777 :
飛竜 ◆PZGoP0V9Oo :2012/12/24(月) 23:28:39.01 ID:SMzreqkN
サイ「お喋りはそこまでだ」
サイが銃を構える
サイ「王のかけらを出せ」
ウィルス「わ、わかった……」
ウィルスが木材をへし折ると、中から青く輝くガラスの破片的なものが!
サイ「すぱらしい」
ウィルス「さぁ、これで」
サイ「約束だったな。よし、全員死ね」
デップ「えっ」
ババババババパババババババババ!!!
銃の雨が降り注ぎ、2人は蜂の巣に
サイ「ぶぁーか。誰がお前らクズとの約束を守るかよ」どんっ!
???「終わったか。サイ」
778 :
飛竜 ◆PZGoP0V9Oo :2012/12/24(月) 23:44:57.44 ID:SMzreqkN
船大工A?「始末に時間をかけたな」
びりっ
船大工Aがマスクをはがすと亀田興毅そっくりの男が!
サイ海賊団航海士 ジャン どんっ!
船大工B?「死んだふりすんのも大変よねぇ」
ばりっ
サイ海賊団船医 ミーナ どんっ!
サイ「ああ、潜入調査ご苦労だったな」
ミーナ「これでデビル海賊団に先手をとったね!」
サイ「どうかな?ハンリュウ島にあったかけらの反応が海に移動しはじめた」
ジャン「なにぃ?」
ミーナ「あいつらもう」
サイ「うかうかしていられん。すぐに二つ目のかけらを探しにかかるぞ」
崩壊した船工場を背景にサイ海賊団3人が海を見る
サイ「新たなパイレーツキングになるのは、韋駄天族の末裔であるこの私、サイだッ!!」どどどんっ!
煽り:サイの冒険が始まる……!
779 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 02:11:46.86 ID:36YedIfm
2ちゃん自体への書き込みもはじめてですお邪魔します。
セリフのみのSSですが投下させていだだきます。
780 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 02:14:26.59 ID:36YedIfm
【気が付いたら君の目の前にいた話をする。】
「ねえ、俺がもうすぐ死ぬって言ったらどうする?」
「とりあえず落ち着け」
「落ち着いてるよ。実はね、俺には未来が見えるんです」
「今度は何のアニメにはまってるんだ。未来人が出てるあれか」
「あれではないよ」
「マジか」
「大マジなんだ」
「死ぬのか」
「どうやら死ぬらしい」
781 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 02:16:20.13 ID:36YedIfm
「そうか」
「そうみたいだ」
「どうしようか」
「どうしようね」
「何かやりたいこととか」
「特にないね」
「無いのか」
「無いのさ」
「困ったな」
「困ったねえ」
「そもそも何で死ぬの」
「どっか病気みたいでね」
「雑だな」
「しかも治らないやつみたいでさ」
「更に雑だな、漫画みたいな話だ」
「漫画みたいな設定で少し嬉しいよ」
「馬鹿か」
「馬鹿なのかもね」
「いつ死ぬんだ?」
「それがわからないんだ」
「でも死ぬんだろ」
「うん、もうすぐ」
「それだけわかってりゃ十分か」
「うん、俺はもうすぐ死ぬんだ」
782 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 02:18:12.90 ID:36YedIfm
「なのに何でここにいるんだ?」
「どういう意味かな」
「いや、だって普通死ぬってなったら色々あるだろ」
「遺書とか?」
「自殺かよ」
「違うね」
「ほら身辺整理とか、家族と過ごすとか、恋人と過ごすとか」
「うんうん」
「あとは、・・・えーと、何だ?」
「何だろうね」
「・・・そう考えると、死ぬってわかっててもやりたいことって特別出てこないな」
「そうだね」
「ちょっと絶望した」
「どうして?」
「もし俺がお前みたいにもうすぐ死ぬってなっても、」
「うん」
「特にやりたいことがないってわかったから」
「それは毎日充実してるってことじゃないのかな」
「どういうことだよ」
「君が悔いのない人生を送っているってこと」
「ふうん、そんなもんか?」
「そんなものです」
783 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 02:19:53.85 ID:36YedIfm
「折角だし旅行とかはどうだ」
「旅行かあ」
「行ってみたい場所とかないのか」
「君もついてきてくれるの?」
「場所によってはだな」
「じゃあ京都」
「じゃあって何だ、じゃあって」
「修学旅行一緒にまわれなかったからさ」
「つーかあの頃まだ喋ってもいないだろ」
「そうだったね」
「旅行とか出来るのか?」
「どういう意味で?」
「体調的な意味で」
「大丈夫なんじゃないかな、多分」
「雑だな」
「自分の体だからねえ」
「自分じゃなかったらどうするんだ」
「きっくんなら、すごく心配する」
「きっくんって誰だ」
「君、って呼ぶの飽きてきたから、きっくん」
「あだ名呼びとか仲良しみたいだろ」
「仲良しでしょ?」
「ノーコメントで」
「えー」
784 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 02:30:24.31 ID:36YedIfm
「もっと驚いてくれるかと思ったのに」
「実感ないからな」
「俺にもないんだよね」
「お前にないのに俺に実感あったら嫌だろ」
「そうだよね」
「つまりそういうことだ」
「そういうことだね」
「きっくんきっくん」
「呼ばれ慣れなさすぎてむず痒い」
「じゃあ呼び続けてあげましょう」
「本名にかすりもしない」
「俺だけしか呼ばない君の名前ってことだね」
「なんか気持ち悪いぞそれ」
「失礼だなあ」
785 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 02:31:29.04 ID:36YedIfm
「もうすぐ死ぬって言ってたけどさ」
「うん」
「もし今から俺がコンビニに行くとする」
「うん」
「スピード違反で突っ込んできたトラックにひかれるとする」
「あらら、居眠り運転?」
「飲酒運転かもしれない」
「不運だね」
「その場合病気で死ぬお前より、俺の方が先に死ぬ」
「つまり?」
「もうすぐ、って曖昧だな」
「そうかもね」
786 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 07:24:14.98 ID:FzPrglVR
C
787 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 13:23:52.08 ID:36YedIfm
「ふふふ、」
「気持ち悪い」
「酷いなあ、俺は嬉しいのに」
「何がだ?」
「きっくんとこうして喋れて」
「・・・リアクションに困る」
「もっと早くきっくんとこうしていたらなあ」
「?」
「ふふふ、」
「あー腹減った」
「何か食べたら?」
「コンビニ行ってくっかな、お前も行く?」
「俺はいいや、お腹すいてないし」
「そっか、じゃーいってくる」
「飲酒運転のトラックにひかれないようにね」
「居眠り運転のトラックにはひかれてもいいのか」
「それなら仕方ないよ」
「まあ、仕方ないな」
788 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 13:25:59.26 ID:36YedIfm
「ただいま」
「おかえりなさい、きっくん」
「超寒かった」
「あ、ピザまん」
「あったかいからな」
「もうすっかり冬だね」
「雪はまだ降らないけどな」
「どうせならあったかい季節に死にたかったなあ」
「まあ、ピザまんでも食え」
「うん」
789 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/11(金) 13:28:01.46 ID:36YedIfm
「あ、」
「どうした」
「そろそろ帰らなきゃいけないみたい」
「唐突だな」
「そんなものらしいよ」
「そんなものなのか」
「ねえきっくん」
「何だ」
「実は言わなきゃいけないことがあってね」
「唐突だな」
「実はね」
「告白以外で頼む」
「えー」
「えーじゃない」
「仕方ないなあ。実はね、身辺整理も、家族と過ごすのも、終えて来てるの」
「?」
「恋人はいないからどうしようもないんだけど」
「つまり?」
「実はもう俺は死んでるってことです」
「そっか」
「そうなのです」
C
続き気になる
792 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/12(土) 00:42:28.90 ID:2y8ZSzUS
すいません仕事やら規制?やらでした。
連続投稿しすぎるとダメみたいですね・・・!
続きはらせていただきます。
「もっと驚いてくれるかと思ったのに」
「すげえ驚いてる」
「嘘だあ」
「一周して真顔」
「どうもー幽霊でーす」
「笑えない」
「何でここにいるんだ?」
「それが俺にもわからないんだよね」
「死んでまで出てくるような理由とか」
「やっぱり告白してないからかな」
「愛されてたのか」
「愛していました」
793 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/12(土) 00:44:27.29 ID:2y8ZSzUS
「お前馬鹿だな」
「馬鹿なのかもね」
「今更告白してどうするよ」
「ううん、考えてなかった」
「馬鹿だな」
「でも、死んでまで告白しに来るなんて、きっくんもう忘れられないでしょう?」
「とんだファンタジーだ」
「本当にそろそろ行かなきゃいけないみたい」
「そっか」
「最後にちゅーとか」
「しない」
「酷い」
「大体お前幽霊だし、触れないだろ」
「幽霊じゃなかったらちゅーしてくれたのか、残念」
「都合の良い頭だな」
794 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/12(土) 00:47:59.97 ID:2y8ZSzUS
「じゃあね」
「じゃあな」
「最後にきっくんに会えて嬉しかった」
「漫画みたいな台詞だな」
「大好きだからね」
「最後の最後まで相変わらずだな」
「本当はすっごい寂しいけどね」
「泣かないのか」
「きっくんが見えなくなったら泣く」
「へえ」
「あ、そうだ。まだ答え聞いてなかった」
「何の」
「最初の」
「あれか」
「そう、あれ」
「聞けば?」
「うん」
795 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/12(土) 00:50:43.98 ID:2y8ZSzUS
「ねえ、俺がもうすぐ死ぬって言ったらどうする?」
「今すぐお前と京都に旅行に行く」
「それはずるいよ」
「だろ?」
「愛してました」
「愛されてたみたいでした」
「じゃあね」
「じゃあな」
END
796 :
創る名無しに見る名無し:2013/01/12(土) 00:54:34.61 ID:2y8ZSzUS
以上です。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。
初めて書き込みしたため見にくかったり遅かったりあると思います。
お邪魔しました。
男女、など書かなかったのは性別を決めていなかったからです。
では、いつかまたお邪魔させていただくかもしれません。
失礼します!
おつです
淡々としてるところが逆にいいですね
これは良い
淡々と進むのが逆に素敵
>>796 すごい良かったー!
こういう淡々としてるの好きだなー
ヘンに奇をてらった感じもないし、ちょっと詩的な感じもする
理由:ネットにそう書いてあったから
802 :
創る名無しに見る名無し:2013/02/21(木) 23:02:09.59 ID:Sef+mYfP
.
803 :
創る名無しに見る名無し:2013/04/22(月) 02:56:57.25 ID:MLQ9WZio
。
804 :
創る名無しに見る名無し:2013/09/15(日) 11:04:26.86 ID:3mNsNcv4
むー
805 :
創る名無しに見る名無し:2013/09/18(水) 14:22:18.38 ID:gpRQZMLa
806 :
創る名無しに見る名無し:2013/10/03(木) 15:58:33.43 ID:wzs4p9f1
、
807 :
創る名無しに見る名無し:2013/10/06(日) 19:57:41.35 ID:8m8fkj/y
808 :
創る名無しに見る名無し:2014/01/21(火) 17:35:25.28 ID:r6J4tu1z
809 :
創る名無しに見る名無し:2014/02/07(金) 21:30:37.54 ID:ufI98QWO
810 :
創る名無しに見る名無し:2014/02/15(土) 14:47:13.41 ID:zYzEnV2v
、
811 :
創る名無しに見る名無し:2014/03/16(日) 07:32:56.16 ID:of1jWB6C
812 :
創る名無しに見る名無し:2014/05/18(日) 03:12:31.28 ID:QxCbctro
あ
813 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/21(日) 23:52:54.82 ID:FC/YSeIz
え
814 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 00:22:39.72 ID:kZUGu7cE
昔は私もおねえちゃんのいる店でお酒飲んでたんですよ。
徳島にいたころ、あそこの城下は、秋田町というせまいところに市内の飲み屋が全部固まってるんじゃないかという、
一局集中の繁華街がありましてね、当時の同僚と連れ立って、ちょくちょく行ってました。
おねえちゃんがいるといっても、キャバクラとはちょっと違うんです。スナックというタイプで、おねえちゃんは
カウンターの中から出てこない。客はカウンターのバーで、ウイスキーの水割りをのむ。店には厨房がないから、
料理はなし。柿ピー、サラミ、チーズくらい。
料金体系もちょっと不思議で、酒はボトルキープが基本。キープがあれば、店で出すのは柿ピーと水と氷だけなのに、
一人頭2-3000円とるんですね。チャージとかいって。おそろしく高い柿ピーでしょ。水だって、ミネラルウォーターの
瓶ですけど、最初から栓がついてない店もあったし。「水商売」とはこういうことかと。
まあでも考えてみてください。柿ピーを何回お替わりしたとか、水が何本目とか、いちいち、どこかに正の字で書き
留めて、お勘定に入れる。そんな、おねえちゃん、いやでしょ?野暮の極みじゃないですか。税務署で飲んでる気分に
なっちゃう。
一人毎回2000円で固定するのが、まあ合理的なんです。閉店まで粘ってボトルを空にして帰っても、2000円。自分の
ボトルを減らしたくないというケチ臭い根性で、薄ーい水割り1杯だけで帰っても、やっぱり2000円。あれ、やっぱ
おかしいかな。まあいいや、そんな「スナック」を舞台にした噺におつきあい願います。
815 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 00:28:12.15 ID:kZUGu7cE
「熊よう、今晩秋田町へ繰り出さねえか」
「おう、いいとも。珍しいな、八のほうから誘ってくるとは」
「へへ、この前お前が連れてってくれた店が、ちょいといい感じだったじゃないか。また、あそこ行こうや」
「ああ、なにか、あそこのねえちゃん、ちょっと素人っぽい、あれ、気に入ったんか?」
「まあ、そういうこった。ちょいと俺に考えがあってな、今晩ひと芝居うつんで、お前にも協力してほしいのよ。
なに、難しいことはなんにもない。ごにょごにょごにょ ごにょっと、こんな案配で頼まあ」
「おう、おう、おう承知した。俺の方は、お前のボトルをしこたま飲んで、知らん顔でへらへらしてりゃ、
そんでいいんだな。こんな役なら何回でも頼まれてやらあ」
「1回で十分だ。それから酒はおごってやるけど、チャージは頭割りだぞ。勘定は俺がまとめて払うから、
おめえの分は今、こっちに預けてくれ」
「ちぇ、まるっきり只ってわけじゃあねえのか」
816 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 00:32:43.43 ID:kZUGu7cE
その晩、熊さん、八っさん連れ立って秋田町へ繰り出します。宵の口は居酒屋で焼き鳥とかビールで腹をみたしまして、
少々できあがり加減で、夜も更けてから目当てのスナックへまいります。
「いらっしゃいませ、まいどごひいきにありがとうございます。お連れさまも2回目ですよね、どうぞこちらへ」
「さすがママさん、一度で顔覚えてるんだ。今日は俺が熊におごるんで、新しいボトル入れて。熊の誕生日祝いだ」
「あら、おめでとうございます」
「おめでとうございます。すぐ作りますね」
「乾杯」
「乾杯」
817 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 00:33:56.82 ID:kZUGu7cE
てな調子で始めて、くいくい飲み進めます。日付も変わって、ニューボトルもほとんど空になって二人ともへべれけに
なったころ、他の客もみんな帰ってしまって、閉店時刻です。
「熊もなあ、男に祝ってもらうなあ、今年限りにしとけよなあ」
「けえ、てめえこそ自分のときにあてがあるのかよ、ねえんだろう、ぜんぜん」
酔っぱらうと耳が遠くなるんで、どうしても声が大きくなっちゃうんですね。
「もし、もし。盛り上がっているところ、あいすみませんが、閉店でございます」
「あ、あ、はいはい。閉店 閉店ね。承知しました。承知しましたよ。 だから、熊はさあ」
「もし、閉店ですのでお勘定を」
「あ、あああ、そう、そうお勘定。俺のおごりだ、二人分払うよ。はい、はい。えーと、財布財布。あったあった。
あったけど、なんで財布が開かないの。あれ? どうしちゃったんだ、俺。うーぐらぐらする。よっし。任せる」
八っさん、財布ごとぽーんとママさんに渡しちゃった。
「いや、だから熊はな、ガツガツしすぎなんだよ」
次の瞬間には財布のこと忘れたみたいに、熊さんとのばかッ話にもどっちゃった。
ママさん、一瞬ぎょっとしたけど、財布をあらためると、予定の勘定より1万ちょっと余分に入っている。抜け目
無くボトルをもう1本入れたことにして、空の財布を八っさんに返して、
「毎度ありがとうございます。またお越し下さい。エッちゃん、お見送りして」
「いやーのんだ、のんだ。またくるよ」
818 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 00:34:47.38 ID:kZUGu7cE
翌日
「おう、昨日はありがとよ。おかげで上首尾だったぜ」
「八も変わったやつだよなあ、余分に金とられて上首尾とはねえ」
「いいんだよ。おめえだって財布を落とした事あるだろ。俺は落とす場所と金額を選んで落とした
だけだ。次行くときを楽しみにしてな」
「次っていつだい」
「昨日の今日ってわけにはいかないよ。1週間後な」
819 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 00:36:09.12 ID:kZUGu7cE
1週間後
「よ、こんばんは」
「あらーーーいらっしゃいませーーーー」
「しばらくお見えにならなくって。お忙しかったですかあ?」
「おい八、すげーな。満面の笑みでキターーーじゃないか。エッちゃんなんか、カウンターの端っこに
いたのに、『泳いで』きたよ。女のあんな笑顔、俺はみたことなかったぞ」
「ふふん。これが財布ぽーんの1万円のご利益ってやつよ」
ママさんもエッちゃんも、八っさんが酔って気が大きくなって、また財布ぽーんとなるのを期待して
ますから。なんとしても帰さないように、どんどん飲ませようと一生懸命。
「今日はね、カラスミがあるの。よかったらどう」
「そりゃ高そうだな、いつもの柿ピーでええがな」
「いただきものだから、お代はとりません。悪くなる前に誰かに食べてほしいだけ。カラスミ、
嫌いじゃなければ」
「そうなん? そんならお毒見しましょうか」
820 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 00:36:51.09 ID:kZUGu7cE
「八、こりゃママさんのとっておきみたいだな」
「いきなりいい展開だ。俺もカラスミは初めてだ。ほう、こりゃ酒が進むぞ」
「お酒に強いんですね。おかわりつくりますねえ。もうちょっと濃いほうがいいかな。
きゃあ、ちょっと入れ過ぎたかもー。ごめんなさい。どうぞ、ごゆっくり」
「八よう、俺は今猛烈に感動している。これほどにガチな、キャッキャ、ウフフで、水割りつくって
貰えるなんて。俺には営業スマイルに見えない」
「ばか熊、泣くな、楽しめ。ここが俺たちのモテモテ王国だ」
という調子で、楽しいお酒を二人のんで、
「さあ、熊、そろそろ帰ろうぜ」
「あー、待って待って。まだ閉店まで時間あるからゆっくりしていけばいいのに。
もう一杯いけるでしょう?」
「引き止められて嬉しいけど、明日二人とも大事な仕事が入ってるのよ。お勘定を。」
今度は、八っさん、普通に自分で財布から金を出して、普通に勘定を済ませます。エッちゃんは大変に
残念そうな顔なのですが、別れが淋しそうにも見えるわけです。
「またきてね。なるべくはやくきてね。待ってるから」
821 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 00:37:35.04 ID:kZUGu7cE
店を出てから熊さん。
「最後、エッちゃん、目がウルウルしてたじゃないの。」
「女は怖いねえ。絶対気があると思っちゃうよ。どうよ、ちょっといい感じ程度だったのが、すばらしく
居心地のいい店になったろう?」
「たいしたご利益だ。けどよ、あんなまどろっこしいことしなくったって、ご祝儀なりチップなりで
1万円渡してもいいんじゃないのか」
「チップで1万出しても、そりゃいい思いはできる。でも次に来たときに、チップなしで他の客と同じ
だけ払ったら、なぜかケチられたと思われる。いい思いをするためには毎回チップを出すはめに
なるんだよ。俺のは1回こっきりで、後々までご利益が続くし、それでケチと思われることも無い。
それに俺の財布には、もっと入っているかもと期待が膨らむのよ。勘定のときエッちゃんに見える
ように、今日は財布に8万入れておいた。」
「見せ金だけでサービスさせようってか。こいつは、いい根性しとるわ」
822 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 00:51:39.77 ID:eHByZYTA
823 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 06:16:38.48 ID:kZUGu7cE
店内
「ママ、くやしい。今日のお財布は万札ぎっしり。10万くらいあるんじょ」
「え?10万?・・・(独り言で)先週とはえらい違いだね。今日のは妙な財布の開け方だったよ、
エッちゃんが覗けるようにしてたじゃないか・・・ははーん、そうか、そういうことか。」
さすが年の功で、ママさんは八っさんのたくらみを見破ったようす。
「(独り言で)先週のはわざとか。面白いことする客だね。こいつは一本とられた。カラスミ一本
とられた。まあいいよ、こっちは損した訳じゃない。そんなら、わたしものってやろう」
エッちゃんに向かって、
「ばかだね、この子は。ボトル1本くらいだからちょろまかせるんじゃないか。うちはドンペリおいてる
ような店じゃないだろ。一晩の勘定がどうやったって、そんなになるわけない。こっちは逃げも隠れも
できない、この店でこれからもやってくんだ。10万入ってたって、うちで抜けるのはおんなじだよ。
うちは細く長くでここまでやってきたんだから、あんまり欲かいたこというもんじゃないよ」
「でもね、あたしゃ見直したよ。今日のエッちゃんの仕事はよかったねえ。いいおんなっぷりだった
じゃないの。」
「え? えへへ。そうかなあ?」
「エッちゃんもそろそろ性根をすえなきゃ。競艇選手になる夢が破れて、こんな店に流れてきて、つまんない
と思っているんだろ? ここは本当は私のいる場所じゃないって顔ですましてカウンターに入ってた。
それがどうだい。やればちゃんとできるじゃないか。これっくらい、身入れてやってりゃ、次はきっと
うまくいくよ。先週の余録は二人で山分けにしたけど、次から抜いた分は全部エッちゃんにあげるよ」
「えー、ほんとう? いいの? ようし、なんか燃えてきた」
824 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 06:17:42.97 ID:kZUGu7cE
その次もエッちゃんは、財布ぽーんの夢よふたたびと、手練手管をつくして、八っさんに深酒させよう、
いい気分でしこたまのませようとしたんですが、もとより八っさんのは意図してやったことで、酒癖でも
なんでもない。二度目はなかったわけです。でもママさんがしっかりネジを巻いてる。
「エッちゃん、どの客も同じだよ。酔って気が大きくなれば、財布ぽーんがあるかもしれないじゃないか」
店は毎日のようにやってます。八っさんといえども毎日は来ません。となると、エッちゃんは、手練手管を
他の客にも使うわけです。地方の目立たないスナックでくすぶっていたエッちゃんですが、その筋の才能も
あったんでしょう。もともと競艇選手になろうってくらいだから、お金は大好き、根性も人並み以上。それが
八っさんとママさんのぶら下げた人参で開眼した。
全身全霊の眼力で
「ゆっくりしていってね」
「のみっぷりのいい男のひと、いいなあ」
練習だろうがなんだろうが、やられた男は、キュンキュンでしょ。水商売の女性は、容姿よりも結局のところ
愛嬌が大事らしいですね。どれだけ客をいい気分に盛り上げるか。「またきてね」といわれて、常連になっちゃう。
八っさんだけの居心地のいい店じゃなくて、本当に居心地最高の店になっちゃった。
こうなると常連さんが増える、水揚げが増えるで、商売自体が面白くって仕方ない。もう八っさんの財布なんか、
どうでもいい。
秋田町のスナック過当競争の中、ありきたりだった店が、休みの前の日は満席になってしまう。すると常連が
平日の夜にも流れて行く。ずっと客足が途絶えない。
もうけの大きい水商売です。3年もしたら、ママさんはひと財産こしらえて、楽隠居。エッちゃんのほうは、
パトロンもついてないのに自分で店をもっちゃった。
身勝手きままな男が、財布を落としたつもりになって捨てた1万円が、思わぬ大きな福を呼び込むという、新春向け
の縁起のいい噺、「秋田町」の一席でした。
お後がよろしいようで。
825 :
創る名無しに見る名無し:2014/10/23(木) 01:55:47.59 ID:xY9U0W9F
全く台詞系ではないしスレ違いだが、面白かった
元ネタあるのかな
826 :
創る名無しに見る名無し: