355 :
fave of ghoul 〜火と影の出会い〜:
「ふぅ」
ドサリ。と音がすることもなく、犬は闇に消えて行った。
物陰から影が現れる。
「そちらは終を得たか?」
「うん、終わったよ。
それにしても今日は犬が多い」
「ふむ。現在の時点で9匹。確かにいつもより多いと言うことができるだろう」
いつもの調子でアグゼスが述べる。
アグゼスとは離れて戦っていたのだが、彼は今夜二人が出会った犬の、正確な数を把握しているようだ。
彼とは人生の半分以上を共に過ごしてきたが、未だその力は計り得ないところがある。
「次を得るために、動きをとろう」
「分かった。どこへ行く?」
「北北西から人が聞こえる。そこだ」
北北西は、大体でいうと、真後ろにあたる。
「今来た道じゃないか」
「仕方あるまい。人には足がある」
「むー」
言い負かされ、渋々今来た道を戻る。
356 :
fave of ghoul 〜火と影の出会い〜:2010/02/25(木) 22:54:45 ID:Mu50SED2
「それで、その人はどんな?」
「彼女の人となりについては、こちらの知るところにない。会話すら交わしたことがない」
「いや、そうではなくて……」
アグゼスは天然ボケというか、呆けているところがある。あまり真剣に相手にすると疲れるので、これと接するときは、適度に流すのがコツだ。
「あとどのくらいだ?」
「ああ、そのまま歩けばちょうど額をぶつけ合う」
ピタリ。
クルリ。
「……そういうことは、早く言ってもらいたいな」
「ああ、謝罪する」
「だ、誰かいるの?」
その子は飛び出してきた。指先からは炎が漏れている。
「こんばんは。今日は冷えるね」
警戒されているようなので、とりあえず道端で会った近所の人のような気持ちになって挨拶してみた。
「……ふ、ふつうのひと?」
「普通の人ではないが、危害は加えない」
「……分かった。信じるよ」
そう言ってかざしていた手を下ろした。
357 :
fave of ghoul 〜火と影の出会い〜:2010/02/25(木) 22:55:26 ID:Mu50SED2
「で、君は何をしているんだ?フェイヴ・オブ・グールのせいで、このあたりは危険区域に指定されていたと思うんだが」
「う、それは……」
少女は言い淀んだ。少し尋問のようになってしまったか。
「ああ、勘違いしなくていい。私もただの民間人だ」
「あれ、そうなの?てっきり警察の人か何かかと」
「いやいや、私のはただの趣味だよ」
「趣味?」
「そう。夜街中を散歩して、」
「ユーコ」
アグゼスが呼びかける。頷く。前と後ろ、四頭の犬がいた。
「こういう世の中の害になりそうな輩を退治している」
「うわ、たけしくんがいっぱいだ」
「たけし、くん?」
「襲い来るぞ、備えろ」
幻覚でも見せられているのだろうか。戦力にはならないと判断し、少女を守るようにアグゼスと背中合わせで立つ。彼は前、私は後ろを。決めたわけではないが、二人の間ではそう決まった。
358 :
fave of ghoul 〜火と影の出会い〜:2010/02/25(木) 22:56:08 ID:Mu50SED2
「に、逃げないの?」
「アグゼス、彼女はこう言っているが、逃げるか?」
既に気分が乗っていた私は、アグゼスに否定の言葉を貰うために問うた。
そしてその期待は、やはり否定された。
「了解をした。疾く逃げよう」
「い、いやいやいや、そこは『逃げるわけない』と否定してほしかったのだが」
「?逃走という作戦ではなかったのか」
アグゼスがニ頭の首根っこを抑えたまま首を傾げた。
「だからあれは『逃げずに戦う』という、」
襲いかかってきた一頭をもう一頭に投げつける。
「期待を込めて聞いたものであってだな」
「ならば敵を打ち倒す旨の言を発するべきであっただろう」
「ああ、もう。貴様の行間の読めなさにはいい加減に辟易だ」
犬を地面に叩きつけ、怒りを露にする。
「あれ、これって……もしかして私のせい?
あ、あのー、あふたりさん?もうそろそろたけしくんがかわいそうだから止めてあげた方が……」
少女の言葉で何とか吾に返った。既に犬は闇に消えていた。
「ん、すまないな。取り乱してしまった。アグゼスの行間については今度時間がある時に二人で話しあおう」
「行間を読むところによると、何かが解決したようだな」
うるさい、だまれ。
359 :
fave of ghoul 〜火と影の出会い〜:2010/02/25(木) 22:56:49 ID:Mu50SED2
「さて、私たちはもう行くが、君はどうする?」
「あ、二人に付いてってもいい?実は相棒を探してたんだけど、一人じゃ怖くて」
「相棒?」
「うん。鉄っちゃんって言って、いつもタバコ吸ってる人なんだけど」
いつもタバコを……?
「……すまない、思い当たらない」
「こちらも様々な過去を当たってみたが、該当はなかった」
「そっか」
少し残念そうだ。
「どうして探しているんだ?」
「うん、実はさっき見かけたんだけど、なんだか様子がおかしかったから付けてたら」
「見失ったと」
「……いぐざくとりー」
力なく立てた親指から火が上がった。
360 :
fave of ghoul 〜火と影の出会い〜:2010/02/25(木) 22:57:36 ID:Mu50SED2
「よし、じゃあ夜の散歩を再開しよう」
「男の捜索も留意条項に追記するのだな」
「ああ」
「二人とも、よろしくね」
こうして三人は夜の街を歩き始めた。
果たして鉄っちゃんは見つかるのだろうか。そして柚子はなぜ夜の街を歩くのか、その理由は――?
全ては、次回へ続く