東方projectバトルロワイアル 符の陸

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1創る名無しに見る名無し
 これは同人ゲーム東方projectのキャラによる、バトルロワイアルパロディのリレーSS企画です。
 企画上残酷な表現や死亡話、強烈な弾幕シーンが含まれる可能性があります。
 小さなお子様や、鬱、弾幕アレルギーの方はアレしてください。

 なお、この企画は上海アリス幻楽団様とは何の関係もございませんのであしからず。

 まとめWiki(過去SS、ルール、資料等)
 http://www28.atwiki.jp/touhourowa/pages/1.html

 新したらば掲示板(予約、規制対策、議論等)
 http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13284/

 旧したらば掲示板
 http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12456/

 過去スレ
 東方projectバトルロワイアル 符の伍
 http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1253970854/

 東方projectバトルロワイアル 符の四
 http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1248691156/

 東方projectバトルロワイアル 符の参
 http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1244969218/

 東方projectバトルロワイアル 符の弐
 http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239472657/

 東方projectバトルロワイアル 符の壱
 http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1235470075/

 東方projectバトルロワイアル
 http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9437/storage/1224569366.html

 参加者、ルールについては>>2-10辺りに。
2創る名無しに見る名無し:2010/01/17(日) 15:28:40 ID:8mt1sAIF
 【参加者一覧】

 2/2【主人公】
   ○博麗霊夢/○霧雨魔理沙

 7/7【紅魔郷】
   ○ルーミア/○チルノ/○紅美鈴/○パチュリー・ノーレッジ/○十六夜咲夜
   ○レミリア・スカーレット/○フランドール・スカーレット

11/11【妖々夢】
   ○レティ・ホワイトロック/○橙/○アリス・マーガトロイド /○リリーホワイト/○ルナサ・プリズムリバー
   ○メルラン・プリズムリバー/ ○リリカ・プリズムリバー/○魂魄妖夢/○西行寺幽々子/○八雲藍/○八雲紫

 1/1【萃夢想】
   ○伊吹萃香

 8/8【永夜紗】
   ○リグル・ナイトバグ/○ミスティア・ローレライ/○上白沢慧音/○因幡てゐ
   ○鈴仙・優曇華院・イナバ/○八意永琳/○蓬莱山輝夜/○藤原妹紅

 5/5【花映塚】
   ○射命丸文/○メディスン・メランコリー/○風見幽香/○小野塚小町/○四季映姫・ヤマザナドゥ

 8/8【風神録】
   ○秋静葉/○秋穣子/○鍵山雛/○河城にとり/○犬走椛/○東風谷早苗
   ○八坂神奈子/○洩矢諏訪子

 2/2【緋想天】
   ○永江衣玖/○比那名居天子

 8/8【地霊殿】
   ○キスメ/○黒谷 ヤマメ/○水橋パルスィ/○星熊勇儀/○古明地さとり
   ○火焔猫燐/○霊烏路空/○古明地こいし

 1/1【香霖堂】
   ○森近霖之助

 1/1【求聞史記】
   ○稗田阿求

 【合計54名】
3創る名無しに見る名無し:2010/01/17(日) 15:29:55 ID:8mt1sAIF
【基本ルール】
 参加者同士による殺し合いを行い、最後まで残った一人のみ生還する。
 参加者同士のやりとりは基本的に自由。
 ゲーム開始時、各参加者はMAP上にランダムに配置される。
 参加者が全滅した場合、勝者無しとして処理。

【主催者】
 ZUNを主催者と定める。

 主催者は以下に記された行動を主に行う。
 ・バトルロワイアルの開催、および進行。
 ・首輪による現在地探査、盗聴、及び必要に応じて参加者の抹殺。
 ・6時間ごとの定時放送による禁止エリアの制定、及び死亡者の発表。

【スタート時の持ち物】
 各参加者が装備していた持ち物はスペルカードを除き、全て没収される。
 (例:ミニ八卦炉、人形各種、白楼剣等)
 例外として、本人の身体と一体化している場合は没収されない 。

【スペルカード】
 上記の通り所持している。
 ただし、元々原作でもスペルカード自体には何の力も無いただの紙。
 会場ではスペルカードルールが適用されないので、カード宣言をする必要も存在しません。
 要は雰囲気を演出する飾りでしかありません。

【地図】
 http://www28.atwiki.jp/touhourowa/pages/14.html

【ステータス】
 作品を投下する時、登場参加者の状態を簡略にまとめたステータス表を記すこと。

 テンプレは以下のように

 【地名/**日目・時間】
 【参加者名】
  [状態]:ダメージの具合や精神状態について
  [装備]:所持している武器及び防具について
  [道具]:所持しているもののうち、[装備]に入らないもの全て
  [思考・状況] より細かい行動方針についての記述ほか。
         優先順位の高い順に番号をふり箇条書きにする。
  (このほか特筆すべきことはこの下に付け加える)

【首輪】
 全参加者にZUNによって取り付けられた首輪がある。
 首輪の能力は以下の3つ。
 ・条件に応じて爆発する程度の能力。
 ・生死と現在位置をZUNに伝える程度の能力。
 ・盗聴する程度の能力。

 条件に応じて爆発する程度の能力は以下の時発動する。
 ・放送で指定された禁止エリア内に進入した場合自動で発動。
 ・首輪を無理矢理はずそうとした場合自動で発動。
 ・24時間の間死亡者が0だった場合全員の首輪が自動で発動。
 ・参加者がZUNに対し不利益な行動をとった時ZUNにより手動で発動。
4創る名無しに見る名無し:2010/01/17(日) 15:30:45 ID:8mt1sAIF
【書き手の心得】
 この企画は皆で一つの物語を綴るリレーSS企画です。
 初めて参加する人は、過去のSSとルールにしっかりと目を通しましょう。
 連投規制やホスト規制の場合は、したらば掲示板の仮投下スレに投下してください。
 SSを投稿しても、内容によっては議論や修正などが必要となります。

【予約】
 SSを書きたい場合は、名前欄にトリップをつけ、書きたいキャラを明示し、
 このスレか予約スレで、予約を宣言してください。(トリップがわからない人はググること)
 予約をしなくても投下は出来ますが、その場合すでに予約されていないかよく注意すること。
 期間は予約した時点から3日。完成が遅れる場合、延長を申請することで期限を4日延長することができます。
 つまり最長で7日の期限。
 一応7日が過ぎても、誰かが同じ面子を予約するまでに完成させれば投下できます。

【投下宣言】
 他の書き手と被らないように、投下する時はそれを宣言する。
 宣言後、被っていないのを確認してから投下を開始すること。

【参加する上での注意事項】
 今回「二次設定」の使用は禁止されている。
 よって、カップリングの使用や参加者の性格他の改変は認められない。
 書き手は一次設定のみで勝負せよ。読み手も文句言わない。
 どうしても、という時は使いどころを考えよ。
 支給品とかならセーフになるかもしれない。
 ここはあくまでも「バトルロワイアル」を行う場である。
 当然死ぬ奴もいれば、狂う奴もでる。
 だが、ここはそれを許容するもののスレッドである。
 参加するなら、キャラが死んでも壊れても、泣かない、暴れない、騒がない、ホラーイしない。
 あと、sage進行厳守。あくまでもここはアングラな場所なのを忘れずに。
 感想や雑談は、規制等の問題が無ければ、できるだけ本スレで楽しみましょう。

【作中での時間表記】(1日目は午前0時より開始)
  深夜  : 0時〜 2時
  黎明  : 2時〜 4時
  早朝  : 4時〜 6時
  朝   : 6時〜 8時
  午前  : 8時〜10時
  昼   :10時〜12時
  真昼  :12時〜14時
  午後  :14時〜16時
  夕方  :16時〜18時
  夜   :18時〜20時
  夜中  :20時〜22時
  真夜中:22時〜24時
「アハハハハハッ」
 
 こいしは足を止めると、高らかに笑った。
 
「そんな剣じゃ私は殺せないよ、先に私が殺しちゃうから!」

「ま、待って!私の、話を聞いてくださいっ!」

 静葉は叫んだ。今出せる全力の声で叫んだ。
 聞こえている筈なのに、こいしは、表情を変えない。凍りついたような不気味な笑顔を、崩さない。

「私たちは、戦いたくないんです! 殺し合いなんて、駄目ですっ…! だから、やめましょう…!」

 甘えかもしれない。無理だって自分でもどこかでわかっている。
 それでも、自分の死も、他人の死も、辛いことだって知っているから。
 戦うことが、今、何も生み出さないことを知っているから。

「私達は貴女を傷つけませんっ…! だから…!」
「駄目、だよ。約束だもん」

 それでも心の叫びは、まるで相手の心に響かなかった。
 他人の声など、何の意味も持たぬ雑音でしかないのだと。 
 
 こいしの口の端が、大きく歪んだ。
 無邪気で不気味な笑顔が、ただ殺意の具現と化す。


 戦うしか、無い。
 引けない。
 そう思った。
 だから。


 フランベルジェを、ぎゅっと握り締めて。

 全ての恐怖を飲み込んで、全ての勇気を振り絞って、守るために戦うことを選んだ。

「葉符『狂いの落葉』!」
 
 相手が動き出す前に、先手を取って鮮やかな紅葉の弾幕を散らし、敵との間に視界を遮る幕を生成する。
 相手の遠距離武器の精度を可能な限り落とすことが第一の目的。
 第二に、予想以上に効果がありそうならば、これを盾に二人を連れてここから逃走を計るため。

 しかし、第一はまだしも、第二の目的を達することは不可能だと、すぐに考えを改めざるを得なかった。


 こいしは、広範囲の弾幕の隙間を縫うように、軽やかに静葉に近づいてくる。
 それを身体に喰らうことなど恐れていないかのように。
 走るよりは足止めが出来ているものの、逃走するには余裕がなさ過ぎる。
 それに、弾幕を放つだけで、力の消費を感じるほど、自分達にかかっている制限は大きいもののようだ。

 洋剣は手に持ったままだが、出来れば使いたくなかった。
 だが、それ以外に武器は無い。
 それ故に、消耗してでも弾幕を休み無く生成し続けて相手の隙を付くしかない。


 静葉の放った幾度目かの弾幕の間を縫い、こいしは拳銃を放ってきた。
 それは大きく逸れて遠くの民家の屋根に突き刺さるが、静葉がそちらに気を取られた隙にこいしは弾幕を広げる。

「本能『イドの解放』」

 こいしを中心に、広範囲にハート型の弾幕が撒かれる。
 静葉は辛うじて第一波を回避するものの、すぐに違和感に気付いた。
 ハート型の弾幕が、こいしと静葉を囲うように広く円形に停滞したままだった。

「しまっ…!」

 静葉を逃がすまいと、その道を封じるように背後に弾幕が迫る。
 それを避けながら攻撃出来るほどの判断力も反射神経も、静葉には無い。
 必然的に、弾幕をかわしつつ常時動きながら、敵の拳銃に照準を合わせられないようにするのが精一杯だ。
 しかし、相手に余裕を与えれば更に弾がばら撒かれてしまい、徐々に自分が追い詰められていくことに繋がる。


「あはははははっ」

 気付けば、こいしの手中で踊っているだけのような錯覚に陥る。
 追い詰められた穴ではなく、既に檻の中に囚われてしまっているような感覚。
 まるで、勝ち目というものが見出せない。

 
 このままでは、どうしようもない。
 封じた考えを、再度表に出さざるを得ない。
 手元の洋剣を強く握る。
 二度と使いたくない。その気持ちは今も変わらない。
 それでも、守りたいものをこの武器が守ってくれるのなら。
 静葉は強く踏み込むと、弾幕の隙間を縫い、洋剣を構え大きく跳んで間合いを詰める。

 静葉が全力で振るったフランベルジェが、こいしが払うように振った銀のナイフと、火花を散らした。

「――!」

 遠距離武器だけでなく、やはり近距離用の武器も所持していた。
 静葉が不得意とはいえ、まだ相手の実力が未知数だった近距離戦ならば勝ち目はあったかもしれないと考えたのだが、結果は同じだった。

 
 二度、三度と続く剣戟は、手品のように左右に撫ぜるナイフに悉く跳ね返された。
 漂っていたハート型の弾は消えていた。先ほどまで手にしていた拳銃は服を括った紐に引っ掛けている。
 こいしは、今は右手左手に一本ずつ、銀のナイフを逆手に構えている。
 妖なる者を封じるために聖なる刻印の刻まれた武器。
 あまり手馴れているとは言えないが先の予測できないトリッキーな動き。
 まるで「人形師が人形を操っているかのような」緻密なナイフ捌き。
 
 お互いが慣れない武器とはいえ、根本の戦力差は、明白だった。
 力の差。経験の差。そして――殺意の差。
 どれをとっても、静葉に有利な点など見つからない。

 
 それでも、相手が休む暇を与えてしまえば、間合いを離されて遠距離戦に持ち込まれるかもしれない。
 そうなれば先ほどと同じだ。今以上に不利な状況に追い込まれかねない。
 それに、ルナチャイルドの状態からして、時間をかける余裕は無い。
 一刻も早く、手当てをしなくてはいけない。
 早く相手を敗走させるか、行動不能に陥らせなくては。
 焦りのような感情は、静葉の行動を誤らせるように膨れ上がる。

 静葉は慣れぬ剣を振るう。既に幾度目かもわからない剣戟。
 右から左へ、静葉の可能な限りの速さで振るった剣。

 こいしは、それを同じような動作でナイフで払う――事無く、小さなバックステップでかわす。
 不意に反発の重力が働かなかった静葉の足がたたらを踏む。

「きゃはははははっ」

 狂ったような、しかし明確に自分の優位を意識した笑い声。

 前のめりになった静葉は、思わず顔だけを右に振り返らせる。
 そこには、こいしの勝ち誇った顔があった。
 眼を見開いて、今から起こることを心から楽しみたいのだと、誰かに伝えるような笑顔。

 それは随分とスローに、静葉の眼に映りこんだ。

「残念でしたっ」

 楽しそうで、満足そうな声だった。
 構えたナイフが、妖しくキラリと光った。
 それは、静葉の首筋に今にも振り下ろされようとしていた。



「――あれっ?」

 こいしの声が、静葉にも不思議とはっきり聞こえた直後。
 こいしの表情が、ほんの少しだけ疑問を浮かべた。
 本来なら、静葉の首を切り裂くはずだったナイフが、僅かにテンポが遅れ、静葉の右上腕を突き刺した。

「――ッ!」

 思考が停止するほどの激痛が走り、手を離れたフランベルジェは遠く前方へ飛ばされた。
 そのまま前に倒れこむ。思わず今刺されたばかりの右腕で、顔面からの地面への衝突を回避しようとする。

「ーーーーーーー!!!」

 身体を支えようとした右腕に、言葉にならない激痛が二重三重に走る。
 即座に左腕を代用して支えにし、地面との衝突は避ける。
 ワンクッションの後に側面から倒れこみ、受身など取れずに身体を強くぶつけた。
 


「あは、あはははっ!」

 何が可笑しいのか、こいしが狂ったように笑う。
 倒れこんだままの静葉に、いつの間にかまた手にしていた拳銃を突きつけて。

「ねぇっ、妹いるでしょっ!」

 どこか楽しそうに、話しかけた。


 走る鋭い痛みの中でさえ、こいしの随分とはっきりと言葉が聞こえる。

「妹、…どうして…?」

 どうして、そんな事を聞くのだろう。

「さぁ?なんとなく。居そうな気がしたの」

 まるで、何を考えているかわからない。
 不気味に笑う少女を見つめ、ハッと一つの可能性に思い当たる。

 もしかしたら、穣子のこと、知っているのかもしれない。
 …もし、そうならば、何処で穣子の事を知ったのだろう。
 どこかで会ったのだろうか。
 鈴仙さんが言っていた、悲劇の場所に居たのかもしれない。

 穣子へ繋がる僅かな糸を、自分のことも忘れて掴み取ろうと手を伸ばす。
 しかし、静葉がそれを尋ねる前に、こいしは次の言葉を繋ぐ。
「…ねぇ、仲は良かったの?妹は好き?」

 意図の読めない笑顔で、こいしは尋ねる。
 何かを期待しているような。何かを欲しているような、そんな表情に思えた。

 穣子の笑顔が、脳裏に浮かんで消えた。
 同時に、楽しかった、平和だった過去が思い返される。
 泣いて泣いて、その涙でも流せない、流すことなど出来ない思い出が。

 静葉は、噛み締めるように返答する。

「…ええ。私達、とても…仲は良かっ」

 次の瞬間、全く何の前触れも見せずに、こいしは引き金を引いた。
 静葉の右脚を、弾丸が撃ち抜いた。

 一瞬、何が起こったのかわからず、呆けてしまう。
 直後、遅れて走った激痛に、静葉は思わず苦痛を叫んだ。

「あはははははっ!そう!よかったね!よかったねっ!」

 全くの無意識の中で、本人すら気付かない憎しみの黒き衝動が、こいしを駆り立てた。

「よかったねっ! でも私と――                                              
 私と、アリスさんの絆には適わないかな!あははははっ!」

 何も笑うことは無い。面白いことも、楽しいことも無い。
 それでも、笑いが狂ったように出てくるのは。

 何か心の奥に隠してしまった感情を、出て来させまいとする無意識が、壊れた心から溢れてくるから。


 静葉は言葉を失った。
 こいしはどこか壊れた笑いを今も続けている。

 静葉は必死に立ち上がろうとするが、体中に力が入らない。
 少しでも動かすたびに激痛が入る。
 目を逸らしたかったが、今の静葉の右足からは、脈打つたびに血が溢れ出てくる。
 
 こいしは、不意に笑い声を止めた。

「うん、アリスさん、わかってるよ。ちょっと遊んだだけ。大丈夫、任せて、私に」

 再度、空に話しかける。今度は、空虚でないしっかりとした口調で、笑いの消えた表情で。
 そして、静葉の方に向き直ると、流れるように拳銃を構え、引き金に指をかける。
 それは決して正しい構えではないかもしれないが、それが引かれた瞬間に静葉は確実に命を失うだろう。 

 静葉は、その黒い銃口をぼんやりと目で追った。
 それが自分を狙い、死の瞬間がすぐ近くまで来ていることを、痛みの中のぼんやりした思考の中で悟った。



 ……

 こいしの動きが、ふと止まった。
 静葉が申し訳程度の盾として顔を隠した左腕は、来る筈の銃撃を感知しなかった。


「駄目っ…やめ、ようよっ…」

 こいしの脚に、満身創痍のルナチャイルドが抱き付いていた。
 右腕はボロボロで、今も血が流れ出ている。それでも、左腕一本だけででも、その脚の動きを止めようと、必死で掴んでいる。

「ルナチャイルドっ…!」

「痛い、よ…。私も、このお姉ちゃんもっ…!あのお姉ちゃんだってっ…きっと、痛かった、よ…! 
 傷つくの、嫌だよ。死ぬの、嫌だよ…。殺すの、やめようよっ…!」

 ここまで這ってでも来たのか、痛々しい流血の道が出来ている。
 脚だってマトモに機能せず、動くことすら困難だったというのに、小さな妖精はここまで辿り着いたのだ。

「妖怪とか、人間とかっ、いっぱい、いるけど、いろいろ、あったけど…! でも、こんなのはっ、違うよっ…ちがっ…」

 永き命を持つが故に、多くの種族から忘れかけられていた恐怖。
 死は、ありとあらゆる生命にとって、存在するだけで戦慄を覚える、嫌悪の最たる対象。
 それを、ルナチャイルドは、必死でこの少女に伝えようとしていた。

 静葉は、止めなきゃいけないと思った。
 今のこの相手には、言葉が伝わらない。それは自分が戦って話した中で、わかったことだから。
 だからお願い――!早く、逃げて…

 でも、それは、言葉にならない。
 ルナチャイルドの必死の言葉だけが、響き渡る。

「殺すのっ…おかしい、よっ…!そんな、のっ…皆っ、死にたくなんか、ないのにっ…!
 絶対っ…おかしいよっ…!」
 
 こいしは、呆けたような表情を見せると、狂気すら感じない無感情な声で言った。

「おかしく、ないよ。アリスさんが言ったもん」

 静葉を捉えていた銃口が向きを変え、
 乾いた音と共に、無慈悲な弾丸が、ルナチャイルドの額を撃抜いた。
 妖精は、小さな妖精は、勇気を振り絞って心を伝えようとした妖精は――
 血に塗れて、死んだ。

 動かない。
 静葉の目の前で。
 もう誰も失いたくないと思った静葉の前で。

 心の悲鳴は、喉に引っかかって、声にならなかった。
 酷使された涙腺が悲鳴を上げ、溢れる筈の涙の代わりに痛いくらいに目の奥が熱い。 

「アリスさん。大丈夫、私は惑わされないから。ね、アリスさん」

 こいしの呟くような声は、この世界のどこにも届かぬかのように、空で消えた。
 

 あの声も届かないほどに、悲しい出来事に負けてしまったのだろうか。
 誰かに守られたかもしれないその命を、繋ぐよりも悲しい使い方にしか使えない、
 アリスという名の、呪いのような誓いに縛られて。
 
 もし、美鈴さんが、最後に残した言葉が。
 穣子が、最後に残した言葉が。

 それを望んでしまったのなら。
 私だって、わからない。

 彼女がどんな経験をして来たのかわからない。
 彼女にとって、それがどんなに重いことかなんか、わからない。

 でも。
 悲しいから。
 そんなの、悲しすぎるから。
 静葉は、弾幕ではなく、声を絞り出した。ルナチャイルドの気持ちを、そのまま捨てたくはなかった。
 
「ねぇっ…!奪っても、戻らないっ…。殺したって、何も得られないですよっ…!だから、もうっ…」
「駄目、だよ。アリスさんが望んだことだもん」
「お願いっ…!聞いてッ…!アリスって人が望んだことは、きっとこんな事じゃな…」
「五月蝿いッ!!」

 目の前の狂気に染まった顔が、酷く醜く歪んだように見えた。
 それは静葉という存在を、今すぐにでも消してしまいそうなほどの怒りに色を変えた。

「アリスさんを!アリスさんを!否定するなぁッ!!」

 少女は、もう、聞いていなかった。
 無邪気な少女でも、好奇心溢れる少女でもない。純粋な憎悪と殺意がその表情を包んだ。
 アリスに囚われた心の錠は、幾重に掛けられた鍵は、それを開こうとするものを全て拒んだ。
 それを奪わんとするものを、全て敵と看做した。

 こいしは拳銃を構えた。会話も、躊躇いも、アリスとの約束に不要なものだった。



 ああ、もう、死ぬのかな。
 静葉は、自分へ向こうとする拳銃と、その向こうの怒り狂った表情を呆然と見つめながら、不思議と冷静に、そんな風に考えた。

 託された命が、今そこに、あるのに。最後まで守ることが出来なかった。
 今ここで散った命を、何かに繋ぐこともできなかった。

 穣子、ごめんね。
 もしかしたらあなたと、最後に会えたかもしれないのに。
 美鈴さん、ごめんなさい。
 守ってくれた私の命も、守ろうとしたあの命も、こんなところで――

 そして、視界の色が変わった。
 最後の一枚、紅葉が散るようにあっさりとした一時だった。



 しかし、二度目の最期の瞬間は、またも訪れることは無かった。



「――ッッ!」

 何かが凄い勢いで衝突したような。とても生物が出すようには思えない音がした。
 こいしが、言葉にならない悲鳴を上げ、静葉の視界から消えた。
 

 静葉の目の前には、

「お、鬼さん…」

 先ほどまでは生死の境にいた筈の鬼の背中があった。

「大丈夫、なん、ですか…?」

 静葉が小さく声をかけると、鬼は静葉に向き直った。
 その表情は元気そうで、ほんの少し笑顔であった。

「ああ、大丈夫。力を吹き込んでくれた人がいたから、今はもう万全だよ。あとは私に任せな」

「よ、か、った…」

 ふっ、と静葉にも笑顔が戻る。
 悲しい出来事の連鎖の中の、ほんの一瞬の、一つの奇跡に。

 私が託された命を、守ることができて。
 大切な命を、繋ぐことができて。

 終わる秋から冬へ、そして芽吹く春へと繋ぐ命を。
 落ちた葉が、土を潤し、新たな命が息吹くまで。
 
 希望を穣らせるもので――

 静葉は安心したように、ふっと力が抜けるように倒れた。
 激痛と悲しみに耐えていた、心を支える糸が、切れたように。

 静葉が目を閉じると、萃香の表情は一瞬にして苦痛に溢れたものとなる。
 身体を支えるのがやっと、といった様子で大きく息を吐いた。
 その両脚は、折れかける膝をどうにか支えていた。

 無理して作った笑顔は、彼女を騙してしまっただろうか。
 鬼である自分が嘘をついてしまうなんて。

 それが、恩義ある相手に鬼が出来る精一杯の強がりであったとしても。

 不鮮明な精神の中で、自分の触れていた紅い背中はただ温かく。
 そのときは感謝も言葉にすることが出来ない状態だったけれど、今でははっきりと言える。
 守られることになんて慣れていないけれど。
 心から自分を守ろうとしてくれたこと、心からありがとうと。


 先ほど体当たりで飛ばした相手は、遠くで倒れている。
 鬼の一撃をまともに食らったんだ。当分は起きて来られないだろう。
 あいつと話したいことは山ほどある。でも、今大事なのはこの神様だ。

 萃香は急いで静葉を右腕に、ルナチャイルドの死体を左腕に抱えると、傍の民家に並べて寝かせた。
 静葉の腕の傷は、案外出血が酷く無い。脚は重傷だが、銃弾は貫通している。
 双方傷は浅くは無いものの、血止めをすれば死ぬことは無いだろう。
 ルナチャイルドの服を少し破り、止血用の包帯に使う。

「…間に合わなくてごめん」

 物言わぬ妖精に、謝る。
 サニーミルクの仲間の妖精だろう。きっと、とても悲しむに違いない。


 意識の深霧が晴れるまでは、響く戦闘音すら他の世界の出来事のように聞こえていた。
 混濁した意識が正常に戻り、立ち上がれたときにはもう、戦いの場の妖精は動いていなかった。
 そして霞がかった記憶の中で自分に手を差し出してくれた神様が、今にも命を奪われようとしていた。
 その瞬間、柄にも無く必死に走った。感情というものは予想以上に身体を熱くさせた。 

 ルナチャイルドの死は自分のせいでは無い、そう人は言うだろう。
 むしろ、この秋の神を助けたのを誇っていいと、言われるかもしれない。
 しかし、こんなに近くに居たというのに、全く私は守れなかった。
 妖精を失い、恩人を傷つけて、それで満足など出来る筈が無い。

 情けなくて、不甲斐なくて。鬼失格だね、私は。


 ザッ、と地に足を擦る音が聞こえ、次いで先ほどより増した殺気を感じた。
 体当たりで吹き飛ばした相手が、今起き上がったようだ。
 
 予想外に早い。
 全力の体当たりだった。あれを喰らえば気を失うか、そうでなくとも一刻は立ち上がれないはずだというのに。
 その間に、恩人を助け、相手を見極めて、自分が出来る範囲でケリをつけるつもりだったというのに。
 本当に、自分が今、その力を全て発揮することが出来ていないんだと実感する。

 不甲斐なさの上塗りだよ。情けなくて涙が出るね。
 鬼が泣くなんざ、恥ずかしくて誰にも言えないけどさ。

「ごめん、守ってくれた命だけど――私はこれを使ってしまうかもしれない」

 意識の無い静葉に、そう語りかける。

「でも、鬼は…戦いを止めたときが、死ぬ時なんだってさ」

 長い長い鬼の眠りの間に、亡き親友が伝えてくれた言葉だ。
 彼女との最期の約束というに足るそれを、鬼である自分が、反故にするなんて出来る筈も無い。

 身体は万全には程遠い。むしろ限界に近い。
 それでも、朦朧とした意識の中、誰かが自分に分けてくれた力があった。
 誰かを守るために使えと、そう言われたような気がしていた。
 そして、動けぬ自分を助けようとしてくれた人が、今ここにいる。

 鬼が恩義を返せなかったら、後世までの笑いものだよ。

「酒の一献、鬼の一魂――簡単に捨てられるモノじゃない」

 両拳を一つ、強く打ち付ける。
 民家の陰から、敵の前に姿を晒す。

 立ち上がった妖怪が、こちらを見ていた。
 顔は見たことがある気がする。でも、会ったとしても遠い昔の話だろう。
 それは、今は大切なことでは無い。
 既に命を一つ以上奪い、一人を傷つけ、尚も殺意を纏っている。
 相手がそうであるならば、必要なのは意志だけだ。

 自分を守ってくれた人に、指1本触れさせるものか。


「伊吹萃香! 鬼の名に誓い、この場は譲るものかぁッ!」





 まるで全速力の象が体当たりをしてきたような。
 全身に幾らとも言いがたい衝撃が走った。

 無防備だった秋の神の姿が消え、視界は広い地面を高速で滑った。

 空、地、空、地、と高速で視界が変わり、こいしは自分が吹き飛ばされたんだとぼんやり気付いた。
 随分と長く思える間宙に舞った後、最後に一転し、地面とグレイズしきれず腰を強かに打ちつけた。

「う、ううっ…!」

 流石に堪えたか、すぐに起き上がろうとするも身体が動かない。
 拳銃は手放さなかったけれど、静葉の血を浴びていたナイフは手から抜け遠くへ飛んでいったようだ。
 尤も、そんなことはこいしには関係ない。
 暫くの間、動かそうとする意識に反抗する身体と格闘した後、痛みを無意識で無理矢理覆い隠し、立ち上がった。
 足が震え体中が悲鳴を上げるが、それらを全て黙殺する。
 土の付いた服を払うことも、血の付いた顔を拭うことも無い。
 今は不気味な笑顔の欠片もなく、その表情は憎悪に満ちている。

 武器は幾らでもある。一刻も早く、自分を攻撃した相手を、殺しに行かないと。

 こいしは、ただ敵を見た。
 どうやら、二本角の鬼が体当たりを喰らわせてきたようだ。
 今再び民家の陰から飛び出してきた鬼は、まるで猛る獣のように自分に怒りの視線を向けてくる。
 見えるほどの殺意すら感じるような、強烈な気迫を纏っている。 
 

 神と小さな妖精の次は、これまた小さな鬼。見れば見るほど奇妙な取り合わせだ。
 こいしがいつもどおりなら、さぞかし楽しそうに笑ったに違いない。

 でも、今のこいしには、彼女達は全てただの敵でしかない。
 自分とアリスの目的を阻害する、共謀した悪でしかない。


 ねぇ、ありすさん。
 みんなでよってたかってわたしをいじめるんだよ。
 わたしはなにもわるくないのに。

「そんなに、」

 ぼんやりとした「また」が頭の中に浮かんで消えた。
 思い出せないいつだったかの過去と、今。あの僅かな幸せな時間以外は、自分は一人だったような気がした。

「わたしをきらいなの?」

 きっと、わたしがこわくて、きらいで、にくくて、きもちわるくて。
 だから、こんなに、わたしに、つらくあたって。

 だから、わたしはめをとじた。
 めをとじさえすれば、わたしがゆるされるせかいになった。

 いままではわたしひとりのせかいだったけれど。
 だれもはいってこなかったせかいだったけれど。
 いまは、アリスさんとふたりのせかい。
 だれも。だれだって。はいれないせかい。

 わたしのせかい。

「いいよ、みんながわたしをきらいでも。わたしには、ありすさんがいるから」

 ここにいる全てを壊すこと。
 アリスの望みをかなえること。
 私が嫌われないでいられる場所が、そこにしかないのなら。
 それ以外の全てを捨て去ることに何の躊躇いも無い。
 それだけのために。全てを失っても構わない。
 なぜなら、自分は人形だから。
 望まれた、人形だから。

「…アリスさんのために。」


 囚われた心に従い、少女は堕ちた。
 守られた命を繋ぎ、少女は立った。

 亡き少女のために。傷ついた少女のために。
 譲れぬ想いを抱いた二つの意地がぶつかり合い、冬の人里に、一瞬の熱風を巻き起こした。
 


【D−4 人里の西側 一日目 午後】

【伊吹萃香】
[状態]重傷 疲労 能力使用により体力低下(底が尽きる時期は不明。戦闘をするほど早くなると思われる)
[装備]なし
[道具]支給品一式 盃
[思考・状況]基本方針:命ある限り戦う。意味のない殺し合いはしない
1.こいしを倒す。静葉は命をかけてでも守る。
2.鬼の誇りにかけて皆を守る。いざとなったらこの身を盾にしてでも……
3.紅魔館へ向う。ある程度人が集まったら主催者の本拠地を探す
4.仲間を探して霊夢の目を覚まさせる
5.酒を探したい
※無意識に密の能力を使用中。底が尽きる時期は不明
※永琳が死ねば全員が死ぬと思っています
※レティと情報交換しました
※美鈴の気功を受けて、自然治癒力が一時的に上昇しています。ですがあまり長続きはしないものと思われます。


【古明地こいし】
[状態]左足銃創(軽い止血処置済、無意識で簡易痛み止め中)、首に切り傷、全身打撲  精神面:狂疾、狂乱
[装備]水色のカーディガン&白のパンツ 防弾チョッキ 銀のナイフ×8 ブローニング・ハイパワー(10/13)
[道具]支給品一式*3 MINIMI軽機関銃(55/200) リリカのキーボード こいしの服 予備弾倉1(13) 詳細名簿 空マガジン*2
[思考・状況]基本方針:殺せばアリスさんが褒めてくれた、だから殺す。
1.全てを壊し尽くす。

※寝過ごした為、第一回の放送の内容をまだ知りません
※地霊殿組も例外ではありませんが、心中から完全に消し去れたわけではありません。

※フランベルジェ、一本の血塗れの銀のナイフが近くに落ちています。


【D−4 人里の西側民家 一日目 午後】

【秋静葉】
[状態]気絶 右上腕に刺し傷・右ふくらはぎに銃創(双方止血済)精神疲労 
[装備]なし
[道具]支給品一式、紅美鈴の写真、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]基本方針:妹に会いたい。
1.美鈴が助けようとした命を助ける。
2.萃香に、同行を提案してみる。
3.今の妖怪が穣子の事を何か知っているかもしれない。
4.誰ももう傷つけたくない。
5.幽々子を探すかどうかは保留
※鈴仙と情報交換をしました。


【ルナチャイルド 死亡】

※死体は静葉の横に寝かせてあります。
17創る名無しに見る名無し:2010/01/17(日) 16:00:20 ID:8mt1sAIF
代理投下終了。
前スレ容量一杯で次スレ誘導が貼れねぇorz
スレ容量のこと、まったく頭に入ってなかったなぁ。

乙です。
静葉の意思も立派だが、完全に一つのことに集中してるこいしには届かないよなぁ。
それにしても、これでとうとう三月精も残り一人か……。
18創る名無しに見る名無し:2010/01/17(日) 21:32:27 ID:cYgSp80p
代理投下乙。

ああ……もうどうにも出来ない所まで来ちゃったかな、こいし。
せめて静葉が穣子の名前を口にしていれば、また違ったかもしれないが、それも叶わずか。
美鈴の遺志を継いだ萃香と、殺人人形と化したこいし。
どちらが勝っても不思議じゃ無いが……悲しいかな、こいしはどう転んでも救われることは無さそうだ。
少なくとも、今の状態では、ね……。

しかし、三月精はもうサニーのみか。
放送ではルナもスターも呼ばれることは無いが、果たしてそれは彼女にとって幸か不幸か……。
19創る名無しに見る名無し:2010/01/17(日) 22:51:46 ID:KuBZ64jc
投下乙

まずルナ…頑張ったよ。無駄ではないさ。
サニーは一人残されてしまったけど大丈夫かな…

こいしはやっぱり愛が欲しかったのかなぁ。
アリスを妄信しちゃってるのがなんか可哀想にもなるぜ…
そして三人とも死んだ人の思いを受け継いでるから譲れないんだろうなぁ…
20創る名無しに見る名無し:2010/01/18(月) 00:04:57 ID:7IFnBPPZ
投下乙!
美鈴が残していってくれたもの、ここにあり、か。
懸命に頑張る静葉が応援したくなる。
譲子の名前が出てきた時には泣きそうになった。
そして続くルナと二人での訴えにも涙。
ルナ、おやすみなさい。
ことそういや萃香は三月精全員に会ったんだよな……
嘘や恩義、戦いのくだりがすごく鬼かっこよかった。
けどこいしも切ないんだよなあ。
狂ってる姿も似あうんだけどその根底にあるのが愛への飢えなのが悲しい
21創る名無しに見る名無し:2010/01/19(火) 18:33:29 ID:avy5LMUY
投下乙

復活した萃香とこいしの戦いは中盤の山場になりそうだ。
それにしてもこいしは不幸な道を歩んできたんだな・・・。

そしていよいよ対主催らしくなってきた静葉、妹の分も頑張ってくれ。
22 ◆Wi98RZGLq. :2010/01/25(月) 04:26:09 ID:LgrccXOr


心が痛い。まるで何かナイフにえぐり取られたこのような喪失感と鋭い痛み。
はっきりいって、今まで人や知人の死を見たことは何度もある。
今回が、この殺し合いが初めてではない。

ただ、自分で命を奪ったのは初めてだというだけだ。

妖怪などの魑魅魍魎を退治し、時にはその存在を消し去ることは何度もやった。
しかし、最近ではスペルカードルールの導入でそこまでやることはなくなっていた。

そのブランクと親しい存在を殺した。その二つの要因により、私は我を失ったのだろう。


彼女はそう自分を分析し・・・・目を開いた。



目を通して入ってきた映像は見慣れない天井を映している。

「ここはどこなのかしら?」

ここに来た記憶はない。彼を刺してから我を失っていたから当然だろう。
ただやみくもに走っていた記憶がある。
そこから先の記憶は・・・・・・・ない。

今自分は寝具に横たわっているようだけれども、本当に自分で横たわったのだろうか。

疑問は尽きないがとりあえず、

「放送はまだみたいね」

まだ窓からは太陽の光が差し込んでいる。


そこまで確認して、博麗霊夢は体を起こし、「んっ」小さく伸びをした。




自身が入っていた寝具から抜け出ると、見たことのある人形たちが博麗霊夢を出迎えた。

「そう、ここはアリスの家なのね」

霊夢はつい数刻前に自身が殺した存在に思いをはせる。

その様子を人形たちが静かに見守る。

主人のいなくなったことに気づかずに、ただひたすら帰りを待つ人形たち。
このような光景はこれからいたるところで起きてゆくのだろう。

霊夢の脳裏に見慣れた古道具屋の道具達と店の店主の姿が浮かぶ。
霊夢の普通の人間の部分が少し揺らいだ。
霊夢は強引に思考を別のことに向ける。

23 ◆Wi98RZGLq. :2010/01/25(月) 04:29:08 ID:LgrccXOr

そういえば・・・
この一日愛用してきた楼観剣を森に置き忘れてきてしまった。
白玉楼の庭師――そういえば彼女も既に完全な故人となっている。が使うその剣は、霊力
も籠り、切れ味も鋭く、使いやすかった。

いや、そうはいっても剣を回収することはできなかったはず。

「だって、あれはりんのすけさんの胸に・・・ささって・・・・」

あの剣は森近霖之助の胸に刺さっていた。

ああ、彼はもう死んでいるだろう。
いくら妖怪の血が混じっていようがあそこまで深く胸に刺されば死んでしまう。


Flashback
霊夢は自身がりんのすけを刺したその瞬間をまじまじと思いだした。

霊夢は自身の顔についた乾いた血の本来の持ち主を思い出す。
霊夢の心は揺れる。
霊夢は・・・・。
霊夢は・・。


「もう、もういいわ。どうでもいいのよ。他人なんて!私は異変を解決するの!」

霊夢は思考を放棄した。そして、違うことに頭を向ける。

頭に浮かんだのはアリスの弾幕、そして楼観剣を失くしたこと。それから・・・・



魔法の森の一軒家からは騒々しい音。

「何としてでも」

霊夢は棚から人形を引きずり落とし、ナイフでその首を落とす。

「強い武器を手に入れないと」

中から出てきた不思議な色の火薬を掻きだし、集め、

「紫の馬鹿!役立たず!」

手近な袋に詰める。

「なんであんな吸血鬼をかばうの」

また首をはねて、

「りんのすけさんの馬鹿!」

火薬を集める。

・・・・・・・・・・。



24 ◆Wi98RZGLq. :2010/01/25(月) 04:32:10 ID:LgrccXOr

すぐに霊夢の手元には大量の火薬の袋が集まり、床には人形たちの無残なパーツがばらまかれた。

死んだアリスが見たらなんというだろうか?
しかし、あいにく故人の姿はそこにない。

この火薬が楼観剣に変わる武器になるのか不安はあったが、霊夢は達成感を感じていた。

今までの鬱の反動なのだろうか。
西洋風にいうなら、彼女はハイになっていた。

大声をあげて作業をしていたせいか、いつの間にか心のもやもやはなくなっていた。
あるのは異変解決。ただそれだけ。

近くの棚からマッチも回収し、霊夢は荷物をまとめる。
気分は良かった。

意味もなく、相手もなく、自分に言い聞かせるように言葉が口からこぼれる。

「もう私は引き返せないのよ」

もう私はたくさんの存在を殺した。
これからもたくさん殺してゆく。

ソシテ、異変ヲ解決スル。


決意を新たに、外への扉を開けた霊夢の前には・・・




「やっと起きたのかい?まだ昼間なのに、ずいぶんとのんびり寝ていたねえ」


沈みゆく太陽と


「それにしてもお前さん、随分と重たいんだねえ。流石のあたいも運び疲れちゃったよ」


夕日を背にした死神がいた。
25 ◆Wi98RZGLq. :2010/01/25(月) 04:33:18 ID:LgrccXOr

まず口を開いたのは霊夢のほうだった。

「なんであんたがここに?」

ナイフの刃を向け、霊夢が詰問する。

距離を縮めようとする霊夢を能力であしらい、さらにトンプソンを構え、牽制。
霊夢の動きが止まったところで、小町が言う。

「お前さんは森の中で倒れていたんだよ。放っておけばどうなっていたことか。」

「ようは私をここに運んできたのはあんたなのね」

当たり前のことを確認され、小町はうんざりしたように言う。

「さっき運び疲れたって言ったのに、聞いていなかったのかい」

死神の苦笑い。そこで会話が途切れる。



―――こいつは殺し合いに積極的に参加しているの?私を助けた理由は?

―――博麗の巫女のスタンスはなんなんだ?

それぞれの視線が交差する。



二人の向きあう光景は、とても友好的なものには見えない。
腹の探り合い。傍から見れば殺し合っているようにも見えるだろう。

沈黙が世界を支配した。


26 ◆Wi98RZGLq. :2010/01/25(月) 04:34:00 ID:LgrccXOr

【F-4 魔法の森 一日目・夕方】

【博麗霊夢】
[状態]霊力消費(小)、腹部、胸部の僅かな切り傷
[装備]果物ナイフ、ナズーリンペンデュラム、魔理沙の帽子、白の和服
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服、 天狗の団扇、文のカメラ(故障)
不明アイテム(1〜5)
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
[思考・状況]
1.とりあえず目の前の死神を何とかする。
 2.とにかく異変を解決する
 3.死んだ人のことは・・・・・・考えない


【小野塚小町】
[状態]身体疲労(中) 能力使用による精神疲労(小) 寝起き
[装備]トンプソンM1A1(50/50)
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2 、M1A1用ドラムマガジン×3
[基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
[思考・状況]
1. 博麗の巫女は何を目的に動いているんだ?
2.生き残るべきでない人妖を排除する


・森をさまよっていた霊夢をアリスの家に運んできたのは小町です。
・火薬の威力・量は後の書き手さんに任せます。

27 ◆Wi98RZGLq. :2010/01/25(月) 04:39:00 ID:LgrccXOr
投下終了です

題名「楽園の人間、博麗霊夢」

一部を読みやすくするため訂正。また、話の最後を伸ばしました。

では、あらためてよろしくお願いします
28創る名無しに見る名無し:2010/01/25(月) 15:19:33 ID:yLLc12RD
投下乙です

揺れてるなあ
そして殺伐だな
どうなってもおかしくないぞ
29創る名無しに見る名無し:2010/02/02(火) 17:07:42 ID:Sm77iKWt
◆shCEdpbZWw氏の代理投下をします
タイトルは「射命丸は見た! 〜遺されし楽団員に忍び寄る吸血鬼の魔の手、河童達は知る由もなく…〜」
30◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2010/02/02(火) 17:09:02 ID:Sm77iKWt
霧の湖、その南側の畔。
湖の向こう側には紅魔館が霧の中にぼぅっとその輪郭だけを映している。
その紅魔館に背を向けるようにしてペンを走らせる少女が一人。幻想郷のブン屋こと、射命丸文である。
今のの状況が彼女自身にとって益であるかそれとも…それを整理するのに少し時間が必要だった。



時は数刻前に遡る。
辛くも咲夜に見つかることなく紅魔館から脱出することが出来た文は、ひとまず近くに聳える木に登って身を隠した。
一度咲夜が一人で紅魔館に戻ってきたが、背負っていた騒霊の姿が無い。
もしかしたらもう死んでいて彼女はそれを葬りに外に出たのだろうか?そう考える間もなく、再び咲夜は一人で紅魔館を後にしていた。
主を探しに行くのだろう、そう推測をしたところで正午の時を告げるかのような二回目の放送が始まった。
ペンを走らせながら、名簿の中に脱落者の名前を見つけてはそこに線を引いて消去していく。

「う〜ん…思っていたよりペースが鈍っていますねぇ…」

この放送で名前がコールされたのは六人。
その中には同僚であり、先刻その死体を目撃した椛の名前も当然あったし、守矢神社の神のうちの一柱や白玉楼の庭師兼剣術指南役、さらには七色の人形使いといったそれなりに名の知れた強者の名前もあった。
だが、死んだと推察したリリカの名前は呼ばれない。そうなるとますます咲夜の行動が読めなくなってきた。
あれほどの力を持つ者ならば、他者を保護しようとするなら手元に置いておけばいいはずなのに。
意外だったのはそれだけではない。自分がけしかけたような形になる不死者も、さらにはけしかけた先の紅白の巫女もコールはされなかったことだ。
あれほどの強者がぶつかりあえば双方が無事で済むとは思えない。ともすれば二人は遭遇することがなかった、ということなのか。

もとより文本人が直接手を下しているわけではない。そこに様々な不確定要素が介在する余地を許していたとはいえ、思い通りに事が運ばないのはやはり面白くない。
そして、これだけ脱落者が出るペースが鈍っている原因を考えてみれば…

「恐らく、すでに徒党を組んでゲームに乗っていないグループが相当数出ているんでしょうねぇ。」

この異変が始まってまだ一日と経っていない今はまだその集団も小さいものがいくつか点在するに過ぎないものだろう。
だが、それが合流して手を組んだとするならば…ゲームに乗っている文にとっては好ましからざることになる。
能力の制限されたこの状況下だ、いかに好戦的な紅白の巫女や先刻出会ったあの天人様が強かろうと、大集団の前ではいささか分が悪い。
もう少しお互いで潰しあってもらわないと何かと不都合だ。
では、そうしたゲームに乗らない輩共を潰すにはどう立ち回ればいいか…そう考えていたその矢先のことだった。

「あの出で立ちは…服装は違いますが背格好からすれば吸血鬼のお嬢様…?」

太陽が燦々と照りつける中を吸血鬼が普通は歩けるはずもない、ただ普段のお嬢様の趣味とは大きく趣を異にしたあのいささか不恰好なコートがあればそれも可能なのだろう。
幸い、レミリアは文に気づくこともなく無人の紅魔館にその歩を進めていった。
危ないところだった、と文は胸をなでおろす。先ほど咲夜が館を離れた隙に脱出していなければ、袋のネズミとなっていたであろう。
もし侵入者だと断罪されていれば、プライドの高いレミリアのことだ、命の保証はなかったに違いない。

館に入ったレミリアがどう動くか、紅魔館の入口を木の上から注視していたところで、文はまた紅魔館に近づいてくる人影をその視界に捉えた。
ついさっきこの館を立ち去ったばかりの咲夜だ。

「さっきからフラフラと…彼女は何がしたいのでしょうかね…?」

あれやこれやと考えているうちに咲夜も樹上の文には気づくことなく紅魔館のエントランスへと消えていった。
幸いにして、ドアは開け放たれたままとなっている。文は注意深く木から降り、外の門柱の陰から中の様子を窺い知ろうとした。

そして、文が目にしたのは片膝をつき、主に対して恭順の姿勢をとっていたメイド長の姿であった。
どんな言葉を交わしたかまでは知ることは出来なかったが、あの二人が合流してその主導権をレミリアが握ったであろうことは容易に推察できた。
咲夜が殺し合いに乗っていないことは承知している、もしレミリアもそうであったなら…殺し合いに真っ向から逆らう強力なチームができてしまう事になる。
それも急造のチームではない、常日頃から固い主従関係で結ばれた二人だ、崩すのは簡単なことではない。
31◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2010/02/02(火) 17:11:54 ID:Sm77iKWt

一旦ロビーから二人が姿を消したのに乗じ、文は再び木に登って姿を隠して思考の海に身を委ねようとした。
あの二人をどうやって打倒するか、それも極力自分の手を汚さずに。
しかし、またしても考える間もなく、レミリアと咲夜が紅魔館を出て何処かヘ歩いて行くのが見えた。

「次から次へ…少しは状況を整理する時間をくださいよ…」

一人ごちながら再び木から降り、見つからないよう、見失わないよう、ギリギリの距離を取りながら文は二人の尾行を始めた。
道中身を隠すものが少ないところもあり、神経を使う羽目になったが程なくして目的地に着いたようだ。
赤レンガの外壁に囲まれた洋館、ここには取材で何度か訪れたことがある。騒霊楽団、プリズムリバー三姉妹の邸宅だ。
咲夜が先導し、レミリアと共に洋館に入るのを確認して、文は窓の外から中を窺う。

そして、文は見た。騒霊がメイド長に組み伏せられ、その指を切り落とされるのを。
そして、それを冷淡な目で見下すようにしていたお嬢様の姿を。

文は思考の修正を迫られることとなった。
恐らくお嬢様は殺し合いに乗ったのだ、そしてメイド長はお嬢様の意向にどこまでも従順なのだろう。
たとえ咲夜本人が殺し合いを心中では否定していようとも、お嬢様の命は己が意思よりも優先される。
でなければ、わざわざ一度リリカを自邸まで運んでおいたにも関わらず、再度訪ねてきてこのような行為に及ぶはずがない。危害を加えるつもりなら最初から手を下しているはずだ。
文は名簿に「レミリア:積極的」「咲夜:追従(レミリア)」とサッと書き込んだ。

気になるのはリリカの扱いだ。指は落とされたようだが、命を取られたわけではないようだ。
文は推測する。恐らくリリカは何らかの形でお嬢様の怒りを買うこととなった。
プライドの高いレミリアはただ殺すだけでは飽き足らず、嬲るようにしてリリカの命を玩ぶことを選択したのだろう。
咲夜が自分の意思でレミリアに仕えるのとは違う、恐らく圧倒的な力の前にリリカはレミリアに屈服させられた…。
とするならば、リリカもレミリアと通じていると見たほうがいいか。

レミリアと咲夜が立ち去り、館にはリリカ一人が残された。
本当ならリリカから事の次第を取材したいところだ。だが、気まぐれなお嬢様がいつまた取って返してくるか分からない。
外と違って建物の中では逃げ場がない。ただでさえ、さっきも紅魔館で危ない目に遭いかけたばかりだ。
仮にうまく接触できたとして、リリカが保身のために自分の情報をレミリアに漏れてしまったら…今後の行動にいささか支障をきたすことは否めないだろう。

「当事者から生の声を取ることが記者としての務めではありますが…ここは自重しておきましょうか」

リスクとリターンを天秤にかけて、文はここは撤退を選択した。ただ、この短時間にかなり多くの情報を収拾することが出来たのは間違いない。
自分にとって情報はこれ即ち武器。その武器を研ぐための時間がほしい。
文はプリズムリバー邸を離れ、万が一にもレミリア達に見つからぬように紅魔館を避けてぐるっと霧の湖のかなり外側を遠回りして湖の南側に回りこんでいった。
そして時間は冒頭のところにたどり着くこととなる。
32◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2010/02/02(火) 17:15:14 ID:Sm77iKWt

レミリアがゲームに乗ったのは好都合ではあったが、やはり仲間…もとい、下僕を作られたのは厄介だ。
ギリギリまで単独行動を志す文にとって、最終局面で多数を相手にするのは何としても避けねばならない。
理想としてはレミリア達のチームに殺戮を続けさせながらじわりじわりと消耗させること。
それをさせるには…単騎特攻では心もとない、やはり集団には集団で対抗させるのがいいだろう。それも…出来れば殺し合いに反目する者達がいい。
いくら殺し合いに否定的とはいえ、襲われるままに命を散らすことはないはず。自衛のために少なからず戦闘行為を行うことは間違いない。

しかし、そのためには何はともあれ他者とコンタクトを取らねばならない。
これまで文が接触してきたのは、妹紅にしろ、天子にしろ、単独行動をしていた者。まだ徒党を組む者とは接触をしていないのだ。
言葉巧みに妹紅と天子を煽動してきたとは言え、今までとは違い相手が一人なのと、集団なのとでは勝手が違う。
状況が状況だ、疑心暗鬼に陥っている者が出ている可能性は高い。そういう相手だとまず話をすることさえ困難だ。
ゲームに乗っていない連中が群れているとするのなら、いきなり現れた参加者に疑念をいだくこともあるだろう。
それを思えば、接触する対象はなるべくなら自分に近しい存在であるほうがいいだろう。
言葉は慎重に選ばねばならないが、今まで以上に対象も慎重に選ばねばならない。ターゲットを間違えれば…下手をすれば自分がゲームオーバーだ。

「…面白いじゃないですか。」

言の葉を操るプロフェッショナルとしての血が疼くのを感じた。


*   *   *


辺りを警戒しながら霧の湖に、そしてその先の紅魔館に向かって歩みを進める三つの影があった。
先刻、妹紅と別れた河城にとりとレティ・ホワイトロック、そして支給品扱いのサニーミルクである。
この辺りは小高い丘のようなものが点在するとはいえ、身を隠せるような遮蔽物がほとんどない。
サニーミルクの能力を使えば自分達の姿を隠して移動することも考えた。
だが、来るべきその時に備えて今のうちにサニーミルクには日光浴を満喫させて力を蓄えてもらおう、その総意のもとに三人はとぼとぼと歩みを進めていた。

「なぁサニー、ほどほどにしておかないとなくなっちゃうぞ?その飴玉」
「だって美味しいんだもん」

にとりがサニーミルクをいさめる様に言うが当の本人は意に介さず、またドロップの缶を傾けて次の一つを取り出そうとしている。

「あ、白いのだ。レティ、これあげる」
「え、あ、あぁ、うん、ありがと」

サニーミルクがポイッと投げるようにしてレティの掌にハッカのドロップをよこす。柔らかな春先の陽射しは異変など関係無しに降り注いでいる。
陽光の下でお菓子片手に湖に向かってお散歩、なんて。これが異変でもなければなんて暢気なピクニックだっただろう、とレティは思う。
こうものどかだと殺し合いの渦中にいることを忘れてしまいそうになる。出来れば忘れてしまいたいのが本音なのだが。
33◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2010/02/02(火) 17:17:39 ID:Sm77iKWt

別のドロップを出して幸せそうに口に放り込むサニーミルクを見ると、これから向かう霧の湖を住処とするあのおてんばな氷精の姿が重なる。
彼女は今頃何をしているだろうか。放送で呼ばれていないところを見るとまだ生きているのは確からしい。
きっと、いつものようにあまり深く考えずに出会う者に喧嘩を売っているのだろう。今の状況を思えば自殺行為以外の何物でもないが。

氷精であるチルノと、冬の妖怪であるレティ。共通項が多いだけに少なからずシンパシーは感じている。
他人の心配をしていられるほど今のレティには余裕は無いが、なんにせよ死んではいないのはいいことだ。
あまり頭はよろしくないが、もし彼女と手を組むことが出来れば自分も今以上に力を発揮することが出来るだろう。
水を操るにとりとの相性もいいかもしれない、それは人里で証明済みだ。

人里での輝夜との一戦は、今もレティの心に暗い影を落としていた。もし自分にもっと力が、せめて他者を守ることが出来るだけの力があれば。
大怪我をした萃香も一緒になって逃げられたかもしれない。偶然出会った妹紅を萃香を救い出すという大義の下に死地に送り出すことも無かったかもしれない。
知らなかったとはいえ、リリーホワイトをその手にかけてしまった時も自分の力を呪った。
だが、こうして共に背中を預け合う仲間が出来た。そうなると以前とは別の意味、無力さ故に自分の力を呪ってしまう。

もちろん、今の自分達の至上の目的は紅魔館に向かってひとまずは同じ方向を向いているらしいフランドールと合流することだ。噂に聞く吸血鬼だ、力も自分とは比べ物にならないであろう。
だが、萃香も自分より遥かに力のある存在であった。その萃香でさえ、あの銃という暴力的存在の前に倒れてしまったのだ、どんなことがあってもおかしくない。そんな有事の際に自分が何も出来ないのは嫌だ。
だからレティは思う。自分だけではなんとも出来ないが、自分の能力と相性のいいにとりと、そしてそれにチルノが加わってくれれば…1+1+1が3以上のものになる可能性がある。そうすれば、自分達のみならず大事な存在を護りきれるのではないだろうか。
だから、もしチルノの情報が入れば…紅魔館に着いたその後にはチルノを加えるべく動いてみてもいいかもしれない。

「どうしたのさ、レティ?ずいぶん難しい顔しちゃってるけど」
「あの白いのが効いてるんじゃないの?」

気づけば随分しかめっ面をしていたらしい。
にとりとサニーミルクが心配そうにレティの顔を覗き込んでいた。レティは苦笑いを浮かべながら返事をする。

「あ、あぁ、ごめんね。ちょっと考え事をしててね」
「レティったら、前もそんなことがあったの」
「おやおや。まぁ、考え事もいいけれど、ここまで来たんだ、お互い隠し事はなしだからな?」

隠し事。
そういえばまだにとりにはリリーホワイトのことを話していなかったのを思い出す。サニーミルクもその辺りは承知していたようで、少し表情が曇る。
いつかは言わなければいけないだろうと思っていたあの忌まわしい記憶。正当防衛とはいえ、決して許されることではない。
これまではせっかく出来た仲間という絆、そこに波風を立てたくなかった為に封じ込めていた。だが、今なら、今ならにとりも殺しの罪を許さずとも一定の理解は示してくれるのではないか。
自分の犯した罪に長いこと苛まれていたレティは、今はとにかくそのことを吐き出してしまいたかった。
神妙な顔でこちらを見ているサニーミルクに目くばせをする。レティの考えていることが分かったのか、こくりと小さく頷いた。レティは意を決する。
34◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2010/02/02(火) 17:20:21 ID:Sm77iKWt
「あ、あのさ、にとり、実は…」
「待った!誰か来る!」

言いかけた瞬間にそれは遮られた。
にとりと同じ方向を見ると、こちらに向かって走ってくる人影が一つ。サニーミルクも身構えて同じ方向を見る。

「…どうする?サニーの力で姿を隠そうか?」
「いや、ちょっと待って、あれは…」
レティを手で制しながらにとりが前方の人影を凝視する。徐々に近づいてくるその人影、自分と同じ妖怪の山の住人であるその妖怪。
「あ、文さんじゃないか!?」


【C-3 霧の湖の手前 一日目 午後】
【河城にとり】
[状態]疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式 ランダムアイテム0〜1(武器はないようです)
[思考・状況]基本方針:不明
1. 紅魔館へ向かう。ある程度人が集まったら主催者の本拠地を探す
2. 皆で生きて帰る。盟友は絶対に見捨てない
3. 首輪を調べる
4. 霊夢、永琳、輝夜には会いたくない

※首輪に生体感知機能が付いてることに気づいています
※永琳が死ねば全員死ぬと思っています
※レティ、妹紅と情報交換しました


【レティ・ホワイトロック】
[状態]疲労(足に軽いケガ:支障なし) 、精神疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式×2、不明アイテム×1(リリーの分)、サニーミルク(S15缶のサクマ式ドロップス所有)
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る気は無い。可能なら止めたい
1. 紅魔館へ向かう(少々の躊躇い)
2. この殺し合いに関する情報を集め、それを活用できる仲間を探す(信頼できることを重視)
3. 仲間を守れる力がほしい。チルノがいるといいかも…
4. リリーホワイトを殺してしまったことをにとりに打ち明けたいけど…
5. 輝夜の連れのルナチャイルドが気になっている

※永琳が死ねば全員死ぬと思っています
※萃香、にとり、妹紅と情報交換しました


*   *   *


同僚の椛ほどではないが、文も天狗の端くれ。ある程度目はいい。
事実、人里では見つからない程度の距離から霊夢が「仕事」をするのを遠巻きに観察してきた。

その目が遠くから来る人影を捉えた。

その人影の中に河城にとりの姿を認めた時、文はほくそ笑んだ。
同じ妖怪の山に住まう者だ、ある程度性格は把握している。
かつて、妖怪の山に突如として現れた守矢神社に、霊夢と魔理沙が訪ねてきた時。
彼女らと対峙したにとりの行動原理はあくまでも「ここから先は危険だから行かせるわけにはいかない」というもの。
対象の排除ではない、あくまでも相手を慮っての行動。そう、彼女はどこまでもお人よしなのだ。
35◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2010/02/02(火) 17:23:30 ID:Sm77iKWt
所詮取材対象でしかない他の参加者の心中に比べたら、近所に住むにとりの考えていることはずっと分かりやすい。
彼女の性格からして、このゲームに乗っていないことはまず間違いないと見ていいだろう。
となると、一緒に歩いている…冬の妖怪と、妖精もまた、殺し合いには乗っていないはず。
ゲームに乗っていない集団で、さらに顔見知りが含まれている、この上なく理想的なターゲットだ。

そんな集団が、無防備にも一直線にこちらに向かってくる…ということは目的地はこの湖…いや、紅魔館?
思ったとおり、あの建物は目立つらしい。人里からもそれほど離れていない。今後も紅魔館を目指す者は増えるだろう。
もしかしたら、にとり達のような平和主義者が、紅魔館に集結することになっているのかもしれない。
おおよそ、紅魔館を拠点にして策を練ろう、そういう魂胆なのだろう。あるいは篭城戦とでもしゃれ込むつもりか。

「…確かめてみる必要がありますね」

顔見知りということも手伝って、情報を仕入れることは容易そうだ。
なんだかんだで、まだ動向さえつかめていない参加者のほうが多いのだ、この機会は逃せない。
逆に、こちらからは真実と嘘を程よくブレンドして伝えてやればいい。その上でうまく紅魔館へ誘導してやる。
紅魔館にはレミリア達が待つ。おいそれと他者の侵入など許さないであろう。近づけば交戦は間違いない。
力量的に見ても圧倒的にレミリア達が有利だろうが、この制限下ではどうなるか分からない。
にとり達の支給品如何では、互角以上に戦える可能性もある。うまいこと潰しあってくれればしめたものだ。

ようは、うってつけの当て馬が向こうから歩いてくるのだ。思わず表情が崩れる。
いけない、笑いをこらえなければ。きっと今の自分の顔はさぞかし邪な笑みに支配されているだろう。
仕事モード、仕事モード…よし。とりあえずいつも通りに声をかければ怪しまれることもないはず。
あとは…さも仲間を見つけたかのように、喜び勇んで駆け寄ってみればさらに効果は上がるだろう。
さぁ、ここからが腕の見せ所だ。
にとり達には…せいぜい私の思う通りに動いて、散ってもらうとしましょうか。


【C-3 霧の湖南端 一日目 午後】
【射命丸文】
[状態]健康
[装備]短刀、胸ポケットに小銭をいくつか
[道具]支給品一式、小銭たくさん、さまざまな本
[思考・状況]基本方針:情報収集&情報操作に徹する。殺し合いには乗るがまだ時期ではない。
1.にとり達と接触し、情報収集したい。
2. にとり達をうまく言いくるめて危険地帯である紅魔館に送り込みたい。
3.燐から椛の話を聞いてみたい。

※妹紅、天子が知っている情報を入手しました
※本はタイトルを確認した程度です
※リリカがレミリアの軍門に下ったと思っています
36創る名無しに見る名無し:2010/02/02(火) 17:27:16 ID:Sm77iKWt
代理投下は以上です
37 ◆Wi98RZGLq. :2010/02/03(水) 04:49:54 ID:xuaiJeLS
投下始めます

題名は「月兎/賢者/二人の道」
38 ◆Wi98RZGLq. :2010/02/03(水) 04:52:12 ID:xuaiJeLS

もぐ、もぐ、もぐ。

ごく、ごく、ごく。

食べて、飲む、ごく普通の生理行動。
昨日までは普通にしてきたこと。

だが今、握り飯はまずく、水は苦く感じる。
そして自身の体から立ち上る血のにおいが吐き気を誘う。
それでも食べなければならない。
彼女はもう半日の間、なにも食べていなかった。

兎は静かに食事を続ける。





気がつけばあたりの景色は変わっていた。
八意永琳は魔法の森を抜け人間の里への道を歩いていた。

「姫様、無事でいてくださいよ」

人間の里、あそこは魔法の森に並んで人が集まるであろう場所になるだろう。
民家に残された日用品は有効な武器にも、手当ての道具にもなり。
森とは別の障害物――民家は、逃げて隠れるもよし、待ち伏せするのもよし。
殺し合いに乗ったものもそうでないものも、集まるところ。
それが今の人里だ。

たちまちのうちに、魔法の森の姿が後方に消える。
彼女は体力を消費しないように走ってはいない。
それでも、普通の人間の走る早さとさほど変わらない速さである。
まあ、俗に言う早歩きで八意永琳は道を駆け抜けている。

ただひたすらと、土着神の言葉を信じて。


もくもくと歩いていると、とある顔が頭に浮かんできた。

「そういえば魔理沙との約束、果たせないわね」

魔理沙のことだ、今頃約束どおりG- 5で首を長くして待っているのだろう。
少し心は痛む、だが今は姫が第一。
G- 5なんて正反対に行く余裕はない。
39 ◆Wi98RZGLq. :2010/02/03(水) 04:56:38 ID:xuaiJeLS

空を見上げると、青空に白い月が見えた。
もしかしたら、姫を月に返していたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
そう思うと、後悔はいくらでも出てくる。

「なにが月の賢者よ。なにもできてないじゃない」

嘆きに思わず足を止める。
そのとき、八意永琳は後ろに何かの気配を感じた。





食事を終えてすぐ。
鈴仙・優曇華院・イナバは何かが魔法の森から出てくるのを確認した。
謎の人妖が近づくにつれて、その赤い目が大きく見開かれる。
やってきたのは主催者であるはずの、師匠、八意永琳だったからだ。
その姿はみるみるうちに近づいてくる。
とっさに、鈴仙は光の波長を狂わせ、姿を消す。

そしてその横を八意永琳は通り抜けた。


ドク、ドク、ドク。
自分の心臓の鼓動が感じられる。
気づかれたらどうしようかと思った。
でも、師匠は私の姿に気づいていなかった。
さらに今では無防備な後ろ姿を私に晒している。
油断しているのだろうか?師匠らしくもない。

心の中に、妹の死を悲しむ静葉さんの姿が映る。
今なら、後ろからなら殺れる。この殺し合いを終わらせられる。
鈴仙は確信していた。
だから、彼女は道の真ん中に立ち、狙いを定める。


距離15メートル。
余裕で当てることができる。
しかし、手が滑る。
汗を服のすそで拭いている間に、その距離は開いてしまう。

距離20メートル。
銃口は永琳の背中に向けられる。だが、30余年の月日の歴史が彼女の指を押しとどめる。
撃てない、どうしても撃てない。


ふと、頭に幾人もの死者が浮かぶ。
毒を飲んだ鍵山雛。自爆を選んだ秋穣子。静かに倒れていた魂魄妖夢。
皆が、死者が、鈴仙を非難するようにみている。
「臆病者」「臆病」「意気地なし」
頭に声が響く。

「臆病っていうな――!」

波長を消された音なき声が、引き金を引くきっかけとなった。

40 ◆Wi98RZGLq. :2010/02/03(水) 04:58:23 ID:xuaiJeLS


凶弾は静かに空間を切り裂いた。
耳元を何かがすり抜けたのを感じ、八意永琳が後ろを振り向いたときには、二発目がその腋をすり抜けていた。

「音がしないわね。サイレンサー?」

答える声はない。まあ元から期待はしていないが。
三発目、相手の姿は見えない。

「ンッ!」

八意永琳は右耳に焼けるような痛みを感じ、地面を転げまわる。
その上をいくつもの弾丸が切り裂いてゆく。
姫様に会うまでは死なない――彼女は必死で近くの巨木の陰に駆けこんだ。


なんとか駆けこんだ木の裏で、八意永琳は右耳を失ったことに気付いた。
しかし、今はそんなことを気にしている余裕はない。
死が迫っている。

ダダッダッダッダン

ガガッガリガリガリ

火薬が爆ぜる音と木に弾丸が食い込む音があたりに響く。
いつの間にか発砲音が聞こえることに疑問を持ちながら、彼女は相手の位置を把握しようと試みる。

とった方法は命がけで木の陰から顔を出すというものだった。

ダダッ

やはり弾丸が飛んでくる。
しかし、そんなことはどうでもよい、永琳は驚くべき光景を目にした。

「虚空から弾が出ているわね。空間移動のようなものかしら?」

もしくは、姿を消しているのか。
光を捻じ曲げれば姿を隠すことができる。
うどんげにもできるし、確かそのような能力を持った妖精もいたはずだ。
光学迷彩も支給品として配られていた。
主催はわりと姿を消すことについては甘いらしい。

だが一方、空間移動は主催にとってリスクが大きすぎる。ゲームの進行を脅かす。
おそらく空間移動は強い制限の対象になっているだろう。

そこから、正体不明の敵は姿を消す道具あるいは能力を持っていると思われる。
ということは、敵は不可視なものの、弾丸の射出ポイントにいることになるだろう。

とりあえず、敵の位置は把握できた。
では、八意永琳の次にとる手は・・・・。

41 ◆Wi98RZGLq. :2010/02/03(水) 05:05:43 ID:xuaiJeLS



当たれ、当たれ!

鈴仙・優曇華院・イナバは焦っていた。

もうすでに10発以上は撃っているのに、しとめられない。
能力の制限もきつく、音波の遮断は早々にあきらめてしまった。
早く殺さないと首輪を爆破されるかもしれない。
焦りで銃口がぶれ、顔を覗かした師匠をしとめるのにさえ失敗してしまう。

早く何とかしないと。
首輪に注意を払う。まだ大丈夫。なんの変化も感じられない。
しかし、早く終わらせないと爆破されてしまうかもしれない。
そんな死にかたは嫌だ。

「え?」

その時、顔をあげた鈴仙の前に弾幕が広がった。


広がった弾幕はスペルカードルールを無視したものだった。
弾の密度が高すぎる。完全にかわすことができないように作られた弾幕。
姿を消すことで余裕を持っていた鈴仙にすべてをかわすことはもちろんできない。
最初の一つ二つは避わせたものの、いくつもの弾を受け、彼女は吹き飛ばされる。

胸が・・・痛い。

それを最後に彼女の意識も吹き飛んだ。


42 ◆Wi98RZGLq. :2010/02/03(水) 05:08:13 ID:xuaiJeLS


「うどんげ?」

弾幕に跳ね飛ばされた途端、不可視化効果は解除された。
小銃を抱え、地面に倒れ伏すのは、永遠亭の住人、鈴仙・優曇華院・イナバ。

「なんで・・・」

私を主催と勘違いした馬鹿か、好戦的な妖怪かのどちらかだと思ったのだが・・。
まさか身内から攻撃されていたとは思いもよらなかった。
30余年の信頼はこんなものかと思うと悲しくなってくる。
しかし、そんなことよりまず、うどんげの処遇は決めなければならない。

彼女はこっちの味方ではないようだ。
かといって、わざわざ殺すのも気が引ける。
これでも30年近く一緒にいたのだ。
だからこそ、わかったこともある。

臆病なうどんげは一度負けた相手に逆らうことはないであろうこと。
姫様に手を出すこともまた、できないであろうこと。
とはいえ、味方にするにはリスクが多すぎる。

八意永琳はうどんげをこのまま放置しておくことに決めた。

「これは慰謝料としてもらっておくわね」

うどんげが持つ小銃とそのマガジンを回収しながら、永琳がつぶやく。
簡単なメモを書き、気絶した兎の眼の前に置いておく。

「早く、姫様のところへ行かないと」

道のはずれに倒れたまま、兎は目を覚まさない。



【E−4 一日目 道端 午後】

【鈴仙・優曇華院・イナバ】
[状態]疲労(中)、肋骨二本に罅(悪化)、精神疲労 、満身創痍、気絶
[装備]破片手榴弾×2
[道具]支給品一式×2、毒薬(少量)
[思考・状況]基本方針:保身最優先 参加者を三人殺す
1.首輪を爆破されたらどうしよう
2.輝夜の言葉に従って殺す、主催には逆らわない
3.穣子と雛、静葉、こいしに対する大きな罪悪感

※殺す三人の内にルーミア、さらに魂魄妖夢・スターサファイアの殺害者を考えています。
※すぐ近くに永琳からの書置き(内容不明)があります。


43 ◆Wi98RZGLq. :2010/02/03(水) 05:09:05 ID:xuaiJeLS

「それにしても、私は運が良かったわね」

耳は吹き飛ばされたが、片方だけ。さらに血はもう止まり始めている。
なにしろ小銃と丸腰の戦いだったのだ。
そして、うどんげの戦闘能力は低いわけでもない。
最初の数発で死ななかったのが不思議なくらいである。

「この調子で姫様にも会えるといいのだけれど」

興奮したようにつぶやく。
おそらく少しテンションが上がっているのは先ほどの戦闘で出たアドレナリンのせいだろう。
八意永琳は少し前よりペースを上げて歩きだした。


幸運というものはあまり続くものではない。
そして、幸運の次には大きな不幸が来るものだ。
幸運の裏には不幸が隠れている。
これは絶対の真理。


足取り軽やかに、彼女は人里への道を往く。
だがすでに、遠く見える人里で、永遠に続くはずの尊い命が失われていた。

その事実を彼女は知らない。


【E−4 一日目 人里への道 午後】

【八意永琳】
[状態]疲労(中)
[装備]アサルトライフルFN SCAR(20/20)
[道具]支給品一式 、ダーツ(24本)、FN SCARの予備マガジン×2
[思考・状況]行動方針;人里に行って輝夜を探す
1. 輝夜と合流後、守矢神社で諏訪子と合流
2. 輝夜の安否が心配
3. うどんげは信用できない

※この場所が幻想郷でないと考えています
※自分の置かれた状況を理解しました
※この会場の周りに博霊大結界に似たものが展開されているかもしれないと考えています

44 ◆Wi98RZGLq. :2010/02/03(水) 05:09:51 ID:xuaiJeLS
投下終了!!
45創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 22:56:01 ID:IcuHAIvH
ちょくちょくここ見てるけど感想少ないな
自分も書く方ではないから人の子と言えないがw
でもここの独特の雰囲気はいいなw
46創る名無しに見る名無し:2010/02/11(木) 10:46:40 ID:ywxWLVbS
2週間かけて読んで何とか追いついた。
皆さん神過ぎて神過ぎて・・・。

永琳、輝夜が死んでることを知ったらどうなるんだろう・・・。
はっきり理解してくれてた諏訪子はもう居ないし・・・暴走したら止まりそうにない。
魔理沙も理解者かもしれないけど・・・約束破っちゃう雰囲気だし。

唯一(?)首輪を外せる可能性を持つにとりの今後も注目だなぁ。
光学迷彩を譲ってしまったことが裏目に出なければいいけど。
同じ山に住む顔見知りを死に誘うとは・・・文も黒いねぇ、カラスのように黒いわ。
47オモイカゼ◇shCEdpbZWwの代理投下:2010/02/12(金) 15:26:30 ID:Iy2Fw/M+


「いませんね…」
「そうですね…どこに行ってしまったんでしょうか…」

箒に乗る二つの影が森の中をふよふよと漂う。
前に乗る古明地さとりと、後ろに乗る東風谷早苗はある妖怪を探していた。
洩矢諏訪子にとどめを刺し、仕掛けていた地雷で図らずも同行していた上白沢慧音を殺害した張本人。
先ほど、二人の前から姿を消してしまった宵闇の妖怪、ルーミアである。

だが、当座の目的は彼女の制裁、というものではない。
早苗やさとりとルーミアでは根本的に考えていることが違った。
バトルロワイヤルという事象に逆らおうとする二人と、普段と変わらず振る舞うルーミア。
腹が減れば食事を摂ったり、手元に玩具があればそれで遊んでみたり…
殺し合いという異常な状況下にあってなお、ルーミアは妖怪としていつも通りであろうとしていた。
皮肉にも、その“いつも通り”であることが、ここでは逆に異常であったのだが。。

この状況をルーミアが理解していないのならば、それを理解させてやればいい。
その上でなお、こちらを理解せずに襲ってくるのならばその時は応戦するしかない。
ただし、それはあくまでも最終手段、彼女と話し合う余地はまだ残されている。
それぞれの心中にはルーミアへのわだかまりはもうない。
もちろん、相応の罰は受けさせねばならないであろう事は双方共に承知しているが。

故に、二人は何はともあれルーミアを探すこと…を目的としていた。
本当なら諏訪子と慧音をきちんと埋葬して弔いたいところだったが、それを諦めてでもルーミアをすぐに探さねばならなかった。
だが、深い森の奥に分け入ってしまった彼女の足取りは一向に掴めないままだった。
さとりはもちろん、最後まで一緒だった早苗もルーミアの行く当ては思いつかない。
ルーミアとしっかり話をしてこなかったツケを払わされている格好になってしまっている。
48オモイカゼ◇shCEdpbZWwの代理投下:2010/02/12(金) 15:27:40 ID:Iy2Fw/M+
「さとりさん、やっぱり二手に別れて探した方が…時間を決めて博麗神社にでも集合すれば…」
「それはなりません。こうなってしまったからには単独行動は自殺行為です。それに…」

さとりの脳裏を死神の顔がよぎる。
諏訪子の事実上の下手人である、小野塚小町。
彼女がさとりを人質にして武器を奪った際、早苗達に向けてこんな言葉を放った。

『あんたらは幻想郷に必要ない人材なんだよ。今殺してもいい。だけど、それじゃこのお方が一人になるじゃないか』

幻想郷に未来を残せるものを生かす、小町はこうも言った。
命に大小など無い、と言いたいところだが彼女は聞く耳を持たないだろう。
幸か不幸か、小町にとってさとりの命は優先順位が高いものであるらしい、少なくとも早苗よりは。

「私と一緒に居れば、少なくともあの死神に命を狙われるリスクはぐっと抑えられるのです。
 一人になったところをこれ幸い、と貴女を狙ってくるかもしれないのですよ?」
「でも…でも、だとしたらなおのことルーミアさんが危ないじゃないですか…!」

死んだ二人を弔うことが出来なかった理由はここにある。
一人でいる時間が長ければ長いほど危険なのが今なのだ。
ただ、早苗の体調を気遣ってか、今は走るよりは幾らかまし、という速度しか出せないでいた。
なるべく急ぎたいこの状況だけに、早苗は焦りを募らせていた。

「それは百も承知です。かと言って、ここで貴女まで失ってしまうわけにはいかない…」

さとりが嗜めると、早苗が唇を噛み締めて俯く。

「あまりこういうことは考えたくないのですが…これだけ探しても彼女が見つからない、ということはもしかしたら…」

もう小町に殺されているかもしれない、そう後に続ける言葉をさとりは飲み込んだ。
早苗もそれを理解してか、気まずい静寂が周囲を支配する。

「…あくまでも可能性の話です。裏を返せば、まだ彼女が生きている可能性だってあるわけで…」

そうは言ったものの、さとりは本心ではルーミアの生存をかなり疑問視していた。
彼女の捜索を開始してからもう数刻が経過している。
近くで銃声は聞こえないし、弾幕を展開しているような気配も感じられない。
だが、ルーミアがどこに向かったのか当てもなくあちこち彷徨っているだけのこの状況。
こんな状態ではそうした戦闘の気配を感じられる範囲内に自分達が居なかった可能性の方が高い、さとりはそう見ている。
49脱兎堕ち〜Tauschung◇CxB4Q1Bk8Iの代理:2010/02/12(金) 15:29:55 ID:Iy2Fw/M+
「だからこそ、です。目の前で救えるはずの命を…私はもうこれ以上零したくないのです。」

悲観的なさとりに対し、早苗はあくまでも可能性があるのならそれに縋りたかった。
たとえ、それが蜘蛛の糸ほどの細く、脆いような代物であったとしても。

博麗神社でのパチュリーの死。
自分の知らぬうちに命を落とした慧音。
そしてなにより母のように慕っていた諏訪子が眼前で殺されたこと。
この死亡遊戯の舞台に落とされてから、誰一人として救えていないことに早苗は少しずつ苛立ちを募らせていた。

だが、頭ではそう思っていても…体がついてこない。

「これでルーミアさんも助けられなければ、もっと後悔…ゲホッ、ゲホゲホッ…」

大きく咳込んでしまい、決意の言葉は強制終了の憂き目を見てしまう。
誰が見ても、早苗の体調が万全でないのは明白である。

「貴女の気持ちは良く分かります…でも、その調子ではたとえ今がこんな状況でなくても一人には出来ませんよ。」

さとりが心配そうに後ろにいる早苗に言葉をかける。
元々体調が良くなかったところに、身近な神々の死による心労が立て続けに襲ってきた。
横になって休んでいたのも博麗神社でのほんのわずかの間。
早苗の強い精神力でここまでなんとか耐えてきたものの…さすがに限界なのだろう。

「それが分かっていながら、貴女を一人にしてしまったら…私が神奈子さんや諏訪子さんに怒られてしまいます。」

早苗も自分の体は自分が一番分かっているので、何も言い返すことが出来なかった。
さとりは、心を読まずとも沈黙を肯定と判断した。

「ルーミアさんを探す以外にも、私達にはやらねばならないことが多すぎます。
 その時に備えて、今は少しでも体を休めることが必要なのではないでしょうか?」
「そんな…さとりさん一人を危険に晒してまで私がのうのうと休むなん…ゲホッ」
「ご心配なさらずに。確かに私は戦闘は不得手ですが、それなら危なければ逃げるまで。
 何があっても貴女を一人には決してさせませんから。」

ひとしきり咳込んだところで、また静寂が訪れる。

「こんな小さな背中ですが…少しは私を頼ってくれてもいいんですよ?」
「そっ、そんな! さとりさんが頼れないなんて別にそんなつもりじゃ…」
「じゃあ決まりですね。今は私の背中で少しでも休んでください。」
「うぅ…分かりました…」

そう言うと、張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、早苗は体をさとりの背中に預けて意識を手放した。
さとりは、背中に熱っぽい早苗の体温と、静かな寝息を感じながら思案に耽る。
50オモイカゼ◇shCEdpbZWwの代理投下:2010/02/12(金) 15:33:42 ID:Iy2Fw/M+
「さて、どこに向かいましょうか…」

ホバリング状態で、さとりは自分のスキマ袋から地図を取り出した。
…と言っても、元々地上の地理に明るくない故、現在地がほとんど分からない。

「森の中にいるのは確かですから…西に行けば森は抜けられそう。その先には人里とやらがありそうですが…」

頭に浮かんだ考えを、即座に否定する。

「森の中ですから今は目立ちませんが、平原にでも出てしまえば今の私達は格好の的…
 早苗さんがいる今、無理な動きも出来そうにないですから…なるべく森からは出たくないですね…」

もう一つ、さとりの感じた懸念は、人里という場所の性格上、多くの人が訪れるであろうこと。
ルーミアも目指している可能性も無くは無いが、小町のようなゲームに乗った者も多くいる可能性がある。
ゆっくり休めるような建物もありそうだし、ともすれば薬の類があるかもしれない。
だが、道中から到着した後のことまで含めると如何せんリスクが高すぎる。

「東に行けば山に行き着きますが…これも論外ですね。
 みすみす逃げ道を自分達で塞ぎに行くようなものですから…」

可能性を一つずつ潰しながら地図を見回してみる。
博麗神社…先ほど見た限りでは薬のようなものは見当たらなかった。
霧雨魔理沙の家もまた然り。
香霖堂…字面からすれば森近霖之助の住処か。
だが、さとりが最初に聞いた得体の知れない男の声の持ち主がこの霖之助であるかもしれない。やはりリスクは高い。

「あと目ぼしい建物は…このマーガトロイド邸と、こっちの三月精の…ん?」

ふと、さとりの目が地図の南端で止まる。
「迷いの竹林」などという怪しげな文字の近くに見つけた「永遠亭」の三文字。

「永遠亭、といえば確か八意永琳の本拠地、でしたよね…」

地下に住まうさとりにも永琳の噂は届いていた。
あらゆる薬を作る程度の能力を持つという、月から来た天才がいるらしい、と。
そして、この殺し合いの首謀者と一般的には目されている、そんな存在。

だが、さとりはそうは思っていない。
最初に全員が集められたあの場所で、永琳の真意を読もうとした時に聞こえた謎の男の声。
まるで自分を創造したかのような物言いは、噂に聞く永琳像とは到底違うものだった。
故に、さとりは永琳を今回の騒動の犯人とはあまり思っていない。
少なくとも、印象からすれば唯一の男である霖之助よりはよっぽどシロに近い。
51オモイカゼ◇shCEdpbZWwの代理投下:2010/02/12(金) 15:36:07 ID:Iy2Fw/M+
もう一つ、さとりには永琳が主催者である可能性を疑えるだけの根拠があった。
早苗が回収した諏訪子のスキマ袋。その中に入っていた一つの書簡。
目を通してみると、それは永琳から蓬莱山輝夜という人物に宛てたものであるらしい。
自分が嵌められたということ、主催者は自分の姿を騙ってこの殺し合いを行っていること。
この手紙を読んだら殺し合いからすぐに手を引いて、可及的速やかに永遠亭に向かい、そこで待機して欲しいということ。
内容はざっとこんな具合であった。

あまり表立って動くことのない輝夜のことをさとりはよくは知らなかったが、永琳と深い関係にあるのは間違いないらしい。
一瞬、これは暗号めいた文章で、二人の間に何か企みの様なものがあるのでは、とも疑念もよぎった。
しかし、そうなるとおかしいのが何故これを第三者である諏訪子が持っていたのかということだ。
どういう経緯かは分からないが、手紙を持っていたということは諏訪子と永琳が接触したということである。
仮に永琳が主催者であるなら、諏訪子とは敵対関係にあって然るべき。
そんな中、暢気に一筆したためるだけの時間があるだろうか?
予め書き溜めていたとしても、それを諏訪子がそのまま持っているだけ、ということは考えづらかった。

なにより、さとりの中での決め手となるのは謎の男の声だった。
その声を反芻する度に、この手紙は真に助けを求め、殺し合いを止めるものではないか、そう信じたくなったのだ。
まず疑ってかかる思考だったさとりが僅かでもこういう「信じる」という思考に至る。
それは早苗の、そして死んだ慧音の影響を大きく受けているからなのだが、本人はそれに気づいてはいない。

永遠亭は彼女の本拠地だ。
彼女が首謀者であるならば、この上なく怪しく、そして危険な場所であろう。
よほど無鉄砲な輩でなければ、好き好んで訪れることはない。
だが、さとりは半ば永琳が主催者ではないと確信している。
それは、他者には危険である永遠亭という建物が、逆にさとりにとっては比較的安全な場所であるということになる。
なにより、そこに行けば早苗の風邪をどうにか出来る薬がある可能性は大だ。
仮に薬が無くとも、そこに輝夜を待つべく永琳が来ていればその場で風邪の治療くらい何とかなるだろう。

「南と東を山で塞がれているのが気になりますが…背に腹は代えられませんか…」

地図によると永遠亭までの道中には、人里までのそれと同様遮蔽物のない平原があるらしい。
だが、永遠亭を目指す者は人里を目指す者よりは少ないはず、リスクはずっと小さい。
距離も人里を目指すのと大して違いはない。
52オモイカゼ◇shCEdpbZWwの代理投下:2010/02/12(金) 15:39:52 ID:Iy2Fw/M+
「南は…こっちですね。」

コンパスで方角を確認してから再び箒で飛び始めた。
しばらく南に飛んだところで、さとりにとっては懐かしい風景が目に入る。
開始直後にルーミアと出会った三月精の家が左手側に見えてきた。

「ということは…ここはG-4とG-5の境目付近ですね。
 ルーミアさんを探しているうちに、随分南に来ていたのでしょうか。
 …途中でルーミアさんが見つかれば言うことなし、なのですけどね…」

誰に語るでもなく、さとりはぽつりと呟いた。
陽が少しずつ沈んで行くのが森の中でも分かる。
春先の冷たい夜風に当たって余計に早苗の具合を悪くさせるわけには行かない。
早苗の体に障らない程度まで可能な限りスピードを上げながら、さとりは一心不乱に南を、永遠亭を目指す。


【G-5・三月精の家付近 一日目・夕方】
【古明地さとり】
[状態]:健康
[装備]:包丁、魔理沙の箒(二人乗り)
[道具]:基本支給品、にとりの工具箱
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.早苗を回復させるべく、永遠亭へ急ぐ。
2.ルーミアを止めるために行動、ただし生存は少々疑問視。出会えたなら何らかの形で罰は必ず与える。
3.空、燐、こいしを探したい。こいしには過去のことを謝罪したい。
4.工具箱の持ち主であるにとりに会って首輪の解除を試みる。
5.自分は、誰かと分かり合えるのかもしれない…
[備考]
※ルールをあまりよく聞いていません(早苗や慧音達からの又聞きです)
※主催者の能力を『幻想郷の生物を作り出し、能力を与える程度の能力』ではないかと思い込んでいます。
※主催者(=声の男)に恐怖を覚えています
※森近霖之助を主催者側の人間ではないかと疑っています

【東風谷早苗】
[状態]:重度の風邪、精神的疲労、両手に少々の切り傷、睡眠
[装備]:博麗霊夢のお払い棒、霧雨魔理沙の衣服、包丁、魔理沙の箒(二人乗り)
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置(少なくとも四回目の定時放送まで使用不可)、
    魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)、上海人形
    諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙
[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.さとりと一緒にルーミアを説得する。説得できなかった場合、戦うことも視野に入れる
2.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる

[共通事項]
※輝夜宛の手紙を読みました。永琳が主催者であることを疑い始めています。
※永琳が魔理沙に渡した手紙が同じ内容かどうかは別の書き手の方にお任せします。
53創る名無しに見る名無し:2010/02/12(金) 15:48:33 ID:Iy2Fw/M+
以上代理投下でした

早苗さんマジで風邪こじらして死ぬんじゃね?
54創る名無しに見る名無し:2010/02/12(金) 17:29:46 ID:zNM33jP5
代理投下乙
諏訪子は死に際に永琳のことを伝えられなかったけど、結果的には伝わったも同然なのかな
しかし、装備が包丁だけ、しかも早苗さん風邪でダウン、って今襲われたら二人とも危ないんじゃね?
55創る名無しに見る名無し:2010/02/13(土) 15:29:46 ID:KuvPt3La
投下&代理投下乙です
早苗とさとりの会話がまじ温ったかいな
読んでて思わずなごんでしまった
そしてタイトル「オモイカゼ」つい笑ってしまった
56創る名無しに見る名無し:2010/02/15(月) 19:53:22 ID:vDpaAXHD
◆27ZYfcW1SM氏の代理投下を始めます。
タイトルは『黒い羊は何を見るのか』です。
57黒い羊は何を見るのか◇27ZYfcW1SM氏の代理投下:2010/02/15(月) 19:55:51 ID:vDpaAXHD
「……ねぇ、魔理沙」
「……何だフラン?」
「これからどうするの?」
「それがわかれば私は諸葛亮孔明になれるかもな……」
「そうね……」

「……ねぇ、魔理沙。あいつはなにしてるの」
「フラン、それはお前に友達がもっともっと沢山出来れば分かることだよ」
「そう……」

「……ねぇ、魔理沙。さっきの男の人、なんて言ってたの?」
「それはなぁ……私は香霖の妹分で、自分を傷つけるな。女の子だから誰かに守ってもらえだと」
「……そっか」
「あと、紫への伝言で『契約を守れなくて済まなかった』」
「契約って何?」
「知らない」
「そう…だよね…………」

 香霖、お前は何を考えて、どうやってこのゲームを壊す段取りを考えていたんだ?

 香霖が死んで数十分が経った。
 紫は藍と香霖の遺体の前に座っている。紫は何も言わなかったが、私は一方的に私たちに起こったことを聞かせた。
 紫は幽々子と仲がいいなら知っておくべきことだろう。
 そのことを言っても紫は眉一つ動かさなかったが……
 
 霊夢は走っていったっきり音沙汰がない。
 遠くへは行ってないだろうが、追う気力が湧いてこなかった。香霖を殺した相手だというのにだ……
 霊夢が憎い。
 憎い。それも日常的に抱く憎悪の比ではない、腐った沼の底のヘドロのようなドロリとした……そんな人間の汚い部分。が私にも湧く。
 
 だって、私の大切な人が殺された。私はキリストなんかじゃない。親に勘当されるし、アリスには口を開けば文句を言われるし、パチュリーに至っては紅魔館に居るだけで追い出されるし、私は悪い人間だ。
 
 霊夢…許さねえ……
 霊夢に煮え湯を飲まされたことは今までにあった。それを全部流そう。
 だけど、香霖を殺した罪……しっかり払ってもらうぞ。
 
 私とお前、友達だから友達ならではの仕方で……
 
 「よし……」
 
 腹は括った。あとは動くだけだ。
 
「フラン、そこで少し待ってろ。私は紫と話をしてくる」
「わかったわ」

 フランは目が見えない。
 ただ日光を直視死ただけであるため、強力な吸血鬼の回復能力をもってすれば制限の度合いも考慮して数時間もすれば見えるようにはなるだろう。
 それでも、目が見えない者を一人ぼっちにするのは誤りであるのは明確である。
 魔理沙もそれはわかっていた。もちろんフランも。それでも魔理沙はフランを一人にする行動を取り、それをフランが許すには理由があった。

 フランは名簿の一ページを手探りで探しだすと水で濡らして瞼の上にそっと乗せた。
 自分で作った暗闇のスクリーンに先程の魔理沙の姿が映し出される。
 
 『誰かのせいにするなっ! それでも私の友達か!?』

 フランは魔理沙の心の形を考える。
 魔理沙だって思ったはずだ。紫さえ来なければ霊夢を倒すことができたのではないか? 紫が森近霖之助って人を連れてこなければ彼は死ななかったのではないか? と……
 
 それでも魔理沙は感情を露骨に出さず、耐え、そして、私を止めた。
58黒い羊は何を見るのか◇27ZYfcW1SM氏の代理投下:2010/02/15(月) 19:57:06 ID:vDpaAXHD
 あいつ…いいえ、お姉さまが「死ねばいいのに」と言っていた事を思い出す。
 もうすぐ朝が来るそんな時間帯。お姉さまが紅魔館に帰ってきた。そのときちょっと不機嫌だったと記憶している。
 私は問うた。「ならばお姉さまが殺せばいいじゃない」
 お姉さまは言った。
「私なら簡単にあんなやつを殺せるでしょうね。でも、私が殺したら霊夢が黙っていないわ。
 フラン、何か行動をするには必ずその行動の責任を持たないといけないの。
 殺して、その責任をとらされれば、私にはあまりにも不利益でしょ?
 だから他の人が殺してくれれば私は得ってわけよ。咲夜、って、もう紅茶入れてあるわね」

 当時はなんのことかよくわからなかった。それは外を知らなかったから。
 外はお姉さまの言うような難しい倫理で埋め尽くされている。
 
 魔理沙は私が紫を「殺してくれれば」得だったはずだ。
 それを脊髄反射のように止めに入った。
 きっと魔理沙は何かでその行動をとったんだと思う。
 
 それが私が持ってないもので魔理沙が持っているもの。
 
 私が持ってなくてお姉さまが持ってたもの。
 
 みんな私みたいに地下室に閉じ込められた事はない。私だけが持っていなかったもの。
 
 私にも見つけられるかな……「それ」
 
 
 
 一人なら私はそれを探しに行ける。自分の中へ……
 
 
              〆
 
 
 紫は霖之助の片手を両手で包み込むようにして握っていた。
「紫……香霖からの伝言を伝えに来たぜ」

 私の声に反応してこちらに顔を向ける。だいぶ紫らしくない顔だ。
 いつかの飄々とした雰囲気はなく、葬式会場のような空気だ。まだ葬式は始まっていないのにな。

「『契約を守れずに済まなかった』だとよ」

 紫は口を抑えて顔を背けた。
「最初に契約を破ったのは私でしょう……! 貴方は謝らなくていいのに……」


「紫……私の仲間になってくれるよな。
 霊夢を……霊夢を止める仲間になってくれるよな!」


「私は…………」
59黒い羊は何を見るのか◇27ZYfcW1SM氏の代理投下:2010/02/15(月) 19:58:35 ID:vDpaAXHD
「……ねぇ、魔理沙」
「……何だフラン?」
「どうして行かせるの?」
「それはだな……私にもわからん」


魔理沙さんにはあの妖怪の考えなんてずっと前から読むことなんてできないさ。

紫は私の仲間になることを『保留』した。

紫は何処かへと風に流されるように歩いていった。それは紫が選んだ事だ。私は止めない。




「紫……私の仲間になってくれるよな。
 霊夢を……霊夢を止める仲間になってくれるよな!」
 
 私は半ば確信があった。
 あれだけの事を起こしたのだ。霊夢を支持する立場なんて捨て去ると思っていた。
 
 だが紫は……
 
「私は……あなた達と一緒に居られない」

 ぎょっとした。

「お前!! まだそんなことを…!! 霊夢はお前の式を殺したんだぞ
 確かに霊夢は大切さ。幻想郷と同じくらい大事だろうよ!
 だけど、私は他の命だって大事だと思ってる。
 お前も、霊夢も、香霖も、お前の式だって……そいつらみんな集まって私が愛した幻想郷だろ」
 
「お前が愛した幻想郷に私たちは居ないのかよ。そんなのって寂しすぎるだろ……」

「五月蝿いわ」

 周りの音が消えた気がした。
 
 
「霊夢を止めて、それが何になると言うの?
 霊夢を例え殺したってゲームの中の一つの事象でしかないわ。
 全てゲーム盤の上で起こり得る予定調和。それはゲーム盤を壊したことにはならないわ。
 私たちに求められることはゲーム盤では起こりえない動き。
 歩が後ろに下がり、飛車が斜方に動くようなロジックから逸脱した動きをして、始めてゲーム盤の外に出ることができるのよ」
 
「例えお前が歩を後ろに下げ打も香車が前に居れば、いくら後ろに下がろうと刺されるぜ。
 飛車が斜めに動ごかそうと、『角が二枚』じゃ飛車を持った相手には互角に戦えないだろ。
 これがゲーム盤の上だって言うならゲームに勝てばいい
 私はゲームの駒なんかじゃない。誰かに指すれる存在じゃない」

「駒はみんな決まってそう言うものよ。
 貴方は所詮、釈迦如来の手の上で馬鹿騒ぎしている孫悟空ってところね」

「孫悟空だって最後は牛魔王を倒すんだぜ」

「……これが私が貴方の仲間にならない理由。
 私と貴方では考え方が違いすぎる」

「ああ……そうだな。でもお前は私と同じことを考えてるぜ」
60黒い羊は何を見るのか◇27ZYfcW1SM氏の代理投下:2010/02/15(月) 20:00:19 ID:vDpaAXHD

「ええ、それだけは一緒みたいね」

 紫と魔理沙はお互いの顔を伺う。
 
 一方は「相変わらず真っ直ぐな目ね」と思い。
 もう片方は「いい目じゃないか。誰にも捕らえられない歪んだ目だが、それがいい」と思った。

「わかった。お前はお前のやりたいようにやってくれ。でも私は霊夢を止める行動方針は変えるつもりはないぜ」

「結構よ。私一人でもこのゲーム、必ず壊してみせるもの」

 そういって紫は霖之助の肩からショットガンを下ろした。

「彼の銃よ。私が寝ている間にだいぶ整備してたみたい。
 契約で私はこの銃は使えないから貴方が使いなさい」

「私は八卦炉もあるんだ。お前はそのクナイだけなんだろう?
 お前が使えよ」

「言ったでしょ? 私は契約で使えない」
「契約って……こんなときにか?」
「こんなときだからこそよ。この契約は私の我侭なんだけどね……」

「そうか……なら有難く借りていくぜ。香霖……」

 魔理沙はその肩にSPAS12を掛ける。
「弾よ、二種類あるらしいから状況にあわせて使いなさい」
 そしてバードショットとバックショットの実包がそれぞれ入った2つの紙で出来た箱を受け取る。同時に説明書も受け取った。

「魔理沙、別れる前にお願いがあるわ」
 そういいながら紫は一枚の紙を手渡した。

 魔理沙はまた手紙か? と思ったが、見た内容は手紙とは言いがたいものであった。
【硝酸アンモニウム】(重要)
【ガソリン】【木炭】【硫黄】【アルミニウム粉末】
【硝酸カリウム】【硝酸ナトリウム】【マグネシウム粉末】


 手紙というよりは、魔理沙の知っている化学物質からまったく知らない化学物質が羅列されているだけのメモであった。
 
 そして下のほうに『これらのうちどれかひとつでも見つけることが出来たなら香霖堂に運び入れておいてほしい』とある。


「これがお前の戦い方なのか?」

 紫は返事をしなかった。
 ただひとつ言える事は、いつもの底が読めない顔でもなく、さきほどのひどく落ち込んだような表情でもないということだ。


「魔理沙、ショットガンの弾をひとつ持っていくわ。この音が聞こえたら音が聞こえた所に来て頂戴。それと……」

 紫は隙間の中から包帯と目薬を取り出すと私に投げた。
「吸血鬼によろしく。悪かったわ」

 紫はそう言い残すと、荷物をまとめ、最後に藍と香霖の死体に手を合わせた後、どこかへと歩いていった。
61黒い羊は何を見るのか◇27ZYfcW1SM氏の代理投下:2010/02/15(月) 20:02:32 ID:vDpaAXHD

「仲間にならなかったね……」

 フランがぼそりと呟いた。会話が聞こえていたようだ。
 フランが私に尋ねる。

「……ねぇ、魔理沙」



              〆



「どうしてなのかしらね?」

 紫は空に向かって尋ねた。
「私がしようとしていることが次から次へと裏目にでるのは……どうしてなのかしらね?」

 紫の表情は先程魔理沙に見せた表情から前の青ざめた表情へと戻っていた。


 紫にだって失敗が全くない訳ではない。むしろ、失敗の方が多いほどだ。
 紫は有能である。だが、考えが浅い。
 もっとも、紫は一を聞いて十を知る妖怪ではある。一般人からしたら大したものだ。しかし、策士のなかの策士は一を聞いて千を知るのである。
 その策士からすれば紫の策は詰めが甘いのだ。
 
 その紫が策を仕掛け、失敗しても、大きな手傷を負わずに今まで生活出来ていたのは彼女の人脈にある。
 彼女に式、『藍』や神社の巫女、霊夢が紫の『後片付け』をしてる姿は幻想郷で多々見かける出来事だ。
 
 もともと本気で練った策ではないのかもしれない。ひょっとしたら失敗して後片付けをさせるだけの策だったのかもしれない。
 
 でも、どんな理由であれ後片付けは他人であった。
 
 そのツケか?
 今回の失敗の後片付けも他人であった。
 
 そのおかげでもう後はない。
 
 真っ先に後片付け役になる藍は殺され、霊夢は敵となってしまった。
 ものぐさながら裏で手助けしてくれた霖之助も死んでしまった。
 
 魔理沙も一緒に行動することを拒否してしまった。
 
 幽々子もヒドイ目に遭っているらしい。
 あの妖夢を殺したと聞く。ヘタをしたら精神的に参ってしまうかもしれない。
 
 もう助けてくれる人はいない。
 
 
 そして問題もまた一つ増えた。友人の一人、幽々子。
 幽々子は一度親しい人をなくした悲しみで自分を殺している。
 
 それほど優しい子なのだ……
 
 私は幽々子の親友であるが、私が側にいてもどうすることもできないかもしれない。
 でも……
62黒い羊は何を見るのか◇27ZYfcW1SM氏の代理投下:2010/02/15(月) 20:03:14 ID:vDpaAXHD
 二兎追う者は一兎得ず。
 
 すでに失敗ばかりの私が同時に処理をこなす事は限りなく無理に近い。
 
 死ぬのはもう嫌だ。失敗するのも嫌だ。
 


 唇から血がにじむ、悔しい。自分がこんなにもできない事が悔しい。
 
 幽々子…死なないで。お願い。そしてどうか間に合って。
 
 
 
 
 
 私がゲームを壊すまで……
 
 
 
 
 
【F-5 魔法の森 一日目・午後】
 
【八雲紫】
[状態]正常
[装備]クナイ(8本)
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0〜2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記、バードショット
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
 1.藍と霖之助の死がショック
 2.八意永琳との接触
 3.ゲームの破壊
 4.幽々子の捜索
 5.自分は大妖怪であり続けなければならないと感じていることに疑問
[備考]主催者に何かを感じているようです
    ゲーム破壊の手を考えついています
63黒い羊は何を見るのか◇27ZYfcW1SM氏の代理投下:2010/02/15(月) 20:04:03 ID:vDpaAXHD

「フラン……あいつを悪く思わないでくれ」
 魔理沙は紫が去った後、第一声がそれだった。

 みんな必死なんだ。
 必死こいて走り回って自分がどっちの方向を向いているか分からなくなってるだけなんだ。
 
 魔理沙は私に目薬を差し、包帯を巻く。
 
 霊夢もだ。みんなみんな……
 でも、それに罪があることを忘れないでくれ。
 
 フラン、みんなを許せ。だけど罪を許すな。
 
 
 言い終わると魔理沙は黙り込んだ。

 数十分沈黙が続く。

「出来た。フラン! 見てみろ。銃剣ってやつだ」
 沈黙を破ったのはまたしても魔理沙だった。

「……私は目が見えないんだってば」

「そうか……」

 魔理沙はSPAS12に楼観剣の刀身をくくりつけただけの銃剣を置くと、また黙り込んだ。

 魔理沙、あなたはどこに向かって走っているの?
 
 
 

【F-5 魔法の森 一日目・午後】

【霧雨魔理沙】
[状態]蓬莱人、帽子無し
[装備]ミニ八卦炉、ダーツ(3本)、楼観剣(刀身半分)、SPAS12銃剣 装弾数(7/8)
[道具]支給品一式、ダーツボード、輝夜宛の濡れた手紙(内容は御自由に)、紫の調合材料表、バードショット(7発)、バックショット(9発)
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
1.香霖……
2.真昼、G-5に、多少遅れてでも向かう。その後、仲間探しのために人間の里へ向かう。
3.幽々子を説得したいが……。
4.霊夢、輝夜を止める
5.リグル・パチュリー・妖夢・幽々子に対する強い罪悪感。このまま霊夢の殺人を半分許容していていいのか?
※主催者が永琳でない可能性がそれなりに高いと思っています。



【フランドール・スカーレット】
[状態]右掌の裂傷、視力喪失(回復中)、魔力全消耗、スターサファイアの能力取得
[装備]無し
[道具]支給品一式 機動隊の盾、レミリアの日傘
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.魔理沙についていく、庇われたくない。
2.殺し合いを強く意識。反逆する事を決意。レミリアが少し心配。
3.永琳に多少の違和感。
※3に準拠する範囲で、永琳が死ねば他の参加者も死ぬということは信じてます
※視力喪失は徐々に回復します。スターサファイアの能力の程度は後に任せます。
64創る名無しに見る名無し:2010/02/15(月) 20:05:04 ID:vDpaAXHD
以上で代理投下完了です。
65創る名無しに見る名無し:2010/02/15(月) 20:30:25 ID:CgZuRdrd
代理投下乙。

本当に魔理沙はきれいな対主催だな。これからも期待してるよ。
そして、紫の今後は・・・幽々子は揺れてるからなあ。

キャラの描き方が上手かった。特に紫の描き方はぐっときたな。
今後とも頑張ってください。
66創る名無しに見る名無し:2010/02/16(火) 00:58:45 ID:S8Lcuxee
代理投下乙。

ほう、これは……何と言うか、短いながらも心に残る話だなぁ。
特に魔理沙と紫の会話が良いね。何となく原作っぽい。

しかし両者、これからどうするだろう。
紫は何か考えがあるみたいだが、果たして何処まで一人で頑張れるか……。
67 ◆J1Bh6Z1pDg :2010/02/16(火) 19:58:51 ID:WmmWJq96
トリは変わりましたが作者です。

タイトル「灰色の未知の世界」

68 ◆J1Bh6Z1pDg :2010/02/16(火) 19:59:36 ID:WmmWJq96



午後の日差しの中、二人は出会う。
元々知り合いではない二人。
まずは自己紹介から始まった。


急に道の脇から出てきた四季映姫・ヤマザナドゥが自己紹介をすると、
目の前の少女はびっくりしたのだろうか、動きを止めた。

しばらく続いた沈黙の後、彼女は小声でつぶやいた。

「ルーミア」

映姫は顔色一つ変えずに確認する。

「それがあなたの名前ですね」
「うん」

ルーミア――聞いたことのない名前だ。
配られた名簿では上のほうに書いてあったのだが、
幻想郷のパワーバランスの中ではとりわけ上にいる存在ではないのだろう。

おずおずと目の前の「ルーミア」は映姫に問いかけた。

「四季映姫・ヤマザナドゥは何の妖怪?」
「妖怪ではなく閻魔です。死者を裁いています」

「閻魔は食べてもいい存在?」
「いえ、閻魔は基本的に手を出してはいけない存在です」

どうやら目の前の「ルーミア」は私のことを知らないらしい。
まあ、普通の妖怪は長生きするので、死のことなどあまり考えないから仕方がない。
普段ならその死に関する考えを正すのだが・・・。

今はまず、幻想郷の法を説かなければなりません。

だがその前に、ルーミアの態度に気になるところがあるので確認しておきましょう。
何かに気を取られたようにふらふら歩いていたのは何か理由があるはず。
なにやら落ち込むような出来事でもあったのだろうか?

「どうしてそんなに落ち込んでいるのですか?ルーミアさん」
「・・・・・・」

69 ◆J1Bh6Z1pDg :2010/02/16(火) 20:00:32 ID:WmmWJq96
返事はない。
しかし、もう一度尋ねようと映姫が口を開いたとき、ルーミアは逆に尋ねてきた。

「妖怪は人間を殺してもいいの?」
「何を言っているのですか?もちろん構いません。妖怪は人を襲うものですから。
妖怪が人を襲い、殺すのは白です。」

「じゃあ妖怪は妖怪を殺してもいいの?」
「妖怪は互いに争うもの、その争いが乗じて殺し合いになっても問題ありません。
私は白だと断言できます。もっとも、親兄弟や主人を手にかけるのは黒ですが・・」

話の意図が読めない。
ルーミアは何を知りたいのか?
なぜこんな質問をするのだろうか?
映姫にはわからない、だが彼女なりの見解で、白黒つけながら答えていく。

「それじゃあ妖怪が神様を殺すのは?」
「神は妖怪や人が崇め奉られて成り上がるもの。先ほどの答えと同様に白です」

その答えを聞くと、さらにルーミアは考え込み、言った。

「でも東風谷早苗は山の神社の神様を殺したら怒ったよ」

「・・・そうですか」

ようやく映姫にも彼女の聞きたいこと、彼女が何をしてきたのかが分かってきた。

おそらく彼女は東風谷早苗の前で彼女の祀る神(おそらく洩矢諏訪子)を殺した。
そして生き残った東風谷早苗に怒りをぶつけられたのだろう。

ただ人を喰い殺して、なにも考えず、退治されても反省してこなかった小妖怪ゆえに、
もしかしたら、その拍子に自分自身に自信がなくなってしまったのかもしれない。
映姫はそう推理し、鎌を掛けた。

「もしかしてルーミアさんは何一つ信じられるものがないのではないですか?」
「・・・!!」

反応あり。
仮説は当たっていたらしい。

70 ◆J1Bh6Z1pDg :2010/02/16(火) 20:02:41 ID:WmmWJq96
驚いたルーミアが、ようやく口を開く。

「閻魔は人の心が読めるの?」
「いえ、読めません。しかし推測することはできます」

尊敬するような目でみるルーミアに閻魔――四季映姫・ヤマザナドゥは畳掛けた。

「あなたに教えてあげましょう」
「今の幻想郷では殺すことは白で、正しい行為です」
「普段忌諱されてきたことも正しいこととなっている」
「自身の祀る神を殺され東風谷早苗は怒ったが、むしろそちらのほうが黒、悪いこと」
「あなたは正しいことをしてきたのです」

次々と出てくる言葉を、ルーミアは目を丸くして聞き入っている。

「ルーミア、あなたはもっと自分に自信を持ったほうがいい。
自信過剰は危険でも、自信の喪失は自己の喪失につながる。
今は「自分のやることが正義だ」くらいに思ったほうがいいでしょう」

「そう、ルーミア。今のあなたは少し意思の力が弱すぎる」


厳かに、大きな声で。
目の前の相手に忠告をする。

息継ぎもせずに話し続けたので、息が乱れ思わず下を向く。
酸欠で薄れた意識に耳が遠くなってゆく。
歩き続けていた為に土に汚れ、紅魔館での戦闘で血に濡れた靴が視界に入る。

体に溜まった疲労、まだこの殺し合いが始まってから一日も経っていないとは思えない。
混沌とした意識。
だが、大きく息を吸うとともに意識は覚醒してゆく・・・・・

71 ◆J1Bh6Z1pDg :2010/02/16(火) 20:03:28 ID:WmmWJq96
ふと、目の前のルーミアからの反応がないのに映姫は気が付き、顔を上げようとする。
だがそれは頭のてっぺんに突き付けられた何かに止められた。

視線を上にあげる。
目に飛び込んできたのはリボルバーを映姫の頭に突き付けたルーミアの姿だった。



そろり、そろりと引き金が絞られてゆく。
その様子を四季映姫・ヤマザナドゥはただ見ているだけだった。

同じくなんでもないような顔をして引き金を引いてゆくルーミア。


一瞬後、奥まで引かれた引き金はハンマーを開放し・・・・

――ガチャン

金属音をたてて、沈黙した。



無音に耐えられず映姫が顔をあげると、

「外れかな?やっぱり閻魔は食べちゃいけない存在なのね」

ルーミアは一言だけ呟き、
そしてそのまま走りだし、映姫の視界から消えていった。


【F−3 一日目 午後】

【ルーミア】
[状態]:懐中電灯に若干のトラウマあり、裂傷多数、肩に切り傷(応急手当て済み)
[装備]:リボルバー式拳銃【S&W コンバットマグナム】4/6(装弾された弾は実弾2発ダミー2発)
[道具]:基本支給品(懐中電灯を紛失)、357マグナム弾残り6発、フランドール・スカーレットの誕生日ケーキ(咲夜製) 不明アイテム0〜1
[思考・状況]食べられる人類(場合によっては妖怪)を探す。
1.自分に自信を持っていこうかな
2.森に仕掛けたおもちゃはどうなったのかな?
3.日傘など、日よけになる道具を探す
[備考]
※古明地さとりの名前を火焔猫燐だと勘違い
※映姫の話を完全には理解していませんが、閻魔様の言った通りにしてゆこうと思っています


72 ◆J1Bh6Z1pDg :2010/02/16(火) 20:04:15 ID:WmmWJq96



ルーミアの姿が消えてしばらくすると、四季映姫・ヤマザナドゥはため息をついた。

「死を恐れないと思っても、簡単にはいかないものですね」

凝り固まった肩を揉みほぐす。

「ですが、私は死ななかった」

今まで何回か死にそうな事態に陥ってはいる。
だが、まだ死んではいない。

そこで映姫は仮説を立てた。

既に半分近い命が失われている。されど、幻想郷に必要な命はまだ失われていない。
幻想郷そのもの維持している博麗霊夢、八雲紫。
死者を扱う西行寺幽々子、そして私、四季映姫・ヤマザナドゥ。

パワーバランスの上位を占める妖怪さえ死に続ける中、
幻想郷が必要とする存在が生き続けるのは意味があるのかもしれない。

「幻想郷は、私を保護してくれている」

それなら、もしそれで合っているのなら、私が死ぬことはない。
死を恐れる必要はないのではないだろうか。

幻想郷に必要な存在が死んでいないことから、この殺し合いの目的も見えてくる。

「これは増えすぎた妖怪、力を持ちすぎた人間を淘汰するための儀式なのかも」

それなら私が今まで説いてきたことは淘汰を促進させることに繋がるのだろう。
淘汰は進み、幻想郷は新しい姿で復活する。

「そう、これは淘汰の儀式。止めてはいけない儀式なのです」

彼女はそう呟くと再び歩きだした。


73 ◆J1Bh6Z1pDg :2010/02/16(火) 20:05:45 ID:WmmWJq96
この仮説は根拠が薄すぎる。
まず、彼女が今までまともな仮説を立ててこなかったのは時間がなかったからではない。
根拠となるべき情報が少なかったからである。
殺し合いが始まってから半日が経ったからといって、特別有力な情報が入ったわけではない。

彼女がたいした根拠もなく仮説を立てたのはなぜだろうか。
彼女自身、自分の行動に自信がなくなってきたからかもしれない。

「あなたはもっと自分に自信を持ったほうがいい。
自信過剰は危険でも、自信の喪失は自己の喪失につながる。
今は「自分のやることが正義だ」くらいに思ったほうがいいでしょう」

これは本当にルーミアに対して発せられた言葉なのだろうか。

もしかしたら、あるいは・・・・

真実を知る者はどこにもいない。



【E−3 一日目 午後】

【四季映姫・ヤマザナドゥ】
[状態]脇腹に銃創(出血) 、精神疲労(中)、肉体疲労(中)
[装備]携帯電話
[道具]支給品一式
[思考・状況]基本方針:参加者に幻想郷の法を説いて回る
1.自分が死ぬこともまた否定はしない
2.これは増えすぎた妖怪を減らす儀式なのでは?
3.自分は必要な存在なので死ぬことはないはず

※帽子を紛失しました。帽子はD−3に放置してあります。

74 ◆J1Bh6Z1pDg :2010/02/16(火) 20:07:31 ID:WmmWJq96
投下終了です

私は本当にドジです・・・・
75創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 00:20:33 ID:Ge8xSZT1
投下乙。

ルーミア戻っちゃったかぁ……もうただの説得だけでは修正出来ないかもな。
そして映姫は一体何処へ向かっているんだ……。
今の所は運の良さでどうにか生き延びているが、それが延々と続くとも思えない。
閻魔という立場上、全て一人で抱え込んでしまうのが辛い所だな。
76創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 23:48:58 ID:OJU2e1iI
投下乙

ルーミアはこれはもう…
映姫も難しい状況だわ…
77創る名無しに見る名無し:2010/02/20(土) 20:50:55 ID:Yz3dXIG9
こんな時に幻想郷のメイン盾さえいてくれたら…
78創る名無しに見る名無し:2010/02/22(月) 00:30:26 ID:F3UGHOtM
犬走椛ですねわかります
79創る名無しに見る名無し:2010/02/22(月) 20:46:02 ID:27ybPui/
参加している中ボスはてゐ以外みんな死んじゃったのか・・・
80創る名無しに見る名無し:2010/02/23(火) 11:55:48 ID:jAUz1LRP
>>79
秋のお姉さんに何か一言
81創る名無しに見る名無し:2010/02/24(水) 02:54:17 ID:ySwmjLsx
>>79
3ゲットチルノちゃんだよ
自動で妖々夢1面の中ボスをしてくれる凄いやつだよ
82創る名無しに見る名無し:2010/02/24(水) 11:43:19 ID:cim2k8EM
ていうか、てゐよく生きてるよね。
普通のロワじゃ真っ先に死ぬタイプのキャラなんだけどな。
普通の思考回路を持つ奴がいないからか?
83創る名無しに見る名無し:2010/02/24(水) 23:54:10 ID:0aBaefQF
てゐとかうどんげみたいな普段から後ろ暗いキャラはロワ的には美味しい素材だからね。
勇儀みたいな強いだけで活かしどころの難しいキャラこそ強者でも死ぬ演出としてさっさと退場しちゃうタイプだと思う。
個人的には射命丸のさらなる黒い活躍に期待したいw

>>78
幻想郷でメイン盾といったらブロントさんでしょう。
ロワでは真っ先に殺されるタイプのキャラだとは思うけど。
84創る名無しに見る名無し:2010/02/25(木) 11:47:15 ID:ZsC42ay2
あまりにも陰陽鉄を見すぎでしょう?
関係ない所でブロントと東方を結びつけるやつは悪者でFA!
それくらいも出来ない卑怯者はマジでかなぐり捨てンぞ?
85創る名無しに見る名無し:2010/02/25(木) 14:58:36 ID:A8ptHvmW
ブロントってネ実ネタでしょ
東方と何の関係が・・・・
86創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 13:08:45 ID:+CFqttNw
>>83-85
そんなことよりおうどんたべたい

殺して行こうと決めたルーミアだけど、
拳銃もマグナムも弾数少なくなってきてるから
誰かから武器奪わなきゃ素手で戦う事になるよね…(不明アイテム次第だけど)
87創る名無しに見る名無し:2010/02/28(日) 15:29:15 ID:i6s0559j
急に予約が増えたぞ
嬉しいなw
88創る名無しに見る名無し:2010/03/03(水) 06:43:15 ID:xGQmtlnP
ベテランの◆27氏に、久しぶりの◆30氏に、年明けから参加の◆sh氏と多彩な予約だな
15人も動くのか…生存者の半分以上じゃないか、楽しみだ
89創る名無しに見る名無し:2010/03/03(水) 16:11:28 ID:GeJLo1Wx
やはり新作が来ると意欲が増してくるのか
90創る名無しに見る名無し:2010/03/04(木) 01:20:53 ID:b+UFxApH
>>83
前半は同意だが後半は慎むべき死にたくないならそうするべき
91創る名無しに見る名無し:2010/03/06(土) 15:44:12 ID:9MQqMAs3
しかしいいロワだよなあ、ここ
ベテランさんも頑張ってくれてる上に、ちょこちょこ新人さんも参入してくれるし
みんな東方及び東方ロワ好きなんだな
おれもだけどさ
92創る名無しに見る名無し:2010/03/06(土) 19:21:53 ID:T8dEIm0r
予約殺到から一週間、そろそろ投下ラッシュかな
ちょっと体清めて、正座して待ってよう
93創る名無しに見る名無し:2010/03/06(土) 19:56:10 ID:wks4O6bj
ここは不幸にも参加者の真剣度が他と違うな
例えロワを打開出来ても幻想境が終わるかもしれないって悲壮感がいい
94創る名無しに見る名無し:2010/03/06(土) 22:09:00 ID:AARj/Pjb
このロワから東方に入った人間だけど、
文中からなんとなく想像してたビジュアルが後で調べたら全然違ってたりもして、
外見とか人物相関とか色々知ってから改めて読み直したらものすごく泣けたり笑えたりの件…

とりあえずスイカとお燐はもっとゴツくて汗臭い筋肉モリモリなキャラを想像しちゃってましたw
映姫はえーりんのパブリックイメージみたいなデキる長身グラマー女性を想像してたら
いずれもあんな線の細いおにゃのこだったなんて。・゚・(ノД`)・゚・。
95創る名無しに見る名無し:2010/03/06(土) 22:15:17 ID:0AT4rCCv
>>93
幻想郷終わったら人間以外全部\(^o^)/だからな。
本当のオワタ・オブ・オワタは打開できても今度は永遠の苦痛が待ってる魔理沙かな。
キング・オブ・キングス・オブカワイソスは永琳だと思うけど。
96創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 00:42:57 ID:CifZ9XS5
魔理沙は酷だなあ
霊夢なら蓬莱人化も「なっちゃったもんはしょうがないでしょ」で済ませそうだけど
魔理沙って素行がクソ悪い以外はけっこう常識人だからねえ
97創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 01:16:59 ID:KYhp20ES
>>94
その気持ちよく分かるわw
他所のロワで似たような経験したことがある

魔理沙はなぁ…蓬莱人として死ねるのはロワの間だけだしなぁ…
生きるも地獄、死ぬも地獄ってことか
98 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/03/07(日) 03:14:53 ID:fbbb89p1
本投下始めます。
タイトルは「哀死来 4 all」です。
さるさん濃厚な長さですので、途切れてしまった時はどなたか補完していただけるとありがたいです。
99創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 03:17:18 ID:fbbb89p1
「お空…戻ってこないね」
「…そうだね」

どうもこういう雰囲気は苦手だなぁ。
シリアル?だっけ、シリアス?だっけ、とにかくなんだかそんな空気。

さっき戦った猫妖怪が、お空にとってすごく大事な相手であることはなんとなく分かった。
お燐だとか言ったっけ、気に入らない奴だったけど強かったな。
でも、そのお燐はもういない。
お空と戦って、そして…死んじゃった。

カエルを凍らせて遊んでいるうちにうっかり死なせちゃったことはあったけれど、それとはなんだか違う。
あたい達みたいに、話して、笑って、泣いて、戦って…そういう生き物が死ぬのは初めて見た気がする。
いつだったか、閻魔とかいう偉そうな奴に死がどうのこうのって言われたことがあったっけ。
もう細かいことは覚えていないけれど、あれ以来あたいだって「死」とかについて思うことはあった。

「お空…泣いてたね」
「…そうだね」

死ってのがどういうのかは結局よく分からなかったけど、今ひとつだけ分かったことがある。
それは、生き物が死ぬと、ああやって泣いてくれる奴がいる、ってこと。
でも…あたいは…嫌われもののあたいが死んでも…今のお空みたいに泣いてくれる奴っているのかな。
いつも独りでいて、特に仲良しがいないから…正直言って自信が無い。
今までずっと独りで、これからもずっと独りでいる、最強だからそんなの関係ない、って思ってたけど。
ああいうのを目にすると…ちょっと羨ましい、って思う。

「お空…大丈夫かな」
「…分かんない」

隣に居るメディスン・メランコリーは何を考えてるんだろ。
なんやかんやあって今は一緒にいるけれど、よく考えたらあたいはこいつのことをあまりよくは知らない。
毒を使う人形妖怪だってのは知っているけれど、それだけ。

「…メディ?」
「…なぁに?」
「メディにはさ…友達っているの…?」

これ以上黙って待つことが出来なくて、別に聞きたくもないことを聞いてみた。
別にこいつに友達がいようがいまいが、知ったことじゃないはずなのに。

「友達…スーさんのことかな…」

へぇ。やっぱりこいつにも友達はいたんだ。
じゃあ、もしメディスンが死んでも、そのスーさんって奴が泣いてくれるんだろなぁ。

「でも…もうスーさんはいないんだ…」
「…へぇ」
「さっきまで一緒だったんだけどね…もういなくなっちゃったの」

さっきまで一緒…じゃあスーさんってのも、もう死んじゃったのかな。
ということは、逆にこいつがスーさんのために泣いたのかも。

「他には? そのスーさんっての以外にはいるの?」
「他に? う〜ん…八意先生にはよくしてもらってるけど、友達とかとは違うし…
 私…嫌われものだからあまり友達っていないんだ」
「嫌われもの?」
「うん。私ってもともと人間に捨てられた人形なんだ。で、今は毒を使うでしょ?
 普段は鈴蘭畑に誰も近づかないし、私もめったに外にも出ないし…スーさん以外に友達っていないんだ」
100創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 03:19:03 ID:fbbb89p1
…驚いた。
あたいとこいつって似たもの同士じゃん。
氷の力のせいで他の妖精もろくに寄りつかないし、人間からも逃げられて霧の湖でだいたい独りで遊んでるあたい。
人間に捨てられた上に、毒の力のせいで妖怪からも避けられて、鈴蘭畑にだいたい留まっているメディスン。
メディスンにはスーさんって友達がいたみたいだけど、今はいないからあたいと同じ、独りぼっち。

「じゃあさ…あたいが友達になってあげよっか…?」
「チルノが…?」
「そう。あたいだけじゃない、お空も一緒。折角こうして会えたんだし、みんな友達になろうよ」

今までは独りぼっちでも別になんとも思わなかった。
けど、友達のために泣いてるお空を見て、なんだか羨ましいって思っちゃった。

「友達…うん、分かった! チルノも空さんも今から友達ね!」

会ってからずっとなんだか寂しげだったメディが、その目をキラキラ輝かせてこっちを見上げる。
なんだろ、なんだか照れくさいや。

「べっ、別にあんたのために友達になってやるわけじゃないんだからね!
 その…あんたが独りぼっちだから可哀想で…とかそんなわけじゃなくって…」
「ううん、いいの。友達になろうって言葉だけでもすっごく嬉しい。ありがとね、チルノ」

なんだかくすぐったいような、かゆいようなそんな感じ。
まぁ、このシリアル?シリアス?な雰囲気が無くなったからいいや。

「ねぇ、お空が戻ってくるまでの間に持ち物の見せ合いっこでもしない?」
「持ち物?」
「そう、あんたがどんなおもちゃを持っているのか気になるし。
 ついでに、さっきの猫が持ってた袋も開けちゃおうよ」
「いいけど…そんなに面白い物は入ってなかったよ、私のには」

そう言うと、メディは自分の袋からちっちゃい輪っかをそれよりさらにちっちゃい輪っかで繋げたものを出してきた。

「…何これ? 知恵の輪、とかいうやつ?」

あたいがたまに人間とばったり出会うと、なんだか訳の分からないなぞなぞとかいうものをよく出される。
それを考えているうちにいつの間にか人間がいなくなっているんだけど。
で、そんな人間がなぞなぞの代わりにその知恵の輪とかいうのを投げてよこしてきたこともある。
なんでも、その輪っかをバラバラに出来れば勝ち、らしいんだけどあれは絶対ウソだ。
最強のあたいがどれだけあちこち弄ってもバラバラになんてなりゃしない。
101創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 03:20:39 ID:fbbb89p1
「ううん…違うみたい」
「違うの? じゃあ、なんなのさ」
「ちょっと待って、なんか説明書が付いてるから」

出た、またどうせ遠まわしに色々書いてある紙だ。
メディが難しい顔して読んでるけど、こいつに理解できるのかな。

「えっとね…これは手錠ってものらしいわ」
「名前なんかどーでもいいのよ。それで? これはいったい何なのよ」
「う〜ん…なんか手を繋ぐためのものなんだって」
「手を繋ぐ、って…別にこんなのなくてもいいじゃん、普通に繋げば」
「鍵を使わないと絶対に離れないみたい」
「ふ〜ん、変なの。他には何かないの?」

もう一度メディが自分の袋をごそごそと漁る。
その間に手錠とかいうのを弄くってみよう。
手を繋ぐ、ってねぇ…空を飛べなきゃ面白くもなんともないや。
引っ張ったり、ねじったりしてみたけど別に何が起こるわけでもないし。
…っとと、弄っていたら手を滑らせて落としちゃったよ、拾わないと…



*          *          *



弓を構えて、矢を引く。
手を離せばあの氷精の命はないだろう。
なんたって、あの八雲紫の式の式ですら一撃で絶命したのだ。
氷精ごときが耐えられるなんてとても思えない。

…そう、その氷精"ごとき"があの緋想の剣を握っているのだ。
あんな奴じゃない、あの剣には相応しい持ち主がいる、帰るべきところがある。
見てなさい、その能天気な頭にアクセサリをプレゼントしてあげるわ…

「その剣を…返しな…さいっ!!」

怒りのあまり張り上げてしまいそうな声を必死に殺して、言葉と同時に矢を放つ。
ヒュッ、と風を切って一直線に氷精の頭をめがけて矢が飛んでいき…
その瞬間に氷精がその身を屈めた。
的を失った矢は空しく虚空を引き裂いて向こう側の藪に飛び込んでいった。

ある程度練習したとはいえ、天子の弓矢の腕前は決して高くはない。
だからと言って、外れるならまだしも、避けられるなどという発想は天子の中にはまったく無かった。
結果論からすれば、もっと的の大きい胴体を狙うべきだったのだが、そう判断できる冷静さを今の天子は欠いていた。
そして、おまけにまた矢を一本無駄遣いした上に仕留め切れなかったという事実が、さらに天子から冷静さを奪う。
102創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 03:21:33 ID:fbbb89p1
「ちょっ…どういうことよ!」

驚きのあまり目をカッと見開き、歯噛みして悔しがる。
だが、幸いにも屈んでいたチルノは頭上を通過した矢に気づかなかったようだ。
メディスンも袋の中身を漁っていたところでやはり気づかない。
まだ気づかれていないのなら…と天子は思い直して、呼吸を整える。

「さっきのは偶然に決まっているわ…! 今度こそ…!」

もう一度矢を引き絞って、狙いを定める。
ふぅっ、と大きく息をひとつ吐いて、つがえた矢を…

「おい、あんた。そこで何してるんだ?」

放とうとしたところで、不意に横から話しかけられた。
ビックリして手元がぶれ、また狙いとは違ったあさっての方向に矢が飛んでいく。
慌てて、声のした方に向き直ると、そこには腕組みをした地獄鴉が一人。

「だまし討ちとは穏やかじゃないねぇ。やるなら正面からかかってきなよ」

燐と最後の別れを済ませ、チルノとメディスンのところに戻ろうとした空は不穏な殺気を感じ取っていた。
注意深く押さえられていた殺気ではあったが、燐との死闘で集中力が高まったままの空には辛うじてそれが分かった。
気づかれないように近づいてみれば、弓矢を構えて何かを狙っているようだ。
こんなところで何を? さすがに鳥頭と言われる空でもそのぐらいのことは分かった。
チルノとメディスンに決まっているじゃないか。

「こっそり忍び寄ってあんたに襲い掛かってもよかったんだけどね。
 どうも性に合わないからこうして…っとぉ!?」

いきなり甲羅のようなものを投げつけられる。
咄嗟にかわしたが、その隙に間合いを詰められて蹴りをまともに食らってしまう。
飛ばされた空が藪を飛び出してチルノの近くに吹っ飛ばされる。

「え? お空、どうしたのさ?」

いきなり仲間が吹っ飛んできて驚く二人に、空はがなり立てる。

「バカッ! 敵だよ、敵!!」
「むっ! バカって言うな、バカって! お空のバカ!」
「うっさい! お前もバカって言ったじゃ…って、今はそんなことで争ってる場合か!」

言い争っている二人を尻目に、ゆっくりと藪の中から天子が姿を見せる。
近接戦闘では役に立たないと踏んだのだろう、すでに弓矢はスキマ袋の中にしまわれている。

「…そうね。確かにだまし討ちなんて性に合わないわ」
103創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 03:22:37 ID:fbbb89p1
穏やかな表情を作ろうとしているだが、よくよく見れば笑顔が引きつっている。
燐、文、映姫達との邂逅で重ねてきた怒りや苛立ちといった感情がついに限界を超えてしまった。
さっきまでどうにか理性で抑えていた闘争本能も最早だだ漏れだ。
不気味さを感じ取ったメディスンがひっ、と小さく悲鳴を上げて少し後ずさりをする。

「よくよく考えれば、貴方達程度なら正面からいったところで何の問題もないはずですもの」

目の前の三人を一瞥しながら言い放つ。
氷精に人形妖怪の力量は花の異変を眺めていてある程度見当はついている。
もう一人、さっき横槍を入れてきた鴉はよく分からないが…
すぐにでも叩きのめしてやりたいところだが、こいつらには少し聞きたいことがある。

「…ところで、貴方達に聞きたいことがあるのだけど、よろしいかしら?」
「…聞きたいこと?」

小さな体をチルノと空の後ろに隠すようにしてメディスンが聞き返す。

「…ええ。実は私、探している人…いや人じゃないわね…妖怪がいてね」

天人としての気品を取り繕いながら天子が言う。

「片目の落ちた猫妖怪…こちらに来なかったかしら?」



*          *          *



――片目の落ちた猫妖怪。
その言葉を聞いてチルノはピクッと反応した。
猫というだけならまだしも、片目が無いとなるとそんな奴はそう何匹もいるわけではない。
ついさっきまでやり合っていたあの猫妖怪に間違いない。
空の方を見遣ってみると、同じことを思っていたのだろう、神妙な顔つきに変わっている。

「…お空」

呟くと、分かっている、と言うかのように空が小さく頷いた。

「ねぇ? こっちの方に来ているのは分かっているのよ?」

威圧感を滲ませながら、さらに天子が問い詰める。

「…あんたは…お燐のなんなんだ?」
「お燐…? あぁ、それがあの猫さんのお名前なのね」

そう言うと天子はその場でくるりと一回転してみせた。
左肩の辺りが切り裂かれ、周りを血で紅く染め上げている。
激しい戦闘の後なのか、衣服は土埃でうっすらと汚れていた。

「…これね、そいつにやられた痕よ。」

再び三人の方を向き直って天子が言う。
104創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 03:23:43 ID:fbbb89p1
「やられっぱなしじゃ癪だから…と思って後を尾けてきてたんだけどね。この辺りで見失っちゃったのよ。
 そこの鴉さんはそのお燐さんと知り合いのようだけど…どこにいるのかしらねぇ?」
「鴉じゃない、私には霊烏路空という立派な名前がある」
「あら、それは失礼。それで、空さん? お燐さんに会わなかったかしら?」
「お燐は…私の親友だ。そして…」

空がふぅっと大きく息を吐く。
自分の目の前でついさっき起こったことを改めて咀嚼して…こう告げた。

「私が…殺した」

場に静寂が訪れた。
風がそよぎ、周りの樹木の葉を揺らすざわめきだけが響き渡る。
沈黙を打ち破ったのは、くすくす、という笑い声。
口元を押さえた天子が微笑を浮かべていた。

「そう…ご自分の手でお友達を…ねぇ。それはそれは御愁傷様でございます」

何故天子が笑っているのか分からないチルノとメディスンは互いの顔を見合わせ、怪訝そうな表情を浮かべる。
一方、天子は愉快で仕方ない。
一度はあの氷精達のような弱者によって獲物を横取りされたと思っていたというのに。
実際はそうではない、別の強者の手にかかったというだけのこと。
獲物を横取りされた格好になったのは気に喰わないが、代わりにもっと歯ごたえのありそうな相手に巡り会えたのだ。
闘争に飢えていた天子が笑いを抑えられるはずなどなかった。

「それにしても…私にこれほどの手傷を負わせた猫さんを斃してのけるとは…
 貴方もなかなかの手練とお見受けしましたよ」
「…何が言いたい?」
「いえ、ね…本当なら私をこんなにした責任をお燐さんに取っていただこうかと思いましたが…
 もうこの世にいないのでは仕方ありません。ですので…」

そう言うと天子の口元から笑みが消えた。代わりにギラリと目を輝かせて空を睨みつける。

「貴方にお友達として代わりに責任を取っていただこう、こう思いまして」

抑制が利かなくなった殺気を感じ取った空は、これはヤバイと思った。
お燐もこちらを殺すつもりで襲い掛かってきていたが、その時の殺気とはまた方向性が違う。
何があったかは知らないが、心がボロボロになっていたお燐とは全く違う。
おそらく、これが目の前にいる女の"素"なのだろう、そう結論付けた。
だが、再びその殺気が収束されていく。
怒りを抑えている…? そう考えたところで天子が言った。

「ですが、貴方達は本当に幸運です。私、人捜しに加えてもう一つ、探し物がありましてね」
「…探し物?」
「そう。実はそこの氷精が持っているその剣、緋想の剣と言ってね。
 私のような天人にしか扱うことの出来ない、それはそれは特別な剣なのよ。」
「…だからなんなのさ」
「その剣、私に返しなさい。そうしたらこの場は見逃してあげないこともなくってよ」

右手を突き出して要求のポーズを取る。
それを見て、チルノはムッとした表情を見せ、剣を抱きかかえた。

「イヤよ! これはあたい達のものよ!
 だいたい、テンジンだかヘンジンだか知らないけどさ、この剣がアンタのだって証拠がどこにあるのよ!」

今度は天子がムッとした表情に変わる。
確かに、これが自分のものであると証明できる手段はない。
というより、そもそも緋想の剣自体が盗み出したものなのだが、問題はそこではない。
貴人たる天人を、氷精ごときに奇人たる変人と同列に扱われたことが気に喰わなかった。
105創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 03:24:53 ID:fbbb89p1
「…あら、いいのかしら? 天人の忠告は素直に聞いておくものよ?」
「忠告も何も無いだろ。さっきはそこの藪からチルノとメディスンを狙っていたくせに」
「え? 私とチルノを…狙って…? それじゃこの人は…強盗、ってこと?」
「だろうね。大方火事場泥棒、ってやつじゃないか? おあつらえ向きにまだ火も燻っているし」

自分が起こした火事を眺めて自嘲気味に空が吐き捨てた。
一方の天子はと言うと、泥棒というある意味で本質を言い当てられて憤懣やるかたない。

「…どいつもこいつも私を苛つかせてくれるじゃない…!
 いいわ、それなら力ずくで返してもらうわ、後悔しないことね!」
「望むところよ! あんたこそ、最強のあたいに喧嘩を売ったことを後悔させてやるんだから!」

チルノはそう言うと、緋想の剣をメディスンに押しやった。

「…え? いいの?」
「最強のあたいはそんなもんなくても楽勝なの! いいからあんたはそれで自分を護ってなよ」
「…うん、分かった。ありがと」

メディスンに剣を預け、一歩前に歩み出る。

「…おい、チルノ」
「ここまで来て、下がってろ、ってのは無しだよ、お空。
 今のあんたはボロボロじゃない、あたいが護ってあげるから休んでなよ」
「ははっ、このお空様も甘く見られたもんだね」

そう言うと、手持ちの水を頭から被った。
小さくジュッ、と音を立てて空の頭から湯気がほのかに立ち上る。

「灼熱地獄を預かる者の本能が言ってるんだよ。こいつは野放しにしちゃマズい、ってね」
「ふぅん。まぁ、いいけど。あたいの足だけは引っ張らないでよ」
「そっちこそな。メディスン、お前は下がってな、危ないから」
「う、うん。気をつけてね?」

チルノに続いて空も一歩前に歩を進める。
その様子を天子は余裕の表情を浮かべながら黙って見ていた。

「お喋りは終わったかしら? ま、二対一でも私に勝てるとは思えないけどね。
 天人に背くことの愚かさを、死をもって分からせてあげるわ!!」



*          *          *



「やああぁぁぁっっっ!!!」

叫びながらチルノが突撃する。
ダッシュしながらパンチ、キックと矢継ぎ早に繰り出すが、天子は体を捻るだけで易々といなす。

「あらあら、どうしたのかしら。てっきり弾幕でも打ってくると思ったのに」
「あんたなんか凍らせなくたって楽勝よ!」
「へぇ。天人も舐められたものねぇ」

実際にはチルノは天子を侮っているわけではない。
今まで何の不自由もなく無尽蔵に出せていた氷塊が、今は全く出せなくなっていたからだ。
確かに、さっきお空を救出するのにかなり氷を使ったけれど、それだけで使えなくなることなど今まで無かった。
そもそも、お燐との交戦でも調子が悪いのか、いつもほどの威力は出せていなかった。
ただ、難しいことをいくら考えたって仕方ない。
使えないものは使えないんだ、と割り切って自分の両の手と両の足で目の前の奴を叩きのめすことに決めたのだ。
106創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 03:27:55 ID:fbbb89p1
違和感を感じていたのはチルノだけではなく、空もまたそうであった。
先ほどのお燐との戦いで、全霊力をもって放ったアビスノヴァ。
これの為に今の空もチルノと同じく、プチフレア一つ放つことが出来ない状態にあった。
空の場合はこういう状況に陥ったのは二度目だったので、ずっとその状況に対する心の準備は出来ていたが。
如何せん体のあちこちにダメージを負ったままの状態では動きが重たい。
チルノに続いて天子に殴りかかるも、あっさりかわされてしまった。

二人の攻撃をかわした天子がその場で回転しながら足払いを仕掛ける。
足を刈られた二人がその場にすっ転ぶ。元々ダメージを負っている空が少しばかり苦悶の表情を浮かべた。

「どうしたのかしら? 威勢がいいのは口だけ?」
「いっ、今のは準備運動の練習よ!」
「何よそれ」

再び飛びかかってきたチルノを前蹴りで迎撃する。
吹っ飛んだチルノを空が体全部を使って受け止めて衝撃を和らげた。

「いてて…ふ、ふん! なかなかやるじゃない!」
「まだほとんど何もしてないわよ。それとも? この期に及んでまだ手を抜いているのかしら?」

両手を広げて余裕の構えを見せる天子に対して、チルノと空はギラリと敵意の視線を投げかける。
それを無視するかのように天子はさらに言葉を投げかける。

「…あ。ま・さ・か…貴方達、弾幕を打つことが出来ないのかしら?」
「ぐっ…」

気づかれたか、という表情を空が浮かべる。
それを見た天子は、なんて馬鹿正直なんでしょう、と思う。

「残念ね。貴方達はともかく、私は…この通り!」

目の前に陣を展開し、力を収束させる。
これから起こるであろうことを本能的に察知した空の背中を冷や汗が伝う。

「マズいっ! チルノっ! 避けろっ!」
「非想の威光の前にひれ伏しなさいっ!」

横に転がって回避行動を取ったその直後、二人がさっきまでいた所を無数のレーザーが通り抜けていった。
二人の背後にあった樹木は蜂の巣にされ、穴からはブスブスと煙が立ち昇る。
もしまともに喰らっていたら、と思うと空はぞっとした。
一方の天子はその様子を見てチッ、と小さく舌打ちをする。
避けられたことに対して、ではない。自分の弾幕の威力に納得がいかなかったのだ。
休息を取ってある程度霊力は戻ったとはいえ、威力そのものにはやはり制限がかかっている。
本来なら樹木一本など塵芥に変えてしまえるだけの自信があったのに。
おまけに、威力は抑えられているくせに体にかかる負担は大きいときたものだ。
避けられるのはむしろ想定済みだ。だからこそ、出の遅い弾幕を張ったのだ。
いわば、これは牽制であると同時に、天人たる自分の力の誇示。

「安心しなさい。貴方達が弾幕を打てないのなら、私もこれからは打たないであげるわ」
「なにおー! あたい達を馬鹿にするつもりかー!」

堂々と手を抜くと宣言されたことにチルノが腹を立てる。
だが、チルノにも目の前の天人の実力は先ほどの弾幕のおかげである程度察しがついていた。
おそらく、さっきの猫妖怪と同等か、それ以上だろう。
だからと言って怯むような性格ではないのだが。

「そうしてやっと戦いになるっていうのよ?
 それぐらい、今の貴方達と私の間には実力差があるっていうのに気づかないのかしら?」
「うるさいうるさいっ! あんたなんか叩きのめしてやるっ!」
107創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 04:09:28 ID:fbbb89p1
三度チルノが飛びかかってきた。それに空も続いてくる。
攻撃してくる二人をいなしながら、天子はチルノと空の実力のほどを計る。
まずはこの氷精。
動きはまずまず速いが、体の小ささも相まってか、リーチの短さは致命的だ。
おまけに馬鹿正直に真っすぐ突っ込んでくるだけなので、攻撃の軌道も読みやすい。
懐に潜られれば厄介だろうが、中間距離さえキープできれば怖い相手ではない。
そしてもう一人の鴉妖怪。
こちらは体中に負った傷のせいか、あまりにも動きが重すぎる。
それだけ燐と激戦を繰り広げたことが容易に想像でき、万全ならばあるいは、と天子を残念がらせた。
振り回してくる棒のようなものの風切り音からすれば、当たれば相当痛そうだ。
だが、当たらなければどうということはない、この動きの速さならかわすのは容易い。

つまり、よほど間違いがない限りこの二人に自分が負けることはない、天子はそう結論付けた。
しかも、戦闘意欲だけは先ほどの腑抜け閻魔と違って旺盛ときた。
能力や仕込み刀を使って葬り去るのは簡単だが、それでは今の自分は満足しない。
溜まりに溜まったイライラを解消するために、嬲れるだけ嬲ってしまうことに決めた。
仕留めるのは二人の心が折れてからでも構わない。
いわば、この戦闘は八雲紫、その式、そして射命丸文という強者と甘美な戦闘をする上での前菜。
氷精の訳の分からない言葉を借りれば"準備運動の練習"程度にしか考えていない。

「このっ!!」

チルノが一歩踏み込んでローキックを繰り出す。
逆に一歩引いてそれをかわしたところで、天子は諸手を思いっきり前に突き出した。
両の掌がチルノの腹部を正確に捉えると、今までより大きくチルノが飛ばされて地面を転がっていった。

「チルノっ!!」

思わず声をあげた空に向かって、間髪をいれずに生成した石を両手に振りかぶって殴りかかる。
すかさず制御棒でガードをするが、衝撃で傷口に痛みが走る。
空の動きが一瞬固まったところを、天子は見逃さない。
空いた足で前蹴りを放つと、空はもんどり打って倒れた。
鳩尾に入ったのだろう、すぐに立ち上がることが出来ない。

「空さんっ! チルノっ!」

緋想の剣を手にしたメディスンが思わず悲鳴をあげる。
命に別状は無さそうだが、ここまで二人は目の前の敵にほとんど攻撃を当てられていない。
あれだけ勇んで戦いに歩み出て行った二人が…と、メディスンの脳裏に絶望の二文字がよぎる。
天子は倒れている二人を一瞥すると、今まで全く興味を示していなかったメディスンの方へ向き直る。
今度は自分の番か、と思ったメディスンが一歩後ずさる。

「安心しなさい。臆病者を虐めるつもりはないわ、つまらないもの。
 でも、これで分かったでしょう? 天人に刃向かう事が如何に愚かなのかということが」
108創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 04:10:40 ID:fbbb89p1
メディスンはガタガタと震えていた。
本来ならメディスン・メランコリーという妖怪は決して力の弱い存在ではない。
その彼女が恐怖のあまり攻撃が出来なくなっているのには理由があった。
それは、彼女が最初に出会った妖怪から向けられた、あまりにも強力な殺意。
首を締め上げられた、あの時の恐怖はメディスンの中に大きなトラウマとして残っていたのだ。
妖怪として生きた期間が短いがために、これほどの恐怖を味わったことはこれまで無かった。
故にそのトラウマはかなり根深いものであり、それがフラッシュバックして彼女の動きを固まらせていた。
そんなメディスンの心中など知る由もなく、天子が言葉を継ぐ。

「あなたは聞き分けがよさそうだから、もう一度だけチャンスをあげましょう」
「チャン…ス…?」
「そうよ。その剣をすぐに私に返しなさい。
 強情を張らないほうがいいわ…あの二人みたいになっても知らないわよ」

剣を渡さないと自分も痛い目に遭う…
でも、それだけは絶対に出来なかった。
だって、剣を渡して自分は助かったとしてもあの二人はどうなる?
さっそく手にした剣で試し斬りをするに決まっている。
でも、どうしたらいいのか…それがメディスンには分からず、俯くことしか出来なかった。

「ダ、ダメだよ…そんなやつの言う事なんか絶対に聞いちゃダメだよ…」

その声を聞いて、ハッとメディスンは顔を上げた。
視線の先には、ふらつきながらも両の足で立ち上がり、変わらぬ強い目で天子を睨みつけるチルノの姿があった。

「貴方には用は無いわ。今はこの子と話をしているのよ」

一瞬だけチラリと目線を遣ってぴしゃりと言い放つと、再び天子はメディスンの方に向き直った。

「さぁ、おとなしく剣を返すか、それとも痛い目に遭いたいか、選びなさい」

恐怖、絶望、不安…さまざまな負の感情がない交ぜになり、メディスンは混乱しかかっていた。
何か選択をしなければならない、それなのに頭がちっとも働かない。
ただただ本能のままに怯えて震えることしかできていなかった。
そんな彼女の目を覚まさせてくれたのは、腹部を押さえながらむくりと起き上がった地獄鴉の声だった。

「メディスン…いいよ、そんな剣なんか返しちまいな」
「…空さん?」
「えっ!? ちょっとお空、何言ってるのさ!?」

突然の空の発言に、メディスンだけでなくチルノまでもが面食らった。
天子もやや不思議そうな顔を見せている。

「あら。どういう風の吹き回しかしら」
「…一つ聞きたい。その剣とやらを返せばメディスンは見逃してくれるんだな…?」
「刃向かえば話は別よ。ま、今のあの子にはそんなこと出来ないでしょうけど」
「…だそうだ。だからメディスン、お前だけでもここから逃げろ。
 誰かに会ったら妙ちくりんな帽子を被ったヤバい女がいるって言って回れ」
「あら、この帽子の趣味が分からないのかしら。残念ねぇ」
「で、でも…空さんとチルノは…」
「安心しろ。すぐにこんな奴ぶちのめして追いついてやる。なぁチルノ?」
「えっ? あっ、ああ、そうよ! いいからあんたは早く行きなさい!」

しばし逡巡しながらも、メディスンは足元に緋想の剣をそっと置いた。
そのまま二歩、三歩と後ずさりしながら空とチルノに呼びかける。

「絶対だからね!? 約束だよ!?」

空が返事の代わりに親指をグッと立てるのを見て、メディスンは山を駆け下りていった。
姿が見えなくなったのを確かめて、天子が緋想の剣を拾い上げる。
109創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 04:11:52 ID:fbbb89p1
「意外だな。だまし討ちまでしてきたんだから背後を狙うくらいのことはするかと思ったのに」
「性に合わないって言ったわ。それに、その隙に貴方達が襲ってくるかもしれないでしょ?
 まぁ、私のことを言いふらされたって痛くも痒くもないわ。
 元々誰ともつるむ気はないし、下界じゃ私は割と嫌われているみたいだしね。
 あの子の残りの荷物にも興味は無いわ、私にはこの緋想の剣があれば十分ですもの。
 それにしても、返してくれたってことはそろそろやられる覚悟が決まった、ということかしら?」
「なに、お前を叩きのめしてもう一度そいつを奪い返せば済む話だ」
「そうよ! それに、そのぐらいハンデがあったほうがちょうどいいわよ!」

ダメージから回復してきたか、またいつでも飛びかかれる体勢を二人がとる。
そんな様子を、少しばかりの憐れみを含んだ眼差しで天子が見つめる。

「あれだけやっても、まだ身の程が分からないのかしら。
 まぁいいわ。なら、天人の真の力、少しだけ見せてあげるわ」
「何が真の力よ! 凍らすことも出来ない癖に偉そうにするんじゃないよ!」

チルノの挑発を無視するように天子が緋想の剣を構えた。
…ただし、その剣先は空とチルノにではなく、地面に向かって。

「さっき言ったわよね? この剣は特別な剣だって。
 凡人にはただの剣でしかないけれど、私が使えば…!」

言いながら剣を地面に突き刺すと、その途端に地面がグラグラっと波打つ。
予想外の出来事に驚く二人は、たまらず尻餅をついてしまう。
これでもいつもより揺れが小さいことに、少しばかり天子は不満を覚えた。
が、飛行能力が制限されている今は相対的に見ればいつもと同等の効果があると言っていいだろう。

「この程度のことは訳もないのよ」

にべも無く言い放つ天子の言葉を耳にして、空は剣を渡してしまったことを少しばかり後悔した。



*          *          *



メディスンは只管山を駆け下りていた。
大丈夫、あの二人ならきっと強盗なんて懲らしめてくれる。
さっきだって空さんはちゃんと生きて帰ってきたじゃない。
それだけを考えて、最悪の可能性を努めて思考の外へと追いやっていた。

だが、そのメディスンも大地がうねるのを感じたことで、現実逃避が出来なくなった。
普段ならただの地震だと済ますことが出来たかもしれないが、状況が状況だ。
あの強盗がもしかしたらそういう能力を持っているのかもしれない、そう考える。

メディスンはすでに一度辛い別離を経験していた。
大好きだったスーさんとの別離。
それは、自分を傷つけないがためのものであると理解はしていても、やっぱり辛いものは辛い。
そんなスーさんと同じように、空とチルノともお別れすることになってしまうのか?
空もチルノも自分を守るために自分を遠ざけた、偶然とは思えないくらいにスーさんと一緒だ。

もうこれ以上辛い思いをしたくない。
せっかく友達になってくれたのに、その友達が痛い思いをしているのに。
こんな小さな自分にだって、何か少しくらい役に立つことが出来ないのか。
110創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 05:36:02 ID:+viOs/pF
ふと、メディスンはさっき自分のスキマ袋を漁っていた時に感じたある感覚を思い出していた。
手錠と同じような、ひんやりとした金属の感覚。
藁にも縋る思いで目的の物を引っ張り出す。
付属の説明書を流し読みして、これなら二人を助けられるかもしれない、そう思う。

恐怖に震える体を、無理矢理に奮い立たせる。
待っててね、すぐに助けに行くから。
少女は来た道を一歩一歩、引き返し始めた。



*          *          *



突き飛ばされてチルノが宙を舞う。
蹴り飛ばされて空が地面を転がる。
もう幾度と無く繰り返されてきた光景。
それでもなお、二人は立ち上がり、天子に戦いを挑み続ける。

殺す気はない、そんな手心の加わった攻撃だからなのかもしれない。
二人に、この天人には敵わない、そう思わせることが出来れば十分だったからだ。
だが、二人に諦める気配というのは微塵も感じられない。
攻め続ける天子にも徐々に疲労の色が見えてきた。
適度に嬲って苛立ちを紛らわすはずだったのに。
逆にまた苛立ちを感じ始めている、本末転倒じゃないか。

「…往生際が悪いわね! いい加減に諦めたらどうなの!?」

自分が攻めているのに追いつめられているような嫌な感覚を覚え、つい語気が荒くなる。
そんな天子のイライラをよそに、チルノがボロボロの体で立ち上がる。

「だって…あたいは最強だもん。最強なんだから、あんたなんかに負けないんだもん」
「おぅ…いい事言うじゃないか…私だって最強だ、だからお前なんかには…負けない!」

チルノよりさらにボロボロの体、だというのに空も立ち上がって闘志をむき出しにしてくる。
天子には理解が出来ない、こんなに力の差があるのに何故諦めないのか、と。
なまじ頭がよければ、相手との実力差を感じれば色々考えることがあるはずだ。
戦略的撤退を選ぶなり、命乞いをするなり、逆転の秘策を練るなり…
だが、目の前の二人は、ただただ純粋に自分が最強であると信じている。
自分が最強なんだから負けることはあり得ない、だから戦い続ける。
それは相手の力を量れないただの馬鹿なのかもしれないが、チルノと空にとってはごくごく当たり前の思考なのだ。

「最強最強って、馬鹿の一つ覚えみたいに…
 言うのは簡単よ、でも今の貴方達にはその称号に伴うだけの力なんてない」
「…私はあんたみたいに頭がよくないから称号だ何だと難しいことは分からないがな」

そう前置きして空は続ける。

「私は最強でなきゃいけないんだ。
 お燐は守れなかったけど…さとり様、こいし様、それに地霊殿のみんな。
 大好きな人たちを守るために私は最強でなきゃいけない、あんたには分からないかもしれないがな」 
111創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 05:36:48 ID:+viOs/pF
いつだったか、自分に話したことと同じ事を言う空を見て、チルノも思う。
自分は何で最強じゃなきゃいけないのか、いつだったか自分に投げかけられた疑問。
今はボロボロのお空を守りたい(守れてないけど)、ただそれだけ。
でも、それってあたいがお空が大好きだからなのかも? 認めたくないけどそうなのかもしれない。
そして上っ面だけかもしれないけど、友達になろう、といったメディスンのことも同じ。
じゃあ、あたいは、あたいは誰の為に最強になるのかって? それは…

「馬鹿馬鹿しい」

空の言葉を一蹴して天子が吐き捨てる。
不老不死の体をいい事に毎日遊興に耽る他の天人は自分にとっては唾棄すべき対象だった。
既に死んだ竜宮の遣いにしたって、知り合いというだけでそれ以外の何者でもない。
現に、その死体を目にしたって無念を晴らしてやろう、だなんて微塵も考えなかった。
むしろ、このそれなりの実力者を屠った強者とやり合うのを楽しみにしたくらいだ。
自分には自分以外に守るものなどない、だから天子には空のことが理解できない。

ふと、天子は先ほどの空の言葉を反芻する。
大好きな人達、その中にあったさとり様、こいし様という敬称付きの名前。
確か名簿の中にそんな名前もあったな、と思ったところで愉快な考えが浮かぶ。

「…そうだ。いい事を思いつきましたわ」

そう言うと自分のスキマ袋を探る。
次は何が出てくるのか、身構える空とチルノを尻目に目的のものを探し当てる。

「空さん、でしたっけ。そのさとりさんとこいしさん、というのは貴方のご主人様ね?」
「あぁ、そうだよ。それがどうしたってのか」
「いえ、ね。実は貴方と同じくご主人様に仕えている、そんな身分の方に先刻お会いしましてね」

言葉とともに、二人に向かって丸いものをひょい、と放り投げる。
それは二人の前方数mのところで地面に落ちるとそのままゴロゴロと転がっていく。

「ちょ、ちょっと、何よこれ…!」

チルノが不快感を露にする。
だって、それは化け猫の首だったのだから。
首輪が嵌められているところを見ると、自分達と同じ参加者だということくらい、チルノにも分かった。

「その首をそいつのご主人様に見せたら、どんな顔をなさるか楽しみでしてね。
 それと同じように貴方の首も貴方のご主人様に見せたらどんなに面白いか、と思いまして」

空の心中に言いようの無い怒りが滾る。
すでに炎を出す力もない、だが、自分の中の核融合の力がこの女を許すな、そう煽ってくる。
燐と同じような猫妖怪の首であったことが、その姿を重ね合わせるようでさらに怒りを倍化させる。

「そうだ、さっきのお燐さんも首を落として差し上げようかしら。
 私にこんな傷を負わせたんですもの、当然の報いよね」

燐までも愚弄するその言葉が完全に空の怒りを爆発させる引き金となった。

「許さないっ…!!」

空が制御棒を振り上げて猛然と突進して殴りかかる。
天子はそれを緋想の剣で受け止め、ガキッという金属音が響き渡る。
またも攻撃を当てられなかった? しかしこれは空にとっては大きな前進だった。
今まではただ虚しくかわされるだけだった攻撃をガードさせることが出来たのだ。 
112創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 05:37:35 ID:+viOs/pF
「…やっと捕まえたよ。力勝負なら…こっちのものだ!」

地面を震わせる剣は塞いだ、剣で片手が使えないから石で殴られることもない。
力一杯押せば、足技を使うことも出来ないはず。使えばバランスを崩して倒れるだけだ。
ほら見ろ、やっぱり私は最強だ、当たりさえすればこんな奴…

よし、もう一押し、そう力を込めた瞬間に、フッと向こうが体を引く。
目標を失った空がたたらを踏んでよろめき、そのままうつ伏せに倒れこむ。
すかさず天子が空の背中を制圧する。

「直情馬鹿はこれだから好きだわ。私の手の中で思い通りに踊ってくれるんですもの。
 捕まえた? こっちのセリフよ」

つまり、空は天子の挑発にまんまと乗せられてしまったということ。
そして、そのことを空が後悔する暇も与えずに天子は空の制御棒を掴んで上方に引き上げる。

「最初から鈍器を装備しているなんてずるいわ。大人しくしていてもらうわよ」

そう言うと、両手で第三の足を抱え込んで全体重を乗せて引っ張り込んだ。



*          *          *



ごきん。
チルノのところにまで聞こえてきそうなくらいの鈍い音がした。

「ぐああああぁぁぁぁっっ…!!」

痛みに顔を歪めた空の悲鳴が少し遅れて響く。
それを聞いて愉悦の表情を浮かべた天子がさらに追い討ちをかける。

「やっぱり鴉ね、ぎゃあぎゃあ五月蝿いわ。肩を外しただけ、折れちゃいないわよ」

そう言うと、仕込み刀を抜いて空の左翼の上から地面に突き刺した。
左手側を実質的に封じられ、第三の足は外されて用を成さない。
地面に磔にされるような格好を空は強いられる事になってしまった。
足をバタつかせるが、状況の改善には至らない。

「くそっ…! 何しやがるっ…!」
「しばらくそこで這い蹲っていなさい。鳥としては最大の屈辱、ってとこかしらね。
 しっかし、貴方すごい熱ねぇ。火傷するかと思ったじゃない」
「くそっ…くそっ…!」

無力化されてしまった空を見て、チルノの頭をいやな想像がよぎる。
目の前に転がる猫妖怪の首。さっき、あいつはお空も同じようにしてやるって言ってた。
首だけになったお空、それはつまり死んじゃう、ってこと。
そんなこと絶対嫌だ、お空はあたいが守るって決めたんだ、死なせやしない! 
113創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 05:38:22 ID:+viOs/pF
「やいっ! お空から離れろっっっ!!!」

そう怒鳴ると、スキマ袋から鉄の輪を取り出して投げつける。
風を切りながら、天子の方に向かってまっすぐ飛んでいくが…

「馬鹿ねぇ。せっかくの武器を投げちゃってどうする気よ」

弾幕ほどの密度も、銃弾ほどの速度もない鉄の輪を、天子は体を開くだけであっさり避ける。
天子の目の前を通過した鉄の輪が、後ろの木にサクッという音を立てて刺さる。
これでブーメランのように弧を描いて戻ってくることもあるまい。
余裕綽々にチルノの方を向き直ってみると、バイオリンを振り上げながら距離を詰めてくるのが見えた。

「やああぁぁっっ!!」

なるほど、最初から鉄の輪は目先を逸らすためのもの、本命はそっちですか。
リーチの差を埋めるためにバイオリンを装備、と。ちょっとは考えているみたいね。

「でも…まだまだ浅はかね!」

嘲笑しながら緋層の剣を地面に突き立て、スペルカード宣言をする。

「地符「不譲土壌の剣」!」

途端にチルノの目の前に石柱が現れる。
それは、普段のものに比べれば随分と小さいものではあったが、正確にチルノの腹部を捉えた。
結果として、その石柱は突進してきたチルノにカウンターを食らわせる格好になった。
バイオリンを取り落とし、吹っ飛ばされ、地面を二度三度と転がり、聳え立つ木の幹に背中をしたたかに打ち付ける。
そのまま木にもたれかかる様に座り込んで…チルノは動かなくなった。

霊力の消費を眩暈という形で感じた天子は、動かなくなったチルノを見て愉悦の表情を浮かべた。
今後のことも考えて、自身のスペルカードの中では一番簡単なものを使ったのだ。
力は消費したが、まだまだ使えなくなるほどではない。
後先考えずに力を使い切ってしまう目の前のお馬鹿さん達とは違う、そう自分に言い聞かせる。

「チルノっ!! おいっ!! しっかりしろっ!!」

這い蹲ったまま空が必死に呼びかけるが、チルノはピクリとも動かない。
まさか…死んでしまったのか…? 最悪の結果を想像してしまう。

「無駄よ。綺麗に入りましたからねぇ。
 アバラの一本や二本くらいは持っていかれているかも知れません。
 もしかしたら、折れたアバラが心臓に突き刺さって…なんてことになってるかも」
「畜生っ…! 許さない…絶対にお前は許さないっ…!」
「そんな状態で何を許さないと言うのかしら」

空の背中を踏みつけながら天子がさらに吐き捨てる。

「そこで氷精に止めを刺すのを黙って見てなさい。最強などと嘯く自分の無力さ加減を嘆きながら、ね」

空から視線を外して、一歩一歩チルノの方に向かって歩いていく。
それを見送ることしかできない自分にどうしようもない苛立ちが募る。 
114創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 05:39:06 ID:+viOs/pF
(ごめんね、さとり様をお願い)

燐の最期の言葉が脳裏に浮かぶ。
目の前のチルノも守れずに、どうしてさとり様を守ることが出来るだろうか。
親友との約束さえも果たすことが出来ないほど、私は無力なのか。
歯噛みして悔しがるも、霊力は戻らない、体の自由も利かない。
心身ともにがんじがらめに絡めとられてしまっていた。

「さて。随分しぶとい娘でしたけれど、そろそろおしまいかしら」

緋層の剣の剣先でチルノの体をチョンチョン、とつついてみる。
反応は無い、せいぜい気絶くらいかと思ったが本当に死んでいるのかも。
そう思った天子はチルノの顔を覗き込もうと前屈みになる。

瞬間、チルノの目がパチッと開き、その場にガバッと立ち上がる。
その拍子に、チルノの脳天が前屈みになっていた天子の顎にクリーンヒットする。

「いったぁ〜いっ!!」

頭を抑えて痛がるチルノがその場を駆け回る。
一方の天子はというと、典型的な脳震盪を引き起こしてその場に膝をついてしまう。
別に作戦でもなんでもない、チルノは今の今まで意識が飛んでいた。
目が覚めた瞬間に、敵に対して身構えねば、と慌てて立ち上がったところに偶然天子の顔があったというだけ。

その様子を呆然と見ていた空は、チルノがひとまず無事であったことに安堵の表情を浮かべる。
そして、すぐに我に帰ると大声を張り上げる。

「チルノっ!! 今だっ!! やっちまえっ!!」

その声にチルノもまた我に帰る。
視界には片膝をつき、意識が飛んでいるのか焦点が定まっていない天子の姿。
あれ? もしかしてあたいってチャンス?

「たああぁぁっっ!!」

威勢良く掛け声を上げ、天子に突撃する。
パンチ、キックの雨あられ、今までの鬱憤を晴らさんと猛攻をかける。
何発目かのパンチで天子が飛ばされて地面を転がっていく。

「これでとどめだああぁぁっ!!」

飛び掛りながら大きなモーションで拳を振り上げる。

チルノや空は単純に天子を叩きのめすことが出来ればそれでよかった。
命を取ろうというところまでは考えが及んでいない。
それ故、とどめ、と言っても殺意の籠もっていない攻撃になってしまうのは仕方の無いことであった。
そこが二人と天子の意識の決定的な違い。
天子は今までは半分遊んでいたとはいえ、最終的には二人を殺すつもりで戦っていた。
だから攻撃に殺意を籠めることなど造作も無い。 
115創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 05:41:02 ID:+viOs/pF
意識を取り戻した天子は、チルノが前に伸ばしてきた腕を掴み、一本背負いの要領で放り投げる。
不意に意識を取り戻した天子の攻撃に対応できず、受身が取れなかったチルノが背中から地面に叩きつけられる。
背中を強く打ちつけ、一瞬息が出来なくなるチルノの胸倉を掴んで引き上げると、そのまま思いっきり投げ飛ばす。

「ぐえっ!」

再び背中から叩きつけられ、地面を転がる。
豹変したかの様な天子の攻撃に、磔にされている空はただただ唖然とするばかり。
先ほどのチルノの攻撃で口の中を切ったのだろう、ペッと血を口から吐きながら天子が怒りを漲らせる。

「よくもやってくれたわね…! もう遊ぶのはお終いよ…一思いに殺してやるっ…!!」

うずくまるチルノに向かって天子が歩みを進めようとしたその瞬間、いるはずのない妖怪の声が辺りに響いた。

「う、動かないでっ!!」

そこには、震えながら武器を構えるメディスン・メランコリーの姿があった。



*          *          *



戻ってきたメディスンを見て、天子は舌打ちをする。
ターゲットが二人から三人に増えたから、というのもそうだが、それ以上に問題なのはメディスンの手の中。
あれもさっきの閻魔のものとは違うけど、おそらく同じ銃という武器。
随分と厄介なものを持っているじゃない、そう思った。

「貴方もつくづく馬鹿ねぇ。折角見逃して差し上げたのに。お仲間の馬鹿がうつったのかしら」

そう言い放つ天子を尻目に、チルノと空は慌てふためく。

「メ、メディ…? あんた…何してんのさ…?」
「おいっ! 馬鹿っ! 逃げろって言ったはずだぞ!?」

地に倒れ伏す二人の姿を見て、メディスンがその瞳に涙を浮かべる。

「だって…だって…! 友達を見捨てて私だけ逃げるなんて出来ないよっ!!
 私はもう誰ともさよならしたくないの!!」
「だからって…! お前、殺されるぞ!?」
「でも…二人が死んじゃうのも嫌だもんっ!!」
「何…言ってんのよ! あたいは…最…強だから…大丈夫だ…って…!」

言い争う三人を見て、天子はハァ、と深いため息をついた。
折角漲った殺意が削がれてしまったというのもある、まったくもって興醒めだ。 
116創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 05:41:54 ID:+viOs/pF
「本当にやる気があるんだったら…警告なんてしないでさっさと仕掛けてきなさいよ」
「動かないでって言ったでしょ!?」

天子がゆっくり近づいてくるのを見て、メディスンは慌てて構えなおす。
依然として、恐怖で体は震えているが、視線だけは決して逸らさないように努める。

「無理よ…臆病者の貴方には出来っこないわ。くだらない抵抗は止めなさい」
「お、臆病者なんかじゃないもんっ!!」

確かに、目の前の人は怖い。
最初に出会ったあの妖怪も怖かったけど、この人もいい勝負だ。
でも、空さんやチルノが死んじゃう方がもっと怖い。
私は臆病者なんかじゃない、二人を助けて見せるんだ…!
だから…だから…

(スーさん…! 私に…力を貸して…!)

「うわあああぁぁぁっっっ!!」

叫びながら、引き金を引く。

―――銃口が火を噴いた。



*          *          *



メディスンは信じていた。
弾幕やスペルカードという武器がある中に支給されたものなのだから。
きっとそれと同じくらいの力を、この道具は出してくれる、そう信じていた。

支給された説明書には、主催者のほんの悪戯心か、こう簡潔に記されていた。

「引き金を引くと、銃口から火が出ます」

だから、さっきの空みたいにとても強い炎が出て、目の前の人をやっつけてくれる。
そう信じていたのに。

「…え?」

メディスンが期待していた劫火とは程遠いほどのの炎。
せいぜい、種火と呼ぶのがふさわしい程度のか弱い炎。
それがチロチロと銃口から噴き出していた。

平時であれば、お部屋のインテリアとして、またちょっと変わった趣味として喜ばれたであろう。
だが…この殺し合いの場で「拳銃型ガスライター」など何の役に立つだろうか。

緊急時であったために試し撃ちをすることなく駆けつけたのが仇となってしまった。
頼みの綱を失ったメディスンは呆然と佇む。
それは空も、チルノも、そして天子もまた同様。
ライターを取り落とし、カシャンという軽い金属音が響き渡る。 
117創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 05:42:50 ID:+viOs/pF
「まったく…驚かしてくれるじゃない。ただ残念ね、単に怒りを買っただけだわ」

呆れ返った表情で、天子が沈黙を打ち破る。

「…こうなるって…分かっていたの…?」
「まさか。こんな玩具だってこれっぽっちも思わなかったわよ。
 ま、仮にそうでなかったとして、あれだけガタガタ震えていたら当たるものも当たらなかったでしょうけれど」

そう言うと、緋想の剣を担ぐようにしながら再びメディスンに歩み寄っていく。

「い、嫌…! 近づかないでっ…!!」

半狂乱になりながらメディスンが弾幕を展開する。
空やチルノと違って、メディスンが弾幕を打てたことに天子は一瞬面食らった。
だが、制限が加わっている上に、精神的にも不安定な状況では、軌道は滅茶苦茶、密度はスカスカ。
前進しながら易々とかすり傷一つ負うことなくメディスンの目の前まで行く。

「あ…嫌…いやぁ…」

逃げてしまいたいのに、足が竦んで動くことさえ出来ない。
天子の冷たい視線に射抜かれ、金縛りにあってしまったかのように。

「さっきは臆病者だなんて言ってごめんなさいね。
 死ぬって分かって戻ってきたんですもの。あなたはとても勇敢よ。」
「あ…あぁ…うぅ…」
「ですからね、私からささやかなお詫びといたしましてね…
 この緋想の剣で一思いに斬って差し上げようかと思いますの。
 喜びなさい、本当なら貴方のような木っ端妖怪には過ぎるくらいの待遇よ」

天子が緋想の剣を高々と掲げる。
立ち上がることの出来ない空とチルノは、この後何が起こるのかというのが容易に想像できてしまった。

「いや…助けて…スーさん…助けてよぉ…」

天子には理解できないうわ言を呟きながら、震え続けるメディスンに向かって剣を構える。

「よせっ!! やめろおおおぉぉぉっっっ!!!」
「メディィィィッッッッ!!!」
「さようなら、小さな妖怪さん」

次の瞬間、無慈悲に振り下ろされた剣はメディスンの左肩から右の脇腹にかけて袈裟切りの軌道を描いた。

空とチルノの目に映ったのは、血を吹き出しながらゆっくりと膝から崩れ落ちていくメディスンの姿と―――

―――顔を押さえながら声にならない声を上げて苦しむ天子の姿だった。



*          *          *



メディスン・メランコリーは元々鈴蘭畑に捨てられた人形だった。
それが長い年月をかけて鈴蘭の毒を浴び続けることによって妖怪として生を受けた存在。
いわば、人間や妖怪にとっての血液に当たるものが、メディスンにとっては毒であったのだ。
その毒は、花の異変の時の彼岸花という別の毒素との邂逅によって力を増し。
体から無意識に漏れ出した毒だけで、制限下で弱っていたとはいえあの八雲紫を追い詰めるまでに至った。 
118創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 05:44:10 ID:+viOs/pF
そんなメディスンの体に回る毒は、いわば混じりっ気なしの原液と言っていいようなもの。
それを不用意にも至近距離から切りつけた天子は、思いっきり浴びてしまうこととなってしまった。
顔を焼き、眼球を焼き、視界が失われる。
焼けるような熱さと、不快な痺れが同時に襲い掛かってくる。

そのまま呻き声をあげながら、緋想の剣を杖のようにしてフラフラと立ち去っていく。
そんな天子を、空とチルノは何が起こったのか分からずに呆然と見送ることしか出来なかった。



*          *          *



目が覚めると、私はいつもの鈴蘭畑の中にいました。

周りをキョロキョロ見渡してみると、スーさんもそこにいました。

今まで見ていたのは夢、だったのかなぁ?

確かめるためにいつもの呪文を唱えてみます。

「コンパロ、コンパロ、毒よ集まれ〜♪」

うん、やっぱり大丈夫、スーさんの毒で苦しくなることもありません。

やっぱり今までのは悪い夢、きっとそう。

夢の中身を思い出してみます。

最初に出てきた怖い怖い妖怪や、最後に出てきた怖い怖い強盗さん。

随分怖い思いもしたけれど、でもカッコいい人もいた。

空さんに、チルノ。

二人とも、絶対に諦めずに何度でも立ち上がる姿、カッコよかったなぁ。 
119創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 05:45:02 ID:+viOs/pF
「ねぇ、スーさん」

いつものようにスーさんとおしゃべりを始めます。

「八意先生も頭がよくって、すっごい人だけれど…」

夢だったけど、あの二人の姿は今でもハッキリと浮かんできます。

「空さんやチルノみたいな人もいるんだね」

私はまだまだ妖怪として、生まれたばかりだけれども。

いつか、八意先生みたいに頭がよくって、空さんやチルノみたいに勇ましい、そんな妖怪になれるのかな。

「そうだ、スーさん、私、すっごく怖い夢を見たの」

スーさんにお話したいことがいっぱいある。

全部お話しするのにどれくらいかかるかなぁ。

「あのね、スーさんも私のことを嫌いになっちゃってたの、でもね…」


彼女が見たのは夢か現か。

人形から生まれた妖怪は、妖怪としてはあまりに短い生を終え、再び人形へと戻っていった。

【メディスン・メランコリー 死亡】

【残り 26人】



*          *          *



まるで時が止まってしまったかのように、空とチルノはその場を動かなかった。
体に蓄積されたダメージの為、というのも勿論あった。
だが、目の前で仲間が一刀両断にされ、地に伏したまま動かないのを見てしまったのが何よりの原因だった。
不思議と逃げていった天子を追いかける気にはなれなかった。
今はもう天子のことなど、考えるだけの余裕さえも無かったのだ。 
120創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 06:06:15 ID:+viOs/pF
どちらかといえばダメージが少なく済んだチルノが、空の下に足を引きずりながら近づく。
左翼に突き刺してあった仕込み刀を引き抜いて、ようやく空は地面への磔から解放された。
外された肩を自力で嵌めようと苦心する空を尻目に、今度はメディスンの下へとチルノは歩みを進めた。
元のお人形に戻ってしまったかのように、ピクリとも動かないメディスンの亡骸を、ただ見下ろすことしか出来ない。

ふと、チルノの頬を熱いものが伝う。

これって…涙…?
どうして…?
どうして、こいつが死んであたいが泣いているんだろう…?

ちょっとだけ考えて、すぐにチルノは答えを見つけることが出来た。

そっか…あたいはこいつの、メディのことがとっても大事だったんだ。

(友達になろうって言葉だけでもすっごく嬉しい。ありがとね、チルノ)

(友達を見捨てて私だけ逃げるなんて出来ないよっ!!)

メディの言葉が、あたいの胸に甦ってくる。

「ごめんね、メディ…友達だったのに…あんたを守ってやれなくって…」

両の瞳から涙がぽろぽろとこぼれて来る。
メディスンの死という悲しみ、守ってあげられなかった悔しさ。
二つの思いがごちゃ混ぜになって、頬を伝う涙はいつまでも止まらなかった。

「メディスン…」

気がつくと、お空が後ろに立っていた。
棒を嵌めている方の肩を痛そうに押さえながら、立ち尽くしている。
お空は必死に涙を堪えているようだった。
きっと、あたいが泣いているから、自分だけでも泣いちゃいけない、そう思っているんだろう。

「…ねぇ、お空」
「…なんだい」
「お空さ…いつか言ってたよね…? 何のための最強なの? 誰のための最強なの? って」
「あぁ…そんなことも…言ったっけか」
「あたいさ…お空やメディを守るために頑張ったんだよ? でも…メディは守りきれずに死んじゃってさ…」
「そんなの…私だって同じさ。お燐を守れなかった上に、メディスンまで目の前で死なせたんだ…」
「…おかしいよね、あたいもお空も最強なんだよね、最強のはずなんだよね」
「その…つもりだったんだけどな…」
「メディも、お燐って妖怪も、お空やあたいのことを最強だと思って死んでいったんだよね」
「…そうかもな」
「だったらさ…今はまだ最強じゃないかもしれない…けど。
 あたいは…あたいはメディに笑われないように本物の最強になってやる、そう決めたの」 
121創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 06:07:09 ID:+viOs/pF
そう言うと、チルノはメディスンの金髪に手を伸ばすと、その頭に巻かれた赤いリボンをしゅるり、と解く。
そのリボンを自分の左腕に喪章をするかのように、しっかりと結びつける。

「だから、あたいは今ここで誓うの! メディのために、あたいは最強になるんだって!
 いつかあたいも死ぬかもしれないけれど、死んだ後でメディをがっかりさせないくらい、最強になってやるんだ!」

涙を腕で拭いながら、精一杯力を込めてチルノが叫んだ。

「…なんだ、チルノも考えることは一緒か」

そう言うと、空は自分のスキマ袋から黒いリボンを取り出した。

「形見の…つもりでお燐から貰ってきたんだけどな…真似させてもらおうよ。
 チルノ、悪いけど私の左腕にも結んでくれない? こっちの足がまだ痛くってね」

こくり、と頷いたチルノが、空の左腕に燐の黒いリボンをしっかりと結びつける。

「あたいはメディのために!」
「私はお燐のために!」
「「絶対に!! 最強になってやる!!」」

がしっと互いの左手で握手する。
もう泣くわけにはいかない。泣いていたら、死んだ二人にいつまで泣いているんだ、って笑われそうな気がして。

「ねぇ、お空。あたい達二人で一緒に最強になるんだよね」
「そうとも。それがどうした?」
「もう、絶対に離れ離れにならない、約束する?」
「あぁ。もうこれ以上誰かとお別れするのは真っ平御免だからね」
「じゃあさ…これ」

じゃらり、と音を立てながら、チルノが懐から金属の輪っかを取り出す。

「なんだい、これ」
「メディが持ってたおもちゃだよ。これで手を繋げば、離れ離れにならないんだってさ」
「ふぅん、おまじないみたいなものかな。いいよ、そいつで手を繋ごうじゃないか」

空の左腕と、チルノの右腕が、手錠によってしっかりと繋がれた。
本来の目的とは明らかに逸脱した使い方だが、二人にそれを突っ込むのは無粋、というものだろう。
何はともあれ二人は今、心身ともに強固な絆によって結ばれたと言ってもいいだろう。

「…さて、とりあえずどうしようか?」
「まずはさっきの奴を探し出して捕まえるのよ!
 メディにこんなことしたのを、地面に頭こすり付けて謝らせてやるんだから!!」
「そいつはいい考えね。
 それと、こんなところに私達を放り出した奴も許すわけにはいかないね。
 そいつらのせいでお燐やメディスンがこんな目に遭ったんだから」
「よぉし、そいつらもみんなまとめて謝らせてやろう! ねっ!」

傾き始めた太陽が、二人の顔を紅く紅く照らしつけていた。
だが、太陽だけのせいではない、二人は決意に闘志を燃やし、紅潮していたのだ。 
122創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 07:29:22 ID:OgOtr6RL
【C-5 南東部森林 午後 一日目】
※限りなく夕方に近い時間です

【最強コンビ】
共通方針:二人で一緒に最強になる
1.メディスンを殺した奴(天子)を謝らせる
2.ここに自分達を連れてきた奴ら(主催者)を謝らせる

【チルノ】
[状態]霊力消費状態(6時間程度で全快)全身に打撲 強い疲労 心傷
[装備]手錠
[道具]支給品一式(水残り1と3/4)、ヴァイオリン、博麗神社の箒、洩矢の鉄の輪×1、
    ワルサーP38型ガスライター(ガス残量99%)
[思考・状況]基本方針:お空と一緒に最強になる
1.メディスンを殺した奴(天子)を許さない
2.メディスンを弔いたい
3.余裕があれば霧の湖に行きたい

※現状をある程度理解しました

【霊烏路空】
[状態] 霊力0(6時間程度で全快) 疲労極大 高熱状態{チルノによる定時冷却か冷水が必須} 右肩(第三の足)に違和感
    左手に刺傷 左翼損傷 全身に打撲 頭痛 心傷 
[装備] 手錠
[道具] 支給品一式(水残り1/4)、ノートパソコン(換えのバッテリーあり)、スキマ発生装置(二日目9時に再使用可)
    朱塗りの杖(仕込み刀)
[思考・状況]基本方針:チルノと一緒に最強になる
1.メディスンを殺した奴(天子)を許さない
2.メディスンを弔いたい
3.さとりとこいしに会いたい

※現状をある程度理解しました

※空の左手とチルノの右手が手錠でつながれました。妹紅の持つ鍵で解除できるものと思われます。
※橙の首(首輪つき)がチルノたちの側に転がっています。どう扱うかは次の書き手の方にお任せします。
※河童の五色甲羅(ひび割れ)がチルノたちの近くの草むらの中に転がっています。どう扱うかは次の書き手の方にお任せします。
※メディスンの持っていた燐のスキマ袋はチルノが持っています。
 中身:(首輪探知機、萃香の瓢箪、気質発現装置、東のつづら 萃香の分銅● 支給品一式*4 不明支給品*4)
※メディスンのランダム支給品は手錠とワルサーP38型ガスライターでした。


*          *          *
123創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 07:30:10 ID:OgOtr6RL
天子は、闇雲に逃げ続けていた。
視界を失った今、方向感覚は分からない。
幸い、嗅覚はあるので、ぶすぶすと木が焦げる匂いを避けるようにしながらの行軍だ。

中途半端に力を使ったせいで、湖の時みたいに岩のドームを作ることは出来そうに無かった。
仮に出来たとして、視界を失った今、チルノをドーム内に一緒に引き込んでしまう可能性は否めなかった。
いくら氷精が相手とはいえ、目が見えない今は明らかに分が悪すぎる。

追ってくるかもしれないチルノと空の影に怯えるように、フラフラと天子は歩みを進める。
迂闊だった、なんの気もなしに切りつけた結果がこんなことになるとは。
遊びすぎたことを後悔しながらも、それでも天子は前向きに考える。

あの毒は、あの妖怪の能力に間違いないだろう。
自分の力にも制限がかけられている今、あの毒にだって制限がかけられていない道理が無い。
つまり、この視力消失は一時的なもの。さっきみたいに少し休めばきっと回復するはず。
そうすれば今度は遊ばない。あの二人も怯える暇など与えずに倒してみせる。
幸い、緋想の剣はもはやこの手の中にある。これさえあれば私に怖いものはない。

好死は悪活にしかず。
今の自分はおそらく醜くも生きているのだろう。
だが、死ぬよりはましだ。
生きてさえいれば、まだまだ先があるのだから。
だから、今は休もう。また休まなければいけないのは癪だけれども。
八雲紫、その式、射命丸文、霊烏路空、チルノ。
スケジュールはびっしりと埋め尽くされている。人気者は辛いわね。

いつしか山を分け入って随分と高いところまで登ってきていたようだ。
何度か木の根に躓いて転んでしまったが、その分の怒りはターゲットにまとめてぶつけよう。
あれからかなり逃げたはずだが、一向に追ってくる様子が無い。
うまく撒くことが出来たか、そもそも追ってきていなかったか。
よし、そろそろこの辺りでいいだろう。そう思ったその瞬間だった。

「きゃっ!」

天子の足元から地面が消え失せ、そのまま落下していった。
落下といっても、普段よりちょっと大き目の段差というだけのことだったのだが。
目の見えない今、天子にとってはそれだけでも十分に脅威になりうる。
しばらく斜面を転がり落ちて地を舐めることになってしまった。

私がこんな目に遭うのも全てあいつらのせい、そうとでも思わないとやっていられなかった。
苛立ちを募らせたところで、ふと気づく。
さっきまで右手に握っていた緋想の剣が、無い。

「うそっ!? まさか今ので落としちゃった!?」

天子にとって頼みの綱といってもいい緋想の剣。
それが無いことにうろたえるところに、追い討ちをかけるように耳に無機質な音声が響き渡る。

『警告します。禁止区域に抵触しています。30秒以内に退去しなければ爆発します』

天子の背中を冷たい汗が伝う。
最初に飛ばされた酒蔵のようなところで爆死した、顔も名前も知らない女のことを思い出す。
まさか、自分もあんな風になってしまうの…?
それだけは…嫌だ!!
124創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 07:31:20 ID:OgOtr6RL
「そっ、そうよ…! ついさっきまではこんな警告なんて無かった…!
 つまりここは禁止エリアの端っこ…少し動けば抜けられるはずよ…!」

その間にもカウントダウンは進む。
29…28…27…26…

素早く起き上がって、斜面の上へ上へと進んでいく。
転がり落ちてきて禁止エリアに入ったのだから、登っていけば脱出できる、そういう道理だ。

25…24…23…22…
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ…
耳障りな電子音とともにカウントダウンが続いていく。

21…20…19…18…
目が見えればコンパスを頼りにすぐに脱出することが出来たはず。
しかし、無いものねだりをしても仕方が無い。

17…16…15…14…
登っても、登っても、カウントダウンは鳴り止まない。
最早緋想の剣のことは頭に無い。ただただ脱出して生き延びることだけしか考えていない。

13…12…11…『あと10秒です』
焦る天子の心中をよそに、カウントダウンは続く。
どうして? 何故脱出できない? 天子はパニックになる。

スイカ割りの時に目隠しをされ、ぐるぐるとその場で回る。
平衡感覚が失われるとともに、今自分がどこを向いているのかが分からなくなる。
今の天子が置かれた状況はそれに酷似していた。
これがスイカ割りならば、周りの友人が声で誘導してくれただろう。
だが、今の天子にそんな救いの声は存在しない。
転がってきた方向を登っているつもりで、別の向きに斜面を登っていたのだ。

9…8…7…6…『あと5秒です』

「嘘よ! そんなのってないわ! 私がこんなところで死ぬなんて、あっていいわけないわ!!」
125創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 07:32:14 ID:OgOtr6RL
4。

なまじ意識がハッキリしているだけに、真綿で首を絞められていくような感覚。
死刑宣告のカウントダウンは鳴り止むことが無い。

3。

「嫌よ嫌! 死ぬなんて絶対嫌よ、だから誰か、誰か助けてよぉっ!!」

命乞いをしても…その声は誰にも届くことは無い。

2。

涙を流しながらも、諦めることなく上へ上へと歩を進めていく。
しかし、時間の流れは誰にも平等に刻まれていく。天人であろうと、そうでなかろうと。

1。

「お願い、誰か助けてっ!! 死ぬのは嫌あああああっっ―――」

半狂乱になりながら泣き叫び…

0。

最後の電子音と同時に、首輪がぼんっ、と小さく音を立てて爆ぜた。
首から上を失った胴体ががくっと崩れ落ち、登ってきた斜面を転がり落ちる。
止める力を持たない胴体はそのままゴロゴロと転がり落ち、最後に小さな崖から飛び出す。
どさっ、と音を立ててようやく死体は転がるのを止めた。

奇しくも、その死体は別の首無し死体に寄り添うようにしていた。
自分が首を落とした相手の側で最期を迎える。
誰かが、彼女に「因果応報」と忠言していれば…こうした結末は防げたのだろうか。

【比那名居天子 死亡】

【残り 25人】

※緋想の剣はB-5の山中(ほぼB-4との境目)に放置されています。
※残りの道具(永琳の弓、矢×13本、洩矢の鉄の輪×1、小傘の傘、支給品一式×2)
 は天子の死体と一緒に禁止エリアに放置されました。
126創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 07:35:13 ID:OgOtr6RL
代理投下は以上。
作者様乙です。


3人に対して圧倒した天子、その最期は無残なものだな…
こういうのも慢心するものの宿命かもしれない

メディスンも身体を張って他二人を助けたということ…
頑張ったな…
127創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 07:52:12 ID:rJLat4tl
お空の生存フラグに対して、少し置いてけぼりだったメディスンは初めての見せ場で死ぬ典型的なフラグが立ってたからな・・・
128創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 17:26:53 ID:+GE0mJI/
メディスンはすぐ死ぬと思っていたんだが中盤まで残ったか

sh氏の作品もこれで3つ目か、これからもがんばってほしいな

129創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 18:34:16 ID:1yPWd0GE
投下乙!
メディスンは登場時から友情テーマに一貫してたよなー
それに相応しい最後だった
おのれ、ライターなぞ支給しおってえ!
天子は逆に友達いなかったからこその因果応報な死だったな
すごいお似合いだった
最強コンビはばかっこいいなあ。けど手錠っておいい!?
面白かったです、GJ!
130創る名無しに見る名無し:2010/03/08(月) 01:49:19 ID:S49awpra
空おっとこまえ!
メディスンは死んでしまったけどチルノに大切なことを教えていったんだな……
二人共ボロボロのはずなのに空とチルノの友情が何故か頼もしい

天子……快楽のために殺しを行い続けた挙げ句の最期は惨めなものだな
まさに『因果応報』がふさわしい
131創る名無しに見る名無し:2010/03/08(月) 03:20:46 ID:SJlyvgZl
密かに緋想の剣がかなりの死亡フラグになってる気がする
この剣で、メルラン、キスメ、メディスンが斬られて死亡
それだけならまだしも、武器として使った神奈子、燐、天子もまた死亡
周りに誰もいないところに落ちてるが、次に拾う奴は現れるんだろうか
132創る名無しに見る名無し:2010/03/08(月) 13:22:46 ID:iurynf9I
悲壮の剣か…それとも死相の剣か
133創る名無しに見る名無し:2010/03/08(月) 23:45:46 ID:3qyJFq9e
>>131
お空とチルノが謝らせるために天子を探して、
その途中で見つけるとか?
134創る名無しに見る名無し:2010/03/09(火) 03:29:25 ID:O3qYKLr+
敵どころか持ち主の弱点までついちまってんだろかw
チルノー、お空、拾うなー!
135創る名無しに見る名無し:2010/03/09(火) 03:54:59 ID:7bMk8mdx
読み返してみたら、天子は二人に名乗ってないんだな
放送があっても死んだことを二人に気づかれない可能性大だ
136創る名無しに見る名無し:2010/03/09(火) 11:08:00 ID:PVxsxhPC
非想天則の前だから面識もないんだよな。
ところでこのロワの時間軸っていつ?
星蓮船のぬえ戦直後あたり?
137創る名無しに見る名無し:2010/03/09(火) 13:06:02 ID:+SyPU/3X
>>136
冬と春の間ぐらいで星の前のはず。
このロワが始まった頃は星の体験版すら出てない。
138創る名無しに見る名無し:2010/03/09(火) 15:56:17 ID:PVxsxhPC
ペンデュラム出てたから後かと思ってた。ありがと。
139創る名無しに見る名無し:2010/03/09(火) 20:30:29 ID:2nue08FI
>>130
手塚がよく描きそうな救いもなんにもない無様な因果応報ぶりが逆にちょっと泣けたかも
幻想郷の連中って基本的に性格いいキャラのほうが珍しいのに、なんで天子ばっかこんな目にあうの。・゚・(ノД`)・゚・。
でもキャラに合ってるかどうかで言えばものすごく合ってるw
140 ◆27ZYfcW1SM :2010/03/10(水) 19:57:03 ID:2AgZ5mey
書きあがり、推敲も終ったので投下しようかと思います。
20レスほどになるとおもますが仮投下のほうがいいでしょうか?

ちなみにタイトルは『酒鬼薔薇聖戦』で
141創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 20:23:47 ID:UGblvv3e
ヒャア がまんできねぇ 0だ!  さぁどうぞ!
142 ◆27ZYfcW1SM :2010/03/10(水) 20:52:14 ID:2AgZ5mey
ではお言葉に甘えて投下します
支援はできればお願いします
143創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 20:53:05 ID:2AgZ5mey
「鬼……」

 こいしは鬼の姿を見て地底に住んでいたときのことを思い出す。

 旧都は主に鬼が住まう場所。地霊殿はそこからそう遠くない位置にある。
 旧都に住む者は地霊殿を尋ねることは殆どない。行く理由がないからだ。

 しかし、逆に地霊殿に住む者は旧都を訪れなければ成らない理由が幾つかあった。

 火焔猫にしろ、地獄鴉にしろ、覚にしろ、飲食料嗜好品など生活必需品が暮らす上で必要になる。
 地獄と呼ばれる不毛に近い土地でそれらを入手するには当然、都に行かなければならないわけだ。

 心を読める古明地姉妹はこの買出しの日は憂鬱にならざるを得ない。
 もともと嫌われる種族だ。嫌われて地下に潜った種族たちからも嫌われてしまう。

 姉妹の姿を見たものは半無意識に嫌悪感を出す。普通ならその嫌悪感を抱きながらも口に出すことはない。
 しかし姉妹の種族はさとり、その口には出さない嫌悪感をオブラートに包まずにそのまま否応無く感じ取ってしまう。

 他者が抱く『嫌悪』の原液など毒以外の何物でもない。

 妖怪は心を殺されることが一番の致命傷になるのだからなおさらだ……


 そんな他者が住まう旧都で、唯一、古明地姉妹が心を許すことができる種族が居た。

 察しの通り、鬼だ。
 鬼は嘘を嫌う。嫌いだって言った本気で嫌うそういう種族だ。

 嘘つきの反対は正直者。正直者は心がきれいだ。

 姉妹が相手が心を思っていることを口にするよりも早く鬼はそこのことを言葉にする。

 覚は相手が考えていることを先に口にしてからかう妖怪であるから、鬼はその株を奪っているといえよう。ただ思ったことがすぐに言葉になっているだけなのだろうが……

 地底に潜る前は、何も考えない人間や考えていることと別の行動をする人間は怖いと、出会ったらすぐさま逃げていたが、嫌われ、地底に潜ってからはそういう人妖のほうが心が安らぐことに気が付いた。


 それからいろいろあって私は心の瞳を閉じた。
 鬼と一緒に居たときの心地よさをずっと感じられると思ったから。
 もっと私を他の人が好きになってくれると思ったから。
 鬼も、もっと一緒に居て楽しくなると思ったから。


 でも、現実は――




 右手に持った拳銃を前に突き出す。左手は右手を支えるように持って銃身を安定させる。

 あれ? 何でこんなものを持ってるんだっけ?
 なんで『鬼さん』にこんなものを向けてるんだっけ?

(さぁ、今日は少し悲しいお話の始まり始まり……)

144創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 20:57:11 ID:2AgZ5mey
 どこからともなく『声』が聞こえた。
 真っ暗な舞台に一筋のスポットライトが当てられ、人形劇が始まる。観客は私一人。
 ああ、だんだん思い出してきたわ。この声は確か……


(とあるところに一人の魔女が住んでいました。
 その魔女はある日とあるゲームに参加してしまいます。
 魔女は思いました)

『魔法で仲間を作りましょう』

(魔女は落ちていた小石に魔法で心を注ぎ込みます)

『こいしよこいし……私の愛するこいしよ。私が優勝するまで力を貸しておくれ』



 アリスさんアリスさんアリスさん。
 安全装置はとうの昔に外してある。遊底は引いてある。弾をこめてあることなどいうまでもない。


(魔法使いと心が宿ったこいしは一緒に戦います。
 魔法使いは魔法で、こいしは魔法使いからもらった剣で、悪い巫女と戦います)

『ばきゅーん』
『あららららら〜』

(あらあら。なんということでしょう。悪い巫女の攻撃で魔法使いは死んでしまいました。)

『でも、だいじょうぶ。こいしにかけた魔法はきょうりょくなものです。
 魔法使いがしんでしまっても魔法はとけません』

 人形劇の舞台に上からペンキのようなものが零れ落ちる。ぐちゃっと音と共に。

「ね? こいし。」
 人形劇をしていた者が言った。胸から斜めに横切るように赤い線が入り、その線からはどす黒く粘着力のある『ペンキのようなもの』がこぼれ出ている。

 べちゃ……べちゃ……
 『ペンキのようなもの』にその人形劇をしていたアリスの指が落ちる。

 口から止まらない血、肺を輪切りにし、心臓まで届いた刀を伝って流れる血。
 血で真っ赤な口を開いてアリスは言う。

「さぁ、人形劇はまだ続くわ。こいしよ舞台で踊りなさい」

 こいしは尋ねる。「それは私なの? それとも物語の小石なの?」

「…………」

 アリスは応えない。
 アリスは腕を振って人形を操った。


――タァン!

145創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:00:14 ID:2AgZ5mey
 こいしは拳銃の引き金を引いた。

「外しちゃったよアリスさん。でも大丈夫。私は勝つから」
「危ないねぇ……本当に……」


             〆


 嘘の上塗り、空元気。立っているだけで不思議なくらいのゆれる視界。
 見栄と気合がその体を支えている柱。


 こんな状況で勝てるのか? と萃香は自問する。

 その答えは聞くまでも無い。
 絶対に守り抜くだ。


 萃香は足を踏み出した。
 一歩、二歩……


 踏み出すたびに疲労がずきずき体を縛る。
 こいしちゃんへと向かって真っ直ぐに向かう。相手が銃を持っていることを決して忘れたわけじゃない。

 拳銃を前に構えた奴に堂々と正面から歩いていくことは危険すぎる? 殺されてしまう?

 こいしは再び銃を構える。照準器、フロントサイトとリアサイトの山と谷を合わせ、ターゲット萃香へと向ける。

 ヒュッゥン……

 萃香とこいしは距離的には5メートルも離れてはいなかった。拳銃の有効射程距離はその何十倍もあるというのに当たらない。

「な、なんで……!?」

 こいしは初めての表情を浮かべた。悲しみでも怒りでも狂気でもない。焦りの表情だ。その表情には『アリス』という狂気が微塵も感じられないこいしの焦りの表情だった。

 萃香は歩を進めることを続ける。
 今にも足を引きずりだしそうなくらいにぼろぼろの満身創痍な状況だというのに飛来する凶弾をかわしながらこいしとの距離をつめる。

「幻想郷の妖怪が……」

 銃の狙いをつけることに気を取られていたこいし、二人との距離がもう手を伸ばせば届く距離になっていたことに気づくのが遅れる。

 萃香は拳を大きく振りかぶる。密度を操る程度の能力を持つ萃香。拳の周りの密度を上げて熱を発生させた。
 熱を持った拳は太陽光のような山吹色の光に包まれる。

「そんなもん使ってんじゃないよ!」
146創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:06:52 ID:2AgZ5mey
「ごふッ!」

 萃香は懇親の力をこめてこいしの腹に拳を打ち込む。
 バコンという音を立てて爆発が起こる。密度が上がっていた拳の周りの圧力が開放されたのだ。
 小さな爆弾を腹に押し付けられて爆発させられたようなものだ。
 まさに一撃必殺に成りうる鬼の拳。

 こいしの体は旋風に吹き飛ばされる木の葉の如く優に5メートルほど殴り飛ばされ、民家の壁にぶち当たり、壁を壊して埃を舞い上げた。
 からからとこいしが持っていた拳銃が弾き飛ばされ、地面をすべる。

「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ……」

 萃香は大きく息をついた。勝った。勝つことができた。


 萃香の背中は汗でびっしょりであった。

 この汗は冷や汗だ。
 小さな傷が致命傷にもなりそうな疲弊したこの体に銃弾が直撃することは死を意味していた。
 銃が体に与えるダメージは先ほどの蓬莱山輝夜の凶弾で十分に分かっていた。
 生きていることが不思議なダメージを食らって生きている状態で、その奇跡が再び起きるとは考えにくい。
 萃香は片足を死の淵に突っ込んだ状態と言っても過言ではなかった。

 そんな死の弾幕の中を歩いて渡ったのだ。心臓は生にしがみ付くが如く激しく動き、舌は乾き、全身の汗腺から汗がにじみ出た。
 一見無策で感情に任せて突撃しただけに見える行進も内心は何時かは弾丸に当たるのではないかとひやひやだった。死が怖くなかったわけじゃない。むしろ怖くて怖くて涙が溢れてしまいそうだった。現に足は小さくカタカタと振るえ、止まらない。

 萃香が一見無謀にも思えるその危険が伴った行動をした理由は『拳銃の射撃を避ける事ができる』と思ったからだ。


 拳銃は狙ったところならどこにでも高速の弾を飛ばすことができる便利な道具というのが私の認識だ。
 そしてその精度はそこそこ高い。そこに目をつける。
 使用者が狙ったところには的確に飛んでいく。逆に返せば狙わなかったところには飛んでこないだ。
 これが一つ目の理由。

 そしてもう一つの理由。
 弾を発射するには、引き金を引かなければならないってこと。

 使用者はある道具を使うときには何かの事前動作が必要になるのは大抵の道具に当てはまる。
 弓は弦を引くこと、剣は鞘から抜き、振りかぶること。銃は引き金に指をあて、引かなければならない。

 指を引いた瞬間に狙ったところに弾が飛んで来るのなら。指が引かれきる前に狙ったところから逃げればいい。

 でも、普通にジャンプとかして逃げようとすれば、指が動き始めてから引き金を引ききるまでのわずかな間に銃弾の射線上から逃げられるとは到底思えなかった。
 それが人間の、何の力もない者の思考。それが、常識。


 その常識をぶち壊す。

 忘れてはならない。私たちは『飛べる』のだ。
147創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:10:30 ID:2AgZ5mey
 地面を歩くことしかできない2次元から飛ぶことによって3次元の世界へと飛び立つ。

 アリを踏み潰すことは簡単だ。しかし、空を飛ぶハエを叩き落すことは骨が折れる。

 私は飛ぶことによって指が動いたときに逃げることで弾丸を避けた。


 この行動で当たらないという自信は殆どなかった。なぜなら、飛来する弾丸を見ることはできなかったから。目に見えないものを信用するなど難しい……


 しかし、この行動をしようと決断を下すことに後押ししてくれたのも目に見えないものだった。

 私の背中の後ろに居る者たちと、私の関係だ。



 さて、こいしちゃんがちゃんと気絶しているのを確かめて、拳銃を回収しなければ……

 さとりちゃんには悪いがこっちだって命がかかってる。殺すことも視野に入れて行動させてもらおう。
 そもそも、どうしてあのこいしちゃんがこんな風になってしまったのか調べる必要がありそうだ。

 私は吹き飛ばした民家の中へと入った。

          〆


「つっ!!」

 私、秋静葉は痛みで目を覚ます。

 とても短い間であったが寝てしまったようだ。
 体の間接が固まってしまったかのように四肢が動かない。

 私の意思に反して、体が動くことを拒否しているような感覚だ。

 まだ時間はそう経ってはいない。しかし、外から音は聞こえてこない。
 状況がつかめない。まだ鬼は戦っているのか? それとも勝負が決してしまったのか?

 動かないほうがいいのか? それとも情報を集めに行った方がいいのか?
 秋静葉は考える。

 まず落ち着きなさい、私。深呼吸して自分を落ち着かせる。
見たところ先ほど隠れていた民家だ。となると、この民家の正面で鬼とあの少女は戦ったはずだ。

 私の体には洋服の布が巻かれている。その布は私の血で赤く染まっていた。
 無論、巻かれたところの下には傷がある。治療してくれたようだ。

「鬼さん……」

 鬼を探そう。近くには何の気配も感じないからきっと戦いが終って、鬼はどこかに行ってしまったのだろう。

 少し薄情であると思ったが、鬼という種族は地下に移り住んでからそういう性格になったのかもしれないと中りをつけた。

 性格がどうであれ、今一番頼りになる人は鬼以外に居ない。

 助けてもらったお礼もしていないのだから、探し出してお礼を言おう。


 そう、心に決め、体を起こそうとしたときだった。
148創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:17:24 ID:2AgZ5mey

 隣にはルナチャイルドという名前の妖精が横たわっている。私を助けるために命を散らした勇敢で心優しい妖精だ。

 私は戦闘中に気を失ってしまって、まだ彼女の傷口を洗ったりなどの死んだ体が恥ずかしくない状態にできていない。弔い前の状態。

 拳銃弾の衝撃で後頭部が西瓜割りのときの棒で殴られたようなぐじゅぐじゅな状態に砕かれ、体は軽機関銃の一発でも致命傷に至りそうなくらいの破壊力を持つ弾丸を5、6発とは言えないほどしこたま打ち込まれ、臓器が傷口から零れ落ちそうな状態。

 気持ちが悪いとかそういう感情は生まれなかった。

 私が驚いたことはここではない。

 彼女が死してなお、目を見開いていたことが私にとって重要だった。

 後頭部で爆弾が爆発したかのように後頭部が見るも無残な状態であるというのに、顔、目だけはしっかりと形が残っていた。
 彼女のルビーのような赤い目にもはや光はない。死んでいるのだから……
 しかし、死んで間もないので、目はまだ乾ききっていない。その薄く張った涙と瞳が作る鏡……



 瞳の中には私の顔ともう一つ酷く歪んだ笑顔の少女の顔が映っていた。


――ブツッ!

 反射的に体を転がせる。
 私が寝ていた所、首があった所にフランベルジェが振り下ろされた。


 先ほども確認した。辺りに気配はまったくないと!

 現に、ルナチャイルドの瞳に映った少女の姿を確認するまで気配を感じることはなかった。1mと私との距離は離れていないというのにもかかわらずだ。

 彼女を認識してから気がつく。悍ましい殺気。
 これほどの殺気を放ちながら私の背後1mまで近づいたのか? とクレイジーな仮定に頭が混乱する。
 まるでペンギンが空を飛んでいるところを見ているようだ。

「あれ? おかしいね。フフフフ……避けられちゃった」

「あ、ぁああ……」

 突如当てられた恐怖と理解不能の理論に言葉が回らない。
 私の本能に浮かんだことは『逃げろ』だった。


 床に刺さったフランベルジェを引き抜いたこいしは再び静葉に向かって斬り付る。
 寝ている状態で襲われたのが私の運の尽きだ。

 とっさに身の前へと出した左腕に火を付けられたかのような激痛が走る。意思とは関係なく目は見開かれ、涙が零れ、喉が震える。
 フランベルジェは私の腕の肉の中に入った状態で止まっていた。
 骨が直接触れられている。その触れているものはもちろん振り下ろされたフランベルジェだ。
 刀身が波打つ剣、それはまるで揺らめく炎のようだ。
 その銀の刀身が血で真っ赤に染まり、本当に炎を宿したかのように見える。

「あ、あぁぁああぁあ!!」
「ん? よいしょっと」

 悲鳴を上げた静葉とは対照的にこいしは冷静にフランベルジェを静葉の腕から引き抜く。静脈も動脈も一緒に切断した傷口から血が噴出した。
 そのまま5分もすれば出血多量で死んでしまうほどの血が流れ出ているのにもかかわらず、こいしはまだ命の炎が消えていないことが気に食わない。

 再びフランベルジェを静葉へと振り下ろす。
149創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:22:58 ID:+Pe+NSSl
150創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:24:13 ID:k1qwDW/6
支援
151創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:24:16 ID:2AgZ5mey


「やめて、お願いだから……」

 フランベルジェは静葉へとは届かなかった。
 季節は冬から春にかけての間の季節。まだ気温は肌寒く、民家には暖をとる道具が残されていた。

 静葉が寝ていたところは火鉢の近くであった。火鉢には炭を扱う道具、火箸がある。

 この家にはそれがなかった。しかし、この家の主はそれの代わりとして火掻き棒を使っていた。

 静葉はとっさに掴んだその火掻き棒でフランベルジェを受け止めたのだった。

「ふぅん……」

 こいしはフランベルジェを引き、再び振りかぶりながら相手を品定めするようにつぶやいた。

「任せて、アリスさん、これなら勝てるから」



          〆



 恐る恐る民家へと入った。
 伊吹萃香は浮かない顔をしていた。
 私は恐れを、不安を抱いている。
 その不安は一度目の体当たりのときから始まったものだった。

 自分の力が制限されているから懇親の力をこめた体当たりを直撃させても相手は昏睡しなかった。

 そう、最初に思った。いや、今もそうなのだろうと思っている。

 しかし、そう2発目の拳を腹へとぶち込んだときからある違和感、不安は大きくなった。
 あることが頭をよぎるようになった。
 もしかしたら、自分の力の制限以外にも何か要因があったのではないか? と考えるようになった……

 考えすぎだろう。今の私の気持ちだ。

 一部屋一部屋警戒しながらこいしちゃんの姿を探す。
 そして、壁が壊れた部屋にたどり着いたとき、私の考えがいかに浅はかだったと思い知らされることになる。


 壁をぶち破った部屋に、こいしちゃんの姿はなかった。

 あの攻撃を喰らってこれほど早く回復して移動しただって?

 私は知らず知らずのうちに常識に捕らわれていたのだ。

 私の常識では私の懇親の力の拳を喰らえば蓬莱人であろうと数分は動くことすら叶わない痛みに襲われるはずだ。覚に過ぎないこいしちゃんならなおさらのはず……

 常識が私を虚実の幻想世界へと誘った。


 すぐに私の失態が形となって押し寄せる。
 私の耳に命の恩人が上げた悲鳴が、守るって鬼の名をかけて宣言した神の悲鳴が……届いた。


「くそっ」
152創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:25:00 ID:k1qwDW/6
 
153創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:27:19 ID:+Pe+NSSl
 
154創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:27:33 ID:2AgZ5mey
 私は神さまが居る民家へと駆ける。
 ほんの数メートルを走るだけなのに足がものすごく遅く感じる。
 ほんの数秒が長く感じる。

 鬼の名をかけて守ると決めたのに。魂に誓ったのに……

 私は民家の扉までたどり着いた。間髪を入れずにその引き戸を開いた。



 神と少女はお互いに持った得物で斬り合っていた。


 秋静葉は片方の腕に火掻き棒を持ち、同じく片手でフランベルジェを持つ古明地こいしの攻撃をその火掻き棒でしのいでいた。

 しかし、静葉の腕から流れ出る血で床に血溜りができていた。

「鬼さん!」

 静葉は萃香の姿を見て喜びの声を上げる。
 絶望の中に見えた光だったのだろう。その顔がぱぁと明るくなった。

 こいしにとって、その心持は隙以外の何物でもなかった。


 こいしはフランベルジェを火掻き棒の『掻き』の部分に引っ掛けて腕を振るった。

 静葉は虚を突かれ火掻き棒をその手から離してしまう。
 火掻き棒は宙を舞い、ガァンと音を立てて壁にぶつかった。

 これで静葉は素手、何も武器を持っていない状態。
 絶好の攻撃の機会。

「やめろぉお!!!」

 私は叫ぶ。足よ、動け。
 私の意に反して足は動かなかった……

「だめだめ。私はアリスさんと!!!」

 こいしは静葉へと足を踏み込んだ。フランベルジェを高く振り上げる。

 静葉はとっさに両手を体の前へと出し、身を窄める。
 しかし、十分な勢いを持った刀剣にその行動が何の意味を成さないことなど火を見るより明らかだ。


 血飛沫が私の頬に飛来し、赤く染める。
 私は何が起こったかわからなかった。



155創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:30:49 ID:2AgZ5mey
 突然、少女……こいしが転倒したのだ。


「お前さん!」
 静葉はがくっと膝を折って倒れこむ。
 私は我に帰り、神とこいしちゃんの間に滑り込む。

「おい! 大丈夫か?」
 血色が悪い。血を流しすぎている。

 一刻も早く手を打たなければ、しかし、その前に敵をどうにかしなければならない。

 私はこいしちゃんのほうを睨んだ。

 こいしはまだ転倒した状態から起き上がってはいなかった。

 いや……これは……

「ううううう…フゥ……フゥウ……」
 こいしは歯を食いしばり、立ち上がる。
 額に脂汗を浮かべて息が荒い。その理由は足から流れ出る大量の血液である。

 丁度私が撃たれたとの同じような傷がこいしの足に刻まれ、鮮血があふれ出ていた。

 こいしは窓のほうをキッと睨んだ。

 パキュム!

「うぐっ……」
 何か風を切るような音が耳に入った。同時にこいしちゃんはくぐもった悲鳴をあげ腹を抱える。

「なんだい、なんだい? 銃が効かないのかい? あんたは」

 窓から射手が現れる。
 窓枠に土足を掛け、そのまま室内へと入った射手。
 長く艶かしい長い銀髪の射手。
 右手に持った鉄パイプに取っ手を付けただけのような拳銃のボルトを引き排莢を行う射手。

 射手、藤原妹紅が姿を現した。

「なんだ、悲鳴が聞こえたから駆けつけてみれば私が探していた鬼じゃないか……まだ生きていてよかったよ」
 妹紅は私の姿を見てにっと笑った。
 妹紅はこいしが弾き飛ばした火掻き棒を拾い上げ、それを肩に掛けながら言った。

「悪いがそこにいる鬼に私は用があるんだよ。このままどこかに行くもよし、私に攻撃するもいいよ。
 だけど、そこの鬼とその……お連れさんに手を出すんだったら私は容赦しないよ。
 もっとも、私に攻撃してきたって容赦はしないけどね」

 火掻き棒で肩をとんとんと叩く妹紅。まるで不良がガンを飛ばしているような挑戦的な目つきだ。

「あぁあ、あぁぁあああ!!」

 こいしはフランベルジェを構える。
 地面に水平に構え、両手をグリップへと添える。

 突きの体勢。フランベルジェを妹紅へと向けて突進する。
156創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:30:57 ID:k1qwDW/6
 
157創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:32:14 ID:UGblvv3e

158創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:35:33 ID:2AgZ5mey

 カァン!

 妹紅は肩に掛けた火掻き棒をそのまま振り下ろした。
 妹紅の肉体を求めて喰らい突いたフランベルジェは民家の床板をその歯に食わされる。

「言ったよ。容赦はしないってね!!」

 フランベルジェを押さえつけた火掻き棒はまるでバトンを操るように優雅に線を描く。火掻き棒を巧みに操る妹紅はそのまま振りかぶり、一気にこいしのわき腹目がけ振るった。

「かはっ!」

 こいしは自分の耳に自分自身の骨が砕ける音が響いてくるのを聞いた。直後に襲われる耐え難い苦痛。体の臓器が一斉に痛みを叫ぶ。呼吸がまともにできずに何度も咳き込む。

 妹紅の力に火掻き棒が耐えられず、ぐにゃりとその鋼鉄の体を曲げた。
 その歪に曲がった火掻き棒を萃香のほうへ投げ捨てると、こいしが持っていたフランベルジェを奪い取る。

 萃香はその火掻き棒を拾う。長物をもった鬼と蓬莱人が相手ではこいしにとって相当不利であろう。もう勝負が決していると言っても過言ではない。

「さて、どうする鬼? こいつを殺すか?」

 妹紅はできれば殺したくないなーと思っていた。しかし、現状で油断を許せない状況であることは明らかだ。甘いことは言ってられない。
 てゐは殺しを行う可能性がある人物であった。しかし、自ら進んで殺しをしているのではなく、現状に無理やり殺しをさせられていた形に近い。

 それに、話し合う余地と敵の強弱を見極めての無謀な戦いは避けるちゃんとした理性があった。

 しかし、こいつはどうだ?
 まるで獣か機械人形だ。殺すことしか考えていないように思える。
 生半可に長年生きていない。この状態は一種の戦争中毒『コンバット・ハイ』だ。

 病名は知ってるが治療法など知る由もない。
 そもそも精神病なんてものはつばを塗っていれば直るものじゃないことを自分がよく知っている。
 死ぬほどの傷を完治させる蓬莱の薬でも心の病は治せないからだ。

「こいしちゃん……」

 萃香だって殺したくない。古き地底に住んでいたころからの知り合いなのだ。

 しかし、状況。
 見逃してもこいしちゃんは殺しをやめることはないだろう。
 私もこの幻想郷に殺し合いを強要されている。

 これはそういうゲームで、そのゲームの中に私は居るのだから……


……ごめん、こいしちゃん。
 怨んでくれてもいい。
 あの世で私を何度でも殺していいから……

 死んでくれ……


「――殺せ」


 妹紅はやれやれと肩をすくめるとフランベルジェでこいしを切り捨てた。

159創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:37:25 ID:k1qwDW/6
 
160創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:38:32 ID:2AgZ5mey
 フランベルジェはこいしの胸から腹にかけて斜めに通過する。
 こいしの着ていた水色のカーディガンが刃物によって切り裂かれる。




「な!?」
「ふふふふふ……残念ね」


 血は……出なかった。


 カーディガンの裂け目から出てきたのは血でも内臓でもない。
 黒い強化繊維を幾度も織り込まれた防具、防弾チョッキ。
 その防具は、萃香の鬼の力を吸収し、妹紅が撃ったウェルロッドの銃弾を止め、火掻き棒の衝撃をいくらか受け流し、フランベルジェの刃が体を切断することを阻止した。

 異常なこいしの耐久力の答えがそこに終結していた。

 こいしは投げナイフを取り出すと妹紅へと投げた。

 こいしは自分が切られても死なないことを知っていた。しかし、妹紅はこいしを切り捨てるという想像を、未来を見ていた。
 突然の未来の変更。妹紅の頭脳はパラドックスで一瞬の混乱状態に陥っていた。

 ザシュッ!
 避ける事ができず、投げナイフが妹紅の腕へと刺さる。

「くそっ!!」

 妹紅は毒づく。
 こいしの後ろから萃香が火掻き棒を振るう。

 ブンッ!

 しかし、火掻き棒は宙を切った。
 こいしは身を屈めて火掻き棒をくぐったのだ。

 萃香をこいしは上目で見つめる。萃香は火掻き棒を振った反動で動くことができない。

――やばっ!


「復燃「恋の埋火」」

 こいし、スペルカード宣言。

 ハートの形をした弾幕が2つ出現する。
 一つは妹紅へと、もう一つは萃香へと向かって飛来する。

 ハートの弾幕に萃香は吹き飛ばされる。
 萃香の腹から胸にかけて、着ていた服は黒く炭化し、萃香の肌は赤く爛れていた。火傷だ。
 このハートの弾幕はそのスペルカード名の通りに燃えているのだ。長い炎の尾びれが小石と萃香、妹紅との間に壁のように立ちふさがったのだった。

 鬼は熱に強い事が幸いして萃香は生き残ったが、常人なら炎に包まれて焼死していただろう。

「温いよ、そんなちんけな炎はッ!」

 しかし、萃香よりも、こいしよりも炎とともに人生を歩んだ藤原妹紅には効かない。

「私への攻撃に炎を選択するなんてね。その選択は大間違いさ」
161創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:41:01 ID:k1qwDW/6
 
162創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:42:33 ID:2AgZ5mey


 妹紅の背中に不死鳥が舞い降りた。
 十何世紀も生き続ける過程で手に入れた妖術だ。

 炎の尾びれに妹紅は飛び込む。

 炎の壁を抜けたとき、妹紅は面を食らう。

 こいしは妹紅にも目もくれずにひたすら天井を眺めていたのだ。

 妹紅は理解する。最初からハートの弾幕は妹紅と萃香を攻撃するものでも、逃げるためでもないということ。そして本当の狙いは『天井』だったということ。

 天井に二つの弾幕が突き刺さった。
 二つの弾幕が刺さったことの衝撃で天井は崩壊する。

 見たところそれほど新しい民家ではない。築10年ほどだろうか?
 そんな民家の天井裏には大量の埃が積層する。

 天井という支えを失った埃は一気に重力の鎖に縛られ、地面へと落ちる。

 しかし、埃は軽い。

 スモークのように萃香、静葉、妹紅、そしてこいしが居る室内に埃が舞う。


 こいしは妹紅が入ってきた窓から外へと飛び出た。

 かという私たちは突然天井から降りてきた埃のスモークに気を取られ室内へと残された。


「妹紅!」

 民家の扉が突如開かれ、その者は叫んだ。
「てゐか」
「早くその部屋から出るんだ。あいつの狙いは目眩ましじゃないよ!! 本当の狙いは……」


 てゐの声を遮るように、こいしはハートの弾幕を放った。


 復燃「恋の埋火」の弾幕はまだ続いたままであった。

 一度消えたと思われた弾幕は、再燃する。

 ハートの弾幕から伸びる炎の尾びれ。それが空気中を舞う埃に接触した。

 ヂッ!

 恋の炎は空気中に舞う埃を喰らい、激しく燃え上がった。
 粉塵爆発と呼ばれる化学現象が発生したのだった。
 数千度の炎が室内に満たされ、民家の屋根を梁を柱を、ルナチャイルドの死体を焼く。
 灼熱地獄のカラスでさえ怯んでしまいそうな業火だった。
 爆発というよりはナパーム弾の焼夷攻撃。
 そんな爆炎の中に居ればどんな生物でも焼死しているだろう……



163創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:50:56 ID:k1qwDW/6
 
164創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 21:58:07 ID:+Pe+NSSl
 
165代理:2010/03/10(水) 22:05:21 ID:sJMAtuFx
「てゐ、助かったよ。あんたが居なかったら焼け死んでいたよ」
「護衛を依頼したのは私なのに逆に守られるなんて、護衛失格じゃない?」
「そんなときもあるんだよ」

 妹紅は肩をすくめながら言った。
 てゐははぁと小さくため息をついた。
 妹紅は生きていた。
 てゐの声にいち早く反応することができた妹紅は壁を蹴り破り、外へと逃げたのだった。

 妹紅の隣には萃香と静葉の姿もあった。

 気絶している静葉を背負ったために、やや脱出に遅れてしまったが、てゐと妹紅の行動に手助けされ、業火に包まれる前に部屋を出ることができたのだった。

「アイツは?」
 妹紅は萃香へと尋ねる。

「分からない……でもこの人数に勝負を仕掛けてくると思うかい?」
 妹紅は考える。普通ならしない。勝ち目がないと思う。現にこいしが仕掛けた攻撃で成功したのは粉塵爆発攻撃くらいだ。
 それ以外は防がれたり逆に反撃を喰らっていたのだ。

「普通は……」

「でも、私はその常識で痛い目を見たよ」
 萃香は背中から静葉を降ろすと自身の服の袖を破り、静葉の腕を二箇所縛り、止血を行う。
 もうすでにかなりの量の血を失っているはずだ……
 止血だけでは駄目かもしれない……

「私は嘘が嫌いなんだ……
 これ以上嘘は吐きたくないよ……
 私に嘘を吐かせないでくれ……頼むよ」


 妹紅は萃香の顔を見ずに言った。
「話を戻そう」


「普通じゃない相手に常識は通用しないってことか」
 妹紅は顎に手を当てて考える。
「じゃあ、とりあえず移動したほうがいいんじゃない?」
 てゐが提案すると「それもそうだな」と妹紅と萃香は荷物と武器をそれぞれ持ち始める。


「神さまさん、行くよ」

 私はそう言って萃香は静葉のほうを振り返った。

 そのとき、不思議な出来事に私たちは遭遇することになった。


 静葉は起き上がっていた。
 その目は閉じられたままである。
 私が止血をしたときには寝ていたというのに……

 まるで、気絶したまま立ち上がっているみたいだ。
166代理:2010/03/10(水) 22:06:17 ID:sJMAtuFx
――プツッ

 突如、ピンと張った膜が破けるような音が聞こえた。同時に静葉の首から血が流れ出す。


 首の左から流れ出始めた血は徐々に右へと向かって血が出る傷口を広げていく。

 そして、血の線が左から右へと横断を完結したとき、静葉の頭部が胴体からごろんと転がり落ちた。

 なんだ……まだこんなにも血液は残っていたのかい? と趣味の悪い冗談が頭の中に浮かんだ。
 それほど、静葉の首から血が噴水の如く噴出したのだった。

「どういうことだ!? これは」
 妹紅が突如起こったことが分からず叫ぶ。

 殺されたんだ。誰にだって? それは決まっている。

 直後、狂った笑い声が脳裏に木霊した。

「あはははははははっ!
 やった、やった、やったよアリスさん
 まずは一人目。まずは一人目。
 それも、こいつら全然気づいてないよ。
 私このまま全員殺せるよ」

 そいつは姿を現した。

 古明地こいしは静葉の真後ろにその姿を現した。

「どこから? いつの間に!?」
「最初からずっとだよ」

 妹紅の疑問をてゐが答える。

 そう、こいしちゃんは無意識を操る程度の能力を持っている。

 無意識は完全に気配を消すことができるのだ。

 気配さえ消してしまえば目に見えないのと同じ。
 こいしちゃんは気配を消して堂々と近づいて、静葉の首を切り落としたのだ。
 最初に静葉に気づかれずに民家に忍び込んだのはこの能力によるものである。

「目に見えないだって? 反則じゃないか」
「そうだね。反則だ」
「だけど、反則にはイエローカードが出されてるみたいだよ。ほら」

「ごはっ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 こいしは血の塊を吐いた。
 その能力を使うだけで体の組織が積み木を崩すかのように壊死しているのだ。

 命を削ってまで、私たちを殺しに来ているのだ。

 血液で口元を真っ赤に染めたこいしは「次は……次は……アリスさん……どれ……」と呟いている。
 できの悪いB級劇の幽霊みたいだ……

 こいしは手で口をぬぐうと、萃香たちに背を向けて走り去る。
167代理:2010/03/10(水) 22:07:41 ID:sJMAtuFx

「逃げた」
「いや、違う。『制限』なんだよ。きっと誰かに見られた状態では姿を消すことができないんだ!」
「じゃあ逃がしちゃ駄目じゃないか!」

 妹紅はウェルロッドをこいしに向けて発砲した。
 こいしは一瞬怯むが、そのまま走り抜ける。防弾チョッキはまだ着たままだ。銃は通用しない。

 そしてとうとう、全員の視界からこいしの姿は消える。

 その瞬間こいしの声が響いた。
「「嫌われ者のフィロソフィ」」
 スペルカード宣言。私が想像したとおり、まさに無意識を操り姿を消すあのスペルカードだ。


「ああ、もう。契約違反だよ妹紅。私は後ろに隠れるからね」
 震える声でてゐは妹紅に怒鳴った。
「私だって物陰に隠れたいよ」
 妹紅は頬に冷や汗をかきながらぼやいた。

 どこから攻撃がくるか分からない。私たちは円陣を組む。

 何も音のない世界。自分の心臓の音だけが耳によく響いた。

 何分経ったか。それとも数秒だったか。てゐの耳がぴくんと動いた。

「鬼!」

 てゐに気が付かれたために、こいしちゃんの姿が私にも認識できるようになった。
 右側に銀のナイフをもったこいしちゃんの姿が目に入る。

――シュッ!

 私の前髪が数本切り落とされた。後数瞬遅れていたら目玉をえぐられていた。

「このっ!」
 歪んだ火掻き棒を振るう。しかし、タンタン、と軽いステップを踏んでこいしちゃんはそれをかわした。
 ヒット・アンド・アウェイかい。嫌いな戦い方だ。


 しかし、相手も反則ならこっちにも反則カードがあった。
 てゐの存在だ。

 てゐは抜群の危機を感知する能力を持っている。たとえ姿を消したこいしでさえ、カンでその位置を割り出している。

 てゐは私たちの生命線だ……


 はっとする。今の攻撃を邪魔したのはてゐだ。
 そして、私に切りかかったときのこいしちゃんの表情と目線。

「どうして私の邪魔をするの? どうして……どうして……」
 ぎょろっとした目でてゐを睨んでいた……


「駄目だ!逃げろてゐ!」
「え?」

「逃げちゃだーめ!」
168代理:2010/03/10(水) 22:08:40 ID:sJMAtuFx
 てゐの目の前に突如巨大な薔薇が現れた。その薔薇のつぼみが開き、こいしが飛び出す。
 手には血で赤く塗られたナイフ。

――シュン!

 風を斬る音が響いた。

 てゐは地面に崩れ落ちる。
「てゐ! おい、しっかりしろ。てゐ!」

 妹紅がてゐに駆け寄る。

「だ……大丈夫だよ……でも……」

「みてみてアリスさん、ウサギの耳だよ。かわいい?」

 切断面からダラダラと血が溢れ出て、その白い毛皮を赤く染めたてゐの耳を握ったこいしが居た。
 てゐはレーダーに近いウサギの耳の片方を切り落とされていた。

「でも、死んでない。それじゃあアリスさんも面白くないよね」
 てゐの耳を地面に叩きつけるとこいしは踏み潰す。ぐちゃと音を立てて耳は潰された。

「ああぁああぁ……私の耳が……耳が……ぁあぁあ」
 てゐの顔面が蒼白になる。ああなっては例え永琳の手術でさえ元には戻らない……
 ショックは……想像を絶する。



「いい加減にしろよ! こいしぃぃい!!」

 堪忍袋の緒が切れた。
 こいしは逃げる。能力を使えるようにするために。


 視界から消えたこいしは無意識を操る程度の能力を発動させる。

 無意識を操って姿を消したこいしは私に向かって走る。手にはてゐの耳を切り取ってさらに赤くなったナイフ。

 もう、てゐはレーダーをまともに使えない。
 もう、萃香に警告する者は居ない。

 走る萃香の前の鼻先にこいしはナイフを突き刺す。
169代理:2010/03/10(水) 22:10:18 ID:sJMAtuFx
その前に、こいしの鼻に拳が突き刺さった。クロスカウンター。

 鼻の骨がばらばらに砕け散る。
 こいしの体が宙に浮く。

「なん……で……」

 散々萃香と妹紅を混乱に陥れたこいしが今度は混乱する番であった。

「かはっ……ごほっ……ごふっ……はぁ……はぁ……」

 血の塊を吐くこいし。この血こそが能力がしっかりと発動した証拠である。
 能力はしっかりと発動していたのにもかかわらず、ぴったりとタイミングを合わせてカウンターを萃香が決めただと? ありえない。

 萃香が倒れたこいしに近づく。

「なんでだって? そりゃ私が萃めたからさ。『意識』をね」

「こいしちゃん……昔のあんただったら完全に無意識に成りきってただろうよ。
 だけど、アリスに囚われたこいしちゃんは『無意識』の中に『意識』が生まれちまったんだ。
 見てみなよ……こいしちゃんの第三の目を……」

 こいしは第三の目を見る。

 硬く閉ざしたはずの第三の目、もう何百年も閉ざし続けた目。
 その目がうっすらと開いていた。

「アリスに尽くすことは『無意識』にできない。自分の意思でするしかないんだ。
 幾ら無意識でそれをやろうと思ったってできっこないんだ」

 萃香はこいしの頭をゆっくりとなでた。

「こいしちゃん、誰かに尽くすことはすばらしいことだと思う。
 ただ、こいしちゃんはその方向を間違っちゃっただけなんだ……
 すばらしい気持ちも方向を間違えちゃったら悪意以外のなにものでもない」

「こいしちゃんは初めてだったんだよね。誰かに優しくされることが。
 大丈夫、世界にはもっともっと沢山やさしくしてくれる人が居るから。
 こいしちゃんは一人じゃないよ。こいしちゃんを好きになってくれる人が沢山居るから」

 萃香はにこっとこいしに微笑みかけた。

「すいか……さん……」

 こいしは震える声で言った。
170代理:2010/03/10(水) 22:11:40 ID:sJMAtuFx

「『こんなことになったのは全部私のせいだ』だなんて思わないで」

 萃香ははっとした。

 その後、こいしは能力の過度の使用で血を吐いた。
 これが古明地こいしが最後に残した言葉だった。
 こいしの第三の目は開いて大粒の涙を流していた。


【古明地こいし 死亡】


 ねぇねぇアリスさん。
 いっしょにあそぼうってさそわれたの。

 え? アリスさん? だれにって?

 わからない。

 でも、とってもおもしろそうだよ。

 アリスさんもいっしょにあそぼうよ。

 わたしはアリスさんともっともっとたのしいことをしたいの。

 え? それがせかいに目を向けることなの? ふーん。


 うん、じゃあいこうか。きっとたのしいせかいがまってるよ。



           〆


 私はこいしちゃんを看取ったあと、静葉の元へ向かった。

 首と胴体にばらばらにされた静葉。まだお礼も言っていないのに死んでしまった。

 私は静葉の頭をそっと体の元あった位置へと戻した。
 そんなことしてもくっ付く筈がないのは分かっている。
 全部私が守れなかったせいだ。こいしちゃんにはそれを否定されたが、私にもっと力があったなら違う未来になったかもしれない。

「後悔か? 私も300年くらいしたことあるよ」
 妹紅は隣にどしっと腰を下ろした。
「ずいぶん古い話になるね……普段はこんな話はしないんだけど……今日は特別だ。
 私の父上が……」

 妹紅は私が何も言わないのにもかかわらず、一人で自分の体が蓬莱人になった経緯を話し続けた。

「最後になるけど、私がもし蓬莱の薬を飲まなかったらって考えたことがあるんだ」

 妹紅の300年の後悔の原点は蓬莱の薬に集約している。

「どんなことを考えたんだい?」
171創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 22:11:52 ID:k1qwDW/6
 
172代理:2010/03/10(水) 22:13:37 ID:sJMAtuFx
 妹紅はにっと口をゆがめると言った。
「今頃私は死んでるだろうさ」

「………ふっ、当たり前じゃないか。普通の人間がそんなに長生きできるものか」

「だろう。今を生きていることができるのはこの薬のおかげってことさ。
 だったら、300年も後悔する必要はなかったのかもしれないね」

 妹紅はからからと笑った。
 私もふっと軽い笑いをつられて浮かべてしまう。

 ごめんこいしちゃん。あんたの言うとおりだよ。
 わたしがこんなことになったって責任を取るのは図々しい行動なんだってね。

 責任を取るのはいつも決まって階位が高い者だ。ただの鬼風情が責任を負えるものじゃないんだね。

 そして、静葉。ありがとう。私は君を守れなかった。それは変えようの無い事実だ。
 私は嘘を付いてしまった。ごめん。

 もし、私が民家に入ったときに向けてくれた笑顔が本物だとしたら、私が助けられなかったことを許してくれ。

 そして、いつかその笑顔をもう一度私に見せてくれ……

 パチパチと民家の火事が広がる人里を見ながら私は涙を手で払った。








【秋静葉 死亡】

【残り 23人】
173代理:2010/03/10(水) 22:16:15 ID:sJMAtuFx
【D−4 人里 一日目 夕方】
【藤原 妹紅】
[状態]腕に切り傷 ※妖力消費(後2時間程度で全快)
[装備]ウェルロッド(1/5)、フランベルジェ
[道具]基本支給品、手錠の鍵、水鉄砲、
[思考・状況]基本方針:ゲームの破壊及び主催者を懲らしめる。「生きて」みる。
1.萃香を行動する。
2.守る為の“力”を手に入れる。
3.無力な自分が情けない……けど、がんばってみる
4.にとり達と合流する。
5.慧音を探す。


【因幡てゐ】
[状態]中度の疲労(肉体的に)、手首に擦り剥け傷あり(瘡蓋になった)、軽度の混乱状態、右耳損失(出血)
[装備]白楼剣
[道具]基本支給品、輝夜の隙間袋(基本支給品×2、ウェルロッドの予備弾×3、破片手榴弾×1)
[基本行動方針]死にたくない
[思考・状況]
1,生き残るには優勝するしかない? それともまだ道はあるの?
2,妹紅が羨ましい
3,耳を失ってショック


【伊吹萃香】
[状態]疲労、銃創(止血)、血液不足、上半身ほぼ裸
[装備]歪んだ火掻き棒
[道具]支給品一式×4、盃、防弾チョッキ、銀のナイフ×7
   ブローニング・ハイパワー(5/13)、MINIMI軽機関銃(55/200)
   リリカのキーボード、こいしの服、予備弾倉×1(13)、詳細名簿、空マガジン*2
[思考・状況]基本方針:命ある限り戦う。意味のない殺し合いはしない
1.無意識
2.鬼の誇りにかけて皆を守る。いざとなったらこの身を盾にしてでも……
3.紅魔館へ向う。ある程度人が集まったら主催者の本拠地を探す
4.仲間を探して霊夢の目を覚まさせる
5.酒を探したい
※無意識に密の能力を使用中。底が尽きる時期は不明
※永琳が死ねば全員が死ぬと思っています
※レティと情報交換しました
※美鈴の気功を受けて、自然治癒力が一時的に上昇しています。

※民家一軒が火事です。中にあったルナチャイルドの死体は焼けました。

159 : ◆27ZYfcW1SM:2010/03/10(水) 22:14:24 ID:FmLXr8X6
投下終了です
さるさん喰らわないように気をつけたのに結局喰らってしまったよ

マーダーがまた一人減ってしまったが自分はこの結末が一番だと思いました
174創る名無しに見る名無し:2010/03/10(水) 22:58:39 ID:sJMAtuFx
投下乙です

こいしは最後の最後で正気に戻り救われたのだろうか? もう安らかに眠ってくれ
スイカも死ぬと思ったが妹紅キター!
守る約束が果たせなくて辛いだろうが頑張ってくれ
しかし死体が焼けたとか耳?げたとかロワらしいわw
175創る名無しに見る名無し:2010/03/11(木) 15:50:08 ID:60VpUlg5
投下乙です

まずは静葉とこいしに黙祷
静葉は…残りメンバーでは貴重な戦闘力低めな人だったし、輝夜殺害で永琳とのフラグもあったので立ち回りに期待していたけど…仕方ないか、お疲れ

火掻き棒とはまた渋いところを突いてきますなぁ
萃香は止血したから当面は生命の危機は無さそうだけど、上半身ほぼ裸は貞操の危機w
さて、三人はいよいよ紅魔館に向かうのかな、楽しみだ

>>160の「小石と萃香、妹紅の間に〜」は小石→こいしの変換ミスでしょうか
176 ◆CxB4Q1Bk8I :2010/03/11(木) 20:38:15 ID:IkXaHj4J
こっそりと投下します。
タイトルは『Ohne Ruh', und suche Ruh'』
177 ◆CxB4Q1Bk8I :2010/03/11(木) 20:39:58 ID:IkXaHj4J
 
 戦闘の余韻はやがて消え、残ったのはただ寂寥とした思考でした。
 八意永琳は、里へと向かう道の途中、置いてきた弟子のことをぼんやりと思い返しておりました。

 ウドンゲ。彼女の事を、永琳はそう呼んでおりました。
 臆病だけれど働き者で、忠実で、お互いに信頼していた筈でした。
 彼女は自分や姫と同じ、月から逃げ出して追われる身として、閉じた世界で同じ時間を共有しておりました。
 互いに不満を口にすることなどもありましたが、決して互いを害する意図も無く、それは傍から見れば家族のようだったことでしょう。

 いえ、それは所詮、家族ごっこだったのでしょうか。

 永琳は、ほうと嘆息しました。
 今自分は姫のことを第一に考えなければ自分を保てないと判っておりましたから、鈴仙について思い詰めることはもう止そうと思いました。
 それでも、心の奥の引っ掛かりが無視できるほどには済まないこともまた、感じておりました。
 あの時、自分に攻撃を向けた彼女の心中など、知る由もありません。
 ただそれは信頼という言葉など軽々と崩してしまう敵対行為である事は明らかでした。
 元々の性格や過去の行動から、彼女の自分への攻撃を裏切りと捉えて信頼できないと結論付けるのは致し方の無い事でした。
 それでも彼女を殺さずに生かしたのは甘さだったのだろうと、今となって思い返すのでした。
 彼女がまだ自分の身内であるという意識が、どんなに冷徹になろうとしても確かに存在していた事を意味するのだと思いました。

 所詮は他者なのですから、永琳が鈴仙の考えなどわからないように、彼女もまた永琳の考えなどわからないでしょう。
 彼女が何を考えて自分を攻撃したのかわからないのと同様、自分が残したメモを彼女がどう解釈するかも、それを受けてどう行動するかも、結局は彼女次第です。
 永琳は、自分の一瞬の感情に任せて問題を先送りにしたに過ぎないことを自覚しておりました。
 リスクが少ない方法を取ったという自負こそありますが、理屈で言うならばそれが最善ではないと承知しておりました。
 それでも、やはり彼女に対して無情ではいられなかった事を、否定は出来ませんでした。


 お許し下さい。
 ただ貴女の事だけ考えることが出来ずにいる私を。
 仮初とは言え、同じように家族だった彼女のことを、諦め切れない私を。


 ふと、八意永琳は、遠くに小さく誰かの姿を確認しました。
 手近な茂みにさっと身を隠し、眼を凝らしてそれを見つめました。
 どうやら、男物の―ーどこかで見た記憶があるような――服装ではあるけれど、その主が亡霊嬢である事には気付きました。
 彼女は、今は普段の掴みどころの無いふわふわとした身のこなしでも、呆けているような中に深い理知を含む表情でも無く、
 どこか思い詰め、心の葛藤を抱きながら、一歩一歩と迷いながら歩いてるかのようでした。
 幽霊らしくない重い足取り。遠目でも、彼女の感情が深いところで重石を抱いている事が推測できました。
 武器だけはしっかりと握り締めて、何か刺激を与えてしまってはそれが暴発しそうだと思えるほど、張り詰めているようでした。

 永琳は彼女の事を知っておりました。
 冥界に住まう、死を司る亡霊。嘗ては半人半霊の庭師を従えて、永琳の術を破ろうと動いたこともありました。
 永琳は、今の彼女の様子に納得することが出来る理由もひとつ、その知識の中に持っておりました。
 つまり、彼女は、この殺し合いの中で、庭師を失っているということでした。
 彼女がその従者を大切に思っていたことは、永琳も重々承知しています。
 従者を亡くしたことは、彼女の心に重大な傷を負わせたのでしょう。

 永琳はまだ大切なものを亡くしてはいませんでした。
 不死者は亡霊の気持ちなどわかりません。亡霊もまた、不死者の気持ちなどわからないでしょう。
 ただ、もし大切な者を失ってしまったとしたら、そう考えるときっと心は同じこと。
 拠り所無く歩く彼女を少し、不憫にも思いました。
178 ◆CxB4Q1Bk8I :2010/03/11(木) 20:41:28 ID:IkXaHj4J

 しかし、永琳は通り過ぎ行く彼女に声をかけませんでした。
 不覚な同情こそ抱いたけれど、今の彼女は自分の力になるとは思えませんでした。
 自分を主催者だと思っているだろう上に、身内を失い、心ここにあらず。
 触れたら切れそうな糸の上を、揺らせば爆発するような武器を抱えて渡っている。
 永琳にとって、彼女に接触するのは決してリスクの割りに見返りが期待できるとは言えませんでした。
 山の神の時は、同情と苛立ちの結果、衝動に任せた行動で彼女を正気に戻すことは出来ましたが、今は勝手が違うと考えます。
 つまり、足取りが重いとはいえ、相手が自分の意思で行動をしているということ、それは、様々な意味で、危険性を孕むものでした。
 だから、避けることにしたのです。極めて冷静で非情な判断でした。
 嘗ての弟子に対して行った対処は、随分と手心が加わっていたのだと、今更ながら思いました。

 彼女は、永琳に気づくことなく、東に消えました。
 このまま行けば、余程幽々子が何かに盲目的でなければ、気を失っている鈴仙を見つけるでしょう。
 永琳は、鈴仙の処遇が他人に委ねられることに、ほんの少しだけ、躊躇いました。
 ただ、彼女宛に残したメモを見れば、聡明な亡霊嬢ならば、少なくとも自分の立場は理解してくれるのではないか、
 その結果、弟子である鈴仙に対しても悪いようには扱わず、或いは彼女を正しく説得して、後の厄介事を減らしてくれるのではないかと期待しました。
 もし今の彼女がそれも不可能なほどに迷走しているとしたら、鈴仙は無事では居られないのかもしれません。
 それは自分にとって、少なくとも悲しみを抱くには足ることだと思いました。
 しかし、その大きさは永琳の中では、相対的に小さいものであると諦め、今は考えないことにしました。
 自分が姫と合流し彼女を保護した後に、それでも自分の余裕をそこに向けられるとしたら、その時に考えれば構わないと思ったのです。
 見捨てるのか、見逃すのか。自分の感情がそのどちらだったとしても、今は構わないと、思ったのです。

 八意永琳は、一人、人里へ向かいます。
 その先に待つものが幸福なる家族の姿である事を、彼女は今もまだ信じておりました。


【E−4北西 一日目 午後】
 
【八意永琳】
[状態]疲労(中)
[装備]アサルトライフルFN SCAR(20/20)
[道具]支給品一式 、ダーツ(24本)、FN SCARの予備マガジン×2
[思考・状況]行動方針;人里に行って輝夜を探す
1.輝夜と合流後、守矢神社で諏訪子と合流
2.輝夜の安否が心配
3.うどんげは多少気にかかるが、信用できない

※この場所が幻想郷でないと考えています
※自分の置かれた状況を理解しました
※この会場の周りに博霊大結界に似たものが展開されているかもしれないと考えています



 ◇
179 ◆CxB4Q1Bk8I :2010/03/11(木) 20:44:28 ID:IkXaHj4J

 八意永琳に見送られたことなど気付きもせず、西行寺幽々子は一人、数刻前に通った道を東へ進んでおりました。
 記憶に焼きついた閻魔の言葉と、もはや善悪の葛藤に等しいと思える心中の錯綜を抱え、彼女らしくなく焦燥感に駆り立てられておりました。
 自分が失った大事な従者と記憶、喪失感と遣る瀬無さ、閻魔の言う全てを受け入れることでその穴は満たされるというのかもしれない。
 それでも、言いくるめられたように認めることなど出来る筈も無く、全ての仮定を拒否しておりました。
 あらゆる証拠は曖昧で、空白と深淵の記憶の奥底に眠る呪縛はその意味するところもまるで判らず、つまり思考の迷走は止まるところを知りません。

 こんなに必死になるものなのか、幽々子は自身ですら経験したこと無いような感情を今は抱いておりました。
 冥界で他者の死を管理していた嘗ての自身と、今の自分の感情や行動が異なる理由は、閻魔の言うように何か心に秘めたものがあるからなのでしょうか。
 まさか。家族のように愛したというのに、彼女を自分が死に誘うなどある筈がない。
 でも、自分が封じた記憶の中に、そういうことがあったことを意味するのかもしれない。
 それがどういうものであれ、こうしているあいだはただ逡巡を繰り返す螺旋に嵌っているだけだと気付いておりましたが、
 それを止めることなどできず、ただただ重い足を前に進めるだけが精一杯でした。


 人里の東、森が視界に入るところで、亡霊姫はその迷走する思考の中でも、倒れた彼女の姿には気付く事ができました。
 幻覚を操る赤眼の月兎。不死者の弟子。鈴仙・優曇華院・イナバ。
 断片的な、彼女に関する情報が、彼女の思考に浮かび上がりました。

 彼女が八意永琳の弟子ということは知っておりました。
 八雲藍の残したメモから、八意永琳が主催者と名乗ってフランドール・スカーレット達と交戦した事や、
 霧雨魔理沙などが彼女が真の主催者ではない可能性などについて考えていた事も知っておりました。
 ただ、幽々子自身は当初から主催者側のこの異変の意図について疑問を持っておりましたし、
 ましてこの月兎までが主催者側で暗躍している可能性は無いと思っておりました。


 その様子には警戒しながら彼女の傍へ寄り、ふと見ると、その脇に一枚の書置きがありました。
 拾い上げると、流れるような筆跡で、彼女への伝言がありました。

『私は主催者ではない。“楽園の素敵な神主”が変装している。正体は不明。
 ここは幻想郷とは違う、どこかの結界の中だと思う。私は姫様を探して守りつつ脱出への策を練る。
 武器は預かるから、ウドンゲはどこかに隠れてじっと待ってなさい。 八意永琳』

 不死の薬師から弟子への伝言。簡潔で飾り気のないものだと思いました。
 しかし、それは、家族に宛てた手紙のように、何故か暖かさを感じるものだと、幽々子は思いました。
 同時に、身を切る寒風に吹かれたかのように、その身体を抱えてしまいたい衝動に駆られました。
 自分が何かをそこに見出してしまったからなのだろうと、幽々子は理解しましたが、頭をぶるぶると振ると思考をメモの内容に追いやりました。

 成程、八意永琳は主催者ではない――嘗て考えた可能性の一つに更なる根拠が出来ました。
 八雲藍のメモの中では霧雨魔理沙の考えに近いでしょう。
 それほどあの子は勘がよかったかしら、と僅かながら微笑ましく思えました。

 そして、それは同時に、八雲藍のメモに記されていた、フランドール・スカーレットの話した八意永琳の振る舞いが、明らかに異常だという証明に思えました。
 可能性の話ならば、幾らでもそれに合ったシナリオを想像することはできたでしょうが、幽々子にはそれを受け入れるような思考は今は持ち合わせておりませんでした。
 メモの内容にはそれ以上は記されておらず、フランドールが抱いた違和感を率先して話さなかったというだけなのですが、そんなことは知る由もありませんでした。
 フランドールは真実としては不可解な事を話した。即ち彼女が偽証を以って場を乱す、善き存在ではないという事の証明なのだと、無理矢理にでも結び付けました。
 つまり、フランドールが妖夢を殺した。幽々子はそう思うことを選択しようとしたのです。

 ああ、これで、フランドール・スカーレットを殺――
180 ◆CxB4Q1Bk8I :2010/03/11(木) 20:46:36 ID:IkXaHj4J

 しかし、その一瞬心を過ぎった思考は、殺意とほんの僅かな安堵でありました。
 はっとそれに気付き、幽々子は酷く動揺しました。
 自身は妖夢を殺していないと証明するため、その殺害者である他者の存在を見出し、それを自身の手で殺すことを、自分は望んでいたということ。
 それは、あれほど否定したかった閻魔の言葉に、自分の心が強く縛られていたという証拠に他なりませんでした。
 すると、急速に、今しがた自分の導いた結論が、余りに不安定な根拠に基づいた酷く粗雑なシナリオであるように思えてきたのです。
 一度安定を取り戻したかに見えた心中は、再び拠り所を失い、逡巡の螺旋へ回帰しようとしておりました。



「う、ううっ」
 動揺を隠せなかった幽々子の思考に、不意に外界からの介入がありました。
 それが、気を失っていた月兎が小さく呻いただけだと気付くのに、僅かに時間を要しました。 

「貴女、大丈夫?」
 考えるより前に、幽々子は声をかけていました。
 今、自分に他者を気遣う余裕など無いと思っていただけに、幽々子は自分でもその行動に疑問を持ちました。
 その理由は判りません。
 混沌の思考を一度平常に戻したほうがいいと思ったのかもしれない。仲間を見つけたかっただけなのかもしれない。或いは――。
 ただ、自身も苦悩の海の真っ只中にいるというのに、もう一人の漂流者を無視することなど出来なかったのです。
 それは、閻魔を助けたことも同様、決して打算や裏の意図のある行為ではないという証明になると心の奥底で感じ、幽々子は淡い安心感を抱きました。
 

 月兎は、すぐに目を覚ましました。
 なんとも哀れな表情で、怯えた瞳を幽々子に向けておりました。
 幽々子の顔を見て、その手の武器に目をやり、再度顔を見てその思考を読み取ろうとしているようでした。
 そして、しきりに周囲を手で弄り、そこにあったはずの何かを探しておりました。
 それは、目の前の相手を殺す事のできる武器でしたが、勿論幽々子には知る由もありません。
 
「――ねぇ?」
「ひっ!」
 幽々子が声をかけると、びくりと肩を震わせ、鈴仙は再度幽々子を見上げました。
「あ、の、み、見逃して、くださっ――」
 鈴仙は声を絞り出しました。掠れた声でしたが、それを聞き取る事はできました。
 幽々子が怪訝な表情を見せても、鈴仙はがたがたを身の震えを止めることが出来ず、幽々子の顔と武器を交互に見やりました。

 幽々子は肩をすくめ、その手の武器を背中に回しました。
「大丈夫、貴女を害するつもりは無いわ」
 鈴仙の眼が、幽々子の眼を見据えました。その心中を測っているかのようでした。
 全てを狂わす赤眼も今はその力など微塵も感じられず、ただ弱々しく潤んでおりました。

「貴女宛の手紙よ、そこに置いてあったの。何があったのか、教えてくれるかしら?」

 鈴仙に、師匠からのメモを手渡すと、幽々子は出来うる限り優しく尋ねました。
 考えを揺るがされ、拠るところを求めて彷徨うその身には、孤独で臆病な兎は随分とか弱く見え、
 同時に、自分が深い思考の闇の中に囚われている事から、わずかばかりに解放された気分にもなりました。
 その時はそれが、自分が彼女に同情や哀れみを抱いているからだと、思っていたのです。


181 ◆CxB4Q1Bk8I :2010/03/11(木) 20:52:23 ID:IkXaHj4J
 つまるところ、鈴仙は、何一つわかっておらず、わかろうともせず、ただその場しのぎのように誤魔化された最善を追い、
 行き当たりばったりの自己正当化された暴走を繰り返してきただけなのでした。
 永琳からのメモを二三度読み返し、鈴仙は強い後悔の衝動に駆られました。
 もしこれが本当ならば、自分はなんということをしたのだろう。
 何も余計なことをせずに師匠と接触できれば、いや、そのまま師匠をただ見送っただけだったとしても、真実がそのメモの内容どおりならば、
 輝夜が鈴仙に課した全ての誓約もやがて意味を成さなくなり、あらゆる呪縛から解放されたかもしれないというのに。
 あれほど家族として、師弟として信頼しあった筈の仲だったというのに、鼻で笑われるような自己満足と思いつきのような正義感に駆られた暴走でそれを破壊し、
 呆れるほど繰り返してきたというのに、またも自分は最悪の判断をして泥沼を進んでしまったのだと思いました。

 しかし、同時に、本当にそれを鵜呑みにしていいものなのかという、心に張り付いた暗い思考を振り切ることも出来ませんでした。
 姫様に、自分が都合のいいことだけを真実と感じてしまうことの愚かさをを痛さによって知らされましたし、
 姫の言う脅された主催者という仮定や、その他諸々の仮説が覆ったわけではなく、ただ可能性が一つ増えただけでした。
 師匠の信頼というのも、今こうやって過去を思い返せば、ただの仮初のものであったのかもしれないし、師匠が自分に信頼をどれほど置いていたのかなど知る由も無く、
 もし普通の接触を試みたなら、どうなっていたか、それは逆に、今よりも状況が良かったという保証はありませんでした。

 自分が生かされたことでさえ、自己否定の積み重なった心ではとても前向きになど捉えることは出来ませんでした。
“無碍に摘み取りたくは無い。でも――”
 あの時の姫様の言葉が、心を圧して押し潰すほどに重いものに思えました。
 つまり、もしこの手紙が真実だとしても、鈴仙は永琳にとって連れて行くに値するわけでもなく、隠れていて生き残れば幸運だったというその程度の存在だということでした。
 それはそうだと、鈴仙は自虐的に嗤いました
 師匠にとって姫が最も大事な存在である事も、自分が師匠を殺そうとしたというのにまだ大事に思ってくれている筈が無いことも、考えずともわかることでした。
 
 そして、最悪の可能性もまた、鈴仙の心を深く抉るように浮かんできたのです。
 即ち、師匠に攻撃を加えた自分を姫が許すだろうか、という事でした。
 彼女は首輪の爆破装置を持っているのだから、その意思ひとつでこの首は胴体から切り離されてしまう。
 その瞬間は、姫が自分の師匠に対する裏切りを知ったその時にでも訪れてしまう。
 ゴクリと喉が鳴りました。冷や汗が頬を伝い、永琳の書置きにぽたりと落ちました。
 永琳を追い弁解するにも、既に彼女はどこかに立ち去っているのだから、それは出来ず、
 まして姫と先に会ってしまえば、嘘が下手な私は、交わした誓約の意味も、言い訳の余地もなく殺されてしまうのだろうと思えました。
 
「ねぇ」
 メモに目を遣ったまま固まっていた鈴仙に、痺れを切らしたのか幽々子は声をかけました。
 ぐるぐると最悪の思考の螺旋に囚われかけていた思考から引き戻され、鈴仙は顔を上げました。
「あ、ごめんなさい、あの」
 そこには、亡霊姫のどこか憔悴した、憂いを湛えた表情がありました。
 先ほど見た庭師の姿が頭を過ぎりました。何者かに命を奪われて、倒れたその姿。
 そして、彼女に着せられていた衣服――
 鈴仙は、幽々子が恐らくその死を看取ったのだろうと、思いました。
 しかし、今は、従者を失って、悲観はしていても、決して自棄になっているようには見えず、
 少なくとも鈴仙には、永琳を救おうと盲目になった輝夜より余程、彼女が正しく全てを考えているように見えました。
 その内心は、彼女と同じ、深い波間に今にも飲み込まれようとしていたというのに。
182 ◆CxB4Q1Bk8I :2010/03/11(木) 20:56:47 ID:IkXaHj4J

「何があったのか、教えてくれるかしら?」
 視線を上げた鈴仙に気付き、鈴仙の手の書置きに目を遣ると、幽々子は再度問いかけました。

「あ、あの。はい、私は――」
 鈴仙は、この殺し合いの主催者だと思った師匠に武器を向け、しかし殺すに至らず返り討ちにあった旨を、極めて簡潔に、どもりながら幽々子に伝えました。
 幽々子の持つ武器にちらちらと目を遣りながら、その表情を逐一伺いながら、師匠を見かけてからのことを順を追って話しました。
 幽々子は何か別のことを考えているかのような表情で、しかししっかりと相槌を打ちながらその話を聞いておりました。

 一通り話し終え、鈴仙が一息ついたところで、幽々子は口を開きました。

「そう、まぁ、わかりました。信じるわ。それで、この内容はどう思うの?」
 幽々子に指差されたメモにもう一度目を遣ると、鈴仙は首を横に振りました。
「――わかりません。私や姫が連れてこられているから、少なくとも殺し合いの開催は師匠の本意では無いと思うんですが」

 それは姫の考えでありました。それを言葉にしながら、自分が余りに短絡的思考で判断していたのだと、胸に刺さるような痛みを覚えました。
 永琳が自分から、家族である自分達を巻き込む筈がない。
 取ろうとした道は否定したけれど、その推察は正しい可能性があったというのに、自己の命が脅かされると同時に、
 それだけが心の中で重きを占め、それ以外のことなど、今の今まで全くもって思考の外に追いやられてしまっていたのでした。
 散々繰り返した筈の自己否定もまだ足りなかったというのか。
 永琳が自分を見捨てたのも当然、自分は師匠を救う考えなど微塵も起きず、自分勝手なその思考が自ら地獄への道を選んでいたのです。

 そして、そういった鈴仙の表情の陰りを、幽々子は捉えたようでした。
 
「貴女、何か大事なこと、知ってたり、隠したりしてないかしら?」

 極めて柔らかに、幽々子は問い質しました。
 しかし、鈴仙には、それが、自分の秘めている全ての苦悩を看過した言葉のように聞こえました。
 そして、この目の前の相手が、幻想郷でも上位に位置する実力者であるということが、ぼんやりと思い返されておりました。

 長いといえる逡巡の後、鈴仙は口を開きました。
 顔を上げた鈴仙の顔を見て、幽々子の表情に動揺が走りました。
 その表情はきっと、酷く醜く、必死だったのだろうと、思いました。

「私、脅されて、いるんです――!」

 叫ぶように言うと、鈴仙は、自分が姫と会い、彼女に脅された事を洗いざらい話しました。
 彼女が主催者についてどう考えているか、そのためにどうしたいと考えているか、自分が何をされたか、早口で捲くし立てました。

 自身が姫に科せられた呪いを言葉にしていく度に、その誓約が心を押し潰していきます。
 姫には捨てられ、師匠には捨てられ、自分は本当に一人だと、痛々しいくらいに感じます。
 一人。辛い。死にたくない。助けて欲しい。
 捨てたはずの未練は、それでも捨てきれず、鈴仙は未だ救いを求め続けていたのです。
 だから、もしそれが自分を救ってくれるのなら、全てが終わってくれるのならと、勝手な論理で嘗ての師匠にすら武器を向けることが出来たのでしょう。

 可能性が一縷でもあるなら、それに縋ろうとしたでしょう。
 もし目の前の誰かが手を差し伸べてくれるというのなら、それをどうやってでも掴んだでしょう。
 あの時、冷たく見放した、輝夜の眼。美鈴や静葉の眼。
 自分がそんな風に扱われても仕方ないのは重々承知しているというのに、たとえ幻とはいえ、誰かが手を差し伸べてくれるのなら。

 そう、誰かが。

 だから、自分が哀れである事、自分が被害者である事、すぐにも殺されるかもしれない事、助けが欲しい事、必死になって口にしておりました。
 決して自分の過ちは語らず、輝夜に脅されたのも、永琳に攻撃を加えたのも、ただ正義感の末の不幸だと、弁解めいた口調で捲くし立てておりました。
 それは一種の真実とは言え、語るには余りに見るに耐えないものだと、図々しいものだと、嘆かわしいことだと、心の中の誰かがぽつりぽつりと呟いたのでした。


183 ◆CxB4Q1Bk8I :2010/03/11(木) 21:02:29 ID:IkXaHj4J
 西行寺幽々子は、哀れな月兎の話を、半ば聞き流すような形で考えておりました。
 考えていたのは、脅迫を受けて哀れな位置に立たされていた月兎のことではなく、
 彼女が口にする、蓬莱山輝夜の八意永琳への信頼と申しましょうか、その身を案じる考え方の中に、
 何故か、自分と妖夢が互いに幸せだった遠い過去の時間を、ぼんやりと思い返していたのです。
 どこまでも美しく、遠く空虚で、泡沫の夢のような――。


「わ、私を助けてください。お願いです」
 急に近くで発せられた声に、ハッと幽々子は我に返りました。
 鈴仙は、幽々子の武器を持つ腕の袖を必死で握り締めておりました。
「姫様も、師匠も、きっと、私を捨てたんです、だから、私、もう、居場所、無くて、でも、」
 もはや言葉になってない、脈絡の無い単語の羅列ですが、鈴仙の表情は必死でした。
「死にたく、ないから、お願いです、私に出来る事、なら、なんでもします、から」

 死にたくない。
 亡霊である幽々子にはわからず、また、今の幽々子には意味の大きい言葉でありました。
 殺す事を強いられ、常に死の恐怖が付きまとっている彼女。
 殺したか、これから殺すか、二つに一つが真実として与えられた自分。

 懇願する目の前の哀れな兎の目を、再び見据えました。
 死を恐れる。彼女の瞳はその心中を雄弁に語っておりました。

「貴女、正直ね」
 ぽつりと幽々子は漏らしました。
「それくらい、正直だったら、よかったのに」
 意図せず口から出たその言葉が何のことか、幽々子にはわかりませんでした。
 ただ消えた記憶のどこかで、きっと幽々子はそのような感情を抱いた瞬間があったのだろう。
 鈴仙が怪訝な表情を見せたので、幽々子は僅かにうろたえ、袖で口元を押さえました。

「あ、あの、それってどういう」
「ねぇ、貴女、フランドール・スカーレットを見かけたかしら?」

 幽々子は、鈴仙の言葉を遮り、なんともないように問いかけました。
 鈴仙は、その質問の意図が掴めず、一瞬きょとんとしておりました。

「え、い、いえ、私は」
「私、あの悪魔を、探しているの」
 一瞬幽々子が纏った、彼女の物腰からは想像出来なかった殺気に、鈴仙は肩を大きく震わせました。
「え、あの、もしかして」
 庭師は悪魔に――鈴仙はその言葉を発するのに躊躇い、幽々子はその続きを待たずに言葉を繋ぎました。

「私は貴女の、蓬莱山輝夜の難題を解くのを手伝ってあげても構わないわ。
 といっても、三人も冥界に送るんじゃなくて。貴女が月の姫や蓬莱の薬師に殺されることがないように手を尽くしてあげる。
 ただ勿論――貴女が、私を手伝ってくれるなら、だけど」

 幽々子は鈴仙を誘いました。
 それは、いつ殺されるかもわからないという彼女を保護する事が、理由もなく他者を救うことは無いという閻魔の言う自分や法を否定する証明になると思い、
 また余りに不安定になっていた自分の選択に、こうして従ってくれる誰かがいることが、他の何よりも心の落ち着くことだと思わずにはいられなかったからなのでした。
 尤も、幽々子が閻魔の言葉から本当に解放される筈もなく、何が本当の真実か、フランドールを探してどうするか、といった問題は何一つ解決しておらず、
 失った記憶の中の自身の立ち位置に、閻魔の言うものと違うようで同一の、不安定な足場が出来るだけで、大事なことは考えるのを先送りにしたのでありました。


「――。はい。私で、よければ」
 
 鈴仙は誘いを受けました。
 それは、幽々子の庇護の下に自分を置く事で、限界と思えるまで高まった自身に迫る死の臭いから逃れようとすると共に、 
 少なくとも自分の存在を必要としてくれる、目の前の彼女に従うことで、誰からも捨てられた自分の存在を、再び安定へ向かわせたいという心の奥底の思惑がありました。
 尤も、その庇護でさえ鈴仙を死の恐怖から解放する訳もなく、姫の持つ首輪を爆破する道具の持つ力から逃れられる訳でもなく、
 再び自身の死に直面した場合は、迷いなく裏切りと逃走を繰り返すのだろうという確信めいた心中からは眼を逸らしておりました。
184 ◆CxB4Q1Bk8I :2010/03/11(木) 21:04:24 ID:IkXaHj4J


 あまりに不安定で、脆く、僅かな風で崩れてしまいそうな仮初の“仲間”は、二人、静かに、手を取り合いました。
 何処へ行くのかわからない道標を好き勝手に立てて、虚構の一つの道を共に歩き出したのです。
 それは、お互いに、誰かの代わりとしては余りに足りない、ニセモノの――



【E−4東部 一日目 夕方】

【西行寺幽々子】
[状態]健康、親指に切り傷、妖夢殺害による精神的ショックにより記憶喪失状態
[装備]64式小銃狙撃仕様(13/20)、香霖堂店主の衣服
[道具]支給品一式×2(水一本使用)、藍のメモ(内容はお任せします)、八雲紫の傘、牛刀、中華包丁、魂魄妖夢の衣服(破損)
    博麗霊夢の衣服一着、霧雨魔理沙の衣服一着、不明支給品(0〜4)
[思考・状況]妖夢の死による怒りと悲しみ。妖夢殺害はフランによるものだと考えている。
1.鈴仙と行動を共にする
2.フランを探す。探してどうするかは未定
[備考]小町の嘘情報(首輪の盗聴機能)を信じきっています

※幽々子の能力制限について
1.心身ともに健やかな者には通用しない。ある程度、身体や心が傷ついて初めて効果が現れる。
2.狙った箇所へ正確に放てない。蝶は本能によって、常に死に近い者から手招きを始める。制御不能。
3.普通では自分の意思で出すことができない。感情が高ぶっていると出せる可能性はある。
それ以外の詳細は、次の書き手にお任せします。


【鈴仙・優曇華院・イナバ】
[状態]疲労(中)、肋骨二本に罅(悪化)、精神疲労 、満身創痍
[装備]破片手榴弾×2
[道具]支給品一式×2、毒薬(少量)、永琳の書置き
[思考・状況]基本方針:保身最優先
1.幽々子に守ってもらう。
2.幽々子を手伝う。
3,輝夜の命令を実行しても自分は殺されるだろう。
4.輝夜、永琳は自分を捨てたのだと思っている。
5.穣子と雛、静葉、こいしに対する大きな罪悪感。

※ルーミア、フランドールに対してどうするかは不明
185 ◆CxB4Q1Bk8I :2010/03/11(木) 21:05:26 ID:IkXaHj4J
以上になります。
指摘等あればよろしくお願いします。
186創る名無しに見る名無し:2010/03/12(金) 13:55:35 ID:aaQilvih
>酒鬼薔薇聖戦
和やかなスタートだったはずのこいしがこんな展開に……。ロワ故しかたなしだけど。
個人的に期待してた静葉もここで落ちちゃったし。子の話で死んでしまった二人に黙祷。
すっごい個人的だけど、てゐの行動が気になって仕方ないんだが。裏切るとは思いたくないけど……。

>Ohne Ruh', und suche Ruh'
個人的には問題ないんじゃないかと。
しかし、ずいぶんとフランたちに近い位置で同盟組んだなぁ……。
どうするかは考えてないとはいえ、何があってもおかしくない展開だなー。

おふた方、投稿乙です。
187創る名無しに見る名無し:2010/03/12(金) 18:00:43 ID:eFAbwgO3
投下乙

CXさんの作品は面白い調子の文ですね
この二人のペアの今後に期待です

ルーミアもフランも近くにいる中、どうなることやら

188創る名無しに見る名無し:2010/03/12(金) 21:11:35 ID:rQb3z9Yc
お二方、投下乙。


>酒鬼薔薇聖戦

萃香かっけぇなぁ……。
最後の最期、あの言葉でこいしは間違いなく救われたはず。
きっと向こうでは楽しく過ごせるだろう。アリスだけでなく、他の皆とも一緒にね。
そして静葉、よく頑張った。
萃香を守ること、こいしを止めること、どちらも無事に果たされたよ。どうか安心して眠ってくれ。
てゐは哀れだが……命があるだけマシか。


>Ohne Ruh', und suche Ruh'

ここまで不安定なコンビも珍しいのではないだろうかw
表面上は協力しつつも、実はお互い自分のことで頭がいっぱいで、先が全く見えていない。
悪い部分の似た者同士が揃ってしまったが……果てさて、どうなることやら。

しかし、Cx氏は心理の掘り下げが素晴らしいな……。
正に感服の極み。是非見習いたいものだ。
189創る名無しに見る名無し:2010/03/12(金) 22:28:28 ID:rQb3z9Yc
連レス失礼。

>>142
分量的にwiki掲載時分割必須なので、分割点の指定をお願いしたい。
190創る名無しに見る名無し:2010/03/12(金) 22:33:17 ID:rQb3z9Yc
分量→文量だな……。
他所に誤爆するし何かもう駄目だw
191創る名無しに見る名無し:2010/03/12(金) 23:37:05 ID:s+Scw03F
>>189
いつも編集ありがとう。助かってるぜ!
192 ◆27ZYfcW1SM :2010/03/12(金) 23:52:28 ID:fMynyc6C
ああスミマセン

2分割なら
>>165から後半

3分割なら
>>154から中編
>>165から後編でお願いします
193創る名無しに見る名無し:2010/03/13(土) 00:45:58 ID:XSZLNwGW
投下乙です!

>酒鬼薔薇聖戦
いやぁ、こいし手強かったなぁ・・・。
もう正気には戻れないと思ってたから、死ぬ直前でも正気になって良かった。
・・・その代償は高過ぎたけど。
てゐも耳切られちゃって可哀想に・・・。
最初は、てゐが痛い目に遭っても自業自得って思ってたけど、
今は本当に頑張って欲しいね・・・もう間違わないで・・・。

>Ohne Ruh', und suche Ruh'
輝夜が死んだことを知ったら、鈴仙は救われるのだろうか?それとも・・・。
殺しリストにフランが加わっちゃったか・・・。
今はもう凄く良い子なんだよ・・・知らないのは無理ないけど・・・。
出会っちゃった時は・・・魔理沙!宜しく!
逆に、ルーミアは早く何とかしないと暴れ出しそうだ・・・。
194創る名無しに見る名無し:2010/03/13(土) 15:22:48 ID:uxb/jd1V
◆Ok1sMSayUQ氏の代理投下をします。
タイトルは『夜が降りてくる 〜 Evening Star』
195◇Ok1sMSayUQ氏の代理投下:2010/03/13(土) 15:24:14 ID:uxb/jd1V
「参りましたね……」

 橙色の夕日の色は、もう夜が近いことを示している。
 にも関わらず、古明地さとりと東風谷早苗は未だ魔法の森を抜け出ることが出来なかった。

 理由は単純なことだった。幻想郷に不案内過ぎた。それだけのことだった。
 地底暮らしも長いさとりに地上の地理など詳しいわけがなく、加えて標識も目印もない森の中となれば尚更だ。
 スピードを速めるために飛んでいるにも関わらず、
 逐一コンパスを見ながらの飛行なので歩いているのと変わらないくらいの早さなのだ。
 これでは何のために空を飛んでいるのか分からない。

 さとりの背中で眠る早苗の容態は、今は小康状態のようだが、決して安心できるものではない。
 人間は妖怪と比べれば遥かに脆い。妖怪は精神の病にさえ気をつけておけばよく、病気などでは死には至らない。

「だとしたら、先ほど死に掛けていたのは私ですね」

 精神の病という自分の言葉に対して、さとりは一人ごちた。
 嘘を付き、心を遠ざけ、気付いたときには既に失っていた。
 ほんの少しだけ自分にわがままになれば、簡単に手に入っていたものなのかもしれないのに。
 ずっと探していた答えを、見つけられたかもしれないのに。
 古明地こいしとの切れてしまった絆、繋がっていたはずの家族の糸を……

 仲が悪いわけではなかった。今でもこいしとは、それなりに良好な関係ではある。
 だが同族として、家族としてはあまりにも冷めた関係にあった。
 こいしが心を閉ざしてしまったことが要因であるのは間違いない。

 何故心を閉ざしたのか。何故サトリの尊厳を捨てるような真似を。
 事実を知った当初は激しく責め立てたものだった。
 今にして思えば、あの時から自分は嘘を付いていたのかもしれない。
 妖怪としての立場、尊厳。そんなものは建前に過ぎず、心を読めなくなってしまったことに恐怖を抱いていたのだろう。
 自分の掌の外から出てしまった妹に、どのように接すればいいのか分からず、対処法を失ってしまったからだ。
 所詮は嫌われ者。そうして考えることすら放棄してきた頭に、慮ることなどできようはずもなかった。

 だから逃げた。面倒見をペット達に任せ、ひたすら地霊殿の仕事に没頭してきた。
 根本的な問題を解決することから目を背け、時間が何とかしてくれるだろうと何の根拠もなく信じていた。
 そうしたところで、本当の意味で解決するはずがなかったのに。

 卑怯者だ、とさとりは思った。
 妖怪らしくなどというのは言い訳でしかなく、心と向き合うのを恐れていた。
 妹のこいしでさえ、正直に心と向き合ったというのに。

 心の強さを手に入れたいとさとりは願った。
 早苗がみんな分かり合えると何の打算もなく信じていたように。
 上白沢慧音が自らの汚さを知りながらも歩み寄ろうとしたように。
 受け身でいたくなかった。
 漫然と流されるだけで、自分の意志ひとつなく、それを仕方ないと諦めてしまいたくなかった。
 これ以上失うのが嫌だから。妖怪の尊厳なんかよりも余程大切なものがあると、ようやく気付けたから。

 そのためにもまずは早苗をどうにかする必要がある。
 自分の心の安寧のために、と言えばそうかもしれなかったが、それでいいとさとりは思う。
 純粋な善意だけで行動できるほど、自分は妖怪ができてはいないのだから。
196◇Ok1sMSayUQ氏の代理投下:2010/03/13(土) 15:25:08 ID:uxb/jd1V
 とはいえ、半ば迷ったこの状態を早急にどうにかすることが今は重要だ。
 こうしてみると、今まで迷わずに済んだのは幻想郷の地理に詳しい慧音がいたからなのかもしれない。
 全く、失ったツケは大きすぎたと嘆息するが溜息をついていても始まらない。

 しかし手段がなさ過ぎる。
 コンパスを見ながらの行軍は思った以上に遅く、その上気を抜けばすぐに別方向へと向いてしまう。
 他に手早く方角を知るには星を読むなどの方法があるが、そもそもまだ夜ではない。
 というより、太陽はどこから昇ってどこへ沈むのだったかすらさとりは覚えていない。
 地上に殆ど出たことがないのでこんなことも忘れている有様だった。

「参りましたね……」

 半ば口癖になりつつある台詞だったが、冗談で済ませられるような状況ではない。
 ましてこんな時に戦闘に巻き込まれでもしたら……
 そんなことを考えていると、突如さとりの周囲を四角形の光条が幾重にも囲んだ。

「なっ」

 罠だと感じる暇もなかった。連鎖反応でも起こすように光条はさらに連なり、グレイズする隙間すらなくなる。
 完全に閉じ込められた形となり、さとりは已む無く早苗を抱えたまま地面に降りるしかなかった。

 幸いにして――いやこんなことになった時点で不幸としか言いようがないのだが、
 光条は自分達を囲みはしているものの、それ以上動く気配を見せない。
 恐らく触れればダメージは受けるだろうが、あくまで閉じ込めているだけだ。
 ならばここには意図がある。傷つけない罠に意味はないからだ。

 圧倒的不利な状況に立たされながら、それでもさとりは冷静に周囲を観察していた。
 早苗を守るという意志があったからなのかもしれないが、それが理由なのかはまだ判然としなかった。

「誰かいますね。出てきてもらえますか」

 聞こえるかどうかは分からなかったが、取り合えず周囲に呼びかけてみる。
 これが意図的なものであるとするならば、どこかで見張っている者がいる。まずはそこに接触しようと考えた結果だった。

「流石に地霊殿の主は動じないものね」

 返答は上から返ってきた。
 見上げた先では、木の枝に腰掛けた女がいた。
 流れるような金糸の長髪に、派手な色のドレス。
 傲慢とはまるで違う、余裕という言葉そのものを体現したような物腰。
 距離は少し離れていて心は読めなかったが、誰なのかはすぐに察しはついた。

「八雲紫ですか」
「よくご存知ね」
「有名ですよ。地底では、貴女も」
「光栄ですわ」
「悪評ですが」
197◇Ok1sMSayUQ氏の代理投下:2010/03/13(土) 15:26:41 ID:uxb/jd1V
 一瞬拍子抜けしたような顔になったが、すぐに無表情に戻して「それはどうも、古明地さとり」と返してきた。
 やはり幻想郷の賢者、そうそう安い挑発には乗らないようだ。
 厄介な相手に出会ってしまったものだと思いながらも、問答無用の攻撃に晒されなかっただけ幸運だと考えるようにする。

 無論疑問は山ほどあった。こちら側が迂闊だったにしても、どうして捕縛の真似事をしているのか。
 こちらが地霊殿の古明地さとりだと気付いているのなら、自分の存在のマイナスには気付いているはずだ。
 心を読めるという事実は、それほどまでに悪影響なのだ。

 だからこそ、さとりは自分の境遇を変えようともせず、嫌われ者のままでいいと断じてきた。
 抗ったこともないから、その先にあるものを見ようとしなかった。いや、見えるはずもなかった。
 今はおぼろげにだが見える。抗った先にある、儚いけれども自分の望む未来が見える。
 故に、さとりは今だけでも自分のことを信じようと思った。

「こんなところに閉じ込めて、何用ですか」
「そうね……どうされたい?」

 紫の目がスッと細まる。それはこちらを見定める、変容を確かめんとする目だった。
 けれども、そこに一つの違和感を覚えた。こちらが試されているという感覚はなく、
 自分達を通じて紫も何かを、今まで信じられなかったものを確かめようとするような雰囲気があった。
 それが何なのかは分かるはずもない。ならば、存分に見せてやるだけだ。今はやるべきことをやればいい。

「取り合えずここから脱出させてもらおうかと。急いでますので」
「……その、人間のために?」

 流石に賢者は察しがいいようだ。今はさとりの背で気を失うようにして眠っている早苗を指差してくる。
 さとりは臆面もなく頷き、紫を見据えた。だが返ってきたのは、分からないという冷めた視線だった。

「そんな役立たず、殺しちゃいなよ」

 こちらの思惑など知ったことではないというように、この場で最も現実的かつ残酷な選択肢が差し出される。
 押し付けていると言っても過言ではない。その意志がありありと見えていたから、さとりは逆に動じることはなかった。
 寧ろ、抗うべきものの正体を定かにしてくれたことで、より鮮明にどうすべきかを判断することができた。
 特に反応もしないさとりに対して、紫が言葉を重ねる。

「その子は人間。それも大した力を持たない、脆い人間ですわ。
 何の理由があって一緒にいるのかは知りませんが、そうしていることに意味はない。
 そもそも妖怪の本分を外れている。邪魔なだけよ、そんな荷物を背負っていても。
 だから捨ててしまいなよ。そんなことよりも他にやることはいくらでもある」
「意味はあります」

 紫がつらつらと並べた理屈の数々をこの一言で一蹴できるよう、さとりは声を大にして言った。
 そして背中にある早苗の存在を確かめた。意識を凝らしてみれば聞こえる、命の鼓動がすぐそこにある。
 ただの生死以上の重さを持って、さとりの意志に火を灯してくれている。
 その安心感があるから、さとりは躊躇なく次の言葉に踏み出せた。

「人間も、妖怪も関係ありません。私は、私が望むから早苗さんを助ける。それだけです」

 理屈なんて必要ない。
 自分がそうしたいから。
198◇Ok1sMSayUQ氏の代理投下:2010/03/13(土) 15:27:44 ID:uxb/jd1V
 それだけのことでこんなにも強い意志を持てるのか。
 言い切った後で、さとりは自分の言葉に驚きを覚えていた。
 妖怪は人を襲うもの。そんな言葉に従って動いているだけの自分と比べて、なんとさっぱりした気分だろうか。

 この気持ち、貴女に分かりますか?

 今度はさとりが見定めるように、紫の瞳を覗きこむ。
 紫は僅かに顎を下げ、睥睨する顔から向き合う顔へと変わった。

「……人間なんて、役に立たないのに。勝手なことばかりして、愚かで、自分の都合だけを押し付ける」

 吐き捨てるような口調は、そうであるはずだと意固地になっているようにも感じられた。
 心を読めば、分かるのかもしれない。
 だがさとりに心を読むつもりはなかったし、そうする必要もなかった。
 上辺の理屈や論理を、盲目的に納得するつもりがなかったからだ。

 心を読めば正論は考えられるのかもしれない。だがそれが何を動かす?
 現に自分だって、早苗の正直で誠実な気持ちに惹かれてきたではないか。
 心を読む能力を否定するつもりはない。けれども、それだけに自分の全てを任せる気もない。
 さとりは自分が感じていることを、正直に告げた。

「その一面があるのは確かです。でも、それが全てではないでしょう?」

 嘘をついてきた自分。嘘は欺瞞と悪だと断じていた自分を、早苗は嘘で人が救えることもあると言ってくれた。
 嘘も方便。言葉にしてしまえばそれだけのことだったが、それを素直に信じさせてくれる力が早苗にはあった。
 紫の言うように、自分達妖怪を騙し虐げてきた人間もいるなら、早苗のような優しさを持つ人間だっている。
 それは人間に限らない。ここにある存在は全てが別々で、なにひとつとして同じではないのだということを、さとりは知った。

「役に立つ、立たない、そんなことは些事です。私は早苗さんが必要だから――友達だから、助けたい。
 やるべきことがあって、それが二の次だとは言いません。ですが、切り捨ててしまえば失くしてしまうんです。
 失くしてしまったら、もう何も戻らないし、取り戻せない。
 気付いたときには、それが大切なものだったということを思い知らされて……」

 紫の瞳が僅かに揺れ、困惑の色を宿したのが見えた。
 言い負かされたという風ではなかった。ただ、どうしてと誰かに問いかけているようでもあった。
 気が付けばさとりを取り囲む光条は薄れ、もう十分に通り抜けられる隙間ができていた。
 今ならば十分に逃げ出せるだろう。だが、取り立てて足早に逃げる必要はなさそうだった。
 いつの間にか木の枝から地面に降り立っていた紫が、もうこちらを拘束する気はないと証明していた。

「貴女まで、そう言うのね」

 僅かに見えた紫の心の中には、一抹の寂しさが窺えた。
 いや読むまでもなかった。顔に刻まれた苦笑が、寂しいと感じさせるのには十分すぎた。
 これが本当に妖怪の賢者か? そう思わせるほど、紫の姿は見た目相応の少女ほどに小さくなっていた。

「行きなさい。もう貴女達に興味はない」

 そう言い残し、去ろうとする紫。
 その背中に「待ってください」とさとりは呼び止めた。
 反射的に呼び止めてしまったのか、それともこのまま行かせてはならないと思ったのか判断はつかなかったが、
 やってしまったことは仕方がなかった。
 動きを止めた紫に対して、どう言ったものか数瞬悩んだ挙句、さとりはこう言ったのだった。

「実は今、道に迷ってまして」

     *     *     *
199◇Ok1sMSayUQ氏の代理投下:2010/03/13(土) 15:28:49 ID:uxb/jd1V
「参ったわね……」

 この状況に対して、或いはまたここに戻ってきてしまったことに対して、紫は何度目かも分からない溜息をついた。
 こんなことをしている場合ではないのに。
 一刻も早く盤上から抜け出し、ゲームをひっくり返さなければならないのに。
 進むどころか逆戻りしているではないか。

 双六に例えれば、賽を振ったら逆方向に進んでいるようなものだった。
 釈迦の掌から抜け出す奇想天外……と考えれば格好はつくが、それまでから考えればただ流されたようなものだった。
 森近霖之助はどう思うだろうか。滑稽と笑うか、それとも嗤うか。
 詮無いことだと分かっていながらも、紫は霖之助の姿を思い出さずにはいられなかった。

 どうして。
 どうして、謝ったりした。
 契約なんてただの言葉遊びだったのに。

 あの時交わした、いつもの何気ないやりとりが今は重石となっている。
 八雲紫を、より小さくする。
 自分は無力で、孤独で、ただ虚勢を張っているだけなのだと。

 飾り立てていたメッキは剥がれ、畏れられる大妖怪の姿などどこにもありはしない。
 そうなのだろう、と紫は納得もしていた。我が式神に守られ、博麗の巫女を止めたのは人間と妖怪のハーフで、
 挙句の果てには人間ごときに仲間になれと説得される始末だ。

 どこが、大妖怪か。
 霧雨魔理沙と分かれてきたのは半ば意地を張ったのかもしれない。
 人間に過ちを認め、人間と同じ位置に立つなど。

 拒否しなければならなかった。
 妖怪は人間を見下すもの。
 自分達より遥かに脆弱で、僅かな年月で死に、その上狡猾で愚か。
 理屈の上で考えれば、自分のような存在が上位であることは明白だ。見下して当然。

 だが古明地さとりはその理屈を違うと言った。
 毅然とした態度で言い放った、私は私の意志に従うという言葉が、魔理沙とひどく重なった。
 自分と同じ妖怪までもが紫の論理を否定したのだ。

 いや、と紫は自分の言葉を否定する。
 紫の論理ではない。幻想郷の論理、だ。
 結局のところ、自分で考えた言葉などどこにもありはしない。
 誰かの言葉を借り、それを正しいと言い張っていただけのことなのだろう。
 あまつさえそれを認めず、魔理沙の元から去った。
 愚かなのは、どっちだ。
200◇Ok1sMSayUQ氏の代理投下:2010/03/13(土) 15:29:53 ID:uxb/jd1V
 けれども一方で、幻想郷を知る紫の存在が、幻想郷の論理を簡単に否定してはならないと言っていた。
 人間は妖怪を退治し、妖怪は人間を喰らう。
 その基本形を元に、人間と妖怪は反目し合うものとして幻想郷のルールは構築された。
 そうしなければ、妖怪は何のために生きているのか分からなくなってしまう。

 妖怪の寿命は長い。その上大体のことは簡単に出来てしまう。
 人間のように仕事や趣味に生き甲斐を見出せるほど単純でもない。
 だからある程度の争い、戦いが必要だった。
 規模はどうでもいい。ただ人間の平和が長くは続かないように、必然として争わせる必要があった。
 敵として見る相手がいれば、取り敢えずはそれに対抗心を燃やし、暇を潰せる。
 現在のスペルカードルールはこれらの構想を元に構築されたものだ。
 言わば戦争ごっこ。日常の遊びであると同時に、妖怪の本分を全うし、飽きもしない。
 人間と妖怪は戦い続けることで存在できる。
 戦いをやめた瞬間、妖怪は膨大な時間に押し潰され、死に至る道を進むだけだというのに。

 自らの考えが上手くいっていたからこそ、紫はさとりの言葉が、魔理沙の言葉が信じられなかった。
 妖怪が戦わず、人と手を取って生きてゆけるものか。
 ――だが、その論理も、自分が抜け出さなければならない盤上の論理ではないのか。
 ルールから逸脱しなければならないと言っておきながら、その実縛り付けられているのは誰か。

 自分が愛し、創ってきた幻想郷。
 友人を、我が式神を奪い、殺せと命じる幻想郷。
 どちらを信じ、どちらに相対すればいいのか。
 言葉を全て弄び、その深くまでを考えてこようとしなかった紫に、無条件の信用など出来るはずがなかった。
 だからこそ、疑うことしかしてこなかったからこそ、霖之助も藍も死んだのではないか。
 自らの失策のツケを代わりに支払う形で……

 しかし理屈で考えれば考えるほど、袋小路に入り込む。最終的に殺しあうのが一番の解決策だという結論に達する。
 ゲームなどひっくり返さなくていい。ここが幻想郷であるなら、そのルールに従っていればいい。
 霖之助も藍も、仕方のないことだったのだと、愚か者の当然の結末なのだと笑えばいい。
 それが、正しいことなのだ。
 は、と紫は嘲け笑った。とどのつまり、自分も同じだ。
 霊夢と同じ立場でしかない。

「う……」

 それを自覚した紫の膝元で、汗ばんだ顔が苦悶の表情に変わっていた。
 東風谷早苗だ。道に迷ったというさとりを永遠亭まで案内する羽目になり、そればかりかこうしてお守りまで任される始末。
 移動してきた車はさとりが運転出来ないのと、紫が腕が使えないというので今は放置しておくことになっていた。
 つくづく外の世界の知識があった霖之助の存在が貴重だったと思い知らされる。

 さとり自身は現在永遠亭で薬集めに奔走している最中だった。
 何故紫がお守りを任されたのかというと、目ざとく腕に残る毒の傷痕を見つけられたからだった。
 曰く、「薬を途中で落とされたら困る」とのことだった。
 ならばと紫は「私がこの子を殺すかもしれないわよ」と言ってみたのだが、さとりは何食わぬ表情で、

「『興味はない』んでしょう?」

 と言ってきたのだ。心を見抜くさとりのことだ、本当に脅威はないと判断したのかもしれない。
 けれども、何を下らないことを、とでもいうようなさとりの顔は読心能力を使ったものとは思えず、
 紫に苦い気持ちを抱かせたのだった。
201◇Ok1sMSayUQ氏の代理投下:2010/03/13(土) 15:30:50 ID:uxb/jd1V
 そんなに、今の自分は虫も殺せないように見えるのだろうか。
 早苗の表情は苦しそうで、傍目にも熱が酷いことが分かる。
 たかが病気のひとつで、こんなにも苦しむ。
 早苗の首に爛れていない方の手をかける。柔らかな首筋の感触と、手袋越しでも伝わる熱。
 ほんの少し手に力を入れ、締め上げれば……この人間は死ぬ。

 スッ、と腹の底が冷たくなった。

 ここは幻想郷で、

 八雲紫は妖怪で、

 東風谷早苗は人間だ。

 簡単なことだ。
 もう失うものもない。
 愚か者が選ぶ道としては出来すぎているが、
 それでも、幻想郷がそうしろと言うのなら――

「お母……さん……」

 その瞬間、紫の口から声にならない声が漏れ、指が震えた。
 お母さん。そう言ったのは早苗だ。
 上気した顔はまだうなされているとしか思えず、この言葉も寝言に違いない。

 なのに、どうして、自分が震えている?

 理性ではただの寝言だと分かっていても、紫の頭は揺れるばかりだった。
 たかだか家族の名前を呼んだだけではないか。自分が呼ばれたわけもない。
 布団にくるまっているから、体が昔のことを思い出して、そういう夢を見ているだけなのだ。
 自分なんて何一つ関係ない。

 それなのに、
 泣いているのは、どうして?

 家族と呼べる者がいることに対する羨望なのだろうか。
 孤独すぎる我が身を、改めて思い出した結果なのだろうか。
 ここ数百年以上泣いたことなんて、なかったのに……

 泣いてはいけない。
 大妖怪が泣くな。
 泣いたところで誰が慰めてくれる?
 慰めてくれたところで、自分にそれを受け入れる資格があるか?

 理性は次々に語りかける。それでも洪水のように押し寄せる感情の波を制御することが出来ない。
 ご無事で、何よりです。
 契約を守れず、済まなかった。
 彼らの言葉が蘇る。
202◇Ok1sMSayUQ氏の代理投下:2010/03/13(土) 15:31:52 ID:uxb/jd1V
 なぜ、私に気をかけるの?
 私は自分から離れていったのに。

 簡単なことだった。
 霖之助は友人で、藍は家族だったから……
 孤独なんかじゃない。
 その思いが理解と共に広がり、それを受け入れることが大妖怪の尊厳をなくすと分かっていながら、紫は拒むことをしなかった。
 そうしなければいけないと思った。思い出まで捨てることが、どうしても出来なかった。
 今家族と呼べる者が誰一人としておらず、帰るべき場所に誰もいなかったとしても。

「うぅ……」

 それは早苗も同じか。
 さとりから聞いた。正確にはこれまでのいきさつを聞く中で話題に出てきたのだが、
 守矢の神々も既に息途絶えたらしい。
 八坂神奈子は放送を聞いて知っていたが、洩矢諏訪子も命を落としたのだという。

 しかし早苗は辛さをおくびにも出さず、行動を続けていたらしい。
 人間の癖に意地を張る。そう思う一方で今は、それが人間の強さなのかもしれないとも思った。
 人間は集団を作る。そうしなければ生きられないからだと思っていた。

 けれども、それは一つの側面を切り取ったに過ぎない。
 たとえ何かを失っても、また欠片を繋ぎ合わせてやり直そうとする気持ちを持っているから、寄り集まるのかもしれない。
 それは、紫の考える妖怪という存在が持たないものだった。

「でも、それも違う」

 妖怪も同じだ。その気になりさえすれば、人間と同じく寄り集まれるのに。
 どうして今まで自分は気付かなかったのだろう……
 紫は手を早苗に伸ばし、ゆっくりと汗ばんだ額を撫でた。
 ん、と僅かに身じろぎして、早苗はふにゃっとした笑顔になった。
 釣られて、紫も微笑していた。涙はもう出ていなかった。

 早苗はきっと夢の中で、母親の姿を見ているのだろう。
 紫と早苗は、赤の他人でしかない。

 でも、せめて、今この時だけは。

 紫が望んで止まなかった、家族でいたかった。
203◇Ok1sMSayUQ氏の代理投下:2010/03/13(土) 15:32:59 ID:uxb/jd1V
【F-7・永遠亭 一日目・夕方(限りなく夜に近い)】

【八雲紫】
[状態]正常
[装備]クナイ(8本)
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0〜2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記、バードショット
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
 1.八意永琳との接触
 2.ゲームの破壊
 3.幽々子の捜索
 4.自分は大妖怪であり続けなければならないと感じていることに疑問
[備考]主催者に何かを感じているようです
    ゲーム破壊の手を考えついています


【古明地さとり】
[状態]:健康
[装備]:包丁、魔理沙の箒(二人乗り)
[道具]:基本支給品、にとりの工具箱
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.少女薬剤捜索中・・・
2.ルーミアを止めるために行動、ただし生存は少々疑問視。出会えたなら何らかの形で罰は必ず与える。
3.空、燐、こいしを探したい。こいしには過去のことを謝罪したい。
4.工具箱の持ち主であるにとりに会って首輪の解除を試みる。
5.自分は、誰かと分かり合えるのかもしれない…
[備考]
※ルールをあまりよく聞いていません(早苗や慧音達からの又聞きです)
※主催者の能力を『幻想郷の生物を作り出し、能力を与える程度の能力』ではないかと思い込んでいます。
※主催者(=声の男)に恐怖を覚えています
※森近霖之助を主催者側の人間ではないかと疑っています


【東風谷早苗】
[状態]:重度の風邪、精神的疲労、両手に少々の切り傷、睡眠
[装備]:博麗霊夢のお払い棒、霧雨魔理沙の衣服、包丁、魔理沙の箒(二人乗り)
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置(少なくとも四回目の定時放送まで使用不可)、
    魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)、上海人形
    諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙
[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.さとりと一緒にルーミアを説得する。説得できなかった場合、戦うことも視野に入れる
2.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる
204創る名無しに見る名無し:2010/03/14(日) 09:35:33 ID:XSOQjCIJ
代理投下乙

>夜が降りてくる 〜 Evening Star

新たな対主催チーム結成か、今後が楽しみだ
しかし、直後の放送でこいしの名前が呼ばれたらどう反応するかな
無邪気な早苗さんがかわいい、考察・癒しがそろった良チームですね

起承転結がそろった良い構成です。
今後の参考にしたいな・・・
205創る名無しに見る名無し:2010/03/14(日) 16:09:13 ID:J5hrU8Kc
皆さん乙です

>Ohne Ruh', und suche Ruh'
物悲しい雰囲気作りが巧すぎる
こういう地の文の作り方はすごいなぁ
しかしあまりにも危うすぎるチームが出来たよ…
いつ爆発してもおかしくないぞ、これ…

>夜が降りてくる 〜 Evening Star
種族間の考えの違いとかを改めて浮き彫りにしてくれた良作かと
さとりも変わったなぁ…もちろんいい方向に、だけど
そしてさり気なく制限解除装置と紫が同居(まだ当分使えないけど)
それを脱出の一手段として模索していた時期が確かあったけど…紫は素直に使うだろうか
206創る名無しに見る名無し:2010/03/21(日) 21:24:09 ID:lMF5Sd5D
一週間レス無いと不安になるな
207創る名無しに見る名無し:2010/03/21(日) 21:56:44 ID:fR4Ua9Ab
やっぱり皆DSに夢中なんだろうなぁw
208創る名無しに見る名無し:2010/03/21(日) 22:47:37 ID:DJ6kx9mu
そろそろ書きたいと思ってるんだけどね
なにかきっかけがあれば書くんだが
今の状況をまとめてあるとか チラッ
209創る名無しに見る名無し:2010/03/21(日) 23:17:53 ID:HA0f3ia9
210創る名無しに見る名無し:2010/03/23(火) 00:45:31 ID:WOVKH3mq
ダブルスポイラー異変
211創る名無しに見る名無し:2010/03/23(火) 01:41:06 ID:puUqvksx
まだ昼間のレミリア・咲夜・リリカが動かないからねぇ
とっくに予約の期限は過ぎてるけれど、空気を読んでるのかも
放送直前まで進んじゃったパートもあるから下手に他のところは書けないでしょ
212創る名無しに見る名無し:2010/03/23(火) 17:34:14 ID:CivtOCwR
どうでもいいことですが、このフィールドでは地底世界はどうなっているんだろう?
213創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 04:06:11 ID:qX2n3OcG
幻想郷そのものだから地図にはないけどちゃんと建物は存在しているはず
だから神社には温泉あるし
冥界の門をくぐれば冥界に行ける
月は分からないけどかっぱの里とか天狗の里も一応存在している
まあ書き手が個々にあるって書けば地図に乗るみたいな?
214創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 06:45:01 ID:K88D25tU
そこではたてを取材目的でだせば…
215創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 18:43:47 ID:eE/kEhMf
>>213
幻想郷を模した、永琳曰く「出来の悪い偽物」じゃなかったっけ?
少なくとも、月と星の動きが作りものだっていう記述はあったはず
もっとも、冥界やら地霊殿やらは書き手の方々次第でどうとでも作れそうだけど

>>214
星組さえアイテムでしか出ていないのに登場は厳しいだろw
もう未識別アイテムも少ないからカメラも無理なんじゃなかろうか
216創る名無しに見る名無し:2010/03/26(金) 17:06:50 ID:dtIiMoMO
地霊殿は今回の地図上にもないし、
もしSS上で出たら新規に地図を描く必要があるから出ない気がする

そういえば魔理沙とフランも動いてないよね
このままだと二人のいるエリアが禁止エリアになってズガンするしどうなるか
217創る名無しに見る名無し:2010/03/30(火) 18:44:45 ID:0UfBvnvS
魔理沙とフランはあんまり問題にはならない
SS間の合間に移動したみたいな描写さえあればおk
218創る名無しに見る名無し:2010/03/31(水) 13:22:40 ID:lN1P3+XO
そもそもまだ夕方の2時間はまるまる残っているからねぇ
あのまま放送に突入するとは思えない
他の誰かと絡むかどうかはともかく、もう1回くらいは書かれるんでないの
219創る名無しに見る名無し:2010/04/07(水) 22:22:31 ID:pZOTH8Lp
止まってるよおい!
220創る名無しに見る名無し:2010/04/08(木) 17:41:20 ID:AyK0T4+9
ここは誰かつなぎの話でも書いてくれるといいが・・・俺は無理だし
221創る名無しに見る名無し:2010/04/09(金) 02:59:52 ID:IyIKqT4/
放送のこともそろそろ考えるべきかな
放送書きたい人は予約にGoで
222創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 00:07:20 ID:ZSzuqr6N
食料も底をついてきたし、さて魔理沙様が普通の食えるキノコを探してやるぜ。
今日はなんとキノコグラタンだ、他の食材はおまえらが集めてくれよ。
的な話とかw
223創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 10:19:31 ID:nci99RBD
「えー、今から、TBRUを始める!」
「はい!!」
丸い耳をした、女の子が真っ先に、手を挙げた。
「ナズーリンくん!!」
「あのね…。」
ナズーリンが言いかけたその時!!
ウウウウウウウウウウウウウウウウ!!
サイレンが鳴った。
「ちっ、あれか・・・」
フランドール・スカーレットがルールを破りました!!
フランドール・スカーレットがルールを破りました!!
放送が入った。
「TBRUは中止だ!!」
「これから、どうするんですか?」
「フランドール・スカーレットを殺すのだ!!」
「エエエエエエエエエエエ!!??」
一方、フランはのほほーんと歩いてた。
ドンドンドン!!
弾幕が襲った。
崖っぷちに立っているのは、逆光を浴びているので、顔はよくわからない。
「だれだ!?」
「みんなのアイドル、小笠ちゃんで〜す!!」
「・・・」
その頃、レティ・ホワイトロックはサニーの力でフランを監視していた。
サニーはどんどん、力を消耗しかけている。
「もう・・・だめ・・・です〜」
「頑張って!!」
レティがそういったとき、サニーはポトッと落ちた。
「サニー?サニー!?」
サニーを消耗してしまったのだ。
「・・・」
レティは首輪についている、ボタンを押し、サニーを爆発させた。
「!?」
効果が切れ、小笠に見つかってしまった。
「死ねー!!」
小笠はそういうと、フランに2発、レティに一発打った。
レティはよけたが、タイミングが合わなかった、フランに2発あたってしまった。
バタ!!
フランはその場で倒れてしまった。
レティはその場で倒れてしまったフランに近寄った。
「しっかりして!!フラン!!」
しかし、フランはその場で息絶えてしまった。
レティはフランの亡骸を袋に入れ、その場に放置した。
隠れている、小笠はピースサインをして、逃げてしまった。
【フランドール・スカーレット 死亡】
【残り22人】
224 ◆lPhDSgFVvw :2010/04/11(日) 15:31:13 ID:qesG5i7M
お久しぶりです
いきなりですがどこに投下すればいいか分からなかったので本スレに投下したいと思います

タイトルは希望を胸に です
225 ◆1gAmKH/ggU :2010/04/11(日) 15:31:55 ID:qesG5i7M
東方バトルロワイアル    最終話 希望を胸に
                           ◆1gAmKH/ggU
   全てを終わらせる時……!                   wiki掲載予定は未定です。

魔理沙「チクショオオオオオ!!くらえ小町!必殺ファイナルマスタースパーク!」
小町「さぁこい魔理沙ァァ!私は実は重要人物を殺すつもりはさらさらないぞォォ!」
   ピチューン
小町「グアアア!こ、このザ・サボリと呼ばれるマーダーの小町が……こんな白黒に……バ……バカなアアアアアア」
   ┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"
四季「小町がやられたようだな」
射命丸「フフフ……奴はマーダーの中でも最弱……」
レミリア「人間ごときに負けるとは幻想郷の面汚しよ……」
ルーミア「なのかー」
魔理沙「くらええええ!」
   ピチューン
「「「「グアアアアアア」」」」
魔理沙「やった……ついにマーダーを倒したぞ……これで主催者のいる城の禁止エリアが解かれる!!」
   ハァハァ
ZUN「よく来たな普通の魔法使い霧雨魔理沙……待っていたぞ……」
   ギィィイイイイイイ
魔理沙(こ……こいつが主催者だったのか……!感じる……この男の魔力を……」
ZUN「魔理沙よ……戦う前に一つ言っておく事がある。お前は私に何か特別な力があると思っているようだが……別にそんな物ない」
魔理沙「な、何だって!?」
ZUN「そしてお前以外の生き残りはなんか可哀相だから元の世界に解放しておいた。あとは私を倒すだけだな。クックック……」
魔理沙「フ……上等だぜ……私も一つ言っておく事がある。
     私は霊夢と決着をつけなきゃいけないようなフラグが立っていた気もしたが別にそんなことはなかったぜ!」
ZUN「そうか」
魔理沙「ウオオオいくぞオオオ!」
ZUN「さあ来い魔理沙!」

魔理沙の勇気が幻想郷を救うと信じて……!
ご愛読ありがとうございました!
226創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 15:34:56 ID:qesG5i7M
以上です!
トリ間違えたりもしたけど投下できてうれしいです!!



このスレは何か他の所には無い堅苦しい雰囲気が蔓延していると思ってむしゃむしゃしてついやってしまった
反省はしているが後悔はしていない
227創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 15:43:39 ID:n8DhGlvj
そうだね、プロテインむしゃむしゃだね
228創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 18:45:53 ID:GUfoTl3N
if 二次設定がフリーダムだったら
てるよ:動くのがイヤだったんで、パルパルをパシリにしようと声をかけて殺される
ドリキャス:食欲>ロワ。で、妖夢の死にもそんなに落ち込まない。
オリキャラ妹:お燐に掴みかかり、ホイホイに見取られる役はこいしに変更。
       本人は台詞も無く爆発に巻き込まれる。
うー☆:れみりゃとして参戦。キスメのペットとして癒しキャラに。

……原作設定のみでほんと良かったよ
229創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 19:15:51 ID:BfXkMI7a
魔理沙がモテモテすぎてフラグ製造機と化すな
230創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 21:38:46 ID:dsbhQexB
とりあえずレミリア関係はしばらくしたら来るとして
残りはダブルH、ルーミア、魔理沙組、四季映姫、か
231創る名無しに見る名無し:2010/04/12(月) 01:31:13 ID:7bsIkrk0
232創る名無しに見る名無し:2010/04/17(土) 07:09:51 ID:BqqF37QK
(´・ω・`)

ageたら?
233創る名無しに見る名無し:2010/04/17(土) 18:21:36 ID:AhoiSXhM
後何日かで30R氏の作品か・・・

更新ないなあ
手伝いたいけど時間のない自分が情けない
234創る名無しに見る名無し:2010/04/18(日) 16:17:47 ID:U4qjWoha
この段階で新規の書き手は厳しいか?
前は少し来てくれたけど?
東方に詳しい人間が来てくれたらなんとかなりそうだが…
235創る名無しに見る名無し:2010/04/19(月) 03:40:22 ID:461sswAZ
ニコニコ動画とか創想話とかで宣伝すれば来ないこともない
だが荒れる可能性も高いから悩みどころ
236創る名無しに見る名無し:2010/04/19(月) 04:03:33 ID:SAARRM7T
このロワを題材にMAD作ったらどうなんだろうか?
俺はちょっと無理
237ハルリン!:2010/04/19(月) 18:30:00 ID:RkbZl/au
あの、いまわしい、事件から、3年後、幻想郷は平和になった。
しかし、また、幻想郷に、悪が訪れることになった。
凶悪テロ集団、『マスター7』が行動をし始めた。警察では、危険度を、0から、9に上げ、ZUN氏はある、計画を始めた。
BRU
第一回、BRで生き残った、人たちが、挑戦する。
BRU、書き込みメンバー、募集中!!
238創る名無しに見る名無し:2010/04/19(月) 18:33:31 ID:UEcO5Ygr
まだバトルロワイヤル終わってないじゃないですかー!(サニーAA略)
239創る名無しに見る名無し:2010/04/19(月) 20:01:29 ID:iXcQciX/
>>235
参考になるかは分からないが
俺は産廃から誘導されたクチだ
240創る名無しに見る名無し:2010/04/19(月) 20:47:40 ID:461sswAZ
時間があれば作るんだが時間がない
そしてMADを作る技術はなくはないが、デザインが無い
BGMもない 絵もかけないことも無いがめんどくさい
俺ってダメダメだな
241創る名無しに見る名無し:2010/04/20(火) 01:34:08 ID:tm6808ZQ
ニコニコでパロロワでタグ検索すればその手の動画がヒットするよ
(と言っても七色のニコニコ動画とかの替え歌が殆どだけど)
もっとも俺にはセンスが全くないから何もできないけど
242創る名無しに見る名無し:2010/04/20(火) 01:40:55 ID:za1kvZET
他ロワがどうであれ東方ロワは終了までMAD作るべきじゃないと思う
アリスの時みたいに変なのが湧いて作者さんが減ると困るし
243ハルリン!:2010/04/21(水) 17:54:52 ID:Sy36HgeT
紫は持っていた、SPAS12で早笛を殺そうと思っていた。
ついに、SPAS12の引き金が押される。
バァン!!
銃の音がした。弾は紫の心臓をきれいに破り、三月精の木に刺さった。
「フハハハハハハハハ!!」
誰かの叫び声が聞こえた。男性だ。りんのすけはもう、すでに、死んでるし・・。
【八雲 紫 死亡】
【残り、21人】
【紫の死体が入った、袋は三月精の木の根元に置いて、あります】
【SPAS12は早笛が持って行きました】
244創る名無しに見る名無し:2010/04/21(水) 21:11:14 ID:0hjfzGXd
予約きたな
あの2人とは期待大
245創る名無しに見る名無し:2010/04/21(水) 21:16:10 ID:VUqmK8Ut
次回は霊夢が速攻で殺されて
それを目撃してショックを受けた魔理沙が人間不信のマーダーになる方向で
246創る名無しに見る名無し:2010/04/22(木) 00:15:18 ID:MDONnrS1
しかしそろそろ放送だ
放送が終わったら自由にしていいがそれが終わらないと制限が多いんだよね
247創る名無しに見る名無し:2010/04/22(木) 14:24:17 ID:KXTCI45E
>>245
現状では魔理沙のそれはないと思うな。
あっても放送後だろう。
それに、魔理沙も魔理沙で放送までに禁止エリアから脱出しなきゃならんし。
248創る名無しに見る名無し:2010/04/22(木) 14:27:34 ID:KXTCI45E
>>247
すまん、間違えた。
×禁止エリア
〇禁止エリア予定区域

あそこはまだ禁止エリアじゃなかった。
249 ◆Ok1sMSayUQ :2010/04/22(木) 21:53:29 ID:ChRt0mrS
 アリス・マーガトロイドの家は、薄暗い魔法の森にあるにしてはやけに明るい。
 そういう立地条件を選んで居を構えたのかもしれないし、たまたまそうだっただけなのかもしれない。
 とにかく、まあある意味、彼女のお陰で、博麗霊夢は現在の時刻が夕方なのだと窺い知ることができた。

 差し込む夕日が小野塚小町を照らし、影を作る。
 ちょうど頭の部分の影が霊夢の足元にかかっていた。ナイフで詰めるには少し遠い。
 それを意識して小町も距離を保っているのだろう。彼女は仕事熱心というわけではないが、能力はある。
 そして自分は狭い家の玄関に立たされている。簡単に避けられはしない。
 手持ちの武器ではどうにもならないと判断した霊夢は、ナイフを逆手に持つとそのままポトリとスキマ袋に落とした。

「ふうん、流石に状況を見極められるだけの余裕は取り戻したか。ふらふら彷徨ってたのを見たときはどうしようかと思ったけどねぇ」

 こう、幽霊みたいにさ。そう付け加え、おどけてみせた小町に、霊夢は一瞥を返しただけだった。
 冗談も皮肉の一つも言い返さない霊夢に、やれやれと頭を掻いた小町もトンプソンを下ろし、
 「ま、世間話はここまでにして」と前置きして続ける。

「単刀直入に聞くよ。あんた、もう殺してるだろ?」
「ええ」

 僅かな逡巡もなく霊夢は頷いた。それは事実だし、第一この血糊を見れば明らかな話だった。
 小町が人を殺したかどうかの是非を問うていないことは分かった。そもそも認めない立場なのなら、とっくに殺されている。
 私を利用したいのだ、と霊夢は当たりをつけた。殺せる人物を、小野塚小町は必要としている。

「なら話は早い。あたいと組まないかい、博麗霊夢」

 今度は流石に即答できなかった。
 ある程度想像の範疇だったとはいえ、こうもストレートに切り出すとは思わなかった。
 こちらを睥睨する小町の顔は、影に隠れていまいち判然としない。
 真顔なのか、笑っているのか、それとも?

 少し考えた霊夢は、ここで小町と組んだ場合についてのメリットを上げてみた。
 まず単独で戦う必要がなくなることが大きい。
 霧雨魔理沙と戦ったときに実感したことだが、複数に同時対応するのは難しい。
 本来なら回避することなど造作もないはずのフランドール・スカーレットの攻撃だって直撃してしまった。
 八雲紫の介入がなければ捕縛されてもおかしくはなかったのだ。
 そのことを考えれば、援護を期待できる上に戦力も分散させられるメリットの大きさは値千金だ。
 だが一つ、決定的な疑問点があった。

「あんたが私に協力する理由が分からない」

 この一点に尽きる。同じ幻想郷の住人とはいえ、小町とは知り合い程度の仲でしかない。
 霊夢からしてみれば、例え手を組むにしても小町は候補に上がらない。その程度のものだ。

「お前さんが幻想郷に必要な人間だからさ。でなけりゃ、とっくに冥土送りにしてるよ」
「私が博麗の巫女だから助けたと?」
「察しが良くて助かるね。お前さんは優秀な巫女だし、博麗大結界の管理者だ。生かす価値はあるし、手を組む相手としても申し分ない。
 あたいの欲しい人物像と一致するってわけさ。守りながら殺してく、ってのは性に合わないし、難しいからねぇ」
250 ◆Ok1sMSayUQ :2010/04/22(木) 21:54:16 ID:ChRt0mrS
 あっさり殺すと言ってのけた小町に目をしばたかせた霊夢だったが、
 死神である小町の立場を考えればその選択も当然なのかもしれなかった。
 彼女にとっては、死など重たくもない。ただ誰を選び、誰を捨てるかということしか頭にない。
 魔理沙のように、命そのものに拘ってなどいない。
 その意味では霊夢と小町は同質だった。

「その言い方だと、他にも生かしたい奴はいるみたいね?」
「そりゃね。冥界のお嬢様は幽霊の管理に必要だし、地獄の閻魔様だって必要だ。他にも……まあ、お前さんなら分かるかな」

 そういうスタンスか、と霊夢は納得した。
 要は、幻想郷を維持できるだけの人材を生かしたいのだ。
 ますますもって似ている。どうあれ、幻想郷のためにという目的は全く同じなのだ。

「じゃ、一つ聞いていいかしら」
「なんでも」
「その中に、あんたはいるのかしら」

 愚問を、とでも言いたげに小町は唇の端を歪め、肩を竦めた。

「仕方のないことさ。あたいみたいなのは代わりはいくらでもいるけど、四季様とかの代わりはいないんだからね」
「死ぬのが怖くないの?」
「別に……死んでも、まあ多分虫くらいには生まれ変われるだろうさ」

 諦めたようにしながらも、僅かに目を逸らしたのを霊夢は見逃さなかった。
 死ぬのが怖くない、というわけではなさそうだ。仮になかったとしても、多少の未練は残しているということなのだろう。
 或いは、自分の立場そのものに対して迷いを抱いているのか。

 幻想郷のため、というのも建前に過ぎないのかもしれない。
 本当は上司である四季映姫を守りたいだけというだけなのかもしれない。
 どれでも関係のないことだし、深入りするつもりはなかった。
 それに、小町は一つ勘違いをしている。

 代わりなんていくらでもいるのだ。

 冥界の管理者も、地獄の閻魔も、博麗の巫女でさえも。
 幻想郷に絶対必要な存在なんてどこにもいない。
 だから、自分達は殺し合わされている。
 どこかにいる誰かが望む、何らかの目的のために。
 それが何なのかを確かめるつもりはなかった。
 自分はただ異変を解決するという『役割』を果たすだけだ。

 霊夢は、だから自分は私情で動いているのではないし、この哀れな小町とも、
 いくらでも代用の利く命を守ろうとする魔理沙とも違うのだと断じた。
 森近霖之助を殺したのは『博麗霊夢』ではない。
 あれは自分とは違う別人で、動揺していたのも自分ではない。
 心だって痛まない。魔理沙のことも、どうとも思わない。
 そう、違う。今も尚、内奥に巣食い、チリチリとした違和感が残っているのも、心の痛みなどではない。
 私は誰も想わない。想われようとも、思わない。
 常に自分達は孤独でしかないのだから……

「いいわ。手を組んであげる。ただし」
251 ◆Ok1sMSayUQ :2010/04/22(木) 21:54:59 ID:ChRt0mrS
 僅かに残る違和感の正体から目を逸らすように、霊夢は小町に意識を集中させた。
 今は目的を達成することだけに専念すればいい。
 どのようにすれば、効率的に異変を解決できるか。
 それだけを考えていればいい。
 なんのことはない、今までと同じようにすればいいだけだった。

「私はあんたほど選別するつもりはない。私の目的は異変を解決することだけ。
 邪魔になるのならあんたの上司だろうが、神様だろうが殺す。それが飲めれば手を組んでもいい」

 ここで拒否されようが、それはそれで構わなかった。
 トンプソンを下げた今、小町に不意討ちを食らわせて離脱することは容易いことであるし、
 頭のいい小町がここで意地を張って交渉を決裂させることを選ぶとは思えない。
 案の定、小町は渋々といった表情ながらも分かったという風に頷いた。

「……まあいいさ。その時はその時だ。霊夢、お前さんは確かに守る価値はある。けどね、『絶対』じゃないんだよ」

 そんなことは分かりきっていることだった。
 博麗の巫女など、所詮はその程度の価値でしかない。
 小町も、紫も過大評価しすぎている。
 そんな役割など、誰にでも務まるというのに。

「分かってるわよ。言われなくてもね」

 霊夢は笑った。
 それはいつもの陽気な笑みとは違う、
 分不相応な評価を下している者たちに対する嘲笑だった。

 霊夢自身、気付いてはいなかった。
 殺し合いを始めたとき以上に、命への価値を見失っていることに。

 それは、霖之助を失ったと同時に、霊夢が壊してしまったものなのかもしれなかった。
252 ◆Ok1sMSayUQ :2010/04/22(木) 21:55:48 ID:ChRt0mrS
【F-4 魔法の森・マーガトロイド邸 一日目・夕方】 


【博麗霊夢】 
[状態]霊力消費(小)、腹部、胸部の僅かな切り傷 
[装備]果物ナイフ、ナズーリンペンデュラム、魔理沙の帽子、白の和服 
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個 
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、 
五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服、 天狗の団扇、文のカメラ(故障) 
不明アイテム(1〜5) 
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。 
[思考・状況] 
1.小町と共に行動
2.とにかく異変を解決する 
3.死んだ人のことは・・・・・・考えない 



【小野塚小町】 
[状態]身体疲労(中) 能力使用による精神疲労(小) 寝起き 
[装備]トンプソンM1A1(50/50) 
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2 、M1A1用ドラムマガジン×3 
[基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度 
[思考・状況] 
1.霊夢と共に行動。重要度は高いが、絶対守るべき存在でもない
2.生き残るべきでない人妖を排除する 
253 ◆Ok1sMSayUQ :2010/04/22(木) 21:57:03 ID:ChRt0mrS
投下終了です。
タイトルは『暗い雨の中を、歩くように』です
254創る名無しに見る名無し:2010/04/22(木) 22:34:46 ID:OQMyUiFN

うわあ、また不安定ながら新しいマーダーコンビ誕生
まじで魔理沙との決着とか気になる
255創る名無しに見る名無し:2010/04/22(木) 22:39:28 ID:aUNLYHsO
投下乙です

さて、これでマーダー同士で手を組んだわけだけど、今回は基本的には霊夢サイドからの描写だけなわけで
小町の意図を考えさせる余地がある点で、次の人に期待も出来るいい繋ぎだと思います
256創る名無しに見る名無し:2010/04/23(金) 02:26:47 ID:t9IkMMw0
現時点で最強のコンビだな 勝てる奴が想像できん
食料も武器も申し分ないしな
257創る名無しに見る名無し:2010/04/23(金) 11:24:35 ID:xOKGud7d
投下乙です

そうか、この二人は組んだか
マーダー同士で組んだ訳だが…霊夢は荒んでるなw
小町は小町でどう考えてるのやら…
258創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 01:21:44 ID:jsDuAVtf
そういえば仮投下スレで新作来たね
259創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 21:07:38 ID:pDWiLY8r
時間置いたが反論意見がほとんどなかったのでもう代理投下するよ
260創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 21:08:49 ID:pDWiLY8r

夕闇に霧が踊る。
対岸が見えないくらいのとても大きい湖に二人は来ていた。

「んーーー。思っていたよりもでかいね」

大きく伸びをしたのは霊烏路空、しかしその伸びは途中で遮られた。
かしゃん。金属が擦れ合う音。左手の手錠が彼女の伸びを阻んだ。

「チルノ?」

返事がない。

「チルノ、ここが霧の湖だよね?」

返事がない。

「チル・・・泣いているの?」




時はさかのぼる


メディスンと猫妖怪を埋めたあと、私たちはあの天人を探し始めた。
しかし、見つからない。
―――もうどこか遠くに逃げたのか。
あまりしつこく追っても無駄だ。悔しかったが捜索は中止にした。

「これからチルノはどうしたい?」
「え?」

少し疲れ気味の顔で振り向くチルノ。質問の意味がよくわからなかったらしい。
近くの岩に腰かけるよう促し、質問を繰り返す。

「これからどこに行こうか?」

天人を見つけられなかった以上次にやることを決めなければならないだろう。
ここは山の上、夜を明かすには向いていない。
チルノは無邪気に返す。
261創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 21:10:03 ID:pDWiLY8r

「おくうはどこに行きたいの?」

え?わたし?
言われてみて特に行きたいところがないことに気づく。
強いて言えばさとり様に会いたい。
しかしこの広い幻想郷のどこにいるのか見当はつかないのだ。
また、地上に出てから月日が浅い私にはまだ見知った場所も特にない。

「チルノの行きたいところでいいよ」
「あたい?じゃあうちに帰りたい!!」

家、か。

「でっかい湖でね、白っぽいもやもやがきれいなんだ」

私の家は・・・。

「山を下りた向こうだよ。たぶん」

私の家はどこだっけ?

「おくう、聞いている?」
「・・・もちろん聞いているよ。チルノの家に行こう」

日が落ちる前には着きたいものだ。でも・・・
岩から立ちあがろうとして、自分が思ったより疲れているのに気がつく。

「チルノ、疲れてないかい?」
「あたいはさいきょうだよ」

私は苦笑する。

「少し休んでから行こう」
「やだよ、大丈夫だから!!」
262創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 21:11:42 ID:pDWiLY8r

結局、湖に着いたころには日が暮れていた。

「なるほど、きれい・・・」

夕日によってオレンジ色に染まる霧。
地底ではあまり見られない景色だ。

私たちは湖のほとりに座り込み、足を休めている。
足はもう棒のよう。
普段は飛び回っているから・・・。
チルノも途中で歩けなくなってしまい、お姫様だっこで運ぶことになってしまった。
そのせいで余計に疲れた私を無視して当の本人は

「ここが霧の湖、あたいのなわばりだよ!!」

座り込んだ状態で声を上げる。
元気なその声に私の疲れも少し軽くなった。

ゆっくりと景色を眺める。

「本当にきれい」
「ほめてくれてありがとう」

私の独り言にチルノが礼を言う。
自然に笑みが出る。


だが、はしゃいでいたのは最初だけ、すぐにチルノのテンションは下がり始めた。

「この湖はどれくらいの大きさなのかな?」

しかし、私は気にせず湖の大きさを目で測り始める。
チルノも疲れているのだろうと判断したからだ。



ここで冒頭に繋がるわけだ。
263創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 21:13:46 ID:pDWiLY8r

あたいは泣いていた。
気づいたらなみだが出ていた。

「チルノ、なんで、泣いているの?」

どこか遠くでおくうの声がする。
なんで?あたいにもよくわからない。

「ここ、霧の湖だよね?」

あわてて紙を開いてなにか確認するおくう。
一瞬、すこしだけ、表情が変わった気がした。
でもすぐにしんけんな顔にもどる。

「なにか、あった?かなしいの?」

ちがうよ。
でもうまくせつめいできない。
あたいが天才すぎるから。


なんだかしらないけど。あたいは湖にきてすぐ、なんか“いわかん”を感じた。
なにかたいせつなものが抜けている感じ。
よくわからないけど寒気がした。
そしてなきたくなってきた。
なみだがでてきた。

「チルノ?」
おくうまで泣きそうになってる。
なんとかしてせつめいしないといけない。むずかしいけど・・・。

「ここはあたいのすみかじゃ、ない」
「?」
「ここには自然がない、だれもいないの」

あたいが言えたのはそれだけだった。
264創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 21:15:13 ID:pDWiLY8r

泣き始めたチルノを前に私は困惑していた。

「ここ、霧の湖だよね?」

チルノは答えない。ただ泣いているだけ。
ならしょうがない、地図で確かめよう。

支給された地図を開く。
まず目につくのは地図に大きく書かれた霧の湖。
あと、三途の川。
水場があるのは他にここくらいしか考えられない。
とはいえ、これが三途の川だとは思えない。
となると、やはりここは霧の湖なのだろう。

温泉とか、間欠泉とか書いてないな。
水場を探して地図をさまよう私がそのことに気付いたのはごく自然なことだった。
なにしろ私は温泉や間欠泉の元、旧地獄の火力の番人なのだから。
―――私の仕事の成果を書いていないなんて、地図を作ったやつは大馬鹿ね。
などと思っていて、私はもっと重要なものが書いてないことに気がついた。

地霊殿、ううんそれだけじゃない、地底世界が完全に無視されている。

「どういうことなの?」

私は混乱した。
書いてないことにじゃない。いままでそれに気がつかなかった自分に、だ。
自分の家ともいうべき地底世界を完全に失念していたとは。

その時、隣で鼻をすする音がした。
私は我に返る。

とりあえずはチルノが先だ。

「なにか、あった?かなしいの?」

返事はない。
訳が分からない。
私まで泣きそうになってきた。

「チルノ?」

今度は返事があった。

「ここはあたいのすみかじゃ、ない」
「?」
「ここには自然がない、だれもいないの」

よくわからない。
でも、誰もいないとはどういうことだろうか。
妖精の友達がいない。そういうことなのか?

言うだけ言うとチルノは夢の世界へと落ちて行った。
265創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 21:16:29 ID:pDWiLY8r

「・・・・・・・」

―――私も疲れたな。くたくただ。

今日は色々あった。
疲れている。

「考えすぎは良くないか」

とりあえず霊烏路空は思考を放棄した。
チルノのことだって、後で目が覚めたときにでも聞けばいいだろう。


湖は暗さを増していく。
殺し合いもその暗さを増していく。

【C-3 霧の湖 夕方 一日目】
※ほとんど夜です

【チルノ】
[状態]霊力消費状態(6時間程度で全快)全身に打撲 強い疲労 心傷
[装備]手錠
[道具]支給品一式(水残り1と3/4)、ヴァイオリン、博麗神社の箒、洩矢の鉄の輪×1、
    ワルサーP38型ガスライター(ガス残量99%) 、燐のすきま袋
[思考・状況]基本方針:お空と一緒に最強になる
1.??????
2.メディスンを殺した奴(天子)を許さない
3. ここに自分達を連れてきた奴ら(主催者)を謝らせる


※何か違和感を感じとりました。
※現状をある程度理解しました

【霊烏路空】
[状態] 霊力0(6時間程度で全快) 疲労極大 高熱状態{チルノによる定時冷却か冷水が必須} 右肩(第三の足)に違和感
    左手に刺傷 左翼損傷 全身に打撲 頭痛 心傷 
[装備] 手錠
[道具] 支給品一式(水残り1/4)、ノートパソコン(換えのバッテリーあり)、スキマ発生装置(二日目9時に再使用可)、 朱塗りの杖(仕込み刀) 、橙の首輪
[思考・状況]基本方針:チルノと一緒に最強になる
1. チルノに泣いた理由を聞く
2.なにかおかしいな
3.メディスンを殺した奴(天子)を許さない


※何か違和感を感じとりました。
※現状をある程度理解しました


※空の左手とチルノの右手が手錠でつながれました。妹紅の持つ鍵で解除できるものと思われます。
※メディスンの持っていた燐のスキマ袋はチルノが持っています。
 中身:(首輪探知機、萃香の瓢箪、気質発現装置、東のつづら 萃香の分銅● 支給品一式*4 不明支給品*4)
※メディスンのランダム支給品は手錠とワルサーP38型ガスライターでした。
※橙の首輪は何となく回収済み。
266創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 21:19:42 ID:pDWiLY8r
178 : ◆J1Bh6Z1pDg:2010/04/25(日) 13:24:04 ID:3bf4Aasw
仮投下終了

題名は「違和感909」です

無理な点などありましたらご指摘ください。(すでに自信のない所もあるけれど・・・)

代理投下終了です
そうか、チルノには判っちゃうのか…
なんだろう、泣いてるチルノが切なくていいな…
とにかく今はゆっくりと休め…
267創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 22:40:58 ID:jsDuAVtf

これは放送聞き逃す可能性もあるな
そういえば爆薬庫こと紅魔館付近って・・・
268創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 22:54:39 ID:e1FZ6jKB
特に批判が来てないので代理投下します
269創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 22:55:43 ID:e1FZ6jKB
四季映姫・ヤマザナドゥの元を離れたルーミアは、来た道を戻って魔法の森へと引き返していた。
そして、森のすぐ近くまで来たところでピタリと立ち止まる。
そのまま、彼女が普段は見せることのない難しい表情を見せながら考え込んでしまった。

「これからどうしようかな?」

今の彼女の中にある選択肢は二つ。
一つは、さっき食べかけのままお預けを食らったような格好になった神様の元へ戻ること。
洩矢諏訪子を食べようとして、彼女を奉ってきた東風谷早苗の怒りを買った現場である。
ものすごい剣幕で怒られたことに面食らい、一目散に逃げてきたのが数刻前のことになる。
自分には理解の出来ない感情に、どうしていいか分からなくなったからなのだが、今は違う。
妖怪殺しは言うまでもなく、神殺しについても閻魔のお墨付きをもらったばかりだ。
自分は悪くない、それならお食事の続きをしてもいいよね、そう考える。

さらに、現地には諏訪子以外にもう一つ"食料"が出来上がっていた。
彼女が仕掛けた地雷によって最期を迎えた半獣、上白沢慧音だ。
彼女が死んだことで、一緒に行動していた火焔猫燐もまた早苗と同じように怒り、攻撃をしてきた。
だが、それを咎める方がおかしい、そう閻魔は言った。
ならば、慧音も美味しくいただくのも何ら悪いことなどないという理屈だ。

もう一つ、ルーミアの中にあった選択肢。
それは、あれこれ起こったことで今まで見に行くことが出来なかった一つ目の地雷、
その行く末を確認しに行くことであった。
すでに二つ目の地雷は作動し、食料を生み出している。
一つ目の地雷の元にも自分の期待するような成果が上がっているかもしれない。
そう思うと、自然にルーミアの胸は高鳴るのであった。

ルーミアにとってはどちらもこの上なく魅力的な選択肢。だからこそ迷う。
本能の赴くまま場当たり的に生きる彼女にとって、こんな選択を迫られる機会は少なかったからである。

「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な〜」

誰にともなく呟きながらなおも考え込む。
しばらく考えたルーミアは決〜めた、と一声発してその足を南へと向けた。
つまり、一つ目の地雷を見に行くことを選んだのである。

理由はいくつかある。
まずは、出来上がった食料を他の誰かに横取りはされないであろうということ。
あれだけの怒りを見せた早苗や燐がよもや、あれを食べるはずはないと考えたのである。
ちょっと放っておいても無くならないなら、先に他所の用事を済ませよう、彼女はそう決めた。

加えて、地雷を仕掛けたF-5のエリアがもうすぐ禁止エリアになることも大きかった。
せっかくの楽しみを味わえなくなるというのはあまりにもったいない。
間に合うかどうかは分からないが、とにかくそちらを先に済ませてしまいたかった。

…という二つの理由からルーミアは地雷の方を選んだ。
しかし、彼女の心の奥底には、早苗と燐に対する一種の気まずさがあった。
二人が見せた怒りは、知らず知らずのうちにルーミアの心に重石となってのしかかっていたのである。
いくら自分が正しいといっても、あれだけの怒りを目の当たりにしたのは初めてだっただけに、
知らず知らずのうちにそれを忌避していたのである。
だが、ルーミア自身はそれに気づいていない。
そうしたトラウマに気がつけるほど彼女は思慮深い性格ではなかった。

とにもかくにも、ルーミアは南を目指して魔法の森へと踏み入った。
頭に浮かぶ適当なフレーズを、適当なメロディーに乗せ、暢気に歌いながら跳ねるように歩を進める。
彼女を知らぬ者が傍から見れば、殺し合いの渦中にいることを忘れているかのように見えるだろう。



*   *   *
270創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 22:57:16 ID:e1FZ6jKB
彼女たちを知らぬ者が傍から見れば、二人が主とその従者という関係にあるように見えるだろう。
毅然とした表情で前を見据え、ずんずんと先導しているのが西行寺幽々子。
その後ろを俯き加減にとぼとぼとついて歩くのが鈴仙・優曇華院・イナバであった。
もちろん、二人にはそれぞれ真の従者が、真の主がそれぞれに存在する。
だが、それは二人にとっては既に失われてしまったもの。
今は共にその代わりを求めるかのように、仮初の主従関係を形成していた。

歩き始めてしばらくたつが、二人に会話は無かった。
ザッ、ザッ、と地を踏みしめる足音だけしか聞こえない、重苦しい沈黙。
陽は既に西へと傾き、地平線へと没しようとしている。
夜の帳が下り、辺りが闇へと支配されるよりも早く、二人の心は既に闇の中にあった。



幽々子は自分が魂魄妖夢を殺したという可能性から目を逸らしている。
己が保身のために、フランドール・スカーレットという格好の犯人を仕立て上げ、
それを罰することで心の安寧を得ようとしていた。
フランを殺そうとは考えていない。それは、閻魔の言葉を認めてしまうことになるから。
殺すことこそが善行であり、自分は既にその一線を越えたのではないか、
そう断言するような閻魔の言葉を認めてしまうことになるから。
では、彼女を殺すことなく、自分が妖夢を殺していないことを証明するにはどうすればいいか。
それは、フランを探し出してその口から「私が妖夢を殺しました」と言わせること。
下手人が自白すればこれ以上の証拠は無い。そして、フランはそう証言するに決まっている。
…だって、妖夢を殺したのは――あの悪魔なのだから。
幽々子はそう信じ込むことで、事実から、閻魔の進言から目を逸らす。



鈴仙は自分がここまでしてきた選択が最悪であったことから目を逸らしている。
己が保身のために、力あるものを時に忌避し、時に屈服し、時に縋りつく、
そうすることで心の安寧を得ようとしていた。
それを野卑なる考えだとは思わない。それを認めてしまうと罪悪感に押しつぶされてしまうから。
自分のせいで命を散らした穣子に雛、巻き込んでしまったこいし、思いを託された静葉、
彼女たちに対する慙愧の念に押しつぶされてしまうから。
では、そんな正面から受け止めるにはあまりに大きな負の思いをごまかすにはどうすればいいか。
それは、自分の行いを誰もが生きたいという当然の欲求の下に正当化してしまうこと。
確かに自分のせいで命を落とし、道を狂わされた人妖はいる。自分は最低なのかもしれない。
…だって、仕方がないじゃない――誰だって死にたくないに決まっているのだから。
鈴仙はそう信じ込むことで、過去や、後悔の念から目を逸らす。



肉体は生きていたとしても、既に心は喪われてしまった二人。
半ば幽鬼と化した二人の少女は、言葉を発するということを忘れてしまったかのように黙々と歩く。
まるで死出の旅に出ているかのように。



*   *   *
271創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 22:59:15 ID:e1FZ6jKB

木々の間を縫うようにして、軽快な足取りで歩を進めていたルーミアだったが、
三十分としないうちにその足取りは重たいものへと変わってしまった。
理由は単純明快。

「…お腹すいたぁ…」

空腹である。
思えば、"お弁当"を食べきってしまってから随分と時間が経っている。
空を飛ぶよりは走った方が力の消費が抑えられるとはいえ、早苗達から逃げるために魔法の森を横断、
そこから引き返して今に至るので、その距離は結構なものになっていた。
一応、まだ支給されている食料は多少残っているし、燐から貰ったケーキもある。
だが、それを食べても気休め程度にしかならないだろうことはルーミアにも分かっていた。

腹の虫がくぅ、と鳴く度にルーミアはやっぱり神様の所に戻った方がよかったのかな、と思う。
だが、閻魔から「意志の力が弱すぎる」とお説教を受けたばかりだけに、先刻の決断を曲げるわけにはいかない。
だから自分がこう、と決めた事にもう少し頑としてみようと思っているのである。
弾が出たら食べてもいい妖怪、人類、神様…自分が最初に定めたそのルールをもっときちんと守ろう。
弾が出たら、誰が邪魔しても、どんなに抵抗されても関係ない、絶対に食べるんだ、と決めたのだ。
逆に、弾が出なかったらどんなにお腹が空いていても食べないことにも決めているのだが。

そのルールを守るのと理屈は同じ。
自分が地雷の様子を見に行くと決めたのだから、どんなにお腹が空いていたってそれをねじ曲げない。
いつしか、最初に愉しそうに歌っていた歌も聞こえなくなった。
両手を広げるいつものポーズも、今はだらりと両手を下げてその面影を残していない。
半ば意固地になりながら、それでもルーミアは歩を進め続けた。

そうしてさらに三十分ほど、とぼとぼと歩き続けると、ルーミアの視界にある建物が目に入った。
彼女にとっては見知らぬ建物だが、特にそれを気に留める様子は無い。

「少しくらいなら…お休みしてもいいよね?」

うん、そうだ、そうしよう、そう自分に言い聞かせるようにフラフラとその建物に近づいていく。
周りからして随分と散らかっているが、休憩を取る、そう決めた彼女の意思はその程度では揺るがない。
今は休むと決めたのだから、周りがどうあろうと関係ないのだと考えている。
何か食べるものがあるといいなぁ、などと努めて明るい想像を働かせながら、扉を叩いた。

「誰かいますかー?」

もし中に誰か潜んでいたら大事になっていたであろうが、元々あまり深く物事を考えない上に、
空腹がそれに拍車をかけていて、思考能力が落ちた今のルーミアはそんなことを気にしない。
少し待ってみたが、返事がしないので、これまた無警戒に扉を開ける。
何か仕掛けが施されているのか、カラコロと音が鳴るが、やはり彼女は気にしない。
警戒するよりはむしろ面白い、変わった扉があるんだなぁ、ぐらいにしか考えていない。

建物の中は外から見る以上にさらに雑然としていたが、どうやら誰もいない様子だ。
空腹の上に、歩き尽くめだったこともあって足はもう棒のように感じられていた。
普段なら空を飛んでいるので、めったに感じることのないこの不思議な感覚もまた面白い、そう思いながら、

「誰もいないならここでお休みさせてもらおうっと」

そう呟いて、ずかずかと奥の方へと入っていくのだった。



*   *   *
272創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 23:00:30 ID:e1FZ6jKB
とぼとぼと歩き続けていた鈴仙がふと頭を上げると、向こうに魔法の森があるのが見えた。
ここに来て、ようやく自分が来た道を引き返していたことに気づいたのだが、
それに加えて、ここまで何も聞かされずにただ幽々子について来ただけだということにも気づいた。
そして、ここでようやく長い長い沈黙が破られる事になる。

「あの…私たち、今どこへ向かっているんでしょうか…?」
「あら、言わなかったかしら? 悪魔を探しに向かっているのよ?」

背後からの問いに、幽々子は歩みを止めず、振り返ることもなく返事をする。

「探しに…って、当てはあるんですか?」
「もちろんあるわよ」

ピシャリと即答され、鈴仙は少しばかり面食らった。
そんな鈴仙の心中を知る由もなく、幽々子はさらに続けた。

「吸血鬼は太陽が苦手でしょう? だから、日が沈むまでは光が遮られるようなところにいるはずよ」

日傘のようなものでもあれば別でしょうけどね、そう続けるのを半ば聞き流しながら鈴仙は次の質問を放つ。

「行く当ては分かりました…でも、どうして悪魔を…フランドール・スカーレットを探しているんですか?」

鈴仙にはある程度その理由を察していたが、幽々子の口からその確たる理由を聞きたかった。
あら、それも言っていなかったかしら、そう前置きをした幽々子が、今度は逆に鈴仙に問いかけた。

「私の従者、魂魄妖夢が既にこの世のものでないということは貴女も放送でご存知でしょう?」

鈴仙は放送に加えて、先刻実際に妖夢の死体と対面しているのであるが、それは言わずにおいた。
否定をしないのを肯定と捉えた幽々子の口から、おおよそ鈴仙の想像していた通りの答えが返ってくることとなる。

「妖夢を殺したのが――フランドール・スカーレットなのよ」




再び二人の間に沈黙が訪れた。
相変わらず、幽々子は鈴仙の方を向き直ることもなく、その歩も止めることはない。
そして、次に沈黙を破ったのは幽々子の方だった。

「貴女、あの悪魔の能力はご存知かしら?」
「…いえ、噂に聞いた程度にしか…」

そう、と冷淡に幽々子は答えた。
鈴仙が知っていようが、知っていまいが関係ないとでも言うかのように、さらに続ける。

「彼女の能力はあらゆるものを破壊するというものよ。
 妖夢の側には本来あるべきの半霊の姿が無かったわ。恐らくは悪魔によって破壊されたんでしょう」
「あらゆるものを破壊…って、そんな反則じみた能力が…」
「でも、実際に妖夢の体にはこれといった致命傷は見受けられないの。
 そうした痕跡を残さずに命を奪える能力者など、その悪魔以外に考えられるのかしら?」

確かに鈴仙も妖夢の死体を見立てた限り、致命傷となる外傷が無い事に疑問を感じていた。
そうした能力があればあるいは…そう考える鈴仙は、同時にある違和感も感じていた。
その違和感の正体を確かめるべく、今度は鈴仙の方から問いかける。
273創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 23:01:22 ID:e1FZ6jKB
「…確かに、そんなとんでもない能力があるのなら可能かもしれません。
 ですが…決して吸血鬼の肩を持つわけじゃありませんが…その…」

そこで言い淀んだところで、幽々子が続けなさい、と促す。
相変わらずこちらを振り返ろうとせず、鈴仙は幽々子が何を考えているかを顔色から読み取ることが出来ない。
様子を窺ってから次の言葉を継げようとしたが、それを諦めて鈴仙は核心に触れるべくさらに一歩を踏み込んだ。

「証拠は…あるのでしょうか…? フランドール・スカーレットが妖夢さんを殺したという、確たる証拠が…
 確かに、状況証拠からすれば彼女は誰よりも怪しいです。ですが、それはあくまで状況証拠でしかありません。
 もしかしたら他にも、そうした外傷を与えることなく命を奪えるような、そんな能力が…」
「証拠も何も…」

そこまで言ったところで、幽々子がそれに対する答えを被せてきた。
そして、その答えは鈴仙の予想を超える驚きをもたらすものであった。

「私はその現場に居合わせたわ。妖夢が命を落とした、その現場にね」
「なっ…」

鈴仙は絶句した。
現場の様子を知っていることに加え、妖夢の死体に幽々子の衣服が着せられていたことから、
少なくとも自分と同じように惨劇の痕を見つけたのだろうとは思っていた。
もしかしたら、妖夢の最期を看取ったのかもとは思っていたが、本当にその現場に幽々子本人が居合わせていたとは。
鈴仙の驚きをよそに、幽々子はなおも続ける。

「半日ほど前のことかしらね、魔法の森で私は妖夢と合流することが出来たわ。
 妖夢の傷の手当てをするために、私たちは香霖堂という雑貨屋に向かって、そこで休息を取っていたの。
 そして、そこに現れたのが…」
「フランドール・スカーレットその人だった、というわけですか…?」
「ええ。でも悪魔だけじゃないわ。霧雨魔理沙と八雲藍、それと何やら黒髪の妖精がいたかしら」

黒髪の妖精。恐らく妖夢の隣で息絶えていたあの妖精のことだろう。

「ということは…白黒に八雲の式もまた共犯者、ということなのですか…?」
「どうかしらね…その可能性は無いわけじゃないけれど…
 どちらかといえば、気まぐれな悪魔がその本性を隠して二人と行動を共にしていたと考えるほうが自然ね」

そう言うと、幽々子は懐から一枚のメモを取り出して鈴仙に差し出した。
体を一瞬こちらに向けた時に、鈴仙は幽々子の表情を読み取ろうと試みるが、
俯き加減の顔からは多くの情報を得ることは出来なかった。

「これは…」
「この異変について私たちが考えることをまとめた覚書よ」

見ると、明らかに複数の人物のものである筆跡が書き連ねられている。
主催者や首輪、霊夢に関する推測と考察が、各々の視点から並べられていた。
首輪に盗聴機能がついているであろうことと、知らない顔ではない小野塚小町が殺しに回っているであろうことは、
鈴仙の心中にまた別の驚きをもたらしたのだが、そのことを頭の片隅にだけ留めておいて話を戻した。

「このメモは確かに大いに参考になるものですが…このメモがいったい何の関係が…?」
「主催者に対する考察を読んで御覧なさい。興味深いことが書いてあるわ」
274創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 23:02:20 ID:e1FZ6jKB
鈴仙がもう一度メモに目を落とすと、そこには他の字より幾分稚拙さを感じる筆跡が残されていた。
参加者の顔触れからすれば、それがフランのものであると想像するのは容易であった。
そしてその字が鈴仙に伝える内容を読み込んでみると…

「師匠が…吸血鬼と一戦交えてる…?」

確かに、自分も師匠とは一戦交えたがあれはこちらが仕掛けた戦い。
それに、師匠が姿を消していた自分を戦闘中に認識は出来ていたかと聞かれれば否、と答えるだろう。
命のやり取りをするというこの舞台で、姿の見えない敵に襲われれば自衛のために応戦はして当然だ。
もし自分がきちんと姿を現していたのなら、あるいは戦いは避けられたのかもしれない。
だが、フランのメモを読む限りでは師匠はかなり好戦的な態度で接していたらしい。

「そこに書かれた貴女の師匠の姿は、貴女に残されたメモの内容と大きく食い違っているわ。
 身内であることを贔屓目に見たとしても、それだけ好戦的な主催者が貴女を見逃すとも思えない。
 どちらかと言えば、魔理沙の考える八意永琳像の方が、貴女へメモを残す彼女の人物像に重なるわね」
「つまり…吸血鬼は嘘を吐いていると…?」
「貴女へのメモや、貴女の命があることも含めて考えれば、悪魔の証言は明らかに不自然よ。
 もしかしたら…妖夢は何かしらの形でその不自然さに気づいたのかもしれないわね」
「かもしれない…?」

幽々子の言葉に反応して、鈴仙が顔を上げる。
相変わらず鈴仙に向き直ることも無く、ただ力なく首を横に振りながら幽々子は告げた。

「そこから先のことは…よく覚えていないわ。
 ただ…気がついたら悪魔は姿を消し、妖夢と妖精の死体だけが遺されていたわ。
 悪魔の嘘に気づいた妖夢がそれを糾弾しようとして、逆に悪魔に襲われた。
 妖精は大方その巻き添えを食らったのでしょうね」
「白黒と八雲の式は…?」
「悪魔を追って香霖堂を立ち去ったとすれば…筋は通るでしょう?」

幽々子がそこまで告げると、再び沈黙が二人を支配した。



さて、今や鈴仙にとって唯一の拠り所とも言っていい幽々子の言葉を、彼女はどう捉えたのだろうか?
実は、鈴仙は幽々子の言葉を半信半疑にしか捉えていなかった。
彼女は幽々子の推理に潜む、違和感の正体に気づいてしまったからである。

フランの能力は、あの外傷の無い不自然な死体が出来た理由を確かに説明し得るものだ。
だが、あの場に同じことを実行し得る人物がもう一人いることを幽々子は見逃している。
見逃している、というよりはその可能性を努めて排除しているように鈴仙には思えた。
今目の前にいる、西行寺幽々子。彼女自身もまた同じことが出来るのでは、と鈴仙は気づいたのである。
死を操る程度の能力、幽々子が冥界を任されているのはこの力のためであるとも言える。
その力を行使したとするなら…外から見て分かる致命傷を残さずに対象を死に誘うことも出来るはず。

幽々子と妖夢の二人が、固い主従関係にあったことは鈴仙にも重々承知していた。
殺し合いという状況が状況とはいえ、幽々子が明確な殺意を持って妖夢に接したとは考えづらい。
だが、それが不慮の事故だとしたら…考えられない話ではない。

幽々子は現場に居合わせていながら、肝心の殺害の瞬間を目撃していない。
その瞬間を覚えていないというのは、妖夢の死により短期的な記憶喪失に陥ったからでは、そう鈴仙は考える。
医術に関しては心得があるし、狂気を操る彼女にとって精神のことは得意分野だ。
記憶喪失の原因は、十中八九、妖夢の死そのものによるショックなのだろう。
それが望まぬ形で、幽々子の手によってもたらされたものだとしたら…
そのショックたるや想像するにはあまりに酷なものになるはず。記憶の解離が起きても不思議ではない。
275創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 23:04:30 ID:e1FZ6jKB
その他にも不自然な点はいくつかある。
致命傷が見受けられなかった妖夢に対し、妖精のほうは腹部を貫かれたことが死因と見ていいだろう。
同じところに、同じ時刻に出来上がった死体にしてはその様子があまりに違いすぎた。
妖夢と妖精を手にかけたのは、それぞれ別の人物なのかもしれないと新たな可能性も出てきた。

また、フランが犯人だとして、その後意識を失った幽々子を放置したのも不自然だ。
放っておけば、妖夢を殺したことで付け狙われるかもしれないのに。
気が触れているという噂の彼女なら、あえてそうすることで幽々子に苦しみを味わわせようとした、
あるいは、フランが幽々子を襲うのを魔理沙や藍が阻止しようとしたから…そうしたことも考えられなくはないが…

鈴仙の中でフランへの疑いが晴れたというわけではない。
だが、もしかしたら幽々子こそが妖夢殺しの犯人なのではないか?
そんな考えが浮上してきたのだ。



さて、そうした可能性に気づいたところで、鈴仙はそのことを幽々子に問い質すだろうか?
答えは否、である。

自分のやっていることは探偵の真似事ではないのである。
ここで真相を追究したところで、鈴仙にとって何一つ益になることは無いのだ。
もし、幽々子が本当に妖夢を殺していたことに気づいて、この場でその罪の意識に苛まれたら?
記憶の解離によって辛うじて守られていた精神はズタズタに傷つけられるだろう。
鈴仙が狂気を操るまでも無く、幽々子が狂ってしまうことは容易に想像がついた。
そうなれば、自分を庇護してくれる貴重な存在を失ってしまうことになる。
下手をすればこの場で自分が命を落とす可能性だってある。

つまるところ、鈴仙は保身のために真相の追究を諦めたのである。
狂いかかっているとはいえ絶大な戦闘力を持ち、権威も健在な幽々子を失うわけにはいかなかったのだ。
たとえそれが、かつて香霖堂で妖夢の死体を前にした時にした誓い…
「仇はきっと取るから」というものを自ら破ることになったとしても。

ほら、やっぱり私の本質は裏切り者なのだ。
月の仲間を裏切り、穣子や雛、こいし、静葉の思いを踏みにじり、師匠には恩を仇で返す真似をして…
そして、今は妖夢に立てた誓いさえあっさりと捨て去ろうとしている。
そんな自分に嫌気が差しながらも、生きるためには仕方の無いことだと、また鈴仙は自分を正当化した。



「もし…悪魔を見つけてどうするんですか…? やっぱり…殺すのですか…?」

恐る恐る問いかけた鈴仙に対して、しばらく考え込んだ様子の幽々子が返す。

「敵討ちは…妖夢の望むところではないわ…それをしたところで妖夢も帰ってきませんもの。
 だからと言って、野放しにしておけば皆の命が危ないわ。
 もし可能ならば…捕縛して何らかの形で無力化を図るつもりよ。
 妖夢を殺した罪は…この異変が解決した後にでもゆっくりと償ってもらいましょう」

妖夢を殺したのはフランドール、ただし私は決してフランを殺さない。
自分は殺していない、だからこれからも誰も手にかけるつもりはない…
それが、閻魔の提示した可能性に対して幽々子が見つけ出した逃げ道だった。

一方、鈴仙は考える。
真実はともかくとして、いざ吸血鬼と交戦となった時に自分はどうするだろうか、と。
ただでさえ、幻想郷のパワーバランスの一角を担う存在である吸血鬼が相手なのだ。
おまけに、今は武器さえ持ち合わせていないのである、自分が一番危ないのは言うまでも無い。
もちろん、戦場では幽々子がある程度は自分を守ってくれるだろうが…どこまで余裕があるかは分からない。
つまり、自分の命が危なくなれば、幽々子を裏切ることでその命を永らえようとするのだろう。
今までそうしてきたように、これからも自分は裏切りと逃走にまみれた生を送るのでしょう、そう密かに自嘲した。
276創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 23:05:53 ID:e1FZ6jKB
そこまで考えたところで、鈴仙は急に立ち止まった幽々子の背中にぶつかってしまう。

「す、すみませ…」

謝ろうとした鈴仙を手で制して、幽々子が静かにするように命じる。
鈴仙が顔を上げると、視線の先に香霖堂があった。
鈴仙はいつの間にそこまで歩いてきていたのか、と思った。

「誰かいるわね」

ぼそり、と幽々子が呟いた。
試しに意識を集中させてみると、香霖堂の中から何か物音がしたのを鈴仙は感じ取った。

「もしかして…吸血鬼でしょうか…?」
「考えられるわね…現場に戻って証拠を隠滅しているのかもしれないわ」

そこまで思ったところで、幽々子は妖夢をしっかりと葬らなかったことを後悔した。
悪魔が戻って、妖夢の死体を跡形もなく破壊したら…想像すると寒気が走った。
あぁ、私がすべきことをしなかったばかりに、死してなお妖夢に苦しみを味わわせてしまうなんて。
それでは魂も浮かばれない、そう思った幽々子は、足音を立てないよう注意しながら香霖堂へと歩み寄る。

「悪魔かどうかは分からないけれど…どちらにしても死者を冒涜することは許せないわ…準備はいいかしら…?」

促された鈴仙は一瞬躊躇ったが、思い直して幽々子の後に続いた。
今はまだ幽々子の庇護の下にいたほうがいいと考えたのである。



二人の心中は未だ負の螺旋を抜け出すことが出来ずにいた。
仮初の主従関係ではその心を通わすこともかなわず…互いに心中の問題を先送りにしている。
そして、そのことに幽々子と鈴仙は気づいていなかった。



*   *   *



建物の奥に進んだルーミアは歓喜していた。
何か食べ物があれば、そう思っていたところにご馳走が並んでいたのだ、しかも二つも。
試しに呼びかけてみたが、どちらも返事が無い。昼に見つけたお弁当と同じだった。
しかも、片方は銃の弾も出た相手だ、これを食べるのに自分のルールは妨げにならない。
邪魔が入ってお預けを食らっていただけに、惜しかったなぁという思いもあった。
277創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 23:06:42 ID:e1FZ6jKB
「でも…ちょっと多いかな」

空腹感はあったとはいえ、地雷を探しに行く時間も必要だった、あまり食事に時間は取っていられない。
そこで、まずは隣に並んでいたもう一つのご馳走に目をつけた。
サイズも幾分小さく、とりあえず小腹を満たす程度には打ってつけだった。

「いっただっきま〜す!」

ルーミアは律儀に両手を合わせてから、そのご馳走を貪った。
腕を貪り、足を貪り、胴を貪り、最後に頭を貪って…
とうとう黒髪の妖精は跡形も無くなってしまった。
体に残っていた血や体液で口の周りを汚しながら、ルーミアはもう一度手を合わせた。

「ごちそうさまでしたっ!」

心も体も満たされたところで、もう一つのご馳走に再び目を移す。

「こっちはお弁当にしようっと」

さっき会った時とは服装が変わっていたが特に気にしなかった。
自分を邪魔した人の服装だということには気がつかなかった。
もちろん、ここで何が起こったかをルーミアは知る由もないし、知ろうとも思わなかった。

「そのまま持っていくのは大変だよね…」

しばらく腕組みをしながら考え、名案を思いついたルーミアはポン、と手を打つ。

「そうだ、細かく分けていけば運びやすいし、食べやすいよねっ」

我ながらいい考えだ、と血に汚れた口角をにーっと上げて満面の笑みを浮かべる。
そうして、横たわる妖夢に手を伸ばし、強引に引きちぎろうと力を込めた。



ルーミアはすっかり作業に夢中になっていた。
だから、外から近づく二つの気配に気づくことは出来なかった。



*   *   *



西行寺幽々子。
鈴仙・優曇華院・イナバ。
そして、ルーミア。

これまでそれぞれ違う道を進んできた三人の少女の道。
それが、今まさに交わろうとしていた。
278創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 23:07:30 ID:e1FZ6jKB
【F-4 香霖堂 一日目 夕方】


【西行寺幽々子】
[状態]健康、親指に切り傷、妖夢殺害による精神的ショックにより記憶喪失状態
[装備]64式小銃狙撃仕様(13/20)、香霖堂店主の衣服
[道具]支給品一式×2(水一本使用)、藍のメモ(内容はお任せします)、八雲紫の傘、牛刀、中華包丁、魂魄妖夢の衣服(破損)
    博麗霊夢の衣服一着、霧雨魔理沙の衣服一着、不明支給品(0〜4)
[思考・状況]妖夢の死による怒りと悲しみ。妖夢殺害はフランによるものだと考えている。
1.鈴仙と行動を共にする
2.フランを探す。見つけたら捕縛しようと考えている
[備考]小町の嘘情報(首輪の盗聴機能)を信じきっています

※幽々子の能力制限について
1.心身ともに健やかな者には通用しない。ある程度、身体や心が傷ついて初めて効果が現れる。
2.狙った箇所へ正確に放てない。蝶は本能によって、常に死に近い者から手招きを始める。制御不能。
3.普通では自分の意思で出すことができない。感情が高ぶっていると出せる可能性はある。
それ以外の詳細は、次の書き手にお任せします。



【鈴仙・優曇華院・イナバ】
[状態]疲労(中)、肋骨二本に罅(悪化)、精神疲労 、満身創痍
[装備]破片手榴弾×2
[道具]支給品一式×2、毒薬(少量)、永琳の書置き
[思考・状況]基本方針:保身最優先
1.しばらくの間は幽々子に守ってもらうが、命が危なくなったら裏切りも検討
2.輝夜の命令を実行しても自分は殺されるだろう
3.輝夜、永琳は自分を捨てたのだと思っている
4.穣子と雛、静葉、こいしに対する大きな罪悪感

※ルーミア、フランドールに対してどうするかは不明
※藍のメモを読んで、内容を把握しました
※幽々子が妖夢を殺した犯人かもしれないと考えていますが、問い質す気はありません



【ルーミア】
[状態]:懐中電灯に若干のトラウマあり、裂傷多数、肩に切り傷(応急手当て済み)、満腹で満足
[装備]:リボルバー式拳銃【S&W コンバットマグナム】4/6(装弾された弾は実弾2発ダミー2発)
[道具]:基本支給品(懐中電灯を紛失)、357マグナム弾残り6発、フランドール・スカーレットの誕生日ケーキ(咲夜製)、不明アイテム0〜1
[思考・状況]食べられる人類(場合によっては妖怪)を探す。
1.自分に自信を持っていこうかな
2.お弁当の準備が出来たら、また地雷の様子を確かめに出発しよう
3.地雷を確かめたら、慧音と神様のところに行ってみよう
4.日傘など、日よけになる道具を探す

※古明地さとりの名前を火焔猫燐だと勘違い
※映姫の話を完全には理解していませんが、閻魔様の言った通りにしてゆこうと思っています


※スターサファイアの死体はルーミアに食べられました。
※ルーミアの作業がどこまで進んでいるかは次の書き手の方にお任せします。
279創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 23:09:03 ID:e1FZ6jKB
193 : ◆shCEdpbZWw:2010/04/30(金) 01:15:55 ID:pTOVRO7A
仮投下は以上です。
タイトルは「平行交差 -パラレルクロス-」です。

代理投下終わりです
うどんげはもうねェ…
ルーミアは相変わらずの所で鉢合わせかよw
これは…
280創る名無しに見る名無し:2010/05/01(土) 00:01:54 ID:wukCkJrF
ルーミア相変わらずトリップしてるな
あのでかい妖精を丸々食べる胃袋がどこにあるのか知りたいぜ
281創る名無しに見る名無し:2010/05/01(土) 00:02:34 ID:NfKlbpFw
最近活気が戻ってきて何よりだ
282創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 00:10:26 ID:dUKFs6mW
この回は怖えええw
283創る名無しに見る名無し:2010/05/03(月) 01:38:21 ID:G3bhEDP7
そろそろ主催のことを書いた方がいいと思うがあの主催とか書ける人がいるかどうか…
284創る名無しに見る名無し:2010/05/03(月) 18:16:14 ID:0ViRNl8E
今さらだけど、wikiの所々で「永夜抄」が「永夜紗」になってるのに気づいたw
今度時間がある時に修正しておこう、「えいやさ」って祭りの掛け声じゃないんだからw
285創る名無しに見る名無し:2010/05/03(月) 20:31:00 ID:ouDAqm7o
30R氏からそろそろ連絡来ないかな…
286創る名無しに見る名無し:2010/05/03(月) 21:02:03 ID:NNPJKZ0r
そういえば今日は3日か
一応、今日のうちに投下する予定にはなっているけど
リアルの事情が原因みたいだしな…解決してるんだろうか
287創る名無しに見る名無し:2010/05/04(火) 13:38:50 ID:w9aXWv/e
仮投下きたぞ
288創る名無しに見る名無し:2010/05/05(水) 12:36:49 ID:vUpP3w0Y
仮投下途中で止まったな
289創る名無しに見る名無し:2010/05/05(水) 17:16:11 ID:yD6HKzY/
なんであんなに小出ししてるの?
290創る名無しに見る名無し:2010/05/05(水) 17:21:28 ID:MIQ90iDm
投下中に水を差すようだけれど、回線云々は嘘で最初から出来ていなかったんじゃないかなぁ
一ヶ月前に回線繋がり次第推敲と投稿、と言っていた割には…
一回目の投下の頭でも「まだ終わらない」と口走っているし
推敲し始めたらあちこち気になって…というのも無くは無いだろうけど
291創る名無しに見る名無し:2010/05/05(水) 20:22:12 ID:REiX9fLd
それは俺も思ったが、ここでする話じゃないな。
292創る名無しに見る名無し:2010/05/05(水) 20:58:05 ID:M8npW6S0
回線自体は嘘じゃないだろ
それを免罪符にしてた節はあるが
293創る名無しに見る名無し:2010/05/05(水) 23:24:44 ID:oPdTSsN1
別に嘘でもうそじゃなくても別にいい
投下してくれるだけで俺は感謝の極みだ
294創る名無しに見る名無し:2010/05/06(木) 00:02:05 ID:XV/MW9Ah
何でもいいから最後まで書いて欲しい
295創る名無しに見る名無し:2010/05/10(月) 04:22:19 ID:+DygTRqS
>>290

>授業、就活、卒論・・・
>こいつら全てに決着をつけ、多忙地獄からやっと開放されました。

これが予約時の書き込みだから、恐らく4月から新社会人になったんでしょう。
で、引越とともに回線を新たに引く必要に迫られたんじゃない?

まぁ、そんな多忙が予想されるスケジュールで予約を入れる方もどうかとは思うけど。
多分週末までまた仮投下は無さそうな気がするし。
今回は仕方ないとして、今後も同じことやられちゃたまったもんじゃないぞ。
296創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 11:14:33 ID:sNB++PY+
かれこれ10日か……
297創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 19:41:43 ID:Kk8lOxt2
書くなら最後まで書いてくれ
中途半端は辛い
298創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 20:49:34 ID:bN0D7xb/
レミリア、咲夜、リリカの3人はただでさえ遅れてるしなぁ。
7ヶ月も止まってるんだぜ、このパート。
299ハルリン!:2010/05/15(土) 19:11:13 ID:w1mUjUFI
レミリア・スカーレットがプリズムリバー邸から立ち去って間もない時のこと・・・
レミリアが従えている十六夜咲夜に右手人差し指を切り取られたリリカ・プリズムリバーは、本来ならば人差し指があるべき部分を押さえながらそこから感じる凄まじい激痛により悶えていた。

「痛い・・・痛いよ・・・っ!」
まるでポットの紅茶をティーカップに注ぐかのようにたれ流れる血が、リリカの心を更に絶望へと追い込む。
指を切断されたくらいでは、特に致命傷に至るわけではない。
が、指・・・更に言うならばそれを動かす手は楽器の演奏者にとっては第二の心臓とも言うべき存在。その一部を失ったことがどれだけ苦痛なことか。
咲夜に指を切るよう指示したレミリアはそれを知っているだろう。いや、知っているからこそリリカに対してあのような仕打ちをした、といったところか。

「こんな・・・こんなことをするなんて・・・!」
あまりの激痛ゆえに次第に指に対する痛覚が麻痺してしまったためか、指を失ったこととレミリアの恐ろしさによる絶望感よりも、その本人がいないからか彼女に対する怒りが込みあがってきた。

だが、レミリアに対する怒りを感じたところで、リリカはふと思う。
今の自分に何が出来る?一人ぼっちで、ルナサやメルランのような家族も、ヤマメや映姫のような仲間も居ない自分に何が出来る?

このプリズムリバー邸でレミリアと再び遭遇した時のこと・・・
自分は騒霊三姉妹の最後の一人だ。幻想郷の住民に音楽を知らしめるためにも、姉の遺志を継ぐためにも死ぬわけにはいかない。
それに、レミリアはメルラン姉さんを殺した憎き敵だ。そんな奴を絶対に許すわけにはいかない。
だからこそ、圧倒的な実力差があると分かっていながらも、最初は彼女に対して勇ましく自分の意思を主張して抵抗の姿勢を見せた。
だが、結局はそれだけ。その後はレミリアの威勢で怯んでろくな抵抗も許されず、仕舞いには指を切られてしまう有様だった。
用は、今の状況ではレミリアには手も足も出ない。復讐なんて考えたところで、レミリアに比べて圧倒的に弱い自分にとっては無駄なことなのだ。

家族を失ったこと。仲間が居ないこと。演奏者にとっての命(指)を切られたこと。そして自分とレミリアの間にある圧倒的な実力差。
それら全ての要素が、ズタボロになったリリカの精神を更に蝕んでいた。
300ハルリン!:2010/05/15(土) 19:16:57 ID:w1mUjUFI
さっきのスレのタイトルは「Eternal Fighter Zero」です。
この話は全部で4部まであり、
「MOON.]編
「ONE 〜輝く季節へ〜」編
「Kanon」編
「AIR」編
に分かれています。
301創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 20:09:39 ID:EGuxL7NO
もうマジで破棄したものとみなして、予約していい?
半月経過とかさぁマジねぇよ
302創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 20:55:25 ID:7vgwGLBR
マジで予約してくれるのならそれもありだが…
期限決めてそれまでに最後まで投下しないのなら破棄もありかも…
303創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 22:59:22 ID:kahfjNm0
ここは30氏の個人ロワじゃないんだからもう破棄でいいよ
このままだとロワ自体が潰れかねない
304創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 23:06:42 ID:mKnpK5o4
とりあえず避難所の議論スレで討議されているようなので是非見て下さい
305創る名無しに見る名無し:2010/05/18(火) 20:20:24 ID:hqCFKq9F
30氏は連絡もないし破棄になりそう…
306創る名無しに見る名無し:2010/05/18(火) 23:06:45 ID:hqCFKq9F
木曜まで待つみたいだな
それで投下か連絡が無いと破棄か…
307ハルリン!:2010/05/19(水) 16:37:58 ID:3K0nqwyW
これは、未完成です。
さらわないでください。
308創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 22:33:25 ID:ZP2UEwnT
まだ来ない…
後一時間半…
309創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 00:03:00 ID:tluUZBlK
来なかったな…
310創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 00:29:24 ID:pjbUrPZy
これで予約破棄って事でいいと思うけど、新しく予約が来るまでに作品投下した場合は採用するの?
311創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 01:32:41 ID:IcX7G+v0
完全破棄だろ
甘えさせるな
312創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 07:39:43 ID:PmXc364L
予約来てるな…
313創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 23:33:28 ID:StpI+Tfn
規制じゃないの?
314創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 18:38:54 ID:IxvfKq+i
>>313
避難所に規制はない(たぶん
315創る名無しに見る名無し:2010/05/25(火) 23:49:36 ID:j+mKnD9r
だれかこないのか?やばいぞ・・・・
316創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 05:47:36 ID:do8CpPcb
>>315
予約は4件来てるね
問題のパートもひとまず埋まったみたいだし、もうちっと待とうか
317創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 15:38:03 ID:9g0VuEgZ
代理投下します
318創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 15:38:53 ID:9g0VuEgZ

午後三時。紅魔館。

紅い館に主人は帰還した。
主人は帰宅と同時にあたりを見渡す。

「咲夜」
「何でしょうか、お嬢様」

永遠に幼き紅き月、レミリア・スカーレット。
完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜。

大小二つの影が玄関ホールで足を止めた。

「臭いがきつくなってきたわ。片付けなさい」
レミリアはホールの片隅を指して命ずる。

指した先には八坂神奈子の死体。

朝の戦闘から約半日。
隅に転がる死体は人間には分からないほど、
されど吸血鬼には十分感じられる程度の臭気を放ち始めていた。

「かしこまりました」
言葉を発すると同時に、咲夜は何の戸惑いもなく死体に手を伸ばす。
何年間も悪魔の館で働き続けた賜物、死体も含めた掃除はお手の物だ。

「日が暮れるまでに終わらせなさい」
早速ホールの掃除を始めた咲夜に一瞥をくれた後、
レミリアはそう言葉を残し、階上へと消えていった。





「あとどれくらいで日は沈むのかしら」

数多ある紅魔館の部屋の中の一つ。
そこでレミリア・スカーレットは静かにくつろいでいた。

夕日が沈めば夜がくる。
これからの戦いに向けて精気を養っているのだ。

夕焼けの観賞と同時に、まだ見ぬ、されど生きてはいるはずの幾人かの人妖を想う。


紅美鈴、紅魔館の門番。
されど今門には人影がいない。

――生きているのに仕事を果たしに来ないとは。
レミリアはその忠誠心のなさを嫌悪する。
門番は門を守ってこそ門番、仕事をしに戻ってくるべきである。
狭い会場、半日もあれば紅魔館にたどり着くことなどたやすいはずだ。
319創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 15:40:30 ID:9g0VuEgZ
フランドール・スカーレット、悪魔の妹。
どこをほっつき歩いているのか、何をしているのか、さっぱりわからない。

――せめてスカーレット家の名を汚していないといいわね。
もし、汚していたら。
意味もなく人妖とつるんだり、愚かに戦って敗れたり。
――そんな事をしていたら、家族の縁を切ることも考えるわね。
――とはいえ
――まさかそんなことはないと思うけどね。
あのフランが人間や妖怪と一緒に行動をしたり、
強い力と能力をもってして、無様に負けている姿は想像できない。

大方、虐殺の限りを尽くして、恐怖をばら撒いているのだろう。


そして、
博麗霊夢、永遠の巫女。
しばらく一緒にいたこともあり、その実力は分かっている。

弱くはない。
確かに力は弱い。
されど、何か天賦の才能があり、甘く見ているとやられるかも知れない。

――少なくとも能力に制限のある家のメイドよりは強いでしょうね。



「お嬢様、よろしいですか?」

その時、後ろのドアが開き十六夜咲夜が姿を現した。


「掃除は終わったの」
「はい、お休みのところ申し訳ありませんが、処遇を決めてもらいたいものがありまして」

そういって、咲夜は手に抱えた荷物をレミリアの前にぶちまけた。

広げられたのは幾つもの支給品、
有効利用すれば弱者でも強い力が手に入るものだが、
「あまり興味ないわね」
床に転がる道具達を一瞥する。
とはいえ、それらの中に使い勝手わかるようなものはほとんどない。
「要らないわ。好きに使いなさい」
「かしこまりました」

咲夜から目を放し、再び外に目を向ける。
日はさらに沈み、空は暗さを増してきた。

がたん、後ろで咲夜が部屋の戸を閉める。

咲夜の去ったことを確認して、
キスメをゆっくりと床に座らせる。
320創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 15:42:40 ID:9g0VuEgZ
「キスメ見ていなさい」
傍らの遺体に声をかける。
「吸血鬼の力を見せてあげるわ」
高らかに嗤う。
「八雲だの博麗だの月人だの閻魔だの」
レミリアの眼に、体に力がこもる。


「みんな踏みにじってやる!!」


そのとき、太陽が地上から姿を消した。

【C-2  紅魔館二階・一日目 夕方】

【レミリア・スカーレット】
[状態]腕に深い切り傷(治療済)、背中に銃創あり(治療済)
[装備]霧雨の剣、戦闘雨具、キスメの遺体
[道具]支給品一式
[思考・状況]基本方針:威厳を回復するために支配者となる。もう誰とも組むつもりはない。最終的に城を落とす
 1.キスメの桶を探す。
 2.映姫・リリカの両名を最終的に、踏み躙って殺害する
 3.咲夜は、道具だ



 ※名簿を確認していません
 ※霧雨の剣による天下統一は封印されています。
 ※紅魔館レミリア・スカーレットの部屋は『物置』状態です




「さてと」
主人の部屋から退出すると、十六夜咲夜は息をついた。

――なかなか面白いものが手に入ったわね。
手元の支給品を見つめて、精査に移る。

一つ目、銃の弾が百発ほど。
弾をとりだしてナイフ型の銃に突っ込もうとしたが、うまく入らない。

「使えないわね。不良品かしら」
もしくは型が合わないのか、どちらにしろ使えないことに変わりはない。

二つ目、遠眼鏡。
随分とでかい。それが第一印象だ。
スイッチらしいものをたたくと、眼鏡の中の風景が緑に染まった。
――外の世界のおもちゃかしら。
性能は悪くないらしく、暗くて見にくかった廊下が鮮やかに染まって見える。
遠眼鏡のくせに遠くがよく見えないことは気に入らないが、使い勝手は良い。

見栄えに難ありだが、必要な時だけ使えばよいだろう。
321創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 15:44:31 ID:9g0VuEgZ
珍しい緑色の世界を楽しんでいると、
「あれ?」
遠眼鏡に一筋の線が映る。
あわてて駆け寄ると、クモの糸のようなピアノ線が張ってあるのが分かった。

「危ないわね」

掃除をしていた時には見つからなかったのだが
――不覚ですわ、万一お嬢様がけがをしていたら・・・
早速罠の解除にかかる。
ちょうどいい道具があったことを思い出し、手元に注意を戻す。

三つ目、ペンチ。
これについては特にチェックすることもない。
一応武器が仕込まれていないか確認したが、ペンチはペンチ。

ちょきん、ピアノ線は床に垂れ下がった。

四つ目、白い箱。
箱を開けると、画面と文字盤が姿を現す。

「ケイタイとかいうやつかしら?」

確か遠くの人と話をする程度の能力を持つ外の道具だったはずだ。
が、説明書の類は付いておらず、使い方が分からない。


「あら、もうこんなに・・・」

咲夜がふと顔を上げると日は完全に姿を消していた。
闇に包まれた紅魔館。

そのとき、館中の時計が六時を告げた。


【C-2  紅魔館二階・一日目 夕方(放送開始直前)】

【十六夜咲夜】
[状態]健康
[装備]NRS ナイフ型消音拳銃(1/1)個人用暗視装置JGVS-V8 
[道具]支給品一式*5、出店で蒐集した物、フラッシュバン(残り2個)、死神の鎌
    NRSナイフ型消音拳銃予備弾薬17 食事用ナイフ・フォーク(各*5)
    ペンチ 白い携帯電話 5.56mm NATO弾(100発)
[思考・状況]お嬢様に従っていればいい
[行動方針]
1.お嬢様に従うことこそ、時間を潰さずにいられる手段だ
2.このケイタイはどうやって使うの?


※出店で蒐集した物の中に、刃物や特殊な効果がある道具などはない。
※食事用ナイフ・フォークは愛用銀ナイフの様な切断用には使えません、思い切り投げれば刺さる可能性は有

※紅魔館は咲夜によって掃除されました。注意深く見なければ戦闘の痕は分かりません。
(八坂神奈子、黒谷ヤマメの死体は片付けられ、血痕は落とされました)
322創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 15:48:54 ID:9g0VuEgZ
代理投下終了です
題名は「吸血鬼の朝が来た、絶望の夜だ /紅魔の夜の元、輝く緑 」です

さて、吸血鬼が自由に動き回れる時間が来たか
咲夜は色々と役に立ちそうなものが集まったしどうなるやら…
今後は二人が館から移動するのか、それとも誰か来るか…
323創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 18:36:39 ID:fgG2+1uV
     |
       |
      ,.ィ ーrーr 、
    y' "´ ̄`'ヽ
    .ノくノノ人リ))ゝ
     ルi§つ-⊂§ <私はそんな化け物じゃない…
      /フノ`ヽヾノ
    くク/_入⌒)`)─────────────────
    /
  ./
324創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 22:16:00 ID:VrNrssng
悪堕ちしてゆくお嬢様に比べて、フランちゃんの綺麗さと言ったらw
もし再会したらレミリアブチ切れるんじゃないだろうかw
325創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 18:09:55 ID:8l9CGF6C
代理投下します
326創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 18:13:05 ID:8l9CGF6C
紅い嵐が去った。
嵐が去った古い洋館のエントランス。
そこにリリカ・プリズムリバーが横たわっていた。
右の人差し指は無残にも落とされてしまい、切断部からはポタリ、ポタリと血が滴っている。
痛みに顔を歪めるリリカの心中に、怒りと絶望がない交ぜになって押し寄せる。



レミリア・スカーレットが許せない。
奴は私からメルラン姉さんを奪った。
奴は私から楽器を演奏する術を奪った。
奴は、奴は、奴は……っっ!!

紅魔館であの悪魔はメルラン姉さんを殺してはいない、そう言った。
一度はそれを信じてしまったが、あの時はメルラン姉さんの死という現実から逃げていただけ。
心の弱さからありもしない幻想に飛びつき、少しでも悪魔の嘘に絆されてしまった自分が今は恨めしい。
何の躊躇いも無く従者に指を切り落とすことを命じるような悪魔が、誰かを見逃すなんてあり得ない。
やっぱり、あの神様が言っていたようにメルラン姉さんを殺したのはあの悪魔なんだ。

だけど――
許せないからといってどうする?
1対1でも敵うかどうか怪しいのに、今は従者までついてしまった。
あの従者の考えていることはよく分からないが、少なくとも悪魔の言いなりになっているのは間違いない。
単純な力量でも不足している上に、頭数でも不足していては勝ち目はほとんどない。

レミリア・スカーレットは許せない……が、私がどうこう出来るような相手でもない。
だったらどうしよう? どうしよう? どうしよう……



思考の無限ループに陥ったリリカは、虚ろな表情で天井をただ見上げることしか出来なかった。

「姉さんたちなら、こんな時どうしたかなぁ……」

今は亡き二人の姉に思いを馳せるが、それはただの現実逃避でしかなかった。
327創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 18:14:35 ID:8l9CGF6C
不意に一陣の風が吹き込み、玄関で開け放たれたままのドアがギィィ、と軋む。
レミリアたちが戻ってきたのでは、と思ったリリカは慌ててガバッと体を起こし、座ったまま後ずさりした。
そして、誰も来ていないことを確かめると一つ大きく息をついた。

「このまま……ここにいるわけにはいかないよね……」

今度レミリアと鉢合わせようものなら、指一本どころでは済まなくなるだろう。
そのレミリアが、また何時戻ってくるか分からないのだ。
このままいつまでも呆然としていては、姉たちの遺志も受け継げなくなってしまう。
無策のまま時間を浪費していては、先刻のようにもう一度蹂躙されてしまうのは目に見えている。

「とりあえず、まずはこの血を何とかしないと……」

依然として人差し指があった場所からは血が滴り落ちていた。
動脈を切られたわけではないから、すぐに命にかかわるような傷ではないとはいえ、放置できないことに変わりはない。
リリカは自分の服の右袖を引き裂き、傷口にきつく巻きつけた。
慣れない左手での作業だったので少々難儀したが、どうにか傷の処置を終えることが出来た。
まだ痛みは残っているが、それぐらいで挫けるわけにはいかない。

「よしっ、それじゃあ次は……」

自らを奮い立たせるように一声発して、リリカはスキマ袋の中に手を伸ばした。
手持ちの道具でどうにか状況を打破できないかと考えたのだ。
しかし、手持ちの道具を広げたところで、リリカは再び意気消沈することになってしまう。
なにせ、今の手持ちはなにやらよく分からないバトンに、小さな人形が一つ。
武器として使えそうなものは、さっき見つけた霊撃札ぐらいである。
その霊撃札にしても設置して使うのが主目的であり、自ら打って出るには不向きな武器だ。

かと言って、このまま館に籠城するのは紅魔館での悪夢を思い出してしまうので極力避けたい。
図らずも殺めてしまったヤマメの死に顔が、機関銃に全身を撃ち抜かれた神奈子の姿が、
自分を傷つけたキスメとかいう妖怪が頭を割られて横たわっている姿が…
紅魔館で見た多くの"死"がグルグルとリリカの頭を駆け巡っていく。
とっくに血が止まったはずの脇腹の傷がズキンと疼き、リリカは僅かに顔をしかめた。
そして、残像を振り払うように首をブンブンと左右に振った。
328創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 18:15:24 ID:8l9CGF6C
「違う……悪いのはみんなあの悪魔……アイツさえいなければこんなことにはならなかったのに……!」

レミリアさえいなければ、メルラン姉さんが今も生きていたかもしれない。
レミリアさえいなければ、ヤマメがあんな事故で死ぬことは無かったかもしれない。
レミリアさえいなければ、それを追いかけてきた神奈子が死ぬことも無かった。
レミリアさえいなければ、私を助けてくれた咲夜があんな凶行に及ぶことも無かった。
レミリアさえ……レミリアさえ……レミリアさえ……

リリカはハッキリと認識した。
生き延びてこの悪夢のような異変から脱出し、姉たちの遺志を継ぐために越えねばならない最大の障害。
それが、レミリア・スカーレットであることを。
そして、その障害を越えるのに自分ひとりでは力が及ばないであろうことを。

「やっぱり……悔しいけど私一人じゃ手に負えないか……」

紅魔館ではせっかく作った味方を喪ってしまう憂き目を見ただけに、また誰かと行動を共にすることには抵抗があった。
だが、自分だけでは何かを成すことが出来ない以上、背に腹は替えられなかった。
やはり、力のある誰かと手を組んで惨劇からの脱出を目指すということが、最善の策だとリリカは考えた。

「やっぱり第一候補は霧雨魔理沙……だけど、今もまだ生きている保証は無いし……」

先程は魔理沙を探しに出ようとしたところで、レミリアにその出鼻を挫かれてしまった。
邪魔が入ってしまったが、やはり彼女を探すという方針に変わりは無い。
だが、拠り所が一つだけというのは心許ないというのもまた事実。
魔理沙が既に死んでいた時に、たちまち破綻してしまうような脆い土台ではたまったものではない。
いつレミリアが戻ってくるか分からないという焦燥感を感じつつも、リリカは魔理沙に次ぐ候補を考えていく。

まずは、よく出入りしている白玉楼の主、西行寺幽々子が浮かんだ。
彼女なら聡明だし、力量も申し分ない。ともすれば、もう誰かと手を組んで異変の解決にあたっているかもしれないと考えた。
ただ、一つの懸念として、先程読み上げられた死者の中に従者である魂魄妖夢の名があったことを思い出す。
実の姉を喪って心が壊れかけた自分のように、従者を喪った幽々子の心が壊れていないとも限らない。
幽々子に限ってそこまで弱くはないだろうと思うが、用心するに越したことは無い、リリカはそう考えた。

次に、最後に手持ちの霊撃札を見つめ、博麗霊夢の姿を思い浮かべた。
確かに、掴み所の無い性格で何を考えているか分からない節があり、殺し合いに乗っている可能性も否定できない。
だが、数々の異変の解決にあたってきた実績は大きく、味方に出来れば魔理沙と同じくらいに心強いことも確かだった。
魔理沙ほどの信頼を置くことは出来ないが、あのレミリアよりはましなはず、とリリカは霊夢を候補の末席に加えた。

最後に、紅魔館で行動を共にしていた映姫のことを考えた。
だが、これは候補としては最早あり得ないと、リリカは切り捨てた。
少なくとも、紅魔館での一件で映姫からは裏切り者と認識されているかもしれない。
頭を下げて済むようなことではない、下手をすれば会ってすぐに裁きを受けてしまうこともあり得る。
映姫とは極力顔を会わせないようにしよう、リリカはそう決めた。
329創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 18:16:12 ID:8l9CGF6C
「霧雨魔理沙がダメなら幽々子様、最悪の場合は博麗霊夢と手を組むとして……いったい何処にいるのやら」

リリカは呟きながら地図を広げた。
冥界が地図に無いのに気づいたが、空を飛ぶのに不自由する今は行けなくても仕方ないと、脇に追いやった。

「人里なんていかにも人が集まっていそうだけど……今は紅魔館には近づきたくないし……」

人里の方に向かおうとすれば、否応なしに紅魔館に近づくことになる。
大きく遠回りすれば行くことも出来るが、どうせ遠回りするなら、とリリカは別の候補を考えることにした。

「……あった、霧雨魔理沙の家。……でも、これまた随分遠いなぁ」

地図に目を落として程無く、リリカは魔理沙の家の場所を確認することが出来た。
だが、彼女の家は現在地から遠く離れた魔法の森の中。
まだ陽が高い時間だが、満足に飛べない今は歩くしかなく、森に到着する頃には日が暮れてしまうだろう。
おまけに、自分が動くのと同じように、向こうだって同じところに留まらずに動いている可能性は高い。
そもそも、ご丁寧に自分の家に居るとも限らないわけで、空振りに終わってしまう危険性もあった。

「だけど……動かないわけにはいかない……少なくとも、ここや紅魔館に比べれば安全なはず……」

そんな不確定要素も、レミリア・スカーレットという最大のリスクの前にはちっぽけなものに思えた。
悪魔に抗う意思こそ失ってはいなかったが、恐怖は確実にリリカの精神に刻み込まれていた。
この際期待した成果は得られなくとも、悪魔の影響下からひとまず去ることが出来ればそれでいいとリリカは思う。

「とにかく、森の方なら他にも博麗神社もあるし、誰かしら集まっているはず……
 そこで事情を話して、なんとかあの悪魔に対抗する手段を考えないと……」

霧雨邸が空振りに終わった時の次善の策を用意しながら、リリカは一度広げた荷物をスキマ袋にしまい始めた。
使い道はともかく、何かの役に立つかもしれないとバトンと人形をすぐに取り出せるようにし、最後に霊撃札を懐に収めた。
すっくと立ち上がったリリカは、レミリアと咲夜の待ち伏せを警戒しながら外の様子を確認する。
そして二人の姿も気配もないことに安堵すると、外に出る前にもう一度視線を館の中に戻した。
視線の先には、在りし日のリリカたちが描かれたあの鏝絵があった。

「……ルナサ姉さん、メルラン姉さん……行ってくるね」

必ず生きて帰って、二人の分まで幻想郷を盛り上げてみせる。
私がこの世に無い幻想の音を奏でられるのなら、いつかきっと姉さん達の音だって奏でられるようになるはずだよね。
だから……二人ともあの世で私のことを見守っていて。

そんな事を思いながら、リリカは数時間ぶりに外に踏み出した。
柔らかく照りつける陽射しは、改めてリリカに生きていることを実感させるには十分だった。
外の空気をいっぱいに吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
大きくひとつ深呼吸をしたリリカは、自らを鼓舞するように顔をぴしゃりと叩き、キッと前を見据えた。

「待ってなさい、レミリア・スカーレット……今はダメでも、いつかお前を……」

どうするのかという答えを胸のうちに飲み込み、リリカは駆け出した。
目指すは魔法の森、霧雨魔理沙亭。
330創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 18:18:11 ID:8l9CGF6C
あの悪魔が私の行動を知ったら一笑に付すかもしれない。
所詮貴様は一人では何もできない、その程度のちっぽけなプライドしか持ち合わせていないのか、と。
それでよくもまあ、誇り高き吸血鬼に喧嘩を売ることなど出来たものね、と。
あの見下すような表情を浮かべながらそう吐き捨てる姿は容易に想像がつく。

誇り? 尊厳? 威信? 矜持? プライド? どれもこれも、いかにもあの悪魔が好みそうな言葉だ。
だけど、そんなものは死んでしまえば何も残らない、生きている間だけ自己を満足させるだけのものにすぎない。
なら、そんなものは要らない。恥も外聞もない、どんな手を使ってでもあの悪魔を倒して、生きて帰ってみせる。

私は、間違いなくあのレミリア・スカーレットに恐怖している。
恐怖しているからこそ、他の誰かを頼って立ち向かってみせる。
他の一切の存在を卑下する悪魔には、誰かを頼るなんて想像もつかないことかもしれないけどね。

確かに、今の私は一人では何も出来ない。
そして、今だけじゃなくこれまでずっとそうだったのかもしれない。
戦いともなれば姉さんたちの陰に隠れ、自分が極力前に出ることなく利益を得ようとしてきた。
その生き方は狡猾なものであり、それを嘲り笑う者もいたことでしょうね。
だったらどれほど狡猾だと蔑まれようとも構わない、この際開き直ってみせる。
生きて帰らないことには何も始まらないのだから。
姉さんたちとの約束も果たせないのだから。



【C-2 プリズムリバー邸周辺・一日目 午後】


【リリカ・プリズムリバー】
[状態]腹部に刺傷(大よそ完治)、右手人差し指切断(止血処置済)
[装備]霊撃札(24枚)
[道具]支給品一式、オレンジのバトン、蓬莱人形
[思考・状況]生き延びて姉達の遺言を果たす
[行動方針]
1.魔法の森に行って霧雨魔理沙を探し、その動向が脱出であれば協力する。
2.魔理沙が見つからない時は幽々子、霊夢の順に頼る。
3.仲間を集めて紅魔館に戻り、脱出の障害になり得るレミリアたちを打倒する。
4.出来るならば姉達とヤマメを弔いたい。
5.映姫とはなるべく顔を合わせたくない。
331創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 18:21:01 ID:8l9CGF6C
代理投下は以上です。
タイトルは「リリカSOS」です

リリカは追い詰められて歪んだような気も…
そしてその三人もそれぞれ問題と誤解抱えてるから揉めそう。霊夢なんかマーダーだぞw
332創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 18:27:13 ID:BLi2VuS9
リリカまで汚くなってきたなーw
それこそ逃げだということが何故分からない……
やはり姉二人の死が重い。乗り越えられるか、それともこのまま落ちるか……
333創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 18:34:43 ID:80vITepC
幽々子とリリカが手を組んだら悪霊コンビとか言われそうだ
魅魔様助けてー!
334創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 02:56:52 ID:EnhfRVZP
某東方隔離サイトでバトロワのキタノのシーンのパロがあったから久しぶりに来てみたけど、
まだ終わってなかったのかこれ
335創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 05:43:50 ID:byEJTv6i
パロロワは1、2年かかるのがざらだからねぇ
これでもここはそこそこ回っている方
336 ◆oS3F0LolSc :2010/06/01(火) 21:10:08 ID:CI7j67F8
◆J78.yIiAegと入れ違いにならぬため、こちらでも宣言を

すでに延長も切れている模様ですので、
射命丸文、レティ・ホワイトロック、河城にとりを予約します
337通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 16:33:05 ID:J4PQ2KoB
 バトルロワイヤルは、出会い、そして、別れを運んでくる。
 魔法の森で発生した決戦も、その類に漏れないものだった。
 六名もの人妖が激しくぶつかりあった魔法の森も、数刻の時を経て、残っているのはたったの二人の少女のみ。

 魔法使い、霧雨魔理沙。
 吸血鬼、フランドール・スカーレット。
 魔法の森に残された二人の少女は、その場に留まり、休憩をしていた。
 じっとりと湿り気を帯びた巨木の幹に背を預け、隣り合わせに座っている。
 戦場とは無縁の自然へと回帰した魔法の森には、もう喧騒はない。
 たった二人で先程までの熱気を生み出せる筈も無いのだから、静寂は必然のものだ。
 とはいえ、現状は、いささか……静かすぎた。
 魔理沙もフランドールも、眠っているわけでもないのに、会話どころか、声をかける様子すら見えない。

 金髪の魔法使い、霧雨魔理沙は、なにかに想いを馳せるように、ぼおっと沈黙を決め込んでいる。
 両目に包帯を巻いた幼き吸血鬼、フランドール・スカーレットは、なんともいえない不安を表情に滲ませながら、ずっとうつむいている。

 二人はずっとこんな調子だった。
 既に一時間、いや、休憩の前に行った銃剣の作成の時間も加算すれば、既に二時間近く、魔理沙達はまともな会話を交わしていない。
 無理にはしゃぐ必要は無いとはいえ、ただ無言のまま休憩し続けるのは異常と呼ぶに十分なものだった。

 魔理沙達に、この地に留まる意味は薄い。
 休憩をするにしても、いささか場所が悪い。
 決戦の舞台となったこの周辺には、死肉が発する死臭が篭もっている。
 血生臭さは気分を害するし、血の匂いに敏感な妖怪が来ないとも限らない。

 魔理沙もそれは理解は、している。
 だけど魔理沙は、時間の許す限り、この場所に、いたかった。


 魔理沙は空虚な想いを抱きながら、周囲を見やる。
 すると薄暗く気味の悪い魔法の森の景色に、死臭を放つ異物が、二個、見えた。
 木々の新緑と大地の狭間に、一面、紅い絨毯で覆われた死体は、二人の人妖がこの世から消え失せたと証明している。

 腹部に刺された痕を残す導師服を纏った美しい女性八雲藍
 死にかけていた魔理沙を助け、支えてくれた。
 彼女は忠義に殉じ、主である八雲紫を庇い、逝った。

 胸元に痛々しい傷跡を残す、白銀の頭髪の男性森近霖之助
 魔理沙の幼馴染であり、兄のような、育ての親のような存在だった。
 彼は魔理沙の友達であるフランドールを庇って逝った。

 魔理沙は二人を失ってから、ずっと心に傷跡を残していた。
 ちょっと歩けば体に辿り着けるほどに距離は近いのに…………でも、どうやっても届かない。
 数時間もすれば、その体すらも首輪の爆破により、消え失せるのだろう。

 ――今、ここから離れてしまえば、もう二度と会えない。

 もう死んでいるとわかっていても、そう思ってしまったら、魔理沙は離れられなくなった。
 銃剣の作成に没頭したのも、今こうして休憩しているのもそのためだ。
 何度か、この場から離れようとしたが、全て失敗に終わった
 今のままじゃ、駄目だって、わかっている。
 気が済めば、時間が経てば、移動するつもりではある
 けど、それでも……もうすこし、もうすこし、と別れを引き伸ばさずにはいられない。
338通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 16:34:30 ID:J4PQ2KoB




 どのくらいそうしていたか、魔理沙とフランドールは、まだじっと座っている。
 静寂の中、唯一音を刻み続ける心音と呼吸音が一際高く音を立てている気さえする。

 何度目か既に覚えていない別れの失敗をまた繰り返した時、魔理沙は、ふと、ある言葉が浮かんだ。
 そして、気が緩んでいたのか、その言葉を、つい、小さく呟いてしまった。


 ――このまま、夜が明けるまでこうしているのも悪くないかもな。


 軽率だった、としか言い様が無い。
 魔理沙は隣にフランドールがいる事を、忘れていた。
 フランドールを考慮に入れずに、不用意な言動を発してしまった。

 小さく反響した魔理沙の言葉に、フランドールは表情を曇らせ。


 ――……ごめんね。


 フランドールは薄く悲しげに笑って謝って、顔を背けた。
 ちらりと覗いた、小さな穢れない唇が、小さく震えている。



 一瞬、間を置き、魔理沙は状況を理解した。
 ……私はなにをやっているんだ、と後悔し、頭を掻き毟る。

 フランドールは、目前の死者の一人である森近霖之助に庇われた。

 フランドールが頼んだわけでもない。
 根本の原因がフランドールにあるわけでもない。 

 それでも……友達の大切な人が死亡した一因であることには変わりは無い。
 魔理沙は、誰かが間違っているわけじゃない、とフランドールに言った。
 それでも、簡単に割り切れるようなものであるはずがない。
 スターサファイアに庇われた経験のあるフランドールはより一層、ショックが大きいはずだ。
 二時間もの間、死臭漂う中にいて、平気でいられるはずが無い。

 魔理沙は自分の事だけを考えていて気が回らなかった。
 慌てて魔理沙はフランドールをフォローしようとするが。

「……あれは、フランのせいじゃない。
 誰が悪いというわけじゃない、って言ったろ」

 ……咄嗟には気の聞いた言葉が浮かんでこない。
 なにかいい言葉はないだろうか、と模索するも、もどかしさ、やるせなさ、罪悪感で思考が上手く纏まらない。
 そうして苦悩している内に、間が空いてしまい、会話を続ける雰囲気が終わってしまった。

 沈黙の帳が降りた中、聞こえるのは二人分の喉の音くらいで、後は何も聞こえない。
 お互い何も話さない。殆ど視線も合わさない。
 それだけなら、さっきまでとなんら変わらない筈なのに、居心地が……非常に悪い。
 沈黙はこんなに不安を催すものなんだということを魔理沙は始めて知った。
339通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 16:36:56 ID:J4PQ2KoB


 そんな静寂の中、フランドールが、魔理沙に声をかける。

「……魔理沙、ちょっと眠ってもいいかしら」

 フランドールは大きなあくびをして、魔理沙から眼をそむけ、瞳を閉じた。
 
「……ああ、おやすみ、フラン」

 魔理沙にはフランドールが眠いようには、とても見えない。
 それどころか、包帯で瞳は隠れているのに、不思議と泣いているように思えた。
 ああ、気を使われたんだな、と察した魔理沙は己の心弱さを蔑む笑みを浮かべる。

 霊夢を止められず、紫を引き止められず、挙句の果てにフランにまで迷惑をかけてしまった。
 ……無様にも程があるな、と魔理沙は静かに溜息を吐く。

 どうするべきか……、と必死に考える。
 自分への嫌気で頭は、多少冷めた。
 今なら、無理をすれば、この場を離れることができるかもしれない。
 だけど、それでは問題は解決しないだろう。
 この場を離れるだけでは、気まずさは、きっと変わらない。

 酷いことをしてしまった、謝らなければならない、と魔理沙は思う。
 だが、今の雰囲気で、自分の心情を素直にストレートに言葉で伝えられる自信が、ない。
 なにか、いい方法はないか、と魔理沙は考え込んだ。


 ◆ ◆ ◆


 苦悩する霧雨魔理沙と時を同じくして、フランドール・スカーレットもまた悩んでいた。

 森近霖之助を失った後の魔理沙を、どこかおかしい、とフランドールは思っていた。
 八雲紫と別れてからは、おかしさが更に顕著に表れた。
 突如、何も言わずに数十分もの間、銃剣の作成に没頭し、完成してからも、ずっと黙り込み動かない。
 そんな不自然なことをしていては、視力を失ったフランドールにだって、魔理沙の心情は、嫌でも、伝わる。

 フランドールは魔理沙と森近霖之助の死別を鮮明に思い返す。

 ……あの時の魔理沙は、年相応の女の子だった。
 世界のどこにでもあるような、普通の少女だった。
 魔理沙は、彼が死んだことに対して、誰も間違っていないと言っていた。
 だけど、理屈では分かっていても大切な人の死は簡単に割り切れるものじゃないのだろう。
 他人の感情を計るのが苦手なフランドールでも、ずっと苦しげに沈黙する魔理沙に何も感じないほど、壊れてはいない。

 どうしてこうなってしまったのだろう。
 スターを失い、命の大切さを知った。
 友達である魔理沙を傷つけないよう一人で霊夢に挑んだ。
 
 なのに……奪って、しまった。
 魔理沙は生きていたけど、魔理沙の大事な人を奪ってしまった。
 魔理沙の魂に皹を入れてしまった。
340通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 16:42:57 ID:J4PQ2KoB



 胸が、ジクジクと痛む。
 心というものは甘いものじゃなかった。
 こんなにも苦痛を伴うものだった。
 誰も間違っていなくても誰かが傷ついてしまう。
 これからもずっとそうかもしれない。

 今の自分では、だめなんだろうか、とフランドールは思う。


 もしも。
 もっと幼かった時の『私』なら。
 命を軽視し、相手の事を考えない危険な遊びを好んだ『私』なら。
 スターとも魔理沙とも出会わなかった『私』なら。
 吸血鬼として、悩まず、本能のまま、日陰の下で独りで生きていた『私』なら、何の不安もなく楽に過ごせたのかもしれない。

 一瞬、そんな想いがフランドールの脳裏を過ぎった。





 ――嫌≠セ。



 だが――フランドールは強く、即座に、否定した。



 それはありえないことだから。
 だって今の自分は、スターと魔理沙によって独りじゃないことを知ったのだから。

 大事な人が側にいる幸せを知った。
 心地よい空間がその人といると作られることを知った。
 眼に見えない繋がりを得て、世界が変わった。酷く楽しいものだと思えた。
 誰かと繋がる度に、世界が、より鮮明に、明るくなっていくことを知った。

 変わらないものはない。
 いい意味での、その意味を知った。

 後悔するかもしれない。
 さらなる苦しみが待っているかもしれない。

 それでも――大好きなスターや魔理沙と一緒にいられないなんて、もう、考えられない。


 魔理沙やスターと物理的に繋いでいるものは一切ない。
 死によって別たれてしまう幻想だと、知っている。
 私の心は、まだいろいろ、足りてないのかもしれないけれど……。   
 だけど、それでも……スターと魔理沙のことが好きで、一緒にいたいと思っている『私』は――ここにいる。



 フランドールが得た、小さな答え。
 もう二度と、忘れ去られることはないように、強く、自身に刻み込む。
341通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 16:47:56 ID:V+Gx38nW

 心の迷路から抜け出たフランドールは決心した。
 魔理沙に心の内を、全て打ち明けよう、と。
 もしかしたら魔理沙は背中を向けてしまうかもしれない………けれど……。



 そうやってフランドールが覚悟を決めようとしていると――突然、フランドールの頬に、なにか柔らかい感触が当てられた。


 魔理沙の手、ということに気付いた頃には、フランドールの頭は、運ばれていた。
 優しく、抗いがたい甘さに抵抗できず、ぽすん、とどこかに降ろされる。
 されるがままにして、頭が置かれた場所は、魔理沙の膝の上だった。
 フランドールは、魔理沙の膝を枕にし、地面に寝そべっている、俗にいう膝枕の体勢を強制された。

 なにがなんだかよくわからない。
 けれど不思議と嫌な感じはしなかった。
 混乱してじっとしているフランドールの柔らかい金髪に、魔理沙の手が置かれた。
 そのまま、柔らかい手の感触に、ゆっくりとフランドールの頭が撫ぜられる。
 心地よい、温かさのようなものが、胸の奥に染み渡り、フランドールを静かに優しく包み込んでいく。


 ◆ ◆ ◆


 結局、魔理沙が悩み考え抜いた結果は――真似であった。

 どうすればフランに自分の心が伝わるか。
 どうすればフランの心を落ち着かせられるか。
 何度も過去を振り返り、経験を真似することにした。

 思い返した記憶は二つ。
 幽々子の死後、八雲藍におぶってもらって、いい夢を見れたこと。
 森近霖之助の膝の上に座るのが好きだったこと。
 それらを、魔理沙が受ける側ではなく魔理沙が与える側としてアレンジした結果がこの膝枕であった。

 二人は静かに時間を流し、お互いの事を想い合い、相手の意思を読み取る。
 聞こえるのは二人分の喉の音くらいで、後は何も聞こえない。お互い何も話さない。
 だけど、先程までとは違い、不思議と、居心地は悪くなかった。


 …………。


 時間がしばらく経過し、満足したフランドールは、眠る振りをやめ、会話の口火を切った。

「……私の独り言に付き合ってくれるかしら」

 フランドールは横になったまま、自身の胸の前に、両手を重ねる。
 緊張しているような、決意を秘めたようなそんな様子だった。

「……スターも、香霖って人も、私のせいで死んでしまったの。
 ひょっとすると、私はまた魔理沙に迷惑をかけてしまうかもしれないわ。
 けれど、私はやっぱり魔理沙とスターと一緒にいたい。
 私は、こんな今の私≠良いと思ってるわ。
 ……魔理沙は、こんな私と一緒にいてくれる?」

 魔理沙を、ただひたすら真っ直ぐ見つめ。
 そして、ゆっくりと、静かに、澄んだ声で、己が決意を紡いだ。
342通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 16:52:07 ID:V+Gx38nW

「……ん、そーか。
 私も前より今のフランのほうがいいと思うぞ。
 それと、あいつらが死んだのは誰のせいでもないって言ったろ。
 私の軽挙のせいで誤解させたかもしれないが、あれは本心からだ」

 魔理沙は一瞬、フランドールを褒めようかと思ったが、思い直して、褒めるのをやめた。
 死者への未練を断っていない魔理沙が、今の成長したフランドールを褒めるというのは何かが違うと思ったからだ。
 だから、魔理沙はフランドールを褒めるのではなく、認めるに留め、一端、答えを保留した。

「……さっきの膝枕、よけいな御世話だったか?」

 魔理沙は怪訝な顔を浮かべる。
 魔理沙にはフランドールがいつもより安定しているように見えた。
 今のフランドールを見ていると、魔理沙がなにかをしなくても、フランドールは自分で立ち直っていたように、魔理沙には思えた。

「ええ、いきなり体勢を変えられたから全然眠れなかったわ」

 フランドールは寝そべったまま、照れたように、楽しそうに、小さく口元を綻ばせ、魔理沙を見上げている。
 どうやら冗談で返すほどの余裕まであるようだった。

「ほう、そいつは悪かったな。
 じゃあもういらないな?」

 フランドールを膝から降ろそうとする魔理沙の意地悪に、フランドールは、急いで首を振って拒否する。
 魔理沙はフランドールの不器用さに、くくっと笑みを漏らした。

「……こういうのって与える方の気分はどんな感じなのかしら?」

 恥ずかしかったのか、気を取り直すかのように別の話題を振るフランドール。

「ん、こっち側も意外と楽しいもんだった。
 あいつらもきっとこんな気分だったのかな」

 魔理沙は、霖之助と藍を思い返しながら答えた。

「ふぅん、そーなんだ。
 私もお姉様あたりにやってあげようかしら」

 幸せそうに寝転んだまま、フランドールは未来に想像を抱く。

「おーおー、やってやれ、やってやれ。
 レミリアの奴、きっと泣いて喜ぶぞ」

 レミリアが妹の膝の上で大人しくしている姿を想像し、くく、と笑いを殺す魔理沙。
 二人はお互いの心のピースを嵌めるように、楽しく話し合い、静かな魔法の森に穏やかな風景を作り出していた。
 だが、どうやら魔理沙は、本心から楽しんではいないようだった。
 楽しくフランドールと話している魔理沙は、普通に見えて、心の中でずっと何かを悩んでいるようだった。
343通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 16:55:05 ID:V+Gx38nW



 時間も経ち、会話の種も尽きた頃。
 何かを決意した魔理沙は、フランドールをゆっくりと膝から降ろし、立ち上がった。
 そして、スキマ袋の中から、一つの道具を取り出した。
 魔理沙が休憩の前に作成した『銃剣』。
 魔理沙はそれを手に持ち、フランドールへと声をかける。

「この銃剣、やるよ。
 無理に使う必要はないけど、これはお前が持ってるべきだと私は思った」

「……よく、意味が分からないんだけど」

 視力を一時的に失っているフランドールには銃剣が見えず、魔理沙の意図が掴めない。

「妖夢≠フ楼観剣と香霖≠フショットガン。
 この銃剣はそいつらを組み合わせたんだ。今のお前なら大丈夫だろ」

 スターサファイアを殺した魂魄妖夢。
 フランドールを庇った森近霖之助。

 二人を決して忘れるな、お前は生きろ、と魔理沙は言っているのだ。

「――ええ、わかったわ」

 フランドールは、堅く唇を引き結び、しっかりと応えた。
 今でも他人の事などあまり理解できない。
 けれど、これが大事なことなのはわかる。
 覚えておかなければならないことぐらいはわかる。
 フランドールは心を知り、心を育て、成長しているのだ。

 答えを聞いた魔理沙はフランドールのスキマ袋に銃剣をいれる。

「……今度は私の番だな」

 フランドールの成長に、自分の胸の内が晴れていくのを感じた魔理沙は、決意する。

 フランドールは魔理沙に応えた。
 ならば魔理沙もフランドールに、友達として、応えなければならない。


「――最後のお別れを、しにいってくる」

 死者への未練を、断たなければならない

 魔理沙の決意に、フランドールはこくりと頷き、死者の元へと歩む魔理沙を見送った。
344通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 16:58:14 ID:V+Gx38nW





 八雲藍。
 八雲紫の式である九尾の狐。
 真面目で融通が利かなくて計算はできるのに不器用な生き方しかできない少女。
 藍の死体の前に立った魔理沙は、諦念の宿った透き通った声で呟く。

「……お前がいたから、私は今、こうしてここにいるんだよな。
 つまり、私が異変を解決すれば、お前が解決したも同然なわけだ。
 だからな、あっちで、橙に誇ってこいよ」

 どんな顔で笑ったのかも、どんな顔で叱ったのかも、覚えている。
 魔理沙の顔は悲しそうな懐かしむような顔だった。

「……お前の提唱したリーダーを私がするってやつなんだが、正直、過大評価なんじゃないかとまだ思ってる。
 でも、まぁ、お前を信じて、私なりになんとかやってみせてやるよ」

 まだまだ言いたい事はある。
 一度喋りだせば欲求はだんだんと大きくなっていく。

 だけど……魔理沙は、二の句を告げるのを、止めた。
 長々と喋っていても、藍は喜ばない。
 魔理沙は記憶の中の藍ならば喜ばない。

 ――あー、私を偲ぶのはいいからさっさと前へ進め、紫様を頼んだぞ。

 きっと藍なら照れくさいような呆れたような顔で、そう言うと思ったから。

「……紫の事は任せとけ。
 帽子、借りてくぜ。紫に届けといてやるよ。
 ……じゃあな、藍」

 魔理沙は、名残惜しげにゆっくりとしゃがみこみ、藍の屍骸の傍らに座する帽子を拾う。
 藍の形見、として、紫に届ける為に。

 礼も文句もまだ言い足りない。
 だが、必死に言葉を飲み込み、もう一人の未練へと、歩む。
345通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 17:03:50 ID:V+Gx38nW


 森近霖之助。
 古道具屋の店主であり、魔理沙の古くからの馴染み。
 彼の前に立つ魔理沙の身体は、自身の心を示すかのように震え、乱れて、どこか落ちつかない。
 精一杯やせ我慢してるのがよくわかる。

「……昔あげた、あの私の名前つけた古ぼけた刀、どうせ私の形見にでもするつもりだったんだろ?
 なのに、なんで、私より先に死んでるんだよ。これじゃ順番が逆じゃないか」

 いつ出会ったのかは子供の頃すぎてよく覚えていない。
 だけど、いつのまにか魔理沙は霖之助に甘えるようになっていった。
 子供の頃、大きな手で撫でられた。とても大きくて温かかった。
 背中や膝に乗っかったりして遊んだことも一杯ある。魔理沙の身体をすっぽり覆ってしまうほどだった。

 いつか、追いつくと思っていた。
 けれど、もうその時は永遠に来ない。

「……この、大馬鹿が。
 ……ようやく会えたと思ったら、柄じゃないことしやがって。
 私と霊夢がスペルカードで遊んでる時はずっと店の中で見てるだけの癖して」

 文句ばかり言う魔理沙に、死体である霖之助は当然、何も言わない。


 ――僕の言いたいことは死に際に全て言ったからね。

 そんな感じの満足した顔をして、何も言わずに、魔理沙をじっと優しく見守っていた。
 いつもは語りたがりの癖に、なにも喋らなかった。

「遠慮なんか、しなくてもいいんだがな」

 ふと、そんな言葉が口を衝いて出た。
 霖之助に一人前と認めてほしかった魔理沙が、長い間ずっと思っていて、結局果たされなかった言葉だった。

 もしかしたら、もっと深い付き合いも出来たかも知れない、ふとそう思う。
 けれど、もしかしたら、なんて仮定は、もうできない。
 知ってしまうと、もっと早く気付けばよかった、と思ってしまった。

「あーあ、くそ。香霖のばーか。
 なんか悔しいから眼鏡、貰ってってやる。
 後で親父に、届けてやるからな。ちくしょう」

 魔理沙は、自分の胸の中で騒ぐ思慕や複雑な感情を抑えるように、罵声で誤魔化す。
 今すぐこの場から立ち去って、気を紛らわせないと気が狂ってしまいそうだった。

「……いつも子供扱いしやがって。
 お前の年齢超えるまでは、そっちに、いってやらないからな、香霖」

 自らの不老不死を自覚しても、それしか言えなかった。さよならなんて言えなかった。
 軋む胸元をぎゅっと掴み、痛みに堪えながら、魔理沙は霖之助に背を向ける。



 お別れは終わった。
 魔理沙は皺の寄ったスカートの裾を一払いして、フランドールの方へ歩もうとする。

 だが振り返りたい意思が、魔理沙の心を強く苛む。
 異常なほどの焦燥感と恐怖が、後ろ髪を惹く。
346通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 17:06:33 ID:V+Gx38nW

 だが魔理沙は屈せず、自分に言い聞かせる。
 甘えるな、甘えちゃだめだ。
 そうでなきゃ、あいつらは安心できない。
 これからも迷うかもしれない、苦しむかもしれない。
 それでも、覚悟を決めろ。

 これからやらなくちゃいけないことは、今ここに身体がある霧雨魔理沙にしかできないことなんだから……!
 もう、私は、一人立ちしなきゃ……いけないんだ!


 涙が、一筋流れた。



「……悪い、待たせたな、フラン」

 こうして、未練を振り切った魔理沙は一度も振り返らずにフランの元へと帰った。
 目を瞑っても、目を抑えても、頬を伝い零れ落ちる涙は止まらない
 魔理沙は、フランドールの眼が一時的に見えない事を不謹慎とは思いながら、ありがたいと思った。
 もう大丈夫だ、とフランドールに伝える為に、目を閉じ呼吸を整える。

「……なぁ、フラン。
 さっきの私、返事のようで完全な返事になってなかっただろう?
 だから、今、答えていいか?」

 どこか、すっきりしたような顔で、魔理沙は堂々とフランドールに向き合う。

「……うん、いいよ」

 フランドールはちょっと不安を見せるが、すぐ気を取り直し、魔理沙を見守る。

「ん、ありがとな。
 じゃあ私の独り言を聞いてくれ。
 ……私は正直言って心の整理なんてそんなについてないんだ。
 霊夢や紫や私やフランに色々複雑でいやーな感情をぶつけたいという気持ちもないとは言えない」

 負の感情は、雪のように解けて消えたりしない。
 汚れ、紛れ、色彩を失っても、必ず残るものだ。
347創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 17:08:30 ID:WgrC7Omz
 
348通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 17:09:08 ID:V+Gx38nW


「……まぁ、それでもだ。
 別にそのままでもいいんじゃないかな、と私は思ってる。
 人生色々あるし嫌な事も一杯あったけど……。
 そういったこと全部ひっくるめても、私が皆が好きなことにはなんら変わらないんだ。それでいいんだと私は思う」

 そんな甘い幻想では、この世界は成立しない事はよく知っている。
 魔理沙自身も、まだ全てを割り切れているわけではない。
 宿したそれは、いつか消えてしまう儚い幻想なのかもしれない。
 それでも、魔理沙は、殺戮劇の参加者ではなく、幻想郷の住人として最期まで異変に立ち向かいたいと想っていた。

「あー、なに言ってるのか自分でもよくわからなくなってきた。
 まぁ、なにがいいたいのかというとだな。
 そんな結構適当な私なんかでいいんなら――」

 魔理沙は、後頭部を掻きながら、どう言い出そうかしばらく悩み。
 やがてどう言い出すのかを決めたのか、自信のある、爽やかで愛らしい笑顔を浮かべ、フランドールへ誓いの言葉を送った。

「――今後ともよろしく≠チてわけだ」

 魔理沙は手を差し出し、友達に、握手を、求める。
 フランドールはこくり、と頷いた。

「ええ、こちらこそ――今後ともよろしく=v

 眼は見えないフランドールは、スターサファイアの能力に導かれ、魔理沙の握手に応える。


 自分の偽らざる感謝の気持ちが伝えた二人は、笑顔だった。
 とても綺麗な、不純物等一切ない、白一色の笑顔だった。

 これから二人は色んな体験をして、考えも変わっていくのだろう。
 しかし、この言霊は魂に刻まれ、消えることはないだろう。





 ◆ ◆ ◆



 あれから移動した魔理沙達は、かねてからの予定通り、八意永琳との約束の場所へ辿り着いた。

「……私達が遅すぎたのか、永琳が来なかったのか、どっちだろうな」

 辺りを探索するが……八意永琳はもとより、人の気配、なんらかの痕跡も見つからない。
 永琳からの情報が得られないのは惜しいが、こちらも輝夜の情報を与えられるわけではない。

 気持ちを切り替えた魔理沙は地図を広げ、これからの行動を決めようとする。


 別れを経て、休む間もなく、また、新たなる戦いが始まる。
 魔理沙達を物語の結末へと導いていく。それが魔理沙とフランドールの望むものでないとしても。
349通過の儀式/Rite of Passage ◆gcfw5mBdTg :2010/06/02(水) 17:10:30 ID:V+Gx38nW

【G-5 魔法の森 一日目・夕方】

【霧雨魔理沙】
[状態]蓬莱人、帽子無し
[装備]ミニ八卦炉、ダーツ(3本)
[道具]支給品一式、ダーツボード、文々。新聞、輝夜宛の濡れた手紙(内容は御自由に)
    mp3プレイヤー、紫の調合材料表、八雲藍の帽子、森近霖之助の眼鏡
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
 1.霊夢、輝夜、幽々子を止める。
 2.仲間探しのために人間の里へ向かう。
 ※主催者が永琳でない可能性がそれなりに高いと思っています。

【フランドール・スカーレット】
[状態]右掌の裂傷、視力喪失(回復中)、魔力大分消耗、スターサファイアの能力取得
[装備]無し
[道具]支給品一式 機動隊の盾、レミリアの日傘、楼観剣(刀身半分)付きSPAS12銃剣 装弾数(8/8)
    バードショット(7発)、バックショット(8発)
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.スターと魔理沙と共にありたい。
2.庇われたくない。
3.反逆する事を決意。レミリアが少し心配。
4.永琳に多少の違和感。
※3に準拠する範囲で、永琳が死ねば他の参加者も死ぬということは信じてます
※視力喪失は徐々に回復します。スターサファイアの能力の程度は後に任せます。
350創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 17:11:11 ID:V+Gx38nW
投下終了です。
支援ありがとうございました。
351創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 17:13:09 ID:WgrC7Omz
  
352創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 17:23:12 ID:WgrC7Omz
そして魔理沙はひとつ大人になった……
相変わらず苦しくて辛くて複雑だ。それでも明るさを捨てない魔理沙いいわぁ
フランちゃんはホンマええ子になってくれたのう。初期からは考えられないほどしっかりしてきた
353創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 17:46:29 ID:Il/RVKte
投下乙です。
相変わらず俺好みの丁寧な文章で嬉しい。
繋ぎとはいえ、この離別の儀式は魔理沙やフランにとって必要なものだったんだろうな。
これからも辛いことの連続だろうが、手を取り合って切り抜けて欲しいぜ……。
354創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 19:48:39 ID:YsKzzLrR
投下乙です
ん……こういう繋ぎがあるからこそ奇跡も悲劇も映えるんだよな…
二人ともええわ…
355 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 17:44:43 ID:N+wXgGkZ
 昔、或る所に、死霊を操ることのできる少女が居た。

 いつ、どのようにして彼女がその力を身につけたのかは分からない。
 人ならざる者の力。人間の理を超えた、異形の力。

 彼女は自らの力を示すことはなかった。
 恐れていたのは、彼女自身もであったからである。
 心優しく、少し寂しがりやであった彼女は力のせいで人との間に境界を作りたくなかったのだ。
 それでも少女は力を嫌うことはなかった。

 死霊を操るということは、死霊と会話することも可能だった。
 何十年、何百年と前の死霊たちと言葉を交わし、当時の様々な知識や文化を聞くことができた。
 良家の子女という立場であった少女にとってはこの上もない娯楽だった。
 立場、身分に囚われることなく、自由に会話することが何より楽しかった。
 中には若くして逝去した同じ年頃の女性の霊などもいたから、自らの悩みを相談することさえできた。

 少しずつ、少女は喜怒哀楽を身につけるようになった。
 いつだって立場を気にしなければならず、毅然とした態度でいなければならない少女には、
 同世代の友人どころか知り合いさえも少なかった。まして力を知られまいとすれば尚更だった。
 それでも誰かが欲しかったのだ。冗談を交わし、戯れることのできる『誰か』が。
 少女は求めていたものを手にすることができた。心を安らげる日々が、これからも続くのだと思っていた。

 しかし、『力』は彼女の望まぬ形で変容を遂げることになった。
 死霊を操る力は、突如として他者に牙を剥いた。
 ある貴族が、糸が切れた操り人形のようにばたりと倒れた。
 貴族は死んでいた。健康で、病気などあるはずがなかったのに。

 それを契機にして、少女の周りで次々と死が蔓延した。
 死んだ者は、一様に魂を抜かれたように呆けた表情をしていた。
 焦点の合わぬ、虚ろな目は「なぜ」と言っていた。
 言葉は間違いなく、少女に向けられたものであった。
 理由もなく、突然生を奪われた事実に対する「なぜ」。怒りや恨み、憎しみの念はそこにはなく、ただ疑問だけがあった。

 少女は何も言うことができなかった。
 彼女には命を奪うつもりなどなかったのだから。
 自らも制御できない、予測不可能な力が命を奪っていったのだ。

 どこからか飛んできた、ひらひらと舞う不可思議な色の蝶があった。
 誰かが死ぬとき、いつもその蝶は飛んでいた。
 少女は以前のように振る舞うことが出来なくなった。
 いつ、どこで誰が死ぬかも分からない。分かったとして、制御不可能な力をどうすることもできない。
 そして命を奪われた者は、一様にひとつの問いを投げかけてくる。

 なぜ。

 あまりにも短すぎる一言が、優しかった少女の心を追い詰めていった。
356 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 17:45:53 ID:N+wXgGkZ
 蔓延する死は、周りの環境にも変化を与えた。
 死を招く不吉な家。亡びを招く、魍魎の住処――
 噂が噂を呼び、悪意が悪意を呼んでいった。
 家は次第に暗澹たる空気に包まれていった。
 邸内ですら誰も言葉を交わさず、いつ命を奪われるか分からない恐怖に支配されていた。
 まるで無人のような邸内を歩くことすら少女には苦痛だった。

 誰も喋らない。
 誰も笑わない。
 自分だけでなく、他人ですら。

 こんなことを望んだわけではないのに。
 わたしは、ただ、誰かと話したかっただけなのに。

 庭ではいつもの蝶が舞っていた。
 真冬だというのに、ひらひらと元気よく飛び回っている。
 冷たい雪景色の中で、それはあまりにも美しかった。
 少女は蝶に手を伸ばした。

 ねえ、教えてよ。
 わたしは、どうすれば良かったの?

 簡単に死を招いてしまう自らの力。
 使わなければ良かったのだろうか。
 何もせず、自らの立場さえ受け入れていれば、せめて周囲は幸せでいられたのだろうか。
 分不相応な望みを抱いてしまったから、罰が下されたのだろうか。

 蝶が指先にとまった。
 かくん、と少女の体が崩れ落ちる。
 命が吸われたことを自覚しながら、少女は笑っていた。

 ああ、とってもきれい――

 それは、死んで、全てを忘れてしまうことが救いであると知った顔だった。



 そして死を畏れなくなった少女の名を、西行寺幽々子という。

     *     *     *
357 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 17:47:17 ID:N+wXgGkZ
 ごりごり、ごりごりと。
 物音が聞こえていた。
 時折混じる、にちゃりという粘ついた音から、恐らくは柔らかく水分を含んだものを切っているのであろうと推測した。
 それはつまり、誰かが部屋の奥で道具を使っているということ。

 西行寺幽々子の後に続きながら、鈴仙・優曇華院・イナバはごくりと喉を鳴らした。
 ここにいるのは悪魔の妹ではないのではないか。
 幽々子が言うところによると悪魔の妹の能力は跡形もなく破壊してしまう力であるらしいから、道具を使う必要性がない。
 この部屋の奥には、悪魔の妹以外の誰かがいる。
 しかしそんなことより、何かを切る物音の方が不味いと鈴仙は思っていた。

 切られているのは何だ?

 答えるまでもない。切られているのは恐らく、体だ。
 実際聞くのは初めてであるが、ほぼ間違いはないだろうと思っていた。
 問題はその先だった。切られているのは誰かということ。
 幽々子は物音にも顔色一つ変えず、板張りの廊下を淡々とした表情で進んでいる。
 歩調に焦りは見られない。気付いているのかいないのかも判然としない。
 お嬢様であるから物音の正体が分からないのか、それとも……

 考えようとしたところで、ならば一体自分には何が言えると鈴仙は自問した。
 一度ここを訪れたとき、鈴仙は二つの死体を目にしている。
 一つは小柄な少女。名前も知らない、黒髪の妖精。
 もう一つは魂魄妖夢。幽々子の従者であり、自分たちがここを訪れている理由だ。

 前者ならばまだ良かった。
 だが後者なら不味い。妖夢の体が切られているということは、死体を穢されているということだ。
 幽々子の胸中がどうなっているのかは分からない。
 しかし、これだけは鈴仙にもはっきりと理解できることがあった。
 幽々子にとって妖夢は家族同然の大切な従者であること。
 そうでなければ悪魔の妹を探し出して償いをさせようなどと言い出さないだろうし、
 幻想郷にいたころから考えてもあの二人の絆は強いことが分かる。
 そんな妖夢の遺体が切り刻まれていると知ったら?

 先ほどは「ゆっくりと償いをさせる」と幽々子は言っていた。
 だが所詮口で語ったことに過ぎず、実際の現場を目にしたらどんなことになってしまうか鈴仙には分からない。
 それだけの危うさがあると見ていた。
 殺さないと幽々子が語ったとき、視線が揺れ動くのを鈴仙は見逃さなかった。
 言い訳するとき、逃げを打とうとするときの目だ。
 本心からの言葉ではない。

 けれどもこの推測が本物だったとして、幽々子を止められるだけの言葉を鈴仙は持たなかった。
 鈴仙自身、未だに逃げ続けているから。
 自分だけが助かり、自分だけが慰められればいいと未だに考えているから。
 自分で考えた言葉すら持てない己に説得力などあるはずがないことは鈴仙自身が一番自覚していた。
 寧ろ下手に何かを言ってしまえば、それこそ妖夢の死を冒涜していると取られかねず、
 だんまりを決め込むしかなかったのが鈴仙だった。

 ここに至って我が身のかわいさでしか行動できていない自分に辟易する一方、
 身を守るためなら仕方がないじゃないかと思う自分もいた。
 保身のために故郷も捨て、心を慰めるためだけにかつての仲間さえ見捨てた自分にはもうこうするしかない。
 今更他者のことを思ったところで、所詮偽善でしかない。
 だから、悪くない。今とっている行動に間違いはないと断じて、鈴仙は無言を貫いた。

「誰かがいることは間違いないみたいね」

 小声で幽々子が呟く。
 閉じられた襖の奥では、今も音が聞こえている。
 こちらの存在に気付いた様子もない。完全に作業に没頭していると見て間違いはなさそうだった。
 こくりと頷いて、どうしますかと目で伝える。
358 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 17:48:31 ID:N+wXgGkZ
 ここから先は思考など意味を為さない世界だ。
 状況に応じて動ける判断力だけが要求される。
 踏み込んで中にいる誰かを捕らえろと言われれば、鈴仙には出来る自信があった。
 一応は軍人として訓練を積んできた身ではある。基礎的な体術も身につけている。
 接近戦では一日の長がある、と鈴仙は思っていた。

「……様子見しましょう。こっちは二人なんだもの、捕らえるなら簡単だわ」
「様子見、ですか」

 踏み込めと言われるかと予想していただけに、少々拍子抜けする思いがあった。
 首を傾げる鈴仙に、幽々子は「何か言いたいことがあるの?」と命令する口調を寄越した。
 声質こそ柔らかいが、強いる調子に鈴仙が言い返せるはずがなく、「いえ」と応じるに留まった。

 幽々子の行動にはところどころおかしい部分がある。
 時折まるでそうしなければならないというように、理に外れた行動を取る。
 悪魔の妹を殺さないと言ったこともそうであるし、今の言葉にしたってそうだ。
 理屈を重視する鈴仙だからこそ感じ取れたことだった。

 だが下手に反論して幽々子の気を害するほどの気概は持てない。
 様子見をしろという言葉に従っていればいいと考えて、鈴仙は襖に手を掛ける。
 ちらりと幽々子の方を見やったが、相変わらずの無表情からは何も読み取れない。
 これでいいのかと鈴仙の中に燻るなにかが問いかけたが、無視するように、襖を少しだけ開けた。
 それはパンドラの箱だったのかもしれない、と中の光景を見た後で、鈴仙は思った。

 僅かな隙間から見えたのは、赤いリボンに短い金髪。手に持っているのは、鋸。
 周りに転がっているのは、細長い円柱のような何かだった。
 どれもべったりと赤色に染まり、周囲に赤の水溜りを形成している。
 紛れもなく、それは。
 人の、欠片だった。

「あ――」

 鈴仙は思わず声を出してしまった。
 恐ろしいものを見た恐怖からではない。

「鈴仙?」

 幽々子の手が、肩にかかる。

 ダメだ。
 これは、見てはいけない……!

 鈴仙は幽々子を遮ろうとした。
 恐ろしいのは人の欠片ではなかった。
 幽々子の目が、襖の奥に向けられる。
 間に合うわけがなかった。
 止められなかった。いや、止めようとしなかったのだろうか。
 奥を除く幽々子の姿を呆然とした気持ちで眺めながら、鈴仙は妖夢の姿を思い出した。

 こんなことになるなら、遺体を埋葬しておくのだった。

 それは妖夢に対する気遣いではなく、こんな場面に居合わせることになってしまった自分への後悔だった。
 幽々子はきっと、もう目撃しているのだろう。
 五体全てがバラバラになり、無造作に転がっている、妖夢の首を。

     *     *     *
359 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 17:49:47 ID:N+wXgGkZ
 大して広くもない、六畳ほどの空間。
 そこが今どうなっているのか、幽々子は一瞬理解できなかった。
 正確には理解を拒否しようとしたのかもしれない。

 畳に転がっているあれは何だろう。
 畳を染めているあれは何だろう。
 その中央に居座る、あれは何だろう。

 おぞましい匂い。饐えた匂い。
 広がる空気は、人から正常な判断を奪ってしまう毒だった。
 眺めてはいけない。ようやく頭が下した命令だったが、幽々子は視線を動かすことすら出来なかった。
 全てを受け入れることを拒否してしまった頭が、反射的に目を逸らすという本能すら拒んだのかもしれなかった。

 息を止めてしまいそうなくらい、自分の体は活動を止めてしまっている。
 手は襖を掴んだまま、足は止まったまま。
 怯えた声を上げた鈴仙の様子が気になって身を乗り出した姿勢のままでいる。
 視線は部屋の中央で座り込んでいる一人の姿に向けられていた。
 何やら楽しそうに鼻歌を歌っている。体がリズム良く、左右に揺れている。
 ゴリゴリという音が聞こえる。彼女の鼻歌に合わせた、伴奏だ。

 彼女? 自身の頭に浮かんだ言葉から、幽々子はようやくあの少女の名前を思い出した。
 ルーミアだ。以前妖夢と再会したときに鉢合わせた、人喰いの妖怪。

 ああ、だったら、彼女は、何をしているのだろう。

 物事をすぐに掴み取ってしまう頭が、ルーミアの不自然さを考えてしまう。
 考えるな。どこかで警鐘が鳴らされたが、一度回転を始めると止まらなかった。
 人喰いが、なぜ人を喰っていない。
 転がっているものを、どうして食べようとしない。

 ゴリゴリという音が途絶えた。同時にルーミアが喜色を滲ませた声を出し、何かを持ち上げた。
 嬉しそうにはしゃぐルーミアの手には、足が。
 正確には腿から先がない、踵からつま先までしかない部分だった。
 しかしルーミアは嬉しそうにするだけで、一向に食べようとはしなかった。
 食べずに、その横にあるうず高くなにかが積まれた山の中にそれを放り込む。
 幽々子の目がそちらに動いた。足を目で追っていたからそうしたのだった。

 ああ、あれは、人。

 小さく切り分けられ、ひとつの部分あたりは片手でも持てそうな人が、積まれている。
 山の麓には、鞠ほどの大きさのものが転がっている。
 球状に近しいからだろうか、山に積めなかったのかもしれない。
 それが、幽々子を見た。
 何かの拍子に転がっただけなのだろう。けれども確かに、幽々子を、見ていた。
 血に濡れた銀色の髪の間から、二つの瞳が凝視する。
360 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 17:51:13 ID:N+wXgGkZ
 なぜ。

 ただ一言の、それは疑問だった。
 感情ではなく、問いだった。
 この目を、自分は知っている。
 なぜと問う、感情の抜け落ちた瞳を知っている。

「ち、がう」

 震える声で、幽々子は反論していた。
 そう言わなければ全てが壊れてしまうような気がしていた。
 故に幽々子は言った。

 これは妖夢じゃない、と。
 こんな死んだ目を、妖夢は寄越さない。
 こんな目で、自分を見るはずがない。
 不器用で、真面目で、いつでも一生懸命なのが妖夢だ。
 夕食時に一日の終わりを微笑で締めくくってくれるのが妖夢だ。
 口では文句を言いながらも、敬愛の意思を態度で示してくれていたのが妖夢だ。
 だから、これは、違う。

 こんなものを、従者に持った覚えはない。
 なら、と『妖夢』を拒否した自分が問いかける。いつだって聡明な頭が、問いかける。

 あなたの従者は、誰?

 既に『妖夢』と認めていないいつもの冷静な自分が、『妖夢』が誰かと問う。
 幽々子は答えることができなかった。
 妖夢以外に、心を許すことのできる、家族同然の存在はいなかったから。

 友人ならばいた。ただ友人は友人でしかなく、家族とは違うものだった。
 だからと言って、いないと答えることは幽々子にはできなかった。
 そうしてしまえば、ひとりであると認めてしまうことになるから。
 白玉楼にいたのは、最初から自分ひとりだけだったということになってしまうから。
 未来永劫、西行寺幽々子はずっと一人なのだと。
 生まれ落ちたときから、死を司ってきたが故に一人なのだと。

 泰然自若としながらも、幽々子はいつでも孤独になることを恐れていた。
 死を操るという、亡霊にしては破格の力を持ちながらも無闇矢鱈に力を行使することはなかった。
 死に誘うことはあったが、それは生死に対して絶望していた者に対してだった。
 死も生も、恐れるものではない。だから楽しみましょう。そう言ってきた。
 皆が楽しく生きて、死んでくれればいい。幽々子はそう思っていたからだった。

 孤独であること、重苦しい雰囲気であることを、幽々子は本能的に拒否していた。
 どうしてその思想を持つようになったのかは覚えていないが、特に疑問を持つことはなかった。
 楽しくいられればそれでいい。皆と、楽しくいられれば。
 だが幽々子は畏れられた。どんなに軟化した態度でも、いつでも死に誘えるのには変わりない。
 人間にとって、やはり死は恐怖の対象でもあった。
 幽霊も幽霊で、いずれは生まれ変わる立場で、いつかは去ってゆく。
361 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 17:52:35 ID:N+wXgGkZ
 白玉楼に留まる者はいなかった。幽々子は一人だった。
 そんなときに現れたのが専属の庭師、魂魄妖忌だった。
 半人半霊だから、人間の世界に居場所はなく、さりとて霊界にも居座れない。
 だから生と死の通過点であるここにいることにした、と妖忌は語っていた。
 理由などどうでも良かった。一人でなくなることが嬉しかった。

 これは幻想郷が用意してくれた贈り物なのだと思うことにした。
 大切にしようと誓った。幻想郷で自分だけの、大切な従者。
 やがて代は移り変わり、妖忌から孫の妖夢に庭師は変わったが、幽々子の愛情が変わることはなかった。
 世間知らずでひたすら剣術に打ち込む妖夢が可愛くて仕方がなかった。
 子供っぽく、勘違いも多く、それゆえ成長するのが楽しみでもあった。
 妖忌は聡明で、何につけても気が利いていたから、幽々子が関われる機会は少なかった。
 だから自分の手で成長してゆく実感があったのが嬉しかった。
 これ以上変わることなどありようはずもなかった亡霊に訪れた機会。

 従者を育てることは幽々子にとって生き甲斐にもなった。
 妖夢も半分は人間である以上、また代変わりするだろうが、人間ゆえにまた次の世代がいる。
 そのときはまた成長する姿を見守ってゆこう。
 決して変わることのない幽々子には変わり続ける日々を見守る楽しさが与えられた。
 それだけではなく、ひとりでもなくなった。

 ようやく手にした幸せだった。
 なのに。
 また、自分は奪われた。
 何よりも大切な生き甲斐で、大切な存在である、従者を。
 そして最後は『なかったこと』にされて。

「違う」

 幽々子は抗うように口に出した。
 認めたくなかった。

 ひとりになること。
 また奪われること。

 自らが持つ死の能力ゆえに奪われるのだという真理を、認めたくなかった。
 だったら……そんな真理など、なかったことにしてしまえばいい。
 幽々子は、『いつものように』尋ねた。

「ねえ、私は、どうすればいいのかしら」

 小首を傾げて、幽々子は少し困ったという風に鈴仙に尋ねた。
 いきなり質問され、表情を強張らせた鈴仙は、ぱくぱくと口を開いただけだった。

「あ、その、わ、私は、あの」
362 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 17:54:12 ID:N+wXgGkZ
 しどろもどろになり、右往左往する鈴仙。
 何が言いたいのかまとめきれていないのだろう。
 不出来ではあるが、最初はそういうものだと思った幽々子は、柔らかい微笑で「落ち着いて」と続けた。

「ね、もう一度言うわね。私は、どうしたら、いいかしら」

 襖の奥で作業に没頭している妖怪を差しながら言う。
 詰問しているつもりはなかった。
 この状況で、単純にどうすればいいのかが分からなかったから、尋ねただけのことなのだ。
 少しは落ち着きを取り戻したのか、鈴仙は短い間隔で発していた呼吸を整えたようだった。

「そ、その……あれは……殺せば、いいかと思います」
「どうして?」
「それは……だって、あ、あんなのを、放っておくわけにはいかないじゃないですか」
「……そうね」

 及第点だ、と幽々子は感想を結んだ。
 言い方がなっていない。
 正しい答え方を教えようと口を開きかけたところで、「で、ですから」と鈴仙は取り繕うように続けた。

「あれは、私が殺してきます。ゆ、幽々子……様、に、そんなことをさせるわけにはいきませんから」

 取り繕った形とはいえ、正しい答えを導き出した鈴仙に、幽々子は内心で感心した。
 そう。それが鈴仙の答えるべき正しい解答だ。
 よくできたわねと口元を緩ませた幽々子に、鈴仙はほっとした表情を見せた。
 分かりやすい子だと思った。態度にも顔にも、色々と表れすぎている。
 まずそこを改善するのがいいだろう。当面の目標を定めた幽々子は、改めて襖の奥を見やりながら言った。

「じゃあ、頼むわね。あの妖怪を、ちゃんと殺してきてね」

 鈴仙は武器を持っていなかったため、持ち物であった小銃と、予備弾を全て手渡す。
 両手で受け取った鈴仙は慌てることなく、すぐさま撃てるように構え、襖の奥を覗き込んだ。

 殺すのは自分ではない。
 殺すのは、私の従者だ。
 だから違う。
 私は、人殺しなんかじゃないわ。
 そうでしょう、四季映姫?

     *     *     *

 鈴仙は笑い出したくなる気分だった。
 狂っている、と分かってしまった。
 西行寺幽々子は正気をなくしたのだと、分かってしまった。

 あの目。優しげに微笑みながら鈴仙を見ていた目は、しかし鈴仙を見ていなかった。
 鈴仙の先にある、ありもしないなにかを見ているだけだ。
 それに向かって命じたのだ。
 殺せ、と。
363 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 17:55:41 ID:N+wXgGkZ
 妖夢を切り刻んでいた妖怪は、恐らくフランドール・スカーレットではない。
 自分たちと同じく殺し合いに放り込まれた参加者の一人だろう。
 だがフランドールではないから殺せと命じたのではない。
 自らの従者を否定した者を否定し返すために、幽々子は手を下さない代わりに自分を使ったのだ。
 恐らく、殺したい気持ちと、殺してはいけない気持ちに苛まれた末の結論なのだろう。
 精神を壊してまで選び取ったものは、他者に殺させればいいという手前勝手な手段だった。

 それでも鈴仙は抗うこともせず、幽々子の言うことに従った。
 従わなければ、殺されるかもしれないと思った。
 自分など既に眼中にない、どろりとした、へばりついた膿のような、濁った瞳は意に沿わぬものを殺すだろう。

 実際に殺されることはないのかもしれない。
 命だけはあるのかもしれない。
 その代わりに、幽々子は様々なものを奪い、殺すだろう。
 例えば目を。耳を。或いは手足を。
 言う事を聞くまで、何度だって奪い続ける。
 それは我侭という範疇には到底収まりきらない、暴君の所業だった。

 鈴仙が恐怖したのは幽々子の下す罰だった。
 だから、従った。
 己のプライド、今までに自分が考えてきたこと、出会った人々への思い。
 全てをかなぐり捨てて、幽々子の命令に従う方を選んだのだった。

 裏切り続けることを習い性としてきた兎にはお似合いの結末だと自嘲する一方で、どこかで安心している自分がいた。
 殺していいと言われたのだ。
 自分ではなく、幽々子がそう認めてくれた。
 正当性を与えられたという事実が、殺すという行為への罪悪感を薄れさせていた。

 これは悪いことなんかじゃない。
 だってそうでしょう?
 誰かから認めてもらえれば、絶対に嬉しいはずなんだもの。

 ふっと浮かび上がった秋穣子や秋静葉、紅美鈴の幻影に対して鈴仙はそう言い訳した。
 自分の信念? そんなもの、認めてもらわなければただの自分勝手ではないか。
 正しいと言ってくれる人が一人でもいれば、ほら、言い分は二人分になる。
 だから正しさも増す。一人分の正しさより、二人分の正しさの方がいいに決まっている。
 逆らって得なことはない。自分の思う、机上の正しさなんて何の意味もないから、従うことを選んだまでのことだ。
 選ばされたのではなく、選んだのだ。

 言い切ってやると、幻影達はすっと消え失せ、妖怪の後ろ姿だけが見えるようになった。
 ほら。私が、正しいんだ。
 鈴仙の表情には、やっと正しさを見つけ出すことのできた喜悦の色があった。
 後はやればいい。殺せばいいだけ。
 そうしたら、もっと褒めてくれる――

 手渡された小銃の筒先を幽々子の定めた敵に向ける。
 この近距離だ。外すことはない。
 時間をかけても意味はない。そう判断した鈴仙は引き金に手をかけた。

「よーしっ、終わっ……」
364 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 18:01:39 ID:N+wXgGkZ
 が、予想外の敵の行動により、それが裏目に出た。
 いきなり立ち上がられた結果、狙いが外れてしまい銃弾は肩を擦過するに留まってしまったのだ。
 響き渡る銃声。敵が気付かない道理はなかった。
 いきなり狙撃した鈴仙に対して、敵が驚愕の表情を浮かべる。

 一射目を外した鈴仙にとってもそれは同様だった。
 続けて二射目を放ったが、襖の後ろから狙っていたために横に射撃できなかった。
 横に飛んで避けられる。こうなっては狙撃する意味はないと断じて、鈴仙は襖の奥に踏み込む。
 ところがその先に待っていたのは、闇だった。

 いきなり視界が奪われ、自分の体さえも見えない暗闇に包まれる。
 敵方の能力に違いなかった。人里に薬を売りに行ったとき、闇を操る妖怪がいると聞いたことがある。
 しかし操るとはいっても、闇の中で目が利かないのはその妖怪もだという間抜けな話も聞いたことがあった。
 ならば目くらましか。なるほど逃げるにはいい作戦だと思ったが、相手が悪かったなと鈴仙は冷静に神経を巡らせる。
 たとえ視界が奪われていようと、聴力まで奪われたわけではない。
 妖怪兎の聴力は普通の妖怪より遥かに優れている上、鈴仙に関して言えば、波長を読み取る能力もある。
 狂気を操る力の応用で、近距離限定ではあるが存在が持つ気質を探ることも可能だった。
 音と気質。その両方を使えば、位置を割り出すことは造作もないことだった。

 逃げ出すことを選んだらしい敵は、横を通り抜け、そのまま逃走する腹積もりらしい。
 当然だ。暗闇の中で鋸を振るっても効果はない。
 幽々子の方に動きは見られないが、それはこちらを信用しているのだと鈴仙は思った。
 或いは狂ってはいても冷静さは失っていない彼女のことだ、闇を張られた時点で逃げ出すことを読み取っているのかもしれない。
 どちらにしても動かれるより都合は良かった。音と気質で大体分かるとはいっても、完璧ではないのだから。

 鈴仙も身を翻し、床を蹴る音を追った。
 狭い室内だ、距離は二、三歩分しかない。
 まずは追いつき、押し倒して動きを止める。そして首を絞めるなり折るなりしてトドメを刺せばいい。
 体術にはそれなりの自信があった鈴仙には躊躇いはなかった。
 真っ直ぐに音を追い、手を伸ばす。

 殆ど距離はないと見繕った鈴仙の勘は当たっていた。
 細腕をがっちりと握り、決して放すまいと力を込める。
 暗闇の中で手を掴まれたことなどあるはずがなかった敵は、慌てふためいていることだろう。
 浮き足立ったところに追撃を仕掛けようとした鈴仙だったが、思いの他反応は少なかった。

「あは、鬼ごっこ?」

 聞こえてきたのは楽しそうな声。焦りなど微塵も感じられない、寧ろ喜んでさえいる声。

「でもね、捕まえたのはそっちじゃないんだよ。鬼は、私なんだ」

 予感が走り、冷たい汗が流れるのを感じた鈴仙は咄嗟に身を引いた。
 敵は逃げ出したのではない。暗闇に乗じて接近しようとしていたのだ。

 自分と同様、音で探っていた? それとも全くの山勘で?
365 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 18:04:05 ID:N+wXgGkZ
 どちらにしても狙い通りに行ったのは向こうだと判断した結果下がったのだが、それは間違いではなかった。
 凄まじい発砲音と自身の横を通過してゆく何か。紙一重で避けたのだと理解した瞬間、冷汗の量が増した。
 銃を持っていたのは相手もだった。妖夢を切り刻んでいたイメージが大きすぎて想像だにしていなかった。
 迂闊すぎる己に改めて戦慄すると共に、一方でここで慌てては敵の思う壺だと冷静さを失わなかった。
 動けば、音で探られる可能性がある。あくまで可能性でしかないが、流れを掴んでいるのは敵だ。
 銃は役に立たない。しっかりと感覚を働かせ、接近戦に備えたが、そこで闇が途切れた。

 途端に差す閃光。窓から差し込む朱の光が鈴仙の網膜を刺激する。
 う、と目を細めながらも周りを見渡してみると、そこに妖怪の姿はなかった。
 逃げられた。暗闇の中での幼い声を思い出しながら、鈴仙は山と積まれた妖夢の死体を目に入れた。
 いくつかの部分が見受けられない。あの妖怪が持ち去ったのだろうか。
 だとするならなんて抜け目がないのだろうと意外な知性に驚きさえ覚える。

 ……結局、敵討ちは出来なかった、か。

 今更のような感情だと思いながらも、惨たらしい妖夢の有様を見ていればそう思わずにはいられなかった。
 とはいえ、今度こそ自分は殺すべき相手を見つけることが出来たのだ。
 今までは何が正しいのかさえ分からなかったが、もう分かる。
 幽々子の従者を殺した妖怪を殺す。これ以上ない正当な理由だ。
 ならばもう迷うことはないと幽々子の姿を確かめようとしたところで、いきなり何者かに髪を掴まれ、引き摺り落とされた。

「あうっ!?」

 べちゃりと顔に血糊がつく。だが汚いとも臭いとも思う暇はなかった。
 何が起きたのか、全く理解出来なかった。
 まさかさっきの妖怪は、まだ逃げていなかったのか――?
 じゃあ幽々子は? この状況を見ているであろう幽々子は一体何をして……

「鈴仙」

 飽和する鈴仙の思考を凍りつかせたのは、やけに静まり返った幽々子の声だった。
 まるで感情の感じられない声色に、髪を掴み倒された是非を問う気は消え失せていた。
 怒っていることは分かる。しかし何故怒っているのかが分からず、鈴仙はカタカタと歯を鳴らすだけだった。

「ねえ、ちゃんと殺してきてね、って言ったわよね」
「は、は、はい、そ、それは、その」

 相手が銃を持っていたことに気付けなかったから。
 そう言おうとした鈴仙の髪が引っ張られ、持ち上げられた直後激しく床に叩き付けられる。
 口内に広がる血の味。自分で切ったのか、妖夢の血を飲んでしまったのかも分からない。
 何度も鈴仙を叩き付けながら、幽々子は「まさか、油断してたなんて言わないでしょうね」と逃げ道を封じてくる。

「銃があったからって、相手が持ってないとも限らないのよ。銃声の大きさで分かるわ。ルーミアも銃を持っていた」

 ルーミア。あの妖怪の名前かと判断する間に、今度は耳を引っ張り上げられ、幽々子と視線と合わせられる形になった。
 相変わらずの生気の抜けた、虚無を宿した瞳に見据えられ、鈴仙は言い訳さえ出来ないことを自覚して涙を流した。
 痛みだけではない。完全に幽々子に支配されていると心も理解したからだった。

「それくらい予想なさい。自分が強い武器を持ってたって、油断はしないことよ」
「は、はい……」
366 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 18:05:44 ID:N+wXgGkZ
 だが。
 恐怖は感じていなかった。

「分かってくれればいいの。あなたには――鈴仙には、私を守ってもらわなきゃ困るし、強くなってくれなくちゃいけないの」

 凍てつくようだった幽々子の声色が一変し、少女の色を宿した。
 耳を掴んでいた手が放され、代わりにすっと両腕で抱きしめられる。
 それは慈しみ、愛でる抱擁だった。

「鈴仙には死んで欲しくないから。だって、あなたは」

 ああ、と鈴仙は理解した。
 自分はこの状況を待ち望んでいたのだ。

「私の、可愛い従者なんだから」

 囀るような音色。妖夢の代替品として自分を見い出した幽々子の声を、しかし鈴仙は歓喜の笑みで迎え入れていた。
 ずっとこうなりたかったのだ。
 誰かが命令してくれて、誰かの言う事に従って、よく出来れば褒めてもらえる。
 危なくなれば心配してもらえるし、正しいことだって指し示してくれる。

 だからあの時鈴仙は笑っていた。
 狂気に従わされる自分に震えたのではなく、主人を見つけ出すことが出来たから笑っていたのだ。
 もう何も思い悩むことはない。

 自分には主人がいる。
 いつだって正しいと言ってくれる主が。
 見捨てたりなんかしない主が。
 蓬莱山輝夜とも、八意永琳とも違う。厳しさの中にも愛情を以って接してくれる。

 私は、救われたんだ。

「は……はい。ありがとう、ございます」

 鈴仙・優曇華院・イナバは全てを捨てた。
 捨ててしまうことこそが救われる手段であると知った者の顔がそこにはあった。
 安寧の地を見い出した鈴仙は、服従の言葉を口にした。

「幽々子様」
367 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 18:07:12 ID:N+wXgGkZ
【F-4 香霖堂 一日目 夕方】 



【西行寺幽々子】 
[状態]健康、親指に切り傷、妖夢殺害による精神的ショックにより記憶喪失状態 
[装備]香霖堂店主の衣服 
[道具]支給品一式×2(水一本使用)、藍のメモ(内容はお任せします)、八雲紫の傘、牛刀、中華包丁、魂魄妖夢の衣服(破損) 
    博麗霊夢の衣服一着、霧雨魔理沙の衣服一着
[思考・状況]妖夢の死による怒りと悲しみ。妖夢殺害はフランによるものだと考えている。 
1.鈴仙は私の従者だ
2.フランを探す。見つけたら……
[備考]小町の嘘情報(首輪の盗聴機能)を信じきっています 


※幽々子の能力制限について 
1.心身ともに健やかな者には通用しない。ある程度、身体や心が傷ついて初めて効果が現れる。 
2.狙った箇所へ正確に放てない。蝶は本能によって、常に死に近い者から手招きを始める。制御不能。 
3.普通では自分の意思で出すことができない。感情が高ぶっていると出せる可能性はある。 
それ以外の詳細は、次の書き手にお任せします。 




【鈴仙・優曇華院・イナバ】 
[状態]疲労(中)、肋骨二本に罅(悪化)、精神疲労
[装備]64式小銃狙撃仕様(11/20)、破片手榴弾×2 
[道具]支給品一式×2、毒薬(少量)、永琳の書置き、64式小銃弾(20×8)
[思考・状況]基本方針:保身最優先 
1.幽々子様にお仕えする。命令は何でも聞く
2.自分を捨てた輝夜、永琳はもういらない




【ルーミア】 
[状態]:懐中電灯に若干のトラウマあり、裂傷多数、肩に切り傷(応急手当て済み)、満腹で満足 
[装備]:鋸、リボルバー式拳銃【S&W コンバットマグナム】3/6(装弾された弾は実弾1発ダミー2発) 
[道具]:基本支給品(懐中電灯を紛失)、357マグナム弾残り6発、フランドール・スカーレットの誕生日ケーキ(咲夜製)、
    妖夢の体のパーツ
[思考・状況]食べられる人類(場合によっては妖怪)を探す。 
1.自分に自信を持っていこうかな 
2.また地雷の様子を確かめに出発しよう 
3.地雷を確かめたら、慧音と神様のところに行ってみよう 
4.日傘など、日よけになる道具を探す 


※古明地さとりの名前を火焔猫燐だと勘違い 
※映姫の話を完全には理解していませんが、閻魔様の言った通りにしてゆこうと思っています 
368 ◆Ok1sMSayUQ :2010/06/03(木) 18:08:44 ID:N+wXgGkZ
投下終了です。
タイトルは「Who's lost mind?」です
369創る名無しに見る名無し:2010/06/03(木) 20:46:45 ID:44hj5j/5
魔理沙フランドールやチルノお空とは対極的に他の面々は壊れたというか不安定なコンビを組んでいくな
前の霊夢小町もそうだったが新たな従者を手に入れた幽々子とそれに忠義を誓う優曇華
これもバトロワという狂気の世界のせいなんだろうな
そして今回は脇役だったルーミアはどこへいくんだろうか?
370創る名無しに見る名無し:2010/06/04(金) 02:11:02 ID:p49wHqaF
このルーミアさっさとやられればいいのに往生際の悪い奴だな。
371創る名無しに見る名無し:2010/06/04(金) 06:23:54 ID:1DV7OQBP
>>370
おそらくまだまだお食事は続くだろうな
372創る名無しに見る名無し:2010/06/04(金) 07:30:15 ID:YLIw1zZ2
投下乙

ああ、従者が完成してしまったのか……
こんなに見てて悲しくなるのはなんでだろうな
373創る名無しに見る名無し:2010/06/04(金) 11:36:12 ID:SfJ+exHT
投下乙です

歪な主従関係が生まれたようなw
前の関係がロワで破綻して同じくロワで出合った二人がお互い依存するように結ばれる…
狂気の世界で生まれた歪んだ関係か…
374創る名無しに見る名無し:2010/06/04(金) 17:58:50 ID:1dnNKXUE
投下乙です。
不安定同士のはらはらするコンビが生まれたか。
人食いは、やはりいいファクターだ。
375創る名無しに見る名無し:2010/06/07(月) 20:05:24 ID:68IASU5A
おや、えーりんの予約来たぞ
何だろう…
376創る名無しに見る名無し:2010/06/08(火) 19:18:29 ID:Vefo+Cpq
こちらも破棄か…
どちらでもいいから書き続けて投下して欲しいな…
377創る名無しに見る名無し:2010/06/09(水) 23:09:34 ID:2VQ55G/k
仮スレに投下来てるな
これで問題なしなら投下か
えーりんの投下も来たら放送だな
378創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 19:33:36 ID:vwNbays7
◆J78.yIiAeg氏の代理投下を開始します。
題名は『二人の“ワタシ”』です。
379◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 19:34:34 ID:vwNbays7
『妖怪の山』に棲む妖怪は、その殆どが排他的です。
それは、私達天狗は勿論の事、河童とて例外ではありません。
本来ならば山の妖怪が他所の妖怪と協力する事自体、珍しい事なのです。

そうそう、以前、外の世界の神様が山に来た時も、最初は皆快く思っていませんでしたね。
あの時は天魔様が直に交渉されて無事に友好関係を築く事ができましたけれど。
今では山の発展にも、ネタ的な意味でも貢献してくれているので感謝していますよ。ええ、本当に。


―――尤も、その神様は二人とも死んでしまったのですけども。


となると、あの神社はどうなるのでしょう?
やはりあのネタを提供しない方の巫女の物になるのでしょうか?
むむ、だとしたらスクープの予感ですよ。
【実録! 巫女が神になるまでの3日間!】
晴れてネタを提供してくれる巫女になる訳です。
今後の動向に目が離せませんね!
いや、そもそも今は生きてるかどうかも判りませんが。

さて、これでまた一つ記事を書くためのネタ候補が増えました。
採用するかどうかは別にして、ネタになりそうな物は残しておくのが基本だしね。
それに、写真さえ撮れれば捏造だって利くし。
メモメモ……っと。

「どう? 少しは慣れた?」
「ええ。もう普通に使う分には問題ないわね」
「そうなの? 流石新聞記者って所かしら」
「そりゃ、幻想郷最速だからねー。仕事も早くて当然……あれ、もう書き始めてるんだ?」

そう言ってにとりが画面を覗き込んできます。
……それ、自分でマナー違反だって言ってなかったっけ?
いや、何もやましい事は書いてないので見られても平気なんだけどね。

「今はまだネタになりそうな情報をメモしてるだけよ。丁度操作の練習にもなるしね」
「あー、そう言えば文花帖も今手元に無いんだっけ」
「そうなのよねー。本当は手書きが一番いいけど、無い物強請っても仕方ないし」

文花帖と言うのは、ご存知の通り天狗が持ち歩いている手帳のことです。
勿論、私も何時もなら持ち歩いているのですが……今更ながら、これも没収されていました。
なので、何かメモするものが欲しかったのですよ。名簿の余白部分だけじゃ全然足りませんからね。
だからこれにメモ帳機能が付いていたのは有り難いです。

「……ねえ、文」
「ん?」
「図々しいとは思うけど……これからもそれ、使うならさ、私からも一つだけ頼みがあるんだけど。いいかな?」
「ええ。どうぞ。聞けるかどうかは内容によるけどね」
「ありがと。それで、頼みっていうのはね……」
380◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 19:35:23 ID:vwNbays7






―――時は遡り―――






にとりとレティ、そしてサニーミルクが捕らえた人影。
如何にも愛想の良さそうな笑顔を浮かべ、軽く手を振りながら近づいてくるその姿。
この中ではにとりだけがその人影の正体をよく知っていた。


―――同じ山の、『仲間』だから。






「間違いないよ、文だ!」
「文って、例の鴉天狗……って、にとり!?」

レティが問いかける間も無く、既ににとりは文の元へと駆け出していた。
呆気に取られたレティとサニーミルクだったが、それだけ文を信頼していると言う事なのだろう。
文の事は妹紅からも聞いているし、信頼してもいい筈。そう思い直し、すぐににとりの後を追った。

「文、無事だったんだ! 良かったよ……」
「私がそんな簡単にやられますかって。にとりも、今までよく無事でいられたわね」
「うん……」
「? 何かあったの?」
「……色んな事、あったよ。何から話せばいいか、わからないくらい」
「そう……。でもこうして無事に再開できたんだから、まずはそれを喜ばないとね」
「……そうだよね。うん、お互い無事でよかった!」

文と再開したにとりは、殺し合いの場に居るとは思えない程の笑みを見せていた。
やはり同じ山の妖怪という事もあり、想う所があるのだろう。

「にとり、本当にあの天狗の事信頼してるんだね」
「ええ、そうみたいね」

山の妖怪同士の仲間意識が強い事は、レティも知っている。
レティとしても、信頼できる仲間が増えることは喜ぶべき事だ。
文は相当な実力者と聞いているので、尚更心強い。

だが……
381◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 19:37:52 ID:vwNbays7

「……信頼、ね」

ふと、レティが立ち止まった。

(私は、あれだけ信頼されてるのかな? 少し前に会ったばかりなのに? ……そんな訳、無いじゃない)

直前までにとりに明らかにするつもりだった、自らの罪。
しかし、今のにとりの表情を見た後ではとても切り出そうとは思えなかったのだ。
あの表情を見た事のない自分は、本当に信頼されているのだろうか。理解を得られるなんて、それは自らの願望ではないのか。
そんな疑惑の念が、レティの心にふと浮かんでしまった。

疑う事を覚えたレティの心は、少しずつではあるが、しかし確実に蝕まれつつあった。

「レティ」
「…うん?」

レティの心中を察したのだろうか? サニーミルクが、レティの方を向いた。
にとりとは対象に、弱気になっている事が明らかなレティの表情。
サニーミルクはそんなレティを真っ直ぐと見つめた。そして、たった一言だけ、声を掛けた。


「大丈夫!」


それは、余りにも単純で、真っ直ぐすぎる言葉。
それをサニーミルクは、満面の笑みで口にしたのだ。
大丈夫、と言うのはどういう意味だろうか? にとりが理解を示すという事か。本当に信頼されているという事か。
否、サニーミルクは妖精の中でも頭は回る方ではあるが、そこまで明確にレティの思考を読み取れる程ではない。
しかしそれでも、その言葉はサニーミルクが自分なりに考えた言葉だった。
それは直前の真っ直ぐ前を見据えた瞳が、そして今の、純粋過ぎる笑みが証明していた。

「…… ありがとう。サニー」
「えへへ〜」

今のレティにとって、本当の心の拠り所は全てを知って尚、共に居るサニーミルクだけだろう。
にとりも萃香も、そして妹紅も仲間ではあるが、事実を知らないのだ。どこか後ろめたい心は隠せない。

では、もしも彼女がレティの前から居なくなるような事があれば。
その時に何が起こるのか。レティはどうなってしまうのか。
それはまだ、誰も知る由も無い事である。

「レティー! サニー! 何してるのさー!」
「っと、私たちも早く行きましょう」
「うん!」
382創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 19:38:00 ID:T+eTFfwp
 
383◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 19:39:42 ID:vwNbays7






どうもー、毎度お馴染み射命丸です。
この度はにとり達を紅魔館へと送り込むべく、接触を試みた次第です。
接触の方法は色々考えてはいたのですが、あまり大声は出せないのでこのような形に落ち着きました。
勿論、にとり達がゲームに乗っている可能性、私を怪しむ可能性も考えてその後の対応も考えていましたが、その必要は無かったようですね。

それにしても、幾ら同じ山の妖怪だからって、ちょっと迂闊すぎじゃない?
これじゃ紅魔館に送り込んでも何一つ出来ずに殺されそうじゃない。
少しお灸を据えてあげる必要があるかな。そうじゃないと送る意味がありませんしねー。
まあ、そんな事をした所でにとり達が殺される事は変わらないでしょうけど。






…… 椛の、様に?






『よくも椛を!』
『あんな間の抜けた子、どっちにしても生き残るなんて土台無理な話だったわよ』
『必ずや私の手で制裁を下してやるわ……っ』
『椛なんか別にどうだっていいじゃない』

……いけない。
あの時の感情がまた甦ってきた。
相反する筈の、でも間違いなく、どちらも自分の本心。

『どうでもいい訳無いじゃない。椛は私と同じ山の仲間でしょ?』
『これは殺し合い。生き残れるのは一人だけ。椛の死は既に決まってるようなものじゃない』
『殺し合いに乗らなくても、ここから脱出する術はあるかも知れないわ』
『貴方も“私”なら判るでしょう。そのような油断が死を呼ぶことを。現に私はこの殺し合いに乗っているのだから』

お互いに一歩も譲らない、二人の『私』。
答えなんて出る筈も無い、不毛な口論。
当然だ。だって私にとっては、どちらの言い分も正しいのだから。


――……や?


うん?
384◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 19:40:46 ID:vwNbays7


――文ってば!



ふとすると、にとりが私の顔を覗き込んでいました。
心配しているように見える… のは、私の錯覚でしょうか。

「あれ……」
「大丈夫?」
「あ、ええ、大丈夫だけど」
「……無理、しなくていいからね。同じ仲間じゃないか」

どうやら意識が虚ろになっていたようです。
一体何やってるのよ、迂闊なのは私の方じゃない。紅魔館での事といい、さっきからこんな展開ばっかり。
相手がにとりだから良かったものの、下手な相手だったら殺されてたわよ。

「えー、どうやら心配おかけしたようで」
「いいんだってば。気持ちはよく判るしね」
「はい? 気持ち? 何の話よ?」
「いや、今の話だけど……」



「……………」



……本当に、何やってるんだか。
385創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 19:40:51 ID:T+eTFfwp
 
386◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 19:41:35 ID:vwNbays7



えー、さっきから見苦しい場面ばかりで申し訳ありません。
そうでした、今は情報交換の最中なのですよ。
私の方から話を進めていたのですが、椛の名前を出したところであのような事態に……
本当にすみませんでしたー。

「やっぱり鳥頭ね」
「う……」
「サ、サニー、遠慮なさすぎ……」

何時もなら妖精の戯言なんて適当に流すところですが、今回は反論できません。不覚。
いや、実を言うとですね、半分ぐらいは当たっているのですよ。
記憶力だけはあまり良くないのよねー。
だからメモを残すための手帳は手放せなかったんだけど、支給品には無かったし。


あ、支給品と言えば。


「そう言えばあなた達、私のカメラ見てない?」
「文のカメラ?」
「ええ。別に私のじゃなくてもいいけど。カメラが無いと落ち着かないのよねー」
「カメラかぁ。私の支給品には無かったけど、レティはどう?」
「私の支給品にも、無かったと思ったけど…………」

む? 何でしょう。
レティさん、何か考え込んでいるようですが。

「ちょっと待って……」
「あ……」

レティさんが小さめの方のスキマ袋を漁り始めました。
そこの妖精の分でしょうか?
それにしては、当の妖精本人は複雑な表情を浮かべていますけど。

「あれ、もしかしてその袋の中にカメラあったの?」
「えっと…………」
「…………」
「?」

気になりますね。レティさん、どうも様子がおかしいです。
妖精の方も、心なしか落ち着きが無いような。
何か臭うなぁ。後で探りを入れたほうがいいかも。

「……? 何かしら、これ」

レティさんが取り出したのは、何やら小型の、ハートマークが洒落てる黄色い機械らしきもの。
はて、気のせいですかね? どこかで見た事あるような。
ま、この場にはにとりが居るのでそんな事考えても無駄なんですけどね。ほら、案の定口を開きましたよ。

「なんだ、やっぱりカメラあるんじゃないか」
「え、これが?」
「うん。折り畳み式のね。外の世界の機具を参考に私達河童が作ったのさ」
「あー。そう言えば、他の鴉天狗がこんな感じのカメラ使ってるのを見たような」
「持ち歩きやすい形してるからね。でも、気のせいかな? 微妙に形に違和感があるような……」
387創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 19:43:56 ID:T+eTFfwp
 
388◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:05:25 ID:kQyAkgxU
見覚えがあったのはその所為でしたか。どうでもいい事ですけど。
でも、にとり達がカメラを持ってるのは好都合と言っていいでしょう。
まさかこの殺し合いの場で記念撮影なんてしないでしょうし、にとり達がカメラを必要とする理由は無いでしょうから。

「では早速ですが、このカメラ、私に譲ってもらえません?」
「……そうね。私が持ってても仕方ないし」
「決まりですね。ではこちらに」
「ちょっと! 自分は貰うだけ貰うなんてずるいじゃない! こっちにも何か寄越しなさいよ!」
「……はぁ。じゃあ、この小銭の中から好きなのとっていいですよ」
「えー、ドロップとか無いの? …あ、でもこれはきれいかも」

妖精は小銭の中から幾つか選んではレティさんのスキマ袋に入れていきます。
それをレティさんは何を言うでもなく、ただ若干の笑みを浮かべながら眺めているだけ。
あまり袋の中身がごちゃごちゃするのはいい気はしないと思うけどなぁ。

「ちょっと待った!」
「ん、どうしたのよ?」
「やっぱりだ。これ、唯のカメラじゃない。……いや、“なくなってる”が正確かも」
「……誰かの手が加えられてるって事かな」
「うん。レティ、これに説明書か何か付いてなかった?」
「説明書って……。あ、これがそうかな?」

レティさんが袋から取り出したのは、一枚の白い紙切れ。多分、説明書とはこれのことでしょう。
と、それにくっ付いている透明なピラピラは、もしかして“セロテープ”と言う奴でしょうか。
確かこれは、外の世界では身近な物を貼り付けるために使われるそうです。
と言う事はこの紙切れ、機械に直接貼り付けてたの? だとしたらかなり扱いが雑ですね。
見た所、レンズに傷が付いているなんて事はないですけど。

「ちょっとそれ、見せてもらっていい? 後、カメラも」
「ええ。どうぞ」
「変な事して壊さないでよ? 私が使うんだから」
「わかってるって。えっと、何々……」

にとりが、カメラを片手に説明書を読み始めました。
手が加えられてるって事はつまり、改造されているという事。
もしかしたらカメラの他にも使える機能があるかも知れないわね。
改悪の可能性もあるので糠喜びは出来ませんが。
389◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:06:10 ID:kQyAkgxU
「お待たせ。いやー、結構驚かされたよ」
「ということは、改良されてるのかな」
「間違いなく改良だね。カメラの他にも色んな機能が付いてるし」
「ほー。例えば、どんな機能?」
「まず一つは、このボタンを押すと……ほら」
「……成程ね」

開かれた真っ白い画面に、にとりがボタンを押すと文字が出てきました。
つまりこれは、手帳機能。内容も保存できるようで、これがあれば手帳要らずと言う事でしょう。
ふむ、確かにこれは便利かも。

「次に、今は確認できないけど、遠い人と通話が出来る機能があるみたいだね」
「そんな事できるの?」
「うん。電波も問題無いみたいだし、使える筈だよ。と言っても、それをするにはこれと同じような機械が人数分必要なんだけど」
「そうなの……この袋の中にはこれ一台しか無かったけど」
「もしかしたら他のは、誰かの支給品の中にあるのかも」

通話機能ですか……私には必要無いかな。
どの道、最後まで生き残れるのは一人だけ。協力したって……
いえ、やめましょう。忘れろ私。こういう時には話を変えるのが一番です。

「こほん、他に機能は無いのですか?」
「後は電子メールっていう、文章を相手に贈る機能があるみたい。これも一台だけだと出来ないけど」
「……改良と言ってもそれなら実質、追加機能は手帳機能だけね」
「そういうことになるかな。でもこれから使う機会があるかも知れないし、知っておいて損は無いさ。はい、文」
「頭の中には入れておくわ。説明ありがと……ん?」

あれ、このボタンは何でしょう? にとりからは説明されてませんが。

「にとり、このボタンの説明されてないんだけど」
「ああ、それね。弄らない方がいいよ」
「はい?」
「説明書にはそれがどういうものなのか書いてないんだよ。『定時放送の合間に1回押せる』とだけ書かれてたけど」
「……そう。その説明なら爆発したりとかはしないかな」
「そうそう、最初このカメラに違和感を感じたのもそのボタンが原因で」

ピッ

「って、ちょっと文!? 話聞いてた!?」
「使える機能かもしれないでしょ。どんな宝でも使わなかったら持ち腐れるじゃない」
「文ぁ〜」
「放送の合間に1回しか使えないなら今が丁度いいわ。えっと……『受信中』?」

一体何を受信すると言うのでしょうか。ワクワク。
いえ、建前じゃないですよ。
これも取材魂といいますかね、何だか隠された秘密を暴くみたいで楽しくなります。
390◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:08:47 ID:kQyAkgxU
「と、終わったみたい。これは……」
「……画像ファイル、かな?」
「ねえレティ、“がぞうふぁいる”って何?」
「私もよく判らないけど、画像って言うくらいなら、画像が出てくるんじゃない?」
「そうなんだ。ねぇ、私にも見せてよ!」
「こらこら、あんまり強引に覗き込むのはマナー違反だからね」

画像ファイルですか。それぞれに01、02、03と言った具合に番号で名前付けされています。
さて、これは何なのでしょうか?
見たところ、日付、時刻を基に昇順になら、ん、で……



「まさか」



『定時放送の合間に1回』



そこから考えられる事は?



嫌な汗が、吹き出てくる。
押してはいけない、押しちゃ駄目。
そんな声が、頭の中で反響する。

……でも、ここまで来て、今更引き返せますか。
それに私の思い違いの可能性だって、あるんだから。

「早くしてよー!」
「一体何なのかしら……」
「……! 待って、文、これって――」






私は、01と書かれたファイルを……開いた。
391◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:12:38 ID:kQyAkgxU
それは、恐らくこの世で最も『不浄』を現すものだろう。

そこには『希望』も『奇跡』もない。

生を謳歌した者の姿ではない。天命を全うした者の姿でもない。

敢えて言うならば、それは『この世界の末路』を淡々と映していた。

『殺し合いという現実』だけが、そこにはあった。






画面に映されたのは、山の神様である『洩矢諏訪子』の亡骸に他ならない。
彼女に限らず幻想郷の住人は皆、個性の強い服装をしている。
だからそれが彼女である事に確信を持つのは、難しい事ではない。

―――喩え、顔で判別する事ができなくとも。
392◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:14:15 ID:kQyAkgxU
「―――ッ!!」






「……何よ、これ……」
「……ぁ……ぁ……!!」

その画像が、どういうものなのか。妖精のサニーでも直ぐに理解する事ができた。
文でさえ、この画像に口は開けなかった。
いや、何も言う事ができなかったのだ。






それは、恐らくこの世で最も『不浄』を現すものだろう。

そこには『希望』も『奇跡』もない。

生を謳歌した者の姿ではない。天命を全うした者の姿でもない。

敢えて言うならば、それは『この世界の末路』を淡々と映していた。

『殺し合いという現実』だけが、そこにはあった。






画面に映されたのは、山の神様である『洩矢諏訪子』の亡骸に他ならない。
彼女に限らず幻想郷の住人は皆、個性の強い服装をしている。
だからそれが彼女である事に確信を持つのは、難しい事ではない。

―――喩え、顔で判別する事ができなくとも。
393◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:16:39 ID:kQyAkgxU
「……どうして」
「……にとり?」
「どうして、こんな事、するんだよ……」

暫しの沈黙から、一番最初に口を開いたのはにとりだった。
その表情は、先程見せた文との再会に喜んだ表情とは大きくかけ離れている。
怒り、悲しみ、苦しみ。そんな負の感情を必死で抑えようとしているのが、その震えた声から伝わってくる。

「私達は妖怪だよ。そりゃ過去には色々あったさ。人間と殺し合った事もあったよ。
 ……でも、あの結界が張られてからは皆、変わってきたじゃないか!」
「にとり……」
「最近じゃ、人間と仲良くしようとする妖怪だって増えてきたじゃないか!
 私だってようやく人間の事、『盟友』って呼べるようになったんだよ! それが今の幻想郷の姿じゃなかったの!?」

それは、仲間を殺され、怒りに震える萃香の姿と重なって見えた。
あの時は萃香を慰めたのは他ならないにとりだったが、怒りを感じなかった訳ではない。
ここに来て、今まで押さえ込んでいた物が噴出してきたのだろう。

「どうして、こんな殺し合いに乗るんだよ……くそっ!」

にとりの叫びに、その場に居る者は、何も答えることができなかった。
394◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:20:30 ID:kQyAkgxU
……椛も、こんな死に方だったわね。


再び沈黙が場を制する中、文の頭に浮かんだのは『仲間』の死だった。
先程、自分に「忘れろ」と言い聞かせ、思い出さないようにしていた、その感情。
ここで再び、その時の感情を思い出してしまった。

文は、幻想郷の中でも特に長く生きている妖怪の一人だ。
だから、外の歴史の事も耳にはしている。……その内容が、如何に馬鹿げているのかということも。
この世から妖怪が幻想となった大きな理由の一つ。それが、「人間は、人間同士で争うようになった」事。
同属同士で殺し合いを始めたのだ。妖怪達の感性からは信じ難く、酷く愚かに見えただろう。


『私達は幻想郷で、大きな争いを無くす事に成功しつつある。ここまで来て、外の人間達と同じ道を辿るつもり?』
『今は生き残る事が最優先なのよ。これが幻想郷の意思である以上、逆らう事はできないの』
『……私だけ残ったところで、それはもう私達の“”幻想郷じゃないわ』
『……生き残らなければ“”幻想郷に帰る事はないのよ』

再び言い争う二人の私。
『幻想郷の意思に従おうとする私』と『幻想郷の在り方を守ろうとする私』。
どちらの『私』も私にとっては正しい。
だって、二人の奥に在る想いは、同じものだから。



――ああ、そうか。



――何故、私の中に『私』が二人居るのか、今になってわかった。



――私は、こんなにも幻想郷を“愛していた”んだ。



今回の異変が幻想郷の意思だというなら、私は逆らえない。
私達は、幻想郷が無ければこの世にもあの世にも居ないだろうから。

でも、私の愛していた幻想郷は――
仲間達で集まって、酒を飲み始めると決まって昔話になった。
『今の妖怪は弛んでいる』『若かった頃は何百と言う、向かってきた人間を倒した』
――そんな話をする奴の顔は、決まって笑っている。
皆、心の何処かで思っているのかも知れない。『殺し合いが無くなって、本当に良かった』って。

今にも争いになりそうなのは外の世界と同じ。どこか危うくて、今にも崩壊してしまいそうで。
でも、決してそうはならなかった。私達や博麗の巫女が、そうはさせなかった。
それが私達の、精神で人間より劣る妖怪の、何よりの誇り。

――その誇りを捨てる事は、妖怪として死んだも同然じゃない!!
395◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:24:00 ID:kQyAkgxU
私にとっては幻想郷の意思も、在り方も、そのどちらもが大事。
優劣なんて、付けられる筈がない。



――でも、選べる選択肢は一つだけ。



――なら、私はどうすればいい?



私は――






「……早く紅魔館に向かわないと。フランが待ってる筈だから」
「……そうね。絶対に、この殺し合いを止めないと」
「うん!……」



「待ちなさい」



「え、文? どうしたの?」
「今行っても殺されるだけよ」
「……どういうこと?」

文は一つ息を置いて、こう続けた。

「今、紅魔館には、お嬢様とその従者が居るわ。……殺し合いに乗った、ね」
396◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:27:30 ID:kQyAkgxU
今、私達は萃香さん、妹紅さん達と合流するべく、人里へと向かっています。
何故そんな事になったのかと言いますとですね……

『紅魔館には私が一度向かいましたが、フランさんは居ませんでした』
『……じゃあ、一体何処に行ったんだろ』
『何処かで足止めを食らっている可能性が高いわね。殺し合いに乗った者と交戦中なのかも』
『! なら、助けに行かないと!!』
『何処にいるのか検討もつかないのに、闇雲に探し回っても駄目よ。それに、萃香さんと妹紅さんも気がかり』
『え……』
『あの二人、このままだと真っ直ぐ紅魔館に向かう事になるわね』
『……そうだ。萃香達はあの吸血鬼が館に居る事を知らない』
『ええ。今は無事でも、このままなら不意打ちの形になる。恐らく殺されるか、命は助かってもかなりの深手を負うことになるわ』
『……知らせなきゃ!』
『にとり、でも……』
『文は勿論、人里に向かうんだよね!』
『当たり前でしょ。仲間が危機に瀕してるって言うのに、見捨てる訳には行かないしね。……レティさんは、どうしますか』
『……レティ?』
『……判ったわ。私も一緒に行きます』

とまあ、こんなやり取りがあったのですよ。

そうそう、私が今持っているカメラの先程の機能……名付けるなら、『死体念写機能』でしょうか。
これはどうやら、定時放送でしか知り得る事の無い情報のうち、現時点での死亡者を画像で先に知る事が出来る機能のようです。
余り見たい物ではないのですが、情報は知っておくに越した事はないですからね。全部見ましたよ、はい。
……色々と思うところはありましたが、それはまた別の機会に。
397創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 20:30:24 ID:T+eTFfwp
 
398◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:30:41 ID:kQyAkgxU
「……文、でいいかしら?」
「ええ。何でしょう?」
「確か貴方の仕事って、新聞記者よね?」
「ええ、幻想郷最速を売りに、的確な情報を素早く届けるのが仕事です!」

えっへん、と少し胸を張ってみた。
事実、速さならどの天狗にも負けない自信がありますよ!

「……なら、一つ頼んでもいいかしら」
「はい? なんでしょうか」
「今回の異変の事……記事にして欲しいのよ」
「……どうして、なんて聞くのは野暮ねー。判りました。殺しの記事を書くのは苦手ですけど、努力してみます」
「ありがとう。それとね……」
「まだ、何か?」
「レティ、でいいから」
「……判ったわ、“レティ”」

「……ねえ」
「うん?」
「私も、サニーでいいよ」
「ああ、そう言えば居たわね。妖精さん」
「ムカッ! 折角邪魔しちゃいけないと思って黙ってたのに! 何よそれ!!」
「冗談よ。よろしくね。“サニー”」
「……うん、文」

この二人とは全く面識が無い訳ではありません。
とは言え、やはり新しい『仲間』になるためにはこういう儀式が必要なのでしょう。

「じゃ、文も新しく加わった事だし、萃香達と合流しないと!」
「妹紅さんには私から説明するわ。ただし、これから向かうのはあの人里だという事は忘れないように」

にとり、サニーが力強く頷きました。
が、レティさんは、何だか曖昧な頷き方。
どうしたのでしょう?
399◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:50:01 ID:vwNbays7

「あの……」
「……レティ? どうしたの?」
「人里に着いたらね……皆に、聞いて欲しい事があるの」
「……え?」
「…… ここでは、言えない事?」
「そうじゃないけど……皆の前で、知ってもらいたい事だから」
「判りました。今はレティの事を信じましょう。にとりもそれでいい?」
「え、あ、うん」

ふむ、やはり何か事情があるようですね。
ですが、どうやらこの場に居る私とにとり、それと、サニー……は、もしかしてその事情を知ってるのかな。
とにかく、持ち物をあっさり曝け出した所を見るに殺し合いには乗っていないのでしょう。
皆に聞いて欲しい話のようですし、今は深追いしない様にしておきましょうか。






今、このカメラのメモ帳には二つの、そして三人分の想いが綴られています。
一つは、殺し合いの無意味さを伝える為の、この異変の新聞記事。もう一つは ――

 こうして、幻想郷に平和が戻りました。
 【めでたしめでたし】

……新聞記事の締めじゃないなあ、これ。
にとりの頼み事。それは、新聞記事の終わりにこの文を入れるということ。
それは、これだけの犠牲者が出ても尚、希望を捨てないというにとりの想いの表れなのでしょう。
ですから、記事が書ければこの文は必ず入れるとします。






――でも、御免なさい。にとり。それにレティ、サニーも。



――もしかしたら貴方達の想いを、私は、裏切る事になるかもしれない。



文はまだ揺れていた。二人の“私”の間で。
にとり達を紅魔館へと送る事を止めた理由。それは、今は殺す気になれなくなった、というだけなのだ。
『幻想郷の意思に従おうとする私』と『幻想郷の在り方を守ろうとする私』。
果たして文は、そのどちらに傾くのだろうか?

――それもまた、まだ誰も知る由も無い事なのだった。
400◇J78.yIiAeg氏の代理投下:2010/06/11(金) 20:51:38 ID:vwNbays7


【C-3 人里付近 一日目 夕方】
【河城にとり】
[状態]疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式 ランダムアイテム0〜1(武器はないようです)
[思考・状況]基本方針:不明
1.萃香達と合流する。ある程度人が集まったら主催者の本拠地を探す
2.皆で生きて帰る。盟友は絶対に見捨てない
3.首輪を調べる
4.霊夢、永琳には会いたくない

※ 首輪に生体感知機能が付いてることに気づいています
※永琳が死ねば全員死ぬと思っています
※レティ、妹紅、文と情報交換しました


【レティ・ホワイトロック】
[状態]疲労(足に軽いケガ:支障なし) 、精神疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式×2、セロテープ(7cm程)、小銭(光沢のあるもの)、サニーミルク(S15缶のサクマ式ドロップス所有)
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る気は無い。可能なら止めたい
1.萃香達と合流する
2.この殺し合いに関する情報を集め、それを活用できる仲間を探す(信頼できることを重視)
3.仲間を守れる力がほしい。チルノがいるといいかも…
4.自分の罪を、皆に知ってもらいたい
5.ルナチャイルドはどうなったのかしら

※永琳が死ねば全員死ぬと思っています
※萃香、にとり、妹紅、文と情報交換しました


【射命丸文】
[状態]健康
[装備]短刀、胸ポケットに小銭をいくつか、はたてのカメラ
[道具]支給品一式、小銭たくさん、さまざまな本
[思考・状況]基本方針:不明
1.今は萃香さん達と合流する事が優先
2.このまま殺し合いに乗る? それとも……

※ 妹紅、天子、にとり、レティが知っている情報を入手しました
※本はタイトルを確認した程度です
※リリカがレミリアの軍門に下ったと思っています
※小銭のうち、光沢のあるものは全てレティの袋に入れられました

はたてのカメラにはカメラ機能の他にメモ帳、通話、電子メールといった普通の携帯電話の機能があります。
もう一つの機能として、『死体念写機能』が追加されています。
これは、定時放送の合間に1回だけ押せる機能で、前回の放送から現時点までの死亡者の遺体を念写するものです。
遺体が何らかの理由で失われていた場合、何も表示されません。(付近に居る第3者は写りません)
401創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 20:59:55 ID:vwNbays7
以上で代理投下終了

通話にカメラに死体念写と……
なんと言いますか、もう情報戦において射命丸に敵う者はいそうにないな
まぁ、射命丸自身が揺れてるからどうなるか判らんけど
402創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 22:23:28 ID:mhT9ICd2
投下乙
403創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 23:26:14 ID:pEcSldE8
そういえば、天狗は仲間意識が強い種族だったなあ…
これはいい方向に働くか、悪い方向に働くか
404創る名無しに見る名無し:2010/06/13(日) 14:29:40 ID:knZK95+o
前々から思ってたが文の独白を読んで幻想郷の終わりだなって思いが更に深まった…
405創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 19:28:52 ID:2+OCG5uv
あら、永琳ダメだったか
容量的にはあと1、2本で新スレかな?
406創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 21:34:50 ID:fNw67rZF
そうだね
でもこれで一応は放送に行けるが…
ただ他に書き手が進めたいパートがあるかもしれない
407創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 02:01:26 ID:+DuE2d0g
代理投下乙です、
これはいいスレに出会えたと感激中。
これはシナリオ作った人と見てる人の激しい読みあいですね!!
408創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 19:31:18 ID:m5Es4TuD
さて、次は放送の予約が来るか、それとも何処かのパートの予約が来るか…
409創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 00:07:39 ID:dtV7A3LN
そういえばF−4って凄いことになってないか?
今後の展開次第でD−4も大惨事になりそう
410創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 21:59:56 ID:/z2/3FnK
一応現時点でのキャラ最終登場話での時間軸
「午後」
リリカ・プリズムリバー
四季映姫・ヤマザナドゥ
「夕方」
射命丸文、河城にとり、レティ・ホワイトロック 
西行寺幽々子、鈴仙・優曇華院・イナバ
ルーミア 
霧雨魔理沙、フランドール・スカーレット 
レミリア・スカーレット、十六夜咲夜
チルノ、霊烏路空
博麗霊夢、小野塚小町
八雲紫、古明地さとり、東風谷早苗
八意永琳
藤原妹紅、因幡てゐ、伊吹萃香
411創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 12:53:15 ID:+ar9Yxhn
予約来ないな…
412創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 15:12:17 ID:1jo2qjHX
仮投下スレの放送案が来て特に異論とかありませんでしたので代理投下します
413創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 15:14:33 ID:1jo2qjHX
E-2の城。
一人の男が静かに酒を飲む。

外はもう夕暮れ。
男の周りにはオレンジ色に染まった酒の抜け殻達が鎮座していた。

「そろそろだな」

男は時計に目を向ける。
針は長針短針ともに下を向いている。

「あと五分・・・」

男は手元の箱庭に視線を投げかける。
精巧なミニチュア。生きて動いているのは23個の人形。
随分と減ったものだ。最初の頃のにぎやかさを知る男には少々寂しくみえた。
男は人形のうちの一体の頭を小突く。

八意永琳。月の頭脳。
五時間程前には、その身のハンデをもろともせず絶好調につき進んでいた。
今はどうだろうか・・・・。

「今回の放送は難しいねえ。輝夜にはもう少し頑張ってほしかったけど、
 まあうまくいかないことだってある」

八意永琳の主人の死亡。なんらかのアクションを見せなければならないだろう。
さて、どうするか。
手立てはいくつかある。
一番良い手は輝夜の死を認めず退場したことにすることだろう。
はなから、参加していたのは精巧なロボットだったことにしてもよい。

または、輝夜の死を不慮の事故とするという手もある。
しかし、その場合、八意永琳を良く知る者には違和感を覚えられるのは必須だ。
彼女は万が一でも事故の可能性があることに主人を巻きこんだりしない。

そういえばこの問題はメモに対策を書いておいたはずだが・・・


時計が五時半を示すと同時に、男はアラームを止め、意識を次の放送へと切り替えた。




E-2の城。
闇に沈んだ城の中、一人の男が静かに原稿へ目を走らせる。
問題は見当たらない。

「さてさて、どうしますかね」

普段の自分ならリプレイを見て放送までの時間を潰すのだが、失敗は一度で十分だ。
第二回放送でのミスは痛かった。
洩矢諏訪子が早々とリタイアしてくれたからよかったものの、
あのまま無事に東風谷早苗らの危険分子と合流していたらと思うと背筋が寒くなる。

目の前のパソコンは現在の八意永琳を映し続けている。
一人で人里をさまよう彼女は、主の死を知らない。

「さて、そろそろだな」
414創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 15:15:50 ID:1jo2qjHX

「さて、それでは3回目の放送を始めますわ。
まずは退場者の発表から、一度しか言わないからよく聞くのね。
いくわよ。

洩矢諏訪子
紅美鈴
蓬莱山輝夜
八雲藍
森近霖之助
火焔猫燐
上白沢慧音
メディスン・メランコリー
比那名居天子
古明地こいし
秋静葉

以上11人

残りは23人

人数的にはまずまずですわ。
良い出来よ」

ここで言葉を区切る。

目の前にはあまりの悲しみに、声も出ずに立ち止まる人影。
それを注視しながら、原稿を読みあげる。

「あら、うどんげ、そんなに動揺しないでいいわよ。
姫様の名前が呼ばれたって。私が姫様をあんな危険な場所に送り込むと?
そんなことはしないわ。
ただ、操り人形は壊されちゃったみたいだからね。
しばらく、ここでまっていてもらいますわ。」
415創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 15:17:05 ID:1jo2qjHX
一呼吸置き、

「では、禁止エリアの発表をいたします。
21時からF−7、0時からF−5。
中に立ち入れば命を失うので、地図には注意を払うことをお勧めしますわ。


そういえば、たびたびこちらの城にちょっかいを出す参加者がいらっしゃるけど、
あまりにひどいと首輪を爆発させるから気をつけてね。
城の結界は堅いから、核爆発でも破れたりしませんわよ。

他の参加者も
‘無駄なこと’に力を注いで無駄死になさらぬよう。お気をつけなさい。
それでは、次の放送でお会いしましょう」




闇に沈んだ城の中、男は大きく伸びをして、
酒を口に含んだ。

「そろそろ、ですかね」

小さな呟きを聴く者は、男を除いて誰もいない。



【E−2 1日目18時】

【残り23人】
416創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 15:19:03 ID:1jo2qjHX
代理投下終了です

操り人形か
さて、それを信じるか、それとも疑うか…
しかし主催者は相変わらずマイペースだなw
417創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 16:33:51 ID:SuyS8yoY
投下乙。
輝夜の死に関わった二人も既に亡くなってる点で、主催者に有利だな。特に、気を操る美鈴がいなくて。
418創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 16:35:55 ID:nwHXlFX7
投下乙

その頃うどんげはゆゆ様と・・・ってあんまり無関心だろうな
419創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 21:43:38 ID:mq1iWjlZ
ところで予約解禁は何時にする?
少し時間置いて土曜の0:00にする?
420創る名無しに見る名無し:2010/06/25(金) 04:30:00 ID:F8Jwflpa
悪くないですね
あと、放送に若干修正が入りました

289 名前: ◆TDCMnlpzcc 投稿日: 2010/06/24(木) 19:49:37 ID:Njsbe81o
事故です。感想スレの48さん、ご指摘ありがとうございます。
「F−5」から「F−2」へと訂正しました。




「では、禁止エリアの発表をいたします。
21時からF−7、0時からF−2。
中に立ち入れば命を失うので、地図には注意を払うことをお勧めしますわ。


そういえば、たびたびこちらの城にちょっかいを出す参加者がいらっしゃるけど、
あまりにひどいと首輪を爆発させるから気をつけてね。
城の結界は堅いから、核爆発でも破れたりしませんわよ。
421 ◆TDCMnlpzcc :2010/06/26(土) 04:30:30 ID:qb41IlI8
指摘がありましたので再び訂正
もうこれで訂正は最後だと思います
訂正 秋静葉と古明地こいしの順番


「さて、それでは3回目の放送を始めますわ。
まずは退場者の発表から、一度しか言わないからよく聞くのね。
いくわよ。

洩矢諏訪子
紅美鈴
蓬莱山輝夜
八雲藍
森近霖之助
火焔猫燐
上白沢慧音
メディスン・メランコリー
比那名居天子
秋静葉
古明地こいし

以上11人
422創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 04:47:23 ID:5xx1/dVQ
予約解禁は月曜の0:00でいいと思うのですが
よろしいでしょうか?
423創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 17:22:08 ID:Elv+6qF2
もうそれでいいぞ
でも土曜の0:00だと思ったのに予約0とか…来るのか?
424創る名無しに見る名無し:2010/06/28(月) 16:22:36 ID:l51okgZU
放送投下されたのに予約が来ない…
425創る名無しに見る名無し:2010/06/30(水) 21:32:52 ID:nCrEBbNd
数か月は来ないだろうな…
426創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 21:15:51 ID:MUybXNR/
予約きた!これで勝つる!
427 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/07(水) 23:56:14 ID:3PaHI1ap
避難所とトリップが変わっているかもしれませんが、◆sh〜です
トリップが長すぎると表示が変わっちゃうみたいですね

本投下始めます
428 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/07(水) 23:56:55 ID:3PaHI1ap
――火。

万物の根源の一つにして、文明の象徴とも言うべき存在。
畜生や妖怪といった存在は、その火を本能的に畏れていた。
外敵存在からその火に護られる形で、人間はその力を発展させてきた。



蓬莱人となった少女、藤原妹紅。
妖術を扱う程度の能力を持つ彼女は、取り分け火に纏わる妖術を扱うことが多い。
もちろん、それは煮炊きなどの日常生活に必要であったということもあるが。
もとは一貴族の子女というごくごく普通の人間でしかなかった彼女が、蓬莱人として里を捨てざるを得なかったこと。
それ故に外敵にその身を晒されることになったが為に、自衛目的で身につける必要があったとも言える。



幻想郷から姿を消したはずの種族である鬼の少女、伊吹萃香。
そんじょそこらの低級な妖怪や畜生とは異なり、彼女は火を畏れることがない。
それどころか、時には酒を触媒として火を吹くというような、曲芸じみた技も身につけている。
先刻も、古明地こいしの仕掛けたスペルや粉塵爆発に巻き込まれかけたものの、鬼がそもそも熱に強い種族であるが故に。
あちこち傷だらけの彼女だが、あられもない姿を晒す羽目になったことを除けば火によるダメージは少ないと言ってもいい。



……さて、翻って妖怪兎の少女、因幡てゐはどうであろうか。
てゐの出自は、至って普通の、どこにでもいる兎である。
その兎が健康に気を使って長生きをしているうちに、妖怪変化の力を身につけた……それが因幡てゐという少女だ。
長生きをし、数々の智慧を身に付けていくうちに、いつしか彼女は自分の内に潜む原始のトラウマを忘れてしまっていた。
だが、忘れてしまっていた……というだけで、今もなお畜生であった頃のトラウマは消え去ってなどいなかった。
即ち、火を畏れる、ということである。



平時であれば、てゐにとって火など畏るるに足らず、そうなっているはずであった。
しかし、今の彼女はあまりにも多くのものを喪ってしまっていた。

永遠亭の仲間である鈴仙には見捨てられてしまった。
死ぬはずのなかった輝夜は、最早この世の人ではなくなってしまった。
頼みの綱である永琳も主催者扱いをされて四面楚歌の状況にある、いつ死の危機に瀕してもおかしくない、てゐはそう考えていた。
今のてゐにはもう、頼るべき他者がもう誰も存在していなかったのだ。

他人が頼れないのなら、自分の力だけが拠り所となるはずだった。
しかし、自慢の騙しのテクニックは、甘ちゃんだと断じていたはずの慧音に看破されたことで、自信を失い。
自分が兎である所以と言ってもいい立派な耳も、その片方をこいしに切り落とされ機能不全を起こしていた。
それを除けば、所詮人間を幸福にさせる程度の能力しか持たないてゐに出来ることは限られている。

自分の力は無いも同然、かと言って頼れる他人もいない。
今のてゐは寄る辺を全て喪ってしまった状態にあった。
自分を護るもの全てを失った彼女の心は、今や剥き出し、無防備な姿を晒している。
そこに、自分がまだ一介の野兎であった頃のトラウマが頭をもたげ始めていた。


429 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/07(水) 23:58:15 ID:3PaHI1ap
今、てゐの目の前で一軒の民家が、劫火に包まれている。
燃えさかる火炎は、何もかもを焼き尽くしてしまいそうに見えた。
その炎をただ呆然と眺めることしか出来なかったてゐの心中に、ヒタヒタと本能的恐怖がその姿を大きくしていった。
目の前で何かを話し込んでいる妹紅と萃香の声は、最早耳に入ってこない。
永琳の声で流された放送も、そこで一時行動を共にした慧音の死が伝えられたことも、頭にはほとんど入ってこなかった。



――ガラガラと大きく音を立てて、民家が焼け落ちた。
それと同時にてゐの自我もまた、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。



 *   *   *



3度目の放送が妹紅と萃香の耳にも届いた。

(慧音……)

妹紅は、どこか知らないところで世を去っていた友に思いを馳せていた。
蓬莱の薬を飲み、死を知らぬ体となってからはこの手の別離は数え切れないほど経験してきた。
妖怪とて、長命ではあるが妹紅のように不死の存在ではない、そこには必ず寿命というものが存在する。
いずれは慧音とも永久の別離を迎える日が来ることは、重々承知していた。
しかし、このような悪意に満ちた催しでその日を理不尽に迎えさせられることなど、微塵も考えていなかった。

(復讐だとか、弔い合戦だとか、そういう訳じゃないけれど……)

すっかり陽が落ち、星の瞬く夜空を仰ぎながら、妹紅はその右手をグッと握り締めた。

(こんな馬鹿げた真似、お前も許さなかったよな……)

喪ったものはあまりにも大きく、悲しみもまたそれに比例して大きなものであった。
だが、下を向いているわけにはいかない。
その死を悼み、ただ涙に暮れるだけの姿を慧音は望んでいるだろうか?
否、と断じた妹紅は視線を落とし、前をキッと見据えた。

(この下らない異変は私が止めてみせる、主催者も懲らしめてみせる……! 慧音、お前の分まで生き抜いてみせる……!)

決意を新たにしたところで、隣にいる萃香が話しかけてきた。

「さて……と、やらなきゃいけないことは多すぎるけど……ひとまず、こいしちゃんと静葉さんを丁重に葬ってあげないとね……」
「静葉さん……あぁ、その神様のことかい……?」
「え? あぁ、うん、多分ね……」
「多分、って……どういうことよ」

怪訝そうな顔をして、妹紅は萃香の方に視線を送った。

「にとりが言ってたんだ。恐らく、先ほどの放送で呼ばれたのは、死んだ順番に沿っているんじゃないか、って」
「呼ばれた順番……考えもしなかったねぇ……」
「こいしちゃんが死んだのはついさっき。神様がこいしちゃんに殺されちゃったのはその直前。そう考えれば、ね。
 面識自体は無かったけれども、この神様は私の命を救ってくれた恩人さ……無碍には出来ないよ……」
430 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/07(水) 23:59:41 ID:3PaHI1ap
そう言って萃香は足元に横たわる静葉の遺体に目を落とした。
煌々と燃え盛る民家の炎に照らされ、血色を失った顔なのに紅潮している様に見えた。
ついさっきまで、自分たちと同じように生きていたはずなのに……そう思うと萃香の胸の内にやるせなさが去来した。
また救うことが出来なかった、また嘘を吐いてしまった……自分の手の届く存在すら護れずに、何が最強の種族だ……
こいしは責任を感じないで、そう言ってくれた。
その言葉がどれほどの救いになろうとも、良心の呵責から完全に逃れられたわけではない。
口を真一文字に結び、難しい顔をしていたところで、今度は妹紅の方から話しかけてきた。

「あぁ……その、なんだ……そんな思いつめた顔をしてないでさ」

声に気づいた萃香が妹紅を見上げるような格好になった。

「そんな顔をしたって死んだ奴は帰ってこないんだ……
 だったらさ……生き残った奴らにはそいつらの分まで生き抜く、そんな義務があるんじゃないかな」

顎の辺りを掻きながら、一言一言を搾り出すように妹紅はそんなことを口にした。
こんな説教じみたことを言うのは本当なら慧音の役回りなんだけどな、そんな思いが心中にある。
慣れないことはするものじゃない、と思いつつ、燃え盛る炎のおかげで気恥ずかしさで顔が僅かに染まるのを隠せて良かった、そう思う。

「死んだ奴は帰ってこない、ねぇ……殺しても死なない蓬莱人の言うセリフじゃないんじゃない?」
「それを言っちゃおしまいでしょう?」
「違いないね」

そう言って顔を見合わせた二人は、また先ほどと同じようにフッと笑いあった。

「死んだ奴は帰ってこない、か……」

自分の口にした言葉を、もう一度反芻しながら妹紅は考えた。
先ほどの放送で、永琳は輝夜が操り人形であったということを口にしていた。
輝夜が本物なのか、人形なのかはともかく、それが動いていたところを見ていない妹紅には簡単に信じられないことだった。
その死に居合わせていたはずのてゐや、戦ったはずの萃香はそれを聞いて何か気づいたことでもないだろうか?
いずれにしても、それを確認することは必要だったが、今は自分たちを待っている者がいるのも事実だった。

「二人の埋葬は私もしてやりたいさ。だけどさ、今頃紅魔館じゃにとりとレティが首を長くして待っているんじゃないかな」
「なんでその二人のことを……あぁ、そういうことか……」

一瞬考えて萃香は得心したように大きく頷いた。

「お前さんはあの二人に頼まれて私を探しに来たんだね」
「ま、そういうことだね。幸い、さっきの放送じゃ二人とも名前を呼ばれていないことだし、もう無事に紅魔館に着いたんじゃないかな」
「そっか……それじゃあ……あんまり待たせるわけにもいかないか……
 だけど、せめて目立つところに晒すのだけは御免だよ。その草むらの中にでも隠しておいてさ、落ち着いたら葬る、ってのは駄目かな」
「それぐらいなら構わないさ。あ、それと……」

やや口籠もりながら、妹紅は萃香の上半身をピッと指差した。
先ほどのこいしのスペルで無残にも服が焼け落ちてしまったために、萃香はその素肌を晒す羽目になっていた。

「紅魔館に行く前に、せめて服ぐらいは着ておかないか……?」
「え? いや、別に私はこんなの気にしないけど……」
「いや、気にするとか気にしないとかそういう問題じゃなくて……」

そこまで言ったところで、目の前で民家がガラガラと大きな音を立てて焼け落ちていった。
火の粉が二人のところにまで舞ってきた。
431 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/08(木) 00:03:38 ID:PGHQKg6y
「……っとと、とにかく長居は無用かな。じゃ、早いところやることを済まして紅魔館に向かうとしようかね」
「あぁ、そうだね、てゐもそれでいいだろ……?」

そう言いながら妹紅はてゐの方へ振り返ろうとした。



妹紅も萃香も、てゐの変心に気づく由も無かった。
火を畏れることを知らない二人にとって、目の前の炎が少女のトラウマを呼び覚ますことなど想像もしなかった。
そして、そのことがてゐの予想外の行動を生む引き金になるということも。

タイミングも最悪であった。
こいしとの激闘を終え、放送という一つの区切りを迎えたことで、二人の緊張は僅かに削がれていた。
まして、味方であるはずのてゐがここで事を荒立てるということなど想定外の事態。



しかし――それは起こってしまった。



てゐが突如として、萃香の背中に体当たりを仕掛けてきた。
背後の脅威に気づくことの無かった萃香が、うっ、と小さく呻き声をあげて前のめりに倒れこんだ。
その拍子に取り落としてしまったスキマ袋を、素早くてゐが拾い上げる。
虚を突かれた妹紅は、一連の動作を見送ることしか出来なかった。
すかさず後ずさりして距離を取ったてゐが、白楼剣の切っ先を二人に向けながらなにやらうわ言のようにブツブツと呟く。
ようやく状況を把握した妹紅が声を荒げる。

「おいっ、てゐ!? あんた何を……」
「…………だ…………」

ガタガタと小さく震えながら、てゐは突如として叫んだ。

「……嫌だっ!! 私は死にたくないっ……!!」

目に涙を浮かべながら、金切り声をあげる。
むくりと起き上がった萃香が、ようやくてゐの方に向き直った。

「痛たたた……ちょっと、何があったってんだい!?」
「それは私も聞きたいよ……とにかく、落ち着きなさいって!!」

そう言って一歩進んだ妹紅に、てゐはビクッと大きく反応した。
そして、白楼剣を滅茶苦茶に振り回しながらなおも叫び続けた。

「……嫌だ……来るな……来るなっ……!!
 ……姫様も死んだ、鈴仙には捨てられた、お師匠様もいない……!!
 もう沢山の妖怪が死んだ……私よりずっと強いやつだって……
 あんた達だって利用するだけ利用して……私のこともいずれ殺す気なんだろ!?」

目に涙を浮かべながら、がなり立てる。
明らかに我を失ったようなてゐの様子を見て、二人が囁き合う。
432 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/08(木) 00:05:04 ID:PGHQKg6y
「あれは……何でかは知らないけどかなり錯乱した状態みたいだね」
「……かもね。そりゃ、輝夜の死に立ち会ったり、耳を斬られたり、色々あったしね……」
「え? 輝夜って、そりゃさっき永琳の奴が操り人形だ、って……」
「あぁ、なんだ、そのことについてはまた後でゆっくり話す事にして……
 今はてゐの奴を落ち着かせないと……」
「あ、あぁ。こいしちゃんと違って、とにかく大人しくさせればまだどうにかなりそうだしね……」

そう言って、萃香がてゐをキッと見据えた。

「それじゃ、ここは私に任せてもらおうかな」
「手荒な真似はよしてくれよ」
「どうかな、でも最善は尽くすよ」

射殺すような視線に気づいたてゐが、もう何と言っているか分からないようにわめく。
萃香はお構い無しに拳を軽くパシッと叩き、そのままダッシュ一番、てゐとの距離を縮める。



……はずだった。



一歩目を踏み出した萃香の膝がガクッと力なく折れ、そのままスローモーションのようにゆっくりと崩れ落ちていく。
妹紅は単に躓いただけなのだろうと思ったが、実際にはそうではなかった。
地面を舐めるような格好になりながら、萃香の表情には明らかに焦りと困惑の表情が浮かんでいた。

(か、体に力が入らない……?)

すぐに立ち上がろうと、両手に力を込めても腕がプルプルと震えるばかりで思うように立ち上がれない。
膝もガクガクと笑っていて、どうにか立ち上がるのがやっと、という有様である。

そこへ、殺されると錯乱したてゐが闇雲に斬りつけてきた。
萃香は体を仰け反って剣を避けようとするが、自分のイメージと体の動きがシンクロしない。
本当なら易々と避けられたはずの剣先が萃香の体をかすめ、剥き出しの胸元にうっすらと紅の線が一本走った。
さらに、仰け反ったところで後ろに寄った重心を今の萃香の体は支えきれず、力なく尻からペタリと座り込む形になった。

(おかしいっ……!? 私の体、一体どうしちゃったんだ!?)

自分の体に生じた異変に、萃香はただ戸惑うことしか出来なかった。



萃香は気づいていなかった。
人里での輝夜との交戦の際に負った銃創。
これを治癒するために、無意識に密の力を使っていたということを。

鬼の持つ本来の治癒力に加え、美鈴が今わの際に送り込んだ気功のおかげで銃創自体は塞がり、命に別状は無くなった。
だが、鬼とてその力が無尽蔵に沸いてくるわけではなく、数時間使い続けた能力のために萃香の妖力は尽きかけていた。
そこへ、先ほどのこいしとの交戦で彼女の意識を萃めるために能力を行使。
結果的にはこれが最後の力ということになってしまい、今の萃香はとても戦闘を行える体ではなくなっていたのだ。

あくまで萃香は"無意識に"その力を行使していたために、なぜ自分が力を使い果たしているのか理解しようが無い。
普段はこんな状態に陥ることさえ無かった為に、なぜ、どうして、という思いだけがグルグルと頭を駆け巡るだけ。
座り込んでしまったところに、てゐが追い討ちをかけようと剣を滅茶苦茶に振り回してきた。
が、力の入らない今の萃香は、その素人同然の剣を避けることさえままならない。
433 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/08(木) 00:06:26 ID:PGHQKg6y
ここで、ようやく妹紅が萃香の異変に気づく。
白楼剣の刀身が萃香を切り裂くその寸前に、体を投げ出して萃香を抱え、そのままの勢いで地面をゴロゴロと転がった。
切っ先が僅かに妹紅の腕をかすめ、萃香の胸元と同じような紅の線が一本走る。
砂まみれになりながら妹紅は萃香を抱き起こし、幾分の怒りを含ませながら話した。

「ちょっとちょっと、何をモタモタしてるんだい!?」
「私だって分からないよ!? 急に体に力が入らなくなって、それで……」
「何だって!? 何でそういう大事なことをもっと早く……」
「そんなこと言われたって……って、危ないっ!!」

萃香の視線の先で、てゐが思いっきり剣を振りかぶっていた。
傍目には隙だらけの剣だが、力を使い果たした鬼と、それを庇うのが精一杯の蓬莱人にはそれでも十分な脅威だった。
すんでのところで攻撃に気づいた妹紅は再び萃香を抱え、大きくその場から飛び退いた。
ブゥンッ、と大きな音を立てて、てゐの剣は虚しく空を切り裂く。

「死ニタクナイ、死ニタクナイ……ダッタラ、殺サレル前ニ……」

何かにとり憑かれたかのように、ブツブツとうわ言を呟くてゐに言いようの無い恐ろしさを感じ、萃香に寒気が走った。
さっきのこいしと違った方向に、この兎もまた狂ってしまったのではないか、もう手遅れなのではないか、と。

妹紅は妹紅で、萃香を護りながらてゐと戦うことは困難であった。
ただ叩きのめすだけならまだ楽だったのかもしれないが、殺さずに無力化するというのは思った以上に難しい。
まして、今のてゐはちょっとした刺激で爆発しかねない危険物も同然である。
慎重に慎重を期するべき相手に、力を失った萃香が思わぬ枷として妹紅にのしかかってきた。

それでも、妹紅は殺さずにてゐを抑え込むことを諦めなかった。
輝夜のことに関して、改めててゐに問い質したかったということもある。
だが、萃香と違い、妹紅はまだてゐにこちら側に戻ってこられるのではという淡い期待感を抱いていた。
それは萃香よりもほんの少しだけ長く、てゐと行動を共にしていたということに依るものであった。

(とはいえ……ちょっとこの状況は厄介だね……)

遮二無二斬りつけてくるてゐの猛攻をかわしながら、妹紅は打開策を練る。
自分の持つフランベルジェや、萃香の取り落とした火掻き棒なら剣を防ぐことは出来そうだった。
だが、小脇に萃香を抱えながらの状態では片手しか使うことが出来ない。
両の手に白楼剣を握りしめ、全力で斬りつけてくるてゐの剣を防ぎ続けるのにも限界がある。
ウェルロッドを撃とうにも、銃の腕が優れているわけでもなく、下手をすればそのままてゐを射殺してしまいかねない。
434 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/08(木) 00:07:17 ID:PGHQKg6y
(とにかく、まずは態勢を立て直さないことには……!)

防戦一方の状況を打破するために、妹紅は空いている方の手で炎を生成した。
霊夢との交戦で一時は簡単な妖術を使う力さえ失っていたが、それが幾分回復していることに妹紅は安堵した。
すぐに気を取り直した妹紅は、生成した炎をてゐの足元めがけて放った。
この炎一発でどうこう出来るとは考えていない、所詮これは態勢を立て直すためだけの牽制の一発。
少なくとも妹紅はそう考えていた。

だが、炎を放たれた側のてゐにとって、それは牽制以上の意味を持ってしまった。
疑心暗鬼の念に囚われ、誰彼構わず殺されるかもしれないという恐怖に苛まれている現状。
そこに加え、原始のトラウマである炎が向かってきたのだ。
もちろん、そんなことは妹紅が知る由もないことだった。

「ヒッ……!!」

事情を知らない者が見れば、ちっぽけな炎を大袈裟に体をよじって避けたように見えるかもしれない。
だが、完全に錯乱してしまったてゐは必死だった。
死にたくないという思いと、トラウマを目の前にした恐怖、そんな感情がない交ぜになったてゐが取った行動は……



「あっ……!! ちょっ、ちょっと待てよ!!」

呼び止める妹紅と萃香に背を向け、泣き叫びながらその場から逃走する事であった。



【D−4 人里 一日目 夜】

【因幡てゐ】
[状態]重度の混乱状態、中度の疲労(肉体的に)、手首の擦り傷(瘡蓋になった)、右耳損失(出血)
[装備]白楼剣
[道具]基本支給品、輝夜のスキマ袋(基本支給品×2、ウェルロッドの予備弾×3)
    萃香のスキマ袋
    (基本支給品×4、盃、防弾チョッキ、銀のナイフ×7、ブローニング・ハイパワー(5/13)、MINIMI軽機関銃(55/200)
     リリカのキーボード、こいしの服、予備弾倉×1(13)、詳細名簿、空マガジン×2)
[基本行動方針]死にたくない
[思考・状況]
1.死にたくない、死にたくない……
2.火怖い、火怖い……

※重度の混乱状態にあります。時間が経てば落ち着くかもしれません。
※てゐがどの方角に逃げ去ったかは、次の書き手の方にお任せいたします。




435 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/08(木) 00:08:28 ID:PGHQKg6y
あっという間に逃げてしまったてゐを、二人はただ見送ることしか出来なかった。
すぐに夜の闇に消えてしまい、それ以上追いかけることは困難であった。

「ど、どうするんだい……」

呆気にとられながら、萃香が言った。

「どうする、ったって……」

妹紅はさらに何が何だか分からなかった。
萃香はいきなり力を失ってしまい、てゐはいきなり錯乱してしまった、どちらも妹紅の理解の範疇に無かった。
不変の体を持っていたが故に、物事の急激な変化についていくことが出来なかったのかもしれない。

「とにかく、あのまま兎を放っておくわけにはいかないよ。
 出くわした誰かが斬りつけられるかもしれないし、何よりあいつ自身が一番危ない」

萃香はてゐを止めるつもりだった。
みすみす見逃して、てゐの手によって誰かが命を落とすことも、てゐ自身が命を落とすことも、萃香は許せなかった。
しかし――

「気持ちは分かるけど……今のあんたの体で何が出来るってんだい?」

妹紅の言葉に、ぐうの音も出なかった。
何故かは分からないが、今の自分にはあるはずの力が無い。
護れるもの全てを護ってみせる、そう誓ったはずなのに、今は逆に護られる立場に甘んじてしまっている。
その為に、関係ない他人でさえ命の危険に晒してしまう、そんな危険を放逐することさえ許してしまった。

「くそっ……!!」

悔しさに体を震わせ、拳を地面に叩きつける。
それさえ、力が籠もらずに力なくペシッという音を立てることしか出来なかった。

「……行こう、紅魔館へ。まずはにとりとレティと合流して、それから先のことはみんなで考えないか……?」

妹紅が促すと、萃香は力なく頷いた。
先ほどまで燃えさかっていた民家の炎が、徐々にその勢いを衰えさせていく。
萃香の心もまた、その炎のように力の無いものへと変わっていくようだった。



それから、二人は黙々と静葉とこいしの死体を近くの草むらへと隠した。
妹紅が、静葉の服を脱がせて萃香へと手渡す。
護れなかった負い目から、萃香は彼女の服を受け継ぐことを一度は拒否したが、妹紅に押し切られる形で渋々それを着込んだ。

「なかなか似合ってるじゃないか」

妹紅が軽口を叩く。
萃香もほんの一瞬だけ笑みを浮かべたが、それはどこか寂しそうな笑みで、すぐにまた元の表情に戻ってしまった。

(弱ったね、こりゃ……)

すっかり落ち込んでしまった萃香を励ます言葉を見つけられず、妹紅もまた伝染するように落ち込みつつあった。
人との関わりを意図して断ち切っていた時期が長かっただけに、こういう時にどう振る舞えばいいのか分からなかった。
自分もまた無力な存在であることを改めて思い知らされる格好になってしまったのである。


436 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/08(木) 00:09:34 ID:PGHQKg6y
鬼と蓬莱人。
本来、幻想郷でも屈指の力を持つ二人。
だが、彼女達もまた自分たちの拠り所である力を喪い、その道を見失いつつあった。



てゐ、萃香、妹紅。
寄る辺を失った三人の少女の迷走劇は、始まったばかりである。



【D−4 人里 一日目 夜】


【藤原 妹紅】
[状態]腕に切り傷、妖力小程度消費(あと2時間程度で全快)
[装備]ウェルロッド(1/5)、フランベルジェ
[道具]基本支給品、手錠の鍵、水鉄砲
[基本行動方針]ゲームの破壊、及び主催者を懲らしめる。「生きて」みる。
[思考・状況]
1.萃香と紅魔館に向かい、にとり達と合流する。
2.守る為の"力"を手に入れる。
3.てゐを探し出して目を覚まさせたい。
4.無力な自分が情けない……けど、頑張ってみる。
5.輝夜が操り人形? 本当だろうか……?

※以前のてゐとの会話から、永琳が主催者である可能性を疑い始めています。


【伊吹 萃香】
[状態]疲労、銃創(止血)、胸にごく浅い切り傷、血液不足、妖力0(あと6時間程度で全快)
[装備]歪んだ火掻き棒、静葉の服
[道具]なし
[基本行動方針]命ある限り戦う。意味の無い殺し合いはしない。
[思考・状況]
1.無力な自分に絶望。鬼の誇りを失いつつある状態。
2.妹紅と紅魔館に向かう。ある程度人が集まったら主催者の本拠地を探す。
3.仲間を探して霊夢の目を覚まさせる。
4.てゐを探し出し、他の参加者への脅威を排除したい。
5.酒を探したい。

※密の能力の使いすぎで力を使い果たしました。銃創は塞がっているので、命の危険はありません。
※美鈴の気功による自然治癒力の上昇も、その効果が切れました。
※永琳が死ねば全員が死ぬと思っています。
※レティと情報交換をしました。


※民家の火事は収まりつつあります。中にあったルナチャイルドの死体は焼けました。
※民家の近くの草むらに静葉とこいしの死体が安置されています。共に服の無い状態です。
437 ◆yk1xZX14sZb0 :2010/07/08(木) 00:11:23 ID:PGHQKg6y
投下は以上です
タイトルは「らびっとぱんち」でお願いいたします
438創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 03:40:05 ID:t1ylXKvI
投下乙
てゐは混乱したか
混乱状態な上に下手に武器が豊富なのが怖い

萃香と妹紅のコンビいいな
なんか見てて安心する
ウェルロッドの予備弾は妹紅に渡したってしておいたらいいんじゃない?
状態表の量削減のためにも輝夜の隙間を統合したほうがいいしね
439創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 05:29:52 ID:gXGCmQoR
投下乙
逃走したてゐはどうなるのか、二人は無事にとりたちと合流できるのか
今後の展開が気になるな

妹紅のウェルロッドの残弾が一発というのも、何かしらイベントにつながるかもしれない

そしててゐは重装備
マーダーに転じるか、立ち直るか楽しみだな
440創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 20:27:14 ID:EijIAAGY
投下乙です
てゐが逃亡とか危険だ。てゐが殺されるか追ってる二人が危なくなるのか
煽動マーダー…になりそうだけど混乱してるからどうなるか先が読めんw
441創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 20:34:09 ID:kMbDD8sI
投下乙
また火種が増えたな
親友の死も乗り越えたもこたん強い・・・
このまま続けばいいんだけど
442創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 20:48:16 ID:EijIAAGY
あ、追ってないわw
勘違いだw
443創る名無しに見る名無し:2010/07/16(金) 04:57:11 ID:WCej5Kik
そしてまた静かになりました、と

スレ的には次の投下の途中で一杯になりそうだから新スレが必要かな?
444創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:43:25 ID:11X2E88k
予約が来るまでこのままでもいいな
しかし予約来ないな…
445創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 00:45:09 ID:11X2E88k
ヤベ、あげてもた
446創る名無しに見る名無し:2010/07/21(水) 10:21:58 ID:Gud9dqSc
予約きたー
447創る名無しに見る名無し:2010/07/21(水) 21:55:21 ID:unrjNsAn
本当だ来てる!!早苗達か・・
書き手さん頑張って下さい
448創る名無しに見る名無し:2010/07/22(木) 23:41:11 ID:3uIOd1k8
おお、来てるぞw
449創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 00:41:32 ID:zXjshhPH
もうひとつ来たぞ
450 ◆TDCMnlpzcc :2010/07/24(土) 15:41:59 ID:89VhSU0t

「やっぱり、みんな死んでしまったのですね」

放送が終わると、東風谷早苗がぽつり、と言葉を漏らした。

「諏訪子様も、慧音さんも」
「みんないなくなっちゃった」

そのとおりね。みんないなくなっていく。
八雲紫は放送で呼ばれた二つの名前に心が痛むのを微かに感じながら、心の中で答えた。

次の放送では誰が呼ばれるのだろうか。
次に呼ばれるのは幽々子かもしれない。
もしかしたら、ほかならぬ自分かもしれない。

「一寸先は闇」
「?」
「あと少し運が悪ければ呼ばれていたのは私たちだった」
「紫さん」


死のことを頭から強引に振り払い、放送の内容へと意識を向ける。
今回の放送、気になる点がある。
永遠亭の主、蓬莱山輝夜の死についての釈明。
あれは明らかに真実を話していない。
本当に死んでいないのならそんな“言い訳”をする必要はないからだ。

月の科学力は非常に進歩していて、なおかつ月の頭脳といわれる八意永琳である。
やる気になれば精巧な、本物と区別できない人形を作ることなど容易だろう。
そう思う参加者は決して少なくはないだろう。
そして、蓬莱山輝夜の死体を目にしたわけでもなく、
目にしても能力の制限ゆえにその真贋を区別できないであろう自分にも、
放送を疑う根拠はない。

「紫さん?聞いていますか?」

これは私を含めた、主催に疑問を持ち始めた参加者に対する文字通りの釈明だ。

「紫さん!!」

とはいえ、そう思うことを前提にした―――。

「紫さん、さとりさんが帰ってきません!!」

布団の中、いまだ体を起こせない早苗が叫ぶ。
そこで私は薬を探しに行ったきり帰らない古明地さとりの不在に気付いた。




彼女はすぐに見つかった。
廊下の端、散らばった薬の中心に膝を抱えて座り込んだ人影。
微かに漏れ聞こえるのは嗚咽の音だろう。

「さとり?」

声に体が反応した。
が、返事はない。

「さとり、早苗が心配しているわよ」
451 ◆TDCMnlpzcc :2010/07/24(土) 15:43:06 ID:89VhSU0t





死ぬなんて。
こいしが死ぬなんて。信じられない。





「「さて、それでは3回目の放送を始めますわ。
まずは退場者の発表から、一度しか言わないからよく聞くのね。
いくわよ。
洩矢諏訪子
紅美鈴
蓬莱山輝夜
八雲藍
森近霖之助
火焔猫燐 」」

火焔猫燐、この名前が呼ばれた時に背筋が寒くなった。
ついに来たか、ついに来てしまった。この時が。

「燐、なんで・・・」

喉の奥から声が出た。
いつか来るかもしれないと覚悟はしていたペットの、家族の死。
目頭が熱くなった。
燐、可哀想に――――


「「秋静葉
古明地こいし   

以上11人 」」


「あれ?」

薬が、手に持っていたはずの薬が床に散らばった。
何が起きたのか分からない。
頭が現実を受け入れてくれない。

「コメイジコイシ・・」

妹の名前、それがどうした。
妹の名前が呼ばれてなにかおかしいことがあるのか。
自分だってしょっちゅう呼んでいる名前ではないか。
452 ◆TDCMnlpzcc :2010/07/24(土) 15:43:57 ID:89VhSU0t

「意味、分からない」

がくん、と膝が折れて尻もちをつく。
どこか遠くで、どこか冷静な自分が、とんでもないことになったと嘆いている。

「「他の参加者も
‘無駄なこと’に力を注いで無駄死になさらぬよう。お気をつけなさい。
それでは、次の放送でお会いしましょう」」

無駄なこと、そう無駄なこと。私は今まで妹を放って何をしていたのだろう。

名前を偽って、仲間を作って、仲間を助けて・・・。
妹は、家族はどうした?
家族を探して、必死の早苗を見ても、私はこいしが死ぬなんて考えていなかったような気がする。
今まで何百年も大丈夫だった。
私たち姉妹は死から遠い存在だった。
周りで死ぬ人がいても、どこか遠くで起きたことのように感じられ、自分とこいしは大丈夫だと思っていた。
結果がこれだ。
わたしの帰るべき日常は壊れてしまった。
もはや妹に過去の謝罪など出来やしない。




「さとり?」

―――泣いているのかしら?

え?
誰かの心の声が耳に入り、私は自分が泣いていることに気付いた。
その誰かとは八雲紫。
なかなか帰ってこない私を心配して探しに来てくれたのだろう。

「さとり、早苗が心配しているわよ」

―――本当に大丈夫?気持ちは分かるわ。

紫、八雲紫、八雲。
先ほどの放送で呼ばれた八雲藍。
彼女の家族なのだろうか。

涙をごまかす意図も込めて、勇気を持って遠慮せずに尋ねてみる。

「八雲さん。先ほど呼ばれた八雲藍とはどのような関係にあったのですか?」
「私の式よ。何百年も一緒にいたけれど」

即答。しかし、相手の感情が揺らいだのがさとりにはわかった。
顔を上げると、相手の眼はこちらを見ていなかった。
相手の視線を目で追って、それが自分の足元に散らばる薬に向けられているのに気付き、赤面する。
453 ◆TDCMnlpzcc :2010/07/24(土) 15:44:58 ID:89VhSU0t

「少しお恥ずかしいところをお見せしました」

薬をかき集めながら言う。

「別に私の前で泣くのが嫌ならしばらくはずすわ。
 長く生きれば生きるほど、他人の前で感情を出せなくなるものよ」
「いえ、大丈夫です。それより早苗さんは?」
「放送の時には起きていたけど」

―――絶対大丈夫じゃないでしょう。あんまり感情を抑えていると、そのうち火傷するわよ。

八雲紫の心の声に内心苦笑する。
確かに私は立ち直っていない。
ただ長年の、地霊殿の主としてのプライドが、私に演技をさせている。

こんなときでも、家族が死んだと分かった時でも、感情を出せない自分。
あまりに情けなくて、こいしとお燐に申し訳なくて、どうしようもなくなって、顔に出して苦笑した。





「いえ、大丈夫です。それより早苗さんは?」
「放送の時には起きていたけど」

大丈夫ではなさそうね。
露骨に話をそらすさとりをみて紫はそう判断した。
あまり感情を抑えているとどこかで問題が起きる。
諭したい気持ちはあるが、感情を抑える道を選んだのは本人だ。
これ以上この話をしていても関係が悪くなるだけ。放っておくことにすべきだろう。

もっとも相手はさとり。こちらの言いたいことは言わずとも理解してしまうのだろうが。

「っふふ」

おかしな笑みを浮かべたまま、さとりが立ち上がる。
狂ったのか?失礼な推測が頭に浮かんでくる。

「大丈夫、狂ってはいません。ただ、急ぎましょう」
「どこへ?」
「早苗さんに薬を飲ませないと。あなたのための薬もあります」


454 ◆TDCMnlpzcc :2010/07/24(土) 15:46:11 ID:89VhSU0t


薄暗い、部屋の中。
私は感情を押し殺し、薬の残りをスキマ袋に詰めていく。
心を読めなくても私の動揺は周りに伝わっているようで、周りの二人からは気遣いの感情が流れ込んでくる。
沈黙の中、口を開いたのは早苗さんだった。

「さとりさん、大丈夫ですか?」
「早苗さんこそ、調子は?」
「薬を飲んだので良くなるかと思います」

「ちょっといいかしら?」

私と早苗さんとの会話に、手に薬を塗っている八雲紫が割り込んだ。

「なんでしょうか?」
「ここにいられるのは21時までということは知っているわよね」

―――禁止エリアは 21時からF−7、0時からF−2よ

「はい、わかっています」

一呼吸置いて。

「それで幻想郷の賢者は何かこれからの案をお持ちですか?」
「とりあえず、博麗神社に向かおうと思うの」
「私たちにとっては逆戻りになりますね」
「ええ、だからあなたたちは別行動でも構わない」

別行動。とはいえ熱を出している早苗と二人きりでさまようのは得策とはいえない。それに・・・。

「全員一緒に神社に向かうか、あなたたち二人はどこかへ行くか、
私――八雲紫と早苗が神社に向かい、あなたは一人で動くという案もある」
「え?」
「病人を一人神社に送り届けるなんて簡単よ」

それに、と彼女は続ける。

「あなた、しばらく一人になりたいでしょ。そして出かけたいところもありそう。
さっきからそわそわしているもの」

苦笑。見抜かれていたか。

「わたしはもう後悔したくない。家族をこれ以上失いたくない」
「お空さんを捜すのですね」
「ええ、悪いわね。早苗さん」
「いえ、私だってずっと付き合ってもらいましたから」
455 ◆TDCMnlpzcc :2010/07/24(土) 15:49:24 ID:89VhSU0t
私はこの会場にいるペット、霊烏路空に会い、保護したい。
また、こいしに会って。死体でもいいから会って、謝りたい。
お燐とこいしの死体を埋葬したい。
もう、後悔したくない。

「あてはあるのかしら」

八雲紫が当然の疑問を口にする。

「ありません。とりあえずは人の集まりそうな人里へと向かいたいと思います」
「そう・・・・」

じゃあ、と彼女は続ける。

「西行寺幽々子、八意永琳の二人も探してほしいの」
「八意永琳ですか?」
「ええ、あと博麗霊夢は危険だから近づかないようにしなさい」
「博麗の巫女ですか?事情をお聞かせください」
「ちょっと情報交換をしておくべきね」






「さて、調子はどう?東風谷早苗」
「まずまずです」

二人きりになった部屋の中。額に手を当てながら私は答えた。
私の横に座る紫さんは自身の手をいじくりながら、しきりに感心しています。
怪我は完治したみたいです。

「八雲紫さん」
「紫でいいわ」
「紫さん。霊夢さんは何で殺し合いに乗っているのでしょうか?
あの人は人に命じられて殺し合いに乗る人でもないですし、
自分の意思で殺し合いに乗る人でもないとおもっていたのですが」

紫さんはしばし黙って、言いました。

「わからない。でも理由がある。それを探しに博麗神社にむかうのよ」

【F-7・永遠亭 一日目・夜】

【八雲紫】
[状態]正常 (手の怪我は治りました)
[装備]クナイ(8本)
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0〜2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
 1. 博麗神社へ向かう
 2.八意永琳との接触
 3.ゲームの破壊
 4.幽々子の捜索
 5.自分は大妖怪であり続けなければならないと感じていることに疑問
[備考]主催者に何かを感じているようです
    ゲーム破壊の手を考えついています
    古明地さとりと情報交換しました
456 ◆TDCMnlpzcc :2010/07/24(土) 15:50:29 ID:89VhSU0t


【東風谷早苗】
[状態]:軽度の風邪(回復中)、精神的疲労
[装備]:博麗霊夢のお払い棒、霧雨魔理沙の衣服、包丁、
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置(少なくとも四回目の定時放送まで使用不可)、
    魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)、上海人形
    諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙
[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.八雲紫と一緒に博麗神社へ向かう
2.ルーミアを説得する。説得できなかった場合、戦うことも視野に入れる
3.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる





「それでは、行ってきます」

二人が残る永遠亭に向かって一礼する。
この一礼は自分の身勝手な行動を許してくれる二人に対してのもの。

「さてと、行きますか」

譲ってもらった空飛ぶ箒にまたがって、私は空に飛び立った。
当座の目的地は人里。
この幻想郷では中心にあたる場所。
その後の目的地は後で決めればよい。
どうせ当てなどないのだ。

私は箒に乗って、夜の竹林を飛んでいく。

いまだに心の整理はできていない。
憎しみと、悲しみと、いらだちと、自己嫌悪とであふれんばかりの心は、
夜に冷やされ、丸まるどころかどんどん鋭利になっていく。

こいしを、お燐を殺した奴が憎い。
私の日常を奪い、謝る機会を奪ったやつが憎い。
こんな感情的になったのは久しぶりすぎて、私は戸惑った。

「夜が明けるまでには博麗神社に着かないと」

時間はあるようでない。
急いで動かなければならない。

「何かが手遅れになる前に・・・」
457 ◆TDCMnlpzcc :2010/07/24(土) 15:51:18 ID:89VhSU0t

【F-7・竹林 一日目・夜】

【古明地さとり】
[状態]:健康 、動揺
[装備]:包丁、魔理沙の箒(二人乗り)
[道具]:基本支給品、にとりの工具箱
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない
1. こいしと燐の死体の探索。空の探索と保護
2.西行寺幽々子、八意永琳の探索
3. こいしと燐を殺した者を見つけたら・・・
4.ルーミアを止めるために行動、ただし生存は少々疑問視。出会えたなら何らかの形で罰は必ず与える。
5.工具箱の持ち主であるにとりに会って首輪の解除を試みる。
[備考]
※ルールをあまりよく聞いていません(早苗や慧音達からの又聞きです)
※主催者の能力を『幻想郷の生物を作り出し、能力を与える程度の能力』ではないかと思い込んでいます。
※主催者(=声の男)に恐怖を覚えています
※八雲紫と情報交換をしました
※明け方までに博麗神社へ向かう
458 ◆TDCMnlpzcc :2010/07/24(土) 15:53:31 ID:89VhSU0t
投下終了

題名「It's no use crying over spilt milk」
459創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 17:42:28 ID:0bcxIMjZ
さとりん・・なんとか気持ちに踏ん切りつけて(精神的にも)無事に戻って来て欲しいもんだ
ゆかりの大人な気遣いにもちょっと感動

投下マジ乙でしたっ
460創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 18:06:27 ID:l35hXzSQ
投下乙
さとりはとりあえず人里に向かうのか
お燐の名を騙ってたのが裏目に出る展開がありそうだ
461創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 18:23:39 ID:MKVbPC0n
乙です
さとりはとうとう知ったか
今の所はまだ大丈夫だが…
ゆかりは確かに大人の対応で感心したわ
462創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 22:55:45 ID:NwtTVv1K
乙です!
流石紫だなぁ。対応が素敵すぎる。
ちょっと前まで激戦区だった人里に向かうさとり……どうなる?

燐と空の戦い と アリスがこいしを庇って死んだ話を思い出して、またちょっと泣きそうになった。
ちくしょうこのバトロワ、クオリティやばい作品多すぎんだよッ
463 ◆TDCMnlpzcc :2010/07/25(日) 04:50:33 ID:aeedk7c4
ちょっと状態表を修正

【八雲紫】
[状態]正常 (手の怪我は治りました)
[装備]クナイ(8本)
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0〜2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記 、バードショット×1
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
 1. 博麗神社へ向かう
 2.八意永琳との接触
 3.ゲームの破壊
 4.幽々子の捜索
 5.自分は大妖怪であり続けなければならないと感じていることに疑問
[備考]主催者に何かを感じているようです
    ゲーム破壊の手を考えついています
    古明地さとりと情報交換しました

27氏の言うとおりですね・・・
「バードショット×1」を追加しました。
464創る名無しに見る名無し:2010/07/31(土) 01:52:52 ID:Y6RdSr2x
予約来てる−!ちるの!
465創る名無しに見る名無し