コードギアス反逆のルルーシュLOST COLORS SSスレ44
>>1に代理投下スレが紹介してありますが?
空気の話かな?
空気とネタと規制…。
また規制?
空気と規制はともかくネタは自分でなんとかするしかないなw
ネタは投下以前の問題だな
こんばんわ。前作の続きを投下します。
【メインタイトル】コードギアス 反逆のルルーシュ L2
【サブタイトル】〜 TURN04 太平洋奇襲作戦(中編)〜
【 CP 】無し
【 警告 】●根幹は黒騎士カレンルートを準拠してのR2本編介入ものですが、展開の所々にオリジナルな設定と話が混ぜ込んであります。
●王様ライの性格は自分の考えに依存してます。苦手な方はご注意下さい。
●今話はオリジナルの機体が出ます。結構なチートスペックですので、苦手な方はご注意下さい。
――――――――――――――――――――――
コードギアス 反逆のルルーシュ L2
? TURN04 太平洋奇襲作戦(中編)?
――――――――――――――――――――――
太平洋の大海原。その上空を一隻の航空艦が飛行していた。
その艦、アヴァロンのメインブリッジでは、手元のコンソールパネルに視線を落としながら眉間に皺を寄せたセシルが常人には近寄り難い雰囲気を醸し出している。
そんな只ならぬセシルの雰囲気に気付いたロイドは彼女の顔を覗き込んだ。
「どうしたの? えらく不機嫌みたいだけど?」
しかし、彼女が顔を上げる事は無かった。
「あれ、どうにかならないんですか?」
「あれって?」
ロイドは皆目見当がつかないようで首を傾げてみせると溜息一つ、小さく肩を落としたセシルはやっと顔を上げるとそっと後方へ視線を移す。
彼女の視線の先に居たのは、足を組みブリッジに据え付けられた椅子に悠然と腰掛けると、手に持った書類に目を通す仮面の男、カリグラの姿だった。
普段、腰に据えている剣は彼が嚮団に居る時と同じ位置、椅子の左側に立て掛けてある。
それを見て、ロイドはやっとセシルの不機嫌な理由を理解したのだが――。
「どうにもならないでしょ」
考える素振りなど微塵も見せずに言い放つロイドに、セシルは心底呆れた表情を向けた。
「どうにもならないって……ロイドさん。この艦はどなたの持ち物でしたっけ?」
「あれ? 忘れちゃったの? シュナイゼル殿下だけど?」
「分かってます!」
飄々としたロイドの態度に業を煮やしたセシルは思わず声を荒げたが、慌てて口を塞ぐと恐る恐るといった様子で振り向いた。
しかし、カリグラは相も変わらずに我関せずといった様子で書類を捲っている。
ホッと胸を撫で下ろしたセシルは囁く。
「あそこには、本来そのシュナイゼル殿下や他の皇族方しか座れない筈ですよ?」
「じゃあ、それを彼に言える? 僕はとてもじゃないけど言えないねぇ」
「ハァ……それは――」
締まらない笑みを浮かべるロイドを見て、深い溜息と共にセシルが苦言を呈しようとした時、二人の元に血相を変えた兵士が走り寄って来た。
「ロ、ロイド伯爵ッ!」
「何々? どうしたの?」
尋常では無い様子を見てもなお、嬉しそうに瞳を輝かせるロイド。対照的にセシルは不安そうに兵士を見やると――。
「新総督を乗せた旗艦より救援要請を傍受しました!」
兵士の報告に悪い予感が的中したのか、セシルは顔を蒼褪めさせた。すると、これにはロイドも僅かばかりに瞳を細めると硬質の声色で問うた。。
「内容は?」
「ハッ! 太平洋上で黒の騎士団の奇襲を受け――」
逼迫した様子で語る兵士。しかし、その言葉は最後まで語られる事は無かった。
「格納庫ニ繋ゲ!」
書類を放り出したカリグラは勢い良く立ち上がると、命を受けた通信兵は慌てて回線を開く。
「…ど、どうぞ!」
一瞬の間の後、ブリッジにある大型モニターにギルフォードの上半身が投影された。
「"ギルフォード卿"。黒ノ騎士団ガ現レタソウダ」
開口一番告げられた事実に、ギルフォードは複雑な表情を浮かべた。
『あなたの願望通りになりましたか』
「貴公ノ懸念通リデモアルガ?」
『……確かに』
思わぬ指摘だったのか、苦笑するギルフォード。
「今頃"アプソン"ハ貴公ヲ連レテクレバ良カッタトデモ思ッテイルダロウナ」
そう言ってカリグラは僅かに双肩を揺らすと言葉を続ける。
「出撃セヨ。指揮ハ私ガ執ル」
『貴卿が、ですか?』
ギルフォードの表情が露骨に曇る。
すると、それを認めたカリグラは不満げに腕を組むと胸を反らした。
「問題デモ?」
『……Yes, My Lord』
ギルフォードは躊躇しつつも、直に肯定の言葉を告げると通信を切った。
カリグラは通信が切れると同時に立て掛けてあった剣を手に取り腰に据えると、足早にブリッジを後にしようとする。
しかし、そんな彼の歩みをロイドの言葉が引き留めた。。
「あのさぁ――」
「止メテモ無駄ダゾ?」
「まさか。こっちとしてもエナジーウィングの実戦データは喉から手が出る程欲しいからね。止める気なんて更々無いよ」
「ちょ、ちょっとロイドさんっ!!」
ロイドの嬉々とした口振りに慌てるセシルを無視して、その真意を今一つ読み切れないでいたカリグラは問う。
「デハ何ダ? 手短ニ済マセロ」
「紅い機体には気を付けてね」
「……"紅蓮二式"ノ事カ」
黒の騎士団。紅い機体。それらの単語に該当するのは彼の知識の中でもたった一つ。
故にゼロの所業を報告書で知っていたカリグラ、もといライは自然とその名を口にした。
しかし、ロイドは意外だとでも言いたげに口を開く。
「あれ? 知ってたんだ。そうそう、その紅蓮だけど黒の騎士団が出張って来たなら、多分居る筈だからね」
「我ガ軍馬ナラバ恐ルルニ足ランダロウ?」
それがどうした、とでも言いたげに言い放ったカリグラはロイドに向き直った。それもその筈。
紅蓮の戦闘能力は、ブラックリベリオンにおいて鹵獲した藤堂達の月下に残っていた模擬戦データや、これまで蓄積したランスロットとの戦闘データと照合する事で詳細に解析済みである。
そもそも、その実力は過去、ランスロットと対等に渡り合った時点で折り紙付き。
そのランスロットが「白き死神」として他国より畏怖の対象となった今、その名はブリタニアのみならずブリタニアと戦火を交える国々にも波及する。
が、それでもそのスペックは第7世代クラス。
更には飛翔能力を持たないという点を鑑みても、第8と第9世代の中間点に位置するトライデントの敵では無い。
ライも当然それは承知していたからだ。
しかし、よもや自機の生みの親である筈のロイドが、何故に「気を付けろ」と懸念を顕わにするのか理解出来なかったライは、押し黙ると返答を待つ。
すると、それを察したロイドはカリグラの言葉を肯定した後、自身の思惑を告げ足した。
「僕もそう思う。それに、唯一紅蓮のポテンシャルを完全に引き出す事が出来た蒼い機体はもう居ないから尚更。けど、それでもあの機体のパイロット、腕はスザク君クラスだからさ。念の為だよ」
「資質ハ"ナイトオブセブン"ニ匹敵スル、カ……何レ"アノ男"トハ殺シ合ウ機会ガ訪レルヤモ知レン。前座ニハ丁度良イ」
「こ、殺し合うって……」
驚愕の表情を浮かべたセシルが呻くかのように呟くと、銀色の仮面が妖しく光る。
「"アノ男"ガ光デアッタノナラ、ソウハナラナイ。光ト闇ハ表裏一体。共存ハ可能ダロウ。シカシ、奴ハ私ト同ジ……イヤ、アレガ立ツノハ"夕闇"ダナ。マサカ気付イテナイノカ?」
「そ、それは……」
セシルは思わず言い淀んだ。
ユーフェミアを失ってからのスザクの瞳は光を無くしたかのように暗く、ラウンズに叙された当初に行われた御前試合ではジノ相手に我が身を顧みない闘いを繰り広げた程だ。
ジノ達他のラウンズとそれなりの親交を持つようになってからは、幾分か光を取り戻しつつあった瞳も嘗てのスザクを知るセシルからすれば十分に薄暗い。
そう、スザクの今の姿は正にカリグラが言ったようにセシルにとって夕闇の中、アテも無く彷徨い歩く幼子のように痛々しいものだったからだ。
しかし、返答に苦慮しているセシルに向けて闇そのモノとも言える存在、カリグラは愉快げに肩を揺らす。
「察シテハイルヨウダナ。マァ、己ノ行イヲ棚ニ上ゲテ、コノ私ヲ非難スル輩ダ。本格的ナ衝突ヲ迎エタトシテモ、何ラ不思議ナ事デハ無イ」
「そんな事は――」
させません!と言いかけたセシルを、しかしロイドが遮った。
「そうなったら、僕としては大切なデバイサーを失う事になるから止めて欲しいねぇ?」
「ロイドさん!! そんな呑気な――」
「ハッ!! ソレハ一体ドチラノ身ヲ案ジテノ台詞ダ?」
「へっ?」
「さぁ? どっちだろうねぇ」
呆気に取られるセシルを横に、惚けてみせたロイドの答えは実際のところ「どちらも」である。
1対1の戦闘では辛くもスザクに。しかし、部隊を用いての戦闘では圧倒的にカリグラに軍配が上がる、とロイドは予想していた。
しかし、誤解の無いように言っておけば、避けれるのであれば避けたいというのはロイドの中でも偽らざる本音だ。
そう、ロイドにとってスザクは優秀なデバイサーであり、それはカリグラに至っても同じだったのだから。
逆を言えば、ラウンズと機情のトップのどちらもロイドにとってはデバイサー扱いだと言う事でもあるが。
当然、カリグラたるライはロイドの心底に有るモノを察した。しかし――。
「……喰エン奴ダ」
仮面の下でライは苦笑混じりに咎めるに留めた。
飄々とした態度を崩さぬロイドに毒気を抜かれた為でもあるが、問い詰めた所でその発言はどうとでも言い逃れる事が出来るからだ。
踵を返したカリグラは再び歩み始める。が、今度は自ずと歩みを止めると思い出したかのように口を開いた。
「蒼イ機体。紅蓮トソレヲ以テ"ゼロ"ノ双璧ト呼ブ、カ。誰ガ言イ出シタノカハ知ラナイガ、嘗テ幾度トナク"ゼロ"ヲ討タントシタ"コーネリア殿下"ノ御前ニ悉ク立チ塞ガッタ者達トシテ、ソノ渾名ハ言イ得テ妙……クハハハハッ! 是非ニ揃ッテ手合ワセ願イタカッタモノダ」
それがよもや自分で自分を褒める言葉であるなど、今のライには思いも寄らない事であろう。
決して叶わぬ言葉を口にしたライは、悠々とブリッジを後にする。
やがて、扉が閉まるとその後ろ姿を見送ったロイドは独り言のように呟いた。
「面白くなって来たねぇ」
非常事態であるにも関わらず、その瞳は笑っていた。
そんなロイドを見て、セシルは深い深い溜息を零すのだった。
◇
旗艦に取り憑く黒の騎士団のナイトメア部隊。
作戦は順調に推移していた。しかし――。
『カレン、紅蓮の調子はどうだ?』
実働部隊の一人でもある杉山。その声は何処か不安げだった。
ここの所の激戦に次ぐ激戦をフルに戦い抜いて来た紅蓮は、元々右腕に問題を抱えていたのだ。
現在の紅蓮に装備されている甲壱型腕装備は、ブラックリベリオンにおいてランスロット・エアキャヴァルリーに破壊された右腕の代わり。
謂わば予備パーツで作られた応急代替でしか無い。
輻射機構は備わっているが、伸縮機構の簡略化や出力・連射力の低下。更には、自動でカートリッジの射出が行えないといった不具合を。
杉山はそれを思慮していたのだ。
しかし、一方でカレンはそんな杉山の思案を吹き飛ばすかのように気丈に振る舞う。
「大丈夫。手動だったらちゃんと動くし問題無いわ」
そう告げた彼女は手近な砲台を一基、輻射波動で破壊してみせる。そして――。
「ね? 安心――」
カレンが通信モニターに映る杉山に向けて笑みを浮かべてみせた時、突然その画面がホワイトアウトした。
「な、何これ? 杉山さん? 杉山さんっ!?」
カレンは慌てて通話を試みるが、画面は何も映し出さない。
それどころか通信機能させも麻痺したのか、スピーカーは雑音を響かせるのみ。
しかし、メインカメラに写る杉山とその部下達が乗った無頼に異常は伺えない。それは紅蓮も同じ事。
それらを確認したカレンは、ホッと一息吐くと周囲を見回す。
藤堂率いる四聖剣メンバーにも同じく動揺が広がっていた。
ちなみに、卜部はラクシャータ達との合流を優先しておりこの作戦には間に合っていない。
カレンは再び視線を落とすと通信モニターを見やる。が、そこは相変わらず白の世界。
だが、3分程経過してカレンがいよいよ故障を疑い始めた時、モニターは突然何事もなかったかのように杉山の姿を映し出した。
「え? あ、あれ?……今のは?」
『そっちもか? 分からない。電波障害の類いだと思うが……』
二人は一様に首を傾げるが、同時に通信機器の故障では無い事に胸を撫で下ろす。それは他のメンバーも同じだった。
そう、彼等は知らないのだ。
大規模な電波障害。それこそ、銀色の暴君が起動した合図だという事を……。
◇
「シールドを展開しても、その中に入っちゃえばこっちのものさ。航空戦力もお終いみたいだし。でも、復帰戦にしてはちょっと物足りないね」
先程起きた謎の障害を気にしつつも、朝比奈は墜ち行く護衛艦を見送りながら余裕ありげに呟いた。が――。
『浮かれていると因幡の白兎になるぞ?』
仙波の諭すかのような口調に朝比奈は苦笑する。
「はいはい、基本に忠実にってね」
そんな二人の通信を聞きながら千葉が口を開く。
「中佐。ゼロは?」
『艦内への侵入は果たしたようだが、その後はECCMの影響か、連絡が取れん』
藤堂が口惜しげな口調で呟くと、カレンがすかさずフォローに入る。
「ゼロなら大丈夫です! 私達もこれから艦内の制圧に――」
『ゼロを信じ過ぎるのもどうかと思うけどね』
『朝比奈。今はそのような事を――』
皮肉を漂わせる朝比奈の発言を咎めようと仙波が言葉を紡いだ時、突如として彼等の間をまるで縫うように緑色の光が三つ、通り抜けた。
刹那、爆音の三連発が大気を伝い彼等のコックピットを震わせた。
『うわぁっ!!』
『くそっ!』
『っ!? やられた?』
同時にスピーカーから響いて来る杉山達の悲鳴に、思わず振り返った藤堂達は愕然とした。
そこには、黒煙を上げる三機の無頼の姿があったからだ。
二機は頭部を、一機は左脚を失っていた。
やがて無頼達は事切れた人形のように、ゆっくりとその場に崩れ落ちる。
『す、済まない! 後は――』
『『も、申し訳ありませんっ!!』』
杉山とその部下二人は、短く詫びるとコックピットブロックをパージ。
射出されたブロックは青海の中に落ちて行った。
藤堂達は杉山達が無事だという事に胸を撫で下ろしつつも、即座に緑色の光が飛来した方向に機首を向ける。
すると、その視線の先にあったのは飛翔する4機のナイトメアの姿。
同時に鳴り響くアラート音。
「ブリタニアからの――」
「援軍!?」
「バカなっ!? 早過ぎるわい!!」
朝比奈を皮切りに、千葉や仙波が驚きの声を上げる。
しかし、そんなただ中にあっても藤堂だけは一人冷静に状況を分析していた。
「いや、方角としては後ろ備え。それにあれは…フロートユニット?」
藤堂が眼前に迫る一団を睨み付けている頃、先頭を飛翔するナイトメアを見たカレンは――。
「そんな! あの機体はっ!!」
バベルタワーで遭遇した、神速を誇ったあの機体に良く似ている事実に驚愕の声を上げた。
◇
藤堂達が迫る機体に敵意を剥き出しにしている頃。
その機体の搭乗者たるギルフォードは感嘆の吐息を零していた。
「よもやあの距離から当てるとは……」
呟いたギルフォードは背後を見やる。彼の視界一面に広がるのは雲の海。
だが、僅かに出来た雲と雲の切れ目にそのナイトメアは居た。
支援
長距離用に銃口を絞り込んだ新型ヴァリスを構えると、2対6面で構成された白銀色の翼に三叉の角を雄々しく広げ、深紅の双眸で艦の翼上に取り付いた藤堂達をまるで獲物でも見るかのようにジッと見据える銀色の機体、トライデント。
しかし、その姿は直ぐに流れて来た雲によって隠れてしまう。
この時点で、藤堂達がその存在に気付く事は無かった。
感嘆しているギルフォードに対して、スピーカーよりデヴィッドの声が響く。
『ギルフォード卿!』
「あぁ、そうだな。さぁ、幕を降ろそう」
我に返ったギルフォードは己に言い聞かせるかのように気を吐いた。
だが、既にその時彼の見据える先には急拵えとはいえ藤堂を中心として右より朝比奈・仙波・千葉が前衛を固め後衛に紅蓮が、といった防御陣形が出来上がっていた。
「あれを切り崩すのは骨が折れるが、さて……彼はどうするつもりか……」
藤堂相手では空を飛べる事は絶対的優位では無い事と、自機の機体特性を完全に把握出来ていない事。
そして、何よりもカリグラの指揮能力が未知数という事も相まったギルフォードは一人愚痴る。
しかしその頃、デヴィッドの駆るグロースター・エアには一本の秘匿通信が入っていた。
『"A2"、仇ヲ討チタイカ?』
「なに?」
『兄弟ノ仇ヲ討チタイカト聞イテイル』
「当然だ!!」
カリグラの問いに対して、先の総領事館での一戦でバートとアルフレッドを討たれていたデヴィッドは怒号を響かせる。
それは普段のカリグラ……いや、ライであったならば決して許しはしない口振り。
しかし、今の彼はそれを聞いても仮面の下で口元を歪ませ『ソウカ』とだけ呟くと――。
『貴様ハ勇マシク戦エルカ?』
続けざまに挑発めいた言葉を紡いだ。
「……何だと!?」
まるでアルフレッド達がそうでは無かったとでも言いたげな問い掛けに、激昂したデヴィッドは操縦桿を握り締めた。しかし――。
『怒ルナ。勇マシク戦エルノデアレバソレデ良イ』
デヴィッドの怒りの一切を無視すると、カリグラはオープンチャンネルに切り替える。
『"A1"ハ直進シ前衛中央ノ機体ヲ狙エ。"A3"、"A4"ハ両脇ニ陣取ル"二機"ヲ牽制。"A2"ハ翼下ニ潜リ込ミ指示ガアルマデ待機シロ』
ECCMの影響をものともしないトライデントのレーダー網には、この空域全ての敵味方情報が手に取るように分かる。
それを証明するかのように、機体のメインモニターには四つの仮想窓が浮かんでいた。
強固なデータリンクシステムを使い、ギルフォード達の機体のメインカメラが捉えている映像も収集していたのだ。
一息で命じ終えたカリグラは、彼等からの返答を待たずして通信を切ると仮面を外す。
「着弾点がズレた……あぁ、気流の影響か」
ライは杉山達を仕留めた狙撃が狙い通りの箇所に当たらなかった原因に思い至ると、直ぐさま手元のパネルを操作する。
「これで5対5だ。さぁ、始めようか」
そうして、望みのデータを手に入れたライが愉悦を帯びた口調で呟くと、レーダーに映るギルフォード達の機体が速度を増した。
すると、その時。
トライデントは雲海の中より一発の弾丸を、ギルフォードの背中目掛けて発射した。
◇
旗艦の後方より、大気を切り裂いて4機のナイトメアが迫る。
「来るよ!」
「分かっている!」
朝比奈と千葉はその内の一機。突出して来るギルフォード機を仕留めるべく己の機体、月下の左腕に備えられた速射砲の照準を合わせる。
が、同時にギルフォードの後方上面よりも2機が迫る。
それらにも対応しようとした結果、照準がブレる事となったがそこは藤堂。
「二人は両翼の敵に対応しろ!! 仙波! 抜かるな!!」
『『『承知っ!!』』』
藤堂は的確に指示を飛ばすと、三人は瞬時に反応してみせた。
しかし、その時出来た僅かな隙を突いてギルフォードの背面に居たデヴィッドが機首を下げる。
気付いた藤堂は再び声を張り上げた。
支援
「船底に潜り込む気か。紅月君! 背後は任せる!」
『はい!!』
「仙波っ!! 来るぞ!」
『お任せを! さぁ来い! 相手にとって不足無し!』
藤堂は迫るギルフォード機を注視しつつも、同時に千葉や朝比奈にも指示を送りながら足下に潜り込んだ機体にも対処すべく周囲を見張る。
仙波機が腰より引き抜いた廻転刃刀を正面に構える。対するギルフォード機もまるで呼応するかのようにMVSを手に取った。
急接近する二機。
そして互いに刃を交えようとした次の瞬間、ギルフォードの機体は一転して急上昇。交戦を避けた。
「逃げるか! 張り合いの無い――」
虚を突かれた仙波は逃がすまいと目で追う。だが……。
『っ!? あれはっ!!!』
『避けろぉっ!!』
千葉と朝比奈。二人の絶叫が仙波の耳朶に触れる。
驚いた仙波が正面に向き直ると――。
「なっ!?」
彼の眼前には緑色の光弾が迫っていた。
それは、先程トライデントが放った一撃。
光弾はギルフォードの機体を死角としていたのだ。
「お、おのれっ!!」
仙波は回避するべく操縦桿を握り締めるが、避け切れるまでの確証は持てなかった。
よしんば避けれたとしても、その場合後方に構える藤堂達にまで危害が及ぶ可能性がある。
咄嗟の判断を下した仙波は、アームブロックの構えを取った。
着弾。
轟音が響き渡った。藤堂が叫ぶ。
「っ!? 仙波ァァァッ!!」
突然の出来事にカレンも思わず振り返ると、飛び込んで来た光景に彼女は思わず息を呑んだ。
視界に映るのは、尋常ならざる程の黒煙を上げる仙波の月下。その後ろ姿だったからだ。
「そんな……仙波さん!!」
「無事か、仙波!?」
『な、何……とか……』
藤堂とカレン。二人の問いに対して、着弾時の衝撃により意識が朦朧としているのか。仙波の声に先程までの覇気は無い。
そんな最中、左隣に陣取っていた千葉は仙波機の惨状を目の当たりにした瞬間、悲鳴に近い声を上げていた。
「酷い…脱出して下さい。その機体ではもう戦えません!!」
千葉の言は当然の事と言える。
仙波の月下は両腕のみならず頭部も吹き飛び、機体前面の装甲も完全に喪失。
更には動力部までもが剥き出しになっており、そこから漏電の為か火花が散っていた。
素人目に見ても戦える状態で無いのは一目瞭然だったのだから。
『し、しかし、装置が作動せん…のだ……』
「っ!? それなら!」
弱々しく口を開く仙波に、一刻の猶予も無いと判断した千葉が刃を振るう。
彼女は機体とコックピットブロックを強制的に切り離すと、駆け寄った朝比奈機がそれをキャッチ。
続け様に千葉は噴煙を纏う仙波機を蹴り落とすと、海面に落ちる只中で機体は激しく爆散した。
『す、済まん…』
「パラシュートは、無事みたいですね。それじゃ、行きますよ」
『ちょ、ちょっと待っ――』
朝比奈はコックピットブロックに損傷の無い事を確認すると、仙波の静止も聞かずに放り落とす。
『ぬわぁぁぁっ!!』
コックピットブロックが仙波の絶叫を纏いながら大海原に吸い込まれていくと、一部始終を見ていたカレンが問う。
「だ、大丈夫なんですか?」
すると、眼下を覗き込んでいた朝比奈が口を開いた。
「……パラシュートの作動を確認。うん。大丈夫」
『朝比奈、お前……』
これには千葉も呆れ顔。
そうこうしていると、敵機が後退する素振りを見せた事に一人警戒の念を怠らなかった藤堂が問う。
「朝比奈、今の攻撃は?」
『俺が相手にしてた機体からじゃありません』
朝比奈が否定の言葉を紡ぐと、我に返った千葉も後に続いた。
『私の方もそうです。むしろ、その後方……あの雲海の中から飛来したように見えました』
「……間違い、無いか?」
『『はい』』
二人からの報告を聞いた藤堂は、口を真一文字に結ぶとレーダー画面を見つめる。
そこには彼等以外では船底に潜り込んでいるデヴィッド機を除けば三機の敵影しか映し出していない。
何故なら、今の月下の索敵範囲はECCMの影響下という事もあり5km四方程度である。しかし、対する雲海までの距離は10km近い。
その事実に藤堂は眉を顰めると一瞬、そんな射手が居る筈が無い、と心中で否定しかけた。
千葉の発言をまともに聞いた場合、それ程の距離があるにも関わらずその射手は撃った事になるのだから。
しかし、一方で千葉の優秀さも藤堂は良く理解しており、簡単に「見間違いだろう」と切り捨てる事も出来なかった。
故に思う。確かに、それは最も旗艦に被害が及ばぬように考慮した射撃だ、と。
上空からの射撃ならば気付かれる可能性は低いが、万が一気付かれた場合、そして避けられた場合は確実に旗艦の翼を傷付けてしまう。
対して、翼上に対しての水平撃ちならば避けられても旗艦に損害を与える可能性は低いからだ。
しかし、それは一歩間違えれば翼どころか旗艦本体にも直撃する可能性がある。
だからこそ、藤堂は思う。並みの精神ならば躊躇する、と。
にも関わらず、その射手はやってみせた事になる。それどころか、戦力を減らす事まで成功させている。
だが、それらは藤堂にしてみれば推察の域を出ない。故に、悩む。しかし、それも一瞬だった。
戦場において絶対という言葉ほどあてにはならないという事を、彼は長い経験から学んでいたのだから。
「分かった。気を付けろ、紅月君」
『えっ?』
「敵は今、目に見えてる数だけでは無いという事だ」
驚くカレンを余所に結論を出した藤堂が注意を喚起すると、補うかのように二人が後に続く。
『最低でも、あと1機は隠れてる可能性が有るって事だよ』
『ああ。そしてそれが事実だった場合、恐らく其奴こそが――』
『『指揮官!!』』
二人の言葉に藤堂は小さく頷きながらも釘を刺す。
「それはあくまでも可能性の問題だが、範囲外に何かが居る可能性が有る事だけは忘れるな!!」
『は、はいっ!』
『『承知!!』』
この時、藤堂達は朧気ながらも気が付いた。
目の前を飛び回る機体に指示を送りながら、この戦場を支配下に治めようとしている存在が自分達の視線の先にある雲海、その中に居る可能性が有るという事を。
しかしこの時、指揮官たる藤堂が思慮した事により彼等の統率は一瞬とはいえ鈍っていた。
当然、それを見逃すライでは無い。
『"A2"、ヤレ』
スピーカーより響く傲慢とも言える口振りに、デヴィットは激憤しそうな胸の内を必死に抑える。
そうして翼下を潜り抜け飛び出した彼は、背面を晒している藤堂達に向けてライフルを構えた。
今、薙ぎ払うかのように一斉射すれば何れかの機体に被弾させる事は十分に可能であった。が――。
「こいつはっ!」
彼は見てしまったのだ。総領事館にて、兄弟であるアルフレッドを討った機体。紅蓮の無防備な背中を。
瞬間、デヴィッドの脳裏に先程のカリグラの問いが過ぎる。
支援
―― 貴様ハ勇マシク戦エルカ? ――
その後の彼の行動は、ライフルの一斉射では無かった。
ライフルを放り出したデヴィッドはMVSを引き抜くと、一撃必中とばかりに背後を晒している紅蓮に猛然と襲い掛かったのだ。
そんなデヴィットの挙動は、雲海に身を隠すトライデントのモニターにも送られていた。しかし――。
「そうだ、それで良い。さぁ、無事に仇を討てるか? 序でに、試させて貰うぞ? 紅蓮二式」
ライは口元を妖しく歪めた。
◇
デヴィットが翼下から飛び出した時。
一人レーダー画面を注視していた事が功を奏したと言える。
藤堂は反射的に振り向くと、カミソリのように鋭い瞳を見開き叫ぶ。
「紅月君! 後ろだ!」
『っ!?』
藤堂の声に導かれるかのように振り向いたカレンの眼前には、MVSを振り上げるグロースターエアの姿が。
一瞬遅れて紅蓮のコックピットに警告音が鳴り響く。しかし――。
「今更気付いたところで、もう遅い!」
獲った!!とばかりにデヴィットはMVSを振り下ろす。
が、そこで紅蓮は信じがたい程の反射速度を見せた。
左腕に忍ばせていた呂号乙型特斬刀を引き起こし最小の動作で弾いてみせると、返す刀でMVSを握ったデヴィット機の手首を切り飛ばしたのだ。
「なっ!?」
驚愕と共にデヴィットは機体のバランスを崩してしまう。
「舐めんじゃないわよっ!!」
短く吐き捨てると射殺さんばかりの瞳で睨み付けるカレン。
肉薄する二機。
しかし、それはとどのつまり……紅蓮の距離。
背筋に悪寒が走ったデヴィットは、咄嗟に距離を取ろうとする。対するカレンはそうはさせじとハーケンを射出。
「くっ! このっ――」
「逃がさないって言ってんでしょ!!」
グロースターの足首にハーケンを絡ませた紅連は力任せにたぐり寄せ始めた。
「デヴィッド!」
そんな部下の危機を目の当たりにしたギルフォードは直上より急降下する。
が、そうは問屋が卸さなかった。
「させん!」
藤堂は瞬時に上空に向けて速射砲を構えると、千葉と朝比奈もその後に続く。
大空に響く無数の銃撃音。
しかし、ライはそんな灼熱の戦場を見て只一人、嬉々とした笑みを浮かべていた。
――成る程、枢木に匹敵するとのロイドの言葉。間違いでは無いな。さて……。
胸中で紅蓮に及第点を付けたライは思考を切り替える。
「餌と成り果てた者に用は無いのだが。ギルフォードめ……仕方無い」
ギルフォードの行動を目の当たりにしたライは、短く舌打ちすると指示を飛ばす。
『オ前達モ続ケ! 射撃ヲ分散サセロ!』
変声機越しに命を下した後、一転してライはまるで下らない喜劇でも見ているかのように冷めた表情のまま、送られて来る映像を眺めていた。
◇
旗艦後方より再び迫る二機のグロースター・エア。それを視界の端に捉えた千葉が吠える。
「朝比奈、そっちは任せた!」
『全く、無茶言ってくれるよね!』
千葉は朝比奈の言葉を聞き流すと再び上空を見上げ狙い撃つ。
対する朝比奈はというと、千葉の頼みを何とも軽い口振りで引き受けたがその表情は真剣そのもの。
朝比奈はいつ何時飛来するとも分からない光弾。
その発射時を発見するべく、周囲を睨み付けながらも迫り来る二機に対して隙の無い銃撃を加えていた。
この朝比奈の働きは、ライにとって少々予想外だった。
――あのパイロット……中々やる。あの二人では荷が重いか。
モニターから送られて来る朝比奈の働きを見たライは率直な感想を胸に抱く。
しかし、それも一瞬の事。
――さぁ、餌は目の前だぞ? 紅蓮二式。
ライは邪な笑みを浮かべると操縦桿を握り締めた。
一方、ライの指摘した通りに二機のパイロットは苦戦していた。
腕ではギルフォードやデヴィッドより劣る彼等は、朝比奈の的確な射撃に反撃する事が出来ず回避運動を取る事で精一杯。
全く以て近付けないでいる。
その頃、彼等と同じくギルフォードもまた、苦戦していた。
「くそっ! これではっ!!……」
直上より降下した為、翼上に陣取る藤堂達にその翼を盾にされる格好となってしまっていたからだ。
ギルフォードは翼への損傷を気にする余り撃ち返す事が出来ず、二機から放たれる苛烈な対空砲火を必死に回避しながら、徐々に距離を詰める事しか出来ないでいた。
結果、デヴィッドの命運は決まった。
「ぐっ!!」
デヴィッドの乗るコックピットに衝撃が走った。遂に捕まったのだ。
グロースター・エアの喉元を鷲掴みにする異形の右腕。そして――。
「食らいなぁっっ!!」
勝利宣言にも等しいカレンの一声。
必殺の一撃。
三本爪の間から紅い光が迸り、唸り声にも似た重低音が響き渡るとグロースター・エアの装甲が泡立つ。
「くっそおぉぉぉっ!」
輻射波動の直撃を受けたデヴィッドは堪らず脱出レバーを引くと、彼を乗せたコクピットブロックは海原に落ちて行った。
それを見たギルフォード達は再び射程圏外へと離脱する。
直後、轟音と共にグロースター・エアは爆散した。巻き上がる黒煙。
しかし、その時。
轟音を聞いた藤堂が、一矢報いた事にフッと一息吐き呼吸を整えた正にその時。
雲海の中から光弾が現れた。
それも、一定の距離を開けて左から右へとほぼ同時に。
「光った! 10、12、14時の方角!! やっぱり居ましたよ! 藤堂さん!!」
目を光らせていた朝比奈は、捉えた瞬間早口で捲し立てた。
しかし、そんな彼を嘲笑うかのように三発の光弾は瞬く間に距離を詰める。
振り向いた藤堂は気流に乗って不規則な軌道を描きながら、しかし、狙い澄ましたかのように迫るそれを視認した結果、誤解した。
「少なくとも三機かっ!」
千葉もまた、朝比奈の警告に射撃を止めると三人は一様に回避運動を取る。
その頃、ギルフォード達には再び命が下っていた。
『"A1"!! 紅イ機体ヲ狙エ! 残リハ彼我ノ戦力ヲ分断セヨ!』
「はっ!」
ギルフォードは、命じられた通りに再び紅蓮に狙いを定めると急降下。
残りの二機も千葉と朝比奈を射程圏内に捉えるべく迫るが、光弾はそんな味方をあっさりと追い抜いた。
光弾との相対距離が700mを切る。その時――。
「妙だ……」
藤堂は不意にこれまでとは違う三方向からの一斉射を訝しむと、咄嗟にその射線軸を脳裏に描く。
瞬間、戦慄と共に振り向いた藤堂は瞳を見開いた。
支援
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426 :
代理投下:2010/06/27(日) 03:00:42 ID:kH2y4B7D
――まさか、これが本当の狙いかっ!?
彼の視線の先は、黒煙に覆われていたのだ。
「いかんっ!!」
相手の意図を察するや否や藤堂は叫んだ。
彼の脳裏に浮かんだビジョン。
先程と寸分違わず自分達に向けて飛来する三発の光弾。しかし、それらは藤堂達だけを捉えていた訳ではなかった。
その射線軸の交点は、まさにその黒煙の中に収束されていたのだ。そして、その中に居るのは……。
「紅月君を守れぇっ!」
藤堂の鶴の一声にハッとなる千葉と朝比奈。
一方で名を呼ばれたカレンは慌てて紅蓮を振り向かせるが、巻き上がる黒煙により視界は頗る悪い。
だが、今の藤堂に詳しく説明している余裕は無かった。
機体を正対させ廻転刃刀を真横に構えた藤堂は二人に激を飛ばす。
「何としても止めろ!」
『『承知!!』』
藤堂の動きを視界に捉えていた千葉と朝比奈の両名は、瞬時にその意図を理解する。
藤堂と同じく射線軸に陣取りながら、再び迫り来る2機のグロースター・エアを射撃でもって牽制。
光弾との相対距離が300mを切った。
その時、中央に陣取っていた千葉の視界に一瞬だけ影が過ぎった。
彼女はほとんど反射的に振り仰ぐと、その瞳に映ったのは再び急降下を開始した影の主。
続いて彼女が見たのは気流に流され薄れつつある黒煙と、その中にうっすらと映える紅の機体。
相対距離100m。
「紅月ィィッ!」
「っ!?」
千葉が叫んだ時、カレンの視界がようやっと晴れる。
しかし、時既に遅し。
射線上に陣取った三人に光弾が襲い掛かった。
「「「くうっ!」」」
至近距離での爆発。砕け散る藤堂の廻転刃刀。
朝比奈も同じく刀を、千葉は速射砲ごと左腕を持って行かれた。
同時に、ようやっとカレンの視界も晴れる。
「あ、ありが――」
『上だ!!』
千葉の一喝。
同時に藤堂が速射砲を紅蓮の頭上に構える。ハッとなったカレンが直上を見上げると――。
「ハァァァァッ!」
そこには今にも切り掛からんとするギルフォード機の姿があった。
だが、千葉の切羽詰まった叫びが功を奏していた。
二機の間は先程のデヴィッド機の奇襲よりも幾分か距離があったのだ。
カレンは咄嗟に操縦官を握り締める。
煙を上げるランドスピナー。翼上に黒い轍を残す。
カレンは紙一重の所で機体をターンさせると、振り下ろされた刃を躱してみせた。
「っ!? まだだっ!」
ギルフォードは打ち落とした刃を左斜めに切り上げる。が、紅蓮は右腕でMVSを握った敵機の手を掴みそれを阻止。
整った必殺の態勢に、ギルフォードの顔が焦燥に染まると猛禽の瞳をしたカレンが叫ぶ。
「あんたも食らえ!…しまった!」
しかし、カレンはここにきてカートリッジの射出を済ませていない事に気付いた。
「っ!? 撃てないのか? ならばっ!」
好機と捉えたギルフォード。機体の右手が腰に据えたライフルに触れる。が――。
「させるかぁぁぁっ!!」
カレンは咄嗟に左腕の刀で胸部を狙う。
「っ!!」
ギルフォードは咄嗟にライフルに触れかけた右手を素早く戻すとそれを阻止。
結果、互いに両手を塞ぎあう形となった二機。
掴んだままでは紅蓮のカートリッジは射出出来ない。しかし、手を離せばMVSの打ち落としが待っている。
ギルフォードの場合も似たようなもの。
右手を離せば、ライフルに触れる前に貫かれてしまうのだから。
膠着状態。
朝比奈は、依然として懐に飛び込まんとする二機の対応で手一杯。
藤堂は速射砲を構えつつも、紅蓮を盾にするかのように陣取るギルフォードに対して引金を引けずにいた。
「これでは撃てん!」
藤堂が思わず歯噛みすると――。
「紅月! そのまま捕まえていろ!!」
現況を打開するべく、残った腕に廻転刃刀を握り締めた千葉の月下が駆け出した。
◇
その頃、再び雲海の切れ目より顔を出していたトライデント。
二機の攻防を俯瞰していたライは感嘆の声を上げる。
「良い反応速度だ……やるな」
愉しくて堪らないとても言いたげにライは口角を釣り上げたが、飛び出した千葉機の動きを見るや否や形勢不利と判断した。
『"A1"、ソイツゴト上昇シロ』
「Yes, My Lord!!」
即応したギルフォードはフロートの出力を全開にして機体を上昇させる。
紅蓮の爪は獲物を捉えて離さない。
「逃がさないって言ってんでしょ!!」
だがゆっくりと、しかしながら確実に引き上げられていく紅蓮。
『紅月! 手を離せ!』
『無茶だよ!』
後少しという所で間に合わなかった千葉と、迫る二機を追い返した朝比奈が。そして、構えながらも撃てずにいる藤堂が叫ぶ。
『紅月君!』
「でもっ! やっと掴まえたのにっ!」
そうこうしているうちにも紅蓮はその高度を上げて行く。
ライはそんな紅蓮を見て一言。
「ザリガニのような奴だな………ザリガニ? V.V.め、余計な知識を……」
少々間の抜けた感想を溢しながら、ライはギルフォードよりやや低い高度まで自機を降下させると再び命を下す。
『"A1"、ソコデ止マレ』
「い、一体何を?」
慌てて停止するギルフォード。
時を同じくして、カレンも困惑の色を隠せずにいた。
支援
「止まった? な、何で!?」
そんな戸惑う二人を余所に、陰惨な笑みを浮かべたライは――。
「確かに良い乗り手だったが、これでさよならだ」
そう告げるとトリガーを引いた。
『また光った!!』
紅蓮のコックピットに朝比奈の声が響くと、自身目掛けて飛来する光弾を認めたカレンは焦る。
「ち、ちょっと待ちなさいってばっ!!」
咄嗟に右手を離し備えようとする紅蓮。
しかし、左手はギルフォードに捕まれたまま。
一方で、自由を取り戻したギルフォードの左腕は当然のようにMVSを振り下ろす。
が、カレンは直ぐさまカートリッジを射出すると、今度はその振り下ろされるMVS自体を掴んでみせた。
同時に放たれる紅い光。ギルフォードは堪らず柄を手放す。
「くっ!!」
直後に起きた至近距離での爆発と、輻射波動が使用可能という事を見せつけられたギルフォードが顔を顰めると――。
『"A1"、右手ヲ離セ』
再びの命に、その意図を図りかねたギルフォード。
しかし、彼は困惑しつつも直ぐさまそれに倣う。
法則に従って落下する紅蓮。
カレンは直ぐさまカートリッジを射出すると、再び親指を輻射波動のスイッチに添える。
「お願いっ!!」
瞬間、紅い光が発せられたかと思うと、それは頭部に着弾寸前の光弾を弾いてみせた。
その光景を目の当たりにしたライは思わず身を乗り出した。
「バカなっ!! 防いだのか!?」
ライの驚きを余所に、紅蓮はその右腕を正面にかざしながら墜ちて行く。
「た、助かった……」
間一髪。
難を逃れたカレンは心底安堵したかのような声を溢したが、それはまだ早かった。
『残り二発!』
再び響いた朝比奈の声。
「何なのよ、これ!!」
紅蓮の落下に合わせるかのように、寸分の狂いも無く襲い掛かる光弾にカレンは一瞬舌を巻く。が――。
「でも、残念!」
勝ち誇った笑みを浮かべたカレンは、二発の光弾も同じ要領で弾くと後方へ振り向きハーケンを射出。
ハーケンが旗艦の翼に食い込むと、走り寄った千葉機がすかさずワイヤーを引く。
結果、遂に紅蓮は翼上へと舞い戻った。
「あれを防ぎ切った、だと? こちらの出力不足か……いや、何れにしても楽しませてくれる。シミュレートではこうはいかないからな……」
翼上に立つ五体満足な紅蓮の姿を見つめつつ、ライは子供のように口元を綻ばせると胸の内で認めた。
あの機体は、己が全力で対峙する価値がある、と。
故に、続いて発せられた言葉は必然と言える。
「全機距離を取れ。次は私が出る」
それは、真の意味での出撃宣言。
ライはペダルをゆっくりと踏み込む。
銀色の装甲の上を雲が流麗に流れてゆく。
雲海の中より浮かび上がるかのように姿を現す、赤色巨星にも似た色の双眸を光らせる銀色の機体。
遂に、トライデントがその全貌を現した。
◇
「陣形を建て直せ!」
翼上では藤堂がギルフォード機に射撃を加えながらも激を飛ばしていた。
カレンは紅蓮を駆ると真っ先にそんな藤堂の正面に陣取ると、僅かに遅れてその両翼を千葉と朝比奈が固める。
そんな彼等の見事な守勢とは裏腹に、ギルフォード達は後退を始めていた。それを見た千葉は安堵の吐息を零す。
支援
「引いて行く……」
『気を緩めるな』
「は、はい!」
一瞬、緊張の糸が緩んだ事を藤堂に指摘された千葉は慌てて襟を正す。
その様子に小さく頷いた藤堂は続いて口を開いた。
「朝比奈、何処からの射撃か分かったか?」
『………』
「朝比奈?」
『やっぱり雲海の中からでした。でも、あまり認めたくないですね』
剣呑な表情のまま呟いた朝比奈は、続いて雲海の一点を指し示した。
その先、ギルフォード達が集結しつつある方角に泰然と浮かぶ雲よりも後方にあった巨大な雲海。その一点が煌めいていた。
藤堂達の瞳が剣呑の色を濃くするのと同じく、煌めきはジワリジワリとその光度を増してゆき――。
「ち、中佐!」
千葉は驚愕に瞳を見開いた。
雲海の中より現れた白銀色の翼を持つ銀色のナイトメア。
その機体はまるで藤堂達に己の風貌を見せ付けるかのように、不貞不貞しくも腕を組むと仁王立ちしていた。
『あぁ、やっと見えたぞ、彼奴だ!』
「バカな! あんな距離から狙い撃っていたというのですか!?」
心中穏やかでは無いにも関わらず、それを決して表に出さない藤堂に対して千葉の驚きは尋常では無かった。
それはそうだろう。彼等が視認している機体、トライデントが居る位置は、彼女が想定していたポイントよりも後方だったのだから。
『だから言ったでしょ。あまり認めたく無いってさ』
スピーカーから響く朝比奈の口調も何処か厳しい。
一方、カレンは最大望遠にした紅蓮のモニターに映るトライデントの姿を無言で睨み付けている。
そんな最中、不意に朝比奈がそれまで心中に渦巻いていた疑問を吐露した。
「でも、妙だね。一機だけってどういう事さ……」
『まさか、今までの射撃は全て彼奴がやっていたなんて事は――』
「面白いね、それ。でもさ、それが本当なら悪夢だよ?」
千葉が思わず口にした言葉を朝比奈はやんわりと否定した。
彼がそう思うのも当然の事。
三発全てがほぼ同時に別々の方角から射たれた。それを目撃したのは朝比奈ただ一人。
そんな芸当が出来る機体ともなれば、既存のナイトメアの飛行速度を遙かに凌駕する事になるからだ。
最も、朝比奈はトライデントがまさにそれに該当する機体なのだという事を知らないのだから無理も無い。
「そ、そうだな」
暗に笑われている事を感じ取った千葉は、少々気恥ずかしそうに頬を染めた。
「兎に角、気をつけろ。まだ周囲の雲に潜んでいるかもしれん。これ以上狙い撃たれても億劫だ。今のうちに身を隠せ!」
『『了解!!』』
藤堂の命を受け、二機の月下がホイールを唸らせながら後退する。
しかし、紅蓮だけはまるで脚に根が生えたかの如く微動だにしなかった。
その事に藤堂が疑問の声を上げる。
『紅月君!?』
「行って下さい! 皆が隠れるまで私が――」
『しかし――』
「大丈夫です。全部防いでやりますから!!」
危惧の念を抱く藤堂を余所に、カレンは愛機に対する絶対の自信から来るのだろう。壮絶な笑みを浮かべてみせた。
◇
「なんという方だ……」
ギルフォードは率直な感想を口にした。しかし、それも当然と言える。
戦闘開始より10分も経っていない。
にも関わらずカリグラは月下一体を含む四機を仕留め、更には他の三機にも損害を与えている。
デヴィッド機を失ったとは言え、この戦果は十分に釣りが来るものだったのだから。
しかし、アヴァロン艦内で戦況を見守っていた者達の驚きはそれ以上だった。
支援
静まり返るブリッジ。本来、戦闘中であるのだからこの場はもっと喧噪としていて然るべき。
にも関わらず、誰も言葉を紡げずにいた。
皆が皆、目の前の光景に理解が及ばなかったからだ。
しかし、ここでもやはりと言うべきか、ロイドだけは異彩を放っていた。
「アハッ。流石というかやっぱり凄いね、彼。これは杞憂だったかな??」
そう言うとロイドは右隣に居るセシルに合いの手を求めたが、それが差し伸べられる事は無かった。
「どしたの?」
不思議に思ったロイドが問うと、セシルはようやっと口を開く。しかし、それはこの場に居た皆を代表するかのような言葉だった。
「い、異常です……」
「そんなの先日のシミュレートで分かってた事じゃない」
微苦笑を浮かべるロイド。しかし、セシルは引き下がらない。
「で、でも! 最初の射撃の後に一帯の気象データを取り寄せて、その後は気流に乗せて射撃してるんですよっ!?」
「へぇ?。彼、そんな事までしてたんだ」
「その後の射撃は防がれこそしましたが、それでも照準は全て敵ナイトメアの急所を狙い撃ち。誤差は5cmも無いんですよ!?」
セシルは「これでもですか!?」とでも言いたげな視線をぶつけるが、当然と言うべきか。ロイドに効果など有る筈も無い。
「ふ?ん」
「ふ?ん、って。そ、それだけですか?」
「今更驚いても仕方無いでしょ。でも、まるで機械のような正確さだね、彼。皇帝ちゃんの直属にしとくには惜しいよねぇ」
驚くどころか不敬な言葉と共に一層笑みを深くするロイド。
セシルは堪らず肩を落とした。
◇
セシルとロイドが騒いでいた頃、ライはモニターに映る紅蓮を睨み付けていた。
その紅蓮はというと、両脚を肩幅まで広げ腰を落とすと異形の爪を翼上に叩き付けた後、「撃ってみろ」とでも言わんばかりにその右腕を翳している。
その勇姿を受けてライの瞳に光が宿る。全てを切り裂き兼ねないような鋭い光が。
「私を挑発するか……そうだな、許そう。貴様にはそれだけの力がある」
しかし、激昂するどころか愉快げな声色を響かせたライはモニターに視線を落とす。
「リミットは、6分27秒……良いだろう」
エナジーの残量を一瞥すると瞬時に活動時間を導き出したライは、続いて右の操縦桿を動かしながら左手でモニターパネルに指を走らせた。
トライデントが動く。
右腰からエネルギー供給用のケーブルを引き抜くと、右脚側面に装着していたヴァリス。その銃床部位に繋げた。
すると、それまで絞り込まれていたヴァリスの銃口が花開く。
遠距離用の狙撃モードから、中、近接戦闘用のフルバーストモードへと姿を変えたのだ。
フルバーストモード。
それは撃つ際に機体エナジーを使用するのと、射撃の際に発生する熱量を逃がす為に砲身冷却を行う必要性が生じる為、連射は出来ない。
が、出力は桁外れに跳ね上がる。ランスロットのハドロンブラスターを鼻で笑う程に。
ヴァリスがその形状を変えると、続いて機体全体から小刻みな電子音が生じ、それが周囲に響くと今度は機体背面の空間が波打つ。
刹那――。
「なっ!?」
トライデントを睨み付けていたカレンは思わずたじろいだ。機体後方にあった雲海。それが跡形もなく消し飛んだからだ。
それはエナジーウィングから溢れ出た暴走にも似たエネルギーの奔流。その所業。
雲を消し飛ばしたエネルギーの流れは、やがて収束に向かうと続いて空間を歪ませる。
断続的に発生する歪な銀色の波紋。それはさながら光輪を背負っているかのよう。
その異様な姿を視認したカレンは、背筋に悪寒を感じながらも一人気を吐き撥ね除ける。
「あんたが天使を気取るなら、あたしは羅刹斯(らせつし)になってやるっ!!」
カレンの瞳に焔が宿る。
「こんな所で終われないのよ! 私はっ! ライを見つけるまで、戦って戦って生き抜いてやる! さぁ……かかって来なっ!!!」
操縦桿を握る手にこれでもかと力を込めたカレンは相手の一挙手一投足も見逃すまいと、正に鬼神の如く睨み付けた。
丁度その頃、トライデントの変貌を呆然と眺めていたギルフォード達。彼等の機体にも異変が起こっていた。
「な、何だこれは!? 機体が動かない……」
突然中空で停止した事にギルフォードが驚きの声を上げると、二人の部下もそれに追従する。
支援
支援
『こ、こちらも同じです!』
『一体何が……』
彼等の機体は操縦桿やペダルを踏み込んでも一切の反応を示さなかった。
最も、射程圏からは外れている為、撃ち落とされる危険性は無い。
が、整備不良ともなれば黒の騎士団を相手にするどころでは無くなってしまう。
「フロートが生きているのが不幸中の幸いか……しかし、これでは……」
無念そうに呟いたギルフォードは、状況を打開するべくアヴァロンとの通信回線を開く。
「こちらギルフォード! ロイド伯爵は居るか?」
『…………』
しかし、通信機はノイズを響かせるのみ。
己の懸念が深まっていくのを感じたギルフォードは思わず頭を抱えた。
だが、彼等の機体に起きた異変は故障等によるものでは無かった。
それに真っ先に気付いたのは、アヴァロンでデータ収集を行っていたセシルだった。
手元のモニターに映るトライデントの機体データ。
下から上に流れて行く無数の数字。
常人であれば目が追いつくどころか、全くの意味を為さないその数字の羅列を真剣な眼差しで追っていた彼女は、異変に気付いた瞬間大声で叫んでいた。
「ロイドさんっ!!」
「ど、どうしたの?」
突然の大声に隣で佇んでいたロイドは思わず後退るが、セシルは言葉を続けた。
「ト、トライデントが、味方機に対してハッキングを……」
この世の終わりのような表情を浮かべるセシル。この一報には流石のロイドも瞳を見開いた。
「ちょ、ちょっと待って! それは――」
「事実です! 既にギルフォード卿や他の機体の全システムに侵食を!!」
セシルの声は、最早悲鳴に近かった。
ライが現在進行形で行っている方法は、指揮形態のまま個別戦闘を行った場合の活動時間の限界を計っていた時、つまりは出立前に行ったシュミレート時に偶然発見された。
強固なデータリンクシステムと、情報処理能力。
更には、皇族やラウンズ以外では拒否出来ない程の命令権限を有するトライデント。
それが味方機に対して、データリンクを介して無理矢理操縦権限を奪い取る。
奪われた機体は、意のままに操られるだけでは無い。その性能全てを敵撃滅に傾注させられるのだ。生命維持機能さえも停止させて。
結果、機体は高い機動性能を発揮出来る事となるのだが、同時にそれは搭乗者にとっては空飛ぶ棺桶と同義。唯一の救いがあるとすれば、活動時間の短さだけ。
常日頃よりパイロットをデバイサー扱いする事を憚らないロイドでさえ「いくら何でも使っちゃ駄目だよねぇ」との一言と共に、容易に踏み止まらせてみせた最悪の戦術。
しかし、全ては遅かった。
「ああっ! もうっ――」
何とか停止させようと、忙しなくパネルに指を走らせるセシルに向けて、ロイドは達観したかのような表情を送った。
「……無理だよ」
「で、ですけどこのままじゃ!!」
セシルは沈痛な思いを吐き出したが、それ以上何も言えなかった。
そう、彼女も分かっていたのだ。
ロイドが言った通り、今、この中にトライデントを静止させる事が出来る立場の人間は居ないという事を。
彼等が出来る最後の手段として、トライデントが演算処理に使用しているアヴァロンのメインシステムをシャットダウンさせるという方法も有るには有る。
が、それをすればアヴァロンが墜落する。
「……ギルフォード卿達の身体が、丈夫な事を祈るしか無いね」
ロイド達が出来る事といえば、アヴァロンの望遠レンズが捉えるトライデントの姿を眺める事ぐらいだった。
◇
モニターに浮かぶ文字は制圧完了。
「ギルバート・GP・ギルフォード。帝国の先槍。では、これより私の先槍となってもらおうか」
ライは今一度、決意の眼差しでもって紅蓮を睨み付けるとEnterキーを押す。
絶対遵守の命令が、下された。
支援
ギルフォード達の機体が急反転する。
「ぐっ!!」
予期せぬ自機の動きに、ギルフォードは意識を持って行かれそうになる。
彼等の機体は先程までの流麗な動きとは一線を画し、およそ人が乗っていられるのか不安になる程の不規則な軌跡を描きながら、翼上に立ち構える紅蓮目掛けて突進を開始。
1機に対して4機で襲い掛かる。
それは、戦場であれば何ら問題無い戦術だが今のギルフォード達の現状を知る者、セシル辺りに言わせれば「非人道的」と切って捨てるだろう。
だが、これこそが「至上の指揮官機を」との合い言葉と共に開発されたトライデント。
それが偶然とはいえ手に入れた戦術。言うなれば、紛れも無くその能力の一部でもあるのだ。
最も、単機決戦にシフトしたとしてもトライデントと紅蓮。その二機のスペックには如何ともし難い差が有る。勝負は一瞬で決まっただろう。
しかし、ライはそれを否定した。
一切の手を抜かずに自機のポテンシャルを総動員させて、眼前の紅蓮一機を撃滅する道を選んだのだ。
即ち、それはライが紅蓮の能力を、そして気高く立ち構えるパイロット。紅月カレンの心意気を高く評価したに他ならない。
左手にMVSを握ったトライデントが前傾姿勢を取る。
その機体内部では、正八面体に加工された特殊コアルミナスが円形かと見紛う程に激しく回転し、時折、雷光にも似た光を放つ。
ここに、全ての準備は整った。
先槍と化したギルフォード達は紅蓮との距離を2km弱まで詰めている。対するライと紅蓮の距離は8km近い。
並みの機体ならば、今動いたとしてもギルフォード達がカレンと刃を交える時には間に合わない。
しかし、トライデントであれば間に合うのだ。
「さぁ、私と踊ってくれ」
膝を付き淑女を舞踏に誘うかのような口振りで、ライは届く筈も無い言葉を手向けるとそっとペダルに足を乗せる。
そうして、踏み込むべく脚に力を込めた時。
不意に小刻みな電子音がライの耳朶を打った。音の正体はアラート音。
トライデントのレーダーが遥か前方、エリア11の方角より迫り来る飛行体を捉えたからだ。
僅かに顔を顰めたライがモニターに視線を落とすと、そこにあったのは三つの光点。
そしてその光点の隣に表示された数字を見た瞬間、ライは眉間に皺を寄せると嫌悪感を顕わにした。
【 Tristan 】3:13
【 V-TOR 】6:39
【 Mordred 】6:47
記されるのは見知った文字。表示される数字はそれらの到着予定時刻。
「…………存外、早かったな」
そう呟くや否や、ライはモニターパネルを殴りつけた。
同時に、不規則な軌道を描いていたギルフォード達の機体も止まる。
「っ!?」
突然の停止につんのめりながらも、操縦が回復した事に驚きを顕わにするギルフォード達。
だが、直ぐさま眼前に迫っていた紅蓮より距離を取るべく機体を操作する。そして――。
「な、何だったのだ? 今のは……?」
朦朧とする意識の中、安全圏まで離脱して初めて安堵の吐息を零すギルフォード。
彼の部下二人も離脱に成功していたが意識の混濁がギルフォードよりも酷いのか、こちらは一言も言葉を発する事が出来ない。
しかし、そんな満身創痍の彼等に向けてスピーカーからは無情ともいえる機械音声が響く。
『誠ノ騎士トヤラノオ出マシダ。貴公等モ、後ハ好キナヨウニ振ル舞ウガイイ。私ハ帰艦スル』
一方的に告げ終えたライは、口元を固く結ぶと憮然とした表情のまま指揮形態までも解いてしまう。
収納される左右の角。
双眸も紅より蒼へと変わると、一本角となったトライデントはその機首をアヴァロンに向けて飛び去ってしまった。
残される形となった部下達が覚醒しつつある意識の中、問う。
『ギ、ギルフォード卿……』
『如何、致します、か?』
カリグラの行動が全く理解出来なかったギルフォードは、やれやれといった様子で頭を振ると代わりに命を下す。
「直ぐに機体状況を走査しろ。その後、我々は再び攻勢を仕掛ける!」
◇
支援
「どう、なってんの?」
背を向けて飛び去るトライデントと、突然動きを止めた三機を目の当たりにしたカレンは拍子抜けしていた。
すると、遮蔽物に身を隠しながらも援護するべく速射砲を構えていた朝日奈の月下が紅蓮の傍に歩み寄る。
『君の迫力に尻尾を巻いたのかな?』
「こんな時に冗談ですか?」
『まぁ、何にしても助かったね』
ジロリと睨むカレンの視線を朝比奈は戯けた様子で受け流した。しかし、その語尾をカレンは聞き逃さなかった。
「どういう意味です?」
ムッとした表情で問うカレン。
すると、朝比奈は咎めるでもなく真摯な眼差しを向けた。
『あのまま戦ってたらマズい事になったと思うけど?』
「そ、それは……」
カレンは言葉に詰まった。
大言を吐いたものの、彼女はトライデントが前傾姿勢を取った瞬間、恐怖にも似た感情を抱いていたからだ。
もっとも、それは朝比奈も同じだった。
その様子に、カレンも自覚しているという事を察した朝比奈は話題を変えた。
『さて、敵さんが一時後退してる今がチャンスだ。さっさと艦内に侵入しようか』
独り言のように告げると、朝比奈はカレンの返答を待たずして艦内制圧に向かおうと機体を反転させる。
その姿を見たカレンが後を追おうとしたその時、二機のコックピットに警告音が鳴り響いた。
慌てて視線を落とす二人。
すると、二機のレーダーモニターには旗艦の進行方向、エリア11の方角より迫る謎の機影を映し出していた。
「またっ!?」
「やれやれ、今度は何だい?」
口振りとは裏腹に、機影に向けて素早く機首を向ける二人。
そこに、視線の先より正体不明の機影が二機に向けて銃撃を浴びせ掛けた。
しかし、二人は難なく躱してみせる。
一方、躱されたというのに撃った機体のパイロットに「外した」という動揺は微塵も無い。
「さぁ、お仕置きタイムだ」
可変ナイトメア、トリスタンのコックピットでジノは挨拶代わりとでも言いたげに不敵な笑みを浮かべると、速度を落とす事無く翼上で身構える二機に迫る。
するとその時、突然遮蔽物の影から右腕を喪失した藤堂機が。
そして翼上からは朝比奈機とカレンの駆る紅蓮が苛烈な銃撃を加える。
が、トリスタンはお返しとばかりに難なく躱してみせた後、まるで嘲笑うかのように彼等の頭上を凄まじい速度で飛び過ぎる。
しかし、すれ違った際に視認した敵の機体状態にジノは「あれ?」と首を傾げた。
「おいおい、無事なのは一機だけかぁ?」
自身の思惑とは想定外の惨状を晒している敵機に驚きながら、ジノは旗艦後方で方向転換。
その時、トリスタンに向けて一本の映像通信が入る。
『その機体、ヴァインベルグ卿ですか?』
モニターに映る男の姿を知っていたジノは、戦闘中であるにも関わらずまるで挨拶するかのような軽い口振りで応じた。
「やぁ! ギルフォード卿か。良くここまで持たせた。それにちゃんと損害を与えてるし。流石だよなぁ』
『い、いえ。それは――』
「いいって、いいって。そんなに謙遜しなくてもさ。ところで、今から私も混ぜてくれないかな?」
『それは……願ってもいない事ですが……』
「有り難う!!』
ジノは嬉しそうに告げると機体を加速させた。
迫るトリスタン。
「この! 次から次へと!!」
「妙な戦闘機だね」
カレンと朝比奈は再び向かって来るトリスタンを左腕の速射砲で狙い撃つ。
が、ギルフォードの時とは違いトリスタンは華麗に躱しながら二機との距離を瞬く間に詰める。
そして、難なく旗艦上空に侵入を果たしたトリスタンは飛行モードを解いた。
「っ!? ナイトメアッ!」
戦闘機と見誤っていた朝比奈は瞳を見開いたが、時既に遅し。
「うわっ!!」
トリスタンが持つ鶴嘴形のMVSが横一線に振るわれ、朝比奈の月下は腰元から一刀両断されてしまう。
「まずは一つ!!」
弾むような声色で戦果を口にするジノ。
「す、すいません! 後は……」
対照的に、朝比奈は口惜し気な言葉を残すと脱出レバーを引いた。
◇
格納庫へと舞い戻ったトライデントは所定の位置、入り口より一番奥の場所にその体躯を収めた。
コックピット内で再び仮面を被ったライは昇降機を使い降り立つ。
そんな彼が見たのは、格納庫内を慌ただしく走り回る整備員達の姿だった。
一人の整備員が一際大きな声を上げる。
「次は枢木卿が着艦されるぞ! 場所を開けろ! ランスロットが出るぞっ!!」
その声に、カリグラが格納庫中央に鎮座すると主の到着を今か今かと待ち続ける白騎士に視線を向ける。
と、その後方に大口を開けている入り口より見える蒼い空。
その彼方より迫るVーTOR機を視界に捉えたのだが――。
「煩ワシイ男ダ」
一瞥すると出迎える事なく格納庫を後にした。
やがて、5分程掛けて悠々と通路を進んだ後、ブリッジの扉を潜ったカリグラ。
彼に向けて喧々囂々としたブリッジ内では只一人、ロイドが彼なりの労いの言葉を送る。
「おかえり。早速だけど、機体の感想は?」
「"エナジーウィング"カラ言ウゾ? 雲ヲ消シ飛バシタノハ見タナ?」
カリグラの問いに、無言で頷くロイド。
「原因ハ左右ノ"ウィング"ノ"エネルギー供給量"ガ均一デハ無イ事ダ。ソノ場デ調整シテハミタガ、ソレデモ全速飛行スレバ機体ハ空中分解スル。ツマリハ翼数過多ダナ。シカシ、ソノ他ノ"システム"ニオイテ文句ハ無イ」
「それはどうも。となると次は8枚で試してみようかな。所で、どうして途中で帰って来たの?」
「私ノ戦場ニ自由意志ハ必要無イカラダ」
「あれは使わない方がいいと思うけどねえ。ギルフォード卿達の心拍グラフは大分治まったけど、酷い乱れ様だったよ?」
珍しく苦言を呈するロイド。しかし、それを完全に聞き流したカリグラは椅子に腰掛けると問う。
「ソレデ、状況ハ?」
問われたロイドは諦めたのか肩を竦めるとモニターを指差す。
「流石、僕のランスロットだよね、ほら」
その先を追ったカリグラが見たのは右腕を喪失した紅い機体。
――ラウンズ3機を相手にするのは荷が重かったか……。
自ら討つ事が叶わなかった事に、心中で一抹の侘しさを感じたライがバランスを崩し翼上から墜ちる紅蓮を眺めていると――。
「そんな事言ってる場合ですか!!」
セシルの叱咤が二人に浴びせられた。
五月蝿い女だな、と口にしようとした所でライは口を噤んだ。モニターに映る旗艦が煙を吐いていたからだ。
「ドウイウ事ダ? 何故、旗艦カラ煙ガ上ガッテイル?」
「エンジンに損傷を受けたみたい」
カリグラの問いに他人事のように返すロイド。
それを聞いたセシルは肩を震わせるが、咄嗟にそれどころでは無いと判断したのか。
正面に向き直るとモニターパネルに指を走らせる。
そんなセシルを置いて、二人は呑気に語る。
「黒ノ騎士団ノ仕業カ?」
「さぁ? そこまでは分からないけど、結果的に2番フロートが停止状態。3番4番の出力も低下してる。最も、直ぐに爆発って事にはならないと思うけど、このままじゃ皆で海水浴だね」
「……………」
「それと、アプソン将軍が戦死したって報告もあるけど?」
「ソレハドウデモ良イ。デ? 総督ノ現在地ハ?」
ロイドの現状説明を聞いたカリグラが最も気に掛けている事を問うと、間髪入れずに手を動かしたままのセシルが答える。
支援
支援
「現在、旗艦内部にスキャニングをかけてます!」
「発見次第、"ラウンズ"ニ位置情報ヲ送レ」
「はい!」
命じ終えたカリグラは長椅子に腰掛けると頬杖を付き思慮に耽る。
――どういう事だ?
未だ機情より何の連絡も無い事と、フロートへの攻撃をゼロが命令したとするならば、彼の中で今のゼロはルルーシュでは無いという図式が成り立つ。
旗艦には、彼の妹であるナナリーが乗っているのだから。
しかし、それだと何故今まで旗艦を制圧するかのような行動を取っていたのかの説明が付かなかった。
――それとも、既に身柄を確保した故の行動か?
答えを導くには、ライを以てしても情報が決定的に足らなかった。
その為、ライは思考を一時中断すると戦況を注視する事とした。
◆
同時刻、黄昏の間。
「今頃は海の上かな?」
「でしょうな」
眩しげに瞳を細めながら金色の夕日を眺めていたV.V.が、ふと思い出したかのように言葉を紡ぐと、隣に居たシャルルが相槌を打った。
するとその時、彼等の背後に黒衣の男が一人、現れた。
男は臣下の礼を取ると徐に口を開く。
「申し上げます。太平洋上に黒の騎士団が出現。新総督を乗せた護衛艦隊と交戦状態に入ったとの事です」
その一報を聞いた二人は互いに顔を見合わせた後、振り返ったV.V.は意味ありげな笑みを男に送る。
「彼はどうしてるの?」
「新型機で出撃されたとの知らせを受けております」
男の返答は最新のものでは無い。
既にこの時ライはアヴァロンに帰艦していたのだから。
だが、それを知らないV.V.は嬉しそうに語る。
「それじゃあ始めるけど……構わないよね?」
「えぇ」
V.V.の提案にシャルルは短く返す。
「C.C.の驚く顔が目に浮かぶよ」
そう独り言のように呟くと、V.V.は陰惨な笑みそのままにゆっくりと瞳を閉じた。
◆
中華連邦を出港して佐渡に向かい、卜部達を拾うとそこから津軽海峡を抜け太平洋へ至る航路。
そんな長い船旅の末、戦場に到着した黒の騎士団の潜水艦。
その艦内にある大型モニターには今、一機のナイトメアの姿が映し出されていた。
黒の騎士団初となる飛翔滑走翼を備えた紅いナイトメア。紅蓮可翔式だ。
モニターに映し出されるその勇姿に団員達は熱い声援を送る。
しかし、そんな中にあっても緑髪の女、C.C.は彼等とは一線を画していた。
「カレン、頼む……」
冷静さを失わない麗貌のまま、C.C.は小さく願った。
しかし、その時。
彼女は思い掛けない事態に遭遇する事となった。
「っ!?」
突然、感じ慣れた気配を察知したのだ。
その気配に彼女は思わず瞳を見開くと、咄嗟にモニターから視線を逸らし一人虚空を見やる。
当然、そこには無機質な灰色をした隔壁しかない。
しかし、その視線は確実に捉えていた。潜水艦内から見える筈の無い蒼い空。そこに浮かぶアヴァロンを。
隔壁を浸透するかのように漂って来る気配に対して、C.C.は傍目には分からぬ程度に柳眉を顰める。
それは、ギアス能力者が持つ特有の波長だったからだ。
C.C.は直ぐさま記憶を探り始める。これを持つ者が誰であったか、と。
答えは呆気なく出た。
「ライ、お前なのか?」
知らず、C.C.は尋ねるかのように呟いた。
近くに居た神楽耶やラクシャータ達は、獅子奮迅の活躍を見せる紅蓮可翔式の勇姿に釘付けになっており、気付く事はなかった。
明後日の方向を見つめたまま、返って来る事の無い返答を待つC.C.。
だが、いつまでも黙っているというのは彼女の性格上有り得ない。
C.C.は微笑を浮かべながらライに向けて念を飛ばした。随分と女泣かせな事をしてくれるな、と。
実際の所、彼女はこんな台詞を飛ばす気は毛頭無かったのだが、久方ぶりに弄れる事に我慢出来なかったのか、つい使ってしまった。
しかし、今となっては後の祭り。
同時に、珍しく興奮気味であった彼女は忘れていた。以前、自身がルルーシュに警告した筈の言葉を。
C.C.は内心驚きに満ちた言葉が返って来るのを期待する。反応は直ぐにあった。
だが、その聞き覚えのある声を受け取った瞬間、C.C.は露骨に柳眉を逆立てた。
――貴様か、C.C.……。
その言葉は、殺意の固まりだったからだ。
並の人間ならば、聞いた瞬間全身に鋭利な何かを突き立てられたと錯覚しても可笑しく無い程の。
だが、彼女はC.C.だ。
直ぐに皮肉めいた笑みを浮かべると、売り言葉に買い言葉といった様子で軽口を飛ばす。
――フッ。坊や風情が随分と勇ましく……。
が、飛ばしている最中にライの波長は突如として消えた。
C.C.は本能的に理解した。邪魔をされた、と。
そして、己の念話を遮る事が出来うる力を持つ者を彼女は一人しか知らなかった。
同時に、以前何気なく言ったルルーシュの言葉が彼女の脳裏を過ぎる。
―― 何処からECCMでも出てるんじゃないか? ――
言い得て妙とでも言うべきか。ルルーシュの言葉は的を得ていた。
――そうか。やはりお前だったか……V.V.。
この時、彼女は全てを理解した。
何故今までライの波長を感じる事が出来なかったのかという事を。
C.C.がライの波長を喪失する原因となった事案は後にも先にもたった一度。
そう、それは1年前の事。
ジェレミアの駆るジークフリードを心中相手に見定めた彼女が海に突っ込んだ時だった。
圧壊されてゆくコックピット。同時に空気も失われていった。
如何に彼女が不死であろうとも、酸素の乏しい空間で意識を保つ事は不可能で、遂に彼女は意識を失った。
同時に、それまで朧気に感じていたルルーシュとライ。二人の気配も手放さざる負えなかった。
次に彼女が目を覚ましたのは機体の残骸の中、大海原を彷徨っていた所を卜部達に救出された時。
直ぐに探りを入れたC.C.が真っ先に感じ取ったのは、遠ざかって行くルルーシュの気配。
当然だ。ルルーシュの契約者はC.C.なのだから。彼に対する優先順位は彼女にある。
一方で、ライの気配は微塵も感じられなかった。
そこに卜部より知らされた「生死不明」との一報。
C.C.は、当初それを全く信じてはいなかった。
いや、内心信じたくは無いという思いもあったのだろう。
その後、C.C.は密かに探りを入れてはみたものの、ライの存在は霞の中に消えたようで全く分からなかった。
それが1ヶ月も続けば、いい加減彼女としても諦めに近い感情を抱くというもの。
しかし、V.V.はあの時に全てを済ましていた。
ライの契約者はC.C.でもV.V.でも無い。故に、先に奪った者勝ち。
V.V.はC.C.が意識を失っているのを良い事に、狙い澄ましたかの様に彼女から優先権ごとライを掻っ攫った。
脳裏に「言えるものなら言ってごらん」とほくそ笑むV.V.の姿を思い起こした彼女は、珍しく怒りに肩を震わせた。
しかし、流石にそんな雰囲気を醸し出しては周りに居る隊員達も気付く。
だが、彼等も怒りの理由までを理解出来る筈が無く、触らぬ神に祟り無しとばかりに距離を置いた。
が、すぐ傍に居た二人だけは真逆の反応を見せた。神楽耶とラクシャータだ。
「どうされたのですか? カレンさんは頑張って下さってると思いますけど?」
「そうよ。あたしの新型をあそこまで乗りこなしてるのよ?」
しかし、流石の二人もC.C.の怒りの理由を理解出来てはおらず見当外れな意見を口にした。
すると、返事が無いどころかC.C.の視線に気付いた二人は揃って首を傾げた。
C.C.は自分達とは違ってモニターを見ておらず、まるで猫のように明後日の方向を凝視していたからだ。
「どうされたのでしょうか?」
「さぁ? あたしに言われてもねぇ」
小声で互いに疑問を口にする二人。それもC.C.には全く聞こえていない。
彼女にとってライの生存を確認出来た事は喜ばしい事なのだが、如何せんタイミングが最悪な上にV.V.は他者に対して絶対に気付かれない方法で告げて来た。
今の騎士団の現状を知っているC.C.からしてみれば、告げようにも告げられない。
喜びよりも先に、腸が煮えくりかえる思いだったのだ。
言えばルルーシュはどうなるか。
只でさえ最愛の妹が敵側に居るのだ
今の状態でライの事まで告げるのは憚られた。
尤も、ルルーシュに関してはナナリーを無事に救い出してからでも遅くは無いだろうと結論付ける事が出来たが、他の隊員にはとてもでは無いが言えたものでは無かった。
彼らもまたライを大切に思っており、今では日本解放と同じ程にライの仇を、と思う者達も少なくない。
更に言えば、幹部である四聖剣メンバーの中にはゼロよりも寧ろライ寄りだと言っても良い者達も居る。
どうしたものかと考えるC.C.の脳裏に、不意に悲しみを湛えた紅髪の少女の姿が浮かんだ。
彼女が最も考えたく無かった事でもあるのだが、それは無理からぬ事。
C.C.は軽い頭痛を感じながらも考える。
伝えたとしたら恐らく、いや間違いなくカレンは喜ぶだろう。それこそ良く教えてくれたと言ってピザを自腹で奢る可能性すらある、と。
C.C.は、それは実に良い事だと思いながらも、一方では絶対に言えないという事も理解していた。
今のライはルルーシュの時とは訳が違うのだから。
先程感じた殺気は一年前、ディートハルトにギアスを掛けた時に見せた雰囲気を遙かに凌ぐものだったからだ。
下手に出会ってしまえば、その変貌ぶりにカレンはどうなるか。C.C.は考えるまでも無かった。
いや、カレンだけでは無い。
ライの仇を誓う者や生存を願う者。それらを力の糧としている者達に与える衝撃は計り知れない。
だが、対するライは違う。
躊躇する事無く殺しに来るだろうという事は容易に想像出来ていた。
そうなれば、待っているのは惨劇のみ。
C.C.は、伝える事が許されるのはかろうじてルルーシュのみだと結論付けると、戦況に見をやる。
すると、モニターにはラウンズ2機を退けたカレンがスザクに突貫する映像が映っていた。
◇
「どっけえぇぇっ!!」
猛禽の爪が白騎士に襲い掛かる。
激突する両者。互いに一歩も引かない。
しかし、押し返す事が出来ない事にスザクは驚きを隠し切れなかった。
「そんな!? ユグドラシルドライブのパワーも上がってる筈なのに……」
「このっ!! 流石にキツイかな……」
対するカレンも流石に力任せ過ぎたと反省していると、ランスロットのコックピットにセシルの声が響く。
『スザク君っ!! 総督の現在地が分かったわ! ブリッジ後方のガーデンスペース。でも、墜落まで後47秒!!』
「必ず助けます!!」
強い決意と共にコックピットモニターに映ったセシルを見やるスザク。
しかし、一瞬とはいえ紅蓮より視線を逸らした事が仇となった。
「っ!? しまった!!」
虚を突いて放たれた紅蓮のハーケンがランスロットの左側頭部を抉る。
「ぐっ!?」
衝撃に揺れるコックピット。
スザクは堪らず顔を顰めるが、直ぐ様ランスロットを反転させると紅蓮に背を向けた。
それを見たカレンが「逃げる気?」と憤慨した直後、今度は潜水艦内からC.C.と神楽耶。二人の声が飛ぶ。
『カレン、今はスザクより――』
『ゼロ様を!』
「分かってるけど、何処に――」
カレンが悲痛な面持ちで嘆いた時――。
―― カレン! スザクを追え!! ――
彼女の脳裏に一年前に聞いたライの声が過ぎった。
「そっか……分かりました、神楽耶様!!」
力強く応じたカレンは、旗艦の装甲にコアルミナスコーンを使って大穴を開け突入するランスロットを追うべく、ペダルを踏み込んだ。
◇
アヴァロンのブリッジに据えられた椅子。そこに居座る銀色の仮面の下で、ライは一人物思いに耽る。
――何が嬉しいというのだ? 私は……。
突然の標的からの念話。
それが明らかに上から目線で発せられた言葉だと理解すると、沸々と怒りが沸いたライは殺意で以て応じた。
だが、僅かな間と共に再び返って来た声には臆した様子など微塵も無かった。
いや、それは寧ろ先程以上に尊大な響きを持っていたが、言葉の途中でその声は突然聞こえなくなった。
当然の如くライはその理由を考える。
すると、その時になって初めて自分の口元が緩んでいる事に気付いた。
そして、当初に記述した思いに至るという訳だ。
その笑みはライ自身喜んでいると分かるものだった。目標が見つかった事に対してでは無い。
何故か。
あの声を心の内で反芻する度に、ライは酷く懐かしいような感覚を覚えていたのだから。
心に波風を立てられた今のライにとって、最早戦況など眼中に無かった。
ただひたすらに、その答えを探るべく思考の海に沈み行く。
しかし、それはセシルの悲痛にも似た声にサルベージされる事となった。
「ああっ! 重アヴァロンがっ!」
その声に我に返ったライは仮面越しにモニターを見やる。
飛び込んで来たのは海面上で爆散する旗艦。
これにはライも思わずといった様子で椅子から立ち上がる。が――。
「だからさぁ、セシル君。総督ならさっき救出したってスザク君が言ってたじゃない」
果たして目の前の現状を理解しているのか。全く心配しているといった素振りを見せないロイドの言葉。
それは、ライを固まらせる程にこの場には似つかわしく無い声色でもあった。故に――。
「ロイドさん! 何であなたはそんなに暢気なんですかっ! あの爆発見て無いんですかっ!?」
セシルの表情には普段の温和な面影は見る影も無い。しかし、これもロイドには効果が無かった。
「だからさぁ。大丈夫だって――」
ヒラヒラと手を振りながらロイドが言葉を発した時、遮るように通信が飛び込んで来た。
発信者はスザク。
そして、それは総督の無事を知らせるものだった。
通信内容が告げられた瞬間、ブリッジは大歓声に包まれた。
ある者は同僚と固い握手を交わし、またある者は両手を高々と突き上げる。
セシルも両手を口元に添えると瞳を潤ませる。
が、そのような只中にあってもロイドは一人自慢気に語る。
「まぁ当然だね。何といっても僕のランスロットは――」
「ランスロットじゃなくて救助したのはスザク君です! ス・ザ・ク・君! 分かりましたか?」
安心した結果、それまで渦巻いていた感情を全て怒りに向ける事が出来たセシルは、普段の温和な表情のままに寒々とした怒気を向ける。
すると、これには流石のロイドも肝を冷やした。微笑みながら怒られる事程恐ろしい事は無いのだから。
「そ、そうでした。そうでした。いやぁ〜、流石だよね、彼」
ロイドは額に冷や汗をかきながらも全面的に同意する。
だが、若干不満だったのか直ぐさま背筋を丸めて顔を逸らすと子供のように口を尖らせた。
それを見咎めたセシルが口元を引き攣らせる。
と、危険を察知したロイドは背筋を伸ばすと回れ右。話し相手を変えた。
「慌て無くても大丈夫だよ」
「慌テル? ハッ! マサカ……」
ロイドと視線が合ったカリグラは、そう言いかけたところで自身が未だ中腰のままである事に気付いた。
「…………………………」
無言で身を正したカリグラは椅子に座り直すと、ロイドは愉快げに口を開く。
「ふーん。君にも一応喜怒哀楽の感情は揃ってるみたいだね」
「ソウイウ貴様ハ"喜々楽々"シカ無イノデハナイカ?」
「あはぁ。一本取られたね」
二人はブリッジに詰める者達の冷ややかな視線を無視して、暫しの間、埒も空かない言葉の応酬を続けた。
以上で投下終了です。
すごく面白かったです!
ライカレ厨さんの作品はすばらしいです!
次回を楽しみにまっています。
ライカレ厨卿キターーーーーーーーーーー!!
とてもよかったです。次回の作品も楽しみにしています。
乙です。
ライカレ厨氏、久々の投下。待ってました。
次も楽しみにしてます。
乙でした!
これからの展開も非常に気になります
次回の投下も全力でお待ちしています
454 :
LLLLL:2010/06/28(月) 19:33:41 ID:OAovMhTi
乙でした!
次回もお待ちしております!!
すっげーーーーーー
よかったーーーーーー