たつお

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1 ◆dPqdDaHcfc

 たつおはノートパソコンを開き、電源を入れた。そしてディスプレイを見た。
2 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/02(金) 20:15:40 ID:umit+35j

 たつおの趣味は、小説を書くことだ。いや。違う。それは過去の話だ。最近はめっきり
書かなくなった。一体なぜか。それはわからない。ああ、僕は小説を書くことが好きだっ
たはずなのに。本当にそうか。本当に好きだったのか。今になって思うと、そうでもない
ような気がしてくる。確かに小説を書くことは楽しい。しかしそれも興に乗っているとき
だけで、アイディアが出てこないときはまるで地獄だ。

 地獄。まさに地獄。一体なぜ僕はこんなことをやっているのだ、と不思議な気持ちにな
る。しかし、一度始めたことは終わらせないと気持ちが悪い。それに、長い間頭を悩ませ
たあとは、どうせいずれアイディアが湧いてきて、興奮しながらキーをたたき、小説執筆
を楽しめるようになるのだ。それまでの辛抱だ。それに、小説を完結させたときの喜びも
また素晴らしいものだ。あの感情をもう一度味わいたい。
3 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/02(金) 20:16:32 ID:umit+35j

 たつおには現在進行形で執筆している小説は一本も無かった。それももうずいぶん長い
間だ。書きたいことがないのだ。インスピレーションが湧かないのだ。
 書きたいことがないのなら、それはそれでいいではないか。そんな気もする。しかし、
書かなければならないという思いはある。そこがもどかしいのだ。書かなければならない、
しかし、書きたいことがない。なんという馬鹿馬鹿しい状況だろう。この馬鹿馬鹿しい焦
燥が、かれこれ半年ほども続いていた。
4創る名無しに見る名無し:2010/07/02(金) 20:17:36 ID:umit+35j

 たつおは、この状況を打破しなければならない、と思った。閃きを待っていてはいけな
い。どうせそれはやってこないのだ。ならば、書くしかない。書きたいものが無くても書
くしかない。そうだ。手をつければ、案外できあがるものだ。一行一行書いていけば、き
っと何かしら形になるのだ。そうだ。そうだ。

 しかしテキストファイルを新規作成し、いざ何かを書こうとしても、何も思い浮かばな
い。たつおは悩んだ。頭を抱えて、悩んだ。何を書こう。さっきはあれほど息巻いていた
のに、いざ一行目を書き出すとなると、やはり何も思い浮かばず、いつものように苦悩が
たつおを襲う。
5 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/02(金) 20:19:07 ID:umit+35j

 僕は一体今までどうやってアイディアを得てきたのだろうか。たつおは自問する。そう
だ、僕は今までいくつもの小説を書き上げ、その中には自分でも満足のいくものはあった
し、ネットで褒められたりもしたじゃないか。ああいう作品が、なぜ突然生み出せなくな
ったんだ。何かあるはずだ。僕がまだ書いておらず、それでいて僕の創作意欲を掻き立て
るようなものが。何だ。それは何だ。ファンタジー。SF。学園もの。恋愛もの。青春も
の。学園恋愛青春もの。スポーツもの。ミステリ。推理小説。本格ミステリ。ミステリー。
社会派ミステリ。プロレスもの。格闘技もの。スペースオペラ。怪奇小説。伝奇小説。ア
クションもの。ヤクザもの。怪獣もの。ボーイズラブ。百合。時代劇。夕食。そうだ、夕
食を作らないといけない。たつおは米をとぎ、炊飯器のタイマーをセットしてから、再び
ノートパソコンの前に座った。
6 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/02(金) 20:19:48 ID:umit+35j

 しかしたつおは、考えることに疲れていた。ああ、もしかしたら僕は、もはや一篇たり
とも小説を完成させられないまま、ゴミクズのように死んでゆくのかもしれない。僕はた
つお。可哀想なたつお。哀れなたつお。プアボーイたつお。ロンサムたつお。ロンサム・
トラヴェリン・たつお。

 そうだ、旅にでも出るか。そうたつおは思った。いや、駄目だ。たつおはすぐさま思い
直した。旅になど出て、どうなるものか。それは逃げではないか。
7 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/02(金) 20:20:37 ID:umit+35j

 そのとき、ついにたつおの頭の中に前向きな考えが閃いた。

 そういえば、いつかネットで目にしたことがある。ランダムでお題を与えてくれるサイ
トがあるらしいということを。お題か。それはいい糸口になるかもしれない。

 たつおは早速検索した。「お題 ランダム」という言葉で。そして一番最初に出てきた
サイトを訪れた。

「ランダムお題」と題されたそのページには、いくつかのリンク先があった。そのどれを
クリックしても、お題が出てくるらしいことが見て取れた。たつおは並んでいるリンクの
うち一番上のものを押してみた。そしてディスプレイに表示されたその文字列を一目見て、
たつおは「どひゃーっ」という奇声と共に椅子から転げ落ちた。

 画面にあらわれたお題は、以下のようなものだった。
8 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/02(金) 20:24:20 ID:umit+35j

場所       伝説の地
キャラ      うんこ様
オプション    電話
シチュ(全体)   秋
シチュ(人)    携帯で話す
9 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/02(金) 20:25:27 ID:umit+35j

 なんだこれは。たつおは目を疑った。

 場所、伝説の地。
 オプション、電話。
 シチュ(全体)、秋。
 シチュ(人)、携帯で話す。

 それはいい。しかしだ。

 キャラ、うんこ様。

 これは一体なんなのだ。
10 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/02(金) 20:26:16 ID:umit+35j

 たつおは小さい頃から下ネタが嫌いだった。小学三、四年生のころ、他の児童が下ネタ
で大喜びしている最中も、たつおは下品な同級生たちを軽蔑の目で見ていた。彼は「下ネ
タを言う奴は例外なくつまらない」という持論を早くから持っており、テレビの中の芸能
人にも、周りの人間にも、例外なくそれを当てはめた。彼は心底から下ネタを憎んだ。一
番仲のいい友人が我慢できない下ネタを口にしたときには、たつおは彼の襟首を掴み、一
言「殺す」とつぶやいたものだった。

 が、そんな彼のこだわりも、歳をとるごとに薄れてゆく。今では、くだらない下ネタを
楽しめるほどになっていた。たつおはそれを喜んだ。自分は成長している、器が大きくな
っている。そう実感し、かつての自分をときどき懐かしく振り返るのだった。
11 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/02(金) 20:26:56 ID:umit+35j

 しかし、やはりたつおはたつおだった。彼は今この瞬間、自分がやはり下ネタを軽蔑し
ていることに気づかされたのだ。

 うんこ様。うんこ様だと。こんな単語を登録して喜んでいる奴がいるのか。

 たつおの怒りは一瞬激しく燃え上がる。が、彼は理性によってその炎を沈静化しようと
つとめた。

 うんこ様。うむ。うんこ様。うんこ様か。結構じゃないか。確かに驚かされはしたが、
このような過激な題材を使ってこそ、創作者としての自分の実力が伸びてゆくのではない
だろうか。そうだ。自分の書きたいものだけを書くなどという子供じみた物書きであって
はいけない。物書きたるもの、提出された題材をいかようにでも調理できる能力も必要な
のではないだろうか。今それが試されているのだ。うむ。僕は書くぞ。考えてみれば、
「オプション」と「シチュ(人)」は見事に共通している。案外書きやすそうではないか。
12 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/02(金) 20:28:12 ID:umit+35j

 たつおはうなずき、そしてノートパソコンの電源を切ることにした。今すぐ書く、とい
うわけにはいかない。しばらく考え、アイディアを熟成させ、それから書く。
 このようなお題を前にして、いったいどのような物語が自分の中から出てくるのだろう。
たつおは久しぶりに自分の心が高揚するのを感じた。

(続く)
13創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 06:52:42 ID:TlwvjCjT
梅宮さんすげーな
14 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/04(日) 10:48:47 ID:ZIIJQdqg


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            うんこ伝


                              たつお


 秋の訪れ。木々が、風が、大地が、それを伝えている。
 ジュポ村を出たのは確か雪解けの頃だった。
 八人の従者と四頭の馬を連れ、うんこは旅に出たのだ。
 春、彼らはヒブリ山脈を越えた。
 夏、彼らはポッポロ渓谷を越えた。
 秋、つまり今、彼らはアビ草原に居る。
 旅も終わりに近づき、うんこはこの数ヶ月間を回想する。
 なんという過酷な道のりだったことか。
 ヒブリ山脈では四人の従者と一頭の馬が死んだ。
 ポッポロ渓谷では三人の従者と二頭の馬が死んだ。
 現在残っているのは、うんこ、従者のトーマス、馬のウマオだけだった。
15 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/04(日) 10:49:29 ID:ZIIJQdqg

 うんこは激しい悔恨の念にとらわれる。
 俺は間違っていたのだろうか。
 彼らは死んだ。俺が殺したようなものではないか。
 この旅がどれほどつらいものになるか、俺はそれをわかっていた。
 わかっていながらなぜ。
 いや、しかし。
 彼らもそれをわかっていた。わかっていながら、ついて来てくれたのだ。
 ならば、後悔などしないことが、彼らに対するせめてもの礼儀というものではないのだ
ろうか。
 しかし、馬たちにとってみれば、たいそうな迷惑だったに違いない。人間の勝手な都合
に振り回されて。
 うんこの心は痛んだ。
16 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/04(日) 10:50:18 ID:ZIIJQdqg

 彼の仲間たちは、ある者は崖から落ち、ある者は竜の劫火に焼かれ、またある者は亜人
の振るう槍の餌食となった。
 うんこ自身、右腕に大きな傷を負い、それは今なお完治していない。その傷は、彼らの
行く手を邪魔する悪魔族四天王のうちの一人、イカ男爵の見事な手品によってつけられた
ものだった。

 傷跡に、蝿がたかる。
 うんこには、常日頃から蝿がたかるものだ。しかし、傷口があらわになっている今では、
さらに多くの蝿が彼の周りに集まってくる。
 うんこは蝿を面倒くさそうに振り払い、なおも歩く。
 後ろからは、従者のトーマスが、馬のウマオを引きながらついてくる。
17 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/04(日) 10:52:44 ID:ZIIJQdqg

 このアビ草原にたどり着いてから、彼らはほとんど話をしていなかった。
 ついにこの旅が終わるのだという感慨から、自然と無口になった。
 そう。この広大な草原こそが旅の終着点なのだ。
 伝説の地。それがこのアビ草原の別名である。

 強い風が吹く。
 うんこの纏うボロボロのマントが、音を立てて大きくはためく。
 同じ風が、五百年前にも吹いていたのだろうか。うんこは遥かなる過去に思いを馳せる。
18 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/04(日) 10:54:24 ID:ZIIJQdqg

 この草原が特別な場所である理由は、五百年前にある。

 その頃、人々は大いなる災禍の中に居た。
 魔王が強力な軍団を率い、全世界を制覇しつつあったのである。
 彼らは人間並みの知性を持ち、その体は鋼のように強かった。
 人間たちは徐々にその領土を奪われ、地の果てへと追いやられていった。
 誰の目にも勝敗は明らかだった。人類の滅亡。誰しもそれを思った。

 しかし、そのとき救世主が現れた。便器である。
 突然現れた勇敢な剣士。彼が一体何者なのか、誰も知らなかった。
 誰の目にも明らかなのは、彼が天下無双の達人であることだけ。
 彼は単独、魔王城へ向かい北上を続けた。彼が歩んだあとには、おびただしい数の死骸
が残った。そのほとんどは、一撃のもとに首を刎ねられていた。

 便器の快進撃は続く。

 そんな彼に対しいよいよ危機感をおぼえたか、魔王は十二人の刺客をさしむけた。
 十二人の刺客。すなわち、侭、曾、凛、戒、梵、錐、空、彩、珀、趙、禅、蘭である。
 彼らは世界各地で魔王軍を率いており、人間たちの間にもその名前と姿は知れ渡るとこ
ろとなっていた。いずれも武芸と戦術に優れた者ばかり。そんな彼らがたった一人の人間
を始末するために集結するという事態は、まったくもって異様なことだった。それほど便
器の強さは秀でていたのである。
19 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/04(日) 10:55:47 ID:ZIIJQdqg
 結果、どうなったか。

 勝ったのは便器であった。あるいは真正面から、あるいは奇策を用いて、彼は十二人全
員を次々と葬り去った。もちろん楽に勝てた戦いはひとつとしてなかったが、便器がこれ
ほどの剣士であるとは、彼の勝利を祈っていた人間たちですら予想し得ないことだった。
 それだけではない。便器は剣を扱えるだけではなく、魔術にも精通していたのだ。
 便器は強力な刺客たちを倒すごとに、その肉を剥ぎ、頭蓋骨を装身具に加工し、身につ
けた。だんだんと骨の装身具で飾りつけられてゆくその姿は、まったくもって異様だった。
しかし彼は己の戦歴を誇示するためにそのようなことをしたのではない。魔術でもって英
霊を手なずけ、仲間とするためであった。

 刺客たちの霊魂のほとんどは、最初激しく反抗した。しかし便器はそれをものともせず、
ついに彼らを屈服させ、全員を従順な手下にしてしまったのである。中には一切抵抗しな
かった者もいた。梵、空、蘭の三人である。彼らは己を倒した便器の強さにただただ心酔
していたため、便器と共に戦うことに迷いなどなかったのである。

 そして便器は遂に魔王との決戦を迎える。
20 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/04(日) 10:56:35 ID:ZIIJQdqg

 戦いは熾烈を極めた。十二人の英霊がいてすら、戦局は危うかった。
 しかし、最後に勝利を収めたのは便器だった。彼は魔王の息の根を止めたあと、自らの
鮮血で描いた魔法陣によって、魔王の霊魂を地中に封じ込めた。

 この戦いで、英霊のうち十名、すなわち、侭、曾、凛、戒、梵、錐、空、彩、趙、禅が
消滅した。彼らの存在は完全に失われ、もはや生まれ変わることもない。

 英霊のうち、残ったのは珀と蘭。彼らのうち、珀は自ら消滅することを選んだ。便器の
仲間として魔王と戦いはしたものの、魔王を慕う気持ちが完全に消えたわけではなかった。
通常では考えられないことであるが、珀は、主である便器に、契約の破棄そして自らの消
滅を懇願した。便器は珀の想いにうたれ、これを了承した。そして珀は消滅した。

 便器は、ただ一人残った英霊である蘭に、選択肢を与えた。戦いは完全に終わったので
あり、もしも彼女が望むのなら解放してやってもよいと便器は思った。蘭は答えた、私は
このままあなたと共にいる、と。
21 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/04(日) 11:02:37 ID:ZIIJQdqg

 便器は砕け散った十一人の頭蓋骨を丁重に埋葬した。そして傷だらけの鎧と、蘭の頭蓋
骨から作られた腕輪のみを身につけ、戦地をあとにしたのである。

 これが便器の伝説である。
 この伝説は、彼が民衆に勝利を報告した際、彼自身の口から語られたことを元にしてい
る。その他、多種多様の逸話が残っているが、それらのほとんどは後世の人々が好き勝手
に肉付けしたものと思われる。

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22 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/04(日) 11:03:35 ID:ZIIJQdqg

 ここまで書いて、たつおは休憩を入れた。
 なかなかいいではないか。たつおは満足げにコーヒーをすすった。
 しかし、便器の伝説に没頭するあまり、すっかりうんこのことを忘れていたことにたつ
おは気づいた。
 いったいアビ草原はなぜ伝説の地なのか。それを今から考えなくてはならない。

 もうひとつ気にかかることがある。
 これほど説明調の文章では、読者はついてこないのではないか。
 導入部は大切である。なるべく読みやすく、読者をひきつける内容ではなくてはならな
い。たつお自身、ネット上で出会った小説のうち、冒頭から世界観の説明をくどくどと連
ねるようなものはあっさりと切り捨ててきた。それがなんと今、自分自身がそのような退
屈な書き方をしているではないか。これではいけない。
 説明文はこれくらいにして、そろそろ軽妙な会話文を多用し、読者をひっぱらなくては。

 たつおは目を閉じ、黙考を始めた。

(続く)
23創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 23:27:37 ID:ZB0xy7dT
うんこだけでいいのに便器まで出して、実はノリノリなたつお
24 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/19(月) 20:19:15 ID:wmnEb+ob


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 うんこは広大なるアビ草原にたたずんだ。
 草原は広い。まるで大海のようだ。
 草がなびき、さらさらと音を立てる。

 この場所が伝説の地であるのは、なぜか。
 それは、ここに聖剣が眠っているからだ。
 無論、聖剣とは、かつて便器が魔王を葬り去った剣のことである。

 およそ一年前に学者のペーパーが言っていたことを、以下に要約する。
25 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/19(月) 20:21:21 ID:wmnEb+ob

「アビ草原の或る場所に、地中への入り口がある。
 ただ一本そそり立つ、ホンジョロ杉。
 その根元から、北に五十歩。
 そこに、隠された入り口がある。

 そこに眠るは、かの便器。
 人は言う。便器の墓は王都にあるではないかと。
 しかしそれは違う。王都の墓は、ただの象徴。便器のなきがらはそこにはない。

 実際に便器が眠っているのは、かの殺伐たる草原の地中。
 便器は真の静寂を欲した。そして手に入れた。
 アビ草原に便器が眠っていると知る人は少なく、
 便器は誰に起こされることもない。

 棺のなかで眠る、便器のなきがら。
 しかし彼は孤独ではない。
 なぜなら棺の中には、彼の骨とともに、聖剣がある。
 そして、棺の外では、英霊・蘭が、五百年の時を経て、いまだ彼を守っている。

 うんこよ。
 いまこの世は、五百年前と同じく、血と涙でみちている。
 平和を取り戻すには、便器の聖剣が不可欠だ。
 聖剣をとりて、悪に立ち向かうのだ。
 聖剣を手にするには、蘭の許可を得なければならない。

 数十年前に蘭との対話に成功した或る道士は、こう伝えている。

『蘭が主人を思う気持ちは、並大抵のものではない。
 ゆえに聖剣は、彼女にとって、自分の存在以上の品。
 よほどの人物でなければ、彼女が聖剣を託すことはないだろう』と。

 だが、うんこよ。
 私はお前にこそ、その資格があると思っている。
 お前は文に優れ、武に優れ、そして確固たる信念がある。
 この世に平和をもたらすのは、お前しかいない。

 だから、うんこよ。
 アビ草原に向かえ。
 そして聖剣を手にするのだ」
26 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/19(月) 20:22:07 ID:wmnEb+ob

 ……そしてうんこは今、アビ草原にいるのだ。

 うんこは草原を見回した。
 学者ペーパーの話によれば、このあたりにホンジョロ杉なる木が立っているはずなのだ
が。
 しかし、そのような木はまったく見えない。
 見渡すばかりの草、草、草。
 あまりに広大であるがゆえに、見えていないだけなのか。
 あるいは、ホンジョロ杉はすでに落雷か何かで折れてしまったのか。
 どちらにしろ、都合が悪かった。

 うんこは、とりあえず歩き回ってみることにした。
 従者のトーマスが、「また歩くのか」とでも言いたげにため息をついた。馬のウマオも、
「また歩くのか」とでも言いたげにヒヒンといなないた。

 歩く。歩く。そして歩く。
 やはり何もない。
 うんこは急に不安になってきた。
 果たして俺はホンジョロ杉を見つけることが出来るのか。
 これほど広大な草原だ。草をかきわけかきわけ地中への入り口を探していたら、日が暮
れるどころの騒ぎではない。見つけるまでに何年もかかってしまう。

 そのとき、うんこは思い出した。
 そうだ。俺は便利なものを持っているではないか。

 うんこは手をふところに差し入れ、携帯電話を取り出した。表示を見ると、アンテナが
きちんと立っており、電波の状態が良好であることが知れた。
「それにしても、いったいどこに電波塔が?」そう思ったものの、今はとりあえず電話を
かけることが先である。うんこはボタンをプッシュした。
27 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/19(月) 20:28:03 ID:wmnEb+ob
 プルルルル。プルルルル。

 ……ガチャ。

「はい、もしもし」相手が出た。

「やあ、ペーパー。久しぶり」うんこは陽気に話しかけた。

「え? あのう、どちら様でしょう」

「俺だ。うんこだ」

「あっ。うんこか。すまんすまん」

「……おい、どういうことだ。俺の番号はちゃんと登録してあるはずだろ」

「ああ、し、してある。
 た、たまたまディスプレイを見ずに電話にでてしまったものだから」

「本当か?
 もしかして、俺の名前をすでにアドレス帳から消しているんじゃあるまいな。
 そのせいで誰からの電話かわからなかった、なんてことは……」

「な、なにを言う。俺とお前の仲じゃないか」

「あやしい奴だ」

「ゴ、ゴホン。で、今日は何の用だ」
28 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/19(月) 20:28:49 ID:wmnEb+ob

「ああ、他でもない。
 いま俺は、アビ草原にいる」

「おお。聖剣はどうした。すでに手にしたのか」

「まだだ。
 というのも、ほら、お前が言っていた目印、
 ホンジョロ杉なるものが見つからないのだ」

「なんだと。
 ホンジョロ杉は非常に目立つところにあって、
 よほど近眼のものでも簡単に見つけることができると聞いてるが」

「本当か」

「本当だ。嘘をついてどうする」

「だが、現に見つからんのだ」

「なんだと。ううむ。それじゃあ誰かに切られたのか」

「そうかもしれん。
 あるいは、落雷で折れ、長い年月のうちに朽ち果ててしまったのかもしれん」

「なるほど」

「またあるいは、ちゃんと現存しているが、俺が見つけられないだけかもしれん。
 この草原、あまりにも広いのだ」

「そんなにか」

「そんなにだ。俺も驚いた」

「じゃあ……ひたすら歩き回ってみるしかないのではないか」

「だよなあ」うんこは溜め息をついた。

「じゃあ、吉報を待っているよ。がんばってくれ」

「ああ」

 そう言ってウンコは電話を切った。

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29 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/19(月) 20:29:40 ID:wmnEb+ob

 たつおはここまで書き上げ、そして腕を組み、思った。

 ……面白いかコレ?

 さて。思い返してみれば、与えられたお題は、以下のようなものだった。

場所 伝説の地
キャラ うんこ様
オプション 電話
シチュ(全体) 秋
シチュ(人) 携帯で話す

 たつおは考える。
 ……僕はこれらのすべてをきちんと盛り込んだ。
 さらに、ヒーローがいて、巨悪がいて、非常に厚みのある過去を描き、そして世界観は
非常に堅牢だ。
 加えて、電話のくだりからは会話文を多用し、テンポのよい文章を書くことができたと
いう自負がある。
 しかしそれでも、どうにも納得がいかない。

 第一、壮大すぎるではないか。
 ここからどう展開していけばいいのだ。

 ええと、うんこがなんとか地下への入り口を見つけたとする。そして欄と対話したとす
る。……ああ、そうだ。そこでも、なにかうまい試験のようなものを用意し、うんこが
ヒーローにふさわしい人物であることを読者に印象付けなければならない。
 そして大ボスとの対決。考えてみれば、大ボスもまだ決めていない。

 まだ導入部分だというのに、これだけの長さだ。きちんと書き上げればどれだけの長編
になるか知れたものではない。僕の悪い癖だ。ついつい物語を引き伸ばしてしまう。……

 しかし、とたつおは考える。

 これは僕が悪いのだろうか。確かに、このお題で書いてやると決めたのは僕だ。しかし
そもそも、お題に無理があったのではないだろうか。
30 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/19(月) 20:31:59 ID:wmnEb+ob

 そこまで考えて、たつおは机をどんと叩いた。

 そうだ。悪いのはお題だ。僕ではない。
 そうだそうだ。悪いのはお題、ひいては http://vippic.mine.nu/theme/ ではないか。
 そうだ。こんなお題を出すほうが悪い。つまり、出した http://vippic.mine.nu/theme/ が悪い。
 こうやってどんどん創作者に負担をかけてゆく、悪徳サイト http://vippic.mine.nu/theme/ め。

 くそ。畜生。僕だからここまで書けたものの、もしもこのお題を受け取ったのが駆け出
しの中学生か何かだったらどうする。どうしてくれる。何も書くことができず、自信を喪
失し、泣き出してしまうかもしれないではないか。そうならなかったのは、僕だからだ。
僕だからこそ、ここまでいい文章、いいストーリーを書くことが出来たのだ。

 まったく、恐ろしいところだ。 http://vippic.mine.nu/theme/ というサイトは。
 無理難題ばかり押し付けやがって。 http://vippic.mine.nu/theme/ め。
 この、 http://vippic.mine.nu/theme/ め。
 けだものにも劣る、 http://vippic.mine.nu/theme/ め。
 悪の手先、 http://vippic.mine.nu/theme/ め。

 はあはあ。はあはあ。
31 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/19(月) 20:33:06 ID:wmnEb+ob

 たつおは何度か深呼吸し、落ち着きを取り戻した。

 い、いかんいかん。何を興奮しているんだ。ただのお題サイトではないか。まったくも
う。僕としたことが。

 そうだ。さっきもチラリと思ったが、このめちゃくちゃなお題を受けて立ったのは他な
らぬ僕ではないか。
 うむ、確かに当初は「書ける。きっと書けるぞ。無理なお題にも負けんぞ」という意気
込みをもって書き出したのではなかったか。そのうえで収拾がつかなくなったのだから、
これはやはり僕の力不足なのだろう。断じて http://vippic.mine.nu/theme/ が悪いわけ
ではない。

 よし、思い切って『うんこ伝』は放棄しよう。これ以上こねくり回したところで、よい
ものが出来上がるとは思えない。
 そしてもう一度、 http://vippic.mine.nu/theme/ でお題をもらってこよう。そこで今
度こそ傑作を書き上げ、僕は自分の創作能力に自信を取り戻すのだ。

 やってやる。やってやるぞ。
32 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/19(月) 20:35:31 ID:wmnEb+ob

 そしてたつおはまた http://vippic.mine.nu/theme/ を訪れた。

 高鳴る鼓動を感じながら、たつおは例のリンクをクリックし、ふたたびお題を受け取った。

 以下が、そのお題である。


場所 螺旋階段
キャラ 幼女
オプション 文房具
シチュ(全体) デート
シチュ(人) 相合傘


「ほう……」たつおは会心の笑みを浮かべた。

(つづく)
33創る名無しに見る名無し:2010/07/19(月) 20:41:17 ID:DJNXhmPh
うんこ様ェ……
34創る名無しに見る名無し:2010/07/19(月) 20:45:34 ID:HEzrGsXE
たつおを応援せざるを得ないw
35創る名無しに見る名無し:2010/07/19(月) 20:57:07 ID:kkIN972v
うんこは水に流されたのだ……

次のお題が神がかってるwwww
超期待!
36 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/23(金) 22:43:34 ID:5Dsd/0ee

「ほう……」などと言って笑ってはみたものの、執筆は困難をきわめた。
 たつおは一向に書き出すことが出来なかった。

場所 螺旋階段
キャラ 幼女
オプション 文房具
シチュ(全体) デート
シチュ(人) 相合傘

 確かに一見、使い勝手のいいアイテムばかりが並んでいるように思われる。

 しかし逆に、メインを張れるアイテムばかりだからこそ、危険なのだ。
 考え無しにこれらをひとつの物語の中にぶちこんだ場合、それぞれが良さを消しあい、
散漫な印象になってしまうことは容易に予想できた。
37 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/23(金) 22:45:10 ID:5Dsd/0ee

 そして曲者は「螺旋階段」である。

 螺旋階段。確かにドラマを演出できそうなアイテムではある。しかも考えてみれば、た
つおは今まで自分の小説に螺旋階段というものをついぞ使ったことがなかった。
 と来れば、螺旋階段の使い方如何によっては新たな地平を開拓できる可能性もなきにし
もあらずであり、これは実に頭のひねりがいがあるというものである。

 しかし。しばらく頭をひねってみて、たつおは壁にぶちあたったことを知った。

 螺旋階段というものは、突き詰めてみればただの階段である。
 というより、突き詰めてみなくてもただの階段である。
 にもかかわらず、小説内にわざわざ使用するのだから、いざ螺旋階段を出す場合、直線
型の階段であっては成立しないような出し方をしなければならない。つまり、螺旋である
必然性がほしい。螺旋である必然性をはっきりと提示できないのならば、直線型の階段を
出しておけばよいではないか、ということになる。

 よって、物語中での螺旋階段の役割は、「上る」「下る」以上のものである必要がある。
それらの機能は、直線型の階段がすでに持っているものだから。

 ポイントは、「螺旋である」こと。
 そして、それによって、「まんなかに円柱状の空間ができる」こと。

 もちろん、ひねりと高さが足らず、円柱状の空間をかたちづくらない螺旋階段も多々あ
る。が、そんなものを題材にしても仕方あるまい。螺旋階段の良さは、階段によって描か
れた円の中心に立ち、上を見上げたときの、あの景色にあるのだから。
38 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/23(金) 22:45:59 ID:5Dsd/0ee

 そして次に、幼女である。

 幼女。自分が今まで幼女をまったく書いてこなかったことにたつおは気づいた。
 もちろん、それほどたくさんの小説を書いてきたわけではなかったが、今までつくった
幼女キャラクターは合計しても三人程度であろう。作品数と照らし合わせてみれば、異様
なほど少ないと言わざるを得ない。ショタキャラなら毎回のように書いているのだが。

 そしてたつおは気がついていた。「幼女」という単語を目にした瞬間、後ろ暗い感情に
囚われたことに。

 なぜだろうか。なぜ僕は、奇妙な罪悪感のようなものを感じたのだろうか。
 何もやましいことがないのなら、「幼女」という文字を目にすることにも、幼女キャラ
クターを量産することにも、なんら抵抗は感じないはずではないか。だが、僕は抵抗を感
じている……。

 これはどういうことだろう。こういったことを考えている間も、僕の心臓はドクドクと
高鳴っているのを感じる。一体なんなのだ。

 まさか。

 ……僕は、自分にそのケはないと思っていた。
 しかし、もしかしたら……自分は潜在的にロリコンなのかもしれない。
 だからこそ、今まで執拗にロリキャラを描くことを避けてきたのではないか。

 ショタキャラはたくさん書いてきたし、自分のなかにわずかながらショタ萌えの傾向が
あることは、認めるにやぶさかではない。
 が、このことはむしろ、ショタ方面に関しては、自分がそれほど変態ではないことを示
しているのではないか。
 そうだ。欲望を素直に認め、作品に昇華している。実に健康的ではないか。

 しかし、幼女に関してはそうではない。
「幼女」という素材は非常に魅力的であり使い勝手のよいものであるにもかかわらず、小
説内に登場させることを僕はつとめて避けてきた。男女ともに、多様な年齢のキャラク
ターを作っておきながら、幼女だけは確かに避けてきたのだ。

 もしや、僕はロリコンなのだろうか。
 そして、認めたくなかったのだろうか、自分がロリコンであることを。
 だから自分の感情に蓋をしてきたのだろうか。

 たつおは神妙な面持ちで、椅子に深く腰掛け、片手で顔を覆い、数分間ものあいだ微動
だにしなかった。

 ……。

 そしてしばらくしてから、手を外し、大きなため息をひとつついた。

 ……こんなことを考えていても仕方がない。
 自分がロリコンであるか否か。これに関してはおそらく、執筆していけばおのずと答え
が出るはずだ。

 ならば今は、ひとまずキャラクターを創造することが先決。
 幼女キャラだ。幼女キャラをつくるのだ。
39 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/23(金) 22:47:45 ID:5Dsd/0ee

 さて。

 奇をてらうことほどくだらないことはない。たつおは常々そう考えている。

 たとえば、今回のように、幼女キャラを考えるときもそうである。

 あらゆるタイプの幼女キャラがすでに出尽くしていることには、疑いの余地がない。
 考えうる限りの性格・容姿・境遇の組み合わせが試され、もはや独創性の入り込む余地
はまずない。
 が、ここであきらめず、独創的な幼女をつくりだそうとする創作者は多い。
 しかし、これが罠なのだ。

 もちろん、独創的な幼女を考え出そうと努力するのは悪いことではない。だが、そうい
ったことをすると往々にしてまずいことになる。作者の「新しいことをしてやろう」とい
う意気込みが前面に出過ぎて、くどくなりすぎるのだ。

 具体的な例を挙げれば、ふんどし巨乳幼女のごときは、もっとも唾棄すべきものである。

 今では決して異端とはいえないこのようなキャラ造形が、当初どういうプロセスを経て
つくられたのかは手に取るようにわかる。

「幼女にふんどしは似つかわしくない。だからこそふんどしを身につけさせてみる」
「幼女は乳房が発達していないものである。だからこそ巨乳にしてみる」

 ……このような安直な考えで作られたに違いないのだ。

 このようなやり方は、創造性とは対極にあるものだ。ただ天邪鬼なだけではないか。

 真の創造とは、一直線に完成図へとたどり着くものである、とたつおは信じる。
 既存のものに何度も否定をつきつけ、道を蛇行して蛇行してやっとこさ完成図にたどり
着くものではない。断じて。

 とすれば。
 それとは逆に、もしも創作者が、ただ一直線に、瞬間的にふんどし巨乳幼女のイメージ
を得たならば、それは紛れもなく創造的行為である、ということになる。既存のアイデア
への天邪鬼な否定を行っていないのだから。

 なるほど、ならば創造とは、結局プロセスの問題なのだろうか。

 ……しかし、しかしだ。

 天邪鬼な思考プロセスを経て辿り着いたふんどし巨乳幼女と、創造的な思考プロセスを
経て辿り着いたふんどし巨乳幼女のあいだには、明確な違いが生まれるはずなのだ。
 その違いは、一見、微々たるものであろう。しかしそこが、生きたキャラクターとなる
か、人形に過ぎないキャラクターになるかの別れ道なのだ。

 もちろん、物語中の大部分において生き生きとしていたキャラクターが、ある場面で突
然あやつり人形のようになってしまうこともあるだろう。
 それとは逆に、ずっとあやつり人形でしかなかったキャラクターが、突如として生命の
息吹を吹き込まれ、生き生きと動き出し、物語を牽引しだす可能性もあるだろう。

 これは一概に結論付けることのできない、たいへん難しいテーマである。
40 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/23(金) 22:48:37 ID:5Dsd/0ee

 ……それでは、仮に……。
 仮にいま、僕がふんどし巨乳幼女を思い浮かべた場合、それは果たして生きたキャラク
ターになるのか。人形のようなキャラクターになるのか。

 これは興味深い試みである。
 幼女の描写になれていないわけだから、まずはウォーミングアップと洒落込もう。
 それからお題に取り組めば、より素晴らしい幼女キャラが生まれるに違いない。

 たつおはコーヒーを一口すすり、カップを置いてから、椅子に深々と掛けなおした。そ
して彼は瞑目し、ふんどし巨乳幼女を想像してみた。

  *  *  *
41 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/23(金) 22:50:05 ID:5Dsd/0ee

 闇の中で、いくつもの炎が燃え盛っている。

 ある一点を中心に、輪を描くように十ほどのかがり火が配置されている。
 パチパチと音をさせ、ときおり火の粉を飛ばしながら、それぞれの火が揺らめいている。

 輪の中心にあるのは、巨大な和太鼓。
 そしてその前には、ひとりの幼女がいる。
 雪のように白い、彼女の肌。
 胸から腹にかけてさらしを巻き、下半身にはふんどしを身に着けている。

 彼女は両足を踏みしめ、一心不乱にバチを振るう。
 大の男が握るには適したバチなのかもしれないが、幼女の体の大きさからすると、それ
は不釣合いなほど大きい。がしかし、それをものともせず、彼女は巧みにバチを操る。

 幼女の長い黒髪が、乱れ、汗でべとついている。髪がひとすじ、幼女の形のよい唇にへ
ばりついている。

 幼女は巨乳である。さらしに覆われているというのに、その乳房は、幼女のふるうバチ
に合わせて、ぶるんぶるんとゆれている。そして、乳房と乳房が形作る深い谷間に、とき
おり汗が筋を引いて流れ込み、かと思えば次の瞬間、その汗は弾け、きらめきながら、流
れ星のように消え去る。

 どん。どん。どどん。どん。

 和太鼓の音が、響き渡る。

 小さく口を開け、激しい息遣いをしている幼女。その「はあ、はあ」という息遣いが、
聞こえてきそうだ。しかしもちろん、聞こえはしない。すべてを和太鼓の音がかき消して
しまうから。

 どん。どん。どどん。どん。

 幼女はなおもバチを振るい続ける。
 その大きな瞳は、もはや催眠状態に入ったかのように虚ろである。
 見れば、先ほどまで口元がキッと結ばれていたというのに、今では力みが抜け、顔全体
がほぼ無表情になっている。
 忘我の境地であろうか。
 行く筋もの汗が、幼女の顔を流れる。しかし彼女は気にも留めない。

 どん。どん。どどん。どん。
 どん。どん。どどん。どん。

 心地よい和太鼓のリズムは、なおもとどまるところを知らない。

 どん。どん。どどん。どん。
 どん。どん。どどん。どん。

 それは、永遠に続くものとも思われた。
42 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/23(金) 22:51:55 ID:5Dsd/0ee

 しかし次の瞬間。

 無表情だった幼女の口の端がニッと上を向き、そして瞳には輝きが戻った。
 幼女は、和太鼓のリズムに包まれていることが嬉しくてたまらないとでも言うように、
目を閉じ、顔を天に向けた。それはまさに、至福の表情だった。

 そのまま彼女はしばらくバチを振るう。

 どん。どん。どどん。どん。
 どん。どん。どどん。どん。

 しかしやがて彼女は目を開けた。
 そして天を向いていた顔をふたたび和太鼓に向けた。

「そぉーれ!」

 幼女は可愛らしい声を張り上げ、そして両手を高く掲げた。
 バチを手にしたその両手は勢いよく振り下ろされ、

 どどん。

 と、けたたましくも美しい音が鳴り響いた。

 ……そして静寂。

 幼女はそのままの姿勢を数秒のあいだ保っていたものの、やがて力尽きたかのようにゆ
っくりとくずおれてゆく。
 二本のバチが、カランコロンと音を立て、転がる。

 幼女は地面に大の字になり、満足しきった表情で天を仰いだ。
 豊かな乳房が、激しい呼吸にともない、大きく上下する。
 彼女の全身は汗で濡れて光沢を帯び、美しい肌がなおいっそう美しく見えた。

 火のはぜる音と、幼女の激しい息遣いだけが聞こえる。

 ……静謐な時間が、ゆっくりと流れてゆく。……

 ……。

 ……と、そのとき。
 何やらペタペタと足音が聞こえてきた。

 薄闇の中に、ひとりの少年の姿が現れた。
 彼は心配そうな表情で、幼女のそばにひざまずいた。

 幼女は彼の顔を見て、安心しきったように、「えへへ」と笑う。

 少年は慈愛に満ちた微笑みを見せ、幼女をやわらかな動作で抱え起こした。

「おつかれさま」 少年が言葉を発した。「どうだった?」

 幼女は少年の顔を見、荒い呼吸を整えながら、言った。

「……はふぅ、バチが大きすぎだよぉ、お兄ちゃあん……」

  *  *  *
43 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/23(金) 22:53:32 ID:5Dsd/0ee

「はふぅ、お兄ちゃあん……。はっ」

 いつのまにやら妄想に没入し、体をよじりながら声まで発している自分に、たつおは気
がついた。

 い、いかん。
 い、いや、いかんことはない。
 ついつい想像の翼を広げすぎてしまったが、ここまでイマジネーションの世界に入り込
めるということは、僕の想像力の無限の可能性をはっきりと示しているといえる。恥ずか
しいことではなく、むしろ、誇らしいことなのだ。

 たつおは今描き出したイメージを忘れないうちに、猛スピードでパソコンに打ち込んだ。
 断片にすぎないものの、ひとつのビジョンをテキストに落とし込んだことで、自分が着
実に前進していることを彼は実感した。
44 ◆dPqdDaHcfc :2010/07/23(金) 22:54:36 ID:5Dsd/0ee

 それにしても。と、たつおは思う。ふんどし巨乳幼女も悪くないではないか。

 ふんどしのスポーティさ。そして、それに対しての、巨乳のアンチ・スポーティさ。そ
の両者がせめぎあい、葛藤が生まれる。そして、葛藤こそが、物語を転がす原動力である。
なんとよくできた関係であろう。
 そして、スポーティな存在であるふんどしと、アンチ・スポーティな存在である巨乳は、
時としてその性格を完全に入れ替える。つまり、運動に適しているはずのふんどしは、そ
の締め付けの強さの不動感により、見方を変えればアンチ・スポーティであり、また同時
に、運動に適さないはずの巨乳は、それ自体の縦揺れおよび横揺れおよび斜め揺れによっ
て生じるダイナミズムにより、見方を変えればスポーティである。
 このように時折役割を入れ替えるこの二要素ではあるが、そのせいで混乱をもたらし収
拾がつかなくなってしまう、などということは決してない。なぜなら、その両者のあいだ
に、確固とした軸が存在するからである。その「軸」とはすなわち、キャラクターが幼女
であるがために生じる「無垢さ」である。
「無垢さ」がなぜそれほど安定感をもたらすかというと、なぜなら「無垢」は永遠のもの
だからである。うまく説明することは難しいが、たとえ幼女が成長していずれその無垢さ
を失ったとしても、成長したその女はすでに幼女ではなく別人であり、それゆえ幼女の
「無垢さ」というものは汚されることなく、永遠のものなのである。であるから、どれだ
けふんどしがキュッキュと肌を締め付けようと、巨乳がぶるんぶるんゆさゆさと揺れよう
と、などと考えている場合ではない、とたつおは思った。

 そうだ、お題があるんだった。忘れていた。

 とにかくわかったことは、己のイマジネーションの可能性と、キャラクターづくりの奥
深さである。これは実に大きな収穫だ。

 さて、次はいよいよお題に取り掛からねば。たつおはまたコーヒーを一口すすった。

(続く)
45創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 23:02:58 ID:mSiCe7ln
なんで太鼓叩いてるんだwww
ていうか巨乳はともかくふんどしってw

たつおさん、素直になれよ
46創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 23:04:32 ID:jNmxeGgl
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    ????????■??■?? ?  このロリコンめ!
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47創る名無しに見る名無し
たつおには無限の可能性が垣間見れるなwww
ふんどし巨乳ってwwww