青森県民だけど知らなかった
青森といえば三内丸山遺跡だろ。
あとは、特産のめどちとか。
それはそうと新作はまだかね?
創発四周年が迫ってるな
四周年は見物に回るw
コンバトラーVのテーマみたいなIDしやがって!
まったくだw
投下しますわん。
「黒鉄先輩じゃだめなんです!わたしが欲しいのは先崎先輩です!金髪ロングなロックンローラーじゃなくて、黒髪クールな
日本男児です!刀を振り回すような、袴が似合うような、黒髪キューティクルな和風男子がわたしをキュンとさせるんです!」
後鬼閑花の声で仁科学園のプールが夏を迎えた。おかっぱ黒髪ショートの少女がわおーんと学園のプールサイドで吠える。
そして、黒鉄先輩と呼ばれた男はのっしのっしと二の足で塩素に塗れたプールサイドを歩いていた。まるで海外帰りのスタアが
空港にて待ち構えていた報道陣たちを興味なさ気に振り切るように。
「ノーコメントなんだ。この件に関して」
黒鉄懐の声は素っ気無かった。
「わたしは黒鉄先輩の水着姿なんかは望んでいませんし、金髪被れなんか問題外ですし!そうですよ!耳かっぽじいて聞け!
わたしの二つの瞳に焼き付けたいのは……せ、せ……言わせないで、言わせんな!いや、言わせないで下さい!ですよ!!」
「わおーん!黒鉄先輩、もう一度犬かき勝負だよ!ほら!閑花ちゃんも煽る!拍手!ぱちぱち!」
「もう!久遠ちゃん!」
「ははは!葱はあいも変わらず気分は上々だな!この!この!」
「きゃー!懐先輩からいじくりこんにゃくされちゃうよ!」
久遠荵の声で懐はわっしわっしと荵の頭を撫でながらスイッチを切り替えた。
さてさて、イヌの声はスルーするとして……。
学園のプールは何故か賑やかだった。実行犯は言うまでも無い。
ちらほらと数名の生徒たちが開放されたプールで各々水練なり、自主トレなり行っていた。そんな中だ。
きらきらと鍛え上げられた肢体をプールサイドで真夏の日差しを輝かせながら、ビキニパンツの黒鉄懐は肩にハンドタオルを掛けた。
太陽は一つでいい。同じ物などこの世に二つはいらない。そう、二つ目の太陽はきみだ。と天に指差し、水を滴らせながらタイル張りの
プールサイドをフラッシュ眩しい華やかなる花道に仕立て上げて、悠然と歩く懐はわざわざ踵を返して背後の少女に伝えた。
おかっぱヘアーにちょっと幼児体型の面影残すスク水姿の少女が、ビート板傍らプール縁に腰掛けてぱしゃぱしゃと脚で水面に飛沫を
飛ばしながら、しきりに「先輩、先輩」と眉を吊り上げていた。膨れっ面の少女はスク水の肩紐を摘んで引っ張って、自分の白い胸に
外の空気を触れさせた。じりじりと焼け付くような学校のプールサイドでも、水の上を駆け抜ける風は幾らか涼しい。太ももが水に濡れて、
スク水の下腹部が濃紺に染まり、きらりと光を反射して、曲線を描くあどけない少女のラインで飾り気のないプールに彩りを添えていた。
ブルーベリーな一輪の花と咲いていた後鬼閑花がぷんすかと口をすぼめていると、側に小さな体が現れてにこっと幼い笑みを見せた。
夏休みに先輩こと、先崎俊輔が学園に登校するとの情報を閑花はキャッチした。先輩が砂漠へと向かうというならラクダの一頭は
調達するし、北極へ旅立つのならば犬ぞりのイヌになる覚悟さえ出来ている。なんとか先崎の心を鷲掴みしようと閑花が考えた末のこと。
(水着姿のわたしを見た先輩は……この先、言葉に出来ませんっ)
しかし、閑花が勝手に申し出た待ち合わせの時間には先崎は姿どころか陰さえ現さなかった。
その上、プールで鉢合わせになったのは久遠荵と黒鉄懐の嫌でも目立つ約二名。運は閑花を手の平でいじりまわす。
「おっ。先崎!こっちこっち」と懐がプール外に向かって手を振った。
閑花、キャッチ!
ビート板投げ捨てる!
すっくと立ち上がり、諸手を振って目を輝かせる!
「先輩!スク水ですよ!成長しきれない思春期真っ只中の体を包む、青春のいちページ!触れるか触れないかの紙一重のどきどき
ウォータータイム!短い夏を謳歌しましょうよ?」
「ウソだよ!真夏のピュアガール!」
懐が手を振る先には部室へと向うアーチェリー部の一団がいるだけだった。先崎の姿は無い。
一団は『先輩』との言葉にどきっとしていた。眉を吊り上げて立ちすくむ閑花の背後でわんわん吠える声が聞こえる。
「真夏の青いゲレンデで、いっしょに水しぶきのシュプール描きながら、パラレルターンをみんなに見せ付けてやるんですよ!
さあさあ!プール上がりは閑花ちゃん特製『特濃バニラアイス・閑花ちゃん味』を召し上がれ!きゃん!」
「わたし、『きゃん』とか言わないし!」
「わおん!先輩!わたしのふっさふさ尻尾を見て下さい!尻尾ふりふりふりふりふり!」
黙っていろと躾けても無駄無駄無駄。荵の口から勝手に作り上げられた閑花のセリフがホウセンカの種子のように弾ける。
プールサイドにお子様用のセパレート水着できゃんきゃん吠える荵は閑花からジト目で呆れられていた。
共に控え目な体の二人だ。コースをこれでもかと泳ぎ込む若きとびうおたちだけが、ここは高校なんだとアイデンティティを保っていた。
「さてはて。なぜに閑花ちゃん。夏休みのプールに来たの?」
水に親しみに来たならば市民プールなり行けばよい。にも関わらず、仁科学園のプールに現れた後鬼閑花、おまけにスク水だ。
スクール水着、光の当て方変えれば健康的なみずみずしい輝きもフェチティックな趣味になること請け合いだ。
「それは、おれ……黒鉄懐の肉体美に倒れたかったからさ。後鬼も罪なヤツよのう」
「違う!全力で否定します!」
事実、懐の肉体は美しく、筋骨隆々と水も滴るいい男。古代ギリシャの美術館の遺跡から発掘されたって不思議じゃない体だった。
(わたしが先輩を呼んだんだもん。なのに……)
口は災いの元。閑花はだんまりを通すことにした。
ただ、呼んだはずの先崎が現れないことに、気持ちが少々穏やかではなかった。
「さて。葱!50メートル自由型で勝負だ!」
「がおーっ!わたしのイヌかきが唸るよ!」
身長差、およそ50センチ。小さな荵は両手に拳を作って構えると、ばかでかい懐の挑戦を受けてたち、両者に稲妻のような火花を
撒き散らせていた。
いつもは「先輩!先輩!」と雪の日の柴犬に負けないぐらい駆け回る閑花も、荵と懐の前では日陰の和猫のように大人しかった。
スタート台に足をかけ、自慢のビキニパンツが周りの者の動きを止めた。天を突くような、神を陥れるほどの身の丈が濃い影となり、
ゆらゆらと揺れる水面に映った。水面に花咲く荵の姿が周りの者の目を止めた。小動物のような、手の平で転がりそうな体が、
立ち泳ぎをしながらゆらゆらと揺れる水面に浮かんでいた。
「閑花ちゃん、スターターお願い!」
「え?」
「よーいっ」
荵の掛け声に驚き、目を丸くした閑花はつられて「どん!」と腕を振り上げると、両者一斉にスタート!水しぶき上げながら荵は
イヌかきで前に進み、懐は大きな体をミサイルのように水上の風切ると、豪快なまでに水を割る音を立て、水中に沈んでは浮いた。
いきなりの波に乗った荵は体のバランスを崩す。静寂の中、ひとり荵だけのイヌかきが音立てる。
「今の、絶対お腹打ったよね」
ひそひそ話しは広がり、居合わせた者全てが口を合わせる。そして、再び静寂。
「やった?懐先輩に勝った?わおーん!」
懐が荵の声で我に返り、プールの底に足を付くと、50メートル先で小さな少女が尻尾を振っている姿が見えた。
「勝利の女神はときに……いたずらをするものさ」
お腹を赤くした懐がプールから上がりタイルを濡らして天を仰ぐ。水面にたたき付けられた衝撃からか、鼻から一筋の……。
「鼻血出ちゃうし。ゴッドだよ、ゴッド」
夏の神よ。このバカヤロウに喝采を。
#
(わたしの貴重なスク水ショットを先輩に見せつけようと思ったのになぁ……)
先輩!ミルクアイスです!
先輩!美味しいですか?それじゃ、わたしがもっと甘ーくしてあげますよ?
先輩!ずっと、この夏が続けばいいですね!そしたら、わたしの……。
夏プール 恋する閑花の 夢の跡
更衣室までの道のりで足元が暑い。
すり抜ける風が閑花を慰めるけど、もういいですよとお断り。
閑花は水着の肩紐を指で摘みあげると、鎖骨を流れる水滴がするりと胸に滑り込んだ。結局、先崎はプールに来なかった。
結局、閑花はひと泳ぎもせずにスク水に着替えてプールサイドで跳ねただけで貴重な夏休み、十代の夏の一日を過ごした。
「帰ったら何しようかな……」
水を失った魚のように小さな声で閑花は呟き、女子更衣室の扉を開くと久遠荵が着替えている途中だった。
ワイシャツを羽織り乾いたばかりの髪が光に重なり、ハンガーに掛けたスカートを手にしようとしている荵に色気という色気は
感じられなかった。ただ、屈むたびにちらちらと目に入るくまさんぱんつが閑花に潜在する保護欲を掻き立てていた。
裸足で荵がボタンを掛けるさまをタオルで体中を拭きながら眺めている閑花は、ふと荵を自分のタオルでもみくちゃにして
みたくなってきた。後先考えなくていいから、ちょっかいを出して相手の気を引いてみる。正しい答えじゃないかもしれないけれど、
正しいだけが答えじゃない。白い太ももに流れる紺色の丘からの伏流水がくすぐったくて閑花は我に返った。
「わう?閑花ちゃん、居たんだ」
「う、うん。今シャワー浴びてきた所」
「イヤなことあったとき、体動かすと楽しいね」
荵の単純な言葉に閑花は体を拭く手を止めた。雫が足元に玉となって落ちる。
言葉の意味を聞き直そうと閑花がぎゅっとタオルを握り締めると、程なくして荵は残りの言葉を続け始めた。
「ちょっと、イヤなことがあったんだよ。どうでもいいぐらいでほんとうに些細なこと。空は青いし雲は白いのにね。
でも、懐先輩とプールで泳ぎまくってたらどうでもよくなっちゃた」
ワイシャツとくまさんぱんつ姿の荵は後姿で閑花に風呂上りのコーヒーのような本音をはいた。
いいこと、いやなこと。今現在の閑花と荵をそんな天秤にかけたら、どちらがどう傾くかは言うまでも無い答えだろう。
荵が振り返ると閑花の姿はそこには無く、人が通ったように床が濡れているだけだった。
「……」
ぱちんとくまさんぱんつのゴムひもを指で弾くと、ちょっとばかし痛かった。
#
「先崎。愛しきガールがいないのが辛いのかい?」
「おれはただ呼ばれてここに来ただけだ」
プールには二人の男子生徒だけ。
スタート台には巨身の金髪男。対岸には冷静沈着黒髪男子。金髪は壁のような背中と背筋を黒髪に見せつけたまま自慢の声で尋ねた。
「先崎に問題を出そう。クエスチョン・ワン。(ガール×水際×おかっぱ頭)÷学園のプール。は?」
「ごめん。言っている意味が分からない」
「解答を教えよう。後鬼閑花が頬を光らせながら待っている」
先崎の脳裏にいつも出会っているような食欲旺盛肉食系少女が浮かび上がらせ、こめかみに十字を描いた。
自分の背後に食欲旺盛肉食系少女が居ることに気付かずに。
「先崎を待ちながらプールサイドで髪をいじる姿が思い浮かばないか?」
「大人しく待つ姿など、おれの脳内画像フォルダにはないな」
「恋に一途な子だぜ。あれこれ駆け引きするような計算高い女より煌めいてないか?」
「黒鉄はあいつをどこか見誤ってねえ?」
後姿のままだから顔が見えないだけにどう判断するべきか、懐の背中は先崎を悩ませる。
そして、プールを挟んだ男同士の会話を傍で見ていた、聞いていた閑花は先崎に懐の背中を目の当たりにしつつぐっと口元を締めた。
これが男同士の友情なのか。
後腐れの無い青春なのか。
水着のままの閑花ははしゃぐこともせず、近づくこともせず二人の成り行きを見守っていた。
「その腕で抱きしめてやれ!ガールの涙がプールで満ちる前に!恋する乙女、後鬼閑花は……」
大きな体をゆっくりと180度で振り返り、鼻にティッシュを詰めた姿で涼しい顔して懐は最後に言葉を決めた。
「スク水姿だったんだ!」
おしまい。
投下おわりわん。
後輩のスク水とか破壊力抜群なのにもっと強烈なビキニ男のせいで台無しwww
投下乙。遅れました。
ちょっとスクール水着買ってくる!
普通に仲良しでわろた。
後鬼って呼ぶのがカラッとして懐らしいなぁと。水着のチョイスもまさに。
葱は安定の平常運転でよくわからないw唐突な福島弁w
「後先考えなくていいからちょっかい出して気を引いてみる」ってのが、なんか気に入った。そんな感じかもしれない。
余計なことだが、後輩に対しての先輩と懐の見解は、目的と手段の違いでどっちも正しいと思う。
ていうかどうやったらこんなクオリティの作品をコンスタントに量産できるんだ……
謎のライターわんこ氏……一体何犬なんだ……
688 :
◆wHsYL8cZCc :2012/08/19(日) 00:41:19.45 ID:HEOGjfcG
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日本人で金髪なんて不良に決まってる!からな。
異様に可愛らしくてワロタ。リボンが素敵。
そして仁科にようこそ!
690 :
わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/09/15(土) 09:07:48.79 ID:lb6Dgcks
お外にも出ましょうか。投下します。
691 :
ほんの旅 ◆TC02kfS2Q2 :2012/09/15(土) 09:09:30.37 ID:lb6Dgcks
たまには街から出るもんだ。制服を脱いで、どこかへ行こう。
黒いニーソックスに黒いパンプスを履き、黒いミニスカートを潮風に揺らして、白いシャツの襟がくすぐったい。
みどりの黒髪が夏の緑に映える駅のホーム。汽車の音さえ聞こえないのは赤字御免なローカル線でのご愛嬌。ホームの彼女の名は
黒咲あかね。恥かしがり屋のあかねは開放的な田舎駅にて、白い太ももを風に晒していたのだった。胸元のネクタイがわずらわしい。
せっかくの休みだから、田舎の町にやって来た。波の音が聞こえる港町。何もかも、部活のことも忘れて、先輩のことも忘れ、
そして友人のこと……、何をおっしゃる。それらを忘れられるわけがないですよと、あかねは故郷の街へと続く線路を見つめていた。
風の音以外は静けさの駅。朽ちかけた駅名板が月日の流れを記していた。駅は地元の名士よりも名高いものだ。駅のそれぞれが物申す。
石畳から雑草がちらほら顔出すホームと、いつもあかねが演劇部で踏んでいる舞台とはちょっと違う。遠くの景色が美しく見えるのが
あかねには嬉しかった。ピカピカのキャリーバッグを握る手が少し汗ばむのが心地よい。あまりにも気持ちがいいのでついつい鼻歌を。
「あのー。黒咲さんですか」
再び、静けさ。
あかねの顔を覗き込むように、齢十四、五の少年がびくびくと近寄ってきた。あかねは心臓をどくんと鳴らせてお守りを握るように
キャリーバッグの持ち手を強く握った。初対面の少年だ。どう言葉を返す?おねえさん?
「黒咲あかねさんですよね」
「はいっ!黒咲ですっ!仁科からやって来ましたっ!」
中性的な顔立ちの少年はにこっと歯を見せてあかねの遠出を労った。
答えるだけで精一杯だったあかねは、街で見られぬ少年の垢抜けない顔をじっと目に焼き付けていた。
「もう一度確認しますけど、本当にいいんですか?」
真一文に閉じたあかねの口は千の言葉よりも多く語り、季節違いの桜色した唇は少年の持つイノセントな感情を悪戯に刺激する。
大人びたあかねはこの港町の舞台では少々浮いているのかもしれない。しかし、あかねの立っての希望でここまで来たのだから
あかねのやりたいようにやらせるのが筋だと言うのではなかろうか。黒咲あかね、侮りがたし。
あかねがホームのベンチに座り、キャリーバッグを開ける。誕生日のプレゼントを目の前にしたような面持ちで少年は膝を抱えた。
692 :
ほんの旅 ◆TC02kfS2Q2 :2012/09/15(土) 09:10:02.55 ID:lb6Dgcks
「わぁ」
本。本。本。ホン。本。
本と言うより、くたびれたノートの山。文具屋さんで誰もが買える大学ノートが何冊もバッグから顔を出していた。
いや、しかしよく見て欲しい。これでもかとシャーペンで書き込まれて、元の厚さよりも分厚くなっているノートたち。
ここまで書き込まれれば、立派な書籍を呼ぶ方が相応しいのかもしれない。手にすれば黒鉛が付きそうなほど文字が埋め尽くされた
大学ノートを体操座りをしていた少年は、遠くに見える光りを反射する波に負けないぐらいに目を輝かせて眺めていた。
「えっと……。『白雪姫・脚本/久遠……ねぎ』?」
「荵ですっ!何でも書いちゃうすごい子ですっ!犬が好きですっ!」
恥ずかしがっている自分を晒すのが怖いから、ついついあかねは言葉を畳み込んでしまう。文章以外は初対面だ。許してくれ。
海風に吹かれ、盟友・久遠荵が手がけた台本がはらはらとページが捲れる。こうして風でもいいから誰かの手によって
荵の書いた本が捲られていることが、遠くの地でそれが起こっていても、荵の目の前でなくてもあかねは嬉しかった。
「いいんですか?こんなすごいものをぼくらに」
「『誰かの役に立ってこそ』って久遠が言うんです」
「そうですか。その久遠荵さんって……どんな方ですか?」
#
「おツンデレ!亜子ちゃんはおツンデレが似合うよ!」
仁科学園・中等部の制服姿で黒ネコミミを付けた黒鉄亜子の目は非常に冷めていた。金髪から伸びたネコの耳。作り物とは言え
小柄な亜子が装着すると、不思議と自然に見えてしまう事実は亜子の抗弁を拒否するかのようだ。
亜子は自分の周りでわんわん吠える、ケモノのようなちっこい先輩が少々鬱陶しく思っていた。
「久遠先輩。わたし、やりませんから」
「亜子ちゃんで当て書きしようと思ったのになあ。おツンデレの役はぴったりだと思うよ!」
当て書き。演じる役者のイメージに合わせて台本のセリフを書くこと。演じる者にとっては名誉なことではないか。
久遠荵はふりふりふりーっと見えないイヌの尻尾を振りながら、大事そうにみっちりと文字が埋められた大学ノートを手にしていた。
秋の公演が近づいた。荵は託されて以前から書きたかった題目を選び、台本を仕上げてきた。日にちは充分にあるが
取り掛かりは早いほうが良い。荵は選んだ題目のお伺いをする為に、部室に幾人呼んで集まった。ただ、演劇部員ではないが。
「おツンデレ妹の黒ネコ……黒鉄亜子ちゃん!」
「マイ・シスター!ぴったりな役を付けてもらったじゃないか!誇りに思えよ!我が妹(いも)よ!!」
「うざっ……」
亜子は獅子のように立ちはだかる実兄を膝蹴りしたいと本気で思った。亜子の身長からすれば兄の太ももに当たるぐらいなので、
さほどのダメージはないはずだ。との計算の元であったため、多少は冷静さは亜子には残っていた。
「妹のキャラは実際に妹じゃない子じゃないと演じられないと思ってね。その結果、亜子ちゃんに白羽の矢が立ったのです!」
確かに亜子には兄がいる。真横にいる大男がそうだ。懐と呼ぶ。だからと言ってはいそれと二つ返事でOKを出す気にはなれなかった。
演技なんて素人がしゃしゃり出る訳いかないし、と控えめの気持ちでお断りしたかったのだが、如何せん兄が。
「他にいないんですか?」
「日頃から亜子ちゃんのお兄さまには大変お世話になっている所存でして、いつか恩返しをしなくてはと思った矢先でした!」
「ネギ!礼なんか学食で一緒にランチするぐらいでも充分なんだぜ!」
「黙っててよ……バカじゃないの?」
「きゃー!おツンデレ!」
「って、言うか。なんで『ネギ』なの?」
兄と目を合わせられるような身長でなくて、心の底から亜子は微かな喜びを感じた。
だが、敵もさるもの。懐は亜子の目線まで腰を降ろして交渉の真似事を始めた。
「話をしよう。亜子は今、輝いてる」
「きもっ!!」
「輝きに磨きをかけてくれるのはネギだ。亜子は必要とされているんだ」
懐の営業技術はさておき、亜子は作り物のネコ耳を摘んでいた。顔が俯き加減となり、小さな荵から見ても、ただでさえ
小さな亜子がより小さく見えて実の妹のように思えた。子犬のような荵と子猫のような亜子。太陽と月のような二人ならば、
血を分けた姉妹よりも姉妹に見えるマジックであった。すっくと立ち上がった懐はこの二人のやり取りをにまにまと眺めた。
「ホントにお断りだいってなら、ネコ耳付けてくれないよね!亜子ちゃん!」
「そんなことありません!」
「きゃー!おツンデレ!」
はしゃぎまくる荵はにこにこと目を細め、部室のロッカーを開けて探し物をしながら亜子の舞台姿を脳内で描いていた。
小さな生き物のやり取りを目の当たりにした懐は腕を組んで笑っていた。兄の高笑いが気に食わなかった亜子は回し蹴りで懐の顔面を
狙おうと、部屋の椅子に右足を掛け、高く跳び上がろうとした。小柄な亜子が巨大ロボのような懐の顔面を狙うには椅子を利用する
しかないと左足を上げる。
「待て!待て!待て!話をしようぜ!人類最大の武器は『言葉』だ」と懐は屈み込み、亜子の回し蹴りからの防御体制。
鉄壁の守りなどわたしからすれば襖同然だと亜子が踏み込んだ足で演劇部部室の空間で回転しながら舞った。
蛍光灯の明かりが冷めた月のよう。ネコ耳少女の逆光の影が地上の民を時間の枷で縛り付ける。上履きに書かれた『黒鉄』の二文字が
読めるまでに亜子の足が懐に切迫し、やがて懐の頬へとめり込んだ。
「亜子ちゃん。そしたらこっちの案はどうかなあ」
荵が再び黒鉄兄妹の元に駆け寄ってきたとき、懐は大の字を床に描き、亜子は息を切らせて兄の側に立っていた。
はあ……と呼吸を深く行った亜子はようやく荵の姿に気付き、中ボスを倒した後のように手を掃った。
「おツンデレもいいけど、こっちもいいかなー。眠れる森の……」
「好きにして下さい!」
部屋に横たわり鯨と見紛うかの懐の体をぴょんと飛び越えて、亜子は演劇部の部室から出ていった。むっくりと起き上がる懐は
妹に呆気なくKOされてからの一部始終を荵に尋ねると、事実を聞いてあっけらかんと破顔した。
「ああ。マイ・シスターは恥ずかしがり屋だからな!しかし、ネギにはいろいろと無駄骨折らせてしまってすまない」
「いいよ!おツンデレの台本は誰かにあげて、また亜子ちゃんが喜ぶような台本を書けばいいし」
荵は部室の扉の磨りガラスにぴょこんとネコ耳のシルエットが見えているのを発見してニヤリと笑った。
廊下で二人の会話を盗み聞きしていた亜子は奥歯を噛み締めて呟いた。
「久遠さんって、ホント分かりません」
#
「わたしもよくわからないけど、何だろう……文字でさえ手なずけちゃう子かな」
「手なずける。ですか?」
少年と目を合わせようとしないベンチのあかねは、膝小僧の上でぐるぐると人差し指で丸を描いていた。
あかねが評する荵像が少年には伝わったかどうかはさておき、あかねはあかねなりの表現を試すことにした。
そして、始め喋ることで精一杯だったあかねは荵の話題になったからか、晩夏の海の波の音のように饒舌になった。
「久遠が言うんです。『わたしが書く物って誰かの真似事かもしれないの。だから、わたしが書いた物は誰かに真似されれば
真似されるほど尻尾を振ってくれるんじゃないのかなあ』って。だから、あななたちで役に立てて欲しいんだって」
ぎっしり詰まった荵の思い。
ペンさえあれば生きてゆける。
一文字一文字思いを乗せて、晴れて舞台で花咲かせろ。
でも、花開く前につぼみもろ共摘んでしまうヤツがいる。
悪しき心があろうとも、誰かの目に美しく写す為に。
少年の信じていた、言葉の花壇が霞む。
「真似事じゃ、だめってことですか。所詮、学校の部活なのに」
「久遠が言うにはそう言うことじゃないんだって。新しい里親が見つかったようなものだって」
「里親?生き物みたいですね」
「そうなの。久遠の書いた物は物じゃない。生きているの。趣味だろうが、部活だろうがキチンと生きている立派な『生き物』だって。
しかも、根を張った花じゃなくて血が通い、骨が軋む、立派な『生き物』なの。だから、誰かに拾われて育ててもらった方がお話自身、
そして生まれてきた物みんなの為には幸せなことなんだって」
誰かに掻っ攫われてしまうと思うより、誰かが育ててくれるんだと荵は信じて止まない。
あかねは少年が持参した段ボール箱に荵の台本集を詰めながら、新しい飼い主の下へとはなむけの鼻歌を歌った。
おしまい。
亜子も懐も書いてて楽しいっす。
投下おしまい。
697 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/15(土) 19:47:14.85 ID:HBZ9LpVY
おツンデレwww
語尾に「っ」が入ると印象が結構変わるもんだね。
黒鉄一族は愉快だw葱との相性が異常。
学園外も面白そう。なんか前そんな話あった記憶があるな。
699 :
創る名無しに見る名無し:2012/10/11(木) 04:47:58.84 ID:BZDJgAMX
あげよう
重りを?
701 :
創る名無しに見る名無し:2012/10/12(金) 15:52:05.72 ID:vOpgoNXp
フン フン
うっかり上げてしまったw
重りを?
ふんぬらば!
短いものを一つ。
「先輩!もにょもにょもにょ!」
くまのぬいぐるみを胸元に抱きしめて、後鬼閑花は愛すべき先輩にボディアタック!羽交い締めする格好で背後からくまの両腕を操り、
先輩の二の腕をホールドオン!誰もいない学園内の和室にて、昼間っからの激甘ハニータイムが乱れ咲く。但し、閑花からの一方通行
ですけどお構い無し。閑花と先輩のサンドウィッチ状態になったくまのぬいぐるみは両手を互いに上下に素早く動かして、自分の体に
先輩の匂いを擦り付けているように見えた。
困惑した先輩は手を振り払って、閑花とぬいぐるみから遠ざかろうと試みる。寸の隙を伺い、きらきらと瞳輝かせる閑花の油断を待つが、
先輩が嫌がるそぶりを見せれば見せるほどに、閑花のリミッターは軋みつつ崩壊への道を歩んでいた。
くるりと回り、遠心力を利用して閑花から、くまのぬいぐるみから一歩離れる。ぴょんと両足揃えて跳躍し二歩遠ざかる。
呆気にとられた閑花の顔を見て三歩距離を置く。
「先輩ーっ!女の子に擦り寄られるってどうですか?」
「うっ……」
「無抵抗の先輩も真っ白な新雪を踏みにじるような気がして胸がきゅんきゅんしますっ」
ラグビー顔負け、アメフト野郎も逃げ出すほどのタックルで閑花はくまのぬいぐるみと共に先輩を押し倒した。
畳に仰向けに転がる先輩は両腕を力無く曲げて、軽く握った拳を胸の上に置いた。少女マンガならば背景に花咲くコマだ。
くまのぬいぐるみの顔が先輩の腹のあたりに埋まり、スクールベストの上から先輩の羞恥心をくすぐる。くまの耳と耳の隙間から
閑花の笑った目が見え隠れしていた。
「言っときますけどー。この子が先輩を離さないだけですからね!」
「どんな電波だよ!うにゅ……」
「閑花ちゃんは知りません!くまちんが先輩を欲しがってるんです!ね!くまちん!」
先輩はやたらと腕を絡ませてくる閑花を無抵抗で受け入れざるえなかった。子犬系女子は無邪気だけに悪意がなく困る。
「そういえば、学園に『カップルウォッチャー』なる者が現れるそうですね!閑花ちゃんたちのようなラブラブカップルを
こっそり拝見して、影ながらに二人の幸多かれと願う恋の戦士!」
悪戯っ子の声をした閑花の何気ない台詞に先輩は目を丸くした。
「確か……。二年の近森ととろ先輩!だっけ!ととろ先輩がよじれるぐらいの特濃チーズであむあむしちゃいましょう!」
「例えがわからなすぎる!」
くまちんの口から蕩けるチーズがたらりと零れる、閑花のまだあどけなさ残る膝小僧に垂れた……かのように見えた。
ウソとは言えども、驚いて閑花の手元が動きをやめた理由の説明に相応しいぐらいだ。すかさず先輩はくまちんを奪い取りため息ついた。
「閑花ちゃん!わたしの名前をだすなぁ!」
「ととろ先輩!ちょっとした揺さぶりです!先崎先輩のツッコミは完璧過ぎるから、閑花ちゃんがどんなツッコミでも対応できる
ようにと変化球を求めるサインですよ!大リーグツッコミでも何でもきやがれ!」
「迷惑だよ!」
閑花は白い歯を見せて人差し指を淡い唇に添えた。
ととろは確かに閑花の先輩だった。間違っては無い。
「しかし……ねえ!わたしが舞台を提供して閑花ちゃんが先崎くんへとアタックして作戦実行する」
「そして、それをととろ先輩がウォッチングする。ととろ先輩悶絶!先崎先輩喜ぶ!わたし嬉しい!皆得!」
「どうで?このギブアンドテイク!」
「先輩!完璧です!リハーサルOK!」
近森ととろはくまちんを抱えて後輩の輝く姿に眼福眼福とにやけていた。
「ま。先崎先輩のツッコミほどではないかもしれませんね!」
ととろはシャフト角でジト目をしていた閑花の頭をくまちんで小突いた。
おしまい。
後輩ちゃんはよい子。
投下終わりです。
ととろ何してんwwwww
キマシタワ-!! 蕩ける特濃チーズエロぉぉぉい! 後輩は責めがよく似合うな。
そして妄想オチかと思ったら叙述トリックとは、やって……くれる……!
あと他の作者のキャラだけで話作れるってすげーなーとか。
俺もそろそろ何か書かないともにょうにゅ。
さ、サボってるわけじゃないよ! 書き足してはいるんだよ!
そろそろ消えてしまったバレンタインの続きを書かないと間に合わないな……結局二年使ってやんの
あと書きかけのやつとシェアシェアも進めて……。
……。
アアアアアアアア!!
年末だし久しぶりにWiki更新したけどさー
わんこ氏と後輩無双で笑ったw
作品ページ作成、投下順一覧、作者別一覧をいじった。
ただ、キャラ別登場SS一覧とかは全然やってない。なかなか不便かも。
あと新キャラも追加してない。プログラムよくわかんねえ。
改行はなるだけ合わせたはずだが、誤字脱字は作者の表現を尊重して俺は手は出さない。
よろしく。
あ、もし抜けがあったら言ってください。
前メタ構造のでやっちゃったから……
バレンタインのは後半終わったらページ作る。
おつー
おいらもそろそろボツネタにこだわらず適当になんか書くか……w
人いないんだなぁと寂しくなったのも確かw
まあここに限った話じゃないけどね。
715 :
わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/12/21(金) 00:45:22.57 ID:MfnJsQOQ
いきます。
716 :
あーちゃんのクリスマス ◆TC02kfS2Q2 :2012/12/21(金) 00:46:42.33 ID:MfnJsQOQ
「あかねちゃんの分からず屋さん!!」
ハスキー犬の目をして久遠荵は演劇部の部室から出ていった。扉も閉めずにばたばたと上靴を喧しく鳴らす音を
部室に取り残された黒咲あかねは口を結んで、塞ぎたい耳でそれを聞いていた。
些細なことだった。本当につまらない原因なので、口にするのも憚れる。すったもんだのすれ違いで荵を激昂させて
しまったあかねに残された扉は今だに開かぬ。クリスマス前日なのに、浮かれ気分の町並みに溶け込むことさえ
許してもらえないなんて、せめて雪でも降って、後に冷たいみぞれにでも変わってしまえ。みんなこの日のために買ったばかりの
ブーツをどろどろに汚し、買ったばかりのコートもびしょびしょに濡らしててしまえ。
「……」
一人きりになったあかねは荵のことを考えるのを何度もやめようと試みた。
雑誌をめくったり、風に当たったり、全ての行動を荵を忘れるための労力に費やしたつもりだった。無駄とも知らずに。
考え疲れたあかねはため息混じりでそっと部室から去った。子犬のいない部屋にいるのはつらすぎるから。
家には真っすぐ帰った。どうせ寄り道しても、蔓延るもやは消えないし、はしゃいだ町には溶け込めないし。
いやみなぐらいに真っ青な空を嫌いになりたくないからと、あかねは自分の部屋に閉じこもった。
明るい時間に家にいると時間が過ぎるのは驚くほど遅いことを思い知らされる。
とにかく落ち着かない。暇つぶしになにかと部屋の中を見渡す。話し相手になってくれるぬいぐるみ。季節の節目を
楽しませてくれるクローゼットの中身たち、そして色とりどりの本棚。おなじ背表紙がずらりと並ぶ、暑い季節には暖色、寒い季節には
雪のような色。途中で途絶えた年号を見るとあかねは『あーちゃん』という子を思い出した。
黒咲あかねは昔『あーちゃん』だった。現のようで幻にも似た世界に住む、そんな掴み所のない子だった。
とあるティーン向けのファッション誌にて、毎月華やかな誌面に囲まれ、一際目立ついわゆる『読者モデル』。彼女はあーちゃんだ。
年末差し迫った頃、誌面はクリスマス一色で赤と緑で染められていた。そして、雑誌からの質問……
『読モに聞いた、クリスマスプレゼントで欲しいもの』。あーちゃんは迷わず答えた。
「たくさん本が欲しいです」
ほんのちょっと前なのに、ほんの数年前なのに、そんな答えを返した自分が恥ずかしいと、あかねはとっくに廃れた
流行りものばかりのファッション誌を眺めていた。可愛らしい制服を着こなす姿も自分でないように見えてきた。
「クリスマスプレゼント……」
呪文のように呟いて、自分の部屋を仰ぎ見る。ごくごく普通な女子高生の部屋だし、差し障って目立つものはない。
かつて自分が飾ったファッション誌を眺めていると、今日の部室と同じのように思えてきた。居場所がないって、怖いし。
忘れ去ろうとしていた自分を拭おうとしたって、それは犬が星を守るようなこと。どうしてこんなこと考えてたのだろうと後悔しても、
きっと誰かが覚えてくれる。例え、善意でも悪意でも。
「そうだ。読もう」
すっくと立ち上がったあかねは思考が追い付く隙もなくクローゼットを開けていた。
洋服で埋め尽くされた中身から光が差してくる気がしてきた。
く、くるのか
718 :
あーちゃんのクリスマス ◆TC02kfS2Q2 :2012/12/21(金) 00:47:13.06 ID:MfnJsQOQ
一路、本屋へ。自分へのプレゼントを買いに。たくさん本を買いに行くんだ。誰かから貰うだけのクリスマスはもうおしまい。
人の好意に乗っかってばかりなど傍ら痛い。誰かに幸せを捧げた分だけ幸せが戻る。例え、それが自分に向けてだとしても。
シックなコートに身を包み、短いスカートから伸びる黒タイツと履きこなしたブーツで町を蹴る。
体の中がいつの間にか外気の温度と反比例して、荵のことを忘れかけたとき、神はじつにかまってちゃんなんだと思い知らされた。
通りがかりの公園で、大きめの段ボールの中で体育座りをしている荵を発見したのだ。それだけでなく、段ボールに手綱が繋がり、
その先には……二、三匹の犬。犬たちはのほほんと尻尾を振っていた。それに対し荵は段ボールを揺らしながら何かを叫んでいたが、
あかねには内容が大体の想像がついていた。荵のことを理解していいのはあかねだけだし、なんていう自意識もまかり通る。
「わおー!走れ!走れ!犬ぞり走れ!」
あかねが荵の背後に立ったとき、想像が確信に変わった。
「あっ!あかねちゃん」
「……」
「クリスマスだから犬ぞり作ってみたんだよ。でも、走ってくれない!」
雪も振らず、氷河も流れぬ公園にて荵の思いが伝わらず、仏頂面で犬たちは構えていたことにあかねはなんだか可笑しくなってきた。
月が笑えば太陽が沈む。荵はスカートの裾を握りながら落ち込んだ顔をあかねに見せないようにした。
「あかねちゃん、ごめんね。なんかあの時、わたしチワワの足跡よりもちっちゃかったし、
ミニチュアダックスの歩幅よりも狭かったなーって、思うんだよね。ホント、ごめんなさい!」
「……ごめん」
口数少ないあかねは荵の顔を見たくなかった。小さな荵は立ち上がるとぴょんと段ボールから跳びはねて出た。
「……」
ふと、うろうろと場をごまかす犬たちに促されるように、あかねは段ボールへと荵と立ち代わって乗り込み、
体育座りで手綱を引いた。そんなあかねに荵は尻尾を丸めて静かに耳を立てていた。
「え、えっと……。わんわんおー!」
あかねが吠えた。
師走の空に突き抜ける叫び。
それでも犬ぞりは進まないけど、それでいい。
だってあかねは『わんわんおー』。
荵はあかねの目がレトリバーのように見えてきた。
「久遠っ、行くよ!」
「どこに!?」
「プレゼント渡しにっ!誰かが待ってる!」
今夜はクリスマスがやって来る。そりが走ってても可笑しくなかろう。
荵は真剣なあかねの顔をにっと白い八重歯を見せながら覗き込み、それに応じたあかねは頬を赤らめた。
自分の中ではそりは飛んでいるつもり。町中の明かりが朧月夜と見紛うぐらいの明るさで飾られて、贅沢に空から眺めているつもり。
「じゃあ、誰の家から廻る?あかねちゃん」
手綱を緩めたあかねは荵に見られないように顔を伏せて答えた。
「自分っ」
おしまい。
719 :
わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/12/21(金) 00:47:44.08 ID:MfnJsQOQ
ちょっと早いけど、くりすます!
投下おしまいです。
まて犬ぞりは無茶だろwww
仔犬たちで無理なら葱に牽かせればいいんじゃない?(犯罪臭するけど)
私生活っぽい話も……いいね。
あかねさんは相変わらずエロいなぁ。ついに秘技わんわんおーまで会得したし。