1 :
創る名無しに見る名無し:
★参加者名簿★
【スパイラル 〜推理の絆〜】 6名
○鳴海歩/○結崎ひよの/○竹内理緒/○浅月香介/○高町亮子/○カノン・ヒルベルト
【トライガン・マキシマム】 6名
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/○ニコラス・D・ウルフウッド/○ミリオンズ・ナイブズ/
○レガート・ブルーサマーズ/○ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク/○リヴィオ・ザ・ダブルファング
【ハヤテのごとく!】 6名
○綾崎ハヤテ/○三千院ナギ/○愛沢咲夜/○鷺ノ宮伊澄/○西沢歩/○桂雪路
【鋼の錬金術師】 6名
○エドワード・エルリック/○アルフォンス・エルリック/○ロイ・マスタング/○ゾルフ・J・キンブリー/○グリード(リン・ヤオ)/○ウィンリィ・ロックベル
【うしおととら】 5名
○蒼月潮/○とら(長飛丸)/○ひょう/○秋葉流/○紅煉
【未来日記】 5名
○天野雪輝/○我妻由乃/○雨流みねね/○秋瀬或/○平坂黄泉
【銀魂】 5名
○坂田銀時/○志村新八/○柳生九兵衛/○沖田総悟/○志村妙
【封神演義】 5名
○太公望/○聞仲/○妲己/○胡喜媚/○趙公明
【ひだまりスケッチ】 4名
○ゆの/○宮子/○沙英/○ヒロ
【魔王 JUVENILE REMIX】 4名
○安藤(兄)/○安藤潤也/○蝉/○スズメバチ
【ベルセルク】 4名
○ガッツ/○グリフィス/○パック/○ゾッド
【ONE PIECE】 4名
○モンキー・D・ルフィ/○Mr.2 ボン・クレー/○サンジ/○ニコ・ロビン
【金剛番長】 4名
○金剛晄(金剛番長)/○秋山優(卑怯番長)/○白雪宮拳(剛力番長)/○マシン番長
【うえきの法則】 3名
○植木耕助/○森あい/○鈴子・ジェラード
【ブラック・ジャック】 2名
○ブラック・ジャック/○ドクター・キリコ
【ゴルゴ13】 1名
○ゴルゴ13
全70名
★ロワのルール★
OPなどで特に指定がされない限りは、ロワの基本ルールは下記になります。
OPや本編SSで別ルールが描写された場合はそちらが優先されます。
【基本ルール】
最後の一人になるまで殺し合いをする。最後まで生き残った一人が勝者となり、元の世界に帰ることができる。
参加者間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、参加者は会場内にランダムで配置される。
【首輪について】
参加者には首輪が嵌められる。首輪は以下の条件で爆発し、首輪が爆発したプレイヤーは例外なく死亡する。
首輪をむりやり外そうとした場合
ロワ会場の外に出た場合
侵入禁止エリアに入った場合
24時間死者が出ない状態が続いた場合は、全員の首輪が爆発
【放送について】
6時間おき(0:00、6:00、12:00、18:00)に放送が行われる。
放送の内容は、死亡者の報告と侵入禁止エリアの発表など。
【所持品について】
参加者が所持していた武器や装備などはすべて没収される(義手など体と一体化しているものは没収されない)
かわりに、支給品の入ったデイパックが支給される。
デイパックは何故か、どんなに大きな物でも入るし、どんなに重い物を入れても大丈夫だったりする。
デイパックに入っている支給品の内容は「会場の地図」「コンパス」「参加者名簿」「筆記用具」
「水と食料」「ランタン」「時計」「ランダム支給品1〜2個」
※「参加者名簿」は、途中で文字が浮き出る方式
※「水と食料」は最低1食分は支給されている。具体的な量は書き手の裁量に任せます
★書き手のルール★
【予約について】
予約はしたらばにある予約専用スレにて受け付けます。
トリップをつけて、予約したいキャラクター名を書き込んでください。
予約期限は5日(120時間)です。期限内に申請があった場合のみ、2日間延長することができます。
これ以上の延長は理由に関わらず一切認めません。
予約に関するルールは、書き手からの要望があった場合、議論のうえで変更することを可能とします。
【キャラクターの死亡について】
SS内でキャラが死亡した場合、【(キャラ名)@(作品名) 死亡】と表記してください。
また、どんな理由があろうとも、死亡したキャラの復活は禁止します。
【キャラクターの能力制限について】
ロワ内では、バランスブレイカーとなるキャラの能力は制限されます。
【支給品制限について】
ロワ内では、バランスブレイカーとなる支給品は制限されます。
【状態表のテンプレ】
SSの最後につける状態表は下記の形式とします。
【(エリア)/(場所や施設の名前)/(日数と時間帯)】
【(キャラ名)@(作品名)】
[状態]:
[服装]:(身に着けている防具や服類、特に書く必要がない場合はなくても可)
[装備]:(手に持っている武器など)
[道具]:(デイパックの中身)
[思考]
1:
2:
3:
[備考]
※(状態や思考以外の事項)
【時間帯の表記について】
状態表に書く時間帯は、下記の表から当てはめてください。
深夜:0〜2時 / 黎明:2〜4時 / 早朝:4〜6時 / 朝:6〜8時 / 午前:8〜10時 / 昼:10〜12時
日中:12〜14時 / 午後:14〜16時 / 夕方:16〜18時 / 夜:18〜20時 / 夜中:20〜22時 / 真夜中:22〜24時
>>1乙
それと前スレ投下乙です
銀さん、お約束どおりでワロタぞw 確かに同じ銀だけどなw
温泉の二人のやり取りといい、銀さんとの食事タイムといいほのぼのでいいわ
それだけにゆのっちの現状と比べると凄い対比だわ…
そして教会、博物館、闘技場か…
投下とスレ立て乙です
冒頭が完全に銀魂wwwww
しかしこの銀さん非常に頼りになる
ひよのの大胆な推測はスパイラルっぽくていいな
貴族のせいで北部が大惨事の予感
投下開始します。
8 :
欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:43:36 ID:A3wQIkpl
まだ技術が発展していないころ、望遠鏡を覗いた学者は火星には運河があり、文明も存在するものだと信じていた。
今でこそ無味乾燥した星だと証明されているが、なぜ学者すら騙されたのか。
『観察と観測の違いだよ、セイバー』
#####
仄暗い空気が充満している。
空気は乾いていない。しかし湿ってもいない。
書斎の埃くさい涼しさに似ていた。
とある階段の果てにあったのは、卵を横に半分にしたようなドームだった。
ドームの頂点からは届くはずのない光が差して、真下の床を丸く照らしていた。
月のように柔らかい光が、影のヘリを強調する。光の円の中心に、石台が静黙していた。
台は光を白く反射する。
光のほとりに、テラスで使うような、一本足の丸テーブルが用意されていた。
向き合い座るのは、ハンターでも、ウォッチャーでも、セイバーでもない二人だった。
色素が薄い二人の髪は、影にも光にもよく似合っている。
青年は机上に盤と駒を広げ、一人で戯れていた。白と黒だけの、彩りが一切ない盤に、ランプを引き寄せる。
仄かに橙に染まる白色の駒が、灯火に合わせて揺らめいた。
静かなドームに、狭い布陣で駒が織り成す音が響く。
一人遊びの手をさっと止め、青年はゆっくり顔を上げた。
光の輪とランプ、両方のささやかな明かりに二人は照らされる。
「……第二放送が過ぎて、やっと駒が揃った。そう言った方がいいのかな?」
9 :
欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:44:29 ID:A3wQIkpl
かつて人を導いた手で駒を指す。ゲーム開始を意味しているのではない。
傍にいた少年は、言外の含みをすぐに悟った。
一般的な意志疎通とは駆け離れていたが、白眉達にとって察するぐらいは造作もないことだった。
8×8の枡より多かった者が、駒の初期配置の数近くまで減った。
これからまた、片側の布陣の数にまで減るだろう。そこで初めて、こちら側と釣り合う。調和する。
キング、クイーン、ビショップ……各々の役割を携えて、対面するときはすぐにくる。
青年が、それが神様のレシピだと薄笑う。銀髪の少年は無表情で、青年と目を合わせた。そのまま頬杖をつき、駒をひとつ握る。黒い馬の首で、白いクイーンを弾き出した。
床にクイーンが転がる。呆れたように口の端を下げて、青年は駒を拾った。
「まったく、君を見ていると、若い頃の僕を思い出すよ」
恭しさに加えて、倦んだ本心をかすかに見せてきた。青年の過去話に、ぞんざいに少年が答える。
「俺はお前に未来を重ねられない。無事に成人を迎えられているから言える戯言だ、犬養舜二」
「重ねるつもりで言ったんじゃない。君と逆だったから、かえって思い出す。
僕は、若いからこそ見える未来を持っていた。それは今も同じだがね。
アイズ君は運命に翻弄されているからそう思うだけだ」
「詭弁だ。運命に衝突したら、粉々になるのはブレード・チルドレンの方だ。血が、そう言っている」
アイズは椅子を引いて立ち上がった。光の中心へ進み寄り、石台に腰をかけた。膝に肘を置き、指を組む。
光が溶けるほどに暖かった。少なくとも、少年の呪われた冷たい血にはそう感じた。
石台はアイズの影をも白く反射する。
その上に横たわる、離反した女さえいなければ、より白く輝いていただろう。
瞳は何も映さない。うっすらと開いている瞼の奥には充血が残っていた。
脳天の風穴からはもう何も出てこない。心臓はとっくに止まっているはずなのに、重油のよりも重く、濁った魂魄は滞留しているらしい。
渦巻く思念が、少しづつドームに毒気をちらしていく。
死体は神々しいといえる姿とは程遠かった。だが遡れば神の手先だったのだ。
祈りを捧げる一兵卒に見えなくもない。
思いの限りをぶちまけて、マイクを通じて島に絶望をもたらした女。
死んだ今は、何の力もない涜職した迷惑な者に成り下がっていた。
「やあ! 君らはこんな場所で何しているんだ?」
階段から、三人分の能力を飲み込んだ少年が降りてきた。
英邁な二人の間に割り込み、じっとヒトだったものを観察する。
介入者は、腹の内を見せない二人を前にしても、無邪気で純粋なままだった。夢と希望で胸を一杯に膨らませている。
「ああ、"彼"と歩もうとしてたヒト? 役立てるとは思ってなかったけど、全然使えなかったね。
それにしたって、死体の周りで会合なんて、君らも趣味が悪いなあ」
「趣味のいい死体なんて存在しない」
「なんだ、それぐらいは同じ事考えてるんだ」
アノンは共通の感覚を意外そうに受けとめる。
女の死体は原型を留めているだけいい方だ。島の惨状と比べれば、ずっと綺麗だった。
死体の価値観が全く麻痺していないだけ、この様相は異様に映った。
眉をついと上げ、アノンはドームを見回す。
巨大な宝玉の内側にいるようで、美しく磨かれている。光の輪が壁に届いていないのがもったいない。
そのままアイズが座る石台に、死体ごと腰かけた。死体の傷口から、弾みで残り少ないピンク色の肉が吹き出た。未練がましく何かを喋ろうとしているように、ごぼごぼ動いていた。
「殺した女の墓参りかな?」
「そんな些細なことに時間は使わない」
「……やっぱり。
ここでまたなんかしようとしてるね」
声のトーンがいきなり落ちた。
コインよりも小さい、ひやりとした穴がアイズの額へ突き付けられた。
放送者を撃った箇所と全く同じ部位へ、銃口があてがわれる。
指を引く寸前、アイズは凶器を持つ手首を掴んだ。
弾は明後日の方向へ飛ぶ。
そのまま腕を回し、関節を折る体制に入る。
ばり、と静電気に近い音がした瞬間、距離を取った。
様々な能力を持っているが、あえて銃を抜いた。
柔らかな光に当てられて、銃は色彩を淡く変える。
ひとつあればいくつもの命を奪えるものとしては、軽いことこの上ない色だった。
「やあ! 君らはこんな場所で何しているんだ?」
階段から、三人分の能力を飲み込んだ少年が降りてきた。
英邁な二人の間に割り込み、じっとヒトだったものを観察する。
介入者は、腹の内を見せない二人を前にしても、無邪気で純粋なままだった。夢と希望で胸を一杯に膨らませている。
「ああ、"彼"と歩もうとしてたヒト? 役立てるとは思ってなかったけど、全然使えなかったね。
それにしたって、死体の周りで会合なんて、君らも趣味が悪いなあ」
「趣味のいい死体なんて存在しない」
「なんだ、それぐらいは同じ事考えてるんだ」
アノンは共通の感覚を意外そうに受けとめる。
女の死体は原型を留めているだけいい方だ。島の惨状と比べれば、ずっと綺麗だった。
死体の価値観が全く麻痺していないだけ、この様相は異様に映った。
眉をついと上げ、アノンはドームを見回す。
巨大な宝玉の内側にいるようで、美しく磨かれている。光の輪が壁に届いていないのがもったいない。
そのままアイズが座る石台に、死体ごと腰かけた。死体の傷口から、弾みで残り少ないピンク色の肉が吹き出た。未練がましく何かを喋ろうとしているように、ごぼごぼ動いていた。
「殺した女の墓参りかな?」
「そんな些細なことに時間は使わない」
「……やっぱり。
ここでまたなんかしようとしてるね」
声のトーンがいきなり落ちた。
コインよりも小さい、ひやりとした穴がアイズの額へ突き付けられた。
放送者を撃った箇所と全く同じ部位へ、銃口があてがわれる。
指を引く寸前、アイズは凶器を持つ手首を掴んだ。
弾は明後日の方向へ飛ぶ。
そのまま腕を回し、関節を折る体制に入る。
ばり、と静電気に近い音がした瞬間、距離を取った。
様々な能力を持っているが、あえて銃を抜いた。
柔らかな光に当てられて、銃は色彩を淡く変える。
ひとつあればいくつもの命を奪えるものとしては、軽いことこの上ない色だった。
「俺を処分する命令でも下されたのか」
「僕の独断だよ。君ら勝手すぎ。ウォッチャーから聞いたよ。
なんだい君ら、『観測者になる』って?」
これは牽制でも威嚇でもない。邪魔の排除だ。
引き金をいつでも引ける状態にして、焦点を犬養の脳天に絞った。柄にもなく血が騒ぐ。
ほんのりと犬養は引き金を眺めた。
「僕は予定の範囲内と対象を見ているだけのウォッチャー(観察者)に収まるつもりはない。
『観察』は曖昧だ。曖昧だから穴が出る。キリエ君のようにね。
運命の『観測者』として僕らはいる」
へぇ、と納得しているのかいないのかわからない呟きをアノンは漏らす。
観察と観測、似ているようで本質は違う。
「観て察するか、観て測るか。
『測るもの』を投入して、客観的に観ることが『観測者』の役目だろう」
「ウォッチャーから断りなしに独立した二人が、どの口でものを言うかな。
セイバーの僕からすれば、もう飲み込んでもいいぐらいの罪だと思う」
直接戦闘に使える能力の無い二人を飲んでも、無駄が増えるだけだ。頭が今以上によくなる訳でもない。
似合わぬ銃はそのために用意した。
それぞれの思惑でしかつながっていない、義理一遍の仲に情けは必要だろうか。
「仲間ができたんだ。できたんだと思ってたんだ!
"彼"と共に、同じ道を歩ける仲間が! でも違ったね。
女は余計なことするし、ピエロは裏切るし、霧っぽいアレは勝手だし、さっき飲んだ奴だって仕事はやっつけで雑だし。
君らはなんだか"彼"のオーラに似てるからどうかな、とは考えてたけど、やっぱダメだね。
"彼"の隣に相応しいのは僕だ。
君らはハンター紛いの測りをぶちこんで、間違ったオブザーバーエフェクトを起こしたいだけじゃないのか?」
ぐりぐりした目玉が動く。立派に裂けた口で、柄にもなくまくしたてる。
揺さぶりに二人とも、特に目立つ反応はなかった。
それどころか、女の魂が勘違いして洗い清められそうな雰囲気すら漂わせていた。
犬養は何のためらい無しに、言い切った。
「それを含めて、『観測者』の役割だと思うからさ」
軽い音だった。
銃弾を、吐きかける唾のように、侮蔑して撃った。
汚い塊が、一転して鮮やかな弾道を描く。小さな鉛のかけらが、光の中に大きく一の字を残した。
銃を下げる。
衝撃波になりかけた銃声が不協和音をたてて、ドームの空気を撹拌した。
ぱっと、銀髪に血が散る。壁に練り込められるように、弾が埋まった。
「『観測者』の僕らは、胸に穴が空いても生きている悪運を持っていた。知っているだろう?
まぁ、"彼"ほどではないが」
「"彼"と一緒にしてたまるもんか。始末の悪い男だ」
犬養は耳たぶから滴る血を、軽く拭った。もう一度、アノンは銃を向ける。
どこか胸が疼いた気がした。
ばさりと長い髪を翻し、犬養は左胸に手を当てた。
「抜けるのなら、あのピエロと組めばいいじゃないか」
「"彼"の目的に反発するのは神様のレシピに逆らうこと。僕は僕の目的を果たすまでだ。
示されるまま受け入れるだけだ」
説き伏せるように堂々と胸を張り、心臓をさらけ出す。
「それに"彼"には感謝している。
あの時、国の頂点に立ち、僕はスタジアムで演説をしていた。そこで国民の空っぽな意志を見た。少し残念だったよ。
そのすぐあと、"彼"に呼ばれた。若い姿を与えてね。
全ての導きを若いこの眼で観測できるなんて、素晴らしいことじゃないか。それに、」
ふっと緊張を緩めた。
他意がありそうで意地の悪い、それでいて愛想たっぷりの笑顔を、アノンに注ぐ。
「かつてデウスによりこの役目を担っていたBL少年探偵と比べれば、まともな仕事しているつもりだよ」
「…………」
本音とも冗談ともとれる発言に、観測者の片割れは返す言葉がなかった。
「『観測者』の行動はウォッチャーに伝わってる。
それでも続ける?」
「続けてこそ、僕らが創り出された意義がある。そう思うよ」
「……結果的にゲームを助長してる訳だし。
それに元々殺る気もなかったのはわかってたんだよね? 僕が本気出してるなら銃なんて使わないし。
本当に『観測者』なんて馬鹿げたことやってるのか聞きたかっただけ。
で、今度は何をするつもり?」
べろりと銃口を舐めた。
なんとなく、あの霧の魔物のような味がした。
「最初の『測り』は役に立たなかった。何のために返してやったのか、
理解してもらうつもりはなかったけど」
あれだけ常時バーサク状態なら、理解する頭すらなさそうにも思える。それは満場一致らしい。
非凡の集団にとっては貶められる存在でしかなかった。
「あの戦闘狂は、想像はしていたがあまりいいものではない。
あれはリードが外れた犬だ」
首輪はついているのに、解き放たれたと思い込んで暴れ回る犬。確かによく似ている。
「詩人みたいに語るのを得意にしてると思ってたけど、ずいぶん的確な表現じゃないかアイズ君」
犬養はグラスホッパーの上着を脱ぎ、女にかぶせた。それだけでドーム内の汚れが取り除かれ、綺麗になった錯覚を起こす。
床上にアノンはあぐらをかいて座った。頬杖をつき、予想ついたことを話す。
「そうか。また『測り』を投入する気だね?」
もう一人、『測り』として島に返してやろうとしているのは、目に見えていた。
二人は答えない。答えないからこそ正解だと示していた。
ウォッチャーが握っていた情報が『観測者』にも流れてきていた。
生死の情報はウォッチャーの管轄だったが、これで『観測者』が動く準備は整った。
対象は我々"神"側の手によって身体を失っていた。
更に都合がいいことに、対象はあのプラントドームの近くで行方不明になっている。
最初に送り出した狂戦士の次に好条件が揃っていた。
「もちろん、そのまま返したりはしない。観測しやすいようにいじらせてもらう」
「本当にいい趣味してるよ、君ら」
『観測者』は言う。
対象の彼女は、必ず最も収まりのいいところへ行きつくだろう。
心の底から再開を願う者の元へではなく、心の隙間を持つ者へ。取り入るように、導かれたように。
存在しない駒が、盤上に立てられた。
#####
音という音を遮り、静かにあたりを白く染める。降りかかる雪を払う。
羽虫が飛んでいるか、ごみ屑が落ちているかのようだ。島の不快な気色を吸っていて、汚いとしか思えない。
見上げれば灰色に灰色が重なり、余計寒さに拍車をかける。
自爆した娘は、積もるだろうとの予報も聞いていたと話した。
しばらくはやみそうにない。
雪をしのげ、休めそうな場所を探す。寒さが全身の痛みを麻痺させてるが、苦痛の先伸ばしでしかない。
白く大きく深く、肺で温まった空気を放出する。
代わりに凍てついた空気が、口から身体の内側へ侵蝕してくる。
ボタ雪の粒は吐息で軽く舞い上がり、風に吹き飛ばされていった。
雪が肩に積もり、キシキシと一つの氷のようになっていくのがわかる。
こんなに傷ついていながら生きている。まだ生きている。
身体の一部分一部分がじりじり使えなくなり、こそげ落ちていく苦痛はうんざりするほどあった。
作り上げたものは片っ端から形を失くす。ありのままのものは、触れた途端に無に還る。
すれ違った者は……それだけで消えた。
腕に仕込まれた宝貝が、微かにうごめいた気がした。
唇が凍るのを感じる。
口を引き結び、新たな冷風に備えた。
道に残った跡を消すべく、また雪は降りしきる。
――俺ごと消そうとしているのか。
な訳がない。
考えたくもないが、弱っているのだろうか。
墓場の中まで付き合わせる仲間は必要ない。その墓場に今も向かおうとしている。死ぬなら一人で、と考えていた矢先に、わずかな羨望を覚えてしまった。滑稽だ。
道なりに行けば、この先に図書館がある。
この状況下で書物に囲まれるのはあまり好ましくないが、仕方ない。
雪を踏み潰す軽い音とは正反対の、棒になった重い脚で、のろのろと向かう。
そのとき、ごくかすかに、「……ぅー」というような声を聞いた。
せっかく鞭くれてやっと動きだした足を止め、耳を澄ます。空耳なのか?
いや、確かに聞こえた。
「うー……」
途切れそうな細い泣き声がした。見えはしないが、歯を鳴らして震えているのがまざまざと伝わってくる。
見回した。
腰の丈程度の街路樹が動いている。隙間から、一瞬金色の髪がのぞいた。
ドラゴンころしを振り上げ、出方を窺う。
分厚い雲で薄れたドラゴンころしの影はそいつを覆ったが、ただ震えるだけで逃げる気配も攻撃する様子もない。
空いた手で街路樹を掻き分けると、娘が膝を抱えてうずくまっていた。
あいつとは対称的な、それこそ雪に紛れる白さの肌が光った。真っ赤になった鼻が目立つ。
唇は紫を通り越して黒くなっていた。
丸まった背の薄い皮膚を、下から背骨が押し上げている。細くも要所要所は肉付きのいい肢体は、何も着ていなかった。
濡れた新聞紙をかぶり、かきあわせていた。
そこらのごみ箱から拾ったらしく、泥だらけだった。身体を隠す為とはとても言い難い。
少しでも寒さをしのぐ、無駄な砦のつもりらしい。
身ぐるみ剥がれて捨てられたのか。
だが、それならこの寒空の下に留まっている理由は無い。
移動して服を調達ぐらいはするはずだ。あの男がやっていたように。
「誰だ、お前は」
「あう……? うう」
――なぜ誰もが、俺を試すような出合いをするんだ。
脳裏に浮かぶのは、あの女しかいなかった。
【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師 肉体授与】
【H-08南西/図書館近くの路上/1日目/午後】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(特大)
[服装]:上半身裸
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、炸裂弾×1@ベルセルク、折れたキリバチ@ONE PIECE、
妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク、蝉のナイフ@魔王 JUVENILE REMIX
[思考]
基本:グリフィスと、“神”に鉄塊をぶち込む。
0:なんだ、この女は……
1:運命に反逆する。
2:グリフィスを殺す。
3:グリフィスの部下の使徒どもも殺す。
4:なんか、夢に見たか?
5:なぜヤツが関わっている?
6:工場に向かい、使徒どもの所業を見極める。
7:その足で競技場方面に向かい、グリフィスをぶち殺す算段を整える。
8:ナイブズとその同行者に微かな羨望。
9:ヴァッシュに出会ったらナイブズの言葉を伝える。
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
※左手の義手に衝撃貝が仕込まれています。
※鈴子からロベルト関係以外の様々な情報を得ました。
【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師】
[状態]:記憶退行
[服装]:全裸。新聞紙を巻きつけている他は首輪のみ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
0:???
1:うー?
[備考]
※参戦時期は傷の男と合流後(18巻終了後)以降です。
※記憶を幼児まで後退させられています。記憶が戻るかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※ウィンリィは『観測者』の運命観測対象としての復活です。ジョーカーのような働きは一切出来ません。
#####
「――昔、望遠鏡を覗いた学者は火星には運河があり、文明も存在するものだと信じていた。
見えていたものは現代と変わらないのに、なぜ学者たちは騙されたのか、わかるかい?」
脈絡なしに、犬養は問いかけた。首を捻るアノンに代わって、アイズが答える。
「天体を写真に収める技術がなかった。学者は自ら様子を描かざるをえない。
観『察』して書き下ろすうちに、意図せず想像力が働いて、光の加減で見えた影を運河だと勘違いした」
「正解。これが観察と観測の違いだよ、セイバー。
全てを客観的に、普遍的に見る観測者がいなければいけないんだ。
観察だけするから、余計なものが見えてこうなる」
「わかったよ、ウザいね君ら」
少し間を置き、アイズは尋ねた。
「お前はここに何しに来た。ただ『観測者』の行動を確かめるためだけに来た訳じゃないだろう。
招集でもかかったのか」
「ああ、そうだった。
次の放送について、"彼"から連絡があるらしいよ。
運命だとか何とか……
ところでさ、君らにとって、運命って何?
ウォッチャーに確認されてるのを承知とはいえ、勝手な行動してまで見いだしたいものってなんだい?」
「はは、興味あるね。気になるのもわかるよ」
よく似た二人は、同時に言った。
「全ては予定調和だ」
「世界は変えられる」
短い会話だった。「神」にも届きはしないだろう。
円の外影に隠れながらも、青年は笑っていた。さっきの薄笑いとは全く違う。本当に面白げだった。
「それが君が言う、運命の螺旋が示す未来かい?」
「それがお前の言う、運命のリトマス紙なのか?」
また同時に互いを皮肉り合う。
「……勝手に出ていった者同志ですら仲が悪いね。
煮ても焼いても食えないよ」
アノンの溜め息は受け流された。
949 :欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:56:27 ID:20X4foLM0
以上、投下終了です。
どなたか代理投下をお願いいたします。
ウィンリィ復活に関して、問題があったら破棄いたします。
意見助言がありましたらお伝えください。
とのことです。以上で代理投下終わりです
投下、代理投下乙です
割り込んでしまってすみません
主催陣仲悪すぎて吹いたw
ガッツに何か恨みでもあんのかってくらい狙い澄ました状況だ……
これは確実にロクなことにならねぇ
一点だけ指摘を
>腕に仕込まれた宝貝が、微かにうごめいた気がした。
この宝貝とは多分衝撃貝のことかと思いますが、これは宝貝ではないです
やっと時間出来た。改めて◆Yue55yrOlY、◆RLphhZZi3Yとも投下乙です!
>お約束の大切さは一度なくなってみないとよくわからない
冒頭でワロタwひよのも絶好調だし束の間の安息とはいえ和んだw
それでも沙英なら……沙英ならきっと銀さんとひよののダブルボケにも的確にツッコんでくれる!
そして貴族の書き込みには皆うへえなリアクションwww
>欲望の轍から……
同じく主催陣のごちゃごちゃっぷりに吹いたw
趙公明も酷い言われようwガッツは……またお守りしながらの行動になるのか
ほんっとうに碌な目に合ってないなぁ。頑張れとしか言いようがない。超頑張れ
投下乙です
ウィンリィ復活に特に問題はないと思います
しかし、あれだけのイベントを起こして、まだまだ酷い目に遭わせる気満々とかどんだけサドなんだよw
ガッツは果たして運命の奔流に抗えるのか
いずれ来るであろうゾッドとの邂逅で何が起こるのか
非常に続きが気になる展開だと思いました。
代理投下乙です
いやあ、主催陣の仲の悪さは知ってたが改めて知ったと言うかw
ガッツは……確かにこれは狙い澄ましたような状況だわw
ああ、これは意地が悪い…
急かす訳ではないが鳴海歩・鷹さんが最初の1回から進んでないな
ヴァッシュ・ひょうの方は一度予約は来たけどこっちは二回目が来ないな
難しいからか?
歩たちはまず治療に探索、考察とやることが多いからなー
他のパートと無理に絡めなくともいい状況だし、ネットの動きも落ち着いてからのほうが書きやすかろう
歩を一番書いてるJv氏も大作の後で1話しか挟まないんじゃ書きづらいだろうし
どのパートも放送まで二時間以上残ってるし、進行が滞ることもないかな
歩グリフィスパートとプラント兄弟のパートは独立性が強いし
流ととらが接触かー
楽しみだが、とらは流を知らない時期だよな
うーん、どうなることやら
先に投下したお約束〜にミスがあったので、修正します。
沙英たちがヴァッシュチームから離脱したのは、植木が意識を取り戻す前でした。
関連する記述を、以下のように変更します。
「もう一人は、ロビンさんだった……あの人が殺し合いに乗ったって言う事は、あの後、何かあったって事ですよね。
ヴァッシュさんと、あの男の子は大丈夫なのかな……」
「ヴァッシュって……この人ですか?」
沙英の発言に反応したひよのが、デイパックから手配書をひっぱりだす。
そこに描かれた能天気な男の容貌は、二人の知る「トンガリ」の物で……
「え……これ、ヴァッシュさん……」
WANTEDと、大きく見出しの付けられた手配書に書かれた情報は以下の通り。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード
推定年齢24歳
出身地不明
住所不定
レブナント・ヴァスケス伯殺害およびG級器物破損容疑で指名手配中――
賞金額 生死に関わらず600億$$!!
備考――平和主義者
$$という金銭単位が沙英にはよくわからなかったが、それでもとんでもない額である事だけは確かであったし
殺害という二文字が酷く目を奪った。
あの時、別れてしまった三人の内、一人はゲームに乗り、もう一人は人殺しの賞金首で、そんな二人に任せた少年はどうなったのかわからない。
果たして、この事態をどう判断すべきなのか。
沙英は呆然としてしまい……銀時に肩を叩かれて気を取り戻す。
あっそういやそうっすよね。修正乙です
ところで、或の持ってるコピー日記って能力のコピーじゃなくて、文面のコピーなんだよね?
ユノに書き換えられた場合、読むタイミングによっては書きかえられた文面を読む事になる
って事でいいのか?
それで合ってる
ついでに孫日記だから電波の届かない場所では無効
じゃなきゃ強すぎにも程があるw
それは施設周辺ならどこでもおkなんだよね
書き手の裁量次第だが、11thのThe Watcer系統の能力だからそうなるのかね。
でも無差別日記の機能が停止した時点で動かなくなってもおかしくない。
そもそも書き換えられる内容が不自然になりそうだしなー……、無差別日記の性質上。
或なら放送前に見破りそう。
ふんむ
御意見サンクス
36 :
代理:2010/06/30(水) 13:24:05 ID:kbXlgPCG
秋葉流、ニコ・ロビン、とらで代理投下行きたいと思います
黒々とした海が、彼女の眼前に広がっている。
――いや。
その腐った水に溺れ、彼女という魂を規定する理性の器が、ぐずぐずと崩れていると言った方が正しいか。
とうに彼女はそのタール様の感情に完全に沈み込んでいる。
……此度の邂逅はただ、風化するまでを速めたにすぎないのだろう。
即ち。
麦わら海賊団、“悪魔の子”ニコ・ロビンはだいぶの昔に死んでいる。
あるいは――そもそもの始まりから“ここ”にニコ・ロビンはいなかったのか。
彼女ならばその理性と知識に従い、たとい船長が潰えども仲間を、世界を鏖そうとなど思うはずもない。
絶対に。
……絶対に。
そんな選択肢を選ぶ以前に、だ。考え付くはずも……ない。
だから、彼女はただの残骸。
ニコ・ロビンを模した出来損ないが、中途に弄られた果てに擬態すらままならなくなったブートレグ。
中国製の方がまだマシなデッドコピーに他ならない。
たとえ、たとえ目の前にモンキー・D・ルフィそっくりの肉の塊が転がっていて。
膝をついて、愕然として、虚ろな目をして、涙を鼻水を流し、だらしなく口を開け、嗚咽を漏らしているのだとしても。
彼女は――ニコ・ロビンではありえないのだろう。
だとしても。
……それでも彼女は、生きている。
生きているのだ。
悲哀。
悔恨。
憤怒。
激情。
自嘲。
諦念。
苦悶。
切望。
嘆嗟。
失意。
……憎悪。
黒を基調として赤と青が入り乱れるその墨流しの絵模様は、
顔料として白布に写し取れればさぞや見ものに違いない。
藍に瑠璃に紺に群青に藤に菫に紫に、牡丹に躑躅に薔薇に紅に。
これらが偽物であってたまるものか。
見つけてしまった死神の喰い残しを、吐き気すら催す優しさで彼女は撫でる。
焦げた肉を、はみ出した腸を。
丁寧にあるべきところへ戻し、懐かしくも頼もしい船長の表情に、怒りと嘆きを湛えたまま笑みを得る。
赤く充血した目で彼女は憎い憎い世界を見据え――、安らぎと慈愛に満ちた口調で呟いた。
「殺してやる」
紛れもなく彼女は絶望を味わっていて、強く強く、その憎悪を煮詰めている。
「彼をこんなふうにさっきの連中かしら。そうあってくれれば探す手間が省けて嬉しいのだけど。
仮にそうなのだとすれば、、あの小細工でルフィの体を焼いて孔を開けたの?
……無理ね。あの飛び道具では火力が足りな過ぎるわ。
だとするなら、あれは囮……かしらね。
本命の目を逸らす小道具って辺り?
あるいは――体を焼いたのと、孔を開けた手段は別なのかしら。
いずれにせよ、工場の中にいた連中は、彼を殺した何かとよく似た攻撃手段を持っているわね」
淡々と、淡々と。
呟いて確認し、確認しては呟く。
ぶつぶつぶつぶつ、ぶつぶつぶつぶつ。
ここではないどこかを見据えて、瞬き一つすらせずに。
「そして、さっき死んだ蜂娘と鬼ごっこしていたあの二人を、助けたとなると。
……なるほどね。理解できたわ。
“彼らは全員グルで、集団で寄り集まってルフィを殺した”、間違いないわね。
ええ、それ以外に考えられないもの。
さっきの飛び道具を卑怯にも何人で撃ちつけてから、貫通力に優れた武器を使えばああいう傷が出来るでしょう。
私は――先入観に囚われすぎていたわ。そう、ルフィが何処の誰とも知らない相手に負けるはずがない。
ならば、発想の転換が必要だったのよ。
何処の誰とも知らない人間でも、寄り集まれば強大な力となる。麦わら海賊団のように――」
人形のような虚ろな瞳は、クルクル狂々と遠い彼岸に想いを馳せる。
「……残り人数も大分少なくなって来た現状、ルフィを殺せる大集団なんてそんなに多くはないはず。
“ルフィ殺害現場の近くを根城とする”、“ルフィの傷痕から想定できる攻撃手段を持つ”、“ルフィを殺せるだけの人数を持つ”
状況証拠は全て語っているわ」
彼女の中だけで理路整然たる当然の帰結となっている、あまりにも狂った論理。
「明白に、これ以上ないほど、確実に、絶対の、誤謬なき、不変たる真実として、彼らこそがルフィ殺害の下手人である、と」
“そうあって欲しい”が気付かぬ間に“そうなるのが自明”と摩り替わり、“そうでないはずがない”と転がり落ちていく。
結論ありきの辻褄合わせ。
一方通行のこじつけが、全てを呑み込む一点へと理屈を集約させていく。
それはまるでブラックホールだ。
「追わなくちゃ。
地獄の果てまでも追い詰めて、地獄以上の苦痛と辱めを与えて、地獄もろとも滅ぼさないと、ね」
恋しい恋しい想い人をようやく見つけた時の歓喜の表情が、彼女の上に張り付いていく。
くすくすくるくる、くきかかか。
げひゃひゃひゃぐふふ、くきゃきゃきゃきゃ。
不意に、さくり、と、彼女は脳内に衝撃を感じる。
その瞬間――、全くの唐突に、気付いたのだ。
自らの内なるどこかから聞こえる、おぎゃぁあああぁぁ、という声を。
どろり。
……どろり。
より黒く、より粘つきを強めていく狂気は、いつしか彼女の中におぞましいモノを孕ませていた。
視界の右は嘆きの青に、左は憤りの赤に満たされていく。
ありとあらゆる負の感情から生まれ、憎悪を喰らいて育つ獣の産声を、確かに彼女は聞き届ける。
何処から聞こえてくるのだろう。
頭の中だろうかと、そちらの方に手を伸ばし。
「……え?」
頭の右に手をやる。
指先に、僅かな熱さを感じた。
本を読むときに頁の端を誤って指に垂直に動かしてしまった時と同じ熱さだ。
三角形の、鉄の塊だった。
反対側を確かめる。
鳥に触った時を思い出す。布団の中身をブチ撒けた時を思い出す。
羽の感触が三つ、自分の中から生えていた。
右に見えるものが青いのは、血を失ったからで。
左に見えるものが赤いのは、血が流れ込んだから。
それをようやく認識したと、同時。
ぐらり、と彼女が崩れていく。
彼女の孕んだ獣は、決して孵る事はない。
何故なら――、彼女がソレを自覚したその瞬間の衝撃は。
さくり、と。
頭蓋の横ど真ん中を、豆腐のように矢が貫いたことで生じたものなのだから。
肉の塊が、軽い音を立てて倒れた。
じくじくと鉄錆色の池が広がっていく。
そして二度と動かない。
【ニコ・ロビン@ONE PIECE 死亡】
**********
役立たずはいらない。
視野狭窄に陥って、自分の言葉さえ全く聞く耳持たなくなったとしたら。
それは既に駒ですらない、足手纏いだ。
だから捨てる。それだけだった。
世界を滅ぼす力とかいう妄言は確かに気になったが、その担い手が制御できないならそこらに放る程度のものだ。
「……蟲のメスガキといい。どいつもこいつも、使えねぇ。
そりゃ工場の連中が殺った可能性は0じゃねぇがな、ン時間前の死体だよそりゃ。
短絡的にも程があんだろ。
ロボットみてーに一つのことしか考えられなくなりゃ、おしめぇだ。
オレはな、お人形さん遊びをするつもりはねーのよ」
明るい口調だった。
まるで、友人と趣味の話をしているような声色だった。
なのにその顔には、宅地造成される丘を眺めるような、そんな表情を浮かべていた。
「つー訳で、だ。オレの話を無視したのはいけねぇな、全くいけねぇ。
オレぁやりてぇ事があるからよ、ハナシ聞けねェヤツはいらねえんだわ。
……光栄に思えよ? てめぇの事は少しは認めてたんだぜ?
てめえがまかり間違って敵にでもなったら面倒だから、こうしたんだからな」
道化の笑みで秋葉流が空を仰いだ、その瞬間。
彼の両肩から背から腰から、6本の腕が咲き開く。
鍛えた体躯を絡め取り、骨ごと筋ごと折り割らんとする花の群れを――、
「種が割れてりゃ、こんなもんだ」
縛る。
ヘラヘラヘラヘラと生気のない軽薄な笑みを浮かべれば、それだけで全ての腕が静止した。
流の衣服には複数個所に鈴が結い止められており、そこを起点とした結界がニコ・ロビンだったモノの最後の抵抗をいとも簡単に踏み躙る。
鈴とは、神道において重要な祭具である。神楽鈴や鈴緒などはその代表格だろう。
諸君らの殆どは初詣で賽銭を奉じた折に、ガラガラと鈴を鳴らしたことがあるはずだ。
鈴は邪気を払い、霊を鎮め、神を呼ぶ――法具なのである。
強力な結界を張る為に独鈷杵の代わりとして用いるなら、十分に使える代物だ。
神社に立ち寄ったことは間違いなく正解の選択肢だった。
その強度を増した結界を鎧の様に纏えるよう、ロビンとの邂逅の後すぐに仕込んでおいた。
こういう時が来るだろうと最初から織り込み済みだったからこそ――彼はロビンに同行を申し出たのだから。
無論この結界は、力ずくで破る事も出来る。
だが、少なくともニコ・ロビンには不可能だ。それを流は確信している。
理由は単純、本当に単純だ。
肩から先だけで生み出せる力というのは、全身運動に比べ極めて小さい。
たとえ得体の知れない異能の力であろうと、人体工学には逆らえない。
いかなるプロセスを経たとしても、目に見える部分は必ず物理法則に則り動く。
足を脚を、腰を胸を腕を拳を、全身の連動で成し得る武に比べれば、この細い細い腕だけでできる事などたかが知れている。
奇襲から関節技に持ち込むという戦術頼りでしか、この殺し合いを打破する術はなかったのだ。
流が鼻で笑う。
最早、ロビンだったものを見もしない。
瞬間。
「な――、」
流の腹から新たに伸びた手が、結界の隙間を潜り抜ける。
よくよく見れば、あちこちに花開いた目、目、目。
結界の位置を把握されていると、流は確信――!
今わの際かつての判断力を取り戻したロビンは、せめてもの意趣返しに彼の急所を。
邂逅のその時手掛けようとした、尊厳壊しに着手する――!
「んちゃって、な」
そして、着手しただけだった。
どすり、と、局所に手が届く遥か前に、その腕に矢が突き刺さる。
当たりもう一本。
どすり。
掌の真中から入り、肘から突き出る一本と。
指の二本を吹き飛ばし、壁に突き刺さる一本と。
彼女の腕は、その機能を完全に停止した。
そして咲く全ての腕に孔が開き。
涙の如く血が流れ出る。
ずる……。
血を滴らせながら、流の体の中へと全ての腕が引っ込んだ。
静かに、静かに。
突き刺さったままの破魔矢が沈む肉に押し出され、抜けていく。
萎む花を支えた挿し木は、血のぬめりのおかげで心太のよう。
そして音もなく腕が流の体に消えたと同時。
かん、からから、から、と、転がった。
ニコ・ロビンのお話はこれにてお終い。
否、もうとっくに終わっていて、カーテンコールが長かっただけなのかもしれない。
一度秋葉流に手の内を見せたという事は。
彼女はずっと、彼の慈悲で生かされていたに過ぎないと、そういう事。
不幸だったのは冷静さと思考能力の喪失だ。
仮定に価値はないけれど。
もし、秋葉流に能力を見せずに駆け引きを行えていれば。
あるいは以前に、確実に彼を仕留めきれていれば。
彼女はきっと、もっとマシな最期を――、
……いや、どうだろう。
もしかしたらこの結末は、ニコ・ロビンにとって最良ではないにしても、最悪の結末ではなかったかもしれない。
少なくとも、秋葉流はそう考える。
未だ痙攣こそ続けているものの、ロビンは仲間と思しき少年に折り重なるように目を閉じていた。
息は、完全に絶えたろう。
その表情には、つい先刻までの壊れた理性も憎悪による狂気も浮かんでいない。
……そうなるように、流は事を終わらせた。
彼女の最後の抵抗は生命の危機における自動的な反射と機械的な行動で、そこに憎悪を始めとする負の感情は一切存在しなかった。
流の奇襲、最初の一矢は、正確に精妙に耳の近くを真横に貫いていたのだから。
――脳内の側頭葉に存在する、扁桃体。
破魔矢によって破壊されたこの部位は、端的に言えば感情を司る。
現代脳科学でその機能の全容が解明されている訳ではないが、しかし、側頭葉の破壊による情動の低下は、多くの事例で報告されている。
怒りや悲しみ――憎悪でさえも。
それを受け止める部分が存在しなければ、感じる事などあるはずもない。
なんでこんな面倒臭いことをしたのだろう――と、流は自問する。
どうせ殺すならば、もっと簡単に心臓でもブチ抜けばそれで済んだというのに。
どうしてか、体は勝手に憎悪の根源たる部位を破壊する事を望んでいた。
風が、びょうと吹く。
ぼうっとした顔で、脇目ながらに首輪探知機を見る。
依然として工場内には反応は無しの礫だ。
……一体、先の連中は何処に消えたのだろう。
降りたシャッターを破壊するのも面倒だったので裏口を探していたところ、工場東部に侵入できる破壊痕を見つけたまでは良かった。
しかし計算が狂ったのは、そこにロビンの言う船長とやらの死体が転がっていたことだ。
蹲って全く動かなくなったのが頂けない。
仕方なしに肉塊にロビンが齧り付いている間、中を見て回ったが誰一人として見当たらなかった。
とは言っても、見える範囲を適当にうろついただけである為、仔細を詰め切れていないのは確かだが。
それでもこのPDAの反応からして、すぐ近くにいないのは間違いなかろう。
瞬間移動か何かの能力か、支給品か、それ以外の何かか。
掲示板の情報を見るに、施設そのものの仕掛けの可能性もある。
PDAのバッテリーを気にせずに、ずっと連中の動向を確認していなければ何処で消えたのか見逃さなかったろうが、後の祭りだ。
シャッターを破壊しつつとりあえず一通り中を見ても、収穫はライン上を運ばれていた生産物程度だ。
そこかしこの粘液やら破壊痕やら、調べたいものは山ほどあったが――、とりあえずはロビンとの合流を優先して、戻ってきた。
その矢先の出来事が、彼女の殺害だった。
とりあえず薬で体力を補給して、今後どうすべきかを話し合いたいとは思っていたのだが。
数十分もの間、その場を動かなかったロビン。
その心中は如何なるものだったか。
何を呟き、何を見ていたのか。
流に知る術はない。
けれどとにかく、彼女は流の思惑を外れた方に動こうとして。
だから、いらなくなったから、捨てた。
……それだけだ。
蹲っていた彼女と仲間に、その絆の強さに、うしおととらを思い出したなんて、そんなことは有り得ない。
生前の彼女が仲間について話す間だけ、その狂気の中に喜びを見せていたことなんて。
言葉の端々に垣間見える大冒険譚の断章から、本当に楽しげな実物の彼女が浮かんできたことなんて。
語られるエピソードに登場する彼女が、壊れた目の前のそれと同じ人間とは全く思えなかったことなんて。
全部全部、彼女を殺したこととは関係ない。
邪魔になったからだ、それだけだ。
そう秋葉流は心の内で幾度も呟く。己は救い様のないエゴイストなのだ――と。
「……たとえ死んでようが、こんなイカレ女を船長とやらに見せたくなかったなんて……そんなはずねぇだろがよ。
オレぁ“殺し合いに乗った最悪のクソ野郎”だぜ?
そんな、うしおみてーな……、」
言いかけて、不意に流は、眉を下げ口元を微かに歪めた笑みを得る。
「いや、違ぇか。うしおなら、よ。
どんなひでぇ具合にぶっ壊れちまっても……、キレェな道に引き戻そうと頑張りやがるんだろーなァ。
……やっぱ、あんないい子ちゃんになれるはずはねーんだよな、オレなんかがよぉ、く、くく……」
座り込み、俯き、体を震わせる。
まるで幼子が泣いているかのように、額に手を当てながら。
彼は気付いているのだろうか。
その言葉が何を証明しているのかに。
降る雪が、秋葉流の上に積もってゆく。
空気がやけに、冷たい気がした。
「また、一人か……」
続く呟きは、再度の自嘲を伴って。
「てめぇでブチ殺しといてなに言ってやがる」
向こう側で出会えたのだろうかと、一組の死体に目を向ける。
さぞや慣れ合いに浸った連中だったんだろうと、そんなことを思う。
うしおととらには、きっと及ばないだろうけどな、と。
うしおととらの絆より強いものなどありえないと、そう願う。
「もし……、もし、よ。
こいつらがうしおととらだったなら……、やっぱりオレは、こんな風にしたのかね……」
この残酷で虚しく、なにより寂しい戦場の中で。
今、彼らはどうしているのだろうか。
無事でいて欲しい。元気でいて欲しい。立ち直っていて欲しい。
そして――あの太陽のような輝きを、振り撒いていて欲しい。
……だって。と、彼は心中の独白を続ける。
「しねえのかな……、きっとしねえさ。
だってオレは、アイツらを裏切ったんだからよぉ、きっと跡形もねーくらいにぶっ壊したんだろうな」
そういう連中だからこそ、自分がこの手でブチ壊したいと、そう願うのだから。
せめて自分以外の手では、傷一つつけられて欲しくない。
空を仰いだ。
織り込まれた灰の雲の絨毯に埋め尽くされた、日没三歩手前の空。
暗く青く色づいた曇天から音無く落ちる白埃。
風鳴りが強く、強く――。
流の体を打ちつけて、雪の皮を飛ばして散らす。
巻く。
遥か高みから風が吹き下ろしてくる。
雪が入らないよう眇めた目、その中に。
脈絡も心情も無視して、全く唐突に映り込む見慣れた姿。
――白の斑の向こうに、待ち望んだ姿が見えた。
意識するより先に、流の口は彼の名を紡ぐ。
「と……、ら?」
**********
くっちゃくっちゃ、くちゃくちゃくっちゃ。
「おおぅ、うめぇ。最近の童子は500年前に比べりゃたらふくいいモン喰ってるからなァ。
柔らかさといい脂の付き具合といい、い〜い感じだ。
はんばっかなんざ比べモンになんねェなあ……、ああ、本当にうめーぜ。
男のガキでこんなにうめえんならよ、……女ァ喰ったらどれだけ美味ェんだ?」
じゅるじゅると血を啜り、甘い脂肪とコクのある筋を楽しみながら、人食いのバケモノは空を行く。
降る雪が気になりゃ炎で燃やし、両手にごちそう抱えて勝手気ままな漫遊紀行。
全快にはほど遠いとはいえ、体も少しは癒えてきた。
500年ぶりの人肉は格別だった。それはもう、天にも昇る美味しさだった。
これだからやめられねぇよなあ、と、バケモノは思う。
うしおの言う事なんか聞いていられるか。
いや、今度出会ったら問答無用で食ってやろう。きっとあいつも旨いだろうなあ。
ニンゲンどもは最初に荷物を全部取り上げられたらしいから、獣の槍だってうしおはきっと持っていない。
そう結論付けて、べろべろべろ、と肉の塊を舐め回す。
そこには一片たりとも情の類は存在しない。
ずきり、と、鉄くれを突っ込まれた様に――脳が軋んだ。
「ち……」
楽しかった気分が、一瞬で醒める。
先ほどからずっと――、正確にはあの子供を喰い殺した時から、満足に浸ろうとするたびに、こうだ。
無数の見た事のない映像が、ちらちらと唐突に浮かび上がる。
バケモノの知らぬ語彙でいうなら、サブリミナルにも近いものだ。
鎌鼬の兄弟どもは何処で会ったんだっけ?
遠野の連中は……昔共闘したかもしれない。
うしおがバケモノになっちまったことは、ねぇよなあ。
獣の槍が壊れた? だったらこんな苦労してねーっつーの。
マユコがミョーなヤツラに襲われたのは確かだが、あんな連中だったか?
西の連中も遠野のと同じだなァ。
からくり仕掛けの結界にわしが捕らわれる? くだらねぇ冗談だ。
そして。
そして――、
……そこから先は、訳が分からないものばかり。
過去と昔が、うしおとラーマが、とらとシャガクシャが、混ぜこぜに。
そういえば、だ。
もう800年も前の事になるというのに、白面のことを何故かすんなりと思いだせたのも謎だ。
白面の眷族らしき女がいたとはいえ、どうして白面そのものが糸を引いているなどと思ったのだろう。
あの大妖は、とうの昔に海に沈められたはずなのに。
「ちくしょー、なーんか裏でコソコソやってる奴がいるみてーで気持ち悪いぜ」
ぶんぶんと、頭を振る。
悪くなった気分を払う為に、も一口がぶりと弁当を楽しむ。
これは心の臓か、新鮮で鉄臭い大量の血がバケモノの口から溢れ出る。
「うんめぇなぁ……」
極楽、極楽。
とはいえ――これだけじゃ全然足りない。
ちょいと大怪我し過ぎたところだし、もっとご飯を欲するお年頃。
欲に浸ったまさにその時に、どこかで己を呼ぶ声が。
「……ん?」
「よお……、とら! とらじゃねえか!」
眼下に顔を向ける、こちらに向けてニヤニヤ笑う男がいる。
その男の顔を見た途端。
ザザ……、と、先ほどから続く幻の記憶がまた横切った。
「……ちぃ、うっとーしぃよなァ」
見た事もない男だが、もしかしてコレの原因をあいつは知っているんだろうか。
面倒だが聞いてみようかと舌打ち一つ携えて、バケモノは空から地へと堕天する。
見ればすぐ近くに女の死体も転がっている。すごく新鮮だ。
……惜しいことをした。
もっと早くに来れば、獲物にできたかもしれぬのに。
他の奴の喰い残しになっては、今から手を付けても恥というものだ。
「よぅ、ニンゲン。わしを呼んだか?
うしおの付けた名を知ってるたぁ、おめえ、アイツの知り合いかよう?」
皮肉気な表情の中に何故か子供の様な期待を抱き寄ってきた男が、不意に止まる。
その表情が、急速に砕け愕然の二文字に染まる。
彼の視線の先は、紛うことなく、バケモノの口周りに縫い止められていた。
赤ぁく染まった、口周りに。
「お前……、とら……だよな?」
見開かれた目は、だらしなく開いた口は、力なく下がる肩は、今にも崩れそうな全身は。
彼の中を今満たしつつある黒に似て黒でない色を、淡々と表現していた。
「あん? あー……、うしおの奴ぁわしをそう呼ぶわな。
まあ、名前なんてどうでもいいことさぁ、ニンゲン。
それよりちぃとばかし聞きたいことがあるんだがよ」
端的に言えば――絶望の夜色を。
「お、おい……。とらぁ、とら、よう。
どういうことだよ……、なにやったんだよ、てめぇ……」
男は笑おうとする。どうにか自分を保とうとする。
……けれど、泣きそうだった。
それがバケモノの癇に酷く触る。
どうしてか分からないがこの男の態度がとてつもなく気に食わず――不機嫌を隠す気さえ起きなかった。
「あん? 何やったって……ガキ喰っただけじゃねえかよ。
それよりかおめぇ、わしの事どこで聞いたのよ?」
バケモノは腕を組み、男を睨む。
そんな様子を気にしていないのか、気にする余裕さえないのか。
男はよろよろと一歩を踏み出し、目に見えない何かに縋るように手を伸ばす。
「喰……った? なに、言ってんだよ、とら。
そんな事したら……うしおがどう思うか、本心じゃ分かってたはずだろが。
てめえは口ばっかりでよ、なんだかんだであいつの側にいること、楽しんでたんじゃ……ねえか。
もう、あいつの側にいられなくなっちまうん、だ……ぞ?」
一々一々、態度が気に食わない。
何故か知らないが、目の前の初対面の男はもっと飄々としていなくてはならないと、そう感じる。
けれど、“この”バケモノはその理由を知らない。
だからバケモノはその性質に従って――、素直な心持ちを表に出す事しかできなかった。
見下すように。
嘲うように。
鬱陶しそうに。
まともに取り合う事などせずに。
「なーにいってんのよ。ぺちゃくちゃぺちゃくちゃワケ分からねえ。
んなこたぁ、どうでもいいじゃあねーの!」
これ以上、言ってはいけない。不真面目に揶揄する様な口調で聞いてはならない。
経験していないはずの記憶がそう告げる。
この男には、心の底から真剣に向かい合わなくてはいけないと、耳元で何かが呟いている気がした。
……だが。
今ここにいるバケモノにとっては、その警告はただの五月蠅い羽蟲の音同然の代物だった。
「それより、よ」
何かに亀裂が走った。
「誰よ、おめえ」
**********
ふら……、と、流が揺れる。
足が崩れる。覚束ない。
とうとうとらと戦えると、ほんの数十秒前まで感じていた高揚感が全く消え失せている。
子供のころ、まだ本気を出さないと決める前ですら感じる事のなかった気分だったというのに。
今はまるで、人の滅びた廃墟に放り込まれた気さえする。
寒い。
降る雪を乗せる風が、体を心から震わせる。
ここは山だというのに、まるで海に吹く風のよう。
目の前にあるのは何なんだろう。
あの、まぶしくてキラキラしたきらめきは、血に汚れて見つからない。
分かっている、子供を食べたバケモノだ。
うしおの禁を破ってなにかたいせつなモノを踏み越えてしまったバケモノだ。
絆を踏みにじったバケモノだ。
……あの太陽みたいな瞳に背を向けた自分の、同類だ。
たまらなく悲しくって、許せなかった。
戦いたい気分なんか、完全に砕かれてしまった。
戦意に罅が走る。
裏切ってまで手に入れた、本当の望みという器の中身が全部全部零れて消えていく。
せめて。
せめて、この妖(バケモノ)だけは、うしおの横を歩いていて欲しいと、そう心のどこかで思っていたのかもしれない。
いや、違う。
心の底から、この妖(バケモノ)だけはうしおを支えて歩み続けるのだろうと――信じていた。
だから自分は、安心して彼らを裏切れたのかもしれない。
だというのにこれは、あんまりにも酷過ぎる。
ぐるぐると目眩がして、天と地が混ぜこぜになる。
裏切った自分が今度は裏切り返されて、猛烈な吐き気が胃を満たす。
目に見える全てが色褪せ、蜘蛛の巣のように割れ目が入りかけたその時に。
不意に。
電脳の海で見た、誰かの記帳を思い出す。
そしてそれが正解なのだと――直感した。
『9 名前:バトロワ好きな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:XO7all1TH
荒唐無稽な話だが、君たちの探している知り合いは、君たちの知る彼らではない可能性がある。
それぞれが違う時間から呼び寄せられている可能性を、考慮に入れておいてくれ。』
全て流れ出てしまった器の中に、新たに注がれ始めたもの、それは――。
「そうかよ、神様」
嘆嗟の青と憤怒の赤。
罅を通してしずかにしずかに、染み出すように器の中に溜め込まれていく。
あたかも、つい今しがたこの手で殺した女のように。
しかし壊れることなく、形を整えたそのままで。
いつしか禁鞭を意識する。
ぎゅうっと、使うはずのなかったものを心の内で握り締める。
「これがてめえの筋書き通りだってんなら、何を犠牲にしてでもそこまで辿り着いてやる。
てめえだけは生かしちゃおけねぇ」
とらと決着をつけるときは、支給品などに頼らないつもりだった。
そう決めた、はずだった。
「だけどよ、その前に――、」
けれど。
けれど今は、その誓いをかなぐり捨てる。
目の前にある存在の全てが、許せなかった。
「こいつだけは、うしおが出くわす前にぶっ壊す」
――奇妙な感覚だった。
体は燃えるように熱いのに、頭は氷水に突っ込んだ様に冷えている。
秋葉流はおそらく、生まれて初めて“本気”の怒りを宿していた。
望まずして手に入れた、本気を出せる場所の代替物。
それが幸か不幸かは、誰にも決める事は出来ないだろうけれど。
「あん、なーにいってるのよテメェ。ぎゃははははははっ!
ニンゲンごときがわしに勝てるかよ! おめえも喰って、わしの肉にしてやらあ!
てめえもわしをとらって呼ぶくらいに知っとるんならよう、このわしの強さぐらい聞き及んでいるだろうに!」
「黙れ」
聞くもの全てを畏怖させる、悪意も敵意も存在しない純粋な殺意をバケモノに向ける。
バケモノはきょとんと顔の動きを止め、それからニィィィイイィ、と、哄笑に浸る。
俯いた秋葉流の紡ぐ言葉を、更なる笑いで嘲りながら。
「知ってるさ。……どうしようもなく戦いたかったくれーにな。
でもよ、それは“とら”だから戦いたかったんだぜ?」
地獄の怨嗟の声のように、低く、重く、そして――か細く。
「てめえはもう……とらじゃねえよ。てめえをとらと認めねえ」
このバケモノをもしうしおが見てしまったら、あの太陽の少年はどこまで軋んでしまうだろう。
強さゆえに壊れる事すらできず、逃げ出す事も出来ず、どれだけその胸を苦しめるのだろう。
どんな涙を、どれほどに流してしまうのだろう。
それだけは、させたくない。
うしおをぶっ壊すのは別に構わない、むしろ望んでいることだ。
だが。
……だが。
いざ壊すとするならば、自分のこの手でなくてはいけないのだ。
このバケモノを見せて壊したくなど、ない。
それは、“うしおととら”の間に存在してはいけない光景なのだ。
そう、流は心中で呟く。
けっしてうしおを慮ってなどはいないと――、何度も何度も唱え己に言い聞かせる。
同行者さえ含めて何人も殺した自分に、誰かに優しさをかける資格などない。
蝉という男の頭蓋の割れる手応えが。
咲夜という少女の肉を殴る感触が。
つい先刻の――ロビンの頭蓋を貫いた光景が。
全ての善行を、否定する。
今更引き返すのは、彼らと己自身が許さない。
このまま冥府魔道を突き進み、外道の限りを尽くすと決めた。
だけどそれでも、どんなに所業に苛まれても、やらなければいけないことがある。
「うしおにとって、てめえは最期まで最高の相棒(ダチ)じゃなくっちゃあいけねぇんだ。
今、ここでてめえが消えたらよ、うしおは自分の相棒(ダチ)がこんなに貶められてた事に気付かねぇだろ。
……オレがよ、最後の最期までてめえの相棒(ダチ)だったとらをブチ殺したって伝えたんなら尚更だ、嘘も真実にならァな……」
きっ、と、目を見開いた。
慄然と、叩き付けるように言い放つ。
「おい、そこの名無しの化け物。
……てめえにゃ二度とうしおのツラを拝ませねぇ。うしおにてめえを会わせねェ。
“とらと戦いたかった秋葉流”じゃなくて――ただの法力僧としててめえをブチ殺す」
「ナガレ……、ナガレねぇ。それが貴様の名前かよ。
法力僧たぁ、ますます喰い甲斐があるじゃねーか。
身の程知らずにも戦いてぇっつうそのイキの良さ、さぞやその肉も旨かろうぜ……!」
にっしっし。
気の抜ける笑いでまともに取り合わないバケモノの態度は、見ようによっては挑発とさえ取られてもおかしくはない。
だが、秋葉流はその悉くを無視して吼える。
「聞いてなかったのか? オレはブチ殺すっつったんだ。
“てめえ”と戦いたいなんてこれっぽちも思わねぇよ、名無し」
……そうだ。
強いものと戦いたいだけなら、白面と戦えばそれで良かったのだ。
とらと戦うことにこそ、意味があったのだ。
だけど。
とらは、もういない。
とらだったものは、名無しのバケモノと成り果てた。
目頭が熱い。零れ落ちてきそうな何かを抑え込む。
絞り出すように、震える声で。
宣戦布告を刻み込む。
「これ以上、“うしおととら”を冒涜すんじゃねえよ。
肉の一片も残さねえ」
強く強く、一陣の風が両者の間を吹き抜けた。
「く、くくくくくかかかかかかかっ! かかかかかかかかかかかかっ!!
上等だァ、ナガレェェェっ!」
二つの影が走りだす。
ここに、戦闘ですらないただの屠り合いが始まった。
「てめえはなんにも食ってねえ、ただの血に飢えたバケモノだよ。
うしおを腹ァいっぱいに喰ったアイツとは似ても似つかねぇ」
「くっくっく、その通りよ! わしは……妖(バケモノ)だぜ!?」
「てめえが妖(バケモノ)だからなんだってんだ。
化け物ってのは……いつだって人間に倒されるもんだろが」
刻々と近付くニンゲンとバケモノは、それぞれの獲物を研ぎ澄ます。
ニンゲンは錫杖をその手に、矢を三本放ちて穿つ。
バケモノは爪を振りかざし、炎と雷にて迎え撃つ。
「……人間に倒せねーものは、もうバケモノとは言わねぇんだ。
そういうのはな、畏れ崇め奉られて、神様って呼ばれるようになるんだよ」
流の言葉と同時、中間地点にて破魔矢は結界を展開。
ぶつかった炎と雷とが、閃光と煙で周囲を満たす。
轟音。
衝撃は風を呼び、雪さえも巻き散らして空の彼方へと。
「……畜生が。
お前までうしおを裏切りやがって……」
悲痛なほどの呟きもまた、その風の中へ溶けて消え。
頬に一滴、水が流れる。
……風の音が、一際強く。
今までの如何なる風よりも強く、吹き抜けていく。
【E-6/工場東部付近/1日目/午後〜夕方】
【秋葉流@うしおととら】
[状態]:健康
[服装]:とらとの最終戦時の服
[装備]:錫杖×2、破魔矢×8、神具の鈴×20
[道具]:支給品一式×2(名簿一枚紛失)、仙桃エキス(9/12)@封神演義、注連縄、禁鞭@封神演義、詳細不明神具×1〜2
化血神刀@封神演義、んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ×1)@銀魂、PDA型首輪探知機、研究棟のカードキー×2、
双眼鏡、食料、女物の着替え、毛布
詳細不明アイテム×1(工場の生産ラインより発見)
[思考]
基本:いかなる犠牲を強いてでも“神”を殺す。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
0:うしおが遭遇する前に、名無しの化け物を欠片も残さずこの世から消し去る。
1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
3:高坂王子、リヴィオを警戒。
4:聞仲に強い共感。
5:うしおを痛めつけていいのは自分だけだと意識。
6:ロビンの『世界を滅ぼす力』に強い興味。
7:空中のワープゾーンに興味。
[備考]
※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。
※PDAの機能詳細、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※ゆのからゆのの知る人物(ゴルゴ13と安藤(兄)以外)についてある程度の情報を得ました。
※上空の『何か』と旅館が怪しいと睨んでいます。
※詳細不明アイテムは、安藤の道具(ひしゃげたパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、
支給品一式×2、工具一式、金属クズ)から生産されたものです。
【とら@うしおととら】
[状態]:ダメージ(中)、脇腹に穴、左足一部欠損
[服装]: 口周りに血がべったり
[装備]:万里起雲煙@封神演義
[道具]:支給品一式×7、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×1)@トライガン・マキシマム、逃亡日記@未来日記、
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数5/12)@現実
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×1、詳細不明衣服×?
[思考]
基本:白面をぶっちめる……?
0:ナガレとやらをテキトーに相手にした後、喰う。
1:体力を回復させるために適当な輩を喰う。
2:強いやつと戦う。
3:うしおを捜して食う。
4:"ユノ"という名前に留意。
5:幻覚らしきものが気になる。
[備考]
※再生能力が弱まっています。
※餓眠様との対決後、ひょうと会う前からの参戦です。
※会場を、仙人によってまるい容器の中に造られた異界と考えています。
【工場付近の状態】
※工場東部の外壁は破壊されており、その付近の内外問わずに大量の血痕や肉片、粘液がこびりついています。
また、Mr.2 ボン・クレーとモンキー・D・ルフィ、ニコ・ロビンの死体は破壊された穴の外部に存在します。
※シルフェの剣@ベルセルクが、工場外壁付近のMr.2 ボン・クレーの死体の左足に突き刺さったままです。
また、デイパック(支給品一式、スズメバチの靴@魔王JUVENILE REMIX、コインケース@トライガン・マキシマム)もその側に転がっています。
※ゾッドの所有物(穿心角@うしおととら、秋水(血塗れで切れ味喪失)@ONE PIECE、支給品一式、手榴弾x2@現実、未確認支給品×1)
は未回収のまま、工場外の東部周辺のどこかに散乱しています。
※工場の動力は地下室に存在する小規模のプラントドームです。
練成陣の様な紋様がプラントドームに接続しています。
また、紋様に沿って地下室を通路が縦断していますが、どちら側にも扉が設置されています。
扉は現状では開きません。
※工場に防火シャッターが下りています。一部は流の行動により破壊済みです。
また、地下空間へのシャッターは存在しません。
※ロビンの死体のすぐ側に1本、付近の樹木に1本破魔矢が存在しています。
流の意志で動かす事が可能です。
967 : ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:36:52 ID:rOejLMjI0
以上で投下終了です。
というわけでさるさんから復活したので残りも張りました
ロビン死亡に驚かされたけど正直見てられなかったので、最期は黒い感情から解放されて良かったなぁと
そして流兄ちゃん格好良いよ。外道だけど格好良いよ
「今更引き返すのは、彼らと己自身が許さない。」っていうのは何だかナイブズを思い出すな
◆JvezCBil8U氏乙です!
乙です!!・・ロビン・・(´・ω・`)
トンガリが守れなかったって自分を責めそうな予感・・
んで、とらたちが・・熱い展開だけどどちらか死にそうだなあ
いや〜本当パロロワっていいものですね
投下乙
投下乙です
ワンピ勢全滅か
ところで、サンジの死体って今どうなってんのかな
神社まで持ってって、流がその穢れを嫌ってたからそこに置きっぱなしって事はないだろうし
ロビンが持ち続けていたなら、サンジの現在位置を工場に移してやりたいんだけど
死体に関しては移動している死体と、死んだ位置のままの死体が混在していて
扱いが定まってないよな
そして、とらと流の決闘は一体どうなるのか
因縁の結末や如何に
投下乙です
ロビン死亡はいきなりかな…とは思ったが…ロビンの抜け殻か…これはこれで安らかな最期か…
とらと流の対面は…神の残酷な筋書き…か…
確かに参戦時期を考えればこいつはとらであってとらではないんだよな…
本当に残酷なことしてくれるぜ…
投下乙です
ロビンがいきなりアレでびっくりしたけど、それ以上にこの邂逅が
どう転ぶかが気になる展開でした。
ウィンリィが復活して抜けた穴を塞ぐように増えていく工場周りの死体……
既出だったらすまんが、参加してる作品の主人公って両親がいないor欠けてるって多いよね
特に母親。
エドも安藤も植木もBJも潮も雪輝も金剛も
ハヤテと鳴海もあれは育児放棄だし
主人公じゃないがみねね様もそうだな
由乃は自分で死なせたがそれも養父養母で元は孤児だし
ニコ兄リヴィオ卑怯も孤児院出身。レガートも……うん
ウィンリィもか?銀さん、志村姉弟、沖田、太公望、蝉、ガッツ、ルフィ、ロビン
待て、冷静に考えるとほとんどの奴が当てはまるぞ
投下乙です。
スタンスは基本的に変わってないのに…
あぁ、流兄ちゃんがカッコいいぜ。
ロビンへの複雑な感情といい、何か爆発前に毛が逆立つような気分になりました!
この対決はかなり楽しみだなぁ
しかしワンピ組は全員工場集結ですよとwww
互いに病院と診療所で死んだ医者組や全員爆死の植木組といい、マジで運命信じたくなるね。
両親がいないのは、漫画キャラの基本スキルじゃないか?
◆JvezCBil8U ◆RLphhZZi3Y 両氏とも修正乙でした
そこまでしてもらえるとはw
予約来たぞ
あの二人にこの二人とか…不吉な予感しかしねえw
投下乙でした
引き返せない二人の対決が悲しすぎるぜ…
流はド外道なのにカッコいいなぁ
ロビンはまあ最後に救いがあっただけ良かった…のかな?
64 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/02(金) 13:28:55 ID:b0FZhWBu
こんなにマーダー応援したくなるシチュも珍しいw
あと、ゆ、ゆのっち逃げてー!
カノン君と歩、意外と早く再会したね。
ゆのっちはますます追い込まれそうな予感。
お、再予約きたか。wktkしておこう
確かにあの組み合わせは気になるw
しかしもっと早くに言っておくべきだったかもしれんが、ダモクレスの剣の時間ってゾッドvs貴族
が冒頭に入ってるんだから時間は日中〜午後じゃなくて午後じゃないのか?
コピペミス?
となると、最後の銃声はBottom of the darkにおける開戦を告げる銃声のようにも思えるけど
これは戦闘中、あるいは終戦の銃弾だと思うんだ。
この辺の食い違いで違和感が出るかもしれんので、今の内に言っておきます。
というか、◆Jve氏がよく使うけど日中〜午後って表現はどういう事なのかイマイチよくわからん
時間で言うと13:50〜14:10くらいの間って事?
それともどっちでもいいよって事?
俺はアレ、とらとゾッドの闘いかと思ってたんだけど、違うのか>冒頭
でかい化け物と、もっとでかい表現しがたい何か、なんだから貴族でしょ
でも、その解釈ならさほど時間は離れてないとも解釈できるな
投下されてから、フレキシブルに解釈するか
議論スレのお二人の意見拝見しました。
時間帯の解釈については了解しましたが、ダモクレスの剣において
ゾッドと貴族の対決(午後)を知って、それからナイブズたちと接触、そして車で移動……
車内での会話劇なども含めると、やはりこれは午後に入っているのが自然なのでは?
ようやくチョンピキャラ全滅wwwww
ウザいのいなくなってやっとすっきりしたなwwwwww
対応乙でした
投下します。
雪だ。
雪吹く朝の丘に、オレは独り立っている。
凪いだ風。
分厚い雲。
荒涼たる山々。
まばらな木々。
そして地に突き立つ無数の剣。
世界の果て。
眼前の景色は、そう呼ぶに相応しい。
いつからここにいるのか。
何処からここに来たのか。
何もかもが胡乱だ。
知っていることは唯一つ。
オレは、誰かを待っている。
生まれるよりも前から、待っている。
陽が昇る。
雪の原と同化した剣の一振り。
その白刃が、幻の陽光に煌いた。
これは墓標だ。
オレという幻想の、墓標。
もうすぐ、オレの最後の一片が砕けて消える。
何故かそう確信していた。
ずしゃり。
遥か遥かに遠くで、聞こえるはずのない音が響いた。
雪を踏み締める重い音だ。
揺らぐように、オレの形をしたモノの視線が、幾千の剣を越えて行く。
そして、密やかに笑みを形作った。
全てが曖昧な白の丘で――あいつの黒だけが、鮮やかに世界を縫い止めていた。
***************
酷い天候だ。
鳴海歩は舌打ちをして、雪に霞む山の頂を見据えた。
刻一刻と強くなる雪をまともに浴び続け、歩の着る青い学生服は水を吸ってどんどんと色濃く重くなって行く。
彼の背には大腿部から脚を失ったグリフィスの体が括り付けられ、両腕には二人分のデイパックが抱えられていた。
二人分の重量を受けて、ともすればバランスを崩して落下しそうになる体を必死に支えながら、彼は森の上をのろのろと飛行していた。
同じ条件でもグリフィスは楽々と飛んでいたのだが、基礎体力のない歩にとって、これは重労働だった。
だが何にせよ、もう少しで山頂の神社だ。
悪戦苦闘しながらもひたすら飛び続ける。
実のところ、当初歩が目的地としたのはF-4に存在するとされている研究所、そこにあると思われる医療棟だった。
だが地図に表記されている場所の付近をいくら上空から見渡しても、何も見付からなかったのだ。
地図が正確でない可能性も考慮して、周辺を何度か往復してみたものの結果は空振りだった。
歩は特段目が良い訳ではないが、それでもただの民家ならともかく、医療棟が存在するような研究所を見落とすとは考え難い。
にも拘らず見付からないとすると可能性は唯一つ。研究所が地下にある場合だ。
ただそうであったとしても、地図に記してある以上、入口は何処かにあるのだろうと推測出来るが――それを降りて探すのは、時間の損失が大き過ぎる。
そうこうしている内に雪が降って来て、飛んでいるだけでも辛い状態になってしまった。
そこで一か八か、彼は目的地を神社に変更した。
数時間前、グリフィスと共に神社から飛び立ったときに、西へと伸びる道を歩は確認している。
道の先に何かがあるようには見えなかったが、研究所が地下にあるとすればその道が研究所へと続いている可能性は高い。
少し前に山頂付近で謎の爆発があったことが気に掛かるが、危険を恐れて躊躇していてはグリフィスの命は失われてしまう。
いや。
本当は。
本当のことを言えば。
どちらにしてもグリフィスが助かる望みは薄いだろう、と思っていた。
違う。
今だってそう思っている。
だが。
死なせないでくれ、と。
あの真紅のコートを着たガンマンは、絞り出すような声で自分にそう頼んだのだ。
死なせるな、ではない。死なせないでくれ、だ。
彼にとってグリフィスは見ず知らずの他人だろうに、まるで無二の親友の身を預けるかのような台詞だった。
その様子を目の当たりにして、諦観の混じった見方をしていた己を恥じた。
『何かをできる力があるなら、それで救える人を救え』
始まりの教会で、弱気を見せる安藤をそう諭したのは他ならぬ自分ではないか。
まだ出来ることがあるというのに諦めるようでは、彼に、何より自分自身に申し訳が立たない。
だから、絶対にグリフィスを救ってみせる。可能性の低さなど知ったことではない。
肩の矢傷から服に血が滲む。歯を食いしばりながら、真っ直ぐに飛ぶ。
そうして何とか神社の上空へと辿り着いたとき――いきなり、何かが破裂したような乾いた音が歩の耳を叩いた。
***************
深々と降る冷たい雪が、体の芯に沁みて行く。
音も無く、天と地の境を溶かして行く。
世界に、色の無い幕が下りて行く――。
神社の境内。朱い鳥居の下。
ゆのは白い息を吐きながら、虚ろな眼を鈍い色の空へと向けてへたり込んでいた。
体温で融けた雪の水分を吸い、薄いワンピースは身体にべったりと貼り付いて透けている。
ワンピースの前面は外も内も吐瀉物に塗れ、そこに髪から赤い滴がぽたぽたと垂れて滲む。
白かったであろう布地が、肌と吐瀉物と血の色で、前衛芸術のような色分けになっていた。
大分長い間、彼女は自らの吐いた物の上で抜け殻同然の姿を晒していた。
不意に、糸が切れたようにがくんと頭が下がった。血と吐瀉物に塗れたパックの死体が視界に入った。
命を失ったそれは、既にただのグロテスクなオブジェだった。
「ごめん、なさい……」
謝る意味などないと解っていても、口を突いて出る言葉は止められなかった。
どうしても、パックをそのままにして行くことは出来なかった。
デイパックから自分のスカートを取り出して遺骸を丁寧に包み、そしてそっと戻した。
まだ――まだ殺さなければならない。
耐えられる気がしなかった。でも――やらなければ、死ぬ。
きっと今度は自分が握り潰される番だ。
それは、絶対に嫌だった。
最低だと解っていても、やっぱり死にたくなどなかった。
自分の身体を眺める。
汚物に塗れたその姿は、今の自分にはとても相応しいように感じた。
デイパックを背負い直してよろよろと立ち上がる。
足元でべちゃりと気持ちの悪い水音が鳴った。
濁った水がワンピースの裾から脚をだらだらと伝い落ちた。
びしり。
唐突に、足元の石畳が砕けた。
直後、乾いた破裂音が耳に届く。
「え?」
何が起こったのか。
ゆのは口を半開きにしたまま、体を強張らせた。
砕けた石の破片が転がって、彼女の足に当たる。
左耳の傍で空気を引き裂くような音がした。
再び乾いた音。同時に、左の肩紐がぷつりと切れた。
怯えた表情できょろきょろと周りを見渡す。
何も不審な点はない。視界に入るものは雪の降りしきる境内のみ。
薄っすらと積もった雪を、風が巻き上げた。
「おいっ! 隠れろ、そこのあんたっ!」
突然、後ろから鋭い声が響いた。ゆのはびくりと体を震わす。
振り返ると、学生服の少年が木の陰から体を半分出して何事かを叫んでいた。
だがその内容よりも、ゆのの視線は彼に背負われた物体に釘付けになった。
人だ。
頭が見える。
特徴的なウェーブが掛かった銀の髪。
見紛うはずがない。
グリフィスだ。
だが何があったのか、彼の美貌は無残にも潰されている。
そして、どうやら、脚が無い。
あのときだ。
旅館のあのときだ。
きっとあのときに、私がやっちゃったんだ。
言っただろう。罪からは逃れられない。
やにわに耳元でざわめく声が聞こえた気がした。
白スーツの男のもののようでも、腕だらけの女のもののようでも、宮子や沙英やヒロのもののようですらあった。
全身ががくがくと震える。
殺せ。
殺さなければ、お前が殺されるぞ。
後ずさる。
少年はまだ何かを訴えている。しかしゆのにとっては無意味な音の羅列にしか聞こえない。
更に一歩、後ずさる。
そのとき、石畳と全く同じようにゆのの脇腹の肉が爆ぜた。
「ぎゃっ!」
三度乾いた音。焼き鏝を当てられたような痛みに、思わず体をくの字に曲げる。
そこでようやく、ゆのは攻撃を受けていると悟った。辛うじてその場で踏ん張り、転倒を避ける。
逃げないと――。
頭蓋の中で警報が叫びを上げた。
ほとんど本能のままに、振り向いて駆け出す。
後ろから呼び止める声。
無視する。
逃げる。逃げる。逃げる。がむしゃらに逃げる。
何から逃げているのか、ゆの自身にも判然としない。
それでもただ逃げる。逃げ続ける。
そして彼女は色を失った世界へと溶けて行った。
しばらく経って。
人影の消えた雪の境内に、男が一人。
学生服姿で、手には小型の拳銃だけを持っている。
「慣れない狙撃銃に悪天候、体調もあまり良くない。悪条件が重なり過ぎだな。無抵抗の雑魚一匹仕留められないとはね。
ま、元々殺せればラッキー、ってくらいのつもりだったから別にいいんだけど」
銃の癖も把握出来たしね、と言いながら微笑む。
その笑顔は凪のように穏やかで、良く出来た人形のようだった。
***************
何だこれは――。
医療棟のカードキーを使って分厚い扉を開け、その奥の区画に足を踏み入れた鳴海歩の頭にまず浮かんだのは、そんな陳腐な感想だった。
扉の先には消毒用だろうか、壁に小さな穴がいくつも開いた円筒状の小部屋があった。
更にその先の、やはり分厚い扉の向こうには廊下が一直線に続いていた。
そして、廊下の先は『医療棟』という単語のイメージからは掛け離れたものだった。
入ってすぐ右手の『01』とだけ書かれたプレートが掛けられた部屋には、確かに医療棟らしくベッドがいくつか配置されていた。
消毒薬や包帯などの簡単な医療品もその近くの棚に置いてあるようだった。
複数のPCが設置されているのも見えた。
そこまではいい。
しかし廊下の更に先にある他の部屋は、異様としか言いようがなかった。
最初の部屋の斜向かいに『02』、更にその斜向かいに『03』……と書かれた部屋が延々と続いている。
一つ一つの部屋の大きさは、ちょうど学校の教室程度だろうか。
どの部屋の床や壁も、一枚のタイルのような白く滑らかで硬い物質に覆われている。
そしてそれぞれの部屋の床には、同心円の周囲や内部に幾何学模様と文字やシンボルを配置したような紋様が所狭しと描かれていた。
小さいものは掌程度、大きいものは人が一人収まるくらいの大きさで、一つ一つ細部が異なっている。
歩の知識の中には、当然ながらこれらに類するものは無い。
強いて近いものを挙げるとすれば魔法円、などと呼ばれるものだろうか。
しかしいずれにせよ医療に関係あるとは思えなかった。
呆然と廊下の先に視線を送る。
突き当たりに両開きの扉が見えた。その扉にも部屋にあるものと同じような円形の紋様が描かれている。
「おいおい、何の冗談だ? こいつは」
引き攣った声が、誰もいない廊下に木霊して消えた。
不自然なまでの静寂が不安を煽る。
それにしても。
思わず頭を押さえたくなるのは、血が足りないためだけではないだろう。
グリフィスのこと以外にも、先程の少女の行方や雪輝達との交渉、安藤達への連絡に、この研究所の状況など、気掛かりはいくらでもある。
そして本来ならば、どれも無視していい事項ではない。
だが、状況は切迫しており、時間は僅少であり、両手で抱えられるものは有限である。
グリフィスの命を救いたいのならば、ただその一事だけに集中すべきだ。
とにかく――呆けていても仕方がない。まずは医療棟内部を詳しく調べる必要がある。
一旦廊下を引き返して、入口手前の部屋に入った。
ベッドとPCの他には特に装飾も調度品も見当たらない殺風景な部屋だ。
ベッドの脇にデイパックを一旦置く。
グリフィスをベッドに寝かせ、ボロボロになった服を全て脱がせた。
優男風の容姿とは裏腹に、服の下から現れた彼の肉体は恐ろしく鍛え上げられていた。
それもただ力だけを求めて筋肉の鎧を纏った不細工な身体ではない。
しなやかさを失わない程度に適切に絞り上げられた筋肉が、身体の各所を覆っている。
彼はまさに稀代の彫刻家が悪魔に魂を売り渡して彫り上げた聖像だった。
顔が半分潰れ、脚を失った今ですら、ミロのヴィーナス像の如き不完全さ故の美を湛えていた。
彼を抱いた男色家の貴族に、等量の黄金に等しい価値があるとまで言わしめたのも頷ける。
軽く身体を拭いて毛布を掛ける。
そして脚を持ち上げ、その下に枕を置いた。そして止血帯代わりの布地の上からガーゼと包帯を重ねる。
一瞬だけ苦痛を訴えるようにグリフィスの蒼い顔が歪んだ。
しかしその身体は僅かに緊張しただけだった。動くだけの力が残されていないのか。
真紅のガンマンの適切な処置のお陰でかなりの延命に成功しているのは確かだ。
だがそれでもかなりの血液が失われていたし、今もじわじわと脚からは血が滲んで来ている。
いずれにせよ、それほど時間は残されていない。
迅速に、かつ冷静に行動しなければならない。
歩はまず自らの上半身の服を脱ぎ、左肩の傷口に改めて包帯を巻き直した。
雪に濡れ血の滲んだ学生服は、デイパックに適当に放り込んだ。
それから、他の部屋は全て無視して、廊下の突き当たりに見えた扉へと突き進む。
いかにも何かがありそうな意匠が凝らされた扉だ。明らかに怪しい。
罠――という単語が頭を掠めたが、即座に振り払う。そんなことを考慮している余裕は今はない。
扉を押し開く。黴臭い、しかし何となく落ち着く微かな匂いが鼻孔をくすぐった。
奥を覗く。暗い。廊下の白い光が、くすんだ赤色の絨毯を照らし出している。
目が慣れていないため、光が直接届かない奥の方はよく見えない。
入口の脇を探ると、スイッチがいくつかあった。それらを纏めて切り換える。
天井の蛍光灯が一斉に点き、辺りの闇を追い払った。
「やっぱり図書室、だな」
部屋に入ったときの匂いから予想していた通りだった。
他の部屋よりも遥かに広く、分厚い本の詰まった本棚が整然と並んでいる。
図書室というより小規模な図書館といった風情だ。
歩は近くの本棚から本を一冊抜き取り、表紙を眺めた。
表紙には簡素な円形の紋様が刻まれており、その中心にシンプルな書名が書かれていた。
『錬丹術概論T』
「……錬丹……術……?」
そんなものは知らない。しかし似たような響きの単語に聞き覚えはある。
「これは……『錬金術』と、何か関係がある、のか?」
ペラペラと最初の方のページを捲ってみる。
いかにも専門書といった、簡にして要を得た説明や定義が並んでいた。
中には歩も知っているような医学用語も見受けられる。
顔を上げる。
改めて本棚を眺めると、通常の医学書に混じって、錬丹術という単語が入った本が他にも多数並んでいた。
少なくとも医学と無関係という訳ではないらしい。
しかし――と顎に手を添える。
「ここは一体何を……研究所……単眼の死体……生命科学……医療……まさか。いやそうだとすると――」
厳しい顔で目に付いた錬丹術関連の本を適当に数冊引っ張り出し、急いで最初の部屋まで取って返した。
PCを立ち上げる。
立ち上がるのを待つ間に、携帯電話を取り出す。圏外だった。
PCが立ち上がると、すぐ手当たり次第に様々なファイルにアクセスする。
十分強の間、PCと図書室から持って来た本とを交互に見比べていた歩だったが、やがて唐突にくそ、と悪態を吐いた。
『錬丹術』とはやはり錬金術の一種で、特に医療分野に特化した技術であるらしい。
PCに残っていたデータを調べたところ、錬丹術は戦場における緊急医療技術として将来性が高いだろう、といった内容のレポートも見付かった。
他にも様々なレポートが――公表すれば人倫に悖ると非難されるであろうものも含めて――大量にあった。
つまり、医療棟というのは名目上のものに過ぎない――と結論出来る。
錬丹術の実験場。それがこの区画の正体だった。
椅子を引いて天を仰ぐ。
しくじった――。
痛恨のミスだ。白い天井を睨んで、歩は歯噛みした。赤茶けた泥を呑み込んだ気分だった。
安全策を採ったつもりが完全に裏目に出た。ここではグリフィスの治療は出来ない。
ならば――ならばどうする。
これからもう一度、病院か診療所までグリフィスを抱えて飛んで行くか――。
「……無理だ。どう甘く見積もっても――」
浅く速い呼吸を繰り返すグリフィスを見遣る。
彼の容態は安静にしていてもあと二時間保てば良い方だ。すぐに治療しなければ命は無い。
この雪の中をまた数キロ先まで抱えて行くなど、彼の体力が持つはずがない。それは間接的な殺人に等しい。
「くそ……どうにかする方法は……」
部屋の入口の方に目を遣る。
何もない。
もう一度、グリフィスに視線を戻す。
縛った脚の断面から、重ねたガーゼにじわじわと血が滲んで行く。
逡巡している間にもグリフィスの命は着実に削られている。
眼を瞑る。
救う手立ては、ある。
ただしそれは針の穴を通すよりも細い可能性だ。
ほとんど無謀と表現してもいい。
そもそも医療棟入口の扉を破って殺人者が侵入して来てしまえば全てご破算だ。
だが、それでも、
「やるしか――ないか」
何もしなければ、グリフィスに待っているのは確実な死だけだ。手を拱いている訳には行かない。
自身の知力とグリフィスの生命力、そして少しの運に賭ける。
無為に残された時間を過ごすよりは、そちらの方が億倍マシというものだ。
決断するやいなや、歩は即座に身を翻して足早に図書室へと向かった。
扉を開ける。
書籍の山が、無限に続く墓場のように、再び歩を迎え入れた。
***************
同じ頃、金属質のドームの片隅で。
カノンは医療棟の扉の前で腕を組んで考え込んでいた。
「さて……弱ったね。これはちょっと計算外だったな」
呟いた言葉が、だだっ広い空間に空しく吸い込まれて行く。
研究所の外から点々と続く真新しい血痕は、ほとんど迷わずここまで続いていた。
研究棟の内部は、破壊された設備やら死体やらが転がった異常な状況だったにも拘らず、だ。
普通なら、カノンがそうしたように慎重に慎重を重ねて進むべき場面だろう。
言うまでもなく、歩も危険は十分に感じていたはずだ。
それでも彼が危険を無視したということは、彼が背負っていた人物――すなわち血痕の主が、一刻を争う容態だったのだろうと推測出来る。
そして状況からすると、歩は初めからここ――医療棟を目指していたとしか考えられない。
ならば。
「銃声を鳴らしたのも無意味――いや、むしろ失敗だったということになるかな? 参ったね。
歩君を空から下ろしつつ邪魔者を排除する一石二鳥の作戦のつもりだったんだけど」
困ったような表情を作って頭を指で掻く。どこか他人事のような態度だった。
おもむろに、眼前で沈黙を続ける扉を軽く拳で叩く。ゴンと重い音がした。
ちらりと横を見る。研究棟の入口と同じタイプの認証装置がある。
この扉を開くにもカードキーを必要とするらしい。
念のため研究棟のカードキーを通してみたが、やはりエラーが返って来た。
カノンならば、例えばカードキーの認識装置を破壊して内部回路に細工することで扉を開けられるかもしれない。
都合の良いことに、妙な機械人形の残骸から取った部品もある。出来ないことはないはずだ。
しかしそんな強引な開け方をすれば、歩に決定的な疑いを持たれてしまうだろう。
それは少々面白くない。
歩に取り入るなら、偶然を装って彼の目の前に出て行くのが理想だ。
「まあ……どうせ天気も悪いことだし、焦ることもない。
まずは一通りここを見学してから改めて考えようか」
***************
静謐な空間に、時折床を擦る音と小さな声が響く。
「ここに、こいつを足して……構築式はこう、か」
歩は『05』と記された部屋の中央付近で、備え付けられていた筆記具を使って床の紋様の一部を書き換えていた。
一時間近く資料を読み漁った結果判ったことは、錬丹術とは非常に高度な自然科学の結晶であるということだ。
一見適当に描かれているように見える模様や記号にも、実はその一つ一つに深い意味がある。
歩がいくら卓越した頭脳を持っているといっても、流石にその深遠な理論の詳細を理解することは出来ない。
故に、一から式を組み上げることは、たとえ丸一日あっても不可能だ。
しかし――何も理論の全てを理解する必要などないのだ。
そう、ここには既に組み上がった実験用の練成陣が山ほどある。これを利用しない手はない。
すなわち、部屋にあった練成陣の一部を変更して、目的の治療に適したものに書き換えればいい。
おそらくはこれが現時点で歩が取り得る最上の策だ。
「…………これで完成――だな」
最後に三角形のシンボルを中心に足して、構成し直した練成陣に間違いがないかをもう一度注意深く確認する。
しばらく練成陣を凝視した後、歩は軽く眼を閉じて緊張をほぐすように細い肩を下げた。
「さて、さっさとやるとするか。あいつも、もう待ちくたびれてるだろうしな」
そして不安を押し退けるように、軽い口調で一人ごちた。
数分後。
歩はグリフィスの身体をガラス細工を扱うように慎重に『05』の部屋まで運んで来た。
グリフィスの呼吸は深く静かで、一見容態は落ち着いているように見える。
しかし無論のこと、これは落ち着いているのではなく命の灯が消えかけているのだ。
彼の顔からは既に冷汗すら引き、色は蒼白を通り越して土気色に近い。
今、辛うじて命を繋いでいるのも、彼の強靭な生命力あってこそだ。
歩が構築し直した練成陣は、血管を繋ぎ直し、筋繊維を束ね、切断面を皮膚で覆う錬丹術を発動するためのものだった。
脚の再接合は完全に捨てている。
それどころか神経組織のことなども全く考慮の外であるし、他の部分の傷を治せるような汎用性もない。
それでも歩の計算通りに術が成功すれば、とりあえず命だけは救うことが出来るだろう。
今はそれで十分――とはとてもいえないのだが、欲を出せるだけの余裕はない。
練成陣の中心付近に両脚が来るように慎重に寝かせる。
「頼むから――上手く行ってくれよ」
練成陣の横に屈み込んでゆっくりと床に手を付けた。
目を瞑る。
集中する。
円のイメージを形作る。
すると練成陣の外円にエネルギーが循環し始め――、
「ぐあっ!」
放電を思わせる乾いた光と音が走った。歩の体は弾かれて背中から床に落ちた。
両腕には内側から切り裂かれたような傷がいくつも生じている。
大きめの傷口からは鮮やかなピンク色の肉が覗いていた。
「ぐっ……これが、リバウンド――」
リバウンド――錬金術の失敗時に術者へと返る反動。
大掛かりな術のリバウンドは命に関わることもある、と資料には書いてあった。
失敗か――痛みを堪えながら、歩は悔しげに呟く。
確かに失敗ではある。
しかし実のところ、出鱈目な練成陣や理解ではそもそも何も起こりはしない。
リバウンドが発生するまでに錬丹術を発動出来たことが、既に奇跡とも呼べる偉業なのだ。
だが、そこまでだ。
いかに彼が卓越した頭脳を持っていたとしても――錬丹術というものは一朝一夕で、ましてや一時間足らずの座学で習得出来るような技術ではない。
四則演算を習得した小学生が、いきなり微分方程式を解こうとする以上に無謀と言える。
「いや――いや、まだだ。諦めて堪るか――まだもう一度――!」
無謀なのは初めから判っていたことだ。
もう一度錬丹術の資料を読み直す時間は無い。
無理でも無茶でも無謀でも、今ある条件で成功させるしかない。
だが、焦っては駄目だ。
焦れば出来ることも出来なくなる。
呼吸を整える。
平静を心掛ける。
両の腕が焼け付くように痛んだ。
ばっくりと開いた肉の裂け目から、ぼたぼたと血が流れ落ちる。
見た目ほど重傷ではないが、しかしこれからの行動に支障がないというほど軽傷でもなかった。
もう一度リバウンドが起これば、この腕は――いや、それは考えるべきではない。
既に他の選択肢は無いのだから。
意を決して、床に手を付く。
掌にひやりとした感触が伝わった。
そのとき、グリフィスの形のいい唇が動いた。
「ぃ…………い……」
はっとして、歩はグリフィスの顔を覗き込んだ。
「もう、いい……」
「あんた、起きたのか!? いいから黙って寝てろ! 今から怪我を治してやるから――」
「もう、いい……やめろ。己の、死期くらい……判るさ……」
すう、と潰れていない方の眼が見開かれた。彼の瞳は何処か遠くを映している。
「助けようとしてくれたことには、感謝する」
「何を――ふざけるなっ! まだ死ぬと決まった訳じゃない。まだ、可能性は――」
「無い」
小さな、恐ろしく冷たい声だった。
それが宇宙の法則であるかのように、グリフィスは自身の死を宣言した。
何を、と言い掛けた歩を視線だけで制して続ける。
「無駄だ。お前の言葉には、真実がない」
不可能だと悟っているんだろう、とグリフィスは続けた。
まるで神託だった。
歩は言い返そうとして、しかし結局険しい表情で黙った。
図星だったからだ。
歩には失敗の理由が朧気にしか解っていない。そして朧気にすら解っていないミスもあるだろう、と理解している。
錬丹術は人知の及ばない神秘ではないのだ。
可能なことと不可能なことは厳密に別たれており、道理は捻じ曲げられない。
理解が不十分なままもう一度錬丹術を実行したとしても、同じ結果に終わるに違いない。
そのことを歩は内心で認めてしまっている。
「あれが、あれが……オレ。オレの――果てか」
押し黙る歩に構わず、グリフィスは淡々と語り始めた。
「夢だ――夢の中でオレは、一羽の――鷹だった――」
「おい、こんなときに何を」
「オレは飛んでいた。眩い闇を従えて、飛んでいた。飛び続けて、いた――。
世界は、オレの眼下に、あった。運命はオレと、共にあった。物語は、全てオレの、手の内に、あった。
オレに不可能は、なかった。望みのままに、世界を、塗り替えることだって、出来た」
意識が混濁しているのか。一瞬そう思った。
しかし。
彼の眼には、死に瀕した人間のものとは思えない輝きがあった。
彼の言葉には、ただのうわ言とは思わせない不可思議な力があった。
彼の聖なる訴えを、歩はただ観ることしか出来なかった。
彼の聖なる訴えを、歩はただ聴くことしか出来なかった。
「夢のためなら、何でも、しよう。体も、売ろう。泥も、食もう。
世界の全部を、敵に回しても、構わない。仲間の、屍を、踏み拉いても、構わない。
あいつに、憎まれたって――構わない。そう、思っていた」
けれど。
掠れる声で続ける。
「あいつに憎まれても、何も感じなくなることだけは――それだけは、絶対に――耐えられない」
――だから、これでいいんだ。
はっきりとそう言って、グリフィスはまるで何か得体の知れないものを拒むかのように、僅かに身体を震わせた。
その途端――ずっと彼を包んでいた妖しげな輝きが、霧が晴れるように消え去った。歩にはそう感じられた。
そして。
床に横たわっているのは、子供だった。夕暮れ時の路地裏で遊び疲れた、ただの子供だった。
胸板が一際大きく上下した。そこに本来あるべき『鍵』は存在しなかった。
「ああ、雪、だ」
――雪が、降っている。
はらはら、はらはらと。
オレが、雪に溶けて行く。
全てが、雪に溶けて行く。
千の味方も、万の敵も、何もかもが溶けて行く。
溶けて行く。
そして。
一つだけ。
黒い点だけが、最後に残った。
全く。
しぶとい奴だ。
思わず苦笑する。
そうだ。
そういえば。
面と向かって言ったことはなかったか。
オレに夢を忘れさせた、唯一人の男――。
「ガッ、ツ――お前、は――オレ――の――…………」
夜が来る。
【グリフィス@ベルセルク 死亡】
【F-5/研究所(医療棟)/1日目/夕方】
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(中)、貧血、左肩に深い刺創(応急手当済み)、両腕に複数の裂傷
[服装]:上半身裸
[装備]:小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら、雪輝日記@未来日記、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式×3、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3、錬丹術関連の書籍、
手錠@現実×2、警棒@現実×2、警察車両のキー 、詳細不明調達品(警察署)×0〜2(治癒効果はない)、
No.11ラズロのコイン@トライガン・マキシマム、居合番長の刀@金剛番長、月臣学園男子制服(濡れ+血染め)、グリフィスの脚
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
0:……。
1:放送の内容を検討する。
2:結崎ひよのに連絡を取り、今後の相談をしたい。
3:天野雪輝に連絡。協力関係を模索する。
4:島内ネットを用いて情報収集。
5:首輪を外す手段を探しつつ、殺し合いに乗っていない仲間を集める。
6:安藤と東郷が携帯電話を入手したら、密な情報交換を心がける。第三回放送の頃に神社で、場合によっては即座に合流。
7:カノン・ヒルベルトの動向には警戒。
8:『砂漠の星の兄弟(姉妹?)』に留意。
9:『うしおととら』と、彼らへの言伝について考える。
10:神社の本殿の封印が気になる。
11:リヴィオや或の死について――?
12:神社から逃げ出した少女と狙撃手に留意。
[備考]
※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
※主催者側に鳴海清隆がいる疑念を深めました。
また、主催者側にアイズ・ラザフォードがいる可能性に気付きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※錬丹術(及び錬金術)についてある程度の知識を得ました。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変である事を知りました。
※考察に関しては、第91話【盤上の駒】を参照。
【F-5/研究所/1日目/夕方】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、掌に火傷、“スイッチ”ON
[服装]:月臣学園男子制服
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×16
[道具]:支給品一式×4、M16A2(24/30)@ゴルゴ13、M16の予備弾装@ゴルゴ13×3、パールの盾@ONE PIECE、
大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー、
五光石@封神演義、マシン番長の部品、不明支給品×1
[思考]
基本:全人類抹殺
1:鳴海歩と合流。折を見て内部からの崩壊を狙う。
2:研究所内部の探索。
3:十分なアドバンテージを確保した状態であれば、狙撃による人類の排除。
[備考]
※アイズ・ラザフォードを刺してから彼が目覚める前のどこかからの参戦です。
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
戦術を考慮する際に利用する可能性があります。
※森あいの友好関係と、キンブリーの危険性を把握しました。
【E-5/1日目/夕方】
【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:疲労(大)、貧血、全身吐瀉物まみれ、頭部に爪による切り傷、脇腹に銃創、後頭部に小さなたんこぶ
[服装]:吐瀉物まみれの濡れた白いワンピース、髪留め紛失
[装備]:混元珠@封神演義
[道具]:支給品一式×2(一食分と水を少々消費)、イエニカエリタクナール@未来日記、制服と下着(濡れ)、パックの死体(スカートに包まれている)
[思考]
基本:死にたくない。
0:逃げる。
1:人を殺してでも生き延びる。
2:壊れてもいいと思ったら、注射を……。
[備考]
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※切断された右腕は繋がりました。パックの鱗粉により感覚も治癒しています。
※ロビンの能力で常に監視されていると思っています。
※イエニカエリタクナールを麻薬か劇薬の類だと思っています。
以上で投下終了です。
投下乙です!
鷹さんが最期まで綺麗な鷹さんだった……だと?
一番死にそうなのになんとなく一番死にそうにないと思ってたわw
しかしじゃあ会場にある真紅のベヘリットは誰に配されたものなんだろう
ゆのっちは傷こそ負ったものの、まだまだ死ななそうだな
それにしても歩、失敗したとは言え錬丹術を使うとはw凄ぇよw
投下乙
同じく何となく死なないと思ってたからびっくりしたわ
いやまぁ普通は死ぬか
歩はしかしこれキッツイな
「夜が来る」でゾクッとした
投下乙
医療棟は錬丹術だったか
歩、裏目ったなー
鷹さんはここで墜落とはいえ、鮮やかな死にざまでした
投下乙です!
まさかまさかの展開ながら、これはこれで良かったと思える不思議。
心情と情景描写の巧みさに圧倒されました。
研究所は本当怪しいなあ……、歩も錬丹術を使えたというのがいじくられてそうできな臭い
そして地道に転がり落ちてるゆのっちに、カノンもやばい
投下乙です
ああ、本当にまさかまさかの展開だわ…
鷹さんは原作と違うガッツに心を残しながらの死か…そうか、こういう可能性もあったのか…
そして歩は失敗したとはいえ凄いわ。でもこれはキツイ
ゆのっちは…そしてカノンは…ああ、どうなるんだろう…
ひょう、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、
ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、西沢歩、ミリオンズ・ナイブズの代理投下と行きたいと思います
タタンと軽快なステップで地面を蹴り、ガンマンは左右から迫る二本の刃を回避した。
符術師が投擲したひょうは変幻自在の軌道を描いてガンマンを追い詰め、だがしかしその超常の反射神経に掠る事すら許されない。
そして回避と共に、ガンマンの手中に収められたら拳銃が火を噴いた。
跳ね起きた撃鉄が渾身の力で信管を叩き、内に包まれた火薬が鉄筒の中で爆発。鉛弾を音速まで加速させ、目標を穿たんと排出する。
銃口が先に置かれるは、符術師の右肩。
得物を投擲するにあたり最も重要な部位である関節。其処を破壊しての無力化を計るガンマンであったが、
「禁」
たった二文字の言葉と一枚の紙切れにより、その目論見は宙に霧散する。
音速で符術師を貫く筈であった弾丸も、どんな原理かその手前で塵となり消え失せた。
一世紀半にも及ぶ長い人生でも見た事のなかった超常現象に、ガンマンは目を見開き、驚愕する。
その驚愕は隙と言うには余りに刹那の感情で、だが歴戦の符術師にとっては格好の瞬間であった。
「十五雷正法・一尖」
そうして放たれたひょうは、弾丸に勝るとも劣らない加速と最高速を以てガンマンへと急迫する。
裂ける肉。
飛び散る血液。
舞い落ちる数本の頭髪。
そのひょうはガンマンのこめかみを切り裂き、後方に聳える木へと突き刺さった。
「こりゃ驚いた。ホントに凄いね、君」
側頭、頬、顎の順に輪郭を沿い、地面へと落下していく血液には視線すら向けず、ガンマンは感嘆の言葉を紡ぐ。
視線の先では全身を漆黒に包んだ符術師が無表情で立ち、手中のワイヤーを手繰り寄せ得物を回収していた。
「札を爆破する位ならまだ分かるけどさ、まっさか飛んでる弾丸を粉々にするとはね。奇術師でも食っていけると思うよ」
つらつらと言葉を並べるガンマンに、符術師はただ射殺すような冷たい視線を投げかけるのみ。
返答どころか、返事の一つもしようとしない。
「あ、そうだ、いっそ符術師やめて奇術師になるのはどうだい。そうすりゃ殺し合いに乗る必要もなくなるんじゃない?」
ヘラヘラとした軽い笑顔と共に口から出たそれに、符術師はようやく返答をしてくれた。
思い切り、全力で、右の手から投げつけられる一本のひょう。
その返答は、彼の心境を表すにこれ以上なく簡潔で、明瞭で、明確な行動であった。
どわあ、という情けない叫びを上げながらも、ガンマンは大きく横に跳ぶ事でひょうを回避した。
「黙れよ、化け物」
符術師の全身から噴出するは、その服装と同様の漆黒。
化け物に対する行き場の無い感情が、渦を巻き、歪んだ熟成を経て、眼前の人外へと突き付けられる。
ただでさえ重かった周囲の空気が、物体と化したかのように重くなっていく。
「そういう訳にもね。それに、僕を黙らせたいなら、それだけの攻撃をしてくりゃ良い。僕のお喋りを『禁』じられるくらいの攻撃を、ね」
その荒んだ空気の中でも、ガンマンは変わらぬ口調で話し続ける。
くっ、と符術師の喉から零れ出た、笑い声のようなしゃっくりのような音。
ほんの少しだけ、符術師が笑ったように見えた。
「十五雷正法・五斧」
繰り出されるは烈風の如く攻撃。
懐から取り出された五枚の紙切れが符術師の一言で形ある爆炎となり、一直線に標的へと走る。
爆炎の数は取り出された紙切れと同数の五本。空気を焼き、地面を刻み、木々を薙ぎ、ガンマンへと迫っていく。
「おおっと」
が、その攻撃はガンマンの飄々とした面持ちを崩す事すら叶わない。
一歩、二歩と地面を踏み抜き、宙に身体を舞い散らす事で、アクロバティックに五本の爆炎を避ける。
着地と同時に、返しとして放たれる二発の弾丸。
両脚を狙って撃たれたそれは、一枚の符によって阻まれる。
「四爆」
そして、爆発。
弾丸を防いだ符が、符術師の思念に従い炎と烈風へと変貌を遂げる。
膨れ上がる爆炎がガンマンの居る空間を覆い尽くし、そこにある全ての物を舐め上げる。
沸き立つ砂埃。ガンマンの姿が薄茶と紅蓮の世界に消え去った。
ガンマンの姿が確認できなくなると同時に、疾走を始める符術師。
符術師は懐の符を取り出し、森林を駆け抜け、木々にそれらを貼り付けていく。
「やっぱり……ダメなのかい?」
その行動の最中、符術師の耳に届くは土煙の中から零れ落ちるガンマンの呟き。
遂に直撃かと思われた波状攻撃であったが、それでもガンマンの反射速度を捉えるには至らなかった。
「君が化け物専門の殺し屋になった理由も、殺し合いに乗ろうとした理由も……そんなカラッポな瞳をしている理由も、俺は知らない」
それは先刻までの飄々とした物とはかけ離れた、淋しげで儚げな口調。
悲壮感を匂わせた、哀願にも似た言葉が符術師の耳へとポツポツと流れていく。
「ただ君が殺し合いに乗るのだとしたら、俺は全力で君を止める。言葉で止まらないというのなら、その四肢を撃ち貫いてでも止めてみせる」
砂埃が晴れ、ガンマンの姿が現れる。
その身体を包み込むは、決意の色である真紅。
吹き抜ける風に揺れるは、天へと逆立った金髪混じりの黒髪。
腰部のホルスターに突き刺さるは、右手に握られていた筈の銀のリボルバー。
所定の位置に符を貼り終えた符術師は、その姿を正面から睨み付けていた。
まるで怨敵を見るかのような歪んだ瞳で、符術師はガンマンを見つめていた。
「やってみろよ、化け物」
眼前の敵を打ち倒す準備は既に完了していた。
爆煙で視界を奪ったその隙に六枚もの符を、距離にして凡そ4メートル四方の位置に、ガンマンを囲うように配置。
後は『禁』の一言で結界は発動し、灼熱の霊気がガンマンを囲い込んで閉じ込める。
ひょうによる点の攻撃、多角からの攻撃、十五雷正法による広範囲の爆撃、爆撃による波状攻撃すらも、ガンマンは避けてせしめた。
その反応速度と身のこなしだけを取れば、符術師が殺し尽くしてきた如何なる化け物よりも上等。
まともに戦闘をすれば、符術師といえども勝利する事は困難であろう。
だが、符術師の長い長い化け物殺しの経験は、そんな相手に対抗する術を容易くも思い付く。
爆破よりも更に範囲の広い、空間そのものに影響を与える術―――結界。
化け物を所定の空間に閉じ込める、もしくは入り込ませないように空間を遮断する事が出来る、万能の防壁。
下位の化け物であればそれだけで消滅させる事が可能な符法である。
通常では命中し得ない攻撃であっても、結界により行動範囲が制限されていれば命中する可能性は大きくなる。
爆破による広範囲攻撃を用いれば、逃げ場など無きに等しい。
(死ね)
そうして符術師は化け物を滅する為、『禁』の一言を紡ごうと息を吸い込み―――
ドガン
―――その四肢を、ガンマンの宣告通りに、撃ち貫かれた。
◇ ◆ ◇ ◆
ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークは苦虫を噛み潰すかのような思いで、ハンドルを握っていた。
間を置いて鳴らされるドガンという重低音の銃声により、近くで戦闘が発生している事は把握済み。
正直に言えば近付きたくないが、後方に座する化け物の存在が逃亡を許さない。
そして恐らく、というか十中八九、遠方での銃撃戦の舞台にはヴァッシュ・ザ・スタンピードが居る。
数瞬前に聞こえたドガンという銃声。
常人であれば一つにしか聞こえない銃声も、彼の人間離れした聴覚はギリギリのところで聞き分けを可能にした。
銃声は四つ。
だがそれら銃声は、時を止めて発射したかのように、鳴り響いた瞬間は殆ど同じタイミングであった。
人間には到底成し得ない、銃撃。
この銃撃の主は人間ではないと、銃声が語っている。
その先にヴァッシュ・ザ・スタンピードがいると、銃声は口程にものを語っていた。
まさに前門の虎、後門の狼。
何かが変わったように思えても後方の人外はやっぱり化け物で、いくら平和主義者であろうと前方の人外もやっぱり化け物。
行くも地獄、引くも地獄。だが、抗う程の気骨は既にミッドバレイの中には存在せず。
せめて心中の恐怖を悟られないよう、伊達男として振る舞うだけであった。
「近い……ですな。あと数分もすれば近場へと辿り着くでしょう」
それでも、
それでも尚、
バックミラーを通して後方の化け物へと視線を這わせたその瞬間、心恨から噴き出す怖気に、身体が一度ブルリと震えた。
「そうか」
音界の覇者がなけなしの勇気で振り絞った言葉に、ナイブズは短くそれだけを答えた。
ミッドバレイを見ようともせず、窓から外界を眺めたまま、かれた三文字の音。
その時、ナイブズもまた思考に意識を委ねていた。
終わりの終わりを経て、一世紀半にも永きに渡る確執に遂に決着を果たしたミリオンズ・ナイブズ。
彼は揺れる車中にて考えていた。
もうじき再会を果たすであろう弟と、自分は何を語るべきなのか。
再会を果たした弟が自分とはまるで違う時系列から参戦をさせられていたとしたら、
それまでのように敵対の視線と白銀の銃口を向けてきたとしたら、
自分はどうすれば良いのか、何を語れば良いのか。
そもそも自分は何故ヴァッシュと再会しようと思っていたのか。
どう足掻いたところで過去はなくならないし、なくそうという気も無い。
結果的に敗北したとはいえ、自分は間違ってなどいないと確信している。
確信をしているからこそ、奴と別の道を選択した。
共に生きる事を拒否し、あれ程憎悪していた筈の人間にヴァッシュを任せ、自らの道を往った。
白紙になど戻せない。
あの頃になど戻れない。
そうだ。
その筈だった。
その筈なのに―――今現在、自分はヴァッシュと再会する為に動いている。
再会して何を成すのかすら決定せずに、ひたすらに道を突き進んでいる。
「ヴァッシュ……」
ナイブズの口から漏れた呟きは、騒々しいエンジン音に紛れ、誰の耳にも止まる事なく宙へと消えていった。
それは隣に座する西沢歩にさえも届かない。
届かなかった筈なのだが、歩は感じ取っていた。
いつも通りの鉄面皮を張り付かせている筈のナイブズが、いつもとは何処か違っている事を。
何となくではあるが、歩は気付いていた。
歩はこの車の行く先も、ナイブズが目指すものも、何も知らない。
だから、何故ナイブズの様子が何時もと違っているのか、その理由が歩には分からない。
分からないから、歩は深く考えずに思考を打ち切った。
ナイブズさんなら大丈夫だと、信じていたからだ。
この殺し合いの中、ただ怯え震えるだけであった自分。
想い人も恋敵も喪失し、それでも自らで動く事が出来ない自分。
弱い、情けない程に弱い自分。
でも、この人は違う。
自分なんかとは違って、強い。
どんな事態にも動じず、ただひたすらに我が道を突き進む人。
だから、大丈夫。
何時もと様子が違っていても、何かに悩んでいるのだとしても、この人は大丈夫。
自分なんかとは違って、強い人なんだから。
「ナイブズさん……」
歩の口から漏れた呟きもまた、騒々しいエンジン音に紛れ、誰の耳にも止まる事なく宙へと消えていった。
ただ車は走り続ける。
二人の兄弟が再会するその時その場所まで、車は二人の人間と一人の人外を乗せて走り続ける。
◇ ◆ ◇ ◆
「……すまない……」
硝煙漂う拳銃を右手に握ったまま、ガンマンは地に倒れ伏す符術師へと謝罪の言葉を告げた。
符術師が結界を張ろうとしたその瞬間に放たれた四発の弾丸。
それは、ガンマンがあの荒廃の世界で不殺を貫く為に会得した技。
人外の反射神経を持つ実兄にすら知覚不能の、神速の早撃ち。
符術師が何かを狙っている事に気付いたガンマンは、符術師がその何かを行うよりも早く、引き金を引いた。
その両手両足に一発ずつ音速の鉛弾を撃ち放ち、符術師を無力化させたのだ。
これ以上誰も殺さないように、最強の『人在らざる者』であるナイブズと出会わないように、ガンマンは符術師を打ち倒した。
胸中に染み渡る後悔と懺悔。
自身の選択が正解であるなどと、ガンマンは微塵も感じていなかった。
話し合いで解決できなかった事、符術師を傷付けてしまった事、結局暴力に頼らざるを得なかった事……悔やんでも悔やみきれない事ばかりである。
そして悔恨の渦中にて、ガンマンは覚悟を決める。
眼前の男を負傷させたのは自分だ。ならば何に代えても自分はこの男を守り通そう。
まだ見ぬ凶悪な参加者からも、融合に次ぐ融合により圧倒的な力を得た兄からも、絶対に守り抜く。
そう決意したガンマンは、自身が刻み込んだ銃創に応急の治療しようと、符術師へと近付こうとする。
「な、め……るな……」
だがしかし、当然ながら符術師が示すは拒絶の意志。
百戦錬磨のガンマンですら戦闘は不可能だと判断する傷で、符術師は尚立ち上がろうと試みていた。
その瞳には、執念と憎悪がごちゃ混ぜになったような、何処までも黒い感情が映っている。
「……もう無理だ。その傷じゃあ戦えない」
「戦えるさ……眼前に化け物がいるんだ、私はまだ戦える……貴様らを滅ぼすまで、私は、戦う」
弾丸で骨も砕けている筈なのに、符術師は動きを止めようとしない。
無理に稼働させられた四肢からはどす黒い血液が噴出し、軋む骨の音が夜の森林に響く。
「止めろ……止めるんだ! これ以上傷を広げるな!」
「なめるなと……言った。私は、貴様らを、殺し尽くす。四肢が砕けようと、関係あるか。私を止めたければ、この脳髄を、心臓を貫いてみせろ」
そして遂には、立ち上がった。
ポッカリと穴の空いた脚で、ポキリと骨の砕けた脚で、符術師は自身の全体重を支えきる。
止めろ、と焦燥に満ちた声を上げ、立ち上がった符術師の方へと一歩を踏み出すガンマン。
ただ符術師の身を案じて手を伸ばすガンマンであったが、残念ながらその手が、その想いが、符術師へと届く事はない。
伸ばした手は、バチリという高音と激しい閃光により弾かれる。
何も無い筈の空間に唐突に出現した光の壁が、ガンマンと符術師とを隔絶していた。
「なにっ!?」
光の壁はガンマンの前方だけではなく、左右後ろにまで、その身体を取り囲むように出現していた。
いつのまに、とガンマンは驚愕し、符術師を見る。
符術師もまた、歪みきった表情を顔に張り付かせ、ガンマンを見る。
その右手に握られるは、四枚の符。
符術師は投げた。音速の鉛弾で撃ち貫かれた右手を大きく振りかぶり、襲い来る痛覚を無視して、渾身の力で符を投げた。
標的へと一直線に宙を駆ける符は、結界に阻まれる事もなくガンマンの足元へと辿り着く。
符から距離を空けようとするガンマンであったが、四方を囲む結界がその行動を阻害する。
一歩後ろに飛び退いただけでその背中は結界に当たり、それ以上の後退は許されない。
「四爆」
直後、爆発。
僅か数メートルという近距離から爆風を食らうガンマン。
その全身が真紅の熱風の中へと完全に飲み込まれる。
至近距離からの爆風直撃。
常人ならば生存不可のその光景を見て、符術師はそれでも戦闘への意志を縮こめようとはしなかった。
符術師は理解していたのだ。この程度でこの化け物は殺せない、と。
「まだだ」
爆風の中心へと、渾身の力を込めて、符術師は手持ちのひょうを全て投げつける。
空を斬り、爆煙の中を突き進む四本のひょう。
ザクリという、何かに突き刺さるような音と感触が、ひょうに巻き付けられた手製のワイヤーを通して伝わった。
手応えは有り。
命中は確実。
だがしかし、それでも仕留められたとは思えない。奴を仕留めるにはもう一押しが必要だ。
爆煙が晴れるに伴い、その中心にいるガンマンの姿が徐々に浮き彫りになっていく。
そこには、殆ど無傷と言って良い姿でガンマンが立っていた。
あの至近距離からの爆発を防御しきったのは、ガンマンの右腕から生えた、神々しいまでに白色の翼手であった。
先ほど符術師が投げたひょうも、その翼手に突き刺さるに終わっている。
符術師の攻撃は、プラントが力の前に何ら意味を成さなかった。
幾千の銃弾すらも防ぎきる堅牢さに、ガンマンの反射速度に追随して稼働する俊敏性。
防御力も速度も兼ね揃えた、まさに最強の盾。
その力を前に、人間は余りに脆弱な生物でしかない。
まさに人外の力。
化け物と称されるに値する絶対的な力。
その力を目の当たりにして、符術師は一言呟く。
人外と戦う為に、化け物を殺す為に、家族の仇を滅する為に、入手した符術の力。
そう、それは化け物を打倒する為の力。
―――だからただ、化け物を前にした符術師は一言こう呟くのだ。
禁、と―――。
「が、あああああああぁぁぁぁぁあああああああああアアアアアアアアあああああ!!!」
妖魅を禁ずること、それ即ち存在することを禁ずること。
ひょうを通して伝達された符術師の気により、プラントの白翼に巨大な浮腫のようなものが内側からボコボコと湧き上がる。
瞬間、ガンマンの全身を駆け巡る激痛。
存在を禁じられるという未体験の痛みが、ガンマンの身体を完全に支配し、その動きを止めた。
「十五正雷法・十翼―――」
痛覚に意識を支配され棒立ち状態となったガンマンへと、符術師が追い討ちを掛けた。
飛翔術を活用しての急加速により、二人の間に存在した距離が瞬く間に零となる。
符術師の右手に握られるは、数枚の符が括り付けられたひょう。
「―――九爪!!」
そうしてひょうは、ガンマンの右肩から左脇に掛けてを、袈裟切りに切り裂いた。
符術師の気が存分に込められたその一撃は、ただでさえ古傷だらけのガンマンの身体に、更なる傷を刻みつけた。
表皮は勿論、筋と骨すらも切り裂かれ、ガンマンの身体から斜め一線に血が噴き出す。
膝から崩れ落ち、地面へと倒れるガンマン。
常人であれば即死確定の傷。が、そのタフネスが影響してか、ガンマンは未だ死には至っていない。
「ち、いっ」
そして、ガンマンが倒れ伏したその時、符術師の身体は宙に舞っていた。
主の危機を察知した翼手が独立的に活動を始め、敵対者である符術師へと殺到し、軽々とその身体を弾き飛ばす。
翼手が直撃した胴体からゴキリという、気味の悪い音が響き、符術師の鼓膜を揺らした。
空中遊泳に催した時間は凡そ五秒程。
たっぷりと浮遊感を味わった後に、符術師は背中から地面へと叩き付けられる。
肺に収められていた空気が無理矢理に口から排出され、瞬間的に酸素欠乏へと陥った。
痛みに喘ぐ身体。歪む視界。
負傷を推して無理に稼働を続けた代償が今になって表出したのか、符術師は直ぐさま立ち上がる事が出来ずにいた。
符術師が再度立ち上がるには、数分に渡る停止が必要とされた。
「……逃が……すか」
ぼやけた意識の片隅で、符術師は遠ざかっていく足音を聞いていた。
あれだけの傷で逃げ出す力があるのかという驚嘆を覚える一方で、絶対に逃がしはしないという漆黒の意志が燃え盛る。
僅か数分という短時間の休息を終え、符術師は再度の行動を開始した。
周囲を見渡すも、既にガンマンの姿は何処にも見えず。だがしかし、森林の奥深くへと点々と続く血痕を符術師は発見する。
ガンマンの腕に刺さったままのひょうから、その具体的な位置も特定する事が出来る。
標的は西へ直進中。
あの傷でこれだけの逃げ足。なる程、やはりそんじょそこらの化け物とは一線を画す。
逃がしはしないさ、と一言残し符術師は追跡を始めた。
フラフラと覚束無い足取りで、時折膝を折りながらも、それでも符術師は前へ進む。
四肢にはポッカリと穴が空き、砕けた肋骨により内臓も負傷。
端から見ても満身創痍のその身で、符術師は凄惨な笑顔を浮かべて、突き進む。
もし、この時の符術師を見た者がいたのなら、誰も彼もが同様の言葉を思い浮かべるだろう。
―――化け物、と
◇ ◆ ◇ ◆
肩から脇に掛けての刀傷から大量の血を滴らせながら、ガンマンは暗闇の森林を移動していた。
その速度は、駆けるという程の速さでもなく、歩くという程の遅さでもない。
せいぜい早歩き程度。これが今のガンマンの成せる最速の逃亡であった。
「く……そっ、なんでここにきて……暴走なんかっ……!」
ガンマンの焦燥に満ちた声が森林に響く。
彼が逃亡をした理由。それは彼の右腕が大きな原因となっていた。
戦闘の最中、符術師の一撃により多大なダメージを負った身体。
制限により治癒力・耐久力ともに大きく減衰している現状では、ともすれば命にすら関わりかねない負傷。
ヤバい、と思考した時には身体が勝手に作動していた。
右腕に仕組まれたプラントの力が、主の生命の危機に反応し、自律稼働を開始。符術師の胴体へと、容赦の欠片も無い一撃を見舞っていた。
それは一種の暴走。
これもまた制限のせいなのか、それとも単純に主の危険に動いただけなのか……、ともかくエンジェルアームが暴走へ至った事は事実。
だからガンマンは逃亡した、符術師を殺してしまわないようにと。
「……っ……、足が……重い……」
だが、その逃亡もなけなしの体力を振り絞ってのもの。
符術師が必滅の奥義を食らったガンマンは、限界に近いダメージを負っていた。
ポタポタと流れる鮮血。
グラグラと歪む視界。
フラフラと揺れる身体。
ガクガクと震える両脚。
未だ歩みを止めずにいるのは、ひとえにガンマンの意志の強靭さ故か。
悲鳴を上げる身体を無理やりに動かして、ガンマンは尚も歩き続ける。
そして―――、
―――ガンマンは見る。
「ナイ……ブズ……?」
森林の直中に、悠然と佇む宿敵の姿を。
「……ヴァッシュ……」
ナイブズは、様々な感情がない交ぜになったような形容しがたい表情を浮かべて、進行方向へと立ちふさがっていた。
対するガンマンはワンテンポの呆けの後に、殆ど反射的に拳銃を構える。
向けられた銃口を見て、ナイブズはその不可思議な表情を歪め、これまた不可思議な表情へと移行させる。
今にも泣き出しそうな、今にも笑い出しそうな、今にも怒り出しそうな、不思議な不思議な表情。
その不思議な表情が過ぎ去った後に残るのは、ナイブズの自嘲的な微笑みであった。
◇ ◆ ◇ ◆
ナイブズは、思う。
ああ、俺は何がしたかったのだろうか、と。
共振と音界の覇者の耳を頼りに、ヴァッシュの元へと辿り着いたのは良い。
だが、出会ったところでどうすれば良いのだ。
満身創痍の奴を見た俺は何を語れば良い? どんな表情をすれば良い?
突き付けられた銃口が語るは、ヴァッシュが内に在る拒絶の意志。
漆黒の浸食度合いからして、おそらく終わりの終わりに至る前の時期……つまりは未だ対立の関係続いている時期から参戦させられているのだろう。
そんなヴァッシュを前にして、俺の口は動かし方を忘れてしまったかのように固まっている。
奴を前にすれば自然に分かると思っていた答えは、結局のところ分からずじまい。
何故、俺はヴァッシュとの再会を望んだ。
何故、二度と共に進むことのできない相手との再会を望んだ。
自己欲求の言語化すら出来ずに、俺はヴァッシュの前で押し黙り続けていた。
……奴らを森林の入口に待機させてきたのは正解だったのかもしれない。
こんなみっともない姿なぞ……人間には見せられん。
「……ナイブズ……お前、その髪の色は……」
奴もどうやら、現状の俺の姿に戸惑いを拭いきれないでいるようだ。
それもそうだろう。
奴が知る俺は、何千というプラントとの融合し、絶対的とも云える存在であった頃の俺。
今の残りカスのような俺とは文字通り桁が違う。その違いに、奴は困惑しきっているのだろう。
そんなヴァッシュを前にして、やはり俺は動けない。
ヴァッシュからの問い掛けという現状を説明するに絶好の機会を与えられ、だがそれでも俺は言葉を吐き出す事が出来なかった。
どう説明すれば良いのか、何を言えば良いのか、何も浮かばない。
気まずいというには余りに重い沈黙が、流れ続ける。
これが他人と向き合う事を否定し続けた男の現在であった。
空虚な笑いが込み上げる。
自嘲を止める事ができない。
実の兄弟にすら何を話せば良いか分からない矮小な存在が、今の俺だ。
一つの惑星を破滅へと追い詰めかけた男の、憐れみすら覚える無惨な末路。
これではまるで、アイツ等と同等じゃないか。
俺が嫌悪し続け、滅ぼそうとすら考えたあの愚かで矮小な生物と、まるで変わらない。
……あぁ、笑えるよ、ヴァッシュ。
お前が命懸けで救い、諭し続けてきた男はこんなちっぽけな存在だったらしい。
まるで道化だ。
ハハ、笑えるな。心底から笑えるよ、ヴァッシュ……。
俺は……俺は一体、何なのだろうな。
眼前では、人の汚い部分を直視し続けていた男が、未だ困惑を張り付かせて静止している。
俺はその視線にすら耐えきれず、奴の後方に広がる森林へと目を逸らしてしまう。
そんな瞳で見るな。
俺は、お前を殺そうとした男だ。
俺は、レムが命懸けで守護した人類を滅ぼそうとした男だ。
俺は、レムを殺した男だ。
後悔はない、間違っていたとも思わない。
でも、それでも俺は―――お前の目を正面から見る事は出来ない。
ああ、俺は何がしたかったのだろう。
今更コイツと会って何を語ろうとしていたのだろう。
弟の前に無言で立ち尽くす情けない俺を嘲笑うかのように、冷たい風が吹き抜けた。
「滅」
―――そして、その冷たい風に乗ってその声は聞こえてきた。
反射的に声がした方へと顔を向ける。
だが、俺の視界は何かを捉えるよりも早く、紅に染め上げられた。
反応すら出来ない。
ヴァッシュに意識を取られていた俺は、指一つ動かす事すら出来ずに、眼前で急速に膨張する紅蓮へと飲み込まれた。
周囲が見えていなかったのだ。
周囲の警戒すら忘れて俺の意識は、ヴァッシュに、ヴァッシュに何を語るべきかも判らない自分へと、集中していた。
その不意を、突かれた。
無様だ。
俺はこんなにも脆弱な存在だったのか?
強烈な浮遊感を知覚しながら、俺は余りに情けない自身へと思わず自問していた。
不機嫌な子供に投げられた玩具のように不細工な回転を描き、視界を滅茶苦茶に掻き回されながら、俺は数瞬の空中遊泳を楽しんだ。
そうして、墜落。受け身すらとれずに、背中から思い切り地面と激突する。
その衝撃に、肺を満たしていた空気が無理矢理に排出され、視界が歪む。
「……くっ……ヴァッ、シュ……」
明確な不調を訴え、再起動までに僅かな休息を求める身体。
だが俺は、それ等全てを無視して、行動を始めていた。
前後の状況から察するに、何者かが不意打ちを仕掛けてきたのは自明の理。
得物は恐らく爆発物。ロケットランチャーのような武器で、遠方から狙撃でもしたのだろう。
ナメられたものだ。
この俺を、あの男を、そのような安易な方法で殺害できると思うとは。
……とはいえ、俺は物の見事に襲撃に気が付く事が出来なかったのだ。
状況が状況とはいえ、自戒は必要。
取り敢えず狙撃手の四肢を切り落とし、洗いざらいの情報を入手した後にでも殺してしまおう。
奴は阻止しようとするだろうが、もう構わない。
所詮、交わる事のない道。一時的な迷走から奴との接触を望んだが、それも無意味なものだと理解した。
奴は奴の道程で殺し合いの打開を目指す。
俺は俺の道程で殺し合いの打開を目指す。
それで良い。
何ら問題は無い。
奴が俺を阻止しようとするのなら、何時ぞや奴が言ったように、俺は急いで逃げよう。
そして、もう出会う事のない遠方にてお前の無事を願おう。
それで良い。
それで……良いんだ。
(サヨナラだ、ヴァッシュ)
視界が正常な状態へと戻った時には、既に砂埃も何処かへ流れ散っていた。
見る者全てを癒やす緑色に覆われていた空間も、先の爆撃で今は無惨な姿を見せていた。
あれだけの緑を維持するのに、同胞がどれ程の労力を費やしているのか、下手人は知らないのだろう。
それだけじゃない。
貴様が吹き飛ばそうとした男がどのような道のりを踏破してきたのか、どれほど過酷な道を踏破してきたのか、下手人は知らないのだろう。
撃たれ、裏切られ、蔑まれ、それでもラブアンドピースを掲げて、人々の間を歩き続けていった事を知らないのだろう。
知ろうともせずに、殺そうとしたのだろう。
知る事で変わる世界があるというのに、貴様は知ろうともしなかったのだろう。
良いだろう。
ならば、俺が貴様を殺す。
奴を殺そうとしたお前を、殺してやる。
ふと視界の隅に人影が映る。
漆黒のスーツに身を包んだそいつは、地面へとうなだれるように座しながら、得物を掲げていた。
見覚えのある得物であった。
十字架の形をとった特異的な外見の重火器。チャペルが装備していたパニッシャーという名の超重火器。
そうか、それで貴様はヴァッシュを殺そうとしたのか。
なら、死ね。
詫びなどいれなくても良い。
情報など、もういらない。
ただ、死ね。
それだけで良い。
そうして、俺は自身の左腕に『力』を集中させる。
残り僅かな『力』を使用してでも、奴は殺すに値する人間であった。
塵すら残さない。その存在全てを消滅させようと、俺は渾身を左腕へと集中させる。
数秒と掛からずに、『力』は臨界へ至る。
後は『力』を解放させるだけで、下手人は塵一つ残さずこの世から消滅する。
そして俺は、『力』を解放させようとし―――
見てしまった。
人間が大好きなこわれた妖怪の姿を。
胸から下を
赤と黄と黒とピンクのまじった
汚い色で汚して
『無くしてしまった』奴の姿を
見た。
何故だ。
何故お前がそんな事になっている。
お前なら避けられただろう。
あんな不意打ちなどお前なら容易く避けられた筈だ。
それが何故、こうなっている!?
お前は生き続けてきたんだろう!
あの地獄のような世界を。
銃弾が飛び交う命懸けの世界を。
一世紀半もの間!600億$$という巨額の餌を括り付けられた状況で!
そんなお前が何故!?
俺ならともかくお前が何故避けられない!?
何故だ!?
何故……何故、お前が死ぬんだ!
何十、何百万と命を略奪してきて俺ではなく、
何故お前が死ななければならない!?
「お……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
……結局、ヴァッシュもナイブズと同様であった。
唐突に現れたナイブズに、彼の知るそれとは何処か違っていたナイブズに、ヴァッシュは意識を取られすぎていた。
だから、ひょうが撃ち放ったロケット弾に、反応する事が出来なかった。
だから、ロケット弾はヴァッシュに直撃し、彼の胸部から下の組織を全て吹き飛ばした。
ヒトを超越した彼等であっても、それは死亡確定の傷。
この傷から自力で復活できるのならば、それこそ不死の化け物だ。
周囲への警戒を忘れていたから、ヴァッシュは砲弾を受けた。
砲弾を受けたから、ヴァッシュは死ぬ。
砲弾はヴァッシュを狙ったものだったから、ナイブズは余波を食らうだけに終わり、生き延びた。
ただそれだけの、シンプルな話。
一世紀半もの人生は、実にシンプルな理由で終末を迎える。
淡い夢の一欠片すら達成できずに、実兄であり宿敵でもある男の眼前で、ガンマンは死ぬ。
ただそれだけの―――シンプルな話なのだ。
◇ ◆ ◇ ◆
ナイブズは、腹から胸から色々と大事なものを零してしまったヴァッシュに駆け寄り、そのグチャグチャになった大事なものを必死にかき集めていた。
正常な判断など、最早できる訳がなかった。
その行動に意味が無いと判断する事すらできない。
そうすれば生き返るのかと思う程に、ナイブズは必死にヴァッシュの腑を集め、腹腔へと無理矢理に詰め直していた。
しかしながら、出血は止まらない。
詰め直した腑もデロデロと流れ出てしまう。
温もりも失われていき、ヴァッシュの身体はドンドンと冷たくなっていく。
誰がどう見ても助からない事は判断できる筈だ。
それを、ヴァッシュの死を、人間よりも遥かに高等な思考能力を持つ筈のナイブズは判断できない。
身内の死を受け止めきれずに恐慌状態へと陥る……その行動は何処までも人間らしい行動であった。
だが、これでは助からないとようやく理解できたのか、ナイブズは次なる行動に移行していた。
自らの左腕を掲げて、五分の一程の大きさとなってしまったヴァッシュの身体に乗せる。
プラントの『力』を利用しての肉体の蘇生。
本来ならば真っ先に行うべきだった行動に、ナイブズは今更ながら到った。
沸騰する思考で必死に『力』を込めるナイブズ。
その左腕から眩いばかりの光が溢れ出る。
数秒の発光。そして光は止み、ヴァッシュの身体は復活を果たす。
五分の一程残っていた身体が四分の一程の大きさへと、ヴァッシュは復活を果たした。
ただ一つ、復活した身体はそれでもやっぱり死に掛けだという事が欠点であった。
「……死ぬ、のか……お前が……」
そこで漸くナイブズにも理解できた。
ヴァッシュは死ぬと。
もはやこの事項は覆せぬ事実なのだと。
ナイブズは漸く理解した。
「……お前が、終わりの終わりを勝利したお前が……死ぬ……」
理解し、
「ハ……ハハ、ハハハハハ……」
そして、空虚な笑い声と共に左腕を掲げた。
同時にナイブズの数メートル程先の空間で巨大な爆発が巻き起こる。
漆黒の狙撃手から放たれた砲弾を、ナイブズは『力』を使って撃ち落としたのだ。
「……そうだ……お前が、居たのだったな」
視線の先ではヴァッシュを殺害した男が、十字架を此方へと向けていた。
その姿を確認すると同時に心中が漆黒の殺意に染まっていく。
悲しみも、怒りすらも、浮かばない。
ただ純然たる殺意だけがナイブズの内を満たしていく。
他には何もいらなかった。
ただ今は眼前の男の死を、ただそれだけをナイブズは欲する。
「ヴァッシュ、これが俺の―――」
ヴァッシュを治癒する為に一度。
ひょうからの砲撃を防ぐ為に一度。
そして、今回が三度目の解放。
ヴァッシュと遭遇した時点でナイブズに残された『力』は、ラストランを除き三回分。
この一撃を放ってもナイブズには、ラストランという正真正銘最後の切り札が残っている。
そう、残っている筈なのだが―――ナイブズはその切り札すらもこの一撃に費やそうとしていた。
その発動は、すなわちナイブズの死と同義語。
それ程までに、もう自身などどうでも良く思える程に、ナイブズはヴァッシュを殺害した男の死を望んでいた。
理性も本能すらも超越したところで殺意が渦巻き、身体を操作する。
「…………こ…………ろし………ゃ…………めだ」
―――が、『力』が解放される寸前でナイブズに理性を取り戻させる者がいた。
掴まれた右腕。
予期せぬ感触にナイブズは視線を怨敵から逸らす。
動かした視界に映ったのは、殆ど生首状態と言っても良いヴァッシュが此方に向かって必死に手を伸ばし、右腕を掴んでいるその光景。
ヴァッシュが何を伝えようとしているのか、ナイブズには痛い程に理解できた。
また、お前は言うのだろう。
そんな姿になりながらも。
死の寸前へと追い込まれながらも。
守り続けてきた人間の手で殺されながらも。
お前は言うのだろう。
殺すな、と。
殺しちゃ駄目だ、と。
「……もう良い。お前は休め、ヴァッシュ」
だが、ナイブズにその願いを聞き入れる事は出来なかった。
弟の最期の頼みであっても、これが恐らく最初で最後の頼みだとしても、ナイブズは聞き入れられない。
もう理性で止められるものではないのだ。
同種であり、同朋であり、家族である存在を殺されたナイブズに、もはや滅殺以外の選択など有り得なかった。
「細胞の一欠片と残さず―――消えていけ」
そして、世界は白色に染まる。
全てを、その命すら賭けた最大の攻撃。
制限などなければ大都市の一個や二個を容易く壊滅させるであろう、一撃。
色が消失し、ただ白色だけが全てを包容する世界で、ナイブズは笑っていた。
自嘲的で、それでいて暖かい色が含まれた微笑み。
それは彼の長きに渡る人生でも浮かべた事のない微笑みであった。
ナイブズは気付いたのだ。
ヴァッシュの死を眼前で見て、ナイブズは気が付いた。
自分が弟に何を語りたかったのかを。
自分が弟に何を伝えたかったのかを。
気付いて、そして微笑んだ。
自分の本心を理解した事に、その余りに単純な願望に思わず頬を緩めてしまった。
終わりの終わりを経て、三度の終わりを迎えようとしているナイブズ。
白色の世界が渦中に立ち尽くしながら、ナイブズは自分の身体が崩壊していく音を聞く。
こうして彼の身体は霧散していった。
彼が最期の瞬間に知覚していたものは、右腕を握り続ける実弟の掌の感触であった。
そして―――、
【ヴァッシュ・ザ・ズタンピード@トライガン・マキシマム 死亡】
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム 死亡】
◇ ◆ ◇ ◆
何が起きたのだろう。
視界がしろく染まり、何もみえない。
音もきこえない。
においも、皮ふの感覚もない。
ただ、なんとなく苦しい
いきが上手くすい込めない。
体がおもい。
なんだろうか、これは。
ぼくは何でこんなことなっているんだ。
たしかひょうと戦ってて、
ナイブずが現れて、
それで、
それで、
それで、なんだっけ?
分からない。
わからない。
ワからない。
ああ、だれかが、ナいている。
けモののようナこえで、
だレかが、ないてイる。
ききオぼえのアるこえだ。
そシて、なつカしいこエ。
あア、すコしおもいダセた。
このコえハ、おまエのこえだ。
めズらしいナ。
おまエもソんナこえをだスのカ。
アア、すすマなくちゃ
おレのタビはおわッちゃいナい。
おまエをトメなくちゃ。
にんゲンはわルいヒトばかりジゃないンだよ。
だかラもウだれモコロさないでクれ。
おれハシっていル。
むかしのオまえがヒトをしんじていタことヲ
だかラコロすナ
コロしちゃイけない。
ころすナ
コロすな
コろスな
オまえは、もう―――
ないブず、おまエハ
「…………こ…………ろし………ゃ…………めだ」
てヲのばス。
つカむ。
そシて
ナいブずがとマるように
こエをひねリだス。
ああ
やット
おもイだシた
おレハうタれたンだ
ヒョうに
おコってクレていルんだな
おれノシに
おマえが
でモ
でも
それデも
だメダ
こロしチャいけナい
ころシちャだめナンダ
まエにすすまなキゃ、
まえニ
だッテ
みライへのきップはいツもはクシなんダカら
そウ
はくシだ
おマえも
オレだっテ
マダ
ハくシなんダ
めいユうは
むカシのなかマをすクってイッた
めイゆうニすくワレたなカマは
このバでひとビトをすクってイった
ナら
オれは?
オレは
なニかヲ
すくエルノか?
なにモすくエずに
イくのか?
そしテ、おレはけツいする
おマえと
――すルことヲ
アア
あのトき、レムは
なントいっタのだろウ
シンどうとゴうおんに……かきケされたこトバ―――
◇ ◆ ◇ ◆
「きゃああああっ! な、何なんだろ、何なんだろ、これ!?」
その現象は森林の奥底から流れ漏れてきたものであった。
陽が西空へ落ち掛け薄暗さを増してきた周囲を、森林の奥底から発生した、極光とも云える白色の光が支配した。
それは、森林の手前で待機を命ぜられた歩とミッドバレイをも飲み込み、全てを埋め尽くした。
車中の後部座席に座していた歩は驚愕を、運転席に座していたミッドバレイは口を開く事すら出来ずに。
片や驚愕に声を張り上げ、片や恐怖に口を閉じ、不可思議な現象を前に各々が各々の反応を見せていた。
世界が一色に染まっていたのは僅か数秒。
たたの数秒で、世界を占めた白色は何処かへと引き下がり、消失する。
そして、謎の発光現象が終了すると同時に、世界は大きな変化を遂げていた。
車の窓から外の世界を覗き見る歩とミッドバレイ。
歩はただ単純に何が起こったのか知りたくて、ミッドバレイは何時ぞやと同様の天使と悪魔の囁きに唆され、外を見る。
変わり果てた世界を見た二人を襲うは、やはり正反対のまるで別種の感情であった。
片や驚愕を。
片や絶望を。
驚愕を抱いた平凡な少女は車外へと飛び出し、絶望を抱いた歴戦の殺し屋は車内にて腰を抜かす。
世界が、変わっていた。
その空間を埋め尽くしていた木々が、その地面を覆い隠していた木々が、全て、根刮ぎ、元々がそうであったかのように―――消滅していた。
木々の一本も、葉の一枚も、雑草の一本すらも、存在は許されず。
森林と称されていた空間が、茶色の地面が延々と広がる殺風景な野原へと。
どんな奇術師にでも不可能な事象が、直ぐ目の前でリアルタイムで行われたのだ。
地上にてその光景を見るミッドバレイ達は知る由も無いだろうが、その野原は綺麗な円形を形成していた。
半径は凡そ三百メートル程。
境目は丁度、ミッドバレイ達が待機していた車の一本手前。
直径にして六百メートル程の狭い狭い世界が、森林から死んだ土地へと変化していた。
恐怖に押し潰されそうになる心の中で、ミッドバレイは一人理解する。
これは奴等が引き起こしたのだと。
化け物達が争った結果がこれなのだと。
理解し、そして、込み上げてくる吐き気に身体を丸めた。
ゴチンと狭い車内に頭がぶつかるが、その痛みすら知覚できない。
何時でも飄々とした風を気取る伊達男も、今は吐き気と恐怖を堪えるので精一杯であった。
「あれは……」
そんなミッドバレイを後目に、歩は車外へと降り立ち、そのある種幻想的な世界に視線を這わせていた。
世界はもの凄く見通しが良くなったというのに、歩が求める人物の姿は何処にもない。
出て行った時間からして、彼がこの変革が発生した範囲内に居るのは確実。
だというのに、見つからない。
彼の姿が何処にもない。
歩の額に、気味が悪い程に大量の汗が浮かぶ。
考えたくも無い考えに、思考が行き着く。
「う、そ……」
と、歩が絶望の声を零したところで。
その現象は発生した。
何も無かった筈の空間に、唐突に浮かび上がる白い煙のようなもの。
白い煙はまるで意志を持つかのように一カ所へ集結していき、形を成していく。
最初はあやふやだった形が、どんどんと収束していき、そして遂には―――人型へ。
彫刻のように猛々しい、引き締まった肉体。
僅かに金が入り混じった鮮やかな黒髪。
鋭くつり上がった目と、眉間に刻まれた力強い皺。
ああ、と歩は安堵を口にする。
ああ、とミッドバレイは絶望を口にする。
―――そこには、別れた時と何ら変わらない姿でミリオンズ・ナイブズが立っていた。
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム 蘇生】
◇ ◆ ◇ ◆
声が、聞こえていた。
奴の、ヴァッシュの声が聞こえていた。
脳内の奴は語る。
お前は生きろ、と。
俺の分までお前は生き、そして出来れば誰も殺さないでくれ、と。
死んでさえ尚も、奴は他人を気にかけていた。
正直に、素直に、バカだと思った。
百五十年という長い人生を人間達の為に費やし、そして最期はその人間に殺された、男。
あれだけ人間を思い続けた男は、あれだけ思い続けた人間に殺害された。
そして、その現実に直面して尚、男は人間を思い続けるのだ。
一片の躊躇いもなく、さもそれが当然のように。
……ああ、俺が負けたのは必然だったのかもしれんな。
お前と一つになって、改めて思う。
お前こそが生き残るべきだったんだと。
その愚かとさえ言える真っ直ぐな魂が、人間共には必要なんだ。
……なあ、ヴァッシュ、お前に伝えたい言葉がようやく見つかったんだ。
共に道を進みたかった訳ではない。
共に戦いたかった訳ではない。
ただ、生きていて欲しかった。
「死ぬな」―――ただ、その一言を伝えたかった。
なあ、ヴァッシュ。
お前のお蔭で、俺はまた命を救われた。
終わりの終わりの時に一度。
そして今回で二度目。
お前のお蔭で、お前が『融合』してくれたお蔭で、俺はまだ生きている。
お前が最期に振り絞った『力』のお蔭で、俺は生き延びた。
……ふと見れば、奴等が呆けたような表情で、此方を見つめていた。
それら視線を無視し、軽く周りを見渡すと、そこには十字架を抱えたままうなだれるように気を失っているもう一人の男。
お前の記憶によると、ひょうとか言う名か。
死体すら残さず消し去るつもりだった渾身の一撃を、この満身創痍の男が自力で回避などできる訳がない。
おそらく、これもお前の仕業だろう。
融合し、俺と一つになったお前が、内から攻撃を逸らすようしたのだろう。
喜べ、お前は救ったんだ。
お前は救えたんだ、一つの命を。
俺はコイツを……見逃そう。
今の俺に……お前が命懸けで救った人間を殺す事などできはしない。
俺とお前は一つになった。
お前はもうこの世にいない。
だから、俺が前へ進む。
ラブアンドピースを掲げるつもりは無い。
お前のように全てを救おうとは思わない。
だが、俺は俺のやり方で進んでみせる。
お前に救われた命を決して無駄にはしない。
だから、お前は精々そっちで休んでろ。
分かっている。
未来への切符はいつも白紙なんだろう?
それは、俺の知らない、レムの言葉。
それは、俺の中のお前が遺した、最期の言葉。
終わらない筈だった唄が、今、止まった―――、
【H-03/道路/1日目/夕方】
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:融合、黒髪化進行
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:レガートと彼を殺した相手に対し形容し難い思い。
1:ヴァッシュの分まで生き抜く。
2:ひょうをどうするか考える。殺す気はない
3:ナギの支給品を確認。用途を考える。
4:首輪の解除を進める。
5:搾取されている同胞を解放する。
6:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
7:次に趙公明に会ったら殺す。
8:自分の名を騙った者、あるいはその偽情報を広めた者を粛正する。
9:交渉材料を手に入れたならば螺旋楽譜の管理人や錬金術師と接触。仮説を検証する。
10:グリフィスとやらに出会ったなら、ガッツの伝言を教えてもいい。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※ヴァッシュとの融合により、エンジェル・アームの使用回数が増えました。ラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約5回)が限界です。
出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※日中時点での探偵日記及び螺旋楽譜、みんなのしたら場に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
また、“神”が“全宇宙の記録(アカシックレコード)”を掌握しただけの存在ではないと仮定しています。
※“神”の目的が、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”にも存在しない何かを生み出すことと推測しました。
しかしそれ以外に何かがあるとも想定しています。
※天候操作の目的が、地下にある何かの囮ではないかと思考しました。
※自分の記憶や意識が恣意的に操作されている可能性に思い当たっています。
※ミッドバレイから情報を得ました。
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:背中に裂傷(治療済)
[服装]:白いスーツ
[装備]:ミッドバレイのサックス(100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、サックスのマガジン×2@トライガン・マキシマム、
ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、エンフィールドNO.2(1/6)@現実、銀時の木刀@銀魂、
ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、
No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム、
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すかもしれない存在を見つけて……?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、由乃に対する強烈な恐怖。
1:ナイブズの態度に激しい戸惑い。
2:ひとまずナイブズに従う。
3:慎重に情報を集めつつ立ち回る。殺人は辞さない。
4:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
5:或の情報力を警戒しつつも利用価値を認識。
6:ゲームを早く終わらせたい。
7:鳴海歩を意識。ひとまずは放置するが、もし運命を打開して見せたなら――?
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※ガッツと胡喜媚を危険人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:手にいくつかのマメ、血塗れ(乾燥)、無気力、悲しみ
[服装]:ジャージ上下、ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:エレザールの鎌(量産品)@うしおととら
[道具]:スコップ、炸裂弾×1@ベルセルク、妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク
[思考]
基本:死にたくないから、ナイブズについていく。
1:ミッドバレイへの憎しみと、殺意が湧かない自分への戸惑い。
2:ナイブズに対する畏怖と羨望。少し不思議。
3:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。
4:孤独でいるのが怖い。
[備考]
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。
※ミッドバレイから情報を得ました。
【ひょう@うしおととら】
[状態]:疲労(大)、両腕両脚に銃創、肋骨骨折、やや自暴自棄 、気絶中
[服装]:
[装備]:短刀@ベルセルク、手製のひょう×1
[道具]:支給品一式(メモを大分消費)、ガッツの甲冑@ベルセルク、パニッシャー(機関銃:90% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、
手製の遁甲盤、筆と絵の具一式多数、スケッチブック多数、薬や包帯多数、調理室の食塩
四不象(石化)@封神演義
[思考]
基本:やりどころのない憎悪が燻る一方、この世に執着できるほどの気力もない。
0:高町亮子の依頼により、会場の妖(バケモノ)をすべて始末する。
1:子供を襲うなら、人間であっても容赦はしない。
2:酒が欲しい。
[備考]
※ガッツの甲冑@ベルセルクは現在鞄と短刀がついたベルトのみ装備。甲冑部分はデイバックの中です。
※時逆に出会い、紅煉を知った直後からの参戦です。
※妲己を白面の者だと考えています。
※パックから幽界、現世、狭間、精神体の話を詳しく聞きました。
精神体になんらかの操作が加えられた可能性を考えています。
肉体が元の世界と同じでない可能性を考えています。
が、特に検証する気はありません。
※龍脈の乱れとその中心が神社であることを感じ取っています。
が、特に調査をする気はありません。
※ヴァッシュを妖怪の一種だと考えています。
※手製のひょうの構成:レガートの単分鎖子ナノ鋼糸、高町亮子の髪の毛、裁ち鋏の刃
※ヴァッシュに刺した手製のひょうが位置を教えています。
※H-03・西の森林が半径300メートルにわたり消滅しています。
※消滅した森林に、青雲剣@封神演義 、支給品一式×2、正義日記@未来日記、
秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)、折れた金糸雀@金剛番長、
ナギの荷物(未確認:支給品一式×7、ノートパソコン@現実、特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、
木刀正宗@ハヤテのごとく!、イングラムM10(13/32)@現実、
トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、
不明支給品×2(一つは武器ではない)
旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、
アルフォンスの残骸×3、工具数種)
真紅のコートにサングラス@トライガン・マキシマム、リヴィオの帽子@トライガン・マキシマム
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1(治癒効果はない)、ニューナンブM60(5/5)@現実×1、.38スペシャル弾@現実×20
が落ちています。
これにて投下終了です。
以上で代理投下終了です。
ヴァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッシュ!!!!!!!
これは胸に来た。ひょうもナイブズも救うとは……。
主人公だわ。ホントに主人公だわ。
改めて投下乙でした。
投下、代理投下乙。
せつねえ。
ひょうとヴァッシュの戦いも切なかったが最後がこうなるとは…。
GJ。
投下&俺以外の代理の人乙です
悲劇になる可能性大と思ってたら…
ヴァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッシュ!!!!!!!
お前って奴は…ごめん、内心疫病神だと思ってたが…お前は最高の主人公だぜ!!
ナイブズは堕ちなかったのはお前のおかげだぜ
いやあ、GJですわ!
書き込めるかな?
まずは◆1vOGnKR12I氏、代理投下された方々、乙です!
ヴァッシュめ……死亡表記出た時はあまりのあっけなさに呆然としたが
その後のモノローグと融合したっていうので泣きそうになったっちうねんこのクソトンガリ
兄貴も格好良いわ。生きて今後どうなるかが楽しみ
まあミッドバレイからしたら堪ったもんじゃないだろうがw
あと指摘ですが、前話だと車で移動中ナイブズは助手席に座っていたような
移動したんでしょうか?
お前ら叫びすぎワロタww
ヴァッシュ退場かあ・・最期までトンガリズムで書ききってくれた書き手さんに拍手
改心したナイブズのその後(?)が見れるってのは原作好きには嬉しい展開かも
投下本当に乙っした!!
アニロワ2ndでは厄病神以外何者でもなかったのを知ってると
感慨深い流れだな……
対主催戦力として今後中核になりそうだ、兄さん
投下乙でした
ヴァッシュは最後まで己を貫き通したか…
ナイブズはドンドン美味しいキャラになっていくなぁ
ミッドバレイが少し可哀想な気もするが、
兄弟両方が死んでたら西沢さん殺して逃げそうだしまあいいかw
◆1vOGnKR12I氏へ
「孤独の王/終わらない唄」はそのままですとwikiの容量制限に引っかかるようです。
お手数ですが分割指定もしくはご自分での収録をお願いします。
投下乙!
これで夕方まで行ってないのが…
ガッツ、ウィンリィ
沙英、坂田銀時、結崎ひよの
安藤兄、エド、ゴルゴ13
由乃
或
喜媚
潮、聞仲
キンブリー
趙公明
ゾッド
何時、再登場するか不明なのが
リン・ヤオ
妲己
さて、どうなるやら…
まともな対主催グループが少ないw
あと読み返してたら
>>124のヴァッシュの死亡表記に誤字を発見しました。
またゆのっちと危なそうな奴が……w
名前欄が選挙版になってる
おっマジだw
そして◆1vOGnKR12I氏、修正乙です!
だが待ってほしい
九ちゃんが再登場する可能性は本当に0であろうか?
それはないな
ウィンリィと状況が違うからな
>>134の描写によるとナイブズの肉体は一度消滅した後再構成されてみたいだけど
首輪はどういう状態なの?
議論スレで◆1vOGnKR12I氏が『後の書き手さんに任せる』って言ってるよ
今残りの不明支給品を調べてたんだけど、由乃の持ってる不明支給品は三個じゃないか?
ちなみに他は聞仲、ゴルゴ、とら、カノンがそれぞれ一個ずつ持ってる
◆Yue55yrOlY氏、無理せず頑張って下さい。
以下、間に合うか分かりませんが月報用データです。
新漫画 153話(+9) 27/70 (- 4)※ 38.6 (-5.7) ※一人復活、生死不明は生存扱い
153話(+9) 27/70 (- 4) 38.5 (-5.8)
今回は6人死んだけど、一人肉体授与されてリスタート、
二人が融合して一人だけ生き返りました。
かぶった
ゆのと喜媚投下します
美しく、規則的に形取られた結晶体が、眠りから覚めたばかりの穢れなき瞳に映る。
魂魄すら融かしてしまいそうな、純白の粒子が曇天の空から零れ落ちていた。
普段の喜媚であれば、初めて目にした珍しいものを驚きと喜びを持って観察し、遊ぶように真似をしてみせただろう。
だが、今。
喜媚の瞳は雪など見ていない。
ただ、映しているだけだ。
その視線は、雪などよりもっともっと珍しい物を、食い入る様に捉えていた。
◇
眼下の光景に、喜媚は珍しく溜息をついた。
寝ている間に、あのお喋りな妖精を、見た事のない女の子が絞め殺してしまっていたのだ。
喜媚が先に眼を付けていた、あの妖精を。
(この子、妖精さんをどうするつもりなのかなー?)
不覚にも眠り込んでしまう前。
喜媚は、この世にも珍しい妖精を酒に漬け込み、妖精酒を作って姉に献上する心づもりであった。
出来れば生きたまま酒の中に放り込み、その生気に満ちたエナジーを酒の中に溶かし込むのが最上ではあったが、
こうなってしまってはしょうがない。
死骸でもいいから、喜媚はどうしてもあの妖精が欲しかった。
だが……
こういう事は、早いもの勝ちなのよんと、姉はよく言っていた。
姉の物となってしまった獲物に手を出そうとして、よく叱られた記憶が脳裏を掠める。
先に妖精を見つけたのは喜媚だったが、居眠りしてしまった隙に得物を仕留めたのはこの女の子だ。
であれば、妖精の所有権はこの女の子にある。
それを横からかっさらうような真似をしたら、お行儀が悪いと叱られてしまうだろう。
だけどもし、この子が妖精の死骸なんて要らないのであれば……
所有権を放棄して、どこかに行ってしまうようであれば……
それをこっそりと拾い上げ、自分の物にしてしまおう。
そう思って喜媚は、このように女の子の目前で、じーっと黙って見ていたのだが……
女の子は汚液に塗れた妖精を布地で包みこむと、大事そうにデイパックへと仕舞ってしまった。
やはり、何かの呪術にでも使うつもりなのだろうか。
再び、残念そうに溜息をつく喜媚であったが、その頭上にピコンと電球が閃く。
(そーだ! お友だちになって、分けて貰っちゃえばいいんだっ☆)
見れば、あの理緒や亮子、そして喜媚ともさほど年の違わなさそうな、小さな女の子であった。
横からかっさらうのは良くない事だが、お友だちになって譲ってもらうのは礼に叶っていると言えないだろうか。
そうだ。
姉も喜媚を厳しく叱った後は、蕩けるような微笑みと共に、獲物のお裾分けなどをよくしてくれたではないか。
(姉サマ待っててっ☆ 喜媚、珍しいお酒を作って持って行きっ☆)
その発想に思い至った瞬間、喜媚は酷寒の空気を引き裂き、迫りくる殺気を感知する。
その凍てつく殺意の行く末は喜媚ではなく、目前の女の子。
放っておけば一瞬の後には柘榴のように顔面が弾け、理緒のようになってしまうだろう。
だが喜媚の中に、自分で仕留めた人間の死骸ならともかく、死人の財産を奪うなどというさもしい考えは存在しない。
先ほど考えた通りに少女の友人となり、妖精の死骸を譲ってもらうために……
喜媚は少女の運命を変える事にした。
<風さん>に変化していた右手を、ちょいと動かす。
それだけで少女の眼前に迫っていた銃弾が、強固な風の壁に阻まれて弾かれ、石畳に突き刺さり破片を巻き散らかす。
続いて飛んできた次弾を、左手を振るう事で進路を変え、少女の身体から逸らす事に成功。
初撃をやり過ごした喜媚は、魔弾の射手の行方を探して目を眇める。
こういう弾を飛ばす銃という武器の特性は、以前亮子を慰める時に使った人間と遊んだ時に知っていた。
宝貝による射撃武器などとは違い、まっすぐにしか飛ばない武器だ。
だから射線の遥か前方に必ず射手がいる事を、喜媚は確信し――
次の瞬間、後ろから聞こえた声に気を取られた。
「おいっ! 隠れろ、そこのあんたっ!」
そこにいたのは、見知らぬ少年と、彼に担がれた見知らぬ青年。
血の臭いをぷんぷんさせた彼らに気付かなかった事に一瞬驚愕した喜媚であったが、
彼らに攻撃の意思がない事を、すぐさま見てとった。
だが、その確認に回した時間は致命的だった。
三度飛翔した銃弾を、此度は防ぐ事が出来なかったのである。
身体をくの字に曲げ、喜媚が守り損ねた少女が苦悶の声をあげる。
(あ☆ 喜媚、失敗しっ☆)
疲れのせいであろうか。
思わぬ不覚を取ってしまった喜媚であったが、幸い女の子の負傷は深くはなかったようで、
転身するとわき目も振らずに逃走を始めた。
とはいえ、<風さん>に変化したまま追走する喜媚が
「大丈夫?」
と声を掛けても、女の子は無反応。
否、反応する余裕もないのだろう。必死な形相で腕を振り、怪我も気にせず限界までピッチを早めて走る少女の
様子がさすがに心配で、喜媚はこっそりと風となった身体を絡み付くように寄り添わせ、銃創の具合を確かめてみる。
そこには喜媚の視線を遮る物は、何もなかった。
左の肩ひもが切れた事で、濡れそぼり質量を増した服がズリ落ちて、片側だけ柔肌が露出してしまっていたのだ。
この天候下において、あまりにも軽装な少女は胸を保護する下着すら付けてはおらず、その足が大地を蹴りつける度に、
けなげに肉付いた小ぶりな乳房が、激しく上下に弾む。
問題の銃創は、その左乳房の下の方にあった。
喜媚は診察する。
その、微粒子すらも真似してしまう、神懸かり的な眼を持って、観察するように――診察する。
どうやら弾は上手く肋骨の隙間を貫通し、臓器からの出血もない様子であったが、それでも
銃弾が肉体を貫通した傷は浅くはない筈だ。
5.56ミリ弾によって穿たれた穴からは、ジュクジュクと赤い汁が滲み出て、血と汚物に塗れた服を更に赤く染めていく。
人間ならば、すぐに手当てが必要だろうと思い、喜媚は少女の手にびっしりとこびりついた妖精の粉に着目した。
伝承によれば、妖精の粉はどんな傷にもよく効き、これを治すという。
ならばと、喜媚は気流となった身体を操り、少女の左手を患部へと上手く誘導した。
一旦傷口の存在を意識させれば、あとは簡単だった。
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・
銃創をしっかりと手で押さえて、気忙しく後ろを振り返りながら走る少女は、もう安心だろう。
神秘の秘薬が傷口に染み渡り、たちまちの内に肉は盛り上がり、皮が張るはずだ。
喜媚は再び女の子に声を掛けて、姿を顕そうとし……
なんだか、鬼ごっこみたいで面白いかもと感じて、それを止める。
(もうちょっとだけ、このまま遊びっ☆)
支援しますー。
それは喜媚が、未だにこの島で起こっている殺し合いのゲームを理解していなかったからであり――
遊びが大好きな子供のまま、永遠に時を止めた妖怪仙人だったからである。
◇
油絵の具で、黒々と塗り込められたような木立ちの合間を少女は駆け抜ける。
視界の隅をよぎる、老婆のように腰の捻じれた幹は、柳の木であろうか。
無計画に乱立しているはずの森の樹が、並木道のように整然とした細い路地を作り出している有り様は、
まるで木々が動いて、少女に道を譲っているかのようであった。
パックの殺害……
突然の襲撃……
そして、変わり果てたグリフィスとの邂逅……
さまざまな出来事が、一斉に起こりすぎて思考の処理が追いつかない。
ゆのは、もう何も考えられず、ただただ生存を訴える肉体に突き動かされるがまま、逃避行為に専念していた。
開けた土地とは異なり、密集した背の高い木々の屋根に覆われた森の黒土は、未ださほど雪の浸食を受けてはいない。
雪の積もる所を避け、柔らかな腐葉土を蹴り飛ばして走る少女の速度は加速度的に増していく。
立ち止まってなどいられない。
転んでなどいられない。
カモシカのように軽快に、小柄な少女は山の斜面を、一心不乱に駆け下りる。
しかし、その好条件はゆのを追跡しているかもしれない襲撃者とて同じ事。
ゆのは、背後が気になった。
追いかけてきた襲撃者が、すぐ後ろにいるかもしれない。
誰かが、追いかけて来ているかもしれない。
それは、先ほどの襲撃者かもしれない。
それは、最初に出会った不死の魔獣かもしれない。
それは、出会い頭に彼女の腕を切断した少女かもしれない。
それは、旅館で彼女を羽交い締めにした屈強な腕かもしれない。
それは、異端の価値観を彼女に示した、狐目の錬金術師かもしれない。
それは、彼女の攻撃で命を落とした、二人の男たちの亡霊かもしれない。
それは、そのとばっちりで重傷を負ってしまった、グリフィスかもしれない。
それは、どこまでも伸びてくる腕を持つ、あの恐ろしい女たちの目かもしれない。
それは、この島での彼女の行為を弾劾する、愛すべき世界の人々なのかもしれない。
「――ッ」
高まる恐怖心に、思わず後方を確認しようと身体を捻った時。
偶然、手が脇腹を掠めた。
恐怖と興奮で、忘れかけていた痛みが蘇る。
先ほど脇腹を貫いた、灼熱と衝撃の記憶が蘇る。
恐る恐る、その場所をそっと手で押さえてみた。
凍えた手に、ぬちゃりとした熱い感触があった。
熱いぬかるみが、そこには出来ていた。
(あ……もしかして私、銃で撃たれたの?)
興奮して、頭に昇っていた血の気が引いた。
ゆのはあまり血生臭いような番組は見ないが、家族や友達と一緒に見るTV番組や映画などでは、銃で撃たれると
死亡シーンへと繋がるのが常であった。
少女の意識の中に、自身の冷たい死のイメージが広がる。
誰もいない、こんな寂しい所で冷たく息絶える自分の姿が。
身体中の血を流し尽くして、痛みと恐怖を味わいながら、ゆっくりと死んでいく自分の末路が。
(撃たれた……? 私、撃たれた……? 私、死……いやだっ!)
しかし、だからといって、足は止められない。止まらない。
今、止まってしまったら……背後から忍び寄ってくる何かから、逃げられなくなってしまう。
怖い、恐ろしい何かに、捉えられてしまう。
本当に――死んでしまう。
「ハァハァ……ハァッ!!」
だから、痛みを堪えて傷口をしっかりと手で押さえた。
これ以上、血が流れてしまわないように。
まだ逃げ続けるために。
とはいえ、傷を自覚した少女の足取りは、先ほどまでより明らかに鈍い。
しきりに振り返りながら、よたよたとふらつくようにして、それでもゆのは懸命に走る。
何度も、振り返る。
背後に、敵影などは見えない。
先ほどから感じる何かが追いかけてくる気配など、ただの気のせいで本当はとっくに敵からは逃れられているのではないか。
もう休んでもいいのではないか。
そんな弱い考えが脳裏に浮かぶも、すぐにゆのはその考えを振り払う。
考えるまでもなく、これまでの敵襲は全てゆのには察知しえるものではなかったからだ。
魔獣との出会いも。
腕を切断された時も。
旅館で男に捕まった時も。
トイレで手に捕らわれた時も。
さきほどの狙撃も。全て。全て。
ゆのは、この島での自分の弱さを、嫌になるくらい熟知していた
だが、果たしてどこまで走れば振りきれるのだろうと、絶望にも近い感情がゆのの心に忍び寄る。
傷口の手当もしなければ本当に死んでしまうし、なによりも、もう体力の限界だった。
足は靴ずれを起こしたように痛いし、筋肉も疲労を訴えて張り詰めている。
心臓が爆発してしまいそうなほど、激しく鼓動を刻んでいた。
そんな状況の中、急に森が開けて、ゆのの目前に大河が立ち塞がった。
こんこんと降り続ける雪が、河の水に溶けて流れてゆく。
水流同士が激しくぶつかり合う音がその場に響きわたり、白く濁った渦が巻く。
昼間よりも増水し、凄まじい激流となって冷水が流れる川は、到底人が泳いでは渡れるものではなかった。
ゆのがカナヅチだという事実を、差し引いたとしても。
ここで、行き止まり。
逃避行の終わりに、足が止まった。
だというのに、絶望に濁りかけていた少女の瞳に、光が戻る。
それは助かったという想いから来る、希望の光だった。
◇
宝貝・混元珠を使い、河を渡り切った少女の姿が、向こう岸の森の中にあった。
早鐘を打つ心臓の動悸を落ちつかせながら、先ほどまで自分がいた辺りを、茂みの中から用心深く見渡す。
――誰もいない。追ってくる人など、いなかった。
その事実を確認し、ゆのはようやく乱れた息を整える。
こんな悪天候の中で、ほとんど半裸にも近い姿を晒しているというのに、身体が燃えるように熱かった。
全力疾走に近い運動で、1キロ近くも走っただろうか。
極度の貧血と疲労で、草むらの上に倒れ込みそうになるのを意思の力で支える。
肉体はとても休息を欲していて、そのまま寝てしまいたかったが、まだ、ここで倒れるわけにはいかなかった。
最低限、傷の手当てをしなければならない。
脇腹を押さえた手が、血と汗にぬめっていた。
ゆのは、ごくりと息を飲み込むと、意を決したように傷口を押さえていた手をどかしてみる。
取り出したペットボトルの水を混元珠で操り、血まみれの脇腹を洗浄する。
覚悟していた、水の染みる痛みはない。
そこは既に肉が盛り上がり、銃創の跡を残すだけとなっていたからだ。
「……え? どうして……?」
思わず、戸惑いの声を漏らす。
この島では、本当に不思議な事ばかりが起きて、ゆのにはわからない事だらけで……
だから解答など出るはずのない疑問に、どこからともなく聞こえてきた声が答えた。
――キャハッ☆ あなたの仕留めた、妖精さんの鱗粉が傷を治しっ☆
「だ、だれっ!?」
――いいな、いいな、妖精さんいいなっ☆ 喜媚もソレ欲しいなっ☆
くすくす、くすくすと、風は笑う。
幼女のような無邪気な声が、森の中を木霊する。
ゆのの唇が、わなわなと震える。
やはり、追われていたのだ。
やはり、振り切れていなかったのだ。
正体不明の何者かが、その辺りにでも隠れているのか。
視線をきょときょとと彷徨わせても、人影など見つからない。
頼りの混元珠を胸に抱きしめて、ゆのは小さな身体を巨木の影に隠す。
「どこ……どこにいるの?」
縞々模様の雪雲に遮られ、弱弱しく輝く太陽は既に西の空に落ちようとしていた。
昼間でも薄暗かった森の中は、いよいよもって見通しが悪く、そこかしこに何かが潜んでいるようで――
木の影から、辺りを窺うゆのの目には、周囲が一転してお化けの巣のようにも見えた。
すぐ近くの大木の影に――
ついつい見過ごしてしまいそうにさり気なく茂った叢に――
土が落ち窪んだ小さな起伏の中に――
そこも、あそこも、あそこにも――
もう、限界だった。
「――ッ!!」
すぐ傍の河から、水で出来た巨大な槍が幾本も飛来する。
混元珠によって操られた槍は、まるでミサイルのようにゆのの思い描いた場所へと着弾し、
大質量を持ってして周囲の障害物を、次々と薙ぎ倒していく。しかし――
――キャハハッ☆ すごいすごいっ! パオペエしょーぶで喜媚と遊びっ? ☆
その内の、どこからでもない場所から再び声が響いたと思った瞬間、ゆのの周囲を凄まじい烈風が渦巻いた。
木の枝がへし折られ、木の葉が舞い散り、降り積もっていた雪がドサドサと雪崩落ちる。
「キャアアァァーーーッ!!」
思わず手で頭を覆い、縮こまるゆのであったが、外傷はない。
だが正体不明の敵の攻撃に対し、ゆのの心は完全に折れてしまった。
デイパックと混元珠を引っ掴むと、木の影から飛び出す。
先ほどの逃走に、勝るとも劣らないスピードで、ゆのは再び逃げ出した。
◇
薄暗くなった山道を、まろぶようにして駆け下りる。
実際何度も転び、膝小僧を擦りむきながらも、狐に追い立てられる野兎の如く少女は逃げる。
だが、野兎を保護してくれる茨の茂みなど、この島のどこを探してもないだろう。
目の端に涙が滲む。
――キャハハッ☆、キャハハッ☆
ひゅん。
笑い声と共に風切り音が鳴り響き、近くの木が切断される。
粉雪を巻き散らかしながら、倒れる木を見てゆのは張り詰めた太腿に再び力を込める。
ゆのの足が止まりそうになる度に、何度も繰り返されるデモンストレーション。
ただの脅しだ。
敵は遊んでいる。それくらい、ゆのにも判る。
だが、だからと言って足を止められるはずがない。
止めたら、次は何をされるかわからない。
切断される大木の姿は、次の瞬間の自分の姿なのかもしれないのだから。
まるで、いつまでも終わらない鬼ごっこ。
鬼に追われるこどもは、どこまでも逃げ続けるしかないのだろうか。
――キャハハッ☆、キャハハッ☆
風鳴りのような、笑い声が止まらない。
敵は一体どこにいるのか。
それすらもわからない恐怖に、ゆのの背中は追い立てられる。
姿さえ現わせば、■してやるのに。
…
……
………今、一瞬。
とても良くない事を、ごく自然に考えたような気がして、ゆのは頭を振るう。
気がつけば、もう随分、山の麓のほうまで降りてきてしまった。
薄く雪の積もった平坦な道を、足を引きずるようにして走る。
本当は、山の上から遠目に見えた街のほうに行きたかったのだが、微妙に進路が逸れてしまったのか。
夕闇に灯り始めた街灯の明かりは、随分と遠くに見えた。
そんな風に集中力を切らせて、朦朧とした意識のまま走っていると足下に転がる何かに蹴躓いて、ゆのはまた転びかけてしまう。
なんとか堪えようと、たたらを踏むゆのの服を、誰かが後ろから掴んで支えた。
「ヒッ!?」
心臓を、鷲掴みにされたようであった。
これまでにない展開に、ゆのの身体が硬直する。
今まで散々に追い回された、正体不明の敵に、ついに捕まってしまったのか。
「いやあああああああっ!!」
絶叫と同時にデイパックを持った手を、後ろに向けて振り回す。
だが、それは誰にも当たらずに、空を切った。
反動でビリビリと、掴まれていた服の背中が破れて、ゆのの身体がバランスを失う。
スリップするように半回転して、雪原の上に尻もちをついた。
広げた脚の間から迸る飛沫が、真っ白な雪のキャンバスに黄色い放物線を描く。
シュワシュワと雪の溶ける音がして、白い水蒸気と共に強いアンモニア臭が立ち昇った。
ゆのは肩で息をしながら、破れた服の切れはしを放心したように見ていた。
それはただ、服が木の枝に引っ掛かっただけの事だった。
極限まで張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、恐怖に凝り固まっていた顔が弛緩する。
張りを失った右の肩紐が、肩から腕にゆっくりと滑り落ちると、ゆのの背筋がぶるりと震えた。
「ん……はぁ……はぁ……」
一瞬の虚脱状態から立ち直ったゆのは、追手の存在を思い出し、けだるげに周囲を見渡す。
そして、気付いた。
自分が先ほど躓いた物の正体に。
周囲の、異常な状況に。
まず、躓いた物の正体だったが、これはうっすらと雪に覆われた、人間の女の子の死体だった。
考えてみれば、自分で殺した妖精の死体を数に入れなければ、これがゆのが生まれて初めて見たヒトの死であったが
その心は自分でも驚くほどに平静であった。
既にその程度では動じないほど、ゆのの心は摩耗していた。
だが、それは綺麗に弔われた死体であったからかもしれない。
続いて見た異常な光景は、写真のように鮮明に焼き付いて、死ぬまでゆのの頭から離れる事はないだろう。
やや離れた所に転がる、見慣れた臙脂のスカートからにょっきり伸びた白い脚。
少し雪が積もっていたとはいえ、いつも見ていた造形のそれを、美術科のゆのが見間違えるはずがない。
だが、いつも快活に躍動していた下半身の、赤黒い断面から先にはあるべき上半身がなかった。
だから、ゆのにはその無惨な遺体が本当に彼女なのか信じられなくて――信じたくなくて。
知りたくもない答えを探して、虚ろな瞳を彷徨わせる。
白く染まった世界には、同じように下半身だけとなった死骸が三つ、転がっていた。
狙ったように失われた上半身は、果たしてどこへいったのか。
実は、それらはずっと、ゆのの視界に入っていた。
単に、認識出来なかっただけだ。
だって、想像もつかない。
子供が七夕の笹を飾りつけるように、木の枝に、人の臓物を飾り付けるだなんて。
粉雪を纏わりつかせた、白く脱色したぶよぶよしたものが、かつて人だった物だなんて。
――けれども。
ゆのの背が届かないくらい、高い枝に引っ掛かった一本の腕に、見覚えがあった。
木の幹に、皮膚ごとへばり付いた金の髪に、見覚えがあった。
沈む夕暮れが、白い世界を赤い光で覆い隠す。
今もぽたぽたと、滴り落ちる赤い雫で、降り積もる雪が真っ赤に染まる。
かき氷のような白銀の大地に、赤いシロップを垂らしたような景観が、一つの歪んだ世界を作り出していた。
眼球に焼きついた光景を、脳が処理する前に、肉体が反応した。
悲鳴をあげる間もなく、酸っぱい胃液を、再び雪の上にぶちまける。
内容物なんてほとんど入ってないそれは、少し血が混じっていた。
泣きながら、吐きながら、ゆのは理解していた。
こんなミンチになった肉と臓物が、あの太陽みたいに明るい親友の成れの果てであることを。
追われていた事すら忘れて、少女は目前の光景に慟哭する。
後ろで軽くステップを踏む誰かの足音にも、気付く事もなく。
◇
酸鼻を極めるはずの光景の中、ロリータファッションに身を包んだ三つ編みの少女が楽しげに踊っていた。
思いがけず戻ってきてしまった場所で、怖い男の事を思い出して周りを警戒していた少女であったが、
どうやら男はどこかへと去ってしまったようだった。
四不像を取り戻せなかったのは残念だが、あの男とはどうも相性が悪すぎた。
姉の協力を得て、改めて取り戻すより他にはないだろう。
とりあえず今はその事は忘れて、新しいお友だちと面白おかしく遊ぼうと喜媚は思った。
鬼ごっこは、とても楽しく遊べた。
次は何で遊ぼう。
材料たっぷりのこの場所で、楽しくお料理ごっこでもしようか。
姉から教わった、とりとめもない遊びの候補がいくつか思い浮かぶが、喜媚ははたと、大切な事に気が付いた。
まだ、お友だちの申し込みをしていない。
テヘッと、自分の頭を小突いてから喜媚は剥き出しの背中を丸めてうずくまる少女に声を掛ける。
あなたのお名前、喜媚に教えてッ☆ 喜媚とお友だちになりッ☆
と。
◇
頸動脈を伝わる拍動を感じる。
首の肉に、細い指が食い込んでいた。
子供特有の、高い体温が凍えた手に心地いい。
体勢はマウントポジション。自分と大差ない体格の相手に、馬乗りになって首を絞める。
抵抗はない。
実にすんなりと、当然のように、ゆのは喜媚の首を絞めていた。
なぜと問うように、喜媚は純真な瞳でゆのを見上げる。
それを無視して、激情のまま更に手に力を込めた。
当然ながら、小さな妖精の首を握りつぶした時のようにはいかない。
少女は全ての腕力、全ての体重をかけて、全力で雉鶏精の首を締めあげる。
声を掛けてきた少女に気付くなり、飛びかかった。
恐怖も、躊躇いも麻痺していたのかもしれない。
姿の見えなかった敵が、こんな小さな女の子だった事には驚いたけれど。
友達になろうだなんて、皮肉かと思い腹立たしくなった。
あの、友達になろうと言ってくれた妖精を、ゆのがどうしたのか知っているくせに。
ここまで散々、嬲ってきたくせに。
ようやく廻ってきた千載一遇の反撃のチャンスを、逃したりはしない。
疲労を訴える全身の筋肉を叱咤して、ゆのはその指先に、全ての力を集中させる。
(殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ)
耳元で囁く、誰かの声が聞こえた。
誰の声とも判らない、その声にゆのは打ち震えながらも頷く。
(うん。殺すよ……死にたくないから――殺すよ。もう三人も殺してるんだから……
グリフィスさんだって、どうせあの怪我じゃ助からない。殺さなきゃ、生きられないなら、私は――)
先の放送までで丁度半分。最後の一人になるまで止まらない殺し合いは、確実に終わりへと近付いている。
なら、その終わりを自分の手で早める事に、何の不都合があるだろう。
パックを殺した。グリフィスも死ぬだろう。この喜媚という少女も殺せば――
それだけ自分の生存へと、近付く事になる。
(奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え)
そうだ。温もりも、平穏も、生きる権利も、この島ではそれが欲しいなら奪うしかない。
フルーツバスケットと一緒だった。
生き残れる席はどんどん減ってしまうのに、遠慮して尻ごみしていては席を奪われてしまう。
そして席を奪われた者には、宮子のような悲惨な死が待っているのだ。
あんな死にかたは――嫌だった。
だから、生きるために、殺す。
とてもシンプルで、力強い答えに従い、ゆのは手の中の暖かな命を摘み取ろうとし――
喜媚が、首を絞められたまま笑っている事に気が付いた。
――くすくす、くすくす
締め付けていたはずの首が、圧し掛かっていたはずの身体が、一瞬にして消え去る。
体重を預けていた対象の喪失に体勢を崩し、倒れ込むゆのの後ろに、喜媚は再びその姿を現した。
「キャハッ☆ 面白かったッ☆ 今度は喜媚がやりッ☆」
「あ……え……?」
攻守交代。
振り向いたゆのの身体に、今度は喜媚が圧し掛かる。
すっかりはだけて露わになった半裸の少女のお腹の上で、喜媚は先ほどのゆのの行為を再現する。
ギリギリと、指がゆのの首に食い込んだ。
「最初は苦しいかもしれないケド……その内、お花畑が見えりッ☆」
「ぐっ……!? い……やぁ……」
物騒な事を言う喜媚の腕を、ゆのは必死になって振りほどこうともがく。
腕を掴み、身体を捻って暴れるゆのの身体を、困ったような顔で抑えつけていた喜媚であったが、
ついにはその腕を爪で引っ掻かれた事によって、手を離してしまった。
ゆのは、ふいごのように胸を大きく膨らませ、解放された気道からひゅうひゅうと酸素を取り込む。
凝固した血で汚れた髪が、脂汗に濡れた頬に張り付いた。
「BOO! BOO! 反則だよッ☆ よーし、それなら……ロリロリロリったロリロリリンッ☆」
言葉と共に、喜媚の身体が煙の中に消えると、急にゆのの腹部に圧し掛かる重量が増した。
せっかく肺に溜め込んだ酸素が押し出される。
圧し掛かられているだけで、呼吸困難なほどの重みだった。
何事かと煙の向こうに目を凝らすゆのが見たのは、黒衣に身を包んだ片目の大男の姿。
吊りあがった闇色の隻眼が、まるで獣の眼のようだと、ゆのは思った。
悲鳴をあげようとしたが、声も出ない。
僅かに、あ……と弱弱しい吐息が漏れた。
驚愕に目を見開く少女の首に、冷たい鉄の腕が掛けられると、前にも増して凄まじい力で締め上げられる。
首の骨が折れそうなほどの力に、一瞬にしてゆのの顔色が青紫色に変化する。
お花畑など、見えるはずもなかった。
ただ苦しくて、ガリガリと立てようとした爪が、鋼鉄の腕に阻まれる。
スカートが下腹部まで捲れ上がる事も厭わず、男に組み敷かれた体勢で足を踏ん張り、膝蹴りを打ち込む。
ビクともしなかった。
蜘蛛の巣に捕えられた蝶のように、ゆのは為す術もなく首を絞め続けられる。
やがてゆのの抵抗が止み、緩慢に投げ出された脚が痙攣し始め、白眼を剥きかけた所で――
急に腹部と首の圧迫感が消えた。
「ゲホッ!! ゲホゲホッ!!」
激しく咳き込み、ゆのの意識が回復する。
いつのまにか男の姿は元の三つ編みの少女のものに戻っており、その視線は傍にある少女の遺体へと向けられていた。
「……忘れてたッ☆ ヒトはすぐ壊れるから、遊ぶ時は手加減しッ☆」
よく出来ましたと言わんばかりに、えっへんと喜媚は胸を張る。
何を考えているのか、わからない。
わからなかったが、反撃するなら今しかなかった。
荒い呼気を整えると、ゆのは腹の上に乗っかる喜媚の脇の下に、器用に太腿を折り畳んで足を差し込む。
そして、一気に跳ね上げて、喜媚の身体を持ち上げた。
「わわッ☆」
「ハッ、ハッ、――ッ!! うわあああああアアァァァッ!!」
その勢いのまま起き上がり、喚きながら身体ごとぶち当たる。
急に消えたり、姿を変える。喜媚の操るわけの判らない力。
次にそれを使われたら、今度こそどうにもならない。
尻もちをつかせた喜媚の背後から、抱きつくようにして密着し、腕を首に回す。
俗に言う、チョークスリーパーの体勢である。
喜媚は、この期に及んでまだ楽しげに笑っていた。
(殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ)
(奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え)
「お願い……」
耳鳴りが五月蠅かった。
全身全霊で殺しに集中しなきゃいけないのに、頭の中で喚かないで欲しかった。
もう言われなくても、やるべき事は判っている。
「お願いだからッ!」
可能な限り早急に。
この少女の息の根を止める。
その為には酸欠になるのを、待ってなどいられない。
チマチマ頸動脈を押さえて、意識を奪ってなどいられない。
「もう、死んでよぉーーーーーーーーーっ!!」
全身の力を、胸の中に抱きしめた頭に掛けて。
か細い喜媚の首を、一気に捻った。
ゴギッ!!
嫌な感触を腕の中に残して、喜媚の全身から力が失われる。
稼働域を超えて回転した、喜媚の顔と向かい合う。
笑顔のまま、輝きを失った瞳の中に、自分の顔が映った。
陰鬱な瞳に、極度の倦怠感が浮かんだ酷い顔だった。
ぼさぼさに乱れた髪の印象も合わさり、ゆのは一気に十は年を取ったような気がした。
◇
しばらくは動く気にもならなくて、いまだ温かな喜媚の遺体に寄り掛かり暖を取っていたゆのだったが
いつまでもそうしては居られない。
そろそろ遠くに見える街まで移動しようとして、喜媚から離れたゆのは、肌寒さに胴震いする。
何せいまや身につけているものは、腰にまとわりつくボロ切れのような服だけで、切れた肩紐の部分を結び合わせれば
まだ着られるかもしれなかったが、汚れに汚れた服を着続ける気にはならなかった。
それに比べると、喜媚の服はとても暖かそうだとゆのは思う。
ゆのは知らない事だったが、変身の度に素粒子ごと作りかえられていた喜媚の服はほとんど新品も同様であり、
この雪の寒さにも充分対応出来るだけの生地の厚さに作りかえられていたのである。
一つ頷くと、ゆのは辺りを見渡してから、木陰に隠れて服を脱ぎ捨てる。
べしゃりと、重たげな音を立てて、それは雪の中へと埋もれた。
この日、最後の太陽の残光に照らされた血溜まりの中で、ゆのは濡れたハンカチを制服の中から取り出すと身体を拭い始めた。
【F-3/1日目/夕方(放送直前)】
【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:疲労(極大)、貧血更に進行、頭部に爪による切り傷、後頭部に小さなたんこぶ、首に絞められた跡、倫理観崩壊気味
[服装]:全裸、髪留め紛失
[装備]:混元珠@封神演義
[道具]:支給品一式×3(一食分とペットボトル一本消費)、イエニカエリタクナール@未来日記、制服と下着(濡れ)、パックの
死体(スカートに包まれている)、エタノールの入った一斗缶×2
[思考]
基本:死にたくない。
0:休みたい。
1:人を殺してでも生き延びる。
2:壊れてもいいと思ったら、注射を……。
3:宮子の遺体は……。
[備考]
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※切断された右腕は繋がりました。パックの鱗粉により感覚も治癒しています。
※ロビンの能力で常に監視されていると思っています。
※イエニカエリタクナールを麻薬か劇薬の類だと思っています。
以上です。
ちなみにゆのの進行ルートはE-5→E-4の河→F-3
孤独の王/終わらない唄の発光現象については、時間を特定することになるかもと思い
特に描写していません
支援ありがとうございました
あ、死亡表記入れ忘れてた!
【F-3/1日目/夕方(放送直前)】の上に【胡喜媚@封神演義 死亡】を挿入します
投下乙です!
うわあ、ゆのがどんどん転がり落ちていく……。
精神的にも、肉体的にも生命が削られていく様が実に生々しいw
喜媚も最後まで残酷で無邪気だったが終わりは実にあっけなかったな……。
残ったスープーちゃんはどうなるんだろw
あと、喜媚これって死んでますよね? 死亡表記がないので少し気になりました。
……っとと、大きなお世話でしたね。
即刻の対応お疲れ様です。
きびいいい!!お前は最期までロリータだったな・・w
どんなロワでも ゆのみたいに普通の子が転がり落ちてくの見てるのは辛いよなあ・・
投下乙でした!
投下乙!
悪徳ロリータが逝ったか。ゆのっちの堕ちっぷりに興奮せざるを得ないw
ところで、俺の記憶だとフルーツバスケットはずっと席数は変わらなかったと思うんだが、
そこら辺はローカルルールの違いなんだろうか?
その辺いろいろあるみたいで調べたんですけどwikiにはそのように載っていました
ローカルルールだな。地元じゃ徐々に席数を少なくさせて最後は一対一で勝者を決めるってルールだった
なんと……地元じゃ席数は減らず延々と1人のはみ出し者を生み続ける
非常に非生産的な遊びだったもんで……要らぬお節介でしたね、すみません
ゆのっちこれからも頑張れ(このロワ的な意味で)!
投下乙です
きびは実力的にはゆのっちよりは上だけど遊びと思ってたからな…
でもきびに殺されてた方がマシだったかも
宮子の仇打ちにはなったが本人は知らないだろうな
ゆのっちの先が気になる最後でした
投下乙です
なんという下剋上w
雪路に続きキビもロワの主旨を理解しないまま逝ったか
ゆのがどこまで堕ちていくのかはもちろんのこと
何気に妹想いなダッキちゃんや
ちょっと目を離したうちにこんなことになった或の反応も気になるところ
投下乙でした
ゆのの堕ち方が半端ねぇぜ
書き手諸氏の鬼畜っぷりに胸が熱くなるな(褒め言葉)
そして、描写が一々エロくて困る(同じく褒め言葉)
>>203 白熱すると、時には椅子争いで血を見る危険な遊びなんだぜ
>>207 こえーよww現実でバトロワすんなw
椅子減らないとこもあるんだなあ・・
狭い空間を取り合う、接触上等の遊びだからな
椅子とかもあるから何気に危ないし
現在位置の表示を変えたので報告
死亡者の数が増えたので、デフォルトでは非表示にしました。
死亡者を表示するときは、画面の上の「死亡者」チェック欄にチェックを付けてください。
乙です
なんとも凄い予約が来たな
最強戦力終結か
どうなるんだろう…
うお、本気で凄い予約が来てる……
地図管理人です。
今から工事しますので、使えなくなるかもしれません。工事が終わったら連絡します。
工事終了。
ファ,ンタジー剣士にも対応しようと思ったが、ほ、かに出来そうな人がいるので、やめた。
何か怖いぞw
乙です
投下します。
『4年三組』と書かれたプレートの下の扉をガラリと開けて、二重に首輪を嵌めた少年が薄暗い廊下に現れた。
少年は髪を金に染め上げ、前面に英字がデザインされたシンプルなTシャツを着ている。
妙に軽装だが、まるで寒さを感じていないかのように平然と細い五指で髪を掻き上げ、
「ざぁんねん、なーんにもないゎん♪」
そしてしなを作って、姿に似合わぬ艶っぽい声を出した。
少年の正体は蘇妲己。
より正確に言えば、蘇妲己という人間の娘の肉体を奪い、彼女に成り済ましていた狐の大妖である。
その蘇妲己の肉体は先頃滅ぼされてしまったのだが、紆余曲折を経て代わりに新しく手に入れたのがこの少年の肉体という訳だ。
デパート付近に張った空間宝貝『落魂陣』の中にいた彼女が――ここでは彼女と呼ぶことにしよう――何故この小学校にいるのかといえば、それも簡単な話だ。
落魂陣によって生成された亜空間が、元々あったワープ空間に妙な具合で結合していたのだ。
その影響で本来の出口とは別に、落魂陣の隅に小学校の体育館に繋がる裂け目が生じていた。
そして悪いことに、落魂陣とワープ空間が結合した状態で固定されてしまったらしく、落魂陣の解除が出来なくなっていた。
何らかの宝貝を使えば無理矢理解除出来るかもしれないが――所持している宝貝が映像宝貝だけでは、流石の妲己にもどうにもならなかった。
唯一の幸運は、混乱に陥っているであろうデパート周辺から、誰にも知られることなく離脱出来たことか。
そういう訳で、落魂陣には早々に見切りを付けて、彼女は小学校を探索していた。
校舎内部には、ガラスの割れた教室などの争った跡が見受けられたが、残念ながら武器の一つも落ちてはいなかった。
物質的な収穫は用務員室でいくらかの工具を手に入れた程度だ。
むしろ最大の収穫は職員室で発見したPCから得られたネット上の情報だろう。
ネット上には虚々実々の様々な情報が発信されていた。
真偽の判定は難しい情報も多かったが、重要なのはそんなことではない。
妲己が特に注目したのは、存在する情報ではなく存在しない情報だった。
ネット上で『安藤潤也』の名が登場したのはただ一度のみであり、それもゾルフ・J・キンブリーという危険人物の撹乱であると推測可能なこと。
つまり『安藤潤也』は、今のところあまりマークされてはいないと考えられる。
これは値千金の情報だった。
ここからはやはり潤也に成り済まして行動するのが得策だろうと彼女は考える。
無論、彼の兄を誤魔化し切ることは不可能だろうから、そこは十分に注意する必要があるが。
「それに今のままじゃ聞仲ちゃんを手懐けるのは難しいわねぇん……。どうしようかしらん♪」
静まり返った廊下を思案顔で歩く。
廊下半ばの階段の前に差し掛かったそのとき。
突如、外からスーパー宝貝にも匹敵するエネルギーの波濤が押し寄せて来た。
反射的に窓の外に目を遣る。
狭い校庭の向こう側に見える森が、白く淡く光っていた。
その白さは燃え尽きる寸前の炭火を想起させた。
恐ろしく静かで破滅的な光だった。
森の奥で何か途轍もないことが起きている。
妲己にもそれ以上のことは判らなかった。
しかし最悪なことに、エネルギーの奔流から逃れる術が一切ないことだけは、凡夫を誑し込むことよりも容易に理解出来た。
何の脈絡もなく降って湧いた死神の哄笑に、ぎり、と奥歯を噛み締めた瞬間――急激に光が膨れ上がり、世界の全てを真っ白に塗り潰した。
***************
それは異様な光景だった。
森の一角が、木の一本どころか葉の一枚すら残さず綺麗な擂鉢状に広く浅く削り取られていた。
積もっていた雪はその下の腐葉土ごと消滅し、赤土が剥き出しになっている。
地の下にあったのであろう岩や大木の根は、鏡のように滑らかな断面をそこかしこで晒している。
降りしきる重たい雪の中。
一人は道路脇でアイドリングを続ける白いセダンの中で。もう一人はそのすぐ外で。
片や驚愕と恐怖を、片や驚愕と不安を顔に貼り付けて。
眼前に展開されたその景色に、白昼夢でも見るかのような覚束ない視線を向けていた。
その二人――ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークと西沢歩が見守る中。
巨大な擂鉢の中心に、先程炸裂した白い閃光の残り香が、意思を持った霧のように集まって行く。
集まった霧は瞬く間に形を成し、体格の良い青年に変じた。
青年の姿を認めた歩は、安堵の溜息を漏らし胸を撫で下ろした。
ミリオンズ・ナイブズ。
間違いない。
彼の姿だ。
すぐに歩は、雪を浴びることも構わず、マントをたなびかせて駆け出していた。息が白く弾む。
後ろで長身の伊達男が、諦めたように脂で少し汚れたスーツの襟元を直したことには、まるで気付かなかった。
歩がナイブズの下に辿り着くまでの間、彼は微動だにせずただじっと背を向けて立ち尽くしていた。
ナイブズさん、と息切れした声を背中に受けて、彼はようやく振り向いた。
雪の降りしきる薄闇に、彼の姿はよく馴染んでいた。
そのまま放っておけば、どんどんと濃くなる周囲の闇に呑まれてしまいそうだった。
呼吸を整え、この場で何があったのかを訊こうとして、はたと違和感に気付く。
「えっと……ナイブズさん、ですよね?」
おずおずと歩が尋ねた。
姿形は寸分の狂いもなく彼女の知るナイブズそのものだ。
出会って半日程度とはいえ、絶対に見紛うことなどない。
そしてだからこそ――彼女の知る彼とは何かが決定的に違うと思ったのだ。
随分と間を置いて、ナイブズはそうだと確認するように答えた。
見上げた顔は半分闇に隠れていたが、複雑な表情をしていることが窺えた。
何があったのか、と訊くのはやめた。
訊いてはいけない気がした、と言った方が正しい。
代わりに、少し離れた場所に視線を移す。
そこには黒衣の男が倒れ伏していた。
ぴくりとも動かない。
「その人は――」
死んではいない、とナイブズは短く答えた。
そして少し逡巡するように間を置いて、小さく口を動かした。
聞き取れず、歩は小首を傾げる。
ナイブズはもう一度、今度ははっきりと口を動かす。
「……悪いが、そいつの手当てを頼む。確か傷を治す道具を持っていただろう。
それと――理由は判らんが、そいつは人間でないモノを憎んでいるらしくてな。
俺ではどうにもならんだろうが――お前なら話くらいは出来るだろう」
「え……あ、はい。分かりました!」
何があったのかは判らないが、断る理由はない。
何よりあのナイブズが『頼む』と言ってくれたのだ。
少しでも彼の役に立てるというのなら、それは僥倖だった。
歩は妖精の妖精の燐粉を手にして、倒れた男の方に一歩踏み出した。
その瞬間――いきなり、男が跳ね起きた。
「うわっ!?」
「何!?」
黒衣の男の顔に刻まれた傷跡が大きく歪むのが見えた。
歩はその傷跡の下にある眼を直視して――金縛りにあった。
眼窩には、地獄の業火で煮詰めた墨が渦巻いていた。
「バ……ケ……モノォォ――」
「馬鹿な……意識などなかったはず――!」
ナイブズも驚愕する。
事実、まだ彼の意識は戻っていないし、まともに動ける状態でもない。
だが。
だが、それでもなお、符術師の漆黒の妄執はナイブズの予測を、人間の限界を凌駕したのだ。
呻くような呪詛を吐きながら絶対零度の殺意を振り撒くその姿。
それはまさに彼の憎むバケモノそのものだった。
「――死ィィィ、ネェェェェァァァ!!」
手には血で描かれた符が数枚。
いつの間に取り出したのか。
目にも留まらぬ早業で放たれたそれらが、猟犬の群れの如くナイブズに四方から襲い掛かる。
ナイブズは精密機械の動きをもって、その全てを素手で叩き落す。
符に込められた霊力が皮膚を焦がした。
その隙に、ひょうはぼたぼたとドス黒い血が流れ落ちる右腕を強引に動かし、落ちていたパニッシャーを鷲掴みにした。
舌打ちをするナイブズ。
これは――完全に昏倒させるしかない。
冗談のような大口径がこちらを向いた。
銃弾をかわし、懐に入り込み一撃を加える。簡単なことだ。
引金に指が掛かったのを確認し――、
「――やめてっ!」
――――な。
射線に飛び出して来たジャージ姿の影を見て、ナイブズの思考が停止する。
完全に予測外。
歩が自分を庇ったのだと気付いたのは数瞬の後。
そして――生まれた刹那の空白は、全てを台無しにするには十分だった。
一閃。
突如虚空が裂け、光が縦に奔った。
雷が落ちたかのような音と共に、乾いた地に亀裂が走る。
僅かに遅れて土煙が舞った。
ずるり、と正中線に沿って符術師の体の左右がずれた。
同時に、くぐもった爆音。
符術師の頭が二つに分かれて宙に飛んだ。
巨大な十字架が地面にどすりと落ちた。
遅れて、支えを失った肉の塊が二つ、どちゃっと倒れた。
切断面から、赤や白や黄色の混ぜ物がミネストローネを皿に開けるように零れた。
ごろり、と。
ナイブズと歩の足元に、半分になった符術師の頭部がそれぞれ転がった。
互い違いの方向を向いた二つの眼が、血の涙を流していた。
ひょう。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードがその命を賭して護った人間。
それが無意味な肉塊となってしまった。
歩の頬が弛緩した。それは恐怖でも驚愕ですらもない、ただの反射的な虚脱だった。
彼女の理解は、まるで事態に追い付いていない。
十分に離れた位置で見ていたミッドバレイすら、起こったことを正確に把握するまでにたっぷり五秒は掛かった。
唯一、大きく見開かれたナイブズの眼だけが、全ての事象を狂いなく捉えていた。
落下の終端速度を遥かに超える速さで、何者かが天空から降って来て、その勢いで符術師を両断した。
至極単純で、しかし非常識極まる離れ業だ。
その離れ業をやってのけた何者かが、ゆっくりと立ち上がった。
土煙が晴れて行く。
「やあ、ナイブズくん――危ないところだったね」
鮮やかに華やかに煌びやかに。
全てを台無しにして、なお変わらぬ優雅な笑みを湛えて。
趙公明が超然と立っていた。
轟音。
ナイブズの足元の地面が爆裂した。
正確にはナイブズが一瞬前までいた場所の、だ。
空気の振動が歩の鼓膜を揺さぶったときには、ナイブズは既に趙公明の間合いに踏み込むところだった。
手には歩が持っていたはずの大鎌。
彼女の表情が驚きに変わるよりも早く、趙公明の脳天に鎌が振り下ろされる。
笑みを崩さず、鋭く右に身体を捻って半身になりつつ回避する趙公明。
切り返すように、横薙ぎに隙だらけの胴を狙う。
だが剣が振り切られる寸前、ナイブズは鎌を強引に手元へと引き戻した。
白い刀身が鎌の柄に激突し、火花が散った。
ほとんど必殺の一撃を力業で防御され、しかし趙公明は笑みを深める。
「覚えておきたまえ。怒りは視野を狭めるものだよ」
言うや否や、剣先が鞭の如くしなって伸び、後方にいた歩の身体に巻き付いた。
「わわっ、ちょっ」
「貴様ッ!」
ナイブズは咄嗟に鎌の柄を刃に滑らせて前へと踏み込んだ。
だがそれを見透かしていたかのように、趙公明は剣を傾けた。
踏み込みの勢いが右に逸れる。交差するように自身は左方へと跳ぶ。
「や、きゃああっ!?」
同時に、歩は釣られた魚のように趙公明の手元まで引き寄せられた。
長く変形した刀身がとぐろを巻いて、完全に彼女の自由を奪っている。
「やれやれ、そう逸らないで貰えるかな。君はエレガントな振る舞いというものを学ぶべきだね。
それにしても――君達は本当に興味深いね。死ぬまで外れないはずのこの首輪をこうも容易く外すなんて。
いや……それとも一度死んだ――のかな?」
「えっ、あ……っ」
その言葉に、歩が目を丸くする。
確かに、彼の逞しい首には何も嵌まってはいなかった。
「安心したまえ! 首輪を失っても戦いに参加する権利は失われない。
まだまだ君はこの心躍る戦いを楽しむことが出来るのさ」
「……人質を取ってほざくことが『心躍る戦い』か。大した下種だ」
侮蔑と憤怒が篭ったナイブズの視線に、軽く片手を上げて、心外だといった調子で趙公明は返す。
「ノンノンノン、少々誤解があるようだね。彼女は人質ではなく賞品なのだよ。
いや、ここは優雅に囚われの姫君と呼ぶべきかな。
メインイベントを君にすっぽかされてはつまらないからね」
「貴様、この上何を――」
大鎌をへし折らんばかりに握り締める。
だが、仕掛けない。いや、仕掛けられない。
身体に異常に重くなっているのだ。
比喩でもなければ錯覚でもない。
実際に、体重の十倍以上の力が確実にナイブズの肉体を地に押し付けようとしている。
見ると、いつの間にか趙公明の背後に闇を固めたような球体がいくつも出現し、彼に付かず離れず浮遊していた。
数こそ多いが、先の戦いで次元断層の刃を捻じ曲げたものと同じだろう。
球体の能力は――おそらく重力操作。
空間を曲げ、高速落下を可能とし、身体に重圧を掛ける力となればまず間違いない。
「おや、ネットを確認していないのかな。まぁ単純なことさ。
僕はこれから華麗なる武道会を開催することにしたんだ。それもただの武道会じゃない。
この遊戯盤の上で行われる最大にして最高のバトル・ロワイアルだ!
これはまさにメインイベントと呼ぶに相応しいものになると僕は確信している!
そして君はそのメインイベントの最重要ゲストという訳さ。どうだい、素晴らしい趣向だろう?」
どうでもいい。
じゃり、と草一本生えぬ大地を踏み締める。
仕掛けられない理由はもう一つ。むしろこちらの方が比重が大きい。
冷静に趙公明を観察してみると、確かに与えたはずの傷が――服すらも――再生しているのだ。
つまりは。
この不敵な男は、まだ何か奥の手を隠しているということだ。
迂闊な動きは命取りになり得る。
とはいえ――それでも、以前のナイブズならば構わず斬り掛かっていただろう。
だが、今下手を打てば捕らわれた少女の命も危ない。
初めて実感する命の重みが鎖となってナイブズの自由を奪う。
なるほど、重い。
命とはこれほどまでに重いものだったのかと、そしてあいつはこんなものを常に背負っていたのかと、改めて感嘆する。
そんなナイブズの葛藤など全く意に介さず、趙公明は喋り続けている。
「……それで、集合時刻は午前零時。場所は北の競技場だよ。
勿論、参加人数は自由だ。向こうの彼にも是非参加して貰いたい」
ビシリ、とミッドバレイに向けて遠くから指を突き付ける。
「まだ知りたいことがあるかもしれないけど、僕はこれから武道会の準備をしなければならない。という訳で、詳しくはwebで!
ハーッハッハッハッハ! それでは、一足先に競技場で待っているよ!」
高笑いと共に、背後の球体の群れが蠢き、土埃が派手に舞い上がった。
同時に歩の長い悲鳴が上がり、あっという間に遠ざかって行く。
直後、ナイブズに圧し掛かっていた重圧がふっと無くなった。
「チッ……あの男……」
土埃が晴れたとき、趙公明の姿は忽然と消えていた。
サイドウィンドウに背中を預け、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークは一部始終をただ悄然と眺めていた。
呆けていた、という訳ではない。ナイブズに襲撃されてから今の今まで、彼の脳細胞は忙しく火花を放ち続けている。
吐き気がするほどの恐怖の中でも、出口の見えない絶望の中でも、決して思考をやめることはない。
戦場では思考を放棄した者から死んで行くということを、数々の修羅場を潜り抜けた経験から理解しているからだ。
半ば自棄になりながらも、身体の芯にまで染み付いたその習性が失われることはなかった。
意外なほど繊細な指先で、気休めにコインを弄びながら考える。
自らの眼と、そして耳で認識した事実。
そしてその意味を。
何が起こったのか、あのヴァッシュ・ザ・スタンピードが一帯の森と共に消滅したということ。
同時に塵と消えたはずのナイブズは、平然と元通りの姿を現したこと。
突然上空から乱入した男は、ナイブズに匹敵する戦闘能力を持っているらしいこと。
そしてどうやら――自分もその男に目を付けられてしまったこと。
「絶望の大交響曲、だな。フン、仰々し過ぎる。……俺の趣味には合わんな」
出来れば今すぐに途中退席したいところだ。
ろくでもないことに、この無粋なオーケストラの会場には『途中退席厳禁』という貼り紙がべたべたと貼り付けられているのだが。
だが。
しかし。
もしかすると。
これは千載一遇の好機なのかもしれない。
あの気障な男は競技場で大規模な戦いを引き起こすつもりのようだ。
ならば。
上手く立ち回れば、ナイブズを含めた厄介な者達を纏めて相討ちに――。
突然、ナイブズが大鎌を一振るいし、地面に人間大の穴を開けた。
心を読まれたような気がして、ミッドバレイは思わず震えた。
勿論、いくらナイブズといえども他人の心を読むことなど不可能だ。
八つ当たりか何かだろうかと一瞬考える。
だが、すぐにその考えは否定された。
ナイブズは文字通り四散した黒衣の男の亡骸を拾い集め始めた。
集め終えると、先程開けた穴に丁寧に降ろした。
そして鎌を使ってそこらから土くれを掬い、穴に投げ下ろし始める。
ミッドバレイはこれ以上ないほど当惑していた。
あれは――死体の埋葬をしている――のだろうか。
馬鹿な、と思う。
それは人類全てを憎悪する怪物の行動では到底あり得ない。
だが、他に解釈のしようがないことも確かだ。
ミッドバレイの困惑をよそに、穴に土を掛け終えたナイブズは、近くに散乱していた荷物も次々と拾い集めていった。
そして、最後に真紅のコートを拾い――顔の前に掲げて、少しの間、風になびく様を眺めた。
ちょうど沈む直前の夕陽が雪雲の合間から顔を出し、コートを照らした。
鮮烈な紅だった。
ゆっくりと、ナイブズは真紅のコートを羽織った。
そして、急にくるりとミッドバレイの方を向いて鋭く叫んだ。
「ホーンフリークッ!」
「……は? は、はっ!」
声が上擦る。
「聴こえていたな。競技場だ、追うぞ」
やはり見逃しては貰えないらしい。
ミッドバレイは暗澹たる面持ちで、ナイブズの後に続いた。
気付くと雪はみぞれに変わり始めていた。
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1:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど(Res:10)
10(?) 名前:たま藻のまへな名無しさん 投稿日:1日目・夕方 ID:ES0uTss1M
ド派手な格好のバカが女の子を人質にして島の北部に向かってる。
多分上の趙公明ってヤツだ。
目的地は競技場だと思う。
戦闘狂と言うだけのことはあって、ヤツの身のこなしは常識ハズレだった。
女の子を救いたいんだが、悔しいがオレ一人では勝てそうにない。
出来たら協力者が欲しい。
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「ぅふん♪ 趙公明ちゃんったらノリノリねぇん♪
面白そうだから、わらわも手伝ってあげちゃうわよん♪
でもぉん……趙公明ちゃんに全部持って行かれちゃうのは困っちゃうわぁん♪
わらわも競技場に行って、便利な駒をちょぉっと頂いちゃおうかしらん♪
そのくらい構わないわよねぇん、趙公明ちゃん?」
小学校の正門から悠々と出て来たのは妲己その人。
そのまま迷わず遠くに乗り捨てられていた白のセダンに向かい、運転席に乗り込む。
エンジンキーは付けっ放しだった。
「……あらん?」
サイドブレーキの脇にリボルバーが挟まっていた。
運転手が置き忘れていったらしい。
相当動揺していたのだろう。
無理もないことだと妲己は思った。
目の前の、巨大なスプーンでくり抜かれたような窪地を眺める。
何しろ妲己ですら対処のしようがなかったのだ。
ただの人間がこの大破壊を目の当たりにして平静を保てるはずがない。
リボルバーを手に取り、それが宝貝などの特殊な道具ではないことを確かめると、助手席のクッションの上に放る。
競技場までは山道を行くか海沿いを行くか。
どちらにせよ途中で進入禁止エリアに引っ掛かるのだが、実のところそれは大した問題ではない。
首輪の爆破までの猶予は、エリアに入ってから抜けるのに十分であることを知っているからだ。
「途中で宝貝の一つくらいは手に入れたいわねぇん♪」
少し考え、向かう方向を決めると、妲己はギアを切り替えアクセルを踏み込んだ。
【ひょう@うしおととら 死亡】
【G-4/森/1日目/夕方】
【趙公明@封神演義】
[状態]:疲労(小)
[服装]:貴族風の服
[装備]:オームの剣@ONE PIECE、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演義、狂戦士の甲冑@ベルセルク、橘文の単行本、小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
0:キンブリーにゾッドの事を伝える。
1:闘う相手を捜す。
2:競技場に向かいつつ、パーティーの趣向を考える。
3:カノンやガッツと戦いたい。
4:ヴァッシュ、ナイブズに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
8:ネットを通じて更に遊べないか考える。
9:狂戦士の甲冑で遊ぶ。
10:プライドに哀れみの感情。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者の戦闘に関わらないプロフィールを知っているようです。
※会場の隠し施設や支給品についても「ある程度」知識があるようです。
【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:手にいくつかのマメ、血塗れ(乾燥)、拘束
[服装]:ジャージ上下、ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:なし
[道具]:スコップ、炸裂弾×1@ベルセルク、妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク
[思考]
基本:死にたくないから、ナイブズについていく。
0:趙公明に対して――?
1:ミッドバレイへの憎しみと、殺意が湧かない自分への戸惑い。
2:ナイブズに対する畏怖と羨望。少し不思議。
3:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。
4:孤独でいるのが怖い。
[備考]
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。
※ミッドバレイから情報を得ました。
【H-3/森/1日目/夕方】
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:融合、黒髪化進行、手に火傷、【首輪なし】
[服装]:真紅のコート@トライガン・マキシマム
[装備]:エレザールの鎌(量産品)@うしおととら、青雲剣@封神演義
[道具]:支給品一式×4、不明支給品×1(治癒効果はない)、パニッシャー(機関銃:90% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、
手製の遁甲盤、筆と絵の具一式多数、スケッチブック多数、薬や包帯多数、調理室の食塩、四不象(石化)@封神演義、
正義日記@未来日記、携帯電話(研究所にて調達)、秋葉流のモンタージュ入りファックス、折れた金糸雀@金剛番長、
ヴァッシュのサングラス@トライガン・マキシマム、リヴィオの帽子@トライガン・マキシマム、ガッツの甲冑@ベルセルク、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6、予備弾23)@トライガン・マキシマム、ダーツ×1@未来日記、
ニューナンブM60(5/5)@現実、.38スペシャル弾@現実×20
ナギの荷物(未確認:支給品一式×7、不明支給品×2(一つは武器ではない)、ノートパソコン@現実、
特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、木刀正宗@ハヤテのごとく!、イングラムM10(13/32)@現実、
トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、首輪@銀魂(鎖のみ)、旅館のパンフレット、サンジの上着、
各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、
或謹製の人相書き、アルフォンスの残骸×3、工具数種)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:レガートと彼を殺した相手に対し形容し難い思い。
1:趙公明を追う。
2:ヴァッシュの分まで生き抜く。
3:ナギの支給品を確認。用途を考える。
4:搾取されている同胞を解放する。
5:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
6:自分の名を騙った者、あるいはその偽情報を広めた者を粛正する。
7:交渉材料を手に入れたならば螺旋楽譜の管理人や錬金術師と接触。仮説を検証する。
8:グリフィスとやらに出会ったなら、ガッツの伝言を教えてもいい。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※ヴァッシュとの融合により、エンジェル・アームの使用回数が増えました。ラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約5回)が限界です。
出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※日中時点での探偵日記及び螺旋楽譜、みんなのしたら場に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
また、“神”が“全宇宙の記録(アカシックレコード)”を掌握しただけの存在ではないと仮定しています。
※“神”の目的が、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”にも存在しない何かを生み出すことと推測しました。
しかしそれ以外に何かがあるとも想定しています。
※天候操作の目的が、地下にある何かの囮ではないかと思考しました。
※自分の記憶や意識が恣意的に操作されている可能性に思い当たっています。
※ミッドバレイから情報を得ました。
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:背中に裂傷(治療済)
[服装]:白いスーツ
[装備]:ミッドバレイのサックス(100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、サックスのマガジン×2@トライガン・マキシマム、
ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、銀時の木刀@銀魂、
ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、
No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム、
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すかもしれない存在を見つけて……?
0:ナイブズ、由乃、趙公明に対する強烈な恐怖。
1:ナイブズの態度に激しい戸惑い。
2:ひとまずナイブズに従う。
3:慎重に情報を集めつつ立ち回る。殺人は辞さない。
4:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
5:或の情報力を警戒しつつも利用価値を認識。
6:ゲームを早く終わらせたい。
7:鳴海歩を意識。ひとまずは放置するが、もし運命を打開して見せたなら――?
8:上手く立ち回って強者同士の相討ちを狙う。
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※ガッツと胡喜媚を危険人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
【H-3/道路/1日目/夕方】
【妲己@封神演義 feat.うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:字伏の肉体(白面化15%)、潤也の魂魄が僅かに残留
[服装]:英字プリントのTシャツ
[装備]:首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、エンフィールドNO.2(1/6)@現実
[道具]:支給品一式×3(メモを一部消費、名簿+1)、趙公明の映像宝貝、大量の酒、工具類
[思考]
基本:主催から力を奪う。
1:競技場へ向かう。
2:自分の体や記憶の異変について考える。
3:主催に対抗するための手駒を集めたい。
4:うしおを立て対主催の駒を集めたい。が、獣の槍に恐怖感。
5:聞仲を手駒に堕としたいが……。
6:利害が一致するなら、潤也の魂魄の記憶や意思は最大限尊重する。
7:当面、『安藤潤也』として行動する。
[備考]
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※ウルフウッドからヴァッシュの容姿についての情報を得ました。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があると考えています。
※対主催陣が夜に教会でグリフィスと落ちあう計画を知りました。
※聞仲が所持しているのがニセ禁鞭だと気づいていません。本物の禁鞭だと思っています。
※潤也の能力が使用できるかどうかは不明です。
※落魂陣を通して小学校体育館とデパート跡地が繋がっています。
以上で投下終了です。
投下乙!
ヴァッシュの「決意」を纏うナイブズに泣いた。ほんと主人公してるな
趙公明はこれから人質を集めて回るのかな。マジ自重しねぇw
あと……妲己ちゃん口調な潤也さんを想像してクソ吹きました。ギャグとシリアスの差が激しいわw
投下乙です
ナイブズは本当にもうね…ヴァッシュも草葉の陰で喜んでるやら苦笑してるやら
ひょうは…もうお休みだな。いい狂言回しだったみたいな感想しか思い浮かばん
趙公明は本当に自重しねえw ハムは囚われの姫君か
妲己ちゃんはどうなるか不明だったが今はまだ妲己ちゃんのままか。野郎の姿であの口調は確かに笑えるw
さて、これで競技場に人がどんどん来そうだな。
投下乙でした!
残り少ない女キャラでも一番ヒロインしてる西沢さん、がんばれ超がんばれ
ミッドバレイの小者化がすげえww
見てくれは完全にボン九コンビ状態の妲己ちゃんはほんとどうなる事やら……
投下乙です
ミッドバレイカワイソス…w
「その口はあまたの灯」、「殷の太師」の本文(と「レガート・ブルーサマーズ」の項)に対して同一IPからの編集がありました。
「その口はあまたの灯」、「殷の太師」については以前の状態に復元してあります。
今回は警告に留めますが、作者以外の方による本文の編集は編集禁止対象となります。絶対におやめ下さい。
それと他にも細かい修正がなされている作品がいくつかあるようです。
作者自身による修正だと思いますが、一応ページ更新履歴からご確認願います。
個人的には、誤字脱字以上の修正をする場合には議論スレなどで一言断っておいて頂けると助かります。
ナイブズのこの移り変わり様・・・いいなぁ
8巻のヴァッシュに対するナイブズの言葉を思い出した。
個人的に原作終了後のナイブズはこういった感じで進んで行くんじゃないかと思う
最後消えたどうかは、読者に判断に任せるようだし