【シェアード】学園を創りませんか? 4時限目

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1創る名無しに見る名無し
創作発表板に生まれた少し変わった学校、私立仁科学園。
このスレは、そんな仁科学園の世界観をSSや設定だけに留まらず、様々な表現で盛り上げ、また創っていくスレです。
貴方が創った生徒が学校の一員として誰かのSSに登場したり、気に入った生徒を自分のSSに参加させる事が出来ます。
部活動や委員会を設置するのもいいでしょう。細かい設定として校則を考えてみたり、制服を描いてみたりなどはいかがでしょうか。

また、体育祭や文化祭などの年間行事及び、生徒達の絆を深めるイベントや
仁科学園以外の学校や、生徒たちのバイト生活等世界観は仁科学園の外にまで広がります!
皆さんの想像力で、仁科学園の世界観を幅ひろーく構築していきましょう!

このスレはシェアードスレ(世界観を共有する)です。
ちょっとでも興味をもったらまとめWlikiをみて下さい。きっと幸せになれるはずです!

まとめWiki
http://www15.atwiki.jp/nisina/

避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12930/

前スレ  学園を創りませんか? 3時限目
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1267344255/

前々スレ  学校を創りませんか?part2
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1248533055/

初代スレ 学校を創りませんか?
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1248087645/
2創る名無しに見る名無し:2010/08/10(火) 00:13:43 ID:P8fr3ocK
>>1
3創る名無しに見る名無し:2010/08/10(火) 00:15:59 ID:P8fr3ocK
さっそくだが、代理投下をしようと思う。
4ワンオラクル [5]:2010/08/10(火) 00:22:32 ID:P8fr3ocK

ナギサワ・マイコは、大人しくて地味。教室では目立たないタイプの女の子だ。

肩くらいまでの黒髪を、いつもだいたいポニーテール(短すぎて“尻尾”になってない)か、
片方にまとめて耳の下あたりで結んで垂らしているのだったが、今日は違った。

いわゆる『お下げ』……というのかよくわからないけれど、左右両方に髪をまとめていたのだ。


学校を出てすぐに、バスを待っている彼女の姿が目に入った。
彼女も僕に気がつくと、ひらひらと手を振った。


「今、帰り?」
若干緊張しながら、話しかける。

「うん。今日はバスなんだ。朝、雨ひどかったから。なのに、こんなに晴れるなんて!」

ナギサワは、屈託なく笑って空を見上げる。
朝の大雨をあざ笑うかのように、すっきりとした晴天が広がっていた。

――その髪型、珍しいね。

たったそれだけのことを、僕は言えなかった。
気恥かしさが先に立って、無難な話題を選択してしまう。

「明日から、また天気悪くなるみたいだね」

「うん、しばらくバスで来ることになるかなぁ。でも、バスだと本が読めるから好きだよ」

本が読める、という言葉に、僕の耳は反応した。
僕がネコ耳か犬耳を持つ獣人のたぐいだったなら、きっとマンガみたく『ピン!』と耳を立てたことだろう。

――どんな本を読むのかな。

けれど、当然と言うべきか、僕はその質問をすることなく、
「じゃ」
と言って自転車のペダルを踏み込んだのだった。


さっきの短いやりとりを頭の中で反芻しつつ、自転車を漕ぐ。

ナギサワは、読書家なのだろうか。
教室では、そんな気配は見せない。
休み時間には、仲の良い女子のグループでおしゃべりをしている姿しか思い浮かばない。

ナギサワの読む本。
あの、お下げを耳の上にあげたような髪型。
ひとりっきりで弾くコントラバス。
5ワンオラクル [5]:2010/08/10(火) 00:25:13 ID:P8fr3ocK

教室で地味な彼女について、僕が知っていることといえば、名前と顔と、座席の位置くらいだった。
その彼女が、意外な一面を持っていたことに、僕は何とも言い難い、不思議な感覚を覚えていた。

――勘違いするなよ。

自転車を漕ぎながら、僕は頭を振る。

乱暴にちぎったみたいな雲の塊が、抜けるような青空に浮かんでいた。


〆 〆 〆


夕食を済ませ、自分の部屋に戻る。
中学2年になった時、ようやく手に入れた、この部屋。

勉強机も、その時一緒についてきた。
残念ながら本来の用途に活用される機会は少なく、もっぱら開いたノートにイラストとも呼べない落書きが描かれたり、
ゲームの攻略本とマッピング用方眼紙が広げられていたり、『設定資料』などと称して意味不明な地名や人名が
書き連ねられたりしているのがせいぜいだ。

その愛すべき机の前で、タロットカードを切る。
そして、念じながら一枚抜く。

――三者面談のことを母さんに言うけど、どんな反応をするか。

抜いたカードを裏向きに伏せる。

カードから解釈を読み取るには、訓練が必要だという。
僕はその訓練として、『ワンオラクル・スプレッド(カードの並べ方のことだ)』を使って、
些細なことや個人的なことを占っていた。

カードは【節制】の正位置。
たおやかな女性が、杯から水を移す様子が描かれている。

『節制』……普段は使わない言葉だ。
『節約』と、何が違うんだろう。『節約』なら、母さんの得意とするところだけど。

辞書を引いてみる。
――節度を守る・度を越さない・控えめである

……うーん。
よく、分からない。
これを、どう解釈しろと?
6ワンオラクル [5]:2010/08/10(火) 00:26:22 ID:P8fr3ocK

節制……節制……このカードの女性は、天使みたいだな。背中に翼がある。
天使……天使の仕事は、杯から水を移すことか?

この天使は、他のよりも年上のお姉さん、って感じがするな。なんとなくだけど。

お姉さんは、よく物事を知っていて、水も零さず移せる、と。
おかしいな、お姉さんといえば「色っぽい」か「ドジ」、ってのがデフォルトなはずなんだが。
……って、いやいやいや、そんなラノベ的解釈で良いワケ無いだろ!

でも、良く知った人は、何でも卒なく物事をこなす。

『良く知った者』……『卒なくこなす』……

うん、この絵柄にはそういう言葉がぴったりだな。
さて、それをどう解釈するんだ?

節制……英語で、temperance。
てんぺらんす。テンパランス、かな?
ぺらんす。パランス。……バランス。
均衡……精確……絶妙な……デリケートな……精密……精鋭……頭脳明晰……

――ダメだ、結びつかないぞ。母さんの機嫌を占うのに、頭脳もなにもあったもんじゃないよ。

「あ゛ーーー! タロットって、難しいぃーーなぁーー!!」

背もたれに思いっきり凭れて、伸びをしつつ僕は叫んだ。


案の定、その後すぐに妹が、煩いだのなんだのと怒鳴りこんできたのだったが、知ったことか。

7ワンオラクル [6]:2010/08/10(火) 00:29:23 ID:P8fr3ocK

4時限目の授業が終わり、理科室から戻る途中、ナギサワと一緒になった。
偶然にも僕も彼女も当番に当たって、授業の後もガスバーナーやらビーカーやらを片付けていたのだ。

ナギサワは……今日は束ねた髪を纏めて左肩に垂らしている。

今まで気づかなかったのだけど、彼女は毎日髪型を微妙に変えている。
ポニーテールにしても、高い位置で噴水みたく (この喩え、伝わるかどうかとても自信がない) 散らしている時もあるし、
やや低い位置で房を垂らしている時もある。

「サイトウくん、この前進路指導室に行ってたね」

特別教室棟の廊下を並んで歩いている時、ナギサワが言った。

――見られてた?
僕は平静を装いつつ、少しばかり動揺していた。

「呼び出し食らった?」
いたずらっぽく笑って、僕を見る。

「はは……まぁ、そんなとこ」
曖昧に笑って、やり過ごす。

何だか、そこに出入りしていることを知られたくないような気がした。
知られたところで、どうにもなりそうにないけれど。


「進路、決めた?」
ナギサワは、さらに追い打ちをかけてくる。今の僕が、もっとも聞かれたくない類の質問だ。

階段を降りる。
一日中日陰なせいで、ここだけ冷房が効いたようにひんやりと心地いい。
あと何日かで、夏休みだ。
夏休みが終わったら……本格的に、進路決定をしなくちゃならない。

正直言って、考えたくない。

「……悩んでる。どうしたらいいんだろ。この前のテストもイマイチだったしさ」
冗談っぽく笑って返す。

「わたしもだよ。なんていうかさ、『もうちょっと考える時間ください』って言いたくなっちゃう」

渡り廊下に差し掛かる。
凶暴さを増す太陽光が、容赦なく気温を上げている。

うわ、暑っ! などと口にしながら、僕たちは歩いている。
8ワンオラクル [6]:2010/08/10(火) 00:30:15 ID:P8fr3ocK

その廊下を歩いているとき、不意にナギサワは、言った。

「『〇〇に成りたい』とか、『△△を目指す』とかって言える人は、ホントに凄いな、って思う」

遠慮がちに、けれど確固たる信念を持った口調だった。

僕は黙っていた。
真意を測りかねた。

代わりに彼女の横顔を見る。
笑ってはいなくて、けれど深刻というわけでもない。

呟くように、「だってさ、」と続ける。

「成りたい希望を言ったとして、それが『お前じゃ無理だ』とか、『素質がない』なんて言われたら、どうするの? 
わたしは……怖いよ、そんなの。可能性が、たった一言で潰されちゃう気がする」

その気持ちは、分からなくはない。
僕は具体的な将来像を描けないでいるけれど、もしかするとそれは『否定されるのが怖い』から、なのかも知れない。

希望する将来像を具体的に言ったとする。
それを否定されてしまうと……、なんというか、逃げ場を失ったような気分になる。

その可能性――たとえどんなに僅かな可能性だったとしても――を、いともあっさりと、潰されたような気分になる。
大袈裟に言うなら、他人のたった一言で自分の人生が決定されてしまうような気がするのだ。

そんなの、まっぴらごめんだ。


教室のある棟に戻ってくると、人が増えてざわめきも増した。
すぐにナギサワの友達が彼女を見つけ駆け寄ってくる。
じゃ、と手を上げ、僕は購買部へ向かう。
ナギサワは、きっと仲良しグループの女の子たちとお弁当を囲むだろう。


スタートが出遅れた。ハムカツサンドは、まだ残っているだろうか?
僕は、購買へ向かう足を早めた。


〆 〆 〆
9ワンオラクル [6]:2010/08/10(火) 00:31:45 ID:P8fr3ocK

真夏かと思うような強烈な暑さだったのが、夕方には雲が空の7割を覆っていた。
見るからに重そうな灰色が、前方に低く垂れこめている。

「これは降るな。さっさと帰ろう」
いつものとおり、友人を促して自転車置き場へ向かう。

タカハシは自転車を出そうとせず、ボーッと突っ立っている。

「なにしてんだ?」
と聞くと、ニヤリと笑い、
「原チャで来たからさ。あっちに隠してある」
親指で校門を指す。


原付での通学は、当然禁止されている。
けれど免許を取った連中は、原付で学校の近くまで来て、公園やなんかに隠して停めている。

タカハシも、原付免許を持っている。
16歳になるとすぐに取ったそうだ。

タカハシはのんきに、ハーフキャップ・メットを頭の上に乗せてスーパー・カブに跨った。
先生やなんかに見つからないか、僕の方がビクビクしてしまう。


自転車の僕に合わせて、のったり走るタカハシ。
眼の障害のことを考えると、自殺行為――というのは大げさにしても――に近いと思う。
それでもヤツは気にせずに、原付を乗り回している。


〆 〆 〆


進路指導室に通っている僕は、どうしても考えざるを得ない。

例えば、仮に数学が得意だから数学科に進んだとして、就職はどうなる?
『数学科なんて、出たところで塾講師がせいぜいだよ』
数学が得意なクラスメイトが言っていたセリフが思い出される。

史学科や国文科、数学科のなかでも純粋数学の分野、芸術の分野……。
確かに、それらに興味はあるけれど。
頑張って勉強して、大学を出たところで……、何に成る? 
それを活かした就職口なんて、あるのだろうか?

研究職として、大学の一室に篭もるのだろうか。
……それが社会に貢献しているとは、あまり思えない。
10ワンオラクル [6]:2010/08/10(火) 00:32:45 ID:P8fr3ocK

世の中で、もっとも無駄に飯を食っている職業は、哲学者と言われている……というのを、倫理の授業で聞いたことがある。
物事を考えている“だけ”の「仕事」は、結局のところ人様の役に立ってはいないのだ。
『下手な考え 休むに似たり』――つまり、どれだけ高尚であっても役に立たなきゃNEETと同じ。

では、大学時代に蓄えたその知識をひとまず置いておいて、他のテキトーな文系学生と同じく、
企業の営業として働くことになるのだろうか。
営業は、僕には無理だろうと思う。
なにより、身につけた知識を活かせていない。

やりたいことを勉強していたら、いつの間にかそれを活かせる職業が見つかって、その職に就く。
自分の興味あることを勉強し、それで得た知識やスキルを活かして仕事をし、生計を立てていく。
それで適材適所、丸く収まる……。

就職情報誌や進路指導室は、そういう情報は与えてくれない。
『この学部に行ったらこの職業!』というような、選択の余地を与えない記事ばかり。

世の中に、就ける『ジョブ』は限られているように思える。
そのジョブに就くために、有利な学部を選択する必要がある。

でも、どのジョブにも魅力を感じない人がいたら……
どうしたらいいんだ?


テレビを見ていると、実に多くの肩書き、つまり職業についている人たちがいる。
〇〇研究家だとか、△△プランナー、××アドバイザー。

彼らは、自分の得意を職業にしている感がある。
まさしく『ジョブ』だ。

……けど、それで食っていけてるのだろうか?

この、『食えるかどうか』というのが、実に厄介だ。
結局のところ、それを考えて進路を決めなきゃならない。

『大学に入れば、好きなことだけ勉強できる』なんて、嘘っぱちだ。

好きなことを勉強したって、就職できなきゃ意味が無い。
それも、『食っていける』職業に、だ。


「まーたブツブツ言ってるし。キモいんだけど」

さっきから微かに感じていた冷たい目線の正体は、にっくき我が妹だったりする。

「だから、勝手に入ってくるんじゃねぇって言ってんだろ」
「和英辞典どこ?」

聞いちゃいない。
コイツは、世界が自分のためにあると、本気で思ってるに違いない。
11創る名無しに見る名無し:2010/08/10(火) 00:41:49 ID:P8fr3ocK
以上、◆BY8IRunOLE氏の代理投下だ。

だが勘違いするな。これは保守代わりで他意などない。
改行の法則が不明だったから調整しなかった。wikiには既に収録されているようなので、自分でやってくれると俺はとても嬉しい。

読んでいて身につまされて胃にクる話、これもまた独特のスタイルといえよう。
・・・もう欝だ・・・俺は寝ることにしよう・・・学校に隕石落ちて全壊して休校になーれ♪
12 ◆Q1QEUibokM :2010/08/10(火) 13:03:31 ID:9gvLk4Ep
お久しぶりです、投下します。
13恋する乙女と夏の語り部 ◆Q1QEUibokM :2010/08/10(火) 13:05:43 ID:9gvLk4Ep
 大きな窓から差し込む蜜柑色の光が蛍光灯の明かりと混じり合い、窓際の机を照らしている。
 机を囲む椅子は四つあり、そのうち一席だけが埋まっていた。
 そこに座り、大人しそうな雰囲気の女生徒――河内静奈が机の上の本へと目を落としていた。
 静奈は、友人である上原梢の部活終了を待っていた。
 特に部活や委員会にも所属していない静奈が待ち時間を潰すために選んだ場所は、図書室だった。

 学食に行けば想い人に会えたかもしれない。
 しかし、彼が放課後の学食を好んでいることを知らない静奈は、かすかに漂う紙の匂いに心地よさを覚えながらページを手繰る。
 夕暮れの図書室で読んでいるのは、変わった装丁の恋愛小説だ。
 まるで日記帳のような本に、手書きめいた書体で物語は綴られていた。
 タイトルもろくに見ず、なんとなく手に取った本だったが、静奈はその物語に惹かれていた。
 悲恋ではなく、甘い恋が成就する物語を、静奈は追っていく。

 それは、非常に共感できる本だった。
 登場人物を自分と想い人に重ね合わせて胸を高鳴らせる。 
 大好きな彼と恋人になりたい。
 本に出てくる恋人のように愛し合い、一緒の時間を過ごし、共に色々なところへ行きたい。

 季節はもう、夏だ。
 一緒に花火をしたい。夏祭りに行きたい。
 泳ぐのは得意ではないが、彼と一緒に海やプールにだって行きたい。
 浴衣や水着を着たところを見られたらと、想像する。
 それだけで恥ずかしく頬が熱くなるが、見てほしいという願望も強い。
 褒めてもらえるだろうか。
 似合っていると、可愛いと、そう言ってもらえたらと、妄想めいた想像をする。
 知識でしか知り得ないデートの光景が、脳内に展開する。
 妄想はページを繰る手を止め、鼓動を速まらせ、口元をだらしなく緩ませる。

「ねぇ、あなた。私と、お話をしましょう?」

 目の前で静かな声が聞こえたのは、静奈の脳内で、牧村拓人と唇が触れあいそうになったときだった。
 
「え、ええぇッ!! わ、わたし、ですか――ッ!?」

 驚愕し大声を出した後で、静奈はここが図書室であることを思い出し慌てて口を抑える。
 一気に顔が真っ赤に染まり、べたついた汗が額と背中と掌に滲み上がる。
 変な顔をしていたのではないかと不安になりながら、静奈は正面に視線を向ける。
 そこにいたのは、ぬいぐるみを抱えた、短い黒髪が愛らしい女の子だった。
 彼女がいつの間に現れたのか、静奈は全く気が付かなかった。
 それほどまでに妄想へどっぷりと浸っていたのかと思うと、死にたくなる。
 大慌てでおどおどと首を振る静奈に、女の子は微笑んで見せる。
 目を細め、唇の両端を吊り上げたその顔は可愛らしい。
 それなのに。
 細められた瞼から除く瞳は、まるで、光すら呑み込んでしまう夜のように真っ黒だった。
 彼女は笑んだまま、口を開く。
 小さな唇の奥から除く舌は、鮮やかなほどに赤く見えた。
 
「ええ、あなたよ。そうね、あなたには――恋のお話がいいかしら」
14恋する乙女と夏の語り部 ◆Q1QEUibokM :2010/08/10(火) 13:07:50 ID:9gvLk4Ep
 ●
 
 眼鏡がよく似合う、大人しい恋する女の子のお話をするわね。
 女の子が恋していたのは、同じクラスの男の子。
 彼は爽やかで格好いい、バスケ部のエースだったの。

 そんな男の子だもの、当たり前のように女の子の人気を集めたわ。
 ライバルも多くて、彼と恋人になれるなんてとても思っていなかった。
 彼と特別仲がよかったわけじゃない女の子は、いつも彼を眺めるだけだった。
 他の女の子と、楽しそうに話す彼を、いつも眺めていた。
 恋心と嫉妬をこね合わせた視線を、いつも彼に送っていた。

 女の子は、とても人見知りが激しかったの。
 だから彼に声もかけられなかったし、友達も少なかった。
 でも、親友と呼べる子が一人いたわ。
 女の子は親友に、自分の感情を吐露することが多かった。
 それは相談だったり、愚痴だったり。
 親友はいつだって、女の子の感情を受け止めた。
 たまに、困ったような顔や苦笑いを浮かべることはあったけれど。
 反論することもなく、批判することもなく、ただただ女の子の全てを肯定し受け入れたの。  

 それが女の子には心地よかった。安心できた。信頼できた。
 女の子は親友が大好きで、心から感謝していた。
 だからあるお休みの日に、お礼をしたくて、親友を遊びに誘ったわ。
 親友が見たいと言っていた映画を見て、親友のお気に入りのお店で美味しいケーキを食べて、いつもありがとうと言おうと思った。
 けれどその誘いは、残念なことに断られてしまったの。

 どうしても外せない用事があるから、と。

 女の子はがっかりしてしまったけど、都合が悪いなら仕方ないと思い、次のお休みに約束をしたの。
 そして、お休みの日はやってきたわ。
 親友にお礼をするはずだったその日に、女の子は一人で時間を過ごしていた。
 女の子は、日記を付けていたの。
 その日記が残り少ないことに気がついた女の子は、日記帳を買いに町へ出たわ。
 駅前に着いたとき、女の子は見つけるの。

 背が高い、大好きな男の子の姿と。 
 
 その隣に寄り添う、気合の入ったお化粧をして、可愛い服でおめかしをした親友を。
 
 楽しそうで幸せそうで仲睦まじそうな、誰もがカップルだと信じて疑わないような雰囲気で、二人は。
 女の子に気付くことなく、遠ざかって行ったの。
 
 それから、女の子はどうやって家に帰ったのか覚えていなかった。
 たった一人、女の子は、自分の部屋で茫然としていた。
 想っていたのは、男の子のことではなく親友のこと。
 持て余す感情のままに、とりとめもまとまりもなく、ただただ、想ったのよ。
15恋する乙女と夏の語り部 ◆Q1QEUibokM :2010/08/10(火) 13:09:26 ID:9gvLk4Ep
 誘いを断ったのはデートのため。
 デートの相手は私の大好きな人。
 知ってたはずなのに。
 分かってたくせに。
 信頼していたのに。
 何を言っても受け入れてくれてたのに。
 それなのに。
 こんな形で。
 親友は。
 大好きなのに。
 応援してくれてると。
 想ってたのに。
 嘘だったの?
 騙してたの?
 ひどい。
 ヒドイ。
 酷い。
 どうして?
 どうして?
 どうして?
 どうして奪ったの?
 どうして踏みにじったの?
 どうして? どうして? どうして?
 どうして裏切ったの?
 私の全部を受け止めてくれるフリをして、本当は。
 嘲笑ってたの?
 
 たった一人の親友に対する信頼と情愛は、同じだけの憎悪と嫌悪に反転したわ。
 それでも女の子は、その感情を外に爆発させられなかった。
 だって、女の子は。
 男の子が大好きだったんだもの。
 もしも親友にこの感情をぶつけてしまったら、男の子に嫌われてしまうと。
 そう、恐れたから。
 男の子に嫌われたくないと、願ってしまったから。

 だから。
 女の子は外に感情をぶつけられず、持て余す感情を昇華できず抱え込んだまま。
 手首を、切ったんですって。

 残り少ない日記に血で文字を書いて。
 女の子は、息を引き取ったそうよ。
 
 ――くすくすくす。
 
 嫌われることを恐れる必要なんてないのにね。
 結局、恋は叶わないのだから。
 
 それにしても。
 同じクラスの男の子を大好きな女の子がいて。
 女の子には、相談を持ちかける親友がいるなんて。
 なんだか、似てるわね?
 これってきっと、よくある話かもしれないって、そう思わない?
 
 ――くすくすくす。
 ――くすくすくすくす。
 ――くすくすくすくすくすくす。
16恋する乙女と夏の語り部 ◆Q1QEUibokM :2010/08/10(火) 13:13:21 ID:9gvLk4Ep
 ●
 
 空調の音が、図書室に低く響いている。他の物音は、耳に届かない。
 この場所は本来静かであるべきであり、物音がしないのは当然だ。
 だが、不必要なまでに静かなような気がして、静奈は身震いをしてしまう。
「ああ、そうそう。一つ、言い忘れてたわ」
 ぬいぐるみを抱えたまま、少女が静けさを破る。
 その声はしかし、気味の悪さを助長するかのように流れていく。
「女の子が書いていた日記なんだけどね? 普通の日記じゃないの」
 少女はそっと、静奈の手元に目を向ける。
 そこにあるのは、一冊の本。
 タイトルも分からない、手書きめいた書体で記された、まるで、日記帳めいた装丁の――。
 静奈の産毛が、総毛立つ。
 思わず両手で身を抱いた静奈の目が、少女を捉えた、その瞬間。
「……っ!」
 息が詰まり、泣き出しそうになった。
 少女は、笑っていた。
 上目遣いで静奈を睨めつけ、裂けそうなほどに両側の口角を上げて。
 にぃっ……と。
 笑っていた。
 
「妄想日記なんですって。大好きな男の子との甘い甘い甘い、妄想を綴った、まるで小説みたいな、日記。
 女の子と一緒に焼かれたその日記がここにあるということは、きっと、女の子も近くにいるわ。
 ひょっとしたら、自分と同じような女の子を、同じような目に合わせようとしているのかもしれないわね?」
 
 くすくすと、不安を煽り立てるような笑い声がする。
 それから逃れるように、静奈は少女の顔から手元へ目を落とす。
 そこには、本がある。
 僅か数ページとなるまで読み進めた、本がある。
 そして、静奈は気付く。
 ずっと気付かなかったのに、不意に気付いてしまう。
 今開かれているページ裏が、次のページに貼り付いて、奇妙に分厚いことに。
 貼り付いていて開けないが、しかし。
 手書きめいた文字の背景となるように。
 
 ――赤黒い文字が、シミのように、浮き上がっていた。
 
「きゃ――ッ!」

 堪えられず悲鳴を上げ、本を振り払う。
 鳥肌は止まらず背筋は震え、目には涙が浮かんでいた。
 世界が涙で滲み、嫌な悪寒が体を包み込む。
 逃げるように目を閉ざした静奈の耳に、届いたのは。 
 
「何、今の声……? って、静奈ちゃん!?」
 
 聞き覚えのある、声だった。
 恐る恐る、目を開ける。
 涙で滲んだ視界に、ウェーブのかかった豊かな金髪の女生徒が映った。
「アリス……さん……っ」
 共に演劇を行った先輩――真田アリスの姿に、静奈は安堵を覚える。
 瞬間、張りつめた恐怖が解けて思い切り後押しされたかのように、涙が押し寄せてきた。
「アリスさん、アリスさん――ッ!」
「わわ、ちょっと、どうしたの!?」
 狼狽するアリスに構わず、抱きついた。
 焼きつけられた恐怖を洗い流そうとするように泣く静奈は、気付かない。
 
 ぬいぐるみを抱えたあの少女とあの日記帳が、夕闇に溶けるように消えてしまったことを。
17 ◆Q1QEUibokM :2010/08/10(火) 13:15:31 ID:9gvLk4Ep
以上、投下終了します。
真田アリスとふーちゃんお借りしましたー。

夏の怪談企画用です。
遅くなったけどまだ夏だからいいよね!

しかし怪談とかホラーって難しいな。
18創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 08:37:31 ID:weOEXVnF
>>13
向上心と上昇志向を勘違いしてないか?
19創る名無しに見る名無し:2010/08/13(金) 17:37:06 ID:P/h38yrg
向上心 俺の心に 向上心

投下乙。
怖さはともかく、えげつねえ。そうやって人の心の闇を針でチク刺すというのか。
学園はそういう怪談には事欠かなそうだな。怪しげな理科系の男とか巫女とかいるし。

しかし、まさか拓人が食堂にいるとは思わないんだろうな。なんか静奈らしいすれ違い方だ。
まごまごしてるとコスプレイヤーに横取りされるっ。
20創る名無しに見る名無し:2010/08/15(日) 00:55:46 ID:k1ZS56cb
>>19
> まごまごしてるとコスプレイヤーに横取りされるっ。


待て、ここは雄一郎の可能性も無いとは言えないだろう
21創る名無しに見る名無し:2010/08/18(水) 20:21:30 ID:tcF/Ad0f
めっきり過疎ったね。
よくわからんタロット占いの話?が投下されてから人がいなくなった気がする。
22創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 06:38:23 ID:KL9QYmxr

人を馬鹿にする発言いくない。
23創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 12:57:28 ID:VE/5giaP
荒らしに構うな。和穂ぶつけんぞ
24創る名無しに見る名無し:2010/08/19(木) 15:23:12 ID:j2/Z+Ofv
うぇるちんの絶壁無乳アタックを食らえ
25創る名無しに見る名無し:2010/08/20(金) 05:23:02 ID:DmsQ7v/4
士乃もつけるぜ!
26 ◆wHsYL8cZCc :2010/08/20(金) 19:00:00 ID:fmhq3Yr+
私は帰ってきた。
……あと業務連絡。怪談ふーちゃん一話と先輩後輩のこっくりさん上下書いてたけど、こっくりさんが上下どころか五話くらいでも収まる気配がなく、かいてて泣けてくるほど内容がないようだったので消去したw
なんでふーちゃん一つしかデケテナイn……。

>怪談難しい。
身に染みて思い知らされてた所だw

ライオンは四話分ある。現在データ整理中。
27怪談もどき ◆wHsYL8cZCc :2010/08/20(金) 21:58:45 ID:fmhq3Yr+
ようやく投下。
なんか言い出しっぺで申し訳ない。
28怪談もどき ◆wHsYL8cZCc :2010/08/20(金) 21:59:47 ID:fmhq3Yr+
 こんばんわ。
 諸事情により最後にやるはずだったのをブチ込むとかなんとか作者が言ってるわ。夏が嫌いになりそうだとも言ってたけど……。まぁ勝手に嫌いになればいいわよね。

 本来ならいろんな人が出てくるはずだったけど、今回は出てこない。
 このお話は直接私が語ってあげる。
 この話はね、昔の仁科のお話なの。一体誰が出てくるのか。このお話の真意は一体何か……。
 フフ……。それは少しずつ明らかにしていけばいい。別に夏以外にやっちゃいけないわけじゃないし。それに、夏は来年もやってくるんだから。

 じゃあ、さっそく始めましょう。とっても悲しい、とっても悲しい、怨みのお話……


 仁科の怪談 第X回
 【新浦文子(噂)】


 昔、仁科学園にはどこにでも居る普通の高校生である新浦文子という女の子がいました。
 とっても控えめで大人しい女の子でした。
 熊の縫いぐるみが大好きな、本当に普通の女の子でした。

 ある日、彼女は通学途中に猫が車に轢かれそうになる所に遭遇しました。

 彼女は危ないと思いました。なんとかしなきゃと思いました。
 彼女は車が猫を避けて行けばいいのにと祈りました。とっても強く祈りました。
 猫を轢きそうになった車は、間一髪で猫を避けて電信柱にぶつかりました。運転していた人は死んでしまいました。

 彼女は普通の女の子でした。
 成績もちょうど真ん中くらい。見た目だって普通だと言える程度です。
 ただし、とっても控えめな女の子だったので、友達を作るのは少し苦手でした。彼女はそれだけが悩みだったのです。

 ある時、体育の授業中の事です。
 同じクラスの陸上部の女の子がいました。彼女はとっても優秀な選手で、大会ではすごく期待されていた人なのです。
 彼女は、ちょっと意地悪な人でした。
 運動が苦手だった文子は彼女と居るのが少し嫌いでした。なぜならば、彼女が意地悪な事を言うからです。

 五十メートル走のタイムを計る時です。文子はその陸上部の女の子を見ていました。
 彼女が嫌いだった文子は少しだけ、転んでしまえと思いました。
29怪談もどき ◆wHsYL8cZCc :2010/08/20(金) 22:00:07 ID:fmhq3Yr+
 彼女は走りました。
 とても脚が速い女の子でした。彼女は半分ほど進んだ所で、突然転んでしまいました。
 足首をくじいて、骨折してしまったようでした。そして彼女は、陸上部を辞める事になりました。


 文子はある日、恋をしました。
 同じクラスの男子生徒の事を好きになりました。彼の事を考えると、つい頭がぼーっとなってしまいます。
 授業中でもついついぼーっとしたりしてしまいます。

 窓ガラスががたがたと揺れました。
 壁に貼られた生徒達の書がばさばさと落ちました。
 黒板の前のチョークが白い粉を出しながら割れました。

 文子はずっとぼーっとしていました。ずっと彼の事だけを考えていたのです。
 彼はその日、体調を崩して早退しました。それでも文子は彼の事を考えてしたのです。
 クラスのみんなが文子を見ていました。

 先生に呼ばれて職員室に行きました。校長先生や教頭先生もいました。
 みんな、なんとかならないかと言っていました。どうにかならないかととっても悩んでいたのです。
 しかし。文子には何事か解りませんでした。
 先生たちは、この娘は大事な娘だからと言いました。

 次の日、お昼休みに文子は大好きだった彼から放課後に会いたいと言われました。
 文子は喜びました。とても喜んだのです。大好きな彼に誘われるなんて、まるで夢のようなお話だったのです。文子はわくわくしながら、放課後を待ちました。

 そして、放課後です。
 文子は喜んで言われた場所に行きました。学園の隅にある、まるでジャングルのような所です。
 彼はいました。ですが、あの大好きだった笑顔じゃありませんでした。
 他の人も居ました。たくさんたくさんいました。よくみると、文子のクラスの人達が全員揃っていました。

 文子は言われました。化け物とか、悪魔とか。
 大好きだった彼は文子の想いに気付いていました。文子がかんがえた事は、文子が意識した人に全て伝わっていたのです。
 陸上部の彼女も居ました。彼女は転んだ理由が文子だと言っていました。

 文子は否定しました。だって文子は、とても普通の女の子なのです。
30怪談もどき ◆wHsYL8cZCc :2010/08/20(金) 22:01:27 ID:fmhq3Yr+
 ですが、聞き入れられませんでした。
 そして、始まりました。とっても苦しい、とっても凄惨な。それは彼らにとっても、命懸けの事でした。自分達を守る為でした。

 文子は寄ってたかって叩かれました。お腹が凄く痛くなりました。すごく喉が渇きました。内蔵が破裂したのです。
頭は皮がべろんと剥がれるほど叩かれました。頭の形が変わっていました。頭蓋骨が割れて、脳みそが少し出ていました。
 腕は間接が増えたかのようになっていました。指はまるで投げ出された手袋のようになっていました。

 それでも、文子は生きていました。
 彼女は思ったのです。生きたい。死にたくない……! と……。
 だから文子は死にませんでした。でも、そのせいで普通では考えられない苦痛を味わう事になったのです。

 皆は言いました。やっぱり化け物だ。人間じゃ無いと。
 大好きだった彼がポリタンクを持ってきました。灯油が入っていました。
 それを、文子にかけました。
 文子は察知しました。これから生きたまま焼かれるのだと。そして、文子は焼かれました。

 それでもなお。文子は死にません。生きたかったからです。ずっとずっと、真っ黒焦げになるまで。
 文子の身体は、焼かれた人が取るポーズをとって動かなくなりました。

 文子は考えました。もう身体は使えないと。
 文子は考えました。なぜ私がこんなに苦しむのかと。
 文子は考えました。みんな大嫌いだと。

 皆は真っ黒焦げの文子を見ました。
 死んだと思ったのです。ところが、皆は驚きました。

 真っ黒焦げの文子の顔は、笑っていたのです。
 とってもおぞましい笑みを浮かべたまま、真っ黒な顔で固まっていました。
 皆は穴を掘ってそれを埋めました。場所は今は誰も知りません。誰も答えられないのです。

 何故ならば、その次の日には、クラス全員の子が行方不明になってしまったからです。
 当然、その前に何があったのか、知る人は誰も居ませんでした。


※ ※ ※


 ……以上よ。

 これはあくまで噂話よ。本当にこんな酷い事があったのかなんて信じられる?
31怪談もどき ◆wHsYL8cZCc :2010/08/20(金) 22:03:00 ID:fmhq3Yr+
 それに、おかしな所もたくさんあるしね。

 たとえば、文子ちゃんは普通の女の子だった。でも、ところどころ普通じゃない場面もあったわね。どう考えても、彼女はおかしな力を持っていた……。
 でも多分、彼女は気付いていなかった。
 フフ……。もし自覚していたら、もっと悪い事に使ってたはずよ。だってそれが人間だもの。

 それに、あれだけ凄惨なリンチを受けて死なない人間がいると思う?
 あまりに残虐過ぎるわ。きっと尾鰭が付いて来た結果ね。……もっとも、現実というのはたいがいにしてもっと凄惨な物だけど……。
 フフ……。でもこれは噂話。実際にあったかなんて、誰も知らないんだから。

 え?
 私の名前?

 どうだっていいじゃない。私の事なんか。

 それより、もっと気になる所が無い?
 たとえば、行方不明になったクラスの子供達。一体どこにいっちゃったのかしらね。

 そしてなにより、このお話には重大な事が抜けているのよ。
 ひそかに受け継がれてきたお話だけど、一度たりともそこが話された事はない。

 文子ちゃんはクラス全員から徹底したリンチを受けて、焼き殺された。
 そう。焼き殺されたのよ。
 でも、一度もはっきり言われた事がない。

 何度聞いても、何回読んでも、どれだけ噂が広がろうとも……。
 文子が死んだとははっきりと言われていないの。

 ……よく読んで?
 彼女は本当に死んだのかしら……?

 あら?
 そろそろ時間みたい。お友達が迎えに来たから。

 フフ……。
 私はこのお友達が大好きなの。私のお手伝いをしてくれるから。
 え?
 どこにも居ない?
 見えないの? 私たちの周りにたくさん居るじゃない。みんな私たちを見てる。
 そうね……。三十人くらいかしら。ちょうど一クラス分の人数ね。

 え?
 私の名前?

 どうだっていいじゃない。私の事なんか……。

 でも、みんなは私の事をふーちゃんって呼んでくれてるの。
32怪談もどき ◆wHsYL8cZCc :2010/08/20(金) 22:04:11 ID:fmhq3Yr+
おわり。

明日あたりライオン五話投下。
ついに最後の新キャラ出るよ!
33仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/08/21(土) 13:52:43 ID:1pVGprko
「学校に来るなんてずいぶん久しぶりなんじゃない?」
「はい。すっかりオッサンです」
「あら、私から見ればまだ子供だけどね」
「大人の女性は好きですよ?」
「そーいう所が無ければ可愛いげあるんだけどねぇ?」

 職員室。白壁やもりのデスクの前でやもりと話し込む男が居た。
 身長は裕に二メートルはあろうかというその男は、どうやらやもりとは知った仲のようだ。

「……さて、とりあえず手続きは済ませたけど、復学は明日から?」
「はい」
「どうしてまた復学しようなんて思ったの? あなたならそのまま別の所に進学出来たはずよ。そうじゃなくてもやって行けたかもしれないのに」
「どうせ大学に行くなら仁科にしたいと思ってます。知った所ですから。でもそれなら仁科の高等部の卒業資格が要りますから」
「あらそう。でも夏休み前なんておかしな時期を選ぶわね」
「思い立ったが何とやらですよ先生」
「ま、そういう事にしときましょ。
 ああ、そうそう。あなたが居ない二年間で面白い事になってるわよ?」
「面白い事?」
「ええ。詳しい事はあなたのクラスの迫って子に聞いてみなさい」
「はぁ……」



第五話:【最後の戦士】



 ペタペタという音。リノリウムの床をゴム底で叩く音だ。
 踵を吐き潰した上履特有の物である。

「そろそろトリートメントをしなければ……。ああ、丁度よくプリン頭になってきたし、近々染めに行くか」

 相変わらず下品に廊下を歩く懐。手には大量の缶ジュースとお菓子。
 演劇に携わった裏方さんへのお見舞い品だった。どういう訳か懐が配っている。
 最初に美術部に行ったら何故か台が居なかった。代わりに複数の属性を持つという可愛らしい部長に見舞いの品を預け、何故かととろやマサのおやじにまで配る。
 懐の計り知らぬ所で騒動があったと聞いていたが、それの見舞いでもあるのだろう。次からは俺を呼べときつくととろに言ったが「場を掻き乱す恐れあり」と却下された。
 そんな奴じゃねぇという反論も通じず、少し思う所もあったので素直に身を引いた。
34仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/08/21(土) 13:53:43 ID:1pVGprko
 巡りに巡り、最後にたどり着いたのはコスプレ部。
 何故最後にしたのかは理由がある。演劇も片付いたし、そろそろコッチの衣装もやってくんない? と一言言う為。
 さらには京が隠し持っているおやつを食う為。

 時刻は既に夕方五時を回っていた。殆どの生徒は帰っている。
 しかしながら、コスプレ部の部室からはやはり人の気配が漏れていた。作業に没頭していると予想される。
 懐は手に持った荷物を抱え直し、いつものように無遠慮かつノックも無しにドアを開けた。

「おーい。やってるかみや――」
「!!?」

 眼前に広がっている光景。
 それは嬉々として嫌がる男子生徒の服を脱がそうとする京。

「……。お邪魔しましたぁ〜」

 懐はそれ以上の言葉を持たない。速やかにドアを閉めて踵を反す。刹那、京が部室から飛び出す。

「ちょちょちょちょちょっと待った! 待て!」
「いやいやいや、いいよいいよ? 俺の事は気にしないで。ちゃんと黙っとくから。さすがの俺もそこは空気読むよ?」
「アンタ勘違いしてる! 絶対すんごい勘違いしてる!」
「だから気にするなってば。そりゃ邪魔されたくねーよな。お邪魔でしょうから私はこれで」
「だから違うってば!」
「何を恥ずかしがる。愛する男女が睦み合うのは自然の摂理であろう。思う存分愛を分かち合いなさい」
「だから違うっつってんの! 解って言ってんだろテメー!」
「確かに俺は『やってるか?』と声をかけた。しかしまさかヤってるとは――」
「それ以上言うなバカー!!」

 顔を真っ赤にした京の鉄拳が炸裂した。あらゆる意味で危険を感じた故の制裁である。
 トドメに髪の毛をぐいぐい引っ張り部室へと連行していく。

「痛い痛い痛い痛い痛い! 髪は止めて! ホント止めて!
 大事にしてんの気ぃ使ってんの。解るでしょ!?」
「自業自得よ! さっさと来い!」

 情けなくもずるずると引きずられ部室へと連れ込まれる。
 半泣きで髪を心配する壊が見たのは、同じく半泣きの男子生徒。見事なまでの中性を貫く顔立ちは男子の制服を着ていなけばそれとは解らない可能性すらあると懐は見た。
35仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/08/21(土) 13:54:37 ID:1pVGprko
 しかもどこかで見た顔だとも思う。
 脳細胞の軸索に電気刺激を走らせて導き出した答は、その男子生徒は牧村拓人であるという事。
 そういえば演劇にも出ていた。ナイスな役所で。

 床に寝そべり髪を引っ張られた状態で、お互い会釈した。
 拓人の方も何と無く懐を見た事がある様子だった。これだけ目立つ頭と言動をしていればそうだろう。

「……。ああ。なるほど。例の着せ替え人形君ね」
「そんな人聞きの悪い事言わないで!」
「ところで京さん?」
「な……何よ?」
「俺は今床に仰向けになっている」
「そ……それがどうかしたの……?」
「つまりだ。この位置関係に於いて、俺の視界に捕える物は上下が逆転した世界のみならず、とてもいいものが見えるのだ」
「何言ってんのよ」
「結論から言おう。パンツ丸見えなのだ」
「……。くたばれ!」
「がふッッ!!」

 寝そべる懐に京の強烈なスタンピングキックが見舞われた。
 持っていたジュースがころころ床を転がり、悶絶している懐の脇腹にあたった。すっかり機嫌を損ねた京に連れ込まれたばかりの部室を追い出される。ついでに半泣きの拓人も救出。
 見舞い品は結局渡せず終いだった。

「……ぐふッ。くっそいい蹴りしてやがる。あれほどのスタンピングはよほどプロレスに精通していないと出来ないはずだが……」
「京先輩、マスクすら作ってますし研究熱心ですから……。きっと人気悪役レスラーの動きを研究したんだと……」
「恐るべきコスプレ魂だ」
「……。噂には聞いてましたけど……。いつもこんな感じなんですか?」
「いつもというと」
「先輩と京先輩」
「知りたいかね?」
「え? ええ……ちょっと」
「いいだろう。ついでにパンツの色も教えてやろう」
「ええぇ!?」
「知りたいだろう?」
「え? ええ……いや、その……。はい」
「素直でよろしい」

 二人は取り合えず一緒に帰って行った。




※ ※ ※




 次の日。
 今日もいつものような日常が始まった。
 拓人は小鳥遊と朝の挨拶を交わし、京は寝不足の目を擦って席に座り、懐は遅刻ギリギリ滑り込みを目論み激チャリをかます。
36仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/08/21(土) 13:56:54 ID:1pVGprko
 ただしそれは一年二年の話である。
 三年のとある教室では大騒ぎになっていたのだ。なぜならば、その日から新しくクラスに編入する男子生徒があまりにも特異な存在だったから。
 担任教師が事情を説明し、遂にその騒動の元が口を開こうとする。その時、クラスは更にざわめく。主に女子生徒が。

「コラコラ。静にしろ。自己紹介させない気か?」

 担任教師が言う。が、ただのオッサンの声など馬耳東風とばかりに虚しく空気を揺らすだけ。
 皆の視線は既に編入してくる男子生徒に一点集中。主に女子生徒が。

 その男は大男ひしめく仁科に於いてもトップクラスの長身。
 細身でありながらガッシリした印象もあり、さらに彫りの深い慈愛に満ちた目。馬の鬣の様にサラリとしたうっすら茶色のセミロングヘア。ワイルドでありながら品性すら漂わせる渋く整えられた顎髭
 それは破壊力抜群のフェロモン満点の低い声で、自己紹介した。

「今日からお世話になる、空知亮太です。皆さん、よろしく」

 同時に黄色い声が一斉に湧き出る。男子生徒はそれを見て諦めの表情をする者が大半。敵わない。相手が悪すぎる。そんな感じだった。

「さっきも言ったが、二年間休学して今日から復学だ。みんなとは二つ以上も歳が違うが、仲良くな」

 担任教師の空気を揺らすだけの声がもう一度響く。
 その横にいた完璧超人の如きイケメン野郎は自分の席を指定され、バッグ片手にその席へ。
 一歩あるく事に雄の空気を漂わせる。しかしながら粗暴な感じは一切無かった。大人である。完璧に。
 誰かが言った。

「なんて奴が現れたんだ……」

 亮太は指定された席に座り、バッグから教科書等を取り出す。殆どは自習してしまったが、改めて勉強するのも悪くないと思っていた。
 横の席になった女子生徒がよろしくと言った。亮太はそれに必殺のスマイルで応える。一人落ちた。
 亮太は教室を見回し、やもりに言われていた事を思い出す。

『あなたの居ない二年間で、面白い事になってるわよ』

「面白い事……か。何だろう?」
 亮太はもう一つの事も思い出す。そして、それを横の席の女子生徒に聞いてみる。
37仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/08/21(土) 13:58:09 ID:1pVGprko
「このクラスに迫って人が居るらしいんだけど、それって誰かな?」
「あ、それなら前の方に座ってる眼鏡をかけたあの人……」
「あの人だね?」

 亮太は隣の席の女子生徒の視線の先を指差す。少し接近し、まるで自分が物を尋ねられたような雰囲気すら漂わす。ナチュラルにそれをやり遂げる男だった。本人にその意識が無いのが憎らしい。

「……あの人がやもり先生が言ってた人か」
「なんで迫さんにご興味があるのですか?」
「ん〜。ちょっとやもり先生に吹き込まれてね。あ、そうそう。黒鉄懐っていう金髪の子が居るとも聞いたんだけど?」
「え? ああ、はい。二年生だけど……。でもあんなの亮太さんがお近づきになる必要は……」
「まぁまぁ。いろいろと面白いとは聞いてるからね。あの迫って人は詳しいらしいね」
「そうみたいですけど……。なんで詳しいんだろう?」
「じゃあ直接聞いてみるよ。後で君にも教えてあげるよ」
「は、はい。楽しみにしてますぅ」

 しばらくの後、懐と亮太は出会う。そしてその時、奴らの運命は大きくうねりを持って動き出すのだ。



※ ※ ※



「セーフか!?」
「アウトだ!」

 遅刻した懐は担任に一喝される。ホームルームの真っ最中に登場してセーフもクソも無いのだが、取り合えず言ってみるのが懐。
 当たり前とばかりに自分の席に着いて一瞬で最初から居ましたよオーラを出す辺りはさすが遅刻常習犯である。

「さーて、寝るか」
「聞こえてるぞバカ者!」
「ちッ……」

 これもいつもの事。実際はあんまり居眠りをしない方だったが、やりかねないとは常々思われている。
 それでも何と無くオッケーな感じを醸し出すのも恐るべき特殊技能だった。今日ばかりはそれを利用しようとしていたが、朝っぱらから失敗してしまった。

 懐は珍しくぼーっとしていた。
 最近の事を思うとやる気が出なくなっていたのだ。バンド解散からしばらく経って、メンバー一人は戻ったものの他のポストは開いたまま。
 トオルと懐に付いて行ける技量を持った人材などやはりそうそう居るものでは無かったのだ。
38仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/08/21(土) 13:59:08 ID:1pVGprko
 さらには演劇を終えた迫達演劇部の動向も気になっていた。
 あれほどしつこい勧誘をしていた連中が簡単に諦めるとは思えなかった。葱とあかねはまだ凌げるが、問題はキレ者の迫先輩。
 いざとなったら強行策すら行いそうな雰囲気はある意味恐ろしい。

「どーすりゃいいモンかねぇ〜」

 机に顎を乗せたまま呟いた。
 もうすぐその悩みが両方とも解決する事になるとは、この時懐はまだ知らなかった。



※ ※ ※



「なるほど、そういう事か」
「まぁそんな所だね。是が非でも欲しい人材なんだよ」

 昼休み。早速迫と亮太は話し合っていた。
 そして、やもりが言っていた『面白い事』の正体も知る。

「でも……。その懐って子はそっちに興味はないんだろう?」
「まあね……。洗脳すら試みたけど、意思が強すぎるのか失敗したよ」
「ははは。よっぽど凄いんだね」
「そんな所だよ。正直羨ましい程だ」

 迫が懐にこだわり続けた理由。それを聞いた亮太は少し興奮した。
 もし噂通りなら、もしこの迫という男の言った事が真実ならば、それは亮太にとっては非常に楽しい事になるかもしれないのだ。

「どこに行けば会えるかな?」
「どこにでも居るさ。そのうちイヤでも目に付くようになる」
「少し話をしてみたいね。その、懐って子と」
「こっちもだよ。……正直、俺も勧誘は諦めてる。その前に部員の葱とあかねに証明しなとな。アイツがどんな能力を持っているか。
 じゃないと催眠術を修めてまで追わせたアイツらが納得しないだろうし」
「俺も興味があるね。是非一緒に見たい」
「そりゃ構わんが。……でもかなりハデな方法で接近しないとムリだ。俺達じゃ取り付く島もない」

 迫はうーんと悩みはじめる。
 あれだけ神出鬼没の懐なのだが、ここ最近はとんと見ていないのだ。
 最後に見たのは学内発表の演芸を客席で見ている姿だけ。明らかに避けられてる。というより会いたくないと公言されているくらいなのだ。

「よし、こうなりゃ最後の手段だ。コレだけはやりたくなかったが……」
39仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/08/21(土) 15:35:03 ID:1pVGprko
ライオン五話7


「どうするんだい?」
「……仁科最強の連中さ」

 迫は携帯を取り出す。アドレス帳からある人物を選ぶ。
 そこでまた一旦悩む。もしこの男達を動員すれば最後、本格的に嫌われかねない恐れがあるのだ。それほどの最終手段だった。

「……どうしたんだ?」
「いや……。なんでもない。よし、そっちはそっちで自由にやってくれ。こっちの準備が出来たら呼ぶ。
 その時にどれほどの物か、確かめるといい」
「そうしよう」
「ところで……」
「何だい?」
「なぜアイツに興味が?」
「……俺もギタリストだ。それなりの活動もしてたんけど、色々あってさ」
「色々?」
「そう。色々とね」
「……何か訳アリっぽいが、聞かないほうがいいか?」
「出来ればね。長くなるし、俺自身、決着が付いていない。まぁ、いつか話すよ」
「そうか……」

 迫は再び携帯へと目を落とし、一呼吸置いて通話ボタンを押した。
 もう戻れない。どうせ現状嫌われてるのだ。これ以上恐れて何になろう。そう自らを言い聞かせた。
 そして電話が繋がる。

「もしもし? 俺だ。……ああ。やる事にした。
 安心しろ。部長には黙っててやる。報酬は……。くっ、足元見やがって
 ああ、分かった分かった。お前等が大変なのはよく知ってる。じゃあ日にちが決まったらまた連絡する。その時段取りしよう。
 ……そうだ。勢い余って殺したりするなよ。じゃあ切るぞ。またな、アゲル――」


続く――
40仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/08/21(土) 15:36:05 ID:1pVGprko
投下終了。

以下新キャラ


空知亮太。三年。ギタリストらしい。

事情により二年間休学して復帰。教員達には事情を知ってる人も居るらしい。
身長二メートル超のクソイケメン野郎。どうにもならない。
彼は懐達が持っていない極めて重要な物を持っている。
それがどんな物で、ギタリストとしてはどうなのかという事もその内明らかになるであろう。
頭のてっぺんから爪先まで大人の男である。
41仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc(代行):2010/08/28(土) 20:17:12 ID:sMCIKHjw
第六話:【暗躍しちゃいます】



「と、いう訳だ」
「無い無い。よりによってアイツの場合は絶対無い」
「そうッスよ。むしろコッチ側の人間じゃないスか」

 学園内某所。
 秘密の場所で悪しき相談をする者が約三名。

 彼らこそこの仁科学園にてカップルの心胆を寒からしめる恐怖の噂、この時代に反発するかのようなリーゼントにモヒカン、そして坊主頭の三人組。
 あのカップル撲滅運動の三人だ。

「アイツがそうだとは考えられないだろ。むしろ最近はととろと一緒に行動している事がある。そっちのほうが問題だ」

 モヒカンが語る。坊主頭もそれに続く。

「そうッスよ。あれほどのプロレス野郎が護衛に就いたらいざって時の実力行使もやりづらいッス。見事に抑止力になってるッス」

 それを聞いていたリーゼントは軽く首を振りため息をこぼす。そして自らの考えを述べる。

「……確かにアイツにそんな噂は今まで無かった。だが今回は割と身近で見ていた俺が確認したのだ。観察眼だけはあるつもりだ。
 アイツ自身がバカ過ぎて自分で気付いていないのが何とも滑稽だが、その気になる前にツブさなければ」
「そもそもそこがおかしい。カップルなら問題ないが、今は一人なんだ。そもそもターゲットとなりえない」
「それにほっとけば忘れるんじゃないッスか? あの人なら」
「解っていないな。アイツが本気になったら、おそらく止められんぞ。何事も一直線な奴なんだ。それ以外の事は逆な奴なんだが……。
 そうなれば完全にととろ側に寝返る可能性はある」

 リーゼントの大男は危機感を煽る。が、それは見透かされている。
 モヒカンはそれを言う。

「素直じゃない奴だ」
「なんだと?」
「素直に友達を狙うような事態が恐ろしいと言えばいいだろう?
 そのくせ、アイツには自分の事を気づいて欲しい。友達だからな」
「……。フン」
「とにかく今は俺達が手を下すべき時じゃない。まずは奴が何も気付かない事を祈る。次にもし気付いて行動に起こしたら失敗するよう期待する。
 もしダメなら……やるしかない」
42仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc(代行):2010/08/28(土) 20:17:53 ID:sMCIKHjw
 リーゼントの大男は明らかに不満気な表情を浮かべた。
 珍しく自分でもどう行動すべきか解らずにいたのだ。そして、モヒカン男はそれをよく理解していた。

「結論は以上だ。俺達が自分達のルールを曲げる訳にはいかない。そこは理解しているだろう?」
「……ああ」
「ならいいんだ。もっとも……」
「なんだ?」
「撲滅運動としてでは無く個人で勝手に何かやるなら俺達には何の関係もない事だ」
「……」
「どうせ一人で行くべきかどうかの相談したかっただけだろう? 俺達の知らない所で何をしようが、関係ないさ」
「すまんな」
「別にいいさ。ああ、要注意リストには載せておくから安心しろ。」

 三人は立ち上がる。相談は終わりだ。
 そして最後に、本日の議題についての感想を述べはじめた。

「しかし信じられないッス!」
「全くだ」
「そんな人には見えないんスけどねぇ」
「油断大敵だな。俺はまだ懐疑的だが……」
「ホントッスね。自分で気付いてないって所があの人らしいッスけど……」

 相談事態はつまらない物だったが、議題そのものはかなり驚きだったようだ。
 二人は口を揃え全く同じ事を言った。

「まさかあの懐が女に惚れるとは!」




※ ※ ※




「ぶぁ〜っくしょ!!」
「うわぁあ! き……きたな……」
「スマン。風邪でも引いたか……?」

 人が噂をすれば何とやら。
 この天の素晴らしいシステムを余すところなく利用している懐は鼻水と唾液を派手に撒き散らす。
 懐にとっては定期的に出る謎のくしゃみだった。

「さて……。そっちはなんか進展あった?」
「う……。何も……。やっぱり……その……。うまくメタルの偏見解く所で躓いて……」
「そっちもか……。どうせ『ヘビメタ? あのギャーとか言う奴?』とか言われたんだろ?
 そんな奴こっちから願い下げだ」
「あの……そっちは……?」
「こっちも同じだ。メタルやる奴はポツポツ居るけど……。どいつもこいつも下手くそばっか。
 いくら速くても音が汚けりゃ意味が無いっつーの」

 メンバー捜しはやはり難航していた。
 横たわるメタルへの偏見。それを乗り越えたとてまともなプレイが出来無ければメンバーに加えようもない。
43仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc(代行):2010/08/28(土) 20:18:34 ID:sMCIKHjw
 そもそも現代ではハードロックシーン自体が大人しい。
 そのうえ懐達が求める『鋼鉄の音』を体現するほどの連中となると希少動物のような物だった。
 当然、流行りものに弱い高校生となれば希少価値はさらに上昇する。

「どうしよっかなぁ……」
「う……。あの……。もう一度昔の仲間に当たってみます……。
 クラシック上がりなら……その……腕前は問題ないかと……」
「そうか……。じゃあ頼む。俺は……。あああぁ〜〜」

 懐には既に心当たりが無かった。
 上手い連中も知っているがそういう奴はたいがいにして別のバンドに居たりする。しかも他ジャンルだ。
 引き抜きはトラブルの元となるので避けたかった。

「帰る!」
「……えっ?」
「考えてもしょーがねー! こういう時は帰って寝るに限る! さようなら」「え……? ちょ……。……行っちゃった」

 懐はすたすたと帰路へ。残ったトオルも仕方なく帰宅。二人が居たベンチは一瞬で静まり返る。通る生徒もまばらだった。

「……」
「……見た?」
「ああ。あれが懐君ね」
「君なんていらないよー。バカでいいよバカで……」
「そういう訳にはいかないよ……」

 ひそひそ声。遥か彼方よりその声を発した者は、駐輪場から自転車を持ち出す懐とてくてく歩くトオルを凝視している。

「……あの歩いてるのがトオル君だよ。なんでもオリジナル曲を創っちゃうんだって!」
「それは凄いね。にしてもこのオペラグラスも凄いね……」
「そりゃそうですよ。もはや魔器と呼べる性能でしょ、亮太さん」
「ああ。たまげたよ」

 ととろと亮太はじとーっと懐を観察していた。
 直接会おうと思って懐を捜していた亮太は、最近はととろと一緒によからぬ遊びに興じているという情報を元に捜索を開始した。
 ととろの目立つ風貌は特徴さえ押さえればすぐ分かる。常に移動している懐より簡単に発見してしまったのだ。懐に会いたいから取り次いでくれないかとの要望に、ととろは意外な提案をする。

「なら観察してみない?」

 そして、さながらスパイの如き覗き行為をする羽目になっていた。

「見た目はホントに目立つね。いや、目立とうとしてるのかな?」
「バカだからねー」
「しかしメンバー捜しをしているってのも本当のようだね」
「うまく行ってないって常に愚痴ってるよ。聞く方の身にもなれと小一時間問い詰めたいよ」
「はは。まぁそれだけ本気なんだろうね」
44仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc(代行):2010/08/28(土) 20:19:20 ID:sMCIKHjw
 亮太はパチンとオペラグラスを閉じる。距離が離れ過ぎた為に観察が不可能になったからだ。

「十分見せてもらったよ。確かに面白い子だ」
「もういいの?」
「ああ。後は直接会ってみるさ」
「じゃあ呼び出そうか?」
「いや、いいよ。自分で会いにいくよ。変な事に巻き込んで悪かったね」
「誘ったの私なんだけど」
「そうだっけ?」

 オペラグラスを返却し、亮太も帰路につく。
 見たい物は十分見れた。次は人となりを理解し、実力を確かめるだけ。
 その結果次第では亮太自身の問題に決着が付くかもれないのだ。
 ただ、自分の夢を信じれるかどうかという問題が――



※ ※ ※



 同時刻。
 学食は放課後をゆっくり過ごす生徒達が何人か。それぞれが自分の時間を好きなように過ごしていた。
 窓の外では太陽がまだ地面を照らしている。窓ガラスを貫いて少しセミの声も聞こえてきた。
 きっと外はうだるような暑さだろう。
 学食ではエアコンがよく効いていた。この中では降り注ぐ太陽光線も纏わり付く夏の湿気も関係無い。
 おかげで真夏でありながら優雅にホットのカフェオレを楽しめた。

 牧村拓人はいつものようにお気に入りの場所でのんびり放課後を過ごしていた。先日はちょっとした騒動があったが、本来ならばのんびりゆっくり過ごしたいのが本心だ。
 たとえちょっと楽しい事があったとてこの思いは変わらない。
 が、残念ながら既に騒動に知らずの内に巻き込まれてる。先日の放課後からずっとだ。

「……。居た」
「びくっ!」
「驚き過ぎじゃない拓ちゃん?」
「みみみみみ京先輩!?」
「どーしたの? そんなバケモノでも見たみたいに?」
「い……いいえなんでも……」

 正直たまにバケモノに見えているのは内緒だった。

「それがさぁ、こないだはあんな事になっちゃったから見せず終いだったんだけどぉ? 拓ちゃん用の新コス?」
「ぼ……僕用ですか」

 僕は逃れられないのか!? そんな事を考えた。
 前は上手く混乱に乗じて脱出したものの、今日も都合よくそうなるとは考えられない。
45仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc(代行):2010/08/28(土) 20:20:01 ID:sMCIKHjw
 先日はまさかの乱入者が場をひっちゃかめっちゃかにしていった。
 そのおかげと言っては何だが難を逃れたのだ。
 ああ、今日もまた再び現れないものか。そんな事を思い、あの時の珍事を振り返る。
 そうだ、部室に連れ込まれ、危うく服を脱がされそうになった時、あの人が現れた。そして髪を引っ張られ蹴りを見舞われ追い出され、そしてその後……。

「……はッ!」

 拓人はある事を思い出した。ある意味、かなりの機密事項だ。
 思わず京を見る。どうかしたのかと言いたげな京をよそに、思わず要らぬ事を考える。懐の毒が回っていた結果だ。

 京には最初、拓人に何が起きているのか解らなかった。
 ただ、最初に驚いた顔をし、次に嫌そうな顔をし、トドメに妙な表情となったのを確かに見た。
 妙な表情である。
 そして京は瞬時に悟る。

「……まさか……!! 何を言われた!?」
「ななな……何の事ですか!?」
「懐は……あのバカは何を言った!? 何を聞いた!?」
「何も聞いてませんッ!! パンツが何色かなんてしりませ……しまった!!」
「やっぱりかぁ!!」

 思わず口を滑らせた拓人によってあの後どんなやり取りが行われたのかを連想してしまう。
 京は拓人をチラっと見る。妙な表情は消え、いつもの可愛い顔へと戻っていた。だが、さっきの表情は忘れない。
 ああ、拓ちゃん、やはりアナタも男の子だったのね。

 今度はいても立っても居られず、どうしていいか解らない。
 また拓人をチラ見する。なぜか顔が真っ赤になる。

「……ゴメン、また今度!」

 そう言って走り出した。何故か死ぬほど恥ずかしかったのだ。
 次に湧いた感情は怒り。無論、懐に対して。奴の無駄に鋭い表現力で一体どんな伝え方をされたのか。そればかり気になる。
 とはいえ、髪を引きずって床へ倒したのは自分である。自責の念もあったのだ。正直やりすぎたと思っていた程だった。
 その結果、恥ずかしい情報が流出してしまった。

「ああもうッッ!」

 京はこの時、やり場の無い怒りという言葉の意味をしみじみ理解した。
46仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc(代行):2010/08/28(土) 20:20:42 ID:sMCIKHjw
 京は突っ走る。
 今日はどこ行く訳でも無い。今は部室に篭っても仕事が手に付かないかもと思っていた。それほど動揺していた。
 たどり着いた場所は学内のうらぶれたベンチが置かれた場所。学食から出て少し走った所。学園の隅だった。

「……あのバカ! なんで懐と関わると珍事件ばかり起こるのよ!?」

 少々派手に独り言を言ってみる。周りには誰も居ない。聞かれるはずは無かった。が、世の中、油断大敵とはよく言った物。

「何を言っているんだお前は?」
「!!?」

 誰かが言った。
 それは出来れば係わり合いになりたくない声。いわゆる不良が発した声だった。
 背後に居たのは真っ赤なリーゼントを頂く、制服では無いはずのドカンを履いた大男。八十年代を地で行く強者である。大型台はその厳つい顔の眉間にシワを寄せつつ少し驚いた表情でそこに立っていた。

「ここで何している?」
「え? え? いや、その……」

 言葉に詰まる。
 台も要らぬ事は言えないと思っていた。その場所は三馬鹿の秘密の会議場の一つだったのだ。

「懐がどうとか言っていたが……?」
「え? 聞いてた……んですか?」
「あれだけデカイ声で言えばイヤでも聞こえるだろう」

 台はベンチに座った。ワイシャツの胸ポケットからタバコを取り出し、慣れた様子で吹かし始めた。銘柄はセブンスターだった。

「学校……ですよ?」
「だからなんだ。どうせ誰も来ない」
「そういう問題じゃ……」
「分かってる。分かって吸っている」

 タバコを指で弾いて灰を落とす。
 持っていた缶コーヒーを一口啜り、タバコの風味と混ぜた。おかげでコーヒー本来の香りは失せたが、代わりになんとも言えない特有の味になった。

「……懐の前では一服も出来やしない。よっぽどタバコが嫌いなのか本気で怒りやがる」
「懐の事知ってるんですか?」
「色々とな。いくらか世話になった事もある」
「そうなんですか」
「お前と同じで、アイツの事で問題も抱えてる」
「問題?」

 ここでも何かやらかしているのかと京は思ったろう。
 台は天を見上げてため息混じりに紫煙を吐き出した。よほど苦悩しているらしい。
47仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc(代行):2010/08/28(土) 20:21:23 ID:sMCIKHjw
「まったく……。どう育てばあんな性格になるんだか。本当に面倒な奴だ」
「同感です」
「周りが見えないだけならまだしも、自分の事すら見えていない。そのくせ、自分が信じる物には異常なほどの執着を見せる」
「その通りです」
「お互い苦労しているな」
「そのようですね」

 台とまともに話したのは今回が始めてだった。意外と話せそうな人だな。そんな印象を京は受けた。
 身に着ける八十年代ヤンキーファッションも見過ごせなかった。

「何があったんですか?」
「それは……ちょっと言えないな。個人的な事だと言っておこう」
「そうですか」
「そっちは?」
「それは……。……。い、言えませんッ! すごく個人的な事ですッ!」
「? まぁいいさ。これでおあいこだ」

 なぜか恥ずかしそうにしながら少し怒っている京を見て、あのバカは何をしたのかと台は考えた。懐の行動範囲は広い。情報源としては優秀だが、懐そのものの情報は少なかった。捕らえ切れていないのだ。

 台は京をそれと悟られぬよう観察する。
 ここで会ったのは偶然だが、近々姿を現す予定だった。一度じっくり観察せねばと思っていたのだ。
 要注意リストに載ったのは今日だったが、台個人としてはかなり前から警戒していた。
 あの日、イベントホールで話し合っている二人を偶然目撃して以来――

「……なるほどね」

 台は言った。京には聞かれて居ない。
 タバコを踏み締める。缶コーヒーの残りを飲み干す。そして、立ち上がる。
「俺は行くぞ。あまりここには長居しないほうがいい」
「え? あ、はい。そうします」
「では、あのバカによろしく言っておいてくれ」
「それは拒否しますッ!」

 きっぱり拒否られたが、台には何と無く解る。鍛え抜かれた目はごまかせない。
 この先どうなるかはまだわからない。よくある事態だ。どう転ぶかは、もう少し様子をみなければなるまい。
 だが、しかとその目で確認した。

「……なるほどね。懐――」

 台は独り言を呟いた。この先どうなるか、それはすべて懐次第――


続く――
48創る名無しに見る名無し:2010/08/28(土) 20:22:04 ID:sMCIKHjw
以上代行終了
49仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc:2010/08/29(日) 22:48:59 ID:TI3C4QEV


第七話:【眠れる獅子】


 今日も朝から気温が高い。湿度が高い為か不快指数も高かった。
 纏わり付く外気はやる気と体力を奪って行く。降り注ぐ太陽光線は地面で照り返され、上と下から身体を熱し水分を奪って行く。
 真夏である。とにかく暑い日が続いていた。

 エアコンが効いた室内でもいつもより暑かった。エコだか何だか知らないが少し設定温度が高めにされていた。
 それだけなら問題無かったが、行う授業次第では大問題である。

「……。先生。暑いです」
「ガマンなさい。私だって暑いんだから……」

 そんな会話がなされた。
 その場所ではそこかしこに熱源が配置され、人口密集の効果と合間って室温をさらに上げていた。

「……みんな、火の扱いは慎重にね。包丁も気をつけて使ってよ」
「その言葉は先生にお返しします……」

 そんな会話がなされた。
 調理実習を行う家庭科室では、生徒達が自分達の昼食を授業で作らされていた。課題は御飯モノ。要するに炒飯やらピラフやらの類である。それさえ押さえれば後は自由という内容だった。
 その授業を担当する教師の性格が反映されていた。
 それぞれが勝手気ままに作業し、中には料理と呼べない何かすら作っている有様である。
 その授業を担当する白壁やもりはその手つきで生徒達をハラハラさせつつ、さすが家庭科担当と言えるジャンバラヤを作ってみせた。

 そして、生徒達の出来栄えを観察する。一応教師である。しっかり査定し単位付けをしなければならないのだ。
 訳の解らぬ黒焦げの物体を創作した生徒の横では見事に黄金に輝く炒飯が居た。可哀相だから黒焦げの君には後でジャンバラヤをあげよう。やもりはそう思った。

 さらに室内を見渡す。
 そして、やたらと気合いを込めてフライパンを振る生徒を発見。食い意地が形を持って現れたと思われる。
 その生徒は持参したと思われるミックスベジタブルとケチャップで作ったソースを必死に掻き回している。恐らくチキンライスを作る気だろう。
 これまた持参したと思われる鶏モモ肉百グラム九十八円のパックが破かれ、中身は一口大にカットされ、既に一度火を通され次の投入を待っていた。
50仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc:2010/08/29(日) 22:50:27 ID:TI3C4QEV
「ずいぶん大量に作るのね……」
「だって食べ盛りだもん」

 そんな会話がなされた。
 懐はやたらと気合いを入れ、真顔でフライパンと格闘していた。やもりが見守る中、いい具合に煮詰まったソースに鶏肉と御飯をブチ込みへらで混ぜて行く。その量は懐が大食漢だと如実に物語っていた。

「無駄に器用ね……」
「欲望に忠実なもんで」
「他の授業もそのくらい真面目に受ければいいのに」
「俺はいつだって大マジメだよ」

 ソースが絡まったチキンライスを皿に盛り形を整える。どうやらこれで終わりでは無いらしい。
 次にボウルに卵を次々と割って行く。それを軽く掻き交ぜ、先ほどのフライパンにバターとサラダ油を少し足す。

「バンドのほうは順調?」
「ぜんぜん」
「あなた頑張ってたのにねぇ」
「見たこと無いでしょ」
「練習してる所はあるけど?」
「見せた覚えは……」

 バターが溶ける。同時に溶き卵が注ぎ込まれる。
 懐はそれを親の敵のように掻き交ぜ、半熟のオムレツを作る。どうやらオムライスを作る気らしい。
 手際は単位を取るには十分だとやもりに査定される。

「あなた音楽室使う前は外で発声練習してたでしょ?」
「その時見たのかよ」
「たまに見かけたわ。他にも見た人居るかもね」

 完成したオムレツがチキンライスの上へ。
 そしてゆっくり包丁が入れられ、半熟卵が左右へ華開く。

「おお……。美しい……」
「……ホント無駄に器用ね。もっと他に活かせないかしら……」
「暗に馬鹿にしてないかそれ?」
「そうかしら? あ、そうそう、三年生の編入生の事、知ってる?」
「俺の情報網を舐めるなよ。噂だけなら一気に入ってきた。……恐るべき野郎だと聞いている」
「なんだ。まだ会ってないんだ」

 懐はケチャップをたっぷりとオムライスにかけ、満足そうにスプーンを入れた。その完成度はやたらと高い。まさに食い意地が服着て歩いている男だ。
 ものすごく幸せそうにそれを貪る懐。後片付けなどすべて後回しだ。

「噂だけ聞いたの?」
「そうだけど?」
「じゃ、あの子がどんな子かも噂で聞いた?」
「何の事?」
51仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc:2010/08/29(日) 22:51:30 ID:TI3C4QEV
「なんだ知らないの? アナタの情報網もたいした事無いわね」
「なんだよ。自分だけ訳知り顔しやがって」
「だって訳知りなんだもの」

 やもりはそう言って懐の元を離れる。生徒は多い。一人にだけ構ってはいられないのだ。とりあえず単位は十分だった。
 懐もなんだか訳が解らなかったが、とりあえず目の前のオムライスの方が重要だった。
 がつがつオムライスを貪る懐。
 あの亮太の正体を知ったら、懐はどういう反応を見せるのだろうか。やもりの興味はそこにあった。そして、その結果生み出されるそれの威力はどんな物か。他人事ではあるが、非常に興味があったのだ。

 偶然目撃して以来、懐の能力が一体どういう物かやもりは少し知っている。そしてその後、どういう経路を辿って来たかも実は知っている。
 彼に何が足りないかよく知っているのだ。そして、その足りない物を亮太が持っている事も知っている。

「あ、そうだ。黒焦げ君にジャンバラヤあげなきゃ……」

 やもりはそう言った。



※ ※ ※



「えええええぇぇぇえええ!!!」
「諦めるんですか……?」
「そうだ。色々と面目ないが……」

 迫は葱とあかねに深々謝罪する。勧誘作戦の突然の中止は結構な衝撃だった。
 一大イベントも終わり、さぁこれからが本番だと思っていた矢先の出来事だった。

「せっかく催眠術を身につけてまで頑張ったのに!」
「身についてないだろう。失敗してるんだから……」
「あそこまで執着してたのに、なんでいきなり諦めるんですか?」
「まぁ、いろいろとな。西郷の件の時に思ったんだ。やりたい事をやらせたほうがいいってな。むりやり引き込んで何になろう。
 そう思ったら、ほっといてやろうと思っただけだ」
「やりたい事って……。そもそも懐さん何出来るんですか?」
「そうですよ。結局私達は何も聞いてないですし……」
「ああ。近々見せてやる。今は捕獲作戦をある連中と練っている所だ」
「捕獲って動物じゃあるまいし……」
「俺達じゃ逃げられるだろ?」
「そうですけど……」
52仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc:2010/08/29(日) 22:52:53 ID:TI3C4QEV
「捕まえてどうするんですか?」
「楽しみにしてればいい。勉強になるぞ」
「なんか胡散臭いなぁ〜」
「そう言うなって」

 ブー垂れる葱を宥める迫。彼もまた、偶然に懐の能力を目の当たりにした一人である。



※ ※ ※




 夜。通学路近辺。
 近所のコンビニがぼんやり光っていた。夜は静かな町である。
 日が落ちて時間がたった為か気温はいくらか下がっていた。だが、アスファルトに篭った熱はいまだ解放しきれず。それのおかげで熱帯夜となりそうな雰囲気だった。
 懐はコンビニで冷たい缶コーヒーを買った。
 少しでも熱を冷ます為にと思ったが、今日ばかりはコーラのほうがよかったと少し思う。暑かった。

 学校から自宅までは割と距離がある。すぐに帰るタイプでも無いので、放課後は外でたっぷり時間を潰してから帰宅するのが常だった。その度にいつも同じコンビニに寄るのがお決まりの行動パターンである。

「暑い……。なんでこんなに暑いのよ」

 駐車場に座り込んでずるずる缶を啜る。さっさと帰れば自室でエアコンが待っているが、出歩くのが習慣になっているせいかそこまで頭が回らない。
 あまりに暑いので髪をお団子に纏めてシャープペンシルを突き刺しておいた。
 喉がさらされいくらかマシにはなったが、それでも暑い事には変わらない。
 これまたコンビニで買ったフライドチキンをかじる。
 これもお決まりのパターンだ。やたらと脂ぎったフライドチキンはかじる度に肉汁を滴らせる。おかげで手が脂だらけ。

「だがそれがいい」

 そう言ったかは定かではない。
 そして、そのお決まりの行動パターンはすぐに見破られるというのが世の常である。
 その時刻、そこで懐を待っている男が一人居たのだ。
 コンビニから少し離れた所で監視していた男は、懐が買い物をして出て来る姿を確認してその姿を現す。それは懐もよく知る人物だった。

「やはりここに来たか」
「あへ……?」
「……なんだその間抜け面は……」
「お前何してんの?」
「色々とな」
53仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc:2010/08/29(日) 22:53:50 ID:TI3C4QEV
 大型台が暗闇からその姿を現す。まさかここで出会うとは懐も思っていなかった。学校内ならともかく、そのコンビニ近辺は完全に懐のプライベートな行動範囲内だったのだ。

「好き勝手動きやがって。探すのも一苦労だ」
「世の中には携帯電話という便利な物があってだな……」
「突然現れる事に意味があるんだ」

 少し歩こう。台はそう言った。
 断る理由も無いので、自転車を引いて取り合えずそれに従いついていく。手に持った袋ががさっと音を立てた。
 台は買い込んだ缶コーヒーを一つねだる。濃く入れたエスプレッソをやたらと甘くした物だった。

「……お前、こんなのよく飲めるな」
「甘党なんですのよ」
「気持ち悪い言い方をするな」
「何言ってんだ今更」

 コンビニから離れ、街灯だけがぼんやり地面を照らしている道端を歩いていた。
 坂の上だった。
 道路の脇からは創発市が見渡せる。明るければ仁科の巨大な校舎が見えるかも知れない。
 そこはなんて事ない、何も無い丘の上へと続く道だった。

 台はタバコを取り出す。使い込んだジッポーがカチンと小気味よい音を立て、フリントが火花を散らすと炎が風に揺られながら現れる。
 当然、横に居たタバコ嫌いの懐は口を挟む。

「おいおいおいおい! 俺の前でタバコ吸うんじゃねー! ノドに悪いだろ!
 ああ、副流煙が俺の細胞を殺して行く! 脳細胞が減って行く!」
「そんな大袈裟な……。脳細胞に関しては元々スカスカだろうが」
「とにかく消せ! この未成年が!」
「はいはい。分かった分かった」

 台は火を付けたばかりのタバコを投げ捨てた。暗闇の中で地面に当たったそれは花火のように光を発して砕けて行く。
 懐はそれを踏んずけて消火する。
 台は大きくため息をついた。これから行う事が、果たして正しいのか。それが自分でもよく解っていなかったから。
 二人は、丘の上までやって来た。

「ああ腹へった」
「……さっき食ったろ」
「あれじゃおやつにもならん」
「お前の胃袋はどうなってんだ? ……ああ、脂ぎった手で触るな!」
54仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc:2010/08/29(日) 22:55:06 ID:TI3C4QEV
 丘の上は何も無かった。
 本当に何も無い、ただの草が生い茂った地面だけがそこに在った。見上げれば、星々が輝いていた。それを邪魔する物は何も無かった。
 セミの声がずっと遠くから聞こえてきた。木すら生えていない、静かな場所だった。

「暑いねぇ」
「全くだ」
「で、なんでここ来た訳?」
「まぁ……色々とな」
「なんだよ〜。どうせよからぬ相談だろうが。言っとくが最新のカップル情報は無いぞ」
「こっちにはある」
「へぇ」

 懐は二本目の缶コーヒーを開ける。

「腹壊すぞ」
「そんな貧弱な内蔵じゃない」
「そうだったな。風邪引いても気付かないようなバカだったのを忘れていた」
「喧嘩売ってんのかよ。ひでぇ事いいやがって」

 そう言いつつ、さらに買い込んだアンパンをかじる。空腹は止められない。
 そして、口を動かしながら考えるのは一つである。というより、他人と話していてもそれしか考えていない。
 おかげで他人からは考え無しで行動するバカだと思われているが、実際はそうではない事を台は知っている。

 なんて哀れな男だ。そして、アイツも哀れだ。台はそう思った。
 本来ならば信条を捩曲げるかも知れない行動を、今自分はしようとしている。そう思ったら、自分の事すら哀れに思えた。

「おい」
「な〜に?」
「お前、今何考えてる?」
「俺が?」
「そうだ」
「……。う〜ん。答えられない」
「答えられない?」
「うん。だってさ、考え事が多すぎる」
「バカがいっちょ前にほざきやがる」
「お前もたいがいだけどな」
「自覚はしているさ」

 哀れなり、黒鉄懐。お前は自分の気持ちすらかなぐり捨てて居るのか。
 それほどまでに、お前が信じる音楽は偉大だと言うのか。
 ならば、目を開かせてやる必要がある。バカなりの方法で。

「やれやれ。面倒な男だ」
「さっきからひどい事ばっかり言って、ボク傷つくよ? いいの?」
「気持ち悪い言い方をするな」

 台は再びタバコをくわえる。今度は肺の奥まで煙を吸い込み、丘の上の空気へと吐き出して行く。
55仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc:2010/08/29(日) 22:56:24 ID:TI3C4QEV
「おい、タバコは……」
「堅い事言ってんじゃねぇ」

 懐の言葉は遮られた。それは先ほどとは少し雰囲気が違う言い方であった。続けざまに、同じ口調で台は言った。

「おい。お前は他人の事を考えた事はあるか?」
「なんだいきなり?」
「答えろバカが」
「なんだよ……。お節介ならたまに焼くけど……」
「そういう意味じゃねぇ」
「何なんだお前さっきから?」
「お前は本当に面倒な奴だ。散々他人を掻き乱して、そのうえ自分の事すらどこ吹く風といった様子だ。
 はっきり言えば、救いようのないバカだ」
「何なんだよ。喧嘩でも売ってんのか?」
「鈍い野郎だな本当に。今更気付いたか」
「……はぁ? なんだって?」
「目ぇ開かせてやるよ」
「おい」
「なんだ?」
「俺の前でタバコ吸うんじゃねぇよ」
「聞こえんな」

 台は持っていたタバコを懐に投げ付ける。胸に当たり、落下しながら火種が宙を舞って行く。
 当然ながら、懐もキナ臭い雰囲気になる。

「露骨なマネしやがって。そこまで気は長くねぇぞ」
「相変わらず口だけは達者だな。たまには行動で示してみろよバカ野郎が」
「てめぇ」

 持っていた缶を投げ捨てる。あんパンすら地面へ落とした。
 髪を留めていたシャープペンシルを引っこ抜く。重力に従ってばさっと金色の長い髪が下ろされた。前髪の奥に隠された目は、滅多に見せない雰囲気を持っていた。懐は、珍しく激怒していた。

「殺す」
「お前にゃ無理だ」

 バカには言葉よりもこっちの方が早い。そう思っていた。だから、台は行動に移したのだ。向こうは純粋な怒りをぶつけてくるだろう。だが、それは仕方の無い事である。
 全ては、コイツの凝り固まった頭をほぐしてやる為。そして台にはこんな方法しか思い付かなかった。

 そして彼らは、丘の上で戦うのだ。


続く――
56創る名無しに見る名無し:2010/08/29(日) 22:57:29 ID:TI3C4QEV
>>49-55代理投下
57創る名無しに見る名無し:2010/09/11(土) 03:44:55 ID:/bt7PbmU
静かすぎage
58創る名無しに見る名無し:2010/09/11(土) 11:48:56 ID:T26jaflB
投下、そして代理投下乙だよ諸君!!
俺はまだまだ怠けるが、サボってきた感想などをひとつ。

>>31
……こわっ!
怪談で怖いのはやっぱり、人間のこう、黒い部分だよな。
残暑の厳しい今年の初秋にもぴったり。
“焼かれた人のポーズ”でかつてのトラウマが甦る。そう、あれは確か……

>>34
京と懐の会話のテンポよすぎるなwテンション上がったときが楽しい。
それからイケメンで、バンドメン! 嫌いじゃないわ!

>>47
ととろといい、台といい、いろいろ出てくるものだな。こういうところでも懐の行動範囲の広さが分かるというもの。
やりたい放題の仁科学ライオン! 嫌いじゃないわ!

>>55
やもり先生の授業風景きたこれ。
こういう生っぽい(?)会話の雰囲気もなかなか……
台は不器用だがいい男だともっぱらの噂。
59先輩、もし先輩が ◆46YdzwwxxU :2010/09/11(土) 11:50:53 ID:T26jaflB
悪いけど投下するわ。ほんとに悪いけど投下するわ。
60先輩、もし先輩が ◆46YdzwwxxU :2010/09/11(土) 11:52:01 ID:T26jaflB


「先輩! お昼にします? お風呂にします? それとも、わっ、わ・た、わ、たわし……?」
「恥ずかしがってどもっているフリで自分が混乱してどうする」

 さて。
 仁科学園は昼休みだが、俺の心はどうにも安らぎそうにない。
 チャイムから十数秒、いつもの後輩が影より密やかに俺の背後に出現していたからだ。……この世に暗殺者業
界なんてものがあるとして、もし後継者不足に悩んでいるんだったら、この女あたりを強くお薦めしたい。
 それでもそんな女の不意打ちのハグだかキスだかを躱せるあたり、俺も何だか何なんだろ……。
 教室から石もて逐われる前に中庭に自主避難した俺は、ベンチの端に腰掛けて午後の鋭気を養う。もうすぐ夏
休みという時期で、暑気がひどかった。まだしも涼しげな木陰に移動しようかとも思ったが、季節的にカレハガ
やマイマイガの毛虫がいないとも限らない。ドクガの幼虫には毛を飛ばす種類もおり、えんがちょである。

「先輩、私思うんですけど」

 後輩の思いつきはだいたい唐突だ。俺とは反対側のベンチの端で女の子サイズの弁当を啄ばみながら、退屈凌
ぎになるかならないか微妙な下らない話題を提供してくる。
 俺は行き掛けにパン屋で買っておいたリンゴのデニッシュをがぶりとやりながら、半ばうんざりとした視線で
続きを促してみた。

「もし先輩が留年したら、私と同級生になるじゃないですか」
「……」

 いきなりあんまりな仮定をしてくれましたよこの子は……。

「そしたら、先輩を“先輩”とお呼びし続けるのは、留年を冷やかしているようで、かえって失礼になるのでは
ないでしょうか。『おう、先輩。ジュース買ってこいよ』みたいな」
「そういういらんネタを入れるから、話題が支離滅裂になるんだと何度言えば」

 意味不明な局面だが、彼女なりに場の空気を読もうとしているとはいえるだろうかこれは。
 しかしその例文はどう考えてもおかしい。……とツッコんで欲しいのが見え見えなのでそこは華麗にスルーし
ておく。スルー。スルーだいじ。

「でも、だからって、“先崎くん”というのも何かチガウ……。妥当なところでは、やはりさん付けなんかいい
と思います。例えば」

 アホの後輩はそこで咳払いをひとつ。

「『ひゃは、俊輔さんを知らねぇとか、お前この街のモンじゃねぇな?』『あーあ俊輔さんを怒らせちまった。
死んだなあいつ』『さすが俊輔さんマジパネェ』」
「どこの噛ませですか俺は」

 街のならず者の威を借りて大いばりする頭悪めの舎弟みたいな荒んだ声色で、いかがわしい台詞を三連発。
 俺には分かる。後輩はたぶん、最後のを何となく言いたかっただけで女を捨てた。
61先輩、もし先輩が ◆46YdzwwxxU :2010/09/11(土) 11:54:18 ID:T26jaflB

「――さらにここで――」
「まだ続くのか……」
「――先輩がもう一年留年したとしたら――?」

 あれで終わりかと思ったが、後輩の舌と煩悩はまだまだ滑らか、動きすぎってほどによく動く。
 そこで得意げな顔をする意味はまったく分からんが。ダッシュ(“――”←コレ)まで使いやがって。賭けて
もいい、その勿体ぶった口調は、中身に対して過剰包装だ。

「もはやこの閑花ちゃんが先輩さまです。立場逆転です。頭いいです」

 うっとりと妄想に耽溺するだらしない表情は、とても頭がいいようには見えない。

「後学のために聞くが、もしそういうシチュエーションが実現したとして、その逆転した立場でどんな悪さをす
るつもりだ?」
「まずは襲います」
「襲っ!?」
「……間違えました。パワハラ、セクハラ、ヴァルハラ思うがままです!」
「お前は先輩さまを何だと思ってるんだ」

 ……ヴァルハラ……?

「まあ、とにかく、そういう下剋上なカンケイも倒錯的で燃えそうだよねってことです」
「はは。何の話か分からんな」
「分かってるくせに、もー。このムットゥリスケベさんめっ」
「とろみ付けんな」

 俺ムッツリスケベじゃないし。たぶん。

「そうそう、留年で思い出しましたが、あのオサレソフトクリームみたいな頭をしたドちんぴらも留年していた
んでしたね。恋人の神柚鈴絵先輩の心中はいかばかりか」

 すごい失礼な比喩だが、まあ普通に考えてリーゼントのことかなァと察しはついた。

「というか、え。あの二人って付き合ってるのか?」
「そりゃあもう、見ているこっちが恥ずかしくなるほどにラブラブですよ! 付け入る隙がないほどにね!」
「付け入りたいのお前は」

 何でか後輩がキレた。
 「先輩はドントアンダスタン乙女ゴコロです」だの、「不良とスポーツマンとバンドメンはキライだって私言
ったじゃないですか覚えてくれてなかったんですか」だの、「ソフトクリームよりだんぜん、あいすくりんが好
きですもんッ」だの、掴み掛らんばかりの勢いでぎゃーぎゃー喚く。そんなの俺が知るか。
62先輩、もし先輩が ◆46YdzwwxxU :2010/09/11(土) 11:56:36 ID:T26jaflB

「……まあ、あれです。とにかく。この後輩の見立てでは、あの二人、相性抜群のスーパーカポー(スーパーな
カップル)だと思いますね」
「かもな」

 神柚鈴絵先輩とあの大型台という男との間に、何がしか強い絆があることは、遠目に何度か二人の姿を目撃し
て知っていた。俺たちの関係ほどウェットには見えないが、どこか近しいものを感じたものだ。
 俺の知る限り二人が揃う光景はそれほど頻繁に見られるものではないが、それが恐らくあの男なりの配慮なの
だろう。
 野次馬根性的な意味で、彼らのこれまでに興味が湧かないといえば嘘になった。積極的に詮索するつもりはな
いが、噂話に耳をそばだてるくらいはすると思う。

「というかあの二人は既に、『鈴ちゃんっ』『台ちゃぁんん』って呼び合う仲ですし」
「うんそれは嘘だろ」
「ばれましたか。ほんとはこんな感じ。『おう部長』『おう台先輩、絵の具チューブ買ってこいよ』」
「部長はそんなこといわない」

 ごめん。俺、これはスルーできなかった……。

「しかし先輩。人間、裏では何をやっているんだか。あー恐ろしい……」
「俺はお前が怖いよ」

 何をされたわけでもないのに、台詞にここまで悪意を篭められるのがすごい。そしてそんな美術部部長もちょ
っと見てみたいと思ってしまった自分が信じられない。
 呆然とする俺を冷やかすように、どこか間抜けに予鈴が鳴った。
 湿気にへたったリンゴのデニッシュは、半分くらいがまだ俺の手の中にあった。



 おわり
63先輩、もし先輩が ◆46YdzwwxxU :2010/09/11(土) 11:57:42 ID:T26jaflB
以上。

台と鈴絵については、陰口暴言まみれになってしまってごめんなさい。
後輩の余裕のなさの表れということで、「まったくあのビッチしょうがねーなw」と笑って許してくれないかな。無理かも。

続き物がいっぱい溜まってるけど、それもちょっとごめん。誰からいこうか結構悩む。
64創る名無しに見る名無し:2010/09/11(土) 13:14:04 ID:/bt7PbmU
ageたそばからさっそく投下乙。
油断してたら一発目のたわしで吹いたw しかもヴァルハラw どこの戦士ですかw
65創る名無しに見る名無し:2010/09/12(日) 19:25:54 ID:U+Paok/X
投下乙〜!
あ、やっぱりkのお二人の掛け合いは好きだなぁ。後輩の台詞にいちいち吹くw
鈴絵さん。後輩の中ではそんなに強敵になってますかw
天然悪女属性ここにあり?
66仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/09/13(月) 00:09:11 ID:F5Eg76HO
投下すんの忘れてた。
67仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/09/13(月) 00:10:22 ID:F5Eg76HO


第八話:【これも青春って事で】


 台と懐は睨み合っていた。だが、お互いの目線は合っていない。それぞれがお互いの肩や腰の動きを注視していた。
 片や現役のヤンキー、相対するのはプロレス愛好家。お互い戦い方はある程度心得ている。もっとも、お互い素人の域は脱していないのだが。

 僅か数秒、動きの無い攻防の後。先制攻撃を仕掛けたのは台だった。
 一歩だけ前に進み、長い脚を使っての前蹴り。台のリーチはやたらと長い。一歩進んだだけで爪先が懐の鳩尾まで届いた。
 だが、一歩進むというモーション故か、予測されていた。
 懐はそれをあえて受ける。受けて、その脚を両手でホールドした。
 懐はそのまま前に倒れる。倒れつつ、身体を脚にまとわり付けるように回転させて行く。そして、地面に寝転ぶ。台を道連れに。
 台の膝と股関節はその派手な間接投げによって捩り上げられダメージを受ける。地面にたたき付けられた衝撃は容赦なくスタミナを奪う。一瞬だけ意識が飛ぶ。
 そして、懐はすぐさま寝転ぶ台のマウントポジションを取る。

「今のがドラゴンスクリューだ。覚えとけクソ野郎」
「興味がねーな」
「なら忘れられなくしてやるよ」

 馬乗りになった懐の上からの鉄拳攻撃。プロレスなら反則だが、今は関係無い。ほぼ勝敗は決したかのような態勢だったが、拳を振り下ろした懐は同時に顎に衝撃を受ける。自身にも手応えはあったが、弱い。決定打にはならない。
 台はマウントを取られた状態で、拳で反撃してきた。長いリーチはその不利な状況でも懐の頭部まで悠々届く。打ち抜く事が出来るのだ。
 打ち抜く事が可能という事は、ダメージを与えるパンチを放てるという事。
 懐は身体を起こされる。自身の拳に体重を乗せられなかった。打撃では不利だった。ならばと、今度は肘を相手の喉に突き立てる。そのままスライドさせ、ギロチンチョークで止めを指そうと考えた。
 組技系が考えそうな事だった。だから、読まれた。
 今まさに肘が喉へと侵入しようとした時、逆に腕を掴まれる。懐の身体は台の肘打ちがその頭部に届く位置に固定される。
68仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/09/13(月) 00:11:29 ID:F5Eg76HO
 そして、台の堅い肘が懐の側頭部を打ち抜く。
 急所に一撃を食った懐はマウントポジションで一瞬意識を飛ばす。全身の力が緩んだ。その隙に、台はブリッジと同時に身体を捻り、マウントポジションから脱出した。

「詰めが甘いな」
「野郎……!」

 台は立ったままそう言った。
 だが、立ち上がって気付いた事。それは、最初に受けたドラゴンスクリューの甚大なるダメージ。右脚の股関節と膝は既にまともに動かなかった。立っているのもやっとだったのだ。

「どうした? さっさとかかってこいよ」

 それはつまり、自らが動けないという事。
 懐の方も顔面に打撃を受け、強烈な肘打ちまで食らった。ダメージは大きかった。懐は何とか立ち上がる。その動きは緩慢だった。隙だらけだった。
 そして自分ならその隙に止めを刺したはずだと考える。
 しかし、台はそうしなかった。

「……余裕のつもりかよウスラデカが」

 嘗められている。懐はそう思った。
 実際は真逆であり、台は組技での反撃を恐れていた。だから無理な接近をしなかった。
 台の方も、あれだけ綺麗に側頭部を打ち抜いたはずなのに立ち上がる懐に多少驚いていた。

「……タフな野郎だな」

 そう思っていた。だが、今の状況でお互いの気持ちなど確かめようもない。
 フラフラと接近する懐。右足を引きずりつつ迎え撃とうとする台。

 懐は体力を振り絞り飛び掛かる。右手を大きく掲げ、振り下ろす。アックスボンバーだ。打撃としては見た目偏重と思われがちだが、相手を寝かせる物としては優秀な技。
 腕力に優れる懐にとっても、これは得意な攻撃だった。ところが。

「まる見えだぜバカが……!」

 台は左足に体重を乗せる。そして、飛び掛かる懐に長いリーチを生かした打ち下ろしを繰り出す。飛んでいた懐には避ける術は無かった。
 結果、カウンターでの打撃が懐の眉間を打ち抜いた。

 鮮血が台にかかる。自身の拳と、懐の眉間から飛び散る物だ。
 懐の制服も自らの血で派手に汚れた。金色の髪は朱色が混じった。
69仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/09/13(月) 00:12:36 ID:F5Eg76HO
 台の拳頭の皮はずる向けになっていた。指が腫れている。折れたようだ。
 所詮は素人の拳である。長年修業を積んだ空手家ですら素手の拳の顔面攻撃で拳が破壊される事がある。
 手の甲が痛かった。台の拳は壊されたようだった。回復にはどれだけかかるやら。逆に言えば、それほどの攻撃を懐は受けたのだ。
 前へ倒れて行く懐。そのまま、台の胸へと頭を預けた。ずるずると滑り落ちるように、重心が落ちて行く。明かなノックアウトに思えた。

「ようやくくたばったか」

 台は言った。だが、すぐにそうでは無いと思い知らされる。懐は右手で台の服をわし掴みにしていたのだ。それによって、地面に倒れるのを回避していた。
 その状況は、組まれて密着した状態だった。

「……てめぇ」
「捕まえたぞクソ野郎」
「ゾンビかお前は……」
「プロレスを嘗めるなよ」

 台は振りほどこうとする。が、離れない。純粋な腕力なら懐に分があった。そのまま、左の回し打ちを台の脇腹へと見舞う。

「……ッッ!」
「ハラワタえぐり出してやる」

 懐はそう言ってさらに打撃を繰り出す。台も黙ってはいない。長いリーチは今は邪魔になる。右拳も破壊された。だが、肘ならこの距離で活きる攻撃だった。
 後頭部に肘を見舞う。が、離れない。何としてもその状態を維持するつもりだ。もしまた距離を取られたら、今の懐に勝ち目はなかった。
 だから密着した状態でのスタミナの削り合いに持ち込んだ。そして懐には、一発逆転の手段が一つ残されていた。



※ ※ ※



 カランと氷が鳴いた。グラスがかいた汗がテーブルの上を濡らし、コースターに水分がたっぷり染み込んで行く。

「うおおおおお!!」

 京は叫んだ。茶々森堂の中にそれが響き渡る。たまたま居た他の仁科の生徒が何事かと京を見た。

「遅れを取り戻さなくては……ッ!」

 京はスケッチブックに向かっていた。先日の騒動の影響で作業予定がすっかり遅れてしまっていたのだ。この時間ではさすがに学校の部室は使えなかった。仕方なく茶々森堂に移動し、新コスのデザインに精を出す。
 頼んだレモンティーは解けた氷ですっかり薄くなってしまった。
70仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/09/13(月) 00:13:42 ID:F5Eg76HO
 ここならば邪魔は入らないだろう。あのバカもどっか行ったし。
 そう思っていた。実際に作業には集中できた。レモンティーと一緒に頼んだモンブランだけはきっちり完食していたが。
 ところがである。懐の影響は一体何なのか。もはや呪いに近い何かが働いた。今日も京の作業は邪魔される。突然現れた男によって。

「こんばんわ」
「……?」
「秋月京ちゃん……だよね?」
「そうですけど……?」
「はじめまして」

 最初、京はナンパか何かかと思った。
 だが、向こうは自分の名前を知っていた。それに、そんな雰囲気も無かった。その目は穏やかながら、明らかに明確な目的と熱を秘めている。奴と同じ目だ。懐と同じ目をしていた。
 男は自らを空知亮太と名乗り、突然話しかけた非礼を詫び、自身の目的を話した。その態度は完璧に大人。顔立ちもやたらとイケメン。おもわずコスプレさせたいと京は思った。
 ところが、その目的を聞いた京は一気に不機嫌になってしまった。

「……きぃいいいい!!」
「どうしたんだ……?」
「あのバカの居場所なんて知りませんッ!」
「えらく怒ってるようだけど……」
「関係ないです! とにかく知りません」
「そうか……。残念だな。よく一緒に居るって聞いたから……」
「居たくて居る訳じゃ無いです! むりやり衣装作れって催促されて……!」
「衣装……?」

 亮太が頼んだコーヒーとチョコレートケーキが二つ届いた。
 ケーキ二つの理由は不機嫌な京に甘い物を食わせて落ち着かせる為。女性が甘い物好きな理由はイライラ解消物質であるセロトニンの分泌が男性より少ない為。甘い物はそれの分泌を促すのだ。
 さらに亮太も甘党だった。
 京は鞄から懐が書いたイラストを数点取り出した。作ってくれと依頼された衣装のローブだ。

「へぇ。パワーメタルっぽい衣装だね」
「パワーメタル?」
「まぁ……ヘヴイメタルにもいろいろ種類があるんだよ。……話すと物凄い長くなるから省くけど」
「そうですか」
「作ったの?」
「まさか!」
「それは残念だな」

 ケーキを貪る京。亮太と懐は今日も会えず終いだった。今どこで何をしているか、おそらく彼らの想像すらしていない事態だとは、当然知る由もなかった。
71仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/09/13(月) 00:14:37 ID:F5Eg76HO


※ ※ ※



「いい加減にくたばれ」
「おまえがな」

 台と懐の削り合いはいまだ続く。時間にして一分にも満たない攻防であったが、実際にそれを行う両者には途方もなく長く感じる。
 お互いボロボロだった。繰り出す攻撃に本来の威力は無い。それが、ダラダラと攻防を長引かせる原因ともなっていた。

「おい」
「なんだ」
「テメェが無意味に喧嘩吹っかけるなんて珍しいんじゃねぇか?」
「今更心理戦に持ち込む気か? 俺を倒したら教えてやらん事もないぞバカが」
「言ったな」

 懐は重心を一つ下げる。そして、少し伸び上がりながら左拳を台の鳩尾に放つ。ショートレンジのボディアッパーだ。
 台の全身から一瞬だけ力が抜けた。
 その隙に、懐は台の両腕を変形の羽折に極める。同時に、自らの頭部を台の背中側の肩口へと差し込み密着させた。ラグビーのスクラムのように。羽折を極めたままだ。

「おいクソ野郎」
「なんだバカ」
「今からお前に必殺技ってモンを見せてやる」

 懐は言った。それは紛れも無く、これでフィニッシュだと発言していた。
 懐は全身に力を込めた。両足を広げ、重心を後ろへと持って行く。それに釣られて、台の身体は一瞬浮き上がる。
 今度はさらに重心を下げる。さらに前方へと移動させる。浮き上がった台の身体の下へ潜り込むように。
 そして、抱え挙げた。羽折を極めたまま、ブレーンバスターのトップポジションに持って行く。
 それは、ある伝説のレスラーの必殺技――

「……てめぇ」
「驚くのはこっからだぞ」

 懐はまっすぐ立ち上がる。そして、ゆっくり前方へと倒れて行く。

「覚えとけ。これがSSPドライブ2000だ」
「うおおおお!?」

 台の真正面から地面が迫ってくる。まともに受けたら、間違いなく必殺の威力がある。
 肩の間接が悲鳴を上げていた。回避せねばと頭の中で何度も考えた。
 だが、がっちりと固定された羽折は抜けられなかった。なにより、地面が台を打ち砕こうと猛烈な勢いで接近して来たのだ。
 絶体絶命。まさにそれその物だった。ところが……。
72仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/09/13(月) 00:17:06 ID:F5Eg76HO
 そこまでだった。
 羽折は突然解除された。迫り来る地面は突然にして方向を変え、台を砕く前に一旦空中で停止し、台は低い位置からゆっくり地面に投げ出された。

 懐のSSPドライブ2000は失敗したのだ。
 ただでさえスタミナの消費が激しい技だった。かなりの腕力が必要となる、羽折を極めたままでブレーンバスターのトップポジションにまで持って行くという行為を行うだけのスタミナは、既に懐に残されていなかったのだ。
 結果、途中で立てなくなり膝を付いた。それがクッションとなり、必殺技はその威力を見せ付ける事なく不発に終わった。
 そして、懐は本当に動けなくなった。

「……クソが! 畜生……!!」
「打ち止めみたいだな……」

 膝を付いたまま動かぬ懐ににじり寄る台。彼もまた、直撃こそ免れたがSSPドライブによって両肩を傷めていた。
 もはや腕を使った攻撃は出来ない。となれば、残された手段はただ一つ。

「これで終わりだ」

 台は一歩大きく踏み出し言った。
 そして、股関節の痛みに堪えながら、その長い脚で遠心力を効かせた回し蹴りを放つ。それは、片膝付いた懐の側頭部を打ち抜いて行った。
 懐は動けぬまま、それを食う。眉間からさらに血飛沫が舞い、台の脚を汚して行く。
 吹き飛ばされた身体は、なす術なく地面へと投げ出された。そして、大の字に寝転ぶ。見えたのは満天の、キラキラ輝く夏の星空。

 脚を振り抜いた台も倒れた。股関節と膝の痛みは相当だったのだ。
 インパクトした瞬間にその衝撃が伝わり、右足が着地した瞬間、ふわっと力が抜けて行った。そして、地面に尻餅を突く。
 お互い限界だったが、どちらが勝者でどちらが敗者か、それは一目瞭然だった。
 台は天を見上げた。見えたのは、寝転ぶ懐が見るのと同じ、綺麗な星空だった。

「……うーん……。痛ぇなこの野郎」
「……タフな野郎だな本当に。まだ喋る余裕あんのか」
「俺を誰だと思ってんだ?」
「そうだな。そうだった……」

 懐は大の字に寝転んだまま。台は胡座で座り、動けなくなった懐を見ていた。
73仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/09/13(月) 00:18:11 ID:F5Eg76HO

「おい」
「なんだ?」
「聞かせろよ」
「何をだ?」
「俺に喧嘩売った理由」
「俺を倒したら教えてやるとは言ったがな」
「なんだよ。気になるだろ。お前が理由なくこんなマネするかよ」
「面倒な男だな……」
「聞き飽きたぜそれ」

 台はタバコを取り出した。今度こそ単なるニコチン切れだった。

「けっ。この未成年が」
「それだけか?」
「仕方ねぇ。今だけ許してやらぁ」
「そりゃどうも」

 台は煙を大きく吸い込む。すぐさまニコチンが脳に達し、それは言い知れぬ安堵感を与える。セブンスターの辛い味が舌をピリピリと刺激した。

「おい懐」
「なんだよ」
「お前、音楽以外の事とか考えてるか?」
「無い」
「……即答かよ」
「知ってるだろ」
「フン。じゃ、俺が喧嘩仕掛けた時はどう思った? 腹がたっただろ?」
「当たり前だろ。ありゃ誰だってキレるぞ」
「それでいいんだよ。たまには他の事にも真面目になれ。特に他人に対してな。あと、自分の事もよく考えてみろ」
「俺はいつだって大マジメだ」
「音楽だけにだろ。もう少し、自分の感情に素直になれ。もっと自分自身に目を向けろよ」
「さっきから何が言いたいんだよお前は?」
「フン。それをよく考えろって言ってんだ」

 台は煙と共に言葉を吐いた。懐にそれが伝わっているかは、正直な所自信が無いというのが本音だった。
 だが、これも全て、このバカの為。世の中には音楽以外の事もある。そう言いたかった。不器用な伝え方しか出来なかったが。

「おい」
「なんだ?」
「次こそブッ倒してやるからな」
「お前にゃ無理だ」
「星が綺麗ねぇ〜」
「……そうだな」

 台はタバコを揉み消す。やるべき事はやった。もう用はなかったのだ。後は、全て懐が考えるべき事なのだ。自分の感情に気付くかどうか。

「俺は行くぞ。お前は?」
「動けねぇよ。もう少し寝てる」
「そうか。ケガは大丈夫か?」
「そりゃこっちのセリフだぞ。筆もてねぇだろ」
「なら左手で描くさ」
74仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/09/13(月) 00:19:24 ID:F5Eg76HO
「バカだろ」
「お互い様だ。俺を恨むなよ」
「なんだかよくわかんねぇけど。まぁ何でもいいや。これも青春って事で」
「相変わらず口だけは達者だな」
「それが俺だよ」
「そうだったな」

 台は去って行く。
 一人残された懐は大地に寝そべったまま、ずっと星を眺めていた。とりあえず動けるようになるまでには、もう少しかかりそうだった。

「……綺麗だなぁ」

 星を見上げたままそう言った。


続く――
75創る名無しに見る名無し:2010/09/13(月) 23:12:16 ID:UHOfFNIc
こいつらバカだなぁ(褒め言葉)
男二人の真剣勝負。台も強いが懐もつえぇ!
両方とも後遺症は大丈夫なんだろか
76創る名無しに見る名無し:2010/09/14(火) 18:00:48 ID:+qv+XWqd
投下乙。
このスレでまともな戦闘シーンをみることに、まさかなろうとは・・・
台がすっかりアニキキャラ化してしまっている気がする。由々しき事態。
77創る名無しに見る名無し:2010/09/14(火) 18:01:01 ID:9Sb74af1
ウホッ。終了宣言前に感想乙w
どーも俺は猿にとことん嫌われてるらしいw九レスで猿ったw

ケガはバカだから何ともないはず。うん。バカだから。
78創る名無しに見る名無し:2010/09/14(火) 18:42:52 ID:9Sb74af1
>>76
……本編中で一仕事させるしかないな。
79創る名無しに見る名無し:2010/09/17(金) 22:38:13 ID:RAuYGvZ5
wiki更新さんくす
「もし先輩が」に誤字があったはずなんだが、どこだったか思い出せないw
80わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2010/09/17(金) 23:57:24 ID:D52MdBPo
久しぶりに投下しますよん。
弱気なお姉さんは好きですか?
81ロミオと遠賀先輩 ◆TC02kfS2Q2 :2010/09/17(金) 23:58:25 ID:D52MdBPo
「『ロミオとジリエット』をやろうと思います!」
遠賀のよく通る声が演劇部の小さな部屋を揺らす。
もうすぐ秋がやってくる。演劇部は毎年ツクツクボウシが鳴き出す時期になると、演目の話し合いを始めるようになる。
木目の走るテーブルを部員たちは囲み、お誕生席には部長が座る。部長の横に座っていた三年生の遠賀希見はこの日のために、
簡単な脚本案を練ってきたのだった。遠賀の声で部員一同は彼女に視線を振り向けた。
メガネを人差し指でつんと突き上げると、ゆっくりと彼女は立ち上がりプリントアウトされた紙を捲った。

「今までに見たことのないような『ロミオとジュリエット』を描こうと思ってるんですよ。我が部初めての試み!」
「でも、先輩。高校の演劇ですよ……前衛とか実験的ってのは、ぼくたちがすることじゃないかと」
部員たちのどよめきをよそに、後輩である迫は冷静に遠賀の案をいぶかしんだ。
遠賀はそれでも自分の脚本案を部員たちに披露する、夏休み最後の日。

「みなさん『ロミオとジュリエット』は御存知ですよね!両家の確執に阻まれた、うら若き男女の悲恋」
「すてき!遠賀先輩が脚本を書くんですよね!」
黄色い声が飛び交う中、迫はメガネを一人拭いていた。遠賀は淀みなく続ける。
「原作ではロミオ、ジュリエットともにタメでした。厨二真っ盛りの十四歳!そこでジュリエットをロミオよりも6つ年上にしました」
「ええ?じゃあ、お姉さんとショタってこと?」
「ショタ言うな!このお年頃の男子ってヤツは年上のお姉さんに憧れるもんです。ロミオを意図的にジュリエットより
年下にすることによって、自然とジュリエットへの恋心が芽生えさせることが出来るということです」
「じゃあ、ジュリエットはどうなの?」
「年上、ということはオトナです。無論、こんな若造、はじめは目もくれません」
「いきなり難関!」
「オトナなのでモンタギュー家とキャピレット家の確執のことは十分に心得ています。そのことを理解出来ないロミオは、
『オトナは汚い!』だの『ジュリエット、どうしてあなたはジュリエットなのですか』と庭からジュリエットを誘うのです。
しかし『はあ?ばっかじゃないの』と彼女はコドモなロミオを鼻でせせら笑うのです」
「やだー。夢も何もないですよ」
遠賀と同級の女子部員が上げる冷たい雨のような声を傘も差さずに置いてきぼり。
「そのうちロミオの情熱に心動かされたジュリエットは、ロミオに段々と恋心を抱くようになり……」
82ロミオと遠賀先輩 ◆TC02kfS2Q2 :2010/09/17(金) 23:59:31 ID:D52MdBPo
すっと手を挙げる男子生徒がいた。
理知的なメガネを光らせる。
迫だった。
「あの、遠賀先輩。ぼくも『ロミオとジュリエット』をやるってことはいいな、って思っていたんですよ。
ぼくらの世代が主人公ですのでピッタリと思います。でも、先輩の案でぼくらがやるには少しばかり……」
「少し!」
「ハードルが高いと思いますよ。確かに『年上のお姉さんに憧れる少年』って、リアリティはあると思います。
だけど、これって男子目線じゃないんですか?ぼくら男子から見れば面白そうですし、先輩のジュリエットに魅力を感じます。
でも、オーソドックスなスタイルをとる方が、見る人みんなが満足得るものではないんでしょうか?」
迫の後に続いて、気だるそうな女子部員が口を開く。
「そうねー、迫の言うとおりかも。ロミオがメインの劇になるよねー」
「だって、だって……。主役を徹底的に追い込んだ方がストーリーもクオリティも……」
ふと思いついたアイディアを誉められることは誰だって嬉しい。いや、自分が誉められるより、案を誉められる方が嬉しい。
しかし、三年間で培った演劇の粋を集結したこのプロットを否定されるのが、この上なく我慢出来なかったのだ。

「みんなで楽しくやりましょうよ」
気の弱そうな女子部員が恐る恐る口を開いた。誰もがその言葉に首を縦に振った。
遠賀と迫以外は。

きっと、みんなが喜んでくれると思って創り上げたのに。
今までにない演劇をみんなに見てもらえると思ったのに。
なにごともなかったように遠賀を残して、秋の公演に向けて話し合いは続いていった。
チョークが黒板を走る音が遠賀の動揺を誘い、後輩たちの賑やかな声が遠賀の胸をえぐる。
最終的には脚本を遠賀が担当すること、そして主役の二人は迫と迫の同級生の女子が演じることが決まり、この日の話し合いは幕を下ろした。

ぞろぞろと部員たちは自分のカバンを携えて、部室から立ち去っていくも、遠賀と迫だけは部屋に残ったままだった。
ツクツクボウシが去りゆく夏を惜しむ声。白い雲が風に乗って、すっと校庭の上を駆け抜ける。
秋は近いというのに、新しい季節を迎え入れようというのに。
二人は何故か、今は「ようこそ」の一言が言えるような気持ちではないのだった。
83ロミオと遠賀先輩 ◆TC02kfS2Q2 :2010/09/18(土) 00:00:37 ID:DSWcO7XV
「いいと思ったのになあ」
迫には先輩の声が、どうしようもなく不器用な妹の呟きのように聞こえた。
乱雑に消された板書を丁寧に雑巾でふき取る迫は、話し合いでの姿勢と同じままの遠賀をじっと見つめる。
「先輩は」
「慰めだけなら、お断りっ」
遠賀は自分の脚本案を提案している最中、手を挙げて流れを止めたのは、もしかして迫なりの気遣いではないのか、
と片隅に思い浮かべていた。しかし、それを露にする理由も恩義もない。不器用で、そして不器用で。

「帰りますよ」
自分の荷物を整えながら、迫は部室の窓を閉じる。忘れ物はないか、と確認しながら部屋を一周すると、必然的に遠賀の背後にまわることとなる。
先輩の背中が小さい。センパイではなく、ただの迷子だ。
お巡りさんでも手に余るほどの、どうしようもない迷子だ。
迫がカバンを肩に掛けると、遠賀は迫に顔を見せないようにすっと立ち上がっていた。
「先に帰ってて!」
これ以上話しかけると、むしろ遠賀を追い詰めてしまうので、迫は軽く礼をして部室を後にした。

―――校舎の玄関では迫が一人で遠賀がやって来るのを待っていた。
夏休み最後の日の校内は、当たり前だが静かだ。迫の耳には遠賀の「先に帰ってて!」という、悲痛な声が残る。
遠賀は迫にとっては先輩の一人に過ぎない。ほんの少し早く生まれてこの学校にやってきて、演劇を共にしている一人の『先輩』なだけだ。
『先輩』が『女の子』の尻尾を見せる。そっと、触れたい。くんくんとしたい。でも、怒られるかも。嫌がるかも。
女の子には一人一人に尻尾がついている。ご機嫌だったり、そっぽを向いたり、恥らったりとくるくる変わるふかふか尻尾。
世の中の男の子は尻尾に惑わされて、ぎゅっと掴んで頬摺りしちゃいたいはず。でも、尻尾が誰にでも見えるというわけではないから。
その尻尾に気付いた子は、ちょっとばかり女の子に誉められるかも。迫は遠賀の尻尾を青い空に思い浮かべていた。
会議の初めに尻尾はぶんぶんと、だけど今頃くるりんと。これから訪れる秋の空のように表情が変わりやすい尻尾だ。
迫のメガネに焼きついた遠賀の尻尾をそっとクリーナーで拭き取ると、駆け足にも似た足取りで演劇部部室へ急ぐ。乾いた廊下の音が耳につく。
84ロミオと遠賀先輩 ◆TC02kfS2Q2 :2010/09/18(土) 00:01:39 ID:DSWcO7XV
「遠賀先輩っ」
扉を開ける音でも、迫が呼ぶ声でも振り向かずに、遠賀は自分の世界に没頭していた。
ペンを走らせる音が心地よい弦楽器のように響く。
「遠賀先輩っ」
「さ、迫くん!」
女の子の尻尾を掴まれて、ひょんと不思議な声で遠賀が返事をすると否や、迫から顔を背けたもの、
それでも迫には遠賀の二つの瞳に光るものを見逃さなかった。

「台本ですか」
「わたしのことは気にしないで」
「そう言われると気にしちゃいますよ」
「嫌な後輩だ」
「嫌な先輩ですね」
背中を丸めた遠賀は、脚を互いに振り子のように揺らす。
木目の走るテーブルの上、無防備に開かれているノートは遠賀が書いたプロット案。それを自分で自分を打ち消すように、
大きな渦巻きの走り書きがノートの上をほしいままにしている。ノートの上に遠賀のペンを添えて。

「わたし、演劇に向いてないね」
「向いてませんね」
「先輩失格だ」
「エントリーさえしてませんって」
「バカにしてるね。迫くん」
「尊敬だけはしていますよ」
「じゃあ、バカにしないでよ」
「そしたら『天才』って呼んであげます」
「やっぱりバカにしてる」
遠賀の口元が緩んだ。

「迫も、いつかは先輩かあ。『迫先輩ー。この場面のセリフってアリですかー?』とか仔犬ちゃんがまとわりつくんだろうな」
「お断りします」
「断らせません」
表情を崩さずに遠賀と隣り合わせになった椅子に迫は腰掛けると、さらに遠賀は顔を庇うように頭を垂れた。
黒板は迫が部室を去ったときのまま鏡のように美しい。ツクツクボウシは鳴きやむことを知らない。

「もしかして『迫後輩』ってば、わたしが部室から出てくるのを待っていたとか」
あえて迫は返事をしない。セリフ以外で自分を表現するのは迫にとっては容易いこと。大事なことはみんな遠賀センパイに教わった。
遠賀は会議のときの迫のようにすっと手を挙げる。
「センパイ、ひとつ聞いてもいですか!」
「センパイはあなたでしょ」
内心、頭を抱えながらも、遠賀が再び尻尾を振り出したことに迫は胸を撫で下ろしていた。
「はいはい。なんですか」

―――「わたし、やりたい演目がありますっ!」
まだまだ太陽の日差し本気出す新学期。窓を開けても、暑いものは暑い。ツクツクボウシがやかましい。
もうすぐ秋がやってくる。演劇部は毎年ツクツクボウシが鳴き出す時期になると、演目の話し合いを始めるようになる。
木目の走るテーブルを部員たちは囲み、お誕生席には部長が座る。お誕生日席に陣取る迫に飛び込むように、
セミの声に負けまいと久遠荵の声が部室に響く。隣で肩を小さくする黒咲あかねは長いみどりの黒髪を夏の終わりの風で揺らす。

仔犬のような荵は迫が困るのをまるで楽しむかのごとく目を輝かせ、女の子の尻尾を振り続けた。
「ここは舞台じゃないから普通に話せ」
「はいっ。迫先輩!それで、わたしがやりたい演目は……」


おしまい。
85わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2010/09/18(土) 00:02:50 ID:DSWcO7XV
弱いところを抱いた人は萌えます。

投下終了。
86創る名無しに見る名無し:2010/09/18(土) 13:16:51 ID:BJW2D0ZC
やだ遠賀先輩萌えるw

しかし迫も書く人によって変わるなぁ。
87創る名無しに見る名無し:2010/09/19(日) 21:43:46 ID:1u2mhGeN
♪しっぽしっぽ〜しっぽよ〜
この表現はツボに来たかも。
遠賀先輩のロミジュリが見たい。そのうち何かありそう。


それとは全然関係ないけど描いてみた
ttp://imepita.jp/20100919/775340
88創る名無しに見る名無し:2010/09/19(日) 22:12:00 ID:eYRCnVW+
なんという清純?派w

台を顎で使おうとするとはw
89創る名無しに見る名無し:2010/09/24(金) 22:58:29 ID:C0M5PrT6
投下はあるはずなのに何故か過疎っている印象のぬぐえない謎のスレ。
ここを上げることで、俺は神に近づけるような気がする。
90創る名無しに見る名無し:2010/09/25(土) 03:08:33 ID:O+K7FNLK
いや、過疎だw
避難所いけば鳥なしでも誰かある程度解るほどに……
91創る名無しに見る名無し:2010/09/25(土) 20:49:38 ID:oqROhM6d
うん間違いなく過疎だw 最近ネタが全く降りて来なくてね……
電波こいー電波こいー
92創る名無しに見る名無し:2010/09/26(日) 01:53:53 ID:ueVFF94L
秋だから
俺は投下しなくてはならない。
93先輩、先輩の秋です! ◆46YdzwwxxU :2010/09/26(日) 01:56:37 ID:ueVFF94L


 暦の上では、秋である。
 日中はまだ残暑が厳しい。夕方になってようやく、体温を奪われているのが分かるくらいの風が吹く。
 弄んでいたコーヒーの空き缶を、道端に見掛けた自販機のゴミ箱にぶちこんだ。
 季節の変わり目にはコーヒー牛乳だ。タタカイノアトト、フロアガリニハ、ホロニガクテアマイコイツガ、ヨ
クニアウ――
 二学期のスタートから数日、俺も夏休みボケからようやくいつもの調子を取り戻した頃だった。……取り戻せ
てないかも。
 ……夏休み中のしっちゃかめっちゃかな事件のかれこれについては、またの機会に語りたいと思う。海水浴に
出掛ければ後輩に付き纏われ、花火大会でも後輩に付き纏われ、山にキャンプに行けば後輩に付き纏われ、学園
の夏期補習に出席すれば後輩に付き纏われ、喫茶店の茶々森堂では後輩に付き纏われていたばっかりにあまもと
さんの機嫌が悪化し、図書館で勉強をしていれば後輩に付き纏われ、神社の夏祭りではあの不良との戦いを繰り
広げつつも後輩に付き纏われ、夏休み最後の日にいたっては目覚める前から後輩に付き纏われた。夜這いの教唆
すなオカン。もう誰も信じられない。

「あれ松虫が、鳴いている〜♪ チンチロチンチロチンチロリン」

 俺に付き纏って夏休みをえらいことにしてくれた後輩は、この日の放課後もしっかり俺に付き纏っている。
 自宅に招待してやる気もないので、俺は足を商店街に向けた。
 今日は書店でも冷やかそう。「これ! これオススメです。ヒロインが後輩です!」「サブヒロインのが魅力
的ですよね。何てったって後輩です」「それに後輩は出てきませんよ。お金のむだです」とやかましい子が隣に
いるのはアレだが、そこは無視すればいいしな。

「あれ鈴虫も、鳴きだした〜♪ リンリンリンリンリーンリン」

 俺の左やや後方で、後輩の声が弾む。
 意外といっては何だが、後輩は歌までうまかった。声に雑味がなく、伸びがよく、情感豊かに聴こえる。
 このあたりはまだ人気がないが、天下の公道でも羞恥心ゼロというのがまた地味に凄い。

「秋の夜長を鳴きとおす〜♪」

 後輩は、誰でも知っている童謡を、原曲よりも軽快に可愛らしくアレンジしてあった。
 昆虫たちの騒がしくも賑やかな音楽会といった風情だ。のんびりと聴いていると、楽しいきぶんになってくる。

「ああおもしろい虫の息〜♪」
「おい誰か死に掛けてるぞ」

 台無しだ。
 ぎょっとして振り返ると、機嫌良く微笑む後輩と目が合った。
 彼女はときどき物凄いハイスペックなのだが、しかし大抵はこういうひどいオチのために好感度が溜まってい
かない。高い買い物をしたときに限って店のポイントカードを出し忘れるような女だった。……ただ、彼女の場
合は本当の意味での“ドジ”であるのかは大いに疑わしいため、俺の心に同情はこれっぽっちも湧かないが。

「ちょっとだけ間違えました」
「そうだな」
「どんまいわたし!」
「いいけどさ別に」

 どんまいなどと言うが、初めからへこんでいた素振りもない。
 俺は「バカバカしい」と口の中で呟き、視線を戻した。
94先輩、先輩の秋です! ◆46YdzwwxxU :2010/09/26(日) 01:58:00 ID:ueVFF94L
 会話のきっかけにするつもりったのか、後輩はがらりと話題を変えてきた。

「ところで。先輩的には、秋といえば食欲の秋ですか? 読書の秋? スポーツの秋? ……あと何がありまし
たっけ。収穫の秋とか? あっ、芸術の秋も!」

 こいつのトピックボックスはなかなか空っぽにならない。

「何だろな。……秋か……」
「後輩の秋って言えー後輩の秋って言えー」
「念送んな」

 背筋に来た。彼女の手指の動きの怪しげなことといったら!
 ……催眠術師の才能には目覚めないで欲しいものだ。

「だいたい何だよ後輩の秋って」
「後輩の秋とは」

 いかん、後輩の瞳がキラッキラ輝きだした。どうやら余計なことを訊いてしまったようだ。
 後悔を尻目に、後輩はオペラでも演るかのように朗々と声を張った。

「秋――それは女の子がいっとう可愛くなる、フォールでオータムなシーズン。中でも、先輩の男の子を慕う後
輩の女の子の魅力ときたら、まさにうなぎのぼり。……“後輩”! 妹よりも可愛く、ママンよりも献身的で、
おねえさんよりも小悪魔、そんなヒロインに会いたかった! ……“後輩”! 紅葉のように朱に染まる頬(ほ
ほ)、それは夕陽の悪戯いいえ乙女の恥じらい。さりげない呼び出しが精いっぱい、『後で校舎裏な』。永遠に
も思える待ち時間、心の準備はしてきたはずなのに……、お願いもう少し待ってっ、胸がっ、苦しいよ……。や
がて聞き覚えた靴音が、すぐそこに、……嗚呼っ! 『……先輩!』 来てくれたっ。想い人の影に、切なげな
吐息が漏れる。よみがえるふたりだけの思い出ぽろぽろ、はぐくんだ愛のキオク。……“後輩”! 果たして告
白はどちらからだったのか……。初めてのキスは甘酸っぱくて、もしかしたらリンゴ味……」
「サブリミナル効果狙いか何か知らんが、いちいち『……“後輩”!』挿入するの止めろ」

 長く、ひたすら長く、そのくせ意味が分からない、鬱陶しいことこの上ない説明だった。……というかもう説
明じゃないような。  
 何かもう胸焼けするくらい煽りを利かせているし、恥ずかしいし、危険なのから果てしなくどうでもいいのま
で幅広くネタまみれだしで、聞いてて頭が痛くなった。

「いいですね? 嫁にするなら後輩です。……後輩はいいですよぉ。上目遣いで『せ・ん・ぱ・い♪』なんて頼
りにされたらボクはもう! ひと度その瑞々しいカラダを味わってしまうと、年上の巫女さんとか、パツキンの
チャンネーとか、デバガメ魔法少女とか、へっぽこ女教師とか、何ちゃって大正浪漫とか、もう全然、お話にな
らないです。しかも、ここ重要です、後輩ヒロインは属性的にニュートラルですから、メガネやマヨネーズが何
とでも組み合わさるように、どんなマニアックな衣装やシチュエーションにだって即時対応しちゃえるんです。
先輩が巫女さん萌えなら巫女服後輩に、大正浪漫萌えなら大正浪漫後輩に、可愛い妹が欲しかったなら義理の妹
後輩に、街を火の海にしたいなら重機動メカ後輩に、けなげにフォルムチェンジ」
「最後の何?」
「……まあ、さすがに年齢だけはイメクラするしかありませんが、大丈夫。ほら、私って包容力あるほうですか
ら。年上にだって負けやしません」
「……お前って包容力あるかぁ?」
「先輩にだけ発揮されるんですーっ!」

 嘘くさー。
 ジト目の俺に、後輩は照れ顔。……そういう視線じゃないんだけどな。
95先輩、先輩の秋です! ◆46YdzwwxxU :2010/09/26(日) 02:00:51 ID:ueVFF94L

「もちろん、私にとっては先輩の秋でもあります」
「おいよせやめろ」

 不吉な予感しかしない。
 こっちは早く気の置けない友人や素敵な彼氏を見つけて俺離れして欲しいと思っているのに。夏休みのあれや
これやでいっしょにいすぎたか。……卒業までこのままだったらどうしよう。

「先輩の秋とは」
「いや説明は求めていないっ!」

 久し振りにツッコミで大声を出した気がする。
 あの心底しょうもない妄想の俺バージョンだと……? 絶対に聞きたくない。次元が歪みそうだ。

「……そうですよね、先輩は春夏秋冬いつでもカッコイイですものね。秋だけなんてケチくさい」
「俺の言葉の意図を都合よく捻じ曲げさせたら、お前の右に出る者はいないな」
96先輩、先輩の秋です! ◆46YdzwwxxU :2010/09/26(日) 02:03:57 ID:ueVFF94L

 そうこうしているうちに、目当ての書店に到着。
 そこそこ大きな店舗で、マイナーなレーベルの入りもいい。補充が遅い嫌いがあり、欲しいタイトルに限って揃わ
なかったりもするが、それはどこも同じか。

「今週はですね、『しにじゅにっ!』三巻、『季刊先輩後輩の友』『後輩の女の子に敬語でいぢめられちゃうアート
ブック』あたりがオススメの新刊ですよ」
「ああ、そう……」

 頼みもしないのに、後輩が別に欲しくもない後輩物のマンガやライトノベルを教えてくれる。
 それをテキトーにあしらいつつ、世の出版社はこいつと同レベルなのかと頭を抱える俺だった。
 「全然興味ないけどな」などと正直なところを口にしてもいいのだが、どうせ「先輩、やっぱり私に操を立ててく
れるんですね! 私が嫁ですよね!?」と変に感激されるだけなのでどうしようもない。

(しかし、そうだ、もう秋なんだな……)

 はしゃいだ様子でいかがわしい表紙を見せつける後輩にダメ出ししながら、俺は今後のことについて考えていた。
 暦の上では、秋である。
 俺のほうは成果ゼロむしろマイナスのままだが、後輩はあれでもしっかりと成長しつつある。同級生の女の子と楽
しげに話していたそうだし、彼女なりに他人と関わる機会を探してもいるようだ。

 ――世界は、お前らが思っているよりは、ずっと綺麗だ

 夏祭りの激戦の後に大型台という男は言い残した。
 俺のほうまで見透かすあたりが鼻持ちならない。

 ――んー? そこまで悲壮にならんでも。もっとバカになればいいんじゃね? あ、それとこれ交換しない?

 茶々森堂で相席になった金髪の少年は底抜けに明るく笑っていた。
 ある意味ではこの問題の核心を突いているだろう。

 ――先崎くんは、何だかんだであの子のこと

「先輩、今、他の女のこと考えてますね」

 後輩がずいっと鼻先を近づけていた。お互いの貌が翳るほどの距離だった。
 男子では無反応だったのに、女子に移行するや否や引っ掛かるとは。後輩の乙女センサーとやら、なんつー精度を
していやがる。

「……さあな」

 はぐらかしながら、俺は仁科学園の知り合いの顔を思い浮かべ続ける。
 後輩と俺にとってのキーパーソンが、果たしてこの中にいるのだろうか――?



 おわり
97先輩、先輩の秋です! ◆46YdzwwxxU :2010/09/26(日) 02:05:41 ID:ueVFF94L
以上。
……夏を全部すっ飛ばして秋にしてみた。いや、夏もそのうち書くかもしれんけど
時系列は、きっとなんとかなれ!
98創る名無しに見る名無し:2010/09/26(日) 02:49:20 ID:2SdF8mvh
投下乙!
今ベロンベロンだから後でじっくり読ませて貰いますw
99創る名無しに見る名無し:2010/09/26(日) 09:15:53 ID:2SdF8mvh
改めて乙。
先崎苦労人w がんばれw
そして後輩の発言はやはりいちいち吹くなw イメクラとかいわせんなw
さらにさらにエサ撒いていきやがったな! 台のアニキが夏祭りで何したのかきになる。喫茶店でトレード要求する奴っつったらあのバカかw
100創る名無しに見る名無し:2010/09/26(日) 17:31:36 ID:dxreW6pO
仁科
101創る名無しに見る名無し:2010/09/26(日) 17:35:58 ID:dxreW6pO
仁科学園的に、ととろと3バカの金魚掬い対決に巻き込まれたって感じしかしないw

夏祭りでの鈴絵部長の活躍が見たい。
102創る名無しに見る名無し:2010/09/27(月) 16:46:31 ID:JwOwlM1p
夏祭り……縁日の神社の境内の片隅にて……




鈴絵部長「ほんとにいいの……?」
霧崎様「かまわん。単なる興味本意の実験だ」
鈴恵「でも……。仮に成功しちゃったら……」
霧崎「あいつなら問題なさそうだが」
鈴「いや……そうだけど……」
霧「せっかくあいつの無駄に長い抜け毛を拾って来たんだ。ついでだよついで」
すz「じゃ……この藁人形に……」
きr「五寸釘はここにあるぞ」
s「じゃ、そーれ」 コーン……コーン……
k「さて、奴に効果はあるのかどうか?」



※ ※ ※



懐「あれ? 胸やけすんだけど?
京さん「食い過ぎじゃない?」
托人君「さっきお好み焼き三枚とか食べたから……」




はっ……俺は一体何を……?
103創る名無しに見る名無し:2010/09/28(火) 16:36:36 ID:uXhY1z7D
このスレはアピールが足りないんだと思う。
そしてageる事により何かが起こる可能性だってある。

例えば新しい住人とか。
104創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 19:31:33 ID:Nl7uH4d+
アピール不足ていうか
「ゲェーッへッへ! 俺が俺俺俺がレスしてやんぜ!フヒャヒャ! 猫まっしぐら! 猫まっしぐら!」
みたいなイケてるハイテンションがいない。
105創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 21:13:51 ID:yKNwbRnt
でもageってたから他シェアの俺が覗いたよ
お互い新規参入者向けガイドみたいの必要かもね…‥
106創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 21:27:40 ID:yH6g+IPw
ここはみんつくみたいに説明がしっかりしてるってわけてもなく、チェンジリングのように「こまけぇk(ry」って明言してる訳でもないからねw

なんつーか住人が大人過ぎてるw
107創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 22:10:07 ID:yH6g+IPw
>>105
まぁせっかく来たんだしなんか書いてみればw
108創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 22:45:54 ID:ZX2AqAP3
なんとなくここで書いてる人って普段は忙しい人が多い気がする。なんとなくだけど

>>105
いらっしゃい。ゆっくりしていってね
新規参入者向けガイドか。あった方がいいとは思うよね
どういうのがいいのかわからないのが難しい所
109創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 22:50:16 ID:yKNwbRnt
>>107
そうだね、すぐは無理だけど……
図らずも(失礼)近作を三編ほど読ませて貰ったのでageはいいと思う
110創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 22:51:17 ID:yH6g+IPw
>>108
まとめにあるようなのでいいと思うけど、どうだろ?
111創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 22:58:46 ID:z9yQMk/Q
しのぶ「あかねちゃん!私たちの学園を紹介したいんだけど、どうしたら良いかなあ!」
あかね「うーん。キャラ紹介?かな。人物から入り込む読み手さんも多いと思うよ……」
しのぶ「キャラ!!誰がいい?誰からかなあ!!ねえ!」
あかね「……えっと」

わたくしは先輩&後輩がいいと思います!!!
112創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 23:01:34 ID:yH6g+IPw
そう言えば前スレはキャラ紹介のテンプレ?があったなw
先輩後輩は私も同意だッ!
113創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 23:02:33 ID:Nl7uH4d+
昔一行人物紹介書いたけど、スレが落ちたときにすっきりと……
114創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 23:09:40 ID:yH6g+IPw
懐「なら自キャラの奴書いて提出すりゃいいんじゃね」
ひろと「それを次スレのテンプレに加えると……」
広介「でも次スレまで相当あるぜ」
トオル「あう……面倒……そう……」
亮太「まぁノリで書けばいいんじゃないかな?」
115創る名無しに見る名無し:2010/09/29(水) 23:12:02 ID:ZX2AqAP3
先輩&後輩は同意、ってか見てみたい
>>110
まとめWikiはすでに参加してる人にはありがたいけど
これから参加しようとしてる人には負担が大きいかなぁ、と
簡単に、とりあえず入ってこれる程度の情報量のガイドがあると便利かなぁ、と思って
116創る名無しに見る名無し:2010/09/30(木) 00:04:47 ID:i/SpGfPR
となるとやっぱり前スレのアレは優秀だったよねw
117創る名無しに見る名無し:2010/09/30(木) 01:04:35 ID:hrvqQahb
しかしアレだけだとちょっと難しいな……。
むしろ準台詞系の紹介SSをテンプレにするくらいしてもいいと思う。
新入生(入学希望者)のためのオリエンテーションという感じで。
118創る名無しに見る名無し:2010/09/30(木) 01:13:48 ID:i/SpGfPR
先生方「ガタッ」
マンモス翁「ガタッ」
トラ「ニャー」
119創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 01:38:27 ID:FWxIONfa
キャラ紹介って何すればいいんだ?
見当もつかない。
120創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 04:39:07 ID:QmAItsfR
性格とかSSでの立場とかをかい摘まんで説明する感じ?
121創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 05:28:20 ID:QmAItsfR
>>104
今更これ見て吹いた
122創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 16:45:59 ID:vRXrxM6K
>>121
いやレスするには最低限これくらいの気概は必要だろwww
123創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 16:49:39 ID:QmAItsfR
他スレだと作業そっちのけで雑談してるがここまで気合い入ってないぞw
124創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 17:01:14 ID:FWxIONfa
雑談相手がいれば気合もいらないだろうが、ここは1人2人が
「俺が感想書いて話題ふらないと廃校になっちゃう! ……俺のにも感想つかないかなぁ……」
みたいな感じでやってるイメージがあるな
125創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 17:17:57 ID:QmAItsfR
確かに住人が少なすぎてある程度誰か分かっちゃうんだよなw
まぁロボスレも基本そんな感じだけど、そんなのどこ吹く風で雑談する変t……紳士達だからw
周りから見ればそれはそれは盛り上がっているように見える。
で、実際盛り上がっていく。
126創る名無しに見る名無し:2010/10/01(金) 18:32:45 ID:QmAItsfR
というかこのスレで感想つかない事って滅多に無いきがする……w


猫まっしぐら! 猫まっしぐら!
猫はかわいい実家の猫は無事だろうか……
127創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 14:35:55 ID:PP6nYd03
いちおう発掘してみたが、このまま使うのはやめようと思う。


2:PNカミ山ラジ男[age] 10/02/28(日) 17:19:34 ID:VRzvYh05(3)

仁科学園の愉快な仲間たち(1/2)
(※活躍中の学友たちの評判まとめてみた。ただし誇張表現をミスリードと見抜けないとテストでいい点を採ることは難しい)

#カテゴリ(カテゴリの説明)
#【人物の名前】……………人物の説明
#+
#【カテゴリの関係者】……関係者の説明



卓上同好会(卓上ゲームで生涯学習)
【加藤&田中】……………部長が加藤で副部長が田中。いつでも新入部員募集中。部じゃねーけどッ!

お幸せに(ご愁傷さま先輩くん!)
【先輩(先崎俊輔)】……雑用万能のお人好し。掃除とかプリント運びとか、あとツッコミとか。
【後輩(後鬼閑花)】……放課後ストーカー。先輩に熱烈アプローチ中。名字はマジでシャレにならない。

カップル撲滅運動!(幸せカップルの心胆を寒からしめる恐怖の噂)
【大型台】…………………リーゼント。三人組のリーダー格で言動だけなら男前。でもリーゼント。あと油絵がうまい。
【中型那賀】………………モヒカン。「カップルはラスボス(キリッ」 そのくせ彼女がいる。ふざけんな。
【小型省】…………………ハゲ。語尾に「す」をつける下っ端っぽい男。ろくな目に合ってない。

【大型魅紗】………………腐ってやがる、早すぎたんだ! お兄ちゃんもその餌食。
【優陸地奈】………………えらい美人な那賀の彼女。あろうことか大学一年生。那賀ふざけんな。

カップルウォッチャーととろ(カップル撲滅運動撲滅運動)
【近森ととろ】……………他人の色恋沙汰を覗く、愛と正義のブレザー制服デバガメ少女。スーパーヒロインに変装する。野鳥の会の女。
【ザザビーちゃん】………カップルウォッチャーにだけ見えるらしい幻覚のムササビ妖精。クソの役にも立たない動物。

比翼の鳥?(トゥー・バードならこいつらが怖い!)
【小鳥遊雄一郎】…………おっきいの。ツッコミ役。見た目ゴツイのに、和穂ちゃんには振り回され気味。
【鷲ヶ谷和穂】……………ちっこいの。ボケ役。県<ハッ!!←こんなカンジの妹さんがいるらしい。ボクっ子(ここ重要!)

春は短し恋せよ乙女(これが青春だッ!)
【河内静奈】………………恋する乙女。それ以上語るべき言葉を、私は持たないッ!(バーン!!
【上原梢】…………………静奈ちゃんの親友。行動派。ツインテール(怪獣じゃないよ)
【牧村拓人】………………静奈ちゃん意中の中性的好男子。女装フラグびんびん。

浮世離れしすぎな人たち(何が「高校生一枚」だズーズーしい。俺だったら絶対信用しねぇ)
【わたし】…………………ふわふわチリッな電波系。俺ん家に近づかないでね?
【霧崎】……………………尊大な男口調で話す本棚の魔女。文芸部部長のクールビューチー。
【松戸白秋】………………実験用白衣と溶接用保護面で武装したマッドサイエンティスト見習。白衣フェチ。爆発オチ。

屋上のキタローヘア美少女(+α)
【天月音菜】………………もし学園の屋上からギタァの調べと歌声が聞こえてきたなら、それはきっと彼女です。
【向田誠一郎】……………←それを間近でタダ聴きしている人。
128創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 14:38:41 ID:PP6nYd03
3:PNカミ山ラジ男[age] 10/02/28(日) 17:23:16 ID:VRzvYh05(3)

美術部(;゚д゚) <あの大型台も入ってるらしいよΣ(゚Д゚;エーッ!!)
【神柚鈴絵】………………部長。おっとり可愛い年上属性。悪女。大型台とはただならぬ間柄。ちなみに神社の巫女さん……って属性多いな!

創作部(気ままに創作させたら私達の右に出る部活はないわ)
【壱羽祟人】………………ポエマー、ではなくて詩を書く人。メガネつき。
【浅野士乃】………………陶芸する人。土佐弁遣いのフリーダム少女。名前は「土」じゃなくて「士」ながやき。
【金城葎】…………………オモチャを作ったりする寡黙なちみっ娘。りっちゃん! りっちゃん!
【宇佐野和】………………シニカルな毒舌家。何を作る人かって? まあ気にするな!

アーチェリー部(FINAL ATTACK RIDE WE-WE-WE-WELCH!!)
【真田ウェルチ】…………部長。灰銀髪のフランス人形然とした姉御肌の美人。ファザコン。
【武政千鶴】………………標準装備:マイクロおさげ×2。「タケェ……俺ァもう、ダメだ……」「マサの兄貴ッ!」
【山尾修】…………………魔性のヘアピン。お菓子作りが趣味で、バレンタインでは……これ以上は言えない。
【相川拓司】………………ひょろ長メガネのとーへんぼく。と見せ掛け、ひとりカラオケとかしちゃうポップで華麗な男。

【真田アリス】……………本の虫。金髪のフランス人形然とした乱読家の美人。ファザコン。……誰かに似てる? それ双子の姉だろ。

演劇部(恐ろしい子……! ガビーン)
【久遠荵】…………………元気いっぱいドジいっぱい。ネギ呼ばわりしたやつ、表に出ろいッ! ニニンが「しのぶ」です。
【黒咲あかね】……………みどりの黒髪。もとモデルさんという噂。でも「あーちゃん」なんて知らないってよ!
【迫先輩】…………………文系男子。仁科学園はメガネ男子の宝石箱やぁ!

重量挙げ部(「げ」がポイント!)
【重利挙】…………………熱血パワーリフター。なんかデカい。
【上糸命】…………………筋トレ馬鹿。和製アーノルドの異名をとる。なんかすごい。
【中部伸】…………………ボディビル志向の男。なんだかよくわからん。
【ロニコ・ブラックマン】………黒人の血を引くマッシブエロボディ。騙されたと思ってロニー・コールマンでググれ。「楽勝だぜ!」

コスプレ部(コスプらず コスプりたり コスプり コスプるとき コスプれども コスプレ!(ラ行変格活用))
【秋月京】…………………徹夜も何のそののパワフル部長。牧村くんを見るときの彼女について一般生徒「あれは虎の眼だ……!」

報道部(ペンはレッドストリンガーよりも強し!)
【部員(B72)】………突撃インタビュアー。お昼の校内放送に出没。別に新手の爆撃機ではない。と思う(自信なし)
【PNカミ山ラジ男】……俺。これ書いてるハンサム。SSないのにちゃっかり。「だが私は謝らない!」

教職員とか(「腐ったミカンは消毒だァ〜!」「普通に捨てたら?」)
【真田基次郎】……………美術教諭35歳既婚者。ゴリラ。体罰反対。体育教諭ではないので注意が必要。……既婚者!?
【大里巧】…………………理科教諭23歳独身。一見穏やかながら、中身は憎悪と劣等感の塊という危険人物。こっちみんな。
【白壁やもり】……………家庭科教諭25+α歳独身。経験豊富だけど見ているほうはヒヤヒヤ。「相変わらずの癖っ毛ねぇ」



ほか(4時限目までには増える予定だ! たとえば、そう、キミのキャラとか!(メタ発言))
129創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 18:15:02 ID:O6ziU0SH
おお。発掘乙。

うん。このままは違うと思うw
参考にはなるけど……。
130 ◆46YdzwwxxU :2010/10/02(土) 19:28:38 ID://DiYIie
ご指名は涙が出るほどありがたいんだけど、
ごめん、もうしばらく動けそうにないにゃーですよ
131創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 20:47:14 ID:O6ziU0SH
仕方ないさ。ゆっくり待つ。
あ、そういえば避難所であったSS投下順にいろんなキャラがあれこれ言う奴あったけど、あれ勝手に続きやっていいかな?

さっくり作品紹介になると思うんだけど。そしてage
132創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 20:52:54 ID://DiYIie
>>131
うおお、やってくれるのか!?
願ってもないこと!
133創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 20:56:16 ID:RoIu1Xqx
>>131
楽しみにしてる!
134 ◆wHsYL8cZCc :2010/10/02(土) 21:25:08 ID:O6ziU0SH
い……いいのかぇ!?

じゃ、ついでに自キャラ以外も語らせるけどええかえ?
男ばかりでつまらんのだよw
135創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 21:30:43 ID:PP6nYd03
あんたサイコウだよ・・・
よろしく頼むよ


あーもー何も思い浮かばねー・・・
宿題多すぎ・・・
136創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 21:32:38 ID:O6ziU0SH
じゃ、今から読んでくるw
五話ずつだったからそれ目安にやるけど。

あ、ところでみんなはしたらばのあのスレ見てんの?
137創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 21:46:15 ID:O6ziU0SH
すでに二、三度読んでいるので読み終わった件。

さて、明日登山の予定だから作業はまた後でw
138創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:00:01 ID:EnYU1cRN
>>136
もちろん見てる
マリア様も見てる
139創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:15:26 ID:PdDGVNsm
よし。ちょっと投下
140 ◆wHsYL8cZCc :2010/10/03(日) 20:17:57 ID:PdDGVNsm

ととろ「はい。唐突ではございますが……」
京「なぜ私が……。まぁいいか」
ととろ「仁科学園名場面セレクション二時限目、はじまりはじまりー。パチパチパチパチ。
 お送りしますは私、近森ととろと……」
京「秋月京です。もうひとりのお相手は……」
懐「YEHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!(←ハイトーン)」
ととろ・京「このバカです」
懐「ノリが悪ぃーぞおまいら! したらばさっそく行くっぺよ!」

005
two bird
登場人物・鷲ヶ谷和穂、小鳥遊雄一郎

懐「あの凸凹カップル初登場だ!」
京「先輩後輩と並び最初期からいらっしゃるお二人ね」
ととろ「この時から既に雄一郎君の生活環境がさりげに描写されてるんだよね」
懐「あのちっこいのはこの時既にFlyFreeな奴でした」
ととろ「さてとお次は……」

携帯
登場人物・寅、田中

懐「猫かわいいよ猫」
ととろ「しかし見事に猫猫した性格の猫だね寅」
京「語り口が某ウーパールーパーに通じる物があるわ」
懐「中の人が猫萌えなので地味に好きな話らしい。実家に帰りたい」
京「中の人とシンクロしてるわよ。それじゃ、次」

無題02
登場人物・石塚、青木、よーちゃん

京「いわゆるオタ部の面々ね」
懐「さりげなく他作品に出たりと初期は活躍していた」
ととろ「腐女子フラグビンビンのよーちゃんも注目だ」
京「化粧させたい……。でも最大の疑問は……」
懐「そうだ。アレだ……」
三人「格闘茶道部とは一体……?」

不思議少女学園系
登場人物・わたし、杏さん、伊庭心太郎、伊庭さなこ

懐「これも謎の多い作品だ」
京「杏さんや伊庭さん、さらに設定がほぼ公開されていない『わたし』」
ととろ「名乗ってくれてもいいじゃんねー」
懐「つーかウチの学校の工業科ってそんなろくブルな所なの?」
京「さぁ?」
ととろ「はい次」

先輩!部活動見学です!(1)
登場人物・先輩、後輩

懐「仁科が誇る夫婦の登場二回目」
京「初っ端から後輩ちゃんのアウトな発言が……」
ととろ「でもこの節操の無さこそ後輩ちゃんのいい所」
141 ◆wHsYL8cZCc :2010/10/03(日) 20:19:32 ID:PdDGVNsm
懐「哀れ先崎。この時既に今のポジションが定まっていた」
京「現在は二人の関係の秘密が少し明らかになっているけど、当時は純血のストーカー少女ね」
懐「まったく先崎め。俺がその立場だったらもううわぁあああああ後輩かわいいよ後輩うわぁああああああ……」
京「暴走し始めた……!」
ととろ「……。レッドストリンガーッ!」
懐「ぶべらッ……!」
京「ナイス判断近森さん」
ととろ「はい、では一人再起不能(リタイア)なのでこの辺でお別れでーす」
京「では次回があればお会いしましょう。あればだけどね」
懐「次は……テメェ等の……ば……んだ……ガファッ……!」
142創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:35:32 ID:PdDGVNsm
>>138
そうか。誰かエロいの書いてくれるときっと信じてるw
143創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:42:40 ID:opZ5pA3/
こんなスレがあったのか
144創る名無しに見る名無し:2010/10/04(月) 21:26:18 ID:CSr1ymRU
あったんですよ
145 ◆G9YgWqpN7Y :2010/10/04(月) 22:22:42 ID:/n+Q+W0R
>>141
いいぞもっとやってくれ!
そういえば、わたし さんとか学園島戦争スレから来てたんだっけ。懐かしいな


ついでに短いけど久しぶりに投下します。
146夏の想い出、ある日の記憶 ◆cEDusU.0I. :2010/10/04(月) 22:24:29 ID:/n+Q+W0R

それはある日の記憶。
すでに過ぎ去った季節の一つの思い出。
それは当人たちにとっては決して忘れないだろう一つの形。
そして、その時に書かれた言葉は、これまでの、そしてこれからの彼らの進む道を刻んでいる。









セミの声が、やかましい。
全力で夏を謳歌しているその声をうっとうしく感じつつ、
大型台は夏休みにも関わらず美術部の部室に入ろうとしていた。

扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。
そこにはすでに人の気配があった。
長い髪を先っぽの方で結んだ少女、神柚鈴絵が難しい顔をして自分のキャンパスをじっと見つめていたが、
台が来た事を確認すると、ぱっと振り向き、満面の笑顔を台に向ける。
台はその笑顔になぜか嫌な予感を感じ、一瞬扉の前で硬直する。

そして、鈴絵は笑顔のままで口を開いた。

「おー台先輩。絵の具チューブ買ってこいよ♪」
「……ほう、部長殿。いい度胸だ。もし俺が右手を痛めてなければ――」
「なければ?」
「……いや、なんでもない」

台が美術部に入ってくるなり満面の笑顔で言ってくる鈴絵に、結局言葉を途中で止める台。
その台に対し鈴絵はにや〜と意味深な笑顔になる。その顔で台は気付くことができた。

「はー。部長、その机の下に置いてあるビニール袋の中身はなんだ?」
「絵の具チューブ」
「だよな」

台は大きくため息を吐くと、描き掛けの自分の作品へと向かう。
一度椅子に座った後、顔を鈴絵の方に向け、疑問をぶつけた。

「しかし、部長殿。一体どうした?」
「後輩ちゃんに頼まれたから」
「……ああ、なるほど」

台はあっさり納得すると自分の描きかけの作品を眺める。
まだ塗り掛けのそれを眺め、台はふとため息を吐く。
画材を何も用意せず、ただその絵を見続けている。
その様子が気になったのか、鈴絵は立ち上がると台の傍までやってくる。
147夏の想い出、ある日の記憶 ◆cEDusU.0I. :2010/10/04(月) 22:26:02 ID:/n+Q+W0R

「どうなの? 次の展示会までに間に合いそう?」
「……難しいな。拳自体は治っているが、まだ細かい動きはできそうにない。
今筆で作業しようとしても失敗するのが落ちだ。もう少しリハビリが必要だ」
「でも、次の展示会までに間に合わないと、あの話が無くなるんでしょ。いいの?」

鈴絵の言葉に台は強く顔を顰める。その位のことは分かっていた。
拳を痛めた、あの時のあの行動をしたことが間違っているとは台は今でも思っていない。
それでも今の状況を考えると焦りが出てくることもまた事実だった。

「よくはないな。だがせっかく掴んだチャンスなんだ。ま。せいぜい足掻いてみるさ」

その言葉に今度は鈴絵が顔を暗くする。
台のある意味では諦めの言葉に鈴絵は掛ける言葉を見つけられないでいた。

チッチッチッチッチ……

黒板の上に掛かる時計の音だけが美術部の中を支配している。
遠くからは、野球部の歓声や吹奏楽部の演奏が響く。
セミの声が、今は夏だと教えてくれていた。

そんな中で二人がいるこの空間は、どこか暗く感じられた。

どれくらい時間が過ぎただろうか。いや、実際はそんなに時間が過ぎてはいない。
鈴絵は小さく「よしっ」と声を出すと、台に向かって一つの提案を行った。

「台先輩。そんな位気持ちと焦りの中じゃ描ける物も描けなくなりますよ」
「……そうではあるが」
「夏祭り、行きましょう」
「夏祭りか?」

そういえば、もうそんな時期か。そんな事を思いつつ台は去年の夏を思い出す。

――カップル狩り(失敗のみ)しかしてなかった。

そんな事を思い出している間にも鈴絵の言葉は続く。

「ええ、はしゃいで遊べば少なくとも嫌な気持ちは吹き飛びます。
たまには普通に遊んで見たらどうでしょう? きっと色んな人が遊びに行ってると思いますよ」

丁寧な鈴絵の勧誘に台は、ゆっくり思考を巡らせる。


――結局でた結論が、

「いいだろう」

と言う台の肯定の言葉だった。



続く。
148夏の想い出、ある日の記憶 ◆G9YgWqpN7Y :2010/10/04(月) 22:28:03 ID:/n+Q+W0R
投下終了。本当に短いや。途中トリップ編になってるのは半角スペースが入ったためです。失敗した。

季節は秋なのに今頃夏の季節を書いてるよ。
こっちのスレで書くのは久しぶりなので、リハビリとOPを兼ねて短く区切ります。
続くと書いてますが、多分投下間隔はかなり開くと思います。先に3馬鹿のお馬鹿の面をもっと出したいと思うしねw
149創る名無しに見る名無し:2010/10/05(火) 01:21:48 ID:1DaiMsH5
>>141
乙!×5
懐……おいしー奴め。バカだけど。
俺もととろにシバかれたいんだけど。

最初期はカオスだったが、勢いがあってあれはあれでいい時代だった。
何もかも皆懐かしい。
最近あまり見ない人も、長らく休学している人も、昔の自分も。
イッツァセンチメンタルジャーニー。

>>143
こっちの水は、あまいぜカモン?

>>148
買ってこいよネタ拾っちゃうのかw それもなんだけど、にや〜に萌える。
つか夏祭りデートのお誘いとか、……台先輩爆発しろ。
150創る名無しに見る名無し:2010/10/05(火) 02:20:27 ID:BII/L3ue
投下乙!
もう少ししたら読まして貰うw
こっちも投下用のがもう少しで出来そうだ。しかも夏休み前の話w
151創る名無しに見る名無し:2010/10/05(火) 03:29:09 ID:BII/L3ue
改めて投下乙。
台……。お前今何したか解ってるのか?w
台が省にシバかれる日も遠くないw
152仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/10/05(火) 15:17:26 ID:BII/L3ue
このスレはageで投下しなくてはならない。
153仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/10/05(火) 15:19:15 ID:BII/L3ue


 第九話:【fate is driving hard】



 太陽光線。ギラギラ光るアスファルト。
 音。蝉の大合唱。
 遥か彼方。にょきにょき伸びるでっかい入道雲。

 夏でした。ただ生きるのも辛い程の気温の高さ。アイスクリームは買った側から液状化。冷たいジュースは駆け足で生温く。
 夏真っ盛り。そして、青春ど真ん中の少年少女がわくわくする季節。

 屋上。人っ気無し。否。二人組だけ。
 一人は額に絆創膏。顔は青アザ。敗れ去った後。
 もう一人は珍しいリボンの結び方した女の子。

「……元気だせよ」
「……」
「なんか言え」
「……。ひ〜ほえほえ」
「言うに事欠いて何言ってんだ」

 懐とととろは相変わらずのデバガメ行為の真っ最中だった。
 約一名が珍しく大人しいのでいつも通りとは行かないが、オペラグラスは変わらず幼い愛をロックオン。他人の秘め事を覗くミサイルの如きととろの熱視線は今日も発射されている。
 そしてととろの横でごろごろしている懐。痛々しい絆創膏が額にべったり張り付いて居る。いつもならこちらもミサイル発射台と化してデバガメ行為を嗜むが、今日は何やら違ったようで。

「あんたが大人しいと気味が悪いよ」
「俺だって落ち込む事くらいあるだよ」
「そんなタマかいな」
「ほら、俺ってデリケートじゃん」
「どの口が言ってんだ」

 何があったかはととろの知る由も無し。しかしその額の絆創膏を見れば大方の予想は付くって物である。
 懐は誰かと喧嘩して負けたのだ。このバカが落ち込むといったらそれくらいしか無いはずである。うん。そうだ。バカだから。

「ったく、よく先生達に何も言われないで済んでるよ」
「忍術で逃げてるから」
「冗談言う余裕はあんだね」
「いやいや、マジで。これで演劇部の襲撃とか回避してるし」
「そんな忍者の末裔じゃあるまいし……」
「あれ? 言ってなかったっけ? その通りなんだけど?」
「……なんだと?」

 懐のルーツはともかく、このバカが借りてきた猫のように大人しいのはととろにとっては不気味であるのだ。
 これは大地震の前触れか。巨大隕石の接近か。はたまた第三次世界大戦でも始まるのか。
154仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/10/05(火) 15:20:30 ID:BII/L3ue
 そんな大袈裟で的外れな予想がととろの頭の中を埋め尽くす。
 大戦を引き起こす訳にも行かないのでなんとかいつもの懐に戻って頂きたいと切に願った。
 が、この男は意外と頑固者。

「……はぁ」
「元気だせよ」
「僕は……今日も……元気です」
「さっき落ち込んでるとか言ってたでしょ」
「ほら、ととろちゃん。蟻さんが健気にポテチのかけらを運んでいるよ」
「何見てんの?」

 だめだこりゃ。そう結論付けたととろ。
 これでは気分が乗らないので今日はもうさっさと帰ろう。そう言って屋上を後にする。
 相変わらず懐は大人しい。ま、一日二日すりゃ元に戻るだろう。そう楽観視していたのも相俟って、意外と厳しいととろさん。

「ほらさっさと歩く!」
「はいはい」
「男の子だろ。ビシっとしろよ」
「ぅん」
「ほんと不気味だなぁ。何か起きなきゃいいけど……」

 この時、実は本当に第三次世界大戦級の、少なくとも懐にとってはそれほどの大事件が迫っていた。当然ながら、彼らはまだ知らないのだが。
 そしてその目撃者の一人になるであろうととろは、一体その時何を思うのか。きっと、驚くだろう。もしかしたら懐についての印象ががらりと変わるかも知れない。
 それほどの大事件が迫っていたのだ。
 ぽっかり開いた罠の入口に、二人はこれから向かっていくのだが……?




※ ※ ※



『いらっしゃいませ』
「こんにちは」

 昇降口付近の自販機でいつもの缶コーヒーを買う。喋る自販機に律儀に挨拶し、冷えた缶のプルを引く。
 下駄箱周辺は綺麗に掃除されていた。夏休みが近いので、大掃除でピッカピカにされていたのだ。ここだけではなく、学校全体がこざっぱりと変化し、しばしの眠りにつく準備をしている。
 目覚めた時、季節は変わって居るはずである。

「なぜ多次元空間に逃れた重力と電磁波は三次元空間に現れず、強い力と弱い力のみ三次元の粒子間に働くのか?
 もし多次元に逃げているとしたらその力の総量は絶大になり、重力と電磁波とのエネルギーの総量との不和で統一エネルギーの可能性が薄れ……」
「……どうしちゃったのよホントに」
155仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/10/05(火) 15:21:53 ID:BII/L3ue
 突然の独り言は懐のキャラクターからはほど遠い内容である。それに重力と電磁波の総量はたぶんもの凄い量なので、統一理論に影響はないはずである。多分。
 とにかく、ととろがガチで心配そうな表情をしていたのはお分かり頂けるだろう。

「大丈夫なの……。色んな意味で」
「色んな意味でやばい」
「あたし先帰るよ?」
「さようなら……。さようならととろ……」
「んな今生の別れじゃあるまいし……」

 いつもここでお別れしている。一緒に帰る事は滅多に無い。というよりいつも懐は消え失せてしまう。
 なので今日もいつも通りに外へ飛び出し、さっさと帰ってオペラグラスのチューンでもしようかと考えていた矢先。

「きゃっ!」

 誰かとぶつかり転んでしまった。まるで壁にでも衝突したかのような衝撃は小さなととろを難無く吹き飛ばす。
 「いたた」と言いながら、ぶつかった相手を見上げる。
 そこに居たのは、有名人犇めく仁科でも、トップクラスの有名人達――!

「やっぱりこの娘と居たか。一人だとどこ行っても見つからないし」
「こっち尾行して正解だったな」
「あ……あんた等は……!」

 その頃の懐は、外から迫る危機に気付く訳も無く、いまだ下駄箱相手にグチグチ喋っていた。そして、ついに最初の罠が襲いかかる。

「あの〜?」
「ふぇ?」

 背後から声。振り返ると、見事な長身に見事なプロポーションの女性。日本人っぽくは無い。

「あー。あんた知ってるー」
「えー。知ってるの?」
「うんうん。ロニコちゃんっしょ。目立つもん。で、何?」

 その女性の目線は懐と同じレベルにある。女性としてはかなりの長身。さらには超高校級のマッシブエロボディは目立つなというほうが無理な話だ。
 女の子に話し掛けられてテンション上がるのは男の性である。多少なりとも元気になって速攻でバカ話に持ち込んで行く。
 じゃあ、さっきまで一緒のととろじゃテンション上がらんのかというと、それは単なる馴れという物である。美人は三日で何とやらと言うだろう。
156仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/10/05(火) 15:23:27 ID:BII/L3ue
 ととろへのフォローが入りつつ、ついついお喋りに夢中になっている懐は周りへの集中を欠いている。そして、それこそが罠である。いかにこのバカを引き止めるかが彼らの狙いだったのだ。

「あの〜ところで?」
「え? 何何何なに?」
「後ろ見て?」
「うしろ?」

 振り向く。視界に入ったのはぬりかべ、では無く肉の壁。
 真っ黒なタンクトップの恐らく鳩尾から上あたりが見える。少し上を見たらば、高校生とは思えぬ超巨体。仁科運動部系の超人達の一人。重量挙げ部、重利挙!

「こいつは――」
「ようやく捕まえたぞ。まったく神出鬼没にも程があるって物だ」
「捕まえる?」
「ちょっと頼まれてな。何かは知らんが、大人しくお縄に付け。黒鉄懐」
「んだとぉ〜!?」

 そこでがばっと振り返る。ロニコが「ゴメンね〜」と言って手を振っていた。「騙された!」そう思っても時既に遅し。
 こうなればたいがいの人間は腹が立つだろう。
 もちろん懐も同様であり、あまつさえ先日激しくバトルしたばかりである。燻っていた物が再び燃え上がる。
 ちょうどいい鬱憤晴らしだ! そう思い、さらに振り返りつつアゲルの鳩尾に自慢の腕力を活かしたスウィングブローをぶち込む! が、今回は相手が悪すぎた模様です。

「……。え〜っと、アゲル君? お腹にタイヤでも入れてるのかナ……?」
「えい」

 ビンタ一発。

「ぶぼぁあ!」

 ティッシュのように吹き飛ぶ懐。パワーが違いすぎる。「あ、殺すなって言われてた」そう言ったように聞こえた。つまりその気なら殺せたって事かい。吹き飛びながら懐は考える。
 そして吹き飛んだ懐を受け止めたのは、これまた肉の塊。彼の顔は懐もよく知っていた。同じクラスの人物だったのだ。

「てめぇ……。ノビル!」
「すまんな懐。俺達のサプリ代の為、犠牲になって貰うぞ」
「何!? まさかお前等……! 黒幕は誰だ!」
「迫先輩だよ。どうしても会いたいそうだ」
「やっぱりか! この野郎、モノで釣られるとは情けな……うわぁああ!」
157仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/10/05(火) 15:25:14 ID:BII/L3ue
 バスケットボールの如く懐をアゲルへとチェストパス。キャッチしたアゲルは背後から羽交い締めにし、動きを殺す。

「こ……この野郎! 二人がかりとはスポーツマンシップのかけらも無い!」
「大変なんだよ俺達も。プロテインだけならまだしも、BCAAにEAA、グルタミンにクレアチンにコンドロイチンに……」
「……なんだその物質は……?」
「まぁそういう訳だ。覚悟しろ懐」
「ノビル……。それは、ホームセンター等でお馴染みのトレ用品、セ○バンド(青)!」
「そうだ。このセラ○ンド(青)で縛りあげてやろう」
「やめろ! 強度高めの○ラバンド(青)で俺を拘束するな! うわゴム臭ぇ!」
「はっはっは。往生際の悪い奴め」
「や……やめてぇ!!!」




※ ※ ※




「あ〜あ。捕まっちゃった」
「こんな事しなくても普通に呼べばいいと思うんですけどね」
「まぁバカが三人集まるとこうなると」

 懐が蹂躙されている様子を見つめていた乙女二人。ととろとロニコ。
 アゲルと衝突し、懐捕獲作戦を少し聞いたととろはひょこひょことアゲルについて行き、その様子を一部始終みていた。
 が、その様子はもはや滑稽。助ける気にもなれない。仮になったとしても肉塊二つが相手ならば最初からどうにもならないのだが。

「あのバカがこうも簡単にやられるとは」
「正直ここまで簡単に引っ掛かるとも思いませんでしたけど……」
「で、どうするのアレ」
「演劇部の部室に拉致するとか」
「あちゃー。よりによって天敵の所か。まぁ、面白そうだからついて行くけど」
「意外と薄情ですね」
「そうかな?」

 二人が話している間に、懐はセラバン○(青)によって青いミイラのようになっていた――。



※ ※ ※




「おやぁ〜? 懐君、キミは珍しい体型だねぇ」
「肩から腕が発達しやすいようだねぇ。アームレスリングとかやらないかね?」
「ボディビルでも有利だぞう。デカイ腕は審査員の目を引くぞう」
「パワーには向かないねぇ。体幹が少し細いねぇ」
「腕は割と長いからデッドは有利かもねぇ」
「もがもが……(何を言っているんだコイツ等は……?)」
158仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/10/05(火) 15:26:50 ID:BII/L3ue
 青ミイラと化した懐はアゲルとノビルの二人に担がれ運搬されていた。
 さすが肉体を追求する連中だけあり、懐の身体的特徴を見抜いたが、知識が偏っている為に懐には何を言っているかよく解らない。
 その後ろではととろとロニコがとことこ付いていた。
 ととろはついでに仲良しの葱に会いに行こうと思っていたのだ。

 そして、部室の前に到着。成す術なく拉致された懐の心境は察するに余りあるが、現実は冷たく。「演劇部」とかかれた標札が堂々そこにある。

「もがもがもが……!」
「もう諦めろって。迫先輩〜。ご注文の品でぇ〜す!」

 ドアが開く。出迎えたのは当然、迫である。

「よくやった。そして、ようやく捕まえたぞ……懐」
「ぐもももも……!」
「ああもう。そんな嫌がるなよ……」
「あの、俺とノビルはどうすれば?」
「ああ、あとはこっちに任せてくれ。例のモノは後日改めて届けよう……」
「了解。まいどあり。撤収!」

 走り去る重量挙げ部の面々。取り残された青ミイラ。それと珍しいリボンの女の子。
 見下ろすは眼鏡をかけた男子生徒一人。

「ぐるるるる〜……」
「唸るなよ。別に捕って食うわけじゃ無いんだし……」

 そう言いながら、ずるずると奥へと懐を引きずる。中に居るのは当然演劇部の皆さん。あと客が一人。ととろはそれに見覚えがある。

「あ、亮太さんだ」
「おや、久しぶりだね」

 身長二メートルの大男再び。
 寝そべる懐が見たのは、宿敵、迫先輩に葱とあかねの演劇部。そして、薄情にも付いて来たととろと、最近復学したばかりという空知亮太という男。
 一体何事か? そう思ったがぐるぐる巻きにされて身動き出来ない懐には何も出来ない。

「わーい葱ちゃ〜ん」
「わーい近森先輩」

 実は葱もカップルウォッチングのメンバーである事実を知る者は少ない。が、それ故か二人は仲がいい。
 あかねも加え、さっそくお喋り開始。

「このおバカを捕まえてどうするの?」
「さぁ? 私もよくわかりません。それより酷いんですよッ! 懐先輩は私を見る度にネギネギネギネギって……!」
「いつも捨て台詞はそれなんです」
「なにそれ酷い! 謝んなさいよこのバカ!」
「もがもが……(今どうしろと……)」
159仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/10/05(火) 15:28:14 ID:BII/L3ue
 迫はそのやり取りを尻目に懐へと歩み寄り、硬く縛られたセラバン○(青)を解く。バチンと音を出して弾けるようにそれは解かれ、懐はようやく自由になる。鬱血していた。みんなはセラバ○ドを正しく使おう。
 解き放たれし懐はそれでも警戒を緩めず。隙あらば逃走しようとすら考えていた。
 迫は眼鏡をクイっと上げてため息一つ。そしてようやく、この拉致作戦の目的を語る。

「……。ようやく捕まえた。ホント手間かかった……」
「何が目的なんだお前は……」
「いや、まぁ普通に会って話せれば一番よかったんだが……。驚くほど避けられてるし、こうするしか無かったんだ。許せ」
「許せるか! また三人で洗脳しようと企ててんだろ!?」
「まさか。もう諦めてるさ」
「じゃ、何の用だよ?」
「お前の力を見せてくれ」
「は?」

 迫は奥へと目をやる。そこに居るのは噂の大男、空知亮太。懐は一目で解る。この男もメタラーである。
 臭いがするのだ。同類の臭いだ。

「あいつがどうしてもお前の実力を見たいそうだ。……ついでに、葱とあかねにも見せてやって欲しい」
「何をだよ」
「簡単だよ。いつもやってる発声練習見せてくれ。ロングトーン一発でいい。葱とあかねに、本物の発声練習って奴を見せてやってくれないか?」
「そんな事の為に拉致したの?」
「こうでもしないと会えないだろ。それにあの二人もお前が何出来るか疑問視してるし。この際だからレベルの違いを見せてやれ」
「お前等は演劇でしょ? 種類が違うし」
「グダグダ言うなよ。ほら、さっさと頼む」
「えぇ〜」
「なんで嫌がるんだよ。そこまで嫌われたか俺達……」
「いや、そうじゃなくて……」
「なんだよ?」
「……。練習見られるの恥ずかしい……。ポッ」
「さっさと立て」

 半ば無理矢理立たされる。お喋りしていたととろと葱とあかね状況の変化を察知し、静観していた亮太もじっとその時を待っている。

「……。そんな見るなよ」
「変な所で恥ずかしがるなお前は。いつもやってるだろ」
「集中出来ないから……。ちょっと待って……」
160仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/10/05(火) 15:29:43 ID:BII/L3ue
 懐は部屋の隅へと移動し、一人で何やらあーあー言って居た。軽く高低を付け、裏声を出し、喉の準備運動を行いながらコンセントレーションをする。
 じっくりと、少しずつ。普段のバカさを消して行く。

「……。ま……まだなんだからね! もう少し待って」

 あーあーという声に少しずつビブラートが入る。緩い揺れから細かな揺れまで、意図してコントロールして行く。変わって行く。歌う為に。
 壁に頭を付ける。大きく深呼吸し、腹筋の動きを確認する。限界まで息を吐き出す為だ。
 首をコキコキ鳴らす。集中してきた証。
 振り向くと、普段の脳天気な表情は消えうせている。目つきは鋭い。懐が普段、滅多に見せる事のない、本当に本気の表情。

「……音は要るか?」
「要らない。ロングトーン一発なら音域全部出す」
「後は?」
「特にないけど」

 ふう、と一息付き、懐は天上を見上げる。
 思い切り息を吸い込み、もう一度深呼吸。今度は体を丸め、体内の空気を全て吐き出そうという程に深い。
 顔を上げ、もう一度首をコキコキ鳴らす。

「じゃ、やるか」

 また息を吸い込む。肩をリラックスさせ、そして。
 低音から静かにそれは始まった。まだそれはほんの触り程度。少しだけそれが有り、遂に本領が発揮され始める。
 解き放たれる、メタルシンガー、懐の能力。


続く。
161仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/10/05(火) 15:31:36 ID:BII/L3ue
投下終了。
葱がカップルウォッチングに興じていた事実を俺は見逃さない。
そしてととろをツッコミに回す懐は実は凄い奴なのかもしれない……。

で、前にも言ったように音楽パートがスタートです。
162創る名無しに見る名無し:2010/10/05(火) 22:25:17 ID:UAsl8ty6
乙ー!

懐めっちゃ落ち込んでるな……ととろと一緒にいるのに贅沢な奴め!
ってかととろが懐の扱いかた理解してるのが笑うw
アゲルたちも何やってるんだw
いよいよ懐の本領発揮か。期待してる
163創る名無しに見る名無し:2010/10/06(水) 01:08:49 ID:6ShSMzLF
乙。
いつになく読みごたえがあった気がする。
にしても、懐はえらい多才だな。
164創る名無しに見る名無し:2010/10/06(水) 21:10:27 ID:XYVNtTZ8
しかしライオンのペースは異常だな。あやかりたいねぇ。
165創る名無しに見る名無し:2010/10/06(水) 21:27:59 ID:UZbE0MQA
おかげで内容がないよう(´・ω・`)
焦るとロクな事が無い。
166創る名無しに見る名無し:2010/10/07(木) 21:13:59 ID:V7XbaTUP
住人も増えて欲しいな
5、6人しかいないとか寂しい……
せめて10人くらい……
167創る名無しに見る名無し:2010/10/08(金) 01:57:43 ID:wgI/xnd1
では私が住もう(バーン!


え……と、それで、新入生はどこから覗いてくればいいですかね?
出来ればこれまでの話を全て読みたいのだけど
wikiに上げられていたりしますか?
168創る名無しに見る名無し:2010/10/08(金) 02:07:50 ID:8jY+61Ld
来て……くれるのか……? いやっほおおおお! 世の中まだまだ捨てたもんじゃない!


えーと把握なら>>1にあるまとめサイトからが一番、かな?
でも把握はそこまで気張らなくてもおkよ。
自分らだけの学園生活でも全然いいし。
169創る名無しに見る名無し:2010/10/08(金) 02:12:47 ID:wgI/xnd1
あいさー
半年ROMります!
170創る名無しに見る名無し:2010/10/08(金) 02:31:19 ID:8jY+61Ld
わかった。敢えて問うまい。
半年後を楽しみにしている。
171創る名無しに見る名無し:2010/10/08(金) 02:42:28 ID:wgI/xnd1
書き手になれるか分からないけども
読むぜ!
っていう気概はありますので
冷やかしでなく
172創る名無しに見る名無し:2010/10/08(金) 18:13:01 ID:8jY+61Ld
少し先走ったようだ。

よろしくな!(シュッ
173創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 19:18:53 ID:RYoFaDqR
読んでくれる人がいると分かるだけで非常にありがたいですよー
やるきが出ると言うものです

学生のみ人物関係相関図更新
ttp://www15.atwiki.jp/nisina/?plugin=ref&serial=15
抜け、間違い、誤解等あったらご容赦及び指摘よろしくです。
本格的に見づらくなってきた。どうしたら見易くなるかなぁ。

後は小ネタ系もWikiに収録したほうがいいかな?
174創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 21:42:30 ID:8xVulDNj
乙。
読み手に対する書き手の割合を表すエンゲル係数のようなもの。
それが低ければ低いほどお得感が増す。つまりはそういうことなんだよ。

クロス率の高いキャラを真ん中にもってくるとかどう?
台とか懐とか。
175創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 22:16:23 ID:cLe7Y7sX
懐は本編だけで好き勝手やってるだけでクロスは無いんじゃね?
176創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 22:33:09 ID:RYoFaDqR
キャラの内、繋がりが多いキャラを中心に持っていくってことかな?
それが一番無難かも。一度やって見るよ。サンクス
177創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 22:34:15 ID:8xVulDNj
それをいっちゃあ。
でも絡みがあれば線は引けるからまだいい。

しかしまー、話は全然変わるが懐はだいぶ把握しづらいキャラだろうな。
これまでも個性のあっさり感でやりにくいってのはいたが、こっちはまた別の意味でやりにくい。
178創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 22:44:19 ID:cLe7Y7sX
おかしな奴でいろいろとごめんw 考えるべき事も多数あったのでばらく修業の旅に出るつもりだw もう戻れない部分もあるのだが……
まだ懐の全て公開してる訳じゃないしなぁ。

とにかく書いた以上は一応の完結させるけど、それ以降は考えてない。というか今考えられない。
その後どうするのかは俺は関知しないつもりだし。むしろ今もだけど。
179創る名無しに見る名無し:2010/10/10(日) 17:21:17 ID:0kwJ+Pgm
謝るようなことでは全くないがw

完結・・・考えたことなかったな・・・
180創る名無しに見る名無し:2010/10/10(日) 19:33:58 ID:0fRxXtam
本編……と呼べる部分は完結を前提に書いてたから……。
他のは完全にフリーダムだけどw

まぁフリーダムにやり過ぎて反省点だらけさ。
181創る名無しに見る名無し:2010/10/11(月) 21:05:56 ID:NTfPp9bD
wiki乙
ごじしゅーせーしました。

>>180
アア・・・そうだったな・・・
いつか終わるんだよな・・・学園性活ってのも・・・
・・・・・・
・・・ウッ
182わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/14(木) 19:00:27 ID:P7VKTvfQ
久しぶりに投下するよ!
コスプレ部の秋月京ちゃんをお借りします。
183魔女の仕立て屋 ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/14(木) 19:01:08 ID:P7VKTvfQ
「わんわんおー!!」
古びたサッシから身を乗り出して、小さな少女が吠えていた。
秋の空気が寒くなったというのに、三階の窓全開で夢中になる後姿はあどけなくも見える。
「久遠、やめてよ」
「だめだめだめ!グラウンドにノラ犬が乱入したから対抗しているのだ!わんわんおぉ!!」
「もう……久遠ったら。学園祭の台本……」
走り回るノラ犬は何処吹く風か、久遠荵の遠吠えに振り向くことなくグラウンドをほしいままにする。
それが許せなかったのかどうかは分からないが、嫌に対抗意識を燃やす久遠は同級生の黒咲あかねを困らせるだけだった。

間もなく学園祭が近づいてくる。彼女ら演劇部としても力の入れようが違う。今回、台本を任されたのは久遠荵と黒咲あかねであった。
大きなイベントということもあり迫ら先輩たちが脚本協力として力添えを行うのだが、主な舵取りは二人に委ねられている。
ここ一番。部室で台本をあーでもない、こーでもないと練っていたところ、窓の外からイヌの鳴き声が飛び込んできて、
筆を取ることに疲れてしまった久遠荵があっさりと、くたびれた心揺り動かされてしまったのだった。
荵の尻尾を振る姿を横目に、あかねもあかねで構成を組み立てる作業から少し遠ざかりたくなっていた。
いくら好きなことでも、たまには気分転換を差し込まなければ続かない。

「久遠、わたしコンビニに買い物行ってきたいんだけど」
「わお?」
「だめ?」
「わおーん!いってらっしゃい」
「うん」と、半ば荵に呆れながらも、あかねは演劇部の部室を後にした。荵を残して。
しばらくすると、グラウンドをあかねが歩いていく姿が窓から見えた。
ノラ犬に吠えられるあかねは長い髪を振り乱して必死に逃げ回る。
「わおー!あかねちゃんを苛めるな!」
長い脚であかねがノラ犬から逃れる。あかねを追い駆けることに飽きたノラ犬は、どこかへと姿をくらませようとしていた。

グラウンドが静けさを取り戻す頃。
ノックの音が。ガラスが響く音が。扉が揺れる音が。荵は「はーい」と答える。
「あの、入っていいかな」
そろりと立て付けの悪い扉を開きながら、中の様子を伺う一人の女子生徒の姿があった。
髪はボブショート、潤んだ黒真珠のような瞳が印象的な子だ。恐る恐る演劇部の部室に足を踏み入れるところからすると、
この少女は演劇部関係の者ではないということを予想することは、それほど難しくはない。ただ、荵とは顔見知りのようであった。こんなに荵の目が輝いているところ、今までに見たことあるだろうか。
そう。「京(みやこ)せんぱーい!ようこそ!」とはしゃぐ荵の歓迎振りから見て、誰もがそう思うだろう。
お辞儀をして部室の床を鳴らすのは、荵やあかねよりひとつ学年が上である高等部二年生。秋月京であった。
184魔女の仕立て屋 ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/14(木) 19:01:50 ID:P7VKTvfQ
両手でしっかりと向日葵柄のデパートの紙袋を携えて、頬を赤らめる姿は初めて恋人の部屋に向かうときに似ていた。
潤んだ瞳は伊達ではない。心なしか瞬きの回数が多いようにも見えるが、京は小さな後輩を心配させぬようににこりと白い歯を見せる。
荵は目線を上にしながら両手に拳を作り、はっはと期待で胸を膨らませる。それもそのはず。
「荵ちゃん、出来たよ」
「やたー!わんわんおー!」
諸手を上げて歓喜溢れる荵の目の前に、京は紙袋の中身を取り出したのだから無理はない。
上質な生地で繕われ、まるで腕の良い仕立て屋が長い月日をかけて育てた衣類がきれいに折りたたまれている。
ぱあ!
黒く、そして清潔感の溢れる一着のドレス。さらに、せっけんのかおりが漂いそうな純白のエプロン。
「徹夜で作っちゃったんだからね。荵ちゃん」
「うん、ありがとうございますっ。わたくし久遠荵は幸せ者でございますう!」
きゅうっと縮こまりそうな勢いで、荵は破顔していた。そして、秋月京がコスプレ部の部長であったことに深く感謝した。

演劇部は公演の際、コスプレ部に衣装協力を依頼していた。
腕利きの仕立て屋がいる。どこでそんな情報を仕入れたのか、未だに分からないが荵たちが入部するまえから互恵関係であることは確かだった。
演劇部がコスプレ部に衣装依頼をする。コスプレ部は街中の洋裁店を駆け回る。そして演劇部の公演を宣伝する。スポンサーも募っちゃう。
演劇部はコスプレ部の衣装を着て舞台を演じる。もちろん、観衆の目に止まるのはコスプレ部の衣装。もちろんポスターには名前が入る。
そして、今期のコスプレ部の部長は秋月京、人呼んで『魔女の仕立て屋』だったのだ。

「それじゃあ、早速着替えよっか?」
「え……。ここでですか」
「うん」
「あの、端っこで……」
「荵ちゃんが着替えていくところを見たいなーってね」
魔女の呪文が少女に唱えられ、恥じらいを覚える。
さっきまでの無駄なぐらいの元気は魔女に吸い取られたのだ。きっとそうだ。荵が大人しいわけがない。
「全部、ですよね」
「うん」
「笑わない……ですよね」
「うん」
外が見える窓のカーテンを開きながら、魔女はもう一度魔法をかけた。

ベストを脱ぐ。真っ白な荵のワイシャツが眩しい。リボンを外す手がぎこちない。そして、一つ一つボタンを外す。
「見ないよ」
京は優しさを見せるお姉さん。荵は小動物のような妹。そんな関係が目に浮かばないか。
スカートのホックを外して、ジッパーを下ろす間際に荵は躊躇した。
「せんぱい。笑わない……ですよね」
京がゆっくりと頷くのを確認すると、荵は背中を向けて、しゃがみこみながらスカートを足首まで下ろす。
その隙間から見えるのは『くまさん』のプリントが入ったぱんつだった。
くすっと口元に手を当てる京に、荵は気付くことはなかった。
185魔女の仕立て屋 ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/14(木) 19:02:32 ID:P7VKTvfQ
「それじゃあ、わたしの最新作に袖を通してもらおうかな!」
意気揚々と京は真新しいドレスを荵に渡して、子どものように着替えるさまをにまにまと眺めていた。
ばたばたと袖が揺れる。片足でふら付く。そして『くまさん』ぱんつ。
「背中のチャックは閉めてあげる」
「京せんぱい」
「なに?」
知らないものが見たら、仲睦まじい姉妹のよう。
「せんぱい。わたし……一人っ子だから、せんぱいみたいなお姉さんが欲しかったんです。ちょっとうれしい」
荵の後ろ髪が京の胸に当たる。そっと後れ毛を掻き揚げて、子どもをあやすように京は荵の髪を撫でる。
指の間を栗色の髪が通り抜ける滑らかな触り心地。荵の体温がほんのちょっとだけ上がる。
「うれしいな」
「どういたしまして。荵ちゃん」
自分が繕ったドレス。荵が袖を通すことで、ちょっとずつ命が吹き込まれられて行く。
京はこの瞬間のために、自分のもてるだけの時間を割いてきたと言っても過言ではない。
その証拠に、京の顔は徹夜明けとは思えないほど、輝きを放っていたのだから。

「荵ちゃん。仕上げだよ」
最後に京が取り出したのは「イヌミミカチューシャ」と「イヌ尻尾」であった。
それぞれを身に着けた荵は姿見で自分を写す。恥じらいは消え、魔女の魔法の虜となる。深夜十二時までは程遠いシンデレラ。
勤労少女の灰被りだって、ドレスを着れば舞踏会へ招かれる。逆を言えば、温室育ちの王子さまだって、ぼろきれを身に纏えば意地悪な継母から、
そしてビクビク生きているだけの姉たちから足蹴にされて、こき使われてしまうってこともあるのだ。召し物の持つ魔法。誰もがかかる魔力。
「やったー!『イヌミミ喫茶』ができるぞー!京せんぱい、ありがとうございます!!」
「それじゃあ、早速注文いいですか?店員さん」
「わんわんおー!お嬢さまーっ」

―――学園祭が近づき、秋の公演で使う衣装の打ち合わせで、荵は迫と同席した。
演劇のことになると他が目に入らない迫のことなので、打ち合わせは何度も何度も繰り返され、妥協を許さないものだった。
この役者は清楚な感じで、この役者には粗野な雰囲気を。などと、舞台に立つ者を引き立てるために、迫は細かく京に注文するも、
側で座っているだけの荵にとって、迫の側にいるだけで幸せな時間以外は退屈さを否定できないものだった。
そして、迫が席を外した瞬間、荵は京にぽろりとこぼす。
「学園祭かあ」
「そうね。舞台、がんばってね。ここの学校の演劇部って、結構評判みたいだからね。楽しんでね!」
「はい。演劇は楽しいです。いろんな役をやって、いろんな衣装を着て。でも、学園祭だから喫茶店ともかやりたいなあ」
京が荵の諦めにも似たセリフを聞き逃すはずがない。
「喫茶店といえば、メイドさんだよね」
「はいっ!『イヌミミ喫茶』をやりたいですっ」
コスプレ部部長・秋月京の心を鷲掴みにした瞬間であった。
186魔女の仕立て屋 ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/14(木) 19:03:13 ID:P7VKTvfQ
―――コーヒーの香りが室内に広がる。
インスタントだけど心地よい。匙を添えたカップを盆に乗せ、尻尾を揺らしながら荵は運んでくる。
くるくるとコーヒーの湯気が立ち上り、飲み頃だと自ら教えてくれた。
「わおー!お待たせいたしました。コーヒーでございますっ」
「ありがとう」
徹夜をしてがんばった。眠くて眠くて日中は仕方がなかった。でも、この一口がほんのりと体の底から効く。
はあ、と息を吐くと頬が紅く染まり、京と荵の間の時計がゆっくりとゆっくりと針の速度を緩める。
針仕事で疲れた指の先が休まると、昨夜の疲れもふっと忘れる。仔犬のように荵がまとわりつくと、
殺風景な部室も秋の花咲く庭園に生まれ変わる。コスモスを眺め、仔犬と戯れながらコーヒーを一杯だなんて、なんとも優雅で贅沢ではないか。

「お口にあいますか」
らんらんと尻尾を振って荵。それに微笑み返しの京。
二人だけの時間が流れてゆく。しかし、荵にとってはあかねもこのお茶会の仲間として、ご招待致したいところであった。
「おそいなあ!あかねちゃん」
「あかねちゃん?ああ。あの背の高い子ね」
以前、舞台の衣装を仕立てたことを思い出した京は、あかねの採寸を計るときに興味を抱いたのを思い出した。
「あかねちゃんは元・読者モデルだからスタイルがいいのだ!でも、それをもっと誇りに思うべきなのだ!」とは、荵の弁である。
噂をすれば影。

「ただいま。久遠っ」
寂しいコンビニの袋をぶら下げて演劇部部室に入ってきたあかねの胸に飛び込んできたのは、尻尾とイヌミミを揺らした荵。
ばさっとビニルの袋の中でお菓子が踊る。あかねの口元に荵の栗色の髪の毛がふわりと被さり、柔らかい。
「おかえりなさいませーっ」
「……あ。この間の舞台では、お世話になりました。秋月先輩」
「わおー」
状況が飲み込めないのであかねは立ち尽くすしかなかった、と言うより荵がその場から動くことを許してくれない。
イヌミミを着けた荵が絡みつくし、部室には京が口元を隠して頬を緩ませているし、あかねは一刻も早くその場から立ち去りたかった。
いや、あかねは荵を必要としていたのだ。女の子どうしの!というわけでもなく。
優しく荵を払いのけたあかねは、すっと自分の携帯電話を取り出して荵の目の前に差し出す。
「あの……久遠。さっきいたグラウンドのイヌって……もしかして、この子じゃない?」

あかねの携帯で撮影されていたものは、ぼやけていながらも先ほどグラウンドを駆け回っていたノラ犬そのものだった。
「コンビニで『迷いイヌ』の張り紙を見て、写メを撮ってきたんだけど」
「その子だ!あかねちゃん!捕まえに行くよ!!」
荵が「行くよ!!」と言い終わるか終わらないぐらいの速さで部室を飛び出す。
イヌがイヌを追い駆けに出かけた。何の不思議なことはないではないか。ふわりとあかねの髪が揺れた。
コーヒーを一口。京はまるで二人の姉になったような言葉遣いで、あかねに言葉をかけた。
「荵ちゃんがね、あかねゃんのこと誉めてたよ」
「え?」
「わおー」
あかねの目には京にイヌミミと尻尾が生えているように見えた。


おしまい。
187わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/14(木) 19:04:00 ID:P7VKTvfQ
タイトルだけはジ○リっぽくなったけど、別物だ!
投下おしまい。
188創る名無しに見る名無し:2010/10/14(木) 20:21:56 ID:Gj4LD0Nl
乙でした

さて、クマさんパンツのあの娘を探しにちょっと学校行ってくるか……
犬耳尻尾で外出とかしてくれるんだろうか?
189創る名無しに見る名無し:2010/10/14(木) 23:30:33 ID:tqw/BkI6
乙でございます。
ちょっとコンビニであかね待ち伏せしてくる。

>188
葱なら……あるいはw
190夏の日差しの夏祭りのその前の ◆G9YgWqpN7Y :2010/10/24(日) 19:25:50 ID:uChb734a
投下します。
相変わらず短いのはお約束です。
191夏の日差しの夏祭りのその前の ◆G9YgWqpN7Y :2010/10/24(日) 19:26:42 ID:uChb734a

空高く雲ひとつないじりじりとした日差しが容赦なく降り注ぐ。
アスファルトからはゆらゆらと歪んだ景色を浮かび上がらせる。
黒のアスファルトに白のラインが整然とひかれ、そのラインに沿うように一人の男、大型台が歩いている。

だが、今の彼の姿を見て、その人物が大型台であると気付く人間などどれくらいいるだろうか。
彼が今着ているいるのは無地で灰色の半袖のシャツ、ぴったりとしたジーンズを履き、
銀色のネックレスが胸元で光っている。
そして、最大の違和感として挙げられる事、それは、台が今、リーゼントにしていないことだった。
本来リーゼントになっていたはずの長めの黒髪を無造作に後ろで括っている。
台の手にはひと束の花束、菊やカーネーション、スターチス等多種の花がひと括りにされ、紙に包まれていた。

ゆっくりと歩く台はやがて石でできた古めかしい階段を上っていく。
その足取りは意外なほど重く、一歩一歩ゆっくりと、踏みしめるようにして進んでいった。

やがて登り切り、赤の鳥居をくぐり、しかし社へとは行かず、少し脇の道に入る。
そこから続く道は正確には神社としては使っていない道。
この神社の神主でもある神柚家が住む家へと続く道だった。

その道は碧が生い茂り、日差しを適度に防いでいる。
緩やかに流れる風が、ほんの少しの間、心地よさを与えている。

目の前に一軒の家が現れる。古臭い玄関から今まさに出ようとしている少女が一人いた。
白と赤の巫女衣装に包まれた少女は目の前に台がいる事を確認すると、軽い驚きを共にトコトコと近づいて行った。

「おはようございます。台先輩」
「ああ」

丁寧に会釈をする鈴絵に対し、台はおざなりに返事をする。
微妙に口が重い。その台の様子を気にしつつ、鈴絵はあえて別の事を聞くとこにした。

「夏祭り、今日ですよね。もしかしもう迎えに来てくれたのですか?」
「分かってるだろう? 俺がそんな事すると思ったか?」
「しませんよねー」

肩を竦めて言う台に対し、鈴絵は台の手に持った花束に少し硬い表情浮かび上がらせ、しかしむりやり笑顔にして答える。
まだ、今日の待ち合わせ時間からはまだ随分早い。
手に持った花束を見つつ、鈴絵は台がここにいる理由に思いを馳せる。

大型台は、この先にある墓地。そこに台は用事があった。



墓参り



言葉にすれば一般的に行われるお盆の行事である。
ただ、台が誰の墓にいくのか、そしてその理由を知る鈴絵としては
自分から話題に出しにくいことでもある。
192夏の日差しの夏祭りのその前の ◆G9YgWqpN7Y :2010/10/24(日) 19:27:47 ID:uChb734a

「……もう10年、か」

しかし、ポツリと漏らす台の言葉を鈴絵は聞きとれてしまった。
それは台がその話題に触れてもいいという合図だと鈴絵は解釈した。

「そうですね。台先輩が始めてこの神社にきてから10年です」

それでも、あえて直接的な言葉にせず、鈴絵は話す。
やや、躊躇があった。彼がその話題を正面からするのは始めてだったから。

10年前に見た光景。台の両親が交通事故でなくなり葬式がここで行われたことが、鈴絵が台を知った切っ掛けだった。
毎年盆の時だけ。それもほんの少しすれ違うだけの存在。
それでも鈴絵が気になっていたのは葬式の後に台と話した事が理由だったのか。
高校に入り、美術部に入り、始めて台が仁科高校にいることを知った。

もっとも始めて高校で出会った時は、墓参りにくる時の姿とは余りにもかけ離れていて記憶と中々一致しなかったが。

昔のことに思いをはせながら、鈴絵はずっと気になっていたことを始めて尋ねる気になった。
だから、少しの躊躇の後、ゆっくりと、はっきり分かる形で口を開く。

「台先輩は、大丈夫……になりましたか」

それでも、その言葉をだすのは鈴絵にとっては勇気がいる言葉だった。
返ってくる言葉は予想している。そしてそれは、予想通りだった。

「ああ、もう大丈夫だ」

台は明確に答えると、再び台は歩き出し鈴絵の脇を通り過ぎる。

「あ」

緊張から解放された安堵感からか、それともべつの要因か。言葉にならず、鈴絵はそのまま言葉を止める。
代わりに台は歩きながら声だけを鈴絵に掛けた。

「約束3時だったな?」
「はい、遅れないで下さいね」
「分かってるさ」

そして、彼はゆっくり、一歩一歩踏みしめるように奥へと続き、墓地に続く道を歩いて行った。



「……さて、私も準備しないとね」


その背を見ながら、鈴絵もまた準備のために家へと戻るため踵を返す。

彼女の足取りは誰が見ても分かるほど軽かった。



終わり。
193 ◆G9YgWqpN7Y :2010/10/24(日) 19:28:44 ID:uChb734a

投下終了
先生……ギャグかコメディが書きたいです……
最近妄想機関がシリアルに偏り過ぎです。次回からコメディに戻ると……いいなぁ
194創る名無しに見る名無し:2010/10/24(日) 20:02:17 ID:6n9GnrZL
乙です!

台に重い過去が?!
そしてリーゼントを解いた彼はきっともてるだろうなぁ
195創る名無しに見る名無し:2010/10/24(日) 22:24:22 ID:7ayqzA1o
投下乙。
俺の脳内部ですごいかっこいい奴の姿が構築されたw
台の過去とは一体……。
196創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 23:02:29 ID:nzrAFiyW
いくら何でも休みすぎだろw
197創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 23:14:00 ID:X7hhp3Bz
みな牽制しあって動けないのさ。
198創る名無しに見る名無し:2010/11/11(木) 01:33:00 ID:5PLkyrfR
俺は、病ケツだ……!
199創る名無しに見る名無し:2010/11/11(木) 19:40:50 ID:tY7zdWLG
最近特に筆が進まないだけ……困った
200創る名無しに見る名無し:2010/11/17(水) 20:47:58 ID:AFY9OBwq
ageて、落とす!
201創る名無しに見る名無し:2010/11/19(金) 02:54:54 ID:59pLH7EV
次の主役の予定の奴の妹の話はあるが本編そっちのけで投下すんのもな……。
まぁ近い内投げるけどw
202創る名無しに見る名無し:2010/11/19(金) 07:32:26 ID:msQWaLdq
やだ……男の人同士でアンナコト……/////
203創る名無しに見る名無し:2010/11/19(金) 13:39:17 ID:59pLH7EV
なんだどうしたw
204仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2010/11/20(土) 19:20:21 ID:LIay+Pgw
さて、小ネタ落とすか。
ホントはずーっと後にやる予定だったけど後悔はしていない。
205仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2010/11/20(土) 19:21:12 ID:LIay+Pgw
 仁科学園とは小中高一貫の学園である。それどころか、幼稚園や大学まで備えている超巨大な教育機関。まさにマンモス校なのだ。
 人口も並ならぬ多さであり、別所に校舎を持つ大学を除き、幼稚園児から高校生まで一つの敷地に溢れている。
 基本的には住み別けはされているが、それらがごった煮になる場所というのも、どうしてもあるのだ。
 代表的な場所は、職員室や特別教室がある中央棟、グラウンド、体育館等。
 そして、このお話の舞台となる、図書館である。



 小咄:【お兄ちゃんと一緒】



「あ」
「あ」
「何してんの?」
「そっちこそ」

 何者か二人。お互い驚いた様子で目を開き、次いで馴れた様子で言葉を交わした。
 一人は少し大柄な金髪の少年。やたらと目立つ頭髪と言動の持ち主。黒鉄懐。仁科随一のおバカ。

 もう一人は、少し小柄な中等部の少女だった。
 金髪、というより明るいイエローに近い、ローライトを混ぜたショートカット。ちょっと跳ねている。
 控えめ、というより中学三年生と考えれば至って普通サイズの胸とちょっと大きなサイズの制服。おそらく今後の成長を見越して買ったのだろうが、それは失敗だったようだ。
 在って無いような制服のレギュレーションぎりぎりの短いスカート。横のボーダー柄の膝の上まで届くソックス。本人はちょっと脚が太いのを気にしているようだが、だがそれがいい。
 まだ幼い中学生らしい顔立ちのかわいらしい少女である。
 彼女の名前は黒鉄亜子。なんとあの懐の妹。

 家に帰れば毎日顔を合わせるが、このだだっ広い仁科の敷地で遭遇する事など滅多に無い。
 図書館の入口の前で、二人は偶然にもばったり出会ったのだ。
 無意味なんか恥ずかしい。

「お前何してんの?」
「いや、図書館だよ? 本借りにきたに決まってるじゃん」

 懐の妹、亜子は読書家なのだ。
 自然科学本がお気に入りで、学校故かその類の本が充実している図書館はお気に入りの場所でもある。
 懐が同じ建物内部のホールでぼけーっとしている間、亜子は文字を読み耽っている事が多い。知らぬ間に何度もニアミスしていたが、ちゃんと遭遇したのはこの日が初めて。
206仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2010/11/20(土) 19:22:34 ID:LIay+Pgw
 兄貴がやたらと目立つタイプだが、亜子は逆で目立つ方ではない。むしろ大人しいタイプである。
 いつも靴を脱いで、図書館の椅子に起用に体育座りで無言で読書に勤しむのが趣味である。
 その姿勢だとパンツが見えるだろと思った者にはそれで正解だと言っておこう。本人はなんと気付いていない。
 とにかく大人しい、静かでかわいらしい少女。なのだが、あの懐の妹である。黒鉄一族が普通な訳が無い。亜子の真実はやはりただ者では無いのだ。

「お前、制服買い替えたら?」

 懐が亜子の制服を見て言う。意図的にオーバーサイズの制服を着用する某デバガメ少女と異なり、亜子のそれは成長を見越して買った物。
 残念ながらその思惑は見事に失敗に終わっている。なんと成長期ど真ん中のはずが、買った時から体格あんまり変化せず。
 本人は希望的観測の元に大きめサイズを選んだが、おかげで毎日微妙にデカイ制服のまま。兄貴がみるみるデカくなったので自分も続くだろうと思ったのだ。

「いつまで着てんだよ。アイツと被るぞ。即座に辞めたほうがいい」
「アイツって誰よ。それにまだまだ大きくなる、きっと……」
「諦めろって。見事に平均のちょい下じゃねーか。その制服は似合わないって」
「何よ……。自分がちょっとデカいからって……。私だってまだ大きくなる。絶対! 一年か二年後にはきっとグラマーに……」
「無理だってば。頑張っても普通が精一杯だよお前は」
「酷い」
「現実を見るんだ亜子。お前は普通。現在普通以下。それよりベストサイズを買いなさい。
 来年にゃ高等部に上がるけど、そん時はちゃんと体格に見合ったサイズにしなさい。お兄ちゃんからのアドバイス」
「いやよ。高等部用にはもう一つ大きいの買うんだから」
「足掻くなよ。無理だって。ムリムリムリムリ」

 兄貴は決して馬鹿にしている訳ではない。むしろ真面目に言っているつもりなのだ。デリカシーががっぽり欠如しているだけで。
 亜子は兄貴と性格が逆。デリケートな方。傷つきやすい女の子。
207仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2010/11/20(土) 19:25:07 ID:LIay+Pgw

「なんでお兄ちゃん大きいのに私だけ普通以下なのよ。卑怯よ……」
「いや、俺だってそんな飛び抜けてデカいほうじゃ……。二メートル級ごろごろ居るし。
 お前は考えようによっちゃ普通の範囲内なんだし、別にいいじゃん」
「良くないじゃん。おっきいほうが色々いいじゃん」
「そうでもない。早く悟れ。身長も普通。おっぱいも普通。脚ちょっと太い。それでいいだろ」
「脚は関係ないじゃん!」

 炸裂音。突然それは鳴り響く。
 説明しよう。亜子が懐に蹴りをくれた音である。

「気にしてるって知ってるクセに! なんでそんな事言うの!? 酷いよお兄ちゃん!」

 ジャンプ。空中で後ろ回り。高く飛びすぎた為か懐の頭上まで亜子の脚は上がる。
 遥か天空から、虎踵(踵落としの事だよ☆)が降って来る。

「バカーッ!」

 懐の顎が打ち抜かれ、言葉を発する事すら許さずノックダウン。
 どさりと糸が切れた操り人形のように、懐は腰砕けで倒れて行く。当然、これだけ大声で叫び、大技を繰り出して少女が男をKOすれば、周りの注意を引く物だ。

「ふえぇん! お兄ちゃんがイジメる〜!」

 亜子はぺたんと床に座り、泣いて言った。が、いじめてるのは一体どっちだと言わんばかりの光景。

 黒鉄亜子。懐の妹。中三。
 空手一級。つまり茶帯。ところが実態は、その強さに昇段試験のほうがが追い付いていないだけ。
 初めて出た大会で、対戦相手を次々とボコボコにして優勝して以来、彼女は負け知らずの拳豪と一部で恐れられている。兄貴など物の数では無いのだ。
 あまり目立つほうでは無いので関係者と武道系の部活以外にはあまり知られていないが、誰が呼んだか「仁科の虎」
 決してタ○ガーフットの持ち主とかそういう事では無い。
 しかして、その虎の蹴りを喰らった懐はというと。

「おい大丈夫か!?」
「先生助けて! 懐先輩が息をしてないのっ!」
「ダメだ、誰か……! 誰かあやめ先生を呼べー!」
208仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2010/11/20(土) 19:27:06 ID:LIay+Pgw
タイガー4


 数分後、駆け付けた救護要員のあやめ先生(三十二才。美人。でもオカマ)によって、懐の状態がその場で診察される。
 脳震盪による失神。呼吸困難。至急病院へと告げられる。

「トラックにでも轢かれたのかしら……」

 あやめはそう言って救急車の懐に付き添って行った。
 残った亜子はそれを見ていたが、馴れた物で心配はしていない。あの程度であの兄貴が死ぬはずは無いと確信していたし、手加減だってしたのだ。
 逆に言えば殺ろうと思えば殺れたは秘密である。

「お兄ちゃん……。まぁいいか」

 泣きっ面を拭って、その場を立ち去る亜子。
 家に帰ればきっと普通にごろごろしている兄貴が居るはずだと思っていた。残念ながら三日の入院だったが。
 小柄な体格の「仁科の虎」は、仁科の中に静かに潜んで居る。


「取り合えず、キャラ被りはイヤだから制服は買い替えるよ。お兄ちゃん……」



【反省はしている。終】
209仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2010/11/20(土) 19:28:34 ID:LIay+Pgw
投下終了。

あやめ先生ちらっとお借りしました。
210創る名無しに見る名無し:2010/11/20(土) 20:17:59 ID:LIay+Pgw
キャラ説明忘れるとかもうね……。


黒鉄亜子。中等部三年。

あの懐の妹である。兄と違って性格は割と大人しい。すぐ泣く。目立たない。
髪だけは兄貴譲りかけっこう派手で短め。ちょっと跳ねてる。
空手を初めて数ヶ月で少年部女子の大会でオール一本で優勝。現在の実力は計り知れないが、試験が間に合わない程である。
少し小柄の少女だが一部で仁科の虎と恐れられる。本人は知らない。
懐との兄妹喧嘩では全戦全勝。懐のタフさはこの娘に鍛えられたと思われる。
211創る名無しに見る名無し:2010/11/20(土) 21:14:15 ID:fJwdk3Ar
投下乙ー!

しょっぱなから飛ばしてるなw 目立たないのに強いだと・・
でも懐の妹だなと妙な納得の仕方をしてしまったw
キャラ被りはあれか。恥ずかしいヘルメットをしてる人ですね。わかります
212創る名無しに見る名無し:2010/11/21(日) 16:37:10 ID:Ze01N5Ml
懐の兄貴とさらに下の弟ネタも実はある。
全員ネコ科のイメージw

というか本編自体さりげなく全員動物のイメージだからなw
213創る名無しに見る名無し:2010/11/21(日) 17:06:11 ID:2nyeodhl
わったしターイガー!
ケンカも強くて! 丈夫ーですー
わたしタイガー!

……わかっているな? リア充には可愛い妹。
うまくすれば相手の特防を、下げられるかもしれない。
214創る名無しに見る名無し:2010/11/21(日) 17:21:18 ID:Ze01N5Ml
懐「かわいくねぇーよ! いつもフルボッk………げふん!(三角飛び)」


なんかコイツ殴られてばっかな気がしてきた。
で、久々に落書きしようとしたら愛用のシャーペンを会社に忘れてきてた。紙も無いw
215創る名無しに見る名無し:2010/11/21(日) 23:12:07 ID:eMmsjhB4
ゆえに無駄に頑丈。きっと妹の暴力に耐えるために体を鍛えてる
216創る名無しに見る名無し:2010/11/21(日) 23:29:46 ID:Ze01N5Ml
その発想はあった
217仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/11/24(水) 02:34:08 ID:WZirzqWr
さて、短いけど投下しておく。
218仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/11/24(水) 02:35:35 ID:WZirzqWr

 窓の外から夕日が差し込み、廊下を赤く染めて行く。
 グラウンドで運動部が走っているのが見えた。野球部だろうか。真っ白なはずのユニフォームは、土でこれでもかと汚れていた。
 それを眺め、缶コーヒーをずずっと一口。
 懐は、開けた窓に両肘を付いて外を眺めていた。

「決心ついたか?」

 空知亮太が言った。
 廊下の真ん中で懐と二人、静かに立っていた。

「まぁ……。やるならやってもいいけどさ」
「はっきりしろよ」

 二人は何故、廊下の真ん中に居たのか。
 亮太は懐に、一体何を言ったのか。彼が懐に迫った決心とは、一体何か。
 全ては、ほんの一時間程前。演劇部の部室で起こった。




 第十話:「お前が代わりに」




 爆発。それが轟いた。
 懐に要求されたたった一回のロングトーン。静かな始まりで動き出したそれは、唐突にエネルギーを撒き散らした。
 天を仰ぎ、目を見開いて。
 一瞬にして低音域から高音のオペラ歌唱へと移行し、懐が最初に行ったのは「天空を貫く事」
 天井を突き抜け、遥か彼方の空にまで、突き抜けるように声を弾き出す。
 これはイメージだ。だが懐は比喩では無く本当に、自身の声で空に大穴を開けるつもりで行った。それほどのエネルギーを注いでいたのだ。
 その場に居た迫達は驚いたろう。
 発声ならば演劇部である彼らも日々修練はしている。だが、根本的な何か。今それを見せ付けられて居るのだ。
 努力ではどうにもならない壁。声を出す能力の根源的な差。

 ほんの数秒ではあったが、それは長く続いたように感じた。
 ビブラートが空気をビリビリ揺らし、聴く者の鼓膜を破かんばかりに揺さぶる。
 そして、遂に迫達の知らない領域に達する。
 声はさらに高まる。声帯が限界まで絞られる。それでも吐き出す息の量は変わらない。
 高音の限界まで高まった懐のロングトーンは、ヘヴィメタルの「金属的なまでに拡張」された音域へと突入したのだ。
 高音でのスクリームは耳慣れない者にはただのノイズに聞こえるという。だが、それで正解なのだ。
 ノイズに聞こえる程、限界まで攻めなければならない。それをコントロール出来なければならない。
 意図的にノイズをたたき出す。懐にはそれが可能だった。
219仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/11/24(水) 02:36:39 ID:WZirzqWr

 天を仰いだままだった懐は、腹の中の息を全て吐き出すべくうずくまるように身体を丸めた。
 金切り声のような声は、一転して最低音へ変化する。獣が唸るような、地面が震えているかのようなグロウルだ。

 見学していた者の一人、空知亮太は震えた。
 彼は今までも、数多くのシンガーを見てきた。もちろん、上手い奴から下手な奴までたくさん知っていた。
 しかし、今目の前で唸る少年のようなタイプと出会った事は無かったのだ。
 懐の歌が上手いかはまだ分からない。そこは別の技術なのだ。
 それとは別の、ロック、ひいてはメタルという音楽で歌うに必要な、もっとも重要な要素を懐は持っていた。

 声量。音域。それに耐える頑強な喉。そして、限界まで攻める気概。

 グロウルは終わりに近づく。
 最後まで身体の中の空気が空っぽになるまで声を出そうとする懐。眉間に皺を寄せ、身体を震わせ、唸り上げる姿。
 長い金髪がざわめいているように見えた。
 怒りすら感じる程の表情になりながら、唸る懐の姿は、猛々しく吠える一頭のライオンのように――。

 懐が持っていた能力。それは、圧倒的なまでの叫ぶ才能なのだ。




※ ※ ※




「で、どうするんだ」
「急かすなよぉ」

 そして今に至る。
 演劇部の部室でのほんの数分の出来事ではあった。葱やととろは懐が叫び終えるとしばしきょとんとしていた。
 その後はどうなったかは懐には解らない。迫によって解放された懐は、そそくさと逃げるように退室した。すぐに帰ろうと思っていた所、追い掛けて来た亮太に呼び止められ、缶コーヒー一本と引き換えに話に付き合っていた。

「はっきり言ってくれ。イヤならイヤでいいんだ」
「だから急かすなっての。だいたい俺、お前さんの事何にも知らないんだし」「これから解って行けばいいさ」
「強引だな。俺より強引」
「逃がしたくないからね」
「だとしてもよ? いきなり『俺のバンドに入れ』ってどうよ?」

 亮太は窓に背を向けた。両腕を組み、下を向いたままだった。その飛び抜けた長身故か、動作の一つ一つが嫌に目立つ。
 懐は少しイラっとした。
220仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/11/24(水) 02:38:15 ID:WZirzqWr

「さっきも言ったけど、逃がしたくないんだよ。バンドなんて人材の取り合い奪い合いだしね。それに最近、そっちも解散して宙ぶらりんなんだろ? ちょうどいいじゃないか」
「よくねーよ。それに解散じゃねー。メンバーをクビにしただけだ。まだ俺とベースは残ってる」
「なら二人ともこっちにくればいいさ」
「んな事言うけどよ。そっちは何人だよ?」
「一人」
「ダメじゃん」

 亮太は苦笑い。勧誘の口説き文句の第一声が「俺のバンドに入れ」だったが、これではおかしい。
 正確には亮太が懐のバンドへ加入するのが妥当だ。

「そういう事だ。お前が加入するって事で」
「はいはい。それでいい」
「決定じゃねーぞ」
「解ってるさ」

 缶コーヒーは空っぽになった。それを持った手を窓から外に出し、ブラブラ遊ばせてため息一つ。
 夕日が目に映る。目を細めて懐はそれを見た。

「で、具体的に何考えてんだお宅は?」
「バンドをやる。それだけだ」
「メタル?」
「もちろん。ロックナンバーだってやってやるさ」
「頼もしい事で。で、なんで俺?」
「希少価値だから。あとは解るだろ?」
「はぁ……」

 ため息もう一つ。
 空っぽのはずの缶コーヒーを啜る。香りだけはまだ残っている。
 懐にとってもメンバー候補の出現はありがたい事ではあるのだが、どうにもこの空知亮太という男は今まで出会った人物とは違い、少し戸惑っていた。
 いつもは自分のペースで事をガンガン進めるタイプであると自覚はしていた。今もそのつもりであったが、気がつけば向こうにイニシアチブを取られているような気がしていた。

「他のメンバーの心当たりは?」
「無い。俺とトオルと、あとは空席」
「俺はギターだ」
「じゃ、あとはギターもう一人とドラムか……。って、メンバー? もうメンバーですか?」
「その前の奴らはどうだったんだ?」
「あ? ああ、変態と暴力的な奴。腕はいい」
「濃い連中だな。空中分解やむなしか?」
「そんな所だ。てかどうすんの? 何するの?」
「腕はいいんだろ? 他に心当たり無いなら呼び戻そう」
221仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/11/24(水) 02:40:12 ID:WZirzqWr

「呼び戻す? ムリムリ!」
「解らないさ。一回集まったんだから、ムリって事は無い」
「んな事いいますがねアンタ。こっちが気まずいのですよ」
「なら尚更。仲直りするチャンスかもしれんぞ?」
「簡単に言うなよ……」
「簡単さ。俺に任せろ」

 亮太はニヤリと笑う。
 懐の性格は何と無く理解した。前にトオルの姿も確認したし、情報は集まっている。件の元メンバーも、この二人に負けない程、キャラクターの濃い連中であろう事も予想はついた。
 そして、懐達のバンドの欠点も瞬時に見抜いた。

「まずバンドとして機能していない。お互い好き勝手やっても無意味だろ? そしてそんな濃い連中をまとめる奴も居なかった」
「う……」

 グサリ

「残念ながらお前にゃ無理だな。ベースのトオル君もそんなガラじゃ無い事は想像つく」
「う……。う」

 グサリ

「お前はバカだし、他も似たようなモンだ。バラけて当然のバンドだよ」

 グサグサ

「な……。なんだよ好き勝手いいやがって! 俺も頑張って……」
「だからお前には無理だ。ガラじゃ無い」
「じゃどうしろって……」
「バンドは俺がまとめてやる。お前はバカのままでいい。いや、お前はそうじゃなきゃいけない」

 亮太は言う。
 そして懐と同様、それは亮太のみが持つ希少な能力。

「リーダー不在なら行き先も解らないだろ? 現実的な事は全部俺がやる。お前はバカのままで、好き勝手やればいい。制限する必要はない。
 バンドの面倒は俺が見る。お前は代わりに夢を見ればいい」

 亮太の持つ能力は、懐達にもっとも足りない物。リーダーの資質。

「言うねアンタは」
「どうも」
「で、本当に呼び戻すつもりなの……?」
「当然だ。明日から作成会議だ」
「ムリだと思うけどなぁ〜」
「まぁ見てろよ」
「最後に聞いていいか?」
「何だ?」
「もうさりげなくメンバー入っちゃった的な流れなんだけど……?」
「……。ニヤッ」

 亮太はちょっぴり腹黒いかも知れない。


続く。
222仁科学ライオン ◆wHsYL8cZCc :2010/11/24(水) 02:41:16 ID:WZirzqWr
終わり。
変態と暴力男の出番がようやくやってきそうだ。
223創る名無しに見る名無し:2010/11/24(水) 22:33:12 ID:d3qHjdGy
投下乙!
ついにメンバー再結集か!? なるほどまとめる奴がいなかったんだなー
そりゃ上手くいかないわけだ。懐のシャウトが本番で唸る機会ができるといいな
224創る名無しに見る名無し:2010/12/01(水) 21:31:39 ID:6Ze7Y/pc
このスレをあげると何かが起こる。その可能性に賭けてみよう。
225創る名無しに見る名無し:2010/12/02(木) 21:03:02 ID:92zyxuqK
それはしかし、コイキングのはねるみたいなもんだ。

>>222
投下乙。

懐の躰に染みついたメタルの響きに惹かれて、危険な奴らが集まってくる……!
仁科学園食堂で飲むコーヒーは、苦い。そしてMU☆SE☆RU。
音というか歌というか、そういうのを表現するのって大変だったろうなーと思った。
226創る名無しに見る名無し:2010/12/05(日) 14:28:55 ID:p76KUoP8
久しぶりにWiki更新。相変わらず遅れてすまん。
あ、念のため黒鉄亜子の読み教えて下さい。(普通に あこ でいいのかな?)
227創る名無しに見る名無し:2010/12/05(日) 16:46:41 ID:DHSQ6i4L
まんまでおkです。
228創る名無しに見る名無し:2010/12/05(日) 17:11:34 ID:p76KUoP8
了解しましたー
229創る名無しに見る名無し:2010/12/05(日) 18:29:06 ID:DHSQ6i4L
まとめお疲れ様アルね。
230坊主頭の新日常 ◆G9YgWqpN7Y :2010/12/12(日) 02:08:05 ID:xB6XCo7K
投下します。いつもの如く安心の短さ。
231坊主頭の新日常 ◆G9YgWqpN7Y :2010/12/12(日) 02:09:22 ID:xB6XCo7K

「ありがとうございましたー」

DVDショップの扉がウィーンと開き、中から一人の坊主頭が現れた。
ホクホク顔で歩く姿ははっきり言ってキモ過ぎる。
もちろん本人、つまりは小型省はまったくその事に気づいていない。
買った袋を握り締め、早足で歩いている。
その中身はもちろん男の宝物。

3馬鹿それぞれ金出して、まとめて省が買っているのだ。
保存場所も省の家であり、他の二人は時々省の家で観賞してたりする。

どうして台と那賀は自分の家で保存しないのか。その答えもまた簡単だった。

台の場合は妹である大型魅紗にみつかり机の上に整理されて載せられたのみならず、
一番上に濃厚BL本を載せられたのがトラウマになったそうだ。

那賀場合は優陸地奈にみつかって一週間位不機嫌全開で機嫌とるため散財してしまったと嘆いていた。
くそぅ。リア充め、爆発しろと省も思うが、
それで3人分のお宝を1人で見れるのだからまあいいかと納得もしていた。

余談だが、今回の収穫品、台は『金髪巨乳でGO』、那賀は『幼馴染と秋と再開』、省は『お姉ちゃんといっしょ』
とそれぞれの何かが溢れたチョイスだったりするが、これはまた本当にただの余談である。

「シングルベ〜ル、シングルベ〜ル、鈴が鳴るっすかね?」

秋から冬に代わり、そろそろクリスマスも見えてきた。独り身にはなおさら堪える時期である。
しょうがないかと諦めてもいるが、とりあえずは手にあるお宝を観賞することが先決だ。

「……む、殺気っす!」

つらつらと考え事をしていたら、ふと感じた謎の悪寒。
省はダンッと足を叩きつけるように打ちおろし、その身を半歩右に逸らす。
一拍の間を置き、省がいた空間を通り過ぎる影がある。
その影の襟首を引っ掴み、あっさり捕えた。その影の正体を確かめつつ省は深いため息を吐く。

「またお前っすかよ……」
「何よ。なんで避けるよー」
「避けなきゃ死ぬぞ、このチンチクリン」
「チンチクリン言うな!」

そこには普段は大人しい少女、黒鉄亜子がぶら下げられていた。もっとも今は怒れる虎の如しだが。
いともたやすく黒鉄亜子の攻撃を避けているように見せているが、実は冷や汗だらだらの省である。
とはいえ、ここは年上としての威厳を保つ必要があると精一杯の虚勢を張っていたりする。
省はそのまま息を整えると、ぽいっと手放し、亜子を解放する。
232坊主頭の新日常 ◆G9YgWqpN7Y :2010/12/12(日) 02:10:28 ID:xB6XCo7K

「うー、また負けたー」
「……」

その亜子はと言うと、地面にのの字を書いている。どうやらいじけたようだった。
省の方は別に優しくする義理も義務もないのでほっておく。
それよりも今は袋の中身の方が大切だ。
しばらく放置していると、亜子はちらりと省を見た。

「……そこで露骨に無視するの? 省君がイジメルー」
「どう見ても始めに手を出したのはお前っす」
「でも始めにパンツ見たのは省君です」
「チンチクリンの見ても何も思わんっす。そもそも俺は年上趣味なんす」

主にウェルチさんとかアリスさんとか。あ、あやめ先生が本当に女性だったらどストライクなのに……世間って厳しい。
とか同時に思うが、口に出して亜子に言うのも意味がないので心にしまう。

どうでもいいが、パンツ見たといってもアリスさんの正面で読んでたこいつに
とりあえずパンツ丸見えっすと注意したのがきっかけである。
そのせいでパンツ覗き魔と誤解され、以降事あるごとに粘着されている気がする。
この命の危険の到来に、今では無視しときゃよかったと後悔してる。
ついでにアリスさんまで誤解されたので、本当に無視しときゃよかったと後悔している省である。

「まあ、チンチクリンの今日のパンツが縞パンでも俺にはどうでもいいっす」
「なあ!? 見たね! 見たのね!?」
「あんだけ脚を振り上げれば嫌でも目に入るっす。お前はもう少し人目を気にするべきっす」
「あwせdrftgyてゅじこlp;」

言葉がでない状態までになっている亜子に、省は諦めの視線を向けると踵を返す。
心底さっさと帰ってお宝観賞したいと思う。

「……省君の馬鹿ー!!」

叫びながらのノーモーションからの真空跳び膝蹴りを、省はぎりぎりで回避する。亜子はそのまま走りさった。
なんか泣いてた気もするが、年下相手に優しくする義理はない。
そのまま嵐のように去って行った亜子の事はあっさり脳内から消去して、省は再び歩き出した。

いつまでも省に彼女ができないのは、その性格が大問題なのだろう。

「あー彼女欲しいっすねえ」

そんなことにも気付かないまま、省は家に帰るのだった。



終わり
233坊主頭の新日常 ◆G9YgWqpN7Y :2010/12/12(日) 02:11:10 ID:xB6XCo7K

投下終わり。亜子ちゃんに萌えたのでお借りしました。
もし性格が違ったらごめんなさい。
234 ◆wHsYL8cZCc :2010/12/12(日) 02:52:16 ID:TzX+TzKd
イィィィイイイイイヤッホォォォオォオオオウ!
こまけぇこたぁいいんだよ!
いつか省とはぶつかるとは思っていたが他所から来るとは思わなかったw

それより三馬鹿の趣味に噴いたw わかりやす過ぎるw
235創る名無しに見る名無し:2010/12/13(月) 21:32:08 ID:eLv1RQ1Q
上がってー!
落ちる!
236 ◆G9YgWqpN7Y :2011/01/01(土) 19:19:26 ID:OBImWc//
あけおめ!
今年一年よろしくお願いします。
まずは自分の遅筆がどうにかなりますように……
237わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/08(土) 10:21:57 ID:XlOk4aRv
投下します。
238灰被り ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/08(土) 10:22:39 ID:XlOk4aRv
「おお!この娘こそ、ガラスの靴の持ち主だ!」
町の広場で声が響く。人だかりが波を起す。その中心に一人の少女。
みすぼらしい服を身に纏い、足元には不釣合いな美しい靴。まるで、ゴミくずから這い出したようなすすけたスカート。
まるで、這いつくばって階段を雑巾で拭いていたような髪の毛。美しい町とは正反対。そして、少女は困惑していた。
光を浴びたガラスの靴が、彼女の脚にはまっていた。まるで彼女の為に作ったような感触。
灰被りの娘の足元は、光り輝いていた。役人が少女に近づく。

「さあ、あなたこそが我らの王子の嫁君になるべきお方ですぞ!さあ!祝いの支度だ!」
彼女を囲んだ一同が歓声を上げるも、少女の顔は曇る。突き抜ける快晴の中の雨雲のように。
その雨雲の隙間から、一筋の光が零れるように少女は告白する。
「……わたし、ほかに好きな人がいるんです」
一瞬の静けさ。
長いようで短い。
少女の言葉を鼓膜に焼き付けて、その後沸き起こるどよめき。
怒涛の歓声を掻き分けるように、少女は続ける。

「わたしのために、わたしの幸せを本当に望んでいる人。そう、それは」
スポットライトが二つ。ひとつは少女に。そして、もうひとつは朴訥とした特徴の無い少年。
静まり返るステージで、刻む時の流れはゆっくりと過ぎ去る。ざわざわ……。
客席からの声は静粛を掻き毟る。
灰被りの少女が静かに手を握り締め、ゆっくりとライトを当てられた少年の方に振り向いた。
「あなたが好きです」

暗転。のちに、拍手。

    #

「あーちゃん、すごかったね!」
あーちゃんと呼ばれた子は、となりの友人の掛け声さえ聞き逃すぐらいに興奮していた。
みどりの黒髪が冬風にのって、白い頬は未だ赤らんでいる。
初めて舞台を見た。高校生の素人芝居なのに、ぐいぐいと観客を引きずり込む魅力は、誰でも知っている名優と同じぐらいのものであった。
高校生の素人台本なのに、生きていくうちの何もかもを知ったような、リアルでかつそれを損なわせないぐらい劇的なものだった。
仁科学園で開かれた演劇部定期発表会。学内はもとより、学外からも観客が来ることも珍しくない。
あーちゃんは仁科学園中等部に通っているにもかかわらず、友人から誘われるまでこの舞台を見に行こうとは思っていなかった。
友達の誘いに負けて、そして観劇後……。
「わたしもあんなお芝居やりたい!」と口を開いたのはあーちゃんだった。
「わたし、高等部に進んだら演劇部に入る!」と、まで言い出す始末。
ここまで自分の意思を見せる姿を友人は見たことがなかった。しっかりと握り締められたパンフレットで彼女の決意が伺える。
239灰被り ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/08(土) 10:23:20 ID:XlOk4aRv
あーちゃんは、初等部のころからファッション雑誌の読者モデルを続けている。
毎月毎月きれいな服を着て、新しい小物も携えて、華やかな紙面を飾っている。
それも、これも、まわりの誰かが『黒咲あかね』を『あーちゃん』にしたかったから。
みんな大好き『あーちゃん』を理想の姿に染めたくて育て上げた。
「あーちゃんだったら、きっと人気者になれるよ」
誰もが自分を許してくれた。自分の意思とは裏腹に。

ねえ。『あーちゃん』って、誰?知りませんよ。
知らん振りをしたくても、世間さまが許してくれはいたさない。
『すごいよ!あーちゃん!』
だって、さ。
みんなが作った『あーちゃん』なんて、知らないから。

    #

「迫先輩!」
あかねの声が、演劇部部室にこだまする。
長い自慢のみどりの黒髪、モデル顔負けのプロモーション。そして、膝小僧透けて見える黒タイツ。
黒咲あかねは、年季の入った木製の机を両手で叩いて立ち上げる。冷たそうで、温かい瞳は彼女の演劇愛を感じさせた。

「わたし、シンデレラの脚本を書きたいです!」
「何故」
「だって、だって。女の子の憧れですから」
「男子は無視か」
「でも。わたし!見たんです!昔、仁科の学祭でですね、『シンデレラ』やってたの。わたし憧れて、やってみたくて」
「遠賀先輩がシンデレラをやったやつだろ」
迫は缶コーヒーで手を温めて、あかねの質問にぶっきらぼうに答えた。
初めて見た演劇、そのシンデレラを演じたのは遠賀希見。あかねがそのときに持って帰ったパンフレットにはそのように書かれていた。
「えっと、他の演者は王子役に川嶋先輩……OBの方ですね。そして、見習い靴職人に迫先輩」
「やめろっ」

迫の『見習い靴職人』への異常な反応は、あかねの胸を痛める。あかねがこんなに自己主張することは珍しい。迫もどうしていいのか分からない。
言葉を強めては、それを恥らって頬を赤める。後悔しなければいいのに、それでも『シンデレラ』の魅力を語り出す。
食い下がることを知らないあかねに根負けしたのか、迫は『シンデレラ』の台本を探すことにした。
迫の後姿にあかねはドキリとすこし胸を鳴らす。
240灰被り ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/08(土) 10:24:01 ID:XlOk4aRv
「遠賀先輩が脚本を書いたんだけどな。たしかここに」
スチールのロッカーを開くと、仁科学園演劇部の積み重ねといえる資料が顔を見せる。
質の悪い藁半紙にガリ版で刷られたものから、PCを使って製作されたものまで部の歴史を一目で振り返ることが、ロッカーだけで出来る。
その中から迫はあかねが話していたときの『シンデレラ』の台本を探すふりをしていた。

「うーん」
「どうしました」
「無いな」
「でしょうね。さっき、久遠が持っていきました」
肩を落とす迫の姿はコミカルでいて、あかねの手のひらで転がされる姿は貴重なものであるだろう。しかし、問題は久遠だ。
目を輝かせながら、小さい体を飛び跳ねさせながら、あかねと同級の久遠荵が台本を両手に持っている姿が迫にはすぐに浮かんだ。
迫が頭を抱えているうちに、その想像は具現化する。こんなアフターサービス要りません、と迫を悩ませる後輩が一人。

「迫せんぱーい!この台本、すんごく面白いですねー!わたしもこんな台本が書けるようになりたいっ。わー!あかねちゃん!」
「久遠っ」
「見て見て見て!すごい!すごいよ!基本を守りながら、それでも古さを感じさせないのは、遠賀先輩の腕だからだよねっ。
物書きの神さまは選ばれし者を分かって才能を与えているって感じだ。わんわんおー!紙よ、わたしに降りてこいー!」

仔犬のように飛び出してきた久遠荵は、尻尾を丸めながらあかねの懐に飛び込んだ。
頭をぐりぐりとあかねに擦り付けると、両手でしっかりと『シンデレラ』と表紙に書かれた薄い冊子を自慢げに見せ付ける。
「あかねちゃんにどうしても見せたい台本だよ!これこれこれこれ!すんごい勉強になるって!」
「うん、わたしも見てみたい」
「でしょでしょ!!よーし、特別にあかねちゃんに見せて進ぜよう。やったね!わんわんっ」
迫は言葉にこそしないが「まったく……」と、聞こえぬように舌打ちだけはしておいた。

あかねがページを捲るに連れて、シンデレラの世界へと浸ってゆく。
いじわるな継母に姉、魔法の時間、かぼちゃの馬車、ガラスの靴、そして舞踏会。夜に浮かぶ宮殿は夢のよう。
そして、残酷にも時は12時、慌てて階段を降りて、ガラスの靴を残して消えるシンデレラ。ガラスの靴の持ち主は誰。
女の子の憧れが短い時間に詰まって、伝わって、そして、憧れて。

「あれ。ない」
ぴょんぴょんとあかねの側で飛び跳ねる荵も、台本を覗き見して声を上げていた。
忍のスカートからは見えないイヌの尻尾が見えているような気がする。その尻尾がふらふらと。
しかし、それに気付かないのか迫は、冷たい風のような一言を添える。
「だろ」
そうだ。
迫の言う通り。あかねもこういう一言で返すしかない。
「この先のセリフがない」
241灰被り ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/08(土) 10:24:42 ID:XlOk4aRv
    #

「そうですけど、何か」
「どうしたらいいんですか。わたしたち」
「はい。ここからは、エチュードです。皆さんの実力を信じてアドリブ勝負!正しい終幕はありません!」
遠賀希見の勝負に臨んだ声が部室を揺らす。彼女の意見をじっと、ときの部長が耳を傾けていた。
台本にないということは、舞台に臨んだ者の心身次第。
舞台とは言え、人を憎めば、そのまま憎む。
舞台とは言え、人を蔑めば、そのまま蔑む。
そして、人を好きになれば、そのまま好きになる。

「わたしがもしかして、王子のプロポーズを断るのかもしれません。もしかして、皆さんが知っている大団円になるのかもしれません」
台本が配られた日から、舞台本番までの間にラストシーンが決まる。そして、誰にも分からない。脚本を書いた本人でさえ。
自分が死ぬなら舞台の上で、と言い出しそうな遠賀は『演劇』を生ものだと語って止まない。
しかし、みんなが付いて行ってくれるのか。
「怖いなあ、この台本」
「はいはい!リアルな空気を取り入れることで、わたしたち演者はよりリアルな演技に集中できるのです。
そして、このことは見ているお客さんにまったく教えません。そう、わたしたちとお客さんとの勝負なんです!演者だけでなく、裏方も同じ!」

新たなものには必ず障害がある。遠賀の意見を穿り返す者がいる。同級の女子が一言とげを刺す。
「それって、前衛ですよね」
「なによ、それ。漢字なんか使っちゃって」
「わたしたち、基礎から始めたばかりな演劇をやっているんですよね。だから、実験的なことってやるべきではないと思うんですが、ね」
その意見は間違いない。でも、誰かがやってみなくてはわからないこと。
「わ、わたしが、責任を取る!」
「どうやって」
大海原よりも深い沈黙。遠賀の声が海よりも冷たい。
黙っていた後輩たちも、さすがに遠賀を心配する。それでも部長は海の底に沈んだように静かだ。

「やたらに『責任』とか、言わないで下さいよ。どうする気ですか、失敗したら」
考えなしで遠賀が言い出したことはではないと、みなが承知。
「やりたいうちにやって、大やけどするならする!恨みっこなし」
「いやですよ、やけど」
部員たちは遠賀の実力は認めている。だからこそ、遠賀に脚本を委ねていた。みんなが望むものを書きあげるだろう、と。
ただ、それを演じるのも仲間たちだ。信頼した仲間がなかなか首を縦に振ろうとはしないので、遠賀もだんだん弱気になる。
もしかして、自分はこの部にいらない子なのかもしれない、と。それでも、部長は口を開かない。
242灰被り ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/08(土) 10:25:23 ID:XlOk4aRv
「……やらせてください」
わたしは台本しかないんです。
それを捨てたら、どうしたらいいんですか。
分かりません。教えてください。でも、誰も教えてくれないでしょう。

だって、わたしは……。
「部長、お願いです」
机に両手を付いて、額擦る遠賀の姿は、黙って床を拭く灰被りの少女よりも惨めに見えた。

    #

舞台は無事に始まった。そして、無事に幕を閉じ、歴史を刻んだ。
目撃者は語る。黒咲あかね、その一人。あかねの記憶を手繰り寄せるものの、そうだ。あの場面は、たしか……。
「シンデレラが、若い靴職人をじっと見ていた!」
確かにその部分は台本では空白の部分である。遠賀が望んで空白にした。
それが意味することは、本番までの揺らぎによって、遠賀の気持ちで脚本の空白が埋まるということ。
「おれが『靴職人』役だったんだけどな」
迫先輩の背中は、世界中のどんな政治家よりも雄弁で、弁護士よりも誠実で、心を引き付ける魔力を持っている。
あかねもそれにかどわかされる。迫のメガネがあかねを照らし、正気に戻すと乗除は頬を赤らめた。

「無茶な台本ですね」
「だろ。やりたいか?こんな本」
「わたし……」
「あかねちゃんのなら、見てみたいのだっ」
髪をいじりながら、あかねは目線を床の木目に合わせる。そういうときは、決まって頬が赤い。
だが、久遠に言っておきたいことがある。普通ならひと捲りすれば捨てられるような案を許したという理由を。
「でも、みんな遠賀先輩に付いて行った。分かるか、黒咲」
こくりと長い髪を揺らして頷くと、荵は夢中で台本を捲っていた。
黒咲あかねが遠賀希見の灰被り姿を見て、演劇に憧れた理由と似ていると思わないか。

そういえば、この演劇を見て自分も演劇をやりたいと思ったんだ。
たった一人でファッション雑誌を飾るより、みんなで創り上げることに心引かれて演劇部の扉を叩いたのだ。
もしかして、遠賀の台本は暴走かもしれない。異端呼ばわりされても仕方がないかもしれない。それでも、舞台は人を呼び
拍手の波に洗われて、一人の少女の行く先を決めるように背中を押したのだ。それでも無茶な台本なのか。異端なのか。
それとも、演劇なのか。

黒咲あかねは結末の書かれていない台本をじっと見つめていた。


おしまい。
243わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/08(土) 10:26:12 ID:XlOk4aRv
今年の投下初めー。本年もよろしゅう。

投下おしまい。
244創る名無しに見る名無し:2011/01/08(土) 21:10:29 ID:/FP2CLvE
新年初投下 乙です!

空白の台本、凄い意味深なような感じがするなあ
あかねは偉大な先輩を超えられるのか、気になる。ガンバ!
葱、完全にマスコットだねw かわいいなあ
245創る名無しに見る名無し:2011/01/15(土) 18:34:00 ID:BUzoBIOs
>>231
省……身につまされてなんか泣けてくる……
それにしてもあっちこちに地雷とフラグが埋まっている学園だな……
でも台と那賀のチョイスはだめだろ!

>>243
演劇部はなんかみんなで真剣に部活やってる感があっていいなあと常々思っていた
もちろん本番に激弱な俺は白紙台本とか絶対ごめんやけどw
246創る名無しに見る名無し:2011/01/24(月) 22:41:25 ID:l4Qujexf
age
247創る名無しに見る名無し:2011/01/29(土) 23:03:01 ID:9PskCII7
むっ!?
248創る名無しに見る名無し:2011/01/30(日) 10:34:14 ID:d1HeHk6k
貴様はッ!!
249創る名無しに見る名無し:2011/01/31(月) 22:10:53 ID:5u1KZXux
したらば管理人です。

このたび、リアル事情で環境が変わることとなり、今後したらばの管理を続けることができない状況になりました。
現したらばは、借りる際にうっかりバカ正直に個人情報を入れてしまったので、管理権の譲渡は難しいです。

それで、誠に申し訳ないのですが、新しくしたらばを借りて来られる人を募りたいと思います。
できれば今週中、遅くとも13日(日)までに新したらばへの移行を完了していただけると助かります。

ご迷惑をおかけし申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
250創る名無しに見る名無し:2011/02/01(火) 03:05:06 ID:2ZEAHGKu
ありゃま。そりゃ残念な……。
とりあえず今までお疲れ様。

新したらばに関しては、創発避難所の方に仁科のスレ立ててもいいような気がするけどどうだろう?
251創る名無しに見る名無し:2011/02/01(火) 15:08:34 ID:2ZEAHGKu
【仁科学園校舎裏】
【仁科学園体育館裏】
シンプルに【仁科学園避難所】


うむ……。
252創る名無しに見る名無し:2011/02/06(日) 21:25:19 ID:faq/9Uwp
したらばでも議論?中です。
今後に関わることなので、取り敢えず見に来て欲しい。何か言うなら今のうち。
253創る名無しに見る名無し:2011/02/11(金) 10:42:27 ID:9/wiK4dU
まったく話が進まないなw
254創る名無しに見る名無し:2011/02/11(金) 11:01:36 ID:Q///C+Of
したらばだとそれなりに意見は出てるんだけどねw
255創る名無しに見る名無し:2011/02/12(土) 13:43:21 ID:YLPdOvE0
したらば議論は議論として。

バレンタインですよおまいら! 去年もしたらばでネタがちょろっと出たが、SS書くやつは
ないのか!?
256創る名無しに見る名無し:2011/02/12(土) 15:35:30 ID:42nyT7SI
完 全 に 忘 れ て い た
257創る名無しに見る名無し:2011/02/12(土) 16:47:55 ID:YLPdOvE0
ウソヲツクナー
258創る名無しに見る名無し:2011/02/12(土) 17:01:28 ID:42nyT7SI
むしろ全然違うネタ考えてたw
259創る名無しに見る名無し:2011/02/13(日) 22:36:17 ID:LwEb8x8J
創作発表板避難所にお引越しです。

【シェアード】仁科学園校舎裏【スクールライフ】
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1297603322/

スレタイ、テンプレについては、悪いけど好きにさせてもらいました。
補足があればヨロシク。
260創る名無しに見る名無し:2011/02/13(日) 22:40:13 ID:Weqynf6D
告知乙です。

にしても急遽考えようとしたがコイツ等のバレンタインネタが降りてきません。助けてカップルウォッチャー!
261代行レス:2011/02/13(日) 23:17:53 ID:LwEb8x8J
47 名前:管理人★ 投稿日: 2011/02/13(日) 23:04:30 ID:???
スレ立てお疲れ様です

このしたらばですが、一週間はこのままとし、21日以降に閉鎖させていただきます
申し訳ありませんが本スレ規制中なので、どなたか本スレに本したらば閉鎖の告知をお願いします

このたびは私の都合でご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした
したらば管理はできなくなりますが、スレを覗くことはできると思うので、今後は一住人として応援していきたいと思います



以上。したらば「仁科学園掲示板」は21日に閉鎖ということです。
お知りおきください。
管理人様、おつかれさまでした。
262創る名無しに見る名無し:2011/02/14(月) 16:19:51 ID:l8kCpnJ8
告知乙。
そして本避難所のほうに仁科のスレが移転して参りましたよ。
急いでバレンタインネタ考えなきゃだけどどうかんがえても間に合いません。助けてあやめ先生!
263創る名無しに見る名無し:2011/02/15(火) 04:08:50 ID:nPYJXMJw
イメージした。
あくまでイメージであり、実際のところは分からない。


台は鈴絵先輩からの本命を義理と思って無造作にバクバク食って怒られる。
那賀は地奈さんからの本命をクールを装って受け取るが内心では小躍り。
省? 省は……鈴絵先輩から義理くらいなら……

拓人は(当人の鈍さと静奈の恥じらい故の不徹底さから)本命とは気づかなそう。だが、甘ったるい雰囲気にはなる。

懐は義理チョコを山ともらってそう。たまに本命も混じってたりするが、気づかない。

先崎は後輩からの変なチョコをイヤイヤ口にし、なんかひどい目に遭う。

真田先生もといゴリラは、実娘からの本命チョコ×2という何やら面白い事態になるが、知らぬが花というやつだ。

迫先輩の身辺では、しばらく不穏な事態が続く。
264創る名無しに見る名無し:2011/02/15(火) 04:18:33 ID:nPYJXMJw
……と思ったが、台と鈴絵の関係はもうちょっと微妙な感じもする。
恋愛のような、そうでもないような。
265創る名無しに見る名無し:2011/02/15(火) 05:20:23 ID:2y9MQFnR
とにかく山ほどか。ネタゲットだぜ。
省にはほら……亜子あたりから拳と一緒に……ほら。
266創る名無しに見る名無し:2011/02/15(火) 14:33:58 ID:2y9MQFnR
なぜか小鳥遊からチョコが贈られる拓人。


いやなんでもない
267創る名無しに見る名無し:2011/02/15(火) 23:32:28 ID:ktV99s9u
拓人は、静奈ちゃんから、雄一郎は和穂から貰うんじゃねwww
馬鹿野郎、変なの考えるなよwww





…いやむしろそこは拓→雄で雄一郎ツンデレ発動でだな…(ボソッ
268創る名無しに見る名無し:2011/02/16(水) 00:14:22 ID:ULjotOi2
和穂は義理を強調するが、実は意識しなくもない感じだろうか。
……「渡そっかなと用意してたけど、お腹すいて自分で食べちゃった。ごめんち☆」というオチでもあまり違和感がないw
269創る名無しに見る名無し:2011/02/16(水) 00:33:10 ID:K+7gh06z
荵「わんわんっ!バレンタインデーだよ!で、チョコレートって……ぱくっ。おいし!」
あかね「バレンタインデーなんか……。でも、お祭りだから一緒に楽しくしてもいいかも。迫先輩!」

遠賀先輩「さ、迫くん。『バレンタインデーでチョコを不意に貰った男子の役』を5分間演じて!ハイ!」
270創る名無しに見る名無し:2011/02/16(水) 01:36:30 ID:iQhkUZ6L
葱のわんわんに違和感が無くなって来たw
271創る名無しに見る名無し:2011/02/16(水) 02:33:58 ID:ULjotOi2
くっ……あざといキャラづけをしおって! ああでも可愛い!

しかし、こんなニヤニヤ物のふんいきを見事に萎えさせてくれるあたり、さすがたよな遠賀先輩
272創る名無しに見る名無し:2011/02/16(水) 04:29:54 ID:iQhkUZ6L
このクールビューチーっぷりは嫌いじゃないぜ!
273 ◆46YdzwwxxU :2011/02/19(土) 15:04:10 ID:Mwn6cwbx
バレンタインとはまったく関係ないけど投下してみる。
274創る名無しに見る名無し:2011/02/19(土) 15:09:12 ID:Mwn6cwbx

「先輩! 先輩って健気な犬派ですか、小悪魔な猫派ですか、それとも世界一可愛い閑花ちゃん派ですか?」
「三択目はダミーとして。俺が犬猫のどっちを選んでも、そつなく自分にこじつけようって気マンマンなのは分
かった」
「そこに気づいていただけるとは! やっぱり先輩と私のキモチ、ちゃんと通じ合っていましたね! 私たち、
結婚しました!」
「しねーよっ!」

 ……『選ばない』を選んでもこじつけやがった……。
 誰もが鞄を引っ掛けてそれぞれの時間の流れに帰っていく放課後のことだった。
 自分で自分を世界一可愛いといううちの後輩さまは、今日も扉バーン!で俺たちの教室に入り浸っていた。大
迷惑としか言いようがないが、もうクラスメイトのみんなも、慣れっこを通り越して、窓から吹きこむそよ風く
らいにしか思っていない節がある。仁科学園生の適応力が怖い。

「そんなお茶目な“コウハイックジョーク”はともかく、……あっ、『世界一可愛ーい!』とか、『先輩と結婚
したーい!』とかは、ジョークじゃありませんよ」
「ジョークでいいよっ」

 ……少なくとも、自分を『世界一可愛い』と吹かしたのはジョークのつもりだったということにしておいたほ
うが、まだいくらか可愛げもあったろうに。
 というか、どこまで本気なんだろうコイツは……。

「えーとそれでマジメな話、先輩は犬と猫、どちらがお好きなんですか」
「……ほんとうにマジメな質問なんだろうな」
「想い人のことなら、どんな小さなことでも知っておきたい。できるなら本人の口から語ってもらいたい。それ
もまた、恋する乙女の乙女ちっく乙女心であるのです。どうかアンケートにご協力ください」

 バカめ。今さら後輩ごときの上目遣いおねだりなど、俺には通用しない。
 ……しかし、だんだん面倒臭くなってきたのも確か。別にどうという内容でもないし、さっさと答えてお引き
取り願ったほうがいいかもしれん。
 こういうその場しのぎの妥協が積み重なって、俺たち二人の間の腐れ縁を香ばしく醸成している気もするが。
 どうせもうここから赤の他人同士に戻るのは無理臭いので、一線を越えないよう注意しながら“先輩”をやっ
ていこうかなというのが、最近の俺のスタンスだ。
 本人の意識や周囲の状況もだいぶん明るいほうに変化してきているから、以前ほどぐつぐつと深刻に考えなく
ても大丈夫だろう。

「……犬か猫かだったな。強いてどちらか選ぶなら、犬かな。猫も嫌いってわけじゃないけど」
275創る名無しに見る名無し:2011/02/19(土) 15:12:02 ID:Mwn6cwbx
「では、牛肉と豚肉と鶏肉を好きな順番に並べてください」
「鶏、牛、豚……って続けるのかよっ!」

 てっきり一問だけで終わるものだと思っていた。面食らった俺は、メンカウラー王などという全く関係ない人
名を思い出してから、後輩にツッコミを入れた。

「いい機会ですし。アンケートですから。……スカートとズボン、女の子が穿くなら?」
「……スカートだ」

 当然ながら、後輩はクレームなど物ともしなかった。俺はこの際だと諦めて、怪しい質問を警戒しながら答え
ていくことにする。

「ぶっちゃけサド? マゾ?」
「案の定、だんだん質問が怪しくなってきた……! 回答を拒否する」
「ちっ。……ではお米とパンならどちら?」
「基本的には、コメで」
「源頼朝と源義経、どちらに味方したいですか?」
「頼朝」
「……静御前と弁慶も付けますよ……?」
「頼朝だ」

 心細そうな演技(ふり)をする後輩を切って捨てる。こう言ってはなんだが、ちょっと情け容赦なしの鎌倉武
士の気分だった。

「黒髪おかっぱと黒髪ロング、恋人にするなら黒髪おかっぱにキマリ!」
「回答させろよ」
「では仁科学園(うち)の夏服と冬服、どちらが萌えます?」
「冬」
「海と山、恋人と出掛けるなら」
「……山もいいかもな」
「究極の選択です。カレー味のカレーと、ウ」
「カレー」

 さすがに嫁入り前の娘にそんなことばを口にさせるのは憚られ、俺は先手を打った。

「結婚式挙げるなら和風、洋風どちら?」
「花嫁に選んでもらう」
「ラーメンといえば、醤油、味噌、豚骨のうちどれ?」
「醤油」

 ひとつ前の質問との落差が泣けてくる。
 ランダムなアンケートにかこつけて本命の質問を混ぜてくるつもりなのは分かっていたが、それにしたってこ
の女、ごはんの問いとセクシャルな問いをもう完全に同列に扱っている。
276創る名無しに見る名無し:2011/02/19(土) 15:14:07 ID:Mwn6cwbx

「リンゴとバナーナ、食べるなら」
「リンゴ。……ってお前は俺がリンゴ好きなのは知ってるだろうに」
「!!」

 後輩は何に反応したのか、ここぞとばかりに俺に食いついた。

「そうですよね、す、好きなんだ……。じゃあじゃあっ、リンゴと私、どちらがより大好きですか?」
「……もし俺に『リンゴよりお前が好きだ』って言われて、お前それ嬉しいか……?」

 後輩はさすがに考えるように目線を上にやり、可愛らしく小首を傾げて答えた。

「じゃっかん」
「若干かー」

 そっかー。

「……」
「……」

 どちらからともなく窓の外を見た。なぜだか無性にそうしたくなった。
 物悲しい晩秋の夕陽が、目に痛い。
 校庭の隅っこで中くらいのチンピラとピンクのスーパーヒロインがめんこで戦っている光景が見えた気がする
が、気のせいだと思う。
 こうして、妙な空気を教室に残してアンケートは終了した。
 だが。
 事件は、ここで終わらなかったのだ……。


 ※

『後輩/お前が好きだ。/リンゴより/好きだ。/嬉しいか?/させろよ。/豚/どちらかというと、犬かな』
「……ハァハァ。せんぱい、にくしょくけい……」
「こっそり録音して悪意ある編集して最低な携帯の着信にしてるー!?」

 しばらく口を利かなかった。



 おわり

277 ◆46YdzwwxxU :2011/02/19(土) 15:16:46 ID:Mwn6cwbx
以上。取り敢えずゴメンなさい。
タイトルは

先輩、/犬派ですか/猫派ですか/閑花ちゃん派ですか

で。長いようだったらまた考えます。
278創る名無しに見る名無し:2011/02/19(土) 16:08:42 ID:XHAJt/xN
後輩なんという策士……!
279創る名無しに見る名無し:2011/02/19(土) 21:52:26.59 ID:MDZO1oIh
確実に後輩にはブレーンが控えてるw
280 ◆46YdzwwxxU :2011/02/20(日) 10:26:51.73 ID:FfNLAilN
タイトル修正します

先輩、/犬派ですか/猫派ですか/閑花ちゃん派ですか?

尻に?を付けただけですが

……最近、全然クロスしてないな。たまにはパーっとやりたいものだ
俺がやるとコレジャナイ感とキャラが都合に引きずられてる感が出てしまうのが悩みの種だが
281創作部日常風景3 ◆YUcgEgI6jo :2011/03/07(月) 18:26:41.82 ID:FsJIYnR0
大体1年半位ぶりに投下します。トリちゃんと付いてるかな?
282創作部日常風景3 ◆YUcgEgI6jo :2011/03/07(月) 18:30:06.13 ID:FsJIYnR0
「崇人、部室先いっちょってー。飲みもんこうてくるき」

創作部の部室を士乃と二人で目指していたが、士乃はそう言って食堂のほうへと走って行った。確かに「何か飲みたい」とは言ってみたが、性格上こんなに早く食いつくとは思わなかった。何か少し怪しい。
人の好意にいちいち難癖をつけるのは良くないと、自分を心の中で叱咤し一人で創作部部室に向かう事にした。
その創作部部室の前にたどり着き、秀逸な動きで部室のドアを開けた。
とたん、部室内には何かが蔓延しているかのような匂いがした。良く嗅いでみる。

「ん・・・これは・・・」
 
誰でも嗅いだ事のあるような、原始的な甘味の・・・・

「わかった、芋だ」
「崇君正解〜」

緩そうな声が聞こえた瞬間、口の中に何かを突っ込まれた。
一瞬、拍子に吐き出しそうになったが、堪えて良く噛んでみた。口に広がる芋(か、どうかは知らんが)の滑らかなペーストと風味が心地よい。
味を楽しむ中、目の前を見るとニンマリとした顔が自分の顔を覗いている。

「スイートポテトか?中々美味しいな」
「あらっ、崇君にそう言われると作った甲斐がありました」

 顔のところに手を当てて笑う様は子供のころから見覚えがある。何せ長い付き合いだ。
 彼女、日野飾は自分と律の幼馴染に当る。
 資産家の娘で親がこの学校に投資しているらしく、親の勧めもあり、この学校に入学したのだという。
283創作部日常風景3 ◆YUcgEgI6jo :2011/03/07(月) 18:33:01.21 ID:FsJIYnR0
「葎ちゃんと士乃ちゃんと和くんも呼んでくれますか?」
「一人はもうすぐ来そうだけど・・・」

扉がゆっくり開く音がし、扉の方向に顔を向ける。
そこには、並ぶと身長の差が目立つ男女二人。
「あらら日野先輩、最近見ないと思ったら」
「飾姉、来てたんだ。・・・・良い匂い」

心地よい香りを嗅ぐように、うっとりとした表情の葎が飾に近づき「何か出せ」と言った目つきで飾を見る。
そうすると飾はニッコリと笑って作業台の上にある皿上のスイートポテトを葎の口の中へ持っていく。アーンと口を開けて幸せそうにほうばる葎を見ると、昔を思い出して何とも和やかな気持ちになる。

「和君も一つ・・・あら、せっかちですね」
「こんな良い香り漂わして食わずにはいられませんよ」

飾が進める前に手を伸ばスイートポテトを食べた和を見て飾は少し残念そうな顔をする。
元々母性が強いのか、菓子なんかを作って年上以外に振る舞う時には必ずと言っていいほど「食べさせる」
という行為をする。思春期には気恥ずかしい行為なのか和はそれをいつも避けている。自分は昔ながらの行
為なので受け入れているが、他人から見れば少しおかしな行為に見えるだろう。お菓子だけに。

「崇ちゃん、今何か変な事考えなかった?」
「?・・・」

葎に駄洒落を思いついたのをみすかされ少しがっくりくる。見抜いた本人は寒気耐えるような眼をしてお
り、心底悲しい目つきをしている。自分のジョークセンスが日の目を見るのはまだ先らしい。
そんなやりとりを見つめていたらしい飾は、楽しげで優しい笑い声を上げる。笑い声にも母性が宿っているのだから天性のママさん体質である。
284創作部日常風景3 ◆YUcgEgI6jo :2011/03/07(月) 18:35:37.45 ID:FsJIYnR0
「崇君と葎ちゃん、何時まも通じ合ってるみたいで、とっても面白いです」
「まあ幼馴染だし、分りあってる方が自然であんまり違和感無いんだよね」
「・・・崇ちゃんと飾姉だけだから」

 アラアラと口元を押さえて眼で笑う飾の仕草は、どうしようもないぐらいに見慣れている風景だったが、
何故かこちらまで綻んでしますような、不思議な魅力をもっていた。

「まったく以心伝心って奴?お前らが言うと妙に信憑性がハフゥ!!」

 奇妙な声をあげた崇人を見ると頭に缶の様なものが直撃し、空中を舞っている。
 その瞬間に、スパーンと古典マンガの様な擬音をたてて部室のドアが開く。入ってくる人影はどう考え
ても浅野士乃その人である。
 和の頭に当った缶は作業台の角にぶつかり鈍い音をたてて落ちる。どうやら中身は入っているらしい。
因みに士乃がドアを開ける前は半開きになっていたらしい。

「全くここのガッコの自販機はどうなっちょるがか!」

 悶える和には目もくれず、投げた缶を拾いビニール袋に入った缶と一緒に作業台の上にまとめて置く。

「士乃ちゃん飲みモノ買ってきてくれたの?丁度よかったわ〜。用意してなかったから」
「あっ飾さんやん!余分なもんが出たから丁度よかったわ〜」
「出た?」

そう突っ込むと凄い話したがるヒトの様に目をカッチリ開き食いついてきた。

「それがねぇびっと聞いてくれる!?五百円入れて四本色んなジュース買おって思うたのに故障か知らんけんど午後茶のミルクティーしか出てこんかったがよ!」
「えぇー、俺午後茶飲めないぞ」
「そう思うてホラ」

作業台の上を指差した士乃の先にあるのはコーラだった。かなり側面部分が陥没している。多分和にぶつけた物だろう。これを見越して投げたのかコイツ。
285創作部日常風景3 ◆YUcgEgI6jo :2011/03/07(月) 18:36:48.62 ID:FsJIYnR0
「お前、投げるなら数がある方にしろよな。それともアレか。俺だからか」
「愚問!」

ビシッとサムズアップを決める士乃。和なら蹴りでもかましているところだ。

「まあまあ、お詫びに奢っちゃうけん。勘弁してくれて」
「そうか。ご馳走さん」
「みんなも私の奢りやけん、お金気にせんでええよー」
「あらあら士乃ちゃん太っ腹ねぇー」
「「「HAHAHAHAHAHAHAHA」」」

「いや、何か危篤な人がいるんだけど・・・」
「コルァァァァァアァ!!体張って挙句無視かぁぁぁぁ!!」

 鬼の形相となった様の和が怒声をまき散らす。全く騒がしい奴だ。
「何だ和、生きてたのか」
「生きとるわぁ!でも当りどころが悪かったら死んでたわボケェ」
「まあ自分の日ごろの行いが災い…いや、幸いしたってことでいいじゃないか」
「何言い間違えてんだアホォ!って加害者が悠々と菓子を食うなぁぁぁ!!」

 士乃の関心は元より和にはなく、すっかりスイートポテトに向かっていた。お決まりの様に飾に食べさしてもらっている。士乃はこの行為は満更でもない様に嬉しそうにしたがっていた。

「あぁ〜美味いねぇ。口の中で柔らかく広がって癖になるわ―。って和君、何そんなに食べゆうが!私の分も残しちょってよ!」
「へぇーん!これ食べてるの全部士乃のやつだし!報いヴぉうけてごぉぜんん・・・」

 無理に食べたのか、口の中に含んだまま喋り何を言ってるのか分らない。
 見かねた葎が午後茶を和に持っていく。

「宇佐野、コレ」
「うっ・・・あぁ―スッキリした。りっちゃんありがとな」

士乃を見るとなにやらむくれている。和の言葉を真に受けたのだろうか。士乃は悪ふざけはするがそれなりの仕返しを受けるスタンスを絶対に曲げない。
それなりに耐えがたいっ仕返しだったのか下を向き今にも爆発寸前と言った所である。
286創作部日常風景3 ◆YUcgEgI6jo :2011/03/07(月) 18:38:26.54 ID:FsJIYnR0
「っぅぅぅ・・・・・・・!!」
「どうした士乃ぉ!もうお前の分は無いぞぉ!悔しいかぁ!?はははははは!!というより中々美味いですねこれ。まだありますか?」
「がああああああああああああああああああああ!!!」

 あっ、キレた。少し後ずさり、醜いドックファイト現場より離れた場所の椅子に座る。

「なんでこんなことするがぁ!乙女の成分はお菓子が大半ながでぇ!」
「乙女は午後茶を男子の頭に当てねぇよ!どんな乙女だよ!戦乙女か!」
「だっ、誰がヴァルキリーか!」
「分りずれーよ!誰が横文字で訳せと言った!」
「細かい事言うな!やから和君は何時まで経ってもギャルゲー主人公の親友みたいな位置ながよ!」

飾は面白い生物を見るような眼で、葎はヤレヤレといった風に午後茶を飲みながらじっとりとした眼でドックファイトを観察している。みんな自分に被害が及ばない限りそこまで止める必要はないと結論付けている。現に見ている方は少し面白い。
葎たちから少し離れた所にいる自分に気付いたのかニコニコ笑顔で飾が近づいてくる。

「相変わらず楽しいところですね。私の工業科には余り女の子がいませんから、士乃ちゃんと話すときはいつも楽しみなんですよ」

 飾は女子にしては珍しくこの仁科学園の男臭比率が最も高い工業科の自動車整備コースに在学している。最近余り部室に顔を出さな
ったのは三年時の卒業試験に向けた補習であまり放課後に時間を取れなかったのだという。
 工業科は第二グラウンドがある工業科・芸術科校舎にあるため、休み時間などに気軽に会えるような場所にないから、
部室に来れるのは必然的に放課後だけになる。
287創作部日常風景3 ◆YUcgEgI6jo :2011/03/07(月) 18:39:42.40 ID:FsJIYnR0
「高校に上がった時に初めて知り合ったのが士乃なんだよ。だからこのバカ騒ぎには正直もう飽き飽きしてるよ」
「ふふ、贅沢な事ですね。少し羨ましくなりました」
「なら普通科にくればよかったのに」
「いまさら遅いですよ。それに結構楽しいんですし、みんな優しいですしね」

 飾がなぜ工業科に入ったのかは幼馴染の自分と葎にも話されてない。あまり追求するのもよくないので聞かないでいるが、
飾は工業科の話をすると楽しそうな顔で話すのだ。
 内容は工業科の男たちが芸術科の女子達に集団で「求婚」をしに行ったり、普通科の女子のプール授業時に授業をすっぽ
かして観覧に言ってたりと男が聞けば涙で前が見えなくなるほどの学園戦記であった。山田軍と佐々木隊の民主主義的議決(ジャンケン)
による教師かく乱作戦、通称「桜花の嵐」の佐々木隊玉砕時の話には和と一緒に涙を眼に溜めながら工業科の方角へ十字を切ったものだ。
葎と士乃の二人は、葎は汚物を見るような眼で、士乃は大爆笑しながら話を聞いていた。これだから女は分らん。
288創作部日常風景3 ◆YUcgEgI6jo :2011/03/07(月) 18:42:48.50 ID:FsJIYnR0
「楽しいのか・・・。安心した。卒業まで頑張れよな」
「うん・・・・ありがとう。崇君」

 そのお礼には母性らしきものは見受けられず、中々気恥ずかしいモノがあった。
 悪戯っ子の様に飾は笑い、スイートポテトを進めてくる。ひとつを手に取り口
の中に入れ優しい味を堪能する。随分喉が渇いたので何か飲み物が無いかと辺り
を見るが、そういえば士乃にコーラを買ってもらっているのだった。コーラを探
と作業台の上に置いたままだった。作業台に近づきコーラを手に取り、ブシュっとプルタブを開ける。
が、そこから出てきた炭酸の泡。コーラをよく振るとこうなったりするのだが自分がこうした覚えはない。
慌てて部室に常備しているタオルを手に取ったところですべてを悟った。
そもそも普通に考えると士乃が一人でジュースを自ら率先して買いに行
く事なんかは、罰ゲームだったり、同行を頼んだりするものだ。
そうかこの為か。トラップにかける為か。和に向かって投げたのも
コレの予防線を張る為だったのか。正直この泡の量は丹念に降らないと出てこない量だ。
士乃と和の方を見るとまだ醜いドックファイトを繰り広げている。話しあいでは言い
訳を駆使して逃げられそうなので直接折檻するしかないと判断する。

「どうしたんですか?」

そう飾に聞かれ自分は只一言、「混ざる」と士乃たちの方向を見て口にした。
飾は優しく微笑みながら、顔の前に手を当て、こう言う。

「いってらっしゃい」
 
「いってきます」と答え、早歩きで混ざりに行く。
そのやり取りは少しだけかっこよく思えたような気がする。やりに行く事は折檻だけど。
                                       了
289創作部日常風景3 ◆YUcgEgI6jo :2011/03/07(月) 18:50:06.42 ID:FsJIYnR0
日野飾(ひのかざる)
創作部なのかどうか分らない。3年。
壱羽崇人の姉御的な存在。ご近所さんと幼馴染。
もちろん、金城葎とも幼馴染である。二人の仲を遠目で見ながら、終始にやにやするのが趣味。
なのに士乃の事も応援している。不思議!
親が資産家のいいとこのお嬢さんである。が、なぜか工業科自動車整備コースに所属。不思議!



久しぶりに書いたなーと。キャラも増やして設定も増やしてもうやりたい放題です。
しかも改行とかもバラバラというお粗末さ。ブランクって怖いね!
工業科のことは他の方々もお気軽に使ってやってください。男だらけだけどな!
飾は僕の夢がいっぱい詰まったキャラです。自動車整備する女性って興奮するよね!
お粗末な出来ですがどうぞ読んでみてください。
290創る名無しに見る名無し:2011/03/07(月) 21:00:16.78 ID:7Hv/wTXq
乙です!
創作部のほのぼのっぷりは癒されるわぁ
飾さん工業課で絶対人気ある。間違いない
291創る名無しに見る名無し:2011/03/08(火) 01:04:44.23 ID:e7JHWN/C
あのろくブルっぽい工業科に女の子だと……?
これは素晴らしいw

ほんわかした部活だな創作部w
292創る名無しに見る名無し:2011/03/16(水) 22:49:57.43 ID:PacW+k2i
http://mac.x0.com/test/ 
を使って、演劇部とOGです。

http://loda.jp/mitemite/?id=1845
293創る名無しに見る名無し:2011/03/16(水) 23:16:30.30 ID:ksJdO88j
>>292
もう葱の耳尻尾はデフォなのかw
294創る名無しに見る名無し:2011/03/17(木) 00:52:47.71 ID:wsELWLwl
ねぎ……とろぉ……
295創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 01:18:23.13 ID:728g3UiG
妹尾 巴(いもおともえ)
ロリコンの一言に尽きる
296創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 01:27:53.71 ID:E009Ah7N
茂部英子 (もぶ えいこ)
どこにでもいる。
297創る名無しに見る名無し:2011/03/20(日) 23:19:56.29 ID:MUGISrFb
そういえばキャラが作品レビューするあったな。
298創る名無しに見る名無し:2011/03/26(土) 23:27:02.12 ID:k2jmQJVc
感想はありがたいよね
いつまでも待っているわ
299創る名無しに見る名無し:2011/03/27(日) 11:53:00.75 ID:kSBvQFUo
そういう方向では報われないスレだけどな
300創る名無しに見る名無し:2011/04/01(金) 23:19:48.66 ID:tIuChI6g
誰もいない、投下するなら今のうち。
名無しでごめんなさい!!
301ヲタ部勧誘大作戦!?:2011/04/01(金) 23:20:51.29 ID:tIuChI6g
なんである?アイデアル。もとい、春である。

ここ、仁科学園にも春爛漫な4月がやってきた。
しかし、サザエさん時空に身を置く、この世界は学年無限ループ状態である。
と、いうわけで。3年生の皆さんも、卒業せずにまだまだ学園にいるわけで。
そんなことより、ここは学校のどこかにある教室。
そう、我らが「ヲタ部」の部室だ。
せっまい部屋の中にはパソコンやゲーム機、鑑賞用、保存用、愛でる用にわけられたフィギュアが置かれている。
そんなナロー空間に2人の男がいた。

「サザエさん時空、マンセー……」
石塚四郎。デブヲタ。
「今年こそは、いっぱい部員を呼ぼうな」
青木太郎。ガリヲタ。
ヲタを絵にかいたような、ヲタ2人がこのヲタ部の部員だ。
しかし、その人数の少なさから実際は『同好会』といったところだ。
ん?そんなの仁科学園wikiをよく見ているから、知っているって?
まあ、そんなのいいではないか。わざわざwiki見るのめんどくさいって人もいるわけだし?
「で、だ。どう部員を呼ぼうか」
青木は頭をひねる。
「俺に案がある」
「なんだ?」
「それは……」
「それは……!」
「それは……!!」
「それは……!!」

決して行を稼いでいるわけじゃあない。タメである。散々タメてこそ、その後の発言にパワーが生まれるのだ。
「メ・イ・ド・喫・茶だァァァァァァァァ!!!」
だァァァァァァァァ……だァァァァァァァァ……だァァァァァァァァ……。
青木の細アンチマッチョボディから発せられた叫びが広い学園内にエコーする。
決まった!そう確信し、ガッツポーズをとる、青木の目の前で、石塚はずっこけていた。
そう、足を天井に向かって高く掲げさせながら。
「ん、石塚。どしたの?」
素早く起き上がり、石塚は吠える。
「おま!メイド喫茶って!!2人しかいないのに、どうやってできるんだ!!
それに、俺達の背格好を見てみろ。メイド服なんか着て、『お帰りなさいませ〜♪』なんてやったら
……新入生に一生消えない傷を残すことになるんだぞ!!」
302ヲタ部勧誘大作戦!?:2011/04/01(金) 23:23:42.79 ID:tIuChI6g
「……!!」
青木は戦慄した。メイド服を身にまとった彼自身、そして石塚の姿を想像して。
精神的ブラクラとはよく言ったものだ。
しかし、自分自身のキモい姿を想像して吐き気を覚えてしまうなんて……末代までの大恥である。

「で、そういう石塚は案があるのか?」
「ああ……お前のなんかよりもすごいぞ……」
カチン!その言葉に青木がキレた。
「俺のなんかよりも、すごい……だと!?もういっぺん言ってみろ!!」
「ああ、何度だって言ってやる。お前のなんかよりもすごい案を俺は持っている!!」
「『なんか』とは何だ、デブ!」
「黙れ、ガリガリガリクソン!!」
ドッタンバッタンドッタンバッタン……。狭い部室内で煙を上げて取っ組み合いをする2人。
しかし、このままケンカを続けていても埒が明かないしそれに、このSSがgdgdになってしまう。
「では、俺のアイデアを発表しよう。それは……!」
「それは……!!」
「それは……!!」
「……繰り返しのギャグはよそう。gdgdになる」
「ああ。さっさと言わせてもらうぞ……    猫耳をつけて勧誘だァァァァァァァァ!!!」
だァァァァァァァァ……だァァァァァァァァ……だァァァァァァァァ……
石塚のメタボリックボディから発せられた叫びが学園内にエコーする。
どや!!そう確信し、どや顔をする石塚の目の前で、青木はずっこけていた。
そう、足を天井に向かって高く掲げさせながら。
「ん?青木。どしたの?」
「おま!さっきの言葉を返すようだが、こんなヲタを絵にかいたような背格好をした人間が猫耳をつけてみろ。これこそ、新入生に一生消えない心の傷を残すことになってしまうぞ!!」
「んだと、メイドよりましだろうが!!」
「いーや、猫耳よりましだ!!」
ドングリの背比べ、五十歩百歩。この言葉を今の2人に贈りたいと思う書き手であった。
303ヲタ部勧誘大作戦!?:2011/04/01(金) 23:26:13.25 ID:tIuChI6g
そんなとき、外から声が聞こえるのを……2人は聞いた。
「こ、こんなところにあったなんて……なんか入りにくそうだけど……これで学園内に俺の居場所ができるんだ……!」
少々長めのひとりごとの後、扉が開かれた……。
「すみません!」
そこにいたのは、ややガリ、やや高身長の男子生徒。
「し、し、新聞の勧誘ならお断りだぞ……」
「あと、うち無宗教なんで……」
平静をよそおうとして、ワケのわからない言葉を発してしまうヲタ2名。
そんな2人に、男子生徒が言った。
「仁科学園2年18組、天野大地(あまのだいち)っす!!入部希望です……!!」

ズガガガガガーン!!2人の背景で稲妻がとどろく。
「来るべく時が、来た……!」
「ああ、来たな……来たな……」
滂沱の涙を流しながら、ヲタ2人は泣いた。泣きに泣いた。
「歓迎するよ、天野君!」
「これからよろしくな!!」
涙をいっぱいに浮かべた美しい笑顔で、後輩に挨拶する2人。
「あ、はい……(大丈夫かな……)」
後頭部に汗を浮かべながら、天野は言った。
エニウェイ、ヲタ部はこれで新たな一歩を踏み出したのだ。
歓喜するヲタ2人の歌声が、春の空に高らかに響き渡った。



ところがところが、話はこれで終わらない。
そんなグッドタイミングに、白壁先生がやってきたのである。
「ヲタ部ってここだったのね。ちょっと残念なお知らせがあるの。
今度の部活研修期間終了までに、一定人数が集まらなかったら……」
悪い予感を覚え、一歩後ろに下がる青木と石塚。
「活 動 停 止、だから」

ズガガガガガーン!!!またまた稲妻である。
こうして、ガリとデブの2人と、新入部員の勧誘大作戦が始まったのであった。



「「「って終わり!?」」」
304ヲタ部勧誘大作戦!?:2011/04/01(金) 23:27:16.58 ID:tIuChI6g
新生徒紹介
天野大地(あまのだいち)
From 安価オリキャラバトロワスレ
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290261847/l50

身長169cm、体重49kg。人とのコミュニケーションが嫌いな不良。
その為、学校に来ていなかったが先生の説得でしぶしぶ通っている。
ある時、ヲタ部の存在を噂に聞き、居場所を求め入部を決意する。
趣味はアニメ鑑賞とフィギュア収集というまさに、ヲタである。
原付免許持ち。

これで本当に、シマイ。
続きはありません。多分書くことはないでしょう。
305創る名無しに見る名無し:2011/04/02(土) 00:36:08.95 ID:5kmCq/Nt

投下乙!
またオタ仲間が増えてしまったか…
だがあやつは我等四天王の中でもさいじゃk(ry




あれ、俗に言われるオリロワってやつの方?
見てみたら負けないくらいキャラ濃くてワロタwww
306創る名無しに見る名無し:2011/04/02(土) 00:43:53.41 ID:DTYeKs8L
また来たよ。
投下して、改めてルール等を見てみたら
……サザエさん時空とは言い切れないと発覚。

まあ、気合でいいや。
307創る名無しに見る名無し:2011/04/02(土) 02:27:03.48 ID:4JNPKAQY
ヲタ部存続の危機かw
308創る名無しに見る名無し:2011/04/04(月) 21:00:07.99 ID:9qsq5kdu
ネコミミの座は渡さないよ!
ttp://mac.x0.com/test/ 
を使って、演劇部私服&黒鉄亜子。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1904
309創る名無しに見る名無し:2011/04/04(月) 21:17:35.52 ID:JrQSRDJK
亜子がビジュアル化する日がくるとは……w
310創る名無しに見る名無し:2011/04/17(日) 01:38:06.26 ID:UuL/mVsn
         /`゙''、_  _,.,,,,,,,,,,,,,,,,
         |  ', `ヽ",.-‐一丶、`゙''ー、_,...-,
         ',  ヽ,/      `、,_,.-‐/}
         /}   {            ``ヽ
       // .}  ヽ ,ノ,ノ\_,///|  ,  ', }
     // , |   >//.==r、,ノ,ノ// /ヽ  ', ノゥ
    / / // /  / ||ヽ{J:::::} / レ' |/ ̄|/|/| {   r、  「ついに出来ました」
   /     | /  〉 || 弋,ノ    /  /レレ'', ry-//
  //| ||  | /\ | ||   \    ̄ //==| | /===
 //  | ||   |  \| | r――\,.-''"/ } `ヽ、~~v  |__
 | |  ヽ、   /,.-‐一'レ'ヽ. \___>  } i  i ii`゙''ー‐--|
 | |   | | |__| ̄`゙''|/、|>..___ <´\// ||`、   }
 レ'   .| | |ニニ\   \ |―――__\ /| ',   >
      | | |    \   \\_,.-''h/ /// /  ',   ',
     <レ'レ'   /  \_ `ヽイ   ̄`゙'' ̄ ̄'´   〉
   / ̄   /\     { ̄\n/~〉        _/
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311創る名無しに見る名無し:2011/04/17(日) 20:49:48.03 ID:JSNwsunJ
>>310
すげえ! GJ!
312創る名無しに見る名無し:2011/04/17(日) 21:15:56.11 ID:UuL/mVsn
台も作っていただいたんだがあえて貼らなかったw
313創る名無しに見る名無し:2011/04/20(水) 14:01:53.46 ID:c8saMO5d
         /`゙''、_  _,.,,,,,,,,,,,,,,,,
         |  ', `ヽ",.-‐一丶、`゙''ー、_,...-,
         ',  ヽ,/      `、,_,.-‐/}
         /}   {            ``ヽ
       // .}  ヽ ,ノ,ノ\_,///|  ,  ', }
     // , |   >//.==r、,ノ,ノ// /ヽ  ', ノゥ
    / / // /  / ||ヽ{J:::::} / レ' |/ ̄|/|/| {   r、  「マリア様と見てる」
   /     | /  〉 || 弋,ノ    /  /レレ'', ry-//
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 レ'   .| | |ニニ\   \ |―――__\ /| ',   >
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     <レ'レ'   /  \_ `ヽイ   ̄`゙'' ̄ ̄'´   〉
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314創る名無しに見る名無し:2011/05/02(月) 19:44:17.49 ID:TFtuaSh2
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     // , |   >//.==r、,ノ,ノ// /ヽ  ', ノゥ
    / / // /  / ||ヽ{J:::::} / レ' |/ ̄|/|/| {   r、  「驚くなかれ――円周率は、およそ3.14だということ」
   /     | /  〉 || 弋,ノ    /  /レレ'', ry-//
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 レ'   .| | |ニニ\   \ |―――__\ /| ',   >
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315創る名無しに見る名無し:2011/05/02(月) 20:14:29.10 ID:0lOMj40C
いつの話だととろw
316創る名無しに見る名無し:2011/05/04(水) 19:05:41.90 ID:yBR6wGTq
【9条マスコット】"無防備ちゃん"のパンチラ画像がネットに流出 (画像有)
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281096529/
317創る名無しに見る名無し:2011/05/04(水) 19:09:58.90 ID:DAYxstOl
何故ここに?w
318創る名無しに見る名無し:2011/05/04(水) 20:17:08.72 ID:58WIiO7p
そう、それ(↑)は重要なファクターだ!
319創る名無しに見る名無し:2011/05/06(金) 16:57:02.75 ID:lZYD9leC
クロスネタがない・・・
ほんとにない・・・
320創る名無しに見る名無し:2011/05/06(金) 17:03:12.30 ID:5WnDEJUC
逆に考えるんだ。単品でやる。そう考えるんだ。
321創る名無しに見る名無し:2011/05/08(日) 04:52:14.60 ID:4imN9E2k
鈴絵さんの神社の規模ってどれくらいだっけ?
322創る名無しに見る名無し:2011/05/08(日) 05:04:14.18 ID:/vllfJv/
そういえば知らないな。
323 ◆G9YgWqpN7Y :2011/05/08(日) 20:14:37.36 ID:N6i+Ie8s
とりあえず神社は鈴絵一家だけで管理してるから、かなり小さめの神社のはず。
多分、正月とかだけお札売りのバイト雇ってると思う。
それでも祭りのときは、境内に屋台が建ったりしてそうな感じかも。

しばらく書いてなかったからリハビリ兼ねて投下。
めっちゃ短いよ。
324彼にとっては普通の日常 ◆G9YgWqpN7Y :2011/05/08(日) 20:17:32.27 ID:N6i+Ie8s

そこはある教室の一角。時は放課後。
一人の女子高生が半紙を前にして静かに座っている。
肩までしかない黒髪をポニーテールに結わえ、
釣り目がちな深い碧色の目は集中のためかより細く引き締まっていた。
すいっと右手で持つ筆が動く。

墨汁に浸された筆は勢いよく引かれ、白の半紙を黒く染めていく。
その筆の勢いは力強く、一気に書き上げられた。

少女はふっと息を吐きだし、書き上げられた半紙を覗く。
しばらくその書き上げられたそれを見つめ、ふと、その少女は呟いた。

「駄目だ〜」

妙に間延びした声とともに半紙をくちゃくちゃに丸め、ぽいっとゴミ箱へ投げる。
丸まった半紙はゴミ箱からあっさり外れ、床へと転がった。
その数、すでに30枚。だが、そんな事は気にしないとばかりにその少女は再び新しい半紙に向かう。

その時、彼女に向かって声がかけられる。

「おい。そのゴミ流石に片付けろよ。ここは部室であってアリサの部屋じゃないんだぞ」
「あひゃい!!」

その声に驚いたのか、意味不明な声を上げる少女。
アリサと呼ばれた少女は背筋を伸ばすようにすると顔だけを後ろに向ける。
その表情は露骨に不満げだった。

「西郷君〜。脅かさないでよ〜」
「ああ、悪い悪い。でも呼び出したのそっちだぞ。
たまたま演劇部の部活が休みだったから良かったけどな」

西郷と呼ばれた体格のよい少年もまた、文句を言うように話しかける。
ようやく体ごと西郷へとむけたアリサは両手をぱんっと合わせ、笑う。

「ああ〜そうだったね。ごめんごめん。でさ、ほら、もうすぐ母の日じゃない。
買い物に付き合ってもらおうと思ってね〜」
「そんなの、一人で決めればいいだろう」
「一人だと全然決められないのよ〜。西郷君お願いだからさ〜」

子供っぽく笑うアリサに対し、西郷は苦笑いを浮かべ、肩を落とす。

「アリサは昔からそうだったがなあ。いい加減それくらい一人で決められるようになれよ」
「……駄目?」

西郷の言葉に反応して、アリサはしゅんとなってしまう。
そして落ち込んだようにポツリと漏らしたアリサの言葉に、今度は西郷が慌てる番になる。
325彼にとっては普通の日常 ◆G9YgWqpN7Y :2011/05/08(日) 20:19:45.87 ID:N6i+Ie8s

「いや、そう言う訳じゃなくてなあ。……ああ、分かったよ。行けばいいんだろ行けば!」
「やったあ! 西郷君ならきっとそう言ってくれると思ってたよ〜」

途端、満面の笑顔になるアリサに西郷はやられたとばかりに再び渋面になった。

「ああ、また演技だったな」
「西郷君ってこういうのに弱いよね〜。だから西郷君って好きだよ〜」
「ああそうかい。はあ……ほら、さっさと行くぞ」
「西郷君、ちょっと待ってよ〜。置いてかないで〜」

ずんずんと歩き出した西郷に、アリサは慌てて書道道具を片づけると西郷の後を追いかける。
日が長くなった夕焼けで、二人の影が薄く長く伸びていた――。



一方その頃――

「また新しい女が近くにいる……嫉ましい……」

その姿を見ている少女が一人。
なんだかんだでやっぱり直接会いにいけない少女、西園寺聖子がこっそりと二人と見つめていた。



終わり。
ネタが全然思いつかないから新キャラまた出しちゃったw

以下新キャラ紹介


烏丸・アリサ

黒髪、碧色の目を持ったハーフの少女。
肩まで伸ばした髪をポニーテールにしている。
高校一年、普通科。西郷猛とは小学生のころからの幼馴染。
習字を勉強しているようだ。
非常に優柔不断で一人では中々決められない。
326創る名無しに見る名無し:2011/05/08(日) 20:42:33.13 ID:/vllfJv/
乙。
あの小学生危険だなw
327創る名無しに見る名無し:2011/05/09(月) 00:05:17.43 ID:2gLfnRNE
天野君を使って何か一作作ろうと思いましたが
他キャラと絡ませられるかどうか勇気が出ない有様です
とりあえず、近いうちにチャレンジしてみます
328創る名無しに見る名無し:2011/05/09(月) 23:36:02.13 ID:zz4Dv2Vq
俺を出せというクロス希望の連中はたんまりいるぜw
329創る名無しに見る名無し:2011/05/12(木) 17:01:19.12 ID:4QG7XBMK
>>325
乙。
目移りしちゃう子って可愛いよね。
ちなみに何て書いてたんだ?

ところで書いたばかりの半紙丸めたら手が・・・!
330創る名無しに見る名無し:2011/05/12(木) 17:04:08.31 ID:eq6o1gxi
墨ってシンナーとかジッポーオイルでとれるのかな?
331創る名無しに見る名無し:2011/05/13(金) 08:16:25.31 ID:wgfo5aK2
地方妖怪墨舐めがキレイにしてくれる
332創る名無しに見る名無し:2011/05/13(金) 11:08:14.47 ID:X7GhhW2X
あのスレ用か・・・
333創る名無しに見る名無し:2011/05/14(土) 07:33:23.75 ID:4lLm7Bzi
幼なじみなのに名字なんだな?
俺も小学生からの友達は名字で呼んでたりするから違和感はないんだがw
実は中学あたりから恥じらいで名字で呼ぶようになったとか、そういうロマンスでオーガニック的な何か
それを期待せずにはいられないのである。
334創る名無しに見る名無し:2011/05/31(火) 01:47:43.14 ID:DvQgbarv
このスレをアゲるとバタフライ効果でいつか俺に良い事が起きる。
335創る名無しに見る名無し:2011/05/31(火) 19:04:17.81 ID:nWMoQWuc
そういうこともあるでしょうが
そうでないこともあるでしょう


続きもとい別エピソードが気になるキャラはたくさんいるのに作者がのんびりしてるから
読者ものんびり。超のんびり
336創る名無しに見る名無し:2011/05/31(火) 19:46:10.89 ID:DvQgbarv
別エピソードか……。
337 ◆46YdzwwxxU :2011/06/01(水) 00:33:04.81 ID:hoT6yaBH
まず「先輩、○○○」の○○○が決まらないと何も書けないのだが、最近これというネタが浮かばない。
誰かお題くれよう。
338創る名無しに見る名無し:2011/06/01(水) 00:44:53.11 ID:s0/jt8h1
思い切って「先輩、○○○」から先輩を外してみようか。
339創る名無しに見る名無し:2011/06/01(水) 00:46:29.20 ID:hoT6yaBH
、○○○

アンパンマンに見えなくもないな
340創る名無しに見る名無し:2011/06/01(水) 00:53:31.02 ID:s0/jt8h1
後輩ちゃんがあんぱんを食べる話か……。アリだな。
341創る名無しに見る名無し:2011/06/01(水) 01:34:51.66 ID:luVuocD0
「先輩、相々傘です!」
「先輩、お部屋デートですか?」
「先輩、アイスの季節です!」
とか?
342創る名無しに見る名無し:2011/06/01(水) 23:18:16.11 ID:s0/jt8h1
さっき知ったが剣道でも二刀流ってちゃんと構えとして認められる場合もあるみたい。
伊庭さん試合に出れるよ!
343 ◆46YdzwwxxU :2011/06/03(金) 02:30:37.05 ID:gkrhatFW
ありがとう。
取り敢えずアイスで書き始めた。
344創る名無しに見る名無し:2011/06/03(金) 02:55:26.90 ID:KBPri+9U
wktk
345 ◆46YdzwwxxU :2011/06/09(木) 22:32:58.05 ID:iQOBiYqv
投下するお。

なんかいつになくひでえもんを書いちまったぜ……
346創る名無しに見る名無し:2011/06/09(木) 22:36:18.89 ID:iQOBiYqv


 放課後の学生食堂は、太陽から昼下がりとそう変わらぬだけの光を得ていた。
 夕陽に濃い赤が射すのを見るには、これからひと夏ぶんの時間を越えねばならない。

(んえ)

 後鬼閑花は、ストローを口元から離して、ピンクの舌先をちろと出した。
 パック入りのブラックコーヒーだ。酸味で口の中が縮み上がるかと思った。なんか納豆のような匂いまでする
気がする。猛烈にうがいと歯磨きがしたくなる後味だった。

(……ハズレを引きました)

 もしこのとき隣に文芸部を仕切る“本棚の魔女”がいたなら、「安物だからさ」と笑ったかもしれない。愛し
の“先輩”なら「酸味もコーヒーの味のうちらしいぞ」と言うだろう。
 自動販売機のボタンを一列押し間違えたのだった。“先輩”の前でわざとスキを作るのとは違う、素では珍し
い正真正銘のドジだ。
 いかにもギターをギュインギュイン掻き鳴らしていそうな金髪男が、目の前で自販機のアナウンスに陽気に挨
拶を返すなんてことをしていたので、柄にもなく動揺したのである。その行為は、彼女がいつも人間に対する皮
肉として行っているものでもある。

(あのチャラ男、いつか必ず原子の塵に変えてやります……)

 後鬼閑花の怒りは、彼女にしか理由を理解できないていどに理不尽にすぎた。同時に、そんな逆恨みからの復
讐を完遂できるほど度胸も執念も長持ちしないのがこの少女ではあるのだが……。
 不良(日本人のくせに金髪なんて不良に決まっている!)のことをテキトーに意識の外に追いやり、後鬼閑花
は差し当たり不味いコーヒーを片づけることにした。
 これは効き目覿面の飲み薬だと自己暗示を掛ける一方で、いつものように先輩の攻略法を思索する。
 それなりに好感度は積み重ねて来たはずだが、実際のところあまり進展はない。

(そろそろ先輩にイッパツ、えろイベントでもカマして、私のことを意識せざる得なくなるようなドッキ☆ドキ
な展開に持っていきたいところですが……)

 男性陣が知ったらドン引き間違いなしのひどい内心だが、そのすべては作り物のような顔の裏に綺麗に隠れお
おせていた。

(先輩はそういうの嫌がるかな? それかオフザケと思われるかも)

 ギャルゲー的なフローチャートをなぞっても、明るい未来予想図はひとつも浮かばない。何だったら、このま
まではバッドエンドにまっしぐらだ。
347創る名無しに見る名無し:2011/06/09(木) 22:40:46.72 ID:iQOBiYqv
 これまでやりたい放題やって来たツケと言われればそんな気もするが、“先輩”先崎俊輔は後鬼閑花の演出す
るエロに対してすっかり耐性を付けてしまった感がある。

(そこで。思うに今の私が目指すべきは、さりげないえろさ。見えそうで見えないのがイイんだけど、やっぱり
見たいものは見たい!的な。めくるめく詩とメルヘンとチラリズムのセカイ……)

 ろくでもないことを考えているうちに、手にしたパックは頼りないほど軽くなっていた。ごみ箱にポイ。

(そのためのフューチャーガジェット(未来的小道具)を精選する必要があるでしょう……
 ……あら?)

 ふと、後鬼閑花は視界の疎らな人影の中に、聳え立つそれを見つけた。

(ちんぴら(大)だ……)

 あんな頭の悪そうなリーゼント男、この仁科学園にはひとりしかいない。
 興味の欠如から他人の顔や名前をなかなか覚えられない後鬼閑花には、彼の見た目のインパクトはありがたか
った。大型台という文字列まではすぐには出てこないけれど。
 オセロのときと“茨姫”のときには、ちょっとだけ言葉を交わしたこともあったような記憶もあり、まったく
知らぬ間柄でもないが、今のコマンドは「他人のフリ」一択だ。だって恋の下準備に忙しいし。
 ところで、往年のワル・ファッションでいう“リーゼント”は誤用で、あれは正確には“ポンパドール”とか
いうヘアスタイルらしいが、そんなことを逐一指摘するアホなど不良業界では生きていけなかったのだろう。後
鬼閑花にとっても、ハッカーとクラッカーの混同よりどうでもいい。
 それより。

(不良もいちごミルクなんて飲むんだ……)

 観察していると、リーゼント男の骨張った腕は、自動販売機からピンクのパッケージを引きずり出していた。

(……似合わねー)

 情け容赦なく辛辣な評価を下しながらも、なぜか目を離せなかった。
 写真に撮って額に入れて飾ったら、しばらくは見る度にクスリと笑えそうなシュールな光景ではあったが……。

(――――はっ!?)

 そのとき、後鬼閑花の頭脳に電光が走った。
 気合いを入れて編みこまれたリーゼントのかたち。ミルク。そしてエロス。
 それは、冷たくて甘いスイーツを連想させた。夜ごと暑さを増してゆく季節(いま)を爽やかに彩るビューリホードリームとも言えるか。

「これだ」

 邪悪な表情で口の端を吊り上げる後鬼閑花十六歳を止めてくれるお人好しが、残念なことにいなかった。


  後輩とアイスと最も単純な電気回路


348創る名無しに見る名無し:2011/06/09(木) 22:45:00.99 ID:iQOBiYqv

「先輩、ご休憩にアイスはいかがですか?」
「クーラーボックス!? お前学園に何持って来てんの!?」

 その日俺の前に姿を現した後輩もといアホは、でかく厚ぼったい合成樹脂の箱を、これ見よがしに肩からぶら
下げていた。
 もちろん、ここは仁科学園の構内である。放課後や昼休みですらない、ただの長めの休み時間だった。

「そこまでして学園でアイス食おうとするやつ初めて見た……」
「ふっ。アイ・アイサー(愛・氷菓戦士)として当然のたしなみ」
(意味分からん)

 年季の入ったクーラーボックスをいとおしげにぽんぽんと掌で叩くダメ後輩。仁科ほんとう変な奴多いなー!

「先輩はアイスクリーム、お好きですよね?」
「アイス……は、あんまり自分で買ってまでは食べないが。まぁ、好きだぞ」
「ですよねですよね!」

 訳知り顔でひとしきり頷く。お前が俺の何を知っているというんだとツッコミを入れたい気持ちも多少はある
が、すまん、既にこの事態に収拾をつける自信がない。

「やっぱり先輩はアイスクリームが好き……(1)」
「ん」

 確認するように口にし、後輩は可愛らしく(と評するのは俺としては癪なのだが)人差し指をぴんと立ててみ
せた。さりげなく首や腰の角度まで変わっているあたり芸が細かい。男心をくすぐる所作については、ほんとう
によく研究していると感心する。もうちょっとヨゴレっぽさを隠せれば最強なのに。

「私もアイスクリームは好きです……(2)」

 もう一方の手でも同じように指が立てながら、後輩は言葉を並べた。やや外側に傾いで空を射すふたつの指先。

「ゆえに」

 後輩が、ふたつのほの白い指の腹を、胸の前で重ね合わせる。この世界で最も単純で美しい電気回路を想う。
349創る名無しに見る名無し:2011/06/09(木) 22:47:17.85 ID:iQOBiYqv
 ……んだが、たまにそういう詩的な表現をしてみたところで、このガッカリ後輩がそれを台無しにしないはず
もないのだった。

「(1)と(2)により、先輩は私が好き!」
「証明失敗な」

 むしろチアガールのように、拳を突き上げながら跳びはねてガッツポーズを決める後輩に、間髪入れずに〇点
をつけてやった。

「つか三段論法的には、俺とお前がイコールになるんじゃね」
「そ、そんなっ!? どちらがどちらか分かんなくなるほど激しく乳繰り合って……ッ!?」
「……なあ素で訊くけど、女の子的にそれってセーフな表現なの? まだ夢を見てたい俺としてはマジ止めて欲
しいんだけど」

 謎話題に謎クーラーボックスに謎論理展開に謎ジェスチャーに謎妄想。後輩は今日も謎まみれだ。何か致命的
に間違った貫禄が付いて来た彼女の明日はどっちだ!?

「うんせっ」

 切り替えの早さに定評のある後輩は、クーラーボックスを重たげに持ち上げると、断りもなく俺の机の上にど
かりと置く。
 そのまま流れるような動きでフタの留め具に手を掛け、

「キョエエッ!!」
「その掛け声いらねえ……」

 奇声を上げながら、やけに大仰な動きでクーラーボックスを開け放った。
 先の一生懸命な感じの「うんせっ」との落差にちょっと泣けてくる。

「ご覧ください、これこそ、創作部の浅野士乃さんのつてで手に入れた、本場高知の“1×1あいすくりん”で
あるのです!」

 そういや以前、「断然、あいすくりんが好き」とか言っていたっけ? よく覚えてないけど。
 開かれたクーラーボックスの中には、三連のアイススタンドが固定されており、同じ数だけコーンのアイスク
リームを挿してあった。
 それはそうと……

「……後輩よ、何やら強烈な違和感があるのだが」
「何でしょうか」
「こういうコーンのアイスって完成した状態で運ぶようなものなのか? コーン湿気たりしないか?」
「よく分からなかったので」

 しっかりしろ愛・氷菓戦士(アイ・アイサー)。
 お前テキトウにスイーツを食べ歩きしてりゃいいってもんじゃないだろうに。
350創る名無しに見る名無し:2011/06/09(木) 22:50:14.18 ID:iQOBiYqv
 いや、この際、愛・氷菓戦士の疑惑の愛などどうでもよい。
 後輩の持って来たあいすくりんは、コーンは恐らくへにょへにょになっていると思われるが、確かに美味そう
な香りはしていた。
 ……まあ、おにぎりの海苔にだって、ぱりぱり派としっとり派がいて、コンビニの裏手でいつ終わるとも知れ
ぬ光と闇の戦いを繰り広げているという話だし、そもそも大した問題ではないのか?

「どうです? この、ニワトリさんのタマゴさんと牛さんのお乳さんの奇跡の配合により爆誕した怪物アイスク
リーム。まさにプラチナの輝き。星屑ロンリネス」
「敬称そんないらないだろ」
「とにかく! 健気な私ってば先輩とキャッキャウフフあたまキーンしたくってこれを調達したのです! 閑花
ちゃんマジ後輩! ご褒美に撫で撫でして愛を囁いたって、ええんよ、ええんよ?」
「あのな」
「……ええのんよ?」

 相変わらずの押しの強さ。
 今どき少女漫画でもなかなか見ないうるんだ瞳に思わずほだされそうになるが、ここは心を鬼にする。後輩は
まったく危険な女だ。悪女2号になれる未完の大器かもしれない。

「で? どんな下心があってこんなものを」
「とろけたアイスクリームってえろすぎですよね!」

 ……。
 いかん……。爆弾を掘り当ててしまったようだ。それも思ったよりでかいの。
 後輩は自分ひとりの世界に浸ったかのようなきらきらの目で、語る、語る。

「なんちゃってブッ●け、そこからのペロペロやんやん。冷たさを活かした蝋燭的な応用。アイスバーなら●●
●に●●して我慢させるなんてのも……うふふっ! イイですねっ! これすっごくイイですっ!」
「……ごめん。俺はさ、伏せ字にしても許されないものがここにはあると思うんだ」

 この愛・氷菓戦士はダメだ。不純物が多すぎる。
 げんなりとして、とてもアイスクリームなど喜んで食べていられる気分ではなくなり、丁寧にお断りさせてい
ただくことにした。
 結局のところ――
 産地直送のあいすくりんは、ちょうど意中の人にいまいち想いを伝えられずヘコんでいた河内さんと、その親
友の上原さんに振る舞われたらしい。
 「こんなのキズの舐め合いですよね。……アイスだけに」などとほざく後輩の、ウケることを期待している顔
が、俺の心に残っていた一抹の罪悪感すら消し飛ばして、この事件は後味も爽やかに闇に葬られたのだった。



 おわり(※大型台がいちごミルクを買っていた理由が、本人が愛飲しているからとは限りません)
351 ◆46YdzwwxxU :2011/06/09(木) 22:53:19.62 ID:iQOBiYqv
以上投下終了。

いつもお下劣でごめんなさい。……いやマジで。

なお、特定のキャラクターに対する不適切な表現のあれこれは、あくまで後輩個人の感想であり、
作者の抱いている印象を代弁するものではありません。
だが謝る。

台のいちごミルクについては、ここから別の話に繋げるのもアリかなと思ってのネタで、
特に新設定のつもりではないです。ご了承ください。
……個人的には、別に台が飲んでても驚かないけど。
352創る名無しに見る名無し:2011/06/10(金) 00:12:22.31 ID:9p2hohy9
これはひどいwwwww先崎は再びこめかみをグリグリお仕置きしたほうがいいwwwww
導入部分も後輩の人間性が見えてええ。懐と後輩じゃまったくソリ合わなそうだし、台の印象も普通の人(?)からみりゃオールドスクールな不良だしな。

しかしこれはひどいwwwいいぞもっとやれwwwww
353創る名無しに見る名無し:2011/06/10(金) 01:10:39.19 ID:yAgBX40Y
良い意味でやかましいわww
354後輩を動揺させたシーンの想像図:2011/06/10(金) 17:39:08.53 ID:9p2hohy9
自販機『いらっしゃいませ』

懐「Hey Honey!」

自販機『お元気ですか?』

懐「it's Great!」

自販機『お飲みものをどうぞ』

懐「Oh Cool」

自販機『ボタンを押してください』

懐「I sure I sure」

自販機『ありがとうございます』

懐「なんでおしるこ出てくんだ金返せ!」

自販機『いらっしゃいませ』

懐「自販機が僕をイジメる!」




なんだこれ?
355創る名無しに見る名無し:2011/06/11(土) 14:50:46.88 ID:e5wM4WIk
おしるこ出てからの変貌にワロタ
356創る名無しに見る名無し:2011/06/13(月) 22:46:46.76 ID:uBrIi2Ik
上原梢のキャラがいまいち掴めないんだが、原作者やみんなはどんなイメージで見てる?

語尾が伸びることかあるのと、静奈を可愛がってサポートしたりするのは分かるが、
誰か似通ったイメージのキャラとかいないかのう。
まあ、設定がキャラを規定するとは限らないが……

いつだったかコレジャナイをやらかした苦い記憶から出しづらい。
357創る名無しに見る名無し:2011/06/14(火) 02:31:49.54 ID:AmabZNzO
さくっと快活なイメージがあるなぁ……。

ツーバードのちっこい方と絡んだら忙しそうw
358 ◆Q1QEUibokM :2011/06/18(土) 16:42:44.77 ID:LRVCwGZs
上原梢について話題が出ていたようなのでちょっと書いてみた。
しかしこれで梢のキャラを掴めるか微妙な気がするが、せっかく書いたので投下してくことにします。
359上原梢のミステイク!? ◆Q1QEUibokM :2011/06/18(土) 16:44:16.94 ID:LRVCwGZs
 放課後特有の心躍るざわめきが、仁科学園の廊下に満ちている。
 温かな日光の差し込む窓は綺麗に磨かれており、リノリウムの床には埃一つ見当たらない。
 この廊下を担当する掃除当番は、ずいぶん丁寧な人物なのだろう。
 そんな気持ちの良い廊下の真ん中を、背の低い女子が部活へと向かっていた。

「うーん……」

 両側で結んだツインテールが印象的な彼女はふと、その活発そうな顔立ちには似合わないような唸り声を上げる。

「どったの梢? 足が長くなる魔法でも考え中?」
「ちーがーうー。そんなの考えなくていーの! これから伸びるんだから!」

 彼女――上原梢は頬を膨らませ、隣を歩く部活仲間をじっとりと睨む。
 その様はハムスターのようで愛らしく、けらけらと笑われてしまうだけだった。
 笑い声を溜息で流してやると、友人は笑みを呑み込んで梢を覗き込んでくる。

「ほんとどったのよ? なんかアンニュイじゃん?」

 さっきの軽口とは違い、割と真剣な様子で聞いてくる友人に、梢は苦笑いを返すだけだった。

「や、ごめんごめん。ちょっと気になってることがあってねー」

 決して大ごとというわけではない。
 ただ梢は、親友のロマンスについて思い悩んでいるのだった。
 梢の親友、河内静奈は牧村拓人に恋をしている。
 それも、熱烈な。
 愛しの彼をボーっと見つめ、うっとりしていることなんてしょっちゅうだ。
 彼のことを話す静奈はとても幸せそうで、とても可愛らしい。
 だというのに、静奈と拓人は付き合っているわけではない。
 上手くいってほしいと思う。
 心底そう思うのだけれど。 
 二人が特別親しいわけではないのが困りものだった。
 彼氏彼女である以前に、親しい友達であるかも微妙だというのが梢の所感だ。
 極度のアガリ症の静奈は、拓人とまともに話すことさえできないレベルである。

 最近出来た友達である、『後輩ちゃん』こと後鬼閑花の肉食さを多少は見習ってくれればいいのにと思わなくもないのだが、なかなかそうはいかないだろう。
 なんとか手伝ってあげたいと思ってはいるのだが、恋愛経験の乏しい梢にはどうにも上手い手が見つからないでいた。
 加えて、梢もそれほど拓人のことを知っているわけではない。
 少なくとも彼女はいないということはリサーチ済みだが、好きな人がいるかなどはよく分からないのが現状だ。
 そんなことを考えていた矢先、梢は視線の端に一人の女子生徒を捉える。
 背が高めでボブカットのその人を見つけた瞬間、梢の頭上で電球が輝いた。

「ごめん先行っててっ!」 

 あっけにとられる部活仲間を置き去りにして、瞬発力に任せ廊下を駆け出し、叫んだ。

「すみません、秋月せんぱーいっ!」 
360上原梢のミステイク!? ◆Q1QEUibokM :2011/06/18(土) 16:47:10.22 ID:LRVCwGZs
 視線の先、あくびをかみ殺し振り向いた秋月京へ、梢は大きく手を振った。

 ●
 
 初めて訪れたコスプレ部部室は、興味深いものでいっぱいだった。
 たくさん並ぶ可愛い衣装を気にしながらも、梢は秋月京にまずは謝罪を口にする。

「ごめんなさい、急にお邪魔しちゃって」
「んーん、気にしないで。いらっしゃい、可愛いお客さん。歓迎するわ」

 飲み物を用意してくれる京に礼を言って、湯気を立てるマグカップに口をつける。アップルティーの甘い香りが心地よかった。

「あなた、静奈ちゃんの友達よね? 上原さん、だっけ?」 
「はい、上原梢です。あの、実は折り入ってお伺いしたいことがありまして」

 実は、梢は京と親しいわけではない。
 静奈を通して多少の面識がある程度でしかないのだが、物怖じしない度胸と静奈の恋を成就させたいという想いが、梢を突き動かしていた。 
 
「先輩って、牧村拓人くんと仲いいんですよね?」

 演劇発表会の時、『先輩に頼まれてることがあるから』という理由で拓人は観劇していなかった。
 拓人に似ている人物が劇に出ていたような気もしたが、あれはきっと別人だろうと梢は思っている。なんかやけに可愛かったし。
 ともあれ、二人は頼みごとをする程度の仲であるらしいということは分かっていた。 

「うん、超仲良しよ。私の専属モデルだもん」

 やった、と梢は内心でガッツポーズ。

「じゃあ、色々詳しくお聞きしたいんです! 彼のこと! できれば根掘り葉掘り、女子目線で!」 

 これが梢の狙いだった。
 拓人本人には聞きづらいことや、自分たち以外の女子から見た『牧村拓人』像を知ること。
 それができれば、拓人への最適なアプローチを立案できると踏んだのだ。
 静奈は不器用だ。
 でも、頑張り屋さんないい子だから、とっかかりさえできればきっと上手くやれると梢は信じている。
 そのために。

「お願いしますっ! 教えてくださいっ!」 

 ツインテールを靡かせるほどの勢いで頭を下げて頼む梢の正面で京は、ゆっくりと腕を組む。
 そして目を閉じ、深く息を吸って、吐いて。
 大きく頷いた。

「そっか、上原さん。あなたも拓ちゃんに魅せられたのね……!」
「はいっ! ……はい?」

 ほぼ反射的に返事をした後で、京の声音が変わっているような気がした。
 恐る恐る顔を上げると、満面の笑みの秋月京がそこにいた。 

「うんうん、そっか。そうよねー。あんな可愛いコ、なかなかいないもんねー。OK、任せて!
 色々あるわよー。あ、もちろん拓ちゃんの同意とってあるものばかりだから安心してね?」

 満足げに言い切り、京が立ち上がる。
 鼻歌交じりにアルバムを取り出し、少女趣味な衣服を数着手に取っていく。
 やけに楽しそうな表情だったが、瞳がそこはかとなくアヤシく光っているように梢には見えた。
 背筋に嫌な汗を感じる。なんだか顔も引き攣っていそうな気がした。
 
 ――あれ? あたし、何か間違えた……? っていうか、同意? 安心……?
 
 何よりも京の言動に不安を覚えながらも、突然訪ねてきた身の上で、今更帰るとは言えない梢であった。
361 ◆Q1QEUibokM :2011/06/18(土) 16:49:32.92 ID:LRVCwGZs
投下終了。
多少はキャラ理解につながればいいなー。
362創る名無しに見る名無し:2011/06/19(日) 15:45:06.42 ID:vWEJech6
さすがブレない京さんw
363創る名無しに見る名無し:2011/06/25(土) 00:12:37.04 ID:V2ZL9b+8
梢ちゃんが可愛くて友だち思いなのは理解できた。
ほんまにコスプレ部はファッショナボー・インフェルノやでえ…
拓人の人物評も気になるとこではあるが
364創る名無しに見る名無し:2011/06/25(土) 11:14:16.97 ID:Kv/kEwWH
???「えっ、鬼畜攻めじゃないの?」
365創る名無しに見る名無し:2011/06/25(土) 12:20:32.55 ID:V2ZL9b+8
腐ってやがる……!
366創る名無しに見る名無し:2011/06/28(火) 15:19:22.51 ID:suqOesdm
ふーちゃん「そろそろ一年ぶりに出番ね……」
367創る名無しに見る名無し:2011/06/29(水) 22:43:27.13 ID:5J7G1pRD
学校の……猥談……
368創る名無しに見る名無し:2011/06/30(木) 03:36:00.46 ID:yqf3+8IL
猥談やり続けそうな面子はそろってるから困るw
369創る名無しに見る名無し:2011/07/01(金) 08:33:04.56 ID:oV5hEkKq
女の方が猥談しそうなキャラ多そうだなw
370創る名無しに見る名無し:2011/07/01(金) 08:50:26.91 ID:GXLz4n58
某後輩なんて知識だけは一人前っぽいw
371創る名無しに見る名無し:2011/07/01(金) 19:19:36.55 ID:5Kc+O7ZT
あの子はエ○ゲーのやりすぎだと思われる
372創る名無しに見る名無し:2011/07/01(金) 21:10:56.75 ID:/5KDxEj4
やってんのかいwwwwwwwwwwww
373創る名無しに見る名無し:2011/07/03(日) 01:28:43.21 ID:aTj1Y7dD
仁科学園の生徒は予習を欠かさないということか
374創る名無しに見る名無し:2011/07/03(日) 04:51:39.22 ID:3cZbi2ty
普通の勉強しようぜw 高校生だろw
375創る名無しに見る名無し:2011/07/03(日) 20:59:49.89 ID:aTj1Y7dD
性教育なら!
376創る名無しに見る名無し:2011/07/09(土) 21:52:39.72 ID:f5O02Xte
新作マダー?
377創る名無しに見る名無し:2011/07/10(日) 03:30:43.60 ID:pG/+EcdY
そういえば編入を目論んでた人がいたなw
378創る名無しに見る名無し:2011/07/10(日) 14:18:17.64 ID:EbJdFZ6L
半年ROMるって言ってくれた人がいたけど、
半年だいぶすぎちゃってるな……
さみしい
379創る名無しに見る名無し:2011/07/10(日) 14:40:11.93 ID:iny/kNDz
それは俺だなたぶんwww>>169だろ?
一応全話追えてるぜww
380創る名無しに見る名無し:2011/07/10(日) 14:41:59.54 ID:pG/+EcdY
もっとレスしたり投下したりしてええんよ? ええのんよ?
381創る名無しに見る名無し:2011/07/10(日) 18:46:36.91 ID:EbJdFZ6L
せやせや!
せっかくのブルー・スプリング。
この勝負レスするが勝ちだぜ!?
382創る名無しに見る名無し:2011/07/14(木) 21:10:07.17 ID:ylyccgJr
そういえば最初にこのスレで「ええんよ?」って言い出したのだれだっけ?
383創る名無しに見る名無し:2011/07/14(木) 21:42:35.59 ID:7bb/vUpS
ログを検索に掛けたら分かるかな。ただ、今の俺は携帯厨なので無理。
384創る名無しに見る名無し:2011/07/14(木) 21:49:46.62 ID:RGfLNT+b
最近の後輩しか出なかったw
たしかその前にも居た気がするが、なんかそれも後輩っぽいw
385創る名無しに見る名無し:2011/07/14(木) 22:50:02.91 ID:7bb/vUpS
うーん記憶にないなー
確かに誰かが言ってたような気はするんだが、気がするだけかも?
386創る名無しに見る名無し:2011/07/14(木) 22:54:58.94 ID:ylyccgJr
雑談でちらっと出たのが最初だったはず。で、じわじわ拾う人が出始めたw
387創る名無しに見る名無し:2011/07/14(木) 23:01:27.16 ID:7bb/vUpS
俺このセリフ結構好きで使用頻度高かったりするんだが、このスレで使ったっけなー?
388創る名無しに見る名無し:2011/07/14(木) 23:06:05.66 ID:ylyccgJr
俺はこのスレでしか見かけないしこのスレでしか使わないなw
389創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 00:33:16.03 ID:IDiAyzjj
妙に印象に残ってるフレーズってあるよな。
まったくのオリジナルでないのもあるんだろうけど、そこらへんもセンスってことか。


「……なぐるよ?」(※と那賀を威嚇してた巫女さんは水玉模様でした)
 敗北感という事とは。(※この作者はタイトルが面白い)
「その恋に、幸多かれ!」(※貫禄の決め台詞)
 ……梢ちゃん、ぐっじょぶっ!……(※恋する乙女こそ最強であるという証明)
「今、とてもお手すきですっ!」(※何故か一番好きな台詞のひとつ)
「楽勝だぜ!」(※楽勝らしい)
『あーちゃん』なんて子は知りません。何処の誰ですか。(※なんかショックな台詞だった)
「仁科最強の連中さ……」(※最強です)

個人的にはこういうの。
あと、ここのキャラにはあまりないけど口癖とか、よく使う言い回しとか。
390創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 00:50:56.93 ID:58X4uuqR
意図的に言わせてた言葉はあったけど今みたらそんなに言ってなかった
391創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 00:54:48.13 ID:IDiAyzjj
あるあるw
392創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 00:59:37.12 ID:j6zzTBeY
それに言わせてる言葉が絶対印象的ってもんでもないしなw
393創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 18:39:25.21 ID:IDiAyzjj
まあ、印象にも色んな種類があるしね。
印象に残すためにフレーズ考えるのもいいけど、それだけってのも何かなw
……俺か
394わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/07/16(土) 04:50:25.96 ID:MbBlvQms
投下します。
395演劇の犬 ◆TC02kfS2Q2 :2011/07/16(土) 04:52:27.15 ID:MbBlvQms
 夏の草木に囲まれて中庭のお子様プールがぽつんと浮かぶ。お子さま体型の荵のことなので、色気というものは全く感じられない。
しかし、小学生が初めて身に着けるようなパステルカラーの水着は学内で見ると異様に映る。おまけにイヌの浮き輪を片手に
はしゃいでいる荵の姿はどう転んでも場違いだが、なぜか「荵だから仕方ないか」と見るものはあきらめざる得なかった。
 
 「今年の夏はなついねえ!」
 と、浮き輪でバタ足を始めたかと思えば
 「うおー!イヌ掻きすんよっ!わたしのイヌ掻きは最速だよっ」
 と、しぶきを上げる。
 荵の身の丈ほどしかないお子様プールでイヌ掻きすると、水しぶきに包まれてプール自身がうごめいているようにも見えた。

 夏にはしゃぐ者いれば、夏に悔やむ者あり。
 校舎の窓から眺める荵の姿は、制服姿の荵と変わらなかったと迫は諦めにも似たため息をつく。それに口を挟むように
荵を羨ましく思うのは後輩の黒咲あかねだった。出来ることなら荵のように太陽のの日差し、宇宙の恵みに感謝したいけど、
そんな気分ではない。あんなことにならなければ、今頃荵と一緒にはしゃいでいたのかもしれない。無論、お子様プールではないけれど。
 ゆっくり流れる夏の雲。ゆっくりなびくあかねの黒髪。一足速く秋が来たかのような顔のあかねを迫は「諦めろ」とたしなめた。
自分の気持ちがこの国の四季のように流れてゆけば、どんなに自分が楽になるんだろうか。季節ってヤツは利口だ。
春、夏、秋、冬と否応がなしに流れてゆくから、時が物事を解決してくれる。けれども、夏になったばかり。
 秋が遠い。

    #

 「迫先輩は誰かを好きになったことがありますかっ」
 
 答えにくい質問だった。うそは言えないし、本当のことを話すとややこしい。まだ、梅雨の残っている時期だというのに、
雨空を一掃するような答えを返せなかったことに迫は唇をかんだ。雨音が激しい。コンクリの壁から水無月の香りがする。
 迫はとにかく真顔でそんな質問をする黒咲あかねに何とか答えをしてやりたい。でも、それよりあかねがどうしてこういう質問を
してくるのかが迫にとっては重要だった。何故、自分にこんなことを聞きたいと思ったのか、と。
 迫とあかねは演劇部の先輩と後輩の関係というだけだ。迫もそれ以外考えたことは無い。だが、あかねからすれば先輩以上の
想いがあってもおかしくは無いはずだ。迫の答え一つであかねを傷つけるかもしれないと、迫は答えに窮していた。
 
 「どうして、そんなことを聞く」
 「知りたいんです」
 「何故」
 「必要なんです。わたしに」

 あかねは演劇の道に入ってそれ程長くは無い。みんなで作り上げる演劇を魅力的に感じたあかねは部室の扉を叩いた。
そして初舞台での練習のこと、先輩であった迫はあかねのセリフに耳を止めた。それは台本ではなく、アドリブでのセリフ。
誰もがあかねのセリフまわしに心奪われた。この子を逃がしてはいけない、ぜひ文書を書かせなければ……と。
 それ以来、あかねは迫から台本を書くことの楽しさを教えられてきたのだ。ただ、それだけの関係に過ぎない。
396演劇の犬 ◆TC02kfS2Q2 :2011/07/16(土) 04:54:29.49 ID:MbBlvQms
 「たとえば、今まで意識していなかった人が恋しくなったりとか」
 「ないね」
 「じゃあ、恋が芽生えても離れ離れにならなければならなくなったときの辛さとか」
 「そんなことはまだ感じていない」
 正直に答えているだけの迫に罪はない。
 
 「あれだろ。おれを台本のネタにしようとか」
 「ところで、久遠は?」
 
 夏の空模様と、女の子の話はくるくると変わりやすい。自分の質問がすかされたことはいつものことだから、迫は単純に「いない」と
みどりの黒髪の少女に答えを返してやった。それにしても演劇部の同級生、久遠荵の姿が見当たらない。いつもなら暇さえあれば
部室の中で「わんわんおー!」と小道具片手にはしゃいでいるはずなのだが、今日に限って犬小屋から姿を消して首輪を外している。
 荵と会わなかったことは考えていた通りだとあかねは胸をなでおろす。だいたい久遠のやることはあかねには分かるらしい。
 お外に出ていたあかねの気持ちは迫に諭されてハウス!脱線した話を修復する。

 「夏休み公演のお話が思い浮かんだんです」
 「あれか。参加するつもりなのか」
 「梅雨前の発表会を見て出たくなったんです」
 演劇部では2、3ケ月おきに部内でご褒美つきの発表会を行っていた。
 部内でいくつかの班に別れ、少人数だけで一つの劇を作り上げること。そして今回は、部内で優秀だった者は街の夏祭りの舞台に
出ることが出来るという。学園公式ではないもの、切磋琢磨が目的の部内発表会だった。少人数だからこそ小回りが効くし
逆に制約がつくことで毎回これで頭を悩ませる部員も多い。いつものような、みんなで作り上げる仲良しごっこではなく、
ライバル同士の作業にあかねは始め戸惑った。それを後押ししたのは荵だった。この子なら頑張れる……と。
 荵もその話を聞くと表情を変えないものの首を縦に振った。普段なら「わんわん!やるよ!」というはずだが、
あかねは親友の目を信じることにした。その日からあかねは表情を露にしないものの、寝る間を惜しんでノートと睨みあっていた。
 迫は本人の希望でこの公演では彼ら、彼女らを見守ることにしていた。そして、あかねは迫に内容を隠さずに打ち明ける。
 
 「イヌだった娘と少年の話、です」
 迫のメガネが切れかけて点滅している電灯を映しこむ。
 「真っ白なイヌが神様にお願いして人間の娘になるんです。でも、ただのイヌから人間になって、
  人間が当たり前だと感じていたことを彼女は初めて感じるんです。それは、誰かを好きになること。
  イヌでいる間はなんとも感じていなかった。遊んでくれて、いっしょにいてくれる存在だった人間。だけど、自分が人間になって
  それ以上の感情が分かる存在なんだと知ったとき、初めて彼女は恋心を抱きます。ケモノだった自分からの開放」
 
 ケモノだから?
 イヌだから?
 同じ生きとし、生けるもの同士なのに?
 
 想い人の姿を目に入れる自分が恥ずかしくなるような錯覚。
 人間にだけ許された「好きになる」感情をケモノは手に入れてはいけない。果たしてそうなのか。迫はメガネを摘む。
 「でも、幸せなときは長く続かない。彼女は神様から再び元のイヌへ戻るようと告げられます。
  それは、ケモノが人を好きになってしまったからという『罪』の咎として。神への反抗として」
 全貌を聞いた迫に、いくつかの疑問が生じた。
 これはあかねと荵の舞台だ。では、少年役は誰がするのか。何故、あかねは荵がいなかったことを幸いとしたのか。
そして、果たしてあかねはいったい何を考えているのか。雨音が強くなるに連れて不安が増す。
397演劇の犬 ◆TC02kfS2Q2 :2011/07/16(土) 04:58:01.46 ID:MbBlvQms
 「いいのか、打ち合わせとか」
 「ありません。久遠には台本を渡しません」
 さらりとあかねは言い返したが、正解なのかは分からない。荵の思い描くセリフをいつも見ているあかねは、アドリブで
この舞台を荵という忠犬と共に挑んでみたかったのだった。いつもやっているエチュード、それを思い出せばよい、と。
 
 「このお話、イヌの娘は人間からの会話で動き始めます。元々、イヌだった娘と全く同じ状態です。なので、台本は一人分で十分」
 「賭けだよな」
 「ほんのさわりと役柄、そして結末だけ久遠に教えてあげるんです。思った通りに久遠が動くよう本を書いていますから」
 風車を見て巨人と思い込む勇者。友に空白の舞台を全て任せた少女。さして変わりは無い。
 
 「あの子なら……尻尾を振ってやりますよ。『演劇のイヌ』ですから」
 「そのまんまだな」
 演劇に出会って得たもの全てが荵を育み、荵が得たもの全てを演劇に賭ける。
 これからずっと、これからきっと、一緒に歩いていくんだから『イヌ』と呼ばれても構わない。全身で恩返ししてやるんだから。
演じること、よき信頼関係で居たいという意味で、あかねは敢えて荵のことを『イヌ』と呼んだ。
 「黒咲はだんだん誰かに似てきたな。楽しみにしているから」
 「わたしは出ません。この本、迫先輩のために書いてきたんです。多分、ぴったりです」
 「やめとく。おれはそんな賭けなんかしない主義なんだ」
 「賭けていないんですか。演じることに」
 「賭けてるよ。失敗する方へ」

 初めて先輩にあかねは目に光るものを見せた。
 外の天気がそうさせているからと、言い訳できれば良いのに。

   #

 事実、賭けは迫の勝ちだった。あかねは荵を買い被り過ぎていた。
 試しに部室で迫と荵はあかねの台本どおりに進行してみた。しかし、穴があった。荵はそれほど単純な子ではないということと、
荵はあかねが思っていたほど動いてくれなかったということ。本を書くのがいくら好きでも、荵には耐えられなかった。
 そして、あかねはエントリーを取り消した。

 そのことを未だに悔やむあかねは、すっかり夏色に染まる荵に焼いていたのかもしれない。
なぜなら、部室の窓からお子様プールの荵を眺め続けているのだから。秋にも発表会はあるだろと、迫にまで気を遣わせる始末。
 「多分、久遠荵はこの件を本能的に避けたかったんだろう。でも、おまえの願いだから受け入れた」
 「……ですかね」
 迫の返事はしないことで結論付ける。
 あかねだって承知だ。不安になってすがりより、迫に弱音を吐く姿は荵に見せたくはなかった。
中庭から荵の空を突き抜けるような声が通る。
 「久遠はこの間のことを……」
 「忘れてないよ。だってイヌは恩を一生忘れないからって言うだろ。黒咲のことを恩に思っているだろうからな」
 「えっ」
 中庭からの声。夏色の声。
 「いいこと思いついたのだっ!夏は力持ちだぞ!今度はあかねちゃんにわたしが脚本を書いてあげてあげるのだっ」
 
 思わずあかねは「久遠っ」と反応するや否や、
 荵はお子様水着姿で「わんっ」。
 
 迫は一言呟く。

 「……な。アイツはイヌだから忘れないって」

 あかねはエントリーを取り消してよかったと初めて思った。


 おしまい。
398わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/07/16(土) 05:00:02.24 ID:MbBlvQms
投下はおしまいです。
399創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 05:09:08.46 ID:JGpKzO2R
投下乙。
葱の行動がフリーダムw 学校なら持ち込まんでもプールあるだろうにw
「誰かに似てきた」ってのはあの人ですね?
400創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 12:05:26.60 ID:TgEWLHEo
あの字には相変わらず雰囲気にしっとり湿り気のようなものがあっていいな。

幼女化し動物化するポストモダーン。その急先鋒を見せてもらった。

そして迫先輩の台詞回しが渋すぎる……。濡れるわこれわ。
401創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 20:24:28.08 ID:SUvT+gPJ
ふと思ったけどコイツ等の私服って少数を除きまったく触れられてないな。学校だからしゃーないけどw
イメージはあるし、ふと街中で何人か集めてみようと思ったけどシチュが思い浮かばないw
402創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 20:57:58.06 ID:TgEWLHEo
台「ここからが俺の伊達ワルレジェンドの始まり」
那賀「ストリートという劇場に舞い降りた黒騎士」
省「ガイアが俺にもっと輝けと囁いている」

雄一郎&拓人「行くぜ?」「ああ」「サイクロンッ!」「ジョ――カァァァァッ!」

先崎「颯爽登場! 銀河美少年」

迫「ゴ――カイチェンジ!」

挙「俺たちゃ裸がユニフォーム」

懐「サングラス+アロハシャツ=モテ!!」
403創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 20:59:32.49 ID:JGpKzO2R
斜め上行きやがったw
404創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 22:46:11.69 ID:TgEWLHEo
後輩「女は度胸! 何でも試してみるのさ!と昔の偉い人は言いました。ならば、
まずは……紐から……」

悪女「失敗しました。胸が目立たないようにおとなしめのデザインを選んだのに
かえって強調されて見えるなんて……」

アリス&ウェルチ「ゴスロリって意外と……」

和穂「今日は勝負短パンツで決めるよ!」

ととろ「な、何だよー。だぶだぶの森ガールで悪い? あたしのスタイルは、誰にも秘密だもん!」

静奈「地味……かな? え、え? これでアクセントを?」
梢「機動力! それが今のあたしのテーマよ」

葱「子供服売り場に着いたぞっ!」
あかね(いつか磨かれたセンスは、まだ私の中にあるわ)

ロニ子「タンクトップで楽勝だぜ!」

京「それより拓ちゃんをひん剥(ry」
405創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 22:54:49.59 ID:SUvT+gPJ
案外男連中の方がしゅっとしてそうwww
406創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 23:07:34.50 ID:TgEWLHEo
そして俺は今日、お祭りで和ゴスをたくさん見てきたわけだが。後輩や荵あたりはこれをチョイスしそう。
逆に静奈とかあかねは普通の浴衣かな。静奈は梢にゴス着せられるかもしれんが。
悪女は神社なら巫女。自分の神社じゃなくて手伝いもないときのみ浴衣姿が拝めるかも。
そして和穂が何を血迷ったかくノ一装束で現れ縁日を恐怖のズンドコに陥れる。

※あくまでイメージです。
407創る名無しに見る名無し:2011/07/17(日) 03:14:30.79 ID:GhKj8CnA
ノー装束って事件レベルだろw
408創る名無しに見る名無し:2011/07/17(日) 10:15:58.07 ID:C11bKJGl
おまっ、「くのいち」だよw
ねぇよそんなクールビズ
409創る名無しに見る名無し:2011/07/17(日) 11:03:34.08 ID:GhKj8CnA
素で間違ったwww
410創る名無しに見る名無し:2011/07/17(日) 20:00:02.22 ID:C11bKJGl
某所で怒られたので帰ってきました。ま、そりゃ怒るわなw

>>398
投下乙。
なかなか、ままならぬものだ。
あかねと荵は、うまくいえないけど、一筋縄ではいかない人格をしてるんだよな。
俺は読解力ないから「え? え?」ってなることもあるけど、やっぱこのシリーズ好きだわ。

仁科はバカやってても裏がシリアスなキャラが多い気がする。
不良三人組ですらそうだし、うちの先輩後輩もそう。ととろは違うけど。
411創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 22:17:41.55 ID:yGqWfzSC
K「まったくだな」

ととろ「お前が言うなあ!」
412創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 16:43:54.33 ID:BlIcPIqm
懐って直球で敵意ぶつけられたらどんな反応するんだろ
へらへら笑って流すタイプ・・・なのか?
413創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 17:45:36.28 ID:CYguTgCf
大喧嘩してたじゃないかw
414創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 18:25:47.27 ID:BlIcPIqm
相手が台あたりだったら、お互い古き良き少年漫画的お約束展開になるだろうけど、
情緒不安定モードの後輩あたりがブチキレて毒舌で突っかかってったらどう対処するのか想像できない。
・・・あまり仁科らしくない展開だし、そうなるシチュも思い付かないが。
415創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 18:38:42.72 ID:PGXMAk5P
大真面目にその手の話考えたが想像するの辛くてやめたw
ちなみにガチで懐は逃げると思うw
416創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 21:29:36.33 ID:BlIcPIqm
考えたんかいw

最近、意外とクロスがないからな。まだ絡みのない奴も多い。
417創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 18:41:40.74 ID:fArqNdfS
         /`゙''、_  _,.,,,,,,,,,,,,,,,,
         |  ', `ヽ",.-‐一丶、`゙''ー、_,...-,
         ',  ヽ,/      `、,_,.-‐/}
         /}   {            ``ヽ
       // .}  ヽ ,ノ,ノ\_,///|  ,  ', }
     // , |   >//.==r、,ノ,ノ// /ヽ  ', ノゥ
    / / // /  / ||ヽ{J:::::} / レ' |/ ̄|/|/| {   r、  「実はあたしにも……壮絶な過去とかない」
   /     | /  〉 || 弋,ノ    /  /レレ'', ry-//
  //| ||  | /\ | ||   \    ̄ //==| | /===
 //  | ||   |  \| | r――\,.-''"/ } `ヽ、~~v  |__
 | |  ヽ、   /,.-‐一'レ'ヽ. \___>  } i  i ii`゙''ー‐--|
 | |   | | |__| ̄`゙''|/、|>..___ <´\// ||`、   }
 レ'   .| | |ニニ\   \ |―――__\ /| ',   >
      | | |    \   \\_,.-''h/ /// /  ',   ',
     <レ'レ'   /  \_ `ヽイ   ̄`゙'' ̄ ̄'´   〉
   / ̄   /\     { ̄\n/~〉        _/
  /     /;;;;;;;;;;\    \//∨\|__,.-‐一''"´

418創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 19:15:16.41 ID:iJCmtEdY
ありそうにないw ただの超奥手だろw
419創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 20:17:50.69 ID:fArqNdfS
         /`゙''、_  _,.,,,,,,,,,,,,,,,,
         |  ', `ヽ",.-‐一丶、`゙''ー、_,...-,
         ',  ヽ,/      `、,_,.-‐/}
         /}   {            ``ヽ
       // .}  ヽ ,ノ,ノ\_,///|  ,  ', }
     // , |   >//.==r、,ノ,ノ// /ヽ  ', ノゥ
    / / // /  / ||ヽ{J:::::} / レ' |/ ̄|/|/| {   r、  「で、でも見知らぬ戦乱の異世界にトリップして戦国大名と戦う傍ら
   /     | /  〉 || 弋,ノ    /  /レレ'', ry-//    変態の目刺(?)や卑猥な鶏に呆れたりする壮絶な現在ならあるよっ!?」
  //| ||  | /\ | ||   \    ̄ //==| | /===
 //  | ||   |  \| | r――\,.-''"/ } `ヽ、~~v  |__
 | |  ヽ、   /,.-‐一'レ'ヽ. \___>  } i  i ii`゙''ー‐--|
 | |   | | |__| ̄`゙''|/、|>..___ <´\// ||`、   }
 レ'   .| | |ニニ\   \ |―――__\ /| ',   >
      | | |    \   \\_,.-''h/ /// /  ',   ',
     <レ'レ'   /  \_ `ヽイ   ̄`゙'' ̄ ̄'´   〉
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420創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 20:24:24.68 ID:iFpCg19f
それはゲームにはまってるだけだろw
421創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 20:25:24.00 ID:NsZedIRo
まあ、恥ずかしげもなくそんな怪しい変装して、名乗りにポーズまでキメちゃってるのが一番壮絶なんですけどね。
422創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 21:54:16.55 ID:fArqNdfS
        ,─、
       ./ ,、-ヽ==ィ三ミ、
       ミ ::::::   `ゝ´二 ̄``─-、_,,--、、_
      . .ミ :::::::      .``ヽ、   (´ヘヽ .````==ィ─-、、__,、-イ
       .ミ ::::::::::         .`ヽ、 ミ .`、    〉/ ,,,、、---ィ-、,ミ
       ミ  :::::::::::         、 ` ".(●、:::.. リ)イ´  /     「幻覚も見てるでよ」
    .  .ミ  ::::::::::           `ヽ-ヽ`´ヾ:::: .,'   /
     .ミ  ::::::::             イ:::::: `/ハ、__ヘ\イ
    . .ミ :::::::            /  ::::: /./.| ,ィヘ ヽ
    .ミ :::::               ::::::::::::  /
   . ミ :::                ::::: :::  ./
   ミ ::      ___      .::::  :::::: .Y
  r"    彡""  彡  l  .ミ::::::::  /
ミ三,,,、彡〃"     彡  ;   .ミ""ヾ二二彡ミ゛
            .彡  ',   .ミ
             彡  .',  ミ
              彡  .l  .ミ
               彡 .' ミ
                彡ミ
                彡
                "
423創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 21:57:26.90 ID:sJqBbiLH
ちょwwwwww
424創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 23:15:07.61 ID:NsZedIRo
ザザビーちゃーん、俺ですよー
425創る名無しに見る名無し:2011/07/30(土) 22:36:57.75 ID:q/xHXCoZ
また……夏が来たね
426創る名無しに見る名無し:2011/07/31(日) 04:59:10.94 ID:kf9Zoa/a
ああ……来てしまった。一瞬で過ぎ去ってしまう夏が
427創る名無しに見る名無し:2011/07/31(日) 05:13:36.52 ID:tAdLsG1A
夏祭りで一本書きたいけどそれどころじゃないという罠
428創る名無しに見る名無し:2011/07/31(日) 05:15:23.85 ID:X6OKaMQq
夏祭りとか十年近く行ってないからどんなんか忘れた。
429創る名無しに見る名無し:2011/08/02(火) 16:38:11.16 ID:Gy9u/O3e
学園があまり関係ないのがネックなんだよなぁ
小学校とかだと校庭でやるとこもたるが
430創る名無しに見る名無し:2011/08/02(火) 17:12:38.34 ID:FVUbueZd
街中に連れ出す口実が出来た。
なんなら仁科学園の文化イベントとして祭りに参加とか?
431創る名無しに見る名無し:2011/08/02(火) 20:06:59.58 ID:UgwjrL69
演劇部が火を噴くぜ!!
荵「わん!」
432創る名無しに見る名無し:2011/08/02(火) 20:11:01.09 ID:X+hWkUOz
出店とかボランティア参加とかカップル退治とかいろいろできるな。

というか葱ナチュラルに「わん!」って言うなw
433創る名無しに見る名無し:2011/08/02(火) 22:15:54.58 ID:Gy9u/O3e
雄一郎は焼き鳥を焼き、葱はたこ焼きの荵を切り、台はソフトクリームを売る。
ウェルチは射的屋に甚大な損害をもたらす。何食わぬ顔でカラーひよこに混じる和穂。
懐一味のゲリラライブ、躍動する重量挙げ軍団。
そして何故か売っているカップルウォッチャーのお面。


阿鼻叫喚の地獄絵図だな……
434創る名無しに見る名無し:2011/08/03(水) 04:35:58.83 ID:H2dLIVJl
和穂はさすがに違和感あるだろwwwwwwwwwwww
435創る名無しに見る名無し:2011/08/04(木) 00:29:46.33 ID:1zJQO2uS
すっかり色物ヒロインにw
436わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/13(土) 05:33:52.15 ID:0yTL6TaH
投下します。
437あかねと荵とそば ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/13(土) 05:35:55.83 ID:0yTL6TaH
 映画の婦人が使っていそうな籐の椅子に踏ん反り返り、荵は両手をひじ掛けに乗せる。 
 着慣れた制服のブラウスに身を包み、はき慣れたスカートからちんまり伸びる脚を組んで気分だけは絵本の中の女王さま。
白いドレスに身を包んで無くても華やかな宮殿にいなくても、信頼できる家臣たちに囲まれて荵はこの世の全てを
手に入れたような気持ちだった。空が青いのも、緑が目にしみるのも何もかもは荵女王のため。
 だから頭の上に、ちょこんと王冠を被っちゃったり、きらびやかな広間で音楽を奏でさせちゃたりしても、全ては
荵女王のためにあり続けるものだから誰もが喜んで認めてくれるだろう。椅子に深く腰掛けた女王の白い太ももには
幾多の目線が突き刺さる。チワワ、ピレネー犬、ミニチュアダックス、コーギーに柴犬。彼ら家臣は荵女王に忠義を誓い、
じっとおすわりを続けていた。玉座から伸びる赤いじゅうたんをイヌたちが埋め尽くす。

 「ちこうよれー」 
 
 女王さまの一声は、神の声。
 荵の慈悲深い声で家臣たちはわさわさと玉座がある段を登ってゆく。
 脚を組み替えるとスカートがふわっとめくれ、チワワがびくっと目をまるくする。
スカートの奥の『くまさんぱんつ』はちょっとお預け。けしてすらっと長くはない脚に、家臣たちは群れを成して一同尻尾を振っていた。

   #

 あかねがいきなり「おそばが食べたい」と言い出した。それを聞いた迫は「コンビニにでも行って来い」とそっけない返事。
しかし、あかねは「そうじゃない」と拒んだ。学食にでも行けば、かけそばだのタヌキそばだのはある。しかも迫と一緒がよいと。
 夏休みの蒸し暑い部室での出来事。扇風機だけが最後の砦だと奮闘するなか、あかねと迫を尻目に荵はすやすやと椅子に腰掛けて
居眠りをしていた。ちらりと迫は荵を一瞥すると、あかねに自分をそばを食べに行く誘う理由を何故とは聞かない。ただ、一言。

 「一人で行けよ」
 「やです」
 
 普段は使わない言葉にあかねは自分で自分の言葉に動揺する。頭より口が動く。後悔なんて無い。
 それでも言葉にはしないもの、どうしても迫とそばを食べたいとあかねは訴える。おなかがすいてくる、お昼時間。

 あかねを視界から遠ざけたい迫は部室中央の机に視線を落とすと、見慣れぬものを発見した。夏だから?そうかもしれない。
でも、誰が何故?ほんのりと着物が似合う香りが漂い、淡い色加減が控えめで品がよい。
 「黒咲のか?これ」
 迫が指差した扇子。まるで隠すように素早くあかねは扇子を奪い取ると、迫は異様に怪しまなければならなくなった。

 「一緒に行かないと、意味がないんです」
 紅くなった頬を庇いたい。あんまり見つめられると、体中がくすぐったくなる。舞台の上なら誰が見ようが、
カボチャが見ようが平気なのに。部室の中、迫とふたりっきり。その状況があかねをこっぱすがしくさせた。

 「扇子、そば……。おまえの考えていることを当ててやろうか」
 「……」
 傍らで荵は心地よい夢を見続けていた。
438あかねと荵とそば ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/13(土) 05:37:56.69 ID:0yTL6TaH
   #

 ぴょんと飛び出したチワワが荵の膝に乗る。小さな尻尾をふりふりと、荵に甘えるように。
スカートから覗く太ももが肉球に踏まれると、荵女王はちょっとくすぐったくなり快感を覚える。何度でも味わいたい至福の時間。
 
 「わおー。大儀じゃ大儀じゃあ!」
 
 玉座の女王は幼い子供とそう変わりはなかった。子犬の頭を撫でてやるとはっはと興奮し始めて、周りのイヌたちもつられる。
子犬のあごをさすってやると膝の上の子犬は小さな声を上げ、周りのイヌたちもまたつられる。

 「そこのテリアー。わたしの靴を磨けっ」
 「わん!」

 群れの中から抜け出して、荵の足元へと段を登る一匹のテリア。長いひげのような毛並みは、支え続けた爺やのようにも見える。
ただ、そのテリアは幼かった。礼儀作法もろくに知らぬ、若いケモノだった。しかし、荵はだからこそ彼を寵愛していた。
段を登りきると、テリアの鼻先には荵のローファーが。確かめるように彼は鼻を近づけると、段の下の群れから一匹「わん!」と
テリアを威嚇するように声がする。女王さまの命令は絶対。彼は声を上げるだけで、けしてその場を動くことは無かった。
 荵の足元に近づくことを許された子犬は頬を靴に当てすりすりと荵の脚を愛で、そして恐る恐る荵の機嫌を伺う。
チワワを抱いてテリアを思うがままに操って、荵女王はこの治世が末永く続くことを祈りつつ、そして頬を緩めた。

 「余は満足じゃあ。にひひひひひ」

 突然のことだった。
 膝の上のチワワが荵女王の手を噛んだ。
 あんまりいきなりのことだったので、荵女王も声を上げる。
439あかねと荵とそば ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/13(土) 05:39:57.51 ID:0yTL6TaH
  #

 「うわーん。チワワに噛まれちゃったよお……。わたしのイヌたちがあ」
 「久遠っ」
 「わー、迫先輩ー。あかねちゃんー。テリアがいないよ……」

 真夏の夢から荵を呼び起こそうと扇子で手首を軽く叩いたのはあかねだった。
あかねの行動に迫は少々驚きを隠せなかったが、早くこの場から離れたかったのだろうとあかねの心理を読んだ。
自分に言えない何かを隠しているんじゃなかろうかと。なので、荵を出しにして部室から離れる理由……学食に行くんじゃないのかと。
 目を丸くした荵は部屋の中の時計を見て椅子から跳んだ。『くまさんぱんつ』が見えるか見えないかのぎりぎりでスカートがふわり。

 「久遠、学食行こう。おそばを食べに」

 迫の読みは当たった。あかねの心のうちを読むことは、迫にとって赤子の手をひねるよりも容易い。
そんな迫にでも読めない子、それは荵。

 「あっ。それ、わたしが探してきた扇子だよね」
 荵があかねの扇子を奪うとは迫も思わなかったが、あかねは荵の思うが侭に、荵を全てを信じていたのでその行動は許してしまう。
 ばっと扇子を広げると平地には子犬とイヌの足跡が描かれていた。

 「にひひひひひ。この扇子であかねちゃんが『時そば』を演じているのを見るが楽しみなのだー」
 「久遠っ」
 「黒咲。落語するんだよな」
 「は……はい」

 迫の読みは当たった。あかねの心のうちを読むことは、迫にとって赤子の手をひねるよりも容易い。
 落語の演目『時そば』には、そばを食べる場面がある。落語は身振り一つでどんぶり、箸、そばを
あたかもそこに存在するように演じなければならない。扇子を箸にして美味しそうにそばを頂く。容易そうで結構それは難しい。
そばを食べる場面の練習に、そして動きを目で手で会得するためにそばを一緒に食べに行くことに、あかねはこだわっていたのだった。
 扇子で顔を隠してにやける荵に、そしてあっけなく自分の作戦が覆されてしまったことにあかねは頬を紅くした。

 「そんなことよりも、今無性におそばを食べたいのだ!あかねちゃん、今何時で?」
 「お、お昼どきでっ」
 
 未だにあかねも迫も荵の言動は読めない。荵は扇子を片手にあかねの手を引いて学食へ向かった。


   おしまい。
440わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/13(土) 05:42:57.11 ID:0yTL6TaH
「時そば」にの内容ついては……ググってね。

投下終わり。
441創る名無しに見る名無し:2011/08/13(土) 12:57:05.08 ID:UMnxIVeS
あかねの甘酸っぱいんだか戦略的真面目っぽさというかそんな雰囲気があるな。結局見透かされてるのもあかねっぽいw


それをがっつり食う犬の女王様www
442創る名無しに見る名無し:2011/08/13(土) 15:09:13.90 ID:6mDFbRUy
age
443創る名無しに見る名無し:2011/08/14(日) 05:28:36.08 ID:SBfVx8W0
ああ、荵が全て持ってきやがったw
あかねちゃんファイトだ。色々な意味で。
444創る名無しに見る名無し:2011/08/26(金) 15:47:35.44 ID:XY4auN8H
わーい
445 ◆G9YgWqpN7Y :2011/08/27(土) 08:37:42.30 ID:PrMK8GsN
なんか今日創作発表板3週年らしいですね。
と言うわけで記念投下。内容は3週年とは関係ないけど。
446夏だから、そんな話 ◆G9YgWqpN7Y :2011/08/27(土) 08:38:28.68 ID:PrMK8GsN

外があかね色に染まり、運動部の部活もそろそろ終わりにさしかかった、そんな時間。
学校の廊下を歩く一人の影、両手にプリントを持ちながら、職員室へと歩いている。
細いリボンで髪を結び、体のラインが出ないよう、ぶかぶかのブレザーを着た少女、
近森ととろは半分ばかり面倒くさそうに歩いていた。

「むう。今日は絶好のカップルウォッチング日和なのに」

そんな風に愚痴ってはいるが、しっかり先生に頼まれたことをこなすあたり、
案外真面目なのかもしれない。
時々独り言を言いつつ近森ととろが歩いていると、
進行方向に1人の先生と2人の生徒が話しているのが見えた。

一人は髪をリーゼントにした天然記念物級の不良の格好をした男、大型台。
一人は美術部部長で巫女で巨乳でと最近属性大杉と言われている天然少女、神柚鈴絵。
最後の一人は2mは優に超える身長を持つ美術部教師、真田基次郎。

ととろも良くも悪くも、大体知り合いになっている先輩達だった。
彼らはどうやら3年の美術の授業で描いた絵を見ながら批評し合っているようだった。
毎年、授業で描いた絵を廊下に掲示している。
今回の内容は運動場を美術室から見て描いた絵だった。

ととろはなんともなしにその横を通り過ぎながらその絵をみる。
始めに目に飛び込んできたのはそこにいる二人の美術部員の絵だった。
やはり美術部所属ということなのか、2人の絵は他の絵と比較すると別格だった。
鈴絵の絵は優しいタッチの淡い色使いが特徴、
大型台の絵はくっきりとしたタッチの写実的な画風だった。

「へぇ。やっぱり上手いなぁ」

おもわずそんな言葉がこぼれた。その言葉に反応したのか、始めに鈴絵は振り返る。

「あ、ととろちゃん。こんばんは。えへへ、誉めてくれてありがとう」
「いやー。でも本当に上手いよ」

はにかむように笑う鈴絵に対し、ととろも完全に足を止め、雑談モードに入っる。

「……ま、あれだけ練習しているんだ。これでうまくならなきゃヤバいだろ」

台もそう言いながらも、まんざらでもない顔で頷いている。
案外誉められるのに弱いのかもかもしれないと、
ととろは考えつつもふと他の人の絵にも目を向け、違和感を覚えた。

その違和感が何か確かめるため、きょろきょろと絵を見て回る。
ととろの突然の行動に不審を持ったのか、台はととろに声を掛ける。

「なんだ? きょろきょろして。どうした?」
「……あ! えーとね。ほらここ、神柚先輩に不良に真田先生の絵。
なんで校庭の中央に女の子が描かれてるの?」

ととろが気付いた違和感。それは3人の絵にだけ、なぜか女の子の姿が描かれていた。
あまりに遠い所から描かれているためか、細部は分からないが、制服から少女なのは分かった。
その少女は神柚鈴絵、大型台、そして参考として描いている真田基次郎の絵にしか描かれていなかった。

その言葉に鈴絵はポンと手を叩き、笑顔で言う。
447夏だから、そんな話 ◆G9YgWqpN7Y :2011/08/27(土) 08:39:29.33 ID:PrMK8GsN

「うん、私達が描いてる時、そこに立ってたからね」
「……でも、他の人たち描いてませんよね」
「ああ、多分、見えてるの、私達だけだからじゃないかな?」

その言葉にととろは一瞬キョトンとし、
何かに気付いたのかぎくりと硬直する。

「えーと。ソレハドウイウコトデスカ?」
「その子、ふーちゃんって言って。普通はみえない子なのよね」
「ああ、そういえばそうだったな。いたずら好き困った子だな」

「……え? それって……ジョウダンデスよね?」

二人の言葉にさらに硬直してしまったととろに、基次郎はため息を吐きつつ言葉をだした。

「まあ、こいつらの冗談だ。気にするな」
「あ、あはは。そうですよね。悪い冗談ですね」
「所で近森。そのプリントの山は持っていかなくていいのか?」
「あ、そうでした! 失礼します!」

慌てたようにととろは一礼すると歩き出す。
ととろが歩き去ると三人は同時にため息を吐きだした。

「……お前ら。分っているな」
「はい、先生。秘密です」
「おう。ま、話したって信じてもらえんだろうしな」

その三人はふと、気配を感じ、顔をそちらに向けると、そこには一人の少女がいた。

「なあに話してるの?」
「ふーちゃんのことよ」
「そーなんだ?」
「あ、夏だからってあんまり張り切り過ぎないようにね。
度が過ぎれば……お父さん呼ぶからね」

鈴絵の言葉に、少女はどや顔になりながら、腕を組んだ。

「分かってるってば。あ、今日は遊びいかない? カラオケでも行こうよ」
「ま、たまにはいいか。先生はどうする?」
「生徒との交流も時には必要か。いいだろう」
「はい。決定。それじゃレッツゴー!」

そうして、三人と一人の少女はカラオケに行くため歩き出した。
夕焼けの赤が周りに満ちた中、彼らは校舎から出て行った。





448夏だから、そんな話 ◆G9YgWqpN7Y :2011/08/27(土) 08:40:41.27 ID:PrMK8GsN




「――って感じしない? あの美術部の人たち。妙に勘がいいし、鈴絵さんって巫女さんだし」
「あはは 流石にそれはないって。幽霊とかいるわけないじゃん」
「あはは、そうだよねー。そんな訳ないよね。」















「それってだれのことかな?」
「「……え?」」



おわり。
449夏だから、そんな話 ◆G9YgWqpN7Y :2011/08/27(土) 08:41:26.71 ID:PrMK8GsN
投下終了です。
450創る名無しに見る名無し:2011/08/27(土) 16:02:49.54 ID:ZWwAS7n7
乙。
まさかのふーちゃん登場w
451創る名無しに見る名無し:2011/08/27(土) 17:01:33.99 ID:59tLwGF2
なんか悪女先輩久し振りに見た気がする。
悪女はともかく、ゴリラにはふーちゃんが見えるのか。……野性に近いからかな。
ととろは色んな作者さんに出してもらって幸せだなぁ。
452わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/27(土) 21:32:26.00 ID:Sj0t8cRX
ゆ、ゆうれいだと……

あれ、ふーちゃんがウチに?

投下します。
おなじみ演劇部です。あの人もでます。
453荵、走る。〜Let's forget shedding tears〜 ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/27(土) 21:34:45.53 ID:Sj0t8cRX
 勇者は赤面した。
 王の御前で勇ましく叫ぶつもりだったのに、あまりにも相手の迫力が圧倒したものだったからだ。

 「王様は人を殺します」

 長く伸ばした金色の髪を王は垂らし、市井の声を拒むがごとく玉座にもたれてうな垂れていた。両目を閉じて現実をそむける。
立てば身の丈天を突くほどの体、あらゆる視線を奪い威厳を放つ暴君は耳だけを傾けて、名もなき若き青二才を無き者にしようとしていた。

 「くくく……。もう一度その言葉を言ってみよ」
 「王様は人を殺します」
 「まるでわしのことを全て知ってかのようなセリフだな。若造よ」

 一言一言に語句に重みがある声だ。
 まるでボディーブローを受けているかのような苦しみ。徐々に体を内部から蝕んでいく様子がひしひしと居合わせたものに伝わる。

 「市を暴君から救うのだ」
 
 南無三。開けてはいけない箱を開けた。
 箱の中から毒蛇が牙をむいて襲い掛かるのかもしれないというのに。

 「暴君。つまり、わしのことか。ちらほらわしをそのようなに呼ぶ者も多いと聞くが、なるほど……。だから人は信じ得ぬ生き物なのだ」
 
 ゆっくりと王は片目を開ける。鋭い刃物のようなまなざしから切り刻まれる危険さえ感じずにいられない。
 指を折り、長い髪を垂らす王はもはや人の領域を超えた者と理解しても差し支えない。
  
 「わしは人の闇を憎む。取り除かねばならない。けしてそれが暴力だの残虐だのとは思わない。
  人を信じることは愚かだからだ。闇が人の信じる心に巣食い、人を怠惰させてしまうのだ」

 待て。そんなセリフは一言も台本に書かれていないぞ。
 もしかしてアドリブなのか?ジャージ姿の哀れなメロスは、金糸の滝のような髪が目立つ王を疑った。

 「言うな!」

 メロスの反駁も王に届かず、一ミリも微動だにしない姿に舞台下で見るものは圧倒され「どうしてコイツが素人なんだ」と
疑問を抱かずにいられなかった。講堂の中の者全ては古ぼけた椅子にもたれる素人に視線を注ぐしかない。
 メロスを演じる迫さえも例外ではなかった。

 「……」
 (どうした、黒鉄)
 「……」
 
 セリフ無しで演技をこなし、圧倒的存在感を放つことは物書きにとってはご褒美でもあり、屈辱でもあった。
言葉もいらない。王の孤独を言い表すには。黒咲あかねは三日見版部屋に篭って書き上げた『走れメロス』の台本ノートを片手に
ぐっと奥歯をかみ締めて「わたしが書いてきたプロットと違うのに、こっちの方がすごい」と立ち尽くしていた。
 しばらくは耳を突く静寂だけが続いた。

 「……」
 (……)
 「命じたな」
 「え?」
454荵、走る。〜Let's forget shedding tears〜 ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/27(土) 21:36:56.84 ID:Sj0t8cRX

 解き放たれたケモノが扉に拳を打つ。封じていたはずの鋼の鍵が斧で打ち砕かれて、扉の奥から爪で激しく叩く音がする。
やがて鈍い音を立てて鍵が外れ、血に飢えた慈悲なき猛獣がメロスに襲い掛かった。

 「命じたな……と言っておるのだ」
 「……はい。確かに」
 「下賤の存在で思い上がるとな!このディオニスに意見しようとは笑わせられるわ!身分をわきまえることも知らぬとでも!
  わしは人を信じぬ。信じるものは全て愚か者だ。愚か者に堕ちることは神として生まれたわしにとってもっとも恥ずべきことだ。
  だが、お前はわしに命じた。お前の言葉をわしに信じろといったと相違は無い!よろしい!たった今から、お前は
  わしの憎むべき者に堕ちるがよい!地を這い、泥をなめ、人の尊厳を失い、磔の露と消えるのが相応しいぞ!!」

 こんなセリフは書かれていない。完全完璧にアドリブだ。
 暴君ディオニス役として迎え入れられた黒鉄懐は、まるで創作の世界からディオニスが乗り移ったように演じてしまった。
 メタルバンドのボーカル仕込みの発声が人々の耳を、そして振り乱す金髪が人々の目を奪った。

 「そこまで!!黒鉄先輩!そこまでですっ」

 男だけの舞台を止めるあかねの声。このタイミングでは自分の敗北とも取られても仕方が無いが、もはやなりふりなんか構わない。
あかねは舞台への階段を駆け上り、懐の正面にすっと立つ。物書きとしての意地か、それとも誇りをかなぐり捨てるのか。

 「黒鉄先輩っ」
 「……」 
 
 無言は幾多の言葉よりも勝る。雄弁は銀、沈黙は金。
 言葉は人を動かし、傷つけるという古からの道理。

 「……」
 「……」
 「ごめーんね?俺、演劇の才能、ゼロって感じ?」
 
 椅子から立ち上がった懐は舞台下で見るよりもはるかに大きく感じた。
 演劇部秋の公演、初めての通し稽古は、素人役者が全てをかっさらう。

 迫は「アイツよりもディオニスを演じられるヤツがいるなんて」と震える拳を握った。

   #

 「『アイツしかいない』って、迫先輩が言ってました!」

 立ち尽くす迷子の子犬のよう。
 久遠荵は演劇部の一年だ。
 部活のことも慣れた。ちょっとは演技も上手くなった。台本のいろはも覚えた。
 ただ、知らないことはまだまだある。
 例えば、荵の目の前の『アイツ』。

 「仁科を離れて随分となるな」
 「そうなんですね」
 「迫は?」
 「今、講堂で通し稽古しています!メロスをします!だから」
 「わたしにディオニスを演れというのか」
 「はいっ、お願いします。石動先輩」
455荵、走る。〜Let's forget shedding tears〜 ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/27(土) 21:39:14.96 ID:Sj0t8cRX
 石動という男は元々仁科学園にいた。迫の名前を知っていることは、演劇部にも関わっているということに違い無い。
だが、石動は仁科を去った。誰もが止めたが、決心は揺ぎ無かった。疲れ果てたメロスを目の前にする以前のディオニスのように。
 石動は荵に背を向けたままだ。背を向けて、座禅を組むように背筋を伸ばす。表情は分からぬ。スキンヘッドが眩しい。
 板張りの部屋、冬ならばしもやけを起こしてもおかしくないぐらい肌を切る冷たさ。禁欲の持ち主の自宅には相応しいロケーション、
と言っても過言ではない。仁科学園から歩いて30分ほど離れた禅寺は人を厳しく育て上げる。
 
 「まだ迫はあんなことを言っているのか。『石動以外のディオニスは許さん』と……バカなヤツだ」
 「迫先輩はバカじゃありませんっ」
 「おっと。バカと言ったら自分もバカなんだぜ、お嬢ちゃん。だがな、わたしは役者バカだからバカと言っていいのだ」
 「でも、でも。迫先輩はバカじゃありません!」
 「すまん、謝る。だがな、確かに迫はああ言っていたかもしれんが、わたし以外の者に演じられる者を探そうとしないことは怠惰なことよのう」

 純真無垢な石動の言葉に荵は身動きできなかった。座禅の警策(きょうさく)で肩に「喝」を入れられたように。
 荵は迫の話を聞いてここまでやって来たのだ。仁科を去っても再び石動のディオニスを見たいんだ……と迫が望むから。
同級だからこそ信頼しているんだ。尊敬しているんだ。だから、荵は走る。石動の元へと走る。だが、願いは叶わぬ。
目頭が熱くなる。言ってしまえば迫と荵の勝手じゃないか。許されるものか、そんなもの。と、切り捨てるのは簡単だ。
迫と荵の純粋に『石動のディオニス』が見たいという情熱を簡単にただの笑いものに貶めていいものだろうか。
 
 「わたしは仁科を去った。演劇部からも去った。ただ、演劇に関しては諦められぬ。お嬢ちゃんよのう……
  迫に伝えてくれないか。『お前の中のディオニスはもう居ない』と。そう、諦めないと試合は終わらない。
  終わらない試合こそ悪あがきにしか成り得ないのではないのでは……よな。信じているぞ、お嬢ちゃんよ」
 「え?石動先輩ーっ」
 「王に二言は無いぞ。さあ、走れ。久遠」

 背中を向けたままの石動はそれ以上語ることはなかった。
 会釈をした荵はくるりと踵を返すと石動の元を離れて夏服のスカート翻し駆け出した。

 「ディオニス以外をも演じられぬわたしはバカ役者じゃのう」と、ゆっくりと荵が居なくなったことを確認して石動は振り向いた。
 
 荵は走った。
 ぱたぱたと『くまさんぱんつ』が見えそうなのを気にしながら、両手を小さく振って学園を目指す。
 夏の日差しは暑い。雲さえも遠慮して、太陽に空の座を明け渡してしまうほど。濃い影を落としながら荵は道なりを行く。
失った過去にすがるより、走るしかない。過ち、恥、挫折。抱えているだけで不良債権じゃないか。捨てちまえ。
 
 「わおおーーん!」

 メロスと競争だ。バカ正直の競争だ。正直者がバカを見るとはよく言ったものの、バカを見ることは決して恥じることではない。
むしろ誇りに思え。それだけがメロスを駆り立てていたんだから、荵も身をもって感じるのがよろしい。
 ただ、体力はメロスには負ける。荵は暑い中夢中で走っていた。ふらふらと脚が重くなる。息が上がる。胸が苦しい。
迫先輩、ごめんなさい。わたしは石動先輩の伝えたいことを伝えられないかもです。でも、迫先輩が石動先輩の演技をもう一度
見てみたいって理由は石動先輩に会ったことで、なるほどなーって思いました。ごめんなさい……、久遠荵は力尽きちゃいます。
 大げさな言い訳をして荵は俯いたまま歩き、やがて歩みを止める。くらくらと頭がしてきた。幻覚を見てもおかしくは無い。
 やがてぱたりと倒れ、地面に伏すまでとなった荵はもう動けぬ。大地がこんなに暑いとは、頬で触れるまで知らなかった。

 「あっ……。イヌだ」
 
 一匹、二匹、三匹……。そして多くのイヌが荵の周りを群れを成して通り過ぎてゆく。
 目の前を四本の獣の脚が通り過ぎてゆくのが見える。
 幻覚でもいい。荵はイヌたちの流れを見ているうちに、やがて疲れ果てた脚も体も気力も回復していった。
 イヌを追いかけるように荵はすくと立ち上がり、再び学園へと走っていった。
456荵、走る。〜Let's forget shedding tears〜 ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/27(土) 21:41:16.49 ID:Sj0t8cRX
    #

 「これが通し稽古ってやつ?俺、遂に舞台デビュー!的な?」
 「まだまだ、黒鉄。練習に練習に続けて台本を調整したりもするからな」

 講堂の入口が騒々しい。大勢?いや、たった一人だ。一人の少女が叫びながら飛び込んできた。

 「ただいま……帰ってきましたあ」
 「久遠っ」

 息も絶え絶えに這えつくばりながらとまではいかないが、荵が迫の元へと帰ってきたのだ。
 ふらふらとよろめく足元はまるで灼熱の地獄から生還してきた旅人のよう、あかねがペットボトルを携えて彼女の元へ駆け寄るも、
講堂の床に足を取られて荵は前のめりで倒れる。反射的に荵を抱えるとあかねの胸元へ荵の顔がむにゅっと収まる。

 「い、いするぎ先輩は……来れませんでしたが」
 「言うな、久遠」
 「ディオニス役は……く、くろがね……」

 幸せそうな顔とは荵の顔のこと。
 夏に光に満ちた講堂が、冬の厳しさに閉じ込められた教会に見えてくる。
 荵のまわりには天使の群れ。
 あかねちゃん、わたしもう疲れたよ。

 「ほら、久遠。迫先輩が見てるよ。黒鉄先輩も」
 「わん!」
 
 迫と黒鉄の名前を聞くなり荵は尻尾を振って飛び起きた。

 黒鉄懐を連れてきた張本人は久遠荵だ。
 かねてから目をつけていたのだが、合う役が無いということで見送られ続けていたのだった。
 そして黒鉄自身もあまり荵に近づかないようにしていた。だが、あかねだ。黒咲あかねがネタの収集でたまたま訪れていた
バンドの練習、黒鉄がファンだと勝手に勘違いして「じゃあ、恩返しに」と演劇部に加勢する形となったのだ。
 彼に飛び込んだのは『走れメロス』のディオニスの役。もちろん迫は反対した。石動以外は考えられないと。だが、間に合わぬ。
黒鉄にも台本を渡してしまった。黒鉄曰く「英語ばかりのリリゥックよりも覚えやすい」とのこと。ふざけているのか真面目なのか
イマイチつかみ所の無い黒鉄はジャージ姿で長い金髪を振り乱し、演劇部の部員が集まる講堂に現れた。

 「黒鉄と演るのか?」
 「黒鉄先輩は天才ですよっ」
 「王様でも、メロスでも、セリヌウンティウスでも、妹でも、メロスに蹴飛ばされるイヌでも、おれはやるよ」
 「大丈夫か、コイツ」
 「大丈夫だって!ね?あかねちゃん」

 あかねは黙って三人を見ていた。迫は出番の無い荵に提案をする。
 
 「石動先輩を連れてきたら黒鉄に役をやらせてもいい」
 「え?」
 「黒鉄の役は石動先輩に決めてもらうことで、お互い納得できるだろ」
 「わん!」
 「そして、黒鉄はここで思い切り『ディオニス』を演じろ。相手してやる」

 この言葉を信じて荵は走った。初めての通し稽古直前のことだった。結局、石動は来なかったが、ディオニスの役は決まったようなもの。
石動が話した一切合財を落ち着いた荵は話した。迫の負けだ。言い訳無用。歯軋りを抑えながら、メロス役の迫は肩を震わせるものの
自分で言い出した勝負から逃げることなく黒鉄を彼らの仲間として迎え入れた。黒鉄はにまにまと笑いながら荵の肩を叩いて呟いた。
 
 「で、迫ちゃん。おれって演技下手だよね?」

 メロスは激怒した。


   おしまい。
457わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/08/27(土) 21:43:17.28 ID:Sj0t8cRX
黒鉄懐くん、お借りしました!

投下終わり!
458創る名無しに見る名無し:2011/08/27(土) 21:52:14.00 ID:hqn/3Pvv
投下乙w
奴がこんな多才とはw
459創る名無しに見る名無し:2011/08/28(日) 00:06:25.87 ID:5+Uwz5Uy
投下乙。
才能とクソ度胸と鈍感さはいかにも懐らしいな。
しかし相変わらずアドリブ多くて気の抜けない演劇部だw
460創る名無しに見る名無し:2011/08/29(月) 05:49:32.65 ID:uP07RGBg
まさにアドリ部
461創る名無しに見る名無し:2011/08/29(月) 16:42:24.88 ID:nO5iFrTK
なかなか、うまいことを言うじゃないか
462創る名無しに見る名無し:2011/09/05(月) 05:00:22.94 ID:uyKBCRUx
夏休みが終わる度に、自分はこの一年間に何をしたかを考える。
作品増えてねええええ!
463創る名無しに見る名無し:2011/09/05(月) 05:28:21.40 ID:vCmAebKW
今まさに書いてるが超難産で諦めかけてる
464創る名無しに見る名無し:2011/09/05(月) 07:55:26.39 ID:tQYKzzkP
>>463
あかね「わたしが続きを書く!」
荵「いやいや、わたしが書く!」
懐「俺が書くよ」
あかね・荵「どうぞどうぞ!!」
465創る名無しに見る名無し:2011/09/05(月) 11:04:26.66 ID:pKH8DDrL
やめろwwwww
466創る名無しに見る名無し:2011/09/05(月) 11:11:12.24 ID:pKH8DDrL
ダメだ!
まったく何も思いつかねぇ!wwwww


orz



467創る名無しに見る名無し:2011/09/07(水) 11:48:31.44 ID:wgjmJXws
じゃ、お題。 「星空」
468 ◆46YdzwwxxU :2011/09/19(月) 15:42:37.18 ID:0iMa0zUq
お題に応えてみたりしてな。
ちょっとだけ投下します。
469創る名無しに見る名無し:2011/09/19(月) 15:43:23.53 ID:0iMa0zUq



 ※


 ――……が……で……夏の台さんカッケーですっ
「む?」

 今日も今日とて幸せ撲滅運動と称して羨ましいカップルに睨みを利かせていた大型台は、ふと自分のことを噂
されたような気がした。憧れに華やいだ女の子の声に聞こえた。
 まさかのモテ期到来か。まいったぜ。ま、確かに今日の俺は我ながら激マブにキマっていると思うが? 鉄面
皮の裏でそんなことを考えながら、さりげなく頭に手をやって自慢のリーゼントの形が崩れていないかササッと
チェック。大丈夫だ。……イケてるイケてる!
 演劇部員顔負けの動きのキレで振り返る。もこもこのちんぴらリーゼントが方向転換し、気合も充分に中庭の
一角を差し示した。

「ですから先輩、夏の大三角形を見に行って、その下でチュッチュしましょうよ!」
「しない。後半がいらない」
「じゃあ、夏の大三角形の下でちゅーまで……?」
「まだ削れるな」

 そこには軍手をした少年と、箒を振り回す少女がいた。どちらも見覚えのある顔だった。
 アプローチに余念がない女のほうは高等部普通科一年、後鬼閑花。文脈によっては“後輩”で通る。あるいは
本名よりもそちらがよほど有名だった。
 それをあしらう男のほうは同じく二年の、確か先崎。後輩と対になった“先輩”というニックネームが定着し
ている。……定着しすぎて名前は忘れられがちだった。
 誤解している者も少なくないが、このふたりは、まったく恋人同士ではない。嫉妬の果てにカップルのおよそ
全てを見抜く眼を得た大型台には分かるのだ。彼らは嫉妬心を刺激しない。
 “幸せ”かどうかすら判断の難しいところで、撲滅運動の対象からは外れていた。当面はたまの監視でよいの
では?というのが、仲間たちと出した取り敢えずの結論である。

(……というか、何だこのオチ)

 大型台の肩から目に見えて力が抜けた。自分の魅力に気づいた女の子が「台さんかっこいい!」と黄色い声を
上げたのかと思ったが、別にそんなことはなかった。どうしてくれよう、この脱力感……。やるせなさすぎる。
470創る名無しに見る名無し:2011/09/19(月) 15:47:50.26 ID:0iMa0zUq

「先輩が彦星さまで、私が織姫さまです。彦星さまと織姫さまは相思相愛です!」
「そうかい」
「あっ、でも七夕にしかイチャイチャできないのはイヤですよね。ここは天帝さまをポッとひと突きして、同棲
を認めてもらえるよう説得しましょう!」
「それ天帝さま死んでね?」

 聴けば聴くほどに頭が痛くなる会話だった。後輩の言動は今更なので置いておくとしても、先崎も先崎だと思
う。妙なところにツッコミをさせられて、いろいろ言質を取られている。このままなし崩し的にペースを握られ
て、いっしょにロマンチック天体観測→なんかが既成事実化というオチが目に見えるようだ。
 あと、どうでもいいが、夏の大三角形の中で忘れ去られているデネブが気の毒だった。

「ねーいきましょうよぉせんぱぁい。私たちで暴君天帝に反逆して宇宙に平和を取り戻すのです! そして今度
は私たちが第二の天帝さまとお妃さまとなってヤりたい放題独裁政治です! レッツ下克上!」
「星を見るっていう話の原型がなくなってるぞ」
「ヤりたい放題というのがポイントでして。何でもありなわけなので、もちろん星なんかも見まくりです!」
「ヤに力を入れるな」

 ふたりして相変わらず生産性のなさそうな方向にまっしぐらだった。これ以上聴いていても仕方がないと大型
台は踵を返す。
 歩きながら考える。

(しかし、星か)

 あるいは夜中にふたりで満天の星を楽しむ、そういうカップルもいるところにはいるだろう。そいつは盲点だ
ったかもしれない。
 いつしかその口元には、野獣を思わせる獰猛な笑みが浮かんでいた。



 ※


 私立仁科学園普通科棟の一角に扉を幾つか並べる小会議室のうちの一。
 手狭でありながら、内には少人数で議論するのに過不足ない設備が揃ってい
る。あるいは一個の細胞の機能美を連想する者もあろうか。
 この部屋には今、三人の男子生徒が詰めていた。無申請使用の常習犯たちだ。
 煙草を吸うでもなく、漫画を回し読みするでもなく、女を連れこむでもなく、さりとて男たち同士でいかがわ
しい行為に及ぶでもなく、しかし部屋にはきっちりたむろする大中小の影! その正体は、その目的は何だ!?
471創る名無しに見る名無し:2011/09/19(月) 15:49:40.60 ID:0iMa0zUq
 それを解き明かすには、仁科学園に広く流布する、ひとつの噂について語らねばならない。
 そう、噂があるのだ。
 仁科学園の話題に付き纏う恐怖の噂。
 『幸せの撲滅』を至上命題に、らぶらぶちゅっちゅ乳繰り合う二人の仲を引き裂こうと立ち回る、度し難き者
たちがいる。
 それは、自分自身にも突っ張れぬ半端者が幅を利かせるこのツッパリ氷河期に敢えて突っ張らかる、リーゼン
ト、モヒカン、ハゲちゃびんのズッコケ三人組であるという。
 彼らは誰もが羨むアツアツカップルを見るや、宇宙人と交信できそうでできない意味不明な奇声を上げつつ跳
びはね、なんかもう変態的な手つきで襲い掛かって来るのだとか。そして悪魔と契約して手に入れたという怪力
で密着するふたりを引き剥がし、ああ、その先は18歳未満のボクちゃんたちには見せられないよ!
 あくまでも噂だ。脚色された話と見て、いくらか割り引いて聞かねばなるまい。

「とうとう、ハゲちゃびんすか……」
「諦めろ、省」
「丸坊主にシビれる女の子を探すんだな。根気よくな」

 こんな時でも世間と仲間は冷たかった。ハゲちゃびん(小型省)はいっそグレてやろうかと思ったが、既に不
良なのにそこからさらにグレた場合、自分は何者になってしまうのか。『不良の不良』? ……よくわからない
存在だ。怖くなったので止めておいた。

「今日、ここに集まってもらったのは他でもない。夜のカップル狩りの提案だ」

 リーゼント(大型台)は大真面目な顔で、モヒカン(中型那賀)とハゲ(小型省)、二人の同志をゆっくりと
見回した。

「……“夜の”が付くだけで、何だかいやらしい響きになるな」
「夜のヨーヨーすくい、夜のたこ焼き作り、夜の昆虫採集。……確かにそうすね」
「そうか?」

 ……同志たちが夏の暑さでダメになっていた。大型台は気にしないことにして話を続けた。

「俺たちはこれまで学園外での活動にあまり積極的ではなかった。だが、満天の星空でロマンチックなムードを
演出し、破廉恥でフレンチなことをする不届きなカップルがいるとすれば」

 嫉妬の心が胸の奥で膨らんでいくのを自覚する。無限大に。

「それはそれで、決して許されることではない」

 中型那賀が、小型省が、同調して力強くうなずく。
 三人の誰からともなく悪意の円陣が組まれ、中心で武骨な手が重ね合わされる。もはや言葉は、要らなかった。
 それゆけッ! ボクら孤独なる者たち最後の希望! 幸せ撲滅運動の三大ヒーローよ! 三位一体の境地で、夜行性のカップルどもを叩くのだッ!



 つづく
472創る名無しに見る名無し:2011/09/19(月) 15:52:46.63 ID:0iMa0zUq
今回はここまで。
不良三人組をお借りします。

いつもカッコよすぎる気がするので、ちょっとコミカルに崩してみましたが、大丈夫かな。

タイトルは「カップルウォッチャーととろ/夏の大三角形(前編)」。
本当は完成して一気に投下したほうがいいんだろうけど。
473創る名無しに見る名無し:2011/09/19(月) 17:12:12.85 ID:KVaguPes
投下乙。そうだよこいつら本当はこんな連中だったw
474創る名無しに見る名無し:2011/09/19(月) 19:11:23.80 ID:mAVuxVjk
投下乙ー!
うん、三馬鹿はこうでなくっちゃあなw
先輩後輩が相変わらずでほっとしたようなそうでないような感じだw
475創る名無しに見る名無し:2011/09/21(水) 02:00:20.07 ID:kiFjJ3zg
そうでもないんかいっ。


台はもっとストイックかもしれん。
しっとマスクの割りに、自分のモテとかはあまり目指してない感じがする。

余談だが、今回の恐怖の噂はかなり前(新たなる力投下直後)にこさえた奴だったり。……やっと使えた……。
476創る名無しに見る名無し:2011/09/24(土) 23:32:21.58 ID:S6Kp8Mzj
まとめ乙!
477創る名無しに見る名無し:2011/09/25(日) 03:16:53.05 ID:vfUc4wr3
お? まとめ乙!
478 ◆46YdzwwxxU :2011/10/02(日) 22:43:50.57 ID:Ees0P1S9
台さんかっけーの続き投下します。

が、全然できてないんじゃよ。
つーわけで「前編」に加える形にしたい。
479創る名無しに見る名無し:2011/10/02(日) 22:44:26.48 ID:Ees0P1S9



 ※


「で、ここに来たんですか」
「この神社からは星が綺麗に見えるからな。しかも有名なデートスポットでもある」
「だからって……」

 柚鈴天神社の巫女、神柚鈴絵は、聞こえよがしに溜め息を吐いた。
 夏の暑さにヤられた同志たちとの打ち合わせから三時間弱。けしからんカップルをケチョンケチョンにシメる
べく、大型台は背中の大荷物を揺すりながら神社の階段を踏破したのだった。
 既に“夕方”に区分するにはやや遅い時間帯とはいえ、日没までにはまだ若干の猶予がある。さすがに風景は
青褪めて見えたが、境内の掃き掃除に励んでいた少女のほの白い貌がそれと判るていどには明るかった。
 優しげに垂れ下がった目尻や、柔和に微笑む口元。その見た目から、周囲の人々にはよく「おっとりして可愛
らしい」と評される。また、彼女には確かに、他人の警戒心を自然にほぐしてしまうような雰囲気があった。
 もっとも、それなりに付き合いのある台は、その性格が一筋縄でいかないことを知っていた。
 神柚鈴絵は仁科学園の三年生で、美術部の部長を務める。あんなナリで三人揃って美術部に籍を置く大型台た
ちと知り合いなのは当然と言えた。……もっともこのふたりの間柄に限っては、ただの部長と部員に留まらない、
もう少し“込み入った”ものがあるのだった。
 不純というか不純以前の動機から台がここに参拝したとき、白衣と緋袴という巫女装束に着替えた鈴絵は、ち
ょうど古びた竹箒の穂先で敷石の上の落ち葉を掻いているところだった。
 今はその手を止め、鳥居の下でふたり、ある意味では友達以上の会話を紡ぎ出している。

「これは部長にとっても悪い話ではないはずだ。神聖な境内で神をも畏れぬ破廉恥行為などされても、巫女とし
ては面白くないだろう?」
「……その口と行動力をもっと違うことに使ったらどうです?」
「たとえば?」
「たとえば――」

 神柚鈴絵は言い淀んだ。

 ――たとえば、街に出てカノジョを探してみるとか

 どうしてだか、彼女にはそれを提案することは躊躇われた。
 台らの幸せ撲滅運動を止めさせたいと願うなら、それが最も的確な行動のひとつであるとは思うのに。
480創る名無しに見る名無し:2011/10/02(日) 22:46:22.50 ID:Ees0P1S9

「……だいたい、学園を飛び出して、こんなところにまで手を広げてどうするんですか」

 結局、鈴絵は台の問い掛けから話を逸らし、小言のようなことを口にするしかなかった。

「まさかそのうち、市町村、都道府県、国、やがては世界というふうに、同心円的に拡大していくつもりなんで
すか。小学校の社会科みたいに」
「それも悪くないかもしれんな。不良なら誰もが一度は憧れるという『全国制覇』を俺たちが成し遂げるのか。
胸が熱くなるな」
「いつの時代の不良ですかそれ。……ていうか、恋人たちにじんわり嫌がらせをする運動なんか全国展開させた
ところで……」

 鈴絵は長い睫毛を伏せた。「うわぁこの人ダメだ。目も当てられない」といった感じである。その裏には、追
及を逃れたことへの安堵も、いくらかはあったかもしれない。

「それに、いくらなんでも、星を見に来るカップルなんて、そうはいないと思うんですけど」
「あいつらはするそうだぞ。部長が気に掛けていた、あの、後鬼と先崎の漫才コンビ」
「閑花ちゃんたちが? 相変わらずアグレッシブにやっているようですね。
 ……いえそうではなく、台先輩にとっての費用対効果といいますか。わざわざ夜営までしたって、エンカウン
ト率は限りなくゼロに近いでしょうに」
「まあな」

 鈴絵は、台の持参物に冷ややかな視線を送った。
 大きな寝袋、いくばくかの飲食物、ブタの蚊取り線香、キャンプ用の照明器具。……ほんとう、呆れるほどに準備
万端である。これではさすがにコストがタダというわけにはいくまい。
 その上で、今時いっしょに星を見るなんて逢瀬を実行するカップルは稀少種に違いないし、もちろん今夜この
神社が選ばれる保証などない。
 鈴絵の指摘はもっともである。
 それでも、大型台は、目の前にまで持ち上げた拳の中に己の揺るがぬ決意を握り締めながら、どこまでも力
強く宣言するのだった。

「だから少しでも確率を上げるために、これから晴れている日は毎晩ここで見張るつもりだ」
「帰れよ」

 鈴絵は、そんな大馬鹿者に、花の咲くような笑顔を浮かべて言い放った。
 もちろんそのていどで引き下がる大型台ではなかったが、しばらくの間、背中を竹箒の先っちょでちくちく突
つかれ続けるという、地獄の責め苦を味わったのだった。
 ――そんなすったもんだのうちに、夜は、もう、すぐそこまで迫っていた。

481創る名無しに見る名無し:2011/10/02(日) 22:48:19.57 ID:Ees0P1S9
以上。

悪女をお借りしました。
こっちもちょっとオリジナルと違う感じもしないでもないけど……
482創る名無しに見る名無し:2011/10/02(日) 22:51:34.60 ID:Mb78u5/O
乙。
「帰れよ」で吹いたw
483創る名無しに見る名無し:2011/10/02(日) 23:24:45.89 ID:Ees0P1S9
早いよw


大したことじゃないけど、一ヶ所注釈忘れてた。
台が後輩を「後鬼」と呼んでるのは仕様です。
台ならそう呼んでやりそうな気がした。
484創る名無しに見る名無し:2011/10/02(日) 23:34:26.11 ID:jq4Nvb2c
リアルタイムで読んでたw
485わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/10/07(金) 22:52:06.76 ID:TegaSA8Q
後輩ちゃんと先輩先輩をお借りします。
自分がこのシリーズを書いたらどうなるか。という、ちゃれんじ。
486先輩!紙芝居です! ◆TC02kfS2Q2 :2011/10/07(金) 22:54:08.38 ID:TegaSA8Q

 「先輩!紙芝居ですよ!見てください!まずは、飴ちゃん買ってからですけどね」
 「お前に付き合ってる暇は無いんだ。飴を買う時間があったら自分に費やすね」
 「他人に費やしても後悔はさせませんよ。はいっ!閑花ちゃんの楽しい紙芝居の始まり始まりー」
 「オレの話を聞けって。でも、……よく作ってくるなぁ。その根性だけは認める」
 「おっと!そこのお兄さん!見掛け倒しではあーりませんっ。昔々あるところに先輩さんが山奥に住んでました」

 後輩こと後鬼閑花はダンボールで出来た紙芝居のフレームを抑えながら『かぐや姫』と書かれた表紙を捲った。
 画用紙に描かれていたのは、紛れもなく翁の姿をした先輩こと先崎俊輔の絵であった。特徴を捉えており、非常に上手い。
腰を曲げて竹やぶを歩く姿は先崎のはるか遠い行く末を見るようでもあった。先崎も苦笑いを浮かべて見守ることしかできない。

 「先輩さんは竹を切ろうとすると、一節光り輝く竹を見つけました。不思議に思った先輩さん、近づくとなんとなんと!」
 「はいはい。テンプレ通りのストーリー、ありがとう」
 「可愛らしい女の子が……ちょこんと、座ってるじゃありませんか!閑花ちゃんみたいにね!言わせんな、恥ずかしいです!」

 突っ込みたいのをぐっと我慢して先崎は後輩の紙芝居に付き合い続けた。

   #

 「よっしゃあ。完成です!かわいく描けたぞっ」

 静かで落ち着いた雰囲気漂う喫茶・茶々森堂にようちえんせいのような無邪気な声が響く。
 レースのクロスがかかるイタリア製のテーブルに、メイドインジャパンの画用紙が広がる。
 赤・青・黄・緑・白・黒・水色……と、色あふれるクレパスが並び、真っ白だった画用紙が閑花の手によって染められる。

 街に溶け込んだレンガ造りの小さな喫茶店。オーナーの趣味なのか、あっさりこざっぱりとした小物が空間を演出。たった一人の
ウエイトレスも、そんなオーナーの趣味を反映していた。袴姿にエプロンドレス、編み上げブーツという出で立ちは、
どこか懐かしいと感じさせるロマンを体験したことも無いのに見る者へ喚起させていた。そういえば、和と洋のブレンドが心地よい。
 彼女の黒髪のツインテールのシルエットが入口の擦りガラスから伺える。

 先崎が常連客として通っていたこの店は、すっかり閑花も常連になってしまった。
 一通りのメニューは口にした。時間が空いたときはここで過ごすのが一番。なにより、先崎が通っているのだから。
 お勧めはアップルパイ。きょうは絵を描きに来たんだと閑花はアップルパイを我慢して、芳しいコーヒーを飲んでいた。
じかに豆から挽いたコーヒーはサイフォンを通じて濃厚な味わいと香りを提供してくれる。本物を味わうにはまだ早すぎる歳の
閑花だが「このお店で飲みたいんです!」と言えば、上手い言い訳となるではないか。マスターもウエイトレスも閑花がお気に入りだし。
487先輩!紙芝居です! ◆TC02kfS2Q2 :2011/10/07(金) 22:56:17.10 ID:TegaSA8Q
 クレパスでお絵かきをするのは、初等部での図工の時間以来だ。なのに、腕は劣っていないことに閑花は胸を張った。両手で画用紙を
持って全体を見渡す。これ以上の文句は付けようの無い出来栄えだ。

 「こちら、お下げします」

 ウエイトレスの『あまもと』は、閑花の側からすっとコーヒーカップを引き上げた。
 慣れた手つきで盆にカップを乗せて、閑花に一礼するとツインテールもともにお辞儀をしていた。 

 「一仕事したらご不浄行きたくなっちゃった!」
 
 ギギギと椅子の脚を鳴らす木目を尻目に、閑花はテーブルクロスを揺らしてお手洗いへと駆けてゆく。
その拍子に画用紙がひらりと舞い落ちてしまった。
 気付いたあまもとは「いけない」と、画用紙を拾い上げようと屈む。
 片手に持つ盆を傾ける。すーっと盆の上をコーヒーカップが滑走し、ふちに当たると床をめがけて落下した。

 「!!!」

 南無三。閑花が描きあげた絵の上にコーヒーを一滴垂らしてしまった。僅かカップに残っていたコーヒー。
 無残にも茶色い液体は握りこぶし大の『点』というには大きすぎるしみを作り、あまもとの後悔を残した。

 「ど、どうしましょう。マスター」
 「……どうにもならんねえ」
 「ですか」

 お手洗いの扉が開く音がすると、迷わずにあまもとは汚れた画用紙をカウンターに隠す。
 下唇をぐっとかみ締め、おかっぱの黒髪少女が目の前を駆け抜けると冷や汗が一筋。

 「あの……おきゃ」
 「さあ!これから帰って駄菓子を調達するぞー!マスターお勘定です!」

 席に着くや否や閑花はテーブルの上の画用紙とお絵かきセットをまとめて帰り支度を始めた。
 あまもとが口を挟む余裕すらない。マスターの方から声をかけようとしても、恋する乙女はまっしぐら。
先輩と後輩が描かれた紙芝居を抱えて、後鬼閑花は茶々森堂を後にした。一枚足りないことに気づかずに。
488先輩!紙芝居です! ◆TC02kfS2Q2 :2011/10/07(金) 22:58:18.78 ID:TegaSA8Q
   #

 「先輩は女の子を『後輩ちゃん』と名づけて大切に育てました。後輩ちゃんは素直でとてもよい子でした」
 「素直なところだけは認める、よい子かどうかは知らんがな」
 「月のように美しく、物静かな後輩ちゃんは、誰からも好かれる美しい娘になりました」

 先崎は飴玉を口の中で転がして、奥歯でガリっと割った。
 
 「ただ、後輩ちゃんは夜を迎えると物悲しそうに月を眺めているのでした。……せつないです」
 「ちょっと待て。無駄にクオリティ高い!」
 「そして、満月の夜。後輩ちゃんは先輩さんにこう告げました」
 「嫌な予感」
 「本当はわたしは月に住んでいた者です。ある罪で地上に暮らすことになりまして、先輩さんと過ごすことになったのです。
  とても感謝しています。でも、帰らなければなりません。罪が許されたからです……」

 急にシリアスな語りに入った閑花に気を許していると、後輩ワールドに飲み込まれそうになる。
 細かく飴玉を砕きながら、先崎は突っ込まずに紙芝居の続きを待った。

 「しかし、後輩ちゃんは……月を捨てる覚悟でした。咎人であったわたしを守ってくれた。そして、わたしの幸せを願ってくれた。
  月なんてどうでもいい。先輩さんとずっとずっと……この地上で暮らしてゆきたい……。間違ってますか、わたし」
 
 先崎は飴玉の欠片がのどに詰まりそうになり、咳き込んだ。

 「そして、後輩ちゃんと先輩さんは末永くいっしょにくら……し。あれ?」
 「ん?どうした」
 「ないないないないないないない!!!」
 「ないないって?どうしたんだ?説明してくれよ」
 「ラストの一枚がないっ」

 ラストの一枚は茶々森堂にある。

 はらりと落とした画用紙こそ、あまもとが汚した一枚こそがラストシーンだった。

 「しかし、よく描けてるなあ。先崎くんだよね、この老人は」
 
 ラストの一枚を手にしているのは茶々森堂のマスターだ。感心した顔で一枚の絵に陶酔する。
 出来るだけしみを落とした画用紙をカウンターに置いて乾かし、オーナーとあまもとはにまにまと眺めていた。
 幸せそうに寄り添う先崎と閑花の絵が茶色く染まっていた。


    おしまい。
489わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/10/07(金) 23:00:21.00 ID:TegaSA8Q
茶々森堂の皆さんもお借りしました。

二人のキャラは、これでよかったかしらん。
投下終了。
490創る名無しに見る名無し:2011/10/08(土) 01:02:40.85 ID:2qIjsePI
乙。
ある意味で先崎の望む結果になったなw
ラスト一枚あったらあったでツッコミが容赦なく入って無かった事にされそうだが。
491創る名無しに見る名無し:2011/10/08(土) 01:54:55.65 ID:xfKCAS7v
投下乙。
ようちえんじ、クレパス、ご不☆浄!

だいたいボケツッコミで成り立たせてる俺とは違って、後輩側に特化している感じがするな。
おかげさまで葱並みに萌えるw

そして俺たちはとんでもない思い違いをしていたようだ。紙芝居の最後の一枚が抜けて喫茶店に残ったこと。
……それこそがこの二人の関係における進展の保留と、(後輩にとっての)希望を暗示しているんだよッ!!

あまもとは俺もまた使いたい。やはり時代は大正浪漫だと思うから。
大正浪漫こそロマーンだと思うから。
492創る名無しに見る名無し:2011/10/08(土) 22:25:01.86 ID:0DABP/cM
乙ー!
後輩ちゃんやっぱりかわいい。やっぱり先輩後輩コンビはいいな
あまもとさん意外とおっちょこちょいなのかなーw

袴姿は正義です。異論は認める。
493仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2011/10/23(日) 17:58:27.52 ID:KjEFkhuN
投下しようと思う。
494仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2011/10/23(日) 17:58:55.36 ID:ZhWKV/U0
 いつも通りのはずだった。
 お気に入りの窓際の席で、差し込む日の光を背中にし、器用に椅子に体育座りをして本を読んでいた。
 このまま、下校のチャイムが鳴るまで、静かに本を読んでいる。そのはずだった。

 黒金亜子は、目の前に立つ人物に気づいて、本を読み進めるのをぴたりと止めた。
 誰だろうと思い、視線を上にずらして顔を覗くと、そのまま固まってしまった。

 魔女の一撃。
 一瞬で動きは封ぜられ、もはや視線をそらす事すら許されない。ただ、じっと目の前の魔女を見るほか出来ない。

 向こうは亜子の目をじっと見て、腰に手を当て、反対の手で自分の顎をさすりながら、しげしげと亜子を観察していた。
 おそらく背中を覆い尽くしているであろう、長い黒髪は、窓から差し込む光を反射し、僅かに動くたびにきらきらと輝いてみせた。着やせするタイプなのだろうか、制服の胸のボタンは僅かな緊張を強いられる程度に引っ張られ、僅かながらボディラインを現した。
 しかし、すらっと長い手足は、決して彼女がグラマーな体型だとは言っていない。全体の雰囲気は、繊細でスマートな印象を与えるには十分だった。
 結果、亜子は目の前の魔女が、途方もなく綺麗な身体であろうと結論づけた。
 出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んで。
 良くも悪くも「平均」のさらに平均的な体格の亜子は、それを素直に憧れとして捉えた。

 しばらく観察を続けていた魔女は、腰に手をやったまま前かがみになり、亜子の顔面に自分の顔を近付けて、さらにじろじろと目を覗いてくる。
 切れ長の目の真ん中にある深い黒の瞳は、亜子を串刺しにして逃すまいと、見えない魔法の杭を打ち込んで来る。動けない。

 亜子は、顔と顔を思い切り近付けてじろじろ観察され、恥ずかしいや何やらと、困惑した表情で頬を紅潮させ、大きな目をさらに見開いた。
 じっと亜子を見つめる本棚の魔女、文芸部部長の霧崎は、「ふむふむ」となにやら納得した声を出して、まだ、じろじろと亜子の目を覗き込んでいた。



 小咄:【魔女とコルク抜き】



「あ……あの」

 亜子は動けないまま、何とか声を振り絞った。

「ふむ」
「えっと……その……」
「なるほど」

 すーっと、霧崎は顔を離して行く。今だ硬直したままの亜子は、黙ってそれを見る。
 腰に手を当てたままにまっすぐ立った霧崎は切れ味抜群な程に整った顔の口角を僅かに上げ、ちょっと意地悪そうに微笑んだ。

「なるほど。理解した」
「……は?」
「間違いないだろう。ああ、初めまして、私が霧崎さんだ」
「はぁ」

 知っている。
 知らないはずなどないのだ。
 この膨大な人口を誇る仁科学園に於いて、霧崎は目立つ人物の一人なのだから。
 文芸部の部長で、本棚の魔女の異名を取る、長い黒髪の美女。図書館に出入りしていれば、嫌でも目に入る。

「君は実に解りやすい」

 霧崎は、亜子を指差して言う。一言一言が様になり、得も言われぬ尊厳を孕んでいる。ともすれば高圧的にも見えるが、全体の雰囲気はあくまで穏やかで、透明感のある気配を纏っているためか、そうは見えない。
 あくまでも、優美な佇まいだった。
495仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2011/10/23(日) 17:59:25.43 ID:ZhWKV/U0

「私には分かるぞ。君は今まさに、青春を謳歌している真っ最中なのだ、と」

 椅子に座っていた亜子は、まるで霧崎の指先から見えない鎖が飛び出して、自分を雁字搦めにしているような、そんな気分だった。
 唯一出来た動作は、椅子の上での器用な体育座りをやめ、普通に座り直す事くらいだ。それ以降は、またかっちりと固まってしまった。

「良い物だろう。きっと君の心の中は膨れ上がる期待と、ちょっとした不安。そして言葉にならない幸福感で満ちているだろう。ともすれば、それは君の心を深く傷つけるかもしれない。君もそのリスクは十分に理解しているだろう。
 だが止められない。君を止められる者など居やしない。そんなもの、今の君には無力に等しいのだ」

 霧崎はまるで、多くの民衆に語りかける演説のような、尊大な口調で語っている。たった一人、亜子に向けてだ。
 ぽかんと見ている亜子に、霧崎はさらに言う。

「さぁ、君自身はそれを自覚しているのか?」

 びしっと、再び指先に力を込めたような動作をして、霧崎は言葉を切った。
 
「……え? あの……どういう事ですか?」
「ふふん。恥ずかしがる事は無いぞ。誰しも通る道。人はそれを経験し、時には喜び、時には傷つく。そして、成長する。君は今まさに、成長している真っ最中なのだよ。成長期とは身体だけではない。心も成長するのだ。だから、多くの者はその時期それを経験するのだ」
「あの……何の話か……」

 ぽかんとした亜子は、堂々と語る霧崎の発言についていけない。
 おそらく、とても重要な事を言ってそうな気はする。が、一体それが何なのか、さっぱり解らない。すると、今度は霧崎がさらなる行動に出た。

 再び前かがみになって、また鼻と鼻がくっつきそうなくらいに顔を近付けて、亜子の頬に両手を添えた。
 その手は冷たく、細い指はしっとりと、亜子の頬に吸い付いた。
 まだ動けない亜子は、やっぱり固まったまま、また至近距離で目と目を合わせ、緊張からか顔を強張らせ、頬を赤くする。
 無意味に体温が上がり、心臓の鼓動が早くなるのを、亜子自身が感じていた。

「受け入れる事が大事だぞ、少女よ」

 目の前で、本当に目の前で霧崎は言う。
 今度は穏やかで、諭すような優しい声だ。
 完璧に計算されて作られたかのような綺麗な顔の口元に僅かに微笑みを含ませて、亜子をじっと見ている。
 そして、また魔女の一撃を放った。

「君は今、恋をしているね?」

 はぁ!?!? え? ええ!?
 と、亜子は素っ頓狂な声を出して、元から赤い頬をこれまたさらに真っ赤に染めて、大きな目はさらに大きく開いて、口はどんな言葉を吐いていいかわからず、かといって閉じている事も出来ずに。
 霧崎が放った魔女の一撃は、亜子の心を無意味にかき乱すには十分な威力があった。

「どうなんだね? 心当たりはあるだろう?」
「いや! ……その、無いですけど、その……」
「おや、それは本当かな?」
「うわ、えっと、その……」

 霧崎はまた、ちょっと意地悪そうに微笑んでいる。
 そして亜子は、真っ赤な頬でたっぷり困惑した表情のまま、霧崎の手を払いのけて、

「ししし、失礼しますッ」
496仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2011/10/23(日) 18:00:24.65 ID:S8x+IeR1
 立ち上がった。なんとか魔女の呪縛を振り払って、自力で。
 そして、慌ててその場から駈け出した。走って図書館から出て行く姿を、霧崎は眺めている。
 よほど大急ぎだったのだろうか、短いスカートは思いきり風で舞い上がり、後ろから見れはパンツが丸見えな有様だ。
 霧崎は、満足そうにそれを眺める。動きを止める魔法は途中で解かれたが、呪いはたっぷりかかっている。しばらくは、亜子の心をおもちゃ箱をひっくり返したような状態にしているだろう。

 また、ちょっと意地悪そうに微笑んだ。






    ※




「ふふ」

 腕を組んで、霧崎は満足気な表情で静かに微笑んだ。
 普段からの悪いクセ。相手次第では、霧崎のそれは大変な威力を発揮してしまうのだ。

「少し、やりすぎたかな?」

 呟いて、本棚の間を移動していく。自身より遥に背の高い本棚は、静かな威圧感と心地よい程度の圧迫感、そして、印刷のインクと紙の香りを放っている。
 その間を、霧崎は優美に歩いている。

 これ以上ない程に様になる画ではあるが、それ故に異物が在れは簡単に雰囲気はぶち壊しにされる。
 霧崎はぱたりと足を止めて、一瞬だけびくりと肩を震わして髪を乱れさせた。本棚に納められた本の、ほんの僅かな上のスペース。それが居た。

「いけません、いけませんなぁ霧崎様」


 _ノ乙(、ン、)_

 ↑こんな感じで、黒鉄懐が本棚の隙間に挟まっていた。
 普通なら大声出しても仕方ない程に奇怪な状況だが、霧崎はあくまで一瞬びっくりしただけ。
 さすが霧崎、なんでもないぜ!

「お前はなぜそんなところに挟まっているのだ」
「細かい事は気にしちゃいけません」

 隙間に詰まった懐はのほほんとした口調で言う。
 さしもの霧崎もそれ以上突っ込んではいけない気がした。

「その悪い趣味、やめた方がいいですよ霧崎様」
「様は止めろ」
「亜子はねぇ、良くも悪くも影響されやすいっていうか、簡単に思い込みをしてしまうって言うか、あんな事言ったらホントに誰か好きになっちゃいますよ」
「なんだ見てたのか」
「一部始終」
「最初から?」
「最初から」
「私がお前の妹だと気付いていたの、知っていたのか?」
「そりゃもちろん」
「意外だな。お前が図書館に居るなんて」
「俺も本くらい読みますよ。はだしのゲンにブラックジャックによろしくに火の鳥に……」
「全部マンガじゃないか」
「とにかく、亜子をからかうのは止したほうがいいですよ」
497仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2011/10/23(日) 18:02:15.86 ID:S8x+IeR1
「何故だ? 妹がそんなに心配か?」
「むしろ周りが心配ってか、性格の割に口より先に手が出るタイプっていうか……」
「なんだそれは」
「とにかく、人をからかって遊ぶクセは良くないですよ。性悪でひん曲がった趣味してんだからもう。そんな綺麗な顔して怖い人!」
「褒めてるのかけなしてるのか」
「両方です」
「そうか両方か。……ってコラ」
「冗談です」
「ふん。そういうお前も、脳天気なクセに妹が心配なようだな」
「そりゃもう」
「おや、意外とあっさり認めたな」
「周りが心配です。亜子が心をかき乱してうっかり手を出したら……」
「気にし過ぎだろう。お前にまったく似てなくて、あんな可愛い子じゃないか」
「ばかやろう。死人が出るぞ」
「は?」
「とにかく、亜子からかうのはこれっきりにして下さい。心労が絶えません」
「心労って」
「それはそうと霧崎様、今度デートしません?」
「誘ってくれてありがとう。超断る」
「さすが霧崎、なんでもないぜ!」

 霧崎は、最後にもう一度、本棚に挟まる懐に聞いてみた。

「ところで、お前はなぜそんなところに挟まっているのだ?」
「細かい事は気にしちゃいけません」





    ※



 その頃、ばたばたと廊下を走る亜子は、顔を真っ赤にしてなんとか平常心を取り戻そうと躍起になっていた。
 霧崎の放った言葉はもちろんただの悪戯に過ぎないが、多感な時期真っ最中な上にあらゆる意味で素直な亜子。心中穏やかなはずは無く。
 どたどたと廊下を走って、ごちゃごちゃになった思考を整理しようと頑張っている。

「あいたっ!」

 誰かとぶつかった。
 考え事しながらでは、周りに払う注意力も下がる物。
 亜子は、誰かと思い切りぶつかって、派手に尻もちをついてしまう。

「いたた……。ごめんなさい……」
「……またお前っスか」

 ぶつかった相手の声を聞いて、亜子はがばっと顔をあげる。相手の顔を見る。また、顔を真っ赤にする。
 ある意味で因縁の相手がそこにいた。
498仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2011/10/23(日) 18:02:53.05 ID:KjEFkhuN
「しししししししし省君んん!?」

 小型省が居た。

「テンパり過ぎっす」

 省はうんざりと言った表情だ。以前、亜子にパンツ見えてますよと善意から注意したら、それ以来パンツ覗き魔と勘違いされて久しい省は、亜子と遭遇するとげんなりするらしい。
 おまけに、省は亜子の正体を知る数少ない人物でもあるのだ。

「……いつまで尻もちついてるんスか。またパンツ丸見えっす……」

 げんなりした感じで言う。

「……ま、ままままた覗いた! エッチ! スケベ!」
「見たくて見たわけじゃないっス。だいたいそんな短いスカートじゃ見えても仕方ないっス……」
「省君のバカ!」

 自分のスカートを押さえながら立ち上がる。恥ずかしいのか、心臓をドキドキさせて省を睨む。

「お前はもっと注意力を養うべきっス」
「省君に言われたくないもん」
「なんで? だいたい君じゃなくて省先輩ッスよね。常識的に考えて……」
「う……うるさいよッ! この覗き魔……はッ!?」

 魔女の呪い発動。
 亜子の心臓のドキドキはあくまで恥ずかしさであり、過去の事件のせいなのだが、魔女の呪いによってそれは違う物に変換される。

『君は今、恋をしているね?』

 こうなります。

「……」
「なんで急に黙るんスか」

 先に行動を起こしたのは亜子だ。
 すっと左足を一歩前に出し、重心を落として右の股関節に力を貯めた。
 省は僅かな気配からそれを察知し、速やかに回避を始めた。
499仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2011/10/23(日) 18:03:16.98 ID:KjEFkhuN

「こっち来ないでー!」

 亜子は叫ぶ。
 そして、自分の右足首を内側へぐるりとねじりあげるような動作を始め、次いで、股関節に貯めた力を前方へと移動させ始める。体重移動だ。
 右足首から発生したパワーは順に体の上の方へと向かい、ねじれた筋肉はRCSSによって激しく進展、緊張を繰り返し、土台となる足腰から上半身、そして、腕へと伝わって行く。
 やがて腕へと到達し始めた時、ねじれの力を開放した右足はまっすぐ伸びはじめ、体重移動をさらに加速させる。股関節にたまった力は左脚へと移り、しっかりと体重を乗せる。
 そして、前身のねじりのパワーを集約させた右の拳が、激しく反時計周りに回転しながら、全身から集めたエネルギーを開放すべく突きだされる。同時に、体重移動のパワーと、足腰の進展によるパワーも同時に、そして一点に。
 それらすべてが、インパクトの瞬間に一つになった。同時に、省が取った回避行動も完了した。

「バカー!!」
「あぶねー!!!!!!」

 小型省は、ぱらぱらと小さな破片が舞っている事に気づいて、顔を青くする。
 ちらりと横を見ると、壁に砲撃でも受けたような穴が穿たれていた。

「省君のバカー!」

 亜子はそういって、走ってどこかへ行ってしまった。
 もちろん、壁に穴をあけたのは亜子である。説明しよう。亜子のちっちゃな可愛いゲンコツは、コンクリートブロック二枚くらいなら粉砕しちゃうのだ!
 そして、間一髪で亜子のコークスクリュー・ブローを回避した省は、血の気の引いた表情だったというのは言うまでもない。

「もし顔面に食らっていたら……」

 ちなみにコークスクリューとはコルク抜きの事だ。

「なぜか命を狙われているような気がしてならないっス……」

 ちなみに、霧崎の呪いが解けるまでは一週間ほどかかった。
 被害者は兄である懐が一人やられただけで済んだとか。


おわり
500仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc :2011/10/23(日) 18:03:40.49 ID:UQipq1nY
おわり。なんかどんどんひどくなって行ってる気がするw
501創る名無しに見る名無し:2011/10/24(月) 21:11:12.85 ID:oJD20HN8
この何だかよくわからん淫靡さ……まさにマジカル霧崎さん!
懐の「いけませんなぁ」あたりが面白かった。こんなコミカルなベッドの下の男はイヤだw
そして省は生かして帰さん。その綺麗な頭をフッ飛ばしてやる!
502創る名無しに見る名無し:2011/11/03(木) 18:52:43.83 ID:x9gh0qqP
投下乙です!
省、てめえ! ……よく五体無事だったなぁ。
霧崎さん、マジ魔女だなw 亜子が手の平の上で踊らされてるw
亜子に彼氏ができた時、懐が心労で倒れなきゃ良いがw
503創る名無しに見る名無し:2011/11/03(木) 20:53:56.81 ID:oSnagTbb
仁科学園スレのみなさまこんばんは

創作発表板避難所にて、創発シェアードワールドクロス企画(仮)を立ち上げました!
と言ってもほぼ何も考えてない状態で勢いだけで立ち上げたので、具体的な内容は
まだ何も決まっていません!

「じゃあ俺が一緒に考えてやろうじゃん」というアグレッシブな書き手さんはもちろん、
「お前が決めろ。そしたら俺も書いてやる」といった書き手さんもぜひご参加ください!
「書かないけどこんなの面白そうじゃね?」といった読み手さんも大歓迎です!

また「こういうお祭り騒ぎはちょっと…」という書き手さんもいらっしゃると思いますが、
企画が進む中で貴方が書かれたキャラをぜひ使わせてほしいとお願いすることがあると思います。
今は企画の中身がまるで決まっていない段階なのでその内容次第だとも思うのですが、「こんな
企画にうちの子を出せるか!」という場合は気兼ねなくスレにて意思表示をしていただければと
思います。

では、何も決まっていませんが下記スレにて
創発シェアワスレクロス企画(仮)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1320313119/
504 ◆46YdzwwxxU :2011/11/03(木) 23:28:25.90 ID:MrQjzh4l
自分のキャラの参加表明してきました。


ここでも報告するのが筋かなと思うので念のため。
505創る名無しに見る名無し:2011/11/04(金) 01:14:59.04 ID:QYpi4vJD
>>503
やってやろうじゃん。
506わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/11/04(金) 19:21:32.64 ID:Rnpj639U
>>503
わたくしも自キャラの参加表明してきました。
よろしゅう。
507 ◆ga71Kb/MnY :2011/11/13(日) 22:38:19.31 ID:36XQB4ru

こんにちは。
雄一郎とか和穂とかの奴です。
久しぶり。




リハビリで短めのを一つ。
508 ◆ga71Kb/MnY :2011/11/13(日) 22:39:18.46 ID:36XQB4ru


―――青い。

俺の視界に映るのは、その一色だけだ。
『雲一つ無い晴天』とは、まさにこの事を指すのかもしれない。
いや、的確な表現だろむしろ。

仁科学園屋上。
回りには誰もいない。
そりゃそうさ。誰がこの炎天下でポケーってするか。
まぁその誰かが俺なんだけど。

そういう訳で、今は昼休み。
飯も食い終わって、今日も辺りで騒がしい声が聞こえる。
ギャーギャーピースカパーチク、お前らはエサ欲しがってる小鳥かってバカ野郎。
あっ、小鳥なのは俺か。
我ながら上手い事言ったよあはは。
509 ◆ga71Kb/MnY :2011/11/13(日) 22:40:09.11 ID:36XQB4ru
「……うわぁ…」

我ながらギャグセンスにドン引きした。
そりゃあこの身長に『小鳥遊』は無いよ。
一発で名前は呼んでもらった事は無いし、中学校の頃は『小鳥ちゃん』とか『ピヨちゃん』とか呼ばれてたし。
あー、やだやだ。


…さて、話は変わるが今日は珍しくボッチだ。
拓人は秋月さんっていう女の人に連れていかれたし、和穂は妹のところに行っちゃったし…

「暇だなぁ〜…」

ようするに、今日この昼休みの時間、俺は時間をただ過ごすだけなのである。

「あっついし…あー、駄目だ溶けそうだよ…」

あ?なんで校舎に戻らないかって?
そりゃあ…戻ってもする事無いし…

「…日陰、探すか」

だからこういう時は日陰見つけて、寝るのに限る。
それが、一番いい時間潰しだから。

510 ◆ga71Kb/MnY :2011/11/13(日) 22:42:23.65 ID:36XQB4ru
おーわりっ。


ヤマなしオチなしわらえない。

タイトルは「1000KBぐらいしかないから無題」。
雄一郎の一人称間隔を取り戻す為にと、生存報告とリハビリ目的。

wikiではトリは前ので。
511創る名無しに見る名無し:2011/11/13(日) 22:46:35.97 ID:JcszIJy/
おつーw
やる事ない時のキャラ書くのはたしかにしんどいw
512創る名無しに見る名無し:2011/11/14(月) 02:18:27.16 ID:Goh/5d+/
投下乙ピヨピヨ。
ことりあそびくんもなかなかアレがアレでアレな人生を送っているのな。
リハビリってことは近々復活?
513 ◆46YdzwwxxU :2011/11/20(日) 07:23:49.04 ID:fL9Iv8GI
投下します

「カップルウォッチャーととろ/夏の大三角形(後編)」

プロデューサーさん、後編ですよ、後編!
514 ◆46YdzwwxxU :2011/11/20(日) 07:24:34.15 ID:fL9Iv8GI

「そろそろか」

 大型台は重たげに腰を上げる。夜が来る。
 神柚鈴絵は呆れ果てて、とうにこの場を去ってしまっていた。
 大型台はひとり、空を眺めた。
 天はあまりに高く、星はあまりに遠い。
 西の夕陽に光のおよそすべてを浚われてしまったかのように、天幕は深海めいて青かった。魚たちの銀の鱗そ
っくりに、小さな星がちらちらと瞬きだす。
 星には、人知及ばぬものがある。
 リアリストは占星術など信じないが、遙か遠き恒星からの光が地球に降り注いでいることは事実だ。もしかし
たら光以外の何かだってと空想することは、それほどおかしなことではないのではないか?
 あるいはそれは、芸術家肌と言われる彼の豊かな感受性のためだったかもしれない。大型台は、その荘厳です
らある光景に、しばらく言葉というものを忘れてしまっていた。

 ――ほらっ! 見て見て、たーくん! さそり座があんなにはっきり!
 ――ははっ、興奮しすぎてこけるなよ

 ……そんな会話が耳に滑りこんできたことで、大型台ははっと我に返った。
 声は、若い男女のものだった。成人のものとはとても思えなかった。恐らくは、高校生だろう。不規則なテン
ポで神社の階段を上ってくる。

(獲物だ)

 まさか本当に来るとは思わなかった。どういう確率だ。というかどんだけ進んでるんだこの街のカップルは。
 大型台は無意識に息を殺し、ふたりが鳥居を越えるまで待った。

 ――もしわたしが転んでも、たーくんが抱き留めてくれるでしょー?
 ――ま、まあな……

 黙って聞いていれば。
 それは、カップルの会話だった。

 ――やっぱりたーくんは、わたしの彦星さまだね!
 ――おいおい。それじゃあ、いつか遠距離恋愛になっちゃうだろ

 おとなしく聞いていれば。
 それは、けしからんカップルの会話だった。
 まがうことなきバカップルの会話だった。
 煉獄の炎にも近い大型台の嫉妬心が、Yシャツを食い破らんばかりに胸筋を膨張させる。どこからともなく、
みしみしという謎の音。
515 ◆46YdzwwxxU :2011/11/20(日) 07:26:13.91 ID:fL9Iv8GI
 バカップルが鳥居をくぐり、結界のほぼ中央まで歩を進めたとき、大型台は動いた。

「よお」

 ゆらりと両者の前に立ち塞がる。距離はおよそ三メートル。
 大型台の足元のランプはなかなか光量があり、三者の人相がはっきりと判るほどだった。

「どうも……」

 彼氏のほうは、さすがに驚いたようすではあったが、そつなく彼女を背中に庇いながら、形ばかりの会釈を返
した。くそ、イケメンめ、爆発しろ。

「突然で気の毒だが」
「何か――」
「リア充は死ね」

 もはやごちゃごちゃした口上など必要ない。
 大型台は一個のキリングマシーンとなった。

「たーくん!」
「逃げるんだ、早くっ!」

 “たーくん”とやらが、銀の決意で迎え撃つ。
 その勇気に曇りなし。

「面白ぇ……!」

 大型台は攻撃防御もろとも“たーくん”を叩き潰そうとして、ぎりぎりその場に踏み止まった。
 相手はそう屈強でもない少年だ、やれる自信はあった。
 だが、ふと背筋を駆け上がった野性の勘めいた感覚がそうさせた。

「……っ!?」

 結果的に、その判断は正しかったと言える。
 一瞬だけの風切り音の後、大型台の足元が弾けたからだ。

 威嚇射撃っ!

 大型台は三白眼をぎょろりと動かして、小さく抉れた地面を見た。
 果たして、砂利を吹き飛ばした弾丸の正体は、季節外れの“どんぐり”だった。ランプの光を受けて、地表に
細長い影を伸ばす。艶の失せた外殻は、着弾の衝撃で罅割れていた。

 ――これは、何だ?

 問うまでもない。大型台は知っている。
516 ◆46YdzwwxxU :2011/11/20(日) 07:28:04.81 ID:fL9Iv8GI
 幾度となく交戦してきた、“宿敵”のしわざに他ならない。幸せ撲滅運動を闇とすれば、それは光というべき。
カップルに対するあらゆる障害を粉砕する使命を帯びた者がいるのだ!
 それこそが、今まさに大型台に掣肘の矢を放った者!

「させると思って? ――幸せ撲滅運動家のひとり、大型台」

 気取った少女の声が、境内の空気に染み入る。
 鼻息荒い街角の屑どもすら揃って道を空けるとかいう大型台に、毅然と立ち向かう、それはひとりの少女!
 いつのまにか、鳥居に背を預けて、自分の出番を今か今かと待っていた人物だ。もったいぶった動きで柱から
身を離し、巨漢の暴挙を制する。

「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄に堕ちろ!」

 年齢(推定)を考えるとちょっとどうかと思われる恥ずかしい決め台詞と大胆なポーズ。両手の人差し指と親
指同士を胸の前で突き合わせ、ハートのような、萎んだチューリップのような、歪つな形をつくってみせる。
 それは“ありえない”風体をした女だった。
 “ぶっちゃけありえない”風体をした女だった。
 何かの獣耳の意匠がラブリーでキュートなヘルメット、自己主張の激しいクリアイエローのハート形バイザー
に覆い隠されて、その正体は不明。仁科学園のブレザー制服に、浮世離れした真紅のマント。やや厚めの白手を
嵌めた手には、少女趣味も甚だしい魔法の杖のような何かを持っていた。

「でかいリーゼント、暴れ回るのが好きな奴。逢瀬を阻むな、撲滅してやるっ! 織姫さまと彦星さまを引き合
わせるという天の川のかささぎ、野鳥の会の女としてはかくありたい! そんなわけでっ、恋人たちの平和と安
全を脅かすふてーやろーは、このラブとピースのブレザー制服美少女戦士カップルウォッチャーととろが、問答
無用に大成敗しちゃうんだから!」

 恋する者たちの味方!
 颯爽登場! 謎の美少女戦士カップルウォッチャー!
 後輩の仔犬系元気っ子演劇部員たちとの練習の成果か、最近は名乗り口上のキレもなかなかだ。

「ととろって言っちゃったよ……」

 なかなかだったが、調子に乗ってやりすぎた。
 いきなり大ヤケドしてヘルメットの上から頭を抱える美少女戦士の醜態に、当事者のはずの不良とカップルが
「こいつどうにかしろよ」的な困惑となすりつけ合いの視線を交わし合う。
 仁科学園周辺にしばしば出没する美少女戦士、カップルウォッチャーととろ! その正体は誰にも秘密で謎な
のだ。たとえ誰の目にも明らかだったり、うっかり自分から名乗っちゃったりしてもだ! それが優しさっても
のなんだよ。よろしくね!

「またお前か」

 結局、大型台は先の失言について聞かなかったふりをした。大きな口からは、呆れ果てたと言わんばかりの溜
め息。正体に触れなかったのは、武士の情けというわけではなく、ぶっちゃけそんなの周知の事実であるのと、
会話を応酬するのが面倒臭かったからである。

「タメイキ吐きたいのはあたしのほうだよ! そのむっさむさ苦しいリーゼントをフッ飛ばしてやる!」

 カップルウォッチャーが、勇んで超高校級マジカルステッキ“レッドストリンガー”を大型台に突きつける。
創作部部員金城葎、工業科松戸白秋らの協力でさらなる進化を遂げたこのマジカルステッキは、もちろんマジカ
ルとは名ばかりの純然たる科学技術の結晶である!
517 ◆46YdzwwxxU :2011/11/20(日) 07:29:09.45 ID:fL9Iv8GI
 カップルウォッチャーととろ! 今こそ愛のかたちを見せてくれ!




 ※


 ★★★★★ 仁科学園購買部.COM
 
 商品名『マジカルステッキ“レッドストリンガー”』(総合評価 ★★★★☆)に寄せられた、お客様の激ア
ツな声を紹介しちゃいます!


 
1. ★★★★★ すべての“カップルウォッチャー”の必携アイテムっ!?
 (6/XX,20XX) わんわん王さん(普通科高等部1年)


 わんわんおー!! みんな元気?
 今日は購買部で新発売の『マジカルステッキ・レッドストリンガー』をオススメしちゃうぞっ!
 結論からいうと、とにかくこのアイテムはすごい!

 カップルウォッチャーととろ先輩といえば、知る人ぞ知る謎の美少女戦士。仁科のカップルの幸せを願って、
告白を見守り、修羅場を覗き見し、悪と戦い、宇宙へ……。ハートの仮面の下で、その正体は未だ不明、そうい
うことになってるのだっ! そんなカップルウォッチャーととろ先輩愛用の“あの”必殺武器が、満を持して購
買部に登場っ!

 見た目はもちろん本物そっくり、そしてそしてっ、なんと6つものモードチェンジとスペシャルな機能もばっ
ちり再現されているというスグレモノ!(さすがにパワーは一般向けにカスタマイズされているけどね!)

 これぞまさに魔法少女なりきりグッズ界のキャデラック! カップルウォッチャーになって、学園の恋する乙
女たちを応援したいと思ってるみんなっ! これはもう買うっきゃないよっ!
 あっ! 単三電池2個は別売りだから、そこだけは注意だよっ! どんぐりは……秋になるまで待とうじゃな
いかっ! わんわんおーっ!!


・わんわん王さんはこんなアイテムも推薦しています!
 【ロボット超黒鉄シリーズ 最強無敵ロボ・ワンワンオー】
 【勝者だけが口にできるあらびきウインナー】

518 ◆46YdzwwxxU :2011/11/20(日) 07:29:58.46 ID:fL9Iv8GI

2. ★★★★★ 実は“極めて実際的な”護身用武器
 (6/XX,20XX) ヘヴィメタル・イズ・不滅だぜ!さん(普通科高等部2年)


 最初にこれだけは言っておこう。これはコスプレイヤーのための小道具じゃない。“極めて実際的な”護身用
武器なんだっ。
 この商品が、あたかも十徳ナイフのように六つの形態に変形することについては、他のレビュアーも言及する
ところだが、その真価に気が付いたのはどうやら俺が初めてみたいだな。

 まず、六つのモードのうちの二つ目は、キャンディ程度の大きさの物体をゴムの力で打ち出す、いわゆるスリ
ング・ショット(ぱちんこ)だ。これでそのへんの小石だのビワの種だのが、たちまち凶悪な銃弾に早変わりっ
てわけさ。だけどこれだけは約束してくれ、くれぐれもこれを使って気に食わない野郎に一泡吹かせてやろうな
んて考えないってね。
 さて、俺の一番のオススメは四つ目のモード。「恋の電流ビリビリスタンガン」。ネーミングはともかく、そ
のカゲキでエレクトリックな性能には、レビュアーとしても自信を持って太鼓判を押させてもらうよ。いやマジ
で「バレなきゃ無罪」ってノリなんだけど、これいいの?
(チェーンで対象を捕縛するなんてモードもあるけど、俺は練習中にうちの壁をベコベコにして妹に怒られまし
た☆ 気をつけようね!)

 ――このマジマジカルな“レッドストリンガー”さえあれば、もう暗い夜道だってへっちゃら! もしヒグマ
に出くわしたって、この頼もしい用心棒はたちまちのうちにノしてくれるだろうからな!
 みんなもこのゴキゲンな護身用武器をこれ見よがしに持ち歩いて、街の屑どもをビビらせてやろうぜ!


・ヘヴィメタル・イズ・不滅だぜ!さんはこんなアイテムも推薦しています!
 【バカでもわかった気になれる英会話】
 【白壁教諭のチューブ漆喰】



3. ★★★★★ 圧倒的造形美!
 (6/XX,20XX) コスプレイヤーKYOさん(普通科三年)


 実用的なことに関しては他のレビュアーに任せることにして。
 私はこの商品のデザイン的な面について批評させてもらうとするわ。

 シンプルイズベストなシルエットには、“ハート”、“リング”、“エンジェルの翼”といったスタンダード
なコードを散りばめてある。
 大きな♂と♀の意匠がオリジナリティを添えているわ。これは『恋愛を応援する』という、カップルウォッチ
ャーの哲学の表れなのね!
 メインカラーは、“恋の衝撃”ショッキングピンク。細かいところまで妥協のない塗装には一種の高級感すら
覚えるわ。
 強いてケチをつけるなら、シャフトとリングは一体化しないほうが良かったかしら。そこだけはちょっと単調
になってしまっているかもしれないわね。

 それでもこのアイテムの造形美がマジカルステッキとして別格であることに異論はないわ。
 もちろん五つ星よ!


・コスプレイヤーKYOさんはこんなアイテムも推薦しています!
 【カンタン! オリジナルシルバーアクセサリー】
 【男の娘文化論−コスチュームが性差を乗り越えるとき−】

519 ◆46YdzwwxxU :2011/11/20(日) 07:30:54.17 ID:fL9Iv8GI

4. ★★★★☆ なかなかの出来栄え(卓上同好会部員募集中!)
 (6/XX,20XX) 卓上同好会部員募集中!さん(未記入)


 たかが未就学女児のための玩具と侮るなかれ。
 デザインはチープでも、作りはチープじゃない。それどころか、こいつの中身はカリッカリのモンスターだ。

 第一形態 マジカルステッキモード
  単3形規格の乾電池から電力を動員し、光って鳴る。
 第二形態 ドングリスナイパーライフルモード
  スリングショット機構により、ブナ科の果実をおよそ秒速60メートルで射出。
 第三形態 ラブチェーンバインドトライアングルモード 
  投射後に展開する鎖分銅により対象を捕縛する。
 第四形態 恋の電流ビリビリスタンガンモード
  1■■万ボルト・■■ミリアンペアの電気ショックで暴漢を昏倒させる大型警棒となる。
 第五形態
  おっと……悪いがこれ以上の情報は別料金だ。キミの目で確かめろ!
 第六形態
  おっと……悪いがこれ以上の情報は別料金だ。キミの目で確かめろ!

 ……これ大丈夫か? 銃刀法とかよ!
 まあいいや。ちょっぴりカゲキな性能が、これがホンモノであることを意味している!
 卓上同好会部員は募集中だぜ! 今なら即レギュラーだぜ!


・卓上同好会部員募集中!さんはこんなアイテムも推薦しています!
 【ボードゲーマー翔 3巻】
 【命の限りTRPG!】



5. ★★★☆☆ かるくてじょうぶ!
 (6/XX,20XX) フリーダムイーグルさん(普通科一年)


 あたし、これまでいろいろなステッキを試してきたけど、どれもしっくり来なかったんだよ。よくあるプラス
チックっぽい素材のとかだと、すぐに壊れちゃうしね。
 そんなわけで、あたしはいつも頭を悩ませていたんだ。ふと立ち寄った購買部で、このレッドストリンガーと
出会うまでは。
 この形、この軽さ、このがんじょうさ。まさに逸品!
 具体的には、干したお布団を叩く時ちょーほーする。
 ところで、お布団のお日様のにおいがダニの死骸のにおいって、あれデマだよね……?


・フリーダムイーグルさんはこんなアイテムも推薦しています!
 【1/144プラモデル スーパーフリーダムイーグル】
 【1/32グレート4WDシリーズ01 自由天帝(リバティヘブンロード)】

520 ◆46YdzwwxxU :2011/11/20(日) 07:31:50.05 ID:fL9Iv8GI

6. ★★★★☆ 夜のお供に
 (7/XX,20XX) 先崎しずかさん(普通科高等部1年)


 想像してみてください。あなたの気になる男のコが、もしも“魔法少女”のコスチュームを前にして青い欲望を
抑えきれなくなるような、特殊な性癖の持ち主だったとしたら――?
 ふりふりひらひらのカワイイコスチュームはどうにか調達できたけど、ふと気がつくとカンジンカナメのマジカ
ルステッキがチャチな安物。それでは■る気になっていたカレも興醒めというもの。
 そんなこだわりのカップルに、このアイテムは、まさにうってつけです!

 魔法少女モノのマジカルステッキとしてはそこそこ汎用的なデザインですので、どんなトチ狂ったコスチューム
にもだいたいマッチします。キツめのピンクの色彩がそこはかとなくオトナのオモチャっぽいですが、そこがまた
男のコの興奮を誘うのではないでしょうか。
 作りはとても丁寧です。いろいろな機構が内蔵されているわりにスマートですし、継ぎ目なども目立たないよう
に巧妙に処理されています。これならちょっとしたチープさが気になって萎えることもないはずです。メインシャ
フトがアルミ製なだけあって剛性もそれなりで、ちょっとやそっとカゲキな行為に及んでも壊れたりしません。

 さらに万が一、計算が狂ってしまってそういう趣味のなかったカレにドン引きされたって安心です。
 そんなときこそモードチェンジ。秘められた危険なシステムの出番です。
 薔薇色の鎖で拘束してじっくりいたぶるもよし、スタンガンで抵抗する体力と気力を奪って好きにするもよし、
柄の先端をあーしてこーしてアブノーマルに開発しちゃうもよし。とにかく大活躍すること請け合い。

 マジカルステッキ・レッドストリンガーは、あなたの恋を力強く応援してくれることでしょう。
 この際なのでささやかなアドバイスをさせていただきますが、既成事実さえあれば、あとの細かいことはどうに
でもなります。繰り返しますが大切なのは既成事実です。
 つれないあの人に肉食系女子のパワーを見せつけてやりましょう!


・先崎しずかさんはこんなアイテムも推薦しています!
 【しにじゅにっ! 1巻】
 【オリジナルコスプレ衣装シリーズ 第6弾 魔法少女(S)】




 ――いかがでしたでしょうか!?
 『マジカルステッキ“レッドストリンガー”』在庫もあとわずかとなってまいりました。再販の予定はございま
せんので、この機会にぜひ!
 お買い求めの際は、仁科学園購買部! 仁科学園購買部までッ!




 ※


 某所で大評判のマジカルステッキを“ドングリスナイパーライフルモード”に変形させたカップルウォッチャー
が、荒ぶる巨漢に牙を剥く!

521 ◆46YdzwwxxU :2011/11/20(日) 07:34:08.93 ID:fL9Iv8GI
謎のネタをブッこんだり変なところで切ったり申し訳ないけど今回はここまで。

今気づいたけど学年とかの項目は確認し忘れてました。
後で修正します。ごめんち!
522創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 01:18:33.84 ID:YKhipdzO
後半ツッコミきれんわwwww
523創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 16:20:16.32 ID:c1de+/GC
葱、後、和が普1、懐、京が普2でいいよな。

あとこれだけは謝らないといけないと思った、
イーグルさんのボクっ娘設定を失念していました。
ほんとうにごめんなさい。
524 ◆46YdzwwxxU :2011/11/26(土) 04:02:39.62 ID:me54u4kc
>>514から>>520の続き投下します
525 ◆46YdzwwxxU :2011/11/26(土) 04:03:42.20 ID:me54u4kc

 ※


 某所で大評判のマジカルステッキを“ドングリスナイパーライフルモード”に変形させた謎の美少女戦士カッ
プルウォッチャーが、荒ぶる巨漢に牙を剥く!

「食らえー」

 三連射の二段構えで、都合六発、続けざまに空中にバラまかれるドングリ(アラカシ)、ドングリ(クヌギ)、
またドングリ(コナラ)!
 生長すればカブトムシ垂涎の樹液を産生するはずであったドングリたちが、玉砕覚悟で大型台に殺到。……そ
う考えると何だか罪深い武器ではある。

「フンンッ!!」

 襲い掛かるドングリ(マテバシイ)を豪腕で切り払う大型台。とうに夏季ではあるが、夜間の見張りに備えて
着用していた学ランの防御力が役に立った。

「てめぇ……」
「何のまだまだー!」

 ドングリ(アベマキ)、ドングリ(イヌブナ)、またドングリ(ウラジロガシ)!
 下手な鉄砲数撃ちゃ当たる!が信条の女、カップルウォッチャーととろ! 彼女はたぶん、スナイパーライフ
ルと総称される銃器がどういうものか知らない!
 カップルウォッチャーは、ドングリを目くらましに大型台から一定の距離を保ち続け、カップルが逃げる時間
を稼ぐ算段だった。
 一方、大型台は、この腐れ縁の乱入者をどうしたものか、未だに判断をしかねていた。カップルでない以上、
手を出すことは躊躇われるが、かといってまったく無視するには少々うるさすぎる。

「どうしてっ!」

 空を飛ぶドングリ(ウバメガシ)!

「いつもいつもっ!」

 砕け散るドングリ(シリブカガシ)!

「あたしのっ!」

 賽銭箱の中に転がりこむドングリ(クリ)!

「邪魔すんだーっ!?」

 大型台のリーゼントにダイブするドングリ(オキナワウラジロガシ)!

「あああ間違えてオキナワウラジロガシ撃っちゃった! 返せ! あたしの可愛いドングリ返せ!」
526 ◆46YdzwwxxU :2011/11/26(土) 04:05:18.31 ID:me54u4kc
「あーうっとうしい!!」

 ここに来て、大型台もさすがに我慢ならなくなった。
 足元のドングリを蹴散らして吼える。この男が大声で叫ぶのは実は珍しい。

「逆ギレしたってダメだかんね! あたし怒ってるんだかんね!」
「いいから、見ろ、この惨状を」

 しっちゃかめっちゃかになりそうな雰囲気をドスの利いた声で制圧し、大型台は境内をびしっと指差す。
 思わず釣られて視線を向けたカップルウォッチャーは、一瞬の思考停止に陥った。
 果たして月夜の神域には、世のドングリ愛好家たちが見ればショックで卒倒しかねない、惨劇の光景が繰り広
げられていた。あるいはここが、ドングリたちの墓場なのか。ドングリたちに一体何の罪があるというのか?

「これは……原型を留めずに粉砕されたドングリの殻と中身が、穴ぼこだらけになった地面の上に散乱し、苦悶
の呻き声を上げている!?」

 カップルウォッチャーが手の平を顔の前に翳して慄く。
 ……呻き声は幻聴だと思うが。

「何てひどいことを……!」
「お前がやったことだ」
「そっ、そもそもあなたがカップルを目の敵にしなければ、ドングリたちも死なずに済んだはず!」
「……ああ゛? んな理屈が通るか」

 まったくもって大型台の言う通りなのだが、カップルウォッチャーはその事実を認めようとしなかった。
 ついでに。神聖な境内をどうしようもなく散らかしてしまったことについては、ふたりともスルーを決めこん
でいた。今後のこと、特に巫女さんあたりにこの有様について弁明することを想像すると、何だかこんな茶番が
根こそぎ吹っ飛ぶほどの恐怖を味わう羽目になりそうで、あまり考えたくなかったのである。つまりは一種の現
実逃避だった。

「……まあいいわ。今日はもうドングリは打ち止め。最後の一撃で、あなたを倒す……!」
「何でもいいが早くしろ」

 思わせぶりな言葉を残し、カップルウォッチャーがレッドストリンガーを構える。むやみに可愛いマジカルス
テッキモードは、全ての基本形である。

「“レッドストリンガー”……第三形態(Mode−Three)!」

 ステッキのヘッド部分、リングの中の♂と♀。そこに、さらに、どこからともなく摘み出したもうひとつの♀
形のパーツを嵌めこむ。かちり。三つ揃って初めて完全であるかのようでさえある精巧な造りだった。
527 ◆46YdzwwxxU :2011/11/26(土) 04:06:37.57 ID:me54u4kc
 学内演劇会の舞台裏で、恋をして暴走した少女を止めたわざだ。

「三角形の恋の道! 恋の炎が燃えさかる!」

 くるくると回転を始める、リリカルでセクシャルなヘッド。その遠心力に乗るように運命の輪から外れた♂と
♀と♀とが、三つの頂点となって展開、夏の大三角形を地上に顕現させる!

「三つの心が揺れ動く! 恋する乙女が立ち向かう!」

 真っ赤なレーザーポインタが、リーゼントのド真ん中に照準。

 ――これでロック・オン! このオモシロいヘアスタイルの男と運命の赤い糸で結ばれるなんてゴメンだけれ
ど、小指じゃないからセーフだよ! だよね!

 このあたりで、大型台は待ちくたびれてきた。
 ちなみに、今回の戦いの発端となった“たーくん”とその彼女は、ドングリ(シリブカガシ)がお亡くなりに
なったあたりでカップルウォッチャーの視線による誘導に従って帰ってしまっていた。
 ぶっちゃけ、この場での諍いには、もう腹いせ以外の意味はないとも言える。

「おい、まだ掛かるのか」
「進め! 突き抜け! 愛する人へ!」
「聞けよ」
「障害とばして駆け着けろ!」

 そして、ついに“魔法の詠唱”が完了、発動の態勢が整う。カップルウォッチャーはばっちりポーズをキメて
大型台にズギュンバキュンドキュン!
 今、明確な意志を持って、三つの意匠が、

「ラブチェーンバインド☆トライアングルーッ!!」

 三つの意匠が……
 意匠が……
 別に飛び出したりはしなかった。
 当然、それらが鉄の鎖を引いて大型台を捕縛したりもしなかった。

 ――ひゅううううううううん……

 やる気ゼロな音とともに、ハートから赤い光が消えていく。
528 ◆46YdzwwxxU :2011/11/26(土) 04:07:42.64 ID:me54u4kc
 キメポーズのまま硬直していたインチキ魔法少女が我に返った。

「……ってあれー!?」
「何なんだお前は」

 ところで、後日になって開発陣が総力を結集してこのシステムダウンの原因を調べ上げたところ、これは純然
たる電池切れであったことが判明した。
 光る! 鳴る! 単三電池二本は別売り!
 これがそうなのかッ――マジカルステッキ“レッドストリンガー”ァァッ!

「……」
「……」
「…………」
「……うん」

 どうしようもないグッダグダの沈黙が境内を支配する。居心地の悪さを堪能してから、カップルウォッチャー
は背筋を伸ばして何事もなかったかのように表情をきりりと引き締めた。

「今日はこのへんで勘弁してあげるわ」
「そうか」

 大型台のあしらい方は実にやる気なさげだった。ラブチェーン何とかは不発だったが、先の一連の展開は、精
神攻撃としてはこの上なく優秀だったものと見える。

「あなたの恋にも、幸多かれ!」

 投げキッスでも寄越して来そうなテンションで、謎の美少女戦士は風のように去って行った。宿敵の恋も「そ
れはそれ、これはこれ」と応援するのか。律儀な出歯亀である。
 後には、ドングリの弾痕と残骸によって見る影もなく荒れ果てた境内と、リーゼントにドングリ(オキナワウ
ラジロガシ)を埋めこまれた大柄な不良がひとりだけ残された。




 ※


「……どうすりゃいいんだ、これ」

 大型台は、台風一過後どころではない柚鈴天神社の惨状を改めて確認し、うんざりと溜め息を吐いた。
529 ◆46YdzwwxxU :2011/11/26(土) 04:08:33.09 ID:me54u4kc
 自分がここで夜を明かすことは、鈴絵部長も知るところである。見つかればどう言い訳したって大目玉を食ら
うのは確定だ。
 しかし狡猾なるはあの女、カップルウォッチャーととろ! ……片づけもせずにさっさと帰るとは、何という
外道だろうか! こうなると、あのグダグダも、こちらの引き留める気を削ぐ計算だったのではないかと思えて
しまう。

「まぁ、どんぐりは鳥が食うか?」
「――台先輩?」

 ずももももも……
 取り敢えず希望的観測などしてみようとする大型台の背後に出現する負のオーラ。夜の黒を上書きするほどの
濃密な闇を想わせる。
 大型台はポーカーフェイスに努めてゆっくりと振り返ったが、その心内風景では冷や汗が滝となって流れ落ち
ていた。

「……すまん」

 凄惨ですらある月光に照らされて虚空に浮かび上がる女の貌は、もはや般若面にしか見えなかった。どうやら
問答無用ですかそうですか。
 大型台は、彼女から差し出された竹箒を神妙に受け取ることにした。

(こいつは、しばらく、カップル狩りをしている時間はなさそうだな)

 大型台はそんなことを考えながら、竹箒の粗い穂先を器用に操ってドングリの破片だけを吹き飛ばした。
 柚鈴天神社には、まだまだ元通りになる風情はない。
 カップルウォッチャーととろ!!
 神社を荒らしながらも、やはり今日も学園のカップルを救った!!




 おわり(※大型台は珍しいドングリ(オキナワウラジロガシ)を手に入れた!)
530 ◆46YdzwwxxU :2011/11/26(土) 04:10:45.89 ID:me54u4kc
以上です
531創る名無しに見る名無し:2011/11/26(土) 04:19:46.13 ID:3O9CwdkC
なんというドングリ押しw
最初の三つしかわかんないよw
532創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 21:14:02.52 ID:g+zmq0jB

        ,─、
       ./ ,、-ヽ==ィ三ミ、
       ミ ::::::   `ゝ´二 ̄``─-、_,,--、、_
      . .ミ :::::::      .``ヽ、   (´ヘヽ .````==ィ─-、、__,、-イ
       .ミ ::::::::::         .`ヽ、 ミ .`、    〉/ ,,,、、---ィ-、,ミ
       ミ  :::::::::::         、 ` ".(●、:::.. リ)イ´  /      
    .  .ミ  ::::::::::           `ヽ-ヽ`´ヾ:::: .,'   /
     .ミ  ::::::::             イ:::::: `/ハ、__ヘ\イ
    . .ミ :::::::            /  ::::: /./.| ,ィヘ ヽ
    .ミ :::::               ::::::::::::  /        「クリもあるでよ」
   . ミ :::                ::::: :::  ./
   ミ ::      ___      .::::  :::::: .Y
  r"    彡""  彡  l  .ミ::::::::  /
ミ三,,,、彡〃"     彡  ;   .ミ""ヾ二二彡ミ゛
            .彡  ',   .ミ
             彡  .',  ミ
              彡  .l  .ミ
               彡 .' ミ
                彡ミ
                彡
                "
533創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 22:36:20.02 ID:sbYoPktK
Wikiの来客数が変な伸び方しててびびった。
まあ前もあったけどな。
534創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 22:38:36.40 ID:N1m40HaI
マジだ。今日も13人もw
535創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 22:46:16.57 ID:sbYoPktK
更新作品なんか数〇単位だぜ。
トップも作品も5〜10回くらいは俺が出入りしたやつだろうが、
だれかブラウザの←→をかちかちしたみたいな増え方してる。
な……何が狙いだ……
536創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 22:56:07.88 ID:N1m40HaI
シェアシェアの事もあるし、見ている人が増えたのだろう。
537創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 23:00:24.46 ID:sbYoPktK
住人、増えるといいな、いな、いいのにな♪
だが企画が動かねええ
538創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 23:02:53.89 ID:N1m40HaI
企画は正直できそうにないw
前にケモスレであった獅子宮先生みたいな感じならまだなんとかごまかせるけど。
539創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 23:05:40.47 ID:sbYoPktK
もうこの際何でもいい気がするw
書いたもん負け的なw

……書いたもん負け……orz
540創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 23:27:32.64 ID:eplukATl
あのスレの1がもう少し方向性を定めてくれればまた違ったんだろうけどな
541創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 23:31:14.68 ID:sbYoPktK
>>1失踪したのかなアレは
まあ>>1だけ責めるのは酷かも。なかなかお祭りムードにならなかったし、意見も出なかったしな。
542創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 23:40:21.28 ID:N1m40HaI
そもそもノリで立てたスレだしね。方向性なんて逆に無いほうが俺はよかったけど、なんか一つにまとめよう的な雰囲気になっちゃったし。
543創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 23:46:14.81 ID:sbYoPktK
ま、もうちょっと書いてみるわ。
長い目で見てれば意外とちょこちょこ釣られてくれる人が出てくるかもしれんし。
544創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 23:47:20.32 ID:sbYoPktK
あ、悪いageちった
545創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 23:49:30.08 ID:N1m40HaI
ええのんよ。
546創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 23:51:18.80 ID:sbYoPktK
出たー!

仁科学園名物ええのんか砲だー!
547創る名無しに見る名無し:2011/11/28(月) 00:03:39.14 ID:jRgh0PSC
あとはごめんち! とかかなw
548創る名無しに見る名無し:2011/11/28(月) 00:46:10.24 ID:arnyBb0m
学園のローカルな言い回しってのも面白いかもな。
仁科語とか仁科弁とか。
549創る名無しに見る名無し:2011/11/28(月) 00:49:14.22 ID:jRgh0PSC
ええのんよは気がついたら出来てたな。
550創る名無しに見る名無し:2011/11/28(月) 00:52:14.88 ID:arnyBb0m
懐「ええんよ、ええんよ、ええのんよ?」

なんか男が言うとフルボッコされそうな感じがする
551創る名無しに見る名無し:2011/11/28(月) 00:55:08.43 ID:arnyBb0m
いや、懐はまだマシかw

台「ええんよ」
先「ええんよ」
鳥「ええのんよ」

何だ
ただの悪夢か
552創る名無しに見る名無し:2011/11/28(月) 00:59:39.21 ID:jRgh0PSC
あのバカは率先して言いそうな気がしないでもないw

一番イヤなのはゴリr(職員室送り)
553創る名無しに見る名無し:2011/11/28(月) 01:06:33.43 ID:arnyBb0m
ドドッ(ええんよ)! ドドッ(ええんよ)! ドコドコドッ(ええのんよ)! 嵐のドラムロール!
熱く戦え!(ウーホッホ!) 真田美術教諭(既婚者)!
何だ
ただの脱走ゴリラk(呼び出し)
554創る名無しに見る名無し:2011/11/29(火) 18:10:23.47 ID:t8rV7BMQ
今更ながら先生少ないよな。しかも年齢層が偏ってるw
555創る名無しに見る名無し:2011/11/29(火) 18:20:38.28 ID:RJgdVpIt
高齢なベテランが居ないw
二十代から中年男まで居るからバリエーションはそこそこだけど数そのものは少ないね。
そのくせオネエが居るというw
556創る名無しに見る名無し:2011/11/29(火) 18:43:35.42 ID:t8rV7BMQ
気が向いたら増やすかw
557創る名無しに見る名無し:2011/11/29(火) 20:05:40.77 ID:RJgdVpIt
もっと正統派な男子生徒をハラハラさせる人が居てもいいw
料理とかでじゃなくて、そしてオカマでもない人がw
558創る名無しに見る名無し:2011/11/29(火) 20:32:03.60 ID:RJgdVpIt
すげー今更気づいたけど、まとめ乙。
559創る名無しに見る名無し:2011/11/29(火) 20:47:46.57 ID:t8rV7BMQ
タイムリーなことに、女教師の黒ストはアリかナシか議論ってネットの記事がw

>まとめ
後編の加筆修正をしたかったんで久しぶりにやったぜ。……投下前にやれっつー話ですね、ええ。
誤字脱字は各作者にまかせた。
560創る名無しに見る名無し:2011/11/29(火) 23:22:50.25 ID:LlOOLh8d

オカマ、変態、残業、ゴリラ


なにこのカオス
白壁先生が唯一の希望だ…
561創る名無しに見る名無し:2011/11/29(火) 23:30:43.04 ID:t8rV7BMQ
残業革命先生は許してやれよ
562創る名無しに見る名無し:2011/11/29(火) 23:34:36.01 ID:RJgdVpIt
うまいあだ名つけんなw
563創る名無しに見る名無し:2011/12/05(月) 00:42:15.98 ID:e2tUzNK/
よいしょ。
564創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 02:13:33.38 ID:GPiMv5+V
ああクリスマスだ
また大型台のリーゼントに電飾を巻き付ける仕事が始まる
565創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 02:24:59.64 ID:rvtqRWf0
なにそのシュールなのw
566創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 20:15:01.07 ID:eqrS+609
学園は冬休みなんか?
567創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 07:24:21.63 ID:Waw7iVRh
シェアシェアに必死な俺。
マップは設定通りだが、勝手に人工林とか足しちってごめんなさい。
568創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 18:13:38.85 ID:gWVwxqog
投下しても良いかな?
メインキャラを紹介する程度の掌編だけど。
569創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 18:17:26.17 ID:Waw7iVRh
どうぞどうぞ
570 ◆NN1orQGDus :2011/12/27(火) 18:20:50.59 ID:gWVwxqog
 歴史少女日常系
 第一話『孫は房之介』

「漱石なら是公なのだわ! 二人は学生時代二畳一間の部屋で同居していたのだわ! 若い男子が二人……間違いが起きない筈がないのだわ!」

「それは聞き捨てならないカナ? 漱石だったら白衣萌えで寺田寅彦じゃないカナ? 子規もいいけど子規には虚子がいるカナ?」

「お前ら全然ダメダメなんだぜ! 帝大時代の生徒の藤村操を忘れてるんだぜ! 藤村は漱石への届かぬ想いを胸に秘めて華厳の滝に飛び込んだんだぜ? 聞くも涙語るも涙の悲恋なんだぜ!」

「は、白衣……確か寅彦は理系学生は白衣の下は裸でもおかしくないって言ってた筈なのだわ……」

「ふ……藤村操……その死が漱石の心に暗い影を残した事は想像に難くないカナ……」

「よ、是公……確か片目が義眼……厨二的格好良さがあるんだぜ……」


 おやおやおやおやまーまーまー。
 歴史研究部名物テーマディスカッションはいつものように発酵気味です。
 だわだわ五月蝿いアンさんは柔らかそうなハニーブラウンの髪を横で不揃いに纏めたツーサイドアップをピコピコ揺らしています。
 ついでに胸まで揺れているのはけしからん事だと思います。
 カナカナ五月蝿い佐藤ゆんさんは御自慢 の三つ編みと眼鏡で昭和の香りを漂わせています。
 だぜだぜ五月蝿いノブナガさんは腐った蜜柑のDQNです。どうしようもありません。

 五月蝿い人達が無言になったのでちょっと説明します。
 私達は歴史研究部だったりします。
 バサラバサラ無双無双五月蝿いミーちゃんハーちゃんを遙か彼方に置き去りにした歴史好きの集まりです。
 活動内容は歴史上の人物について行うディスカッションで、今日は夏目漱石がテーマです。 ちょっと腐臭がしますがそれはそれ、あの三人がアレな感じなだけで他の部員はマトモです。
 もっとも。
 他の部員はわたししかいませんが。
 つまり。
 三年の先輩達が引退したので部員は四人。同好会への降格の危機。危急存亡の秋です。
 因みに。
 秋と書いて『とき』と読みます。
 『とき』と読めた人は入部資格があるので是非入部の検討をばお願いします。
 二人の腐女子と一人の腐男子の発酵した腐敗トークについていければの話ですが。
 以上、宣伝終了。

571 ◆NN1orQGDus :2011/12/27(火) 18:22:14.89 ID:gWVwxqog
「是公×漱石こそが王道なのだわ! 官僚として辣腕を振るった是公は漱石相手に夜も辣腕を振るって当然なのだわ!」

「それは違うんじゃないカナ? 漱石門下最古参の寅彦こそ漱石に相応しいんじゃないカナ? つまり鉄板は寅×漱なんじゃないカナ?」

「お前ら解ってないんだぜ! 文豪漱石には精神的な……プラトニックな関係が似合うんだぜ!? 互いに想いを秘め、それに耐えきれなくなって死を選んだ藤村……泣けるんだぜ!?」

 目を離した好きに三人が腐敗を通り越して発酵して熱を帯びてきました。
 嫌ですね。
 歴史好きは須くヲタクで語り始めると燃え尽きるほどヒートアップして止まりませんが、腐ると血を見る戦争に発展してしまいます。
 コレはこの世の真理です。
 腐った人はコンセントとプラグの受け攻め論争を引き起こしてしまうのです。

 ちなみに。
 この三人は第一〇五次床・天井受け攻め戦争を引き起こしていたりします。
 そんな余談や閑話休題はさておき。
 そろそろ止めないと危険ですね。

「松根東洋城や鈴木三重吉、芥川龍之介はどうでしょうか?」

 しーんと静まり返りました。
 三人とも押し黙ってしまいました。
 成功かと思いきや、大失敗の予感です。
 乙女の勘がそう告げます。

「……鈴木三重吉……三間の長さの恋文を送ったのだわ!だけどそれは横恋慕なのだわ!」

「……松根東洋城……子規と漱石の二人の間で揺れてるんじゃないカナ?」

「……たしか芥川は鈴木三重吉と一緒に東洋城をフルボッコにしようとしたんだぜ! つまり二人で無理矢理手込めにしようとしたんだぜ!」

「そうなのだわ! それしかないのだわ!」

「次の会報はそれでいくしかないんじゃないカナ?」


 ……駄目ですね、この三人。全然駄目です。
 どうにもしようがないので話は次回に続きます。

どっとはらい。

572 ◆NN1orQGDus :2011/12/27(火) 18:24:44.76 ID:gWVwxqog
登場人物紹介

わたし
わたしはわたしです。名前はまだありません。
とりあえずポニーテールを進化させた髪型をしているのでフェアリーテールさん(仮名)と呼ばれています。
好きな歴史上の人物はチャーチルさんです。


アンさん
歴史研究部の腐った三連星その一です。
ジェットストリームアタックをすると胸が揺れます。
好きな歴史上の人物はアーサー王とランスロットだとか。


佐藤ゆんさん
歴史研究部の腐った三連星その二です。
ご馳走と言えばすき焼きらしいです。
好きな歴史上の人物は中川淳庵さんと桂川甫周さんです。

ノブナガさん
歴史研究部の腐った三連星その三です。
どうしようもない腐男子です。ジェットストリームアタックで踏み台にされればいいのに。
好きな歴史上の人物はシモ・ヘイヘとヨシフおじさんです。


歴史研究部
活動内容は歴史についてテーマを決めて行うディスカッションです。
時々会報と称して薄い本を作成して配布とか販売します。
573創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 18:26:37.04 ID:gWVwxqog
投下終了。
知ってる人はお久しぶり、知らない人は初めまして。
あいかわらずの変なのを投下。
574創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 18:38:30.42 ID:FLQ7rQcI
うおーーーーーーー!!!!元気だったかー!!!!!!!
こないだ串子さんが心配してたぞおおおおおおおお!!!

投下乙!
575創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 18:51:41.52 ID:DJfS7Yak
過去に某粉飾決算で風説の流布といって叩かれた企業があるが、
フジテレビでも木村、安藤、滝川の報じた内容は、
フジテレビ自体が、フジテレビの株主にとっても
風説の流布と思われる。
どうしたら、ホリエモンと同罪の犯人を捕まえられますか?
576創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 18:56:02.74 ID:Waw7iVRh
投下乙。
おかえり。
577創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 19:36:51.84 ID:gWVwxqog
あ、拙作の中でテーマにして欲しい歴史上の人物や時代があったら可能な限り受け付けますゆえ。
578創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 19:55:19.04 ID:O1WKkvQt
よし、なんかあったら事ある毎に言うわw
579創る名無しに見る名無し:2011/12/29(木) 05:57:56.29 ID:M/8aBVGB
すみません、質問です。

体育科の設定について詳しい方はいらっしゃいますか?

自分は現在スポーツ物のSSを書いていているのいて、投下するスレを探していたところ雑談スレでこのスレを紹介されたのですが、体育科について良く解らないので困っています。

過去スレを読んだのですが、体育科には特Aの体育科と普通の体育科があるらしく、普通の体育科には勉学が振るわない生徒の受け皿になっているっぽいのですが、その設定が破棄云々とあり何だか良くわからなくなってしまいました。

お手数をおかけしますが教えて戴けたら幸いです。

宜しくお願い致します。
580創る名無しに見る名無し:2011/12/29(木) 08:17:46.90 ID:T6a+92e4
そこらへん、大きくは決ってなかった気がするw
581創る名無しに見る名無し:2011/12/29(木) 10:12:39.81 ID:ARKgyekS
体育科は有能なスポーツ指導者を育成する為にあるのがほとんどらしい
582創る名無しに見る名無し:2011/12/29(木) 11:19:45.00 ID:Jmj6r2Wh
設定作っちゃえよ。
書いたもん勝ち
583創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 13:58:55.84 ID:BZUFolhc
大魔女「………はァッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガバァッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ねこ「あにゃあっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
バッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ヒュウ〜〜〜〜〜〜〜〜…

大魔女「………現実…だわ…」

ねこ「……うぅっ… フーリャンちゃん…
…ひっ… ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガシッ!!!!!!!!!!!!!!!!

大魔女「…ねこ…」

ねこ「みんなっ…みんな死んじゃったよぉお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
もう会えないよぉ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そんなのいやだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

大魔女「…………」

回想サナバー「わしはお前の事を――――…」

ドクン…
大魔女(…バカ… なんて事言ってくれてんのよ…
………そんな事言われて私は…この思いをどこにぶつければいいのよ…!!!)
グッ…


亀「……ふわぁ〜〜〜」
ムクッ

大魔女「…ほあ?」

ねこ「にゃ?」


ボケ妹「んむぐぐ………んぐ?」

うさぎ「ピョイイイイ…?」

マリモス「……n〜〜〜〜…………ホワッツ?」

ワラース「…ぐひゅ…あー……朝か……」

ムクリ…
サナバー「むにゃむにゃむにゃ… ………ア…アレェー?」


大魔女「………………」

ねこ「………………」

みんな『…………………』


一同『ズコ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
ドンガラガッチャアァ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
584創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 14:00:02.01 ID:BZUFolhc
ウルトラ誤爆しました…
585創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 14:23:09.79 ID:0KBt828f
なにしてんw
586わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/01/09(月) 13:42:25.31 ID:QSHs2HMp
先輩後輩ちゃんをお借りします。
587先輩!七草粥です! ◆TC02kfS2Q2 :2012/01/09(月) 13:43:05.32 ID:QSHs2HMp

 餌を待ち侘びた仔犬のように、後鬼閑花は浮足立って先輩の周りに纏わり付いた。
 先輩と呼ばれる少年もあしらい方も慣れたもので、無関心を装いながら図書館でのひと時を過ごす。
 敵もさるもの閑花も目を輝かせながら上目遣いで先輩の顔を覗き込んで、小柄な身をさらに小さく屈み込む。
まるで第一印象は青年と幼女の関係という、いろいろと間違った憶測を誰もに許して辺りに撒き散らす後輩の閑花。
もっとも、二人とも制服姿だから誤解を植えつけるようなことは起き得ないのでご安心を。

 先輩が二歩歩けば、後輩は三歩先回り。先輩が左に折れれば、後輩は右から追いついて、二人がさ迷う本の森を
菜の花小花咲き誇る、春うららかな河川敷に舞台をいとも簡単に変えてしまう閑花であった。

 先輩だって、閑花だって、いい歳した高校生。図書館のルールも一通りは心得ている。
 活字に写真、絵にインクの香り。一人で楽しむのも、みんなで楽しむのも自由だ。
 ただ、ルールさえ守れば。

 ルールとは……。お静かに!

 本を読みたいと言い訳すれば、きっと一人きりにしてくれるかもしれないと先輩は本を選ぶ。
 一人きりの時間は想像以上に必要だ。自分自身を休め、誰かとふと会いたくなる時間をわざと作る。

 一方。閑花は背中に一冊の本を隠して、先輩におもむろに近付きながら、にっと白い歯を蛍光灯の明かりで反射させた。
 拒む理由が無い先輩は、無理矢理に後輩の誘惑を拒む理由を作ろうと、読む気の無い分厚いハードカバーに手をかけた。
じりじりと閑花がにじり寄るにつれて、朝日を浴びた妖精と勘違いしそうな、淡くも甘いシャンプーの香りが、年齢詐称すれすれの
おかっぱヘヤーからふんわりと漂っていた。まるで妖精が舞うがごとく。

 先輩、気を緩ませたが最後。閑花の未発達な色香に靡かされ、目線をついつい許してしまった。
 閑花が後ろ手で隠していた一冊の本、すかさず風切るように先輩の目の前に掲げる。

 率直な一言、美味しそうである。

 この日、先輩はお昼ご飯がパンだけであった。炭水化物とは言え、十代男子の空腹を満たすには、いまいち役者不足である。
だと、すれば閑花が持ち出した一冊は先輩にとっては凶器そのものである。先輩は重厚な本を持つ手を止めた。

588先輩!七草粥です! ◆TC02kfS2Q2 :2012/01/09(月) 13:43:29.51 ID:QSHs2HMp

 温かな家庭料理が湯気立つように並び、この場所で働くはずがない嗅覚をくすぐる表紙の写真。
 先輩だって食べ盛り。人間が持つぴんと張り詰めた理性の糸が、自重を知らない欲望の刃にさらされて、今にも限界を超えんとする。

 早い話、腹が鳴る。つばきが喉を通る。

 だが、待て。
 先輩、表紙の写真に騙されるな。
 大小一組のお茶碗に、箸。どう見ても男子と女子、それぞれが使うもの。なぜに二人分なのか。

 これは空想の話。
 夕暮れ時の帰宅、玄関にて入浴か食事か、それとも……?の選択を求められた後のリビングでの平和な展開。
 いや。平和な時を過ごし安らぎの入浴タイムを経た後に予想される、ふかふかベッドをうねりの大地と化したフィールドにて
繰り広げられる薄暗い寝室での一夜。そんなくすぐったい展開を喚起させるような、いちゃいちゃさんたちのメニューが先輩を惑わす。

 早い話、お口にあーん。だ。
 そして、お返しのあーん。だ。
 もひとつ、おまけのあーん。もついてくるかもしれない。

 あどけない閑花の笑みに隠された、純粋過ぎる企みに先輩はいともたやすく虜となるのか。

 いやいや、先輩、そんなに甘くない。
 閑花が掲げた、新婚さんの為のお料理ムックをあっさりと先輩は払いのけ、厚い本を棚に返すとすたすたと去ってしまう。
頬を風船のように膨らませた閑花は、足音を立てぬように先輩の後をつけて行った。
 もしかして夜の繁華街なるストリートを闊歩する、怪しいお店の客引きお兄さんよりたちが悪いかもしれない。
美味しい話に誘われて、ビール一本10万円。ってヤツだ。もっとも、健全たる先輩にとっては、想像の世界でしかない。

 いけない。腹がまた鳴る。

 どうも、パンのみの食事が先輩の胃袋を困らせるらしい。そこに、閑花のおうちごはん攻撃だ。健康たる先輩にとっては、
かなりのダメージをクリティカルヒットで受けているはずだ。圧倒的不利な戦局を打開する方法はただ一つ。

 帰宅することだ。
589先輩!七草粥です! ◆TC02kfS2Q2 :2012/01/09(月) 13:43:50.87 ID:QSHs2HMp
 残念ながら今日は本を探すことは諦めよう。屈辱に塗れた敗戦よりも、名誉ある撤退を先輩は選んだ。
幸い閑花の姿が見えない。この隙を狙って、書の森から自宅への帰還を試みる。
 先輩の心のうちを読み取ったかのか、閑花は足音を立てずに図書館玄関へ向かう先輩の前に飛び込んきた。
そして、またも一冊の本を目の前に掲げると、先輩は手を額に当てて渋柿を十も食べたような顔をした。

 閑花が手にしている一冊の本。使用している紙はかなり上等だ。それだけあって目を引き付けて本を引き立てる力が存在している。
 土鍋を囲むとある農村の囲炉裏。季節は松の内を空けた頃、一息ついて団欒を過ごす一家の写真集だった。とある写真家が
撮り溜めた日本のよき風習の記録。しかし、閑花は伝えられるべき文化を先輩に見せたくてこの本を持ってき訳ではないと、
誰もが想像できるのではないのだろうか。なぜならば、閑花だからだ。

 それをも無視して先輩は玄関へと向かう。そこに立ちはだかるのはゲートだ。
 無断で本を持ち出すと、ぴーぴーやかましいアレだ。
 先輩は今日は本を借りていない。故に通り過ぎてもセンサーは無反応だ。しかし、閑花は図書館の本を抱えている。
いくら先輩まっしぐらの閑花でも図書館のルールは心得ているはずだ。だが、万が一……万が一の最悪の事態が先輩の脳裏をよぎる。

 先輩が閑花に何かを言おうとした瞬間、閑花はぴょんと先輩の前に飛び出してゲートへ近づく。足元がよろける。
ローファーを履いた二の足でふんばる。だが、地球に逆らえない体。天を仰ぎ見るように閑花はお尻から転ぶと、ふわりとスカートが。

 白いごはん。
 白い湯気。
 白いパン。

 先輩のまぶたの裏に甦る白いものたち。

 完璧にゲートを潜った閑花の体。ブザーが鳴ることはなかった。すでに閑花は貸し出し処理を終えていたのだった。
 代わりに先輩の腹が鳴る。貴重な閑花ちゃんのせくしーぽーずより、腹の空き具合の方が勝った事実。

 閑花は大地に踏ん張って立ちはだかる先輩に手にしている本をばっと開く。空腹男子を鷲掴みするには十分な写真。
 やはり、米だ。米が食いたい……。先輩は尻尾を振る閑花と目を合わせぬように、囲炉裏端の土鍋が描かれた写真を見つめていた。
ぐつぐつと白米が煮立てられ、大地の恵が具材として色を引き立てる。地味ながらいくらでもおかわりを許してしまう一品。

 「先輩!七草粥です!閑花ちゃん特製土鍋で……」

 先輩がまた腹を鳴らす前に、閑花は図書館の外で黄色い声を上げた。


   おしまい。
590わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/01/09(月) 13:44:26.37 ID:QSHs2HMp
先輩!投下終了です!
591創る名無しに見る名無し:2012/01/09(月) 16:24:30.52 ID:X+7tHKQx
俺がおかゆ食いたくなったw
592創る名無しに見る名無し:2012/01/09(月) 19:02:43.25 ID:0kl+y1f9
投下乙。
「なぜならば、閑花だからだ。」の説得力。
会話に頼らずここまで違和感なく二人の関係を書けるってマジスゲェ。
そしてまさかのパン☆チラとはさすがわんこ氏……俺に出来ないことを平然とやってのける……ッ!
593創る名無しに見る名無し:2012/01/11(水) 11:08:03.09 ID:IIpVptn1
あげー
594創る名無しに見る名無し:2012/01/30(月) 18:54:24.30 ID:qea4TAv8
わおーん!
595創る名無しに見る名無し:2012/02/01(水) 23:01:16.54 ID:KcP1Jzg8
……書けないのーん……
596創る名無しに見る名無し:2012/02/02(木) 03:57:18.96 ID:G9LmBeEW
安価でも撃ってみるかのう。
597創る名無しに見る名無し:2012/02/02(木) 22:22:08.86 ID:yNl1RbST
この超低速スレでか?w

数字にクロス先を振り分けておき、レスした秒の下1桁で指定とかやってみようっかなー。
手に負えないのを引きそうだがw
598創る名無しに見る名無し:2012/02/02(木) 22:34:32.73 ID:yNl1RbST
あ、やっぱ日付変更と同時にレスしてみてIDでやるほうがいいか。
ある程度操作しようと思えばできそうだしな。
599 ◆46YdzwwxxU :2012/02/02(木) 23:43:26.73 ID:yNl1RbST
クロス先


1=静かなる者、かしましき者たち
2=ファザコンシスターズ
3=LサイズMサイズSサイズ・悪女
4=筋肉たち
5=ゴリラ・DTO・残業革命
6=わんわん王・あの字・爆発すべきメガネ
7=スクールでツクール
8=ツインバードストライク
9=タイガー&バカ
0=他
無=フーファイター


連投ごめんち☆
2月3日本板のIDの一番後ろの数で決めようと思います。
全員を出すとは限らないし、他に出さないとも限りません。
クロス先は単純に量的な意味で把握しやすそうなキャラという基準で選んでます。
600 ◆46YdzwwxxU :2012/02/03(金) 00:05:01.21 ID:fReBw7fI
再利用でチェックしました。

7……創作部関連か。

なんかすげー久々な気がするなw
これの作者さんってまだいらっしゃるのかな?

まあ、そういうことで、やりますか。
601創る名無しに見る名無し:2012/02/03(金) 00:21:45.06 ID:s6mD1aYW
>>600
期待してるぜ!
しかし>>599の1、5、9がどのキャラなのかわからない・・・
602創る名無しに見る名無し:2012/02/03(金) 02:15:34.57 ID:dWBJlrOz
1はたぶんツーバード
5は先生方。
9は黒鉄兄妹。

ていうかゴリラだのバカだの扱い酷いやつが多いなwww
603創る名無しに見る名無し:2012/02/03(金) 03:58:19.12 ID:d+eg26jT
そして8がツーバードだと今気づいた。1は誰だw
604創る名無しに見る名無し:2012/02/03(金) 05:51:37.65 ID:fReBw7fI
恋する乙女河内静奈ちゃんだぜ
605創る名無しに見る名無し:2012/02/03(金) 14:34:16.92 ID:X/i+zAZP
なるほどw
606創る名無しに見る名無し:2012/02/08(水) 21:59:31.00 ID:UJ+YeM4V
創作部って結構難しいよな……(河川敷で石投げながら)
607創る名無しに見る名無し:2012/02/08(水) 22:27:55.87 ID:8EtLt2v2
結構ってかかなり難しい気がしないでもない。
608創る名無しに見る名無し:2012/02/08(水) 23:18:49.37 ID:UJ+YeM4V
うん、書き手的には士乃が癒しかな。
609 ◆5K3UoDDdSbL7 :2012/02/09(木) 17:48:46.46 ID:vpMF6tvb
>>600
雄一郎「行くぞ、和穂!」
和穂「おう兄ちゃん!」


立○兄弟ですね。分かります。



しかし居ない間にこんなのがあるとは。
胸熱だな。覗いてみよ。
610 ◆ga71Kb/MnY :2012/02/09(木) 17:54:16.73 ID:vpMF6tvb
>>609
あっ、また鳥間違えた。

危ない危ない。




一応ピヨとイーグルの人です。
鳥変わったけどね。
まぁなんか書かなきゃだけど。
611 忍法帖【Lv=6,xxxP】 ◆46YdzwwxxU :2012/02/12(日) 17:17:32.20 ID:CVLNjdit
なんか時間が掛かりそうだわ。
まだ方向性すら決まらぬ。
キャラひとりをピックアップとかそういうのになるかもね。
612わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/02/14(火) 17:15:34.45 ID:zJROYDC+
また、先輩後輩さんたちをお借りします。バレンタインねた!
613先輩!バレンタインデーです! ◆TC02kfS2Q2 :2012/02/14(火) 17:16:13.59 ID:zJROYDC+

 「先輩!バレンタインチョコです!」という台詞を最後に耳にしたのは、随分と前のことだなと
先崎俊輔は街角の自販機にコインを入れた。ぱっと一斉に点灯するLEDは、まるで声の主のハートのように真紅に満ちる。

 わざと無視をしつつも冷静沈着に飲み物を選ぶ先崎は、とりあえず喉を潤したいがために無難なコーヒーを選ぶ。微糖だ。
貴重な安らぎのときだから、飲みたいものを飲む。コインを入れる音が自販機の中で響いていた。

 「先輩のことなら、なんでも知ってます!ね!!」

 白く細く、陳腐な表威ならば白魚か。透き通るような女子の指。、マグロよりも俊敏に先崎よりも早く、声の主の指が
カジキマグロよりも鋭く『無糖』のボタンを突き刺した。先崎の額に汗と青筋が走っていた。
 自販機の紅い灯火は綺麗さっぱり消え失した。だが、声の主は簡単にあっさりと引き下がるほどのヤツではない。
機械は機械、人は人。人だから、誰かにかまいたい。人だから、誰かにちょっかいを出したい。そして、人だから……好きになりたい。

 「わたしの作ったチョコはどこにも売っていない『閑花ちゃん特製チョコ』ですよ!」
 「ほー。えらいえらい」
 「相変わらず棒読みですね。はっ!もしかして、これはツンデレってやつかもしれません」
 「古すぎるぞ。それ」

 きらびやかな小箱を持った後鬼閑花は、ボブショートの髪を脇を走る車の風に揺らしながら自分の台詞で頬を赤らめた。
先崎は苦虫を噛み潰した顔をしながら、温かい無糖の缶コーヒーを拾い上げると手のひらでころころと転がしながら、
冷え切った手を温めた。まだまだ寒い日が続く二月の中旬。吐く息が白くなることはないものの、指先が痛い。

 先崎は閑花を振りきって歩き出す。待ち合わせの時間が迫っているからだ。遅れることは許されぬ。
だからこそコーヒーを飲んで一息と思いきや、この有様だ。運命を、社会を、政治を呪うしかない。

 「先輩!恋人たちの平日に幸せを祈りましょうね。だ、か、ら、こ、そ」
 「急ぐんだけどな」
 「『だからこそ、急ぐんだけどな』……。先輩!意味がわかりません!」

 閑花は先崎の後を追いかけて、小箱を天高く掲げながら夢見る乙女モード全開で目を輝かせる。
周りなんか見てられない。目に見えるのは恋する先輩。一方通行規制な恋かもしれないけれど、規制はいつの日か解かれるかもしれない。
だんだんと先崎の駆け足が早くなるが、閑花がめげるようなことはけしてなかった。いつか、先輩を振り向かせてやる!と。

 この世の中で一番最強な人間と言えば、誰もが納得する答えとして『恋する女子』が挙げられよう。
 彼女らは大地の息吹とともに自らの限りない力を萌え出ずる。春先の、森羅万象、この四季ある土地に住まうものたちが
恵みの大地から吸い上げた大きな力で『誰かを好き』だということを小さな箱に秘める。その日……を、思い出せ。
614先輩!バレンタインデーです! ◆TC02kfS2Q2 :2012/02/14(火) 17:16:36.71 ID:zJROYDC+

 「ほんっと、久し振りに作った、久し振りのバレンタインの贈り物です!」

 冗談に聞こえないのは先崎だけではなかった。はずだ。
 小走りのかけっこは否応無しに続けられる。あくまで先崎は完全無視の構えだが。

 「手渡しが嫌なら、口渡しですね!口が嫌なら……ぎゃあ!」

 先崎が閑花の悲鳴に振り向くと、アスファルトにしゃがみ込む閑花の姿が目に入った。折角のスカートは汚れ、
ブラウスは純白さを忘れ、肩にかけていたバッグを落とし、そして、彼女のヒールは脆くも折れていた。

 「先輩……。かかとのあるパンプスは、走りづらいです」
 「走るなよ」
 「先輩のためなら、走ります!」
 「お前、高校時代とちっとも変わらんな」

 閑花は横たわったバッグを慌てて拾い、肩にかけると小さく方を落としていた。
 そっと閑花に手を差し伸べる先崎が細く薄い手を握ると、ともに過ごした仁科の学び舎が脳裏に浮かび上がってくる。

 ビジネス街と渡り廊下、スーツと学生服、今と昔。たったそれだけの違いじゃないか。そんなこと、閑花を見れば分かること。
 彼女は何事もなく立ち上がり、折れたヒールを左手に、綺麗な小箱を右手に再び目を輝かし始めた。

 「もしかして、わたしはネクタイフェチなのでしょうか?リーマン姿の先輩も素敵です!結びなおしてあげましょうか!」
 「ごめん。お得意先の約束があるんだ。10分前行動は基本だから、急がしてくれ」
 「バレンタインがやっとやってきたんですよ!社会人になった頃以来かなあ。また、公にバレンタインチョコを渡せるなんて!
  それはさておき、『閑花ちゃん特製』はふんだんにミルクを……」

 先崎は閑花のバッグに缶コーヒーをそっと入れ、閑花を背負って彼女のオフィスまで送ってやることにした。


    ※

 公布。 

 平成×○年に施行された『二月十四日における菓子類贈与の禁止に関する法律』を廃止する。
 なお、この令は公布の日より施行する。

 平成××年二月十四日。


  おしまい。

615わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/02/14(火) 17:17:18.89 ID:zJROYDC+
投下おわりー
616 忍法帖【Lv=8,xxxP】 :2012/02/15(水) 00:27:52.42 ID:Q+3ODeyJ
ちょwwwバレンタイン中止になってたの!?www 俺らの怨念凄まじすぎワロタ。いきなり社会人になってたり、いろいろチャレンジフルなSSだ。
「マグロ」「口が嫌なら」「壊れたパンプス」「ミルク」、……なぜわんこ氏の後輩はこんなにも
にじみでるエロス。

出演的には昔から全然お返しできてなくて心苦しくもあるが、
とにかく、ありがとう、そしてありがとう!

俺もいつかは書きたいんだけどな、仁科のバレンタイン。
617創る名無しに見る名無し:2012/02/15(水) 04:24:55.72 ID:8ASK5vWF
バレンタイン中止wwww こりゃクリスマスも無くなってるなwwwww
しかし大人な後輩が想像付きそうで付かなそうで、やっぱり後輩だったw
618創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 01:35:09.18 ID:JnYKHVhC
わんこVer後輩はまさに正統派仔犬系ヒロインって感じだな。
先輩はあんま変わんねぇw
619わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/02/28(火) 18:45:30.56 ID:bxETrHnC
桜の季節の前だけど、投下します。
連投すんません。
620さよなら遠賀先輩 ◆TC02kfS2Q2 :2012/02/28(火) 18:45:59.78 ID:bxETrHnC

 残り少ない学園生活、まるでマンガのようなことが起きるものだと、下駄箱の蓋を開けた遠賀希見は目を丸くした。
 一通の封筒。桜の季節はほど遠いのに、間違えて一足早くやって来たかの装いだ。可愛らしいシールで封をされた、
恋文かと見紛う手紙を遠賀はそっと手に取る。なぜ、恋文と判断しなかったのか。

 「何も書かれてないからね」

 冷静に遠賀はこの事件を捉えていた。

 遠賀は大切に封筒を持ち歩き、まもなく古巣となる演劇部部室へと足を運ぶ。この部室にお世話になるもの、あと僅か。
惜しむことを許さず、時間ぎりぎりまで演劇部員たることを誇りに思い、遠賀は木製の扉を開く。部活に後輩が一人、部屋にいた。
 部屋では後輩の男子が本を読みあさっていたところである。真剣な顔をして、一行一行丁寧に文字をたどる男子生徒、
遠賀は彼に気づかれないようにそっと背後に回り込み、イタズラするように男子生徒の両目をふさいだ。

 驚いた男子生徒は本をしっかりと持ちながら、動作を固まらせていた。それが遠賀には非常に愉快に映った。

 「遠賀先輩でしょ」
 「勘が鋭いね、迫くん」
 「そんなことをする人は、あなたぐらいです」

 迫の両目をふさぐ白い指を一つ一つ除けると、窓からの日差しが眩しかった。
 男子生徒の両肩に手を乗せた遠賀は、そんな日差しのような笑みを浮かべる。

 「いいことがありました」
 「どうせくだらないことでしょ」
 「くだらないかもしれません」

 栗色の髪を透き通らせて、メガネのフレームを光らせて、遠賀は隣の優しいお姉さんを演じた。
冷静沈着な後輩とはいえ、遠賀には可愛い弟にしか見えていない。そうとられることが迫にはくやしかった。
 本を諦めて、椅子から立ち上がる迫に遠賀は恥じらいながら、下駄箱の封筒の話をした。
 なんでもない話を彩色豊かに仕立てる遠賀の魔術に操られ、興味を持った迫が本物を見たいと言う。
迫の顔を見て遠賀もその気になって、三年間使い古した合皮の通学カバンから蕩けるような桜色の封筒を取り出して、
「合皮がひしめく音がもうすぐ懐かしくなるんだ」と、遠賀は自分に言い聞かせながら高校生活最後の初春を楽しむことにした。

 桜色の封筒。
 これが恋文以外の何物か。しかし、遠賀ははね退ける。
621さよなら遠賀先輩 ◆TC02kfS2Q2 :2012/02/28(火) 18:46:23.67 ID:bxETrHnC

 「実は、恋文だったり?」
 「まさか」
 「どうかな?見てみる?」
 「お断りします」
 「なーんだ。せっかくヤキモチさせようと思ったのにな」

 年上女の妄想に付き合えない迫は、がっくりと肩を落としていた。
 だが、遠賀には迫のささやかな反発をものともせずに、少女のような瞳で話のペースを崩すことをしなかった。

 「そういえば、ここに来る途中ね」
 「話、いきなり変わりますね。空気って読めますか?」
 「女の子が何かの撮影してたのね。可愛いジャケット着て、お洒落なバッグ携えて。『あーちゃん、いいねいいね』ってスタッフに
  乗せられてたよ。ニコニコしながらカメラにポーズを決める姿って、なんだか萌えだよね?そう思わない?迫くん」
 「……読めませんね。それ、ファッション誌の撮影でしょう。多分、あーちゃんってのはモデルさんの愛称でしょうね」
 「鋭いね」
 「そのくらい予想できるでしょ。それに妹が読んでるファッション誌に、そんな名前のモデルさんが出てるらしいんですよ」
 「あーちゃんって子、スタッフの演技指導に軽々と答えて、多彩な表情を見せてくれたのよね。中学生ぐらいかな。
  長い黒髪眩しくて、舞台映えする長身が……ね」

 迫は表情を強張らせた。まさか、と思うが。

 「ウチの学校に入らないかな。演劇部にお誘いしちゃうのに」
 
 想像が現実となり、迫は頭を抱えた。年上女の妄想には付き合えないと。

 「それでね。撮影シーンをずっと見ていたんだけどやっぱりああいうのってカメラを意識しちゃうって思わない?」
 「ええ?そりゃそうですよ。カメラで撮影しているんですからね」
 「二次元媒体……。つまり、写真や映画、アニメなどは一方からの視覚を意識して演じればいいのね。でも、わたしたちが
  取り組んでいる演劇って、舞台をいろんな角度からの視線が取り囲んでいるじゃない?分かるよね。現実社会もそうだし」

 遠賀は戸棚からインスタントコーヒーの素を取り出して、自分専用のマグカップにざらざらと注いだ。
 かぐわしい微かな香りが古びた室内と相性が良い。遠賀は話を続ける。

 「それで……。今度、公演する機会があれば学校の講堂みたいな舞台ではなくて、公園の真ん中でやってみたいなって思うの」
 「……舞台の袖もなしですか」
 「そうね。逃げ場なし。わたしたちをどんどん追い詰めてくれる、サディスティックで最高の舞台じゃない?」
 「見せるべき角度、見せるべき空間、見せるべき距離感こそが舞台では大事ではないのでしょうか。それをないがしろにしろと」
 「お芝居は四方八方隙を見せるなってこと。黒澤監督がマルチカム方式を初めて採用した理由、知ってるよね?そういうこと」
 「先輩の演出は人を選びますねえ……。いや、勉強になるんですけど」
 「さすが迫くん、『さすさこ』ね」
 「先輩なりのお褒めの言葉、ありがとうございます」
622さよなら遠賀先輩 ◆TC02kfS2Q2 :2012/02/28(火) 18:46:44.89 ID:bxETrHnC

 迫が丁寧に言葉を選び、お手洗いに行くと席を立つ。遠賀は迫の行動を気にもせず、遠慮することなく、手にした手紙の封を切った。
中からは百均で手に入れることが出来る安価な便箋が丁寧に畳まれ、美しい文字がほんの一行記されていた。

 『遠賀先輩にはついていけません。あなたのお芝居が大好きだったのに……』

 ファンシーに包まれて鋭く名指しされた遠賀は、便箋を一瞥すると白い歯を見せた。
 手紙の文面を耳にした迫は一度は足を止めるもの、遠賀から促され、部室から出ていった。扉が閉まる音を残して。

 「ふふっ」

 肘付いて、遠賀は便箋を何度も眺めていた。

 その頃部室から離れた迫は、小便をしていた。
 用を足すその最中も気にかかるのは、遠賀に宛てた手紙のこと。犯人探しはどうでもいい。
 なぜにこんな手紙を残していたのか。お手洗いで体はすっきりとするのに、気持ちがいまいちすっきりとしない。

 「なんだろうな……。あの挑発的な手紙は」

 用を終えた迫が部室に戻ると目にしたのは、遠賀がコーヒーを口にしているところであった。
 迫にコーヒーを勧めるが、またお手洗いが近くなると断られた。

 「遠賀先輩」
 「なにかなぁ」

 あまりにものほほんとしや遠賀の答えに迫は、抑えていた感情を露にした。ただ、先輩の目前だけあって、静かで穏やかで、
まるで入れたてと言うよりか、煎じ過ぎて幾分渋みが増した濃い色のコーヒーを思い起こさせるものであった。

 「悔しくないんですか。先輩は演劇部を去るとはいえ、先輩との決別を意味する内容なんですよ」
 「少なくとも、わたしには好意的だね。差出人は」
 「え?だって、遠賀先輩には批判的な内容ですよ」

 確かに、文字だけを捉えれば批判的だ。わざわざ文章にして差し出す。しかも匿名。人によっちゃ切歯扼腕しちゃうかもしれない。
それをものともせずに遠賀はにこにこと口元を緩めながら、綺麗な便箋を折りたたんでいた。迫にはその気持ちが分からぬ。

 「もし、わたしが相手をめった打ちしたくて書くなら、こんな書き方はしないな。悪意が感じられないし。
  そうねー。書くならば……『遠賀先輩のお芝居は大好きですが、あなたにはついてゆけません』かな」 
 「どう違うんですか」

 遠賀は黙ったまま大切そうに封筒を自分のスクールバッグに仕舞い込んだ。
 迫は何度も何度も遠賀先輩に宛てたられた、好意的な批判文の意味を頭の中で繰り返していた。

 「それはそうと、迫くん。さっきの話の続きなんだけど……。あの子、ウチの部に欲しいよね」
 「見ていないから、分かりません」
 「いや。あの子は、いいよ。いろいろと」

 「あの子はいい」と言われても……。
 遠賀の自信の理由を迫が掴めないまま、遠賀が部屋から出ようするのを止める迫。理由は無いに等しい。
しかし、遠賀は子犬を振り払うように、迫を無邪気にスクールバッグであしらって光の中に消えていった。

 
   おしまい。
623わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/02/28(火) 18:47:30.11 ID:bxETrHnC
という、やりとり。もうすぐ三月やで。

投下おわります。
624 忍法帖【Lv=20,xxxPT】 :2012/02/29(水) 00:54:33.90 ID:3UigSE2O
投下乙。
さすさこ!絶対にさすさこ! なんかヘンテコすぎるフレーズなので機会があったら流行らそう。
さりげないあーちゃん登場が嬉しい。伝聞だけど。
遠賀先輩も高校レベルじゃねーお人だわ。ただ360度演劇は無茶苦茶だと思うがw

トイレとかコーヒーとか舞台装置とうまく組み合わせて(こじつけて)表現するのは、
やっぱわんこ氏のうまいとこなのかなぁと思いながら。

俺はリアルでは遠賀先輩ほどニュアンスは気にしないようにしてるんだけど、
SSなら意識することもあるかな。……あるはず。
625創る名無しに見る名無し:2012/02/29(水) 01:12:40.88 ID:3UigSE2O
忘れage
626創る名無しに見る名無し:2012/02/29(水) 04:33:28.38 ID:GEkPkK2B
また新しい仁科弁が生まれたと聞いてw

遠賀先輩は無邪気で可愛い人だが無邪気過ぎて無茶やらされそうで怖いなw
627創る名無しに見る名無し:2012/03/01(木) 09:42:09.50 ID:hYSzFuS2
ローカルな流行っていうのは世界観の構築にも一役買って面白いと思う。
またネタあさりでもするかな……

そして申し訳ないが間に合わなかったよ。……ちょうどいいから半月後を目指すわ。
628創る名無しに見る名無し:2012/03/25(日) 23:46:36.54 ID:+sjm62YU
また……春が来たな……。
629創る名無しに見る名無し:2012/03/26(月) 00:06:57.74 ID:8qTtU3WC
まだ寒い! まだ冬だ!
630創る名無しに見る名無し:2012/03/26(月) 00:34:51.69 ID:4FRY1I/y
あれ……冬……?
なんだまだ冬か。寝よ。
631創る名無しに見る名無し:2012/03/30(金) 15:38:05.65 ID:lYTLK7aN
冬だったらわんわん王が喜んで庭を駆け回り、タイガーがこたつで丸くなっているはずだろ!
632創る名無しに見る名無し:2012/03/30(金) 15:45:56.47 ID:T3QrP9sH
そうかこたつか。今思ったら生徒のプライベート方面がすげー少ない。兄妹全員と両親出してみるか。
時間ねーから書けねーけどw 年度末ェ……
633創る名無しに見る名無し:2012/03/30(金) 21:51:41.22 ID:lYTLK7aN
学園外でのことってどこまで許されるんだろうって悩むことはあるな
634創る名無しに見る名無し:2012/03/31(土) 05:40:50.64 ID:8U5JhryG
あんまり大っぴらじゃないなら大丈夫じゃない?
喫茶店とかあるし、「生徒たちが良く行く場所」的な感じで。
635わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/04/27(金) 23:15:44.52 ID:gQGXKqxs
ちょっとネタ的に遅れてきたようjな。

でも。投下するんだな!うん。
636わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/04/27(金) 23:16:09.02 ID:gQGXKqxs

 「あーちゃんなんて、知りません」

 そう考えていたこともありました。

 まやかしだったてことなんだよ。と。
 幻想を追いかければ、現実で傷つく。理想を追い求めれば、現実でつまずく。
 でも、知りました。

 生きてきた証をデリートするには、今も未来も、そして過去も全て失くさなきゃいけない。って。

 あーちゃんなんて、消さなきゃいけませんか。

 そんなの……悲しいことかも。

 


        ××××××××××××××××××××




       『久遠荵は何故舞台にわんわんをぶち込み続けるのか』
    Why does Shinobu continue throwing a bowl bowl into the stage?




        ××××××××××××××××××××     


 黒咲あかねが演劇部の部室に行く途中、すれ違いざまに一人の少女から手紙をたたきつけられた。見知らぬ金髪のちっこい娘。
あかねは宛名の少女は桜色の封書をつまみ上げ、瞬きを繰り返したのちに、くんくんと匂いを嗅いでみた。
 何でもない紙の匂いしか感じないけども、確かに春の香りがしたはずだ。

 「誰だろう」

 差出人の名前は知らない。確実なのは自分のことを知っている者があかねの居場所を訪ねてきたことだ。
部室に入り、もう一度くんくんと手紙を嗅いでみていると、背後でありえないほどの音が響いた。あんなに激しく扉を開けた荵を
初めて目にしたからだ。いつもならば「わおーん」だの「きゃん」だの叫んで来るはずだが、明らかに機嫌の悪そうな表情が
あかねには見て取れた。あかねは理由は後から考えると分からないが、とっさに手紙を隠した。

 荵はあかねの姿を見ると安堵に包まれたのか肩を落としてため息をついた。

 「どうして、わたしの台本じゃダメなんだよお!わおーん!」

 いきなりの荵の遠吠えにあかねは目を丸くして自分の二の腕を掴んだ。

 「懐先輩に出ていただけることは決まっている。だから、懐先輩にぴったりのものにしようと思ったのに」

 学園一目立つ男。黒鉄懐。
 金髪ロングのヘビーなロック野郎。一度会えば忘れられないインパクト。巨漢だが、身の軽さは天性のもの。
 以前、演劇部の舞台に客演した際に荵が気に入り、再度の出演となる運びとなった。

 「『おれの肉体美がお役に立てるなら』ってノリノリなのに」

 荵をどうしていいのか分からないあかねは戸惑う。戸惑ったときは、冷静に物事を進めるべし。
637わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/04/27(金) 23:16:29.64 ID:gQGXKqxs
 「イヌはダメなんだって」
 「え?意味、わかんない」
 「迫先輩が言うんだよ。『さすがに動物を舞台の上に上げるってのは、おれもどうかと思うんだ』って。でも、でも
 『わたしの作品ですよ!』って言ったら『久遠だけの作品じゃない』って言い返されたの」
 「だろうね」
 「でも、わたしが書くの!わたしが懐先輩や迫先輩、みんなのために書くの!」
 
 久遠荵と迫がぶつかった。一つの演劇のために、一つの作品のために意見をぶつけ合う。
 迫は経験と計算から、荵は感性で物語を作り上げる。どちらがいいのかということは一切関係はない。
 荵は丸めた大学ノートをあかねに差し出し、あかねは無意識に隠していたはずの封書を机の上に置いた。
表紙には筆ペンで『荵の脚本のーと』と文字が書かれ、付箋が付いたページをめくると『裸の王様』の書き出しが目に入った。
 あかねはゆっくりとなぞるように、書き出しから口に出してみた。

 「脚本:久遠荵。演出:迫文彦。配役。王様:黒鉄懐。仕立て屋兄弟:亀ノ井純、熊楚御堂有。街の男:迫文彦。幼き息子:久遠荵」
 
 そして。あかねが静かに最後の一行を読む。

 「その飼い犬:ゴールデンレトリバーの『小春』」
 「わん!」
 「『裸の王様』ねえ……」

 はらりとノートの隙間から一枚の写真が床に落ちた。

 あらすじ。

 王様のパレードが決まった。長い間、争っていた国を服従させることが出来たからだ。先代、そのまた先代からの悲願だった。
盛大に祝わねばならぬ。だから、パレードだ。祝うべし。その日に王様が召す洋服を新たに仕立てることとなった。
 選ばれたのは、街で名うての仕立て屋兄弟。ただ、二人は権力を嫌っていた。腕は確か。街の評判だけはピカイチだった。
上っ面の評判に気をひかれて、家臣は兄弟に打診をすると、兄弟は快諾する。そして、王様に謁見する機会が与えられた。

 祝福の日だ。誰もが王を喜んで、功績に尊ぶ日だ。
 しかし、王は悩む。悔いる。悲しむ。手に入れたものあれば失うものあり、と。


638わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/04/27(金) 23:16:49.56 ID:gQGXKqxs
 謁見の日。
 兄弟は王様に向かって奏上した。

 「最高級の生地をご用意いたしました。どこにもない物です。ただ……、愚か者の目には映らないという、曲者ですが」

 兄弟は王を騙した。生地など無い。エア生地だ。
 権力を嫌う兄弟は、いい機会だと、王様に恥をかかせることにしたのだ。

 しかし、王様は愚か者と思われたくないために、ありもしない生地を褒め称え、さらにはその生地を手に入れたことを褒め称える
勲章を与え、さらには兄弟にその生地でパレードで着る召し物を仕立てるように命じた。

 パレード当日。

 もちろん、王様は裸だ。だが、仕立て屋兄弟は賞賛した。

 愚か者に見えないというでっちあげは、市民に流布されている。
 だが……。一人の男が血相を変えて叫ぶ。声を荒らげて、民衆、家臣、全ての人へと。

 「お、王様は裸だ!」

 民衆は騒然となる。当たり前だ。決して口にしてはいけない言葉。戒めるように、男の幼き息子が遮った。

 「お、お父さん!王様は裸だなんて、何てこと言うんだよ?この上ない、素晴らしい服を着てるじゃないか!お父さん!」
 「お前こそおかしいぞ!よく見ろ!何も着ていないのに、ありもしない召し物を褒め称えるだなんて失礼じゃないか」
 「どうしてだよ!この素晴らしい袖の装飾、匠の技といえる針使い!どうしてオトナには見えないの?」
 「息子よ……。気は確かか?王様は……素っ裸なんだだよ」

 わん!わん!わん!

 王様の前に駆け寄る一匹の大きなイヌ。飛びついたイヌは、王様の体を舐めまわす……。

    #

 「……どうだろうね」
639わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/04/27(金) 23:17:10.89 ID:gQGXKqxs
 正直な話、あかねは返答に困っていた。
 内容はともかく、動物を舞台に上げることに不安を感じているあかねは迫の考えと同じだからだ。
 台本どおり動いてくれるのか。

 「この手紙、なに?あかねちゃんへのファンレター?ずるい!」
 「え?なんでもない」

 あかねが無意識に置いた封書に荵が気付いて目を丸くしていると、無駄だというのにあかねは必死にノートで隠そうとしていた。
きらきらと目を輝かせる荵はノートを払いのけた。この姿例えるならば、お散歩セットを嗅ぎ付けた子犬と皆が言おう。
 もはや止めるすべなしと、あかねは素直にことを話した。

 「『あこ』ってしか書かれてないね」
 「多分名前だと思うよ。訳あって自分のことを知られないように、わたしに何かを伝えたかった」

 憶測だけの会話をしていても何も生まれないから、あかねはくんくんと封書の匂いを嗅いでからハサミで封を開けた。
便箋は淡い色を帯びて丁寧に折りたたまれている。手紙は体を現すのならば、礼儀作法がきちんとされているのだろう。
 あかねは一通り黙読した後、言葉に詰まった。きょとんとする荵のために手紙の文面を読み上げてあげた。

 『わたしは学園・中等部に属します黒鉄亜子と申します。簡素な文面にて失礼します。
  
  さて、わたしはとあるファッション誌で活躍していた読モ「あーちゃん」こと黒咲あかねさんのファンです。
  あこがれです。わたしの目標でした。でも、それは過去の物になってしまいました。何故なら

  あーちゃんがいなくなってしまったからです。

  しかし、雑誌と言う媒体の上、「あーちゃん」の都合でいなくなったことへの空虚感はわたし自身の勝手
  でしかありません。それはまだまだ自分が夢見がちな人間なんだという証拠だからだと恥じております。

  そんななか、一筋の光が差しました。

  「あーちゃん」がこの学園のどこかにいるという噂を耳にしたからです。火の無いところに煙は立たぬ、
   煙があるというのなら必ずや焔立つ。その焔の元は意外と側にあるもので、それはわたしの兄でした。

  以前、学園で行われた演劇会で兄が不肖ながら参加させて頂いたことがあったと聞きました。そのときに
  「黒咲あかね」さんのお名前が兄の口からわたしの耳に飛び込んできたのです。

  忘れかけていたタイムカプセルを偶然掘り起こしたような思いがけない気持ちで一杯になりました。

  不躾で、身勝手なことばかり文章に託したわたしです。怪しまれても仕方ありません。
  ただ、同じ学び舎の下で時間を共有していることに喜びを抑えきれずに筆を取った次第です。

  本当に申し訳ございません。そして、御部の活動、あかねさん……いや「あーちゃん」のご多幸を祈りつつ、
  また、学園のどこかで出会えることを夢見ています。
  
  早すぎる初夏の風が涼しく感じる卯月に於いて。

                                              黒鉄亜子』
640わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/04/27(金) 23:17:35.03 ID:gQGXKqxs
 亜子の手紙は荵でさえも黙らせた。

 沈黙の時間に耐え切れず、荵はゆっくりと机の上のノートを拾い上げて、ぎゅっと抱きしめた。自分の思いと亜子の思いが
重なったような気がして、何度も何度も書き込みされて厚みを帯びたノートを荵は開いた。

 「王様はね、戦に出向く際に愛犬と別れたんだ。断腸の思いで。やがて、愛犬は城から姿を消した、王様を探すように。
  その頃、王様は国のため、名誉のために戦っていた。そして、勝利。その日、愛犬のことすら忘れて喜んだ。
  お城に帰った王様は愛犬が姿を消したことを知って悲しむんだ。愛犬が生きていることすら、絶望していた。
  失ったものによって、自分の大切な守るべきものを思い出したんだ。栄光なんか捨ててしまいたいとさえ思った。
  しかし……愛犬は生きていた。あまりにもみすぼらしい姿だったから、誰も王様のイヌと気付かなかった。
  そして、城下のとある民家に拾われて、パレードで再会する運命を辿るんだ」
 「え?何の話?いきなり」
 「愛犬はずっとずっと……王様のことを忘れてはいなかったんだよ。そして、王様は自分が裸だってことにやっと気付く」
 
 微かに手紙の差し出し主の姿を思い出したあかねは荵の気持ちを汲み取ろうと必死に言葉を噛み締めた。

 「あかねちゃんもこの王様と同じだ。ただ、素敵なドレスに身を包まれて、みんなから尊敬の眼差しを浴びているのに
  『わたし、何も着てない!恥ずかしいよお!』って思い込んでいるだけなんだ。王様と逆で」
 「そうなの?だって、そんな」
 「わたし。イヌさんたちの気持ち、すんごく分かるから自信持ってこの子を舞台に出してあげたいの。
  でなきゃ……こんなお話書かないし」

 ふとあかねは床に写真が落ちているのに気付き拾い上げると、荵は「わおーん!」と吠えた。
 幼い頃の荵と並んでゴールデンレトリバーの姿が写っていた。


  おしまい。
641わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/04/27(金) 23:18:10.73 ID:gQGXKqxs
わおーん!

です、うん。また。
642創る名無しに見る名無し:2012/04/28(土) 03:00:43.13 ID:4D9oKZx+
最初の子は誰だと思ってたらまさかの亜子だったw しっかりした子だなw
643創る名無しに見る名無し:2012/05/04(金) 02:13:12.87 ID:cji+YAzn
予想以上にわおーんだったw
644創る名無しに見る名無し:2012/05/04(金) 21:36:32.32 ID:3jz1sWr6
わん!
645創る名無しに見る名無し:2012/05/06(日) 23:01:10.21 ID:2H43LG3g
前に出てた学園の外での様子を書こうと思って一族全員分書いてたが書きれる気がしないぜ
いかにコイツ等が学園の舞台に特化ているかが分かるw
646創る名無しに見る名無し:2012/05/13(日) 18:57:39.55 ID:iQwexsvQ
作品を初投下するかどうか悩み中
あぁ、黒歴史ノートをまた作り出してしまうのか・・・
647創る名無しに見る名無し:2012/05/13(日) 19:04:51.21 ID:myzFw29K
SS書きなんざ黒歴史製造機たる自覚が必要だぜ。黒歴史は恥ではなく財産と心得よ。どんと来んしゃい!
648創る名無しに見る名無し:2012/05/17(木) 16:17:40.55 ID:zKKAsEID
へいかまんぼーい
649創る名無しに見る名無し:2012/05/18(金) 04:58:28.03 ID:/+6F3cRt
まだか! 新入生はまだか!?
650創る名無しに見る名無し:2012/05/26(土) 03:52:44.36 ID:xt00LRcl
今更だけど仁科の名前の由来って何?
651創る名無しに見る名無し:2012/05/27(日) 03:41:16.56 ID:BokUlx+W
確か名前どうするか聞かれた1の>>1が、音頭取りとしての権利発動して決めたんだったかな。
2ちゃん→にしな?
誰も聞かなかったし、>>1はもういないから永遠の謎だね。
652創る名無しに見る名無し:2012/05/28(月) 05:15:43.76 ID:llL4hfDy
まぁ、たぶん2ちゃんから取ったっぽいとは思ってたけどw
653創る名無しに見る名無し:2012/05/29(火) 03:03:31.95 ID:McnHy2Y1
仁科がなぜ2ちゃんか
654創る名無しに見る名無し:2012/05/29(火) 07:17:40.68 ID:rtDeVL81
2ちゃん→にちゃん→にしゃな→にしな→仁科

チャイナとシナのように、チャとシはCで通じ合うことがある。ンもナもN。
2ちゃんを何とか日本語として無理のない形にしようと悩んだ痕跡がある。
655創る名無しに見る名無し:2012/06/17(日) 20:49:22.26 ID:B1Dxy2K+
>>636
一瞬何事かと思ったらラノベタイトルネタか。
ヌード・キングの印象が変わるな。葱は頭のいい子。
言えなかったけど、あかね/あーちゃんについては俺も気になってたから、今回ちょっとすっきりした。
あと黒鉄一族の存在感がw
656創る名無しに見る名無し:2012/06/19(火) 00:06:37.84 ID:IfDZctHj
統計学的に見て
そろそろ投下があるはず
657創る名無しに見る名無し:2012/06/19(火) 23:33:39.20 ID:PuiljaWD
闘犬学。

葱「ケンカはだめだよ!きゃんきゃん!」
658創る名無しに見る名無し:2012/06/20(水) 01:49:25.25 ID:3XxJDHEk
土佐犬出る?
659創る名無しに見る名無し:2012/06/20(水) 04:58:10.95 ID:KtnK79Wi
>>656
書いてはいるが表用じゃなかったり。フフフ……
660創る名無しに見る名無し:2012/06/20(水) 20:41:46.28 ID:3XxJDHEk
エロめ
661創る名無しに見る名無し:2012/06/21(木) 04:04:50.47 ID:V+MvnAQg
一回くらい書いてみたかったんだw
ちょっとふんぎりつく事があったから挑戦中。
662 ◆46YdzwwxxU :2012/06/24(日) 18:00:20.57 ID:3Zl90gAL
小ネタ並みに短いけど投下します


「先輩、大変です! 何か恐るべきものの気(き)を感じます!」
「うそぉ!?」

 休み時間になるや、後輩が教室の引き戸をがらりと開いて入ってきた。色白な貌は、今や蒼白になっていた。
 黒髪を顎先の高さで切り揃えた彼女は、見てくれだけは日本人形のようで大変可愛らしいが、『立てば爆薬、
座れば地雷、歩く姿は街宣車』なとんでもない女である。

「いや、うそじゃないな。迫真すぎてツッコミし損ねた。いきなり何いってんのお前」
「はい、うそじゃないです。私が愛しの先輩にうそなんて吐くなんてありません。うそは女を美しくします」
「最後のそれそこに付け加えたせいで世界一うそくさいからな」

 なんでこいつは毎回毎回話の筋を無視してまで馬鹿なことをいおうとするのだろう……。ひょっとして誰かに
脅されているのだろうか。

「それで何だって? 恐るべきもの?」

 恐るべきものて。未就学児童でもいわねぇよ、今時。
 実のところ彼女のこういう話題は、いわゆる“構って構って光線”というやつで、大概さしたる意味などない
のだが、呆れ返りながらそれでも何だかんだで結局後輩の話に付き合ってしまう自分の性格が憎い。結果的にそ
のほうが面倒がないこともまあ事実とはいえ、それにしたって何だか自覚のないまま自分の気持ちに対する言い
訳をしているような気がしてきた。
 気がするだけだが。

「何か恐るべきもの、です。サムシング・トゥ…………トゥ・ビー・こわい」
「英語の勉強もしような?」
「はい」
「それじゃ」
「SO・RE・YO・RI!!」

 悄然としたふりをしていた後輩だが、ものの数秒でいつもの調子を取り戻す。流れるように話を打ち切ろうと
した俺の目論見も綺麗に破綻した。

「このままでは、何か恐るべきものによって何かひどいことが起こってしまうことは、たぶん間違いないと推測
されます」
「何から何まで曖昧すぎる。まずその何か恐るべきものって何なんだよ」
「曖昧なものを曖昧なまま扱う、それが日本人の誇り」
「説明しろ!!」

 こいつ、実は俺にケンカでも売っているんじゃないだろうな。俺だって休み時間にやることがひとつもないわ
けじゃないんだぞ。

「だ、だってだって、……とても表現しづらいものなんですもの。それは私の心にコズミック・ホラー(宇宙的
恐怖)を呼び覚ます」

 宇宙的恐怖。また耳慣れない単語だ。何かヤバイものにハマっているっぽい言い回しに、むしろこっちの心に
恐怖が呼び覚まされた。
664創る名無しに見る名無し:2012/06/24(日) 18:07:47.43 ID:3Zl90gAL

「つまり何か。よくわからないが、何かいやな予感がするという設定でお喋りしに来たと」
「全然関係ありませんが、そうナニ、ナニと連呼されると柄にもなく照れますね」

 ……ほんとに全然関係なくてどうしようかと思った。
 朱の差した頬を手のひらで押さえていかにも恥じらっているといったふうな仕草。
 これでいろいろな意味で露骨でさえなければと思うが、狡猾な変態や無自覚な悪女でないぶんまだ安心かもし
れない。剥き出しの地雷なんてむしろ良心的だ。……いや、こいつはそんな可愛いものじゃなく、自分から飛ん
できてスイッチをぐいぐい押しつけてくる地雷だったか。それ最悪じゃねぇか。

「それはそうと、私の“いやな予感”を舐めてはいけませんよ。私のは漠然とした不安要素に対して心の準備を
しているとかそういうんじゃなくて、がちですから。がち」
「思春期特有の痛々しい誇大妄想にしか聞こえないが、もうどうでもいいや。話進めろ話」
「がちなのに……」

 後輩が悲しそうな顔で呟くが、心を鬼にして無視する。

「あまりに宇宙的なために恐怖の根源は不明ですが、とにかくとっても怖くて泣いちゃう感じです。いっぱい慰
めてください。まずは……だっこから?」
「面倒臭くなったのか、いきなりストレートに欲望を言い始めた!?」

 結局のところ、なりふり構わず甘えるための狂言だったらしい。宇宙的とか何かとか話を大きく抽象的にして
おけば、それだけで何となく説明になっているような気がするし、恐怖の対象についても対処のしようがないと
いうわけだ。

「もう休み時間終わっちゃうんですもん! 一秒でも早く、広げた座布団を畳まないと!」
「風呂敷だろ」
「そんなことはどうでもよいのです!」

 一〇分しかない休み時間の一分もない残り時間が、今のでまたちょっと削れた。

「ほらほら! だっこしてぎゅ!」
「そこまで腹の内をばらしておいて、どうして俺がすんなり了承すると思うのかわからない」
「そういうバカなところも可愛い」
「教室に帰って予習でもしてろバカ」

 タイミングよくチャイムが鳴り、バカな後輩は宇宙的恐怖を呼び覚ますらしい何か恐るべきもののことなど何
ひとつ頭にないような晴れ晴れとした顔で去っていった。
 平和な一日でした。



 おわり
665創る名無しに見る名無し:2012/06/24(日) 18:10:05.58 ID:3Zl90gAL
以上ー。

ハードディスクがデータを道連れにお亡くなりになったので、バレンタインの続きは冬になるかもしらん。
666創る名無しに見る名無し:2012/06/24(日) 18:19:04.82 ID:7jJBB6v9
なんやてー!? それはキツイなw

後輩はいつもの後輩というか後輩だったw
667創る名無しに見る名無し:2012/07/04(水) 06:10:30.83 ID:mOtr8Vz0
age
668創る名無しに見る名無し:2012/07/08(日) 18:10:27.92 ID:ZWFWKqtg
来年は七夕ネタとかやりたいなぁ。まだねぶた暦じゃ終わってないけど。
669創る名無しに見る名無し:2012/07/08(日) 18:29:29.28 ID:tAI7UWa/
ねぶた歴ってなんだw
670創る名無しに見る名無し:2012/07/08(日) 23:46:17.45 ID:ZWFWKqtg
聞くところによると、青森県は未だに太陽暦ではなく伝統のねぶた暦を使っていて、カレンダーが違うらしい。
671創る名無しに見る名無し:2012/07/08(日) 23:47:34.43 ID:X09AkEWy
稲作するとこによっちゃ旧暦に七夕の祭りをする
672創る名無しに見る名無し:2012/07/08(日) 23:52:21.06 ID:SMBDyfS8
青森県民だけど知らなかった
673創る名無しに見る名無し:2012/07/15(日) 16:58:05.86 ID:9f6Klx2K
青森といえば三内丸山遺跡だろ。
あとは、特産のめどちとか。

それはそうと新作はまだかね?
674創る名無しに見る名無し:2012/08/03(金) 03:46:54.17 ID:r1b7pZ2S
創発四周年が迫ってるな
675創る名無しに見る名無し:2012/08/03(金) 04:04:24.80 ID:1u+DVVVy
四周年は見物に回るw
676創る名無しに見る名無し:2012/08/03(金) 04:56:36.70 ID:r1b7pZ2S
コンバトラーVのテーマみたいなIDしやがって!
677創る名無しに見る名無し:2012/08/03(金) 04:58:12.89 ID:1u+DVVVy
まったくだw
678わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/08/03(金) 08:55:44.76 ID:Mf/aJj87
投下しますわん。

 「黒鉄先輩じゃだめなんです!わたしが欲しいのは先崎先輩です!金髪ロングなロックンローラーじゃなくて、黒髪クールな
  日本男児です!刀を振り回すような、袴が似合うような、黒髪キューティクルな和風男子がわたしをキュンとさせるんです!」

 後鬼閑花の声で仁科学園のプールが夏を迎えた。おかっぱ黒髪ショートの少女がわおーんと学園のプールサイドで吠える。
 そして、黒鉄先輩と呼ばれた男はのっしのっしと二の足で塩素に塗れたプールサイドを歩いていた。まるで海外帰りのスタアが
空港にて待ち構えていた報道陣たちを興味なさ気に振り切るように。

 「ノーコメントなんだ。この件に関して」

 黒鉄懐の声は素っ気無かった。
 
 「わたしは黒鉄先輩の水着姿なんかは望んでいませんし、金髪被れなんか問題外ですし!そうですよ!耳かっぽじいて聞け!
  わたしの二つの瞳に焼き付けたいのは……せ、せ……言わせないで、言わせんな!いや、言わせないで下さい!ですよ!!」
 「わおーん!黒鉄先輩、もう一度犬かき勝負だよ!ほら!閑花ちゃんも煽る!拍手!ぱちぱち!」
 「もう!久遠ちゃん!」
 「ははは!葱はあいも変わらず気分は上々だな!この!この!」
 「きゃー!懐先輩からいじくりこんにゃくされちゃうよ!」

 久遠荵の声で懐はわっしわっしと荵の頭を撫でながらスイッチを切り替えた。
 さてさて、イヌの声はスルーするとして……。

 学園のプールは何故か賑やかだった。実行犯は言うまでも無い。
 ちらほらと数名の生徒たちが開放されたプールで各々水練なり、自主トレなり行っていた。そんな中だ。

 きらきらと鍛え上げられた肢体をプールサイドで真夏の日差しを輝かせながら、ビキニパンツの黒鉄懐は肩にハンドタオルを掛けた。
 太陽は一つでいい。同じ物などこの世に二つはいらない。そう、二つ目の太陽はきみだ。と天に指差し、水を滴らせながらタイル張りの
プールサイドをフラッシュ眩しい華やかなる花道に仕立て上げて、悠然と歩く懐はわざわざ踵を返して背後の少女に伝えた。

 おかっぱヘアーにちょっと幼児体型の面影残すスク水姿の少女が、ビート板傍らプール縁に腰掛けてぱしゃぱしゃと脚で水面に飛沫を
飛ばしながら、しきりに「先輩、先輩」と眉を吊り上げていた。膨れっ面の少女はスク水の肩紐を摘んで引っ張って、自分の白い胸に
外の空気を触れさせた。じりじりと焼け付くような学校のプールサイドでも、水の上を駆け抜ける風は幾らか涼しい。太ももが水に濡れて、
スク水の下腹部が濃紺に染まり、きらりと光を反射して、曲線を描くあどけない少女のラインで飾り気のないプールに彩りを添えていた。
 ブルーベリーな一輪の花と咲いていた後鬼閑花がぷんすかと口をすぼめていると、側に小さな体が現れてにこっと幼い笑みを見せた。

 夏休みに先輩こと、先崎俊輔が学園に登校するとの情報を閑花はキャッチした。先輩が砂漠へと向かうというならラクダの一頭は
調達するし、北極へ旅立つのならば犬ぞりのイヌになる覚悟さえ出来ている。なんとか先崎の心を鷲掴みしようと閑花が考えた末のこと。

 (水着姿のわたしを見た先輩は……この先、言葉に出来ませんっ)

 しかし、閑花が勝手に申し出た待ち合わせの時間には先崎は姿どころか陰さえ現さなかった。
 その上、プールで鉢合わせになったのは久遠荵と黒鉄懐の嫌でも目立つ約二名。運は閑花を手の平でいじりまわす。
 「おっ。先崎!こっちこっち」と懐がプール外に向かって手を振った。

 閑花、キャッチ!
 ビート板投げ捨てる!
 すっくと立ち上がり、諸手を振って目を輝かせる!

 「先輩!スク水ですよ!成長しきれない思春期真っ只中の体を包む、青春のいちページ!触れるか触れないかの紙一重のどきどき
  ウォータータイム!短い夏を謳歌しましょうよ?」
 「ウソだよ!真夏のピュアガール!」

 懐が手を振る先には部室へと向うアーチェリー部の一団がいるだけだった。先崎の姿は無い。
 一団は『先輩』との言葉にどきっとしていた。眉を吊り上げて立ちすくむ閑花の背後でわんわん吠える声が聞こえる。

 「真夏の青いゲレンデで、いっしょに水しぶきのシュプール描きながら、パラレルターンをみんなに見せ付けてやるんですよ!
  さあさあ!プール上がりは閑花ちゃん特製『特濃バニラアイス・閑花ちゃん味』を召し上がれ!きゃん!」
 「わたし、『きゃん』とか言わないし!」
 「わおん!先輩!わたしのふっさふさ尻尾を見て下さい!尻尾ふりふりふりふりふり!」

 黙っていろと躾けても無駄無駄無駄。荵の口から勝手に作り上げられた閑花のセリフがホウセンカの種子のように弾ける。
 プールサイドにお子様用のセパレート水着できゃんきゃん吠える荵は閑花からジト目で呆れられていた。
 共に控え目な体の二人だ。コースをこれでもかと泳ぎ込む若きとびうおたちだけが、ここは高校なんだとアイデンティティを保っていた。

 「さてはて。なぜに閑花ちゃん。夏休みのプールに来たの?」

 水に親しみに来たならば市民プールなり行けばよい。にも関わらず、仁科学園のプールに現れた後鬼閑花、おまけにスク水だ。
 スクール水着、光の当て方変えれば健康的なみずみずしい輝きもフェチティックな趣味になること請け合いだ。

 「それは、おれ……黒鉄懐の肉体美に倒れたかったからさ。後鬼も罪なヤツよのう」
 「違う!全力で否定します!」

 事実、懐の肉体は美しく、筋骨隆々と水も滴るいい男。古代ギリシャの美術館の遺跡から発掘されたって不思議じゃない体だった。

 (わたしが先輩を呼んだんだもん。なのに……)

 口は災いの元。閑花はだんまりを通すことにした。
 ただ、呼んだはずの先崎が現れないことに、気持ちが少々穏やかではなかった。
 「さて。葱!50メートル自由型で勝負だ!」
 「がおーっ!わたしのイヌかきが唸るよ!」

 身長差、およそ50センチ。小さな荵は両手に拳を作って構えると、ばかでかい懐の挑戦を受けてたち、両者に稲妻のような火花を
撒き散らせていた。
 いつもは「先輩!先輩!」と雪の日の柴犬に負けないぐらい駆け回る閑花も、荵と懐の前では日陰の和猫のように大人しかった。
 スタート台に足をかけ、自慢のビキニパンツが周りの者の動きを止めた。天を突くような、神を陥れるほどの身の丈が濃い影となり、
ゆらゆらと揺れる水面に映った。水面に花咲く荵の姿が周りの者の目を止めた。小動物のような、手の平で転がりそうな体が、
立ち泳ぎをしながらゆらゆらと揺れる水面に浮かんでいた。

 「閑花ちゃん、スターターお願い!」
 「え?」
 「よーいっ」

 荵の掛け声に驚き、目を丸くした閑花はつられて「どん!」と腕を振り上げると、両者一斉にスタート!水しぶき上げながら荵は
イヌかきで前に進み、懐は大きな体をミサイルのように水上の風切ると、豪快なまでに水を割る音を立て、水中に沈んでは浮いた。
いきなりの波に乗った荵は体のバランスを崩す。静寂の中、ひとり荵だけのイヌかきが音立てる。

 「今の、絶対お腹打ったよね」

 ひそひそ話しは広がり、居合わせた者全てが口を合わせる。そして、再び静寂。

 「やった?懐先輩に勝った?わおーん!」

 懐が荵の声で我に返り、プールの底に足を付くと、50メートル先で小さな少女が尻尾を振っている姿が見えた。

 「勝利の女神はときに……いたずらをするものさ」

 お腹を赤くした懐がプールから上がりタイルを濡らして天を仰ぐ。水面にたたき付けられた衝撃からか、鼻から一筋の……。

 「鼻血出ちゃうし。ゴッドだよ、ゴッド」

 夏の神よ。このバカヤロウに喝采を。
       #

 (わたしの貴重なスク水ショットを先輩に見せつけようと思ったのになぁ……)

 先輩!ミルクアイスです!
 先輩!美味しいですか?それじゃ、わたしがもっと甘ーくしてあげますよ?
 先輩!ずっと、この夏が続けばいいですね!そしたら、わたしの……。

 夏プール 恋する閑花の 夢の跡

 更衣室までの道のりで足元が暑い。
 すり抜ける風が閑花を慰めるけど、もういいですよとお断り。

 閑花は水着の肩紐を指で摘みあげると、鎖骨を流れる水滴がするりと胸に滑り込んだ。結局、先崎はプールに来なかった。
 結局、閑花はひと泳ぎもせずにスク水に着替えてプールサイドで跳ねただけで貴重な夏休み、十代の夏の一日を過ごした。

 「帰ったら何しようかな……」

 水を失った魚のように小さな声で閑花は呟き、女子更衣室の扉を開くと久遠荵が着替えている途中だった。
 ワイシャツを羽織り乾いたばかりの髪が光に重なり、ハンガーに掛けたスカートを手にしようとしている荵に色気という色気は
感じられなかった。ただ、屈むたびにちらちらと目に入るくまさんぱんつが閑花に潜在する保護欲を掻き立てていた。
 裸足で荵がボタンを掛けるさまをタオルで体中を拭きながら眺めている閑花は、ふと荵を自分のタオルでもみくちゃにして
みたくなってきた。後先考えなくていいから、ちょっかいを出して相手の気を引いてみる。正しい答えじゃないかもしれないけれど、
正しいだけが答えじゃない。白い太ももに流れる紺色の丘からの伏流水がくすぐったくて閑花は我に返った。

 「わう?閑花ちゃん、居たんだ」
 「う、うん。今シャワー浴びてきた所」
 「イヤなことあったとき、体動かすと楽しいね」

 荵の単純な言葉に閑花は体を拭く手を止めた。雫が足元に玉となって落ちる。
 言葉の意味を聞き直そうと閑花がぎゅっとタオルを握り締めると、程なくして荵は残りの言葉を続け始めた。

 「ちょっと、イヤなことがあったんだよ。どうでもいいぐらいでほんとうに些細なこと。空は青いし雲は白いのにね。
  でも、懐先輩とプールで泳ぎまくってたらどうでもよくなっちゃた」

 ワイシャツとくまさんぱんつ姿の荵は後姿で閑花に風呂上りのコーヒーのような本音をはいた。
 いいこと、いやなこと。今現在の閑花と荵をそんな天秤にかけたら、どちらがどう傾くかは言うまでも無い答えだろう。
 荵が振り返ると閑花の姿はそこには無く、人が通ったように床が濡れているだけだった。

 「……」

 ぱちんとくまさんぱんつのゴムひもを指で弾くと、ちょっとばかし痛かった。

       #
 「先崎。愛しきガールがいないのが辛いのかい?」
 「おれはただ呼ばれてここに来ただけだ」

 プールには二人の男子生徒だけ。
 スタート台には巨身の金髪男。対岸には冷静沈着黒髪男子。金髪は壁のような背中と背筋を黒髪に見せつけたまま自慢の声で尋ねた。

 「先崎に問題を出そう。クエスチョン・ワン。(ガール×水際×おかっぱ頭)÷学園のプール。は?」
 「ごめん。言っている意味が分からない」
 「解答を教えよう。後鬼閑花が頬を光らせながら待っている」

 先崎の脳裏にいつも出会っているような食欲旺盛肉食系少女が浮かび上がらせ、こめかみに十字を描いた。
 自分の背後に食欲旺盛肉食系少女が居ることに気付かずに。

 「先崎を待ちながらプールサイドで髪をいじる姿が思い浮かばないか?」
 「大人しく待つ姿など、おれの脳内画像フォルダにはないな」
 「恋に一途な子だぜ。あれこれ駆け引きするような計算高い女より煌めいてないか?」
 「黒鉄はあいつをどこか見誤ってねえ?」

 後姿のままだから顔が見えないだけにどう判断するべきか、懐の背中は先崎を悩ませる。
 そして、プールを挟んだ男同士の会話を傍で見ていた、聞いていた閑花は先崎に懐の背中を目の当たりにしつつぐっと口元を締めた。
 
 これが男同士の友情なのか。
 後腐れの無い青春なのか。
 水着のままの閑花ははしゃぐこともせず、近づくこともせず二人の成り行きを見守っていた。

 「その腕で抱きしめてやれ!ガールの涙がプールで満ちる前に!恋する乙女、後鬼閑花は……」

 大きな体をゆっくりと180度で振り返り、鼻にティッシュを詰めた姿で涼しい顔して懐は最後に言葉を決めた。

 「スク水姿だったんだ!」



   おしまい。

684わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/08/03(金) 08:59:17.49 ID:Mf/aJj87
投下おわりわん。
685創る名無しに見る名無し:2012/08/04(土) 06:08:49.91 ID:OkVsjUgg
後輩のスク水とか破壊力抜群なのにもっと強烈なビキニ男のせいで台無しwww
686創る名無しに見る名無し:2012/08/08(水) 06:56:55.56 ID:Ns726m4A
投下乙。遅れました。
ちょっとスクール水着買ってくる!

普通に仲良しでわろた。
後鬼って呼ぶのがカラッとして懐らしいなぁと。水着のチョイスもまさに。
葱は安定の平常運転でよくわからないw唐突な福島弁w
「後先考えなくていいからちょっかい出して気を引いてみる」ってのが、なんか気に入った。そんな感じかもしれない。

余計なことだが、後輩に対しての先輩と懐の見解は、目的と手段の違いでどっちも正しいと思う。

ていうかどうやったらこんなクオリティの作品をコンスタントに量産できるんだ……
謎のライターわんこ氏……一体何犬なんだ……
687DaZの人 ◆qwqSiWgzPU :2012/08/19(日) 00:40:39.94 ID:Z9IOnu0Y
>>684
投下乙です。懐兄さんことビキニ男の存在感が強すぎるww
そしてスク水ktkr!もちろん旧スクだよね!旧スクだよn(迫真

んでもって青森さんのキャラ、懐兄さんの妹こと中等部の黒鉄亜子ちゃんを描いてみました。
初めての仁科デビューでございます。どかヨロシクお願いします!
http://dl8.getuploader.com/g/6|sousaku/758/akoako.png

青森さんから言われるまで亜子は黒髪だと思ってたなんて口が裂けてm
688 ◆wHsYL8cZCc :2012/08/19(日) 00:41:19.45 ID:HEOGjfcG
qawsedrftgyhujikolp;@:[]
689創る名無しに見る名無し:2012/08/19(日) 19:11:41.59 ID:lWocpuhM
日本人で金髪なんて不良に決まってる!からな。
異様に可愛らしくてワロタ。リボンが素敵。

そして仁科にようこそ!
690わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/09/15(土) 09:07:48.79 ID:lb6Dgcks
お外にも出ましょうか。投下します。
691ほんの旅 ◆TC02kfS2Q2 :2012/09/15(土) 09:09:30.37 ID:lb6Dgcks

 たまには街から出るもんだ。制服を脱いで、どこかへ行こう。

 黒いニーソックスに黒いパンプスを履き、黒いミニスカートを潮風に揺らして、白いシャツの襟がくすぐったい。
 みどりの黒髪が夏の緑に映える駅のホーム。汽車の音さえ聞こえないのは赤字御免なローカル線でのご愛嬌。ホームの彼女の名は
黒咲あかね。恥かしがり屋のあかねは開放的な田舎駅にて、白い太ももを風に晒していたのだった。胸元のネクタイがわずらわしい。
 せっかくの休みだから、田舎の町にやって来た。波の音が聞こえる港町。何もかも、部活のことも忘れて、先輩のことも忘れ、
そして友人のこと……、何をおっしゃる。それらを忘れられるわけがないですよと、あかねは故郷の街へと続く線路を見つめていた。

 風の音以外は静けさの駅。朽ちかけた駅名板が月日の流れを記していた。駅は地元の名士よりも名高いものだ。駅のそれぞれが物申す。
石畳から雑草がちらほら顔出すホームと、いつもあかねが演劇部で踏んでいる舞台とはちょっと違う。遠くの景色が美しく見えるのが
あかねには嬉しかった。ピカピカのキャリーバッグを握る手が少し汗ばむのが心地よい。あまりにも気持ちがいいのでついつい鼻歌を。

 「あのー。黒咲さんですか」

 再び、静けさ。

 あかねの顔を覗き込むように、齢十四、五の少年がびくびくと近寄ってきた。あかねは心臓をどくんと鳴らせてお守りを握るように
キャリーバッグの持ち手を強く握った。初対面の少年だ。どう言葉を返す?おねえさん?

 「黒咲あかねさんですよね」
 「はいっ!黒咲ですっ!仁科からやって来ましたっ!」

 中性的な顔立ちの少年はにこっと歯を見せてあかねの遠出を労った。
 答えるだけで精一杯だったあかねは、街で見られぬ少年の垢抜けない顔をじっと目に焼き付けていた。

 「もう一度確認しますけど、本当にいいんですか?」

 真一文に閉じたあかねの口は千の言葉よりも多く語り、季節違いの桜色した唇は少年の持つイノセントな感情を悪戯に刺激する。
大人びたあかねはこの港町の舞台では少々浮いているのかもしれない。しかし、あかねの立っての希望でここまで来たのだから
あかねのやりたいようにやらせるのが筋だと言うのではなかろうか。黒咲あかね、侮りがたし。

 あかねがホームのベンチに座り、キャリーバッグを開ける。誕生日のプレゼントを目の前にしたような面持ちで少年は膝を抱えた。


692ほんの旅 ◆TC02kfS2Q2 :2012/09/15(土) 09:10:02.55 ID:lb6Dgcks

 「わぁ」
 
 本。本。本。ホン。本。

 本と言うより、くたびれたノートの山。文具屋さんで誰もが買える大学ノートが何冊もバッグから顔を出していた。
いや、しかしよく見て欲しい。これでもかとシャーペンで書き込まれて、元の厚さよりも分厚くなっているノートたち。
ここまで書き込まれれば、立派な書籍を呼ぶ方が相応しいのかもしれない。手にすれば黒鉛が付きそうなほど文字が埋め尽くされた
大学ノートを体操座りをしていた少年は、遠くに見える光りを反射する波に負けないぐらいに目を輝かせて眺めていた。

 「えっと……。『白雪姫・脚本/久遠……ねぎ』?」
 「荵ですっ!何でも書いちゃうすごい子ですっ!犬が好きですっ!」

 恥ずかしがっている自分を晒すのが怖いから、ついついあかねは言葉を畳み込んでしまう。文章以外は初対面だ。許してくれ。
 海風に吹かれ、盟友・久遠荵が手がけた台本がはらはらとページが捲れる。こうして風でもいいから誰かの手によって
荵の書いた本が捲られていることが、遠くの地でそれが起こっていても、荵の目の前でなくてもあかねは嬉しかった。

 「いいんですか?こんなすごいものをぼくらに」
 「『誰かの役に立ってこそ』って久遠が言うんです」
 「そうですか。その久遠荵さんって……どんな方ですか?」

     
     #


 「おツンデレ!亜子ちゃんはおツンデレが似合うよ!」

 仁科学園・中等部の制服姿で黒ネコミミを付けた黒鉄亜子の目は非常に冷めていた。金髪から伸びたネコの耳。作り物とは言え
小柄な亜子が装着すると、不思議と自然に見えてしまう事実は亜子の抗弁を拒否するかのようだ。
 亜子は自分の周りでわんわん吠える、ケモノのようなちっこい先輩が少々鬱陶しく思っていた。

 「久遠先輩。わたし、やりませんから」
 「亜子ちゃんで当て書きしようと思ったのになあ。おツンデレの役はぴったりだと思うよ!」

 当て書き。演じる役者のイメージに合わせて台本のセリフを書くこと。演じる者にとっては名誉なことではないか。 
 久遠荵はふりふりふりーっと見えないイヌの尻尾を振りながら、大事そうにみっちりと文字が埋められた大学ノートを手にしていた。

 秋の公演が近づいた。荵は託されて以前から書きたかった題目を選び、台本を仕上げてきた。日にちは充分にあるが
取り掛かりは早いほうが良い。荵は選んだ題目のお伺いをする為に、部室に幾人呼んで集まった。ただ、演劇部員ではないが。

693ほんの旅 ◆TC02kfS2Q2 :2012/09/15(土) 09:10:33.19 ID:lb6Dgcks

 「おツンデレ妹の黒ネコ……黒鉄亜子ちゃん!」
 「マイ・シスター!ぴったりな役を付けてもらったじゃないか!誇りに思えよ!我が妹(いも)よ!!」
 「うざっ……」
 
 亜子は獅子のように立ちはだかる実兄を膝蹴りしたいと本気で思った。亜子の身長からすれば兄の太ももに当たるぐらいなので、
さほどのダメージはないはずだ。との計算の元であったため、多少は冷静さは亜子には残っていた。
 
 「妹のキャラは実際に妹じゃない子じゃないと演じられないと思ってね。その結果、亜子ちゃんに白羽の矢が立ったのです!」

 確かに亜子には兄がいる。真横にいる大男がそうだ。懐と呼ぶ。だからと言ってはいそれと二つ返事でOKを出す気にはなれなかった。
演技なんて素人がしゃしゃり出る訳いかないし、と控えめの気持ちでお断りしたかったのだが、如何せん兄が。

 「他にいないんですか?」
 「日頃から亜子ちゃんのお兄さまには大変お世話になっている所存でして、いつか恩返しをしなくてはと思った矢先でした!」
 「ネギ!礼なんか学食で一緒にランチするぐらいでも充分なんだぜ!」
 「黙っててよ……バカじゃないの?」
 「きゃー!おツンデレ!」
 「って、言うか。なんで『ネギ』なの?」

 兄と目を合わせられるような身長でなくて、心の底から亜子は微かな喜びを感じた。
 だが、敵もさるもの。懐は亜子の目線まで腰を降ろして交渉の真似事を始めた。

 「話をしよう。亜子は今、輝いてる」
 「きもっ!!」
 「輝きに磨きをかけてくれるのはネギだ。亜子は必要とされているんだ」

 懐の営業技術はさておき、亜子は作り物のネコ耳を摘んでいた。顔が俯き加減となり、小さな荵から見ても、ただでさえ
小さな亜子がより小さく見えて実の妹のように思えた。子犬のような荵と子猫のような亜子。太陽と月のような二人ならば、
血を分けた姉妹よりも姉妹に見えるマジックであった。すっくと立ち上がった懐はこの二人のやり取りをにまにまと眺めた。
694ほんの旅 ◆TC02kfS2Q2 :2012/09/15(土) 09:11:04.31 ID:lb6Dgcks

 「ホントにお断りだいってなら、ネコ耳付けてくれないよね!亜子ちゃん!」
 「そんなことありません!」
 「きゃー!おツンデレ!」

 はしゃぎまくる荵はにこにこと目を細め、部室のロッカーを開けて探し物をしながら亜子の舞台姿を脳内で描いていた。
 小さな生き物のやり取りを目の当たりにした懐は腕を組んで笑っていた。兄の高笑いが気に食わなかった亜子は回し蹴りで懐の顔面を
狙おうと、部屋の椅子に右足を掛け、高く跳び上がろうとした。小柄な亜子が巨大ロボのような懐の顔面を狙うには椅子を利用する
しかないと左足を上げる。

 「待て!待て!待て!話をしようぜ!人類最大の武器は『言葉』だ」と懐は屈み込み、亜子の回し蹴りからの防御体制。
鉄壁の守りなどわたしからすれば襖同然だと亜子が踏み込んだ足で演劇部部室の空間で回転しながら舞った。
 蛍光灯の明かりが冷めた月のよう。ネコ耳少女の逆光の影が地上の民を時間の枷で縛り付ける。上履きに書かれた『黒鉄』の二文字が
読めるまでに亜子の足が懐に切迫し、やがて懐の頬へとめり込んだ。

 「亜子ちゃん。そしたらこっちの案はどうかなあ」

 荵が再び黒鉄兄妹の元に駆け寄ってきたとき、懐は大の字を床に描き、亜子は息を切らせて兄の側に立っていた。
 はあ……と呼吸を深く行った亜子はようやく荵の姿に気付き、中ボスを倒した後のように手を掃った。

 「おツンデレもいいけど、こっちもいいかなー。眠れる森の……」
 「好きにして下さい!」

 部屋に横たわり鯨と見紛うかの懐の体をぴょんと飛び越えて、亜子は演劇部の部室から出ていった。むっくりと起き上がる懐は
妹に呆気なくKOされてからの一部始終を荵に尋ねると、事実を聞いてあっけらかんと破顔した。

 「ああ。マイ・シスターは恥ずかしがり屋だからな!しかし、ネギにはいろいろと無駄骨折らせてしまってすまない」
 「いいよ!おツンデレの台本は誰かにあげて、また亜子ちゃんが喜ぶような台本を書けばいいし」

 荵は部室の扉の磨りガラスにぴょこんとネコ耳のシルエットが見えているのを発見してニヤリと笑った。
 廊下で二人の会話を盗み聞きしていた亜子は奥歯を噛み締めて呟いた。
 
 「久遠さんって、ホント分かりません」


     #
695ほんの旅 ◆TC02kfS2Q2 :2012/09/15(土) 09:11:35.28 ID:lb6Dgcks

 「わたしもよくわからないけど、何だろう……文字でさえ手なずけちゃう子かな」
 「手なずける。ですか?」

 少年と目を合わせようとしないベンチのあかねは、膝小僧の上でぐるぐると人差し指で丸を描いていた。
あかねが評する荵像が少年には伝わったかどうかはさておき、あかねはあかねなりの表現を試すことにした。
そして、始め喋ることで精一杯だったあかねは荵の話題になったからか、晩夏の海の波の音のように饒舌になった。

 「久遠が言うんです。『わたしが書く物って誰かの真似事かもしれないの。だから、わたしが書いた物は誰かに真似されれば
  真似されるほど尻尾を振ってくれるんじゃないのかなあ』って。だから、あななたちで役に立てて欲しいんだって」

 ぎっしり詰まった荵の思い。
 ペンさえあれば生きてゆける。
 一文字一文字思いを乗せて、晴れて舞台で花咲かせろ。
 でも、花開く前につぼみもろ共摘んでしまうヤツがいる。
 悪しき心があろうとも、誰かの目に美しく写す為に。

 少年の信じていた、言葉の花壇が霞む。

 「真似事じゃ、だめってことですか。所詮、学校の部活なのに」
 「久遠が言うにはそう言うことじゃないんだって。新しい里親が見つかったようなものだって」
 「里親?生き物みたいですね」
 「そうなの。久遠の書いた物は物じゃない。生きているの。趣味だろうが、部活だろうがキチンと生きている立派な『生き物』だって。
  しかも、根を張った花じゃなくて血が通い、骨が軋む、立派な『生き物』なの。だから、誰かに拾われて育ててもらった方がお話自身、
  そして生まれてきた物みんなの為には幸せなことなんだって」

 誰かに掻っ攫われてしまうと思うより、誰かが育ててくれるんだと荵は信じて止まない。
 あかねは少年が持参した段ボール箱に荵の台本集を詰めながら、新しい飼い主の下へとはなむけの鼻歌を歌った。



    おしまい。
696わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/09/15(土) 09:13:01.76 ID:lb6Dgcks
亜子も懐も書いてて楽しいっす。
投下おしまい。
697創る名無しに見る名無し:2012/09/15(土) 19:47:14.85 ID:HBZ9LpVY
おツンデレwww
698創る名無しに見る名無し:2012/09/18(火) 22:54:17.93 ID:qAR8Fbpa
語尾に「っ」が入ると印象が結構変わるもんだね。
黒鉄一族は愉快だw葱との相性が異常。

学園外も面白そう。なんか前そんな話あった記憶があるな。
699創る名無しに見る名無し:2012/10/11(木) 04:47:58.84 ID:BZDJgAMX
あげよう
700創る名無しに見る名無し:2012/10/12(金) 04:44:19.27 ID:lBotvcg1
重りを?
701創る名無しに見る名無し:2012/10/12(金) 15:52:05.72 ID:vOpgoNXp
フン フン
702創る名無しに見る名無し:2012/10/12(金) 15:52:27.52 ID:vOpgoNXp
うっかり上げてしまったw
703創る名無しに見る名無し:2012/10/13(土) 18:11:59.37 ID:pWmO8PA6
重りを?
704創る名無しに見る名無し:2012/10/13(土) 20:02:03.78 ID:tKfXpVoJ
ふんぬらば!
705わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/09(金) 18:50:07.56 ID:tOffXxDa
短いものを一つ。
706もにょもにょしてほしい ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/09(金) 18:51:15.07 ID:tOffXxDa
 「先輩!もにょもにょもにょ!」

 くまのぬいぐるみを胸元に抱きしめて、後鬼閑花は愛すべき先輩にボディアタック!羽交い締めする格好で背後からくまの両腕を操り、
先輩の二の腕をホールドオン!誰もいない学園内の和室にて、昼間っからの激甘ハニータイムが乱れ咲く。但し、閑花からの一方通行
ですけどお構い無し。閑花と先輩のサンドウィッチ状態になったくまのぬいぐるみは両手を互いに上下に素早く動かして、自分の体に
先輩の匂いを擦り付けているように見えた。

 困惑した先輩は手を振り払って、閑花とぬいぐるみから遠ざかろうと試みる。寸の隙を伺い、きらきらと瞳輝かせる閑花の油断を待つが、
先輩が嫌がるそぶりを見せれば見せるほどに、閑花のリミッターは軋みつつ崩壊への道を歩んでいた。
 くるりと回り、遠心力を利用して閑花から、くまのぬいぐるみから一歩離れる。ぴょんと両足揃えて跳躍し二歩遠ざかる。
 呆気にとられた閑花の顔を見て三歩距離を置く。

 「先輩ーっ!女の子に擦り寄られるってどうですか?」
 「うっ……」
 「無抵抗の先輩も真っ白な新雪を踏みにじるような気がして胸がきゅんきゅんしますっ」

 ラグビー顔負け、アメフト野郎も逃げ出すほどのタックルで閑花はくまのぬいぐるみと共に先輩を押し倒した。
 畳に仰向けに転がる先輩は両腕を力無く曲げて、軽く握った拳を胸の上に置いた。少女マンガならば背景に花咲くコマだ。
 くまのぬいぐるみの顔が先輩の腹のあたりに埋まり、スクールベストの上から先輩の羞恥心をくすぐる。くまの耳と耳の隙間から
閑花の笑った目が見え隠れしていた。

 「言っときますけどー。この子が先輩を離さないだけですからね!」
 「どんな電波だよ!うにゅ……」
 「閑花ちゃんは知りません!くまちんが先輩を欲しがってるんです!ね!くまちん!」

 先輩はやたらと腕を絡ませてくる閑花を無抵抗で受け入れざるえなかった。子犬系女子は無邪気だけに悪意がなく困る。

 「そういえば、学園に『カップルウォッチャー』なる者が現れるそうですね!閑花ちゃんたちのようなラブラブカップルを
  こっそり拝見して、影ながらに二人の幸多かれと願う恋の戦士!」

 悪戯っ子の声をした閑花の何気ない台詞に先輩は目を丸くした。

 「確か……。二年の近森ととろ先輩!だっけ!ととろ先輩がよじれるぐらいの特濃チーズであむあむしちゃいましょう!」
 「例えがわからなすぎる!」

 くまちんの口から蕩けるチーズがたらりと零れる、閑花のまだあどけなさ残る膝小僧に垂れた……かのように見えた。
ウソとは言えども、驚いて閑花の手元が動きをやめた理由の説明に相応しいぐらいだ。すかさず先輩はくまちんを奪い取りため息ついた。
 
 「閑花ちゃん!わたしの名前をだすなぁ!」
 「ととろ先輩!ちょっとした揺さぶりです!先崎先輩のツッコミは完璧過ぎるから、閑花ちゃんがどんなツッコミでも対応できる
  ようにと変化球を求めるサインですよ!大リーグツッコミでも何でもきやがれ!」
 「迷惑だよ!」

 閑花は白い歯を見せて人差し指を淡い唇に添えた。
 ととろは確かに閑花の先輩だった。間違っては無い。

 「しかし……ねえ!わたしが舞台を提供して閑花ちゃんが先崎くんへとアタックして作戦実行する」
 「そして、それをととろ先輩がウォッチングする。ととろ先輩悶絶!先崎先輩喜ぶ!わたし嬉しい!皆得!」
 「どうで?このギブアンドテイク!」
 「先輩!完璧です!リハーサルOK!」

 近森ととろはくまちんを抱えて後輩の輝く姿に眼福眼福とにやけていた。

 「ま。先崎先輩のツッコミほどではないかもしれませんね!」

 ととろはシャフト角でジト目をしていた閑花の頭をくまちんで小突いた。

 
    おしまい。
707わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/09(金) 18:53:01.60 ID:tOffXxDa
後輩ちゃんはよい子。
投下終わりです。
708創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 20:23:18.65 ID:X4rnbeTi
ととろ何してんwwwww
709創る名無しに見る名無し:2012/11/12(月) 02:40:44.14 ID:fbtWyb6n
キマシタワ-!! 蕩ける特濃チーズエロぉぉぉい! 後輩は責めがよく似合うな。
そして妄想オチかと思ったら叙述トリックとは、やって……くれる……!
あと他の作者のキャラだけで話作れるってすげーなーとか。

俺もそろそろ何か書かないともにょうにゅ。
さ、サボってるわけじゃないよ! 書き足してはいるんだよ!
710創る名無しに見る名無し:2012/11/30(金) 19:41:50.32 ID:8Y8DbeWv
そろそろ消えてしまったバレンタインの続きを書かないと間に合わないな……結局二年使ってやんの
あと書きかけのやつとシェアシェアも進めて……。
……。
アアアアアアアア!!
711創る名無しに見る名無し:2012/12/12(水) 15:29:03.39 ID:wSOdu1Qp
年末だし久しぶりにWiki更新したけどさー
わんこ氏と後輩無双で笑ったw

作品ページ作成、投下順一覧、作者別一覧をいじった。
ただ、キャラ別登場SS一覧とかは全然やってない。なかなか不便かも。
あと新キャラも追加してない。プログラムよくわかんねえ。

改行はなるだけ合わせたはずだが、誤字脱字は作者の表現を尊重して俺は手は出さない。
よろしく。
712創る名無しに見る名無し:2012/12/12(水) 15:31:42.88 ID:wSOdu1Qp
あ、もし抜けがあったら言ってください。
前メタ構造のでやっちゃったから……
バレンタインのは後半終わったらページ作る。
713創る名無しに見る名無し:2012/12/12(水) 15:46:48.97 ID:4OOPog4X
おつー
おいらもそろそろボツネタにこだわらず適当になんか書くか……w
714創る名無しに見る名無し:2012/12/12(水) 22:05:31.24 ID:wSOdu1Qp
人いないんだなぁと寂しくなったのも確かw
まあここに限った話じゃないけどね。
715わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/12/21(金) 00:45:22.57 ID:MfnJsQOQ
いきます。
716あーちゃんのクリスマス ◆TC02kfS2Q2 :2012/12/21(金) 00:46:42.33 ID:MfnJsQOQ
 「あかねちゃんの分からず屋さん!!」

 ハスキー犬の目をして久遠荵は演劇部の部室から出ていった。扉も閉めずにばたばたと上靴を喧しく鳴らす音を
部室に取り残された黒咲あかねは口を結んで、塞ぎたい耳でそれを聞いていた。

 些細なことだった。本当につまらない原因なので、口にするのも憚れる。すったもんだのすれ違いで荵を激昂させて
しまったあかねに残された扉は今だに開かぬ。クリスマス前日なのに、浮かれ気分の町並みに溶け込むことさえ
許してもらえないなんて、せめて雪でも降って、後に冷たいみぞれにでも変わってしまえ。みんなこの日のために買ったばかりの
ブーツをどろどろに汚し、買ったばかりのコートもびしょびしょに濡らしててしまえ。

 「……」

 一人きりになったあかねは荵のことを考えるのを何度もやめようと試みた。
 雑誌をめくったり、風に当たったり、全ての行動を荵を忘れるための労力に費やしたつもりだった。無駄とも知らずに。
 考え疲れたあかねはため息混じりでそっと部室から去った。子犬のいない部屋にいるのはつらすぎるから。

 家には真っすぐ帰った。どうせ寄り道しても、蔓延るもやは消えないし、はしゃいだ町には溶け込めないし。
いやみなぐらいに真っ青な空を嫌いになりたくないからと、あかねは自分の部屋に閉じこもった。

 明るい時間に家にいると時間が過ぎるのは驚くほど遅いことを思い知らされる。
 とにかく落ち着かない。暇つぶしになにかと部屋の中を見渡す。話し相手になってくれるぬいぐるみ。季節の節目を
楽しませてくれるクローゼットの中身たち、そして色とりどりの本棚。おなじ背表紙がずらりと並ぶ、暑い季節には暖色、寒い季節には
雪のような色。途中で途絶えた年号を見るとあかねは『あーちゃん』という子を思い出した。

 黒咲あかねは昔『あーちゃん』だった。現のようで幻にも似た世界に住む、そんな掴み所のない子だった。
 とあるティーン向けのファッション誌にて、毎月華やかな誌面に囲まれ、一際目立ついわゆる『読者モデル』。彼女はあーちゃんだ。
 
 年末差し迫った頃、誌面はクリスマス一色で赤と緑で染められていた。そして、雑誌からの質問……
 『読モに聞いた、クリスマスプレゼントで欲しいもの』。あーちゃんは迷わず答えた。

 「たくさん本が欲しいです」

 ほんのちょっと前なのに、ほんの数年前なのに、そんな答えを返した自分が恥ずかしいと、あかねはとっくに廃れた
流行りものばかりのファッション誌を眺めていた。可愛らしい制服を着こなす姿も自分でないように見えてきた。

 「クリスマスプレゼント……」

 呪文のように呟いて、自分の部屋を仰ぎ見る。ごくごく普通な女子高生の部屋だし、差し障って目立つものはない。
 かつて自分が飾ったファッション誌を眺めていると、今日の部室と同じのように思えてきた。居場所がないって、怖いし。

 忘れ去ろうとしていた自分を拭おうとしたって、それは犬が星を守るようなこと。どうしてこんなこと考えてたのだろうと後悔しても、
きっと誰かが覚えてくれる。例え、善意でも悪意でも。

 「そうだ。読もう」

 すっくと立ち上がったあかねは思考が追い付く隙もなくクローゼットを開けていた。
 洋服で埋め尽くされた中身から光が差してくる気がしてきた。
717創る名無しに見る名無し:2012/12/21(金) 00:46:59.32 ID:nAk3qkti
く、くるのか
718あーちゃんのクリスマス ◆TC02kfS2Q2 :2012/12/21(金) 00:47:13.06 ID:MfnJsQOQ
 一路、本屋へ。自分へのプレゼントを買いに。たくさん本を買いに行くんだ。誰かから貰うだけのクリスマスはもうおしまい。
人の好意に乗っかってばかりなど傍ら痛い。誰かに幸せを捧げた分だけ幸せが戻る。例え、それが自分に向けてだとしても。
 シックなコートに身を包み、短いスカートから伸びる黒タイツと履きこなしたブーツで町を蹴る。
 体の中がいつの間にか外気の温度と反比例して、荵のことを忘れかけたとき、神はじつにかまってちゃんなんだと思い知らされた。

 通りがかりの公園で、大きめの段ボールの中で体育座りをしている荵を発見したのだ。それだけでなく、段ボールに手綱が繋がり、
その先には……二、三匹の犬。犬たちはのほほんと尻尾を振っていた。それに対し荵は段ボールを揺らしながら何かを叫んでいたが、
あかねには内容が大体の想像がついていた。荵のことを理解していいのはあかねだけだし、なんていう自意識もまかり通る。

 「わおー!走れ!走れ!犬ぞり走れ!」

 あかねが荵の背後に立ったとき、想像が確信に変わった。

 「あっ!あかねちゃん」
 「……」
 「クリスマスだから犬ぞり作ってみたんだよ。でも、走ってくれない!」

 雪も振らず、氷河も流れぬ公園にて荵の思いが伝わらず、仏頂面で犬たちは構えていたことにあかねはなんだか可笑しくなってきた。
 月が笑えば太陽が沈む。荵はスカートの裾を握りながら落ち込んだ顔をあかねに見せないようにした。

 「あかねちゃん、ごめんね。なんかあの時、わたしチワワの足跡よりもちっちゃかったし、
  ミニチュアダックスの歩幅よりも狭かったなーって、思うんだよね。ホント、ごめんなさい!」
 「……ごめん」

 口数少ないあかねは荵の顔を見たくなかった。小さな荵は立ち上がるとぴょんと段ボールから跳びはねて出た。

 「……」

 ふと、うろうろと場をごまかす犬たちに促されるように、あかねは段ボールへと荵と立ち代わって乗り込み、
体育座りで手綱を引いた。そんなあかねに荵は尻尾を丸めて静かに耳を立てていた。

 「え、えっと……。わんわんおー!」

 あかねが吠えた。
 師走の空に突き抜ける叫び。
 それでも犬ぞりは進まないけど、それでいい。
 だってあかねは『わんわんおー』。

 荵はあかねの目がレトリバーのように見えてきた。

 「久遠っ、行くよ!」
 「どこに!?」
 「プレゼント渡しにっ!誰かが待ってる!」

 今夜はクリスマスがやって来る。そりが走ってても可笑しくなかろう。
 荵は真剣なあかねの顔をにっと白い八重歯を見せながら覗き込み、それに応じたあかねは頬を赤らめた。
 自分の中ではそりは飛んでいるつもり。町中の明かりが朧月夜と見紛うぐらいの明るさで飾られて、贅沢に空から眺めているつもり。

 「じゃあ、誰の家から廻る?あかねちゃん」

 手綱を緩めたあかねは荵に見られないように顔を伏せて答えた。

 「自分っ」




     おしまい。
719わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/12/21(金) 00:47:44.08 ID:MfnJsQOQ
ちょっと早いけど、くりすます!
投下おしまいです。
720創る名無しに見る名無し:2012/12/21(金) 00:57:05.15 ID:M9+YtuMu
まて犬ぞりは無茶だろwww
721創る名無しに見る名無し
仔犬たちで無理なら葱に牽かせればいいんじゃない?(犯罪臭するけど)

私生活っぽい話も……いいね。
あかねさんは相変わらずエロいなぁ。ついに秘技わんわんおーまで会得したし。