シェアードワールドやりたいなあなんて

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119短くてすまん
「眠いよー……」
 いつも、夜ならば元気にぴこぴこと揺れているアホ毛が、しなびたように垂れていた。
 その本人の目尻も垂れ下がっていて、今にも夢の世界へと旅立ってしまいそうな面持ちだ。
 毎度毎度の事ながら、申し訳なさで一杯になる。
 俺――、桂木忍は、目の前の同い年の少女に向かって頭を下げた。
「悪いな……、ソラ」
「うーん、気にしないで良いよ……ふぁぁ……」
 ソラ――、鈴本青空は、疲れた顔で笑みを返し、そのまま机に突っ伏した。
 こうなってしまってはてこでも動くまい。俺は常備している掛け布団を彼女の肩に掛け、自分の席へと戻った。 
 いっぱしの高校生である俺とソラは、今日もまた学校へとやってきて、そこで授業を受けるのだ。
「……まあ、ソラは受けられる状況じゃないけど」
「……」
 くかー、と既に寝息を立てているソラを片目に、俺はノートを二冊用意する。
 まあ、いつものことだ。夜に迷惑ばかりかけている分、昼に俺が役に立ってやらないと。



 チェンジリング・デイ……。隕石が落ちてきたあの日から、人々は様々な能力を手に入れた。
 その数二つ。昼と夜で、その特性や力は全く別物になったりする。
 当然この世界に生きる俺やソラもその能力を持っているのだが……、ホント、下らない能力もあったりするんだな、これが。
 俺、桂木忍の『夜』の能力、それは――、
「わーっ、あいかわらず可愛いね、しのちゃん」
「その呼び方はやめろ、ソラ。後可愛いと言われても嬉しくない……」
「えー、でも、こんなに可愛いのに」
 ソラが、昼間とは別人のようにすっきりとした顔で、素晴らしい笑顔を見せた。
 しなびていたアホ毛も元気になっている。こいつの『夜』の能力が発動したためだ。
 ソラの『夜』の能力は『活性化』。体の全細胞が活発になって、ソラはすっきりしゃっきり目覚めるようになる。
「さーて、今日はお姫様を狙ってどんなのがやってくるかな!」
「その言い方やめてくれ……」
「えー、でもしのちゃん可愛いし」
 可愛いという言葉がグサリグサリと俺の胸に突き刺さる。男なのに、俺は男なのに……。
 と言っても、その説得力は極めて低いだろう。
 俺の『夜』の能力は『お姫様』。『夜』になると髪の毛の長さを自由に調節することが出来るようになり、声も高くなって、挙げ句体つきまで変化するという恐ろしい能力だ。
 本当に恐ろしすぎて参る。
「今日はロングなんだね、しのちゃん」
「ああ、まあ……、ていうかその呼び方やめてくれ」
「えー、でもしのちゃん可愛いし」
 デジャヴ。ソラはえへへ、と可愛く笑って俺に抱きついてこようとする。
 だが、俺はそれを手で制し、ソラの背後をきつく見据えた。
 現われるのは、犬。最近猛犬注意とか言ってたからな……。
 俺の能力にも惹かれて出てきたことに間違いはないが。
「しのちゃん」
「ああ……。悪い、引き寄せちまった」
「気にしないでよ。お姫様だもんね、しのちゃん」
「やめてくれそれ……」
「だいじょーぶ! お姫様を守るのが私の仕事! なんちゃって」
 ぶい、とピースしたソラの動きを追従するよう、アホ毛が揺れた。
 今夜もまた、ソラの戦いが始まる。『お姫様』を守るための戦いが。

続く!