RPGキャラバトルロワイアル7

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1創る名無しに見る名無し
このスレはRPGゲーム(SRPGゲーム)の登場キャラクターでバトルロワイヤルをやろうという企画スレです。
作品の投下と感想、雑談はこちらのスレで行ってください。


RPGロワしたらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11746/
RPGロワまとめWiki
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa/pages/11.html
前スレ
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1262972320/
テンプレは>>2以降に
2創る名無しに見る名無し:2010/05/11(火) 20:13:19 ID:5RSVgL9+
参加者リスト

3/7【LIVE A LIVE】
● 高原日勝/○アキラ(田所晃)/○無法松/ ● サンダウン/ ● レイ・クウゴ/○ストレイボウ/ ● オディ・オブライト
3/7【ファイナルファンタジーVI】
● ティナ・ブランフォード/ ● エドガー・ロニ・フィガロ/ ● マッシュ・レネ・フィガロ/○シャドウ/○セッツァー・ギャッビアーニ/○ゴゴ/ ● ケフカ・パラッツォ
3/7【ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】
○ユーリル(主人公・勇者男)/ ● アリーナ/ ● ミネア/ ● トルネコ/○ピサロ/○ロザリー/ ● シンシア
5/7【WILD ARMS 2nd IGNITION】
○アシュレー・ウィンチェスター/ ● リルカ・エレニアック/○ブラッド・エヴァンス/ ● カノン/○マリアベル・アーミティッジ/○アナスタシア・ルン・ヴァレリア/○トカ
2/6【幻想水滸伝II】
● リオウ(2主人公)/○ジョウイ・アトレイド/ ● ビクトール/ ● ビッキー/ ● ナナミ/○ルカ・ブライト
4/5【ファイアーエムブレム 烈火の剣】
○リン(リンディス)/○ヘクトル/ ● フロリーナ/○ジャファル/○ニノ
2/5【アークザラッドU】
● エルク/ ● リーザ/ ● シュウ/○トッシュ/○ちょこ
2/5【クロノ・トリガー】
● クロノ/ ● ルッカ/○カエル/ ● エイラ/○魔王
1/5【サモンナイト3】
● アティ(女主人公)/ ● アリーゼ/ ● アズリア・レヴィノス/ ● ビジュ/○イスラ・レヴィノス


【残り25/54名】
3創る名無しに見る名無し:2010/05/11(火) 20:15:48 ID:5RSVgL9+
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAPのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に2エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【舞台】
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0087.png

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24
4創る名無しに見る名無し:2010/05/11(火) 20:18:48 ID:5RSVgL9+
【予約に関してのルール】
・したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行います。
・予約は必須です。予約せずに投下できるとしても、必ず予約スレで予約をしてから投下してください。
・予約期間は五日です。
 さらに、三話以上投下した書き手の方は、三日間の延長を申請することができます。
 ただし、延長するときは必ずトリップをつけて、予約スレか本スレか避難所スレに延長すると一言書き込んでください。 ・修正期間は審議結果の修正要求から最大三日(ただし、議論による反論も可とする)。
・予約時にはトリップ必須です。また、トリップは本人確認の唯一の手段となります。トリップが漏れた場合は本人の責任です。
・予約破棄は、必ず予約スレでも行ってください。

【議論の時の心得】
・議論はしたらばの議論スレでして下さい。
・作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
  強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。

【禁止事項】
・一度死亡が確定したキャラの復活
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
 程度によっては雑談スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
 例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
 この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
 こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
 後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
 特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。

【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NG協議・議論は全て議論スレで行う。本スレでは絶対に議論しないでください。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。

上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×

・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は、修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
・誤字などは本スレで指摘してかまいませんが、内容議論については「問題議論用スレ」で行いましょう。
・「議論スレ」は毒吐きではありません。議論に際しては、冷静に言葉を選んで客観的な意見を述べましょう。
・内容について本スレで議論する人がいたら、「議論スレ」へ誘導しましょう。
・修正議論自体が行われなかった場合において自主的に修正するかどうかは、書き手の判断に委ねられます。
 ただし、このような修正を行う際には議論スレに一報することを強く推奨します。
5創る名無しに見る名無し:2010/05/11(火) 20:22:13 ID:5RSVgL9+
【書き手の注意点】
・トリップ必須。 騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので必ず付けてください。
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない

書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの一時投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に一時投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない一時投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
   ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
   その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。

書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。

書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はNG
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
 携帯からPCに変えるだけでも違います。
6創る名無しに見る名無し:2010/05/11(火) 20:25:50 ID:5RSVgL9+
【読み手の心得】
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
7創る名無しに見る名無し:2010/05/11(火) 20:27:19 ID:5RSVgL9+
【身体能力】
・原則としてキャラの身体能力に制限はかからない。
 →例外としてティナのトランス、アシュレーのアクセス、デスピサロはある程度弱体化
【技・魔法】
・MPの定義が作品によって違うため、MPという概念を廃止。
 →魔法などのMPを消費する行動を取ると疲れる(体力的・精神的に)
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる人物。(敵味方の区別なし)
・回復魔法は効力が大きく減少。
・以下の特殊能力は効果が弱くなり、消耗が大きくなる。
 →アキラの読心能力、ルーラやラナルータやテレポート(アキラ、ビッキー)などの移動系魔法、エルクのインビシブル
・蘇生魔法、即死魔法は禁止
【支給品】
・FEの魔導書や杖は「魔法が使えるものにしか使えず、魔力消費して本来ならばそのキャラが使えない魔法を使えるようになるアイテム」とする
・FEの武器は明確な使用制限なし。他作品の剣も折れるときは折れる。
・シルバード(タイムマシン)、ブルコギドン、マリアベルのゴーレム(巨大ロボ)などは支給禁止。
・また、ヒューイ(ペガサス)、プーカのような自立行動可能なものは支給禁止
・スローナイフ、ボムなどのグッズは有限(残り弾数を表記必須)
【専用武器について】
・アシュレー、ブラッドのARMは誰にでも使える(本来の使い手との差は『経験』)
・碧の賢帝(シャルトス)と果てしなき蒼(ウィスタリアス)、アガートラームは適格者のみ使用可能(非適格者にとっては『ただの剣』?)
・天空装備、アルマーズ、グランドリオンなどは全員が使用可能
8創る名無しに見る名無し:2010/05/12(水) 19:21:11 ID:0ViWvJj0
遅れたがスレ立て乙!
9創る名無しに見る名無し:2010/05/12(水) 22:40:10 ID:ZMhFACgN
スレ立て超乙!
10 ◆MobiusZmZg :2010/05/14(金) 21:03:13 ID:XKeA8QYa
遅ればせながら、スレ立ておつでしたー。

さて、つたないながらも全力で支援漫画を。
48話『『勇者』の意味、『英雄』の真実』のシーンを切り出しました。
自分の腕では、漫画に落とし込むにあたってセリフなどに少々アレンジを
加えざるを得なかったので、そういうのが苦手な方は回避願います。

ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0403.lzh.html
(パス:rpg)

以前からなにかのかたちで支援したいと考えていたのですが、良作ぞろいゆえに
なにを描くか決めかねてたので、作品投票には救われたなーとw
自分以外の方が推された作品を再読したりしていて、二重に楽ませていただきました。
11 ◆MobiusZmZg :2010/05/14(金) 21:05:30 ID:XKeA8QYa
っと、うっかりしてた……ッ!
序盤は画像サイズと画質の兼ね合いで、1ページの内容を小分けしてたりします。
フォルダの中身にhtmlファイルがあるんで、そこから見るとコマ割りのとおりになるかと思いますー。
12創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 00:04:37 ID:WwmWh7Cz
な、なんだこれすげえええええ
13創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 00:05:48 ID:WwmWh7Cz
そして規制も解除されてたうめえ!w
14創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 08:43:25 ID:ZKaDXQ3Y
>>10
おおお、乙ッ!
これはすごいッ!
ちょこの寝顔によって感じさせられる静けさが、アナスタシアの言葉をよく響かせてる。
ラストのコマでのユーリルが切ねぇ…
GJでした!
15創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 11:20:13 ID:h6oOJJnq
超乙です!
ついにウチにも支援物資が……!
盛況じゃ! これは盛況の予感じゃ!
16創る名無しに見る名無し:2010/05/16(日) 19:08:07 ID:HuXvPFfx
ここの予約期間は何時までだっけ?
そろそろ…連絡もないぞ
17創る名無しに見る名無し:2010/05/16(日) 19:25:58 ID:p/4XWI9A
12時までだから、まだ連絡は不要だね。
あと、ロワスレはsage進行の方がいいかもよ。。
18 ◆E8Sf5PBLn6 :2010/05/16(日) 23:59:13 ID:4ELj8dkm
仮投下スレに投下します。
19 ◆E8Sf5PBLn6 :2010/05/17(月) 00:59:40 ID:BIEEVOnO
大変お待たせしてすいません。
仮投下終了です。

すいません言葉が足りませんでした。
不安なので仮投下しました。
代理投下はまだしないでください。
20 ◆E8Sf5PBLn6 :2010/05/17(月) 01:09:25 ID:BIEEVOnO
ご意見をお待ちしています。

それと私から、今回の話について。

紅の暴君が魔王の持ち物にあるのは
◆iDqvc5TpTI氏の作品
『 約束はみどりのゆめの彼方に』
で魔王が回収したと思える一文があったからです。

これについては◆iDqvc5TpTI氏の判断に任せます。

それと今回予約してないキャラに少し影響が出てます。
ロザリーのクレストグラフです。
ニノと離れてしまったので。
配分をこちらで決めさせて貰いました。
ゼーバーとクイックと????がニノに回されています。

問題があるなら◆SERENA/7ps氏に配分を任せます。

すみませんお手数かけます。
21 ◆E8Sf5PBLn6 :2010/05/17(月) 02:45:30 ID:BIEEVOnO
すいません、破棄させていただきます。
長々とキャラを拘束した結果こんな事になって本当に申し訳ない。

深くお詫び申し上げます。
22創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 19:13:32 ID:CtI1geNz
個人的には破棄にするほどじゃないと思うけど。
今のところ明確な反対意見もないし。
23創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 20:06:31 ID:7vgwGLBR
まだ修正が効く範囲だと思うが…
24創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 20:10:35 ID:7vgwGLBR
いや、でもこれは…
25創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 18:47:55 ID:Dg9Z5vnp
数日前からwikiで次話へのリンク作ってくれてる方、超GJです。
そして新たな予約きたー!
26創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 19:14:42 ID:ZP2UEwnT
冷房らも加わるのか…
27創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 13:45:03 ID:pNzcwE/O
大乱戦が近くで起こっているのに、松は
「座礁船に誰もこねぇ……orz」とか言っているんだろうなw

28創る名無しに見る名無し:2010/05/22(土) 01:48:19 ID:4MBV5BK5
 
29創る名無しに見る名無し:2010/05/22(土) 01:48:58 ID:4MBV5BK5
さてと、したらばの意見からすると明日に第二回人気投票の張ってもいいかな?
30創る名無しに見る名無し:2010/05/22(土) 07:46:09 ID:Sf78VSeq
いいですとも!
31創る名無しに見る名無し:2010/05/22(土) 17:25:34 ID:4MBV5BK5
というわけで第二回人気投票開幕です!
32創る名無しに見る名無し:2010/05/22(土) 22:06:28 ID:bl9QBp9Q
おれ は ようすをみている
33創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 01:32:01 ID:Yc4BKn8q
あそこにも予約来たか…
34創る名無しに見る名無し:2010/05/25(火) 19:34:35 ID:k2F2l7Ww
そういえばさ、改めて考えたら>>1の「RPGゲーム」っておかしいよな
35創る名無しに見る名無し:2010/05/25(火) 20:01:00 ID:/QcZTKuV
そんな頭痛が痛くなるようなことを急に言われても……
36創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 22:02:45 ID:1hkncgrK
言われてみればw
37創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:43:07 ID:15r+53o/
tes
38創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:43:44 ID:Zzg7HSwB
test
39届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:44:55 ID:Zzg7HSwB
書き込みが出来るようになったんで、iD氏の代理投下を行わせていただきます。
40創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:45:20 ID:15r+53o/
41届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:45:36 ID:Zzg7HSwB
『貴女の声は決して届く事はない。 
 いや、届く相手はいる、聞き届けるものも居るだろう。 
 それでも、その声は本当に届けたいものには、届く事はない。
 貴女の声は、そもそも貴女の言葉など必要としていないものにしか届かない
 かつて手を取り合った、勇者という存在にすら届かない。 もはや必要としていないのだから。』

夢と現の境界で誰かの声を聞いた気がする。
夢を渡る力が混線でも起こしたのだろうか?

ロザリーは実体のない世界で首を傾げる。
感応石を持ったまましてしまったオディオのロザリーへの独白が偶然ロザリーの力と相まって届いたのだということを彼女が知る由もない。
ただ、その言葉が自分のメッセージへの返答だということだけはおぼろげに察していた。

認めたくない言葉だった。
けれど安易に拒絶していい言葉だとも思えなかった。

その言葉には憐れみも、嘲りも、馬鹿にする響きも含まれていなかったからだ。
自分の言葉を受け、真摯に、心の底からこのメッセージを返してきてくれたのだとロザリーは受け取った。

そうなのかもしれませんね……。

ロザリーは俯く。
思い出すのは意識を失う前の記憶。
マリアベルから告げられた英雄の真実。
子どものように泣きじゃくり、憎しみを露わにする勇者。
ユーリルは勇者になんかなりたくなかったのではという想像。
もしそれが真実だとするならば。いや、紛れもなく真実なのだろう。なら。
手を取り合えると言った彼女自身が大切な恩人であるユーリルのことを理解できていなかったことになる。

メッセージが届かなかったのも当然ですね

自分にもできていないことを他人に求めたところで相手を納得させられないのは当然なのだ。
ロザリーは顔を上げる。
その顔に笑みは浮かんでいなかったが、しかし強い意志は宿ったままだった。

伝えたい心を伝えられない時にどうすればいいのか、ロザリーは既に答えを出していたではないか。
一つの言葉で伝わらないなら、何度でも言葉を重ねればいい。
理解できていなかったのなら、今度こそ真に手を取り合えるよう何度でもユーリルと語り合えばいい。

何度でも、何度でも、何度でも……


42創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:46:09 ID:p+mTNKnQ
43届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:46:21 ID:Zzg7HSwB
夜天より声が降り注ぐ。
人の心を穿ち、地へと打ちつける言葉の弾丸。
誰かの、知己の、仲間の、友の訃報を告げる声。
ある者は嘆き、ある者は怒り、ある者は笑い、ある者は喜ぶその声が幸いとしてピサロの想い人の名前を呼ぶことはなかった。
だというのにピサロの様子は先ほどまでと何も変わらない。
凶刃を納めることなく雨に沿うかのように熱を奪われた青い顔を晒し、怒りのままにイスラ達と刃を交えていた。

ピサロは放送など聞いていなかった。
激しさを増した雨音が耳に届くことを妨げたからか。
天地を跋扈する稲妻の轟音により異界の魔王の声が打ち消されたからか。
否。
元より今のピサロにはただ一人を除いていかな声も届きようがなかった。

ああ、もしも、もしも本当に。
ロザリーが死んでいてオディオにより名前を呼ばれていたならば。
一瞬、たかが一瞬といえどもピサロは立ち止まったかもしれないのに。
どれだけ憎悪に狂おうとも、どれだけ怒りに飲み込まれようとも。
ピサロがその名前に反応しないことなどありえないのだから。

――なんという皮肉

彼を凶行に駆りたてたのが愛するものの死ならば。
僅かな時なれど止め得たのも愛するものの死のみとは。

――なんという滑稽

愛するものは存命ですぐ傍らに転がっているというのに。
ピサロは手を伸ばそうともしない。
ロザリーを愛した魔族『ピサロ』ならたとえそれが死骸でも手を伸ばそうとしたであろう。
だがここにいるのはデスピサロ。
人間を憎み、滅ぼす為に一度は愛するものの記憶すら捨て去った復讐の魔王。

雨などという生易しいものではない。
若き魔王の心の中では嵐が吹き荒び雷が荒れ狂っていた。
その雷は

「カ、カエル、まさかお前がロザリーを!?」

飛び込んできた言葉を引き金に開放されることとなる。


44創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:46:39 ID:15r+53o/
45創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:46:50 ID:p+mTNKnQ
46届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:47:09 ID:Zzg7HSwB
戦況は膠着状況に陥っていた。
無力なアナスタシアと気絶しているロザリーを護るべく円陣を組んだブラッド達の一団を攻める側は切り崩すことができなかったのだ。
初期状況で北にユーリル、西にピサロ、南に魔王とカエル、東に逃げ場の無い建物と四方を完璧に囲っていたにも関わらず、だ。
さもありなん。
攻める側の四人はカエルと魔王を除いて協力関係ではなかった。
どころか互いが互いの敵でもあった。
潰し合ったのだ、守る側に攻め込みつつもこの四人は。

「貴様か、勇者っ! 貴様が、貴様がロザリーをっ!!」

ピサロからすればユーリルは勇者――ロザリーを殺した人間どもの守護者にして象徴だ。
真っ先に始末してやらなければ気が済まなかった。
彼に殺された直後からオディオに呼び出されたこともあり、ピサロがユーリルを殺さんとする理由は一切なかった。
その勇者が他ならぬ人間を目の敵にして殺そうとしていることを疑問に思うだけの冷静さは残っていなかった。

「うるさい、うるさい、うるさい! 僕を勇者と呼ぶなっ! 
 消えろ、消えろ、魔王! 殺させろ、アナスタシアを殺させろおおおッ!!」

ユーリルからしてもピサロは憎むべき相手だった。
アナスタシアがユーリルの幸せな幻想を完膚なきまでに砕いた下手人なら、ピサロはユーリルの現実的な不幸の直接の元凶なのだ。
エビルプリーストに謀られたからという事実は言い訳にはならない。
人間を根絶やしにせんとした魔王にして、予言に詠われた地獄の帝王を継ぐもの。
勇者の対存在。こいつさえいなければユーリルは勇者としてではなくユーリルとして生きられたのに。
その魔王があろうことか邪魔をする。アナスタシアを、英雄を殺すことの邪魔をする。
ピサロにはそのつもりがなくともユーリルにはまるでアナスタシアが、シンシアが、世界そのものが。
勇者たれと、呪詛を吐き強いているようにしか思えなかった。

「チッ、正真正銘勇者の剣か。バリアが剥がされるとは」

冷静さを保っていたカエルと魔王は最初こそは上手く立ち回れていた。
ユーリルがアナスタシアのことしか目に入っていなかったこと。
ピサロが人間の姿ではないカエルと耳の形がエルフにも見えなくもない魔王を後回しにしたこと。
二つの幸運が重なって当初危険人物から狙われることのなかった二人は攻撃側に加勢した。
正しくは便乗した。
他の参加者を減らしてくれる殺し合いにのった人物と現時点で敵対するメリットはない。
逆に優勝への大きな壁となり得る大集団をここで潰しておくことは非情に有益なものだと踏んでのことだった。
しかしながら話はそう上手くはいってくれなかった。
豪雨を味方につけ蛙の本領発揮とばかりに獅子奮迅の活躍をするカエルに負けじと魔王もまた豪雨を利用することを考えた。
それがいけなかった。
よりにもよって魔王が選んだのはサンダガの呪文。
魔王にとっては単に雨に濡れた相手になら常日頃以上に雷呪文が効果を発揮するだろうと思っての選択で他意はなかった。
実際ピサロやユーリルの雷は上昇した通電効果もあって猛威を振るっていた。
しかし、ユーリルからすれば話は別だ。
よりにもよってよく聞けば『魔王』と呼ばれる男が『友達』が使っていたのと同系統の『雷』呪文をこともなげに扱ったのだ。
アナスタシアには遥かに劣れど、ユーリルの殺意を買うには十分過ぎて、

「これが、勇者だと? こんな、こんな殺意に凝り固まったものが! 認めん、俺は認めん!」

そのユーリルの姿もまたカエルの怒りを買うには十二分だった。
47創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:47:20 ID:15r+53o/
48創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:47:46 ID:p+mTNKnQ
49届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:47:57 ID:Zzg7HSwB
混戦だった。
守る側が防御に集中している中で殺す側は守る側と殺す側両方を敵に回して疲労していった。
それが守る側の思惑であるとも知らずに。

「すごいや。おじさんの目論見通り大分ピサロだっけ、銀髪の動きが鈍ってきたよ。
 これならあいつを抜けて後ろの方で倒れているロザリーって人を起こしにいけるようになるのも時間の問題かな」
「ユーリルの方もじゃな。スリープいつでもいけるぞい?」

端からブラッド達は守り一徹の持久戦狙いであり、ユーリルとピサロを殺す気はなかった。
マリアベルの仲間の知り合いだと知ったブラッドが指示したのだ。
ピサロの誤解もいささか仕方がない状況だったことと。
アナスタシアが殺し合いに載っていたこともあり彼女を襲っていたからといってユーリルが悪だとは限らないこと。
甘いと抗議していたイスラもこの二つの理由と他大多数の賛成意見に渋々承知し作戦は決行された。
内容は以下の通りだ。
ピサロとユーリルを疲弊させきった後にマリアベルのスリープで眠らせ、残る二人を四人がかりで数の利で押し切る。
以上一文それだけだ。
いささかシンプルではあるが状況を鑑みるにベストなものではあった。
ピサロとユーリルは見るからに万全とは程遠い状態だった。
そんな身体で後先も考えずにあのペースで感情のままに暴れまわれば遠くないうちに倒れるだろう。
加えてこの豪雨。
生物が動くのに嫌でも必要な熱を奪う水に打たれっぱなしの状態では息切れするまでの時間も加速度的に早くなる。
そう推測した上でのブラッドの作戦は前述の潰しあいもあって大成功だった。

「時が来たら機を逃すな! アキラ、引き続きかく乱と回復を頼むッ!」
「任せな! あと一息ッ!」

そう、後一息。
傍目にはピサロとユーリルは限界まであと一息に思えた。

その一息が限りなく遠いものだったことを直後ブラッド達は思い知ることとなる。

「そこまでだ、魔王! リルカとルッカの仇、取らせてもら……ストレイボウさん!?」

新たに戦場へと踏み入れた二人組の人間、そのうちの一人ストレイボウをきっかけとして。


50届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:48:43 ID:Zzg7HSwB
座礁船への道すがらに戦場へと辿り着いた瞬間、ストレイボウはジョウイの静止も振り切り駆け出していた。
心配していた少女たちと言葉を届けたい友。
両方が一度に見つかり、しかも交戦しているとあればいてもたってはいられなかった。
だがその速度が現場に近づくにつれみるみると落ちていく。
ストレイボウは歩くことも忘れ、その衝撃的な光景に打たれるしかなかった。

降り止まぬ雷雨の中倒れ臥す一人の少女。
忘れるはずがない、ストレイボウに道を示してくれたあの心優しき少女だった。
そのすぐそばで戦いを繰り広げるカエルとマリアベル。
姿も形もないニノに女性のものだったと思われる誰とも判別できない無残な骸。
第二回放送で告げられたシュウとサンダウンの死。
それら断片が半日前の光景と重なりストレイボウの中で最悪の想像が鎌首をもたげる。
信じると決めた。
裏切らないと決めた。
けれど一度膨れ上がった疑念を抑えることはできなかった。

「カ、カエル、まさかお前がニノとロザリーを!?」
「ストレイボウ、俺は」
「あ……。お、俺は。すまない、すまないカエル!」

どこか悲しげなカエルの声に状況が状況とはいえ友を疑ってしまったことを恥じるがもう遅い。
その一言が転機となった。
なってしまった。
ぴたり、と。
それまでカエルのことなど気にもかけていなかったピサロが動きを止める。

「人間……今、貴様、誰の名前を呼んだ? そこのカエルがロザリーを殺しただと……?」

荒れ狂っていた寸前までとはうって変わって抑揚を感じられないその声がかえって恐ろしかった。
ぎぎぎぎぎ、と首を動かしたピサロの目がストレイボウのそれとかち合う。
煮えたぎる闇が凝り固まり形をなしたかのような瞳にに射られてストレイボウは立ち竦む。
カエル以上に今の彼は蛇に睨まれた蛙だった。


51創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:49:11 ID:p+mTNKnQ
52届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:49:29 ID:Zzg7HSwB
一度目は偽りだった。
二度目は自身だった。
三度目は親友だった。
そして、四度。
否、五度、男は魔王と対峙する。

「答えろ、人間。そこのカエルが私のロザリーを殺したのかと聞いているッ!」

ストレイボウは押し黙るしかなかった。
自身がその答えを知らなかったからでもあるがそれ以上にピサロの表情から声に至るまで全てに表出している殺気が彼に沈黙を強いさせた。

殺される。
下手なことを言えば殺される。
カエルが、カエルがこの男に殺されてしまう!

それは正しい判断だ。
ピサロは殺す。
何よりも優先してロザリーを害したものを殺す。
今この場に限ればロザリーは死んでもおらず、彼女を傷つけたのもユーリルであったがそんなことは関係ない。
既に一度、カエルはロザリーを死の淵まで追い詰めたのだ。
それだけでピサロがカエルを殺すに理由としてはお釣りがくるほどだった。

「だんまり、か。そうか、そうか貴様だったのか。爬虫類の分際が、私のロザリーをっ!」

ストレイボウの沈黙を肯定と取ったのだろう。
ピサロの中からはもはや勇者もロザリーの周りでたむろする人間も消えていた。
有り余る憎悪の全てをカエルと、彼を庇うかのように黙り通した人間へと向けていた。

「お、落ち着いてくれ。あんたが誰かは知らないがまだそうと決まったわけじゃ」
「……」

自分の失言のせいで友が危機に陥いることを防ごうとしどろもどろになりながらも何とか声を出すストレイボウ。
無意識にピサロへの恐怖から逃れようという意図もあったのだろう、必死に舌を動かす彼とは対照的にカエルは口を閉ざしたままだ。
誤解こそ含まれてはいるがカエルがロザリーを殺そうとしたのは事実。
堕ちたとはいえど誇り高い彼には言い訳をする気などさらさらない。

「いいんだ、ストレイボウ」
「お、俺はこんなつもりじゃっ」
「分かっている。これは俺の身から出た錆だ」

ストレイボウにかけられた声からはカエルが本心からそう思っているということが伝わってくる。
それが余計に辛かった。

何を、何をやっているんだ、俺は!?

本当に何をやっているのだろう。
ストレイボウが後悔に沈む暇すらピサロは与えてはくれないというのに。

「異言はないようだな――よく、分かった。死ね」
53創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:49:53 ID:p+mTNKnQ
54届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:50:25 ID:Zzg7HSwB
ピサロの足元から幾条もの黒き魔腕が這い出でる。
瘴気を纏い、腐臭を漂わせ、悪鬼亡者がおぞましい雄叫びをあげる。
違う、あれは腕なんかじゃない。
ストレイボウは脳裏を侵した妄想から我に変える。
周囲の温度が上がっていた。
地獄の釜を思わせる金属臭が鼻腔をくすぐった。

なんだ、なんだこれは!?

答えはすぐに出た。
ビリビリと微弱な電流の先駆けを感じたのだ。
帯電していた。
ストレイボウだけではない。
カエルが。
ジョウイが、魔王が。
ピサロと彼らとの間に立ち塞がる壁たるユーリルが、アナスタシアが、ブラッドが、マリアベルが、イスラが。
電荷を帯びた空気の檻に閉じ込められ、その恐るべき光景を目に焼き付けられることとなった。

「ジゴ――」

魔界の王がもたらす熱量に耐え切れず、雨がことごとく蒸発し霧と化した。
次いで、その余りに激しすぎる魔力の流動に耐え切れないのか、大地が激しく鳴動した。
今やピサロの足元から立ち昇りきり、巨大な全長を誇示している黒き雷竜に怯えるかのように。
恐慌は伝染していく。
木々が黒一色に染まり崩れ去る。
集いの泉が干上がり湖底を晒す。
大気が揺らめき炎上し燃え上がる。
……早々雷どころではない。
地獄だ。
地獄そのものが現世へと顕現していた!
その地獄とは他の誰のものでもなくピサロのものだ。
愛する人を護れなかった後悔と、愛する人を奪われた怒りと、愛する人を奪った者達への憎しみと、
愛する人のいない世界で生きていかねばならぬ辛さと、愛する人のいない現実への嘆きが幾重にも幾重にも混ざり合った若き魔王の心象風景。

「――スパークッ!!」

その世界の君臨者、漆黒の雷竜が顎門を開く。
逆鱗に触れた者達に牙を穿ち立てる、それだけを王に誓い。
竜が蛇行を開始する。
一陣の矢となってカエルを、ストレイボウを、障害たる全ての敵を貫かんと。
虚無する激情が、解き放たれた。

「う、うわああああああああああああああああああああ!?」

夜の闇を更なる黒で汚しながら雷竜が迫る。
真っ直ぐ、真っ直ぐストレイボウとカエルの元へと向かって。
道中の雑物達を尾の一振るい、胴の一轢きで粉砕し文字通り雷そのものの鋭さをもって襲い来る。
ストレイボウは悲鳴を上げた。
彼自身が一流の魔法使いであるが故に分かってしまったジゴスパークの威力に。
あますことなく浴びせられたピサロからの憎悪の念に。

死ぬ、殺される、俺は、ここで!?
55創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:50:48 ID:p+mTNKnQ
56創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:51:13 ID:15r+53o/
57創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:51:42 ID:p+mTNKnQ
58届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:51:46 ID:Zzg7HSwB
この錯乱は彼が克服しきれていない心の弱さによるものだけではない。
霊魂として過ごした時間が彼から戦士としての心の持ちようを奪い去ってしまっていた。
考えてもみて欲しい。
ストレイボウは死後気も遠くなるような時間を過ごして来た。
その間彼の心を占めていたのは友を裏切ったことへの悔いと弱き自らへの嫌悪ばかり。
戦いのことなど考えたこともなかったのだ。
再び肉体を得て友をこの手で止められる日が来ることになるなど思いもしなかったのだから。
或いは、それもまた弱さか。
霊魂の身では何もできないと自ら動くことを捨てただただ後悔の泥沼に浸かることを選んだ報いか。
数えることなど叶わぬ時の流れはストレイボウのなけなしの強さを――死と隣り合わせである戦場に立つ強ささえ磨耗させてしまった。
新兵も同然なのだ、今のストレイボウは。
そのことに、生き返って以来今に至るまで一度もまともな戦闘をこなしてこなかった為気付けなかったのは何たる不幸か。
ストレイボウは考えられる限り最悪の形で気付かされることになった。
死した身で長きを過ごすうちに忘却してしまっていた死への恐怖と対面するという形で。

「ブ、ブラ、ブラックアビスゥウウウウ!」
「駄目だ、ストレイボウさん、それじゃ打ち消せない!」

なればこそのこの愚行。
カウンター前提の魔法をあろうことか迎撃に使ってしまうとは。
傍らのジョウイや雷竜の行軍に巻き込まれたマリアベル達のように自らの身を護ることを優先に魔法を盾にしておけばよかったものを。
そうすればダメージの軽減程度にはなったし、何よりも自らのちっぽけさを目の当たりにすることもなかったろうに。

一秒もかからなかった。

深淵の名を冠したストレイボウの全長ほどある――つまるところ雷竜の爪程度の大きさしかない三つの黒塊は。
ストレイボウが言うところの究極魔法は。
たかが深淵を覗いただけの存在が地獄を見てきた魔王に勝てるはずがないと言わんばかりに、あっけなく地獄の雷の前に消し飛んだ。

「――――――あ」

魔の王が怒りのままに際限なく魔力を込めて撃ち出した魔法がいかにして常人の魔法使いの手で破れようか?
古来より、魔王を倒せるのは勇者だけだと決まっている。
ストレイボウも嫌なほどそのことは知っているではないか。

「ひ、ひいいいいいいいいいいいっ!?」

この島にもう勇者はいない。
魔王に打ち勝てるものは一人が勇者であることを捨て、一人は魔王と手を組んだ。
ならば。
他に魔王に拮抗し得るものがいるとすれば、

「余計なことをしてくれたな、そこの人間……」

それは同じく魔王を名乗る者のだけだ。

「よせ、魔王。これは俺が撒いた種だ。手なら貸す、ストレイボウを責めるな」
「貴様の知り合いか? どうりで無様な姿がいつぞやの腰抜けに重なるわけだ。
 フッ、思い出話は後回しにしておくか。手助けは不要だ。この程度、私ひとりでどうとにでもなる」

着弾間近の電撃を胡乱げに見つめ赤きマントを靡かせて魔王がカエルの前に出つつみっともなく腰を抜かした魔術師を嬲る。
しかしストレイボウには魔王が投げつけてくるどんな嘲りの言葉よりも。

「……お前がそういうのならそうなのだろうな」

カエルのその言葉が痛かった。
魔王のことを信用してはいなくとも信頼していることがありありと分かってしまったから。

「カエル……」
59創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:51:54 ID:15r+53o/
60届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:52:46 ID:Zzg7HSwB
縋るように発した声はカエルに届くことはなかった。
より強き力を持つ言葉に打ち消されて。

「地獄の雷よ。貴様も聞け、黒い風の泣く声を」

風が、吹いた。
魔王に向かって風が吹いた。
魔王の前後左右を護るように現れ回転し出した四つの魔力スフィア。
それらは万物を吹き飛ばすのではなく、巻き込むことで風を発生させていた。
ごうごう、豪豪、業業。
風は渦巻くたびに本来透明のはずのそれが黒と白に染められていく。
この地に漂う無念や絶望を、希望や祈りすらも次々と己が糧として飲み込んで、空間ごと大気中のマナを食らっているのだ。
世界に満ちたマナは魔王へと供物として捧げられ、大気が枯れ果て凍りつく。
絶対零度の風が吹き荒れるその世界はコキュートスのよう。
しかれば世界が凍結するのも道理。

「ダーク――」

風が、死んだ。
耳をつんざく悲痛な嘶きを最後に風が消失した。
風だけではない。色が、音が、匂いが消失した。
魔法陣が。
生命の力を奪い尽くした魔力スフィアが転じた魔方陣だけが。
地獄の浸食を妨げるかのように天と地に刻まれた白と黒の三角形の魔方陣だけが。
静止した灰色の世界を彩る結二つの色だった。

ジゴスパークがそうであったように。
全てが失われた寂しき世界こそが魔王の瞳に映る現世なのかもしれない。

「――マター」

現世を擬似的な冥界と化す禁術を完成させる呪文が響いた。





そこから先はアポカリプスの再現だった。
虚空にて、地獄と冥界が衝突する。
互いが互いに法則を上塗りしあい世界を書き換えていく侵し合い。
触れ合うたびに否定しあう存在の拒絶。
雷竜がのたうつ。全身をくねらせ、尾を振るい、爪牙を突き立て冥府の檻を震撼させる。
魔法陣が重なる。欠けた半身を補い六芒星に戻らんとして天地に横たわる雷を邪魔するなと圧壊していく。
見る間に地獄が罅割れ、冥界が砕かれ、竜が解け、魔法陣が崩れゆく。
時として数えるなら一秒にも満たない時間。
咲き誇った火花の数は計測不能。
世界が崩壊しているのだと言われたのなら誰もが間違いなく信じてしまうその光景は。
完膚なきまでに相殺しあった結果、始まりとは逆に、ひどく唐突に、何の予兆もなく、おぞましいほど静かに終焉を迎えた。

「……終わった、のか?」

誰かがようやっと呟いたのは雨が転じた霧が晴れた後だった
61創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:52:56 ID:p+mTNKnQ
62創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:53:18 ID:15r+53o/
63届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:53:27 ID:Zzg7HSwB



軋む身体を起こしつつ、ブラッドは作戦の失敗を悟った。
作戦自体に穴があったわけではない。
ただ一つ、見落としていたことがあっただけだ。

「時に魂は肉体を凌駕するものだったな」

どれだけ体力が尽きようとも。
どれだけ血肉が削がれようとも。
人は意志の力一つで立ち上がり、突き進むことができる。

「今のおぬしがいい例じゃの。全く無茶をしおってからに。
 ちょっとは夜のノーブルブラッドの強大さを信頼して欲しいものじゃの」
「済まなかったな。イスラ、鯛焼きセットの残りは?」
「さっきまでの持久戦で殆ど食べきってたからね。はい、ド根性焼き。これで最後だよ」

グレートブースターを自分ではなくアナスタシアに施し護ったマリアベルを、更に身を呈して庇ったブラッドは全身の火傷を一層悪化させていた。
ドラゴンクローでガードした顔を除き、皮膚もかなり深い部分まで炭化しておりド根性焼きでさえ回復が追いつかない。
直接狙われたのではなく巻き込まれただけでこの被害とは。
笑えない話だった。
が、納得できはした。
強気意志の力は破壊に転じることもできるのだ。
それがフォースとは真逆の暗き情念の力であるなら尚更に。

「アナスタシア、お主は誰よりもその恐ろしさを知っていよう」
「……炎の災厄は何度アガートラームで引き裂いても滅びなかったわ」

軽傷のマリアベルも立ち上がりながらアナスタシアへと問いかける。

「気付いておるか? 今のおぬしからは僅かにじゃがそのロードブレイザーと同じ匂いがしているということに」
「……」

ブラッドの作戦にイスラが難色を示したおりの説得でマリアベルはアナスタシアが殺し合いにのらんとしていたことを知った。
不思議と驚きはなかった。
そうと分かればアナスタシアにアーガートラームを渡すことを躊躇したことにも納得できる。
親友の生への渇望の強さは誰よりも理解しているし、生贄として捧げられた少女が今度は自分の為に生きようとしたことも想像がついた。
納得はできる。
理解もしている。
想像もつく。
よってマリアベルがアナスタシアへと抱いた感情は怒りではなく寂しさで、いやそれはやはり怒りだった。

何故自分達を信じてくれなかったのだと。
人殺しなどという普通でない道を選ばなくとも、ARMSならオディオを倒し、アナスタシアの命も救ってくれると信じて欲しかった。
64創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:53:55 ID:p+mTNKnQ
65届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:55:03 ID:Zzg7HSwB
夢想だ。
現にマリアベル達は未だ魔王を倒せず、かけがえのない仲間であるリルカにカノン、この地で出会ったシュウ達や見知らぬ誰かも救えなかった。
そもそもアナスタシアは名簿を燃やしてしまっていたという。
マリアベル達の存在を知らないのなら希望を抱きようがない。

それでも。
マリアベルはアナスタシアに名前を呼んでいて欲しかった。
助けてと言って欲しかった。
その一声があろうものならゴーレムのようにどこにいようと飛んで行ったのに。

それもまた戯言だった。
結局は焔の災厄との戦いでも、彼女が『アナスタシアのいる世界』へと跳ばされた後も、マリアベルは助けることができなかった。

「……欲望は、綺麗なものも、汚いものも、ある、わ」

アナスタシアは他人を利用はしても信じることができなくなっていた。
己だけを信じて誰かに助けを求めることを忘れていた。
無駄だと、焔の七日間で諦めてしまったから。
誰もアナスタシアを助けられなかった。
星の数程人はいるのに誰ひとりとしてアナスタシアを助けられなかった。
どころか大半が弱さを理由に助けに来ようともしなかった。
少女一人に全てを背負わせ、災厄が去った後には悲しむでもなく笑っていた。

『アナスタシアのいる世界』からそんな平和になった世界を覗いた時、アナスタシアはきっと大事な何かを失ってしまったのだ。
そんな少女がただ一人心の中で助けを期待した彼女と同じ『生贄』の少年は、

「あ……ぐ、あ、アナスタシアァァァ……死ねええっ!!」

アナスタシアが原因で壊れた。
アナスタシアよりもよっぽどロードブレイザーに近いものになり果てた。
怒り、苦しみ、憎しみ、悲しみ、呪い。
それら負の念に身も心も満たし尽くした殺戮者に。
ただロードブレイザーと決定的に違う点が一点あった。

悪意が欠けていた。

「なんだよ、まるでこっちが悪いみてえじゃねえか! 戦いづれえ!」

ユーリルに拳を打ち込む度にやるせなさが積もっていく。
読むまでもなくアキラに流れ込んでくるユーリルの心は怒りや苦しみや憎しみや悲しみや敵意や殺意で溢れてはいれども。
悪意は、悪意だけはなかった。
人をして邪悪と決定づける最大の要因が。
大小の差はあれどルカ・ブライトやクルセイダーズが纏って止まなかったものが一片足りとも存在していなかったのだ。

其は正しき嘆き。
其は正しき怒り。
其は正しき憎悪。
其は正しき呪い。

負の念自体は人間ならば誰でも持っている。
むしろ人が持つ当然の感情だ。抱いてしかるべき権利がある想いだ。
自分や松、死んでしまったレイやサンダウン、日勝を動かす想いでもあった。

「うわああああああああああああああああああああっ!!」
66創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:55:42 ID:15r+53o/
67創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:55:56 ID:p+mTNKnQ
68届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:56:09 ID:Zzg7HSwB
なればこそユーリルと剣を合わせた誰もが抱くのは悪への怒りではない。
共感だ。
マリアベルは孤独を。
ブラッドは友を護れなかった後悔を。
イスラは世界と自らへの呪詛を。
ユーリルという鏡に見た。
これもまた道理だ。
この世に負の感情を抱いたことのない人間などいはしない。
どのような聖人君子といえど誰かに、何かに怒りや憎しみを抱いたことはある。
だからこそ糾弾の矛先は迫り来る驚異にではなく護るべき者へと向けられる。

「もう一度問うぞ、アナスタシアよ。おぬしあやつに何をした?」
「僕からも聞くよ、アナスタシア。君は彼に何を言ったんだい?」
「……」

相変わらず返事はなかったがイスラには大体の予想がついていた。
大方自分の時のようにアナスタシアが目の前の少年へと言葉によって斬りつけたのだと。
イスラにとっては一種の信仰でもあり生きる意味でもありイスラそのものでもある死への願望を否定した時のように。
ユーリルの基盤となっていた何か彼にとっては命以上に大切なものへとアナスタシアは罅を入れてしまったのだと。
イスラは心を保つことができた。
不安定ながらも致命傷にならずには済んだ。
それは仲間がいたからだ。
素直には認めたくないことだが自分にはできない生き方をするヘクトルという人間に惹かれ、
アナスタシアに否定された今までの生き方以外に眼を向けるのも悪くはないと心のどこかで思うようになったからだ。
ならばユーリルは?
いなかったのだろう、きっと。
でなければ失ってしまったのだろう。
支えてくれる誰かを、導いてくれる誰かを。
それはもしかしたら彼自身が叩き殺したあの少女だったのかもしれない。
彼がその凶行に至ったのもまた……。

「僕はやっぱり君のことが大嫌いだ、アナスタシア」
「…………」
「いっそアキラに心をよんでもらおっか?」
「あんまし気はすすまねえけどな。それに今はそれどころじゃねえだろ」

痺れの残る手足でセルフヒールとヒールタッチによる自他の回復に専念していたアキラが注意を促す。
そうだ、今はそれどころではない。
驚異は何一つ去ってはおらず、持久戦を放棄しなければならない分振り出し以下だ。

「そうじゃな、まずはストレイボウ達との合流を急ぐべき……なのじゃが大人しくはさせてくれぬか」

手始めとしてカエルを殺しに行こうとするピサロをメイルシュトロームで押し流し距離を取ろうとするも、マヒャドで凍らされ失敗に終わる。
ユーリルのことも含め誰かが足止めに残らなければ南下することは叶わない。

「じゃが下手に戦力を割こうものなら……」
「けどどっちにしろこのままじゃ押し切られちまう。何でもいい、ブリキ大王みてえな一発逆転できる何かがあれば!」

無いもの強請りだとは分かっていても愚痴を零さないではいられなかった。
ピサロや魔王が見せた大火力に抗うような決定打がここにいるメンバーにはない。
持久戦中に回収したシンシアの装備やデイパックにもリニアレールカノン並の武器はなかった。
69届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:56:53 ID:Zzg7HSwB
「魔王やピサロが連発してこないのを見るにおいそれと撃てないものであるとは信じたいがな」

我ながら慰めに過ぎないとは思う。
たとえ魔王が撃てなかったとしても彼らを倒せるとされる勇者が撃てないとは限らないのだ。
そうなれば迎撃手段のないブラッド達が被る被害は計り知れない。
たまたま別の敵が相殺してくれるなんて都合のいい話は何度も起こるはずがない。
力が足りない。
誰もが胸中でそう思い、

『力が……欲しいか?』

一人だけがその声を聞いた。

「ッ!?」
「人間そこをどけえええええッ!!」
「イスラ、ぼさっとしてんな!」

突如精神に響いたもう聞くはずのなかった声に動揺し動きを止めてしまったイスラにピサロの剣が突きつけられる。
間一髪アキラがアスリートイメージでピサロの方向感覚を乱し難無きを得たが、イスラはそれどころではなかった。

「キル、スレス?」

失われたはずの魔剣が、試しに呼んでみた時にはうんともすんとも反応がなかった魔剣が今更返事を寄こすとは想定外だった。
考えられる可能性とすれば魔剣は壊れてはおらず、イスラの方が死んだことで契約が解けてしまっていたということか。
それがこうして再び声が聞こえるということは。
魔剣はすぐそばにあるのだ。
足りない足りないと嘆くだけだった火力を補えるだけの力が、すぐ側に!
イスラの決断は早かった。

『力が……欲しいか?』
「ああ、欲しいね」
『適格者よ、力が欲しいのならば我を手にして継承せよ』

魔剣の副作用は身をもって体験していたが一度死んで契約がリセットされているなら剣の浸食もまた始めからのはずだ。
恐れることはない。
それよりも問題なのは魔剣が自身を手にしろと要求したことだ。
イスラの知る剣は契約していない適格者の元へと勝手に飛んでくることもできたはずだ。
これもオディオの仕業だろうか?
呼び寄せられないのなら地道に可能性を絞るしかなかった。

「アナスタシア、助かりたいのなら答えろ! 君は紅い剣を持っているか!?」
「ないわ、そんなもの。私の武器はこの鎌一つよ」
「やっぱそう上手くはいかないか」
「紅い剣じゃと? どういうことじゃ?」

マリアベルの疑問に矢継ぎ早にが要点だけを伝える。
紅の暴君、キルスレス。
それさえあればピサロや魔王に匹敵する力を振るえるようになると。
話を聞いたブラッドはすぐに戦力の二分を提案。
ブラッド達ではないとなると魔剣を持っているのはユーリル、カエル、魔王、ピサロ、ジョウイ、ストレイボウ達の誰かだ。
誰が持っているのかは分からない以上、総当たりで回収するしかない。

「戦力分担の話だがストレイボウ達の引き込みと魔剣の回収は俺とマリアベルで受け持とう」
「そうじゃの、カエルと魔王のコンビネーションはなっていないようでいてかなりのものじゃ。
 そんじょそこらの即席コンビでは太刀打ちできぬじゃろう」

その点元の世界からの仲間であるブラッドとマリアベルなら引けはとらない。
悩むまでもなく最善の一手だ。
冷静さを失っているピサロ達に対し絡め手に長けたアキラが有用なのも疑うべくはない。
問題がないわけではないが。
70創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:57:20 ID:p+mTNKnQ
71届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:57:40 ID:Zzg7HSwB

「その間僕達二人でアナスタシアを護りつつ、あの二人を抑えろって?」
「すまぬの。合流次第すぐにわらわ達の代わりにストレイボウ達を向かわせるので辛抱してくれい」

言うまでもなく半減した戦力でアナスタシアを護りつつ耐えられるかということだ。
この作戦が自分のためであることは重々承知ではあるが、嫌いな女を護らされることもあってイスラは苦言を零さずにはいられなかった。

「いっそ二人とも放って行ってもいいんじゃないかな?
 アナスタシアは殺し合いにのっているんだし、聞いた話じゃロザリーをピサロが害するとは思えないけど」

ぎろりとマリアベルに睨まれる。
マリアベルからしても殺し合いに乗った親友と気絶したままの新たな友人から離れるのは苦渋の判断なのだろう。

「イスラ、しのごの言ってんじゃねー!
 やるっつったらやるんだよ! これしかねえだろ!」

とはいえアキラが言うようにやるしかないのだ。
敵四人はどれも群を抜いた強敵で、ヘクトル達側の様子も分からない。
このままでは良くてじり貧だ。

「わかった、分かったよ。僕一人があーだこーだ言ってても仕方がないし。
 でも言ったからには成功させてよね、お・じ・さ・ん」

だったら頑張ってもらうしかない。

「無論だ。戦場で交わした約束は何よりも重い」

ブラッドが力強く頷きマリアベルと共に背を向ける。
ピサロもユーリルも二人を追うそぶりを見せなかった。
ユーリルの狙いはアナスタシアであり追う必要はなく、ピサロからするとカエルを殺すべく突破すべき人間が減った程度の認識だ。
残されたイスラとアキラの負担が二倍になるのに対し、ユーリルとピサロの負担は二分の一だ。
二倍どころか一気に四倍状況が苦しくなったが泣き言を言っている暇さえ二人にはない。

「イスラ、背中は預けるぜ」
「残念ながら間にアナスタシアがいるけどね。背中からざっくりこようものなら覚悟しておくんだね」
「ええ、分かってるわ」

かくして戦いは新たな局面を迎える。

【C-7橋の近く 一日目 夜】

【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(極)、ダメージ(中)、精神疲労(極)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@FFVI、天空の剣(開放)@DQW、湿った鯛焼き@LIVEALIVE
[道具]:基本支給品一式×2(ランタンは一つ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。
72創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:58:11 ID:p+mTNKnQ
73創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:58:21 ID:15r+53o/
74届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:58:44 ID:Zzg7HSwB
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:ダメージ(中)、激怒
    疲労(極)、人間に対する憎悪、自身に対する苛立ち
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:基本支給品一式、データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION
[思考]基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:ロザリーを殺したカエルを殺す
2:目の前にいる人間を殺す。
3:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:※参戦時期は5章最終決戦直後
※ロザリーが死んだと思ってます。

【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、賢者の石@ドラゴンクエストW
[道具]:不明支給品0〜1個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
2:施設を見て回る。
3:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[備考]※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費、疲労(中)、ダメージ(中)。
[装備]:パワーマフラー@クロノトリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、ドッペル君@クロノトリガー、基本支給品一式×3
[思考]基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:ピサロとユーリルが魔剣を持っているか確認。あれば奪う、なければ援軍や魔剣が来るまで抑える
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[備考]※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。

【ロザリー@ドラゴンクエストW 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ、気分が悪い (若干持ち直した) 、気絶
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]基本:殺し合いを止める。
0:気絶
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリルに心を何度でも伝えて真に手を取り合う。
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……
[備考]※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。
※ロザリーの声がどの辺りまで響くのかは不明。
 また、イムル村のように特定の地点でないと聞こえない可能性もあります。
※冒頭は感応石やテレパスタワーとロザリーの力の混戦の結果偶然一瞬だけ起きた出来事です。
 情報は何も得てません。
75創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 14:59:20 ID:p+mTNKnQ
76届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 14:59:50 ID:Zzg7HSwB
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストW 導かれし者たち、ミラクルシューズ@FFIV
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式×2
    ドーリーショット@アークザラッドU、ビジュの首輪、
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロとユーリルが魔剣を持っているか確認。あれば奪う、なければ援軍や魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。


77届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 15:00:30 ID:Zzg7HSwB



敵の大魔法を防ぎきったことを確認して魔王は大きく息を吐く。
口には決して出さないが整った顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。

「魔王、調子は?」
「問題ない。今の一合で分かった。魔力と魔法の扱い自体はかの魔王よりこの魔王の方が上だ。
 先刻のは怒りのままに半ば暴発状態で撃ったからこそのあの威力。
 狙ってやれるものではないだろうし何よりもうそれだけの魔力も残ってはいまい」

転じてそれは魔王の方にももう一度ダークマターを撃てるだけの魔力が残っていないということだ。
暗に示された事実をカエルは正しく受け取り北方へと向き直る。
夜はせっかく取り戻した静寂を再び剥奪され、光と喧騒に彩られていた。

「モチベーションの違いか、厄介だな」
「他人事か? 俺もお前も譲れない理由があるのは同じだ。奴らに劣りはしない」
「お前に言われるまでもないさ。俺は勝つ、勝たねばならないんだ」
「それでいい。足を引っ張ってもらっては困るからな。……さて」

カエルと対等に合わせていた視線を逸らし、魔王は尻餅をついたままのストレイボウを睥睨しつつ近づいてくる。
ストレイボウのせいで余計な魔力を使わされたことを魔王は許しはしない。
後ずさりするストレイボウは明らかに身体が震えていた。

「て、てめえか。てめ、えが、てめえがカエルを惑わしたのか」
「そう思うか? カエルが、この男が他人の意思に流されるよな男だと?
 思うなら思うで構わん。どうせ貴様はここで死ぬのだ」

ストレイボウ自身も支離滅裂なことを言っていることは承知していた。
カエルが去った時も、マリアベル達を彼が襲っていた時も、そこに魔王の影はちらついてはいなかった。
ただストレイボウがいて、ただカエルがいただけだった。
カエルが殺し合いにのったのはカエルが自分で選んだ道だというのは誤解しようがない。
それを認めたがらず他人のせいにしてしまいたかったのはストレイボウの我侭だった。
或いは嫉妬だったのかもしれない。
気を許しあってるとは到底思えず、嫌悪しあっている魔王とカエルだが、互いに強く認め合っているふちがあることへの。
魔王とカエルの間にしかとある宿敵という名の繋がり。
にわかな自分との友情がその前には色あせるように感じてしまってストレイボウは口を閉ざしてしまいかける。
言葉を、言葉を届けなければいけないのに。
一段一段積み上げてカエルの、オルステッドの心へと届けようと決意したのに。

駄目だ、ここで黙っては俺は一生カエルに謝れなくなる!

「カ、カエル。お、お前は俺の友で、俺はお前に謝らなければならなくて、お前のことを止めたくて」

ガチガチと歯がかちあって想いが言葉になるのを妨げる。
一歩一歩近づいてくる魔王の恐怖に言いたいこともまとまらない。
まとまらないまでも、言葉にならないまでも、必死にストレイボウは声を出し続けた。

「ストレイボウ。俺はもう戻れない。俺はこの手でルッカを、仲間を殺した」
「だ、だがそれも、それも、元はといえば、元はと、言え、ば」

魔王がストレイボウの元に辿り着く。

「元は、元はと言えば」
78創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 15:00:54 ID:p+mTNKnQ
79創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 15:00:57 ID:15r+53o/
80届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 15:01:17 ID:Zzg7HSwB
言葉は、止まった。
死ねば後はないというのに、ことここに来てさえオディオとの関係を明かすことがストレイボウにはできなかった。
息の根も、止まる。
無慈悲に振り下ろされたランドルフは貧弱な術師くらい難なく砕く。
魔鍵も、止まった。
間に割って入った回転する刃に弾かれ軌道を逸らした。

「随分と頼りになる仲間を連れてきたではないか、ジョウイ・アドレイ。
 そいつにリルカ・エレニアックやルッカ・アシュティアの代わりが勤まるとは思えんがな。
 あいつらなら今しがた見せたダークマターをも上回る魔法を撃てたものを」
「代わりなんかいない。人間に代わりなんかいない! ストレイボウさんは僕の仲間だ。
 魔王、リルカとルッカの仇、ここで討たせてもらうぞ!」

仲間、仲間か。
どの口が言ったものかとジョウイは自嘲する。
彼は裏切る気満々なのだ。
今だって直前まで上手くことを煽り魔王とピサロの潰し合いを引き起こせるかを考察していた。
割り込んでしまったのは口にしたようにリルカやルッカの敵討ちという面もあったが、
カエルとストレイボウの様子にかっての自分とリオウを重ねてしまったからもあっただ

ろう。
やってしまったからには仕方がない。
それに何の考えもなく魔王達に敵対する道を選んだわけでもない。

「できるかな、二度も私の前から尻尾を巻いて逃げた貴様に」
「できるさ、今の僕になら、僕達になら! 紋章よ……」
「ぬうっ!?」

真の紋章の片割れが光を放つ。
輝きを得たのはジョウイの『左』手の甲。
友より託された輝く盾の紋章が空に印を結び聖光にて魔王を射抜く。
魔王は平然と光を打ち払った。

「何をするかと思えばこの程度!」

派手さの割には与えられた傷は軽微で。
それだけ見れば笑われるのも無理はない。
だというのにジョウイもまた口に笑みを浮かべていた。

「この程度だ、魔王」
「違う、魔王、後ろだ!」

カエルが一足先に意味に気づき魔王に警告を促すが僅かに遅い。
魔王が振り向いた時彼の視界を埋め尽くしたのは緑の竜の爪だった。

「ふんッ!!」
「ぐぬっ!? ブラッド・エヴァンスか。なるほど、そういうことか」

魔王が苦々しげに舌を打つ。
ブラッドに邪魔されたからではない。
その身に魔王達が刻んだ傷の数々が碧の光に触れた途端にいくらかマシになるところを目にしたからだ。
しかもよく見れば癒しがブラッドの仲間全員に及んでいた。
81創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 15:01:36 ID:p+mTNKnQ
82届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 15:01:58 ID:Zzg7HSwB
「お前が魔王達の気を惹いてくれたおかげで助かった。名前を聞かせてくれないか?」
「僕はジョウイ・アドレイと言います」
「わらわはマリアベル、そっちの男はブラッドじゃ。ところでお主、リルカのことを知っておるようじゃが?」
「リルカは、僕を逃がして魔王に……」
「そうか。ジョウイ、」

責められるかとジョウイは覚悟した。
マリアベルとブラッド、どちらもジョウイを逃がすために死んだ少女のから聞いていた彼女の大切な仲間だったから。
けれど違った。ジョウイにかけられたのは予想もしていない言葉で。

「礼を言う」
「感謝する」

でも伝わった、

「仲間と共に戦ってくれたことに」
「友の死を憤ってくれたことに」

マリアベルとブラッドがどれだけリルカを想っていたのかは。
彼らの瞳には様々な感情が浮かんでいたが、ジョウイへの言葉には紛れもない感謝の気持ちが込められていた。

そして意味は違えど感謝の言葉はストレイボウにも向けられる。

「ストレイボウ、わららはおぬしにも礼を言おう」

ストレイボウは訳が分からなかった。
礼を言わなければいけないのは自分の方ではないか。
醜態を見せ殺されかけた自分をジョウイ、マリアベル、ブラッドが助けてくれた。
誰かを助けないといけない自分が、誰かを守って戦わないといけない自分が。
いざとなると助けられてばかりだった。
無力感に押しつぶされそうになるストレイボウをそれは違うとマリアベルは否定する。

「おぬしはわらわを助けてくれたわ。
 実はの、わらわも今おぬしと同じで友と喧嘩……、そうじゃの、ちょうどいい表現じゃ、喧嘩してての。
 ろくに口もきいておらんのだ」

ストレイボウの困惑は深まりっぱなしだった。
マリアベルも自分と似た悩みを抱えているということまではいい。
それと助けてくれたという言葉が繋がらない。
ロザリーがそうしてくれたようにアドバイスの一つ、していないではないか。
目でそう訴えるもマリアベルはよく聞けと語りかけを続けるばかり。

「せっかく数百年ぶりに再会できたのにの。親友が少し変わってしまっていたからといってわらわは拗ねておった。
 口を開けば責めるようなことばかり言ってしまったのじゃ」

そこで一度言葉をきり、マリアベルはストレイボウへと笑を浮かべる。

「それがなんとも馬鹿らしく思えた。人間であるおぬしがこれだけ頑張っているのを見るとの。
 わらわもおぬしのようにするべきじゃった。相手に言葉を、心を届けようとするべきじゃった」

それが、理由。
マリアベルがストレイボウに礼を言ったわけ。
何も人に道を示すのは言葉だけではない。
行動もまた人を導く。

「だ、だが、俺はそんな大層なものじゃない。まだちっとも届けられていない。隠していることだって、ある」
「それでも、じゃ。おぬしはちゃんとつたなくとも言葉を重ねていたではないか。
 わらわはまだ最初の一言も踏み出しておらんのに」
83創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 15:02:20 ID:p+mTNKnQ
84届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 15:02:40 ID:Zzg7HSwB
まったく、目を逸らされようと、あの時、胸の熱さを言葉にしておくべきじゃった。
悔いる少女はされど後悔に囚われてはいなかった。
笑にはまじりっけの一つもなかった。
眩しかった。

「おぬしのおかげでそのことに気付けた。わらわもおぬしをならって伝えようと思う。
 アナスタシアにわらわの心を何度も何度も何度もじゃ」

この笑みは親友との仲直りが叶うことへの希望であると同時に、ストレイボウへの感謝のためだけに浮かべられたものなのだと。
ストレイボウは唐突に理解した。
『義務』でもなく『贖罪』でもなく偶然に得られた結果だけれど。
すっとストレイボウは心と背が、僅かながらも軽くなったように思えて。

「それとその言葉をそなたに教えたロザリーじゃが、無事じゃ。大した怪我もせず生きておるわ。
 ピサロの奴があやつの身体に攻撃が当たらぬようしていたおかげでさっきの召雷呪文にも巻き込まれておらぬ」
「ロザリーが……? ああ……、良かった……」

また少し、何かが軽くなった気がした。
自分が助けたわけでも護ったわけでもないけれど良かったと心の底からストレイボウは安堵した。

「のう、ストレイボウ。ロザリーはこうも言ったそうじゃな。
 わらわ達は仲間だと。その通りじゃ、な?」

マリアベルが尻餅をついて後ずさる態勢のままのストレイボウに手をさしのべる。
ストレイボウは逡巡することなくその手を掴んだ。
また助けられたと、自分が助けなければいけないのにという念は、一時的にかもしれないが沸き上がってくることはなかった。
ストレイボウは立ち上がる。
彼を支えてくれる仲間を受け入れることによって。
それが贖罪の先に届く第一歩になるのかは今はまだ分からない。


【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルセイバー@FFIV
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFY、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:魔剣の持ち主を確認。あれば手に入れる。なくともジョウイやストレイボウにはアキラたちの援軍に向かってもらいたい
2:付近の探索を行い、情報を集めつつ、 元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:首輪の解除。
4:ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
5:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
85創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 15:03:26 ID:p+mTNKnQ
86届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理投下):2010/05/28(金) 15:03:26 ID:Zzg7HSwB
【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身黒焦げ、ダメージ(極)、疲労(大)、額と右腕から出血。
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI 、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVEが入ってます。
[道具]:リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
不明支給品0〜1個、基本支給品一式、
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:魔剣の持ち主を確認。あれば手に入れる。なくともジョウイやストレイボウにはアキラたちの援軍に向かってもらいたい
2:自分の仲間とヘクトルの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:セッツァーとマッシュの情報に疑問。以後セッツァーとマッシュは警戒。
4:ちょこ(名前は知らない)は警戒。
[備考]
※参戦時期はクリア後。

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:出来る限り殺す。
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。

【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。

【E-8 一日目 午後】
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(中)、罪の意識が大きすぎて心身に負担
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、記憶石@アークザラッドU、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルの説得。
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません
87創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 15:05:27 ID:15r+53o/
88創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 15:05:36 ID:p+mTNKnQ
89届け、いつか◇iDqvc5TpTI(代理・last):2010/05/28(金) 15:07:19 ID:Zzg7HSwB
【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]:輝く盾の紋章が宿ったことで傷と疲労は完治
[装備]:キラーピアス@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
[道具]:回転のこぎり@ファイナルファンタジーVI、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き延びる。
2:ストレイボウと共に座礁船に行く。
3:利用できそうな仲間を集める。
4:仲間になってもらえずとも、あるいは、利用できそうにない相手からでも、情報は得たい。
5:僕の本当の願いは……。
[備考]:
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているときです。
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾

----------
以上で、代理投下を終了します。
これは良いトス。キルスレスが来て、戦いの目標が上手く絞られたなぁ。
ストレイボウの掘り下げも、「重ねて思いを伝える」と決意したロザリー、マリアベルも素敵でした!
しかしロザリーは……感応石といい、こういう発想はすごい。GJです。

自分が見つけた範囲ですが、以下は誤字などについて。

>>52
>「だんまり、か。そうか、そうか貴様だったのか。爬虫類の分際が、私のロザリーをっ!」
爬虫類→両生類かと。

>>63
>そうと分かればアナスタシアにアーガートラームを渡すことを躊躇したことにも納得できる。
誤:アーガートラーム 正:アガートラーム
90創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 15:07:29 ID:p+mTNKnQ
91創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 15:09:11 ID:Zzg7HSwB
!ああっと!
それと、一部のレスが行数制限に引っかかったので、あとのレスに回す形で
調整させていただきました。一箇所、行を詰めて逆にミスりましたが、ご容赦くだされば幸いです。
92創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 15:24:03 ID:p+mTNKnQ
投下乙でございます。
こ、ここでパスしちゃうトカッ!? 
ヘタれたストレイボウに覚醒のチャンスは訪れるのか? 
再びイスラがキルスレスを手に入れる時はくるのか?
これはますますヘクトルたちの動向も合わせて先が気になってくるぜ
93創る名無しに見る名無し:2010/05/29(土) 06:11:44 ID:2Qtj2b4x
投下乙!
なんという乱戦。誰かは落ちると思っていたが、死者が出ないとは意外。
大規模魔法が飛び交う豪華バトルは流石RPGロワ。
とにかく集合させたキャラを全員活かしているのが素晴らしすぎる。
特にジョウイとARMS組とのやりとりは、クるものがあったなあ。
冷房は……頑張れw 今のところ一個もいいとこないぞお前w
このハードル高いパートを見事に書ききって、さらに高いハードルを用意するとは、このリハク(ry
もう興奮が止まらなかったです。続きが見たくて仕方がない、GJ!!!

非常に細かい指摘が数点。
・状態表で紅の暴君を誰も所持していない
・ストレイボウの状態表の上に、全話の時間表記が残ってる
・マリアベル組の時間表記がない
94創る名無しに見る名無し:2010/05/29(土) 13:09:16 ID:Mjuks4i0
それは後続書き手の自由ってことじゃないの?
>紅の暴君を誰も所持していない
95 ◆iDqvc5TpTI :2010/05/29(土) 14:42:24 ID:FtIZD8bH
代理投下乙です。
感想・指摘ありがとうございます。
>93氏の指摘は実は仮投下スレで述べたように私自身全て気付いておりました
が、自身で修正して本投下する以前に代理投下してくれた方がいたためややこしい事態になってしまい申し訳ありません
時間表記は両方夜で、また、キルスレスは魔王が持っています
このキルスレスを魔王に拾わせた話の時点で私が状態表に書き忘れたのがそもそものことの発端です
まことに申し訳ありませんでした。WIKIに正しい形で収録しておきます
96 ◆MobiusZmZg :2010/05/29(土) 17:50:24 ID:ZooNu9zo
ゴゴ、アシュレー・ウィンチェスター、トッシュ、トカで投下します。
97ぼくらがいた――(Esa Promesa) ◆MobiusZmZg :2010/05/29(土) 17:51:06 ID:ZooNu9zo
 びたん。

 水気を含んで鈍い音が、冷え込みはじめた空気を伝わる。
 乱暴に打ち付けられたものの重みを受け止めたのは、大理石の板だ。
 衝撃が和らぐともに、少しく角のとれた響きは、まわりの空間にも波及していく。
 放熱に際してか、複雑な形で表面積を増やした城の壁は、音の縦波を少しくいびつなものにした。
 反響が収まるのを待たずして、そこには同質の、しかしてひと回り小さな音が追随する。
 いちど響いて消えた大きな音を尻目に、小さな音は一定のリズムをもって奏でられた。

「今のはちょっと、強すぎたんじゃないかな?」

 小さな音の主が、作業を続けながら口を開いた。
 大きな音の主は、両手を止めて唇を引きむすぶ。
 後者であるところの青年は、相手の顔のなか、唯一あらわになった瞳を見やり、次には視線を泳がせ、
 ついには“お手上げ”といった風情で眉間に片手の甲をやり、粒の揃った歯をのぞかせた。

「あ、あはは……ごめんゴゴ。色々あったんで、つい、ね」

 明らかに何かがこもっていた手つきを思い返して、青年は手の甲に力を入れて目許を圧した。
 そのまま、青い髪に触ろうとした彼は、指にねばついているものの存在に思い当たる。
 ため息とともにかぶりを降るとと、赤いマフラーが所在なさげにしおれてしまった。

「う……まぁ、それは……アシュレー。気持ちは分かるよ……」

 対するゴゴも、つむぐ言葉に疲れをにじませる。
 気持ちは分かるどころではなく、抑揚も声色も、完全に呼びかけた者のそれであった。
 それこそが、物真似。物真似師を自称するものは、対面にいるアシュレーとまったく同じ手つきで――
 一次発酵にともなうベンチタイムを終えてふくれあがったパン生地から、丁寧にガスを抜いている。
 幾重にも重なって体の線を隠す布を器用にさばき、動かされるのは骨が強いとも肉が厚いともいいがたい手だ。
 男女の区別すらつけようのない、その手はパン屋に住まっていたアシュレーの技術を模倣して生地を分割していく。
 ゴゴから受けた生地を麺棒で丸く広げ、三つ折りに成形したものを天板に並べたところで、青年はひとつうなずいた。

「よしっ。あとはもう一回発酵させて――」

 わずかに温めておいたオーブンに生地を入れたところで、この作業にはひと段落がつく。
 滅菌された白砂と水で、指についたパン生地をこすり落とした二人の視線は、同じ方向に向けられた。

「感謝するよ。きみが、この城にある厨房の位置を知っていて良かった」
「確かに、ここは少しばかり入り組んではいるけれど……おおげさだな」

 青年と物真似師は、調理台と、その奥にある棚を見据えた瞳に感慨をまじえる。
 そして、手袋をとっているアシュレーの指が、材料のひとつを目指して伸ばされた。
 裸の五指。節くれだった輪郭や、面がはっきりと分かる肉厚の爪に反して、ひどく優しく、

 おだやかに。


 ×◆×◇×◆×

98ぼくらがいた――(Esa Promesa) ◆MobiusZmZg :2010/05/29(土) 17:51:47 ID:ZooNu9zo
「ずいぶん早かったじゃねぇか」

 緑のトカゲを引き連れて、赤い髪の男が姿を現した。
 アシュレーの呼び声に応じた彼は、夜明けを思わせる赤紫の着流しを夕刻の風になびかせている。
 侍の姿は、一見すれば武骨で、戦えることを顕示しているかのような城と、妙に馴染んでいた。
 ――苦笑いを交えつつも、悪びれることもなく空きっ腹を抱えているという一点を除けば。

「トカと首輪を解体した後、だな。話すにあたって考えをまとめるときに、一次発酵まではすませたからね」
「こうして、あったかいものの作れる場所があると分かったのは幸いだったよ」

 アシュレーの真似をするゴゴと、アシュレー本人の説明を聞いて、トッシュと呼ばれた男は着座する。
 彼がトカゲ以外の誰も引き連れていない点から、料理をしていた側は侍の言わんとするところを察してうなずいた。
 椅子にかけたトッシュを見て、ゴゴが厨房から調達した平皿を持ってくる。

「……それじゃ、ひとまずは腹ごしらえといこうか」

 皿の上にずらりと並んでいるのは、焼きそばパンであった。
 ――設備があり、放送までに時間的な猶予がある場所にいるうちに、せめて温かいものを。
 アシュレーの言葉に、トッシュは頭をかき、トカは素知らぬ顔でそっぽを向いたものだが、ゴゴは違った。
 彼らの待ち人たる少女、ビッキーが口にしたという、ごちそうを期待している旨の言葉を思い返した物真似師は、
青年の考えに乗ってくれた。トカに都合二倍のツッコミを入れつつ、パン生地の下ごしらえをしてくれたのである。
 ……生地の焼成までには相応の時間を要したものの、そのビッキーは、まだ帰ってきていない。

「焼きそばのほうも、イチから作ったのか?」
「いや。スパゲッティの乾麺があったから、そいつを短く折って、長めに茹でて代用したんだ」

 だからこそ、か。なんとはなしに、彼らは言葉を交わさなかった。
 パンをひとつ手にとり、しげしげと眺めるトッシュに向かって、ゴゴがどこか得意げな口調で説明する。
 それほど自信があるのだろう。焦げたソースの香ばしい匂いが、侍の鼻孔を鋭角にくすぐった。
 油脂分がもたらす照りと甘味、小麦の飾り気ない滋味も、彼の五感はよく覚えている。
 たしかに、このパンも飾り気はなく、素朴な色をさらしてはいた。
 いたのだが――。

(いや、待て。こいつは素うどんならぬ……素焼きそばじゃねぇか!)

 酒に肴があればいい、とさえ思う任侠者であっても、これには少しく驚かされた。
 ソース味だとはいえ、乾麺と保存食が材料では出せる味には限界がある。見れば、青のりすらハーブで代用されていた。
 ならば、これは《すいかうどん》ほどではなくとも、なかなかのキワモノなのではないのだろうか。
 脳裡をよぎった少しの危惧は、しかして空腹をまえにしたトッシュの行動をさまたげなどしない。
 嗅覚の刺激を受けてにじみ出た唾液と胃の収縮によって、あごの蝶番はとっくの昔に緩んでいるのだから。
 厚みと高さのあるパンにあわせて開いた唇からは、整列した歯と薄桃色の歯茎がのぞく。
 健康だとひと目で分かるトッシュの口は、次の瞬間、焼きそばパンを思うさま頬張っていた。

「む……」

 果たして最初のひと口で、男の頭からは危惧など吹き飛んでしまう。
 旨い。鼻に抜けるハーブの香りも、生麺にはないもちもちとした歯ごたえも、普通の焼きそばとは違う。
違うと分かっていてもなお、ふた口目を頬張る動きを止めたくならない。加熱によってだろうか、果物の
香りの分かるソースが。ふんわりとした芳香を花開かせた小麦が旨い。無性に、旨かった。
 なによりも、乾麺にからんだソースには、確かなとろみと粘りがあった。
 その舌ざわりこそが、かりかりとしたパンの焦げ目の旨さをしっかり伝えてくれる。
 ゴゴの給仕してくれた茶に手を伸ばせば、胃に沈んでいくあたたかみが、じつに心地良かった。
99ぼくらがいた――(Esa Promesa) ◆MobiusZmZg :2010/05/29(土) 17:52:41 ID:ZooNu9zo
「――は、ははっ。こいつはうめえじゃねぇか、おい!」

 ふたつ目のパンに手を伸ばしつつ、トッシュは少しく高い声で賞賛を送った。
 明るい……明るすぎるとも形容できる声音の底には、しかしてしみじみとした色がある。
 手作りのパンの、少しひなびた小麦の香りが、彼の胸にさざ波を呼び込んだがゆえに。
 ナナミの言っていた『手作りのケーキ』を、彼は結局、食べてやることが出来なかったのだから。
 けれどもそれはそれとして、彼はいま、ここにある焼きそばパンもどきを心の底から美味しいと思える。
 そして、非日常も極まった状況下で、こんなにもあたたかなものを作り得たアシュレーとゴゴにむけて
快哉を送りたいとも感じ、事実、卓についた彼らに親しみを込めた笑みでもって相対しさえしている。
 トッシュ・ヴァイア・モンジは、そういうことの出来る男だった。

 彼の斜め前では、雑食らしいトカゲが意外なほどの行儀のよさでパンを口に運び――
 こちらは予想どおりと言えようあさましさで、一度に数個のパンを自分の手元に寄せていた。
 幸いにして数はあるものの、ゴゴが真っ先にビッキーの分を取り分けにいったのも無理はない。

「我輩も、これを契機に大胆素敵でムースリーヌのように甘やかな粉塵爆発をたしなもうと愚考したもの
ですが……この城が雪原にあったというのが悪かったのでしょうな。
 あんなにも湿気た白い粉にかかっては、歴戦のシェフとて気まぐれの起こしようもないトカッ」
「ああ、ムースリーヌじゃケーキでパティシエだ。その湿気た白い粉こそが、僕らにコイツを作らせたんだよ」

 さらりと返しを行いながら、アシュレーが親指を背後にやった。
 彼の肩ごしに見えるものは、扉を開けたままの厨房と、その中心にある調理台だ。
 少し遠い場所に今も残っているものは、石の台に置いた麺棒と打ち粉といったパン生地の名残。
 加えて、麺を茹でて炒めるために使ったとおぼしき銅鍋と水気を切るためのザル、こまごまとした調味料――。

「……なるほど、なるほど。あちらに鎮座ましましている、調理場からの物体Xが……」
「食欲の失せる表現はさておき、あれは、ブールマニエさ」

 そして、ガラスのボウルに入った、薄黄色いペースト状のものがあった。
 小麦粉とバターを混ぜあわせた、それは「ソースの仕上げやとろみづけに使うもの」であると、アシュレーは続ける。
 果実と果物を原料に熟成して作るソースに、それでもって粘り気、ひいては麺への絡みのよさを加えたらしい。

「カレールーやホワイトソースと同じ役目を果たせるものだけれど、こっちは炒めないだけ手軽に作れるんだ。
 逆に、最初は雪原に建っていたせいかな……こういう生物の保存状態は、総じて良いと言えたよ」
「でもよ。楽に作るってんなら、それこそ干し肉かなんかで煮込みでも作った方が早いじゃねぇか。
 一体なんだって、わざわざパンを生地からなにから作りやがったんだ?」

 手間か金をかけなければ、いい酒は作れない。
 それは料理も同じだろうと分かっていてもなお、トッシュにはひっかかるものがあった。
 パン屋がアシュレーの実家だというのなら、もっと見た目の良いものも作れたことだろう。
 同じ時間をかけるとしても、ソースに工夫を凝らし、本来的にはべつの料理に使う乾麺を転用するくらいなら、
保存状態の良かったバターかなにかで、パンの風味をよくすることに注力していてもいいではないか――。
 食べたときには素直に旨いと思ったが、丁寧な仕事ぶりを聞くに至って、侍は素直に疑問を表す。
 このパンを作った側が、ここまで思い入れを示すことのできる理由は、いったいなんなのかと。
100ぼくらがいた――(Esa Promesa) ◆MobiusZmZg :2010/05/29(土) 17:53:30 ID:ZooNu9zo
「ああ、それは……」

 気負いのない様子で口を開いたアシュレーが、弾かれたように眉根を寄せる。


『……時間だ』


 彼に緊張をもたらしたのは、まったくの外的要因。
 オディオの放送によって、会話の腰は見事に折られてしまったが――。
 耳をそばだてるトッシュはすでに、青年がみせた気負いのなさをこそ信じると決めていた。


 ×◆×◇×◆×


 仲間だと思っていたマッシュが、命を落としていた。
 危険視するに相応しいケフカが、打ち倒されていた。

 好感を抱いた者も、嫌悪を抱いた相手も、戦場では等しく死ぬ、だったか。
 もと軍人の真似をしていたときに聞いた……心の底から溢れてきた《言葉》が、胸に浮かんでほどけた。
 ファルコン号の船長を務めていたギャンブラーも、似たようなことを口にしていたものだ。
 様々な者の真似をしている間に、それは、ゴゴにも理解のかなう考え方となっている。
 だからといって、こうした事実を許容し了承できるかといえば、それはまったくの別問題であった。
 油紙と紙袋で二重にくるんだ焼きそばパンもどきが、ゴゴの手の中で生ぬるくなりつつある。

「おい、なんだ……やるか?」
「いや……」

 すでに開いているトッシュの酒瓶を、物真似師は左手で押し返すようにした。
 セッツァーの真意を知った時といい、どうにも、自分は揺れやすくなっている――。
 アシュレーの真似が出来なくなってきていることを、物真似している者に刻まれた表情との相違で気付く始末だ。

「少し、外させてもらう」
「ああ。どうせ村まで歩くわけじゃないんだ。楽になるなら、少し休んでくるといい」

 負の思念に呼応して強さを増すという炎の魔神、ロードブレイザー。
 それを内包している青年の言葉が重い。それを言わせるほど落ち込んでいた自身を知覚すると、なお気が重くなる。
 物真似をしていようとも、これでは、なにを言っても誰かの。自分の傷口を広げるように思われてならない。

 だから、ゴゴは黙して甘えた。
 トカの真似でもして、理不尽な反論で場を収めることさえ出来ないまま、歩いた。
 そして、たどりついたのがフィガロ城の一階東側。ひとつだけベッドのある小部屋だった。
 物真似師は、降りてきた階段を支える壁に背中を預けて立ち尽くしている。
 重ね着をしたケープとマントを通り越して、石はなおも尖って冷たい。
101ぼくらがいた――(Esa Promesa) ◆MobiusZmZg :2010/05/29(土) 17:54:11 ID:ZooNu9zo
『誰かと、仲間と別れて悲しいのも本当だ。苦しくて、胸が詰まってしまうくらいに、本当なんだよ。
 だけど――それよりもさ。良かった。皆と会えて……良かったんだ』


 アシュレーから受けた思いにうなずきながらも、ゴゴはひととき、《ゴゴ》に戻る。
 物真似師が思い出すのは、丘陵をわたるそよ風にも揺れよう、可憐な花の一輪だった。
 それは頼りなく、危なかっかしく、あどけなく見えても、内にたしかな芯を感じたものだった。
 草花の真似をしていた、この自分と。『物真似師ゴゴと友達になりたい』と言った少女――。

 ビッキーの死を聞いたときには、胃が裏返るかと思ったものだ。
 ウィスタリアスの加護を得ても、ロードブレイザーへの危惧を捨て切れはしないアシュレーの真似を
していたためか、知り合いを喪ったという事実は、ゴゴの胸を真っ向から揺さぶるに十分だった。

 彼女を喪って寂しいかと問われれば、寂しいと言わざるを得ない。
 ビッキーの真似は、もう出来ない。なによりまず、物真似師の誇りがそうさせない。
 この、『物真似の幅が減ったことが寂しい』だけですんだなら、話はどれほど簡単だったろうか。
 物真似師であるがゆえに、ビッキーがゴゴに対して抱いた親愛や友好の情を、ゴゴは知ってしまっている。
 出会って一日も経たないというのに、真からそう思っていた彼女の心を、物真似をとおして汲んでいたのだ。
 二度目に出会ったセッツァーのように、目的をゴゴ個人に絞ってきた、稀有な人物のこころに触れて、


 きっと自分は、
 物真似師をつけないゴゴは、
 確かに嬉しいと思っていたのだから。


 ならば……もう、この地に倒れたビッキーが報われることなどなくても。
 ナナミを前にした彼女がみせたような優しさを、今も生きている自分が注いでやりたいと感じた。
 《ごちそう》。彼女が楽しみにしていたもの、出来立てのパンを大きく頬張ってやりたいと思えた。
 そうして彼女に。いいや。彼女のほっとしたような笑顔を、自分の心にこそ留めておきたいと考えた。
 アシュレーのように、トッシュのように。仲間を悼み、仲間を糧に前へ進むという物真似をしたかった。

 けれど、そうそう巧く物事は運ばなかった。
 誰かの真似をしていようとも、真似をしている意識すら、飛んでしまったのだ。
 煮詰まりすぎて真っ白になった思考ののち、物真似師としての顔を取り戻せたと思っても、駄目だった。
 アシュレーの苦痛を察することがかなったがゆえにか、笑おうにも、笑みなど作れなかった。
 アシュレーの苦悩をうかがい知れたがゆえにか、怒ろうにも、怒りに身を任せられなかった。
 アシュレーはビッキーを伝聞でしか知らないためにか、悲しもうにも、悲しみきれなかった。
 やせ我慢をしようにも、胸の奥に留まった言葉は、なんの役にも立ってはくれなかった――。

(へいき、へっちゃら……)

 オディオによる放送でもって打ち切られた、トッシュの問いに対する答え。
 それを、ついさっきまでアシュレーの真似をして、彼になっていたゴゴは知っている。
 スパゲッティを茹でるゴゴの隣で、天火のようすを見ていた瞳の静けさが、印象的だった。
 ゆえにこそ、あの焼きそばパンがナイトブレイザーとやらに変身した彼から聞いた身の上話――
 彼が故郷で交わした《約束》の相手に関係するものではないだろうかと推察することができたのだ。

 遠くに行かない、と。
 必ず、戻ってくると。

 そんな約束をするまでに離別を突きつけられた、今、この時。
 物真似をするには肝要なもののひとつであるはずの息が、ゴゴには巧く継げなかった。
 巧く吸えないのではなく、吐けないから吸えないのだと解していても、肉体以前に精神が言うことを聞いてくれない。
 不器用ながらも、トッシュが気遣い、トカがなにも言わなかった理由も、これなら分かる。

 まったくもって、今の自分はへいきでも、へっちゃらでもない。
 見苦しいほどに息が上がっている。詰まっている。
 旅路で鍛えられたはずの胸が熱い。動悸がひどい。
102ぼくらがいた――(Esa Promesa) ◆MobiusZmZg :2010/05/29(土) 17:54:54 ID:ZooNu9zo
 けれど――
 笛にも似た呼吸の音をあげながら、この時ばかりはそれでいいとも感ぜられた。
 悲しいのなら悲しいと、寂しいのなら寂しいと、ただのゴゴになって感じ切りたいと。
 リオウにルッカが望んだように、ゴゴはゴゴ自身でおのが心を洗って、ひととき休めようと。
 そうしていつか、彼女に出会えたことを良かったと思い返せるようになれば、それでいい。

 右足を一歩踏み出せば、つられて左足が動いた。
 右、左、右、左。反復運動ともいえない歩数で、白いシーツにたどりつく。
 そっと腰掛けた寝台は柔らかく、明かり取りの窓から月の光を受けて、ゴゴを包む。
 ……こうして、なにものかに包み込まれる感覚とは、こんなにも自分と近しいものだったか。
 全身を布地に包んでいる物真似師は自嘲まじりの笑みを浮かべ、細めた目尻からそっと、涙をこぼした。


【G-3 フィガロ城 一日目 夜】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(小)、睡眠
[装備]:花の首飾り、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝U、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3
    ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WA2、基本支給品一式)、焼きそばパン×4@現地調達
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
0:少しのあいだ、仮眠をとる
1:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
2:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
3:セッツァーに会い、問い詰める
4:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。

【トッシュ@アークザラッドU】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ほそみの剣@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、天罰の杖@DQ4、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを斬る。
1:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
2:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
3:セッツァーを探しルカを倒す
4:必ずしも一緒に行動する必要はないがちょことは一度会いたい。
5:基本的に女子供とは戦わない。
[参戦時期]:パレンシアタワー最上階、モンジとの一騎打ちの最中
[備考]:
※紋次斬りは未完成です。
103ぼくらがいた――(Esa Promesa) ◆MobiusZmZg :2010/05/29(土) 17:55:52 ID:ZooNu9zo
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)、右肩から左腰にかけての刀傷
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドU 、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、
    焼け焦げたリルカの首輪、レインボーパラソル@WA2、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーY
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
2:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
3:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
4:セッツァー、ケフカ、シャドウ、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
5:アクセスは多用できない
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※蒼炎のナイトブレイザーに変身可能になりました。
 白を基調に蒼で彩られたナイトブレイザーです。
 アシュレーは適格者でない為、ウィスタリアス型のウィスタリアスセイバーが使用できること以外、能力に変化はありません。
 ただし魔剣にロードブレイザーを分割封印したことと、魔剣内のアティの意思により、
 現段階ではアシュレーの負担は減り、ロードブレイザーからの一方的な強制干渉も不可能になりました。
 アティの意思は、徐々に磨り減っています。アクセスを行うとその消耗は加速します。

【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、スカイアーマー@ファイナルファンタジーY
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)
    天命牙双(右)@幻想水滸伝U、基本支給品一式×2
[思考]
基本:リザード星へ帰る。
1:野蛮な赤毛男(トッシュ)を含む参加者と協力し、故郷へ帰る手段を探す。
2:もしも参加者の力では故郷に帰れないなら皆殺しにし、魔王の手で故郷に帰してもらう。
[参戦時期]:ヘイムダル・ガッツォークリア後〜科学大迫力研究所クリア前
[備考]:
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーはスカイアーマーに改修されました。が、トカ製な為妙なアレンジが施されていたり、いきなり調子が悪くなったりするかもしれません。


【焼きそばパン@現地調達】
アシュレーとゴゴの手による手作りパン。
コッペパンに、スパゲッティをアレンジした焼きそばが挟まれている。


---------
以上で投下を終わります。
ご意見ご感想など、ありましたらお寄せください。
104創る名無しに見る名無し:2010/05/29(土) 18:24:11 ID:FtIZD8bH
投下乙!
うわ、こういう話すげえ好きだな
ここでパン屋なアシュレーを持ってくるか、やられたぜ
ナナミのケーキとか、ビッキーのご馳走とか今までの話からもってくるとこが卑怯すぎて泣いた
ゴゴ、お前は泣いてもいい、泣いてもいいんだ!
105創る名無しに見る名無し:2010/05/29(土) 21:05:15 ID:53E0qsFq
◆iDqvc5TpTI氏投下乙!
期待通りの乱戦で、誰が散るかドキドキしながら読み進めたぜ。
まさかの死者ゼロだが、まだまだ油断できないね。
魔王対魔王の魔力のぶつかり合いは描写の丁寧さもあって鳥肌モノだった。
ストレイボウの空回りっぷりに拍車がかかってるが、ARMSの連中、とりわけマリアベルのおかげで少しは持ち直せるか…な?
そしてジョウイが対主催にしか見えない件w
ここからが正念場、続きが気になるー。

こまかいですが指摘を。
>「随分と頼りになる仲間を連れてきたではないか、ジョウイ・アドレイ。
>「僕はジョウイ・アドレイと言います」

ジョウイ・アトレイドもしくはジョウイ・ブライトでは?

>「ストレイボウ、わららはおぬしにも礼を言おう」
わらわのミス?

◆MobiusZmZg氏投下乙!いらっしゃいませ今後ともよろしく。
雰囲気作りが上手い……!
パンを焼くシーンと食事風景は穏やかで優しさが漂ってた。
そしてビッキーを思うゴゴは、まぎれもなく『ゴゴ』であり、非常に綺麗な掘り下げだった。
アシュレーを真似る物真似師ゴゴも、悲しみに浸る『ゴゴ』も最高に魅力的に描かれてる。
二人の魔法少女が焼きそばパンを頬張る姿を思わず幻視してしまい、切なくなりました。
106創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 03:41:52 ID:d1hqKfje
投下乙!
読み込みすっげえw 過去の話を大切にしてるのが分かって嬉しくなった。
ビッキーやナナミのことも、温かい料理を軸に死んだやつらが思い返されるってのは切ない。
もうゴゴがね、とんでもなくいいキャラに育ってる。参加者で一番人間らしいんじゃねw
そして何気に空気を読むトカ。前話じゃ首輪解除に貢献したりと、どうしたんだお前?w
同じ時刻にあんな地獄のような乱戦が行われているとは思えないほどしっとりした話、GJ!!!
107 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 07:59:03 ID:viAprOQU
投下します。
108創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 07:59:46 ID:DLPF5Trl
しえんぬ
109暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 07:59:53 ID:viAprOQU



「誰かのために強くなれ」

そんな言葉はあるけれど。

誰かというのは自分にとって他人でしかない。

「人のために強くなれ」

そう置き換える事だってできる。

誰かのため、人のため、あの人のため。



ねえ。



本当にそれが「人」の「為」だと思ってる?


110創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:00:11 ID:lW4p1oBA
111創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:01:08 ID:DLPF5Trl
    
112創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:01:33 ID:lW4p1oBA
113暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:01:55 ID:viAprOQU
ジャファルはヘクトルよりも圧倒的に早く動くことができる。ヘクトルが着ている鎧の分を差し引いても俊敏性はジャファルの方が遥かに上だ。
ヘクトルはジャファルよりも圧倒的に力を持っている。「四牙」の一員であるライナスに勝るとも劣らないその怪力は、ジャファルの腕力を優に上回る。
互いが互いの弱点を突くことができ、互いが互いを苦手としている。
先に隙を見せたほうが負ける。今始まった両者の戦いはそういうものだ。

ヘクトルが駆け出したのと同時に、ジャファルの姿は闇に紛れた。
普段のジャファルならそのまま攻撃へと転じるのだが、今回は問題がある。
シンシアのように戦いに慣れていないズブの素人が相手という訳ではない。
あのエドガーや、座礁船で戦った軍人の女のように戦場を切り抜けてきた猛者が相手だ。
攻撃する隙を作るための攻撃、所謂ブラフやハッタリをかけたところで何の意味もないだろう。
更に相手は日々の鍛錬を欠かさず行う戦士だ。
怒り狂った今の「奴」が多少の傷をつけた所で怯むわけもない。
寧ろ攻撃した瞬間のこちらの姿を捉えて来るかもしれない。
一度、体を掴まれでもすればそこで終わりだ。あの手に携えた斧の餌食になるのが見えている。
今持っている短剣は両方とも不思議な力を持ったものだ。
片方は死を招き、片方は相手の影を縫って動きを止めることができる。
しかし、それは確実に起こる事象ではない。それを頼りに戦術を組み立てるのはあまりにも危険すぎる。

現時点で信じられるのは己の力、経験、技術。それだけでいい、今までとなんら変わりはない。
それだけで確実に相手の息の根を止める、最低でも意識を刈り取る一撃を叩き込む。
ただ、それだけ。

「野郎、どこに消えやがった!」
ヘクトルが駆け出したと同時に、ジャファルの姿はヘクトルの視界から消えた。
「ヘクトル!」
「来るなリン! あいつは、ジャファルは俺がぶっ飛ばす!」
マーニ・カティを構えたリンが助太刀に向かおうとするが、ヘクトルはそれを止める。
全身に裂傷、特に背中には大きな刺し傷を抱えた上に左目は見えない今のリンが加勢に回ったところで戦力としてプラスが見込めるとは思えない。
援軍に回ったところでジャファルの動きに対応することができずにやられてしまうのがオチだ。
「……どこに隠れてやがる、クソッ!!」
ジャファルがさっきまで立っていた場所にたどり着いたヘクトルは、倒すべき相手が見つからないことに苛立っている。
「フロリーナを殺した」というのを聞いて彼が冷静で居られるはずもない。
しかし、暗殺者相手に冷静さを欠くというのは自殺行為に等しい。
どこかにいるジャファルはヘクトルが斧を振り切った後のスキを狙っているに違いない。

しかし、当のヘクトルはそんなことを気にする筈もなく。
ただひたすらに斧を振るい、手当たり次第に辺りの木を薙ぎ倒している。
大きく倒れた木は葉を撒き散らし、葉が受け止めていた水滴が霧のように降りかかる。
だが、幾ら木を斬ってもジャファルの姿は見当たらない、そのことが更にヘクトルの苛立ちを加速させる。
それでも、彼は木を切り続けた。どこかにジャファルが隠れていると信じて。
114暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:02:43 ID:viAprOQU
リンはまず、ニノを起こすことを試みた。
軽く頬を叩いても、リアクションすら起こさない。
気絶させるためにジャファルは少し強めに殴ったのだろうか?
無理の無い範囲での手段を全て試したが、今のリンではニノを起こすことはできなかった。

次に、リンは自分の中で生まれている違和感の正体を探っていた。
最初ジャファルが立っていた位置から飛び移ったとしても、考えられる周囲の木は全て薙ぎ倒されている。
なのにジャファルの姿は見えない。仮に薙ぎ倒される直前に他の木に飛び移っていたとしたらヘクトルも気がついているはずだ。
ひょっとするとヘクトルが疲労しきるのを待っているのではないか?
万全な状態のヘクトルと疲労しきったヘクトル。どちらが容易に殺しやすいかは考えるまでもない。
「フロリーナを殺した」というヘクトルを挑発するのにこれ以上最適なセリフはない。
そうして激昂させておいて手当たり次第に暴れさせる。
暴れきって疲れた所を襲えば幾らヘクトルとはいえ対応できないだろう。
木を切っている限りは、ジャファルは一生現れない。
どこかでその身を隠しているジャファルを見つけない限り、二人とも殺されてしまうかもしれない。

ジャファルの場所を探るヒントといえば、先ほどの襲撃ぐらいだ。
真昼間の道の上だというのにジャファルは彼女の前から簡単に姿を消して見せた。
そして現れては消え、現れては消えを繰り返したのだ。

彼女は思い出す、左目が見えなくなった直後の光景を。
影、ジャファルはどういう理由か壁へと向かい、襲撃の際は壁の方から現れていた。
そして襲われるときにその姿を目視出来たという事は、姿を消したままヘクトルに襲い掛かることはできないということだ。

壁に向かっていたということは何か背もたれがなければ隠れることができない、ということではないだろうか?
壁に向かっていたかどうかは定かではないが、今はそれに賭けるしかない。

ヘクトルは相変わらず木々を薙ぎ倒している。
もし、木に寄りかかって隠れているのだとすれば既にジャファルはその身を表している筈だ。
つまり、木には隠れていない。ということは後は地面しかない。
木を切り続けるヘクトルの代わりに冷静で居られるのは、自分しか居ない。
何とかして彼の代わりにジャファルの姿を見つけ出さねばならない。
何か、何かないのか? と、彼女は自分のデイパックを漁り始めた。

現れたのは、一本の槍。しかし、ただの槍ではない。
炎の精霊の力をその身に宿した三叉槍、フレイムトライデントだ。
それを片手に取り、彼女は駆け出した。

向かうは、ジャファルが立っていた場所。
115創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:02:45 ID:lW4p1oBA
116創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:03:07 ID:DLPF5Trl
しえん
117創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:03:48 ID:lW4p1oBA
118暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:04:33 ID:viAprOQU
「リン! こっちに来るなって言っただろ!」
自分の近くに現れたリンに対し、怒りをぶつけるヘクトル。
「お前だってアイツの標的だ! 早く下がってろ!」
ヘクトルの言葉は、リンへと届かない。
流石にヘクトルも木を斬る手を止め、リンのいる方へと向かう。
重傷のリンをジャファルが狙いに行くのは目に見えていたからだ。

言葉をかけられてもリンは動かない。
そしてゆっくりと槍を携え、ある人物の行動をイメージする。
彼女の頭の中には槍を扱う重戦士、ワレスの姿が浮かんでいた。
彼が槍を扱うときの腕の動き、持つ場所、力のかけ方、思い出せる限りのことを思い出す。
時に自分をかばうかのように前線に立ち、鬼神のごとく槍を振るった彼の姿を思い出す。
そのワレスの動きを真似るように、リンは槍を振るう。
槍の持ち方、力を込める場所、腕の動き、体重移動。
思い出せる限りの知識を詰め込みながら槍を振るった。
立て続けに振られる槍からは絶え間なく炎が飛び出る。
降り注ぐ雨にも負けない勢いで炎は辺りの草を燃やしてゆく。
そして草から草へと、草から木へと移り、まるで、嘗てこの槍を扱っていた一人の少年のように炎は勢いを増して行く。

リンの辺り一面が炎で包まれ始めたときだった。
不自然に盛り上がった場所で燃え上がる炎があった。
周りを見てもさっきまでそこには草しかなかった。
リンは静かにその盛り上がった場所へと、再び槍を振るおうとしたそのときだった。
炎が舞い上がり、一つの影が彼女へと襲いかかった。
影は真っ直ぐとリンの元へと向かい、その首を狙わんとしている。
勿論リンもその事に気がついてはいたが、今手に持っているのは不慣れな槍だ。
持っているのが剣ならまだしも、槍で突然の敵襲に応対が出来るわけもない。
せめて一矢報いようと、もう一度槍を構えたとき。
もう一つの影が彼女の目の前に現れ、影の襲撃を弾いた。
そして立て続けに豪快に斧を振るうが、それは空を切っただけで終わってしまう。
燃え盛る炎の中、リンの元へと突っ走って来ていたヘクトルはリンの方へと向きなおる。
「リン、でかしたな。後は俺がやる、ニノの所へ下がってろ」
「でもヘクトル!」
「うるせえ! 奴だけは俺がぶっ殺す!」
即座に後ろへ飛び退いたジャファルが体勢を整え、ヘクトルのほうを睨んでいる。
戦闘において今のリンは足手まといにしかならない。
そのことはヘクトルも分かっているし、リン自身が一番分かっている。
だから、リンはその要求を呑むしかできなかった。
「必ず生きて帰ってきて、約束よ」
背中越しに親指をつきたて、ヘクトルは了承のポーズを取る。
それを見たリンは一直線に炎の中へと消えていった。
そしてヘクトルはジャファルへとゆっくり斧を突きつける。
「やっと出てきたな、クソ野郎。
 隠れでもしないと俺に勝てないのか?」
ジャファルは微動だにせず、短剣を構えたままヘクトルを睨み続けている。
「……甘いなオスティア候」
「何?」
ジャファルの呟きに、ヘクトルは顔をしかめる。
「勝つために手段を選んでいる内は甘いと言っている」
「てめェのようになるぐらいなら甘ちゃんで結構だ」
お前のようにはなりたくない。とも取れるヘクトルの言葉を聞き、今度はジャファルが眉をしかめる。
「言いたいことはそれだけか?」
立て続けにヘクトルがジャファルへと質問を投げかける。
眼はしっかりとジャファルを見据えたまま、ヘクトルは再び斧を構える。
ジャファルも短剣を構えたまま、その眼をヘクトルから動かすことはなかった。
そして、ジャファルの一言によって戦いの火蓋が再び落ちる。

「来いよ」

影が、動く。
119創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:04:38 ID:lW4p1oBA
120創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:05:24 ID:lW4p1oBA
121創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:06:57 ID:DLPF5Trl
122暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:07:12 ID:viAprOQU



天に放り投げたダイスの目を見、立て続けに流れてきた放送を聴いた。
放送が伝えたのはマッシュ、そしてケフカの死。
セッツァーにとって禁止エリアよりも有用な情報だ。
マッシュはエドガーのような統率を取ることも無いし、首輪を解除する知識も無い。
だが自分が夢を追い続ける限り、彼は大きな壁となる存在だった。
彼と正面切って戦うとなると、正直言って勝てる自信は無い。
エドガー同様、旧知の仲を利用しての不意打ちが通用するとも思えない。
そんな彼が死んだ、セッツァーにとっては僥倖であった。
それだけではない、ケフカまでが命を落としているのだ。
ただでさえ危険であり、遭遇すれば高確率で命を落とすであろう存在。
こちらはセッツァーが夢を追っていようがいまいがいずれぶつかる存在だっただろう。
あたり構わず暴れて、この殺し合いを止めようとしている連中に殺されたといった所だろう。
出来るだけ数を減らしてくれていたなら更に良い事なのだが。
ともかく、こうして残る知人はシャドウのみとなった。
セッツァーが夢を追い求める上での最期の障壁は彼となった。
シャドウならこの殺し合いに躊躇なく乗っているだろう。
そもそも彼の本業はアサシン、そういった環境で生き抜いていくにはもっともふさわしい人間とも呼べる。
理由がなんであれ、彼が乗っているとすればいつ襲ってくるかは分からない。
シャドウにとって距離は障壁ではない。物を投げれば間に合うのだから。
しかもその投擲の正確性も尋常ではない。ケフカに勝らずとも劣らないほど危険な存在だ。
こうして歩いているうちにも、横から何かで貫かれてしまうのかもしれない。

「さて、賭けに勝つのはどっちだろうな」
さっき宙に投げた賽の目を思い出す。
それが自分のことを指しているのならば……?



その時、セッツァーは見た。



「……こりゃあ、どういうことだ」
遠くで雨にも負けずに燃え上がり、木々を焦がす炎の姿を。
「あそこで戦闘が起きてるのか……?」
目を凝らして炎が立っている場所を見てみるが、降りしきる雨がが視界を遮っているため上手く見渡せない。
誰が戦闘を行っているのか、一対一なのか、人が入り乱れる乱戦なのか。
最低限の情報すらつかむことさえ出来ない。

そんな中炎の中に身を投げ込むのは得策ではない。
分が悪い上に配当の倍率も低すぎる。分が悪い賭けなら分が悪いだけの配当が必要だ。
セッツァーは火中へと飛び込むことなく、雷の方へと進んでいった。

雨に打たれながら進んだ先でセッツァーが見たのは、雨に打たれながら倒れている一人の少女。
少女に近づいて息を確かめてみると、弱弱しい脈を感じることが出来た。

彼女は一体何をしているのか?
こんな雨の中で休息を取っているとは考えにくい。
そもそも火事が起こるような戦闘が傍で起きているのに睡眠をとるとは考えられない。
もし、寝ているとすればよっぽどの自信家かドがいくらついても足りない馬鹿だろう。
彼女の倒れていた姿勢、そばで起きている火事、降り注ぐ雨。
それぞれを組み合わせると答えは「誰かに気絶させられた」という結論が一番強くなる。
では、今度はなぜここで気絶しているのか?
戦闘で気絶しているなら火事の中に居るはずだ。
火事から少し外れたここで気絶しているということは、戦闘で気絶したわけではない。
思い切り吹き飛ばされてここまで飛んできたというのも考えられるが、それにしては外傷が見当たらない。
となると……?
123暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:08:19 ID:viAprOQU

「あなた、何してるの?!」

思考はそこで中断される。
声のした方へと振り向くと、一人の女性が剣を構えながらこちらを睨んでいる。
自分が怪しい行動を取れば、すぐにでも斬りかかりに行ける姿勢のまま彼女は動かない。
「……女の子が道で倒れてるんだ、助けるのが道理だろう?」
目線を女性からずらすことなく、セッツァーはゆっくりと槍を落とす。
武器を捨てるということは、戦意がない事を示す最良の手段。
両手を頭に乗せ、ゆっくりとその場で膝を突く。
「女の子は倒れてるし、火事は起こってるし、アンタは傷だらけだ。
 教えてくれないか、ここで何が起こってる?」
情報、今のセッツァーにはそれが一番必要だった。
何を賭けるにしても情報はあるに越したことは無い。
後で取捨選択をすればいいだけなのだから。
「……念のため聞くわ。貴方は殺し合いに乗ってるの?」
「その答えはノーだね」
警戒を解いてくれない女性に対し、セッツァーはひたすら下に出る。
ここで戦ってもいいのだが、楽に勝てる相手ではないとセッツァーは読む。
魔法で先手を取ったとしても、奥で戦闘をしている人間に気づかれかねない。
今をしのぐことが出来ても、後で面倒なことになるのは避けておきたい。
とにかく、彼女の信頼を得る事が何よりも最優先。
「……分かったわ、ひとまずあなたを信用してみることにするわ」
剣が納められていく様子を見て、セッツァーは一息つく。
そして、同時に女性はセッツァーの方へと倒れこんできたのだ。
ツイている。セッツァーは心の中でそう確信する。
「おいおい、大丈夫か?!」
回復魔法を当てながら女性をゆっくりと起こしに行く。
そこでセッツァーは、彼女が怪我していたのは左目だけでは無かったことに気がつく。
先ほどは見えなかった細かい傷や、背中の大きな傷に思わず息を呑む。
「私はいいから……ヘクトルを……助け、て!」
ヘクトルの名を聞きセッツァーは再び確信する。
本当に今の自分はツイている、と。
「まあ、ちょっと待てよ。今何が起こってるのかぐらい教えてくれよ」
そしてセッツァーはエドガーのようにキザったらしくウィンクしながら、リンへと手を差し伸べる。
「それと、まずは治療だろ? その怪我じゃあ何も出来ないぜ。
 あんたをほっといてヘクトルを助けに行ったとしても、あんたが死ぬんじゃ意味がねえだろ?」
124創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:08:24 ID:DLPF5Trl
             
125創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:08:31 ID:lW4p1oBA
126創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:09:56 ID:lW4p1oBA
 
127創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:10:58 ID:DLPF5Trl
しえんぬんぬん
128暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:11:51 ID:viAprOQU
回復魔法を当てながらセッツァーは傷だらけの女性、リンから今の状況を掻い摘んで聞く。
火事の中で戦っているのはヘクトルとヘクトルの嘗ての仲間、ジャファルというアサシンだということ。
ジャファルがヘクトルの愛人を手にかけたこと。リンもジャファルに襲われたこと。
そのジャファルは傍で寝ている少女、ニノのためにこの殺し合いに乗ったということ。
セッツァーが今の状況を知るのに必要な情報を聞き出し終えた頃には、リンの治療も終わっていた。
「杖無しで回復魔法が出来るなんて……すごいわ、ありがとう。」
「どういたしまし……おい、どこに行くんだよ」
治療が終わり、ある程度傷が塞がったのを確認してリンは立ち上がる。
そしてそそくさとやってきた方向へと戻ろうとしていた。
「決まってるわ、ヘクトルを助けに行くのよ」
もちろん、セッツァーは黙ってはいない。
ヘクトルの元へと戻ろうとする彼女を引きとめようとする。
「おいおい、俺は回復魔法のエキスパートじゃない。
 あんたの傷は完璧に治ってるわけじゃないんだ、背中の傷がまた開くかもしれないんだぞ?
 その状況で加勢に行くなんて危険すぎる」
セッツァーの指摘は正しかった。
正直、リン自身も万全の状態と呼べる状態ではない。
体力も完全に戻ったわけでもない、戦力としては微妙だ。
それは分かっている、分かっていたとしても。
「でも、それでも私は行かなきゃいけないの。
 ヘクトルだって万全の状況で闘ってるわけじゃない。傷を負いながらジャファルと闘ってる。
 あたしが……ここでじっと見てるわけにはいかないの!」
前に進まなければいけない。それだけの理由がリンにはある。
自身の体に鞭を打ち、槍を振るったことで限界に来ていた自分の体がもう一度動くようになった。
動けるならば、やることがある。やることがある内は止まっていられないのだ。
そんなリンの様子を見て、頭を抱えながらセッツァーは呟く。
「分かったよ……ニノは俺に任せて、さっさとケリつけて来い」
そして立ち去らんとするリンへ、セッツァーはあるものを投げてよこす。
左目が見えないながらもしっかりと距離感を掴み、投げられたそれをリンはしっかりキャッチする。
「持ってけ、アンタには必要だ」
セッツァーから手渡されたのは、スミレ色の糸で何重にも編みこまれた首飾り。
ピサロが回収したものの、説明書にも目を通さず死蔵していたものだ。
先ほどの物々交換のときにセッツァーは欠かさずに手に入れていたのだ。
受け取った首飾りを身につけると、リンは普段より自分の動きが軽くなっていることに気がつく。
「急ぐだろ? だったらそれをつけてけ。
 ああ、そうだ。ナイフ、それかカードの類を持ってないか?
 ……万が一、ここに戻って来るのがジャファルだったら戦わなくちゃいけない。
 戦いは得意じゃないとは言え、できるだけ慣れた物を使いたいからな」
首飾りを提供するのは勿論、セッツァーに得があるからだ。
ヘクトルやトッシュと同じパターンで相手の信頼を得て、こちらの出したもの以上のリターンを得る。
相手の正義感が強いほどこの手は通用しやすい。

そもそも、セッツァーとしては黙ってリンを見送っても良かったのだ。
それを一度引き止めたのは、セッツァーにとって得が生まれると踏んだから。
情報を引き出すためにかけた回復魔法で相手の信頼を得ることは出来た。
ならば、ここでもう一つ「物」を彼女にベットする。
そして、リターンとして帰ってきた物は一束のカードと一本のナイフ、そしてニノである。
まず得意の武器を手に入れたことは大きい。戦闘をせざるを得ないときにも闘いやすくなる。
もし、ジャファルと刃を交える事になったとしても、ニノという存在が手元にあれば主導権を握ることが出来る。
リンを見送った後、どうしても我慢しきれずにセッツァーは笑ってしまう。

「デスイリュージョン……」
渡されたカードの束に記された文字を読む。
そして、もう一度セッツァーは笑う。
「死の幻術士、っていうのも悪くないな」
そう言いながら、足元の少女へと視線を移す。
彼女がどうなるか? それは今後次第の話だ。
もし彼女が起きたとしても、セッツァーには「情報」という手札がある。

それをどう使うかは、彼次第だ。
129創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:12:13 ID:lW4p1oBA
 
130暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:12:44 ID:viAprOQU



刃と刃。
力と力。
技と技。
夢と夢。
意地と意地。

互いのありとあらゆるものをぶつけ合いながら、ジャファルとヘクトルは戦っていた。
共に、致命傷を受けることなく、決定的な一撃を叩き込むことなく。
リンが離れてからずっと、拮抗した戦いが続いていた。
二人とも平静を装ってはいるものの、戦いが始まる前に比べ疲労しているのは隠し切れない。
特にヘクトルはケフカとの戦いのダメージがまだ深く残っている。
フロリーナを殺されたことに対する怒りのみで地に立っているようなものだ。
ジャファルもシンシアに治療されたとはいえ、アズリアから受けたダメージは無視できるものではない。
彼もまた、ニノを思う気持ちで地に立っているようなものだ。
本来ならば、両者共にいつ倒れてもおかしくない状況である。

再びジャファルがヘクトルの首をめがけて駆け出す。
地を蹴り、その一瞬の加速で得た速度を殺すことなく、標的の首へと向かう。
そのまま手に持った短剣で首を切ろうと試みるが、上手くいかない。
一度で上手くいくなら初手ですべてが決まっているはずなのだ。
ヘクトルもジャファルの狙いは読めている。
体を鎧で覆っている以上、一撃で相手を沈めるには首を狙うしかない。
となれば、ジャファルの姿が消えてから斧を振るえばいい場所は一箇所だ。
自分の首の辺りへ斧をなぎ払えばいい。首を狙ってくるのだからそこへ攻撃を叩き込めば何かしらのリアクションが望めるはずだ。
ジャファルの動きを目で追う必要はない。ジャファルが来るであろう場所へ目にも留まらぬ速度で斧を振り切ればいいのだから。
しかし、ジャファルもそう簡単に斬られてくれるわけもなく。ヘクトルが斧を振ったと同時に自身の速度を殺し、当たるスレスレで避けているのだ。
その後の隙だらけの体に攻撃を叩き込めればいいのだが、ヘクトルはそういう連撃を得意としない。
一方ジャファルはそこでもう一度攻撃に転じることが出来るが、それは致命傷にはならない。
その上、攻撃の瞬間というのは自身が無防備になる。足の皮一枚削っただけで斧を叩き込まれては、どうしようもない。
だから、彼はその場からの逃走を計るのだ。
そうして瞬時にまた距離を広げられ、振出へと戻る。

分かっているのに、あと少しが届かない。
雨で弱まってきているとはいえ、炎に囲まれながら戦う両者の体力の消費は尋常ではない。
そして同じパターンの行動を繰り返すうちに、焦る気持ちが両者の中でどんどんと膨らんで行った。
焦る気持ちというのは些細な油断を招きかねない、判断力の低下にも繋がる。
そうなってくると、不利になるのは素早く動くことの出来ないヘクトルだ。
瞬時に判断する力、些細なことにも反応する力が無ければ、暗殺者の戦いにはついていくことはできない。
このままなら間違いなくやられる、とヘクトルは判断する。
まだそういう判断力が残っているうちに、決着をつけるしかない。

何度目か分からないが、再びジャファルが地面を蹴って加速する。
彼の狙いは一点集中。鎧に囲まれていない首元。狙う場所はそこしかありえない。
ならば、ジャファルの位置から自分の首元までの道のりを推測するのは容易い。
推測を立て、ただヘクトルはしのときが来るのを待つ。
ジャファルからすれば、動かなくなったヘクトルは「ついに観念した」とも取れるだろう。
ヘクトルの視界に自らを刈り取らんとする短剣が映りこんだとき。
131暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:13:26 ID:viAprOQU



ヘクトルは、短剣に向かって真っ直ぐに左手を伸ばしたのだ。



流石にジャファルも驚愕の色を隠せなかった。
ヘクトルの逞しい左腕に、ジャファルの短剣が奥深くまで刺さり込んで行く。
肉がちぎれ、血が噴出し、激痛がヘクトルを襲うがそれに構っている暇は無い。
ジャファルの姿が見えているうちに、ヘクトルは傷ついた左手でジャファルの右腕をしっかりと掴んだ。
恐ろしい腕力がジャファルの右手にかかり、簡単に手首の骨を砕いてしまう。
「捕まえたぜ、ジャファル」
そのままヘクトルは自分の右腕をジャファルの右腕に添え、ありったけの力を込めてジャファルを自らの後ろへ叩き付けた。
受身を取ることも叶わず、背中を大きく強打したジャファルが込み上げてくる血を吐き出す。
すかさずヘクトルはジャファルの右腕を大きく捻り、骨を叩き折る。
そして起き上がるよりも先にヘクトルの全体重の乗った右足が、彼の腹部を強く押さえつける。
駄目押しの一撃に、ジャファルはもう一度血の塊と胃液を吐く。
痛みによるショックで体が言うことを聞かない内に、ヘクトルは更にジャファルの足を左足で踏みつける。
骨の砕ける音と共に血が滲み出し、ジャファルの表情が曇る。
ジャファルは空いた左手で短剣を持ち、抵抗を試みたが今更短剣一本が刺さったところで動じるヘクトルではない。
腹部を押さえつけるのを左足に替え、右足でジャファルの左手を踏みつける。
再び鳴り響く骨の砕ける音。ジャファルの顔が苦悶に満ちる。
そしてヘクトルは、右手で一度落とした斧を拾い上げる。
「今感じたてめえの痛みは、フロリーナが感じた痛みの一部だ」
ヘクトルはジャファルの首筋へ斧を当てる。
後少しでも動けば、ジャファルの首筋を掻っ切ることができる位置だ。
ヘクトルはそのまま語り続ける。
「全部かみ締めさせてから地獄に突き落としてやりてえところだが、そうもいかねえ。
 ここでてめえを殺せば、俺はお前と同じになっちまう。
 ニノからお前を奪うわけには、いかねーんだ」
ふと、斧に込められた力が弱くなる。
そして、ゆっくりとジャファルの首筋から斧が遠ざけられる。
「だから……二度と人殺しができないようにさせてもらった。
 一度は敵だったお前を信じてくれた俺たちを裏切ったこと。
 そして何よりニノを裏切ったことを悔いながら生きろ」
ヘクトルはジャファルの上から退き、ゆっくりと歩き出す。
「俺は、お前を殺さない。だから、生きて償えよ。
 生きて償いながら、ニノの傍にいてやれ」
本当は殺してやりたいぐらい憎い。
フロリーナの仇をとってやりたい。
しかし、それをしたところで今度はニノが自分と同じ思いをすることになる。
愛しい人を奪われた憎しみを、彼女が抱く必要は無い。
憎しみに駆られて復讐したとしても、何も生まない。
それをヘクトルは、分かっているのだ。
「ちょっとそこで寝てろ」
132創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:13:45 ID:lW4p1oBA
 
133暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:15:09 ID:viAprOQU



そう言って、ヘクトルはそのままその場を立ち去ろうとした。
が、思うように体が動かない。
思わず膝を付く、疲労感から来る機能障害にしてはおかしい。
そしてヘクトルはそのまま倒れ込んでしまった。
起き上がろうにしても、起き上がれない。
小指一本すら自分の言うことを聞かないのだ。
かろうじて動く顔を動かし、ジャファルのほうを向く。
そこには何食わぬ顔をして立っているジャファルが居た。
「やはり甘いな、オスティア候」
ジャファルが立っていられる理由は、彼がずっと隠し持っていた支給品にあった。
彼が隠し持っていたのはアンブロシア。
ありとあらゆる状況から、身体を正常な状況へと戻す秘薬。
いずれシンシアを裏切り、最後の一人にならなくてはいけなかった。
一人で戦うことになった時、誰も回復してくれる者は居ない。
その時にたった一度だけ、縋る事のできる命綱をずっと彼は隠し持っていたのだ。
かろうじて動く左手で支給品袋を漁り、服用したのだ。
「とどめを刺せない傲慢さが、お前に死を招いた」
そして、動けない理由。
ヘクトルに刺さった短剣、影縫いは相手の影を縫う短剣である。
刺さった直後のヘクトルはその影を縫う力さえ振り切らんばかりの勢いで行動していた。
しかし彼を動けなくさせて安心したのか、ヘクトルはそれに対抗するだけの力を失ってしまった。
そのまま、ヘクトルの体の自由は奪われてしまったのだ。
ジャファルが確実に迫ってくる様子が見える。
死への階段を一段ずつ、確実に登るような感覚だ。
一段、一段、一段とヘクトルは死へと近づいていく。
そして、ジャファルがついに自分の目の前にまで迫ってくる。
「死ね」
非常にもナイフは彼の顔面へと振り下ろされる。
ヘクトルはその時、死の階段を登り切ったと思った。

しかし、彼はまだ終わっていなかった。
彼にはまだ踏んでいない「十三段目」があったのだから。

舌打ちと共に、ジャファルはヘクトルから飛び退く。
ヘクトルを凶刃から救い、ジャファルの新たなる壁となる乱入者へ対応するために。
「ヘクトル! 大丈夫?!」
「馬鹿野郎! 何で戻ってきた!」
駆け寄ってきたリンに、ヘクトルは思わず罵倒の言葉をかけてしまう。
「じっとしてられないの、私も戦うわ」
「だけど、今のお前じゃ無理だ! 傷だらけのお前じゃあいつには勝てない!」
「……セッツァーさんに傷を少し癒してもらったわ。
 今の私の方が戦えるわよ? 少なくとも動けない貴方よりかは、ね」
ヘクトルはまだ何かを言おうとしていたが、今回はリンの方が正しい。
小指一本すら動かすことが出来ない今の状況ではリンの方が戦えるのだから。
今は見守ることしか出来ない。そんな状況にヘクトルは歯がゆさを感じずには居られなかった。
「ジャファル、私は貴方を絶対に許さない」
素早く振向き、ジャファル目掛けて剣を突きつける。
ジャファルはこちらを睨んだまま、動こうとはしなかった。
「絶対に!」
リンのその叫び声と共に、両者の姿は掻き消えた。
目で追うことすら許されない速度の剣戟。
音が立て続けに鳴り響き、風だけが流れている。
リンが剣を振るえばジャファルが受け止め。
ジャファルが短剣を振り下ろせば、リンが払う。
それを見ているヘクトルの感覚に入り込んでくるのは、刃と刃のぶつかる音だけだった。
視覚は、どちらか一人のの姿を捉えることすら叶わない。
無力感を噛み締めながら、ヘクトルはただ、ただ見つめていた。
134創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:15:34 ID:lW4p1oBA
 
135暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:15:57 ID:viAprOQU

突如、ヘクトルの視界に鮮血が舞う。

それと同時にリンが地面を転がる姿を見た。
背中にあった傷口が開いたらしく、再び背中から大量の血を流していた。
そこでヘクトルは思い出す。リンがセッツァーに治療してもらったと言っていたことを。
セッツァーは他人の傷が消えるまで完璧に癒すことは出来ない。
ブラッドを助けた時だって、火傷を少しマシにしただけだったのだ。
リンもそのことを知っていた。が、危惧していたことが起こってしまった。
背中の傷口が開き、痛みにより思わず姿勢を崩してしまう。
ほんの一瞬、リンに隙が生まれる。
しかし、暗殺者であるジャファルにとっては十分すぎる隙だった。
無防備に曝け出された腹部にジャファルの足が叩き込まれる。
「がっ……は!」
立て続けにリンの足へと短剣を突き刺して大きく動かす。
標的を一撃で殺すことが出来ない場合、まずは標的の動きを止める。
その上彼女の武器は俊敏性だ、要となる足を止めれば格段に戦闘力は落ちる。
足を狙うだけで、今回はジャファルに二重の得がある。
足の肉が引き裂かれていくのを感じ取り、そこから走る激痛に思わずリンは声を上げる。
「うっ、ぐ、ああああ!!」
ジャファルの手は止まらない。
リンの力が一瞬だけ弱まったのを見逃さずに、剣を蹴り上げる。
素早く足から短剣を引き抜き、肩の近くへと短剣を突き刺す。
足を踏みつけ、一気に腕を切裂く。
そして、事のついでといわんばかりに喉を引き裂く。
これ以上目立つ音を立てないためだ。第三者の乱入は戦局をややこしくする。
最後に駄目押しに彼女の体を一蹴する。
思わず見とれてしまうほどの美しい一連の動作。
これが、暗殺者の行う「仕事」なのだ。

振り返ってみると、先ほどヘクトルがやっていたのと、似通った手段だ。
ヘクトルは、そうやってリンが傷つけられていくのをただ見守ることしか出来なかった。
「もういい、やめろ! やめてくれ!!」
ヘクトルは叫ぶ。ありったけの声で叫ぶ。
すると、ジャファルはヘクトルの方を向いたのだ。
彼の足元に倒れているリンのことなど、どうでもいいかのように。
「オスティア候、俺はお前とは違う。
 お前は、さっきここで……ここで俺を見逃した」
今のリンの状況は先ほどまでのジャファルの状況。
そこで、ヘクトルはジャファルにとどめを刺さずに立ち去ろうとした。
その結果、ヘクトルは何も出来ずに見ていることしか出来ずにいる。
では、ジャファルならこれからどうするか? 考えなくても、ヘクトルには分かる。
リンがどうなるか? 考えなくても、ヘクトルには分かる。

ヘクトルは声を振り絞ろうとする。
ジャファルがうつ伏せに倒れているリンの背中の傷口を踏みつける。
リンは悲鳴を上げようとするが、血がゴボゴボと音を立てるだけに終わる。
ヘクトルは「やめろ」と声を出そうとする。
ジャファルの短剣がリンの首元を目掛けて振り下ろされていく。
リンは逃げようとするが、手にも足にも力が入らない。
ヘクトルの声は叫びへと変わろうとしている。
ジャファルの短剣が首元へと突き刺さる。
リンがヘクトルの方へと向き、口だけを動かす。
ヘクトルはその言葉を読み取った。
――ごめん。
その口の動きを認識し終えたとき。
リンの首は、宙へと舞っていた。

【リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣 死亡確認】
136創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:16:39 ID:DLPF5Trl
しえん
137創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:16:42 ID:lW4p1oBA
 
138暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:17:16 ID:viAprOQU
「……これが、生き残るべき者の取る手段だ」
ジャファルは、ヘクトルに向けて呟いた。
再びヘクトルの元へと向かうジャファル。今度は邪魔するものは居ない。
素早くヘクトルの元へと飛び移り、その命を狙おうとする。
ヘクトルはまだ動けない。どれだけ力を込めても体が動かなかった。
そしてもう一度、先ほどまで視界にあった階段がもう一度眼に映る。

ジャファルが一歩進むごとに、ヘクトルもその階段を一段ずつ登る。
目前にジャファルが迫ったとき、ゆっくりとヘクトルは目を閉じる。
リンが一足先に踏むことになってしまった「十三段目」は。
またしても、踏めなかった。
ゆっくりと目を開くと、横に大きく吹き飛んでいるジャファルの姿が映る。

そして、予想だにしない第三者の声を聞く。
「おい、ヘクトル。大丈夫か?」
本来、ここで聞くことなどありえない声の方へゆっくりと振向く。
そこに映ったのは、セッツァーとニノ。
「何でここに、って顔をしてるな。
 ……あのニノって子に連れてこられたんだよ、ヘクトルとリンの居る場所を教えてくれってな」
セッツァーはヘクトルの方へと駆け寄り、ニノは遠くへ吹き飛んだジャファルの方へと走る。
「で、いつまで寝てるつもりだ?」
「起き上がれるならとっくに起きてる」
セッツァーの問いへ対し、ヘクトルは思わず怒りが混じった声で答えてしまう。
「成る程な、じゃあ今から起きてみろよ」
そう言われ、ムキになって力を込めてみる。
すると、先ほどまでの硬直が嘘のようにすんなりと起き上がることが出来た。
「ストップの魔法がお前に掛かってた。ジャファルってやつがどうしてそれを使えたのかは分からないが、ともかくもう大丈夫だぜ」
ヘクトルの身に起きていたのは魔法の力によるものだった。
そして、それはセッツァーの良く知る魔法「ストップ」であった。
幸運にもセッツァーにはそれを解除する「デスペル」を習得していたのだ。
ともかく、動けるようになったところでヘクトルは次の疑問をセッツァーへと投げかける。
「っつーことは、さっきの魔法は……お前のか? セッツァー」
「まさか」
セッツァーは肩をすくめながら答える。
「あんな威力の魔法は俺には打てない。
 さっきの魔法はあの子、ニノって子がやったんだよ」
ニノが魔法をジャファルに向けて撃った。
俄かには信じがたい話だ。しかもさっきの魔法はヘクトルの知っている魔法の類ではなかった。
「そうだ、「私がジャファルを止める。絶対に止めてみせる。だからもしもの時のためにセッツァーさんはいつでも戦える準備をしておいて」……だそうだ」
立て続けにセッツァーが口を開く。
本当にニノがそんなことを言ったのか?
という疑問が浮かぶが、魔法を撃った事、一足先にジャファルの元へ大急ぎで駆けつけたことから本人が言ったのだろうと推測する。
「嫌な予感がする、最悪の上に最悪の塗りたくったようなことが起きそうな、そんな気がする」
いろいろ頭の中で思考を張り巡らせたが、そもそも深く考えるのは彼の柄ではない。
とにかく、ジャファルはニノ一人で相手できるような奴ではない。
もしもの時でなくても戦える準備をしておかなくてはいけないのだ。
「加勢するぞ、セッツァー」
「……わかったぜ」
セッツァーはヘクトルの後をついていく。
勿論、彼がヘクトルについていくのは考えがあってのことだ。
わざわざ戦闘をしにいくのも、それを超えるメリットがあるからこそ。
心の中で、セッツァーは笑う。

そして、ヘクトルはリンの遺体の方へ少しだけ振向く。
「悪いな、リン。後で弔ってやるからちょっと待っててくれ」
もう一度前を向き、セッツァーと共に足を前へと進める。
彼らを見送るのは、降り注ぐ雨と、弱まった炎。

「じゃあな」
もう振り返らない、その決意の印を言葉に込めて。
139創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:17:42 ID:lW4p1oBA
 
140暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:19:07 ID:viAprOQU
【C-7西側の橋より少し西 一日目 夜中直後】
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:全身打撲(小程度)、疲労(極大)、アルテマ、ミッシングによるダメージ、左腕に深い刺し傷
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドU
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、ビー玉@サモンナイト3、
     基本支給品一式×2(リーザ、ヘクトル)
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒す!
1:ニノの元へ向かい、ジャファルを倒す。
2:リン達やブラッドの仲間、セッツァーの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:つるっぱげを倒す。ケフカに再度遭遇したら話を聞きたい。
4:セッツァーを信用したいが……。
5:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)、シャドウ、マッシュ、セッツァーを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。

【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:絶好調、魔力消費(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドU、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)、
     シルバーカード@FE 烈火の剣、メンバーカード@FE 烈火の剣
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:ヘクトルと行動。
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレーと情報交換をしました。

※リンの遺体のすぐ傍にリンの支給品が放置されています。
 ヘクトルたちがニノの元へ向かった際に回収したかどうかは後続の書き手にお任せします。
リンの遺体の傍にあるアイテム:マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドU、拡声器(現実)
リンのデイパックにあるアイテム:毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストW 導かれし者たち、フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドU、天使ロティエル@サモンナイト3
※小規模の火事が起きていますが、そのうち鎮火します。
141創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:19:32 ID:lW4p1oBA
 
142暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:19:49 ID:viAprOQU



ジャファルは驚きを隠せなかった。

魔法を食らったことより、襲撃者の正体に驚きを隠すことが出来なかった。

「ねえ、ジャファル。教えてよ」
襲撃者、ニノはジャファルへと問う。
「さっきヘクトルを殺そうとしてたよね」
ジャファルは答えない。口を開こうとすらしない。
「じゃあさ、奥のほうで倒れてたリンも。ジャファルがやったの?」
ニノは立て続けに質問を投げかける。
「答えてよ」
ニノは、答えを求めた。
分かっている、セッツァーに全て聞いたのだから。
それでも、それでも彼女はジャファルの口からどうしても聞きたかった。
「答えてよって言ってるの!!」
だんまりを決め込むジャファルを前に、ニノは思わず声を荒げてしまう。
彼女の問いに答えを出す代わりに、ジャファルは飛び出した。
一瞬でニノに肉薄し、先ほどと同じように気絶させるための一撃を腹部に叩き込む。
気絶させるだけの攻撃だ、元々魔術師である彼女にそこまで力を入れて攻撃をする必要は無い。
それに、必要以上の力を込めて攻撃する必要も無いのだ。

だからだろうか? ニノは気絶することは無かった。
「メラ」
ジャファルに拳を打ち込まれ、苦悶の表情を少しだけ浮かべながらもニノは覚えたての魔法を唱える。
それと同時にジャファルから距離をとる。
普段のニノからは考えられない動きの俊敏さ、そしてタフさであった。
「そうやって、あたしをまた気絶させて。あたしが寝てる間に全部終わらせようと思ってるんでしょ?」
ジャファルは明らかに今のニノは身体能力がおかしいと違和感を感じていた。
まるで、何かの加護を受けたかのように。
「ねえ、なんで? 答えてよ」
そんなジャファルにニノは、休む間を与えずに疑問を投げかける。
「なんで殺さなきゃいけないの?! もう人は殺さないってあたしに約束してくれたよね?!
 あれは嘘だったの?! あたしを裏切るの?!」
あふれ出す感情は、言葉としてニノから飛び出る。
「人殺しの機械としてはもう生きることをやめたって、言ってくれたのに。
 あれも嘘だったんだね。信じたあたしがバカだった」
ニノの両目からは涙が、止まらない。
ぼろぼろと、ぼろぼろと、目から頬を伝って流れていく。
「……ニノ、聞いてくれ。俺は」
「「お前に生き残ってほしかった」……でしょ?」
ジャファルの言葉を先読みし、その言葉をそのまま返す。
言い当てられてしまったジャファルは再び黙り込んでしまう。
「あたしのために皆を殺して、あたしを生かせて帰したかった。そう言いたいんでしょ?」
その指摘は的確すぎて何も反論は出来ない。
反論できたとしても、ジャファルは反論しない。
143創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:20:33 ID:lW4p1oBA
 
144暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:20:52 ID:viAprOQU



「本当にそれがあたしのためだと思う?」



彼女にとって最大の疑問を、ニノはジャファルへと投げかける。
その言葉を聞いた瞬間、ジャファルの目が大きく見開かれる。
「皆を殺してあたしだけを元の世界に戻して、ジャファルも居ない皆もいない。
 傍に誰もいない世界に私を帰してあたしが本当に幸せだと思う?!」
再び、ニノは止まることなく言葉を吐き出す。
たまりにたまった感情の捌け口を見つけたかのように。
言葉に感情を込め、ジャファルへとぶつける。
「魔王は、願いを叶えてくれるって言ったよ。
 でもさ、生き返らせてくれたとしても。それがモルフだったらどうするの?
 何も喋らない! 感情も無い! ただの人形じゃ意味が無いよ!
 それに……もう、もう誰かがモルフになるのを見たくない!
 それがあたしの知ってる人ならもっと見たくない!!」
止まらない、止まらない、止まらない。
過去の経験が、再び繰り返されるような気がして。
それを防ぐために、ニノは止まらない。
「そんな世界をジャファルはあたしにくれるの? いらないよ、そんな世界。
 ……そもそも、あの魔王が願いを叶えてくれるっていう確証すらない!
 生き返らせてくれるなんて、これっぽっちも守るつもりが無いかもしれない!」
そこで、ニノは一度呼吸を落ち着ける。
涙混じりの声はだんだんとしゃがれていき、グズる赤子のような声へと変わっていた。
「あたしはさ……綺麗事かもしれないけど。もう人が死ぬところを見たくないよ。
 戦いは終わったんだよ? どうして殺しあう必要があるの?」
先ほどとは打って変わり、ニノはゆっくりと口を開く。
「命を懸けて守るって、ジャファルはあたしに言った。
 でも、こんなの望んでない。ジャファルがまたただの人殺しに戻っちゃうなんて。あたしはイヤだ!!」
かつて、ジャファルは「人殺しの暗殺者として生きたことを悔いる事」を条件にヘクトル達の仲間となった。
だが、ここに来てジャファルは再び人殺しへと舞い戻ってしまった。
ニノは、それだけはどうしてもイヤだった。
「戦わなきゃ生き残れないとしても、あたしはもうイヤだ。
 誰かが死ぬのも、殺されるのも、殺すのももう見たくない」
泣きながら、泣きながら彼女は言う。
ジャファルは動かない。いや、動けない。
ニノの吐き出す感情付きの言葉の一語一語に、突き刺さる何かを感じるから。
「でも、ジャファルは人殺しをやめないんだろうね。あたしが死んだら元も子もないし。あたしを生かすためにやってきたんでしょ?」
涙をムリヤリ拭き、ニノはもう一度ジャファルの方へと向き直る。
「セッツァーさんに聞いたよ、フロリーナも殺したんだって?」
当然、ジャファルは答えない。無言のままニノを見つめている。
「……あたしは許さない。人殺しとして生きるなら、あたしはジャファルを許さない」
ニノの目つきが鋭くなり、ジャファルを睨むように見る。
「だから、あたしがジャファルを止める」
そして、決意の現われの変わりにジャファルへと指を突きつける。
「ニノ、待ってく」
ようやく弁明をする気になったジャファルが口を開いたとたんに、彼の真横を衝撃波が通り過ぎる。
先ほどジャファルが食らったのと同じ魔法だ。
「あたしは本気だよ」
ニノの両目は揺るがない。
ただ、真っ直ぐにジャファルを見つめていた。
「あたしは……ジャファルが好きだよ。この世で一番ジャファルが好き。
 だから、あたしは好きな人にそんなことはしてほしくないから。だから……」
もう一度、決意の為にニノは言う。
145創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:21:18 ID:DLPF5Trl
   
146創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:22:02 ID:lW4p1oBA
 
147暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:22:40 ID:viAprOQU



「ここでジャファルを止める」



【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:怒り、なんらかの補助魔法。
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:どんな手段を使ってでもジャファルを止める。
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:マリアベルたちのところに戻りたい。
4:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバーは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
 現在所持しているのはゼーバーが確定しています。
※何らかの補助魔法が掛かっています。セッツァーの手によるものですが、なにがかけられているかは後続にお任せします。

【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、傷跡の痛み。
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドU、かくれみの@LIVEALIVE
[道具]:アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを……?
2:ヘクトルと銀髪はとりあえず後回し。
3:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
4:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦

※かくれみの@LIVE A LIVEは燃え尽きました。
148創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:22:57 ID:lW4p1oBA
 
149創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 08:23:10 ID:DLPF5Trl
                   
150暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:23:57 ID:viAprOQU
以上で投下終了です。
何か疑問点などあればお気軽にどうぞ。
151暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 08:27:00 ID:viAprOQU
すみません、リンの死亡表記の直後に
【残り24人】 が抜けておりました。
152暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn :2010/05/31(月) 09:48:56 ID:viAprOQU
あ、容量が分割しなければいけない容量となってしまっているので。
Wiki収録の際は>>130からを後編として収録をお願いします。
153創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 11:57:36 ID:OjRlNQf1
投下乙ッ!

駄目だ……状況がさらに悪くなってきた。
一度はジャファルが瀕死になって大丈夫かと思ったらチート回復アイテムで全快してリン死亡。
おまけにヘクトルも重傷でセッツァーが傍にいるしで安心できる要素がまったくねぇ……。
頼みの綱はニノだけか……寝てた分頑張ってほしいところだ。
154創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 02:52:16 ID:Pv6CLlOm
執筆お疲れ様でした。
叙情的で、どこか乾いた筆致のバトル……かっこいいなぁ。
森に咲いた炎といい、ヘクトルとの戦いから続いたリンの最期といい、
読んでるこっちの脳内でイメージが鮮やかに浮かんでくるのがすごかった。
バトルも楽しく読んだ上に、ニノvs.ジャファルのドリームカードをトスするところもニクいぜ。
FE勢を俯瞰出来る立場のセッツァーは、上手いこと立ち回りやがったなぁw
そしてリン、満身創痍の状態でよく頑張った。これを書ききった氏もGJだッ!
155創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 04:07:21 ID:pTA0Xr4Q
wiki編集してきましたが
◆KGveiz2cqBEn氏の『暴かれた世界』にて気になった点が二つ。

>※かくれみの@LIVE A LIVEは燃え尽きました。

と書いてあるが、ジャファルの状態表にはまだかくれみのが装備されている

>【C-7西側の橋より少し西 一日目 夜中直後】

時間は夜:18〜20時ではなく
     夜中:20〜22時でいいのか

以上が気になりましたが、wikiにはそのまま収録してます。
ご本人が修正されるか、難しければここかしたらばにご報告してください。
156 ◆KGveiz2cqBEn :2010/06/02(水) 21:30:28 ID:FUmzGpQD
指摘ありがとうございます。
両方とも当方のミスでございます、申し訳ございません。

前者は消し忘れ、後者に関しては投下の際の修正ミスです。
Wikiでは後者は夜として設定しておきます。
時間帯ページの方もこちらの方で修正しておきました。
157創る名無しに見る名無し:2010/06/03(木) 03:28:39 ID:h/GuuTYr
投下乙! リン……。
前までの引きで、「こいつ死ぬんじゃないか」って予想してたのはずなのに、SS読んでいるうちに結末を予想できなくなってしまった。
首が飛んだ瞬間に、思わず唸ってしまった。
やはりジャファル恐ろしや。参加者で一番研ぎ澄まされてるだろうから、こいつ相手に油断したら即アウトだもんな。
そして、相変わらずセッツァーが上手い。他のFF勢とは違って勝負に徹しているのは、また別のカッコよさがある。
ヘクトルは無念の死を遂げたリンの思いを果たせるのか。そしてニノ対ジャファルの行方は。超気になる、GJ!!!
158創る名無しに見る名無し:2010/06/06(日) 00:49:15 ID:rGrTWLo1
そういえばセリフ・死者投票ってやるんだっけ?
159創る名無しに見る名無し:2010/06/08(火) 02:09:04 ID:wTGhf6I2
おお、FE決戦完結なるか!?
予約が!
160創る名無しに見る名無し:2010/06/08(火) 03:52:32 ID:uwuQeEQq
こっちの戦いはあと一回か二回で終わりそうだな
もう一方の乱戦は何話かかるか予測もつかんが
161創る名無しに見る名無し:2010/06/10(木) 03:41:11 ID:I26MObTU
おのれ、魔王リアル事情!
というわけで◆SE氏はどうかお気になさらず
また今度を楽しみにしています
そして書き手諸氏へのWIKIのコメントがちゃっかり増えてたり
こういうのは何か読み手からしても嬉しい
162創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 12:18:34 ID:8dTLfCKF
おお、今度はもう片方の予約が!
163創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 21:48:39 ID:b7yRIauX
大混戦の方も来てたか
164創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 02:05:36 ID:P38n3LU5
また予約が!
好調ではないか、我がロワはー!
165創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 17:10:31 ID:HKolN1Rw
ここは一番どうなるか分からないパートだわ
166創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 22:06:35 ID:fNw67rZF
確かにこの組み合わせは…
167創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 20:05:40 ID:Nn+xtpdP
ついにきたあああああああ
楽しみすぎてやばい
168創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 15:23:28 ID:r9H1bkB8
投下はいつになるんだろうか
169創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 20:26:18 ID:hP3NgHOu
支給品一覧が大量更新されてる! 超乙だぜ。
170 ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 12:10:37 ID:sLyJ0qhh
今日の5時くらいに投下を行おうと思います。
だいたい25レス前後の予定なので、お暇な方いらっしゃれば支援を頂けると幸いです。
では、後ほど。
171創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 13:49:55 ID:Mp2oGf9k
来た! 待ってます!
支援も任せてください
172創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 14:33:46 ID:TQQUSg6L
おおおお待ってましたああああ
173 ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:00:14 ID:YzqwPrB/
さて、それでは投下していきます。
174創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:00:27 ID:iw2UmgrP
しえん
175創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:00:55 ID:B4dI0Rhx
当方に支援の用意あり!
176夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:02:02 ID:YzqwPrB/
 雨は降り止まない。
 更けていく夜を濡らす大粒の雫は、ひたすらに世界を冷やしていく。
 ざあざあと、ざあざあと。
 大声を上げて雨が降る。
 天が流す涙のような大雨に打たれ、人ならざる容貌をした騎士が飛び跳ねる。
 異形の騎士――カエルにとって、大雨は悪天候などではない。
 それを証明するように、カエルは人の身では容易に到達できない高さまで跳躍する。
 立ちはだかるブラッドとジョウイを飛び越えて上昇を終え、刹那の停止時間で虹色の刀を振りかぶった。
 降りそぼる雨と共に、降下する。
 虹の軌道の先、顔を顰めたのは夜の支配者マリアベル・アーミティッジだった。 
 緑の斬撃を見切り後ろに跳ぶ。
 直後、目の前に落ちてきた七色の刀は、マリアベルに傷一つ与えなかった。
 既に夜が訪れているのだ。ノーブルレッドを簡単に仕留められるはずがない。

「ロックゲイザーッ!」
 マリアベルが手を翳すと同時、地面が隆起を始める。ぬかるんだ土は硬質の牙となり、着地するカエルを貫くべく伸長する。
 雨音を押しのけて衝撃音が響く。
 着地の衝撃を足腰で吸収していたカエルが、刀を土の牙に叩きつけた音だった。
 牙は砕けない。
 されど、陽光を浴び続けた鉱石より生み出された業物もまた、折れはしない。
 土の牙とせめぎ合うカエルへと、長髪の巨体が詰め寄り拳を握り込む。
 スレイハイムの英雄ブラッド・エヴァンス。
 隆々とした体躯から繰り出される拳打は重く、直撃すれば馬鹿にできないダメージを受ける。
 直撃すれば、だ。
 ブラッドは、構えた拳を下げざるを得なくなる。
 尖った耳をした細身の男――魔王が、巨大な鍵をブラッドの側面へと突き込んできたからだ。
 攻撃のために握った腕を引き戻し、左右の腕を交差させる。
 ランドルフを受け止めたブラッドの脇を抜けるのは、回転する鎖が上げる暴虐的な鳴き声だ。
 鎖上に並ぶ細かい無数の刃が、雨粒を散らして斬り上げられる。
 別たれた始まりの紋章を両の手に宿す少年――ジョウイ・アトレイドの攻撃は、突如生じた激流によって阻まれる。
 激流を生んだのは、雨を全身に浴びたカエルだ。
 大雨の勢いを得て、激流がジョウイへと迫りくる。
 地面を削り土砂を飲み込み雨水を吸った水は津波に酷似していて、避け切れるような遅さではなくやり過ごせるような矮小さではない。
 このままでは押し流される。
 訪れる危機を直感し顔を顰め、左手を掲げようとしたジョウイの前で。

 雨粒が、凍りついた。
 中空に顕現した氷の粒は急激に気温を下げ、降り注ぐ雨を次々と凍らせていく。
 
「シルバー、フリーズ」

 魔法使いの囁きが、雨音を縫うように響いた。
 直後、激流の前に巨大な氷の結晶が形作られる。
 結晶はジョウイを守るように、水を押し留める。
 雨粒を用いて作られた間に合わせの氷壁が、津波に等しい水量に勝る道理はない。
 故に結晶はすぐに皹割れ押し負け砕け散り、水は流れを取り戻す。
 しかし、激流の先にジョウイの姿はない。
 脆い結晶が作り出した僅かな時間は、ジョウイにとって充分な時間だった。
「助かったよ、ありがとう」
 水から逃れたジョウイが告げると、魔法使い――ストレイボウは首を横に振る。
「礼を言うのは、俺の方だ」
 ストレイボウは横目でジョウイを伺うと、照れくさそうに笑んで告げる。
「俺を――俺なんかを、仲間だと言ってくれて、本当に嬉しかった。ありがとう」 
「ジョウイだけではないぞ」
 ブラッドがストレイボウの側に立っていた。
「こうして肩を並べ戦ってくれるのなら、わらわたちもお主の仲間じゃ」
 マリアベルがストレイボウの隣で微笑んでいた。
 その事実が、言葉が、ストレイボウの胸に沁み込んでいく。
 まるで、よく冷えた身を心地よい湯に浸らせた瞬間のように、じんわりと沁みわたっていく。
 ゆっくりと話をしている場合ではないと分かっている。こんなときに言うべきことではないのかもしれない。
177創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:02:14 ID:iw2UmgrP
しえんぬ
178創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:02:39 ID:B4dI0Rhx
 
179創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:03:11 ID:giHMEZsi
180創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:04:46 ID:B4dI0Rhx
 
181夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:05:29 ID:YzqwPrB/
 そう思いながらも。
 言わずにはいられなかった。
「ありがとう……」
 体は雨に打たれてびしょ濡れでも、心は毛布に包まれたように温かかったから。
「ありがとう……!」
 三人が、深く頷いてくれた。 
 雨脚は衰える様子を見せず夜を湿らせていく。広がっているのは、暗く冷たい現実だ。
 だとしても、だからこそ。
 なんとかカエルと向き合わなければならないと、ストレイボウは震えながらも思い直す。
 そんな彼の意識を汲み取ったように、ブラッドが、魔王とカエルを見据えたまま口を開いた。
 
「ジョウイ、ストレイボウ。尋ねたいことがある」
 その声を聞き逃さないよう、ストレイボウは耳をそばだてる。
 手短に告げられたのは、紅の暴君と呼ばれる魔剣を所持しているか否か。 
 ストレイボウが首を振る隣で、ジョウイが呟く。
「今は持っていませんが、心当たりなら――」
 だが彼の声は、
「――作戦会議はそこまでにして貰おうかッ!」
 雨の加護を受けた騎士の突貫によって、遮られた。
 密集していた四人が、散開する。
 ジョウイが右へ。
 マリアベルが左へ。
 ストレイボウが後ろへ。
 そしてブラッドが、前へ。
 
「持っていないのならば今は構わない! ジョウイ、ストレイボウ!
 お前たちは、向こうで戦っている俺たちの仲間の手助けに行ってくれッ!」
 
 カエルの剣を潜り抜け、迎撃するブラッド。その巨体を狙い、魔王が闇を炸裂させる。
 その炸裂を阻むのは、別の闇だった。
 レッドパワー、シャドウボルト。
 生じた闇は、炸裂する闇と食い合い侵食し合い飲み込み合い、相殺する。
 闇が消えた後に、カエルの姿はない。深追いせず、一度距離を置いていた。
「カエルたちの相手はブラッドとわらわが引き受ける、だから――」
「――止めさせてくれ」
 マリアベルの言に割り込んだのは、ストレイボウの一言だった。
 顔を上げ、マリアベルとブラッドに視線を向けた後、敵である騎士を真正面から見据え、魔法使いは続ける。
「カエルを、止めさせてくれ」
 濡れそぼった姿から、確固たる強さを持って放たれた声は、雨音にもかき消されることなく夜闇に伝播する。
「ぼくからも、お願いします」
 続けたのは、ジョウイだ。
「道を違えてしまっても目指すものが同じなら、確かな目的を抱いていられるなら、歩いて行ける。でも」
 ジョウイは目を細め、何かを確かめるように、左手を強く強く握りしめる。
「でも、目的地まで違えてしまったら、それはきっと、哀しいことだと思うから」
「……分かった。ならばジョウイ、お前だけでも頼めるか? 魔王とは因縁があるようだが……」
 気遣うようなブラッドに、ジョウイは首を縦に振る。
「構いません。あなた方にも、魔王を討つ理由がある。
 奴はルッカと――リルカの仇ですから」
「心得た、確かに心得たぞ。ジョウイよ、お主の無念、わらわたちが晴らそう。
 代わりと言っては何じゃが――」
 マリアベルが、肩越しに後方を見る。
 そこはもう一つの戦場であり、ジョウイが向かうべき場所だ。

「わらわの友を――アナスタシアを、守ってやってくれ」
 憂いと心配を帯びた眼差しの向こうでは、轟音と絶叫が響いている。
 覚悟を決めるように、ジョウイは湿った空気を深く吸い込んで、頷いた。
「……分かりました。皆さん、どうか、無事で」
「ジョウイ、死ぬなよ!」
 ストレイボウの激励に片手を上げて応え、ジョウイ・アトレイドは駆け出した。
182創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:05:34 ID:giHMEZsi
183創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:06:55 ID:giHMEZsi
184創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:06:58 ID:iw2UmgrP
しえんず
185夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:08:30 ID:YzqwPrB/
 ◆◆
 
 幾度目かの剣戟の音が、響く。
 振り下ろされた天空の剣を受け止めたのは、魔界の剣。
 かつては世界を救った者――ユーリルと、世界に呪詛を吐き続けてきた者――イスラがせめぎ合う。
「邪魔を、邪魔をするな――ッ!」
 絶叫するユーリルを前に、イスラは歯噛みする。
 馬鹿げた膂力から繰り出される攻撃は、まともに受けるには重すぎた。
 だからイスラは刃の角度を変え、一歩引く。 
 天空の剣に乗せられた力が持て余され、ユーリルがバランスを崩した。
 そこに、魔界の剣を突き込む。
 貫きの一撃はしかし、ユーリルを捉えない。
 ふわりと浮かびあがるようにして避けたユーリルは、着地と同時に再び疾走する。
 ユーリルの目が見ているのも行く先も、イスラではない。
 
「アナスタシア、アナスタシア、アナスタシアぁ――ッ!!」
 ゾッとするような咆哮を上げ、一途なまでにアナスタシアへと向かう。
 イスラは舌打ちをし、ぬかるんだ土を蹴りつけてその進路を阻む。
 立ちはだかると、ユーリルの顔にあからさまな嫌気が浮かぶ。
「なんでだよッ! なんで、なんで邪魔をするッ!?」
「色々あるんだよ。説明するのが億劫なくらいにね。個人的には、アナスタシアを守りたいわけじゃあないさ」
「だったらどけよッ! 殺させろよ――ッ!」
 泣きじゃくり駄々をこねる子供のように喚き散らし、剣が振るわれる。
 威力は高いが、感情の濁流に突き動かされた行動と攻撃パターンは単調で分かりやすい。
 故に、見切るのも阻むのも容易い。
 問題は。
 相手に退くつもりがなく、体力の限界を完全に突破し振り切っていることだった。
 このまま戦い続ければ、強引に押し切られる可能性が高い。
 アキラはピサロの足留めで手一杯になっているし、ブラッドたちがいつ戻ってくるかも分からない。
 更に加えるならば、守るべき対象のうちの一人――アナスタシア・ルン・ヴァレリアは、信用できない。 
 そう、アナスタシアよりもむしろ。
 分かりやすいだけ、共感できる点があるだけ、ユーリルの方が信用できる。
 
「キミの気持ちは分からなくはないよ。僕だって、アナスタシアは大嫌いだ。
 教えてはくれないか? アイツがキミに、どんな酷いことを言ったのか」
「うるさいッ! そんなことを言いながらアナスタシアの味方をするんだろ! 僕の邪魔をするんだろッ!!」
 ユーリルが、手を掲げた。
 応じるように、応えるように、雨雲の中で稲妻が猛る。 
「シンシアだって僕のことを分かってくれてなかった。ずっと一緒にいたのに。小さな頃から、ずっとずっと一緒にいたのにッ!
 必死になって救った世界だって、今は、僕に優しくしてはくれないッ!!」
 細長い稲光が、夜空を食い荒らして這いまわる。
「それなのに、お前が。アナスタシアを守ろうとしているお前なんかが」
 ユーリルの声が熱を増す。
 その無尽蔵な感情を原動力にしているかのように、雷光が夜を照らす。
「お前なんかがッ! 僕のことを分かってたまるか――ッ!!」 
 青白い光に照らされたユーリルの顔は、びしょ濡れでぐしゃぐしゃで震えていた。
 真っ黒な感情をこね回して作った土台の上で、真っ黒な感情を削り取った杖を握っていないと立てないほどに、ボロボロだった。
 そんな、憐れみを感じることすらできないほどに崩れ果てた少年を前にして、イスラは、得心する。
 
 ――はは、何言ってるんだ。分かるさ。だって、瓜二つじゃないか。

 ユーリルの手が、勢いよく振り下ろされる。
 その挙動を黙ってみていることしかできなかったのは、きっと。
 
 ――こいつは、この汚くて無様で醜い顔は。
 
 かつて呪いを怨み自分を恨み世界を憎んでいたイスラ・レヴィノスは、この場にいる誰よりも深く強く、ユーリルに共感してしまったから。
 
 ――他の誰でもない、この僕に、そっくりなんだよ。
186創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:08:40 ID:giHMEZsi
187創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:09:41 ID:iw2UmgrP
しえんも
188創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:10:03 ID:giHMEZsi
189夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:11:18 ID:YzqwPrB/
 
 手に取るように、分かる。
 こうなってしまった人間には、小手先の戯言も表面的な慰めも綺麗事の説得も届かない。
 深く暗くどす黒い感情の沼の奥底に届くのは。
 全てを知り、理解し、受け入れ、その上で道を正してくれる、痛みすら感じるほどに強く、優しい想いだ。
 それでも、分かったとしても。
 与える術を、イスラは持ち合わせていなかった。
 そんなイスラを、罰するかのように。
 
 雷撃が、天から降り注いだ。
 
 ◆◆
 
 頭が痛く息苦しく体が気だるい。
 雨に濡れた服は重みを増し、全身に纏わりついて体温を奪っていく。
 まるで、寝不足時に風邪を引いたかのような不快さに耐えながら、アキラは雨の向こうに意識を傾けていた。
 美しい容貌に憤怒を刻む魔王――ピサロが、濡れそぼった銀髪を振り乱し突っ込んでくる。
 雨粒が地面を叩く音と皮膚を伝い落ちていく水の感触と鼻孔をくすぐる湿っぽい香りを無視し、集中力を高めていく。
 疲労を訴える脳に鞭打ち、鮮明なイメージを描画する。
 ピサロが、速度を殺さず踏み込み斬撃のモーションに入った。
 刀が雨を切り裂いて迫るよりも、少しだけ早く。
 練り上げていたイメージを、アキラが解放する。
 アキラを中心として具現化したのは、四つの黒の球体だ。
 鎖のように連なった球体は低く唸り、ピサロの身を薙ぎ払う。
 シャドウイメージ。
 生み出された負の思念は、憎悪に突き動かされた魔を統べる者の命を縮めるには温すぎて、ピサロに大きなダメージは与えられない。
 それでも。
「く……ぅッ!」
 アキラから飛び退るように距離を取ると、ピサロは呻きたたらを踏んだ。
 相手は魔王なのだ。
 シャドウイメージで恐怖を見せつけ自、分を見失わせるほどの効果は望めない。
 だが、悲痛なまでの感情をむき出しにしたピサロの精神を揺さぶる程度の効果はあったようだった。
 
「鬱陶しい……真似を……ッ!」
 呟くピサロを前に、アキラは再度集中しイメージを作り上げた。
 出鼻を挫くべく放ったスリートイメージが、ピサロの進行を妨害する。
 冷静さを失している故に、アキラの精神攻撃がピサロの行動を確実に阻害する。
 だが、それは決定打には程遠い。
 アキラは水際でかく乱し続けているだけに過ぎず、敵を打破するだけの一撃を持ってはいなかった。
 じりじりと、相手の精神力を削っている手ごたえはある。
 同様に、アキラ自身の精神と肉体が疲労している実感も強かった。
 息が荒い。目も霞みそうになる。膝は今にも笑いそうだし、気を抜いたらすぐに意識が飛んでいきそうだ。
 油断すればあっという間に首を取られてしまうような強敵を前にした緊張感が。
 超能力を行使するために必要な、絶え間なく休みない集中が。
 アキラの精神を、確実に蝕みすり減らしていた。
 
 どれだけ阻み何度惑わしても、ピサロは倒れない。
 剣を握る手からも地を蹴る足からも憎しみに満ちた瞳からも、崩れる気配は微塵もない。
 安易に切り崩すことのできない鉄壁の砦を連想させるその姿と対峙して、アキラは奥歯を食い縛る。
 ピサロは強かった。
 彼が激昂せず冷静ならば、アキラの首はとうに手折られているだろう。
 絶望的なまでの力量の差を、実感せずにはいられない。
 だとしても。
 負けるつもりも挫けるつもりも諦めるつもりも、ない。
 アキラの胸には、刻まれている。
 刹那の時間共に戦った『英雄』の姿が、だ。
 彼女はボロボロになっても立ち上がった。
 彼女はその身が砕けても退かなかった。
 そんな彼女が――アイシャ・ベルナデットが眠るこの場所で、弱音を見せるわけにはいかないのだ。
 簡単に膝を付くようでは、アイシャと共に戦ったと誇ることができなくなる。
190創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:12:26 ID:B4dI0Rhx
 
191創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:13:09 ID:iw2UmgrP
しえんば
192創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:13:20 ID:B4dI0Rhx
 
193創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:14:05 ID:giHMEZsi
194創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:14:41 ID:B4dI0Rhx
 
195夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:15:16 ID:YzqwPrB/
 ひいては。
 アイシャの仲間として、相応しくないということになってしまうのだ。
 
 だから。
 だからこそ。
 アキラは、倒れない。
 どれだけ心をすり減らし精神を酷使し意識に鞭打っても。
 アキラは決して、倒れはしない。
 
「来いよ……!」
 意識を、研ぎ澄ます。
 あらゆる雑念を追い出し、抗う意志だけを練成しイメージを作り出す。
「俺がここにいる限り、アンタの好きにはさせねェッ!」

 咆えるアキラを、一瞥して。
 ピサロは、何度目かになる突撃を敢行する。
 迎撃のため具現化させたのは、ヘルイメージ。
 亡霊のような思念は闇の中飛び回り、ピサロを吹き飛ばすべく不規則な軌道を描く。
 
 ――その亡霊が、ことごとく打ち落とされた。
 
 中空に生じた破壊的な花火を思わせる広範囲の炸裂が、ヘルイメージを片っ端からぶち壊していく。

「喚くな、人間……」

 炸裂の下、距離を詰めたピサロが冷たい声で告げる。
 胸中に狂おしい憎悪を宿し冷静さを失っていても、ピサロという男は愚かではない。
 突撃しか能がない相手ではないと、理解はしていた。
 先ほど、暴虐の限りを尽くす漆黒の雷を見せつけられたのだから。
 分かっていたからこそ、アキラは、やるべきことと出来ることをやってきた。
 超能力をフルに行使し精神を追い詰め削り続け、魔法を使わせないよう集中力を乱させ続けた。
 それでも、やはり。
 魔王の称号は、伊達ではなかった。
 隙も素振りも見せず、走りながら炸裂の呪文を唱えたピサロは、ヘルイメージを完璧に迎撃しきって見せた。 
 
「五月蠅い屑が。ここで、殺す」

 薄く反り返った刀身が、雨と夜気を切り裂いて来る。
 すぐ近くでけたたましい雷鳴が鳴り響き、鼓膜をびりびりと振るわせた。
 その音は、まるで。
 死の呼び声のようだった。
 
 ◆◆
 
 勇者と呼ばれた少年が呼び寄せた、天から堕ちる雷が。
 魔王と呼ばれた青年が振り上げた、首を狩るべく刃が。
 憎しみのままに、イスラとアキラの命を奪い取る、その直前に。
 
 二色の輝きが爆発的な勢いで広がり、大雨が降りそぼる夜を照らし上げた。
 浴びただけで全身を切り刻まれそうな鋭さを感じさせる、破壊力に満ちた赤黒い輝きと。
 浴びただけで体力が湧きあがりそうな温かさを感じさせる、活力に溢れた碧緑の輝きだった。
 
 赤黒い輝きは刃のようにピサロへと迫り、彼の攻撃を阻害する。
 碧緑の輝きは盾のように雷の前に立ちはだかり、イスラを守り抜く。
 
 対称的な二色の中心に、一人の少年が佇んでいた。
 彼の頭上に光を放つ二つの紋章が、神々しく浮かび上がっている。
 
196創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:15:35 ID:iw2UmgrP
しえんぷ
197創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:16:38 ID:B4dI0Rhx
 
198創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:17:03 ID:giHMEZsi
199創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:19:23 ID:B4dI0Rhx
 
200夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:19:27 ID:YzqwPrB/
「援軍か……ッ!」
「邪魔者が……ッ!」

 二種類の呟きが、零れ落ちる。
 どちらかと言えば、ジョウイは邪魔者だ。
 それも、あらゆる者にとっての、だ。
 だが今は、援軍の真似事をする必要があった。
 この島には、単身で圧倒的な力を有する者が多すぎるのだ。
 黒き刃だけではなく、輝く盾の紋章をも宿したジョウイもまた、かなりの強者であるとは言える。
 しかし、一人で全員を殺し生き残れると信じられるほど、ジョウイは楽観的ではなかった。
 利用できる者は利用する。
 殺し合いに乗った者であっても、そうでなくても、だ。
 その見極めと選定をするために。
 ジョウイは、親友の力が宿る左手を強く握りしめて、戦場へと身を躍らせた。
 
 ◆◆
 
 虹色の刀と竜の爪が交差する。
 火花が散りそうなほどの激しさでぶつかり合った武器は、一瞬の均衡を経て距離を置く。
 後ろへ跳んだのは、カエルだ。
 持ち前の跳躍力を活かし一足で離れていくカエルを、ブラッドは迷わず追走する。
 ブラッドが努めるのはショートレンジの維持だ。
 距離を取られては不利になる。
 ブラッドが保有する遠距離攻撃手段は、昭和ヒヨコッコ砲のみ。
 その武器は、普段ブラッドが運用するヘヴィアームに比すれば心もとなく、カエルが使用する水の魔法に抗うには少々力不足だった。
 そして、ストレイボウ、マリアベルと比して、ブラッドが最も近接戦闘に長けている。
 故にブラッドは、カエルを抑える。
 リルカの仇である魔王には、彼女のこと以外にも借りがある。
 だがブラッドは、かつて自身を破った相手のことは思考しない。
 そちらは、共に戦う仲間に任せればよいのだ。
 何せその仲間は、夜の支配者なのだから。
 そして自分は、あくまでカエルを抑えるだけ。
 カエルに剣を収めさせるのは、新たな仲間の役目だ。
 
「カエルッ! 話を、話をさせてくれッ!」
 叫び声が雨音をかき分けても、応じる声はない。
 だから、声の後押しをするように、ブラッドは駆ける。
 ダッシュの勢いを殺さず、体当たりじみた蹴りをぶち込んだ。
 入る。
 確信の直後、思いの外硬い感触が靴裏に食い込んだ。
 たたらを踏むカエルの右手へ、ブラッドは手を伸ばす。
 刀を握る腕を捩じり上げようとするが、届くよりも早く緑の腕が翻る。
 ブラッドを刻むように動いた刀身に舌打ちを漏らし、伸ばした腕を引き戻す。
 虹が雨粒を薙ぎ払った。
 もう一度、突撃する。
 そのブラッドと並走するように駆け寄る、一つの影があった。
 ストレイボウだった。
 地を蹴る彼の眼はブラッドを顧みず、ただカエルだけを見つめている。
「ストレイボウ!? 下がっていてくれッ!!」
 ストレイボウは、ただ首を横に振る。
 
「……後ろから喚いているのは、嫌なんだ」
 カエルを見つめながら届けられる呟きを、ブラッドはなんとか拾う。
「近寄りたい。そうしなきゃ俺の声は届かないし、それに――」
 ストレイボウは雨の中、確かに言う。
 激しい雨音に掻き消されないように、言葉を打ち立てる。
「――あいつの声が、聞こえない」
 そこで、ストレイボウはブラッドを見る。
 決意じみた色に染まった黒の瞳の奥に、震え揺らぐものがあった。
201創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:20:58 ID:B4dI0Rhx
 
202創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:21:05 ID:iw2UmgrP
しえんら
203夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:22:28 ID:YzqwPrB/
 よく見れば、彼の手先が小刻みに揺れていた。
 さしものブラッドも、ストレイボウの心底を推し量ることはできない。
 それでも、分かる。
 ストレイボウが何かに怯えと恐れを抱えながら、立ち上がり声を張り上げていることが分かるのだ。
 無理をしているのかもしれない。今にも折れそうな心を必死で鼓舞しているのかもしれない。
 だからこそ、無謀だと分かっていても。
 ストレイボウの行動を諌めることは、できなかった。

「俺が抑え切ってやる。だから――届けて見せてくれ」
「……ありがとう」
 
 それだけ告げると、ストレイボウはカエルを見つめなおす。
 その歯を食い縛った横顔は、必死さと危うさを感じさせた。
 
「カエル、少しでいい! 俺と、話をしてくれッ!」
 声を聞きながら油断なくカエルを窺う。
 異形の騎士は武器を構えていたが、今のところ攻撃の兆しは見られなかった。
「言っただろうストレイボウ。俺はもう、戻れないと」
 戻れない。
 告げるカエルの声に悲哀も後悔も絶望もなく、あるのは強靭さと頑健さと一途さだった。
 それを裏付けるように、続ける。 
「仮にまだ後戻りが出来るとしても、俺はその選択肢を選ばない。決して、だ」
「お前ほどの男なら、分かっているだろう……? お前の選択が、行動が、誤っているとッ!」
「俺は自分の意志に忠実に行動している。誰に糾弾されようと、曲げるつもりなどない」
 薄く湾曲した七色の刀が、ゆっくりと持ち上がる。
「俺は俺のためにこの手で仲間を斬った。お前を斬ることにも躊躇いはない」
 差し向けられた切っ先は、ストレイボウへと向いていた。
 冷酷な拒絶にストレイボウは唇を噛み、目を伏せ、それでも言葉を紡ぐ。
 
「……罪滅ぼしのためでは無く、お前の意思で友を救えよ」
 拳を握りしめて、顔を上げる。
「俺はまだ罪悪感を捨てられない。救いたいと思うのも、罪から逃れたいからかもしれない」
 その口端には、嬉しそうな微笑が確かに浮かんでいた。
「けれど、カエル。お前がくれたこの言葉を、俺は絶対に忘れたくないし、手放したくはないんだ……」
 足を踏み出し、ぬかるんだ大地に足跡を刻む。
 雨に流され跡が消えても、滑りそうになりながらも、次の一歩をストレイボウは踏む。
 カエルの目が、すうっと細められた。
 その大きな口から小さく息を吐き、突き付けた刀を薙いだ。
 薙がれた刀身は、しかし、収められてなどいない。 
「そんな中途半端な意思でこの俺と対峙したところで――」
 カエルが刀を持ち直し腰を落とす。
 臨戦態勢に入ったカエルから、闘気が膨れ上がった。

「お前の罪は贖われない! 決してなッ!!」
 叫び、跳んだカエルを迎撃すべく。
 傍観に徹していたブラッドもまた地を蹴ろうとして。
 雨が熱を帯びるのを、肌で感じた。
 直後、夜が赤に染められ雨粒が水蒸気へと変じていく。
 嫌な予感を覚え、ブラッドはカエルの跳んだ逆側を振り仰ぐ。
 そこには、巨大な火柱が屹立していた。
 炎は夜を塗り潰し雨を食い潰しマリアベルのレッドパワーすら強引に焼き潰し燃え盛る。
 その正体と威力と火力を、ブラッドは知っている。
 だから、ストレイボウを伴って火柱とは逆側へと足を向けた。
 駆け出す直前に見えたのは、魔王が流麗な動作で指を振る瞬間だった。
 従うように火柱が爆音を立てて爆ぜ、熱で作られた紅の舌が夜を舐め上げ焼いていく。
 炎の魔手から逃れるべく、ブラッドは駆ける。あの熱量を再び食らうわけにはいかなかった。
「あいつ、正気なのかッ!?」
 魔王が放った炎は、彼が戦っていたマリアベルだけを狙ったものではない。
 カエルを巻き込むことすら厭わないかのような一撃に、ストレイボウは足を留めていた。
204創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:22:43 ID:B4dI0Rhx
 
205創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:23:38 ID:iw2UmgrP
しえんが
206創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:23:42 ID:giHMEZsi
207創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:24:41 ID:B4dI0Rhx
 
208創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:24:51 ID:giHMEZsi
209夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:25:22 ID:YzqwPrB/
「立ち止まるなッ! 飲み込まれるぞッ!!」
「しかしカエルがッ!」

 ストレイボウを走らせようとするブラッドの瞳が、動きを捉える。
 慌てふためくストレイボウを翻弄するかのように。
 炎の逆側から、赤を映す虹を携えた騎士が疾駆する動きを、だ。
 ストレイボウは気付かない。
 行動の遂行に捉われすぎて、本当に見なければならないものが見えていない。
「……すまない」
 ブラッドは手短に謝罪を告げ、ストレイボウを思い切り突き飛ばした。
 炎とは逆の方向――カエルが迫る方へ、だ。
 ストレイボウの身が滑り、転ぶように水溜りに突っ込んだ。その勢いで逆巻く炎のアウトレンジへなんとか抜ける。
 起き上がろうとするストレイボウを跳び越え、ブラッドはカエルに対峙し、叫ぶ。
「よく見るんだストレイボウッ!」
 戦うべき敵にではない。
 後ろにいる、魔法使いに、だ。
「炎に呑まれて命を落とすのが、お前の望みかッ!?」
 鋭い斬撃を受け止め、回避して。
「何も伝えられず届けられず堕ちるのが、お前の願いなのかッ!?」
 重い拳を打ち込みカウンターを繰り出して。
 ブラッドは、告げる。 

「違うと言うのならば立ち上がれ。曇りを払い自らの瞳で世界を見据え真実を捉えろッ!
 違わない程度の――そう、半端な意思しかないのなら。
 お前には、カエルを止められないッ!!」

 カエルとブラッドの交錯が、終わる。
 ブラッドの打撃を受け、カエルが吹き飛んでいた。
 剛腕の一撃を受けてなお、騎士は即座に立ち上がる。
「ああそうだ。この俺が、やすやすと、止められるものか……」
 そして彼は、刀を振りかざし。
「その男の言うように、立ち上がれないのならば」
 雷光を帯び始めた黒雲の空に向けて、またも大きく跳躍する。
 
「ここで朽ち果てろ! ストレイボウッ!!」

 ◆◆
 
 魔の王。
 そう名乗り呼称される所以は、魔族を従えていたカリスマ性だけではない。
 底知れない魔力と、あらゆる属性の高位魔法を苦もなく扱う魔法への適応力は、まさに魔王と呼ぶに相応しいものだった。
 その凄まじさを、マリアベル・アーミティッジは実感する。
 奴は、魔王は。
 大火力・広範囲の魔法の使用を躊躇わない。むしろ、積極的に使用する様子すら見て取れる。
 一見、カエルを巻き込む可能性を完全に無視しているように見える。
 しかしその実、そうではないのだ。
 魔王は、魔力を解き放つタイミングをカエルの一挙動ごとに合わせている。
 カエルもカエルで、魔王の攻撃範囲を完全に理解した上で、その跳躍力を活かして巻き込まれないよう立ち回っている。
 心の声で示し合わせているかのようなコンビネーションは、一つの芸術と言っても差し障りない。
 ブラッドをはじめとしたARMSの仲間となら、マリアベルもそれくらいのチームワークを発揮することができる。
 だが、それを見せつけられない要因が一つだけあった。
 ストレイボウだ。
 彼を責めるつもりは毛頭ない。
 彼に感謝をしているのは事実であり、仲間だと思っているのは確かであり、カエルを救わせてやりたいと思うのも間違っていない。
 ただ、厳然たる現実として。
 ストレイボウを巻き込む可能性が、マリアベルに広範囲に渡るレッドパワーの使用を躊躇わせていた。
 その躊躇いは、魔王と戦うには重い枷となる。
 乱れた呼吸を整える余裕すらなく、マリアベルは魔王を睨む。
 圧倒されっぱなしとまではいかなくとも、押されているのは確かだった。
210創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:27:22 ID:EYN0HlKn
211創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:27:28 ID:B4dI0Rhx
 
212創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:27:31 ID:iw2UmgrP
しえんヴァ
213創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:27:35 ID:giHMEZsi
214創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:28:40 ID:B4dI0Rhx
 
215夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:28:53 ID:YzqwPrB/
 消耗が激しい。
 その原因は、強力な魔法をレッドパワーで相殺していることと、魔王が駆使するマジックバリアとバリアチェンジのせいだった。
 有効な属性が次々と変化され、効果的な属性で攻撃してもダメージは軽減される。
 ディフェンスダウンを使用しマジックバリアの効果は抑えてはいるが、厳しいと言わざるを得ない。
 魔王が次なる魔法を繰り出すべく詠唱に入る。
 
 だから、マリアベルは。
 それを止めるべく、とあるレッドパワーを放つ。
「パワー……」
 効けと願う。通じろと祈る。届けと望む。
 強く強く欲し望めばその分だけ、願い通りになる可能性が高まると信じて。
 マリアベルは、腕を振り上げた。
「シールッ!」
 発生した赤の半球が魔王を包み込む。
 レッドパワー、パワーシール。
 ダメージは与えられないが、対象の特殊能力を封じる性質を持っている。
 通用する保証はない。
 しかし通用さえすれば、魔王の力を大きく封じることができる。
 半球が、飛び散る。
 直後に聞こえたのは、
「――残念だったな」
 無慈悲な、魔王の声だった。
「小細工など効かぬ。私は、守られているのだ」
 魔王の身から立ち昇る魔力は膨れ上がり、力となって顕現する。 
 魔力はその姿を、雷へと変えた。
 天の唸り声のような低い雷鳴が黒雲の奥で響く。視界を灼く輝きが刹那の間、夜を払う。
 耳を劈く轟音が、世界を振るわせた。
 雷が、落ちる。
 裁きの様を呈した、その雷撃を認識して。

「な――ッ!?」
 マリアベルは驚愕する。
 予測に反して、魔法の雷が広範囲に降り注がなかったことに驚いたのではない。
 一条の稲妻が爪を向けたのは、マリアベルでもブラッドでもストレイボウでもなく。
 降下軌道に入ったカエルの――その手に握られた、刀だった。
 マリアベルの視線の先、カエルが急速に落ちていく。
 先のように、前衛を跳び越えて後衛を叩く攻撃だった。
 ストレイボウは泥まみれで、茫然と佇んでいる。
「何をしておるストレイボウ!」
 マリアベルが叫ぶ。
 それでも、ストレイボウは天を見上げるだけで動かない。 
 虹色の刀身に稲妻が吸い寄せられる。
 切っ先と雷が接触する、その直前に。
 カエルは、得物を真下へ投擲した。
 重力とカエルの腕力に後押しされた刀は、真っ直ぐ落ちる。
 寸分違わず。
 ストレイボウの、頭上へと。
 レッドパワーで手を打とうにも間に合いそうにない。
「ストレイボウッ!」
 絶叫し、走る。
 走っても間に合わないと分かっていながら、動かずにはいられなかった。
 駆けるマリアベルよりも遥かに早く、ストレイボウに触れるものがある。
 それは、刀でも雷でもなく。
 
216創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:30:16 ID:iw2UmgrP
しえんこ
217創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:30:31 ID:B4dI0Rhx
 
218創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:31:03 ID:giHMEZsi
219夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:31:25 ID:YzqwPrB/
 ブラッド・エヴァンスの、大きな体だった。 
 突き飛ばされたストレイボウが更に泥まみれになりながら、地面を転がる。
 そして。
「ブラッドッ!!」
 マリアベルが呼ぶ名が、変わる。
 一瞬だけこちらを振り向いたブラッドの、左肩に。
 
 虹色の刀が深々と突き刺さって。
 その刀を避雷針にするかのように。
 魔王が編んだ雷が、ブラッド・エヴァンスへと直撃して。
 
 長髪の巨体は、声を上げることすらなく。
 泥混じりの水たまりを跳ね上げて、崩れ落ちた。
 
「ブラッド……ッ!!」

 心臓が思い切り引き絞られる。
 雨に濡れ冷やされた体が、ゾクりと震えを上げる。
 喉の奥が、得体の知れないもので詰まったような気がした。 
 マリアベルは駆ける速度を上げる。
 ブラッドならば大丈夫。
 そう信じたくとも、鼓動は不愉快なほどに逸り気持ちはどす黒い不安に侵食されていく。
 無事であると楽観する要素が、少なすぎた。
 刀はブラッドの巨体を確実に貫いているし、落雷は確かにブラッドを襲った。
 その証拠に。
 倒れ伏したブラッドは、動かない。
 マリアベルは唇を噛んで駆ける。
 その進路上に。
 長髪の影が、翻る。
 魔鍵ランドルフを得物として、魔王がマリアベルに肉薄する。
 魔力が枯渇したのか、あるいは。
 近接戦闘の要を潰したと判断し、突っ込んできたのか。
 どちらにせよ。
 立ちはだかる魔王を、迎撃し突破しなくてはならない。
 だからマリアベルは、使い慣れないナイフを引き抜いた。
 止まない雨はと重苦しい黒雲は、不吉な予感を呼んでくる。
 こんなときに、いや、こんなときだからこそ。
 
 星空を見たいと、マリアベルはそう思った。
220創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:32:16 ID:B4dI0Rhx
 
221創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:32:30 ID:giHMEZsi
222創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:32:36 ID:iw2UmgrP
しえんど
223創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:32:57 ID:B4dI0Rhx
 
224創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:33:47 ID:EYN0HlKn
225夜雨戦線 -Real Force- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:33:55 ID:YzqwPrB/
 ◆◆
 
 うっすらと開かれた瞳にまず映ったのは、温かく優しい緑色の光だった。
 そっと光に、手を伸ばす。
 けれどそれは、彼女の手に触れることなく闇の奥へと消えていく。
 それでも彼女は伸ばした手を戻さず、ぎゅっと握りしめる。
 たとえ届かなくとも。
 たとえ触れられなくとも。
 手を伸ばすことを止めるつもりはないかのように。
 ロザリーは、強く拳を握りしめた。
「大変な時に目を醒ましちゃったわね」
 すぐそばで、声が聞こえて振り返る。
 そこには、長く青い髪をした女性が、禍々しい鎌を手にして立っていた。
「なに、が……?」
 彼女の声をかき消すように、魔獣の咆哮のような大音声がロザリーの鼓膜を激しく揺らす。
 思わず耳を塞ぎ、音源へと視線を飛ばす。
 そしてロザリーは、息を呑み大きく目を見開くことになる。
「アナスタシア……! アナスタシア……ッ!! アナスタシア・ルン・ヴァレリアぁぁ――ッ!!」
 まず目に入ったのは、他の言葉を忘れてしまったかのようにアナスタシアと吼える少年だった。
 ロザリーは彼のことをよく知っている。
 優しく強く勇敢な彼のことを尊敬もしているし、自分と恋人を救ってくれたことを感謝もしている。
 なのに。
 狂ったように剣を振り回す今の彼は、ロザリーが知っている少年――勇者ユーリルとは似ても似つかぬ雰囲気を放っていた。
 顔つき、声音、戦い方。
 そのどれを取っても『勇者』らしさなど微塵も感じられず、そのすべてが彼には似合ってはいなくて、ロザリーは両手を握りしめた。
 彼が行った凄惨な殺戮が、フラッシュバックする。
 その尋常ではない恐怖感を催す記憶が意識を埋めても、しかし、ロザリーは倒れなかった。
 伝えたいことがあったから。
 彼の名前を呼んで、何度でも伝えたいことがあったから。
 ロザリーは意識を強く持ち、倒れはしなかった。

 そして。
 ロザリーは、もう一つの戦場を捉える。
 そこで、両手に剣を携え戦っているのは。
 よく知っている、誰よりもよく知っている、愛しい銀髪の魔族だった。
「ピサロ様……!」
 その名を呟かずにはいられないほどに、愛おしい存在。
 だが今の彼からは、いつもロザリーに向けてくれる優しさは欠片も感じられない。
 デスピサロを名乗り、人々を憎み滅しようとしていた頃の彼と瓜二つだった。
 ピサロも、ユーリルも。
 触れるものの全てを切り裂いた末に自壊する刃のような、剣呑さと儚さを抱いて暴れまわっているようで。
 ロザリーの胸が、強く締め付けられた。
 このままではいけない。
 痛くて苦しくて辛くて悲しい感情に振り回されていては、いくらピサロやユーリルが強くとも、すぐに壊れてしまう。
 嫌だった。
 ピサロもユーリルも、ロザリーにとって、代わりのいない大切な人だ。
 ロザリーはずっと覚えている。
 ユーリルにあった日のことも。ピサロと出会えたときのことも。
 会話の全てを、共に過ごした想い出を。
 楽しくて嬉しくて温かで煌びやかで色褪せない、最高の宝物を。
 ロザリーは、決して忘れない。
 だから。
 大切だから。
 本当に本当に、心から大切だと、胸を張って言えるから。
 止めたいと、助けたいと。
 強く思う。心から願う。
 その想いは、ロザリーを、激戦へと歩かせる。
 恋人と恩人と、そして。
226創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:34:32 ID:B4dI0Rhx
 
227創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:35:59 ID:iw2UmgrP
しえんぜ
228夜雨戦線 -Real Force- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:36:17 ID:YzqwPrB/
 決して届かないと諦めてしまったヒトの元へ、この口で、想いを届けるために。
「……行くの?」
 問いかけてくる女性に、ロザリーは迷わずに首を振る。
 大丈夫ですと、そう告げて。
 守りたいんですと、言い切って。
 ロザリーは、迷わずに駆け出した。
 
 ◆◆
 
 ピンクの髪をした女性が、戦場へと消えていく。
 クレストグラフを持っていたし、きっとクレストソーサーに長けた人物なのだろう。
 ぼんやりと、アナスタシア・ルン・ヴァレリアはそう片付けた。
 気が付けば戦場は拡大し、自分の周りには誰もいなくなっている。
 ユーリルが執拗に繰り返す自分の名前すらも、何処か他人事のような気がしていた。
 みんな、戦っている。
 イスラも、ブラッドも、マリアベルも、茶色い髪をした不思議な力を使う少年も、剣と盾の紋章を操る金髪の少年も。
 気絶していた儚げな女性でさえ、目を覚ますと迷わずにその足で戦場へと向かっていった。
 みんなみんな、戦っている。
 
「戦っていないのはわたしだけ、か」
 魔王オディオによって殺し合いをさせられて。
 初めて会ったちょこの力を利用し、ほとんど武器を振るうことなく生き延びてきた。
 絶望の鎌を握り締め続けていたのもただの保険で、自ら進んで戦うためにこの武器を持っているわけではない。
 戦ったのは、ユーリルに引導を渡そうとしたときくらいだ。
 そう。
 アナスタシアは生き延びたいが故に、他者を戦わせている。
 ちょこに自分を守らせ、今もイスラたちにユーリルを抑えさせている。
 今回に限ってはア、ナスタシアが命じたわけではない。
 それでも、アナスタシア自身が身を守るために戦っていないという事実は、変わらない。
 強大な敵と戦い続ける彼らは、誰一人諦める素振りは見せなかった。
 立ち上がり力を尽くし、抗いの姿勢を崩さない。

「わたしも同じ、か……」

 彼らの不屈さを目の当たりにして、アナスタシアは自覚する。自覚してしまう。
 かつて<剣の聖女>と呼ばれ崇められた少女は。
 かつて『焔の災厄』に立ち向かった『英雄』は、結局のところ。
 戦ってくれる『誰か』がいれば。
 弱さを言い訳にして立ち上がらず、その『誰か』に全てを任せることも厭わないのだ。
『勇者』は『生贄』に過ぎないと嘯いて『生贄』にされた『英雄』の気持ちを語るくせに。
 今のアナスタシアは、『生贄』を差し出して自己保身に回る群衆と、何一つ変わらない。
 もしもあのとき、アナスタシアよりも早くロードブレイザーに立ち向かう『誰か』がいれば。
 きっと、<剣の聖女>は生まれなかった。
 
 滑稽だった。
 余りに滑稽すぎて、乾いた笑いが零れ落ちる。
「あははははは……はは……」
 アナスタシア・ルン・ヴァレリアは、人間だった。
 浅ましく愚劣で欲深い、ただの人間だった。
「はは……はははは、あははは……っ」
 笑いが止められず絶望の鎌を抱き締める。
 アナスタシアは誰にも届かない笑い声を上げ続ける。
 震えながら、濡れた前髪で目元を覆い隠し、絶望の鎌に縋りついて、思う。
 
 ――雨、冷たいな。

 冷たさに凍えても。生きたいと望んでも。
 自身に直接、死神の鎌が突き付けられていない現状では。
 アナスタシアが、その場から一歩を踏み出すことは、なかった。
229創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:37:13 ID:giHMEZsi
230創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:37:27 ID:iw2UmgrP
しえんし
231創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:38:32 ID:EYN0HlKn
232夜雨戦線 -Real Force- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:38:35 ID:YzqwPrB/
 ◆◆
 
 ピサロの苛立ちは、ただ増すだけだった。
 呪文とは異なった小賢しい能力でかく乱され、疲労と消耗だけが積み重なっていく。
 更に、新たに現れた邪魔者がまた厄介だった。
 その人間は攻防どちらも優れており、もともとピサロが戦っていた相手を的確にサポートしていた。
 埒が明かない。
 こんなところで時間を食っている場合ではないというのに。
 早く突破し、ロザリーの仇である醜い両生類を始末しなければならないのに。
 予想以上にピサロの体力と精神力は削り取られていた。
「もう、いい……ッ!」
 ふと、暗く淀んだ声が響く。
 苛立っていたのは、ピサロだけではなかったらしい。

「アナスタシアの味方をする奴は敵だ。僕の邪魔をする奴は敵だッ! 敵は殺す! みんな纏めて、殺してやるッ!!」
 目を血走らせたユーリルが、忌々しげに絶叫した。
 痺れを切らせた彼が青白い雷を呼ぶ。
 ユーリルの言う敵にはピサロも含まれているだろう。
 それは、ピサロにとっても同じだ。
 勇者は敵であり、決して相容れない存在だと疑ってはいない。
 だが、今は。
 今このときは。
 ピサロとユーリルには、共通の敵が存在する。
 だからといって、共に同じ敵を討つなどと言うつもりはない。
 ピサロは、ユーリルの力を利用し便乗するだけだ。
 そのために。
 ピサロは、疲弊した精神に鞭を打ち尽き掛けの魔力に火を灯す。 
 意識を研ぎ澄ます。
 憎悪をくべて力にする。
 痛みを、悲しみを、苦しみを。
 その全てを、魔力へと変え、燃焼させる。
 出来ない道理などない。
 魔族の王デスピサロを支える感情が、それほどまでに生温いはずがない。 
 再度地面に、大蛇のような黒い電流が顕現する。
 それは、天から降るユーリルの雷とは正反対の、地から這い上がる地獄の雷だ。
 白の光と黒の光が明滅する。
 天駆ける竜の鳴き声のような甲高い音と、地獄に繋ぎ止められた魔神の唸り声のような低い音がぶつかり合う。
 世界が、雷で満ちていく。
「ギガ――」
「ジゴ――」
 ユーリルの声とピサロの声が、
「デインッ!!」
「スパークッ!!」
 完璧に、重なり合って。
 天をたゆたう雷と、地を彷徨う雷が、一挙に解き放たれる。
 二色の雷光が暴虐の限りを尽くし蹂躙を始めるのと、ほぼ同時に。
 
「ピサロ様ッ! ユーリル様ッ! どうか、どうか、おやめくださいッ!!」

 ピサロは、その声を確かに聞いた。
 瞬間、心臓が跳ね上がり息が詰まる。
 聞き間違えるはずがない。
 どんな轟音の渦中にいても、その声を聞き逃すはずがない。
 どれほど。
 どれほど聞きたいと望んだか分からない声。
233創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:39:11 ID:iw2UmgrP
しえんぴょ
234創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:39:27 ID:B4dI0Rhx
 
235創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:40:02 ID:giHMEZsi
236創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:40:23 ID:B4dI0Rhx
 
237創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:41:14 ID:EYN0HlKn
238夜雨戦線 -Real Force- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:41:26 ID:YzqwPrB/
「ロザ……リー?」

 そしてピサロは、見つける。
 その両足で確かに立つ、麗しく愛しい女性の姿を、だ。
 会いたかった。
 ずっとずっと、顔を見たかった。
 なのにピサロは喜びよりも、血の気が引いていくのを感じた。
 何故なら、ロザリーは。
 敵を皆殺しにしようと放たれた、白と黒の雷光が暴れまわる世界の中にいたからだ。

 倒れたロザリーの姿は、ずっと遠くにあったはずなのに。
 彼女を攻撃範囲に入れないようにすることだけは、絶対に注意していたはずなのに。
 そんな思考には、意味がない。
 現実として、生きていたロザリーはその足で地面を踏みしめ、そこにいるのだ。
 ピサロは思考を即座にかなぐり捨てた。
 疲労を無視して全力で駆け出す。
 ユーリルの雷どころか、自分の雷が直撃する可能性をも考慮せず、雷の嵐の中へと飛び込んで突っ走る。
 白雷の咆哮も這い回る黒雷も意識はしない。
 ただ、ロザリーだけを見て、ピサロはそこだけを目指す。
 数え切れない雷の群れが立ちはだかる。
 それでもピサロは、怯まず留まらず、駆け抜ける。
「ロザリー! 逃げるんだッ!!」
 雷の中、叫ぶ。
 どんなに五月蝿くとも、彼女へ声は届くと信じられた。
 確かに、声は届いた。
 証拠に、ロザリーは少しの逡巡の後、雷の群れに背を向けたからだ。
 その瞬間を、見計らったかのように。
 とっくに術者の手から解き放たれた、白と黒の雷が、一条ずつ絡み合い縺れ合い重なり合って。
 目が痛くなるようなコントラストを描いて、離れようとするロザリーの背へと、牙を剥いた。
 
「ロザリィ――ッ!!」

 ピサロが加速し、手を伸ばし、咆えても。
 モノクロームの雷光は無慈悲に、ピサロよりも速く。
 ロザリーへと、到達した。
 
 ◆◆
 
「あ……あぁ……っ」
 情けない声音を、土砂降りの雨音が流していく。
 歯の根が合わず奥歯をがちがちと鳴らしてへたりこんだまま、ストレイボウは、うつ伏せに倒れるブラッドを茫然と眺めていた。
 ストレイボウは動けなかった。
 先ほど跳び上がったカエルの標的が、ブラッドではなく自分と分かってしまったから、余計に動けなかった。
 カエルの、裂帛の気合いに気圧され竦み上がっただけではない。
 ストレイボウは、目の当たりにした。
 友が自身を殺しに来る、その瞬間を、だ。
 
 その認識の直後、舞い上がり剣を振りかざすカエルの姿が、とある男のように見えた。
 憧れ、尊敬し、超えたいと焦がれ。
 また同時に、羨み、妬み、誰よりも憎んだ。
 そんなたった一人の男に、カエルの姿が重なったのだ。
 恐れたわけではない。怯えたわけでもない。まして、あの頃のような憎しみは微塵も湧きはしない。
 ただ、感じた。
 仕方がないと。
 甘んじて受けるべきだと。
 信じて疑わなかった。
239創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:42:00 ID:B4dI0Rhx
 
240創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:42:33 ID:5U9MhGxi
支援
241創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:42:42 ID:iw2UmgrP
しえんぐ
242創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:44:25 ID:EYN0HlKn
243夜雨戦線 -Real Force- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:44:26 ID:YzqwPrB/
 ――友が。オルステッドが、自らの感情で俺を殺しに来るのなら。

 刃をその身に刻ませるつもりだったし、そうなるのが必然だと思っていた。
 それなのに。
 今こうして、ストレイボウは生きている。
 傷一つ負わず、無様に尻を地につけたまま。
 ブラッド・エヴァンスを身代わりにして生きている。
 死んでしまいたかった。
 生きているだけで他の人間が死んでいくくらいなら、さっさと死んでしまいたかった。
 それともこれは、罰なのだろうか。
 罪悪を積み重ねていくことこそが、友を裏切ったことへの罰なのだろうか。
 雨を吸った衣服が重く、肌に張り付く。
 体温が奪われ気力が吸われていく。吐き気と悪寒が体を犯していく。
 ブラッドの向こうに、緑の影があった。
 影はストレイボウを一瞥する。
 止めようと思っていた。
 止めたいと望んでいた。
 止めなければと気負っていた。

 そのはずなのに。
 話そうとしても言葉は喉に詰まり、無様に咽るだけだった。
 そんなストレイボウに、影は口を開かない。
 何か言って欲しかった。
 糾弾でも罵倒でも誹謗でもいい。
 何か言ってくれればと、ストレイボウは思う。
 だが、影は黙したままブラッドに近づいていく。
 まるで、ストレイボウなどに何の興味も持っていないかのように。
 影は口を開かず、ブラッドに刺さったままの刀へと手を伸ばす。
 少し遠くから雷の鳴き声が重なって響き、黒と白の光が瞬いた。
 その一瞬の輝きの中で。

 ――飛び起きるものが、あった。

 ◆◆
 
 虹色の刀を回収しようとしたカエルの注意は酷く散漫で、油断しているとすら思えるほどに隙だらけだった。
 しかしその隙は、敵を仕留めたと確信したが故の慢心ではないとブラッドは悟る。
 何故ならカエルは、その両の瞳を、ずっとストレイボウへと向けていたからだ。
 彼はただ、ストレイボウへと意識を傾けていた。
 ストレイボウがカエルを気に掛けるのと同様に、だ。
 だとしても、カエルに甘さはない。
 ストレイボウを斬ろうとする彼の眼差しは本気であったし、太刀筋に乱れもなかった。
 気に掛ける相手すら斬り捨てられるほどの鋼鉄の如き覚悟が、彼を動かしているのだろう。
 揺るぎない意志を抱く者は、強い。
 ならば、それに抗うには。
 
 ――相手を超える意志を持つことだッ!
 
 肩口が痛み血が溢れ出る。
 身体を動かし力を入れるたび、体内に入り込んだ冷たい刃に肉が食い込んでいく。
 筋繊維が引き裂かれ、骨に鋭い感触がぶつかった。
 意識を持っていかれそうな激痛が、神経を駆け巡り脳を刺激する。
 痛覚を直接切り刻まれるような痛みの奔流に晒されながら。
 ブラッドはカエルの背後に回ると、小柄な身を羽交い絞めにした。
 右腕を捻り、締め上げる。
 痛みを無視して力を込め、暴れるカエルを押さえ込む。
「ぐ……ッ! 貴様、まだそんな力が……ッ!!」
 ああ、そうだ。
 まだ、力は出ている。
 それでも、確実に血は零れている。
244創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:45:30 ID:iw2UmgrP
しえんた
245創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:45:56 ID:/NUH7O3J
支援
246創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:46:24 ID:B4dI0Rhx
 
247創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:46:46 ID:EYN0HlKn
248夜雨戦線 -Real Force- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:47:34 ID:YzqwPrB/
 アキラのヒールタッチによって意識せずにいられた痛みが、新たな痛みに誘発されて戻ってくる。
 ジョウイの放った光によって塞がりつつあった火傷も、先の落雷が更なる傷へと変えていた。
 身体は、とっくに限界を超えていた。
 もうすぐに、力は出なくなるだろう。
 そうなる前にできることを、ブラッドは、巡りが悪くなりつつある脳を回して考える。
 首に埋め込まれたギアスを起爆させるという選択肢は、取れない。
 ギアスは軍事プラントを吹き飛ばす爆発を巻き起こすほどの、高性能な爆弾だ。
 爆破させれば、マリアベルとストレイボウもろとも吹き飛ぶことになる。
 
 ならば、と。
 ブラッドはカエル越しに、ストレイボウの奥へと視線を向けた。
 そこではマリアベルが、一本のナイフと大型の拳銃で、ランドルフを振るう魔王と渡り合っている。
「マリアベルッ!」
 名を呼んだ。
 声と一緒に粘ついた液体が喉を這い上がり、口内に鉄くさい味が広がっていく。
 気色の悪いその感触を、唾と共に吐き捨てた。
「ブラッド!? 無事じゃったかッ!!」
「もうこれ以上、力も入りそうになくてな。残念ながら、無事とは言い難い」
 腕の中でカエルがもがく。
 カエルが動くたび。それを留めようと力を強くするたび。
 痛みが加速度的に増し、意識を踏み砕こうとする。
 大雨ですら洗い流しきれないほどの血液が溢れ出して止まらない。
 
 いつまで声が出せるか分からない。
 いつまで意識を保てるか分からない。
 だから。

「だから、マリアベル」
 
 ブラッドは、告げる。
 
「俺の命を、使ってくれ」

 執拗にマリアベルへと攻撃を仕掛ける魔王を睨みつけて。
 
「俺の命を、そいつに――リルカの仇に、ぶつけてくれッ!!」
 そう、狙うべきはカエルではない。
 カエルと対峙すべき人物は、ブラッドではないのだ。
「ブラッド、お前、何を……?」
 搾り出したようなストレイボウの声が、ブラッドの鼓膜を揺らす。
 
「ストレイボウ。眼前にあるものに捉われるな。もっと、もっと広い視野で世界を見つめるんだ。
 諦めない強さがあるのなら――必ず、自らの意志を打ち立てられる」
 
 彼の問いに答えることなく、ブラッドは再度マリアベルへと視線を送る。
 いつまでもこうして会話をしていられるなら、カエルを押さえつけていられるのなら。
 マリアベルに、こんな頼みをせずにいられるのだから。
 
「マリアベルッ! やってくれッ!!」

 願わくば。
 この命が、ストレイボウの『勇気』を引き出す道しるべになることを。

 ◆◆
 
 止まない雨は、魔王と戦う夜の支配者にも等しく降り注いでいる。
 その耳に届くのは雨音と、大切な仲間からの頼み事だった。
 ブラッドがマリアベルに望むこと。
 それは言葉通り、ブラッドの命を力に変えるということだった。
249創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:47:44 ID:Mp2oGf9k
支援
250創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:48:32 ID:B4dI0Rhx
 
251創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:48:49 ID:iw2UmgrP
しえんふぁ
252創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:49:24 ID:B4dI0Rhx
 
253創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:49:57 ID:EYN0HlKn
254創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:50:00 ID:Mp2oGf9k
しえん
255創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:50:05 ID:B4dI0Rhx
 
256夜雨戦線 -Real Force- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:50:19 ID:YzqwPrB/
 分かっている。
 ブラッドがその頼み事をしてきたのは、彼自身の命が長くないことを悟ったためなのだ。
 マリアベルは、歯を食い縛り顔を顰める。
 
 悔しくて情けなくて、歯痒かった。
 きっちり魔王を止めておけなかった無力さが。
 死が迫った仲間を救ってやれない無念さが。
 マリアベルの心を掻き毟っていく。
 それでも、悔やんでいる暇も嘆いている時間もない。
 だから、決断しなくてはならないのだ。
 それがどんなに辛く、苦渋の決断だとしても。
 ブラッドが――友が今わの時に望むのならば、迷わず、止めず、笑って応じてやりたかった。
 今このときだけは、降り続ける雨に感謝をして。
 マリアベルは、ただただ毅然とした声で、応える。
 
「お主の意志、覚悟、確かに受け取った」
 
 強く強く、呼吸する。
 澄み渡った夜気を深く取り入れ力を確かめる。
 冷たく湿った夜の空気は、ざわつくマリアベルを静めてくれた。
 だから、マリアベルは言える。
 震えることなく淀むことなく声を濡らさず、言えるのだ。
 
「忘れぬぞブラッド。お主の生き様を、わらわは決して忘れぬ」
 忘れたくはない。失くしたくはない。
 ノーブルレッドが悠久の時を生きられるのは、大切な友との思い出で孤独を埋められるからだ。
「感謝するぞ、マリアベル。俺は、お前と共に戦えたことを誇りに思う」
 ブラッドの声は驚くほど穏やかに、夜雨の中に溶けていきそうになる。
 だから、消してしまわないように。
 マリアベルは、心に声を刻み込む。
 
 ――ああ、決して。決して、忘れてなるものか。

 一瞬だけ俯いて、唇を噛み締めた。
 叩き込まれたランドルフを、大きくバックステップをすることで回避する。
 
「貴様ら、何をするつもりだ……?」
 怪訝そうに、魔王が問うてくる。
「逃げろ魔王ッ! 嫌な予感がするッ!」
 ブラッドからに締め上げられながらも、カエルがなんとか叫ぶ。
 だがもう、遅い。
 マリアベルは、ブラッドの命を力に変える準備に入っている。
 止めるつもりも躊躇するつもりもない。
 この戦いが終わった後。
 悲しみと寂しさが、マリアベルを苛むと分かっていても。
 決して後悔はしない。
 悔やむはずがないのだ。
 何故ならば。 
 
 ――もう逢えないことよりも、出逢えたことが嬉しい。
 
 胸中で呟いて、マリアベルは、雨雲へと両手を翳す。
 同時に、ブラッドが咆哮を叩きつける。
 
「魔王ッ! お前が奪い損ねた命、存分に受け取れッ!!」
「ブラッド・エヴァンスッ!?」
 
 ――さよならじゃ、ブラッド。お主の全てを、わらわは決して無駄にはせんぞ。
257創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:51:47 ID:iw2UmgrP
しえんわああああああああああああああああああ! うわあああああああああああああああああ!
258創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:52:20 ID:B4dI0Rhx
 
259創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:52:53 ID:Mp2oGf9k
支援
260創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:53:15 ID:B4dI0Rhx
ちょ……! ブラッドぉおおおおお!!!
261夜雨戦線 -Real Force- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:53:44 ID:YzqwPrB/
 内心で、友に別れを告げて。
 酷く穏やかに、命を力に変えるレッドパワーの、引鉄を引く。
 
「――サクリファイス」

 マリアベルの真っ白な頬に、大粒の雨が滴り落ちた。
 
【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION 死亡】
【残り23人】
 
 ◆◆
 
 全身を押さえつける強烈な力が、瞬時に消え失せる。
 カエルは虹を回収することさえも忘れて、ブラッドの腕から逃れると跳び退った。
 倒れたのは、ブラッドだけではない。
 魔王もまた倒れ伏し、その身を泥で汚していた。
 一足で魔王の元に歩み寄ると、カエルは目を見開いた。
 魔王の身には、数え切れない傷が刻み込まれており、完全に意識を失っていたからだ。
 視線を胸元に走らせる。微かに、その胸は上下に動いていた。
 
 まだ、魔王は生きている。
 その事実は、カエルを少なからず安堵させた。
 今は一時的に手を組んでいるだけで、必ず戦うことになる相手のはずなのに、だ。
 それでも、魔王に息があることを安心できるのは、渇望しているからかもしれなかった。
 魔王と決着を付け、因縁に蹴りを付けるその瞬間を、待ち焦がれているからかもしれなかった。
 だからカエルは、術を紡ぐ。
 魔王の命を、果てさせないために。

 回復魔法、ケアルガ。
 傷を癒す穏やかな光は、

「――させぬッ!」

 ノーブルレッドが生み出した赤い半球によって、遮られる。

「魔王には効かなかったが、お主には効くようじゃな」
 舌打ちをして、睨み付ける。
 今の半球は術技を封じるためのものだったらしい。
 マリアベルが全身を雨粒で濡らし、毅然として立っている。
 仲間を犠牲にしても尚、マリアベルはカエルの前に立ちはだかるだけの気力を有しているようだった。
 
 ――いや、だからこそ、か。
 
 仲間を犠牲にしたからこそ、闘志を漲らせ佇んでいられるのだ。
 散った男の意志の強さと彼の望みを、マリアベルは正しく理解していた。
 捨て鉢になったわけでも、自棄になったわけでも、怒りに身を任せるわけでもない。 
 悲しむのではなく、ブラッド・エヴァンスの意志を継ぐように。
 マリアベルはナイフを携え銃を持ち一振りの剣を背負い、カエルと真正面から対峙する。
 ブラッドと同じように視線をカエルへと固定したまま、マリアベルは、叫ぶ。

「立て、ストレイボウッ! ブラッドの命を――消えゆくその瞬間まで燃え盛った命を無駄にしないためにッ!」
 
 漆黒の闇の中心で堂々たる態度で陣頭に立つその姿は、
 
「ここで、必ずやカエルを止めるぞッ!!」

 まさに、夜の支配者の名に相応しかった。
 ならばこの手で、歯向かおう。
 夜を照らす雄大な光にはなれなくとも、闇を穿つ一閃くらいにはなってみせる。
262創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:55:41 ID:B4dI0Rhx
 
263創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:56:12 ID:iw2UmgrP
しえんペイペイペイィィィッ!
264創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:56:14 ID:Mp2oGf9k
しえん
265夜雨戦線 -Real Force- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:56:55 ID:YzqwPrB/
 ――俺の望みを、夜闇に支配させないために。
 
 カエルは、魔王がマントの奥に隠し持っていた剣を回収する。
 紅の暴君――キルスレス。
 その魔剣は、勇者の剣――グランドリオンよりも、遥かに腕に馴染むような気がした。
 
【C-7(D-7との境界付近) 一日目 夜中】
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFY、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:ストレイボウと共にカエルを止める。まだ生きているらしい魔王が気になる。
2:魔剣を奪取しイスラへ届ける。
3:付近の探索を行い、情報を集めつつ、元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
4:首輪の解除。
5:ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
6:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(やや大)、疲労(大)、能力封印
[装備]:紅の暴君@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:出来る限り殺す。
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。
266創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:58:10 ID:B4dI0Rhx
 
267創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:58:58 ID:iw2UmgrP
しえん(迫真)
268創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:59:02 ID:EYN0HlKn
269創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 17:59:49 ID:B4dI0Rhx
 
270夜雨戦線 -Real Force- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 17:59:54 ID:YzqwPrB/
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、瀕死、気絶
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(大)、ブラッドの死により罪の意識増大、心労(極大)、自己嫌悪
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、記憶石@アークザラッドU、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルを止めたいが、俺なんかでは……
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません

※C-7(D-7との境界付近)にブラッドの遺体があります。
 遺体はドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI を握りしめており、にじ@クロノトリガーが刺さっています。
 また、遺体付近に以下のものが落ちています。
 ・昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
 ・リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
 ・不明支給品0〜1個、基本支給品一式
271創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:01:04 ID:Mp2oGf9k
支援
272創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:01:36 ID:iw2UmgrP
しえん人
273創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:03:19 ID:B4dI0Rhx
 
274夜雨戦線 -Emotional Storm- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 18:03:22 ID:YzqwPrB/
 ◆◆
 
 大地と空気が焼ける焦げ臭さを残して、黒と白の雷が織り成す狂宴が終わる。
 その臭いが雨で流され始めた頃、ジョウイは細長い息を吐く。
 宙に浮かび上がる黒き刃と輝く盾の幻像が、徐々に薄れていく。
 あらゆるものを切り裂き引き裂き焼き焦がす雷の群れを迎撃したのは、先ほどと同じく、分かたれた始まりの紋章だった。
 黒き刃が白き雷を切り落とし、輝く盾が黒き雷を受け止めた。
 咄嗟だった。
 暴虐的な力の奔流を前に、ジョウイは反射的に、全力で紋章の力を解放した。
 後ろに、横に、前に誰がいるかも分からないままに、だ。
「無事、ですか……?」
 だから問う。
 まず右から、茶髪の少年の声がする。
「ああ、なんとかな」
 次いで左から、黒髪の青年が少し面白くなさそうに返答する。
「こっちも無事だよ。ついでに、アナスタシアも無事みたいだね」
 後ろを一瞥すると、青い髪の女性が一人佇んでいた。
 彼女はジョウイと目が合うと、ぽつりと呟いた。
「あの人は……?」 
 気を失っていたはずの女性の姿が、いつの間にか消えていた。
 捜そうと視線をくゆらせるジョウイの目に、入ったのは、彼女の姿ではなく。
 野獣のように突っ走ってくる、たった一人の少年だった。
 
「揃いも揃って、そんなに、そんなにアナスタシアが大事なのかよぉ――ッ!」

 レゾンデートルの代わりに縋った、御しきれない感情に衝き動かされた少年――ユーリルが、幼子のように喚く。
 端整な顔を憎しみで埋め尽くし表情を歪めた彼の、痛々しさすら覚える殺意が、誰彼構わず撒き散らされる。
 圧倒されるほどに強い感情を押し留めようともせず、剣を叩き込んでくる。
 会話すら通用しなさそうな様子は、同じ人間とは思えず、ジョウイは戦慄を覚えずにはいられなかった。
 ユーリルは相変わらず、執念と妄執に取り憑かれアナスタシアだけを目指して行く。
 邪魔する障害を斬り捨てて、憎悪の対象へと至るために地を蹴り飛ばす。
 家族だと思っていた少女を屠ったその手で剣を振るい、憎しみに染まった声色で呪文を唱える。
     
 血走り赤黒く濁った眼は、ただアナスタシアだけを見つめていた。
 
 その強烈なひたむきさとある種の純粋さと盲目っぷりは、まるで。
 まるで、心の底から強く、恋焦がれているかのようで。
 止まない雨も、その淀んだ灼熱を冷ますことはできないようだった。 
  
【C-7橋の近く 一日目 夜中】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(極)、ダメージ(中)、精神疲労(極)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@FFVI、天空の剣(開放)@DQW、湿った鯛焼き@LIVEALIVE
[道具]:基本支給品一式×2(ランタンは一つ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。
275創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:04:39 ID:B4dI0Rhx
 
276創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:04:53 ID:EYN0HlKn
277創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:05:10 ID:iw2UmgrP
しえんひゅ
278創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:05:40 ID:B4dI0Rhx
 
279夜雨戦線 -Emotional Storm- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 18:06:14 ID:YzqwPrB/
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)。自己嫌悪。
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、賢者の石@ドラゴンクエストW
[道具]:不明支給品0〜1個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
2:施設を見て回る。
3:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費、疲労(大)、ダメージ(中)。
[装備]:パワーマフラー@クロノトリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、ドッペル君@クロノトリガー、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
280創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:06:22 ID:Mp2oGf9k
しえん
281創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:06:35 ID:iw2UmgrP
しえんどどどどどどど
282創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:07:06 ID:B4dI0Rhx
 
283夜雨戦線 -Emotional Storm- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 18:08:50 ID:YzqwPrB/
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストW 導かれし者たち、ミラクルシューズ@FFIV
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式×2
    ドーリーショット@アークザラッドU、ビジュの首輪、
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。

【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]:疲労(中)
[装備]:キラーピアス@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
[道具]:回転のこぎり@ファイナルファンタジーVI、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:座礁船に行く。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
4:僕の本当の願いは……。
[備考]:
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているときです。
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾
284創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:08:51 ID:Mp2oGf9k
支援
285創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:09:05 ID:B4dI0Rhx
 
286創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:10:58 ID:iw2UmgrP
しえんす
287夜雨戦線 -Emotional Storm- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 18:11:04 ID:YzqwPrB/
 ◆◆

 打ち付ける雨粒が痛いと思えるのは初めてだった。
 降りしきる水は冷たくて、それに触れるだけで体力を奪われるようだった。
 
 だからピサロは、その背中で全ての雨粒を受け止める。
 一粒一粒が、腕の中の愛しい女性の命を削り取るような気がした。
 二色の雷に打たれた女性――ロザリーをピサロは強く抱く。
 その両手からは、癒しの輝きが絶え間なく溢れ出ていた。
 傷を癒し体力を回復させる光は、絶え絶えの呼吸を苦しげに繰り返すロザリーを包み込む。
 ピサロは希求し乞い願い、呪文を詠唱し続ける。
 ピサロの手から光は消えない。消すわけにはいかなかった。
 必死だった。
 ロザリーが助かるならば、自分の命が立ち消えてもよいとさえ思う。 
 そんなピサロに、無慈悲な雨が打ち付けられる。
 攻撃魔法は、一瞬にして生命を脅かすというのに。
 回復魔法は、その効果を忘れてしまったかのようで。
 閉ざされたロザリーの目を、薄く開かせる程度の効力しか発揮してはくれなかった。
 
「ロザリーッ!」

 喉が張り裂けそうなほどの声で、名を呼ぶ。
 すると、ロザリーの顔が動いて。
 笑みを、形作る。
 
「ピサロ、様……。お会いしとう、ございました……」

 可憐な蕾のような小さな口が、開く。
 声音はとても弱弱しい。
 一言一言が、ロザリーの生命力を零しながら紡がれているようだった。
 あれほどまでに聴きたかった声なのに。
 耳にするのが、辛かった。
 
「喋っては駄目だッ! 喋っては――」
 命が危うい。
 そう続けようとして、ピサロは唇を噛んだ。
 言えなかった。
 言ってしまったら、避けられぬ現実になりそうな気がしたから。
 ピサロは項垂れる。
 項垂れ震え、ベホマの光をロザリーに与え続ける。
 そんなピサロの頬に、細く柔らかな手のひらが添えられる。
 優しい触感に、顔を上げる。
 ロザリーは変わらず、微笑んでいた。
 
「そんなお顔を、しないでくださいませ……。ピサロ様が辛く悲しく苦しいと、ロザリーも、笑えなくなってしまいます……」

 華奢な身体を、強く強く抱きしめたい衝動が湧きあがる。 
 そうすれば、自分の顔をロザリーに見せずに済みそうだったから。
 だがピサロは、息を呑み込んでその衝動を制する。
 そんなことをしてしまっては、ロザリーの身が折れてしまいそうだった。
 ロザリーの手が、ピサロを撫でる。
 子供をあやすように、慰めるように、優しく優しく、撫でる。
 それが切なくて、胸がぐっと締め付けられてしまう。

「ロザリー……ロザリー……ッ!」
 溢れそうになる涙を堪える。
 泣き叫びそうになる喉を留める。
 悲痛なその様子は、幾千幾万もの魔物たちを従えあまねく人間に恐怖を与える魔族の王――デスピサロのものではない。
 愛しい人を必死で救おうとする、たった一人の、ピサロという男だった。
288創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:11:41 ID:B4dI0Rhx
 
289創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:13:18 ID:iw2UmgrP
しえんっふふふぅっふぅ
290創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:13:40 ID:Mp2oGf9k
しえん
291創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:14:23 ID:B4dI0Rhx
 
292夜雨戦線 -Emotional Storm- ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 18:14:53 ID:YzqwPrB/
「はい、ピサロ様。ロザリーは、ここに、おりますわ……」
 
 だから大丈夫だと、言外に告げるように。
 ロザリーは、ピサロを撫で続ける。
 不意に。
 ピサロの手から、癒しの光が消失する。
 魔王といえど、魔力は決して無尽蔵ではない。 

 さまざまな強敵とピサロは戦い続けてきた。
 回復魔法で疲労をごまかし続け、ロザリーを探し回った。
 激情に流され惜しみなく魔力を解放した。 
 死に瀕するロザリーを救うべく、魔力を注ぎ込んだ。
 ほぼ丸一日、絶え間なく魔法を使い続けてきたのだ。
 魔法の源となる力が尽きるのは、自明の理だった。

 ピサロを撫でる手が、徐々に弱まっていく。
 美しい宝石のような瞳が、瞼の裏に隠れていく。

「私の大切な、ピサロ様……」

 それでもロザリーは、微笑んでいた。
 嬉しそうに、幸せそうに。
 そして少しだけ、本当に少しだけ、哀しそうに。
 
「どうか、どうか――……」

 願いを口にすべく、唇を動かす。
 それが形になる前に。
 ピサロの頬から、ロザリーの手が、離れる。
 そして、声の代わりに。
 再び閉ざされてしまった瞳から、雫が一滴、流れ落ちる。
 
「……あ、あぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁああぁああ――ッ!!」

 もう、限界だった。
 ピサロの口から絶叫が迸り双眸からは涙が溢れ出る。
 耐え切れず、抱きしめた。
 そんなことをしても、もはやロザリーはどんな反応も返してはくれなくて、喪失感を深めるだけにしかならなかった。
 その、絶望でカタチ作られた荒々しい嘆きを。 

 たった一つのルビーだけが、聴いていた。
 
【ロザリー@ドラゴンクエストW 導かれし者たち 死亡】
【残り22人】
 
【C-7中心部 一日目 夜中】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、MP0、人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:基本支給品一式、データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:茫然自失
[備考]:
※参戦時期は5章最終決戦直後

※以下の物がC-7中心部に落ちています。
 クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
 双眼鏡@現実、基本支給品一式
293創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:15:18 ID:iw2UmgrP
しえん…………えんえん……
294創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:15:31 ID:B4dI0Rhx
 
295 ◆6XQgLQ9rNg :2010/06/19(土) 18:17:37 ID:YzqwPrB/
以上、投下終了になります。
1時間以上の間たくさんの支援ありがとうございました。おかげさまで無事投下できました。

何かありましたら何なりとー。
296創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:20:21 ID:B4dI0Rhx
投下、執筆お疲れ様でした!
構成の妙と、巧みに重ねた描写に魅せられました……。
ブラッドを失ったマリアベルといい、ロザリーのルビーの涙といい、雨と絡めた構図が美しい。
ちょっと体調不良なんで、突っ込んだ感想は言えませんが、まずは楽しめましたとだけ申し上げます!
297創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 18:46:14 ID:/NUH7O3J
よかった!
なんかもうよかった!
あああロザリィイイイイ
面白かった!また読み返してきます
298創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 01:02:16 ID:w0lWOZpi
投下乙dふぇす
うっわあああああああああ……熱い男ブラッドが……
そしてようやくピサロに会えたロザリーまでもが……
特にピサロは今回ロザリーを殺したのが自分自身だから人間を恨むことはできんしなぁ……
向こう側のリンと合わせてこれで死者は三人目。しかも全員対主催
熱い話ではあるんだが、全滅or優勝EDがひたひたと近寄ってきてるのがたまらないです!
改めてGJ!
299創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 12:28:18 ID:+ar9Yxhn
投下乙です
まだまだ騒動は収まらないが二人も死んだか…更に増えるのだろうか…
ピザロはロワでも負の行動の清算をしたような結末だな…自分自身が殺害の犯人だしな
ブラッドは熱かったわ。でもカエルも魔王もまだ健在でどうなるか…
いやあ、よかったですわGJ!
300創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:12:15 ID:JKI30D9x
二人死んでもまだまだこの戦いは終わらんよ!ってことか
読みながら情景が浮かんできて燃えました
色々キッツイなぁ
301創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 23:43:29 ID:2gW/WSho
投下乙です!
まだまだ先の見えない戦い……そしてまさかのブラッド脱落。
仲間を背負うマリアベルがすごくかっこよかったです……。

おい! ピサロ! お前の所為でロザリー死んだぞ! おい!
って思わず突っ込みたくなるほどピサロのから回りっぷりも……。
次でどうなるか、楽しみです。
302創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 23:57:19 ID:cdHnxJqp
なんかピサロが逆恨み暴走モードになる未来しか見えねえ……
アナスタシアが自分の汚さを自覚するシーンはよかった
そしてブラッド本当に乙。ここでサクリファイスを使うか!
303 ◆MobiusZmZg :2010/06/22(火) 18:57:02 ID:VOdKdDMb
まとめwiki、書くにも読むにも、いつもお世話になっております。
ぶしつけな質問で申し訳ありませんが、現在の管理人さんは今もいらっしゃるでしょうか?
先日、スパム規制の解除を申し出た◆iD氏、ログインメンバーの申請を行った
自分ともども、メールでの対応がなされなかったので、少し心配しております。
とくに、◆iD氏の例については、wiki上における連続編集規制(デフォルトの設定ですと、
編集履歴の20中10以上が同一IPである場合、そのIPの編集を規制する)にかかった
可能性もあるので、もしもそうした設定の出来ない状況であったり、ご多忙である
ようであれば、そちらからwikiの管理権を移譲していただくのも手かと考えております。

お手数をおかけしますが、今まで進んで管理を引き受けてくださったということで……。
こちらで反応をいただき、対応をいただける場合は今のままで。
もしも、週末までに反応が無いようであれば、◆MobiusZmZgが管理権の移譲を申請いたします。
一応、自分は他ロワのwiki管理やHTMLの構築をとおして、管理・設定には慣れているかなと。
こちらの企画では本当に新参なので、ずけずけとものを言っても信頼……していただくしかないのですが。
よりよいまとめを皆で作っていくために、ご寛恕とご理解をいただければと思っています。
304創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 19:27:48 ID:F9ZAFDwX
破棄か
残念だけど時間が出来たらまた来てね
待ってます
305創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 21:03:03 ID:pQ4IXvdu
306付箋式地図についてのお知らせ  ◆iDqvc5TpTI :2010/06/22(火) 21:19:53 ID:pQ4IXvdu
書き手の皆様、読み手の皆様。
いつもお世話になっています、このロワで書き手をさせていただいている◆iDqvc5TpTIというものです。
既にご承知の方もいるかもしれませんがつい先程まで当RPGロワの付箋式地図のページが開けない状態になっていました。
これは地図のページに大量に直接英文スパムの投稿がされ、容量過多になっていたせいです。
スパム自体は単なるサイトのURLなのでウイルスのように地図を開いたからといって被害はありません。
しかし地図が落ちたとなると企画の進行の妨げになるのは事実。
聞くところによれば同じ付箋形式のライダーロワNにも同様の被害があったとのこと
ならば地図を復旧させたところで再度被害に合う可能性もありました。
故に地図のサイトの制作主様が復旧してくださると共に、パスワードを設定することにしたとの連絡が入りました。

RPGロワにおいてはユーザー名、パスの順に

rpg
map

と入力すればOKとのことです。
報告はこれにて。
この先もRPGロワをお楽しみください&満喫させていただきます!

また◆MobiusZmZgは発議ありがとうございます。
氏の発議内にもあるように私も一度スパム規制にかかり、その時に連絡をさせていただきました。
が、返事がなく結局は@WIKI本社の方にかけあって規制を解いてもらいました。
地図問題はたまたまWIKI自体とは無関係でしたが、これから先企画を進めるにあたり、
やはり管理人氏とはすぐに連絡のつく環境である方が望ましいのは事実です。
そこで私も◆MobiusZmZgの提案を支持します。
御一考・ご連絡いただければ幸いです。
307創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 23:29:12 ID:4eBXt5a3
気が付けば女性キャラ残り4人しかいないんだな。
最近忘れかけてたが、女に優しくないロワの名は健在か。
308創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 00:57:29 ID:puUb/PSI
誰が女のラス1になるかだな……
309創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 00:59:08 ID:kH0mQY1/
そこまで減ってたとはッ!
310創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 01:13:14 ID:iNxj82eL
マジレスすると

本命 マリアベル
対抗 ちょこ
堅実 ニノ
大穴 アナスタシア
番外 ゴゴ

だと思う。
311創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 03:31:56 ID:kH0mQY1/
ゴゴwww
性別不詳だもんなあ、あいつw
312創る名無しに見る名無し:2010/06/26(土) 00:34:23 ID:bLGBJDES
wikiが充実していってる…!
編集してくれてる方々超乙!
こうして書き手さんごとのキャラクター登場率見てるとなかなか面白いな。
313◇Rd1trDrhhU氏 代理:2010/06/27(日) 04:29:30 ID:tsBjdFOP
◆Rd1trDrhhU 投稿日: 2010/06/27(日) 03:37:47 ID:U11IiqhQ0
シャドウ、ルカ、ちょこの予約を破棄した者です。
あの破棄の後も書き続けていまして、やっと完成いたしました。
ですが、このロワでは破棄した場合のルールというものがありません。
よって、本スレで許可を取りたいと思います。
再予約(即投下しますが)しても、よろしいでしょうか?


232 名前: ◆Rd1trDrhhU 投稿日: 2010/06/27(日) 03:38:43 ID:U11IiqhQ0
あ、そうだ。
本スレは規制されてましたので、誰か転載をお願いいたします。
314創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 04:35:55 ID:tsBjdFOP
とのことです
一週間ほど予約も入っていませんし私はOKですよー
今度は完成しているとのことですし
315創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 04:44:10 ID:/I6AteX6
出来あがったのであれば、全然問題ないかと思います
というか、これまでそういう事がなかったとは、驚き
316創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 05:26:36 ID:qsejR92F
全然問題ないと思いますー
317創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 06:57:17 ID:L+pJP1VJ
おお……執筆お疲れ様でした。
自分もOKです、楽しみにさせていただきます!
318創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 08:24:59 ID:ht/AX7u0
期待、期待ー
319創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 14:02:33 ID:BBDfApVK
かまわん、投下(や)れ。
いや、やってくださいお願いします。
>>303にて、発議を行わせていただいた者です。
残念ながら、現管理人さんの反応がみられませんでしたので――
2010-06-27 19:06:39をもって、wikiの管理人さんに連絡を行なわせていただきました。
(これは、管理人さんに私本人が連絡を行ったことの確認レスも兼ねております)

なお、@wikiの管理権(アカウント)譲渡におきましては、下記URLのフローに沿って行っています。

ttp://www1.atwiki.jp/guide/pages/1433.html

本日、連絡をしたということで……この日から10日前後経っても管理人さんからの
反応がみられないようでしたら、今度は私が@wiki側に譲渡要望を行い、そこから1週間の
猶予をもって、@wikiが直接アカウントの譲渡案件を処理されるというかたちになります。
少しく時間はかかると思いますが、今しばらくお待ちいただければと思いますし、待ちたいと思います。
321創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 19:29:06 ID:L+pJP1VJ
20時30分前後から、◆Rd1trDrhhUが作品を投下されるそうです。
氏は、現在本スレ規制中なので、代理投下というかたちになります。
本文の容量が、txtの108KBであるとも伺っておりますので、支援を願えると幸いです。
322創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 19:38:50 ID:tsBjdFOP
Mo氏、報告承りました
Rd氏の投下についても了解です
323お知らせ訂正:2010/06/27(日) 19:48:24 ID:tsBjdFOP
◆Rd1trDrhhU 投稿日: 2010/06/27(日) 19:45:14 ID:U11IiqhQ0
予約スレの投下予告時間を間違えました、投下は8時半からです。
申し訳ありません。
 少女の首を刈り取る。
 その使命を帯びて放たれたのは、暗殺者シャドウの一撃。
 細く白い首筋に向けて、アサッシンズが無遠慮に振り抜かれた。

「…………ッ?!」
 しかし刃は標的を切り裂くこと敵わず、『ひゅぅん』と情けない風斬り音を立てる。
 命中を確信していたはずの不意打ちが外れた。
 いや、外れたのではなく、回避された。親子ほども年のはなれた少女に、である。
 その予想だにしない事実に、流石のシャドウも驚きを隠せない。
 しかし、その動揺も一瞬のこと。
 すぐに体制を立て直し、少女に追撃をお見舞いする。
 左から右へと。音速をも超える横薙ぎ。

「あたらないのー!」
 少女は寝ぼけて立ちくらんだかの如く、上体を僅かに逸らせた。
 それが回避行動であるとシャドウが気づいたのは、短剣が空を斬ってから。
 またもや、必殺の攻撃が空振りに終わったことを認識した……が、ベテランの暗殺者はそれでも動じない。
 宙で身体を反転させ後方へと向き直り、相手からの反撃を警戒する。
 だが、それも杞憂に終わった。
 少女はまん丸いふたつの目玉を、シャドウに向けるばかり。
 攻撃を加えようとする気配はない。
 焼け野原と化した港町の中心で佇む彼女の姿は、一人残された戦災孤児のようでもある。

「…………スロウ」
 熟練のアサシンは、たった二戟で小娘の実力が並外れていることを認めた。
 彼が選択したのは、弱体化魔法。
 思いのほか詠唱に時間がかかったのは、この魔法をあまり使い慣れていないからだ。
 彼にとって『速さを殺すに値する敵』は殆ど存在しない。
 大抵の敵は、一撃の下に切り伏せてしまうのだから。
 全身を流れる魔力が僅かに消費された手ごたえを感じ、スロウがちゃんと発動したことを覚る。
 大気中に渦巻いた魔力が収束し、標的の周囲で淡く光った。
 自らを囲うように生まれ出た輝く粒子を、物珍しそうに見回す少女を光が包み込み……。

 ……霧散した。

 魔法が弾かれた。
 その事実が示すのは、両者の圧倒的な魔力差。
 シャドウがもともと魔法を不得手としていたこともあるだろう。
 が、そのことを差し引いたとしても、あの娘の魔力は相当高いものであると推測できる。
 少なくとも、ティナやセリスのレベルは超えていた。
 シャドウの攻撃を楽々とかわしてみせるほどの素早さを持っているにもかかわらず、だ。

(…………なるほど)
 分が悪い。
 歴戦の暗殺者の経験と勘が、そんな結論をはじき出した。
 それでも男はナイフを構える。
 まだレッドゾーンには至ってはいないと、ここは引き際ではないと、無言で宣言した。
 現在相対している人物は、シャドウが今まで経験した中でもトップクラスにやっかいな相手だろう。
 今のところ彼に有利な要素など、この少女が積極的に攻めてこない、という点くらいか。
 だが、彼女だって人間。きっとそれ以外にも必ず何か欠点を隠しているはずだ。

(その欠点を、連続攻撃の中で燻り出す……)
 右膝を折り、前傾姿勢。
 スケート競技のスタートのような構えだ。
 鋭い鷹の眼が、年端もいかない娘をロックオンする。
 敵意なき少女を殺さんと、武器を強く握り締めた。
325創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 20:36:39 ID:tsBjdFOP
 

 戦友に誓いし勝利のために。
 その道程で殺してしまったツワモノたちに報いるために。
 バネと化した右足は、大地を蹴り上げ。
 その足音は、バケモノへと駆け出す小さな鬨の声となった。

 西に落ちかけていた太陽が、焦げた町を紅く照らす。
 まるで町が再び燃え始めたようで、シャドウは一瞬だけ高揚して……少しだけ恐怖した。

「ハァァ……ッ!」
 最初は真上から。
 振り下ろしたというよりは、叩きつけた。
 ジャブと呼ぶには、些か破壊力が勝ちすぎるか。
 それを少女はバックステップで易々と回避。
 力を込められた刃はあり余る勢いのままに地面へと……向かうことはなかった。
 静止したからだ。
 少女が後方へ退避したその瞬間に、待ってましたと言わんばかりにナイフはピタリと止まった。
 いかにシャドウの反応速度が神がかっているとはいえ、攻撃の成否を確認してからでは流石に不可能な動き。
 予め攻撃をキャンセルしておかなけば、こうはいかない。
 つまり、この一連の動作は攻撃が避けられることを前提としていた、言わば牽制だ。
 走るその速度は落とすことなく右肘を折り畳む。アサッシンズを胸元に構え、追撃の準備を刹那の間に完了させた。

「シュウおじさんより……はやいのー!」
 後ろ向きに走りながら両手を振り回し、キャッキャと笑う。
 殺気全開で迫りくる男を、笑顔で賞賛してみせた。皮肉ではなく、心からの賛辞だったのであろう。
 余裕と無邪気さがなせる業か。
 随分と舐めきった言動だが、シャドウはソレに不愉快な素振りなど見せることなく走り続ける。

「…………ッ!」
 少女との距離を調節した暗殺者は二撃目を繰り出す。
 助走の勢いを活かし、走り幅跳びのように『く』の字を描いて飛んだ。
 竜騎士の靴の力を借りた跳躍は、弾丸と見紛うほどの猛スピードで空に五十メートルの黒い放物線を描く。
 予想着地点には、左右に小さく括られた赤い髪。
 それを確認したシャドウは目標物を定めて片足を突き出した。
 足技、とび蹴りだった。
 しかし、クリーンヒットを狙ったにしては軌道が低い。
 実際、少女が小さくジャンプしただけで、簡単にやり過ごされてしまった。
 キックの体制のまま、敵の足下を潜り抜けてしまうシャドウ。
 失策だとしたら、世界一のアサシンにはあり得ないほどの初歩的なミス。
 しかし、違う。これはミスではない。
 この低空のとび蹴りすらも……彼のフェイントだ。
 スライディングと化したそのキックは、ガリガリと地面を削りながら滑走する。
 その反作用によって、助走によって生み出されたスピードも削り殺がれていった。
 ものの零コンマ五秒でブレーキに成功した彼は、少女の着地に合わせて足払いを放つ。

「うわぁッ!」
 さすがの怪物娘も、重力に逆らう術は持ち合わせていないらしい。
 突如として現れた漆黒の右足に着地を襲われ、身軽な身体は空中で半回転。
 頭を下にして落ちる少女の心臓目掛けて、短剣を全力で突き立てた。
 迫りくる銀の刃を目視した幼子は、慌てて自らの胸元で短い両手を交差させる。
 それは条件反射であったか、それとも冷静な判断に基づいた防御行動か……。

(……甘い)
 意図して防御したかどうかは関係ないと、シャドウは考えていた。
 放たれたソレは、あらん限りの力を込めた一振り。
 攻撃力が低いと一般的に評されているナイフだが、それでもシャドウの全力ならば鋼鉄の鎧をも砕き貫く。
 あんな細腕でどうこうできるシロモノではない。

 アサッシンズは速度を落とすことなく、小さな心臓目掛けて空を走る。
 勝利を確信したまま突き進むその切っ先が、少女の赤い衣服に接触しようとした……その瞬間に、それは起こった。
327創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 20:39:33 ID:tsBjdFOP
 
「……グッ!?」
 シャドウが仰け反りながら呻く。
 攻撃は、背後から。
 無防備な背中目掛けて、回し蹴りらしき衝撃が二回。
 敵の気配など全く感じていなかったシャドウは、呼吸を整えることも忘れ、慌てて後方を振り返る。

(…………なにッ?)
 赤い髪に赤い靴。
 まさに今殺そうとしたはずの少女が、なぜか笑顔でそこに立っていた。

(なぜ、こいつが俺の後ろに……?)
 両手を腰の後ろで組み、楽しそうに身体を揺らす少女を睨みつける。
 鋭い目をさらに細めながら、これはどういう事だと思考を巡らせようとした。

「おじさん、ちょこと遊んでくれるの?」
 彼の脳が作業を開始するよりも早く、かん高い声がそれを阻む。
 それは、男の背後から発せたれたもの。
 それは男が振り向く前に向いていた方向で、つまり少女が『さっきまでいた』場所だ。
 シャドウはそれまで細めていた両の目を瞳孔ごと見開きながら、上半身だけを後方に向ける。
 ちょこと名乗った少女が確かに立っていた。
 上半身を元に戻すと、やはり前方にも彼女の姿。

(……そうか…………)
 前後に感じる、全く同じ気配。
 それを確認して初めて、これが分身の能力によるものだと理解するに至った。
 挟撃の状況はマズいと判断すると、竜騎士の靴の力を借りた跳躍で二人の少女との距離を確保する。
 それを追うこともせず、同じ顔の少女たちはくるくるとバレリーナのように踊った。
 男が着地すると同時に、少女のうちの一方、おそらく分身の方がフッと跡形も残さず消失。

(やはり……)
 フンと小さく鼻をならし、アサッシンズを握る指に力を込める。
 たったいま煙のように消滅したのは、シャドウの目すらも欺くほどの精巧な分身だ。
 そんなものを詠唱もなしに発現させるほどの魔力に、男は驚きを禁じ得ない。
 セリス、ティナよりも遥かに……おそらくケフカ以上の。

(…………ふむ……)
 構えを解くこともなく、殺気を鎮めることもしない。
 深い呼吸を繰り返しながら娘を観察し、冷静にその能力についておもんばかる。
 敵意全開のシャドウとは対照的に、少女は無邪気な笑みを浮かべて彼に手を振っていた。
 そのスピードと魔力は、男の知る人物の中でもトップクラスだ。
 そのことはシャドウも、ここまでのやり取りの中でハッキリと思い知らされていた。

 彼が次に考えたのは、その攻撃力。
 背中に残るダメージは大したことはない。そのことから、あの『ちょこ』とやらの筋力はそれほど高くないことが分かる。
 あの小さな体から繰り出されたものとしては異常な破壊力であるが、それでもわざわざ回復魔法をかける程ではなかった。
 おそらく、白兵戦が得意な部類ではない。
 そう、結論付けた。
 決定的な弱点とはいえないが、欠点らしきものは見つかったようだ。

(問題は……防御力……)
 濁った黒目が見据んとするのは、未だに不確定な要素。
 未だに確認しかねているソレは、暗殺においては最も重視すべきステータスだ。
 相手の強力な魔法を掻い潜り、その異常なスピードを捉えて攻撃を命中させたとして、果たして『ちょこ』はその一撃で絶命するのだろうか。
 もし、捨て身の一撃を放ったとして、それでも殺しきれなかったとしたら……。
 ケフカ並の防御力、体力を、あの娘が持っていたら……。
329創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 20:41:53 ID:LgygCO8l
330創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 20:42:11 ID:tsBjdFOP
 
(だが、しかしだ)
 おそらく、無敵というわけではだろうとシャドウは推測する。
 その根拠として考えるは、先ほどの分身。
 攻撃を回避できない状況に追い込まれた少女は、魔法を用いて反撃したのだ。
 なぜか。決まっている……ダメージを受けるからだ。
 心臓にナイフを突き立てられれば、あの化け物であっても無視できないほどのダメージになるはず。
 だから、避けた。
 尤も、それでキチンと死に至ってくれるかどうかは定かではないのだが……。

(仕方ない……)
 少女から目線を逸らすことはせずに、短剣を握っていない左手で自分のデイパックを漁りだす。
 暗殺者シャドウの真骨頂、投擲の準備。
 相手の防御力を明らかにするための、場合によってはそれだけで死に至らしめる可能性を秘めた……奥の手だ。

 彼が最初からこの技術を使わなかったのには訳があった。
 エドガーたちと旅をしていたときとは違って、この殺し合いでは圧倒的にアイテムの数が足りないのだ。
 彼の手持ち道具の中で、投げつけられそうなものなど片手の指で数え足るほどしかない。
 昔のようにポイポイと放りまくっていては、直ぐに素寒貧になってしまう。
 だから、この会場において彼が投擲を放つのは、ここぞと言う時だけ。

(ゆくぞ……マッシュ……エドガー……)
 取り出したのはワイングラス。
 ステムと呼ばれる部分、植物でいう茎にあたる所を、親指と中指で挟むように持つ。
 そのまま軽く力を込めると、ピシリと小さな断末魔をたてて綺麗に二つに割れ折れた。
 片方はテーブルに接する、平べったく円形状のプレート。もう一方は液体が注がれるボウルという部分だ。
 そのどちらからも、ステムが半分ずつ槍のように付属していた。
 プレートをデイパックに戻し、左手に残されたボウルを右手のアサッシンズと持ち換える。
 高く掲げて振りかぶると、内部に付着していた赤茶色の洋酒が地面にポタリと落ちた。
 それは戦友たちの死に涙を零しているようにも見えたが、少女の紅い血が流れる勝利の未来を予言しているかのようでもある。
 そうだとしたら、透明な容器が披露したその予言は……。

「…………何だ……これは……」
 その予言は、大ハズレもいいところ。
 シャドウは、投擲することすら許されなかった。
 辺りに散らばっていた瓦礫を次々と浮き上げる旋風。
 あまりの風力に、投擲の構えが崩れる。
 シャドウを驚愕させたのは、少女を中心として展開した竜巻。
 突風に混じって感じ取れる魔力が知らせる。『これは、あの少女の起こした災害である』と。
 たまらず両手を顔の前で交差させるが、絶え間ない風は容赦なくその隙間を潜り抜けて顔面にタックルをしかけてくる。
 瞼を開けていられないほどの勢いに、仲間がかつて使っていたトルネドという魔法を思い出した。
 思わず右手から力を抜いてしまう。
 ワイングラスは重力など忘れてしまったかのように舞い上がり、螺旋を描いて空に旅立った。

「……これ……は……ッ!」
 大気圏にまで達そうかとしているグラスから、竜巻の中心へとシャドウは視線を移した。
 そこには両の掌を大地に向け、全身から魔力を噴出する少女。
 完全に暴風を支配していた彼女は、風力をあげてシャドウすらも空に誘う。
 竜騎士の靴の力で逃げるべきだったと後悔した時にはもう遅い。
 不可避の範囲攻撃を前には、シャドウのスピードも反射神経も無用の長物だ。
 ついに男の足は地面から離れる。
 あとは成す術もなく、ワイングラスの後を追うだけだった。

(……打つ手……なし、か…………)
 あっけない幕引きであった。
 たった一発で敗北確定なのか、と自嘲する。
 ここから叩き落ちればどうなるのか。シャドウはそれを考えようとして、やめた。
 もうどうしようもない事だと。
 そう諦めつつも、アサッシンズを握り締める左手はまだ固く、強く。
332創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 20:45:14 ID:tsBjdFOP
 
 彼は決して少女を侮っていたわけではない。
 これほどの広範囲に、これほどの破壊力の魔法を展開できるなど、誰が予想できただろうか。
 シャドウの戦闘スタイルは、牽制とスピードで撹乱しての一撃必殺狙い。
 それ故に、このような無差別破壊は起きないと言う前提の下で戦わなければならなかった。
 もし大規模魔法を食らってしまったら、致命傷に至らぬよう祈りながら耐え忍ぶ以外に道はない。
 だからこそ、獣ヶ原の洞窟でもキングベヒーモスのメテオに倒れた。
 だからこそ、アシュレーのバニシングバスターにも、惜しみなく太陽石で対応した。

(ひとりは……辛いな……)
 頭から落下。もう着地は不可能と判断した。
 剣に魔法を吸収してくれる仲間のことを思い出す。
 彼女さえいれば、こんなことにはならなかったのだろう。
 敵の魔法を同じもので相殺できるモノマネ師がいれば、トランスで敵の魔法ごと吹き飛ばせる少女さえいれば。
 この空よりも遥か高きを飛び回ったギャンブラーが、引き際を見極めてくれれば……。
 その拳で全てを砕く男が、自分たちを導いたその兄が、隠された道を開いてくれれば。
 そして……………………。

(眩しい……空だ……)
 太陽はビカビカと大地を照らし、滅んでしまった港町が紅くざわめく。
 闇夜に生きる影にとっては、その光景は不愉快で仕方がなかった。
 全てを照らそうとする夕陽も、それを迎合する廃墟も。

 ある仲間のことがいっそう強く思い返された。
 彼女なら、この光景すらも綺麗な景色として、キャンバスに描いてくれるのだろう。
 脳裏に浮かぶのは、赤い絵の具を染み込ませた筆でペタペタと白地を叩く少女の姿。
 思わず笑みをこぼしてしまったことに気づき、それを頭の中の幻想ごと殺した。
 自分が彼女の絵を見る権利などないのだ、と。
 目をつぶるその前にもう一度太陽を睨む。
 真っ赤な円形は、やはり気分のよいものでなく、おびただしい赤色を従えて世界を燃やしていた。
 恐ろしいほど、強く。



◆     ◆     ◆


「…………殺せ」
 仰向けで倒れたシャドウが、自らを見下ろしている少女に向けて告げる。
 あのまま地面に叩きつけられたはずなのだが、彼はまだ生きていた。
 それどころか手足の一本すら折れていない。
 何本かの肋骨が折れた程度で済んだのは、少女が手加減したからにほかならない。
 それでも彼の体力は大幅に削られ、すぐには立つことすら出来ずに咳き込むばかり。
 デイパックもどこかへ飛んでいってしまっては、もはや成す術もない。

「なんで?」
 真ん丸い目玉をリスのようにクリクリと輝かせ、少女は首を傾げる。
 赤い髪の毛がフワリと揺れた。
 荒れに荒れた焼け野原と彼女のあどけない姿はなんともミスマッチだ。

「……それが……勝者の、権利だ」
 少女の疑問には答えない。ただ彼は殺害を要求するのみ。
 もしも、体が動くなら……彼は逃げていただろう。
 誇りも何もかも投げ捨てて、生き抜くために逃げていた。
 だが、それが可能な状態にまで回復するには、かなりの時間を要する。
 彼女が動けない男を弄り殺すには十分すぎる程の時間だ。
334創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 20:47:42 ID:tsBjdFOP
 
 シャドウは命乞いはしなかった。つまり彼は諦めたということだ。
 敵前で動けなくなったら死を選ぶ。
 それが暗殺者のルールだった。
 拷問されたうえに嬲り殺されるくらいなら、一思いに殺される方が多くの物を守って逝けるからだ。
 男のかつての相棒であるビリーも、最期までそれを望んでいた。
 逃げるシャドウの背中を睨めつけながら、ずっと。

「いやなのー!」
 しかし少女は、暗殺者の要望を笑顔できっぱりと拒否。
 なぜか楽しそうに男の周りをトテトテと走り回る。
 それをシャドウは鷹の目で睨みつけた。
 あらん限りの威圧感を込めて。

「……ならば……また、俺は……君を殺す……」
「んーん、ダメなの。おじさんは、今からちょこと遊ぶんだからー!」
「…………」
 なんて馬鹿げた会話をしているんだろう。
 その事を自覚するなり、己がやろうとしてる事がひどく無意味なものに思えてくる。
 暗殺者の生き方などを、年端の行かない少女が理解できるわけがない。
『ここで死ぬんだ』と早合点をした末に、そのような愚行を演じた自分自身をシャドウは諌めた。

 どこかでガラスの割れる音がする。
 それは、今になってやっと落ちてきたワイングラスの断末魔だった。

「…………後悔、するぞ……」
 脇腹に走る鋭い痛みに耐えながら、ため息混じりで吐き捨てた。
 少女に殺意も敵意もないのであれば、わざわざここで死を選ぶ必要もないと判断。
 ならば適当に彼女をあしらいながら回復するのを待って、逃げるなり、不意打ちで殺すなりするのが最良の選択肢だ。
 これで、何度目になるだろうか。
 また死に損なってしまった自分のしぶとさに、吐き気を催すほど感嘆した。

「後悔なんかしないもん!」
「…………そうか」
 もし、もう一度チャンスがあれば、シャドウは彼女を殺害することができるだろうか。
 ……無理だ。そんなこと自分には不可能だ、と彼は痛感していた。
 この娘の小さな身体には、シャドウにそう思わせるほどの力が秘められている。
 だから、彼女はこんなにも自信満々なのだろう。胸を張る少女を見ながら、シャドウはひとり納得する。
 強いから、絶対に負けない確信があるから……彼女はシャドウを殺さなくても後悔などしないのだろう。
 このとき、男はそう思っていた。

「おじさん……まだ痛い?」
「……問題ない」
 くだらん遊びにつきあわされるよりは、と。
 シャドウは地に臥したままで会話に応じる。
 それを受けて、少女はテコテコと彼の方に歩み寄り、真横に並んで腰を下ろした。
 たった今、自分のことを殺そうとした男の横に。
 その純真さは、暗き道を行く男には触れ得ぬもの。

「よかったのー」
 投げ出した両足をバタつかせることで、犬の尾よろしく喜びを表現する少女。
 実際に戦闘不能に追い込まれたシャドウですら、この子があの竜巻を起こした張本人だとは信じられない。
336創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 20:50:49 ID:tsBjdFOP
 
「君は……」
「ちょこはちょこ!」
「…………ちょこは、ここで何を……」
 風に混じって、パラパラと瓦礫が砕ける音がする。
 港町は、無残な有様だった。
 無理もない。元より激戦のせいで廃墟同然だったところに、あの竜巻が起きたのだから。
 そんな中、町の外れに位置する場所に、たった一軒だけ無事なままで建っている家がある。
 運よく危機を脱したその民家に、シャドウは少しだけ親近感を抱いた。

「ちょこはね、おねーさんを探してたの」
「……誰だ?」
「ちょこ、おねーさんとけっこんしたの! ムチムチプリンなんだからー!」
 嬉しそうな顔で胸を張るが、シャドウには何がなんだか分からない。
 詳しく聞くのも面倒だと感じた彼は、適当に「そうか」と簡単な相槌を打った。
 他の参加者の情報など、敵見必殺を決め込んだ彼にしてみればそれほど有益なものではない。

「おじさんは?」
「…………?」
「おじさんは、何してたの?」
 男は、少女の質問の意図を汲み取れずにいた。
 幼い娘を不意打ちで仕留めようとした人間にする質問ではない。
 優勝を狙って、皆殺しを決行しているに決まってるではないか。

「…………人を……殺していた」
「なんで?」
 なおも傾き続ける太陽。空までもが燃える。
 訝しげに少女を見やったシャドウは、彼女の向こう側で赤く染まる空にかつての終末を思い出した。
 あの時の仲間達の悲しそうな顔、特にセッツァーの情けない顔は忘れたくても忘れられない。

「…………優勝して、生きるためだ」
「ゆうしょー? 競争でもしてるの?」
 首をかしげた少女の尖らせた唇を見て、シャドウは初めて気づいた。
 少女がこの殺し合いを理解していないことに。
 だから彼女はこんなにも呑気だったのだ。

 殺し合いのルールを教えるべきか、否か。
 シャドウは逡巡し、押し黙った。

「ゆうしょーするために、殺すの?」
「……………………」
「殺さないと、しんじゃうの?」
「…………あぁ」
 悲しそうな声で紡がれた質問に、これまた悲しそうな返答を投げ返す。
 彼のその短い呟きにどれほどの重みが込められていたのか、少女には計り知れない。
 シャドウ自身にも、分からないことなのだから。

「そっか」
「……理解、したのか?」
 相手の顔も見ずに、男は赤い空へと吐き捨てた。
 確かめると言うよりは、からかう様な口調。

「んーん。むずかしくて、ちょこ分かんない」
 先ほどまでキャッキャとはしゃぎ回っていたのとは一転して、落ち着いていた雰囲気をみせる。
 少女の変化に呼応したかのように、暴風の傷跡新しい港町跡もようやく落ち着きを取り戻す。
 海から久しぶりに吹き込んだ潮風が、二人の頬を撫で冷やした。
338創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 20:54:01 ID:tsBjdFOP
 
「だろうな」
「でも、ちょこ知ってるよ」
 少女も、男に倣って天を仰ぐ。
 白い頬に差した朱は、夕陽が照らしたソレだろうか。

「誰かを殺したって、さいごにはね、ひとりぼっちになるだけなんだよ」
「……………………」
 シャドウに言い聞かせるために語られた言葉のはずだった。
 だけど、その声はか細く、自らの頭の中で反響させるために発せられたかのよう。

「ひとりは寂しいの……」
「……………………」
 シャドウは既に立ち上がれるまでに回復していた。
 しかし、寝そべったままで少女の二の句を待ち続けている。

「ほんとに、つらいんだから……」
 少女はもう、泣いているかのようで。
 シャドウがハッと、小さく息を吸い込む。

「…………殺したのか? 人を。」
 誰もが躊躇うだろうその質問。シャドウはそれを淡々と問いただした。
 彼は少しだけ少女に興味を持っていた。
 自分の娘ほどの年でありながら、自分と同じ咎を背負っているかもしれない少女に。

 その質問を受けたちょこは、何も言わず静かに俯く。
 首肯したわけではないのだが、その沈黙はもはや肯定したに等しい。

 それから、二分から三分ほどの間、両者ともに黙りこくっていた。
 逆に言ってしまえば、僅かそれだけの時間で静寂は打ち切られた。
 意を決したように一度だけギュッと目を瞑り、ゆっくりと開いてから、少女はポツポツと語りだす。

「…………ずっとずっと、昔にね」
「…………」

「ちょこ、知らなかったの」
「………………」
 
「ちょこのチカラを」
「……………………」

「気づいたら、村のみんなも……父さまも…………」
「…………君は……」

「ちょこ、ずっとひとりだった。寂しくてずっと泣いていたのよ」
「……………………」

 ユーリルに必死に語りかけた時とは違って、独白は淡々と。
 まるで、シャドウの淡白さが伝染したかのように。
 断片的とすら言えないほど、虫食いだらけの情報だった。
 それでもシャドウは、彼女の過去に何があったのかをおぼろげながら理解した。

 偶発的な力の暴走。
 それによって少女は大切な人々を死に至らしめ……。
 望まない殺戮により、幼い少女は長い孤独に苦しむこととなった。
 そんなところだろう。
340創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 20:55:58 ID:tsBjdFOP
 
「…………だから、おじさんも…………」
「…………」
 言いかけたちょこの襟首をシャドウが掴んで、地面に押し倒す。
 小さく悲鳴をあげた少女の首筋を冷やしたのは、シャドウが宛てがったアサッシンズだった。
 魔法で反撃することも出来たのだろうが、彼女は男の目を見つめたまま動かないでいる。

「……だから、何だ?」
 研ぎ澄まされた目であった。
 その殺気は、最初に少女を奇襲したときから減衰することなく、その視線と同じくらいの鋭さを帯びている。

「…………おじさん……」
「だから、止まれと? だから今から生き方を変えろと?」
 首元に押し付けられた男の腕が少女を圧迫する。
 苦しそうに眉をしかめた彼女を、男は感情の篭っていない冷たい目で見下ろしていた。

「戦友への誓いを……破れと言うのか……!」
「………………………………」
 ギリリと、ちょこのに届いた耳障りの悪い音。
 男の口元からにじみ出た血液がマスクから滲んで少女の頬に垂れ、赤い斑点を形成する。
 両腕が自由なはずの彼女だが、その血を拭うことはしない。
 必死に感情を殺す男を、悲しそうな顔で見つめていた。

「俺は、生きて帰るために、皆殺しをすると誓った。
 君も……貴様も例外じゃない」
 その言葉に反して、一向に少女の首を引き裂こうとしないシャドウ。
 短剣をスライドする簡単な作業のはずなのに、彼の右手は一向に仕事を始めようとしない。
 それどころか、苦しげな少女を見て、押し付けている方の手を緩めてやる始末。

「ねぇ、おじさん……」
 上手く言葉が紡げないでいる男に代わり、ちょこが口を開いた。
 男も彼女の言葉を待っていたようであった。

「……寂しく、ないの?」
「……………………」
 ちょこの言葉を合図として、彼女の首元で待機してたアサッシンズがついに動いた。
 だがしかし、鋭い切っ先は張りのある肌を傷つけることなく、ゆっくりと少女から離れていく。
 シャドウは腰元に短剣をしまい込むと、押さえつけていた手から力を抜いて彼女を解放した。

「…………君も俺を殺さなかったな。これは、その報酬だ」
「ありがとうなの」
 シャドウが危害を加えないことを分かっていたかのように、ちょこは静かにだがはっきりと礼を述べる。
 服についた砂をパンパンと叩き落とす彼女を黙って見つめながら、男は焦げた大地に再び腰を下ろした。
 座った瞬間に、折れたあばら骨がキリキリと痛みをあげたが、眉一つ動かすことなくやり過ごす。

「…………寂しいさ」
 そうボソリと嘆いて、直後に吹いたそよ風を一瞬だけ堪能して、また口を開いた。
 背中の擦り傷に、潮風が沁みる。

「孤独であることを、忘れてしまいそうになる程に」
「そっか」
 ちょこは服を叩くのをやめて、シャドウの隣に腰掛ける。
 せっかく綺麗にしたスカートに、また大量の砂が張り付いた。
 シャドウはちょこの姿を横目で追いかけていたが、彼女と目が合うと直ぐに視線を逸らしてしまう。

「……君は…………娘に、似ている」
 数分間の沈黙の後であった。
 ふと、語りだすはシャドウの方。
 ちょこは朝一番のあくびをするように顔を上げて、彼を見る。
「おじさん、お父さんなの?」
「あぁ。母親はもう死んだ」
 なぜ、そんなことを彼女に伝えるのか、シャドウ自身も不思議で仕方がなかった。
 一刻も早く退散して、また殺戮に戻らなくてはいけないはずなのに。

「その子のために帰るの?」
「…………いや……」
 答えにつまり、何も言えないでいる彼を、ちょこは静かに待ち続ける。
 男が真実を搾り出したのは、その三十秒後。
 長いとも短いとも言い難い間だ。

「……いや…………彼女は、父親の顔も…………。
 ………………死んだものと……思っている……」
「そうなの…………」
「人殺しだからな。そのほうが幸せだ」
 よくもここまでベラベラと喋るものだ。
 シャドウは心中で己に毒づく。
 彼は、自分自身の気持ちがどうなっているのかすら分からなくなっているのだろう。
 暗殺者として正しい行動がとれなくなっているほどに。
 それはおそらく、この少女のせいであり、かつての仲間たちのせいであり、彼がフィガロ城で殺した少年のせいでもあった。

「でも……それって………………」
「……待て。来るぞ」
 悲しそうに俯いた少女は、これまた悲しそうな声で男に反論しようとした。
 だがその言葉は、冷たく放たれたシャドウの声と、突如として辺りに広がった濁った殺気によって遮られてしまう。
 シャドウは、ズシリズシリと現れた人物のことを、象のように大きな男だと錯覚した。
 その男が放つ異常なプレッシャーのせいか。
 狂気を伴って現れた白い騎士。
 彼がニヤリと笑ったその瞬間に、焼け野原は『一触即発』の状態を経由することすらせずに、ダイレクトに戦場と化した。

「先ほどの竜巻は……お前か?」
 犬歯を剥き出しにして、敵対心を隠すことなく。
 尋ねられたシャドウは、それには答えず、腰元から取り出したナイフを回答とした。
 それを見て、騎士は嬉しそうに再びの笑みを浮かべる。

 狼は、餓えていた。
 数時間という長すぎる睡眠を経て、肉体的にも精神的にもある程度は回復。
 それに反比例して増幅するは、破壊欲。殺戮欲。
 人を、エルフを、ノーブルレッドとやらを。生けとし生きる全てを斬りたくて仕方がなくなっていた。

 そして狼は、歓喜していた。
 目の前に現れたのは、忍者らしき風貌の男。
 男の方から発せられるのは、修羅の道をいくものの『圧』。
 殺しがいがありそうだと、生唾を飲み込む。

 高揚した騎士は、デイパックを遥か遠くへ投げ捨てた。
 それは剣一本で殺してやるという、余裕じみた宣言だったのだろう。

「たやすく死んで……くれるなァッ!」
 小娘には目もくれず、ルカ・ブライトはアサシンに向けて走り出した。
 皆殺しの剣という、まるで彼の狂気を讃えるがために生まれ出でたような業物の柄を強く握りながら。

(次から……次へと……)
 一切の感情を消し、殺しのプロに一瞬で戻ったシャドウ。
 強者を前にしても彼に喜びはなく、ただ無心でアサッシンズを構えた。
 ただ、少しばかりの拭いきれない孤独感を抱えて。
343創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 20:58:44 ID:tsBjdFOP
 
344創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:00:10 ID:tsBjdFOP
 
 男二人は、お互い真正面から相手へと直進する。
 だが、ぶつかり合いになれば、フィジカルで勝るルカに分があるのは誰が見ても明らか。
 だから、黒衣の暗殺者が正面から相手に挑むわけがない。その前に必ず何かを仕掛けるはずだ。
 そのことは、迎え撃つことになるルカも承知の上であった。

「そうだ、小細工を弄せッ!」
 シャドウへと突進しつつも、彼の出方を楽しみに待つ。
 こんなにも楽しそうなのは、戦いを楽しみたいからじゃない。
 単にルカは、敵が足掻く姿が見たいのだ。

「…………」
 しかし、シャドウはルカの期待に反し、全速力の直進を断行。
 特に策らしい動きを見せることなく、ルカの剣が届くかどうかの範囲にまで踏み込んだ。
 が、それでも彼は加速を続ける。
 アメフトの試合ばりのタックルをお見舞いしようとしているかの如く。

「……ふん」
 敵の無策っぷりにつまらなそうに鼻を鳴らしたルカは、シャドウへ向けて剣を横薙いだ。
 筋骨隆々の男ですら両手で振るのがやっとの剣を、まるで棒切れのように軽く扱う。
 ブゥゥンと大型獣のいびきの様な重低音は、運悪くその軌道上に存在してしまった空気の悲鳴か。
 それほどの速度での攻撃を繰り出しているにもかかわらず、放った張本人であるルカは踏ん張る様子すら見せない。
 仁王立ちのままで、一切の体軸をブラすことなく一連の動作を成功させていた。

 がぁん、と。
 金属同士がぶつかる衝撃音。
 宙を割り裂いて迫った皆殺しの一振りを、シャドウは素直に受け止めたのだ。

 シャドウという男は決して非力ではない。
 マッシュほどではないが、常人と比ぶれば異常なレベルの腕力を持っている。
 だとしても、彼の行動は無謀すぎた。
 いくらシャドウのパワーが世界で指折りだろうが、ルカのソレは異常者の中でも飛びぬけて異常。
 そして、その男の一閃のスピードもまた、同様に常識の範疇を遥かに超えていた。
 その二つが加算ではなく、乗算として計算され……。
 その解として得られた破壊力が、そっくりそのままシャドウが片手で握った小さなナイフにぶつけられる。
 耐えられる道理がなかった。
 一瞬の鍔迫り合いすら許されず、シャドウの体が容易く揺らぐ。

「吹き飛べ……蝿が……」
 もはやルカの顔に愉悦は見えず、期待はずれを演じた男を憎しみとも哀れみとも言えぬ表情で見据えていた。
 右腕をそのまま一気に払う。木の棒でヤキュウに興じるかのように。
 その軌道はややアッパー気味で、白球に見立てられた漆黒の男を空まで掬い上げた。
 もし、シャドウが体勢を崩したまま空に浮いてしまえば、ルカの追撃をかわすのは限りなく不可能に近い。
 チェックメイトを確信したルカの顔に、笑みが戻る。
 無様な男を、あざ笑っていた。

「ファイラ」
 だが、全てはシャドウの思惑通り。
 フェイントすらなしにルカに突っ込んでいったのも、彼の策のうちだ。
 上、下、左、右、斜、突、どの方向から攻撃が来てもいいように、彼は状況に応じた対処法を事前に用意していた。
 今回は、右下から左上への斜め一閃。
 それを確認した彼は、瞬時に、条件反射のレベルでカウンターの準備に移った。
 超破壊力を前に、下手に踏ん張ることはせずに、その勢いを上昇速度へと変ずる。
 そして、別れ際にお見舞いしたのは炎の魔法。
 もちろん、ダメージを期待してのことではない。
 彼が必要としたのは、爆炎によって舞い上がった土煙。
346創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:02:47 ID:tsBjdFOP
 
347創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:03:48 ID:Z40MVJjw
「……ほぅ」
 ルカの、三度目の笑み。
 今度は最初と同じ種類の、男の実力に期待してのものだ。
 彼が評価したのは、敵の判断能力でも、突進の速度でも、もちろん魔法の威力でもない。
 ルカ・ブライトを唸らせたのは、シャドウの『精密さ』。
 敵の攻撃を受け止めて、それをそのまま移動の速度に利用すると言うのは、達人レベルのパワーコントロールを要求される荒業だ。
 僅かでも受け流す方向がズレれば、斬り付けられる勢いのままに身体は回転してしまう。
 寸分違わず攻撃を受け流して始めて、この一連の動きは成功する。
 それほどの高等技術を、攻撃が来る方向を確認してから、しかも『吹き飛ばされたように見せかけて』行ったのだ。
 ここまでのテクニックを有した戦士は、ハイランド王国にはルカも含めてただの一人も存在していなかった。

「フハハハハハハハ! そうだ! 足掻いて魅せろッ!」
 土煙で何も見えず。
 敵がどこから来るのかも予想がつかない。
 それでもルカは狂喜の中にいた。
 自分の知る中でも随一の戦闘技術を持つ男はどのように足掻くのが。
 どのような断末魔をあげるのか。
 それだけを考えて。自分の命の心配など一切することはなく。
 三度目の笑みは長く長く、彼の顔に張り付き続けた。

 そしてその表情を崩すことなく、彼は右腕を掲げる。
 その手が握る一振りが、上空から繰り出されたシャドウの必殺を難なく受け止めた。

「…………ッ?!」
 驚いたのは攻撃を繰り出したシャドウの方。
 騎士がシャドウの攻撃に感づいた様子は、全くなかったはず。
 視界は奪った。この土煙の中で相手の姿を確認するのは不可能だ。
 音だってない。足音はおろか、呼吸の音すらさせなかった。
 気配も殺した。そんなものはアサシンの基礎中の基礎。
 殺気も消した。これに関してはシャドウにしかできない芸当だ。
 一切の情報を断ち切られたにもかかわらず、瞬速の攻撃を防いだこの男。
 シャドウには、この男が予知能力を持っているとしか考えられなかった。

「当たり、だな」
 体勢変えずに、首だけ動かし上を向く。
 ドス黒い双眼が、澄んだ黒を捉えた。
 当然の話だが、ルカ・ブライトには予知能力などありはしない。
 それどころか、彼はいつどこから攻撃が来るのか、特定すらしていない。

 勘だった。

 ただ、『上から攻撃がくるような気がした』のだ。
 とはいえ、全くの当てずっぽうということでもない。
 この男にとって警戒すべきは、空からの攻撃だけ。
 いかに一騎当千の狂皇でも、脳天に刃物を叩き落されたらただではすまない。
 それ以外の方向からならば、たとえ一撃食らったとしても死なないという絶対の自信を彼は持っていた。
 だから、唯一の急所を防御したというわけだ。
 もっとも、そのタイミングに関しては完全なる勘であるのだが。

「それで、終わりか?」
 土煙が完全に消え去った後、空間を支配したのは黒い霧……のような悪意。
 黒い光を垂れ流す太陽のように、世界を恐怖で包み込む。
 目を合わせていたシャドウは、ソレを直接に浴びせられる。
 汗が垂れた。
 しかし水滴は地面に達することなく、ルカの『闘気』で蒸発する。
349創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:05:07 ID:Z40MVJjw
350創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:05:28 ID:tsBjdFOP
 
「……まだ、だ……!」
 シャドウが集中すれば、冷や汗は瞬間に止まった。
 刃でルカに支えられ空中に静止していた状態から、バク宙で地上へと帰還する。
 着地と同時に、いつものように姿を消した。
 目にも留まらぬ速さで動く、シャドウの十八番だ。

「確かに、強がるだけはある」
 口端を歪め、余裕綽々といった風で褒め称えた。
 ルカの動体視力をもってしても、その姿をハッキリと追うことが出来ない。
 ところどころ、シャドウが方向転換した瞬間だけその姿が鮮明に映し出され、少し遅れて足音が届く。

「だが」
 右足を振り上げ、一歩を踏み出す形で地面に叩きつける。
 全力の四股は、大地を揺らすには至らないが、轟音を響かせながら空気を震わせた。
 皆殺しの剣を大地と平行に払う。
 銀色の刃がルカを中心とする半円を描いたころ、ピタリと急停止。
 空中で静止した剣先は、一寸の震えすら許されてはいなかった。

「俺を殺すにはまだ遅いぞ!」
 怒鳴りながら睨んだ先には、眼前に剣を突きつけられたシャドウ。
 たしかに彼は、ルカが相対した人物で最速には違いない。
 が、それでも、神経を研ぎ澄まし、全六感を駆使すればこのとおり。

「……見せてやろう」
 ひどく、楽しそうに。
 買ったばかりの玩具を嬉々として破壊する子供のように。
 シャドウを攻撃することなく、剣を収める。
 懐から取り出したのは、淡く輝く石。

「スピードも技術も、人の思いとやらも飲み込む…………」
「……ッ!」
 シャドウが目を見張り、息を呑む。
 男が取り出したのは、魔石だった。
 時空を超えて、幻獣を召喚する鍵となるアイテムだ。

「……悪というものをなッ!!!!」
 握り締めて高く掲げる。
 その美しい輝きは、しかし大規模破壊の宣告。
 赤き空を引き裂いて、三本の巨大な鉄塊が大地に降臨し、ルカさえ揺らせなかった大地を大きく震わせる。
 それは、剣だった。
 聖剣がひとつ。名刀がひとつ。なまくらがひとつ。

「…………クッ!」
 時空の割れ目から現れた巨大な武者を前にして、シャドウが思わず舌を打ち鳴らす。
 一歩一歩、小規模な地震を従えて登場したそれは、彼もよく知る幻獣。
 名を、ギルガメッシュと言う。
 天敵である回避不可能な攻撃を前にしても、諦めることなく構え続ける暗殺者。
 その男をターゲットだと見なしたギルガメッシュは、かつてを思い出したように一瞬だけ悲しそうに目を細め。
 三本のうちの一本、名刀マサムネを手に取った。

(不味い……な……)
 剣豪は、シャドウに手心を加える気はないようだ。
 それは、強者であるアサシンへの、ギルガメッシュなりの礼儀だったのかもしれない。
 大剣と呼ぶのも憚られるほどの大きさの刀を、さらに巨大な幻獣が振りかぶる。
 刀身が夕陽を反射して、赤く光る。
 シャドウは、その炎と見紛う程の紅刃に、何度目かの恐怖を覚えた。
352創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:06:43 ID:Z40MVJjw
353創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:08:24 ID:Z40MVJjw
354創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:08:40 ID:tsBjdFOP
 
「ふはははははは! 燃える剣か!」
 自らの扱う技とよく似た光景に、「これはいい」と高笑う。
 しかし、ギルガメシュの集中が高まるとともに、その笑い声は次第に小さくなっていく。
 ついに男の顔から笑顔が消え、冷たい顔から憎悪のような感情が漏れ出した。
 それを合図として、召喚獣は巨剣をシャドウに叩きつける。

「…………苦しんで死ね」
 シャドウのファイラとはケタ違いの土煙が舞い上がる。
 茶色い粒子が視界を阻むが、ルカは知ったことかとその中へと歩みだした。
 何も見えない濁った濃霧の中を、ツカツカと一直線に進む。
 いつの間にか、ギルガメッシュはこの世界から消えてしまっていた。

「意外と、しぶといではないか」
 土煙が晴れ、景色が開ける。
 マサムネの一撃によって、完全に荒野と化した港町。
 その中心には、血まみれで倒れ臥すシャドウと、彼の胸元を踏みつけるルカ・ブライト。

「苦しむ時間が増えた……だけッ! だがッ! なァッ!」
「…………ッグゥ……!」
 言葉に合わせて、何度もシャドウを踏みつけるルカ。
 クロノたち三人を殺して以来の、久しぶりの獲物の登場に狂乱していた。
 五度目のスタンプの直後、シャドウが咳とともに口から大量の血液を吐き出した。
 内臓を損傷してしまったのだろう。

「無様だな。貴様の敗因……何だと思う?」
「グゥ……ごはぁッ!」
 潰された臓器が存在するであろう脇腹を、グリグリとつま先で押しつぶす。
 ルカの足が左右に揺れるたびに、シャドウが何度も吐血。
 崩壊した大地に、赤い血だまりを形成する。

「無差別破壊に耐える術を持たなかったことだ」
 ルカが剣を掲げる。
 頭か心臓か、トドメに刺し貫く部位を選別していた。
 どこが一番苦しいものかと考えながら。

「そんな様で……よく一人で生きてこられたものだ」
(ひ……とり…………)
 ルカが手に持つ剣をクルリと回転させ、下に向ける。
 もちろん、倒れた男に突き刺すためだ。
 シャドウは、自らの命に引導を渡さんとする凶刃に、目をくれようともしない。
 彼を思考へと誘ったのは、ルカの言葉の中にあった『ひとり』という単語。

「ふん、誰かに頼らぬと生きていけぬ。脆弱なブタめ」
(そう、いえば……だれ、か、も……)
 シャドウは必死に思い出そうとする。誰か『ひとり』を嘆いていた人物がいたことを。
 それが誰なのか、おそらく大事なことであるのだろうと。
 しかし、狂皇がそんな時間を与えるはずもなく。
 男の心臓に照準を定め。

「もういい。死ね」
 振り下ろした。一気に。
 その言葉をきいて、シャドウはやっと我に返り現実を見据える。
 暗殺者の両目が捉えたのは、自分に向けて突き進む剣先。

「く、そ……」
 自らに残された時間の少なさに恨み節を吐きながらも、必死にその人物が誰だったのかを記憶の中から探り出そうとする。
 シャドウの脳がその正体を突き止めたのは、ルカの剣が彼を絶命せしめんとするその瞬間であり…………。
356創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:09:18 ID:LgygCO8l
357創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:10:03 ID:Z40MVJjw
358創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:10:32 ID:tsBjdFOP
 
「だめなのーーーーッ!」
 少女の放った水塊が、ルカの攻撃をキャンセルした瞬間だった。
 狂騎士が、ちょこの魔法を食らって数百メートルも吹き飛ぶ。
 だが、手にした剣を取り落とすことなく、それほど大きなダメージも受けていないようだ。
 それは、少女の放った『パシャパシャ』が、相手を始末するためでなく弾き飛ばすことを目的としていたからだ。

(そ……う、だ。ちょ……こ……)
 その姿を確認した瞬間に、急に記憶が鮮明になった。
 たった今シャドウを助けたこの少女こそが、彼が求めていたその人。
 ひとりであることの悲しさをシャドウに吐露した張本人だ。

「小娘ェッ! ……そんなに死にたいかァッ!!!!」
 立ち上がったルカが吼える。
 こんな少女に極上の瞬間を中断されたことに、彼は激しい怒りを覚えていた。
 全開の殺意を彼女に浴びせる。
 普通の人間なら、それだけで泡を吹いて失神してしまうだろう。

「おじさん、立てる?」
「なん、と……か……な…………」
 血液交じりの堰をしながら、ゆっくりと立ち上がる。
 制限によって効き目の薄いケアルガを三回ほど唱えて、やっとシャドウは歩けるまでには回復した。

「それじゃ、逃げて」
 ジリジリとこちらの様子を伺いながら迫るルカ。
 ちょこはそれを睨みつつ、後ろに立つ男へと提案する。
 らしからぬ静かな口調が、彼女の覚悟の強さを物語っていた。
 シャドウはその言葉の意図が分からず、「なに?」と一言だけ。

「おじさんは、逃げるの。あの人は、ちょこが代わりに…………殺すから」
 シャドウと戦った時には見せることはなかった確かな戦意が、少女から漂っている。
 会話をしながらも集中を崩さず、いつでも魔法を展開できるように。

「だが、君は……さっき……」
 ちょこが殺しを嫌っていたことをシャドウは知っている。
 だから今彼女がアッサリと殺人を宣言したことに、戸惑いを禁じえない。
 シャドウの疑問に、ちょこは小さく笑ってから口を開く。

「ちょこね、ずっといい子になろうとしてたの。いい子になれば、死んだ父さまが救われるって信じてたから」
「ならば……!」

「おじさんには女の子がいるんだよね?」
「…………あぁ」
 シャドウは訝しげに、掠れた返事を返した。
 口の中には、未だ鉄の味が残っている。
 男の返事を聞いた直後、ちょこの張り詰めた戦意が一瞬だけ緩んだ。
 すぐに集中を取り戻すと、意を決したような、優しく説き伏せるような口調で続ける。

「その子、きっと泣いてるの」
「…………」
「会わない方が幸せだなんてちょこ信じない。ちゃんと抱きしめて欲しいに決まってるの。
 その子もおじさんもまだ生きてるんだよ? 家に帰れば会えるんだよ?」
 シャドウはなにも答えない。
 堰を切って流れ出した少女の言葉を、ジッと黙って聞いていた。

「だからおじさんは、ゆうしょうして家に帰るの。だったら……ちょこ、悪い子でいいよ」
「…………」
「もう、あんな寂しい思いをするのは、ちょこだけで十分なの」
 ちょこは『優勝』の意味も、なぜそのために人を殺すのかも知らない。
 ただ、顔も名前も分からない少女のために、戦おうとしていた。
360創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:12:11 ID:Z40MVJjw
361創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:13:13 ID:tsBjdFOP
 
362創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:13:57 ID:Z40MVJjw
「それでは、君が……」
「いいの、もう」
 シャドウの言わんとしたことが分かったのだろう、その言葉を遮る。
 悲しそうに一度だけ赤い空を見上げて、息を飲み込んでから力強く言葉を続けた。

「死んじゃった人より、生きてる人の方が大切なのよ。
 父さまはもう死んじゃったから。生きてるあなたたちのために、ちょこは父さまを諦めなくちゃいけないの。
 ちょこが我慢すれば、その子が幸せになるんだから」
 それは、アークたちとの旅で学んだことだった。
 アークは後ろを振り向き絶望する人々に、前を向いて明日へと進むことを教え続けた。
 ちょこだって、そうだ。
 勇者たちと出会わなかったら、過去の惨劇と決着することなど永久に出来なかった。
 幻想の村を作って、幻想の村人と一緒に、仮初の絆を結んで満足していたことだろう。
 でも彼女は勇者との旅路の末に気づいた。
 死んでしまった人々は戻らない。
 破壊してしまった事実は消えない。
 それを知った少女は誓う。
 だから、せめていい子であろうと。
 胸を張って自慢できるような娘でになることで、彼女は父親に報いようとした。

 ちょこは、それすらも捨てようと決意する。
 人の苦しみを理解できる優しい子だからだろう。
 父親に愛してもらえなかった少女の苦しみが、痛いほどに。
 ちょこは、死んでしまった自分の父よりも、今生きている誰かの幸福を願える子だった。

「……ちょこ…………」
「行って。お願い」
 シャドウが逃げるべきか迷いながら、ジリジリと後ずさりをする。
 やがて、心を決めたかのように踵を返した。
 怪我のせいだけではないだろう、彼の足取りは重い。

「おじさん、ありがとなの」
 なぜ少女がお礼を言ったのか。
 今のシャドウにそれを理解することはできない。

「ククク……逃げるのか? 小娘を生贄にして!」
 ルカの罵倒する声。
 しかし、言葉ほどの怒りを覚えている風には見えない。
 彼の興味は、無様な敗北を喫した暗殺者から、異常な魔力を秘めた少女に移っていた。

「いいの。ちょこが決めたんだから! ちょこ、あなたを殺せるよ」
 ちょこが、一歩を踏み出す。
 ルカは、すでに彼女の魔法の射程範囲に踏み込んでいる。
 キナ臭さを感じ取ったのか、海風も今はまったく吹いてはおらず。
 焼け野原に遺された音は、少女と狂皇の息づかい、そして男がひとりで敗走する情けない足音だけだった。

「…………結局、ひとりになっちゃったの」
 気づいときには、仲間たちからはぐれて一人でこの島にいた。
 その後に出合ってからずっと一緒だったアナスタシアも、どこかへ行ってしまった。
 仲良くなれたと思っていたシャドウも、彼女を置いて行ってしまう。
 そして父親への報いも、棄て去ろうとしていた。

「仕方ないよね」
 誰に言うでもない、ちょこの嘆き。
 しかし、音のない戦場には遠くまで響いたものだ。
 泣き声に近いソレは、歩み遅く逃げるシャドウの耳にも届く。
364創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:16:20 ID:Z40MVJjw
365創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:16:22 ID:LgygCO8l
366創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:16:23 ID:tsBjdFOP
 
「ちょこ、いっぱい殺しちゃったんだから」
 シャドウは、それでも歩みを止めない。
 俺だってそうじゃないか。その言葉を伝えることもしなかった。

 ただ逃げる。
 戦友への誓いのために。
 自分の誇りも、誰かの悲しみもここに置き去りにして。
 照りつける夕陽から逃れるように。
 影は、東へ消えた。


◆     ◆     ◆


「どうした小娘ッ!」
 叫びと共に振り下ろされた剣だが、それが命中することはない。
 これで何度目になろうか。
 ルカの攻撃は全て悉く回避されていた。
 それでも、狂人の顔から笑みが消えないのは、余裕だからに他ならない。
 彼はまったくダメージを受けていないのだから。

「…………」
 一方、ちょこは攻めあぐねていた。
 ルカの攻撃が巧みだからとか、隙が見当たらないとか、そういったことではない。
 やはり、少女は殺せなかった。
 シャドウに殺害を宣言したはずなのに、まだその踏ん切りがつかないでいる。

「よくもあんな啖呵を切ったものだ!」
 捨て身の一撃は、またもや空振りに終わる。
 ルカは本気で攻めていた。
 にもかかわらず、その攻撃はかすりもしない。
 彼もまた、少女に決定打を与えられないでいた。

「ならば……もういい、失せろ」
「え?」
 先に痺れを切らしたのは、積極的に攻めていたルカの方。
 剣を収めて、あさっての方向に歩き出した。
 何事かと目を丸くする少女をよそに、ルカはカチャカチャと甲冑を鳴らして進む。

「俺は、あの男を殺しに行くとしよう」
 首だけで振り返って、笑う。
 してやったりといった顔であった。

「ダメなの!」
「そう遠くには行っていないはずだ。そうだ、森ごと焼き払うのも愉快だな!」
 少女の叫びもそ知らぬ顔で、ルカは再び彼女に背を向ける。
 ちょこは思わず男の後姿を全速力で追いかける。
 テコテコという可愛い足音が、異常に速いテンポで刻まれた。

「まってお兄さ……」
 慌てたちょこが、ルカの背中に追いすがろうとした時だった。
 殺意が、再び空間に充填する。
 一瞬で広がった黒く粘っこいオーラは、あらゆる生命を拒絶するかのように男の全身から這い出して。
 少女の身体で弾けた。
368創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:18:12 ID:tsBjdFOP
 
369創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:19:01 ID:Z40MVJjw
「……う、ぁ…………」
 わき腹に全力の一撃を受けて、思わずうめき声がもれる。
 振り返る速度そのままに放たれたルカの大振りが、少女をついに捕まえた。
 男の破壊は少女の骨を砕き、内臓に損傷を与え、その体に十数センチ食い込んで止まっていた。
 ちょこの小さな口の端から赤い滴りがポタポタと垂れる。

「ぁ……い、たぁ……」
「……! ふ……ふははははは! なるほど、ただの小娘ではないらしい!」
 ひどく愉快そうに、もともと全開だったはずの瞳孔を限界以上に大きく剥く。
 ルカの一撃は、鎧を切り裂くどころか、騎兵を馬ごと一刀両断できるほどの破壊力を持っている。
 それが軽装の少女であれば、十人をまとめて一撃のもとに葬り去ることだって可能。
 だのに、この小娘はどうだ。
 刃が命中するなり、まずその表皮が剣の勢いの半分近くを削った。
 肉が残りの大部分をそぎ落とし、そして肋骨が完全に攻撃を受け止めてしまった。
 もはや、人間の防御力を遥かに超えている。

「やはり貴様を選んだのは正解だったようだ!」
「……んッ!」
 グチャリと耳障りの悪い音をたてて、血に染まった剣を少女のわき腹から引き抜く。
 身体に走った痛みに少女が蹲った。
 この少女は異形だ。
 人間ではない物の殺し心地を実感したいルカの顔が期待で歪む。
 剣をあらん限りに振り上げ、未だ動けないでいる少女へと狙いを定める。
 見下している男の目と、彼を見上げた少女の目が合った。
 声が出せない少女の口が「なんで?」と音無き言葉を刻む。
 三日月状に細められた両目が、それに対する男の回答であった。
 少女が絶望する間もなく、男のフルパワーが少女に向けて振り落とされる。

「……!? 炎か!」
 怯んだのはルカ・ブライト。
 突如登場した巨鳥を模した火炎が、男の身体を通過。
 驚きのあまり一瞬だけ動きを止めたものの、灼熱にその身を焼かれた男の表情は涼しいものだった。
 隙をついて距離をとった少女の姿を確認し、ゆっくりと歩み寄る。
 
「あなたは、もう壊れているの」
 ちょこは後ずさって、相手との間隔を一定に保つ。
 未だに迷っているのだろうか、積極的に攻勢に転じようとはしない。
 殺人への踏ん切りもつかないまま、男を睨みながら強がりを紡ぐ。

「ちょこは、あなたと戦うわ」
「ならば、殺しにこい! 今殺さねば……俺はもっと多くを殺すぞ!」
 男はちょこを挑発する。
 彼女が回避に徹すれば、ルカの攻撃があたることはほとんど無い。
 だが、少女に攻撃の意思があるならば、確実に生まれるだろう隙をついてその身体を鮮血で染め上げる自身があった。
 事実、戦闘のテクニックでは、ルカはちょこの遥か上をいっている。

「……分かってるの!」
 小さな両手を大地にかざし、魔力を送り込む。
 力を与えられたその地点の地面が急激に盛り上がり、男に向けて地盤の隆起が一直線に襲い掛かる。
 一メートルもの巨大な土塊が下方から襲い掛かる、非常に破壊力のある魔法だ。

「ククク……なんだそれは」
 ルカはあろうことか、その迫り来る魔法に向けて突進。
 信じがたいことに、彼は下からせり上げる大地をなぎ倒しながら突き進んでいた。
 高威力の魔法が、彼の肉体に少なくないダメージを与えていくが、ルカを止めるには至らない。
 盛り上がった土を拳で砕き、足でへし折りし、ついに少女の目の前まで到達した。
371創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:21:54 ID:tsBjdFOP
 
372創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:23:16 ID:Z40MVJjw
「……え?」
 突如として眼前にあわられた男に、ちょこは思わず立ちすくむ。
 魔法を真っ向から打ち破ってくるなど、初めてのことだった。
 あのグルガでもここまではしないだろう。

「なめるな小娘ッ!」
 なぎ倒してきた土塊と同じように、少女に拳を飛ばす。
 彼女が数時間前に戦ったブラッド・エヴァンスよりも強力な打撃。
 ちょこもすぐに防御体制をとって、その拳を受け止めた。
 交差した細い腕でルカの大きな拳を耐えしのぐと、追撃がこないうちに反撃に転じる。

「……グっ! チィ……小賢しい真似をォッ!」
 後方に現れた分身とともにルカを挟み込んだちょこは、二人がかりの蹴りをお見舞いする。
 左右からの同時攻撃は、流石の狂皇も捌ききれない。
 数発ほど命中した少女の足技が、胴体にめり込む。
 だが問題は、肝心の蹴りの攻撃力が不足していたこと。
 そして彼女にとって一番の不幸は、ルカの防御力が並外れていたこと。

 男はダメージを恐れなかった。
 蹴られながら二人の少女の足首をそれぞれの手で掴む。

「つかまえたぞ……」
「…………きゃぁ!」
 悲鳴と共に、右腕に掴まれた方の少女が消える。
 残された左腕の少女は逆さづりで盛り上げられてしまった。
 ジタバタと暴れるちょこ。
 だが、彼女の足を掴む男の握力は強く、どれだけ少女が動いても緩む気配すらみせない。
 それどころか、逆に動くことで彼女の防御はおろそかになる。
 そこを狙って、ルカは左の拳を叩き込んだ。

「うわ!」
「…………ッ!」
 少女の固さに、ルカは拳に痺れを感じた。
 やはり……、と少女の不可解なまでの防御力を改めて実感する。
 このままでは、たとえ剣を突き刺してもこの娘を殺すことは不可能だろう。
 彼女の異常性を前に、ルカはますます気持ちを高ぶらせた。
 その思いを拳に込めて、何度も何度も少女を殴る。
 少女を確実に殺すために。

「わあ! うひゃあ! うわあ!」
 相変わらず、ルカは少女の人間とは思えない防御力を感じていた。
 ほとんどダメージを受けていないというのが、彼女の声に現れている。
 それでも拳を握り、さらに強く彼女を殴る。
 回数を重ねるごとに、パンチの威力は増し、その目は興奮からか次第に血走ってゆく。

「ぅ、うぅ……うぅッ! あうッ!」
 もう攻撃は二十回を超えただろうか。
 同じ部分へ殴打を食らい続け、確実にダメージは蓄積していたらしい。
 少女の声にも変化が生じていた。
 ちょこだって無敵じゃない。
 攻撃され続ければ体力は削られ、やがて人と同じように……死に至る。

「どうした? 苦しそうだ……なァッ!」
「ぉッ! ぉうっ! ぉー。ぁ……ぁ……」
 少女の守りを突破した手ごたえを感じ、ルカが殴る力にいっそうの力を込める。
 殴り方を微妙に変えて、楽器のようにさまざまな悲鳴を喘がせながら。
 やがて少女の悲鳴にも力がなくなっていき、ついに小さなうめき声しか発さなくなった。
374創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:24:32 ID:LgygCO8l
375創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:25:08 ID:Z40MVJjw
「そろそろ、死ねるか?」
「ッ! ッ! ッ!」
 殴ること六十発。
 ついに声を発することなく、痙攣するだけになった少女。
 その両目から涙が滴り、額を伝って髪の毛から大地へと落ちる。
 ルカはつま先で少女の腹を蹴り上げた。

「げはぁッ! ……ぁあぁあああぅぅ……!」」
 一瞬だけ大きく跳ね上がって、嘔吐する。
 血液が混じった吐瀉物が、逆さづりの少女の顔を汚した。
 これならもう殺せるだろうと、ルカは皆殺しの剣を取り出す。

「貴様を殺せば、次はあの男だ」
「お、じ……ざ…………ん……」
 涙やら血液やらでグシャグシャの顔を睨んでから、その剣を彼女の心臓に向けて突き刺そうとした。
 しかし、ルカの言葉に反応したちょこの魔力が渦巻く。
 少女は再び闘志を燃やした。
 離れ離れになった親子を助けるために。

「だ……め……な、の」
 現れたのは棺桶だった。
 ここまで追い込まれて、少女はやっと魔法を使うことを思いつく。
 地面から突き出した四角柱の塔のような棺が、ちょこを乗せて高くそびえ立った。
 思わず少女の足首を離してしまったことを、ルカは後悔する。

「けほっ……けほっ…………」
 棺の上で咳き込みながら、海水浴用タオルで顔を拭う。
 もう、殺す以外の選択肢はないのではないかと、少女は半ば諦めていた。

「……おじ、さん……は! ゆう、しょう、して……帰るんだからッ!」
「……! これはッ!」
 ルカが始めて、うろたえたような声をあげる。
 光魔法、キラキラ。
『今の』ちょこが使えるなかで、最強の魔法であった。
 棺から漏れ出た浄化の閃光。
 まばゆい光は絶対の殺傷力をもって、真っ赤な夕陽すらもかき消した。
 空間を余すところ無く埋め尽くした、少女の金色の怒り。

「く……ぐおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」
 光はルカの全身を傷つけながらも、体内に過剰なエネルギーを与えていく。
 行き場をなくすほどに膨れ上がった力は、男の身体を巡り、巡り。
 男の体内を中心とした激しい爆発を引き起こした。
 直後、金色の光が晴れていく。
 待ってましたと言わんばかりに、夕陽の赤が大地に舞い戻った。

「ぐ……貴様ぁ……ッ!」
 片膝をつき、荒い息をさせながら、ルカはちょこを睨みつける。
 口から血液を吐き出した後、剣を支えにして立ち上がる。

「あなたの負けよ。……あの人に手を出すなら、ちょこが許さない」
 ふらつきながらもルカを睨めつけていた。
 黄色いリボンの効果で、徐々にだが彼女の体力は回復している。
 一方のルカは、戦いが長くなればそれほどスタミナを消耗して不利になるはず。
 それを見据えて、彼女は勝負はついたと宣告した。

 しかし、ルカは彼女の警告を完全に無視。
 牛のように嘶いてから、剣を構えてちょこに襲い掛かった。
377創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:26:39 ID:tsBjdFOP
 
378創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:27:40 ID:Z40MVJjw
「…………もう、やめて!」
 叫びと共に、大地が隆起。
 先ほどルカにアッサリと破られた『メキメキ』である。
 しかし、男が疲労した今となっては効果絶大。
 狂騎士は下から突き上げられる勢いのままに、数メートル跳ね上がって地面に衝突。

「…………ふはははははは! それでいい!」
 破壊力の高い魔法をその身に受けながら、またもやルカは立ち上がった。
 ここに来てもまだ一向に倒れる気配を見せない。
 むしろ、ルカ・ブライトにしてみれば、ここからが本番だった。
 何事もなかったと言わんばかりに、剣を抱えて突進する。

「殺して見せろッ! 小娘ッ!」
 ちょこがパシャパシャで迎え撃つ。
 魔法で作られた水塊が、ルカに向けて発射された。
 しかしルカはこれを一刀両断。
 その場で弾けた水を全身に浴びながら、ちょこへと肉薄し刃を振るう。

 頭部目掛けて繰り出された剣を、ちょこは避けることが出来ない。
 こめかみを右腕でガードすることで、急所へのダメージを避ける。

「…………くぅ……!」
 剣がぶつけられ、ちょこの腕はミシリと悲鳴を上げた。
 しかし、泣き言は言ってられない。
 男は本気で殺しにかかっている。
 ちょこも殺すつもりでいかなければ、やられてしまうほどに。

「それがどうしたッ!!」
 メラメラの炎鳥で迎撃しようとするが、ルカの進行を止めることは出来ない。
 炎を全身に纏ったままで、男は走り続けた。
 ルカの兜割りが振り下ろされる。
 ちょこは横に飛ぶことでそれをかわし、男の顔目掛けてとび蹴りを加えた。
 だが、やはり直接攻撃は期待できたものではない。
 ルカがちょこの足を掴んで、そのまま地面に叩きつける。

「ふぇっ!」
 地面に鼻をぶつけてしまい、鼻血がツーと垂れる。
 うつ伏せで倒れるその背中目掛けて、刃が突き立てられた。
 ちょこは地面を転がって凶刃の軌道から逃れると、ルカの横腹にパシャパシャを放つ。
 声もあげないで吹き飛んだ狂皇だが、宙返りからの見事な着地を披露して、懲りずに少女に向き直った。

「なんでなのー……?」
 ちょこが不思議そうに男を観察する。
 普通の人間なら、まとも動きを出来るほどの傷ではないはずだ。
 しかし、あの騎士は、以前と分からないほどの動きと、以前よりも強い気迫でもってちょこ首を狙ってきている。
 装備品で体力を常時回復しているはずのちょこの方が、息が上がってしまっていた。

「どうした? もう心が折れたのか?!」
 休むことなく少女を攻め立てようとするルカ。
 全身には、いくつもの生々しい傷跡が付けられている。
 だが、彼に疲れた様子はほとんど無い。
380創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:29:46 ID:Z40MVJjw
 さて、突然だが、ルカ・ブライトの剣術は凄まじいものだ。
 そんなことは言うまでもないだろう。
 しかも、それでいて最強の召喚獣を扱えるほどの魔力も兼ね備えている。
 身体能力もこの殺し合いの参加者でトップレベルだ。
 そこまでの万能戦士でありながら、そのどれもが彼の長所足りえない。
 この男の真の恐ろしさは他にある。
 タフネス。
 持久力こそが彼の真骨頂。
 二十人弱の都市同盟の精鋭たちと戦っても、まだ剣を振り続けられるしぶとさ。
 戦場で何時間の激闘を演じようとも、一向にバテない体力。
 そのタフネスを発揮できる局面まで追い込まれて初めて、彼の本番が始まるのだ。

 ちょこのキラキラはそれを引き出した。
 が、そのために終わりない持久戦が始まることになる。
 ちょこは強いとはいえ少女の体。スタミナがあるとは決していえない。
 体力差は歴然だった。
 黄色いリボンのアドバンテージを埋めて余りあるほどに。

「まだっ!」
 少女が叫べば、急に風が吹きすさぶ。
 竜巻の魔法、ヒュルルーだ。
 決定打を命中させられないのなら、範囲攻撃を当てればいい。
 シャドウをしとめたときと同じパターンである。
 しかも、今度はそのときとは違い、手加減なしの全力で魔法を放つ。
 殺すことも厭わない一発だ。

 竜巻はルカすらも簡単に空へと巻き上げる。
 その高度は、ブラッドやシャドウのときより遥かに高く。最終的には命にかかわる高さまで。
 そして、無遠慮に固い大地へと叩き落した。

 ルカに遅れること数秒。
 ドサリと、デイパックがひとつ落ちてきた。
 シャドウとの戦いの前にルカが遠くへ投げ捨てたものだが、今の魔法でここまで飛んできたらしい。

 男の落下の衝撃によって辺りに生じた土煙が、少女の視界をふさぐ。
 彼女が男が倒れているだろう方向を、申し訳なさそうに見つめていた。
 悪い子になってしまったかもしれない後悔と、ほんの少しの安堵を抱いて。

「ふははははははははははははは!!!!」
 煙の奥から、笑い声。
 少女が驚きを隠そうともせず、まん丸な目を見開いた。
 男がまだ生きていたことに驚愕したわけではない。
 生きていてもおかしくはない、とは思っていた。
 しかし、笑う体力まで残されていたとは、さすがに予想だにしていなかった。

「残念だったなッ!」
 晴れかけた土煙の中から、ルカが突如として現れる。
 走るスタミナまでは残されていないだろうと思っていたちょこの反応が遅れた。
 その隙を突いて、ルカは皆殺しの剣を少女の腹部へと突き立てる。
 今のちょこに、この一撃を避けることは敵わない。
 ルカは命中を確信していた。
382創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:30:27 ID:tsBjdFOP
 
383創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:31:29 ID:tsBjdFOP
 
384創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:32:18 ID:Z40MVJjw
 さて、得意の力押しで戦局を有利に進めていたルカ・ブライトだが、彼はたった一つだけミスを犯した。
 彼はある見当違いを起こしていたのだ。
 少女の能力について、である。
 ルカにタフネスと言う長所があるように、ちょこにもズバ抜けた強みがひとつある。
 スピードでも、防御力でもなく、魔力だ。
 ルカも、少女の魔力が高いことは重々承知のつもりでいた。
 それこそ、彼が過去に出会ったどの人物よりも高いと見込んで。
 だが、それでも彼は少女を過小評価していた。
 少女の魔力がもつ異常性は、ルカのタフネスがもつソレに匹敵するかそれ以上。
 ルカの評価の遥か上のそのまた上である。

 その見当違いが、さらなる決定的な勘違いを引き起こしてしまう。
 彼は、『キラキラ』を少女の『切り札』だと思い込んでいた。
 ちょうど自分の持っている魔石のような、『切り札』だと。
 もちろんあの魔法は、彼女の『奥の手』ではある。
 現在のちょこが使うことの出来る魔法の中で最高威力を誇っているのだから。
 しかし『切り札』、つまり一度しか使えない最終手段ではなかった。

「…………なッ!」
 こんどはルカが驚かされる番であった。
 大地から再び現れた、光の棺に。
 この魔法はかなりの魔力を消費する大技だ。
 にもかかわらず、少女が繰り返し放てるのはなぜか。
 簡単なことだ。少女の魔力の総量が途方も無く膨大であるからだ。

「これで、終わりなの」
 世界はもう一度金色に染まる。
 広範囲にわたる逃げ道の無い、超破壊魔法。
 ルカがこれを切り札だと勘違いしてしまうのも、仕方ないことなのかもしれない。
 そうほどまでに、少女の『キラキラ』は強力だったのだから。
 彼女は、真の紋章使いをも悠々凌ぐほどの大魔法使いであった。

「…………くくく……これは、愉快だ」
 ルカはやっと気づいた。
 彼女こそ、自分に勝ち得る唯一の人物であると。
 一対一で、ルカ・ブライトを殺すことが出来るただ一人の存在であると。
 そして、それに気づいて、彼は楽しそうに笑みを浮かべる。
 狂喜に顔を歪めたまま、金色の衝撃に身をゆだねていた。

「ぐ……ぐ、が…………」
 光が全て退散した後。
 夕陽が照らす静寂の中。
 ルカはもはやボロボロで、全身から血を噴出し……それでも二本の足で立っていた。
 剣を手放すことなく、戦意も途切れることもなく。

「…………流石に、効いたぞ……小娘……」
「ねぇ、お兄さん。もうやめにはできないの?」
 ちょこは、敵を殺さない解決策を最後まで模索していた。
 それに反応を示すことなく、ルカはゆっくりと彼女の方へ進む。
 少女はもう、距離を保ったりはしない。
 仁王立ちで男を迎え撃とうとしていた。

「もうお兄さんじゃ、ちょこには」
「勝てないとでも……」
 男が背中から取り出したのは、彼のデイパック。
 シャドウとの戦いの前に遠くへ放り投げたが、少女の竜巻で男の近くに偶然戻ってきてしまったものだ。
 手を突っ込んで、取り出したのは細長い木製の棒。
 取り出すなり、少女へ向けて振るう。
386創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:34:45 ID:tsBjdFOP
 
387創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:35:42 ID:Z40MVJjw
「言いたいのか?」
「…………え?」
 不思議な光が少女を包む。
 直後、自らの身体に変化が起こったのをちょこは感じた。
 慌てて何らかの魔法を展開しようとするが……。
 だが、練り上げた魔力は奇跡を発現することなく、無情にも空気中に散っていく。

 魔封じの杖。
 少女の天敵ともいえるアイテムであった。

「そんな……」
「時の運、とはよくいったものだ……。だが……」
 絶望する少女に、男がジリジリとにじり寄る。
 少女は後ずさりをして、男から距離をとろうとしたが、どうにも力が出ない。

「それを引き寄せるのも…………君主の力……」
「……ん……ぇ…………」
 ルカが追いつき、少女の胸倉を掴んで持ち上げた。
 足を振り乱す少女をあざ笑いながら。

「…………」
「そして……重なるものだ。幸運も、不幸も」
 男の魔力が手のひらで収束する。
 それは、彼がついさっき覚えたばかりの術。
 魔石ギルガメッシュを所持したまま戦ったことで会得した補助魔法だ。

「ブレイブ」
 少女の『キラキラ』と同じ色。
 金色の光が男の足元から全身を包むように燃え上がる。
 光は男の力となり、その闘気をいっそう強くみなぎらせた。

「避けられるものなら……」
「あ…………」
 少女を真上に放り投げた。
 魔法を奪われた少女は、成すすべなく数メートル空を舞う。
 いままで、魔法でモンスターたちを吹き飛ばしてきた、しっぺ返しを受けるかのように。

「避けてみろッ!」
「……い、いや……だ……」
 ちょこが蚊の鳴くような拒絶を示したが、その声は誰にも届くことはない。
 もっとも、誰かがその声を聞いたところで、この一撃を止められるものなど……どこにもいない。
 悪魔の頑丈さを持つ彼女ですらも、これを食らったら一瞬で肉塊と化すことだろう。

 これこそが、『ブレイブ』のアシスト効果。
 攻撃力なんと三倍。
 ただでさえ規格外の破壊力が、である。
 それは、この男には絶対に与えてはならない魔法だった。

(………おじさん………ごめんね…………)
「豚のように鳴いて……死ねッ!!!!!」
 落下したちょこの腹部に、男の全力が叩きつけられる。
 反則に近い、威力。
 その衝撃は大地を大きく震わせ、ギルガメッシュの一撃よりも大きなクレーターを作る。
 爆音は少女の悲鳴すらかき消して。
 爆風は、少女の涙すら吹き飛ばし。
 最強の召喚獣をも超えるその一撃は、ただの通常攻撃であった。


◆     ◆     ◆
389創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:36:15 ID:LgygCO8l
390創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:37:53 ID:tsBjdFOP
 
391創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:38:18 ID:Z40MVJjw
 どこまで走ったのだろうか。
 背中から戦いの気配を感じなくなってからしばらくした頃、シャドウは足を止めた。
 気がつけばもう森の中。
 サラサラと木の葉が擦れ、風は植物特有の爽やかな匂いを運んでくる。

「ケアルガ」
 逃げながらずっとかけ続けた回復魔法。
 主催者が施したのだろう制限により、その回復量は著しく抑えられている。
 おかげで、傷があらかた消える頃には、シャドウの魔力はほとんど空っぽ。
 おまけに身体に溜まったこの疲労だけは、魔法で消えるものではない。
 耐え難い虚脱感を感じ、適当な木に身体を預けて腰を下ろす。
 うっかりと眠ってしまわないように気をつけながら、目を瞑って心地よいまどろみを味わった。
 ふぅ……と重い息を吐くと、両の腕すら鉛のように感じられる。

「……すまんな」
 彼の簡単な謝罪は、赤毛の少女に向けたものだ。
 圧倒的な強さを誇る騎士を前に、男は幼き少女を置き去りにして逃走した。
 優勝するための、選択だった。
 戦友に誓った勝利を求めるための。

「俺は、止まるわけには……いかん……」
 先ほどナイフを突きつけながら少女に吐いた言葉を、もう一度。
 今度は、自分に言い聞かせるかのように。
 仲間に、殺した人たちに報いるためにも、必ず優勝しなくてはならないと彼は心に刻む。
 しかし、彼にはひとつの課題があった。
 優勝のために、乗り越えなくてはならない障害が。

「弱点、か……」
 騎士にも指摘された、シャドウの欠点だ。
 高速移動からの奇襲や撹乱を主な戦法とする彼は、広範囲魔法に弱い。
 数刻前に喫した二度の敗北のその両方ともが、この弱点が原因だ。
 それだけではない。今までもシャドウは、同じような形で死にかけたことが何度もあった。
 だから、彼もその弱点を自覚していたはず。
 完璧な仕事を遂行しようとする彼が、なぜ今の今までこのような明らさまな欠点を改善しようとすらしなかったのか。

「分かっていたさ……」
 暴虐の騎士の言葉に、今更ながらに答える。
 なぜ、自分が致命的な弱点を放置していたのか、シャドウはその理由になんとなく気づいていた。
 ちょこの竜巻で吹き飛ばされた時……。
 少女の魔法を前に、成す術なく真っ赤な空へと舞い上げられ……。
 その瞬間、彼は思った。

 ひとりはつらいな、と。

「くだらない…………」
 理由なんか簡単だ、『彼の仕事じゃない』からだ。
 敵の魔法を打ち破る役目を担っていたのは、セリスの魔法剣だ。
 真っ向から打ち合うならば、ティナのトランス。
 ゴゴのモノマネもいいかもしれない。

 とにかく、彼が『それ』を求められることはなかった。

 だから対応などしなかった。
 他の仲間にまかせて、自分の長所を伸ばすことだけに専念すればいい。

 しかし、仲間と共にいる間はそれでよかったが、問題はその後だ。
 ケフカを倒して、世界を救ったその後はどうするつもりだったのか。
 仲間と別々の道を歩み、また孤独な暗殺者に戻ることを考えると、やはり目に見える欠点は克服すべきではなかったのか。
393創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:40:12 ID:tsBjdFOP
 
「……飽いていたのだな、俺は」
 観念したように、ため息を吐き出す。
 取調室で刑事に追いつめられた犯人が、ついに自白を始めるがごとく。
 彼はもう疲れてしまっていた。
 たった一人の人生に。
 シャドウの弱点を仲間が埋め、仲間に不足しているところを彼が補う。
 そうやって支えあうことで生き抜いた旅路は、彼の心に変化を生じさせた。

「寂い、か……。…………この俺が」
 血にまみれた孤独はもう十分。
 そんな気持ちを、シャドウは心のどこかに感じていた。
 だからこそ魔大陸で、命の危険も省みず仲間を救った。
 生きるために、他人の命すらも奪ってきた男が、である。

 しかし、彼がその気持ちを直接的に表に出すことはなかった。
 彼の過去が血にまみれていたせいだ。
 多くの人を殺し、連れ添った相棒をも見捨て……終いには、娘を捨てた。
 それらは死神となって彼を攻め続ける。
 自分だけが望みを叶える事を、死神は許しはしなかった。
 罪を犯したなら、その報いを受けて永劫に孤独であるべきだと。
 だから、仲間たちにその思いを隠し続けた。
 戦友に黙って死ぬその時まで、ずっと胸の奥に秘め続けて。
 その声に縛られるままに、瓦礫の塔で逝った。

「刃も、曇るに決まっている……」
 その後、彼は魔王オディオによって生きかえされて、この殺し合いに強制参加させられることとなる。
 彼は、皆殺しを即決した。
 自らの心に根ざしていた希望から、目を背けるようにして。
 しかし、殺戮を心に誓ったにも関わらず、彼はエドガーもゴゴも斬ることが出来なかった。
 当たり前だ。
 心の最奥で、シャドウは彼らと共に生きたいと願っていたのだから。

 孤独な生き方しか許されないという十字架。
 共に旅した仲間との深い絆。
 この相反する二つを背負うことで生まれたのが、仲間を慕いながらも皆殺しを狙うという、全参加者の中でも特に歪な存在。
 そんなどうしようない矛盾を抱えた男こそが、今のシャドウであった。

(まだ、俺は…………)
 エドガーに誓うことで、迷いを断ち切ったつもりだった。
 もう、過去の絆と決別して、仲間を含む全ての人物を殺すことを決意したはずだった。
 ゴゴとの邂逅で、死神すらも乗り越えた。
 そしてマッシュの亡骸の前で、もう一度誓った。決して振り向かないと。
 だというのに。

「ちょこは……」
 呟いた名前。
 少女らしい可愛い名前なのに、何故か重々しく口内に反響する。
 あの少女との出会いが、全てを揺るがせた。

(あの少女は、俺と同じだ)
 シャドウが背負っている過去の罪。
 そして心密かに願っていた賑やかな未来への願望。
 その両方を、少女はそっくりそのまま抱えていたのだ。

 一人は嫌だと、願って、叫んで、足掻いて。
 でも、罪を背負った過去のせいで、結局は孤独の道しか歩むことが出来ない。
 まるで、鏡に映った自分を見ているようで、ひどく痛ましかった。
395創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:43:30 ID:Z40MVJjw
396創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:44:53 ID:Z40MVJjw
(いや、違う。ちょこは、俺よりもずっと苦しんで、俺よりもずっと頑張っていた)
 少女は、大切な人たちを、自らの手で殺した。
 あの幼い心に圧し掛かった、孤独な人生を歩む負担。シャドウには計り知れない。

 少女は、誰かと手を繋ぐことを望んでいた。
 その絆への渇望を隠そうとすらしない。自分を殺そうとしたシャドウとも例外なく仲良くしようとした。

 そして少女は、全てが思い通りになるほどの力を持っているにもかかわらず、それに頼らず心で何とか人と通じ合おうとしている。
 彼女は、いい子であり続けようとしたのだ。
 それが、ちょこが幼い頭で必死に考えた、償いなのだろう。
 死んでしまった人に報い、罪と向き合うための。
 そして亡き父親を喜ばせるための弔いなのだろう。

「それなのに、彼女はそれすらも、捨てたのだ!」
 シャドウが珍しく声を張り上げる。
 治りきっていない肋骨が痛む。少女に負わせられた怪我だった。
 今、ちょこは騎士と戦っている。
 彼女は敵を殺すと宣言した。

(孤独な、血にまみれる生き方を選んだんだ)
 もう一度、人を殺す。
 そうすれば、少女は再び永い孤独を歩むことになるのだろう。
 もしかしたら、一人のままでこの会場で死んでいくのかもしれない。
 あの騎士に殺されてしまうのかもしれない。

(こんな、男の……ために……)
 全てはシャドウと、その娘のために。
 愚かにも自ら捨てた人生、未来。
 それらをもう一度拾い上げるチャンスを、彼に与えるために。
 少女は死者を想うことすらも諦めたのだ。

「…………マッシュ」
 木を支えにして、立ち上がった。
 視界がぼやけ、クラクラと立ちくらみを起こす。
 血が、足りなかった。

「俺は、このまま優勝したとして、胸を張って生きられるか?」
 東へ一歩、踏み出そうとする。
 少女と騎士が戦っているのとは、逆の方向。
 太陽がいない方向だ。
 しかし、体が上手く動いてくれない。
 膝から力が抜けて、地面に転がる。
 頭を振って、脳に鞭を打って、無理やりに身体を起こした。
 
「俺は背筋を伸ばせるか?」
 目の前に、死神がいた。
 ゴゴとの再開のおかげで消えたはずの死神を、シャドウは再び感じてしまっていた。
 そいつは、赤い絵の具を染みこませた筆を持って、男の行く手を阻み。
 彼女は、赤いベレー帽の下から覗く大きな両目で、悲しそうに男を睨みつけ。
 死神の指では、誰かの形見の指輪が、男を元気付けるように光り輝いて。
『どこへ行くんだよ』と攻めたてるような声が。
 シャドウは「そうだな……」と一言、死神に答えた後……。

「ふっ……ははは……」
 顎についた泥を拭って、大声で笑った。
 狂ったように、吹っ切れたように声をあげて。
 忍ぶことを忘れ、ひたすらに。
398創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:47:04 ID:Z40MVJjw
「ふはははは……!」
 数秒ほど、らしくない高笑いを惜しげもなく披露する。
 これほど笑ったのは、『シャドウ』を名乗ってから初めてのことかもしれない。
 ひどく心が軽くなった。

「そんなわけ、ないよなァ……」
 このまま優勝したとしたら、とシャドウは考える。
 おそらく、彼はそれすらも罪の一つにカウントするのだろう。
 そして、また終わりのない孤独を自ら歩むことになる。
 殺して、背負って、また殺して、それも背負って。
 仲間に教えてもらった絆すらも、無駄にして。

(……貴様らのせいだぞ……マッシュ……エドガー……!)
 それが馬鹿げていると、今更になってやっと気づいた。
 わざと唇を噛み切って、血を流した。
 そいつを洋酒に見立てて、飲み込む。
 当然だが、鉄の味しかしない。

「確かに、たくさん殺した」
 ゆっくりと、木を支えにして後ろを振り向いた。
 眼光鋭く、笑みは絶やさず。
 恐れが無いと言えば嘘だ。
 だが、それを笑って受け止められるほど、彼の背中を押す力は強大だった。

「消えない罪だ」
 死神の気配を背に感じる。
 頼むから消えてくれるなよ。死神に願った。
 沈みかけの赤い夕陽が、彼の目に刺さる。
 全ての影を拒絶するような、雄々しい輝きであった。

「だから、一人にならなくちゃいけないのか?」
 少女に、返せなかった言葉。
 それを、馬鹿でかい紅のまん丸にぶつけた。
 ありったけの荒々しさを込めて。

(ふざけろ……!)
 男は怒っていた。
 犯した過ちに縛られて、生きたいように生きられなかった自分にも。
 男のために、犠牲となること選んだ少女にすらも。
 そして、それを甘んじて受け入れてしまった自分自身が、やはり一番憎い。

(一人が辛いなら、俺がその手を握ってやる……!)
 逃げないで、最初から素直に望めばよかったのだ。
 共にありたいと。
 仲間なら、答えてくれるに決まっていたのに。
 過去も、罪も、共に分かち合ってくれると、分かっていたのに。

「エドガー、みんな。俺に力をよこせ」
 仲間の一人、野生児が流した涙を思い出す。
 彼は言った。「父親が生きてる、それが幸せだ」と。
 そんなもんだよなとシャドウは笑う。
『絆』とは、『無条件に愛せるつながり』の事を言うのだから。

「お前たちを、裏切るための……力をッ!」
 西へ一歩。確かに踏み出す。
 柔らかな土の感触を、今になって初めて感じた気がした。
 男は、戦友たちに約束した。必ず優勝すると。
 彼は必死で進む。
400創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:48:53 ID:tsBjdFOP
 
401創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:49:03 ID:Z40MVJjw
 その誓いを破るために。

(死神……君はそこで見ていろ)
 背中の少女に向けて宣言する。
 死神が何も言わずに頷いたのを、シャドウはその背で感じ取っていた。
 それが、シャドウにはとても頼もしいと思えた。
 孤独など、屁でもないと思えるほどに。

(俺の背中から……目を離すな)
 森を抜ければ、平野が開けた。
 戦場は近い。
 男の鼻が感じ取る。
 真っ赤な光が、緑の草原を赤く照らしていた。

(全てが終わったら……必ず君を……)
 臆することなく夕陽に向かう。
 紅い光を浴びながら、影はそれでも消えなかった。
 何かに押されるように、シャドウは歩みを速める。
 西へ西へと影は進んだ。
 少女の手を、握るために。 

(抱きしめにいく)
 死神は、静かに微笑んだ。


◆     ◆     ◆


 ルカのブレイブによる超攻撃の余波が去り、何度目かの静寂に包まれる港町跡。
 その爆撃にも等しい衝撃の震源地にあたる場所。
 ルカが誇らしげに大地に刻まれた傷跡を眺める。
 しかし、そこにあるべき少女の亡骸は見当たらなかったなかった。
 少女がなぜ死んでいないのか、周囲を見渡すと。
 百キロメートル以上先に、その原因を見つけた。
 夕陽に浮かぶは、黒いシルエット。

「貴様か……ッ!」
 ルカが忌々しげに、歯軋りをしながら男を睨みつける。
 また殺し損なったことに、苛立ちと憎悪を感じながら。




「…………おじさん」
 間一髪でシャドウに抱きとめられたちょこ。
 彼女は、なぜ彼がここにいるのか分からないでいた。
 細い指で、男の黒衣の胸の部分を引っ張ってみて、幻でないことを確認する。

「…………やはり、殺せなかったか……」
「……ごめんなさい…………ちょこ……」 
「いや、それでいい」
 少女が殺すのを躊躇ったのか。
 それとも騎士の実力が、ちょこを追い詰める程のものだったのか。
 おそらくは、その両方だろうとシャドウは予想。
 謝る少女の頭を撫でてやる。
 彼の手に感じられる暖かな感触は、確実に人間の熱だ。
 そして男の胸元にしがみ付くその姿は、幼子そのもの。
 にもかかわらず勇敢に狂騎士に立ち向かった彼女に、シャドウは無言で感心した。
403創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:51:01 ID:Z40MVJjw
404創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:52:53 ID:Z40MVJjw
「後は、任せておけ……」
「……でも!」
 シャドウは少女を地に下ろし、自分の力で立たせる。
 ルカに向けて歩き出そうとした男の服を、ちょこが引っ張って引き止める。
 シャドウを心配しての行動だ。
 ルカがちょことの戦いで疲労していたこと、シャドウが少々の休憩をはさんだこと。
 その二つを加味したとしても、彼はルカには勝てない。

「……俺は負けない」
「……でも、でも!」
 少女の手を優しく解く。
 ちょこは何か言いたげだが、上手く言葉の整理がつけられない。
 シャドウは少女に背を向け、手持ちの道具を確認する。
 デイパックは、少女の竜巻を食らった時にどこかへ飛んでいってしまった。
 彼に残されているのは、この殺し合いの一番最初から彼を助けてきた二つのアイテム。
 アサッシンズと竜騎士の靴。それだけだ。
 ルカと戦うには、明らかに厳しい状況。
 それでも彼は、少女に勝利を宣言した。

「全てを……賭けるから……」  
 数十メートル先で構えるルカへと、一歩を踏み出す。
 竜騎士の靴があげた軋みは、無口な男の変わりに放たれた雄たけびだ。
 少女は、男の背中を不安そうに眺めるばかり。
 彼のその言葉は、強がりなのか。
 それとも、本気で自分が勝つと信じているのか。
 彼の背中を守る死神だけが、その真意を知っていた。

「今更ノコノコと……死にに来たかッ!」
 大ジャンプで迫るシャドウを迎えるは、狂皇、ルカ・ブライト。
 狼は怒っていた。
 久しぶりの殺人を何度も邪魔された苛立ちも、その憤りの一端を担っている。
 だがそれ以上の原因は、再び自分の前に立ちはだかったこの男にあった。
 先刻の無様な敗北を繰り返さんとしているその愚かさが、ルカの血液を急沸騰させていた。

「このルカ・ブライトに……貴様ごときが……!」
 皆殺しの剣が炎を纏う。
 この技によって焼け野原と化した港町が、一瞬だけざわめいたような気がした。
 魔力の高いちょこには使わなかったこの技だが、耐性の弱いシャドウには効果絶大だろう。
 そのうえブレイブによって攻撃力そのものも超強化済だ。
 命中、それ即ち即死だと言っていい。

「敵うなどと……思うなァッ!」
 兵器の域にまで達したソレが、一個人に向けて放たれた。
 炎の龍が、遥か空まで舞い上がる。
 その熱に曝され、世界は瞬く間に燃えさかった。
 いくつもの市街を焼き払ってきたルカには、見慣れたこの灼熱の光景。
 いつもと違うのは、これが一対一の戦いであるということ。
 国家同士の戦争とはワケが違う。
 国も関係なく、軍も階級もここには存在しない。
 だが、たった二人の男の戦いは、戦争並みの破壊をも引き起こす。

 焼け野原で始まったシビル・ウォー。
 ある男が、過去に捨てたものと向き合うための戦いだった。




「…………おじさん……そんなぁ……」
 見つめた先であがった爆炎。
 エルクの炎ですら見劣りしてしまうほど轟々と。 
 その巨大な紅いドラゴンは、特攻した男の死を少女に確信させるには十分な大きさだった。
 ちょこが、絶望のあまり膝から崩れ落ちる。
 もし、魔法が使えたらと、自分の無力さを呪った。

「………あ………あぁッ!」
 しかし、彼女は視界の隅にその姿を確認した。
 流れる炎の合間を縫って跳ぶ、漆黒の影を。
 呼びかけようとしたが、少女は今になって男の名前を知らないことに気づいた。
 どうしようかと悩んだ挙句……。

「父さま! 頑張ってなのーーーーーッ!」
 男の背中と重なった幻影へと呼びかけた。
 それが彼に聞こえるのか、ちょこは少しだけ心配する。
 が、叫び続けているうちに、すぐにそんなことはどうでもよくなってしまった。
 この距離と炎じゃ届かないんだろうな、と薄々感じながら。
 少女は甲高い声を必死に枯らした。




「これで死なないとはな……!」
 ルカが周囲を走り回る男を評価し、少しだけその興味を再燃させた。
 男のスピードと精密さが、以前よりも増している。
 スピードは、おそらく『ブレイブ』のような補助魔法に過ぎない。
 しかし精密の方は、魔法でどうにかなるステータスではない。
 集中力、つまり心の持ちようだ。
 男の迷いが消えたことを知り、ルカは高揚した。
 敗戦から立ち上がった男を今度こそ完全に壊すべく、舌なめずりをする。

「さァッ! 今度は貴様の番だ」
 男を迎え撃つべく、五感を研ぎ澄ます。
 前回の戦いでは、集中したルカにシャドウのスピードは全く通用しなかった。
 精神の戸惑いを断ち切ったことにより、男はどこまで変わったのか。
 その男の真価を見極めるために、ルカはあえて防戦を選択。
 シャドウを捉えることに、全身全霊を注ぐ。

「そこかァ!」
 ルカの感覚が、敵を捕捉。
 探知した場所に、絶妙のタイミングで焔の剣を振るう。
 魔法で強化された剣の勢いは凄まじく、武器のリーチの約十倍に渡って炎が迸り。
 その軌道上の全ての存在を灰と化した。

 しかし、シャドウの消し炭はそこになく。
 ルカの感覚器官は確実に遅れをとっていた。
 アサッシンズはルカの頬に一筋の赤を刻む。
 一瞬遅れて脳に伝わる痛みを感じるまで、攻撃を受けたことにルカは気づかなかった。
 驚きと喜びにその目が大きく見開かれる。
 男の刃が、ついに狂皇に届いた瞬間であった。

「……………………」
 シャドウがジャンプをしてルカとの距離を確保。
 着地と同時に大きく息を吐く。
 顎の先から滴る玉汗が、つま先に落ちて弾けた。
407創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:56:39 ID:Z40MVJjw
(……もっと……速く…………)
 かすり傷だが、ルカに一撃を加えることに成功したシャドウ。
 彼は自分の身体が軽くなったように感じていた。
 しかし実際は違う。軽くなったのではない。
 自身を縛っていた多くの枷から解き放たれたことで、彼本来のスピードに戻りつつあるのだ。

 しかし、ルカを翻弄してもそれでも彼はまだ速さを渇望していた。
 もっと軽く、もっと速く動くために。

(全てを……ぶつける……)
 そのためには、踏み込むことだ。
 敵の生み出す炎を恐れず、敵が振り回す剣を恐れず。
 ……死にすらも臆することなく。
 ブレーキをかけずに敵の懐に踏み込まなくてはならない。

(経験も……命も……誇りすらも……)
 スピードよりも、需要なのは精神力。
 相手の動きの隙間を縫うことにこだわる。
 投擲という選択肢がない以上、致命傷を叩き込むにはそれしかなかった。

(……なにもかも…………!)
 大きく息を吸い込んで、男は再び風を超える。
 背中に感じる温もりが、頼もしくて仕方ない。

「ふん。だいぶマシになったではないか!」
 精神の統一は崩すことなく、ルカが心底愉快そうに笑う。
 彼が口にした評価は皮肉ではない本心だ。
 今まで出会った敵の中で最も速く、鋭い攻撃。
 これが速さを司る真の紋章の効果だと言われたら、一瞬の疑いもなく信じてしまうほどに。

「だが、俺の首を刈れるかと言えば……ククク……」
 それでもルカは余裕を見せ続けた。
 この言葉もまた男の能力を正確に評したもので、決して油断などではない。
 ルカが過去に首を刎ねた者の中には、慢心してこそ君主であるなどと主張する輩もいた。
 彼がその言葉に感じたのは、吐き気をもよおすほどの嫌悪。
 気取りたいが為だけに吐き出されたような文句だ、と当時の彼はその美学を切り捨てた。
 慢心している自分に酔いたいだけならば、自室の鏡を前にポーズを決めていればよい。
 戦場で命の奪い合いをしている以上、彼はいつでも本気で殺す。
 犬も、老人も、稚児も。出来る限りの絶望を眺めるために。
 それが、『悪』たる男の信条だった。

「……ほぅ」
 シャドウのナイフが、ルカの二の腕に新たな傷を作る。
 さっきよりも深い。
 ルカは、焦った風もなく男の速さを称えるように唸ってみせた。
 彼は、本当に余裕があるからこのような態度を見せている。
 いくらシャドウが速くても、ルカの命を脅かすレベルにはまだ達していない。
 たとえあと何発命中したとしても、この程度の浅い傷ではルカを殺すことは出来ない。
 彼の無尽蔵とも思えるタフネスを突破するには、男のナイフは破壊力が足りなすぎたのだ。

 だから、シャドウは急所への一撃必殺を狙うはず。
 疲労が蓄積し、動きが精彩を欠いてしまう前に。
 今の彼の攻撃は、そのための布石。
 連続攻撃で隙を作り、最大限の威力の攻撃を叩き込むための。
 ルカもその狙いには気づいていたし、ルカがそう感づいたことをシャドウも察していた。
 再び、シャドウの攻撃が。
 今度は脛を切り裂いた。
 徐々に威力を増す暗殺者の攻撃は既に、軽く血が噴出するまでのレベルにまで達していた。
 もうすぐだ。
 ルカの見立てでは、あと三回。
 今から数えて三回目の攻撃で、シャドウは必殺を狙いに来るとルカは予想する。

「では、こちらも攻撃させてもらうぞ!」
 防戦一方では、いずれ殺されかねないと踏んだルカ。
 攻勢に転じることで、男の動きを阻害する。
 繰り出すはもちろん業火の剣。
 ワンパターンではあるが、それも当然のこと。
 回数制限のないただの攻撃がこそ、彼の持ちうる中で最強の攻撃手段なのだから。

 まずは、闇雲に剣を振り回す。
 確実な攻撃が決められない以上、攻撃の範囲を広げることが得策だと考えてのことだ。
 ルカを中心に、まるで竜巻のように炎が渦巻いた。
 それはもう、大規模魔法と見紛うほど。
 もはや通常攻撃と呼んでいい規模ではなかった。

「…………ック……」
 無茶苦茶な攻撃を前に、シャドウの足が一瞬止まった。
 しかしすぐに建て直して、高熱の中を走り抜ける。
 リズムが崩れたこと、熱風を吸い込んでしまったことにより、シャドウの体力が削られる。
 元々ギリギリの線を走っていただけに、この誤算は無視できない。

(それでも……勝つ……)
 伸ばした腕が炎の壁を越える。
 握ったナイフの先端が、ルカのこめかみを抉った。
 ダメージと呼ぶにはあまりにも浅い。が、急所に一撃を入れることに成功した。
 すぐに反転し、次の攻撃へと移行する。

(彼女に……ちょこに……)
 炎の渦が消えた先で、ルカは既に剣を構えていた。
 振り下ろされた灼熱を、シャドウは斜め後ろへのステップで回避。
 十メートル近い炎柱が吹き上がり、大地がグラグラ揺れる。
 シャドウの着地が乱れたが、すぐに修正し全速全身。
 ルカの首筋へ、短剣を走らせた。
 少しばかり踏み込みすぎている。
 当たれば僥倖という一撃であった。

(俺のような人生を…………歩ませてたまるか!)
 大振りの隙をついた攻撃。
 常人であれば、攻撃を知覚することすら出来ないだろう。
 しかし、ルカは一騎当千の騎士だ。
 強引に上体を反らせて、ナイフから逃れる。
 この一撃は、空振りに終わった。
 しかし、元より『外れて当然』で放ったもの。

 すぐさまルカへと向き直り、追撃を浴びせるために突進する。
 無理な姿勢から戻ったばかりのルカは、碌に剣を構えることも出来ないだろうと。
 そして、この攻撃こそが、『三撃目』。
 ここでシャドウは必殺を狙うはずだ、とルカが予想した攻撃だ。
410創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:58:44 ID:Z40MVJjw
(切り開くぞ……!)
「甘いなッ!」
 信じがたいことに、ルカはなんとか迎撃体勢を整えていた。
 シャドウの予想を大きく上回るほどの復帰の速さ。
 しかし、シャドウは引かない。
 ここが勝機であると信じて、暴虐の君主へと立ち向かう。
 敵の射程範囲ギリギリまで踏み込んで、シャドウが放ったのは……。

「サンダガ」
「なにッ!」
 なんと、魔法であった。
 シャドウの魔力が手のひらで渦巻き、青白い雷を生み出した。
 空から降り注ぐ細い雷光の狙う標的はルカではない。
 稲妻が落ちたのは、彼が構えている皆殺しの剣だった。

「豚がッ! 舐めた真似をォーーーッ!」
 まさか魔法など使うと思ってもいなかったルカ。
 彼の視界を白い閃光が覆う。
 これこそが、シャドウの目的。
 攻撃を繰り返すことで、ルカに『真っ向勝負』の意識を植え付け……。
 シャドウが魔法を使うという可能性を、ルカの脳から消し去った。
 そして、絶好のタイミングで彼の視界を塞ぐ。

(………………ここだッ!)
 背後に回ったシャドウが、ルカの背中へとナイフを走らせた。
 防御もなにもかも捨てて、敵の心臓を突き刺すことに全力を注いで。

「そ……こ、かァッ!!!」
 視力を取り戻したルカが、背後に顔を向ける。
 シャドウの姿がどこにも見えないことから、上か後方の二択だと判断したルカ。
 最終的に後方を選択した彼の勘は素晴らしかった。
 しかし、反撃に転じるには少しだけ手遅れ。
 ルカが身体を反転するより早く、アサッシンズが彼の心の臓を破壊するだろう。

「…………遅い……!」
 顔だけだが振り返ることが出来たことに、シャドウは内心驚いていた。
 流石ルカ・ブライトだと、人生最強の敵を静かに称えた。
 尊敬を込めて、ナイフを突き入れる。
 迷いない刃は、全ての介入をも受け付けない勢いで空気を切り裂く。
 振り返ることができない以上、ルカに手はない。
 シャドウの精密攻撃は、後ろ向きのままで受け止められるほど甘くはないのだから。
 ルカブライトは詰んでいる。
 少なくともシャドウは、そう思っていた。

「それで……俺をッ! 殺したッ!」
「………………ッ!」
「つもりかァーーーーッ!」
 信じがたい光景だった。
 剣が、飛んできた。
 それを、シャドウは手にした短剣で弾く。
 後ろ向きのままのルカが、迫り来るシャドウに対応する唯一の方法。
 それは、他でもないシャドウの真骨頂である投擲であった。
「…………馬鹿、な……!」
 予想だにしない無茶苦茶な攻撃に、シャドウの足が止まる。
 あまりの衝撃に一瞬だけ立ちすくんでしまった。
 投擲のスペシャリストである彼は良く知っている。
 後ろ向きで、物を正確かつ高速に投げることの難しさが。
 狙った場所に投げるだけならば、シャドウの技術を持ってすれば可能なこと。
 しかし、剣のような重い物体をここまでの勢いを込めて後ろに投げることは、シャドウにすら不可能だった。
 全ては、ルカの剣術と胆力が成せる業。

「……ッ!」
 投擲に見とれてしまっていたことに気づき、シャドウが慌てて我に返る。
 ルカは既に眼前に迫っていて、彼の手にはシャドウが弾いたはずの皆殺しの剣が握られていた。
 シャドウが身体を捻って、なんとか回避しようとする。
 集中すれば、避けられない攻撃ではないはず。
 スピードはシャドウに分があるのだから。

「……しま…………ッ!」
 それは、不運だった。
 しかし、気をつれば未然に防げた事故でもあった。
 彼の視界を塞いだのは、水平線に落ちる直前の夕陽。
 太陽が、夜に追いやられるその前に、自らに逆らいし愚かな影へと制裁を加えたのだ。
 紅い光は、最後まで彼の敵だった。

 そして、先刻のルカの言葉の通り、不幸は重なるものだ。
 シャドウを守っていたヘイストの効果が、ついに消失した。

「…………がぁッ!!!!!」
 ルカの剣が、シャドウの左腕を切り裂く。
 二の腕から先が、一瞬で燃え尽きる。

 彼の左腕を奪った不幸は、夕陽と、ヘイストの効果切れの二つだった。
 その代わりだろうか。このとき、シャドウにとって幸運だったことがが二つある。
 一つはルカの補助魔法も切れていたこと。
 この攻撃が『ブレイブ』の恩恵を受けていたら、シャドウはたちまち焼死体と化していただろう。
 もう一つは、切り裂かれた部分が焼け爛れていたこと。
 これにより、傷口からの出血がほとんどなく、結果的にシャドウは即死を免れていた。

「…………ぅ……ぐッ……!」
 傷ついた左肩を抑えて膝をつくシャドウ。
 生きながらえることができたとは言え、ピンチであることには変わらない。
 元々ギリギリだったシャドウの体力は、そのほとんどをさっきの一撃で奪われてしまった。

「惜しかったなァッ!」
「グガァッ!」
 ルカの蹴りがシャドウの顎を蹴り上げる。
 数本の歯が砕け、血液とともに飛び散った。

「ゴッ!」
 宙に浮いた男の腹に、さらにルカが拳をめり込ませる。
 パンチを受けて吹き飛んだシャドウ。
 数十メートル空を跳んだ彼は、二、三度バウンドして、やっと停止。
 うつ伏せで男が倒れたのは、ちょこが待機していた場所のすぐ近く。 

「おじ……さん」
「くる、な……ッ! に……げ…………ろ……」
 片腕を喪失したシャドウを心配してちょこが駆け寄る。
 しかしシャドウがそれを掠れ声で制した。
 フラフラと立ち上がり、真っ赤な涎を吐きながら。
413創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:01:55 ID:Z40MVJjw
414創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:03:52 ID:Z40MVJjw
(彼女だけでも、なんとか…………)
 土と血の混ざった味を感じながら、シャドウは悔しそうに呻く。
 彼は、動けないでいた。
 限界に近い体に鞭を撃って、なんとか剣を握る。
 投擲での敗北は、シャドウの体だけでもなく心にすらも傷を残した。

「さらばだ、暗殺者……」
「……………………クッ…………」
 ルカが剣を掲げてシャドウへの方へと進む。
 彼を完全に殺害するために。
 短剣を握るシャドウの右手から力が抜ける。
 アサッシンズは悲しそうに、コトリと地面に寝転んだ。
 それを取り上げようとして、シャドウは派手に転ぶ。
 片腕を喪失したことにより、バランス感覚が崩れたからだ。

 背中が、寒い、と。
 そう、シャドウは感じた。
 
「一度でも俺の後ろを取ったことを、誇りに思って…………死ね」
 もう夕陽はほとんど沈んでおり、その頂点だけが僅かに水平線から覗いていた。
 現世を、名残惜しむように。
 夜に、抗うように。
 男をあざ笑うように、太陽は空にしがみ付き続けた。

「……………また、貴様か」
「…………」
 ルカは心底不愉快そうに、シャドウを庇って前に出た少女を睨む。
 ルカは憎しみを込めて舌打ちをした。
 こいつらはどれだけ殺しを邪魔すれば気が済むのだ、と。
 少女を殺そうとすれば、男が阻む。
 男を始末しようとすると、このとおり。

「ふん。ならば、まとめて殺してやる」
 怒りを込めて、魔封じの杖を再び少女に向けて振る。
 これで、彼女にマトモな攻撃手段は無くなった。
 だが、ちょこは驚いた風もない。
 彼女は魔法を封じられる事など承知の上でシャドウを助けたのだから。

 シャドウは力を振り絞ってヨロヨロと立ち上がると、残された右腕でちょこを抱える。
 後方に何度か大ジャンプをしてルカから離れ、息を整えることに努めた。

「ちょこ……逃げろと……」
「やだ」
 右膝をつき、肩を揺らして息をするシャドウ。
 ちょこに、ここから離れるようにと促そうとした。
 だが、彼の言葉を遮って、ちょこが背を向けたままで語りだす。

「ここで逃げたら……ちょこ、ずっと後悔するもん」
「…………」
「ちょこ、嬉しかったの。おじさんが来てくれて」
「…………」
 シャドウが空を見上げる。
 東の空はもう夜が訪れていて、綺麗な星々が瞬き始めていた。
 久しぶりにまじまじと眺めた夜空を、彼はとても美しいものだと感じる。
 夕陽が落ちて、本格的な夜がやってくるのを心待ちにした。
416創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:06:35 ID:Z40MVJjw
「あぁ、そうか」
 少女は一人だった。
 シャドウもそのことは知っている。
 育った村の人たちは、他でもない彼女自身がみんな殺してしまって。
 村の外で出会った人間も、結局は彼女の前からいなくなっていて。
 少女には誰もいなかった。

 でも……シャドウだけは、彼女の元へと戻ってきた。
 彼は命を賭けて、少女のために命を燃やした。
 それは、ちょこにとって初めての経験。
 自分のために命を捨てようとした人物など……もういるはずないと、彼女は思っていたのに。

(やっとたどり着いたよ。相棒)
 随分と、遠回りをした。
 最初から、答えを掴んでいたというのに。
 仲間と旅している間からずっと……今もそう……。
 その答えを実践しているではないか。

「なんて、簡単なことだったんだ……」
 さて、ここで問題だ。
 この男が、人生の大半をかけて悩み続けた問題だ。
 大切な相棒が、死にかけている。
 後ろからは、追っ手が沢山迫っていた。
 捕まって拷問されるのを恐れた彼は、『殺してくれ』と懇願する。
 その願いを聞き入れ、彼を殺すのが正解か?
 それとも、彼を放置して一人で逃げるのが正しいのか? 

 いや、正解はそのどちらでもない。
 長い人生のその先で、少女と共に男が導き出した回答は。

「死んでも、助ける…………!」
 真っ向から追手に立ち向かうのでもいい。
 囮になることで、相棒から敵を遠ざけるのもいい。
 自分が死んで仲間が助かるなら、迷うことなく死ねばよかったのだ。
 そして、生き延びることが出来たら、『殺せ』などと要求した相棒のことを思いっきり殴る。
 それこそが、この問題の唯一の答えだった。

 魔大陸で、仲間のために死んだこと。
 ちょこのために、命がけで戦ったこと。
 彼は既に、正解を二度も実演していた。
 最初から、本当に最初の最初から……答えは用意されていたのだ。

「そうだよ、おじさん」
 ちょこが柔らかに笑う。
 男の前に立ち、ルカへと立ち向かいながら。
 少女もまた、その答えを実践しようとしていた。

 手を繋ぐということに。
 絆を紡ぐということに。
 それに条件なんか無いということを。
 人殺しだって、関係ないということを。
 手を伸ばし続ければ、必ず誰かが掴んでくれることを。
 その全てを証明するために。
 少女は、死を覚悟で狂騎士と戦おうとしていた。
418創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:08:33 ID:Z40MVJjw
「おじ、さん?」
 しかしシャドウは、それを許さなかった。
 右手一本で少女を抱える。
 全身から血を流しながら。
 耐え難い苦痛と戦いながら。

「ちょこ…………聞け……君はもう一人じゃない」
「おじさん……なに……言ってるの……?」
 今生の別れを告げるようなシャドウの口調。
 ちょこがどういうことか問いただそうとする。
 が、男はそれを無視して続けた。

    ちょこは、全てを捨てて男とその娘を救おうとした。
    父親を喜ばせるために『いい子』でい続けることも諦めた。
   『ひとり』の辛さを知っているから。
    シャドウとその娘に『ひとり』の辛さを味わって欲しくないから。
    だから少女は自分が手にした全てを捨てるのだ。

「命を賭けて君を護った男が、ここにいる」
「まって……ちょこも戦うの! ちょこ頑張るから!」
 ちょこが男の胸元にしがみ付いて懇願する。
 少女が健気な姿を見せれば見せるほど、男は覚悟を強くする。

    長い間、彼は迷っていた。
    相棒を見捨てた卑しさを、自らへの刃と変えて。
    その死神を、ずっと抱え続けて……悩み続けて。
    仲間と共に生きていたいと、ずっと望んでいたのに……言えなかった。
    でも、この少女が教えてくれた。
    手を伸ばせば掴んでくれるんだということを。

「ダメだ。ここは、君の戦場じゃない」
「い……や、だ。ちょ、こ……も、たた……か、う!」
 ちょこが大粒の涙を流す。
 必死にもがき暴れるが、男の腕は彼女を決して放そうとはしなかった。
 シャドウは少しだけかがんで、龍騎士の靴に力を込める。

    今度は、シャドウが全てを捨てる番だ。
    全てを捧げてくれた少女のために。
    血塗られた過去のせいで全ての絆から拒絶された少女に、絶対に切れない絆を与える。
    仲間たちが、シャドウにそうしてくれたように。
    自分と同じ人生を、少女に歩ませないために。
    シャドウはもう、長いこと生きたのだから。

「まだ……おじ、さん……の…………な、まえ、も……しら、ない」
「シャドウ」
「…………え?」
「シャドウ。それが俺の名だ」
 上手く腕を回して、少女の頭をなでてやる。
 その温もりが手のひらを伝わり、シャドウの心に活力を与える。
 朽ちかけた体が、軋みを上げて動き出した。

「きみは、きみが命を賭けて護りたい人を見つけるんだ」
「やだ、よ……ねえ……生き、て……おう、ちに…………かえっ……て、よ……」
 シャドウが力を込めると、龍騎士の靴はそれに応えた。
 今日一番の大ジャンプ。
 少女の竜巻よりも高く空へと飛び上がった。
 綺麗な夜空の、無数の星へ向けて。
420創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:11:02 ID:Z40MVJjw
「あぁ、帰る。…………必ず……!」
「まっで! おじざん! まっでよッ!」
 シャドウがちょこの右足首を掴む。
 少女を投擲するために。
 少々荒っぽいが、これしか彼女を確実に逃がす方法が無いのだ。

「さよならだ」
「まって! おかわり! おじさん、おかわりなの!」
 ちょこが叫んだ『おかわり』という台詞。
 それは、彼女が消えゆく父親を呼び止めために使った言葉。
 シャドウにその意味が伝わることはなかったが、彼は黒いマスクの下で優しく微笑んでから。
 全力で少女を投擲した。
 遥か夜空高く、離れ離れになる二人。
 少女の目には、全てがスローモーションに映った。

「シャドウおじさん、絶対に生きてッ!」
 必死に手を伸ばす少女。
 しかし、シャドウはその手を握ることは無く。
 それを理解した少女は、頭から外した黄色いリボンを男へ託す。
 これは少女の専用アイテムで、他のものにとっては何の意味も持たない。
 それでも、意味がないと分かっていても。
 少女は男に握らせた。彼の勝利を願って。

「この手は、決して放さない」
 握りこぶしを突き出し、少女へと掲げた。
 少女も男に倣って、握りこぶしを突き出す。
 リボンはヒラヒラと、風に靡いて。
 失った彼の左手の代わりに、少女に手を振り続けているかのようだった。
 二人は離れてしまったが、両者はしっかりと手を握り続ける。
 死んでも、尚。

「必ず勝って! 家に帰るのッ!」
「あぁ。…………元気でな」
 二つの拳の距離が広がっていく。
 少女はずっとシャドウから目を放さなかった。
 彼が重力に従い落下を始めて、向こう側へ振り返っても。
 その背中に願いを込め続けていた。

 空中で反転したシャドウ。
 水平線の先、僅かに頭を覗かせた太陽を睨む。

(まだ、世界が恋しいか……!)
 これまで散々彼を苦しめ、その身を滅ぼさんとした恒星。
 いまだに、夜に堕ちきる意思を固めてはいないようだ。

(消えろ……お前の出番は終わったんだ……!)
 影は、ついに太陽に牙を向いた。
 口を使って黄色いリボンを器用に右手首に巻くと、途端に力が湧いてくる。
 紅い太陽を睨み、その場を明け渡すように要求した。

「今は星が輝く時間だッ!」
 男に気圧されるように、夕陽は水平線の下で眠りについた。
 本格的な夜が訪れる。
 美しい夜だ。
 希望の闇だ。
 海風は、死神と共に男の背中を押した。
422創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:14:59 ID:Z40MVJjw




 地上に到達するなり、ルカの刃が襲い掛かる。
 シャドウは着地の反動を生かして飛び退き、それを回避。

「小娘を逃がしたか…………何を考えている」
「そうだな…………」
 シャドウが腰元からアサッシンズを取り出す。
 ナイフは星々輝く夜空の下で、かつてないほど美しい銀色を呈した。
 まるで、男の覚悟を、生き様を称えるかのように。

「…………老いてみたく、なったのだ」
 ルカに踏み込むため、両足に力を込める。
 竜騎士の靴がギチギチと唸る。
 今日一日ずっ酷使し続けたせいで、もうこの靴も限界を迎えていた。
 いつ壊れてもおかしくないほどに。
 もう少しだけ、頑張ってくれ。
 シャドウはナイフと靴に、そう呼びかける。
 アイテムたちは何も答えない。
 ただ、彼らが僅かに熱を帯びたのを、シャドウは確かに感じていた。

「そんな体で、たった一人で……俺に勝てると思ったかッ!!」
 顔中の皺で憎悪を表現する。
 ルカの目に映っているのは、ボロボロの男。
 立っているのすらやっとのはずの傷、そして疲労。
 それでも彼は、最強の敵に単身挑むことを決意した。
 まったく、不愉快だ。狂皇が吐き捨てる。
 ルカは剣を壊れんばかりに強く握り締めた。
 男を完膚なきまでに叩き潰し、二度と立ち上がれぬようにその身を砕き殺さんと。

(……ひとりじゃないさ)
 シャドウが肺中の空気を全て吐き出した後、大地を強く蹴って疾走する。
 何かに引っ張られたように、その身は軽い。

「…………なにッ?!」
 もはや、ルカの目にも捉えられない。
 男の動きは、先ほどよりも遥かに早く鋭かった。
 重傷を負っているにもかかわらずだ。
 ……違う、そうではない。
 重傷を負ってるのに速いのではなく、重傷を負っているから速いのだ。

 普通、片腕を落とされれば大量出血はもちろんのこと、その体のバランスも崩れて歩くどころではない。
 しかし、シャドウは出血はそれほどしておらず。
 バランスの修正も、この男なら容易いこと。
 むしろ、片腕という重りを捨てたことにより、そのスピードはよりいっそう研ぎ澄まされていた。
 音を超えるほどに、速く。

(俺には仲間がいる)
 シャドウのナイフがルカの肩を切り裂く。
 噴き出した鮮血がルカの頬を汚す。
 小細工のない、真っ向勝負であったはず。
 それなのに、ルカは男の動きを目視できなかった。
 その額から汗が垂れ落ちる。
424創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:16:41 ID:Z40MVJjw
425創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:17:48 ID:Z40MVJjw
(死神が憑いてくれている)
「き、貴様ァッ!!!」
 ルカが、シャドウを追いかけて振り返る。
 その瞬間に、今度は足首に痛み。
 攻撃の方向すら分からなかった。
 ルカのこめかみに、青筋が浮かぶ。

(…………そして)
 次は頭から血が垂れた。
 ルカが最も警戒していたはずの場所へ、浅いが確実に一撃が入る。
 ルカ・ブライトは、完全に翻弄されていた。
 暴虐の限りを尽くした男が、狩られる側に回っているのだ。

(ちょこがこの手を握っている)
 完全にルカがシャドウを見失ったあたりで。
 シャドウは投擲の準備を始めた。
 ルカを確実に絶命足らしめる一撃を繰り出すために。
 彼の手にあるのはナイフが一本と靴が一足だけ。
 おそらく、これが最後の投擲になるだろう。
 右腕に力を込め、彼が投げたものは…………。

(さぁ、殺してみせろ!)
 ルカは、集中していた。
 シャドウを見失った瞬間、周囲に意識を集中させて次の攻撃に備えた。
 どんな攻撃が来ても、すぐさま回避して反撃に移ることができるように。
 シャドウが投擲のプロフェッショナルであることは、ルカは知らない。
 だが、ルカはナイフが飛んでくる可能性をも考慮していた。
 先刻シャドウが放った魔法のことを、覚えていたからだ。
 その場合は、すぐさまナイフを叩き落してやる、と。
 全身全霊をもって、シャドウの最後の攻撃を迎え撃つ。
 おそらく、ナイフを投げても彼にはもう命中しないだろう。
 完全に回避に徹したルカならば、百の弓矢すらも知覚してしまうのだから。

「そこかッ!」
 迫り来るモノをルカの感覚が捕捉した。
 それは、『攻撃』がルカに到達する数秒も先。
 回避するには十分過ぎる時間。
 受け止めることも、叩き落すことも可能だ。
 が、ルカはそれを避けなかった。

「ふざけるなよ……!」
 ルカが怒りを込めて言い放つ。
 目の前にあるのはシャドウの拳。
 ここに来て男が繰り出した攻撃は、ただのパンチだった。
 何が来るのかと集中していたルカにとって、その攻撃は期待はずれもいいところ。
 拳一つでどうこうできるほど、ルカ・ブライトは甘くない。

「そんな攻撃で、俺に傷の一つでも…………」
 あえてその拳を食らう。
 拳はルカの頬にめり込んだが、歯の一本すら抜き取ることはできない。
 シャドウの攻撃は、全くのノーダメージに終わる。
 ルカは、カウンターでシャドウへと斬撃を放とうとした。
427創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:19:42 ID:Z40MVJjw
「付けられると思っ…………なにッ!」
 ルカの顔が驚愕に歪む。
 口をぽかぁんと開け、瞳孔を全開にして。
 攻撃を加えようとしても、シャドウがそこにいないのだ。
 ルカの頬を殴っているシャドウの右腕。
 その腕の先に、シャドウがいない。
 つまり、『腕だけが飛んできた』ということ。
 いわゆる、ロケットパンチであった。

 これこそがシャドウの『最後の投擲』。
 まず彼は、何も持たずに投擲の構えをした。
 そして、勢いよく徒手空拳の腕を素振り、その速度が最高潮に達したところで口にくわえたナイフで腕を切断。
 ルカに向けて、パンチを飛ばした。

「な…………!」
(言ったはずだ、全てを賭けると)
 両腕を失ったシャドウが、ルカの懐に潜り込む。
 最後の仕事を終えた竜騎士の靴が、ひび割れ、鈍い音を立てて壊れた。
 彼の口にはアサッシンズと黄色いリボン。
 剣を振り終わったルカは、絶対の隙を晒してしまっている。

 片腕を失って音速ならば、両腕を失ったシャドウは神速。
 もう、ルカにシャドウの攻撃を回避できる道理はない。

「なんだとォォォォーーーッ!」
(これが、全てを捨てた俺の……一撃だ)
 ルカの胸に、ナイフを突き刺した。
 もう、シャドウを遮るものは何もない。
 痛みも、苦しみも感じない。
 刃はその皮膚を裂き、肉を切り、骨を砕いて。
 そして……止まった。
 臓器を破壊すること敵わず。

「おし……かった、な」
 口から血を滴らせながら、ルカが笑う。
 その目は血走り、顔中には汗が滲んでいる。
 確実なダメージがあるのに、ルカは死んでいない。

 シャドウのナイフは、ルカの胸筋によって止められていた。
 心臓に到達する、あと数ミリ手前で。

「……ック!」
「貴様は、疲弊しすぎた」
 もし、彼にもう少し体力が残されていれば、ルカの筋肉を突破して彼を殺していただろう。
 もし、彼の左腕が残されていれば、口でくわえるよりも強くナイフを突き刺せただろう。
 もし、彼がデイパックを失っていなければ。
 もし、彼が少女と共に戦っていれば…………。
 考えても詮無きこと。
 これが、彼が望んだ戦いの、その結末なのだから。

「死ね。貴様は強かった。俺を殺し得るほどにな」
 皆殺しの剣の袈裟斬りが、シャドウの胴体を肩から斜めに傷つける。
 大量の生暖かい返り血が、ルカの全身に降りかかった。
 しかし、狂騎士は、その剣を止めようとはしない。
 致命傷を追ったシャドウに、更なる攻撃を加える。
429創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:23:28 ID:tsBjdFOP
 
430創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:23:40 ID:LgygCO8l
 
「……ガ……ぐ…………」
 腹部を真横に切り裂く一撃。
 傷口からだけでなく、シャドウは口からも大量の血液を吐く。
 悲鳴も、言葉もない。
 ただ、呻きながら紅い流体を垂れ流すのみ。 

「さらばだ」
 ルカが下から真上に剣を払う。
 刃は、シャドウの股下から右肩を走る。
 肉の朽ち果てる音が響いた。
 斬りつけられる勢いのままに、シャドウは宙へと飛ばされる。

(し……ぬ、の…………か…………)
 もう、男の命は尽きかけていた。
 絶命寸前の体で、空を見上げる。
 星空が、綺麗だった。
 孤独など、ありはしなかったと信じられるほどに。
 エドガーが信じたのは、夜明けだった。
 だがシャドウは、煌く星を信じていた。
 夜でなければ、彼は輝けないから。

(こ……れ、は……?)
 口内に違和感を感じたシャドウ。
 そこには、まだ、黄色いリボンがくわえられている。
 彼女は言った。
『必ず勝って、家に帰って』と。
 信じて、リボンを託したのだ。
 大粒の涙と共に。

(……まだ………終わっていないッ!)
「バ……サ、ク…………」
 傷ついた喉が、なんとか魔法を唱える。
 その命を、あらん限りに燃やすために。
 夕陽の落ちた空の下、男は紅く輝いた。
 致命傷を負って、意識すらもう定かではない。
 もしかしたら、その目には何も映っていないのかもしれない。
 それでも戦おうとするシャドウを、夜天から『スタープリズム』が静かに見守っていた。

(全てを、燃やす! 命すらもッ!)
 シャドウの体が急降下する。
 ルカを殺すために。
 唯一の武器であるアサッシンズは、ルカの胸に刺さったまま。
 竜騎士の靴だって壊れてしまった。
 彼には何もない。
 
 それでも、彼はルカへと進む。
 その闘志こそが、彼の唯一かつ最強の武器。

「…………なッ!」
 ルカの右耳に走る鋭い痛み。
 彼の耳を切り裂いたのは、幻想の刃。
 シャドウの気迫が見せた、幻の牙であった。
 つまり、現実には存在しない一撃。
 思い込み。
 シャドウのあまりの闘志が、偽りのダメージを現実のものとしてルカの脳に思い込ませたのだ。
 瀕死のシャドウにしかできない、防御力をも無視した攻撃。
 その名を、シャドウファングという。
432創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:24:27 ID:Z40MVJjw
「…………グ……貴様……まだッ?!」
 死んだと思っていた男からのまさかの反撃。
 避け得ない、防御すらかなわない一撃に。
 ルカの脳が、激しいサイレンを鳴らす。
 大量の冷や汗をかきながら、ルカが必死に行ったこと。

(これは偽りだ! 嘘の刃だ! ニセモノだ!)
 それは、思い込みを解消すること。
 刃が存在しないのだと、自身の脳に言い聞かせることだ。

「こんな刃は存在せんのだァッ!!!!!」
 ルカが吼えるのと同時に、シャドウの幻の刃がその胴体を真っ二つに裂く。
 激しい痛みを感じながら、ルカはシャドウの体へと剣を思いっきり振りかぶる。
 重い一撃はシャドウの全身の骨を砕き、臓器を破壊し、ほとんどの血液を噴出させる。
 全力の剣を食らった彼の体は、町の外れまで一気に吹き飛ばされた。
 大地に激しく何度もバウンドしながら。

「ぐ……ごぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 シャドウを今度こそ殺したルカ。
 体に走った猛烈な痛みに、叫び声をあげる。
 血を吐き、意識が落ちそうになっても、その脳に必死に命令を送る。
 男の気迫に騙されるな、と。

「ぐぅ……が………………はぁ……はぁ……!」
 頭を抱えて数秒悶絶した後、彼はゆっくりと立ち上がった。
 その胴体には、シャドウ最期の斬撃をなぞるように真っ赤な内出血の跡がクッキリと残されている。
 彼はシャドウの瀕死の一撃を乗り越えることに成功した。
 喜び勇んで歩き出そうとして、ルカは一度だけ惨めに転ぶ。
 立ち上がりかけて、そこで初めて気づく。
 右耳が失聴していた。
 シャドウファングの、一撃目のダメージが具現化したものだった。
 もし、ルカが脳へ指令を送ることをせず、そのままシャドウに斬りつけられていたら。
 おそらくは真っ二つにされるイメージに脳が騙され、絶命していたことだろう。

「俺、が……ここまで、追い、詰め、られ、る…………とは、な」
 胸に刺さったままのアサッシンズを抜いて地面に突き刺す。
 そして、使い物にならなくなった右耳を引きちぎり、そのナイフの傍へと放り投げた。
 自身にここまでの傷を与えた男の偉業を知らしめるかのごとく。
 深呼吸をしてから、ルカはフラフラと立ち上がる。
 一度だけシャドウが吹き飛んだ方向へ目をやると、その生死も確認することもなく、また新たな獲物を狙って歩き出した。


◆     ◆     ◆


 港町の郊外に位置する場所に立っている一軒の民家。
 こんな場所にあったために、この家は幾多の戦禍から免れていた。
 無傷で佇むその家の入り口。
 両腕のない瀕死の男が、外開きのドアに寄りかかって倒れている。

(負けた……のか)
 シャドウが霞んだ瞳で空を見上げる。
 血液を流しすぎたのだろう、彼の意識は朦朧としていた。
 生命活動を終えようとしている体から、次第に力が抜けていく。
 口にくわえた黄色いリボンが、はらりと落ちた。
434創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:27:00 ID:Z40MVJjw
(ちょこ、すまんな……)
 リボンは男の血液で真っ赤になっていて、とてもじゃないが少女に返せる状態ではなかった。
 しかし、彼が心中で謝罪したのはそれが原因ではない。
 シャドウは少女に約束した。
 必ず勝つと。
 生きて、家に帰ると。
 しかし、彼はルカ・ブライトを追い詰めつつも敗北し、その生命に幕を引こうとしていた。
 この、燃え尽きた港町の外れで。
 誰もいない家の前で。

(もう、家には……帰れそうにない…………)
 抗いようのない虚脱感に、ついに目を閉じる。
 決して安らかとはいえない死が、男を包んだ。
 意識は闇に堕ちて行き、地獄に落ちる準備が始まったのだと男は悟る。

 奇跡は、彼の背後で起こった。

(…………あ……)
 扉が、開いた。
 中から出てきた死神は、静かに微笑んで彼を後ろから抱きしめる。
 暖かい感触を背中に感じて。
 どうしようもないほどの幸福感を感じて。
 男は逝った。

(……ただいま)
 おかえり。
 彼女はそう言って、男と共に夜空を見上げる。
 今宵の星は、綺麗だった。
 孤独など、かき消してしまうほどに。
436創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:30:46 ID:Z40MVJjw




 緊張と共にドアをノックする。
 自分の家なのに、変な話だと彼は笑った。
 ギィィ……と軋みをあげてドアが開かれる。
 同時に、扉の後ろから少女が胸に飛び込んできた。
 男は、太い両手で彼女を抱きしめ、その頭を撫でてやる。
 少女はグズグズ泣きながら、早口で思い出話を語り始めた。
 今まで失った時間を埋めるように。

 家の中に入って、後ろ手でドアを閉める。 
 部屋の奥からは、老人が怒鳴る声。
 男は笑って小さく頭を下げた。
 それを確認して、老人は外へと出て行く。
 すれ違い様に、男の肩をポンと優しく叩いた。

 台所ではシチューがコトコトと煮えていて、おいしそうな匂いが玄関まで届いてくる。
 何十年ぶりだろうか。
 あとで一緒に食べようと彼は少女に言う。
 少女は自信作だと、はしゃぎながら答えた。

 窓の外に目をやると、もう夕暮れ時。
 紅い光が名残惜しそうに世界を照らす。
 そして庭に目を移せば……。

 黄色い花が、背筋をしっかりと伸ばして、夕陽を睨んで咲き誇っていた。




【シャドウ@ファイナルファンタジーVI 死亡】
【残り21人】

※竜騎士の靴@FINAL FANTASY6 はシャドウの死体に装備されていますが、壊れています。
※黄色いリボン@アークザラッド2 はシャドウの死体の傍に落ちています。
※アサッシンズ@サモンナイト3はD-1 荒野(港町跡)に放置。傍にルカの右耳も落ちています。
※蒼流凶星@幻想水滸伝U、基本支給品一式*2 洋酒、グラス(下半分) はシャドウのデイパックに入ったままで D-1のどこかに落ちています
 空から叩き落されたので、壊れているものもあるかもしれません。
438創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:33:07 ID:Z40MVJjw


【D-1 上空 一日目 夜】

【ちょこ@アークザラッドU】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:どうしよう……
0:……おじさん
1:おにーさん、助けてあげたいの
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
3:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は不明(少なくとも覚醒イベント途中までは進行済み)。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※放送でリーザ達の名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。
※意識が落ちている時にアクラの声を聞きましたが、ただの夢かも知れません。
 オディオがちょこの記憶の封印に何かしたからかもしれません。アクラがこの地にいるからかもしれません。
 お任せします。後々の都合に合わせてください。
※第三回放送を聞き逃しました。



【D-1 荒野(港町跡) 一日目 夜】

【ルカ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]上半身鎧全壊、精神的疲労(大)、ダメージ大(頭部出血を始め全身に重い打撲・斬傷、口内に深い切り傷)、胸部に刺し傷、右耳喪失
[装備]皆殺しの剣@DQIV、魔石ギルガメッシュ@FFVI
[道具]工具セット@現実、基本支給品一式×6、カギなわ@LIVE A LIVE、死神のカード@FFVI
   魔封じの杖(2/5)@DQW、モップ@クロノ・トリガー、スーパーファミコンのアダプタ@現実、
   ミラクルショット@クロノトリガー、トルネコの首輪 、武器以外の不明支給品×1
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る2人及び、名を知らないアキラ、続いてトッシュ、ちょこ優先。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。
※第三回放送を聞き逃しました。
※魔石ギルガメッシュより、『ブレイブ』を習得しました。
440創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:36:39 ID:Z40MVJjw
660 名前: ◆Rd1trDrhhU[sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:15:12 ID:wXm0mWa.0 [48/48]
以上、投下終了です。
代理投下、支援、本当にありがとうございます。
誤字や疑問点など、何かあれば言ってください。

----------
以上で、◆Rd氏の代理投下を終了いたします。
長時間にわたる支援、自分としても助かってました。感謝です。

そして感想は……なにこれ、どうすればいいの……。
ちょっと投下しながら泣いたり、胸がいっぱいになったりで、マトモなコメントがつけられんw
でも、理屈以前に「すごい」と、「全員好きだ」と思えるSSでした。夕陽から星の流れは、すごく綺麗でした。
これだけのものを書き切ってみせた◆Rd氏、ほんとうにお疲れ様でした。そして、心からのGJを送らせてください。
442創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 23:42:44 ID:tsBjdFOP
置いて行かれた子どもと置いていった父
奪った罪人と見捨てた罪人
その対比の果てに答えを見つけて魂の救済を得ての死

ああ、いいなー
最初の戦闘後の静かなちょことシャドウの語りが素敵過ぎる
仲間を次々と思い出し、そして裏切るシャドウがかっこよ過ぎる
ちょこをなでるシャドウが父親すぎる
ルカ相手に文字通り全てを賭けて闘うシャドウが熱すぎる

やばい
感想がシャドウで埋まりそうなくらいやばい
感想をまとめられない程面白かった
シャドウのことばっか語ってるけど悪い子になると決めてそれでもいい子なままなちょこや、
最強位の対決を制し哂う邪悪なルカ様とかすごい見所あった
ほんと全員輝いていた
星にも夕日にも負けないくらい
投下乙、GJ!
443創る名無しに見る名無し:2010/06/28(月) 22:10:42 ID:6nB72d+h
投下乙です

ああ…本当に凄いわ……GJです
444創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 09:38:10 ID:15zJPCzI
遅くなったが、◆Rd投下乙!
シャドウ、シャドウ、乙…!
臨場感溢れる戦闘描写と、厚く深く濃厚な心理描写に引き込まれた!
リルムという名前を出さず、彼女の存在感によって支えられ、ちょこの元へと向かうシャドウが素敵すぎる。

>それでも戦おうとするシャドウを、夜天から『スタープリズム』が静かに見守っていた。

この一文は本当に秀逸。鳥肌が立った。

シャドウを守ろうとするちょこも、ブレイブを習得したルカ様の圧倒的さも素晴らしかったぜ!
GJでした!
445創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 17:32:20 ID:xoCbZB+1
さて、また予約が来てるな
446創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 03:45:20 ID:jV/b3slk
そういや登場したてのユーリルは無口キャラだったんだな。
型にはまった対主催や勇者から外れて行く中で喋りだすのはオルステッドを思い出すし
剣の聖女の伝説のせいで、自分がユーリルの感情に気づいていなかっただけかもと疑ってしまう。
まあアナスタシアに出会うまでは全く悩まなかったと言っているから違うわけだが。

ストレイボウは揺れ動いてるがどの動きも説得力があるし今後が楽しみだ。
キレイボウ→ツカレイボウ→ヘタレイボウ→?
447創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 09:35:39 ID:0RzodLIY
遅くなったけど投下乙
あまりの大作に胸熱で言葉が出ない
このSSでシャドウが救われた気がした
448創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 15:21:23 ID:F5KogEGc
>>446
言われてみればオディオを連想させて深いな
勇者として生きる上で私情を殺してたから無口でいるしかなかったのかもな
口を開けば感情は漏れるものだし
449創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 20:27:12 ID:8EWZ3ciA
これより、◆Rd1trDrhhU氏のSS(無法松)の代理投下を始めます。
ゆっくりめに投下しますが、もしもお手すきの方がいらっしゃいましたら、支援をお願いします。
450無法松、『酒』を求める ◇Rd1trDrhhU氏代理:2010/07/05(月) 20:28:28 ID:8EWZ3ciA
 大海原をたゆたういくつもの波。
 空を漂ういくつもの雲。
 無法松は、無心でそれらを眺めていた。
 彼の前を通り過ぎた波、雲。
 彼は気づくことはなかったが、その総数はそれぞれ二十九だ。
 それは、この殺し合いで今までに散っていた魂の数。

「……誰も、来ねぇな」
 座礁船の甲板から海を眺める。
 海面に反射した太陽の【光】が、無法松の目に【槍】のように突き刺さった。
 チクリと網膜に痛みを覚えて、思わず瞳を【拳】で拭う。
 数秒の後に視界を取り戻した無法松は、遥か西で紅く【燃える】太陽を改めて見る。
 まるで、待ちぼうけを食らっている事をあざ笑われたような気がして、彼は【心】に苛立ちを覚えた。

  【光】……この殺し合いが始まった直後、ある魔女もヘクトルという男を救うために癒しの光を放った。
       その代償として彼女は死んでしまうが、その意思はヘクトルにうけ継がれる事となった。

  【槍】……導かれし者たちの一人、中年の商人。彼をギャンブラーの槍が貫いた。
       商人は優しい父親だったが、他でもないその優しさこそが勝負師を殺し合いへと導いてしまった。

  【拳】……導かれし者たちの一人である少女が使う武器。彼女の拳はとても強かった。数々のモンスターを倒してきた。
       だが、道化師の魔法の前にはそれも通用せず、彼女は巨大な氷に包まれて命を落としてしまう。

  【燃える】……燃える森の中で、一人の少女が絶命した。幻獣と人間の間に生まれた美しい娘だ。
         彼女は無法松に全てを託し、たったひとりで狂騎士に戦いを挑んで倒れた。

  【心】……心山拳という拳法がある。その拳法の師範代である少女は、とても強い心を持っていた。
       彼女は最期まで人間の心を信じて、人間への憎悪を燃やす魔王と戦い抜いたのだった。

「…………あー! なんだってんだよ一体よぉ!」
 イラつくあまり、海に飛び込みたい衝動に駆られる。
 だが、そのまま流されて、【禁止エリア】に進入して死亡などとなっては、冗談では済まない。
 さすがの無法松も、そんな【原始人】の様な真似をするほど馬鹿ではなかった。
 地団太を踏み、船に八つ当たりする。
 座礁船はビクともせず、男のやり場のない怒りを全て受け止めた。

  【禁止エリア】……最強を目指す格闘家も、禁止エリアには勝てなかった。
           首輪が起こした爆発は小さなものではあったが、確実に彼の命を吹き飛ばした。

  【原始人】……原始に生きる女性。時空を旅して、世界を救った者たちの一人だ。豪快で優しく、そして強い人であった。
         彼女を殺したのは、漆黒の暗殺者が投擲した一本の槍。
451無法松、『酒』を求める ◇Rd1trDrhhU氏代理:2010/07/05(月) 20:30:09 ID:8EWZ3ciA
「トッシュ、何かあったんだな……」
 太陽が沈み【夜空】が訪れると同時に、無法松も冷静さを取り戻す。
 彼が待っていたのは、トッシュという侍。
 座礁船への集合を呼びかけた中で、唯一生き残っている人物だ。
 しかし彼は、約束の時間である【魔王】オディオによる第三回放送を過ぎても、一向に姿を見せない。
 トッシュは、約束を違えたり【嘘】をつくような男には見えなかった。
 ならば、彼は厄介ごとに巻き込まれてしまったのだろう。
 この会場には、【平気で人を殺すような外道】が大勢いるのだから。

  【夜空】……ある少女が、夜空に消えた。彼女は、魔剣に封じられし力を引き出し……我が物とした。
        しかし、強大な力は少女すらも食いつくしてしまう。彼女は消えゆく身体を奮い立たせ、最期まで魔王と戦いぬいた。

  【魔王】……ある魔王の剣が、少女を貫いた。彼女は幼いが芯が強く、召喚師としての多大なる才を秘めた娘であった。
        落ちゆく意識の中で彼女はずっと、自分の恩師を心配していた。

  【嘘】……少女の死を前に、ある物真似師が自らのポリシーに反してまで嘘をついた。その少女は姉であった。
       命が燃え尽きるその瞬間まで、姉であり続けた。その死は、実に多くの参加者に影響を与えることとなる。

  【平気で人を殺すような外道】……灯台で少年に殺された男も、こういう人間であった。人の命を命だとも思わず、弄んで楽しむような男。
                  最期は豚の真似をさせられて殺されるという、なんとも彼らしい終わり方だ。

「……仕方ねぇな」
 ただ、待ち続けているだけでは、時間の無駄である。
 何かすべきことはないものかと考えた無法松は、自分が船の上にいることを思い出した。
 もしかしたら、【酒】でも積んでいるのではないか。
 そんな【甘い】期待に背中を押されるようにして、無法松は船の内部を捜索することにした。
 船内に潜んでいるかもしれない敵からの【奇襲】には、十分気をつけながら。

  【酒】……超能力少年が、酒を湖に注いだ。命の歯車を止めた、機械仕掛けの女性への手向けだった。
       英雄になることに、人生をかけて拘り続けた女性。彼女は最期の最期で、少年から英雄と認められたのだった。

  【甘い】……天馬騎士見習いの少女が、甘い夢を見たまま逝った。彼女は自分が死んだことにも気づかなかった。
        気弱な少女にとっては、むしろその方が幸せだったのかもしれない。

  【奇襲】……世界を救った者たちのリーダーだった国王。彼も暗殺のプロの奇襲には太刀打ちできなかった。
        しかし、彼は絶命してもなお、手にした刃を振り続けた。戦友への誓いを、心の中で叫びながら。

「……ほぅ、意外と広いもんだな」
 カツカツと階段を下った先には、だだっ広い空間。
 木製の床は、歩くたびにギチギチと軋みをあげた。
 どこかから、隙間【風】が吹き込む。
 こんな安い作りでちゃんと【嵐】の海を抜けることができるのか、と無法松は心配になった。

  【風】……風を従えたハンターがいた。世界一疑り深い男。なのに彼は、起きるはずのない嵐を命がけで待ち続けた。
       嵐は現実のものとなり、男はその奇跡を起こした相棒に報いるために魂を燃やした。

  【嵐】……あるガンマンが起こした奇跡の銃技。男は、白い花が好きだった。そして彼は相棒と共に全てを賭けて最強の魔導師に挑む。
       あと一歩と言うところまで道化師を追い詰めたが、最期は少女を見守って力尽きた。
452創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 20:30:54 ID:At522nSj
支援
453創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 20:32:15 ID:At522nSj
支援
454無法松、『酒』を求める ◇Rd1trDrhhU氏代理:2010/07/05(月) 20:32:14 ID:8EWZ3ciA
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか……ってなぁ」
 通路を【盾】のように塞いでいる蜘蛛の巣を払いのけて、無法松は幾つかある扉のうちのひとつを開ける。
 部屋の中は、特に目ぼしいものはなく、布団や空瓶などが【乱暴】に投げ捨てられていた。
 扉の近くに落ちていた【眼鏡】を踏み潰して、中に入る。
 壁にかかっているドクロマークを発見して、無法松はこれが海賊船であることを知った。

  【盾】……フィガロ城で死んだ少年。彼の腕で輝く紋章は、盾であった。誰かを守りたいという少年の思いを具現化したようでもある。
       そして彼は、その願いの通りに、紅き侍を癒して空へと旅立った。

  【乱暴】……無法松と、この座礁船で合流する約束をした男。彼は乱暴な性格だった。約束をよく破る男でもあった。
        異形の騎士と魔王を前に、彼は倒れた。この約束を守ることも、できなくなってしまった。

  【眼鏡】……眼鏡の少女。知性に溢れていたが、しかし彼女は優しさも忘れることはない。
        殺し合いに乗ったかつての仲間たちを止めるために自ら戦場へと向かい、最期は心地よい緑の光の中で眠りについた。

「……海賊なんてもんまで存在してやがんのかよ…………」
 無法松のいた世界で海賊行為などを行えば、たちまち【軍部】によって粛清されてしまう。
 おそらく、この海賊船のいた世界は、無法松のいた日本とはまったく違う常識を持っていたのだろう。

  【軍部】……無法松を守って死んだ女性は、軍人だった。男であるとか、女であるとか関係ない。
        民間人を守ることに全力を注いだ。隕石に押しつぶされるその瞬間まで。

「いろんな世界があるんだな」
 以前の彼ならば異世界の存在など信用できるはずがなかった。
 が、【魔法】なんてものを散々この目に見せられては、もうその存在を信じざるを得ない。
 ふと、金髪の男が【召喚】した隕石を思い出して、無法松は今一度悔しさを滲ませた。
 彼にとって、【女に犠牲になられる】ことは、とても許せることではない。

  【魔法】……炎の少年が、魔王の放った魔法を受けて消滅した。その幼い心は、やがて成長して世界を救うに至る。
        しかし、運命の輪は、彼にその機会を一切与えなかった。

  【召喚】……召喚師の女性。彼女は、最初からずっと逃げ続けていた。己の内にある感情と向き合うことを避け続けた。
        ギャンブラーは、それを良しとはしなかった。彼女を殺したのは彼女自身の弱さだったのだろう。

  【女に犠牲になられる】……メガザルという魔法を使う女性がいた。自らを犠牲にして他人を守る。彼女の優しさを体言するかのような魔法。
               そして彼女は、傷ついた仲間を救うため、何のためらいもなくその魔法を唱えて……力尽きた。

「ま、今は前に進むしかねぇよな」
 感傷的になった自分に気づいて、無法松は踵を返した。
 他の部屋を調べるため、次なる扉へとその足を伸ばす。
 彼女を犠牲にして生き延びてしまったことは、もう仕方のないこと。
 ならば、今は彼女の分まで戦うべきだ。
 それが、【命を託した】彼女の願いなのだろう。

  【命を託した】……スパイラルソウル。メガザルよりも少し荒々しい魔法。その使い手も、これまた荒々しい男。
           彼は、最強最悪の敵を前に、この技を使用。仲間に全てを預けて荒野に倒れた。

「この部屋は、酒蔵か?」
 次に踏み込んだ部屋は、【馬鹿】にたくさんの樽が積まれている部屋。
 辺りに漂う心地よい匂いに、無法松は【雷】に打たれたように跳ね上がって喜んだ。
 この中のどれかに酒が残っているかもしれないと、ひとつひとつ中身を確認していく。

  【馬鹿】……文字通り、馬鹿がいた。どうしようもないほどの馬鹿なのだ。それゆえに、全てを吸収できる男だ。
        彼もまた、仲間に命を託して倒れた。相棒がやったのと同じように。

  【雷】……無口な少年の得意魔法は雷。その得意技のせいで、ある勇者を絶望に追い込んでしまう。
       仲間から命を預かった彼は、死にゆく身体で必死でその勇者のところまで這い進み、最期の思いを手渡そうとした。
455無法松、『酒』を求める ◇Rd1trDrhhU氏代理:2010/07/05(月) 20:33:52 ID:8EWZ3ciA
「これで、【ご馳走】でもありゃあ最高なんだがなあ」
 などと、贅沢を口にしながら、樽を持ち上げていく無法松。
 思わず垂れてきた涎を飲み込む。
 半分ほど調べたが、今のところ全ての酒樽は空であった。
 だが、もう無法松には、酒が飲めないなどとは【信じられない】。
 どれかに必ず【本物の】酒が入っていると信じ、次々と酒樽をチェックしていく。

  【ご馳走】……少女は、争いが嫌いだった。みんなと笑顔でご馳走を食べることを望んでいた。
         その優しさは、狂人の壊れきったはずの心に孔を穿つ。その貫かれた思いは、確実に何かを変えたのだった。

  【信じられない】……『シンジラレナーイ』。狂った道化師の口癖。彼の心に、ある『毒』が注入された。
            その優しさは彼を蝕み……そしてついに、道化師はその感情に蝕まれて絶命するに至る。

  【本物の】……モシャス。誰かのニセモノになる魔法だ。少女はソレを駆使して幼馴染の少年を助けようとした。
         彼女はたった一度だけ、本物の思いを少年に伝える。しかし彼の『返答』は、彼女を粉々に砕いてしまった。

「ん? なんだこりゃ?」
 部屋の隅に置いてある樽を持ち上げたときだった。
 無法松は、その下の床に、何か絵のようなものが描かれていることに気がついた。
 蛇の這った跡のような、筆で適当に書きなぐったかのような不思議な模様。

「落書き……か?」
 無法松はよく分からないソレを無視して、アルコール探しに戻る。
 もう、彼の目には酒しか映ってはいなかったのだから。
 男は、目的のものを探して進む。
 明日のために、座礁船で仲間を待ち続けながら。
 たったいま目の前を通り過ぎた二十九には、気づくこともなく。



 さて、無法松が見たこの模様。
 これは落書きでもなければ、絵ですらない。
 実は、紋章である。
 転送の魔法が封じ込められた、紋章だ。

 この船は、ファーガスという海賊が所持していた船。
 ヘクトルたちが、『魔の島』へ渡るために乗った船でもある。
 この船は海賊船として活動しているかたわら、武器屋や道具屋を乗せて商売もさせていた。
 そして、この紋章もまた、ある店への入り口である。
 ヘクトルたちが使うことのなかった、ある店への。

 この紋章のことを魔王オディオが知っているかどうか。
 この先に通じているのが何なのか。
 それは、まだ誰にも分からない。
 しかし、たった一つだけ…………。

 セッツァー=ギャッビアーニが現在所持しているメンバーカードにも、全く同じ紋章が描かれている。
 それだけは、確実なことであった。
456創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 20:34:46 ID:At522nSj
支援
【A-7 座礁船内部 一日目 夜】

【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]健康、全身に浅い切り傷
[装備]壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
[思考]
基本:打倒オディオ
1:酒を探す。
2:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。 ただし、約束の時間が近いので探すのはできるだけ近辺で。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナ、ビクトール、トッシュ、アズリアの仲間について把握。ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
 ジョウイを警戒すべきと考えています。



※A-7 座礁船の酒蔵の隅に、秘密の店への入り口があります。その先に何があるかは不明。

666 名前: ◆Rd1trDrhhU[sage] 投稿日:2010/07/05(月) 20:30:27 ID:K.yN1AHk0 [6/6]
以上、投下終了です。
代理投下してくださった方、本当にありがとうございます。


----------
以上で、代理投下を終了します。支援ありがとうございました。
そしてこれは……すごいや。トリッキーな形式でも、すんなり読めるってのが素敵。
無法松の視点とメタ的な視点とが入り混じっているのを、地の文が綺麗につないでるなぁ。
今までの死者についての注釈で色々と思い返して涙が出て、海賊船のくだりについては
次が気になって。面白くも良い仕事をしてるSSを読ませていただきました。執筆お疲れ様でした!
458創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 20:45:39 ID:At522nSj
代理投下乙です

今までの死者と絡めたSSが上手い
それに先が気になるいい展開だ
オディオはこのことを知ってるのだろうか…
459創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 20:47:47 ID:HExMVjoj
投下乙ー!
街だっけ。前にも見たことあっがこういうSS書ける人は羨ましいなー
注釈に小ネタ仕込んだりするの楽しそう
このSSだと今までのあらすじ的な流れだな
なんかすごく感慨深かったぜ
メンバーズカードは活かされるか否か
おもろかったー

ただ細かい点だけどスパイラルソウルは気功とかそんなノリであって魔法とは違うはず
460まとめwikiについて ◆MobiusZmZg :2010/07/07(水) 23:21:34 ID:tvlVgGsC
>>303>>320にて、発議と申請を行った者です。
10日経過しても、現管理人さんからの連絡はありませんでしたので、
本日23時台をもって、@wikiに直接アカウントの譲渡申請を行って参りました。
申請が受理されたあと、wikiのトップに譲渡申請の旨を綴った文章が表示されますが、それは仕様です。
この表示が行われてから7日経っても連絡がないようでしたら、管理権は自動的にこちらにうつります。
数日、wikiの可読性が下がるかと思いますが、もう少々お待ちいただければ幸いです。
461 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:37:48 ID:kXpQ0hKq
すいません、推敲の時間をとりたいので今暫しの猶予をください
462創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:49:32 ID:L9i/AFlr
了解しました。焦らず気負わず、作業なさってください。
463 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:51:49 ID:kXpQ0hKq
お待たせしました。投下始めます。
464創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:52:14 ID:L9i/AFlr
執筆お疲れ様でした。では、支援しますー
465光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:52:45 ID:kXpQ0hKq
「な、なんでぇ……」

可笑しい、可笑しいよ。
あたし――ニノが馬鹿だからってこれが可笑しい事ぐらい理解できる。

「ねえ、なんでよ……ジャファル……」

あたしは目の前にいる大好きなひと、ジャファルに話しかける。
でも、彼は無表情のままで、黙っていたままだ。
その事が、凄く哀しい。
やっと人に戻れたのに。
また、人形のようになっている。

「どうして……よぉ」

あたしの呟きが震えている。
頬には涙が伝っている。
哀しかった、理解したくなかった。
今、彼が行っている行動が。

「ねえ……ってば………………ねぇ」

最初からわかってた。
解らない事がいっぱいだけど、これだけはわかった。
だって、あたしは彼の傍に居たんだもん。
ずっとずっと、黒の牙から離れた時から。
ジャファルの傍に付き添っていたんだから。
だから、だから。

――彼の強さぐらい、当に解っているんだから。

死神と呼ばれたジャファルの強さは誰にも負けないくらい強い。
あたしの傍に居る時は、絶対に負けなかった。
それぐらいに、彼は強いんだもん。
だから、あたしがいくら本気になってもジャファルには敵わない。
それくらいは解ってる。
でも、でも、あたしは彼女を止めたかったんだもん。
本気だった。
敵わないと思っても、ジャファルの事を止めたかった。
だって、大好きだから。
世界一、大好きなんだから。

でも、でもね、ジャファル。

「メラ」

あたしは覚えたての魔法を放つ。
火の粉は真っ直ぐジャファルに向かって――

「……っ……ジャファル……」

彼は避けようとしなかった。
手を広げて、火を受け止めた。
苦悶の表情を浮かべながらも、彼は立っている。
466創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:53:29 ID:L9i/AFlr
 
467光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:53:36 ID:kXpQ0hKq
さっきから、ずっとそうだ。

彼は、あたしの魔法に一切抵抗しない。
避けようとも、防御しようともしない。
全てを受け入れるように、何度も何度も魔法を受けている。

「なんでよ、なんでえ……」

嗚咽の混じった声にジャファルは何も反応しない。
あたしも、少しムキになっているのかもしれない。
避けようとしないで攻撃を受けている彼が。
なのに、私の言葉には一切口を開かない彼が。

よく解らなくて、理解したくなくて。

彼を止めようと思っているのに、哀しくなってしまう。

どうして、どうして、大好きな人は黙っているの?
どうして、どうして、大好きな人は動かないの?


このままじゃ、このままじゃ……


「ジャ……ジャファル……し、死んじゃう……よぉ」


大好きな人が、死んでしまう。
でも、あたしが攻撃をやめてしまったらならば、大好きな人はきっと去ってしまうだろう。
それだけは、嫌だった。

あたしはジャファルが好き。
だから、此処でジャファルを止めたいと思う。
そして、一緒に帰りたい。
ちっぽけな願いだけど、でも、それが大切なんだ。
ジャファルが好きだから。

だから、だから……

「ジャファル、聞いて」

あたしは唯一使わなかったクレストグラフを取り出す。
これは、強力すぎるから。
「ハイヴォルテック」というヴォルテックを強くしたもの。
そんな、危険すぎるものをあたしは使う。

「今から使うのはとても危険なの。だから覚悟して」

言葉は強いものだけど、本当は避けてほしいと願って。
避けたからどうなるものでも無いと思う。
けど、きっと今の状況から動くと思うから。
そう思って、あたしはハイヴォルテックを使う。
468創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:54:15 ID:0dnQpFHb
469光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:54:41 ID:kXpQ0hKq
ヴォルテックを凌ぐ強烈な風刃がジャファルに対して向かっていく。
目の前の彼を切り裂こうと強風がうなっている。
それなのに、彼は一歩も動こうとしない。
全てを受け入れるかのように、その場に佇んでいる。


…………い…………いや……いやぁ…………


ジャファル……
ジャファル……


「お願いだから……避けてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」



…………これは罰なのかもしれない。
…………ジャファルの無事を祈りながらも、攻撃を続けたあたしへの。

ジャファルの想いすらも無視したかもしれないあたしへの、重い罰かもしれなかった。


でも……でもぉ……


こんな、終わり方は嫌だよぉ……


ジャファル…………お願い……死なないでぇ……



けれど、そんなあたしの願いなどおかまいなしに


全てを切り裂く風刃は無慈悲に、容赦なく。


大好きな彼の身体を蹂躙していった。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






470創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:54:46 ID:L9i/AFlr
 
471創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:54:48 ID:FJsHX/9M
 
472創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:55:37 ID:L9i/AFlr
 
473光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:55:40 ID:kXpQ0hKq
「ケアルガ」

その一言と共に、ヘクトルの傷ついた身体が少しづつ癒えていく。
先程、ジャファルによって突き刺された傷も大分よくなってきている。
それも、呪文を唱えてくれた男、セッツァーのお陰だった。

「ありがとな、セッツァー」
「これぐらい大した事はないさ」

実際、セッツァーとしても大した事ではない。
これぐらいで信頼を勝ち取れるのならば、回復ぐらいはしてやるつもりだったからだ。
セッツァーはリンの支給品を回収した後、直ぐジャファルの元へ駆けつけようとしたヘクトルを一旦制しさせて、回復に専念させていた。

セッツァーの見た所、ヘクトルの累積した傷は行動に支障をきたすレベルまで発展していたのだ。
ヘクトル自体がどうにかなろうとセッツァーにとっては知っちゃこったなかった。
だが、ヘクトルがジャファルとの戦闘で死んだ場合、次に刃が来るのは自分自身だ。
そうなるならば、不慣れな武器でジャファルと戦うと言うのは明らかに危険である。
ならば、ヘクトルを回復させ、戦闘に持ち込ませた方が自身の生存率を押し上げる結果にもなるのだから。

だからこそ、直ぐにでも飛び出しそうなヘクトルを抑え、回復させたのだ。
ニノがジャファルにとって護る相手だからこそ、危害が及ばないなどと論じ、論破させた上で。
それに、だ。

「どうした、ヘクトル?」
「……あ、ああ別に何でもない」

ヘクトルが何処か気まずそうに頭を振る。
そう、これだ。
セッツァーがヘクトルに隠しこんだ嘘。
もしかしたらだが、ばれている可能性がある。
ヘクトルがどうにも自分を怪しがっているのだ。
彼自身は疑ってない風にしているが、賭け事を生業にしている自分としてはバレバレである。
直情的なこの男にはポーカーフェイスは無理かとも思い、セッツアーは心の中で少し笑う。

だからこそ、ここでなるべく信頼を得た方がいい。
そう考えた上での行動だ。
まだ、自分が善人である事をヘクトルに示しておいた方がいい。
そう、セッツアーは思いながら口を開く。

「なあ、ヘクトル」
「何だ?」

それは、唯一セッツァーが彼に聞きたかった事。
リンからその事実を聞いたからこそ、セッツァーには理解できなかったヘクトルの行動。

「お前、恋人をあの男に殺されたんだよな」
「…………ああ」
「なら、憎くないのか。殺したいと思ってないのか?」

フロリーナを殺され、また目の前でリンをジャファルに殺されたヘクトル。
だが、まだそれでもジャファルを殺さないと言うヘクトルがセッツァーは信じられなかった。
この男は誰かの為なら、自分の願いや夢を捨てられるのかと。
自分の願いすら押し殺すのかと、セッツァーは思い、ヘクトルに問う。
474光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:56:28 ID:kXpQ0hKq

「そりゃあ……ふざけんなと思うぜ。憎くない……といったら嘘になるな」
「なら……」
「だけど、それで殺すなんて事できるか。ニノが哀しんじちまう」
「何故だ?」
「そりゃあ、ニノは俺達の仲間だしな。だからあの馬鹿をぶん殴って言う事きかせないとな」

そんな風にあっけからんと言うヘクトルが信じられなかった。
仲間の為に自分の感情を押し殺す事を平気で行うヘクトルが。
そして、何よりもその強さがあまりにも光り輝いているようにも思えて。
ヘクトルは王として、仲間を信じ目的を達成しようとする。
その影で自分の思いや感情を潰してでも。

「そうか」
「ああ、だから、もういくぞ」

そう言ってヘクトルは歩き始める。
頼もしさが溢れるヘクトルを。
王として歩き出すヘクトルを。
『光』を背負って進むヘクトルを。

セッツァーは侮蔑の篭った瞳を静かに向けていた。

ヘクトルの考えに嫌悪感すら浮かべながら。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






475創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:56:30 ID:FJsHX/9M
 
476創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:56:31 ID:L9i/AFlr
 
477創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:56:40 ID:0dnQpFHb
478創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:57:16 ID:L9i/AFlr
 
479光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:57:29 ID:kXpQ0hKq
「あ……ジャファル……」

強大な風刃を喰らってもなお、ジャファルは立っていた。
身体には無数の傷が刻まれながらも、沢山の血を流しながらも、決して地に伏せはしなかった。
ジャファルを支えていたのは揺るがぬ信念と大切な想い。
そして、痛みに堪えながらも優しい視線をニノに向けていた。

「ジャファル……ジャファルぅ……」

ニノの縋るような声が雨の中、響く。
結局の所、ニノ自身も気付かない所で手加減を加えていたのだった。
ジャファルを傷つけたくないという本心から、自然と。
何故なら、ニノはとても優しい子なのだから。

「…………だいじょうぶ? ジャファル」

ニノは不安そうな声をあげ、ジャファルに寄っていく。
ジャファルは最初から解っていた。
ニノが優しい子だからこそ、手加減をすると。
そういう子だから、だからこそ、好きになった。

「……ニノ」

初めてジャファルは大好きなニノの名前を呼ぶ。
だからこそ、ここで伝えなければならない。
彼女が優しいからこそ、自分の殺人を許せない。
彼女が自分を好きだからこそ、自分を許せない。
そういう子だからこそジャファルは


「俺を許すな」


徹底的に、突き放す。

480創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:57:59 ID:L9i/AFlr
 
481光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:58:10 ID:kXpQ0hKq
「俺は約束を破る。これからも人を殺す。何故ならば、俺は『闇』だから」

ニノと約束した、優しい約束。
それすらも、破る。
そして、死神に戻り、闇に沈む。
全ては愛する人の為に。

「俺はお前に会う前は死体だった。だから、お前の手で終われるならそれでいいと思っていた」

ニノの攻撃を受けていたのもその為だった。
もし、あの場でニノが殺す気だったのだったら、それでいいと。
闇に落ちるしかない人間が、最もやすらげる人の手で死ねるならばそれが最大の幸福なのだから。
だけど、ニノは殺さなかった。

「言い訳は、もうしない」

だからこそ、もう言い訳はしない。
きっとニノはジャファルの考えなど受け付けないだろう。
それこそがニノであるのだから。
そんなニノだからこそ、好きになったのだから。

「皆を殺して、ニノを世界に帰す。たとえ、傍に俺が居なくても……大丈夫。ニノの傍にきっといい人が現れるから」

ニノがジャファルに言った言葉をそのまま、対になるように返す。
それがどんなにジャファルのエゴであっても。
そのエゴを最後まで貫くまで。

「ニノは幸せになれると……信じている」
「……なんでよぉ」

ニノの泣き声が聞こえる。
傷ついた自分の身体に縋りながら、ジャファルを引き止めるように。
そんなニノに心を痛めながら、返事を返す。


「俺が……幸せだったからだ」

482創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:58:40 ID:L9i/AFlr
 
483光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:59:04 ID:kXpQ0hKq
ニノと過ごした時間。
ニノが傍に居た時間。

殺す機械だった自分が、感情を取り戻せて人になれたのだ。

「俺すらも幸せできる子だから……ニノが他の人を幸せにする事は簡単だ。その人が幸せにしてくれる」

たとえエゴと罵られようとも、そう信じている。
詭弁かもしれない。実際ソーニャには届かなかった。
だけど、ジャファルは信じたい。
ニノが幸せになれると。
そうでなければ、殺しなどしないのだから。


「ニノ、ありがとう。感情を教えてくれてありがとう。温もりをありがとう」


感謝しても、感謝しきれないだろう。
闇の中に生きたジャファルに光の温もりを少しでも教えてくれたのだから。
光を教えてくれた、ニノには生きてほしい。そう思うから。
だからこそ、


「俺は、感情を捨てる。深い闇に戻るよ。其処が俺の住む世界だから」
「えっ……」


与えられた、優しさ。
与えられた、やすらぎ。
全て、捨てる。
夢のような時間は、もう終りなのだから。
住むべき世界に戻る、それだけ。
せめて、その世界にニノだけは戻らせないと想いながら。

「ニノ。お前には闇は似合わない。俺と関わり過ぎると、きっと闇に落ちる。だから……俺を忘れろ」

出来る事なら、自分を忘れて欲しい。
そうすればきっと幸せになれるはず。
盲目的な想いを抱えながら、ただそれだけを願う。

「エゴだよぉ……それはジャファルのエゴだよ……」
「そうだな……俺のエゴだ。でも、俺はお前に生きて欲しい」

例え、それがエゴに塗れたものでも。
例え、それがニノの為になるといえなくても。

ただ、ニノに生きて欲しいから。


「これは、俺の本当の願いだから。ニノに生きて欲しい」


本心から、心の底から、それだけを願う。


「その為に、殺す。お前を生かす為に」

ただ、ただ殺す。
それがニノを生かす事になると信じて。
484創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 04:59:27 ID:L9i/AFlr
 
485光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 04:59:48 ID:kXpQ0hKq
だから


「ニノ、ありがとう。さよなら」


ここで、永遠の別れを誓う。
二度と逢わない方が、きっとニノの幸せに繋がると信じて。

これまでの宝物のような日々にありがとうと。
そして、大好きな彼女にさよならを。


「ニノ、ずっとずっと大好きだった」


最後に、不器用な笑みを、浮かべた。
それは『死神』に戻る前に、ニノだけにあげる、『人間』の象徴である心からの笑顔だった。


「あ……ジャファル……ぅ……」


ニノの頭をくしゃと一撫でして、ジャファルは森の中を駆け出していく。
ニノは、手を伸ばそうとして、でもそれは届かず宙を切る。
そして、ひとりぼっちに。
486創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:00:01 ID:0dnQpFHb
487光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 05:00:30 ID:kXpQ0hKq
「違うよ……違うんだってばぁ……」


ニノの嗚咽が雨の中、響いて。
正しく伝わらない想いが、苦しくて。


「あたしは……あたしは……たとえ闇に落ちても……」


ジャファルと過ごした日々は本当幸せで。
例え、それがいつか闇に呑まれても。
きっときっと


「ジャファルと過ごした、日々は…………幸せなんだよ…………ジャファルが居るから幸せなのよぉ……なんでぇ……気付かないのぉ」


想いは正しく、伝わらない。
ニノの想いは、ジャファルに届かない。


「あたしは……ジャファルの傍に居たいよぉ……ジャファルと一緒に生きたいよぉ」


ただ、傍で生きたいだけなのに。
その願いは雨にかき消され。


「違うんだってぇ……ジャファルのばかぁ……あたしだって……大好きなのに……すきなのにぃ……うぁああああああああああ!!!」



ニノの深い慟哭さえも、雨は閉じ込めてしまう。


赤子の様なニノの泣き声が、雨音と一緒に延々と鳴り響いてた。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





488創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:00:32 ID:L9i/AFlr
 
489創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:01:30 ID:L9i/AFlr
 
490光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 05:01:42 ID:kXpQ0hKq
「ちょっと待てよ。ジャファル」
「……オスティア候」

逃げようと森を駆けていたジャファルの前に、現れた二つの影。
それはジャファルを止めようとするヘクトルとセッツァーだった。
ジャファルが歯噛みをしながら、ヘクトルを睨む。

「ニノを任せたい……逃がしてくれないか?」
「何馬鹿言ってんだ。てめぇは。というかニノとは、どうした?」
「……別れてきた。俺はあいつを生かすだけだ」

別れてきたという言葉に目を見開くヘクトル。
ジャファルがニノを生かすそれだけに全てを捨ててきた事を知り、激昂する。

「てめぇ……何を考えてる! ニノがどれだけ哀しむか知ってやったのかよ!」
「……ああ。でも俺はニノを生かす……それだけだ」
「くだらねえ……エゴだ」
「何が悪い。好きな人を生きて欲しいという願いを持ってはいけないのか?」
「それでニノを哀しましたらしょうがねえだろうが!」
「……しょうがないだと? ニノに生きて欲しい。俺はニノが好きだ。その為だったら何でもする。たとえ嫌われてもな」
「てめえ……」

ジャファルのそんな願いをただのエゴだとヘクトルは切り捨てる。
でも、大切な人に生きて欲しいという願いは誰もが持っているものだろう。
それで例え、大切な人が哀しんだとしても生きているならば、それこそ未来が繋がっているのだ。
エゴだと切り捨てるヘクトルを、セッツァーは強者の傲慢だと思う。
誰もが、ヘクトルみたいに大切な人を失って強い訳ではないのだから。
ヘクトルのような、王の思考など理解できるものか。

対してジャファルはどうであろうか。
考えは確かにエゴ塗れかもしれない。
だが、純粋に大切な人を護りたいと思う心は悪なだろうか。
大切な者の為、全てを捨てて、自らもてるものすべてを懸ける事が出来るのは素晴らしい願いではないのか。
大切な人の為に、例えエゴだとしても貫く。
その方が、よっぽど人間らしいし理解できるとセッツァーは思う。


「オスティア候こそフロリーナを失ってまだ前を向いてられるのか?」
「当たり前だ。俺はあいつらの為にも諦める訳にはいかねえんだよ」
「……やはり『光』だ。貴様はまばゆい『光』だ」

蔑むように、ジャファルはヘクトルを睨む。
対極であるヘクトルを睨むかのように。

「なんだと?」
「『光』だと言っている。貴様は王だ。個を捨て、仲間の為に、世界の為に戦う事ができる。例え自らを捨てても」
「……それがどうしたんだよ」
「その行動に人々は賞賛するだろう。まばゆい光を見るように」

ヘクトルは光だとジャファルは称す。
王であるヘクトルは、仲間の為に、国の為に、世界の為に戦うのだろう。
其処には揺るがぬ信念と確固たる意志を持って。
その為に自らを捨てる事は厭わない。
だからこそ、人々は賞賛する。
光を見るかのように。

そして、その類稀なる王の器持つ彼は歴史を作り、人々に『英雄』と呼ばれることになるだろう。

491創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:02:09 ID:FJsHX/9M
 
492創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:02:16 ID:L9i/AFlr
 
493創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:02:31 ID:0dnQpFHb
494光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 05:02:49 ID:kXpQ0hKq
「…………だが俺は『闇』だ」
「何?」
「『闇』は、俺達のような暗殺者は決して表にではしない。影の中で戦い、影の中で消えていく。人々に見られることはなくな」
「…………」
「そして、闇に追われるものは決して闇から出られない」

そして、ジャファルは闇だ。
暗殺者であるジャファルは、命令により、汚い仕事を行っていく。
決してその行動は人々に賞賛されず、また表に出ることもない。
そして、闇の中にまた消えていくのが、闇に生きる者の定め。
だが、闇に生きる者達は精一杯戦っている。
表に、出なくても、国を護り、そして、歴史を裏から支えているのだ。


「『光』が『闇』に生きる人間の弱さと脆さを理解できるのか? オスティア候」
「…………てめぇ。俺が理解できないとでも言うのか!」
「個を殺した貴様に言われる筋合いは……無い!」
「ジャファル!」
「憶えておけ、オスティア候。光は強くなっていくに従って、闇も色濃くなっていくものだ」

ヘクトルでは理解できないとジャファルは言い捨て、逃げ去ろうとする。
だが、その背に向かって、逃がすわけには行かないヘクトルは聖なるナイフを投擲した。
予想外の攻撃に、ジャファルは咄嗟にナイフで弾くが、その際にデイバックを落としてしまう。
そして、デイバックが導かれるように地面にバウンドし、ヘクトルの前に来る。

「しまった……!」

思わず、ジャファルは声を上げてしまう。
渡してはいけないものが、其処に入っているからだ。
そう、それは

「アルマーズ!?」

竜をも屠る神将器、アルマーズ。
そして、ヘクトルはアルマーズに認められたのだ。
だからこそ、ヘクトルはその神将器を取り、叫ぶ。

「力を貸せ! アルマーズ!」

ヘクトルは、そのまま、斧を地面に打ち付けるだけ。

それだけの事だ。


だが、その瞬間、地は大きく揺れ、打ち下ろした地点から地に皹が入っていく。
土煙と共に地面が割れていき、打ち下ろした一帯が崩落していった。
土煙が晴れた頃には、ヘクトルが打ち下ろした前面に小さなクレーターが出来ていた。
495創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:03:29 ID:L9i/AFlr
 
496光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 05:03:39 ID:kXpQ0hKq
「……ちっ……逃がしたか」

だが、其処にはジャファルの姿は無かった。
ジャファルを殺さないように手加減を加えたせいで、隙をつかれて逃げられてしまったようだ。
ヘクトルは追おうとして、違和感に気付く。

(……なんだ? この感覚は)

嫌な感触が体に残る。
まるで、アルマーズに飲み込まれているような。
そんな感覚が、ヘクトルを襲った。
その違和感に戸惑っていると

「ヘクトル。俺がジャファルを追う! ニノを頼むぜ」

傍に居た、セッツァーがジャファルを追う様に森を駆けていく。
ヘクトルはそのセッツァーの行動を止める事が出来ずに去っていくのを見ているだけ。
未だにセッツァーの疑惑が晴れないこともあり、思わず溜息をついてしまった。

「……ジャファル」

そして、思い浮かぶのはジャファルの言葉。
光や闇とか述べて、明確にヘクトルに敵対した。
だが、その一方でニノを託すとも言ったのだ。
つまりだ、

「お前……まだ未練があるんじゃねえか」

きっと、未練があるのだ。
ニノと一緒に居る事に。
ニノの事に、未練があるのだ。
ならば、ヘクトルがやることは一つ。

「なめんじゃねえぞ……『光』は『闇』を消し去る事もできるんだ。絶対てめえをこちら側に連れて帰る!」


ニノの為に、ジャファルを連れ戻す。


その背は正しく、英雄になるべき、王の姿だった。



【C-7西側の橋より少し西 一日目 夜】
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]、疲労(極大)、アルテマ、ミッシングによるダメージ、
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドU、アルマーズ@FE烈火の剣 
[道具]:、ビー玉@サモンナイト3、
     基本支給品一式×4
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒す!
1:ニノの元へ向かう
2:ジャファルは絶対止める
3:リン達やブラッドの仲間、セッツァーの仲間をはじめとして、仲間を集める。
4:つるっぱげを倒す。ケフカに再度遭遇したら話を聞きたい。
5:セッツァーを信用したいが……。
6:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)、シャドウ、マッシュ、セッツァーを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
497創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:04:13 ID:0dnQpFHb
498光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 05:04:28 ID:kXpQ0hKq


【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:深い悲しみ、なんらかの補助魔法。
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:?????????????
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:マリアベルたちのところに戻りたい。
4:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイヴォルテックは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
 現在所持しているのはゼーバーとハイヴォルテックが確定しています。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「……グッ……くっ……」

逃げていたジャファルだったが、積み重なったダメージによって思わず膝を突く。
ニノの攻撃が思いのほか身体にきてたようだ。
こんな所で、倒れてはいけない。
ニノを生かす為に、まだやらねばいけないのだ。
けれど、身体を動かそうにも動かない。
まだ、何も為してないのに。

そう、思った矢先だった。


「ケアルガ」

癒しの力が身体を癒していく。
身体に付いた傷がたちまち消えていく。
振り向くと其処には、銀髪の男が立っていた。

「例え、それがエゴだとしても、自分の信念、自分の意志を変えずにひたすらに突き進む者、進む事を止めない者、最後まで諦めない者……」

その男は笑いながら、ジャファルに語っている。
何か、納得したように。

「その者を、人は『勇者』と呼ぶのだろうか。ならば、お前は『勇者』に相応しいのかもな」
「お前は……?」
「セッツァー。ギャンブラーさ」
「そのギャンブラーが何故俺を助ける?」
499光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 05:05:14 ID:kXpQ0hKq
ジャファルを勇者と呼んだセッツァーの行動がジャファルには読めない。
この男はヘクトルに組してたはず。
なのに、何故自分を助けるのだろうか。

「お前は、自分の手でその願いを、叶えようとしている。例えエゴと言われようとそれを止めない」
「……」
「自分を捨てる奴から見れば……こっちの方がよっぽどいいさ」

元々、限界が感じ始めていた。
自分の嘘がばれかけている事がヘクトルの解りやすい行動によって理解できたのだ。
そろそろこの殺し合いも終盤戦。新たに自分のみの振り方を考えなければならない。
その上で、ヘクトルの考え方にセッツァーは嫌悪感を示していた。
故に、ヘクトルについていくのは無理と思い始めて所に、ジャファルが現れた。
ジャファルの考えに、セッツァーは理解し、共感した所もある。
だからこそ、

「俺はこの殺し合いでお前と共に戦う事に賭ける! ベットするのは俺の命!」


今、ジャファルに全てを賭ける。

この殺し合いで最大の賭け。

彼が断れれば、ジャファルに勝てはしないだろう。
故に自分の命を賭けた、最大の賭け。



「伸るか反るか! どうする! ジャファル!」



そのセッツァーの言葉にジャファルは考える。
治癒していた事、そしてセッツァーが語る言葉。
全てを考え、そして。



「……乗った」



セッツァーは最大の賭けに買ったのだ。


500創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:05:26 ID:L9i/AFlr
 
501創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:05:45 ID:FJsHX/9M
 
502光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 05:05:57 ID:kXpQ0hKq
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドU、
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを生かす。
2:セッツァーと組む。
3:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
4:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦


【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:絶好調、魔力消費(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドU、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)、
    シルバーカード@FE 烈火の剣、メンバーカード@FE 烈火の剣
    マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドU、拡声器(現実)
    毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストW 導かれし者たち、フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドU、天使ロティエル@サモンナイト3
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:セッツァーと行動。
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレーと情報交換をしました。


503創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:06:57 ID:0dnQpFHb
504光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY :2010/07/08(木) 05:07:06 ID:kXpQ0hKq
投下終了しました。
真夜中、沢山の支援ありがとうございます。
矛盾などありましたら、指摘の程よろしくお願いします。
505創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:07:14 ID:L9i/AFlr
 
506創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:45:26 ID:L9i/AFlr
執筆お疲れ様でした!
流れが非常に綺麗なSSだなあ。長さ以上に、体感する密度が高かった……。
バトルというよりも人対人の激突では、ニノの健気さや優しさがよく伝わってきましたし、
そんなニノを前に覚悟を固めたジャファルがなんとも言えず切なかった。
個を殺しても光をもたらすと決めたヘクトルも熱かったし、セッツァーの賭けも別のベクトルで燃える。
キャラを活かしつつ、さらりと書き切ったことが本当に素晴らしいです。
そして、英雄と勇者が……どうなるか楽しみだ。
単体でも凄いクライマックスでありながら、次が気になるSS……素敵です。GJッ!
507創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 14:44:52 ID:+tBqkXqR
感想も書かずに指摘はどうかと思うが一つだけ。

セッツァーがケアルガ使えるのは登場時期から考えてありないと思います(ケアルガを覚える魔石はすべて世界崩壊後に入手)。
それからあの暗殺者のジャファルが膝をつくほどの怪我をケアルガ一回で状態表で健康と記すまで回復するのも違和感があります。
回復呪文専門のミネアさんもリンを治すのにべホマを数回使ってますし。
508創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 18:30:10 ID:e9qltXsX
ニノを傍に置いて護る為、ずっと捜してたジャファルが、こうも簡単にニノから離れるのは違和感を感じる。
509創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 18:55:10 ID:WBPMwmv7
投下乙です
取り急ぎ、最低限引っかかった誤字脱字部分だけ

>>473
知っちゃこったなかった→知ったこっちゃなかった
(地の文だから『知ったことでは』の方がしっくりきますが)

>>483
俺すらも幸せできる→俺すらも幸せにできる

>>498
身体にきてたようだ→身体にきていたようだ

>>499
組してたはず→与していたはず
限界が感じ始めていた→限界を感じ始めていた
自分のみの振り方を→自分の身の振り方を
思い始めて所に→思い始めたところに
彼が断れれば→彼が断られれば
買ったのだ→勝ったのだ
510創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 18:59:44 ID:0dnQpFHb
投下乙!
ニノとジャファルの戦い……とは言えないけれどは悲しいなあ
あえて避けないジャファルがらしい
ジャファルにとってニノは感情なんだよな
ニノがこんなこと望んでいないのも分かってて、だったら殺されても構わないと思ってて
文字通り全部受け止めて
その上でその感情をたった一つの願いのために捨てるか
こんな方法でしかニノと語れない不器用なジャファルが切なくも人間臭い
そりゃあセッツァーも共感するわ
ヘクトルは本編でも言われてるけど強すぎるんだよ……


>>508
ジャファルは最初から俺がニノを護る為にできることは殺すことしかない状態だから別に傍らに置こうとしてたわけじゃないかと
そりゃ無事な姿見たいからとかシンシアに護りたい対象ばれてつけこまれるわけにはいかんからとかで探す気もあったが

ケアルガは完全に書き手さんのミスだがなw
せっかく天使ロティエル持ってるんだし、ケアルラと並列で使えばそれなりに回復するかと
後気付いてるかもだけど最後の一文、誤字ですよー
賭けは買うものではなく勝つもの!
511創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 20:42:39 ID:EijIAAGY
投下乙です
言いたいことは他の人か言い尽したから俺が言うのはこれだけだ……GJ!
512創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 21:53:47 ID:L9i/AFlr
えーっと、◆iD氏の投下が近づいてますが、スレ容量が現状で408KBと……。
レス数には十分な余裕があるものの、感想や支援を含めると容量いっぱいになるかもですね。
スレ立てが必要であれば、テンプレをまとめたのでご利用いただければと思います。

http://www32.atwiki.jp/rpgrowa/pages/254.html

企画の現状に合わせて各所に微修正(したらばでwiki修正報告などはやってないという)
を加えて、地図などのURLも現状ですぐつながるように直して。
wiki上で前スレなどのURLを上書きしていけば、テンプレ貼るときの修正ミスなども減るかもです。
513創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:19:58 ID:3bnKmPtV
投下乙です。
最近読み始め、ようやく追いつきました。

書き手の皆さんそれぞれが描く
キャラ同士の出会いが生み出す物語には
リレー企画ならではの良さがあり、いつも更新が楽しみです。
これだけの作品を協力して作り上げているのは本当に凄いと思います。

中でも、多くの名勝負を生んだルカはどの登場シーンもドラマチックで、
原作より良い仕事をしているんじゃないかと思うほどです。
特にカノン戦は、ストーリーも熱く、キャラクターの再現と設定の活用・展開が素晴らしかったと思います。
マーダーと対主催の頭数が拮抗してきている状況なので、
ルカにはこれからも頑張って欲しいような、そろそろ誰かどうにかして欲しいような複雑なところですがw
次はアシュレーやトッシュと一緒に予約が入っていて、大変楽しみです。

残り人数ももう半分を切り、各組の展開も大詰めを迎えつつありますので
書き手の方は大変かもしれませんが、楽しみに待っています。
頑張ってください。
514創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:37:21 ID:UcF/epWL
読んでくれてありがとうと書き手の一人が言ってみる
これからの投下作品全部に感想を書いてくれなんて我が儘は言わないけど、これからも温かく見守ってくだせぇ
515 ◆iDqvc5TpTI :2010/07/09(金) 04:26:41 ID:9qIOvoLa
すみませんがただいま推敲中です。
後少しだけ待ってもらってもよろしいでしょうか?
516創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 04:28:37 ID:yP2brrKd
了解しました。まだ支援は出来ますので、焦らず確認なさってください。
517憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI :2010/07/09(金) 04:41:26 ID:9qIOvoLa
投下します
518憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI :2010/07/09(金) 04:42:26 ID:9qIOvoLa
全身から力が抜けていくのが分かる。
視界がどんどん暗くなっていく。
意識も混濁し、音が途切れ途切れにしか聞こえなくなる。
男はこの感覚には覚えがあった。
体感時間では一昨日辺りに味わわされたばかりのもの。
人が誰しも一度は経験し二度目はないはずの現象――死

「……そうか」

なるほど、男は明らかに死に瀕していた。
髪はザンバラ、右耳は欠け、胸部の肉は削げ、夥しい出血で真紅に染まらぬ所はない。
壊れた鎧、血まみれの剣も鑑みれば、墓場から蘇った落ち武者の亡霊といった風情だ。

「……ククク……」

だが男の獰猛さは死人の浮べる空虚なものとは程遠かった。
命あるもののみが浮べえる感情という生の証に彩られたものだった。
男は思い出す。
一度死んだ時のことを。
あの時もまた兵もなく、全身から赤い命の水を垂れ流し、多くの敵に囲まれていた。
違うとするならば身に負うた傷が一つの敵集団によるものではないということくらいか。
見も知らぬ男達が謀ったわけでもなく次々と立ち塞がり残していった傷をなでる。
重く響く痛みに更なる笑みを刻む。
道理だ。
邪悪は理不尽をもって個を蹂躙する。
正義は数をもって邪悪を叩き潰す。
いつの世も変わらない不変の真理。

であるならば。

ルカ・ブライトという邪悪にとってはここが境界線だ。

満身創痍な身で数多の精鋭を向かい討たねばならないかってと同じこの状況。
逃げるという選択肢はない。
逃げたとしてもルカが邪悪として生きる限り何度でも同様の事態を招くだろう。
ここで超えられないのものならばこの身は所詮その時滅びる。

「クハハハハハハっ!! 来るがいい、屑共っ!!
 かってリオウがやったように、この俺を殺してみせろっ!!」

血を払ったばかりの剣を引き抜き狂皇が吼える。
立ち塞がりし敵は三人。
一人はかって彼を破った剣客であり、三人が三人とも彼に仲間を奪われた者達。
その中で真っ先にルカの剣と剣を交えたのは全身をへんてこりんな服に包んだ物真似師だった。


519創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 04:42:46 ID:yP2brrKd
 
520憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI :2010/07/09(金) 04:43:25 ID:9qIOvoLa


ルカとゴゴ達がE-2エリアとF-2エリアの境界で遭遇したのは決して偶然などではなかった。

仮眠より目覚めいささか落ち着いたゴゴはアシュレー達にシャドウの追撃を提案した。
殺し合いに乗った暗殺者の生存は放送で名を呼ばれなかったことによりアシュレー達も知るところだった。
セッツァーのことも気がかりではあったが直接的な危険性の高いシャドウの探索にアシュレー達も合意。
ビッキーを失い、仲間や友という存在の重さに突き当たった物真似師がかっての仲間を討ちにいくと自ら告げた。
その裏にあるゴゴの様々な葛藤や想いを慮りてのことでもあった。

だが。

探索は救出へと転じた。
そうさせたのは思いも寄らぬ遭遇者からの嘆願だった。

「シャドウおじさんを助けてっ」

飛行機能と速度を活かし先行していたトカに空中で激突した少女、ちょこ。
仲間である彼女により拙いながらも語られたことの顛末は、シャドウを仇として狙うトッシュを動かすのにも十分だった。
いわんやゴゴが動かないはずがなかった。
物真似師としての宿命から受動的なところのある常からは信じられぬほどゴゴは必死に走った。
語り終え気絶してしまった少女が飛ばされてきた方角へと。

間に合えと、間に合ってくれと。

ちょこがゴゴ達のいた城方面に向かって投擲されていた事実にシャドウの意思を感じずには居られなかった。
シャドウはゴゴならば信じられると少女を託したのだ。
道を違えたように思えたあの男は、まだゴゴのことを頼れる仲間として扱ってくれている。
なら。
応えねば、ならなかった。
物真似師として。ただのゴゴとして。
ゴゴとシャドウは仲間であるという物真似を全力で完遂しなければならなかった。
シャドウはちょこに言ったという。
死んでも、助けると。

それを真似させてもらうっ!

ゴゴは誓った。

だから、死ぬな、シャドウ。
死んでいては助けられない。
俺に物真似をさせないなんて許さない。

ゴゴは祈った。

祈って、祈って、祈った先に――物真似師の望んだ再会はなかった。

「…………シャぁッ!!!!!」

裂帛の気合と共に禁忌とする死者の物真似にてシャドウの技術を模したゴゴの投擲が炸裂する。
シャドウは少女を託し目の前の男に殺された。
ゴゴは彼の遺志を仲間として受け取ったのだ。
シャドウの物真似をするに何の躊躇いがあろうか。
521創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 04:43:27 ID:yP2brrKd
 
522創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 04:44:11 ID:yP2brrKd
 
523憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI :2010/07/09(金) 04:44:29 ID:9qIOvoLa

「……ほぅ」

面白い芸を見たような声を漏らすとシャドウの仇は無造作に頭部を打撲せんとしている物体を払う。
が、投擲された支給品――切れ込みを入れられていたスケベぼんは斬られるより速く自らばらけ、卑下た内容を宙空に散らす。
その紙吹雪に紛れゴゴはルカの背後をとり、一閃。
首筋に剣を走らせる。

「その動き、あの暗殺者の同門か?
 ふん、同じ動作でも随分と遅いな」

止められた。
どころか鍔迫り合いに負け、ゴゴはバランスを崩す。
格好の餌食だった。
皆殺しの剣がゴゴの血を啜らんと刀身を煌めかせる。
押し切ったルカが返し刃にて分不相応の動きを掠め取った物真似師を断つ。

ゴゴに動揺はなかった。
元よりシャドウが負けた敵だ。
身体能力で劣るゴゴがいくら技や動きを真似したところで勝てはしまい。
一人なら。
一人だけなら。

「同門? 違うな」

崩れた体勢のままにゴゴはわざと足腰に力を入れなおすことなく地に伏せる。
稼いだのは呪われた剣から逃れ切るには足りなさすぎる距離。
十分だ。
真空の刃が通過するには十分過ぎる。

「仲間だ」

誇らしげに訂正したゴゴの頭上、先程まで彼の頭があった位置を真空斬が駆け抜ける。
弾かれるルカの刃。
成したのは言うまでもない。
一度はルカを破ったゴゴの仲間、トッシュだ。




524創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 04:44:55 ID:yP2brrKd
 
525憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI :2010/07/09(金) 04:46:10 ID:9qIOvoLa
「よう。てめえが生きてるってえことは聞くまでもねえだろうが。
 暗殺者とやらはどうした?」

ちょこから襲撃者の容貌を聞いた時点でそいつがルカのことだと検討はついていた。
殺しそびれた獲物が再び自ら飛び込んできたと笑うルカとは逆にトッシュは苦い顔で問う。

「殺したが?」
「そうかい。つくづくあん時逃しちまったのが悔やまれるぜ」

リオウの命を奪った、恐らくは他にも何人かを殺したシャドウをトッシュは許せはしない。
ただ少女の話を聞いた時、少し思ってしまったのだ。
シャドウは一人生き残る為に他を殺す道を逸れ、誰かを護ることを選んだという。
だったら、自分にはもう無理だがゴゴは大切な仲間と殺し合うことなどなく寄りを戻せるのではないかと。
もしそうならば一発死ぬほど強くぶん殴るくらいで勘弁してやるかと。
そんなたわいのないことを思ってしまったのだ。

「今度は逃がしやしねえ」

夢想は所詮夢想。
現実になることなく夢と消えた。
トッシュがあの時仕留めきれてさえいれば叶ったかもしれない夢だった。

「ふははははははははははははは!!!! やってみるがいい。今度はあの時のようにはいかんぞ!!」

承知のうえだ。
手負いの獣ほど怖いものはない。
こうしてトッシュと顔を突き合わせている最中にも、ルカはゴゴとアシュレーの挟撃を易々と捌いていた。
顔合わせ程度だった初戦時とは動きが違う。
ルカの癖から槍が本来の得物ではないと見抜いてはいたが剣を手にしたルカは想像以上の脅威だった。

「わあってるよ。だがな、てめえはなんとしても倒さなけりゃならねえ」

これはけじめだ。
シャドウの死に吼えるゴゴと泣くであろうちょこへの。
震える手で、自分の背中を押してくれたあの少女への。
トッシュが逃がしてしまって以来ルカに傷付けられた全ての人々への。
この手でつけなければならないトッシュのけじめだ。

「いくぜっ!」
「……足掻いてみせろッ!!」

一度目とは優劣が逆になった得物をぶつけ合う。
一方的に押し負けなかったのは背から援護射撃があったからだ。


526創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 04:46:27 ID:yP2brrKd
 
527創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 04:47:36 ID:yP2brrKd
 
528憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI :2010/07/09(金) 04:48:33 ID:9qIOvoLa



卓越した剣技と剣技がぶつかり合う戦場にアシュレーは弾丸の雨を降らせる。
常の銃剣によるものではない。
マディンの魔石より習得した魔法の弾丸だった。

「サンダガッ! サンダガッ! サンダガッ! マルチブラストッ!」

アシュレーの魔力はお世辞にも高いとは言えない。
それでも射撃と斬撃を組み合わせた本来の戦闘スタイルを取り戻せたことは大きかった。
明らかにこれまでとは違う動きのよさでトッシュとゴゴを的確に援護していく。

「アイスガッ! アイスガッ! アイスガッ! ショックスライダーッ!」

冷気の衝撃波を迸らせるのは傘の先に短剣を溶接した異形の銃剣だった。
素材はアシュレーが持っていたディフェンダーとレインボーパラソル……に加えて魔導アーマーのビーム発生装置だ。
慣れない魔法を少しでも補助する媒介になればとリルカの傘の使用を決め、トカに溶接を頼んだ時“勝手に”仕込まれたのである。
まあトカに頼んだ時点でこうなることは必然だったのだが。
安易に紙一重な天才に改造を頼んでしまったアシュレーの自業自得と言えなくもない。
だがしかし、性格はあれとはトカの頭脳は確かなもの。
魔導ビームとマディンの魔法の属性の一致もあり、中々に使い勝手のいい武器に仕上がっていた。
何よりも魔法をビームという親しんだ銃火器よりの形で撃ちだせるのがアシュレーにはありがたかった。

「……くッ」

だから、そう。
アシュレーが晴れない表情を浮べているのはトカの改造に文句があるからではなかった。

生じた魔法の銃弾をこともなげにルカが片手で弾いているからでもない。
リルカの傘を使っているのだ。
効くまで諦めずに撃ち続けるまで。

意識を失ったちょこをトカに預けてきたことが不安だったからとも違う。
確かにトカは性格にちょっとどころではない問題を抱えているが、決して悪人ではない。
アシュレー達がいないからと少女を殺したりはしないだろう。
スカイアーマーでの偵察からこの付近に自分達以外の人がいないことも分かっている。
ルカと遭遇する随分前に城へと飛んでいったあの二人に及ぶ危険はない。

アシュレーを悩ませているのはただ一つ。
弾丸を撃ち込むごとに、炎剣を受け止めるごとに、上質な薪をくべられたように勢いを増していく内なる黒い炎のみ!

「アシュレー、大丈夫か?」
「なんでもないッ!」

嘘だ、何でもないはずがない。
一分一秒経つごとにアティに封じられている魔神の力が急激に大きくなっていくのを感じる。
魔剣という錠を破り、アシュレー・ウィンチェスターの魂の扉をノックする時間がひたひたと迫ってきている。
アシュレーがアクセスするまでもない。
魔神は既に、すぐそこにいる。

「……そうか」

対象の一喜一憂を見逃さずに真似し切る物真似師がアシュレーの内心に気付かないはずがない。
気の流れが見えるトッシュは言わずもがな。
だけど彼らは深くは聞かず、何も言わず、アシュレーに背を預けルカという巨悪に一直線に立ち向かっていく。
529創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 04:48:59 ID:yP2brrKd
 
530憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI :2010/07/09(金) 04:49:19 ID:9qIOvoLa

ルカ・ブライト。
狂皇子。
分かっているだけでもトッシュとゴゴの仲間を殺した男。

満身創痍の身でありながら三人の猛者を相手に互角以上の戦いを繰り広げる狂人はアシュレーが今まで対峙したことないタイプだった。
ARMSとして戦った最大の人間の敵、オデッサ。
様々な悪人を擁していたかの秘密結社の中にすらルカのような人間はいなかった。
ロードブレイザーをものの数分でここまで活性化させる程の負の念に凝り固まった人間はッ!
それもこのルカという男を構成する念は本来人間がそうあるような雑多の感情が混じり合ったものではない。
憎む。ひたすらに憎む。
アシュレーへの復讐に凝り固まっていたように思えて虚無感を抱いていたカイーナとは違う。
虚無も嘆きもない純粋なまでの憎悪ッ!
余計な混ざり物もなく身と心の一片の隙間さえ憎悪という感情で満たされたルカをアシュレーは人間として見ることができなくなっていた。

あれじゃ、あれじゃまるでロードブレイザーみたいじゃないかッ!

荒唐無稽なようでどこか納得のいく考えだった。
それならあの人の身に過ぎた圧倒的な力にも不思議はない。
ゴゴが投じた点名牙双を業火を纏い避けもせずに焼き払う姿が妄想に要らぬ説得力を与え、アシュレーを一層不安にさせる。

アクセスするべきじゃないのか?

鎌首をもたげた考えを慌ててアシュレーは否定する。
トッシュに見抜かれるまでもなく、下手すれば後一回のアクセスにも蒼き魔剣が耐え切れないことは自覚していた。
蒼炎のナイトブレイザーとなりルカを倒したところで暴走してしまえば意味がない。
湧き上がる不安をぐっと堪え、アシュレーはレインボーパラソルを握る手に力を込める。

そうだ、諦めない。
僕も絶対に諦めないッ!

亡き少女のことを思い起こし心を強くもつ。
その様をあざ笑うかのように、

「トッシュ、それは駄目だっ!」

戦況が悪化する。





トッシュは超一流の剣豪である。
こと単純に剣技だけでいえばルカにさえ勝る程のだ。
一度剣を交えた相手の癖や力量を見ぬくことなど容易かった。
その経験がトッシュを縛った。
受け止めることはもとより、受け流そうともしてはいけなかった一撃に剣を晒してしまった。

ほそみの剣が、折れる。
剣にて武器を壊すことを一芸としているトッシュの剣が逆に破砕される。
トッシュの表情を驚愕が埋め尽くす。
無理もない。
一日そこらで剣撃の威力が三倍にも増してくることなど常識的に考えてありえるはずがなかった。
だからこそそれは常識ではなく非常識の仕業だ。
この世の法則を逸脱した魔の法則による強化だ。
ブレイブ。
シャドウとの戦いで完全にものにしたこの魔法をルカは炎を呼ぶのと同様に、詠唱もなく斬撃に付与したのだ。
531創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 04:50:03 ID:yP2brrKd
 
532創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 04:50:52 ID:yP2brrKd
 
533憎悪の空より来りて ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 05:00:13 ID:yP2brrKd
「これで借りは返したぞ」
「ち…っきしょう!」

地に落ちた刃をこれ見よがしに炎で熔解するルカにトッシュは舌を打つ。
まずいことになった。
感情を隠そうとしないトッシュの顔はありありとそう語っていた。

「トッシュ、俺の剣でもやはりダメか?」
「ねえよりはマシだがあのボロボロの剣じゃ同じ方法で叩き折られる」

刀で受け流す一瞬の接触だけで、ルカにはトッシュの剣を断ち切れるのだ。
これはトッシュにもできない芸当だ。
推測するに鍵は一息分の呼吸で三撃を成すあの技法。
あれを応用することで斬りかかる、受け流しに追いすがる、再度切り裂くの三手をトッシュの受け流しという一手に対して行ったのだろう。
武器破壊を防ぐには完全にかわしきるか大威力の斬撃に耐えうるほどの業物を使うしかない。
が、どちらの方法にも問題はある。
前者はルカ程の強敵を相手に大きく間を空ける避け方は隙を晒すことになりかねないし、また相手の隙を突ける機会も逃しがちになる。
後者はそもそも条件に合う業物がない。
壊れた誓いの剣もディフェンダーも天罰の杖も閃光の戦槍も。
武器の質としてはブレイブによる補正以前の素の皆殺しの剣に大なり小なり劣る。
せめて一度目の戦いの時のようにトッシュと相性がよく且つ名刀であるマーニ・カティがあれば話は別だったのだが。
ないものを強請ったところで意味はない。

――否

あるにはある。
目には目を、歯には歯を。
魔剣に抗するのに相応しい剣が一つ、トッシュ達にはあった。

「トッシュ、ゴゴッ!」
「やめろ! あいつを安々と起こすんじゃねえ!」

ルカだけではない。
ゴゴ達にとってもここは境界線なのだ。
この先にはシャドウが命を賭けて護った少女がいる。
ならば物真似という形で彼の意思を継いだゴゴは何が何でもルカを通すわけにはいかず。
今やこの地に一人となった元の世界からの仲間をトッシュも何としても死なせたくなかった。

「「この先に行かせるわけにはいかない!」」


だというのに。
狂皇はそれを許さない。

「ほう、それはこいつを護る為か?」

嘲笑い、狂った獣はそれをデイパックから投げ捨てる。
ごろりと。
砂上を転がって、否、転がりそびれたそれがこちらを向く。
転がらなかったのも無理はない。
それは球形をしていなかった。
人間のものとは違い前方に突き出た骨格を持つ生物の――生首だった。
赤茶色く濡れ染まり、ところどころ焼け爛れていたが、それはゴゴ達三人の誰も知る生物の生首だった。
間違いない。
あの強烈なキャラクターに触れてしまえば、非常に残念ながら誰しもその顔と名前を覚えてしまう。

「ふん。せめて虫ならば殺す価値もないと見逃してやったのだがな」

ぐちゃりと。
ゴゴが、アシュレーが手を伸ばし拾い上げようとした前でルカがそれを踏み砕く。
534憎悪の空より来りて ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 05:03:04 ID:yP2brrKd
「爬虫類ならば鬱陶しくて殺したくもなる」

赤黒い血が滲み出し、ぶよぶよとした脳症が零れ出たそれは間違いなくトカのものだった。


【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION 死亡】




嘘のようにあっけなく殺しても死にそうにないと思われていたリザード星人は死んだ。
原因は不運だったとしかいいようがない。
或いは自業自得と言うべきか。
ちょこをフィガロ城に送り届ける最中、エンジントラブルが発生し、スカイアーマーが暴走。
それがちょことの衝突のショックがプログラムを狂わせていたからかトカにはありがちの設計ミスだったのかは分からない。
分かっていることは一つだけ。
制御を失ったスカイアーマーはあろうことか城とは逆方向、つまりルカのいた方角へと飛んでいってしまったのだ。
下手に機動性がよかったせいでアシュレー達よりも随分速く遭遇。
結果はわざわざ言い直すまでもない。
トカは殺された。
狂皇子に殺された。

「飛んで火にいる夏の虫とはよくぞいったものだったぞ!
 小娘には逃げられてしまったがな。
 からくり仕掛けの女のように機械の方も壊れされていればよかったものを」

不幸中の幸い、ちょこは凶刃にかかることはなかった。
トカが殺されたことでスカイアーマーが本格的に制御を失いちょこを乗せたまま不規則な軌道で何処へと飛んでいったのだ。
そうなってしまえば飛ぶ手段のないルカには黙って見送るしかなかった。
ルカが感じた屈辱はかなりのものだっただろう。

だがそんなことはアシュレーには関係なかった。
彼が聞き逃せなかったのはただ一点。
からくり仕掛けの女というその言葉のみ。
その特徴に当てはまる人間を、既にこの世にはいない女性を、アシュレーは知っているッ!

「カノンも……。カノンもお前が殺したのかッ!」

邪悪そのものであるこの男と遭遇したのならカノンが戦いを挑まないはずがない。
自分の居場所を、仲間達を護る為に戦って戦って戦い抜いて、そして死んだのだ。
アシュレーはカノンが英雄の呪縛から逃れられていない時から連れて来られた事を知らない。
けれどもカノンという人間のことは確かによく知っていた。
だって彼女はアシュレーの思ったとおりに一人の少年を護って死んだのだから。
そしてアシュレーはそんな彼女の仲間なのだ。
誰かを護る為に、大切な人と居続ける為に戦う戦士なのだ。

ならばッ!

「知らんな、殺した奴が誰かなどと!
 豚に名前は過ぎたものだからな……!!」
「お前は、お前はそうやってこれまでも多くの人々を殺してきたのかッ!」
「ふははははははははは、分かっているではないか――ッ!!
 見たところ貴様達も少なくない人数を殺してきたようだが、俺は一人でその何百倍も殺したぞ!!!!」

もしとかたらとかればとかの考えは捨てろ。
先に待つ災厄に恐れ眼前の邪悪を滅ぼせないのは愚の骨頂。
ルカ・ブライトはロードブレイザーにも勝るとも劣らない脅威だ。
人を人として憎み、その上で豚を屠殺するかのように殺し続ける悪魔だ。
見たことのない明日を一つ、また一つと奪っていく絶望だッ!
一秒でも速くここで倒さなければならないッ!
535憎悪の空より来りて ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 05:03:52 ID:yP2brrKd
アシュレーは剣をとる。
心の中で、蒼き魔剣の柄に右手を、そしてもう一本の魔剣に左手を添える。

「――来てくれ、ルシエドッ!」

アシュレーの手に一振りの剣が現れる。
欲望のガーディアンルシエド。
アシュレーの心の内に潜むロードブレイザーでもアティでもない三つ目の精神体。
血肉を持つ最後のガーディアン。
あまねく欲望を力とし剣の聖女と剣の英雄の二代に渡り共に戦ってくれた心強い戦友。
未来を切り裂くという意思に沿って剣へと化身している友を、アシュレーはトッシュへと託す。

「トッシュ、預かっていてくれ。同じ概念存在でもあるこの剣ならロードブレイザーが相手でも戦える」
「暴走したら俺にてめえを討てっつうのか? 負担を減らすこともできず、てめえの力になるにはてめえを殺すしかねえっつのか!」
「違うさ。言っただろ、預かってくれって。ちゃんと後で返してもらう為に君に預けるんだ。
 僕は諦めなんかしない。だからトッシュとゴゴも諦めないでくれッ」
「「約束だぞ!」」

力強い二重奏に背を押され、アシュレーは一歩を踏み出す。

――行くのか? 我が主、アシュレーよ

ああ、行くさ。
帰ってくるために、マリナにただいまを言いたいから。

――ではまた待つとしよう。かつてアナスタシアに頼まれお前を待っていた時のように

心の中でルシエドへ誓い、今度こそ蒼き魔剣を手にする。

「うおおおおおおおおおおおおおおッ!! アクセスッ!!!」

アシュレーは果たす。
変身を。
最後のアクセスを。
蒼炎のナイトブレイザーの更に先。
より禍々しい鎧と白銀の炎を纏った蒼炎のオーバーナイトブレイザーへとッ!




536正しき怒りを胸に ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 05:07:01 ID:yP2brrKd
魔人と狂人は交差する。
死の刃は接吻を交わす。
焔と炎は喰らい合う。
片や度重なる厄災を退け星一つを救った英雄。
片や人命をあますことなく奪わんとした邪悪。
相反する存在でありながらも、絶大な力を持つという一点でのみこれ以上になく近しい二人。
どのような力であろうと『力』そのものに善悪はない。
それを振るいし者によって善き力にも、悪しき力にもなる。
ルシエドがアシュレーと契約した日の言葉通りだった。

人の身一つで屍山血河を築いてきた狂った皇は天が味方すれば世界をも平定できた。
さすれば彼の人となりを知らぬ後世では英雄として讃えられたかもしれない。

魔神の力を限界まで開放した灼熱騎士は焔の厄災の分身となり得た。
人々を虐殺しつくし、果てに邪悪として倒滅される未来もあったのだ。

表裏一体。
世界を救う力も滅ぼす力も力の絶対値で見れば等価値だ。
今戦場で振るわれているのはそういった力なのだ。
一振りごとに歴史が揺らぎ、一薙ぎごとに世界が変わらざるをえない力なのだッ!

「ちきしょお、俺達は見ているだけしかできねえのか!?」

故に戦いに介入する術なく突っ立っているしかない男を誰が責めることができようか。
いつもいつでも英雄達の物語は万人の手の届かぬところで進んでいく。
だかこそ伝説はいつまでたっても伝説であり、物語の域を出ることはない。

「なんて、戦いだ……」

そしてそんな手の届くことのない物語だからこそ人の心を捉えて止まないのだ。
物真似師ならぬ凡百の人間であっても目を凝らして正邪の英雄の戦いを心に焼き付けようとしたであろう。
数秒も経たないうちに戦いの真実を、殺し合いの凄惨さを目の当たりにし目を背けることとなろうとも。

――砂漠を背負い英雄が行く
――森を焼き払い英雄が迎え撃つ

同時に繰り出すは一撃必殺。
微塵でも触れようものなら身命を根こそぎ吹き飛ばす必滅の刃。
双方共に頭部を狙った一撃を紙一重で首を捻りかわす。
唸りを上げて空を切る二発の剛剣。
ただしオーバーナイトブレイザーの得物は二刀。
間髪入れず残った剣をルカの心臓へと突き立てる。
それをルカは振り切ったはずの剣で迎撃。
どころかナイトフェンサーを弾いた剣が再び刃を返しアシュレーの胴を狙う。
一つの踏み込み、一つの呼吸の間にて振るわれる三度に及ぶ必殺の斬撃。
神速をも凌駕して魔速をも地獄に落とす真速の剣。
その常軌を逸した速度に、常軌を逸した存在であるナイトブレイザーは即応するッ!
かわす動作はしない。しても無駄だ。逃げに回るのはいつだって人間だ。
簒奪者たる魔人が人の真似をしようものなら真実人へと成り下がる。
選んだのは装甲の展開。今しも突き刺さろうとしていた刃は、自ら開放された装甲分空をかすめる。
僅か一拍分の時間稼ぎ。光速の砲撃を撃ち込む絶好の機会。
一秒とももたなかったクソッタレなチャンス。
ルカが消える。
時間を捻じ曲げ好機を奪い去る。
がら空きの背に叩き込まれる処刑の刃。
ナイトブレイザーすんでの所では装甲一枚を犠牲に躱す。
回避しざまに敵手の首へと貫き手を放つ。
肉一片を持っていく。
537正しき怒りを胸に ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 05:11:00 ID:yP2brrKd
「ルカ・ブライトオオオオオオオオッ!!」
「この感覚……。そうか、俺としたことが忘れていた。
 クク、ハハハハハっ!! ちょうどいい、貴様を殺し貴様が宿しているそれを使わせてもらうぞ!!!」

幾度も、幾度も、幾度も。
人を終らせる一撃が、命を奪う人殺しの技が鬩ぎあう。
一度で終るはずの時間が延々と地獄のように続いていく。
殺し合い。
正しく、殺し合い。
殺すか殺されるかではなく互いに殺して殺して殺す。
一合ごとにルカ・ブライトは殺す。
一合ごとにアシュレー・ウィンチェスターは殺す。
肉片が飛ぶ。
装甲が舞う。
刃が零れる。
血を、汗を、鉄粉を撒き散らして。
幾条もの赤い線を走らせた戦士達が刃こぼれした剣を酷使する。
地が裂ける。
砂が吹き飛ぶ。
木々が消し飛ぶ。
英雄達の一秒一分の生存の代償に自然の命が削られていく。
生い茂っていた木々も。
寝そべっていた砂漠も。
聳えていた山々も。
今や等しく月面世界。
自然界に宿るという妖精の涙もとうに枯れ果てていることだろう。
たとえ枯れていなかったとしても。
鋼と鋼が衝突し響き渡らせる耳障りな音の前に、彼ら彼女らの泣く声は余すことなく飲み込まれていく。

「蹂躙しろっ、剣者よッ!!」
「ハイ・コンバイン、マディンッ!!」

聖剣を携えた伝説の剣豪が大地を抉る。
娘を守り続けた守護者の魔力が空を覆う。
二体の幻獣が相殺しい光に還っても二人はかまわず戦い続ける。

「オオオオオオオオオオオオッ!」
「死ねえいっ!!!!」

ありとあらゆる攻撃を意に介さず。
ありとあらゆる速度の追随を許さず。
ありとあらゆる防御を無に帰して。
強いとはこういうものだと言わんばかりに。
魔法がどうとか、剣技がどうとか、そういったものをどうでも良いと感じさせてしまうほど圧倒的な力をもって。
ただただ殺す、ただ殺す。

ルカ・ブライトは嗤っていた。
アシュレー・ウィンチェスターは笑っていなかった。
狂皇の炎は赤かった。
騎士の焔は蒼かった。
剣が炎を纏う。
剣より焔が撃ち出される。
相殺。
打消しでも相打ちでもなく拮抗でもなく相殺。
赤も蒼も等しく殺されて死ぬ。
死ぬ。
死ぬッ!!
死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ねッ!!!!
538正しき怒りを胸に ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 05:14:52 ID:yP2brrKd
護る為の力。どれだけ取り繕ってもやっていることは人殺し。
だからアシュレーは世界を護るとは言わない。
ただ彼の護りたい日常の為にだけ戦う。

奪うための力。奪うだけで得ることをしなければ飢えは永遠に癒されない。
だからルカは人殺しを好みはすれど、人殺しを楽しまない。
ただ自身が邪悪であり続ける為だけに戦う。

正と邪。
魔と人。
赤と蒼。
奪うと護る。

延々と、延々と続いていく螺旋。
交差しては弾き合うメビウスの輪。
されど。
∞の形に捻じれ続けた輪はいつしかもろくなり崩れ去る。
徐々に徐々にアシュレーが押し出したのだ。

「チィ……ッ!!」

ここに来て勝敗を分けたのは残存体力の差だった。
ルカがどれだけ非人間じみたタフネスさを誇ろうとも相手は言葉通りの人外の力を手にしたアシュレーだ。
人の負の念を食い物とし再生し続ける怪物と戦うには負の念の塊であるルカは相性が悪すぎた。

ただしそれはフィジカル面に限った話。
メンタル面ではむしろ逆。
ナイトブレイザーが回復するということは即ちロードブレイザーがルカから負の念を掬い上げ続けているということ。
ルカの身体がボロボロのように、アシュレーの心も穴だらけだった。

これ以上時間はかけられない。

共通の結論に辿り着き、アシュレーとルカが一度大きく距離をとる。
持久戦では都合が悪いというのなら。
選ぶべき手は一つしかない。

起こるべきだった永劫を。
叩き込むはずだった数多の刃を。
ただの一撃、ただの刹那に凝縮するッ!

「いくぞ……アシュレー!!!!!!!!!!」

金色の光が男の足元から、漆黒の闇が皆殺しの剣から、透明なる無が空間より溢れ出る。
光と闇と無は混じり合い、ルカの闘気と一体となる。
これより放つはブレイブ、ルカナン、クイックの三重奏からなる最強の一撃。
防ごうものなら護りを剥ぎ取る。
耐えようものなら押し斬り尽くす。
避けようものなら時すらねじ曲げ追いすがる。
防ぐことも叶わず、耐えることも許されず、避けるも不可能な必中必殺必滅の炎剣。
ばらばらになぞるだけなら誰にでもできて、一息で一つの技としてなすことはルカにしかできない、
ルカだけが使う事を許されたルカのみの絶技。

――剣が迫る

「ファイナル……」

ファイナルバーストでは間に合わない。
力で勝ろうとも先に殺されてしまえば意味がない。
時をも殺し、一足で三歩を刻む真速を前には魔神の腕はなんととろいことか。
539正しき怒りを胸に ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 05:18:42 ID:yP2brrKd
――剣が迫る

「バニシング……ッ」

バニシングバスターでは押し切られる。
速度はあっても威力が足りない。
幻獣どころではない。魔神の息吹すら炎剣相手には火の子も同じだ。

――剣が迫る

故に。
それが唯一無二の正解だった。
ファイナルバーストでもバニシングバスターでも勝てないのなら。
速度か力かどちらかが欠けているというのなら。
二つの技を掛け合わせればいいッ!!

「バアーストォォォォォォオオオオオオオオオッ!!!!!!」

ナイトブレイザー“が”撃ち出される。
粒子加速砲の光に乗ってナイトブレイザー自身が弾丸の如く射出されるッ!
漆黒の闇を赤く、赤く駆逐しながら、騎士が羽ばたく。
開放された焔の力は翼持つ魔神の形をとってルカを纏う炎ごと天へと突き上げる。
地上で開放するには過ぎた力なれど遮る物も、巻き込む者もいない天ならばありったけを放出できる。
思うがまま力を振るうことを許された魔神はここぞとばかりに火力を増していく。
熱量の上昇は留まることを知らず。
同じ焔の身でありながらルカの炎さえ焼失させてゆく。

その現実離れした光景にもルカは興味も恐怖も感じなかった。

「所詮は一度殺された身。この程度か」

アシュレーの飛翔に突き上げられるがままただ空を見上げる。
夜天には人を冷たく見下ろす月の姿。
誕生以来人々の営みをずっと見てきたあの月は人間をくだらないものだと思っているのだろうか。

「ふん、この思考こそくだらんか」

焼きが回ったものだと炎に消え逝く中自嘲する。
一度目の死がそうだったように今のルカからは身を焦がし続けていた疼きが消えていた。
だからだろう。
これまでゆっくりと見上げることのなかった月夜などに現を抜かし馬鹿げたことを考えてしまったのは。

月、か。

夜、城攻め、瀕死、一対多、果ての決闘での敗北。
ここまで状況が重なっているのだ。
もしかすればかって死した日も月は輝いていたのかもしれない。

くだらぬ感傷だな。

ルカは吐き捨てるも月から目を離すことはない。
両足の感覚が消え、焔が身体を駆け上がってくることすらものともしない。

だったら、せいぜい見ていろ。
一度目の生で手をつけておきながら最後まで己が手ではやり遂げ切れなかったこと。
それがなされる瞬間を。
ルカ・ブライトという邪悪が境界線を一つ越えるその時を。

邪笑を浮かべる。
つられるかのように炎が嗤う。
540正しき怒りを胸に ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 05:50:06 ID:yP2brrKd
「まだこんな力がッ!?」

ファイナルバーストの光に飲み込まれていたはずの紅蓮の炎が息を吹き返す。
今やルカ自身が炎だった。
自らが生む炎と自らを焼く焔の両方を取り込んだ一つの巨大な炎だった。
焔で象られた魔神より尚大きい炎の悪魔が両手を広げる。
己が力と速度を凌駕して心の臓に剣の杭を穿ったアシュレーを受け入れ祝福する。

「ぐあああああああああああッ!」

憎悪も、魔力も、身体も、命さえ炎にくべた男がアシュレーの身を焼く。
オーバーナイトブレイザーの装甲の隙間から進入した人の形を失った悪魔が笑う。

俺は! 俺が思うまま!
俺が望むまま!邪悪であったぞ!!

魂に響いた身の毛もよだつ宣言にアシュレーはようやく気付く。
焼かれているのは身体ではない。
破られたのは鎧ではない。

心だ。

ルカ・ブライトという邪悪が肉の壁も魔剣の護りも突破してアシュレー・ウィンチェスターの魂を喰らっているのだ。

人の形を失った邪悪が問う。
二度の生を最後まで思うがままに邪悪として生きた男が、自身の心の内に巣食う邪悪を抑え付けて生きてきた男に問う。

――貴様は、どうだ?

アシュレーは答えられない。
現在進行形で魔神が吸収しているルカの圧倒的な我に心を押しつぶされないようにするのだけで精一杯だった。
況やルカには幾つもの幾つもの負の怨念が纏わりついていた。
それは憎悪の獣がこれまでに殺してきた人間達のものだ。
この殺し合いでルカが殺してきた人数など可愛く思えるほどの、生涯を通して殺してきた人間達の嘆きだ。
一度の死などでは別たれないルカの魂に刻まれた怨嗟の声だッ!

「う、ぐ、あ、あ……」

ウィスタリアスが罅割れていく。
適格者なき魔剣単体ではロードブレイザーに加え、数千もの悪霊を封じ込む力は無かった。
魔剣が悪しき念に汚染されていく。
数百年前のシャルトスとキルスレスをなぞるかのように。
魔剣と仕手の魂が憎悪の波に壊されていく。

――アシュレーさん、気を確かにっ!?

アティの思念体が両断される。
敗因は彼女の心の中にほんの少しだけあったアリーゼを殺したルカへの怒りという負の感情。
仇敵の魂が魔剣に混在したことで活性化してしまったその一念がロードブレイザーにつけいれられる隙となった。
魔剣が、砕ける。
果てしなき蒼が、遂に果てるッ!

――ハイランド皇王ルカ・ブライトが命じる。さあ、目を覚ませ、異なる獣の紋章よっ!!!!

「あ、がっああああああああああAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」

炎が消える。
ルカ・ブライトが燃え尽きる。
焔が灯る。
ロードブレイザーが目を覚ます。
さあ、プロローグはここで終わりだ。
物語を始めよう。
邪悪を滅ぼした英雄が次なる邪悪となる。
そんなよくある物語を。
悲しみしか産まない物語を。

【ルカ・ブライト@幻想水滸伝U 死亡】




 
暴走したスカイアーマーに投げ出されたちょこは一人砂漠をさ迷っていた。
砂漠の夜は一人で歩くには堪らなく寒かった。

『はーなーしーてー! ちょこも行くの! シャドウおじさんを助けにいくのー!』
『早まっては行けないトカ! 君みたいな若い子が命を粗末にしてはいけないッ!
 ミミズだって、オケラだって生きているから超カッコいいんだトカ。
 生きてるって信じられないくらい素晴らしい(ハートマーク)』

少し前までは一人じゃなかった。
騒がしい位によくしゃべる不思議生物が目を覚ましたちょこと一緒にいてくれた。

『わ、我輩は別にあんたのことなんか心配していないんだからねッ!』

なんだかんだ言いいつつもシャドウを助けようと自殺行為に走りがちなちょこを引き止めてくれた。

『おじさんは帰らなくちゃだめなの! 子どもが待ってるの!』
『帰りたいのは我輩も同じなのであるッ!
 その夢さえかなえられれば、人畜無害にして無病息災、子守りだってお手の物ッ!!
 ほ〜ら、いないいないばーッ!
 む? いないいないしているうちにはて、ここはいったいどこなんでしょう?
 両手で顔を覆っていては進路もわからねえし操縦もできねえじゃねえかッ!!」

トカも一緒だった。
シャドウと同じで帰るべき場所が、帰りたい世界があった。

『ゲーくんも今頃首を長くして待っているはず!
 何言ってんだ、あんた、登場話で見捨てたのにですと?
 それはそれ、これはこれ。メタなセリフ共々気にしちゃいけないトカ。
 ちょろくせぇ説教かまされるくらいなら、出直してくるトカッ!』

待っていてくれる不思議生物その2もいた。

なのに。
シャドウは死んだ、トカも死んだ。
ルカ・ブライトに殺された。
帰る場所のない少女一人を置いて死んでしまった。
帰る場所になってくれたかもしれない少女の心を強くしてくれた人達も死んでしまっていた。

「父さま。どうしてちょこはいつもおいてかれちゃうの?」

トッシュと再会した時からちょこはずっと嫌な予感を抱いていた。
彼がいたのだから他にも知り合いがいるかもしれないと。
リーザの名前を誰かが呼んでいた記憶もあってちょこはずっと気が気じゃなかった。
そんな少女にトカは教えてくれた。
彼らしくない比較的常識的な説明で。
この殺し合いのルールや死者の名前を。

「エルクおにーさん……。リーザおねーさん……。シュウおじさん……」
542創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 05:54:57 ID:JL5HwHJq
 
543我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:00:31 ID:yP2brrKd
ぶっきらぼうなようでいて温かかった炎の少年を。
モンスターとも心を通わせられる心優しい少女を。
無口で、けれどいつも側にいてくれた黒尽くめの男を。
みんな、みんな、みんな、ちょこと手を繋いでくれた人達。
伸ばした手を掴んでくれた大好きだった、ううん、今でも大好きな人達。
大好きなのに、アークやククルのように二度と手を繋げられなくなってしまった。

「寂しいよぉ」

どうして。
どうしてみんないなくなっちゃったの?
どうしてみんな殺し合ってしまったの?

帰りたかったから?
悪い子になってでも大切な人の所に帰りたかったから?

もし……、もしもそうならちょこはどうすればいいの?

「むずかしいこと、わかんないよ。わかりたく、ないよ……」

少女は一人の暗殺者をおうちに帰してあげたかった。
父を待つ娘に、自分のような寂しい想いをして欲しくなかった。
だから、シャドウが帰れるためならちょこは悪い子にだってなってみせると頑張った。
頑張って、頑張って。
でもやっぱり少女は人を殺すことができなかった。
誰かが悲しむから。
大切な人を奪われた今の少女のように誰かが悲しむと思ったから。
トッシュがこの地にいるとなれば尚更だ。
ちょこには選べない。
一人とその誰かを待つ家族の為に他の誰か全員と彼らを待つ家族を泣かせてしまう道を選べない。
帰るべきたった一人なんて選べない。

「一緒がいい。みんながいい。みんな、みんな、おうちにただいまってできるのが一番じゃないの?」

答えてくれる人はもういない。
問いかけは夜闇に消え、とぼとぼと歩き続ける少女だけが残された。





海が燃えていた。
火の海が広がっていたのではない。
文字通り、海が真紅に染まり燃え続けていた。

そもそもどうして海が目の前にあるのだろうか。
ゴゴは首を傾げる。
確かにゴゴと仲間達は海岸の近くで戦ってはいたがあくまでも海は遠方に見える程度だったはずだ。
手を伸ばせば触れられる位置に浜辺はなかったはずだ。
それがどうしたことか。
海はすぐそこまで押し寄せてきていた。
唸り、くねり、ゴゴを飲み込まんとしていた。
ゴゴは思わず一歩後ずさり、

「あ……」

ようやく、気付く。
真紅の海に奪われていた目を取り戻し、周囲を見回し、真相を理解する。
544創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:03:54 ID:JL5HwHJq
 
545我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:04:36 ID:yP2brrKd
海が近づいてきていたのではなかった。
大地が焼失していたのだ。
ごっそりと。
綺麗さっぱりに。
溶けてなくなってしまっていたのだ。
ルカとの死力を尽くした戦いの末、アシュレーが墜落した地点を境として。

「そうだ、アシュレーは……?」

見事ルカを討ち果たした直後、力を使い果たしたのかアシュレーは墜落した。
かなりの高度からの落下だったはずだ。
無傷だとは思えない。
呆けている場合ではなかった。
早く、早く、アシュレーを見つけて治療しなければ!
不安と心配に駆られアシュレーの落下地点、炎の海の中心へと目を凝らす。
予想通り、そこに探し人はいた。

予想外の姿で炎の海の上に立っていた。

「アシュ、レー?」

ゴゴが困惑した声で名前を呼ぶ。
本当に目の前の人物はアシュレーなのだろうかと。
見た目からしてさっきまでの蒼炎のオーバーナイトブレイザーではなかった。
翼が生えていたのだ。
青白い全身とはてんでミスマッチな黒く巨大な翼が。
本来翼が生えうる背中からではなく、頭頂部から生えていることが余計に違和感を禁じえない。
変化があったのは外見だけではない。
仮面で覆われていようともナイトブレイザーの顔には常にアシュレーの感情が表出していた。
今は感じられない。
アシュレーの強さも、優しさも、温かさも。

その感想は間違いではなかった。

「ルウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

焔の朱に照らされて白銀の悪魔が咆哮する。
そこに込められている感情は一言では形容し尽くせなかった。
敵意、殺意、害意……ありとあらゆる攻撃的な衝動が交じり合っている。
ただ一つだけ確かな事はそれが敵に向ける声であるということ。
アシュレーは、アシュレーだったものは。
ゴゴを殺すべき敵だと認知しているッ!

「伏せろ、ゴゴ! そいつは、そいつはもうアシュレーじゃねええ!」

ゴゴより数瞬早く現実を受け入れたトッシュが未だつったったままのゴゴへと駆け寄り頭を押さえて無理やり伏せさす。
邪気で目が腐りそうだった。
蒼き光に護られていた時の面影は既にない。
一面の紅蓮。
オーバーナイトブレイザーからはそれ以外の色が感じられなかった。
そして禍々しいまでの紅蓮の気は徐々に漆黒を帯びながらも増大し、

「――ネガティブ、フレアッ!!!!!!」

解き放たれるッ!
赤い、朱い、紅蓮の焔が。
直線状の全てを薙ぎ払うッ!
546創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:05:18 ID:JL5HwHJq
 
547創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:06:04 ID:JL5HwHJq
 
548我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:07:50 ID:yP2brrKd
否。

果たしてそれは焔と称せるものだっただろうか。
生易しい、あまりにも生易しすぎる。
焔などという言葉ではそれの脅威を現しきれない。
宇宙の法則すら軋ませるほどの膨大な負の念が凝り固められたネガティブフレアは最早質量さえ感じられた。
自然現象よりも物理現象、それも山レベルの大きさを誇る巨人が全力で殴ってきたと表す方がまだ想像しやすい。
だが違う。
島の南東部分をただの“試し撃ち”で吹き飛ばしたそれを正しく言い表す言葉は世界広といえど唯一つ。

――災厄

人は抗うこと叶わず、天も絶叫し、地も震撼させる彼の者の名は


&color(red){ 焔の災厄}

*&color(red){ロードブレイザー}

「……心地よい……。
 全盛期からすればたかが二割ほどの力の行使がこうも気持ちいいものだとはなッ!
 矮小な人間がちっぽけな兵器を作りたがる気持ちが少しだけ分かったよ」

ロードブレイザーは歓喜していた。
狂喜していたとも言っていい。
前回剣の聖女にやられた身体を修復するのにはアシュレーの内に身を潜めてから長い月日を要した。
それが此度はどうしたことか。
聖剣の邪魔が入らなかったとはいえ一日もかけずに本体である元ムア・ガルトの翼を完全に取り戻せようとは!
この調子なら本来の身体の実体化もそう遠くはないのかもしれない。

「クックックック。そういえばこの殺し合いで勝ち抜いたのなら何でも願いを叶えてもらえるのだったか?
 ならばオディオに私が完全復活するまで今回同様の殺し合いを何度でも開かせるのも一興かッ!
 あ奴なら悪い顔もしないだろう、フハハハハハハハハッ!」
「「く、勝手なこと、言ってんじゃねえ……」」
「ほう?」

ロードブレイザーは下界を見下ろす。
声がしてきたこと自体に驚きはしまい。
小ざかしくもトッシュ達がネガティブフレアを砂漠方面に逃げ込むことで避けたことくらい察知済みだ。
分からないことがあるとするならば一つ。
これだけの圧倒的な力を前にして人間はどうしてもうも足掻くのかということくらいだ。

「異世界といえども人間は変わらぬか。貴様らも私に抗い、未来を受け入れることを拒むというのか?」
「「拒むに決まってんだろが! こちとら暗黒の未来が嫌だから今まで戦ってきたんだ! 
  異世界だとかどうとか関係あるか!」」
「そうだな、失言であった。私がこうして蘇ったのもお前達人間が三千世界何処においても愚かしかったおかげだ」
「「勝手にきめつけんじゃねえ!」」

全く人間とはつくづく度し難い。
ロードブレイザーは翼を大きく羽ばたかせ、地に這う人間達を吹き飛ばす。
悪態をつきながらゴミのように転がるトッシュ達を心底侮蔑し、天に座したまま笑い飛ばす。

「そうかな? 人間のうちにこそもっとも強く、そして醜いエネルギーが渦巻いている……
 お前達自身、自らの世界での戦いの中で見てきたのではないか?
 それとも、異世界では邪悪なるものとは全て私のような人外だったとでも?
 ハッハッハ、それはそれはめでたい世界もあったものだッ!」
549創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:07:55 ID:JL5HwHJq
 
550我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:10:24 ID:yP2brrKd
ぐっとトッシュとゴゴの言葉が詰まる。
言い返せなかった。
トッシュが戦っているロマリア帝国もゴゴ達が戦ったガストラ帝国もどちらも人間の王が率いているものだった。
神を吸収したケフカや、聖櫃に封印されている暗黒の支配者すらももとをただせば人間だ。
何よりも、何よりもだ。
もう一人いるではないか。
人間より転じた魔なるものが。
悪たる人間が魔になったのではなく、元は善なれども人間の悪に絶望し魔となった存在がッ!
ロードブレイザーは優越感に浸って言い放つ。
この島において当事者を除いては未だ彼しか知り得ない真相の一端をッ!

「この殺し合いなど最たるものではないかッ!
 開催したのも人間、殺したのも人間、我を蘇らせたのもまた人間ッ!
 いい加減に気付け。お前達人間が焔の未来を望んでいるということにッ!」
「「開催したのも人間、だと!?」」
「それも勇者と呼ばれた程のなッ!」

ロードブレイザーもそのことに気付いた時は驚いたものだ。
オディオがロードブレイザーの再生の足しにと寄越した負の想念。
それは紛れもなくオディオが人間の時の記憶の断片だった。
残念ながら断片なため手に入れられた情報は少なかったが、その中でもいくつか強い想いの込められた言葉は読み取れた。
『勇者』『アリシア』『オルステッド』『魔王』。
どれもこれもがロードブレイザーには馴染みのない言葉だ。
かろうじてアシュレーを通して見た名簿にオルステッドの名前があったのを覚えていた程度。
『勇者』という言葉を使ったのも『英雄』みたいなものだろうと解釈してのことだ。
特別な意味なんてない。

「……今、なんつった?」

しかし誰かにとって何ともない言葉が他の誰かには特別なこともあるのだ。
天空の勇者しかり。
異形の蛙騎士しかり。
焔の剣客またしかり。

「オディオが勇者だった? はっ、笑えねえ冗談だ」

トッシュにとって勇者とは即ちアークのことだった。
全てを愛し慈しむ心と全てを守る力を兼ね備えた青年。
人間と人間の明日を誰よりも強く信じ続けている人間ッ!
それが勇者だった。
トッシュにとっての勇者だった。
だから否定する。

「そいつは信じ続けられなかったんだろ。魔王になっちまったんだろ。
 なら、オディオは元から勇者なんかじゃなかったんだよ。
 ただの弱っちい人間だ。道を間違えちまった人間だ……」

オディオが勇者だったことを否定する。
この剣に賭けて。
アーク達と過ごした日々に賭けてッ!

「随分と勝手な言い草だな、人間。
 ストレイボウとやらにオディオの過去を聞いてもそう言い切れるのか?」
「言い切れるね。ついでにオディオにも教えてやるさ」


「人間の自らの過ちを正す勇気って奴をな!」


551創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:10:32 ID:JL5HwHJq
 
552我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:13:32 ID:yP2brrKd
「いいだろう、正せるものならまずは私を正してみよッ! 
 人間の過ちの集合体であるこの私をッ!」

トッシュの売り言葉に気分を害し、ロードブレイザーが飛翔する。
翼を広げ、万一にもトッシュ達の攻撃が届かない高度まで空をぐんぐんと昇っていく。
狙うは高高度からの爆撃といったところか。
あの火力ならちょっとやそっと距離をとったところで威力の減衰はしまい。
つまりは自分は安全な場所から一方的に嬲り殺せるということだ。
実に理に叶いつつも嫌らしい戦法だった。

或いは。
それは二度も敗北をきしたが故にロードブレイザーが心の底では人間を恐れていたからか。
だとしたらまだまだ甘い。
小細工をいくら弄しようとも世の中には力尽くでぶち破ってくる者もいるのだ。

「ゴゴっ、一発分でいい、俺をあいつのところまで運んでくれ!」

アークのことをよく知らず、途中から物真似のしようがなくなっていたゴゴへとトッシュはとんでもないことを言い出した。
普通はできるかどうかを先に聞くもんじゃないのかと問うてみれば、

「てめえならやってくれるだろ?」

と来たもんだ。
それに是と答える自分も自分かと思ったが、この男に信頼されるのは中々にいい気分なのでよしとした。

「ただ飛ばした後のことは保証しないぞ」
「そこまで面倒はかけねえさ」
「そうか。なら遠慮無く行かせてもらう!」

ゴゴがトッシュの右足首を掴む。
シャドウがちょこにそうしたように、ゴゴもまたトッシュを投げる気なのだ。
何のために?
飛ばすためだ、トッシュをロードブレイザーのもとへ送り届けるためだ。
少々荒っぽいが、これ以上の方法は思いつかなかった。
何故ならこれはゴゴなりの縁担ぎ。
シャドウは見事投擲にてちょこを救った。
それを真似すれば魔神に身体を支配されているアシュレーも助けられるかもしれない。
そんな想いを物真似に込めてゴゴはトッシュから受け取ったジャンプシューズで大きく跳躍。

「これ以上高度を上げられると届かない。
 ぶっつけ本番だがいくぞ」
「おうッ!」

そのまま空中にてトッシュを打ち上げる。
もちろんこんな馬鹿な目論見、トッシュとゴゴより高い位置にいるロードブレイザーが気付かぬはずがない。
夜闇がどれだけ濃くとも魔神の目を阻害するには至らない。

「馬鹿めッ!」

回避しようがない空中へとわざわざ翼を持たぬ身でしゃしゃり出てきた獲物に魔神は炎弾の洗礼を浴びさせる。
ガンブレイズの弾幕はトッシュへと殺到。
全弾命中し、見事トッシュを

「――鬼心法……」

撃墜できないッ!
魔導アーマーやルカとの戦いに続き、精霊の加護が焔のダメージを軽減したのだ。

「ムア・ガルドのミーディアムか!?」
553創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:14:39 ID:JL5HwHJq
 
554我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:16:25 ID:yP2brrKd
悪手を打ってしまったことを自覚し、焔による攻撃を止め双剣で迎え撃つロードブレイザー。
虚は突かれはしたが依然、空中における優位は魔神が保っている。
慌てることはない。

「エルク、力を貸しやがれ――炎の光よ。道を、照らせ!」

その優位は一瞬にして砕け散る。
ホルンの魔女直伝、エルク譲りの補助魔法による加速がロードブレイザーの思惑を外し、双剣を空振らせる。
懐にまんまと入り込んだトッシュはここぞとばかりに魔剣を翻す。
狙いは一つ、オーバーナイトブレイザーの頭頂部に生えた黒翼のみッ!

「竜牙剣ッ!」

刃が右翼を斬り裂く。
堅牢を誇るナイトブレイザーの装甲を足場もなく力も入らない空中抜刀で切り裂けたのは竜牙剣の特性によるものだった。
因果応報天罰覿面。
自他の状態に左右されずそっくりそのまま受けたダメージをそっくりそのまま相手にも押し付けるッ!

「くっ、うおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

矛盾の言葉そのままに自身が放った炎弾数発分の威力に翼を討たれ、ロードブレイザーが堕ちていく。
トッシュの目論見とは違い完全には翼を切り離すことはできなかったがあのダメージではしばらくは飛べまい。
地上戦ならまだ相手のしようがある。
何よりも空を飛ばれていてはどれだけ張り上げても声を届けようがないではないか。

「アシュレーッ!」

ロードブレイザーに剣を突き刺し喰らいついたままトッシュが言葉を紡ぐ。
トッシュを振り払おうとしたロードブレイザーの動きを突き刺したままの剣に気を流すことで抑える。
呪縛剣の派生型だ。
ロードブレイザーといえど完全体ではない身に直接体内に気を流されるのは堪えたのか、僅かに動きを鈍らせる。

「約束、果たしにきたぜ!
 これはてめえの剣だろ、返してやるから受け取りな!」

ロードブレイザーが再動する。
その度にトッシュは気を流しこみ続けた。
魔神の動きを止めるほどの膨大な気の放出がそう長く続くはずもない。
体内の気が枯れ果て、今度こそ魔神は自由を取り戻す。

「アシュレー、その力は護るための力じゃなかったのかよっ!」

幸いだったのは既に砂漠の大地がすれすれまでに迫っていたことか。
ナイトフェンサーがトッシュを捉える寸前で、トッシュは身を投げ出し砂漠をクッションに着地する。
ゴゴとは随分離れてしまったが仕方がない。
トッシュは一人でロードブレイザーを抑えこみ続ける覚悟を決める。

「人間がああああッ!!」

ロードブレイザーがナイトフェンサーを手に斬りかかってくる。
ロードブレイザーは強い。
力も、速度も、耐久力も。
ありとあらゆる面でトッシュを上回っている。
だが剣士としては下の下だ。
これまで圧倒的な破壊力にかまけて他者を葬ってきた魔神は技を磨く必要がなかった。
剣を使ったことさえなかった。
トッシュにとっては唯一の突破口だ。

「てめえといいオヤジといい何こんな奴にいいようにされてんだっ!」
555創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:17:21 ID:JL5HwHJq
 
556我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:20:05 ID:yP2brrKd
舌を奮う、剣を振るう。
速さで勝るはずのロードブレイザーより尚速く剣を相手に届かせる。
ロードブレイザーの剣筋は恐ろしいほどに読みやすい。
生きる殺気ともいえる魔神は一挙一動ごとに殺気を先行させてしまうのだ。
次に脚で踏もうとする地面に、次に手を届かせようとする位置に、次に剣で薙ぎ払おうとする空間に。
トッシュはそこに先んじて割り込む。
ロードブレイザーの動きの起点を悉く潰していく。

「ぬうっ!」

左三間。
低背状態へ移行しての切り抜け。

――読めている

上方に抜けての肩口狙い。
反転後、首元を狙った二の太刀での剣撃。

――読めている

重心の片寄りからして踏み込んでからの右横凪。

――刀破斬

ルシエドがナイトフェンサーを叩き割る。
ロードブレイザーのがら空きの胴が晒された。
千載一遇のチャンス。
今なら斬れる。
聖櫃に封じられた邪悪にも匹敵する焔の災厄を。
斬れば死ぬ。
概念的存在とはいえ受肉している今なら斬って殺せるとアシュレーは言っていた。

「待て、私を殺せばアシュレーも死ぬぞッ!」

それは即ちアシュレー・ウィンチェスターを殺すということ。

「んなことするわけねえだろが。言っただろ、約束を果たしに来たと!」

アシュレーはまだ生きている。
まだ救える。
モンジとは違う。
ちょこの泣きそうな声が蘇る。
ちょこはシャドウを父と呼び家に帰らせたがっていた。
アシュレーが双子の父だと知ったなら、同じように帰らせようとしただろう。
ここでアシュレーを断てば魔神による悲しみから多くの人が救われる。
しかしそれは全てを救う道には繋がらない。
アシュレーを待つ妻や子に、ちょこが味わった寂しさを、自分が味わった怒りを押し付けてしまうことになる。
死んでも御免だ。
トッシュは振りぬく。
剣を握り締めたままの拳を。
アシュレーを覆う呪われた仮面を砕く為にッ!

「目ぇ、覚ましやがれってんだ!」

拳が炸裂する。
口下手なトッシュが言葉だけで届かないのなら衝撃ごと伝えやがれと全ての力と想いを込めて放った一打は。

されどトッシュに手応えを返すことはなかった。

「アシュレーへの遺言は終わったか?」
557創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:22:20 ID:UcF/epWL
しえん
558我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:23:35 ID:yP2brrKd
飛ぶことを封じられていたはずの魔神は悠然と羽ばたき、激突寸前だった拳を回避。
気がつけば竜牙剣が付けたはずの傷は跡形もなく塞がっていた。
負の念が渦巻く島の中においてロードブレイザーが自らの傷を癒すことなど一瞬で済むのだ。
それをこれまでしなかったのは魔神が体慣らしに戯れていただけに過ぎない。

ロードブレイザーの胸部装甲が展開される。
トッシュは咄嗟に斜線軸上から身を逸らそうとするも、遅い。
光速を誇る荷電粒子砲の前には余りにも遅すぎる。

「バニシングバスターッッッ!!」

三度、極光が夜天を吹き飛ばす。
夜が闇を取り戻した時、破滅の光が突き進んだ道には崩れ去った山脈と一人の男の身体が転がっていた。




ロードブレイザーは呆れ果てていた。
何とも人間はしぶといものだと。
バニシングバスターが直撃していたのなら北にそびえていた山脈のように塵一つ残さず消滅していたはずだ。
それが人間としての原型を留めているということは大方ルシエドの力でバニシングバスターを逸らそうとしたのだろう。
全く、無駄な努力をするものだ。
なるほど、即死こそ免れはした。
が、代償として腹部はその殆どを失っていた。
上半身と下半身が繋がっているのが奇跡なくらいだ。
放っておいてもまず助かるまい。

魔神は念のために止めをさしておこうと大地に降り立つ。
アシュレーの肉体での彼の仲間を殺せたことは大きな収穫だった。
これでアシュレーは新たな罪を背負った。
罪悪感もまたロードブレイザーの力となる負の感情だ。
万一レベルだった身体のコントロールを取り戻される可能性は億が一レベルへと激減した。
倒れ伏したトッシュへと近づいて行けば行くほどロードブレイザーは上機嫌になっていた。

だからだろう。
ようやく追いついき状況を把握し、トッシュを護らんとして立ち塞がったゴゴにロードブレイザーが取引を持ちかけたのは。

「私は今気分がいい。お前には私が世界を焼き尽くす物真似をする栄誉を与えよう。
 承諾するのならお前だけは生かしておいてやる。悪い話ではなかろう?」

オディオじきじきに呼ばれたとはいえロードブレイザーは厳密には参加者ではない。
一人勝ち残ったところで優勝者としては扱われないかもしれない。
だったら一人くらい正規の参加者を残しておいてやるのも悪くはない。
自身が殺そうが、他人が殺そうが、誰かの死はロードブレイザーの力となるのだから。

「……アシュレーは、アシュレー・ウィンチェスターは」

他人を切り捨てれば自分だけは生き残れる。
そのことに無様に心かき乱されることを期待していたロードブレイザーの耳をゴゴの静かな声がうつ。
予想外なことだったが、その声に含まれていた感情は困惑でも自己愛でもなく

「俺には真似しきれない人間だろう」

苦渋と羨望だった。
それもロードブレイザーの力となる感情の内の二つだ。
魔神は特に気分を害することなく先を促す。

「俺には帰りを待っていてくれる人がいない。
 大切な人のもとに帰るという物真似もできなければ、傍らにい続けるという物真似も護るという物真似もできない。
 どころかその感情を心の基盤にしているアシュレーの物真似のことごとくが不完全なものとなってしまう」
559創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:24:46 ID:UcF/epWL
支援
560創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:25:18 ID:JL5HwHJq
 
561創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:26:27 ID:JL5HwHJq
 
562創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:26:49 ID:UcF/epWL
しえん
563創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:27:21 ID:JL5HwHJq
 
564我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:27:23 ID:yP2brrKd
ぎりりと歯を食いしばる音がした。
災厄にとっては心地よい人が自らの限界に屈する音だ。
ここぞとばかりに魔神は囁きかける。

「くくく……。ならばやはり私の真似をすべきだ。
 アシュレーを救う理由などお前にはなかろう?
 むしろ好都合ではないか。 アシュレーが我に飲まれこの世からいなくなってしまえばお前が苦しむこともなくなるのだか「だが」!?」

有無を言わせずゴゴが割り込む。
己が命を握っている魔神に対し臆しもせず自分の矜持を叩きつける。
ロードブレイザーはいつの間にか会話の主導権を奪われていた。

「だからこそアシュレーの物真似は面白い。
 俺という個人のままでは持ちえぬものを持っているからこそあいつの物真似は面白い。お前と違ってな」
「なんだ、何を言っている」
「分かりやすく言ってやろうか」

覆面で顔が見えていないはずなのにロードブレイザーにはゴゴが浮かべているであろう表情がありありと伝わってきていた。
笑っている。
こいつは焔の厄災を前にしてあろうことか笑顔を浮かべていた。
それも親愛の情が籠ったものでも、作り笑顔でもなく、

「ロードブレイザー、お前はつまらない。
 世界の破滅だと? そんなことを考える奴はケフカで既に足りている」

ニヤリと唇を釣り上げて物真似師はロードブレイザーを嘲笑っているッ!

「我が提案を受け入れぬと。生き延びれる唯一のチャンスを逃がすというのかッ!?」
「くどいッ! 俺が誰の物真似をするかは俺自身が決めるッ!」

未だかってこのような人物がいただろうか?
ロードブレイザーを恐れるでもなく、否定するでもなく、見下し、哀れむ人物が。
身の程知らずにも程がある。
ロードブレイザーは悔いた。
気まぐれとはいえこのような下等生物に生き残る機会を与えようとした己を恥じた。

「ほざいたな、矮小な生命風情がッ! ならば貴様の言うつまらない存在の手で無様に死ねえいッ!」

両翼より生じさせた焔の中に愚かしい物真似師が消える。
最初からこうしていればよかったのだ。
ロードブレイザーは八つ当たり気味に焔をもう二発撃ち込む。
ただでさえ大きかった火の勢いは増し、森や教会も熔解させていく。
ここまでやればトッシュのように火に強くとも死んでいるだろう。

そう高を括っていたロードブレイザーの耳に、

「幻獣召喚《ハイコンバイン》――ティナ・ブランフォード」

自身が真似したい人物を自らの手で選び取った物真似師の声が響いた。






「ラフティーナだとッ!? いや、違うッ! だが、だがこれはッ!
 こいつから感じる忌々しい光は、あの愛のガーディアンロードそのものではないかッ!」

女神と間違われるのも無理はない。
565創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:28:25 ID:JL5HwHJq
 
566我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:29:27 ID:yP2brrKd
ゴゴを護り、魔神の焔を跳ね返したのはそれはそれ美しい女性だった。
宝石のように輝く髪と肌という喩えが、喩えではなくそのまま事実として当てはまる女性だった。
衣服を一切纏っていないのも頷ける。
彼女の桜色のオーロラとでも評すべき髪や肌の美しさはありとあらゆる衣服や装飾品に勝っているのだから。

彼女は力強き者でもあった。
女性の両手に光が生じる。
とある道化師も使った究極魔法。
それを女性は一度に二つも詠唱していた。

最後に彼女は人間ではなかった。
幻獣でもなかった。
人間と幻獣とのハーフだった。
名をティナ・ブランフォードという。

「ティナ、また会えたな」

喜色を隠さずにゴゴがティナへと話しかける。
返事はない。
分かっていたことだ。
幻獣が魔石として残すのは力だけなのだ。
今ここにいるティナも、ティナが蘇ったわけではないことくらい百も承知だ。

だから十分だ。
言葉もなく、顔も向けず、だけど頷いてくれただけで十分だ。
ゴゴは物真似を開始する。
ティナの物真似を。
人と幻獣の狭間で揺れ、愛することを知った少女の真似を。

「アシュレー、忘れないで。愛するということを。あなたを待っている人達を」

もう二度とすることはないと思っていた声真似ができることをゴゴはトッシュに感謝しつつ、アシュレーに語りかける。

「マリナさんだけじゃない。あなたには二人の子ども達もいるのよ?
 そしてあなたが護りたい世界は、あなたが護りたい日常はこれからも広がり続けてく」

アシュレーの子どもたちも誰かと恋し、誰かを愛するのだろう。
そうして人間は子どもを産み、後へ後へと託していく。
親から子へ、子から孫へ、孫から曾孫へ。
アシュレーの護りたかった世界、日常はこうして続いていく。
アシュレーだけのファルガイアはどんどんどんどん広がっていく。

ああ、そうか。
それは確かに護りたくなるほどに素晴らしいことだ。

ゴゴは一歩、アシュレー・ウィンチェスターという人間とティナ・ブランフォードという人間への理解を深めた。
物真似師としての最奥へと一歩、近づいた。

「だから、戻ってきて! 魔神に打ち勝って! 
 今ある命だけじゃなく、これから生まれてくる命もたくさんある。それを守るためにも!
 あなたは、あなたの家に帰ってあげて!」

その願いを叶えることができなかったティナの分までも。
マッシュやエドガーやシャドウ、ナナミやリオウにビッキー、ルッカにトカの分までも。
誰かが帰ってこないことの寂しさを知ったゴゴは目をつむり一度祈る。
次に目を開けた時にはゴゴの左右の手にもアルテマの光が宿っていた。
連続魔とアルテマと物真似による法外火力なアルテマ四連。
現段階でゴゴのできる最高の物真似の一つ。
567創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:30:07 ID:JL5HwHJq
 
568創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:30:23 ID:UcF/epWL
支援
569我ら魔を断つ剣をとる ◇iDqvc5TpTI氏代理:2010/07/09(金) 06:31:08 ID:yP2brrKd
「く、黙れ、黙れえッ!! バーミリオン、ディザスタァァァアアアアアッ!!」
「『アルテマッ!!』」

ロードブレイザーの最大火力とアルテマの光がぶつかる中、ティナの声が聞こえたのは。
きっと気のせいなんかじゃない。





いつからだろうか?
とぼとぼと一人砂漠を歩いていたちょこの耳にその歌が聞こえてきだしたのは。
静かで、途切れ途切れではあるけれど。
優しい、優しい歌だった。
幼子をあやし、幸せな夢を見せてくれる歌だった。
子守唄だ。

「ちょこ、知ってるの。ちょこが怖がったり寂しがったりして眠れない時に父さまも歌ってくれた……」

けれどどこか違う気がした。
歌詞が知らないものだとか、声が知らない人だとか、そんなんじゃないどこかが。
ちょこの知っている子守唄とは違っていた。

「なんでだろ。この人の子守唄もとってもとっても安心できるの。
 父さまが歌ってくれたのといっしょのはずなの。気になるの」

ちょこは歌を追いかけ始めた。
淋しげだった歩調は常の少女の元気なものへと戻っていた。
まるでそのことを喜ぶかのように。
子守唄は少しずつ、少しずつ、よりはっきりと聞こえるようになっていた。
その度にちょこの中で確信が生まれていく。
やっぱり父さまの歌とは違うと。
でも、父さまの歌とは違うけどこれはきっと子どものための歌なんだと。
ちょこは走った。
走り続けた。

不意に、歌に混じって別の誰かの声が聞こえた。

――幻獣召喚《ハイコンバイン》――ティナ・ブランフォード

「ティナおねーさん?」

それが歌を歌っているおねーさんの名前なのかな。
ちょこはなんとはなしに思った。
なんとはなしに思って、けれどどこか引っかかるところを感じた。

「ティナおねーさん、ティナおねーさん、ティナおねーさん?」

おかしいなと何度も何度も呟けど違和感は消えてなくならない。
しっくり来ないものを抱えて、ちょこはもやもやとしたまま戦場へと辿り着いた。
辿り着いて、その人を見て、これまでに生じていた疑問が一気に氷解した。

「おかー、さん……?」

自身の口から零れた言葉にちょこは驚く。
彼女は母親を知らない。
物心ついた時からずっと父親とだけ繰り返す時間の中で過ごしてきていた。
少女と表裏一体であるアクラだってそうだ。
ただ父だけを求めて生きていた。
ちょこという少女の世界に母親は完膚なきまでに存在していなかったのだ。
570創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:31:25 ID:JL5HwHJq
 
571創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:32:13 ID:JL5HwHJq
 
なのに。

「ティナおかーさん、ティナおかーさん、ティナおかーさん」

少女はティナのことをそう呼ぶ。
ティナがおかーさんなのだと確信して呼ぶ。
今まで使えなかった分を取り戻すかのように、嬉しそうにおかーさんと呼びつづける。

別にどこもおかしなことはない。
ちょこは子どもなのだから。
子どもがおかーさんのことを分からないわけがないのだ!

『マリナさんだけじゃない。あなたには二人の子ども達もいるのよ?
 そしてあなたが護りたい世界は、あなたが護りたい日常はこれからも広がり続けてく』

そして少女はおかーさんの声にもう一つ知る。
おかーさんが訴えかけている相手がおとーさんであることを。
シャドウと同じで子どもが待っているということを。

「ねえ、アクラ。アクラも知ってるよね。
 父さまのいない寂しさは。父さまのいてくれる温かさは」

ちょこはもう一人の自分に思いのままを伝える。

「ちょこは母さまを知らないけれど、きっと母さまがいたら二倍寂しがったり、二倍温かかったりしたと思うな」

だからね。
少女は続ける。

「やっぱりみんなおうちに帰れるのが一番なの! アクラも分かるよね。力を合わせてくれるよね」

分かりきった問いかけだった。
ちょこもアクラも元は同じ一人の少女で、誰よりも家族を愛していたのだから。
羽が舞う。
翼が広がる。
四つのアルテマの光芒へと一つの優しい闇が力を与える。

「闇に、還れ……」





破壊の力のはずだ。
押し寄せてくる5つの魔法はどれもロードブレイザーの力となる破壊の力のはずだ。
それならば。
それならば何故ッ!
究極の光は還元の闇もこうも愛に溢れているのだッ!?
負の念を力とするロードブレイザーには猛毒にしかなりえない正の念。
バーミリオンディザスターと拮抗するその眩い光にロードブレイザーは恐怖した。
魔神を脅かしたのは外からの魔法だけではない。
装備したままだった魔石がどうしてか急に光ったかと思うと、内的宇宙のウィスタリアスまで輝きだしたのだ。
まずい。
ロードブレイザーはことこにきて自身が追い詰められていることを悟った。
屈辱を呑み込み、魔神は逃亡を選択。
魔法と焔がぶつかっているのとは逆の方向へと翼を広げ、
その先に

――剣者がいた
573創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:33:20 ID:UcF/epWL
しえん
574創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:33:20 ID:JL5HwHJq
 
575創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:34:07 ID:JL5HwHJq
 



夢とも現とも思える世界。
意識と無意識の狭間。
生と死との境界に。
男は一人存在していた。
白い闇に包まれて。
ここがどこか、自分が誰かも分からぬままに彼は立っていた。
胴の左半分を吹き飛ばされ、腸を臓物を黒く墨色に染めながらも。
ただ一つのことを成さんが為に地に膝を着くことを拒んでいた。

そこまでして男は何を願う?
彼の者の命を留め続ける未練とはいかなるものか?

護ることか?
違う。
救うことか?
違う。

それは確かに男が心底望むことではある。
生死の理を曲げて尚叶えるに値する想いではある。
だが無理だ。
無理なのだ。
男には誰かを護ることなど不可能、救うことなど不可能。
男にできることは今も昔も一つだけなのだ。
一つ。
ただ一つ。
それは何だ?
護ることか?
否。
救うことか?
否。
決まっている。
斬ることだ。

誰かを斬る以外男にできることなどなかったのだ。

だったらその行為に全てを託せ。
トッシュという人間の想いを、力を、命を賭けろ。
斬ることで護れ。
斬ることで救え。
斬ることで道を拓け。

して、その為に何を斬る?
して、その為に誰を斬る?

オヤジだ。
オヤジを斬らねばならない。

何よりも。
勇者に殺されてしまったのならオヤジは単なる悪として扱われる。
正しい戦いにより討たれた世界の敵として記憶される。
それは、駄目だ。
それだけは、許せない。
モンジは優しい男だった。
邪悪なんかではない、強く誇り高いトッシュの父だった。
モンジを世界の敵にしたくないのなら、本当のモンジを知るトッシュが。
他の誰でもないトッシュ・ヴァイア・モンジが斬らねばならないのだ。
白い闇のみが広がっていたはずの世界に二刀を手にした剣鬼の姿が滲み出る。
577創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:34:57 ID:JL5HwHJq
 
そうだ、そうだった。
どうして忘れていた?
トッシュは嗤う。こんな大事なことを忘れていた自分を嗤う。

戦っていたのではないか、冥府魔道に落ちたオヤジと。

モンジが動く。
両の剣を突き出して。
モンジが駆ける。
押さえつけられていたダムが決壊するかのように、怒涛の速度をもって。
土を穿ち、その間合いを一間で詰める。

対するトッシュは不動。

不思議な感覚だった。
護りたかった人に剣を向けているというのに迷いも戸惑いもなかった。
救いたい家族を殺さねばならぬというのに悲しみも辛さもなかった。
仇たる敵と相対しているというのに怒りも憎しみもなかった。
静かだった。

ただモンジとモンジの剣だけが世界の全てだった。

――斬る

一足一刀の間合いに入り対の刃が振り抜かれる。
神速を超えた魔速、人ならぬ身になって得た人外の秘剣が十字を描きトッシュを四散させんとす。
刹那、遂にトッシュが動く。
後足が弾け、大地を蹴り押し、強引に身体ごと必殺の一太刀を前方へと押し込む。
パレンシアタワーでの一騎打ちにて終ぞ掴めなかった好機。
攻防一体の二刀流、その両の剣が防御を捨て攻撃に回され、トッシュの剣が魔を絶てる唯一のチャンスを逃してなるものか!

――斬る

爆ぜた雷の如き一刀が解き放たれる。
天空に舞う桜の花すら両断する速く鋭い一閃。
敵の先の機を奪いし刃は二刀を追い抜き空に煌く。
されど約束されたはずの勝利は不条理に阻まれる。
トッシュの敵は人ならぬ魔。
人界の摂理も常識も振り払い、全力で振り下ろされたはずの刀が人を超えた膂力により引き戻され一息で盾へと転ずる。
ここに勝負は決する。
トッシュの渾身の桜花爆雷斬は身体能力で勝る魔人の両剣の盾を貫くことは叶うまい。
二刀で受け止められ、うち一刀で跳ね除けられが関の山だろう。
魔人が見せた魔技を再現できるはずもない人の身ではルシエドを戻すよりも先に残る一刀にて斬り伏せられ終る。
努力は絶対の前に灰燼と帰し、人は魔の前に膝を着く。

打ち合うのであれば。
正面から打ち合うのであれば。

――――

魔剣ルシエドが“ほどける”。
実体が霞み陽炎のように揺らめく。
いかな達人といえど形無き剣を受け止めることは叶わず護りの剣は空しく空を切る。
心を無にし、その刃さえも無と帰した剣客の剣が双璧を超え懐に入り込む。
無念無想。明鏡止水。風光霽月。
怒りも憎しみもなくただ一念でのみ動いていたトッシュは遂に剣聖の域へと脚をかけた。
一徹の心。
無我ではなくその対極であったが、雑念を全て排除した点においては無我にも等しい心境――そこから出ずる一剣。
何も考えず、己を無とし。
己を無とし、世界と合一。
579創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:36:57 ID:UcF/epWL
支援
さすれば敵に心を読まれることはなく、己だけが敵の全てを掌握する。

――見える

過った前回とは違い気の収束点を明確に捉えられている。
モンジが託してくれた剣の最奥は、仲間達がそうしてくれていたようにトッシュが切るべき敵をしかと示していた。
ならばこれより先はトッシュの仕事だ。
擬似的な無我を破棄し魂を再燃させる。

――斬る

刀身が蘇る。
“斬る”という想念を刃としルシエドが再び猛る。
ガーディアンブレードは想いを喰らい力に変える武器だ。
無我にて振るえば刃を保てなくなるのも道理なれば、炎の如く燃え盛る一念で振るえば万物を断つのもまた道理ッ!

「あばよ!!」

トッシュは斬った。
モンジを――魔を――ロードブレイザーを一刀のもとに断ち切った。
受け継がれし秘剣紋次斬りにて。
悲劇の物語はここに書き換えられるッ!







焔の災厄、ロードブレイザー。
彼の魔神を災厄たらしめている一因はその不死性にあった。
概念的な肉体は物理的攻撃を一切受け付けず。
魔法の域に達した超科学ですら肌の皮一枚を傷付けるの関の山。
そもそも負の意志が存在する限り無限の再生力を誇る彼にはいかな致命傷も致命傷足り得ない。
ロードブレイザーを倒さんと放たれる一撃一撃は、込められた怒りや恐怖、殺意や破壊の意思により彼を満たすだけに終るのだ。
故に無敵。
故に不滅。
剣の聖女がロードブレイザーを討滅ではなく封印で留めざる得なかったものこの不死性のせいだった。
数百年の時を経てロードブレイザーは遂に後のない死をもたらされかけることとなったがあれは例外中の例外だ。
ロードブレイザーの力の根源たる負の念。
それらを相殺しきるだけの世界中の人々の一丸となった希望の念が相手だったからこそロードブレイザーは真の意味で敗れたのだ。

こんなことはあってはならない。

「馬鹿な……」

ロードブレイザーが。
星一つの全生命と釣り合うだけの力を秘めたデミガーディアンが。
たかが一人の人間に敗れることなど!

「ぐっがァァァアアアアアッ!」

ロードブレイザーの身体が霧散していく。
よりしろであるアシュレーの血肉を失った今、オーバーナイトブレイザーの姿を維持するだけの力がロードブレイザーにはなかった。
天をも焼かんとしていた黄金の炎は輝きを失い黒くどす黒くくすぶり続けるのみ。
強固を誇った装甲は罅割れ醜い中身を露呈させていた。
必死に残る力を掻き集め凝縮することで作り上げた紫色の筋肉を剥き出した白いボディを。
オーバープロトブレイザーとでも言うべきおぞましい姿を。

「認めん、認めんぞッ! ガーディアンブレードを手にしていたとはいえたかだか人間一人にこの私がッ!」
581創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:38:16 ID:JL5HwHJq
 
正確に言えばロードブレイザー自身が敗れたわけではない。
追い詰められはせども致命傷を与えたのはロードブレイザーの方だ。
だが、だがしかし、トッシュが切り拓いた道はロードブレイザーにとっては終焉へと導かれうるものだった。

「それは違うぞッ、ロードブレイザーッ!」

奴が、来る。
先刻までロードブレイザーの生命線だった寄り代が。
かってロードブレイザーに絶望を与えた人間の代表格が。
剣の英雄がやってくるッ!

「僕たちは、どんな時でも独りじゃないッ!!」

ロードブレイザーはアシュレー・ウィンチェスターの身体を失った。
けれどもそれはアシュレーの身体が破壊されたからではなかった。
破壊されたのはアシュレーとロードブレイザーを繋いでいた根ともパイプとも言える負の気の流れ。
トッシュはアクセスにより表出化した収束点を断ち切ることで魔神と人間の分離を成し遂げたのだ。
結果ロードブレイザーは未だ不完全な形で現世へと逃れなければならなくなり、

「アシュレー、ウィンチェスター……。その姿、その姿はッ!」

アシュレーは魔神から開放され万全の力を発揮できることとなる。
これまでロードブレイザーを押さえることに割いていた魔剣の力を。
果てしなき蒼の力をッ!

「アティが最後に残してくれたこの力で」

白と蒼に彩られた長衣をはためかせ。
蒼き魔剣を手にした人間が砂漠を歩む。

「トッシュが、ゴゴが、ちょこが、ティナが呼び覚ましてくれたこの心で」

その姿は魔神が恐れし英雄に似てはいれども。
風に流れる髪の色は白く。
背には蒼き光輪が輝いていた。

「ロードブレイザー、お前を討つッ!」

蒼き剣の英雄《セイバー》アシュレー、

ここに抜剣せり!

583創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:39:40 ID:JL5HwHJq
 
584創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:40:00 ID:UcF/epWL
しえん
【F-3 砂漠 一日目 真夜中】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康(抜剣により回復)、クラス:蒼き剣の英雄(サモナイ3でいう蒼き剣の勇者)
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、バヨネット
    焼け焦げたリルカの首輪、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーY
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:ロードブレイザーを今度こそ倒す
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
5:セッツァー、シャドウ、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーが内的宇宙より完全にいなくなりました。
※蒼き剣の英雄アシュレーは剣の英雄アシュレーの髪の毛を白く刺々しくして背に蒼い光輪を背負った姿です。
 あくまでも姿が剣の英雄に似ているだけで武器の都合上使用可能スキルは蒼き剣の勇者のもののみです。
 (暴走召喚・ユニット召喚・威圧・絶対攻撃)
 またあくまでもアティが残した力による覚醒なので効果が切れるともう二度と覚醒不可能です。
 変身がどの程度もつかなど思うところはお任せします。
※バヨネット(パラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます)

【ロードブレイザー@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、オーバープロトブレイザー
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:皆殺し
1:アシュレーを殺す
2:殺し合いの場に破滅をばら撒き負の念を吸収して完全復活を果たす
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーとして復活しきるには力も足りず時期も早すぎたため現状本来の力を出し切れていません。
 無論島に負の念が満ちれば満ちるほど力を取り戻していきます(強化&回復)。
 オーバープロトブレイザーは黒炎を纏ったプロトブレイザーっぽい姿です。
 元がロードブレイザーなのでナイトブレイザー、オーバーナイトブレイザー(魔剣ルシエド除く)、
 ロードブレイザーの技を使用できる可能性がありますがお任せします。

586創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:42:57 ID:UcF/epWL
支援
587創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:42:58 ID:JL5HwHJq
 
588創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 06:44:31 ID:yP2brrKd
スレ容量480KBを超えましたので、新スレを立てました。
まずはテンプレを貼って、次以降の代理投下に移ります。

RPGキャラバトルロワイアル8
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1278625360/
589 ◆??? :2010/07/09(金) 17:48:08 ID:6i0nO3m1
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