「ねーむーいーよー」
「そりゃそうだろうけど……、ソラ、お前単位が危なくなるぞ」
「知ってるけどー……くぅ……」
「寝てるし」
何だかんだで翌日。
色々あって猛犬からは逃げられた俺たち二人は、朝っぱらから絶賛勉強中だ。
場所は俺たちの家。隕石の落下で家族を失った俺は、同じような境遇のソラと意気投合して、廃ビルに住まっているのだ。
風通しは良すぎるくらいだし灯りはないしぼろぼろだし、と良いことは何もないが、それでもちゃんと毎日暮らせてるだけマシというものだ。
俺はゴミ捨て場から拾ってきたちゃぶ台に教科書を広げ、赤以外の点数を取ったことがないソラにテスト範囲の内容を叩き込むべく気合いを入れた。
が、結果はごらんの通り。
「……ん、むにゃ……」
「はぁ……。俺のせいではあるけど、まずいぜソラー」
机に突っ伏すソラのアホ毛をぴこぴこ弾く。
ソラの昼間の能力が発動した以上、俺に為す術はないのだ。手慰みと言ったところか。
ソラの『昼』の能力は『いつでもどこでも寝られる』という能力だ。
夜は『活性化』、昼は『超睡眠』。不健康極まりないし、完璧に高校生として終わっている能力である。
「けど、まあ……仕方ないか……」
すやすやと寝息を立てるソラの頭を優しく撫でつつ、俺は嘆息する。全ては俺の能力のせいなのだ。
『お姫様』。外見が少女のそれに変化し、髪型も胸の大きさもある程度自由に決められるようになる、不可解な能力。
それだけだったらまだ救いようがあったが、問題なのはこれがただの『女体化』ではなく、『お姫様』ということにある。
ファンタジーや童話において、姫とは悪者に襲われ、奪われ、そして最後は主人公に取り戻されるものだ。
つまり、『お姫様』と化してしまった俺は、老若にゃんこいかなる人種性別種族を越えて襲われる宿命にある。
そしてソラは、そんな『お姫様』を守るために日夜戦ってくれている。……本当に、申し訳ない。
せめてその罪滅ぼしが出来ればという思いで、彼女に勉学を叩き込むつもりだったのだが……。
「……無理っぽいな。……仕方ない、俺も寝よう」
夜はまた忙しくなるだろう。それまで、のんびり過ごすのも悪くはないかな……。
気持ちよさそうに眠るソラの肩にお気に入りのコートを掛けて、俺は床に転がった。
「……冷たい」
とりあえず投下。感想は後ほど