剣客バトルロワイアル〜第五幕〜

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1創る名無しに見る名無し

夢が現か現か夢か ある者は泉下から、ある者は永劫の未来から
妖しの力によって、謎の孤島に集いし 古今東西の剣鬼八十名
踊る舞台は蠱毒の坩堝 果たして最後に立つ影はいずれの者か

前スレ
剣客バトルロワイアル〜第四幕〜
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1253501460/

避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12485/

まとめ
http://www15.atwiki.jp/kenkaku/
2創る名無しに見る名無し :2010/06/22(火) 14:00:09 ID:TRzpoKUz
25/36【史実】
○足利義輝/○伊藤一刀斎/○伊東甲子太郎/● 岡田以蔵
○沖田総司/○奥村五百子/○小野忠明/○上泉信綱
● 河上彦斎 /● 清河八郎 /○近藤勇/● 斎藤伝鬼坊
○斉藤一/○斎藤弥九郎/○坂本龍馬/● 佐々木小次郎
○佐々木只三郎/○白井亨/○新免無二斎/○芹沢鴨
○千葉さな子/○塚原卜伝/○辻月丹/○東郷重位
○富田勢源/● 中村半次郎 /● 新見錦 /○服部武雄
● 林崎甚助 /○土方歳三/● 仏生寺弥助 /○宮本武蔵
● 師岡一羽 /○柳生十兵衛/○柳生連也斎/● 山南敬助
3創る名無しに見る名無し :2010/06/22(火) 14:02:08 ID:TRzpoKUz
1/1【明楽と孫蔵】
○明楽伊織
1/1【明日のよいち!】
○烏丸与一
1/1【暴れん坊将軍】
○徳川吉宗
0/1【異説剣豪伝奇 武蔵伝】
● 佐々木小次郎(傷)
2/2【うたわれるもの】
○オボロ/○トウカ
1/1【仮面のメイドガイ】
○富士原なえか
2/2【銀魂】
○坂田銀時/○志村新八
1/1【Gift−ギフト−】
○外薗綸花
0/1【月華の剣士第二幕】
● 高嶺響
1/1【剣客商売】
○秋山小兵衛
2/2【魁!男塾】
○赤石剛次/○剣桃太郎
0/1【里見☆八犬伝】
● 犬塚信乃(女)
0/1【三匹が斬る!】
● 久慈慎之介
1/3【シグルイ】
● 伊良子清玄 /● 岩本虎眼 /○藤木源之助
1/1【史上最強の弟子ケンイチ】
○香坂しぐれ
1/2【神州纐纈城】
● 三合目陶器師(北条内記) /○高坂甚太郎
0/2【駿河城御前試合】
● 屈木頑乃助 /● 座波間左衛門
1/1【椿三十郎】
○椿三十郎
4創る名無しに見る名無し :2010/06/22(火) 14:03:10 ID:TRzpoKUz
1/1【東方Project】
○魂魄妖夢
2/2【八犬伝(碧也ぴんく版)】
○犬坂毛野/○犬塚信乃(男)
1/1【バトルフィーバーJ】
○倉間鉄山
2/2【刃鳴散らす】
○伊烏義阿/○武田赤音
1/1【ハヤテのごとく】
○桂ヒナギク
1/1【BAMBOOBLADE(バンブーブレード)】
○川添珠姫
1/1【必殺仕事人(必殺シリーズ)】
○中村主水
1/1【Fate/stay night】
○佐々木小次郎(偽)
1/1【用心棒日月抄】
○細谷源太夫
0/1【らんま1/2】
● 九能帯刀
1/1【ルパン三世】
○石川五ェ門
3/6【るろうに剣心】
● 鵜堂刃衛 /○神谷薫/○志々雄真実/● 四乃森蒼紫 /
● 瀬田宗次郎 /○緋村剣心

【残り五十六名】
5創る名無しに見る名無し :2010/06/22(火) 14:04:45 ID:TRzpoKUz

続けて、◆cNVX6DYRQU氏、

秋山小兵衛、徳川吉宗、魂魄妖夢、富田勢源、香坂しぐれ、果心居士、志々雄真実

代理投下します
6波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:06:37 ID:TRzpoKUz

「やはり仕掛けて参りましたな」
秋山小兵衛の言葉に、徳川吉宗と魂魄妖夢は頷く。
状況から考えて、主催者は遠からず何かを仕掛けて来る……小兵衛がそう言った直後に、あの声が聞こえて来た。
死者の名を読み上げ、一部地域への立ち入り禁止を宣告して来た、主催者の一味であろう声。
一体、どんな狙いがあるのだろうか。

「それにしても、二十三名か……多いな」
沈痛な表情で呟くのは吉宗。その前には、支給された人別帖と地図が広げられている。
既に海の不可思議な有様を見ている彼等は、人別帖と地図がいつのまにか変化していたのを見ても大して驚きはしない。
まずは佐々木小次郎の名を確認し、残っているのが小次郎(偽)だった事に胸を撫で下ろした。
この名が、村に来る途中で出会った、佐々木小次郎の名を持つ無名の剣士を示していると推測したからだ。
しかし、たとえ直接の知り合いが居なくとも、僅か四半日の間に二十三人も死者が出たというのは深刻な事態には違いない。
達人揃いのこの御前試合において、この短時間に二人も三人も斃した者がそうそう居るとは考えにくい。
つまり、少なくとも、死者の数と同等の二十数名は、殺し合えという主催者の言葉に乗せられた者が居たという事になる。
更に、夜闇のせいで獲物に会えなかった者や、今は隠れておいて数が減ってから参戦しようとしている者、
誰かを襲ったものの決着が付かぬままどちらかが退いた者などを考えれば、どれほどに見積もれば良いか。

「でも、名前を呼ばれた人達が死んだというのは本当かしら」
「偽りであればそれに越した事はないが、生きている者を死んだと偽っても、それはすぐに露顕する筈。
 そのような、自分達の信用を失わせるだけの嘘をつく意味があるとは考えにくいが……」
「いや、上様。案外、妖夢の言葉が正しいかもしれませぬぞ」
小兵衛が、妖夢の意見を擁護する。
「確かに、生きてこの島に居る者を死んだと言っても、それはすぐに露顕いたすでしょう。
 されど、はじめからこの島に居らぬ者を、この島で死んだ事にすれば、確かめる方法は、まず、ありますまい」
小兵衛の仮説はこうだ。
始めに人別帖を作る段階で、参加者でない者の名を幾つか書いておく。
その上で、この架空の名前を死者として読み上げれば、島内でその者に会う事はないのだから、真偽は判定不能。
こうする事で死者の数を水増しし、参加者の危機感と闘争心を刺激して殺し合いを誘発する事が出来る訳だ。
「なるほど。小兵衛の読み通りなら、主催者の言葉に惑わされた者はそう多くはない事になるな」
「はあ。されど……」
始めに白洲に集められた剣客達、その数は人別帖に記載されている八十名とそう大きくは変わらないように思えた。
小兵衛の仮説が当たっているとすると、あの中には実際には試合に参加しない主催者の回し者が紛れていた事になる。
つまり、主催者は妖術使いだけでなく、腕利きの剣客までも、手駒として抱え込んでいる事になるのだ。
「そうだとしたら、助かりますね。私達は主催者だけを探して斬ればいいんですから」
乱暴な物言いをする妖夢だが、それはそれで、剣客として正しい考え方かもしれない。

「だが……」
吉宗は険しい顔で村の方に目を遣る。
「小兵衛の言う通りだったとしても、幾人もの死者が出ている事は間違いあるまい」
村の中には彼等が確認しただけで、死体が一つと墓が一つ。どちらもごく新しい物だった。
村一つでそうなのだから、仮にあの発表に水増しがあったとしても、相当数の死者が出ているのは事実だろう。
天下無双の称号を与えるとかいう、何の保証もない言葉を信じて殺戮に走る者などそうはいるとも思えず、
舟を見に来た者が誰もいない事から考えても、主催への恐怖から従っている者もあまり居そうにない。
多くは、前に会った佐々木小次郎のように、自分なりの信念や事情があって闘っているのだろう。
だとすると、単純に剣の力だけを持ってしては、今回の件を完全に解決する事は出来ない事になる。
加えて、主催者には強力な妖術使いがおり、もしかしたら複数の剣客がいるかもしれない。
知恵、術への対処、剣の腕……この三つの総合力においては、おそらくこの三人が島内最優の集団だろう。
その彼等の力を持ってしても、悪意に満ちた御前試合を叩き潰すに果たして十分かどうか……
7波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:07:23 ID:TRzpoKUz
「主催が一部の地域への立ち入りを禁じた事についてはどう思う?」
話は、いつしか主催者が設定した禁止区域についての推測に移っていた。
「参加者を誘き寄せ、集める為、というのはまず間違いありますまい」
特定の場所の立ち入りを禁じると言われれば、そこに何かがあると考えるのが人情というもの。
それを調べようと皆が特定の場所に集まれば、必然的に多くの出会いが生まれ、中には闘争に到る者もあるだろう。
そうして殺し合いを誘発するのが主催者の狙い、少なくともその一つではあると考えられる。
また、これは小兵衛が指摘した、主催打倒を目指す剣士の、徒党を組み易いが故の優位への対策という面もあるかもしれない。
優勝を目指す剣士が多くいたとしても、個々で動いている限り、集団に各個撃破されるか、自分達で潰し合う事になる。
だが、大勢の剣士が一堂に会して乱戦ともなれば、集団側の優位は大きく減ずるだろう。
逆に、優勝狙いの者が片端から斬れば良いのに対し、まず相手の考えを確かめる必要のある集団側が不利な状況すらあり得る。

「それでも、こちらの方が有利ではないか?」
吉宗が指摘する通り、乱戦になった場合でも、互いに協力して戦える集団の有利は完全には消えない筈。
また、主催打倒を目指す者は、手掛かりを得る為に多くが禁止区域に向かうだろうが、優勝狙いの者には無視する者もあろう。
参加者の大半が優勝狙いというのも考えにくいし、数の上では集団側が優位に立つ事になりそうだ。
それに、出会いによって生まれるのは必ずしも戦いばかりではない。
同様の志を持つ者と会えれば、合流するか、そうでなくとも、情報や武器を交換してより強くなり得る。
「指定された場所に集まった参加者に対し、主催が何ら手を出さなければ、確かに我らが有利でしょうな」
「そうか……」
そう、主催者がこのような仕掛けを用意した以上、何らかの企てがないとは考えにくい。
妖術か、主催が飼っているかもしれない剣士を使って、自分達に抗う者を討とうとする恐れは十分にあった。
「そうなってくれると、助かりますね」
妖夢の言う通り、主催者やその手下が現れてくれれば、それを捕らえ、主催に辿り着く手掛かりを掴み得る。
この時点のの彼等にとっては、主催者の力よりも、得体の知れなさの方が、遥かに大きな問題だと思えたのだ。

「奴等がどう出るかは不分明ながら、少なくとも、へノ壱とほノ伍には何らかの手掛かりがある公算が高いかと」
「三つの内、二つだけですか?」
「うむ。この件に興味を抱いた者の大半は、まずはこの二箇所に向かうであろうからな」
小兵衛が目を付けたのは、それぞれの場所の立ち入りが禁止される時刻のずれである。
慎重な者ならば、「避け得ぬ死」とやらを避ける為、規定の時刻以前に調査を済ませようとするだろう。
逆に、その時刻を越えてから禁止区域に踏み込んでこそ、何らかの収穫が得られると考える者もいるかもしれない。
前者は早く時間切れになる場所を先に調べるだろうし、後者にとっては午前中にろノ弐を調べるのは無意味。
そして、 辰の刻にへノ壱、巳の刻にほノ伍というのは、島の何処にいようとも、どちらかには余裕で間に合う時刻設定だ。
つまり、禁止区域に何かあると踏んだ者は、まずへノ壱とほノ伍の少なくとも片方には訪れる公算が高い訳で、
そこに何も無ければ、誰もろノ弐に向かおうとはしないだろうから、三つ目の禁止区域の意味はほぼなくなる。
逆説的に言えば、三つ目の禁止区域がある以上、最初の二箇所には、参加者に対する餌が撒かれている可能性が高い。
8波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:08:05 ID:TRzpoKUz

「すると、余らが向かうべきはへノ壱かほノ伍。どちらに参るべきか」
「他の参加者の動向も主催の仕掛けもわからぬ以上、やはりここはほノ伍に向かうべきでしょう」
全体的に、禁止区域を規定時刻より余裕を持って前に訪れる者には慎重な者が多く、
時間ぎりぎり、もしくは規定時刻より後に行く者は多くが大胆な剣客だろう。
慎重な者なら、集団に不用意に戦いを仕掛ける事はないだろうから、早めに行けば余計な危険を避ける事に繋がる。
また、ほノ伍にある手掛かりが、巳の刻を過ぎないと顕れない類のものである事も考えられるが、
その場合は主催者が何かを仕掛けて来る公算が高く、あらかじめ周囲の地形を把握しておく事が重要になるかもしれない。
へノ壱を見逃すのは惜しくもあるが、不明な事が多すぎる現状では慎重に動くべきであろう。
「わかった。小兵衛の案で行こう」「あなた達がそう言うなら、私もそれでいいです」
かくして、小兵衛が果心居士の言葉から引き出した情報を元に、彼等三人は動き出す。
老練の剣客の洞察力は、果たして正体不明の妖術使いの真意を見抜く事が出来たのか。
それが明らかになるのは、もう少し先の事になる。

【にノ漆 船着場/一日目/朝】

【徳川吉宗@暴れん坊将軍(テレビドラマ)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者の陰謀を暴く。
一:小兵衛と妖夢を守る。
二:ほノ伍に行って主催者の手掛かりを探す。
三:妖夢の刀を共に探す。
【備考】
※御前試合の首謀者と尾張藩、尾張柳生が結託していると疑っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識。
及び、秋山小兵衛よりお互いの時代の齟齬による知識を得ました。

【秋山小兵衛@剣客商売(小説)】
【状態】腹部に打撲 健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:情報を集める。
一:妖夢以外にも異界から連れて来られた者や、人外の者が居るか調べる
二:ほノ伍に行って主催者の手掛かりを探す。
【備考】
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者かもしれないと思っています。
 又は、別々の時代から連れてこられた?とも考えています。
※一方で、過去の剣客を名乗る者たちが主催者の手下である可能性も考えています。
 ただ、吉宗と佐々木小次郎(偽)関しては信用していいだろう、と考えました。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。
9波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:08:54 ID:TRzpoKUz
【魂魄妖夢@東方Project】
【状態】やや疲労
【装備】無名・九字兼定
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:首謀者を斬ってこの異変を解決する。
一:この異変を解決する為に徳川吉宗、秋山小兵衛と行動を共にする。
二:愛用の刀を取り戻す。
三:ほノ伍に行って主催者の手下が現れたら倒す。
三:自分の体に起こった異常について調べたい。
【備考】
※東方妖々夢以降からの参戦です。
※自身に掛けられた制限に気付きました。
 制限については、飛行能力と弾幕については完全に使用できませんが、
 半霊の変形能力は妖夢の使用する技として、3秒の制限付きで使用出来ます。
 また変形能力は制限として使う負荷が大きくなっているので、
 戦闘では2時間に1度程しか使えません。
※妖夢は楼観剣と白楼剣があれば弾幕が使えるようになるかもしれないと思っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類が使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。



さて、上記のように、秋山小兵衛らは島内に流れた果心居士の言葉から、真偽はともかく、多くの情報を読み取ってみせた。
しかし、種々の特殊な技能を持つ剣士が集められたこの島には、更に多くの情報を聞き取った者もいたのだ。

時は少し遡り、夜明け前のこと。
仁七村の西にある小さな道祖神の祠の中で、富田勢源と香坂しぐれは身を休めていた。
「では、ここは地図で言うとにノ陸の北東寄りにあたるわけですね」「そ…う」
目明きのしぐれに教えられる事で、漸く勢源も試合場の地形を大まかに理解するに到っていた。
勢源がしぐれと出会ったのはへノ陸の南側だそうだから、それから一刻足らずで半里を歩いた事になる。
ちなみに、勢源が最初にいたのは、おそらくとノ伍の辺り。
つまり、一人で居た時は、十町かそこらを歩くのに二刻程もかかっていたという事か。
これだけを見ても、しぐれと同行できた事は、勢源にとって非常に幸いだったと言えるだろう。

(これは、小太刀一本では些少に過ぎたかな)
手当てをするのと小太刀一本を報酬に、道案内と地図や人別帖について教えてくれるよう頼んだのは勢源の方だった。
あの時は、重傷を負った様子なのに一人で通り過ぎようとするしぐれを引き止める方便という側面が強かったのだが、
こうしてみると、むしろ勢源の側により多くの利がある取引だったと言えるかもしれない。
二本ある小太刀の一本を渡しはしたが、そもそも勢源が編み出そうとしているのは、小太刀一本による護身術。
ある意味では、自分にとって不要な物を押し付けたに過ぎないとも言える訳だ。
それなのに、しぐれは誠実に契約を守って勢源を導き、ここまで連れて来てくれた。
今も、まずは身体を休めるように言うのを拒み、約束だからと地図と人別帖の概要を教えてくれている。
これでは、勢源の方ももっとちゃんとした謝礼を支払わなければ、とても釣り合うまい。
と言っても、勢源は小太刀以外に大した物は持っていないのだから、物ではなく行為で支払うしかないのだが。

ふと、勢源が顔を上げ、僅かに遅れてしぐれも気付く。
例によって刻を告げる鐘の音が聞こえて来たのだ。加えて、今回は太鼓の音まで聞こえて来る。
(鐘はやはりいノ捌にある寺から。太鼓は東南東……ほノ参にあるという城辺りか)
音が聞こえて来た方向としぐれに教わった地形の知識から、鐘と太鼓の位置を推測する勢源。
その音が鳴り止まぬ内に、果心居士の声が彼等にも聞こえ始める。
声は頭に直に響いて来るようで、耳で聞く通常の音とは異質な物だったが、それでも音の一種には違いない。
現段階で生き残っている剣士の内では、音を聞く事に関して勢源に匹敵する者はまずないだろう。
故に、勢源は果心居士の「言葉」ではなく「音」から、他の者には得られぬであろう情報を探り出して行く。
とはいえ、果心の言葉の内容そのものに、勢源が何も感じなかった訳ではない。それどころか……
「どうし…た?」「失礼、少々用足しに」
しぐれにはそう言って祠の外に出た勢源はしかし、静かに祠から数歩遠ざかると、一散に駆け出した。
10波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:12:12 ID:TRzpoKUz

全力で疾走し続ける勢源。これは、彼が眼病を患って以来、絶えて無かった事である。
気配を読む事で、人や剣の動きはほぼ完全に判別できるが、走りながら足元の地形を把握するのは簡単ではない。
土石が発する僅かな気配と己の足跡の反響、そして残された微かな視力でどうにか読んではいるが、
やはり完全ではないらしく、時に躓いて体勢を崩しながら、刀を杖代わりにして立て直し、走り続けていた。
やがて河に行き当たると、足を止める事なく跳躍、更に小太刀の鞘で川底を突いて加速し、跳び越える。
水音から川の幅と深さを測っての跳躍ではあるが、それでも無謀な行動である事は間違いない。
危険を冒している事は承知の上で尚、勢源には急ぐ理由があるのだ。
そして、川を渡ってから更に北上し続けた勢源は、前方に強い妖気を感じ、必死で急いだ甲斐があった事を察知した。

参加者への申し渡しを終え、見本の地図と人別帖で術の成果を確認した果心居士は、帰還の準備を始めた。
己の身をあの鏡の間へと運ぶ転移の図形、人一人分の質量が消失する事による歪みを最小限に抑える図、
最後に、自分が消えた後に発動し、全ての術の痕跡を消し去る図形。
杖でもって全ての図を描き終え、いよいよ術を発動させようとしたその時、果心は漸くその足音に気付いた。
「富田勢源……」「やはり、貴方ですか」
果心の呻き声を聞き、それが先程の声の主である事を確かめた勢源。
そう、勢源の無謀な疾走は全て、果心居士が伝えた音からその居所を悟ったが故のものだったのだ。

勢源が果心の居場所を掴んだ秘密は鐘と太鼓の音にある。
あの時、勢源達の頭の中に響いたのは果心の声だけではなく、鐘と太鼓の音が混ざっていた。
おそらくは、声の主もまた、鐘や太鼓の音が響く島内に存在し、その周囲の音まで伝わっているのだろう。
しかも、鐘や太鼓の音色を注意深く聞くと、その音は耳で聞こえるものとは時間差があったのだ。
鐘の音を例に取ると、耳に聞こえる音は、伊庭寺と推測される音源から、音の速さで伝わって勢源の耳に届く。
同様に鐘の音は、島内にいる果心の元に、やはり音速で届き、そこから果心の術で各参加者の頭の中に転送される。
術が伝わる速度がどの程度かというのは最大の不確定要素だが、この御前試合の始まりを思い出してみると、
全参加者が集められたあの場から、勢源が島南東の道端に転送された時、要した時間は一刹那にも満たないと思えた。
これを基に、術の速度は音速よりもずっと速いと仮定すると、音の時間差の原因は伊庭寺からの距離の差という事になる。
無論、勢源の時代には、音速の正確な測定は南蛮においてすら未だ為されていない。
しかし、勢源は聴覚に大きく頼らざるを得ない、ほぼ盲目の剣士。
そして、達人同士の闘いでは、音が発せられてから届くまでのごく僅かな時間差ですら重大な意味を持つ。
故に勢源は音の速さを体感として知っており、二つの音の時間差から、寺と果心の距離を計算する事が出来た。
これで響いた音が一つならば、果心の居場所は伊庭寺を中心とする円上の何処か、としか言えなかっただろう。
だが、幸いな事に、日の出を告げる合図は、伊庭寺の物と思われる鐘と、帆山城にあるのであろう太鼓の二つ。
という事は、音の時間差から、果心が居る位置の、寺と城の二箇所に対する距離を測る事が出来る訳だ。
この時点で果心の居場所の候補は、二つの円の交点である二箇所にまで絞られる。
勢源にとっては幸運にも、二箇所の内の一箇所は河の近辺であり、頭の中に響いた音には水音は混ざっていなかった。
以上の方法により、勢源は声の主の位置を大まかに推定し、ここまでやって来たのだ。
11波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:13:49 ID:TRzpoKUz
「それで、私に何か御用がおありですか?富田殿」「……」
果心に言われて、勢源はしばし黙り込む。
果心に出会ったのが勢源ではなく、もっと好戦的な者であったなら、とうに斬り掛かっていただろう。
しかし、勢源の剣はあくまで護身の剣。如何に相手が妖人とはいえ、自分から攻める訳にはいかない。
それでも、勢源はこの場所に来ずにはいられなかった。
目の前にいる妖術使いが、死者として佐々木小次郎の名前を呼ぶのを聞いてしまった以上は……
「何故、このような事をなされる?」
「貴方様が護身剣の完成を目指すように、私のような左道使いにも、目指すべきものがありますれば」
「目指すべきもの……」
勢源もまた、ある意味では、御前試合に参加する他の剣士を、己の剣の為に利用しようとしているとも言える。
とすると、勢源も果心もしている事に本質的な差はないという理屈も成り立たなくはないが……
「それでも、私は剣士の端くれとして、前途ある剣術者が犠牲になる事を容認はできかねる」
そう言う勢源の語調は強くはないが、このまま行けば衝突は避けられない。
こう踏んだ果心は、勢源の剣気が高まる前に先手を取ろうと、術の発動の為に高めていた妖気を一挙に開放した。

「!」
果心の妖気が蜘蛛の糸のように勢源に絡み付き、その忌まわしさに、さしもの勢源は思わず小太刀に手を掛ける。
次の瞬間、果心が指を鳴らし、勢源の頭部を爆発……白洲で村山斬を殺したのと同じ爆発が包んだ。
血が飛沫き、膝を付く勢源。同時に勢源が飛ばした刃が迫るが、果心は軽やかに跳んでかわす。
「!?」
跳躍した後で果心は気付く。己に向かって投げられたのは剣ではなく、鞘の方であった事に。
恐るべき妖人とはいえ、武術家ではない果心が、鋭い剣気の乗った投擲を見て、刃と誤認したのは仕方あるまい。
だが、攻撃を避けたという事は、自身にも物理的な攻撃が有効だと自白したに等しく、
果心に枯葉がえしの秘術があると言っても、空中での機動力には限界がある。
続いて勢源が投じた小太刀は、今度は見事に果心の唐人服を貫き、地面に縫い止めてみせた。

(これは……?)
投じた小太刀の妙な手応えに、勢源は眉をひそめた。
当たりが浅かった上に、感触が人間のそれとは違うのだ。これではまるで……
地に縫い止められた唐服が蠢き、中から出て来たのは、妖人ではなく一匹の鼠。
小太刀に掠られたか、鼠は血を流しつつ、慌てて走り去った。
「してやられたか」
おそらく、果心は跳躍する際に、別方向に鼠をくるんだ服を投げたのだと、勢源は推測する。
服のはためく音と鼠の気配で気を引き、自身は無音かつ気配を消して逃げればさしもの勢源でも見逃し得るだろう。
伊賀の忍術に動物をそのように使うものがあると聞いた事があるが、あの妖術使いには忍術の心得もあるのか。
そう言えば、これをやったやり口にも、相手の虚を突く事を好む忍びに通じるものがあったと、勢源は傷付いた己の足を見る。
ざっくりと切れた足の傷は、恐ろしく切れ味の鋭い鋼糸のようなもので切られた物だ。
12波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:14:48 ID:TRzpoKUz

忍びの技には、髪の毛を武器として使い、人体を豆腐のように切り刻むものがあるという。
しかし、目に見えぬ極細の糸は、視力に頼る剣士には脅威であっても、勢源ほどの者が容易く絡まれる筈がない。
にもかかわらず勢源が傷を受けたのは、一つにはその糸が元々実体を持たぬ妖気が変じたものだったからだ。
最初は、実体がなく、それ故に防ぎようがないとして相手の全身に絡み付き、後に果心の術により鋭い鋼糸となる。
厄介な術だが、それでも一流の達人ならば、妖気が実体を持ち始めた瞬間に、全てを切り離す事は難くはなかろう。
なのに勢源が一本だけ切るのが遅れ、手傷を負った原因はあの爆発。
村山なる少年が殺された時のものと同じ爆発だが、爆発自体はただの幻であり、殺傷力はない。
おそらく、あの時も少年は爆発で殺された訳ではなく、勢源を傷付けたのと同じ糸を用いたと思われる。
幻だけにどんな反射神経を誇る剣客にもかわしようがなく、音と匂いと気配をも伴う幻覚は勢源のような剣客をも惑わす。
いわば幻術と妖術の複合技であり、心は忍術にも通じる厄介な術だ。
さすが、一級の達人を無数に集めて殺し合わせようと企むだけに、やはり相当の難物という事か。

「未熟……」
勢源は反省の念を胸に立ち上がる。
強敵とは言え、妖術使いなどに手傷を負わされたのも未熟だが、より深刻な問題はそれ以前にある。
愛弟子の名を聞き、十分な見通しのないまま果心居士の居所を探り出し、不用意に出会ってしまった。
そもそも、香坂しぐれによれば、人別帖には佐々木小次郎の名は三つあり、死んだのが彼の弟子の小次郎とは限らない。
まあ、この機会を逃せば主催の一人と会う機会などそうはなかろうし、まずはそちらを優先するのも良いだろう。
しかし、苦労して会いに行ったのに、その後どうするかの方針がなくては無意味というものだ。
討つのか、御前試合を中止させるのか、情報を聞き出すのか、それをあらかじめ決めておくべきだったのに。
それをしなかった為、勢源は果心に機先を制され、無駄に負傷して逃がすだけの結果となった。
盲目の身で真の護身を完成させる為には、もっと思慮深く、激情を抑えられるようにならなければ。
勢源は足を引きずって歩き出す。この傷では、しぐれの所に帰り着くのは何時の事になるか。
彼女には、まだ恩を返し切れていないのに、迷惑を掛けてしまう……歩きながら、勢源は己の未熟さを噛み締めていた。

【ろノ陸 南部/一日目/朝】

【富田勢源@史実】
【状態】足に軽傷
【装備】蒼紫の二刀小太刀の一本(鞘付き)
【所持品】なし
【思考】:護身剣を完成させる
一:香坂しぐれと合流する
二:死亡した佐々木小次郎について調べたい
※佐々木小次郎(偽)を、佐々木小次郎@史実と誤認しています。

※ろノ陸に、果心居士の書いた魔法陣が残されています。
 果心居士なしで何らかの効力を発揮する事が有り得るかは不明です。
13波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:32:34 ID:x2tRbgB8
勢源の小太刀に傷付けられた鼠は一目散に走って勢源から遠ざかり、そこで限界が来たのか、徐々に人の姿を取り戻す。
そう、果心は鼠を身代わりにしたのではなく、鼠に化身する事で飛刀をかわし、勢源を誤魔化して逃げたのだ。
かつて太閤秀吉の秘密を暴いて処刑されかけた時にも用いた、果心得意の遁術である。
もっとも、さすがに富田勢源は秀吉よりも手強く、小太刀に掠られた傷は人の姿に戻ってもかなりの痛手になっていた。
まあ、妖術が正面から闘って武術に太刀打ち出来る筈もなく、ましてや相手は富田勢源。
この程度で済んだのは、勢源に果心を殺そうというまでの決心がなかったからだろう。
そう考えると生き残っただけでもよしとすべきかもしれないが、このままの状態で帰る訳にはいかない。
果心が印を結んで呪を唱えると、苦痛に曲げられていた背筋がぴんと伸びる。
傷自体を癒した訳ではない。そもそも、いくら妖術でも、超一流の剣客から受けた傷を癒すのは簡単ではないのだ。
単に傷の痛みを一時的に抑えるだけの術。
しかも、それも精力を前借りしているようなもので、術の効果が切れたらしばらく休まねばならない。
あまり使い勝手の良い術ではないが、仕方ないだろう。
弱った状態であの得体の知れない怪僧……天海に会えば、全てを読まれてしまうかもしれないのだから。

天海とは何者なのか。
御前試合の準備の為に、果心が忠長から注意を外した数日の間に、天海は忠長の腹心中の腹心にまでなっていたのだ。
忠長は天海が傍から離れていると普段より更に情緒不安定になる程で、果心は怪僧をこの島に招くしかなかった。
一時は忠長を始末しようかとも考えたが、既に忠長は儀式の一部に組み込まれており、それも難しい。
それに、どのみち名目上の主は必要であり、果心に操れる程度の主なら、取り入るのは黒衣の宰相には容易い事なのだろう。
結局、果心と天海は共に御前試合を運営しつつ腹を探り合い、今に到っている。
それにしても、天海の狙いは那辺にあるのか、未だに果心は探り出せてはいない。
漸くわかったのは天海の配下に土岐一族の者が幾人かいる、という事のみ。
その者達自体は取るに足らない小者ではあるが、土岐と聞いて、果心には思い出される出来事があった。
第六天魔王が炎の中に消えたあの事件、世に言う本能寺の変である。
魔王の忠実な配下であった明智がどうして急に謀反に踏み切ったのか。
その事情については諸説あるが、中に、あれは比叡山の僧侶による呪殺であったというものがあったのだ。
それによると、比叡山焼き討ちを生き残った僧が、明智を鬼囁の術によって動かし、主殺しに導き、復讐を遂げたという。
天海が比叡山の僧であった事は確かなようだし、恐るべき人心操作術も持ち合わせている。
無論、忠長と光秀では器が違うが、だからこそ、その黒幕がいたならば、それは天海のような大物の筈だとも言えるか。
この推測が正しければ、果心と天海は因縁の宿敵という事になり、今回も何を企てているか知れたものではない。
内憂外患を抱えたこの状況で、果たして儀式を完遂できるのか、果心には、茨の道が待っているようだ。

「柳生を動かすしかあるまい」
果心は苦渋の決断を下す。
剣客達の動きは果心の想定内に留まらず、天海の思惑は読めず、果心自身は傷のせいで当分は動けなくなる。
この状況で儀式を滞りなく進行させるには、切り札である柳生を、予定を繰り上げて投入するしかないと思い定めた。
極上の剣士を放り込む事で他の剣士達を刺激し、殺し合いを加速させて、止めようとしても止まらなくする他あるまい。
予定を急に変更する事に関しては不安もある。特に、柳生宗矩の動向については。
本来ならば、宗矩はもっと焦らしに焦らす筈だったのだ。
これは御前試合の展開次第だが、出来れば子である十兵衛が討たれるまでは、宗矩にはただ鏡を見させていたかった。
そして、剣客として闘死した息子を見た宗矩に顕れる感情が怒りでも悲しみでもなく羨望であってくれれば、
果心は何の心配もなく、宗矩を御前試合の場に送り出せたであろうに。
今の時点では、未だ宗矩の中に、徳川の臣として、柳生家の長として、子の親としての心が残っているかもしれない。
不安は尽きない。だが、今の果心には、他に打てる手がないのも間違いのない事。
こうなれば、宗矩の、剣客達の剣士としての業が、最後は他の全ての想いに打ち克ってくれる事を信じるのみ。
不安を押し殺し、果心は転移の術を発動させるのであった。
14波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:35:51 ID:x2tRbgB8

「遅い…な」
富田勢源が外に出てしばし、香坂しぐれは呟いた。
もっとも、特に不審には思わない。勢源が出て行ったのが、用足しの為などではない事はわかっているのだから。
しぐれが人別帖に佐々木小次郎の名が三つあると教えた時、勢源は考え込む様子を見せた。
そしてさっき、勢源が立ち上がったのは、謎の声が、死者の二人として佐々木小次郎の名を告げた直後。
勢源の知り合いに小次郎という名の者がいたのか。だとすれば、しばらくは一人にしておいてやるべきだろう。
そんな気を遣って勢源を待っていたしぐれだが、傷は手当てしたとはいえ、血と共に流れ出た体力までは戻らない。
「あの女、死んだの…か」
そんな事を考えている内に、いつしか、彼女の意識は眠りの世界に誘われ……

いきなり跳ね起きたしぐれは、小太刀を掴むと跳躍し、壁を突き破って外に転がり出る。
乱暴な行為だが、この状況ではそれが最善であっただろう。
しぐれが飛び出した次の瞬間、祠は一気に燃え上がったのだから。
外に居たのは、刀を構えた、全身包帯だらけの男。
「ちっ、気配を感じて仕掛けてみたが、怪我人か。なら、せめて俺の糧になりな!」
志々雄真実はそう言うと、上段から思い切り振り下ろして来る。
片手、しかも小太刀で受け止めるのは困難と見たしぐれは受け流してこれを防ぐが、それが彼女に幸いした。
「!?」
さすがに最高級の刀匠の娘だけあって、小太刀で受け流す一瞬の接触だけで、しぐれは斬鉄剣の危険性を見抜く。
まともに打ち合えば危険と、反射的にに飛び退くしぐれ。
お蔭で彼女は、小太刀と打ち合った直後に、いきなり斬鉄剣から噴き出した炎に焼かれずに済んだ。
「何だ、やるじゃねえか。出来れば、あんたが元気な内に会いたかったもんだ!」
そんな言葉と共に猛攻を加えて来る志々雄。
さすがに、疲労した身と片手では防ぎ切れず、しぐれは斬鉄剣を小太刀で受け流した隙に、志々雄の拳を喰らって吹き飛ぶ。
派手に吹き飛んで、焼け崩れようとしていた祠にぶつかるしぐれだが、ここまで派手に飛んだのは、故意であった。
自ら跳ぶ事で拳撃の衝撃を和らげたというのが一つ、そして、もう一つの狙いは……

崩れ行く祠から幾つもの物体が飛来し、志々雄に迫る。
飛来物の正体は、祠に使われていた釘や木片。しぐれがそれらを即席の手裏剣として投げ付けたのだ。
釘や木片は、普通なら投擲武器として使える代物ではないが、投げたのが兵器の申し子香坂しぐれとなると話は別。
彼女の手に掛かれば、杓文字やスプーンですら、容易く人を殺す凶器となり得るのだから。
それを悟った志々雄は斬鉄剣で迎撃しようとするが、その間合いに入る直前、手裏剣の群れは空中で軌道を変えた。
散開した釘と木片は志々雄を回りこんで背後から襲い、同時にしぐれも突進して来て、前後から挟撃せんとす。
「甘え!」
志々雄は剣で地を擦り、摩擦熱で着火すると、剣に渾身の気合を籠め、剣気で炎を煽って燃え上がらせる。
炎と、志々雄自身の体温・剣気が相俟って上昇気流が発生し、釘と木片は舞い上げられ、しぐれも体勢を崩した。
「シャアアッ!」
攻撃を諦めて防御に回り、斬鉄剣の一撃を、しぐれは腕を掠られるだけでどうにか凌ぐ。
だが、もしも直前に斬鉄剣の炎が消えなければ、腕を灼かれて小太刀を使うのに支障が出ていたかもしれない。
「ちっ、脂切れか。ま、こんなもんだろうな」
無限刃と違い、斬鉄剣には斬った相手の脂を長く保持しておくような機構は一切ない。
加えて、斬鉄剣の本来の持ち主は剣の手入れを欠かしておらず、付着していた脂は、ほぼ久慈慎之介一人の分のみ。
祠に火を点けた分と、しぐれ相手の数度の応酬で、全ての脂を燃やし切ってしまったのだ。
「ふん、まあいいさ。すぐに上質の脂を補給できるんだからな」
そう言ってしぐれに肉薄する志々雄真実。だが……
15波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:39:20 ID:x2tRbgB8
「外道…め」
志々雄が持つ斬鉄剣は超一級の刀。そして、人の脂を燃やした火を纏うような、猟奇的な使い方をする為の剣では決してない。
優れた剣士であり、鍛冶の心得もあるしぐれは、今までの戦いでその事を見抜いていた。
自身には縁も所縁もない刀とはいえ、刀工の魂が籠もった剣をこのように扱う志々雄に、しぐれは怒りを燃やす。
そして、怒りが疲れ傷付いたしぐれの身体に活力を与え、奥義の使用を可能とせしめる。
志々雄の攻撃を緩やかな動きでかわし、ゆったりとした動きで反撃する。
「遅えッ!」
あっさりと弾いた志々雄は、そのまま踏み込んで一撃を放つが、それも簡単に受け流され、死角に回りこまれた。
(この技は……)
ここに来て、志々雄も気付く。しぐれの動きが、あの男の動きと酷似している事に。
(四乃森蒼紫の、流水の動き!)

「どうしてお前がその技を使う?」
香坂しぐれは、徒手武術の達人達と寝食を共にしていたが、彼女自身はあくまで武器の使い手である。
しかし、しぐれが今やっている動きは拳法家の、それも梁山泊の達人達にも匹敵する、特級の拳士のもの。
志々雄真実は、その動きが、幕府御庭番衆の頭、四乃森蒼紫の流水の動きである事を知っていた。
手裏剣の使い様など、しぐれの動きに忍者を思わせるものがあったのは確かだ。
しかし、その技には御庭番衆を思わせる色などなかった筈。なのに何故……
「剣の至高は…己と刀が一つとなる…境地。お前には…決してわかるま…い」
四乃森蒼紫は、小太刀二刀の技を身に付けて仲間の墓標に最強の華を添える為、厳しい修行を積んで来た。
その際、蒼紫の強い想い、魂といっても良い物が小太刀に宿り、その刀と一体になったしぐれに蒼紫の技を使わしめたのだ。
「ちっ!」
ムキになって攻勢に出る志々雄だが、緩急自在のしぐれの動きを捉えきれず、全て受け流されて行く。
そして、さすがの志々雄真実も永遠に攻撃し続ける事が出来る訳ではなく、やがて息が切れ、動きが止まる。
「終わり…だ」
隙を見せた志々雄を仕留めるべく、必殺の一撃を放つしぐれ……しかし、これこそが志々雄が待っていた勝機であった。

志々雄真実にとって四乃森蒼紫は、満身創痍で戦闘力を失っていたとはいえ、一度は倒した相手である。
当然、流水の動きの致命的な弱点をも、志々雄は熟知していた。
流水の動きは、守りに徹されれば厄介な技だが、強力な攻撃に出る瞬間、反撃の隙が生まれるのだ。
仮に、これが両手二刀が揃った回天剣舞・六連であれば、話は違ったのかもしれない。
しかし、片手と小太刀一本による攻撃に対応するのは、志々雄にとってはさして難しい事ではなかった。
向かって来る小太刀に対して、真っ向から斬鉄剣をぶつけて行く志々雄。
蒼紫の小太刀とて並の刀ではないが、達人の持つ斬鉄剣と正面からぶつかり合えば、勝ち目は殆どない。
得物ごととぐれを両断すべく、志々雄は全力で剣を振るい……刀が破壊される音が、周囲に響いた。
16波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:41:08 ID:x2tRbgB8
さて、唐突に話は変わるが、人は何かを語る際、それを大まかに二種類に区分けするという手法をよく使う。
剣術もその例外ではなく、古来、様々な基準で二つに分けられて来た。
東国と西国、一刀と二刀、介者剣術と素肌剣術、道場剣法と実戦剣法、古流と新流……
その中でも、明治や平成の世では、ある分け方がよく行われていた。即ち、殺人剣と活人剣である。
この場合、活人剣とは敵を(なるべく)殺傷しない事を指し、殺人剣はそのような気遣いを持たない者を指す。
本来、刀剣は普通に使えば簡単に人を殺せる武器であり、活人剣を貫くには、人を殺さぬ特別な技術が必要になる。
その分だけ、活人剣は純度において殺人剣に劣るとも言え、活人剣の考え方は剣術の本質に悖ると言う者もなくはない。
だが、それでは何故、活人剣は殺人剣に駆逐される事なく、生き延びているのか。
「人を殺さない」という考え方が、群れを作る動物である人間の本能に適合しているから、という面もあるだろう。
しかし、そんなものが通用するのは、武術家の中ではごく初心の者のみ。
達人と呼ばれる者の行いは、生物としての本能どころか、時に物理法則すらも超越する。
そして、弱肉強食の武術界における淘汰圧は、自然界のそれなど問題にもならぬ程に強い。
このような中で、活人剣が生き残り、強い勢力を保っていられる理由は唯一つ。
活人剣は、純度において劣る代わりに、殺人剣にはない強力な利点を持っているのだ。

活人剣の利点は幾つかあるが、例として一つ挙げると、同じ相手と何度も真剣勝負ができる、というものがある。
殺人剣の戦いでは、負けた方は死体と成り果て、勝者は闘いから何かを得られるかもしれないが、そこで終り。
対して、活人剣では、敗者も死ぬ訳ではなく、剣士としての人生はその後も続いて行く。
失敗は成功の母と言う通り、敗者はその体験から多くのものを得、更に強くなる事が出来るだろう。
当然、剣士たるものが負けて負けっぱなしにしておける訳もなく、何としても強くなって同じ相手に再戦を挑む筈。
その際には、敗者は前の戦いを十分に研究し、今度は勝てると思えるだけの技と策を用意して挑むのが理の当然。
つまり、活人剣の剣士は常に進化し続けなければ今日の勝者も明日には敗者になり得る訳だ。
そうして互いに刺激し合う事で、共に高みを目指す……それが、活人剣の者の進む道なのである。

そしてまた、対戦相手を殺す事のない活人剣には、真の意味での秘剣はまず存在し得ない。
戦った相手に手筋を知られるのはもちろん、そこから他に情報が漏れ、研究される事もあり得る。
よって活人剣士は、常に相手が自身の剣の弱点を突いてくる可能性を考慮する必要があるし、
奥義の類も、一度でも使ってしまえば、何処にその情報が伝わって対応策を練られているか知れないのだ。
これは一見、活人剣の弱点にも思えるが、自身と同等以上の達人を相手にする場合はそうとも言えない。
達人の中には、手を尽して敵の情報を集めるタイプの者も多い訳で、そうした者から秘密を守り切るのは至難の業。
第一、秘密を守る事にばかり気を取られて、肝心の鍛錬が等閑になってしまえば本末転倒というもの。
それならむしろ、はじめから相手に弱点を知られているという前提に立った方が、思い切り良く闘える。
こんな時、同じ相手と幾度も闘う事で、弱点を突かれ、奥義を破られる事に慣れ親しんだ、活人剣の経験が活きるのだ。

今回、刀と一体化する心刃合錬斬によって、四乃森蒼紫の流水の動きを使って見せたしぐれだが、
流水の動きを見知っていた志々雄真実は、その弱点を突いてしぐれの技を破ろうとした。
その辺りの事情はしぐれには知る由もないが、奥義が弱点を突かれて破られようとする展開は、想定の内ではある。
故に、しぐれは流水の動きに頼りきる事なく、二段構えの技で闘っていたのだ。
17波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:43:52 ID:x2tRbgB8
「何!?」
鈍い音と共に、斬鉄剣の刃が欠ける。
小太刀と斬鉄剣の正面からのぶつかり合いで、小太刀の側が勝利しようとしているのだ。
単純な切れ味ならば、斬鉄剣が数段勝っており、しぐれもそれを知っていたからこそ、其処を補う布石を打っていた。
しぐれは、舞い散る木の葉を表裏二枚に切り分ける程の、精密な剣を誇っている。
それを活かし、先程からの応酬で、しぐれは志々雄の攻撃を受け流す際、常に斬鉄剣の全く同じ位置を受けていたのだ。
正確に一点に衝撃を受け続ける事により、さしもの斬鉄剣も刃毀れを起こしたのである。
これは奇しくも、斬鉄剣が石川五ェ門と共に己以上の硬度を持つ戦闘機と戦った際に使ったのと、同じ戦術。
もしも、志々雄が、しぐれのように、己の剣と多少なりとも心を通わせていたなら、防げていたかもしれない。
だが、それは仕方のない事だろう。
しぐれと、小太刀の本来の持ち手である四乃森蒼紫は、仲間思いという点では共通した核を持つ。
対して志々雄と斬鉄剣の本来の持ち主たる石川五ェ門には、通じる部分など全くないのだから。
それに、刀と心を通じ合わせるよりも、圧倒的な力で全てを捻じ伏せ従える方が、志々雄には似合いであろう。

どれだけの硬さを誇る物質であっても、瑕に衝撃を加えれば意外と脆い。
刃毀れを足掛かりに、そのまま斬鉄剣を破壊しようとするしぐれだったが、志々雄は素手で小太刀を掴んでそれを防ぐ。
「くくく……」
刃が手に食い込むのにも構わず、志々雄は笑う。
「ここまでやるとは。あんたと引き合わせてくれたあいつには、礼を言っておかなけりゃな」
しぐれが持つ小太刀が蒼紫愛用の物である事はとうにわかっていたが、
彼女と出会い戦っている事を、日の出前に死んだという蒼紫の導きと考えるとは、志々雄には珍しい感傷。
だが、感傷に浸っていても、志々雄の行動が温くなる事は有り得ず、加減なしでしぐれに頭を叩き付けた。

「ぐ…。どういう……」
転げてから立ち上がろうとするしぐれだが、その視界が歪む。
頭突きのせいで脳震盪を起こしたか、睡眠で回復した体力がもう尽きたのか。
これ以上の戦闘は無理と判断したしぐれは大きく跳躍して間合いを取ると、背後を向いて駆け出した。
「おいおい、ここまで来てそれはないだ……ぐっ」
追撃しようとした志々雄だが、足がもつれて転びかける。
昨夜からの連戦は確実に志々雄を蝕んでいるのだ。
あの女ほどの達人ならば、戦いの果てに燃え尽きる相手として不足はないが、
「鬼ごっこの最中に灰になるんじゃあ、つまらねえな」
という事で、追跡は中止する。
どうせ、わざわざ去る者を追わずとも、己の全てを燃やすに足る強者との戦いの種は、この島にはいくらでもあるのだから。
18波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:46:14 ID:x2tRbgB8

【にノ陸 道祖神の残骸近く/一日目/朝】

【志々雄真実@るろうに剣心】
【状態】高体温、軽傷多数
【装備】斬鉄剣(鞘なし、刃こぼれ)
【道具】支給品一式
【思考】基本:この殺し合いを楽しむ。
1:土方と再会できたら、改めて戦う。
2:無限刃を見付けたら手に入れる。
※死亡後からの参戦です。
※人別帖を確認しました。


「どういう事…だ?」
志々雄を十分に引き離してから、しぐれは彼にぶつけ損ねた疑問を呟く。
しぐれと志々雄を引き合わせたという「あいつ」。
それは、普通に考えれば、しぐれがうの場所に居る事を知っていた唯一の男、富田勢源。
勢源に騙され、売られた……一昔前のしぐれなら、そう考えていただろう。
だが、弟子を持つ事で変わり始めていたしぐれは、未だ勢源を信じたいと思っている。
実際には勢源がしぐれを裏切ったという事実はないのだから、彼女は弟子のお蔭で事実誤認をせずに済んだ、とも言えよう。
しかし、彼女は、勢源は絶対に裏切っていない、と言える程には、お人好しではない。
結果として、しぐれは富田勢源に対する態度を決め切れず、心中に迷いを抱え込む事になった。
下手な迷いは、ある意味、事実を誤認するよりも性質の悪いものなのだが……
とにかく、まずは身体を休めようと、安全な場所を探して歩き始める。
この島には、真の意味で安全な場所など、何処にもない事は知りながら。

【香坂しぐれ@史上最強の弟子ケンイチ】
【状態】疲労大、右手首切断(治療済み)、両腕にかすり傷、腹部と額に打撲
【装備】蒼紫の二刀小太刀の一本(鞘なし)
【所持品】無し
【思考】
基本:殺し合いに乗ったものを殺す
一:体力を回復させる
二:富田勢源に対する、心配と若干の不信感
三:近藤勇に勝つ方法を探す
【備考】
※登場時期は未定です。
19波紋 ◇cNVX6DYRQU 代理投下:2010/06/22(火) 14:49:30 ID:x2tRbgB8

代理投下終了でござーい
20創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 14:58:52 ID:F9ZAFDwX
代理投下乙です

三人組と富田はそれぞれ考察が進んだな
そして果心居士は負傷か。天海との微妙な関係はロワにどう影響するか…少なくとも予定より早い段階での柳生の投入か
しぐれとCCOは魅せるわ。だがここで疑心暗鬼か
21創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 20:01:14 ID:8Shm4GLs
投下乙〜。
主催側が活発化し出しましたね。
果心・天海・宗矩の力関係がかなり微妙なバランスに・・・。
次の主催側の動きは柳生のターンかな?

しかし・・・爆弾リングの代わりになる術は
これくらいなら対応できる剣豪も結構いそう。
少なくとも剣聖クラスの参加者がこれでやられるとは考えづらい。
主催側にも工夫が要りそうだなあ。
22創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 00:01:58 ID:zm9dEfs6
投下乙。
なるほど。首輪代わりの術はトリックだったか。
確かにありえることだ。こういう展開も斬新でいいね。
そして、主催の一人、果心がここでまさかの負傷。
こうなってくると、一人腹の内が全く見えない天海が不気味だな。
続きが気になるいい話でした。
23創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 05:12:33 ID:Debf09WZ
禁止エリア爆死が避け得るものじゃダメだろ、ロワの制約が無くなる
24 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/23(水) 06:25:05 ID:oRa5LMJF
スレ立て、代理投下ありがとうございます。

>>18の香坂しぐれの位置情報を書き忘れていましたが、
【にノ陸の何処か/一日目/朝】
ということでお願いします。
25創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 09:09:15 ID:SHZd+wuI
黒幕サイドが参加者とは一線を画す強さでない、ってのはこのロワならではで良いですね。
26創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 09:14:33 ID:krAITs7o
乙です
27 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/26(土) 10:43:16 ID:PFNc6bPQ
芹沢鴨、沖田総司、石川五ェ門、細谷源太夫、桂ヒナギク、東郷重位、緋村剣心、神谷薫で予約します。
28創る名無しに見る名無し:2010/06/26(土) 10:56:01 ID:KKFv/Wl0
遂にCCO狩りか
29創る名無しに見る名無し:2010/06/26(土) 13:19:44 ID:HbFJyyEG
乙!
30創る名無しに見る名無し:2010/06/26(土) 14:17:53 ID:SHvB7snp
マーダー覚醒した重位、非殺の抜刀斎、それにトリックスター芹沢&沖田か!
すごい組み合わせだな。
楽しみにさせて頂きます。
31創る名無しに見る名無し:2010/06/29(火) 21:46:54 ID:FEXQLU9c
このロワって、新規書き手用のルールみたいなのってあるの?
32創る名無しに見る名無し:2010/06/30(水) 10:36:14 ID:1OiE4fyk
>>31
特に無いですよ。<新規書き手用のルール

基本的には他ロワと一緒です。
ただ、読めばわかる通り、作風はずいぶんと他ロワと違うので、その点だけは注意を。
それにさえ留意してくれれば、誰でもウェルカム
33創る名無しに見る名無し:2010/07/01(木) 20:32:55 ID:2jrF6a8y
まぁ、作風なんても気にする必要ないけどな
主力書き手二人がそうなってるだけであって
熱血だろうがギャグだろうがかまわん(エロ以外は)
34 ◆F0cKheEiqE :2010/07/02(金) 14:53:31 ID:5bHCxDHd
投下期限を大幅に過ぎて言うことではないと自覚していますが、
トラブルを避けるため一応。

高坂甚太郎、柳生連也斎、剣桃太郎、坂田銀時

予約を破棄します。

それで、代わりと言ってはなんですが、

富士原なえか 予約します

>>31
新人書き手希望さんですか。
そうならば 熱 烈 歓 迎 !


ところで、銀さんの口調をうまく書ける人は羨ましい。
自分が書くと、無駄に叫ばすばかりになっちゃって…
35創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 17:44:41 ID:4AozI6bL
あらら、残念です…
代わりの予約、頑張って下さい
36創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 10:21:46 ID:ZsGdiv0D
頑張って下さい
37 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 16:53:04 ID:a0XztqTP
芹沢鴨、沖田総司、石川五ェ門、細谷源太夫、桂ヒナギク、東郷重位、緋村剣心、神谷薫で投下します。
38すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 16:54:46 ID:a0XztqTP
夜明け前。
日の出が近付くにつれて東の空は白み始めていたが、酒蔵から出た少女の眼は、その逆の方向に向けられていた。
「新見さん……」
「いやあ、来ませんねえ、新見さん」
桂ヒナギクの呟きに答えたのは、見張りに立つという名目で一足早く酒蔵を脱出していた沖田総司だ。
「芹沢さんは寝たみたいですね」
少し前とは一転して静かになった酒蔵を見て言う沖田。
「あの調子だと昼まで飲み続けるんじゃないかと心配してたんですけど、よく寝かし付けましたね」
ヒナギクは「酔っ払いの扱いには慣れてるから」と応じかけて思い止まる。
酒飲みという点では共通していても、あの粗暴な芹沢を姉と同列には考えたくなかったのだ。
「そんな事より、新見さんは本当にここに向かってるのかしら」
話を戻すヒナギク。確かに、新見がこの酒蔵に向かっているのなら、とうに着いていなくてはおかしい。
「新見さんは芹沢さんと仲良しでしたからね、僕が予測できた事に気付かないって事はまずないでしょう」
沖田の言葉が正しければ、新見の身に何かあったのではというヒナギクの懸念が当たっている公算が高くなる。
思い出してみると、酒蔵に来る為に抜けて来た城下町には殺気とも妖気ともつかない嫌な気配が満ちていた。
自分達は運良く、もしくは二人組だったおかげで襲われる事はなかったが、単独だったであろう新見はもしや……

悪い想像で表情を暗くするヒナギクを慰めようというのか、沖田が明るい声で話し掛ける。
「さっき、西の方でこんなの見付けたんですよ。川を流されて来て下流で打ち上げられたみたいなんですけど」
そう言って沖田は扇子を取り出す。
「ほら、正義なんて大書してあってお洒落ですよ。襟元にでも差しておいたらどうですか?」
「お洒落って……」
沖田の妙なセンスに呆れるヒナギクだが、ふと気になって、差し出された扇子を手に取る。
(これって……)
ヒナギクはその扇子に見覚えがあった。
といっても、実物を見たわけではなく、見たのはテレビを通して。そう、あれは確か……
ヒナギクが記憶の中からとある有名時代劇の名を手繰り寄せかけた時、鐘と太鼓の音が辺りに響いた。
39すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 16:57:14 ID:a0XztqTP
「そんな、新見さんが……」
主催者による放送の後、芹沢鴨を仮の頭目とする男女は、酒蔵の中に集まり、話し合っていた。
放送で告げられた二十三の死者の中でも、彼等に最大の衝撃を与えたのは、やはり新見錦の名である。
ヒナギクはショックで呆然としているし、芹沢もすっかり酔いが醒めた様子。
お気楽な沖田ですら、珍しく真面目な顔で考え込んでいるようだ。
「新見殿が死んだというのは何の証拠もなき事。あの者の言葉を信じるのは早かろう」
重苦しい雰囲気を打開しようと、石川五ェ門が声を上げる。
といっても、口から出任せを言った訳ではない。
五ェ門は、死んだ筈の者が実は生きていた、という現象を、今までに数多く体験しているのだ。
相棒であるルパンなどは、衆人環視の前で殺されて全世界にその死が報じられた事もあるが、しぶとく生きていた。
それを考えれば、得体の知れない声に死を告げられた程度で諦めるのは早すぎるだろう。

「ここに来てないという事は、死んではいないとしても、新見さんに何かあったのは確かですよね?」
「うむ。新見殿が生きているとしたら、おそらく、御前試合の主催者に囚われているのだろう」
「なるほど。でも、新見さん程の人を捕らえるのはかなり大変だと思うんですけどね」
しばらく、五ェ門と沖田の会話を瞑目して聞いていた芹沢は、眼を見開くとヒナギクを睨み付ける。
「娘!お前と別れた時、新見君は丸腰だったのか?」
イエスと答えれば切り掛かりかねない目付きでヒナギクに問い掛け……いや、詰問する芹沢。
「え?いや、新見さんは、私と交換した刀を持ってたはずですけど」
「あ、じゃあ、桂さんのあの面白い刀は、元は新見さんの物だったんですか?」
刀の交換だの面白い刀だの、話が見えずに芹沢は眉を顰める。
五ェ門も問い掛けるような視線を向けて来るのを感じたヒナギクは、そっと無限刃を抜いて皆の前にかざす。
無限刃が明かりに照らされた瞬間、剣客達の眼が鋭く光った。

剣士達が無限刃に反応したのはほんの半瞬、彼等は、すぐに何事もなかったかのように話し始める。
「これ、やっぱり刃こぼれとかじゃなくて、初めからこういう風に作られてますよね」
「聞くところによれば、源義家公の父君、頼義公は、捕虜を鈍刀でもって鋸引きににし、嬲り殺したとか。
 その逸話を知った誰やらが、頼義公にあやかって作ってみたというところだろう」
沖田に己の学識を誇示する芹沢だが、無限刃を拷問用の刀と見なすその意見に、ヒナギクの顔色が悪くなって行く。
だが、示刀流を学び、刀の製作についても一家言ある五ェ門は別の見方をしていた。
「拙者の見る所、これは鈍刀とまでは言えぬ。むしろ、鋸のような形でも最低限の切れ味は保つよう工夫されておる。
 おそらく、あらかじめ刃を欠けさせておくことで、人を斬った際の刃こぼれによる違和感を減らすのが狙いであろう」
斬鉄剣のような例外を除けば、剣で何かを斬れば、刃が毀れるのは不可避。
いや、斬鉄剣ですら時には刃毀れし、そのせいで本来の実力が発揮できずに苦戦した経験が五ェ門にはあった。
それくらい剣、そして剣士はデリケートなものであり、刃毀れの違和感を消す為に切れ味を犠牲にするという選択は有り得る。
五ェ門の推論はそれなりに理に適ったものであったが、それだけに、己の説に異見を唱えられた芹沢は苛立つ。
ムキになって反論しようとするが、ここでヒナギクが割って入った。
口論で雰囲気が悪くなるのを防ぐという思惑もあったが、自分の剣を肴に物騒な話をされるのを阻止したという面も大きい。
強引に、剣そのものではなく、新見の件に話を引き戻す。
「とにかく!私の行李に入ってたのは普通の刀だったんですけど、新見さんがこの刀と交換してくれたんです。
 変な刀だけど質はいいからって。私は人斬りじゃないんで切れ味とかは関係ありませんし」
そう言って無限刃を納めるヒナギク。
「じゃが、その刀は人を斬っておるな」
唐突な一言に、その場が凍り付いた。
40すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 16:59:31 ID:a0XztqTP
不用意な言葉を発したのは、細谷源太夫。
細谷は、酒量が過ぎたか、参加者に知人がいないせいか、この会合でも転寝していたのだが、何時の間にか起きていたようだ。
いきなりの言葉にヒナギクは戸惑い、他の三人は「空気読めよ」的な眼で細谷を睨む。
「そ、それにしても佐々木小次郎さんや伊良子清玄の名前も呼ばれたのには驚きましたね。
 どちらも相当の腕だったのに。あ、佐々木さんに関しては、呼ばれたのが僕が会った佐々木さんなのかはわかりませんが」
露骨に話題を逸らしにかかる沖田。もっとも、小次郎や清玄の名を聞いて驚いたというのは嘘ではない。
あれほどの剣士がこの短時間で死んだというのが本当なら、この御前試合は凄まじく過酷な物だと言えるし、
囚われているなら、主催者は相当の戦力を抱えているという事になる。
まあ、沖田にとっては敵が強ければ強いほど楽しめるわけで、この場合の驚きは嬉しい驚きな訳だが。
「そう言えば、人別帖によると、佐々木小次郎が三人も参加してる事になるけど、どういう事かしら」
血生臭い話に辟易していたヒナギクも沖田の話題逸らしに乗って来た。
「そんなもの、巌流島で死んだ佐々木小次郎の子孫か弟子が仮名を継いだに決まっておろう。
 武士の世界にはよくある事だぞ。我が神道無念流でも、岡田十松殿や斉藤弥九郎殿は……」
芹沢もここぞとばかりに薀蓄だか自慢だかよくわからない話をし出し、無限刃の事はひとまず忘れられる。

「同じ名前と言えば、犬塚信乃さんも二人参加してますけど、この方達も親子か師弟なんですかね」
「うむ。確か八犬伝によれば、八犬士の子や孫も、親の名乗りを継いだ筈。
 一人は初代として、子孫の中の傑出した者をもう一人連れて来た、というところだろうな」
話はもう一つの複数参加者である犬塚信乃の事に移るが、こちらはもう少しややこしい問題がある。
「ちょっと待って。犬塚信乃って、八犬伝の登場人物でしょう?そんな人が本当に参加してるって言うんですか?」
ヒナギクの疑問に、沖田はきょとんとした顔をする。
「八犬伝?何か聞いた事ある気がしますけど、犬塚さんも有名な人なんですか?」
「やれやれ、沖田君は本当に剣以外は駄目だな。八犬伝も知らぬのか」
沖田の無学を笑う芹沢だが、問題はそこではない。
「あのね、八犬伝っていうのは小説なの。犬塚信乃はそれに出て来る架空の人物で、実在しない人なのよ」
丁寧に教え諭すヒナギクだが、沖田は納得できない。何故なら……
「でも、桂さんも犬塚さんに会ったじゃないですか」「え!?」
「ほら、義輝様と一緒にいた……そう言えば、犬塚さんが名乗った時はヒナギクさんはまだいませんでしたね。
 あの人は確かに犬塚信乃戍孝と名乗ってましたよ。そんな有名人なら無理にでも立ち合っておけば良かったなあ」
「あの人が、犬塚信乃……!?」

「つまり、フィクションの登場人物が実体化して、この島に来ているって事?」
そう呟いてヒナギクは、横で瞑目している石川五ェ門の顔を盗み見る。
先程まで積極的に発言していた五ェ門だが、親の名を子孫が継ぐという話題が出て以来、黙りこくっていた。
「何だ、知らぬのか?里見八犬士は完全に架空の存在ではなく、その名はちゃんと記録に残っておるのだぞ?
 もっとも、実在の八犬士に関して伝わっておるのは名だけで、八犬伝にある事績は全て馬琴の作り事だがな。
 まあ、水滸伝が宋史にある宋江の僅かな記述を基に書かれたのに対応しておる訳だ」
だから、犬塚や犬坂がこの御前試合に呼ばれていてもおかしくないと芹沢は言うのだが、ヒナギクは納得できない。
仮に八犬士と同名の武士が実在していたとして、そんな無名の者をこの御前試合に呼ぶ意味は何なのか。
また、犬塚信乃の名乗りが子孫に受け継がれたというのは八犬伝の設定な訳で、犬塚が八犬伝の主人公とは別人で、
実在したかもしれない犬士の一人なのであれば、同名の者が二人いるという問題がまた頭をもたげて来るのだ。
得心できずに首を捻るヒナギク、黙り込む五ェ門、寝惚け眼の細谷を尻目に、芹沢と沖田は話を進める。
41すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 17:10:41 ID:a0XztqTP
「諱が戍孝という事は、君が会った犬塚信乃は初代か」
「その人は女なんですか?僕には男の人に見えましたけど……でも、剣を交わした訳じゃないからわかりませんね」
「犬塚信乃戍孝は男だ。だが、人別帖の(女)の表記は幼少の頃に女子として育てられた事を指しているのかもしれぬ」
前にはここにいるのは実在した犬塚の方だと言いながら、今度は八犬伝の知識を基に推理する芹沢。
明らかに理が通ってないが、実は芹沢にとっては理屈などはどうでもいいのだ。
犬塚の素性などより重大な事を確かめる為、芹沢と沖田は、以心伝心で話をある方向に向けているのだから。
「死んだか囚われたのがあの犬塚さんなら、義輝様も危険ですね」
「義輝公が犬塚を討ったとも考えられるが、義輝公が仲間を簡単に殺すような方なら、別の意味で危険だな。
 義輝公は生前、目障りな三好長慶を暗殺しようとしたという。俺達にだってどう出るか知れたもんじゃねえぞ」
「それは物騒ですねえ。やはり、事前の調査が必要ですか。でも、城下と森、どちらを調査すべきでしょうか」
「うむ。ここは両方を調べるべきだろう。とはいえ、会見まで時間は限られている。よって……」
「二手に分かれるか」
芹沢と沖田の会話を、五ェ門が締めた。一行を二手に分ける。それが、彼等三人の共通する思惑だった。
もっとも、一致しているのは別れるという所までなのだが……

「え?分かれるの?このまま一緒に行動した方がいいんじゃあ……」
ヒナギクの言う通り、人数は彼等の最大の利点であり、それをみすみす手放すのは賢い手とは言えないだろう。
発表された死者の多さ、そして、その中に、彼等がこの島で会った剣士の殆どが含まれているかもしれない事を考えると、
ここは予想以上に過酷な所であり、暢気に酒盛りをしていた彼等が無事だったのは大人数の賜物としか思えない。
「でもほら、情報収集は大切じゃないですか。二手に分かれれば、へノ壱とほノ伍を両方調べられますし」
「それって、入ったら死ぬとかいう所?調べるつもりなの!?」
「無論。あんな陳腐な脅し文句を使ってまで俺達を近付けまいとしてるんだ。何かあるとしか考えられまい」
「ええと、誰かがあの辺に隠れてやり過ごそうとしてて、その人を炙り出す為、って事もあるんじゃ……」
「それなら、もっと沢山の場所を立ち入り禁止にしないと、隠れる場所は他にも一杯ありますよ。
 と言うか、真面目に闘ってない人を動かすのが目的なら、まずこの酒蔵を指定する筈じゃないですか」
暗に自分を非難する沖田を睨む芹沢だが、口では沖田に同調する。
「第一、炙り出しが目的にしては猶予期間が長すぎるわ。あの三箇所に、奴等が隠したい物があるのは疑いない」
「でも、森の方は、今から行って調査なんてしてたら、すぐ辰の刻になっちゃうんじゃ……」
「あはは、何言ってるんですか、ヒナギクさん。辰の刻を過ぎてから行かないと意味ないじゃないですか」
無謀な事を言う新撰組二人に閉口するヒナギク。
腕に自信があるからこその強気なのだろうが、主催者がどんな超常の力を持っているかも不明なのに。
「だが、敵はどんな手を使って来るかわからぬ。毒や爆薬を使ってくる可能性もある。
 そんな中に、桂殿や細谷殿を連れて行く訳にはいくまい」
五ェ門がヒナギクに同調。
「何、わしの事なら気遣いは無用じゃ。如何なる危険があろうとも、覚悟は出来ておる」
細谷は健気に言うが、微妙に呂律が回っていないその言葉は、むしろ五ェ門の意見の説得力を増す役目を果たした。
そして、五ェ門は本丸に斬り込む。
「危険が予想される森には、付き合いが長くいざという時に連携が取れる芹沢殿、沖田殿に行って貰いたい。
 その間に、拙者は細谷殿、桂殿と城下やほノ伍を調べておこう」
「待て待て。怪我人と年寄りと小娘では、敵と会っても太刀打ちできまい。沖田君はそちらに残して行こう。
 その代わり、娘は道案内として、俺と共に森まで行ってもらうがな」
「いやいや、芹沢さんには義輝公との会見が待ってるんですから、森なんかに行って刻限に遅れたら大変ですよ。
 地形を知ってる僕と桂さんが森を調べてきますから、芹沢さん達は城下の方をお願いします。」
「何を言う、義輝公と面識がある君等が揃っていなくなっては、会見に支障が出るのは同じであろうが。
 そんなに森を調べたくば、石川君と爺を付けてやるから、娘は置いて行け」
「ええと……」
ここに来て、ヒナギクにも何となく状況が読めて来た。
そう、芹沢・沖田・五ェ門の三人は、ヒナギクを巡って互いに牽制し合っていたのだ。
と言っても、艶のある話ではない。何せ、芹沢と沖田の狙いは、ヒナギクを斬る事にあるのだから。
42すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 17:18:47 ID:a0XztqTP
三人がヒナギクに注目した直接のきっかけは、彼女が明かりの下で掲げた無限刃。
細谷が看破したように、あの刀には人を斬った痕がある。それも、数時間以内の物だろう、新しい血脂の痕が。
無論、最初に無限刃を支給されたという新見や、無限刃の本来の持ち主が斬ったとも考えられる。
しかし、新見は無論、無限刃の使い込まれた様子から考えて、その元の持ち主もかなり経験を積んだ剣客。
彼等が、形状のせいで手入れのしにくい刃の部分は別として、他の場所に付いた脂を放置するとは思えない。
だが、人斬りの経験がないと主張し、実際に経験豊かとは見えないヒナギクならば……
そして、ヒナギクは新見錦と会ったと主張しており、その新見の名が死者として発表された。
これらの事実から、彼等三人が共通の想像に辿り着いたのは必然だろう。

もっとも、実際には彼等の予想は外れており、無限刃に付いた脂は新見のものではない。
それは、無限刃がこの島に呼ばれる直前、志々雄真実の最期の戦いで吸った、緋村・斉藤・四乃森の脂。
主催が脂を拭わなかったのは、志々雄が脂を武器として使っていた故だが、そんな奇抜な使用法は、彼等の想像の外。
結果として彼等は誤解からヒナギクを疑い、その解決策についての思惑の違いから、牽制し合う事になったのだ。
芹沢にしてみれば、ヒナギクが新見を討ったのならば、その仇は己が討つのが当然。
加えて、ヒナギクを殺す前に、新見の死の状況を聞き出したいと、芹沢は考えていた。
だが、いきなり拷問となると五ェ門や細谷が反対するだろうし、正面から聞き質して逃げられては元も子もない。
よって、芹沢はヒナギクに警戒される事なく二人きりになり、逃げられない状況で問い質そうとしている訳だ。
沖田の場合は、新見の仇を討つという考えもあるが、それよりヒナギクへの興味が先に立っている。
伊良子清玄との小競り合いの時から彼女に魅かれていた沖田だが、新見を斃したのならば、その腕は予想以上。
新見殺害の疑いを口実にヒナギクの腕を試してみたい、というのが、沖田の正直な気持ちであろう。
しかし、ヒナギクが新見を殺したと明らかになれば、道理として新見の盟友たる芹沢に彼女を譲らざるを得まい。
故に、沖田は新見の件には触れず、何とかヒナギクと二人きりになる機会を伺っていた。
この二人に比べると石川五ェ門の考えはずっと穏便なもの。
彼もヒナギクが新見を殺した可能性は感じているが、だとしても、何か事情があったと思っている。
芹沢や沖田を見ると、新撰組には問題ある人物が多いようだし、何よりこの可憐な少女が故なく人を殺すとは思えない。
だから、五ェ門は、どうにか芹沢と沖田を引き離した上で、ヒナギクと話をしようと画策していた。

思惑の異なる三人の話し合いは堂々巡りを続け、自分が争いの原因らしいと悟ったヒナギクは口を出しにくい。
そんな中、残った細谷源太夫が、漸く酔いを醒まして発言した。
「二手に分かれると言うが、広い森の中を二、三人で調べるのは無理があるのではないか?
 それよりも、ここは皆で城下の方を調べるべきであろう」
細谷が急に真っ当な事を言い出したのに皆が呆気に取られた隙に、更に言葉を重ねて行く。
「仮に、森を調べて犬塚とやらの死体が見付かったとしても、それで何がわかるという訳ではあるまい。
 それより、義輝公が何か仕掛けて来るとすれば、会見の場所である城の辺りを調べるのが得策じゃろう」
酔っ払いの老人から打って変わって、歴戦の用心棒としての顔を見せ始める細谷。
とはいえ、三人も二手に分かれるという基本線を簡単に曲げる訳にはいかない。
「だが、へノ壱には間違いなく主催者が隠そうとしている何かがあるのだぞ。それを……」
「その件についても考えたのじゃが、へノ壱からほノ伍、ろノ弐というのは、主催者の囚人護送の道筋ではないかと思う。
 捕えた者をまずは森の中に集め、舟で川を遡って途中一休みしつつ、村址にしつらえた牢へと運ぶ。どうじゃ?」
主催者に死者として発表された者は実は死んでおらず、主催者に囚われている……
新見の件から話を逸らす必要があるので反論しなかったが、芹沢や沖田はこの説をあまり信じていない。
だが、こうして聞くと、細谷の話は意外と筋が通っているようだ。
森や城下の南部にいた剣士が高確率で「死んで」いる事も、主催がへノ壱の近辺に居た者を捕えたとすると辻褄が合う。
「じゃから、今から森に向かっても、舟で逃げられてはどうにもならぬ。それより、ほノ伍で待ち伏せてはどうじゃ?」
結論ありきで隙の多い論理を組み立てていた三人に比べると、細谷の意見は理に適っているように思える。
芹沢達三人は、戦略の立て直しを余儀なくされていた。
43すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 17:22:02 ID:a0XztqTP
酒蔵で気楽な論戦に興じている男女とは対照的に、緋村剣心と神谷薫は、危難に見舞われていた。
剣心の傷は決して浅くはなく、なるべく早く手当てをする必要があるだろう。
自身の殺人、座波や久慈が死んだという言葉……薫はそれらを敢えて意識から外し、剣心の手当てを最優先に考える。
しかし、城下ではあちこちで強烈な剣気のぶつかり合いが感じられ、今の二人が巻き込まれればひとたまりもあるまい。
薫は何とかして剣心を安全な場所に連れて行こうと酒蔵を目指し、城下の出口にある橋の上で東郷重位と出会う。
御前試合に関わった、己を含めた全ての者を示現の太刀にて撫で斬りにせんとの凄惨な覚悟を固めた重位。
その気迫は、未熟な薫にすら、自分達が死神に行き会ってしまった事を悟らせるのに十分な程であった。
「示現流東郷重位、参る!」「待って、剣心は重傷でとても戦える状態じゃないの。だから……」
重位はちらりと剣心を見やり、薫の言葉が事実らしい事を確かめる。
先程、徳川の一味らしき者が死者の名を告げていたのが事実だとすれば、やはり奴等は重位達を監視しているようだ。
不忠者、狂人の汚名を受ける覚悟を固めた重位だが、怪我人を斬って臆病者と思われるのは好ましくない。
「良かろう。お主が逃げずに闘えば、その男には手を出さぬと約束しよう」
それを聞き、薫は悲壮な表情で剣心の腰から刀を抜き取り、鞘ごと構えた。

示現流と神谷活心流。この二つの流派の対決となれば、基本的には神谷活心流が有利である。
神谷活心流は明治になってから創始された新しい流派であり、その技術体系は、重位にとって完全に異質なもの。
対して、神谷活心流の創始者である神谷越路郎は、示現流やその分派の使い手が活躍した幕末の動乱を生き抜き、
最終的には抜刀隊の一員として西南戦争に参加し、最期は薩摩人の手に掛かって戦死した剣客。
神谷活心流にとって示現流はいわば因縁の相手であり、越路郎の娘である薫も示現流については一定の知識を持つ。
よって、重位に薫の出方が予測できなかったのに対し、薫は重位の攻撃を予測し頭の中で対応策を組み立てていた。
しかし、流派間の相性など、使い手の腕が段違いであれば全くの無意味。
突風を合図に重位は動き出し、薫の知覚よりも速くその間合いに侵入すると、必殺の一撃を……

その時、突風によって運ばれて来た一枚の紙が重位の視界を遮り、そこに書かれた「東郷重位」の文字を向ける。
飛来したのは、深夜に沖田総司が佐々木小次郎の燕返しをかわす為に使った人別帖。
あの後、一晩中あちこちを彷徨った人別帖は、本来の持ち主である沖田総司を追うようにここまで来ていたのだ。
更に、飛来したのは人別帖だけではなく、薫に支給され、武田赤音に捨てられた扇子もまた戻って来る。
この話の冒頭で沖田総司から桂ヒナギクに贈られた扇子だが、直後の放送で沖田もヒナギクも扇子の事など忘れ去った。
打ち捨てられて風に拾われ、奇しくも人別帖と全く同一の瞬間に、こちらは神谷薫の視界を覆う。
だが、その動きは元の持ち主である薫に害を為すものではない。
視界に扇子が飛び込んで来た事で薫は咄嗟に構えを変え、結果、重位の剣の軌跡に己の刀を割り込ませる形となった。
この広い島で、二人の剣士が激突しようとした瞬間に異物に割り込まれる確率がどのくらいあるのか。
そんな稀な現象が二つ一度に起きたとなると、偶然や幸運と言った言葉で片付けて良いものではなかろう。
しかし、「満」の心を取り戻した重位にとって、幸運は無論、それが運命や呪いであろうとも、同じ事。
放たれた雲燿の剣は、薫との間を遮る全ての物をまとめて切り裂き、薫を吹き飛ばす。

「くっ!」
だが、薫は無事。重位の剣は、打刀を砕いた所で止まり、薫の身体を切り裂くには到らなかった。
と言っても、重位の剣を止めたのは、人別帖でも扇子でも剣でもない。止めたのは、傷付いた一人の男。
神谷薫を斬るべく放たれた重位の剣気が、気絶していた剣心を目覚めさせたのだ。
その視線を受けるだけで、剣心が負傷込みでも薫より遥かに手強い剣客である事を重位は察知する。
その剣心に、初太刀を振り切った後の隙を見せる事を恐れた重位が刀を中途で止め、結果、神谷薫は救われた。
44すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 17:24:11 ID:a0XztqTP
どうにか立ち上がった剣心に、重位は打刀を投げ渡す。
「無手の者を討ったとなれば、薩摩隼人の名折れ。それを使えい」
刀を抜く剣心だが、それでも圧倒的に不利な事に変わりはない。
維新志士であった剣心は、示現流系列の剣を使う剣士を多く見知っていた。
だが、目の前にいる男は、剣心の知る示現流剣士の中の最強の者達と同等か、それ以上の使い手と推察できる。
そんな相手に、手負いの状態で挑むのは如何にも不利。しかし、今の剣心は決して負ける訳にはいかないのだ。
「剣心……」
「大丈夫だ。薫殿はここにいてくれ」
剣心の眼を見た薫ははっとする。 鵜堂刃衛や斉藤一と闘った時と同じ人斬りの目。
自分を守る為に剣心は人斬りに戻ろうとしているのか。そんな事は、薫には耐えられない。
そしてそもそも、人斬りに戻った所で、示現流の開祖と同じ名を名乗るあの恐るべき剣客に勝てるのか。
全身を朱に染めた姿から人を斬ったばかりだと思われるのに、人斬り特有の暗さを全く感じさせないこの化け物に。

「はあっ」
薫の傍を離れた剣心は、いきなり大きく跳躍する。
示現流の最大の武器は蜻蛉の構えからの超神速の振り下ろし。負傷した身ではそれに正面から対抗するのはまず不可能。
跳躍によって相手の上を取り、振り下ろしを封じようというのが剣心の思惑だったのだが……
剣心の跳躍を見た瞬間、重位もそれを追って跳躍し、二人の身体は共に上昇しつつ接近して行く。
タイ捨流の跳躍術をも学んだ重位だが、さすがに跳躍力では剣心の方に一日の長がある。
だが、その方がむしろ重位にとっては好都合。
初速で劣っていたお蔭で、一拍遅れて跳んだ重位も、剣心とほぼ同時に跳躍の頂点に達した。
その瞬間、二人は互いに向けて渾身の一撃を放ち、二人の剣が空中で噛み合う。

位置関係においては僅かに上を占める剣心が有利だが、腕力においては重位が数段優っている。
空中、しかも上下の動きが静止した状態では、重位の剣の方が、威力において打ち勝つのは当然。
重位は剣心を叩き落すと、自身も落下しつつ蜻蛉の構えを取り、雲燿の太刀にてとどめを狙う。
剣心とてこれであっさり墜落するまで弱ってはいないが、このままでは着地しても体勢が崩れ、重位の追撃を防ぐのは困難。
そう悟った剣心は、落下の勢いを殺そうとせず、逆に利用して一気に橋に迫り、峰に返した刀を思い切り叩き付けた。
重位の剣勢によって生まれた速度と、剣心の剣腕が合わさった一撃は、小さな橋の中央部を崩落させるのに十二分。
剣心は反動で崩落に巻き込まれようとしている薫の元に跳ぶと抱きかかえ、落下する橋の破片を足場に上流方向に跳躍。
対する重位にはそこまでの軽業の心得はないし、そもそも彼が降りて来た時には、既に橋の中央は崩落済み。
為す術なく川に落ち、下流に流されて行った。
45すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 17:25:49 ID:a0XztqTP
「剣心、大丈夫?」
「何の、これくらい、大した事……くっ……ござらぬよ」
どうにか川から這い上がった剣心と薫だが、あれだけの激しい働きが傷に良い筈もない。
早くきちんとした手当てをしたいところだが、下流に戻ってまた重位に会えば、今度は逃げられないだろう。
このまま上流の方に進めばやませみに戻れるが、そこまでの一里足らずの道程が今の彼等には如何にも遠い。
それでも、彼等は歩き続ける。歩き続けるしかなかった。

【へノ肆 川沿い/一日目/朝】

【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】全身に打撲裂傷、肩に重傷、疲労大
【装備】打刀
【所持品】なし
【思考】基本:この殺し合いを止め、東京へ帰る。
一:傷の手当てをする。
二:志士雄真実と対峙しているかもしれない仲間と合流する。
三:三合目陶物師はいずれ倒す。
【備考】
※京都編終了後からの参加です。
※三合目陶物師の存在に危険を感じましたが名前を知りません。

【神谷薫@るろうに剣心】
【状態】打撲(軽症) 
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:死合を止める。主催者に対する怒り。
     一:安全な場所で剣心を手当てする。
     二:人は殺さない。
【備考】
   ※京都編終了後、人誅編以前からの参戦です。
   ※人別帖は確認しました。

「逃げられたか」
下流に流された重位が岸に上がった時、既に剣心と薫の姿は見えなくなっていた。
だが、あの様子ならば、強いて追わずとも、この島で長くは生き延びられまい。
そして何より、城下町に、重位が示現流の奥義を尽して戦うべき剣客が犇いている事が感じ取れる。
手負いと未熟者の事などあっさりと忘れ去った重位は、心地良い殺気を感じつつ、城下に踏み込んだ。

【とノ参 城下町の入り口/一日目/朝】

【東郷重位@史実】
【状態】:健康、『満』の心
【装備】:村雨丸@八犬伝、居合い刀(銘は不明)
【所持品】:なし
【思考】:この兵法勝負で優勝し、薩摩の武威を示す
   1:次の相手を斬る。
   2:薩摩の剣を盗んだ不遜極まる少年(武田赤音)を殺害する。
   3:殺害前に何処の流派の何者かを是非確かめておきたい。
46すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 17:28:24 ID:a0XztqTP
「芹沢さんと細谷さんは町の外をお願いしますね。城下町には居酒屋とかあるでしょうし」
「何だ、そこの爺はともかく、俺には大事な会見の前に酒を控えるくらいの自制心はあるぞ。
 第一、義輝公との会見は城で行うのだから、どのみち城下には入らざるを得まいが」
「もちろん、午の刻が近付いたら町に来てもらいますが、約束よりあまり早く行き過ぎても威厳がないじゃないですか。
 僕達が城に罠がないかとかを調べておきますから、それまでは町の外で待ってて下さいよ」
「……よかろう。しかし、沖田君一人で城下を調べるのは荷が重かろう。石川君にも同行してもらうぞ。
 天下の大阪城にまで忍び込む事になる大盗の技は、城下のような所でこそ活かせるであろうからな」
「……承った」
芹沢達は結局、細谷の提言を容れ、全員でほノ伍と城下町を調査する事に同意していた。
とはいえ、二手に分かれる事を諦めた訳ではない。
都合の良い事に、ほノ伍は、川によって東西に二分されている。
そこで、川の両側を同時に調べる為に、一行を二つに分けようという方向に話を持って行った訳だ。
この場合、二手に分かれても、それを隔てるのは川一筋だけであり、いざとすれば合流するのは難しくなかろう。
ヒナギクも細谷もこれには特に反対せず、二班に分かれる事は決定した。
その後、どんな組み合わせで分かれるかを議論しながら城下の入り口までやって来た彼等だが……

そこで彼等が目にしたのは、中央部分が無惨にも崩落した橋と放置された行李。
「そんな、さっき私達が渡った時は何ともなってなかったのに」
「うむ。この橋が壊されてから、殆ど時間は経っておらぬようだ」
「それにしては、これをした人の姿が見えませんね。ここを通ったなら、ついでに酒蔵に寄ってくれれば良かったのに」
「察するに、俺達に恐れをなしたんだろう。代わりにこんな貧相な橋を壊して、力を誇示したつもりか?」
「おお、行李に食料が残っておるぞ。誰が捨てて行ったか知らぬが、折角だから貰っておこう」
思い思いの感想を述べる一同。
あと少し早くここに来ていれば死闘になっていたとは知らず、気楽な調子を崩さずに発言し続ける。
そして、沖田と五ェ門は、何事もなかったかのように崩落部分を飛び越え、城下に入る。
「ヒナギクさんも来ませんか?見晴らしの良い郊外よりも、建物の多い城下の調査の方が人数が要りますし」
「何を言う。地図を見れば、ほノ伍の中では城下よりも外の部分が広い。人数が必要なのはこちらの方だ」
またもヒナギクを巡って争い始める芹沢と沖田。
今までなら困った顔で黙っているヒナギクだが、ここはあっさりと決着をつける。
「見晴らしが良いって事は、敵に見付かり易いって事でもありますからね。郊外の方に戦力が必要でしょう。
 そういう訳で、沖田さん、悪いけど、私は芹沢さん達と一緒に行くから」
橋が崩落したと言っても、それは中央の部分のみ。
ヒナギクの身のこなしを見れば、これくらい簡単に跳び越える身体能力があるのは明らか。
それに、仮に落ちた所で、カナヅチでもなければどうという事はない程度の高さである。
まさかヒナギクが橋を越えるのを拒んだ原因がその数メートルにもならない高さにあるとは考え付かず、
沖田と五ェ門は、勝ち誇った顔でヒナギクと細谷を従えて行く芹沢を見送るしかなかった。
47すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 17:30:07 ID:a0XztqTP
「行っちゃいましたねえ、ヒナギクさん」
向こう岸を歩く芹沢達を見ながら沖田が呟く。
「大丈夫。きっと、城下には他にも腕の立つ人がいますって」
沖田が言って来るが、それはヒナギクを守ろうとしていた五ェ門にとっては何の慰めにもならない。
彼女に対して芹沢が無茶な行動に出ないよう、細谷がうまくやってくれると良いのだが。
そして、ヒナギクの代わりに同行する事になった沖田総司。
芹沢と違って人当たりは柔らかいが、危険さという点では大差ないように思える。
今は仲間ではあるが、何か口実さえあれば軽い気持ちで殺し合いを挑んで来かねない。
そして、悪い事に、この沖田が本物の沖田総司なら、石川五ェ門はその孫の仇と言っても良いのだ。
まあ、それが露顕する事はまずあるまいが、それでも五ェ門は暗い思いを抱えつつ、上流へ向かうのだった。

【とノ肆 城下町/一日目/朝】

【沖田総司@史実】
【状態】打撲数ヶ所
【装備】木刀
【所持品】支給品一式(人別帖なし)
【思考】基本:過去や現在や未来の剣豪たちとの戦いを楽しむ
一:芹沢を正午に城に行かせて義輝と会わせる。一応、罠がないか事前に調べる。
二:芹沢、ヒナギクと全力で勝負する状況をつくりたい。
【備考】
※参戦時期は伊東甲子太郎加入後から死ぬ前のどこかです
※桂ヒナギクの言葉を概ね信用し、必ずしも死者が蘇ったわけではないことを理解しました。
※石川五ェ門を石川五右衛門の若かりし頃と思っています。

【石川五ェ門@ルパン三世】
【状態】腹部に重傷
【装備】打刀(刃こぼれして殆ど切れません)
【所持品】支給品一式 母屋に置いてあります。
【思考】
基本:主催者を倒し、その企てを打ち砕く。
一:桂ヒナギクを守る。
二:斬鉄剣を取り戻す。
三:芹沢・沖田を若干警戒
四:ご先祖様と勘違いされるとは…まあ致し方ないか。
【備考】
※ヒナギクの推測を信用し、主催者は人智を越えた力を持つ、何者かと予想しました。
※石川五右衛門と勘違いされていますが、今のところ特に誤解を解く気はありません。
48すれ違い続ける剣士達 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 17:31:41 ID:a0XztqTP
一方、上手くヒナギクと同行する事に成功した芹沢は、ひとまずは成り行きに満足していた。
余計な爺もついて来たが、いざとなれば、細谷には行李にこっそり忍ばせた酒でもやって黙らせればいい。
それよりも厄介なのは川向こうの二人。沖田は無論、橋を越える時の動きを見るに、五ェ門もかなり出来るようだ。
二人とも歩きながらちらちらとこちらを伺っているし、こんな小さな川、いざとなればすぐに渡って来るだろう。
何とか奴等の視界から外れる状況を作り、ヒナギクを尋問しなくては。
(見てろよ、新見。この娘がお前を殺ったんなら、必ず仇は取ってやるからな)
芹沢は殺気を漏らさないように苦心しつつ、心中で昏い焔を燃やしていた。

【とノ肆 田んぼ/一日目/朝】

【芹沢鴨@史実】
【状態】:健康
【装備】:近藤の贋虎徹、丈の足りない着流し
【所持品】:支給品一式 、酒
【思考】
基本:やりたいようにやる。 主催者は気に食わない。
一:機会を見付けて桂ヒナギクに新見の事を吐かせる。
二:昼になったら沖田たちと城へ向かい、足利義輝に会う。どうするかその後決める。
三:沖田、五ェ門を少し警戒。
四:会った時の態度次第だが、目ぼしい得物が手に入った後、虎徹は近藤に返す。土方は警戒。
【備考】
※暗殺される直前の晩から参戦です。
※タイムスリップに関する桂ヒナギクの言葉を概ね信用しました。
※石川五ェ門を石川五右衛門の若かりし頃と思っています。

【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
【状態】健康
【装備】無限刃@るろうに剣心
【所持品】支給品一式
【思考】基本:殺し合いに否定的な人を集めて脱出。
一:新見錦が主催者に捕えられているのなら救出する。
二:足利義輝たちと合流する。
三:芹沢鴨や沖田総司が馬鹿な事をしないよう見張る。
四:柳生十兵衛を探して、柳生宗矩の事を聞きたい
五:自分の得物である木刀正宗を探す。
※自分たちが何らかの力で、様々な時代から連れてこられたことを推測しました。
※石川五ェ門を石川五右衛門の若かりし頃と思っていますが、もしかして…。

【細谷源太夫@用心棒日月抄】
【状態】健康 若干の酔い
【装備】打刀
【所持品】支給品一式×3
【思考】
基本:勇敢に戦って死ぬ。
一:ほノ伍を調査し、主催者の手の者を待ち伏せる。
二:五ェ門に借りを返す。
【備考】
※参戦時期は凶刃開始直前です。
※桂ヒナギクに、自分達が異なる時代から集められたらしい事を聞きました。ちゃんと理解できたかは不明です。
49 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/04(日) 17:32:23 ID:a0XztqTP
投下終了です。
50創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 18:03:12 ID:jDMqoDmJ
投下乙!
曲者揃い同士の腹の探りあいが面白い。
その中でも、やはり鴨は難物だなぁ。
同一人物複数参加の謎を、襲名という至極真っ当な解で説明したり、
八犬士にはモチーフがいることを示したりする高い知性と、
禁止エリアに敢えて踏み込まんとする大胆さ、
そして、ヒナギクの拷問、殺害も辞さない凶暴さと、
どこかシリアルキラーを彷彿とさせる人間性だ。
51創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 20:31:45 ID:cGIVJ+8j
投下乙
神谷(え)夫妻&ヒナギク大ピンチでござるの巻き
しかし陰と陽、知性と野性を兼ね備えた鴨の不気味さが光ってるなぁ
52創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 01:26:10 ID:nUnB0yTq
投下乙です

ヒナちゃんピーンチ!
新見、ややこしい場面ばっかり残しやがって…
芹沢怖いのぅ
一緒にいる細谷にちょっと期待

東郷も相変わらず揺るぎないのがいいね
同作コンビはどうなるやら
53創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 21:26:54 ID:DBLsImbq
投下乙です

何とか窮地を脱した剣心一行、去れど危機はいまだにさらず
一方芹沢ご一行にも暗雲が
鴨の暗躍と総司の暴走からヒナギク達は逃れ得るのか

改めて投下乙です
54創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 21:55:57 ID:qAgDZEsv
投下乙です
待ってました
55創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 16:30:35 ID:kIUOIQuU
投下乙です
56 ◆UoMwSrb28k :2010/07/06(火) 21:05:01 ID:XoM4loJS
久しぶりに拝見したところ、盛り上がっているようでなによりです。
便乗するようで恐縮ですが、

伊東甲子太郎、服部武雄、川添珠姫、外薗綸花、小野忠明、坂本龍馬、斉藤一

予約いたしたく存じます。
57創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 21:17:27 ID:UM1mv6Gf
よう来たのう・・・・
こちらから乙しようと思っておったところじゃ


書き手達の続々の帰還にそれがし武者震いがとまらんわ
58創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 21:31:10 ID:bbjJnEJS
おお、書き手が帰還してくれて嬉しいぞw
59創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 21:48:27 ID:Bl+G6T9H
おお、さらなる予約来たー!
待ってまーす
60創る名無しに見る名無し:2010/07/07(水) 02:49:41 ID:35C7dDm8
高台寺党2人と龍馬の前に、密偵だった斉藤登場か!
これだけでも十分wktk展開なのに、そこにマーダー乱入確定の忠明とは。
今回も展開が読めなくて楽しみ過ぎる。
61創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 14:39:19 ID:CWiE8wuv
>>88
向こうはたまたま多くを書ける書き手が2人ほどトップエースとして残ってくれたから成功したに過ぎない
存続させたいなら大部分を把握してる書き手が数人いなくちゃいけないと言うことを考えると
・書き手投票にして決める
・有名所をメインにしてみんなで投票する
のどちらかだと思うんだ
62創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 14:40:21 ID:CWiE8wuv
激しく誤爆ったぜ!
すまん!
63創る名無しに見る名無し:2010/07/12(月) 14:29:26 ID:zwcyGapD

◆F0cKheEiqE氏、
富士原なえか 代理投下します

――ゆりかごの歌を かなりやがうたうよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ

ゆりかごの上に びわの実がゆれるよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ……




――バサッ
――バサッ

と、撒いた土が地に広がる音が響く。
事実、一人の少女が、目前の穴に向かって、
傍らの盛り土より両手で掬い取った土を撒いている。

穴の底にあるのは、一匹の蝦蟇の亡骸である。
厳密に言えば、蝦蟇では無く、蝦蟇の様な体躯と容貌をした怪剣士、
屈木頑乃助の亡骸であった。

土を撒く、剣道着すがたの少女は、富士原なえか。
今からちょうど1時間半近く前、この屈木頑乃助を殺した少女である。


自身が頑乃助を殺した事実を認識した時、
なえかがとった行動は、己の殺した男の墓を作る事だった。

それは一種の逃避行動だった。

殆どの現代人にとって、殺人という行為は、
強烈なストレスとトラウマを伴う行為である。

そして、その心的ダメージは、殺しの方法がより原始的で、
殺した対象との距離が近ければ近い程、大きく殺人者に襲いかかる。

さるアメリカ陸軍の士官にして心理学者が、
前線で戦う多くの歴戦の兵士たちにインタヴューを重ねた所、
素手、あるいはナイフ、銃剣で相手を殺した記憶は、脳裏にこびり付いて取れる事が無いのだと言う。

その心理学者はその著書に、
今でも、夢に自分が刺殺した敵兵の末期の表情と、断末魔の叫びが現れて、
汗まみれになりながら絶叫と共に眼がさめる時があるのだと、
20人以上は殺しているであろう、さる海兵隊の男が涙ながらに語る様子を詳細に記している。

心身ともにタフな歴戦の兵士ですらこれなのだ。
心も体も、あくまで平和な現代日本の一女子高生に過ぎない富士原なえかに取って、
殺人の代償は、あらゆる意味であまりにも大きい。
だから、彼女は一先ず、その事実より目を逸らした。
墓を作ると言う行動に没頭する事で、脳裏より、殺人の事実を押し遣ろうとしたのだ。

彼女は元々、考えるより先に体が動くタイプの人間であり、
迷ったらまず行動、といった行動的な人間でもあったから、
この選択は至って自然であろう。

頑乃助の持っていた鉄鞘をスコップ代わりに大地とをほじくり返し、
手や鞘で石を除けて、時には両の掌で大地を抉る。

彼女が掘っているのは森の地面だ。
スコップの様な掘削器具を持たない上での作業である。
雑草の根と、木々の枝、数多の砂利、石ころが彼女の作業を阻む。

しかし、なえかは黙々と、休みなく穴を掘り続ける。
石や砂利で、指の皮は破れ、所々裂け、両の掌は余す所なく泥まみれだ。
ぶつけたのか、右手の人差指の爪が割れ、左手に薬指の爪が取れかかっている。
しかし彼女の動きは止まらない。

彼女の潜在意識は知っているからだ。
もし体を一度でも止めてしまえば、
自分は殺人の事実と向き合わねばならない。
そうなれば、自分の心も体も、一体どうなってしまうのか、まるで解らないと…

しかし何事にも終わりはある。
屈木頑乃助が死んでおよそ2時間後、頑乃助は地中の人となっていた。

うず高く盛り上がった塚を茫然と眺めるなえかの耳に、突如、

――ゴォーン、ゴォーン…
――ドン、ドン、ドン、ドン…

鐘の音と、太鼓の音が入り込んでくる。
ハッと辺りを見渡すなえかの脳内に、今度は不思議な声が響いてくる。

――御前試合参加者の皆様、急な呼び出しに快く応じ、
――奥義を尽して下さりし事、まずは御礼申し上げます…

なえかは、しばし静かに言葉に耳を傾けていたが、
彼女が、決して聞きたくなかった名前が、死者の名として読み上げられた。

――清河八郎殿

瞬間、なえかの体を支えていた緊張の糸が、
プツッと音を立てて切れた。

しばし、フラフラとたたら踏んだなえかは、
不意に、ジッと己の両の掌を見た。

泥で汚れた、傷だらけで、ベロベロになった両手がある。
しかし、彼女の眼にはそうは映らない。

そこには、真っ赤な血にまみれた、己の両の掌があったのだ。

「ハハ…アハハ…」

乾いた声で、虚ろな笑いをあげると、
なえかは、フウフラと力なく傍らのブナの木にもたれかかり、
そのままズルズルと座り込んでしまう。

「そっか…」
「清河さん…死んじゃったんだ…」

――何だかかもう…
――疲れちゃったな…

休みなく墓を掘り続けた事による疲労が、
どっと一気に彼女の体にのしかかり、
急激な睡魔が、心身ともに憔悴しきった彼女の意識に靄を掛け、
そして…




こんな夢を見た


なえかは剣道着姿で、弟・幸助を背におぶって、
左右の青田に挟まれた、細い畦道を歩いていた。
時刻は恐らくは夜。辺り一面が闇だが、なえかの歩きは迷いが無く、かつ軽い。
何処か遠くで時折、鷺の啼く声が、細く闇より伸びて、彼女の耳朶を打っていた。

背に負うた幸助は、年6つ程と思われる。
顔、胴、手、足が悉くふっくらと丸く、中々に可愛らしい少年で、
彼女の背で、小さな鼾を立てながら寝ているものと思われた。
なえかの口から、子守唄が紡がれる。

――ゆりかごの歌を かなりやがうたうよ
――ねんねこ ねんねこ ねんねこよ

中々に綺麗な歌声である。
寝顔の幸助が、僅かに微笑んだ様に見える。

一見、微笑ましい情景だが、よく考えれば奇怪な状況だ。
幸助は現在、彼女の一学年下の高校生である。
だが、なえかに背負われた少年は、その容貌こそたしかに富士原なえかの弟幸助であるが、
17のなえかに、6つの幸助の組み合わせは、どう考えてもその年齢が合わない。

しかし、なえかはこの現状を不審に思う様子は無い。
むしろ…

――ゆりかごの上に びわの実がゆれるよ
――ねんねこ ねんねこ ねんねこよ

と、背後の弟をあやさんと、子守唄を続けている。

――ゆりかごのつなを 木ねずみが……
「……ん」
「あれ?起きちゃった?」

そこまで歌った所で、幸助は眼を覚ました。
彼は右の拳で薄目を擦りながら、首を廻し、寝ぼけ眼で辺りを見渡した後、

「ねえさん……あっちへ行こうよ」
と、何処かを指さしながらそう言った。
「え?あっち?」
指差した方を向けば森が見えた。
闇の中に、青々と茂った立木の群れが屹立していた。

――ゾクッ
「―――ッ!?」

何故か、森を見た瞬間、
正体の解らない嫌な予感が、なえかの体を走った。
行ってはならない、あの森に行ってはならない…そう、体のどこかで誰かが囁く。
しかし一方で、いや行くのだ、お前は行かねばならぬ、そう反対の言葉を囁く誰かがいる。

「ねえさん…ひょっとして怖いのかい?」

相反する事を囁く胸中の二つの声に気を取られていたなえかは、
そんな弟の言葉にはっと意識を思考の渦より現実に返した。

「あの森、随分暗い物だしね。お化けがでるかもしれない。怖いのも無理は無い」
「バ、バカ言うんじゃないわよ!そんな物、怖いわけないでしょ!」

少し顔を赤らめながら、弟に反論したなえかは、
胸中のざわめきを意識の外に押しやって、森へと向けて足を向ける。

なえかは気づいていない。
6つになるかならないかと言う弟の物言いが、まるで大人のそれであるという不自然さに。

ぐにゃぐにゃとした畦道を少し行くと、道の分岐が見えた。
石の道しるべが立っていて、そこには、「右、呂仁」「左、帆山」と聞いた事の無い地名が書かれていた。
文字は赤い顔料で書かれていて、その赤は、まるで血の様な不吉な赤だった。

「左だよ」
幸助が言った。

「え、何で知ってるの?」
「前に、来た事があるじゃないか。ねえさんも、一緒だったろう」
「…そうだっけ?」
「あの時も、ちょうどこんな晩だったじゃないか」
「…ゴメン…覚えてない」
「ハハハ、ホントは良く知ってるくせに、とぼけちゃって」

――まあ、忘れてたとしても、すぐに思い出すよ…
そんな弟の言葉に、なえかは、また漠然とした不安を覚えた。
何か忘れている様な気がする。それもとても重要な事を…
そんな不安を余所に、不思議と足は軽々と森の入り口まで進んでいた。
眼前にぽっかりと空いた林の入り口に、少しばかり身震いした。
何処かでまた、鷺が啼いた。

「ねえさん…重いかい?」
「え?」
幸助が出し抜けに聞いて来た。

「別に…重くはないけど」
「今に重くなるよ」
幸助の言葉に、三度(みたび)、嫌な予感を感じた。
何かを、確かに忘れている。
こんな感じの晩に、こんな感じの森の中で…
一体自分は、何を忘れていると言うのか。

幸助の導きに従って、グネグネと曲がった森の獣道を歩く。
森の外からは綺麗に立っていると見えた木々は、
その実、バロック絵画の様にぐにゃぐにゃと曲がり、黒く茂った葉と、
鬱々とした藪は、確かな質量と圧力を以てなえかを圧する。
藪と葉で見えぬ、道の外の森から、ホーホーと、梟が啼く声が聞こえる。

バサバサッと、葉と羽を鳴らして、頭上を何かが飛び去った。
ギャーっと、聞いた事も無い不気味な声が森に響く。

頭上に目を遣ったなえかが、目線を正面に戻せば、
そこで、奇妙な物を見た。

獣道の真ん中に、でんと居座った一匹の大きな蝦蟇である。
ゲコゲコと、喉を膨らませながら、気持ちの悪い声を出している。

「・・・・」

なえかが近づくと、蝦蟇はぴょんと横に飛んで、藪の中に消えた。
なえかは酷く不快な気分に襲われた。飛び去り際に見えた蝦蟇の横顔は、確かに嗤っていた。
通常、蝦蟇が人を嗤う筈も無い。しかしなえかには解った。確かにあの蝦蟇は、自分を嗤っていた…

「そこを右だよ」

不安、苛立ち、焦燥…
あらゆる感情をない交ぜににした上で霞を掛けた様な、
模糊として、ただひたすらに不安定で不可解な心境の中、
彼女は弟の先導に従って森を歩く。
その先に、この心の霧を晴らす答えがある。
なえかは何故かそう、確信を足を進める。
きっと、解ってしまえばなんて無い事に違いない。そうに違いない。
楽観的に、そう自分を励まして、するする足を進める。
行ってはならぬ、と、心のどこかで、誰かが囁くの、意中より押し遣りながら…

「そこを右」

四度目の岐路を曲がって、しばらく行った所で、
なえかは、またも予期せぬ光景に出くわした。
しかしその予期せぬ光景を見るや否や、心の霧が少し晴れるのを彼女は感じた。

「ねえさ〜ん」
「おかえりなさい」
「ククク…さあ御主人様!家に帰るぞ!」

見慣れた3人分の人影を見た。
なえかの弟、富士原幸助…それも世の理に則った、たしかに年15の彼である。
やさしく、そして愛すべき女メイド、フブキ。
いけすかない、しかしここぞと言う時頼りになるメイドガイ、コガラシ。

「みんな…!」
なえかは、愛すべき「家族」に駆け寄ろうとして、あわてて足をとめた。

「なに…コレ…」

彼女の足元に、出現したのか、最初からあったのか…
深い深い、底の覗えない幅の広い亀裂が、なえかの足元にはある。
これでは、三人の所へ行けないではないか…

「行けないよ」

背後の幸助がそう言った。

「え…?」
「アンタは行けないよ」

いや、コレは本当に幸助なのだろうか…
その声は、おそろしく低く、ゴロゴロとした濁声で、それは正しく蝦蟇の鳴く様な…
「左を見ろ」

なえかは左を見た。

「奥だ。奥へ行け」

体は自然と動いた。気が付けば、森を分け行っていた。
――行ってはいけない
嫌な予感は悪寒となって背骨を駆け抜け、
胸中の誰かは必死に自分を留めようと絶叫している。
しかし、体はまるで誰かが動かすように動いた。

三間ほど行くと、一本の杉が立っていた。

「そこだ、そこだ。ちょうどその杉の根の処だ」

根元を見た。何のためか、酷く黒ずんでいる。

「ねえさん、その杉の根の処だったね」
「うん、たしかにそうね」

なえかは、思わず答えてしまった。

「ちょうど二時間前だな」
――ああ、確かに2時間前だ。

「御前がおれを殺してから、今でちょうど2時間だ」

何時の間に幼き幸助より変じたか、なえかの背後にしがみ付いた、
無様に太った体に短い脚、青黒く、両眼が酷く離れ、鼻が潰れ、
今や嗤いの形を描いている大きく突き出た口をした、一匹の蝦蟇剣士がそう言った。

「…ああ」
――どうして忘れていたのか
――どうして忘れようとしていたのか
――どうして逃げようとしていたのか
――どうして目を背けようとしたのか
――私は…

「私は、人殺しだったんだなぁ」

自分が、人殺しであったと気が付いた時、
なえかの背中にしがみ付いた蝦蟇の体が、急に、
まるで石地蔵のように重くなった…


朝焼けが、木の根元に凭れかかって眠る一人の少女を照らす。
身につけている稽古着の胸元がはだけ、豊かな双丘が、その白くやらやかな艶をつるりと曝している。
しかし一方で、その両手は無残にも無数の傷と、一面の泥で汚れていた。

そんな彼女の寝顔から、
――ツゥーッ
と、一筋の涙が零れた。

少女のの懐中の霊珠は、彼女に如何なる天啓も与えてはくれない。
全ては少女が向き合うべきものと…



――ゆりかごのつなを 木ねずみがゆするよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ

ゆりかごの夢に 黄色の月がかかるよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ


【はノ弐 森の中/一日目/早朝】

【富士原なえか@仮面のメイドガイ】
【状態】足に打撲、両の掌に軽傷、睡眠中(悪夢)、強い罪悪感
【装備】壺切御剣@史実
【所持品】支給品一式、「信」の霊珠
【思考】
基本:殺し合いはしない。
一:私は……
投下終了


夢十夜シリーズが丁度「第三夜」だったので思い付いた。
ある意味一発ネタかもしれない

遅れて申し訳ない

代理投下終了でござんす
75創る名無しに見る名無し:2010/07/12(月) 16:58:12 ID:I8ZEH0/e
投下乙です

うわぁ、これは下手したらやばいなぁ
76 ◆UoMwSrb28k :2010/07/12(月) 21:57:34 ID:1lGP6uid
投下&代理投下乙でございます。
遅れましてすみませんが、こちらは明晩投下予定です。
77創る名無しに見る名無し:2010/07/13(火) 22:46:07 ID:eq4yLcSp
投下乙です
これは仕方ないか。ただの少女にはな…
夢での描写とか真に迫ってたわw
78 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 02:27:57 ID:0fixPJze
お待たせしました。
伊東甲子太郎、服部武雄、川添珠姫、外薗綸花、小野忠明、坂本龍馬、斉藤一

投下します。
79人の道と剣の道 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 02:32:30 ID:0fixPJze
ほの仁 城から北西の森のはずれ

伊東甲子太郎、川添珠姫、外薗綸花、服部武雄の四人は、森のはずれで、休息をとっていた。
双方に戸惑いはあったが、ひとまず新見を弔うということだけは共通の理解を得た。
埋葬するには道具がないので、着衣を整え、手を組ませ、木の根方に横たわらせる。
墓標代わりに新見の刀を突き立てた。それぞれに刀は持っていたし、珠姫は真剣を持とうとはしなかった。
これらの作業はほとんどは御陵衛士の二人が行った。力仕事ということもあったが、女性二人にとって、新見の死はそれぞれに衝撃を与えた。
二人とも気丈に振舞ってはいるが、その表情は固いままである。

人が斬られて死ぬこと。
この場所では、人が斬られて死ぬことが日常であること。
そして、人が斬られて死ぬことが日常と思っている人がいること。

頭では理解していたつもりだったが、服部、そして伊東ですら、ある意味冷静であったことが、その現実を心身にしみこませる結果となった。
そんな二人を見て、伊東はやや場所を移動することにした。
死体の前では話もしづらいだろう。森のはずれ沿いをやや歩くと、倒れた木があったので、そこを椅子代わりに座り、休息がてら服部の方から事情の説明が始まったのだった。
伊東の方からも、自分たちをはじめ、死んだはずの者がここにいることが話された。

「…と、いうことは、新見錦と名乗ったあの者も、本物であったということですか?」
「おそらくな。」
「だとしたら俺は…。」
「服部君の話から察するに、服部君のことを近藤一派と思い込んで、殺気を放ったのだろう。
お互い様と言いたいところだが、死者の言い分を聞くわけにもいかぬ。」

そういって、伊東は未だ固い表情の二人に向き直った。
「珠姫さん、綸花さん、あなた方にも思うところはあろうが、服部君はここに来る前からの私の同志。
この殺し合いを止めるため、行動を共にしたい。よいだろうか。」
「ええ、わかります…わかってます。」

綸花がぎこちなく口を開き、珠姫も無言のままうなずく。
伊東もそれ以上答えを求めようとせず、今度は服部に向き直った。

「そういうわけだ服部君。近藤さんたちと会ったときどうするかは、その時考える。
無闇に斬りかかかることは許さん。それでいいな?」
「…」
「承服しかねる…といったところか?」
「いえ、俺は伊東さんや坂本さんを守りたい。それだけです。伊東さんがそういわれるのなら従います。」
「わかった。今はそれでいい。」

無理もないか。服部の表情から迷いが晴れぬことを察しながらも、伊東はそれ以上問わなかった。
80人の道と剣の道2 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 02:35:16 ID:0fixPJze
と、その時、鐘と太鼓の音が鳴り響き、どこからともなく声が聞こえてきた。
二十三名の死者が読み上げられる中、新見錦の名を四者それぞれの表情できくこととなったが、一方で坂本龍馬の名は呼ばれることはなかった。

「龍馬殿は無事のようですね。」
「よかった…」
「あれから随分経っている。ずっと斬りあっているわけもないでしょうし、あの場は逃げおおせたのでしょう。
すぐさま探したいところですが、こちらも夜通し歩いていたことですし、少し休みましょうか。
お二人も何か腹に入れておいたほうがいい。食べられる時に食べておかないと、いざというときに動けなくなる。」

伊東の言葉に、服部は無言でうなずくと、行李を開け始めた。
先程死体を処理したばかりという酷な状況であるが、だからこそ休息と食事をとり、頭をきりかえるべきという伊東の意図は、二人にも理解できた。
綸花がやや固くはあったが、笑顔で応える。

「わかりました。珠姫さんも、水分くらいはとりましょう。」
「大丈夫です。食べます。」

こうして四人はやや早めの、だがこの島で目を覚ましてからはかなり遅めとなる食事をとることにしたのだ。
そして食事の間、ようやくではあるが、事態を把握しようと情報交換が行われ、珠姫と綸花が21世紀から来たということが確認できた。

これが思いのほか気分転換となった。

「それは一体?」
「パンです。…ええと、めりけん製の饅頭…かな?これはアンパンなので、小豆が入っています。」
「ふむ。透き通った袋も不思議なものですな。そっちのは?」
「コンビーフといって…綸花さんどう訳しましょう?」
「干し肉…としかいえないんじゃないかな。おいしいですよ。開けてみますね。」
「ふ〜む。鉄の入物の中にこのように入っているとは。」

珠姫と綸花には、なぜかパンや缶詰が支給されていた。おにぎりも、伊東たちは麦入りの握り飯であるのに対し、珠姫たちはコンビニにあるようなおにぎりである。
それぞれの生きた時代にあわせた品々のようだ。おかげで時代を越えた文化交流も行われ、わずかながら緊張をほぐすことができたのだった。

だが、いざ現状把握となると、はたと止まってしまう。

珠姫も綸花も、タイムスリップだの、未来人にさらわれただのと、仮説はある程度立てられるが、脱出方法はわからない。
主催者を倒すか、交渉する方法もあるが、結局何者なのだろうか。白州にいた人は、江戸時代の装束と物言いであった。

「口論していた人、十兵衛って言われてましたね。」
「隻眼で、あの格好で、十兵衛って言ったら、やっぱり柳生十兵衛ですよね。」
「その親父殿って言ったら、柳生但馬守宗矩ですね。」
「ほう、あれだけのやりとりでそこまでわかるとは。百年後の世から来たとはいえ、お二人とも聡明であられる。」

伊東が賞賛の言葉をかけるが、二人ともやや気まずい表情になって顔を見合わせた。
自分たちが歴史的知識ではなく、漫画や時代劇で得た知識に基づいて話していることに気づいたからである。
だが、人物帖にも名があることだし、おそらくこの推測に間違いないだろう。
では本当に、柳生宗矩、あるいはその時代の将軍が主催者なのだろうか。
それとも将軍など関係なく、未来人とか宇宙人とか黒幕がいるのだろうか。
そもそも、一体どうやって接触すればいいのだろうか。
現代人であればあるほど、SFや漫画に詳しければ詳しいほど、そして考えれば考えるほど。
主催者は超のつく科学力か、魔術・妖術の類を持っているとしか考えられない。
事態の把握もおぼつかないし、ましてや脱出の方法など、なかなか見出せそうになかった。
81人の道と剣の道3 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 02:38:57 ID:0fixPJze
自然と人物帖に目が移り、他に策がありそうな人を探す作業となった。
四人の知識を併せると、かなりの数の人物が名の知れた剣豪であることがわかった。
特に伊東や服部が生きた時代からは、多数の人物が名を連ねている。
主義主張が違う者も多いが、交渉次第で協力してくれるかもしれない。しかし…

「名は知れていても、妖術や機械…からくりに詳しそうな人っていないですね。当然といえば当然ですが。」
「龍馬さんはどうなんですか?何でも知っているというイメージ…印象があるんですけど。」
「さあ。いろいろなことを勉強していたようですが、妖術やからくりの話はしたことがないので、どれほど知っているかはわかりませんね。」

話しながらも、珠姫と綸花は思わず機械とかイメージとか江戸時代にはない言葉を言ってしまう自分たちに歯がゆさを感じたが、伊東は特に気にも留めていないようだった。
龍馬の話ぶりもああだったし、慣れているのかもしれない。

「と、すると、やっぱり十兵衛さんに会って、柳生宗矩と会える手段を一緒に考えるのが一番でしょうか?」
「むしろこの中で知らない人と接触した方がいいかもしれませんね。私たちたちよりさらに未来から来ている可能性もあります。」
「人を探して交渉していくのはかまいませんが、危険人物もいると思うので、注意しなくてはなりませんね。
今のところ鵜堂刃衛が死んだということは、塚原卜伝ですか。あと、名はわかりませんが、病持ちの老人ですね。」
「さっき、上泉伊勢守殿と会った。」
話の輪からはずれていた服部が、ぶっきらぼうに口をはさんだ。一同の視線がそちらに向く。
82人の道と剣の道4 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 02:39:50 ID:0fixPJze
「上泉伊勢守といえば、新陰流の?」
「その時は騙りかとも思ったが、あの腕は間違いなく本物だろう。
近藤と土方を殺すと言ったら、無手でいいようにあしらわれた。
そして敵を殺す以外に友を救う方法を考えろと…。結局俺は新見殿を斬ってしまったがな。」
「…。」
「あの爺さんなら、逃げ出す方法はわからなくとも、人を生かすためには力になってくれるやもしれん。
正直、一度負けた身としてはもう会いたくないが。」
「塚原卜伝も上泉信綱も、剣聖とまで呼ばれて私たちの時代でも知れ渡っている人なのに、随分と違うんですね。」
「他にも流派創設者や道場主の人たちは健在のようですね。やっぱり強いのかな。話がわかる方ならいいんですが…」
「この中では斎藤弥九郎殿と白井亨殿が江戸でも高名だった。人物も優れていたときく。探してみる価値はあるだろう。」

三人の話をききながら、伊東がわずかに目を細めた。
さきほどから服部の目に迷いが見えるのは、新見を斬ってしまったこともあるだろうが、上泉信綱とのやりとりの中で、言葉以上の何かを諭されたようだ。
何か進むべき道筋を求めているようにも見える。女性二人も何かを感じたのか、服部に対する警戒感を少しずつ解こうとしている。
自らは、国の行く末に関する考えを指し示しことはできたが、ここでは何の意味もない。
彼らに、この戦場で進むべき道を指し示すことはできるだろうか。
考え込む伊東を尻目に、三人の会話は流派の話に及んでいた。

「江戸では三つの大きな道場があって、位は桃井、技は千葉、力は斎藤と呼ばれていた。弥九郎殿がいて周作殿や春蔵殿がいないのは不可解だが…」
「でも皆さんも相当な腕前なんでしょう?」
「そうだ。俺はまだまだ未熟だが、坂本さんは目録をとられたし、伊東さんは伊東道場の道場主を務められたのだ。」

少し元気を取り戻し、誇らしげにいう服部に、伊東は苦笑した。
「道場をたたんだ道場主が兵法勝負に選ばれるとは、皮肉なものですがね。」
「それを言ったら、私なんてただの剣道部員…そう、免許ももらってない弟子です。」

やや和みかけていたところだったが、珠姫が思い出したようにつぶやき、うつむいた。
さきほども龍馬を探しながら思案していたが、多くの名の知れた剣豪の中、どうして自身がこんなところに放り込まれてしまったのか、いくら考えてもわからない。
そんな珠姫を見て、綸花が励ますように言った。

「私も剣道部ですよ。家の方は父が剣道道場の経営を始めちゃって、私が凰爪流という流派の後継者ってことになってるんだけど…。」
「凰爪流?…きかぬ流派だが…。」
「寛永年間に興されたっていうことですけど、全国に広まってるわけじゃないです…。」

結局珠姫と同様、少し恥ずかしそうに答えてうつむく。
綸花の方は、免許皆伝といえば免許皆伝だが、それでも先刻は奥義を放ったにもかかわらず、受け止められた。
人殺しをしなかったことに安堵しつつも、自分の剣は歴史上の一流の剣士には通用しないのではないか、と少し不安にも感じている。
再び不安そうな表情を浮かべた二人に伊東が声をかけようとしたその時、ただならぬ殺気が四人を包み込んだ。

「女二人に優男二人か。このような場所で呑気なことだ。」
83人の道と剣の道5 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 02:44:41 ID:0fixPJze


声をかけた男、小野忠明は、まさに獲物を求めてさ迷う鬼と化していた。
仏生寺弥助との戦闘の後、川からあがると、城へ向かって歩を進め、ここにたどり着いたのだ。
途中、目立たぬ場所で衣服を脱いでしぼり、水気を切りはしたが、火をおこして温まったりはしなかった。
そんなことをできる状況ではないのはもちろんのこと、今の忠明の身体は、温める必要がないほど昂ぶっていた。
ほんの少し、すれ違いがなければ、途中多くの剣客と刃を交えたかもしれない。
しかし、忠明の通る道には、丁寧に寝かされた老人、無惨にも両手首は離れ、縦に両断された女、頚動脈を噛み千切られた男、心の臓をひとつきにされた若者
など、激戦の跡を伺わせる痕跡のみであった。
当初は城に入るつもりであったが、剣気の残滓を求めて歩き回っていたところ、和やかに談笑している四人の男女と出会ったのである。
ここが通常の街道であれば、舌打ちのひとつもして捨て置くところであっただろう。
しかしここは戦場である。場違いな光景に、忠明は憤慨すると同時に、疑念もわきあがっていた。
ここに来て最初に、恐ろしい化物に出会った。夢想剣で倒した(と思い込んでいる)が、他にも人外の者がいることは十分にありうる。
特に女二人の方は、見たこともない装束である。
さらに男の方も、一方は顔立ちの整った優男。もう一方は実際のところは威丈夫だが、その所作はいかにも軟弱に見える。
彼奴らは人を化かす、狐狸精の類ではないかと考えたのだ。

「皆さん、少し下がっていてください。私がお相手します。」

伊東も一目見て察した。この男は話し合いが通じる者ではない。
まず、格好からして、半首、手甲を身につけている。明らかにここを戦場とみなしているようだ。
そしてその動作。まだ構えてはいなかったが、木刀を右手に持ち、殺気とも狂気ともとれる、禍々しい雰囲気を醸し出している。
油断なく刀の柄に手をかけ、それでもまずは言葉を発したのは、伊東という男の性分であったろう。

「始めまして。私は伊東甲子太郎と申します。殺しあうつもりはありません。少しお話を伺いたいのですが。」

その名乗りに、忠明は予想外の反応を示した。

「イトウ…だと?おぬし、一刀流の縁者か?」
「?…ええ。確かに私は一刀流の一派、北辰一刀流を修めましたが…」

言い終わらぬうちに、忠明は伊東を急襲した。
予想はしていても、ここまで劇的な反応をされると、伊東も反応しきれるものではない。
即座に抜刀するが、構えが不十分なままだったために受け止めきれず、肩口を強かに打ちつけられる。
伊東の左肩には自身の刃峰が食い込み、右肩には木刀・正宗が食い込む。右肩はわずかに服が裂けた。
84人の道と剣の道6 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 02:45:30 ID:0fixPJze
「――ッッ!!」

木刀にもかかわらず、真剣のような切れ味と頑丈さに、伊東は驚愕した。
鍔迫り合い…というよりは、一方的な押し相撲で押し込まれたが、不意に力が抜け、一旦距離が離れる。
横合いから服部が飛び込んできたため、ひとまず忠明が後退したのだ。

「伊東さん!大丈夫ですか!?」
「ええなんとか。」
「あの木刀、普通のものとは違うみたいです。気をつけて。」

超常現象には慣れている綸花が前に出てささやく。木刀・正宗がこの男の力の一因であることは見抜いたが、あくまで一因のようだ。
この男そのものからもただならぬ力を感じることができる。
本来であれば油断なく身構えなくてはならないところだが、ここへ来て立て続けに剣鬼たちと対峙している伊東は変に冷静になってしまい、ややうんざりとした口調でつぶやいた。

「まったく、天下一を争える剣豪が集っているようですが、皆さん意外と礼儀を知らないものですね。
それでも先程の方は名乗りはしたものですが。」

その言葉に、忠明がわずかに反応する。
イトウという名と、一刀流の縁者ときいて、感情が高ぶっていることもあり、怒りのままに飛びかかったのだが、
天下一を争える剣豪という言葉にプライドをくすぐられたのだ。
そこで、先刻化物――佐々木小次郎へむかってしたのと同様に名乗りを上げる。

「フン、ならば名乗ってやろう。俺は上総の住人にして伊藤一刀斎が一番弟子、
そして公儀の武芸師範を務める男、日下開山、小野次郎右衛門忠明!
俺の知らぬところで一刀流を騙るとは無礼千万。さては貴様ら、妖怪変化の類だな!?
ここで叩き斬ってくれる!!」

その名乗りに、伊東も先程話していた人物帖と記憶をたぐりよせ、得心する。

「なるほど、小野派一刀流開祖の次郎右衛門忠明殿ですか。誤解されても無理はありませんね。
私は分派の弟子で、イトウといっても字が異なりますし、一刀斎殿やあなたと縁を連ねる者ではありません。
あなたと敵対するつもりもありません。」

伊東は忠明の表情を見ながら説明していたが、ひとつの結論に達した。

「…と、いっても、刀を納めてくれそうにないですね。」
「当たり前だ!我が流派に分派などない!一刀流を騙る痴れ者めが!俺の目はごまかせんぞ!!」

その言葉をきいて、伊東は説得を諦めた。自分でも理解するのに時間がかかったのだ。
相手は感情が高ぶっているようで、到底理解してもらえないだろうし、理解してもらえたとしても、あらためて襲い掛かってくる可能性が高い。
厳密には、小野忠明自身は存命時、伊藤一刀斎より後継者とされ、将軍家に召抱えられたに過ぎない。
小野派一刀流という流派も子の忠常以降が称したものであるし、ましてや分派の北辰一刀流といわれても、全く意味がわかるものではなかった。
85人の道と剣の道7 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 02:47:29 ID:0fixPJze
「剣術の開祖の人、やっぱり凶暴な人が多いんですね。」
「自分を強く見せて勝ち続けないと、食べていけないからですよ。
宮本武蔵とかも色々な伝説があるけど、実は仕官するために脚色してたってきいたことがあります。」
「おい、お前たち…。」

服部が、こちらも変に冷静な感想を言いながら前に出た珠姫と綸花を見て、驚いて止めようとする。
先程まで死体に怯え、服部に不審の目を向け、また自分の立場に不安を持っていたはずの二人である。
こんなに積極的に前に出るとは意外であった。
まず振り返った綸花が答える。

「ごめんなさい伊東さん、服部さん。でも私、もう人を置いて逃げ出すなんて嫌なんです。」
「私もです。足手まといかもしれないけど、戦わせてください。」

伊東も二人を止めようとして、その表情を見て考え直した。
剣によって迷いを振り切ろうとしているのは、いつの時代の剣士も同じか。
既に二人とも戦闘にまきこまれ、自らも刀を振るっている。
度重なる剣豪との遭遇、眼前での新見の死、そして情報交換によって、この受け入れ難い現実をそれぞれなりに受け止めつつあるようだ。
先刻は助けてもらったことだし、今後生き残るためにも、この戦場に慣れておかなくてはならない。
ここからどう育っていくかは、彼女たち次第だろう。
だが、いや、だからこそ、重要かつ危険な部分は、伊東か服部が引き受けなくてはならない。

「お二人は気を引くだけで結構です。一対一の試合をするつもりで構えていてください。隙をついて、我々が止めます。服部君、いいですね?」
「承知!」

服部が短く答える。
服部も、迷いがふっきれたかといったら嘘になる。
しかし死んだはずの同志、伊東と会うことができ、また心中わだかまりはあろうが、話をきくこともできた。
この三人を守ること。それだけは今迷うことなき使命である。

四人はじりじりと忠明を囲むように移動した。
忠明の方もざっと獲物を見定め、一番の手練れであろう伊東を正面に構えつつ、血気盛んそうな服部の方にも油断なく気を配る。
しかし一番手はそのどちらでもなかった。

「いきます!」

忠明から見て右側に陣取った積極的な反応に、伊東はやや驚いてそちらを見たが、止める間もなく綸花が前に出た。
伊東は知らなかったが、綸花は人間以外を相手にした実戦には慣れているし、先程も人に向けて奥義を放っている。
人を斬るのは怖い。しかし目を背けていては、生き残ることもできない。
それに…

「ハアッ!」

気合一閃、綸花は居合いの構えから剣を抜いた。凰爪流奥義、七つ胴おとしである。
先刻の老人は、剣気と、かまいたちに刃を併せるという神業でこの術をしのぎきったが、今度は木刀。
直撃すれば刀ごと輪切りになるはずであった。

「ウオオォォッ!」

しかし忠明は、その技を受けなかった。大きく後ろに跳び、かまいたちをかわしたのだ。
初めて技を見たにもかかわらず、常人ではなしえない判断と身のこなし。しかしそれは、綸花の想定内であった。

「やっぱり!」

相手は幽霊や化物とは違う、一流の剣士である。受けるか避けるかされるのは想定内であり、それゆえにためらいなく奥義を放つことができた。
避けてくれたことに内心ほっとしつつ、刃を逆さにして、大きく飛びのいた忠明に踏み込んだ。
しかしそこで、綸花の思惑ははずれてしまう。
86人の道と剣の道8 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 02:48:19 ID:0fixPJze
「ヤアアァァッ!!」
「甘いわ!」

体勢を崩したと思っていた忠明は、踏み込む直前には体勢を立て直していた。
ただの打ち合いであれば、技量は忠明の方が上である。綸花の打ち込みはガッチリと防がれた。

「オラァ!」
「アッ!」

鍔迫り合いの最中だというのに忠明は左手を離すと、綸花の髪の毛をひっぱり間合いをとって、右手一本で大きくなぎ払った。
腕力の差をわかった上とはいえ、おそるべき豪腕である。
首を狙ったであろうその一撃はややはずれたものの、側頭部をしたたかに打ち付けられ、綸花の身体は大きく吹き飛ぶ。
正宗は名刀とはいえ木刀である。片手で力の込め方も不十分な一撃だったこともあり、斬られはしなかった。
だが、綸花の側頭部には大きな痣ができ、意識を失って倒れこんだ。

「ハアッ!」

その様子を見ても、伊東はいちいち動揺したりはしなかった。
仮にも新撰組に所属していた者である。集団戦闘において、せっかくつくってくれた隙を逃すほど間抜けではない。
この場で最優先すべきは、まずこの男を無力化すること。だが…

「ダアッ!」
「ガッ!」

避けるどころか忠明は距離を詰め、空いた左手を伊藤の柄に沿える。刀を奪い取りはできなかったが、伊東の斬撃は力を殺され、受け流される。
戦国時代の剣術は特に、柔術を含めた総合格闘術である。相手の腕をとる、足を払う、組討・体術に類する技は多岐に渡る。
伊東もそれは心得ていたはずであったが、その経験と技術は、忠明の方に一日の長があった。
忠明も無理な体勢から間合いを詰めたのでバランスを崩すが、すれ違いざまに刀の柄を頭部に打ちつける。
もろに後頭部を殴られた伊東は、その衝撃に昏倒した。

「伊東さん!」

間髪いれずに服部が踏み込む。この中では唯一、殺意をもった踏み込みであった。
伊東は殺さず止めると言っていたが、なりふりかまっている状況ではない。しかし…

「まだまだぁ!」

服部としては迷いのない刺突を繰り出したつもりだった。
しかしバランスを崩したはずの忠明が、既に正眼に構えている。
その身のこなしに驚愕しながら、服部はとっさに刀身を横にし、相手の剣を受ける構えになっていた。
躊躇ったわけではない。このまま突っ込んだら犬死となることを直感が告げ、防御にまわったのだ
傍目には奇妙に見えたかもしれないが、先程の新見との立合いで身につけた、迷いの中の刹那の護身術といってよい。
それほどまでに忠明の動きが早かった。

「グウッ!」

受けきったはずの唐竹割りを受けきれず、受けた刀と肘が大きく下がる。結果として、木刀・正宗の剣先が服部の脳天をしたたかに打ちつけた。
頭蓋が割れるには至らなかったが、額からは血が流れる。

「打ち込んでおいて防ぐだけとは、無様なものだな青二才!!」
「ガハッ!」

力が弱まったところで、忠明は服部の腹に前蹴りを入れて間合いをとった。
もし立っていたらそのまま袈裟斬りにするところであったが、脳震盪を起こしていたらしく、服部はその場に膝から崩れ落ちた。
87人の道と剣の道9 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 02:49:45 ID:0fixPJze
「フン!他愛のない。」

忠明は鼻で笑ったが、伊東も服部も、そして綸花も、決して剣術で劣っているわけではない。
それぞれが逡巡や迷いを抱えていることもあるが、それを差し引いても、今の忠明の動きは尋常なものではなかった。
全てが見える。いつも以上に動ける。
木刀・正宗を一流の剣鬼が手にしたとき、恐るべき力を発揮している。
そして激しい動きの中で、もう一人が、怯むことなく立っていることも、もちろん把握している。
忠明は倒した三人には目もくれず、すぐに珠姫に向き直った。

「女、お前独りだ。」
「そうですね。」

珠姫は、手が出せなかったのは、足がすくんでしまったわけではない。
礼に始まり礼に終わる、一対一の剣道を学んできた珠姫は、この中で最も集団戦は苦手であった。
伊東を卜伝から助けた際も、伊東が転倒したところからだった。
今自分がつっこんでも、足手まといになるだけ。
相手がどんな手練れであろうと、一対一で対峙した方が、まだ勝機があると考えたのだ。
その前に三人が斬殺されてしまわないかということだけが心配だったが、どうやら命には別状がなさそうだった。
ほっとすると、むしろ腹立たしさがこみあげてきた。
度重なる荒々しい実戦を見て、恐怖を通り越して憤りを感じてきたのだ。
残念ながら剣豪が正義の味方でないことは、卜伝との戦闘で身をもって知った。
先ほどの新見と服部の戦いでは、新見が「逃げろ」といったのも、服部の主張ではまやかしだという。
本当のところはわからないが、確かに逃げろと言いいながらすぐ服部にむかって反撃し、身を伏せたり振り向きざまに斬ったり突いたりと、泥臭い戦いを目の当たりにした。

戦場の殺し合いは、必ずしも向かい合ってするものではない。
野蛮で、生々しく、手足、口まで使う。なんでもありだ。
そこに善悪も主義主張も何もあったものではない。

さらにこの小野忠明という人物、それらを割り引いても、洗練されているように見えない。
悪人だとしても、もう少し戦い方があるはずなのに。
そう。失ってはならないものを失っている。剣の道に対する心だ。

――自分の流儀でやろう。
88人の道と剣の道10 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 07:24:16 ID:0fixPJze
そう考えた珠姫は、やや距離が離れていることもあったので、一旦構えをとき、木刀を脇に持った。
そして忠明にむかって一礼する。
さすがに間合いを詰めて蹲踞まではできるような空気ではなかったので、改めて中段に構えなおす。
形式的でいて無駄のない、その一連の動作に、思わず忠明も問いかけた。

「…おぬし、流派は?」
「剣道。」
「剣道?それが流派の名か?」
「はい。」

短い応えに、忠明が首を傾げる。「剣道」という言葉は、忠明の時代にはまだない。
だが、剣の道そのものを意味していることくらいはわかる。
自らの名を冠するわけでもなく、技の特徴を示すわけでもないその流派は、一体どんなものなのか。

「参ります。」

忠明の思考を中断するように珠姫が言葉を発したので、忠明も正眼に構えた。

「キヤアアァァァァッ!!」
「オオオォォォッッ!!」

気合のかけ声とともに、珠姫から剣気が発せられる。
忠明もつられるかのようにかけ声をあげた。
心地よい剣気だ。その意気やよし。しかし力量はまだ未熟。
倒れている者たちの方が、まだ戦場の機微をわかっていたというもの。
かかってきたところを一刀のもとに…。

「胴ッッ!!」
「グウッ!?」

見事な胴がきまり、忠明が顔をしかめる。
痛みはあるが、骨や臓腑への影響はない。しかし、自らは触れることすらかなわず、胴をきめられてしまった。

――なぜだ!?俺には見えていたはず!

ならばこちらから、と、小手を狙う。しかし…

「面ンッ!!」
「ガッ!?」

今度は珠姫の小手抜き片手面が決まった。半首をつけていたこともあり、昏倒することはなかったが、またしても触れることすらできなかった。

――馬鹿な!一度ならず二度までも!?

脳天と脇腹に残る痛みに歯を食いしばりながら、忠明は構えなおした。

「真剣なら二度死んでますね。」

珠姫は依然中段の構えを崩さず、つぶやくように言った。
89人の道と剣の道11 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 07:25:26 ID:0fixPJze


今、珠姫が忠明を翻弄できている理由は、三つある。

ひとつは忠明が、いつの間にか珠姫のペースにのせられていたことである。
珠姫の礼を見て対峙した影響か、忠明は先程までのように服や髪をつかんでいない。柄で殴り飛ばしたり、蹴ったりもしていない。
無意識のうちに、戦場でのなりふりかまわぬ戦いから、道場で弟子に対して試合をするかのように、己に枷をつけていたのだった。

ふたつめは、意図したわけではないが、最初に胴を狙ったことである。戦国時代の兵法は、一般的に胴に弱いと言われている。
戦場では胴丸をきりつけても効果がないため、面、小手と併せ、鎧の隙間を狙う組討が中心であった。
当然、胴に対する攻撃も防御も、形としては未熟である。
忠明が生きた当時は、戦場への剣術から道場の剣術へと変遷する過渡期であるが、忠明自身戦場経験が豊富であるが故に、隙ができたことは否めない。

みっつめは、先程までと打って変わって、木刀・正宗の特徴が不利に働いていることである。
新免無二斎が危惧したとおり、感情が高ぶる代わりに自身の身体能力を極限まで引き上げる木刀・正宗は、
乱戦や奇襲の中でのとっさの動きでは大いにその力を発揮できるが、心理戦も含めた一対一の試合となると、実に扱いづらい代物となる。
全てが見え、思う以上に身体が動くが故に、それを制御することに、忠明は戸惑っていた。

しかしそれでもまだ、珠姫の勝ち目は薄い。
剣道であれば、今の二回の打突で二本、試合終了だったかもしれない。
しかしここは実戦。相手が倒れるだけのダメージを与えなければならない。
一方で、もとから忠明の方が力量は勝っているし、当たれば一撃で戦闘力を奪われこと間違いない。
時間がかければかけるほど、忠明も慣れてくる。そうすると勝ち目は遠のくばかりだ。
この状況を打破するためには何かを揺るがさねばならない。揺るがせるとしたら心技体の中では、心。
幸い、今の二撃で動揺してくれている。追い討ちをかけるため、相手のプライドを利用し、それを挫く。
珠姫は静かに口を開いた。

「技量ではわたしの遥か上をいくあなたが何故これほど遅れをとるのか…
答えは私の学んだ剣道です。剣道は、全ての剣術を併せたもの、剣を振るう道を極めたものです。」

嘘である。現代剣道は、武術というよりは心身の鍛錬を目的とした、いわばスポーツである。
剣を振るう術としてはある意味最も洗練され、進化した形へと昇華していったが、人殺しの術というわけではない。
しかし、それを気づかせてはならない。そのために、精一杯の虚勢で言い放つ。

「あなたのいる場所は、我々は既に四百年前に通過していますッ!!」
「――!!」

忠明は気づいただろうか。思わず怯み、後ろへ下がってしまったことを。しかし次の瞬間、反転して怒りのままに灼熱する。

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」


隙だらけの八相の構えからの袈裟斬り。
八相の構えは現代剣道では型としてはあるものの、ほとんど使われない。動きとしては無駄が多いからである。
大きく刀を振りかざすその構えは、どちらかというと、相手を威圧するためのものだ。
しかしそれが有効なのは相手が動揺すればのこと。今の珠姫には迷いはなかった。
そして剣道が剣術に上回っていること。それは、切る動きから打ち込む動きへと変化したこと。
踏み込みの早さと無駄な動きの少なさは、一瞬ではあるが、潜在能力を引き出された剣豪の動きすら上回った。

「突きいいいぃぃぃぃぃぃっっっ!!」

室江高校の者がいれば、「アトミックファイヤーブレード」とでも言ったことだろう。
両者の剣が交錯した。
90人の道と剣の道12 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 07:26:56 ID:0fixPJze


「ムッ!?…ゲホゲホゲホ!」

忠明が我にかえったとき、目の前には森がひろがっているだけだった。
胸が疼き、激しくせき込んだが、どうにか深呼吸をする。骨が折れているようだが、肺腑には問題ないようだ。

「夢想剣…か。」

もはや忠明も驚かなかった。
渾身の突きをくらったことまでは覚えている。右胸の痛みが、何よりの証拠だ。
そこで頭が真っ白になり…今こうして立っている。
一人は倒したのだろうか。少なくとも他の三人はまだ生きていたはずだが、いなくなっている。
地面には血溜まりがあるが、抱え上げたのか、途中でなくなっていた。
今となっては彼らが妖怪であったかなどわからない。生死もわからない。
しかし忠明にとっては、もはや妖怪だろうと人間だろうと、どうでもよくなってきていた。

―――勝てる。俺は勝てる。

忠明は確信した。
とにかく四対一で勝ったのだ。それも、前回は無意識であったが、今回は最初の三人までは確実に自分の腕による大勝利である。
ただ、前回感じた満足感を得られなかったのは、この胸の痛みと、全身の疲労…そして己の未熟さを痛感したせいであろう。
勝てることはわかった。夢想剣を開眼したことも自覚した。しかし、夢想剣に至るまでの最後の立ち合いは、いささか無様であった。
あの娘の言葉…一刀流を四百年前の剣術と揶揄するとは腹立たしいことだが、明らかに技量不足と思えた相手に、
夢想剣を使うまで追い詰められたことも事実である。
妖怪でなければ異国の者か。装束も見たことがないものだったし、どこの国かはわからぬが、確かに洗練された剣術であった。
「剣道」という言葉も、全ての流派を併せたということか。ご大層な物言いだが、分からぬでもない。
言葉も通じるようだし、唐(から)かその近くで、よほど剣術に秀でた国があるのだろうか。
もし技量が互角で、あれほどの剣術を駆使する者がいたら…

「俺は負けんぞ。異国の剣にも!妖怪にも!柳生にも!!」

忠明は自らの想像した脅威を振り払うかのように叫ぶと、先刻まで四人が座っていた倒木に、正宗を打ち下ろした。
まるで斧のように、正宗は深々と食い込み、木片を散らす。負傷はしたが、その腕力はいささかも衰えてはいない。

「少し休まねばな。」

ひとしきり怒りを発散させた後、忠明はそうつぶやくと、周囲を見回した。
いかに自身の強さを確信しようとも、傷の手当はせねばならぬ。
いきなり城に入るつもりであったが、まずはどこかで手当をすべきであろう。
そういえば先ほどは捨て置いたが、多くの死体があった。
薬の入った行李などが近くに打ち捨てられていることもあろう。
はずれであっても、城下町を探れば、痛み止めがどこかにあるかもしれぬ。
もう一度深呼吸をし、わずかに顔をしかめた後、忠明はその場を去って行った。
91人の道と剣の道13 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 07:27:57 ID:0fixPJze
【ほノ仁/城下町へ向かう街道/一日目/朝】

【小野忠明@史実】
【状態】:右胸肋骨骨折 顎に打撲 疲労大 感情は少し沈静化
【装備】:木刀・正宗、半首、手甲 服は生乾き
【所持品】:なし
【思考】 :十兵衛を斬り、他の剣士も斬り、宗矩を斬る。
一:どこかで休む。
二:俺は勝てる!相手が誰だろうと、恐るるに足らず!!
三:斎藤弥九郎(名前は知らない)は必ず自らの手で殺す。
四:剣道にわずかに興味。使い手に会うようなら必ず殺す。
【備考】
※木刀・正宗の力で身体能力が上昇し、まだまだ感情が不安定です。ただし、本人はその事を自覚していません。
※夢想剣開眼を確信しましたが、自在にくり出せるものではありません。
※会場に妖怪の類もいるのではないかと考えています。
※木刀・正宗の自律行動能力は封印されています。




「行ったか…」

忠明が去った森のやや北、低木の茂みで、安堵の息を漏らす人影があった。

時はわずかに遡る。

坂本龍馬と斎藤一がその場にたどり着いたのは、まさに珠姫と忠明が相対しているところであった。
北の山付近で合流を目指しているときいた斎藤が地図を確認し、森を抜けることを提案した。
途中どこからともなくきこえてきた声に、岡田以蔵や新見錦といった知り合いの名が出たことに驚き、歩きながら人物帖を確認していたのだが、全てを見る間もなく、戦いの気配を察し、駆けつけたのだ。
二人が森を抜けたとき、珠姫が奮闘しているのが見えた。相手は手練れであるようだが、珠姫が圧倒している。

「あれは甲子太郎と一緒にいたキュートガールじゃ!やりおるのう。」
「待て。様子がおかしい。」

すぐにも駆け寄ろうとする龍馬を斎藤が押しとどめた。
お互いの距離はおよそ二十間。声をあげればきこえるかもしれないが、一対一の立ち合いで声をかけることは、時に味方に隙を生むこともある。
そして何よりも、駆け寄ろうとしたその瞬間、即ち珠姫の突きが見事に決まった瞬間、忠明の雰囲気が大きく変わったのだ。
突きが喉に当たっていれば、木刀とはいえ致命傷であったろうが、偶然なのか故意なのか、喉からははずれ、忠明の右胸を強打した。
忠明は大きく後ろに吹き飛ばされる。おそらく肋骨の骨くらいは砕かれたであろう。
忠明は体勢を立て直して構えるが、激しくせき込み、血の混じった唾を吐き出す。
肺腑にいたる重傷かどうかはわからない。しかし、刀剣を振るう際、胸部の痛みは大きく影響するだろう。
そこで珠姫は、小手を狙ったようだった。剣をおとし、戦闘力を削ぐつもりであったようだ。
それに対し、忠明の反応はやや遅れ…いや、ほとんど動いていない。下がりもしなければ、防御もしなかった。

にもかかわらず。
92人の道と剣の道14 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 07:30:03 ID:0fixPJze
次の瞬間、珠姫は額を割られ、倒れていた。

結果だけ見れば小手抜面。ただそれだけ。
だが、どこをどう動いたのか、龍馬や斎藤から見てもわからなかった。始まりと終わりしか見えてない。

忠明は斬った後も静かに構え、佇んでいる。殺気はなく、意識もないようだ。
しかし隙がない。そして何より、龍馬と斎藤の身体が、本能が、戦ってはならないと警告し続けている。

「夢想剣…」
「だろうな。」

龍馬がごくりと唾を飲み込んでつぶやき、斎藤が短く応じる。
二人とも夢想剣を見たことがあるわけではない。しかし古今東西剣術の心得がある者としては、話くらいはきいたことがある。
伊藤一刀斎のそれが有名であるが、他にも中西一刀流浅利義明が山岡鉄舟に極意を伝えたとか、千葉周作が剣術の心得のない茶坊主に一夜伝授したとか、
真偽は別にしても夢想剣に類する逸話は尽きない。
後ろかなら容易く斬れるように見える。しかし、近付けばおそらく、夢想剣の餌食となるだろう。
珠姫は、立ち合いの途中であったためそのことに気づかず、いわば夢想剣にのみこまれてしまったといってもよい。
改めて周囲を見回すと、伊東、綸花、そしてどこかで合流したのか、服部が倒れている。酷いものであった。
いずれも軽傷ではあったが、頭に一撃を受けており、すぐに起こして逃げ出せるような状況ではない。

「どうする?」
「どうするって…このままにしとくわけにはいかんき。」

相手の意識がないのなら、身を隠すことはできないだろうか。
そう判断し、忠明の意識がないことを祈りながら、手分けしてまず三人を一番近くで身を隠せそうな茂みに隠した。
行李を拾うことも忘れなかった。
その後、忠明の様子をうかがい、こわばった身体を無理やり動かして、血をぬぐいながら珠姫も運んだのは、龍馬のせめてもの意地だった。
このまま珠姫を放っておいたら、どんな惨いことをされるかわからない。腹いせに切り刻まれる可能性も十分あった。
呑気なようにも思われるが、龍馬はなんとなく察していた。
夢想剣は、襲い来る敵を斬る。それが解かれるのは、戦う必要がないと判断された時。
そのため、龍馬たちが隠れてはじめて、忠明が我に返ったのは、必然といっていいだろう。
我に返った忠明も、疲労と痛みと感情の高ぶりのせいか、注意力散漫になっており、こちらを察知はしなかった。
無論これらは龍馬の推測であり、賭けであったが、この判断に限っては、神仏は龍馬たちに味方してくれたようだった。
そして、忠明が完全に見えなくなったところで、安堵の息をついたのである。

「行ったか…」

龍馬のつぶやきに、斎藤がやや苦々しげに尋ねる。

「本当にこれでよかったのか?」
「最初に止めたがは斎藤君じゃろうが。」
「今なら斬れるかもしれん。」
「だめじゃだめじゃ。斬るのも勘弁じゃが、返り討ちになった時の後始末も御免こうむる。」
「チッ」

龍馬の返答に、斎藤が舌打ちをした。
龍馬の考え方に苛立ったわけではない。この男が人を斬るのを嫌がっていることは知っている。
「返り討ちになる」という龍馬の言葉に、反論できない自分に苛立ったのだ。
今の状態なら難なく斬れそうだが、再度夢想剣を放たれては勝ち目がないことを、歴戦の剣士は知っていた。
自分たちは冷静に状況を把握し、適確に行動した。そのはずだ。だが結局のところは…
と、その時、傍らで呻き声がきこえた。

「甲子太郎、目が覚めたか。」
「――!龍馬殿!?それに…?」
「斎藤君じゃ。ルックスはチェンジしておるがミステイクはナッシングじゃ。」
「…皆さんは無事ですか?」
「…。」
93人の道と剣の道15 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 07:31:05 ID:0fixPJze
英語混じりの軽口に戻った龍馬だったが、伊東の質問に、再び沈痛な面持ちに戻って沈黙する。
伊東も、答えを待つ前に周囲を見回して状況を察し、無言のまま首を振った。
ここに、坂本龍馬、斎藤一、伊東甲子太郎、服部武雄と、ほぼ同じ時代の、腕も立ち、知恵も回り、比較的気心の知れた者たちが四人集まったことになる。
また、21世紀育ちで、化物とも戦ったことのある外薗綸花の存在は、腕もさることながら、その知識は貴重なものといえる。
力を合わせ、策を練り、強い決意とゆるぎない志を持てば、他の剣豪たちとも、そして主催者とも、互角以上に戦える勢力となっている。
だが彼らにそんな自覚はなかった。現実はどうだろう。剣鬼たちを殺さずに止めるとなると、結局のところは…

「すまん。隠れるだけで精一杯じゃった…。」

龍馬がうなだれる。伊東の顔もさえなかった。
殺し合いを止めると宣言しておきながら、女子供にまで剣を持たせ、しかもその一人を犠牲にして、挙句に相手を止めることができないとは、なんと無様なことだろう。

「龍馬殿、斎藤君、我々は、とんでもないところに来てしまったのかもしれません。これからどうすればよいでしょうか?」

呆然とつぶやく伊東に、さすがの龍馬も、そして幕末を生き抜いた斎藤も、すぐに答えることはできなかった。


【ほノ弐/森の入口北側/一日目/朝】

【伊東甲子太郎@史実】
【状態】呆然自失 珠姫を守れなかった罪悪感 疲労大
   上半身数個所に軽度の打撲 右肩にかすり傷 後頭部にダメージ
【装備】太刀銘則重@史実
【所持品】支給品一式(食糧一食分消費)
【思考】
基本:殺し合いを止める。
一:同士を集めこの殺し合いを止める手段を思案する。次は柳生十兵衛?
二:殺し合いに乗った人物は殺さずに拘束する…が、自分の力でできるだろうか?
【備考】
※死後からの参戦です。殺された際の傷などは完治しています。
※人物帖を確認し、基本的に本物と認識しました。

94人の道と剣の道16 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 07:32:31 ID:0fixPJze
【服部武雄@史実】
【状態】脳震盪、額に傷(流血中)、腹部にダメージ、迷い、気絶中
【装備】オボロの刀@うたわれるもの
【所持品】支給品一式(食糧一食分消費)
【思考】
基本:この殺し合いの脱出
一:伊東に従う。土方歳三と近藤勇をどうするかは会った時次第
二:坂本龍馬を探し出して合流する
三:剣術を磨きなおして己の欠点を補う
四:上泉信綱に対しては複雑な感情
【備考】
※人物帖を確認し、基本的に本物と認識しました。
※まだ龍馬たちとの合流、珠姫の死を知りません。

【外薗綸花@Gift−ギフト−】
【状態】左側部頭部打撲・痣 気絶中
【装備】雷切@史実
【所持品】支給品一式(食糧一食分消費)
【思考】
基本:人は斬らない。でももし襲われたら……
一:伊東さん、珠姫さん、服部さんと共に龍馬さんを探す
二:服部への警戒は解消。しかし過去の人物たちの生死の価値観にわずかな恐怖と迷い。
三:脱出方法を探るため、柳生十兵衛と会ってみる
【備考】
※登場時期は綸花ルートでナラカを倒した後。
※人物帖を確認し、基本的に本物と認識ました。
※まだ龍馬たちとの合流、珠姫の死を知りません。
95人の道と剣の道17 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 07:35:12 ID:0fixPJze
【坂本龍馬@史実】
【状態】健康
【装備】日本刀(銘柄不明、切先が欠けている) @史実
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:殺し合いで得る天下一に興味は無い
一:状況を把握する
二:伊東、斉藤たちと同行する
三:小野忠明(まだ名前を知りません)を強く警戒。
【備考】
※登場時期は暗殺される数日前。
※人物帖はまだしっかり見ていません

【斉藤一@史実】
【状態】健康、腹部に打撲
【装備】徳川慶喜のエペ(鞘のみ)、打刀(名匠によるものだが詳細不明、鞘なし)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者を斬る
一:状況を把握する
二:小野忠明(まだ名前を知りません)を強く警戒。隙あらば斬る。
三:伊東さんと合流したが、さてどうするか…。
【備考】
※この御前試合の主催者がタイムマシンのような超科学の持ち主かもしれないと思っています。
※晩年からの参戦です。


【川添珠姫@BAMBOOBLADE(バンブーブレード) 死亡】

※珠姫の支給品(食糧一食分消費)は龍馬が回収し、四人分一緒に茂みに置いてあります。
※ほの仁の森の入口付近に、新見の死体と支給品、墓標代わりの打刀があります。
96 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 07:35:56 ID:0fixPJze
投下終了です。
97創る名無しに見る名無し:2010/07/14(水) 13:17:06 ID:tBT12Eik
投下乙です

タマちゃぁぁぁぁぁぁぁん。・゚・(ノД`)・゚・。
君はよく頑張ったよ、正直、ここまで善戦できるとは思ってなかった。
しかし、なんだかんだで忠明ツエェ……4対1で勝つとは…

だけども一方で
竜馬・服部・伊東・斎藤・綸花は現時点では
総合力では最高だと思われる対主催グループ結成!

活人剣の、殺人剣への汚名返上なるか?
今後に期待です
98創る名無しに見る名無し:2010/07/14(水) 16:48:30 ID:TS6WklXR
投下乙!
珠姫の本部的発言に吹いたwwwwwwww
それまでちゃんと原作どおりのイメージで読んでたのに、
あの発言が出た瞬間、一気にむさいオヤジの姿になったじゃないかw
しかし、忠明はネタもマジもできるいいマーダーだな。
本来の人格がヘタれると、すぐ夢想剣に頼るあたり、
何となく、ジグマールとギャランドゥの関係を彷彿とさせるがw
99 ◆UoMwSrb28k :2010/07/14(水) 20:23:29 ID:0fixPJze
すみません「斉藤」をことごとく「斎藤」にしてました。まとめの際修正願います。

>>98
くっ、そちらできましたか。
珠姫海王ネタの前座のつもりが…策に溺れました。
100創る名無しに見る名無し:2010/07/15(木) 00:38:03 ID:YtPSE3kK
投下乙です

ああ、タマちゃん…これまでよくやったわ…
しかし忠明はヘタレ臭がするのに不味いわ。強いぞ
そして集結した対主催はどうするのか?
先が気になります
101創る名無しに見る名無し:2010/07/15(木) 03:02:04 ID:hMvFxNB/
テスト
102創る名無しに見る名無し:2010/07/15(木) 19:32:43 ID:WThMaK8v
現状、対主催もだいぶ固まってきたな。

【3人以上の対主催】
伊東・服部・坂本・斎藤・凛花
十兵衛・新八・オボロ
吉宗・小兵衛・霊夢
赤石・鉄山・明楽

【2人の対主催】
義輝・信乃
斎藤弥九郎・さな子
剣心・薫
剣・銀時
与一・トウカ

【単独の対主催】
勢源、しぐれ、連也斎

3人以上なら芹沢、源太夫、ヒナギク、
コンビなら伊勢守と赤音、沖田と五ェ門の組み合わせもあるけど、
芹沢・赤音・沖田がいつマーダーに転ずるかわかんないから対主催っていうには厳しいな。
というか、対主催・対マーダーで最強格の伊勢守の身動きが
こんな形で制限されるってのは改めて面白いな。

あと、マーダーを並べたら
ヤバすぎる面子揃いで噴いたw
どうすんだよこれ

【マーダー】
ト伝、武蔵、忠明、重位、源之助、志々雄
103創る名無しに見る名無し:2010/07/15(木) 19:44:18 ID:WThMaK8v
あとおくばせながら投下乙。
もしかすると生き残れたかもしれなかった分、タマちゃんが死んだのは残念だったな。
でも、仮にも一流の流祖相手にここまで立ち合えただけでもホント頑張ったよ。いい勝負だった。

しかしこれ、忠明の夢想剣は木刀正宗の身体能力向上と関連あるのか?
他の刀になったら使えなくなるとか。
あと、一刀斎の夢想剣と立ち合ったらどうなるんだろ。
目が離せんキャラになったな。
104創る名無しに見る名無し:2010/07/15(木) 20:30:34 ID:hMvFxNB/
>>102を参考に、取り敢えず全キャラを分類

【対主催 チーム】
伊東・服部・坂本・斎藤・凛花
十兵衛・新八・オボロ
吉宗・小兵衛・妖夢
赤石・鉄山・明楽
義輝・信乃
斎藤弥九郎・さな子
剣心・薫
剣・銀時
与一・トウカ

【対主催 単独or実質単独】
勢源、しぐれ、連也斎
ヒナギク、五ェ門、源太夫
伊勢守、なえか、椿三十郎

【グレーゾーン】
芹沢、沖田、赤音

【マーダー】
ト伝、武蔵、忠明、重位、源之助、志々雄
土方、近藤、無二斎

【独自路線】
一刀斎、白井、甚太郎、主水、月丹

こうして見ると対主催が意外と多い。
ただ、対主催は対主催で内輪もめの火種を抱えてるから、そうはうまくいくまい。
果心も何らかの手を打ってくるだろうしね

それと、マーダーの質の高い事www
どいつもこいつも一騎当千じゃんwwww

後、独自路線の連中はみんな個性的で面白い
105創る名無しに見る名無し:2010/07/15(木) 21:20:00 ID:hMvFxNB/
月報3位キタコレwwwww
転載


各ロワ月報 5/16-7/15

ロワ/話数(前期比)/生存者(前期比)/生存率(前期比)

アニ3.   270話(+15) 23/64 (- 1) 35.9 (- 1.6)
ホラー     33話(+15) 48/50 (- 0) 96.0
剣客.    100話(+13) 52/80 (-10) 65.0 (-12.5)
三次スパ 115話(+11) 43/70 (- 0)※ 61.4       ※ルートA/Bとも
新漫画   153話(+ 9) 27/70 (- 4)※ 38.6 (- 5.7) ※一人復活、生死不明は生存扱い
RPG    113話(+ 8) 18/54 (- 7) 33.3 (-13.0)
ジョジョ2.  181話(+ 8) 31/88 (- 0) 35.2
東方.    141話(+ 7) 23/54 (- 0) 42.6
なのはR  175話(+ 6) 15/60 (- 2) 25.0 (- 3.3)
波平.    21話(+ 6) 33/39 (- 1) 84.6 (- 2.6)
多ジャンル  91話(+ 5) 48/65 (- 0) 73.8
ラノオルタR  159話(+ 4) 35/60 (- 1) 58.3 (- 1.7)
ニコβ   237話(+ 4) 14/70 (- 1) 20.0 (- 1.4)
LS     283話(+ 4) 28/86 (- 0) 32.6
ksk.     219話(+ 4) 22/48 (- 1) 45.8 (- 2.1)
福本.    139話(+ 3) 21/45 (- 0) 46.7
動物.    91話(+ 3) 24/47 (- 1) 51.1 (- 2.1)
葱U      58話(+ 3) 48/61 (- 0) 78.7
ゲーキャラR.  23話(+ 3) 34/37 (- 0) 91.9
戦隊    130話(+ 2) 18/42 (- 0) 42.9
葉鍵3  1132話(+ 2) 11/120 (- 0)※  9.2 ※表記はルートB-10
ジャンプ  424話(+ 2) 25/130 (- 0) 19.2
スクロワ2   74話(+ 2) 32/52 (- 0) 61.5
FFDQ3.  634話(+ 2) 31/139(- 0) 22.3
mugen     43話(+ 1) 55/68 (- 1) 80.9 (- 1.5)
自作2    14話(+ 1) 34/40 (- 0) 85.0
無名      62話(+ 1) 30/75 (- 0) 40.0
葱1     287話(+ 1)  8/40 (- 0) 20.0
テイルズ2   243話(+ 1) 37/65 (- 0) 56.9
マルチ   195話(+ 1) 17/65 (- 1)※ 26.2 (- 1.5) ※表記はルートB-1
オール.  180話(+ 1) 64/152(- 0) 42.1
DQ     144話(+ 1)  7/43 (- 0) 16.3
らき☆.   124話(+ 1) 34/60 (- 2) 56.7 (- 3.3)
パワポケ.  94話(+ 0) 34/58 (- 0) 58.6
一般学生. 62話(+ 0) 22/40 (- 0) 55.0
黒髪       3話(+ 0) 50/50 (- 0) 100.0
エロゲ     3話(+ 0) 98/100 (- 0) 98.0
サガA   173話(+ 0) 27/70 (- 0) 38.6
SRPG.   112話(+ 0) 34/51 (- 0) 66.7
AAA    124話(+ 0) 20/62 (- 0) 32.3
西尾     34話(+ 0) 38/45 (- 0) 84.4
ライダーN.  117話(+ 0) 28/52 (- 0) 53.8
ギャルゲ2  275話(+ 0) 13/64 (- 0) 20.3

文練     27話(+ 7) 68/78 (- 4) 87.2 (- 5.1) ※非リレースレから独立
コンボ      4話(+ 4) 38/40 (- 2) 95.0 (- 5.0)
都道府県  ---話※ 30/47 (-17) 63.8 (-36.2) ※話数が把握できないため割愛



・全体に元気のない投下数。逆に考えれば天下取りの好機?
・集計に御協力いただいたRPGロワ、新漫画ロワの皆様方、ありがとうございます。
106創る名無しに見る名無し:2010/07/16(金) 11:57:55 ID:HyBDjlAU
>>104
佐々木只三郎と、アサシン小次郎を忘れてる件
107創る名無しに見る名無し:2010/07/16(金) 14:02:37 ID:2+70Pt0F
赤音が危険人物の割にやってることが全部人助けになってるのが皮肉だな。
綺麗なマーダー?
それに引き換え伊烏の行動の性質の悪かった事悪かった事…。
108 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 13:22:01 ID:zmNwdNtO
足利義輝、犬塚信乃、剣桃太郎、坂田銀時、塚原卜伝、宮本武蔵、富田勢源、辻月丹で予約します。
109 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 14:34:54 ID:zmNwdNtO
投下します。
110創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 14:36:37 ID:h05sgmx/
支援
111義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 14:41:04 ID:zmNwdNtO
「二十三人もか」
剣桃太郎は、先程の放送で名前を呼ばれた死者の数を呟く。
先輩である赤石剛次の名はなかったが、この島で出会った岩本虎眼の名は呼ばれた。
あれだけ尊崇していた虎眼が本当に死んだのならば、弟子の藤木源之助のショックはどれ程だろうか。
まあ、死んだ筈の者が実は生きていた、というのも世の中ではよくある事で、彼等が本当に死んだとはまだ言い切れないが、
それでも、人の命を弄び、死を嘲笑うかのような主催者のやり口が許せない事には違いがない。
「ったくよう、いい加減に名前の間違いは直しやがれってんだ。
 いくら人斬りなんかやってた馬鹿野郎共でも、死んだ時まで名前を間違えられたんじゃ浮かばれねえだろうが」
いつものように軽い口調で言う坂田銀時だが、その瞳の奥で怒りの炎が燃えているのを、桃は見抜いていた。
「行くか」
二人が城に着いたのはつい先刻であり、休憩が十分とは言えないが、今は休んでいる気分ではない。
早く主催者を探し出そうと二人は城の外に出かけ、門の所で辺りを探っているらしい二つの人影があるのに気付く。

「何だあ、自分達はイロモノとは縁のない正統派主人公です、みたいな面しやがってよ。
 言っとくけど、俺達は天下のジャンプ漫画の主人公だからね。アニメになって、映画化なんかも……」
「銀さん」
出会った二人組がイケメン揃いだったのが気に入らないのか、意味不明な文句を付ける銀時を制して桃が前に出る。
「すまない。俺は剣桃太郎、あんた達は?」
「余は征夷大将軍参議源朝臣義輝。この名に覚えがあるか?」
二人の内、桃達に近い側に居た、水干を着た男が堂々とした態度で答えるが……
「やべえよ、また頭がアレな人が来ちゃったよ。ここはそんな奴ばっかりか?」
「待て、銀さん。名簿には確かに足利義輝の名があった筈。他にも、塚原卜伝やら宮本武蔵やら、過去の剣豪が山盛りだ。
 この人が言うのも、ただの冗談や妄想じゃないかもしれないぜ」
ひそひそと話す銀時と桃。その様子を見た義輝は、怒るでもなく彼等の接触に気付いて寄って来た相棒に言う。
「信乃、どうやら、この者達も先程の沖田と同じく、我等より先の時代から来たらしい」
「沖田ぁ!?」
112創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 14:41:49 ID:h05sgmx/
支援
113義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 14:43:18 ID:zmNwdNtO
「成程、そなたは新撰組の友なのか。では、正午の会合にはそなたも参加するか?」
「何でだよ!俺は断じて真撰組なんぞと友達になった覚えはねえよ。まあ、精々腐れ縁ってとこか?
 それより俺には保護してやらねえといけない奴がいるから、あんな奴等に付き合ってる暇はねえんだ。
 あいつ等なら、どうせ自分の身くらいは自分で守れるだろうしな」
「ふむ。口は悪いが、要は沖田等を信頼しているという事か」
「人をツンデレみたいに言うな!ていうか、あんたこそ連中にあんま期待してると実物に会った時にがっかりするぜ?
 腕はともかく、あいつ等バカばっかだから。幹部連中はどいつも変態だし」
「うむ、忠告は承った。心配せずとも、表面的な言動で彼等を侮るような事はせぬ」
「だからあ!」
貴人の鷹揚さと、この面子だと自分がツッコミ担当だという自覚がかみ合い、どうにか会話を成り立たせる銀時と義輝。
一方で、桃と信乃はもう少し真面目な話をしていた。
「タイムスリップか死者蘇生か……連中がとんでもない力を持っているのは間違いなさそうだな」
「ああ。だが、それだけでは説明が付かない事もあるんだ。……安房の里見家の事跡を知っているか?」
そのまま歴史談義に入る桃太郎と信乃だが、少し話したところで、義輝との会話に耐えられなくなった銀時が割って入る。
「もう行こうぜ。あんまり長居して、真撰組のゴリラに会っても面倒臭えし」
「そうだな。話し合いじゃ俺達に出る幕はなさそうだし、その間に出来る事をやっておくか」
「俺達もここで漫然と新撰組とやらの長を待つ気はないが……手分けするのもいいかもしれないな」
何となく、再び二手に分かれる方向に話が進む。
殺気が城下のあちこちから感じられる所を見るに、複数の危険人物が城下町にはいるようだ。
だとしたら、情報交換は後回しにして、手分けして戦いの芽を摘むのが賢い選択かもしれない。
「では、ひとまず別れるか。新撰組の者に会ったら、そなたが心配していたと伝えておこう。……そう言えば、名は?」
「だから、心配なんかしてねえから。名前は坂田銀時。ちなみに、坂田金時とは何の関係もないからそこんとこよろしく」
「ああ、俺もまだ名乗っていなかったな。俺は里見家家臣、犬塚信乃戍孝だ」

「銀さん、どうしたんだ?」
信乃の名を聞いた途端、眉に皺を寄せて考え込み始めた銀時に、桃が声を掛ける。
「いや、こいつの名前に聞き覚えがあるような気がするんだが、設定的に俺が知ってていいのか微妙な気が……」
「よくわからんが、犬塚信乃ってのはさっきの放送で真っ先に呼ばれてただろう?覚えがあって当然だぜ」
「あん?そうだっけ」
「それについては、俺も疑問に思ってたんだ。俺と同じ名を持つ者が他に居るなんて……」
人別帖に信乃の名前が二つあったのは、どうもただの書き間違いなどではなかったようだ。
義輝はもう一人の信乃はこの信乃の親族か、もしくは子孫ではないかと言ったが、それはまず有り得ない。
そもそも犬塚の姓は、信乃の父である番作が、大塚の姓を改めて名乗ったもの。
だから、父が死んだ今となっては、同姓の兄弟を持たない信乃に、犬塚を名乗る親族など居る筈がないのだ。
そしてまた、許婚の浜路を非業に喪った信乃には、他の女子を娶る気はなく、子孫という線も有り得ないだろう。
浜路の霊が、同名の女子に憑依して現れ、自身の代わりにこの者と縁を結べと告げられた際には心が動いたが、
その浜路姫が、主君である里見義成の娘とわかった以上、一家臣に過ぎぬ己と縁を結ぶなど有り得まいし。
「まあ、八犬伝は有名だからな。その好漢に肖った名を持った奴が三人くらいいても不思議はあるまい」
「八犬伝?」
事も無げに告げる桃の言葉に食い付く信乃。八犬伝……名前からして、八犬士に関わりがありそうだ。
もし仮に、それが信乃達の事跡の記録や、それを基に作られた物語なら、その内容を知る事は未来を知る事に繋がる。
未来を知ってしまうのは必ずしも良い事ばかりではないが、信乃は「八犬伝」の事が知りたかった。
何か予感があったのか、信乃を苦しませんとする悪霊の囁きか、或いは、女神が敢えて彼に与えた試練なのか。
114創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 14:43:43 ID:h05sgmx/
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115義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 14:45:47 ID:zmNwdNtO
「大丈夫かな、犬塚さん」
一通り「八犬伝」について聞いた信乃は、一人で考えたいと城内に入って行ったきり、音沙汰がない。
「信乃ならば大丈夫とは思うが、しかし、先程の話は真なのか?」
「ああ。間違いなく犬塚信乃は曲亭馬琴が書いた小説に登場する架空の人物。実在はしない」
とすると、あの信乃は、架空の人物の名を騙っているか、もしくは妄想に囚われているという事になる。
しかし、信乃が嘘吐きや狂人だとは、短い時間とはいえ同志として過ごした義輝にはどうしても思えないのだ。
それに、人別帖に犬塚信乃や、同じく架空の人物である筈の犬坂毛野の名があった訳だし。
かと言って、目の前の桃太郎も嘘吐きには見えず、また、義輝と信乃の歴史に関する知識に大きな齟齬があったのも事実。
「とすると……。だが、そんな事が本当に有り得るのか?」

物語に登場する架空の人物が具現化する、などという事が本当に有り得るのか……有り得る、と信乃の知識は告げている。
本朝における巨勢金岡の馬をはじめ、絵に描かれた者が霊を持って抜け出てきたという話は枚挙に暇がない。
ならば、挿絵と文章によって構成される物語の人物が書から抜け出て来るという事も、有り得なくはないだろう。
実際、唐土では、三国志演義の周倉、西遊記の孫悟空、水滸伝の時遷など、架空の人物が神として祀られた例は数多い。
中でも、斉天大聖として信仰される孫悟空は霊験あらたかな神として知られ、
作り話の神と己を誹謗した商人に罰を与え、その者が心を改めたら今度は福を与えた、という話が伝わっている。
このように、元は架空の存在であっても、人の思いが集まれば、それに感じて霊が生まれる事は考えられ、
架空の人物が神にすらなる事があるのならば、物語から人が生まれるくらいの事はあっても不思議はない。
「もっとも……」
信乃は苦笑する。己が物語から生まれた架空の人物なら、この知識もまた馬琴なるものの創作なのかもしれないが。
そう考えると、信乃は宙に放り出されたような気分になる。
父の遺命、浜路の献身、義兄弟との日々、里見家臣としての戦い……全てが一人の人間の想像による作り事だったのだ。
ならば、自分はこれからどう生きれば良いのか。
いくら考えても結論が出る筈もなく、ぼんやりと窓から外を見た信乃の眼に、その光景が飛び込んで来た。
116創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 14:45:47 ID:h05sgmx/
支援
117創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 14:47:09 ID:h05sgmx/
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118義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 14:47:59 ID:zmNwdNtO
「なあ、もう行こうぜ。ってか、俺はもう行くから」
「しかし、銀さん……」
確かに、今の信乃に対して、自分が出来る事などないという事は、桃にもよくわかっていた。
あの信乃が本当に小説の世界から実体化したのなら、そんな非現実的な現象は桃の理解の外にある。
より現実的に、彼が洗脳か何かで自分が犬塚信乃だと思い込まされてるのだとしても、打つ手がない点では同じ事。
ならば、ここは多少なりとも信頼関係のある義輝に任せ、自分達は別に為すべき事をするべきなのだろう。
だが、信乃の打ちひしがれた様子や、あの虎眼がやられたらしい事からもわかる城下の危険さが、桃を躊躇わせた。
「ったくよう、ちょっと由緒がある小説出身だからってお高く留まりやがって。
 あれか?ガキ向け漫画の主人公なんかとはご一緒できませんってか?」
門の所で振り返ってまたよくわからない事を言い出す銀時に答えようとした桃は、いきなり刀を抜きざま投げ付けた。

「うおお!?いきなり何しや……」
咄嗟に身をかわして文句を言おうとする銀時だが、すぐ後ろで刀が叩き落される音を聞いて事態を悟る。
何者かが忍び寄って背後から銀時を襲おうとし、それに気付いた桃が剣を飛ばして防いだのだ。
「何だ、てめえは!」
銀時が木刀を構え、義輝と桃がそれぞれの得物を手に駆け寄る。
対する男は、武器こそ刀を二本と木刀の計三本を所持しているものの、体は一つ。
三対一という圧倒的に不利な状況でありながら、男は笑みさえ浮かべて嘯く。
「俺は新免武蔵。ふむ……稽古台としては、まあ悪くない腕だな」
そう言いながら武蔵は上段の構えを取った。
「武蔵」の名、或いはその構えに三人は驚愕の表情を浮かべるが、真っ先に立ち直った桃が前に出る。
「あんたがあの宮本武蔵さんか。伝説の大剣豪が実際にどれ程の腕前か、見せてもらおうか」
不適に笑うと、前に踏み出して得物を正眼に構える桃。
「勇ましいこと言ってるけど、手元をよく見てー。それ、武器じゃなくてハリセンだから」
「うむ。それでこの者の相手をするのは難しかろう。ここは余が相手をしよう」
「それを言うなら、あんた達の得物も木刀だろう?俺のと大して違いはないさ」
「全然違えよ!漫才でツッコミ役が相方を木刀でしばき倒した日には、客どん引きだろうが!
 ハリセン持った奴に真顔でボケられるとツッコミ辛えよ!」
誰が戦うかで言い争う三人の様子を気に留める様子もなく、武蔵は一歩踏み出すと、手近に居る桃に剣を振り下ろす。
119創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 14:49:03 ID:h05sgmx/
支援
120義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 14:51:07 ID:zmNwdNtO
武蔵の振り下ろしをハリセンで受ける桃。
義輝や銀時はああ言ったが、ハリセンは、攻撃力はともかく、防御力に関してはそう馬鹿にしたものでもない。
戦国時代には紙の鎧が実用されていたくらいで、日本刀のように重量ではなく切れ味で斬る武器には紙による防御も有効だ。
加えて、桃は氣を注入する事で、ハリセンであっても、短時間ならかなりの硬度を持たせる事ができる。
だからこそ、桃は木刀を持つ二人を制して前に出たのだが、しかし、桃のハリセンは、武蔵の太刀にあっさりと切り裂かれた。
「何!?」
武蔵がそのまま桃を切り裂こうとした瞬間、激しい衝撃を受けてのけぞる。
横合いから義輝が咄嗟に武蔵の剣を木刀で突き、桃への致命の一撃を防いだのだ。
義輝を睨む武蔵。
未完成とはいえ、あの老人から盗み取った奥義に突きで割り込むなど、軌道を完全に読んでいなければ不可能。つまり……
「その技は一の太刀。それを伝授される程の剣士が、どうしてあのような者の言葉に乗せられる!」
やはり一の太刀か。武蔵は、義輝の言葉のその部分にのみ着目し、一人納得していた。
老人の動きから、新当流かその分派の剣士である事は推測でき、新当流の奥義と言えばやはり一の太刀。
用心深さを認めて跡継ぎとした嫡男彦四郎にすら、流祖卜伝がついに伝授を許さなかったという秘伝中の秘伝。
加えて、足利義輝など、一の太刀を伝授されたというごく少数の高弟達が揃って横死を遂げ、失伝したとも言われていたが、
ひそかに使い手が生き残っていたとは、さすがに歴史ある香取神道流の裔だけあって層が厚い。
そうした剣士を連れて来て技を盗む機会を与えてくれた主催者には、武蔵はむしろ感謝しているくらいだ。
だが、武蔵はこのような心中の呟きを表に出す事はなく、無言で義輝に剣を叩き付けた。
一の太刀を見抜いた事から、義輝が新当流に縁のある人物である事は明らか。
その口から、武蔵が一の太刀を盗んだ事があの老人に伝われば、折角の優位があっさりと崩れ去ってしまう。
故に武蔵は義輝を第一の目標に定め、問答の手間も惜しんで斬り伏せんとする。

「くっ!」
武蔵の強烈な一撃を義輝は受け止めるが、その勢いをいなしきれず、刃が木刀に僅かに食い込む。
そのまま鍔迫り合いになると、武蔵は左手を剣から外し、腰に差したもう一本の所に持って行く。
この間、義輝は両腕で武蔵の片腕で押し合う事になったのだが、尋常でない武蔵の膂力に簡単には押し切れず、
また、武蔵の刀が木刀に切り込んでいる為に、そこが引っ掛かって剣を外す事も難しい。
「でりゃあああぁ!」
武蔵が刀を抜いた瞬間、銀時が掛け声と共に木刀で殴り付ける。
大仰な声を上げた為に、簡単に留められるが、銀時の目的は武蔵の気を逸らして義輝を救う事なのだから問題ない。
これで義輝と銀時は二人掛かりで武蔵を挟撃する形になり、明らかに有利、の筈なのだが……
(動かねえ!どんな化け物だ、こいつは)
銀時が心中で毒づいたように、武蔵は右の剣で義輝、左の剣で銀時と、それぞれ片手対両手で鍔競り合いしながら、
岩の如く堅固に二人の圧力を支え、少しも押される様子を見せず、逆に押し返して行く。
武蔵の膂力が尋常でないのもあるが、二対一でも優勢を保っていられる最大の要因は真剣と木刀の差。
無闇に押し込めば武蔵の剣によって木刀が切断される危険があり、そちらに神経を使いながらでは全力が出し切れない。
それでも、木刀での闘いに慣れている銀時はどうにか武蔵の刃筋をそらしつつ力を加えているが、義輝は苦戦していた。
堕ちたりといえども将軍であった義輝には、木刀で真剣に立ち向かう羽目になった経験はないし、
松永の兵に襲われた際、無数の名刀を取り換え取り換え戦ったという話からもわかるように、刀を労わる戦い方とは無縁だ。
為に、鍔競り合いの中で武蔵の刀が義輝の木刀に切り込んで行き、遂に、木刀が切り落とされようとする。
121創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 14:53:07 ID:h05sgmx/
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122創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 14:54:59 ID:h05sgmx/
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123義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 14:55:31 ID:zmNwdNtO
二対一の戦いならば、そのまま武蔵の剣が義輝を斬り捨てていたかも知れないが、この場に居る剣士は三人ではなく四人。
投げた刀に続いてハリセンを失った桃は、一時的に身を引いたが、義輝の危機を見ると、拳を固めて飛び掛った。
それを見た武蔵は落ち着いて鍔競り合いを外して後ろに跳び、桃の拳をかわす。
そして、いきなり支えを失った義輝と銀時が、飛び込んで来た桃を打たない為に動きを止めたのを確かめると、今度は前に跳ぶ。
義輝を救わんとして焦った為に、拳撃を放った後の体勢が崩れていた桃の胸に、武蔵の渾身の体当たりが決まる。
並の剣士ならば死んでもおかしくない一撃だが、無手の体術に関しては桃の方が一枚上手。
瞬間的に胸に氣を集中させる事で桃は身体を硬化させ、武蔵の肩を受け止めた。
それにより桃はダメージは免れるが、同時に、肉体の変形で衝撃を逃がせない為、数間も跳ね飛ばされる結果を生む。
こうして桃を追い払った武蔵は、二本の刀を回転させ、義輝と銀時を分断しに掛かる。
素早く飛び退いてかわす二人だが、義輝は門扉に身体を打ち当てて体勢を崩し、その衝撃で傷んでいた木刀が折れた。

「使え!」
武器を失い隙を見せた義輝に武蔵が向き直るのを見た銀時は、己の木刀を投げ渡す。
武蔵はこの展開も予測していたのか、剣を振りかぶると、木刀が傍を過ぎた瞬間、それを追う軌道で手裏剣打ちに投げる。
大きく身をかわせば木刀を取れず、武蔵のもう一本の剣を素手で受けなければならなくなる公算が高い。
そう判断した義輝は、手を伸ばして木刀を取ると、柄を回して武蔵が投げた刀を強く打つ。
「くっ!」
辛うじて剣の軌道を変える事に成功した義輝だが、逸れた剣は義輝の袖を貫いて門扉に深々と刺さり、縫い止めた。
この手裏剣打ちは、武蔵にとっては、義輝が一瞬でも防御に気を取られてくれれば十分、という程度の意図での布石。
偶然とはいえ、袖を縫い止めて義輝の動きを封じられたのは望外の成果だ。
そして、武蔵は本命の一撃……振り向きざまの、木刀を失った銀時に対する片手斬りを放つ。

だが、銀時は武蔵の必殺の一撃を読んでいた。むしろ、その一撃を誘う為に、わざと木刀を投げ無手になったと言うべきか。
身をかわしつつ足を蹴り上げると、地面から刀が跳ね上がり、銀時の手に納まる。
この戦いの始めに、桃が銀時を守る為に投げ、武蔵によって叩き落された備前長船だ。
物干竿をしっかりと両手で握った銀時は、片手斬りを空振った武蔵の刀に思い切り叩き付けた。
片手斬りは間合いでは優るが、精密さや衝撃を受けた時の耐性では、どうしても両手で剣を握るのには及ばない。
「ちいっ!」
……にも関わらず、銀時の渾身の一撃は、武蔵の太刀を折る事も叩き落す事も出来ず、跳ね返される。
五本の指を巧みに使って衝撃を受け流し刀の破損を防ぎ、同時にしっかりと保持して剣が失われるのを防いだのだ。
片手による剣の扱いを長年研究しただけあって、武蔵の器用さ、握力は図抜けていた。
続いて、武蔵が素早く腰の木刀を抜いての一撃を、地に転がり辛うじてかわす銀時。
しかし、武蔵は追撃の暇もなく振り向き、袖を破って突進して来た義輝と剣を交わす。
「木刀に気を付けろ!」
銀時の叫びが終わらない内に、二人の身体が交錯し、入れ違って向き直る。
義輝の額に浮かぶ汗……銀時の忠告がなければさすがの義輝も無傷では済まなかったかもしれない。
武蔵の刀に木刀を切られた記憶も新しい義輝は真剣の方に気を配りがちだったが、真に恐ろしいのはむしろ木刀の方。
二刀流で知られるだけあって、武蔵は片手でも、両手を使う場合に近い速度・精密さで真剣を扱える。
そして、真剣より軽い木刀の場合、片手でも両手で真剣を持つのを上回る程に速く正確な一撃を繰り出せるのだ。
更に、刃を持たず刃筋を立てる必要のない木刀は、打突の瞬間に不規則に軌道を変え、受け手を惑わす事も可能。
自身も木刀を持つ義輝だが、彼にとって木刀は真剣の代用品に過ぎず、木刀への理解・工夫では劣る事を認めざるを得ない。
ここで銀時が立ち上がり、跳ね飛ばされた桃も物干竿の鞘を抜きつつ帰って来る。
再び三対一の態勢となるが、自分達が有利だという認識は、義輝達にはなかった。
124義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 14:57:19 ID:zmNwdNtO
「言っとくが、この話の主役は俺だからな。これでも化け物退治には慣れてるんでね」
義輝と桃を牽制する銀時。
天人が闊歩する世界からやって来た銀時が、人の範疇から外れた怪物達と闘い慣れているのは事実だ。
しかし、戦闘種族だの光の戦士だの宇宙怪獣だのがいる天人の基準で考えても、武蔵の強さは明らかに規格外。
それでも、銀時は、この戦いでは唯一真剣を持つ自分が前面に立とうと決意していた。
使い慣れない木刀や、鞘なんていう武器とも言えない武器で、武蔵と真っ向から打ち合うのはあまりに無謀。
さっき武蔵が投げた刀を義輝か桃に取らせる事が出来れば状況は一変するが、その刀は今、武蔵の後ろにある。
あれだけ深く刺さった刀を抜くには一手間かかりそうだし、固執すると逆に隙を作る結果になりかねない。
自分が活路を切り開くしかないと、銀時が前に出ようとし、その気配を察した武蔵は二刀を上段に構える。

(あの構えは!?)
先程、桃のハリセンを一撃で破壊した技の構え。
……こう書くと何も凄くないように読めるが、一の太刀なる技が、必殺技と言うべきものである事を、銀時は悟っていた。
もっとも、本来一刀の技である一の太刀を二刀で使えば、十全の威力は発揮できまい。
だから、物干竿で防御に徹すれば防ぐのはそう難しくなかろうが、その選択は銀時には有り得ない。
今までの短い戦いだけでも、武蔵が恐ろしく狡猾な剣士である事はわかっている。
銀時が防御の構えを見せれば、武蔵は迷わず、二刀で義輝と桃を狙うだろう。
不完全であっても、木刀や鞘で一の太刀を防ぐのは至難。
故に、銀時としては、卜伝が他の二人を狙えば隙を衝ける構えを見せつつ、真っ向から二刀一の太刀に立ち向かうしかない。
決死の覚悟を固めた銀時に武蔵が剣を振り下ろそうとした時、それが天から降って来た。
「信乃!」
125創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 14:57:45 ID:h05sgmx/
支援
126創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 15:00:15 ID:h05sgmx/
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127義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 15:00:20 ID:zmNwdNtO
悩みながら城の外を眺めた時、仲間達を襲おうとする武蔵の姿が見えた事は、信乃にとって幸運だったと言えよう。
自分の今までの人生が架空の物語だったと聞かされ、拠って立つ足場を失った信乃。
親も仲間も主も実在しない可能性を知り、生きる意味も、行動する指針も、全てを失ったような気すらしていた。
しかし、義輝が危機に曝されようとしているのを見て、己には未だ最も大事な物、即ち、仁義の心が残っている事に気付く。
仮に主、親、義兄弟も架空の存在ならば忠孝悌は無意味になるかもしれないが、五常の徳まで揺らぐ事はない。
親に人道を教わった思い出は幻かもしれず、この世界では神仏が正義の人を助けてはくれない可能性もあるだろう。
だが、信乃が人道を尊ぶのは親に教えられたからだけではなく、ましてや神仏の援助を期待してのものでもないのだ。
古人曰く、仁義礼智は心の外に存するに非ず、人が固有に持つ性なりと。
これが全ての人間に当てはまるかどうかは議論のある所だが、信乃個人に関しては全面的に正しいと言える。
たとえ、信乃の今までの人生全てが否定されたとしても、持って生まれた本性までが消え去る訳ではない。
そしてまた、義輝の信乃に対する好意と、彼を守るという誓いも、間違いなく現実。
よって、義輝の危険を悟った瞬間、信乃の悩みは消え、窓から飛び出した。
無論、迷いが信乃の脳裏を去ったのは一時の事であり、再び状況が落ち着けば、信乃はまた悩む事になるだろう。
それでも、自身の本性を肌で実感できた事は、今後も信乃が己の未来を定める上で欠かせぬ道標となる筈だ。

これらの事を明示的に認識した訳ではないが、活き活きとした軽快な動きで信乃は城の屋根を駆ける。
都合良く傍に張り出していた樹の枝に飛び乗ると、闘いが門付近で行われているのを見て塀の上に跳ぶ。
そのまま戦場に駆け寄り、闘いが膠着したのを見ると、武蔵が背にしている門扉の上から躍り掛かった。
咄嗟に足元の行李を蹴り砕いて目くらましとして義輝等を牽制すると、武蔵は十字受けで頭上からの攻撃を留める。
そのまま振り回して義輝達にぶつけようとするが、信乃が鳩尾を蹴り付けてきたので、投げ放さざるを得ない。
それでも、信乃が空中に居る間が攻撃の好機。
一瞬だけ振り向き、斬り込んで来た銀時の剣を受け止めると、向き直って未だ着地していない筈の信乃に剣を向け……
武蔵の予測に反して、彼が体勢を戻した時には既に、信乃は着地していた。
いや、着地という表現は適切ではないか。信乃は、地面ではなく、門扉に突き立った刀の上に降り立っていたのだから。
信乃の剣と武蔵の木刀が交錯する。
先に述べたように、武蔵が片手で振るう木刀は速く、信乃の全力の一撃にも決して劣るものではないだろう。
しかし、足場の高低差から、信乃が切り下ろしで武蔵を狙えるのに対し、武蔵は木刀を切り上げなくてはならない。
この条件が加わった事により、信乃の剣が紙一重だけ先行し、武蔵は後退を余儀なくされた。
初めて隙を見せた武蔵に義輝と桃が殺到し、銀時も武蔵の剣を弾いて間合いの内側に踏み込んだ。
128創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 15:02:28 ID:h05sgmx/
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129義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 15:02:48 ID:zmNwdNtO
一瞬の攻防の後、塊の中から武蔵が弾き飛ばされ、地面を二転三転して立ち上がる。
その隙に信乃も地に降り立ち、義輝は信乃の足場になっていた刀を素早く抜き取って、桃に手渡す。
派手に転げた割に武蔵に目立った負傷はなさそうだが、四対一、しかも四人中三人が真剣を持っているのでは圧倒的に不利。
にもかかわらず、武蔵の闘志はいささかも衰えていなかった。
信乃の参戦まで三人相手に優勢に戦った武蔵だが、それは、最初の奇襲で得た武装の優位を巧みに利用したからこそ。
純粋な腕前においては、武蔵と、義輝達一人一人を比べても、差は殆どない。
信乃の斬撃で隙を作られた武蔵が、三人と乱戦になりながら、無傷で切り抜けるなど、まず出来る筈がないのだ。
なのに武蔵が無事だった原因は、武蔵ではなく、その敵達の側にある。
一つは即席の集団である故の連携の齟齬。そしてもう一つ、より大きいのは、彼等の殺気が不足していた事。
事情も聞かずに武蔵を殺す事への躊躇いか、或いは大勢で一人を殺す事を卑怯と考えているのか、
どちらにせよ、三人の刀には僅かに鋭さが欠けており、そこを衝く事で、武蔵は死地を脱したのだ。
そして今、彼等は武蔵を生け捕りにする事も不可能ではないだけの優位を手にしている。
大きすぎる優勢さは余計な欲と油断を生み、作戦次第では逆転も十分可能。武蔵は、そう計算していた。だが……

「ちっ」
舌打ちと共に武蔵は大きく後ろに跳躍すると、打刀の鞘を投げて牽制に使いつつ、身を翻して駆け去った。
漸く不利を悟った、という訳ではないし、義輝達がむざむざ彼を逃がした主原因も、武蔵が投げた鞘ではない。
全ての原因は城の外から近付いて来る剣気、そして白刃を引っ提げた男の姿。
剣気に含まれる威、そして、こちらの人数を知りながら殺気を隠そうともしない余裕が、義輝等の警戒心を喚起する。
距離が近付くにつれて緊張が高まり、開戦かと思われたその時、彼等は互いの顔を見分けた。
「卜伝か!」
「公方様!?生きておわしたのか!」
かくして、主催者に対抗する集団の要たらんと志す義輝は、島を血の海にせんとする修羅の最強の者の一人と再会した。
志では全く相容れず、しかし剣の上では父とも言える師と邂逅し、義輝は、そして仲間達はどう行動するのか。
130義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 15:03:52 ID:zmNwdNtO
【ほノ参/城の外/一日目/朝】

【宮本武蔵@史実】
【状態】健康
【装備】中村主水の刀@必殺シリーズ、木刀
【所持品】なし
【思考】
最強を示す
一:一の太刀を己の物とする
二:一の太刀を完成させた後に老人(塚原卜伝)を倒す
【備考】
※人別帖を見ていません。


【ほノ参/城門の前/一日目/朝】

【塚原卜伝@史実】
【状態】左側頭部と喉に強い打撲
【装備】七丁念仏@シグルイ、妙法村正@史実
【所持品】支給品一式(筆なし)
【思考】
1:この兵法勝負で己の強さを示す
2:勝つためにはどんな手も使う
【備考】
※人別帖を見ていません。


※師岡一羽の死体の傍にあった木刀は宮本武蔵が持ち去りました。
131創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 15:04:43 ID:h05sgmx/
支援
132義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 15:05:28 ID:zmNwdNtO
【ほノ参/城門の内側/一日目/朝】

【足利義輝@史実】
【状態】打撲数ヶ所
【装備】木刀
【所持品】支給品一式
【思考】基本:主催者を討つ。死合には乗らず、人も殺さない。
一:正午に城で新撰組の長と会見する。
二:卜伝、信綱と立ち合う。また、他に腕が立ち、死合に乗っていない剣士と会えば立ち合う。
三:上記の剣士には松永弾正打倒の協力を促す。
四:信乃の力になる。
【備考】※黒幕については未来の人間説、松永久秀や果心居士説の間で揺れ動いています。
※犬塚信乃が実在しない架空の人物の筈だ、という話を聞きました。

【犬塚信乃@八犬伝】
【状態】顔、手足に掠り傷
【装備】小篠@八犬伝
【所持品】支給品一式、こんにゃく
【思考】基本:主催者を倒す。それ以外は未定
一:義輝を守る。
二:義輝と卜伝、信綱が立ち合う局面になれば見届け人になる。
三:毛野、村雨、桐一文字の太刀、『孝』の珠が存在しているなら探す。
【備考】※義輝と互いの情報を交換しました。義輝が将軍だった事を信じ始めています。
※果心居士、松永久秀、柳生一族について知りました。
※自身が物語中の人物が実体化した存在なのではないか、という疑いを強く持っています。
※玉梓は今回の事件とは無関係と考えています。

【剣桃太郎@魁!!男塾】
【状態】健康
【装備】打刀
【道具】支給品一式
【思考】基本:主催者が気に入らないので、積極的に戦うことはしない。
1:銀時に同行する。
2:向こうからしかけてくる相手には容赦しない。
3:赤石のことはあまり気にしない。
※七牙冥界闘終了直後からの参戦です。

【坂田銀時@銀魂】
【状態】健康 額に浅い切り傷
【装備】備前長船「物干竿」@史実
【道具】支給品一式(紙類全て無し)
【思考】基本:さっさと帰りたい。
1:危ない奴と斬り合うのはもう懲り懲り
2:新八を探し出す。
※参戦時期は吉原編終了以降
※沖田や近藤など銀魂メンバーと良く似た名前の人物を宗矩の誤字と考えています。
133義士達に更なる試練を ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 15:07:29 ID:zmNwdNtO
宮本武蔵・塚原卜伝という、狡猾さでも殺意でも最高級の剣士に立て続けに出会った四人の剣士達。
彼等がこんな試練を受ける事になったのは偶然か、城という目立つ施設に立ち寄った為か、主人公格が揃っていたせいか。
ただ、少なくとも、己に逆らおうとする者を叩き潰そうという主催者の差し金、という訳ではなさそうだ。
何しろ、実際に主催者の一人に重傷を負わせた彼が、強敵とぶつけられるどころか、またも助け人に出会ったのだから。

「橋だ。足元に気を付けよ」
「どうも。本当に助かりました」
「何、困った時はお互い様よ」
言葉を交わしているのは富田勢源と辻月丹。
しぐれが待つ道祖神の祠を目指し、傷付いた足で急いでいた勢源は、伊庭寺を発った月丹に出会った。
勢源の事情を聞いた月丹が先導役を買って出、二人は並んで南に向かっている。
その代わりに、という訳ではないが、勢源は月丹に先程の体験を話す。
夜明けと共に島中に響いた声の主に会った事、そして、その者が白洲で少年を殺した技の正体を。
最後に、あの妖人が残して行った服を見せると、黙って話を聞いていた月丹が呟く。
「その者は、果心とやらかもしれぬな」
「御存知の者ですか?」
「そうではないが、これにな」
言って、月丹は懐から一冊の書物を取り出す。
そう言えば、勢源と出会った時にも、月丹は何かを読みながら歩いている風だった。
一瞬、それを勢源に見せようとする月丹だが、彼の眼の事を思い出し言葉で解説を始める。
「これは寺にあった日誌での。未だ読めたのは一部だけだが、後半部分に島が襲撃された事が記されておる。
 そして、唐人服を着た者が賊と親しげに話しており、首領に果心と呼ばれていたとか」
果心……確か、大和国にそのような名の凄腕の術者が居るという噂を聞いた覚えがある。
あの左道使いがその果心なら、主催者の頭目は別に居るということか。
「では、首領とは何者ですか?」
「首領についてはこの日誌の主もさして知らぬようだ。恐ろしく残忍だという他は、名しか書いておらぬ」
「その名は?」
「伏姫、と呼ばれていたそうだ」

【はノ漆/街道/一日目/朝】

【富田勢源@史実】
【状態】足に軽傷
【装備】蒼紫の二刀小太刀の一本(鞘付き)
【所持品】なし
【思考】:護身剣を完成させる
一:香坂しぐれと合流する
二:死亡した佐々木小次郎について調べたい
※佐々木小次郎(偽)を、佐々木小次郎@史実と誤認しています。

【辻月丹@史実】
【状態】:健康
【装備】:ややぼろい打刀
【所持品】:支給品一式(食料なし)、経典数冊、伊庭寺の日誌
【思考】基本:殺し合いには興味なし
一:富田勢源をにノ陸の道祖神まで送る。
ニ:徳川吉宗に会い、主催であれば試合中止を進言する
三:困窮する者がいれば力を貸す
四:宮本武蔵、か……
【備考】
※人別帖の内容は過去の人物に関してはあまり信じていません。
 それ以外の人物(吉宗を含む)については概ね信用しています(虚偽の可能性も捨てていません)。
※椿三十郎が偽名だと見抜いていますが、全く気にしていません。
 人別帖に彼が載っていたかは覚えておらず、特に再確認する気もありません。
※1708年(60歳)からの参戦です。
※伊庭寺の日誌には、伏姫が島を襲撃したという記述があります。著者や真偽については不明です。
134 ◆cNVX6DYRQU :2010/07/17(土) 15:08:14 ID:zmNwdNtO
投下終了です。
手厚い支援ありがとうございました。
135創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:44:40 ID:JZLz+qfW
投下乙です

武蔵強し!
4対1でなお圧倒するとは!
五輪書のには対多数戦の極意も書かれてましたが、やはり流石です。
物語の人物であると自覚した信乃、師と邂逅した義輝、そして卜伝、目が離せません。

一方で、剣聖タッグ結成!
伏姫の名も出て来たし、果心、もしくは天海の裏に居る存在が見え隠れしてきたか?

投下乙です
136創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 01:42:42 ID:11X2E88k
投下乙です

武蔵は強いわ
これは対主催は彼を倒すことができるのだろうか?
それぞれにキャラに見せ場があるのもいいわ

て、いつの間にかコンビができてるぞw
まあ、何時か相対するだろうが…
137創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 17:09:50 ID:C+M6K5MT
乙!
138創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 19:24:39 ID:JZLz+qfW
支援age
139 ◆F0cKheEiqE :2010/07/21(水) 00:24:20 ID:Lfb8P38e
テスト
140 ◆F0cKheEiqE :2010/07/21(水) 00:25:07 ID:Lfb8P38e
土方歳三、近藤勇、新免無二斎、佐々木只三郎

予約
141創る名無しに見る名無し:2010/07/21(水) 00:32:58 ID:Gqd3QcgE
おお!遂にあの戦いの続きが!
wktkして待つ。
142創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 20:45:53 ID:Bq20b3Yh
したらばより転載

30 :名無しさん:2010/07/23(金) 03:57:11
wikiを更新していたのですが◆UoMwSrb28k氏の『人の道と剣の道』が容量オーバーで
収録できなっかたので、◆UoMwSrb28k氏スレを見ていたら分割点を指定してください。

アクセス規制中で書き込めないのでどなたか本スレに転載してください。
143創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 20:47:12 ID:Bq20b3Yh
告知age
144 ◆cNVX6DYRQU
斎藤弥九郎、千葉さな子、宮本武蔵、高坂甚太郎で予約します。