1 :
創る名無しに見る名無し:
2 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 21:56:53 ID:so0SOxpI
キャラテンプレ
使わなくてもおk
・(人物名)
(人物説明)
《昼の能力》
名称 … (能力名)
(分類)
(能力説明)
《夜の能力》
名称 … (能力名)
(分類)
(能力説明)
(分類)について
【意識性】…使おうと思って使うタイプ
【無意識性】…自動的に発動するタイプ
【変身型】…身体能力の向上や変身能力など、自分に変化をもたらすタイプ
【操作型】…サイコキネシスなど、主に指定した対象に影響を与えるタイプ
【具現型】…物質や現象を無から生み出すタイプ
【結界型】…宇宙の法則そのものを書き換えるタイプ
3 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 21:57:34 ID:so0SOxpI
【イントロダクション】
あれはそう、西暦2000年2月21日の昼のことだった。
ふと空を見上げると一筋の光が流れている。
最初は飛行機か何かと思ったんだ。
けれどもそれはだんだんと地面の方へ向かっているようだった。
しばらくすると光は数を増し、そのうちのひとつがこちらに向かってきた。
隕石だ。今でもうちの近所に大きなクレーターがあるよ。
とにかく、あの日は地獄だった。人がたくさん死んだ。
だが、隕石が運んできたものは死だけではなかった。
今、あの日は「チェンジリング・デイ」と呼ばれている。
それは、隕石が私たち人類ひとりひとりに特殊能力を授けたからだ。
物質を操る、他人の精神を捻じ曲げる、世界の理の一部から解放される……。
様々な特殊能力を私たちはひとりにふたつ使うことができる。
ひとつは夜明けから日没までの昼に使うことができる能力、
もうひとつは日没から夜明けまでの夜に使うことができる能力だ。
隕石衝突後に新しく生まれた子供もこの能力を持っている。
能力の覚醒時期は人によってバラバラらしいがな。
この能力の総称は、「ペフェ」、「バッフ」、「エグザ」、単に「能力」など、
コミュニティによっていろいろな呼び名があるそうだ。
強大な力を得たものは暴走する。歴史の掟だ。
世界の各地に、強力な能力者によって作られた政府の支配の及ばぬ無法地帯が造られた。
だがそれ以外の土地では以前からの生活が続いている。
そうそう、あとひとつ。
これは単なる都市伝説なんだが、世界には「パラレルワールドを作り出す能力」を持つ者がいて、
俺たちの世界とほとんど同じ世界がいくつもできているって話だぜ。
4 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 19:58:20 ID:qitqPZ3f
避難所から代理ですー
5 :
禁じられたアソビ、壊れたヒトガタ ◇W20/vpg05I:2010/07/24(土) 19:59:11 ID:qitqPZ3f
次の日、ザイヤと陸の二人はとある道を歩いている。
時間は16時頃。通りには帰り道を急ぐ男子学生や談笑しながらゆっくり歩く女子高生の群れなど
通学路として使われている道路だった。
二人にとって狭霧アヤメの捕獲も重要な任務だが、
バフ課全体として見れば、当然それだけをやっていればいいわけでもない。
今は通常任務を周りに任せ、二人だけで行動していた。
「それで、どうして私をここに連れてきたのですか?」
ザイヤは目の前を歩く、今は10歳程度の少年に体が変化している陸に話しかける。
今回、この二人だけで行動しているのは陸からの提案だった。
理由をザイヤは知らず、といあえず陸について行っている状態だった。
一方ザイヤを連れ出した、陸は楽しそうにスポーツ刈りにした髪を掻きながら、
視線はザイヤへと向けずに答える。
「んー、ま、すぐにわかるさ。ちょっと人に会ってもらおうと思ってね」
そう言って陸は歩く。結局はっきりとした答えを言わずに歩く陸に、ザイヤはため息を吐き視線を周りへと向ける。
楽しげな喧騒。若者らしい活力に溢れた光景を見る。
「こうして見ると、あの日が起きたのが信じられません」
「こうやって笑っている奴らの内、何人が親をあの日に失っているかな?」
思わず呟いたザイヤの言葉に、陸はやはり視線を向けずに言葉を向ける。
ザイヤはその言葉に一瞬言葉を失い、そのまま沈黙した。
あの日、それはチェンジリングデイと呼ばれた日。
その日からまだ10年程度しかたっていない。
まだ、人々の記憶からはその日の凄惨な光景が消えてはいない。
チェンジリングデイを境に実際無法地帯と化した地域すらある。
だがしかし、それでも人間はすべてを用い、一気に復興した。
今、ザイヤがみている日常は人間の貪欲なまでの生への執着の結果だともいえる。
「おいおい、気にするなよ。ザイヤ、お前は少し真面目すぎるようだな。
いいだろう。少しお前に男の楽しみって物を教えてやろう」
そう言って陸は二、三歩歩いた後、突然走りだした。
一瞬の事にザイヤは理解できず、その場で立ち止まる。
陸が向かうのはベリーショートの少女。背は170cm程度。女性にしては高い方だろう。
中学校の制服であろうスカートを履いてなければ、少年と間違えたかもしれない。
そんな少女に向かい、陸は気配を消し、その背後に素早く近づいていく。
その少女はまだ陸に気付かない。
ザイヤも陸を目では追っているが、陸が何をしようとしているか理解できず、ただみているだけだった。
そして、その少女後一歩の位置。何かに気付いたのか少女が後ろを振り向こうとする。
――だが、遅かった。
「だらっしゃぁぁああああ!!!」
陸の派手は掛け声と共に、本来スカートの中の隠れてなければならない水色の何かが公衆の面前に公開されていた。
6 :
禁じられたアソビ、壊れたヒトガタ ◇W20/vpg05I:2010/07/24(土) 20:00:01 ID:qitqPZ3f
少女は固まった。一歩も動けない。何が起きたが理解した途端顔をトマトのように真っ赤にしている。
陸はその隙に大きくガッツポーズをとると一目散に逃げ出した。
少女の隣にいた少年も動けない。顔が赤くなっている所を見るとバッチし見ていたようだ。
そこまでザイヤは目の前で起こったことを冷静に分析すると、顔に右手を当て天を仰いだ。
「あの人は何をやっているんだ……」
その呟きは誰にも聞こえていない。
ザイヤの目の前ではスカートをしっかり握りしめるように抑えるベリーショートの少女と、
その隣にいた少年の言い合いが発生していた。
「ちょっと、陽太! 今見たね!?」
「いや、俺は見てない。天地天明に誓ってみてないと言おう」
「嘘、みたでしょ!」
「誰がお前の水色の物見たいと思うか!?……はっ」
「……よし、こら待て陽太!!」
一瞬の判断、少年はダッシュで逃げだすと、少女はそれを追いかけるようにして走り去って行った。
その一部始終を見ていたザイヤは、もう一度ため息を吐くように視線を下に向ける。
「元凶のことをすっかり忘れてそうだなあ、あの少年たち」
「……とまぁ、外見10歳なら大抵のいたずらは見逃されるというわけだ」
「いつからそこにいたんですか」
いつの間にか陸は戻ってきていた。いつの間にか手にはポッキーを持ちぽりぽりと食べている。
今の騒ぎを起こした元凶が、今の姿相応の雰囲気で寛いでいるという状況に、ザイヤは思わず苦笑する。
「何やってるんですか、あなたは」
「真面目な堅物に少しはめをはずさせてやろうと思ってな。……それで、どうだ?」
陸の抽象的な問いに、ザイヤは何を言ってるのか分からず問い返す。
「どうだ……と言われても」
単純に戸惑いの声。
その答えに陸は衝撃を受けたのか、一歩後ろによろめき、大げさに片膝を着く。
「なん……だと……普段ボーイッシュな女子中学生の下着を見て喜ばないとは……」
「……いや、相手は子供でしょうが。それをどうと言われても」
そんな、ザイヤの極真面目な感想に、陸はモンクの叫びのような表情を作った。
7 :
禁じられたアソビ、壊れたヒトガタ ◇W20/vpg05I:2010/07/24(土) 20:00:44 ID:qitqPZ3f
「バカな! 少年っぽい少女の翻るロマン! それを見られて思わずらしからぬ乙女心全開に恥じらう姿!
照れ隠しに近くの少年に矛先を向けるのも実にいい! お前はそこに萌えると思わんのか!?」
力説する陸に対し、ザイヤは理解不能の視線を向ける。
「良くわかりませんが……」
陸はそんなザイヤにさらに自説を力説する。その様子は悪鬼修羅のごとき必死の形相だった。
「この気持ちを理解できないとは、人生の8割を損しているぞ!! 全く持って嘆かわしい!
……ならば今度貴様には24時間耐久で美少女が多い女子高、中学校の体育祭の隠し撮りDVDの観賞をさせてやる!
その少女特有の健康的な姿の中に女性としての柔らかさを持ち始めた、その青い果実の素晴らしさを徹底的に教え込んでやる!
全く、その美、その萌えが分らないとは実に嘆かわし――」
陸の演説は最後まで続かなかった。
正確には背後から来た人間によるローキックで強制的に膝を着かされた直後、
追撃のかかと落としがテンプルに正確に直撃し、撃沈したのであった。
全くの不意の事態、その人間の存在に全く気付かず、ザイヤは戦慄する。
戦闘態勢に取ろうとし、しかし、その人物をはっきり視認し、躊躇った。
一本の三つ編みを翻しながら、腰に手を当て、陸を見下ろすその女子高生の表情は一言で言うなら怒りだった。
ただ、それが敵がする仕草としては余りにちぐはぐな雰囲気を纏っている。
むしろ友人に対するような仕草に、違和感を覚える。
そんなザイヤの躊躇いを余所に、新しく現れた少女は倒れた陸に対して冷たい視線を向けた。
「りーくー。あんたはどうして公衆の面前で堂々と変態演説をやってるのかしら?」
「か、香織……か? いや、俺はただ男として当然の感情をこの男に教えようとしてただけで――」
陸の言葉は再び途切れる。今度は陸が後頭部を香織によって踏みつけられたからだ。
「あのねぇ。それが当然の感情だったらまずいと思わない? あんた自分が変態だって自覚ある?」
「イエスロリコンノータッチという言葉がある。それが紳士のたしなみである以上俺は紳士であり変態ではない。
例え変態であっても、それは変態という名の紳士なん――」
「陸、あんた一度死んでみる?」
香織の追撃の踵ぐりぐりにより陸は再び沈黙する。
ザイヤは二人のやり取りから知り合いということを理解し、体から力を抜いた。
目の前ではさらに陸が何か言葉を発し、追撃の連続蹴りが始まったので、とりあえず止めることにする。
このままでは何もせずに日が暮れてしまう。
8 :
禁じられたアソビ、壊れたヒトガタ ◇W20/vpg05I:2010/07/24(土) 20:01:25 ID:qitqPZ3f
「まあまあ、折檻はそこまででいいのでは?」
「……はっ……私は何を……。駄目よ、最近確実に陸のペースに染められている気がするわ。
ああ、ごめんなさい。非常に恥ずかしい所を見せてしまいました」
香織は顔を真っ赤にしながらもそそくさと陸の上からどく。
陸もあっさりむくっと起き出し、体のほこりをパンパンとはたいていく。
どうやら見た目もほど力を入れてはなかったようだとザイヤは判断する。
「いやぁ、これは変な所を見せちまったな」
「まぁ、いいです。それで会わせたい人間とは彼女のことですか?」
ザイヤは陸のことを、少なくとも陸の能力を知っているだろう少女の事を聞く。
しかし、陸は首を横に振る。
「いや、違う。これは偶然だ。まだザイヤには紹介するつもりはなかったんだがな……。
香織はどうしてここに? 帰り道は反対側だろう?」
「え、ああ、ちょっと病院に、美柑がいま入院しているから」
「入院……ですか?」
入院という言葉にザイヤは怪訝な表情を作る。
その疑問の声が聞こえたのか、香織がザイヤの方に向き直る。
「ほら、こないだ起こったビルの猛犬事故。あれに美柑って名前の私の親友が巻き込まれちゃって。
怪我自体はなかったけど、精神的ショックのせいでしばらく安静が必要なの。そのお見舞い」
そう言って左手に持ったフルーツセットを掲げる。
その言葉に、ザイヤは思わず顔をしかめた。
香織から出た言葉の意味、それはバフ課が対処した事件の一つだった。
シルスクの班によって鎮圧はできたが主犯は捕まえられず、結局その場限りの対処しかできていない。
そんな、バフ課にとっては当たり前に起こる事件の一つだった。
それでも実際に被害が出てることは変わりなく、その事実に対し、ザイヤは罪悪感を憶えてしまう。
「はは、大丈夫ですよそんな顔しないでも。まぁ今度も立ち直ってくれると思いますから。
……はぁ、でももう少しバフ課が早く対応してくれれば良かったんですけどね」
そのザイヤの表情を見たのか、香織は務めて笑顔で言うが、途中声のトーンを落としてポツリと呟く。
「香織、そいつ、バフ課の関係者だ。目の前で堂々と非難するとは中々大物だな」
「……え? えっと、あ、ごめんなさい」
慌てて謝る香織にザイヤは軽く頭を振り、大丈夫ですとアピールする。
9 :
禁じられたアソビ、壊れたヒトガタ ◇W20/vpg05I:2010/07/24(土) 20:02:06 ID:qitqPZ3f
「いえ……でもバフ課は通常知られていない課ですよ。えーと、香織さんも陸さんの関係者ですか?」
「え、なんていうか……強制的に巻き込まれた?」
「巻き込んだ。だから香織がバフ課の事を知っていても問題なしだ」
「なるほど」
つまりバフ課を知ってもおかしくない立場にいることをザイヤは確認すると、完全に警戒を解いた。
そして、少しだけ沈黙が降りる。
次に動きを見せたのは陸からだった。
「さて、どうやら来たようだ」
その陸の言葉にザイヤは再び視線を移す。
そしてその姿を確認したとき、ザイヤは今度こそ完全に戦闘態勢に入り、
手に持った仕込み刀をいつでも抜ける姿勢になった。
――狭霧アヤメ
名前に似合わないブロンドの髪をポニーテールに結わえた女性がごく普通に歩いている。
スレンダーな体型の美女で、その姿は目を引くものの、それだけだ。
極普通の人間にしか見えない。
しかし、ザイヤは知り、理解している。
その女性の在り方が、すでに人間とは言えない。災害と言った方がいいだろう存在であることを。
――だが、ザイヤの行動はそこで終わる。
今、ここで殺し合いになったらどれだけ被害が出るかわからない。
その事実をまず頭に描き、体の緊張を準備段階に留めていた。
その女性、狭霧アヤメの姿が消えるまでザイヤはじっと動けずにいた。
「――合格だ。ちゃんと状況判断能力は持っているな」
陸はザイヤに告げるとザイヤの肩に手を掛ける。
ようやくザイヤは全身の緊張を解き、仕込み刀から手を離した。
「つまり、試した訳ですね。私がアヤメとあっても頭に血が上らないか、を」
「そういうことだ、そしてザイヤ、君は合格だ。君になら私たちも協力できるだろう」
「……え、えーと、つまりどういうこと?」
話が分らない香織の呟きに陸は反応する。
「ああ、彼は今回の仕事仲間になる。ザイヤだ。
さて、ザイヤ、まずは今回の標的、狭霧アヤメを捕える作戦を練ろうか。私の事務所でな。
またな、香織。夜に事務所の方に寄ってくれ」
「はあ、わかったわよ。バイト代奮発してよね」
「約束しよう」
そして陸は歩き出す。ザイヤはそれに続き、香織は病院へと向かっていった。
+ + +
10 :
禁じられたアソビ、壊れたヒトガタ ◇W20/vpg05I:2010/07/24(土) 20:02:47 ID:qitqPZ3f
+ + +
「あの男の人はバフ課かな? それとも別の組織かな。やたらと緊張してたし私のことは知ってそうよね」
狭霧アヤメは呟きながら歩いている。
「あの男性もきっと強いのよねぇ。……でも、まずはあのデパートにいた男性かしらね。
中々かっこよかったわねぇ。あの人も。生身で空中戦してたみたいだし」
狭霧アヤメは誰も気にせず歩いていく。
「あの人と遊んだら、今度はどんな風に殺されるかしら。楽しみねぇ」
非常に楽しそうに、狭霧アヤメは、その夜に起こす遊びの事を思っていた。
11 :
禁じられたアソビ、壊れたヒトガタ ◇W20/vpg05I:2010/07/24(土) 20:03:27 ID:qitqPZ3f
投下終了です。
今回は繋ぎ回のような動きのないお話です。3週間かかってこれだよ!
昌ちゃんと陽太お借りしました。
お、俺は謝らないからな! 絶対謝らなゴメンナサイゴメンナサイシタギノイロシテイカッテニシテゴメンナサイ
いい加減今回からタイトル付けることにしました。
いい加減なのでもっとしっくりくるのがあったら変えるかも。
12 :
代行2つめ:2010/07/24(土) 20:04:26 ID:qitqPZ3f
13 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 20:05:16 ID:qitqPZ3f
アヤメさんかわいいなw
避難所でも書いたけど、改めて祝3スレ目
そして投下
前スレ505-509の続き投下します
「お姉さん、みたらし団子6本ちょうだい」
尖崎君のお見舞いの後、私はちょっと寄り道をすることにした。ERDO研究部門並びに尖崎君が入院
している大病院から、徒歩一分という好立地にある和菓子屋さん。
ここの和菓子は何でも美味しいのだ。みたらしは食べたことなかったなと思い立ち、本日初挑戦し
てみることにし――って、あらら?
「あの、お姉さん。1本多くない?」
「ええ。お客さん、しょっちゅう買いに来てくれてますから。サービスですよ」
口に手を当てて上品に笑いながら言う、店員のお姉さん。くすり、という擬音がしっくりくる嫌み
のない笑顔だ。
「はは、常連さん特典ってことか。ありがとう。お代570円だよね」
570円、ちょうど財布にあった。ジャストの金額を渡せた時ってなんだか幸せを感じるのは私だ
けだろうか。
「はい、570円ちょうど戴きます。毎度ありがとうございます! またお越しくださいね」
溌剌とした口調で言うお姉さんの声を背に、予定よりも1本増えたみたらしの重みを左手に預けて、
私は研究室への帰路についた。
「ん〜ん。みたらし美味し」
研究室まで我慢できなかった。病院の中庭にあるベンチに腰掛け、私は買ったばかりのみたらしを
堪能している。
だってほら、みたらしちゃんのタレの芳醇な香りが私を急かすんだもの。抗えっていうのは私にとっ
て、そしてみたらしちゃんにとっても酷な話じゃなかろうか。
ちなみにもはや今更だが、昼休みはとっくに終わっている。というよりそもそもお見舞いに行った
の自体が業務時間中だった。いわゆるサボタージュにあたる行為と言えなくもない気が多少なりとも
しないでもないが、ERDOは勤務時間の管理についてかなりルーズだから、別に誰に咎められることも
ない。おそらく助手くんにネチネチと小言を言われるくらいだろう。
あ、私のイメージに関わることなので弁解しておくと、しょっちゅうこんな風にサボッているわけ
ではないよ? たまーにこうして大福食べたりわらび餅食べたりするくらいでね?
んー、それにしても美味しいなみたらしちゃん。気付けばもう4本目までいっちゃってるよ。助手
くんのご機嫌伺いの為にちょっと残しておこうかな……
私の思案はそこで途切れた。そうせざるを得なかった。
どの面下げて、こんなところに現れたのか。相変わらず季節を、あるいはもっと別の何かを錯誤し
たとしか思えない、暑苦しい服装。
遠目にもわかる下卑た笑顔。それを笑顔と言ったら笑顔に失礼な気がする嫌らしい笑顔だ。
一歩一歩ゆっくりと、だがしっかりとした足取りで、私の方へと歩んでくる。
牧島。どうしてあいつはこんなところに来た? 何をしに?
考えれば浮かぶのは「?」ばかり。だから私は、みたらしを一つ頬張った。うん、みたらしちゃん
は美味しい。それだけで私の頭はいっぱいになるのだ。
「おいおい、一応仕事中じゃないのか? 随分といいご身分なんだねえ神宮寺君は」
爬虫類っぽい声が聞こえる。間違いなく牧島だ。そして今回に限っては、こいつの言っていること
は割と間違っていない。
「ほう、珍しいお客さんだなこれは。どうした牧島、どこか具合が悪いのか? ああ、脳か? そりゃ
今更って感じだがな」
「フン。なんだそれは? 嫌味のつもりか?」
「いいや、本気で心配してやってるんだが。脳じゃないのか? じゃあ何か? 痔にでもなったか?」
私の適当な口撃に嫌気がさしたのか、牧島は呆れたように薄ら笑いを浮かべながら首を左右に振った。
「お前と話すとなかなかまともな会話にならないのな。ほら、昨日の話さ。僕のガーゴイルがあっさ
りやられちゃった件」
「ああ、残念だったなあれは。なかなかの良作、だったか?」
そういえば、あの後牧島はどうしていたのだろうか。そもそも私はあの時間、あの周辺一帯の状
況をあまり覚えていない。人がすっかりいなくなっていたという記憶はあるが。
「ま、僕は僕でちょっと大変だったんだよ。まさかあのタイミングでバフ課がお出ましとはねえ」
「何? ばふ課?」
「そう、バフ課だ。その上狭霧アヤメ……と、彼女についてはお前には関係ないか」
ばふ課……バフ課、か。そんな文字列を諜報部門からの連絡メールで見た記憶はある。その詳細に
ついては追って調査中だとか書かれてたが。
ふと、血まみれのクールな男の顔が浮かぶ。彼は普通の人間ではないんだろうとは思っていたが、
わざわざこいつが話題に上げるほどの存在だということか。
そうだ。私はあの時、2つの疑問を抱いていた。そのうちの1つは、今ここで解消できるのかもし
れない。
「牧島。君の自信作を屠ったあの男は、誰かを追っているようだった。君があの時あそこに現れたこ
とと、何の関係もないとは思えないのだが?」
「フン。さすがは頭のいい神宮寺君だねえ。確かに、僕は今バフ課のターゲットの一人になってるら
しい。僕としては不本意さ。理由がよくわからないからね」
理由がよくわからない? よく言えたものだ。あんなフィクションにしかいないはずの邪悪を現実
の世界に召喚しておいて。十分に危険なのだ、この男は。
少し頭に血が昇りそうになって、私はみたらしをもう一つ頬張った。心を落ち着かせると、私はも
う一つ、この男でなければ答えられない疑問があったことを思い出した。
「昨日も聞いたことだが。最近私たちの組織職員が襲われているのは君の仕業なのか?」
私の問いを受けて、牧島はそれまで絶えず浮かべていた薄笑いをスッと引っ込めた。黒いサングラ
スのせいもあり、もはやまったく感情は読み取れない。
「僕の作った改良型キメラ達はね、制御は完璧にできるんだけど、それでもどうにも気性が荒い。定
期的に血を吸わせないと発狂して、結局使い物にならなくなるんだな。だからさ」
そこでこいつはまた、ニヤリと笑んだ。心底薄気味の悪い笑顔だ。私はもう次の言葉を聞きたくなかった。
「だから血を吸わせた。それだけのことさ。そしてやることが同じなら、敵対関係にある組織に戦慄
を与える方が愉しい。そう考えてお前たちERDOの職員を狙い打ったってわけさ」
何の言葉も出ない。何も言ってやれない。どんな汚い罵詈雑言さえ、出す気にもならなかった。
どこまでもくだらない。あまりにも浮かばれない。今が昼間でよかった。もし日が暮れていれば、
私は――初めてあの能力を、人間に向かって使用したかもしれない。それだけは禁じてきたのだ。
「ただ……それだけの理由なのか?」
ようやく言えたのは非難でも罵倒でもない、ただの念押しだった。牧島はふぅっと、ため息なん
だかなんなんだかよくわからない息をついた。
「正直に言えばそれだけってわけじゃないね。今のは僕の個人的な理由だから。もう1個、もっと
大きな理由があるんだな」
「ほう。それはもう少しましな理由なんだろうな?」
「ある人から指示されたんだよ。神宮寺、お前をこの世から消してくれってな。手段は任せるとも
言われた。だから僕は好きなようにやってるってわけなのさ」
『ある人』ときた。さて『ある人』とは誰だろう? とりあえず今はそれは置いておくとしよう。
私が今知りたいこと、知っておくべきことは大体掴めたように思う。残る興味は一つだけだ。
「なるほど。で、どうする? 今ここで私を殺すか? 君にだけは殺されたくないけどな」
この言葉の何が面白かったのか、牧島はブフゥッと盛大に吹いた。
「今殺してもいいけどねえ、残念。僕はあくまで研究者だから。人を殺すことなんて恐れ多くてで
きないんだな。今日はキメラとか連れてきてないしね」
どの口が言うセリフだ。あまり口にしたくもないが、昨日のあのガーゴイル。あれは明らかに人
間をベースにしていたとしか思えない。気のせいであればいいと思うが。
なんにせよ、今私を殺す気はないとのことだ。ならばもう言うことはこれしかない。
「そうか。ならとっとと帰れ」
「せっかちだな。まあいいさ。神宮寺、お前はもう遠くないうちにその生涯を閉じることになる。
それはお前が心の裡で望むことでもあるだろ? ならばお前は僕に――」
「帰れと言ってる。だいたい君はなんで今日ここに来たんだ? 何か? 私に構って欲しかったのか?」
しつこいので、それだけ言い捨てて私の方から立ち去ることにした。それは私の正直な気持ちだ。
もしかしたら本当に構って欲しかっただけかもしれない。そう思うとこの対応は少し冷たすぎるだろうか。
「牧島」
すでに背を向けていたそいつを呼びとめる。無表情なのかどうかもわからない顔が振り返る。
「みたらし、食べるか?」
「甘いものは嫌いだ」
にべもないとはまさにこのこと。優しさというのはどうしてこうも伝わらないものなんだろうか。
そんなことを思いながら研究室へ帰り着いた。この日の助手くんのお説教は、過去最長を記録した。
つづく
投下終わりです
21 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/27(火) 10:10:12 ID:V1wSvceY
いい悪役だなあ
謎は深まるばかり
続きwktk
>>22 かわええw
いつまでも待ってるんでゆっくり書いてくださいな
>>5 陸くんの変態発言っぷりは誰かが止めないとマジやばいww
とか思ってたところに! 香織っち、良いツッコミだ
この娘は地味に精神的に強いよね
>>16 ふぅむ……
牧島はドクトルとただならぬ因縁がありそう
こういう悪役好きだな
陽太、ドクトル、ザイヤと陸
三つの話が同時進行しててマジ楽しい!
そのうち二つは微リンクだし、期待が高まるってもんです
遅ればせながら
>>1 スレ立て乙でした!
3スレ目、めでたい!
25 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/30(金) 22:27:35 ID:YIEguaJu
26 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/30(金) 22:28:53 ID:YIEguaJu
第七話
もうすぐ赤に替わる信号を、俺は急いで渡ろうとしていた。
ちょうどその時、暴走したトラックが俺にめがけて突っ込んでくる。
そして、姉貴の叫び声が聞こえた……。
薄いピンクの壁紙の部屋で俺は目覚めた。
俺の部屋じゃない。かと言って全く知らない部屋でもない。
ここは姉貴の部屋だ。
病院じゃないということは、さっきの事故は夢だったのか?
とりあえず俺はベッドから体を起こすことにした。
それにしてもなんだか体の感覚が変だ。特に、胸のあたり。
「……え?」
見下ろすと、薄い生地のパジャマに包まれて、はっきりとふたつのふくらみが見えた。
嫌な予感が頭をよぎる。
「まさか!」
慌てて股の間を探ると、やっぱりと言うか何と言うか、アレは無かった。
「な、な……!」
おおおお落ち着け俺!
とにかく部屋を見回してみよう。
机、俺の知ってるのとは違う。いつの間に替えたんだ?
電子オルガン、書きかけの楽譜が乗っている。
そして……鏡! 猛ダッシュで近寄って覗き込む。
鏡の中に映る人物を見て、俺はつばを飲み込んだ。
そこにあったのは、記憶の中より少し大人びた姉貴の姿だった。
本当に、どうなってるんだ?
俺は、表情を変えたり、顔を傾けたりしてみる。
すると鏡の中の姉貴も同じ行動を取る。
そんなことをしばらくやってると、突然、頭の中から声が聞こえてきた。
『メグル!』
それは音として聞こえたわけじゃない。しかし、不思議なことに、俺はその声を姉貴の声だと理解できた。
さらに、俺は逆に姉貴へ話しかける方法も自然と理解していた。
『姉貴、俺、どうなってるんだ?』
『うん、今から説明するよ。』
27 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/30(金) 22:29:34 ID:YIEguaJu
その話は、こんな世界でなければ到底信じられないようなものであった。
結論から言うと、目覚める前の光景は夢ではなかったようだ。
俺、川端廻は、中学二年の夏、交通事故に遭い、死んだ……はずだった。
しかしその時、側にいた姉貴の身に変化が起きた。
当時まだ全く能力に目覚めていなかった姉貴は、俺の死を引き金に、昼夜両方の能力を手に入れたのだ。
その昼の能力こそが、姉貴の体を媒介に俺の魂を現世に繋ぎ止めるというもの。
俺はギリギリの所で姉貴に魂を拾われたのだ。
だが、事故のショックは大きかった。
その能力が今日の今日まで分からなかったのは、俺が三年もの間、姉貴の中で眠り続けていたからだ、と姉貴は語った。
(そうか、俺はもう……。)
やばい、なんだか泣いてしまいそうだ。
こらえるために拳をぎゅっと握る。
するとそこから無意識に淡い光が漏れる。
『廻、これだけは言っておくよ。』
俺は拳の光を強くしたり弱くしたりできることに気付いた。
間違いない。自分の体のどこからでも自由に白い光を放つ。
ライトと名付けた死ぬ前からの俺の能力だ。
『死者……幽霊はね、能力を使えないの。廻は世界から生者として認められてるんだよ。』
鏡の中の姉貴の顔がにっこりと微笑んだ。
『さ、着替えるから代わって。』
『へ?』
姉貴がそう言った途端、“奥”に引っ張られる感覚がした。
体の自由が利かない。いや、姉貴が動かしているのか。
姉貴は何の躊躇もなくパジャマを脱ぎ始めた。
『ちょ、ちょっと……!』
『何?』
『いや、その……。』
『もしかして、恥ずかしいの?』
俺は無言で頷く。実際に体が動かせるわけじゃないのだけど、そういうニュアンスも伝えることができるようだ。
『早く慣れないとダメだよ。』
そう言われても……。
つーか姉貴の方は俺がいるのに着替えるの平気なのかよ。
こういうのは女の方が順応が早いんだろうか。それとも単に歳の差なのか。
俺が悩んでいるうちに姉貴のスタイルの良い上半身があらわになる。って!
『ブ、ブラ付けてないのっ?』
『寝るときは付けないでしょ?』
聞き返されても知りませんから!
本当は目も背けたいのだが、姉貴が体を動かしている間はできないみたいだ。
その上、視覚や聴覚だけでなく触覚まで共有しているせいで、着替えの感触がやけに生々しく伝わってくる。
これはそう簡単に慣れそうにないぞ。いや、むしろ慣れたくない。慣れたら何か大切なものを失う気がする。
28 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/30(金) 22:30:15 ID:YIEguaJu
朝の出来事を回想しているうちに、昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴った。
興味も無いし話にもついていけない授業は退屈すぎた。かと言って真面目に聞いている姉貴に話しかけるわけにもいかない。
記憶の旅に出かけるのも仕方ないことだったのだ。
「おっすー!」
姉貴が声を掛けたのは東堂先輩と静岡先輩だった。
高校が一緒になったのは聞いていたが、まさか大学まで一緒だったとは。
「よう、今丹下先生がいつ手袋を外すのかについて話してたんだ。」
「なにそれ?」
「輪は丹下先生の授業取ってないんだっけ? なんでも食事中ですら手袋着けてるって噂だよ。」
「ふーん。」
姉貴にはあまり興味は無さそうだった。
「ところで、昼の能力が分かったんだって?」
東堂先輩が話題を変えてきた。
そういや、姉貴が今朝そんな内容のメールを二人に送っていたな。
「そうそう。じゃあ紹介します。我が弟、廻クンです!」
姉貴がそう言った途端、いきなり体を動かせるようになった。
「ちょ、ちょっと、姉貴!」
姉貴は“奥”でにやにやしている。
しょうがない。俺は今朝両親にやったように二人の前で能力を使ってみせた。
「本当に、廻なの?」
「事故の時からずっと眠ってたらしいです。そんな感覚はありませんが。」
その時、ずっと神妙な顔をしていた静岡先輩が口を開いた。
「なあ、お前がサッカー部のマネージャーに告白したのは……」
「な、なんで知ってるんですかっ!」
「……いつだったか聞こうとしたけどその反応で本当に廻だって分かったからいいや。」
「いや、こっちの質問に答えてくださいよ!」
「俺の能力、知ってるだろ。」
ああ知ってるよ知ってます。無意識に人の秘密を目撃する能力。でも何もここで言わなくても……。
『へー、そんなことがあったんだ、知らなかった。』
『フラれたから言わなかったんだよ……。』
くそ、この人達はまったく……。
「それより、さっさと先生の所行かないと昼休み終わっちゃうよ。」
トリオ唯一の良心、東堂先輩がこの場を治めてくれた。本当に、頭が上がりません。
「あ、衛さん!」
どういうわけか知らないが、たどり着いた研究室の中にいたのは、俺と同じくらいの女の子がふたりだけ。
「勉強はかどってる?」
「飲み込みが早くて助かるわ。それより、さすがに毎日来なくても……。」
「だって、食堂混み過ぎなんすよ。」
あの、みなさん、なんでそんなナチュラルに溶け込んでるんですか?
『えーっと、この状況は……。』
『金髪の方がナオミ先生ね。』
『え? だって……。』
『能力のおかげで天才少女、ってところかな。』
『はぁ……。』
社会は広いんだなぁ。
「えっと、はじめ……まして?」
「あら、川端さん、どうしたの?」
「いや違うんすよ。こいつ輪の弟で……。」
静岡先輩が説明すると、
「なるほど。よろしくね、川端君。」
先生はあっさり受け入れて、こちらに手を差し出してきた。
反射的にその手を握る。
その時の先生の微笑みに、胸がどきりとして、すぐに離してしまった。
『じゃああっちの子は?』
『かれんちゃんね。あの子は衛が拾ってきたの。』
『それは……。』
東堂先輩を見ると彼女と楽しそうに話している。
どうやら俺は東堂先輩に対する認識を改めなければならないみたいだ。
29 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/30(金) 22:30:55 ID:YIEguaJu
放課後、姉貴の入ってるピアノサークルのミーティングも終わり、姉貴はひとりで駅までの道を歩いていた。
なにやら楽譜を書いたノートに向かいながらうなっている。
「ここがAマイナーだから……。」
『なあ、歩きながらだと危ないぞ。』
「ちょっと黙ってて!」
と言われてもなぁ。前から足音が聞こえてくるんだけど。
『もうすぐぶつかるってば。』
「えっ?」
姉貴が顔を上げたのと同時に、誰かと肩がぶつかった。
「ああん?」
ああ、最悪の状況だ。
相手はいかにも柄の悪そうな三人組だった。
「なんだ姉ちゃん、やる気か?」
真っ先に中央のモヒカン男が口を開いた。
それをなだめるように隣の赤髪男が言う。
「違うだろ、こういう時はこう言うんだ。
こんにちは、お姉さん。今から俺達と一緒に遊びませんか?」
男たちが笑い合う。
逆に姉貴は怯えている。体が震えて声も出せないようだ。
『姉貴! 代われ!』
『えっ?』
『いいから!』
正直、俺だって怖いさ。こんな大男三人。でもな……、
「お前らは犬とでも遊んでろ!」
姉貴は俺が守る!
「な、なんだ?」
「目が、目がぁー!」
「お前ら落ち着け!」
俺の最大出力のフラッシュだ。さて、このうちに逃げるか。
「くそ、あのアマ!」
「俺達を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる!」
「お、あそこにいるぞ!」
げっ、あいつら、もう追いついてきやがった。
女物の靴ってどうしてこう走りにくいんだよ。
ふと空を見上げると、夕日が沈んでいく。
俺は持てる力を振り絞って走り続けた。
次に気がついた時には、朝になっていて、また姉貴のベッドの上だった。
30 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/30(金) 22:31:37 ID:YIEguaJu
日が完全に沈んで、廻が強制的に眠りについた後。
輪は引き続き三人組から逃げ続けていた。
少しでも向こうの目をあざむこうと、むやみやたらと交差点を曲がり続ける。
そうやっていると突然、誰かに物陰に押さえ込まれた。
身の危険を感じてバッグを武器のように構える輪。
しかし、よく見るとその相手は幸広であった。
びっくりして声を出しそうになるが、幸広がその口を塞ぐ。
遠くから三人組のやたら大きい声が聞こえてくる。
「ちっ、見失ったか……。」
「おい、どこに消えた?」
「なあ、もういいんじゃねえか? これ以上は疲れるだけだぜ。」
「……名残惜しいが、それもそうだな。」
どうやら危機は去ったようだ。
輪は幸広に尋ねる。
「どうしてここが……。」
「偶然、な。駅まで送ってくよ。」
「うん。」
弟に見られなくてよかった。そう輪は思う。
幸広の夜の能力は、無意識に女性との間に恋愛のきっかけを作る、というもの。
今、幸広が輪を助けられたのもそれだ。
きっかけだけなので実際に好きになるとは限らない。
だが、そんな状況を何年も積み重ねてきた輪の場合は、幸広に友達以上の想いを抱いていた。
いつ頃からだったかは、覚えていない。
「幸広、あの……。」
「ん、どうした?」
輪はその想いをまだ打ち明けていなかった。
怖いのだ。
衛も含めて、今の三人の関係がどうなるのか分からない。
そうやってためらっているうちに、自分ひとりの体ではなくなってしまった。
「ううん、なんでもない。」
それでもやっぱり打ち明けられない。
会話は弾まないまま、二人は駅に着いた。
「ありがとう、また明日ね。」
「おう。」
電車は時刻表通りに輪を乗せて走り出した。
31 :
◆KazZxBP5Rc :2010/07/30(金) 22:32:17 ID:YIEguaJu
キャラ紹介
・川端 輪(かわばた りん)
18歳女子大生。
ゆるふわパーマの伊達メガネっ娘。レンズ? 高いから買いません。
東堂衛と静岡幸広とは中学からずっと同級生。
幸広には想いを寄せているが告げられないでいる。
《昼の能力》
【無意識性】【変身型】
弟・廻の魂を体に宿す。
夜になっても魂が離れることはないが、強制的に眠りにつく。
感覚は共有するが思考や記憶は共有しない。
二人だけで外に聞こえない脳内会話をすることができる。
体のコントロールはどちらか片方が行うが、その切り替えをできるのは輪だけである。
廻がコントロールしているとき、廻は自分の能力を使うことができる。
《夜の能力》
名称 … 霊視
【無意識性】【変身型】
死者の未練の塊である幽霊の姿を見、声を聞くことができる。
・川端 廻(かわばた めぐる)
川端輪の弟。
13歳(中学2年生)の時交通事故で死亡するが、輪の能力により魂は無事だった。
その後は眠り続けたが、3年後、輪が18歳の晩春のある日に目を覚ます。
現在、輪と一心同体で生活中。
《昼の能力》
名称 … ライト
【意識性】【変身型】
体の一部または全身から白色光を放つ。
光の強さも調整可能。
《夜の能力》
不明。現在は使用不能。
・静岡幸広
《夜の能力》
名称 … フラグ体質
【無意識性】【結界型】
無意識に女性との間に恋愛のきっかけを作る。
32 :
◆KazZxBP5Rc :2010/07/30(金) 22:32:58 ID:YIEguaJu
以上です
輪と幸広の能力紹介回(建前)でしたw
例のチンピラ共お借りしました
投下乙ですw
チンピラ色々と役立つなぁw
続き期待b
てst