RPGキャラバトルロワイアル8

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1創る名無しに見る名無し
このスレではRPG(SRPG)の登場キャラクターでバトルロワイヤルをやろうという企画を進行しています。
作品の投下と感想、雑談はこちらで行ってください。


【RPGロワしたらば】
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11746/

【RPGロワまとめWiki】
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa/pages/11.html

【前スレ】
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1273576134/

テンプレは>>2以降。
2創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:45:11 ID:yP2brrKd
参加者リスト(○生存、●=死亡)

3/7【LIVE A LIVE】
● 高原日勝/○アキラ(田所晃)/○無法松/ ● サンダウン/ ● レイ・クウゴ/○ストレイボウ/ ● オディ・オブライト
2/7【ファイナルファンタジーVI】
●ティナ・ブランフォード/ ● エドガー・ロニ・フィガロ/ ● マッシュ・レネ・フィガロ/●シャドウ/○セッツァー・ギャッビアーニ/○ゴゴ/ ● ケフカ・パラッツォ
2/7【ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】
○ユーリル(主人公・勇者男)/ ● アリーナ/ ● ミネア/ ● トルネコ/○ピサロ/●ロザリー/ ● シンシア
4/7【WILD ARMS 2nd IGNITION】
○アシュレー・ウィンチェスター/ ● リルカ・エレニアック/●ブラッド・エヴァンス/ ● カノン/○マリアベル・アーミティッジ/○アナスタシア・ルン・ヴァレリア/○トカ
2/6【幻想水滸伝II】
● リオウ(2主人公)/○ジョウイ・アトレイド/ ● ビクトール/ ● ビッキー/ ● ナナミ/○ルカ・ブライト
3/5【ファイアーエムブレム 烈火の剣】
●リン(リンディス)/○ヘクトル/ ● フロリーナ/○ジャファル/○ニノ
2/5【アークザラッドU】
● エルク/ ● リーザ/ ● シュウ/○トッシュ/○ちょこ
2/5【クロノ・トリガー】
● クロノ/ ● ルッカ/○カエル/ ● エイラ/○魔王
1/5【サモンナイト3】
● アティ(女主人公)/ ● アリーゼ/ ● アズリア・レヴィノス/ ● ビジュ/○イスラ・レヴィノス

【残り21/54名】
3創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:45:54 ID:yP2brrKd
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAPのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に2エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【舞台】
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa?cmd=upload&act=open&pageid=40&file=rowamap.jpg

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24
4創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:46:46 ID:yP2brrKd
【議論の時の心得】
・議論感想雑談は専用スレでして下さい。
・作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
  強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。

【禁止事項】
・一度死亡が確定したキャラの復活
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
 程度によっては雑談スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
 例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
 この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
 こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
 後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
 特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。

【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NG協議・議論は全てここで行う。進行スレでは絶対に議論しないでください。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』


NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。

上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×

・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
 修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
5創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:47:27 ID:yP2brrKd
【書き手の注意点】
・トリップ推奨。 騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付けた方が無難
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない

書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの一時投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に一時投下スレにうpしてもかまいません。爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない一時投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
   ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。

書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。

書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はNG
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効
 携帯からPCに変えるだけでも違います
6創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:48:30 ID:yP2brrKd
【読み手の心得】
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。


【能力制限について】
【身体能力】
・原則としてキャラの身体能力に制限はかからない。
 →例外としてティナのトランス、アシュレーのアクセス、デスピサロはある程度弱体化

【技・魔法】
・MPの定義が作品によって違うため、MPという概念を廃止。
 →魔法などのMPを消費する行動を取ると疲れる(体力的・精神的に)
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる人物。(敵味方の区別なし)
・回復魔法は効力が大きく減少。
・以下の特殊能力は効果が弱くなり、消耗が大きくなる。
 →アキラの読心能力、ルーラやラナルータやテレポート(アキラ、ビッキー)などの移動系魔法、エルクのインビシブル
・蘇生魔法、即死魔法は禁止

【支給品】
・FEの魔導書や杖は「魔法が使えるものにしか使えず、魔力消費して本来ならばそのキャラが使えない魔法を使えるようになるアイテム」とする
・FEの武器は明確な使用制限なし。他作品の剣も折れるときは折れる。
・シルバード(タイムマシン)、ブルコギドン、マリアベルのゴーレム(巨大ロボ)などは支給禁止。
・また、ヒューイ(ペガサス)、プーカのような自立行動可能なものは支給禁止
・スローナイフ、ボムなどのグッズは有限(残り弾数を表記必須)

【専用武器について】
・アシュレー、ブラッドのARMは誰にでも使える(本来の使い手との差は『経験』)
・碧の賢帝(シャルトス)と果てしなき蒼(ウィスタリアス)、アガートラームは適格者のみ使用可能(非適格者にとっては『ただの剣』?)
・天空装備、アルマーズ、グランドリオンなどは全員が使用可能
7――トゥーソード ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:49:35 ID:yP2brrKd
夜の砂漠に背を預けトッシュはただただ空を眺めていた。
冷たい月は、冴え冴えとしており、光に照らされる砂漠も昼間とはうって変わって冷え込んでいる。
やや強い砂交じりの風が頬を打ちなけなしの体温を奪っていく。
放っておいても出血多量で死ぬのにご苦労なこった。
笑いながらも耳を澄ます。
涼やかな空気の中をさやさやと何かが舞う音がする。
天を地を砂が海のように川のように流れているのだ。
川の流れは無数の波飛沫を煌かせながら、そ知らぬ顔でトッシュの傍らを過ぎ去っていく。
のろのろと手を伸ばしてみるも捕らえられるはずもなく砂は掌から零れ逝く。
月光と同じだ。
いかに風雅だと思いを寄せようともトッシュに掴めるものではなかった。

ふと見渡す限りの砂の絨毯を仄かに照らす光に陰りが生じる。

もはやろくに見えない目を凝らす。
視界は相変わらず霞がかったままだったが、ものにしたばかりの心眼が何とかその姿を捉えた。
月影に輪郭を描かれて、気の流れが人の形をなし幽かに浮かび上がってくる。

「よう、ゴゴ」
「……よう、トッシュ」

月を背負い見下ろしてくる影に手を伸ばす。
今度は掴めた。
傷に響かぬよう緩やかに引っ張り上げてくるゴゴの力を借りトッシュは半身を起こし胡坐をかく。
ゴゴが気絶したちょこを背負っているのが目に入り、もう一人の行方を尋ねる。

「アシュレーは、どうなった?」
「勝つ」

たった一言の短い返答。
それだけで十分だった。

「そうか」
「ああ」

いつまでも月を奪っていることに気が退けたのだろう。
ゴゴはトッシュの隣に腰を下ろし、膝を枕としちょこも地に寝かせ休ませる。

「何かして欲しいことはあるか?」

戦場で何度も耳にし、時には口にしたその言葉。
人間が使う最も重い定型句の意味をトッシュが誤解するはずがなかった。

トッシュは死ぬ。

もう間もなく。もしかしたら今すぐにでも。

「そうだなあ」

ちょこを頼むとはいう言葉を口にすることなく飲み込む。
ティナという人物の物真似だろうか。
友から託された少女の髪を優しげにすくうゴゴを見てわざわざ頼む必要がないと思った。
個人的な願いを優先することにする。

「酒。酒が飲みてえなあ」
「分かった」

とぽとぽと酒が注がれる音が聞こえる。
いい音だなと耳を澄ませる。
とぷりと、音が途切れた。
8――トゥーソード ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:50:15 ID:yP2brrKd
「あんがとよ」

ぎこちない動きで酒を受け取る。
月明かりを照り返す酒の水鏡は神秘的で、きらきらと輝いていた。
雅なもんだ。
骨を埋めたかったあの場所で飲むことは叶わなかったが月と砂漠を肴に酒を飲むのも悪くはねえ。
一気に飲み干すつもりで杯を口元まで持っていく。
風に温み豊かになった薫りが優しく鼻腔をくすぐる。
城に置いてあっただけあって申し分ない時代物のようだ。
ますます気をよくして念願の一口。
酒を口に含もうとして――そこで、止まった、止められた。
止まらざるを得なかった。

「待て。礼を言われるのはここからだ」

瞬間、世界が一変した。
寒色の空を優しい月明かりが包み込んでいく中、舞い散るは薄紅色の吹雪。
吹雪というには温かく、風雅で、見るものを捕らえて離さない、そんな美しさがあるそれは――花吹雪。
雪のように空を閉ざすことなく、故に月明かりを浴びることを許された桜の美しさは儚く気高いものだった。

「こいつあ……」

トッシュが知るどの景色よりも幻想的な光景に心を奪われる。
思わず感嘆の声を上げる合間にも、心地よい夜風に乗って桜の花びらが舞い降りる。
静かに、ふわりふわりと。
舞う花弁が数枚杯に落ちて、透き通る酒が波打った。
トッシュは我を取り戻す。

「どうなってんだ?」

砂漠のど真ん中にいきなり満開の桜の樹が現れたのだ。
驚かない方が無理がある。
不思議なことはもう一つ。
そもそもトッシュの目は一足先にあの世に踏み込んでいる。
最早色を区別などできようもないのにどうしてこうも鮮やかに桜の花の色を楽しめているのだろうか。

いや、そうか。
目が見えていないからこそか。

トッシュの中で合点がいった。
視覚が禄に働いていないからこそ、聴覚が、嗅覚が、触覚が、感覚が感じたものがリアルとして脳内に再生されているのだ。
桜がさもここにあるようなこの雰囲気が脳を騙し幻想の光景を見せているのだ。
誰の仕業かなど問うまでもない。
ゴゴだ。
幻術を使うでも魔術を行使するでもなく、月光を浴び咲き誇る桜の真似ただ一芸のみで一つの幻想の世界を構築して魅せたのだ。

ああ、そうだった。
こいつは心身の芯まで芯物真似師だ。
そのこいつが何かして欲しいことがあるかと聞いてきたのなら、それはして欲しい物真似があるのかということに他ならない。

トッシュが誰かのためにしてやれる唯一のことが斬ることならば、ゴゴが誰かの為にしてやれる唯一のことが物真似だ。
彼は成した。
ゴゴの問いの意味を汲んでやれなかったトッシュの返答をしかししかと受け止め最上の形で実現させた。
酒を呑みたいと願った友に、できうる限りで最高の酒が美味く感じる場を贈った。
物真似師として。
ただ物真似師として。

感嘆する。
物真似師のぶれない芯に、成した技にトッシュは舌を巻く。
9創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:50:40 ID:JL5HwHJq
 
10――トゥーソード ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:51:00 ID:yP2brrKd
同時に思う。
こいつは馬鹿だと。
酒を楽しく飲むのに一番大切なものを抜かしちまってどうすんだと。

「ゴゴ」

呼びかける。
月と、風と、砂と、桜に彩られた世界の中。

「どうした?」

声が返ってくる。
少女が夢見るすぐそばの誰もいない場所から。
完璧な物真似をしているが故に元となる存在の痕跡を綺麗さっぱり世界から消してのけている物真似師の声が。

「大切なもんが一つ抜けてるぜ?」
「……何?」

本当に分かっていないのだろう。
常のゴゴらしからぬ動揺した雰囲気が伝わってきてトッシュはおかしげに笑みを浮べる。
渡されたばかりの杯をゴゴなのであろう桜に向けて突きつけ返した。

「お前がいない。この世界には俺しかいない。
 一人で呑む酒もそりゃあ乙なもんだが気心の知れた誰かと呑む酒は最高だぜ?」

共に飲もうと。それがいっちゃんうめえんだと。
心身ともに桜の木になりきっている友へとトッシュは語りかける。

「そうか、そうだったな。俺としたことがもうろくしていたようだ」

ふっと世界に新たな色が加わる。
人一人分の気配が増える。
月と夜桜に彩られた宴の中に友が一人来訪する。

「すげえな。桜の真似をしたままかよ」
「これぐらい容易いことだ」

胸を張るゴゴにそうかよとトッシュが返し、また二人、同じ時を過ごしだす。
ゆったりと流れる時間にひやりと頬を撫でる風。
空想とは思えぬほどに命を輝かせる樹木に死にいく者と生き行く者は杯をかざす。
触れさせる訳でなくお互いに酒を揺らし、幻想の桜の花を眺める。

「トッシュ」
「ああ」
「桜は綺麗か?」
「たまげるくれえに」
「酒は美味そうか?」
「おうよ」
「俺は……お前の友になれただろうか?」
「あたりめえよ」

とりとめのない会話を交わす。
ただ仲間と共に居ることだけを味わう。
トッシュにとっては代え難い贅沢だ。
ずっと、奪われ続けた。
ずっと、失い続けた。
誰一人護れなかった。
それが最後には師の誇りにて仲間を救い友に見送られて逝くというのだから。

悪くは、ない。
11――トゥーソード ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:51:42 ID:yP2brrKd
目の前に杯が掲げられる。
同じようにトッシュも杯を掲げる。
二人、笑みを交し合い、今度こそ杯を口元に寄せた。
酒が口内を満たし、喉を通る。
冷たすぎないそれはほのかに甘いが嫌味はなく、寧ろ独特な苦味が重なって味わいに深みを持たせていた。

「ああ……」

ひらひらと桜が舞う。風が強くなったのか舞い手の数が増えている。
その光景にいつか見た景色が重なった。
トッシュにとっての桜の樹。
ダウンタウンでモンジや舎弟たち、街の人々に囲まれて酒盛りをしたあの樹と。
見れば幻想の世界にはモンジ達に混じってシュウやエルクやリーザ達もいた。
ナナミなんかゴゴの焼き蕎麦パンをばくばくとほうばっていて、隣ではリオウが困りがちな顔をして笑っている。
トッシュが今そうしているように。
誰も彼もが笑っていた。

何とも幸せな幻想を見たもんだ。
トッシュは一層笑う。
自嘲などではない本当の笑み。
未練たらたらだなとすさむのではなく気分がいいから笑うのだ。

残る酒を一気に飲み干し想う。

都合のいい夢を見たというならそいつは酒のせいだ。
たった一杯の酒に酔ってしまうっつうのもかっこわりい気もするがしかたねえじゃねえか。
だってよお、この酒は

「うめえなぁ」

本当にうめえんだから――


杯が落ちる。


風が吹く。


桜が散る。


炎が消える。



トッシュ・ヴァイア・モンジは静かに逝った。


【トッシュ・ヴァイア・モンジ@アークザラッドU 死亡】
12――トゥーソード ◇iDqvc5TpTI氏代理(last):2010/07/09(金) 06:52:28 ID:yP2brrKd
【G-3 砂漠 一日目 真夜中】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:花の首飾り、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝U、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3
    ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WA2、基本支給品一式)、焼きそばパン×4@現地調達
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:シャドウとトッシュより託されたちょこを護る。
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:セッツァーに会い、問い詰める
5:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。
※ティナの魔石の効果はティナがトランスした上で連続魔でのアルテマを撃つ感じです

【ちょこ@アークザラッドU】
[状態]:疲労(極)、気絶
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:おとーさんになるおにーさん家に帰してあげたい
2:おにーさん、助けてあげたいの
3:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
4:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。

※魔剣ルシエド@WA2、天罰の杖@DQ4、基本支給品一式 が近くにあります

※ルカの所持品は全て焼失しました
※F-1〜J-1、及びF-2〜J-2の施設、大地は焼失しました

----------
706 名前:――トゥーソード  ◆iDqvc5TpTI[sage] 投稿日:2010/07/09(金) 05:26:23 ID:4nGbyjws0 [39/39]
投下終了です
明日にでも自分でやるか代理投下お願いします
なにぶんつめこんだので誤字指摘もあれば喜んでお受けします
13創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:53:21 ID:JL5HwHJq
 
14創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:54:03 ID:yP2brrKd
以上で代理投下を終了します。
長時間の投下になってしまって、大変申し訳ございませんでした。
ちょっと感想をまとめられる状態ではないのですが、◆iD氏、執筆ほんとうにお疲れ様でした。
なんというか、キャラ愛や原作愛もなにもかも超えて、本気で、一生懸命作品に取り組んだ
ことが伝わってくる話でした。巧く言語化出来なくて申し訳ないのですが、凄いなと思いました。
内容は別としても、パロロワ書き手であるならこういう姿勢で書きたいと思える、そういうSSでした。
GJを送らせていただきつつ……以下には、自分が確認出来た範囲における誤字脱字をまとめておきますね。


>が、投擲された支給品――切れ込みを入れられていたスケベぼんは斬られるより速く自らばらけ、“卑下た”内容を宙空

に散らす。
卑下た→下卑た

>赤黒い血が滲み出し、ぶよぶよとした“脳症”が零れ出たそれは間違いなくトカのものだった。
脳症→脳漿

>「ムア・ガルドのミーディアムか!?」
ムア・ガルド→ムア・ガルト

>ロードブレイザーはことこにきて自身が追い詰められていることを悟った。
ことこにきて→ことここにきて

>ゴゴを護り、魔神の焔を跳ね返したのはそれはそれ美しい女性だった。
それはそれ→それはそれは


そして、一点代理投下のミスがありました……すみません。
前スレ>>543の一行目、コピペミスで以下の一行をまるまる欠いてしまってます。

>ちょこは覚えている。

元のレスは、仮投下スレの>>681の内容となっております。
◆iD氏、読み手の方、読むに際して違和感を生じさせてしまって本当に申し訳ありませんでした。
重ねて、支援や閲覧の長らくのお付き合い、本当にありがとうございました。
15創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 13:50:19 ID:qF2ztmFR
投下&代理投下乙!
なんかもう、どのキャラも全力で生命を燃やしてカッコよすぎる……
ゴゴ、お前はどこまで主人公なんだ! ロードブレイザーへの啖呵にティナ召喚に
極め付けはトッシュの美しい死に様……いやもう、ただ素晴らしいの一言

そして書き手氏はどんだけニトロ好きなんだとw タイトル以外にも各所でニヤリでした
16創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 20:00:08 ID:GrXmdeAK
燃えた!
このロワは良作ばっかだな
キャラ愛がわかって泣けてくる
17創る名無しに見る名無し:2010/07/10(土) 00:24:30 ID:BGwBtoTD
投下乙
トカァァァァァアアアアアアッッッ!!!

ルカとの因縁の再戦から始まり撃墜王の死、
無二の友を失ったアシュレーが蒼炎のオーバーナイトブレイザーへと進化し、
魔人と狂皇の死闘、誰よりも邪悪のまま散ったルカ、
ついに復活したロードブレイザー、に敢然と立ち向かうトッシュとゴゴ、
絆の証ハイコンバイン、ちょこの覚醒、
そして死に逝く身でついに剣聖の高みに達したトッシュが繰り出す紋次斬り!
一人一人が死力を尽くしついに帰ってきた剣の英雄ッ!

もう言葉もないほど熱い力作、お疲れ様でした!

トカァァァァァアアアアアアッッッ!!!


っと、水を差すようですがマディンの魔石で覚えられる魔法は〜ラ系であったと記憶していますが、アシュレーが〜ガ形の魔法を使っています
それと同じくアシュレーが使えるのはコンバインで、ハイコンバインを使えるのはティムだけのはずです
もしかしたらアクセスの効果でしょうか? でしたら空気の読めない指摘で申し訳ないのですが
18 ◆iDqvc5TpTI :2010/07/10(土) 01:00:45 ID:SAUS7VU/
誤字脱字他の指摘ありがとうございます
自分で読みなおしてみると指摘外にも色々ミスが
名簿に載ってるのはストレイボウなのにオルステッドだったりとw

>>17
ガ系になっているのは魔導ビームパーツの効果で一段階パワーアップしてるから……なんですがどう見ても説明が足りなかったので追加しておきます
また、そもそもコンバイン自体が召喚技とは全くの別種なのでハイコンバインと叫んでいるのは一種のアシュレーのノリです
19名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 08:23:37 ID:q6h2TtcG
投下お疲れ様です。
非のうちどころがありませんでしたね、最高でした!

ルカ戦は、ひたむきにちょこを守ろうとしたシャドウの戦いから
友を想う気持ちを軸にルカ、ロードブレイザーを撃破する力が生まれるという、
まさに主催者オルステッドの思惑 VS 対主催という構造が見えるところが面白いです。

更に、ロードブレイザー戦、美しい情景が眼に浮かぶようなトッシュの最期とあいまって、
事実上の決勝戦的なカタルシスを感じました。
普通の作品なら最終話にあたるくらいの熱い展開だったと思います。

ロードブレイザーを倒すところまで書いてしまっても大歓迎でしたが
今後の展開を予想する楽しみもあり、
バトンの渡し方もニクい感じです。
色々妄想しながら次の投稿を待とうと思います。
素晴らしい作品を読ませていただいて、ありがとうございました。
20名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 19:19:49 ID:2iV62iAs
投下乙です

もうね、もうね、言葉が無いわ…
いやあ、こんないいもの読ませてくれて本当にありがたい
GJ!
21名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 14:40:43 ID:u3uizhI6
さて、あの組の予約がきたぞ
22創る名無しに見る名無し:2010/07/11(日) 23:45:43 ID:yXhSn6w2
投下乙!!!!!!
あちいいいいいいいいいいいいいい
23創る名無しに見る名無し:2010/07/15(木) 07:18:30 ID:E6ybhK0K
5/16-7/15における月報用データを置いておきます。
集計されてらっしゃる方、いつもお疲れ様です。

ロワ/話数(前期比)/生存者(前期比)/生存率(前期比)
RPG    113話(+ 8) 18/54 (- 7) 33.3 (-13.0)
24創る名無しに見る名無し:2010/07/15(木) 22:43:22 ID:89r3/U2p
乙!この月報ってどこかまとめてるところがあるの?
それともロワ一つ一つに貼りつけているのかな?
25創る名無しに見る名無し:2010/07/16(金) 00:07:49 ID:DXZvwFo+
別館のほうで発表されてるよ
あと事典の方にも収録される。今回の分はまだだけど、今までのも確認出来る
http://www11.atwiki.jp/row/pages/249.html
26創る名無しに見る名無し:2010/07/16(金) 13:43:38 ID:bhFpi81X
もう残り18人か
ロワも終盤近くだな
27 ◆MobiusZmZg :2010/07/16(金) 19:43:03 ID:H+8Cq3Sj
これは、本スレのほうが見つかりやすいのかな。
前スレにおいてwikiの管理権移譲を発議していた者です、が……。
まとめwikiを閲覧したところ、譲渡要望の申請がトップに出てるようですね。
下記のURLにおける対応フローを見るかぎり、おそらくは現管理人さんが
@wikiの通知に対して、返答を行っていないのではないかと存じます。
譲渡申請からかなり経っており、譲渡よりも管理を継続する旨をうかがっているので
驚きましたが……これより一週間の間に@wiki側に譲渡を拒否する旨の返答を
行わない場合は管理権が移ってしまいますので、まずは伝えたほうがいいだろうと。

お手数をおかけしますが、管理権が移った場合、さらに戻せるかは分かりませんので。
これに気付き次第、管理人さんには@wikiに向けて迅速な対応をいただければ幸いです。

【管理権(アカウント)譲渡の対応フロー】
ttp://www1.atwiki.jp/guide/pages/1433.html
28wiki”管理”人 ◆OPQhKdPpSA :2010/07/17(土) 15:51:21 ID:9JQuhMQ4
>>27
wiki管理人です。
こちらにメールが来たので
とりあえず、@wikiの方に管理継続の連絡を返信しました。
これで大丈夫だと思います。
あと、管理権譲渡のページも消しときました。
29 ◆MobiusZmZg :2010/07/18(日) 00:23:29 ID:UiQTluTm
>>28
どうも、お手数をおかけいたしました。
迅速な対応をいただけてありがたいです。

そして先日の予約破棄、誠に申し訳ありませんでした。
ひとまずは安静にして、コンディションが整うのを待ってから執筆を再開しておりました。
それで、作品が完成したのですが……新たな予約の入っていない現状、投下を行ってもよろしいでしょうか?
いかな理由があれど、ルールに違反しているのは私の側ですので、皆さんの意見をお聞きしたいです。
投下しても問題ないということでしたら、予約スレで再予約したのちに投下させていただきます。
30創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:31:44 ID:5u++Izgb
かまわん、いけ
31創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:36:04 ID:5u++Izgb
したらばの雑談所でも同意されてる
こっちで投下するなら支援するぜ
32 ◆MobiusZmZg :2010/07/18(日) 00:48:13 ID:UiQTluTm
ご意見ありがとうございます。
では、ユーリル、アナスタシア、アキラ、イスラ、ジョウイ、ピサロで投下します。
合計86.7KB/31レスとなりましたので、支援をいただければ幸いです。
【0】










          ――――問いは、たとえある特定の事物の状態に言及しているだけで
          あっても、つねに主体に形式的に責任を負わせる。ただし否定的な形で。
          つまりこの事実を前にしたときの無力さの責任を負わせるのである。










 ×◆×◇×◆×
34創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:50:36 ID:5u++Izgb
 
35創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:50:40 ID:lg/TlF4n
 
【1】


 すべての生命は、その本質へ近付くほどに黒を帯びる。
 燃やした肉が、炭と変ずるように。腐敗したものどもが、いずれ土へと還るように。
 それは数多の戦い、あるいは蹂躙の過程であり、結果としても睥睨してきたはずの光景であった。
 それは進化の秘法を発見し、秘匿した錬金術士どもの間で、まことしやかに語られる話でもあった。
 それはいつか、耳にしてすぐに与太話だと、机上の空論にほかならないと切り捨てたものでもあった。

 しかしてこの実例を、いま、魔族の王――。
 いいや。たったひとりの男は、目の当たりにせざるを得なかった。
 あがりどきも知らぬまま、密雨はいまだ糸と散らずに降りしきっている。
 彼がひとしきりの慟哭を終えた今も、彼の周りの空間は静謐を保ったままであった。
 戦場から切り離されたかのような空間のひろがりと、そこに横たわる静寂は、彼に内省をうながす。
 そうして彼に、彼の行動の結果を、因果を直視させることを、けして拒ませない。
 ……ここにはまるで、誰の邪魔も入らないようだ。水入りを拒絶するかのように、雨は止まない。
 私雨を思わせて天より奏でられ続ける滴り(しだり)のなかで、ピサロは動かなかった。
 恋しい者の死に顔から目を離せず、頬にかかる銀髪も払わない彼は、無様に息を荒らげている。
 つねの冷静の欠片を取り戻した、今。身じろぎも出来ないピサロの腕の中では、まさに彼女が。
 痛みをおぼえた心が求めるがままに行った抱擁に淡紅色をした長い髪が乱れ流されたエルフの女性が、
進化の秘法を求めた魔族から近くも遠い場所で取り沙汰された『生命の本質』に近付きつつあるために。

 白と黒。
 闇に満ちた世界にて認識がなされる、はじまりの二色。
 無彩色の雷を一身に受けた彼女は、あまりに果敢なく崩れていく。
 いかに白く整った外郭を保っていようとも、実際には雷の熱量で体の内を焼かれているのだ。
 緊張を失いつつある女性の口許から、口内に溜まった血のあふれる様が、本質とやらの証左である。
 内蔵からの出血であろう流体は黒みを帯びて濁り、闇を思わせる粘りを帯びていた。
 くすんでよどんだ赤色が膚の肌理に張り付き、しぶとくも雨垂れ落ちに耐えんとする。
 それを拭うために彼女の輪郭を崩すことも、彼女の姿から目を背けることも、ピサロには選べない。
 思わずながらも彼女に永別の一撃を叩きつけてしまった彼にはとうてい、かなわない。

「ロ……ザ、リー……」

 ピサロがみずから名付けた四文字が、雨滴に遮られるよりも先に彼自身の耳朶を打った。
 つよく焦がれて追い求めた彼女と同じに尖った魔族の耳は、優れた聴覚を有するのだ。
 その耳が拾ったのは、おぼつかない発音と、軸のぶれた抑揚と、うわつき揺らいだ余韻である。
 どこまでも断片化された印象が、激情を前に動きを止めた脳裏で噛み合わさる。
 意図せずしてピサロの口許がいびつな上弦を描き、即座にかたちを崩した。
 激情のままに叫び、地に伏さんとする細い体を、美しきものを遮二無二かき抱いて、
 空が知るよしもない嵐の止んだいま、自身の声があまりに白々しいものであると思われたがゆえに。
 少しく落ち着いたいま、落ち着いたことそれ自体が彼女への背信であるとすら感ぜられたがために。

 ピサロの、のどがこわばる。
 たんにこわばるどころか、本格的な夜を前に鋭角な傷みさえ訴えてきた。
 戦闘をくぐり抜け、怒号をとおし、呪文を唱えた粘膜が、吸気にまじる硬さ冷たさを許容しかねている。
 精神どころか、肉体までもが能動を拒むかのような反応に、誰よりもまず彼自身が驚いていた。
 ロザリーのいない安穏など、求めるべくもない――。
 そうと断ずる思考を疑いようもなかっただけに、弛緩する思考には手ひどく裏切られたような思いがした。
 巧まずして露呈した自己矛盾を前に、頭の中身が飽和しかけているとも感ぜられた。

 ……皮肉なことに、ロザリーの死によって生じた慟哭こそが、ピサロの心に冷水を浴びせしめている。
 あふれた叫びと、叫びと向きあう時間こそは、許容量をおおきく超えた感情を浄化し、整理せしめている。
 いまの彼は、自らの手でロザリーを殺しておいて憎しみに身を任せられるほど、周りが見えないわけではない。
 そして、憎しみにとらわれた勇者、倒すべき存在であるユーリルの無様は彼の脳裡にも刻まれていた。
 感傷と憎悪と焦燥に駆られてこの結果を招いたのだとも思えば、絶望に折れてやるわけにもいかなかった。
37創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:51:10 ID:XfQYCd+R
 
38創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:51:18 ID:5u++Izgb
 
39創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:51:34 ID:lg/TlF4n
 
40創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:51:50 ID:XfQYCd+R
 
 ならば、結局のところは。
 彼が選べる道は、ロザリーが存命であったころと質的に同じである。
 ピサロはおのが身を削り、追い詰め、なにかを捨てることでしか、彼女への想いを表せない。

 たとえば彼女が虐げられたことに怒りを覚え、彼女がされた以上の破壊を及ぼすほどに心を燃やして。
 たとえば彼女を喪ったことに対して、喪失したものの価値を示すに相応な質量の悲嘆で魂をゆがめて。

 辛く悲しく苦しいと、笑えなくなってしまう。
 救いたかった者から真っ直ぐな言葉をかけられてもなお、そこだけは変わらない。
 ロザリーがなにかを喪ったというのなら、ピサロは彼女に、彼女の面影に与えたいのだ。
 与える過程で自分がなにかを喪おうとも、彼女は、それ以上になにかへ心を砕けるのだから。
 ならばこそ、何かを壊すことでしか思いを表せなかった自分は、彼女以上に心を砕かねばならない。
 真に彼女がいとしいのなら、自身のたましいをさえ砕かねばならないと信じさえしていたのだ。

 ……しかして今回ばかりは、彼もひととき、立ち止まってしまった。
 実態が見えないからではなく、むしろ、おのれの本質に突き当たったがために。
 ほかでもないロザリーの言葉こそが、彼が感情のままにおのれを捨てることをさせない。
 それでいてピサロの側は、彼女を喪った事実を埋めるだけの量感をもった思いを、犠牲を求めている。
 誰よりもまず、愛しき者を屠ってしまった自身にこそ、なにかを捨てることを求めてやまないのだ。

 この矛盾に、愛を注ぐべき者との落差に気付いたがゆえに、足を止めた彼は、動けない。
 自身の基底を衝く欠損に直面し、思いあぐねた魔族は、すでに喪われた救いを求めて瞑目した。
 視界が闇にと染まる刹那、木陰に隠れていた花の残骸が視界の端へ収まり、眼裏に素朴な白がにじむ。
 頬にさす雨垂れ落ちをまえに、あれは摘まれることで嵐を呼ぶ、雨花であったのかもしれないと。
 思考が主の意に反して、わずかに逃げを打つ。どうでもいいと思えることこそ、切り捨てられない。
 冷静さの軸をなす俯瞰を取り戻すべく眉根を寄せても、視覚は無為に散ったものに支配されたままだ。
 車軸の雨に散らされた花弁は、ピサロの意識で葉脈のそれより細かい組織を透かせてくずれ、

(花――?)

 まったく別の方面から、彼の脳裏にひらめきがくだった。
 天地が鮮やかに見えよう戦慄とともに、情報の欠片が結ばれ開闢にも似た流れが生じる。
 進化の秘法に関する文献や伝承を調べていた際に耳にしたことのある口伝が、すべてを切り開く。

 それは、千年に一度だけ開くといわれる貴重な花。
 《世界樹の花》にまつわる話だ。

 錬金術士の論のように与太話とするどころか、今の今まで積極的に忘れていたのは、ひとえに花が咲く場所に拠る。
地上より生まれて、はるかな天空にとつながる樹を、魔族の王であった彼は心から忌んでいたのだ。
 あれが地上を俯瞰し、魔族を滅ぼす勇者を生んだ天空の城へ通ずる道というだけで疎ましい。
 事実、天空人による干渉を嫌った彼は、一度はあの樹を焼き払おうとも考えていたものである。

 しかして結局、彼には世界樹を焼くことなど、出来はしなかった。
 魔族の王にとっては目の上のこぶとなんら変わりのない、ただひとつの大樹。
 あれは森に生きるエルフ、ロザリーにとっては父にして母とさえいえるものなのだから。

 彼女の優しさを知るがゆえに、ピサロには、彼女の愛するものは侵せないと思われた。
 ひとたびそう感じてしまったなら、彼の意識は妥協点や着地点を探す方に水が向いたものだ。
 そもそもの話、人間を蔑視する彼も、樹木や地上の世界そのものまでを憎んでいたわけでもない。
 天空人が地上に降りることが罪であれど、勇者が天空に至ることのほうが罪でないのなら、話は簡単だったのだ。
 天より来たるかどうかも分からない脅威を警戒するより、必ずや地上に現れる敵手を滅ぼせば問題は無い。
 ロザリー本人から口伝を耳にしていれば話は別だったが、それこそめぐり合わせの問題であった。

 そして、いま問題にすべきものは、めぐり合わせの妙でも皮肉でもない。
 数瞬の回顧を終えた魔族のなかでは、彼に打たれた様々な点が線につながりつつある。
 最も大きな点、思考の転換点はふたつというところだ。

42創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:52:45 ID:XfQYCd+R
 
  ――どのような薄汚い欲望でもよい。何でも望みを叶えてやる――


 ひとつは、憎悪のままに人間どもを睥睨していた魔王の声。
 あの闇のなかで、オディオが口にした言葉だ。


  ――ロザリーさんは、いつ、亡くなられたのですか?――


 もうひとつは、勇者の仲間であった占い師の言。
 旋風でもって竜巻をいなした人間が投げかけてきた問いである。

 連想と黙考により、暗河(くらごう)のごとき認識に光が当たった。
 鮮明の度合いを増す自身の思考を受けて、ピサロの口許がふいに、ゆがんだ。
 上弦をさえ作らない口角からこぼれたのは、乾きに渇いた哄笑である。
 ……こうなれば、人間の言葉を信じないというわけにはいかない。
 いかに自身が滑稽であろうとも、下等な人間どもと同列あるいはそれ以下に立とうともだ。

 《世界樹の花》を使えば、ロザリーはいまひとたびの生を享けることがかなう。
 それが千年に一度の奇跡でも、占い師との間にあったような時間軸のずれについても、おそらくは
問題などない。ずれを生んだであろうオディオにならば、いかようにも修正しうる。
 あの魔王は……自分が一面に共感を覚えた者は、おのが前言をひるがえしなどしない。

 冷静さを保った頭には、その念がおためごかしだとしか思えず、笑いが深まった。
 だが、そうと信じていなければ、ピサロはロザリーに報いる機会を永遠に無くしてしまう。
 こちらが辛く悲しく苦しいと、ロザリーは笑えない。
 しかして彼女がいないなら、ピサロはずっと辛く悲しく苦しいままだ。
 彼女が最期に自身を断罪しなかったことが、なおのこと魔族の胸を衝き上げる。
 それほどに思える相手を手にかけてしまった事実が消えないことを分かっていても、
 それほどに思われていた彼女が、なにをされて喜べるかを理解していても、
 せめて、この手にかけてしまった彼女に、この自分に出来る方法で、力を尽くしたい。
 その行為に注力することで、彼女に憎まれようとも、悲しまれようとも……構いはしない。
 彼女が継ぎかけた言葉も聞けず、憎まれることさえかなわない現状よりは、よほどましなのだ。
 時間が解決するなどと、少なくとも自分は思わないが、そうすることでわずかなりと。

(愚かとされるは、私も、同様だな)

 わずかなりと、報いを受けたい。
 そうと考えていた自身を、若き魔族は思うさまあざ笑った。
 思えば、ロザリーを殺した者どもを蹂躙した初手から、自分は変わらなかったのだ。
 彼女が生きていることを暗喩された後も、彼女に会いたい、生きて欲しいと思いながら……。
 ピサロのやったことといえば、壊すことのみだ。彼女を生き残らせる方法など考える余裕もなかった。
 ロザリーを庇護したいと思ったのなら、どうして後先も考えず、体力や魔力を消費してしまったか。
 彼女を守るべきとしていたのなら、どうして、自分と彼女が生き残るように動けなかったのか。
 いまから出来ることといえば、彼女の名残りを、これ以上傷つかないようにするだけではないか。
 重なる自問は、自分を責めても実になることなどない。そうと分かってもなお止まらない。

 けれども、激情を上下する肩に押し込める、その前から。
 彼が、彼女をいだきつづける手のやわらかみだけは、変わらない。
 そして絶え間ない花降しのなか、魔族は反射的に笑みを収め、息を吸い込んだ。
 血のように紅い双眸が、玉水とは違う輝きを――。
 輝きの根源たる、ちいさな結晶をこそとらえたがゆえに。

 水に冷えて赤みを深めた輝きを目指して、ピサロの右手が伸びた。
 端正な容貌と裏腹に節の目立った五指が向かう先は、いとしき者の空知らぬ雨。
 ロザリーが最期に遺していった、ひとしずくのルビーの涙だ。
 雨夜の星を思わせるきらめきを求めた指先が、しいて引き締めた頬を裏切るほどにふるえている。
44創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:53:09 ID:lg/TlF4n
 
45創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:53:25 ID:XfQYCd+R
 彼の胸にも、この世界にも美しきものを遺していった彼女が、
 土に埋まり、やがては泥に還る光景をまったくと想像出来ないまま、
 指関節が伸び、指先に意識が向かい、末端にまでとどく血流が脈を刻んでいると知れ、
 神経の集中した部位で、雨のまえにも冷え切らない自身の体温を感じた直後の、


 接触の瞬間。


 ピサロの指に触れた涙は音もなく砕け、花よりおぼろな光を散らした。
 ほどなくして、黒い外套が北雨吹の一陣に押され、主の体にしなだれかかる。
 明らかな指向性をもって落ちてきた天水に打たれたピサロの瞳は、鏡面のごとく色を見せない。
 黙してロザリーの遺骸を抱えなおし、伏せたまぶたで紅い瞳に浮かんだ色を抑える。
 細くとも意識をなくした体を支える両腕より、裏地に毛皮を張った防寒具こそが、いやに重かった。


 ×◆×◇×◆×

【2】


 守勢にまわっている自分たちが、あえて相手を押し切る。
 押し切られるまでに押さえ込むのなら、今より他に機などない。
 ユーリルと刃を交わすイスラがそうと判断した理由は、守るべきものの不在であった。

 ピサロにとっての大切な者。
 先刻まで気絶していたはずの、ロザリーがいない。
 紋章使いの少年によって守られた直後、それに気付いた三人は決断を迫られたのだ。
 すなわち、姿を消した彼女とピサロを追うために戦力を分割するか、このままユーリルを押し切るか。
 揃いも揃って。意図しなかった増援である青年がこの場に留まることでユーリルの怒りを煽る可能性は
あれども、ロザリーならば。彼女の死の可能性にさえ、ピサロがあれほど激していたのならば。

『待てよ! いまロザリーになにかあったらッ!』
『二手に分かれて泥仕合を続けて、共倒れになりたいのかい?』

 それを類推出来てなお、アキラとイスラの意見は大きく割れた。
 剣戟をいなし、かわしつつの第一声で、改めて互いに見えるものが違うと判断出来るほどに。
 かりに彼らが二人でいたなら、一対一の平行線をたどり、結果として消極的な判断を迫られただろう。
 あるいはさらに悪い結果、時間切れによる判断や選択そのものの消失をすら招いてさえいたかもしれない。
 守れと仰せつかったアナスタシアの……殺しをいとわない者の意見は、イスラもアキラも求めはしなかった。

『あの魔法……を、相殺すれば。当面の問題は剣だけです。
 彼がどういう人物なのかは知りません。ですが脅威は、押さえうる機を逃してはいけない』

 均衡あるいは緊張を保った、彼らの天秤。
 それを傾けたのは、きらめき輝く刃と盾で彼らを守った者である。
 ジョウイ。マリアベルから依頼されて、アナスタシアを守るように言われたという、彼の声音も、緑がかった
瞳も穏やかであるとみえたが――最後の一節をつむぐに至って両方が厳しさを増す。
 数多の鉄火場をくぐり抜けて者のそれといえよう眼光に、言葉を切った一瞬、宿ったのは父性か。
 剣戟を受けて視覚の取り込む情報こそ変じたものの、柔和と厳格の相半ばした印象はイスラの胸にも残る。
 慎重の奥に懊悩の……イスラとて嫌になるほど覚えた感情の名残りをにじませていながらも、まだなにかが
あると言わんばかりに澄ました顔つきは、正直言って気に入らない類のそれだと感じてはいた。

 けれども同時に、援護をうけた胸にはある種の鈍感がさしたのも事実である。
 無関心と紙一重の感慨が胸へとさすに至って、イスラはユーリルの剣にこそ集中した。
 敵意でないものならば好感とも言えようほどに単純化された思いは、戦場特有のそれといえる。
 彼は、身を挺してアナスタシアを、自分たちを守ったのだ。ただそれだけで、命を、あるいはもっと大切な
なにものかを賭さねばならない戦場における彼の行いは、好感を抱くに値するものであった。
 アキラも、その思いを肌で感じていたのだろう。イスラの返した剣に超能力のひとつ、スリートイメージを
重ねてユーリルの感覚を撹乱しながら、胸をあえがせる勢いを借りて声をしぼり出す。
47創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:53:58 ID:lg/TlF4n
 
48創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:53:58 ID:5u++Izgb
 
『悔しいけどよ……無理を通したって、たぶん、俺の力じゃアイツは折れねー』

 焦点があてられたのは、サイキッカーのもつ力であった。
 ユーリルとピサロを止めるための札であったレッドパワー、スリープ。
 マリアベルの力について説明を受けた彼らは、仲間のもつ類似の札についても話を聞いている。
 正確には、アキラが口の端にのぼらせたヘブンイメージが、この状況と相手にそぐわないという話をだ。
『相手を安らかな心地にさせて眠りを呼び込む』のが、アキラが有する力の原理。相手の心に働きかける――
ある種の双方向性を保持している以上、単純に魔力の押し合いで終わるようなものではないのは想像にかたくない。
 力を受けた者がアキラの展開するイメージを信じられなければ、精神力を浪費するだけに終わってしまう。
 この性質を巧く使えば、相性の良い相手にはとことん強い技ともなろうが、相手はユーリルなのだ。
 ここまで打ちのめされた結果、周囲の声を聞き入れなくなっている、彼なのだ。
 それが超自然の力によるものであろうとも、安楽な場所など信じられるはずもない。
 彼を燃やし、摩耗させるであろう激情と対極にある、安らかな心地など想像すらかなうまい。

『目的を達せられれば! 手段は――、問題じゃないさ』

 イスラの言葉に、左右に散っている二人が彼の手許でひるがえったものを見た。
 袈裟斬りをいなした魔界の剣。反り身の得物は片刃であり、肉厚すぎるということもない。

『……しゃあねー。分かったよ! 打ちどころだけは間違えんなッ』
『言われるまでもないね』

 喧嘩殺法とはいえ体術を修めているアキラが、いち早くなにかを察したようだ。
 投げ出すようだが優しいひと言で、先刻言ったように、イスラの背中を守る位置につく。
 三人のうちで面制圧と力の相殺に秀でるジョウイは、状況を俯瞰できる最後衛にと身を置いたようだ。
 そして、最もわりを食う前衛についたイスラは、ユーリルと剣を交わしている。
 剣を一合重ねるほどに、彼は、胸の奥底から浮上した共感と嫌悪感を強めていた。

 アナスタシア・ルン・ヴァレリア。

 どうにも気に入らない少女の問いで受けた不全感は、彼とて実感している。
 彼女の言葉をきっかけに低くゆがめられた、あるいは彼がみずからゆがめてしまった自己の評価こそが、
いまのユーリルから他者に対する基本的な信頼感や安心感を喪わせてしまっているとも、想像がつく。
 けれども自分の欲望を達したいのに、自身を見据えることすら厭うている彼は……本当に無様だ。
 彼の思い、それ自体には深く共感出来るからこそ、イスラには少年のありようこそが見るにたえない。
 ユーリルがみせる、在りし日の自分が世界を呪ったのと同じ姿に、ともすれば苛立ちを抑えられなくなる。

 そのくせ、彼にはユーリルを見捨てられもしないのだ。
 相手のなかに自分を見出して、なおも突き放しきるのは、イスラには出来ない。
 死にたい。死んだほうがいい。死ぬしかない。死ねば、死んだら――。
 感情の好悪は別として、そうと思いつづけた自分は、自分だけは。
 ずっと、自分を見ていた。疎んで、貶めつつも大事に抱え、見捨てなかったのだから。

(本当、皮肉も冗談も抜きで、説明するのも嫌になるけど)

 防御を意識しないユーリルが、上段から逆落しじみた一閃を放つ。
 常人離れした膂力を誇るがゆえに単純化の際立つ軌道を、少年は見切った。
 直線に近い縦軌道に剣の峰を合わせ、手首の回内で繰ってみせた刃でもって力の向きを逸らす。
 運動、ひいては筋肉の伸びと弛緩に伴い、双方の肺からはするどい呼気が押し出されていた。
 感覚が次の一手を志向する刹那、鼓動をつづける体は自動的に夜気を取り込まんとうごく。
 それはユーリルも、剣を構えた肩を大きく上げて肺をふくらませたイスラも同じだった。
 吸気を体全体に満たした黒髪の少年は、つねより張って少しく高めに響いた、


 声をつむぐ。
50創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:55:01 ID:XfQYCd+R
「言っても分からない。さっき、確かにそう言ったね」

 彼が発するは、かつての自分が浴びせられ、包まれたものだ。
 自分と向きあったアティが、なによりも大事にしていたものだ。
 イスラは、言葉を、彼女たちと真逆の方向につむぐことをこそ選び取らんとして。
 意識的に、声を張る。

「じゃあ、同じことをシンシアに、……彼女には伝えられたのかい?」

 張っていようとも――。

 シンシア。イスラ自身の内奥で消化がなされていない、だれかの名前。
 そんな単語をわけ知り顔でつむいでみせる行為は、いやに不快なものだった。
 平然を保ったまま、強い語調で押し通そうとした少年の喉奥が、幾度もこわばりかけるほどに。
 けれども、最初の一歩で揺れてはいけない。確証がないことを悟られてはならない。

「うるさい! お前に、お前たちに僕のなにが分かるッ!」
「少なくとも、キミが望むような分かり方は出来ないだろうね。そこだけは認めておくよ」

 また、彼になまなかな夢を見せるわけにもいかない。
 本音を言えば見せたくもない。
 呪うしかないと思い込むほどに閉塞したユーリルの心を推し量れてもだ。
 様々なものを奪われ続けていた気持ちが分かっても、イスラには、与えられない。
 与えたこともなければ、与えようとも思えないほど、彼が持ち得たものは。
 持ち得たと、思えたものは……彼には少ないと感じられてならないのだから。

 健康な体。普通の食事。安楽な時間。他者との触れ合い。たんなる日常。
 そんなものすら世界から与えられないのなら、この手で奪いにいくしかなかった。
 与えられなかったと決め込むほどに、自分にかけられたものなど、なにもないと思っていた。
 そんな、確信じみて屈折した思いを。一面における甘えを抱え続けていたのがいまの彼だ。
 自身の認知へ盲目にすがってさえいたのが、ここに立っているイスラ・レヴィノスだ。
 姉に、アティに愛されていたことが分かっても、底にあるものが一朝一夕で変わるわけもない。
 おのれの渇きと付き合うだけで手一杯だった自分が、一足飛びに他者の渇きを癒せるわけもない。
 二人の思いを受けた自身を育てきる時間もなくここに来た現状、あるいは、もっと先になっても――。
 本質的にはおのが渇きしか癒そうと思えないでいた自分に、過剰な期待をかけられるのは。
 自分のごとき者に寄りかかられて、無様を、醜悪な姿を至近で眺める羽目になるのはごめんだった。

 だからこそ、イスラは冷淡かつ現実的な言葉でもって、ユーリルと距離を保つ。

「でも、分かってもらえないことに対して覚える気持ちは、僕にも心当たりがある。
 それで、分からなくもないなんてことが……言えたのさ」

 その上で、彼は言葉をつらねた。
 強めていた語勢をわずかにゆるめ、相手の放った薙ぎ払いに対処する。
 穏やかとさえ言える動きで反り身の刀身を直剣の腹に当て込み、受け流しとともに前へ踏み出す。
 体力の限界を忘れた相手を一気に押し切る。そのために必要な隙を……果たして、作れるか。
 力でかなう公算が低いのなら、言葉で。つらなりつむぐ思いとやらで、作れるだろうか。
 盲目の、ある意味では安楽のうちにある相手に、自分は、一時でも切り込めるのか。

「……だから訊けもする。他人に分かってもらうために、キミはなにか努力をしたのか……。
 自分がなにを思っているか、なにを感じたか――キミは、彼女たちに分かってもらおうとしたのか」

 鍔迫り合いに持ち込んだイスラの心中で、自嘲がこぼれた。
 いったい、こんなことをどの口が言うのか。
 イスラの死にたさを、その原因を知り得ない二人の様子がたまらない。
 ……もっと、雨が降ればいい。
 緩やかにユーリルを囲みつつあるアキラとジョウイを視界に入れた少年は、つよく思う。
 驚きから納得に遷移した、彼らの表情。僕の背中を後押しするような首肯なんか。
 剣を受け流すのでなく、いなすのでもなく、真っ向から受け止めてしまった僕の姿なんか。
 けぶり、砕けてあまぎる雨に。隠れていてくれ。
52創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:55:28 ID:5u++Izgb
 
 精緻な技を問われる反面、どうにも焦れる数瞬。
 あらぬかたへ流されかけた心と剣に、イスラは意識を傾けなおした。
 重心の動きに合わせて刃を押し込み、間髪を入れずに押し返される、波が止まない。

「言っただろッ、僕は、世界を救った! 戦いたくもないのに、必死で、頑張ったのに!」
「そうじゃない。いま問題にしているのは、そういう努力じゃない。
 言わなきゃ伝わらないことを、言いたい相手に言えたのか。言おうとしたのか。そう聞いているんだ」

 一進一退を暗喩するかのような一合を前にして、巧まずして語勢が強まった。
 するどさを増す舌峰が、彼自身に追い討ちをかけるようだ。
 アティのようになりたかった。
 泣きに泣いたときにあふれだした本音は、ある意味では正しいのだと痛感する。
 なり“たかった”。過去形が表すとおりにか、イスラは、アティとあまりにも違う。
 この乖離に、十数年をかけて作られた埋めようのない落差に、苛立ちと諦観を覚えるほどに。
 当然のように諦観を交えんとする心のありように落ち着く反面、なにか、許せなくもある。
 それでも、ここまで自分の急所を、やわらかな部分をさらしたからには退けなかった。
 鍔迫り合いを膂力でもって押し切られようとも、すべての動きを支える体幹までは崩させない。
 そして――。

「そうやって、時間を稼いで……アナスタシアを逃がすんだろッ!」
「違う!」

 たとえ弱みを見せていなくとも、この単語だけは全力で封じるべきだった。
 アナスタシア。まるで魔法の言葉であるかのような言いように、イスラは声を荒らげる。
 彼女にこそ自身のなにものかを壊されたのだろうに、どうして彼女に行き着くのか。
 どうして、彼女以外の救済策を見ようとしないのか。どうして、どうして。
 死を救いと信じ、思考の果てに死を誇りとするに至った自分の、出来損ないのように思考を展開するのか。
 ぴしゃりと言い切ってなお残る胸のむかつきを、少年は続いた縦斬りをいなす作業に注力し、逸らす。

 この、盲目そのものといってよい無知と、無理解と、思い込み。
 不快で、嫌でたまらない思いを吹き払う言葉が、なによりも自分にこそ欲しい。

「――家族だって、僕がなにも言わなければ!
 僕がなにを思っているかなんて、とうてい知り得なかった。逆もまたしかりだったさ!」

 その一念が呼び込んだものは、アズリア・レヴィノスの影だった。
 姉である彼女と、彼女と同じ軍属であったアティ。
 あの二人に刃を向けさせるために、自分は、思うさま二人の甘さを罵った。
 罵られた姉は、弟の真意を汲み取れなかったことを謝り、一時とはいえ彼に殺されようとさえした。
 人は言葉でいくらでも本心を偽れるものだと前置きしていた、イスラ・レヴィノスの内心を知らずに。
 知らないままに命を投げ出せる精神が、きっと、彼女が自分の家族たる所以だった。
 知らないままに思いを砕けるところが、きっと、自分が姉に反撥出来た一因だった。

 自嘲などしている暇もないというのに、崩れるように剣が軽くなったのは、この時である。
 受け流された剣筋ではなく、この言葉にこそ、ユーリルは腰を泳がせた――。

「《勇者》は、泣いちゃ、いけなかったんだ! 泣くような《勇者》なんて、誰にも望まれやしないッ!
 だから、それなら僕は……もう、そんなものは捨てたんだ! 捨てた、のに――ッ!」

 次の一閃は、意図したかと思われるほどに大きな風切り音を残して振るわれた。
 吹き払うことなどかなわないと思われた怒りに、《勇者》という語が油が注いだかのようだ。

 けれども。
 くしゃくしゃになったユーリルの顔は、火の付いたように。
 まるで、今にも泣き出しそうな子どものように、歪んでいる。
 それほどに心を動かし得たなにものかを、彼はひらめかせた剣にと注ぎ込む。

 雨を帯びたる少年の衣服は、髪は、肌はいまだに、紅い。

 ×◆×◇×◆×
54創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:56:35 ID:lg/TlF4n
 
55創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:57:04 ID:5u++Izgb
 
「それでもみんな……みんな、僕をッ!」

 横合いからアキラの体当たりを受けてなお、ユーリルは剣を止めない。
 完全な不意討ちによって重心が崩れたものの、天使の羽が立体的に彼の姿勢をただす。
 返しの逆袈裟を転がって避けた超能力者から相手の注意を逸らすべく、イスラは剣を返した。

「……そうかい」

 みんな。
 誰を指すのか判然としない単語を聞くに至って、苛立ちが強くなる。
 ユーリルが《勇者》をやっていて、これまでいくたび苦労や我慢をしてきたのか――。 
 それは、イスラの知るところではない。彼との会話が成立しない現状では、知ることも出来ない。
 けれどもユーリルは、水を向けた自分を見ていない。彼の行ってきた幾多の我慢しか、見えていない。
 だからこそ、話をしようとしていて腹が立つ。嫌気がさす。
 あまりにもものがみえず、まるでイスラ・レヴィノスを思わせる、この言動が気に入らない。
 最も彼に似ているイスラ本人でさえ、付き合うことは困難であると感ぜられるほどに。

「だけど、《勇者》を捨ててこんなことになってるキミは、結局……。
 《勇者》の称号から力を借りなきゃ、満足に、人の力を借りずに立てもしないんじゃないか」

 なにからなにまで。僕と同じに。
 続きかけた言葉を飲み込むことで、イスラは顔に浮かびかける苦渋の色をも押し込めた。

 誰かに力をめぐんでもらわねば、生きていけない。
 命を落とす直前に耳にした、病魔の呪いを与えた男の声がよみがえる。
 その言を理不尽だと思い、相手に憤りを覚えこそすれ、その言葉自体を否定するつもりはない。
 魔剣に選ばれたアティにしか、イスラの命は。イスラを生かす、魔剣は砕けなかったのだから。
 イスラが死ぬためには、死んで《生きる》ためには、彼女の力が必要だったのだから。
 だから、どうしようもない悪役を演ずることで、彼女たちに憎まれようとした。
 そうしてアティに、殺してもらおうとしていた。

(そうだね。たしかにイライラするよ。このまま見てると、胸が悪くなりそうだ)

 まったくもって――。
 今でも悔しい。腹が立って仕方がないのだが、アリーゼのまくしたてたとおりだ。
 自分は、自分にしか分からない、自分が勝手に納得した経緯とやり方で、甘えていた。
 甘く、柔和とみえるアティが。弟に対して引け目を感じていた、アズリアが。
 彼女たちがくみしやすいと思えたことをいいことに、甘えていたのだ。
 苦い事実が、自身の未熟が。鏡を前にしていると、よく分かる。

「望んで《勇者》になることを受け入れた。そう装っていたのならなおさらさ。
 キミと《勇者》が、それほど近かったなら。そこまで巧く《勇者》のフリをしてたなら」
「僕を、そんなふうに呼ぶなぁああ!!」

 瞬間、ほぼ無詠唱で繰り出されたのは雷だ。
 反射的に覚えた怒りや不満をそのまま表出させたかのような魔法は、確かな呼吸で相殺される。
 血を思わせて深く赤黒い輝きは、ジョウイの片手に刻まれている紋章が宿す力だ。
 機を見計らったアキラの能力で方向感覚を狂わされた少年は、降り暮らす雨のなか声をかぎりに叫ぶ。

「もう、ッ、だまってくれ! だまって、アナスタシアを殺させろ――ッ!」
「分かってもらいたい。それがキミの本心なんだろ?」

 分かってもらいたい。
 真意を汲み取られたうえで、大事にされたい。
 それもきっと、ユーリルの本心であるとみて相違ないはずだ。
 《勇者》に生かされ、まずもって同じ概念に殺されたというのなら。

(真意を忘れ去られるより、心のなかを悟られなくても憎まれたほうが――ずいぶんと楽じゃないか)
57創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:57:48 ID:5u++Izgb
 
58創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:57:57 ID:lg/TlF4n
 
 こいつはどこまで自分をなぞっているのだろうか。
 こいつは、いったいどこまで、在りし日の……。
 いまも根づくイスラ・レヴィノスの暗部を、恥ずかしげもなくさらしてくれるのか。
 心を砕いたぶんだけ、思いが返ってくる。敵意には、敵意が返ってくる。
 大別してふたつの未来があるとすれば、想像するに易しいのは後者だ。
 殺されたい自分とて、様々な理由はあれども憎まれる道をこそ選んでいた。
 こんな構造をユーリル本人が意識しているかどうかは別として、

 普通の人間は、泣いて暴れる者を見過ごさない。
 殺意を抱いて向かって来る者を、無視するほうが難しいのだから。

「少なくとも僕は、キミが思うようには分かれなくても――」
「アナスタシアっ! アナスタシア、アナスタシア……アナスタシア・ルン・ヴァレリアぁああッ!!」

 イスラたち三人に守られる少女こそが、『無視する者』の貴重な例であった。
 剣を振るいながら声をかける。口上や掛け声を放つのではなく、対話を行なおうとする。
 障害を砕き、愚直なまでに真っ直ぐ彼女へ向かおうとすることをやめないユーリルの注意を引く。
 おそらくは問いだろう、少女の否定に縛られた心を別の角度から揺らし、隙をついて物理的に押さえ込む。
 睡眠ではなく強制的に気絶させ、ピサロや魔王らに対処するために、この手を選んだとはいえ――。
 化け物じみた力の持ち主を相手にこれを行うのが離れ業であることは、彼女とて理解出来るだろうに。

(アナスタシア、アナスタシア。アナスタシア、か……)

 まるで、イスラが謳った死のように繰り返される一語が不快だった。
 いかな覚悟や思いがあれども、死も、固有名詞も、耳に心地良く言うに易いものだ。
 それほどに簡単であるからこそ繰り返せる言葉を聴く体が、動きを止めてしまうほどに。
 アキラの力とジョウイの腕の両方で、ユーリルの間合いから引き離されるほどに。
 両の肩が激しく上下する。適度に弛緩していた四肢が、こわばっている。

 ありのまま、すべてを受け入れてやれ。

 真意を隠して虚飾せずになどいたことのない、いままでのイスラには。
 一時の怒りや苛立ちに流されてはならない、いまこのときのイスラにも。
 あれほど泣きに泣いていてもなお、ブラッドにかけられた言葉が重く感じられた。
 あれほど泣かされたヘクトルの素直さが、すがすがしくさえある感情の発露がつらかった。

 ……ならばいっそ、ここでなにもかも投げ出してしまえれば、楽だ。
 ふと、胸に降りてきた思いが、剣を握るイスラの五指に伝わらんとする。
 いやにつよい衝動を見極めてかどうか。少年は肩を大きく上下させて戦場を視る。

 紋章使いのジョウイに代わって、アキラが前線を支えようとしている。
 ジョウイの放つ刃が、息をあげて久しいアキラに生まれた隙を的確に埋める。
 彼らからは数歩も離れていないはずであるのに、わずかなりとアナスタシアの見るものがわかる。
 分からない。是非は別として一歩も動かず、雨に濯われるばかりの彼女には、分からない。
 この細胞が、五感が開いて脈打つほどの高揚。こうしたたぐいの必死を、彼女には量れまい。
 様々なものを振り捨ててシンプルになる心のありようなど、理解し得ないはずだ。
 そして、彼女に意識をやりながらも視線が向いているのは、たったひとりの人物である。
 共感を覚える自分ですら投げ出してしまいたいとさえ思える少年――。
 ユーリルの放つ声でなく、子どものようにゆがんだ顔つきが、彼から少し離れることで、よく見えていた。
 どうしようもなくアナスタシアに引かれつづけている彼を、ここで見放してしまえば楽だろう。
 自分のなかでくすぶりつづける感情ごと、ここで見過ごしてしまえば楽なのだろう。

 だのに、この手は剣を離さない。
 鼓動が、かつてないほど鮮やかに聴こえる。
 乱れた息が、脈打つ胸が。
 けして強いと言えない体が、いま。
 なんのかげりもなく、


 熱い。
60創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:58:42 ID:5u++Izgb
 
 月白が収まり、夜の帳が降りきってなお降りしきる白雨。
 時など知らぬ豪雨を前にして、あごを引いた額が容赦なく打たれる。
 剣を構えなおし、ユーリルを見据えていながらも、イスラは前に出ない。
 夜気の冷たさに痛めたのどを動かして、からまり粘って仕方のない唾液を飲みくだす。

「こんなに大きな声なのに、聴こえないのかい?
 キミだよ。最初から、彼はキミについて言ってるんじゃないか……」

 それに、前に出ていては、これは言えない。
 これ以上前に出れば、自分は、ユーリルの心に引き込まれすぎる。
 彼の胸奥でじくじくと疼き、血を流しつづける傷にこそ引かれてしまう。
 そして、彼に近付くほどに、今度は彼女が見えなくなってしまうのだ。
 再会などしたくなかった、自分の来歴を根底から否定した者から離れすぎてしまう。
 自分やユーリルに問いを投げかけた者の、影すら判然としない距離に行ってしまっては、


「アナスタシア・ルン・ヴァレリア!」


 彼女の名前を呼んでも、意味が無い。
 立ち尽くす彼女本人に声を届かせることなどかなわない。
 こちらの様子をうかがったアキラが、眉を引き締めてユーリルへ向かっていく。
 彼とジョウイの、そしてユーリルの様子を俯瞰出来る位置にあって、彼の顔がゆがむさまが見える。
 どうやら頬をゆがめ、口角をあげて――笑ってみせたらしい。

「キミだって、諦めていたんじゃないか。縛られていたんじゃないかッ!」

 なり『たい』のではなく、なり『たかった』。
 苛烈な語調をつむぐ裏で、少年はいまいちど自身の言葉つきを確かめてる。
 彼にとっては、諦めることや切り捨てることは前提であった。
 おのれの命すらそうすると自身が選び取ったことにこそ、意義を見出していた面もあった。

 だからだろうか。
 いくらアティのようになりたかったとしても、この言葉だけは止められない。
 依然として消えないアナスタシアへの嫌悪感もあいまって、これは、止めようがない。
 止めようがないなかに、引っかかりを覚える部分もあるのだから、なおさらだった。

(アティ、先生も……こうして色々……捨てて。もっと別の行動を……未来を諦めてきたのか?)

 いまならなにかが分かる。そんな気がしてさえいたがゆえに。
 輝いているとみえた者にも、輝いている者なりの苦労があるようにも思えたために。
 死と剣でものごとを解決することしか考えられなかったイスラ・レヴィノス。
 状況の遷移を言葉で規定し、その行為でもって現状を許容し、相手よりも一段上に立つ道化――。
 正しくは上に立ったふりをして、おのが言の葉で作ったかりそめの安寧のなかにあった、

 自分が、いま。

「生きたかったんだろ! みんなで、楽しく、毎日を……生きていきたかったんだろ?
 なんで、それで誰かを殺すと決めたんだ。決めることが出来たんだ!」

 矢面に立ち、言葉に思いを込めることで強く、つよく胸に打ち付ける雨と風を感じている。
 死にたかった頃にも風雨があることは変わらなかったはずなのに、不思議と肩をすくめる気がしない。
 それがアナスタシアへの意地だけでもなく、ユーリルへの牽制であるはずもなく、

「本当、嫌になってくるけど、きみだってぼくと同じだ。同じだから腹が立つんだよ」

 きっと、どうしても諦められないというだけなのだ。
 アナスタシアを嫌うからこそ、この怒りも断ち切れない。
62創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:59:35 ID:lg/TlF4n
 
 少女のみせた作りものの笑みが、ふと、イスラの意識に浮かび上がる。
 平行線を歩んでなお、作り笑いの浮かべ方だけはアナスタシアと似通っていた。
 そうと確信出来ているからこそ、相手の中に自分を見るからこそ、どうしても許せない。
 自分自身だけは、諦めて、落ち着いて、切り離して、許容してやることなど出来はしない。
 作り笑いで、言葉で壁を作って距離を置いて、他人事みたいに眺めることが出来なかった。
 自分に似ている者に対してなら、いくらでも冷たい態度をとることが出来るというのにだ。

 いくら歪んでも、低く辛く厳しい評価をくだしてやる過程で、
 アズリアの邪魔になると感じ、その思いを理解しないアティに反撥を繰り返す、
 二人に会いたいと思いながらも、彼女たちに会えないような理由をさえ自身で作った、
 イスラ自身が、そんな自分を道化であると認めてもなお、イスラだけは《イスラ》を見離せない。
 どんな経過を迎えようと、経過のあとに結末があるかぎり、自分を抱えつづけることだけは、

 けして、避けることなど出来ない。

(そうだ。……そうだよ)

 結局、僕は『出来ない』んだ。
『出来ない』たぐいの人間なんだ。

(でも、人間って誰のことだ。たぐいのって、いったい何をもって分けたんだよ)

 悪癖がまた、顔を出そうとする。
 またも、自分が嫌になる。自分を許せなくなり、このままではいられなくなる。
 さかしらな言葉を操り、辛辣ではあるがまとまりのいい語彙で、すべてを定める――。
 言葉で本心を偽れると言いながら、結局、自分は言葉でもって枠を作っているではないか。
『出来ない』と、真っ先に決めた枠のなかでしか動けなはしないのが、イスラ・レヴィノスではないか。

「前に進むことを、幸せでいられる自分を、幸せを認められる自分をさ――」

 ……ほんとうに、嫌だった。
 これだから、生きているのは嫌だった。
 一日一日、生き延びるたびに敗北感がつよくなる。
 日がおちたその時、本当は生きられなかったと気付いた自分が嫌になる。
 そして長い夜には、ここにいるイスラに出来なかったことをばかり反芻してしまうのだから。

 思い出すほどに生への嫌悪は吹き払えないままだというのに、どうしてか。
 必死になってまで、言葉を操って八つ当たりをしているだけの胸で怒りが持続しない。
 それどころか『出来ない』ことが、許せないことこそが誇らしくさえ思えてくる。
 いま、ここで。自分に投げられる石がある事実に直面した胸が、ひときわ大きく跳ねる。

「生きるために罪悪感を抱くような手しか選べなかった時点で、とっくに。
 あがいてなんかいない、勝手にっ、――諦めていたんじゃないか!」

 ユーリルをとおして、イスラは自分の一面ををうとんだも同然だった。
 アナスタシアをとおして、イスラは自分の一面を否定したも同然だった。
 それなのに。自分に対してすら許容の出来なさを明らかにしてしまったはずの、
 イスラには、まわりがよく見えていた。。
 自身の基盤が危うくなるような言葉をつむいでいるのに、予想したよりつらくもなかった。
 そしてなにより、生きたいなどと思えないことには変化がないというのに。

 嫌だ。

 幾度も胸のうちで繰り返した言葉が、なにか、いとけない。
 がむしゃらで小児的で、みっともない物言い――。
 そしてなにより、素直であることも疑いようのない否定の一語は。

 なんとも心地のよい響きを、有しているように思えたのだ。

 ×◆×◇×◆×
64創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:00:06 ID:5u++Izgb
 
65創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:00:11 ID:XfQYCd+R
【3】


 いまの自分が《刃》とともに、《盾》を携えていようとも。
 ジョウイ・ブライトは、究極的には力で他人を傷つけることしか出来ない。
 自分に向いた得物さえない現在、相対した者を無力化するといった行動に向くとは言いがたい。
 それこそが両の手、おのが基底に紋章を刻んだ少年による自己分析であった。
 冷徹をとおりこして冷酷でさえある評価は、それが真実であるからこそ下せたものだ。

 過不足なく実力を直視出来る目があるからこそ、彼はここに留まった。
 アナスタシアを守る目的をとおして二人に加勢することを選んだ理由は、単純なものだ。
 いかに疲弊が見えたとはいえ、雷の嵐の向こうへ消えたピサロを単騎で倒すことが、非現実的であるから。
 かりにここで潰せるとしても、継続戦に際しての力を残した状態で押さえられはしないと断じたからである。

「アナスタシア……アナスタシアぁあああ!」

 とはいえ、先ほどの説得が巧く運ぶ目にも積極的に賭けていたというわけではない。
 そもそも剣士の少年は、途中から言葉をかける対象を明確に変えていたのだ。
 《勇者》を辞めたという少年から、マリアベルに守れと頼まれた少女に。

 言葉をぶつけた結果、最も顕著にあらわれているものが、もと《勇者》の絶叫である。
 特段、アナスタシアを大事にしているわけでもないと知れたであろう、剣の使い手にも――。
 いいや。彼女のなかにあるらしい矛盾をあばいた彼にこそ、少年の声は向けられているようだ。
 アナスタシアを見ているようで、別のなにかと直面していると知れる声が、曇天をおぼろに穿ちつづける。

「……助かったよ」

 叫びのひとつが雷と変じ、それを盾の紋章で相殺した、次の瞬間である。
 憮然としながらも、どこか脱力しているような声が耳朶をかすり、夜の空気がはっきりと動いた。
 あどけないとさえ言える表情を引き締めつつも、黒髪の少年が前線へと舞い戻る。
 うすく、闇を思わせる紫を帯びた反り身の剣。
 彼の携える得物が《勇者》の剣に噛み合うさまを認めたジョウイは、少しく包囲の角度を変えに動く。
 自分の目的をかんがみれば、もうひとりの魔法使いのように肉薄するというわけにもいかない。
 最善手とは言いがたいが、少しでも体力の消耗を抑えるためには、計算こそが肝要だった。
 剣士の言ったような泥仕合と、魔法使いが口にした精神的な満足とを秤にかけて、ふたつの意見が
調和するぎりぎりの線を保って綱を渡りながら、可及的速やかに戦いを収束させる――。

 言うだけならば、これほどに容易いこともそうそうない。
 だが、この結果を引き寄せてからがジョウイの本番、正念場が始まるのだ。
 様々なものを切り捨てたいま、両方を捨てない態度を問われることも皮肉だが、仕方がない。

(けれど……)

 けれども。
 ジョウイにとっても彼らは自身の、あるいは誰かの鏡なのだと感ぜられてならなかった。
 とくに一途にひたすらに、アナスタシアの名をつむぎ放つ、緑色の髪を乱したひとりの少年。
 もとは《勇者》であるらしい彼が戦うさまは、ジョウイのなかへ重く沈んでいる。
 まるで水の綾がごとく、憎しみに駆られつづける彼の姿を認めた心がさざ波だっていた。
 そして、黒髪の少年がつむぎあげた泥まみれの言葉。アナスタシアへの口上が重ねて胸へと響いてくる。
 経緯など欠片ほども知り得ないとはいえど……彼らのありようは、ジョウイの瞳を痛みとともに開かせる。
 未消化の、泥のごとき感情の奔流は、彼のなかで息づく問題を直視することをこそ拒ませない。

 それを汲み取れないのなら、きっと。
 彼はいま、このとき、ここになど立ってはいない。


「なにも、《勇者》だけじゃない。先駆者はつねに捨て石だ」


 血と肉でもって構成されたかのような、しずかな『叫び』とてつむげなかった。
67創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:00:48 ID:5u++Izgb
 
 ……けれどもこれは、絶対に最善手ではない。
 最善どころか、下手を打てば墓穴を掘りかねないと、分かっているのに。
 理想を貫こうとあがき、進み続ける少年のこぼした声は、ある種の感慨に満ちていた。
 感慨などと、穏やかでさえある感情で終わったことに、誰よりもまず、口を開いた彼自身が驚く。
 夜の陸風に流れた雨を受けてか。緑がかって柔和な印象を醸す瞳が、わずかながらも細まった。

「だけど、それは。そうなることは……僕自身が選んだことだ」

 当然のことだが、言葉をつむぐほどに、ジョウイからは集中力が失われる。
 戦況の変化こそ少ないものの、もとの位置にまで戻ったとて、今までのような状況の把握は望めない。
 声を出す。寄り道に力を使えば使うほど、本筋へ注げる力が減ずることは考えるまでもないはずだ。

 それなのに、胸でくすぶる思いをかたちにせずにはいられなかった。
 黒髪の剣士が見せた表情、けわしさの少しく削げ落ちた顔つきが、妙にうらやましくある。
 いまや、先刻とおなじ精緻さで剣をぶつける彼にそれを招き寄せた行為には、ジョウイとて覚えがあった。


  ――それを遮ってでも、やるべきことが、貴方にはあるというの?――


 アナスタシアは、いまだなにも言葉を返さない。
 ひるがえって、自分が彼女の問いかけに答えていなかったら、どうなっていただろうか。
 覚悟を内に秘めているのと、死を逃れ得ないとはいえ対外的に口にしたのとでは、いったい、
どちらが分かりやすくなるものか。どちらが重みを実感出来るかたちで、胸におさまるものなのか。

 ジョウイは、それを知っている。
 彼に向けられたそれではないとはいえ、問いに答えるだけの強さがある。
 道をたがえた、リオウとナナミ。親友の心に恥じないために。
 自分を慕ってくれたピリカのために、自分を愛してくれたジルのために。
『魔法』を見せてくれたリルカの、優しさを示したルッカの、故郷における立場や因縁を振り切って
自分たちに助勢したビクトールの、黙り込んでいた自分を我慢強く待ったストレイボウの。
 彼らだけではない、故郷や、この場所で出会った、皆の思いを汚さないために。

 ジョウイの胸に沈んだ思いを、自己犠牲のそれなどと評する者もいることだろう。
 誰かのために骨を折ることは、誰かのせいで動いていることと限りなく同義に近いのだから。

 だが、違う。
 確かに、ジョウイはこの道を歩むため、様々なものを捨ててきた。
 魅せられた力を目指すべく、彼を彼であらしめた証を端から圧し殺し、切り捨ててきた。
 その上で血塗られた《英雄》となり、自身の命を振り捨てることで平和を作ろうとしてはいたのだ。
 だが、彼の行動の礎となった思いは使命感でも、義務感でも……きっと、正義感ですらない。
 暗殺したアナベルへの、あるいは理想のために殺してきた者への罪悪感でもあり得ないはずだ。
 では、理想の前にあったものは、なにか。犠牲を生むほどに強い思いは、なんだったのか。
 どうして、ここに立っている自分は、他の誰もを傷つけたくないと考え得たのか。
 道を違えたとても目指す場所が同じなら、どうして、歩いていけるのか。
 同じであることに安堵する理由とは、いったい、なんだったか。

 迷ったのなら、誰も問いかけないのなら。
 問われなくとも、問いかける自分にこそ応じて――。

「それなら。この傷も、この力も」

 かたちにすればいい。
 かたちにしてしまえば、過不足なく受け止められる。
 人とのあいだにつながりを作り得る言葉。
 ときに刃を掲げさせても、刃を収めうるであろう、それが運んでくる感覚をこそ。


 自分は、信じていたい。
69創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:01:45 ID:XfQYCd+R
 剣に追随する雷を防ぎ、陣を整えるべく体をさばいた、息が熱かった。
 上昇した体温に反し、夜気と雨打は冷たくとがり、体の表面を冷やしていく。
 しかしてのどの粘膜を侵しつづけていた、冷気が。ふいに甘く、濃い後味をのこした。
 刹那――激しい運動を続けていた結果、ぜえぜえと鳴りさえしていた呼吸がひととき安まる。
 ひとときあれば十分だった。目の前に広がった世界を過不足なく見据えるには、過分ですらあった。

「犯した罪も……胸に息づく思いも」

 理想と犠牲。ふたつの荷にジョウイはとらわれ、操られていた。
 けれども勇者を直視した少年の根幹で、いまの彼を動かし得ているものは。
 激情に両肩をふるわせる少年の奥底で、いまも彼を縛りつけているものは。

「いままで、それを選んで、受け取って、刻んできた僕の背負うべき」

 それはきっと、リオウへの。ナナミへの、ピリカへのジルへのリルカたちへの、
 それはきっと、今までの生で見聞きしてきた、戦火のなかで生き抜く人々への、


「――背負いたいものなんだッ!!」


 好意に、他ならなかった。
 思いのままに張り上げた声に、響いたこころに呼応してか。
 彼の基底に刻まれた《輝く盾の紋章》が、夜闇にさえかな輝きを放つ。

 ……ルカ・ブライトの恐るべき力は、さらなる力と数と策によって滅ぼされた。
 人の心とて、ときに、あれと同じような構図が成り立つこともある。
 使命や正義、義務などといった、強い拘束力をもつ単語。
 怒りや憎しみのような、ときにおのが身さえ灼き尽くす思い。
 自分がすべき、やらねばならないという、張り詰めた語調の言葉。
 そんなものだけで気を奮わせたところで、追い立てられた心が折れる未来は遠くないはずだ。
 しいて強くあろうとしても肩肘を張るだけ、周りの世界は棘を増して見えるのだから。
 ルッカを看取ったあとに同道してくれていた魔法使いの青年。ストレイボウ。
 焦燥に駆られていた彼にもそんな色があったと、ジョウイはいまにして気付く。

 しかして、こちらに好意さえあれば、この目と心に見えるもの、すべての色調が反転するのだ。
 好意を得、好意を抱いた者のためならば、自分は身を削り、身を粉にしても構わないと思える。
 行き着く先で命すら捨てようとも、それほどに本気になろうとも、大丈夫だと思っていられる。
 ひとの好意を勝ち得た自分の、ひとに好意を抱いた自分の糧となるなら、苦痛にも耐えられる。
 自分が耐えているという感覚すら、胸の中から失われる。そんな瞬間すら感ぜられようほどに。
 ピリカを抱きあげたときの、温かさに焦がれる自分が、いまでもたしかにいると気付いたのだ。

 ならば……それならば、ここに立つジョウイ・ブライトは。
 いかな誤解も、悪意も恐れることもなく。すべてに耐えて、光を目指していける。
 どんな作為にも、敵手にも運命にも、こうべを垂れることなく立ち向かっていける。

 どんな言葉を刻んだとて、どんな行為を義務づけたとて、縛り得ないはずの心。
 もろくもうつろう思いを優しく縛りうるものの正体を、少年はこれしか知らない。
 ずっと、ずっと胸にあふれてやまなかったのだと気付いた、《これ》こそはたましいを。
 穏やかではあれ、抱く者のこころを内奥から揺すり、つよい衝動を沸き立たせる思いだと感ぜられる。
 衝動に揺すぶられたからだが、思わず前へ踏み出すほどに強い、『魔法』のような気持ちだ。
 誰を殺したか、何人殺してきたか。一体どれだけのものを、自分のために踏みにじってきたのか。
 そんな問いかけを繰り返し、自身を鞭打ちつづけたとて、この気持ちにはかなわない。

(ああ、そうだ――)

 理想を貫く際に負った荷から解き放たれてなお、自分はきっとこの道を選ぶ。
 力があれば。たとえ、ハイランドのキャンプでルカの力と出会うことがなくとも――。
 きっと、なにかを探していたのではないか。きっと、自分の道を見つけていたのではないか。
 根拠も理屈もない確信が息づいて、いまだ揺らぐジョウイの背中をおびただしい雨滴の群に押し出す。
71創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:02:24 ID:lg/TlF4n
 
72創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:02:36 ID:5u++Izgb
 
 彼らの笑顔を守るために。彼らの幸せを諦めないために、自分の理想も諦めない。
 そうと信じられる思いが、確かにまだ、この胸に息づいているのだから。
 ジョウイがすべてに《耐えられるもの》は、高邁な理想でも崇高な使命でもなかったのだ。

(きみが。きみたちが、僕を)

 たとえば、ここで膝を折ったなら……。
 リオウも、ナナミも、リルカもルッカも、きっと許してくれる。
 少なくとも、彼を憎んだり、悲しんだり、哀れんだりはしないだろう。
 違う道を目指して行ったとしても、自分たちの根にあるものは、きっと同じなのだから。
 それなら、本当はここで立ち止まっても、構いはしないはずなのだ。
 それなら、きっとここで振り返ったとしても、許されるはずなのだ。
 仮に二人が、皆が惑い、立ち止まったとしても、同じだ。
 先刻ストレイボウをかばったことを自嘲すれど、そこに計算はないとは断言できる。

 ジョウイ・ブライトが許し、いたわりたいと思えるのは、なによりも人だ。
 代わりなどいない、かけがえのない、ここにしかいない――。


 いま、このときを生きようとしている、人間だ。


「どんな思いも、どんな選択の結果も、僕だけが受け止めるべきものだ。
 誰に押し付けていいものでも、ないんだ……これは」

 それならここで、自分は、退けない。
 退くことも、折れることも、許されることも出来はしない。
 究極的には、きっと、誰かのためなどではなく、


「これが、僕だけの『魔法』だ!」


 自分のために、少年は叫んでいた。
 マリアベルの友であるアナスタシアが、リルカを知っているかどうか。
 リルカの大事にしていた『魔法』で、果たして、動かない彼女を動かしうるか。
 そんなことは、全身を望む心が欲するままに声をあげるまで、意識などしていなかった。
 思いを託した声がつかねて落ちる濯枝雨(たくしう)を突き、分厚い雲におおわれた空にと抜ける。
 天の海にも心の海にも立ち込めていた雲が、いちどきに晴れたかのような感覚がある。
 自身の息づかいがはっきりと分かるようになった闇の中で、それでも指先が痛い。
 地を踏みしめる脚に、脚を支える腹に、張り出した胸に、肩に、五指に爪に、かるい痛みがはしる。
 ぴりぴりとした感覚は、しかし、ジョウイの行動を押し留めることなど出来なかった。
 生きている。右手が輝く。生きているのだ。赤黒い刃が雷を射止める。玉水が弾けて舞い落つ。
 確かに、自分は。ここに立ち、ここで目を開いた自分は、確かに生きていた。
 己の掲げた理想に、ただただ生かされているというわけでなく。
 己の規定した犠牲に、縛られつづけているというわけでもなく。
 その事実に揺れ、迷いのなさにこそ戸惑う自分も、なにもかもすべて。
 おのがすべてをひっくるめて、

 生きている。
 ジョウイ・ブライトは、いまここに、生きている。

 それだけは確かで、それだけは誰にもくつがえせない事実であった。
 じくじくと疼く痛みも、罪悪感も、それを生んだ自分自身が受け止めているのだ。
 湿り気を帯びた夜風を前に《黒き刃の紋章》が刻まれた右手が拍動し、ぬくみを増した。
 雨にさえられてなお蒼穹に輝く綺羅星のごとく、《輝く盾の紋章》が清澄な輝きをのぞかせる。
 それが分かったからには、もう、止まれなかった。立ち止まることなど、考えられなかった。
 道を進むほどに孤独が、孤高が迫ろうとも。果ては憎悪に貫かれようとも、構わない。
 揺れ惑い苦悩し、おのが力を、心を、たましいを削って果てるより他にない道を往くのだとしても、いい。
 自身の抱いたそれと分かる思いを背負えることのほうが幸いなのだと、信じられているのだから。
74創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:03:18 ID:lg/TlF4n
 
 もはや後戻りの出来ない、安楽な日々に背を向けるのと変わらない、この選択。
 迷いも、後悔も、他人へ好意を抱いたジョウイ自身のためにあると決める、覚悟と諦観。
 先にあるのは、それを許容した少年だけがすべてを背負い、傷を抱えて進むいばらの道である。
 いつかのように、間断なく続く障害の先にこそ光を見出したとき、雨呼びの北風が吹きすさんだ。
 このときばかりは大粒の雨も流れ、流れて、少年たちの体を容赦なく打ち据える。
 まるで見えない棘が指を突くかのように、雨滴は衣服に、肌に染みこんで衝撃を残す。
 もう、何度目か。雷の竜を前にしても、ふたたび、剣戟の音が耳朶を刺すほどに近付こうとも。
 ジョウイはひるまない。
 歩む道を定めた自分を信じて、彼は、闇の溜まりへさらなる一歩を踏み出す。
 胸に落ちた決意、その証左を顕すべく。
 すべてを抱き取り、生きて、夢より大事な望みを果たすために。


 ……ジョウイは、知らない。
 いま、彼のかたちにした結論は、目の前で慟哭する少年が至ったもの。
 陽の落ちる前、少女に出会ったユーリルが突き当たった思いと質を同じくすることを。

 ジョウイには、分かれない。


  ――人々のため戦い勝利を得る道。これはイバラの道なれど王道です――


 いまふたたび、彼が見出し選び取ることのかなった覇道は、おそらく。
 その過程はどうあれ、親友の決断と同じ評価をくだされるべき類のものであることを。


 ×◆×◇×◆×

76創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:03:48 ID:XfQYCd+R
77いばらのみち――(ne pas ceder sur son ―――):2010/07/18(日) 01:04:13 ID:UiQTluTm
【4】


 勇者。
 導かれし者。

 それは、かつてのユーリルを奮い立たせ、彼に誇りと一面性とを与えた称号だった。
 同時に、勇者ではないユーリルをことごとく打ち据え、くつがえした概念でもある。
 しかしてそれと同じ単語が、ときに彼を癒すものであったと、今の少年には思い当たれない。
 事実、勇者という概念以外で癒せはしなかったであろうことを、今のユーリルには気付けない。
 勇者であるがゆえに村を焼かれ、帰るべき場所を喪った少年が無理矢理にでも歩いていけたのは、
やはり、彼が勇者であったからなのだ。勇者とされた彼のもとに仲間が導かれ、没頭出来る目的と、
あるべき自身の姿とが、これ以上なくはっきりと示されていたからでもあったというのに。

 気付けない。いまの彼には、気付けない。
 己の心や行動基盤に内在していた未熟や単層構造、未成熟な感情。
 そうしたものどもと時間をかけて向きあう機会など与えられなかった少年には、気付けない。
 未昇華の感情に心を灼かれつづける彼には、見えようはずもなかったのだ。
 たとえば心にうけた傷は、究極的には、その心体に傷をつけた刃でしか癒せ得ないなどと――。
 堆積した過去を自身から分離し追想することなど、現在の奔流に喰われんとしている彼にはなし得ない。

 いまの彼に見えるものは、気付けるものは、夜立にたたずむひとりの少女だ。
 彼に無力と、無知と、戻りえぬ幸せ。そして制御しようもない量の情動を知らしめ、彼の心から支え
どころか純粋なものの見方さえ奪った者。螺旋の底にて<剣の聖女>を、《英雄》の真実を語った者。
 まるで歴史の亡霊を思わせた、たったひとりの、アナスタシア・ルン・ヴァレリア。
 三度に渡って対峙した者の、黙して隔轍(かくてつ)に立ち尽くす姿だけだ。
 前髪に表情を隠し、武器を抱いた彼女しか見えないというのに、
 ユーリルには、なにも分からなかった。
 アナスタシアの思いも彼女の抱える背景も、なにもかもが分かれなかった。
 この滝落としに似て押し寄せこぼれる情念に心を灼かれる少年には、推量などかなわない。
 いまこのとき、彼女がなにを思って絶望の名を冠した鎌を抱いているのかさえ。

「どうしてっ、どうして……なんだよ! アナスタシア……アナスタシアぁあああッ!!」

 アナスタシアが自身の薄汚なさを前に塞いでいることなど、彼には想像すら出来ない。
 想像するつもりもないからこそ、彼女に揺らされたユーリルは遠慮会釈もなく声を張り上げていた。
 大声で支えてもふるえ、かすれひび割れた響きの心許無さより、声帯にのこる確かな振動こそが彼を後押しする。

「僕の……僕の『魔法』は――」

 ……おのが根底を揺らした者であろうと、彼女とてれっきとした人間。そのはずだ。
 それならば、様々な感慨や言葉を前に揺れないでいるほうがおかしいことなのだ、と――。
 そんなことにさえ、自身の基底に大穴が開けられ、心水を抜かれ続ける彼には思い至れない。
 黒い髪の剣士が振るった峰に剣の腹をぶつけ、強化された膂力でもって強引に手首を返す。
 利き手一本で握った剣の、竜を模した柄頭による殴打は、相手の護拳が押されながらも受け流した。
 勇者であった頃には使わなかった攻撃から重心を戻す、その瞬間。
 赤い光がともって方向の感覚が乱され、くるめきとともにユーリルの視界がゆがんだ。
『魔法』から近くも遠い力を前にした次手の一閃は、虚空に円弧を刻むにとどまる。

「……あ。あぁ……、……ッ」

 感情をぶつけるべき対象を見失い、詰めていた息を剣戟の動作とともに吐ききり。
 先ほど耳を衝いた『魔法』という語を反芻して、どうしようもない忘我の一瞬が訪れた。
 忘我のうちに置かれた本人を除いた誰が見ても明らかであった隙に、しかして追撃はない。
 それが何故であるのか考えないユーリルは、遮二無二のどを鳴らし、唾液を嚥下する。
 斜め後ろの光景を振り見て軸を戻したそのとき、視界に割り入ったものは、青く長い髪だった。
 勇者であった彼が、抱けていた優しさ。彼の人格、その底流にあったはずの想像力。
 思いやりといえるものが奔騰する感情に奪われたいま、ユーリルはなんの手心も加えずに言の葉を綾なす。
78いばらのみち――(ne pas ceder sur son ―――):2010/07/18(日) 01:04:54 ID:UiQTluTm
「……アナスタシア……!」

 すがるようにその名をつむいだ彼の、天穹のごとくに青かったはずの双眸――。
 充血し嫌気にゆがみ、熱情にくすぶる輝きの質は、正しく盲いたもののそれであった。
 そんな彼の様子は、大人はすべてに耐えられるものだと信じて寄りかかる、子どもの態度を思わせた。
 自身の変化にも気付かぬまま、寝床たる止まり木の枝を揺すり続ける、もと小鳥の試験にも似ていた。
 真から無明に放り込まれ、芯より何も見えないからこそ、彼は金髪の青年がつむいだ言葉に対する反応さえも
アナスタシアに収斂させる。『魔法』。《勇者》の意味を知らなければ、共感や同族意識を抱けていたの
かもしれない緑竜の轟き。泡沫のような回顧から励起された感情を、彼は自分の内に押し留めなどしない。
まったくの盲目であるがゆえに、まったくと筋がとおらない話でもないために、留めようとも思わなかった。

 ゆえにこそ、次の一瞬。
 呼気を押し出す体の勢いを借りたユーリルは、導かれし者の剣を上段から振り下ろした。
 なんの弁別も出来ぬままに受け取ってしまった言葉をこそ、断ち切るように。
 内心における揺らぎを裏切るほどに澄んだ風切り音が、湿りを帯びた夜気を引き裂いてゆく。
 刃が狙ったものは、アナスタシアに向かう目前に立ちはだかる障害のうちのひとりだ。
 先刻までにもぶつかった、護拳と反り身の片刃をもつ剣は、ユーリルの認識をなおもゆがめる。

 帰るべき場所を焼き払い、過去をすべて葬った、魔族の王。
 闇を支配する魔がいなければ、自分が光として立たされることも、きっとなかった。
 そんな位置に立つ者が携えていた魔界の剣を、見紛うことなど出来ようものか。

「どうして……どこまでも、お前は僕の邪魔をするんだよ――ッ!」

 雨や雨――。
 そうした形容が至当な慟哭が、ユーリルの表情にさらなる色を付け加える。
 歪みを意識出来ない少年は緑柱石の色にも似た髪を雨に流し、線の細い剣士へ刃をぶつけた。
 もはや、幾度目になるのかなどと考えるだけ無駄でしかない激突が、もう一手積み重なる。
 盲目であるがゆえに戦う相手も選び取れない彼は、ある意味で思考を放棄しているも同然だった。
 黒い髪の剣士が、茶色い髪の少年がぶつかってこようものなら、同じだけぶつけ返した。
 金髪の青年が両手に刻まれた紋章の力を使うのなら、無彩色の雷を現出させて相殺した。
 その剣に、『魔法』にこもった怒りも、悲しみも、苦痛も悲嘆も、呪詛も。
 余人には想像のしづらい、されど誰もが切り捨てられない思いに繋がっている。

 悪意の介在しない感情の奔流を支えるものは、
 限界を知らずにあふれてくる、彼の理由は、
 つきせぬ、ひとつの《問いかけ》である。

 彼女が、世界が選んだ者。そして、誰もが選ばなかった者は、『どうして自分だったのか』と。
 《勇者》の概念を介在させない別の答えを追い求めた果てに、彼は迷走し暴走し、決壊した。
 苦痛と無理解に満ちた現状をつくる一切が、『なにゆえ自分に降りかかってきたのか』と。
 そこに覚えた不全感と拘束からの開放を求めた彼は、すべての力を振るいつづけている。

 くしくもと、表現すべきだろうか。
 あるいはこれも、必然といえるのだろうか。

 ユーリルと出会ったアナスタシアの抱いた思いと、彼のそれは質を同じくしている。
 少年は少女と同じく、答えに飢えていた。
 心の器、その基底にあった《勇者》という概念を疑い、疑念を前に立ち止まってしまい。
 感情とともに自身を燃やしながら歩き出してもなお、癒されず。
 喪失の道において内奥を枯渇させた少年は傷口を、渇きを埋められるものをこそ欲していた。
 底の抜けた《ユーリル》を、刻まれた傷のすべてを埋めてしまえる思いを。
 《勇者》に比肩するほど確かに自身を支える理由を。
 《英雄》の影を吹き払えるほどに強力で疑いようのない現実を。
 思いもよらなかった観点より降りかかった苦痛、その総量に釣り合うだけの答えを――。

 アナスタシアが勇者の称号にある輝かしさを否定した裏で、ユーリルの共感を求めたのと同じに。
 飢え渇いた少年は、分竜じみた豪雨にふるえ、青ざめ、体力の限界を超えても必死に声をあげる。
 必死に問いへと入れあげていなければ、ユーリルそのものが立ちいかぬままに折れてしまうから。
 そうと断せられようほどに、反撥をこそ求めたような彼の剣は激しく、双眼には血が入っている。
79創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:05:04 ID:5u++Izgb
 
80創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:05:27 ID:lg/TlF4n
 
81いばらのみち――(ne pas ceder sur son ―――):2010/07/18(日) 01:05:34 ID:UiQTluTm
 そこまで、思っていながら。
 そこまで、追い込まれていながら。
 様々な観点から示された答えを受容出来なかったのも、この少年に他ならない。

 ユーリルは、これまでに奪われすぎたのだ。
 たとえば日常。たとえば雷魔法。たとえば仲間、トモダチ、家族、なによりも《勇者》。
 《勇者》とかけ離れてしまうまでに、彼は、彼であるべき理由を失いすぎている。
 企図したにしろしないにしろ、様々な者から否定の言動を受けすぎているのだ。

 そんな彼の抱える傷は、言うまでもなく深い。
 《勇者》ではなくなった彼が基底から失った精神の血、その総量は多すぎた。
 そして、勇者ではない自分を否定され続けたユーリルの自己評価は低い。
 加えて仲間、トモダチ、幼馴染に対する評価は高かった。
 これほどに全力を挙げて否定してもなお払えないでいる、《勇者》の称号に対してもだ。
 もう帰ってこないものたちに対する理想と幻想は強固であった分、制御がきかない。
 なによりも、ユーリルにはここに立つ自分の中身を覗きたいと思えない。
『自分でなくとも良い』自分の存在を見つけてしまうことは、耐えがたい苦痛だったのだから。

 ゆえに彼は、現実ではなく幻想を求める。
 今までの喪失を埋めるほど完璧な同調を、完璧な共感を、完璧な理解を欲する。
 ともにいるだけで、なにも口にせずとも想いが伝わるといった、小児的な夢を捨てまいとする。


 ……そうして強く思えば思うほどに、ユーリルからは選択肢が消えていくのだ。
 自分になにがあるのかと疑った結果、自分にはなにもないと信じてしまったがゆえに。
 たとえ、そんな彼を全面的に認め、許容する者ですら、劣等感を覚えた少年には脅威でしかない。
 あまりに大きな幻想を抱いていながら、幻想を信じつづけるだけの感情の『遊び』も彼には少ない。

 だからこそ、無意識にくみしやすい者を、加害者を狙って、
 あやまたず自分のものにした感情、世界に対する呪詛をぶつけていくしか、ないのだが。
 己のことさえまったくと見えない状況で、何も認められない状態には、

 なんら変化がない。


 いばらの道で喪って喪いつづけ、喪ったことを叫び続ける少年は『返答』を求めて新たな一閃を刻んだ。
 彼の脳裡に満ちているのは、幾度も彼を裏切り、ときに形式や文脈を無視して行われた数多の答えだ。
 新たな答えで埋めるべき喪失の主観的総量に比例して、彼は相手のことを待てない。
 隠した思いを汲まれないことで覚えた絶望が強いほど、彼は相手を見過ごせない。
 すでに彼は、相対するものに容赦を加えることだけは選べない。
 それゆえ誰かを、なにかを許すことも出来ないのだ。

「アナス、タシア」

 ある種の正当性を胸にしているがために、少年は止まれず、来た道を引き返せもしない。
 といって先にも進めないまま、彼は、戦場で沈黙を保ちつづけていた少女の名をつむいだ。
 自分が何者なのか、その一面を示した人間を表す語を、雨香すら沈む闇へと重ねて織り上げる。
 世界にある者たちが悪魔にも魔物にも魔王にも見えるほど、彼女との関係性に取り込まれた状態で。

 それでいて究極的には、彼に相手が見えるということもないのだ。
 被害者意識の裏で絶対性を見出したために、遠慮なく暴れつけている相手――。
 なんの枕詞も付けないアナスタシア本人のことを、ユーリルが顧みることはなかった。
 少年は、彼女が<剣の聖女>本人であるかどうかも、彼女の戦闘能力も、彼女の好きなものも知らない。
 だからこそ、自分の認知を真っ向から歪めた彼女が自分を恐れている可能性を推し量れない。
 人ですらないと言われ、殺す価値もないほど空虚な自身を認めた彼には考えられない。
 自身に相手に及ぼす影響力など無いと決め込んでしまった彼には、想像出来ない。
82創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:05:50 ID:5u++Izgb
 
83創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:05:57 ID:XfQYCd+R
84いばらのみち――(ne pas ceder sur son ―――):2010/07/18(日) 01:06:16 ID:UiQTluTm
「逃がすか。逃がして、たまるか……アナスタシア・ルン・ヴァレリアああぁあッ!」

 この瞬間のユーリルにつかめたのは、断片的で皮相的な情報のみ。
 少女が自分を守ってくれていたはずの三人から、きびすを返して背を向けたという事実だった。
 少年の知らなかった《自分》を言い当て、道を示した当事者が『自分を捨てた』との認識でもあった。
 眼前では彼の叫びを耳にした剣士が、舌打ちとともに一瞬、意識を背後へと逸らした。
 アナスタシア。忌々しげにつむがれた名前は、狭窄したユーリルの感覚にも鮮やかに割り入る。
 剣士が携える得物よりも、その名前にこそ引かれて、少年は左の手のひらを天へと伸ばした。

「きたれ、魔戦の雷」

 口の端にのぼらせるは《勇者》の呪文。招雷魔法は層積し、嵩を張った黒雲を喚ぶ。
 激しい火花を散らしている雲は、行き詰まった思考を映して白い雷を招く。
 天の海にて生まれた龍を思わせる雷は、うねりつかねて地の潮海を指向する。
 ひとときなれども水天の一碧をすらつなぐものが、雨渡りののち大地に落ちる。

「――ギガデイン!!」

 白さもきわまって青ざめた光が、星なきみそらを押し開く。
 さながら密雨と見えた輝きは糸のごとくに散り、少年の前に立ちはだかる者へと襲いかかる。
 遅れることなく追随した碧の、夢を思わせて澄んだ光がなおも夜闇を照らしあげ、


 雨竜下った島の一角に、幾筋もの光芒がひらめく。
 土をぬるませる水のたまりが夜風を受け、さざれに光耀をはしらせてゆく。


 ×◆×◇×◆×


【5】


 死神の、絶望を暗喩する鎌よりも。
 彼らの放つ言葉は、とても、とてもとても、とてもするどかった。
 イスラも、紋章使いのジョウイも、泥にまみれたとて彼らなりの課題を見据えていたから。
 結果は死であるとしても、その過程にある光をこそ目指して、

 ひたすらに、生きようとしていたがために。

 死にたいとわめいたイスラの叫びが、アナスタシアの思考の死角を照らし得た。
 汚れ役を引き受けたらしいジョウイの宣誓が、アナスタシアの懊悩を矮小化した。
 生きても闘えない自分との差が、ユーリルに対する言葉へ顕れているとも思われた。
 勇者は生贄だと断じた己の言葉こそが、何もしない自身を深淵に突き込むようだった。


 そして、あの雷で干上がった湖のほとりにあったものの姿が、なおも少女を突き上げる。


 獅子奮迅の働きをしたのだろう四肢を砕きもがれ、切り捨ててまでも戦い抜いた者は。
 ひび割れた泥濘を元の姿に取り戻すべく溜まる勝り水。そのかたすみに斃れた者は。
 猛々しさや張り詰めた雰囲気とは裏腹にあどけない額を、夜天に晒している者は。
 カノン。アイシャ・ベルナデット。<剣の聖女>の末裔たる凶祓いの女性――。

 アナスタシアの耳にユーリルの声がはっきりと聴こえた原因は、言うまでもなくイスラだ。
 ならば、現実感覚を取り戻したアナスタシアの背中に氷を入れ込んだのが彼女の遺骸。
 《英雄》のくびきから解き放たれたはずのカノンがみせる、あきらかな勇戦の名残りだ。
 イスラの、ジョウイの、ユーリルの言葉から逃れようとした視界の先にいた、自身の末裔の姿……。
 水に沈んだと見える義体と、わずかな肉のかたまりは、アナスタシアへ衝撃を与えるに十二分であった。
85創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:06:26 ID:lg/TlF4n
 
86いばらのみち――(ne pas ceder sur son ―――):2010/07/18(日) 01:07:11 ID:UiQTluTm
 むろん、彼女がいかにして<剣の聖女>の呪縛を払ったか、その経緯は少女とて知っている。
 けれども、ああして散っていける心のもちようを、聖女と謳われた《英雄》は知らない。
 いま、ここにひとつの意志や信念を貫くため、文字どおり身を削り――。
 それでいて穏やかに逝ける心境など、とてもではないが想像出来ない。
 想像の出来ないものなど、実現させることもかなわない。

(べつに、あんなにも綺麗でなんか、いなくたって……)

 高鳴る鼓動がうるさかった。
 そう。特段、綺麗でなくともいい。
 いかな状態であろうとも、この胸さえ打てば、生きてはいける。
 それこそカノンの行ったように、生身を捨て去っても生きてはいけると分かっている。
 けれど、綺麗でない生の果てになにを残せるかと問われたなら、アナスタシアにはなにも言えなかった。
 遠目に義体と分かったように、遺体こそ無惨な状態だったが……彼女は、綺麗に死んでいたのだ。
 カノンのように死ねるかと言われれば、それは無理だと答えるしかなかった。
 《英雄》にその肉体を縛られ、それでいて精神は《英雄》から自由になれたはずの、

 彼女と自分は、なにが違う。

 三人の言葉から逃げた先で、痛いほどに分かっていても問わずにいられなかった。
 ピサロとの一対一が響いてか、いまだ口を開かないアキラの言葉に、どこかで期待をかけていた。
 それでも、白馬の王子様は来なかった。
 アナスタシアにとっては長い、長い時のうちに二人は納得し、もうひとりは。
 ……もうひとりは、確かに自分を求めている。
 彼女がもっとも望まないかたちで、求めている。

 だから、こうして、駆け出したのだ。
 あとがないと分かっていながら、戦場を駆け抜けようとしているのだ。
 自身への嫌悪感をあらわにしていながら、こちらへの射線をとおさない、イスラの剣から。
 リルカと面識があったのか、『魔法』という言葉を大切につむいだ、ジョウイの紋章から。
 なにを話すかも分からないが、魔法の使い手というのに前線を支える、アキラの言葉から。
 揺れまどい、燃えさかる感情をぶつけることにだけは迷いをみせない、ユーリルの姿から。
 戦場にて、石のひとつも投げようと思えはしなかった、アナスタシアが逃げ延びるために。

 踏み足の裏の全体が、ぬるむ大地にぶつかった。
 子どものような足取りで逃げて、

 逃げるために、

 逃げて、


(生きるって、いったい何なの? どういうことを、さしているの……ッ?)


 いくばくもしないうちに問いが、なにも持たない彼女を追いかけてくる。
 安易な道に逃げた。自分のしなければならない戦いを、避けたと。
 少女自身の声こそが雷鳴に重なり、低い轟きを喰い殺すほどの苛烈さでもって響く。

 そうであるからこそ、全力で足を動かしていた。
 全力で足を動かすからこそ、彼女は、三人のことを考えずにいられた。
 けれども、なごやかですらある忘我のときなど、長く続きはしない。
 風をきり、風をかきまぜる自身の鼓動、緊張に粘った汗を流す、アナスタシアの体――。
 どこまでも自分に向かって研ぎ澄まされた頬の肌理が、べつのものの動きを捉えたがゆえに。


 ただの少女は、振り返る。空気に伝わる熱を前にして、振り返ってしまう。
 足を止め、振り返って、真っ先に視界へと割り入ったのは引かれ者の。
 惹かれ者のような少年の眼と、その手がしかと構えた剣であった。
87創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:07:56 ID:5u++Izgb
 
88いばらのみち――(ne pas ceder sur son ―――):2010/07/18(日) 01:08:02 ID:UiQTluTm
 分かっていた。
 こうなることは、分かっていたのだ。
 分割された戦場においてユーリルが狙うのは、アナスタシアただひとり。
 ならば、自分が目立つような行いをすれば、それを知覚した彼は、まずもって動きだす。
 即席の陣や連携を突破することなど、心の痛みで体の限界を忘れた彼は、いとわない。
 ……それが分かっているからこそ、最後に少女は振り返ることがかなったのだ。

「か、はッ! ……う、くぅ――ッ」

 振り返って、彼の剣を真っ向から受けることが。
 胸許から背中に抜けた剣で支えられた体の、両腕を、彼に向けて伸ばすことが。
 激痛に跳ねんとする腕を押さえて、ユーリルの体を拘束することが。
 そしてなによりも、

 痛みを超えて五感を支配する、体の痛み。
 それでもって、心の痛みを忘れていられる。
 体を走る熱感に身を任せていれば、すべてを。


「なにを使ったかは知らないけど、これでひとりは押さえられたね。
 もっとも……君が彼にやったことをかんがみれば、問題の先延ばしに他ならないけど」


 忘れさせては、くれなかった。
 にぶい衝撃とともに、少女を刺した少年の肩が崩れる。
 そこから苦くゆがめた視線を見せたのは、黒い髪を雨にしおれさせた剣の使い手だ。
 片刃の剣を返したイスラの一撃が、ユーリルの。肩にほど近い、首の側面部を捉えたのだ。
 アガートラームが無ければ素人と変わらないアナスタシアにも、この一撃が急所を打ったことが分かる。
 そして、土壇場で手首を返して肩を振り抜き、急所を狙って水平にはしった軌道には迷いなど微塵もない。
 手刀や貫手のそれと変わらぬ殴打のするどさは、少年の肩越しにイスラが浮かべた表情の硬さに相応だ。

「ぬいぐるみかい? 少女趣味だね、“おねえさん”」

 ……目を閉じていても、耳にはイスラの声が届いてしまう。
 気付かないふりをしているのか、皮肉のつもりなのか。
 前言をたどって判断することも出来ない。
 剣という支えを喪った体が、別のものに支えられる。
 アキラとおぼしき声が、治癒の能力を使おうとして驚きの声をもらす。
 その光景を睥睨していると言っていいイスラの様子から、アナスタシアは、目を逸らした。
 失血と傷に力を喪ったふりをして、ひたすらに目を逸らしてしまうしかなかった。
 ユーリルを『生贄』にした自分が、どうして、彼の刃を誘うようなことをしたのか。
 《英雄》ではないアナスタシアを駆り立てたものは、贖罪の念ではない。勇気でもない。
 《勇者》の意味を知った者に向けた同情でもなければ、後先を顧みずに行った蛮勇ですらないのだ。

 これは……たんなる、保身であった。
 自分が少しでも救われていたいがための、いやしい打算。
 自分自身に正当性を得ていたいがための、さもしい計算。
 生臭いが生の匂いなど微塵も感じられない目論見にほかならなかった。
 真から生き抜く覚悟を決めることも出来ないが、屍を晒すことも出来ない半端者。
 ただそれだけの人間が、いま少しの猶予と点数を得る――。

 そして、当初の決意に反して、問題の解決を三度までもあと回しにしてしまっただけのことだ。
 その場しのぎの行動を、煩悶と後悔と無関心に囲まれて選ぶしかなくなった。


 ただ、それだけの話だ。

89いばらのみち――(ne pas ceder sur son ―――):2010/07/18(日) 01:08:49 ID:UiQTluTm
 こんな行いをする程度には、自分が失策を犯したことだけは嫌になるほど理解している。
 ここでなにも選ばなければ、先には厳しい道が待ち受けるであろうことも分かっていた。
 分かっていながら、アナスタシアはこの道を。自らすすんで刃を受ける道を『選んだ』とは言えない。
 自業自得であろうとなんだろうと、この展開を『選ばされた』のだとしか感じられない。
 選ばされた事実を受け入れ、このことすら自分の一部であるとは、とてもではないが思えない。
 そんな自分の心根が、分かっているからだろうか。
 真っ向から剣戟を受け、胸当てや鎧下どころか素肌を切り裂き抉られてなお、アナスタシアの心は晴れない。
 流血とともに高揚を覚えるとされる戦士の、生命の本能と今の彼女の距離は遠く。
 血が流れ、脱力した体が雨に濯われるほどに、胸中にはすっきりとしないものが堆積する。

 めまいがし始めてもなお、気絶には、ほんとうの忘我にはまだ遠い。
 考えなくてすんだはずの思いが、水泡のように胸の奥から湧きあがってくる。
 もしもいま、自分のふところに《スケープゴート》がなかったなら――。

 まずもって、自分にこんなことは出来なかっただろうと。

 聖女でもなんでもないアナスタシアには、ほんとうの意味で自身を犠牲にすることなど出来ない。
 《生贄》となった自身を否定しても、自分が安全であれば他の誰かを身代わりに立てたように。
 礼拝者すべての罪を生きたままあがなう山羊にさえ、逆立ちしても……この自分に、なれはしない。

 非現実もきわまりない考えに気をまわす滑稽さが分かっていても、彼女には、たまらなかった。
 自身の弱さを自覚することさえ、誰かに対する言い訳でしかないと思えるのがたまらなかった。

(あ……ぁ……)

 これは、いったい誰の腕か。誰の体なのか。
 たしかな鼓動と人肌のぬくもりが、今の彼女にはうとましくてならない。
 生きる。生きようとして、ちょこの首を締めることを選びかけた時と、これは同じだ。
 マリアベルに告げた言の、冴えない響きが胸を押さえ、鼓動と呼吸を荒く無為なものに変える。
 欲望は、ではない。一般化できないアナスタシア自身の欲望は、美しくも輝かしくもない。
 けれどもいまは、夜の砂漠で自分自身にある欲望の美醜を見たときと同じようにはいかなかった。

 あのときも今でも、『仕方がない』と。
 アナスタシアは確かに感じ、考え、思考の結果を行動に移していたがゆえに。
 初手に。あらためて踏み出したはずの一歩目における、ただの一語で。
 生きたいと思っていた彼女は、自分の考えを限定してしまったと分かってしまったために。
 その事実はアナスタシアが幸せな未来を想像しきれなかったことを、彼女自身の心に証だてていた。
 ……いまの自分が殺し合いの場にあることや、自分自身の生を犠牲にしなければ、周囲の人間すべての
生を救うことなどかなわなかった自分の境遇など、ことここに至ってしまえば、関係はない。
 ユーリルもイスラも、ちょこや、他の者たちにも。抱えているものは、絶対にあるのだから。

 彼らの前で、自分が、これ以上身を落としたくないのなら。
 こんなものをいまさら、引き合いに出すべきではない。
 懊悩や煩悶といった肩身の狭い思いから逃げて生きたいのなら。
 ここで無自覚と無神経をさらし、自身の弱さを露呈する以上の悪手もない。
 先刻、動かないでいることを選んだ……あるいは、選ばされたからこそ。
 気がついたときには、彼女のなかから逃げ道そのものが失せてしまっていたのだ。

 まったくもって、自業自得に他ならない。
 そして、追い討ちのように彼女は気付いた。気付かなくてもよいことに、思い当たった。


 過程はどうでもいいと思っていても、この結果ひとつで過程を思う心さえ変わると。
 自身が生きるために、ほかのものを踏み台にしてしまおうと思った時点で。
 下手をすれば初手から生贄を立ててしまうことを考えていた時点で。
 自分は、自分に、胸を張ることなどかなわないのだと。
90いばらのみち――(ne pas ceder sur son ―――):2010/07/18(日) 01:09:29 ID:UiQTluTm
(わたしも、同じ。同じ……か――)

 諦めていた。
 殺し合いを受けて立たず、殺し合いに飲まれた時点で諦めていた。
 イスラの言い当てたもうひとつの正解が、疑問符を付けない問いかけが、アナスタシアの胸を締めあげた。
 いばらのように棘をそなえた言葉が半日に満たない時を経て、今度は少女を縛りつつある。
 けれども、石を投げられつきあげをくらうのは苦痛であることも分かっているのだ。
 問題に直面しないでも状況が遷移してしまう実例を見るのもつらかったが、問題の矢面に立つだけの強さを、
強さを支える持論や信念への自信を、いまの彼女は見失ってしまっているのだから。
 ならば、いかに白々しい行動をとろうとも、重なりつらなる詰問への不安は潰しておきたかった。

 その結果が《英雄》を虚飾する剣にて生まれた、かりそめの致命傷だ。
 胸部からの出血に触れた生贄の山羊、やぎのぬいぐるみが音もなく消え去る。
 間違いなく、自分は身を張った。そうと分かっていても、すっきりしない。
 失血による脱力、剣が離れた刺傷のふさがる痛みとともに、新たな失望が胸に落ちる。
 ……言葉で他人を操らんとしていたくせに、逆の立場になれば、自分とてこうだ。


 これで、やっと意識を失える。


 そんな思いが傷のふさがった胸におちた瞬間、間違えようのない心地良さを覚えたのだから。
 イスラと紋章使いの青年の言葉をきっかけに、再会の時よりなお鮮やかに知覚へ割り入ってきた声。
 ユーリルの絶え間ない問いから逃れうる正当な理由がもらえると、心の底から感じてしまったのだから。

「アナスタシア……さん」

 ユーリルの叫びを、幾度となく耳にしていたからだろうか。
 ジョウイと名乗った少年が、ためらいがちに腕の中の自分へと声をかける。
 けれども彼に答えることすら億劫で、いやで、アナスタシアは強く、つよくまぶたを閉じる。
 傷のふさがるまでに、ずいぶん血を流している。そのせいか、体が先刻にも増して冷たい。
 それすらどうでもよくなるほどに、現界から遠くなる意識からは執着が失せていく。
 アナスタシアを、彼女として立たせる欲望が、目的が、思いが薄くなっていく。

 薄れゆく意識の、自己のなかで、なおもまぶたに焼き付いているのは……。
 肉薄した瞬間に焼き付けられた、赤黄色く充血した双眸。青ざめすぎて色のない唇。

 あの少年の面影だ。

 肩を揺らしてまでも叫ぶのをやめなかった、彼は。
 イスラの呼びかけによって直面させられた、ユーリルは。
 自分に《勇者》とはなにかと問いかけているのでは、けしてなかった。
 どうしてなのかと、《彼》の意味を奪ったアナスタシアにこそ、搾取の理由を求めていた。

 どうして、どうして一切を降りかからせた対象が自分なのかと。
 アナスタシア・ルン・ヴァレリアが選んだユーリルとは、一体なんなのかと。
 納得出来る、自分が満たされるだけの理由を教えてくれと、一歩も引かずに叫んでいた。

 それは、分かる。
 彼から欠落した現在の重みは、わずかなりと分かる。
 茫洋とした時を経て鮮烈に届いた叫びから、否が応にも感じ取っている。
 けれども、そんなことを問われたところで、彼女に答えなど返しようもない。
 彼と同じように、日常を選んで日常に選ばれなかったアナスタシアが返してやれるわけもない。

 ただ、足許にひとつ、投げられる小石は増やせたのだ。
 そらぞらしくとも、『自分は、こんな事態を呼び込んだ責任をとろうとした』と。
 たしかに、やぎのぬいぐるみは武器ではなかった。
 だが、いざというときの保険という意味ではこれ以上ない鬼札と断言できるものでもある。
91創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:09:50 ID:lg/TlF4n
 
92創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:10:09 ID:5u++Izgb
 
93いばらのみち――(ne pas ceder sur son ―――):2010/07/18(日) 01:10:25 ID:UiQTluTm
 ――ここで、剣に引きずられるように意識をうしない、次に目覚められたとして。
 確かさでは類をみない命綱を持っていることを明かさなかった自分が、彼らに囲まれて問い詰められる。
 痛くもないふところを探られて、実際に痛みを覚えるような未来を想像することは、難しくない。


 それでも。
 ……だからこそ、か。
 あの瞬間には唯一これが、欲しかったのだ。

『生贄』をここで使い捨てても、いまのアナスタシアにはこれが必要だったのだ。
 石と見えたものが、そのじつ軽く頼りない木っ端でしかなくとも。
 投げたところで、つかのま視界に煙をたてるだけの砂粒でしかなくとも。


 なにも言えないまま疑問と失意にとらわれてしまうよりは、よほどましだと、思えたのだ。


 ×◆×◇×◆×

94創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:10:51 ID:XfQYCd+R
 
95創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:11:01 ID:lg/TlF4n
 
96いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.):2010/07/18(日) 01:11:06 ID:UiQTluTm
【6】


 白い上着が繊維を透かせて、アキラの肌に張り付いていた。
 体表の熱をうけた水がぬるむいとまも与えない、滝落としの大降り。
 天の竜が降らせているかのようにつかねて落ちる分竜の雨は、いまだ止む様子をみせない。

「時間は……」

 単調だが一撃一撃が致命傷になりかねない剣戟を経ての、第一声がそれだった。
 ジョウイが抱えるアナスタシアの傷をみなければならないのに、頭の芯には深いもやがかかっている。
 ピサロに注意を向けながらも、全力でユーリルの力を逸らす。
 ときにイスラをかばい、彼やジョウイにかばわれといった波こそあれ、結局のところはただ一点の目的に注力した
体が、頭が飽和している。情報量が偏っているくせに大きいのか、それを受けた脳裡が真っ白になっていた。
 委細はおいて、致命傷こそ逃れたが気を失った彼女に、ヒールタッチを。
 そうと思いきってみても、荒くはずんだ息がおさまってくれない。

「放送からは二時間以上経ってる。ピサロとロザリーがいなくなってからは、分からないね」

 イスラの手の中で、懐中時計の鎖が鳴った。
 ある意味では体感どおりとしか言いようのない言葉をうけて、肩が落ちる。
 体にはしる無用な緊張が解けたと同時に、精神集中を行うだけの余裕も戻ってきた。
 アナスタシアを抱きとめたジョウイへ視線をやると、彼は、静謐な瞳をこちらへ合わせてくれる。

「さっき……彼女が落としたぬいぐるみは、身代わり地蔵と似たようなものだと思います」
「地蔵?」
「ええ。致命傷を、代わりに引き受けてくれる」
「傷のほうは、全部引き受けてくれるってわけじゃなさそうだな……」

 ピサロの行方も知れないいま、これで、マリアベルの頼みに応えたと言えるのか。
 うつむいて線を崩し、呼吸をさえぎられかけた首をおもんばかってか。紋章使いは、無言で少女の体を
仰向けにする。赤ん坊や子どもにそうするように、抱きとめた首もとには片腕の補助がかかった。
 傷の表面がふさがってなお内出血の危険がある傷に向かうアキラと、彼の視線が合ったのは一瞬きりだ。
 しかしてそんな配慮だけで、少年は彼への信頼を深めようという気になれる。

 視界の端ではイスラが、泥土にくずれたユーリルに対して似たような処置を行っていた。
 すぐに気絶から醒めてもらっては困るが、気道を確保することで窒息だけは避ける。
 体温の低下にも対処したいところだが、あいにくと、毛布や防水具といった道具はは手許にない。

「キミは……相手の心に働きかけて眠らせると、そんなふうに力を説明していたね」

 イスラが口を開いたのは、三者が三様に手持ち無沙汰になったとみえた、その時であった。
 事情を知るアキラでなくとも、言わんとすることは明らかなのだろう。
 影も見えないピサロの位置を探るためにか、厳しい視線を巡らせていたジョウイが自分に注意を向ける。

「じゃあ、その前段階として、純粋に相手の心を読むことは可能なのかい?」

 緑がかった紋章使いの瞳が、軽くではあるがはっきりと見開かれた。
 彼ら二人が、そこに反応するのも無理はない。
 アナスタシアは、ユーリルになにを言ったのか、話そうとはしなかった。
 ユーリルの言からは《勇者》という単語こそ聴き取れたものの、ことの詳細は分からないままだった。

「なにが起きたか、読み取れる……そういうことですね?」

 アナスタシアを呼んだときと同じような響きが、雨垂れがつたったジョウイの口許に残る。
 響きを確かめるように、あるいは、心を確かめるかのような語調は静かで、重い。
 誰の心を確かめているのかは定かではないものの、問題としたことと真剣に向きあっていることは確かだ。
 対して、主にアナスタシアへの嫌悪か、はたまた疑念か。イスラの表情に交じる色はすっきりとしない。
 だが、先刻放たれた彼の叫びを耳にした側としては、彼の真意を、真剣を疑いようもなかった。
97創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:12:12 ID:lg/TlF4n
 
98創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:12:32 ID:XfQYCd+R
 
99創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:13:04 ID:5u++Izgb
 
100創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:13:07 ID:aKtyWto3
101創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:13:20 ID:XfQYCd+R
 
102創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:14:00 ID:XfQYCd+R
 
103創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:14:18 ID:aKtyWto3
104創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:15:16 ID:aKtyWto3
105創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:15:24 ID:XfQYCd+R
 
106創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:15:42 ID:lg/TlF4n
 
107創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:15:50 ID:5u++Izgb
さる?
108創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:16:42 ID:XfQYCd+R
monkey
109いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.):2010/07/18(日) 01:18:08 ID:UiQTluTm
 そんな二人に対するアキラは、意識的な呼吸を数度繰り返した。
 アナスタシアにせよユーリルにせよ、言動をみるに難物といっていいだろう。
 そんな彼らに対して、アイシャのときのように、心を読み足りないものを補填してやれるのか。
 がむしゃらに戦うなか、様々なものを取りこぼし、いまや疲れきってさえいる自分が。
 知らなくても良かったであろう、ひとの心の裏側を知ってひねた自分が。

「出来ると、思うぜ。あんまり好きなやり方じゃねーが、なんとか……してみせる」

 そう思いながらも、ここに眠っているアイシャの生き様を思えば――。
 彼女と同じ場所に立っているアキラに、うなずく以外の選択肢など初めからなかったのかもしれない。
 加えて、《英雄》になる願いの裏に隠れていた彼女の強い望みこそが、背中を後押ししてくれる。
 口の端にのぼらせていたか否かの違いこそあれ、ユーリルについては彼女と同じ程度に望みが前面に出ていた。
 アナスタシアにせよ、ユーリルをあそこまで歪めたのかも知れない言葉をかけたのなら望みを読める望みはある。

 しかしながら、《英雄》のつぎに《勇者》がくるとは予想だに出来なかった。
 どうやらここでは、そうしたたぐいの言葉に縁があるらしい。

「いけるのかい?」
「ひとまずはな。ただ、いまの俺じゃあ間違いなく」

 格好をつけるべく口をつぐみかけて、やめる。
 意識を喪った者の体がいかに重いかくらいは、分かっているつもりだ。
 片方は非戦闘員、片方は敵対にかぎりなく近かったとはいえ、三人で二人を抱えるいま、ここに。
 いまのアキラがもつ最大の弱点に触れないでいては、笑うに笑えない結果を呼びうるのだから。

「あぁ。心を読んだあと……ひょっとしたら心を読んでる最中に、意識が落ちる。
 すまねぇ。情けねー話だが、ちょっとばかり力を使いすぎちまったんだ」

 アキラに出来ることといえば、困ったように笑ってみせることくらいだった。
 やせ我慢に他ならない笑みを見せるべく視線を上げれば、さみだる雨が泉に流れ込むさまが見える。
 ――アイシャのなきがらも、いま、同じ霖雨(りんう)をうけているのだろうか。
 気絶を避けるかのように、意識の間隙を埋めるかのような思考が止まない。
 ひとを降りそぼしてまだ足りないとばかりに手数の多くある雨滴と同じように、止むことがない。

「まったく……前途多難、だね」

 考えているようで、そのじつぼんやりしているのと変わらない思考を読まれたか。
 ほんの少しの棘を交えた口調にため息を交えて、イスラが雨の向こうを見やる。

「ストレイボウさんたちも、無事だといいんだけど――」

 ユーリルから少し遠い場所にアナスタシアを横たえたジョウイも、イスラと逆の方向につづく。
 彼らのあいだで二択をせまられたアキラは、第三の方角――。


 何者かの心を映したかのように晴れない雨をもたらす雲に、しいて視線を持ち上げた。
110創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:18:39 ID:aKtyWto3
111いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.):2010/07/18(日) 01:19:07 ID:UiQTluTm
【C-7橋の近く 一日目 夜中】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(極大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:ジョウイの言葉が、許せない
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。

【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(極大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える。可能ならばユーリルかアナスタシアの心を読む
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
112創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:19:20 ID:aKtyWto3
113創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:19:23 ID:lg/TlF4n
 
114いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.):2010/07/18(日) 01:19:51 ID:UiQTluTm
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドU、ビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。

【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]:疲労(中)
[装備]:キラーピアス@DQ4
[道具]:回転のこぎり@FF6、確認済み支給品×0〜1、基本支給品
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:座礁船に行く。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾


【C-7中心部 一日目 夜中】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、MP0、人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:ロザリーを弔う
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
 ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)。


【やぎのぬいぐるみ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
ギア(アクセサリー)の一種。致命に至る一撃から、一度だけ復活することが可能となる。
ただし、装備者の身代わりになったぬいぐるみは失われてしまう。


 ×◆×◇×◆×

115創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:20:08 ID:aKtyWto3
116創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:20:09 ID:lg/TlF4n
 
117創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:20:30 ID:5u++Izgb
 
118いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.):2010/07/18(日) 01:20:32 ID:UiQTluTm
【7】










          ――――この袋小路からの抜け道を提供するのが「外的反省」だ。
          外的反省は、テクストの「本質」「真の意味」を到達不可能な彼方に
          追いやり、それを超越的な「物自体」にする。有限の主体であるわれ
          われの手に入るものはすべて、われわれの主観的視野によって変形
          された歪んだ反映であり、一部分である。<物自体>、すなわちテク
          ストの真の意味は永遠に失われているのである。










 ×◆×◇×◆×

119創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:20:50 ID:aKtyWto3
120創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:21:18 ID:lg/TlF4n
 
121 ◆MobiusZmZg :2010/07/18(日) 01:21:20 ID:UiQTluTm
以上で投下を終了します。
問題点や矛盾点、ご意見ご感想など、お寄せいただけると幸いです。
そして深夜にもかかわらず多数の支援、ほんとうに助かりました。ありがたいです。

それと、下手すれば誤解を与えるかもしれないので一点のみ。
【0】【7】の惹句は、いずれもスラヴォイ・ジジェク著『イデオロギーの崇高な対象』に拠ります。
本文中に引用の表記を行ってみると衒学的にすぎる印象になっちゃったので、代わりにここで。
自分のオリジナルでないと分かるのが肝要なんで、wiki収録時にも元ネタのページあたりに明記しておきます。
122創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:21:30 ID:aKtyWto3
123創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:21:54 ID:5u++Izgb
 
124創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 21:17:03 ID:QLnYpf4K
投下乙!
アキラ以外が心になんか後ろめたいものとか抱えている面子なんだよなあ、こいつら
そこんとこを上手く絡みあわせれてて面白かった
何よりもジョウイの先駆者うんぬんはよかったなあ
イスラのアティ論も合わせて自分で選んだ人達でも捨てなきゃいけなかったもんがあるんだと訴える姿は心を打った
125創る名無しに見る名無し:2010/07/19(月) 11:43:28 ID:3fLB0RhO
投下乙です。
全体的に1文が長くて何を言ってるのか分かりにくいかも…
もうちょっと分かりやすく読みやすい方が好みだけど、
『魔法』やカノンといったこれまでのエピソードを生かした演出は胸が熱くなるね。
「僕の『魔法』」はこのロワでも屈指の名台詞になるわ

ユーリル・アナスタシアが気絶したけど
ここからどう展開するか、このパートはまだまだ楽しみだな
126創る名無しに見る名無し:2010/07/19(月) 19:19:54 ID:3FyqzQMG
投下乙です

みんな重い物を抱えてるな…
それが複雑に絡み合ってそれを一つにしたのは凄くいい
ああ、この先どうなるんだろう
状況的にはピサロは優勝狙い、ユーリル・アナスタシアの問題はまだ解決せず
ホント、先が楽しみだ
127 ◆MobiusZmZg :2010/07/20(火) 02:47:25 ID:PdLrzU6w
上記の作品の誤字脱字を修正して、wikiに収録いたしました。
修正というか、当初のプロットのままだったので投下分から削除した点がひとつだけ。
>>111、ユーリルの思考欄から「2:ジョウイの言葉が、許せない」を削りました。
128創る名無しに見る名無し:2010/07/20(火) 06:18:40 ID:fLrDi94p
何気にピサロは何時もきれいなピサロで対主催だから
マーダーであっても良いとはおもう

アナスタシアは存在自体が汚物と化しつつあるが
挽回するのか、更にネガティブオーラふりまいて
最悪に追い込むのか

セッツァーとジャファルも潜んでいるし、火種には事欠かないなw
129創る名無しに見る名無し:2010/07/20(火) 21:45:39 ID:55tfle+l
確かにこのロワのアナスタシアは汚いな…
それでもあんまり嫌われてる気がしないのは何故だろう。
130創る名無しに見る名無し:2010/07/21(水) 01:08:19 ID:HBUF84A5
目的が生きる一念っつうのが下手な英雄より共感できるからじゃね?
131創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 12:50:31 ID:y5oIN9Jk
イスラのアティ論は二次創作として完全に破綻している。
「サモンナイト3」本編でアティとスカーレルがこんな会話をしている。
−−−−−

スカーレル「次はいよいよ イスラとの再戦ね」
アティ「ええ、今度は前みたいに みんなの気持ちを無視してぶつかったりはしない
    自分にウソをつかずに 納得のできるやり方で決着をつけるつもりです」
スカーレル「そうね…そうでなくちゃ、きっとあのボウヤには勝てないわ
      あの子の強さは、貴方とは正反対の方法で作られているものだろうから…」
アティ「正反対って?」
スカーレル「切り捨てる強さ、よ」

(「サモンナイト3」15話夜会話より抜粋)

−−−−−
つまり原作では「アティの強さは、切捨てる強さとは正反対のもの」と述べられている。
そして実際、アティはそのようなキャラとして描かれている。
にもかかわらず、◆MobiusZmZg氏はイスラに「アティの強さは切り捨てること」などと言わせている。
これではイスラが馬鹿に見える。

もし、イスラ特有の価値観や内面世界、あるいは
イスラがアティと対の存在であることを表現したいのであれば、
アティのどのような部分がイスラには「切り捨てている」と感じられたのか実例を挙げた上で
「切り捨てることとすべてを選ぶことは、実は表裏一体である」といったことを
読者にきちんと納得させるべきである。これでは稚拙なヘイト創作にしか見えない。

前述の会話はネット上で公開されているのだから、
イスラとアティについて語りたいなら、それくらいきちんと調べて欲しい。
ハッキリ言って、これではイスラやアティを貶めているようにしか見えない。
132創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 13:29:23 ID:sGaKz2D/
某SRPG書き手さん乙です^^
とっとと巣に帰ってくださいねえ
133創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 13:33:18 ID:o+410Y/Q
エースマーダーのルカが死んだことで、ラスボスが誰になるか完全に分からなくなったな。
個人的にはピサロかなって気もするんだが、魔王もなんだかいけそうな感じ。

本命……Pちゃん
対抗……魔王
大穴……ユーリル
134創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 13:51:59 ID:8L83tGqi
ジャファル・セッツァーも引き際を弁えるから怖いだろうなー。
連携行動というか役割分担を分かってる二人だし、ここにきてのタッグ結成でも
なんかいけそうだと思える。暗殺って毛色のちがうアプローチも好みなんだw
135創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 14:23:24 ID:o1HSUMuL
…オディオがラスボスっていう方向はないのか?

それにしても、>>132みたいなのを見ると、サモンシリーズってロワ全般から嫌われてそうな作品だよな。
どのロワでもあんまり活躍せずに死んだり、マーダーから逃げたりしてるし…。
SRPGという元々把握し辛いジャンルなのに、夜会話やドラマCDでの伏線回収とかで他より輪をかけて
面倒くさいというのが原因なんだろうか?
136創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 16:57:38 ID:1+ZR9JSx
言い方が指摘を超えたただ叩きなところは論外なので、今後は気をつけて欲しいが
原作描写をちゃんと出してるし、内容自体は真っ当な気がする
137創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 18:37:59 ID:ZCsDA+mY
掘り下げが出来れば書いていて凄く楽しいキャラばかりだけどな、サモンナイトは。心に爆弾抱えた人が多いし。

自分は「あのアティ先生ですら切り捨てなければならなかったものがある」と解釈したけどな。
まああくまでもイスラ視点でのアティだから、そう見える可能性はありそうだし、違和感も許容範囲ではあるけど。

ヘイトは言い過ぎ。
138創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 22:26:06 ID:9Hp72XAK
勇者属性が多いから、主催打倒エンドかなと思ったら、
雲行き怪しくなってきたなあ

対主催サイドはアナスタシアの呪いがなければ
まだ磐石だったのに

シャドウは結構重要な対主催を殺してるが
ルカに死亡フラグ立てた上にちょこ味方化フラグをたてたから
まあ、トントンか
139創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 23:26:57 ID:2pnG1cgb
ラスボス予想

本命……Pちゃん
対抗……魔王
大穴……魔剣イスラ

ってか本編ではイスラはアティ先生みたいに暴走してなかったけど、同じ種類の剣なんだからああなる可能性はあるよな
チート剣はチートだけど、精神で負けたら折れてくれるし、弱いキャラでも倒せる可能性があるのがいいな

あと、ユーリルは最後には新しい定義の勇者として戻ってきてくれるって信じてる
140創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 23:56:09 ID:o1HSUMuL
>>139
なるほど、魔剣イスラは盲点だった。本編で十分アヒャッてくれてたしね。
しかし、心が弱くなると折れるとはいえ、暴走状態ではほぼハイネルに乗っ取られてるのと同じだし、
余計折れにくくなるんじゃね?

しかし、前にあげた亡霊参加者召喚の件といい、イスラも勇者とラスボス両方の可能性を持ってるんだな。
141創る名無しに見る名無し
マーダーも対主催も誰が死んでもおかしくないからなあ。
意外とアナスタシアあたりがラスボスになるかもしれん。

wiki管理人さんへ業務連絡。
そろそろ議論スレにて対応を行っていただけるとありがたいです。