88 :
創る名無しに見る名無し:
三島 柚子は目を覚ました。
「ぁつ、」
頭が割れるように痛い。その痛みで思い出した。少し前、何者かに襲われ、頭を殴られたのだ。
周りは延々と闇。その何者からに、どこかへ連れてこられたと考えるのが正しいだろう。
「でも、なぜ殺すのではなく捕えたのだろう」
問題はそこだ。
一番に思いつくのは、やはりこの力のことだろう。玉石混淆の能力がある中で、召喚術を使う者は私以外に聞かない。人を傀儡にするような力を持った者もいるようだし、他人の力を吸い取る能力があってもおかしくはない。
しかし、縄できっちりと結んで動けなくしているところを見る限り、私の昼の能力は知らないようだ。
あとは誘拐して身代金目当てという可能性と、体目当て……は、ないか。そうなら既にやられているはずだ。
(アグゼス、起きているか?)
自らに問う。返事はなかった。
つまり、今は朝か昼、ということになる。
「そう上手くは行かないな」
人が近づいてくる気配もない。もう少し休むことにしよう。
89 :
2/3:2010/02/21(日) 22:02:12 ID:Y387RLBC
ガヤガヤと男たちの騒ぐ声で微睡みから覚めた。が、情報収集の可能性のために、もう少しタヌキ寝入り。
「まだ起きねえのか、コイツ」
「フハッ、俺のハンマー様で殴ったからなあ」
「困りましたね。意識がないとオトせないのですが」
声は男3人。口を開いていない人間がいなければ相手は3人。
「意識がないのを起こしてまたオトす?ひゃひゃ、ニドデマじゃねえか」
「そうですね。ですが今回は一手間だけのようですね」
「……気づいていたか」
渋々起き上がり、対面する。手も使わずに起き上がるのは我ながら器用だと思った。
「おはようございます」
「すぐにおやすみなさいだけどなあフハッ」
男が3人。どこかに隠れていなければ相手は3人。真ん中の口調だけは丁寧な男がリーダーか。
「それで。私を捕えた理由を聞かせて貰えるか?」
「理由は簡単。あなたの能力をイタダキに。」
口元を歪めてニヤリ。こんなスッキリした悪人は久しぶりだ。
「それは嫌だから、縄を外して帰らせて貰う」
冗談に聞こえるが、当の本人はいたって真面目である。
「ああ、残念ですね。それは中からは外せません」
「そんなことだろうとは思った」
無駄な努力は省略する。
中からは外せないなら、外からならば簡単に外せるのか?もしそうならコイツらは私の夜の能力を知らないという事になる。
(今起きた。早う呼べ)
唐突に声が聞こえた。
どうするべきか索を必死で練っていたのに、この一声で問題は解決してしまった。
(もう夕方なのか?)
(ああ、たった今陽が落ちた)
まったく。もっとギリギリになってから出てきて欲しい。30分のヒーロードラマで、開始10分で変身してしまうようなものだ。下手をすればCMに入る前に番組が終わってしまう。
「残念だ」
「アァ?」
突然に憐れみの声を上げた私を、3人が怪訝な目で見る。
「何が残念なのですか?」
真ん中の男が、ニヤニヤした表情のまま、口だけは丁寧に尋ねる。
「出会ったばかりだけど、もう別れないといけない。それが残念だ」
アグゼスを3人の後ろに呼ぶ。彼は音も無く現れ、私が決め台詞を何にしようか迷っている間に腕を軽く振った――
90 :
3/3:2010/02/21(日) 22:02:52 ID:Y387RLBC
夕暮れの中をふたりで歩く。
「私は、」
「ん?」
「もっと物語を盛り上げてもいいと思うんだ」
「それはまた贅沢な悩みだ」
「アグゼスはつまらなすぎる」
「そのようだな。だが、直す必要はないであろう」
いつもの、他愛もない会話。今までジメジメしたところに捕まっていた事実は、もう綺麗さっぱり忘れている。
「帰るか」
「そうしよう」
夕日に照らされ、ひとつの影が、仲良く伸びていた。