、あるいはこの場の4人にも信じ難いような話が出て来ている。
 そもそもこの場に連れて来られたのも、瞬間移動と言う超常現象だった。
 3人は改めて現状の底知れない不可解さを思い知らされた。
 ちなみに例外は、この期に及んでも大して緊張感を抱いていないのぞみである。

「それより、早くそのバイクをくれた人を助けに行かないと行けないんじゃないですか!?」

 ただ、のぞみとて現状に何の危機感を抱いていない訳ではない。
 のぞみの指摘が入った途端、善吉はそれをすっかり忘れ去っていたことを自覚し慌てふためく。

「そうだ! 早く行かないと!」
「慌てた所で意味は無いぞ」

 しかしそれを宥めたのは、助けに行くと言い出していたはずの本郷である。

「いや、早くしないと不味いでしょう!?」
「急ぐつもりなら、初めからのんびり話などしていない」
「そ、それはそうでしょうけど……」
「DIOが相手だ。どんな形であれ、もうとっくに決着は付いている」
「……なら、何で助けに行くとか言ったんですか?」
「助けには行く。どういう状況に至ったか確認もしないといけないし、首輪や支給品を回収できるかもしれない」

 本郷の言葉が善吉には意外だったが、同時に納得も行った。
 善吉は本郷が自分の安全も省みず、ひたすら他者を守るために突っ走る性格だと思っていた。
 そういった面もあるだろうが、実際の本郷は思っていたよりも遥かに冷静に状況を捉え行動が出来る。
 考えてみれば、本郷は善吉が想像も付かないほどの歴戦を潜り抜けた猛者なのだ。
 自分の状況も省みないほど愚かだったら、これまでの戦いでとっくに死んでいるはずだったのだ。

「首輪かァ。たしかにそれを回収して解析できれば、外す糸口にはなるな。
でもそれをするには、まず首輪の解除が出来る可能性のある人を捜した方が良いんじゃないか?」
「それなら、もうここに居る」

 本郷は自分が自分が改造人間を作り出せるほど、工学の知識と技術を持っていることを説明した。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! それじゃ、君をDIOの所に行かせる訳には行かない。
君は貴重な首輪解除の可能性なんだ。絶対に失うわけにはいかない」

 グリマーの言葉に善吉はやっと、自分が本郷を死なせるわけにはいかないと考えているか合点がいった。
 めだかと生還するには、殺し合いから脱出する必要がある。
 しかしそれが容易ではないのは、漠然とでも想像がつく。
 まず首輪を外さなくてはならない。
 それが出来たとしても全く未知の、しかし強大な力を持つと思しき主催者を倒さなくてはならない。
 それらが途方もない難事であることは、少し考えれば分かることだ。
 人吉善吉1人の力ではどうしようもない。
 あの、この世のあらゆる才能を持ち合わせているとすら思える黒神めだかの力を借りても至難と言えよう。
421正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 12:44:01 ID:gm86OnT6
 だが本郷猛の力を借りればどうか?
 常軌を逸した頭脳を持ち
 人を完全に超越した力を持ち
 幾多の悪と戦い抜き、それを打ち倒した実績を持ち
 何よりどんな困難にあろうと決して屈さぬであろうと強靭な意志を持つ本郷猛なら
 途方もない難事も成し遂げられる可能性が出て来る。
 仮面ライダーは善吉にとってだけでなく、殺し合いからの生還を願う全ての人にとっての希望なのだ。
 絶対に死なせるわけにはいかない。

「俺もグリマーさんの意見には賛成ですね。本郷さん、あんたは絶対に失う訳にはいかない人材だ」
「だが、俺でなくてはDIOを相手にはどうしようもないぞ」
「肝心なのはDIOを倒すのではなく、バイクをくれた人の様子を見るのと可能なら支給品と首輪を回収することでしょう。
なら俺が行きますよ。帰ってこなかったら、それまでと思って下さい」

 当然、善吉の意見に賛成する者も居ない。
 そこからしばらくグリマーと善吉と本郷で、誰が行くか行かないかとまとまらない議論が続く。
 のぞみは中々その中に入れなかったが、やがて意を決して3人の中に割り込んだ。

「あたしが行くよ! ねっ! ねっ!」

 善吉はまるで凍りつきそうな視線をのぞみに送った。
 グリマーは逆に生暖かい目でのぞみを見ている。

「のぞみちゃん、俺たちは真面目にな話をしてるんだ。ちょっと黙っててくれ」
「真面目に言ってるの!」
「真面目に死にてーのかよ!」
「大丈夫だよ、だってあたしプリキュアだもん!」

 そこまで話してのぞみは、しまったとばかりに口を押さえる。
 プリキュアのことを話してしまった。
 しかしよく考えれば、もう既にピンキーやドリームコレットのことは話している。
 それにここには同じように変身する本郷も居るのだ。
 プリキュアを隠すことに、あまり意味は無いと判断出来た。

「そのプリキュアとは何だ?」
「すっごく強い戦士に変身するできるの」

 本郷の問いに答えるも、グリマーと善吉は半信半疑の様子だ。
 仮面ライダーはすんなり受け入れられて、なぜプリキュアは疑われるのか?
 さすがののぞみも憤りを感じざるを得ない。

「では、実際に変身をしてくれるか?」

 のぞみは黙って首を縦に振る。
 促した本郷は何かに気付いている様子だった。
422正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 12:45:19 ID:gm86OnT6
 それはのぞみに秘められた力にだったのかもしれない。

「プリキュア・メタモルフォーゼ!!」

 のぞみの手に巻かれたピンキーキャッチュから、光が広がり
 それがのぞみ自身を包み込んでいく。
 学生服だったのぞみの衣装が、桃色の装飾に彩られた物へと変化していった。
 胸には蝶のリボン。
 それはパルミエ王国が伝説の戦士の姿。

「大いなる希望の力、キュアドリーム!」

 ポーズまで完璧に決まった。
 これでもう疑われない。
 のぞみは勝ち誇ったように、グリマーと善吉を見る。

「……うん、凄いな」
「……まー、変身はしてるな」
「えぇー!?」

 2人の反応は相変わらず薄い。
 それも当然で、これまで散々超常現象に接してきて、善吉は仮面ライダーも見たのだ。
 今さら衣装が変化したくらいで驚けという方が無理だ。

「では、その能力を試してみても良いか?」
「いいよ。もうこうなったら、なんでもするもん」
「じゃあ、善吉。君が自分で試したほうが良いな」
「お、俺ですか?」
「彼女を全力で蹴れ」
「まあ、それくらいなら簡単……じゃねーよ!! めだかちゃん以外の女子を、全力でなんて蹴れるか!」

 善吉の抗議にも、本郷は反応しない。
 無謀な提案をされているはずののぞみも、平然としている。
 どうやら本郷は本気らしい。
 ならば信用するべきだろう。

「本当に良いんだな?」

 確認する。
 のぞみはやはり平然としたままだ。
 善吉は覚悟を決めて、サバットで鍛えた蹴りをのぞみの腹に放った。

「…………消えた?」

 しかし蹴りは空中の何も無い空間を通る。
 目の前にいたはずののぞみの姿は無い。

「こっちだよー」

 不意に背後からの声。
 よく聞けば、それはのぞみの物だが
 善吉は咄嗟に後回し蹴りを、のぞみの頭部に放っていた。
423創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 12:45:36 ID:i8GExz+P
支援
424正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 12:45:59 ID:gm86OnT6
(しまった!! 顔を蹴っちまった!)

 しかしその蹴りはのぞみの顔の前で止まる。
 蹴り足をのぞみの手に掴まれていた。

(俺の蹴りが片手で止められた!!?)
(……身体能力なら、仮面ライダーに匹敵するな)

 本郷もプリキュアの予想以上の戦力に瞠目していた。

 善吉の蹴りは速度、威力共に人間では最高峰のものだろう。
 それをあっさり避けて後ろを取り、さらに片手で軽々と受け止めた。
 戦闘能力は五体満足な自分にも引けを取らない。
 ただ問題は、やはりDIOと単独で戦うのは危険だということか。
 それでも今の自分が戦うよりマシだ。
 改造人間である本郷は、回復力でも人間を遥かに超越している。
 だからこそ悪の秘密結社との、休み無き戦いもこなせたのだ。
 貫通した脇腹もほど無く治るだろう。
 それまでは自分たちの最強戦力は、このプリキュアだ。
 この予想外のカードを、どこでどう切るべきか――。

(超人シュタイナーが2人……)

 グリマーはいよいよ、自分が異常事態の只中に居ることを自覚せざるを得なかった。
 先ほどまで連れ立っていた少女までもが、『超人シュタイナー』だったのだ。
 これまでに出会った参加者は3人。内2人は超人だった。
 さらに吸血鬼などと言う存在まで居るらしい。
 ここは、ただの殺し合いの場ではない。
 超人と怪物の跋扈する世界なのだ。
 所詮はただの人間に過ぎない自分に何が出来るか?
 グリマーの悩みは深い。

「痛い、痛いって!!」
「あ、ごめん」

 しばらくのぞみに足を掴まれていた善吉が、痛みを訴えだす。
 のぞみは慌てて、手を離した。
 どうやらのぞみが善吉の足を強く握り過ぎたらしい。

「痛ってー……分かった、認めるよ。のぞみちゃんは、無茶苦茶強い戦士だ」
「うふふー。よーし、あたしがDIOを倒しに行くするぞー! けってーい!」
「それとこれとは、話が別だ。まさか、あんた1人で行く気じゃねーだろ−な!」
「えー!? じゃあ、どうすんのよー?」

 再び議論が始まる。
 それを本郷が手で制した。

「とりあえず、話はあっちの問題を処理した後だ」
「あっちの問題?」

 グリマーの疑問を無視して、本郷は背後に振り返った。

「そこに居るのは分かっている。武器を捨てて出て来い」


     ◇
425正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 12:46:42 ID:gm86OnT6
(ユッキー)

 日記を見る。更新は無い。

(ユッキーユッキーユッキー)

 日記を見る。更新は無い。

(ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー)

 日記を見る。更新は無い。

(ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー)

 日記を見る。更新は無い。

(ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー)

 日記を見る。更新は無い。

(いつまで更新されないんだ!!!!!)



 東南の都市、否。天野雪輝を目指して歩く我妻由乃は
 そうしながらも頻繁に、自分の未来日記『雪輝日記』を開いていた。
426創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 12:47:51 ID:i8GExz+P
ユッキー
427正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 12:48:10 ID:gm86OnT6
雪輝日記は10分ごとに更新されるのだから、それを追っていけば
 雪輝に関する最新の、そしてより詳細な情報を得ることが出来る。
 ――はずなのだが
 もう先ほどから、10分置きに何度も日記を見ているというのに一向に更新される様子が無かった。
 つまり先ほどから、天野雪輝の状態が全く分からないのである。

 日記が更新されない今の状況は、由乃に異常な焦燥を与えていた。
 単純に天野雪輝の安否が分からないという問題だけでは無い。
 雪輝日記は未来日記となる以前から、由乃が天野雪輝を徹底的に観察し詳細に記録して来た物の延長である。
 1年前の約束の日から、天野雪輝を陰からずっと観察していた。
 登校中も、授業中も、下校中も、街中でも
 1日たりとてかかさず10分置きに、天野雪輝の記録を取って来た。その延長なのだ。
 言わば雪輝日記は、由乃の天野雪輝への思慕の情の蓄積が形を為した物である。
 そして未来日記となってからは、更に別の重要な機能と意味も付加された。
 雪輝日記は何もしなくとも天野雪輝の状態が、10分置きに書き込まれる。
 勉強している状況も、運動している状況も、遊んでいる状況も、眠っている状況も、排泄している状況も
 自分も知り得なかった天野雪輝の全てが、10分刻みで知ることが出来るのだ。
 それは由乃にとって大きな喜びだった。
 雪輝をよりよく知ることが出来、雪輝をさらに身近に感じることが出来る。
 言わば雪輝日記は、由乃と天野雪輝の繋がりが形を為した物でもある。
 日記所有者にとって未来日記は、正しく命そのものだが
 由乃にとっての雪輝日記は、ある意味それ以上の物だ。

 それが今はレプリカにすりかえられている。
 情報は簡素で、その上更新頻度まで大きく落ちる劣化品。
 由乃の内で憤怒が燃え盛る。
 それは雪輝の情報が得られないというだけに尽きず
 雪輝との繋がりまで絶たれたことになるのだ。
 今の由乃は天野雪輝に飢えていた。

 雪輝日記を取り上げた主催者に対しては、殺意が沸くほどの怒りを覚えていた。
 しかし胸中でどれだけ大きな怒りに囚われていても、由乃の脳内では今すべきことも冷静に捉えている。
 激情の中でも怜悧な判断が下せる。
 由乃は修羅場でこそ光る、そんな精神的素養も身に付けていた。
 今すべきことは、一刻も早く雪輝と合流すること。
 そして、まるで蜘蛛の糸のごとくか細い手掛かりであろうと問題無い。
 由乃は雪輝への無限の愛で進んでいる。
 何時かは必ず雪輝の下へ辿り着くと言う確信が有った。
 だから惜しむことなく、足を進めることが出来るのだ。

 そして、ついに見付けたのだ。
 雪輝へと続く糸口が。
 護送車と思しき車とバイクの傍らで、男女4人が集まっているのが
 遠目から確認出来た。
 その中に雪輝は居ない。
 それでも由乃はやっぱりと思った。
 やっぱり雪輝に辿り着けるんだ、と。
 だって参加者が4人も居たのだから。

(あいつらを3人……ううん、全員殺せば良いんだね)
428正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 12:48:51 ID:gm86OnT6
 マニュアルには3人を”排除”すれば報酬が出るとあった。
 報酬に関しては曖昧な説明しかされていなかったが、こちらの希望によっては
 それで天野雪輝の居場所を知ることが出来るかもしれない。
 それが叶わなくても、報酬には『物資の補給』がされるともある。
 ならば、希望すれば本物の雪輝日記を手に入れられるかもしれない。
 そしてあいつらが持っている車も頂ける。
 それがあればより早く雪輝の元に行ける。

 何れにしろ、試す価値はある。
 相手は4人だが、こちらの存在に気付いていない。

 相手は見た所、誰も武器を所持していない。
 しかしこっちには、拳銃がある。
 由乃がバックパックから取り出したのは、ベレッタM92。
 世界中で使用されている、ポピュラーな拳銃。
 由乃になら容易く扱える。

 我妻由乃に苦悩は無い。
 彼女にとって天野雪輝と言う目的は、余りに明確であり
 他――例えば自分の命であるとか赤の他人の命であるとか――は、それに奉仕する手段であることも余りに明確なのだから。

 由乃は上手く建物の陰にかくれながら、その高い運動能力を活かし
 4人共のちょうど背後に当たる、20mは離れた建物の裏側まで回り込む。
 そして建物の陰から4人の様子を窺った。
 4人は何か議論をしているらしく、由乃には全く気付いていない。
 今なら奇襲は成功する。

(殺さなきゃユッキーに会いに行かなきゃ殺さなきゃユッキーに会いに行かなきゃ殺さなきゃユッキーに会いに行かなきゃ殺さなきゃ)

 次の瞬間男の1人が由乃の方へ振り返った。

「そこに居るのは分かっている。武器を捨てて出て来い」

 気付かれた?
 そんなはずは無い。
 こんな街灯も無い場所で、20mは離れた建物の陰に居る人間に気付けるはずが無い。

「その手に持っている銃を捨てて、両手を頭の後ろに組んで出て来るんだ」

 瞬間、背筋が凍る。
 完全に見られている。
 だが、建物の陰に完全に身を隠しているのにどうやって?

「道路を挟んだ向こうの家の窓ガラスに、お前の姿が映っている」

 男の言葉通り、道路挟んだ民家の小さな窓ガラスに由乃の姿は映っていた。
 しかしその窓ガラスは、由乃から更に10mは離れている。
 あんな物がどうして見える?
 大体、あいつは背を向けていたじゃないか。

 由乃の勘が告げる。
 あいつは人間ではない。
 まともに戦っては危険だと。
429創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 12:50:22 ID:i8GExz+P
支援
430創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 12:56:34 ID:i8GExz+P
支援 
431正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 13:00:30 ID:gm86OnT6
「逃げれば敵と見なして、お前を殺す」

 しかし男の有無を言わせぬ声に機先を制された。
 それだけではっきりと思い知らされた。
 男の言葉はハッタリではないと。
 男にはそれを為し遂げる力も意思も存在すると。

 さて、どうするか?
 戦う? 奇襲は感づかれた上に得体の知れない男も居るのに、4人相手はリスクが大き過ぎる。
 逃げる? ここで逃げては、また雪輝が遠のく。
 では、取るべき選択は――。



 建物の陰から拳銃が地面に投げ捨てられた。
 そして両手を後に組んだ、少女が姿を現す。

(本当に居たのかよ! しかしあんな女子とは……)

 本郷が突然、誰も居ない空間に威嚇をしだした時は善吉も当惑したが
 他の3人が全く気付いても居なかった者の存在に気付くとは、さすがに本郷と言った所である。
432正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 13:01:39 ID:gm86OnT6
 それ以上に驚いたのは、少女を恫喝する時の本郷の迫力だった。
 悪と戦い続けた本物戦士の気迫には、味方だと分かっていても震え上がりそうだった。

「お前の名前は?」
「あんたこそ誰よ?」

 瞬間、本郷は少女の腕を捻り上げた。
 少女の顔が痛みで歪む。

「質問したのは俺だ。答えろ」
「ちょっと本郷さん!」
「来るな」

 慌てて割って入ろうとするのぞみを制す。
 それだけで、のぞみは息を飲んで止まった。
 今の本郷さんには先ほどまでと違う、異常に厳格な空気を纏っている。

「こいつのことは、俺に任せろ」

 その後も少女に対する本郷さんの質問。いや、尋問は続いた。
 少女の名前は我妻由乃。
 殺し合いが始まって、これまでに誰とも出会っていない。
 参加者の中に知っている者は2人。雨流みねねと平坂黄泉。
 どちらもテロリストのような人物で、由乃とは敵対関係らしい。
 それにしても、確かに由乃は怪しいが
 少しやりすぎじゃないのか?

「質問に答えたんだから、もう良いですよね!」

 腕を捻り上げっぱなしの本郷を押し退けて、のぞみが由乃を解放する。
 半ば睨み付けるように見つめるのぞみを無視して、本郷は由乃が投げた銃を拾いに行っていた。
 数分前までプリキュアがどうとか言っていたのが嘘のように、空気が重い。

「大丈夫? 怪我は無い」
「君は殺し合いに乗っているのかい?」

 グリマーさんの声まで心なしか冷たい。
 由乃は否定する。まあ当然だな。

「では、何で俺たちに近付いたんだ?」
「情報交換したかっただけよ」

 その言葉、信用できるのか?
 さて、ややこしくなってきたぞ。

 グリマーは由乃から不穏な気配を受け取っていた。
 そもそも銃を持って建物の陰から様子を窺っていたのが怪しい。
 しかし、それはあくまで勘と状況証拠に基づく物だ。
 無論、油断は出来ない。
 そしてのぞみと本郷を見る。
 不穏な空気が辺りを支配し始めていた。
433正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 13:02:55 ID:gm86OnT6
(本郷さんがあんな乱暴な人だったなんて!)

 のぞみは本郷の由乃に対する態度に憤りを覚えていた。
 いきなり少女を脅かして、腕を捻り上げるような真似をする意味が全く理解出来ない。
 由乃に何か恨みでもあるのだろうか?
 理由は分からない。
 だがはっきりしていることは、のぞみは本郷のやり方が許容できないと言うことだ。



(問題ない。生きて集団には潜り込めた)

 奇襲に失敗した由乃は、次の作戦に移っていた。
 それは集団の中に潜り込み、目的地を東南の都市に誘導しながら
 可能なら隙を窺い全員殺す。
 どうやら、疑いは掛けられた。だが問題ない。
 もとより死のリスクも計算の上、それでもなお由乃には生きて雪輝の出会えると確信している。
 何故なら自身の雪輝への愛より強い物はこの世に無いと知っているからだ。

 ただ本郷と呼ばれた男には、怒りと警戒の気持ちが抑えられない。
 未来日記所有者との戦いで、幾つも修羅場を潜って来たが
 本郷ほど底知れない相手は初めてだ。
 奴の隙を衝くのは容易ではない。
 だが、やらなければならない。
 そして本郷は必ず殺さなければ。
 恐らく、本郷と言う男は自分にとって最大の障害になる。
 そんな予感がする。

 由乃は知らない。
 自分が潜入した集団には、悪を滅ぼす伝説の戦士が2人も存在することを。
 いや、行く手に如何なる障害があろうと彼女は止まれないであろう。
 恋する少女は、結末の分からないヴァージンロード(血飛沫絨毯)を歩み続ける。



 警告を発する前に、本郷はその聴覚で由乃の足音から接近に気付いていた。
 そして由乃の動きからこちらの死角に周り、隙を衝こうとする動き。
 つまり、奇襲を仕掛けようとしているのも知っていた。
 まずこの段階で由乃の殺意に確信が有った。
 そして由乃自身を見て、もう1つの確信も得る。
 それは由乃がDIO同様、決して生かしては置けない悪だという確信。

 仮面ライダーの戦いの歴史。
 それは悪の秘密結社が社会の闇で巡らす陰謀から、人々を守る戦いの歴史でもある。
434正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 13:03:40 ID:gm86OnT6
善良なる人間を装う組織の尖兵が、無知なる人々を陥れようとするのは
 ショッカーに始まる、悪の秘密結社の常套手段である。
 本郷はIQ600の頭脳を駆使して、それらの陰謀を未然に食い止めてきたのだ。
 その長き陰謀との戦いで培われた洞察力ゆえに本郷は
 悪意を持って人を傷つける者や
 欲望のために他者を犠牲にする者などを
 極めて高い精度で判断出来る。
 だからこそDIOが吸血鬼であることを差し引いても、悪意に満ちた存在であり
 説得や交渉の余地すら無いことも見抜けた。
 そして由乃も同様であろうことも。
 由乃は自分の目的や欲望のために他者を犠牲にすることを厭わない類の人間だ。
 それはもはや、如何なる説得も矯正も絶対に効かないであろう。
 そして本郷の内で、仮面ライダーの正義が叫ぶ。
 人間でありながら同じ人間を、しかも隙を衝いたり油断を誘ったりして後から刺すような真似をするような者。
 そんな卑劣な存在は、絶対に許すことは出来ないと。

 しかしそんな確信は決して他の者とは共有できない。
 だから由乃を倒すには他の者も納得がいく根拠がいる。
 由乃が『クロ(悪)』だと示す根拠が。
 そして悪だとなれば、我妻由乃を倒す。つまり『殺害する』。
 本郷は数え切れない悪の怪人を葬ってきた。
 決して容赦をしてはいけない、すれば守るべき者を守れなくなる悪が存在するのを知っているからだ。
 DIOや由乃が正にそれだ。
 苦痛はある。哀しみはある。しかしそれは、これまで人類を脅かす怪人相手にずっとそうして来た時と同じだ
 そしてこれまで人類を脅かす怪人相手にずっとそうして来た時と同じく、迅速かつ確実に抹殺する。
 今まで何度も同族の怪人にそうして来たのだ。
 異種族の人間にそう出来ない道理は無い。
 そうすれば、首輪のサンプルも確保できる。

 本郷は知らない、我妻由乃もまた幾人もの未来日記所有者を
 その異常な戦闘能力で葬ってきた、歴戦の猛者だということを。

 伝説の戦士”1st”仮面ライダー、本郷猛。
 怪物的な強さを誇る”2nd”未来日記所有者、我妻由乃。
 2人の戦いは静かに始まった。


【F-6/市街地:黎明 】

【人吉善吉@めだかボックス 】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:なし
[持物]:基本支給品一式、支給品(本人確認済)1〜3
[方針/目的]
基本方針:めだかと合流して生還する
1:本郷を絶対に死なせない
2:由乃にどう対処するか考える
3:DIOを倒す
[備考]
※参戦時期はフラスコ計画終了後です。
435創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 13:04:39 ID:i8GExz+P
しえん
436正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 13:05:43 ID:gm86OnT6
【本郷猛@仮面ライダーSPRITS】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:脇腹貫通(処置済み)
[装備]:ベレッタM92@MONSTER
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(本人確認済)、バギブソン@仮面ライダークウガ
[思考・状況]
基本行動方針:仮面ライダーとして力なき人々を守る。
1:由乃が悪だという根拠を示し倒す
2:引き返してDIOを倒す
3:首輪を回収し解析して解除する
[備考]
※参戦時期は次の書き手さんにお任せします。

【ヴォルフガング・グリマー@MONSTER】
[属性]:一般人(Isi)
[状態]:健康
[装備]:なし
[持物]:基本支給品、支給品(本人確認済)1〜3 、護送車@DEATH NOTE
[方針/目的]
基本方針:のぞみと共に行動し、できるなら殺し合いを止めたい。
1:由乃への警戒
2:本郷を死なせない
3:ドリームコレットというものを探してみる。

【夢原のぞみ@Yes!プリキュア5シリーズ】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康、キュアドリームに変身中
[装備]:ピンキーキャッチュ@Yes!プリキュア5シリーズ
[持物]:基本支給品、支給品(本人確認済)0〜1
[方針/目的]
基本方針:友達みんなのもとへと戻る。
1:本郷さん酷い!
2:DIOを倒す
3:ドリームコレットの中に、最後のピンキーを移す。
[備考]
※Yes!プリキュア5の45話からの登場です。
※ピンキーキャッチュに55匹目のピンキー、ニャンキューが入っています。
支給品紹介
【ピンキーキャッチュ@Yes!プリキュア5シリーズ】
デジタル型腕時計の形をした変身アイテム、カバーの隅に蝶の装飾がある。
キュアドリームに変身可能になる他、一時的にピンキーを収納することができる。

【我妻由乃@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:雪輝日記(レプリカ)
[道具]:基本支給品、支給品(確認済み)0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:ユッキー(天野雪輝)と共に生き残る。
1:隙を見て4人を殺し(本郷優先)て車を奪い、褒美でユッキーの情報を得る
2:ユッキーを探す。情報を頼りに東南の都市へ向かう。残りは愛でカバー!
3:そのためにも本物の雪輝日記を取り戻したい。
4:邪魔をする人間、ユッキーの敵になりそうな奴は排除する。殺人に忌避はない。
5:最終的にユッキーが生き残るなら自己の命は度外視してもいい。
[備考]
※雪輝日記(レプリカ)
ユッキーこと天野雪輝の未来の行動、状況が逐一書き込まれる携帯電話。
劣化コピーなのでごく近い未来しか記されず、精度はやや粗い。更新頻度が落ちている。
437創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 13:06:45 ID:i8GExz+P
支援
438正義の業 ◇KKid85tGwY 代理2:2010/09/03(金) 13:07:08 ID:gm86OnT6
代理投下終わりです

きな臭くなってきましたwww
これはいい雰囲気(笑)だ
ゆのっち、相手が本郷さんでももしかしたら…
439 ◆C8THitgZTg :2010/09/03(金) 18:42:24 ID:XE2dn7ql
武藤カズキ、月村すずか投下します
440Hurting Heart ◆C8THitgZTg :2010/09/03(金) 18:43:25 ID:XE2dn7ql
林を抜けると、数件の民家が並ぶ開けた土地が広がっていた。
なだらかな丘陵地の裾野に当たるその場所に、人の気配はない。
夜道を照らす申し訳程度の街路灯。
深い闇に閉ざされ、十メートル先も見えない広場。
家々の窓に明かりはなく、大きな模型の中を歩いているような錯覚すら覚えてしまう。

「すずかちゃん、ここで休憩しようか」

そう言って、武藤カズキは一軒の家を示した。
西側の市街地北部、家々がまばらに並ぶ通りの更に北端。
青々とした生垣に囲まれた、和風の趣を湛えた民家である。
それなりに立派な門を備えているが、門の扉そのものは開きっぱなしになっている。

「はい……」

月村すずかの返事には、どことなく怯えの色が浮かんでいた。
あの白い怪人のような理外の存在を恐れているのか。
未知の場所に踏み込むことに気後れしているのか。
それとも。

「よっと」

小洒落た庭に面した縁側に腰を下ろす。
誰も居ない割には手入れの行き届いた中庭だ。
植木は綺麗に刈り揃えられ、雑草も目立つほどには生えていない。
錦鯉の一匹でも住んでいそうな池まで設けられている。
もしかしたら無人だというのは勘違いで、誰かが住んでいる家なのかもしれない。
カズキは視線を上げた。
背丈ほどの生垣が障壁になっていて、通りの様子を伺うことはできない。
しかしそれは、通りの側からこちらの様子を悟られないということでもある。
少なくとも、開けた場所を歩き回るよりは安全だ。
不意に、カズキの頬に冷たいものが触れた。

「――――?」
「あ、ほっぺた冷やしたほうがいいかなって……」

目線を向けると、すずかが濡れたハンカチをカズキの頬に当てていた。
きっと彼女が持ち歩いていたものなのだろう。
薄手の可愛らしいデザインをしている。

「ありがとう。……どこかに水道でもあったのかな」
「えっと、バッグにお水が入っていたから……それを」

カズキはすずかからハンカチを受け取って、自分の頬を冷やした。
頬から熱が引いていくにつれて、思考も冷静になっていく気がした。
膝の上で名簿を広げる。
“あれ”は“究極の闇”と名乗っていた。
だが、この名簿にはそのような名前は記載されていない。
もしかしたら、究極の闇とは異名に過ぎず、本当の名は別にあるのかもしれない。
何せあのパピヨンも、人間だったころの名前『蝶野攻爵』として書かれているのだから。
しかし、目簿にはどう考えても本名とは思えないものも存在していた。
例えば『L』や『V』や『DIO』といったアルファベットだけの名前。
『ヴァンプ将軍』と『悪魔将軍』のように階級が添えられた名前。
極めつけは『イカ娘』なんていう、どのように解釈すべきか分からない名前まである。

「……」

列挙された六十の名前。
その中の一つを見たとき、カズキはぎゅっと奥歯を噛み締めた。
441Hurting Heart ◆C8THitgZTg :2010/09/03(金) 18:44:18 ID:XE2dn7ql
「あの、武藤さん……」

カズキが名簿を睨んでいると、すずかが言いにくそうに口を開いた。
その素振りを見て、カズキは彼女の意図に気がついた。
後で必ず説明するといったことを、まだ伝えていなかった。

「そうだった、ちゃんと説明しないとな。すずかちゃんは『錬金術』って知ってる?」

――――錬金術。
近代より前、全ヨーロッパを風靡した原始的な総合科学技術。
鉛などから金への変換や不老不死の薬の製出などを試みた。
これらは成功はしなかったが、種々の技術の発達を促し、近代〜現代科学の基礎となった。
それが『常識』として知られる錬金術の姿。
しかし、錬金術は二つだけ『常識』を超えた成果を残した。
人造生命の研究の産物――ホムンクルス。
戦術兵器の開発の成果――武装錬金。
世に解き放たれたホムンクルスを、武装錬金を以って倒す者……それが錬金の戦士。
かつて『斗貴子さん』から教わったことを、自分なりに噛み砕いてすずかに伝えていく。
二つだけ、隠し事をしながら。

「ホムンクルス……武装錬金……」

すずかはカズキの言葉を反芻しながら、超常の世界を理解しようと努めているようだった。
その無邪気な様を目の当たりにして、カズキは隠し事をしたことが間違っていなかったと確信した。
あんなこと教えられるわけがない。
教えたところで余計に怖がらせてしまうだけだ。
自分が一度殺され、核鉄の力で蘇ったこと。
そして、ホムンクルスが人間を犠牲に製造される存在で、その上、生きた人間を捕食する習性があるということなんて。

「それじゃあ、さっきのも」
「多分ホムンクルスだと思う」

口ではそう言ったが、内心は少し戸惑っていた。
確かに動植物型ホムンクルスは、人間の姿から何かしらの生物を模した形状へと変身する。
しかし、そのときの姿はベースとなった動植物の形状を大きく反映している。
“究極の闇”のように、人間と別の生物を融合させたような姿ではない。
一方、人間型ホムンクルスは人の姿を保ったまま怪物的な力を手に入れる。
また“究極の闇”の体に章印は見られなかったが、それは蝶野攻爵も同じこと。
動物型ホムンクルスのように変身するが、その姿は人間とそう変わらない存在――――

「――――」

カズキは頬を冷やしていたハンカチを、オーバーヒートしそうな額に移し変えた。
考えれば考えるほど訳が分からなくなりそうだ。
元よりカズキは考えるより先に身体が動く性格だ。
情報を考察して相手の正体を推理するなど、得意な分野ではない。
こういうことは『斗貴子さん』の方が得意そうなのだが……

「武藤さん……?」

すずかが不安そうにカズキの顔を覗き込んだ。
内心の戸惑いが表情に出てしまっていたようだ。
カズキは大きく一息ついて、すずかの目をまっすぐ見据えた。

「大丈夫、オレがみんなを守るから」
442Hurting Heart ◆C8THitgZTg :2010/09/03(金) 18:45:27 ID:XE2dn7ql
ひょっとしたら説得力のない言葉だったのかもしれない。
けれど武藤カズキという人間にとっては、これこそが嘘偽りのない一言なのだ。
すずかは僅かに退いて、小さな手をきゅっと握り締めた。
小刻みに震えるその拳を見て、カズキは彼女が怒っているのだと思った。
無理もないだろう。
助けると言って助けられず。
倒すと言って倒されて。
自分の不甲斐なさに苦痛すら覚えてしまう。

けれど、それは覚悟していたことだ。

錬金の戦士になると決めたとき、すべて耐えると決意した。
偽善者だと罵られることも、己の無力さに辛くなるのも。
守りたい人から忌み嫌われたとしても。
自分がどれほどの傷を負わされるとしても。
みんなが苦しむ代わりだと思えば耐えられる。
みんなを守るためなら耐えられる。
それが武藤カズキの信念だった。
しかし責めの言葉を待つカズキに掛けられたのは、存外に優しい声であった。

「私も、一緒に頑張ります」

仄かな月明かりを背にすずかは庭に立ち、白い手を胸元で握っている。
カズキは一瞬だけ目を丸くした。
そして肯定の代わりに笑顔を見せて、すっと手を差し出した。

「ああ、よろしく」
「……はい」

折れそうなほどに細く白い指先が、カズキの手にそっと重ねられる。
容易く手折れる花の茎のような指を握り、改めて固く誓う。
どんなに強い敵が相手でも、絶対に諦めないことを。
そして、みんなを守り抜いてみせると。


ドクン―――


左の胸が、鈍く鳴り響いた。
443Hurting Heart ◆C8THitgZTg :2010/09/03(金) 18:48:01 ID:XE2dn7ql
   ◇  ◇  ◇



―――大丈夫、オレがみんなを守るから。


彼は迷うことなく、そう言い切った。
すずかは片手を後ろ手に握り締めたまま、口を噤んだ。
薄い影が足元から伸びて、彼の足元に触れている。
彼が口にした言葉には偽りも誤魔化しもないはずだ。
武藤カズキという人は、本当にみんなを守りたいと思っている。
そうでなければ、見ず知らずの自分を命懸けで助けようとしてくれるはずがない。
けれど、一つだけどうしても気になることがある。


武藤まひろ。


彼と同じ苗字を持つ人。
名前の響きからして、きっと女の人だ。
彼が名簿を読んでいるところを、すずかは後ろから眺めていた。
そして、武藤まひろという名前を見たときの辛そうな表情も。
武藤まひろと彼の関係は見当もつかない。
姉妹かもしれないし、お母さんだったりするかもしれない。
見当もつかないけれど、彼にとって大切な人だということは想像できる。
そんな人がいるのに、辛そうな顔をしていたのに、彼はみんなを守ると言ったのだ。


聞きたかった。
この人を助けに行かなくていいのかと。
他人の心を汲むことが上手な少女は、それ故に、彼の苦悩を理解する。
だけど、手をぎゅっと握り締めて我慢してしまった。
大切な人を失うことは辛くて怖いに決まっている。
さきほどの白い怪人のような恐ろしいモノが居ると分かれば尚更だ。
それでも守ると言ってくれる人――――
守られる立場の自分が、彼にどんな言葉を掛けられるというのだろうか。
心の奥底では、彼が大切な人を優先して置き去りにされてしまうのを恐れているというのに。
すずかはしばらくの躊躇いを挟み、心に浮かんだ言葉を口にした。

「……私も、一緒に―――」

なんて我侭で、なんてずるい言葉なんだろう。
大切な人よりも優先して欲しいと正直に頼めばいいのに。
恐ろしいモノから自分達を守って欲しいと縋ればいいのに。
拒絶されることが怖くて、聞こえのいい言葉を紡いでしまった。
幼い自責の念がすずかの優しい心を締め付ける。


少しだけ、胸の奥が痛かった。
444Hurting Heart ◆C8THitgZTg :2010/09/03(金) 18:49:37 ID:XE2dn7ql
【D-2 /市街地最北の民家 縁側:深夜】
【武藤カズキ@武装錬金】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:右頬に腫れ
 [装備]:すずかのハンカチ
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [思考・状況]
 基本行動方針:救える命は一つでも拾う
 1:すずかを守る
 2:ダグバを倒す
 3:まひろのことが心配
 [備考]
 ※参戦時期は原作五巻、私立銀成学園高校突入直後。


【月村すずか@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [持物]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [方針/目的]
  基本方針:アリサとなのはと会う
  1:カズキについていく
  2:置いていかれるのが怖い
  [備考]
 ※参戦時期は未定。
445 ◆C8THitgZTg :2010/09/03(金) 18:50:45 ID:XE2dn7ql
以上で投下終了です
446創る名無しに見る名無し:2010/09/04(土) 18:44:55 ID:b+MNIM9/
代理投下します
447創る名無しに見る名無し:2010/09/04(土) 18:48:23 ID:b+MNIM9/



話は極めてシンプルだ。
何一つ難しい話じゃない。
為すべき事を為すだけだ。


448創る名無しに見る名無し:2010/09/04(土) 18:50:48 ID:b+MNIM9/



――時々考える事がある
――自分のやっている事に、果たして意味などあるのかと…

私の名前はブルース・ウェイン。
アメリカ合衆国が一都市、ゴッサムシティーの郊外に住む、
ゴッサム一の、いや、アメリカ全土でも有数の億万長者だ。

幼少時に死んだ両親より受け継いだ莫大な遺産を、
薄っぺらな善意と、気まぐれと、色恋沙汰に浪費する放蕩者の孤児……
――そういう人間ということに私は“なっている”。

私にはもう一つの顔がある。
それは昼の私とは似ても似つかぬ本当の私の顔。
夜になると姿を現す、包み隠さぬ、しかし巧妙に偽装されたもう一人の私。
――バットマン
それがもう一人の私だ。

今、私が問題にしているのはバットマンについてだ。
もっと言えば、バットマンの活動の意義についてだ。

バットマンは夜になると、
ゴッサムの街に繰り出して、悪党(ヴィラン)どもと果ての無い闘いを続けて来た。
ティーンエイジのストリートギャングからマフィアの大ボス、
果てはアーカムからの出入りを繰り返すフリークスどもまで、あらゆる敵を闘ってきた。

決しても短くも、平坦でも無い、凄絶なる闘いの日々であった…
しかし、その闘いに、一体何の意味があったというのだ?

確かにゴッサムの犯罪数の低下には少しは貢献したかもしれない。
しかし、そんな僅かな統計上の数字の引き換えにこの街が得たモノは、
バットマンの姿を恐れて、より慎ましく、そして狡猾になった小悪党たちと、
バットマンを挑発するように、より大胆に、より大仰になったヴィラン達だ。
バットマンの闘争は所詮、対症療法に過ぎない。
この街の病根は未だ根深く強大で、この街がこの世の屑をかき集めた二十世紀のソドムである事は、
何一つ変わってなどいない。私が闘い始めたその日から、何一つ……

昔、テレビをぼんやりと見ていた時に、
映っていたニュース番組のコメンテーターの一人―たしか精神科医で、バットマンに批判的な人物だった―が、
こんな言葉をキャスターに向かって話していた。
449創る名無しに見る名無し

『バットマンの存在は社会に確実に悪影響を与えています!事実、彼の存在が誘発した犯罪も少なく無い』

なるほど、一理ある――
ジョーカー、ペンギン、キャットウーマン、トゥーフェイス、ポイズンアイビー、スケアクロウ、
リドラー、ベイン、キラークロック、マッドハッター、ミスター・フリーズ、クレイフェイス…
ゴッサムシティのドブ川の中を蠢く怪人たち…
彼らの犯行は、もしも私がいなかったならば、現状ほどエスカレートしなかったかもしれない。
少なくとも、キャットウーマンを生んだのは私だし、
ジョーカー、リドラー、ベインの三人は最初から私を狙ってゴッサムに出現した。
ある意味彼らの生み親もまた、私だとも言えなくは無い。

だとすれば奴らによって作られた屍の山の責任の一端は、私にもあると言う事か?
……くそったれ

ああ、そういえば件の精神科医は、こんな事も言っていたな…

『バットマンは正義のヒーローなのではありません!ファシストか、さもなくば
 自身の性的、あるいは社会的抑圧を口実付きの暴力で発散させている精神病質者に違いありません!』

なるほど、御名答。先生、あんた名医だぜ。
確かに私の、僕の精神は抑圧されてるし、バットマンが生まれた原因の大半はそれだと言っていい。
いや、抑圧とは少し違うな。これは代償行為だ。失ったモノを埋め合わせようとする代償行為だ。

――僕が7歳の時、両親が血だまりに沈み、冷たくなって死んだあの日から
――永遠に失ってしまった人生の意味を求めて、その身を焼かれながら僕は闘ってきた

――父と母を殺したあの男への復讐の代償として
――僕はこの街の悪徳に見当違いの八つ当たりを続けて来た
                               ・・・・
そうだ、バットマンとはつまるところ、とるに足りない、ちっぽけなみなしごの代償行為だ。
もしもジョーカーがバットマンの正体を、僕の事を知ったなら、こう言って嗤うだろう。

『正直言ってオマエにはがっかりだよブルース…
サンタクロースの中身が自分の親父だと知っちまった子供の心境さぁ…
 正義の味方を気取ってたみたいだが、結局の所、ヒーローごっこしてパパ、ママって叫ぶガキじゃないか。
 ここまで痛々しいと正直笑えないね……
いや、構うもんか、 笑ってやれ!HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!』

ジョーカー…貴様の言うとおりだ。
これは子供の八つ当たりだ。ヒーローごっこしてパパ、ママって叫ぶガキの八つ当たりだ。
バットマンとは、人に嗤われたとしても文句は言えない、空飛ぶ鼠の恰好をした滑稽な大きな子供なのだ…