★参加者名簿(決定)★
3/6【スパイラル 〜推理の絆〜】
○鳴海歩/○結崎ひよの/●竹内理緒/●浅月香介/●高町亮子/○カノン・ヒルベルト
3/6【トライガン・マキシマム】
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/●ニコラス・D・ウルフウッド/○ミリオンズ・ナイブズ/
●レガート・ブルーサマーズ/○ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク/●リヴィオ・ザ・ダブルファング
2/6【ハヤテのごとく!】
●綾崎ハヤテ/●三千院ナギ/●愛沢咲夜/●鷺ノ宮伊澄/○西沢歩/○桂雪路
4/6【鋼の錬金術師】
○エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/○ゾルフ・J・キンブリー/○グリード(リン・ヤオ)/○ウィンリィ・ロックベル
4/5【うしおととら】
○蒼月潮/○とら(長飛丸)/○ひょう/○秋葉流/●紅煉
3/5【未来日記】
○天野雪輝/○我妻由乃/●雨流みねね/○秋瀬或/●平坂黄泉
1/5【銀魂】
○坂田銀時/●志村新八/●柳生九兵衛/●沖田総悟/●志村妙
3/5【封神演義】
●太公望/○聞仲/●妲己/○胡喜媚/○趙公明
2/4【ひだまりスケッチ】
○ゆの/●宮子/○沙英/●ヒロ
3/4【魔王 JUVENILE REMIX】
○安藤(兄)/○安藤潤也/●蝉/○スズメバチ
4/4【ベルセルク】
○ガッツ/○グリフィス/○パック/○ゾッド
1/4【ONE PIECE】
●モンキー・D・ルフィ/●Mr.2 ボン・クレー/●サンジ/○ニコ・ロビン
0/4【金剛番長】
●金剛晄(金剛番長)/●秋山優(卑怯番長)/●白雪宮拳(剛力番長)/●マシン番長
0/3【うえきの法則】
●植木耕助/●森あい/●鈴子・ジェラード
0/2【ブラック・ジャック】
●ブラック・ジャック/●ドクター・キリコ
1/1【ゴルゴ13】
○ゴルゴ13
34/70
★ロワのルール★
OPなどで特に指定がされない限りは、ロワの基本ルールは下記になります。
OPや本編SSで別ルールが描写された場合はそちらが優先されます。
【基本ルール】
最後の一人になるまで殺し合いをする。最後まで生き残った一人が勝者となり、元の世界に帰ることができる。
参加者間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、参加者は会場内にランダムで配置される。
【首輪について】
参加者には首輪が嵌められる。首輪は以下の条件で爆発し、首輪が爆発したプレイヤーは例外なく死亡する。
首輪をむりやり外そうとした場合
ロワ会場の外に出た場合
侵入禁止エリアに入った場合
24時間死者が出ない状態が続いた場合は、全員の首輪が爆発
【放送について】
6時間おき(0:00、6:00、12:00、18:00)に放送が行われる。
放送の内容は、死亡者の報告と侵入禁止エリアの発表など。
【所持品について】
参加者が所持していた武器や装備などはすべて没収される(義手など体と一体化しているものは没収されない)
かわりに、支給品の入ったデイパックが支給される。
デイパックは何故か、どんなに大きな物でも入るし、どんなに重い物を入れても大丈夫だったりする。
デイパックに入っている支給品の内容は「会場の地図」「コンパス」「参加者名簿」「筆記用具」
「水と食料」「ランタン」「時計」「ランダム支給品1〜2個」
※「参加者名簿」は、途中で文字が浮き出る方式
※「水と食料」は最低1食分は支給されている。具体的な量は書き手の裁量に任せます
★書き手のルール★
【予約について】
予約はしたらばにある予約専用スレにて受け付けます。
トリップをつけて、予約したいキャラクター名を書き込んでください。
予約期限は5日(120時間)です。期限内に申請があった場合のみ、2日間延長することができます。
これ以上の延長は理由に関わらず一切認めません。
予約に関するルールは、書き手からの要望があった場合、議論のうえで変更することを可能とします。
【キャラクターの死亡について】
SS内でキャラが死亡した場合、【(キャラ名)@(作品名) 死亡】と表記してください。
また、どんな理由があろうとも、死亡したキャラの復活は禁止します。
【キャラクターの能力制限について】
ロワ内では、バランスブレイカーとなるキャラの能力は制限されます。
【支給品制限について】
ロワ内では、バランスブレイカーとなる支給品は制限されます。
【状態表のテンプレ】
SSの最後につける状態表は下記の形式とします。
【(エリア)/(場所や施設の名前)/(日数と時間帯)】
【(キャラ名)@(作品名)】
[状態]:
[服装]:(身に着けている防具や服類、特に書く必要がない場合はなくても可)
[装備]:(手に持っている武器など)
[道具]:(デイパックの中身)
[思考]
1:
2:
3:
[備考]
※(状態や思考以外の事項)
【時間帯の表記について】
状態表に書く時間帯は、下記の表から当てはめてください。
深夜:0〜2時 / 黎明:2〜4時 / 早朝:4〜6時 / 朝:6〜8時 / 午前:8〜10時 / 昼:10〜12時
日中:12〜14時 / 午後:14〜16時 / 夕方:16〜18時 / 夜:18〜20時 / 夜中:20〜22時 / 真夜中:22〜24時
一人で構わないと思ってたとしても、本当、心なんて分からねえもんだ。
どうしても理解者を求めちまう。
「……俺達みたいになるんじゃねぇぞ」
俺に関わっちまった以上、無理かもしれねえが。
それでもその言葉は本心だった。
向き合って話せる女がいる奴が、羨ましかった。
たとえ嫌われていたとしても。
あいつが今、側にいてほしいと、そう思ってしまった。
「どっかで、休むか……」
……少し、疲れた。
【H-08南西/路上/1日目/日中〜午後】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(特大)
[服装]:上半身裸
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、炸裂弾×1@ベルセルク、折れたキリバチ@ONE PIECE、
妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク、蝉のナイフ@魔王 JUVENILE REMIX
[思考]
基本:グリフィスと、“神”に鉄塊をぶち込む。
0;少し休める所を探す。
1:運命に反逆する。
2:グリフィスを殺す。
3:グリフィスの部下の使徒どもも殺す。
4:なんか、夢に見たか?
5:なぜヤツが関わっている?
6:工場に向かい、使徒どもの所業を見極める。
7:その足で競技場方面に向かい、グリフィスをぶち殺す算段を整える。
8:ナイブズとその同行者に微かな羨望。
9:ヴァッシュに出会ったらナイブズの言葉を伝える。
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
※左手の義手に衝撃貝が仕込まれています。
※鈴子からロベルト関係以外の様々な情報を得ました。
※ビーズ@うえきの法則は鈴子の死体の側に散乱したままです。
以上です
前スレギリギリいけるかと思ったのですが無理でした。すみません
>>2訂正
3/6【鋼の錬金術師】
○エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/○ゾルフ・J・キンブリー/○グリード(リン・ヤオ)/●ウィンリィ・ロックベル
33/70
でしたね。
間違えてすみません。
代理の代理乙です
前半の考察パートは凄まじい。そうか、ナイブズは原作で色々知ったからな…こう考えるか
そしてハムさんと別れるかと思ったらガッツ登場で誤解で戦闘だ!
これはどちらかがヤバいなと…でハムさんナイスw
そしてレガートのことは…そうか、気にはしてたのか…
ガッツも何と言うか…
いやあ、待ってた甲斐がありました。GJ!
このコンビは見ててにやけるなぁ。徐々に軟化していくナイブズが良い
レガートの事もちゃんと気にしてるようで感動だ!
しかし、どこぞのオカマじゃないけど優しくなったらもう死にそうでw
ガッツ登場でどうなることやらと思ったけど双方特にダメージも無く済んだね
その代わり今度は競技場がヤバイ事になっていってるけどw
それにしても前半の考察はただただ感服するばかり
投下乙でした!
投下乙
レガートが少しは報われて何よりだ。あの最後には流石に同情した。
12 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/09(金) 13:49:56 ID:tx6nXLK2
今度はキンブリーと安藤の予約が来たか…
13 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 01:52:15 ID:hAdAGGkt
780 : ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 00:48:57 ID:LkOmKOlMO
パソコン絶賛故障中なので携帯から失礼します。
一応書きあがってますので、こちらから投下させていただきます。
都合上、予定より大幅に短くなってしまったことを
先にお詫び致します。
代理投下します
テトラポットが積み上げられたその隙間に、海水がぞぶぞぶ染みては引いていく。
潮風の悲鳴は、殺戮ステージと舞台になった島の泣き声に聞こえた。
この水平線と港の間の壁があるとのグリフィスの証言に、改めて銀時は目を細めて沖を見やる。船でもあれば確認できるが、脱出道具が放置されてるはずがない。
透明な玉子の半球が張っているらしいが、実際どうだろう。虹のように、全体が見えないだけでホントは丸いとかも考えられる。地下にももう半分あるのであれば、島は完全に隔離されている。
『けっ、骨壷の中にいるみてぇだ』
コンクリートの海岸線に沿い、スクーターは風を貫いて進む。銀時と沙英は二人乗りできない座席を無理矢理シェアし、狭いスペースに腰かけていた。
港街の車庫から鍵がついていたうっかりさんスクーターを盗、もとい調達して、ゆのがいると情報が入った旅館を目指していた。
ただでさえそれほど速度が出ない構造のスクーターに二人乗りしているのだから、エンジンMAXでも結構なちんたらぶりだ。
ひとつしかないお椀型のヘルメットを沙英に渡し、銀時はそこらへんに落ちていた鍋をかぶる。たなびくふんどしのこともあり、滑稽極まる格好での疾走となる。
ひのきの棒と鍋の蓋を装備と言ってのける某ゲームに一言文句垂れたい。
――ス●エニ敵に回してどーすんですか!?ガ●ガンの角に頭ぶつけて死にますよ!――
ツッコみはない。
明らかにガキの声で伝えられた仲間の名前。名簿の上ででろりと変色した奴らではなく、新八ボイスが浮かんだ。
『まぁ、あの阿呆がでてくるよりは妥当だろうな、なんせここには』
笑いが、足りない。
よくつるんでいた奴は絶え、銀時ひとりだけになってしまった。
百歩譲って妙はわからなくもないが、残りの二人、特にゴキブリ並にしぶとい沖田が呼ばれるなど、予想外にも程があった。
それこそ一人見れば三十人はわいてくる感覚である。
デパートで会った時にそのままヤキ入れておけばよかったか。
あいつらの葬式を他の奴らがサンバカーニバルと間違えるぐらい派手で粋なのにしてから、墓石蹴っ飛ばしてやる。だから万事屋に帰せオラ。
「銀さん」
銀時の腰に腕を回す沙英が、やっと口を開いた。
宮子の名を出した放送から、もうすぐ1時間が経つ。第一放送後の混乱もせず、無表情のまま涙と鼻水を流してきた沙英を引っ張り、ここまで銀時の自己判断で来たのだ。
沙英の心身暴走が一周回って冷静になっていたのはすぐにわかった。冷静に、といっても見た目だけだ。
振り切ってがむしゃらに走ってないだけで、折れそうな身体を膨れ上がった恐怖と空虚が完全に支配していた。
生気がひどく失われているのをフォローするべく、銀時は大移動を実行したのだ。
景色が変わるだけでも気分は違ってくるし、仲間の再開は一番の薬だからだ。
でももしかしてヤバかった?
背中にヘルメットが当たっていた感覚が消えた。
運転中だが、銀時には沙英が首を振っているのはわかった。
妙に湿っぽいのは、涙がこすりつけられたからか。
「私、仲間一人呼ばれたんですよ」
「知ってる」
「銀さんは三人呼ばれたんですよね」
「知ってる」
「なら、どうして」
「泣かないってか」
「……」
「オレがいい人な訳ないだろ」
「強いですね、ふんどしなのに」
「ふんどし関係ないだろ」
「寒くないですか」
「寒ぃよ。鳥肌とスネ毛ゾゾ立ち」
「バイク用のスーツとかあればよかったですね」
「そりゃあないよかマシだろうが」
「私、今フルフェイスのヘルメットが欲しいんです」
「それじゃ駄目か?」
「フルフェイス型だったら、こんな涙隠せられたのにっ……」
淡々とした会話が途切れた。
向かい風が、二人を磨っていく。空っぽになった胸がひりひりしてるのはそのせいだ。
それに、悔しさを隠す仮面を欲しがる気持ちは、銀時にだってある。
沙英に見られないのをいいことに、銀時は先刻まで一緒にいた沖田のために、鼻水を一筋垂らしてやった。
★
銀時が旅館のある辺りを通り過ぎてしまいそうになったので、必死に止めた。
旅館へ行く、と明言していた割には抜けている。道の間違いを認めない銀時を説得する前に、のろのろスクーターから飛び降りた。
銀時が慌てて追うのを横目に、沙英は走る。
スクーターが通ってきた道の景色から覗く、きれいな旅館を目指して。
――旅館だ。きっとゆのはいる。だってあの旅館は、ひだまり荘みたいに、明るい場所にあるんだから――
沙英の歩幅は、旅館の崩壊を認めるに従って小さくなっていった。
念願の目的地へ着いた頃には、枷を引き摺るような足取りに変わっていた。
沙英は逆に、ゆのがここにいないことを願った。
ゆのがいたと言われたはずの旅館は半壊していた。
風呂場は外から丸見え、脱衣場は形残らず大破、業務用の洗濯機ですら吹っ飛んでへこんでいる。
ボロボロでズタズタでグシャグシャでベシャベシャな旅館を、一瞬でもひだまり荘に重ねてしまったのを悔いた。
楽しかった時間が粉々になっていくのを表した姿だった。実感してしまった。
帰りたい。ヒロも宮子もゆのも、誰も欠けていないひだまり荘へ。それだけなのに。
運命は現実を直視しろと突きつけてくる。
網膜に刻めと押しつけてくる。
翻弄されろと引き寄せてくる。
ゆのを置き去りにしたグリフィスを恨みたくなった。
危険人物がいる場所にひとりぼっちにされたら、どれほど混乱するか。
そのまま、旅館を破壊するまでの戦闘に巻き込まれていたら、どれほど泣きわめくか。
グリフィスは承知の上でゆのをひとりぼっちにした。
責任は重い。
だが同時に、それが無駄なことも知った。
彼は貴族然としていて、自分に復讐を持ちかけた。そういう無常はびこる世で育っているのは平凡な沙英でも察せられた。
彼の考えは、多分理解はしえない。
けど、それが『仕方ない』の枠で収まらないのははっきりしている。
仕方なくなんてない。
仕方ないなんてことはない。
『仕方ない』なんて考えちゃいけない。
グリフィスに絶対問い詰めてやる。
グリフィスを絶対怒鳴りつけてやる。
グリフィスに、グリフィスに……!
「諦めたら、そこで試合終了だっての」
「……え?」
仕方ないの反対の言葉が聞こえた。
いつの間にか追いついた銀時が、横で顎を掻いていた。
「俺の言葉でゆーなら、……あー、いい例えがねぇや。人の話を例えに出した方が楽だわ。
ゆのってのは変態放送部に呼ばれてない。なら旅館ン中しっかり探しておいても悪くはねーだろ。
押し入れとかで救助待ってたりすっかもよ?」
銀時は、沙英がゆのの絶望的な安否を嘆いていると思っているらしい。
沙英の恨みの刃が、ぐっと丸くなった。グリフィス云々呟いているより、綺麗事であっても『諦めない』でいる方がずっといい。
『七匹の子ヤギ』のお母さんになった気分だった。
末っ子ヤギはもちろんゆの。
きっと、見つかる。
小さく、心に光が灯った。
#####
放送は緩やかに、涼やかに流れていく。犠牲者の数だけ、慟哭は上がる。
島を泥のような雲が包み、じわじわ温度を下げていく。温度が1、2度違うだけで、人間の思考は変わる。
雪など慣れてない者にとっては脅威の一言である。
『昔、八甲田山っちゅう映画があってな…』
『それ雪山で人が物凄い勢いで死んでいく映画ですよ』
既に旅立った二人の会話が不吉なまでに再現される時間は、そう遠くない。
静けさが満ちる中で、単身動く影があった。ゆっくり起き上がる。工場東側に散らばる、支給品らを眺めた。ここに彼の求める物はなさそうだ。足りないモノを補うには、目前にある工場へ行くのが一番らしい。
愛する人のための復讐は今始まったばかりではないか。
彼女の笑顔を取り戻すため、あの生意気な小娘と青二才をぶっ殺してやる。
さぁ。
さぁ。
サァ。
工場に入る。ガラクタばかりだ。彼は金属片に、己が捨てられた怨念を重ねた。有効に活用させてもらおう。
徘徊を始めた彼の存在は、まさしく爆弾と同じであった。
ほぼ同時刻、ポーカーフェイスのスナイパーが工場西側へ到着した。不自然に枝の折れた痕跡を進み、また僅かな足あとを辿り、世界最高峰を誇る男は護衛対象が歩いた場所を一切逸れずにやってきたのだ。
仕事は最後までやり通す無言実行は、もはや精神論だけでは説明できない。
放送の内容は一言一句頭に叩きいれた。工場の北側はじきに封鎖、呼ばれた人間は二十人。前回と合わせて全体の約半数だ。
その内の数人が、ここで凄惨な死をとげている。頸動脈をかっさばいた、一面の赤色がゴルゴを出迎えた。
手当たり次第かき切ったような肉塊が、むせかえる臭気を放ち始めている。窓の光に輝き、死のオブジェは彩られた。
千切れた白い皮膚がぼつぼつ浮かぶ海に感情移入するほど、彼の神経は細くない。
ぬかるむ血溜まりを観察し、量から推測する被害者の人数、死亡推定時刻を考察する。少なくとも三時間以上前の惨劇だと予想した。
安藤少年と、彼を捕獲した別の人間の血液ではない。
これだけ派手で一方的な攻撃方法は、自身の持つ知識では実行不可能だ。
水を操る少女同様、得体の知れぬ能力がひしめいている証拠だった。
一階からひとつづつ、扉を開けていく。
東側からの侵入者。
西側からの侵入者。
互いはまだ、顔を合わせてはいない。
★
人生の苦楽を共にした弟。
兄弟として刻んだ月日は踏みにじられた。それも覚悟の上で元の身体を欲していたのは事実ではある。
人体練成の禁忌を破ったのだから。
だが、あいつは違う。
巻き込まれるべき人間じゃない。
口うるさい幼なじみで、
右腕左脚のパートナーで、
こんな荒くれ兄弟の支えで、
……大切な、存在。
地獄ならとっくに見てるなんて、言えた義理か。沸騰した頭が冴えて、空気が抜けきった軽い倦怠感が漂う。
全身からほとばしっていた激情が、陽炎のように揺らいで消えてしまった。
次いで現れたのは、期待も希望も飲み込みかねない、饐えた汚泥だった。ふつりふつりと心の底に沈殿していく。
『神』はどれだけ布陣を強くすれば気が済むのだ。
「リン、鏡、あるか?」
給湯室に放送中集まったのはエド、リン、イマリの三人だった。
エドが話し始めるまで誰も言葉を交わさず、また誰もが山ほど言いたいことを抱えているような静けさであった。
タカマチも放送で呼ばれてしまった。イマリが『やっぱり』という面持ちでいる。薄々予想はしていたらしい。
「コレでいいカ?」
リンは据え付けの鏡を力業で外し、どっしとエドの前に立てた。
どこにでもある洗面所に使う鏡だった。俯いて腰かけていたエドだが、自分の下半身が映っているのはしっかりわかった。情けないぐらい小さく見える。
組んでいた指をほぐし、機械鎧を撫でた。歯をしばる。
瓦割りの如く鋼鉄の右腕で破壊した。
狭い世界に響く、反逆魂の音。
なんかするなら予告しロと、リンが散る破片から飛び退く。
エドを中心に砕けた鏡は、反射して天井に光の花を咲かせた。一枚の適当な花びらを拾って中を覗く。
自虐的な笑いが込み上げてきた。
「はっ、はは、
鏡ん中にスカーがいるぞ。初めて会った時の奴がいる。
あいつと同じ目してるよ、オレ」
恨むなんて感情があるのは人間だけ。退廃した倫理を煮えたぎった釜にぶっこんだ、酷い闇を孕んだ形相があった。
「人のふり見て我がふり直せ、か。自分見て自分治さなきゃいけねぇなこりゃ。
そうだ、どちらかがあきらめたら終わりなんだ。鉄槌かますまで止まってられるかよ」
戒めに、手鏡程度の破片をデイバッグに入れた。
今回の放送は、エドにひとつの確信を持たせた。
『セリム・ブラッドレイ』を隠し蓑にした七つの大罪の頭、プライドがいる。
工場のプラントドームにあった錬成陣は、肉親と幼なじみ、短いながらも行動を共にした仲間らを奪った舞台の存在意義だ。
かつてクセルクセスを消滅させたアレを、他の世界の奴らが関わる知識と融合させて、『何か』を成し遂げようとしている?
その過程にぶちこむ人間を選択した基準は?
――絶対神をつくるため、だろうか。
相反する二つの力を持つ者がいたとしよう。例とするならば『希望を吸収する力』と『絶望を吸収する力』。
希望と絶望、どちらを抱いても勝つ。
相性が正反対の世界の奴らを選出しているとしたら。
そいつらが殺された場所が、アメストリスの紛争のように、あらかじめ仕組まれていた予定調和なポイントエリアであるならば。
情報が欲しい。違う世界の情報を組み合わせれば、本来噛み合わない、すれ違うことすらなかったピースがつながるかもしれないのだ。
やはり島中央の神社がキーである。確認しておくべきだ。
《エドの推理は、真相はともかく随分と的を射ていた。
未来を映す力に対して、運命をねじ伏せる能力者がいた。
加虐支配する妖艶な妖怪に対して、妖怪を穿つことに特化した人間がいた。
同等の価値を交換して成り立つ能力に対して、質量保存の法則を無視して別物へ変換する能力者がいた。
もし、平和穏便にスタート時の人間全員と話ができたなら、相性の良し悪しが一発でわかる表が作れただろう。
きっとジャンケンのように強弱ぐるりと輪を描いていた。
もうかなわない、無意味なifだ》
リンが壁にもたれながら、小声で寄ってきた。
イマリはよろしくない顔ではあったが、介入せずに流し台に座っている。
『侵入者ガ来タ』
『マジかよ……何人だ?』
一息置いて、リンは細目をうっすら開く。
『東側一階に一人だガ、絶対おかしイ。
更にだナ。また一階の話だガ、空間がおかしい場所があル。はっきり感覚がある東側の奴は、そこで反応が出たり消えたりしてイル』
『なんだそりゃ?まだ全員一階にいるのか』
『……安藤らしき奴は三階にいル。さっきから動かなイ』
嫌悪をあらわに、リンは吐き捨てた。
「そうだ安藤!あいつ何やってんだよ」
「安藤さんに会ってないのですか」
イマリが口を挟む。
安藤との邂逅が導かれたものが、エドを絶望の底へ叩きつけるための『神』の采配ならば。えげつない『神』のことだ。
安藤も、『神』に不幸をつきつけられるのを前提とした出会いとして、エド達を見繕われた可能性がある。
例えばそれさえなければ弟と合流できたかもしれないとかだ。
お互いの傷穴に塩を塗る出会いが示すのは全ての崩壊、すなわち神が望むゲーム進行なのだろう。
――もしそうなら、たまったもんじゃねーぞ!そっちがその気なら、安藤とイマリとの出会いを最大限に生かしてやる!
ただ、安藤を迎えにいくにしても、難があった。リンが安藤にもイマリにも敵意むき出しなのだ。
イマリ一人残すのは危険だし、リンとイマリを二人で待たせるのもやめておきたい。かといってイマリと二人で出かけるのは、侵入者の正体がわからない以上、得策ではない。
リスクの一番少ない方法は……
#####
研究棟を出た。
雲が湧くだけ湧いている。
ゆのの姿はとっくにない。
どんなハタラキを見せてくれるか、流は楽しみでもあり、愉快でもあった。
ゆのに三人殺せと言った。流にしてみれば大した人数でもないが、一般人にとってはきつい数字だろう。
だから、一般人だからこそ堕ちるような殺人ノルマを仕向けた。
十人だ二十人だと脅すより現実的な数値にしておいた。決して無理な人数ではないところがミソである。
死体に麻痺して、『たった三人だ』と思い込んだら、流の思惑通りだ。
ちょっと考えればわかる。
残りは半数だ。三十人ちょい÷三人=生き残りの十分の一。
ちょっと置き換えるだけでどえらい数字に見える。
ゆのが三人仕留められたら、ネットにタレる。事実だから、気兼ねなぞいらない。
十分の一も〜〜とかいったら殺人鬼に聞こえる。孤立無援でオシマイだ。
大量に殺れと言ったところで実感がなくて、出来ないのがフツーの人間。
現実味のある人数を殺れと命令して、かつ連帯感を少しでも持たしてやれば出来てしまうのがフツーの人間の性。
フツーというよりフツーの日本人っていった方がいいのか。大体日本人ってのはそんなのばっかだ。
ゆのが別の世界の一般人だったら、もう少し別の言葉けしかけておいたが、そんな面倒な保険不要だった。それに関してはラッキーだ。
「どこに行くの……?」
スズメバチが指くわえて聞いてきた。相変わらず頬を赤らめてハァハァしている。
「ああ?ヒトサガシだよ。面白れぇ奴を見つけによ」
首輪探知機は、領域を拡大してもせいぜい直径五百メートルのカバー程度だろう。点滅する光は三つだけで、辺りの反応は無しだった。
「つまんねぇな、まだ三十人はいるはずなのによ。全っ然戦ってねーよ」
蝉との戦闘は面白かった。攻撃をすり抜ける動きと度胸。
――あれはよかったねぇ、欲しいぐらいだ。あって損する訳じゃないしな。
あれ以来、手応えがあって胸がすく人間には出会えてない。
論理小僧、馬鹿虫女、白馬に乗ってそうな金ピカ野郎、手だらけ世界滅亡女。
なんだこのガラクタ置き場みたいなレパートリーは。
うしおを陥れて、自分の戦闘欲を満たしてくれる奴は残ってるのか。
とりあえず歩くかね、と地図を広げて探知機と重ねたときだった。
探知機がいきなり反応しだした。ゆのの反応のようにじりじり画面外へ向かう動きではない。
本当にパッと、画面に出現したのだ。テレポート能力者がいるのかと思うほどに急だった。
反応が示す箇所へ首を回す。すぐに納得した。
直後、ズゥゥンと森を揺らす響きが届いた。
「……見えたか?」
「ええ。人間が二人、空から落ちてきたわ。何にもない場所から突然」
ロビンの目は完全にロックオン状態になっていた。ルフィやらサンジやらの敵を見定めた、泥々な眼だった。
ロビンには誰もがそう見えているようだが。
体格から、男と女の二人組だろうと判断する。
探知機の反応は消えない。あれだけ高い場所から落ちても無事なのだ。是非とも面を拝んでやりたくなった。
「行くのね。行きましょ。とってもいいものみたい」
フリルのスカートをたくしあげ、スズメバチがせかした。肩をくねらせて、期待に酔っている。
「空から降る仕組みかよ、面白れぇ」
#####
エドらと巡り合わせ「られた」安藤の不幸は既に始まっていた。
安藤は殺人日記の次に、殺人日記よりも物騒かもしれない代物を、工場の片隅で見つけた。それが運命を変えるとも知らずに。
したらば掲示板に、とある少女と男についての内容がいくつか連投されていた。
1:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど(Res:8)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4 名前:ラッキースターな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:mIKami7Ai
×印の髪飾りを付けた少女には注意してください。
既に何人かの人間を殺しているようです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
7 名前:ラストバタリオンな名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:NaiToYshR
ここは危険なので手短に。
僕も×印の髪飾りを付けた少女に襲われました。
彼女は白いワンピースを着ているので注意して下さい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
8 名前:絶版発売中な名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:HeRmionEA
第一放送前、×印の髪飾りを付けた少女に襲われた。
水を操る力を持っているらしい。水辺にいる場合は気をつけてくれ。
ほとんど勝ち目はない。
6:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:10)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9 名前:バトロワ好きな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:XO7all1TH
荒唐無稽な話だが、君たちの探している知り合いは、君たちの知る彼らではない可能性がある。
それぞれが違う時間から呼び寄せられている可能性を、考慮に入れておいてくれ。
そしてゾルフ・J・キンブリーに妲己。
友を虚仮にしてくれた君たちを、僕は絶対に許さない。
いずれお礼に行くから、なるべくその時まで生きていてくれよ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
10 名前:容姿不明な名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:HeRmionEA
キンブ じ
携帯が落ちた。
弾みで書き込みが完了してしまう。
キンブリーへのアピールのつもりだったが、これでは意味がわからない。
鳴海に、東郷に、エドに、リンに、伊万里に、名も知らぬ少女に、キンブリーに、会場の人間全てに対抗する、強大な力を得る段階に入ったのに。
安藤は殺人日記以前の深刻な問題と直面していた。
止まらない。
血が止まらない。
止まらない。
目眩が止まらない。
止まらない。
動悸が止まらない。
止まらない。
呼吸の乱れが止まらない。
止まらない。
震えが止まらない。
頭が随分ぼんやりする。
現実に引き戻すのは、すすけた息苦しさと破裂するような心臓の鼓動だった。
どうして?
いきなり心筋梗塞になった?
違う。違う。違う。
指が、身体が、眼球が、舌が、カタカタと意思に反して震える。
何だ。
何だ何だ何だ何だ何だ何だ
何だ何だ何だ何だ何だ何だ
何だ何だ何だ何だ何だ何だ
わかる。どうしようもないくらいわかる。風邪をひくのが直前でわかるように。
リンとエドに使った長い腹話術。
慣れない体力消費。
鳴海とエドへの羨望感、劣等感、重圧感。
潤也と一緒にいる、第一級危険人物キンブリーへの殺意。
ひよのへの敵対心。
それらがない交ぜになった上での、殺人日記への興奮。
これが決定打らしい。
――加えて能力制限の力が働いて、本来の時期より早まっているのだが――
腹話術の副作用だ。
大量の鼻血を生産コンベアにぶちまけた。
自由になった手の平で鼻を覆うと、すぐに真っ赤な泉ができた。コンベアに上半身を突っ伏す。まだ血は垂れる。
疑いようもない。身体が、脳が、五臓六腑が、副作用の悲鳴を上げ始めている。
朝の気絶はこれの予兆だったのか。猛スピードで身体が内側から壊れていく。
これ以上腹話術を使ったらどうなる?自分の能力の使いすぎで……
錬金術は等価交換が基本なんだろ?一からは一のものしか作れないんだろ?
どうして、どうしてこんなちっぽけな力にこんなでかい副作用があるだよ!?
ハイリスク・ローリターンなんて最悪だ。諸刃の剣どころか、とんだ時限爆発だ。
こんな理不尽、あってたまるか。
そうだ、賢者の石。万能なら、この不釣り合いな副作用を和らげてくれるぐらいしてもいいじゃないか。錬金術師のエドだって、これは同等のリスクじゃないとわかってくれる。
携帯だけはどうにか拾った。胴体とスラックスの間に挟む。
これは第二の心臓になるだろう。大切に扱わなければ。
「安藤!」
ああ、高嶺の能力者が来た。
チャンスが、たった一度のチャンスが潰れた。
死にかけの魚のするようにぱくぱくと口を動かす。
リンも伊万里も着いてきていない。
「おい、何があったんだよ安藤!?」
そりゃ見てもわからないだろう。襲撃されてもいないし、転んで顔面強打したようにも見えないから。
気づけば携帯以外の支給品含むデイバッグはコンベアに流され、口を開けた生産機器へ飲まれていた。
どういった品を作っているかは知らないが、異物混入で機械はいずれ故障する。
「体調、不良だ。ちょっとマズい、かも」
「給湯室行くぞ。そこで集合になってる。
……アンドウ、手かせどうした?」
「……外れた」
白々しい嘘だと、自分でも思う。エドも不信感たっぷりな視線を寄越す。
「外した、じゃないのか?
まあいい、肩貸せ、右腕回せ、歩けるか」
左手首を長い布で縛られた。義手の右腕に捕まれ、エドに肩を回す。手首の余り布の端を噛んだエドは、小さい体を安藤に貸した。
これで腹話術に手を打ったつもりか。
『手を拘束しなくても腹話術は使えるんだよな』
無防備な背中だった。
すぐに手をかけられそうな、格好のシチュエーションだ。
ただ、リンと伊万里はともかく、エドは首輪の解除と脱出に確保しておきたかった。
キンブリーの情報を得るためにもだ。
それに、同じ年子の弟を持つ兄として、一番共感を得られそうだったから。
覚束ない足で、身を委ねた。仮初の二人三脚だ。
錬金術の足の関節と太股に
ほとんど無音で
銀色の柱が立った。
遠くで何かが落ちる音がした。
#####
安全だとわかっていても恐る恐る、シェルターが開いた。
墜落した地面は、丸くえぐれてひびが入っていた。
銀時が沙英の九竜神火罩に助けられるのは二度目だ。
旅館の探索はとんとん拍子に進んだ。これといった敵もいなかったが、ゆのの姿どころか、猫の毛一本見つからなかったからだ。
誰かが先に来ていたやら、役に立ちそうな道具は持っていかれているようだった。
旅館の客間からキッチンまでくまなく探って、最後に残ったのがボイラー室だった。
妙ちきりんなボイラー室へ二人して踏み入れた結果が、片道切符の大★降★下!だった。
身も心も、弛みっぱなしの尻穴も縮みあがる、インド人もびっくりな絶叫トラップだ。
工場と研究所を近くに据えた、神社へと突っ込んだ。九竜神火罩がなければノーロープバンジーもいいところだった。
「九死に一生スペシャルで大トリ飾れるっての……胃が口からはみ出るかと思ったわ」
「あ、……うぅぁ……」
砂時計の最初の一粒が下へ落ちるほどわずかな時間が、生死の境目だった。地面へ真っ赤な花火を咲かせるまで一秒を切っての生還劇を演じたのだ。
沙英は必死に銀時を掴もうと足掻いていた。
九竜神火罩に引きずり込んだ途端に激突したショックと、相変わらずのコメディ口調で話してくれた銀時への安心感で放心している。
助かったとはいえ、正直余り思い出したくないシェルターだ。
――銀時的には主に……×××たところが――
腰が抜けていたが、沙英も防具を便所にされたダメージだけは相当残っているようだ。
デパートで戦りあった心拍数が一気に戻ってきた。戦車ヤバ女がどうにかなっても、トラップ張りまくりではどうにもならない。
着地点はどう見ても神社だ。
これが夢じゃないなら、旅館から島の中央の神社まですっ飛んできた(というか飛び落ちた)安っぽいSF映画並みの経験を積んだ訳だ。
よくもまぁ手の込んだイヤガラセトラップを考えるもんだ。
へたっている沙英を抱えて、とりあえず無傷っぽい建物に上がらせてもらった。もちろん土足で。無礼?神なんぞ知るか。
「なんか助けてもらってばっかなんだが。どうするよオレ男が廃っちゃ」
「ここ、どこ、ですか」
「話は最後まで聞くう!神社の境内だ」
「ちょっと、行きたい場所があるん、ですけど、いい、ですか?」
神社東側。
工場が少しばかり顔を出す箇所で、沙英の目的物を見つけた。
「絵馬、です」
「これが目的か?ただの板だろ。『神』を語る割にはお粗末なもの用意してんな」
「失礼な。ゲン担ぎです。銀さんも何か願い書きますか?」
木の板がびっしり神社の柵に結びつけられていた。
それぞれに願い事が書いてある。大量の他人の願いは興味あるが、沙英が不粋だとじっくり読ませてくれなかった。
サラサラと支給品の筆記用具で絵を描いて、一分もしない間に見事な銀さんが出来上がった。
「おお、上手ぇ!!」
「私が何の学校に通ってると思ってるんですか。
……銀さん、軍艦島って知ってます?」
「何いきなり?それ食えるの?かっこいいの?」
「食べれるものなら食べてみて下さいよ!私の世界にある無人島です」
恋愛専門だが、沙英はプロの小説家である。知識は多色なりとも一般人より多く持っている自覚はある。
「まー、なんて物騒な名前だこと」
「俗称ですよ?コンクリ島というか、廃墟島なんです。滅茶滅茶な造りをしてて、一時はすごい人口密度だったそうなんです。
そこにもですね、神社があるんです。島の中央、アパートを見下ろす高台に」
「シチュは似てるな」
「あっちは崩壊して、絵馬とか一切ないんです。ある意味、移民のために作られた神社だから当たり前なんですけど。
銀さんの言う通り、条件が似てるから不安なんです。デパートとか旅館とか見て、大切な場所に似たところが壊れるのはもう嫌だって。
少しでも違う場所を増やしておきたいなって」
「それで神頼みか?」
「神なんて、もうどうでもいいです。けじめです。ただの」
それぐらい許されたっていいでしょ?
『一度だけでいいから、銀さんをひだまり荘に呼びたい』
ささやかな願いを絵馬に託した。
眉をハの字にして、儚げに沙英は笑う。
キレイな顔に、緩やかな弧を描いた線がついた。
マジックで描かれた絵馬の銀時が、塗り潰された。
「あら、失敗しちゃった」
「っあ、ああああっ!!!!」
沙英の額に、ぞっくり刃の通った痕がついた。前髪は傷痕をなぞってパッツン切りとなり、風に飛ばされていった。
沙英へ投げられた何かの軌道を逸らした銀時ではあるものの、完全に防げはしなかった。転がるボールが奇妙な凶器らしい。
傷自体は命に関わらないが、頭は血管の束だ。出血が続けばまずい。
「素敵なお姉さまに、お召し物を無くされたお兄さま。
うふふふ、かぁごめかごめ。
私たちは籠の中の鳥。
いつ出られるのかしら?
後ろの正面だぁれ?」
痛々しい火傷を包帯の端からチラ見せる、ゴスロリドレス娘がいた。
美しかったであろう黒髪は、所々むしれておかしな髪型になっている。
フリフリのレースと薄ら笑いがよく似合う、「自我が狂った」子である。
「後ろの正面?てめぇしかいねぇだろ!?」
「そうなの……残念ながら私ひとりだけが正面なの」
噛み合うようでいて噛み合わない。
だがこの電波系妄想少女がノっているのは確かだ。スカートをたくしあげ、指をくわえた。
頬は紅色、潤んだ瞳、首は細く黒髪が流れてかかっている。
素晴らしいアウトラインの太ももに蜂のタトゥーが入っていて、包帯の白さとのコントラストがやたら映える。
つまりは、まぁ、エロい。
銀時のデイバッグの蔵書たちのようだ。
「嬢ちゃん、ふざけるのはこれぐらいなしてお家帰りな」
「うふふふ、蜂、蜂、お家がない。
風来坊のスズメバチよ」
#####
工場一階。
エドが安藤を探しに、リンにイマリの保護を託して離れた、わずか四十分ほど後。
二人と侵入者との攻防は始まっていた。
イマリ曰く『非科学的な科学の結晶』が、無茶苦茶な理由を述べながら追いかけてくる。
リンの気の感覚に触れていない未知の生物に、二人は踊らされる。
いや、生物ですらない。
当然だ。彼は参加者などではない。ゾッドの未確認支給品だった。
支給される品の当たり外れがひどいのはよくある話だが、これはひどかった。
かろうじて支給品だと判断できたのは、奴の背中に説明書が貼りつけてあったからだった。
「意思持ち支給品なんてありかヨ!」
ひとりごちるリンは、エドとの会話を思い返す。
*
「何でこいつと待たなきゃいけなイ!何もかも嘘っぱちな女と一蓮托生は御免ダ!」
「リン言い過ぎだ!」
てこでも動かないつもりだった。
「やれやれ、嫌われてしまったようですね」
「例え『気』が普通の女でも、腹に一物あるのは信用ならナイ!だったらオレが行った方がマシだロ!?」
「そっちの方が怖いんだよ。安藤にメチャメチャ敵意持ってるだろ?」
「当たり前ダ!媚びつ乗りつ情報流してヘラヘラヘラヘラ!
あいつのいた世界がどうなんだか知らないが、危機管理が甘過ぎる!綻びはソコから出るんダ」
「だからだ!シンでもアメストリスでもない、平和な場所の人間だ!『咲夜』だってそうだったんだろ!?」
言葉に詰まった。グリードが最期まで守ろうとした、無力な少女。
惨たらしいまでに身体をにじられ、ぼろ雑巾のように死んでいったあの姿。
グリードに刃を向け、後悔と絶望の中に取り残された魂。
忘れるものか。
忘れられるものか。
忘れてたまるものか。
「三階なら一個下だ。すぐ戻ってくる。三十分たって戻って来ないなら、工場から逃げろ。
リンの力なら、侵入者をやり過ごせるだろ?無事なら神社で合流だ」
「……チッ」
感情に流されるのは良しとしない。譲ってやったが、不満は募る。エドと行動を別にさせた原因の安藤に、どうしようもなく腹が立った。
万が一はぐれた時のために、かつ奴への仕返しに、安藤が持っていた大量の食料を半分エドに渡しておいた。朝にエドに支給された分を食っていたから、これで借りは返した。
*
工場を後にする時間が来てしまった。イマリを連れて、西側一階へ降りた途端、ソイツと鉢合わせして今に至る。
問答無用でソイツは攻撃してきた。
円柱に手足を差したブサイクな金属の固まりだった。腹にあたる部分に、大きく「8」とペイントしてある。
残念ながら、リンの力は金属にまで気配を察知できる万能な能力ではない。
「不燃ゴミとして捨てられる悲しみが貴様らにわかるのか――!!!!」
「知るカ!!」
説明文:介護用執事ロボ『エイト』
介護ガン・介護ジェット搭載
性格にやや難あり。
「とても介護用に見えないというのは無粋ですかねぇ」
丸みを帯びた金属で纏われていて、目にあたる部分が光る。
寸胴・鈍足・桃色の身体と間抜け面が緊張感を削いでいるが、腕に装着された銃に似た類であろう機器が妙にしっくりくる。
尻にあたる部分から、火を噴き出して飛んで来たりもする。
どの辺りに介護に必要な部品があるのだ。
おもちゃに命を与えたような馬鹿馬鹿しい外見とは裏腹に、相当厄介な侵入者だった。
リンにとって、『気』が完全にない敵と戦うのは初めてなのだ。
攻撃が単調かつ直線的なので次の手が読みやすいからいいが、なにせ正体も構造も不明な輩である。下手に攻撃しようなら、予測不能の反撃に出られそうだ。
ひよのの世界にロボット自体は存在するものの、自我を持たせるハイスペックな技術はない。
リンの世界には技術すら存在しない。
とにもかくにも、二人には未知の物体なのだ。
身体の造りを見る限り、中に人間が入れられる余裕はない。かといって走る音からは、空洞を示す微妙な反響は窺えない。
アル同様、魂を不恰好な鎧へ定着させたもののように思えたが、どうも違うらしい。
最悪にも、疲れ知らずの怪我知らずなのはアルと一緒のようだ。
――イマリと共闘する気はさらさらなイ。
囮になってもらおうカ。
「S●NYの技術はァァァア世界一ィィィィイ!!!!」
阿呆のような叫びを上げて、銃を向けてきた。
咄嗟に伏せたが、眼前の壁は蜂の巣になる。
囮にする余裕はなかった。
むしろ、逆に囮にされないようイマリのそばにいなければならなかった。
「何て皮肉ダ……!」
エドらの気配はまだ工場内にある。この破壊音聞いて、どうしてこっちに来ないんだ!?
#####
マクガイバーは、工夫が得意なヒーローなんだ。
身近にあるものを武器に戦うから凄いんだ。
★
「……っきしょ、左足じゃなきゃやられてたぞ」
金髪の少年が、左足に刺さったメスを抜く。
偶然左足に刺さったのではない。山中で残された足跡で、義足を装着した者の歩き方を観察した。
右足のものより深く踏み込み、かつ坂道の足跡は一般人に比べかかとまで刻まれていた。関節も義足である可能性が高い。
枝の折れ方が若干不自然であるのも留意する。太股の高さ辺りの損傷が、右側より左側の方が軽い。
そこまでを総合すると、膝上以上、付け根未満まで義足を装着しているのは確定と考えていい。
最後に、並んで歩く二人の様子を窺って大体の箇所を見当した。非常に高い技術の義足だ。隣で歩く安藤と大差が無い。
微妙な服の皺、布擦れの音、右足との動きの差から割り出した義足の弱点に、メスを投げたのだ。
ゴルゴは、演奏中のバイオリンの絃を撃ち抜く腕のスナイパーである。
照準の寸分狂い無い精度で突き立てた。
生身に攻撃しなかったのは、威嚇ついでに錬金術の情報を仕入れたかったからだった。
安藤に肩を貸していた点、ウィンリィから漏れた錬金術師の情報を重ね、有害ではなかろうと判断した。
安藤が間に割り込み、エドの反撃を止めて場が収まった。
「オッサンがウィンリィと工場で会った東郷か」
「その少女は放送で呼ばれたはずだ。何を詮索する」
表面では威勢のいい少年だが、内心畏縮しているのが見えている。
「あいつはオレの幼馴染みなんだよ!絶対に死なせたくなかった……なのに!」
エドワード・エルリックと名乗る少年は、手を出さず義手を握る。
背丈も低く、安藤より年下であろう躯につく義手義足は余りにも厳つい。
ゴルゴは足跡の大きさと歩幅から小柄で若い人間だと踏んでいたが、成人もしていないのは推測の範囲外だった。
鍛えてあるらしいがまだ幼い少年に、重厚な造りの鋼の手足が年相応以上に釣り合うのは、やはり場数を経験しているからか。
そもそもこの歳にして手足を失っている自体が精神を剛くした出来事だろう。
「オッサン、殺し合いに乗ってるか?安藤の護衛をしてる以上、無駄な殺生はしないはずだがよ、どうもそっち系らしい匂いがするぜ」
ゴルゴが見る限り、洞察力が皆無な奴ではない。熱くなりやすく、かといって冷静さを失わない。揚げ足を取って動揺させる戦略を用いる類型を窺わせる。
「錬金術師を探しているんだろ?オレが錬金術師だ。
幼馴染みと弟、短い間の仲間の弔い合戦を神にぶちかます。殺し合いをぶっ潰したい。
協力してくれ。
つーか、契約してくれ」
鳴海に続き、取り引きを持ち掛ける幼子が多い。
鳴海が静ならエルリックは動か。
「錬金術を使える証拠はあるのか」
「おお、あるさ。
ただしこの島に来てから調子が悪い。大きなものは錬成できねぇし、体力の消耗も激しい」
エルリックは両手を祈るように合わせ、床へとつく。
光輝が迸り、薄暗い工場の一室が鋭い唸りを上げる。
ズ、とリノリウムが歪む。
強度を織り成す鉄筋が中央に吸い寄せられ、一度石灰と砂利に分解されたコンクリートが覆う。
閃光の洗礼を眼に受け、瞬きをした寸刻ののち、頭痛がする奇怪なオブジェが完成していた。
「確かに、錬金術師のようだ」
「等価交換は知ってるだろ?錬金術の知識を売り渡す代わり、協力をあおぐ。あとインターネットの知識があったらそれも助言願いたい。こっちはそんなもん知らないんだ」
ほとんど捲し立てるエルリックの焦りの理由は、なんてことのない。もう一人の錬金術師に、危険な雰囲気を発するゴルゴを取られないようにするためだった。
もう一人の錬金術師は、国の崩壊に手を貸す軍事テロリスト集団の人間らしい。
そちらと先にコンタクトを取られると、要注意人物同士の組合せになり、全てが後手後手に回される危険があった。
更に安藤の弟も人質に取られている疑いがあり、下手に刺激ができない。
ゴルゴはエルリックの情報を仕入れた上で、聞き入れた。エルリックが優位そうだが、彼をねじ伏せる切り札があっての承諾だった。
賢者の石。エルリックが焦がれる高エネルギー体を、表に出しはしない。
運命の砂時計は、容赦なく粒を叩きつける。ある者は僅かな時間に感謝し、ある者は一瞬を悔いた。
エドは工場において最大の失態を犯した。
ゴルゴに気を取られ、約束の時間を忘れていたのだ。
家族、友人、仲間。永久に繋がりを絶つきっかけは、往々にしてそういうごく自然なものである。
『考えろ考えろマクガイバー。
考えろ考えろマクガイバー』
任務を完遂させるゴルゴと、出逢いの不審な運命を翻したいエドの板挟みになった安藤は、為す術なく傍観しぶつぶつと俯いていた。
劣等感の渦が肝の隅々まで染み付いてきているのは、二人の慧眼を持ってしてもそうそう察せはしなかった。
ただ、エドとゴルゴは交渉中でも行動は目の端にしっかり収めていた。
南側の窓へ、外を警戒しながら覗きに寄っていたのは放置していたが、すぐに真っ青になってへたり込んだのは逃さなかった。
一時取引を中断し、エドとゴルゴは共に駆け寄った。
今度はエドが屈む番だった。金髪をかきむしる腕すら、血の気が引いていた。
「モンタージュの危険人物だ……」
「いつの間に妙なのとつるんでるんだよ、クソッ!」
外野は五人。
二百メートルほど先に三人、その後百メートル先に二人いた。
空中を蹴るように足技を繰り出す少女。
攻撃を交わし逃げながら応戦する青年。
青年に抱えられ、額から血を流す少女。
ゆっくり歩きつつ三人を観戦する男女。
十中八九、後ろ二人と前線の攻撃している女はつるんでいる。
逃げる二人が、襲う女が、悠々と眺める殺人者が、工場へ近づいてくる。
波乱は免れない。
ゴルゴには、彼を無敵神にする拳銃がない。
エドには、遠隔操作できる錬丹術がない。
安藤にはそもそも技能がない。
見殺して逃げるか、勝ち目のわからない加勢をするか。
二つに一つの答え。
「ここでアイツに手を打たねーと、囮になって死んだタカマチに合わす顔がねーだろーがよぉぉお!!!!」
抗う。
奮い立たせるようでもあり、エド自身を追い詰めるようでもあった。
相手はこちらの存在に気づいていない。今のところ先手を打てる状況ではある。
やればなんとかなる相手でないのは身を持って知っているのに、歯向かおうとする無茶は譲れなかった。
(あえて死ぬ方を選ぶなんてバカのすることだ!!)
いつぞやの怒号がよぎる。
でも、女の子抱えて逃げる奴を見殺ししたら、それこそ恥だらけの大バカだ。
「……エド、どれぐらいの大きさと精度なら負担なく錬成できるか?」
安藤の機略が呼びかける。
「材料にもよるが、大体1メートルぐらいだ」
「ここに来て、飲み食いしたか?」
「した。どうかしたか?」
「……小学校の、理科の実験をしようと思う」
安藤は二人に案を話す。
真っ赤な瞳が、火の点いた光を発していた。
#####
ひよのは知っていた。
不可思議なからくりは説明しようもないが、不格好なロボットは初見ではなかった。
博物館の展示物に混じって佇む、粗大ごみからひっぱり出してきたような姿。
一昔前のブリキのおもちゃを大きくしたイメージそのままの形は一際目立った。
自我を持ち、攻撃力を備えていたのは想定外だが、ブサイクさは忘れることができないインパクトだった。
博物館から抜け出してきた?
何かの弾みでスイッチが入って、何かの目的で工場に来た?
意外にも、リンは二手に別れようとしない。囮にされないようにしているのか。
戦闘力がないこちらに押しつけるのは簡単だろうが、先刻の交渉術で警戒値が最大にされている。口先では何を言っても信用されないに決まっている。
結局、足を頼りに逃げる他なかった。
とにかく浴衣は走りにくい。裾を割って足を出せば多少は楽になるだろう。ごく近くにいい年頃の異性がいさえしなければ。
全裸で街中を爆走した身分でいうのもなんだが、うら若き乙女である。二度三度と同じ痴態は晒せないのだ。
落ちている鉄屑が裾にひっかかる。浴衣が少しずつぼろになっていく。
雪対策する前にまた仮の服を見つけなければなりませんね、と思った途端、銃弾が掠める。
ロボットの顔立ちが間抜けなせいか、どうも緊張が削がれている気がする。
ワープポイントまで行って、ロボットが来る前に塞いでしまえばこっちの勝利なのだが、非常口まではまだ随分遠かった。
それに、工場北側はあと少しで立ち入り禁止区域になる。迂闊に外へも飛び出せない。
――二足歩行可能な武器搭載ロボットなんて、清隆さんもびっくりですよ。
「逃げるなあぁぁぁ!!
パッチはどこだあぁぁぁあああ!!!!」
ロボットはなぜか泣きながら追ってきた。本当に、どういう仕組みか分解して調べてやりたい。
しかし、パッチ?
修正ファイル?
「エイトさん、ここが何の工場なのか知っているのですか!?」
「知らない!大体のものは工場に揃ってるって相場が決まってるんだ!!」
身も蓋も、ついでに暴れる根拠さえもなかった返事。どうもおつむが弱いらしい。
この場合はCPUというべきか。
ガシュガシュと走る機体は、ここで初めてミスをした。それはもう、情けないまでにこけた。
2メートル近い巨体が、床に伸びたコードに引っ掛かり、ひよのとリンの間をスライディングして壁にぶち当たったのだ。
自力で立つには不便すぎる造りをしたロボットは、まるで逆さにされた亀のようだった。
介護ジェットとやらを噴射し方向を変えるも、また別の壁へ衝突する結果に終わった。
弾みでそこらに落ちていた鉄線に自らがんじがらめになる。
挙げ句の果てに、
「はっ、話せばわかる!だから殴らないでください〜〜」
命が無いロボットに、命乞いをされてしまった。
*
「人生色々あるのは身を持って知りましたが、ロボットの人生相談に乗る日が来るなんて思ってませんでしたよ」
ひよののため息で、ロボットは錆そうになる。
リンが中身を確認したが、中身が空洞ではないと知るやいなや投げ出した。
自称:介護用執事ロボは、随分と感情的な性格をプログラムされているようだ。
素晴らしい自立AIも、この短気さで台無しになっている。
泣きながら愚痴るエイトの言葉の端々には、情報がちりばめられていた。
リンを不快にさせた駆け引きを再びせずに済んだのは幸いである。
エイトは復讐を誓う相手がいると漏らした。
復讐の相手とは、大富豪の三千院ナギとその執事綾崎ハヤテ。身体の特徴から綾崎ハヤテと割り出せる人物とは面会済みだった。
他でもない、博物館で。
もしこのエイトが博物館の展示物ならば、彼の死を知らずにたどり着くのは考えにくい。
また、不燃ゴミ処理場に捨てられてからのデータがなく、気づいたら工場付近にぶちまけられていたそうだ。
エイトは本人曰く唯一無二のロボットで、前身となった似ても似つかぬロボの他にはいない一個体とのこと。
思い出すのは、給湯室にいる間、こっそり確認した掲示板の書き込みだ。
『9 名前:バトロワ好きな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:XO7all1TH
荒唐無稽な話だが、君たちの探している知り合いは、君たちの知る彼らではない可能性がある。
それぞれが違う時間から呼び寄せられている可能性を、考慮に入れておいてくれ。
そしてゾルフ・J・キンブリーに妲己。
友を虚仮にしてくれた君たちを、僕は絶対に許さない。
いずれお礼に行くから、なるべくその時まで生きていてくれよ。』
(違う時間軸からの召喚ですか。確かに荒唐無稽ですね)
これを踏まえると、安藤の話す『鳴海のカノジョ』像と、『鳴海』の認識の微妙な食い違いも納得がいく。
一個体が二つ存在するのは、ロボットである以上博物館のロボットがレプリカであるのも捨てきれないが、
(もし同一体であるなら厄介ですねぇ。
この島・各々の住む世界に加えて、未知の引き出しがあるやもしれません)
★
リンの期待は、場違いにも膨れ上がった。
アルのような命をつなぎ留める印は見当たらず、機械仕掛けのホムンクルスでもなさそうなエイトの体。
まさしく不老不死そのものだった。
エドが確かに工場内にいる気配を感じていたにも関わらず暴走機器に付き合っていたのは、紛れもない不死への興味だった。
#####
《三つのボールを、狭いエリアに立つ人間の的に当てる。全部避けきれたら的の勝ち。一つでも当たれば投げた側の勝ち。》
地を蹴る。
爪先の針の切っ先が砂を巻き上げ、鈍い風に散った。
天翔る馬のように、中空へ脚を躍らせる。踵は蹄の如く雲を叩き撥ね返し、翼の代わりに託されたフリルを存分に広げた。
両足を揃えて着地する。あくまで華麗に、優雅に。
アルカロイドが塗りたくられていた針を、目の前の無防備なヒラメ筋にプレゼントする。
残念ながら毒は流されていたが、林檎のように赤い血は、殺意を性欲に変換して依存する身体に熱を注いだ。
大股で飛び上がり、細い腰をひねる。浮かぶ白い太ももは太陽の残滓と重なり、骨すら透き通るほど艶やかに見えた。
コンマ数秒のはずの回転が、ひどくゆっくりと輝いた。重点に磨いた足技が、雲間の光を湛えて宙を切る。
くるぶしが、男の側頭へと見舞われた。
しかし惜しくも薙ぎ払われる。
悲鳴を洩らす女を肩に担ぎ直し、男は武器を手にする。
みなぎるのは破壊衝動。
幻ともとれる、甘美な絶対有利な立場に酔いしれた。
天然パーマに死の接吻を交わし、眼球を潰すには、まだリーチが足りない。
戦うには忌々しいまでに長い距離と、戦うには狂おしいまでに短い時間が愛しい。
少女を下ろさず、業物を抜く男。太く固そうな足に、赤い涙が垂れている。
胸にはじけるのは興起と魅力の泡。
いつか見た、優しいお兄様と重なる。
集められた男はフェミニストばっかりだろうか。必死に弱者を守る男性は美しい。だからなぶり、ねぶり、はみたくなる。
じわじわ追い詰めたい。
相手も人ひとり抱えている割には軽いフットワークだ。横一振り、刃を滑らせられる。
刃が起こす風は士気を携え、鋭い衝撃波になる。
皮膚が削がれて血の温かさを感じたが、またそれも幻だった。傷はついていない。
社交ダンスに似たステップを踏み、突きをかましてきた。脇腹に大穴が空いていてもいい攻め込みだったが、
すりっぷ
打撃は無効。だがその勢いを生かし、少女を地面に落とさずに一回転した。
土産に一太刀浴びせられる。またぱらりと服が切れた。
惜しいところだった。もう少しで少女の額の傷へ爪を立て、顔面をひっぺがしてやれたのに。剥き出しの筋肉に飛び出た眼球が拝めたのに。
包帯が邪魔だ。
留め具をぴんと外す。
全身に巻きついた、膿だらけの包帯をいっぺんにほどいた。
新体操のリボンを思わせる、ふんわりとした一筋。
薄汚れた白い帯が、めくれるゴスロリ服の下の裸体を晒していく。魔法少女の変身を逆再生させたかに見えた。
腕も顔も胴体も、大切な商売道具の脚も、冷たくなってきた空気に触れた。
白夜叉と少女は息を飲む。
今まで攻撃してきた女が隠していた姿を見た。
焦げ、焼け、削げ、剥け、もげ、切れ、脹れ、擦れ、蒸れ、腫れ、垂れ、濡れ、
動くのもままならないはずの重度の火傷を負っていた。
包帯に染みた膿が固まり、取る際に少量の肉も一緒にこびりついている。
麻痺させていたのは血肉への興奮と戦闘欲だ。醒めないクスリを打ったように、すっきりしている。なのに夢の中にいるように、ふわふわしている。
両立しえない二つが、確かにそれぞれ成り立っていた。
「……冗談はほどほどにしろよ、オネーサンよぉ」
「冗談?私に本気も嘘気もなくってよ。
そのお姉様を置いていけば、逃げる時間を与えますわ」
「それこそ冗談にしか聞こえねぇな」
「……本当に、素敵なお兄様。その娘には勿体ないくらい」
包帯が砂利にまみれる。
傷を清潔に保つ防護壁はなくなった。
後ろ歩きで距離をとろうとする男を追う。眉間へ深々と針を突き立てるまで、どこまでもつきまとう。
――スコン
軽い音が降ってきた。
見ればさっきまではなかったはずの、空のペットボトルが転がっていた。
共通支給品の一つ、飲食物のものだ。
プラスチックらしき軽い円錐が容器の底に接着され、側面には三角の翼が貼ってあった。
なぜか、火のついた煙草も数本くくりつけてある。
もう一本、今度ははっきり飛んでくる影を確認できた。
発車点は百メートルほど先の工場の屋上からだ。
援護射撃のつもりか。
こんな頼りない、ペットボトルロケットが。
難もなくよける。
情けないゴミはまた転がる。
曇天でなければ、最後の一発が地に映る影でわかったはずだった。
ほぼ真上から、三つ束ねられたペットボトルが体当たりをしに落ちてきた。
視界にあまり入って来なかったのは、このペットボトルだけ大きく高く放物線を描いた軌道だったからだ。
二発目、いや一発目が発射されるよりも前に空中にいたに違いない。
最初の二発は囮だ。
小賢しい。
針付きのシューズではたき落とした。
冷たい水が服と頭にかかる。
いや、水ではない。
匂い、量、両方とも推進用に使う水とは考えられない。
気化熱に体温を奪われた瞬間、煙草の火が唸った。
ガソリンが、爆発した。
#####
リン逹がエイトに襲撃されている頃、三人は屋上にいた。
エドとリンで消費した食料支給品と、エドがたまたま持っていた多数の食料品から、ペットボトルを抜き出した。
計五本の空のペットボトルに簡単な工作を施す。
エドには空気ポンプを錬成してもらう。
二本は囮兼点火用。
ゴルゴが持っていた小物の煙草と、エドの情報を引き換えにペットボトルへくくりつける。
意外に煙草の火は消えにくいのだ。
残り三本は組み合わせて、強い推進力を持たせる。
安藤が工場の隅で発見したガソリンを、正確に飛ばせる限界まで乗せた。
ペットボトルロケットの飛距離は、最大二〜三百メートルだ。
余計な荷物を乗せているので、どれほど飛んでもせいぜい百メートル程度。
前線で男女を襲う女が圏内に入った瞬間から援護射撃を始めた。
ガソリンさえ飛び散れば、目標には当たらなくてもいい。
とはいえ、目標物に当てる精度が悪いのはペットボトルロケットの弱点でもある。
しかし参加者中、最高の射撃の腕前を持つ者がここにはいた。
彼は打ち上げる角度、力、時間を瞬時に計算して、概数を叩き出す天賦の才能を持つ。
すべて有り合わせのミサイルが完成した。
閃いた者、作る者、技術を携える者が、まるで迎撃するべく示し合わされたかのように揃っていた。
結果、完全に成功したのである。
ただ、エドにとっては不測の事態だった。ガソリンをひっかぶらせるつもりはなかったのだ。
二人と襲撃女の間に炎の壁を作るだけだと、安藤に聞かされていたのに。
ゴルゴのメス投げを目の当たりにして、この人なら上手く炎の壁を作れると信用してたのに。
「……殺し、た?オレが?」
いくら直接手にかけてはいなくとも、不測の殺人に協力したのは事実だった。
「まさか、殺人を元より承知でこの仕掛けを考えたのか……?」
安藤とゴルゴに問う。安藤は千切れんばかりに首を振った。
「偶然だ、俺にそんな度胸はない!本当に、引き離せられればいいだけだったんだ!」
ゴルゴの返事はない。
後悔、懺悔、変えられない現実。
ひたひたとエドに迫る重圧の枷。
「うわっ!?」
ゴルゴが安藤とエドを抱える。
「危険人物が来る。退くぞ」
退くって、どこにですか!
安藤が尋ねる前にゴルゴは屋上を脱出した。危険人物は南側から来る。そろそろ工場北側は封鎖される時間だ。
巨体に秘められた瞬発力で、一気に階段を駆け降りる。
途中、薄いガラスを割り、工場全体へ危機信号を送った。
ジリリリリリリリリリリリ!!!!!
けたたましく響く警告音。
火災報知器が鳴り渡る。
スプリンクラーが作動し――防火壁が下りる。
当然、水族館へのワープポイントにも。
ゴルゴは、工場一階を探っていたときに発見した非常口へ滑り込んだ。
【A-3/水族館ワープポイント非常口前/1日目/日中(14時十数分前)】
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ及び擦り傷、デカいたんこぶ、
頭部に裂傷(小・手当て済み)、精神的疲労(中)
[服装]:膝下ずぶ濡れ
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記、食糧1人半分
[思考]
基本:皆と共にこの殺し合いを叩き潰す。
0:人を殺した……?
1:リンと合流したい。
2:計画≠フ実現を目指す。そのために神社や付近の施設の調査。
この島で起こった戦いの痕跡の場所も知りたい。
3:鳴海歩と接触するため、自分用の携帯電話を入手したい。
4:出来れば聞仲たちと合流。
5:キンブリーの動向を警戒。
6:リンの不老不死の手段への執着を警戒。
7:安藤との出会いに軽度の不信感。
8:九兵衛の首輪を調べたい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました。
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※レガートと秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
※インターネットの使い方をおおよそ把握しました。
※“混線”の仕組みを理解しましたが、考察を深めるつもりは今のところありません。
※九兵衛の手記を把握しました。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。
プラントはホムンクルスに近いものだと推測しています。
また、島の中央に何かがあると推測しています。
【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(8/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)、熱湯入りの魔法瓶×2、ロープ
携帯電話×3、安物の折り畳み式双眼鏡、腕時計、ライターなどの小物、キンブリーの電話番号が書かれたメモ用紙
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
1:護衛対象を守る。
2:首輪を外すため、錬金術師を確保する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
4:第三回放送頃に神社で歩と合流。
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
結崎ひよのについては含まれません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※ガサイユノ、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※旅館のボイラー室から島の上空がワープ空間でつながっています。
ワープ出口は地上1km強あたりの上空を移動中。
ゴルゴは出口の移動の法則を把握しました。
ただしどこに移動しても常人が落ちたら死ぬ高さなのに変わりはありません。
※一日目午前の時間帯に、島の屋外で起こった出来事を上空から見ていた可能性があります。
※エドと簡単な情報交換しました。
#####
「チクショウ!開かナイ!!」
工場西側、ひよのとリンが、次々と閉まっていくシャッターから逃げ場を探していた。
防火壁横には、逃げ遅れた人たちのために鉄扉の設置を義務付けられている。その肝心の扉が開かない。
念入りに溶接されている。
ひとたび非常ベルを鳴らしたら、閉じ込める、もしくはもう入れないように造られている?
閉じ込められたら、外敵からは守られるが、次の封鎖区間に選ばれて生殺しのまま終わりだ。
なら窓は?
防音強化ガラスが嵌め込まれている。
換金孔は?
出るには狭すぎる。
ひよのの知る、ワープポイントへの道も、目の前で封鎖された。この分では、地下の意味深な空間も行けなくなる……
警告音が鳴っているが、災害的な危機の可能性は薄い。危険人物がいるか、外から近づいているか。
最後の出口になるシャッターが下り始めた。
光が段々閉ざされていく。
あと数十メートル。
全速力で走っても間に合わない。
「リンさん、捕まって!」
ひよのはエイトの鉄線をほどいた。解放されたと喜ぶエイトを再び突き飛ばす。
俯けに倒れたエイトへしがみついた。
「エイトさん、介護ジェットを噴射して下さい!」
リンも合点がいったのか、エイトの腕を掴む。
工場にいたもうひとつの巨体も秘められた力を発揮する。
今までで最高の出力で、エイトは離陸した。
猛スピードで、床すれすれを伏せたままかっ飛ぶ。
風圧をもろに受ける。
引き剥がされたら、金属片が散らばる床に皮膚を切り刻まれる。
爪先が防火壁の隙間から抜けた瞬間、シャッターが下りた。
だがついた勢いは簡単に止まらない。
壁に衝突する!
エイトのねじのような両耳を掴み、リンが舵を取った。
床から垂直な壁へ、滑る対象が変わる。景色が90度傾いた。
工場出口の扉をぶち破る。エイトの頭部がはっきりひしゃげた。
「ガ……ピビピ……ガ」
不吉な機械音を漏らす。
工場を飛び出し、まだ直進する。
わかる。どうしようもないくらいわかる。風邪をひくのが直前でわかるように。
リンとエドに使った長い腹話術。
慣れない体力消費。
鳴海とエドへの羨望感、劣等感、重圧感。
潤也と一緒にいる、第一級危険人物キンブリーへの殺意。
ひよのへの敵対心。
それらがない交ぜになった上での、殺人日記への興奮。
これが決定打らしい。
――加えて能力制限の力が働いて、本来の時期より早まっているのだが――
腹話術の副作用だ。
大量の鼻血を生産コンベアにぶちまけた。
自由になった手の平で鼻を覆うと、すぐに真っ赤な泉ができた。コンベアに上半身を突っ伏す。まだ血は垂れる。
疑いようもない。身体が、脳が、五臓六腑が、副作用の悲鳴を上げ始めている。
朝の気絶はこれの予兆だったのか。猛スピードで身体が内側から壊れていく。
これ以上腹話術を使ったらどうなる?自分の能力の使いすぎで……
錬金術は等価交換が基本なんだろ?一からは一のものしか作れないんだろ?
どうして、どうしてこんなちっぽけな力にこんなでかい副作用があるだよ!?
ハイリスク・ローリターンなんて最悪だ。諸刃の剣どころか、とんだ時限爆発だ。
こんな理不尽、あってたまるか。
そうだ、賢者の石。万能なら、この不釣り合いな副作用を和らげてくれるぐらいしてもいいじゃないか。錬金術師のエドだって、これは同等のリスクじゃないとわかってくれる。
携帯だけはどうにか拾った。胴体とスラックスの間に挟む。
これは第二の心臓になるだろう。大切に扱わなければ。
「安藤!」
ああ、高嶺の能力者が来た。
チャンスが、たった一度のチャンスが潰れた。
死にかけの魚のするようにぱくぱくと口を動かす。
リンも伊万里も着いてきていない。
「おい、何があったんだよ安藤!?」
そりゃ見てもわからないだろう。襲撃されてもいないし、転んで顔面強打したようにも見えないから。
気づけば携帯以外の支給品含むデイバッグはコンベアに流され、口を開けた生産機器へ飲まれていた。
どういった品を作っているかは知らないが、異物混入で機械はいずれ故障する。
「体調、不良だ。ちょっとマズい、かも」
「給湯室行くぞ。そこで集合になってる。
……アンドウ、手かせどうした?」
「……外れた」
白々しい嘘だと、自分でも思う。エドも不信感たっぷりな視線を寄越す。
「外した、じゃないのか?
まあいい、肩貸せ、右腕回せ、歩けるか」
左手首を長い布で縛られた。義手の右腕に捕まれ、エドに肩を回す。手首の余り布の端を噛んだエドは、小さい体を安藤に貸した。
これで腹話術に手を打ったつもりか。
『手を拘束しなくても腹話術は使えるんだよな』
無防備な背中だった。
すぐに手をかけられそうな、格好のシチュエーションだ。
ただ、リンと伊万里はともかく、エドは首輪の解除と脱出に確保しておきたかった。
キンブリーの情報を得るためにもだ。
それに、同じ年子の弟を持つ兄として、一番共感を得られそうだったから。
ミスです。御免なさい。
#####
炎の中心では、くすぶった女が狂ったように身体の肉をむしっている。これは自分の身体ではないと確かめて、認めずにいる。
力尽きて、女は崩れた。たまに表面の炭が剥けて、眼球や歯があらわになる。
思わぬ援護射撃だった。
女だけ相手をしていたが、バックにより危なそうな男女が構えていたのは知っていた。
――やっぱあの工場に隠れるのが一番じゃね?
まだ距離があるうちに離れたい。
逃げ足は脱兎のごとし。
破魔矢が頭をかすめる。
こちとら戦車とやりあうはめになったんだ、矢がまだかわいく感じる。
工場まであとちょっと……で、ものすごい警告音とジェット音が聞こえた。
直後、扉を跳ねとばして奇っ怪な物体が出てきた。
バイク?ミサイル?
地面と平行に空中飛行してたが、しがみついてる野郎が舵をきって、垂直へ立て直した。
「サイダイ、カイゴジェットカイホ、ウ、シマス
5、4、3、2、」
片言を話す物体めがけ、
「俺らも乗せてくれぇぇぇぇえええ!!!!」
しがみつく。沙英を担いだまま銀時は首を手を回し、最初から乗ってた娘はロボ腕に、野郎は足をロボ腕に絡ませロボ耳を握る。
「1」
#####
「なんだよ、面白くねぇな」
ぷすり、と使い捨ての道具が燃え尽きた。
様子見でほっぽっておいたが、あの面倒くさい性格のスズメバチを相手に、人ひとり抱えたまま戦ってたのは称賛できる。
手を合わせてもらおうかと射掛けたら、とんでもない機械に乗って上空へ消えちまった。
比喩じゃねぇ。本当に消えた。
すぐ後に、全然別の空で爆発、旅館あたりの場所でも爆発が起こった。
無関係じゃないだろう。
妙な空間でつながってんじゃねーかきっと。
それにしても何だったんだありゃロケットか?
しょぼいペットボトルロケットがスズメバチを的にしてたのは最初から最後まで見てたが、あんな馬鹿みたいな
ロケットを見ると、ペットボトルを必死にどうこうした奴が哀れで涙が出る。
まぁいい。
見てたってあの女を助ける義理はない。
あの手駒はいずれ全身化膿して死ぬ運命だった。
ふんどし変態野郎と戦えただけでも有難いと思え。
「あの辺りかしら。落ちた場所は」
「死んでんじゃねーか?あんな高さから墜ちたんだからよぉ」
「生きてるか死んでるかなんて関係ない。
ルフィを、サンジを殺した奴なら、死体を男が男である証を、女が乙女である証を破壊するわ」
おお、おっかねぇ。
身震いした。ロビンに、ではなく、ちらついてきた白いものに。
【スズメバチ@魔王 JUVENILE REMIX 死亡】
【E-6/工場入り口前/1日目/日中(14時数分前)】
【秋葉流@うしおととら】
[状態]:健康、法力消費(小)
[服装]:とらとの最終戦時の服
[装備]:錫杖×2、破魔矢×13
[道具]:支給品一式、仙桃エキス(10/12)@封神演義、注連縄、禁鞭@封神演義、詳細不明神具×1〜3
PDA型首輪探知機、研究棟のカードキー、化血神刀@封神演義
[思考]
基本:満足する戦いのできる相手と殺し合う。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
0:ロビンを利用しつつ参加者を撃破。
1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
3:高坂王子、リヴィオを警戒。
4:聞仲に強い共感。
5:万全の状態でとらと戦いたい。
6:ロビンの『世界を滅ぼす力』に強い興味。
7:空中のワープゾーンに興味。
[備考]
※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。
※ロビンが咲かせるのは右手だけだと思っています。
※PDAの機能詳細、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※ゆのからゆのの知る人物(ゴルゴ13と安藤(兄)以外)についてある程度の情報を得ました。
※上空の『何か』と旅館が怪しいと睨んでいます。
【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]:左腕に銃創×2(握力喪失、手当て済み)
[服装]:シャツにジーンズ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(名簿紛失)、んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ×1)@銀魂、
双眼鏡、食料、着替え、毛布、研究棟のカードキー
[思考]
基本:勝ち抜き狙い。帰ったらプルトンを復活させて世界を滅ぼす。
1:秋葉流と協力して、効率的に参加者を排除する。
2:可能なら、能力の制限を解除したい。
3:ヴァッシュに対して――?
4:ルフィたちのいない世界なんていらない。
[備考]
※自分の能力制限について理解しました。体を咲かせる事のできる範囲は半径50m程度です。
※参戦時期はエニエスロビー編終了後です。
※ヴァッシュたちの居た世界が、自分達と違うことに気がつきました。
※ゆのからゆのの知る人物(ゴルゴ13と安藤(兄)以外)についてある程度の情報を得ました。
#####
それは手榴弾より軽い重さ。
それは両手にも余る大きさ。
それは『神』に運悪く選出されたリンに、バランスを取らさせようとするが如く授けられた代物。
導かれたような巡り合わせは、また導かれたように別れを告げる。
★
なんとなく、『気』がおかしい上空へリンは舵をとる。
安藤が落ちてきたときに感じた妙な気配。工場への侵入者が出入りしていた妙な気配。
それが近くを縦横無尽に動いている。
いつエネルギーが切れるかもわからぬ機器をひねり、気配を追い続けた。
だが空の旅は、急激な展開で終わる。
流から放たれた破魔矢が、四人の乗る機械へまっしぐらに向かってくる。
機体を大きく旋回させた。
揺れた瞬間、デイバッグの隙間からバラバラの実がこぼれ落ちた。
リンは腕を伸ばし、実までの距離が足りないとわかるや空中に身を放り投げる。その動作を認識するまでには全てが終わっていた。教会近くの森へ、すでに飲み込まれていた。
そんな一瞬だが、銀時は、沙英は、ひよのは、忘れることが出来ないリンの表情を見た。
血走った目に焦りの眉、引き結んだ口、執着の隈、そしていとおしげに実を抱える腕。何もかも噛み合わないが、リンの性格をいっぺんに表していた。
悪魔の実は、関わる人間を滅ぼす、文字通りの悪魔となった。
【E-7/森/1日目/日中(14時数分前)】
【リン・ヤオ@鋼の錬金術師 生死不明】
※少なくとも500m以上上空から落下しました。
#####
体が動かない。
金縛りみたいなことって本当にあるんだ。
皮肉だけど、ひとり落ちて軽くなった機体は、空に飲み込まれた。
操縦は、銀さんと浴衣の女の人がめちゃめちゃやって、不可逆一方通行のワープを覆した。どうにか最初に落ちた旅館へ戻れた。
ロボットはボイラー室を出た廊下の天井に頭をぶつけた。
銀さん曰く、
『ギャグにおいて、顔が適当で人格があって使い捨てキャラっぽい小者臭がするロボは大概爆発オチ担当なんだよっ!!』
らしい。
ロボットをワープ空間に押し込んで、銀さんは女の人も一緒に抱えて階段を上った。
顔面の筋肉が崩壊しそうなほど物凄い形相の銀さんが、どうしようもなくおかしかった。そんなこと考えている場合じゃなくても、変な笑いがこみあげた。
壊れたのかな、私も。
いよいよおかしくなったロボットは爆発した。よく助かったと思う。
爆風で変な方向へすっとばされて、大浴場へダイブした。床が異常にぬるぬるする。
ゆの、私ちょっと疲れちゃった。
お願いだから、無事でいて。
【エイト@ハヤテのごとく! 死亡】
【G-8/旅館大浴場/1日目/日中(14時数分前)】
【沙英@ひだまりスケッチ】
【状態】:額に深さ数mmの切り傷、全身麻痺、洗剤まみれ、ツッコミの才?
【服装】:
【装備】:九竜神火罩@封神演義
【道具】:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、大量の食糧
輸血用血液パック
【思考】
1:何が起こったか把握したい。
2:銀さんと協力して、ゆのを保護する。
3:ヴァッシュさん達は無事だろうか?
4:銀さんが気になる?
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する。
6:ヒロの復讐……?
7:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れた?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※宝貝の使い方のコツを掴んだ?
※ワープ空間の存在を知りました。
【坂田銀時@銀魂】
【状態】:疲労(中)、洗剤まみれ
【服装】:下がふんどし一丁(生地切れかけ)
【装備】:和道一文字@ONE PIECE
【道具】:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義、大量の甘味、水洗いしたズボン
【思考】
1:目が肥えたオタならすぐに想像つく爆発オチを最後に持ってくるとか最悪じゃねぇか!?
2:沙英を守りながら、ゆのを探しに行く。
3:ヴァッシュ達と合流したいが…。
4:深夜になったら教会でグリフィスと合流する?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。
※流とロビンを危険視。しばらく警戒をとくつもりはありません。
※ボイラー室へ続く廊下の天井に大穴、旅館が半壊しました。
【エイト@ハヤテのごとく!】
ハヤテと執事能力バトルをした短気な介護ロボ。単行本第2巻からの参戦。
介護ガン・介護ジェット搭載。本来なら加えて介護ミサイルもついている。
一応意思持ち支給品なので、CPUに爆弾装備(爆発)。
博物館展示物のエイトとの関係は……?
ムルムル温泉ですか。
『神』もなかなか趣味の悪い仕組みをお持ちのようです。
ボイラー室と上空がつながっているなら、本来あるはずのボイラーはどこにあるんですか?
この通り、お湯はしっかり沸いています。
どこか別の場所にボイラーがあって、隠すためにトラップを引いたのか、
そもそもボイラーなんて存在しなくて、代わりに中空からエネルギーを吸いとっているのか。
どちらが真実であるかによって、仕掛けた目的も変わってきますね。
ワープトラップと傷に効くやら疲労回復やらの効能は、その副産物ではないでしょうか。
やれやれ、工場といい旅館といい、この島の地下は色々ややこしそうです。
地下室があるのはここだけではないはずです。
調べてみる価値はたっぷりありますね。
【G-8/旅館大浴場/1日目/日中(14時数分前)】
【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、喉にごく小さな刺し傷
[服装]:浴衣の下にイルカプリントのTシャツ、ストレートのロングヘア
[装備]:綾崎ハヤテの携帯電話@ハヤテのごとく!
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、太極符印@封神演義、改造トゲバット@金剛番長
番天印@封神演義、乾坤圏@封神演義、パニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマム
若の成長記録@銀魂、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、
秋葉流のモンタージュ入りファックス、柳生九兵衛の首輪、水族館のパンフレット、自転車
[思考]
基本:『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。蘇生に関する情報を得る。
0:雪に備えてもっとまともな服を調達する。
1:鳴海歩と合流したい。
2:エドワード・エルリックとなんとしてでも合流しておきたい。場合によっては他の人間を撒いてでも確保。
3:博物館を重視。封神計画や魔子宮などについて調べたい。図書館と旅館も同様。
4:送ったメールへの返信を待ち、探偵日記の主との直接交渉の機会を作る。
5:あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
6:安全な保障があるならば封神計画関係者に接触。
7:復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
8:三千院ナギに注意。ヴァッシュ、ナイブズ、レガートに留意。
9:ネット上でのキンブリーの言動を警戒。場合によってはアク禁などを行う。
10:安藤(兄)の内心に不信感。
11:リンの敵意を和らげたい。
12:できる限り多くの携帯電話を確保して、危険人物の意見を封じつつ歩の陣営が有利になるよう
掲示板上の情報操作を行いたい。
[備考]
※清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※手作りの人物表には、今のところミッドバレイ、太公望、エド、リン、安藤(兄)、銀時、沙英の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
※太公望の考察と、殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
※超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
※モンタージュの男(秋葉流)が高町亮子を殺したと思っています。警戒を最大に引き上げました。
※太極符印にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
結崎ひよのは太極符印の使用法を知りません。
※探偵日記と螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※フィールド内のインターネットは、外界から隔絶されたローカルネットワークであると思っています。
※九兵衛の手記を把握しました。
※錬金術についての詳しい情報を知りました。
また、リンの気配探知については会話内容から察していますが、安藤の腹話術については何も知りません。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。魔子宮に関係があると推測しています。
※島・それぞれがいた世界の他に第三のパラレル世界があるかもしれないと考えています。
※旅館の浴場とボイラー室のワープトラップの奇妙な関係に気づきました。
#####
腹と服の間、殺人日記に触る。
『本当に、引き離せられればいいだけだったんだ!』
嘘だよ。
東郷さんに頼んだんだ。
炎の壁よりも、マーダーを排除して欲しいって。
エドは攻撃した俺を残して工場へ行かなかったし、他人を思いやれる優しい奴だ。
だから言えない。これから人殺しの手伝いをさせるなんてな。
どうすれば鳴海やエドたちのように強くなれるのか、考えた。
色々考えて、遠回りして、やっと辿り着いた。
まず、できるところから始めよう。
危険なマーダーを殺していこうってな。
ちっぽけすぎる力でどこまでできるかわからない。途中で殺られるかもしれないし、副作用の悪化でそれどころじゃなくなるかもしれない。
でも、でたらめでも、信じれば世界は変えられる。
なら、変えてやろうじゃないか。
運命はまだ誰も選んじゃいない。
え?殺人日記?
これほどまでに神への反抗に都合がいい道具はないよな。
けど、まだ使ってないよ。
考えて考えて、ペットボトルロケットを思いついたんだ。
しょっぱい作戦だったけど、結果オーライだろ?
時期がくるまで……俺は自力でマーダーを排除する方法を考える。
【A-3/水族館ワープポイント非常口前/1日目/日中(14時十数分前)】
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:全身打ち身(中)、腹話術の副作用(中)、魔王覚醒(?)
[服装]:泥だらけ
[装備]:殺人日記@未来日記
[道具]:なし
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦う。マーダーを折りを見て倒していきたい。
0:殺人日記――
1:エドの信頼を得て、脱出の手掛かりを探る。
2:潤也と合流したい。場合によってはキンブリーを殺すことも辞さない。
3:首輪を外す手段を探す。そのためにエドとは一緒にいておきたい。
4:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
5:第三回放送頃に神社で歩と合流。だが、歩本人へ強い劣等感。
6:東郷に対し苦手意識と怯えを自覚。
7:『スズメバチ』の名前が引っかかる。
8:エドの機械鎧に対し、恐怖。本人に対して劣等感。
9:リンからの敵意に不快感と怯え。
10:関口伊万里にやりどころのない苛立ち(逆恨みと自覚済み)。
11:危険人物は、可能なら折りを見て殺す。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※掲示板の情報により、ゆのを一級危険人物として認識しました。
※腹話術の副作用が発生。能力制限で、原作よりもハイスピードで病状が悪化しています。
※落下中に上空のドームを見ていますが、思い出すかどうかは後の書き手さんにおまかせします。
※九兵衛の手記を把握しました。
※殺人日記の機能を解放するかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※工場の生産ラインの一部に異物(ひしゃげたパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム 支給品一式×2、工具一式、金属クズ)が混入しました。
変なものが生産されるか、故障するかは後の書き手さんにお任せします。
※工場に防火シャッターが下りました。ただし道具を使えば普通に破壊できます。
また、地下空間へのシャッターは存在しません。
#####
白夜叉は立ち向かう。
美術に秀でた少女は翻弄される。
錬金術師は悩む。
魔を断つ少年は決断する。
スナイパーは任務をこなす。
妖怪専門家は闘いに期待を馳せる。
海賊は夢を見る。
探偵の助手は考察する。
それぞれの思いは交差し、離れていった。
ただし。
深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ。
64 :
代理:2010/04/10(土) 12:55:16 ID:nqlZbFQp
以上、投下終了です。
もしよかったら代理投下して頂けると助かります。
そして早速間違いを発見したので訂正します。
エドの状態表
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記、食糧1人半分
↓
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記、食糧1人半分、割れた鏡一枚
でした、情けない。
809 名前: ◆RLphhZZi3Y[sage] 投稿日:2010/04/10(土) 10:04:41 ID:LkOmKOlMO
またミス発見。
>>23(でいいのかな?)
『東側一階に一人だガ、絶対おかしイ。
更にだナ。また一階の話だガ、空間がおかしい場所があル。はっきり感覚がある東側の奴は、そこで反応が出たり消えたりしてイル』
↓
『西側一階に一人ダ。
更にだナ。また一階の話だガ、空間がおかしい場所があル。はっきり感覚がある西側の奴は、そこで反応が出たり消えたりしてイル』
本当に情けないです
投下乙です。
エイトとか予想外過ぎたw
安藤が順調に破滅への道を歩んでるわリンが生死不明になるわ……。
スズメバチは最期までイカレてたな。
指摘ですが、「マーダー」は正しい単語ではないので(正しくは「マーダラー」)特に理由が無いなら「殺人者」などの別の単語に置き換えた方がいいかと思います。
投下乙です
非常口の出入り口には変化なしか
空の穴から再び旅館に戻るとはびっくりな発想だが、その途中でリンが飛び降りたか
生死はどうなる
ゴルゴの対応にちょっと違和感あったけど、まぁ後付けでなんとかなるかな
>>35の後が抜けてるようなので
ぬるりと滑った。
ただ、服は裂けた。
素敵なスリットがはいる。
尻が地面につくギリギリまで屈み、収縮した筋肉を解き放つ。高く高く跳躍し、膝を曲げ男の前頭部に一発かます。
少女を棄てれば避けられたのに。本当に優しいお兄様。
脳内モルヒネは大量分泌している。火傷の痛みも感じない。火照るのは身体の表面よりも、頬と胸と下半身。
だって、乙女ですもの。
風が一時止む。羽の化身であるスカートが膝下まですとんと隠す。
ちょいと生地をつまんで空気の階段を駆け上がる。
刃がどこかにかけられた気がしたが、無視する。
幾分狙いとはズレて、面の皮をごく薄く剥がした程度に終わる。
無関心そうな顔をしていても、背筋がぞくぞくする危険な香りが漂うこの男を手込めにしたい。
縦に爪先を下ろす。
ふんどし男の、大事な場所を守る砦に切り込みを入れた。
少し距離が足りず、腰に回す布の部分がほつれただけだった。だが、いずれ切れるだろう。ずるをしたミサンガのように。
眼鏡の少女が暴れだす。
少女は肩の妙な飾りを途中まで発動させたが、男に拒否される。待ち一辺倒に転ぶとまずいなんて叫ばれ、しゅんとなっていた。
その通り。待つのは性に合わない。立ち向かう無謀な顔、逃げ場のない恐怖に怯える顔が好物だから。
刃の乱れ斬りをかいくぐる。服がどれだけぼろ切れになっても構わない。
お荷物のせいで実力を発揮できない男だけをいたぶるのは癪でもある。男の頭に手を置き、それを軸に上空へ半回転する。
男の背中側に、担がれた少女の頭がある。着地寸前、少女の頬をそっと撫でてやった。眼鏡の下の端正な顔立ちがくしゃりと歪む。
今まで少女の重みに耐え踏ん張っていた、たくましい二本足が浮く。男は武器を持つ片手だけで倒立前転し、勢いで背後のマーダーを蹴り上げていた。
すりっぷ
なお、
>>64は
>>20ですね
分割点を指定して頂ければ、wikiにも収録しておきます
…つか、今までwiki収録で少しミスっていたことにさっき気付きましたw
修正ありがとう
投下乙
確かにエイトとは予想外過ぎだわ
それぞれがそれぞれらしい行動の結果が…これぞバトルロワイアル
エドと安藤兄、ひよの、リンと別れたか
銀さん組にひよのが加わったがこのままだとキンブリーとご対面かもw
そして予約でこの二人がご対面だと?
前篇が34kbで多分入らないです
後篇が31,5kbなので、もうちょっと前で区切ってください
リンの所からだと後篇が37kbになるので、適当なところで切らないと無理っぽいです
お任せいただければそういう風に編集しますが、嫌なら三分割指定でお願いします
タグが多いから3分割しないと無理かも
投下乙です!
……リンの行動に本気で狂気を感じた。カノンなみにぶっ壊れてるんじゃなかろうか……。
バラバラの実を空中で食ったりできればノーダメージで着地できるか?
安藤もネジが飛んできたな、嫌な予感ばかりが膨らんでくw そしてパニッシャーからは何が生まれるんだw
エイトには吹いたとしかw
スズメバチは元々死に体だったし流れ兄ちゃん達の戦力がほとんど落ちてないのも怖い。
そして地下にはいったい何があるのやら。ひよのはいろいろ鍵握ってるだけに頑張ってほしいな。
マーダーとかの所謂ロワ用語は確かに使うと不自然かな、と思います。
足首から下は折れるかもしれないけど、食えば一応無事に着地出来るな<バラバラ
うーむ、「マーダー」「意思持ち支給品」辺りは確かに直した方が良いかも
そういやこれで男女比が約3:1か
良い感じに少年漫画の比率になってきたな
76 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/12(月) 20:01:43 ID:/EW/Zxti
まとめwikiがエラー出るけど記録が飛んだのか?
404だと……
wiki丸ごと消滅したっぽいぞおい
なくなって わかったwikiの ありがたみ
さすがにwiki丸ごと記録してる人はいないだろうな
しかしなんで消えたんだ?
基本的にログインできなきゃ消せない、はず……
@wiki側で何かあったのなら、この限りではないが……
おお、サンクス
パロロワ毒吐き別館 パロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレ6より転載
1384 :1383:2010/04/12(月) 23:05:21 ID:???0
22:35〜22:58にかけてgoogleでキャッシュさらってみました。
拾えたのは116ページ。
消えた時300ページ以上あったみたいだから、半分も拾えてないと思う。
キャッシュ収集が早かった人がいれば、これ以上拾えてると思う。
1385 :1383:2010/04/12(月) 23:09:52 ID:???0
と思ったら、本スレで過去ログうpしてる人いるようですね。
要望無ければこっちのデータのうpは不要ですかね?
>>83 念のために、必要があるまでとっておいた方がいいと思う。
wiki収録後にSSを改訂する場合があるし、なによりSS本編以外のデータは過去ログには収録されてなかったりする。
>>84日本語でおk
念のためにとっておいた方がいい。
wiki収録後にSSを改訂する場合があるし、wikiに直接書き込まれたネタもある。
被った、リロ忘れすまぬ
帰ってきたら大変なことに……。
私の分は取り敢えず原文を公開しておきます。
これをwikiにコピペして色指定と最後の「時系列順で読む」以降の部分を加えれば正しく機能するはずです。
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/102845 今日の夜になっても解決しなければ、本編0話から50話までサルベージ開始しようと思います。
もし他にサルベージして頂ける方がいましたら51話以降を優先してお願いします。
やってみれば解りますが一人では少々苦しい量です。
最後に、
>>81氏と毒吐き別館の交流雑談所1383氏に深く感謝致します。
あ、passはnewmangaです。
>>91 乙。
1383氏のキャッシュ見る限り、wikiのpageは331まであったみたい。
wikiでやった加筆修正とか、wikiにしかないデータを全て元通りにするのは難しいだろうね。
しかし、これまでパロロワのwikiが飛んだことなんてあったのか?
こんなの初耳なんだが。
あったにはあったけど、色々事情があるので触れないようにして欲しいかな
95 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/13(火) 13:05:49 ID:DboTjxl0
しかも該当ロワが……だからなあ……
>>91 現在位置の管理人です。夜サルベージ作業のお手伝いをさせていただきます。
51話〜100話のサルベージを担当させてください。開始可能時刻がいつになるかは未定ですが、25時までには可能だと思われます。
98 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/13(火) 23:30:43 ID:mYohrTtI
お疲れ様です。ありがとうございます
お疲れ様です
時間が取れたら自分も復興を手伝います
寝る前に余裕が出来たので来ました。毒吐き別館の交流雑談所の1383です。
>>97でキャッシュが纏められたようですので、私のほうからうpしたキャッシュは先ほど削除しました。
少しでもお役に立てたのなら幸いです。
皆様有難うございます。
画像認証は解除しました。ご確認下さい。
>>102 解除ありがとうございます。すでに作業にとりかかっておりますが、進捗から考えて本日中に出来るのはSS本文の作成のみとなりそうです。
後日、SS下のリンクテーブルを作成したいと考えております。
本日は作業途中ですが、中断します。また明日以降51〜100話を復旧します。
取り敢えず50話までの本編を復旧しました。
ただ「地獄とは神の在らざることなり(前編)」が何故か1kb近く容量オーバーしてしまいます。
どなたか復旧可能でしたらお願いします。
ゾッド、趙公明、代理投下します
趙公明は自重しない。
1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:11)
11(?):麗しき貴族“C”からの招待状 投稿日:1日目・午後 ID:7thmaRCoI
諸君! 僕が麗しき貴族C.公明である!
僕の伝説は紀元前から始まった!
僕の武勇伝が聞きたいかい?
そう、あれは千五百年前の事だった……!
あの時僕は、通天教主さまに崑崙との宝貝試合をもちかけたのさ。
しかしそれは叶わなかった。だから僕は一人で崑崙山に乗り込んで、原始天尊くんと思う存分戦いに興じたのさ!
その結果、仙人界は暴力が支配する恐怖と混乱の時代となったんだ!
僕の伝説は紀元前から始まった!
僕の朝は一杯のコーヒーで始まる。
僕の午後は一杯のアフタヌーンティーにて始まる。
そして僕の夜は豪華に優雅にモンラッシェで終るのさ!
さて、僕の雄姿が知りたい君!
僕の華麗なる立ち振る舞いを目にしたい君には、次の動画を一日5時間視聴してもらいたい。
きっと貴族というものがどういうものか理解できるはずだ!
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm2508500 僕の伝説は紀元前から始まった!
僕の伝説は終わらない。これからも明けの明星のように輝き続ける……!
まだまだ僕の一端でも紹介するには語り足りない。
しかし紙面が足りない以上、名残惜しいが本題に入るとしよう!
そこの君! そう、ウィンドウの奥のトランペットを眺めるようにこの書き込みを見つめている君!
お察しの通り僕は“神”の手の者、この遊戯盤における鬼札さ。
そんな薔薇の運命に生まれた気高き騎士たる僕と、是非とも手合わせしてみたい君たち!
あるいは“神”たる彼に挑もうと虎視眈々と付け入る隙を狙っている君たちに朗報だ!
そろそろこの殺し合いも円熟し、この“ネット”を知るものも十分増えた。
だから僕は考えた!
そうだ、武道会を開こうと。
それもただの武道会ではない、華やかに、美しく、麗しき武道会を開こうと思う!
ルールはバーリ・トゥードのバトルロワイヤル!
その場に集まった者たちで好き勝手に闘り合おう!
もちろん命と命のぶつかり合いだ、そこに容赦と手加減などの一切はなく、死人が出るのも致し方ないだろう。
戦場という名のこの世で最も高貴な舞台となるのは競技場だ。
既に君たちのうち何名かにはその旨を伝えてあるけれど、せっかくならば盛大にと思ってね。
楽しみを皆で別てるよう気を使うのも貴族の嗜みなのさ。
そこに僕の趣向がいくらかないかといえば、確かに否定はできないけどね!
ちなみに出席者は今は内緒にしておこう、誰が招かれているのか秘密にしておくのも花というものさ。
もしかしたら君たちの良く知る誰かも何らかの理由で参加するかもしれない。
彼か彼女を慮るならば、是非とも心当たりのある者も来てくれたまえ!
そうそう、戦いは本来それだけでこの身を掛けるに値する代物だが、しかし中にはそこに意味を見いだせない可哀想なお友達もいる。
悲しい事だね……!
だが、そんな友人たちにも是非とも己の意思で参加してもらいたいと、僕は考える。
故に――賞品を設けようと思う!
武道会を戦い抜き、僕に勝利したならば君は栄光、名誉と共に実利まで手に入れられるのさ。
それはこの遊戯と、主催者たる“神”の情報だ!
僕はこれらについて、君たちからの質問に答える事を確約しよう!
この会場の中で、彼と直接面識があるのは僕だけだ。
いや、主催陣の中でさえ彼の顔を知っているのは片手で数えられるかどうか。
そんな数少ない面子の一人である僕からの、この招待状を見た者はとても幸運だろう。
そして急ぎ決断したまえ。
彼との唯一の窓口たる僕が万に億に一つ敗北してしまった場合、その場に立ち会う事の出来なかった君は、
一生“神”の情報を手に入れる事が叶わなくなるのだから!
それだけじゃあ物足りないという強欲な君!
無論僕は他にも商品を用意しておくよ、楽しみにしていたまえ!
集合は午前0時、第4回放送の頃だ。シンデレラの魔法が解けるのと引き換えに、素晴らしき戦いの時間が始まるのさ!
オー・ルヴォワール、願わくばまた会おう! また会おう……!
そしてトレビアーンに戦おうじゃないかっ!
P.S.不幸にもネット環境を得られずこの招待状を見る事の出来ない人々にも、是非ともこの催しを知らせてくれたまえっ!
**********
西の方に走り去っていく重なり合った二つの影。
その背が木立の向こう側に消えたと同時、辺りに全く配慮なしに豪勢な音楽が響き渡る。
優美に建物の上から降り立った金髪の美青年――趙公明。
パチン、と手にした携帯電話を閉じて、彼はブワリと涙で頬を濡らす。
「素晴らしい……! 素晴らしい!
いや全く、文明の進歩というのは実に素晴らしい!
僕たちの時代にもこういうものがあれば、と思わずにはいられないね!」
クルクルと舞う趙公明の周りには、薔薇の花弁が幾重もの螺旋を作り出している。
音源の見当たらない曲といいこれだけ大量の花といい、一体何処から持ち出したのか。
「ノンノンノン! 無粋な突っ込みはよしたまえよ地の文くん!
それよりもさっさと今の僕の状況を説明したまえ!」
メタ発言は止めなさいと。
世界観を崩すつもりか。
「ふむ……それもそうだね。僕とした事が迂闊だった。
このお話もせっかくいい具合に進行してきたというのに、これでは物語として美しくない!
では、読者の諸君! これまでのやりとりは存在しなかったという事で一つ頼むよ!
リテイクだ!」
| /::::::::::::/ _ ,.- ―――- - 、_ `ヾヽ
| /::::::::::::ムi刈/,.イノi ノ ./.: ,イ、.ノ i`ヽ、 ヾ.i
| しばらくお待ちください / :::::::::::::ヾiハ.i/i/、_'´ ノイ / '´ .|....i ヽ ',.
| / :::: :r_ヽミ i' 、_、_` ー-‐ i::::ハ:、 ...ヽi゙|
| /::: : .i .入 〃,Cヾヽ jノ i!i::: :::ヽ|
| ./:::: ::::: ..| レ.} `; 弋;ソ ' .ヽ、.j }::::::::: |
| /::::::::::::::::::i i .ノ ` ー ' ,ニ、ヽ `ーi::::: : |
| ./::::::::::::::::::::::ヽ` /// | .{シ∂ .ト ./::イ:: ,|
| 、_,.イ.ノi::::::::::::::::::::| | ! ヾニ 、、./:ノj_ノ
た |  ̄ノ:::::::::::::::::::::,:! '. ,、 ヾ> // /
だ. | `、-.-.-ゥ: ̄ ̄ヽ‐-、::|i! '. .ハ_`ヽ、 /
今..| `>:/:::/_,_: : : : ヾi! ヽ .i: : ヾ/ ノ
の . | ,イ/:/: :イ / ヾi: : : :', : :ヽ ヽ ´ ,.イ::|
放 .| i/:i: i: ェ、i/ ,-ュiイ: : :、:i : :|::ヽ、_ ,. . ィ'´:::::i::::i.
送..| |/Vイ '@ '@ヽ`i: : i,ヾ、 : i::::、:::::::::i::::::::::iヾ::::::::ヽ、.
に..| ヾi,`ン `、´、.iハ::i:', ハiヾ、::::|、:::::::i ヾ::::iヾ:i_
不..| ト、 、=ヲ , i'i: :i、'、 i ヾ:i ヾiヾ、_ ヾi
適..| _iヽ _ ィ´ ヾiハi―、_
切 . | ,.ィ ´ ヾi::i _ノ ハ 冫- 、
な..| _,ィ´ | /. jノニ二 ノ i ``ヽ、__
表..| ,、‐'´ 、 i_ , ィ´ヽ、 (ヽ. | i `i、
現 .| _/´ ̄  ̄ ̄ .、ヽ、冫 '. .| , / / / ̄`ヽ、
が..| / 、 ヽ_ン'´ ヽ '.ノ ./ / ,)
ご..| / /一´i`´ ヾーi―/ /
ざ..| ヽ、_,. -‐ ' ´ | ___.!ノ /
い..| '. / / _/
ま..| __ '. / // / / , __. -‐' ´
し..| ィ ´ <:::::::`:::..、 ! / / `i__/ ./ ノ-'´i
た..| ,.イ:フ'' __ヾ:_:_:_:_::iヽ、__.|ヽ `´ー' 冫
こ....|,イ::::::こくりつ. / `Y ヽ、/ .r-、'´ ̄  ̄`Y´  ̄`、 .r-、
と....|::::::| ̄ ̄|-'^-| / ヽ | | l、 .| / |
.を.....|` |.[ ̄].|_―_' ー-r-、7 .|ヽ、 ',/ i`ー―― '  ̄| .! / / がくえん
お..|::::|.[_ .d.|、V / / r' .| i::ヽ、_ノ | y' __/ // /く>くY >|  ̄ ̄ l
詫..|、: :| L..コ.|-' '┐ / .| / .i:::::::/ /_i__( .7 i | _  ̄_`l ヒ コ |.
び. ..|::..└‐‐.┴.‐.┘ / ハ、_ノ i:::/ / `i――/ .| L|  ̄ i-l l__l |
致. ..|、::::::::i , --、__/ / __/ ハ.____ノ ./ i┌テ .'-| { = }..|
.し . | ヾ、:::ヽ.i /__ l´ ./ </ / `―´ ./| i .L_ __」 [, <>.|
.ま | ヾ、.ヽ、__ノ::::::::::::ヽ、_/ / ! / .| | | ̄ / .| ´ ` |
す . | / `ー‐‐'´ ヽノ
...| / ム_ ヽ_A
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**********
西の方に走り去っていく重なり合った二つの影。
その背が木立の向こう側に消えたと同時、辺りに全く配慮なしに豪勢な音楽が響き渡る。
優美に建物の上から降り立った金髪の美青年――趙公明。
パチン、と携帯電話を閉じて、趙公明はブワリと涙で頬を濡らす。
「素晴らしい……! 素晴らしい!
いや全く、文明の進歩というのは実に素晴らしい!
僕たちの時代にもこういうものがあれば、と思わずにはいられないね!」
クルクルと舞う趙公明の周りには、薔薇の花弁が幾重もの螺旋を作り出している。
まったく脈絡もなしに唐突に思い付いた武道会のアイデア。
彼はその、自身のアイデアの素晴らしさに打ち震えているのだ。
そしてだからこそ――ミリオンズ・ナイブズと今戦う事を選ばず、見送ったのである。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードとミリオンズ・ナイブズ。
太公望という好敵手を失った今、彼が最も闘いたいと願うプラントの兄弟。
だが、趙公明は普通に戦うだけでは物足りない。
華やかに、麗しく。即ち華麗なる戦いでこそ、彼のその欲求は満たされる。
その為の手段として思い付いたのが、競技場を舞台とした件の武道会。
やるならば盛大に、それこそ会場の他の参加者すべてを相手取って戦ってみたいとさえ彼は思う。
この無謀なようで実に彼らしい考えに辿り着いたのは、デパートで狂戦士の甲冑を掘り起こした直後の事。
視線を感じ、それとなく辺りを探ってみれば、間違えようのないナイブズの気配がそこにあった。
喜び勇んでその挑戦状を受け取ろうと思ったのは一瞬、しかし彼の感性がそれを否定する。
決着をつけるならばもっと相応しい舞台で――と。
タイミング良く闖入者が現れ、ナイブズの意識を逸らしてくれたのは幸運だった。
あのままでは間違いなくナイブズから仕掛けてきていただろう。
……本当は、闖入者である黒い剣士――間違いなく“ガッツ”であろうと趙公明は確信しているが――とも、手合わせしたかった。
心の底から戦いたくて、しかしどうにか震える手で駆け込もうとする体を自制。
溜めて溜めて溜め込んで、それを一気に解放した時に感じるエクスタシーこそ至高であると、趙公明は知っている。
歩く。貴族衣装を靡かせて。
歩く。出どころの知れないワイングラスを傾けて。
歩く。無駄に丁寧なクラシックを伴って。
歩きながら――考える。
既に招待状の発送は終えている。
ネットという自分の世界にはない技術に目を付けて、誰の眼にも止まるよう武道会の開催をアピールした。
だが――どうせならばお楽しみを大量に用意したい。
せっかくだから、様々な趣向を今から考えておこうと考える。
たとえば、パーティーにはサプライズが付き物だ、とか。
主役は遅れて登場するものだ、とか。
その中の一つとして思い浮かんだアイデアが――これだ。
「初めましてゾッドくん! 僕は薔薇の貴公子、趙公明!
突然だが、君には僕の馬車となってもらいたい!」
趙公明の視線の先には、巨躯の益荒男が珍しくも呆気に取られた顔を見せていた。
**********
ゾッドにはどう応対すればいいのか分からない。
目の前の珍妙な男がどんな存在なのか、まったく掴めない。
故に沈黙で返し、その剛腕を振りかぶるも――、趙公明とやらは全く無視してぺちゃくちゃ囀り続けるのみだった。
「……というわけで、やはりパーティーにはサプライズゲストが必要だと僕は思う。
その意味で言えば、一度退場したはずの君以上の人選はないと言えるだろう。
宴も最高潮に達したその時に、君の背に乗り僕は空からエレガントに舞い降りるのさ!」
喧しい。
力ずくで黙らせる。
轟、という音と共に右の拳を突き込む。
その一撃は岩をも砕き、生む風は容易く肉を切り裂く。
……が。
「ふむ、闘る気満々のようだね。
願ってもない、僕も話に聞く君の強さを一度味わってみたかったのさ!」
――趙公明と名乗った男は、無事だった。
傷一つすら負わず、それどころかゾッドの拳の上に飛び乗ってさえいたのだ。
「……その巫山戯た格好、伊達ではないという事か」
ニィ、と趙公明の笑みが深くなる。
……ゾッドは、理解した。
表面上は自分とまったく相容れないように思えるこの男。
しかし、更に奥の奥の何処かで、非常に良く似た性質を共有しているのだ、と。
「アン」
腕の上を伝い、趙公明が踏み込む。
いつの間にやら手にしていた剣による高速連続刺突。
「ドゥ」
冷静に振り払おうとするも、どういうバランス感覚をしているのかぴたりと張り付き剥がれ落ちない。
故に、左手を肉の壁に。
無数の穴が掌に穿たれるも気にせず、そのまま張り手をブチ込んだ。
当たる。
しかし、効果は薄い。
「トロワ!」
最後の一突きを弾き飛ばされる直前に放った趙公明は、空中でムーンサルト。
ひらりと彼が着地したと同時、ゾッドの左頬から血が噴き出した。
趙公明の剣は、左手を犠牲にしてもなお突き刺さったのだ。
ジュウ、という音と共に左の手と頬が再生を始める中、ゾッドは一瞬の攻防で生じた疑問を叩き付ける。
「……何を悩む。戦うならば迷いを捨て全力で来るがいい。
叶わぬならば、貴様はここで潰れるぞ」
……趙公明の剣には、そのキレの割にほんの少しだけ鈍るものがあった。
それが何かは分からないが、ゾッドは手を抜かれたようで不快を感じている。
やはり彼も趙公明に劣らぬ戦闘狂。
故に彼は、相手が本気を出す事を望む。
それが何をもたらすか知る事はなく。
「……ふむ、バレてしまったならしょうがないね。流石は百戦錬磨の不死のゾッドだ!
なに、話は簡単さ。僕は君相手に宝貝を使うかどうか迷っていたんだよ」
心の底から申し訳なさそうな顔をして、趙公明は真摯にゾッドに向き合う。
「――宝貝を使うなら、宝貝を持つ相手かヴァッシュくんやナイブズくんのように特殊な力を持つ者に僕は限りたい。
それが僕の信条だからね!
しかし、君のような頑強な肉体と再生能力に特化した相手というのはその判断基準に照らすのは実に難しい……!」
宝貝とは何か、ゾッドにはその言葉の意味は分からなかったが――、しかし、出し惜しみをするなとの苛立ちを得る。
自ら望んで死に臨もうとするその姿勢に、趙公明は太陽にも似た笑みを浮かべる。
この選択は間違っていないだろうと、それを確信して。
そして。
「ここで盤古幡を手にするのは簡単だ。けれど、やはり僕は自分の信条は貫きたい!
だから――、」
趙公明がその言葉を口にすると同時に、ゾッドは趙公明の姿がゆっくりと解れていくのをその眼に、脳に、心に刻み込む事になる。
まるで――自分たち“使徒”がその本性を露わにするときのようで。
しかし趙公明の体から発される圧は、大帝ガニシュカすら上回りかねない代物だった。
「だから僕は、同じ鬼札たる君にだけ、僕の“とっておき”を見せてあげる事に決めたよ!」
ゾッドはそこで、初めて気づく。
……この男もまた自分と同じく、“神”の陣営に送り込まれた存在であるのだと。
「どうだい? ある意味で君と僕の在り方は――良く似ているだろう?」
ああ、本当に良く似ている。
それを認めたと同時、ゾッドの体もまた蠢き始めた。
歓びの叫びをあげながら、黒い獣が翼を広げる。
咆哮。
支援
**********
戦いは僅かに42秒で終結した。
しかし、その42秒で周囲数百メートルの森は、悉く消え失せた。
まるで旱魃でも訪れたかのように――草は枯れ、木は崩れ、無数の罅割れが大地に走っていた。
それはあたかも核戦争後の世界であるかのような光景だった。
その爆心地、エリアの三分の一近くを占める巨大なミステリーサークルの中央にて、傷だらけのゾッドは沈黙する。
情けを掛けられた屈辱が、彼の心を支配する。
その口から恨み節を漏らす事を、避けられない。
「……それ程の力を持ちながら、何故決着を渋る。
貴様ならば、今すぐにでもこの島を文字通り支配し埋め尽くす事も可能だろうに」
独り言だったはずのそれに、いらえが返る。
勝者が元通りの姿となって地にその影を映し出していた。
その体からは一切の傷が消え去っている。『とっておき』を経由した影響だろうか。
ただ、ほんの僅かの開放にもかかわらず――疲労の色がその顔には微かに表れている。
「ノンノンノン、そんな単調で面白みのないゲームなんてやる価値はないだろう。
勝てばいいという血生臭い戦いの時代は終わったのさ、如何に彩るかこそ戦いの醍醐味だよ!」
一々鬱陶しく感じるその所作に噛み付く気も湧いてこない。
完膚なきまでに敗北した。
ならば、出来る事など決まっている。
「……それで、返事はどうかな?
僕の力を認め、今夜の宴の招待状を受け取ってくれたなら幸いなのだけどね」
「是非もない。……ただ、時間まで如何にして過ごせばいい。
無為に過ごせというならば、今から貴様の首を捩じ切るぞ。たとえ届かなくともな」
それだけは譲る事が出来ないと、誇り高き戦士は猛る。
だが、無用な心配だ。
趙公明もまた同類。ならばそこを慮るのは当然の事。
「はーっははははは! 僕の器はそこまで小さくはないさ。
――好きに闘いたまえ、君の心の命ずるままに。
ただ、ね」
「……何だ?」
「できれば、キンブリーくんに合流してもらいたい。
彼は僕との連絡手段を持っていてね、パーティーの直前に再開する事も容易くなるだろう。
まだここから東、そう遠くない所にいるはずだ、空から探せば見つけるのは簡単なはずさ。
特徴は――、」
付けられた条件を耳に入れながら、ゾッドは子供のように心臓の鼓動が大きくなっていることを実感する。
この男の巻き起こす戦乱とやらがどれほどのものか、いつしかそれを楽しみにしている自分がいた。
「……宴の直前、貴様の連絡が入るまでにその男と合流していればいいのか」
「その通りさ! キンブリーくんは僕や君の同類だ、きっと仲良くなれると思う。
一応キンブリーくんにも、見つけやすい屋外にいてくれるよう連絡を入れておくよ。
では――グッドラック! この素晴らしき闘争の場を君も大いに楽しんでくれたまえ!」
返事はしない。
この戦場で最後まで生き抜ける見通しの少なさなど、とうに把握している。
だから、趙公明の思惑など夢物語だ。第4回放送までに自分が死んだらどうするというのだ。
しかし、それでも――、
「…………」
口の端が吊り上がっていることを、不死のゾッドは自覚する。
【H-06北西/森/1日目/午後】
【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:疲労(中)、全身に火傷などのダメージ(大)、左頬に軽微な裂傷、左手に無数の裂傷(小)(全て回復中)
[服装]: 人間形態、全裸
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:例え『何か』の掌の上だとしても、強者との戦いを楽しむ。
0:しばらく体を休め、傷を癒す。
1:出会った者全てに戦いを挑み、強者ならばその者との戦いを楽しむ。
2:金色の獣(とら)と決着をつける。
3:趙公明の頼みを聞く気はないでもない。武道会に興味。
4:キンブリーとやらを探す。
[備考]
※未知の異能に対し、警戒と期待をしています。
※趙公明に感嘆。
**********
鼻歌を奏でながら何処かへ歩み去ろうとする趙公明。
不意に、そのポケットから誰もが一度は聞いた事があるであろう音楽が流れ始めた。
曲名は――ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲 第三番交響曲“英雄”。
フランス革命後の麒麟児ナポレオン・ボナパルトに捧げられながら、ナポレオンの戴冠に際してその意義を剥奪された逸話を持つ曲だ。
その由来を知っているのか知らないのか、趙公明は羽ばたくが如き所作で携帯電話を取り出し耳に当てる。
「やあ、セリムくん! どうしたのかな、そんなに慌てて。
もっとエレガントな立ち振る舞いというものを学びたまえよ!
君は見た目も中身も――まだまだ若いのだからね!」
『どうしたもこうしたもありません、あなたは何を考えているのですか!?
これだけの独断専行……、“彼”の情報を賞品にするなど、いくらあなたが“ハンター”とはいえカバーしきれませんよ。
“彼”直々の介入ですら――、』
その言葉を耳に入れた瞬間、趙公明の上機嫌は更に更に際限なく高まっていく。
「トレビアーン……! “彼”をゲストに招く事が出来たなら、きっとパーティーは盛り上がるに違いない。
どうだい、セリムくん。君もそんな所で“セイバー”に徹していないで、たまには一緒に楽しもうじゃないかっ!」
『……戯れもいい加減にしてください。
今の私は“セイバー”。参加者がこちらに踏み込まぬよう間接的に制御し、“彼”の目的達成をサポートするのが役割です。
逆に言えば、それ以外の存在意義はない。……エドワード・エルリックに滅ぼされたこの身を再生してくれたことに報いねばなりません。
ガニシュカといいあなたといい、“ハンター”はやり過ぎです。
参加者に直接介入し殺し合いを促進するというその一点だけに専心していただかねば」
一笑に伏す。
趙公明は人生の先達として、子供のままの精神の存在を親切心から侮辱する。
「やれやれ、君は本当に幼い。青さには時として狂おしいほどに憧れるものだが、今の君は全く魅力がない。
もう少し自我というのを強く持ち、己の欲のままに行動したまえ!
そうでなくてはこのパラダイスを存分に楽しむ事など出来ないよ!」
電話の向こうは憮然とした態度を崩すことなく――、
『……警告はしましたよ。
ガニシュカの勝手な行動が彼自身を破滅に誘ったのは“ウォッチャー”から聞いていると思います。
その意味をしっかり覚えておくことですね』
吐き捨てるような言葉と共に、ブツリと通話がそこで途切れる。
ツー、ツー、ツーと単調に響く音をボタンひと押しで消して、趙公明は朗らかに笑った。
「……さて。キンブリーくんにも連絡しておかないとね。
僕がゾッドくんに接触した事を教えたら、彼は移り気な僕に嫉妬してくれるだろうか?
そうあってくれたらとても嬉しい!」
趙公明は自重しない。
【H-06北西/森/1日目/午後】
【趙公明@封神演義】
[状態]:疲労(小)
[服装]:貴族風の服
[装備]:オームの剣@ONE PIECE、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演義、狂戦士の甲冑@ベルセルク、橘文の単行本、小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
0:キンブリーにゾッドの事を伝える。
1:闘う相手を捜す。
2:競技場に向かいつつ、パーティーの趣向を考える。
3:カノンやガッツと戦いたい。
4:ヴァッシュ、ナイブズに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
8:ネットを通じて更に遊べないか考える。
9:狂戦士の甲冑で遊ぶ。
10:プライドに哀れみの感情。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者の戦闘に関わらないプロフィールを知っているようです。
※会場の隠し施設や支給品についても「ある程度」知識があるようです。
※ポータルサイトの機能の一つに動画共有があります。
※H-06北西部を中心として、直径300メートルほどの森林が枯死しています。
827 : ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:42:14 ID:cyVgEGHo0
以上、投下終了です。
タイトルは
『戦おうじゃないかっ、趙公明1番!!』作詞 C.公明 / 作曲 魔礼海
です。
それと、恐らくしたらばの仕様だとは思うのですが、
>>816の後に本来は空白行が15行ほど挿入されています。
代理投下終わりです
確かにこいつは自重しねえええええええwwwww
前半は笑えたがゾッドを下しただと?
ふざけつつも底が見えないこいつは…
競技場でどうなるか先が見えねえ…
腹筋崩壊するかとwwww
本文からタイトルから何まで笑いを禁じえんwwwwニコ動も吹いたwwwww
本当に自重しないなコイツwww
展開的には凄く熱いな。第4回放送まで何人が残っているかが問題だが
投下乙
マジでプラント兄弟同時対決とかやりそうだなw
おっと投下乙を言うのを忘れていた。改めて乙です
代理人さんも乙です
しかし冷静になって考えると結構危ういんじゃないか
趙公明は能力制限されてないんだっけ?制限有でこれだと本当にチートw
キンブリーの方も来ていたので代理投下いきますね
槍で刺せば死ぬ。
どんなに屈強な『番長』でも。
どんなに狡猾な『女狐』でも。
…どんなに狂った爆弾魔でも。
平等に、人は死ぬ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
目は覚めてるんだろう。
ただ、なんだか体が動かない。
……俺、何してたんだっけ。
ゆっくりと瞼が開く。
弱々しく首を動かして、周囲を見る。
たった二つの動作をするのにも随分時間がかかった。
安藤潤也は少しずつ思考を回復させていく。
「おはようございます、と言っても今はお昼ですがね」
しかし、回復しきる前に声をかけられた。
視線だけそっちへやると、男が立っている。
見覚えがある。確か話をした事もある。誰だったっけ?
「失礼ですが、少しキレイにさせて頂きましたよ。貴方の格好はあまりに酷かったので」
そう言われて初めて気がついたが、自分の上着が脱がされている。汚れていたからだ。
汚れ?なんで汚れてたんだっけ?
「それと、少し信用がならなかったので多少細工をしました」
動こうとすると、両足が鎖で縛られていることに気づく。これじゃ逃げられない。
でもまぁ、首輪よりマシだ。
…なんで首輪なんて思い浮かべたんだろう?
……もう、やめよう。どうしたって逃げられない。
俺に残された道なんて、もう10個もないだろう。
きっと選ぶまでもない。
覚悟を決めて、潤也は顔をあげる。その目はひどくよどんでいた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「意識はハッキリしましたか?」
「あぁ、おかげさまで」
キンブリーが入れた紅茶もほんの一口飲んだだけで、潤也は再び押し黙った。
状況はちゃんと理解している。当然ペラペラ喋る気分じゃない。
意識こそハッキリしていたが、頭の中はまだ少し混乱したままだ。
しかし質問には一応答えた。彼の質問は潤也の現状を知ろうというもの。
この殺し合いに巻き込まれてからの行動をいろいろと質問される。
要所をボカしつつ潤也は返答した。
その対応を見ながら、キンブリーという男を見定める。
自分は妲己を刺して、どこをどう走ったのかこのキンブリーと出会った。
そこで死者蘇生の方法が実在するかどうかを確認した。現状はそれだけだ。
しかし眠っている間に拘束されてしまったわけである。マヌケな話だった。
答えるだけ答えて少し落ち着いてきた。今度はこちらの番だ。
「拘束が気になりますか?失礼とは思いましたが…まぁあの格好でしたからね。
当然の対応と思って下さい」
「そんな事はどうでもいいんだ。アンタ…死人を蘇らせられるんだろ?」
「えぇ」
改めての問いにも、キンブリーの答え方は実に軽いものであった。
「証拠は?」
潤也の視線は淀んでいるが鋭い。
「勘違いなさっているようなので言い直しましょう。出来る可能性が非常に高い、と」
その後キンブリーは自分の計画を説明してきた。
錬金術、神を決める戦い、空白の才…
夢物語のような話だ。おまけにこの男が嘘つきであることは既に知っている。
やっぱりな、と潤也は思った。やっぱりあいつは騙されてるんだ。
一人の少女が思い出され、すぐに消える。
「実証は出来ないワケだ」
「残念ですがそうなりますねぇ」
紅茶を啜るキンブリー。
自分の論理を疑われているというのに、えらく余裕があった。
「……アンタ……安藤って名前の人間と他に会っていないか?」
「…いいえ。御兄弟ですか?」
その質問に、なぜか胸が締め付けられるように痛んだ。
「う、ガハッ」
不意に息が出来なくなったような気がして咳き込む。
慌てて紅茶に手を伸ばし喉に通すも、美味しいとは全く感じなかった。
ひとまず落ち着きを取り戻す。
「大丈夫ですか?」
「うるさい……俺の槍は?」
「あちらに立てかけてあります。危ないですから」
見るとキンブリーの背後に槍はあった。
ふぅ、とため息をつき、質問を続ける。
「なんとか番長ってヤツに嘘を吹き込んだだろ」
相手は顔色ひとつ変えなかった。
淡々とした調子で答える。
「えぇ、幾つか虚偽は織り交ぜました」
「チッ」
否定されないのが腹立たしい。まるで自分が聖者であるような態度だった。
どの話も胡散臭く、どの話も信じたくなる。混ざりこみすぎて判別が難しい。
先程自分に質問をしてきていた時も、まるで真意をみせないような…
それでいて正直に何でも話しているような…曖昧な感覚に囚われた。
「しかし全てではありません。貴方にも話した蘇生の話は真実ですから」
「……」
潤也はまたも黙る。
イライラする男だが、別にもう関係ない。彼にはするべきことがある。
兄の存在が本物なのか。あるいは根本的に、兄を蘇らせる事ができるのか。
それを確かめたくて、偶然接触できたこの男に話を聞いた。
でもやっぱり、信用できなかった。こいつの話はどれも確たる証拠がない。
『能力』で潤也にはわかる。嘘ではない。でも決して真実とは言えない。
こんな不確かなものにすがるのは嫌だ。
特に、もし本物だとすれば兄を危険には巻き込みたくなかった。
あとはここからどう脱出するかを考えていると…
「……やはりお伝えしておきましょう。安藤という名ですが、聞き覚えはあります」
ピク
黙り込んでいた自分を眺めていたキンブリーが、憂鬱げに話しだす。
信じるな。
そう自分に言い聞かせる。こいつは嘘つきだ。
「数分前に行われた放送の中で、その名が呼ばれました。大変…残念です」
「嘘だ」
即座に否定する。
彼には能力がある。1/10=1。
相手の発言が嘘か本当か、それだけなら見破ることも出来る。
潤也はちょうど近くにあった名簿をひったくり、兄の名前を再確認する。
その文字は決して赤く染まってはいなかった。
「…名簿ですか。実はその名簿には少々変わった機能がついていましてね。
どうやら持ち主が放送内容を聞く等して、死を知らない限り赤くはならないようです。
それは貴方に差し上げたもの。辛いとは思いますが…こちらを見てください」
この発言は嘘か真か…なぜか、しっくりこない。
能力が及ばないということは…嘘でも真でもあるということなのか。
それとも一息に話してきた内容が長すぎたのか。
相手が見せてきた名簿。
無意識に後ろから名前を確認していた。
確かに自分の見た名簿と随分赤く染まっている人間の数が違う。
…妲己。わかってはいた事だ。驚異が減った、それだけだ。
…剛力番長。死んだ、結局。だから、だから言ったんだ…
…金剛。今更自分が、コイツに何を思えるというのか。
…沖田。ざまぁみろ。死んだんだ、アイツだって、アイツだって!
ここまで確認して、目が止まる。
正直、これより上を確認するのが怖い。
しかしそうは思っていても小さな名簿。『それ』は彼の瞳に映る。
兄の名が、赤く染まっていた。
「……よ……来い」
「?」
本能的に小さく呟く。同時にザザッと音がした気がした。
キンブリーは不思議そうにこちらを見ていた。
いつの間にか手に携帯電話なんか持っている。
ふきんしんだな。場違いにもそう思った。
別に確証があって言ったわけじゃない。ただ、そんな気がしただけ。
でも、それは正解だったらしい。
獣の槍が戦慄き、彼の手元へと舞い戻る。
ぞわり、と髪の毛が伸びた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ゾブリ
槍で一突き。それで終わり。
潤也の手にした獣の槍は、キンブリーの喉元にしっかりと突き刺さっていた。
一気に抜き取られ、キンブリーは喉を押さえつける。
しかし、吹き出す真っ赤な鮮血が血溜まり形作った。
キンブリーは一度前かがみになった後、その場に仰向けに倒れる。
協力者の命たる携帯電話もころりと落ち、ザザッとノイズを発している。
初めて味わう感覚に、自分でも驚いた事に笑みが漏れた
首周辺は血まみれとなり、息が荒くなってくる。
(これは…存外…)
僅かな笑みを浮かべて倒れた錬金術師は見上げる。
目の前の少年の瞳は、真っ暗だった。潤也は足元の鎖を槍で断ち切る。
「アンタみたいな嘘つきには頼らない。兄貴は俺が助けて、俺が守る」
彼を制するものは何も無くなり、獣は、弾かれたように駆け出していった。
まるでこれ以上ここには居たくないとでも言いたげに。
後には惨劇の舞台装置だけが残される。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
かける、駆ける、翔ける。
頭の中にグルグル渦巻く思考を従えて、安藤潤也は走る。
兄貴は死んだ。
でもやっぱり生きていて。
今もまだどこかで生きている。
蘇らせればいい。
唐突にそんな言葉が思い出される。
実際に兄貴は生き返っている…かもしれない。
あの男の言葉も、もっともらしいといえばもっともらしい。
だが、絶対に信用はしない。
あいつはやっぱり嘘つきだった。
それも俺が最も、最も許せない嘘をついた。
兄貴が死んだ
何度自分で反芻した言葉だろう。
二度と思い起こしたくない言葉だった。経験だった。
ここにいる兄貴が本物であれ偽物であれ…もう一度死んだなどと、思いたくない。
嘘だとわかっていても…あんな言葉を、文字を押し付けてきたあの男は許せなかった。
だから刺してやった。その事には何の罪悪感も浮かばない。
だが
アイツの蘇生の話が嘘だとしても、ここにいる兄が本物なら蘇生手段は存在することになる。
あるいは妲己の話が本当なら…
今名簿上の兄が本物であれ、偽物であれ、いくつもの可能性がある。
二度と会えぬと思っていた兄と…再び笑顔で暮らせる可能性が。
それこそ潤也が流されてまで欲する世界の姿。
それを遂げるには何が必要だろうか。
考えろ 考えろ 考えろ
ただ探して見つけて…じゃ駄目だ。
殺し合いの真っ只中二人で再会を喜んだって、二人揃って殺されてお終いだ。
考えろ 考えろ 考えろ
憎い 憎い 憎い
ふと自分の中で、誰かの渦巻く感情が大声をあげていることに気がついた。
憎いか
あぁ憎いさ。兄貴を殺したヤツ、利用しようとしたヤツ、みんな憎い!
ならば倒せ
肉親を奪った憎き存在を倒せ
命を弄んだ憎き悪魔を倒せ
あぁ倒すさ。兄貴の敵は俺が倒す、全部
俺の力を振るい、邪魔になるものは全て薙ぎ払え
我が力、お前に貸そう
だから…その魂、我が目的の為にも使わせてもらうぞ
わずかに感じる…『ヤツ』を倒す為に
かまいやしない…俺は、やってみせる
走れ
…走るさ
進め
…進むさ!
獣は駆ける。
その魂を悪意によって導かれ、憎しみに囚われて
あまりに適合しすぎたこの魂は、しかしあくまでただの人間。
本来より早くその影響を受けはじめることとなる。それは制限か、あるいは槍の意志か。
獣の槍使用者に襲い来る、呪いとも呼ぶべき影響を。
大切なものをただ守ることも出来るはずだ。
だが持ち主がそれを望もうとも、『槍』が望むのは別の事。
吹き上がる憎しみをぶつけ、仇をとることこそがその本懐。
そしてそんな負の感情を押さえ込めるほど、潤也の心は正常ではなかった。
誰かの憎しみに流されてしまった。それだけの話。
魔王になりえた少年は、獣となって島を駆ける。
その瞳にはまんまるいお月さんが浮かんでいた。
暗い暗い夜の色をした、新月が。
【H-8/???/1日目 日中】
【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(小)、精神的疲労(大)、情緒不安定
右手首骨折、獣化開始
[服装]:上半身裸
[装備]:獣の槍@うしおととら、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
[道具]:空の注射器×1 名簿
[思考]
基本:兄貴を探す?兄貴の敵を探す?
0:憎い、兄貴を殺したかもしれない奴、害なす存在全てが憎い
1:憎い存在を倒す
2:…兄貴を守りたい
[備考]
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。
※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。
※獣の槍による獣化が開始しました。速度や回復可能かはわかりません。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……貴重な経験ができましたね」
言葉ほど嬉しそうな表情は見せず、大の字で倒れていたゾルフ・J・キンブリーは目を閉じる。
ふぅ、と一息吐くと…
ゆっくりと立ち上がった。
ケホケホと少しむせ、不愉快そうな表情で喉の辺りを撫でる。
近くにおいてあった布で飛び散った血を拭う。服は汚れずにすんだようだ。
傍らに落ちていた携帯電話を拾い上げ眺めると、キンブリーはまた一つ、ため息をつく。
『趙公明が私に連絡をくれます。こちらの無事を喜んでくれたようです』
少し先の未来がそこには記されていた。
どうやらこの後こちらに連絡をかけてくるらしい。日記の確認だろうか。
しかし先程の一瞬、そしてさらにその少し前、未来日記の表示は目まぐるしく変わっていた。
「…デッドエンドを回避した、とは考えすぎですかね?
まぁ、あらかじめ準備しておいて正解でした」
一度周囲を見渡した後、キンブリーはソファに腰掛ける。
「おそらくあの槍の力でしょうが…私の話をあぁも簡単に振り切った理由がわからない。
もしかすると他にも何か隠しているかもしれませんね」
彼は潤也が目を覚ます前に趙公明に電話をかけ、日記の内容を確認していた。
その内容は、放送後に自分の話によって潤也が狂い、道を踏み外すこと。
それによって彼を手駒とする未来が記されていた。
電話の後、その為に名簿に細工をするなど準備を行って時を待つ。
しかし、そこでキンブリーは一つの不安を抱いた。
彼が持っていた槍。
見覚えがあって手持ちの本を改めて確認をしてみると、正体が判明する。
Spear of Beast―――獣の槍
東方の国に伝わるという伝説の槍だそうだ。
人ならざる者を打ち倒すことに特化した、オカルトの力の結晶。
信じがたい話ではあったが、宝貝の例がある以上は信じないわけにはいかない。
そしてその力は、彼の手の中の『未来』に変化をもたらす可能性がある。
世界の法則に干渉する力。おそらくこの槍にはそれだけの力がある。
詳しくは分からないが潤也がこの槍を手放した途端に長く伸びていた髪の毛が抜け落ちた。
まともな槍ではないことは明白。伝承通りの代物ならその力は膨大だ。
そしてその力は未来日記の予知を塗り替える可能性を含む。
念の為槍を手元から離し、潤也を拘束した。
しかし拭いきれぬ不信感を警戒し、彼はその槍の特性を利用した対策を練っておく。
獣の槍は化物を倒す槍。人間を『貫く』事は出来ても、『切り裂く』事は出来ないらしい。
もし潤也がそれを知らず直接攻撃を仕掛けてきたなら、やられたフリをすればいい。
誇れる行動ではないが、それはそれで面白い結果を生んでくれるだろう。
その為のちょっとした演出として彼の返り血を練成し直し血袋を作っておいた。
使わないならそれでいいと思っていたが…
幸か不幸か、試みは成功。
日記に表示されるのは趙公明の未来だが、自分と彼の関係からして自分に何かあれば
彼の未来の行動にも変化が生じるのは必然。
案の定彼の未来にはノイズが入り、キンブリーは「未来が変化する」事を知ることが出来た。
加えて考えておいた試みを実行する事で、潤也が塗り替えた未来はさらに塗り替えられる。
キンブリーの危機は回避されたのだ。
首に嫌な違和感を与えられ相当ヒヤッとしたが…無事でいられただけよしとする。
なんの対策も練っていなければ死なないまでも、あの獣じみた身体能力に相当手を焼いたはずだ。
(彼の精神は既に摩耗していた。アレはどちらかというと獣に近い。
あまり近くで火種を仰ぎすぎると爆発に巻き込まれますし…彼に近づきすぎるのは愚行ですね。
どこかの誰かの仕込みでほぼ仕上がっているようです)
とはいえ自分の煽りでさらに狂わせようとしたのは事実。
それを見破られ、中途半端な結果となったのがキンブリーには不満だった。
獣の槍の力では自分の発言の真偽は掴めないはず。
それなのに潤也は確固たる自信を持ってこちらの言葉を振り切った。
彼自身に、なんらかの「能力」がある可能性も捨てきれない。
「やはりこの日記は過信しないほうが良いでしょう。
この戦いをここまで生き延びた者達です。何かを持っていてもおかしくありません」
自分に言い聞かせるようにキンブリーは呟いた。
趙公明の未来の確認は少し後にまわし、ある目的の為、急ぎ別の部屋へと移動を開始する。
その途中少し気になることを考えていた。
解せないのは獣の槍の存在。
この会場には妖怪が存在している。彼の協力者、趙公明もその一人だ。
彼は神の陣営の鬼札であり、つまりは協力者である。
そんな彼の天敵と言うべき存在をこの会場にわざわざ用意するとは…
戦闘狂である彼のことだ、自らそれを進言したのかもしれない。
だがそれにしてもその意見が通ってしまうのだ。
神が趙公明を遣わしたのは彼の勝利が目的ではない。改めてそれを認識する。
それと同時に、一つの懸念を抱く。
獣の槍のみならず、悪魔の実、未来日記、宝貝…これらの特殊な道具は力の天秤を覆す。
この戦い、どれほど『絶大』な力を持っていようと、『絶対』はないように仕組まれているのではないか。
例えば光と影、火と水、盾と矛…対となる存在を配置することによって。
そんな事をあえてする目的というと…
まず考えつくのは、その方が客観的に見たときに娯楽として面白くなるから。
この殺し合いが例えばどこかの誰かの快楽の為に開かれたのならこれだろう。
だが説明の際にムルムルらが口にしていた言葉や趙公明の存在を考えると、不自然だ。
この戦いでは最後の一人を決める。そう言っていた。
強者の戦いを眺め、最後に残った最強の男を称えるという娯楽は実在する。
だがそれだけなら趙公明が『鬼札』として遣わされる理由がない。
既にこの会場には彼が戦いたがる程の十分な戦力の持ち主が跋扈しているのだ。
単純に強者を増やし、戦いを加速させたければ彼を『参加者』として使えばいい。
彼の性格を知っていれば、それだけで戦いを加速させてくれることは容易に想像出来るはずだ。
なぜわざわざ流出するリスクを負ってまで自分たちの情報を与えて戦わせるのか。
ここからは推測に過ぎないが…
誰かを選ぶというよりは……何かを起こそうとしているとしたらどうだろう。
彼を遣わすことで、この殺し合いそのものに何かがおこるよう仕向けているのではないか。
彼の性格を承知した上で、情報を与えた彼によって起こりうる『状況』こそが目的。
彼らの目的はこの殺し合いという状況そのものではない。そんな気がする。
その果て、あるいは過程に生まれる別の状況にこそ、本来の目的がある。
だとすれば既に『新たな神』とやらになった存在がそれ以上何を望むのだろう。
全てを掌に収めたであろう存在が、何を。
仕組まれた装置で『絶対』を覆した所でそれは神の掌に過ぎず、神を超える事には繋がらない
こんなお膳立てされた殺し合いの果てに彼らは何を期待している?
誰かの成長か?新たな力の発見か?あるいは『あの者達』のように、大規模な錬成陣でも作るか?
どうして結果のわかるはずの殺し合いを促す?
先程の放送をおこなったのは間違いなく自分の知る「プライド」。
彼が関わっているのならホムンクルスの陣営も関わっているのかもしれない。
もしかすると……一番弄ばれているのは自分、ということなのだろうか。
全て推測に過ぎないが…それでもやはり不快、だった。
自分の望むままに行動してきた。実に楽しい思いをさせて貰っている。
その喜びも、こんな考察を行っている事自体も、全て織り込み済みだとすれば。
なんとも、気に入らない話だ。
自分の仕事を、悦びを、生きる実感を…誰かの意のままにされるというのは気分が悪い。
どうしても『それでも構わない』とは思えなかった。
そうやって生きてきたからこそ、キンブリーは異端として見られたのだから。
そこまで考えたところで一度足を止め、目の前の部屋へと入った。
考えはここで保留する。やるべき事をやったらまた考察に戻るとしよう。
なんであれ目の前の仕事が一番重要だ。
その部屋には数台のパソコンが置かれていた。
使い方などは趙公明から聞いているし、マニュアルもある。
(さて…実験は全て開始しましたし…あとは結果を待つばかり。
それまでは少し遊ばせてもらいましょうか)
手持ちの実験材料は使い切った。
解き放った材料の一つである剛力番長は倒れたらしい。
が、特にどうとも思わなかった。それなりに実績は残してくれたようだ。
その結果は先の少年で多少は確認出来た。それで十分と言える。
あとは彼がさらなる爆発を広めてくれればなおいい。
森あいはともかく、ゆのも意外な事に何かしらのアクションは起こしているようだ。
危険も増加した今、そろそろ直接火種を仕込むのは自重してもいい頃だろう。
先程のような目に遭うのも面白いが、まだ出来るだけ避けて通りたい。
別のやり方を試してみる頃合いだ。
携帯電話から確認した電脳世界。
先程見た限り、自分の悪い噂が既に随分と広まっている。
鋼の錬金術師の代理人とやらも、紅蓮の二つ名を知っているあたり本物の可能性が高い。
他にも自分への宣戦布告、実験の経過報告、あるいは便乗したかのような書き込みが目立つ。
特にゆのに対する物が多い。それなりの人数と接触しているのか。
そして…
「いいタイミングですねぇ…」
安藤潤也の兄、あるいは森あいの行方を求めた書き込みに反応がある。
内容は何もないが、連絡先が載せられていた。
これが安藤潤也の兄ならいろいろと面白いことが出来るだろう。
無論警戒は必要だが。
そういえば森あいの方はどうなっただろうか。
放送で名前を呼ばれなかったので生きてはいるのだろうが…
かわりに呼ばれてはならない名前が呼ばれた。
植木耕助
彼女を動かすために使った名前。
これで自分の嘘はバレたであろうが…彼女の精神はすでに仕込みをほぼ終えている。
まともな精神状態ではいられまい。
よしんば彼女がそれを乗り越え変な気を起こそうと、『保険』がある以上問題はない。
鞄から支給品の一つであった「キャンディ爆弾」を取り出し、眺める。
(そろそろ物理的な爆発も楽しみたくなってきましたね。暇をみてまた練成しましょうか)
本来ならその辺の物からでも爆弾くらい練成できるが、制限のせいで精度が落ちている。
それ故に負担が少ないようこの支給品を基にして爆弾作りを行ったわけだが…
これから天気が荒れれば参加者同士の接触も増える。そうなるとそろそろ白兵戦もあるだろう。
その対策としていろいろと考えておくべきだ。
と、そこでそれた思考を電脳世界へと戻す。
IDとやらのせいで、自分のこの携帯電話からの書き込みは特定されるようだ。
そして鋼の代理人の発言からして、すでにこのIDが警戒対象となっている可能性がある。
彼(彼女?)が本当に鋼のと接触しているなら、それだけの情報が手元にあるはずだ。
賢者の石に対する書き込みへの対応からもそれらがわかる。
ゾルフ・J・キンブリーという男は危険人物であり、このIDがその人物のものである可能性がある。
少し頭の切れる人間ならこれらの書き込みからでもそれがわかるだろう。
そして厄介なのはそういった頭の切れる相手だ。
(まぁ、それもいいでしょう)
それならそれで出来る事は無数にある。
mIKami7Aiのこれまでの発言を疑うのなら、それを利用させてもらう。
それでこそ、『あの書き込み』の意味が生まれるというものだ。
絵描きを夢見る少女への、ちょっとした手助けというところか。
それにしても
キンブリーは急に暗い顔をしてため息をついた。
原因は電脳上に踊るいくつかの文章達。
螺旋楽譜という日記の管理人『水濁』や鋼の錬金術師の代理人の言葉。
彼らはまったく……非道い人達だ。
信じるな
疑い続けろ
水濁はそう呼びかけている。
鋼の代理人も自分の発言を警戒し、この掲示板の書き込みに疑問を抱くよう暗に警告している。
こんな事をしたらどうなることか。
心根の強い者達はそれでいい。
疑い続けるのはなによりも難しく、流されてすぐにいろいろな事を信じてしまいたくなる。
それではこの理不尽な殺し合いを乗り越えることなど到底出来ないだろう。
そのくらい巧妙に構成された舞台であるのはキンブリーにもよくわかった。
そういう意味ではこの忠告は非常に有用なものであり、彼らは評価に値する。
だが、人間の多くは弱い生き物だ。何かを信じ、縋らねば生きていけない者ばかり。
正義に固執する少女、友人を想い過ぎた少女、夢を抱く少女…そして兄を求めた少年。
そんな者達を突き放すようなこれらの発言は、どれだけの者を苦しめることだろう。
どうしても全てを疑う事の出来ない者達は死ぬしかない。そう告げているようなもの。
まったく、非道い人達だ。
「だから私のように、信じるべき道を指し示す存在が必要となるんですよ」
冗談めかした発言と共に浮かべた笑みは、相も変わらず歪んでいた。
彼らが呼びかければ呼びかけるほど、心が強ければ強いほど……
苦しむ者達は生まれ、自分の実験材料は増えていく。
笑わずにはいられなかった。
「さて、では救いの手を差し延べるとしますか」
そう言ってキーボードに手を伸ばす。
傍らには携帯電話。
爆弾狂は、電脳世界へと火種を仕込む。
【H-8/図書館/1日目 日中】
【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:白いスーツ
[装備]:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記(充電中)
[道具]:支給品一式*2(名簿は一つ)、ヒロの首輪、キャンディ爆弾の袋@金剛番長(1/4程消費)、小説数冊、錬金術関連の本、ティーセット、
学術書多数、悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:パソコンと携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
3:首輪を調べたい。
4:森あいや、ゆのが火種として働いてくれる事に期待。
5:殺人日記のメールアドレスと連絡を取る。
6:入手した本から「知識」を仕入れる。
7:参加者に「火種」を仕込む?
8:神の陣営への不信感(不快感?)
9:未来日記の信頼性に疑問。
10:白兵戦対策を練る
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。
【キャンディ爆弾の袋@金剛番長】
ウルフファングの一人、目黒区のキャンディ番長の武器。爆薬仕込みの飴玉が多数入っている。
数は多いが、一つ一つの威力はそこそこ。
1:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
? 名前:コーデリア・グレイな名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:v3hBkiCK
趙公明という男に気をつけて。見た目麗しい優男だけど、ドのつく戦闘狂だ。
派手な外見だから多分すぐわかる。
1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
? 名前:麻婆豆腐な名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:v3hBkiCK
ゆのという女の子を保護して欲しい。多分、よく話題にあがってる×印の少女は彼女だ。
短い付き合いだったけど、人殺しなんて出来る子じゃなかった。
誤解だと信じてる。お願いだ、見かけたら助けてあげてくれ。
6:雑談スレだけど何か話題ある?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
? 名前:地球破壊爆弾な名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:mIKami7Ai
随分と私の話題で盛り上がっていただいているようで、いやはやお恥ずかしい。
根も葉もない噂話ばかり…とは申しませんが、決して全てが真実ではありませんよ。
私なりの戦いをしているまでです。全力でね。
そうそう、私にもこの地で知り合った協力者が数名います。
会いたい人がいる方はそれをお忘れなく。
でなければ大切なお仲間をどこか遠くで失ってしまうかもしれませんよ。
それから鋼の錬金術師へ
ご愁傷さまです。弟さん達のご冥福を心からお祈りします。
【螺旋楽譜】
コメント欄
2:
はじめまして。
私、紅蓮の錬金術師と呼ばれている者です。
貴方の考え、姿勢、全てに感銘を受けました。
いずれお会い出来ることを楽しみにしていますよ。
意志を貫き通す人間は好きですからね。
※キンブリーを特定出来る可能性のある書き込みとそうでないものは、
不自然にならないようタイミングがバラバラに書き込まれています。
ただし日中の範囲内です。
もう打ち込めるかな?
代理の代理投下終わりです
代理投下乙です
潤也がやべえええええ
キンブリーは槍で刺されたと思ったがやっぱり生きてたかw
そして電脳戦開始か。この人も自重しねえええええwww
◆lDtTkFh3nc氏と代理の代理さん乙です!
一瞬マジでキンブリー死んだかと思った……獣の槍の特性忘れてたわw
しかしこっちもとことん引っ掻き回すなぁ。交換日記コンビは嫌な方面にこのロワに貢献し過ぎw
ゆのっちに安息は訪れないのか、な……
それにしてもこのロワは電脳世界を上手く活用してるなーと改めて思った
お二人とも投下乙です。
>『戦おうじゃないかっ、趙公明1番!!』作詞 C.公明 / 作曲 魔礼海
oh...
何と言うか
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ|
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//|
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ |
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ
>ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱
一瞬死んだかとw
自分を実験台にする辺りナチュラルに狂ってるなぁ。
あと書き込みの内容でエドにはバレバレだぞキンブリーw
そしてこの躊躇いの無さが潤也だ……。
ちょっと業務連絡です。
週末まで纏まった時間が取れなそうですので、wikiの件で何かあっても即座に対応出来ないかもしれません。
予めご了承下さい。
要望などがありましたら、本スレかしたらばに書き込んで頂ければ週末までには目を通します。
チラ裏だけどこのロワ読んでるといつも脳内BGMがsurfaceのFLY HIGHだ
翼がどうとか未来がなんちゃらとか、螺旋だの予定調和だのそれっぽい単語がてんこ盛りだからかな
このロワの行き着く先が楽しみで仕方ない
俺も先がどうなるか気になる
お先真っ暗なのは予想出来てしまう
でも…なのが好きだ
ふー、これで本文に関しては大体収録終わったか?
大して手伝えなかったけど、お疲れ様でした
149 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/18(日) 03:50:31 ID:sE9CH4D3
今全話確認してリンク切れなどの細かい部分も全て修正しました。
本文は141話まで完全に収録完了したと思います。
ただwiki上での修正等、細かい部分が何かしら巻き戻っている可能性が高いです。
一度ご確認下さい。
皆様、本当にお疲れ様でした。
皆さん、本当にお疲れ様です。
僅かにしか協力できなくて申し訳なかったです。そしてありがとうございました。
おお、お疲れ様です!
本当にお疲れ様です
死者スレが大変なことにwww
ちょ、死者スレw
あまりにもひどいので転載
ルフィ「そういやおれも何だか腹が減ったなぁ」
剛力「私もですわ」
宮子「私もー」
ルフィ「というわけでサンジ、飯だ!」
サンジ「何が『というわけで』だこのクソゴム!
だがそちらのレディ達の頼みとあっちゃあ断れねぇな」
お妙「料理なら私も手伝いますわ。簡単なものしか作れませんけど」
新八&増田「(それだけはやめてくれ!!)」
増田「新八君…あれはなんだと思うかね?」
新八「多分、『牛肉だったモノ』と…『サンジさんだったモノ』じゃないでしょうか
これは推測ですけど…キーワードは、味見」
増田「ふむ、良い推理だ。死者スレに死の概念はない。そのうち復活するだろうが…
料理係がいないのは問題だな。ヒロを呼んでくるから君は妙さんを説得しておいてくれ」
新八「目を見て話して下さいよ。さらっと言ってますけど、面倒を押し付けようとしてません?」
増田「ハハハ…なに、弟の君なら出来る。優しい彼女を傷つけたくはないしな。
そしてなにより私は…… 命 が 惜 し い」
新八「一瞬で本音ダダ漏れ!?あ、逃げ…って足はやっ!
裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
お妙「……カレーなら!!」
理緒「コックさんが死んじゃったよぉ……こんな時に弟さんがいれば……」
火澄「せや、確かに歩の作る料理は美味いなぁ。栄養バランスにはちょっとうるさいけど」
香介「あぁ、確かにな」
まどか「アレは美味しいわよねぇ」
卑怯「卑怯は僕の専売特許なのに」
増田「一度彼女の料理を食べてから文句をつけたまえ」
BJ「カレーならちょうどここにボンカレーがある。これなら失敗することもないだろう」
新八「早まらないで下さいイイイィィィ!!
姉上はもはや『ボンカレーはどう作ってもうまい』とかいうレベルを超越してますから!!!
等価交換の法則を無視した暗黒物質の錬金術師ですからアアアァァァァ!!!!」
お妙「ふふ、聞こえているわよ新ちゃん」
九兵衛「待て、お妙ちゃんの料理が食べたいのなら僕を倒してからにしろ」
ボンちゃん「それちょお〜っと違うと思うわよぅ」
ナギ「なに料理だと?私も参加したいのだ!」
伊澄「ちょっとナギ」
ナギ「見ていろ。パンチが効いた他に類を見ないスタミナ料理を作ってやるぞ!まずは油を引いてだな」
新八「それ洗剤!ここにはまともな料理感覚の奴はいないのかあああ!!!」
金剛「材料にこだわって作るのはいいことだ。味は単なる結果だ。自分のポリシーを一貫する料理は、スジが通っている」
植木「お、いいこと言うな。ハイジそっくりだ」
BJ「ピノコの消し炭よりひどい料理を作れる奴らがこれほどまでに多いとは。世界は広い」
蝉「けったいな連中だ」
卑怯「そういう君はどうなんだい?」
蝉「岩西のバカにくれてやる土産ならあるぜ」
増田「……猫田ぽたぽた焼クワガタ味」
咲夜「食えへんがな!それこそ味覚破壊やっちゅーねん!!」
沖田「で、大量に出来ちまったこの可哀想な食材たちはどうするんですかィ」
ニコラス「どうもこうも、食えたモンやないやろ」
グリード「暴食のグラトニーでもこれは食えねーだろうよ」
12th「デハ全テ廃棄スルト言ウノカ」
ルフィ「もったいねーなぁ、食ってみたら味は普通だったりしねぇかな」
新八「無理無理無理イイイイィィィ!!! アンタの目は節穴かアアアァァ!!!!
どんだけ希望的観測だけでもの語ってるんですか!! こんなもん食べたら味覚は愚か五感奪われますよ!!!!!」
理緒「だってさ、こーすけ君」
香介「なんで俺に振る!?」
亮子「つべこべ言ってないれロく味にの一つや二つくらいしなさいよぉ〜……ヒックっ」
香介「無茶言うな! つーかお前もしかして酔っぱらってる!?」
剛力「あら、卑怯番長さんが見当たりませんわ。さっきまでそこにいらしたのに」
沖田「野郎、毒味が嫌で逃げやがったな」
アル「眼帯のお姉さんも逃亡を図ってるよ」
ナギ「食べ物の恨みは恐ろしいのだぞ?」
森「料理は見た目じゃないっ!」
妙「試食係はたくさんいるし」
ナギ・森・妙「召し上が」
男連中「らないっ!」
ハヤテ「何を混ぜたらカレーが銀色になるんですか」
太公望「ハンバーグ云々より原料がわからない」
サンジ「復活っ……したぜ……」
アル「コックという良心が甦った!」
ナギ「丁度よい!料理勝負するのだ!」
サンジ「は!?」
森「いいねー、乗った!私ナギちゃんチーム!」
ナギ「ハヤテ、お前とは一時主従を忘れよう(ついでに時間軸概念も)!あちらにつけ!」
ハヤテ「ええぇえぇ!!?」
蜂「うふふ、私はお姉様たちに協力するわ。小さなお姉様、混ぜてくださる?」
ナギ「……やだ」
森「えー、いいじゃない」
蜂「(これなら簡単に毒が手にはいるわ)」
太公望「つーことで突如勃発『第2回料理バトル大賞』〜!」
アル「わー(ぱちぱち)」
太公望「両陣営が料理を作り美味い方が勝ちっ!!!
今回は食材はたくさん用意してあるから好きな物を使うがよい。
審査員はわし、九兵衛そして増田さんことマスタングだ!」
増田「……正直、嫌な予感しかせんのだが」
九兵衛「僕はお妙ちゃんの料理が食べられればなんでも良い」
アル「ちなみに司会は僕、アルフォンスでお送りするよ。
僕も体さえ元に戻ればみんなの料理が食べられたのに、残念だなぁ」
新八「…審査員の皆さんの無事を祈るとしか…」
キリコ「なに、いざとなったらおれが楽にしてやるさ」
BJ「死者スレでくらいその仕事は忘れたらどうだ。私と共に犠牲者を救う側でだな…」
ニコラス「あんなコンビ、金がいくらあっても足りんで」
ナギ「おい、どいつもこいつも失礼だぞ」
アル「哀のエプロンチームを紹介するね。
・志村妙さん
・三千院ナギちゃん
・森あいちゃん
・スズメバチさん
・宮子ちゃん
対するコックさんチームは
・サンジさん
・綾崎ハヤテくん
・金剛晄くん
・蝉さん
・浅月香介くん
だよ」
増田「大いに人選にツッコミがあるのだが」
香介「なぜ俺が選ばれる!」
蝉「参加しねーぞこんな大会!」
ニコラス「メタ的に一般感覚の人間を入れたかったんやないか?」
卑怯「ここまで勝負が見えてるバトルも珍しいね」
沖田「これで安心して高見の見物ができるってもんだぜィ」
平坂「ドチラガ正義ナノカ見届ケヨウ」
香介「そこ!聞こえてるぞ!」
ルフィ「サンジー、期待してっぞー!」
サンジ「やかましい!!レディと対決するのがどれだけ大変だと思ってんだ」
ハヤテ「何を作ります?」
金剛「プリンだ」
ハヤテ「また随分可愛らしい……」
サンジ「海賊らしく海鮮でいこう!」
蝉「海鮮ならしじみを入れてくれ」
増田「プリンにしじみだと……!? いよいよ雲行きが怪しくなってきたぞ」
太公望「……そういやわし、なまぐさは食えんのだった。
今からでも誰かわしの代わりに審査員をやらんか?」
増田「!? ズルいぞ太公望! 一人だけ助かろうというのか!」
アル「はいはい大佐、今更グダグダ文句言わない! 誰かが犠牲にならないといけないんだから」
増田「犠牲!? 今犠牲と言ったな! おい返事をしろアルフォンス!」
お妙「あの〜ちょっといいかしら」
アル「はい、何でしょう?」
お妙「勝ったチームにご褒美とか、そういうのはないのかしら」
BJ「新八君の姉さんの自信はどこから湧いてくるのかい?」
新八「きっと料理センスは地獄谷と直結してるんですよ…」
アル「ご褒美ですか。うーん…
誰でも好きな人指名して、一度だけどんな願いでもきかせるのはどうかな?」
妙「いいわねそれ!」
新八「ベタかつ確実な再起不能フラグ来たァァァア!!!!」
ナギ「な、なんでもしていいのか!?(真っ赤)」
香介「万が一でも負けたらギャラリーに殺されるな…」
アル「ではバトル開始!」
(ジャジャーン)
妙「何を作る?」
森「男心を鷲掴みにするには肉じゃががいいって聞いたよ?」
宮子「肉じゃがいいね!」
ナギ「ではその肉じゃがとやらにしよう。肉じゃがの肉って何だ?」
妙「せっかくたくさん具材があるんだから、一番珍しいものにしましょう」
蜂「…亀の頭」
森「わーーー!!と、とにかく亀の肉でいいよね!?」
咲夜「スズメバチはんは確信犯やな!?絶対なんか陥れようとしとるんやな!?」
アル「えーここでお知らせがあります。太公望さんが“どうしても”なまぐさはNGとの事なので、
代わりの審査員を選出したいと思います。誰か自ら人柱になりたいって人はいませんかー?」
ギャラリー「 い る か !」
ニコラス「ちうか人柱言いよったであのガキ!」
アル「それじゃあ仕方ないなぁ。残りのメンバーで投票かもしくは全員で殴り合いのバトルロワイアルだね」
植木「もう審査員は立派な罰ゲームなんだな……」
みねね「死者スレに来てまでバトロワなんて最悪だわ……」
沖田「っと、今度は一抜けはナシだぜィ卑怯番長さんよォ」
卑怯「……見逃してはくれなさそうだね」
平坂「残念ナガラ私ハ素顔ヲ晒スワケニハ……」
麻子「でもこういう時に進んで名乗り出るのが“正義の味方”って奴じゃない?」
紅錬「オレは人間の食いモンなんぞ喰わんぞ」
理緒「じゃあ人間の食べる物じゃなかったら良いんですね!」
咲夜「ぐ、グリードさぁん! ウチ嫌や絶対嫌やぁ〜!」
グリード「安心しろ、俺の部下には手出しはさせねぇ」
ヒロ「今からでも部下に立候補しても良いんでしょうか……?」
沖田「へぇ〜流石は強欲の旦那、カッチョイ〜。どうですかィ、ここは一つこれから出来る料理モドキも旦那のものに」
グリード「ソレは要らねぇ」
植木「……あのさ、皆がやりたくないって言うなら俺がやるよ、審査員」
鈴子「む、無理はなさらない方が良いですわよ」
植木「平気だって。俺普通のヤツよりからだは頑丈なんだし」
麻子「からだより胃袋の問題でしょ」
リヴィオ「いや、それだったら俺が代わる! 君みたいな子供に押し付けるわけにはいかない!」
ラズロ『オイ止めろ! この体お前だけが入ってる器のつもりか!? ボケ!!!』
金剛「たしかに大人が見てみないフリしてんのは筋が通らねぇ」
ニコ「せやったら食えるモンを作る努力をせんかいドアホ!」
ルフィ「よっし、オレもやるぜー。よろしくな!(ガシッ)」
植木「おお、よろしく!」
森「調味料も用意しようか?」
ナギ「何が必要なのだ?」
宮子「料理のさしすせそだね」
森「砂糖のさ」
ナギ「醤油のし」
蜂「酢のす」
宮子「せうゆのせ」
妙「ソイソースのそ」
森「あれ?」
妙「きっと濃口醤油と薄口醤油とキッコーマンの違いよ!」
ナギ「なるほど!」
新八「いやいやいやいや滅茶苦茶濃くなるっすよ!!!!」
鈴子・剛力「いやですわーーーー!!!!」
サンジ「とりあえずプリンとしじみは置いといてくれ」
ハヤテ「食べられるものさえ作れれば勝ちなんですよ」
香介「ふつーにさ、飯としじみの味噌汁とデザートにすれば解決する」
サンジ「みそしる?」
ハヤテ「では、サンジさんと僕がおかず、香介さんが混ぜ込みご飯、蝉さんが味噌汁、金剛さんがデザート担当ってことにしましょう」
香介「オレ米といで具を混ぜて焚くだけかよ」
ハヤテ「その短い間にどれだけできるかが腕の見せどころですよ」
香介「そりゃどうも」
蝉「味噌ぶち込むだけか」
ハヤテ「少しは具材吟味してくださいね」
金剛「プリンはこだわらせていただく」
ハヤテ「是非お願い致します」
みねね「普通の役割分担なのに輝いて見えるな」
ナギ「それで肉じゃがとは亀の肉以外に何を使うのだ?」
蜂「玉ねぎも必要ね」
森「その前にジャガイモでしょ!」
お妙「ニンジンも入れなきゃ」
宮子「だいたいそんな感じかなー」
お妙「いえ、普通にやったんじゃ勝てっこないんだから、
この際普段使わない食材をこれでもかとぶち込んで贅沢に行きましょう」
蜂「見て姉様たち……はちのこなんていう物があるわ」
新八「あっもう駄目だ」
ナギ「入れるのは糸こんにゃくか?しらたきか?」
森「どう違うの?」
妙「大体一緒なら別のもの入れましょう。ああ、いいものが!」
蜂「ところてんね。綺麗だわ」
ナギ「普通のにんじんではつまらん!朝鮮人参でどうだ」
宮子「痛、指ちょっと切っちゃった」
蜂「真っ赤な血……いいお味付け」
森「玉葱は目に染みるからもっと別のがいいな」
妙「同じ染みるならわさびの方がいいわ」
ナギ「斬新な組み合わせだな!もうちょっと、常人には考えつかない調理をするのだ!」
妙「お茶で煮ましょう!プーアル茶か、ジャスミン茶か」
ナギ「あえて黒烏龍茶で!」
蜂「はちのこも忘れないで……」
理緒「あれ、火薬のない爆弾だよね」
みねね「弾が全装填されてるロシアンルーレットって言うんだよ」
鈴子「どうしましょう、禍々し過ぎますわ」
アル「双方、着々と作業が進んでいる模様です。審査員の方にもお話を窺ってみましょう」
増田「コックさんチームはともかく、哀のエプロンチームは混迷を極めているな」
九兵衛「流石お妙ちゃん率いる哀のエプロンチーム、健康に気を使った食材選びだ」
アル「物は言いようだね」
植木「一つ言えるのは、もはや作っているのは肉じゃがじゃない」
ルフィ「おれ待ち過ぎて、いい加減腹減って死にそうだ!」
アル「もっともな意見と期待の声を頂きました〜。完成にはもうちょっとかかりそうですね」
太公望「審査員降りて正解だったのう」
アル「ではコックさんチームにもお話を伺いましょう」
ハヤテ「力作ですよ。サンジさんの腕は素晴らしいです。生しらすの揚げ物や魚と貝の酒蒸しを手際よく調理しているんです。
僕は煮豚とおひたしを作らせていただきました」
サンジ「レディたちがなんつーかもう……目も当てられない」
アル「何を炊いてますか?」
香介「無難にキノコだよ」
アル「蝉さんはどうですか?」
蝉「ああ?まだ砂抜けてねーよ。火すらついてねぇ」
金剛「プリンが蒸し上がったはいいが、まだ冷えていない」
妙「聞いた?コックさんチームは完成の目処もたってなさそうよ!!」
アル「ぽじてぃぶですね」
***
哀エプチームの肉じゃがの材料あらため爆弾の材料
亀のあ…亀の肉、ところてん、朝鮮人参、わさび、黒烏龍茶、宮子の血、ハチノコ
***
蜂「じゃあ亀の 森「わー!」を切るわね」
宮子「何か気持ち悪いねー……ハチさん頑張って!」
男達「(凄く……複雑な気分だ……)」
新八「何ですかコレ、黒魔術の材料とかですか? 悪魔でも召喚しようとしてるんですか姉上たちは!?」
ニコラス「まあそう思うんが普通やろな」
亮子「……なんか、悪酔いと相まって吐き気がしてきた……」
理緒「大丈夫? まさか完成する前から哀のバケツの出番だなんて……」
ナギ「そうだ、剥ぎ取った亀の甲羅を器にするというのはどうだ?」
お妙「ナイスアイデアよナギちゃん。流石だわ」
新八「いや全然ナイスじゃないですから! ただでさえ虫の幼虫とか入ってグロテスクなのに
さらにおぞましさをプラスしてどうすんですかアアアァァ!!!
正直パンデモニウムさん食えって言われた時に勝るとも劣らない気分ですよ!!!!!」
森「ところであっちのチームはデザートとかも作ってるみたいだけど、私達はどうします」
お妙「そうねぇ……ハーゲンダッツはどうかしら?」
ニコラス「もう自分料理しとらんやんけそれ」
宮子「良いですねぇ、美味しいですよねハーゲンダッツ」
アル「こっちのチームは主食とかはどうするんだろう?
まだ決まってないのなら早くしないと時間切れになっちゃうよ!」
妙「ジャガイモって皮むいてるうちに身が無くならない?」
森「ピーラーならありますよ」
宮子「これなら簡単!」
蜂「ジャガイモのささがき……?」
宮子「うー、ごめんなさい……」
妙「いえ、ここまで薄いとかえってポテチみたいで面白いわ!揚げてから鍋に投入しましょう」
森「主食がない?ああそういえば!!」
宮子「米炊いてる時間ないよー!」
ナギ「そう不安な顏をするな!とっておきの秘策があるぞ!」
森「な、何なのかな?」
ナギ「そう、当たりだ!」
森「え?」
ナギ「ナンだ!小麦粉を練って焼けば大体ナンになるのだ!!」
森「そうなんだ!?知らなかった!」
妙「流石だわ!早速小麦粉に水を足しましょ!」
蜂「お水が多くてべちゃべちゃだわ」
宮子「でもクレープみたいになるかも!」
BJ「あれを食べたらどうなるか予想つくか?」
キリコ「AED用意しといた方がいいんじゃないか」
卑怯「昔ジャイアンはセミの脱け殻をシチューに入れたそうだよ」
蝉「呼んだか?」
卑怯「君の脱け殻は見たくないな」
沖田「コックさんチームは一応出来上がったみたいですぜィ」
剛力「せっかくいい香りなのですが、妙ですわね、おかしな香りも漂ってますわ」
12nd「ワカル!盲目デモイカニ酷イカガワカル!」
ナギ「肉じゃがの調味料は砂糖から入れればいいのだな!」
妙「砂糖!醤油!酢!せうゆ!ソイソース!」
森「あ!『そ』は味噌でした!」
ナギ「赤味噌か?白味噌か?」
妙「両方入れておけば間違いないわ」
宮子「かにみそは味噌に入りますか?」
ナギ「よし、それも入れておくか!」
蜂「亀のあ 森「わぁわぁーー!!」の中の脳味噌も入ってるわ」
妙「ナイス!」
グリード「じゃねぇ!!」
増田「なぁアルフォンス、どうしても食べねばいかんかね」
アル「当たり前じゃないですか、食べなくてどうやって審査するんです」
増田「料理バトルと銘打つならば最低限料理を出すべきだろう!
彼女たちには悪いが、私の目にはアレが料理に映っておらん!」
九兵衛「好きにすれば良いだろう。貴様が食べない分僕の取り分が増えるだけだ」
新八「だからアンタどんだけ姉上が好きなんですか!!」
ルフィ「めーしー! 早くメシ食わせろー!」
アル「そろそろルフィさんが限界ですね。まもなくタイムリミット、果たして勝負の行方は!」
火澄「審査員の人らのタイムリミットも間近やなぁ……ご愁傷様」
妙「デザートはハーゲンダッツにしますかやっぱり」
ナギ「知ってるか?『ハーゲンダッツ』の『ダッツ』に意味はないそうなのだ!」
宮子「へー」
ナギ「だから私たちがアレンジしてハーゲンダッツに手を加えて『ダッツ』の部分に意味をつけてやろうと思う!」
増田「彼女らは唯一のサンクチュアリすら汚す気か!?」
蜂「『大福』と『ナッツ』かしら」
妙「『出し昆布』『ナッツ』もいいわね」
宮子「リサイクルですね!」
森「なら両方入れましょう!私盛り付けますよ!」
アル「そこまで! 調理時間終了です。皆さんお疲れ様でした!」
ナギ「なんとか間に合ったな!」
お妙「ええ、結果が楽しみだわ」
蜂「(想像していたよりも遥かに酷いわね……)」
森「植木も食べてくれるんだよね。うぅ、緊張する……」
宮子「頑張ったからねー、勝てると良いね!」
香介「腕に自信があるわけじゃないが負ける気がまったくしねぇ」
蝉「ああ。むしろこれで負けたら自殺モンだろ」
金剛「今回のプリンは自信作だ」
ハヤテ「審査員の方の命が危ぶまれます……」
サンジ「クソッ……これで本当に良いのか? レディたちの悲しむ顔は見たくねぇんだが」
アル「ちなみに味見とかはしました?」
ナギ「そういえば失念しておったな」
お妙「食べてからのお楽しみって事で良いじゃない」
咲夜「ちっとも良うないわ!」
ニコラス「凄いな、ある意味才能やろコレ」
みねね「確実にあの4人にはDEAD ENDフラグが立っているわね」
理緒「もはや殺意の有無を問われるレベルですよ」
ボン「麦ちゃぁ〜ん、九ちゃぁ〜ん! どうか死なないで!」
植木「おおおおーーー!?」
ルフィ「すっっげぇえええ!!」
増田「なんだかコックさんチームが天使に見えるよ」
みねね「ごつい天使だ」
アル「ウィンリィのアップルパイの次に食べてみたいな」
剛力「あちらだけいただきたいですわ」
鈴子「触らぬ料理に祟りはありませんわ」
ニコラス「未知の料理やけどうまそうやな」
咲夜「どっちを先に食べるかで天国地獄決まるで」
火澄「なんや、料亭かここは」
卑怯「素晴らしいね、卑怯な手が全くないよ」
沖田「器用なこった」
紅錬「人間の食い物だな」
理緒「こーすけくん、すごい!」
亮子「少しは吐き気止まりそう」
ヒロ「見てたらお腹空きました」
妙・ナギ「ありがとう!」
グリード「貴様らじゃないわ!」
転載すんなよ…
wiki読んで知ったけど原作じゃラースには再生能力と不死性がないんだな…
そこつっこまれたら二レス目で終わるなとか書きながら思ってたけど、最初の投与時に回復効果あったし
まぁロワオリジナル効果って事でヨロシクw
再生能力と不死性が「ない」んじゃなくて、ストックが無くなっただけだしね。
賢者の石状態でラースは支給されたんだし、問題ないと思うよ。
まぁあの最終形態はあのくらいブッ飛んだ強さじゃないとなw
ごめんちょっと意外だったもんで勢いで書き込んじまったが別に気に入らないわけじゃないよ
vs剛力番長辺りの話は投下作品の中でも好きな話だw
アル「ではいよいよ審査員の方々に食べていただきましょう!」
増田「さき程の皆の反応を見れば結果は自ずと見えてくる筈だが……それでも食べろと言うのか」
九兵衛「ああ、正直僕としても回答はすでに決まってしまっている。
故にコックさんチームの料理を食べる必要はない」
新八「もういいですもうツッコミませんから」
植木「……でも出された料理はちゃんと食わないと作った人に失礼だぞ」
ルフィ「うめぇ〜! やっぱりサンジの作るメシは最高だ!」
植木「旨い!何だこれそこらのレストランより旨い!?」
ルフィ「おれらが誇るコックだからな!いやでも煮豚もうめぇぇぇえ!!」
ハヤテ「嬉しいお言葉、ありがとうございます!」
増田「米と味噌スープとは珍しいが、なかなかだ」
香介「(あれよりは遥かにいいだろうな)」
蝉「(つーか、あれは何なんだ)」
植木「プリンもうまい」
金剛「光栄だ」
増田「……さて」
沖田「モザイクかける準備はしてあるんですかィ?」
卑怯「放送事故用の綺麗な花咲き乱れる映像は準備万端さ」
伊澄「(ごめんなさい、ナギ。バケツを用意させてしまいました)」
アル「口で出来る限りの表現します。
哀のエプロンチームの肉じゃがはですね、とても磯臭いです。
砂糖と醤油の粘着質に浸っていて、わさびの匂いが染みるのではないでしょうか。
ジャガイモはいつの間にかポテチに変貌し、単品ならまだ大丈夫だったであろうものが混在しています。
人参からは何ともいえない薬くささが立ち上り、ところてんがしっとり絡みついて離しません。
亀の甲羅の底に溜まっているのは赤味噌白味噌蟹味噌脳味噌ですね。そこからひょっこり顏を出すはちのこがアクセントです。
汁はなんだか特保っぽい飲み物の色をしているのは気のせいでしょうか。
主食はナンということですが、ホットケーキの化け物のような固まりが積み重なってます。余ったのか、ボウルにまだたっぷり残ってますね。
デザートはハーゲンダッツと聞いていたのですが、おかしいな、こぶ巻きが出てきたよ?」
(ゴゴゴゴゴゴゴゴ)
増田「おかしいな、あの物体から妖気が『ゴゴゴゴ』と吹き出ているような気がするのだが」
植木「(ゴミを木に変える能力が復活しないか)」
九兵衛「君たちが食べないなら、先にいただくとしよう」
<●><●>
九兵衛「なんだ皆のその目は」
卑怯「目を逸らしたい反面、見届けなくてはならない気持ちもあるからね」
理緒「これが警察なら、二階級ぐらい特進するんじゃ」
ルフィ「いいから食おうぜー冷めちまう」
九兵衛「いただきます」
ひぇなゃっぽゎぅまょん
新八「倒れたァァァァアア!!
パロロワどころか漫画史上初であろう軽快かつ絶望感溢れる擬音語を発して倒れたアァァアアア!!!!
そして体はオガクズのように脆くボロッボロだアァァァア!!!!」
咲夜「未だかつてない声や、もう無理や、見てられへんわ〜」
火澄「オガクズがもう一人分出来上がったで」
伊澄「こ……これ哀のバケツです……」
麻子「バケツどころの騒ぎじゃないような気がするわ」
ボン「麦ちゃぁぁぁん、九ちゃぁぁぁん!!戻ってきてぇぇえ!」
/`ーヘ <´ ̄ニニニニ三\__ ,r‐‐、_,.‐--、_____ノヽ
_r-、 | )´ ゝ-‐‐‐=ニ二__,.-‐‐ \ / /ヽ \ ̄`ヾ ノ
}ヽ y' / ヽr‐、_r 、 `ー-----‐'''" \ヽ ! ! ヽ 丶 '<て´。
/ { | } {` ___ _r‐、 | | {ヽ ト、___ >o
ヽ-ュ‐`ハ`ー-く、_,r' ノ`ー-、 i' l `ヽr-' / ̄フ、__> ゝハノ_) >゚。
j⌒´ ノo。゚o} ヽ 〈 ̄`ヽ /⌒ヽ 一部見苦しい画像があった { 〈 / i'´| `'‐-ー´\,ゝ `o゚
ノ / ∞ { ヽ丿 ノ-ヽ }ノ_ノ } ことをお詫びします ヽo ゜。∨ r-'ヽ |
`ー} ____ノ i `ー<ノ )`ー > /ハ -‐ァ´ _,r'`ー8 o{ ノ、__ } |
`ー、__ト、ノ| | ト、_r'`ー-< o゚8, o { / |´ lヽ! ∨ l
_______ | | ヽソ / ヽ゚。、 ヽ ヽ{ ハ、i ゝー、ノ| |
/ ----- ヽ // \ー- ' ___/ }_/ `ー' ` ̄ | |
´ ̄ ̄ ̄ ̄`// //`ヽ/, ハノ しばらくそのままでお待ち下さい
/ゝ、 _,.--‐ 、ニヽ / / ゝ_/ レ'
`}  ̄r´ ̄//| \ヽl
フ>' / / ! !
o( { __,ノ ノ | |
。゚く( _ノハ /__,,. | |
゚o´ //`ー-‐'´ | | ヾ
増田「嫌だ、私は食わん! というかあの二人のあの姿を見た後で食べろというその精神が理解不能だ!!」
アル「往生際が悪いですよ大佐」
増田「本当に往生しかねんから言っているのだ!」
植木「……お、俺食います!」
新八「待ってえええええぇぇぇ!!! 早まらなくて良いから! そんな死を覚悟した顔で立ち向かわなくて良いんだよ!!!!!
そっちの三十路にもなってみっともなく抵抗し続けてる人みたいにもっと己を大事にしてエエエエエェェェ!!!!」
増田「悪かったなみっともなくて!!! だがこれだけは譲れん!!」
BJ「これは私たちの出番というよりも」
キリコ「牧師に葬式を依頼するのが妥当ではないかね」
ナギ「た、食べないのか……?」
増田「うっ」
宮子「頑張って作ったらのに……」
増田「がっ」
植木「い、いたっだきます!」
新八「泣かないでぇえ!!笑顔で泣きながら箸持たないでぇえぇぇえ!!!!」
グリード「やめておけ!これだけはマジでやめておけ!!」
太公望「そいつはわしがいただく!」
(ガバッ)
植木「!?」
太公望「ぐにゃげばぎゅはっ」
咲夜「一口で植木はんの分平らげてそのまま表にリバースしおった……」
平坂「正義ハ助カルノダ!!」
みねね「あんたまさか……?」
アル「さぁ、因果応報人間も帰ってきましたよ大佐!」
増田「こ と わ る」
沖田「イイ大人がいつまでも駄々こねてんじゃねぇやィ!!」
増田「ぐがッ!?」(ごっくん)
増田「ぅべるみでゅわゃぶむぃ」
新八「ちょっ何してんだドSぅぅぅうううう!?」
沖田「いやぁね、なんか見てたらだんだん土方のヤローに似てやがんなぁとか思いやしてねィ……やっちまいやした」
新八「『やっちまいやした』じゃないですよ!!
平坂さんと言いアンタらもう正義の味方とか警察とか名乗るの止めろぉぉおおおお!!!」
増田「はっ……はぁ……わ、私はもう駄目だ、せめて誰か私の夢を……
女性キャラ全員ミニスカート化を……つ……うっ」(ばたん)
新八「増田さあああああん!!」
みねね「最期になんつー遺言残してんだあの軍人は!?」
ナギ「で、勝者はどっちなのだ!?」
アル「審査員で生き残ってるの植木くんだけだね。植木くん、どっちにする?」
植木「(よく声が似てるな)
コックさんチームしか食べてないからなんともいえないぞ。これじゃ不公平だからドローだな」
妙「納得いきません!」
香介「(それはこっちのセリフだ)」
蝉「(それ言うと『じゃあ判定しろ』とかで奇怪な残りモノ食わせられそうだから言わねーがな)」
植木「どうしても勝敗出したいのか?」
森「出して植木!」
植木「コックさんチーム」
アル「コックさんチームの勝利でーす!!皆様盛大な拍手をー!
ちなみに大佐、哀のエプロンチームを百点満点で採点するなら?」
増田「マイナ 九兵衛「百点だ」点」
妙「百点ですって!また作って振る舞いたいわ!」
ニコラス「話は最後まで聞きや、セリフかぶってるやろ!」
アル「じゃあ勝者は指名して命令をどうぞ」
コックさんチーム「二 度 と 料 理 す る な」
五人の勇者は誕生した
平坂「サンジレッド・ハヤテブルー・コンゴウイエロー・コースケグリーン・セミブラック カ。
私ノ枠ハアルノカ?」
新八「もういーかげんにしてくださぁぁぁああい!!!!」
ぱっつあんはどこでも苦労性だw
本編での活躍があまりにも少ないのが残念すぐる。
総ss数と書き手紹介の数字の合計があわねぇorz
死者スレのネタ普通に本スレに書き込むなよ
何のために専用のスレ立ててるか分かってないの?
ああいうネタを嫌う人も結構いるからだよ
一応隔離スレだからなあれ
あああ最新話を何故かカウントしてなかったのかようやく数字が合った
そしてひさびさに予約も着て楽しみなんだぜ
これは奇妙な組み合わせだな
彼はそっちに行ったのか
>>182 復旧乙
あと復旧してないのはキャラ情報くらいか?
しかし面白い組み合わせの予約だな
新wiki前のwikiの不満点だった文字の大きさと、三点リーダーの仕様が変わってていい感じだ
読みやすくなった
これは……獣の槍どうなるんだろ
187 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/23(金) 10:43:57 ID:xOKGud7d
あら、彼と彼らがご対面だと?
投下します。
ゼノンのパラドクスは、空間と運動の本質を詳らかにした。
【Paradox 1 : Zeno's Paradox】
大きな羽虫を思わせる四枚羽の生物が、薄暗い森の中を飛んでいた。
よく見ればそれは羽虫ではない。人に似た形を――具体的には裸の少年の姿をしている。
人間との明確な違いは、異様に長く尖った耳を持つことと、生殖器が見当たらないことくらいか。
「ったく、オレは虫じゃないっての。いきなり摘んで結界に閉じ込めるなんて何考えてんだか。
でもまぁ、このパック様にかかればあんなもん屁でもないけどな」
威勢のいい台詞を吐きながら木々の間を往くのは妖精パック。
彼は三十分程の悪戦苦闘の後、ようやくひょうの張った結界を破って自由の身となったのだ。
そして今、顔に少しの焦りを浮かべながらきょろきょろとひょうを探している。
「何処行っちゃったんだよ、あいつはもうっ。勝手なんだからさぁ。
早く探してやらないと……。あぁもう、何か暗くなってきたなぁ。
……別に怖いとかそういう訳じゃないんだからなっ!」
虚空に向かって妙な言い訳をしながらすいすいと木の合間を縫って行く。
「ガッツは今頃何してんのかなぁ……。グリフィスって名前見てカッカしてなきゃいいけドベッ!?」
突如、何も無いはずの空中で何かに衝突した。
パックは思い切りぶつけた鼻を押さえながら、痛みを紛らわすようにその場でくるくると回る。
「痛ェ――っ! な、何だこれ? ……ってまた結界?」
見れば近くの木に数枚の符が貼られている。ひょうが使っていたものだ。
少し離れた木にも貼られている。
どうやら結界は正方形の領域を囲っているらしい。
だが内部には何も無い。
例の妖怪との戦いで張った結界を放置していったのか。
「めーわくだなちょっと。
使い終わった道具はちゃんと片付けろってママに教わんなかったのかよ。
――――ん?」
ゆらり、と。
結界の中で空間が揺らぐのをパックは敏感に感じ取った。
「え、わ、な、何だぁ?」
一瞬、辺りが眩い光に包まれ――、
「ふぎゃっ☆」
ゴテゴテとした少女趣味の服の上に水色のケープを羽織った少女――胡喜媚が結界の中央に姿を現して、前のめりに可愛らしく転んだ。
パックはこれ以上ないほど驚愕する。
「――お、お、おま、お前っ!」
忘れる訳が無い。
ガッツの姿で死体の山を築いた怪物だ。
身体の各所に打撲や火傷の痕があり、服も若干汚れてみすぼらしく見えるが、見間違えることは無い。
その怪物がパックの叫びに反応して顔を上げた。
パックはしまったと思った。思わず声を上げてしまった自らの迂闊さを呪うが、時既に遅し。
胡喜媚の視線は既にパックを捉えている。
「こ、このっ。や、ややや、やるか!? エ、エルフ次元流が、ひ、火を吹くぞ!?」
パックの虚勢には特に構わず、胡喜媚は口を半開きにしてその大きな目で彼を見詰めた。
そして、にぱっと破顔する。
「妖精さんなのら〜〜☆」
「のわあぁぁぁぁぁぁ!」
彼我の体格差も考えずパックに飛び付く胡喜媚。
パックの視界一杯に満面の笑みが飛び込んで来た。
思わず目を瞑る。
そして妖精は哀れ悪徳ロリータの下敷きに……、
「――ぎゃん!」
とはならなかった。
胡喜媚はパックの鼻先で見えない壁に跳ね返されて背中から地面に落下した。
パックはいつまで経っても予想していた衝撃が来ないことに気付き、恐る恐る瞼を上げた。
そして、あれ、と間抜けな声を出す。
「あー、そういや結界があったんだっけ……」
自分と同じ失敗を犯した少女の姿を見て、パックは少し冷静に戻る。
と同時に、ひょうがこの場に結界を残していったことに対する疑問も氷解した。
「う〜、それなら風さんに……はれ?」
立ち上がってまた何やら行動を起こそうとしていた胡喜媚だったが、糸が切れたようにその場にとすんと尻餅を突いた。
「体がへろへろ……変なのっ☆ 時間も上手に泳げないし、おかしいよっ☆」
口を尖らせて不満げな声を上げる。
「……えーっと、制限ってやつじゃないの?」
「せーげん?」
「ほら、強いヤツは力を抑えられてるとか何とか最初に言ってたじゃんか」
う〜ん、と必要以上に首を捻って記憶を探る胡喜媚。
そして出た答えは、
「喜媚、わかんないっ☆」
パックはげんなりとした様子で肩を落とした。
本当にコイツがガッツの姿を騙って惨劇を引き起こした張本人なのだろうかとパックは悩む。
自らの眼で確認したにも拘らず、自信が無くなって来たのだ。
そのとき、彼女は何かを気にするように、急にそわそわし始めた。
怪訝な表情になるパック。
そんな彼を胡喜媚はキッと見据える。
彼女の視線に射竦められ、パックの喉からひゃあと高い音が漏れた。
「ねぇっ、妖精さん☆ スープーちゃんわっ!?」
「……へ? 誰?」
訊き返すパックを無視してなおも胡喜媚は周囲を見渡す。
パックも釣られて首を動かすが、視界にはただ鬱蒼とした森が広がっているだけだ。
「スープーちゃんはスープーちゃんなのっ☆ スープーちゃん? スープーちゃん、どこ行っちゃったの?」
まるで要領を得ない。
だが誰かの名前であることは判る。
しかしパックはその名に覚えが無い。
一応名簿を取り出してざっと眺めてみるが、それらしい名前は見当たらない。
(何だかなー。相手にするだけ無駄っぽい感じだなぁ。さっさと他行くかな。
大体こんなヤバいヤツ、関わらない方がいいに決まってるし。あー、でもドコ行きゃいいんだか)
――ぱきり。
そのとき、パックの背後から枝を踏み折る音が聴こえた。
慌てて振り返る。
「お二人とも――どうやらお困りのようですね。おっと、そう警戒しないで下さい。
僕は『探偵』。困っている人の味方ですよ」
いつ現れたのか。
そこには、不敵な笑みを浮かべた白髪の少年が佇んでいた。
***************
オルバースのパラドクスは、永遠不変の宇宙という概念に疑問を投げ掛けた。
【Paradox 2 : Olbers' Paradox】
「ふうん、なるほど、ね」
唐突に現れた『探偵』――秋瀬或の手際、というか話術は見事で、『スープーちゃん』を探すのを手伝うと言いながら、あっという間に胡喜媚からいくつかの情報を引き出していった。
まずは彼女の名前。
『スープーちゃん』とやらが彼女の恋人らしいこと。
そしてその彼をどうやらひょうが連れ去ったこと。
胡喜媚が時間を自由に泳ぐ能力を持っていること。
しかしこの場では過去へは行けず、未来へ行くにも非常に抵抗が大きくなっている(胡喜媚はこれを時間がねっとりしてると表現した)こと。
その辺りまで聞き出したところで、胡喜媚は突然地に突っ伏してしまった。
怪我が重くて倒れた――という訳ではなく、単に疲れて眠ってしまっただけのようだ。
この場での時間移動は異常に体力を消費するのだろう。
そんな推測を或はパックにつらつらと述べる。
「……なんつーかさ、ソツが無さ過ぎて主人公には向かないタイプだよな、あんた」
感心半分、呆れ半分といった様子のパックに、本当はもう少し訊きたいことがあったんだけどねと或は事も無げに返す。
「そうだ。そいつが寝てるんなら丁度いいや。
聞いてくれって。さっきそいつがあっちでさ――」
パックが話し出す。
胡喜媚は結界の向こうで四肢を地に投げ出したまま動こうともしない。
お陰で彼らは話に集中することが出来た。
パックは胡喜媚の虐殺行為について話し終えると、続けて島全体の異変について話し始める。
幽界や竜脈といった耳慣れぬ単語を交えた説明に敢えて口を挿まず、或はパックが話すに任せている。
「――それでさ、その、向こうの方が――きっとこの地図の神社ってとこだと思うんだけど――何か変なんだ。
オレと一緒に調べに行ってくれないかな。オレの勘だけじゃなくてさ、これが――」
言いながら、台の付いたゴルフボール大の透明な球体を小さなデイパックから抱えて取り出す。
球の中心には金属製の針が水平に――よく見ると僅かに下を向いて――浮かんでいる。球状のコンパスといったところか。
『永久指針(エターナルポース)』と呼ばれる、グランドラインの航海に使われる道具だ。
「――ずっとそっちを指してるんだよ。気になるだろ?
普通はさ、調べてみたいって思うじゃんか。
でもひょうはオレがそう言ってもちゃんと聞いてくれないしさぁ。
まったく、ガッツより自分勝手なんだから。さっきもオレを置いてどっか行っちゃうし。
その点、あんたはオレの話を……アレ? ねえちょっと、お〜い? 何考え込んでるのさ。聞いてる?」
「え? ああ、うん……勿論聞いてるよ」
何が気に懸かったのか、パックの話の途中から或は顎に指を当てて視線を逸らしていた。
腕を組み頬を膨らせて、本当かよ、と疑わしげな視線を或に向けるパック。
それを見て、この自称妖精は随分人間臭い反応をするな、とどうでもいいことを或は思った。
「まぁ……確かに君の言う通り、神社を調査する必要はありそうだね」
「お、それじゃあ……」
「『探偵』として、君の依頼を請けよう。依頼内容は島の中心に座する神社の調査。報酬は――」
喋りながら、おもむろに結界の要である札に手を掛ける。
「え? ちょ、ちょっと、待てって!」
焦りの色を浮かべて制止するパックを意に介さず、或は札を纏めて剥がした。
見た目には何も変化は無い。だが胡喜媚を閉じ込めていた不可視の檻はこれで破られた。
落ち葉の上であどけない寝顔を曝す胡喜媚に堂々と歩み寄る或。
「報酬は彼女――胡喜媚さんの身柄でどうかな?」
要するに彼女を連れて行くことが依頼受諾の条件だ、と或は宣言する。
「連れて行くって……大丈夫なのかよ!?
さっき言っただろ、そいつは――」
パックの言葉を最後まで待たず、或は知っているよ、と鷹揚に返した。
パックに言われるまでもなく、ミッドバレイから胡喜媚の危険性は聞き及んでいる。
それでも彼女の持つ情報と能力は『神』の謎を解く鍵になると或は判断したのだ。
「君の話を聞く限り、この子は単に善悪の区別が付かない子供なんだろうね。
力の使い方は僕らが教えてあげればいいのさ。子供を導くのは年長者の役目だよ」
年長者って年じゃないじゃん、と愚痴りながらも、パックも渋々同意する。
胡喜媚を放置しておけば、またガッツの姿で無軌道に暴れないとも限らない。
あんな――深い泥土のような怨念を再び生み出すのはパックの本意ではなかった。
それに、ひょうが行ってしまった今、たとえ不安定でも戦力が必要だからだ。
胡喜媚を軽々と負ぶった或が、さて行こうかと告げる。
「まぁ、いいけど……。あ、ところでさ、あんた、名前は結局何て言うのさ」
「自己紹介したいのはやまやまだけど、生憎不都合があってね。
ただの『探偵』ということにしておいてくれないかな」
「…………やっぱあんた胡散臭いんだけど」
こうして奇妙な三人組は山頂の神社へと向かい始めた。
***************
ラッセルのパラドクスは、ときに純粋な論理ですらも当てにはならないことを示した。
【Paradox 3 : Russell's Paradox】
空間に満ち満ちた葉の擦れる音が、突然の爆音に一瞬だけ掻き消された。
「ちょっと、大丈夫なのかよ。今の、神社の方からだよな?」
「そのようだね。ただ、今の爆発音は随分上空から聞こえてきた。
戦闘――という感じではないけど……。警戒するに越した事はないか」
或とパックは森の中で一旦立ち止まり、それまでの会話も中断して様子を窺っていた。
神社の方向の空から響いた爆発音。
まさか誰かが暢気に花火を上げている、などという訳ではあるまい。
ならば神社近辺には何らかの危機が待ち受けていると考えるのが自然だ。
「とはいえ、ここは前進が正解だね」
「うぇ、マジで? 危なくない?」
神社まではまだそれなりの距離がある。
何が起こっているにせよ、すぐに或達に危険が及ぶ可能性は低い。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、さ。何事もリスクを恐れていては良い結果は期待出来ないものだよ」
ネットに接続出来れば今の爆発についての情報が得られるかもしれないが、残念ながらここは携帯電話の圏外だ。
この場に留まったところで情報は得られないし、従って事態が好転する見込みはほぼ無い。
或は一旦爆発のことは棚上げすることにして再び歩き出した。
「それで、さっきの話の続きだけど……」
「あんた、余裕あるなぁ。ま、いいけどさ。んっと、ドコまで話したっけ? ああ、そうそう――」
パックは先程までの話を再開する。内容はこの島の異常性についてだ。
大半は黒衣の術師、ひょうが語った内容の受け売りだったし、そのため内容はいまいち纏まりと正確性に欠けたものだったが――或は適切に合いの手を入れてパックから話を聞き出した。
「精神体だけをコピーの肉体に入れている、か」
「そうそう、そう言ってた。でもそんなことホントに出来るのかねぇ」
精神体とは具体的にどういうものなのか、という疑問は取り敢えず脇に置いておくとして――大方字面通りの代物だろうから――ひょうが語ったというその仮説は興味深い。
精神体をコピーの肉体に入れる前に記憶を弄っていると考えれば、異星の住人と問題無くコミュニケーションが取れることにも説明が付く。
リヴィオの回復力が落ちていたのは、コピーの肉体の方を調整されていたのだと考えればいい。
ではそんな面倒なことをしてまで『神』がこの状況を作った理由は何か。
時間の壁も空間の壁も、ひょっとしたら世界の壁すらも越えて様々な人々を――ヒトですらないものも――集めた理由は何か。
そして集めた人々に殺し合いをさせる理由は何か。
まず思い付く目的は、実験。
このゲームを何らかの実験と考えるなら、ひょうの仮説は確かに妥当だ。
実験とは再現性が最も重要視されるものなのだから。
つまりこの場で死んだとしても、オリジナルから引き剥がしたときと同様に精神体だけを回収する。
その上で新たな肉体を与え、記憶を弄ってまた同様のゲームに放り込む。
まさに無間地獄、という訳だ。
その場合、記憶がリセットされることはある種の救いなのかもしれないが。
だが――だが、だ。
再現性を重視するなら――おそらく誰もが思い付くように――もっと単純で優れた方法がある。
つまり肉体だけではなく精神体まで含めてコピーしてしまえばいいのだ。
それが出来るなら精神体の回収や記憶の操作などという七面倒臭い作業も必要無い。
しかも何千何万という実験を同時並行で行うことも出来る。
そしてこの場合こそが絶望的に厄介な状況と考えられる。
何しろ、『神』にとって自分達は良く言っても実験室の片隅のリトマス紙程度の存在でしかない、ということになるからだ。
反逆の目など億に一つ有るかすら怪しい。
しかも元の世界にはオリジナルが存在するのだ。
仮に億が一の奇跡を起こし脱出が叶ったとして、一体何処へ帰れというのだろうか。
「――――っつーこと。ま、こんなもんかな」
考えている内に、パックの話は粗方終わっていた。
勿論、聞き逃すようなヘマはしていないが。
「なるほど、参考になったよ。有難う」
「はっはっは。敬うが良いぞ」
忙しく羽をパタつかせながら、パックは空中で偉そうに踏ん反り返った。
その様子を眺めて或はクスリと笑った。
それにしても――と或は思う。
ひょうという術師はそれなりに頭が切れるようだ。
彼は全て理解した上で、徒に絶望を振り撒くことを恐れて敢えて伏せたのだろうか。
それともパックに話していない何かがあるのだろうか。
ひょうと直接話してみる価値はありそうだと或は考える。もっとも、互いにそれまで生きていられればの話だが。
「やれやれ、難儀なことだ」
「ん? どーかした?」
「いや、考えることが多くて探偵冥利に尽きると思っただけさ」
***************
EPRパラドクスは、世界の法則が人間の直観に真っ向から反していることを明らかにした。
【Paradox 4 : EPR Paradox】
秋瀬或は沈思する。
パックが永久指針を取り出したときに、或が含みのある態度を取ったのには訳がある。
彼が神社を調査する必要があると考えていたのは本当だ。
だがそれよりも、彼にとっては気に掛かることがあった。
それは――事象の全てが或を神社へと向かわせるように整っている、ということだ。
それもあたかも初めから仕組まれていたかのように。
そうだとすると、指針となる道具を持ち、現世を外れた力を感じることの出来る妖精は、メッセンジャにしてナビゲータか。
だが、そんなことが有り得るだろうか。
常識的には否。
自らの死を偽装し、コピー日記で雪輝と由乃の当面の無事を確認し、ひとまず彼らから離れることに決めた。
それからなるべく人目を避けるために森へ入った。
森へ入った理由はもう一つ、昼間の内、天気が大きく崩れる前に山中の施設を調査するため。
そして、発見に苦労するかもしれない研究所と工場よりも、まず山頂に位置する神社へと向かうことにした。
この一連の決断は、間違い無く自分自身の、秋瀬或の意思に依るものである――べきだ。
加えて、パックと胡喜媚に遭遇したことは全くの偶然。
だから彼らの齎した情報が不自然に都合のいいものであったとしても、それは純粋に幸運だと喜ぶべきであるはずだ。
そのはずなのだが――どうにも気に入らない。
或は背中から不可視の糸が伸びているような奇妙な錯覚を感じた。
そもそも自分の意思などはまやかしに過ぎず、ただ操り人形の如く誰かの意思の通りに行動している気さえしてくる。
偶然かもしれない。単なる考え過ぎかもしれない。
だが鳴海歩の話を――鳴海清隆とミズシロ・ヤイバ、そしてブレード・チルドレンにまつわる話を聞いてしまった以上、下らない妄想だと一笑に付すことは出来なかった。
複雑に交錯する人々を論理の糸で狂い無く操る、そんな神――いや、悪魔染みた存在を知ってしまったがために。
放送時に流れた『コッペリア』の序奏。穿って見れば、それすら深い意味を持っているように感じてしまう。
(――らしくないね、僕としたことが。やっぱりまずはパズルのピースを集めることに集中しないと。
手持ちのピースだけでは足りない部分が多過ぎる)
とはいえ――スプーン一杯ほどの不安は、或の奥底にどうしようもなく溶けずに残る。
もし仮に、真実自分が、いや誰も彼もが意思を持たぬ操り人形だったとしたら。
この島が、いや世界の全てが巨大な人形劇の舞台だったとしたら。
悲劇も喜劇も遍く予定調和に過ぎないのだとしたら。
信じるべきものは何か。
信じられるものはあるのか。
――そうだ。
それでも――僕は雪輝君を愛している。
これは、この気持ちだけは――、
――――――それもまやかしだな。
「ッ――デウス!?」
眼を見開き天を仰ぐ。
確かに聴こえた。『神』の――いや、元『神』の重々しい声。
だが、視界に入るものは、押し潰すように揺れる木々と暗く小さな空。
肺に冷えた空気が沁み込む。
「な、何だよいきなり……。びっくりさせんなって。
それより、もう少しで神社だぞ。気を引き締めてくれよ。
この辺の雰囲気――かなりヤバいって」
顔の横にはお調子者の妖精。背には眠る少女。
何もおかしなところは無い。
「……聴こえなかった、のかい?」
「は? 何がさ?」
パックは気味の悪いものを見る目で或を見ている。
背中の胡喜媚は何の反応も見せずに寝息を立てている。
「……いや――」
デウスの声を聴いたのは自分だけだったらしい。
幻聴だった、と判断せざるを得ない。
思ったよりも疲れているのかもしれないと思いながら、或は小さく溜息を吐いた。
そして、何でもないよ、と言いかけて――或はあることに思い当たり、今度こそ体を強張らせた。
おかしい。
何故。
何故、僕はあの声をデウスのものだと思ったんだ?
僕は――デウスに会ったことなんて無いはずだぞ!?
【F-5/森/1日目 午後】
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:疲労(中)、左肩に銃創、右こめかみに殴打痕
[服装]:
[装備]:コピー日記@未来日記、クリマ・タクト@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真、
ニューナンブM60(5/5)@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、
警棒@現実×2、手錠@現実×2、携帯電話、
A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、
A3サイズのレガートモンタージュポスター×10
[思考]
基本:雪輝の生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
1:『神』の謎を解く。
2:偽装した自身の死を利用して、歩や由乃に感づかれないよう表に出ずに立ち回る。
3:コピー日記により雪輝たちの動向を把握、我妻由乃対策をしたい。
4:探偵として、この殺し合いについて考える。
5:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に貼っておく。
6:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
7:探偵日記の更新は諦めるが、コメントのチェックなどは欠かさない。
8:『みんなのしたら場』管理人を保護したい。
9:リヴィオへの感謝と追悼。
10:神社付近を探索したい。
11:出来ればひょうに直接会ってみたい。
12:何故、僕はデウスの声を知っている?
[備考]
※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
※蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※リヴィオからノーマンズランドに関する詳しい情報を得ました。
※鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
詳細は第91話【盤上の駒】鳴海歩の状態表を参照。
※みねねのメールを確認しました。
みねねが出会った危険人物及び首輪についてのみねねの考察について把握しました。
※参加者は平行世界移動や時間跳躍によって集められた可能性を考えています。
※ミッドバレイとリヴィオの時間軸の違いを認識しました。
※コピー日記(無差別日記)の機能が解放されました。
※パックからひょうの仮説(精神体になんらかの操作が加えられ、肉体が元の世界と同じでない可能性)を聞きました。
※胡喜媚から彼女の能力などについて若干の情報を得ています。
【胡喜媚@封神演義】
[状態]:疲労(大)、睡眠、全身に打撲と火傷、ひょうへの恐怖?
[服装]:原作終盤の水色のケープ
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:支給品一式 、エタノールの入った一斗缶×2
[思考]
基本方針:???
0:スープーちゃん……。
1:スープ―ちゃんを取り返しっ☆
2:妲己姉様、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
3:復活の玉を探して理緒ちゃんと亮子ちゃんを復活しっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化は可能ですが、時間制限などが加えられている可能性があります。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※第一回放送をまったく聞いていませんでした。
※原型の力が制限されているようです。
※第二回放送をろくに聞いていません。
妲己の名が呼ばれたのは認識していますが、その意味は理解してないようです。
※雉鶏精としての能力により、時間移動が可能です。ただし大量の体力を消費します。
時間移動はできても、空間移動はできません。
【パック@ベルセルク】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品×1、永久指針(エターナルポース)@ONE PIECE
[思考]
基本:生き残る。
1:ひょうが無茶をしないか気がかり。
2:神社付近を探索したい。
3:胡喜媚を警戒。
4:『探偵』は何か怪しい。
[備考]
※浄眼や霊感に関係なくパックが見えます。
※参戦時期は少なくともクリフォトから帰還した後です。
※デイパックの大きさはパックに合わせてあります。中身は不明。
※会場に幽界と近い雰囲気を感じ取っています。
違和感の中心地が神社であると感じています。
※ひょうの仮説(精神体になんらかの操作が加えられ、肉体が元の世界と同じでない可能性)を聞きました。
※胡喜媚から彼女の能力などについて若干の情報を得ています。
※永久指針は神社周辺の何処かを指しています。
【永久指針(エターナルポース)@ONE PIECE】
本来はグランドラインの特定の島を常に指し続ける特殊な方位磁針。
本ロワでは島の中心付近の何処かを指している。
***************
パラドクスの発見とその解決は、パラダイムの転換を促す。
【Paradox φ : Omnipotence Paradox】
――クッ。
――流石に気付いたかね、『観測者』。
――だがまだまだ。
――その程度では良いサンプルとは言えんな。
――所詮、貴様はただの『神』の人形に過ぎん。
――だが同時に“全宇宙の記録(アカシックレコード)”の分御霊でもある。
――なればこそ果たせる役割もあろう。
――精々上手く踊ることだ。
――そう、私が真なる神になるために、な。
以上で投下終了です。
支援ありがとうございます。
鳥ミスで最初の方のタイトルが消えてますが、タイトルは全て通して「アダマと上天のスードパラドクス」です。
投下乙です
ここの主催が神過ぎる
何という疑心暗鬼だろうか
そして神社は何があるんだろうか期待が止まらない
乙!
見た目は幼女とはいえ危険度S級妖怪を平然と手元に置けるのは或は胆が据わってるな
悪徳ロリータは実際には千年単位生きててこれだから指導しても無駄な気がw
だがなまじ考察が出来るせいで精神的に危うくなってる感じが・・・
そしてゼウスの声か また新たな謎も生まれて今後が楽しみ
投下乙です
これは…
最初はこの組み合わせだとどうなるんだろうと思ってたがそれどころではないな…
実はコピー説とかデウスの声うんぬんとか濃いわ…
もう、どうなるんだろう…
神様は居ると思うかの質問に対して「ネットで見た」っていう回答の割合が一番多いコピペ
まさしくアレの気分。文字通りの神展開。wktkが止まらない!
投下乙です!
突っ込んだ考察してるのはエド、鳴海歩、ひょう、或、キンブリー、ナイブズ、妲己、聞仲辺りか
多いなw
多いけどそれが実を結ぶかどうか…
それすら神の計画の内なのかもしれないのが怖い…
テンプレを無断で変更するのもマズいので報告。
以前から
>>2にネタバレが置いてあるのはどうかと思っていたので、テンプレをネタバレ無しの状態に変更しました。
また、それに伴い死亡者表示の名簿を参加者名簿の下部に新設しました。
万が一問題がありましたら戻しておいて下さい。
ネット上のコンテンツのまとめを復旧していて気付いたのですが、
「ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱」において、スレッド
1:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど
1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】
の二つのスレ番号が共に1になってます。
とりあえずまとめには下を2として収録しておきました。
今後の話を書く上で支障は出ないと思いますが、出来れば修正をお願いします。
この最後のは誰だろう
11th?
「ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱」修正しました。ご指摘ありがとうございます。
したらばまとめの方にも書き込みを追加しておきました。
また自分が書きました136話と◆23F1kX/vqc氏の137話が修正前の状態でしたので、仮投下スレを元に再修正致しました。
◆23F1kX/vqc氏、勝手をして申し訳ありません。問題があれば修正などをお願いします。
私達は、今回発生したケースを観察していくつかの疑問を得た。
魂とは、如何なるものなのだろうか。
個とは、自我とは何なのか。
己が己たる理由は何処にあるのか。
種属全体の記憶野――集合意識を持ち、情報の共有を行う私達には理解しにくい概念ではある。
――固有の記憶、と答える者もいるだろう。
しかし記憶とは、それ程に確かなるものなのか?
容易にそれは改竄ができ、また忘却の海に沈めば二度と浮かんでこない事もまた多い。
思う故に我在り、とする哲学者も、私達の故郷に現れた異邦人の星にはいたらしい。
だが、集合的無意識が遍く生命に存在するとしたならば、どこからどこまでが個の意識として確立しているのか。
それだけではない。
同じ体の中に、一つの意志が配当されているとも限らないのだ。
例えば、狂信者の集団から選り抜かれた二重牙と死出の旅路のように。
個々の我の中にも、幾つもの相反する思考や選択肢は常に浮かび上がる。
もっとも単純なものでは、アニマとアニムス。女性的思考と男性的思考の仮面が挙げられるだろう。
そして、私達はここに来た事で――知ってしまった。
並行世界の存在を。
ここに仮に、二つの世界があったとしよう。
その二つは、とある時点まで全く同じ歴史を歩んでいたとする。
違うのは、たった一つの事項だけ。
その二つの世界のどちらにも住む、同じ名前と同じ記憶と同じ能力を持つ人間が――、
片方の世界では右手を、もう片方の世界では左手を、何気なしに上に挙げた。
それだけの違いだ。
ところで。
この、右手を挙げた彼と左手を挙げた彼は、本当に並行世界の同一人物と呼べるのだろうか?
ここで魂の同一性を論じる事は、無意味だ。
もしここで例示した事象が彼の人生に大いに影響を与える事ならば、間違いなく最終的にはそれぞれの世界の彼は別人と呼んで差し支えなくなるのだから。
辿り着く先の性質で論じるならば、それぞれの魂は同一性を保てない。
――逆に言えば。
その本質がどれ程異なる経験を経ても変わらぬほどに強固ならば、如何に違うペルソナを持っていようと――、
**********
どうして、いつもいつも間に合わないんだろう。
ちくしょう、ちくしょう。
ちくしょう……っ!
オレ、なにやってんだろうなァ……。
ほっぺが涙でがびがびだ。
なっさけねえ、……なさけねえ!
でもよ、こぼれちまうんだ。
涙だけじゃなくていろんなものが、オレからはこぼれ落ちちまう。
「……キリコの、おじさん」
……この手の中には、もうなにも言わないおじさんがいた。
あの陰気だけど、どっか優しそうなおじさんは、もういないんだ。
ブラックジャック先生って人も、死んじまった。
立派なお医者さん達がどんどん先に逝っちまうなんて、ひでぇよ。
なんで、生きなきゃいけねえ人ばっかり死ぬんだよぉ……っ!
キリコのおじさんはきっと、この診療所で治療をしてたんだ。
治せる限りは治すって言ってた通り、ここで助かる人を助けるつもりだったんだ。
なのにこれは……ひっでぇ、よ。
「ちくしょう……っ!」
ほんのりとだけど、おじさんの体はあったかい。
たぶん、こうなってから何時間も経ってねぇんだ。
ぎゅって歯を食いしばって、泣かないようにしても……駄目だった。
……デパートに向かう前にこっちに来てたら、間に合ったのかなァ。
でも、聞仲さんが誰ひとり生きてはいない、って言ったのに、それに頷けなかったのもオレの正直な気持ちで。
桂先生と出会ってすぐにあのデパートが崩れて、心配になったんだ。
まだ生きてる人がいるんなら助けなきゃって、いてもたってもいられなかった。
あそこの近くはまだ危ないと思ったし、だからオレは聞仲さんに桂先生を任せて様子を見に行った。
けど……、やっぱり、誰ひとり生きちゃあいなかった。
筋肉モリモリで強そうな兄ちゃんは、言いたかねぇけど見ただけで吐きそうになっちまったし、
爆弾かなにかでぐちゃぐちゃになった死体もあった。動物と女の子の合体したような妖怪もいた。
瓦礫の下は……オレの力じゃあ確かめる事も出来なかった。
ひとりひとり、息がないのが悲しくって、せめて手を合わせて顔を覚えることにした。
そんな中で放送が始まって……、オレは、聞仲さん達の所に戻ったんだ。
聞仲さんが診療所に行けば生き残りがいるかもしれないっていってくれたのは、オレを気遣ってくれたんだと思う。
……聞仲さんがデパートに行くなって言ったのは、きっとこうなるって分かってたんだろうなァ。
そんな優しさが胸に染みて、でも救えなかった事が苦しくって。
ほんの小さな希望を込めて、桂先生に肩を貸しながら診療所に来て……。
そしてオレは、キリコのおじさんが死んだ事を突きつけられた。
放送でもう死んじゃってるって分かってたはずなのに、知っている人の死体を見るのは……ツラかった。
もう、こりごりだ。
麻子ォ……、どうして、こうなっちゃったんだろうなァ。
蝉兄ちゃんの言葉が頭に浮かぶ。
『うしお、自分を信じて対決していけ』
……ツレぇよ、蝉兄ちゃん。
自分を信じ続けるって、ツレェよ。
オレなんか、そんなにスゲェヤツじゃねえもん。
とらにも、流兄ちゃんにも、獣の槍にも見放されたんだぜ?
フツーの、絵描きになりたいだけの、どこにでもいる中学生なんだぜ?
こころがぼろぼろになって、壊れちまいそうだよ……。
……白面、め。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!
白面!
どうしてこんな、殺し合いなんかさせるんだよぉ!
流兄ちゃんを殺し合いに乗らせて、何企んでんだよッ!
……そんな時だった。
オレの肩に、ポンと手が置かれたのは。
**********
診察室の方をうしお達に任せ、待合室を探索しながら先刻の放送を回想する。
「……高町亮子も死んだ、か」
――黙祷を捧げる。
せめて、あの高潔な少女の死が安らかで満たされたものであればいいと。
彼女の言葉が、脳裏に浮かんだ。
『……なあ、あたし達仲間だよな?』
仲間……か。
気の強さで言えば、どことなく朱氏を思い浮かばせる少女だった。
よもや今になって仲間という言葉に心震わされるとは、な。
それだけに――久しく感じた事のない感情が私の中にある。
この感情は何と言っただろう。
悲哀、と呼ぶべき気もするが、そうでない気もする。
一つ確かなのは我々生者はこの気持ちを決して忘れずに、抱えていかねばならないという事だ。
彼女の――、いや、彼らの死に応え、生きるべきものを還さねばならないと。
エドワード・エルリックは何処に居るのだろうか。
あの少年も、佳い気骨の持ち主だった。
うしおと年が近しいこともあって、彼の友となってもらいたいとも思う。
良き友の存在はそれだけで己を磨きあげる原動力となるが、それ以上に心の支えとして大きくなるもの。
……私と飛虎のように。
幼き年頃ならば尚更だ。
彼らならば仲良くなれるだろうし、この無惨な場で互いの立って歩く力と成り得るはずだ。
うしおの人を惹き付ける才や器量は大したものだが、それでも未熟な精神には限界がある。
私のような年長者では癒せぬ傷も多かろう。
だからこそ。
だからこそ、あの少年とまた共に行動したいものだと思う。
そして、エドワード自身の身もまた、私にとっては案ずるべきものなのだ。
彼が私を奮起させたからこそ、私はまだこの場にとどまり、うしおと出会う事が出来た。
……若者の力というものは、素晴らしいものだな。
新しい風。
それを食い潰すものがあるならば、この身などくれてやっても惜しくはない。
……まったく、私はいつの間にこれほど老いたのだろうか。
時代の移り変わりは世の常。
それを理と知っていながらも、私は私自身が既に青くない事に幾許かの寂寥を感じずにはいられない。
やけに年代を経たように思わせる、その壁に架けられた絵のように。
「む……?」
かた、という音と共に手に取ったその額縁の中には、見知った顔が存在していた。
「これは……」
申公豹とムルムル。そして、他にも記憶から湧きあがる存在。
「…………」
鞄に収め、持っていく事にする。
・・
これが此処にある、という事は、他に何かあるかもしれない。
待合室から通じる扉は、全部で3つ。
玄関と診察室に繋がる廊下。
便所。
そして、非常口。
便所を開けてもその先に見えるものは白い陶製の物体だけだ。
順序立て、非常口と書かれた扉に手を掛ける。
その向こうには、階段があった。
どうやら地下へと繋がっているらしい。
「……非常口、という割にはその役目を果たしそうにないな」
呟き、階下を覗き込む。
すると――深淵へと真っ直ぐに伸びる回廊が伸びているのが見えた。
どうやら、何処かへ向かう通路であるようだ。
警戒を深め、前方に意識を集中。
そのまま階段を降り目を凝らす。
遥か向こうに、今しがた潜った非常口の灯りと同じ緑色の光がある。
そこまでしか回廊は存在していないのか、それとも回廊の途中にまた扉があるのかどうかは此処からでは見て取れない。
……シェルター、あるいは何処かに繋がる非常用通路。
そんな印象を与える場所だった。
「……一人では手に余る。向かうにせよ退くにせよ、単独行動は慎むべきだな。
探索はうしおたちと合流してからか」
背を翻し、階段を戻る。
ギィ、と扉を押し開け診療所へと足を踏み入れたその瞬間、気付く。
人の気配がない。
歯を、強く噛む。
「……ッ! 雌狐め、器の主を慮って寝かせておいたのが裏目に出たか……。
何を企んでいる……?」
誤算だ。
私を利用するつもりならば、こんなにも早く機嫌を損ねるような真似はしまいと読んだのだが。
知人の亡骸の前で泣き崩れるうしおの、一人にしておいて欲しいという言葉を飲むべきではなかった。
急ぎ診察室に入れば、そこにはすぐ戻るとの書置きが残されるのみ。
が、これを鵜呑みにして妲己とうしおを二人きりにしておけるほど、私は楽観主義ではない。
「……まだ遠くはないはずだ。急がねば……」
**********
偶然、ここのすぐ近くを通りがかってくれるなんて、ねぇん。
ううん、わらわを探しているのかもぉん、やん、怖いぃん。
……でも。潤也ちゃん、すごく、ステキよぉん。
あはん、ちょっとだけ見ない間にとぉっても立派に成長してくれて……。
わらわ……、アレ、欲しいわぁん♪
さっきのバケモノちゃんにそっくりで、器としてすっごく魅かれるモノを感じるのぉん。
でもぉん、聞仲ちゃんは何だかんだで優しいから、言ってもアレを確保してはくれないでしょうねぇん。
もっと無難なものを持ってきちゃいそうだわん。
そんなの、わらわ耐えられないぃん♪
わらわ、都合良く使えそうなモノの気配も、ちゃあんと感じ取れてるのん。
ビンビンって、すっごく、ねぇん。
くすくすくすくす……。
だから、頑張ってちょうだいねぇん。
う・し・お・ちゃぁん?
**********
「うー……気持ち悪っ!
ちょっとあんた、二日酔いの人間背負って何してんのよっ!
あ、あんまり揺らすとミソ出ちゃう……!」
マ、ズ……! また吐きそ。
ちょっとこのガキ、なんでこんな思いっきりシェイクシェイクしてくれてんのよ。
“たった今起きたばかり”でどうしてあたしゃこんな目に遭ってんのよー。
荷物と一緒くたにされて背負われてるってないわー、これでも女だっての。
ああくそ、全部日本が悪い、政治が悪い!
事業仕分けだとざっけんなー、教員への待遇改善を要求するー!
ぽっぽっぽー、はとぽっぽー、支持率欲しけりゃ辞職しろー!
「ちょ、ちょっと何言ってんだよ桂先生ェっ!
知ってる人が“あそこ”に向かうのが見えたから急いで追ってくれって頼んだのは先生じゃねぇか。
それにミソなんて出ちゃったら大変だろ!」
おいコラだれがオミソだってー?
そういうヤツこそがオミソなんだよーだ!
「つーか、知り合いって何よー。なんであんたの知り合い探しに付き合わなきゃいけないのよぅ……」
「だーかーら! 知り合いがいるって言ったのは先生だろ!?
ふざけた猫撫で声で『わらわをあそこまで連れて行ってほしいのぉん』なんて言ったのはさ!」
「はー? なんだー? そんなん一っ言も言ってないわよー!」
「ああ、もう……! くそ、もうそれどころじゃなくなってるけどさぁ……」
……ん?
どーしたのよあんた。そんな……泣きそうな顔して。
走っている辛さだけじゃないっぽいぞ?
名前は……なんて言ったっけ。ちくしょー、頭ん中靄でもかかってるみたいで脳使いたくない。
……けど。
子供がこんな顔してるのに放っておくほうが、キツいっしょ。
あたしだってセンセなんだから、さ。一応。
……えーと確か、こんな名前だった……はず?
「……岡崎汐、だっけ?」
ん!? まちがったかな……。
いきなりガクンと体が揺れた。うげ、ま、また吐き気が……。
どこぞのお嬢様の詳しいジャンルっぽいなー。
「名字が違うって! なんか名前の漢字も違う気がする……」
まーいいや。
「あのさー、うしお。……なに、ムリしてんのよ」
「……え?」
うっわームカつく反応。
なによう、あたしだって真面目な時は真面目なんだぞ!?
「……先生って、ホントに先生だったんだな」
「そりゃああんたよりずっと長く生きてるしね。
で、どうしたのよマジで」
口を引き結んで、うしおは息を呑み込む。
ちらっと振り向いて向けた視線はあたしを通り越していってる。
「……後ろ、なんだけどさ」
ジャーンジャーン。
「げぇっ、関……じゃなくて何よアレ!」
うっわー、なぁによあのバケモン。
物騒なモン持ってこっちに突き進んできてる。
よーするに、アレがあたしたちを追っかけてるからこのコは逃げてるワケね。
でももーあんましないうちに追い付きそーな……。
……って! んじゃあノンビリしてる余裕なんてないじゃん!
ばしばしとあたしを背負ったうしおの背を叩く。
ハリーハリーハリー!
「…………」
ありゃ、反応がない。
「……うしお?」
呼びかけてみると、うしおは俯いてぼそぼそと何かを呟く。
「あいつ……元は人間なんだ、きっと」
「きっとって……」
ちょい待ち。アレのどこが人間だって―の。
体はなんかヒビ入ってるし、目は皿みたいにまん丸だし、歯は牙みたいにとんがってるし。
珍獣、なんていって見世物にすれば儲かりそうだわ。
「分かるんだ、あいつ……獣の槍使ってああなっちまったんだ。
ちくしょう……、オレが、獣の槍に見捨てられてなけりゃあ、あんな事にさせなかったのに。
どうしてか分からねえけど、獣の槍が復活してたのは、嬉しかった。
だけど、だけど……っ! 槍に魂吸われた人が他にもいるなんてよォ、酷過ぎるぜ……。
まさか……槍に命を狙われるくらい、嫌われてるなんて、思って……なかったんだ」
???
うむ。何言ってるか全然分からん!
「……あのさー。よく分かんないけど。
あの槍はあんたのモンで、どうしてか分かんないけど、いまはアイツが使ってると」
でも、まあ。
話は分かんなくても、この子がどうすべきかってのはあたしにも分かる訳だ。
そして、見捨てるとか何とか命狙われるとか、その辺りにこの子が何か負い目を追ってるって事も、ね。
だから――、
「……うん」
頷いたうしおに、コツン、と軽くゲンコを落とす。
「こらこら、落ち込まない。
で、あんたはどうしたいの? 大切なモン奪われて、挙句の果てにそれ使って嫌がらせされて。
どうにか振り切って逃げ続けて、このまま泣き寝入る?」
ぶんぶんと、首を振るうしお。
「ジエメイさんの言ってた通り、もう二度と、憎しみなんかに負けたりはしねぇ。
……ギリョウさんに、許してもらいてえよ。もう一度獣の槍と一緒に、闘いてぇよォ……っ!
槍を使ってる奴だって、助けたいんだよ!
でも……槍が。それに、槍を使ってる奴も……」
あー、もー、めんどくさいなー。
他人なんて、存外あんた自身の事見ちゃあいないっての。
いちいちそんなの気にしてたら、本当にやりたいこと、手放したくないものまでどっか行っちゃうでしょーが!
だから――怒鳴る!
「でも、じゃないの! 甘えんな!
……逃げてんじゃないわよ。立ち向かって、頬をはたいて、取り返してきんさい。
見限られたとかウジウジ思ってる奴と仲直りしたいなんて、あの化け物だって思うはずないでしょーが!」
「先……、生」
ごしごしと涙を拭いて、うしおはにかっと笑った。
「おうっ!」
ん、いい顔だ。
あと10歳……、いや、5歳あればいい男だったろうにねぇ。
「でも……どうやりゃいいんだろう。
今のオレじゃあ、真っ向から戦っても勝てねえよな……」
「んー、そうねぇ……」
ま、なんか良く分かんないけどガキの喧嘩でしょ、なんか良く分かんないけど!
そして何かテキトーな言葉を返そうとして、気付いた。
口が、動かない。
ドクン、と自分の心臓の鼓動が、やけに大きく感じた。
そして――、あたしは、耳慣れないようで毎日付き合っている声を聞く。
「いい考えが、あるわよぉん……?」
理解。
ああ、これは――あたしの声だ。
勝手に口が動く感触がする。淫靡に。
キモッ。
そんな脊髄反射と共に、あたしの意識はどろりとした黒に呑み込まれていった――。
**********
憎い……。
憎い……。
憎いぞぉ……。
世界が憎い。
肉親を殺した世界が憎い。
肉親を殺そうとする世界が憎い。
肉親の命で自分で遊ぶ、この殺し合いという環境そのものが憎い。
それを開いた悪鬼が憎い。
運命を弄ぶ神が憎い。
否、否、否!
神に非ず――人に非じ。
人心で粘土の如く遊び、魂を汚す存在など神でなし!
其は、バケモノ!
憎い、憎い、憎い。
バケモノが、憎い。
我が兄/妹を死に追いやりしバケモノよ。
全ての陰の気より生まれ出たバケモノよ。
貴様の名を我は叫ぼう。
そう――白面!
貴様を滅すまで、我は止まらぬ。
眼前に立ちはだかる如何なる肉の塊も殺し尽くそう。
嗚呼――兄貴/ジエメイ。
俺/我の大切な、掛け替えのない家族。
×××を守る為ならば、獣になっても構わない。
進んで進んで進んで、諸悪の根源を、家族の脅威を討ち果たせ。
俺は、俺の名は何と言ったっけ。
頭の中に響く声に引きずられて、俺という名の器が崩れていく。
いちどけものになれば、にどとひとにはもどれない。
大切なものがぽろぽろ剥離していくのを感じる。
俺が俺でなくなり、どす黒い誰かと混ざり合う。
それでも憎いものを見据えて、走っていく。
「はぁぁぁああぁぁぁくめぇえぇえェェええエェん……ッ!」
そうだ……、全てが白面の仕業に違いない。
先ほどまみえた時も、かの女は言ったではないか。
兄の命が惜しくば――と。
白面、白面、白面、白面憎しィィィ!
白面さえおらねば、兄貴/ジエメイはァァアアァッ!
そら、あそこに見えるが白面だ。
姿を変えたとて俺には分かる。
こちらに背を向け、無様に逃げ惑うかの醜女。
その心の臓腑に抉り込むまで、何人たりとも道を塞ぐこと許しはせぬ。
ジエメイ/兄貴の死の償いは、万死億死を以てでもまだ足りぬ!
貴様を殺せば兄貴/ジエメイとの生活が取り戻せるならば、
彼奴を庇う者も只では措かぬ。
立ち塞がるな、ニンゲンッ!
そうする間にも俺の兄貴/ジエメイを堕とした根源が更に更に遠くへ進むッ!
交叉。
刃と刃とがぶつかり、俺の邁進が食い止められる。
ああ、ああ、この顔は、この子供は我に見覚えがあるぞ!
俺には覚えがなくとも我には分かるゥッ!
犬畜生めが、返すものかよ。卑しくも取り返しに来たのかよォォォッ!
返すか、返すか、返すか返すか返すか返すかッ!
兄貴を守れるこの力を、手放してなどやるものか!
……憎い。憎い! 憎いィィイィィッ!
力を奪い返そうとするこ奴が憎い!
ならば振るえ。容赦なく振るえ。
今この槍は俺の力なのだッ!
そう、容赦なく食らいつくせ、槍よ俺の魂をッ!
喩え蒼月(ツァンユエ)であろうと、薙ぎ払うまで――!
「憎い……憎い憎い憎い憎いィィィッ!
其処を、退けェッ!」
一撃、二撃、三撃四撃!
擦れ合い飛ぶ火花も今の俺には届きはしない。
そんな……紛い物の槍で止められるかァッ!
弾く。
踏み込む。
突き飛ばすゥッ!
ははは、見ろ我/俺よッ!
いぃぃぃい具合に子供が空を飛んでるぞォォォッ!
蒼月(ツァンユエ)、温しィィッ!
届く、届くぞ。我等は届く!
もはや障害は眼前に非じ!
あと十歩か九歩か七歩か六歩か!
五歩か四歩か三歩か二歩かァ!
女ァ、死ィィィィ……ねェェェッ!
さあ、この刃を臓腑に抉り込もう。
一歩踏み込み、零を貫くぞォッ!
取ったァ……ッ!
ザクリ。
……なんだァ、この……感触……は……?
**********
クソ……、ちぃっと目ェ離した隙に、やりすぎだぜママ。
躊躇いのないあんたの性格は分かってるし、だからこそもうちょい慎重に事を進めると思ってたんだが。
ま……、今のオレに、今のアンタをママなんて呼ぶ資格があるかどうかは疑問だけどな。
逆もまた然り、か、反吐が出るぜ。
……参加者を弄るのはできる限り避けるとか何とか聞いてたんだがな。
まあ、魂魄の消滅の危機ってのは確かに焦る理由になるだろうから、不自然じゃあないといやあそうなんだが。
もし直接的に弄られてないんだとしたら、他に原因があるって事……か?
魂魄の在り様が良く似たモノに引き摺られた、とか。
考えても答えは出ねぇか。
ああ、ったく!
オレの怠慢のせいってかよ。そりゃあ龍脈の乱れとやらは後回しにしていたがよ……。
こうなったのは参加者連中の暴挙の結果と、ついでに趙公明のヤローがスーパー宝貝なんざで更に空間を歪めたからってのもあるんだぜ。
本当にアンタは傲慢そのものだな、もうちょい客観的に自分を見つめる事をお勧めするぜ。
……クソッタレ。
はいはい、やることやってくりゃあいいんだろ?
**********
……何だ。
何事だというのだ。
「一体これは……何が起こった!?」
目を凝らしても、現実は変わらない。
私の目の前に広がるは――、
バケモノ。
バケモノ。
バケモノ。
――形容しがたい何か、異界の住人。
群れ、と称しても構わない数が眼前に遊んでいる。
優に百は超えるだろうか。
かつての姿を忘れ、もはや何と呼べばいいのか分からぬ実体なき肉塊たち。
明らかに人の営みの範疇の外にある存在達が、そこかしこに跋扈している。
「く……、うしおは、無事か!?」
間違いない。
あの雌狐が、現世と幽世(かくりよ)の境を掻き乱したのだ。
デパートとやらが崩れた時から、龍脈が乱れたことは感じていた。
恐らくそれを突いて何らかの干渉を起こしたのだろうが――、
「いや。考えるのは後にせねば……!」
駆ける。
と、無数の異形が得物を見つけこれ幸いと私に飛び掛かる。
腐臭にも似た血の香が、鼻に突く。
ギイギイと、言葉に満たぬ囀りが姦しい。
「雑衆が……、黄泉へと還るがいい」
擬なる禁鞭を掌に。
一振りで、二桁を超える妖物が宙に舞う。
二振りで、取りこぼしの頭蓋を砕き散らす。
三振りで、死せるも勢いづいたままの屍を薙ぎ払う。
爪を光らせ奇襲するモノを吹き飛ばし、
牙剥き低く地を蹴るモノを叩き潰し、
拳を握り猛進するモノを突き上げる。
鞭の暴風の前に万物は平伏し、私はその目と成りて屹立する。
贋作とはいえ、使い勝手は悪くない。
だがそれ以上に――こ奴らが弱過ぎる。
……脆い。私の敵ではない。
このような者どもを呼び寄せて、一体狐は何を考えている?
いや――、そもそも、連中は何処から湧き出たのだ!?
この世ならざるものを蹴散らしながら掻き分け突き進み、しかし思考は止まらない。
幽世と現世が繋がったならば、本来異界の住人の質も量もこの程度で済みはすまい。
故に、掻き乱された幽世は、この閉鎖空間の内に異相として存在しているとは理解できる。
だが、ならば。
どうしておそらく“神”により創造されたと思しきこの空間に、幽世などというものが――幽世の住人が存在しているのだ!?
本来ならば、殺し合いなどとは無関係であろう存在が。
……参加者の魂魄の成れの果てか?
可能性は、ある。
殺し合いに巻き込まれた悲愴なる魂の残滓が、この島の随所に刻み込まれていたとしても異論を持ちだすものはいまい。
だが、それにしては弱く、数が多すぎる。
明らかに放送で読み上げられた人員より多く、また古兵の強さも持ち合わせない。
此度の参加者には強き者どもが多くいる以上、彼らの末路とは考えづらい。
ならば、やはり最初の疑問は残る。
この輩は、何処から来たのか。
そして、太公望を始めとする強き者どもの魂魄は――何処に向かったのか。
……前者と後者について、それぞれ思いつく可能性がいくつかある。
例えば前者は、“無数の人の魂魄を錬り成した物品”があったとすれば、説明はつく。
その物品がこの殺し合いの最中に消滅することがあったとするならば、解放された魂魄は幽世に辿り着いて鬼の形を取るだろう。
他にも、この殺し合いが幾度も繰り返された可能性も考えられるが――、“どうしてか”私はそれが正解だとは思えなかった。
後者に関しては、非常に単純な説明ができる。
封神台が機能していさえすればいい。強き者の魂魄を集めるならば、あれ以上の機構はあるまい。
……強き者の魂を一か所に集める事に、如何なる意味があるのだろうか。
思索しようとしたまさにその時に、幸か不幸か私の目は求めるかの少年の背を探し当てた。
場所は――推測の通り龍脈の乱れの中心、デパート。
「……うしお!」
槍一本で応戦するうしおの、歳に似合わぬ立ち回りに舌を巻く。
が、見とれる訳にもいかぬか。
贋作を一閃。
四方からうしおを囲んだ禽獣が、ぎゃあと鳴いては千切れ飛ぶ。
「ぶ、聞仲さん!?」
一拍遅れたうしおが取るは、こちらを振り向きながらの前方への薙ぎ。
私の討ち洩らした一匹を斬り飛ばす。
……いらぬ心配だったか。
私が贋作を振るわずとも、十二分にこの少年は場の打開を成せるのだ。
応と答えてその背に駆け寄る。
「……一体、何があった?」
「わ、分かんねぇ……。でも、桂先生の言う通りにしたらこうなっちまったんだ」
――うしお曰く。
診療所の窓から、桂雪路が知り合いがデパートの方面に向かうのを見つけた。
急いでいるようで、酔いのまわった自分では追いつけないと判断し、うしおの背に乗って追うように頼んだ。
診療所を出てすぐの道中で、彼の愛槍たる“獣の槍”とやらに身を委ねた者が彼らを追い始めた。
彼の力は凄まじく、とても立ち向かえないと判断した二人は、桂雪路の策とやらを試す事にした。
うしおが時間を稼ぐ間、出力を絞った映像宝貝で桂雪路の幻を作り出し、それを囮にして隙を作り出す――と。
だが。
獣の槍の仮の主が幻を貫いたその時、空間そのものが罅割れるように開き、中から無数の彼岸の住人が溢れ出てきたというのだ。
……狐め。
宝貝にも匹敵する獣の槍を用い、冥界の扉を開いたか。
成程、幽世と現世の境界の霞んだ中心部に己が幻を投影し、そこを切り裂かせるよう仕向ければ不可能ではないだろう。
恐るべきは――“獣の槍”か。
凄まじい力を持つ霊装のようだ。
……だが、大き過ぎる力は必ず代償が必要となる、宝貝が仙人骨の力を原動力とするように。
獣の槍の力は何を由来としているのだろうか。
嫌な予感がする。それを知る事が真実に近づくと勘が告げるが、知らぬ方がよいとも警笛を鳴らしている。
うしおが本来の主だということだが、果たしてこの少年は何を犠牲に今まで戦ってきたのだろうか。
脳裏に纏わりつく疑問も、しかし今は瑣事だ。
あの狐の謀を暴かねば、どれほど自体は悪く回るか。
うしおに、問う。
「……その当人は何処に?」
「それも、分かんねぇ。
……妖怪が溢れて、こうやって追い払ってたら、いつのまにか姿見えなくなっちまった。
くっそぉ、どうしてこうなんだよ! どうして、どうして守る事もできねぇんだよぉっ!」
嘆くな――と肩に手を置くも、慰めにはならぬだろう。
この少年は、心底真っ直ぐな気質を持つゆえに。
しかし折れぬからこそ、全てを抱え込む。
……守らねば、な。
あの秋葉流の様に、嫉妬にこの身を焦がされる事もあるだろう。
だがそれでも、汚してはならない眩しさはかけがえのないものなのだから。
……事態は刻々と過ぎてゆく。
いくら贋作を振るえど、異形はますます数を増す。
「……いくらやっつけても、キリがねぇ。
全部倒しても、すぐにあちこち埋め尽くしちまう……」
一体一体は紙の如く潰せるが、確かにこれでは終わりがない。
……狐の企みが、読めん。
よもやこんな七面倒なだけの嫌がらせが目的ではないだろう。
奴の転生先にするためかとも思ったが、それ程の大物も見当たらない。
そんな不確実な博打を打つとも考えづらく、やはり何か起点となる存在がいる――と考えるのが妥当か。
思考がそこに辿り着くと、同時。
禽獣の海の一角が、盛大に爆ぜた。
「……あ、あ……、間違い、ねぇ。アイツ、だ」
うしおの呟きから、事態を把握。
即座にそちらに目を凝らす。
海を割りながら、衝撃が此方へと突き進む。
有象無象が一筋に、空を舞う塵芥と化した。
そして我々の眼前に現れた“それ”は――、
槍を手にした“それ”は――、
周囲の雑魚とは別格の、しかし確実に人ではない、“獣”としか呼べぬバケモノであった。
おそらく、言葉を解する事もできはしまい。
うしおが、崩れた。
「たったあれだけで……もう、こんなに魂を削られちまったのかよぅ……。
つい、さっきまで……少しは、話せそうだったのによ……」
歯噛みするうしお。その声は、もはや嘆きと呼んで差し支えない悲愴さを湛えている。
……嫌な予感が的中したか。
これは、残骸。魂を失い、魄のみで動くヒトの末路。
確信を持って、私はうしおに問いを投げる。
「獣の槍とは――魂を喰らうのか?」
泣きそうな顔で、いや、涙で既に頬を濡らし、うしおはこくりと頷きを返す。
その手が、小刻みに震えていた。
もうこのバケモノを救う手立てはないのだと、語らずともその背が語っていた。
**********
あん……?
なんであたしゃ、こんなとこにいるのよ。
つーかここ、どこよ。誰もいないし、変なお札がいっぱい浮いてるし。
なんか急に、力吸い取られたみたいに一気に意識がオチたのは覚えてんだけどなー。
……あ、そっか。
夢だこりゃ。
……夢ならまあ、心配する事ないか。
あの男のコ、すっごい思いつめてたからなー、現実だったら心配でたまんないわよ。
んじゃあ、もう少しゴロゴロまどろんでますかー。
二度寝って最高よね〜。
**********
……分かってた。
分かってたんだ。
こうなっちまうって、分かってたのに。
それでもオレは、助けられるんじゃあないかって……、どっかで思っちまってた。
バカだよなァ、オレの時は槍が……少しでも待ってくれてたから、時間を引き延ばせたってのによ。
……どっかからウジャウジャ湧いたこいつらを相手にしてたのは、オレたちだけじゃなかったんだ。
この人もずっと闘ってたんだ。
だから、その間はずっと槍に魂を取られて……、こう、なっちまった。
まだ言葉が通じるうちに、少しでも話しかけて……、強引にでも、槍を取り返して。
こんな取り返しのつかない姿にゃならなかったのに、よう。
オレがもっとはやくどうにかしてりゃあ、こうはならなかったのに、よう……。
オレのせいだ。
オレのせいだ。
……オレのせいだ。
くるしいぜ……。
助けられる人を助けられなかったって、すげえくるしいよ……。
唇を噛むと、血が出た。
鉄臭い味が、俺の口に広がる。
……オレはまだ、人間なのに。
「うしお……、気に病むな。
お前が槍を取り戻すには、状況が許さなかった。
彼の者との力量差、桂雪路を守るという悪条件、そしてこの世ならざる者どもの横行。
これは必然――運命だったのだ。
この獣どもが雲海の如く我等の眼前に現れた時、いや、彼の者が獣の槍を手にした時からの……な」
「分かってる、分かってるよ! けど、よう!
こんなん……酷過ぎるぜ、運命だなんて認められるかよぉ!
桂先生さえ見失っちまって……」
くっそぉぉ、涙で前が見えねぇよ!
徳野さん、さとり……、オレって、どうしてこんなに無力なんだよ!
ごしごしと目を擦る。
その時だった。
一気に名前も知らねぇ兄ちゃんが、こっちに向かって走り始めたのは。
背を低くして、人間だったとは思えねえ速度で近づいてくる。
凄い殺気が、全身を突き刺した。
本気……なんだな、獣の槍……、ギリョウ、さん。
オレが頼りないから、オレじゃあ白面を倒すのは無理だから、オレを見限ってその人の魂を喰っちまったのか?
ごめんよ、ごめんよォ……。
涙がぼろぼろぼろぼろこぼれてとまらねぇ……。なっさけねぇなァ。
頼むよ……、その人の魂だけでも、返してやっておくれよォ。
オレの魂ならよ、いっくらでも使ってくれていいからさァ……。
なあ、獣の槍……、オレじゃあ、やっぱり無理なのかなァ。
胸が痛いけど、でも、止めなくちゃ……!
「……っ、もう、やめてくれよぉっ!!」
槍の、石突きの方を兄ちゃんに向けて、オレも走りだす。
狙うのは……手だ。
弾き飛ばせば、もしかしたら戻るかもしれない。
いつもなら、そうなるはずなんだ。
どんなに希望が小さくても、諦めるなんてできねぇよ……!
突き込んできた獣の槍を、スライディングして避ける。
そのまま踏み込んで――、一閃。
頼むよ、当たってくれ……ッ!
びゅう、と頭の上で風を切る音がした。
「あ……、」
……当たら、ねェ。
届かねえ。
オレは……獣の槍には、届かねえ。
その現実を、突き付けられた。
「ちく、しょう……」
がっくりと、膝を着きそうになる。
獣の槍のトドメの一撃を、覚悟する。
……けれど、それは来ない。
気付く。
「狙いはオレじゃ……ねえ! 聞仲さん!」
無理矢理震える手で槍を地面に突き刺して、方向転換。
オレは障害物でしかなくって、相手にすらされてなかったんだ。
……最初っからオレを飛び越えて、聞仲さんを仕留めるつもりだったんだ……!
「逃げろーっ! 聞仲さ――、」
そしてオレは見た。
聞仲さんの鞭の一撃が、あっさりと獣の槍を持つ兄ちゃんを叩き落とすのを。
ううん、叩き落とすだけじゃなくて、まわりの妖怪たちをまとめてふっ飛ばしさえしてる……!
「……どうやら私を狙っているようだな。
獣の槍は妖怪を滅する為に在る武具。……なれば、此処に向かったのも私を穿つ為という事か」
――強ぇ。
聞仲さんは、一歩も動かずにそこにただ立っている。
それだけなのに、とても力強い。
唐突に、流兄ちゃんの寂しそうな言葉を思い出した。
『……あァ、残念だぜ。
お前が本気で立ち向かってくれてたら、オレは……』
……本当に、強ぇ。
あの時の流兄ちゃんもとんでもなく強かったけど、聞仲さんはそれ以上かもしれねえ。
でも、だったら、どうして。
「どうして……あの時はコテンパンにされちまったんだ?」
どうしてあんなにも、覇気がなくって。
そしてどうして今は――、こんなにすっげぇんだ?
砲弾みたいにあっちへ行った獣の槍の兄ちゃんが、ガレキを足場に跳ね返ってきた。
けれど、聞仲さんは返す手首の動きで鞭を操って、簡単にそれをあしらっている。
呆然と立っているだけの、オレ。
……聞仲さんをかっけえと思う心の裏っ側で、自分がみっともなかった。
三度目の、どうして。
どうして――聞仲さんは、そんな役に立たないオレを、仲間だって言ってくれたんだろう。
「お前が人を惹きつけ、立ち上がる力と羨望を与える輝きの持ち主からだ」
……え?
オレ、今何も……言ってない、よな?
ぽかんと口を開けて固まったオレに、聞仲さんが小さく笑いかける。
「そう驚く事もない、心根が真っ直ぐすぎるのだ、お前は。
顔に全てが出ているぞ。
……そこがまぶしく、佳い所ではあるのだがな」
そんなんじゃねえ、って言いたかった。
けれど聞仲さんは真剣で、だから言い返す事は出来なかった。
こんな状況だってのに、オレは照れ臭くてほっぺを掻いて目を逸らす。
「私は――、此処に来る前、守りたかったものを失った。
……いや、とっくの昔に失っていたという事実から、目を背け続けていたのだよ」
聞仲さんは、何処か遠くを見るように目を細める。
どうしてかそれを見てると、オレは悲しくなっちまった。
胸が締め付けられるように、苦しくなる。
聞仲さんは、オレを守るように鞭を振るい続ける。
「……澄んだ心の持ち主だな。そんなお前と出会った事が、私に力を与えたのだ、うしお」
……買いかぶりだ、聞仲さん。
言おうとしたけど、口が動かない。
体が、震えてくる。
……どうして、震えてんだよ。この人は優しくて凄くて、オレを守ってくれてるのに。
怖い、なんて、そんな事を思っちまうんだ……?
「違う……、オレ、そんな立派な奴じゃねえよ……」
もつれた口が、オレらしくねえ小さな言葉しか出してくれない。
こっちを見つめる視線が、怖い。
潰れちまいそうだ。
「強いさ、お前は。
大切なものの死を直視し、慕ったものに裏切られてさえ……なお仲間であると信じ続けた。
疑うのは易いが信じ続けるのは難い。
今のお前が弱いとするならば、己を信ずる心が崩れかけたからだ。
そしてそうなったのは……お前のせいではない」
「オレのせいなんだよぉぉぉっ!
みんなみんな、オレが弱いから……、うぁあああぁぁああっ!」
……う、あ、あ……。なんで……なんで心配してくれる人に怒鳴っちまうんだよ!
最低だぜ、この馬ッ鹿野郎ォ……ッ!
地面にへたり込んで、地面を何度も何度も何度も叩く。
けど、それでどうなる訳もなかった。
ただ、オレはずっと泣きじゃくっていた。
聞仲さんがあんな目で見ていると思うと、頭ン中がぐちゃぐちゃになっちまいそうで。
でも、怒鳴っちまった事に幻滅されたかもしれないと思うと、それも怖くて。
どうしようもなくって、うずくまるしかなくて。
……どれくらい時間が経ったろう。
そんなに長い時間じゃなかったと思うけど、今の状況では充分に長いと言える時間。
数秒か、数十秒か、それとも数分か。
唐突に、その時は来た。
不意にオレの上に影が差して。
あれ、と思って空を見上げて。
その、瞬間に。
獣の槍が、俺に向かって――、
ぶじゅう、と、血の花が咲いた。
「……う、ぁ、」
……ぽた、ぽた、と、血がオレの顔に流れる。
頬を、濡らしていく。
まるで――血の涙の様に。
オレの手の中の槍が、名前も知らない兄ちゃんの肩口を縫い止めていた。
ちょうど獣の槍を持ったその片手の自由を、奪うように。
「あれ……?」
全く、そんな事をしたつもりはなかった。
なのに体は勝手に動いて、向かってきたこの人を止めようとしていた。
ずる……、と、獣の槍が兄ちゃんの手から落っこちた。
からんころころと地面を跳ねて、転がり止まる。
それを見た瞬間、何も考えずに、獣の槍へと手を伸ばしている自分に気づく。
……どうして、こんな事を?
見放されて、自分が嫌で、信じられるのさえ嫌だって思ってたはずなのに。
まだ……オレは、手を伸ばしてる。
掴もうとする。
「身に刻んだ経験は、決して裏切らない。
そして……、いくら意思が拒んだとて、魂の在り様も変わる事はない。
今取ったすべての行動こそが、お前だうしお」
聞仲さんが、変わらない眼差しでこっちを見ている。
すぅ……っと、さっきまでは刃のようだったその眼が、声が、溶けて染み込むようにオレの体に馴染んでいく。
「信じろうしお、己の事を。お前の成したことも、心がけも、全てはいつかどこかに辿り着く為に必要な事だったと。
自分を信じられぬ者に、ついてくる者などいない。
堂々と己を誇れ、悔いはしてもそれを否定するなうしお。
……さすれば、失ったものを取り返し、それ以上のものを得る事さえきっとできる」
……あったけえ。
うれしい、なァ。そう言ってくれる人がいるって……きっとしあわせだ。
だけど、……消えない不安だってあるんだ。
期待されても、もし自分が応えられないって考えると、立てねぇ。
……怖ぇんだ、見限られちまう事が。
声を絞り出す。
「で、も……、こんな、獣の槍にもとらにも、流兄ちゃんにも見捨てられたオレに、何ができるんだろう。
オレが期待どおりに動けなかったから、みんな離れちまった……。
ぶ、聞仲さんだって……」
ゆっくりと、聞仲さんと目と目を合わせた。
その姿は、揺るがない。
「大丈夫だ。今は私が――お前を信じている。幾度過ちを重ねようと、それは揺るぐ事はない。
それではお前が自分を信じる根拠として不足か?」
――憑き物が落ちたみたいだった。
……はは。
あっははははははははははは!
そうだよ、何を疑ってんだよ蒼月潮!
オレを信じているって言ってくれてる人がいる。
なのに、オレが自分を信じなけりゃあ、その人に対する裏切りじゃねえか。
その人を――聞仲さんを疑ってるって事になっちまうじゃねえか!
そいつだけは許せねえ。
オレは信じるぜ、聞仲さんを。
仲間だけは、絶対に疑わねえ!
うしお、自分を信じて対決していけ。
蝉兄ちゃんの言葉が、聞こえる。
ギチギチって、さっきまであんなにオレの心を締めつけていた蝉兄ちゃんの言葉。
なのに、それが今はとても頼もしくて、オレを支えてくれていた。
そうだ――立てる。
掴み取れる!
手を伸ばす、獣の槍に。
だけど――、
「おれ……の、ちからぁ……っ!」
ガキン、と。
目の前で、星が瞬くように獣の槍が掻っ攫われた。
ざわざわと空気が蠢いて、獣の槍に喰われた兄ちゃんが、こっちに向き直ってくる。
オレを完全に、敵って認めたんだ。
……ああ、そうだよなぁ。
許してほしい、なんて言わねえ。
許してくれなくて構わないし、そんな事を言ったらこの人が槍を使った時の覚悟まで侮辱しちまう。
「聞仲さん」
オレは自分の持っていた槍を杖にして、立ち上がる。
何の変哲もない、ただの槍を。
「こいつは、オレに戦わせてくれ。オレが止めなきゃあ、いけないんだ。
もっと早く……止めなきゃあ、いけなかったんだ」
きっと相手を睨む。
聞仲さんは少しだけ黙って、それから数歩退いてくれた。
「……この魍魎どもの相手に徹していよう。いざとなれば、助けに入る」
「必要ねえ。……絶対に勝つ。
そうでもなきゃ、オレはオレに戻れねえんだ。聞仲さんに仲間なんて呼んでもらう資格はねえ」
強気に答える。それを挑発って思ったのか、それとも偶然か。
目の前の、名前も知らない人が――友達になれたかもしれない人が、吼えた。
その最後、小さなつぶやきが耳に届く。
「まも……る……。おれ……が……、どう……なって……」
しゃがれた、人のものと思えない声。
だけどそれが、泣いているように耳に痛かった。
戦いたく、ない。
この人だって、守りたいものがあったからこうなったんだって――分かっちまったから。
でも。
「ごめんよ……、止めるぜ」
それだけ小さく口にして、一歩踏み出す。
走る。
突き抜く!
槍と槍が、交差する。
火花が散って、楽器の様な音がした。
衝撃が手を痺れさせる。
弾かれた勢いで、後ろに下がる。
勢いは殺さない。片足を軸に、一回転。
――薙ぎ払う!
獣の槍が、それを止める。兄ちゃんの体には届かない。
「もう……どこにも……いかな……」
必死な形相でオレを睨み付ける、兄ちゃん。
……ああ、くるしいくらいに伝わってくるぜ。
痛いぜ、こころが。
守りたかったんだよ……なァ。
絶対に手放したくない何かがあったんだよ、なァ。
十字の形に組み合った槍が、二人の真ん中で止まってる。
ぎりぎりと、押される力がどんどん強くなる。
ちくしょう、思いの強さに潰されちまいそうだよ。
オレにも良く分かるそのこころを、応援してやりたくなっちまう。
でも、今の兄ちゃんは、間違ってる。
絶対に、このままにしちゃなんねぇんだ。
だって、よう――、
「に、くい……、じゃま、するな……」
そんな顔で、ぶっ壊れちまって、大切な人が喜ぶはずねーじゃんかよう!
オレだってあの時、とらに、母ちゃんに、そんな顔なんかさせたくなかったんだよう!
……この人は、オレだ。
だから――兄ちゃんの全て、オレが受け止めてやる。
この何の力もねえ、弱っちい、ただの蒼月潮でも――それくらいはやってやるさ……。
どんな事が起きても、自分を信じてやるさ!
ごとり。
力づくで抑え込まれて、押し倒される。背中が地面にぶつかる。
兄ちゃんの吐く息が近くて、眼に入るのは獣になった顔だけだった。
喰われちまいそうだって、体が縮む。
けど、……負けるかよォォォォッ!
止める!
その為に――ただ大切なことだけを考える。
眼を閉じる。
暗闇の中にいるのは、オレだけ。
オレがどうしたいのか、それだけに集中する。
己の心を細くせよ。川は板を破壊できぬ。水滴のみが板に穴を穿つ。
そうだ……、杜綱さんたちに教わったことさえ、オレは思い出せてなかったんだ。
分かる。
獣の槍と、兄ちゃんの、暴れ続ける怨嗟の声が。
息を整え、見極める。
ほとんど獣の槍に引き摺られちまってる兄ちゃんの、それでも決して獣の槍と馴染まない呼吸のズレを。
最後まで残った、いちばんたいせつなものを。
「あ……に、き……」
言葉と同時、一気に押し込んだ獣の槍が俺の槍を胸に押し付ける。
肺が苦しくて、息が詰まる。
歯を噛んだ。ギリ、という音も、もう聞こえない。
「馬ッ鹿野郎――っ! そんな姿、兄貴に見せるってのかよぉ――ッ!」
……今、この時だ。
この時を、待っていた……!
「らぁぁぁあああぁぁあああぁぁあああぁぁぁあああああぁぁあああっ!」
片手を槍から離して、オレの槍の柄に――上からゲンコを叩き込む!
ぼき、って、嫌な音がした。
たぶん、オレの肋骨が折れたんだと思う。
当たり前だ、オレの体そのものを支えにしたんだから。
でも――、
「――!?」
獣の兄ちゃんは、何が起こったか分からないって顔でごろごろ転がっていった。
テコの力だ。
真正面からぶつかり合っても力負けすんのは分かってたから、オレを地面との間に挟んで、槍をテコにして押し返したんだ。
……寝てる暇なんてねぇ。思いっきりテコを打ちつけられて、兄ちゃんの手から離れた獣の槍が、宙を飛んでるんだから。
勢い任せに立ち上がる。
胸の下がでっけえ金槌でぶん殴られた様に痛くて、吐きそうなほどに気持ち悪かったけど、そんなの……関係ねぇ!
オレは思いっきり手を空に伸ばして――叫ぶ!
「戻って、こい……。もう一度、一緒に戦うんだ……。
来いーっ、獣の槍ィ――――ッ!」
**********
そこからは、私の眼ですらまともに捉えきれない刹那の出来事だった。
空に舞った獣の槍が急激に方向転換し、するりとうしおの手に収まる。
そしてその毛が一気に伸び――、気がつけばうしおは獣の青年の前に立ち、延髄に槍の一撃を見舞っていた。
それで、終わりだった。
静寂。
そして、沈黙。
はらりとうしおの伸びた毛が散って、ぐらりと倒れ込む。
「……っと、」
慌てて駆け寄り、その肩を支える。
俯いたその顔を見る事は叶わない。
ただ私は、こう檄をかけていた。
「……よくやった」
そしてうしおは、顔を上げる。
照れと悔恨の混じり合った、複雑な表情だった。
「これで……、よかったのかなァ」
……思う所は、色々あるのだろう。
彼の器量は知りながらも、過去を知らぬ私に返せるいらえなどなく。
確かにある事だけを、告げた。
「お前の手には、取り返したものがある。……だろう?」
「うん……」
そしてようやく、小さな小さな笑いを見せた。
私も安堵をそこに得る。
同時。
背後の殺気が膨れ上がったのを理解。
雷と炎が、うしおを襲う。
新手――!?
「させるか……!」
この贋作では、払いきれん。
ならば身を呈して庇うのみ……!
じゅう、と、背の肉の焦げる匂いが鼻を焼いた。
体が痺れ、動きが阻害される。
「ぐぅ……っ!」
「ぶ、聞仲さ――、」
悲痛な声。
……平気だ。この程度、取るに足らぬ傷でしかない。
お前が無事ならば、それで良い。
眉をしかめながら、緩慢な動きで背後を向く。
そこには。
「……なんだ、あれは……」
涙目で私の背を見つめ、無言だったうしおが、ぽつりと呟く。
「字伏……」
おぉぉおおおおぉぉおおおおぉおぉぉおおおぉぉん!
遠吠えが、辺りに響き渡る。
そうか。
それが、このバケモノの呼名か。
人であった頃の字名すら――伏せてしまった獣。
理解する。
これは、あの獣となった青年の末路であるのだと。
右腕の贋作を構え、相対する。
うしおもまた、私を気にしながらも獣の槍を握り締める。
だが、それは杞憂に終わった。
更なる咆哮を残すと、字伏は一転して駆けだして行く。
何処とも知れぬ場所へと向かって。
……何ゆえか?
何故、戦わない?
疑問が私たちの頭を埋め尽くすも、答えるべき字伏は既に此処におらず。
追うにしても、雷を受けたこの体は機敏な動きを許してくれず。
……ただ、無数の魑魅魍魎どもが字伏の通った道を埋め尽くし、我々を取り囲んでいた。
うしおが、呟いた。
「槍が昂ぶってる……。白面の気配が復活した、って……」
**********
憎い……、憎いぞ……。
この体は……なんだ。
何故、こうなった。
思い……出せない。だが、俺がこんな化け物ではなかった事は分かる。
俺は……、誰で、何故こんな姿になっている!?
ああ。
憎い、憎い、憎い憎い憎い憎いぃぃぃッ!
俺をこうした元凶が憎い。
関わってきた全てが憎い。
分かる事は、二つだけ。
俺は……あの男を守らねばならないという事。
どういう関係だったかも思い出せないが、あの顔だけは決して忘れない。
そして、俺は白面が憎いという事。
そうだ、俺の傍でずっと語っていた誰かも言っていたではないか。
白面こそ諸悪の根源であると。
臭う……、臭うぞ白面白面白面……ッ!
何処に隠れていた!?
いや、それはいい。
今必要なのは絶殺の意志。
この爪で奴を切り裂き、あぎとで引き裂き、雷と炎で身を焼く事に専心するのみだ。
そら、あの女だ。
あそこで暢気に突っ立っている女。
奴こそが……白面の宿主よ!
届く、届くぞ。俺は届く!
もはや障害は眼前に非じ!
あと十歩か九歩か七歩か六歩か!
五歩か四歩か三歩か二歩かァ!
女ァ、死ィィィィ……ねェェェッ!
さあ、この牙を臓腑に抉り込もう。
一歩踏み込み、零を貫くぞォッ!
取ったァ……ッ!
ザクリ。
肉が血が、臓腑が骨が零れ落ちる。
この獣のあぎとが赤に染まる。
先ほどの様なまやかしではない。
今度という今度こそ、肉人形を貫いた……ッ!
**********
あれ……?
なにこれ。
なんで、こうなってんの?
眠ってたらすんごい痛みが来て、眼、開けたら虎みたいな化け物がくちゃくちゃあたしの体を食ってる。
あ……こぼれてる。いっぱい、こぼれてる。
やだ……、なんか、寒い。
痛みも一瞬で、全然痛くないよ。
そっか、これも夢だ。絶対に、夢。
だってなんか、頭がボーっとしてるもん。二日酔いだ、これ。
んじゃあ、ゆっくり寝ないとね。
明日も安月給でこき使われるんだし。
あの癖のある生徒どもに付き合わなきゃいかんし。
もうすぐ五月の連休なんだから、ひと踏ん張りしないとね。
どういうつもりかしんないけど、薫のバカからもなんか旅行に誘われてるし……ね。
……寝過ごさないよう、気をつけないと。ヒナに怒られちゃうもんね。
ん……なんだろ、あれ。
あたしのまわりに、八角形の何かが浮かんでる。
化け物ごと、あたしの体はその中に沈み込んでいく。
ああ……、また、この夢か。
一度見た夢の続きを見るなんて、珍しいなあ。
お札がいっぱい、周りに浮かんでる。
あ、なんか変なビームでた。
化け物に当たった。ジュッ……って音がする。
ぐらり、とあたしが揺れる。
化け物の口から抜け出て、真っ逆さまに下に落ちてく。
そして……、あたしの体から、なんか変な狐みたいな靄が浮かび上がってきた。
ホント、変な夢だわ。
あ……、意識が融けてきた。
まっしろだ……。
おや、すみ……。
おやすみなさいん、救いようのないお天気頭さん♪
【桂雪路@ハヤテのごとく! 死亡】
**********
くすくすくすくす、全部が全部計画どおりねぇん。
この辺りの霊脈が乱れて、この世とあの世の境が混じり合っていたこと。
うしおちゃんが映像宝貝と落魂陣を持っていたこと。
そして……、獣の槍が、魂を削って人をバケモノにする性質を持っていたこと。
こんなまさに仕組まれたような条件が整っていなければ、こうまで上手くいかなかったでしょうねぇん。
まず、うしおちゃんから口八丁で荷物を預かって。
常人の雪路ちゃんに宝貝たる落魂陣を触れさせて、いつでも意識を奪えるようにして。
次に憎しみと獣化でお馬鹿さんになった潤也ちゃんを誘導して、獣の槍で冥界の扉を開かせて。
溢れた魑魅魍魎を潤也ちゃんに相手にさせている間に、わらわは落魂陣に入って隠れて。
これで、潤也ちゃんをどんどん獣に近づかせてあげると同時に、獣の槍の眼の届かない所に非難する事が出来たのぉん♪
あはん、一挙両得ねぇん。
あとは潤也ちゃんが殆ど獣化した頃を見計らって外に出て、雪路ちゃんの体をエサに落魂陣におびき寄せるだけって寸法よぉん。
最後は落魂の呪符で完全に魂魄を消し飛ばしてあげるだけだったわん。
たったそれだけで、ほぉら。
あの妖怪とそっくりの肉体を手に入れられたのぉん。
あとは……この体に馴染むのを待つだけねぇん。
潤也ちゃんの魂魄の削りカスはまだくっついてるから、あのコの記憶と意思は残ってるけど……、まあ許容範囲かしらん。
……獣の槍をうしおちゃんが取り返しちゃったことだけは、想定外だったけどねぇん。
さぁて、これからどうしましょぉん。
この体には変化の力もある様だし、潤也ちゃんの姿で行動するのがおもしろ……無難かしらぁん♪
【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX 死亡】
【妲己@封神演義 蘇生】
**********
禁鞭の贋作を振るいながら、東に向かい足を走らせる。
流石にいつまでもこ奴らを相手にしている訳にはいかん。
特に今のうしおには、休息が必要だ。
沈み込んだ様子こそ見せないものの、空元気なのは明白なのだから。
先ほどの青年が字伏とやらに変化したのを見た事は、立ち直ったばかりの心にはやはりダメージが大きいようである。
道を見渡せど、埋め尽くす幽鬼どもはデパート周辺のかなりの部分を塞いでいた。
倒壊により生じた無数の瓦礫と相まって、北上という選択肢を取る事は難しい状況に我々は置かれている。
故に思い付いたのは、先ほど診療所の地下に見つけた通路だった。
あれを用いれば、ひとまずの退路は確保できるだろう。
――そんな時だった。
不意に、頬に冷たいものが落ちたのは。
「む……?」
空を見ると、白い結晶がぽたぽたと落ちてくる。
「雪……」
うしおの呟き。
それに反応でもしたのか、一気に空から白の花が降り出し始めた。
見とれるうしおをそのままにしてやりたかったが、堪える。
今はそれどころではないのだから。
うしおの肩に手を載せ、現実に引き戻そうとする。
……と。
「え……?」
呆然としたうしおの声に、私も気付く。
周りの異界の住人どもの声が、次第に小さくなっているのを。
ハッとして、周囲を見渡した先にあったもの。
その光景は、凄惨でありながらやけに静かな代物であった。
雪に触れた瞬間に、この世ならざる存在が融けて消えていく。
その正体に、どうしてか私は瞬時に思い当たった。
そんな宝貝など、見た事もないはずであるのに。
「魂魄を溶かす雪……!」
ただ見ている間にも、雪は降り積もる。
そして――、あれほど溢れていた魍魎どもは、雪が降り始めてわずか数分で消え失せてしまった。
……我々には何の影響もない所を見ると、落魂陣とは異なり、魂魄体でないものには全く害を与えぬらしい。
『何にせよ、これからの天気には注意した方がいいかもしれませんよ』
不意に、放送での幼い少年の声が脳裏に蘇る。
この事態を――幽世と現世の交わりを、“神”は予見していたとでもいうのだろうか。
その処理を、気付かれぬよう行う為に天候を操作したとでもいうのか。
全てが、予定調和だとでもいうのだろうか。
美しく降り積もる雪――その寒さでなく、もっと別の得体の知れない何かに、いつしか私は背筋を震わせていた。
「聞仲さん」
ふと目線を下げると、うしおがじぃとこちらを見つめている。
「やりたいこと……、ううん、やらなくちゃなんねぇことがあるんだけど、さ……」
**********
さて……、雪のおかげで雑魚どもはあらかた消えたかね。
んじゃあ、後は入り口を封じるだけ……と。
ナイフで手を切り、血を流す。
煙が立ち上り、紅の立方体が冥界の門を包み込んだ。
こいつで終わり……と。
これでもう連中は溢れ出る事は出来ねえ。こっちに出てきた瞬間、酸が全てを溶かしちまうからな。
やれやれ、……ったく。
もう……行っても、無駄かもしれねぇが。
こっちに来たついでに、ママの様子だけでも見とくかね。
正直今のママは見てらんねぇ。
ああくそ、気に入らねぇ。
……あの人に人質としての価値なんてなかったはずなのに、それでも連中の口車に乗っちまうオレ自身がよ。
そんな事を思うと同時、背後でざり、と音がした。
「……な、」
おい……嘘だろ。
「どうしてテメエらが……ここにいる!?」
テメエは――東の“非常口”に向かったはずじゃねえのかよ……!
「王……天、君? 参加者に貴様の名は……無かったはず」
なんで戻って来やがったんだよ、聞仲ゥゥゥッ!
**********
思考が停止する。
異形どもが消えた事を契機に、私達はデパートの周囲に戻ってきた。
桂雪路――私にとっては妲己を探したいと、うしおが提案したからだ。
事の次第を問い詰める為にも私はそれを肯定し、此処まで急ぎ足を進めたのだ、が。
雌狐は影も形も見当たらず――代わりに眼に入ったのが本来在らざるべきこの男。
どういう事だ。
王天君――敵対者たる十天君の長がこの場にいて、そして私が此処にいる事に驚愕する、とは。
貴様はもっとふてぶてしく、影から享楽的に事を進めるはずだろう。
何故、そんな似合わぬ表情をしている……!?
「……クソッタレ、こういう算段かよ! 」
らしくない表情を、見る。
いや、王天君のこんな顔を見るのは永き生の中でも初めてかもしれん。
それほどまでに王天君は取り乱し――、ガリガリと、血が溢れるほどに指を噛んでいる。
「姿を見られた事自体は……構わねえ、別にいい!
だが――オレがテメエらに引き合わされたって、その意味を考えりゃロクな答えが浮かんでこねえ!!
畜生が、掌の上で何でもかんでも弄びやがって! 白だろうが黒だろうがどっちもテメエの駒にゃ変わりねえってか!」
診療所から拾ってきた、あの古ぼけた絵の内容が蘇った。
……王天君も、神の手の者か!
思い当たり、王天君の下へと駆ける。
確保し情報を引き出すのが最善手だ。
だが、それは果たされない。
突如湧き出た白い霧が王天君を包み込み――、そして、
「ひゃ、は……。ひゃはっ! そうかよ! ぐひゃひゃがぁぁあああぁぁぁああぁっ!
廃棄物の処理と、第三の見せしめと、メッセンジャーって訳かよクソクソクソクソぉぉぉぉぉっ!
くははははは、ぎゃ、が、ぐがひゃぁぁああぁぁががががっがぎゃぁぁああぁあがぁぁあっ!」
雷。
肉の焼ける匂いが立ち込めた。
雷公鞭? ……いや、違う。
あれほどの破壊力ではなく、しかし恐るべきものには変わりない魔の類の術。
種類で言えば、先ほどの字伏のそれに近い。
幾度も幾度も間断なく、王天君の身が稲妻に焦がされていく。
皮と筋が裂け、血が迸り、眼から白いゼリー状の物が染み出していく。
凄惨さに、私もうしおも――ただ、見ている事しかできなかった。
一体何が起こっているのか、あまりに脈絡がなさすぎた。
「オイ……テメェらに、忠告してやるぜ……!
考えるな、諦めろ、真実なんぞ探ろうとすんじゃねえ! 後悔するぜ、オレみたいによ!
流れに身をまかせちまえ、そいつが一番幸せだ、ぎゃははははははっ!
どーせテメェら……オレ達に帰る場所なんざねぇんだからさあぁぁああぁぁああぁぁぁっ!」
びくり、とうしおの身が震えた。
おぞましい形相の王天君が、悪夢のごとく血反吐を撒き散らす。
倒れそうになるうしおの小さな肩に手を置き、支えた。
「ああ――、滅びろ、滅びろ、皆ぶっ壊れちまえ!
くくく、カカカカカカ、ぐばっぎゃぁがあああぁああぁぁっ!」
王天君が踊る。
狂った踊りを舞い続け――、そして唐突に終わりが来た。
「一番美しい構図はゼロってか、き――、」
人の名前のようなものを最後に呟くと。
「な――!?」
王天君を中心に、ぎゅるり、と空間そのものが球状に歪曲する。
ノイズがかったように王天君が霞む。
そして一瞬のうちにその中央に引き摺られるように、彼の姿は消えていった。
黒い穴に、呑み込まれるように。
後には、臭い煙が立ち込めるだけ。
霧のような何かの痕跡さえ、残っていなかった。
「何が――何が起こったって言うんだよう……」
がたがたと己の肩を抱いて、うしおがへたり込む。
言葉もなく、私も立ち尽くすことしかできなかった。
ただ緩慢に辺りを見渡し、そして気付く。
「……あれは、紅水陣?」
乱れた龍脈の中心――冥界の門と思しき場所に、王天君の宝貝が固定されていた。
まるで、その場を封印するかのように。
術者たる王天君はもういないのにもかかわらず、解除される事もなく――。
【I-07/デパート跡地周辺/1日目/午後】
【蒼月潮@うしおととら】
[状態]:精神的疲労(中)、左肋骨1本骨折、混乱
[服装]:上半身裸
[装備]:獣の槍@うしおととら
[道具]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[思考]
基本: 殺し合いをぶち壊して主催を倒し、みんなで元の世界に帰る。
0:一体何が起こったんだよう……。
1:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
2:仲間を集める。特に雪路が心配。探したい。
3:とらやひょうと合流したい。
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
6:聞仲に尊敬の念。
7:金光聖母を探す。
8:字伏(潤也)の存在にショック。止めたいが……。
9:白面を倒す。
[備考]
※参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後〜32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。
【聞仲@封神演義】
[状態]:右肋骨2本骨折(回復中)、背に火傷(小)、混乱
[服装]:仙界大戦時の服
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式(メモを大量消費)、不明支給品×1、首輪×3(ブラックジャック、妙、妲己)、
胡喜媚の羽、診療所の集合写真
[思考]
基本:うしおの理想を実現する。ただし、手段は聞仲自身の判断による。
0:王天君は、一体――? 何故紅水陣が持続している?
1:妲己の不在を危険視。何処にいるかを探す。
2:金光聖母を探して可能ならば説得する。
3:2のために趙公明を探す。見つからなかったら競技場へ行く。
4:うしおの仲間を集める。特にエドと合流したい。
5:流を自分が倒す。
6:エドの術に興味。
7:流に強い共感。
8:幽世の存在に疑問。封神台があると仮定し、その存在意義について考える。
9:獣の槍を危険視。
10:診療所の地下を調べたい。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。
※うしおと情報交換しました。
※会場の何処かに金光聖母が潜んでいると考えています。
※妲己から下記の情報を得ました。
爆薬(プラスチック爆薬)についての情報。
首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があること。
※幽世の存在を認識しました。幽世の住人は参加者や支給品に付帯していた魂魄の成れの果てと推測しています。
また、強者の魂は封神台に向かったのではないかと考えました。
※診療所の待合室は地下通路と階段で連結しており、その先に非常口が存在します。
非常口が通路の突き当たりにあるかどうかは不明です。
また、集合写真は取り外されています。
※デパート跡地に冥界の門が存在しますが、紅水陣で入り口を封印されています。
※島に降る雪は、魂魄体にのみ干渉し消滅させる効果を持つようです。
**********
暗闇の中に白い霧が突如立ち込めたかと思うと、次第にそれは一つの形を取り始める。
浮き上がってきたのは、少年と呼ぶべきか青年と呼ぶべきか。
あどけない顔立ちの彼は、うっすらと笑みを浮かべながら楽しそうに語っている。
「うーん、君の仕事は雑だし遅いしで、もう見てられなかったんだよね。
結局参加者に姿を見られる事になっちゃったし、だったら変に情報を与えちゃう前に僕が始末しないとって思ったんだ!
幸いさっき取り込んだ人の力なら、僕の姿を見せなくても粛正出来たしね」
と、その言葉の途中から、彼の眼前が蠢き始めた。
空間そのものがねじ曲がり、やはり影が浮かび上がってくる。
長い耳にピアスをいくつもつけた、顔色の悪い少年の死体だ。
……いや、死体と言いきれるのかも判然としない。
仮死状態。
そう言うのが、最も近いかもしれない。
あちこち焼け爛れた体をピクリとも動かさない様は、命の灯火の消えるほんの直前で時間を止められたかのようだ。
独り言染みた語りかけは、続く。
「僕が以前とある人に負けた時に、教えてもらった事があるんだ。
『叶った時に一緒に喜び合える人がいるからこそ夢は夢なんだ』ってね。
……うん、ここに来て僕は実感しているんだ、その言葉が正しかったって。
その人はとっくに退場しちゃったんだけどね」
少しだけ残念そうに少年は声のトーンを落とす。
まるでその人とやらに、何かを期待でもしていたかのように。
――しかし。
一転して本当に嬉しそうに、楽しそうに――、続く言葉は歓喜に満ち満ちていた。
「“彼”と出会って、僕は友達の大切さって言うのを理解したんだ。
僕の力でも傷一つつけられない星の下に生まれた“彼”!
僕の道を共に歩く事が出来る人がいたなんて、初めて出会った時は本当に信じられなかったよ。
だから僕は、“彼”の夢に全力で協力するんだ!」
純真な表情は、もはや“彼”の事しか考えられないという事を如実に語る。
少年の眼の下の隈はその瞳の輝きをひたすらに美しく映えさせていた。
あまりにも真っ直ぐすぎる好意が、どれほど危険なものであるかすら理解できずに。
「ん? どうしてこんな事を説明するのかって?
それはね、ちゃんと自分の責任について知った上で退場してもらいたいからさ!
聞こえているかどうかは分からないけどね!」
そうして、かつて夢を見ていた少年は。
「それじゃあ――いただきます」
霧の魔王に続き、始祖の片割れを呑み込んだ。
ごくり。
嚥下する。
……それら全てを見届けた同族からの報告を、質の違う暗闇の中で受け取る。
溜息すら出てこない。
「……哀れね、あのコ。純粋だからこそ余計に際立つわ」
それが我々の素直な感想だった。
理想を現実に変える能力や、体を霧と変え雷を操る能力、好きな場所へ移動したり酸の陣を張る能力。
そんな力をいくら持ってても、持ち主がアレでは便利な道具でしかない。
それ故に、この催事の運営では大きな歯車となっているのも事実だが。
「友情という看板をぶら下げただけの信仰……盲信よ、アレは。
夢を叶えられなかった心の隙間に入り込まれて、それと気づかないうちに支配されちゃってるわ、完全にね。
ごく小さい範囲とはいえ、かつては神の域にも達した存在だっていうのに――今はただの便利な舞台装置以上の何物でもないわ」
くすくす、と嘲うような声が届く。
かつて人の上に立ち、人を導こうとした男が皮肉気に告げた。
「……何の力も使わずに、あそこまで人を虜にするとはね。
政治家としては、“彼”のカリスマ性には嫉妬さえ覚えるよ、ウォッチャー」
……別に驚く事もない。
彼が裏でやった事も含め、我々は全てを把握している。
その為の“ウォッチャー”だ。
「支配蟲を使うまでもなく心を弄び、裏切る心配のない手駒を作り上げる。
……この上なくエゲツなくて外道よね、ここの神様は。
同じ生きた信仰対象でもプラントの方がよっぽど安全」
「……そんなエゲツない外道に、君たちはどうして従っているんだい?」
淡々と返すと、運命の試験紙を自称する男はこんな事を聞いてくる。
我々に興味でも抱いたのだろうか。
至極当然で、面白くない答えになるのだけど。
「……少なくともあなたよりはよっぽどシンプルよ。
端的に言うと、生存本能。生物としての絶対的な格の違い。
我々は人間よりもずっと精神的には素直だからね、己が生かされているだけと理解していれば反乱する気さえ起きないの。
抵抗の意志を持てる事が幸か不幸かは論じないけど」
「それは本当に生きてるって言えるのかな?
僕にはとてもそうは思えない。
同じ12番の数字を冠していても、あの正義の味方さんの方がよっぽど人生を全うしていたんじゃないか。
そういやたくさんの手足を調達できる事といい、君は彼に良く似ているね」
……何となく、不快になる。
流石にアレと一緒にされるのは面白くない。
そもそも人生という表現は、私達には相応しくはないだろう。
「……仕事に戻るわ。
要観察対象が、少しおかしな動きを見せているから」
それだけ言い渡すと、私は意識を会場に集中させる。
政治家の動きも気にしない。
……さて、人の体を乗っ取る同志はどうなっていくのだろうか。
**********
ドクン。
ドクン。
ドクン。
……ドクン。
おかしい……わん。
この器に入ってから、やけに体が熱いのぉん。
憎い……。憎い……。
こんな魂の削りカスになってすら、憎しみがこびりついて離れない。
大切な人を傷つける……世界そのものが、憎い。
嘘をついて命を弄ぶ、細目の男が憎い。
俺から力を……獣の槍を奪ったあの子どもが憎い。
妖怪のくせにあの獣の槍の使い手を守る三つ目の男が憎い。
すっごく馴染んで……馴染み過ぎて……。
まるでわらわが、わらわじゃなくなっちゃうみたいだわぁん。
ヤツらが力を持っている事が、妬ましい。
そして、何より。
俺を殺し、全てを奪ったこの女……白面が、憎い。
わらわは……、わらわは、妲己。
表では始まりの人――女カ様の代理人として歴史を操り、夏や殷を滅ぼした傾城の美女。
でも、その本当の目的は。
獣の槍をふるい、打倒白面を目指した人間は……。
いずれ魂を槍に削られ獣になる……。
目的は――。
我は憎む!
光あるものを!!
生命を、人間を!!
人間と和合する妖を!
太母――グレート・マザーとなって、全ての存在に居るコト。
何故、我は陰に、闇に生まれついた……。
土にも水にも風にもヒトにも全てに居る――あの星と融合し、永遠を手に入れるコト。
そして獣は今の俺『字伏』になる。
そして字伏になっても白面への憎しみ消えぬ俺は、何になる?
何になる!?
始祖のように土のひと握りにも存在し、大地を潤し、生命に恵みを与えるコト……。
国々がまだ形の定まらぬ『気』であった時、
澄んだ清浄な『気』は上に登って人となり……、
濁った邪な『気』は下にたまって……。
我になった……。
この星の真の支配者に、わらわは憧れた。妬みさえした。
ヤツになるのさ!!
それはある意味、憎しみとさえ呼べるものかもしれないわぁん……。
キレイダナア……。
そう……わらわは、キレイなものになりたかった。
ナンデ、ワレハ、アアジャナイ……。
力のみを欲し、仙人界と人間界の完全支配なんて卑小な欲望な抱いた自分が、恥ずかしかったわん。
ナンデ、ワレハ、ニゴッテイル……!?
ああ――、
ああ――、
ああ――、
どうしてわらわ/我/俺は、こんな姿なのだろう。
どうして望む姿に生まれなかったのだろう。
ああなれたすべての存在が、妬ましい。
……憎い。
憎い――!
「……あらん?」
やっぱり、調子が悪いみたいねぇん。
少し、ボーっとしちゃってたわん。
……何か変な白昼夢を見た気がするわねぇん。
わらわの記憶にないような光景だったけど……。
この体の記憶かしらん?
まるでわらわの為にあつらえたかのように動かしやすいこの体だけど、その分魂魄が引き摺られやすいみたいん♪
注意しなくちゃ、ねぇん。
潤也ちゃんの意志も、ほんの少しだけ残ってるみたいだしぃん。
体を提供してもらったお礼くらいは、してあげるわん。
さて、この落魂陣から出たら、何処に向かおうかしらん。
獣の槍を確保したままこの体をゲットできてれば、潤也ちゃんのフリをして聞仲ちゃんたちに合流してたんだけどぉん。
聞仲ちゃんは頼りになるし、うしおちゃんは美味しそうだし、ねぇん。
でもぉん、うしおちゃんが獣の槍を取り返しちゃった以上、近くにいるとかえって危険かもしれないわねぇん。
獣の槍は……我が唯一怖れる敵故に。
……あらん?
どうしてわらわ、獣の槍がうしおちゃんの持ち物だって知ってるのぉん……?
ドクン。
ドクン。
ドクン。
……ドクン。
おぎゃぁぁあああぁぁぁ。
【???/落魂陣内部/1日目/午後】
【妲己@封神演義 feat.うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:字伏の肉体(白面化5%)、潤也の魂魄が僅かに残留
[服装]:潤也の姿に変化。
[装備]:首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、落魂陣@封神演義
[道具]:支給品一式×3(メモを一部消費、名簿+1)、趙公明の映像宝貝、大量の酒
[思考]
基本方針:主催から力を奪う。
1:自分の体や記憶の異変について考える。
2:主催に対抗するための手駒を集めたい。
3:うしおを立て対主催の駒を集めたい。が、獣の槍に恐怖感。
4:聞仲を手駒に堕としたいが……。
5:利害が一致するなら、潤也の魂魄の記憶や意思は最大限尊重する。
[備考]
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※ウルフウッドからヴァッシュの容姿についての情報を得ました。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があると考えています。
※対主催陣が夜に教会でグリフィスと落ちあう計画を知りました。
※聞仲が所持しているのがニセ禁鞭だと気づいていません。本物の禁鞭だと思っています。
※潤也の能力が使用できるかどうかは不明です。
※落魂陣が何処に張られたかは後の書き手さんにお任せします。
【落魂陣@封神演義】
十天君の一人、姚天君の使う空間宝貝。
魂魄を直接消し飛ばす光線を放つ落魂の呪符や、触れると爆発する破壊の呪符を内部に展開する事が出来る。
しかし、呪符は直接攻撃で破壊可能。また、空間を展開せずとも呪符のみを使用する事も出来る。
制限内容は不明。
901 : ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:29:45 ID:4Be.p97g0
以上、投下終了です。
問題点等ございましたらご指摘ください。
というわけで◆JvezCBil8U氏、代理投下された方乙です!
どんどん会場が大変な事になっていくw
主催もぐっちゃぐちゃだし、本当にどうなるんだろうなぁ(遠い目)
うしおはやっと己を取り戻したようで良かった良かった
投下乙です。
妲己ちゃんが……いや最初からそのフラグはあったけどマジで白面化するのかこれは。
雪路は何か教師らしいことし始めたと思ったら死んでしまった。
うしおはうん、主人公だわやっぱり。
そして会場の仕掛けがもう滅茶苦茶w
オチにケチをつけるようで申し訳ないのですが一点。
妲己は「我屬在蒼月胸中到誅白面者」の銘を読んで、名簿も確認しているので獣の槍がうしおの持ち物であることは把握しているかと思います。
投下&代理投下乙です。
前半が藤田和日郎バトル過ぎて吹いたw
情景が全編藤田絵で再生されたぜw
後半は怒涛の超展開。
主催陣もどんどん死んでいくなァ……ある意味こいつらはこいつらでバトロワしてる。
そして誕生したハイブリッド過ぎる新生物。
本当に纏るのか不安なのはいつものことだが、どうにかなるってあたい信じてる!
投下&代理投下乙です
雪路は知らない内に死んだけどそれすら…
うしおと聞仲は少年漫画してるなぁと思ったら後半が…
妲己ちゃんと白面は似てるなぁとは思ってたがこれは……
主催陣も確かにバトロワしてるなぁ…
しかし派手に暴れたな。これは近くの連中も気が付いたんじゃねえの?
投下乙です
雪路は結局夢だと思ったまま死んじゃったか
まあある意味一番幸せな死に方かもな
うしおと聞仲は少年漫画的な良いコンビ
妲己ちゃんは自力で体を手に入れたか
なんかすごい恐ろしいことになってるけどw
先の気になる展開
にしても姉妹揃って対主催の癖に殺害数はトップマーダーだなw
ガッツが出会ったキャラが全部で19人でそのうち13人が死亡
疫病神過ぎるぞこいつwww
急かすつもりはないけどまだ放送から動いてないのはユッキー・ユノとミッドバレイか
雪路やっと死んだか
何か場違いでウザいキャラだったから素直に嬉しいわ
ミッドバレイ来たが…今のナイブズとだと?
271 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/08(土) 01:09:16 ID:bMYHIvd7
代理投下します
俯き歩いた暗い暗い闇の底で、ふと聴き取った希望のメロディ。
思わず空を見上げてみれば、垂れ下がっていたのは……
か細い蜘蛛の糸に吊るされた
強靭な一本の剣だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミッドバレイがフカフカとしたソファに腰掛けたのは、I-5にある民家の一室。
放送後、彼は道中にあった学校で車を調達した。
数台の窓ガラスを破壊して中を確認。一台だけキーのついた物があり、それを拝借したというわけだ。
4WDをそれなりに操り、市街地へとたどり着いたのはまだ天気の崩れていない頃だった。
放送前に得た情報では、これからここには「雪」が降るらしい。
「雪」という存在について、彼の知識は多くない。
「氷」のようなものが空から降り注ぐという漠然としたイメージしか出来ていなかった。
しかし聞いた限りでも、それが降るということは気温が下がるということだと理解できた。
彼が暮らす砂漠の惑星も夜になれば信じがたい寒さとなるが、流石に氷が降った話は聞かない。
そんな未知の天気に、野道で遭遇はしたくなかった。
やっとの思いでたどり着いた民家で彼は周囲を警戒しながらも、休養をとる。
愛用のサックスの整備に手をつけ、次は自分の体の整備だ。
たっぷりのお湯でシャワーを浴び、乾いた喉を絶え間なく湧き出る冷水で潤す。
普段暮らす星からすれば天国のような環境だが…生憎、楽しむ気にはまるでなれなかった。
スーツの換えは見当たらず、ひとまずそれまでのものを続けて着る。
正直言って、油断しすぎだと彼自身が思っていた。殺されても仕方のないくつろぎ方だ。
だが、それがどうした。
どの道あと少しすれば死ぬ身だろう、そう思っていた。
酒でも飲みたい気分だったが、残念ながらこの家には酒はない。
まぁいいさと、ミッドバレイはソファにさらに深く腰掛け一息吐こうとして…
その身を強ばらせた。
爆音
彼の発達した聴覚に飛び込んできたのは爆発音。
いや、それだけではない。その前後に、確かに聞こえた。
獣の咆哮
獣…ならばいい。しかし、しかし…果たして本当にただの獣だろうか。
化物…ではないのか?
そんな恐怖にかられ、リラックスムードは一転して緊張感あふれるものとなる。
口では何を言おうと、彼は死が怖かった。
苦々しい顔つきで立ち上がると、ミッドバレイは周囲の音に更に意識を集中させる。
ひとまず傍に驚異がいないことを確認すると、パソコンを立ち上げた。
使い方は人づてに聞いた程度で仕組みは全く分からないが、何ができるかは知った。
そこから「みんなのしたら場」というサイトにアクセスし、情報を集め始める。
彼が以前確認した時よりさらに情報は増加していた。
しかし、どれもこれも信用ならない。
大体、顔も見えない情報源の何を信じろというのだろうか。
こんな状況では誰かに誰かが成り代わるのもあっさり出来るだろう。
結局、ミッドバレイにはその全てが嘘に思えた。
今の所信用出来る情報源なんて、放送くらいのものだが、
その放送も、主催者の手の者が行っている以上あてにはできない。
それに…
レガート・ブルーサマーズが、死んだ。
放送で告げられた事実。
おそらくあの直後であろう。
ミッドバレイと接触した後、あの男は死んだのだ。
殺しても死にそうにないあの男が。
彼にとってまさしく『恐怖』の塊であったあの男が。
殺したのは、誰か。
リヴィオ・ザ・ダブルファング?
違う。ヤツの名も呼ばれた以上、よくて相討ちだが…彼ではあの男は倒せない。
確かに魔人に相応しい戦闘力の持ち主であり、それはミッドバレイも認める。
だが、レガートはそういうレベルではない。強さ云々で倒せる存在ではないのだ。
短い付き合いだったが、彼はあくまで「人間」だとミッドバレイは感じていた。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード?
違う。ヴァッシュは絶対に殺すという選択肢を選ばない。それはミッドバレイにも確信出来た。
確かに彼はヴァッシュをあの場に導きはしたが、レガートとダブルファングの戦闘に間に合ったか怪しいものだ。
抑止力にならなっているかもしれないが…あの男の死を生み出したのは、アレじゃない。
となるとやはり「あの少女」だろう。
ガサイ・ユノ
探偵はそう言っていた。アレならレガートを仕留めていても納得がいく。
それは戦闘能力うんぬんではない。
あの少女は「一応」ただの人間らしい。
だが彼にはとてもそうは思えなかった。
あれは、いやあれ「も」化物だ。
レガートと同じ『心』の化物。
狂った精神に追いつくように、肉体が変異しているのではと疑いたくなる存在。
とても『人間』と呼べる存在ではない。だから、アレこそがレガートを倒しうる存在だと思った。
それは彼の望んだ「救い」とは程遠かったが。
あの場に居た少年の一人。
そう、馬鹿げた戦闘力も特殊な能力も何も持たずに化物供と対峙したあの少年。
あんな少年にこそ、「希望」というヤツは見いだせる、ハズだ。
もっとも、闇の底を歩きすぎたミッドバレイには結局そんな物は見えやしなかったが。
ひとまず生きているらしい少年の悪運に素直に関心はしておく。
いろいろと考え事をしながら掲示板を眺めていると、やたらと長い書き込みが目についた。
文章を読み、ミッドバレイは盛大なため息をつく。
なんだ、これは。
馬鹿げた内容だった。くだらん自己紹介と、狂った呼びかけ。
長ったらしい文章だったが、この二言で表せた。
途中に用意されていた妙な映像も見たが、彼のため息が増えるだけ。
…どうにもこの書き込みの主とはセンスが合わないと、ミッドバレイは首を振った。
だが、狂った呼びかけには少し興味が湧く。
どうやらこの男、主催者の手の者らしく、その情報を餌に武道大会とやらをやろうとしている。
それも、出来る限り強い存在を集めるつもりのようだった。
「狂っているな」
思わず声に出して呟いていた。いわゆる「戦闘狂」というヤツだ。
彼が所属していたGUN-HO-GUNSにもこういった連中はいた。
雷泥・ザ・ブレード。あるいはマイン・ザ・EGマインあたりもそうかもしれない。
戦うこと、それ自体に喜びを、いやもはや快楽を覚える存在達。
この書き込みの主はあんな連中の延長線上、そんなイメージだった。
ならば逆に、絶対に近づくべきではない。
ここでそんな強者供を相手にしても彼にはなんのメリットもない。
強者は強者同士で潰し合えばいいだろうと思っていた。
そういう意味では彼にとってこの呼び掛けは都合がよい。
これを鵜呑みにするおめでたい連中が存在するのなら、だが。
……そう、彼はまだ殺し合いをやめたわけではなかった。
先程は気まぐれに探偵に協力してやったが、別に常にそうあろうという訳ではない。
演じ慣れたパートでも、休みなしで奏で続けては楽器が傷む。
かといって違うパートは演じられないのだから…あとは休んで調整でもするしか無い。
結局の所…闇の底ではやれることなど限られているのだ。
ギィ、と座っていた椅子の背もたれに体を預ける。
先程の獣の声が聞こえた方角はわからない。そこまで近くはないが…安心は出来ない。
うっかり出歩けば遭遇しないとは言いきれなかった。
掲示板の情報が本物ならここから東のデパートは壊滅状態らしい。
遠目で見ても惨状は理解出来た。何が潜んでいるかわかったものではない。
結局どこかへ向かうメリットが無くなっている。
今までなんとなく海沿いに島を半周程してきた訳だが、それにこだわりなどない。
これから天気が崩れる以上、うかつに歩きまわれば誰にも遭遇しないで体力を失う。
むしろどこかでひとりでに野垂れ死にするかもしれない。
それはそれで幸せかもしれんなと、ミッドバレイは少し本気でそう思った。
すぐに思い直したが。
どうしたものか、と思いを巡らす。
そもそもこの書き込みが真実という確証はなく、実は何か罠が張り巡らされていました、
では笑い話にしても低俗なものだろう。
その時だ。
彼の耳は聞きたくもない『音』をまたしても捉える。
先ほどと同じ獣の咆哮。そしてそれに続く様々な轟音。
わかる。
人間が出す『音』じゃない。
彼の中の天使と悪魔が耳元で囁いていた。
『見るな見るな。見ればまた絶望が増えるだけだ。どうしようもないって知っているだろう?』
『目を背けるなよ、リアリスト。見ておかねば少しの対策も練れないぞ。
死にたくないのなら、わずかでも生きながらえる為の努力をしろよ』
どちらが天使でどちらが悪魔か、ミッドバレイにはさっぱりわからなかった。
だが結局、臆病な彼は『無知』の恐怖に耐えかねてしまう。
音源が遠いことを確かめると、ゆっくりと窓へ近づき外を見回した。
結局、どちらの言い分も正しかったというところだろう。
彼の目に映ったのは果てしない絶望だった。
巨大な化物が、さらに巨大な化物と殺しあっている風景。
距離が離れていながらそれを『視認』できるのだ。
それだけでもう十分な脅威であると確信出来た。
一方は巨体で知られた同僚グレイ・ザ・ナインライヴズをも上回るであろう肉体を持った化物。
太い腕、角、翼、牙…どれもこれも人の身を超越した力の象徴。
彼の命を一瞬で奪いうる、恐怖の塊。
もう一方は……ミッドバレイには表現ができなかった。
それがどういった存在か、言葉に出来ない。
ただ言えたのは…自分では絶対に敵わぬ、圧倒的な力を備えた化物であるということ。
そんなベクトルの違う化物の戦いを目の当たりにして、彼の絶望は色を濃くしていく。
戦いはほんの数十秒で決着した。
化物供はその姿を消したが、倒れた訳ではない。
勝者と敗者に別れはしたものの…どちらも死んではいない様子だった。
クククッ…と笑い声が薄暗い室内に響く。
堪えきれずハッハッハと大声で笑いながら、ミッドバレイは床に転がった。
なんだというのだ、どうしろというのだ、なにがしたいのだ
キレイだがどうにも機械的な印象の民家の床で、ミッドバレイは笑い転げる。
闇の底なんて見慣れた光景だと思っていた。
だが、その底に蓋がついていて、開けたら更に深い闇があった気分だった。
あれを見てなお『あの言葉』を口に出来るのか。
ミッドバレイはありったけの泥を全身に浴びせられたように思った。
その身にまとわりついて剥がれない嫌な感覚に蝕まれるように、結局彼は押し黙る。
もう二度と、『希望』なんて言葉は言えない気がした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
結局じっとしていられず民家を出発し、ミッドバレイは街中をさまよう。
あいかわらず俯き気味に、耳だけはしっかりとすまして。
行くアテなどもちろんないが、思えばそれはいつものことだった。
往くも死、退くも死、それでどこへ行けというのだろうか。
ムルムルと呼ばれた娘、雷を操ったシンコウヒョウ、人間台風、変化する大男。
狂信者、それを倒したであろうガサイ・ユノ、そして巨大な化物二匹。
それに…
彼にとって、この島はあまりにも絶望が多すぎた。
聞き慣れた音でも、それが幾つも折り重なればそれは新たな音楽となる。
様々な絶望がもたらすハーモニーは見事に調和が取れていて…
より大きな絶望として、聞いたこともない音を放っていた。
やっとその耳が捉えた、『あの』メロディも掻き消しかねないほど。
指揮者がいるなら見事な腕だな、とミッドバレイは呟く。
だが禁止エリアには絶対に近づかない。
こんな音楽に晒されてなお、自ら死を選べない自分が恨めしかった。
まだ足掻こうというのだろうか、自分は。
そして再び、彼の耳は『音』を捉える。
二人組の足音。もう少し近づけば聞きわけられるだろう会話『音』。
無視してもいい。しかし現実主義者は結局自暴自棄にもなれず…
今できることを、とりあえずしてみることにした。
結局それも光をもたらすことはない。光をもたらすのはいつだって、
叶わぬ夢を夢として愛し、理不尽な世界と対決することが出来る者達だけだ。
それが出来て初めて、光が降り注ぐ。
彼のいる闇の底には未だ光が届かない。
わずかに煌めくのは、彼を戦々恐々とさせる一本の剣の輝きだけ。
……それを手にとり、闇に立ち向かえたらどんなにいいだろう。
見えた。
その前から声は聞いていたが、女のほうが一方的に喋るばかりだったので気づかなかった。
だから街中である程度接近し、その人並みの『目』で見て気づく。
そこにいるのが、まぎれもなくかつての主、ミリオンズ・ナイブズであることに。
後ずさる。
先程の化物を見た時とはまるで違う感覚。
距離が近いというのもある。しかしそれに加えて見知った…いや、聴き知った恐怖であるからこそ。
先程よりは少し落ち着いて、しかしさきほど以上に深く、彼は絶望する。
睨みつける。
愛用のサックスに触れる。マウスピースを咥え、構える。
たったひと吹き、息を吹き込めばそれで終わりだ。
秒速340mの彼の『牙』は『アレ』に届く。
敵うなんてもう思っていない。無駄なことは百も承知だった。
ただ、この哀れな男の人生の最後に、少しでも抵抗の跡を残したかったのか。
同行者くらい仕留められるかもしれない。それでもよかった。
少しくらい驚く顔を見られればそれで十分ではないか。
決意を胸に、男は最後の抵抗を試みる。
だが無理だった。
歌口から口を離し、ガチガチと震える体を壁にもたれかける。
ただ恐ろしかった。どうしようもない小物だと自分で思うほど。
この戦法でどれだけの人間の生命を奪ってきたか。
それはこの島でも変わらなかったというのに。
遂に皮肉な笑みすら浮かべることもできず…ミッドバレイはその場を去ることを決める。
自分の『牙』には一体何ができるのだろうと、誰かに尋ねたいくらいだった。
ゆっくりと立ち上がり彼らに背を向けると、真逆の方向に歩き出す。
もう二度と関わるまい、そう決めていた。
どうせあと少しの生命なら、最後くらいもう少し穏やかでいたものだと。
そう考えながら歩きだした直後に、彼の耳はその言葉を捉えた。
幻聴か、はたまた音界の覇者たる力ゆえか。
「命拾いしたな、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク」
答えはすぐに分かった。
ごっ!と派手な音を立ててミッドバレイはうつ伏せで地面に叩きつけられる。
首筋には背後からたくましい腕が押し付けられ、まるで身動きがとれなかった。
先程の言葉は幻聴でもなく、彼の発達した聴力ゆえに聞こえた遠くの声でもない。
彼が振り返った一瞬でその距離を詰めてきた、ナイブズの声だった。
ミッドバレイは言葉も出なかった。
相手の身体能力に対してではない。彼への警戒度が薄かった自分に対してだ。
以前見逃された経験があったゆえに、逃げられる気がしていた。
一瞬とは言えあからさまな自分の敵意に、相手が気づかぬわけもないのに。
「仕掛けてきていれば貴様の命はなかった。どうやら『のって』いるらしいな」
当たり前の事をわざわざ言わなくていい、そう叫び返してやりたかった。
しかし彼の口から出たのは、従順な『ナイフ』の言葉。
「ナイブズ……様、お久しぶりですな」
「……死んだと聞いた気がするが……まぁいい」
あぁ死んださ。
これは小さくだが口にだした。
何を言われても、何をしても、自分には選択肢がないことを彼は理解していた。
今死ぬか、情報を奪われて後で死ぬか。せいぜいそのくらいの選択しかできないはずだと。
だが次の言葉は少しだけ予想外のものだった。
そして、それゆえに恐ろしいと、彼は思った。
「俺は今、よく聞こえる『耳』を探している。その意味がわかるな」
その耳は、あまたの枷。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
道路を凄まじいスピードで疾走する車が一台。
その中には三人の参加者が乗っていた。
運転席に座ってアクセルを踏み込みながら、ミッドバレイはちらりと横を見る。
助手席にはミリオンズ・ナイブズ。
運転を彼に任せて座ってはいるが、その目は見開いて前を見据えている。
よほど速く先に進みたいようだ。
後部座席には西沢歩。ジャージの上下にマントという、なんとも奇妙な格好の少女。
俯いて、何かを考えているらしい。
表情は暗く、悲しみにあふれ…儚げだった。
あの後、ミッドバレイは大体の事情を知ることとなる。
ナイブズはやはりヴァッシュ・ザ・スタンピードを探しており、その位置はある程度わかるらしい。
連中も例の化物共の戦いには気がついたらしく、時間の掛かりそうな面倒を避け南下したようだった。
そこで、歩が天気と効率を考え車での移動を提案していたところに彼が遭遇したというわけである。
都合よく車を所持していたミッドバレイと遭遇したのは、ナイブズ達にとって僥倖だったろう。
そう、思わず誰かの関与を疑ってしまいたくなるくらいに。
しかしミッドバレイは運転手として確保された訳ではない。
『ある程度の距離と方角はわかるが…慌ただしいヤツの事だ、じっとしてはいまい。
細かい場所の特定の為に貴様のその力は便利だ』
このナイブズの言葉こそ、ミッドバレイがこうしている理由だった。
またしてもいいように利用されるのかと、情けない思いはある。
だがそれであっさり立ち向かえるようなら、初めからナイブズの元で戦ってなどいなかっただろう。
付け加えられた言葉がそれをよく示している。
『あの時も貴様だけが賢い判断をしたな』
かつてナイブズのスカウトを受けた時…
ミッドバレイの仲間が二人、ナイブズの手で殺されている。
殺し屋だった仲間たちは『手口』を見られた事で不都合を感じ、ナイブズに攻撃を仕掛けたのだ。
ナイブズのヤバさに真っ先に気がつきそれを止めようとした彼以外…全てが切り刻まれた。
確かにその場で一番賢い判断をしたのは彼だったかもしれない。
同じように今回もまた、彼は立ち向かう事をしなかった。
こんなだから希望の光が見えないのだと、またしても皮肉な笑みを浮かべて。
結局彼が持つ情報はほぼ全て彼らに渡ってしまった。
移動しながらの尋問で慌ただしかったが、ヴァッシュとの遭遇等も全て伝える。
彼を戦いの場に導いたことを知った時、ナイブズの表情は一瞬歪んだ。
しかし、すぐに何かを思い直したように元に戻った。それはそうだろう。
あの男は、誰が何かをしなくてもどうせ危険に首を突っ込む。
彼はその行動に指針を与えたに過ぎない。利用というより手助けに近かった。
ただ一つ、探偵の情報は話さなかった。
別に彼を庇ったわけではなく…どうせ不要な情報だと思ったからだ。
ナイブズが欲しがる情報でもあるまいと。
「……『あの男』を倒した、か……」
特にナイブズの気を引いたのはヴァッシュの情報と、レガートの情報だった。
奴がやはりナイブズへの忠誠の為に戦っていたらしいということ。
そしてそれを殺したと思われるガサイ・ユノのことを。
それらを伝えた時のナイブズの表情は、見えなかった。
しかし背中に冷や汗が流れるのがミッドバレイにはわかる。
意外なことに、少しは何か感じるものがあるらしい。
アレ程の忠誠を見せつけられても今まで何も示さなかったこの男が…
何かがおかしいと、思わずにはいられなかった。
ミッドバレイには不思議だった。このナイブズに感じる違和感はなんだろうかと。
レガートの件だけではない。
後部座席にいる女…西沢歩がナイブズと行動を共にしているのがそもそもおかしい。
なぜただの人間、足手まといにしかならぬ人間とナイブズが行動しているのか。
ナイブズにとって人間とは等しく粛清すべき『敵』であるはずなのに。
……部下であった自分達も含めて。
よく見れば少し、本当に少しだけ以前のナイブズとは印象が違う気もした。
何がと聞かれても分からない。
昔は恐ろしくて彼を観察することなどできなかったのだから。
それでもその全身から発せられる威圧感は凄まじいものである。
むしろ以前よりそれを増したようにも思える程だ。
結局自分たちとは違う存在。それと相容れることなど不可能なのだろう。
……実はその考えこそが誰よりもかつてのナイブズに近いということに、彼は気づかない。
(それにしても…)
そこでミッドバレイは背中に感じる視線に意識を向けた。
バックミラー越しにそこにいる少女を見る。
先程まで俯いていた西沢歩が、顔を挙げ正面を…自分の背を見つめていた。
「……妙な気を起こすなよ。ここで何かすれば貴様もタダではすまんぞ」
振り返ることはせず忠告する。
それは先程の情報提供の中でわかったある事実が彼女の態度の原因だろうからだ。
彼女の名前に少し聞き覚えがあるような気がしていた。
その理由は程なく判明する。彼女は『綾崎ハヤテ』の知り合いらしい。
彼がこの島で最初に殺した、明るい少年だった。
本人の口から多くは語られなかったが…その態度でなんとなく察しはついた。
おそらく、想い人だったのではないかと。
ミッドバレイが綾崎ハヤテを殺したことを聞いた時の、彼女の表情は非道いものだった。
怒りもあったろう、悲しみもあったろう、憎しみもあったろう。
結局なにもせず車に乗り込んだが…それで済まなくて当然かもしれない。
もっとも、いくら彼でもこんな少女におとなしく殺されるつもりなどなかったが。
「……私、おかしくなっちゃったのかな……」
ようやくか細い声で何かを話しだす。
その呟きはミッドバレイに向けられたものではなかった。
「私……この人がすごく憎い。憎くって仕方ない」
おそらくは隣に座るナイブズに向けられた言葉なのだろう。
愚かだな、とミッドバレイは思った。
こんな人間の戯言にこの方が付き合うハズが無いと。
「でも……なんでかな……殺したいって、思えないんだ」
消え入りそうな、すぐわかる涙声だった。
「こんなに憎いのに!ハヤテ君をこ、殺したなんて……絶対、絶対許せないのに!!!
なのに…どうしてだろ……あ、あははは……う、うぅ……」
急に声を荒げたかと思えば、泣き出す。
それはある意味でなんとも人間らしい反応だった。
「私……おかしくなっちゃったんだ……」
それが普通なのさ。
ミッドバレイは思ったが、口には出さなかった。
人が人を殺す理由なんていくらでもある。殺し屋であった彼はそれをよく知っている。
だが、怨恨はその中でも特殊な部類に入るものだ。
どんなに憎くて憎くて仕方がなくても…人は、人を殺すのに躊躇する。
逆に自分たちのように仕事や、快楽の為の殺人には躊躇いが無い。
それは人の欲望に直結しているからだろう。
GUN-HO-GUNSにホッパード・ザ・ガントレットという男がいた。
異能と引換えに人が人である為の『何か』をごっそりと失くした魔人集団の中で、
彼は最も人間らしい感情の持ち主だった。
彼にはわずかなりとも優しさがあった。情があった。
それは共に戦ったミッドバレイが一番よく知っている。
そんな彼があの異能集団に加わったのは、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの復讐の為。
確かに憎しみは人に殺意を抱かせる感情だ。
しかし、人を『おかしく』するほどの憎しみというのはそうはない。
ガントレットがその身を省みぬ戦いに身を投じる程の憎しみですら……
彼から決して人間性を奪わなかったのだから。
この少女がこれまでどんな人生を過ごしてきたか彼にはわからない。
ただ、人並みに幸せな人生だったのだろうと思った。
だから憎しみに全てを委ねて殺人衝動に駆られることがないのだろうと。
事実、西沢歩の人生は平凡ながらも幸せな部類に入るものだった。
彼女には愛する人を失ってしまったとしても、大切な家族が、理解し合える親友がいる。
あるいはこの場で出会った不思議な同行者が。
それら全てを投げ出してでも、同族の人間を殺したいと思うのは難しい。
人が人を殺すというのはそれだけ大変なことなのだ。
おかしいのは自分達のようにどこかネジのとんだ、簡単に人を殺せる人間の方だとミッドバレイは思っていた。
例えば、全てを捧げた己が半身を、目の前で殺されでもしない限り。
例えば、大切な存在のほとんど全てを、根こそぎ奪われでもしない限り。
……あるいは憎むべき対象が、別の種族の何かでもない限り。
憎しみの為に殺すという選択肢を簡単には選べない。
だから彼女の発言はミッドバレイにしてみればそれほど意外ではなかった。
無論そんな話を聞かせてやるような立場でも心持ちでもなかったが。
むしろ彼を驚愕させたのは、その後の出来事だった。
「おかしくなどない」
彼の耳がおかしくなったのでなければ、それは彼の隣の男が呟いた言葉だった。
ミリオンズ・ナイブズが、口を開く。
「俺はそんな考えを百年以上も捨てずに歩き続けた男を知っている。
憎くて仕方がないはずの存在を愛し続け……わかり合おうとした生き方を」
ヴァッシュ・ザ・スタンピード
詳しくはわからないが、なんとなくミッドバレイはそう思った。
「何よりも大切な存在を奪った男すら……最後の一瞬まで見捨てない奴だ。
俺には最後まで理解し難いものだったがな」
そこで少し空を見上げて、ナイブズは言葉を紡ぐ。
「それでも、美しいとは思った」
キッ!!!
思わずハンドルを切りそこね、車が大きく揺れる。
ギロリ、と睨まれ、ミッドバレイは慌てて体勢を整え直した。
「……貴様などには荷が勝ちすぎる生き方だ。
だが愛し共に歩めずとも……憎まぬくらいなら出来るかもしれんな」
そう言って彼方を見つめるその表情は、ミッドバレイの見たことの無いものだった。
「……少なくとも、その生き方を愚かと評すのは俺が許さん」
キキーーーーーーーー!!!!!
今度は完全に急ブレーキを踏んでしまう。
衝撃で前のめりになったあと、ミッドバレイは驚愕に満ちた顔で横を見た。
ナイブズの表情は、元の冷たいものに戻っていた。
「……何がしたい。殺されたいのか」
「す、すみません……」
慌てて車を発進させると、彼は深呼吸した。もう恐ろしくてナイブズの方は見られない。
かわりに背後の少女をちらりとみやった。
相変わらず淋しげな表情ではあった。
「……あ、ありがとう……ナイブズさん。ゆ、ゆっくり考えてみよう、かな」
しかし少なくとも自分のような顔ではないだろうなと、ミッドバレイは思うしかなかった。
訳のわからぬまま、車をひたすら走らせる。
彼の、彼女の態度が何を意味し、何を起こすのか。
これから行く先で何が待つのか。
ただ戦々恐々とし続けた状況に、何か変化が起こっていることだけを少しずつ認識していく。
少し遠くの銃声を、その『耳』が捉えた。
【I-03/道路/1日目/日中〜午後】
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:背中に裂傷(治療済)
[服装]:白いスーツ
[装備]:ミッドバレイのサックス(100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、サックスのマガジン×2@トライガン・マキシマム、
ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、エンフィールドNO.2(1/6)@現実、銀時の木刀@銀魂、
ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、
No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム、
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すかもしれない存在を見つけて……?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、由乃に対する強烈な恐怖。
1:ナイブズの態度に激しい戸惑い。
2:ひとまずナイブズに従う。
3:慎重に情報を集めつつ立ち回る。殺人は辞さない。
4:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
5:或の情報力を警戒しつつも利用価値を認識。
6:ゲームを早く終わらせたい。
7:鳴海歩を意識。ひとまずは放置するが、もし運命を打開して見せたなら――?
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※ガッツと胡喜媚を危険人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行、身体の各所に切り傷。
[服装]:普段着
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:支給品一式×2、正義日記@未来日記、
秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)、折れた金糸雀@金剛番長、
ナギの荷物(未確認:支給品一式×7、ノートパソコン@現実、特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、
木刀正宗@ハヤテのごとく!、イングラムM10(13/32)@現実、
トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、
不明支給品×2(一つは武器ではない)
旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、
アルフォンスの残骸×3、工具数種)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:レガートと彼を殺した相手に対し形容し難い思い。
1:ヴァッシュの気配を追い、ミッドバレイの力で彼を見つける。
2:ナギの支給品を確認。用途を考える。
3:ヴァッシュの足跡が一向に掴めないならば競技場に向かい、待つ。
4:首輪の解除を進める。
5:搾取されている同胞を解放する。
6:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
9:次に趙公明に会ったら殺す。
10:自分の名を騙った者、あるいはその偽情報を広めた者を粛正する。
11:交渉材料を手に入れたならば螺旋楽譜の管理人や錬金術師と接触。仮説を検証する。
12:グリフィスとやらに出会ったなら、ガッツの伝言を教えてもいい。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約3回)が限界です。
出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※日中時点での探偵日記及び螺旋楽譜、みんなのしたら場に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
また、“神”が“全宇宙の記録(アカシックレコード)”を掌握しただけの存在ではないと仮定しています。
※“神”の目的が、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”にも存在しない何かを生み出すことと推測しました。
しかしそれ以外に何かがあるとも想定しています。
※天候操作の目的が、地下にある何かの囮ではないかと思考しました。
※自分の記憶や意識が恣意的に操作されている可能性に思い当たっています。
※ミッドバレイから情報を得ました。
【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:手にいくつかのマメ、血塗れ(乾燥)、無気力、悲しみ
[服装]:ジャージ上下、ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:エレザールの鎌(量産品)@うしおととら
[道具]:スコップ、炸裂弾×1@ベルセルク、妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク
[思考]
基本:死にたくないから、ナイブズについていく。
1:ミッドバレイへの憎しみと、殺意が湧かない自分への戸惑い。
2:ナイブズに対する畏怖と羨望。少し不思議。
3:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。
4:孤独でいるのが怖い。
[備考]
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。
※ミッドバレイから情報を得ました。
以上で代理投下終了です。
そして投下乙です。
ミッドバレイが針の筵過ぎるw
いや正直予約見たとき死ぬかと思ってたからまだマシな状況だけど。
そしてついにナイブズがヴァッシュのすぐ近くまでやって来てさてどうなるか。
あと細かいですがGUN-HO-GUNSではなくGUNG-HO-GUNSです。
やっとパソコン触れる……!
まずはlDtTkFh3nc氏、代理投下された方、乙です!
いやマジで俺も予約来た時は誰か死ぬだろうなと思ってた
ミッドバレイの戸惑う気持ち、分かるよ……えらい変わりようだもんなw
これからヴァッシュと相対して果たして何がどうなるか、楽しみだ
投下乙です
ミッドバレイ戸惑ってるな・・当たり前か
どんどんナイブズが変わっていくけど合流したらどうなる事か
投下乙です
針の筵だろ、これはw
そして戸惑うわな…
いやあ、書き難いシチュをよく書けたな…
ハムはハムでハヤテの仇と一緒とか…でも殺意が沸かないか…これも計画の内か?
とうとうヴァッシュの近くまで来たが…
298 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/08(土) 21:41:53 ID:n8ApFAPl
今までずっとスルーしていたのについに垢とってしまったじゃないか
乙!
sage忘れごめん……
おお、支援MADまで来たかw
乙です!
俺もロゴ作ったんだけど先を越されたという
せっかくなんで記念にwiki載せて貰ってもいいかな?
>>302 本当だ!初めて知った
しかしファイルうpすんのにログインしなきゃいけないのか
ろだ借りてくるか
>>304 おお……凄い出来だ……。
私のはMAD用に作ったのを流用しただけですので、wikiにはそちらを飾らせて頂きます。
ただヘッダエリアのheightを画像サイズに合わせて250pxにすると、下部に若干の隙間が開きました。
そのため独断ですがヘッダエリアはheight:200pxにしてあります。
問題がありましたらご報告頂ければ対処致します。
ぐはぁっ気付いたら自分の作ったロゴがトップに……!
恐縮です。サイズとかよく考えずに作ってしまって申し訳ない
307 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 12:29:04 ID:Kk8lOxt2
あの二人も予約来たな
しかし月報…この状況をどう説明すればいいんだろう
戦線復帰1
融合復活1
生死不明1
行方不明1
なんて、カオス……w
まぁ単純に数値化するしかないか
144話(+14) 31/70 (- 7) 44.3 (- 10.0)
内訳は九人死亡で二人復活
生死不明は、生存扱い
行方不明は、死亡扱い
となっております
これでいいかな?
投下します。
秋瀬或……やっぱり危険な奴だったわね。
さっきの放送であいつの名が呼ばれたときに、鳴海歩は僅かに反応してた。
気付かないとでも思ったか。
あの二人は裏で手を組んでたに違いないわ。
でも秋瀬或は何処かで勝手に死んだ。アテが外れたってところか?
フン、いい気味だわ。
とにかく――鳴海歩、あいつは油断ならない。
情報を小出しにしたり、ユッキーを誑かそうとしたり、他にも何を仕掛けてるか。
――うん、決めた。やっぱりあいつは殺そう。
確かにユッキーの言う通り、ユッキーが生きて帰れるなら『最後の一人になる』なんて手段に拘る理由は無いわ。
でも、そんなことは関係無い。あいつは殺す。
あいつを生かしておいても絶対にユッキーのためにならない。だから殺す。
出来れば、雪輝日記を取り返すと同時に殺す。
結果論だけど、銀髪の男は殺さなくて正解だったわ。
あの出血ならしばらくしたら死ぬだろうけど、それまではあいつらの足止めになる。
その間に、雪輝日記を確実に取り返す計画を立てないと。
特にあの丸サングラスの男は正攻法じゃ分が悪い。
安藤って奴を餌にあいつらを分断するのが一番だろうか。
名簿には二人――あいつの言う安藤はどっちだ?
いや――焦るな。あいつは相当に用心深い。
安藤を捕獲しても札としては弱い。
当然、その程度の可能性は想定して対処して来るはずだ。
あいつが想定可能な状況じゃ駄目だ。
もっと別の、それでいて私が制御可能な鬼札を――。
「――――乃、由乃ってば」
は、と。
我に返る。
風が冷たい。
空気が湿っている。
横を向く。心配と困惑が入り混じった表情で、雪輝が由乃の顔を覗き込んでいた。
「あ……ごめんね、ユッキー。どうしたの?」
そう言いながら、由乃は反射的に優等生の笑みを浮かべる。
「え、と。大丈夫? ほら、着いたよ」
でも、と語尾を濁しながら、雪輝は前方を銃で指した。
釣られて由乃も銃口の先に目を遣る。
今にも落ちて来そうな分厚い雲の下。
孤島にしては大きい総合病院は、遠目にも判る程に荒らされていた。
特に一階部分は酷い。入口のガラス扉は粉々に砕けている。
窓ガラスも半分以上割れているし、ずっと左の方の壁には大穴が開き、外の植え込みが瓦礫に薙ぎ倒されていた。
その辺りで爆弾でも爆発したのだろうか。
雪輝は無差別日記を取り出して内容を確認する。
「……大丈夫、日記に異常は無いよ。ここが壊されたのは結構前なんじゃないかな」
「そうみたいね。誰かが戦ってるような音も聴こえないし。
でも、気を付けて。他の日記所有者が潜んでいる可能性もあるわ」
素直に頷く。
由乃の言う通り、無差別日記があるからといって油断は出来ない。
無差別日記は特に探索や情報収集において無類の強さを発揮するが、その反面防御面に大きな穴がある。
日記の特性を知っている者なら、それこそ日記所有者でなくとも、例えば日記を狙撃するなどの方法で簡単に破れるのだ。
「まあ、ここにいてもしょうがないし中に入ろう。何か寒くなって来たしね」
結局――あの後、僕らは道に沿って北上して、病院を目指すことにした。
理由は、とにかく由乃をあの場から引き離したかったというのが一つ。
それに鳴海さんは由乃が斬り倒した男の人を見捨てるような人じゃない。
きっと病院へ行くだろうと思ったから、先回りして様子を見ておくつもりだったんだ。
さっきの状況は鳴海さんから見ればハメられたってことになるだろうし……この先協力するなら、こっちから歩み寄らないと。
由乃はもっと渋るかと思ってたけど、意外と素直に従ってくれた。
雪輝日記を諦めた訳じゃないだろうけど……何を考えてるんだろう。ちょっと怖い。
日記といえば、僕の無差別日記には大きな機能制限が掛かっていた。
それは最大で十分後までしか予知が出来ないというもの。
今度の戦いでは全員が未来日記を使える訳じゃないから、公平のためってことだろうか。
でも、たとえ十分でも、予知が出来るのと出来ないのとじゃ雲泥の差だ。
夜道を歩くなら、足元を照らすライトがあった方が良いに決まってる。
簡単に病院まで辿り着けたのも、日記のお陰で必要以上に周りを警戒せずに済んだからだ。
それはそうと、新しい問題がある。
正確にはさっき問題に気付いたって言うべきだけど。
それは由乃の体力。
由乃は今、相当疲れている。
平気な振りを――きっと僕のために――しているけど、動きにいつもの精彩を欠いている。
さっきだって僕の声を聞き逃してた。考え事をしてたみたいだけど、それでも普通なら絶対あり得ない。
でも考えてみれば当たり前だ。元気な方がおかしい。
僕を捜して島中を走り回った上に、ほとんど間を置かずに連戦してるんだから。それも人間離れした奴らと。
特に最後に戦った肩に刺々しい飾りを付けたあいつ。
あいつはヤバかった。途中で加勢が無ければ、死んでたのは間違い無く僕らの方だ。
死ぬ直前にあいつが呟いてた『ナイブズ様』っていうのは、きっと名簿に載ってたミリオンズ・ナイブズとかいう人のことなんだろうけど……。
あんな恐ろしい奴が様付けで呼ぶ人なんて、一体どんな怪物なんだろう。
味方に付けられたらいいんだけど……無理、だろうなあ。
あいつを殺したことが伝わったら交渉の余地なんか無いだろうし、何より由乃が危険な人との同行を認めるはずがない。
ああ、そうだ。それより今は由乃だ。
少しくらい強引にでもいい。
とにかく、ここはどうにかして一旦休ませよう。
砕けた入口の扉を潜った雪輝と由乃を出迎えたのは、薬の臭いが漂う明るく清潔なロビーだった。
建物に風穴が開いているとはいえ、外と比べればずっと暖かい。
天井にはロビー全体を煌々と照らす蛍光灯。白い壁には、風邪の予防や健康増進を促すポスターが貼られている。
ロビーの中央には、待合用の横に長いソファーが三列に並んでいた。
奥には受付が見える。視線を右に移すと掲示板、そしてAEDが視界に入った。
人の気配が無いことを除けば、何の変哲も無い病院だ。
入口部分以外に、見たところロビー周辺に破壊の痕跡はほとんど無い。
注意深く観察すると弾痕が幾つか発見できる程度だ。
ぐるりと周りを見る。
外から見た以上に、左へと伸びる廊下は惨憺たる有様だった。
壁は砕け床は剥がれ扉はひしゃげて鉄筋が捻じ曲がっている。猛獣の群れを放ってもこうはなるまい。
壊れかけた蛍光灯が不気味に明滅している。
ひとまずそちらの検分は後回しにして、雪輝は受付の前を横切ろうとした。
「あれ……? これは……」
受付の脇にあった掲示板の前で足が止まった。
案内板を読んでいた由乃が振り向く。
掲示板に貼り付けられた一枚のメモ。それにはこう記されていた。
『――放送の度、僕は4thの所へ向かう。秋瀬 或』
「4thの所って……来須さんはここにはいないはず、だよね」
雪輝が小声で言った。
由乃がメモを覗く。
名簿には4th――来須圭悟の名は無かった。
いやそれ以前に、動き回る人間の所へ向かうと言ったところで、それはメッセージとしての用を成さない。
この場合の『4th』とは場所を示す符号であると考えるべきだ。
つまりこれは――、
「……警察署」
由乃がぽつりと呟いた。
一拍遅れて、あ、そっか、と雪輝。
来須圭吾の職業は警察官だ。地図に記された施設の内、彼と関係の深いものは警察署のみ。
「僕らにだけ通じる伝言ってことか……って、由乃?」
ふと横を向いた雪輝は、由乃の顔を見るなりぎょっとした表情を作った。
彼女は凄まじい形相でメモを睨んでいる。
少し気圧されながらも、どうしたのさと雪輝は訊ねた。
「何でもないわ。それより、これからどうするかを考えないと。
そうね……取り敢えず、この病院を少し見て回ろっか、ユッキー」
眼に宿った剣呑な光はすぐに消え、由乃はころりと普段の笑顔に戻った。
雪輝は納得していない様子だったが、ならいいけど、とだけ返してすぐに思考を切り替えた。
由乃の奇行の理由を逐一追求していては身が持たないことを、彼は誰よりもよく知っている。
雪輝も、病院を調べようという由乃の提案に同意した。
或の名は先程の放送時に耳に入って来た。『神』の陣営を信じるならば、彼は死んだということだ。
それならば、警察署へ急いで行く必要は無い。
それに、派手な破壊の形跡があるということは、ここで大規模な戦闘が起こったということだろう。
つまり複数の参加者がここを訪れているということになる。
或のもの以外にも何らかのメッセージや、場合によっては役に立つ道具などもあるかもしれない。
雪輝としては日記を通じて歩に病院の情報を送りたいという思惑もある。
「それじゃ、行こっか」
「あ、ちょっと待って」
右の廊下の方へと歩き出そうとした由乃の腕を掴んで止めた。
由乃は不思議そうな様子で雪輝を顧みる。髪が揺れる。
「ここは僕が調べて来るから、由乃は休んでてよ」
雪輝は日記を確認しながら何でもないことのように告げた。
その言葉に、由乃は一瞬だけ呆気に取られた顔をした。しかしすぐに不満を露わにする。
「何言ってるのよ、ユッキー。一人じゃ危ないよ?」
「大丈夫だよ。僕だってそう簡単にヘマはしないって。
無差別日記も取り戻したんだしね。もし何かあったらすぐに戻って来るよ。
それより、由乃」
肩を掴んで目を正面から見詰める。
「へ? え??」
途端に由乃は赤面し、狼狽し始めた。
人を超越した兇人と相対しても毛程の動揺すら見せなかった人間と同一人物であるとはとても思えない。
「お前、本当はもうフラフラなんだろ?
ここは僕に任せて、しばらく休憩した方がいいってば」
腕に力を込めて由乃を待合用のソファーに座らせる。
彼女の手から剣が離れてリノリウムの床に転がり、甲高い音を立てた。
「ほら、これでも食べて大人しくしてなよ」
由乃のデイパックから握り飯を掴み出して押し付ける。
もごもごと言葉にならない言葉で反論しようとする由乃。
そんな彼女に被せるように雪輝は続ける。
「これはお願いだ。格好悪いけど、僕は一人じゃ生き延びられる自信は無いから。
由乃がやられちゃったらきっと僕も死ぬと思う。だから、由乃には元気でいて欲しいんだ。
解ってくれるよね? ……頼りにしてるよ」
最後の言葉に、由乃の顔が耳まで紅潮する。
それじゃあ行って来るね、と言って出発した雪輝を、由乃は呆けたように見送っていた。
***************
「これで大体全部回った、よね。屋上は……まあいっか」
四階隅の暗い病室で、雪輝は誰に言うでもなく呟いた。
階段が崩れているなどの障害はあったものの、病院内の探索は問題無く済んだ。
三階から上の部屋は誰も使っていなかったらしく、照明すら点いていなかった。
念のため幾つか医療品を失敬しておいたが、それ以外の収穫は無かった。
ただ、二階のレントゲン室――思い出したくもないくらいにむせ返る死の臭いに満ちた部屋では、一つの収穫があった。
黒ずくめの男の死体の近く、破壊された機材と機材の間に、参加者に嵌められた首輪に関するレポートがあったのだ。
どうやらレントゲン室の設備を用いて首輪の構造を解析しようとしていた集団があったらしい。
その試みが実を結ぶ前に彼らは何者かに殺害されてしまったようだが――そのレポートは辛うじて無事だったのだ。
勿論、ただの中学生である雪輝にはレポートの内容は理解出来ない。
しかし、それなりの知識を持つ者にとっては、これは値千金の情報であるはずだ。
嫌な言い方だが、交渉の材料としても役に立つだろう。
「これから、どうしようかな……」
力の無い声が病室の窓に跳ね返った。
口に出した言葉とは裏腹に、既に方針は決まっているのだが。
或は死んだ。
だがそれは彼の行動が無意味になってしまったということを意味する訳ではない。
メッセージの内容から考えて、或は警察署を拠点としていた可能性が高い。
ならば、警察署には彼の遺したものがあるのではないだろうか。
そうなら、行くしかないだろう。
彼の遺志を継げるのは、もう自分しかいないのだから。
理性はそう告げているのだが、どうにも気が進まない。
腹に饐えた鉛が詰まったような、よく解らない気分になる。
遺志――そう、遺志だ。或は死んだのだ。
何処で死んだのか。
これから行く警察署、だろうか。
どうやって、死んだのか。
静かに眼を閉じる。
音は無い。
仄暗い警察署の片隅。並んだデスクの横に、影法師が仰向けに倒れている。
脚を奥の窓の下に投げ出し、頭はこちらに。距離は十歩程。
その周囲だけ、薄墨を流したように、より暗い。
ゆっくりと近付いてみる。
影法師が徐々に色を取り戻す。
少年だ。
髪は白く短い。白いワイシャツにジーンズ姿。少し華奢な印象を受ける。
顔にはまだ影が凝縮している。
右腕が、胸の辺りに乗っている。
ワイシャツには黒っぽい染みが幾つか付いている。ネクタイが捩れている。
更に近付く。
顔から影が去った。
逆様の顔。
逆様の口は僅かに開き、しかしもはや声を発することは無い。
逆様の瞳は瞬きもせず、ただ黒々と雪輝の怯えた表情を映し出し――。
ほう、と溜息を吐いて緩々と瞼を上げる。
厭な――空想だった。
何もこんなときに、と思う。
いつから都合のいい空想が出来なくなったのだろう。
空想は元々自分の逃げ場だったというのに。
空想世界の神が空想のままでいてくれれば、きっとこんな目に遭わずに済んだというのに。
光が乏しい。色の無い病室は、空想よりも非現実的だ。
本当に――これは現実なのだろうか。
初めから、何もかも空想に過ぎないのではないか。
いつから?
この島に連れて来られた時からか。
デウスに未来日記を渡された時からか。
それとも――。
――いや。
もしかすると。
逆なのかもしれない。
自分の空想。
それこそが、実は全ての悪因だったのではないか――。
下らない。
白昼夢の残滓を振り切るように、軽く頭を振った。
現実感が戻らない。
不意に視界が歪んだ。涙が滲む。
何故だろうと考えて――雪輝は、そこでようやく自分がショックを受けているのだという事に思い至った。
その事が、雪輝にとっては意外だった。
勿論、ごく一般的な中学生ならば、人の死にショックを受けるのは当然だろう。
しかし雪輝は違う。
曲がりなりにも、未来日記所有者達によるサバイバルゲームを生き抜いてきたのだ。
人を殺したことだってある。
『死』ならば、既にダース単位で観て、聴いて、感じて来ている。
ここに来てからだって咲夜にグリード、それに9thだって死んでいるのだ。
それらと或の死は何が違うのか。
これ程のショックを受けた理由は――、
――ああ、そうか。
そうだ。
友達だ。
友達が死ぬのは、初めてだ。
「由乃の所に、戻らないと」
喘ぐように、声を発した。
口の中で唾が粘着く。自分の声が反響して耳に入る。
それでようやく、現実感を取り戻すことが出来た。
ごしごしと袖で涙を拭う。
気付けば腋の下にじっとりと汗を掻いていた。
こんなところで棒のように突っ立っていても仕方が無い。
病院内の探索は大方終わった。
雪輝日記を持っている歩にも、既に十分な情報が伝わったことだろう。
これ以上、病院に用は無い。
だから――早く由乃の所に帰ろう。
ロビーに戻ると、由乃は俯き気味にソファーに腰掛けていた。
用心のためなのか、ロビー周辺の明かりは全て消えている。
由乃、と小声で名前を呼ぶ。反応が無い。
不審に思った雪輝は、彼女の正面に回りこんだ。
そして、頬を緩めた。
「何だ……寝てたのか」
由乃は剣を隣に立て掛けて、寝息を立てていた。
こうしていると、年相応の女の子にしか見えない。
声を掛けようとして、しかし雪輝は思い止まった。
歩は雪輝日記で雪輝の動向を把握しているのだから、鉢合わせることは無いだろう。
それに無差別日記があれば奇襲を受ける可能性も低い。
焦る必要は無い。
由乃を起こさないように、静かに隣に座る。
横目で寝顔を眺めて、そして苦笑した。
「黙ってれば、可愛いんだけどなぁ……」
デイパックからサンドイッチを取り出して、口へと運ぶ。
あまり美味くはない。
腹の底が少し軽くなったような気がした。
島から無事に脱出するためには、きっとまだまだやらなければならないことがある。
あるのだが――ひとまず今はこうしていようと、雪輝は思った。
【D-2/病院ロビー/1日目/日中】
【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:無差別日記@未来日記、ダブルファング(残弾25%・25%、100%・100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×2、違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾19発、ハリセン、各種医療品、
ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、首輪に関するレポート、不明支給品×1
[思考]
基本:ムルムルに事の真相を聞きだす。
1:由乃を制御していく。
2:これ以上由乃を刺激しないよう、いったん鳴海歩と距離を取る。
後ほどあらためて交渉したい。
3:警察署へ行く。
4:寝ている時に見たあの夢は何だろう?
[備考]
※原作7巻32話「少年少女革命」で由乃の手を掴んだ直後、7thとの対決前より参戦。
※咲夜から彼女の人間関係について情報を得ました。
※グリードから彼の人間関係や、錬金術に関する情報を得ました。
※秋瀬或やグリフィスと鳴海歩の繋がりには気付いていません。
※ナイブズを危険視しています。
※無差別日記は最大で十分後までの未来を予知出来ます。
【我妻由乃@未来日記】
[状態]:疲労(中)
[服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
[装備]:飛刀@封神演義
[道具]:支給品一式×6、パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマム、
機関銃弾倉×2、ロケットランチャー予備弾×1、FN P90(50/50)、FN P90の予備弾倉×1、メモ爆弾、拡声器、
各種医療品、研究所のカードキー(研究棟)×2、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、
真紅のベヘリット@ベルセルク、不明支給品×2(一つはグリード=リンが確認済み、もう一つは武器ではない)
[思考]
基本:天野雪輝を生き残らせる。
1:雪輝日記を取り返すため鳴海歩の関係者に接触し、弱点を握りたい。
人質とする、あるいは場合によっては殺害。
2:雪輝日記を取り返したら、鳴海歩は隙を見て殺す。
3:ユッキーの生存を最優先に考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
4:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
5:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
[備考]
※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
※安藤(兄)と潤也との血縁関係を疑っています。
※秋瀬或と鳴海歩の繋がりに気付いています。
※飛刀は普通の剣のふりをしています。
以上で投下終了です。
雪輝の不明支給品が一つ減ってますが、これは飛刀の分が前回減っていなかった辻褄合わせのためです。
投下乙です
首輪レポートか
理緒の置き土産だな…
由乃は電池切れだな
しかし装備すげえw
指摘ですが、由乃は潤也への伝言を言付かっているんだからどちらが歩の相棒か判断つくのでは?
投下乙です
なんだろう…ユッキーは真面目に対主催してるのが彼らしいのに妙に変というか…
ユノは充電中か。確かに寝てれば可愛いんだがな…
細かいですがユノの状態の個所に睡眠中と書いてないのはタヌキ眠りですか?
投下乙です!
これは或死亡偽装しておいて正解だな、由乃がやばすぎるw
装備も充実していて休息も出来て、首輪レポートも入手。雪輝も色んなビジョン見てるし、何気に重要フラグの集積場なんだよなあここ。
でも何やらかすか分かんないし、雪輝覚醒の可能性もあるわでw
無差別日記の制限が10分後までっていうのは少しキツ過ぎな気も。
雪輝日記の方が10分に一度しか予知できない訳ですし、完全予知の旨みが少し薄くなるかなー、と。
ただ予知できる時間に制限を掛けるのは賛成なので、30分とかどうでしょう。
◆L62I.UGyuw氏、投下乙です。
さすがに由乃もそろそろ限界ですよねーw
持ち物は相変わらず凄まじいだけに、体力を回復したら驚異とも心強いとも言えるのがなんとも…
雪輝が主人公らしくなってきましたが、同時に嫌なフラグも…
或の偽装が吉と出るか凶とでるか、楽しみです!
規制解除に浮かれて久しぶりにこんなの引っ張り出してみた。
初期の頃貼られてたスタンスのまとめの現在版。
例によって主観なのでご容赦を。
無差別マーダー(他人なんて知るか、ただ殺すだけだ派)
キンブリー、流、ゾッド、ミッドバレイ(やや不安定)、趙公明、ロビン、カノン
マーダーより危険人物(邪魔者は殺すorとりあえず情報を得たい、得たら知らん派)
由乃 ナイブズ
対主催より危険人物(ひとまず乗りはしないがもしかしたら……派)
或、妲己、リン、安藤兄、ひよの、雪輝
限定マーダー(憎いあん畜生だけはひねり殺したい派)
ひょう
積極的対主催(殺し合いなんて絶対するか!全力で抵抗する!派)
ガッツ、鳴海歩、エド、うしお、人間台風、聞仲
反抗型対主催(人殺しに抵抗はないが主催が気に入らねえ派)
ゴルゴ13
中立(今の段階じゃ動けない、ぼちぼち考えよう派)
パック、とら、ハム、グリフィス
合流優先(とりあえずあいつに会おう、話はそれからだ派)
銀時 冴英
特殊
ロリッ☆(不明) ゆの(かわいそう)
…編集中、合流優先と対主催の減りっぷりに泣いたw
ナイヴズ……うん、分かってる、そこで間違ってはないんだが……
前回の話を見てると危険人物とは思えなくて困る……w
しかし一緒に行動してる連中も見事に自分の思惑で動いてるなw
利害が衝突したら即座に分解しそうでハラハラするわ
バラける前の工場組とか凄かったw
秋瀬或、胡喜媚、パック、ゆの、投下します。
しんしんと降りはじめた雪が、僕の肩に積もる。
細やかな白い粒子は服に小さく張り付くと、あっという間もなく融けて染みと消えた。
吐く息は煙のごとく宙に軌跡を残し、体は寒さに震え始める。
でも今は――身に刻まれるその感覚こそが、頼もしい。
僕はちゃんとここにいる。
生きて、ここにいるのだ。
確たる意志を持って。
玉砂利を踏みしめながら僕は一歩一歩を確実に踏み、がらりと引き戸を開けて木造の建物へと入り込む。
人の気配はなく、痛いほどの静寂が耳を満たす。
もう、デウスの声は聞こえない。
……覚えなどあるはずのないあの記憶。
それがどういう意味を持つのか、現状では答えを出すには情報が、パズルのピースが圧倒的に足りない。
言えるのは、まず間違いなく僕の記憶が弄られている――という事だ。
そしてそれはつまり、ひょうという人物の推測通りならば、この僕が人工的な存在である可能性が極めて高い、という事でもある。
……ショックでは、ある。
だが絶望で思考停止するのはあまりに早計だ。
デカルトを持ち出すまでもなく、考える事で僕は、己を実証する事が出来るのだから。
まず第一に、僕がデウスの声を思い出せたという事自体の意味を推し量る必要がある。
果たして“神”ほどの存在が、そんな手抜かりをするとでもいうのか?
……現在のところ思い描ける可能性は、2つ。
僕がデウスの声(そしておそらく、姿も)を忘れていたのが“神”の計画の一端であるのか。
それとも、“神”にここに連れて来られる前から、僕はデウスの声を忘れていたのか。
つまり、僕の記憶を弄ったのが“神”であるのか、“デウス”であるのか。
そこが疑問についての焦点となる。
前者なら、今僕がここでデウスの声を知っていた事に気付いたのも全て予定調和でしかないのだろう。
だが、もし後者なら――僕がデウスの声について思い出した事が、神の計画外の因子である可能性がある。
“神”の力の少なくとも一端は、間違いなくデウスと同種のものだ。
だから、デウスの遺産として“神”にも干渉不可能な因子が存在するならば、そこに抜け道があるかもしれない。
……皮肉なことではあるけれど。
僕がもし人工的に作られた存在であるなら、そこから希望が見い出せるかもしれないのだ。
デウスの遺産、という観点からの――希望が。
雪輝君たち日記所有者にも、デウスの遺産が残されている可能性は低くない。
それに、だ。
あくまで僕に限定して人工的な生命である可能性が高いというだけで、雪輝君たちまでもがそうであると決まった訳ではない。
そして――、たとえ今ここにいる雪輝君が模造品であるのだとしても、僕の気持ちや指針が揺るぐ訳でもない。
作り物だから、どうしたというのだ。
贋作だから、何かいけないとでも言うのか。
だったら探偵として、“今ここにいる”僕らの価値を証明してみせるまで。
そう。
そもそもが、僕らに何か価値のあるからこそ、“神”はこんな催しを行っている。
“神”は、僕らにどんな価値を認め、どんな目的を持ってこの殺し合いを遂行しているのか。
初め僕は、この殺し合いが劇場型犯罪――、完全なる愉快犯ではないかと考えた。
だが、時間を経るほどにその可能性は薄くなってきている、
まず、愉快犯であるにしては、人員が多すぎる事。
ムルムル、シンコウヒョウ、放送の女性と少年。
少なくとも4人がいるのは分かっているが、女性があっさり始末された事を考慮すると代替要員がそれなりにいると考えられる。
また技術官的な人員なども必要とされるだろう。
つまり、主催組織の規模は少なく見積もっても二桁近くはいるはず。
それもシンコウヒョウのような、強力な異能を持つ存在を含めてで、だ。
……全能であるはずの“神”が、どうしてわざわざ彼らのような人材を手足に使うのか、理由は分からない。
彼らを従えられるほどの力があるなら、それを誇示して直接僕たちに殺し合いを強制した方が確実なのだ。
にもかかわらず、反逆の可能性も見越した上で“神”は表に出たがらない節がある。
……そう、理由は分からない。
だけどそれとは無関係に、“神”が表に出たがらない意図をそこに見出す事は出来る。
単純な愉快犯ではない、目的を果たそうとする意図を。
そこで僕は確信したのだ。
“神”の目的は劇場型犯罪――己の悦楽だけのためなどではない、と。
そも劇場型犯罪と言うのは、一般人などの反応を見て喜ぶものだ。
だが、今のこの殺し合いの舞台はまるでお伽噺のごった煮だ。
たとえば『秋瀬或が本来暮らしている世界』に大々的に中継しても、間違いなく趣味の悪い創作としか捉えられないだろう。
それで愉快犯の心が満たされるかと言えば、否。
……劇場型犯罪として考えるなら、規模の割に見返りが少な過ぎる。
奇妙に整った構図は似通うものがあるが、むしろ儀式のそれに近い。
……思えば。
『悪いが1st、お前一人に長々と説明する時間は無いんじゃ。
最後まで生き残った時に改めて説明してやるから頑張ってみせよ』
『だが儂はその件に関して説明する気はさらさら無い。御主等には関係ない話なので時間の無駄じゃ』
ムルムルの言質を考えてみても、この殺し合いには明確な目標があるとその裏から読み取れる。
そこに、必ず付け入る隙はある。
あるはずだ。
そして、僕たちの掴むべき命綱はそこしかない。
“神”に明確な目標があるというならば、そこに絞って交渉を行うのだ。
手段はどんなでもいい。
目的の妨害を宣言し、脅迫するのでもいい。
目的への協力を訴え、懇願するのでもいい。
とにかく言えるのは、目的があるならば――交渉の余地がある。
これが雪輝君を生かす事の出来る、最善手だと僕は信じる。
だからその為に、同じ卓に“神”を付かせ、言葉と言葉で殴り合う為に。
僕はここで、何かの手がかりを得ねばならないのだ。
取引を行う為には、相手の眼に適う品が必要なのだから。
拳を握り締めると、この寒さにもかかわらずべっとりと汗の感触が粘りついた。
滾る闘志が、僕の中で熾火のように燃え始めているのを感じる。
さあ――、出陣だ。
「さて、それじゃあ僕はこの辺りを調査してくるよ。
パック君、出来れば君には彼女を見ていてもらいたいところなんだけど――、」
そう言って、この社務所に寝かした胡喜媚という少女に目を移した途端。
小さな妖精は怯えたようにブンブンと首を振る。
……仕方がない、か。
彼はこの幼い少女の手による虐殺を直に目にしている。
俄かには信じられないことだけれども、ミッドバレイ氏の言質とも一致している以上真実だと思うべきだ。
近くにいたくないという感情は、至極当然だろう。
かといって、彼女を背負ったまま神社の調査を進めるのも効率が悪い。
この悪天候では尚更だ。ついでに、目に付くところに置いておいたとしても、寒空の下だと彼女の体に障るかもしれない。
せめて屋根の下においておくべきだとここまで運んだ訳だけど、それにしても直接目の届かない所に置いておくのも不安が残る。
……パック君が見張りを拒否している以上、僕がこまめに様子を見に戻るしかないか。
「オ、オレはあんたと一緒にここを探索するって!
どーする? 手分けして色々見てみる?」
……正直、あまり探索そのものの戦力になりそうにはないな。
この性格からすると細かい作業は不向きだろうね。
だとすると、むしろ彼に任せるべきは――、
「……いや、探索そのものは僕に任せてくれ。
それよりも君にはその機動力を用いて、見張りをして欲しいかな。
万一ではあるけど、調査中は集中のあまりに周囲に気を配る余裕がなくなるかもしれない。
だから不審人物などが近付いてきた場合、それをすぐに僕やあの子に伝えられるように、鳥居の付近で待機していてくれ」
役割分担するならば、こうするべきだろう。
安全確保の為の布石を打たずに野外調査など、あまりに不用心が過ぎる。
「えー……?」
露骨に不満そうな顔をするパック君。顔がまるで栗のようで、僕は少し笑ってしまう。
まあ、好奇心旺盛そうな彼には少しばかり退屈かもしれないとは分かっていた。
「なに笑ってんだよぉ! ……体のいい厄介払いな気がすんだけど?」
……鋭い。でも、僕はそれを顔に出さず、いたって爽やかな顔をして見せる。
秋瀬或の説得テク『無言と笑顔で押し通す』※ただしイケメンに限る
しばらくそのままでいると、パック君は急に黙り込む。
それを確認すると屈んで目と目を合わせ、僕はちゃんとした理由を頬を染めたパック君に伝えていく。
「ごめんごめん、誤解させてしまったね。今、哨戒役がいて欲しいのは紛れもない事実だよ。
さっきの上空の方からの爆発音を覚えているかな?
……ここが危険である可能性は結構大きいんだ。空から様子を見るのは君にしかできない仕事だよ」
秋瀬或の説得テク『ペースを掴んだらしっかりフォロー』※ただしイケメンに限る
「……わ、分かった……ぜ。ったく、ガッツだってもーちょっとは……、いや、別の意味でヒドいか」
ゴニョゴニョと呟くパック君。
ふむ、ちゃんと分かってくれたみたいだね。
これで心置きなく探索が出来るというものだ。
小さく頷き、永久指針を受け取ると、僕は神社の奥へと歩き始める。
ここからが本番だからこそ、後顧の憂いを断ち割りながら。
「頼りにしているよ、パック君!」
秋瀬或の説得テク『とどめとばかりに十全の信頼をアピール!』※ただしイケメンに限る
背後で鳥居の方へと向かう小さな気配がした。
……実際問題、彼の仕事は大いに重要なものだ。
だから僕は、本当に彼に――、
**********
後になって、秋瀬或は後悔する事になる。
この時、無理にでもパックに胡喜媚を見張らせておくべきだったのだ、と。
**********
「あ〜〜、退屈だ〜〜〜〜……」
何故かニヤニヤとほっぺ緩ませてこっち来た自分がバカみてーだ。
くっそー、あの探偵ってやつの口車に乗ったさっきまでの自分を殴りたい。
や、殴るのは痛いからつねるくらいにしとこう、うん。
「しっかし、良く降るなあ……」
空を見上げると、一面灰色の雲だ。
そっから白い小さな固まりが延々と降り続けて、地面には早くも白く積もり始めてる。
「さむー……」
ぶるりと震えて、空から地面へ。
と、そんな時だった。
「ん? なんだ、ありゃ」
ちらりと森のすぐ向こうに見えたのは……女の子!?
おいおい、何やってんの。姿隠してるつもりでもバレバレだぞ?
何度も何度もこっちを見ては、こそこそと木の影に隠れるを繰り返す。
チラチラ、ビクリ。
チラチラ、ビクリ。
チラチラ、ビクリ。
……あー、じれったいっ!
「……うーん」
まさかオレ見てビビってる?
それともあのキビって子みたいにこっちを狙ってるとか?
ガクガクブルブル。
んー、でもなあ。
あからさまにヤバかったあの子ならともかく、あんな迷子みたいな顔してる子を見捨てるのは畜生に劣ると思うのですよ。
うん、決めた。
ほっとけねーよな。
「こりゃこりゃそこのおぜうさん。
ワタクシメに何か御用ですかね?」
一気に距離を詰めて、さっきの探偵並みのキラキラスマイルで(筆者注・ぶっちゃけ気色悪い)話しかけてみる。
「わひゃぁぁっ!」
ちょうど逃げ出そうとでもしてたのか、こっちに向けた背筋がビクリと震えて飛び上がった。
恐る恐るこっちを向くお嬢ちゃんは、しばらく下を俯いてたけどどうにかこうにか声を絞り出す。
「ひ、ぁ、こな……、こなぃ、で、くだ……」
……そんな、鬼でも見るよーな目ェされると傷つきますよワタクシ。
うわああちょっとちょっとちょっとマジ泣きですか?
なんにもしてないのにすっごい罪悪感。
慌てて両手を広げて無害をアピールアピール!
ぶんぶん周りを飛び回って3周半くらいした時に、女の子の目がようやくオレを捉える。
びくりと震えて、おそるおそるながらもジッとこっちを見つめるお嬢ちゃん。
……こころなしか、首輪の辺りを眺められてるよーな。
驚き半分、怯え半分の、おっかなびっくりに出てきた声は、
「あの……、あ、あなたも、参加者さん、ですか?」
……こんな絞り出すような声でなきゃ、とても癒される声だった。
「おうともよ! しかしおぜうさん、ご安心召されい。
ワタクシメは危害を加えるつもりはァございません!」
落ち着かずに目の泳ぐお嬢ちゃんを安心させてやりたくて、
全く意味はないけどふんぞり返って自分のムネを強く叩く。
「ぇげほっ、ごほごほッ! つ、強くたたき過ぎたァ!」
ぐぇ、苦しい……。
その場にうずくまって胸を抑えると、くす……とホントに小さく漏れる笑いが届く。
上を向くと、少しだけ崩れた女の子の表情を、ようやく見る事が出来た。
**********
オレは、ゆのと名乗った女の子から、色々な話を聞いた。
それがもう、聞くも涙、話すも涙の連続で、オレはボロボロ泣いちまったい。
突然ここに連れて来られた時の事、友達が死んだ時の事、
通り魔に腕をバッサリとやられた時の事、救われたのがあくどい男だった事、
ロクデナシの外道どもに脅された事――、
中には、アイツの探し人――グリフィスと出会った、なんてのもあった。
もうちょっとその辺りに突っ込んで聞きたかったけど、こんなひっでー状態の女の子にそれを強制するわけにはいかんよな。
ごしごしと目頭をこすって、両手を握ってポーズを作る。
「ようし決めた! おいちゃんがお嬢ちゃんの友達になってあげよう!」
「……友、達?」
「そう友達。一人でさ、色々抱え込んでるとツラいだろ?
だったらせめて、オレなんかで良ければ聞いてやるって!
これから先、ゆのちゃんとオレは一心同体! 放っとくのも心配だし、どこまでもついてくぜ。
って、言わせんなよこのこのぉ。こっ恥ずかしいだろっ!」
……誰か忘れてる気もするけど、まあいいや。
それよりこのコの傷心を癒してやらなきゃ、オトコとしての沽券に関わるってもんだ!
「そっか……、友達か。呉越同舟、ってやつかな」
なんか間違った使い方な気もするけど、smallなコトはno thank you!
ネガな思考を引き摺り上げるんなら、テンション高く行ってみよう!
「おうともよ! ゆのちゃんの友達として、ナイトとして!
向かってくる奴はこのエルフ次元流で叩っ潰してやるぅあ!!」
ビシリと決めると、またゆのちゃんが小さく笑ってくれた。
うん、この子はこういう顔がよく似合うなー。
「んじゃ、友情の証として、だ。
握手しようぜ?」
「え?」
「握手だよ、あーくーしゅー。
サイズは全然違うけど、手と手を合わせるくらいはできるだろ?
手ェ出して、手!」
ほら、これさえすれば万国共通でフレンドさ、HAHAHA!
「うん……、分かった」
おずおずと“右手”をゆっくりと差し出してくるゆのちゃん。
小さなオレの手と、大きなゆのちゃんの手が互いに近づいていく。
そして、手と手が触れようとしたところで――、
どうしてかびくりとゆのちゃんの動きが止まった。
キョロキョロと何かに脅えるように辺りを見渡すと、表情が一瞬硬くなる。
「ん? ゆのちゃん、どした?」
……なにか、嫌な空気だった。
じくじく心の痛むようなそんな雰囲気が嫌で、わざとアホっぽく呼びかけてみたんだけど。
……そこにあるのは、笑顔だった。
さっきと同じ笑顔なんかじゃない、とてもとても――今すぐにでもくしゃくしゃに歪んでしまいそうな、そんな顔。
それを振り払いたくて、オレは精一杯手を突き出す。
俯いたゆのちゃんの手がその手に触れかけて――、
「ごめんね」
そのまま、通り過ぎた。
「 」
オレは口を開く。
何か、言おうとしたんだと思う。
自分でも何を言いたかったのか、分からない。
でもどうしようもなく、口を開く時間など残されていなくって。
そのままゆのちゃんの右手が、オレの首にあてがわれた。
世界が軋む音がする。
オレが軋む音がする。
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
世界がヒビ割れていく。
オレがヒビ割れていく。
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
まるで霧の迷路に迷い込んだように、すべてがしろくそまっていく。
まるで火箸を突き刺されたように、からだがまっかにあつくなっていく。
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぽたり、と、オレの体に何かが落ちた。
ゆのちゃんが、ぼろぼろ涙をこぼす。
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
何がそんなに悲しいんだろう。
何がそんなに辛いんだろう。
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
枯れ木を踏んだ時の音がして、胸から下が動かなくなった。
魚の皮を食べた時の味がして、口から赤いものが溢れだした。
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
おいおい……、泣くなよぉ。
さっきまでの柔らかい笑いの方が、ずっと似合ってるってば。
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
残念……だな。
こんな女の子ひとりをさ、えがおにさせてやるこ××××××
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
×のしか×たぞ
じゃ……がっつ
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
…… …… …… ……
…… …… ……
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎ
**********
何もかもなかった事にできたなら、どれだけよかっただろう。
吐いた。
思いきり、吐いた。
何度も何度も、吐いた。
出るものが無くなっても、吐いた。
服が、顔が、手が、ずっと握ったままのパックさんが、すっぱいにおいのするモノだらけになっても、止まらなかった。
どれだけ吐いても、全然足りない。
私の中にある黒いものは、どれだけ吐いても出て行ってくれてない。
「う、ぐぇ、げぇ……っ! ひっく、ひぐぅっ、ぐぇぅぅぅうううぅわぁぁぁあぁぁ、
ひぁぁあああぁぁぁ、ひゃううぅぅあわぁあああぁぁぁあああっ!」
殺した。
殺した。殺した。殺した。
この、右手で――殺した。
手を差し伸べてくれた、あったかくて小さな友達を。
死にたくないからってだけで――殺した。
殺した、殺した、殺したんだ。
「ひぃぃあああぁぁああぁぁあぁ、やぁ、いぃゃぁぁあああぁあぁ、
うぐ、うぉるるるるろぉぉぉぉぉげぇえええぇえぇえ、がはっ、ぅぐぉるるろろろろろぇええぇっ!!」
また、臭い汁をいっぱい出した。
あちこちがべとべとする。
ああ、私の中にはこんなキタナいモノが詰まってたんだなぁ。
悲しかった。
だから、泣いた。
そんな資格がないって分かってて、だからこそその資格がなくなったんだって思い知らされて。
自分が嫌で嫌で苦しくて自分が自分なのが嫌で、また泣いて。
涙を出しては泣いてる自分があまりに自分勝手なことに、また泣く。
はあはあって、息を荒げながら、右手を見た。
パックさんを絞め殺した、右手を。
最後まで笑いかけてくれたパックさんのその表情が、頭にこびり付いている。
いっそ理不尽な仕打ちに怒ってくれたらまだ気が楽になったのに。
……そんな事を考えてパックさんを恨みそうになる私が、心の底から惨めだった。
生暖かい温もりがが消えてくれない。
張りがありながらも柔らかい手触りが、
ゴリゴリと骨が折れていく感触が、
血管がビクビクって跳ねる勢いが、
蚊みたいな呼吸と一緒に膨れ上がる圧力が、
記憶からこぼれ落ちて欲しいのに。
パックさんの息遣いが今も耳の傍で聞こえてる。
この右手の感覚がある限り――。
そこでようやく、気付いた。
なんでだろう、どうしてだろう。
どうしてこんなに、世界は残酷なんだろう。
いつの間にか、右手の感覚が戻ってた。
パックさんの鱗粉まみれになった、その腕。
生まれてからずっと私にくっついてた右手。
でも、今はその右手が――、理由もなく治ってしまった右手が――、
醜くおぞましくて、気持ち悪かった。
「あ、あ……」
がくがくと体が震える。
得体の知れない汚物にしか、見えなかった。
お父さんとお母さんのくれた右手なのに、憎いとさえ感じた。
腕を治してもらうって理由と命を助けてもらう約束があったから、私殺したんだよ。
でも理由が半分、無くなっちゃった。
そうだ。
感覚を失った右手なら、機械のように殺す事が出来ると思ったのに。
2人も殺してしまったんだから、3人目も同じにできると思ったのに。
それさえもかみさまは、ゆるしてくれなかった。
それだからこそかみさまは、ゆるしてくれなかった。
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
肉を握りしめる音が、耳から離れない。
いつまでも。
いつまでも。
いつまでも――。
「う、ぁぁ、あぁあああぁぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁっ!!」
がりがりって頭を掻いた。
感覚が戻ったばかりの右手で、臭いものがいっぱいこびり付いた左手で。
ぎりぎり、を消す為に、がりがり、を。
髪の毛が吐いたものだらけになるのも気にせずに。
髪留めが落っこちて、どっかに転がっていった。
何度も。
何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
爪の間に肉の塊がごっそりと詰まっていく。
ぬるぬるした感覚が、頭全体に広がってく。
生温かいのに寒気がするって、変な感覚が体に満ちる。
目の中に赤いものが流れ込んでくる。
痛みが心地良さにさえ変わっていく。
そんなオカシナコトが快感になるくらいに、狂っちゃいそう。
……そっか。
狂っちゃえば、いいんだ。
ぼんやりとしたあたまで、パックさんの荷物を引き摺りだす。
私の荷物には、大したものなんてない。
でも、友達って言ってくれたパックさんの荷物になら――望みを叶えてくれそうなものがある気がした。
そして、こんな時だけ願い事は叶っちゃった。
パックさんの荷物の中に――、注射器が一つ、あった。
毒かな、麻薬かな。
こんな殺し合いに支給されるくらいなんだから、きっとひどい薬なんだろう。
それこそ私の頭を馬鹿にしてくれるくらいに。
宮ちゃんたちに色々ツッコまれたりしてる……してたけど、そんな時の私の頭よりもずっと馬鹿に。
宮ちゃんもヒロさんももういない。
そして、沙英さんに会ったら、きっと人殺しって目で見られる。
やだ。そんなの、やだよ。
戻れないんなら、壊れちゃいたいよ。
その場に座り込んで、べとべとする右の袖をまくった。
この注射をしたら、この右腕が腐ってくれないかな、なんて、そんな事さえ思う。
そしてゆっくりと針の先を近づけて――、
「うぁああぁああああぁぁああああぁぁぁあああぁぁぁ、ひ、ぁ……。
ううぇぇええええぇぇぇぇぇえええぇん、び、ええええぇええええぇぇえぇえええぇん……」
ぽとり、と、注射器が落ちた。
私には――無理だった。
狂う事なんて、“まだ”私には出来なかった。
私は生きたいだけで、狂いたい、なんて思ってなかったから。
だから、この注射器の出番は多分もっと後なんだろう。
たとえば私が大切なひとたちの事を強く思いだしてしまって、狂ってしまってもいいと思ったその時に。
「……生きなきゃ」
もう、後戻りはできないよ、ゆの。
パックさんを殺しちゃったんだから、その分まで生きないと。
私は泣きながら笑っていた。
ずっとずっと、終わらない幻聴を聞きながら。
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりぎり
【パック@ベルセルク 死亡】
【F-05/神社(鳥居)/1日目/午後】
【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:貧血、吐き気、全身吐瀉物まみれ、頭部に爪による切り傷(出血量:中)、後頭部に小さなたんこぶ、疲労(中)、幻聴
[服装]:吐瀉物まみれの白いワンピース、髪留め紛失
[装備]:混元珠@封神演義、イエニカエリタクナール@未来日記、パックの死体
[道具]:支給品一式×2(一食分と水を少々消費)、制服と下着(濡れ)
[思考]
基本:死にたくない。
1:人を殺してでも生き延びる。
2:壊れてもいいと思ったら、注射を……。
[備考]
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※切断された右腕は繋がりました。パックの鱗粉により感覚も治癒しています。
※ロビンの能力で常に監視されていると思っています。
※イエニカエリタクナールを麻薬か劇薬の類だと思っています。
【イエニカエリタクナール@未来日記】
未来日記パラドックスにて、ムルムルがみねねに打ち込もうとした薬剤+注射器。
これを投与されたものは急に家に帰りたくなる。
効果はそれだけで、麻薬のような精神高揚や思考力低下作用などはないと思われる。
もし、潜在的なホームシックを無理矢理抑え込んでいる者に投与したとしたら……?
**********
ざくりざくりと雪を踏みしめ、足跡を残し、探偵は進み行く。
彼があとほんの数分だけ留まっていれば防げた悲劇を、気付きさえすることなく。
顧みさえ、する事はなく。
【F-05/神社(参道)/1日目/午後】
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:疲労(中)、左肩に銃創、右こめかみに殴打痕
[服装]:
[装備]:コピー日記@未来日記、クリマ・タクト@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真、
ニューナンブM60(5/5)@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、
警棒@現実×2、手錠@現実×2、携帯電話、
A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、
A3サイズのレガートモンタージュポスター×10
永久指針(エターナルポース)@ONE PIECE
[思考]
基本:雪輝の生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
0:神社付近及び永久指針(エターナルポース)の示す先を調べる。
1:『神』の謎を解く。直接交渉し、生存の保証を確保したい。
2:偽装した自身の死を利用して、歩や由乃に感づかれないよう表に出ずに立ち回る。
3:コピー日記により雪輝たちの動向を把握、我妻由乃対策をしたい。
4:探偵として、この殺し合いについて考える。
5:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に貼っておく。
6:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
7:探偵日記の更新は諦めるが、コメントのチェックなどは欠かさない。
8:『みんなのしたら場』管理人を保護したい。
9:リヴィオへの感謝と追悼。
10:出来ればひょうに直接会ってみたい。
11:何故、僕はデウスの声を知っている?
[備考]
※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
※蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※リヴィオからノーマンズランドに関する詳しい情報を得ました。
※鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
詳細は第91話【盤上の駒】鳴海歩の状態表を参照。
※みねねのメールを確認しました。
みねねが出会った危険人物及び首輪についてのみねねの考察について把握しました。
※参加者は平行世界移動や時間跳躍によって集められた可能性を考えています。
※ミッドバレイとリヴィオの時間軸の違いを認識しました。
※パックからひょうの仮説(精神体になんらかの操作が加えられ、肉体が元の世界と同じでない可能性)を聞きました。
※胡喜媚から彼女の能力などについて若干の情報を得ています。
※永久指針は神社周辺の何処かを指しています。
【F-05/神社(社務所)/1日目/午後】
【胡喜媚@封神演義】
[状態]:疲労(大)、睡眠、全身に打撲と火傷、ひょうへの恐怖?
[服装]:原作終盤の水色のケープ
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:支給品一式 、エタノールの入った一斗缶×2
[思考]
基本方針:???
0:スープーちゃん……。
1:スープ―ちゃんを取り返しっ☆
2:妲己姉様、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
3:復活の玉を探して理緒ちゃんと亮子ちゃんを復活しっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化は可能ですが、時間制限などが加えられている可能性があります。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※第一回放送をまったく聞いていませんでした。
※原型の力が制限されているようです。
※第二回放送をろくに聞いていません。
妲己の名が呼ばれたのは認識していますが、その意味は理解してないようです。
※雉鶏精としての能力により、時間移動が可能です。ただし大量の体力を消費します。
時間移動はできても、空間移動はできません。
以上、投下終了です。
おおお……これでゆのっちは大小ゲロと出すモン全部コンプリートか……胸が熱くなるな
パックは笑顔のまま逝ったか。ゆのっちにようやく転機が!
と思わせておいてこの展開w鬼畜にも程があるw
しかしこれでベルセルク勢にも初の死者が出たなもう一人ヤバそうなのが居るし、どうなることやら
あと※吹いたwww投下乙です!
349 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 14:05:54 ID:9g0VuEgZ
投下乙です
ゆのっち……とうとうやってしまったのか……加害者だけど悲惨すぎる…
最後まで笑顔だったパックが切ない…
さて、神社にまた人が集まり出したな。死者が増えるだろうな…
投下乙です。
※ただし(ryにニヤニヤしてたら……。
パックは登場から死ぬ瞬間までいい奴だったぜ。
だから余計キツいという……。
…
〜
投下乙でした
パック……
そして、ゆのっちがとうとう殺っちゃいましたか
しかしこれ、ゆのっちがヤク打ったらどうなるんだw
355 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/01(火) 14:34:00 ID:4oZKif3r
しかし今回の漫画ロワには熱血要素と恋愛要素が少ないよね
ボンちゃんとか卑怯番長とかちゃんとあるぞw>熱血
恋愛は原作カップルの絆が強過ぎるのが大きいと思う、ユッキー由乃とか歩ひよのとか。
クロスでカップルっぽいのはナイブズハムと趙公明キンブリーくらいか?
危いカップルだなw
交換日記コンビ入れんなw
確かに愛がどうの言ってたけどw
銀さん達忘れてない?w
個人的にあの二人はこのロワの癒しw
あれは恋愛未満のほのぼの要員だなw
沙英はともかく銀さんが本気になる事はまずないし
天野雪輝、我妻由乃、とら 投下します。
水平線が薄靄でけぶるように見えたのは、海を隔てる白壁が屹立しているからだ。
大理石の質感を持つ乳白色の壁面は、海面にまっすぐにつき立つ。
遠くへ延びるその先は次第に透けていき、最後にはふっつりと途切れているように見える。
しかし近づけばまたうっとうしく立ちはだかるのは、すでに知っていた。
遠方の視野は明るく、近距離は遮られる。シュムナの霧にまかれたときとはまるで逆だった。
このわずかに湾曲した壁は、島を中心にぐるりと囲んでいる。
白くて硬い殻が取り囲む様子に、まるで卵だととらは思った。
卵殻がその生命を内包するように一つの閉じられた世界をなしているのだ。
高度を下げて海面に近付くと、空を写して鉛色によどんだ波間から思い出したように魚がはねる。
ひょいと捕えて口に放り込む。
ぐいと飲み込んだ。味も食感も物足りない、ちんけな代物だ。
――卵ねぇ。
いったい何を孵すつもりだか知らないが、
――造った野郎の程度がしれるぜ。
近くで見ると白くてまるいが、遠目には透明でまるい。
まるで透明といえば、もうひとつ似ているものをこの前見たなと思った。
が、名称が思い出せない。
――あれだよあれ。
なんだったっけなぁ。首筋をとんとんとたたいても、のどの下のほうにつかえて出てこない。
不満に感じて、とらはつま先でもう一匹を引っ掛けた。
海のなかにはちっぽけな魚がちらちらと日の光を返すし、時折見せ付けるように大魚の影がゆらめくが、それだけだ。
水面が風になぶられてざわざわと小波を立て、海鳥が定期的に空を渡ってやかましい声を響かせるが、それだけだ。
それ以外に満ちているものがここにはない。
海座頭はどこへ行った。
船幽霊はどこへ消えた。
空には衾がいない。森には木霊がいない。川には河童がいない。
家はあるが家鳴りがいない。猫はいるが猫股がいない。
蟻のようにはびこる虫怪がいない。空中に漂う塵芥に魚妖がいない。
とらを恐れて姿を見せぬわけではない。
そんなとき、ひっそりとうかがう視線や潜めた息遣いがたしかに感じられるものだ。
それらは常にとらを心地好くさせるが、小妖どものにおいがどこにもない。
血のにおいはある。ニンゲンのにおいはある。バケモノのにおいはある。
しかし、においの種類が少なすぎた。純粋すぎる。
草や木のにおい、土のにおい、海のにおい、風のにおい、鉄のにおい。
セカイがセカイであるに足るだけの、必要なだけのにおいはそろっている。
必要なものはそろっているが、必要以上のものは何一つない。
不純物のまったくない、純粋な部品のみでつくられたセカイ。
――仙人どもの仕業か。
とらは舌打ちをした。
大陸にいたころのことだ。
日本(こっち)ではとんと見掛けないがあちらには仙人がうようよいて、
暇を持て余した連中が――仙人なんて大概暇なものだ――ひょうたんやら木のうろやらに国を作って遊んでいるのを見た。
そこは年中桃の花が咲き乱れ、川は清々しい水を満々と湛え、鳥の羽毛は極彩色に彩られ、妙なる音色がいずこともなく聞えてくる。
ニンゲンどもは夢の国だの楽園だなどと言う。が、とらにはなにが楽しいんだかさっぱりわからない。
誰かがこうあれかしと望んだ、カンペキなセカイ。
すべてが仙人の思い通りの、瑕疵なく造られたつまらない世界だ。
この世界を造ったのは、ととらは思う。あの神を名乗るやつらだろうか。
八百万分の一の神の座になんの価値があるんだかこれまたさっぱりわからない。
沼の鯰だって年を経れば主と呼ばれ、いずれ妖怪変化になり、さらに年数を重ねればその沼沢の神となる。
ニンゲンだって土地神に認められ神具を得れば神になる。
ヒヨッコの『神』がどんなやつだか知らないが、とらは一つだけ知っている。
神とはその土地や、ニンゲンや、妖怪どもに認められてはじめてそうとされるものだ。
自分から神を名乗るのは、威張りんぼうのうぬぼれ野郎と決まっている。
――気に入らねえな
鼻先に積もった雪をべろりと舐めとった。
まるみを帯びた天井から、湧きでるように降る雪片にもやはり雪妖の気配がない。
カタチだけはうしおの時代に似せた白々しいこの町が気に入らない。
妖怪を『余分なもの』と切り捨てるその態度が気に入らない。
新参者の神のくせにふんぞり返って姿を見せないのが気に入らない。
空からふわりと降り立ち、灰色の建物のてっぺんに爪の先が触れたとき、
やっと引っ掛かっていた単語がぽんととれた。
そうだ、あれだ。うしおのガッコで見た、まんまるで透明な、
「ふらすこ」
屋上の扉が開いた。
雪輝ははっと身をこわばらせた。
ついきょろきょろと周囲を見回す。
ロビーは相変わらず人の気配がなく静まりかえっていた。
壁にかけられた時計の秒針がコチコチと音を立てる。
正時になったら鳩がないて電子音にあわせてピエロのような音楽隊がくるくると踊る。
今鳴らなくてよかったと雪輝は思った。きっと飛び上がっていただろうから。
安っぽいビニールのソファーで眠る由乃の寝顔を見ていると少し気持が落ち着いた。
静かな寝息をたてて、よく寝ている。
本当なら、病室のベッドで体を休めるのが一番だろうけど、それはやめた。
由乃が退出経路を確保したがったからだが、雪輝自身も上の階を使いたくなかった。
かつて人間で、現在はただの肉片と化してしまったものの近くにいたくなかった。
幽霊がいるとも思わないけれど、いないとも思わない。
あの近くにいたらまた自分の空想は、悪いものを作り上げる。
白い壁にとびちった赤が思い出される。気をそらさないと、そこに人面を見つけてしまいそうだ。
だからきっと、病院はいつも真っ白にしてあるのだ。
死を塗りこめるほど真っ白に。
雪輝はもう一度日記を見た。
扉が開いたのは、今起きたことじゃない。これから10分後のことだ。
10分。たったの10分。雪輝に手渡された松明のともし火はたったそれだけだ。
――由乃を起こそう。
名前を呼びかけたところでとまる。
扉を開けて入ってくる誰かは、悪人だろうか?
この新しいサバイバルゲームに乗って、雪輝たちを殺しに来たのだろうか。
それとも人殺しを否定して仲間を求めて来た人だったりはしないだろうか。
由乃は雪輝の身を過剰に案じて、もしかしたら手を差し伸べてくれるかもしれない誰かをむやみに傷つけないか?
そうだ、もしかしたら鳴海歩が訪ねてきたのでは。
彼なら、雪輝日記で由乃が寝ていることもわかるはず。
まずは、雪輝が様子を見たほうがいいのかもしれない。
でも、もし悪人だったら?
――やっぱり、由乃を起こそう。
結局、雪輝には由乃に頼るしかない弱い人間だった。
自身を守りきれる自信なんかまったくない。
由乃とは違った意味で、由乃がいなければ生きていけない。
起こして相談しよう。少なくとも由乃は、雪輝の身を第一に考えてくれる。
そっと手を伸ばして肩に触れようとしたとき、また雪輝は手を止めた。
日記に新しい記事が追加されている。
そこには我妻由乃の死が、はっきりと記されていた。
心臓が、どくどくと鼓動を告げる。
あんまりひどい速さで拍動しているので、耳の奥がじんじんと痛いくらいだ。
そんなに早く血液は体の中を循環しているのに、パニッシャーの銃身を支える指先が冷たくて仕方がない。
あと2分。あと2分でそいつは角を曲がる。この廊下の角に姿を現す。
金の毛並の捕食者。由乃を食い殺すライオンまがいの怪物。
雪輝はただ一人でそいつを待っていた。自分の力だけで、怪物を殺すために。
結局、由乃と一緒に戦うという選択肢を選ぶことはできなかった。
日記は由乃の死を予知した。疲れきってふらふらの由乃は、雪輝をかばって化け物の前に立ちその鋭い牙で殺されてしまうのだ。
由乃と一緒に逃げる、という選択肢もだめだった。
においで足跡をたどられ、病院を出たところで由乃はその鋭い爪に切り裂かれてしまう。
由乃を守るにはやるしかない。雪輝が、やるしかない。雪輝しかもういない。
雪輝を友達だと言ってくれた秋瀬或は、この見知らぬ土地で死んでしまった。
もう大事な人を誰も死なせたくないんだ。友達も、家族も、――恋人も。
指は冷える一方なのに顔が妙にほてって、たまらなくなって口をあけた。
嗚咽をあげるように新鮮な空気を飲み干す。
ごくりとつばを飲むと、やたら大きく響いてどきりとする。
喉がからからだった。
廊下の行き止まりに白い影が現れた気がして、雪輝は引き金をひきかけた。
すんでのところで抑える。まだだ。少なくともあと1分半はそいつは来ない。
雪輝の恐怖心が勝手に幻を見ているだけだ。
ぐるぐると渦巻く闇に、また少年の幻覚を見てしまいそうで、あわてて首を振る。
だめだ、違うことを考えなきゃいけない。もう一度おかしな影を見出して、銃を撃たないでいる自信がない。
空想をしよう。空想、楽しい空想を。
この貧弱なこころをもたせるだけの空想を。
このパニッシャーを操るのはどんな人だろう?
こんな重い武器を扱うのだから、背が高くて肩幅が広いだろう。似合うのは、襟のたった黒い服。
皮肉めかして斜めに笑い、そしてきっと、煙草を吸っている。
そんな想像をしていると、奥から二番目の、切れかけの蛍光灯がパチンと鳴った。
びくりと身をすくませる。空想に逃げることもできなかった。
再び指先に力をこめ、瞬きをするのも恐ろしく廊下の先を凝視する。
もうすぐだ、もうすぐ。
時間の感覚はもはやあやふやだった。
もう一時間もこうしてそいつを待ち続けているような気もするし、まだ10秒もたっていない気もする。
あと1分? それともあと5秒?
雪輝は耐えきれずに時計を盗み見た。
まもなく、秒針が12時を回ろうとしている。
全身から汗が吹き出した。ついに、だ。これから60秒の間に化け物が現れる。
引きかえしてくれたらいい、祈るように念じた。
引き返して、テープを巻き戻すみたいに階段を上って、屋上の扉を開けて、去っていったらいい。
どんな理由でもいい、違和感を覚えてとか、ちょっと用事がとか、ほかの人間に狙いをかえてでも、なんでもいい。
時計を見る。7秒。まだ現れない。
なんで日記を秒単位でつけなかったのか悔やまれる。
何月何日何時何分何秒、コンマの単位までつければよかった。
時計を見る。16秒。まだ現れない。
パニッシャーの銃口が震えている。
きちんと狙いを定めなきゃ、と思えば思うほどに震えは悪化する。また息が苦しくなってきた。
時計を見る。22秒。まだ現れない。
雪輝の鼓動はこんなに早いのに、秒針はのろのろと進む。
緊張感で押し潰されそうだった。
早く来てほしい。いや、来てほしくない。
穴をあけそうなほど必死に見つめる曲がり角に影が現れたのに、雪輝は一瞬ためらった。
また妄想が生み出した影かとほんの一秒疑ったのだ。
そうでないと知れたとき、引金を雪輝は、すがるようににぎりしめる。
機関銃の激しいうなり声がリノリウムの床にこだまする。
ひどい反動だった。胸ぐらをがんがんとゆさぶられているようだ。
パニッシャーが言う事を聞くわけなんかなく、前へ前へという一点だけは雪輝と意気をあわせて弾丸をぶちまける。
コンクリートの壁がけずれる。病室の仕切りがきしんで中のカーテンレールが見え、それも流れ弾ではね上がってくだけた。
細かいガラスのこすれる音が、掃射の中にかき消える。
時間も忘れて無心で撃ち続けると、ガツンと衝撃を伴って不意に機関銃が静止した。
思わずつんのめり、あわてて足を踏みしめる。
なぜ連射が止まったのか理解できず、やみくもに引金を押してからはじめて気付いた。
弾切れだ。撃ちつくしてしまった。
日記では、と義務のように脳を捻りだす。
日記では、怪物がその恐ろしい爪をこれからたててくる。牡馬を狙うグリフォンのように鋭い爪を。
右からだ。右から来る。
無差別日記は雪輝本人のことは予知しない。右からくる爪撃を雪輝は免れられるのか、わからない。
だから、今やるべきだ。今この足元にある銃倉を拾いあげ、機関銃に弾を補充して、化け物に向かって撃ちつくすべきだ。
弾倉を替える練習だってした。
迅速に、とはいかないけれどちゃんと古いのを捨てて新しいのをはめることが雪輝にはできる。
弾倉は雪輝の右のかかとの横に用意してあって、手を少しおろすだけで届く。
あの化け物の爪を思い出してみろ。熊より鋭い大きな爪だった。
あんなので引っかかれたら、雪輝なんてひとたまりもない。
熟れすぎたトマトのようにぐんじゃりと崩れてしまうだろう。
なのに、雪輝の指は一本も動かなかった。
時計を見つめたまま動くことができない。
爪で切り裂かれるはずのその時間をのろまな死神のように刻む時計の針から、魅入られたように目をそらすことができなかった。
ついに針はそのときを指し示しす。かちりと針の音が耳の奥に鳴り響く。
そのとき、ふっと煙草のにおいを嗅いだ気がして、雪輝は我に返った。
右だ。右から来る。
くらつくような火薬臭の中、渾身の力をこめてパニッシャーを引き上げる。
その瞬間、硬いものがかち合う短い音が響いて、鋭い痛みが肩に走った。
パニッシャーごと体が吹っ飛ぶ。
「チィッ」
舌打ちが煙の中に聞こえた。
よく磨かれた床に叩き付けれて、暗転しかけた目を必死に向ける。
涙のにじんだ視界に、そいつの足が入った。
足、だ。確かに足だ。並んで立つ二本の足。
でもそれは、とても毛むくじゃらで、まるで獣のような。
ひっと喉が鳴る。
雪輝はゆるゆると目をあげてそいつの顔を見た。
「ば、ばけもの……!」
とらがにいいと満足げに笑った。
「若ぇ女のにおいがしたと思ったがよ、おめぇ小僧かよ」
凍りついたように後ずさることもできず、雪輝はただぶんぶんと首を横に振った。
こいつは由乃のことを言っている。雪輝は由乃を守ると決めたのだ。
とらは拍子抜けしたように、ぐいと雪輝に顔を近づけた。
雪輝は再びひっと泣き声をあげ、少しでも遠ざかる。
「なんだ、じゃあおめぇ女か?」
またぶんぶんと首を振る。とらが難解なクイズを見たような表情だ。
わかんねぇ奴だなあ、と不平を言う。
雪輝を頭から下までじろじろ見て、しばらく考え込んでいたがふと口を開いた。
「おめぇうしおを知ってるか」
蒼月潮という名が名簿にあったのは知っている。放送で名前が呼ばれなかったのも知っている。
でも、元の世界でもこの会場でも、雪輝と彼は知り合ったことがない。
けれど、雪輝は知っていた。この問いに素直に答えればどうなるかを。
だから、雪輝はうなずいた。今まで横に振っていた首を縦に振った。
ザザッとノイズ音が走る。未来は変わった。
とらが残念そうにそうかと言う。
「女みてぇにやわらかくてうまそうだが、」
雪輝は横目で日記を確認した。
「うしおのやつ、」
知らないと答えたら、
「おめぇを食ったら怒るだろうなあ」
食い殺されていた未来が、
「でもまあ、」
知っていると答えたために書き換わり、
「ばれなきゃいいかッ」
この爪に引き裂かれる。
sage
一発の弾丸が、圧倒的な力の差をチャラにしてくれる。
すさまじい破裂音がして銃口から何かが飛び出すのを雪輝は見た。
何か、ではない。ほんのわずかの差のぎりぎりのところで、雪輝はロケット弾を射出したのだった。
機関銃とは比べ物にならない反動でもう一度体は跳ね上がり床に背中を打ち付ける。
砂埃で視界の閉ざされた中、バックパックだけは引き寄せて雪輝は必死にその場を離れた。
やたらめったらに足を動かしながら、日記を見る。
まだとらは死んでない。
適当なところにかくれてはだめだ、犬のようにするどい嗅覚で、雪輝の居場所を嗅ぎつけてくる。
血を止めなければならない。
血のにおいをごまかせて体を休めるところ。うってつけの場所が一箇所ある。
――2Fレントゲン室。
飛び散った人間の破片、千切れた内臓やべちょべちょした無数のかたまりが目に入り、雪輝は吐きそうになった。
口許に両手を当てて無理やり抑えこむ。
それでもこらえきれず、涙とともにかすかな嗚咽がこぼれた。
目をそらしむせ返る死のにおいを嗅がないように口で浅く息をする。
一度息を飲み込むと、鈍い動作でバックパックを開いた。
痛い。全身が痛くてたまらなかった。
消毒液を肩の傷に振り掛けると、さらに激しい痛みが骨髄を駆け上がった。
涙を浮かべながら持てる力を総動員して悲鳴を耐える。
3rdの剣に刺されたときだって、ここまで痛くなかった。
あの時は秋瀬君が来てくれたけど、その彼はすでに死んでしまった。
いつも冷静で、かっこよくて、頭がよくて、秋瀬或は雪輝とは正反対だった。
雪輝がこうありたいと願う、まさにそんな少年だった。
でも、もう彼は助けに来てくれない。
彼が死ぬような場所なのだ。
雪輝が死ぬのなんて、未来を予知するまでもなく当然なんじゃないか。
そこでふと、3rdに殺されかけたことを事実と受け止めている自分に気づく。
雪輝が3rdに倒されたことなんてない。雪輝が3rdを倒したのだ。
いったいいつそんな話を吹き込まれたのだろう。
昼間の夢だってそうだ。
――母さんの眼鏡に、神社で穴を掘る僕。
たったそれだけの、単語だけを並べたようなあやふやな夢なのに、漠然と両親の死をイメージしている。
そしてそれが、現実だと思えてならない。
夢を見たから現実なのか、現実だから夢に見るのか。
雪輝にはもうどっちなのかわからなかった。
デウスが空想の世界に現れたのか、空想したからデウスが生まれたのか。
未来日記は、この殺し合いは、雪輝が空想したからこそ顕現したのか。
それとももしかして、ほかの誰か、どこかの何者かの空想に因果しているのか――?
壁を蹴飛ばす振動に、雪輝は思索から引き戻された。
驚きに心臓が早鐘を打っている。声を立てなかったところだけはえらいと思う。
「こらっ雲外鏡っ! 姿を見せやがれっ!」
あいつだ。震える指先で携帯電話を引っ張りだす。
日記によると、雪輝の居場所を嗅ぎつけたわけではないらしい。
しばらく隣の部屋でガタガタするようすが記されている。
けれどいずれ、とらはこの部屋を訪れ雪輝を見つけるだろう。
「ここは確かに異界よ。しかし鏡というのも一個の独立した異界だろ。
だったら『そっち』から『こっち』はつながってるに違いあるめぇ。
獲物に逃げられてこっちはくそっ腹が立ってんだ、さっさと出やがれトンチキ鏡ッ」
怪物が仲間を呼び寄せようとしている。
雪輝は恐怖で息を荒げた。
とら一匹だってこんなに恐ろしいのに、これ以上化け物が増えたらぞっとするどころの話じゃない。
日記には、まだ仲間が集まる知らせはない。でも、10分以上後のことはわからない。
仲間が応える前に、とらを動かさないといけない。
重圧で目がかすむ中、雪輝は携帯電話のキーを押した。
キィンッと甲高い音が病院内に走る。
続けて人の声が響き始める。場所は、レントゲン室から対角線上にある4F奥からだ。
「こ、この虎模様のバカばけものっ。ぼ、僕が怖くて逃げ回ってるなっ。
4階のナースセンターで待ってるぞっ。ここまで来てみろよ、こここ腰抜けっ。」
「わしが腰抜けだとォ? てめぇ首の根洗って待ってろォ!」
ドガンと扉を蹴破る音がして、化け物が飛び出していく。
雪輝は携帯電話の通話を切り、へなへなと崩れ落ちた。
とらが向かったその場所には、拡声器がセットされている。
携帯電話から外線にかけて、コール音をゼロに準備した電話機から留守番機能を使ったのだ。
とらが駆けつけて怒りに任せてナースセンターの奥の扉を開けると、FN P90が全弾撃ちこむようになっている。
うまくとらが死ねばいいな、と雪輝は思った。
でも、そんなにうまくいかないこともわかっていた。
日記に、FN P90の銃声は記されていない。
雪輝のトラップが稚拙すぎて作動しなかったのかもしれないし、とらがだまされたことに気づいたのかもしれない。
血で汚れた服を捨て、レントゲン室の横から清掃員のものらしき服を見つけて取り出す。
時計を見る。まだすこし時間はある。
武器はあんまりない。パニッシャーをとりに行く時間もない。
とらに反撃できるなら、これが最後の機会だろう。
雪輝はそっとレントゲン室を抜け出して、階段の前まで移動した。
一階へ向かう階段が下に、三階へ向かう階段が上に伸びている。
あの考えを実行するなら、三階に行かないといけない。
一度は確認した病院の配置を思い出す。
上りの階段に踏み出しかけて、急にぞうっと体が冷えた。武者震い、なんて立派なものじゃなかった。
あの怪物と勝負する? そんなん勝てるわけないじゃないか。
負けるに決まってる。そして、レントゲン室の二人のように、ぼろぼろの肉塊にさせられるのだ。
いやだ、と思った。死にたくないと思った。
sage
――もう、由乃なんてどうでもいいんじゃないか。
何度雪輝のために身を投げ出したからといって、あいつは元々ただのストーカーだ。
あんなやつ死んだっていいんじゃないか。
雪輝のためなら死んでもいいと言っていた。
なら、ここで今すぐ階段を駆け下りてその足で病院を後にして、
雪輝が逃げ去ったからといって、由乃がとらに食い殺されたとしても、それは本望なんじゃないか。
雪輝は重い足を前に踏み出した。一度ぐっと目をつぶり、階段を一気に走りぬける。
口の中で小さく、呪文のように唱えながら。
「由乃が死んだら、僕は一人だ。由乃が死んだら、僕は一人だ。由乃が死んだら、僕は一人だ」
秋瀬或が生きていたら、放送で名前が呼ばれなかったら、雪輝はこの場を逃げていたかもしれない。
脇目もふらず、恥も外聞もなく逃げ去っていたかもしれない。
だって雪輝は弱いから。どうしようもなく弱いから。
だけど、秋瀬或はもういない。
雪輝を助けてくれるのは、もう誰もいない。ただ一人、我妻由乃を除いては。
こんな化け物だらけの島を雪輝一人で生き延びることはできない。
由乃がいなくなったら、雪輝は死ぬ。死なないためには由乃が必要だ。
だから、雪輝は戦わないといけない。雪輝が生きるために。
どんなに情けなくてもいい。どんなにかっこわるくてもいい。
震える足をここにとどめてくれるのなら。由乃を見捨てないですむのなら。
三階への階段を上りきり、日記だけをしっかり見る。
未来の自分はいつも冷静に周囲の状況を記してくれる。
目的の部屋に忍び込むと、ドーナツのように丸いCTスキャナがあった。
ここもまた、病院の他の部屋と同じように白に塗り込められていて、スキャナの寝台にはやっぱり白いシーツがかけられている。
雪輝はCTスキャナの陰に隠れるようにうずくまった。
表面積を少しでも減らそうとするように体を小さく小さくする。
ほんのわずかでもはみだしたら、そこから皮膚が溶け出してしまいそうだった。
できることなら、あのシーツにくるまってなにもかもを忘れてしまいたい。
ゼウスに会ったときのように白い布の中で空想に耽ったら元の世界が現れるんじゃないか。
でも、雪輝は、確かに歯の根はあわないけれど、うずくまりながらもCTスキャナに電気が通っていることを確認した。
それと天井と、入り口も。
探索時に見たとおり、スキャン室には入り口は二つあって、たぶん患者用ともう一つは雪輝が入ってきた医師用のドアだ。
あいつが来るのも医師用の方だ。
時計を見る。もうすぐだ。でもあと少しだけ時間はある。
とらがその巨体をぬっと現したのは、定刻通りだった。
「ここかよ、小僧」
ドアをけやぶるようにして、進入してくる。
「あれは"てれび"だろ。
なんのにおいもしねえからな。このわしがだまされるかよ!」
拡声器のことを言っているのだろう。
知っていることが自慢で仕方ないというように、とらが得意げに胸を張った。
怪物の横腹には、ロケットランチャーによるものだろう、さっきはなかった大きな穴があいていた。
なんであんな穴があいて普通にうごけるんだろう。
人間ならとても生きていられるような傷じゃない。
本物の化け物だった。雪輝は恐怖で息を飲む。
「よくもわしの腹に大穴あけてくれたなあ」
一気にとらが踏み込み距離をつめる。
雪輝はダブルファングを握り締めたまま、ますます小さくスキャナに隠れた。
ぎゅっと目をつむり、頭を抱えこむように耳をふさぐ。
とらの爪が風を切る。ここまで届くことを想像し、泣きそうだった。
でも雪輝にはわかっていたのだ。この化け物がどこに踏み込むのかわかっていたのだ。
カッと閃光が走り、空気が膨らんだ。一拍をおいて爆風が巻きおこる。
スキャナの破片がばらばらとふりそそぐのを雪輝は感じた。耳なりの中、遠くに怪物の咆哮が聞こえる。
雨流みねねのメモ爆弾は、貼りつけられたFNP90の弾倉に引火して見事に火花を散らせていた。
でもまだだ。これでもまだあいつは死んでない。体に穴が空き、足が吹っ飛んでもまだ死なない。
いったいどうしたら死んでくれるのか、涙ぐみそうになる。
雪輝はよろよろと立ち上がった。
三半器官がおかしくなって、嵐の船のようにふらふらする。
左手のダブルファングをとらに向け、撃ちはなつ。
爆発をまともにくらってのたうつとらに、その銃弾は外れた。
あくまで左手で、怪物に銃撃をしかける。とにかく連射、連射だ。
当たらなくったっていい。
まともに狙いをつけないで当たらないのはわかっている。
これは、牽制だった。
本命は天井だ。
視界がぐらぐら霞むなか、必死に見据えて右手の銃を一点に向ける。
パニッシャーよりは軽い、しかし十分に重い音を立てて弾は飛び出る。
天井のおかしなところに当たるばかりで、いくらやっても外れるだけだった。
ダーツは得意だけれど、射撃なんかほとんどしたことがない。
機関銃なんてもっとしたことがない。
拳銃で4thを撃ちぬけたのは、あの時あの場でこそ起こすことができた一つの奇跡だ。
早く、早く当てないと。
半泣きになりながらとにかく引金を絞る。
早くしないと、身動きのとれなくなった化け物は、爪による攻撃をあきらめて、
「しゃらくせぇっ」
とらが口を開ける。その中では炎が渦巻いて――。
ほとんど同時にカキンと甲高い音をともなって、それは弾けとんだ。
ひどい熱に焙られる瞬間に、激しい水が降り注ぐ。
スプリンクラーが、作動した。間に合った。
とっさにかばった両腕は火傷をおったようだけれど、ひとまず雪輝は生きている。生きている。
壊れたスプリンクラーはたえまなく水を降らせてとらの火を無効にする。
すでにスキャン室には水が張りはじめていた。
雪輝は躊躇なくCTスキャナの後ろに手を伸ばした。
「僕は……僕は、」
それを引きずり出すと水たまりに叩き込む。
「由乃といっしょに戻るんだああああ!」
スキャナを稼働させるための高電圧流が、水を渡ってとらと雪輝を包みこんだ。
バチバチと激しく水が鳴る。ひどい蒸気のなか、雪輝は分厚いゴム長靴で走りぬけた。
廊下に飛び出したところで、大きすぎるサイズの長靴につまずいて転ぶ。
痛い、と思った。痛みを感じる。こんなにぼろぼろだけど、まだ生きている。
雪輝はもがきながら日記を取り出した。
あの化け物もさすがにもう死んだだろう、という気持がある。でも確かめないと安心できない。
自分の目で見る勇気なんてない。
ダブルファングの重い射撃で腕がしびれて、雪輝は携帯電話を取り落としかけた。
火傷もあって、おもしろいくらい手が震える。
やっとのことで二つ折りに指をかけたとき、背後からぬるりと現れた。
「わしは火と雷の化生でな、雷撃はあんまし効かんのよ」
水びたしの怪物が、扉によりかかるようにその片方の足で立っていた。
もう、悲鳴も出なかった。
力の抜けた手でじたばたしながら最後に残された銃を向ける。
「また"てつはう"か」
とらが心底嫌そうな顔をして避けるようなそぶりを見せる。
しかし鉛の玉は、とらのたてがみにパチンとはねかえった。
また撃つ。パチンとはじけた。
空になるまで撃ち尽す。なんてことはない。立派に見えたが妙に軽く、それはおもちゃの銃なのだった。
とらが余裕の表情で、一歩、飛び跳ねて近付く。
その様子から目をはなせない。
バックパックから、やっと指にひっかかったものを無我夢中で取り出した。
「こ、来ないで……」
雪輝はよたよたと立ち上がって、飛刀を構えた。
「来ないでよ……。来るなああ!」
めちゃくちゃに飛刀をぶんまわす。
もう力なんてかけらも残ってなかった。剣の重さに振り回されて足元もおぼつかない。
しかしその偶然の一撃がとらの横っ面に伸び、
「オマエいいセンいってたぜ」
大きな獣の手に刀身を捕まれて、雪輝は硬い爪が、するりと入り込むのを感じた。
ゆっくりと、大きな伸びをして我妻由乃は目を覚ました。
あんなにだるくて、雪輝のためでなければ一歩も動けなかったのが嘘みたいだ。
気持ちも体も軽くて、これならまた戦えると由乃は思った。雪輝のためなら、いくらでも戦える。
ごそごそと白衣のかたまりから這い出して、身なりを整える。
このくしゃくしゃにまるめた大量の白衣が、眠り姫の優雅なベッドだ。天蓋は薬棚にかかった白いカーテン。
目覚めた場所は、薬品室だった。
雪輝が誤って割ったのか、消毒液の強い臭いがただよっている。
立ち上るアルコールに呼吸が苦しくなって、由乃は少しよろけ呼気を整えるために口許に手をあてた。
睡眠薬特有の倦怠感が、まだ少し体のすみにわだかまっているようだ。
その事実と、指に触れた柔らかいくちびるの感触に、頬にうっすらと赤みが差す。
ロビーのソファーで寝入ってしまっていた由乃を、雪輝はここまで運んでくれたのだ。
軽々と持ち上げ――由乃の主観では――お姫様みたいに、だった。
そして夢うつつの由乃を頭を手のひらでなでて、もう少し寝てたほうがいいよとくすぐるようにささやいて、そして。
由乃はそっとその桃色のくちびるの輪郭をたどった。なめらかでやさしい感触がよみがえってくる。
そして王子様は、おやすみのキスをしたのだ。由乃のこの、くちびるに。
由乃がぐっすり眠れるようにと、睡眠薬を飲ませてくれた。
由乃は顔が火照るのを感じた。
うれしさとはずかしさでうずくまってしまいたい。
雪輝はどこだろう。由乃はもう一度白衣のシーツにもぞもぞもぐりこんだ。
こうして寝たふりをしていたら、今度はおはようのキスをしてくれるかもしれない。
おずおずとした、控えめで照れ屋なキスをしてくれるかもしれない。
王子様は来ない。
雪輝はどこだろう。
由乃は再び白衣の山をかきわけると、薬品室のノブに手をかけた。
が、回らない。鍵がかかっている。
由乃がぐっすりと眠れるようにという雪輝の思いやりだろうか。
雪輝は、ロビーで待っているに違いない。
つまみをまわして出ると、そこも一面に消毒液がまかれていて、かわらない臭気がただよう。
廊下も診察室も一階はどこもかしこも、病院にあるすべての消毒液をひっくりかえしたようにびちょびちょだった。
それはまるで、どうしようもなく汚いものを洗い流そうとしたのか、
それとも何かの臭いをかきけそうとしたかのように、執拗に。
「ユッキー?」
いつの間にブレーカーが落ちたのか、ロビーは薄暗い。
すたすたと横切って、ソファーの下を覗き込む。
「ユッキー?」
ノックもせずに男子トイレに入ると、真っ暗な個室をひとつずつのぞいた。
「ユッキー?」
階段を上がる。
「ユッキー?」
レントゲン室には男女の汚い死骸が落ちていた。
「ユッキー??」
血によごれた雪輝の服がある。
「ユッキー??」
戦闘で崩れた廊下を乗り越える。
「ユッキー??」
バックパックだ。雪輝はもうすぐそこだ。
「ユッキー!」
雪輝の猫のようにやわらかい髪の影を見つけて、由乃は駆け寄った。
あの髪の毛が由乃は大好きだった。手触りが気持ちよくて、ずっとだって触っていたい。
でもあんまり触りすぎると、
「やめろよぉ」
そう言って雪輝はぷっと頬を膨らます。由乃はそのかわいらしいほっぺたも大好きだった。
ただあんまりつつくと横を向いてしまうので、そんな表情も大好きだけれど、だからたくさん触るのは寝ているときだけにしている。
今はもういくら触っても嫌がることもなく、その代わり、
「ユッキー???」
笑ってくれることもない。
「ユッキィぃぃぃぃ!!!!」
ばらばらの死体がそこに転がっていた。
かじられた死体がそこに転がっていた。
しゃぶられた死体がそこに転がっていた。
雪輝はもぐもぐと食われてしまった。
雪輝はむしゃむしゃと食われてしまった。
雪輝はぽりぽりと食われてしまった。
雪輝はさくさくと食われてしまった。
「ねえユッキー私を見て?」
すがるように由乃は雪輝のきれいな頭を、頭だけになってしまった雪輝を覗き込む。
「ねえユッキー私を見てねえユッキー私を見てねえユッキーねえ私を見てねえ見て見て見て」
由乃は雪輝だったものの部品を両手でかき寄せる。
雪輝だった殻の中に押し込めるけれど、つめるはじから崩れてでてくる。
なんどもなんども押し込めて、爪の間まで真っ赤に染まった。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
うわごとのようにただ言葉を繰り返しながら由乃は両手いっぱいの肉片を、
「嘘だああああ!」
口の中につめこんで丸ごと飲んだ。
雪輝のかけらを集めては飲む。
いとしげに肉に触れ、骨に触れ、血管に触れ、皮をなめ、血をすすり、音を立てながら嚥下する。
まるで雪輝と一体となろうとするかのように、つぎつぎと破片を食いちぎり飲み込んだ。
と、突然その動きが止まる。
電池が切れたおもちゃのように動作を静止させると、ぽつりとつぶやいた。
「違う……」
歯にひっかかった赤いかけらが、ぽたりと落ちた。
「ユッキーじゃない……これはユッキーじゃない……ユッキーじゃないわ……」
それは現実からの逃避か、それとも異常者ゆえの直感か。
由乃は大事に抱いていた天野雪輝をごみのように投げ捨てると、怒りのこもった目できっとにらみつけた。
「おまえだなああ、秋瀬或ぅ!
おまえがユッキーのふりをしてわたしをだまそうとしたなあああ!
ユッキーになりすまそうなんて、死んで当然じゃないの。
アハハハハハこんなところで死んでたなんてアハハいい気味だわアハハハハハ!」
この世の空気を使い果たさんばかりに由乃は笑い続ける。
そして唐突に笑いをおさめると、蛇のようなしぐさで携帯電話を拾い上げた。
雪輝の無差別日記だ。
目にくっつけるように日記をひらき、無言のまますさまじいいきおいで更新しはじめる。
生きるもののいなくなった病院に、カチカチとキーを打つ音だけが静かに、狂ったように響いていた。
どれくらい経っただろうか。はじめた時と同様に、不意に由乃が動きをとめた。
黒目を失ってがくんと後ろに首が倒れる。
次にふらりと頭をあげたときには、その顔は穏やかで、――こんな凄惨な現場にまるで似つかわしくない、ふつうの女の子の表情だった。
スカートにこびりついた肉のかけらを、パンくず散らすようにぱんぱんと払う。
『秋瀬或』の死体に目をくれることもなく、手元を見てぽっと頬を染めた。
「ユッキーのケータイ♪」
手の中のそれを今はじめて見つけたといわんばかりに、いそいそと正座をしてながめる。
未来日記は、元々はただの携帯電話だから、もちろん書き換えることもできる。
未来が変わるわけではないけれど。
雪輝の日記にはもうDEAD ENDフラグなど見当たらず、だからこれは由乃だけの無差別日記。
「待っててね、ユッキー。
どこであっても、私はユッキーに追いつくわ」
由乃の手が、どこまでも優しく日記をなでていた。
【天野雪輝@未来日記 死亡】
【D-2/病院3階廊下/1日目/午後】
【とら@うしおととら】
[状態]:ダメージ(大)、脇腹に大穴、左足欠損、銃創多数
[服装]: 口周りに血がべったり
[装備]:万里起雲煙@封神演義
[道具]:支給品一式×7、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×1)@トライガン・マキシマム、逃亡日記@未来日記、
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数5/12)@現実
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×1、詳細不明衣服×?
[思考]
基本:白面をぶっちめる。
1:体力を回復させる。
2:強いやつと戦う。
3:うしおを捜して食う。
4:"ユノ"という名前に留意。
[備考]
※再生能力が弱まっています。
※餓眠様との対決後、ひょうと会う前からの参戦です。
※会場を、仙人によってまるい容器の中に造られた異界と考えています。
※雪輝を食った後、病院からは立ち去っています。
どこへ向かったかは後の書き手さんにお任せします。
【我妻由乃@未来日記】
[状態]:健康、
[服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
[装備]:飛刀@封神演義
[道具]:支給品一式×8、パニッシャー(機関銃 0% ロケットランチャー 0/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマム、
機関銃弾倉×2、ロケットランチャー予備弾×1、
真紅のベヘリット@ベルセルク、無差別日記@未来日記、ダブルファング(残弾0%・0%、0%・0%)@トライガン・マキシマム
ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、首輪に関するレポート、
違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾0発、ハリセン、
研究所のカードキー(研究棟)×2、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、
不明支給品×4(一つはグリード=リンが確認済み、一つは武器ではない)
[思考]
基本:天野雪輝を生き残らせる。
0:天野雪輝を捜す
1:雪輝日記を取り返すため鳴海歩の関係者に接触し、弱点を握りたい。
人質とする、あるいは場合によっては殺害。
2:雪輝日記を取り返したら、鳴海歩は隙を見て殺す。
3:ユッキーの生存を最優先に考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
4:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
5:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
[備考]
※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
※安藤(兄)と潤也との血縁関係を疑っています。
※秋瀬或と鳴海歩の繋がりに気付いています。
※飛刀は普通の剣のふりをしています。
※病院の天野雪輝の死体を雪輝ではないと判断しました。
本物の天野雪輝が『どこか』にいると考えています。
※無差別日記は由乃自身が入力していますが、
本人は気づいていません(記憶の改竄)
※D-2病院4階ナースセンターに雪輝の罠が仕掛けられています。
扉を開くとFN P90(50/50)が発射されます。
ただし、素人作りのため正常に作動する保証はありません。
拡声器も同所にあります。
以上です。ありがとうございました。
>◆lDtTkFh3ncさん
大変遅ればせながらwikiの拙作の修正ありがとうございました。
この場を借りてお礼申し上げます。
激しく乙です!!初めてリアルタイムで投下見れたw
ユッキー死んじゃったか・・由乃と二人で対主催に加わってくれないかなあとか淡い期待を抱いてたが崩れさったぜw
てかダブルゆの精神状態がやばいな・・
追悼に未来日記原作読んでみようかなあ・・
俺は由乃がいる限り対主催と合流は絶対無理だと思っていたがw
で、ようやくとらがスコア1か。このまま誰も殺さず行くのかと思ったけど
食っちゃったな。ついで由乃も食っちゃっ……た、な。うん
食人話まで飛び出すとはホンマ新漫画ロワは地獄やでぇ
投下乙です
あ、指摘ですが一ヶ所「デウス」が「ゼウス」になってるような
投下乙です
ここでユッキーは脱落か。こっちのユノは優勝して生き返らせるのではなく『天野雪輝』を探すか…
でも喰うとか…
とらはとうとう殺しちゃったか。原作でも殺人への抵抗はなかったが潮が居たからな…
乙
雪輝はついに死んじまったか。とら相手によくやったと思うぜ
そしてユノは例によって記憶改竄…ユッキーはお前を守るために勇敢に戦ってしんだんやぞと知らせてやりたいなあw
>385
ご指摘ありがとうございます。誤字脱字王で申し訳ない。
原作好きなのになぜ毎度重要なキーワードを間違えるのか。
後半が不評なので描写を書き直してもよろしいでしょうか。
やっぱり、きっぱりと異議申し立てを受けない限り修正はいけませんか。
いや不評には見えませんが。
それに読み手の顔色を伺って内容を変更するのはおすすめ出来ません。
それでもどうしても修正したいということでしたら、議論スレで修正内容の宣言をしておけばいいかと思います。
投下乙でした
雪輝死んだかー
とらも遂に殺しちゃったし、潮とは絶対相容れないだろうなぁ
格キャラの今後の展開が楽しみな話でした
自分も修正は必要無いと思いますよ
投下乙です。
雪輝vsとら、考えてみればかなり異色の対決が面白かったです。
紅煉もそうだったけど、雷と火に強いってでかいなぁ
記憶改竄を行った由乃に、実は生きてる或。未来日記勢の未来が心配ですw
とりあえずユッキーかっこよかったぜっ!
投下乙です
暇だな…
じゃあ雑談のネタにロワ語り以降個人的に作ってる閻魔帳でも晒すか
話数 殺害数 死亡話リレー数
◆JvezCBil8U 28 17.5 3
◆L62I.UGyuw 27 5 13
◆lDtTkFh3nc 14 3 5
◆UjRqenNurc 9 3 1
◆Yue55yrOlY 8 7 2
◆Fy3pQ9dH66 6 2 2.5
◆23F1kX/vqc 5 1 2
◆1ZVBRFqxEM 3 1 1
◆H4jd5a/JUc 3 0 1
◆AO7VTfSi26 3 0 3
◆RLphhZZi3Y 3 1 1
◆xmpao6V6sI 2 0 2
◆40jGqg6Boc 2 0 2
◆KKid85tGwY 1 1 0
◆2/z7o.Vlls 1 0 1
エース二人の傾向の違いと相性の良さが半端ねぇ
タイプの違う二人でグイグイ牽引してるのがいいんだろうね
◆Yue氏の8話で7人殺しも何気に凄いw
でもエースのリアルで問題起きると終わってしまうのが怖いな
◆Yue氏も待ってるんだが最近は来ないし…
おお、楽しみな予約が
あれ、wikiが見れない……何故?
取り敢えず私は見れます。
特に弄ったりしてはいないのですが……。
早いレスポンスありがとうございます。
うーむ、てことはこっちの問題なのかな……他のなにかのwikiも見れるか調べてみよう
見れないならこっちの問題だろうし。
旧wikiを見てるとかじゃ?
何このどじっ子。萌え
あと用語集ワロタw
なんか予約が来すぎて夢なんじゃないかと不安になった
ついにあの兄弟が邂逅するか
予約が更に来てたのか
新トリの人に不安を感じるが…何とかなると信じてる
そういうこと言うな
と言いたいが鳥でググったら変なコテが引っ掛かるな
単純な文字列を鳥キーにしてるのか?
特にこだわりがなければ変更した方がいいと思う
なんだろう…イデに魅入られてるのだろうか?
お祓いでもした方がいいかもな
投下します。
水族館四階。
広々としたカフェテラスを一巡りすると、ゴルゴ13は手にしていた双眼鏡を折り畳んでデイパックに仕舞い込んだ。
「ここがA-3の水族館であることは確か、か……」
カフェテラスからは波立つ海が一望出来る。
普段ならばきっとここは水族館を訪れた家族連れや恋人達で賑わっているのだろう。
しかし今は、ただ一人ゴルゴが立っているだけだ。
風が冷え冷えと吹きさすび、空からは白いものがちらついている。
しかしながらゴルゴはそんなことには頓着しない。
安藤の身柄は再び確保した。
現在地の確認も済ませた。
携帯電話も手に入れた今、ゴルゴが次にすべきことは鳴海歩との連絡だ。
デイパックから白い携帯電話を取り出してネットに接続する。
そして、工場に辿り着く前に『探偵日記』を通じて確認しておいたサイトの片方――『螺旋楽譜』にアクセスする。
サイトの開設タイミングとその内容から、『螺旋楽譜』の開設者が鳴海歩であることは明らかだ。
素早くコメントを打ち込む。
----
3:
デューク東郷
【携帯電話(白)のメールアドレス】
----
歩は聡明な少年であるとゴルゴは評価している。
これだけ書いておけば、彼ならばゴルゴと安藤にしか解らない符丁を入れて返信して来るはずだ。
すべきことはもう一つある。
むしろこちらこそが重要であり――現在ゴルゴが一人でいる理由でもあった。
白い携帯電話を懐に仕舞い込み、代わりに同型の黒い携帯電話をデイパックから取り出す。
そしてゴルゴは一つの電話番号を打ち込んだ。
十回程呼び出し音が繰り返された後、電話が繋がった。
『どうしました?』
***************
水族館の二階。
群青に揺らめく一面の大水槽に背を預けて、エドワード・エルリックは糸の切れた操り人形のように座り込んでいた。
傍らには安藤が所在無げに立ち尽くしている。
状況を確認すると言い残してゴルゴが上階へと向かってから数分。二人は一言も言葉を交わさず、ただ時が流れるに任せていた。
周囲に人や罠が無いことはゴルゴが恐るべき手際で確認していたし、一階の工場へと繋がる非常口の向こうには何重ものシャッターが下りている。
そのため、少しの間ならばこの場が安全であることは確かなのだが――それは二人が動かない理由とはほとんど関係なかった。
更に数分が経過した。
耐えかねたのか、恐る恐るといった調子で、安藤が沈黙を破った。
「……さっきのこと……気にしてるのか?」
訊ねてから、やっぱり止めておけばよかったという表情で顔を逸らす。
答える代わりに、エドは視線を床に落とした。
ざあざあ、ごぼごぼと水の循環する音がする。
「人を……殺しちまった……。はっ……結局、オレも人間兵器ってこと、か……」
初めて遇ったときとは別人のような力の無い声に、安藤の顔が歪む。
今のエドの精神はどう考えても限界寸前のはずだ。
いや、自分が同じ立場なら精神などとっくに摩滅し切っているのではないかと安藤は思う。
そしてそうなった原因の一つは安藤の行為にある。
でも。
「でも……あんな物を遠くの相手に正確に当てるなんて、狙っても難しいじゃないか。あれは事故だ。
それに、あの女はどう考えたって悪い奴、だっただろ? だったら」
「アンドウッ!」
ガン、と鋼の右腕が床に叩き付けられた。
安藤は口を開けたまま、ビデオの停止ボタンが押されたかのように硬直した。
残響が辺りを支配する。
「悪人だろうと何だろうと――オレ達が人を一人殺したのは事実なんだよ……」
でも仕方が無いじゃないかと、安藤は口に出すことが出来なかった。
エドの眼を――酷く陰鬱なその眼を見てしまったからだ。
「いや……悪かった。今のは八つ当たりだ……。悪いのは、お前じゃない」
やめてくれ。
エドの顔は髪に隠れて見えなくなったが、悲痛な表情が透けて見えるようだった。
また声を掛けようとして、掛けるべき言葉が何も浮かばないことに気付く。
無意味に上げた腕が行き場を無くして宙を彷徨って、やがて油の切れた機械のように降りた。
「……こんなことしてる場合じゃないことは解ってる。でも、少しだけでいい――時間をくれ」
エドはそれだけ言うとまた黙ってしまった。
唐突に、居心地が悪い、と安藤は思った。
いや、ずっと居心地は悪かったのだ。それこそ、この下らないゲームの最初の最初、鳴海歩と出会ったときから。
ただそれを意識する余裕が無かっただけだ。
だからこれは、居心地の悪さが意識の表層に上って来た、と言った方が正確だ。
原因は判っている。
ひとごろし。
人殺し。
殺人。
それは数ある禁忌の中でも、特に絶対にやってはいけないこと――なのだと安藤は思っている。
法律で禁じられているからだとか、そんな理由では勿論ない。
そうではなく、もっと漠然とした、根源的な黒い恐怖のようなものが腹の底からやめろと悲鳴を上げるからだ。
命は重い。何よりも重い。それこそ、命は地球より重い――などと宣う者さえいるくらいに。
陳腐な表現だと思いつつも、安藤にも概ね異議はない。命は大切なものなのだ。だから、
だから、殺した。
自分にも重大な決断が出来ると示すために。
無力ではないと確認するために。
結果は、これだ。
確かにあの女が燃え上がった直後、ずっと抱いていた劣等感が消え去ったのを感じた。
それどころか優越感すら覚えた。
鬱々とした霧が晴れた気がした。
でも。
打ちひしがれたエドを見下ろしている内に、優越感も高揚感も空気の抜けた風船のように萎んでしまった。
結局、元の木阿弥だ。殺人は安藤に何も齎さなかった。
残ったのは酷い後ろめたさと、そして胸に支えた漆黒の塊だけだ。
これは人を殺した報いだ。
たとえこの場を生き延びたとしても、胸の塊は永久に取り除けないのだろう。
殺さなければよかったと今更ながら思う。
あんな卑小な優越感のために人を殺すなんて馬鹿げた行為だったと思う。
だが、もう引き返せはしない。無かったことになんて出来る訳がない。
だったら――行けるところまで行こうじゃないか。
結局、トイレに行くとだけ告げて、安藤はエドから離れた。
エドは何も言わなかった。
***************
「ふむ、これは……」
図書館の端末室。
ゾルフ・J・キンブリーは手の中で振動を始めた携帯電話に目を落として思案していた。
遮光ガラスが張られた小さな窓の外では、結晶の大きな雪が天からはらはらと落ちて来ている。
現在、キンブリーの所持する『交換日記』に通じる番号を知っているのは、趙公明とゆのの二人のみ。
そして交換日記には、趙公明が電話を掛けるとは予知されていなかった。
となると――。
通話ボタンを押す。
「どうしました?」
『ゾルフ・J・キンブリー、だな』
低く、まるで感情の乗らない声がキンブリーの耳を打った。勿論、ゆののものではない。
キンブリーの本能が即座に警鐘を鳴らす。
これは命取りを生業とする者の声だ。叩き上げの軍人でもこの声を出せる者はそうはいない。
瞬時に幾つかの状況を想定し、そしてわざと息を呑んでみせてから、キンブリーは静かに返す。
「……彼女を、どうなさったんです?」
『……』
含みを持たせた沈黙。
不規則に揺れる風の音だけが電波に乗って届く。
ゆのが自発的にこの番号を誰かに教える状況は考え難い。
脅迫か拷問か、いずれ非友好的な手段で得た情報であることは間違いない。
「この番号を知っている方は一人だけです。もう一度訊ねますが、彼女をどうなさったんですか?
答えないと言うのでしたら、貴方と話すことはありません」
決然と言い放って様子を窺う。
ネット上では既にキンブリーの悪評が立っているが、相手はそれを鵜呑みにする男ではないだろう。
ゆのから何かを聞いたとしても同様である。
ここはひとまず常識人を装うのがベターだ。
『警告だ。命を失いたくなければ、火遊びはやめておくことだな』
微妙な表現だ。
キンブリーの目論見をある程度看破しているのか、それとも鎌をかけているだけなのか。
「火遊び、とは何のことですかね」
『それはお前が最も良く解っているだろう……』
やり難い相手だ、とキンブリーは感じた。
キンブリーの行動について何処まで知っているのか、相手はそれを掴ませない。
自分のカードを伏せたまま、キンブリーの持つカードを探ろうとしている。
「どうやら何か誤解があるようですが――私は私なりに戦っている。それだけのことですよ」
『……』
ただ一つ確かなことは、相手はキンブリーの存在に何らかの価値を見出しているということだ。
そうでなければ、わざわざ連絡をする必要はない。
何らかの価値。そう、おそらくは――いや、ほぼ確実に『錬金術師』としての価値だろう。
具体的な要求をして来ないのは、今現在ではなく将来のための保険、といったところか。
「それで、結局何のご用件なんです? まさかご親切にも警告するためだけに連絡して来た訳ではないのでしょう?」
実の所、用件の見当は付いている。用件というより戦術というべきか。
つまり声質や口調から相手の年齢、性別、体格、性格、その他のプロフィールを推定すること。
見ず知らずの相手の利用価値を見極める手法としては基本の部類だ。
あわよくば環境音から場所の特定しようという考えもあるだろう。
こうして話しているだけでキンブリーに関する情報は次々に電話の向こうへと流れているのだ。
しかしキンブリーは解っていて敢えてそれに乗っている。
重要な情報は漏らさないという自信はあるし、上手く運べば逆に相手の情報を得られる好機ともなり得るからだ。
それに何より――強者の匂いは、キンブリーの芯を震わせてくれる。
『お前は、賢者の石とやらを手に入れて、何をするつもりだ?』
そして当然、この手の質問は想定済みだ。むしろこちらが本命である。
しかしこの言い回し。
賢者の石について詳細を知っている訳ではないらしい。
エドワード・エルリックやロイ・マスタングとは接触していないということだろうか。
いや――そう断ずるのは早計だ。
この男はとにかく感情が読めない。声だけでは嘘か真かの判断は不可能だ。
知らない振りをしているだけという可能性は十分にある。
「ふむ……そのご様子、察するに貴方、賢者の石の価値を把握してはいないのでしょう?
ここはまず賢者の石とは何か、からお話する必要がありそうですね」
『……』
「そう警戒しないで下さい。こんなことで嘘を吐いても仕方がありません。
それに、どうも貴方と対立するのは得策ではないと私の直感が訴えてましてね」
この男は甘言に弄されたり虚言に惑わされたりはしないのだろう。
だがそれならそれで――やりようはある。
「賢者の石とは――そうですね、平たく言えば錬金術の増幅器ですよ。
ああ、錬金術についての説明も必要ですか?」
『いや、続けろ……』
「そうですか。それなら……ご存知の通り――かどうかは知りませんが、錬金術には一定の法則が存在します。
石から水を作り出したり、一グラムの金を百グラムの金に増やしたりといったことは、通常不可能です。
ですが――賢者の石はその法則を根底から覆します。
それを媒介にすることで、あらゆる法則を無視した練成が可能となるのですよ。
あらゆる法則を無視した練成――実に魅惑的だと思いませんか? それはまさに神の御業に等しい。しかし」
そこで一旦言葉を切り、大仰に溜息を吐いて見せる。
「完全な賢者の石を作り出したという記録は、私の知る限り存在しません。故に通常、賢者の石と言った場合は不完全な物を指します。
これはモノによって形状が違うのですが、共通して深紅の色を持ち、一定量の力を放出すると壊れてしまいます。
ですが不完全とは言っても――それでも、錬金術師ならば誰しも喉から手が出るほど欲する代物なのですよ。
現に鋼のも求めているそうではないですか。大方、首輪を無理矢理分解しようと目論んでいるのでしょうが……」
『それは不可能だ』
「ええ。もし首輪が賢者の石の力で分解可能ならば、この場に賢者の石は存在しないはずです。
逆に、もし賢者の石がこの場にあるのでしたら、首輪は賢者の石の力をもってしても当然分解出来ないでしょう。
ですが――」
『……』
声を潜める。
「『神』の想定外の賢者の石があった場合。その場合は果たしてどうなのでしょうね」
言葉を切って、キンブリーは帽子を目深に被り直し、ちらりと窓に目を遣った。
四角く切り取られた世界は、絶え間無く降る雪に色を奪われ始めている。
何が言いたい、と抑えた声が耳に届いた。
キンブリーは、くっと軽く笑い、
「簡単なことですよ。無い物は――作ってしまえば良いのです。それこそが、我々錬金術師の本分なのですから」
事も無げに嘯いた。
少し間を置いて、しかし相手は事実を淡々と指摘する。
『現実には、お前も鋼の錬金術師も賢者の石の作成には至っていないはずだ……』
でなければ賢者の石を探すはずがない。
「ええ、そうですね。実際に作るには、当然ながら十分な設備が必要です。それと、材料も。
そして鋼のでは――性格上、賢者の石を作ることは不可能でしょう」
まあ設備の方は賢者の石が一つ手に入れば楽に造れるのですが、と当たり前のように言う。
「それでまあ、折角ですので、貴方には材料の確保をお願いしたいのです。無論、無理にとは言いませんが……。
何、こうして私に連絡を取ったということは、貴方も完全な独力での事態の解決が可能だとは考えていないのでしょう?
それなら、私の依頼は貴方の行動の妨げにはならないと思いますよ」
『……材料とは何だ?』
食い付いた。
にぃ、と口角を吊り上げる。
「賢者の石の材料は――」
――生きた人間です。
艶やかに、紅蓮の錬金術師は囁いた。
***************
安藤はトイレの個室に入ると便器に腰掛け、腹に隠した殺人日記を取り出して開いた。
折り畳まれた携帯電話を開くパチリという音が、思いの外大きく響いた。
大立ち回りのために気付いていなかったが、殺人日記には二通のメールが届いていた。
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Sub:どなたでしょうか
森あいさんか、安藤潤也さんの関係者でしょうか。
そうでしたら失礼ながら本人と確認可能な証拠を挙げて頂きたいのですが。
この状況では安易に信用することは不可能ですので。
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Sub:無題
君の書き込みを見た
気が付いてるかもしれないがID:mIKami7Aiはキンブリーという男だ
忠告しておく
こいつには関わらない方がいい
俺も危うくこいつに騙されるところだった
それと安藤潤也の居場所に関してなら俺に心当たりがある
旅館の近くで俺に槍を突き付けて「兄貴はどこだ?」と訊ねてきた少年がそれだ
知らないと答えたら教会の方へ走って行った
もしかしたら彼もキンブリーに利用されているのかもしれない
どうもまともな様子ではなかった
このメールは固定のPCで書いているので返信しても俺は読めない可能性が高い
もし俺に用があるなら掲示板に書き込んでくれ
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ごくり、と唾を飲み込む。
一通目のメールの差出人は、掲示板のID:mIKami7Aiに当たる人物――すなわちゾルフ・J・キンブリー――である可能性が高い。
そうでない可能性は無視しても構わないくらいだ。
潤也の身の安全と情報のためには、下手な対応をする訳には行かない。
二通目のメールの差出人は不明。
しかし自分の持つ情報をあっさり開示する辺り、あまり物事を深く考えないタイプだろうか。
この文面が事実を語っているのなら、差出人の居場所も大まかに特定出来てしまう。
いまいち頼りないが、逆にそこが信用出来そうにも思える。
ただこのメールを信用したとしても、『槍を持った少年』を潤也だと断定するには弱い。
自分達やエルリック兄弟の他にも兄弟はいるかもしれないし、何より潤也が見ず知らずの相手を脅すとは考え難いからだ。
ただし、キンブリーに何かを吹き込まれたとすれば判らないが。
その場合は取り返しがつかなくなる前に早急に保護する必要がある。
時間はあまりない。
考えろ。
考えろ。考えろ。考えろ。
一通目のメールがキンブリーからのものだとして――彼は安藤が『メールの差出人がキンブリーであると疑う』ことを織り込み済みでメールを送って来たことになる。
何しろ安藤は殺人日記のメールアドレスと同時にキンブリーの名を書き込んでいるからだ。アクシデントによって意味不明な書き込みになってはいるが。
自分がキンブリーなら、これは無視する。
キンブリーは破壊工作に長けた切れ者だという。
正体が露見した上に相手の情報源も判らないという状況で直接接触しようとするだろうか。
もう少し様子を見て、掲示板を通して情報を引き出そうとするのではないか。
この段階で接触してきた理由は――。
「あ……もしかして、IDに気付いてない……?」
キンブリーはエド達と同じく、インターネットの知識など持ち合わせていなかったはずだ。
それなら、ひょっとすると基本的なミスを犯している可能性もあるのではないだろうか。
IDに気付かず全て別人に成り済ましたつもりで書き込んでいるのなら滑稽としか言いようがないのだが。
「いや――でもそれは流石に……」
無いか。
最初は気付かなくても、これだけ何度も書き込めば気付くように思う。
IDに気付いていない振りをしているだけかもしれない。
だったらこの場合は『IDに気付いていない振り』に気付いていないと思わせておくべきだろうか。
いや、キンブリーがエドの言う通りの切れる相手なら、そこまで読まれている可能性も――、
「ああもう、こんがらかって来た! 大体キンブリーがどんなこと考えてるかなんて俺に解る訳が……いや待て」
違う。そうじゃない。
口に手を当てる。掌が汗でじっとりと湿っていた。
考えろ。
「……落ち着け。相手に合わせる必要なんてないんだ。重要なのは、要するに潤也のことだけだ」
考えろ、マクガイバー。
潤也に危険が及ばないように、出来れば情報を得られるように立ち回ればいい。
それなら――こんな感じで返信したらどうだろう。
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Sub:Re:どなたでしょうか
潤也の兄です。
本人確認なら、僕が中学生時代に所属していたサッカーチーム名でどうでしょうか?
僕と潤也以外は知らないはずです。
チーム名は「ゴールデンスランバー」
そこに潤也がいるなら確認して下さい。
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これは大嘘だ。
安藤はサッカーなんてロクにやったこともない。オフサイドの意味もよく解らないくらいだ。
キンブリーの下に潤也がいるなら、当然嘘とバレる。
だがそれは潤也がまだ――少なくとも喋れる程度には――無事でいるという証だ。
そして自分が潤也の兄の偽者だと思われている限りは、潤也の状況は変わらない。
もう一つのパターン、潤也がいない場合は――。
少し待っていると返信が来た。
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Sub:Re:Re:どなたでしょうか
確かに潤也さんのお兄様のようですね。
疑いをかけたこと、お詫びします。
提案があるのですが、何処かで合流しませんか?
人数が多い方が何かと有利でしょうから。
もし同意して頂けるなら合流場所の指定をお願いします。
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危ない。
潤也を餌に自分を釣り出すつもりか。
潤也がキンブリーの下にいると思っていたら、罠でも乗っていたかもしれない。
しかしこれで先のメールの『槍を持った少年』が潤也である可能性が高まった。
そしてその少年は、素直に考えれば道なりに教会、灯台付近を経由してこちら側――北部市街を目指すのではないか。
様子がおかしかったのは、キンブリーから逃げ出したばかりで気が立っていたから――かもしれない。
これは希望的観測に過ぎるか。
とにかく、もう無闇にキンブリーに関わる必要は無い。
適当に誤魔化してこのやり取りを終わらせるべきだろう。
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Sub:Re:Re:Re:どなたでしょうか
助かります。
それでは次の0:00少し前くらいにH-03の小学校でどうでしょうか?
細かい時間や場所はそのときにまたということで。
すみませんがそれまでしばらく潤也をお願いします。
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意味があるかは判らないが、一応自分達や潤也とハチ合わせし難そうな場所へ誘導しておく。
当然行くつもりはない。
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Sub:Re:Re:Re:Re:どなたでしょうか
それで構いませんよ。
ではまた、後ほど。
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「大丈夫、大丈夫だ。ミスは犯してない……多分」
でも、本当にこれで良かったのだろうか。
こんな抜け駆けのようなことをするのではなく、エドとゴルゴに正直に相談して知恵を借りるべきだったのではないか。
何しろ、彼らは自分よりも修羅場慣れしているし頭も回る。
今からでも打ち明けた方が――。
しかし悩んでいる余裕ももう無い。
そろそろ戻らないと怪しまれる。
安藤は酷く陰惨な表情で立ち上がった。
***************
「ざっけんなッ! んなこと出来るかってんだよ、大馬鹿野郎!」
大水槽が見えるエリアの手前に差し掛かったとき、怒りを顕わにしたエドの大声が安藤の耳に届いた。
エドの声とは対照的な、冷水を浴びせるような声も聞こえて来る。
「だが、首輪の構造を『理解』しなければ『分解』と『再構成』には至らない。そうだったな?
そしてこの首輪は少し弄った程度で『理解』出来る代物ではあるまい。ならば……」
だからって、とエドがゴルゴの言葉を遮る。
順路の角を曲がると、十字架を背負った特徴的な赤いコートが目に入った。
もう、立ち直ったのか――反射的にそう思った。
そして、エドが立ち直ったことに少しだけ不快感を覚えている自分に気付き、愕然とした。
胸の内に巣食った黒い塊がぶよぶよと醜く膨れる気がした。
とても後ろめたかった。
「死者の首を刈るなんて、そんなことが……」
「生者のものを使うのでなければ、それ以外に方法は無い」
「いや……くそ、待てよおい」
二人は戻って来た安藤など眼中に無いといった様子で睨み合っている。
緊張した空気とは裏腹に、安藤は少し安堵していた。
これなら後ろめたいこの気持ちを読まれることは――多分ないだろう。
幸いにして、今来たばかりの安藤にも事情は呑み込めた。
今後の方針として、まず首輪を外す手段を見付ける――と考えるのは自然なことだが、そのためにはサンプルとなる首輪が必須だ。
だが現在、自由に出来る首輪は一つも手元に無い。
関口伊万里と名乗った少女は首輪を一つ持っていたが、それを考慮に入れても一つだけでは解体などの大胆な実験は出来ない。
故に、首輪を最低でももう一つ、可能ならばもっと多く手に入れる必要がある。
そしてその入手法を巡って二人は対立しているらしい。
適当な死体を見つけて首を落とせばいい、とゴルゴは主張し、エドがそれに難色を示しているという構図だ。
しかし、エドの旗色の悪さは傍目にも明らかだ。
死体以外から首輪を入手することは現実的に不可能なのだから。
くそったれ、と吐き捨ててエドは金髪を乱暴に掻き毟った。
自分の主張がただの感情論でしかないことを内心では理解しているのだろう。
しばらく苦虫を噛み潰したような表情で黙っていたが、やがて諦めたように、しかし芯の通った声で言葉を発する。
「……だったら、交換条件だ。首輪は、解った、それでいい。生きてる人間を優先するのは当たり前だからな。
ただその代わり、これから相手が誰であろうと殺さないと――」
「断る」
約束してくれ、とエドが言う前に、ゴルゴは素早く拒否した。そしてポーカーフェイスを崩さずに続ける。
「俺がお前の拘りに付き合う理由は、無い」
ぐっと言葉に詰まるエド。
安藤は何となくゴルゴの行動原理の一部が理解出来たような気がした。
要するに、彼は守れない約束は絶対にしないのだ。
鳴海歩が『安藤を護ってくれ』と言うのではなく回りくどい言い回しで依頼をしたのも、それを見抜いたからではないか。
今更ながら歩の頭の回転に感嘆し――翻って己の愚鈍さが嫌になる。
「……分かった、分かったよ、畜生……。あんたはきっと正しいさ。
でもな、オレはもう絶対に殺しはしないし、あんたにもさせたくない。
だから――『殺した奴から首輪を奪う』ことだけはやめてくれ。故意だろうと過失だろうと、だ。
じゃなきゃ、オレはあんたに金輪際協力しないぞ」
積極的な殺人の禁止。
エドはこれだけは譲れない、といった様子でゴルゴを睨み付けた。
ゴルゴの貫くような視線を正面から受けてなお折れないエドを見て、安藤の内に黒い羨望のような感情が渦巻く。
「……いいだろう……」
予想に反して、ゴルゴは割とあっさり頷いた。
相変わらずその胸中は読めない。
エドも拍子抜けしたような表情で、しかし探るような目を向けている。
だが取り敢えず首輪を外す方法の模索とその第一ステップについての意見は一致したようだ。
安藤にも異論は無い。というより、首輪に関して安藤が出来ることなどないのだ。元より何かを言える立場ではない。
ないのだが――気になることがあったので口を挟んだ。
「なあ、あのさ、工場のときから思ってたんだけど」
エドがこちらを向いた。ゴルゴは視線だけを向ける。
どうにも居心地が悪い。
「えっと、こういうこと堂々と話してて大丈夫なのか?」
「何がだ?」
「何がって、首輪を外す算段とかだよ。だって多分、こういう会話とかは、その……」
監視されているんじゃないか。安藤は躊躇いがちに意見を述べる。
「認識がずれているな……」
「え?」
珍しく、ゴルゴが曖昧な物言いをした。
いや、安藤が曖昧だと感じただけで、エドは至極当然という顔をしている。
「こう言っちゃ何だけどよ、オレ達が首輪を外そうと考えることくらい、よっぽどの間抜けじゃない限り最初から想定してるだろ」
それは、そうなのだろうと思う。
「あのクソガキ共にとっちゃ、首輪なんて外されようがどうしようが大した問題じゃねえんだよ」
そう言って、エドは渋面を作った。
ゴルゴがエドの後を引き継ぐ。
「奴らには俺達全員を拉致出来るだけの能力がある。殺し合いを強いるにはその事実だけで十分だろう。
この首輪は解り易い脅しに過ぎない」
それは――言われてみれば当たり前だ。
首輪が無くても十分に絶望的な状況であることには変わりない。
殺し合いを止めるには、首輪を外すだけでは駄目なのか。
「それに俺達を殺したいなら、首輪にこだわる必要は無い。この島ごと焼き払えばいいだけだ……」
奴らにとっては大した手間ではあるまい、とゴルゴは静かに結んだ。
「実際、あのピエロ野郎の武器――雷公鞭ってヤツは、こんな島なんて軽く消し飛ばせる威力だっつー話だ。
舐められてんだよ、何が出来る、ってな。少なくともプライドの奴はそう思ってやがるぜ」
「プライド?」
初めて聞く名だ。
「ん? ああ……悪ぃ、気が動転してて話してなかったか。さっきの放送の声な、ありゃオレの知ってるヤローだ。
普段はセリム・ブラッドレイって名前の人間の振りをしててな。大総統の……ああ、いや、それはどうでもいいか。
子供の姿をしてるんだが、ホムンクルスの一人で、とにかくタチの悪いヤツだ。
本体は目玉だらけのうぞうぞした影みたいな――まあ、化け物だよ」
見た目もだがそれ以上に中身がな、とエドは結んだ。
どうやら彼はそのプライドと以前戦ったことがあるらしい。
口振りからして、黒幕の一人であってもおかしくはない怪物なのだろうということは安藤にも想像が付く。
エドは簡単にプライドの特徴を話して、そして元の話に戻る。
「んな訳で――最初にほざいてやがった、殺し合いの過程においては何の反則も無いってのは、多分文字通りの意味なんだろ。
本当に首輪を外されて困るなら、解析されて困るなら、少なくとも死者の首輪は爆破するだろうからな。
そうしないってことは、どうやったって外せないっつー自信があるか――」
「外されたところで問題は生じないと考えているか、だ……」
エドが息を吐いた。
重苦しい沈黙が流れる。
安藤は首筋に手を触れた。
この絶対的な枷すら『神』にとっては瑣末な要素だというのか。
考えれば考えるほど絶望的だ。
「けどとにかく、プライドが絡んでるってことは、この殺し合いはただのゲームじゃないんだろ。
何を企んでやがんのかはまだ解んねーけど。あいつらは国をゲーム盤みたいに扱う連中だ。
高々七十人やそこらなんて思い通りに動かせると踏んでるんだろうけどな――」
――その油断こそが唯一にして最大の勝機なのだ。エドとゴルゴの眼がそう語っていた。
「……ってああ、やっべえ!」
「ど、どうしたんだよ、急に」
唐突なエドの叫びに、思わず安藤はきょろきょろと周りを見回した。何があったのか。
「忘れるとこだった。リン達に連絡取らねーと」
あ、と安藤も間の抜けた声を上げる。
確かに本来なら真っ先にすべきことだ。
「でも、どうやって?」
「あー……っと、そうだ、確か例の携帯電話を持ってるのはイマリだったよな?
……アンドウ、お前、電話番号とか聞いたか?」
聞いていない。
仮に聞いていたとしても、安藤は一度聞いただけの電話番号をずっと覚えていられるような記憶力は持ち合わせていないが。
「いや、あれを直したのはエドだろ。錬金術で。何だったっけほら、『理解』とかいうので電話番号も判るもんじゃないのか?」
「電話の設計図を見ても電話番号は判んねーだろ」
もっともである。
「くそ、こんなことなら電話番号くらい確認しときゃ良かったか」
エドは眉間に皺を寄せて爪先で床をとんとんと叩く。
すぐに合流するつもりだったとはいえ、迂闊だったと言われれば反論は出来ない。
おそらく探せば電話の一つくらいすぐに見付かるだろうが、肝心の電話番号が不明では話にならない。
ならば少々面倒でもネットを介して連絡を取るしかないだろう。
エドは黙って二人のやり取りを眺めていたゴルゴに向き直った。
「なあ、さっき上の方でパソコンとか――」
「使え……」
エドが切り出す瞬間を待っていたかのように、ゴルゴがエドに対して静かに何かを差し出した。
虚を突かれたエドは片眉を下げた変な表情でそれを受け取る。
「これは……」
安藤とエドの声が重なった。
携帯電話だ。ベージュの地にピンクの大きなハートマークが描かれている。殺し合いの場には似つかわしくない。
「…………あんたの趣味か?」
「民家から回収したものだ。俺の分はここにある」
ゴルゴはエドの発言を無視して懐から白い携帯電話を取り出した。
そして電話番号とメールアドレスを二人に教える。
それを聞いてから、エドが不満そうな声を上げた。
「何だよ、トウゴウ……あ、ゴルゴ13……だったか?」
「東郷でいい……」
「んじゃあ、トウゴウのオッサン。こんなもんがあったんなら、さっきあんたが上に行く前に渡してくれりゃ良かったんじゃないのか?」
安藤も続く。
「そうですよ。そうすれば……」
「そうすれば、何だ……? 俺が連絡手段を持っているかどうかは、まず最初に確認すべきことだろう。
先程のお前達は、冷静さを欠いていた。その程度のことにも頭が回らない程に、な……。
そんな状態では、情報はただの毒にしかならないものだ……」
淡々と、かつ一方的にそう述べると、ゴルゴは自分の携帯電話を確認し始める。
正論なので何とも言い返せない。
とにかく、ネットを確認してみる必要がある。
もしかしたらリン達の方が自分達にコンタクトを取るべく既に書き込んでいるかもしれない。
エドが暗記していた『みんなのしたら場』のURLを携帯電話に打ち込んだ。安藤も横から覗き込む。
内容を確認しようとして、最初に表示された書き込みに思わず目が留まった。
「何だこれ……」
最上部のスレッド。
そこにたった今投稿された異様に長くて目立つ書き込み。
それを読んで――エドと安藤は非常に形容し難い表情で、互いに顔を見合わせた。
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1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
12(?):麗しき貴族“C”からの招待状 投稿日:1日目・午後 ID:7thmaRCoI
諸君! 僕が麗しき貴族C.公明である!
僕の伝説は紀元前から始まった!
僕の武勇伝が聞きたいかい?
そう、あれは千五百年前の事だった……!
(クソ長いので中略)
集合は午前0時、第4回放送の頃だ。シンデレラの魔法が解けるのと引き換えに、素晴らしき戦いの時間が始まるのさ!
オー・ルヴォワール、願わくばまた会おう! また会おう……!
そしてトレビアーンに戦おうじゃないかっ!
----
【A-3/水族館二階/1日目/午後】
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:全身打ち身(中)、腹話術の副作用(中)、魔王覚醒(?)
[服装]:泥だらけ
[装備]:殺人日記@未来日記
[道具]:なし
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦う。マーダーを折りを見て倒していきたい。
0:何だこれ……。
1:エドの信頼を得て、首輪を外す手段と脱出の手掛かりを探る。そのためにエドとは一緒にいておきたい。
2:潤也と合流したい。
3:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
4:第三回放送頃に神社で歩と合流。だが、歩本人へ強い劣等感。
5:東郷に対し苦手意識と怯えを自覚。
6:『スズメバチ』の名前が引っかかる。
7:エドの機械鎧に対し、恐怖。本人に対して劣等感。
8:リンからの敵意に不快感と怯え。
9:関口伊万里にやりどころのない苛立ち(逆恨みと自覚済み)。
10:危険人物は、可能なら折りを見て殺す。
11:殺人に対する後悔。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※我妻由乃の声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。由乃を警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※掲示板の情報により、ゆのを一級危険人物として認識しました。
※腹話術の副作用が発生。能力制限で、原作よりもハイスピードで病状が悪化しています。
※落下中に上空のドームを見ていますが、思い出すかどうかは後の書き手さんにおまかせします。
※九兵衛の手記を把握しました。
※殺人日記の機能を解放するかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※潤也らしき人物が北部市街地へ向かっていると思っています。
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ及び擦り傷、デカいたんこぶ、頭部に裂傷(小・手当て済み)
[服装]:愛用の赤いコート、膝下濡れ
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則、携帯電話(ベージュ+ハート)
[道具]:支給品一式(二食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記、食糧1人半分、割れた鏡一枚
[思考]
基本:皆と共にこの殺し合いを叩き潰す。
0:何だこれ……。
1:リンと合流したい。
2:計画≠フ実現を目指す。そのために神社や付近の施設の調査。
この島で起こった戦いの痕跡の場所も知りたい。
3:出来れば聞仲たちと合流。
4:キンブリーの動向を警戒。
5:リンの不老不死の手段への執着を警戒。
6:安藤との出会いに軽度の不信感。
7:首輪を調べたい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました。
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
※インターネットの使い方をおおよそ把握しました。
※“混線”の仕組みを理解しましたが、考察を深めるつもりは今のところありません。
※九兵衛の手記を把握しました。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。
プラントはホムンクルスに近いものだと推測しています。
また、島の中央に何かがあると推測しています。
【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(8/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂、携帯電話(白)
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)、熱湯入りの魔法瓶×2、ロープ
携帯電話(黒)、安物の折り畳み式双眼鏡、腕時計、ライターなどの小物、キンブリーの電話番号が書かれたメモ用紙
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
1:護衛対象を守る。
2:エドと協力して首輪を確保、解析する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
4:歩からの連絡を待つ。
5:キンブリーに対して……?
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
結崎ひよのについては含まれません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※我妻由乃、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※旅館のボイラー室から島の上空へと繋がるワープ空間の出口の移動の法則を把握しました。
※一日目午前の時間帯に、島の屋外で起こった出来事を上空から見ていた可能性があります。
※エドと情報交換しました。
【H-8/図書館/1日目 午後】
【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:白いスーツ
[装備]:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記(充電中)
[道具]:支給品一式×2(名簿は一つ)、ヒロの首輪、キャンディ爆弾の袋@金剛番長(1/4程消費)、ティーセット、小説数冊、
錬金術関連の本、学術書多数、悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:パソコンと携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
3:首輪を調べたい。
4:森あいや、ゆのが火種として働いてくれる事に期待。
5:入手した本から「知識」を仕入れる。
6:参加者に「火種」を仕込む?
7:神の陣営への不信感(不快感?)
8:未来日記の信頼性に疑問。
9:白兵戦対策を練る。
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。
※ゴルゴ13を警戒しています。
代理投下終了です
エドは落ち込んでもやっぱり強いな
ゴルゴも自分の為すべき事を着実にこなしているな
キンブリーとの会話は果たして
安藤は後悔するも、もはや後退出来ずか…
投下乙でした
代理投下乙です
ゴルゴは着実になすべき事をこなしてるな…それが彼以外にどう影響するかは不明だが
キンブリーとの秘密の糸はまだ繋がったままだろうし…
エドも安藤も今は前に進むことを諦めないが…
そしてここで貴族Cかよw
代理投下乙です
代理投下乙です
エドは殺人で落ち込んでも変わらんな
ゴルゴとキンブリーのやり取りは実にらしいわw
だがさすがのキンブリーも相手が悪いかも
安藤はここに来て後悔はしてるが…
投下乙です!
うん、そりゃあ後悔するよなあ。
安藤もゆのっちなみにじわじわ追い詰められてw
弟も退場したしこれからも転落しそうw
そして交換日記コンビは本当掻き回してるなー。
エドはさすが主人公。
沙英、銀時、ひよので投下します
歴史を感じさせる古ぼけた木製の湯口から、無色透明な熱い湯が溢れだす。
傾斜が付いた玉砂利の道を通って流れ落ちた湯が、まるでミニチュアの滝のように湯船に叩きこまれると
水流が砕けて飛沫が舞い、もうもうと白い湯気が湯殿に立ち昇る。
浴室の内装は一部天井が破れ壁も半壊しており、ほとんど露天風呂とも言える風情であったが、それでも屋内は屋内。
凍えるほどにまで冷えた外気温に抗するように、玉石が敷き詰められた湯船の辺りには一メートル先も見通す事が
出来ないほどの白くうっすらとした湯けむりが、立ち消えもせずに籠っている。
しかし、そこに一陣の微風がそよぐ。
外界から流れ込んだ風が、僅かに湯気という白きヴェールを剥がすと、広い湯船に一人ぽつりと背中を向けて浸かる
細身のシルエットが現れた。
ただ細いというわけではない。
目を凝らしてよく見てみれば、しなやかな野生動物を思わせる引き締まった筋肉の存在に気が付くはずだ。
特に二の腕などにはまったく贅肉が存在せず、同世代の人間ならば思わず嫉妬混じりの吐息をもらすことであろう。
濡れた髪が張り付くうなじから、肩甲骨のラインに沿って曲線を描きながら一滴の雫が伝い落ちる。
人影が動いたのだ。
影は、湯船に浮かぶお盆を手元に引き寄せると、そこに載せられた五つの湯呑に手酌でとっくりを傾ける。
湯の香りに混じり、米から醸造された酒独自の香気がふわりと広がった。
一つ一つの湯呑に、ゆっくりと酒が注ぎ込まれていく。
そうして、やがて全ての湯呑に酒を注ぎ込み、陶器同士の奏でる軽やかな音を都合四つ鳴らし終えると、
影はその手に持った湯呑を口元へと運ぼうと――
「ん?」
したところで、何かに気付いたように“こちら”に振り向く。
と、たちまちのうちに、その表情が不機嫌そうに歪んだ。
「オイイイイッ! 今日びの読者様がそんな二番煎じで騙されてくれるかっつーのっ!
バレバレだろーがぁ!?
俺ァー銀は銀でも、かげろうお銀じゃねーんだっ!!
映すんだったらきっちり女の子のサービスシーンでも映しやがれっ!」
その場には誰もいないというのに、湯を掻き分け、形相を変えて男は……銀時は“こちら”に近付いて来る。
ざばざばと、揺れる湯のせいか画面が歪み、男の姿は次第に像を結ばなくなる。
そしてドアップで何かが映り込むほどの距離まで近付くと銀時は怒鳴る。
「ハイッ! カメラさんちょっと時間巻き戻してェーーーッ!
番組名は『由美かおるさん、これまで200回以上の入浴シーンお疲れさんっしたァーーーーッ!! 記念スペシャル』
で、お二人さんあとよろしくぅーっ!
キュキュキュキュキュッ! キューッ!!」
タイトルコールと共に“こちら”に向かい、ビビシッと銀時は指を突きだす。
すると、徐々に周囲が暗くなっていき
――――暗転。
◇
川のせせらぎのような音が、絶えることなく流れている。
その正体は贅沢に、そして潤沢に湯船に供給される源泉掛け流しの湯の奔流である。
憩いの一時を演出する風流な調べに、しかしこの温泉客が気付く事はない。
麻痺毒に犯された己が肉体を癒す間も、同行者の安否を気遣っているのか。
その特徴的な眉毛は焦燥に歪み、今にも湯船から飛び出しそうな――
『イヤ、戻りすぎだろォーーーッ!?
どこまで戻ってんだ!?
リテイク、カット2ーー!!』
――――再度、暗転。
◇
かぽーん
「はぁー、ごくらくごくらく、ですねぇー」
沙英と向かい合わせに座る少女が、蕩けたような声を出す。
湯船の中で心底くつろいで手足を伸ばす、この少女の名前は関口伊万里。
殺人者たちからの逃避行の際、犠牲となってしまった少年と機械に黙祷を捧げた後、改めて仲間となった少女だった。
一覧して判るように、名簿にそんな名前は載っていない。
その、あからさまに怪しい少女とこうして一緒に風呂に浸かっているのは、別に女同士、裸の付き合いで絆を深めよう
などというわけではなく……この温泉の効能が、麻痺毒に侵された沙英の解毒に効きそうだったからである。
「沙英さん。あとで背中の流しっことかしましょうねぇ」
「う、うん……」
整った顔立ちをだらしなく緩ませた目前の少女を見ていると、脱衣場での事が思い出されて、沙英の顔が赤く染まる。
敵の攻撃で、麻酔に掛かったかのように体の感覚すら失った沙英は当然、身動き一つとる事が出来ず……
この少女の介助で服を全て脱がされてしまったのだ。
それも普通に脱がせてくれればまだいいものを、一々こちらの羞恥を煽るように
「うわぁ、沙英さん、脚長くてキレーですねー」
だの、
「とってもスリムで羨ましいです」
などと服を脱がされるたびにスタイルについて無遠慮に論評され、あげくの果てには
「……な、なんだか、お人形さん遊びみたいで興奮してきちゃいましたよ……
はぁはぁ、沙英さん大人しく脱ぎ脱ぎしまちょーねー」
などと血走った目で言われては、沙英としても到底安らかに体を預ける気になどなれるはずもなく、
この正体不明のふざけた少女に自分を簡単に預けてしまった銀時に、恨みごとの一つも言いたくなったものである。
まぁ、確かに悪い子ではないとは思うのだが……
(ううん、今はそんな事気にしてる場合じゃないんだ、うう、忘れる……忘れれば……忘れろ……忘れて……
忘れた……忘れよう……忘れな……っ!? いやいや、忘れるんだって……)
この島に来てからというもの、もはや座右の銘ともなった言葉を、沙英は呪文のように脳内で唱え続ける。
一方、そんな風に顔を紅潮させている沙英の様子を見て、関口伊万里こと、結崎ひよのも小首を傾げて声を掛けた。
「大丈夫ですか? 沙英さん。
湯あたりしそうなら、一旦お風呂から上がったほうが……」
「ん? う、うん、まだ大丈夫だよ。あんまり時間無駄に出来ないし……少しでも早く毒抜きしなきゃ……」
そう、こうしている間にも、ゆのが危険にさらされているかもしれないのだ。
いつもであれば、風呂からあがる頃合いにまで温まっているのだが、まだ体は痺れている。
沙英はわずかに身じろぐと、額に当てた濡れ手ぬぐいを押し上げる。
「そうですか、無理はしないでくださいね。
私はちょっと失礼して……」
ひよのは湯船から立ちあがると、髪の毛を纏めるために巻いていた手ぬぐいを解く。
栗色の長い髪をふわりとなびかせて沙英の隣まで移動すると、そのまま風呂の縁の岩盤にぺたんと尻を下ろした。
その動きに釣られるように、沙英はちらりと少女を見上げる。
半壊した壁面から僅かな光が注ぎ込む大浴場の中、薄手の手ぬぐいで無造作に前を隠した裸身が白い稜線を描きだす。
湯から上がって、ホゥと吐息を漏らすその横顔は、幼さと大人びた貌が同居しているようで、あらかじめ同い年だと
聞いていなければ年上なのか、年下なのか判断がつかない不思議な印象を受けた。
「……ねえ、聞いてもいい? なんで偽名なんて使ってるの?」
名簿で参加者の名前が公表されている以上、偽名なんて使ってもすぐバレるし、無駄に信頼を失うだけなのではないのか。
しかも日本人の女の子っぽい名前は現時点でも相当少なくなっているし、放送が入れば更に特定しやすくなるかも知れないというのに。
その沙英の疑問を、ひよのはいたずらっぽく笑って受け流す。
「ですけどそれって、主催側が用意した情報を信用した上での判断ですよね。
私の名前なんて、そもそも載っていない可能性や、
この島に存在しない人の名前が載っていて、存在している人の名前が載っていない。
そんな可能性だってあるのに」
「それは……でも、今までだって名簿に載ってない人と会った事なんてないし、放送でだって……あっ……」
そこまで喋ると、放送もまた、主催側からの情報でしかない事に沙英は気付く。
「……ふふ、嘘ですよ。一つの可能性を提示しただけです。
実際には私を特定出来る名前が名簿には記されていますし、名前を偽るメリットよりもデメリットのほうが
大きい事は認めます。
でも……それでも、私には正体を隠さなければいけない必要があるんです」
「正体を……隠す必要?」
一転、表情を変えて深刻な顔になったこの少女に、どんな秘密が隠されているというのか。
沙英は思わず息を呑み、ひよのの次の言葉を待つ。
「はいっ! それは……最愛の『彼』に心配をかけたくないからなんですよっ!」
「……彼……いるんだ……?」
上気する頬に両手を添えて、気色悪く体をくねらせる少女の姿が、そこにはあった。
そしてそれをどんよりとした瞳で見つめる少女の姿も、そこにはあった。
「ええ、ようやく私の想いを受け入れてくださいまして……『彼氏彼女の関係』だなんて言われると照れちゃいますけど」
「いや、あんたが言ったんでしょうが……」
「そういえば、沙英さんも銀さんといい感じじゃありません?
あんな風に抱きかかえられちゃって……憧れちゃいますねーコノコノー」
「えっ!? ええー! やめてよー、あんなふんどし男!
それに……そんな事考えてられる状況じゃないよ……こんな大変な事になってるのに……」
「こんな状況だからこそ、ですよ。
恋する女の子は無敵になれるんですからっ!!」
「あ、あー、でもさ。心配をかけたくないからって、わざわざ素性を隠したりする事無いんじゃないの?
そこまでしなくても……」
なんだか妙な方向に話が進んできた事を察知して、沙英は強引に話を元に戻す。
「何言ってるんですか、これでもまだ用心が足りないくらいですよ。
例えば×印の髪留めとか、そういう目立つ特徴があるような人は悪評バラまかれちゃいますからねっ!」
×印の髪留め。
それを聞いて沙英の心臓がどきっと跳ねあがる。
思わず勢いよく立ちあがると、沙英はひよのの肩を掴んだ。
「悪評って……それ、どういう事?
ゆのの事、何か知ってるのっ!?」
悲鳴にも似た叫びが浴場内に木霊する。
声を出すと同時に、さーっと血の気が引いたのが判った。
レンズ越しの視界が歪む。
立ち眩み。
あ、まずいと思ったが遅かった。
足下がぐにゃりと崩れる。
言うことを聞かない体を受け止めてくれる、熱く柔らかな肉の感触。
それを感じながら、沙英の意識は暗転した。
◇
「沙英さん、沙英さん……」
「ん……」
ざぁざぁと潮騒の音が聞こえる。
目覚める直前のような、中途半端なまどろみが心地いい。
このまま眠ってしまいたい。
そう思ってしまう心の天秤が、名を呼ぶ声によって僅かに傾く。
吸い込まれてしまいそうな睡魔の誘惑に、少し名残惜しさを感じながら沙英がゆっくりと目を開けると、
二つの膨らみの向こうで、心配そうに自分を見下ろしている少女と目が合った。
意識が急速に回復し、状況を認識する。
体は既に風呂の中から、硬いタイルの上に引きずり出されている。
未だ火照った肌は乾いてもおらず、さほど時が経ったようには思えない。
沙英は、張りのある太腿の上に置かれた頭を起こそうとしたが、そっと肩を抑えられた。
「もう少し、横になっていたほうがいいですよ」
「うん……ありがとう、ごめん……」
再び、ひよのの膝枕の上に頭を預ける。
こんな事では、ゆのを助けるどころの話ではない。
自分の醜態が気恥かしくて、沙英は顔を背けた。
内側から破壊された壁の向こうに見えるのは、和風に整えられた旅館の中庭。
静謐さを湛える池の水面に、白い粉雪がひらひら舞い落ちて、波紋も残さずに溶けて消える。
そんな光景を、沙英はぼんやりと見遣る。
吐く息が白い。
ぐったりと床の上に横たわる身体から熱を奪う、ひんやりした空気が気持ち良かった。
そんな沙英をあまり刺激しないよう、ひよのは言葉を選んでインターネットでの、ゆのの評判を伝える。
そこには作為的な情報もあり、読んだ人がその情報を信用するとは限らないという事も申し添えて。
「そんな……酷いよ。ゆのが……あの子が殺し合いになんて、乗るわけない。
なんで、そんな嘘つく人がいるの……?」
それでも、心配する後輩の悪評を聞いて、沙英の心は不快にイラだつ。
色々と予想はしていたが、やはり状況は最悪らしい。
そんな状況を生みだした諸々の要因への、持って行き場のない怒りが込み上げて来て、きつく握りしめた拳をタイルに叩きつけた。
手がジンと痺れる。
無力だった。
後輩一人探してあげる事も出来ない、自分の無力さが悔しかった。
震える沙英の握り拳を、ひよのの掌が包み込んで持ち上げる。
思わずひよのの顔を見上げると、思いのほか強く、真摯な視線がそこにはあった。
「諦めたら、駄目です。
まだ出来る事はいっぱいあるはずですよ。
……それに沙英さんは一人じゃありません。銀さんもいるし、私だって手伝っちゃいます。
まずは、身体を治しちゃいましょう。それと、ゆのさんや沙英さんのお話をもっと聞かせてください。
こう見えても私、名探偵の助手を務めていたりするんですよ?
彼女が行きそうな所とか、見当が付くかもしれません」
ぎゅっと包み込まれた手が暖かい。
沙英は少しだけ微笑むと、ゆっくりと起き上がってその手を握り返す。
「そう、だよね。私が諦めたら、そこで『試合終了』なんだよね……
ありがと、伊万里。
ちょっと元気出た」
向かい合う二人の少女。
その少女たちの裸身を、急に吹きこんできた今日一番の冷たい風が撫でる。
「「ックシュン!!」」
同時にくしゃみ。
思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
「あは、ちょっと湯ざめしちゃいましたね。
もっかい入りましょうか」
しばらくぶりに浸かる湯は、脚が溶けそうなほど熱く感じた。
ほとんど外気と同等の温度の浴室内の寒さは、あっというまに身体の末端から熱を奪っていたようで、だとすれば
自分より前に、湯からあがっていた伊万里は結構寒かったのではなかったかと、今更ながらに沙英は気付く。
自分を介護する為に我慢してくれていたのだろうか。
その気の使い方に、沙英は亡き親友の事を思い出す。
(変な子だけど……友達に、なれるかな)
肩まで湯に浸かり直して、沙英は自分やゆの、ひだまり荘の仲間たちの事を語りはじめる。
この島で生まれた、新たな絆に僅かに心を満たされて。
ただ、空虚になった心の間隙に、何か別のモノを詰め込みたかっただけなのかも知れないけれど。
◇
「えーっ、沙英さんってプロの作家さんなんですか? 高校生で、現役作家だなんて凄いですっ!
高校生探偵くらいレアな存在じゃありませんかね!?」
「そ、そーかなー、あはは」
雑誌で恋愛小説を連載してるだなんて、つい喋ってしまったのは口が滑ったのか、この子が聞き上手だったのか。
若干喋り過ぎたかなと思いながら、沙英は苦笑いを漏らす。
先ほどまでお喋りしながら湯船に浸かっていた沙英であったが、よほど強力な麻痺毒だったのか、
その毒は中々抜けきらず、今は再び湯からあがって、ひよのの背中を流していた。
華奢な肩から、括れた腰までの範囲を丹念に手ぬぐいで擦りあげる。
腕を動かすたびに少しビリビリするが、それに眼をつぶれば普通に動けなくもない程度には回復していた。
おそらくあともう少し湯に浸かれば、この痺れも取れるだろう。
「もしかして、そのひだまり荘って、芸術の才能に満ちた人たちが集う場所なんですか?
トキワ荘みたいな」
「えー、そんな事無いって。ただ、学校に近くて便利ってだけだよ。
まぁ、宮子は色んな意味で計り知れない奴だったけど……はは……」
軽口を叩くひよのの、泡まみれになった背中を手桶に汲んだ湯で洗い流す。
肌理の整った肌が水を弾いてその姿を現すと、沙英はその背中をパンと叩いた。
「ハイ、交代」
衝撃でぷるっと柔らかげに胸が揺れたのを、少し羨ましく思いながら沙英は椅子の向きを変える。
ほどなくして背中から伝わる、心地よい感覚に身を任せて眼を閉じた。
こうしていると、前にみんなで銭湯に行った時の思い出が脳裏を横切ってしまう。
期せずして、目頭が熱くなってしまい――
「ひゃああああんっ!!」
突然、もたらされた刺激に、沙英は妙な声をあげてしまった。
反射的に眼を見開いて胸のあたりを見てみれば、そこには背中から突き抜けたひよのの手があった。
脇の下に突っ込まれた手ぬぐいが、石鹸の勢いでぬりょっと滑ったのだ。ぬりょっと。
「ちょっ! 伊万里っ! ソコはいいってば……っ!! 馬鹿っ、痺れが……!!
あっ! くひゃああっ!!」
沙英の抗議もそっちのけ。
ひよのの指がわっしゃわっしゃと弄るように、沙英のほっそりとした脇腹の上を這いずりまわる。
まだ痺れの残る肌の上を、ビリビリと刺激が走りぬけて――
「あ、あはっ、あははっ、コラッ、いいかげんに……しなさいっ!!」
振り向きざまに大上段に構えられた沙英の手刀が、ひよのの脳天に直撃する。
へご、と妙な声を発して、少女は沈黙した。
「ハァ……ハァ……も、もぅ、いきなりなんだって言うのよ……」
涙目で頭を抑えるひよのを、沙英はジト目で見る。
「そ、それはそのぉ……沙英さんが、なんだか悲しそうだったから」
何かを隠すように、わたわたと変化する顔を、真面目な表情に作り変えて。
合掌するように手を胸の前で組むと、ひよのは歌うように語りだす。
「顔を俯けていては一歩踏み出すその先に、何が待っているのかさえ分からなくなってしまいます。
絶望しか用意されていない運命の中でも、微笑んで前を見る事の出来る人だけが、未来を切り開く……
ふがっ!」
切々とした調子で語る少女の頬の肉をつまみあげると、沙英はぐぃっと横に引っ張る。
座った目で睨みながら、騙されないぞとばかりに顔を寄せる。
「あんたー……そんな、もっともらしい事言って、また煙に巻こうとしてるでしょー?」
頬から手を離すと、沙英はわきゃわきゃと指を蠢かせえる。
その動きは、とてつもなくいやらしく――
思わずひよのはぞくりと背筋を震わせて椅子から腰を浮かせると、手で胸を隠すようにして脇を締める。
光の反射で、眼鏡の向こうの沙英の表情が見えなかった。
「あ、あはは……沙英さん、ちょっと落ちつきましょうよ……ネ?」
「ダーメ……すっごく、くすぐったかったんだから……覚悟しなさい伊万里っ! お返しよっ!!」
沙英が襲い掛かると同時に、ひよのは脱兎のごとくお尻を向けて逃げ出した。
大浴場を舞台に、今始まる少女たちの鬼ごっこ。
その黄色い歓声が止むには、今しばらくの時間が必要であった……
◇
「はぁー、沙英さん酷いですよ。笑い死ぬかと思いました……」
「自業自得じゃない……あれ、この匂い……」
風呂上がりの火照った肌を浴衣に包み、並んで廊下を歩く二人の少女は、どこからともなく漂う香ばしい匂いに気付く。
その匂いに誘導されるように進む少女たちは、厨房へと辿り着いた。
ジャッ、ジャッと何かを炒める音がする。
二人と同じ浴衣に身を包んだ、その後ろ姿は……
「おう、お二人さん、お疲れー」
「? お疲れさまです、銀さん。……何を作ってるんですか?」
二人の気配に気付いたのか、振りかえった侍は浴衣姿にエプロンをしており、それがまた妙に似合っていた。
片手に持った中華鍋を勢いよく振りながら、沙英の質問に答える。
「んー? 炒飯だよ。ああ、お前のデイパックの中の食材、勝手に使わせてもらったぞ。
食えるところで、まともなもん食っとかないとな」
「銀さんって料理出来るんだ……スイーツしか食べない人かと思ってた……」
「私、朝から何も食べてないんですよー。おいしそーですねー」
「心配しなくても、ちゃーんと人数分作ってるから安心しな」
「わぁ、ありがとうございます。料理の出来る男の人って素敵ですよね」
ひよのの称賛に、フッとシニカルな笑みを浮かべて銀時は鍋の中の状態を確かめる。
「よっしゃ、しっかり火も通ったみてェだし……後は味付けして、皿に盛りつければ完成だっ!」
具材の隅々まで火を通して、水分が完全に飛んだ事を確認すると、仕上げの醤油を投入する。
飯の上に注ぎ込まれた醤油が蒸発して、厨房全体に芳しい香りが広がった。
全体をかき回し、しっかりと具材に調味料を馴染ませると、銀時はお玉で飯を掬って皿に手際良く盛り付ける。
「そして盛りつけた炒飯に、あんこを乗っければ完成だァーー!!」
「「なんでだああああああーーーーー!!」」
三つの皿に盛った炒飯の上に、目にも止まらぬ早業で、銀時は缶詰の餡子をこんもりと盛り付ける。
先ほどまで大いに皆の食欲をそそる出来栄えだった焼飯の上に、黒々と粒立った小豆が鎮座する有り様は、
見事なまでに色々なものを台無しにする景観であった。
「あんたさっき完成だって言いましたよねっ!? 二度完成だって言いましたよねっ!?
どうすんのこれ、誰が食べるの!?」
思わずつっこみを入れてしまう沙英であったが、ひよのは恐る恐る自分の分の皿を手に取ると傍らのテーブルに着席する。
「いえ……大丈夫です。私、食べられます……」
「え!? 正気……いや、本気なの? 伊万里っ!」
ひよのの言葉に愕然となる沙英を尻目に、銀時もまた、自分の皿を手に取るとテーブルに座った。
「はいはい、食べ物の好き嫌いする子は大きくなれませんよー、胸とか」
「くっ!?」
セクハラまがいの暴言を受け、一人取り残された形の沙英に、ひよのは小声でアドバイスを送った。
「沙英さん沙英さん。餡子と炒飯。それぞれ別々に食べちゃえば大丈夫ですよ」
確かに上に乗った固形状の餡子は、別にカレーのように炒飯と融合してしまっているわけではなく別々に食べる事は可能であろう。
(でも、それってなんて苦行……?)
目前の異形の創作料理に戦慄しながらも、それでも沙英の中に用意してもらった食べ物を無碍にするという選択肢はない。
しかたなく沙英も、皿を手にしてテーブルに着いた。
「「「いただきます」」」
三人揃って合掌。
神経質に餡子だけをすくい取って口に運ぶ二人の少女を尻目に、銀時は豪快に餡子乗せ炒飯を掻っ込む。
「しっかし、沙英。お前、額の傷も綺麗に消えてるじゃねーか。
なんつーか、温泉パワーすげえな。
……髪の毛がちょっと残念な感じになってるけど」
「あはは……」
「あとで少し切り揃えておきましょうね、沙英さん」
偶然とはいえ、負傷した直後にこの温泉に舞い戻れた事は幸運であった。
もし、この温泉がなければ沙英の麻痺が一行の今後の行動に多大な影響を与えていた事は間違いないところだ。
「お肌もツルツルになったし、凄くいい湯でしたよ。銀さんも後でどうぞ」
「おお、そうさせて貰うわ。さっき外出たから、結構身体冷えちまったしな」
ようやくトッピングされた餡子を「処理」し終えたひよのは、熱いお茶でそれを流し込んで本題を切りだした。
「それで……どうでしたか?」
「あー、駄目駄目。この辺一帯あらかた家探しされてたわ。ありゃプロの仕事だね」
実は風呂に入る前に、ひよのは銀時に旅館回りの民家で携帯電話を入手してきてくれるよう依頼していたのである。
ゆのの捜索も兼ねて、それを了承した銀時であったが、周りの民家は悉く家探しを受けた形跡が残っており、
それは銀時が舌を巻くほどの手際の良さであった。
「そう……ですか。複数の携帯があれば、ネット世論の形成が出来たんですけど……
ちょっと遅かったみたいですね」
その言葉を聞いて、沙英も落胆気味の溜息をつく。
あらかじめ、ゆのをネットで擁護したいなら、複数の携帯を使って世論を傾けなければ意味がないと聞いていたからだ。
今更、擁護の意見一つを出した所で読んだ人の疑心暗鬼を煽るだけだと。
「とりあえず、お二人もネット情報に目を通しておいていただけますか?」
ひよのが差し出した携帯のディスプレイに、まずは探偵日記が表示される。
そこに示されたモンタージュ写真に、銀時が反応する。
「ん? こりゃあ、さっきの三人組の内の一人じゃねーか。使ってきたのは、鞭じゃなくて矢だったけどな。
まぁ余裕ぶってやがったし、様子見ってわけかい」
「銀さんたちを神社で襲撃してきたって言うチームですか。
かなり危険なチームみたいですね……」
「一人は工場からの攻撃でやられちまったみてェだけどな……あそこに、まだ味方とか居たのか?」
「それが、状況とかゴタゴタしてて、よく判らないんですよ。そんな攻撃が出来る人はいないはずなんですけど……
直前に侵入者とかいたみたいで、私たちもバラバラに動いていたもので」
「……まぁ、今からあそこに戻るってわけにもいかねーし、無事を祈るしかねーわな……」
「……」
銀時とひよのの会話に、遅れて餡子の処理を終えた沙英も加わる。
「もう一人は、ロビンさんだった……あの人が殺し合いに乗ったって言う事は、あの後、何かあったって事ですよね。
植木君の名前も放送で呼ばれてたし……ヴァッシュさんも大丈夫なのかな……」
「ヴァッシュって……この人ですか?」
沙英の発言に反応したひよのが、デイパックから手配書をひっぱりだす。
そこに描かれた能天気な男の容貌は、二人の知る「トンガリ」の物で……
「え……これ、ヴァッシュさん……」
WANTEDと、大きく見出しの付けられた手配書に書かれた情報は以下の通り。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード
推定年齢24歳
出身地不明
住所不定
レブナント・ヴァスケス伯殺害およびG級器物破損容疑で指名手配中――
賞金額 生死に関わらず600億$$!!
備考――平和主義者
$$という金銭単位が沙英にはよくわからなかったが、それでもとんでもない額である事だけは確かであったし
殺害という二文字が酷く目を奪った。
あの時、別れてしまった三人の内、一人は放送で名前を呼ばれ、一人はゲームに乗り、もう一人は賞金首だった。
この事実を、どう判断すべきなのか。
沙英は呆然としてしまい……銀時に肩を叩かれて気を取り戻す。
「まぁ俺のダチにもお尋ね者とかいるし、そういう評判よりも、俺らはこの目で見た事を信じようや」
「銀さん……」
二人のやり取りを見守りながら、ひよのは携帯を操作してみんなのしたら場へとアクセス。
新たな情報がディスプレイ上に映し出される。
「ちなみに、今のサイトの管理人さんとは、もう連絡が取れなくなっているんですよ。
しばらく前にメールしたんですけど、返事がこなくて……
だから今、メインで動いている情報交換の場はこっちになりますね」
ヴァッシュと関係深げな、ナイブズとLegato Bluesummers。
デパートで敵対した、妲己という女について。
沖田総悟とミリオンズ・ナイブズについて。
そして錯綜するゆのの情報。
この島で起こっている様々な情報を、一気に頭に詰め込まれたところで、ひよの自身も未確認だった最新の情報を見てみる。
ネーム欄は珍しくデフォルトの設定にはなっておらず、麗しき貴族“C”からの招待状と書かれていた。
――視聴開始。
「「「……ウゼェーーー!!!」」」
映像を見終わり、あまりのウザさに全員でテーブルに突っ伏す。
とはいえ、これはこれで捨て置けない情報だった。
神の手の者が、競技場で殺し合いをしようと持ちかけてくる理由……。
その理由という奴に、ひよのは心当たりがあったからだ。
「C.公明……名を偽るような工作でなければ、趙公明、でしょうか」
ひよのは、大きな戦いが起こった場所にも何かの意味があるのではないかという、鋼の錬金術師の推論を二人に伝える。
すなわち、神の手の者が競技場を次の戦場に指定した事自体に何かの意味があるのではないか? という事である。
「ふーん……まぁ、それが本当ならヤベー所には近付かなきゃ大丈夫って事か」
「いえ、そういう訳にもいかない筈です。
“彼ら”が私たちに特定の場所で殺し合いをさせたいなら、なんらかの方法で私たちの行動を誘導してくるはずです。
それは禁止エリアによる誘導だったり……誰かの大切な人を人質にして誘き寄せたり……
あるいは、ここの地下のようなトラップを仕掛けてくるかもしれない」
人質という言葉に沙英の肩が震える。
「そう、それは私たちだって例外ではありません。
ここで手をこまねいていても、いずれは動かなければいけなくなるはずです。
沙英さんたちは、次に教会に行ってみるつもりなんですよね?
でも、私の推理では、おそらくそこにゆのさんはいません。待っていれば合流出来るという事もないはずです。
……私は、ここにゆのさんがいると考えます」
ひよのがテーブルの上に広げた地図の一帯を、指で指し示す。
島の北西にある市街地。
今いる南東の市街地とは、逆位相の場所である。
「旅館から、教会に向かったと考えるには、彼女の目撃例が多すぎるんです。
もっと人の多い場所……市街地などの施設にいると、考えるのが妥当なのではないでしょうか。
距離の問題は……例のトラップでいくらでも説明がつきますし」
「でも、ゆのは朝まで間違いなく、この旅館にいたはずなんだよ!?
人が多い所って言うなら、むしろこっち側にいるんじゃないの!?」
あまりにも根拠に乏しいひよのの推理、いや暴論に、たまりかねて沙英が疑問の声をあげる。
だが、ひよのは沙英の疑問に直接答えず、銀時の方を見る。
「……この掲示板の情報に、デパート付近は凄い事になってるってありますけど、銀さんたちもデパートの
戦いには参加したんですよね? どんな様子でしたか?」
「戦車で大暴れした奴がいたからな……そいつは死んだみてえだけど、火災でひでェー事になってたぜ。
さっき山のてっぺん……神社から眺めたら、デパートがぶっ壊れてやがったし」
デパートが破壊された事は、沙英も気付いていなかったのか。驚きの声が上がる。
一方、ひよのはその証言を聞いて一人頷いた。
「ゆのさんが、わざわざそんな危険な方へと移動すると思いますか?
誰かに連れ去られて……という可能性もありますが……それでもデパート方面はもう禁止区域にも
設定されています。そちらの方向に向かうという事は考えにくいんです」
なおも納得しかねるといった様子の沙英を制するように手をあげると、ひよのは更に言を紡ぐ。
「いえ、あえてぶっちゃけて言ってしまいましょう。
私は、この島を『神の指す盤面の上』だと考えています。
その観点から見てみれば、ゆのさんという『駒』をこちら側に配する必要性は、もうほとんどないはずなんです。
神が私たちを競技場側に向かわせたいというのなら……彼女は必ず、あちら側へと向かうはずです」
ひよのが語る奇抜な論理に、銀時と沙英は言葉を失う。
彼女の語るそれは、言ってしまえばこの島では人ではなく、神の意志こそが人を動かすという事だ。
その論理を受け入れてしまえば、神への抵抗など全て無意味だという事になってしまう。
「ですから……この辺りを探索して無駄に時間を失うよりも、一刻も早く向こう側へと移動する事を私は提案します」
だが、自分の論理をよどみなく言い切る、少女の瞳に宿る輝きを見て銀時は理解する。
この少女が、まるで諦めてなどいないということを。
「なるほどねぇ。どうせ指し示めされた方向にしか動けねぇなら……
神さんの想像もつかねえほどぶっとんだ勢いで、動かされる前に先に動いちまえって事か。
おもしれーじゃねーの」
銀時はニヤリと笑みをこぼした。
あえて死中に活を求める。
武士道にも通じるその考えは、侍の心にも火を着ける。
「はい。穴だらけの論理である事は認めます。
あの人が聞いたら、鼻で笑うかもしれません……
ですけど、過程はともかく、結論には結構自信があるんですよ?」
「……わかった。
どうせ他に手掛かりなんてないんだし、その伊万里の論理。私も信じてみる……
でも、具体的にはどうするの?
また、地下から飛び降りてみる?」
ひよのの論理を受け入れた沙英が、具体的な今後の方針を問う。
「いえ、沙英さんも一応教会に行ってみたほうが安心出来るでしょう?
教会で待ちあわせをしている方々に心配をかけないよう、書き置きでも残しておく必要もあるでしょうし……」
白い指が、地図上をついっと滑る。
その軌道は、旅館を発して教会を経由し、博物館で止まる。
「私はここに一回行った事があるんですけど、実際に使えそうな小型船とかも置いてありました。
ここで船を回収して、海からこちらの市街に入りましょう」
博物館から再び動いた指が、海を渡って水族館を指し示す。
「とりあえず、ここを目標とするという事で……いかがでしょう?」
ひよのの立案した具体的な方針を聞いて、銀時は席を立つ。
「よっしゃ。んじゃ、それでいこうや。
俺のデイパックの中に、その辺の衣料品店から根こそぎ持ってきた服が入ってっから、着替えとけ。
俺ァーちょっと風呂入ってくるわ」
銀時は厨房の片隅に干していたらしい、自分の服をひっつかむ。
そして風呂場で飲むつもりなのか、お盆の上に酒器を用意すると厨房を出て行った。
「ありがとーございまーす。
わぁ、この花柄のトップス、可愛いですねぇ。沙英さん、どう思います?」
「って、はやっ。ちょ、ちょっと待ってよ伊万里っ」
あれだけ語っていたのに、いつのまに平らげたのか。
ひよのの皿は既に空になっており、銀時のデイパックの中から服を選びだしていた。
沙英は慌てて冷めた炒飯を口に詰め込むと、ひよのの元へと移動する。
サイコロ状に切り分けられた焼き豚の欠片を噛み締めると、口中に肉汁の味が染みわたった。
(ゆの……今、どうしてる?
私が行くまで、誰かあんたと一緒にいてくれる人がいるといいんだけど……)
「ほら、沙英さんに、このスカート似合いそうですよ」
「わっ、短い短い。この寒いのに、それはないって」
「えー。せっかくそんなに綺麗な脚してるのに、出さなきゃ損じゃないですかっ」
同世代の少女との、なにげないやりとり。
ゆのとも再び、そんなやりとりが出来る事を沙英は願った。
◇
天から白い粉雪が落ちてくる。
吹けば飛びそうなほどふわふわとしたそれは、まるでタンポポの綿毛のようだった。
先ほどから持続的に降り続ける雪に薄化粧を施された街は、白粉を塗りたくったように白く染まり
侍がひっかけるように着た、黒い革のジャケットとのコントラストが映えた。
「おーい。沙英ちゃーん? 伊万里ちゃーん?
まーだでーすかー!?」
風呂から上がったあと、ムルムル温泉とマーキングされたミニバンを入口に回し、さきほどからこうして
待っている銀時であったが二人とも中々出てこない。
女の支度って奴は、なんでこう時間がかかるんだとボヤきながら、白い息を吐く。
(ウチの神楽ちゃんだったら、出かけるなんつったらまっさきに飛び出してくるんだがなぁ。
いやいや、それはそれで問題ありか……帰ったら、そろそろ女の子の嗜みって奴を教えてやらねぇと)
取りとめもなく考えていると、入口からではなく、旅館の脇からひよのの姿が現れた。
肩に少しだけ雪を載せた大きめのパーカーに、お気に入りらしきイルカのTシャツ。
デニムのパンツから伸びる白い生足が、活発な印象を与える。
「いや、活発っつーか、それ……寒くねーの?
あと沙英は? 一緒じゃねーの?」
「フフフ、普段からミニスカで鍛えてるジョシコーセーを舐めちゃいけませんよ。
ポイントは毛糸のパンツですね、見えない所で努力するのが乙女の嗜み……
って、何言わせるんですかぁーー!!」
「テメーが勝手に喋ったんじゃねーかああああーーっ!
…………ッ!?
ノリツッコミにつっこんじまったーー!?」
ボケ役を自任していた自分が思わずツッコミを入れてしまった事に、銀時は頭を抱えて悔しがる。
ツッコミ役の不在が招いた危機に、銀時は今後のパーティーバランスの変化を予感する。
沙英のレベルも上がってきたとはいえ、果たして二人のボケに適切な突っ込みを入れられるのかと……
「ちょっと中庭のほうを散歩してきたんです。
でも、銀さんが車の運転出来るなんて助かりました。
これなら放送までに水族館に着けるでしょうか。海が時化る前に移動しておきたいですからね」
「……」
そんな会話をしていると、ようやく沙英が玄関でローファーを履いて出てくる。
「あ、いたいた。伊万里。これ、頼まれてたロビンさんの似顔絵」
「ありがとうございます……って、なんですか? その格好! 裏切りましたねっ!?」
ひよのが糾弾した沙英の格好は、深い葡萄色のセーターにジーンズ。
そしてその上に宝貝の鎧を着けたスマートなコーディネートだった。
ちなみに、頭には帽子を被っている。
「いや、別に裏切ったりとかしてないし……」
「私だけ生足出してたら馬鹿みたいじゃないですかっ!?」
「だから、やめておけって言ったじゃない……あれ、銀さん車運転するんですか?
お風呂にお酒持ち込んでませんでした?」
「飲ーんーでーまーせーんー。持ち込んだお酒は、全部スタッフがおいしく頂きましたー」
「な、なにいきなりキレてるんですか……飲んでないなら別にいいですけど……」
銀時の態度に少し不審を抱きながら、少女たちは、暖機中のミニバンへと乗りこんだ。
次いで運転席に乗り込む銀時であったが、その胸中には、わずかばかりの運転への不安があった。
(車の運転か……久しぶりだけど、まぁ大丈夫だろ。まずは……ギアをドライブに入れるっ!! んだったっけ?)
【G-8/旅館前/1日目/午後】
【沙英@ひだまりスケッチ】
【状態】:健康、ツッコミの才?
【服装】:帽子、セーター、ジーンズ
【装備】:九竜神火罩@封神演義
【道具】:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、大量の食糧
輸血用血液パック、やまぶき高校の制服、着替え数点
【思考】
1:二人と協力して、ゆのを保護する。
2:ヴァッシュさんやグリフィスさん達は無事だろうか?
3:銀さんが気になる?
4:教会でグリフィスに書き置きを残す
5:ヒロの復讐……?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※宝貝の使い方のコツを掴んだ?
※ワープ空間の存在を知りました。
【坂田銀時@銀魂】
【状態】:疲労(小)
【服装】:いつもの服装に黒革のジャケット
【装備】:和道一文字@ONE PIECE
【道具】:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義、大量の甘味、大量の女物の服、スクーター
【思考】
1:二人を守りながら、ゆのを探しに行く。
2:ヴァッシュと合流したいが…。
3:教会でグリフィスに書き置きを残す
4:伊万里のボケに対し、対抗心
5:えーと、車の運転って……だったかもしれない運転でいこう
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。
※流とロビンを危険視。しばらく警戒をとくつもりはありません。
【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康
[服装]:大きめのパーカーにデニムのパンツ
[装備]:綾崎ハヤテの携帯電話@ハヤテのごとく!
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、太極符印@封神演義、改造トゲバット@金剛番長
番天印@封神演義、乾坤圏@封神演義、パニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマム
若の成長記録@銀魂、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、
秋葉流のモンタージュ入りファックス、柳生九兵衛の首輪、水族館のパンフレット、自転車、着替え数点
[思考]
基本:『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。蘇生に関する情報を得る。
1:鳴海歩と合流したい。
2:エドワード・エルリックとなんとしてでも合流しておきたい。場合によっては他の人間を撒いてでも確保。
3:博物館を重視。封神計画や魔子宮などについて調べたい。図書館と旅館も同様。
4:送ったメールへの返信を待ち、探偵日記の主との直接交渉の機会を作る。
5:あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
6:安全な保障があるならば封神計画関係者に接触。
7:復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
8:三千院ナギに注意。ヴァッシュ、ナイブズ、レガートに留意。
9:ネット上でのキンブリーの言動を警戒。場合によってはアク禁などを行う。
10:安藤(兄)の内心に不信感。
11:できる限り多くの携帯電話を確保して、危険人物の意見を封じつつ歩の陣営が有利になるよう
掲示板上の情報操作を行いたい。
[備考]
※清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※手作りの人物表には、今のところミッドバレイ、太公望、エド、リン、安藤(兄)、銀時、沙英の外見、会話から読み取れた簡単
な性格が記されています。
※太公望の考察と、殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
※超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
※モンタージュの男(秋葉流)が高町亮子を殺したと思っています。警戒を最大に引き上げました。
※太極符印にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
結崎ひよのは太極符印の使用法を知りません。
※探偵日記と螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※フィールド内のインターネットは、外界から隔絶されたローカルネットワークであると思っています。
※九兵衛の手記を把握しました。
※錬金術についての詳しい情報を知りました。
また、リンの気配探知については会話内容から察していますが、安藤の腹話術については何も知りません。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。魔子宮に関係があると推測しています。
※島・それぞれがいた世界の他に第三のパラレル世界があるかもしれないと考えています。
※旅館の浴場とボイラー室のワープトラップの奇妙な関係に気づきました。
※ボイラー室へ続く廊下の天井に大穴、旅館が半壊しました。
大穴の所に注意書きがされています。
以上です。
タイトルはお約束の大切さは一度なくなってみないとよくわからない
です
もし、自分がこのパートを書くのを待っていたという方がいらっしゃいましたら
お待たせしてしまった事をお詫びいたします。
いや、誰かが書いてくれるんじゃないかなーと思ってたんですけど…チラッ
今回のNGシーン
ジャッ、ジャッと何かを炒める音がする。
きゅっと締まった尻を剥き出しにした、その後ろ姿は……
「おう、お二人さん、お疲れー」
「? お疲れさまです、銀さん。……ってなんて格好してるんですか!?」
二人の気配に気付いたのか、振りかえった侍はふんどし姿にエプロンをしており、それがまた妙に似合っていた。
★ロワのルール★
OPなどで特に指定がされない限りは、ロワの基本ルールは下記になります。
OPや本編SSで別ルールが描写された場合はそちらが優先されます。
【基本ルール】
最後の一人になるまで殺し合いをする。最後まで生き残った一人が勝者となり、元の世界に帰ることができる。
参加者間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、参加者は会場内にランダムで配置される。
【首輪について】
参加者には首輪が嵌められる。首輪は以下の条件で爆発し、首輪が爆発したプレイヤーは例外なく死亡する。
首輪をむりやり外そうとした場合
ロワ会場の外に出た場合
侵入禁止エリアに入った場合
24時間死者が出ない状態が続いた場合は、全員の首輪が爆発
【放送について】
6時間おき(0:00、6:00、12:00、18:00)に放送が行われる。
放送の内容は、死亡者の報告と侵入禁止エリアの発表など。
【所持品について】
参加者が所持していた武器や装備などはすべて没収される(義手など体と一体化しているものは没収されない)
かわりに、支給品の入ったデイパックが支給される。
デイパックは何故か、どんなに大きな物でも入るし、どんなに重い物を入れても大丈夫だったりする。
デイパックに入っている支給品の内容は「会場の地図」「コンパス」「参加者名簿」「筆記用具」
「水と食料」「ランタン」「時計」「ランダム支給品1〜2個」
※「参加者名簿」は、途中で文字が浮き出る方式
※「水と食料」は最低1食分は支給されている。具体的な量は書き手の裁量に任せます