1 :
創る名無しに見る名無し:
2 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 01:12:43 ID:mux60d/q
★参加者名簿(決定)★
3/6【スパイラル 〜推理の絆〜】
○鳴海歩/○結崎ひよの/●竹内理緒/●浅月香介/●高町亮子/○カノン・ヒルベルト
3/6【トライガン・マキシマム】
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/●ニコラス・D・ウルフウッド/○ミリオンズ・ナイブズ/
●レガート・ブルーサマーズ/○ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク/●リヴィオ・ザ・ダブルファング
3/6【ハヤテのごとく!】
●綾崎ハヤテ/○三千院ナギ/●愛沢咲夜/●鷺ノ宮伊澄/○西沢歩/○桂雪路
4/6【鋼の錬金術師】
○エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/○ゾルフ・J・キンブリー/○グリード(リン・ヤオ)/○ウィンリィ・ロックベル
4/5【うしおととら】
○蒼月潮/○とら(長飛丸)/○ひょう/○秋葉流/●紅煉
3/5【未来日記】
○天野雪輝/○我妻由乃/●雨流みねね/○秋瀬或/●平坂黄泉
2/5【銀魂】
○坂田銀時/●志村新八/●柳生九兵衛/○沖田総悟/●志村妙
3/5【封神演義】
●太公望/○聞仲/●妲己/○胡喜媚/○趙公明
2/4【ひだまりスケッチ】
○ゆの/●宮子/○沙英/●ヒロ
3/4【魔王 JUVENILE REMIX】
○安藤(兄)/○安藤潤也/●蝉/○スズメバチ
4/4【ベルセルク】
○ガッツ/○グリフィス/○パック/○ゾッド
1/4【ONE PIECE】
●モンキー・D・ルフィ/●Mr.2 ボン・クレー/●サンジ/○ニコ・ロビン
2/4【金剛番長】
●金剛晄(金剛番長)/○秋山優(卑怯番長)/○白雪宮拳(剛力番長)/●マシン番長
2/3【うえきの法則】
●植木耕助/○森あい/○鈴子・ジェラード
0/2【ブラック・ジャック】
●ブラック・ジャック/●ドクター・キリコ
1/1【ゴルゴ13】
○ゴルゴ13
40/70
3 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 01:13:48 ID:mux60d/q
★ロワのルール★
OPなどで特に指定がされない限りは、ロワの基本ルールは下記になります。
OPや本編SSで別ルールが描写された場合はそちらが優先されます。
【基本ルール】
最後の一人になるまで殺し合いをする。最後まで生き残った一人が勝者となり、元の世界に帰ることができる。
参加者間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、参加者は会場内にランダムで配置される。
【首輪について】
参加者には首輪が嵌められる。首輪は以下の条件で爆発し、首輪が爆発したプレイヤーは例外なく死亡する。
首輪をむりやり外そうとした場合
ロワ会場の外に出た場合
侵入禁止エリアに入った場合
24時間死者が出ない状態が続いた場合は、全員の首輪が爆発
【放送について】
6時間おき(0:00、6:00、12:00、18:00)に放送が行われる。
放送の内容は、死亡者の報告と侵入禁止エリアの発表など。
【所持品について】
参加者が所持していた武器や装備などはすべて没収される(義手など体と一体化しているものは没収されない)
かわりに、支給品の入ったデイパックが支給される。
デイパックは何故か、どんなに大きな物でも入るし、どんなに重い物を入れても大丈夫だったりする。
デイパックに入っている支給品の内容は「会場の地図」「コンパス」「参加者名簿」「筆記用具」
「水と食料」「ランタン」「時計」「ランダム支給品1〜2個」
※「参加者名簿」は、途中で文字が浮き出る方式
※「水と食料」は最低1食分は支給されている。具体的な量は書き手の裁量に任せます
4 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 01:15:32 ID:mux60d/q
★書き手のルール★
【予約について】
予約はしたらばにある予約専用スレにて受け付けます。
トリップをつけて、予約したいキャラクター名を書き込んでください。
予約期限は3日(72時間)です。期限内に申請があった場合のみ、3日間延長することができます。
これ以上の延長は理由に関わらず一切認めません。
予約に関するルールは、書き手からの要望があった場合、議論のうえで変更することを可能とします。
【キャラクターの死亡について】
SS内でキャラが死亡した場合、【(キャラ名)@(作品名) 死亡】と表記してください。
また、どんな理由があろうとも、死亡したキャラの復活は禁止します。
【キャラクターの能力制限について】
ロワ内では、バランスブレイカーとなるキャラの能力は制限されます。
【支給品制限について】
ロワ内では、バランスブレイカーとなる支給品は制限されます。
5 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 01:16:35 ID:mux60d/q
【状態表のテンプレ】
SSの最後につける状態表は下記の形式とします。
【(エリア)/(場所や施設の名前)/(日数と時間帯)】
【(キャラ名)@(作品名)】
[状態]:
[服装]:(身に着けている防具や服類、特に書く必要がない場合はなくても可)
[装備]:(手に持っている武器など)
[道具]:(デイパックの中身)
[思考]
1:
2:
3:
[備考]
※(状態や思考以外の事項)
【時間帯の表記について】
状態表に書く時間帯は、下記の表から当てはめてください。
深夜:0〜2時 / 黎明:2〜4時 / 早朝:4〜6時 / 朝:6〜8時 / 午前:8〜10時 / 昼:10〜12時
日中:12〜14時 / 午後:14〜16時 / 夕方:16〜18時 / 夜:18〜20時 / 夜中:20〜22時 / 真夜中:22〜24時
>>1乙
しかし第2回放送前にこの人数とはまあ、大胆に減ったもんだな
>>1乙
確かに第2回放送前に半数近くも死亡したのは珍しいかも
それにマーダーの総数も少ないのにロワが成り立つのも珍しい
このメンツならマーダーが消えて対主催だけになっっても
殺し合いしそうだから大丈夫だろ
そこがほかのロワと一線を画してるとこだと思うw
お前ら本当に対主催なのかって言いたくなるような面子ばっかだもんなぁ……っていうか、全体的に慎重派が多いもんで翻って疑心暗鬼が多くなりがちだなこの面子w
ちょっとつつくだけですぐ爆発しそうなのが怖くもあり、面白くもあり……
お、工場組も来たぞw
一時の過疎が信じられないぐらいの予約ぶりだな
これでナイブズ・ハム組と銀時・沙英組が来たら放送か
投下します
結論から言うと、趙公明は自重しなかった。
申し訳程度にほんの一時のティータイムを過ごした後、彼は一人歩きだす。
強者を求め、南へと。
【???/???/1日目/昼】
【趙公明@封神演技】
【状態】:健康
【服装】:貴族風の服
【装備】:オームの剣@ワンピース、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記
【道具】:支給品一式、盤古幡@封神演技 橘文の単行本 小説と漫画多数
【思考】:
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:映像宝貝を手に入れに南に向かう。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
8:ネットを通じて遊べないか考える。
【備考】」
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。
◇
動乱の地と、河で隔てられた橋の傍。
趙公明が去って後、キンブリーは彼の残して行った椅子で一人身を休めていた。
煙立つ街の様子に興味を惹かれなかったわけではないが、少し一人になりたかったのだ。
『愛――それは一なる元素。
僕はその愛を、これからも君と深めていきたいと思う!』
彼の言葉を思い出す。
馬鹿な。
自分には断じてそのような趣味はない。
そもそも、戦いを勝ち抜くのに愛などという不確かな幻想は不必要だ。
ソレは判断に揺らぎを生み、不要なリスクを自ら招く。
愛する弟の為に、自らの腕を差し出したイシュヴァール人のように。
愛する妻の姿を真似たホムンクルスに殺された、かつての同僚のように。
仮に彼が本気だったとしても……、それは彼の勝手な好意にすぎず、自分はそれを利用すればいいだけだった。
ならば、なぜ自分は揺らいでしまったのか。
なぜ、自分までも未来日記に命を預けてしまったのか。
キンブリーには、それがわからない。
カップに注がれた、冷めた紅茶を一息で飲みほした。
冷めた紅茶特有のえぐみに、キンブリーは顔を顰める。
ガチャリ
少し乱暴に、カップを机に戻した。
……おそらく、張り合いたかったのだ。
初めて出会った、自分に近しい価値観を持つ彼に。
貴方に出来る事は、自分も出来るのだと。
貴方と私とは、互角の立場なのだと。
ククク、と密かな笑い声が漏れる。
なんという、子供じみた衝動か。
だが、それも仕方があるまい。
真実の性格をさらけだした自分と、ここまで深く関わり合おうとした人間などこれまでにいなかったのだから。
自分の中に発見した、幼稚な一面。
それはいささか不愉快ではあったが、キンブリーの精神に安堵を齎す。
自分でも理解出来ない心の働きに、合理的な解釈を加える事が出来た安堵だった。
コンロにセットされた薬缶から、銀製のティーポットに沸騰したお湯を注ぎこむ。
芳しい香気がその場に立ち昇った。
ルビー色に色付いた液体をカップの中に注ぎ入れると、今度はゆっくりと味わう。
不味くはなかったが、彼の淹れてくれたものとは少し違う。
キンブリーは、それにほんの少しの不満を覚えた。
その時、足元に転がっていた二体の実験材料の内の一人がわずかに身じろぐ。
ようやく気がついたかと、意識をそちらに向けたキンブリーの耳に思いもかけない言葉が聞こえた。
◇
少女の瞳がゆっくりと開くと、まつ毛に残った一滴の涙がこぼれ落ちる。
夢から覚めやらぬかのように、そのまま呆然と横たわる少女の目に見知らぬ男の姿が映った。
「気が付きましたか?」
労わりに満ちた、優しげな声だった。
耳朶を震わせる、低い男性の声に現実の続きを知覚して、ゆのは慌てて上半身を起こした。
しかし、その瞬間、強い眩暈を覚え……
気が付くと、青年に肩を抱きかかえられていた。
「無理をしてはいけませんね。だいぶ血が抜けていますから……」
湯ざましですよ、と差し出されたカップを反射的に両手で受け取り、ゆのは目を見開く。
切り飛ばされたはずの右腕が、そこにあった。
「え……ど、して……」
被せられた白いコートに染み付いた血は、自分の物だろうか。
しかし、確かに切断されたはずの右腕に、それを思い出させるような痕跡は一切なかった。
全て夢だった?
でも、腕を無くした時の痛みを覚えてる。
夢を失ったという絶望も、これが罰だと受け入れた諦めも、全部。
呆然とするゆのに、キンブリーは優しく声を掛ける。
「私の錬金術≠ナ腕を繋げました。いや、貴方は運がいい。
もう少し治療が遅れていたら、失血で死んでいたかもしれません」
「錬金……術……?」
オウム返しに、理解出来なかった単語を聞き返すゆのに、キンブリーは錬金術の概要を教える。
ゆのにはそれはよく理解出来なかったのだけれど、とにかく自分の腕をキンブリーが繋げ直してくれたのだと
いう事だけは理解した。
ぽろぽろと、涙が流れる。
何度も何度も感謝の言葉を述べるゆのに対し、キンブリーは鷹揚に頷いた。
――――
ひとしきり礼を述べ終えて感情の高ぶりが収まった頃、キンブリーに薦められてゆのは湯ざましを口に含む。
少し、温かい。
久しぶりに口にした白湯は、僅かに甘く感じた。
水分を補給したから、と言う訳でもあるまいが、また涙が零れた。
一度は諦めた夢が、再び蘇った事が嬉しい。
こんな場所でも、優しい人はいるんだと思えた。
湯ざましを飲みほしたカップに、キンブリーが紅茶を注いでくれた。
熱い。
冷え切った体に、熱が染みわたり……
ゆのは、違和感に気付く。
熱を、感じなかったのだ。
紅茶が冷たいわけではない。
舌、そして嚥下した食道や胃にはその熱がしっかりと伝わっていた。
感じなかったのは、腕だった。
切断されて、繋ぎ直された腕は熱を感じることはなかった。
「え?」
そういえば、カップを持つその指先にかかるはずの重みを感じない。
ゆのは、そろそろとカップを戻し……腕をつねってみた。
痛くなかった。
繋ぎ直された腕は、その感覚の全てを失っていた。
まるで、自分の物ではないかのように。
「やっ……いやあああ……」
「どうしました?」
そのおかしな様子に、キンブリーが声を掛ける。
「腕の……腕の感覚がないんですっ!」
悪夢は、終わってなどいなかった。
腕の感覚がないのでは、絵など描く事など覚束ない。
線の強弱、筆のタッチ、そういった感覚的な技術は、それを支えてくれる五感がなければ身に着くはずがない。
いや、それ以前に……この腕は大丈夫なのだろうか。
ちゃんと思ったように動きはするのだが……それを感じる事が出来ないので、人形を操っているような違和感があった。
いったん気にしだすと、違和感は恐怖となって膨れ上がり、いつか動かなくなってしまうのではないかと不安が育った。
ゆのは、キンブリーにそうした事を訴える。
まるで信頼する医師に相談するように。
この、神秘の技で自分を治療してくれた人なら、治してくれるのではないかと縋りついた。
ニコニコと、笑いながら白いスーツの男はその悲痛な声を聞いていた。
「どうやら、錬金術の掛かりがイマイチだったようですねぇ。
……まぁ、もう一回掛ければ治りそうですが……」
医者のように、ゆのの腕を取ってそう呟くキンブリー。
その言葉に再び希望を見出したのか、ゆのの表情に期待の色が広がる。
「ですが」
が、キンブリーの声が、その期待に釘を刺すかのような声音に変わる。
「錬金術の基本は等価交換。
その理念に立つなら、既に貴方との関係は私からの一方的な提供に傾き過ぎている。
そうですね……これ以上を望むのであれば、私も貴方に頼みごとがあるのですが……いかがですか?」
「し、しますっ、私に出来る事なら、なんでもっ!」
断れるはずもない、取引の形を取った要請に、ゆのは即答する。
キンブリーの笑顔が更に深まった。
「何、簡単な話ですよ……人を十人ばかり、殺してきて欲しいのです」
◇
『何、簡単な話ですよ……人を十人ばかり、殺してきて欲しいのです』
キンブリーさんは、笑顔でそう言った。
私は、何を言われたのか、よくわからずに
「え……?」
と呟く。
「十人ばかり、殺してきて欲しいのですよ。
……そうですね、証拠として、首輪を取ってきてください。
そうすれば、貴方のその腕を錬金術で治しましょう」
再度、言い渡される言葉はやっぱり何かの聞き間違えとしか思えなくて。
私は、キンブリーさんの笑顔をマジマジと見つめた。
「そう、驚かなくとも良いでしょう。私が酔狂や善意だけで貴方を助けたとでも、思っていたのですか?」
狐の目のように細められた目で、見つめ返される。
言葉が出ない。
川のせせらぎの音だけが、しばらくその場に流れていた。
「それに、今更ためらわずとも良いでしょう。貴方は既に――」
何を――言おうとしているのか。
キンブリーさんの目は、私の奥底を見透かすかのように鋭さを増している。
私は、右腕を庇うように抱きしめると、ギュッと体を縮こませる。
心臓の鼓動が早鐘を打つ。
その先を、聞きたくない。聞かせないで欲しい。
私は――
「貴方は既に――
人を、殺しているのだから」
私は――ヒトゴロシだから。
ヒトゴロシの私には、利用価値があるから。
だから助けたのだと、キンブリーさんは言った。
ああ、そうか。
私はようやくに理解する。
ただの善意で、人殺しの私を守ってくれるような人はいないんだって。
この人も――とっくに殺し合いに乗っていたんだ。
◇
私は、街を一人北上していた。
纏うのは、白いノースリーブのワンピース。
キンブリーさんがサービスだと、コートの白い部分を練成して作ってくれた服だった。
剥き出しの肩が、潮風を受けて少し寒い。
そして手に握るのは、キンブリーさんの持つ携帯の電話番号が書かれたメモ用紙。
十人分の首輪を集めたら、連絡しろと渡された――私にとっての命綱。
これを使うには、路地裏に置いてきた荷物を拾ってこなければならない。
そして――交換条件……命令を果たすには、あの道具をまた……
十人殺せだなんて命令。
正直、聞けるわけがなかった。
あの二人を殺してしまったのだって、言い訳するなら事故だったんだ。
あの人がどう思おうが、私は殺人鬼なんかじゃ……ない。
なら、右腕の事は諦めるしかないの?
私は感覚のない右腕を、強く握りしめる。
……ううん、この条件には、抜け道がある。
それは、証拠として首輪を要求された事だった。
――この島には、もう命を失ってしまった人が何人もいる。
……その中には、私が殺してしまった人も含まれるのだけれど。
その人たちから、首輪を貰えれば……新たに人殺しをしなくとも、条件を満たす事は出来る。
そして、十個の首輪と引き換えに――腕を治して貰える。
本当は、そんな事だってしたくない。首を刈るだなんて……そんな事。
したくはないけど……夢があった。
永久に叶わなくなったと思っていたその夢は、まだ篝火のように私の中で燃えていて……
諦めたくない。
負けたくなかった。
夢で応援してくれた、ヒロさんの為にも。
私は……絵描きになりたいから。
街はとても静かだった。
何事もなく、私はあの交差点へと戻ってこられた。
でも……その先にいたのは、長い髪を両側で束ねた女の子。
私の腕を斬った、あの子だった。
腕を抑える。
怖かった。
出会いがしらに問答無用で斬られた事から、あの子もまた殺し合いに乗っているはず……
私の死体を確認しに来たのかな。
もし、生きてるって事がバレたら……また襲ってくるのかな。
嫌だ……嫌だよ……
私は、身体を丸めて建物の影に身を潜める。
しばらくすると、女の子はどこかへと走り去っていた。
足を、スケートのブレードのように滑らせて。
彼女が去ったのを確認して、私は路地裏へと飛び込んだ。
【H-08/路地裏/1日目 昼】
【ゆの@ひだまりスケッチ】
【状態】:貧血、後頭部に小さなたんこぶ
【服装】:白いワンピース
【装備】:混元珠@封神演義
【道具】:支給品一式、PDA型首輪探知機
【思考】
基本:腕を治してもらって、ひだまり荘に帰る
1:十の首輪を集める
【備考】
※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。
※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※切断された右腕は繋がりましたが、感覚がありません。動かすのに支障は(多分)ありません
◇
キンブリーは、その光景を図書館の屋上から眺めていた。
ゆのと別れた後、再び図書館へと戻ってきた彼は様子を見るべく屋上へと向かったのだ。
槍を持っていた少年は、今朝がた森あいを寝かせていた地下の部屋に寝かせてある。
もっとも、唯一持っていた槍も、今はキンブリーの荷物の中に入っているのでもはや槍の少年とも呼べないのだが。
少女との会話中、ずっと茂みに隠しておいた彼の眠りは大分深く、容易に起きる様子はない。
このまま放送まで彼が起きなければ、誤情報を利用するのも面白いだろう。
閑話休題。
キンブリーは少女たちの交錯を、くつくつと笑いながら眺める。
果たしてこの一手がどのような爆発を引き起こすかなどという事は、神ならぬ身には知る由もない事だ。
だが、それを想像するのは――中々に楽しい、娯楽と言えた。
今回の爆弾のコンセプトは、“自分の欲望の為に動く爆弾”である。
少女の寝言から着想を得た、この計画は効果覿面であった。
顔面を蒼白にして、少女は自分の言葉に従ってくれた。
もっとも、今までこのような環境とは無縁に生きてきただろう少女の事だ。
キンブリーにしてみても、彼女が本当に十人も殺せるなどとは思ってもいない。
彼女の考えそうな抜け道くらいは、キンブリーも先刻承知だ。
というか、その抜け道を往くように自ら仕向けたのだ。
だが如何にこの島に幾多もの死体が転がっていたとしても、十個という数のクリアは中々に厳しいと
キンブリーは見る。
他にも首輪を集めようとする者もいるだろうし、首輪を破壊されて死ぬ者もいるだろう。
本気で十個集めようとするなら、一つか二つは自ら手を汚さなければならないのである。
そして……
それだけでも彼女のような無垢な存在が引き起こすであろう混乱は、自分を大いに楽しませてくれるはずだった。
そして、キンブリーが打つ手はこれだけではない。
忙しなく動く指先が操作するのは、未来日記と呼ばれる携帯端末だ。
彼はこれを操り、みんなのしたら場という掲示板に書き込みを行った。
*****
2:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど(Res:4)
1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
殺し合いのゲームに巻き込まれたのなら、危険な人に襲われたり、裏切られたりすることも多々あります。
ここはそんな危険人物に関することを書き込み、注意を促すためのスレです。
もちろん、扱う話題が話題なので、書き込まれたこと全てを鵜呑みにせず、
詳しいことを質問するなどして、特に慎重に真偽を判断するようにしてくださいね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4 名前:ラッキースターな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:mIKami7Ai
×印の髪飾りを付けた少女には注意してください。
既に何人かの人間を殺しているようです。
3:【厨スペック】支給品情報まとめスレ【官能小説】(Res:2)
1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
ここは皆さんに支給された支給品の情報を書き込むスレです。
書き込みからお求めのあの品やこの品を探したり、欲しい物を問い合わせたりする時に使用してください♪
2 名前:爆弾大好きな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:mIKami7Ai
賢者の石と呼ばれるものを探しています。
心あたりのある方はご連絡下さい。
*****
コチコチと、指に返ってくるキーの感触が楽しい。
キンブリーは、他にも何か書き込めることがないか少し思案し……
ザザ……というノイズが携帯から発せられた事に驚く。
壊してしまったか?
と一瞬不安に駆られたのだが、すぐにマニュアルにも載っていた、未来が変更された時のノイズである事に思い至った。
これには趙公明の未来を知る機能が付いているのだ。
一体何事かと、交換日記“愛”を覗いたキンブリーが見た未来とは、はたして……
【H-08/図書館/1日目 昼】
【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
【状態】:健康
【服装】:白いスーツ
【装備】:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記
【道具】:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品×1、小説数冊、錬金術関連の本、ティーセット、
学術書多数 悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数、獣の槍、
【思考】
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
4:森あいや、ゆのが火種として働いてくれる事に期待。
5:参加者に「火種」を仕込みたい。
6:入手した本から「知識」を仕入れる。
7:潤也が目覚めたら楽しく仕込む。
8:携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
【備考】
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。
【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】:疲労(大)、精神的疲労(大)、情緒不安定、吐き気、
右手首骨折、泥の様に深い眠り
【服装】:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。
【装備】:首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
【所持品】:空の注射器×1
【思考】
基本:兄貴に会いたい。
0:……。
1:旅館に行って兄貴と会う。
2:キンブリーから蘇生について話を聞く。
【備考】
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。
※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。
……これにて投下終了です
すいません、ゴルゴまで予約していたのですが、予定していたところまで筆が乗らず……
ここで切らせていただきます
申し訳ありません
おっと、タイトルは
ゆのっちが橋のたもとで錬金術師と出会ったの巻
です
投下乙です
趙は自重しなかったのか。そっちはお前の知り合いとかいるからどうなるやら
キンブリーは自分の想いに戸惑ってるとか見ていて面白いわw
ゆのはこれはヒドイ包囲網だ。カワイソス
ゴルゴは無理みたいでしたがリアルの都合もありますしいいですよ
投下乙です。
趙www公wwww明wwwwwwwww
駄目だ冒頭でやられたwww
キンブリーはいい外道っぷりだなぁ。
すいません
>>16 >初めて出会った、自分に近しい価値観を持つ彼に。
を
>初めて出会った、自分と同じ“異端の価値観”を持つ彼に。
に修正させてください
お、やっと直ったかな。ちょっと描写不足感があったので
>>20 >彼女が去ったのを確認して、私は路地裏へと飛び込んだ。
の次の行から
朝の空気をそのまま残したその場所は、立ち去った時と何も変わらなくて。
私は、私に支給されたデイパックを拾う。
――混元珠と呼ばれる、人殺しの道具も。
両手にしっかりと抱きしめたボールみたいなそれは、水を思うがままに操れるという不思議な物だった。
この思うがままという所が厄介で、扱いを間違えば、また旅館の時みたいな間違いが起きてしまうかもしれない。
……これを持っている時は、変な事を考えちゃ駄目だ。
そう念じるように、思っているのに。
右腕を、私と同じように切り飛ばされた――あの子の姿が、私の頭の中に浮かんでは消えていた。
それは、無垢な少女の心に初めて芽生えた、ほんのわずかな悪意の一欠片。
と付け足させて下さい
あ、復帰してる。
それでは投下させていただきます。
金の髪に金の瞳。
一つの決意を湛えていたはずの少年は、立ち尽くす。
奪われる為だけに与えられたが如き希望を摘み取られ、思い出が、少年の世界が、刻々と削ぎ落とされていく。
あたたかいなにかが壊れる音が、確かにした。
その手に一つのメモ帳――手記の、その最後のページを置いたまま、彼はただジッと動かない。
小刻みに震え俯くその姿は喧騒を許す事などなく、誰一人とて近寄る事すら許さなかった。
彼を取り巻く三人の人間には、眺めている事しかできなかったのだ。
吐く息の微動。
やけに大きく聞こえるその音だけが、金管で組み上げられた給湯室に響き渡る。
沈黙に耐え切れなかったのは誰だったか。
「――エド」
その声を耳にした瞬間。
少年はびくりと震え、一瞬俯きを深くより深く。
背後で、誰彼が伸ばした手が止まる気配がした。
確認と同時、少年の姿がブレる。
ぬちゃぬちゃ、ぴちゃぴちゃと嫌な汁を蹴飛ばして。
――少年は一人、灯りのない薄暗闇の中を駆けていく。
***************
しばし時間は遡る。
「……まあ、いいでしょう。
少々薄手とはいえ多少はまともな服も頂いたことですし、恋する乙女のあられもない姿を出歯亀した事はいったん脇に置いておく事にします。
決して忘れたわけではありませんので、お間違えなきようお願いしますよ?」
大仰な仕草でパチンと己の額を叩き、うんうんと頷く少女は結崎ひよの。
それが、この場における彼女の名前である。
安藤が旅館で回収した浴衣を着込んだ彼女が真っ先に思ったことは、他でもない。
――これから雪が降るのにこの服じゃ頼りないですねぇと、実に恩を知らない愚痴だった。
「……望んで見たわけじゃないんだがな」
笑顔の裏の内心に気付いているのか、いないのか。
腕を組んでブスッとした顔で相対するのは、エドワード・エルリックだ。
「故意か事故かは関係ないんです!
それに未必の故意の可能性だってありますし……。
ああっ、これで鳴海さんが私を尻軽女と勘違いしてしまったらどうしてくれるんですか?
責任を取れるんですか? もちろん娶ってほしいという意味でなくお金の問題ですよ?
だって私にはショタコン趣味はありませんし、身も心も捧げちゃった人もいますし……」
訳の分からないことをまくし立てられイラついた所にショタ呼ばわり。
とある事柄が禁句の少年にとって、それは十分すぎる膨らんだ風船への針。
「だぁれが豆粒どチビじゃい!」
まあまあ、と友人をなだめるリン・ヤオはしかし、嘆息を全く隠さない。
実に疲れそうな女だと言わんばかりの彼の顔は、ひよのへの警戒を雄弁に語っていた。
――そんな中。
『おさげ髪で胡散臭くてやたらに行動力のある、企業秘密が口癖の見た目幼い変な女と出会ったらの話だけどな。
まあ、頼りになりすぎるくらい鬱陶しいやつだから、一緒に行動して損はないだろ。
……あいつの事だから変装でもしているかもしれないけどな』
あんぐりと口を開けてジッと少女を見つめる少年は、来訪者三人組の中でも一際浮いた存在だった。
安藤は一人の少年との別れ際に聞かされた、とある言葉を思い出す。
「……鳴海? もしかして、鳴海歩のことか?
じゃあ、あんたが鳴海の彼女……」
間違いない、という確信と共に溜まったものを吐き出す呟きは、確かに少女から笑顔以外の表情を引き出した。
最初の邂逅以来初めて崩れた仮面のその向こう側には――、
「ええっ!?
な、鳴海さんが私の事をそんな風に告げてたんですか?」
恋人の消息を知った喜びというよりは、むしろ。
混乱と困惑と疑念と心配と驚愕を一緒くたにしたような、実に胡散臭げな表情が見え隠れしていた。
「むむ、何か悪いものでも拾い食いしたんでしょうか……。
いや、嬉しい事は非常に嬉しいんですが、ものすっっっごく不安になってきましたよ?」
顎に手を当てながら地味に失礼な事を口走る少女に、どう対応したものかと戸惑いを隠せない。
けれどゆっくり安藤は進み出ると、苦笑にも似ている眉を下げた笑いで続きを紡ぐ。
ああ、俺は日本人なんだなあと嫌な実感をしているのを自覚しながら。
「えーっと、見た目の割に頼りにはなる……とは聞いてたんだけどさ。
君はその彼女さんじゃないのかな?」
呼びかけに少女はハッと顔を上げ、
「いいえー、彼女と呼んでくださるならその認識で結構です♪
くすくす、素敵な響きですねー。
こうして公認の仲となれたのなら、色々尽くしてきた甲斐があったというものです」
にこりと笑顔を取り戻す。
「全く、鳴海さんのツンデレ気質も大概ですねー。
いや、本来の定義から考えればデレツンなんでしょうか?
私の前ではツンツンで、他の人の前ではデレデレと。
……だとしたら、私を放置プレイし続けてる事は不問にしましょうかね」
口から漏れる呟きはどこまでがキャラ作りでどこからが本心なのか。
照れてるのか強がってるのか、いや両方でしょうか?
そんなところも私にしてみれば可愛いですねえ。
少女のマイペースさに早くも少年達は呆れを隠さない。
だから、業を煮やした一人は焦るあまりに勇み足を踏み出してしまう。
「……で、ダ。女。単刀直入に聞くゾ。
お前は、何者ダ? どうしてここにいル?」
――リンは、隣の友人を見る。
そこにいるのは気丈に振舞いながらも、自分の逸りを押し隠し続けている不器用な少年だ。
エドワードは先刻からずっとずっと、ウィンリィの消息を問いかけたいのを我慢し続けている。
そんな彼が今にも潰れてしまいそうで、消えてしまいそうで。
少々強引にでも主導権を握って、友を安心させてやりたいから。
政ならばエドより自分の方が適任だ。
だが、真っ先にウィンリィの名を出すのはマズい。
まずは相手にカードを出させて、様子を見てからだ。
そのつもりだったのだが――、
「いやですねぇ、そちらの方が仰ってくださったじゃないですか。
私は鳴海歩さんの彼女ですよ☆
皆さんも鳴海さんとはご面識があるのでは?」
ウィンクと共に少女は、これを待っていたと言わんばかりに笑いの種類を変えた。
単なる惚気染みた微笑みから、裏に一物隠したほくそ笑みに。
その姿を見てリン・ヤオは確信し、目を眇める。
そしてほんの少しだけ歯を噛み締めた。
――してやられた。
場の流れは既に、彼女に掌握されていた。
既に自分達側のカードは切られてしまっていたのだ。
安藤の何気ない言葉、鳴海歩という人間の存在によって。
そこを糸口に、少女は自分の名さえ告げないうちからこちらの情報を引き出そうとしてきている。
安藤を責めたくなる気持ちがせり上がるが、堪える。
最大の失策は彼でなく自分だ。
いざ交渉を開始するなら、この場合は真っ先にウィンリィの事を尋ねるべきだった。
これでは自分達の知りたい情報を訊き出すまでに、相当な回り道をさせられる。
分かっている、ウィンリィの件は彼女との邂逅と本質的には無縁で、湧き上がってくる焦りは理不尽な代物でしかないと。
それでもリンは、結崎ひよののやり口に、その態度に。
――苛立ちが臓腑に溜まっていくのをを抑え切る事が出来なかった。友人の心を慮るが故に。
「あ、安藤です。俺は数時間前まで一緒に行動してたんですが、
……えっと、エドたちも高町亮子って子経由で話は聞いてるんだよな?」
とりあえず、最も鳴海歩と縁の深い安藤が前に出てひよのと相対することに。
何も言わず後ろに下がるリンは、故なきと分かっていても安藤と少女に怒鳴り散らしたくなる自分を抑えるので精一杯だった。
「ははあ、成程成程……。
それでは浅月さんたちも含めた“子供達”についても聞いていらっしゃいます?
彼女は乱暴ですけど、彼らの中では良識派ですからね」
安藤の視線の先、エドの頷きに反応し、取材でもするかのようにひよのは問いを投げかける。
果たして本当に自分達に縁故のある存在なのかと、具体的なワードは出さずに確認を行っていく。
「ああ、ブレード・チルドレンって奴らか。確かに話は伝わってるぜ。
聞いたのは俺―エドワード・エルリックだ―だけだけどな。
……その、なんだ。すまん。
無茶苦茶強い奴に奇襲されてな、そいつから逃げる為にタカマチは自分から囮を買って出て……それきりなんだ。
くそ……、情けないぜ。俺がそいつに捕らえられちまったせいで、女の子にあんな無茶を……」
――その言葉と、一つの光景がひよのの中で繋がった。
「……もしかして、この人ですか?」
ひよのがガサゴソとデイパックを漁って取り出したるは、一枚の紙。
手渡されたエドは、見覚えのあるそれにハッと目を見開く。
「ど、どうしてこんなモンが……?」
間違えようもない。それは間違いなく、自分達を襲撃した忌むべき男。
秋瀬或謹製のモンタージュは、確かに効果を発揮していた。
ひよのはその様子を見て、またしても顎に手を当てる。
「――ふむ。あなた方はインターネットについてご存知ですか?」
太公望と出会っていた経験が、その可能性に思い当たらせてくれた。
異世界の存在――それは『自分達の世界にないものがある』と同時、『自分達の世界にあるものがない』ことがあるのだと。
「俺は知ってる……けど」
頼りなげに頷く安藤を除くと、残り二人の頭上には?が飛び交っている。
それを確認するとひよのは、
「そうですか。では、枝葉末節はおいおいお話します。
ただ、こういう手配書が出回っていることだけお気に止めておいてください」
これは交渉材料に使えますね、と内心呟いて、話を手打ちにした。
改めて様子を確認すれば、細目の男の様子が少し奇妙だ。
「――こいつが、咲夜を痛めつけたヤツカ」
ジッと手配書を見つめるその視線には、怒り以上のどす黒い何かを確かに感じる。
この男は直接モンタージュの人間と出会ってはいないようだが、何か因縁はあるらしい。
「どうやら相当暴れていらっしゃる方のようですね。
……現状の最重要警戒対象として、危険度ランクをアップさせておきましょう」
……あの時逃げたのは正解だったと、内心ひよのは冷や汗をかく。
とりあえず、例の男と高町亮子を見かけた事については黙秘しておく事にしよう。
高町亮子を見捨てたことに確かに罪悪感は感じるが、それを今口にしたとて非情な人間だと思われるだけなのだから。
「話を戻しましょうか。
彼女の正義感は良く存じていますから、無茶無謀に出たとしても驚きはしません。
――そして、囮を任せざるを得なかったであろうあなたを責めもしません。
無事でいて欲しくはありますけど、今は無駄な火種を生む方が御免ですから」
「……すまん」
「……いいんですよ。
さて、それとは別件で、少々頼み事があるんですが」
これは、高町亮子に囮を任せたエドワードの後悔に付け込む最低の行為だ。
本来ならば、彼女を放り置いた自分が取っていい手段などではない。
痛む心を自覚し、内心の罪悪感を膨れ上がらせながらも、ひよのの笑顔はそれでも全く揺るがない。
……たとえ高町亮子の義侠心故の行動を取引材料に使ったとしても、成し遂げたい想いがある。
「なんダ?」
険のある細目の男の声に、顔つきを更に柔らかに。
「――錬金術。
それを利用した首輪解除の可能性について、詳しくお聞きしたいと思いまして」
エドワードと細目の男の顔に、確かに動揺が走った。
大当たりだ。
……錬金術というキーワードは、歩のブログ――螺旋楽譜を見たときからずっと気になっていた。
首輪解除に関連した記述の中でも特に具体的な単語として挙げられていたこの謎の言葉は、歩がそれだけ重要視しているものだろう。
語調からはおそらく、歩はだいたいの概要は知っていても詳しく突っ込んではいないといったところか。
ともかく、今ここにいる彼らが間接的あるいは直接的に歩を知っているなら、
錬金術の情報源となったのは彼らの誰かではないかという推測が生じるのは自然の成り行きだ。
実際には推測自体は的外れだし、ひよのは歩に直接接触した安藤こそが第一候補と考えていたのだが――、
結果的には奇妙な“偶然”で錬金術という情報はリンクした。
女の直感は侮れないということなのか、それとも“偶然”こそ予定調和だとでも言うべきか。
「あんた、性格悪いな。タカマチの話の後でこう持ってくるかよ……。
おそらくはナルミってヤツ経由で聞いたんだろうけど、一度そいつとは会ってみたいぜ、ほんと。
アンドウから聞く限り相当頭が切れるみたいだし、頼りになりそうだ」
引き攣った笑いをしながらエドワードは溜息。
……だが、彼女の言葉は確かに力になる。
『錬金術を利用した首輪解除の可能性』
それについて訊くということは、抵抗を諦めていない人間が確かにここにいるということなのだから。
「あと、ピアノが上手いですね、鳴海さんは。
きっと今もこの状況をどうにかしようと頑張ってるはずですから、お力になって下さると嬉しいです。
……それと、性格の認識については非常に遺憾です。
本来こういうのは鳴海さんの仕事で、私の得意はバックアップなんですよ?
こうして汚れ役を引き受けていくうちに白い目で見られるようになってしまう私……いよいよあの人には責任を取ってもらわないと!」
「……で、あんたはどこまで聞かされてるんだ?」
後半の妄言をスルーすれば、少女も別にそれにこだわることなく話をどんどん進めていく。
「殆ど何も。ただ、錬金術が首輪の解除に役立つかもしれないとだけですね。
なので、基本的なところから教えていただければ助かります」
あたかも歩から小耳に挟んだだけというような素振り。
ひよのは未だ歩とこの会場で直接出会った訳ではない。
しかし、如何にも対面して話を聞いたという振りをして、話の仔細を聞きだそうとしているのだ。
……インターネットという彼らにとっての未知の技術で知った、などと言えば、胡散臭いばかりになる事は想像に難くない。
そして、エドワードからしてみればこのニコニコ笑顔のごり押しが嘘をつくことを許さない。
笑顔ゆえに『本当は全てを知っているのでは』という疑念が常に生じるが、
だからこそ言質の一致を取ろうとしているのかもしれないと、正確な情報を伝えざるを得ないのだ。
疑いさえ利用して真実を得る術を持つ少女は、己の笑顔の意味と威力を把握し行使する。
なるほど、情報を得る手段にかけては鳴海歩さえ超えるというのも伊達ではない。
……さて、エドワードとしても、全てをここで話すわけにはいかない。
特に、人体練成を応用した脱出方法の理論についてはまだまだ机上の空論だし、何より迂闊に口にする余裕もない。
単純に『首輪そのものの分解に着目した』方法についてだけ、どこまで話すかを考えながら――、
凍るような友人の低い声を耳にした。
「……その前に、ダ。
もう一度だけ問うゾ。女、貴様は何者ダ。
名ハ? どうしてここにいル? 答えロッ!」
いつの間にかリンは、ゾッとするほど冷たい目で槍の様な道具を少女の喉元に突きつけている。
リン、と叫ぼうとするも――彼の視線がそれを許さない。
……こちらを、心配するからこその表情だった。
意図を察する。ウィンリィのことについてなのだろう、と。
「もう、女性にそんな黒くて長くて硬い代物を向けるだなんて、こう――卑猥ですよ?
セクハラとして訴えられたくなければ引っ込めて下さいな」
どれだけの修羅場をくぐったのか、この状況下でも少女は不動の笑みを湛えたまま。
俯いて拳を握り締めながらも、リンを畏れて動けない安藤とは対照的だ。
「舐めるナ。ノラリクラリと、貴様は肝心の質問に全く答えてないだろウ。
人の好くて騙されやすいエドははぐらかせても、俺には通用しなイ。
……貴様の様な手合いが一番警戒すべき輩ダ。何を企んでいル?」
「オイ、リン。さんざ言ってくれるじゃねーか……」
自分の為に過激な行動に出ているようで、存外馬鹿にしているのか?
エドの口からそんな呟きが漏れるも、事態は彼を無視して勝手に動く。
「うーん、怖いですねぇ。カルシウムはちゃんと取った方がいいですよ?
名前は……そうですね、伊万里。関口伊万里です。
ここにいる目的は、沢村史郎さんもとい鳴海歩さんに一途に尽くすためという事で♪」
「セキグチイマリ? そんな名前、名簿の何処にもなイ。
見え透いた嘘をつくとハ……、余程命が惜しくないようだナ。
あるいは、貴様が“神”の手の者ゆえに名簿に名が記されていないとでモ?」
とある暴走少女の名を騙ったひよのは、あらぬ疑いをかけられながらも平然と。
「もちろん偽名ですよ?
だって、顔を思い描いて本名を書き込んだらその人を殺せるノートがもし支給されてたら、
ガクガクブルブルじゃないですか」
冗句さえ伴って、自らの薄っぺらな嘘を肯定した。
――激昂。
「ふざけるナ! これ以上貴様とのお遊びに付き合ってやるつもりはなイ!
グリードの言葉を尊重して女を手荒に扱うつもりはなかったが、指の一本くらいは覚悟してるんだろうナ……?」
槍と化した降魔杵を手に、更に一歩踏み出す。
つぷ……と、ひよのの喉の皮に先端が触れ、細く赤い筋が流れ出た。
「リン、カリカリし過ぎだ!
あんたもいい加減その態度止めてくれ、こっちとしてもあんまり時間を無駄にしたくないのは確かなんだ」
「だが、誘ったのは――彼女からダ」
不意に。
慌てて仲裁に入るエドさえ目に入らないかのように。
「……ふざけてなど、いませんよ?」
ひどく静かでひどく落ち着いた声が、少女の口から染み渡った。
「私がここにいるのは彼の望みを叶えるため――叶える一助となるためです。
そのためなら、指の一本はおろかこの命だっていくらでも投げ打ちます。
名前だって、いくらでも偽ります。
私の名前が彼を縛る枷と成り得る以上、私はそれを告げるつもりはありません。
たとえ私が人質となったとて、名前を特定できなければ姿を見せない限り彼への抑止力とは成り得ないですから」
安藤も、エドも、リンさえも。
「――もし彼に、偽名などではない、他の誰でもない“私”を見ていて頂けたのなら。
それが私への、何よりの報酬です」
毅然とした眦の、容貌に似つかわしくない凛々しさに。ただ浮かんでいるだけのその笑みに。
沈黙を以ってしか、いらえを返す事が出来なかった。
***************
「成程、こいつからあんたは錬金術を知った訳だナ、イマリ」
先刻のやり取りで少しは伊万里と名乗った少女を認めたのか、毒気を抜かれたように淡々と言葉を吐き出すリン。
その視線の先にあるのは文明の利器――パソコンだった。
伊万里ことひよのが錬金術の基本的な知識と首輪分解の可能性についての知見を聞いた対価として選んだのは、
このノイマン式計算機とインターネットの操作方法、そしてその上に展開された情報の読み取り方だった。
「ええ。こちらとしても、頂いた情報は有効に活用させていただきますね。
……ここのパソコンが生きてて助かりました。
ネットへの接続を直接見てもらわなければ、こうまでスムーズに話は進まなかったでしょうし」
更新の確認がてら実際に画面を見せると、食い入るように彼らはそれを逐一確認し、ひよの自身も淀みなく仔細を教えていく。
主な新規情報である尋ね人や危険人物、支給品情報についてざっと目を通し、瞼を閉じた。
太公望も警戒していた妲己の危険性や、ヴァッシュ・ザ・スタンピードと敵対するナイブズとlegatoという人物についてなど、
脳内で反芻した情報はどれも役立ちそうな情報だ。
が、今特に優先すべき情報が2つあった。
それらは、mIKami7AiというIDの持ち主によって記載された事項。
森あいさんと潤也さんのお兄様を探しています。
ご本人か行き先を知っていらっしゃる方がいましたら、ご連絡ください。
賢者の石と呼ばれるものを探しています。
心あたりのある方はご連絡下さい。
前者は間違いなく安藤に対し呼びかけを行っている。
この記述を見つけたとき、安藤は息を呑んで固まった。
……この書き込みをした人物の傍に潤也がいるという事は想像に難くない。
しかし、勢い任せにこのレスに返事をするには、二つ目の要素があまりに危険信号過ぎた。
――賢者の石。
ひよのにとっても、この単語の持つ意味は嫌というほどに知ることになった代物だ。
錬金術における万能装置。だが、錬金術を使えない人物にとっては何の役にも立たないただの石ころ。
つまり、これを求める理由があるのは錬金術師だけだ。
そしてエドワードを除くとその条件に該当するのは、たった一人。
ロイ・マスタングとアルフォンス・エルリックでもないその人物が、積極的に書き込みを行っているmIKami7Aiである公算が非常に大きいのだ。
ゾルフ・J・キンブリー。
エドワード達の話によれば、要警戒対象のA級危険人物である。
そんな男の傍に潤也がいる可能性を知らされて安藤は暴走しかけたが、どうにか宥めて今はとりあえず保留にしてある。
迂闊に刺激すればそれこそ潤也を危険に曝すというのも最もで、その言葉に安藤は折れてくれたのだ。
しかし懸案である事には変わりなく、表面上は薄ら笑いを浮かべる安藤も腹の中では何を考えているか分かったものではない。
そして当の安藤は、先刻からずっと黙ったまま、じっとひよの達を見つめているのみ。
不気味な何かを感じながらも、エドワードはとりあえず頷きを返した。
「ああ、大体分かった。
……なるほどな、こいつは役立ちそうだ、感謝するぜ」
不自然なほどの飲み込みの速さでエドもリンも大体の操作方法を学習し、彼らにとっては未知の産物を操ることができている。
そこに引っかかるものを感じないではないながらも、結崎ひよのはあっさり脇に置く事にした。
天才肌なのかもしれないし、実際それで使えるなら問題はない。もしかしたら使えるけれども黙っていただけかもしれないだけだ。
……その意識の方向さえ、不自然すぎるほどに躊躇いがなかった事に気付かぬ――気付けぬまま。
ひよのはセールストークよろしく本題に切り込んでいく。
「実はですね、それを更にお役立ちさせるアイテムがここにあるのです。
――じゃじゃーん」
懐に手を入れて取り出したるは、血のへばり付いたプラスチックの小箱。
それを見ても、エドワード達には何か分からない。
分かるのは、ひよのと近い常識を持つ少年だけだ。
「あ、携帯電話。そうか、確かに鳴海も使ってたな」
久々に口を開けた安藤の声色は、普段どおり落ち着いたもの。
なのに何故か、聞く者の心が不安定になるような印象を拭う事はできなかった。
「鳴海さんも携帯電話を?
……ふむふむ、それなら尚更……」
気付いているのか、いないのか。
何かを言いかけたひよのではあるが、その続きを制して割り込む声ひとつ。
「一体それはどういう道具ダ?」
完全な無表情で質問だけを投げかけるリンに、何故かひよのは得意げに解説を重ねていく。
「……おほん。これは携帯電話といいまして――」
***************
「そうか……。つまりそいつを使えば、ナルミって奴とも連絡を取れるのか。
しかも、ネットとやらに接続も出来る。
探偵日記に書かれている通りこいつが補充できるなら、確かに人数分確保したいところだな」
画面と手元を見比べながら、静かに目を瞑るエドワード。
電話そのものへの知見は彼にもある。
しかし、これほどまでに小さく、持ち運べる電話とは――つくづく彼の常識を打ち壊してやまない。
異世界の技術に驚嘆し、それ以上に不安にも似た何かが湧き上がってくるのを感じている。
そんな感慨を打ち消し現実に引き戻してくれたのは、伊万里と名乗った少女のやけに面倒そうな予感のする笑顔だった。
「ええ。ですが、今ここにあるこれは壊れてしまっているんですよ。残念無念また来週です。
そ・こ・で・お願いがあるのですがっ!」
「……話が見えてきたぜ。
錬金術を証明するのも兼ねて、そいつを修理してくれって事か」
はぁ、と思い切り溜息。
どうやらエド自身伊万里のパターンに慣れつつあるらしいが、それだけにどうしてか敗北感を感じてしまっていた。
「ビンゴです♪
いやあ、あなたも中々のキレ者ですねエルリックさん。
話が早いのは素晴らしいです」
「オーケー、そのくらいならお安い御用だ。
まだあんたには訊きたい事がたくさんあるし、恩を売っておくことにするよ」
内容の割には嫌味のない言い方で、エドワードは返答をしておく事にする。
この位の態度の方がこの少女とは付き合いやすいだろう。
技術や材質そのものにも興味があるし、手の中のそれを弄びながら頷いてみせた。
「……ふふ、鳴海さんとよく似てますね。
ステディは遠慮しますがフレンドにはなれそうです」
そんなエドワードの態度に何を見出したのか、伊万里は喜色を隠さない。
……頼りにはなるが、実に扱いに困る。
脳の隅で少しだけそう思うと、エドワードは早速仕事を始めることにした。
善は急げ、早く終わらせてウィンリィの事を訊きたいのは確かなのだから。
「ナルミってのもあんたみたいのに付き纏われたんなら大変だな……。
それじゃあ早速始めるぜ、錬金術ってのはこういうものだ、よく見てろよ――?」
パン、と両手を合わせ、掌を携帯電話に触れさせてみれば。
エドワードはそれを“理解”する。
***************
ハヤテ。
ハヤテ。
ハヤテ!
ハヤテ――!
***************
ガチャンと椅子を引っくり返しながら、エドワードは地面に尻餅をついた。
「……今の、は」
呆然と両手を目の上にかざし、うわ言の様に何かを口にしようとする。
――が。
「エドッ!?」
「エド?」
「エルリックさん?」
耳に入る3色の呼びかけに、急速に現実感が戻ってくる。
一瞬で思考力を取り戻すと、ノロノロとしながらもしっかりとした足取りで立ち上がった。
見れば、ちゃんと再構築の終わった携帯電話がデザインを変えてちゃんと鎮座している。
……エドワードのセンスに則ったそれは、少々、いや、かなり珍妙な配色と成り果てていたが。
全く気にしない彼本人は、口先三寸、取り繕いでどうにか動揺を誤魔化さんとする。
「……いや、大丈夫だ。何でもない。
やっぱり未知の道具を“理解”の工程から練成するのは少し疲れるな。
まあ、そのおかげでこの機械がどういうものかも分かったし、これなら同じものを作る事だってできるぞ。
寸分違わずだから違う電話番号のを作れはしないし、意味はないけどな」
エドには知る由もなかったが、この携帯電話は綾崎ハヤテの今わの際に三千院ナギの声を届けた代物だ。
――そして、その“混線”ごと練成を行ってしまった事により、エドワードは理解してしまう。
“混線”の正体を。
“混線”とは、この空間と他の世界との同一物品間に、共鳴の様な現象が起こって生じるのだ。
あるいは、この空間に存在する物品は、他の世界に存在する同一物品の影の様なもの、という事ができるかもしれない。
もしかしたら元の世界に存在する物品の情報を“理解”だけして“分解”せず、
別のところから持ってきた材料を使って“再構成”したのがこの空間内にあるアイテムなのかもしれない、とエドは推測する。
この携帯電話が別世界のナギの声を伝えてきたのは、実際には彼女と通話できていたという訳ではなく、
彼女が己の世界の誰かとハヤテの携帯電話を通じて行った会話がこの空間で再現された、というのが正確なところだろう。
もし太公望がこの場にいたのなら、孫天君の化血陣と金光聖母の金光陣を合わせたような空間じゃのう、
というコメントを得る事ができたかもしれないが――既に亡い人物の言動を想定しても空しいだけだ。
「……大丈夫カ?」
糸目を開いて不安そうな顔を見せるリンに苦笑する。
「ああ、だから平気だって。心配性だなリンは」
嘘だ。
未だに心臓はバクバク言っていて、指先は落ち着きなく震えている。
……この事についてこれ以上考えたくないと、どうしてか頭の何処かが告げていた。
唾を飲み込む。
それでも気付かれないように大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。
「――で、これであんたの欲しい情報は全部か?」
伊万里の差し出した掌の上にしっかりと携帯電話を置く。
……もう、大丈夫だ。
目と目を合わせ伊万里と相対すると、つい今しがたまでの自分の動揺が滑稽にさえ感じられる。
そうだ、今は目の前の事だけ考えていけばいい。
上を向いていたって、何処へ行ける訳ではないのだから。
「はい。……想像以上でした。
本当にありがとうございます、これなら、きっと……」
きっとの後に何が続くのか興味はあったが、もっと優先しなければならない事がある。
「それじゃあ、今度はこっちから訊くぜ。
拒否権はないぞ、錬金術の基本は“等価交換”だ。
錬金術の情報はパソコンやネットの情報と。
なら、この携帯電話を直した分は、別の何かで補填してもらわなきゃな」
「はて、お聞きになりたいものとは?」
すう、と息を吸い、幼馴染の姿を思い浮かべる。
彼女さえ無事に家に帰してやれれば、それでいい。
「――ウィンリィ・ロックベルという女の子を捜してる。
年はあんたと同じくらいで、金髪のコだ」
静寂。
誰一人、身動きする事はない。
耳が痛いほどの沈黙の中で、関口伊万里は確かに動きを見せた。
珍しく、笑顔を消して。
声色から感情という感情を消して。
「……ウィンリィ、ですか」
その反応に、エドは無様ささえ感じさせる足取りで食らいつく。
誰もそれを笑うものはいない。
「知ってる……のか? 頼む、教えてくれ!
何でもいい、知っている事があれば全て話して欲しいんだ!」
必死すぎて、リンはその姿から目を背けざるを得なかった。
安藤も、何故か見ている事が出来なかった。
皆、エドさえ含めて気付いてしまっているのだ。
決して、エドの望む答えが、伊万里からもたらされる事はないのだと。
真剣に過ぎる伊万里の反応は、五月蝿いほどに雄弁だった。
「大切な……方なんですね」
ポツリと。
蚊の啼くような呟きが、場に染み入っていく。
「……なら、一つだけ訊かせてください。
どんな結末に私の話が至っても、それを後悔しませんか?」
おちゃらけた雰囲気はもう何処にもない。
ただ、真摯にエドと向き合う少女は、心配さえ伴って全身で聞くなと告げていた。
だけどエドワード・エルリックは揺らがない。
「後悔はするさ、場合によってはな。
……だけど、都合のいい想像だけに浸って悪夢のような現実から目を背けるのはもっと嫌だ。
たとえ後悔を抱えたとしても、前に進む為に――俺は聞きたい。
聞かなきゃならないんだ」
「そうですか」
握り拳を震わせ、唇を噛むエドワードに最早静止は意味がないと判断したのか、少女はあらためて一礼。
上げた顔で投げるのは、最早問いかけでなく確認だった。
「……私も直接会ったわけではありませんし、誰かから話を聞いた訳でもありません。
だからもしかしたら、これは全部デタラメで、とある人物が狂気から組み上げた妄想でしかないかもしれません。
ウィンリィさんは今も朗らかに健在で、無駄で不要にも程がある心配であなたを困憊させるだけかもしれません。
私にあなたを困惑させる意図はありませんが、図らずもきっと……いえ、間違いなく混乱の極みにあなたを突き落とすでしょう。
それを心に銘じて、正視し受け止める覚悟はできますか?
禁忌の情報に踏み込むとはどういうことか、身を以って刻まれても構いませんか?」
いらえはひとつ。
「禁忌ならとっくに踏み込んださ。
だから――後は歩くだけだ」
これがエドワード・エルリックだった。
止めるものは、誰もいない。
「――分かりました、お話いたします」
そして少女は語り出す。
一冊の手記に基づいた、語るには凄惨に過ぎる一つの顛末を。
悪夢という名の夢物語である事を願いながら。
***************
駆け出していくエドワードを追うことは、誰にも出来なかった。
内容を知っている結崎ひよのを除いて、その場にいる誰もが手記の内容に圧倒されていたからだ。
安藤は膝をついて動かず、リンは左の上腕を逆の手でぎゅっと握り締めて立ち尽くす。
どれだけ沈黙が続いた頃だろう。
「……おかしいとは、思ってタ」
明後日の方向を向き、二人に顔を見せないままリン・ヤオは搾り出すように遺憾を洩らす。
「この工場は普通じゃなイ。
異常な気配が満ちていテ、無茶苦茶な有様もどうしてこうなったのか全く検討がつかなかっタ」
ぐるりと首だけを動かして、肩越しにひよのを見つめる視線。
「……貴様がこの事態を引き起こしたのカとも思ったガ――、」
ずっと疑いをかけていたのだろう。
そこに篭っていたのは、どう見積もっても好意とは呼べない黒いものだった。
「り、リン! 伊万里が犯人な訳ないだろ!
その物騒なものをしまわなきゃ……!」
安藤の言葉に、ようやく顔を崩していつもの細目を取り戻す。
尤も、その表情は自嘲以外の何物でもなかったが。
「分かってル。性格はともかく、貴様の気配は普通の人間ダ。
……こいつ如きが一人でできル事態とは到底思えなイ」
「うーむ……、私の扱いがなんかどんどん酷いものになってるような」
トントン、と額をつつくひよの。
彼女を見て何を思ったのか、淀んだ空気を打ち払うかのように、不意に安藤が少しだけ明るい声を出した。
「…………。リン、頼みがあるんだけど」
「なんダ?」
面倒臭そうに視線だけを合わせたリンに怯みながらも懸命に安藤は笑ってみせる。
「俺から取り上げたデイパックの中身のうち、変なボールみたいなのを取り出してくれるか?」
「? ……まあ、それ位なら構わないガ」
何を言い出すかと大道芸でも見るかのような表情のひよのに向けて、安藤は少しだけ照れくさそうに言葉を紡ぐ。
「……伊万里。これを、食べてくれ」
安藤の少しだけ勇気と自信を込めた提言について、ひよのが返したのは――、
「はい? なんですか、この珍奇なオブジェは」
思い切り不審そうな、その上呆れさえ混じった表情だった。
リンの手にしたそれを見つめ、ひよのは胡散臭いとばかりに渋い顔。
ちくちく突き刺さる二人分の視線が痛い。
「……これは、バラバラの実っていうんだ。
食べると体が――」
……理不尽に負けるな自分。
そう呟いて安藤は、その道具の効果を解説する。
「……なるほどなるほど、効果は分かりました。
が、どうしてこれを私に?」
そういうものもあるのだろう。
異世界の存在を既に認めているひよのは、微妙な表情をしながらもとりあえず話には納得はした。
しかし、安藤がそう提案する意図が分からない。
どうして安藤自身で使わないのか、何故それを提案した先が自分なのか。
当然の疑問に対し、安藤もそれについて真摯に答える。
「さっきのウィ……手記の顛末を聞いて思ったんだ。
鳴海の大切な人を、そんな目に遭わせる訳にはいかないってさ。
これを食べれば、たとえ斬られたり撃たれたり、捕まえられたりしても滅多な事にはならなくなる。
事実上の不死みたいなものなんだ。説明どおりなら、だけどな」
それだけではない。
「実はこれ、鳴海に支給されたアイテムなんだ。
それを何だかんだで俺が預かっててさ、これも巡り合わせなのかなって。
回り回ってここに辿り着いた鳴海の道具が伊万里を守るって、なんか運命みたいだろ?」
……この場に来て、自分はずっとお荷物になるばかりだ。
だからせめて、鳴海歩の力になりたい。大切なものを守ってやりたい。
それが、ほんの少しでも兄貴分を気取った自分の責任だと、安藤は強く思う。
ようやくこの身に許された機会なのだから。
そうして、気付かない。気付こうとしていない。
これは鳴海歩やエドワード・エルリックに感じた劣等感を払拭したい衝動の噴出であるのだと。
この少女の生存に貢献して少しでも彼らに並んだと思い込むことで、自尊心を守るための行動なのだ、と。
「運命、ですか」
そして彼の望みを許容するほど、現実は、結崎ひよのは容赦がない。
目を閉じ、まるで修道女のような穏やかな微笑みで。
「とても――、とても、ありがたい申し出だと思います。
でも、ごめんなさい。私は遠慮させていただきます」
少年のささやかなプライドを、踏み躙る。
彼本人を含めて、誰一人として知らぬ間に。
「え……? ど、どうして……」
気付かない振りをし続ける少年は、拒絶の言葉にぶるりと震える。
上手く舌が回らない。急速に喉が渇き、どもりがまともな言葉を許さない。
叫びだしたくなる衝動が全身に回る。
……ぐっと堪え、引き攣った笑いで取り繕った。
「特別な力なんて何一つなくたって、限りある命で戦ってる人がいますから。
その人だったらきっと、力を得られる機会があっても拒絶してしまうと思うんです。
だったら私は、その人に付き合うまでですよ。
弱さを認めてこそ、人は強くなれる。
不死なんて得ても――そんなものに価値は見出せないんです」
「そう、か。分かった、はは……」
絶句。それ以上言葉が紡げず、ひよのやリンがどんな表情をしているかも分からない。
――安藤の中の闇は、いよいよ以って明確な形を取り始めていた。
「……それよりヤオさん。エルリックさんの気配はどちらに?」
ハッ、と耳に入ったひよのの言葉で、安藤は我を取り戻す。
あまりにも自然な問いかけに、ついついリンもそれに答えてしまう。
「おそらくまだ工場を出てはいないナ。
だが、この山は妙でな、場所の特定がし難くなっていル。
……他の気配はないとはいえ、あまり離れているのは良くないカ。
少しでも落ち着いてくれていればいいんだガ、いずれにせよそろそろ追いかけるべきだろウ」
……そうだ。
今は、あの少年が何より心配だ。
弟を失い、大切な少女まで壊されてしまったかもしれない少年。
同じ兄として身の引き裂かれるような慟哭がヒシヒシと伝わってくるが故に、心から力になってやりたい。
いくら強くても、必ず限界はあるのだ。
こくりと頷く。――手を差し伸べよう、そう心に誓う。
やはり安藤は、根本のところでは優しい少年なのだ。
「ほうほう。では、手分けして探す事にしましょうか。
この工場の探索は私もまだ完全に終わっていないので、それも兼ねてなにか見つかったら後ほど報告という事で」
「異存なイ」
「そうだな。……あいつが心配だ」
三者三様の言葉を残し、集合時間を決めて思い思いの方向へと散っていく。
その、別れる最後の瞬間に。
リン・ヤオが手にしたバラバラの実をジッと見つめている光景が、何故か安藤の頭から離れなかった。
走る。
走る。
走る。
走る。
走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る――。
今のエドワードの感情を形容する事は、お釈迦様でも難しい。
恐怖か、悔しさか、悲しみか、驚愕か。
涙がボロボロ出ているというのに阿呆のように口をあんぐりと開け、目を見開いて。
それでいて頬は引き攣っていて、己を嘲っているようにさえ見えるこの表情を、何と呼べばいいのだろう。
息が苦しくなり、何度も転ぶ。
それでもまろびながら、どこかへと走り続ける。
瞳は虚ろで、この世界でないどこかを眺めているかのよう。
あちこち擦り傷だらけで服に穴が開き、頭からいつの間にか血が流れている事にも気付かない。
――階段から転がり落ちた。
注意力を全く発揮していないから当然だ。
コントのような姿勢でずるずると闇の奥へ下っていく。
がたんがたんと、頭から滑り落ちていく。
走ることができなくなった。
だから、頭の中には自然と思考力が戻ってきてしまう。
口にするにもおぞましい出来事に、ウィンリィが巻き込まれた。
もしかしたら死ぬよりも苦しくて痛くて、快感さえ感じるほどの恐怖を味わわされたのかもしれない。
……怒りすら、感じなかった。
沸点を通り越すと、人は逆に寒気を感じる事を身を以って知った。
病気の時に感じる不快な悪寒を、地獄の釜で煮詰めて煮詰めて煮詰めて焦げ臭くなってもまだ煮詰めて、
数百倍数千倍までに濃縮された、底にへばりついているどろどろの黒いカスを風呂桶一杯分飲まされた気分だった。
糸の切れた人形のように取り留めない思考が勝手に垂れ流される。
そこに一切の感情は付帯していない。
少なくとも、前の放送の時にはウィンリィは生きていた。
だからここで起こった惨劇は、自分達が辿り着くほんの少し前に起こった可能性が高い。
あと数時間だけ。
たったそれだけここに来るのが早ければ、惨劇に間に合ったかもしれない。
彼女を、助け出せたかもしれない。
どうして間に合わなかったのだろう。
……安藤が、もっと早く来なかったからだ。
彼がもっと早く来てくれれば、もっと早く工場に向かえたのに。
いや、彼に責はない。
理不尽で詮無い責任転嫁と、分かっている。
それでも、やりどころのない何かをぶつける先が欲しくて仕方ない。
しかし、安藤は偶然自分達の前に落ちてきただけなのだ、それを忘れてはいけないのだ。
……偶然?
本当に、偶然なのか?
安藤が現れたのは、自分達に惨劇後の工場を見せ付けるためではないのか?
思い至ると、あまりにこの流れは作為的に過ぎる。
何もかもが整えられた、美しすぎる絶望の構図。
これが、偶然であってたまるか。
悪意に満ち満ちた予定調和にしか思えない。
この流れに自分を巻き込んだのは、間違いなく安藤の存在だ。
彼の行動を読み、機を見計らって自分達の目の前に落としてやれば謀ったように構図は成り立つ。
……だが、そんな事が出来るというのか?
惨劇の原因を用意し、それに巻き込まれる人間を呼び寄せ、
痕跡を見つけるメッセンジャーをここに招き、
そして自分達を工場へ向かわせる契機――安藤を、最高の機で動かしていく。
それら全てを読みきって、人選と初期配置を完璧にこなす。
成し遂げられるとするならば、それは人でなく神か悪魔か。
“神”に畏怖にすら似た絶望を抱いたまま、エドワードは奈落へと。
ごちん。
頭の中で星が煌いた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
闇の底へ辿り着けば、衝突の痛みが僅かばかりの理性を取り戻す。
触ってみれば、デカいこぶが一丁上がり。
痛みに今までとは別種の涙が零れてくるので、目頭を抑えて頼りなげに立ち上がった。
ゆっくりと手を離し、目を開ける。
……そこには。
「な……んだ、これ……」
想像さえしていなかった光景が、エドワードを待ち受けていた。
視界に映るのは、無数の羽の生えた女性が絡み――否、根元から癒着し溶け合うオブジェだった。
無数のケーブルが施設の設備から“彼女達”に延びる一方で、床にも淡く光る塗料で何か紋様が書き連ねられている。
紋様はまるで、もっと大きな図匠の一部であるかのように、通路の向こうへと広がりを見せていた。
ようやく気付いたが、ここは十数メートル四方の部屋らしい。
一本だけの蛍光灯が、幽か過ぎる光源となっている。
紋様の続く方向を見ると、そこには扉があった。
胡乱げにそちらの方へと向かい、手をかけてみるも扉が開く様子はない。
おそらく反対側も同じように鍵がかかっているのだろうと、当たりをつけたその瞬間。
――胎動。
オブジェなどではない、ここにあるナニカは生きている。
生きて、見当もつかない役目を果たしている。
「合成獣と、それを組み込んだ練成陣の一部?
いや、合成獣というよりはホムンクルスに近いような……。
でもそれにしたって、ここまで融合して人型を成していないのは……知らない」
ゆっくりとナニカに近づきながら、ごくりとエドワードが息を飲む。
研究者としての性が、完全に彼の理性を立ち上げた。
取り付けられたプレートを眺めながら、独り言を連ねていく。
「プラント……ドーム01、か。
配電を見る限り、この工場の動力はこのプラントってのから供給されているみたいだな」
これこそ、先に紅煉がこの工場に感じた息吹。
そして、妲己が己の新たな体として捜し求める器。
砂漠の星で人々を生かし続ける、人造生命の一つの到達点。
01という事は他にもこれと同じものがあるのだろうかと推測しながらも、視線は別のものへと向かう。
それは、彼自身が良く知っているかもしれないモノだ。
「……この練成陣みたいな紋様。
曲率からすると、アメストリスの地下みたいにこの島に張り巡らされているのか?
まさか殺し合いの目的さえ、同じ……?」
クセルクセスや、アメストリス全土を巻き込んだ練成陣。
それを発動させる代価は――人の命。
各地で勃発する戦乱すら、練成陣の構成要素に過ぎない。
目的は“扉”を開き、命を一点に収束させる事。
「だとすると、その中心部は――!」
――神社。
あるいは、神社の地下まで空間が伸張していそうな施設。
そこにおそらく、何かがある。
この殺し合いの根幹に関わる、何かが。
行かなければならない。
そして、真実を手にしなければならない。
無論、他の施設も探索する必要があるだろう。
練成陣の構成要素となりうるものは、虱潰しに調査せねば。
あとは、この殺し合いで起こってしまった大規模な戦いの配置も必要な情報だ。
それを知れば、次の戦場の予測すら可能になるかもしれない。
――首輪から送られるエネルギーの収束する先。
自分の推論と、人体練成による首輪解除の可能性。
それらがこの島の在り様と、かちりとどこかでかみ合う音がした。
その為にも、九兵衛の首輪を調べよう。
次々と浮かんでくる考えが、エドに確かな力を与えてくる。
歩き出す為の、力が。
もちろん、これら全てがダミーという可能性もある。
だけど、そんなもしもは考えるだけ無駄だ。
そう――、まだまだ自分にはやれる事があるのだ。
立ち止まってはいられない。
そんな姿を見せては、それこそ逝った人々に笑われる。
「エルリックさん……?」
不意に、背中から声がした。
振り向くと、自分を探しに来たのか一人の少女の姿がそこに。
「イマリ……」
「……これは」
エドの眼前の異形を見つけ、動きを止める少女。
珍しく見た彼女の驚きに、自分もあんな顔をしていたのかと苦笑すると同時。
「……ってぇーっ!
おいおい何だコリャ、傷だらけじゃねーか!」
全身の痛みに、ようやく気付く。
額に手を当ててみれば、切り傷から結構な量の血が流れ出ていた。
「……はは、痛ぇ……っ。
まだ生きてるんだな、俺」
苦笑いを、更に強める。
だけどそこには、幽鬼然とした先ほどの表情はもう見られない。
「少し、いいでしょうか?」
口元だけで微笑する少女。安堵の証左だろうか。
なにか、懐かしいものを見たかのようだった。
だからだろうか。
暗闇の中でも一人歩き出そうとする少年に、せめて。
そんな想いで、少女は静かに声をかける。
「なんだ?」
ぶっきらぼうながらも力のある言葉。
それを確認して、少女は言葉を紡いでいく。
「たとえ死が二人を別とうとも。
記憶の忘却によって、自分を認めてもらえなくなっても。
志を砕かれ、魔道冥府に堕ち背を向けられても。
それでも、在りし日の記憶は、絆は、永遠です。
かつての事実がそこにありさえすれば、人は暗闇の中でも一人立つ事ができるんです。
そして――、」
……孤独の中で笑える強さを。
この少年が壊れぬよう、止まらぬよう。
「その記憶や絆でさえ造られたものだとしても、それが本物になってはいけない道理は何処にもないと。
……私はそれを、信じています」
少女の言葉を確かに受け止め、頷く。
エドワードは、もう一度ここにはいない幼馴染を思い浮かべた。
……ウィンリィは、もしかしたらもう、いないかもしれない。
だけど――ここで立ち止まったら、それこそ合わせる顔がない。
いや、それ以前の話として、だ。
「――ハッ、くだらねぇ」
こんな紙切れで、ウィンリィの死を認めてたまるか――。
そうだ、手記の主である九兵衛の首輪は残っていて、だからこそ死んだかもしれない。
だが、ウィンリィのそれは見つかっていない。
ここで見限るのはあまりにも早計だ。
無事に生きて帰ってきて、彼女が笑って飛び込んでくるその可能性を、自分が信じず誰が信じるというのだろう。
その希望を、夢物語のままで終わらせないために。
エドワード・エルリックは力強く、踏み出した。
「……もうすぐ、放送です。
彼女の名が呼ばれないことを、私も祈ります。
だから、集まりましょう。皆さんと一所に」
「分かってるさ」
少女曰く、放送の直前に給湯室に再集合する事になっているという。
ならば、そこで今後について話し合おう。皆と共に。
手当てをしようと、少女が小走りで駆け寄ってくる。
自分は一人じゃないと、それを心に抱き――エドワードは笑顔を少しだけ取り戻した。
【E-6/工場地下室/1日目/昼】
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ及び擦り傷、デカいたんこぶ、
頭部に裂傷(小・手当て済み)、精神的疲労(中)
[服装]:膝下ずぶ濡れ
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記
[思考]
基本:皆と共にこの殺し合いを叩き潰す。
0:ひとまず関口伊万里と給湯室に集合。
1:ウィンリィの生存を諦めない。
2:計画≠フ実現を目指す。そのために神社や付近の施設の調査。
この島で起こった戦いの痕跡の場所も知りたい。
3:鳴海歩と接触するため、自分用の携帯電話を入手したい。
4:出来れば亮子や聞仲たちと合流。
5:キンブリーの動向を警戒。
6:リンの不老不死の手段への執着を警戒。
7:安藤との出会いに軽度の不信感。
8:九兵衛の首輪を調べたい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました。
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※レガートと秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
※インターネットの使い方をおおよそ把握しました。
※“混線”の仕組みを理解しましたが、考察を深めるつもりは今のところありません。
※九兵衛の手記を把握しました。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。
プラントはホムンクルスに近いものだと推測しています。
また、島の中央に何かがあると推測しています。
***************
動くことなくリン・ヤオは、その場に静かに立っている。
視線を動かさず、ただ珍妙な物体を、怖気さえ感じるほどの真剣さで見つめている。
彼の手の中にあるそれは、聞けば不死に近い体を得る術だという。
一度は失った、人外の体。
それはこの戦いにおいて生き延びる為の力となるだけでなく――、
一族の悲願を成就する為の、新たなる道筋を照らし上げている。
不死なんて得ても、そんなものに価値は見出せない?
……戯言を。
憎しみと呼んでも差し支えないほどに黒く燃える衝動が、怒りが、一人の少女の言動に対して込み上げる。
それを得る為に、どれほどの時間と苦痛と命が費やされてきたと思っている?
どれほどの想いが、努力が、英知が、そこに積み重ねられてきたのか。
想像するだけで身震いがする。
それを――たったの一言で切り捨てるとは。
人類が誕生して以来全ての年月を重ねてもなお追い求める奇跡、あの小娘に何が分かるというのだ?
例の少女とは似ても似つかぬ、片腕を失くしてまで自分の部下として働き続ける大切な存在を思い出した。
それもこれも全ては悲願の為。
だというのに、彼女の想いさえあの少女は蔑ろにしたのだ。
そして彼女にそう言わせる発端となった、鳴海歩という男にも嫌悪が涌く。
それでいて、連中は何処までもしたたかで陰険だ。
たとえば、先刻。
一度たりとも直接伝えてなどいないのに、あの女は自分の気配察知についていきなりカマをかけてきた。
エドワードのことで一杯一杯だった自分は、ついついそれに返事してしまったのだ。
それを許してしまった自分が情けない。
鳴海歩に隷属する安藤も同罪だ。
思えば得体の知れない力でこの身の自由を奪ったあの男は、ヘラヘラヘラヘラとこちらに媚びへつらい続けている。
腹の中に何を隠し持っているやら、だ。
果ては、少女と鳴海歩と安藤と、彼らの存在自体にさえ苛立ちを隠せない。
思い知らせてやりたい。
自分達の悲願の、求める力のその重みを。
その一方でリンは、この場で感情任せの争いをする無意味さを知っている。
彼らは現状、敵ではない。少なくとも、殺し合いを止める方向に動いているのは話を聞いて分かる。
その冷静な判断力が、実力行使で排除する選択肢を選ぶのを許さないのだ。
彼は一族の皇子として、政治的に大局的に、物事を運ぶ事ができるのだから。
……だから。
敵対する大義名分を得、協力によるメリットがデメリットを下回りさえすれば、
いつでも奇襲をかける心構えは出来ている。
掌で包む人外のチカラを、彼はその身に――、
【E-6/工場給湯室/1日目/昼】
【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
[状態]:バラバラ人間(?)、イライラ
[服装]:ずぶ濡れ
[装備]:降魔杵@封神演義、(バラバラの実@ONE PIECE)
[道具]:支給品一式、包丁、浴衣×1、刺身包丁×2、安藤(兄)の日記
食糧3人分程度、固形燃料×10、チャッカマン(燃料1/3)
[思考] :
基本:エドと共にこの殺し合いを叩き潰す。
0:バラバラの実を――?
1:エドとウィンリィが心配。
2:モンタージュの男を仕留め、咲夜、ひいてはグリードの仇を討つ。
3:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃と雪輝を無力化したい。
4:安藤(兄)に警戒と嫌悪感。
5:関口伊万里と鳴海歩に強い警戒と敵意。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
※異世界の存在を認識しました。
※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
※ワープ出口の気配を何となく察しています。
※安藤(兄)の日記は、歴代特撮ヒーローについて書いたようにしか見えないようになっています。
※インターネットの使い方をおおよそ把握しました。
※九兵衛の手記を把握しました。
※バラバラの実を食べたかどうかは後の書き手さんにお任せします。
***************
工場の生産ラインに座り込み、安藤は固まり震えていた。
エドワードを捜索するうちに偶然見つけたそれは、ただ、安藤に一つの選択を強いていた。
――殺人日記。
ひしゃげた十字架の傍に落ちていたデイパックの中身のひとつ。
見た目は何の変哲もない携帯電話だというのに、禍々しい威圧感を彼の手の中の道具は放っている。
未来日記所有者3rd、火山高夫の持つ未来日記――殺人日記は、“完璧なる殺人計画書”を所有者に与える予知能力を持つ。
つまり、およそ誰かを殺す事を意図した場合、間接的ながらもこの日記以上の攻撃手段は存在しないのだ。
……奇跡でも起こさない限り、絶対不可避の死が被害者には待ち受けている。
それは、どれだけ人の常識から外れた力を持った存在でも同じ事。
妖怪だろうが仙人だろうがプラントだろうがホムンクルスだろうが悪魔の実能力者だろうが使徒だろうが番長だろうが――死は全てに平等だ。
もちろん、この日記にも弱点はある。
それは所有者本人の周囲の予知は一切出来ない為、防御には殆ど役立たないという事だ。
こちらから攻撃を仕掛けた場合には比類なき力を発揮するが、一度押し込まれては後は崩れ去るだけ。
ひたすら攻撃に特化した、あまりにもアンバランスな――チカラ。
だから、この日記を使うとするならば、純粋な殺意を以って先手先手を打たなければならない。
安藤は考える。
考えろ考えろと考えながら、考える。
こんなもの、持っていても意味がない。
だって自分には人殺しをするつもりなんてないし、そんな事をしたら多分“戻れなく”なる 殺人日記 。
自分がこの手で 殺人日記 人を殺すなんて、それこそ恐ろしくて想像できない。
でも、うまく 殺人日記 使えばこれはどんな敵でも排除 殺人日記 できる道具だ。
殺し合いに乗った連中 殺人日記 だけを始末して、みんなを守る事にも使えるんだ。
それが正しい使い方 殺人日記 なんじゃないか?
いや、殺人に正しいも 殺人日記 間違い 殺人日記殺人日記 もない。
ああ、 殺人日記 でも――怖い。
そうだ、これを 殺人日記殺人日記殺人日記 使うのも使わない 殺人日記殺人日記 のも、怖い。
人を殺す怖さも嫌だ 殺人日記 、人に殺される 殺人日記 怖さも嫌だ 殺人日記 。
未来日記についての知識 殺人日記 なんて、 殺人日記 聞かなければよかった。
殺人日記 利用する為には自分の名前を 殺人日記 入力しなければ 殺人日記 いけなくて、
そうしたらもし携帯電話を 殺人日記 破壊されてしまうと 殺人日記 自分が 殺人日記 死ぬ。
鳴海を 殺人日記 恨みたい気持ちでいっぱいだ 殺人日記 。
ああ、でもあんな 殺人日記 超然とした奴でも、この道具を 殺人日記 使えば殺せてしまうんだなあ。
そうしてしまえば 殺人日記 気分的には凄い楽に慣れそうな気がする。
殺人日記 俺はアイツに決して置いていかれてなんてない 殺人日記 んだって。
ちゃんと、 殺人日記 俺の力もこの世界に通用するんだって。
……何を考えて 殺人日記 いるんだ。
俺は思ったんじゃないか、まだ年下のアイツの弱いところを守って 殺人日記 やるんだって。
守って?
そんな 殺人日記 事、一度も出来ていないじゃないか 殺人日記 。
それどころか、危険に曝され 殺人日記殺人日記 ないようにって別行動 殺人日記 までさせてしまっているじゃないか、たった一人で。
何を兄貴分みたいな面をして 殺人日記 いたんだ、今から思えば痛々しくて滑稽過ぎる。
馬鹿みたいだ。いや、実際に馬鹿なのかもしれない。
くそ、だからだろ。だからこそ、せめてアイツの彼女の助けになろうと 殺人日記 したんだろ。
折角の案も簡単に突っ返されたけどな 殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記 、アッハハハハハ。
あの 殺人日記 女の子も、俺とは違う次元にいる 殺人日記 。
鳴海が頼るのも納得だ、ああ、自分が 殺人日記 情けない。
あの鳴海が頼る 殺人日記 くらいなんだから、心配なんて 殺人日記 余計すぎるお世話だったんだ。
殺人日記 ああ、自暴自棄になっている自分が分かる。 殺人日記殺人日記 みっともなくて泣きたいくらいだ。
でも、これを 殺人日記 使えばあの女の子だって 殺人日記 イチコロだ、文字通りの意味で。
あの女の子が追い詰められる 殺人日記 のもいいけど、それ以上に 殺人日記 鳴海の反応が気になって 殺人日記 しょうがない。
自分のものだと思っていたものが横から奪われたら、鳴海はどんな顔をするだろう。
味方だと思ってた俺に 殺人日記 裏切られて、鳴海は 殺人日記 どんな顔をするだろう。
そうなってさえ、平然としているかもしれない 殺人日記殺人日記殺人日記 。
だとしたら悔しいなんてものじゃ 殺人日記 治まらないな、多分鳴海も殺してしまう 殺人日記殺人日記 。
それができるチカラが、ここにある。
傍から 殺人日記 声を聞くだけでヤバいって分かるユノって子も、
本物の殺し屋で恐れなんて知らなさそうな東郷も 殺人日記 、
鳴海と 殺人日記 渡り合う事のできる秋瀬或も、
弟や大切な人を 殺人日記 失ってもなお強い 殺人日記 ままのエドワードも、
俺にやたらに辛く 殺人日記 当たってくるリンって奴だって、みんなみんな 殺人日記 殺せてしまう。
ああ、チカラが欲しい。
誰にも劣る事のない、自分の存在を主張できるチカラが 殺人日記 。
物凄い濁流の 殺人日記 中でもちゃんと立っていられる、理不尽な世界に立ち向かえる 殺人日記 チカラが。
自分を信じて対決していける、その自信を 殺人日記 持たせてくれるチカラが。
そしてそれは、もう 殺人日記 ほんのちょっと指先を動かすだけで手に入る。
そうすれば、きっと。
誰も彼をも、見返してやれるんだ――。
殺人日記
殺人日記殺人日記
殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記
殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記
殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記
殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記
殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記
殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記
殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記
殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記
殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記殺人日記
そこまで思考が一つの単語に埋め尽くされたところで、気付く。
自分が見つけたこのデイパック、持ち帰ったなら確実に目をつけられる。
手ぶらで出たはずなのに、どうしてそんなものを持っているのか、と。
……つまり。
選択できるのは一度きり、という事だ。
これを手に入れられる機会は今このときだけ、という事だ。
自分を念願の舞台に押し上げてくれる道具は、今この時にしか得られない、という事だ。
殺人日記ごと、荷物全てを彼らに渡してしまうか。
殺人日記をどうにかして隠匿し、それら以外のものだけを彼らに見せるか。
殺人日記とデイパックごと、この場から逃亡してしまう事にするか。
……あるいは、殺人日記を用いて彼らを皆殺しにするか。
考えろ考えろマクガイバー。
制限時間は短いぞ。
その上弟は、今このときにも危険な男の傍にいるのだ。
あいつのところに駆けつけるために、何を躊躇うことがある。
幸いデイパックには、工具が入っている。
後ろ手ながらも、これを使えば手枷は解ける。
まるで天の思し召しのように、実に都合がいい状況。
あらかじめ、この為だけに“神様が用意してくれていた”かのようだ。
安藤は、掌の上の殺人日記を軽く握ると――、
【E-6/工場生産ライン/1日目/昼】
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:全身打ち身(中)、手かせ、精神的重圧(大)
[服装]:泥だらけ
[装備]:殺人日記@未来日記、ひしゃげたパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×2、工具一式、金属クズ
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留。
0:殺人日記を――?
1:エドたちの信頼を得て、脱出の手掛かりを探る……?
2:キンブリーに同行しているらしき潤也が心配。何を犠牲にしてでも彼らにアプローチ。
3:重度の無力感。その抑圧から解放されたい。
4:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい。
5:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
6:第三回放送頃に神社で歩と合流。だが、歩本人へ強い劣等感。
7:東郷と合流したい。しかし、苦手意識と怯えを自覚。
8:『スズメバチ』の名前が引っかかる。
9:エドの機械鎧に対し、恐怖。本人に対して劣等感。
10:リンからの敵意に不快感と怯え。
11:関口伊万里にやりどころのない苛立ち(逆恨みと自覚済み)。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※腹話術・副作用の予兆がありますが、まだまだ使用に問題はありません。
※落下中に上空のドームを見ていますが、思い出すかどうかは後の書き手さんにおまかせします。
※九兵衛の手記を把握しました。
※殺人日記の機能を解放したかどうかは後の書き手さんにお任せします。
【殺人日記@未来日記】
未来日記所有者3rd、火山高夫の持つ未来日記。その予知内容は『完璧なる殺害計画書』。
全ての未来日記の中でも、とりわけバトルロワイアルには向いた能力といえる。
反面自身の予知は殆ど出来ないため、使い所を間違えると未来日記本編のようにあっさり返り討ちに遭う公算も高い。
本来の所有者3rdは結構勢いで動く人間だったためスペックを生かしきれなかったが、冷静に考えられる人間が持つとこれほど厄介な道具もない。
機能を解放する為には、プロフィール欄に名前を入力する事が必要。
当然、プロフィールに名前を入力した『現在の所有者』は、殺人日記の破壊で死亡する。
また、一度に表示される殺害計画書は一回分だけという制限がかかっている。一人分でない事に留意。
***************
前を歩くエドワードの背を眺めながら、結崎ひよのは考える。
……どうやら、自分の仕事は予想以上に多いらしい。
階段を上りながら、手始めに修復した携帯電話をネットに繋ぐ。
エドワードの懸念であるキンブリー対策を向こうを刺激しすぎない程度に行う他、
書き込んでおくべきと判断した事を逐一掲示板に書き込んでいく。
無論匿名で、口調も変えた伝聞情報という形にする。その為の携帯電話だ。
……IDなども考えるとやはりもう複数台は欲しいとひよのは思う。
現状一番の問題のキンブリーに関しては、もうちょっと様子を見てからアク禁処置などを考えよう。
これぞ管理人の醍醐味……もとい特権だ。
ついでに新規書き込みを確認していく中で、一つのレスが目に付いた。
時間はつい最近、自分の接続と入れ違いといってもいいくらいだ。
「この書き込み……、もしや、安藤さん?
携帯電話を隠し持っていた……?」
……確証はない。
ただ、そのレスにはキンブリーらしき人物の、森あいと安藤への呼びかけへのアンカーと、
メールアドレスが書き込まれているだけだからだ。
慎重な事だ。
仮にこれが安藤の携帯電話として、それを確かめるのは難しい。
おそらく、森あいか潤也を直接知っていなければ分からない情報を載せたメール以外には反応しないという心積もりか。
自分がメールを送っても、返事は梨の礫に違いない。
おそらく受信音なども切られているため、それを利用したトラップなどもできないだろう。
もしこのレスの主が安藤ならば、自分を警戒しているからこそこういう形にしたはずだ。
自分がこの掲示板の管理人である事は、誰にも話していないし話すつもりもない。
だが、歩のブログの情報などから推測は容易に出来るはずである。
つまり、下手に多くを書き込んでいれば、間違いなく自分は彼の書き込みを特定できる立場にあるのだ。
しかし、書き込まれたのがこれだけならば、森あいの可能性も十分すぎるほどある。
あまり勘ぐりすぎてはかえって疑心暗鬼を招くだけであり、曖昧さに付け込んだ抜け道を確保していると言える。
……そこまで見越してこの書き込みをしたのだとすれば、安藤への警戒レベルを引き上げなければなるまい。
一見頼りなげなものの、あの鳴海歩が一時でも同行したからには何らかの利用価値があったと見るのが妥当だ。
その辺りを考慮して、なるべくなら再度歩の力となってもらえるよう穏便に済ませたいところである。
まあ、万一先走った行為の結果だとしても、この程度なら大目に見よう。家族を心配するあまりなら仕方ない。
彼を警戒してるらしきリンと合流したら、ボディチェックを行ってもらうのもいいだろう。
……とは言え。
当のリン自身も、おそらく、いや間違いなく自分に好感は持っていない。
最初からこの工場にいた自分を随分と警戒していたようだし、どうやら我流の交渉術もよほど癇に障ったらしい。
先刻のバラバラの実関連では、一時は丸くなった視線が余計に尖って突き刺さったのを感じている。
安藤からの暗く淀んだ警報とはまた違う、まるでヤクザの様な鋭いヤバさが彼にはある。
判断力は低くないようだし、常に自分のいるメリットをアピールしておけば短気には走らないとは思うが……。
「……やれやれ、非常に疲れるお仕事です」
正直、エドワードが錬金術を使えなかったら、今すぐにでも彼を見捨てて逃げ出したいところだ。
彼が気付いていないだけで、今の自分達は複数の肉食獣を一つの檻に纏めているにも等しい。
しかし、それでも今はこの面子に食らいついて放さないのが自分の役目であるとも理解している。
「……万一に備え、エルリックさんだけを確保して彼らを振り切る手筈を整えなければなりませんね」
そうエドワードに聞こえないように呟きながら、意識をデイパックに集中。
……安藤と同様、彼女もまた工場で見つけられた範囲のアイテムを回収している。
安藤と違うのは、最初から持っていたデイパックにそれらを入れているのと――、
先にここにたどり着いたアドバンテージが故に、安藤よりも多くの道具を確保していた事だ。
いざという時にはそれらの物騒なアイテムに活躍してもらう事になるだろう。
そんな事をおくびにも出さないまま、ひよのは携帯電話を更に操作。
――メールを使った『探偵日記』の主との直接交渉だ。
携帯電話を直してもらいたかったのは、これが最大の理由である。
彼もまた、独自の情報網で何かを得ている可能性が高い。
シンコウヒョウの名を記したメールを送り、向こうからの連絡を待つ。
太公望の遺産、存分に使わせてもらうとしよう。
その他にもまだまだ手を尽くすべきことがある。
大きなところだと、やはりエドワードの口にした“練成陣”らしきものについてか。
どうやらかなり大規模なものが地下にあるらしく、それにあのプラントとか言う謎物体が組み込まれているのだとか。
そのためにこれから神社か、神社の地下まで空間が広がっている施設を調査したいらしい。
その事自体に異論はない、しかし。
プラントとやらをエドワードはホムンクルスにも似ていると言っていたが、自分にも一つ思い当たる記憶があった。
あのプラントドームは、博物館に展示されていた――魔子宮、とやらの模型に良く似ていたのだ。
説明もよく読まず流し読みだったのでどんなものかは把握していないのだが、そのおぞましさ不気味さゆえに強く印象に残っている。
もしかしたら空似かもしれないが、博物館の再調査の必要性はますます高まったといえるだろう。
あとは、図書館などでも調査ができるかもしれない。
ただ、それを実行するには時期尚早だ。
エドワードは間違いなく、まだまだ何かを隠している。
女として、そして記者としての直感が、確実にそれを伝えているのだ。
……鳴海歩の求めるものこそが、エドワードの握る情報であるのだと。
その為にもせいぜい愛想良く振舞って、この手の届く範囲に彼を留め置く事に尽力しよう。
それが、焦りと不安に駆られているであろう鳴海歩を安堵させることに繋がるのだから。
他の誰にも分からなくたって、自分にははっきりと分かる。
あんなブログに書いてまで、遠回しに首輪解除への試行錯誤を要請するなんて。
歩は平気なようで――相当切羽詰っているはずだ。手詰まりなのは間違いない。
それでも足掻き続ける彼を、“彼女”は愛おしい、と思う。
不死など要らない。限りある命だからこそ、戦える。
そうは言ったが――、分かっていても、分かっているからこそ救いが欲しい。
彼に生きていてもらいたい、ずっと共に歩みたいと、その心は偽れない。
見返りは“求めて”いなくとも、見返りがあってほしいと“願って”しまうのは人の性。
納得ずくの中に不意に生じてひよのを苦しめる思考のノイズは、彼女の愛ゆえの業なのか。
だから、少しでも歩本人が生き延びる事に繋がるのなら。
“本人の意思が介在しない範囲”で全力を尽くそうと。
そして、彼を置いて自分だけ特別な力で生き延びようとも思わないと。
それが――最大の妥協点だった。
それこそ、汚れ役を引き受けてでも、手段を選ばずに、だ。
結崎ひよのは誰よりも揺らがない。
真っ直ぐ、一途に、鳴海歩に寄り添って同じ道を歩き、尽くす。
空間的な距離ではなく、見えなくとも確かにある場所で、だ。
それは我妻由乃にも通じる狂気と同種のもので――、それ故に誰にもどうする事が叶わない。
愛という狂気は、世界で一番頼り甲斐があり、世界で一番恐ろしい。
周りの全てを食らい尽くし、たった一人の贄とすることに他ならないのだから。
まるで彼女自身が生ける“蝕”であるが如く、結崎ひよのは――、
【E-6/工場地下室への階段/1日目/昼】
【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、喉にごく小さな刺し傷
[服装]:浴衣の下にイルカプリントのTシャツ、ストレートのロングヘア
[装備]:綾崎ハヤテの携帯電話@ハヤテのごとく!
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、太極符印@封神演義、改造トゲバット@金剛番長
番天印@封神演義、乾坤圏@封神演義、パニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマム
若の成長記録@銀魂、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、
秋葉流のモンタージュ入りファックス、柳生九兵衛の首輪、水族館のパンフレット、自転車
[思考]
基本:『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。蘇生に関する情報を得る。
0:雪に備えてもっとまともな服を調達する。
1:鳴海歩と合流したい。
2:エドワード・エルリックに同行。場合によっては他の人間を撒いてでも確保。
3:博物館を重視。封神計画や魔子宮などについて調べたい。図書館も同様。
4:送ったメールへの返信を待ち、探偵日記の主との直接交渉の機会を作る。
5:あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
6:安全な保障があるならば妲己ほか封神計画関係者に接触。
7:復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
8:三千院ナギに注意。ヴァッシュ、ナイブズ、レガートに留意。
9:ネット上でのキンブリーの言動を警戒。場合によってはアク禁などを行う。
10:安藤(兄)の内心に不信感。
11:リンの敵意を和らげたい。
12:できる限り多くの携帯電話を確保して、危険人物の意見を封じつつ歩の陣営が有利になるよう
掲示板上の情報操作を行いたい。
[備考]
※清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※手作りの人物表には、今のところミッドバレイ、太公望、エド、リン、安藤(兄)の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
※太公望の考察と、殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
※超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
※モンタージュの男(秋葉流)が高町亮子を殺したと思っています。警戒を更に強めました。
※太極符印にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
結崎ひよのは太極符印の使用法を知りません。
※探偵日記と螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※フィールド内のインターネットは、外界から隔絶されたローカルネットワークであると思っています。
※九兵衛の手記を把握しました。
※錬金術についての詳しい情報を知りました。
また、リンの気配探知については会話内容から察していますが、安藤の腹話術については何も知りません。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。魔子宮に関係があると推測しています。
※工場の動力は地下室に存在する小規模のプラントドームです。
練成陣の様な紋様がプラントドームに接続しています。
また、紋様に沿って地下室を通路が縦断していますが、どちら側にも扉が設置されています。
扉は現状では開きません。
※シルフェの剣@ベルセルクは、工場外壁付近のMr.2 ボン・クレーの死体の左足に突き刺さったままです。
また、デイパック(支給品一式、スズメバチの靴@魔王JUVENILE REMIX、コインケース@トライガン・マキシマム)もその側に転がっています。
※ゾッドの所有物(穿心角@うしおととら、秋水(血塗れで切れ味喪失)@ONE PIECE、支給品一式、手榴弾x2@現実、未確認支給品×1)
は未回収のまま、工場外の東部周辺のどこかに散乱しています。
***************
1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:7)
1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
スレタイ通り、人探しや待ち合わせの呼びかけをするためのスレです。
どこで敵の目が光っているか分からないので、利用する際にはくれぐれも気をつけて!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
6 名前:ポテトマッシャーな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:mIKami7Ai
森あいさんと潤也さんのお兄様を探しています。
ご本人か行き先を知っていらっしゃる方がいましたら、ご連絡ください。
7 名前:ブラコンな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:tAkaO03rD
>>6 【殺人日記のメールアドレス】
8 名前:二股ジゴロな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:HeRmionEA
鋼の錬金術師の代理人だ。
心当たりのある人間は、俺を経由すれば彼と連絡を取る事ができる。
レスがあれば連絡先を曝す。メールを送る際は、同定できる程度の彼の個人情報を告げてくれ。
2:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど(Res:5)
1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
殺し合いのゲームに巻き込まれたのなら、危険な人に襲われたり、裏切られたりすることも多々あります。
ここはそんな危険人物に関することを書き込み、注意を促すためのスレです。
もちろん、扱う話題が話題なので、書き込まれたこと全てを鵜呑みにせず、
詳しいことを質問するなどして、特に慎重に真偽を判断するようにしてくださいね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4 名前:ラッキースターな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:mIKami7Ai
×印の髪飾りを付けた少女には注意してください。
既に何人かの人間を殺しているようです。
5 名前:コンバットバトラーな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:HeRmionEA
紅蓮の錬金術師、キンブリーという男が危険人物らしい。
破壊工作が得意な上、人を唆すのも上手いそうだ。
もしかしたらこの掲示板にも既に潜り込んでいるかもしれない、再三の注意を払ってくれ。
3:【厨スペック】支給品情報まとめスレ【官能小説】(Res:3)
1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
ここは皆さんに支給された支給品の情報を書き込むスレです。
書き込みからお求めのあの品やこの品を探したり、欲しい物を問い合わせたりする時に使用してください♪
2 名前:爆弾大好きな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:mIKami7Ai
賢者の石と呼ばれるものを探しています。
心あたりのある方はご連絡下さい。
3 名前:借金執事な名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:HeRmionEA
鋼の錬金術師を名乗る者も賢者の石を欲していた。
今何処にいるかは分からないが、見つけたら協力してやってくれ。
既に何人かが彼と出会っていたらしいから、彼らに聞けば人間性も把握できるはずだ。
4:殺人ゲーム参加中の俺が名有り施設を巡ってみた(Res:2)
1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
マップ上に名前を記された、特殊な施設に関する情報を書き込むスレです。
何か気が付いたことがありましたら、じゃんじゃん書き込んじゃってくださいね〜
2 名前:サンタに見放された名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:HeRmionEA
何人かに話を聞いたところ、いくつかの施設にはワープスポットが存在するようだ。
便利ではあるが、トラップになっている場所もあるらしい。
待ち伏せなどの可能性がある以上、使う際は十分注意をしてくれ。
5:雑談スレだけど何か話題ある?(Res:2)
1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
わざわざスレ立てするまでの話じゃないけれど、該当するスレがどこにもない!
そんな話題を扱うためのフリートークの場です。
2 名前:元自転車便の名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:HeRmionEA
大規模な戦闘の跡を見つけたらタレ込んでくれ。
少々調べたい事がある。
**************
……エドワード・エルリックは、気付いているのだろうか。
今彼の隣にいる全ての人間が、それぞれの思惑とエゴを抱えて蠢いているのだと。
仲間とは――今にも千切れそうな皮一枚の繋がりでしかなく、薄氷の床より危うい存在であるのだと。
そして。
工場の惨劇と、安藤との邂逅。
それらが自分を突き落とすお膳立てであったのならば、
ここに見つけた再起の希望ですら、予め用意された代物かもしれないと。
以上、投下終了です。
65 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/03(水) 14:44:38 ID:hW/SMYxG
投下乙です
これは凄く濃い展開でした!
どう捌くか気になってましたが上手く捌いた上に先が気になります
携帯やらプラントやら魔子宮やら考察も進みましたが謎も増えたような
そしてみんなの心がバラバラだw これぞロワの醍醐味だw
いやあ、先が本当に楽しみですw
投下乙です
それぞれの心情考察が凄い。特に安藤の殺人日記の取り付かれっぷりが・・・・
キンブリー早速ばれとるw
り
投下乙です!
なんだこのしがらみだらけの工場組は…
マーダーと一緒にいる潤也やハムさんのほうがまだマシに見える
で、最近連投されたやつ含めて、安藤兄貴の憂鬱っぷりが凄まじいw
「私はひとを探してるの」
女が囁くように言った。言いながらカツ、カツ、と階段をのぼる。
「私はルフィを殺した女を捜しているの。私はサンジを殺した男を捜しているの。
私はルフィを殺した子供を、サンジを殺した大人を、年寄りを、赤ん坊を、若者を、大人を、子供を、海賊を、役人を、市民を、善人を、悪人を、捜しているのよ」
こうべをふうっとめぐらせて、スズメバチを捉えた。
「ねえ、あなたがルフィを殺したの?
首がかしげるようにねじれて流を向く。
「ねえねえねえねえ、あなたがサンジを殺したの?」
女のまばたきをしない目が流をのぞき込んだ。
「悪ぃな、オレじゃあないぜ」
流は社殿に腰をかけて、軽く手をふった。クソ野郎は歓迎だがイカレ女は願い下げだ。
「他をあたってくれや」
女がじいっと見つめる。黒曜石のようになめらかでまったいらな目でじいっと見つめた。
その中にはなにもなかった。なんにもない、空っぽだ。
ルフィやらサンジやらいう連中が死んだときに、この女の何割が死んだのだろうか。
全部が死んで残ったのは殻だけか。
流は海を連想した。闇に閉ざされた夜の海。
前もない、後ろもない、茫漠たる水の砂漠にたった一艘浮かぶ舟。
うしおもこういう目をするだろうか。流は思った。
うしおのこういう目が流は見たいのだ。
いつも太陽の光を受けてぴかぴか輝くあの目が、この世にいるありきたりな人間のように淀み濁るさまを、流は見たいはずなのだ。
しかしなぜか、女の空虚な目をうしおにあてはめても、流にはどうしてもしっくりこなかった。
女の瞳が初めてまたたいた。
「ここは宗教施設よね」
ごとっと音をたてて女の肩から死体が落ちる。
黒いスーツに金の髪。ルフィだかサンジだかの死体だろう。
壮絶な死に様にすさまじい戦闘の形跡が見て取れる。どこかで強者とかち合って、そして敗れ去ったのだ。
そんなやつとまともにやりあったのだ、この男もきっとそれなりの手練れだったに違いない。
その傷口から覗く白っぽい肉もとがった骨も、血が染み込んでずぶずぶになった服も、
――きたねぇな。
流は思った。仏教は弔うが神道は穢れを忌む。
ここは清潔な境内だ、さっさとソレを持って去れ。
坊主のはしくれに経を読む気はさらさらない。
女が死骸を支えた。すらりとした右の手が男の腰を優しく掴む。
いや、女の右手は自身の銃創を押さえている。
女の右手は男の肩にまわっている。女の右手は男の髪をすいている。
女の左肩から、にゅううと新たな右手が伸びだして男を丁寧に寝かせた。
「なんだあ、おまえ新手の妖怪か?」
あまりにも人にはありえない有りように、馴染みの語彙が口をついてでた。
法力僧になってから常にかたわらにあった単語で、彼らにとって額面以上も以下の意味もない。
あれは犬かこれは猫かと問うのとなんらかわりはしない。
人格的にはどうであれ、能力的にはきわめて優秀な僧である流にも妖気は感じられなかったし、
ただ思いついただけの言葉だった。
しかし、女の肩はあからさまにびくりとする。
「妖怪……? 今妖怪って言った……?
ねえ、今、私のことを妖怪って言ったの……?」
正位置の右手がするすると動いて、額を覆った。彫像じみた美貌にべたりと赤い血がつく。
ふ、ふふ、と女が切れ切れに嗤った。震える唇で言葉を紡ぐ。
「そうね。そうよね。そうだったわ。愚かね、ニコ・ロビン。
夢が楽しくてそんなことも忘れていたの?
あなたはいつだって妖怪だったじゃない。これからも悪魔の子じゃない」
肩を抱きしめるように女はぶつぶつとつぶやく。
うつろに見つめる手の間をひよひよと風が吹き、開かれた境内に渦を作る。
それが死体の乾きかけた髪を巻き上げた。
「兄様……兄様……紳士な兄様……。兄様、死んじゃったの?」
幼い少女がお菓子をねだるような、甘い声。
結界にがんじがらめになったまま、スズメバチがサンジに手を伸ばす。
当然届かないが、大事なぬいぐるみをひきよせるように白く細い指が宙をかいた。
「もっとたくさん遊んであげたのに。もっともっといいことたくさんしてあげたのに……」
ふっ、とロビンはスズメバチを見る。わずかに目を細め、息をはくように言った。
「そう、あなたがサンジを殺したの……」
こいつ、人の話を聞いていないのか?
スズメバチがこれまでどこでなにをしていたんだが知ったこっちゃないが、
言い回しからしてどう見ても下手人ではない。――それとも、そんなこともどうでもいいのか。
「なら、あなたも死なないと」
8本の手にダーツが握られたのを見て、流はあえてスズメバチの結界を解いた。
虫かごから放たれて、蜂がふわりと飛翔する。
「姉様……変わった体の姉様……。お手々がいっぱいなら、楽しみもいっぱいね」
跳躍の軌道を読んで、するどいダーツが一斉に放たれた。
その射撃は精密で、羽でもなければ空中でよける術はないだろう。
鮮やかな蜂の舞は虫ピンによって静止させられるはずだった――まあ、普通なら。
「うふふ、そんなんじゃあぜんぜんたらないの。
蜂を貫くのはもっと太くて、もっと長くて、もっと強い針でないと……」
すりっぷ。
ばかみたいな音をたててダーツが社殿の方に飛んできた。
頬杖をついたまま、流は錫杖の柄ではたき落とす。
なんてことのない、ありきたりなただのダーツだ。
目を戻すと、スズメバチはロビンに肉薄していた。
靴にしこまれた針が確実に目を狙い、何本目かの手がそれを弾いた。女の頬から血が伝う。
見るからに女は押されている。手の数がいくら多くても何になるか。
妙ちきな超能力のおかげでスズメバチの体は文字どおり掴みどころがない。
加えて身のこなしは素早く、流のように術を使えないなら苦戦するのも無理はない。
女は見てくれこそおかしいが、じり貧なのは目に見えている。
――もうしまいかよ
流はがっかりして成り行きを眺めた。
「姉様のお手々、桜貝のようなお爪を集めたらおはじきができる?」
女が無意味に支給品袋を投げた。
ダーツと同じ音を立てて袋はあさっての方に飛んで消えた。
あとで回収しよう、流は思った。
「ふふ、一つずつ剥いであげるわ。決して折れたりしないように、丁寧に丁寧にゆっくりと剥いであげる」
女が身を翻し、長身を生かして間合いをあける。
これも無意味だ。
機動力に勝るスズメバチは軽い体で飛び立つ。
「きれいな姉様、お顔はちゃんと見せてね?」
スズメバチの鋭い跳びに女がニコリと微笑みかえした。
「妖怪『手だらけ』はこんなこともできるのよ?」
その直前、いやな気配を背後に感じて流は跳ね起きた。が、為せない。
地から這い出た無数の腕につかまれて流はのけぞって倒れこんだ。
女のなめらかな手が、ざわざわ、ざわざわ、と肌をなでる。
錫杖の先にも、柄にも、流の手首にも、肩にも胸にも腹にも顔にも額にもびたりと生温かい掌が張り付いている。
女の力とはいえ体勢的に逆らうのは苦しく、流は抵抗をやめた。
向こうではスズメバチの柔らかい体が大地にたたき付けられている。
肌に傷はつかなくとも衝撃は避けられない。肺の奥からしゃがれた声でうめく。
「痛かった? ごめんなさいね」
ただ一人立って、むしろ愛しげな口調でロビンが語りかけた。
「でも、きっとサンジの方が痛かったと思うの。
ルフィの方が痛かったと思うの。だって死ぬほどまでに」
スズメバチは、標本のように地面に縫いとめられていた。
少女の足から生えた手が、大地の手としっかり組んでいる。
少女の腕から生えた腕が、大地の腕としっかり組んでいる。
この人体のパーツからなる鎖によって、己の跳躍を攻撃手段とされたらしい。
「あなたの肌は本当にすべすべね。ふふ、うらやましいわ」
さらさらとロビンの手がスズメバチの服をといていく。
「きっとサンジは苦労したのでしょうね。大変だったのでしょうねえ。
それをあなたは嬲ったのね。サンジを嬲ったのね。
サンジは苦しかったでしょうね。辛かったでしょうねええ。
だって、彼は優しいもの。女の子を蹴るなんてできないもの」
四方八方に隙間なく、熱帯の植物のように絡み合い女の腕はたなびく。
わらわら、わらわらと数多の手が引き戻された支給品袋をあさる。
別の手は手に手にタオルと木切れを持つ。
ある右手がランタンを取り出したとき、流は意図に気付いた.
「履いてないのね、あなた」
ドレスをはがされ、しっとりときめ細かい少女の裸身があらわになる。
そこに燃えさかる木ぎれが押しつけられた。
スズメバチが犬のように悲鳴をあげて、未発達の身をよじる。
強い力に引っ張られ、つややかな髪が根本から音を立てて抜けた。
抜けるように白い体がくっきりとただれて赤い肉との強烈なコントラストを現す。
女の手は淡々と蜂の防壁を崩す。
スズメバチの肉体は白と赤とのまだらになって、赤の面積が増えるたびにうぞうぞと身もだえた。
しかし、苦痛にのたうっていたはずのその声は、やがて変化を迎える。
それは次第に異なる色をおび、ついには明らかな嬌声へと移り変わった。
「きゃは、キャはは、アハ、あハハはハハハハ」
間違えようのない享楽の声に乗せて、スズメバチがロビンに話しかけた。
「ねえ。見て。姉様」
「ええ、見ているわ」
「ねえ、蜂の肌がめくれるの」
「ええ、そうね」
「ねえ、蜂の血が沸いてるの」
「ねえ、そうね」
「ねえ、蜂の肉がこげていくの」
「ええ、そうね」
「ねえ、姉様、見てる? 聞いてる?」
くすん、とあえぐようにスズメバチが鼻を鳴らした。
「ねえ、姉様、見て、聞いて、嗅いで感じて触れてえぐって剥いでもいでちぎって破いて砕いて崩して。
蜂の体が骨が皮が関節が血管が筋が神経が壊れていくのよぉおぉおおう」
嬌笑が神社の境内に跳ね返りがんがんと鳴り響く。
耳障りに聞きながら、目に被さる指に流は小さなささくれを見つけた。おや、と思う。
よくよく見てみると、すんなりと細く長い指のまったく同じ場所にどの手も小さなささくれがある。
そういえば、短く整えられた爪の角度もおのおの同一だ。
その指の第二関節に赤い染みが現れた。水ぶくれだ。
スズメバチの方では相変わらずお手々たちが焚きつけにいそしんでいる。火の粉も舞うだろう。
目に入る限りの全部の手に水ぶくれはできていた。
――なるほどな。
流は小さく印を結び、額に意識を集中させた。
消耗しているとはいえ、からくりがわかった今この程度の枷など破るのはたやすい。
口の中で経文を唱えようとして――それが掴まれた。
「あなたも女の子になってみる?」
社に、柱に、壁に、屋根に、階段に、床下に、欄干に、石に、土に、幹に、葉に生えた手が、
手、手、手、手のひとさし指が、いっせいに流を指す。
――ちょっと待て!!
ひゅっと背中が冷え、練りかけの法力は虚しく散る。
腕の一本くらいなら、失ってもいい。
目を一つなくしても、なんとかなる。
生命を落とすのすら、あきらめもしよう。
でもそれはだめだ。それだけはだめだだめだ。
そんなものなくても死ぬわけじゃないでしょ――日輪ならそう言うかもしれない。
いや、死ぬ。絶対に死ぬ。本気で死ぬ。男なら知っている。
心の中の大きなかけら、男が立っていくためにとても重要な、なんだかよくわからない何かがぺしゃんと死ぬことを。
「ま、待て待て待て待て! 話せばわかる!」
チンケな小悪党みたいな言葉がついて出て流はうんざりした。
けれど、こんなのがもっとも自分にふさわしいか。
仲間を裏切り、弱者をいためつけ、そしてこうして命ごいすらする。
心からものを思うことも、信念をもってなにかを完遂することもなく流れるようにただ生きて、家のない犬のように道端で死んでいく。
白面の生きようすら、流には眩しいかった。
だからこそ流は求めたのだ。己を出しきりそれでも勝てないなにかを。
女が首をぐるりと回した。背を向けたまま顔だけを流を向ける。
「だって、おかしいと思わない? だっておかしいでしょおお?
ルフィが死んだのよ。サンジが死んだのよ。
なのにどうしてあなたは生きてるの。ねえ、どうして生きているの。
どうしてあなたたちは生き続けるっていうの」
――だからおれは関係ねぇってんだろうがよッ!
流は思ったが、口には出さない。代わりに考える、考える。
流は結構必死に考えた、男であるがまま窮地を打破する舌先三寸を。
男にこだわらなければいかようとも簡単だが、そこにはやっぱりちょっとこだわりたい。
ロビンの温かい手がそれを握り直した。そのわずかな動きに流はうっと喉が鳴る。
快感などでは決してない。流はしんしんと指先が冷えるのを感じた。
「ふふっ操縦桿みたいね」
ロビンが笑う。だがここまでされても流に熱い殺意は芽生えずただ冷静な思いだけが働く。
いつもそうだ。今もこうしてすべてを見下ろす自分がいて、芯が燃えることなどない。
流を揺り動かすのは、結局あいつらだけなのだ。早くとらと戦いたい、流は思った。早く早く早く早く。
「元の世界にゃいるんだろ?」
「ねえ、ほら」
「あんたを育てた親父や、」
「私の爪、きれいでしょう?」
「おふくろや、」
「だから、きっと大変よ?」
「いや、兄弟が」
「この爪でえぐられるのは」
「それとも仲間か」
おびただしい数の手がゆらゆら、ゆらゆらとなびいている。
それは紛れもなく人間の手であるだけに、流にすら吐き気を催させた。
「仲間……?」
その手の動きがふと止まった。ロビンが体を流に向ける。
――アタリか?
流は苦しいながらうなずいてみせた。
「サンジはただの人間にやられたんじゃねぇ。でけぇ獣に食い千切られてるな。
サンジは強い戦士だ、そんなバケモノと競り合う戦いをした。
ルフィだってきっと勇敢に敵と戦ったぜ」
ルフィは男か女か、強いのか弱いのか、そもそも戦闘員なのか情報が少なすぎる。
ままよ。流は押し通した。
「ともに海賊と戦った、ロビンあんたの仲間だろ」
ロビンの目が焦点を取り戻す。
しょっぱなの女の言葉を流は覚えていた。羅列の中でも異質な『海賊』、ヤマはあたりだ。
流がやるとこんなにも物事はうまくいく。
「あんたの仲間はルフィとサンジだけじゃねぇだろ?」
辛抱強く話しかける。
ロビンがわずかに目を閉じた。絞り出すように、親しげに、いくつかの名前を呟く。
「ナミ……ゾロ……みんな……」
「よくよく思い出してみろよ、」
流は力強く続ける。
「ナミや……」
「……そうね」
「ゾロや……」
「そうね」
「ともに過ごしたあいつらの……」
「そうね。そうね。そうね」
「あいつらの、笑顔をよ」
「彼らも殺してあげないと」
「おまえ、仲間も殺すのかあ?」
つい素に戻って流は言った。
「海賊は船長の許可なく一味をおりてはいけないの」
意外にもはっきりした声音でロビンが言葉を継ぐ。
「麦わら海賊団はいつも一緒なの。いつもいつも一緒じゃないといけないの。
ルフィの許可なしには、誰一人欠けてはいけないのよ」
明確な理性を宿してロビンが流に笑顔を向けた。
「ありがとう、あなた。名前も知らないけれど。
私は元の世界に帰らないと。みんなを殺して、世界を平らにしないと。
彼らがいないのに世界だけが在り続けるなんて、それは奇妙だし、」
言葉を一度句切って、思い出したように含み笑いをする。
「そう、『未来は白紙に』しないとね」
船長死亡 ―> 仲間皆殺し ―> 世界滅亡。
――どんな三段論法だよ。
ロンリダ小僧が聞いたらぶっとぶだろう理論をロビンは平然と展開する。
それは結構、流にとって小気味のいいものだった。
論理的に正しいとか正しくないとか、そんなことはとうにわかっている。
ようくようくわかっている。でも、それでも、いやだからこそ流はこの道を選んだのだ。
流が流であるために。また、きっとロビンがロビンであるために。
他人がこねくりまわした理屈などまっぴらだ。
ひとはいつでも望む人になれるのなら、流は誰よりも薄汚い裏切り者を望む。
どこにでも行けるのなら、悪臭ただようどぶ水を望む。
そう、そう望んでいるはずだ。だって流の本性はねじくりまがった悪人なのだから。
「まあ、待てよ。あんたは頭が働くし、その力も便利だ。
だがそれだけじゃあやっていくのは難しいぜ」
意思を持った眼差しでロビンが流を見た。似たような言葉をきいた、と呟く。
女は値踏みをしている。アタマのネジは吹っ飛びまくっているが、計算機能は残っているようだ。
与えられていた圧迫感がふっと失せた。当然、それも解放されている。
ガラにもなく安堵の息をついて流はあぐらになった。錫杖で肩をとんとんと叩く。
耳障りなキョウショウはすでに消えていた。
ごぼごぼというタールを混ぜたような不快な音は続いたが、それもやがて聞こえなくなるだろう。
「あんたさ、どうやって世界を白紙にするんだ?」
ロビンはにっこりと鮮やか笑みを浮かべる。
「私には、いつかそれを為すための知識(ちから)がある。
子供はいつか大人になるもの。みにくいあひるの子はきれいな白鳥になるでしょう?
悪魔の子は今にあかあい角を生やすのよ」
ロビンは楽しそうに語った。楽しそうに古代の兵器にまつわる物語を語った。
古代だとかなんだとか、そんな眉唾物の話はどうでもいい。
でも、その空想の物語は流を楽しませた。
その兵器はすさまじい熱をもってロビンの世界を焼きつくすだろうか。
端っこから端っこまでを轟々と燃やすだろうか。
「そいつはさぞかしうるせぇことだろうなア」
まばゆい光が地球を覆いつくし、海も山も飲み込まれる。
その爆風は、草も動物も人間も白面も流の耳も鼓膜もシナプスも、まるで価値のない塵のように吹き飛ばすだろう。
きっとなにもかもがいっさいがっさいなくなってしまう。この世のすべてが溶けて消えてしまう。
流はその姿を思い描いて恍惚とした。
「俺にも見してくれよ、世界が滅びるさまってやつをよ」
「ええ、あなたにも見せてあげるわ。あの人たちを失ったあとの世界を見せてあげる。
世界が燃えつきるさまを見せてあげる」
歌うような口調でロビンがうっとりと言った。
彼女がその目論見通り兵器を作動させても、もちろん二人でその様子を見ることはない。
ロビンの目的は参加者を踏み潰して自分だけがその上に立つことだ。
立って元の世界に帰りなにもかもを破滅させることだから。
流とロビンたった二人が最後に生き残ったとしたならば、この殺し合いの果てに流がロビンを殺すのだろうか。
それともロビンが流を殺すのだろうか。
そうなったらそのときに考えればいい。流のやりたいことはこの島の中にこそある。
すべてが上首尾でただひとり流が生き残る。そんな未来は退屈すぎて流にはありありと想像できる。
ロビンはそんな流の、最後の暇潰しになってくれるかもしれない。
「みんなのしたら場」に一つの記事が投稿された。
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2:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど
6 名前:スノーフリークな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:eKosSdvV2
私はこれから死ぬけれど、沖田総悟とミリオンズ・ナイブズと名乗る人たちに気をつけて。
人当たりのいい若い男と、小柄な十代の少年に。
彼らの名を騙っている人がいるといっていたけど、今となってはそれが本当かもわからない。
力を合わせて主催を倒そう、元の世界に帰ろうなんて耳あたりのいいことを言って近づいてくるけど決して信じちゃだめ。
信じた私たちは、私の友達は、見たこともない箱のような武器と不思議な力で一瞬のうちに殺されてしまった。
私たちは、ただ生きたかっただけなのに。
ああ、声が聞こえる。彼らはもう近くにいる。
私ももうすぐ死ぬんだ。きっと死ぬんだ。ごめんね、待っててねみんな。
ねえ、私、死にたくない。死にたくないよ。
たすけて
だれか
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「――っと。こんなもんか」
流はエンターキーを押した。ロビンが感心したように言う。
「器用ね、あなた」
「サクブンは昔っから得意でよ」
研究所への道を見付けたのは流だが、鍵を開けたのはロビンで、いい考えがあると言ったのもロビンだった。
敵役の名前は鉛筆を転がして決めた。あえて蒼月潮を避けたのは、恣意性を排除するためだ。
書いたのが流と露呈するのはてんで構わない。しかしそれでは参加者を潰しあわせるという目的にはかなわない。
あくまで信憑性が大切だ。
名前こそ異なるが流はうしおをモデルに子供を書いた。
ロビンはヴァッシュを思い浮かべて大人を決めた。
或&リヴィオ、うしお&蝉、エド&聞仲(+高町亮子)、植木&ヴァッシュというように、彼らが把握しているだけでも若い男と少年の組み合わせはこれだけある。
きっとまだまだ他にもいるだろう。具体性を持たせた敵役にはぴったりだ。
そして数が多ければ多いだけ衝突の要因となる。
たったこれだけの情報でつぶし合いに発展はすまいが、疑心暗鬼の種くらいにはなるはずだ。
キーボードからにゅっと右手が飛び出した。
「よろしくね、『殺し合いに乗った最低のクソ野郎』さん」
流はもう驚かない。しっかりと握りこむ。
「こっちこそどーぞ。妖怪『手だらけ』さんよ」
そして椅子をのけぞらせて振り返り、うずくまるそれに声をかけた。
「おまえもきっちり働けよ、『虫けら』。貴重な医薬品を使ってやったんだからよォ」
【F-05地下/研究棟/1日目/昼】
【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]:左腕に銃創×2(握力喪失)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(名簿紛失)、んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ×1)@銀魂
双眼鏡、食料、着替え、毛布
[思考]
基本:勝ち抜き狙い。帰ったらプルトンを復活させて世界を滅ぼす。
1:秋葉流と協力して、効率的に参加者を排除する。
2:可能なら、能力の制限を解除したい。
3:ヴァッシュに対して――?
4:ルフィたちのいない世界なんていらない。
[備考]
※自分の能力制限について理解しました。体を咲かせる事のできる範囲は半径50m程度です。
※参戦時期はエニエスロビー編終了後です。
※ヴァッシュたちの居た世界が、自分達と違うことに気がつきました。
【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(小)、法力消費(小)
[装備]:半裸。錫杖×2、破魔矢×15
[道具]:支給品一式、仙桃エキス(10/12)@封神演義、注連縄、禁鞭@封神演義、詳細不明神具×1〜3
[思考]
基本:満足する戦いのできる相手と殺し合う。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
0:ロビンと協力して参加者を撃破。
1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
3:高坂王子、リヴィオを警戒。
4:聞仲に強い共感。
5:万全の状態でとらと戦いたい。
6:ロビンの『世界を滅ぼす力』に強い興味
[備考]
※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。
※ロビンが咲かせるのは右手だけだと思っています。
【スズメバチ@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、全身に重度のやけど
[服装]:包帯の上にゴスロリドレス
[装備]:縫い針を仕込んだ靴(毒なし)
[道具]:支給品一式(コンパス以外)
[思考]
基本:????
0:????
[備考]
※ スカートはギリギリで見えません。履いてなかったです。
※ 針は現地調達です。毒は浴槽に入ったことで洗い落とされてしまいました。
以上です。時間をかけてすみませんでした。
いつもミスだらけなので今回はがんばれたと思いたいです。
投下乙
ロビンぶっ壊れ過ぎだろ良い意味でw
思わず藤田絵で再生されたわ
にしても流兄ちゃんはロビンにナニをナニされかけて羨ま……いや羨ましくは無いな
かなり頭脳派のマーダーチームだし、今後に期待
投下乙です
マーダートリオが誕生してしまったな
同じくロビンの壊れっぷりが泣き操縦桿で不覚にもw
そして蜂……履いてなかったんかい!
知らんうちに名前を利用された二人、特にナイブズの動向に期待
投下乙です
ああ、ここまで壊れてたのか…
簡単にトリオにはならないと考えてた俺が甘かったですw
ワンピースの古代兵器の話に流が興味を示す部分は上手いです
そしてスズメバチは凄いことになってるなw
なんかすげえことになってるなあ…
上にもあったけど、マジでロビンがうしとら世界に迷い込んじゃったみたいだ
誰だ安藤兄の憂鬱を用語集に入れた奴はw
>PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞
キンブリーwww
秒殺で対処されてるwww
ひよのの献身がいじらしくも怖い
>独りきりで乗る船の
ロビンの思考が凄いな
そしてそれを返す流のリアクションにワロタ
操縦桿てw
スズメバチ……これは働けと言われてももう無理だろw
ところで、予定していたゴルゴ分のプロットで新しくSSを書いたのですが投下してもよろしいでしょうか
ゆのが自己リレーになってしまうのですが
別に構わないんじゃない?
やっちゃえ
あ、すいません。ちょい指摘をば。
>独りきりで乗る船の
研究棟のPCを使ったなら、ナイブズやみねね、レガートと同じIDになるのでは?
それでは投下させてもらいます。
ここに空を飛ぶ者たちがいる。
鷹、鯨、妖に妖精。
そんな彼らよりも尚高き所、あるいは神の視点とも呼べる場所にその男は居た。
だが、もし地上からこれが見えた者がいれば、それをどう見たであろうか。
その姿を形容するとするならば、子供の手に糸を抓まれ、思うがままに振り回される蜘蛛であった。
空を自在に翔る者たちとは、比べるべくもない無様な飛空。
暴風の乱気流に身を揉まれ、頼りなく揺れるその姿は哀愁すら感じさせる。
だが、その正体は神に救いを求め、蜘蛛の糸に縋りつく地獄の亡者などではなく。
神を殺した13番目の男である。
超A級スナイパー、ゴルゴ13。
天の底にあって、そのスコープはいったい何を捉えるのか。
◇
細い路地を、裸足の少女がゆっくりと歩いている。
建物の隙間を縫うように伸びるその道は、少女が後にしてきた旅館へと続いていた。
道を逆に辿るように、時間も巻き戻せればいいとゆのは思う。
悔恨は深く、だが、他に選ぶ道もない。
身勝手に殺した人間の首を落とし、首輪を自分の腕の治療の為に貰い受ける。
二重の罪を前にして、ゆのはキンブリーとの会話を思い出していた……
――――
『貴方は既に――
人を、殺しているのだから』
腕の治療の見返りに、殺し合いを要求してきた錬金術師の弾劾。
秘められた、心の傷。
それを突然暴かれて、ゆのは激しく狼狽した。
『ち、違いますっ! あれは……あれは違うんですっ!』
『何が違うと言うのですか? 殺したのでしょう? 自分の身を守るために』
『ッ……』
反射的に発した自衛の言葉は意味をなさず、キンブリーの言葉の前にたやすくねじ伏せられる。
しかし。
『良いではないですか』
『……え?』
錬金術師は、殺人を肯定する。
その言葉には、弾劾ではなく、称賛の意思こそが込められていた事に少女は気付き……
『夢があるのでしょう?
絵描きになる。素晴らしい夢です。
ならば、殺されるべきではありません。生きるべきです。生き残るべきです。
その為に……貴方は戦わなければならない』
しかし、そんな異端の価値観を少女が受け入れる事はなかった。
『そ、そんな……私にそんな事……殺し合いなんて、出来ませんっ!
そんなの、無関係ですっ!
なんで、私たちが……殺し合いなんて……うう……
か、帰りたい……ただ、帰りたいだけなんです……ひっく……』
『……なるほど、確かに貴方は、そういう世界の人間ではないのでしょう。
当たり前のように生きて、当たり前に年を取る。
血生臭い、戦争などとは無関係な……
そんな、平和で素晴らしい毎日を送っていたのでしょう。
……ですが、貴方が望む、望まざるに関わらず、ここは既に殺し合いの場……
ならば、無関係の者などいるはずがないッ!』
いつまでも愚図る少女に業を煮やしたかのように、キンブリーはゆのの両頬を両手で挟み込む。
可憐な少女の顔が、ひょっとこのように歪む。
ぐいっと顔を引き寄せ、瞳をそらす事すら出来ぬ距離に近付くと、錬金術師の眼光が少女を射抜いた。
『ひぃっ……』
『殺し合いに乗った者に、私は無関係だから見逃してくれとでも言うおつもりですかっ!?
最後の一人になるまで殺し合いが続くこの島で、そんな言葉を信じろとでも?
人殺しの、貴方の言葉を』
その口調は、いつのまにか底冷えのする冷え切った声となっていた。
少女の反論を許さずに、淡々と紡ぐ言葉は実経験に裏打ちされた迫力に満ちている。
『あ……ああ……』
『貴方は既に人殺しだ。それを忘れて傍観者でいたいなどと、私は許しませんよ。
覚悟を決めなさい。
罪と向き合って、生きなさい。
人殺しが嫌なら、大人しく殺されておけば良かったのです。
自ら進んだ道で、何を今更被害者ぶるのか。
自分を哀れむくらいなら、最初から人を殺すな』
『わ、私はっ……』
『目を背けるなっ!
現実を見ろっ!
貴方が殺した人々の、その姿を正面から見ろ。
そして忘れるな。
忘れるな。
忘れるな。
奴らも貴方の事を忘れない』
――――
感覚のない右腕を擦る。
いつの間にか、足は止まっていた。
あの時、両頬を挟まれて間近で見たキンブリーの眼が忘れられない。
底光りし、こちらをまっすぐに見据える、キンブリーの眼が。
そして淡々と殺人を肯定し、それを要求してくる言葉が、いつまでもゆのの耳に残っていた。
じっとりと、背中に汗をかいている。
強く煌めく陽射しが肌に当たり、肩ひもで吊り下げられた白地のワンピースに、ほっそりとしたシルエットが透けて見える。
空が高い。
いつかのように、学校の屋上でお弁当でも食べたら少しは気が晴れるだろうか。
そんな事を考えていたら、
ググウゥゥゥゥー
と、盛大にお腹が鳴った。
お昼の時間はまだだったけど、凄くお腹が減っていた。
だって、もう何時間も食べてない。
食べるという事は、生きるという事。
食欲とは、生きたいという肉体からの欲求だ。
ゆのは、その欲求に素直に従う事にした。
手近な建物の、石造りの階段にお尻をぺたりと下ろして混元珠を足下に置く。
デイパックから食べ物を一包み取りだすと、包装を開いた。
磯の香りがその場に広がり、思わず唾を飲み込む。
海苔が巻かれたそれは、おにぎりだった。
かぶりつく。
小さな歯が湿った海苔を突き破り、塩気の利いた白米を咀嚼する。
ツンと酸っぱい梅の香りが鼻をつく。
日本人であれば、食欲をそそらずにはいられない取り合わせ。
たちまちの内に一つ食べきった。
包みの中には、もう一つおにぎりが入っていた。
それを食べる前に、ゆのはペットボトルの水を取り出す。
口中に残る、梅の酸味をゆすぐように水を飲むともう一つのおにぎりに取り掛かる。
「宮ちゃん、お腹空かせてないかなぁ……」
いつも腹ペコの、親友を思う。
凄く嬉しそうにご飯を食べる宮子の、太陽みたいな笑顔を思い出すと少し元気が出た。
この空の下で、宮ちゃんも同じ物を食べているのかな。
宮ちゃんだったらこんな時、早めのおべんとしててもおかしくない。
……だったら、いいな。一緒におべんとなら、嬉しいな。
そう思ったので、ゆのは親友へと語りかける。
きっと、風に乗ってこの声が届くと信じて。
「宮ちゃん、おにぎり、美味しいねっ」
『うん、美味しいねぇー♪ ゆのっちっ♪』
そんな返事が、聞こえたような気がした。
◇
自分で破った塀から、再び大浴場へと侵入する。
タイルは既に乾いており、風呂の栓も抜けていた。
そこには、湿り気の欠片も残っていなかった。
だが、そんな事より少女の意識はその向こうの脱衣所へと向けられている。
あの時、ゆのが大量の水を持って押し潰した相手。
踏みつぶされたカエルのような二人の死体が、そこには……
――なかった。
まるで露天風呂のように、すっかり見通しもよくなったそこには死体の隠れる場所など、どこにもないというのに――
影も形も見当たらない。
存在するのは、棚や洗濯機などの小さな瓦礫だけだが、その下敷きになっているとも考えにくかった。
……洗濯機?
ゆのは、忘れていた事があった事に気付く。
そう、制服と下着である。
お風呂に入る時、洗濯機に放り込んだそれは今でもその洗濯槽の中に入っているはずだった。
――回収しなきゃ。
なにせ、ゆのは今、何もはいていない。
女の子としての本能が、それを命じていた。
幸い、洗濯機の外装はベコベコのボコボコになっていたものの、洗濯槽は無事だった。
ゆのはぐっしょりと濡れた制服と下着の水を絞ると、とりあえずデイパックに入れた。
……さて。
――――死体を探さなければならない。
キンブリーの言葉を受けて、考えて、考えた結果……ゆのは死体の首を斬る覚悟を決めていた。
死体とちゃんと向き合って、ごめんなさいって言って……それで、首輪を貰うんだ。
首を斬る道具は、混元珠がある。
ペットボトル程度の水があれば、混元珠はそれを極薄の水の刃と成せる。
だから死体さえあれば、ここで成すべき事は出来るのだが……肝心の死体が見つからない。
水に押し流されてしまったのだろうかと、ゆのは脱衣所を出る。
……死体はない。
もしかして、騒ぎに気付いたグリフィスさんが遺体を見つけて埋めてしまったのだろうか。
その可能性に思い当たり、玄関まで行ってみる。
グリフィスの靴はなかった。
最初、土足で建物の中に上がろうとしたグリフィスに、確かにここで脱がせたというのに、だ。
「やっぱりグリフィスさんが……」
そう思って、自分の靴を履き――外に出ようとした所で。
ゆのは突然、背後から伸びてきた万力のような腕に、フェイスロックを極められていた。
◇
ゆのは混乱した。
恐ろしく筋肉質な男性に、背後からいきなり組み付かれたのだ。
これに驚かない少女など、いるはずがない。
片腕をフェイスロックに。
もう片腕で腰を固められて、ゆのはその小柄な体を宙に持ち上げられている。
足をバタつかせても逃げる事も、振り向く事も出来ない完全拘束を前に、少女が出来るのは混元珠を抱き締める事だけだ。
しかし、混元珠は答えない。
操るべき水がない。
まるで水を操る彼女の襲撃を予知していたかのように、ここには一滴の水すら存在していなかった。
「んんうぅーーっ!!」
ゆのは、くぐもった悲鳴を上げる。
少女を抱きかかえたまま、男は移動を始める。
玄関から、渡り廊下。渡り廊下から階段へ。
窓から差し込む光すら届かない、地下の暗闇の中へと。
「ふぅっ、ふううううーーー!!」
息苦しさで、ゆのの顔が真っ赤に染まる。
いくらもがいても、ビクともしなかった。
男が力を込めれば、ゆのの細い首など、簡単にへし折れてしまいそうだった。
――誰なの!? 私を……どうする気!?
恐怖と酸欠で脳髄が痺れる。
癖になりかけていた、失禁の兆候を必死に抑える。
下から吹き上げてくる風で、すーすーした。
「……質問をする」
そして、ゆのが疲れてパニックが収まるのを待っていたかのように、耳元で声が聞こえた。
一切の感情を感じさせない、冷徹な声だった。
素直に答えなければ死ぬと思った。
ゆのでもわかるほどの、殺しの気配がその男にはあった。
「YESなら、瞼をゆっくりと二回閉じろ。NOなら一回だ」
そこで男は言葉を区切る。
私が理解するのを、待っているんだ。
それが判ったので、ゆのは瞼を二回閉じた。
「お前は、水を自在に操れる。そうだな?」
混元珠があれば操れる。
ゆのは瞼を二回閉じた。
「お前の、その水を操る力は錬金術という術か?」
違ったので、ゆのは瞼を一回閉じた。
「……錬金術師に知り合いはいるか?」
先ほど出会ったキンブリーが該当した。
ゆのは瞼を二回閉じた。
「連絡手段はあるのか?」
電話で連絡出来るので、瞼を二回閉じた。
男の腕が、ゆっくりと、慎重にゆのの身体を調べ始めた。
カサリと、紙擦れの音がした。
スリット状のポケットからキンブリーの連絡先が書かれたメモ用紙が引っ張り出された。
「錬金術師の連絡先か?」
二回閉じた。
それで全ての質問が終わったのか、背後の男は腕に嵌めた時計を確認する。
男の、過剰なほどの緊張感が更に増して……
そして言った。
「これから――川へと落下する。
……水を操って落下の衝撃を殺せ。
出来るな?」
……ゆのは、何を言われたのかわからなかった。
わからなかったが……出来ないなどと答えたら殺されそうだったので。
瞼をゆっくりと二回閉じた
そして、次の瞬間。
二人の身体は、宙に舞った。
◇
川のほとりに呆然とへたり込む少女を、ゴルゴは向こう岸の木の陰から見つめていた。
結論から言うと、二人は無事着地に成功した。
少女は、泥の山に堰き止められていた大量の水を操り、柔らかなクッションとしたのだ。
地上まで後僅かというところまで降りた後、ゴルゴは素早く五点着地で森の茂みへと姿を隠す。
この水場での少女の能力を警戒し、反撃に転じられる前に離れたのである。
幸い、行方を悟られる事はなかったようだ。
ゴルゴは、密かにその場を離れて“対象”を発見した地点へと急ぐ。
――安藤との不意の別れの後。
ゴルゴは護衛の依頼を果たすべく奔走していた。
まずは何が起こったのかを解明する為に周囲の民家などで役立ちそうな品々を調達した後、撚り合わせたロープで
旅館のボイラー室に降下したゴルゴは、縦横無尽に島の上空を移動するワープ出口の動きに翻弄される事となる。
ある時はまっすぐに、またある時は弧を描き、不規則に動く出口の法則をようやくに把握し、島の地表を隈なく
双眼鏡で走査したゴルゴが護衛対象たる少年を上空より発見したのが先ほどの事。
E-04の地点にて鳥籠に拘束されし少年を救いだすため、山中に赴こうとしたゴルゴはその直前にゆのと出会う事となった。
ゆのの能力で、川に着水する事が出来れば歩いて移動するよりずっと早く、誰にも会う事無く移動出来る。
そう考えたゴルゴは、ゆのを伴って時間を見計らい、ボイラー室へと飛び込んだのである。
そしてゴルゴの思惑はズバリ当たった。
予定より数段早く到着した現場には、上空から観測した時の参加者たちは既に見当たらなかったがその痕跡は残っていた。
草地に刻まれた三対の足跡。
三人の内、一人は義足なのだろうか。
左足の踏み込みが、右脚よりも深い。
そして、拘束された人間特有の足取りもあった。
“対象”はどうやらまだ無事なようだ。
進路から考えて、目指すポイントは工場だろうか。
ゴルゴは、契約を果たすべく再動する。
契約とはゴルゴ13に取り、もっとも神聖にして侵すべからざるものである。
それは探し求めていた錬金術師の情報を手にしても、尚優先すべきもの。
必ずしも脱出への最適解とは成り得ないのだが、この優先順位が覆る事は、絶対にない。
しかし、護衛任務とは己の持つ技能の全てを護衛対象に見られる事である。
そしてゴルゴ13は己の手の内を知る人間を、決して生かしてはおかない。
つまり、“護衛対象”の脅威となる外敵が全て排除され、契約自体が無効化されたその時、“護衛対象”は
ゴルゴ自身の手によって排除される。
いずれ殺す人間を、全力を持って守る。
この矛盾に満ちたゴルゴの行為は、あるいは神の調和を覆すためにゴルゴ自身があえて作りだした“破局点”なのだろうか。
ただ一つだけ言える事は。
神の見えざる手があまねく必然を齎すように。
ゴルゴの腕は、あらゆる者に不可避の死を齎してきたという事だけ。
超A級スナイパー、ゴルゴ13。
彼に狙われて、生き延びた者はいない。
【E-04/川の両岸/1日目 昼】
【ゆの@ひだまりスケッチ】
【状態】:貧血、後頭部に小さなたんこぶ、疲労(小)
【服装】:白いワンピース
【装備】:混元珠@封神演義
【道具】:支給品一式(一食分と水を少々消費)、PDA型首輪探知機
【思考】
基本:腕を治してもらって、ひだまり荘に帰る
0:ここはどこ? 一体何が?
1:十の首輪を集める
【備考】
※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。
※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※切断された右腕は繋がりましたが、感覚がありません。動かすのに支障は(多分)ありません
【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(10/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)、熱湯入りの魔法瓶×2、ロープ
携帯電話×3、安物の折り畳み式双眼鏡、腕時計、ライターなどの小物、キンブリーの電話番号が書かれたメモ用紙
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
1:護衛対象を探して守る。
2:首輪を外すため、錬金術師や竹内理緒に接触する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
4:第三回放送頃に神社で歩と合流。
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
結崎ひよのについては含まれません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※ガサイユノ、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※旅館のボイラー室から島の上空がワープ空間でつながっています。
ワープ出口は地上1km強あたりの上空を移動中。
ゴルゴは出口の移動の法則を把握しました。
ただしどこに移動しても常人が落ちたら死ぬ高さなのに変わりはありません。
※一日目午前の時間帯に、島の屋外で起こった出来事を上空から見ていた可能性があります。
※E-4の川に泥の山が流れ落ちました
以上です。
投下を終了します。
投下乙です
これはゆのはラッキーか? まだ生きてる、生きてはいるぞw
そして安藤兄は不幸すぎるw
いや、ゴルゴに守られて死ななかった人もいるよ
ただそれは護衛依頼とかじゃなくて依頼で必要な人材だったとか影で護衛してた場合だったけどねw
安藤兄がまだどうなるかはわからない。わからないが…
それとロープは切れないがワープポイントは移動する仕組みかな
法則を把握とかゴルゴも凄いわw
まぁ最後まで手口を目撃しなければ、見逃してもらえる可能性はありますねw
投下乙!
ゴルゴ渋すぎて惚れそう。やっぱり色々と手際が良いな
ゆのっちもこれで負い目はなくなった?し、よかったよかった
安藤兄は不憫としか言い様がないw工場組はどんどん爆弾が膨らんでいくなぁ
無事合流したとして今度はキンブリーがどうなることやら
でもゆの気付いて無くないかw
あ、そうか
じゃあとりあえずパンツ取り戻せて良かったね
したらばの仮投下スレに第二回放送案を投下しました。ご確認下さい。
◆JvezCBil8U氏へ。
「PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞(後編)」が容量オーバーでwikiに収録出来ません。
分割点を指定し直して下さい。
放送案乙です!
感想は本投下の折りにとして、ウィンリィとゾッドですが、名前を呼んで死亡確定させないほうがエドたちの反応が面白くなるかもです。
それは悩んだのですが、ここで名前を呼ばないと呼ぶ機会が無くなりかねません。
短期的な展開と長期的な展開を天秤にかけた結果だとご理解下さい。
念のため、システム上で死亡扱いであるだけで死亡確定ではありません。
マシン番長も、生き返る可能性あったけど名前呼ばれたし、それでいいかもしれませんね
wiki編集ありがとうございます。
「独りきりで乗る船の」において、みんなのしたら場への書き込みのIDを「NaiToYshR」にwikiを修正しました。
流が使用したPCはナイブズ・レガート・みねねとおなじ研究所のPCなので。
見落としていました、すみません。
あ、今更すぎてマズかったら元に戻します。
特に問題ないと思いますよ
矛盾さえ無ければ
しかし、いつの間にかマーダーいなくなっても殺し合いが続きそうな状況になってるな
主人公系 対主催チーム
その1・鳴海歩・ヴァッシュ・グリフィス
頭脳、戦闘力の両立したチーム。グリフィスはどうなる?
その2・結崎ひよの・エド・リン・安藤兄
さまざまな重要情報を握っているチーム。対主催戦への足がかり。リン、安藤兄が爆弾
その1、その3の面子とは知り合っており合流しようとすれば出来そうだが……?
その3・蒼月潮・聞仲・よっぱらいin妲己
唯一真面目に対主催やる気がある仙道聞仲を擁するチーム。主催側の空間制御を対策出来るとするならここか
妲己がどう動くのかがキーか?
危険対主催
・ナイブズ・西沢さん
vs
ジョーカー・扇動マーダー
・趙公明・キンブリー・潤也
今後のパワーバランスに影響1
状況を利用したい、対化け物マーダー
・ガッツ
曲者対主催
・卑怯番長・沖田総悟
vs
発狂マーダー
・剛力番長
今後のパワーバランスに影響2
マーダーチーム
・秋葉流・ロビン・スズメバチ
このチームがどこへ動くかで今後の展開が変わってくるか
マーダー
・三千院ナギ
生存優先
・銀さん・沙英
・ゆの(首輪狙い)
安藤兄にピーピング
・ゴルゴ13
だれかこの状況をなんとかしてくれ
・カノン・森あい
あんまロワとか関係なさそうな人たち
その1・喜媚vs・金票・パック
その2・とら・鈴子
二人だけの世界
・天野雪輝・我妻由乃
注:状況判断は個人の主観によるものです
おっと
音楽家と探偵さんを忘れてた
純粋なマーダーが少ないのに危険対主催入れたら火種十分だな
それに対して戦える力はあるけど対主催がバラバラというか群れるタイプが少ないんだよな
もっとも序盤で群れてたらすでにロワが終わってただろうが
こういう時は重要情報を握ってる工場組が期待大なんだが他チーム合流で騒動起きそうだし…
>>119 ここです
その3・蒼月潮・聞仲・よっぱらいin妲己
消息不明の3人はどうなったんだ?
九兵衛は死亡確定
ゾッド・ウィンリィは???
とりあえず放送では死亡扱いだけど
このまま放送行ったら誰が影響受ける?
もっともショックを受けるがスタンスは変えない奴が多そうだが
それでもカノン、森あい、ゆの、キビ辺りは厳しいか
カノンが間違いなくヤバイだろうなぁ、あとゆのっちも
植木の死亡は森というよりキンブリーに影響する気がする
あとナイブズやミッドバレイがどんな反応するかちょっと気になる
ブレチル全滅(カノン以外)はさすがに歩もビックリだろ
カノンの関与を疑うかも
キビは放送の意味が分かってるのかすら怪しい
ダッキの名前を呼ばれてショック受ける以前に意味が分からないのなら無駄だわなw
それにしても作品もキャラも投票で決めたのに回を重ねるごとに何かに選ばれたような人選な気がしてきた
誰から組むのも死ぬのも計算されてるみたいな
>>109氏
申し訳ありません、収まると思ったのですが計算違いだったようで……。
>>61の*************** より上を『PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞(後編)』
下を、『PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞(CONDUCTOR)』
として分割していただければ幸いです。
ガッツも喜媚以外病院組全滅とかの報を知ったら、次に会った時は問答無用だろうな
まぁ両者とも戦闘中だからどうなるかわからんがw
ゾットも名前を呼ばれたらガッツなら「あいつを殺せる奴がいる…だと…」みたいになるかな
それと逆説的だけど鷹さんの名前が呼ばれないからガッツやゆのはまだ生きてると考えるか
生きてはいるけど死にかけなんだよな
投下開始します。
大空に映るは双子のような二人の女性の姿。
調子の外れた歌声が、そこら中に響き渡っている。
街は酷い有様だった。
崩れ落ちた家に、壁に大穴の開いたマンション。
幾つかの建物には火が回っている。
そんな惨状をまるで気に掛けず、堂々と道の真ん中を闊歩する長身の男が一人。
熱を孕んだ風に煽られ、羽織った土色のマントがたなびいている。
そしてその下には、粗末な衣服とギリシャ彫刻のように鍛え上げられた肉体が時折見える。
少し遅れて、ほとんど裸同然の格好をした血塗れの少女が付いて行く。
彼女は何処か気の抜けた雰囲気で、まだ少し未熟な肢体を外気に曝している。
身体にこびり付いた血は大方乾いて黒ずんでいるが、血を吸った制服の残骸が腕や腹、太腿にまだ貼り付いていた。
「……えっと、ナイブズさん、これ……」
少女――西沢歩が不安げな様子で男に声を掛けた。
ナイブズと呼ばれた男は振り向きもせず、何だと短く返す。
「これ……何があったのかな?」
「さあな」
戦場さながらの光景に、答えの出ない疑問を口にする歩。
対するナイブズは心底どうでもいいという様子で歩き続ける。
取り付く島もない彼の態度に、歩も口を噤まざるを得ない。
気まずい沈黙が流れる。
歩は自問する。
私は何をしているんだろう――と。
彼女がナイブズに付いて来たのは、強い動機があってのことではない。
ハヤテが死んでしまって、これからどうすればいいのか分からない。
ナイブズに救って貰った命を無駄にしたくない。
無謀なカラオケをしている人達を救いたい。
独りきりでいるのが、怖い。
それに、街が戦場となっているこの状況なら、ナイブズの近くにいる方が安全だろうという打算が少し。
これらは全て歩の本心だ。
しかし――どれも本質とは少しずれている。
死にたくはない。でも他人を殺してまで生きる意思も能力も無い。
つまり――出来ることは破滅的な結果の先延ばしだけ。
ナイブズに従っている理由はそんな消極的なものがほとんどだった。
空はいつの間にか澱んだ灰色に支配され始めている。
急に吹き付けてきた風の冷たさに体を抱え――そしてようやく歩は自らの状態を意識した。
ナイブズは考える。
俺はこれからどうすべきか――と。
ナイブズは既に終わった戦いには興味が無い。
付近ではおそらく兵器を用いた戦闘があり、死者も出たのかもしれないが――そんなことはどうでも良いと思っていた。
戦いが終わっているのなら、ヴァッシュはこの場にはいないだろうから。
結果がどうあれ、弟は次の犠牲を防ぐために躊躇わず邁進すると知っているから。
過去に縛られ立ち止まり続けた自分とは違うのだと信じているから。
だから、空に大写しとなっている『これから先の火種』に向かってひたすら進む。
ただヴァッシュに会うために。
しかし。
しかしもし本当にヴァッシュがこの先にいたとして。
一体全体、今更どんな顔をして出て行けばいいのか。
何度も考えて、そしてやはり答えが出ない。
思春期の少年少女並の幼稚な問いに、一世紀半の経験は何も答えてくれない。
自嘲する。
これが、誰かと本気で向き合うことを避けてきた結果なのか――と。
だが――、
「あ、あの……!」
切羽詰った歩の声が、ナイブズの思考を中断した。
また何かあったのか――そう思いながら歩を見遣る。
彼女はぎこちない小走りで必死にナイブズを追って来ていた。
仰ぎ見る顔が耳まで赤い。眼が潤み、全身が指先まで緊張している。
そして尻を突き出し、左腕で両の胸を、右手で臍より幾らか下を、それぞれぎゅっと押さえていた。
不自然な体勢だ。
不審の色を浮かべて立ち止まるナイブズ。
「あの、その、やっぱり服が欲しいかな、なんて……」
「服?」
それでナイブズも得心した。
なるほど、恥ずかしいと言いたいのだろう。
時間が経って麻痺していた感情が戻って来たのか。
不自然な体勢は、少しでも裸身を隠すための努力の表れなのだろう。
だが歩の双丘はひしゃげて強調され、特に左胸の大半は露わになっていた。
急激に下がった気温のためか腕が擦れたためか、尖った桜色の先端が小さく震えている。
下方でも、力んだ右手の指は徐々に位置をずらして、指の下の薄い脂肪組織ごと左右に寄っていた。
当然、生じた指の隙間は背後からの微光に仔細まで曝されている。
端的に言えば、彼女の努力は逆効果だった。
そもそもずっと全裸に近い状態のまま歩いていたのだから、恥ずかしいとは今更な話でもある。
ナイブズとしては相手にする義理も必要も無いのだが……。
急に、歩の視界が土色の何かに塞がれた。
「わわっ!?」
「使え。見苦しい」
「え?」
頭に被せられたものを慌てて引き剥がす。
それはナイブズのマントだった。
「あ、ありがとうございます」
歩が礼を述べる。
その言葉を最後まで聴かずに、ナイブズは歩き出していた。
本当に――弟に毒されたようだ、と誰にも聴こえない小さな声で呟きながら。
歩は慌ててマントに身を包み、その合わせ目を押さえながら彼の後を追った。
***************
最初の異変は辺り一面を包む閃光。
それがたまたま直視していた者の網膜に届き、その機能を一時的に麻痺させる。
少し遅れて世界中に轟くかのような爆音。
周囲の音が全て等しく呑み込まれる。
電線の鳥が、一斉に飛び立った。
突然襲い掛かった暴力的な現象を回避する術を持つ者はいない。
それは集合住宅地を真南に貫く通りを往く二人も例外ではなかった。
「きゃあああっ!? な、な、何かな!?」
目を瞑り体をくの字に曲げて歩はパニックを起こしていた。
本能的に、マントの中に頭を引っ込める。
恐慌状態の彼女を尻目に、ナイブズは冷静だった。
身じろぎもせず、遅かったかと呟く。
「遅かったって……?」
「言葉の通りだ。見ろ」
マントから頭を出す。
あ、と。間抜けな声が漏れた。
異変の前後の唯一かつ決定的な違い。
それは空中の映像が――、
「消えてる……」
思わず口元を押さえる。
映像の消失が何を意味するのかは歩にも判った。
間に合わなかったのだ。
空に自らの姿を映して騒いでいた二人は、誰かの引き起こした爆発に巻き込まれてしまったのだ。
呆然と空を仰ぐ歩に、しかしそれでもナイブズは平然と言い放つ。
「何を呆けている。あの馬鹿共が死んだとも限るまい」
「……え?」
そして彼は当然のように爆発地点へ向けて再び歩き出した。
考えてみれば、あの人間離れした姿の怪物が簡単に死んだと考えるのは早計だ。
勿論、共にいた女性も。
「ま、待って下さい」
慌てて後を追いながら、歩は素直に感嘆していた。
無言の背中が頼もしい。
あの絶望的な爆発を目の当たりにして、迷い無く希望を口にするナイブズの姿が眩しかった。
燦然と輝く金剛石のような揺ぎ無い意志が羨ましかった。
痛切に、彼のような強さが欲しいと思った。
そうすれば――そうすれば、もしかしたら自分でもナギ一人くらいは護れるようになるかもしれない。
志半ばで倒れたハヤテの代わりを務められるかもしれない。
ハヤテの代わりを務める――それは、今の彼女にとってはとても魅惑的な希望だった。
実際は、ナイブズは彼の基準では至極当然のことを言っただけなのだが――。
この場合は知らぬが仏だろう。
勘違いであれ何であれ――彼女はここでようやく、か細い『生きる理由』を手に入れたのだから。
***************
住宅街の細い路地の一角に、申し訳程度の狭い公園があった。
枯れ木の多いその公園には、あまり大きくはない遊具がいくつか配置されている。
公園の入口を示す石造りの柱の間で、ナイブズと歩は立ち止まっていた。
「……あの……アレがナイブズさんの弟さん――じゃないですよね?」
「……当たり前だ」
公園のド真ん中に、奇妙な男がいた。
その男の特徴を一言で言い表すなら、フランス貴族。
遠目にも判るほど装飾を散らした豪奢な衣装を身に纏い、綺麗な姿勢で何かを抱えるように両の手を大空に突き出している。
「今の爆発はとてもエクセレントな演出だった……。
これも『彼』の計算通りなのだろうか……。いや、きっとそうに違いない!
そう、戦いはやっぱりこうでなくてはね! 素晴らしい、実に素晴らしいよ……!」
こちらに気付いているのかいないのか、彼は良質のオーケストラの余韻に浸るかの如き陶酔した口調で何事かを呟いている。
後姿のため表情は窺えないが、どうやら何かに感動しているらしい。
服装も言動も何もかもが怪しい。
何より、色彩に乏しい集合住宅の中にあっては、彼は絶望的に周囲から浮いていた。
ナイブズは冷めた目で男の値踏みをしているようだ。おそらくは、関わる価値があるかどうかを。
黙っている彼の代わりに、仕方なく恐る恐るといった感じで、歩が口を開く。
「あ、あの……どなた、ですか?」
男がこちらを振り向いた。
ウェーブの掛かったピュア・ブロンドが揺れる。端正な顔立ちだ。
「おや、キミ達は……。ふうん……。
僕は趙公明。見ての通り、麗しき貴公子さ。
ここで出会ったのも何かの縁だ。
どうだい? 一緒にお茶でもいかがかな?」
「黙れ」
一刀両断。
路傍の石を眺めるよりはマシといった視線を趙公明に飛ばすナイブズ。
「趙公明とやら。お前はヴァッシュという男を知っているか?」
駆け引きも何も無い。ただ事務的に事実確認を試みる。
だが、その質問を受けて、趙公明の顔が喜悦に大きく歪んだ。
「フ、フフフフ、ハハハ、アーッハッハッハッハ!
なるほど、キミはヴァッシュくんにご執心という訳か」
「その口振りは何か知っているな」
「まぁね。何ならヴァッシュくんについて話してあげてもいいけど、その代わり――」
おもむろに懐から純白の手袋を取り出してナイブズ目掛けて投げ付けた。
放物線を描く手袋に、自然と歩の視線が移る。
手袋はぽすりとナイブズの腹に命中し、地に落ちた。シルクの上物だ。
「なんの真似だ?」
「決闘の申し込みの作法さ。知らないのかい?」
「知るか」
「まぁいいさ。キミには僕と決闘して貰う。
そして僕を満足させてくれたら、キミの知りたいことを何でも教えてあげるよ」
訳が分からない。いや――そもそもまともに会話が成り立っていない。
歩は先程からずっと目を白黒させている。
ナイブズですら、少々面食らった顔をしている。
――面倒だ。
そう結論付けたのか、ナイブズはあっさりと踵を返した。
事実、ヴァッシュの居所を探すならこんな変人一人に固執する理由は無い。
というより、この男に構うより自分の足で探した方が早そうにも感じる。
「待ちたまえ!」
少し慌てた調子で二人を引き止める趙公明。だがナイブズはその声を完全に無視して離れて行く。
歩は首だけで振り向いたものの、結局ナイブズに従う。
「それならこう言ったらキミ達はどうするかな?
――僕は『神』の手の者だと」
ピタリと、二人の足が止まった。そして同じタイミングで振り返る。
二人の顔にはそれぞれ別の感情が浮かんでいた。
一人は困惑。一人は憤怒。
「えっと……え?」
「貴様……冗談が過ぎるぞ」
す、と。
趙公明の顔に影が射した。
突飛な言動と相俟って鵺的な印象を受ける。
「ノンノン、冗談なんかじゃないさ。そうだね……。
僕が『神』と繋がっている証拠……というには少し弱いけど、キミ達のプロフィールでも当ててみせようか。
まず後ろのキミの名は西沢歩。潮見高校の二年生。家族構成は父、母、弟。
そして……ん? 他に特筆すべき点はないのかな? まぁいいか。
そっちのキミの名はミリオンズ・ナイブズ。年齢は150を超え、ノーマンズランドの歴史にほぼ等しい。
そしてその正体は『プラント』と呼ばれる生命体の独立種。
……こんなところでいいかな?」
彼の紡ぐ言葉に気圧されるように、歩は一歩後退した。逆にナイブズは前に進み出る。
自然、二人の位置が入れ替わる。
「何故そんなことを喋るのかと言いたそうだね。
簡単さ。僕は本気を出したキミ――ナイブズくんと正々堂々戦いたい。ただそれだけだよ。
僕は戦いが大好きなんだ。それもトレビアーンな戦いがね。
だからキミ達のプロフィールについても、戦闘に関することは全く知らない。
そうでないとアンフェアだからね」
歩が更に下がった。
ナイブズは既に敵意を隠そうともしていない。
彼は異形の刀『金糸雀』の刃先をゆっくりと持ち上げて、趙公明の顔へと向ける。
「そうか――それほど戦いを好むか。いいだろう。ならばお前の望み通り戦ってやろう。
そして四肢を斬り落として、お前の知る全てを吐かせてやる」
「そう! そうこなくちゃね!」
意気揚々と趙公明が剣を抜く。同時に、ナイブズが本格的に臨戦態勢に入った。
大気がガラスに変化したかのように張り詰め――歩は思わず息を呑む。
意思とは無関係に足が前に進むことを拒否するのが分かる。
それでも、辛うじて喉の奥から言葉を搾り出す。
「ナ、ナイブズさん……」
「…………離れていろ。死にたくなければな」
一顧だにせず、ナイブズはぶっきら棒に言った。
先手を取ったのはナイブズ。
刀を大上段に振り被りつつ、一足飛びに趙公明の間合いへと踏み込む。
何の工夫も無い袈裟斬り。それもナイブズが放てば鋼をも断つ必殺の技となる。
だが、趙公明は剣を盾に変じてそれを軽々と受け流した。
「ぬっ!?」
再び盾は剣に戻る。間髪入れず、鋭い突きがナイブズの顔面に放たれた。
軽く首を捻って避けるナイブズ。黒髪が散る。
趙公明が剣を引く。同時に、ナイブズは下段から逆袈裟に斬り上げた。
だがそれを趙公明は驚異的な速さの打ち下ろしで迎え撃つ。
刹那の拮抗。
気合と共にナイブズの腕の筋肉が大きく盛り上がり、趙公明の剣が弾き飛ばされた。
返す刀でたたらを踏む趙公明の胴を薙ぐ。派手な装飾品が斬り飛ばされて中空で煌く。
だがその斬撃は趙公明を傷付けるには至らない。
彼は人間離れした跳躍力で後方へ大きく飛び退いて、間一髪かわしていた。
着地点に突き刺さっているのは、弾き飛ばされた自らの剣。
遊具の陰で、歩は絶句していた。
戦闘開始から僅か数秒。剣を交えていた時間は一秒にも満たない。
あまりにも常識を外れた剣戟。
彼女は剣に詳しい訳ではないが、それでも今の攻防が人類に実現できるものではないことくらいは判る。
何しろ、遠目にも彼らの動きはコマ送りのようにしか見えなかったのだから。
「いいね、ナイブズくん。実にいいよ。
膂力一つ取っても天然道士並かそれ以上とは。
惜しむらくは、剣の扱いが素人同然だということかな」
砂地から剣を引き抜きつつ、趙公明は余裕の笑みを浮かべて、ナイブズをそう評す。
対するナイブズは無表情のまま。ただ見るものが見れば、数ミクロンの表情筋の動きから微かな感情の細波を読み取るであろう。
ナイブズは趙公明の剣から目を切らずに言う。
「フン、妙な得物だ」
「妙な得物はキミのもだと思うけどね」
短い応答。僅かな弛緩。
そして再び辺りに緊張が満ち満ちる。
クイ、と軽く指を曲げて挑発する趙公明。
だがナイブズはそれを無視してじりじりと間合いを詰める。
ナイブズは認める。この男は強い、と。
救い難い戦闘狂。異端の強者。
言動はふざけているが、単純な戦闘能力なら自分に匹敵するかもしれない――そう捉え直す。
「……来ないのかい? 意外と慎重だね。
なら、次は僕から攻めてみようかな」
ずいと、ナイブズの間合いの手前まで踏み込む。
それだけで、公園が一回り狭くなったかのような圧迫感が辺りを押し包んだ。
ナイブズが先に仕掛けようと刀を僅かに持ち上げる。
だがそのタイミングを見計らったように、趙公明が地を蹴った。
「さぁ行くよ! アン・ドゥー・トロワ!」
気取った掛け声とは裏腹の、凄まじい速さの突きが連続で放たれる。
先程の攻防では、趙公明は実力の極一部しか見せていなかったのだ。
舌打ちをして、ナイブズは持ち前の反射神経でそれらを受け流し、回避しようとする。
一撃一撃は彼ならば十分に凌げるものだ。
だが趙公明の突きは変則的な動きを繰り返してナイブズの虚を突く。
頬が切れる。
腕が裂ける。
腿が破れる。
決め手にはならずとも、ナイブズの肉体に小さな傷が確実に増えて行く。
永遠に続くかに見えたその猛攻も、実際は十秒にも満たない間の出来事。
攻め手の限界が来たのか、趙公明が一歩退いて肺に空気を取り入れた。
その瞬間。
刹那の間隙に、ナイブズが刀を腰溜めにした。
そして重心を深く沈める。
「地に這い蹲れ、趙公明」
「へ?」
歩が目を見開いた。
するり、と。ナイブズが趙公明の体をすり抜けた――ように見えた。
ほとんど同時に金属的な激しい衝突音。
遅れて、趙公明の周囲を包むように砂埃が舞う。
一体何をどうしたのか。彼女には魔法の類としか認識出来ない。
「次元斬一刀流――星雲(ネビュラ)」
確かこんな技だったか、と呟いて、ナイブズは振り返った。
趙公明はナイブズに背を向けたまま硬直している。
手の中の得物はいつの間にか盾に変わっていた。
「――やるね、ナイブズくん」
次の瞬間、彼の脇腹が大きく裂けて血が空に散った。
「急激な円の動きで直線的な攻撃をかわしつつ、同時に死角に入り込んで斬り付ける技、か。
なるほど、エレガントじゃないか。
僕じゃなければ胴を輪切りにされているところだったよ。
最初の棒攻めとは随分と違うね。今のは誰かに教わったのかい?」
GUNG-HO-GUNSの9、雷泥・ザ・ブレード。
戦闘狂という意味では趙公明にも劣らぬ魔人。
ナイブズが放ったのは彼の持つ魔技の一つ。
彼が『人』を捨ててまで極めたその剣術を、ナイブズは専用のローラースケートも無しに使って見せたのだ。
無論、見様見真似であるが故に本人の技そのものとは多少異なるのだが――。
「ごちゃごちゃと煩い反吐の塊だな。最後のチャンスだ。
貴様の知る全てを吐け。そうすれば命だけは助けてやる」
「――フン。舐めないで貰いたい!
まさかそんな小手先の技で僕に勝てるつもりかい?」
「出来ないと思うか? 今の一撃で確信した。俺は、お前よりも速いとな。
そしてそれはお前の技術で埋められる差ではないはずだ。
今、お前の胴が繋がっているのは、ただお前の勘が少しばかり優れていたというだけのことに過ぎない。
決して何度も出来る芸ではない」
慢心するでもなく、ただ淡々と事実を述べるナイブズ。
「本当にそう思うのなら……試してみればいいさ」
だが趙公明は揺らがない。肘を軽く曲げ、剣を正面に突き出して構える。
それを見たナイブズは、無言で全身から脱力し、腰を落とした。
腰周りを中心に一気に筋肉が緊張し――、
途端。
轟、と。
間合いの遥か外から神速の突きが放たれた。
今まさに技を繰り出さんとしていたナイブズは反応し切れない。
辛うじて右に身を捻る。
剣が左肩を貫いた。
骨と肉の混じった色鮮やかな飛沫が肩の真後ろに噴き出す。
「舐め、るなッ!」
ナイブズは退かなかった。むしろ踏み込んで趙公明を斬りに掛かる。
だがそこまで予測していたのか、趙公明はあっさりとバックステップでナイブズの射程外へと逃げた。
「ナ、ナイブズさんっ!?」
ようやく、歩が悲鳴を上げた。
「解ったかな? その技を放つにはまず下半身のバネに力を溜める必要があるんだよ。
だから放つ直前に一瞬の隙が出来る。無防備な瞬間がね。そこを突けば――ご覧の通りという訳さ」
言うは易し、行なうは難し。
ただ一度見た限りの技の、その『一瞬の隙』を突ける者がどれだけ存在すると言うのか。
ほんの僅かでも見切り損ねれば、致命的なカウンターを食らうのは趙公明自身だというのに。
ギリ、とナイブズは奥歯を噛み締める。
「ま、年季の差ってヤツだね。悔しがることじゃないさ。
それに! キミの力はそんなものじゃないはずだ。
ヴァッシュくんのような力をキミも持っているんだろう?
僕を倒すつもりなら躊躇わずそれを使うべきだ。そう思わないかい?」
そう――自分に秘められた力を用いれば、目の前の小憎らしい男を永久に黙らせることは簡単だ。
それは判っている。
だがその力は既に絞りカス程度しか残っていないのだ。
果たしてここで使っても良いものか――。
「何だい? 使えない――ではなく使いたくないといった顔だね。
まさか力を使うのが怖い、なんて言うつもりじゃないよね?
それとも、ヴァッシュくんに倣ってラブアンドピースでも唱えて回る気なのかい?
――ああ、そうそう、ヴァッシュくんと言えば――」
子供が悪戯を思い付いたときの顔で、趙公明は続ける。
「彼はここでも自分の主義を曲げる気はないようだよ。
この戦場で皆を救おうだなんて――結局、最後にはただ一人が生き残るしかないというのに。
フフフ、全く、愚かなことだ。きっと今頃も無駄な努力を続けているんだろうさ。
笑えるよね。ハハハッ、ハァーッハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
高笑い。
それに呼応するように。
みしりと。
大気が変質した。
「……それが君の本気かい?」
初めて顔から余裕を消して、趙公明が問う。
答えず、ナイブズは左腕を変容させて行く。
指先から腕が罅割れる。
罅の一つ一つが歪んで行く。
歪みが個々に独立した極薄の刃となる。
生み出された無数の刃が生物的な規則に従って集まり広がる。
広がった刃の群れは、最後に一斉に白へと変じた。
趙公明がただ一言、魅了されたように呟く。美しい――と。
天使の羽根を思わせる威容。それこそが『プラント』の力の発現。
「もういい……貴様が――」
その力に冷たい怒りを乗せて研ぎ澄ませていく。
「貴様如きが上っ面だけの言葉でヴァッシュを――」
空間が目に見えて歪む程の膨大なエネルギーがナイブズの左腕に収束し、
「――――語るなッ!!」
直後、形を成した幾千万の光刃が迸り――視界の全てを微塵に斬り刻んだ。
何処かで、小さなノイズが走った。
***************
音無き音の残響が未だ天空を支配している。
「す……ごい……」
豆腐のように容易く刻まれて崩れ去った街の一角で、恐怖も不安も忘れて、歩はただ唖然とする。
それほど目の前に広がる光景は現実離れしていた。
空が粉々になった――。それがナイブズの能力解放を目の当たりにした彼女の感想だった。
思わず砕けた空が落ちて来るのではないかと危惧してしまった程だ。
驚きを顔に貼り付けたまま、歩はナイブズの傍までフラフラと近寄る。
大破壊を引き起こした張本人は、相変わらずの無表情だった。
だが戦いの前後で決定的に違っている点がある。
彼の全身から虚無的な雰囲気が消え、代わりに地下を流れるマグマのように静かな熱を漂わせているのだ。
ナイブズのことを怖いけれど物静かな人だと思っていた歩は、ここに来て認識を改める。
物静かどころではない。むしろ激情し易い人なのだと。
特に『ヴァッシュ』という人のことになると、だ。
「フン、少し破壊し過ぎたか」
「え? あ……」
そこではたと気付いた。
情報を得るために戦っていたのだから、趙公明を殺すことはないと考えていたのだが――。
「その……あの人は、し、死んじゃった、のかな?」
結果はこの有様だ。
蒼い顔の歩に対して、ナイブズは眉一つ動かさずに否定の言葉を返す。
「いや――仕留め損ねたな」
次元断層の薄刃は趙公明に届く前に軌道が曲げられ、刃と刃の間に大きな間隙が生じていた。
あれさえ無ければ趙公明の五体は確実にバラバラになっていたはずだ。
刃に刻まれる直前に、趙公明は黒い球体を取り出していたので、おそらくその力だろう。
非物質の刃を曲げる力となると相当に限られるため、その正体も大体想像が付く。
と、そこに。
ひらり、ひらりと一枚の紙が落ちて来た。
ナイブズはそれを無造作に掴み取る。
『楽しませてくれたお礼に教えてあげるよ。
ヴァッシュくんには、僕は競技場で待っていると伝えておいた。
彼の性格ならきっと僕を止めに来るんじゃないかな
P.S.
どうもキミのファッションはイマイチだね。
次に会うときには、ヴァッシュくんのように華麗なる闘いに相応しい衣装を身に付けて来たまえ』
そして即座に握り潰した。
「何処までもふざけた奴だ。
まあいい。次こそは確実に殺してやる」
【I-8/公園/1日目/昼】
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行、身体の各所に切り傷。
[服装]:普段着
[装備]:金糸雀@金剛番長
[道具]:支給品一式×2、エレザールの鎌(量産品)@うしおととら、正義日記@未来日記、
秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
1:カラオケ会場跡へ向かう。
2:デパートに向かったという妲己とやらを見極め、ヴァッシュを利用しかねないと判断したら殺す。
3:首輪の解除を進める。
4:搾取されている同胞を解放する。
5:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
6:レガートに対して――?
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
9:次に趙公明に会ったら殺す。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約3回)が限界です。
出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※朝時点での探偵日記及び螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康、血塗れ(乾燥)、無気力
[服装]:ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:ナギを保護してハヤテの代わりになりたい。
1:ナイブズに対する畏怖と羨望。
2:カラオケをしている人たちの無事を祈る。ナギがいるなら合流したい。
3:孤独でいるのが怖い。
4:できれば着替えたい。
[備考]
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。
***************
「――ああ、それじゃあまた」
瓦礫の山の上で。
趙公明は携帯電話を切って手の中で玩ぶ。
そして眼を輝かせて、舞台上の役者さながらの身振りで一人芝居を始めた。
「あれが――『彼ら』の力か。……エクセレント!
どうやらヴァッシュくんとナイブズくんではその力の使い方が違うらしい
ああ、それにしても――何というデタラメな能力なんだろうね。フ、フハハ。再戦が楽しみだよ、ナイブズくん。
次は西沢くんを人質に取ってみるのもいいかな。ヴァッシュくんと纏めて相手にするのも面白そうだ。
フフフ。いや、本当に楽しみだね」
それから、趙公明は左手をすいと顔の前に持って来る。
「ふむ、避け損ねてしまったようだね。失敗、失敗」
彼の左手は薬指と小指の第二関節から先が失われていた。
その断面は非常に滑らかで、不自然な程に生々しさを感じない。
複雑な関節部の骨と鮮やかなピンク色の筋線維が医学書の挿絵さながらに覗いている。
そしてようやく――思い出したように断面の数箇所からぷっくりと赤い珠が現れ、徐々に大きさを増して行った。
趙公明は懐から取り出したハンカチで傷口を押さえ、そしてきつく縛って出血を抑える。
そして軽く指を屈伸させ、調子を確かめた。
「さぁて、次は何をして遊ぼうかな。
キンブリーくんによると、今から爆発地点に行っても映像宝貝は見付からないらしいけど……。
まぁ、それはのんびり考えるとしようか」
指を二本も失ったとは思えないほど爽やかで満足げな笑顔を浮かべ、趙公明は悠然と歩き去っていった。
【I-8/住宅街跡地/1日目/昼】
【趙公明@封神演義】
[状態]:薬指と小指喪失、脇腹に裂傷
[服装]:貴族風の服
[装備]:オームの剣@ONE PIECE、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演義、橘文の単行本、小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:映像宝貝を探す?
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュ、ナイブズに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
8:ネットを通じて遊べないか考える。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者の戦闘に関わらないプロフィールを知っているようです。
***************
「なるほど、示される未来が変化するのは『未来日記』を使った場合だけではない、と」
携帯電話をスーツの内ポケットに仕舞い込んで、キンブリーは指で顎を撫でる。
趙公明によれば、ナイブズ、そして西沢歩が未来日記を使った様子は無いという。
にもかかわらず未来日記の記述が変わった理由は――どうやらナイブズの能力にあると推測出来る。
はっきりとは判らないが、世界の法則そのものに干渉する能力は未来日記を書き換えることもあるらしい。
「命のリスクがある割には存外頼りないモノですね……。
ふむ……いえ、むしろ当然ですか。
仮に予知が同種の道具以外では破れないとなると、これは些か強力過ぎる。
――まぁ、この段階でそれが判ったのは収穫でしょうか。
彼は傷を負ったようですが……その程度で戦いを止める方ではありませんね。
さて、私はそろそろ下へ行きますか。
日記によれば、放送の直後に少年が目覚めるらしいですからね」
キンブリーはまだ知らない。
彼の手に落ちた少年の、その真の能力を。
それがまさに『未来日記』を破る力を秘めていることを。
【H-8/図書館/1日目 昼】
【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:白いスーツ
[装備]:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記
[道具]:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品×1、小説数冊、錬金術関連の本、ティーセット、
学術書多数、悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数、獣の槍@うしおととら
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
4:森あいや、ゆのが火種として働いてくれる事に期待。
5:参加者に「火種」を仕込みたい。
6:入手した本から「知識」を仕入れる。
7:潤也が目覚めたら楽しく仕込む。
8:携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
9:未来日記の信頼性に疑問。
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。
【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、情緒不安定、吐き気、
右手首骨折、泥の様に深い眠り
[服装]:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。
[装備]:首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
[道具]:空の注射器×1
[思考]
基本:兄貴に会いたい。
0:……。
1:旅館に行って兄貴と会う。
2:キンブリーから蘇生について話を聞く。
[備考]
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。
※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。
※I-8の一部が崩壊しました。
711 名前: ◆L62I.UGyuw [sage] 投稿日: 2010/03/09(火) 08:12:37 pHhzymDI0
以上で投下終了です。
どなたか代理投下をお願いします。
712 名前: ◆L62I.UGyuw [sage] 投稿日: 2010/03/09(火) 08:16:04 pHhzymDI0
申し訳ありません。微妙なミスを発見しました。
>>708の西沢さんの状態表の思考欄ですが、
2:カラオケをしている人たちの無事を祈る。ナギがいるなら合流したい。
↓
2:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。ナギがいるなら合流したい。
と訂正します。
代理投下終了です。
状態表の修正を忘れてしまいました……申し訳ない。
そして投下乙です!
雷泥! 雷泥! 雷泥! アワーズと合わせて実にホットな技がw
ナイブズの変化にとてもジンと来ました、人間の技を使うようになったのもその表れなのか。
西沢さんもそこに何か追うものを見出せたようで良かった。
この二人は心理面の掘り下げがどんどん深くなってくけど、それだけに今後が気になります。
そしてプラントの力はやはり規格外か……、回数制限があるものの、未来日記を破る力として重要性が一気に増したなあ。
プラントドームなんてものもあるし、目が離せません。
あと闘技場が趙公明に流にナイブズに、どんどん危険人物に目を付けられてるw
おおう
どっちかが死ぬかと思っていたけど、今回の所は痛み分けか
趙公明は指を失ったけど、明確には能力を見せなかったし次戦うとなると…
ヴァッシュとナイブズ同時に戦いたいとかw戦闘狂すぎるwww
投下乙です
投下乙です
なんというトンデモ剣術勝負……
星雲って今月のアワーズのアレかw
趙公明の戦闘狂っぷりがやべぇ
西沢さんの心理と一般人視点がいいなあ
投下乙です。
うーん、ガッツリバトル展開の中の細かな心情変化…たまらないです。
よそがよそだけにナイブズが物凄くキレイに見えるw
ロクな目にあってないハヤテ勢ですが、西沢さんに幸あれ
潤也の能力の可能性といい、今後の楽しみが膨れました
投下乙
俺もどちらかが死ぬと思ってたよ
でも不安が増したような気がするな。闘技場ではどうなるやら…
趙公明はやっぱりマジ基地レベルの戦闘狂だわw
ハムの一般人視点も面白かったけど何時まで続くやら…
午前で残ってるのは
・剛力vs沖田、ガッツ、卑怯
・沙英、銀さん
の2パート
あと一話か二話で放送かな
それが終わったら放送だな
しかし右下が渋滞状態だなw
神社も危険人物やらが集まりそうで怖いし
ひょうvsきび
もあるんじゃね
まぁ放送後でもいいかもしれんが
ひょうきびは放送後じゃない?
明確に状態が昼まで行ってないのはデパート組の残りだけだね
しかし北に誰もいないね
話題にはあがってる競技場に博物館、ワープスポットとかもあるしそのうち日の目を浴びるかな
ひょうvs喜媚は書かなくても支障はないかな
もちろん書いてもいいんだけど
南の街の川から南だけで7パート15人とかやべえw
銀さん沙英パート予約キター
が、まさかの爆弾投入wどうなるかな
剛力vs沖田、ガッツ、卑怯パートも予約来たね
来週には第2回放送行くな
おお、待ち遠しいなw
だが放送に突入してすぐに予約解禁しても書き手が困るだろう
解禁時間は少し置くとしても何時解禁するか事前に告知しておいた方がいいだろうな
前回と同じく、放送本投下の次の日の24時解禁が妥当かな?
坂田銀時、沙英、三千院ナギ、投下します
ある街で大地震が起こり、その状況をTVで見たことがあるけど被災地からだとこういう光景なのだろうか…。
ヘリが上空から写した映像と違って、丁度こんな風に幾つもの建物から黒煙が立ち上ってたのだろうか…。
未だに炎上する市街地を遠目で見つつ、そんな取りとめのない考えが思い浮かぶ。
「…ううっ…終わりだっ、俺の人生、う○こで終わっちまったよぉ…」
確か震災後に発生した火災で多くの建物が焼失したって聞いたけど、
ここから見える範囲でも物凄く燃えてるのが分かる。
もし、あのままあそこにいたら今頃は炎に巻かれて焼死体になっていただろう…。
「ああ、こんなことあいつらに知られたらもう、ぜってえに馬鹿にされるよぉ……」
まさか実際にこんな経験をするとは考えてもいなかったな…。
でも、こういうことも小説へのアイデアになるなと不謹慎ながら考えてる自分もいて…。
それが恋愛小説でどう生かせるかは疑問ではあるが…。
「もう駄目だ……もう、お兄さん、一歩も動けねえ……ああ、死んじまいたい……」
「ああ!! うるさいうるさい!! さっきから延々と陰鬱な声で繰り事ばっかり言わないでください!
私もあんな出来事、さっさと忘れたくて仕方ないんですから! さっきから男のくせに女々しいんですケド!!」
先程の出来事から逃避していた。いや、していたかったが落ち込みながら延々とぶつぶつ呟く彼は無視することも出来ないほど、うっとおしかった。
あの戦車が何処かに行ってくれて助かった。だが、その後も大変だった。
冷静に周りを見てみると何時の間にか建物の炎が燃え広がり、このままでは危ない状況まで追い込まれていた。
逃げようにも砲撃で脆くなったビルが崩壊して帰り道まで塞がれた。
更に肝心の銀さんは人前で……したショックからか地面に座り込み、遠くを見つめながらぶつぶつと何かを呟いて…。
正直、彼に触りたくなかったがそうも言っていられない。
耳元で名前を叫んでみた。全力で揺さぶってみた。本気でビンタもした。それでも正気に戻ってくれない。
もし、キャタピラで拉げたマンホールの蓋が目に入らなかったら今頃は火に捲かれていただろう…。
文字通りの火事場の馬鹿力で刀の柄を梃子にして蓋を退かすと銀さんを穴に引きずり込み、自分もそこへ避難。
下水道中は薄暗かったが非常灯が点灯していて思ったよりも暗くはなかった。
その後、どこをどう歩いたかは覚えてない。ただ他の適当なマンホールから外の様子を窺ってみたら
想像以上に街が燃えていたのが見えたのだ。
「銀さん…もう気にしてませんから…いや、ホントは気にしてると言えば気にしてますケド…とりあえず移動しませんか?」
とりあえずこのまま彼がマダオ状態で欝屈させてても状況が良くなる訳でもない…だから慰めてみることにした。
それに本人も好きでした訳ではないのだ…。
だが、それは頭では分かってはいるのだ。分かってはいるのだが、どうしても心がささくれ出すのを止められない。
彼女が恋愛ごとに疎くても、やはり花も恥じらうお年頃、それも恋愛小説を書く少女作家でもあるのだ。
別に彼とは恋人同士でもなんでもない、それに現実が小説とは違うものだということも知っている。
だが、それは頭では分かってはいるのだ。分かってはいるのだが、どうしても心がささくれ出すのを止められない。
彼女が恋愛ごとに疎くても、やはり花も恥じらうお年頃、それも恋愛小説を書く少女作家でもあるのだ。
別に彼とは恋人同士でもなんでもない、それに現実が小説とは違うものだということも知っている。
でも、一組の男女が危機に陥るとか自分の書く恋愛小説でもある『お約束』がここで自分の身に降り懸かると
は思わなかった。それも生死が関わるほどの危機なんてストレートな展開これまで自分でも書いたことがない。
でもそれだけならまだいい。少なくともこうして二人とも死なずに生きてるし自分もそういうのに憧れていないとは言わない。
寧ろ、密かにそういうロマンとかに憧れていると言ってもいい。
なのに、なのに………………現実は非情である。
(はぁ……泣きたいのはこっちの方よ。こんな展開になるなんて小説、うんん、ギャグ漫画の世界でしかありえないよ…)
想像してから今度は自分の思い付きに苦笑してしまう。本当に人生はままならないものだ。
確か、前に何故か美術学校の課題で四コマ漫画を書いたことはあったけど…。
(あの時は楽しかったな…ゆのと宮子とヒロで…ああ、そうだ、ゆのだ。確かあの人は旅館に一人でいるって言ってたっけ…)
本当ならこんなことしてる暇なんてないのだ。
これまでの出来事のショックで忘れていた。ゆののことだ、こうしてる間にも今頃一人で震えているに違いない。
どうする?、当分は銀さんはこの調子だろう…こうなったらもう一人ででも迎えに行くべきか?
(……そうだ、こうしている内にゆのまで…ヒロが居なくなってゆのや宮子の先輩は私だけ…そうだ、私が頑張らなきゃ…)
こうなったらヴァッシュ達には悪いが単独行動も……。
「なあ?、急に深刻な顔してどこ行こうってんだよぅ?、お兄さん、こう見えても勘がいいから相手が何考えてるか、なんとな〜く分かるんだけど?」
それは何時もの軽薄そうな口調で決して大声で怒鳴った訳でもなかった。
でも無視することも出来ない『何か』を含んだ声。
さっきまで落ち込んでいたのに、何時の間にかこちらを神妙な表情で見つめていて思わず立ち止る。
「ああ、その、なんだ…悪かったなぁ。守るとか約束しておいて落ち込んでたりしてたら…マダオどころじゃあねえよな」
「銀さん…でも、私は…ゆのを助けに行きたい…私が行ってもどうにかなるわけでもないけど…でも…でも…」
堪えようとするがどうしても涙が溢れて止まらない。
それを見た銀時は、決まり悪そうに頭をぼりぼりと掻くと、
「まあなんだ、こんな、まるで・だめな・おとなのお手本だけどよ…もう少しだけ信じてもらえねえかな? 守る相手がもう一人増えたって、
お兄さんは大丈夫だからよ…。 いや、こんなことしちゃう大人なんだけど…名誉挽回の機会とかくれたら、お兄さん、無茶苦茶頑張れるんだけど…」
「……くすっ、くくくくっ、あははははははははっ!!!!」
大人なのに子供がおもらしして母親に謝るような態度が妙に銀さんに似合ってて…。
さっきまでゆののことで焦っていたのに、銀さんのそんな顔を見てたら不謹慎にも可笑しくて可笑しくて…。
「ちょ、おま!、そんなに笑う事もねえだろ。たく…」
「くすくす、御免なさい。で、でも、銀さんの謝る様子が可笑しくて……くす、くすっ」
「何で笑うんだよ?、たく…」
彼なりに真面目だったのに笑われたことに悪態を突く。
だが彼女が単独で飛び出してしまう、という最悪の事態は避けることは出来たようだ。
「しかし、わざわざ下水道にまで非常灯まで付けるなんてあいつら凝ってるな…外は危険だから時間は掛かるけど旅館の近くまで地下で移動しないか?
ほら、急げば回ってポンとか言うし、このまま地下を移動した方がいいんじゃねえの?」
「いや、急がば回れですけど…ワザとですよね?、でも……それがいいかも……あ、ヴァッシュ達はどうしようか?
輸血用の血とか私が持ってきちゃった…」
「え、ああ、あいつらは…そう、あいつらもこういう修羅場とか多く踏んでるからさすがにあそこに留まっては無いと思うぜ。
ほら、さすがにいざという時は怪我人抱えてとっとと逃げてる、とかしてると思うぜ」
(はい?、なんか今から行くってことになってるんですけど? というかヴァッシュって誰?)
銀さんの言うように無事に逃げ延びた確証はない。だがそれを確認する方法は…いや、本当はただ出来るなら早くゆのと再会したいだけかもしれない。
でも見捨てるようで…。
「ああ、そんな顔するなってえの。ここでそのゆのって子を優先しても許してくれるって。駄目だったら俺も一緒に謝るからさっ」
「銀さん…はい、分かりました」
(やべええ〜!、言われるまでトンガリ頭らの事、忘れてた!!、でも、あそこまで啖呵切った上にこの流れで
『やっぱり危ないから合流しようぜ〜』なんて言えねええ!!
それに…何で、あのお色気女が消えたか知んねえけど、この子が来てくれなかったら俺も死んでたしな
…恩返ししてもバチは当たらないか…許せよ、トンガリ頭。
ああ、そうだ、沖田の野郎は……まあ、そっちはそっちで頑張ってくれよ〜。先生、辛いけどお前なら殺しても死なないって信じてるからな〜、)
「ほんじゃ、とりあえず、上が燃えてそうな範囲から大きく外れるまで地下を移動…もう一つの橋まで移動するか」
「じゃ、デパートから離れてもう一つの橋まで地下を移動する、で…それと銀さん?」
「ん?、なんだ?」
そこで爽やかな笑顔で念を押すように一言。
「一緒に行くのはいいんですけど、体を洗うまでは離れて歩いてくださいね」
「わかってるよ……orz」
◇ ◇ ◇
「…まさか、あそこまでいい加減な人間だったとは思わなかったな…」
恩を仇で返す、それも殺人という罪を犯したナギはその後、殺人現場から大急ぎで逃走した。
アテなどなかったが何処か落ち着ける場所で姿を隠したい。その時のナギの頭にあったのはそれだけであった。
地図にない川沿いの道路を移動していたら派手な色合いのガソリンスタンドとタンクローリーが目に付き、とりあえず
事務所の中に駆け込み、ほっと一息。
それまで、何故か桂先生が大きなお化けとカラオケに興じている光景が大きく映し出されてはいたが冷静に
観察する余裕などなかった。
当たり前だ。生まれて初めて殺人を犯した直後なのだから…。
もっとも、改めて冷静にその光景を観察してみてもどうしてカラオケをしてるのかさっぱり分からない。
そして何者かに攻撃されて破壊音と閃光に包まれたあの最後。
意味のある作戦だと思っていたがあの酔っぱらいながら歌っている姿は芝居には見えなかった。
まさか本気で酔っぱらってるのか?、という考えに思い至って否定しようとしたが…それしか考えられなかった…。
そしてナギの胸に浮かんだのは……怒り。
少しでもあいつに期待していた自分の愚かさへの怒り。
サンジやハヤテらが自分が知らない場所で殺されてしまって何故あいつだけが生きてるのだという理不尽さへの怒り。
あいつが遊び呆けていた時に味わった自身の恐怖と苦痛、みんなに対してなにも出来なかった無力さへの裏返しもある。
もし彼女を知る人間が今のナギを見たら本当に彼女なのかと疑っただろう。
眼力で人が殺せるならとっくの昔に殺せる程、底冷えした眼が映像があった方を睨みつけていた。
だがそれも長くは続かなかった。
実際、あいつ程度ならまだいい…あの医者を殺したように姿を隠してナイフで刺せば死ぬのだから。
だが、あの牛の化け物やスズメバチのような輩を殺せるのか?
ナギの目標は優勝してみんなのいる元の世界に帰して貰うこと。例えあいつを殺せても優勝出来ないのなら何の意味…。
(何を弱気になっている!、私はもう一度みんなに会いたいのだろうが!、そんなことでどうする!?、考えろ、
考えるんだ三千院ナギ!、何か方法は、方法はあるはずだ!!、
……そういえば…あの毒薬以外にも奪った支給品が…とりあえず確認してみるか…)
キリコを殺害した直後は動揺してて説明書を見る暇がなかった。
確認の為にデイバックから奪った支給品と説明書を取り出し……説明書を見て驚く。
もしここに書いてることが本当なら優勝も可能かもしれない。
でも…使いこなせるのだろうか?
少し疲れるが練習もぜずにぶっつけ本番で使用するのも躊躇われた。
とりあえず練習という意味でナギはそれを装備して使用してみることにしてみた…。
◇ ◇ ◇
「ちゃんと洗いましたよね、銀さん?」
「ああ、もちろん〜。ああ、さっぱりしたっと〜♪」
コンパスがあるから完全に迷う事だけはなかった。どこをどれぐらい移動したか、拙いながら推測しつつ薄暗い下水道を移動するのは思ったよりも手間暇がかかった。
火災範囲外らしき場所にやっと梯子を見つけて上ってみたら地図には載ってない川沿いの道路。
遠目に東西にそれぞれ橋が一本づつ見えることから地図と見比べる。おそらくI-8辺りか。
丁度、付近に手頃な民家もあったので少しお邪魔してシャワーとズボンを拝借させてもらった。
「それにしても銀さん…人の家に入る手際とか良すぎるんですけど? 鍵が鉢植えの裏にあるとか良く分かりましたね」
「いや、ほら、万屋やるにはこういうことも必要な時とかあるから。ははは」
明らかに怪しい。まあ、ここでそんなことを言い合っても仕方ないけど。
「さすが、メガネキャラは細かい所にも目が届くぜ。みごとな状況分析だ」
「いや、メガネキャラだから、とか言われてもこっちもどう言っていいか…あれ?、え〜と…あそこに今、人がいたような…」
「はい? え〜と、それ……マジ?」
「はっきりとは見えませんでしたけど、あのガソリンスタンドの事務所って言うか、中に人影が見えたような…」
見間違えかもしれない。でもさっき、髪がちらっと見えてた。見間違い…ではないはずだ。
沙英の真剣な様子を見て銀時もマジで何かを見たかもな、と思い彼女に指示を飛ばす。
「よし、それじゃ俺が探索してくるからここに隠れててくれ。俺が帰ってくるまで動くんじゃねえぞ」
「あ、はい、それじゃあ銀さん、気を付けて!」
「ああ、そっちも何かあったら大声出してくれよ」
「ふうん、車でもあったら移動が楽だと思ったんだが一台も…いや、あれは大きすぎるだろ」
事務所の方は外からでは誰も居ないように見えた。
ついでに車が見つかればいいかなとは思ったがそれならスタンドより駐車場だろうと自分の判断がずれてた事に苦笑する。
一応、大型タンクローリーが店前に止められているがさすがにあれは目立ちすぎる。
それともこの際、あれでもいいか?
(ん?、ロックが掛かってないぞ? 中は……おいおい、キーまでついてやがる)
まるで盗難してくださいとばかりにキーが刺さったままだった。さすがに少し呆れた。
川の向こうはまだドンパチとか始まってないからこれで行くのもいいかと、などと考え、
探索が終わったら沙英をこっちに呼んで…
向こうは無事か?、と沙英の居る方向を見ようかと事務所が視界に入り…固まる。
さっきは誰も居なかったのに綾○のコスプレだろうか、女の子の驚愕した目とこっちの目とが合った。
何秒? 何十秒? 短いようで長い時間、お互い固まっていたが銀時より先に少女が我に返り事務所の奥に逃げ込む。
「いや、待てって! 俺は大丈夫だって!」
やっかいなことになった。心の中で舌打ちをしつつ急いで後を追う銀時。
ここで見失ったらまた探すのは骨だ。
そうなったらたまらないとばかりに彼女に追いつくべく、事務所のドアを蹴り破って中へと入って行く…
(銀さん大丈夫かな…少し遅いような…どうしたんだろう?、でもここにいろって言ってたし…)
探索をするのだから時間は掛かるのは分かる。だが少し遅いような気がする…。
沙英がそう思い始めた頃、急にこちらにまで聞こえるほどの大きなエンジン音が響いてきた。
どうしたんだろうと物陰から顔を出して窺う。
遠くてよく分からない。誰かがスタンド近くのタンクローリーに乗り込みエンジンをかけたようだけど…。
銀さんかな? 運転出来るとは聞いてないけど…まさか違う人?
心の中で不安と恐怖が広がっていく。
あれが銀さんなら問題ない。でも違うのなら銀さんはどうしたの?
沙英にとって永遠に等しい時間が流れる。
そうこうしてる内にタンクローリーはデパート側、丁度こちらの近くを通る方向へ向きを変える。
もしかしたら運転してるのは銀さんでこっちに来ようとしてるだけかも…でも違ったら…
(いっそう、ここから出て近くで確認したら…確かに危険もあるけどその方が手っ取り早いし…)
本当に危険ならさっきみたいにこれの中に入っちゃえばいい。
それに銀さんがあっさりやられるなんて信じたくなかった。
また言いつけを破るようで悪いがこれぐらいいいいだろう。
物陰から道路近くへと足を進ませる。タンクローリーもどんどんこちらへ向かって来る。
運転席には…ああ、やっぱり銀さんだ。
胸のもやもやが晴れほっとする…なんだ、車でこっちに来ようとしてただけではないか。
沙英は手を振ってここに居ることを知らせようとする…。
あれ?、よく見たら助手席に女の子が座ってる。
でも何で包帯だらけで羽衣みたいなのを着てるんだろう?
銀さんはそれでも一緒に行動してるようだから大丈夫だよ…ね?
でもなんだろう? 変な感じがする…銀さん、何であんな無表情なんだろう?
タンクローリーがスピードをまったく変えずにどんどん近づいてくる…。
「ぎ、銀さん?」
ここで銀時の様子がおかしい事に気がつく。だが不意を突かれてたのか行動がおぼつかない。
出来たのはあたふたしながら少しだけ道路から遠ざかっただけ。
足がふらつき後ろへと転ぶ。服が汚れたがそれを気にしてる余裕もなかった。
そしてタンクローリーは……
運転席の銀時は沙英に見向きもせず沙英の傍をそのまま通り過ぎた……
通り過ぎる瞬間、助手席の少女と偶然、眼が合う。
幼げで可愛らしい顔、だけど昏くて冷たそうな眼…交差したのは一瞬だったのにそれが凄く印象に残った…。
ただただ、茫然とその後ろ姿の見続ける…。
「……銀さん……なんで?」
これって…私は…見捨てられた?
でも、でも、それなら何でさっきは『守ってやる』とか言ってくれたの?
それに足手まといだから捨てられたのならあの女の子は何なの?
あの時の銀さんの表情が嘘だとはどうしても思えない…思えないけど…
今の沙英にはただ走り去っていくタンクローリーの後ろ姿を茫然と眺めてることしかできなかった…。
【I-8/ガソリンスタンド付近/1日目 昼】
【沙英@ひだまりスケッチ】
【状態】:疲労(小)、ツッコミの才?
【服装】:
【装備】:九竜神火罩@封神演義
【道具】:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、大量の食糧
輸血用血液パック
【思考】
1:銀さん…何で…?。
2:銀さんと協力して、ゆのと宮子を保護する?。
3:ヴァッシュさん達には悪いが先にゆのを保護したい。
4:銀さんが気になる?
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する。
6:ヒロの復讐……?
7:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れた?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※宝貝の使い方のコツを掴んだ?
◇ ◇ ◇
自分の思い通りに物事が進みナギは有頂天だった。
まさか偶然で奪った支給品がこんなにも強力だったとは。
自身の強運を素晴らしく思いつつ、身につけている羽衣をうっとりと見つめる。
それは己の野望の為に幾つもの国を使い潰してきた傾国の美女としての顔も持つ妲己の宝貝
――スーパー宝貝「傾世元禳」
最初、説明書を読んでこれの能力を知った時、ナギの頭にある考えが浮かぶ。
そうだ、これを使って私だけを守ってくれる私だけの集団を作ろう。
それは普段から大勢の人間に囲まれ傅かれてるナギにとっては当たり前の考え方であっただろう。
だが、道具の能力を過信して痛い目に遭うのはもうこりごりだ。
だからまず使用してみてどういうものか確認してみることにした。
確かに説明書通り蠱惑的な香りが室内に充満した。だがこれで本当に魅力することが出来るのか?
だが体力的に貧弱な自分が優勝するには現状ではこれしかないのもまた事実だ。
踏ん切りがつかず、でも何時までもここに居ても仕方ない。
そう考え、ここから移動しようと奥の部屋から移動しようとして…窓の外にいる男と眼が合う。
不意を突かれて硬直、それから反射的に奥に逃げ込み裏口から逃げようとして…裏口なんて最初からない。
――逃げ道はない。しばし茫然としている所に男がドアを蹴り破って中に踊りこんできた。
男が何か言ってるがそれを聞いてる余裕はナギにはなかった。
出来たことは必死で宝貝の能力を解放することだけだった。
幸か不幸か、二人がいたのが室内だったのが明暗を分けた。
香りが溜まり易い室内だったから、まださっきの残り香も少しは残っていたから、
そういう条件が重なり、普通に使用するより効きが増した宝貝に抵抗する間もなく銀時は魅力された……。
(なんだ、心配して損したではないか。この調子でどんどん洗脳してやればいいではないか)
実際は相手の精神力次第で黄飛虎のように抵抗することも可能なのだ。
だが最初の成功で有頂天なナギはその可能性に思い至っていない。
しかしナギは成功することが当たり前だということを前提にして先に進む。先に進むしかない。
洗脳した銀時を色々と尋問してみる。特に知りたいのは他の参加者の情報だ。
傾世元禳を使って自分の保護者を増やしたいナギにとってはどんどん他の参加者と接触したい。
結果は上々。デパート付近に強そうな集団が屯しているらしい。
付近に連れの少女がいるらしいが…そんなのに構ってるより強者を洗脳した方が役に立つ。
この男に殺させて支給品を奪う手もあったが、
それより彼らが他に移動する前に向こうに行かなければならない。
更に好都合な偶然が重なる。傍の車にキーが刺さったままではないか。
男が『運転は出来る』らしいので彼に運転させて先を急ぐ。
もう一度言う。この時のナギは有頂天だった。
これまで強者の影に怯え、それでも元の世界に帰還する為に何とか知恵を絞っていた状況から一転、
強者を従え、それを利用すれば優勝に手が届く。そんな幻想を抱いていた。
だが、それはあくまでも偶然が重なった結果であり状況が変われば引っくり返るあやふやなもの…
だから……
偶然で成立してる計画が同じ偶然で崩壊することもまたしかり…
丁度その頃、公園でナイブズがエンジェル・アームの力を解放した――
その余波で崩壊するビルが車内からでも見えた。ナギはそれを見て驚くが…だがそれだけだ。
例えビルが轟音を立てて崩壊しようが爆風がここまで届こうがその程度は傾世元禳の効力は解除されない。
そう、どれだけの重火器が荒れ狂おうとそれではスーパー宝貝での魅力は解けない
…だが、ナイブズの超常の力が、人ならざる者の力の余波が銀時の心を揺さぶり波立たせた。
「でええェェェーーーー!?」
反射的に悲鳴を上げて銀時が大きくハンドルを切る。
「なっ!!」
それを見て洗脳が解けたのかと驚愕するが、車の急激な方向転換で揺さぶられてそれどころではない。
車がガードレールをぶち破り、気付いた時には河面がこちらに飛び込んでくるように感じられた。
激しい水音と共に、タンクローリーが正面から河に突っこんだ。
◇ ◇ ◇
温泉の時と同じだった…力が抜けていく…
またか? またなのか?
無敵の力を手に入れたと思ったら、今度こそ大丈夫だと思ったら、またこんなことに…
どうして、どうしてだ? 何故、神は私にこんなにも辛く当たるのだ?
私はそんなに悪いことをしたというのか?
もう駄目だ。ナギは諦めていた。
泳げないどころか動くことすらままならなくなるのは前の事で証明済み。
死ぬのは怖かったが諦めの方が遥かに強かった。
今のナギにこれまでのことが思い浮かぶ。
最初にサンジに会ったこと。
スズメバチに浚われて拷問されたこと。
牛の化け物が現れてサンジが身を盾にしてくれて逃がしてくれたこと。
そのサンジやハヤテらが自分が知らない内に死んでいたこと。
死のうとしたが伊澄の声に止められこのゲームに乗ると決めたこと。
疲労で気絶したが助けられて、助けた相手を殺したこと。
どちらかと言えば思い出したくもない光景が多かった。
でも、これが途切れた時が自分が死ぬ時なのだろう。何故かナギにはそれが分かった。
ああ……ハヤテ、マリア、ヒナギク、伊澄、サク、……
私は、ただ、もう一度みんなに会いたかったのに、どうしてこうなったんだろう……
もういい。どうせ私はもう人殺しだ……これでよかったのだ……
ああ、今度はなにか光が見える……
眩しいなぁ……
「ぶはあぁ!! げは!、げは!、げは!……ちくしょう! いったい何なんだよ、こりゃあよう!!」
水面から出ると何とか片手で少女を抱え、岸まで泳ぎ着き…ようやく銀時は一息付くと同時に悪態をぶちまける。
少女を地面に置き、必死に空気を吸い込み続ける。酸欠で頭がガンガンする。
でも、あまりの状況の奇妙さに考えることを止められない。
さっきの俺の心にまで駆け抜けたあの『何か』は何だよ?
その感触に怖気ぶり、暴れた拍子でハンドルを切って……いや、その前に何時の間に俺は運転してたんだ?
て、何で運転してたんだ? おかげで溺れ死にそうになったじゃねえか!
そもそも、ここはどこだ? さっきまでガソリンスタンドで綾○のコスプレした子供が…そこでなんか甘い匂いで、ぼ〜っとして…
まじい、マジでそこから記憶が飛んでやがる。
それで河にダイブしてて、隣にさっきの子供も乗ってて溺れてたからとりあえず助けたけどよ…
マジでわけわかんねえェ……
まぁ、とりあえずこの子に聞くしかねえよな……あれ? 何か忘れてるような……
そうだ、沙英だ。
マジい…記憶が飛んでからどの位時間が立ったんだ? 俺が帰ってくるまで隠れてろとは言ったけどマジでやばい。
クソ! こうしちゃあ居られねえ!
あ、ええっと、ああ、もう、こいつも連れて行くしかねえだろうがよ!
【I-8西部/川沿い道路/1日目 昼】
【坂田銀時@銀魂】
【状態】:疲労(中)、びしょ濡れ、ナギをだっこ
【服装】:下半身だけズボン、
【装備】:和道一文字@ONE PIECE
【道具】:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義、大量の甘味
【思考】
0:記憶が飛んでるのはなんでだよ…
1:沙英を迎えに行きたいが…ここ何処だよ?。
2:この子供(ナギ)を介抱して事情を聴きたいが今はそれどころではない。
3:沙英を守りながら、ゆのを迎えに行く。
4:わりい、トンガリ頭。
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。
※魅力されてからそれが解けるまでの記憶が曖昧です。
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(中)、全身(特に胸周辺)に多数の刺傷(治療済み)、気絶、びしょ濡れ
[服装]:全身に包帯
[装備]:傾世元禳@封神演義
[道具]:支給品一式×3、ノートパソコン@現実、旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、蝉のナイフ@魔王 JUVENILE REMIX
[思考]
基本:なんとかして最後の一人になり、神にみんなが生きている世界に帰して貰う
0:???????????????
[備考]
※サンジからワンピース世界についてかなり詳しく聞きました。
※ブラックジャックの容姿の特徴を聞きました。
※拷問などの影響で精神が非常に不安定になっています。
※スズメバチに対して激しい恐怖を抱いています。
※注射器の中身についての説明は受けてません。
※銀時のこれまでの行動や出会った人間などをある程度聞き出しました。
※大型タンクローリーが河に沈みました。タンクからガソリンが漏れ出したかは次の書き手に任せます。
※二人が河の北側か南側かにいるかは次の書き手に任せます。
【傾世元禳@封神演義】
妲己の使用するスーパー宝貝。
大きな羽衣で蠱惑的な香りを発し、敵を洗脳して操ることができる。また、凄まじい防御力をもつ。
ただし複数を誘惑するのは可能だが、制限の為効果範囲が低下している。
さらに洗脳された相手が使用者から遠くへ離れると洗脳効果が弱くなる。
その分使用者への負担も減少している。
ちなみに使用者がセクシーポーズをすると効果倍増
投下終了です
タイトルは「このスレはポルナレフに監視されてます」です
二人ともごめんよおおおおォォ!!
投下乙!!
銀さん、条件が悪かったとはいえ誘惑の術にまんまとかかったか
だがナギは相手がまるで・だめな・おとなのお手本のような奴だって知らないからなあ
次はこの程度の誘惑に引っかかるようならとっくの昔に真人間になってるわ! とか言って跳ね返しそうで怖いw
投下乙っす
んーちょっと苦しくね?
これまでのスーパー宝貝の描写だとヴァッシュですらあっというまに干からびるほどの力を吸い取られるし
流でも最初はほとんど使えなかったのに、ずっと着続けてないと効果を保てない傾世元禳はちょっとなぁ
それに、これサンジの支給品ですよね
これがあるならスズメバチ戦でスタンガン使ってないよ…
ああ、しまった。
確かに傾世元禳はきついか…
それとサンジの支給品だったっけ…
キリコと間違えた。
済みません。しばらく代案を考えてみます。
それで駄目なら破棄しますがしばらく待ってください。
あ、前作よく読んでみたらどっちの支給品かはちょっと特定出来ませんね
申し訳ないです
サンジとキリコで不明支給品が一つずつで蝉のナイフがサンジの物だったら可能みたいですね
傾世元禳の燃費の件をなんとかしたら大丈夫かな?
その部分を訂正してみます。
投下乙です
銀さんは何かと苦労人だな
ところでセクシーポーズで宝貝の効力が上がるのって
ダッキ個人の能力みたいなもんだと思うんだけどどうなんだろ
>>177の設定のが面白くなりそうではあるけどw
漫画で「わらわの宝貝は〜」って言ってるし
傾世元禳の特性で良いと思う>セクシーポーズ云々
それより俺はナイブズの力の余波でっていうのに引っ掛かる
原作にそういう描写あったっけ
プラントの力、ゲートの存在エネルギーの流れを認識できるのってワムズくらいじゃね?
まぁ細かい話言い出したら、そもそも誘惑の術自体ダッキちゃんの術だしな
傾世元禳は触媒みたいなもんだよ
太上老君も使えるけどなー
>>187 むしろあの錯乱して同士討ち始めるのが本来の効果なんじゃね?
それはさておき月報用に申告
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
130話(+15) 39/70 (- 3) 55.7 (- 4.3)
>このスレはポルナレフに監視されてます
が修正来れば131話(+16)になるけど、時間間際に集計混乱させるのも悪いので
今月はこれでいいかな?
しかし次の放送で行方不明者が死者にカウントされたら生存者-2していいのかな
>>187 あの人は別格だから参考にならないんじゃない?
喜媚も使ってたよ。妲己ちゃんに変化してだけど
そういやそうだな。じゃあ誘惑の術って太公望が水を酒に変えた術と同じで
わりと簡単なのかも。その効果を増幅させるのがスーパーパオペエってことか
じゃあ腸公明も使おうとすれば使えるのかw
なんかエレガントに内臓を取り出してきそうな名前だな
ごめんワロタw
つか一番重要なことなんだが
誘惑の術にかかってても解けたら記憶を失うわけじゃないと思う
紂王が一時期忘れていたのは改造手術などのせいで他の人間は誘惑が解けた後、妲己を憎んでたし
でも岩の妖怪仙人の兄弟は誘惑が解けた直後は記憶があやふやになってたような
実際の解決策となると、傾世元禳の代わりに金剛番長のマインドスナッチャーとかどうだろ。
改造番長の洗脳機械。
あとは婢妖でも憑かせるとか……。
>>190 まぁキビはダッキに習ったんじゃね?
>>191 いや、ダッキちゃんが開発に数百年かけたかなり凄い術だろ
つか、術自体使える仙人少ないって話だしな
封神は何だかんだで昔のジャンプ漫画なのであまり細かいところを突っ込んではいけない
大体セクシーポーズ云々のとこは編集長が出て来たりして某アン学に次ぐカオス展開だっただろw
申し訳ありません。
矛盾が思ったより多いので後半が修正どころか展開そのものを変えるので一度破棄させてもらいます。
しばらく期間を置いてそれでも予約が来ないのなら改めて再予約させてもらいます。
お騒がせして済みませんでした。
投下します
『番長』の咆哮に、大気が震える。
その絶叫は既に人のものではなかった。
聞く者の精神を掻き毟るような、ソプラノの金切り声がコンクリートのジャングルに木霊する。
『番長』の足踏みが、大地を揺るがす。
瓦礫を踏み砕き、粉塵を巻き起こす。
潜在能力の全てを引き出された剛腕が、立ち塞がる全てを粉砕する。
剛力番長――白雪宮拳が変貌した魔物が、白煙の中からその姿を現す。
漆黒の甲冑に身を包まれたその姿は、もはや人とも思えぬ魔性の殺意を放っていた。
それに立ち向かう男の名はガッツ。
人の身で数知れぬ使徒を打ち倒し、人外の存在より畏怖の念を込めて黒き剣士と呼ばれる超戦士。
秋山優。板橋区を統括する番長。
卑怯番長の二つ名が示す通り、ありとあらゆる卑怯な手段を「正々堂々と」駆使して戦う誇り高き戦士。
沖田総悟。真選組一番隊隊――
「あ、いや、俺の紹介はいいんで。いい加減タルくて敵わねえなァ。センセーもう帰ってもいいですかィ?」
「誰が先生だ」
「……君、ちょっとは空気読もうよ」
「でもさっき仲間の不始末は仲間が償うものさとか、カッコイイ事言ってなかったかィ?
責任持って償って貰おうじゃねェか」
「責任なら、もう果たしたさ。さっき彼女を取り逃したのは、この場にいる全員に責任があると僕は思うケドね」
「あ、そぉー。つまり、手伝って欲しいってワケだな?
そんならそれで、言葉の選び方ってもんがあるんじゃないかねェー。チミィー」
「てめえらっ! ふざけんのも大概にしやぁがれっ!! 来るっつってんだろうがっ!!」
ガッツの怒号を合図にしたかのように『番長』が駆ける。
コンクリートを踏み砕きながら疾走する『番長』に先鞭をつけたのは、文字通り卑怯番長の操る鞭だった。
足を絡め取ろうと這い寄る大蛇を跳躍でかわし、『番長』はビルの壁面に「着地」する。
そしてそのまま「壁面を走り」接近する『番長』に、無数の刃が襲い掛かった。
ガッツが振るった青雲剣から発せられた、虚空の刃である。
再度こちらに向けて跳躍しようとしていた『番長』はそれを受けて姿勢を崩し、大地へと降り立つ。
だが、それだけだった。
漆黒の鎧は傷付いた様子もなく、殺意がその場の音という音を圧し殺す。
背中の黒いマントのようなものが、ふわりと舞った。
「……ありゃもう、人だと思わねェほうがいい。
化けもんだ。そのつもりで戦わねェと――死ぬぜ」
「……元に戻す事は、出来ないのかい? スタミナ切れを狙うとか」
「……無理だな。さっき言っただろ、もう手遅れなんだよ」
(魔女でもいりゃあ、話は別かも知れねえけどな……)
声には出さず、ガッツは思う。
そんな有りもしない救いをチラつかせるのは、残酷だ。
こうなっちまった以上、殺すしか止める方法はない。
いまだ己も踏み込んだ事のない、鎧の深奥。
だが、その深い闇に捕らわれた先に何が待っているのか。
髑髏の騎士の忠告を聞かずとも、なんとなくは判る。
「アゥアッ!!
アーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
気が触れたような、狂気に侵された少女の声が耳に痛い。
狂気の鎧に魂を捕らわれ、ドラゴンころしを振り回すその姿は、あるいは自分の末路か。
だからこそ、ガッツは同情などしない。
さきほどの少年を見て、なお鎧の力を欲したのは彼女自身なのだから。
青雲剣を握り締めると、敵との間合いを慎重に測る。
ガッツは、考える。
こんな細い剣で、奴の一撃をまともに受けきれるとは思わない。
奴の能力を、自分が狂戦士の甲冑を着た時と同等と仮定するなら、その攻撃力は使徒の肉体をも一撃の元に破壊するだろう。
ここは剣の特性を利用し、遠距離から攻めるのが良策だ。
そして、なんとか隙を見て先ほどのように炸裂弾で……
と、思考に意識を傾け過ぎていた訳ではなかった。
訳ではなかったが、刹那の思考に隙が生じた。
『番長』が奔る。
十数間はあった間合いを一瞬で詰めると、ガッツに向けて真っ向唐竹割りを斬り放つ。
その苛烈さは、今までの比ではなかった。
空気をひしゃぎ、迫る鉄塊。
もはや避ける暇は存在せず、受ける事すら叶わない。
しかし、ガッツの危機を救ったのは、仲間の存在だった。
卑怯番長の振るった鞭が『番長』の腕に絡み付き、その剣の軌跡をわずかに逸らしたのだ。
そしてそこに迅雷の動きで沖田が飛び込み、突きを繰り出す。
ただの突きではなかった。
沖田の天才が成せる、三段突きである。
一拍の内に閃光のような三段突きを受けて、しかしなお『番長』はその動きを止めない。
腕に絡み付く鞭を振り払い、群がる敵を薙ぎ払おうと、その身の丈をも超える大剣を横薙ぎに構え――
瞬間、兜が爆ぜた。
この三人を前にして、その隙は致命的だった。
ただ、それだけの事であった。
兜の中に放り込まれた炸裂弾は、剛力番長の顔をぐちゃぐちゃに吹き飛ばし、ゆっくりとその身体は崩れ落ちる。
ここに二人目の鎧の犠牲者は、一人目と同じ運命を辿った。
―――かのように見えた。
ズサッ!!
大地に突き刺さった大剣が、杖のように『番長』の肉体を支える。
そのまま振るわれた拳が、三人の肉体を弾き飛ばした。
三人は知る由もなかったが、これこそ白雪宮拳に埋め込まれた賢者の石――
ホムンクルス「憤怒」が齎した超再生能力であった。
かつて、爆発のダメージから彼女を救ったその能力が、ミチミチと音を立てて兜の中の少女の顔を再生させる。
白濁に濁った水晶体が元の機能を取り戻し、炭化した肉がグシャリと崩れ落ちると、その下からゆっくりと、
ゆっくりと真新しいピンクの肉が盛り上がる。
同じようにこの戦いに参加していた「強欲」との性能の差は、あるいは参加者と支給品の枠の違いであろうか。
しかし、そんな考察が出来るものはこの場にはいないし、しても意味はなかった。
意味を持つ事実は、彼女が複数の命を持つ正真正銘のホムンクルスであるという事だけであり――
ここに難攻不落の最悪の化け物が誕生したという事だけであった。
◇
ガッツは苛立っていた。
先の少年と同じように――炸裂弾でけりが付くと思っていた自分の甘さに。
化け物だと思えなどと言っておきながら、元の姿に騙されていたのは自分も一緒だった。
「おいおい、バランスブレイカーもいいところじゃねェーか。
どんな無理ゲーだよコノヤロー」
「剛力番長……君は……」
立ちあがった三人は、剣にもたれて不気味に佇む『番長』の様子を窺う。
兜から一瞬吹き出した焔は、確かに彼女の顔面を吹き飛ばしたはずであり、その証拠として鎧の隙間からあふれ出る
鮮血は、常人ならば致命的な量であった。
それが立っていられるという謎に、解を出せる人間はこの場にはいない。
再生の様子は狂戦士の鎧に阻まれて、衆目に晒される事はなかったのだから。
だが、そんな謎など糞喰らえ。
例え相手が正真の不死の怪物であろうが、人を遥に超越した化け物であろうが――
立ちあがれる限り、いや、這いずる事が出来る限り足掻く者。
それがガッツという男である。
戦いはこれからだとばかりに燃え上がる戦意は留まるところを知らず――――
直後、水を差される。
「……これ、あげるよ」
「あ?」
卑怯番長が、ガッツに巻貝を投げ渡す。
手にぺったりとくっつくように細工されたそれは、受け取ったガッツの義手に張り付いた。
卑怯番長はそれが衝撃を吸収し、溜め込んだ衝撃を殻頂を押す事で放出する貝である事を説明すると
「んじゃ、後はよろしく」
そう言い残し、すたこらさっさと逃げ出した。
「て、てめえっ!?」
目を剥くガッツであったが、『番長』から目を切るわけにもいかない。
気が付くと、沖田の姿もなくなっていた。
彼らはガッツを囮として、この戦いから逃亡したのである。
ギシッと歯を噛む。
「卑怯だぞっ! てめえらーーっ!」
先の戦いでガッツ自身に向けられた言葉を――なんの因果か、自身が叫ぶ事になろうとは。
虚しく響く怒声に反応を返すのは、『番長』のみ。
再び襲い掛かる『番長』に対し――ガッツは独力での対処を已む無くされていた。
◇
「先程ノ戦闘ニオイテDBニ障害ノ可能性ヲ確認。念ノタメ代用品ニバックアップヲ残ス」
逃亡……ではなく。
戦略的一時撤退を選んだ卑怯番長は、彼女が打ち捨てた荷物をチェックしていた。
何かヒントでも残されていないかと。
そして見つけたのが、このボイスレコーダーである。
ボイスレコーダーから流れてくる機械的な男性の声を、彼は知っていた。
マシン番長……一度は金剛番長を殺し、しかし最後には彼と共に戦って……そして散った漢。
「前方ニ人影ヲ確認。照合ノ為接近スル……データ照合……完了。
該当件数1件。元港区……剛力番長―――確認」
どうやら、このレコーダーはマシン番長のデータベースのバックアップのようだった。
それは剛力番長と出会った所から始まっていた。
これを聞けば、彼女の変貌の理由が判るかもしれないと卑怯番長は思った。
「剛力番長―――確認。生態レベルデノ誤差、25%―――剛力番長ノデータト能力ニ齟齬ヲ確認―――
コn能力ハデータニナイ―――誤差ハアルガ、間違イナク剛力番長。タダシ、能力及ビ言動ニ不可解ナ点ガ見ラレル」
そんなマシン番長の事務的な報告の合間に、僅かに遠く聞こえる剛力番長の声。
卑怯番長はボリュームを上げて、彼女の言葉を拾い上げる。
「…なんだか夢を見た後のような気分です。私の記憶はしっかりと残ってるのに、それがまるで……
そう、ずっと昔の、忘れた事の書かれた日記を見たような…そんな、不安がありましたの」
「でも、あなたは私を剛力番長と呼びました!生憎私はあなたのことを存じませんけど…
でもそれは私以外から見ても、私は私ということで……えっと……なんだかややこしくなってきましたわ」
「私は剛力番長!正義の名の許に戦い、キンブリーさんを優勝させて、全てを蘇らせるのが使命ですわ!」
「例え悪までも蘇らせてしまうとしても、その悪は私が責任を持って叩きのめします!
あのテロリストを従わせた女性のように!」
……頭が痛くなるような、支離滅裂さだった。
この時点で既に彼女はおかしくなっていたようだが、今の話にはいくつか聞き逃せないキーワードがあった。
『キンブリーさんを優勝させて、全てを蘇らせる』
『その悪は私が責任を持って叩きのめします! あのテロリストを従わせた女性のように!』
常の彼女であれば絶対に取らないような異常な行動目的と、その指標となった人物についてだ。
このキーワードからは、彼女を変えてしまった三人の存在が浮かび上がる。
すなわち、『キンブリーさん』と、『あのテロリスト』、そして『あのテロリストを従わせた女性』である。
卑怯番長は、それらのキーワードを留意事項とする。
戦闘の様子を録音した音声は続いていた。
マシン番長は、剛力番長に敗れたようだ。
二人を知る卑怯番長には、俄かには信じがたい事だったが……今はそれを飲み込んだ。
マシン番長を破り、このレコーダーを我が物とした剛力番長は、それを日記として、この島で起きた出来事を吹きこんでいた。
マシン番長と出会う前に、彼女に何があったのか。
ひとつひとつ、思いだすように。
自分が自分である事を、確認するかのように。
――主催に反乱の意思を示し、醜い生き物の姿に変えられてしまった少女を、知らなかったとはいえ殺してしまった罪を。
――それを生き返らせてくれる――人殺しの罪をなかった事にしてくれる男、キンブリーの話を。
――次に出会った少年によって為された、生き返らせた中に悪人がいたらどうするのかという問題提起。
――そして絶対悪――テロリストとの戦い。卑劣な爆弾攻撃によって半死半生の傷を負った事。
――しかし、その絶対悪をも従えてしまう偉大なる正義を持つ女性の施しによって自分が回復した事を。
それからも剛力番長の正義日記は続く。
障害にぶつかる度に、彼女はレコ−ダーに自分の正義の正しさを吹きこんでいた。
敵対する存在を詰り、自分の歪んだ正義に縋る。
それは時に『キンブリーさん』のためであり――
彼女が信奉する『とある女性』――恐らく沖田の話していた妲己だろう――のためであった。
そうして、全てを聞き終わり卑怯番長は彼女に何が起こったのかを知った。
一つの過ちが、彼女を歪ませた。
その歪みを誰も修正出来ぬままに――周囲の悪意に大きく育てられた「正義」があの化け物を生みだしたのか。
だが――自分たちと共にいた、あの剛力番長が、こんな考えを持つなんて。
全てを聞き終えてもなお、卑怯番長にはそれが信じられない。
己の過ちを認められないが故の毒。
全てを殺せば全てを救えるなどと、愚かで甘い夢に浸るような弱さを、彼は知らない。
本当に生き返るかどうかなど関係ない。
そんなスジの通らない望みを持ってしまった事が、まったくもって彼女らしくないのだ。
金剛番長の元に性格も思想も違う四番長が集ったのは……彼のスジの通った生き方に、強く憧れたからだと言うのに。
マシン番長、金剛番長、そして自分を知らないと言う剛力番長の言動。
沖田の話と、そしてこのレコーダーで知った彼女の行状から卑怯番長は一つの結論を導いた。
すなわち、あの剛力番長は自分たちの知る彼女ではないのではないかと。
金剛番長と出会う以前……彼に感化される以前の彼女なのではないだろうか。
あまりに突飛で飛躍した考えかもしれない。
だが、そうでも考えなければあり得ないのだ。
……このような状況は。
「だとするなら、僕らの絆に最初の楔を入れたのは神という訳か」
卑怯番長は、神のやり口に強い不快感を覚える。
そして純真な彼女にでたらめを吹きこみ、都合のいい道具として扱った外道どもに怒りを感じた。
息苦しいほど胸糞が悪い。
大切にしていた大事なものを、好き勝手に弄ばれた悔しさを思い切り吐き出したかった。
きっと、この島で失ったものに匹敵するような何かを、自分は二度と手にする事はないだろう。
だから決意する。
ここで終わってしまった友の願いを、自分が代わりに叶える事を。
そして、友をここまで虚仮にしてくれたキンブリーと妲己に、自分以上の苦しみを与え
全ての元凶である神を細切れにして血の海に沈めてやろうと。
それもこれ以上ないほどに、卑怯な手口で――だ。
ありがとう、マシン番長。君の残してくれたデータのおかげで、僕の決意も固まった。
見ていてくれ、金剛番長。僕らを馬鹿にした神へのスジは、君に代わって通しておこう。
――私は、これから決死の覚悟で正義の実行に参ります。
もしかすると、これが最後の日記になるかもしれません。
ですから――もしこれを聞く方がいましたら、お願いがあります。
正義のために、どうか私の遺志を継いで下さい。
そうすれば、たとえ私の身が滅んだとしても、正義は――、
わかったよ、剛力番長。君の遺志は――僕が受け継ぐ。
それが例え――君自身を滅ぼす事になろうとも。
この地に残る最後の番長として。
卑怯番長はどこまでも卑怯に戦う覚悟を、ここに決めた。
◇
書き込み中……
1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:9)
1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
スレタイ通り、人探しや待ち合わせの呼びかけをするためのスレです。
どこで敵の目が光っているか分からないので、利用する際にはくれぐれも気をつけて!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9 名前:バトロワ好きな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:XO7all1TH
荒唐無稽な話だが、君たちの探している知り合いは、君たちの知る彼らではない可能性がある。
それぞれが違う時間から呼び寄せられている可能性を、考慮に入れておいてくれ。
そしてゾルフ・J・キンブリーに妲己。
友を虚仮にしてくれた君たちを、僕は絶対に許さない。
いずれお礼に行くから、なるべくその時まで生きていてくれよ。
6:雑談スレだけど何か話題ある?(Res:3)
1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
わざわざスレ立てするまでの話じゃないけれど、該当するスレがどこにもない!
そんな話題を扱うためのフリートークの場です。
2 名前:元自転車便の名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:HeRmionEA
大規模な戦闘の跡を見つけたらタレ込んでくれ。
少々調べたい事がある。
3 名前:お酒、絶対ダメな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:XO7all1TH
何を調べたいのか知らないケド、デパート付近は凄い事になっているよ。
しばらくは近付かないほうがいい。
みんなのしたら場への書き込みを実行しました
◇
「よぉ、準備は済んだのかィ?」
掲示板への書き込みを終えた覆面の怪人に掛けられる、軽薄そうな少年の声。
あの場から先に逃げ出した沖田総悟だ。
卑怯番長は、彼がいまだ立ち去っていなかった事に少し驚いた様子を見せる。
「ああ、覚悟は決まったよ……なに君? 暇でもしているのかい?
それなら手伝って欲しいんだけどね」
「手伝えェー? ただでェー? そいつァちょっと虫のいい話じゃねェかィ?
ありゃ、てめぇの連れだろう?
連れの責任は仲間が取るべきだよナァー?」
元より沖田自身にも逃げる気などサラサラなく、既にあの『番長』に対抗するための準備も終えているのだが……
恩を着せられそうな相手がいるなら、無償で協力する法もない。
毟れそうな相手からはトコトン毟り取る。
それが沖田総悟の処世術だ。
沖田は、卑怯番長がつい漏らしてしまった言質をどこまでも利用して、暗に報酬を要求する。
「OK、取引成立だ」
溜息をもらし、卑怯番長は手に持ったデイパックを放り投げた。
◇
敵の能力が自分を上回っている?
仲間が逃げ出し、孤立無援?
それがどうした。いつもの事だ。
走る。走る。ガッツは走る。
逃げるために、走っているわけではない。
活路を切り開くために、走っているのだ。
場所は炎上するデパート前の大通り。
住宅街を焼き払った炎は、時間と共にここまで燃え広がり周囲は灼熱の地獄と化していた。
木造の建物は当の昔に崩壊し、コンクリートのビルでさえ炎の舌に舐め回されている。
玉のような汗が噴きあがる。
薄い酸素を、犬のように喘いで摂取する。
既にガッツの肉体には胸の傷を初めとして、肉を抉り取るほどの傷がそこかしこに刻まれていた。
だが、流れる血の量はさほどでもない。
その全てが致命的な個所を外しているのは、一重にガッツの経験と技量、そして勘の為せる技であった。
そこまで傷付きながらもガッツが目指すのは、I-06に存在する禁止区域。
そこに『番長』を追い込み、その首輪を爆発させる。
対使徒用にと考えていた、その作戦を実行するためにガッツは動いていた。
「―――ッ!!」
背筋を悪寒が走る。
瞬間、勢いをそのままに転がって避けた。
轟音をあげ、空を薙ぐのは鋼の旋風。
触れただけで息の根が止まりそうな、その攻撃を転がる事でやり過ごし、
膝を立てて、起き上がる。
上空を通り過ぎて行ったその襲撃者に、一瞥をくれる事もなくガッツは再び駆けだした。
走りながらも青雲剣を薙ぎ払い、刃の檻で敵を封じる。
『番長』にとってその攻撃は、そよ風程度の威力であったが、足止めくらいにはなっていた。
「アゥッ!?」
「もう少しだ……ついて来やがれっ!」
吼える。
今朝、妲己たちと相見えたポイントは近い。
ガッツは外套の留め金を外すと、走りながらそれを火にくべる。
赤々と燃える炎が、黒い外套の裾に燃え移る。
ガッツは、それを闘牛士のように構えると、ついに『番長』と向き合った。
彼我の距離は十間に満たず。
狂戦士が攻撃を躊躇う要因など、どこにもない。
『番長』はその赤い炎に惹きつけられるかのように、突撃を敢行する。
猛烈な爆発力で大地を蹴りつけ、一直線に飛び込んで来る突進の勢いは凄まじいものであったが
だからこそ、その攻撃は単調で軌道を読みやすくもあった。
小細工なしに振るわれる純然たる力に対し、ガッツは柔らかな布でそれをいなそうとする。
ガッツの身体がゆっくりと沈み込み―――交錯。
すると、どこをどうしたものか。
過ぎ去った『番長』の頭には、燃え盛る布が手品のように巻き付いていた。
「ウアアアアアアアアアアアーーーーーーーッ!!」
『番長』が悲鳴をあげる。
とぐろを巻いて、兜に巻き付く焔の蛇。
その効果は、視界を妨げるばかりではない。
鉄板焼きのように兜を熱して内部に火傷傷を与えるうえに、周囲の酸素を燃やし尽くし呼吸を出来なくさせるのだ。
しかも、鎧の魔力に狂いきった少女は、目の前で何が起こってるのか認識する力すら失っている。
お餅のような肌が鉄板で焙られて火ぶくれを起こし、砂金の髪が熱で縮れる。
酸素を求めて息を吸い込めば、渦巻く熱気が肺を焼く。
狂戦士は踊り狂う。
むちゃくちゃに、やみくもに、何もない空を剣で薙ぐ。
その様子は、まるで喜劇に出てくるコメディアンのようだった。
ガッツは、その暴れ回る狂戦士に背後から近付くと、股間に腕を回して持ち上げる。
一層暴れる狂戦士の鎧にひっかかり、服が破け、頬が切れるが全て無視。
「オオッッ!!!」
全身の力を込め、狂戦士を投げ飛ばす。
入り込めば首輪を爆発させると指定された、禁止区域へと。
ズガーーーーンッ!!
などとは行かなかった。
「あァ!?」
首輪は直ちには爆発せず、退避勧告の音声が流れる。
それを聞いて、ガッツは隻眼を呆然と見開く。
「すぐ爆発しねェのかよっ!!」
◇
一分間の猶予。
ガッツは、一分などという単位を知らなかったのだが、なんとなくその感覚はわかった。
その事に疑問など持たない。
この島で出会った明らかな別人種とも、普通に会話が出来る事に疑問を持たないのと同じように。
しかし、一分だとっ!?
わざわざ地図を配布し、放送で場所の告知までしておいてなお、そのような猶予まで与えるとは。
まともにヤル気があるのかと、ガッツは主催陣を疑ってしまう。
一分間も、こいつを禁止区域内に留めておくなど不可能だ。
自分自身も禁止区域の奥深くまで入り込み、相討ちを狙うなら出来るだろうが、グリフィスを討つ前に
こんな奴と心中などするつもりはない。
なら、どうすればいい?
首輪の爆破以外でこいつを倒す方法があるのか。
逡巡する間に、外套が燃え尽きた。
『番長』の視界が回復する。
そこが危うい事を本能で感じ取ったのか、『番長』は起き上がると弾丸のようにその場から飛び離れようとする。
刃の檻も、炸裂弾による牽制も意味がなかった。
猶予時間の半分の時間も稼げずに、『番長』は禁止区域の外に出てしまう。
「チィッ!!」
ここにきてガッツの進退はきわまる。
三時間以上のぶっ続けの連戦の末、然しものガッツにも疲労の色が濃い。
再び襲い来る『番長』の連撃。
一撃受けるだけで即死確定の攻撃を、反射神経だけで避ける。
凄まじく神経をすり減らすその作業を、後退りながら行うガッツであったがそれもいい加減限界であった。
崩落した建物の残骸が、足にひっかかる。
体勢が崩れた。
「クッ」
唸りを上げる轟音。
横殴りに迫る死の具現。
それは剣の刃ではなく、面。
まるで蠅叩きのように、ちょこまかと動く敵を叩き潰さんとする分厚い鉄の塊。
それに向かってガッツの義手が伸びる。
その掌に張り付くのは衝撃貝。これまで使う事のなかった、未知の道具。
もはやこれに賭けるより他にはない。
吸い込まれるように、敵の攻撃が掌に受け止められ―――そこに衝撃はなかった。
衝撃貝は、剣の威力を綿のように受け止めたのだ。
しかし、その現象に戸惑う様子も見せず、理性を失った狂戦士は勢いをそのままにぶちかましへと移行する。
『番長』の小柄な体躯が、ガッツの腹部に突き刺さるようにぶつかった。
「ガ、フゥッ!」
もんどりうって倒れ込むガッツに、『番長』が圧し掛かる。
手に持った巨大な剣をギロチンに見立て、今まさに処刑されようとしたその瞬間。
「『貝』を使えっ!!」
ガッツでも、『番長』でもない、第三者の声がその場に響き渡った。
既に『番長』の身体に密着していたガッツの腕が、その声に反応するのにコンマ以下の時間も要らなかった。
轟!!
先の番長同士の決闘を再現するかのように。
否、先よりも更に高まった自らの剛力によって『番長』は、より強く打ち上げられた。
高く、高く、上空へと。
そして、地上にはそれを見上げる男たちの姿があった。
ドゥルルルルル
規則的なビートを刻む排気音が、減音しながら近付いてくる。
ハーレーダビッドソン。
大型バイクにまたがり再び現れた男に、起き上がったガッツは悪態を付く。
「てめえっ! とんでもねーもん寄越しやがって……肩の骨が外れっちまったじゃねーかっ!!
「カハハ、やっぱりかい? 自分で使わなくて良かったよ」
「っっ!? このっ、卑怯者がぁっ!」
「イエス! アイアム、卑怯番長!」
名乗りと共に卑怯番長、ここに推参。
◇
そんな会話をかわしている間に、上昇の最高点に達した『番長』が落下する。
ガッシャーーーーーァン!!
まずはクルクルと回転しながら落ちてきた剣が大地に突き刺さり、次いで金属が奏でる甲高い激突音。
『番長』がうつ伏せ気味に叩きつけられ、アスファルトの路面にクレーターが生まれた。
巻き起る砂埃。
その煙幕をものともせず、卑怯番長の振るったチタンスパイク入りの鞭が『番長』の足に正確に絡み付く。
鞭を軽くひっぱり、それがしっかりと固定されている事を確かめると、卑怯番長はクラクションを鳴らす。
パッパアアアアーーーーー!! パアアアーーー!!
すると遠方からも、それに応えるように警笛が鳴り響いた。
「……それじゃ行こうか、剛力番長」
卑怯番長が片手で保持したスロットルを握りこむと、V型ツインエンジンから発せられる獰猛な唸り声が、咆哮へと変わる。
ガッツをその場に置き去りに。
炎上する市街地を駆け抜ける鉄の騎馬。
熱風を纏い、爆発的に加速する機体が瞬く間にトップスピードへと達する。
引きずられ、跳ね回る『番長』の身体がアスファルトを削り飛ばし、後方へと粉塵を撒き散らかす。
飛び散る火花が残光となって、焔の尾のように車体を彩った。
ガツッ! ガガッ! ガッ! ガガガガガ!!
鞭を通して、嫌な感触が伝わってくる。
喉元までせりあがった感情を強引に飲み込む。
ここで、手を離すわけにはいかない。
まかり間違えば、彼女は生を望む全ての命を刈り尽くしてしまうだろう。
(そうならない内に……なんとしてでもここで彼女を止める!)
覚悟は既に決めていた。
後は……貫くだけだ。
自分で決めた、自分のスジを。
全ての感情を押し殺した、冷徹な眼差しが前方を見据えた。
ギャリッ!
ともすれば流れそうになる車体バランスを、絶妙のタイミングで制御する。
私刑のように凄惨な、卑怯番長が課す『番長』への制裁。
とはいえ、これはまだ前振りでしかない。
その真の目的は、先ほどのクラクションに応えてやってきた、対向車線を爆走する大型貨物車。
それに『番長』を叩きつける事にあった。
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
グングン迫る、大型貨物車の運転席に乗るのは沖田総悟。
アクセルベタ踏みで走る、その車のスピードメーターはとっくの昔に振り切れている。
相対距離が徐々にゼロへと近付き、互いに爆走する両者の視線が交わったその刹那、
『番長』の身体は鞭の戒めから解き放たれた。
ドオンッ!!
宙へと放りだされた『番長』に巨大な質量がぶち当たる。
地上を走る巡航ミサイル。
強烈な衝撃を受けて、二転三転錐揉み状に回転しながら前方へと叩き落とされた番長を、容赦なく踏みつぶし
大型貨物車――タンクローリーは急制動を掛ける。
タイヤが破裂し、止まり切れずに横転。
ひび割れたフロントガラスを、木刀でぶち破って沖田が脱出する。
そしてそのまま駆け足で距離を取り、イングラムM10を構えると、発砲。
三連射された9mmパラベラム弾が、燃料が満載されたタンクの外装を喰い破った。
閃光。
轟音。
暴風。
そして、超高熱の爆発が大地を揺るがす。
天に輝く恒星が、地上に落ちてきた。
そう錯覚しそうなほどの、空を貫く巨大な火柱が『番長』の肉体を焼き払った。
◇
強烈な刺激臭が鼻を突く。
何もかもを燃やしつくしてしまいそうな灼熱の炎。
その激しい燃焼から充分な距離を取った所で、アイドリングの振動が路面に響く。
帽子を、深くかぶり直しながら卑怯番長は呟く。
「これでもまだ、動けるのか……」
ヒトが生きる事を許されない、白色の世界に黒い影が佇む。
全身から黒煙を噴き出し、それをオーラのように身に纏った姿はまるで幽鬼。
死ぬ事を許されていないかのように、融解したアスファルトの泥の中を『番長』は歩いていた。
レコーダーに残された証言から、剛力番長に付与された新たな能力が超回復だと考えていたのだが……
これではまるで、不死の化け物だった。
「だけど、剛力番長」
その姿が、火災現場から僅かに離れたデパートの中へと消えていくのを見届けると
卑怯番長は手袋をキュッと嵌め直す。
「僕は―――君を逃がさない(見捨てない)」
再び単車にまたがって、卑怯番長の姿もまた、『番長』を追いかけ、デパートへと消えていった。
壁面に安置された、金剛番長の遺体がそれを見届けていた。
◇
デパート前の火災を目印に、大剣を引きずって半裸の男が歩いて来る。
先の攻防で、ようやくドラゴンころしを取り戻したガッツである。
剥き出しの大胸筋を初めとしたあちこちに、シャツを引き裂いて作った即席の包帯が巻かれており
まさに激戦の後といった趣であった。
それに気付き、少年は声を掛けた。
「よぉ旦那ァ、まだ生きてましたかィ。まるでゴキ……」
軽口を叩こうとした沖田の胸元をガッツが掴み、持ち上げる。
「何するんでさァ」
「何すんだじゃねェ!! やっぱりその舌引っこ抜いてやったほうがいいみてぇだな。
勝手にとんずらこきやがってっ!」
「いいがかりはよして下せェ。
一番弱い奴から狙われた、それだけの事じゃねえですかィ」
「――ッ!」
ガッツは、沖田を一発ぶん殴ってやろうかと思ったが、止めた。
腹の立つへらず口ではあったが、戦場での一面の真理をその言葉は含んでいたからだ。
正規軍の騎士様ならともかく、傭兵にとっては褒美を得るために互いに利用し、利用されるのは当たり前。
剣の腕の強弱すらそこでは関係なく、最後に名のある敵の首を取った者だけが食いぶちを得られる世界なのだ。
口約束での共闘の関係すら成立していなかった、この男を責めるのは筋違いだと言わざるを得なかった。
「チッ!」
沖田から手を離す。
「で、奴はどうした。やったのか?」
魔女に召喚された、地獄の業火のような熱気が剥き身の肌を灼いていた。
これを喰らえばさすがに生きていられるとは思えないが……先入観は死を招く。
問い詰めるガッツに、沖田はデパートを指さした。
「行くんですかィ? フラフラしてるじゃねェですかィ」
「あの鎧とも、ケリつける必要があるみてェだからな……」
ガッツはドラゴンころしを肩に担ぎ、デパートを見上げる。
白炎の世界に屹立する、巨大な建物が陽炎の揺らめきの中に歪んで見えた……
◇
爆発の衝撃波で砕け散ったガラスの欠片を踏み越えて、バイクに乗ったまま卑怯番長はデパート内部へと突入する。
いまや素通しとなった窓から採り入れた自然光のみに照らされた店内の様子は、外の光量に慣れた目には
少し薄暗く感じる。
半日の内に幾度となく戦いの舞台となったデパート内は、不気味なほど静まり返っていた。
この建物のどこかで、彼女は身を潜め、傷を癒しているのだろうか。
「出てこいよ、剛力番長!」
大声で呼ばわると、卑怯番長はハーレーのライトを灯し、スロットルを解放する。
密閉された空間に、高回転のエンジン音が鳴り響く。
それは『番長』への挑戦を告げる合図であり、その効果は覿面であった。
ダァンッ!
二階の吹き抜けから、黒い影が落下する。
落下地点にあった宝石を陳列したショーケースが粉々になり、キラキラ輝く宝石が舞い散った。
挑戦に応え、現れた黒金の鎧。
それに向かって人馬一体となった卑怯番長が突撃する。
綺麗に磨かれた床に、タイヤの跡が一直線に刻まれる。
激突の瞬間、ハーレーの上体を起こし、300kgを超える重量ごと叩きつけた。
「ッ!?」
踏みつぶし、そのまま乗り越えていくつもりだったその攻撃は、
しかし、ガッシリと『番長』に受けとめられる。
疲れや痛みなど知らぬとばかりに、『番長』の兜の奥の眼が光る。
やはり、強い。
ヒトを超え、番長を超え、その力は計り知れない。
ゾクリと、卑怯番長の背筋が凍る。
メキリ
『番長』が握りしめた、ハーレーの下部フレームが歪む。
空回る前輪。
しかし後輪の推力を得て、更に圧し合う力は強まる。
ミシッ! ミシッ!
スロットル全開。
最大トルクで拮抗する力に、フレームが軋む。
オイルを垂れ流し、悶え苦しむ束の間の愛馬。
その愛馬の腹に、垂直に蹴りあげられた『番長』の足が突き刺さる。
爆発的な衝撃。
パーツを撒き散らかし、崩壊しながら打ち上げられたハーレーの車体を足がかりに、卑怯番長は
トンボを切って脱出する。
宙を舞うように落下する卑怯番長。
その目前に、自らも跳躍した『番長』の追撃が迫る。
「――っ!」
「アアッ!!」
「カ、ハ」
とは言え、ダメージは甚大。
横隔膜が痙攣し、呼吸が出来ない。
情け容赦なく、サッカーキックで蹴り飛ばそうとする動きを、ゴロゴロ転がるように避けると
卑怯番長は立ちあがる。
「アアッ!」
「シャアッ!」
次の瞬間、二人の姿は再び空中で交わっていた。
倒れた商品棚を踏み台に、高く舞い上がった『番長』が鉈のような踵落としを放てば
それに応じた卑怯番長が、天を突くような前蹴りでそれを受ける。
二人の番長の拳が、蹴りが、体術の応酬が空中で展開され―――
弾けるように離れると、同時に地上へと降り立つ。
卑怯番長は、舌を鳴らす。
こめかみがザックリと裂けて、ドロリと血が垂れ落ちる。
短ランはあっというまにズタボロになっていた。
呼吸器の機能も、いまだ回復していない。
無呼吸のまま、激しく動いたツケなのか。水中を溺れるかのように、足元は覚束ない。
だというのに、目前には変わる事のない圧倒的な憤怒の化身。
盤面は既に詰んでいる。
だから、それを打開する者があるとするなら、それは―――
パァンッ!!
乾いた破裂音が、デパート内部に木霊する。
炸裂したのは、『番長』の目前に投げ込まれた金平糖。
その目くらましと同時に、神速の踏み込みでそれは袈裟懸けに振り下ろされた。
魔を断つ剣が、魔性の鎧ごと『番長』の鋼の肉体を切り裂く。
鎧の下に隠された、生まれたての白い肌がぱっくりと裂け、赤黒い断面を覗かせた。
「―――」
無言のまま卑怯番長の前に割り込んだ男の、隆々と発達した背筋から湯気のような蒸気が立ち昇る。
大剣が、再び閃く。
超重量の斬撃を、獣の俊敏さで『番長』は避けた。
臓物がはみ出したまま、後方へと飛び退いた彼女の傷痕を、鎧が繋ぎ合わせる。
生き物のように蠢く鎧が再結合を果たすと、斬撃の跡は隠れて消えた。
「しぶてェな」
剣を肩に載せ、男はポツリと呟く。
ようやく回復した卑怯番長が、乱入してきた男に声を掛ける。
「……へぇ、まだ、手伝ってくれるのかい?」
「別にてめえの為にやるわけじゃねえ。オレはオレのスジって奴を通しに来ただけだ」
「旦那ァ、言ってる事がツンデレみてェで、キメェですぜィ」
駆けつけてきた少年が、軽口を叩いた。
ここに再び、三人の戦士が集った。
決着の幕切れが、近付こうとしていた。
◇
すいません
>>216の前に挿入します
鎧の爪を寄り合わせた、貫くような右の手刀を、側面から弾いて直撃を避ける。
跳ねあがる蹴り足を、上体を仰け反らせて避ける。帽子が掠って吹っ飛んだ。
それで間合いが離れた卑怯番長に対し、旋回しながら振り向きざまのバックブロー。
伸びるようにして届いたその攻撃は、避ける事が出来なかった。
殴り飛ばされた卑怯番長の身体が、商品棚を巻き込みながら床へと叩きつけられる。
えずきながらうずくまる卑怯番長に、散乱する製品を踏みつぶして『番長』が近付く。
遠のきそうになる意識を、痛みが引き戻す。
拷問鞭を、胸に巻きつけて収納していたのが幸いした。
粉砕された右の肋骨は肺に突き刺さることもなく、即席の鎧としての役割を果たしていた。
三人の戦士が颶風のように戦場を縦横無尽に駆け巡れば、
『番長』は重力から解き放たれたかのように天井や壁をも足場として戦う。
四者の織りなす闘いは、死闘と呼ぶのに相応しい展開となっていた。
三戦士の振るう鞭や剣は『番長』に致命打を与えるものではなかったが、
『番長』の攻撃もまた、三人の連携の前に致命傷には至らない。
ここに来て戦局は、初端に戻っている。
得られた結論は、どれだけの炎を持ってしても、どれだけの深手を与えても、敵は不死身だという現実だけであった。
「んで、なんか作戦とかねェのかっ!? ヒキョーな武器とかよっ!?」
「あいにく、もう何もないな」
「んじゃ、どうするんでェ?」
「死なないなら、死ぬまで殺し続ける。それだけさ」
「チッ、てめぇら、今度は逃げんじゃねーぞっ」
きっと、金剛番長ならそうしただろう。
そう考えた卑怯番長の出した結論は、奇しくもかつてホムンクルスを相手取った焔の錬金術師と同じものとなる。
実際のところ、ホムンクルスの内臓する不完全な賢者の石の力には限りがあり、死に続ければいずれは
消滅するのだが―――
戦術レベルの打ち合わせをする間もなく、『番長』に投げつけられたスチール製の商品棚を避けて、三人は散る。
これまでの戦いの影響で、店内にはコンクリの破片やら、構造物の残骸やらで障害物の山が出来ている。
ガッツは、その障害物を縫うようにして走り、『番長』への攻撃を仕掛ける心積りであった。
ガクン
しかし、ガッツの足がたたらを踏む。
無理を重ねた身体は、既に限界を軽く超えていた。
気配に気付いたのか、『番長』がガッツへと視線を向ける。
踏み込みが、足りない。
分かっていたが、剣を振り下ろす。
足りなかった踏み込みの分、『番長』は余裕を持ってそれを避けた。
反撃の剛腕が振るわれる。
避ける間もなく直撃した拳は、ガッツの頬骨を砕かんばかりの威力だった。
脳味噌がシェイクされて、堪らずガッツは昏倒した。
止めをさした感触に至らなかったのか。
白眼を剥いて倒れるガッツに、なおも追い打ちをかけようとする『番長』。
それを止めようと、沖田が飛び出した。
「てんめえっ!」
「アゥッ!?」
奇襲の機を窺い、三人の中でもっとも『陰』の役割に務めていた沖田の突撃は、完全に『番長』の意表を突いていた。
「調子に乗ってんじゃ……ねえやァーーー!!」
沖田の突きが、『番長』に炸裂する。
『番長』はその小柄な体躯の動きを止めた。
二段目の突きが、『番長』に突き刺さる。
『番長』はその小柄な体躯を揺るがせた。
三段目の突きが、『番長』を突き上げる。
『番長』のその小柄な体躯が浮き上がった。
「まだまだァーーー!!」
沖田の肉体が限界を超えて、矢のように加速する。
身体ごとぶつかる様な、四段目の突きが――『番長』の小柄な体躯を跳ね飛ばした。
己の限界を超えた、疾風迅雷の四連突き。
それを為して、沖田はガッツの元へと駆け寄る。
「旦那ァッ」
容態を診る。
生きているが、戦線復帰は難しいだろう。
舌を打ち鳴らして、『番長』へと視線を戻す。
そこにあったのは、単独で『番長』と渡り合う卑怯番長の姿だった。
◇
ガッツが倒れるのを見て、彼の怒りは静かに爆発した。
突き飛ばされた『番長』に向かい、踊るように鞭を振り回す。
「ダーティー・ロンド(汚れし舞踊)!!」
超音速で振るわれる、拷問鞭の動きに翻弄されるように『番長』の体躯が宙に舞う。
次いで、絡め取るように、鞭を巻き付けた。
「ダーティー・エクスキューション(汚れし処刑)!!」
幾重にも巻き付けた、チタンスパイク入りの鞭が『番長』の自由を奪う。
しかし、『番長』の身体が、一瞬ぶわりと膨らんだかと思うと、次の瞬間。
鞭は散り散りに弾け飛んでいた。
構わず、渾身の右を叩きつける。
突き刺さるようにボディーを捉えたその打撃に、『番長』の身体がくの字に曲がった。
連打。連打。反撃の暇を与えずにマシンガンのようなラッシュは続く。
タンタンと、軽快にフットワークを刻み、的確な打撃を『番長』へと与え続ける。
ステゴロタイマン。
奇襲、暗器による闘いを旨とする、卑怯番長のスタイルからもっとも懸け離れた戦い方だというのに、卑怯番長は
卑怯なほど強かった。
だが、三人でようやく相手取れていたものを、一人でどうこう出来るはずがない。
しかも、魔性の力で強化された『番長』を相手に、ただの番長一人が圧倒出来る道理などどこにもない。
一瞬の優勢など何の意味も持たず、攻勢の後には大劣勢が待ち受けるのがこの場の道理。
しかし、そんな道理など……
「知った、ことかあああああああああああああああああああああっっっ!!!」
知らず、叫んだ。
かの鎧が、怒りと憎悪を糧として彼女の力を引き出すというのなら。
この身は友への想いと、決意に支えられている。
ならば、条件は五分と五分。
勝てぬ理由など、どこにもない。
「オアアアアアアッ!」
旋風のような回し蹴りが、『番長』を吹っ飛ばすと、その身は障害物の山の中へと突っ込んで行く。
衝突の威力で、小山のようなそれは四散した。
跳躍し、飛び蹴りで追撃。
だが『番長』の左腕がそれを防御する。
同時に薙ぎ払われた右の爪が、卑怯番長の左腕を千切り飛ばしていた。
構う事はない。
この左腕は、弟妹を守る決意の証。
卑怯番長が密かに隠し持ち、主催者とて取り上げる事は叶わなかった真の切り札。
義手となっていた、肉の下から現れたのは戦車をも貫く米国メタルハザード社開発の50ミリ・グレネードガン。
押し倒した『番長』をマウントポジションに捕えると、卑怯番長は口を模した兜の隙間にその銃を捩じり込む。
さぁ、どれだけ続ければ、君は終われるんだ?
「いつまでだって、付き合うさ……」
呟き、銃を放とうとしたその瞬間。
ひび割れた兜の隙間から、泣き濡れた剛力番長の瞳が見えた。
見えて、しまった。
顔を見てしまったら、考えてしまう。
揺らいでしまう。
決意が。覚悟が。
本当に、殺すより、ほかにはないのかと。
刹那の戸惑い。
刹那の逡巡。
その、刹那の瞬間が、命取りだった。
ぞぶり
見開かれる瞳。
卑怯番長の分厚い胸板が貫かれ―――
背中まで突き出たその抜き手に、血に濡れた心臓が握られていた。
(……酷いじゃないか、剛力番長。卑怯は僕の専売特許だって言うのに)
女の子の涙という、自分には絶対使えない最強の卑怯技。
それが自分を倒した決まり手とは、なんとも皮肉な話だった。
ぐしゃり
水気たっぷりの果実を握りつぶすような、その音を聴きながら、卑怯番長の意識は、ゆっくりと闇に沈んでいった。
◇
沈んでいく闇の中、人影が見えた。
最後に見えるのは弟妹の顔か、それとも金剛番長、君なのか。
「ごめんな、兄ちゃん、お前たちのところに帰れそうにないよ……
金剛番長、不甲斐無くて、済まない……」
結局、何も為せなかった。
忸怩たる思いは残るが、もはやどうにもならない。
あの場に残る二人に託すより、他はないだろう。
「ほっほっほっ、それで、よろしいのですかな?」
人影が語りかけてくる。
その人影は……思いもよらぬ姿となって現れた。
獄牢正宗。たしか、剛力番長の執事を勤めていた爺さんである。
なぜ、最後のこの瞬間、現れたのがこの男なのか。
理解不可能な現象に、少し戸惑う。
だが、死後の世界などというものは元より人知の及ばぬ物。
そう言う事も、まぁあるのだろうと受け入れる。
「もう諦めたのですかな。最近の若い者は、根性が足りませんな」
飄々とした様子で、獄牢さんは僕をからかう。
まるで若者をからかうのが、楽しくてしょうがないといった性悪爺の顔だった。
こんな爺さんには、絶対になりたくないと思った。
まぁ、もう死んでしまったのだけれど。
「心臓が止まるのと、死ぬのは別問題ですよ。卑怯番長」
おいおい、僕は金剛番長じゃないんだ。無茶言うなよ。
「ならば、何一つ為す事もなく、あなた方はこの戦いから退場するというのですかな。
正気を失った、お嬢様一人を遺して」
番長の、面汚しですな。
獄牢さんは、そう呟きながらフゥーと肩を竦めてみせる。
僕はともかく、金剛番長を馬鹿にされるのは気分が悪くなった。
まだだ。
金剛番長の灯した勇気の炎は、まだ僕の心に燃えている。
この炎が消える前に……僕が先に燃え尽きるわけにはいかないっ!
萎えていた足に力が戻る。
僕は、あの不死身の漢のように立ちあがった。
意識がゆっくりと浮上するのを知覚する。
獄牢さんの声が遠くなっていく。
「――己のスジを通すためなら、煉獄からも蘇る。
それこそが――真の『番長』!!」
◇
「卑怯番長ーーーっ!!」
沖田の声で、目が覚めた。
状況は、意識を失った一瞬の後。
『番長』をマウントポジションに捕えている事に変わりはない。
卑怯番長は、胸の筋肉を引き締めると、彼女の身体を抑え込んだ。
なぜか、彼女の抵抗は弱弱しく感じた。
「卑怯……お前、まだ生きて……」
「――死んださ」
彼とは違う。
この身体は既に死に絶えており、出来る事は限られている。
だから
「君は……彼を連れて逃げろ。
彼女は、僕が連れていく」
沖田に、ガッツを連れて逃げるように言う。
せめて、彼女だけは一緒に連れていく。
それが、この身体でも可能な、ただ一つの事だった。
そう、卑怯番長にはまだ隠していた手札があった。
沖田に報酬として渡したデイパックは、剛力番長が落としていったバックにがらくたばかりを詰め込んだ物。
自分自身のデイパックは短ランの下に背負って隠していたのだ。
心臓を貫かれた抜き手で、デイパックも破けた。
だから、少し身を揺すれば……ごとりと、支給品が地に落ちた。
特製バギー玉。
メロンほどの大きさのその爆弾は、使えばあたり一面を吹き飛ばす大爆発を起こすという。
このデパート内でそれを使えば……瓦礫に圧し潰されて、さすがの彼女も終わるだろう。
これだけ暴れ回っても誰も出て来なかった所から考えて、巻き添えになる人間も店内には
残ってはいないと卑怯番長は判断した。
「てめぇ……自爆する気かよ」
「――」
沖田の問いに、卑怯番長は頬を少し歪ませることで応える。
キンブリーと妲己。そして神に復讐するまで、死ぬつもりなどなかった。
しかし、もはや命の炎は燃え尽きようとしていた。
金剛番長の死を見届けた、この二人になら……託してもいいと思った。
「後を……頼む」
「……」
沖田は、もう何も言わなかった。
なにを言い残す事もなく、気絶したガッツを連れてデパートを出る。
その姿が、完全に見えなくなるまで卑怯番長は頑張りたかったのだが……
いい加減、意識が消えそうになったので、爆弾を左手の銃で撃った。
轟音と共に、崩壊する建物の中、最後まで『番長』を抑え込んで―――卑怯番長は逝った。
今度こそ、愛する弟妹の姿を脳裏に思い浮かべながら。
そして、超重量の瓦礫の山に圧し潰されて、『番長』は生き返っては死に。生き返っては死んだ。
やがて、全ての命を使い果たし――その姿はホムンクルスの宿命に従い、霞のように砕けて消えた。
【秋山優(卑怯番長)@金剛番長 死亡】
【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長 死亡】
◇
――ガリ……ガリ……、
「ハァ……また、派手にやりやがって……誰が直すと思ってやがるんだ……」
王天君は、目前の無数のウィンドウに映された光景を溜息をつきながら眺める。
その口調には呆れというよりも、疲労から来る虚無感の方が強く含まれていた。
デパート。
その建物が崩壊したことにより、会場に設置した『非常口』あるいは宝貝空間を使った亜流の『龍脈』とでも呼んだ方がいいのか?
まぁ呼び方なんぞ、どうでもいいんだが……
それもまた潰されてしまったのだ。
その影響は、この『非常口』だけが使えなくなったという事だけには留まらず、他のさまざまな空間に影響が出る事が予想された。
この『非常口』、別に参加者の移動の利便の為に作られたわけではない。
さまざまな思惑の元、寄り集まった諸勢力。
その中の、とある陣営の依頼で設置したものだった。
何に使うつもりだったのかは知らないが……
これを再び綿密な計算の元に結界を紡ぎ直し、修復するには膨大な……そう、膨大な時間と労力が必要になるだろう。
下手をすれば、この会場を作った時以上に。
王天君は、再び深い溜息を付く。
「つーかよぉ、報告する必要あんのか? どうせこう言うんだろ?
全ては定められた運命だ、とかなんとか……」
そりゃお前さんは楽だろうよ、そうして全部見通してまーすってポーズとってりゃいいんだからよ?
だが、奴の提示する条件に釣られて、この計画に加わった連中にはそれぞれ思惑というものがあるのだ。
やれ、約束が違う。
やれ、予定外だと。
しかし、そんな不満もあの男の一言で全てもみ消される。
何か一つある度に、そんな喧々囂々たる騒ぎが起きる中、王天君はすっかりやる気を失っていた。
当たり前だ。全てが予定調和とされる世界で、真面目に働こうなどと言う人間がいるわけがない。
自分が何をしようが、全て神の掌の上。
バカバカしすぎて涙が出てくる。
全ての行為が予定調和である『神』の世界と、全てが予定通りになるまで何度でも同じ事を繰り返す『歴史の道標』の世界。
はたしてどちらがマシなのか。
それでも何かをしようなどと思う奴は、目の前にぶら下がった利益に目のくらんだ俗物か、よほどの変わり者か
でなければ何も見えていない愚者だけだ。
だからこそ、『神』とは本来孤高の存在であり、凡俗とは別の世界に居るべき存在なのだ。
そうあるべきだし、そうしてもらわなければ困る。
それが――何をトチ狂って、こんな大掛かりな『計画』を遂行しようなどと思ったのか。
自分たちを力づくでこの『計画』に引っ張り込んだ申公豹は既に計画から外れている。
だから別にフケてしまっても、誰に咎められる謂われもないのだが。
ここまで深く関わってしまっては、結末を見届けねばどうにも目覚めが悪い。
彼が母親のように思っている妲己もその肉体を失ってしまったようだし、
半身たる男の肉体も、この『計画』によって永久に失われてしまったのだから。
あるいは、王天君のこの気持ちも、神に言わせれば定められた運命通りなのか。
「さて……どうすっかね……」
ちょっと気分直しに『外』に出ると言い残して、王天君は席を立つ。
いつ戻るかって?
知らねえよ。
――― 文字通り、神のみぞ知るって事でいいんじゃねえのか?
◇
沖田の足は、デパートの崩落と周囲の火災を避け、隣のエリアI-08にまで達していた。
ガッツは重かったので、途中で捨ててきた。
とはいえ火災の範疇を抜けだしてからの事なので、まぁ死にはしないだろう。
あの男には、土方の野郎や、万屋の旦那のような殺しても死なない男特有の雰囲気があった。
その内、また会うこともあるだろう。
「にしても、最後まで卑怯な野郎だったぜィ」
貰ったデイパックの中には、ろくなものが入っていなかった。
便所紙の代わりくらいにしかなりそうもねえ、妙な男の顔が書かれたチラシ。
細かく砕けた、鎧の破片。
音楽用の、カセットテープ。
そして……
「かれェな……」
バリバリと、辛すぎるせんべえを食う。
ツンと鼻に来て、思わず天を見上げる。
さっきまで快晴だった空が、いつの間にか泣き出す直前のような曇天になっていた。
一雨来てくれりゃあ、これ以上の延焼も防げるんだがな。
そう思いながら歩く沖田の眼に、一人の少女の姿が目に入った。
最初、物狂いかと思った。
が、あたりを慎重に窺いながら歩くその姿には理性を感じたし、華奢な身体に包帯だけを身に纏い、
何も持たずに歩くその姿はどう見ても保護を必要とする小娘だった。
「どしたぁ? ガキィ。迷子にでもなったのかィ?」
こんなガキまで連れて来られていた事に内心驚きながらも、沖田は少女に気怠く声を掛けて近付く。
少女は驚き、逃走しようとする様子だったが、こちらは警察だ。
相手を逃さぬように近付く術には長けている。角度とか。
「う……」
「ん?」
こちらを見上げてくる少女の表情は、どこか印象的だった。
どこかで、こんな顔を見たような気がして、沖田は少し記憶を辿り――
次の瞬間、腹部に冷たい何かを突っ込まれた。
「――っ!?」
視線を下に移すと、何も持っていなかったはずの少女の手の中に、血に塗れた何かの輪郭がうっすらと見える。
「うわあああああああああああっ!!」
少女は、狂ったように叫びながら、何度も何度も沖田の腹をめった刺しにする。
垂らすように纏められたツインテールの金髪が、少女の動きに合わせて跳ね回るように激しく揺れる。
沖田は、万屋のガキの声に似てやがるな……などとボンヤリ考えながら、無感動にそれを見ていた。
制服がすっかり真っ赤に染まり、内臓がドロドロになるまでたっぷりとかき回された頃。
ようやく少女の動きが止まる。
ずるりと、沖田の身体が力を失い、仰向けに倒れ込む。
少女は、沖田から荷物を奪うと、どこかに向かって駆け出した。
沖田には、それを目で追う余力も残っていなかった。
(ああ……そうだ、あの眼は……人を殺しちまった後の、ガキの眼じゃねえか……)
ちょっとばかり遅かった、その発見に納得しながら、沖田は静かに目を閉じる。
「ケホッ」
せり上がった血で、喉が噎せかえる。
姉が死の直前に味わった苦しみも、こんな感じだったのだろうか。
「姉……上ェ……」
路上に広がる、血の海に沈みながら真撰組一番隊隊長は、誰にも看取られる事無くその短い生涯を終えた。
【沖田総悟@銀魂 死亡】
【I-8/路上/1日目/昼】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大)、全身(特に胸周辺)に多数の刺傷(治療済み)
[服装]:全身に包帯
[装備]:蝉のナイフ@魔王 JUVENILE REMIX
[道具]:支給品一式×7、ノートパソコン@現実、旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、不明支給品0〜2(一つは武器ではない)
カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、アルフォンスの残骸×3、
木刀正宗@ハヤテのごとく!、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、イングラムM10(13/32)@現実、工具数種、
[思考]
基本:なんとかして最後の一人になり、神にみんなが生きている世界に帰して貰う
1:参加者を皆殺しにする。手段は問わない。
2:武器の入手を優先する。
[備考]
※サンジからワンピース世界についてかなり詳しく聞きました。
※ブラックジャックの容姿の特徴を聞きました。
※拷問などの影響で精神が非常に不安定になっています。
※スズメバチに対して激しい恐怖を抱いています。
※注射器の中身についての説明は受けてません。
◇
◇
―――今回は―――だが―――
いずれ―――会おう―――
地を這いながら、影のように獣が離れていく。
夢とも現ともつかぬ世界で、耳元で何かを囁かれている。
胡乱な意識は、それを記憶に留める事もなく泥沼のように沈んでいく。
だが、どこまでも沈んでいく意識の中で、光り輝く何かを見つけて―――
腐臭漂う、ゴミ捨て場でガッツは目を覚ました。
【I-8/ゴミ捨て場/1日目/昼(放送直前)】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(特大)、ダメージ(大) (応急処置済み)
[服装]:上半身裸
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、炸裂弾×2@ベルセルク、折れたキリバチ@ONE PIECE、青雲剣@封神演義、ドラゴンころし@ベルセルク
[思考]
基本:グリフィスに鉄塊をぶち込む。
1:戦いはどうなった?
2:グリフィスを殺す。
3:グリフィスの部下の使徒どもも殺す。
4:なんか、夢に見たか?
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
※左手の義手に衝撃貝が仕込まれています。
【特製バギー玉@ONE PIECE】
町1つを消し飛ばせる爆弾。
このロワでは制限を受けており、さすがにそこまでの威力はない。
以上です。
◆Eoa5auxOGU氏が予約を破棄していたのでナギを使わせてもらいましたが
あんまり動かしてないので、まだ動かせるかと。
タイトルは番長たちの挽歌
>>214までが(上)で以降が(下)です
投下乙!
最終形態の剛力強過ぎるw使徒なんか目じゃねえぞ
卑怯番長の覚悟といい番長は太く短く生きたなぁ
そして……救われねええええええええええええええ!!!!
沖田……ここまで生き延びて最後にこれか……
>>224でナギが何も持たずにとありますが、デイパックは持っているかと
ああいや、持ち物にだけ透明化を使ってるのか
すいません、忘れて下さい
投下乙です!
なんというか、もうボスと呼ぶに相応しい鬼神の如き強さ
それに立ち向かう「ただの」人間3人。熱い、熱すぎる。熱すぎて涙が止まらん
番長勢は全滅かぁ…しかし誰も彼も圧倒的存在感だったなー
そして沖田が…哀しい
第一回放送後のデパート周辺の展開は序盤〜中盤の山場と言っていいと思います
関わった全ての書き手さんに賛辞を送りたい!
投下乙!
いやあ、剛力は強敵だとは予想してたがここまでとは
それに立ち向かう三人。確かに熱い、熱いですわw
卑怯番長、沖田……
デパートは多くの参加者が交差して戦いがあって等々崩壊したか…
投下乙
ヒュペリオン体質に最強の眼と再生能力、狂戦士の甲冑
そりゃあ化け物にもなるわな
番長同士の戦いが哀しすぎる、特に最期
卑怯番長の想いが届いたと信じたい
熱い展開、感動しました
卑怯ばんちょおおおおおおおう!
かっけえ、かっけ過ぎる!
これぞ番長だったよ、うん!
そして沖田がああなるとは……
熱くも切ない話ですごく面白かったです
ひ、卑怯番長……。あんたこそ、この外道と疑心暗鬼ばかりの集う新漫画ロワにおける数少ない漢だったぜ。
本編最終回が幸せそうだった分だけクるものが……。獄牢さんとの血縁ネタにも涙。
番長勢の濃い生き様、胸に刻ませてもらいましたぜ。剛力もまさしくモンスターだった。
沖田はご愁傷さま、ナギは予約になかった分ホントにサプライズだ。
ガッツはもうまさしく悪運、ハードラック極まれり。唯一逃げなかったキャラが生き残るってのは皮肉だな……。
狂戦士の甲冑は瓦礫の下だろうからフル装備はもう無理かな。
龍脈のズレが今後どう絡んでくるのか……投下乙でした!
しっかしキンブリーはドジっ子すぎていい加減萌えキャラに見えてきたんだがw
王天ちゃんももう苦労ばっかり背負い込んで可哀想w
しかし本当ここはマーダーも書き手さんの数も少ないのに順調に放送に到達してるなー
パワーバランスのキーパーソンは未来日記を持つユッキーユノとそれを書き換えられる安藤兄弟かな?
それぞれがそれぞれの理由で危ういけどw
沙英、坂田銀時、投下します
「はっ、はっ、はくしゅん!! っくら〜」
「大丈夫ですか、銀さん?」
早朝の時はまだ生い茂る木々の合間から太陽の光が差し込んでいた。
しかし今は空一面厚い雲に覆われて風が肌寒く感じる。
だが後ろを行く沙英は顔を赤くして前へ目を向けずに銀時に尋ねる。
「そ、その…やっぱり戻りませんか? もしかしたら衣服がありそうな家とか一件ぐらい残ってるかもしれませんし…」
「ぶるぶるっ、いや、俺も下が欲しいけどよ、嫌な予感がびんびんしやがる。とっととトンガリ頭らと
合流しちまった方がよさそうだ」
あの襲撃の後、炎に捲かれる前に全速力で市街地を抜け出した二人は銀時が……した為、少し冷たいが
川で沐浴したのだ。
そして現在の銀時の下は……
(TVでお祭りの時に見た事はあるけど……何でふんどしなのよ!!)
汚れてしまった衣服と下着も川で水洗いしたが変えの衣服はない。
いや、替えも無いのに洗濯するのもどうかと思うが銀時はしてしまった。
そして洗濯してしまってから気が付く、体たらくさ。
ふんどしの方は絞ればまだ身につけれるが下のズボンはさすがに無理っぽいので
デイパックに放り込む。
つまり現在の銀時の下半身は祭りの時の野郎よろしくふんどし状態である。
だから沙英が前を見れば銀時のお尻が丸見えで…。
まあ、汚れたままよりはマシと言えばマシではあるが…。
「あいつらも場数は踏んでるとは思うがな…急ぐぞ」
「ま、待ってください。銀さん〜」
どうしたんだろう? さすがにあの姿で人前に出るのは憚られたから洗濯に時間を取られるのは
仕方なかったけど、それからは何か焦ってるような…
私も早くゆのと会いたいからこの方がいいけど…。
よし、とりあえずは誤魔化せてるぞ。
嫌な予感がするとか俺の勘だとか言っとけば大抵は誤魔化せるからな。
このまま、あの出来事の記憶が薄れる位どんどん行動を重ねればなんとかなる。
あの人間の尊厳の崩壊とかを見られたのがこいつだけで済んだのは不幸中の幸いだったぜ。
出来れば俺の記憶からも消したいぐらいだがな。
まあ、とっとと合流したいのは本当だし。
あのお色気猟奇姉ちゃんはめちゃくちゃやべえ。人間をばらすのを屁とも思ってねえだけじゃねえ。
話をした感じつうか……なんつうか……色んな意味でブチ切れてやがったぜ。
それと傍にいた小娘もやべえ。
あんな馬鹿デカイ剣とかぶんぶん振り回すとかあいつも夜兎か何かか?
あんなのがそこかしこにウロチョロしてるとか思ったよりやばい状況だぞ。こりゃあ。
沖田の野郎も無事ならいいんだけどよ…
◇ ◇ ◇
「はあはあ、銀さん、待ってくださいよ…」
私は部活動で運動してるわけでもないのに。学校の体育が唯一の運動の私には銀さんのスピードに付いて行くのがやっとだ。
それなのに、こんなに走らせるなんて…
大体、普段はぐうたらそうなのにこんなに走れるなんて反則よ!
そりゃ、早く合流したいのは分かるけど…。
あれ?、今度はこっちに向かって走ってきて、きゃあ
「ちょ、銀さん、抱きつかないでください! 突然なんですか?」
「いやあ、予想出来なかった俺も迂闊だったわ。普通、あんなにドンパチしてたら怪我人抱えて逃げるわな〜」
「え?」
それって……みんなもういない?
「……誰も居なかったんですか?」
「多分、あの爆音を聞いて怪我人連れて逃げたと思うぜ。俺でもやばいと思ったら逃げるって」
そう言いつつ沙英を小脇に抱えて来た道を逆に歩いていく。
「だから、何でこんなお持ち帰りみたいなことするんですか! 放してください! セクハラで訴えますよ!」
「はいはい、こっちは無駄足踏まされて少し気が立ってるんだ。ここじゃ、街の様子が見えにくいから移動しましょうね」
銀時の腕の中でじたばたするが抜け出せない。
この時、銀時の表情を見ていたらそれどころではないと悟っただろう。
口調に反してその表情は真剣で冷や汗で濡れていた。
まあ、怪我人がいる状態で騒動に巻き込まれたくねえからとんずらしてても不思議じゃねえ。
俺でもやばいと思ったらすぐ逃げる。だから連中もさっさと逃げ出したと思いたい。
とりあえずこれ以上変な事言ってビビらせたくないから逃げたことにしておく。
もっとも、誰とも知らねえ死体が転がってたら普通は事件があった方を疑うがな。
いやあ、不純な動機でも先を走っていてよかったぜ。
おかげでグロいものを見せずに済んだって言うか…俺は嫌なもん見ちまったがな。
足の傷は刃物のようなものでばっさりだが…腹のアレはなんなんだ? ライオンにでも咬まれたのか?
それともまさか定春じゃないだろうな?
少なくともトンガリ頭やあの姉ちゃんには無理。と言うかアレは人間には無理だって。
殺し合いに放り込まれたと思ったら今度はホラーとか、どこのB級映画だよ、たく。
「だからもう放してください! 自分で歩けますから!」
「いや、せっかくだからもう少しこのまま行こうな。その方がお兄さんも楽だし」
「何がもう少しですか? もう放してください!」
「わかったわかった。ほらよ」
死体のある場所からもう十分に離れた。
なので銀時は沙英を放した。急に放りだされて少したたらを踏むが転ばなかった。
「もう!、本当に銀さんは変な事ばっかりするんですから!」
「わりいわりい。けど、もしかしたら戻ってくるかもしれねえからここで待つとしようぜ」
死体の近くに戻ってくるとは思えねえけどな、と内心で呟く。
これからの行動の指針を考えたい銀時は休憩しようと持ちかけた。
「え、でも早くゆのを迎えに行った方が…」
「待てって、こういう時はバラバラで行動してたら駄目だって。いや、マジで」
普段と変わらない何時もの口調。だが無視できない『何か』を含む声。
「無論、しばらく立っても帰って来なかったら迎えに行く。それでいいだろ?」
「はい、それなら構いません…」
後で行くとはっきり言い切ったのでしぶしぶながらも沙英も待とうかと思い直す。
「それじゃ、待ってる間に飯でも喰うか。いや、そんな怖い顔で見るなって。喰える時に喰うことも大事だぜ」
そう言うとさっさと地面に座り込み胡坐を組む。
沙英は一瞬こんな時にとカチンときたが…喰える時に喰うと聞いてふとヒロの事が思い浮かんだ。
そうだ、私がカンズメ状態の時もヒロはいつも夜食を作ってくれたっけ。
そして運動会の時も追試の時もヒロは何時も食事を作ってくれた。
もしヒロがいたら似たような事を言ってたかもしれない。
そう思うとさっきまでの焦りは嘘のように消えていった。
「そうですね。それじゃ食事にしましょうか」
そう言ってデイパックからデパートで調達した食料を取り出し銀時に手渡す。
「サンキュー。お、おにぎりか」
「お菓子だけだと片寄りますからねちゃんとご飯も食べてくださいよ」
水のぺットボトルも手渡し、自分の分を確保するとハンカチを地面に敷いて座り込む。
そう言えばこうやって外で食事をするのは…動物園での写生以来だっけ。
ゆの、宮子、ヒロ……無事だといいけど……。
銀時も横目で沙英の表情を窺いつつおにぎりにパクつく。声はかけない。
沙英も気になるが彼も少しは考え事をしたかったから。
遠目で市街地を見ると未だに派手に燃えていた。その光景をどこか遠い目で眺めていた。
もしかしたら幕末の頃の戦場の風景と重ねてるのかもしれない。
沙英も何処か遠い出来事のように幾つもの黒煙が立ち上る光景を眺めていた。
さっきまで必死で走ってた場所なのに…まるで大震災が起きた街の光景をTVで見てるみたいで現実感がなくて…。
短期間で色々あって何処か心が麻痺しているのか…こちらも機械的に自分のおにぎりを食べる
「……銀さん」
「なんだ?」
何処かこちらを窺うような口調に銀時は返事を返す。
「さっきの沖田さんって人…大丈夫ですよね?」
「…ああ、殺したって死なねえよ、あいつはよ……」
何処か気の抜けた力のない会話。それっきりお互い何も言わず黙々と食事を続ける。
やがてお互い食事を終えるとどちらからともなく立ちあがる。
「結局帰ってこなかったな…それじゃ、お前さんの友達を迎えに行こうか?」
「……はい。でもその…ゆのの前でその…ふんどし1丁とか勘弁してほしいんですケド…」
「ああ、嫌、俺もさすがに女の子の前でこれは勘弁したいんだけどよ、
それにやっぱりちょっと寒いわ。旅館とかなら浴衣とかあるばいいんだけどな」
「銀さん、それは私が女の子じゃないと言いたいんですか?」
さっきとは変わらない漫才の様なじゃれ合い。
だが二人をよく観察すればデパートの時より微妙にぎこちなく暗い。
本当は口には出さなかったが放送以降から状況がどんどん悪くなってるのを肌で感じていた。
知人が参加させられてる可能性はあった。
放送で友人の死を告げられたがそれでもまだ生き残ってる人間と再会出来る可能性もあった。
それに幸運なことに今まで出会った参加者は少なくともこの殺し合いに乗ってない人間ばかり。
しかも沙英を除けば腕が立ちそうな連中だった。
それで安心、いや油断してたのかもしれない。
まさかここまで急に状況が変化するなんて……。
未だ知人友人と合流出来ない。銀時は沖田と再会できたが逸れてしまった。
確実に殺し合いに乗ってる人間が複数いる。それも出鱈目な奴が危険な武器を振りかざして。
こんな状況で殺し合いに抗う仲間とも逸れてしまった。
これらの要素が重なって先への不安が二人に重くのしかかる。
銀時も沙英もまだそれに潰されてはいない。少なくとも今はまだ…。
***************
「確かに安全そうですけど……この中を行くんですか?」
地面にぽっかり開いた下水道への入り口を見て沙英は顔を顰める。
地上が安全に移動できないのなら地下。
それが分からない訳ではないが下水道の不潔なイメージがそれを躊躇させる。
「大丈夫だって。俺も中を確認したけど綺麗なもんだって〜、ホントホント」
「いや、そうやって強調されると余計に怪しいんですが?」
ジト目で銀時を睨みつける。
「いやマジだって、俺も色んな下水道を見てきたがこんなに奇麗なのは初めてだって」
「どうしてそんなに下水道に詳しいのか疑問なんですケド…」
生理的にはけっこう抵抗がある…が何時までもここでこうしていてもしょうがないので諦めて梯子を下りてみる。
なるほど、確かに薄暗いしじめじめしてるが想像してたより汚れてないし臭くもない。
ノワール小説ならこういうシチュエーションも悪くないかもと思ったりはする。
銀時も梯子を下りてくるのが視界に入り…慌てて目を逸らす。
「ん、どうした?」
「いえ! なんでもないですから!」
「そうか? ならいいけどよ。しかしここは風が吹かない分暖かくていいなぁ」
「その…いないですよね…ネズミやゴキブリとか…」
「そりゃネズミとかは、いやいや、ああいうのは光とか向けると逃げるから! よせよせ、ここで怖い想像とか止めろって!」
***************
「ふう、やっと出れた…いや、さっきのことは忘れろって。あそこにゴキブリがあんなに固まってたとか……」
「止めてください!! 思い出させるような事とか言わないでください! 私も忘れたいんですから!」
「わかった、わかったからそこまで青筋立てて怒らないでくれって」
「本当に分かってるんならいいですけど…でもここって港の方ですよね?」
あれから軽いごたごたが多分にあったがコンパスとランタンだけで迷わずにここまでこれたのは奇跡に近かったかもしれない。
下手したら見当違いの方向、もしかしたら禁止エリアの方向へ向かってた可能性もあったのだ。
「ああ、少なくとも海の近くなのは確かだな。けど、あっちの方も酷いもんだぜ。どんだけ暴れたんだよ」
デパート近くの騒動がここまで広範囲に渡って広がっていたとは。
詳しくは分からないがデパートの方、こちらから北西の方で幾筋の黒煙が立ち上っている。
家もビルもマンションも崩れていたり火が回ってたり…。
あの戦車以外の何かも破壊して回ってたのだろうか…。
それに比べたら旅館の方は少なくともまだ無事なように見える。
「さて、出来れば危険そうな奴には出会いたくないが…少し休もうぜ。放送もそろそろだしよ」
さて、さっきは女が反抗して撃ち殺されたけど今度はどうなるやら……
【J-09/港付近/1日目/昼】
【沙英@ひだまりスケッチ】
【状態】:健康、ツッコミの才?、
【服装】:
【装備】:九竜神火罩@封神演義
【道具】:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、大量の食糧
輸血用血液パック
【思考】
1:休憩しつつ放送を聞く。
2:銀さんと協力して、ゆのと宮子を保護する。
3:ヴァッシュさん達は無事だろうか?
4:銀さんが気になる?
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する。
6:ヒロの復讐……?
7:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れた?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※宝貝の使い方のコツを掴んだ?
【坂田銀時@銀魂】
【状態】:疲労(小)、
【服装】:下がふんどし一丁
【装備】:和道一文字@ONE PIECE
【道具】:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義、大量の甘味、水洗いしたズボン
【思考】
1:休憩しつつ放送を聞く。
2:沙英を守りながら、ゆのを迎えに行く。
3:ヴァッシュ達や沖田達と合流したいが…。
4:深夜になったら教会でグリフィスと合流する?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。
投下終了です
タイトルは「小休憩」です。
ナギはYue55yrOlY氏のラストで放置の方が面白そうだったので入れませんでした。
投下乙です!
ふんどし…人気投票直後くらいかw
指摘ですが、サンジの死体はロビンが少なくとも神社までは持って行っているので
戦闘の跡が残っていた事を見て何かを察知したって事にしたほうがよいかと思いました
これで放送かな?
あ、てっきり死体はそのままだと勘違いしてました
その部分は後で仮投下スレの方に修正文出しておきます
放送だと思いますよ
投下乙です
銀時、ふんどしかw
雪が降るみたいなのに寒そうなw
これで放送だな
予約開始は火曜か水曜?
それと禁止エリアに変更とかないのなら放送案はあれでおk?
投下乙です!
ふんどしw
気にかけてる沖田は悲惨な目に遭ったんだぜ銀さん、放送が怖いぜ……。
何だかんだで良心なだけに一番死亡フラグ立ってる気がする。
沙英も沙英で銀さんの気遣いがさりげないだけにあんまり伝わってない気がするのがヤバいなあ。
予約の方はこのパートがいつ来るか分からなかったから、念のため少し開けた方がいいんじゃないかな。
水曜に放送本投下、木曜の0:00(水曜24:00)で予約解禁でどうだろ。
サンジの死体の修正の終わり次第では変わるだろうけど。
投下乙です。
銀さん行動は結構的確なのに締まらんw
この二人はオアシスっぽいけどさていつまで続くか……。
放送についてですが、何も問題無ければ水曜本投下、金曜の0:00(木曜24:00)に予約解禁でどうでしょうか。
一応本投下から一日くらいは開けた方がいいのと、そのタイミングだと休日をフルに使えるのが理由です。
仮投下からの修正箇所は、死亡者の読み上げに
秋山優(卑怯番長)
沖田総悟
白雪宮拳(剛力番長)
の追加及び死亡者数17名→20名のみの予定です。
ご意見等ありましたらよろしくお願いします。
問題ないかと思いますー。
251 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/22(月) 14:06:11 ID:K122j/WS
他に反対意見が無いのなら水曜本投下、金曜の0:00(木曜24:00)に予約解禁でいいと思うよ
それまで今までのSSの思い出話でもする?
俺は鳴海歩とユノの未来の先読み込みの駆け引きが印象強いな
放送後もどうなるか気になるわ
あの駆け引きはよかったな
ユノのキチっぷりもさすが
俺はデパート周辺での話が印象的だった
鬱グロ展開からギャグ、熱い展開まで
まさに何でも揃ってるデパートにふさわしい話だった
そのデパートも今じゃ役目を終えて瓦礫の山だけど
第一回放送の時みたく作品投票する?
どっかにならって印象に残ったセリフあげてくとか。
うん
ここはあんまり人気投票とか投げやり気味だから流行らない気もするけど
台詞あげるとかいいかもしれない
セリフで鮮烈に印象に残ってるのは沖田が妲己ちゃんに言った「雌豚」だな
あ、こいつ死んだって思ったわ。生きてたけど
ガッツの「てめえは一体、誰を護りたかったんだ?」ってセリフが印象に残ったな
あとは本人のセリフじゃないけどキリコが回想したBJの「命をなんだと思ってやがるんだ!」
どっちも殺伐としたこのロワの中で価値あるセリフだったなーって思う。
あと銀さんの「どうしてこうなった……」
こっちが言いたいよwww
>>252 何でもそろったデパートか
言い得て妙だな
金剛殺害と、狂戦士の鎧から端を発したデパート前決戦が
金剛の意思を継いだ卑怯番長と、鎧に取り込まれた剛力番長のタイマンで終わったのも感慨深い。
にしてもガッツに関わった人間はほとんど死んでるなw
インパクトのある台詞だったら
「ちょろいっ」
じゃないか?w
原作再現であると同時に鯉の滝登りが如くテンション高めに高めた鷹さんを一気に突き落としたのが秀逸だと思うw
こっそり修正案出して後で報告しようと思ってたらwikiに収められていた
乙です
>>260 修正乙です!
そういや由乃は凄いよな
能力制限されているとは言えプラント兄弟ですら
操られた後でしか感知できない金属糸を刺される前に交わすとかw
それを「まあ由乃だしな……」な感じで納得させてしまうのがw
修正乙
由乃は原作からして毒入りトマトを「重さが違う」で見破ったりしてる異常者だからなw
台詞というかナイブズの
「次元斬一刀流――星雲(ネビュラ)」
は雷泥好きだから震えた
秋山優(卑怯番長)
浅月香介
沖田総悟
ウィンリィ・ロックベル
植木耕助
雨流みねね
金剛晄
志村妙
白雪宮拳(剛力番長)
ゾッド
高町亮子
竹内理緒
妲己
ドクター・キリコ
ブラック・ジャック
Mr.2 ボン・クレー
宮子
柳生九兵衛
リヴィオ・ザ・ダブルファング
レガート・ブルーサマーズ
ああ、倒れていった死者たちよ
ついに35/70か
ところでなんで妲己には性がついてないんだろう?
きびにはついてるのに。
たしか蘇妲己だよね
肉体の主と魂魄としての妲己ちゃんを区別するためじゃなかったか
ああ、そういえば余所のロワでは第二放送超えとかすると基本執筆時間延長とか
あったりするけど、ルールどうする?
どっちでもいいんじゃないかな。
3分割4分割クラスでも現状の予約期間で余裕でクリアできてる人がいるし。
まあ今後更に展開が複雑になってくるだろうし、延ばしていいんじゃなかろうか
多分予約荒らしとかは無いと思うし
今放送に備えて「時系列順」のページを新規作成してたら朝〜昼のページが「第一回放送までのSS」になってたことに気付いた
ページ名変更は自分じゃ出来ないから新しくページ作ったんだが、マズかったら言ってくれ
>>266 いやいや、エース基準て無茶すぎますぞw
延長前提みたいになってるし、5+2とかにしたほうが気分的に楽なんじゃね?
5+2でいいと思う
予約期間については私は特に意見はありません。
他の書き手の方に合わせようと思います。
それでは第二回放送を投下します。
変声期前の少年独特のソプラノが、場違いなほど朗らかに島に響く。
『皆さん調子はどうですか? これから第二回目の放送を始めます。
今日は良く晴れたいい天気……とはちょっと言えませんよね。
さっきまではともかく、今は随分雲が増えちゃいましたし。
まるで皆さんのこの先の運命を暗示しているみたいで……おっと、これは余計なお世話でしたか。
何にせよ、これからの天気には注意した方がいいかもしれませんよ。
…………さてと、それじゃ、そろそろ本題に入りましょうか。
えーと……あ、そうだ、その前に。まぁ大したことじゃないんですけど。
今回の放送からは、最初に進入禁止エリア、次に死亡者を発表することにしました。
え? 何でって?
どうも最初に死んだ人の名前を言うと、何故か進入禁止エリアの発表を聞き逃す人がいるみたいなんですよね。
全く、困ったことだと思いませんか?
知らずに進入禁止エリアに入ってドカン、なんて死に方は皆さんもイヤでしょ?
僕らとしてもそういうのは面白くないので、これからはそこのところを配慮しようってことです。
それじゃ、早速今から進入禁止エリアと死亡者の発表を始めますので、聞き逃さないように注意して下さいね。
…………まず新しい進入禁止エリアは
13:30からD-6
15:00からG-2
16:30からH-7
です。ちゃんと書き取りましたか?
あ、近くにいる人たちは、なるべく早めに避難した方がいいと思います。
…………次は今回の死亡者ですけど
秋山優
浅月香介
ウィンリィ・ロックベル
植木耕助
雨流みねね
沖田総悟
金剛晄
志村妙
白雪宮拳
ゾッド
高町亮子
竹内理緒
妲己
ドクター・キリコ
ブラック・ジャック
Mr.2 ボン・クレー
宮子(※1)
柳生九兵衛
リヴィオ・ザ・ダブルファング
レガート・ブルーサマーズ
以上20名です。
なかなか順調ですね。
ちなみに……お仲間を後ろから刺すつもりの人は、そろそろタイミングを考える頃合でしょうか。
あんまり慎重になり過ぎて、自分が先に殺されちゃうなんてのは馬鹿馬鹿しいですものね。
さて、それでは皆さん、引き続き頑張って殺し合って下さい』
ブツリ、と。若干のノイズを残して、傲慢な放送は終わった。
※1:実際にはフルネームが読み上げられています。
***************
道化師が一人、闇の中に音も無く浮かび上がった。
そして十歳くらいに見える男の子の背後から声を掛ける。
「随分と楽しそうですね、セリム・ブラッドレイ。いえ、『プライド』と呼ぶべきでしょうか?」
驚く素振りも見せず、悠然と振り返る少年。
白いワイシャツの上にネクタイを締め、その上から薄茶のベストを着ている。
その一つ一つは地味だが高級そうで、そのせいか、いやに大人びて見える。
「どちらでも構いませんよ。それに、私は与えられた役割を全うしようとしているだけのことです。
――ところで、貴方は傍観者に戻るのではなかったのですか、申公豹?」
幼い声。だが老獪さを感じさせるその言い回しは、放送時のそれとはまるで異質だ。
それもそのはず。この少年こそが、七つの大罪の名を冠するホムンクルスの一にして彼ら全ての兄、『プライド』なのだから。
正確には、少年の肉体はセリム・ブラッドレイという名を持つプライドの器に過ぎないのだが。
申公豹は大きく見開いた目をそのままにクスリと微笑む。
「そうですよ。ですからこうやってあなたの仕事振りを眺めに来たのです」
その声は平坦で、プライドにすら真意を悟らせない。
飄然とした申公豹に対して――プライドは気に入らない、と言いたげな雰囲気で煽るような表情を見せた。
「そういえば――聞きましたよ。貴方がた、何でも『彼』に勝負を挑んだとか」
申公豹の瞳の奥に極微の揺らめきが生まれ、だがそれは刹那の間に内なる深淵に呑み込まれた。
「勝てるとでも、思っていたのですか?」
疑問ではなく嘲笑。
七つの大罪。
その一つ、『傲慢』を体現するホムンクルスは、最強の道士に対しても自らを曲げることなく傲然と言い放った。
対する申公豹は、さてどうでしょうとその挑発染みた言葉を軽く受け流す。
「本気で勝てると思っていたのなら、貴方は格好通りの道化者ということになりますね」
更に追い撃ちをかけ、それでも変わらない申公豹の態度を見たプライドは、す、と表情を消して矛先を変える。
「ああ、そうそう。せっかくなので訊いておきます。彼らの居場所を知りませんか?
何故か先程から姿が見当たらないのですが」
「王天君でしたら、フラスコの中は気分が悪いと言い残して『外』へ。
かの騎士は『彼』と共に。他の方は判りません」
「ふうん……そうですか……」
周囲の闇が密度を増す。比喩ではない。事実――闇は蠢きながら申公豹を押し潰さんと徐々に四方から迫って来ている。
全方位から押し寄せる圧力。並の人間なら身動き一つ取れなくなるであろうそれを受けて、しかし申公豹は困ったような顔で頬を掻くのみ。
ギョロリと。そんな彼の目の前に、人の身長ほどもある巨大な目が開いた。
気付けば、床に、天井に、幾つもの目と口が出現している。
セリムの体は既に闇に呑まれて見えない。
「……申公豹。貴方、何を企んでいるんですか?
いえ、貴方だけではありませんよね? わざわざ私の感知範囲外でコソコソと……。
いいですか、申公豹。処分されたくなければ大人しく役割を果たせと、そう彼らに伝えなさい」
恫喝。
その物言いに、申公豹は無言で露骨に不快感を示す。
空気の絶縁を破る音と共に右手の雷公鞭が明滅し、瞬きの間だけ申公豹の姿を照らし出した。
僅かに漂うオゾンの臭い。
「私は命令されるのが嫌いなんですよ。心配ならご自分でお伝えなさい」
プライドに負けず劣らずの傲慢な発言に、蠢く闇が更に深みを増す。
一触即発。張り詰めた空気が臨界に達しようかというまさにそのとき、
「面白そうな話じゃのー。儂も混ぜてくれんか?」
緊張感をブチ壊して、人を小馬鹿にした声が響いた。
床の闇の一部が盛り上がり、小さな人の形に収束して行く。
そしてオリエンタルな印象を与える衣装を纏った幼女――ムルムルの姿になった。
予期せぬ闖入者に、毒気を抜かれた様子で闇を引っ込めるプライド。
「ムルムル。貴女ももう少し真面目にやって頂きたいのですが」
不満を口にするプライドに対して、ムルムルは手に持った餅を頬張りながら軽い調子で語り出す。
「そんなにカリカリするでない。何が起ころうとも、所詮全ての因果は儂等の掌の上。
そうじゃろう? 分かったら餅でも食ってその眉間の皺を取るが良い」
「結構です。……まあ、いいでしょう。定められた運命は水面に映る月影のようなもの。
水面をいくら波立たせたところで、月を消し去ることなど誰にも出来はしないのですから」
***************
幕間。
暗闇に一人佇む道化師の背に、何処からか無機質な光が当たっている。
「さて皆さん。
楽しい楽しいサーカスもそろそろ半ばに差し掛かろうとしています。
心を打つ悲劇がありました。腹を抱える喜劇がありました。そして手に汗握る戦いがありました。
命の輝きとは、それがどのような種類のものであれ、実に心を打つものです。
ですが――ここまでの出し物は演目の通り。『彼』はきっとそう言うことでしょう。
しかし」
一旦言葉を切り、道化師はくるりとこちらを向いた。
「我々が道標を討ち滅ぼしたように、彼らならば真実の月を穿つことも出来るかもしれません。
果たしてこれは私の買い被りでしょうか?」
以上で投下終了です。
276 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 04:21:29 ID:Q/R0nzDi
乙です。プライドまで参加ですか・・・
とんでもないことになってますね神の陣営は
投下乙です!
今回の放送はキリエちゃんに比べて参加者に与えられる情報が少ないけど、それだけに疑心暗鬼を促す内容になってるな……。
プライド、恐ろしい子!
フラスコとか『外』とか、気になるワードがいくつか揃ってきて、すこしずつだけど輪郭も見えてきましたな。
疑心暗鬼は主催側も同じか、本当にちぐはぐだw なのに通して見ると全部定められたレールの上に乗ってるように見えるという……。
投下乙です
主催側がどんどん増えてどうなるか楽しみなほどのいざこざぶりだなw
その上、『彼』の演目の通りか…
投下乙です
第二放送超えたか
ここから先、どうなっていくのか楽しみです
280 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 14:29:25 ID:cn466z9h
ウィンリイって死んだっけ?
正確には死亡扱い
思い出させないでくれ
山中と右下が怖いんだよな
思い出させないでくれ、と言われるようなSSを書いてみたいものだ
本来は思い出したくないような内容は他にも多いよ
ただロワ住人の俺らからしたら許容範囲内だけど
だから、ロワ住人に言われるくらいのをだな
確かにね
ああ、思い出したくないほどのSSだったよ(褒め言葉)
とか俺もそんなのを期待してる
未来日記アニメ化だと…
今夜、予約が幾つ来るだろうか?
ゆのっち…
これは終わった
すでに予約した後で聞くのもなんですが、5日+2日で進行しても大丈夫ですか?
テンプレが前のままなのでちょっととまどってます。
もう5+2でいいと思う
反対意見が無いならもう5+2で
5+2でいいでしょう。
ところでマーダー3人組被ってますけど大丈夫ですか?
ゆのっちオワタ以外にも複雑なのが来たな
丁度、ブレチルの三人の遺体がな…
予約順番的にこちらが後発になるので、マーダー3人組のみ破棄させていただきます。
もし◆L62I.UGyuw氏のあとに矛盾なくつなげることができたら組み込まさせてもらいます。
マーダー三人組以外でも工場組とゴルゴと銀時らか…
おお、◆IDさんがひさびさに
期待
◆IDさんまで来てくれたかw
期待
投下開始します。
放送で宮子の名が呼ばれた。
だというのに、ゆのの摩耗した精神には、意外なほどに響かなかった。
心の隅で、ああやっぱり、と思ったくらいだ。
しかし同時に、何かの間違いだろう、とも思った。
その二つの思考が矛盾していることも疲れのせいかどうでもいいと思えた。
直接遺体を確認すればまた別なのかもしれないが――鬱屈した感情がそれ以上の思考を拒否していた。
それは戦闘神経症の兆しなのだが、ゆのはそんなことを知らなかったし、そのことを注意してくれる場慣れした兵士もここにはいなかった。
だから彼女は寒さに震えながら、延々と続く無機質な廊下を歩き続ける。
山肌にあった金属製の扉。
扉の上のプレートには素っ気なく『研究所』とだけ書かれていた。
何の研究所なのかはさっぱり判らない。
その扉をゆのは潜り、今その先の長い廊下を歩いていた。
怪し過ぎる扉を潜ったのは、そうせざるを得ない理由があったからだ。
と言っても言語化すれば大したことではない。
寒い。それにお腹が痛い。
ただそれだけだ。しかしそれは単純な理由だけに切実だった。
長時間裸で外をうろつき、さらに血を失ったためにゆのの体温はかなり低下していた。
その上ワンピース一枚で山の中に放り出されたのだ。服はあるが、濡れているため役には立たない。
更に悪いことに、森を彷徨っている間にもどんどんと天気が悪くなって気温が下がって行った。
そのため既に彼女の全身には鳥肌が立ち、唇は蒼く変色している。
怪しかろうと何だろうと、せっかくの建物を無視して先に進むことは考えられなかった。
長い廊下を抜けると、巨大な金属をくり抜いて造ったような、体育館程度の大きさの円形ホールに出た。
気温はやはり低かったが、空気は外と違って乾いている。
ゆのはすぐにはホールに踏み込まず、入口から辺りを見渡した。
まず目に付くものは、左右と正面の壁にある三つの大きな扉だ。
無数の――もう少し正確に述べるなら三桁程度の――小さな扉も見える。
それに大きな扉の中間辺りに左右一本ずつ、計二本の通路が伸びていた。
全体としては、寸分の狂いも無く左右対称の構造だ。
特に怪しい物が無いことを確認して、ゆのはホールに入る。
高い天井に埋め込まれたいくつもの蛍光灯が、影という影を徹底的に追い払っていた。
人の気配は無い。というより、生活感すらまるで感じられない。
かといって、新しい建物に特有の建築材の匂いがする訳でもない。
ただひたすらに広く冷たい空間だった。
お化けのダンスホールがあるならこんな場所だろうかとゆのは想像した。
それはあまり愉快な想像ではなかったので、すぐに考えるのを止めた。
すぐ近くにあった小さい扉を開ける。
中はやはり生活感の無い小さな部屋だった。研究所と言うからには個人の研究室だろうか。
ただ、本棚の本はいくつか抜き取られて床に落ち、デスクの引き出しの一段は半開きになっていた。
まるでついさっきまでここに人がいたかのように。
何となく気味が悪くなり、扉を閉じた。
お化けのダンスホールという下らない妄想が、頭の隅に厄介な巣を作っていた。
他の扉を開く気にはならなかった。
壁に沿って再び歩き出す。何も無いというのに、誰かに見られているような気がした。
心細さを誤魔化すように、混元珠をしっかりと抱え込む。
――これは本当に現実なのだろうか。
唐突に、そんな考えがゆのの頭を過ぎった。
絵画の中の騎士に、巨大な牛の怪物。
水を自在に操る道具に、ちょん切れた腕をくっつける術。
天空に繋がる建物に、この非現実的なホール。
そして堆く積まれた死、死、死、また死。
荒唐無稽にも程がある。
どう考えても、馬鹿げた物語に放り込まれたとしか思えない。
それもゆのの役割は、白兎を追い掛けて不思議の国に迷い込む少女ではなく、九圏の地獄へと続く深い森に迷い込む壮年の方だ。
ただしここにはウェルギリウスもベアトリーチェも存在しない。
ぞわりと背筋に悪寒が走り、ゆのは小さく身震いした。
意味も無く立ち止まり、背後を振り返って見る。
何も無い。本当に、何も無い。
耳障りなくらいの静謐さと陰気な明るさ、それにむせ返るような無臭。
それらが複合して狂気にも似た違和感をゆのに齎す。
無音の圧迫が堪らなく厭で、ゆのは慌てて歩を進めた。
何より、そろそろ腹痛を堪えるのも苦しい。
ゆのの足音だけが、一定の間隔で滑らかな壁と天井に何度も寂しく反響する。
少し歩くと、壁に案内板が見えた。
それによると小さい扉はやはり研究者用の個室で、大きな扉はそれぞれ研究棟、医療棟、開発棟に繋がっているらしい。
そして右に伸びた通路の奥にトイレの表示があった。
白で統一された女子トイレの中にも、やはり人のいる様子は無かった。
訳も無く少し安堵する。
入口から急ぎ足で数歩進み、しかしそこでゆのの足はぴたりと止まった。
思わず手で口を押さえる。
正面の大鏡と、その前に並んだ白い洗面台。そこに明らかな異常があった。
一番左の洗面台とその周りに、赤黒い跡がべっとりと付いている。まだ乾き切っていない。
純白と穢れた赤のコントラストは、酷く陰惨な印象を見る者に与える。
恐る恐る振り返ると、トイレの入口の外まで黒ずんだ跡が点々と続いていた。
気が急いていたために気付かなかったのか。
僅かに漂う錆っぽい臭い。その跡の正体が何なのかは、言われなくても見当が付く。
靴が床を擦って掠れた悲鳴を上げた。
ゆのの呼吸は、知らず浅く苦しげになっていた。
理由は単純に腹が痛かったのが一つ。
だがそれ以上に、息を吸う度に肺から得体の知れない穢れが染み込んで来る気がするのが大きかった。
ほとんど本能的に、ここは不吉だ、とゆのは思った。
出来れば他で用を足したい。しかしお腹の調子にはあまり余裕は無かった。
大きな扉の向こうにもトイレくらいはあるかもしれないが、通り掛かりに少し調べた程度では大きな扉は開かなかった。
扉を開ける方法を見つけるまで便意を我慢するのは無理だ。
既に額には脂汗が滲んでいる。
背に腹は代えられない。
唾を飲み込む音が鳴った。
覚悟を決めて、ゆのは洗面台の前を通って奥へと曲がった。
そこには、個室が五つ並んでいた。一番奥には用具入れがある。
心配していたような事態――たとえば奥が一面血の海になっているだとか――にはなっていなかった。
にもかかわらず、さっきから寝ている猛獣の顎の上を歩いているような錯覚が付き纏っている。
個室の扉を開けるのが何となく厭だった。
中に薄気味の悪い気配を感じたような気がしたからだ。
横へと動いて、隣の個室の前に立つ。嫌な感覚は消えない。
しばらく躊躇って、ゆっくりとドアノブに手を掛けて回す。
緩慢な動作に苛立つように、蝶番が軋んだ。
中には、何もいなかった。当然だ。
全く使用されていないであろう清潔な便器が個室の中央に鎮座している。
便器の蓋を上げる。
薄いワンピースの裾をたくし上げて、ゆのは便座に腰掛けた。
ヒヤリとした硬い感触が太腿の裏に走る。
それでようやく、この研究所が現実のものなのだと実感した。
それはそうと、早く用を済ませなければならない。
混元珠をぎゅっと抱き締めるように腹に力を込めて、
――――コツ。
総毛立った。
ゆのは彫像のように凍てついたまま耳を澄ます。
何も聴こえない。
だが確かに、小さな音が聴こえた――と思う。
それも近くから。
可能な限り細くゆっくりと息を吐き出す。
気味の悪い静寂だった。
天井の換気扇の回る音だけが、狭い個室に静かに響いている。
空耳――だったのだろうか。
もしかしたら、ゆの自身が立てた音だったのかもしれない。
『幽霊の正体見たり枯れ尾花』などと言うが、怖いと思っているからこそ大したものでなくとも怖く――、
――――コツリ。
叫び声を上げそうになり、ゆのは必死で口を押さえた。
赤熱した鉄のような恐怖が彼女の胸に突き刺さった。
今度こそ空耳ではない。
コツリ、コツリと焦らすように足音が近付いてくる。
視界が歪む。規格に完璧に従って造られたはずの個室は、いまや幼稚園児の粘土細工よりも歪に見えた。
足音は容赦無く徐々に大きくなって行く。
そして一際大きくコツリ、と硬質の音が響き――、そこで音は途絶えた。
扉のすぐ向こうに、誰かがいる。はっきりと気配を感じる。
口の端が歪み、どうしようもなく痙攣している。
考える。空回りして焼き付きそうな脳を無理矢理働かせる。
どうすれば。
どうすればいいのか。
何か、何か方法が――。
そこでようやく、潰さんばかりの力で自分が抱き締めているものの存在をゆのは思い出した。
ここには水がある。
混元珠を使えば逃げることくらいはきっと出来る。
そのはずだ。
そのとき――目の前の扉と『目が合った』。
扉のちょうど中央。そこに目玉が一つ現れていた。
その眼は、世界全てを怨むような闇を湛えて、ゆのの顔に視線を投げ掛けている。
理解を超えた現象を目の当たりにして、ゆのの思考に真空が生まれた。
頬が引き攣っている。
いきなり、両の足首を何かに思いきり掴まれた。
下腹にドライアイスを叩き込まれた気がした。体が硝子細工に変わってしまったようだった。
見たくない。
下を見てはいけない。
直感した。
そうだ。
あの眼は『あの二人』のものだ。
見てしまえば、悪夢がこの世に溢れ出す。
それは確信めいた幻想だった。
きっと下ではカミソリのような眼光の男と、自分と同い年くらいの気弱そうな少年が自分の脚を掴んでいる。
そして恨めしそうな眼で見上げているのだ。
無限に近い時間の、実際には数秒にも満たない白昼夢の後、僅かにゆのは身動いだ。
その瞬間、腕も胴もあっという間に押さえ付けられた。
トイレに入ったとき、ここは猛獣の口の中だと錯覚したが、それは確かに錯覚だった。
猛獣どころではない。もっと邪悪で獰猛なこの世ならぬ魔物の腹の中だ。
絶叫した。
その叫びは腹の深奥からせり上がって来て、狭く暗い喉を引き裂かんばかりの勢いで一気に外へと迸った。
ほとんど獣染みた、非人間的な響きだった。
その悲鳴も、何かに口を押さえられ半ばで消える。
ゆのは逃げようと身を捩らせるが、万力のような力がそれを許さない。
混元珠は既に床に転がっている。
壁からにゅうと伸びた腕に扉の鍵が開けられ、蝶番がぎいと呻いた。
何かが脳髄の中心で爆ぜた。
括約筋が緩んだ感覚を最後に、ゆのは完全に自らの意識を手放した。
***************
「おい、何だよこりゃあ。ロビン、さっきの悲鳴はそいつのかよ?」
悲鳴を聴き付けて女子トイレに踏み込んだ秋葉流は、錫杖を持った手で器用に頭を掻きつつ傍らのニコ・ロビンに訊ねた。
ロビンはそうよ、と短く返す。拍子抜けした、といった表情だ。
二人の前では少女――ゆのが便座に腰掛けたまま気絶していた。
歳はうしおと同じくらいだろうか。まだ可愛らしいと評するのが適当な顔立ちだ。
胸の上から臍の下までを覆った薄手の白いワンピースを隔てて、華奢なシルエットが透けて見える。
肩幅ほど開いた股からは、小便が尻を伝ってちょろちょろと幾筋か垂れている。
そして彼女の全身は、壁や床や便器、それに彼女自身から生えた腕の群れによって、完璧に拘束されていた。
「んで、どういう状況なんだよこいつは」
「この個室から気配がしたから、私は取り敢えず先手を打ってみただけ。
そうしたら勝手に気絶したのよ、この子」
便器に溜まった水は茶色く濁っている。
つまりは排便中にロビンに襲われたショックで気を失ったのだろう。ロビンの能力は心臓に悪い。
便器の脇にはデイパックとバレーボールのような物体が転がっていた。
ボールを足でどけて、流は少女のデイパックを手に取りつつ続けて訊く。
「洗面台の血は?」
「さあ? 最初からあったわ。この子のじゃなさそうだけど」
「じゃあ向こうで死んでたヤツのモンかね? ……まァ、そりゃどうでもいいか」
それは雨流みねねが傷を洗った痕跡なのだが、彼らが知ることはおそらく無い。
少女のデイパックを探り終えた流は、改めてゆのに視線を移した。
彼女の口を押さえていた腕が少し動いて首が傾き、大きな十字型の髪飾りが揺れた。
流は合点する。
『みんなのしたら場』に危険人物と書かれていた『×印の髪飾りを付けた少女』とはこいつの事か。
「面倒そうね。殺しておくわ」
ロビンもそのことに気付いたらしく、少女が起きる前に殺すべく新たな腕を彼女の首に掛ける。
その腕を、流は掴んで止めた。
「いや、まァ待て。ちょっと待てって。この状態なら抵抗なんざ出来ねェだろ。
大体、ちょっと脅かされただけで糞小便垂れ流して気ィ失うガキに、オレ達をどうこう出来るかよ」
「そう、かしら? 確かにこの子は荒事に慣れてるとは思えないわ。
でも素人でも、何らかの能力を持っている可能性だってあるじゃない。追い詰められた鼠は怖いわよ」
「フン、ネズミは逆立ちしたってネズミなんだよ。ネズミに喉笛食い千切られるヤツァただのマヌケだ」
「……その慢心、きっとあなたの命取りになるわね。あなたが死ぬのは別に構わないけど、私まで――」
不服そうなロビンの諌言を片手で制して、流はゆのの前に立った。
頬を何度か軽く叩きながら、おいと呼び掛ける。
小さく呻きながら、彼女はうっすらと目を開いた。
眼球がゆっくりと左右に転がるように動いた。
その動きは、とある一点でぴたりと止まる。一拍置いて、かっと目が見開かれた。
ゆのの瞳に映るのは、胴や腕周りに簾のような装飾の付いたジャンパーを着た男と、簡素なシャツに膝下までのジーンズ姿の日本人離れしたスタイルの女。
男はゆのの正面に立ち、特徴的な太い眉を歪めて貼り付いたような愛想笑いを浮かべている。
女は男の斜め後ろに位置して、包帯の巻かれた左腕を庇う形で油断無くゆのを睨んでいる。
こちらは肩まで伸ばした艶やかな黒髪と、しっかりと通った鼻筋が印象的だ。
ゆのは体を動かそうとするが、何故か全く動かない。
口も押さえられていて、声を上げることすら不可能だ。
下半身が妙に涼しい。
眼を動かす。自分の体を押さえ付ける手が、視界の隅にいくつも入った。
混乱する頭で状況を把握しようとする。
――えっと、そう、確かトイレに入って座ったんだったっけ。
――そうしたらすぐに変な足音が聞こえて。
――それで、黙ってたら足音がドアの前までやって来て。
――いきなりドアに眼が……。
「状況は呑み込めたかしら?」
再びゆのの目が大きく開いた。鼻孔を膨らませながら全身に力を込める。
何が何だか解らないが、この状況は目の前の二人によるものなのだということだけは理解した。
必死に跳ね起きようとするが、体中に絡んだロビンの腕が抵抗を許さない。
元々蒼かった顔から更に血の気が引いて行く。
ロビンはゆのをそのまましばらく放置して、抵抗が止んだところで口を塞いでいた手を静かに離した。
ゆのが声を上げることはなかった。
当然だ。そんなことをすればどうなるかは、新品のランドセルを背負った子供でも判る。
それにたとえ大声で叫んだところで、助けが来る可能性は絶望的に低い。
怯えつつも大人しく黙っているゆのに、流が質問をする。
「嬢ちゃん、名前は何て言うんだ?」
「あ……ぇ……?」
「名前だよ、名前。言葉、通じねえのか?」
ゆのは慌てて自分の名前を告げる。
「ふぅん、ゆの、ね。確かに名簿にあった名前だな。
んで、ゆのちゃん、質問なんだけどよ。とらってヤツを見なかったかよ?
顔に隈取のある、金色で毛むくじゃらのバケモンだ」
ブンブンとゆのは首を振る。
ほんの少しだけ失望を顔に出し、流はついでのようにゆのの知る人物について話すように言った。
ゆのは正直に今まで見た者の名前と特徴を知る限り話す。
ただし、旅館で自身が殺してしまったと思っている二人以外についてだ。
この状況でも、というより、この状況だからこそ、自らの殺人行為を告白することは出来ない。
それはほとんど自殺に等しい暴挙だ。
しばらくして、彼女があらかた喋ったことを察したロビンが、流の後頭部を横目で見ながら口を開いた。
「もういいかしら? 殺しても」
その冷たい台詞に、無言でビクリと肩を震わせるゆの。
恐怖の余り言葉が出ないのか。
代わりに懇願するような視線を流に向けている。
「ん〜、そうだなァ……」
今ここで殺すのは簡単だが、殺したところで大したメリットがある訳ではない。
何かまだ利用価値は無いだろうか。そう考えながら、流はゆのの瞳を覗き込んだ。
彼女の瞳には殺意が欠片も見えない。
逆に、形を成して溢れ出しそうなほどの怯えが湛えられている。
掲示板に書き込まれていた『ゆのが殺人者』という情報は十中八九嘘だ。
いや、嘘と断じるのは早計だが、誤報の類であることはまず間違い無い。
そう、ただの誤報。
だが――せっかくだ、真実に昇華させてやろう。
「ゆのちゃんよォ、ここで死ぬのはイヤか? まだ生きたいかよ?」
当たり前だ。
ゆのは一も二も無く頷く。
「そうか……なら、一つチャンスをやろうじゃねェか」
低い、撫でるような声だった。
腹の底にドス黒い塊が根を張って行くのを自覚しながら、流はにんまりと笑う。
「三人殺せ」
え、と間抜けな音がゆのの喉から漏れる。
「オレ達以外の適当なヤツを三人殺せ。そしたら見逃してやるよ。中々いい条件だろ?」
「そんな! そんなこと……」
出来ません、と続けようとして、しかしその言葉は結局出て来なかった。
出来るも出来ないも、彼女は既に二人もの人間をその手に掛けているのだから。
たとえそれが事故だとしても罪は罪だ。
その事実を無視して悲劇のヒロインを気取れるほど、ゆのはず太い神経を持ち合わせていない。
そんな彼女の内心の葛藤などまるでお構いなしに、流は続ける。
「断るってンなら、この場でゆのちゃんの人生は終わりだ。残念だが、選択肢は無えんだよ。
恨むんなら、こんなワケのワカんねえゲームをおっ始めた連中を恨みな。
おっと、一応言っておくがよ、誰かに助けて貰おうなんて考えンじゃねェぞ。
ンなことしたら……」
ロビンに目配せする。
直後、ゆのの胸から新たに右腕が生えて、彼女の顔の上部を鷲掴みにした。
そしてその掌の中央にぎょろりと眼が現れる。
ひっ、と唇の間から息が漏れた。
「言わなくても、解るわよね? あなたが何処にいても、私は見てるわよ」
ぱくぱくと口を開閉するゆのの眼前で、掌の眼が虚ろに瞬いた。
***************
1:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど(Res:7)
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7 名前:ラストバタリオンな名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:NaiToYshR
ここは危険なので手短に。
僕も×印の髪飾りを付けた少女に襲われました。
彼女は白いワンピースを着ているので注意して下さい。
***************
「ま、こんなトコだろ」
タン、と最後にエンターキーを叩いて、流は椅子から立ち上がった。
彼とロビンはホール周辺を探索し終えて、再び研究棟に戻って来ていた。
二人とも立ち込める血の臭いなど気にもしていない。
「本当に回りくどいことが好きなのね、あなた」
「別にいいじゃねえかよ。上手く行きゃ儲けモンだろォが」
元より流もロビンもゆのが三人も殺せるなどとは思っていない。
一人でも殺せれば上出来だろうと、そう考えている。
だがそろそろ、流達のように集団を形成して行動する者が、参加者の大部分を占める頃のはずだ。
特にゲームの破壊もしくは脱出を目指す集団がゆのに襲われた場合はどうなるか?
彼女の撃破は十分可能でも、その処遇を巡って内部対立に発展する可能性は高い。
「うしおのヤツは意地でも救おうとするんだろうがよ……一緒にいるお仲間はどーかねェ?」
くっくっ、と喉の奥だけで笑う。
ゆのがうしお達にぶつかったときのことを考えるだけで昏い愉悦が込み上げて来る。
一方のロビンは、特に興味無しといった態度で視線を宙に泳がせていた。
「……にしても、ったく。あの馬鹿女、まだ戻って来てねーのかよ」
愚痴る。
馬鹿女とはスズメバチのことだ。
彼女には研究棟で何か役に立つものを探せと予め命令しておいたのだが。
「だからあんな女は早めに殺しておいた方がいいって言ったじゃない。
あんな怪我人、役に立つとは思えないわ」
平坦な声でロビンが言う。
いや、てめーがしこたま痛め付けたんだろうがよ、と流は思ったが、彼は賢明なので口には出さなかった。
その代わりにズボンのポケットに手を突っ込んである物を取り出す。
「面倒だが迎えに行ってやるかね……。
……いややっぱ面倒臭ェな」
支援します
流の手には黒く光るPDA(携帯情報端末)が握られていた。
ゆののデイパックを検めたときに掠めたものだ。
その画面には四つの光点が映っている。
その内の二つは画面中央に留まり、一つは少し離れた位置に静止している。
残りの一つはじわじわと中央から離れて行く。
PDAに説明は無かったが、この光点が首輪に対応していることくらいは流にもロビンにもすぐに解った。
しばらく画面を眺めた後、流はPDAの電源を切って、デイパックに放り込んだ。
沈黙が生まれる。
「あァ、そうそう、そういや悪かったな」
唐突に、流が切り出した。
何の話かしら、とロビンが返す。
「いや何、成り行きであのゆのって嬢ちゃんを嗾けちまったからさ。
お前、どうせ自分で船長とコックを殺ったヤツを仕留めるつもりだったんだろ?
もし万が一、あいつがあんたの仇を殺しちまったらと思うと……」
途端、両肩から生えた腕が流の首をギリギリと締め上げた。
股間の大事な処もいつの間にかがっしりと握られている。
ロビンの顔がずいと流に迫った。
「あんなのに殺されるような奴に、ルフィとサンジ君が殺されると思って?
彼らはそんなに弱くないわ。彼らへの侮辱は許さないわ。
――謝って。謝りなさい。謝るのよ。謝れ!」
「わ、分かった。悪かった。悪かったって!
謝る。こ、この通りだ。だから勘弁してくれって!」
何とか謝罪の言葉を喉の奥から絞り出す流。
少しの間、般若もかくやという形相で真正面から彼を睨んでいたロビンだったが――やがて静かに手を離した。
ふう、と流は大きく肩で息をする。
(おー、おっかねェ、おっかねェ)
軽い様子見程度に揺さぶったつもりだったが、これほど劇的な反応を見せるとは。
一見冷静さを取り戻したように見えたが、その実それは自我を護るための脆い仮面に過ぎなかったようだ。
彼女の内側には変わらず黒い泥土がドロドロと渦巻いているらしい。
うっかり逆鱗に触れればどうなるか判らない。
と、そこに。
「あら……お話はもうお終いなの?」
音も無くスズメバチが戻って来た。
服の端から覗く包帯が痛々しいが、彼女自身は気に掛けている様子では無い。
「てめえ、遅ェよ……って何だよ、その球はよ」
スズメバチの手にはビーチボールのような球が握られていた。
「向こうに落ちてたの。これ、とっても面白いのよ、兄様。こうすると……」
喋りながら、球を軽く上に放る。
その途端、しゅっ、と球の周りに刃が現れた。
なるほど、ただの球だと思うと痛い目を見るということか。
だが正直、微妙な道具だ。少なくとも流にとっては大して役に立つ物ではない。
「他には何か無かったのかしら?」
ロビンの問いに、スズメバチは困ったような顔で口に人差し指を当てた。
何も無かったということだろう。
若干投げやりに、流はまァいいかと思った。
そんなことよりこれからこの二人をどう制御していくかの方が重大事だ。
流の内心を知ってか知らずか、ロビンは妖艶さすら感じる澱んだ笑みを浮かべて宣言した。
「それじゃ、そろそろ行きましょう。――皆殺しに」
「そうね、姉様。うふふ、うふふふふ。……楽しみだわ」
「へいへいっ、と」
やっぱ面倒だぜイカレ女共め、と二人に気取られないように悪態を吐く流。
(だけどよォ、こんくらいのスリルがあった方が面白ェってもんだろ?
やっぱメインディッシュの前にはオードブルがねえとなァ)
【F-5地下/研究棟/1日目 日中】
【秋葉流@うしおととら】
[状態]:健康、法力消費(小)
[服装]:とらとの最終戦時の服
[装備]:錫杖×2、破魔矢×15
[道具]:支給品一式、仙桃エキス(10/12)@封神演義、注連縄、禁鞭@封神演義、詳細不明神具×1〜3
PDA型首輪探知機、研究棟のカードキー
[思考]
基本:満足する戦いのできる相手と殺し合う。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
0:ロビン、スズメバチを利用しつつ参加者を撃破。
1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
3:高坂王子、リヴィオを警戒。
4:聞仲に強い共感。
5:万全の状態でとらと戦いたい。
6:ロビンの『世界を滅ぼす力』に強い興味。
[備考]
※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。
※ロビンが咲かせるのは右手だけだと思っています。
※PDAの機能詳細、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※ゆのからゆのの知る人物(ゴルゴ13と安藤(兄)以外)についてある程度の情報を得ました。
【スズメバチ@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、全身に重度のやけど
[服装]:包帯の上にゴスロリドレス
[装備]:縫い針を仕込んだ靴(毒なし)、化血神刀@封神演義
[道具]:支給品一式(コンパス以外)
[思考]
基本:流、ロビンに従って参加者の殺戮。
1:流達に同行する。
[備考]
※スカートはギリギリで見えません。履いてなかったです。
※針は現地調達です。毒は浴槽に入ったことで洗い落とされてしまいました。
【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]:左腕に銃創×2(握力喪失、手当て済み)
[服装]:シャツにジーンズ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(名簿紛失)、んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ×1)@銀魂、
双眼鏡、食料、着替え、毛布、研究棟のカードキー
[思考]
基本:勝ち抜き狙い。帰ったらプルトンを復活させて世界を滅ぼす。
1:秋葉流と協力して、効率的に参加者を排除する。
2:可能なら、能力の制限を解除したい。
3:ヴァッシュに対して――?
4:ルフィたちのいない世界なんていらない。
[備考]
※自分の能力制限について理解しました。体を咲かせる事のできる範囲は半径50m程度です。
※参戦時期はエニエスロビー編終了後です。
※ヴァッシュたちの居た世界が、自分達と違うことに気がつきました。
※ゆのからゆのの知る人物(ゴルゴ13と安藤(兄)以外)についてある程度の情報を得ました。
***************
ゆのは走った。
走り続けた。
一刻も早く一寸でも遠く忌まわしい場所から離れるために走り続けた。
そして体力の限界を迎えて地に膝から崩れ落ちたとき、空では何層にも重なった雲がついに全天を覆い尽くしていた。
「は……ぁ……はぁ……ひ……はっ……ふ……ぅっ…………」
落ち葉の散る地面を見詰め、ゆのは苦悩する。
『三人殺せ』
流の言葉が呪いのように頭蓋の内で反響している。
人を殺せ、と言われて、はいそうですかなどと簡単に従えるはずがない。
ただの女子高生に、そんなことが出来るはずがない。
だが、従わなければあの手がわらわらと生えて来て、自分はきっと縊り殺されてしまうのだ。
いや――彼らの命令を首尾良く遂行したとしても、それで本当に命を助けて貰える保証すら無い。
殺すか、死ぬか。殺しても死ぬか。
八方塞とはこのことだ。
ならばいっそ――殺される前に死んでしまえばいいのではないか。
自殺。
普段なら厭な響きを持つその単語は、今のゆのには極上の甘露に思えた。
どうせ――宮子もヒロも死んでしまったのだ。
この期に及んで一人だけ生き残って何になるというのか。
それに自分が死ねば沙英が生き残れる可能性も増す。
何より、手の群れに嬲り殺されるよりはマシだろう。
そして、死ぬための道具は、ここにある。
確か、首輪を無理に外そうとすれば爆発する、と最初に偉そうな幼女が言っていた。
だからその気になりさえすれば――死のうと思いさえすれば、今すぐにでも死ねるだろう。
恐る恐る左手を首に持っていく。
硬い物に指先が触れた。
「ひぅっ」
慌てて手を離す。
首輪は確かにそこに存在し、その感触には身の毛のよだつ冷たさがあった。
寒さのせいだけではない震えがゆのの全身を包んだ。
ほんの半日前の光景が鮮やかに蘇る。
得体の知れない空間。
殺し合いを強要する幼女。
自分は殺されない運命にあると豪語する少年。
ボンという軽い爆発音。
首輪が爆発したのだと気付いたのは、少年の首が転がり、鮮血を吹き上げる胴体が崩れ落ちた後。
「…………ない……」
喉の奥から蚊の鳴くような声が漏れた。
気付けば顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「……たくない。死にたくない。死にたくない。
死ぬのはやだ。やだ、やだよ」
祈るように言葉を絞り出す。
吐く息が白い。
人を殺すくらいなら死んだ方がマシだ、とか。
親友が死んだのに自分だけ生きていても仕方が無い、とか。
死んでしまえば楽になる、だとか。
それらは全部ただの理屈だ。
そんなものは圧倒的で絶対的な『死』の恐怖の前には鼻紙以下の価値しかないのだと思い知った。
たとえば自分が死ななければ世界が滅ぶとしても、自分にはその選択は出来ないと悟った。
――――生きたい。
ゆのは生まれて初めて、真実心の底からそう願った。
人を殺そうと、親友が死のうと、苦痛にのた打ち回ろうと、死ぬよりはずっといい。
「死にたくない」
もう一度、掠れた声でゆのは呟いた。
それは彼女自身の声とは似ても似つかなかった。
【F-4/森/1日目 日中】
【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:貧血、後頭部に小さなたんこぶ、疲労(中)
[服装]:白いワンピース
[装備]:混元珠@封神演義
[道具]:支給品一式(一食分と水を少々消費)、制服と下着(濡れ)
[思考]
基本:死にたくない。
1:十の首輪を集めてキンブリーに腕を治して貰う。
2:人を殺してでも生き延びる?
[備考]
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※切断された右腕は繋がりましたが、感覚がありません。動かすのに支障は(多分)ありません。
※ロビンの能力で常に監視されていると思っています。
支援
以上、投下終了です。
支援ありがとうございました。
投下乙です!
ああ……、なんていうかもうマーダートリオが怖すぎるw
流兄ちゃんもロビンも頭がいいのに行動方針自体がコロコロ変わってもおかしくないから、次の瞬間には首が撥ねられてそうでw
ゆの……、もうなんていうかホント災難だ……。
同じ一般人でも沙英さんにとっての銀さん、西沢さんにとってのナイブズみたいな人に出会えなかったのが彼女の不幸か。
同じ死にたくない、でも西沢さんに比べて悲惨すぎるな……、生きてくれ。
早い! もう投下来た! これでかつる!
ゆのー! とりあえず死ななくて済んだけど…追い詰められ方が半端じゃねえー!!
F4を飛び出して向かう先は…あばばばば
投下乙でした
投下乙です
ああ、死ぬか利用されるかのどちらかと思ってたけど…これは怖いよな…
そしてF-4は……
これはカワイソスwww
しかし銀さんの時とは状況が違うが…を人に見られるとか違う意味でも不幸なwww
お尻はふいたのかな
しかし、マーダーチームが首輪探知機ゲットか
多い所に行くのか、少ない所から潰していくのか…
投下乙です。はやっ!!
あぁ、ゆのっちがどんどんヨゴレ女優みたいになっていく…
というか追い込まれすぎですw
キンブリーに、流に、ゴルゴに、グリフィスに利用され…
ゆのっちの明日はどっちだ?
白いワンピースは汚れが目立つから心配だ
投下乙です
ゆのっちオワタと思ったら生きてた……がこれはひどいw
あの格好で尋問とか映像化したら……w
まぁそんな簡単には死ねないよなぁ
あと確かにお尻拭いてる余裕ないよなこの状況w
マーダートリオがPDAゲットは地味にやばい
ここまでのゆのっちの災難をまとめてみた
9話
森の中でグリフィスに出会って腰を抜かす
失禁1回目
↓
59話
支給品にPDAがあることを発見するが使い方が分からない
ゾッド襲来
失禁2回目
↓
79話
旅館に着いたもののグリフィスに置いていかれる
風呂場で滑って転んで気絶
↓
80話
安藤兄とよりによってゴルゴに攻撃した上に殺したと思い込む
失禁3回目
全裸で街中へ
↓
108話
通りすがりの鈴子に腕をぶった切られて気絶
保護、治療をしてくれたのは扇動マーダーキンブリー
↓
116話
ほぼ出番無し
誰も気にかけてすらくれない
↓
126話
腕はくっついたが感覚が無くなっていた
案の定キンブリーに煽られ首輪を集めさせられることに
とどめにネットに悪評を流される
↓
129話
旅館に戻ったところをゴルゴに拉致られる
そのままE-4上空へ無理矢理ダイブ
↓
134話
トイレでホラーな目にあって気絶
失禁4回目というか失禁どころじゃない
流とロビンに脅されて悲惨なことに
ネットに更に悪評を流される ←いまここ
一話たりともろくな目にあってねーぞwww
そういや◆L62氏はこれで生存者コンプかすげえ
最初の災難はまだ笑って見られたけど80話辺りから悲惨さが増してきたんだよな
これから先も厳しそう…
年頃の女の子なのに4回も失禁だなんてカワイソス…
それにしても寒そうな山中にいる連中がどうなるやら
現状では工場組、ゴルゴ、マーダー三人組、ゆの、カノン・森あい、
歩も神社に行くだろう。ヴァッシュは怪我人の鷹さんがいるから不明
右下の連中は情報次第で山に来るかな
金剛番長全滅か。
4回も失禁って、ゆのっちの膀胱は果たして持つのか…
――思えば。
彼と彼女は珍しくも、向かう場所もなく足踏みを続けるままだった。
様々な人々の思惑の坩堝の中で、流れに身を翻弄される存在だった。
この物語が綴られるその中で、登場人物たちの殆どは、確固たる何かを基に己が道を進み続けている。
それは、例えば。
例えば、孤独の中でも立って笑える強さであり。
例えば、ただひたすらに争いを厭う優しさであり。
例えば、欲望と衝動に全くもって忠実な享楽であり。
例えば、未熟さ故に敢然たる他者に抱く劣等感であり。
例えば、誰かの為に自分の命すら天秤に掛ける愛であり。
例えば、自分の失った息吹を見出したが為の責任感であり。
例えば、愚直なまでに己が職務を遂行せんとする信念であり。
例えば、願い望んだ栄光をその手に掴み取らんとする夢であり。
例えば、見出した仇を滅す積年の悲願そのものたる復讐心であり。
例えば、掛け替えのないものを失った空洞を埋める為の狂気であり。
例えば、弟への憧憬から在り様を変えつつも消える事なき誇りであり。
例えば、どうにもならない現実に打ちのめされたが故の自暴自棄であり。
彼らは決してブレることなく、自ら敷いたレールの上を一心不乱に手を伸ばしながら、何処かへと向かうのだろう。
いくつかの分岐点がそこにはあり、しかし彼らは立ち止まることなくレバーを切り替え先へと行った。
だから今度は、彼と彼女の番だ。
必要なのは、分岐点で何を選ぶのか。ただ、それだけ。
さあ、レールはもう敷かれている。
後は一直線に――、脇目も振らず、その上を走っていくだけだ。
その行き着く先がどこであろうと、誰も彼もが駆け抜けていく。
***************
放送が流れている。
酷く幼い少年のような傲慢な声が、人々に絶望を渡していく。
その向こう側にかすかに聞こえるこの曲は、何と言っただろう。
記憶の隅に引っ掛かるその名を、僕の口は小さく小さく言葉にしていた。
「L・ドリーブ作曲……、バレエ組曲『コッペリア』、か」
……一体の自動人形コッペリアを中心とした騒動を描いた喜劇作品の為の曲だ。
創造主の作り出した人形を、とある少女がさんざんに弄んだ挙句壊してしまう物語。
人形というワードから、あの山道の入り口にあった機械を思い浮かべる。
あのような“造られた存在”が、他にもこの島にはいるのかもしれない。
そしてその中には、僕達――ブレード・チルドレンもいる事だろう。
ミズシロ・ヤイバの造り出した、殺戮の為の自動人形。
しかしその役目を果たす事すらできず、誰も彼もが無意味に無慈悲に命を散らしていく。
「浅月も、亮子も、理緒も。
みんな……、みんな、死んでしまった、のか」
頭に手を軽く当てて、その場に座り込む。
どうしてか、目から溢れるものを堪え切れない。
一度は殺すと誓った兄弟達の死。
それに悲しむなんて、本当に自分の事しか見えておらず、情けない。
けれどそれでも、彼らは僕の肉親だったのだ。
身勝手と分かっていながらも――、僕はこうせずにはいられなかった。
『コッペリア』の結末は……どうなるんだったっけ。
壊れた人形に創造主が絶望する横で少女が結婚式を挙げる皮肉な終わりだった……と思う。
異説もあるかもしれないけど、僕はアイズと違って音楽にはそこまで詳しい訳じゃなかったから、良く覚えていない。
結局、僕も含め造られた存在はロクな結末を迎えないという事なのか。
……皮肉とでもいうなら、更に重なることがあった。
彼らの死と同時に、僕があの西沢歩という少女を殺していない事が分かったのだ。
もし彼女の生存を確かめられなかったら、僕はすぐにでもこの首を掻っ切って自殺していたかもしれない。
ことに、浅月の死によりミカナギファイルが失われた今は。
けれど僕は、幸か不幸か死を選ぶことが叶わなかった。
その事に安堵している自分を見つけ、より一層涙が後から後から零れ落ちてくる。
これも、運命――神意なのか。
浅月の死と西沢歩の生存を同時に知らせ、僕を生きながらに苦しませることこそが、予定調和。
鳴海清隆なら、それくらいはやってのけるだろう。
そうして追い詰められた僕を、いつか何かに使うつもりなのかもしれない。
だったら、だからこそ。
僕は今ここで、死ぬべきなんだろうか。
彼の思惑通りになどならないと、せめて抵抗して見せる為に。
けれど、僕の死こそが神の狙いなのかもしれないと考えると、思い止まってしまうのだ。
……いずれにせよ、時間がない。
僕はスイッチが入りかけているのを自覚している。
そして、歩君を探してはいながらも、その後の事について何らの展望を持っているわけでもない。
救世主たりえないとはいえ歩君の重要性について意識できているだけで、どう応対すべきか、同行すべきかすら決めかねているのが現状だ。
もし僕のスイッチが入ってしまったら、たとえ僕に歩君を殺す事は出来ないとはいえ、彼に危害を加えてしまう可能性は十分にある。
ならばやはり、距離を取るべきなのではないか?
それこそ、この命を絶ってでも、だ。
間違いなく歩君は、浅月たちの殺害に僕に嫌疑をかけてくる。
そして歩君がその現場を押さえているなどの事態がない限り、それを晴らす事などできないのだ。
下手に出て行って彼を混乱させるのは僕の本意じゃない。
「……アイズ、僕はどうすればいいんだろう」
この手で殺してしまった弟の事を想って、また顔を俯ける。
あんな事さえしでかさなければ、僕はまだきっと希望を見出せたのだろう。
後悔などしないと、そう決意して手を血に染めたのに。
世界はあまりにも残酷にできている。
無駄な事は考えるな。運命に身を委ねてしまえ。
黒々とした煮詰まりが僕をすり減らしていくその時に。
僕は――、あまりに唐突な悲嘆をこの耳で聞いた。
ああ、そうか。すっかり忘れてしまっていた。
僕はまだ――、この子と一緒にいる。
だったら僕には、まだできる事がある。
***************
カタカタと、私は震えている。
両腕を互いにしっかり握りしめて、体育座りで蹲って。
わぁーっ、て叫びだそうとするのをどうにか抑え込んでいる。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
それはつまり、つまり。
つまりつまりつまりつまり!
…………つま、り。
キンブリーさんですら、私を騙していた。
騙して、私を人殺しにしようとしていた。
植木は生きていた。
でも、贖罪をする暇もなく、逝ってしまった。
キンブリーさんが趙公明の同類だった。
キンブリーさんが私をあの地下室に閉じ込めていなければ、植木を助けられたかもしれなかった。
キンブリーさんが卑怯者になれって言ったのは、彼の言う通り私を盾にするつもりでしかなかった。
キンブリーさんが。
キンブリーさんが。
キンブリーさんが。
そして、キンブリーさんの事しか考えられなくなったところで、気付く。気づいてしまう。
キンブリーさんの全てが虚構に塗り固められているというのなら。
もう、植木を生き返らせる事だって出来はしない。
気持ち悪い。
得体のしれない何かが、私の中で寄生虫のように巣食っている。
周りの全てが、世界そのものが信じられなくって、
「あ、あぁ……、あ、あぁぁあああああっ!」
髪の毛を振り乱して私は叫ぶ。叫ばずにはいられない。
もう、どうなっても良かった。
意味もなく手足をばたつかせて、訳の分からない言葉以下の唸りを挙げる事しかできなかった。
目に入ったモノに、何でもいいからこの今にも噴出しそうな何かをぶつけたくってしょうがなくって。
……そして、“その人”を見た瞬間、その暴力的な憤りは、途端に逆ベクトルに走り去っていく。
体が固まり、ゾ……ッ、と、氷でも差し込まれたかのように一気に冷え込んでいく。
「……森さん」
こちらを心配するように、窺うように、そして――いぶかしむ様に。
カノン・ヒルベルトと名乗ったこの人は、ジッとこちらを見つめてくる。
……趙公明に対抗するために、騙してでも味方につけようとした人。
嘘で塗り固めた私の話を一字一句ちゃんと聞いて、たまたま先に出会っていたからこそ趙公明の危険性も理解してくれて。
……これなら、蘇生の可能性について話しても、カノンさんだったら信じてくれると――そう思えた矢先の放送だった。
「こ、来ないでぇっ!」
怖い!
怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い!
ヘラヘラヘラヘラと、虫も殺せないような顔をしたこのイケメンだって、皮一枚捲ったら何が出てくるか分かったもんじゃない!
「う……撃つよ。これ以上近づいたら、撃つっ!
銃で撃てば、人は死ぬんだからぁっ!」
がくがくと腰が入ってないにもかかわらず、取りだした銃を突きつける。
何を躊躇う、私。
もう私は人を傷つけてしまってるんじゃないか。私は、人を傷つける事が出来てしまう人間なんじゃないか。
でも、だけど。
その顔が、痛かった。心の中に、痛かった。
カノンさんは、純粋に私を心配してくれるんだ、と、そう信じてしまいそうな顔だったから。
だからこそ、そこに甘えてしまいそうで――、
じゃり、と彼が踏み込んだ、その瞬間。
「いやぁぁあああっ!」
たぁん、と。
私は銃の引き金を、思いっきり弾いてしまっていた。
反動で思いっきりひっくり返って、地面に背中を叩きつける。
……痛かった。
だけど、そんなのはどうでもよかった。
そんなのがどうでもよくなるほど、信じられない光景を見てしまったから。
「ば……化け、物! ゼロ距離で……銃……避けるなんて、人間じゃ、ない……!
あ、悪魔めっ! 悪魔の子めぇっ!
死ね! 死ね死ね死ね死ね、死んじゃえ! いなくなっちゃえぇ!」
歯が安っぽいプールに入った時のように、カスタネットよろしく打ち鳴らされている。
口では勇ましい事を言いながらも、もう、限界だった。
壊れてしまいそうな心が、ここで殺されて楽になってしまえ、と告げていた。
どうせ、もう撃ってしまったんだ。
カノンさんが本当に私を心配してくれたのだとしても、絶対に見限られたに違いない。
……ほら。
「……ああ、そうだよ。僕は、悪魔の子だ。
人を殺す為に作られた、殺す事しか能のない忌むべき存在だ」
カノンさんが、あの趙公明のように――ゆっくりと私に手を伸ばしてくる。
小刻みに漏れる息がうるさい。
ああ、でも、この手に首を締められるなら、まだ、マシかなぁ。
冷たいナイフや銃弾で死ぬよりも、ずっといい死に方のように思える。
そうしてカノンさんは、ギュッ……、と。
まだ熱く煙を吐き続ける、銃身を握り締めた。
「……え?」
肉が焼ける嫌な臭いがする。
予想外の行動に、私の混乱は一瞬、完全に静止した。
「森さん、僕はね。
……一度、兄弟にすら――手をかけた罪人なんだ」
続けて、カノンさんは悲しそうな笑みを湛えて私に語りかける。
どうすれば、いいんだろう。
目と鼻の先にあるカノンさんの整った顔立ちに、私は状況も忘れて何故かドキドキしてしまった。
「だから、僕は信じられないのも無理はない。
……そんな事をずっと黙って、君から情報を絞り取ろうとしたんだから。
でもね、そんな僕だから言える事がある」
一息。
「――人を殺すなんて選択は、最後にすべき事だ。
別に人を殺すのが悪だなんて、言うつもりはないけど。
でも、殺した人間は、絶対に後悔し続ける。なんでそんな事に手を染めてしまったんだ、って」
真摯な瞳での訴えかけに、だけど、私は。
「もう……遅いですよ」
ぽつりと、低い、低い声を絞り出す。
殺すという言葉に、我を取り戻してしまったから。
地面をにらむ私の目は髪に隠れてカノンさんには見えないだろう。
きっとその眼も、暗く鋭く、淀んでいるに違いない。
「遅い?」
そう、もう遅い。何もかも遅い。
今更そんな言葉をかけてくるカノンさんに、どうしてもっと言ってくれなかったのという理不尽な苛立ちを乗せて。
私は早口で、喚き叫ぶ。心の奥に溜まっていたものを汚く吐き散らす。
「私ね……、大切な人を殺しちゃったかもしれないんです。
だけどそれを生き返らせる事が出来るっていう人がいて、でもその人は嘘を吐いていて!
だけどだけど、キンブリーさんは趙公明に監視されてるから助けなくちゃいけないけど、趙公明とグルだったかもしれないのにぃ!
あれ? 私植木を殺してないの?
だってキンブリーさんが植木は死んだって言ってて、でも私が植木を殺しちゃったのは最初の放送の前でっ!
でもぉ……っ、植木の死んだのは最初の放送の後でぇっ!
わたっ、私が、キンブリーさんと話してなければ、植木を助けられたかもしれなくて!
うわぁぁあああぁああああぁぁあああぁあああっ!」
話しながらまた頭がぐちゃぐちゃになってきた。
自分でも何を言ってるか分からない。
けれど体は言葉に従うように、滅茶苦茶に暴れ始めた。
だだっ子のように腕を振り回せば、何もかもを叩き壊せるような気がしていた。
でも、現実はそんなに優しくない。
私の拳は、蹴りは、……金魚でも掬うかのようにカノンさんに受け止められてしまった。
そしてカノンさんは全くそれを気にせずに、本当に申し訳なさそうに、こう言うのだ。
「……僕は君の事は全然知らない。
だから薄っぺらく聞こえるかもしれないけど、それでも僕と同じ轍は踏まないでほしい。
本当はね、僕は――君に殺されてしまいたかったんだと思う」
「……そん、な」
その言葉を受けて、今度こそ私の中の火が消えた。
どうしてかは、分からない。もしかしたら、あらためて殺す――と、その行為を見つめ直したからかもしれない。
だけど、……カノンさんの顔を見ていると、そんな雨の中の子供みたいな顔をしないで欲しいという思いが湧いてくる。
……カノンさんを利用しようとしたり、殺そうとしたりしたのは私なんだから。
カノンさんが自分を責めるなんて、そんな事を許したくはなかった。
「兄弟を殺してしまって、それにこころが軋んで、だけどここに来て殺した理由すら奪われてしまって。
その上、呪いに負けて、僕が僕でなくなってしまうかもしれなくて。
……だから、もう、楽になってしまいたかった。
放送でもし、僕が誓いを破ってしまっていたら――自殺さえ考えていたんだ。
だから君と出会って話をした時、嘘を吐いているのが明らかな事が、嬉しかった。
鞄の中の何か――今思えばその銃だったんだろうけど――に意識を向け続けてたから、上手く事を運べば戦う事ができるって。
戦ってる間は何も考えなくていいし、運が良ければ死ねるからね」
何を言っているのか、良く分からない詞も多い。
けれど、私なんかにも分かることが二つある。
一つは、カノンさんが私を利用して死のうとしていたって事。
もう一つは、私の演技は、最初から見抜かれていたって事だ。
確かに彼は、ズルいかもしれない。
でも、カノンさんは。
「でも。……君の言葉で思い出したんだ。初めて人を殺した時の、嫌な感触を。
君みたいな女の子はあんな思いをすべきじゃない。
そして君はまだ、僕と違って後戻りできる。
きっと君は大切な人も、見知らぬ誰かも、殺してなんて……いないんだから」
そう言って、にこりと笑うのだ。
……不覚だ。
本当に、不覚にも。
「あ、ああ、あ……、あぁ……っ!」
殺してないと、その言葉が嬉しくて。
気がつけば、頬に濡れた感触があって。
「うわぁぁあああぁぁぁ……、ひ、ひぁああああぁぁぁぁあぁ……、
カノン、さん……、カノンさん、あぁああああぁああぁぁぁ……っ!」
私は子供みたいに、カノンさんに縋って――泣いてしまった。
泣きじゃくる、その中で。
カノンさんが、死んでしまう。……そんなのは、嫌だと思った。
こんなにも優しくて、だけど繊細な人がそんな事を考えるくらいに追い詰められているという事実。
私は初めて――、今のこの状況自体を、植木を殺した殺し合いという枠組みを、そんなのを作り出した“神”を憎んだ。
ようやくそこに、思い至る事が出来た。
私は――“神”と戦いたいと、思った。
***************
しばらく泣き続けて、どれくらい経っただろう。
彼女は――森あいは、ゆっくりと僕から体を離して立ち上がる。
顔が赤く染まっていたのは涙のせいだけじゃないだろう。
慣れない事をしたからか、僕も少し気恥かしくて、そして気付いた。
先刻までの動揺が、完全にではないにせよだいぶ治まっている事に。
だからだろうか。
僕は彼女がぽつぽつと語る、死者蘇生に関する話についても冷静に聞き届ける事が出来た。
……キンブリーとやらの言葉がどこまで本当か、それは分からない。
けれど確実に言える事は――、彼女は確実に騙されていたという事。
たとえ誰かを生き返らせられるとしても、その男にだけは頼ってはいけないという事だ。
そして、彼女の話の中で、僕は一つだけ希望を見つけた。
それは彼女の“能力”に由来する可能性だ。
『相手をメガネ好きにする能力』
それを使えば、もしかしたら僕の“スイッチ”すら抑え込む事が出来るかもしれない。
試してみる価値はあるだろうけど、彼女自身はどうやら能力をあまり使いたがってはいないようだ。
無理強いはしたくない。
だから、その事を時間をかけて説得してみたいと思う。
そして、彼女を“神”に立ち向かうレジスタンスの所に連れて行き、保護してもらいたい。
きっとそういう存在はあると思うし、そこには歩君もいるかもしれない。
結崎ひよの辺りに蹴っ飛ばされたら、の話だけど、彼ならば絶望に立ち向かおうとするかもしれないから。
……これが。
これがこの島に来てようやく手に入れられた、僕の“指針”だ。
絶対に間違っていないとそう言える、確かな縁(よすが)。
本当に、心強かった。
「そ、それじゃあ……よろしくお願いします!」
目を腫らしながらも伸ばしてくる手の求めるものは、握手。
小さい手だな、とそう思った。
僕に何ができるか、何をすべきかはまだ分からないけれど。
それでも、短い間でも――この子を守ろう。
きっとそれが、僕を繋ぎ止めることにもつながってくれるから。
「……うん。こちらこそ、よろしく」
……僕が君を守るように、君が僕を守ってくれると、そう信じられる。
だから僕は、その手を大切に包み込む。
【F-6南西/山道/1日目/日中】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:潜在的混乱(小)、精神的動揺、疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、掌に火傷、“スイッチ”やや入りかけ
[服装]:月臣学園男子制服
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×16
[道具]:支給品一式×3、不明支給品×1、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー、パールの盾@ONE PIECE、五光石@封神演義、マシン番長の部品
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない。
0:森あいにメガネ好きにしてもらう方法を考える。
1:森あいを守りながら、レジスタンスの下へと連れていく。
2:歩を捜す為に、神社に向かう。(山道は使わない)
3:西沢歩が心配。
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか――?
5:キンブリーを警戒。
[備考]
※アイズ・ラザフォードを刺してから彼が目覚める前のどこかからの参戦です。
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※思考の切り替えで戦闘に関係ない情報を意識外に置いている為混乱はある程度収まっていますが、きっかけがあれば膨れ上がります。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
戦術を考慮する際に利用する可能性があります。
※森あいの友好関係と、キンブリーの危険性を把握しました。
【森あい@うえきの法則】
[状態]:疲労(大)、いくつかの擦過傷
[服装]:
[装備]:眼鏡(頭に乗っています)、キンブリーが練成した腕輪
[道具]:支給品一式、M16A2(27/30)@ゴルゴ13、M16の予備弾装@ゴルゴ13×3
[思考]
基本:植木の為にもカノンの為にも、“神”に立ち向かう。
1:カノンに付いていく。
2:鈴子ちゃん……。
3:キンブリーに疑惑。
4:安藤潤也に不信感。
[備考]
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました。
※趙公明の電話を何処まで聞いていたかは不明ですが、彼がジョーカーである事は悟っています。
***************
そして紅蓮の炎がカノンの視界を埋め尽くした。
「……あ、れ?」
ぼとりと、何かが零れ落ちる音がした。
「あれ?」
見るとそれは、女の手首から先だった。
小さな小さな、つい今しがたまで握っていたそのてのひらだった。
あれ?
あれ?
あれ?
あれ?と、たった2文字のひらがながカノンの脳を占拠する。
森あいが、倒れ伏している。
どくどくと血の池に浸りながら、ぴくりとも動かない。
あれ?と、少しだけ前を回想する。
握手したその時に、彼女の手首に奇妙なものを見つけたのだ。
そう、それを見て、どうしてそんなモノを付けているのか、と、何気なく問うたのだ。
その、腕輪を。
キンブリーが練成したと彼女が告げた、腕輪を。
森あいは、もうキンブリーは信用できない、と可愛らしくも力強い両手のガッツで頷いて。
そして本当に無造作に、その腕輪を外したのだ。
それだけだったのだ。
『その時には、もう彼女は引き返せませんよ。念のため保険もかけておきました』
爆炎で、彼女の左腕は肩口までも千切れ飛んで。
そして炎は赤々と燃える。地面に散らばった組織を燃やし尽くして、血煙に濡れ消えていく。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
あれ?と、事態の急転に追い付けない脳を置き去りにして体は森あいに近寄っていく。
焦げ臭いにおい。
人の肉の焼けるにおい。
ごろんとひっくり返すと、血で髪をべったりと張り付かせつつも笑顔の彼女がそこにいた。
そして表情を変えはしない。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
おーいとカップルがお互いに呼び合うように、彼女の名を投げかけた。
返事がない。ただの××××のようだ。
おそるおそる手を伸ばして、その瞼を広げてみる。
だらしなく開き切った瞳孔が、虚空を見つめていた。
静かに顔を近づけて、呼吸の有無を確認せねば。
喋らないのも当然だ、息をしていないんだから。
決して邪な目的じゃないよと言い訳して、苦笑しながら左胸に掌を。
柔らかい感触の向こう側に、律動はない。
「あれ? ……あれ?」
ああ、もう気付いているのだ。
だから後は、認めるだけ。
「あれ? あれ? あれ? あれ? あれ? あれ?
……あれ? あれ、あれ? あれれれれ? あれ? あれ? あれ?
あれ? あれ? あれれ? あれ? あれ、あれ、あれぇ? あれ?
……あれぇ?」
森あいは死んだ。
こんなにもあっさりと、何気なく。
死因は――左腕の喪失による出血と、外傷性及び熱傷性ショック。
心臓に近い左側の肩口が吹っ飛んだから、循環機能の急速な低下を避ける事が出来なかったのだ。
カノンの中の戦闘機械が、冷静に分析するその傍ら。
「……あれ? ……あれ? ……あれ? ……あれ? あれぇ?
……あれ? あれ? あれあれ? あれ? あれ? あれ?
あれあれあれ? あれ? あれれ? あれれれれ? あれあれ?
あれれれぇ? あれれぇぇ? あっれぇー? あれれれれれぇ?
あれあれあれあれれれれれれえぇええぇぇぇえぁれぇぇぇぇぁぇ
ぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁは、あっるぅぅぅぅうぇぇぇぇあはぁ
ぁあぁぁぁああああぁあああぁあああぁ、は」
パチン
カノンは、確かに。
自分の中の“何か”が、切り替わった音を聞いて。
それを、最期に。
――“カノン・ヒルベルト”は。
痕跡すら残さず――死んだ。
「あはっ、あは、あははは、あは、あははぁはぁはははっはははははひゃ
はひゃひゃははははははっはひゃははひゃはははっはひゃひゃひゃひゃ
ひゃははっははははははははははははひゃははははははっひゃぁああぁ
あああぁあぁぁあはははっははっははっはっはっははっはひゃはあぁぁ
あひゃっははははははは、あぅひゃぁはははははぁひゃあっはぁあっ!
ひゃはははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははぁぁぁああぁぁッ!」
ここにあるのは、かつてカノンだったナニカ。
人類の抹殺を至上命題とする、最凶最悪の戦闘機械。
咳込みすらしながらも、笑って、嗤って、哂い続けて。
「ひゃははははははははっ! あひゃ、あっははははははは、あひゃぁあ
ははははははっははははははははははっははあぁ、ガッ、え、げ、が、
がは、ふっぐっはぁあああはひゃはは、お、ぐぇぇえ、げぇっ、おぐ、
ぐほっ、げほ、ごほ、ごっふぅあひゃがあぁぁっ! がはっ、ごほっ、
げふっ、ぐ、ぐぎ、ぐひ、ふひゃっ、ひゃあはははははははァァァっ、
――さて、始めよう」
そして――ぴたりと。
まるで糸が切れたかのように、誰をも凍り付かせる音を、吐き出した。
つい今しがたの狂態が、あたかも白昼夢であるかのように。
感情は今ので全て吐き出したと言わんばかりの、荒野より起伏のない音を。
光のない目で、戦闘機械は周囲を観察する。
次に何をすべきか、見定める為に。
……と。
「…………」
市場の魚を見下ろす目で、己の手の先にあるままのモノを確認した。
その青く未熟ながらもふくよかな柔らかさに、戦闘機械はごく、と喉を鳴らす。
いくら戦闘機械とはいえ、その素体は生産より十数年経過したオスのホモ・サピエンスである。
従って、メスの肉体に生産的衝動を抱くのは当然の反応だろう。
戦闘機械は、その生産的衝動を不要、と判断した。
生殖的欲求に基づく生産的衝動は、極限状況において思考力の低下を促すノイズとなる。
ならば、このノイズを“処理”する必要がある。
そもそもが人類殲滅という非生産的目的を掲げる以上、全くもって無駄な機能と言えるだろう。
可能ならば不要な機構を切除する事でアンドロゲンの分泌を抑制し、戦闘行動への最適化を図るべきとも思考する。
しかし現況において、自傷による自己機能の低下はより一層避けるべき状況だ。
また、長期に渡るアンドロゲン分泌の抑制状態は身体能力の低下をもたらすケースも存在する。
未だ成熟しきっていないこの肉体にとって、生殖機構の切除は最終的には利と働かないだろう。
故に、行為による衝動の発散を選択。
奇しくも、この島に滞在するとある暗殺者の習慣の如く、仕事の前にそうする事を決めていた。
合理的判断の下、対象が片腕を失った死体であるという倫理的問題を思考から除去。
最適な道具がそこにあるならば、使用する。
そこに疑問も何も抱かない。
むしろ、抵抗による非効率な体力の消費を抑えたメリットを重要視する。
躊躇いなく、手を触れたままで揉みしだく。
余った片手で布に手をかけ、破り取る。
血の臭いとメスの臭いが立ち込めた。
直接露出部に触れ、更に強く行為を進める。
体温が未だ失われていないため、興奮状態の励起並びに持続は十分可能と判断。
ぴちゃぴちゃと、動く度に跳ねる血の音が臨場感を補完する。
この行為には、一切合財の恋愛感情も慈しみも情動も快楽も、肉欲さえも存在しない。
蛋白質を擦り付けるだけの、ルーチンワーク。
ただそれだけの代物だった。
***************
これが――、これが、カノンの所業だとでもお前達は言うのか!?
認め、ない。認めない……! 俺は、こんなものがカノンであることを――否定する!
よう吼えるの。所詮、お主の知らない一面が突きつけられただけじゃろ?
素直に認めてしまった方が楽じゃぞ? 何もかもを受け入れて、な。
……ッ! カノンは、こんな……! そもそも、カノンだけじゃない。
言え、お前達は何をした! この殺し合いの参加者は、本来取るはずのない行動を、稀にだが――、
くく、それはお前さんも――じゃろ?
……何だ、と?
気付いておらなんだか? それとも、気付かぬように弄られたのか。
……いずれにせよ、全くいい趣味しておることよの。
では、問うぞ?
お前さんは、どうして、いつから、ここに居る?
……そ、れは、……?
――そら、答えられまい? どうした、鳩が豆鉄砲でも食ったような顔をしおってからに。
結局全ては流れ通りよ。お前さんが今ここで気付いた事さえ、それを踏まえてどう動くかさえの。
***************
カチャカチャ、カチャカチャ。
不要なものは、機構が痛みを覚えるほどに過剰に、何度も吐き出しきった。
ズボンのベルトを締めながら、戦闘機械はようやくノイズ除去を終えた思考を展開する。
この場に存在する全人類の抹殺は如何にして為し得るか。
できれば、破滅への道は絶望が大きい方がいい。
遺伝子レベルで、それはインプットされている。
ならば、やはり鍵は――鳴海歩か。
この状況、殺し合いの下では人類は勝手に死んでいく。
それこそ自分が手を下すまでもない。
ならば、自ら死に臨む連中は放っておけばいい。
最も効率良く人類を殲滅するには、レジスタンスの中心に潜り込み、頭を潰すのが手っ取り早いだろう。
故に――、鳴海歩の所在集団に潜入するのが最適と判断。
かつて存在した“カノン・ヒルベルト”というニンゲンの思考を、彼の記憶を基にトレースすれば表面上の協力は容易いだろう。
そして、彼の在不在を問わず、レジスタンスの勢力が最大限に大きくなった時。
あるいは、殺し合いに乗る存在がいなくなった時。
その時こそ、自分の機能が最も有効に利用可能と確信。
内部よりグループを撹乱し、崩壊させる。
それだけの性能を己は保有していると、慢心も驕りもなく当然のものとして判断。
同時にスペアプランを構築。
鳴海歩あるいは大集団との遭遇が早期に叶わなかった場合を想定。
現在自分は狙撃銃仕様のM16を所有。
これを用いた長距離狙撃による集団の中心人物の暗殺は有効と判断。
当プランはメインプランの代替物としてだけでなく、同時並行運用が可能である。
よって、鳴海歩あるいは集団との遭遇時まで、狙撃による人類排除を優先して実行する。
ただし、十分なアドバンテージを確保してから遂行の事。
待機時間は不要。即座に状況を開始する。
“カノン・ヒルベルト”への擬態を完了させ、戦闘機械は一歩踏み出した。
“カノン・ヒルベルト”の推測に則り、神社の方角へと。
【森あい@うえきの法則 死亡】
【F-6南西/山道/1日目/午後】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、掌に火傷、“スイッチ”ON
[服装]:月臣学園男子制服
[装備]:支給品一式、M16A2(27/30)@ゴルゴ13、理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×16
[道具]:支給品一式×4、M16の予備弾装@ゴルゴ13×3、パールの盾@ONE PIECE、
大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー、
五光石@封神演義、マシン番長の部品、不明支給品×1
[思考]
基本:全人類抹殺
1:鳴海歩、あるいは大集団と合流。折を見て内部からの崩壊を狙う。
2:鳴海歩の捜索。神社に向かう。
3:十分なアドバンテージを確保した状態であれば、狙撃による人類の排除。
[備考]
※アイズ・ラザフォードを刺してから彼が目覚める前のどこかからの参戦です。
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
戦術を考慮する際に利用する可能性があります。
※森あいの友好関係と、キンブリーの危険性を把握しました。
※森あいの死体の近辺には彼女の衣服の残骸が散乱しています。
***************
さあ、レールはもう敷かれている。
後は一直線に――、脇目も振らず、その上を走っていくだけだ。
その行き着く先がどこであろうと、誰も彼もが駆け抜けていく。
その道程でレールが途切れ、奈落の底に堕ちていくと分かっていながらも――止まることなど出来はしない。
以上、投下終了です。
うわああああああカノンんんんんんん!!!
森さんの相手をメガネ好きにする能力がここで生きてくるかと期待した矢先に……
何はともあれ投下乙です
投下乙です
なんという鬱展開……
森さんもカノンも、哀しすぎる
しかしキンブリー、ここまで優秀な扇動マーダーは稀有だなw
先が楽しみです、乙でした
投下乙です
これは……凄まじい鬱だな
キンブリーはここまで…それともこれも『神』の掌の上の出来事なのか?
ムルムルの発言が物凄く気になるな…
あ、ネタ潰しになるがアイズだけ細工されててムルムルがアイズの発言を逆手に取ってるだけかもな…
なら、カノンの行動はブレチルの素?
うみねこみたいに赤文字が欲しいかもw
投下乙
カノンぶっ壊れちまった……
キンブリーはすごい勢いで正体バレてるのに十分な脅威なのが怖いw
投下乙
キンブリーの正体ばれ過ぎで萌えキャラ化と思いきやこれだもんなぁ
そろそろ来る……のかな?
内容次第だが延長もあるかも
355 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/31(水) 02:31:12 ID:p5CHpji0
代理投下します
「……なぜだ?なぜ俺をここへ?」
「僕としては反乱の意思表示のつもりだが…これもレシピ通りなのかもしれないね」
「……娘二人はどうなった?」
「一人は死んだ。もう一人は知らない。残念ながら僕の管轄外だ」
「……貴様らは何を考えている。貴様らの言う神とは誰の事だ」
「言っても理解できないだろう。ただ一つ言えるのは、『未来は神様のレシピで決まる』。
僕の役割が何かじっくりと考えて、行動したに過ぎない。
まぁ君の命だ。良く考えて好きにすればいい」
「……いいだろう。それが『何か』の掌の上だとしても……
俺は強者との戦いを望むだけだ」
「……度し難いね。いや、だからこそ僕は君を選んだ…つもりだよ」
「言葉は無粋……行かせてもらおう」
★ ★ ★ ★ ★
ついてねぇ…
思わずそう呟きたくなるような状況に、一匹の獣がため息をつく。
思えば彼が目覚めてから今まで、出会った人間はロクなのがいなかった。
状況も理解できない酔っぱらいに変態仮面。
大嫌いな白面の匂いの女に、極めつけがこの勘違い女。
自分をこともあろうに「かわいい」などと表現した上、変化を見せたらそちらを正体と思い込む始末。
決めた。今後人間相手に自分が化物であることを示すときは変化以外の手段にしよう。
そんなミョーな決意を胸に、普通の高校生の格好をしたとらはため息をもう一つ。
「『自分』を『獣』に変える力…?とにかくその能力…貴方、もしや参加者ですの?」
勝手に盛り上がり質問をしてくる相手に、心から面倒くさそうな顔で一応答える。
「あぁ…?サンカシャ?わしゃそんな名前じゃないぞ。大体、仮の姿はこっちだ、こっち」
そう言ってなんとかわからせようとするものの、勝手に興奮している相手には通じない。
そういえばさっきからなにやら憎たらしい声もどこかでペラペラ喋っている。
一応内容は耳に入れるが、大したことでもなさそうだ。
「…もういいですわ。貴方がなんであれ、この場にいる以上私の敵であることは明白!
私はロベルトの為にも…勝たねばならないのです!覚悟!!」
そう叫ぶと、少女は何も持たずに突進してくる。
それをひらりと飛び上がりかわす…ハズが、おかしなことに。
姿を人間にしていたのにそのまま飛び上がろうとしたものだから、とらはバランスを崩し、
おっとっと、と人間のような言葉をはきつつ横に転がるように突進をかわした。
ズシャ、と不思議な音が響く。見るととらが立っていた背後の壁に刀傷のような後がついていた。
「くっ!」
「なんだぁ?お前、ただの人間じゃないな?」
改めて身構える相手にひとまず距離をとると、とらは変化を解除する。
「!!」
「あー、もう人間に変化するのやめようかね、まったく」
「か、かぁいいですわ…ハッ!そ、そんな姿で私をごまかせるとでも…!」
まーたおかしなこと言ってやがる、と呆れつつ、とらは相手の処遇に考えを巡らせる。
とりあえず今自分は腹が減っている。そして目の前には人間の、それも女。これを喰わない手はない。
問題は女が身につけている臭っせぇ着物だが、あんなもん食うときにひっぺがしゃいいだろう。
最悪我慢できる程度だ。「おーでころん」とかに比べりゃちょっとはマシなものである。
しかし、ととらは歯噛みする。
この女からはそれ以上に嫌な臭がする。
さっきの奇妙な力といい、どうみても人間であるはずのこの女にはおかしな所がある。
具体的に言えば、食ってもうまくなさそうな気がするのである。
とらは知る由もないが、鈴子は「悪魔の実」を食した事でただの人間ではなくなっており、
それがとらの「食物」を見る目に不審にうつったのであろう。
思案の末、とらはひとつの決断をくだす。
「やーめた」
そう言って身を翻すと、高々と空へと飛びたってしまった。
驚いたのは鈴子である。戦闘態勢に入っていたのに放置され、呆気にとられて立ち尽くす。
「な、なにを…え?あ、ま、待ちなさい!!」
叫んだもののどこ吹く風、獣は気持ちよさそうに飛んでいく。
追いかけようと足を刃に変え、先程の要領で移動を開始した時だった。
彼女はこの移動方法で、先程思い出したくもない事故を起こしている。
それが心にあったからか、動き出してすぐ集中力が乱れた。
だから路上の段差に気がつかず、躓いて今日何度目かのズッコケをやって…
結果的に巨大な剣の一撃をかわしていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
から回る少女を残して獣は悠々と空中散歩中。
あの女を殺して食っても構わなかったのだが…
やはりあまりウマそうでなかったのと、実はもう一つ。
近くに非常に忌々しい気配を感じたことも原因だった。
まだある程度距離はあるようだが…長い永い付き合いだ。
これくらい近づけばわかる。「獣の槍」が、そこにいると。
ということはあのクソ忌々しいちび人間も近くにいる可能性があって…
そんなセットの近くで人間を食おうものなら、どうなるかわかったもんじゃない。
そこでふと、ならば攫ってどこかで食っちまえばよかったのだと気づく。
きゅ、と急ブレーキで止まり腕を組むと、ぽんと手を叩く。
(そうだよ、攫ってどっか遠くでゆっくり食えばいい。簡単な話じゃねーか。
どうせ殺し合いとかいうのをやってるんだし、一人くらいわかるめぇ。
よし、そうと決まればこの辺でいいから適当な食いもんをさがすとするか)
舌なめずりをして嬉しそうに飛んでいくその様は、バイキングを前にした少年のようだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
頭上を通り抜けた鉄塊に冷や汗が吹き出る。
四つん這いでシャカシャカと距離をとった鈴子が振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
その男の姿はぼろぼろであったが、射ぬくような視線が鈴子に軽い恐怖を与えた。
先程振り抜かれたと思しき剣…?を支えにやっと立っている姿は弱々しいものの、
明らかに危険な雰囲気が漂っている。
「な、な、だ、誰ですっ!あなたは!」
「てめぇこそ、その力…化物か?ならば…」
その力、とは先程見せた「スパスパの実」の力の事だろうか?
化物か、とは失礼な話である。確かに奇妙な力は幾つかもっているが…
彼女はれっきとした人間だった。
「化物だなんて…失礼な!それを言うならそんな物を振り回す貴方の方がよほど…」
豪ッ!!!
言い切る前に風切り音がなり、またしても鉄塊が振り回される。
今度は正確に狙い澄まされ、彼女の眼前に突き立てられた。
「ヒィっ!」
「なら答えな。その力…どうやって身につけた。まさかてめぇ…『捧げた』のか?
それとも『もどき』のほうか?」
意味がわからなかったが、相手はどうやらこの力の出所を教えろと言っているらしい。
驚きのあまり話してしまいそうになるが…思いとどまる。
なぜ自分がこんな男にそんな重大な情報を話さねばならないのか。
よく見れば相手は傷だらけで見るからに疲れきっている。
巨大な武器のプレッシャーについ飲み込まれていたが、屈する必要はないのだ。
「…貴方に話す義理はありませんわ」
「そうかい」
そう呟くと、男は剣を抜き去り鈴子に向けて突きを繰り出した。
すかさず両手を交差し、ガードする。
本来ならこんな防御は愚の骨頂である。しかし今の鈴子には効果的だった。
なぜなら彼女の体は「全身刃物」。それはすなわち「全身鉄の硬度」を意味する。
鉄を切れる人間でない限り、決して剣ではダメージを負わせられないのだ。
事実相手の突きは鈴子の腕を切断することはなく、少し後ろに吹き飛ばされただけで済む。
「チッ…やはりただの人間じゃねーな」
「問答無用で攻撃とは…貴方は危険ですね。申し訳ありませんけど…排除します!」
立ち上がった鈴子は両腕を刃物に変え、男に切りかかる。
攻撃を「かわす」必要がない以上、こちらの有利は絶対。そう確信しての攻撃だった。
それ故に、男の対処は想定内。剣を構えなおし、横薙ぎでの攻撃。
腕以外の全ても刃物に変え、攻撃に備える。「斬撃」は自分に通じないと思い知ればいい。
本日始めて物事が上手く進んでいる実感をもった鈴子。
そういう時こそ危ないものである。
結論から言えば、鈴子は敗北した。これでもかという程に。
襲撃者…ガッツのドラゴンころしによる一撃は「斬撃」ではなく「打撃」だったのだ。
もともと切れ味で勝負するわけではない剣である。その重量とそれを操るガッツの腕力。
それがそろえば鉄を切れぬとしても、ヘタをすれば砕ける位の威力は生まれる。
弱りきった今の彼でも、鈴子を吹き飛ばすくらいの一撃は放つことが出来た。
内臓を思い切り揺さぶられ、吐くに吐けない最悪の嘔吐感を与えられて鈴子は踞る。
「う、ケハッ」
そんなまともに動けない彼女の後ろ手を相手が掴み、何かで縛った。
拘束し、情報を奪うつもりだろうか。これはツイている。
神はまだ自分を見放していないと、鈴子は内心でほくそ笑んだ。
体が回復したら縛ったものを刃物に変えたこの身で切り、奇襲をかければいい。
あるいは相手が尋問の為に自分に触れてきたらそれを切り裂いてやる。
対抗手段はまだいくらでもある。希望は捨てませんわ、と力強く誓った。
結論から言えば、これも失敗。
ガッツが彼女を拘束したのはどこから調達したのか「鉄線」であった。
こんなもの切るにはニッパのようにテコの原理や勢いが必要だ。
こんな状態ではそのどちらも難しい。
鉄に「斬撃」が効かないことに苦しめられるのは自分だった。
ならば、相手が接触してきた時に反撃を…と身構える。
予想外にガッツがつかんできたのは頭だった。
真上から抑えるように腕を後頭部に突きつけてくる。
「(今ですわ)喰らいなさい!!」
叫びと同時に後頭部周辺を一気に刃物へ。そして背筋を全開にして頭を持ち上げる。
これで指くらいは切り飛ばせるはず…しかし、というか。
やはり、というか。これもまた、失敗だった。
「…金属音…それに先刻の動き…どういう理屈かしらねぇが…体を刃物にできる、ってとこか?」
「え、えーーーー!どうして!?」
「生憎、こっちは義手でな」
ご、と力強く地面に押し付けられ、鈴子は短く悲鳴をあげる。
ツイてない、とことんツイてなかった。
これで万策尽きた。もはや座して死を待つのみである。
「さて…その力について詳しく教えてもらう。ついでに知ってることは全部言え」
一段低くなった男の声。それが再び彼女に恐怖をもたらす。
「利用価値がねぇなら…」
そこでさらに込められる力。
抵抗むなしく、鈴子の情報は漏れていく。
「悪魔の実」について、それを食べた経緯…さらに、神を決める戦いについて。
あるいは先程の変身能力者のこと。診療所で入手した首輪のこと。
鈴子は正直に話す。実はある程度ごまかそうとしてはいたのだが…ガッツがそれを許さない。
少しでも胡散臭いと感じれば容赦なくその顔面を固い地面に叩きつけた。
御丁寧にメガネを外してくれていたとはいえ、その痛みは凄まじい。
なにより、顔は女の命である。それを傷つけられるのは…辛かった。
しかし、彼女は危険を承知でロベルトに関する情報だけは一切漏らさなかった。
それで殺されても本望。そのくらいの覚悟で臨んでいた。
結局ロベルトに関する事以外のほとんどの情報を奪われ、尋問は終わる。
「…もう十分だな」
その言葉に、鈴子は寒気を覚える。それが意味することは単純明快。
用済みとなった情報源の始末、これにほかならないだろう。
死ぬ。自分は死ぬのだ。
そう思うと恐怖と悲しみとがないまぜとなった涙が溢れ出す。
どうしてこんなことに…あぁ、助けてロベルト!と嘆くばかり。
ただ彼の力になりたかったのに…何も、何も出来ない。
結局一人で出来ることなんて限りがあった。
かといって、誰かを、ロベルト以外の誰かを頼る気にもなれなかった。
だってそうでしょう?死んだ仲間の首をはねたり、裏切ったり、裏切られたり…
そんな関係に神経をすり減らすなんて御免ですもの。
そう鈴子は考えていた。本当は、『友達』が欲しい。
だがこの時点の彼女が知る『仲間』はとても『友達』とは呼べない者達ばかりだったが故に…
彼女の歪んだ人間観は孤独を選んでしまった。
それでも最期に思い出されるのは…ロベルトの顔。
最後に彼に会いたかった…そうつぶやこうとした時だった。
グルリ、と仰向けに向き直されると、顔に何かをかけられる。
「けほけほ…な、なんですの?」
「妖精の燐粉だ…持ち主は生意気な奴だが…効果は本物だからな」
答えたのはガッツだった。
本人も体の至る所に粉を塗っている。
「こ、これは確か私の支給品のハズ…」
「だからお前にも使ってやっただろうが。命と引き換えだと思えば安いもんだろ」
その言葉を理解するのに少し時間がかかった。
「こ、殺さないんですの?」
「ふん…さぁな。後で殺すかもしれないぜ。妙な事をしたらな」
言いながら乱暴に鈴子の身を起こすガッツ。
顔面の傷は随分と回復していた。
「例えばこういう時に余計な真似をするとかな。どの道逃げられねぇんだから、変な気は起こすなよ」
確かに両手を縛られた状態では逃げるにも満足に出来ない。
今半端な反撃をしても無駄ではある。しかし…
「で、でもそんな事をして、貴方になんの利があると言うのです?」
「…俺が聞きたいくらいだな。ほらよ」
鈴子を壁に寄りかからせ、何かを探し出すガッツ。
彼がこんな行動をとったのは、決して気まぐれではない。
気まぐれでこんな行動をとる男ではない。ではなぜか?
生真面目な態度のくせに、どこか抜けたところのある少女。
それがどこかの誰かさんを思い起こさせたのである。
聞けばまだ誰も殺していないという少女。決して化物ではなく、奇妙な力を持っただけの人間。
信じがたい話も混じってはいたが、あの状況で「嘘」はつくまい。
「隠し事」はあるかもしれないが…
とにかく、なにも殺すことはない。そんな風に思えてしまったのである。
それは、直前に仮初とはいえ『仲間』との共闘をしていたのも大きいのだろう。
ガッツは見つけたそれを、元の場所へ戻す。
「あ…」
「なきゃ見えねぇんだろ」
メガネをかけて貰い視界に映った男の姿は、信じられないくらいに優しげに見えた。
ドカッ!
ザクッ!
ほぼ同時に発生した二つの音。
鈴子の体当たりによって突き飛ばされたガッツが尻餅をつきかけて踏みとどまる。
ふと手を見れば、血がついていた。
「な…」
「…バカ、ですわ」
ズルリ、と音を立てて、倒れる。
まるでスローモーションのビデオのようにゆっくりと。
ガッツは何が起こったのか必死で考える。なぜ、こうなった?
全身刃物のハズの少女の脇腹に、深々とナイフが突き刺さっていた。
「う、うぉおおおおおお!!!」
背後に走り、立てかけておいた得物を手にとると闇雲に振り回すガッツ。
今近くには誰もいなかった。しかし、目の前で少女は刺された。
そこから導き出される答えは、姿の見えない襲撃者。
その可能性に対処するための行動である。これは正解だった。
姿を消していた襲撃者はその攻撃に驚き、ナイフを鈴子の脇腹に残したまま離れてしまう。
ガッツは剣を振り回し続け、相手の接近を拒んだ。
まさしく虫の息の鈴子は思う。
なぜこんな馬鹿な事をしたのだろう、と。
メガネをかけられて、相手と目があって…なぜか照れくさくて目をそらした。
そこで偶然視界に入ったのは、転がる石ころ。それはあまりに不自然で…
直感的に、そこに誰か『居る』と思った。そしてその誰かが男に接近してると気づいた時には…
もう動いていた。
もう、今度こそ本当に死ぬだろう。
結局自分は何も出来なかった。ロベルトの為に何一つ出来なかった…
これは、報いなのだろうか。
自分が腕を切断した少女…首輪を奪った死体…
それらが目の前で渦を巻いているような気がした。
その渦の向こうで、男は剣を振り回している。
上半身裸で包帯だけ巻いて…なんとも男っぽい姿だった。
そういえば、なぜ彼は逃げないのだろう。
そこで気がつく、男が少しずつ自分に近づいていることに。
あの人は、まさか自分を助けようとしてくれているのだろうか。
いいえ、それは少し夢を見すぎですわね…けれど…
今際の際くらい…夢をみさせてください。
自嘲気味な笑顔を浮かべて、鈴子はもう少し近くを見渡す。
(ありました、わ)
そこには先程ばらまかれた変態写真の一部が落ちていた。
と同時に飛び出した大量の「あるもの」も。
先程の変身能力者に支給されたのだろうか。なんとも奇妙な偶然だ。
鈴子は最後の力でズルズルと動き、ありったけの「それら」に手で触れる。
そしてその上にゴロンと仰向けになおると、少し清々し気な顔をして叫んだ。
「ケホッ!あ、あの…貴方のお名前を…教えて…ゴホッ!」
血でむせてしまい上手く言えない。伝わっただろうか。
「何言ってやがる!今はそれどころじゃ…」
「お、お願い…です!!」
鬼気迫る声に圧倒されたか、ガッツは剣を振るう手は止めずに応える。
彼自身も疲労が蓄積し、足元が覚束ない状況だった。
「…ガッツだ」
「ガッツ、さん、です…か、ゴホッ!わ、私は…鈴子…鈴子・ジェラード、です…」
そこまで言い切ると、目を閉じる。
あの人が、助かるように。ここから逃げ出せるように。
自分は行動するんだ。そう決めた。今ここにいないロベルトにするように…
ここにきて初めてまともに会話をすることが出来た、この男性の為に。
鈴子はうっすら、笑みを浮かべる。
「ごめんなさい…ロベルト」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼女の体の下から光が爆ぜる。
爆風とそれに煽られた砂煙が周囲を飲み込んだ。
煙が晴れると、そこには誰もいなかった。
少女の死体も、剣士の姿も、文字通り見えない襲撃者の姿も。
やがてガラッと音をたて瓦礫の下からガッツが姿を表した。
先程までの襲撃者の気配はない。爆発に飲まれて死んだか…恐れをなして逃げたか。
どの道、姿が見えないだけで戦闘力は高く無さそうだな、と感じた。
要警戒であることに変わりはなかったが。
なぜあの少女がこんな真似をしたのかわからなかった。
自分を突き飛ばしたのはあの攻撃から守るためだったのか。
最後に自爆したのはジリ貧となりつつあった状況を打破する為だったのか。
もはや誰にも聞くことは出来ない。
しかし、一つの事実として少女が死んだ。それだけが残った。
彼女に接近したのは情報収集の為。
放送を聞きつつ様子を確認し、人外である可能性を感じて襲撃、情報を奪おうとした。
特にグリフィスに関する情報はしっかりと吟味したが、大した物は得られなかった。
結果として奇妙な関係となってしまったが…
ガッツは思う。
あの焔の男も、放送によればブラックジャックはじめあの病院にいた連中もほとんど死んだらしい。
先程共に戦った者達も、敗れたのか相討ちかはわからないが倒れたという。
……事実、あの減らず口野郎の死体は自分の近くで見つけた。
そして今の少女も。
自分に関わった人間は皆死ぬ。
『あの連中』に言わせればこれも因果律という奴だろうか。
「……クソッ喰らえだ」
それは、ガッツが最も憎むもの。
定められた運命……そんな物に従って、アイツらは死んだっていうのか?
もともと死ぬ定めだったというのか……捧げられた、『鷹の団』のように。
そんなことを認めてたまるものか。
改めて湧き上がる怒りを静かに胸に秘め、ガッツは立ち上がる。
「何度だって言うぜ。そのしたり顔で御託を並べるのは、オレが取り殺されてからにしな」
いつの間にかそこには馬に跨った一人の騎士がいる。
一瞥すらすることなく、ガッツは騎士に言い放っていた。
「……ならば命燃え尽きるまで戦うがいい。それこそが唯一の望みなり」
そう言い残し、髑髏の騎士は消える。
先程まで彼がいたその場所に鉄塊を叩き込むと、ガッツは吠えた。
【鈴子・ジェラード@うえきの法則 死亡】
【I-8/路上/1日目/日中】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(特大)
[服装]:上半身裸
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、炸裂弾×2@ベルセルク、折れたキリバチ@ONE PIECE、青雲剣@封神演義、妖精の燐粉(残り50%)@ベルセルク
[思考]
基本:グリフィスと、“神”に鉄塊をぶち込む。
1:運命に反逆する。
2:グリフィスを殺す。
3:グリフィスの部下の使徒どもも殺す。
4:なんか、夢に見たか?
5:なぜヤツが関わっている?
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
※左手の義手に衝撃貝が仕込まれています。
※鈴子からロベルト関係以外の様々な情報を得ました。
※鈴子の死体と荷物、ビーズ、蝉のナイフは近くに転がっています。損傷の可能性アリ。
※ビーズ@うえきの法則はとらの不明支給品の一つです。
【ビーズ@うえきの法則】
普通のビーズ。洋服の装飾などに用いることも当然可能。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ハァハァと息を切らし、三千院ナギは透明化を解除。
民家のソファにへたりこんだ。
失敗だった。
戦っている者同士のスキを突き、まず強そうな方から倒す。
作戦自体は悪くなかった。問題は、なぜか敗者が勝者を庇ったこと。
それで随分と予定が狂ってしまった。しかし……
(あの強そうな大男だって、結局私に攻撃をすることは出来なかったじゃないか)
見るからに自分なんかには倒せそうにない男だった。
それを追い込み、翻弄したのだ。これは自信につながることだった。
次はしっかりと強者から倒していこう、と決意も新たに、ひとまず武器を探す。
台所で数本の包丁を入手し、カバンに収めた。
(待ってろよ、みんな。私は必ずみんなの元へと戻るからな)
三千院ナギの戦いは終わらない。
【I-8/民家/1日目/日中】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(中)、全身(特に胸周辺)に多数の刺傷(治療済み)
[服装]:全身に包帯その上から洋服
[装備]:
[道具]:支給品一式×7、ノートパソコン@現実、旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、不明支給品0〜2(一つは武器ではない)
カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、アルフォンスの残骸×3、
木刀正宗@ハヤテのごとく!、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、イングラムM10(13/32)@現実、工具数種、包丁2本
[思考]
基本:なんとかして最後の一人になり、神にみんなが生きている世界に帰して貰う
1:参加者を皆殺しにする。手段は問わない。
2:武器の入手を優先する。
[備考]
※サンジからワンピース世界についてかなり詳しく聞きました。
※ブラックジャックの容姿の特徴を聞きました。
※拷問などの影響で精神が非常に不安定になっています。
※スズメバチに対して激しい恐怖を抱いています。
※注射器の中身についての説明は受けてません。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
寒い。
カタカタと体を震わせながら西沢歩は歩いていた。
ほぼ裸同然だった状態から、ナイブズにマントを貰ったおかげで恥ずかしさは随分減った。
しかし寒さはどうしようもない。薄いマント一枚ではとても防寒着とは言えなかった。
それはナイブズにも言えることのハズだが、彼は顔色ひとつ変えていない。
(やっぱり、人間じゃない…のかな)
先程の襲撃者が楽しげにペラペラと語った内容によれば、ナイブズは人間ではないらしい。
それならばあの強さ、威圧感、そして自分を助けてくれた謎の力と、あらゆることに納得がいく。
少しは恐怖もあった。自分が今人外の何かと行動している。それは怖い。
しかし、それはもともとだ。彼に感じる恐怖はある程度わかっていたこと。
それでも、彼女はついてきたのだ。
打算や自暴自棄、あるいは恩返し。様々な感情をないまぜにして。
だから今更その事実がハッキリしたところで接し方は変わらなかった。
なにより彼女自身が、そんなことに気を配っていられる状態ではない。
三千院ナギを守る。
考えてはみたものの、それが自分に出来るだろうか。
ハヤテ君の代わりに、と軽々しく思いはしたものの、それがどれだけ大変なことかはよく知っている。
それでも、今の彼女にはそれくらいしかすがるところがなくて。
なにより、理解し合えた友人を失いたくはなくて。
(う〜、もうやめよう。これ以上考えてたら耐えられないよ。
今は目の前の、あの人たちに何ができるかの方が大事じゃないかな)
結局考えはまとまらず、とりあえず保留しておく。
先程の放送で、とりあえずナギの名は呼ばれなかった。
しかし、一つ知った名前が呼ばれてしまう。
Mr.2ボン・クレー。ボンさんの名だ。
何があったかは分からない。ただ、悪い人ではなかった。
もう絶対会えないと思うと、自分でもびっくりするほど悲しくて…
自然と涙がこみ上げてきた。
しかし立ち止まり泣いている暇はない。
ゴシゴシと目にたまった涙を拭うと、ナイブズの背を追い歩き続ける。
その時だった。
凄まじい雷鳴が天空で鳴り響く。
「きゃあああ!!ま、また!?一体な、なんなのかな!?」
思わず上を見上げると、そこを駆け抜ける二つの影。
ひとつは漆黒の、巨大な影。もうひとつは金色の、美しい風。
その二つが踊るように絡み合いながら、どこかへと飛んでいく。
「ナ、ナイブズさん…」
「……人間ではあるまい。だが同胞でもない…」
それだけ呟き、影がみえなくなると興味がないと行った感じでナイブズは再び歩き出した。
あわてて彼女も追いかける。気にはなったがもう見えなくなっていたし、なにより怖い。
影が、というよりも、一人になるのが。だからついていった。
それが普通だろう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
崩壊したデパートを眺めて、趙公明は嬉しそうに呟く。
「さぞ、楽しかっただろうね。僕も動かずここにいればよかったかな」
そこに見受けられる様々な戦闘の痕跡に胸踊らせる。
これは多対多、しかも実にバラエティに富んだ兵装のぶつかり合いだったようだ。
先程のナイブズとの戦いといい、まったく退屈しない。
「しかしここにあったワープポイントは使えない。競技場に行くにも歩くしかないね」
彼がデパートを目指したのはそのワープポイントを利用して移動することが目的。
禁止エリアに囲まれ動きづらくなる前にさっさと抜け出そうと思ったのである。
別に競技場に向かう必要はない。
しかしナイブズ、ヴァッシュと興味深い存在両方にその情報を与えた以上、彼らが集まる可能性がある。
そこにトレビアンな細工を施して、彼らを迎える舞台とするのも悪くないだろう。
その為の移動に、神の陣営からある程度知らされていたワープを有効活用しようとした訳だ。
しかしデパートは完全に崩壊し、ワープポイントの形跡などほとんど無い。
こうなれば禁止エリアが進入禁止になる前にさっさと北上するのが吉だろう。
と、そこで足元に何かの気配を感じ、趙公明はしゃがみ込む。
そしてしばらく瓦礫の山を触った後、鞄から盤古幡を取り出した。
あまり力を無駄遣いしない程度に重力を操り、重い瓦礫をどかしていく。
中から出てきたのは一人の男の死体と、鎧だった。
「ふむ、中々面白そうな道具じゃないか。確か…狂戦士の甲冑!
僕が着るには少々華やかさが足りないが…誰かに貸して上げるのも悪くない」
そう言って鎧を拾い上げ鞄に収める。
その時、彼の携帯電話から着信音がなる。
「もしもし、やぁ君か。なんの用だい?え?
僕と似た立場の参加者を用意した?どういう事だい?」
不審な内容にも関わらず、趙公明の顔は明るい。
「なるほど…参加者を利用してね。それで、僕に何を求めてるのかな?
…その彼と無駄な戦いはしないで欲しいと。ハハハハ!!それは無理だよ」
何かが空中を通り抜ける気配を感じ、空を見上げる。
その目にもまた、二つの影が通り過ぎるのが映った。
「強いんだろう?だから選んだのだろう?なら、戦いたいじゃないか!
君や『彼』が何を考えていようとも、僕は強者との華麗な闘いを望む!それだけさ!
それが掌の上というのなら…大歓迎だよ!
なんだい、嬉しそうだね。いや、僕も嬉しい。君ともいずれ闘いたいものだ。
何がしたいのか知らないけれど、頑張ってくれたまえ」
本当に嬉しそうに笑いながら会話を終え、電話をきる。
しばらく携帯を手の中で弄んだ後、瓦礫の山からヒラリと飛び降りた。
「二枚目のジョーカーという訳か。ますます楽しくなってきたね」
【I-7/デパート跡地/1日目/日中】
【趙公明@封神演義】
[状態]:薬指と小指喪失、脇腹に裂傷
[服装]:貴族風の服
[装備]:オームの剣@ONE PIECE、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演義、狂戦士の甲冑@ベルセルク、橘文の単行本、小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:競技場に向かう?
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュ、ナイブズに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
8:ネットを通じて遊べないか考える。
9:狂戦士の甲冑で遊ぶ。
10:二人目のジョーカーに興味。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者の戦闘に関わらないプロフィールを知っているようです。
※会場の隠し施設や支給品についても「ある程度」知識があるようです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
真っ暗闇で、遠くに人影が見える。
あれは…とても見覚えのある影だ。とても大切な影だ。
そう、あれは……ハヤテだ。
ハヤテ!!そう、ハヤテだ!!!
やっぱり生きてた!やっと会えた!
まったくあいつは、まったく!!
ハヤテだけじゃない。伊澄もサクも、マリアもヒナギクも皆いる。
やっぱり私の仮説は合ってたんだ。別の世界ではみんな生きてる。
あの中心に私も……ん?
誰だ、あそこにいるのは。そこは私の場所だぞ!勝手に居座るな!!
誰だ、誰だ、誰だ!!
あれは…あれは、
あれは、私だ。
私がいる。
そりゃそうか。他のハヤテ達がいるなら、他の私がいても何もおかしくない。
でも慌てることもない。『神』とやらに頼んで、アイツと私の立場を入れ替えればいいんだ。
冴えてるな、今の私。だからとりあえず、一度近づかなくっちゃな。
あ、あれ?なんだこれは?
壁…か?見えない壁みたいなのが…A○フィールド?
邪魔だなぁ…なんでこんな物があるんだ。
消えてくれ!私はハヤテ達に会いたいんだ!!!
消えろ、消えろ、消えろ!!!
あっちであんなに楽しそうに話をしてるのに…
近づけないなんて非道い話があるか。誰か、誰か!おーい!!
私はここにいるぞ!ハヤテ!マリア!サク!伊澄!みんな!!!
どうして…どうして近づけない……なんで……
あ!ハヤテが!ハヤテが近づいてきてくれる!
やっぱり、やっぱりアイツは、最高の執事だ!!!
ハヤテ、ハヤテ、ハヤテーーーーーー!!!
こんな壁、壊してくれ!!
みんなに会いたい、皆に触れたいんだ。
ハヤテ、お前と……手を、繋ぎたいんだ。
ハハ…なんだか今日の私、いやに素直だな。
なに、少し嫌な目にあってな…みんながいることの有り難さがよくわかったよ。
だから、な?この壁を壊してくれよ。
……え?なんで?なんで壊せないんだ!!!
ハヤテ、お前はハヤテだろう?私の最高の執事じゃないか!
どうして……
この壁は、私が作った物?バカな、そんな訳あるか。
私が何を、何をしたって言うんだ。冗談はよせ。
……なぁ、冗談だろう?そんなの聞いてなかったぞ。
私はただみんなに会いたくて…必死で…自分に出来ることをしようと思って…
それが一番だって!一番あるべき姿だって思って!!だから!!!
だから人まで殺したのに
それがこの壁を作ったっていうのか
もうみんなに触れられないのか。
楽しく喋れないのか。自慢話も、漫画の話も…何も話せないのか。
ハヤテ、お前にも……もう、なにも出来ないのか?
手が、手が繋ぎたかったのに…私の手…握って欲しかったのに…
そうか、ホントだ。
よく見たら、私の手、真っ赤じゃないか。
こんな手じゃ、ハヤテも嫌だよな。
ハハ、当たり前の事なのに、どうして気がつかなかったんだろう。
こんなことして…なにも変わらない世界に戻れる訳なんてないのに。
だって、私自身が一番変わってしまったんだからな。
ハハハハ、可笑しいな。ハヤテも笑え。面白いだろう?
ハハハハ……ハ、ハハハッ……
……グスッ、う、うわぁ……うわぁああああん!!!
どうして優しく微笑んでくれるんだ!
触れることも出来ないのに!もう二度と近づけないのに!!
どうしてそう優しいんだ、お前は!!
……壁越しでもいい。ハヤテ。
その手を、触らせてくれ。
ゆっくりとその手を伸ばし、手と手が触れ合う。
その手をぎゅっと握り、閉じていた瞼を静かに開く。
そこにはよくある顔が見えた。でも、知っている顔だった。
自分の手を握ってくれていたのがその顔だとわかって、思わず苦笑しながらナギは呟く。
「……なんだ、お前か」
【三千院ナギ@ハヤテのごとく! 死亡】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
つかんだ小さな手から力が完全に失せるのを感じながら、西沢歩はただ涙する。
我慢もせず、惜しみもせず、何かを悟ることもなく、気丈にも振る舞えない。
ただ悲しくて、やりきれなくて涙した。
彼女がたどり着いた時、ナギは既に瀕死の状態だった。
血だらけの包帯が洋服の合間から見てとれて、顔もすっかり疲れきっていた。
しかしそれ以上に…彼女が手遅れだと物語る証明があった。
彼女の左腕は肩から先がまるまるなくなっていたのである。
まるで巨大な獣に噛みちぎられたかのように……
そこから見たこともないような量の血を流し、うつろな目で彼女は横たわっていた。
本来なら一瞬でショック死してもおかしくない傷だった。
なぜ彼女が生きながらえたのかは分からない。
食した悪魔の実の力か、誰かの細工があったのか、あるいは彼女の想いが起こした奇跡か。
だがそのどれも結局彼女を生かすことは出来なかった。
西沢歩の目の前で、恋敵(ライバル)三千院ナギはその生命を落としたのである。
遺体の手を握り締め、涙することしか出来ないことが悲しかった。
結局守れなかった。
こんな傷をつける相手だ。例え間に合っていたとしても助けることは出来なかっただろう。
自分には絶対に勝てない相手だとわかる。
はじめからそんな運命。自分にはハヤテくんの代わりなど絶対に務まらなかったんだ。
今度こそ一人ぼっち。守るべき人もいない。
やっぱりいっそ死んじゃおうかな。
でもやっぱり怖いかな。
……今は自分の事はどうでもいいや、と彼女は自分の今後を考えるのを一旦やめる。
大切な友人が死んだ事の悲しみは、彼女の生きる意味という難しい問題すらちっぽけにしてしまった。
ただ目の前の少女の死を悲しむことに手一杯で、そんな事は考えていられなくなっていた。
「……すみません、ナイブズさん。お、置いていってくれて大丈夫、です」
涙声のまま、搾り出すように呟く。
同行者が止まって待っていてくれているのが意外だった。
てっきり置いていかれると思っていたのだが…彼は後ろに立っている。
しかし急ぐ彼にこれ以上迷惑は掛けたくなかった。なにより彼はこれ以上待ってなどくれないだろう。
かといってナギを置いてついて行くつもりもない。
孤独は怖い。でもそれ以上に友情を裏切るのは嫌だ。
大きな大きな悲しみはある意味で彼女を成長させたのかもしれない。
遺体の手を握ったまま、振り向かずに答えたが、きっとわかってくれるだろう。
そう思っていたのに。
「……埋葬ぐらいしたらどうだ。貴様らにはそのくらいしかできまい」
そう告げて、彼はその場に座り込んでしまった。
驚きと同時に、その言葉が心に波紋を与える。
そうか、埋葬くらいならしてあげられるかな。
ナイブズさんの話ではこれからここは雪になるらしい。
そんな寒空にナギちゃんを置いていくのは非道い話だし。
それくらいしかできないけど…なら、それくらいはしなくちゃね。
ナギの遺体をゆっくりと動かす。そこで初めて気がついた。
彼女が目を覚ます前と後では、随分と表情が違う。今のほうがずっと、穏やかだ。
もしかしたら、本当にもしかしたら…自分も何かの役には立ったのかな。
そうして西沢歩は立ち上がった。
呆然とした心にとりあえず、歩く理由を流しこんで。
【I-8/路上/1日目/日中】
【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康、血塗れ(乾燥)、無気力、悲しみ
[服装]:ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:どうしようかな。
1:ナギの埋葬。
2:ナイブズに対する畏怖と羨望。少し不思議。
3:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。
4:孤独でいるのが怖い。
5:できれば着替えたい。
[備考]
※ 明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
なんだ、この感覚は。
ナイブズが座り込んだのは決して西沢歩を待つためではない。
あぁは言ったが、別に自分が待つ道理はない。置いていくつもりであった。
ところが彼女を見ているうちに、何か嫌な目眩に襲われて、思わず座り込んだのである。
彼女に言った言葉は本心だった。
人間という貧弱で愚かな生き物は、死んだ同胞と一体化することもできない。
ならば出来ることなどせいぜい埋葬くらいだろうと、ただ言ったまでだ。
そもそもそれ自体が彼にとって「らしくない」行動であるのだが。
しかし、彼を苦しめたのはそんな「らしくない」行動ではない。
その程度なら弟にあてられたのだろうと納得できる。
異種の何者かによって無残に殺された同胞の姿。
それを前に無様に泣き荒れる様。
それが嫌な思い出を蘇らせた。
それは己が所業でもあり、また自分と弟の袂を分たせた原因でもあった。
目の前でそれを見て初めて気がつくこともある。
暴力は受けた側からしかその本質は語れない。
知る事で変わる事もあるというのに
伝わらないまま世界は回ってゆく
いずれ彼にも、そんな時が訪れるのだろうか。
ただ、まだそんな「目眩」は振り切られる。
同胞を救い、弟を救い、「暴力」を際限なく振るう愚か者達へと制裁をくわえるその時までは。
きっと誰にも伝えられない。
そう、「きっと」。
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行、身体の各所に切り傷。
[服装]:普段着
[装備]:金糸雀@金剛番長
[道具]:支給品一式×2、エレザールの鎌(量産品)@うしおととら、正義日記@未来日記、
秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
1:ナギ埋葬後、カラオケ会場跡へ向かう。
2:デパートに向かったという妲己とやらを見極め、ヴァッシュを利用しかねないと判断したら殺す。
3:首輪の解除を進める。
4:搾取されている同胞を解放する。
5:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
6:レガートに対して――?
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
9:次に趙公明に会ったら殺す。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約3回)が限界です。
出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※朝時点での探偵日記及び螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
※ナギの持ち物がどうなったかは後の書き手さんにおまかせします。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「やい、よくもわしの食いもんをばっちくしてくれたな」
I-8エリア……第2回放送の後様々な出来事の起こっていたこの場所の上空にて……
金色の獣が、漆黒の獣に食って掛かる。
「アレはわしが先に目をつけてたんだぞ!なのに半端に食い散らかしやがって!
大体殺したんならしっかり食っていかねぇか」
「……ヤツはこの俺を攻撃してきた。俺の反撃を受けてなお、立ち向かった。
ならばヤツは単なる餌ではない。我が敵となる戦士よ。食らうつもりはない」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、舌を出して金色の獣…とらが悪態づく。
「けぇ〜、化物とは思えねぇな。いいか、わしは絶対に他の化物の食い残しなんて喰わないからな。
ま、わしも強いヤツと戦いたい気持ちはわかるけどよ」
そう言うが速いか、全身から雷を発生させる。
「例えばお前さんみたいなヤツとな……食いもんの恨みは恐ろしいぜ!」
カッ!!!
雷鳴が鳴り響き、とらは金色の風となって獣へと襲いかかる。
漆黒の獣もまたその雷に怯むことなく真っ向から受け止め、雄叫びをあげる。
二匹の獣はぶつかり合いながら空を駆けていった。
その様を見ていた者達が様々な反応を見せたのは知っての通り。
H-5エリア上空。
かつて正義を目指した番長が己を見失った場所。
そこで獣の空中決戦は続いていた。
途中首輪が禁止区域侵入を警告してきたが、この二匹の全力のスピードは
容易にそこからの脱出を遂げさせた。
とらが撒き散らす炎を突っ切り、その太い腕を振るう獣。
風のような速さでその攻撃をかわし、獣の肩口に食らいつくとら。
痛みかそれ以外の理由か、獣は凄まじい声で吠え、とらの頭を鷲掴みにして放り投げる。
グルグルと回りながら飛んでいくとらに角を掲げた突進で追い打ちをかける。
とらもまた、化物らしく雄叫びをあげるとその角の一撃を受け止め、体を無理矢理にひねる。
その勢いに引っ張られ回転を余儀なくされる獣。
角を通して雷が送り込まれる。雷は周囲一帯に無数に別れて降り注いだ。
木々を焦がし、轟音が響く。
しかし雷を浴びた当の本“獣”は意にも介さず、押しきらんと力を込める。
単純な力比べでの不利を悟ったとらが、相手を投げ返す。
森の中に叩きつけられたものの、再びロケットのような勢いで飛び出してくる獣。
高速落下をしながら迎え撃つとら。
咆哮vs咆哮
とらの拳が獣に連続でヒットし、止めとばかりに頭の上に両手を振り上げたその時、
獣はその腕をラリアットの要領でとらの脇腹にぶち当てる。苦悶の表情が浮かぶとら。
しかし引くことはない。両手を振り落とし、獣を再び地面に叩きつけた。
ゴォォォォォォォォォン!!!!!!
するとそこから凄まじい爆発音と爆炎があがる。
とらは知る由もないが、獣は雨流みねねのトラップゾーンへと運悪く落下したのである。
最初は不思議そうにその爆発を眺めたとらだったが、すぐ満足げにどこかへと飛び去って行った。
そのしばし後……
獣は再び上空へと飛び上がる。
「……逃したか。ヤツとはいずれ決着をつけねばなるまい。妙な横槍のないところでな」
グルリと周囲を見渡した後、獣は手近な地面に降り立つ。
今度はトラップにひっかからないように慎重に。
そしてその場でその姿を人間型へと変化させた。
流石にダメージを受けすぎた。少し休んで回復させなばなるまい。
その者の名は――――――不死のゾッド
消息不明となっていた最強と名高い戦士。
彼は再びその身で強者達と戦えることの喜びにうち震えながら、高らかに咆哮をあげる。
漆黒の魔獣は再び、解き放たれた。
【ゾッド@ベルセルク 戦線復帰】
【H-5/森林/1日目/日中】
【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:疲労(中)、全身に火傷などのダメージ(回復中)
[服装]: 人間形態、全裸 首輪なし
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:例え『何か』の掌の上だとしても、強者との戦いを楽しむ。
1:出会った者全てに戦いを挑み、強者ならばその者との戦いを楽しむ。
2:金色の獣(とら)と決着をつける
[備考]
※未知の異能に対し、警戒と期待をしています。
※消息不明になる前に負ったケガは回復しています
※二枚目のジョーカーとしての参戦になっていますが、主催側の情報は何も受け取っていません。
※みねねのトラップの存在を認識しました。ただしほとんど吹き飛んでいます。
※H-5エリアに雷が降り注ぎました。爆発の跡も残っています。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とらは気持ちよさそうに島の上空を飛んでいた。
せっかく見つけた食いもんをどこかの馬鹿にばっちくされたのは憎らしかった。
しかしその後の戦いはなかなか楽しいものであった。
やっぱり喧嘩はあのくらい派手にやったほうが面白い。
そういう意味でもこの環境は中々都合がよかった。
(スッキリしたことだし…久々に思い切り飛び回ってみようかね)
楽しい喧嘩に空腹と目的をすっかり忘れるとら。
見渡すと、当たり前だが海が見える。
「よ〜し!海の上を通ってこの島を一周でもしてみるかい」
金色の風は何者にも縛られることなく空を駆け抜ける。
その島が神の掌の上とも知らず。
【I-5/上空/1日目/日中】
【とら@うしおととら】
[状態]:ダメージ(中、回復中)
[服装]:
[装備]:万里起雲煙@封神演義
[道具]:支給品一式×7、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×1)@トライガン・マキシマム、逃亡日記@未来日記、
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数5/12)@現実
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×1、詳細不明衣服×?
[思考]
基本:白面をぶっちめる。
1:とりあえず思い切り空を飛ぶ。
2:人間、特に若い娘を食って腹を満たしたい
3:強いやつと戦う。
4:うしおを捜して食う。
[備考]
※再生能力が弱まっています。
※餓眠様との対決後、ひょうと会う前からの参戦です。
★ ★ ★ ★ ★
せっかく体を回復させて解き放ったというのに、もうボロボロになっているのか。
少しため息をつきつつも、男は嬉しそうにその光景を眺めていた。
まぁ、そのくらいのハンデは必要か。
彼が全てを殺しまわってしまっては意味がない。
僕の目的は戦いの加速ではないのだから。
男は立ち上がり、背後の道化へと告げる。
「盗み見かい?」
「堂々と見ているでしょう。試みは上手くいったのですか?」
ニヤリと浮かべた笑み。
「おそらくこれも『彼』の掌の上ですよ」
「どうかな。『彼』だって何者かによって作り出された存在のはず。
僕はそれを生み出した存在こそが『神』だと思うけどね」
「ならば貴方はその『神』の使いだとでも?」
道化の表情は変わらない。
この二人は果たして敵同士なのか、味方同士なのか。それすら伺えない会話ぶりだった。
「僕は、僕の役割はきっと『彼』の運命の試験紙さ。『彼』自身も理解しているだろう。
未来は神様のレシピで決まる。僕が僕の役割を果たして、『彼』が目的を遂げるならそれもいい」
モニターから離れて部屋の奥へと進みつつ、男は呟いた。
「僕から運命の試験紙を取り上げたんだ。為すべきことは為してもらわないとね」
代理投下終了です
代理2の方乙です
ここでゾットがジョーカーで帰還とは…
ああ、言われてみれば鈴子は似てるわ。最後に彼女は安らげたか
ガッツは運命に抗い続ける運命か…
ナギもここで脱落か。ハムは悲しい再会か
ナイブズは…これも『神』の計画の内なんだろうか…
そしてとらは悩みが無くて気楽だなw
ああ、右下も激戦区だがこれで一段落付いた…のか?
投下乙です
鈴子は最後は安らげたのかな
ガッツは不器用な優しさを随所で見せつけてくれるぜ
しかし、ここでゾッドが帰還か。
その展開自体は有りだと思うけど、ただでさえ混み込みな所に帰還させたもんだから忙しない
展開になっているような…
死亡告知しておいて、いきなり再参戦っていうのもフェアじゃない感じがします。
でも、それを画策したのは清隆に対するリトマス紙を自認する犬飼か。
うーん、ありなのかな。
そしてナギがいきなり死んでビックリでした
民家で休んでいたのに、ゾッドの台詞から判断すると空を飛ぶゾッドを視認して攻撃を仕掛けて返り討ちにあったのかな?
これまでで散々勝てないと認識してたのにちょっと唐突感があったけど、憎しみが爆発したと考えれば…あり得ない展開じゃあないか
とはいえ、これもいささか描写が欲しいところだと思いました。
本当は悪くは無いけど微妙に急な感じがするな…
なんかもったいないような…
でもこれ以上は愚痴になるかな
投下乙です。
ゾッド帰還だと……これはまたデカい火種だ。
犬養はまた余計なことしやがるw
ナギと鈴子は何というか自業自得な面もあるんだが……しかし鈴子は少しは救われたのか。
西沢さん頑張れ、超頑張れ、ナイブズと一緒に死亡フラグ積み立ててる気がするが頑張れ。
趙公明はジョーカーのくせに一度たりとも主催側の指示に従わんなこいつw
そして全滅作品三つ目。
>もったいない
女の子率がこの二話で激減してるからなw
12人しか残ってなかったのが、女の子ばっかり減って9人になってしまった
名前欄そのまんまだった。
ナギは人間形態のゾッドに襲い掛かったと考えるのが一番スマートかなと。
あともったいないとか言い出すと大体ロクなことにならない。
同じミスを二連発とかもうね。
寝ます。
お休み
確かにロクなことにならないかも
俺も寝て頭冷やすよ
ベルセルク好きなんだな
これで右下が少しはすっきりしたな
もっともガッツとナイブズが何時鉢合わせしてもおかしくない位置だが
>別に競技場に向かう必要はない。
>しかしナイブズ、ヴァッシュと興味深い存在両方にその情報を与えた以上
こないだのVSナイブズで「ヴァッシュにも競技場で待ってると伝えた」って話は
趙公明のハッタリかと思ってたけど、ほんとに伝えてるの?
まぁ、趙公明の勘違いでもいいかもしれんが…
あと映像宝貝に対するこだわりはどこへ?
394 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/01(木) 23:01:49 ID:XH2pc+37
後一時間ぐらいか…
高町亮子は空を見上げていた。
木々の合間からこぼれ落ちる光を、ちらちらと覗く青い空を見上げていた。
色を失った唇はしっかりと暗い笑みををつくり、瞳を覆っていた涙の膜は乾き去り、
冷えゆく胴体を湿った大地に立たせて高町亮子はただ空を見上げていた。
ひゅうひゅうと緩やかに風の流れる合間を縫って、一日目正午第二回放送が静かに流れ始める。
やわらかな少年の声が響くなかで、それはさめざめと泣いていた。
いまだかつて味わったことのない恐怖に身をすくませ、まるで敵わぬ力に傷付き、想いをかける相手を失うことを恐れ、
それはまるでただの子供のように大粒の涙をこぼしていた。
疎ましい、と思った。おぞましいと思った。
いかにもか弱い被保護者ぶった振る舞いが、ぞっとするほど気持が悪い。
たぎっていた憎悪が墨のように冷たく硬く沈殿し、ゆらゆらと嫌悪感のみが沸き上がる。
その名前に反応したのはわずかに胡喜媚が早かった。
「妲己姉様!」
人の子の形を模したモノは、千年狐の名を耳にとめると希望を見い出したかのようにぱっと喜色を浮かべた。
「妲己姉様、いじわるなおじさんが喜媚をいじめるよっ☆ 喜媚悲しいっ☆」
やっつけちゃえ、とそれは嬉しげに死人に訴える。
――愚かすぎて吐気がする。
蒼月潮が討ったか、とひょうは思った。名簿にはとらの名もある。
蒼月潮にとら。絶望の権化たる白面に真っ正面から挑む者達。
白面を討つのは獣の槍を操る彼ら以外にありえない。
蒼月潮の名が呼ばれないのに少々の安堵を感じ、素直な感嘆を覚える。
開幕時に落雷に焼かれたあの少女は、ひょうも知らないわけではない。
槍に魂を削られ蒼月潮が獣に落ちかけたときに、ひょうが導いた娘の一人だ。
化け物まがいの姿を前にして臆することなく少年に手をさしのべた。
蒼月潮と同じように、輝ける生命力に満ちた娘だったのをひょうは覚えている。
しかし結局、彼女の勇気ある気構えはあだとなり絶命をもたらしてしまった。
あの瞬間の、蒼月の悲痛な叫びが思い出される。
少女は、蒼月潮にとって並々ならぬ存在だったはずだ。
数多い知己の中でもことさらに大切な存在だったはずだ。
大事に大事にてのひらで暖めていきたい存在だったはずだ。
そういうものが指の間からこぼれ落ちるとき、どんな感情が身のなかに満ちるのか、ひょうはよく知っている。
知らないわけがない。15年前から、ひょうの中にはそれはあったのだから。
ボロボロに傷だらけな皮には、ただそれだけがつまっていたのだから。
sienn
けれど、うしおは白面をたおした。
もしひょうに獣の槍と同等以上の力があったとして、白面の者を討ち取ることは決して出来ない。
白面は、恐怖と絶望と憎悪こそを糧としているからだ。
それらをひょうからのぞいたら、ただの皮が残るだけだ。符術師の形をしただけの皮が。
いまさら蒼月潮に伝えられることもない。ひょうの助けなど必要なく、彼らは白面をたおした。
そのときそこにあったのは、恨みでも憎しみでもなく、海の果てから昇る天上の炎の輝きだったろう。
光の中に前へ前へと力強く歩みを進める彼らに対し、何を言えというのか。
深海のような夜の底で過去を見つめてあがくしかできない男がいったい何を言えるのか。
無様に助けを求める少女を眺め、ひょうは呟いた。禁、と。
悪逆非道な仙女はこのうえなく他愛なく燃え尽きる――はずだった。
まばゆい光があらわれたのと、その姿がかき消えたのは同時だった。
ひょうは蒼い目で素早く周囲を探る。違和感はなにもない。
この世から消滅してしまったかのように、なんの痕跡ものこさず妖怪は失せた。
そんなことはありえないと思う頭に、一つの可能性を現れる。
それは、古い文献で目にしたことがある。古い文献でしか目にしたことがない。
神話の時代に在った妖怪、自由に時を旅する伝説のバケモノ。時順・時逆の祖たる九頭雉鶏精。
太古に滅び去った大妖に、まさか出会うことがあろうとは。
懐からひょうは符を取り出した。四方の木に丁寧に結界を張る。
雉鶏精の能力が時を駆けるだけならば、また再び現れることもあるだろう。
それも必ず、このゲームが終わらないうちにだ。
ひょうに胡喜媚を見逃すつもりはない。
たとえ伝説であろうと、妖怪であることになにひとつ変わりはない。
支援
高町亮子は空を見上げていた。
死してなおあまりにも強い感情が体の中にうずまいて、うずまいてうずまいて過激に荒れ狂うそれに突き押され、
今にも動き出すんじゃないかとパックは思った。
どろりとにごった負の気に、薄い羽がだんだんと重たくなってくる。
ひょうを探しに行かないと、という気持ちはあるのだが、ねばつくようなよどんだ空気がパックをしばりつけて身動きがとれない。
全身が泥水につかったようだった。
はじめっから、とパックは思った。はじめっからこの島はおかしい。
闇の領域(クリフォト)に入りこんだときのようなずるりと湿った気配が宙に満ち満ちている。
あの広間で気づいたときは、そうだ、狭間、幽界(かくりょ)と現世(うつよ)の重なりあったあの空間にいたときに似ていた。
優しく微笑む老魔女の暖かな家とはにても似つかないけれど、精神世界の影響がなかったらこの女の子の負の感情がここまで残っているわけがない。
「やっぱりなんか変だよここ……」
「竜脈が歪んでいるからだ」
不意に声をかけられてパックはとびあがった。
いつの間にか木々の後ろからひょうが現れていた。
羽精(ピスキー)は人の気配にひときわ敏感な生き物なのだ。だのに、まるで気づかないくらい参っていたらしい。
ひょうは足音もなく少女の死体に近づく。パックのことなど見向きもしない。
「なあ、あの子は?」
「逃げた」
パックはぐっとつまった。
なにやってるんだよとか、色々いってやりたいことはある。
しかし、ひょうの妙に淡々とした態度が寄せ付けない。
「じゃ、じゃあガッツ――黒い剣士の行方は」
「聞き忘れた」
さらりと答える。
同じ傷だらけの体を持つ、黒衣の二人の男は妖精を軽視するところまで似ている。
パックはむかっ腹が立ってひょうの横っ面にパンチを食らわせた。もちろんあっさり食い止められる。
「なにを気をたてている」
パタパタと飛び回りなが蹴りだとかスパークだとかを加える妖精を簡単にいなし、やっとひょうの蒼い瞳がパックを見た。
「悪魔を殺せ……」
パックは息を荒げていった。
「なに?」
「この子さ。すっごい魔物を恨んでる」
死してなおひしひしと伝わる想念は、はっきりと人外のものへの殺意に満ちている。
妖精であるパックも見逃されず、そのせいでさっきから心身ともにひどく調子が悪い。
誰よりもかたくなに呪われた運命を拒み、誰一人殺さないと誓った少女が最後の最後に願った怨。
「ずっと言ってるんだよ。殺す、化け物め殺してやるって」
また具合が悪くなって、パックは力なく言った。
しかしひょうは、
「そうか」
と、言ったきりだった。
そして手を伸ばすと、少女をくしゃりと撫でる。
ちょっと空気が和らいだ気がして、パックは少しほっとする。
そして、なんだか無性に哀しくなった。
ひょうの傷だらけの手は、死んだ子供にはあんなに優しくさわれる。
ガッツの敵をくだく固い拳もキャスカに触れるときだけは柔らかかった。
また思う。この女の子と友達はそんなにも大それたことを望んでいたのだろうか。
その望みはそんなにも身不相応なものだったのだろうか――こんな目にあわなければならないほど。
実際、高町亮子はそれほど大きなものを欲しがっていたわけではない。
誰一人の命も奪わず、自分が自分であるままにただ普通の人のように生きたい、それだけだった。
ちょっと欲を言えば、陸上競技で名を残したい、それくらいは思っていたかもしれない。
普通に生活し、普通に些細なことに苦労し、普通に浅月香介とじゃれあう。
そんな普通の日々を掴む希望がほしかっただけだ。
その程度だ。そんなものなのだ、彼らの願いは。
高町亮子も、浅月香介も、竹内理緒も、宮子も、ただ仲間たちと楽しく過ごしたかった。
ガッツにひょうに高町亮子。魔物に全てを奪われた哀しい人たちがいる。
「なんで誰も彼もがこんなに苦しまなきゃいけないんだよ……」
ひょうが高町亮子の視線の先をたどった。そこには少年の無惨な死体がぶらさがっている。
血の池から眼鏡を拾いあげ、パックの言葉をそっと否定した。
「この娘は恵まれている」
言いながら、高町亮子のまぶたをとざす。少女はやっと、空を見るのをやめた。
「想いを通わせた相手と逝けるのは、そうない」
こんなのが恵まれているわけなんかない、パックは思う。
幸せというのは、もっと暖かいはずだ。
暖かくて、見ているだけでこっちもじんわり頬が緩む、そういうもののはずだ。
「こんな状況でも?」
納得できなくて、パックは口をとがらせる。
「こんな状況でも」
ひょうが静かに答えた。
女の子が好きそうなひらひらした服――ハヤテの女装服――をかけられて、眼鏡を握りしめた少女は穏やかに横たわる。
どこかに憎しみをおいてきたような、憑きものが落ちたように柔らかな顔だった。
どんな子だったのだろう、とパックは思う。
パックにはその洋服がとても似合っているように見えたが、亮子にこんな格好をしている自覚があったなら、顔を真っ赤にして怒ったかもしれない。
香介が照れて余計なことを言い、理緒が笑いころげて宮子がちゃかし、健脚同士の駆けっこも見られたかもしれない。
パックは元気に空を駆ける声を聞いた気がした。でも今は、ただ冷たい風が吹くだけだ。
支援
「負の気にずいぶんと強くあてられていたようだな。少々脆弱に過ぎないか?」
心配しているという様子でもなくひょうが問う。パックのことを、もしや炭鉱のカナリアと思ってるんじゃないだろうか。
「だから、ここはなんか変なんだって。生きた人間の感情だって、こんなに場に影響は与えないぜ」
「龍脈がゆがんでいるからな」
ひょうがもう一度言った。
「さっきから言ってるけど、それってなにさ?」
「大地――ひいては万物を構成する力のうねりだ。
もとからいびつだったが、さきほどから余計にひどくなった」
「あー! それおれも気付いた」
それはちょうど、デパートが崩壊し、ワープの経路が断絶された瞬間である。
王天君が己の苦労を嘆いた瞬間でもある。パック達はたしかにそれぞれの形でその変化を感じとっていた。
「はじめから幽界(かくりょ)よりの狭間だったけど、なんかさらに現世(うつよ)から遠のいたっていうか、すげえ不安定な感じがするよね」
「狭間?」
ひょうが疑問符をつける。まるで耳慣れない様子に、パックは胸を張った。
「あんたら人間の住む物質でできた現世と、おれとか魔物の故郷、魂的ななんかがいる幽界が重なり合ったとこ。
人間は精神体しか幽界に行けないけど、狭間なら肉体を持ったまま行けるんだよ」
自慢げに言ったものの、細かく突っ込まれたら説明しきれる自信はまったくない。
取り繕うために魔道のことを片っ端から開陳するが、まるっきりフローラの受け売りだった。
しゃべっているうちにだんだん自分でもうさんくさくなる。
「おまえのいう幽界が精神体の方に制約を課しているのだとしたら、強い能力・肉体を持つものの制限にも説明がつく」
「え、信じる……の?」
「我が国には、気功という気の流れを肉体に反映させる法が古来より伝わる。
精神体というのは単なる言い換えだろう」
正真正銘幽界の住人でも半信半疑だった――というか、よくわからなかった――魔道の話をあっさりひょうは飲み込んだ。
なにか思うところがあったのか、ひょうはあごに手を当てる。
「となると、この体も本物とは限らないな」
「なにそれ? ここで死んでも死なないってこと?」
パックはぺたぺたと体を触る。ムルムルはいつもと違うと感じないかと言っていたけど、なんの変化も感じられない。
つねれば痛いし、くすぐればかゆい。足の指の爪も頭のてっぺんも、とてもいつも通りな羽精の体だ。
「この肉体が元の世界のものと同期していない可能性はある。死なないとは言っていない」
結局なんだかよくわからない。けれどひょうのアイデアは面白くパックは重ねて尋ねた。妖精は好奇心の強い生き物なのだ。
それが身になるかどうかは別として。
支援
「じゃあ、じゃあさ、精神体だけ引っぺがして持ってきたってこと?」
「この説が正しいとすれば、そうなる」
「どうやってやんの、そんなこと。やっぱりすげえ魔法とかあるのかな??」
ひょうがそこらに落ちていた支給品袋から必要なものをより分ける。
「どこかに気を集める装置でもあるんじゃないか?」
「なんで微妙に適当なんだよ……」
不満を感じて膨れるが、もちろんひょうが気にするはずもない。
「私が知るわけがないだろう」
黙々と作業を続けるひょうをさし置いてパックは地図を取り出した。
パックが強く感じる幽界の気配の中心は、この山の中にある。そう遠くはない。
方向的にはちょうど神社と書いてあるあたりだ。
ひょうに神社とはなにかと聞いたら、神道をまつるやしろだと返ってきた。
神道ってなんだと聞くと、いくらか面倒そうに教会の一種だという。
そこにはいったいなにがあるのか。パックの興味がもくもくと沸き上がる。
「よしっいこうぜっ!」
こうなったらいてもいられない。背中の羽を羽ばたかせてはぴゅーっと飛び立つ。
意気揚々と後ろを確認すると――全然ついてこない。
パックはがくりと滑った。
ひょうは少女の死体の脇に膝をついている。
パックは憤慨してその前に回りこみ、胸をそらせた。
そんな妖精をちらりと見て、ひょうが関心なさそうに口を開く。
「調べに行くのだろう? 行けばいい」
そしてわずかに思案するように宙を見つめ、蒼月潮の名を覚えておけ、と言い足した。
「えっ……ひょうも行くだろ?」
質問より願望を込めて恐る恐る尋ねる。
不気味なこの島を一人で動きまわるなんて絶対にしたくない。
悔しいけれどひょうが強いのは事実なのだ。
しかし、ひょうは顔色一つ変えない。
「なぜ?」
「なぜって……」
パックが言葉を継げないでいる間に、ベルトから短刀を取り出した。
すっと高町亮子の髪に差し入れる。鋭い刃先で髪の一房を切りとった。
パックは慌ててひょうの袖をひっぱる。
支援
「ちょっとあんたなにやってんだよ! いくら死んでるからってかわいそうじゃんか!
髪は女の命っていうだろ」
もしパックが思慮深い人物であったなら、それがどこかの弔いの儀式と思ってためらったかもしれない。
もちろんパックはそんな人ではないし、もちろんひょうの振る舞いにそんな意図などない。
その証拠に、
「だからだろうな」
ひょうはたやすくパックの主張を認めた。
さくさく、さくさく。高町亮子の髪が刈り取られていく。
「この子供かこのような目にあったのは、」
なかば独り言のようにひょうがつぶやいた。
それはもしかしたら、誰もが苦しむのはなぜかという疑問に対する答えだったのかもしれない。
「妖怪と出会ったからだ。
人と妖怪が交差するところには不幸が生まれる。
人間と妖(バケモノ)はもとの成り立ちからして異なるのだ。
なぜお前達は人の世にでてくる。なぜお前達は己の領域で満足しない」
そこで一息区切り、少しの間手を止めた。
「いや……答えを私は知っているな。
人になりすまし人の群れに紛れる理由など一つしかない」
さくり。最後の一房が切り落とされた。長くはないが、茶色がかったつやのある髪。
それらを集め、ひょうは布で丁寧に包む。
膝を払って立ち上がり、高町亮子の顔をまっすぐに見下ろした。
「お前のその依頼、引き受けよう」
パックは目をぱちくりとさせる。依頼って、なんのことだ?
この子とひょうが会話をする機会なんて一度もなかったはずだ。
そこで、はたと思いついた。
「それってもしかして、化け物を殺せっていう……」
「ああ」
「まじかよ!」
「そうだ」
トンボでもつまむように、ひょいとパックを掴む。
噛みつくのも構わず、手近な木のうろに放り込まれる。
慌てて出ようとしたところを、一本の糸に遮られた。
高町亮子の髪の毛だ。強い思念のこめられたそれが、穴の縁に渡っている。
かよわい細い線なのに、パックが体当たりを仕掛けてもびくともしない。
ひょうが帽子に手を当て、慰めるようにささやいた。
「だからお前は祈ることだ、この身が敗れ果てることを」
そして、小さく微笑む。
「守るための戦いかたなど、元より知りはしないのさ」
ひょうの黒い服がひらりと翻る。パックの制止の声は、どこにも届かず森の奥に消えた。
語尾に「ね」をつける喋り方っていうとマキバオーを連想してしまう
流行った時期が結構近かったような覚えが
そういう喋り方ってリメだとスタン達の前でやらないだけでマリアンとかの前だと普通にやってるっぽいな
なんつうところとタイミングで誤爆したんだ俺ごめんなさい
死にたい
支援
浅月香介、竹内理緒、高町亮子。覚悟はしていたが、彼らの死は重く響く。
嘆いている場合ではなかった。
一度は救った命がまた鳴海歩の手からこぼれたとして、素直に悲嘆にくれるわけにはいかなかった。
気持を抑え、放送の一字一句を脳に刻みつける。
抑揚、声調、言い回し。どんなささいなことでもいい、何一つ漏らしはしない。
何も持たない歩にとって頼れるのは己の頭脳だけであり、正しい論理には精確で豊富な情報が不可欠だから。
――情報。結崎ひよのはどうしているだろうかと思った。
「歩、そっちを引っ張ってくれ」
雑念を振り払う。
彼らの死と放送の意味はよくよく検討する必要がある。
しかし、今はそれよりも迅速にすべきことがあった。
歩は結びかけの布切れを縛り終えると、指示通り胴を回して包帯がわりの服地を引っ張った。
これでよいかと視線をやる。
真紅の衣装のガンマンは膝が汚れるのもかまわず血だまりにしゃがみこみ、グリフィスに応急処置を施していた。
大した道具もないのに、まるで臆するところがない。
彼がかいくぐってきた危難の多さを想像させる。
ヴァッシュは真剣な表情で、グリフィスに語りかける。
噛み締めるようなそれは、自分に言い聞かせているようでもあった。
「僕はこれ以上、……誰ひとり死なせない」
ざり、という音が耳に届く。
「まるで人のような口を利く」
上げた視線の向こう側に、人影がいつしか佇んでいた。
「あんたは……?」
「ひょう」
影は短く答えた。
歩達から数歩離れたところで立ち止まり、いくらか足を開いた状態でまっすぐに見下ろしている。
「人の世にはびこる妖怪共の退治を生業としている」
怖い、というよりも怜悧、という表現があう。
秋葉流の狂気的な感じとはまた違い、北国の冷たい湖面を思わせる静謐さがある。
しかし、その淵にずるりとぬめるなにかが棲まう不吉な印象を受け、知らず歩は体を緊張させた。
男は懐に手を入れた。するりと取り出す。紙だ。一枚の紙。
その仕草があまりにも手慣れていて、名刺交換という馬鹿な考えが浮かんですぐに消えた。
男の手が紙を、宙で離す。
ひらひら揺れて、鳴海歩とヴァッシュの足下に舞い込んだ。
「おまえはこれを使役しているのか?」
また一枚、男が紙を抜き出した。はらりと地面に落ちる。
表がえって漢字のような文字見えた。神社でもらうお札のようだった。
『これ』『使役』――なんだ?
なんとなく、歩は足を引いて靴の上からどけた。
「ならば用はないな」
歩の一瞬の逡巡を読み取ったように男は言い、それから歩への関心を完全になくした。
ヴァッシュにその蒼い瞳を向ける。
その様子などまったく頓着せず、ヴァッシュが真摯に呼び掛けた。
「君も手伝ってくれないか? 彼は血を流し過ぎている。一刻も早く手当てをしないと」
「ああ、都合よく医薬品もある」
ひょうが眉を下げて笑うような表情をつくった。
支給品袋から薬品と包帯を取り出してみせる。これは、浅月香介が保健室から集め、それをひょうが回収したものだった。
ヴァッシュが安堵を隠さず、一歩を踏みだした。足元で紙がかさりと音をたてる。
「ありがとう、助か――」
「四爆」
静かな、声だった。
雷撃のような閃光と遮るように影が走ったのを歩は見た。
それでも目がくらんで、歩はとっさに瞳をとじる。
「なっ、君はなんだ!?」
ヴァッシュの声が聞こえる。
「ひょう」
男が同じ言葉を繰り返した。
「言ったろう、妖(バケモノ)を始末するのが商売のしがない符術師さ」
「だからって、こんな――まさか殺しあいに乗るつもりか!?」
「わかってるじゃないか。バケモノの割に血のめぐりがいい。
報酬はもう受け取ってしまったのでな」
目を開いた歩の視界に、いっぱいに赤いコートが映る。
あの瞬間にこの背中がかばってくれたのだ。
大丈夫かと問いかけようとしたとき、ほのかに輝くものが視界を横切った。
羽毛のようなそれは、きらきらした燐光を伴って、赤い服の袖から生えていた。
神だとか悪魔だとか、修飾語(レトリック)的なさんざんぱら付き合ってきた。
空飛ぶ靴に未来をしる日記。ホンモノの超技術も確かにこの目で見た。
「はは……ごめん、俺、人間じゃないんだ」
ヴァッシュがかすかに振り返り、とても申し訳なさそうに笑う。
その笑みの意味を問う前に、男がキリキリと糸を巻いた。
中学校舎で拝借した裁ち鋏の刃を下げるその糸こそ、それぞれがそれぞれに知りようもないが、
――万人の血を吸ったレガート・ブルーサマーズの鋼鉄糸
――最期の怨がこめられた高町亮子の髪
これらをより合わせ作られたひょうは、間に合わせでありながら年数を重ねた呪物のようにヴァッシュの腕に突き刺さる。
小さく苦痛の声を漏らしたが、その場を離れようとはしない。
ヴァッシュが避けないのに、ひょうが少しだけ意外そうな顔をした。
支援
「頼む、僕の話を聞いてくれ。僕は彼の命を助けたいんだ。彼は本当に今、危険な状態だ。
彼を治療できるところに連れて行ったそのあとでなら、君の望むとおり戦いでもなんでもするから、だから、頼む、今この場で手を貸してほしい」
照れもてらいもなくただひたむきに、ヴァッシュは頭を下げる。
ひょうがちらりとグリフィスに目をやり、茫と蒼く光る左の目がヴァッシュの右腕を見た。
空気が軽くなった、というわけではない。言葉が途切れた重苦しさの下、でも確かになにかが和らいだのを歩は感じた。
「その異形の力で人を殺したことがないと」
ない、と言うと思った。まっすぐに、ひたすら見知らぬ命を救おうとする彼が、人知を超えた力を人に向けて振るうわけなどないと。
しかし彼は苦しい表情を浮かべるだけだ。身を切るような痛みにつらい表情を浮かべるだけだった。
黒い気配が膨らむ。ずるり、と、男の水晶のような瞳の中でうごめいた。
歩はとっさに前に踏み出した。
「よせよ」
鳴海歩はここには、人間じゃないものがいること自体は予見していた。
まさか、彼みたいな人がそうとまで思わなかったが、だからといって排斥する理由にはならない。
「これがまた同じことをしないとなぜ言い切れる?」
男の声には、押し殺したような響きがあった。また、ずるりとなにかが動いた気がした。
「言い切れはしないさ――だが、彼には意思がある。
人を殺さない、救いたいという強い想いが、彼にはある。
どんな力を運命づけられていても、意志の力で克服できる可能性は十分にあるだろ。
それも認めずすべてのチャンスを暴力で潰すのかよ!」
ずるり、ずるり、まがまがしいそれは次第に形を明らかにする。
「そうならなかったら、おまえはなんとする。
かつて奪われた命とこれから失われる命にお前はどう詫びる。
お前はどのようにあがなうつもりか、――あの根こそぎの絶望を!」
見違えようのない憎悪が姿を表した。
歩ごしにヴァッシュに向けてひょうが放たれる。
やばい、と思った。今日は飛ぶものによく刺される日だなと思った。
結崎ひよのにラッキーカラーを聞いておいたら、こんな痛い目にあわなくてすんだだろうか。
ひよのなら、ついでに幸運を呼び込む趣味の悪いマスコットでもくれたかもしれない。
しかし、歩は突き飛ばされた。
投げ出されるように地面に倒れこむ。金属かち合う鋭い音を確かに聞いた。
「バケモノが人の武器を使うか」
ヴァッシュが銃身で金属のひょうを弾いていた。そして、余裕のない表情で歩に目をやって、
「彼を……死なせないでくれ」
すまない、と小さく言い添える。
バックステップで一度飛び下がると、彼は赤いコートをはためかし駆け出した。男も素早くあとを追う。
なにを謝るんだと、叫びたかった。彼がいったい何を謝る必要がある。
歩を突き飛ばしたことか。ひょうを説得できなかったことか。それとも彼が人間でないことか。
歩はよろりと立ち上がる。肩の痛みが増していた。倒れたときに傷口が開いたのかもしれない。
人のことばかりではない、自分も早急に手当てをしないとまずい。
歩は豊かな髪を乱して横たわるグリフィスに近付き、力をこめて担ぎ上げる。
「おれは、手の中には論理しかない非力な人間だけど、あんたとおれのために最善を尽すよ」
とても軽くなってしまったけれど、歩の貧弱な体にはひどく重い。
膝を力を入れ、一歩を踏み出す。
「だからあんたも頑張ってくれ」
背中に、じんわりと熱い血がしみる。ヴァッシュの言うとおりだ、彼は血を流しすぎている。
彼がこんな目にあうなんて、何かの間違いじゃないかと思う。
そう思えてしまうほど、彼は似ていたのだ――運命に愛された男に。歩の兄に。鳴海清隆に。
ただそこにいるだけで、すべてを魅了する圧倒的な存在感。冴えわたる叡智。
彼が行うならば、なんであろうともその達成を人々は確信し、彼が発する言葉ならば何よりも重い真実みをもって伝わる。
彼が見るのは凡人には想像しえない上位の世界。
羽ばたく翼は誰にも到達しえない境地にただ一人たどりつくだろう。
清隆と同じ、彼ならば神にすらなれる、そう思わせるのだ。
過ごした時間は短くても、歩自身もグリフィスに惹きつけられないではいられなかった。
兄に憧れたときと同じような光を感じずにはいられなかった。
こういう人が、こういう人こそが、誰かに希望を与えることができるのだと思う。
歩には、グリフィスのような人々を引き込む炎の輝きも、ヴァッシュのような理想に捧げる一途さもない。
なにもないことを選んだのは自分だけれど、それでも非力さを痛感せざるをえないときがある。
死んでいったブレードチルドレン達の顔が脳裏を横切る。
すまない、と言いたかった。やっぱり自分は彼らの救いでもなんでもなかったのだ。
グリフィスが、何かを呟いた。混濁する意識のかすかな囁きに耳を傾ける。
じっと耳を澄ませ、鳴海歩は静かに同意した。
「……おれもほしいよ。すべてを覆す強い力が」
どこかで赤い卵が、鳴いた気がした。
支援
ない、なんて言えるわけなかった。
駆けながら左手で肘を支える。ひょうの突き刺さった箇所がじくじくと痛む。
言えるわけがなかった、月をうがつこの腕で、誰も殺したことがないなどと。
――ジュライ、7大都市ジュライ。
右手のうずきは当時第二の規模を誇った都市の様相を記憶の底から広げてみせる。
ヴァッシュの持つもっとも強い痛みから、優しかった人々の顔と銃を握る一人の男を呼び覚ます。
ナイブズの私兵、GUNG-HO-GUNSの6。
彼は、ホッパード・ザ・ガントレットと名乗った。
本名は知らない。彼がジュライに置いてきた。ヴァッシュが消し飛ばしてしまった。
ヴァッシュを斃せればどうなろうと構わない、それ以外に生きる理由などない――彼の魂の慟哭を忘れるわけがない。
彼が彼の人間らしい真心に蓋をして、レガートの指示のもと多くの命に手をかけたなら、それはつまりヴァッシュが殺したのだ。
傷口から次々と思いが溢れてくる。
彼は、ジュライの片隅で女性と暮らしていた。失明し心を病んだ女性だ。
たとえ誰にそしられようと、他人の目にはあまりにもささやかでポケットに入ってしまう大きさに見えようと、彼の懐を暖めるたしかな幸せがそこにあったに違いないのだ。
大事にくるんでいたそれを引きずり出し奪いとったのはヴァッシュ自身だ。
いや、奪ったなんて生易しいものじゃない。えぐりとった、捻り潰した、踏みにじった、なぎ払った、どんな言葉を使っても彼らの苦しみと悲しみを補うことはできない。
彼ら、ジュライにいた全ての人、ジュライの恩恵を受けていた全ての人、ジュライに知己のいるすべての人。
――すまない。
心の中でヴァッシュは強く謝る。
そして、立ち止まった。
ひょうは、バケモノを殺すと言った。すべて始末すると。
この島にいったいどれだけの『人間ではないモノ』がいるかはわからない。
それらがどれだけ善良なのかもわからない。
けれど、それらが何者であろうと対話もなく銃を交えるのは、ヴァッシュのもっとも嫌うところだ。
そんな戦い、ヴァッシュがジュライにしたのとなにもかわらないことになってしまう。
そして、今ひょうをとめなければ、いつか彼は出会ってしまうだろう。
――プラントとの融合を果たしたナイブズに。
ヴァッシュはガントレットの手を思い出す。幸せを掴んでいた手が、銃器に荒れた感触を思い出す。
守りきることもかなわず、その手が力を失っていくあの瞬間を思い出す。
もう二度と、誰もをそんな目に遭わせたくなかった。
たとえその人がヴァッシュの命を狙っていようと、死なせたりはしたくなかった。
何故かと問われたら、彼の名前を覚えてしまった、それだけでヴァッシュには十分すぎる。
愛用の銃を額にあて、祈るように唱えた。
「さあ来い、カード・マスター」
己の存在を訴える一発の銃声が、雲の増えた暗い空に響き渡った。
【H-3/森/1日目 日中】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化3/4進行。右腕にひょうと符が刺さっている。エンジェルアームがやや暴走気味。
[服装]:真紅のコートにサングラス、リヴィオの帽子
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。生き延びて、リヴィオの帽子を持ち帰る。
1:ひょうを力尽くでも止める。
2:ロビンを探したい。
3:ナイブズは一体何を――?
4:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
5:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
[備考]
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。 【G-2/中・高等学校校庭/1日目/昼(放送中)】
※人間にしかひょうを抜くことはできません。
※ヴァッシュに刺さった手製のひょうがひょうに位置を教えています。
【ひょう@うしおととら】
[状態]:健康、やや自暴自棄
[服装]:
[装備]:短刀@ベルセルク、手製のひょう×4、手製の符×20
[道具]:支給品一式(メモを大分消費)、ガッツの甲冑@ベルセルク、パニッシャー(機関銃:90% ロケットランチャー2/2)@トライガン・マキシマム、
手製の遁甲盤、筆と絵の具一式多数、スケッチブック多数、薬や包帯多数、調理室の食塩
四不象(石化)@封神演義
[思考]
基本:やりどころのない憎悪が燻る一方、この世に執着できるほどの気力もない。
0:高町亮子の依頼により、会場の妖(バケモノ)をすべて始末する。
1:ヴァッシュを追う。
2:子供を襲うなら、人間であっても容赦はしない。
3:酒が欲しい。
[備考]
※ガッツの甲冑@ベルセルクは現在鞄と短刀がついたベルトのみ装備。甲冑部分はデイバックの中です。
※時逆に出会い、紅煉を知った直後からの参戦です。
※妲己を白面の者だと考えています。
※パックから幽界、現世、狭間、精神体の話を詳しく聞きました。
精神体になんらかの操作が加えられた可能性を考えています。
肉体が元の世界と同じでない可能性を考えています。
が、特に検証する気はありません。
※龍脈の乱れとその中心が神社であることを感じ取っています。
が、特に調査をする気はありません。
※ヴァッシュを妖怪の一種だと考えています。
※手製のひょうの構成:レガートの単分鎖子ナノ鋼糸、高町亮子の髪の毛、裁ち鋏の刃
※ヴァッシュに刺した手製のひょうが位置を教えています。
【G-2/中・高等学校校庭/1日目/日中】
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、貧血(小)左肩に深い刺創(布で縛って出血を抑えている)
[服装]:月臣学園の制服(血に染まりつつある)
[装備]:小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら、雪輝日記@未来日記
[道具]:支給品一式、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
0:グリフィスを研究所に連れて行き、医療棟を探して自分の肩もろとも治療する。
1:放送の内容を検討する。
2:結崎ひよのに連絡を取り、今後の相談をしたい。
3:少し時間をおいた後、天野雪輝に連絡。
グリフィスが納得する形での協力関係を模索する。
4:島内ネットを用いて情報収集。
5:首輪を外す手段を探しつつ、殺し合いに乗っていない仲間を集める。
6:安藤と東郷が携帯電話を入手したら、密な情報交換を心がける。第三回放送の頃に神社で、場合によっては即座に合流。
7:自分の元の世界での知り合いとの合流。ただし、カノン・ヒルベルトの動向には警戒。
8:『砂漠の星の兄弟(姉妹?)』に留意。
9:『うしおととら』と、彼らへの言伝について考える。
10:神社の本殿の封印が気になる。
11:コピー日記の紛失について苦い思いと疑念。
12:リヴィオや或の死について――?
[備考]
※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
※主催者側に鳴海清隆がいる疑念を深めました。
また、主催者側にアイズ・ラザフォードがいる可能性に気付きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変である事を知りました。
※考察に関しては、第91話【盤上の駒】を参照。
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:ショックによる重度意識障害、疲労(小)、両脚を大腿部から喪失、
全身(特に顔面)に擦過傷(中)、鼻骨粉砕、左手首骨折、左眼球失明、
頸椎捻挫(中)、内臓にダメージ(小)、貧血(大)
応急手当済み
[服装]:血塗れでボロボロの貴族風の服
[装備]:居合番長の刀@金剛番長
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:部下を集め、主催者を打倒する。
0:力がほしい……。
1:ガッツと合流したい。
2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける。
3:役に立ちそうな他の参加者と繋ぎをつけておく。ゆの、沙英、銀時との再合流は状況次第。
4:未知の存在やテクノロジーに興味。
5:ゾッドは何を考えている?
6:あの光景は?
7:鳴海歩へ強い興味。
8:喪失感による強い絶望。
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※沙英、銀時と軽く情報交換しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※風火輪で高空を飛ぶと急激に疲れることに気付きました。
【F-3/森/1日目 日中?】
【胡喜媚@封神演義】
[状態]:時間移動中。疲労(中)、全身に打撲と火傷、ひょうへの恐怖
[服装]:原作終盤の水色のケープ
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:支給品一式 、エタノールの入った一斗缶×2
[思考]
基本方針:???
0:スープーちゃん……。
1:スープ―ちゃんを取り返しっ☆
2:妲己姉様、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
3:復活の玉を探して理緒ちゃんと亮子ちゃんを復活しっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化は可能ですが、時間制限などが加えられている可能性があります。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※第一回放送をまったく聞いていませんでした。
※原型の力が制限されているようです。
※第二回放送をろくに聞いていません。
妲己の名が呼ばれたのは認識していますが、その意味は理解してないようです。
※雉鶏精としての能力により、時間移動が可能です。
時間移動はできても、空間移動はできません。
【パック@ベルセルク】
[状態]:健康、木のうろの中にいる。
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式 不明支給品×2
[思考]
基本:生き残る。
1:ひょうが無茶をしないか気がかり。
2:神社付近を探索したいが、怖いから一人で調べたくない。
[備考]
※浄眼や霊感に関係なくパックが見えます。
※参戦時期は少なくともクリフォトから帰還した後です。
※デイパックの大きさはパックに合わせてあります。中身は不明。
※会場に幽界と近い雰囲気を感じ取っています。
違和感の中心地が神社であると感じています。
※ひょうの仮説(精神体になんらかの操作が加えられ、肉体が元の世界と同じでない可能性)を聞きました。
※高町亮子の髪による簡易結界は、がんばれば自力で破れます。
※F-3/森の一角にひょうの結界が張られています。
人間以外と妖器物に反応します。
投下終了?
しまった、>409で段落替えです。
以上です。支援ありがとう。
コキビの能力がやりすぎだったら殺すので指摘ください。
>407
段落替えのちょうどいい位置に入ってくれましたね。ありがとうね。
投下乙です
やっぱりひょうはヴァッシュに喧嘩売ったか
ああ、これは悲しい出会いだな…
歩は瀕死の鷹さんだけとか怖すぎな状況だな
そして何かフラグ立ったな…
コキビは…他の書き手さんがおk出したらおkかな?
投下乙です
喜媚は何度もコレ出来るようだと殺せなくなると思うけど
疲労中以下じゃないと使えないとかなら問題ないかな?
日にち間違えて予約日数過ぎるとか死にたい
生存者の1/4も予約しておいての無礼、申し訳ありませんでした。
どのくらい出来上がってたのか分からないけど
完成させることはもうできないですかね
他に予約も入ってないし、楽しみにしてたんで
パロロワ辞典の新漫画ロワの項に加筆してみました。
428 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/08(木) 17:24:24 ID:jz5ZHI2G
規制解けたから合いの手入れられるな
ガッツとナイブズか…
そろそろだからワクテカだよ
test
430 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/08(木) 23:51:02 ID:jz5ZHI2G
代理投下します
土を掘り起こす音がする。
何度も何度も繰り返し行われる、単調なテンポ。
ざくり、ざくりと、人間の娘はその体を泥に塗れさせ、その手にいくつも水疱を作りながらもその手を止める事はない。
……俺はその動きを何をするでもなく、座り込んで眺めている。
次第に深まっていく空間に突き刺さるのは、鎌だった。
手持ちに掘削道具なぞあるはずもなく、曲がりなりにも穿孔を行えるものとしてくれてやった。
吹き渡る風は冷たいながらも娘は汗を流している。
動いている限り、熱が失われる事はないだろう。
空を仰ぐ。
一面が灰色の曇り硝子であるかのようだ。
あの砂漠の星では、こんな空を見る事は叶わなかった。
いや――航宙船の中で産声を上げた俺には、全く見た事のない景色ですらある。
皮肉さに頬を歪める。
自由を求めた果てに見るはずだった景色を、絞りカスとなった今の俺が見ているのだ。
仲間たちに見捨てられた、今の俺が。
だが、俺はそれでもあの生き方を――間違いだったと思いたくはないのだ。
この島で今もなお感じ取れる同胞の鼓動。
雲が巻くにつれ、その仲間たちの悲鳴が少しずつ大きくなるのを感じ取る。
……天候の操作でも見せつけて、“神”とやらは己がその呼び名に相応しい事を証明しようとでもいうのか?
成程、神の力として求められる権能としては一番ポピュラーではある。
しかし、天候操作というのは、知識さえあれば存外容易い。
太古の人間が雨乞いと称し火を焚く事で上昇気流による気圧の変化を招来し、
飛行機を発明してからは沃化銀を散布する事で雲の発生を促したように。
が――、それを行う為にはやはりエネルギーや物資、相応の機材が必要となる。
ならば、同胞がそれに組み込まれている可能性は、極めて高い。
……己の力を示すためだけの戯れにしては、少々俺を舐めすぎだ。
沸々と臓腑の底に湧き上がる赤が、俺を奮わせる。
搾取した我等の命をこんな事に使うとは、な。
握った拳に力が入る。
……だが、お巫山戯と断じるのは早計だ。
何か意図を持って天候を操作するのだとしたら、見落としがあっては不要に同胞を危険に曝す。
ならばこの下らん催事について、今の内に少し俺なりの推測を固めておくのも有意か。
何のために天候を操作し、それをわざわざ放送で告知するのか。
考えられる可能性は、2つ。
一つは、悪天候下で参加者の集中力や移動力を削ぐこと。
もう一つは、この催事の最終的な目的に何らかの形で寄与すること。
前者は要するに、殺し合いの促進だ。
移動力を削がれることから参加者に無秩序に動き回られては困るのだろうという推測が成り立つ。
禁止エリアの設置と複合させ、一定範囲内での殺し合いを促進させるつもりか。
禁止エリアの存在は、おそらく通行を分断し、人の動きを誘導させるためにある。
つまり禁止エリアの近隣には、多くの参加者が存在していると見て間違いない。
たとえば今回の放送で設置された、俺に最も近い位置にある禁止エリア。
ここを前回の放送で告知された禁止エリアと組み合わせる事で、島内の右下を囲い込む様になっている。
……おそらく、この区画はこれからも激戦地になるだろう。
もしヴァッシュがこの右下エリアにいないのなら、それは俺にとってあまりに余計な徒労となる。
幸い、時間の猶予はある。
早々に近辺の捜索を終え、ヴァッシュの痕跡が見つからなければ離脱すべきか。
奴を探すならば、残る2か所の禁止エリアの近辺に着目すべきかもしれない。
――最初の放送の女の告げた言葉の意味は、こういう事だろう。
口車に乗る様で僅かに癇に障るが、それ以上の見返りは確かに得ているのも事実だ。
もしあの女が人間だったとしても――、
「……いや、考えるだけ無駄だな」
例の女の放送に比べ、先刻の放送で得られたものは極めて少ない。
死者と禁止エリアの所在以外は、天候の変化を意識しろとの言動、それに疑心暗鬼を促す挑発だけだ。
殺し合いの促進目的であろう挑発はさて置き、天候操作に何らかの意味を見出そうとするのは、催事との因果をいぶかしむのは穿ち過ぎか?
……視点を切り替えよう。
天候操作から目的を演繹しようとするのではなく、目的を類推し、帰納的に天候操作の意義を探る。
この殺し合いの目的は何か。
推測でしかないが、俺には薄らと輪郭が見え始めてきていた。
端的に言えば、だが。
この催事は、殺し合いという過程を踏まえる事で――“何か”を生み出そうとしているのではないかと、俺は考える。
発端となったのは、あの研究所で得た“錬金術”の知識だ。
動物と人間の掛け合わせ――合成獣。
賢者の石。
ホムンクルス。
例の出来損ないの肉人形。
……“持っていく”ことと“持ってくる”ことのできる俺たちプラントでさえ、既存の生命の形をそのままコピーする事しかできない。
この世には存在しない“異形の生命”を、生み出す事など出来はしないのだ。
既存のモノとまったく異なる形の命を生み出せるという事は、命を知識として得ていなければならない。
そして命とは、ブラックボックスたる反応系の塊で構築されている。
複雑系、非線形、カオス理論。一般科学を踏み越えた領域。
ありとあらゆる因果の糸が密接に絡み合った、命という形の複雑系システム。
それらが更に互いに干渉し合う事で生態系となり、生態系は星の循環系に帰属する。
星の循環系は巨大なテクトニクスによって表され、その根源は恒星を中心とした星系の起源にまで行き着くのだ。
星系の起源は銀河の成り立ちに、銀河の成り立ちは宇宙の誕生に。
俺の知識は断片的なものでしかないが、命すら内包する複雑系の行き着くところにあるものは十分に想像がつく。
……全ての智、“真理”。
あるいは、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”と言い換えてもいい。
それを掌握したものは、全知者、あるいは全能者と呼ばれる。
即ち――“神”。
以前の俺ならば、そんなお伽噺を鼻で笑ったろう。
だが、“全宇宙の記録”の実在を、俺は間接的にではあるが知ってしまっている。
ボイスレコーダーに記された未来の記述。
超高精度の予測機能を以ってすれば確かに実現は可能かもしれない。
しかしそれは、ラプラスの魔に匹敵する量子コンピュータでもなければ有り得ない機能だ。
そんなモノが存在するならば、それは“全宇宙の記録”と呼んでも差し支えあるまい。
そして“神”は――間違いなく、それを弄ぶ事の出来る存在なのだ。
驕り故の僭称かと思っていたが、どうやら名乗りに相応しい権能の持ち主である事は間違いないだろう。
しかし、“全宇宙の記録”すら従える“神”が、この期に及んで何を求めると言うのか?
決まっている。
『“全宇宙の記録”にすら存在しない何か』だ。
何もかもを容易く知り、全てを思い通りに動かせる……、いや、違うな。
望まずとも何もかもを知ってしまい、全てが勝手に自分の思い通りに動いてしまう。
“全宇宙の記録”を掌握するとは、そういう事だ。
その様な生は退屈極まることだろう。
そして、“全宇宙の記録”には、世界の全ての情報が収まっている。
逆に言えば、世界の法則や因果から抜け出る事は叶わない。
物事の避けえぬ終わり――エントロピーの増大による宇宙の死などは、知ってもどうにもならないはずだ。
たとえ“全宇宙の記録”を掌握したとて、あくまでも『世界の枠組みの許す限りにおいて全能』でしかない。
生み出したモノで何をしようとしているのかは、未だ分からない。
不可避の滅亡からの衆生の救済か、暇潰しの単純な娯楽か、はたまた自己の終焉か。
だが、間違いなく“神”は、これまでの世界には存在しない『何か』を求めているはずなのだ。
また、“全宇宙の記録”の存在から、次のような仮説が成り立つ。
この殺し合いの参加者は、複数の世界から招かれている。
その中には例えばそこで穴を掘っている娘のような、何の力もない人間さえ存在する。
何故、そんな一見役に立ちそうもない連中もここに寄せ集められたのか。
――答えは簡単だ。
世界は無数に存在する。ならば、“全宇宙の記録”も世界の数だけ存在する。
それらの全てを“神”が掌握できているとは考えにくい。
何故なら無限にも等しい世界のどれかには、“神”の求める『何か』が存在しているであろうからだ。
にもかかわらず、”神”は、わざわざ殺し合いなどを開き、何事かを為そうとしている。
つまり“神”が“全宇宙の記録”を掌握した世界は、数える事が出来る程度のものなのだろう。
それも、『何か』の存在しない世界ばかりを、だ。
だから“神”は、“全宇宙の記録”を掌握した世界の生命――自分の意のままに動かす事の出来る駒を用い、
何らかの手段により世界の枠組みを超えようとしているのだ。
殺し合いはその一部でしかない。
そここそが俺は好機と考える。
“神”には確かに、世界の枠内に収まる力は届かないだろう。
これは“神”が“全宇宙の記録”を掌握していると考えるならば自明の理だ。
だが、『世界の枠組みを超えた力』なら話は別だ。刃を届かせることが可能となる。
奴の求める力を逆に利用してやる事で、その身を斬り刻んでくれる。
あるいはこの俺の力――俺達の『プラント』の力ならば、回りくどい事をせずとも首を取れるかもしれない。
“持っていく”力。
俺達という個の生命こそひとつの世界の枠組みに収まるが、この力は世界の壁すら穿ち繋がる。
絶対、とは言い切れないが、試してみる価値はあるだろう。
……だが。
ここまで考え、思う。
「……ますます解せんな。錬金術の知識やボイスレコーダーは、何のために、誰によって、配置されていた?」
そして――、俺がこのような思考に至った事すら、恣意的なバイアスが感じられてやまない。
『螺旋楽譜』の主の言葉が、俺の意識に棘となり、刺さる。
『この程度の事は、最初っから仕組まれてる茶番に過ぎない。
全ての情報、全ての虚実、全ての状況は、そう推測できるように敢えて配置されているだけだろう』
『与えられた情報で辿り着ける真実なんて、更なる真実を覆う殻に過ぎないんだ。
そしてその殻は、マトリョーシカのように何重もの入れ子になっている』
『それらが全て、誰かの手で踊らされているだけである事を心に刻め。
そういう事すら可能にしかねない人間を、俺は知っている』
記憶の改竄、あるいは意識誘導か?
可能性は否定できない。
“全宇宙の記録”を掌握したならば、そこから記憶や意識すら弄ぶ術を得ていても不思議ではない。
そこには個人の記憶や意識さえ含む、宇宙誕生からの全ての情報が刻まれているのだから。
俺やヴァッシュの『世界の枠組みを超えかねない力』を、“神”と対面したその時に振るわせたいのだとしたら。
俺達の力を引き金として、奴は目的を果たす事を目論んでいるかもしれない。
利用してやるつもりが最初から掌の上で踊らされていただけ、などと言う結末は笑い話にもならん。
考え過ぎというのは楽観論だ。
事実、“全宇宙の記録”などという突拍子もない可能性を俺は自然に想定してしまっている。
先に考えた事は、全て妄想と言っても過言でしかない代物なのだ。
なのに何故か――それを信じ込んでしまいそうになる俺がいる。
“神”への対応策を想定しながら、その策を妄想と断じるのは本末転倒とも言える。
だが、この姿勢こそが今必要な事だろう。
妄想と疑いながらも、最悪と考えた可能性より更に絶望的な事実を突き詰めていくことが。
つまりそれは、前提条件の破棄。
“神”が“全宇宙の記録”を掌握した存在であるという仮定を修正する。
……本当に“神”とは、“全宇宙の記録”を掌握した『だけ』の人間なのか?
『世界の枠組みを超えた力』を届かせるだけで、本当に“神”を粛正する事が出来るのか?
理由も理屈もない。
俺の勘は、その可能性を絶対と言えるほどに否定していた。
“神”は、たったこれだけの情報で全容を掴める存在ではないと、強い警告が頭の中で鳴り響いている。
真実の一端を剥がし落とす事は出来たかもしれない。だが、それだけだ。
……気は進まないし、今更どんな顔で人間と接すればいいのかも分からない。
しかしそれでも俺は、おそらく人間なのであろう『螺旋楽譜』の管理者と会う必要がある。
少なくともそいつは俺の推測未満の妄想に足りないピースを持っているのは間違いない。
異なる世界の情報を少しでも掻き集め、パズルのような虫食いを補完していかねばならないのだ。
ただ、『螺旋楽譜』の管理者を確実に動かせるほどの証拠がない。
何か証拠さえあれば、すぐにでも連絡を入れるのだが。
大きく、しかし娘に気付かれぬよう息を吐き出す。
天候操作に考えを戻そう。
“神”の目的が『何か』を生み出すことという妄想が真実であるとして、天候操作はどんな意味を持つか。
錬金術とやらは意匠と図形の配置に大きな意味を見出すらしいが、だとするならその辺りに関与している可能性はある。
あるいは、天候操作は副次的な産物なのかもしれない。
それならば、島全体を冷却する事に意味がある場合、海流を操作した事で結果的に気流に影響が生じた場合などが考えられる。
……だが、放送ではわざわざ天候に触れていた事実が気にかかる。
そんな事をせずとも、いずれ時を待てば直面するであろう現象なのに、だ。
そうする必要があった、という事は。
天候操作そのものは、意識を逸らす為の囮に過ぎないのではないだろうか。
安直だが、天と正対する語句と言えば、地となるだろう。
――地下。
あの研究所の存在により、地下に施設がある可能性は非常に高い事を俺は知っている。
地下で何かをやらかす為に、そこから意識を逸らしたいのかもしれない。
地下区画、か。
よもやとは思うが、“神”の陣営は地下に巣食っているのだろうか?
ならばまるで天国ではなく地獄だな。
あの娘が掘り続けた先に、“神”がおわす、か。
下らん。いくら待っても届くはずがない。
娘の背を眺めているだけでは何も変わらない。
――何をやっている。
斯様な所で無為に時間を使うくらいならば、他にやれることでもあるだろうに。
何故、俺は座り込んでいる?
これではまるで――あの娘の事を待っているかのようだ。
その愚行が終わるのを、見届けんとでもするのか。
……馬鹿馬鹿しい。
俺はただ、考えを纏めたかっただけだ。
ヴァッシュを探すだけで無為に歩き続けるのも嫌気が差した。
あの巨大映像の所在地で発生した爆発より、少し時を置き過ぎたか。
ヴァッシュがあそこにいたとしても、もう離れてしまっている可能性も高い。
……それよりも崩壊した百貨店の方に向かうべきかもしれん。
娘は一心不乱に土を弄り続けている。
この分ならば背後に気を使ってもいないだろう。
騒々しい事態に煩わされることもなく、俺がこの場を立ち去る事も実に容易い。
目を眇めると、俺は立ち上がり背を翻す。
……全く、時間を無駄にした。
そのまま――振り向く事もなく歩き続ける。
***************
「……こんなものか」
最初からこうしていれば良かったのだと今更ながらに思う。
一々埋葬などに付き合う義理などない。
俺は俺でやるべき事が多々あるのだ、人間の都合になぞ構っていられるものか。
向かう先は、百貨店。
ヴァッシュならば怪我人の救助でも行っているだろうと、道すがら付近の家や商店から適当な道具を回収しつつ進むも――、
遠目からでも分かる、百貨店の近隣にはヴァッシュの姿は見られない。
立体映像の所在地での爆発からの時間を考えると、そちらでも事態はとうに終息していると見るのが妥当。
にも拘らず此処に姿が見えないという事は、この近隣にはいない可能性が高い。
……溜息吐く先に見えるもの一つ。
蠢く影は見紛うことなき、趙公明だった。
何をしているかは知らんが――、ここで見逃す手は有り得ん。
ギリ、と金糸雀を握り締める。
姿勢を低く、意識を集中。気付かれぬうちの“星雲”にて一撃で仕留める。
今まさに駆け始めんとした、まさにその時。
「おい」
――あからさまな敵意をこの身に受ける。
やれやれ、だ。
近づかねば放置するつもりだったのだがな。
得物はパニッシャーさえ上回る巨大さの代物だが、その気配は紛れもなく人間。
GUNG-HO-GUNSに匹敵する魔人の類か。
俺に敵意を向けるとは、余程死にたいと見える。
首だけを曲げ、背後を認識。
「動くな、一言答えさえすりゃそれでいい」
数歩後ろに立った巨躯の男は、分厚く馬鹿でかい鉄の塊を肩に乗せて問うた。
……飾りではないだろう。その気になればいつでも振り降ろす事が出来ると目が語る。
何が目的だ?
事によれば、その丸太を動かす前に首を撥ねるが。
「……このすぐ近くにな、十と幾つかの女のガキがいた。
テメェはそいつを知ってるか?」
……僅かな驚きに目を細める。
あの場所に置いてきた娘の事か?
もう知己も碌に残っていないなどと口にしていたが、この男はあの娘の縁者なのか。
――ならば、答えは一つだ。
振り向かぬまま告げる。
「人間の顔など一々覚えていないな」
「そうかよ」
轟音と共に鉄塊が地にめり込む。
だが、無意味だ。
あの姿勢から振り下ろしたのならば、軌道の予測は容易い。
如何に疾く、重かろうと、道程が分かるならば何の脅威とも成り得ない。
改めて男と対峙する。
向かい合い、目を合わせて告げた。
「――女が欲しければ好きに持っていけばいい。
同じ人間同士、群れているのがあるべき姿だろう」
……この男は何故俺に敵意を向ける。
あの娘と共に行動した事への妬み……か?
あるいは、娘の見苦しい姿にでも怒りを得たか。
知らぬと答えてやったのだから、素直にそれを享受すべきだろうに。
……俺と共にいたことをなかったことにできるのだから。
だが――、
「あん?」
男は、言った。
「何言ってやがる。死体なんざとどうやってお喋りしろってんだ」
「……なに」
どうしてか――、
どうしてか、ほんの少しだけ反応が遅れる。
内心、自分に舌打ちをした。
別にどこで野垂れ死のうが構わないだろうに、俺は何をやっている。
それでも口が、意とは別に動いた。
「あの娘が、か?」
男の瞳に籠った敵意が、殺意と成り代わった。
燻っていた炎が黒く燃え上がる。
……面倒な事になった。
「ボロを出したな。……何故嘘を吐きやがった」
……俺が焦るとは。本当に調子が悪い。
だが、あの娘が死んだというのは……ブラフか?
俺にあの娘と面識があるという言質を取るための。
それとも――本当に、先刻からの僅かばかりの時間に死んだのか。
確かめようとして、それを投げ捨てる。
……気にする事ではない。
そんな事よりも、この男をどうにかする事を優先せねば。
俺の力が残り少ない今、屈辱ではあるが不要な小競り合いは避けねばならないのだから。
男の問いには偽るまでもない。端的な理由だけを口にする。
「邪魔でしかないと思ったからな」
この男とあの娘が知己であるというのならば。
俺にとってもあの娘にとっても、一時なりとも共に行動したという事実は枷にしかならないだろう。
……俺はかつて人間を殺戮し、そしてあの娘は俺達を搾取した人間だ。
結局、相容れる事などない。
ならば、……収まるべき所に戻すだけ。
だからここで、敢えて確認を投げかける。
「貴様はあの娘の何だ?」
「“仲間”が火達磨になったんならな、黙って見てろってのは無理な相談だろ」
……そうか、と頷く。
成程、あの千切れ飛んだ服の残骸でも見たか。
ならば話は早い。
「……なら、貴様がその手で守ってやれば済む話だったろう」
俺になど付いて来させずに、早々に貴様はあの娘を捜し出すべきだったのだ。
少しばかりの苛立ちを感じながら男を突き放す。
それが叶わなかったからこそ今更出てきたのだ、と分かっていながら――、口にせざるを得なかった。
……本当にお節介になったものだ。
奴と俺は双子なのだから、意外に似た所があるのは不自然ではないのかもしれないが。
「……どの口使ってやがる。どうやら躊躇う必要はねえらしい」
言葉と共に、大剣の一閃が風を巻き起こす。
横薙ぎのそれを、跳躍回避。同時に余計な荷物を脇へと投げる。
だがそこで終らない。
男は勢いを殺しながら剣を退いていき、流れるようにこちらに踏み込む。
突き。
……凄まじい膂力だ。
加えて、技術も申し分ない。
が。
「万全の状態ならともかく、今の貴様では俺は倒せん」
単純に、遅い。
疲労が激しいのが見て取れる。
しかしなお男は攻める。
……面倒だが、あの娘の姿を見たのなら怒り狂う理屈は理解できる。
とりあえず受けてやる責はあるか。
それでも殺してしまうのは、いささか気に乗らないが。
「さっきみたいに姿は消さねえのか」
ぽつりと男が呟く。
……言葉の意味が理解できない。
言葉と同時の何度目かの振り降ろしを、金糸雀の柄尻を撃ち付け真横に弾き飛ばす。
剣を打った反動を回転力と変え、そのまま一転。
片刃で撫で斬る。
「断ち割れ」
狙うはその左手の義手。
動きに不自然さの際立つそれを落とせば、少しは状態の悪さに気づくだろう。
が、
「見えてんだよ」
「……なに?」
当たった。
だが――斬れんだと?
五指を開いて掴み取ったその先に、金糸雀が全く進まない。
弾き返された衝撃すらない。
おかしい。
これは、普通の現象ではない。
疑問と間断ない判断で金糸雀を手放し身を逸らすと同時。
「“衝撃貝(インパクトダイアル)”――つったか」
宙に浮いたままの金糸雀が、真っ二つに折れた。
否、割られた。
衝撃の吸収と放出か……!?
「ちぃ……!」
――拙い。
武器を失った。
もう一つ持っていた鎌も、今はあの娘が穴掘りに使っている。
片手で男が鉄塊を振りかぶる。
この一撃限りの回避は可能。しかし、どこまで此方が耐えられる?
否――何処まで“殺さずに”いられる!?
この場を処理するのは簡単だ、プラントの力を解放すればいい。
殺せばいいだけだ、あの娘の知己かもしれないこの男を。
鎌をあの娘に渡した事に後悔はない。
だが、その結果としてこの男の死体をあの娘に埋葬させては、本末転倒ではないか。
……その剣を、これ以上振るうな。
俺に貴様を殺させるな。
まるで弟の様な心の内での呟きに反して、男はこれまでで最速最強の勢いで大剣を落とす。
俺の手は、力を解き放つために解け始め――、
「わぁぁあああぁぁああぁあああああぁぁぁーっ! こっち向いてぇええぇえぇー!」
唐突に割り込んできたやかましい声に、俺と男の動きが同時に停止する。
そして、動き始めたのは明確に俺の方が早かった。
半分になった金糸雀の片割れを掴み取り、踏み込む。
そのまま男の胸に刃を突き付けた。
――男はもう動かない。
……やれやれ。
こんな形で借りを作るとはな。
「良か……ったぁ、ナイブズ……さんに、追い……付いて……っ。
この人の、隙……作らなくちゃ、って、思って……」
駆け寄ってきた娘に気付かれない程度に、嘆息する。
荒げている息が耳に付く。少しくらい静かにできないのだろうか。
「……女連れだったのかよ」
ぽつりと。
呆れるように、自嘲するように、男の声が耳に届く。
「テメェの言ってたあの娘って、そいつの事か?」
……その言葉にはこれまでには感じられなかった穏やかさと、どうしてか――羨望のようなものが見て取れた。
「…………」
返事は、敢えてしなかった。
もう互いに察しているのだろう。
俺の方が早く動き始められた理由を理解する。
この男はあの娘とは無関係で――、それ故に初めて聞く声に反応が遅れたという事か。
「――すまねぇ、人違いだったみてえだな。こっちの『女のガキ』ってのはその嬢ちゃんとは別人だ。
見えねえ敵に殺られた。
……俺の目の前でな」
男の言葉にどう反応していいものか分からない。
双方ともに酷い勘違いをしていたものだ。
苦笑より先に、己の馬鹿さ加減に頭が痛くなる。
言葉が全く足りていなかったという事か。
……人間相手の接触の仕方など、何処かに置き忘れてきたからな。
どうしても人間と交流しなければいけない現状、次回があるならもっと口を動かすべきか。
「詫びだ。受け取ってくれ」
何かごそごそとやっていたかと思うと、不意に男が放り投げて来たのは支給された鞄だった。
「何だ、これは」
……どうしろと。
俺にももう敵対の意思はないが、しかし受け取れと言われて素直にはいと言える気質でもない。
立ち塞がるものを皆斬り捨ててきたからか、和解などという選択肢にも慣れていない。
「代わりの武器と薬だ。壊しちまったその剣を弁償したと思ってくれていい。
……ついでに、聞きてえ事があるなら答えられる限りは答える。
何かあるか?」
施されたようでいい気分でない事は確かだ。
とはいえ――、手持ちの武器を失ったのは確かに痛手か。
仕方なしに中を開いて確認する。
出てきたものは三つ。
薬らしき粉末を入れた袋と、炸裂弾と思しき物体。
そして最後の一つを手に取り、おもむろに振る。
と、地面に複数の亀裂が走った。
――悪くない。
それだけを手に取り、残りをいつの間にか俺の服の裾を握っていた娘に投げる。
「お前が持っていろ」
「え、あ、わ、いいのかな……」
わたわたと取り乱し、土で汚れたそれを抱え込むのを見届ける。
その折、一つ思い出すものがあった。
少し離れた所に落ちたそれを回収して、娘の目の前に置く。
「……これもだ。見苦しいものを隠せ」
それは、先刻百貨店に向かう前に見繕ってきたものだ。
どうやらヴァッシュからの汚染が重度になってきたらしく、
そこにはスコップと――適当に拾った服とがまとめられている。
どうやらもう、スコップは必要ないようだが。
「み、見苦しいって……、女のコに失礼なんじゃないかな」
娘が俯く。
体を震わせて、ぼそぼそという呟きが耳に届く。
「でも、その……、わざわざ探してくれてたんだよ、ね? これから冷えるし……。
あはは……置いてかれちゃったのかなって、迷惑だったのかなって思っちゃったん……だけ、ど。
あ、ありがとう……」
先細る声の為に後半部分は良く聞こえない。
そんな事よりも、……どうしたものか。
いきなり、泣き始めるとは。
「ふ、ふぇえぇぇええぇえ……!」
――本当、どうしたものか。
頭痛がする。150年の経験が全く役に立たん。
無視する事に決め、苛立つ笑みを口端に浮かべていた男に訊くべき事を訊く。
「……ヴァッシュ・ザ・スタンピードという男を知っているか?
馬鹿馬鹿しい程の平和主義者だ」
顔を引き締めた男はしかし、俺の望まぬ答えを返す。
……まあ、期待などしていなかったがな。
「すまんな……、聞き覚えがねえ。
だが、言伝くらいは出来る。特徴とかあるか?」
考える。が、言葉が出てこない。
……幾度自問しただろうか。
今更、ヴァッシュの前に出て何を口にすればいいと。
……わだかまるものがある以上、何がしかをしたくはあるのだろうと自己分析はできている。
が、それをどう言語化すればいいのか……、俺に答えを出す事は出来ないのかもしれない。
だが、さりとてそれを教えてくるような存在がいるはずもあるまい。
俺を理解した上で道を正すような存在など、おそらくこれからも現れる事はないのだから。
レムを手にかけた時から、きっと。
「――『競技場に向かう。趙公明に一人で挑むな』と」
ただ――それだけを告げる。
これからどちらに向かうか、指針となるようなモノはあの道化くらいしか思い浮かばなかった。
「了解だ。……他は?」
首を振る。
「任せた」
……よもや俺が、人間にこんな言葉を吐く事があるとは。
男はかぶりを振り、こちらを見据える。
「……そういや名乗ってなかったな。ガッツだ。
俺からも聞いていいか?」
頷き、自分と娘も名を口にする。
それを確認すると、男はいくつかの特徴を挙げた。
が、該当するような心当たりはない。
「名前は――グリフィスだ。
……その顔じゃ知らねぇらしいな」
ああ、と返すと落胆が男の顔に浮かぶ。
ガリガリと頭を掻くと、次いで男はこう告げた。
「もし出くわしたんならこう伝えてくれ。
『必ずテメェに食らいついてやる。競技場に来やがれ』、だ」
ふむ。
……魂胆が見えた。それならばこちらも仔細はない。
「お前らの真似をする訳じゃないが、広くて視界のいい場所がそこくらいしかなさそうだからな。
……それに、もしそこでお前らともう一度会ったんなら情報交換もしやすくなるだろ」
男が想定通りの内容を口にする。
成程、グリフィスとやらはこの男の敵対者か。
別に言伝など引き受ける義務もないが、心に留め置くくらいはしておこう。
自分の反応を確認すると、男はゆらりと背を向ける。
「……パックって虫みてえなちっこいのを見つけたら捕まえとけ。
さっき渡した薬を補給できる」
それだけ告げると、捨て台詞を残して男は歩き始めた。
「テメェの女なら大事にしてやれ」
……世迷言を残して。
「あ、あわっ! あわわ……っ、そ、そんなんじゃないよ!?
わ、私が勝手に付いてきてるだけで……。死にたくないから、ナイブズさん強いから……」
泡を吹いて赤くなる娘が騒々しい。
一々そんな瑣事に煩わされるとは。
視線で娘を黙らせる。
「……沸いているのか?」
「ひどっ!」
あらぬ疑いを掛けられたならば斬って捨てればいいだけだろうに。
「てっきりあんたらはそうだと思ってたんだがな、まあいい」
……下らん漫才をしている間に、男の声は小さくなっている。
聞き取りにくくなるその言葉の続きは、俺にはこう言っているように思えた。
「――話し相手がいるだけで、旅は大分違うさ。
自分を嫌わず、向き合って話せる女なら尚更な……」
***************
男が去り、娘は着替えに物影に隠れた。
趙公明の姿も、もう見えない。
その時間を用いて端末から電脳世界の動向を確認する。
ただ、探偵日記と螺旋楽譜に更新はない。
掲示板に新たな情報がいくつか加えられていただけだ。
×印の髪飾りの娘に妲己、キンブリー。
警戒対象として複数回挙がる名前。
全てを信じる訳にはいかんが、警戒しておいて損はなかろう。
……妲己は死んだとの話だが、ヴァッシュの名を知っていたらしい。
何か吹き込んでいなければいいのだが。
……奴は本当に、信じる事しか知らないのだから。
心が逸る。だが、客観的に俯瞰する事を心がける。
……俺以外にも参加者が異なる時間、並行世界から呼び寄せられている可能性に気付いていたものがいた。
ここにいるヴァッシュは、果たしていつの時間から来たのか。
もし決着がつく前のヴァッシュならば――今の俺にどんな言葉を投げかけるのか。
それを聞くのが、……ああ、正直に認めよう。
聞くのが、俺は怖い。
だが、足踏みをしている事に何ら意味はない。
今はすべき事を見落とさぬようにしなくては。
他に着目すべき情報としては、ワープスポットと錬金術師へのアクセス方法についてか。
だが、双方ともに今すぐ使える情報ではない。
ワープスポットは所在が不明である以上使い物にならん。
錬金術師へのアクセスは……、仮説の検証をする為に行っておきたいところではあるが、
接触した事のない俺がメールを送っても、まずまともに取り合ってはもらえまい。
……何か斬り込める材料があるならば、錬金術師と情報交換を行えるのだが。
いずれそれを手に入れるまで、保留……といったところか。
掲示板以外では、天候の情報にも更新があった。
18:00〜24:00:みぞれ(大雨・雷注意報)
らしい。
そして、情報の海の中に強い憤りを覚えるものが、ひとつ。
「……俺の名を騙るか。度し難い愚物がいたものだ」
『私はこれから死ぬけれど、沖田総悟とミリオンズ・ナイブズと名乗る人たちに気をつけて。
人当たりのいい若い男と、小柄な十代の少年に』
……この情報が確かな場合、小柄な十代の少年とやらは俺の名を使っている。
確かでない場合は、この情報の持ち主自体が信用ならん。
いずれにせよ、どんな理由で俺の名を使うのか。
復讐なら――まだいい。安らかに殺してやる。
だが、そこに理由がないとするならば。
……これから向かう地獄が生温く思える程度の歓迎をしてやろう。
IDからして、発信場所はあの研究所か。
書き込んだ内容からして、どちらの内容にせよ俺の名を騙る輩はそこにいる。
……制裁に向かうか?
この近辺にヴァッシュのいない可能性が高い以上、そろそろ別の目的地を決める必要がある。
ならば、趙公明を捨て置かないであろうヴァッシュを競技場で待つべきかもしれない。
さて、どうする。
趙公明の言葉通りに真っ直ぐ競技場に向かうか、それとも研究所へ――、
その瞬間、俺の体を構成する全ての物質が感覚器となって察知した。
どんなに僅かな反応でも、それを見落とすはずなどないと。
目を見開く。
……向かうべき先は、決まった。
折も良く、娘が戻ってくる。
あまり時間を無駄にしたくはない。
「そういえばナイブズさん、これ、ナギちゃんの……、」
あの娘の持ち物、か。検分は後でもいい。
「え? あ、わ、わぁっ!」
故に、無言で脇に娘を抱え――、
「急ぐぞ」
走る。
方角と距離は全霊をかけて覚えた。
向かうべきは禁止エリアに指定された中学校、高等学校近辺。
来た道を逆戻りする結果だ。
こちらの方角に向かったのは、結局は徒労だったか。
そこに――ヴァッシュはいる。
そしておそらく、ほんの僅かでもプラントとしての自分を解放せざるを得なくなっている。
以前ヴァッシュが力を解放した時には、心構えができていなかったからこそ記憶する事を忘れてしまった。
だが、今度こそは間違えない。
「あ、あの……」
腕の中の娘が蠢く。
……そういえば、先刻はこの娘は実に無謀をしたものだ。
「……自分の力量を弁えろ。
お前が戦場で出来る事などたかが知れている」
……言葉が口から漏れる。
原因は――感傷か。
俺にはおそらく最も似合わない単語だが、しかし止める気は全くしなかった。
『5 名前:Legato Bluesummers 投稿日:1日目・午前 ID:NaiToYshR
ナイブズ様がつい先ほどまでここにいらっしゃったことをこの肌で感じています……!
僕に忠誠を示す機会をお与え下さい。
すぐにでもナイブズ様の下へ馳せ参じ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードをはじめとする御身の敵を必ずや葬って御覧にいれます。』
……放送を聞いてから、ずっと意識しないよう努めていた事に。
情報の海を覗いたことで、俺は突きつけられざるを得なかった。
「だが――、」
貴様は、あの男ではない。
あの男のようにどこまでも愚直に俺に尽くし、俺の為だけに力を磨き抜いた忠臣ではない。
だからきっと、これはお前を奴に見立てた感傷なのだ。
「結果的には、お前の行動で面倒を避けられたな」
――だから、俺の言葉で照れてくれるな。
返答に詰まって俯くな。
この言葉はお前を通り越して、あの男に向かっているのだから。
レガート・ブルーサマーズ。
俺が去ってすぐ後に研究所に訪れ――、
そして、先の放送の前に死んだ男。
……そうだ。
俺がずっと調子を狂わせていたのは、あの男の二度目の死に存外動揺していたからだろう。
何か報いてやるべきだったかとそんな事だけを思い、この娘をあの男の代わりにしていると。
頬に冷たいものが当たる。
俺の体温で融け、まるで涙のように水が滑り落ちていく。
急いでいたはずなのに、ふと、俺は立ち止まっていた。
しんしんと降り積もる、白い水の結晶。
「……これは」
ただ心のままに、空を仰ぐ。
灰色に埋め尽くされた天井から、羽のように舞い降りるもの。
どうしてか、俺は呟かざるを得ない。
「あの星には、こんなものはなかったな……」
冷え込む空気の中で唯一の温度を感じさせる、腕の中の娘がこちらを見上げた。
「ナイブズさんは、雪を見た事がないんですか?」
俺は、答えない。
あの、真夏の青い空は――もう見えなかった。
あの男の死と入れ替わるように、俺にとって初めての冬が訪れる。
何処へともなく、俺は口にした。
「苦労をかけた。……休め」
【H-06/森の入口/1日目/日中〜午後】
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行、身体の各所に切り傷。
[服装]:普段着
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:支給品一式×2、正義日記@未来日記、
秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)、折れた金糸雀@金剛番長、
ナギの荷物(未確認:支給品一式×7、ノートパソコン@現実、特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、
木刀正宗@ハヤテのごとく!、イングラムM10(13/32)@現実、
トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、
不明支給品×2(一つは武器ではない)
旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、
アルフォンスの残骸×3、工具数種)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:レガートに対し形容し難い思い。
1:ヴァッシュの気配を追い、中学校・高等学校方面へ向かう。
2:後ほどナギの支給品を確認。用途を考える。
3:ヴァッシュの足跡が一向に掴めないならば競技場に向かい、待つ。
4:首輪の解除を進める。
5:搾取されている同胞を解放する。
6:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
9:次に趙公明に会ったら殺す。
10:自分の名を騙った者、あるいはその偽情報を広めた者を粛正する。
11:交渉材料を手に入れたならば螺旋楽譜の管理人や錬金術師と接触。仮説を検証する。
12:グリフィスとやらに出会ったなら、ガッツの伝言を教えてもいい。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約3回)が限界です。
出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※日中時点での探偵日記及び螺旋楽譜、みんなのしたら場に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
また、“神”が“全宇宙の記録(アカシックレコード)”を掌握しただけの存在ではないと仮定しています。
※“神”の目的が、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”にも存在しない何かを生み出すことと推測しました。
しかしそれ以外に何かがあるとも想定しています。
※天候操作の目的が、地下にある何かの囮ではないかと思考しました。
※自分の記憶や意識が恣意的に操作されている可能性に思い当たっています。
【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:手にいくつかのマメ、血塗れ(乾燥)、無気力、悲しみ
[服装]:???、ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:エレザールの鎌(量産品)@うしおととら
[道具]:スコップ、炸裂弾×1@ベルセルク、妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク
[思考]
基本:死にたくないから、ナイブズについていく。
1:ガッツの言葉と抱き抱えられていることにテンパり。
2:ナイブズに対する畏怖と羨望。少し不思議。
3:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。
4:孤独でいるのが怖い。
[備考]
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。
※どんな服をナイブズが渡したかは後の書き手さんにお任せします。
※天気予報は
18:00〜24:00:みぞれ(大雨・雷注意報)
となっています。
***************
「雪か……」
吐く息が白い。
誰も隣にいない道を、俺は一人歩く。
「こりゃあ、積もるな」
寒い。
体を震わせ、それでもただひた進む。
俺のそばには誰もいない。
死神の如く、関わったものは皆死んでいく。
不死のはずのゾッドさえ、もういない。
「……畜生が」
首筋の、刻印が痛む。
歩き続け向かう先は、大分前にこいつが『何かがある』と教えた場所だった。
地図と照らし合わせてみればそこは工場の辺り。
……そこで、使徒絡みの何かが起こりやがった。
自分から死地に突っ込んでいくなら、それこそ仲間なんぞいない方が気が楽だ。
……ただ。
同じ雪中行軍でも、あの二人旅の時は、確かに少しでも心は温かかった。
柄にもねぇな。
……連中に俺とキャスカを重ねちまったのか?