自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた 第68章
給水タンク近くのプレハブの窓から数名の職員がおっかなびっくり演習広場のあたりを伺っていた。
「どこ?」私の声にびくっとなった彼らはひきつった顔で演習場に続く広い中庭を指差した。
「人影が、なにか奇妙な音を立てながらあそこをうろうろしているんです」
ふーん、と私は木々に遮られている部分を何とか見渡そうと首を左右に動かした「で、どんな音でした?」
音を聞いた者は一様にキーキーと金属の擦れあうような音だと言った。
「あ、また!」皆が息を殺して耳をそばだてる、高く細い歌声のような響きが聞こえた、皆は気味が悪いと顔をしかめる。私は納得した。
「よし、私が行ってみよう」
ええ、と驚きの表情を見せた隊長をはじめとする一同だが確実に安堵の色を示していた。
懐中電灯を用意して上着を着用する、皆は表に出ないで待機しておくよう伝えた。
「ところで」私は出発の間際に安全距離を取って事の成り行きを見守る彼に声をかけた「よく考えたらここの地理をよく知らないんだ。誰かひとりついてきてくれない?ねえ、平沢君」
ええええええ!と平沢は後じさった。
月が明るく空には星が満ちている、今までいた建物にもろくな明かりがなかったのですぐに眼も慣れて懐中電灯はいらなくなった。中庭を抜けて演習場へ続く埃っぽい砂利道を進むと何かが聞こえてきた。
「ヒイィ」と平沢が息を呑む。聞こえてくるのは何かの音色のようだ。
音源はすぐに分かった。そこにある戦車の残骸。
暴走事件の後、引き上げもままならぬままとりあえずここへ移動させて放置されている戦車の残骸の端に女性が腰掛けている。
真昼のような月明かりの中に淡い光を纏ったかのような細身をくっきり浮かび上がらせて、女性は何かの楽器を弾いていた。
なにか古臭い表現の歌だったと思う。女はギターのような細身の琵琶のようにも見える弦楽器を爪弾いており、か弱く今にも風に流れていきそうな不思議な音を発していた。
バタン、と傍らで音がした。平沢が気を失って倒れた音だった。
音が止み静かにこちらを振り向く。こんばんわ、と私は声をかけた。
「あら、そちらの方は大丈夫?」女は涼やかな声で言った。非常に美人である。
「ご心配なく、どうせここで帰そうかと思っていたところです」
女はくすっと微笑んだ。
細い銀色の髪が腰まで届き、そよ風にあおられてゆったりと舞う。
すっと立ち上がると細身の体が柔らかく優雅に動き、真っ直ぐこちらに近づいてきて。うわあ・・・身長が2メートル以上あった。
夜が明けて容赦ない太陽が建物を熱し始める。一箇所でじっと我慢していることができる限界まで私は眠った。
流れる汗と上昇する体温に耐え切れず眼を覚ますと朝の9時だった。
水を飲みに食堂へ行くとそそくさと隊長が出てきてすれちがう。そこへ同じように食堂へやってきた平沢と鉢合った。
「あ、坂道さん。昨晩はどうも・・・」ばつが悪そうに頭を下げる。
昨日平沢が見たものは、気を失ったときに見た悪い夢で、一緒に見回りに出た私は何も見なかったことにしておいた。
「貧血は治ったかい?来たばっかりで神経が参っているんだよ。赴任早々はよくあることさ、気楽に気楽に」私は適当なことを言ってからからと笑った。
実際昨晩は見ものだった、脂汗をかきながらがたがた震える平沢はじめ起きていた数名の職員は顔が真っ青でそれこそ幽霊みたいなのだ。
私は戦車に風で飛んできて引っ掛かったビニールシートが、そよ風に当たって揺れるたびに変な引っかき音を出していたのだと種明かしをしてやった。
再びこみ上げる笑いを押し殺しながら冷たい水を飲み、ふと窓枠に眼を移したとたんにぶっと噴出してむせかえった。
先ほどの隊長の仕事はこれだな、盛り塩がしてあった。
昨晩の実際の出来事はこうだ。私は美人の大女に尋ねた「この辺りで出会ったことのある小人を探しているんですが。それと、あなたにも会えて光栄です」
女はうつむいて非常に可愛らしく微笑むと、座るのにちょうど良さそうな積み石の方向へどうぞと手を差し出した。
「私は月の森の住人、彼らは森を自由に歩くきこりたちね」積み石に並んで座るとまあ、ちょっとはましな対比になる。悲しいかな足と胴の長さの違いだ。
「彼らが言っていましたが、あなたはエルフですか?」わたしが聞くと女の頬がぽっと、月明かりの中で少しだけ赤くなった。
「そう・・・呼ばれることもありますわ」なぜ赤くなるのか分からず私は首をかしげた。彼女は続けた「エルフっていうのは私たちみんなを指すものですから、さしずめわたしは月の森のエルフ」
エルフというのは何種類かあるのだろうか?それとも住所のようなものなのだろうか。
「私は坂道公太郎といいます」エルフは微笑んで頷いた。
「あなたの他にもこの辺りには私の知らない者たちがいます。そのことを調べにやって来ました」エルフはうつむいたまま何も言わない。
私は続けた「さっきあなたが腰掛けていたその戦車を動かして我々の建物に突っ込ませた小鬼とも出会ったことがあります。えっと・・・月の森のエルフさん」
呼ばれた彼女はすっと立ち上がった。
「どうしました?エルフさん」
ちっ、と舌打ちの音。
「??」私は女を見上げた。
「小鬼のことはどうだっていいのよ。ついでに小人もどうでもいいわ、私はさしずめ月の森のエルフだっていってるし」
え?いや、ちょっと。意味が分からん。何か気に障った?
「もういいわ、また来るからね。おやすみ」微妙に嫌われてなさそうな気がする言葉を残して、女は裾をまくって大またで走り去った。
こうして私はエルフと出会いあまつさえ並び座って友好的に言葉を交わすことも出来たのだが、何とも歯切れの悪い結果となった。
分かった事といえば月の森のエルフは大女であり美人であるということだ、いきなり怒って猛スピードで走り去るもその姿は充分エレガントであったと付け加えておこう。
(つづく)
投下乙
相手から自己紹介する前に推量で決め付けるのは不手際でしたな>公太郎さん
投下乙
久々に着たらいくつか投下されてて実に喜ばしい
飲みすぎでリズム壊れて眠れない・・・ワールドカップ決勝見てる。
実は投下はじめたあたりから煮詰まって筆が止まってます
自分にプレッシャー与える意味でストックは放出してしまおう;;
コメント有り難う!
『小人島』投下
この基地は建物も設備も壊滅的な打撃を受けておきながら、当面は全く補修される気配がない。
それもそのはず、全く公にされていないが、ここは少し前に破壊処理されるはずの戦車が暴走し、さらにどういうわけか通信機器をはじめほとんどの設備が破壊され目下その原因究明を先にやらねばならないのだから。
現状ここに配置される10名は敷地の管理人程度の任務しか与えられておらず、復旧作業が実施されるまでは実際やることもあまりないので草むしりとか掃除とかをほちぼちやっているのである。
だが昨晩を境として、彼らにきびきびとしたやる気のようなものが認められた。というのも昨晩の幽霊騒動である。
私はあの顛末を、巧妙な作り話をでっち上げて幽霊は誤解であったと納得させたつもりであったが、彼らはそういったものを怖がる半面やっぱり本物であってほしいと考えるようである。
尾ひれのついたまことしやかな噂話で盛り上がり、そのくせ夜は恐ろしいのでやるべきことは明るいうちに終わらせておこうと一生懸命働く。
そうなると幽霊話も捨てたものではない。少ない人員であることも幸いし、ひとつの怪談を通じて10名のチームは一気に団結力を得たのである。
日が落ちる前に空気を読める者は話題を無難なものに切り替えることに務め、すっかり夜になるころには皆がリラックスして談笑する楽しい空間となった。
修学旅行かキャンプの夜のように馬鹿な話で盛り上がり一人また一人と早い朝に備えて寝床に着く。
平沢が飲み屋の女の子を口説いた話を始めた、大した変化は期待できそうもないので私ももう眠ろうと思う。
「・・・コータロー」
話が、飲み屋の女の子とメアドを交換しているあたりで何かが聞こえてきた。
「さかみちーこーたろー」
女性の声である。一本調子であるが張りのあるよく通る声。
やばいな、と思った。平沢は泣き笑いのような顔になって脂汗を噴出している、隊長はじめ起きているほかのものもあっけにとられてあたりを見回す。
「さーかぁーみぃーちぃーこーおーたぁーろーおー」
「通信機!あー通信機だー」私は無理やり声をかぶせた「役に立たないのであそこに置きっぱなしにしていた、いかんいかん取りに行って来る」
そそくさと部屋を出るときに振り返ると皆が昨晩のように青い顔、平沢はむしろ笑っているようにすら見える。
声のしている中庭へダッシュした。
「さかーみいーちいー・・・」
「うるさいだまれ」
押し殺した声で遮った。美人の大女は手にした弦楽器をシャラン、とかき鳴らして無表情に私を見つめた。
『その基地に配属されたとき、わたしは「ここはやばい」と強く感じたものです。もともとそこは広大な敷地を利用した演習場も擁しており、そこに少なすぎる人員を配して管理するなど全く無理なことだと初めから分かっていましたから。
わたしがそこに着いてはじめに眼を奪われたのは、入り口が派手に壊されたまま放置された建物と、演習場入り口にぽつんと置かれているこれまた壊れた戦車でした。さらに建物の中や離れに設置してあるあらゆる設備も全く役に立たなくなるまで破壊されていました。
たとえば配電盤はスイッチや機器がむしり取られたようになっており、水道の蛇口は何かで叩かれたようにぼこぼこに変形していました。何から手をつけたらいいのか分からなくなるほどのひどいありさまでした。
わたしはあまり霊感があるわけではないのですが、ここへ着いてからは得体の知れないとても薄気味悪いものを感じていました。何かの視線のような・・・。
事件が起こったのは、追加の人員が到着した日でした。
たった一人でしたが、猫の手も借りたい状況ですからわたしはとても喜びました。でもその明るい気分もあまり長くは続かなかったのです。
その晩、わたしは職場の仲間たちと遅くまでしゃべっていました。明日の作業をどうしようか話し合いをしていたとき・・・遠くから妙な音が聞こえてきました。「キーキー、キュルル、キー・・・」
何かを引っかくような、もしくはテープの早回しを聞いているような感じでした。
起きている者たちは顔を見合わせて不思議そうにしていました。とりあえずわたしは眠っている者たちに異常が無いか見に行くことにしました。
幸い眠っている者たちにも異常はありませんでしたが、そこに眠っていた新入り(Aと言います)が突然ぱちっと眼を覚ましてむっくり起き上がったかと思うとふらふらと音のするほうへ歩いていこうとするのです。
「どうしたんだA?しっかりしろ」わたしが引き止めると、Aはハッと正気にかえりました。
わたしたちがホッと胸をなでおろしたのも束の間、またあの気味の悪い音が聞えてきたのです。
「キィー・・・キィィィィー」
本当に気味の悪い音でした。さっきあれは引っかくような、と表現しましたが再び聞いてみるとそれは何かわたしたちを呼んでいる声のようなものに聞こえなくもないような感じがしました。
「見回りに行かなくては・・・」Aがまたそんなことを言い出しました。
何となく、行かせてはならないと思ったわたしは何とか引きとめようとしたのですがだめでした。
今思えば縛り付けてでも行かせるべきではなかった。
たしかに夜の見回りをしておくのは大事です、これが部外者の立てている音だとしたらまずいですよね。
だからといってさすがに一人で行かせるのはいけないということで、若い者Bが一人ついて行くことにしました。
うす青い月明かりの中をAはおどろくほど速い足取りでさっさと歩いていったそうです。その先には演習場があって最近妙な噂が立っているいわく付きの廃戦車が置いてある場所なのです。
Aはすーっと滑るように戦車に近づいていったそうです。
やっと追いついたそのときBは見ました、ぼろ布を纏った大きな影が、Aを迎えるようにゆっくりと手招きをしている光景を!
それからBは気を失ってしまいAに抱えられて戻ってきたのですが、Aは無表情に『何も無かった』と言うだけで全然本当のことを話してくれません。
やっと気が付いたBも『悪い夢を見ていたのかもしれない』と言い出す始末で、これは多分悪霊か何かの催眠術だったのかもしれませんが、誰一人として欠けることの無い現状にすっかり安心してしまいました。
皆も何も無かったのだと思い直してまた明るい雰囲気が戻ってきたのでした。
しかし悲劇はすぐそこまで迫っていたのです。
昨日と同じように夕食の後みんなと談笑していたその時、またあの音が聞こえてきたのです、はっきりと!
「キー、キー、キー、キキーー」
皆は驚いてその場に凍りつきました。Aだけは何かを聞き取ったようにこう叫びました。
「通信兵!通信兵ー!!」
いきなり駆け出してあっという間に音のする中庭のほうへ出て行ってしまったのです。
そこには女性がいたそうです、縦に引き伸ばされたように細長い姿が空中に浮かんでAを見下ろしている、およそ人とは思えない姿をした異質なモノであったそうです。
Aはその何かに導かれるようにすーっと夜の闇の中に消えていってしまいました。
きっと魅入られたのでしょう、何かの怨念か悪霊が姿を成して連れて行ったのではないかと思います。
わたしはあることを思い出して急いで中庭の見える食堂の窓のほうへ向かいました、やっぱりもっとしっかりとやっておくべきだったと後悔しました。
魔除けのために塩を盛っておいたのですが、水をかけられたようにすっかり溶けて崩れていました。
ちょうどAが駆け出していったドアのところでした。』
海上自衛隊がワンピースの大海賊時代にタイムスリップ。
賞金首になったやつなら前にネタで出た
あっそう「海賊王に俺はなる!」
小泉(父)「漢の海はぁ 俺の海 俺の果てしない郵政改革さ」
鳩山「トラストミートラストミー」
蚊に刺された
『小人島』投下
子供の頃、私は夏になるといつも母方の祖父母の家へ遊びに行った。この田舎に当時としては珍しい洋風の造りの大きな家で、祖父はもう退役していたが自衛官だった。
私は祖父の書斎に飾ってある戦闘機の写真や模型を眺めるのが好きで、時々こっそり持ち出しては石垣を登った空き地の草むらなどで空想の空中戦を楽しんだ。
ある日祖父は私に手のひらに乗るくらいの小さな戦闘機をくれた。
機種はたしかファントム戦闘機だったと思う、私は思いもかけず戦闘機のオーナーになれたことをとても喜んだ。
家に持って帰ってからもしばらくはずっと傍らに置いて、飽きもせず眺め続けた。
ある日も私は戦闘機を持って当時住んでいた集合住宅の階段を下りながら手の中で飛ばしていた。
そいつの胴体には赤い日の丸が描かれていた。私は戦闘機に『アカマル』という名前を付けた。
階段の踊り場でアカマルを急旋回させて空想の敵を次々と撃墜させていたとき、女の子が階段を下りてきた。
女の子は立ち止まって私の戦いぶりを観察した。私も見られていることに気づいて少し恥ずかしくなったのでアカマルを左の手のひらに着陸させてちょっと道を譲った。
女の子は数歩階段を下りると、ふいに私に眼を合わせた。「もう敵はいなくなった?」
「う、うん」私は戦闘機を握り締めながら頷いた。
女の子は年上の小学生みたいで、膝小僧を擦りむいて治りかけの赤い傷が残っていた。
女の子は「じゃあね」と言って階段を降りて行った。
私は知らない人と話すのはあまり得意ではなかったのでほっとして手の中のアカマルを眺めた。
階段を降りきって集合ポストのあたりをぐるぐる飛び回らせてから植え込みのある歩道へ出ると、さっきの女の子がコンビニの袋を提げて戻ってくるのが見えた。
なんとなくきまりが悪い感じがして反対の方向へ行こうと思った。
「ねえ待ってよ」女の子に呼び止められた「わたしお買い物頼まれたの、これ持って帰ったら遊ぼうよ」
私はいまアカマルと遊んでいるので、その予定を変えるのはどうしようかと答えに困った。
しかし女の子は私の答えは聞かずに「これ持って」と袋を私に持たせた。袋にはビールとタバコが入っていた。
一緒に階段を上がって、「ここで待っててね」と袋を取り上げられた。
すぐにドアの開く音が聞こえて女の子は自分の家に入っていった。
女の子に待っているように言われたので階段のひとつに腰掛けてアカマルを触っていると突然怒鳴り声が聞こえた。
びっくりして聞き耳を立てると女の子の部屋から聞こえている、ドスンと物の当たる音やごめんなさいという女の子の叫び声がして私は少し怖くなった。
女の子には悪いがもう帰ろうと立ち上がりかけたときにカチャとドアが開いて女の子が出てきた。
女の子は私を見てにっこり笑ったが、眼の下が赤く腫れて涙を流した跡があった。
「ごめんね、今日はもう遊べなくなったの」そう言うと女の子は階段を走って降りて行ってしまった。
その夜はずっと何か不安な気持ちがして私はアカマルを握って眠った。
夢の中にアカマルが出てきて私を乗せて飛んだ。
流れてゆく緑の森や町並みを上から見下ろして、私は自分の住んでいる家を探していた。
何日か経ったある日、公園で遊んでいるとあの女の子を見かけた。
コンビニの袋を提げてうつむきながら歩いている。重そうなあの袋にはまたビールとタバコが入っているはずだった。
私を見つけると女の子はにっこりと笑った。
私は近づいていった、決めていたことがあったからだ。
「これ貸してあげる、こいつ強いんだよ」私はアカマルを女の子に差し出した。
女の子は少し驚いた表情で私を見つめた。すぐにうれしそうにアカマルへ絆創膏の貼ってある指を伸ばして恐る恐る触った。
「ありがとう、でも大事なものでしょう?」女の子はすぐに手を引っ込めた。
たしかにアカマルは私の大事なものだった。
しかし私を見つめる彼女の優しくて嬉しそうな眼差しを見て、私はとにかくいいからと女の子にアカマルを押しつけてそのまま走って帰った。
アカマルを手放した事よりも女の子に何かをしてあげた高揚感で胸が一杯だった。
次の日の夕方、母に連れられて近所へ買い物にでかけた。
階段を下りる途中であの女の子のフロアでちょっと止まって覗いてみた、私のアカマルが女の子を守ってくれていると確信していたからだ。
植え込みのある通路に出て見上げるとカーテンの隙間からあの女の子が見えた。
全くの偶然だがとてもうれしくなって手を振ろうとしたが、女の子は遠くの景色をずっと動かずに眺めているだけで全然こちらに気づいてくれなかった。
後ろ髪を引かれながら母に手を引かれて買い物を済ませ、夕闇のせまる頃戻ってきた。
あの部屋は、電気がついていなくて暗いままだった。
階段を上りまたあのフロアで立ち止まる・・・。
「ここもなかなか次の人が入ってこないわね」
母の言葉を何となく聞き流してしていたが、私にとっては何とも不思議な話であった。
あれから何度も確認したがあの部屋はずっと空き家で当然カーテンも掛かっていないのだから。
「それがどうかしたの?」月の森のエルフは美しい瞳をぱちくりさせた。
こいつはとことんトボケるつもりか、あれ以来さっぱり姿を見せない小人たちや我々の施設を壊滅状態まで追い込んだ小鬼のこと、聞きたいことがたくさんあるのに。
つくづく私は女運が悪い。私の初恋は幽霊で、いま私を誘って夜の小道を散歩しているのは得体の知れない森の妖怪である。
私には聞きたいことがたくさんあった。あいつらはどこにいる?君はどこからやってきた?あの子はどこへいった・・・。
つづく
投下乙
夏にふさわしい涼しい話になってきてwktk w
もうその宣伝はいいから
ストパンもファンタジー世界に入るのか
頭痛い
寝たら直った。
『小人島』投下
「まずは君のことを知りたい、君は何なのか教えてくれ。君の名前は?」私は大女に尋ねた。
彼女はにっこりと笑った、にこにこしたまま何も言わない。
「どうした?」
「坂道公太郎は私のことを何と呼んでくれますの?」
だからそれを聞いていると言うのに。
極上の笑顔で質問に質問で返す女に私は根比べでもするようにひきつった微笑を返した。
「・・・ずるい」
は・・・?この会話の流れで「ずるい」と言われる意味が全く分からなかった。
「だってそうでしょ?小人たちには名前をつけてあげたじゃない!」女はしゃがんで顔を伏せ、ちらりと私を見上げた。
「ねえ・・・わたしにも名前をちょうだい」
「はあ」
「いいから名前をちょうだい、名前をちょうだい?」
「いや、ちょっとま、」
「名前をちょうだい!名前をちょうだい!名前をちょうだい!名前をちょうだい!名前をちょうだい!名前をちょうだい!ちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだあい!!
森の妖怪が子供のように駄々をこね始めた。
そのうち顔を隠してえぐっ、えぐっ、と泣いているようにえづきはじめる。
わ、悪かったと私はとりあえず謝った。何も反省していないが謝った。
女はくしゃくしゃの顔をそっとこちらへ向けた、嘘泣きだ、むしろ瞳は輝いている。
「名前をつけてくれるの?」
だが断る、駄々っ子作戦で来るのなら私は大人として応えるまでだ。
私はまだ君のことを何も知らないし君は私に何も教えてはくれない、だからもっと話をして分かり合わないと私たちは道ですれ違う多くの他人のように全く無関係の存在なのだからお互いを呼び合う意味がない、と。
そこで女の眉間にぴくりと皺が寄ったが私は怯まずに私が君に対して名前まで決めてやる道理はないのだと言い切ってやった。
「よく分からないわ」ふてくされて眼をそらす、私の勝ちだ。
女は真っ直ぐに向き直るとふっと哀しそうな表情で月夜の森に眼を向けた。
そこそこに威厳があり、さっきとは全く違う雰囲気に私も少し言い過ぎたのかなと心配になってきた。
♪暗闇の中ですら見えるものだってあるでしょう、どうしてなのかしら〜わたしには名前がないわ
楽器を手に取り突然歌い始めた。
♪誰かがわたしを見つけてくれるまでわたしはひとりぼっちのかくれんぼ
今ここにいるはずのわたしには今を存在する意味すらも見つけることができなのでしょう〜
誰か私を呼んでくれる名前を見つけてちょうだい名前をちょうだい名前をちょうだいちょうだいったらちょうだい
私は額を押さえた「じゃあこうしよう、私が君に名前をつける」
シャラランと楽器の合いの手が入る。
「君は私に君の知っている他の者たちのことを教えてくれ、君の名は、そうだな・・・」
楽器が止んであたりは静まり返る。
女は固唾を呑んで私の眼を覗き込んだ。
「月の森のウタコ・・・」
・・・なんかさ、投げやりなところがいいね。
ふっと笑ってうつむく彼女。
私はどうも女運が悪い以前の、女性に気に入られるかどうかというあたりに問題がありそうだ。
事の発端は、とある田舎町で起こった大規模な停電騒ぎだった。
影響の一部は周辺都市にまで及び、大慌ての電力会社と地方自治体が事態の収束と原因の解明に奔走した。
結論はこうである。
「何者かが送電線を破壊した」
同じ頃、その地域の農家で何者かにより農耕機械や自動車、冷蔵庫からテレビに至るまでが徹底的に破壊されるという事件が発生して警察が動いた。
犯人はまだ見つかっていないのだが、今のところこのふたつの出来事を関連付けて考える者はひとりとしていなかった。
それから次々に自動車やバイクが壊されるという愉快犯的な事件が多発。被害の足跡を追うものは、その進行方向が人口の多い都市部へ向かっている可能性があると指摘。
事件のあまりの多さに関係当局は非常警戒網を敷くが犯人または原因が全く特定されていない。
「小鬼たちね、山を降りちゃったみたいよ」
私は顔面蒼白になった。我々の施設のライフラインを完膚なきまでに叩きのめしたアレが山を降りた・・・?
「あ、あれは一体なんなんだ!?」
「ああ、あれはね」ウタコ・・・森の妖怪は楽器を手にとって弾き語りを始めた。
私はこの緊急事態に、そよ風のように甘く優しく切ないかどうかは知らないがとにかく音楽など堪能する余裕がなかったので彼女の言葉に集中した。
「あれは最近生まれた小鬼で新しいものが好き。
最近生まれたばかりなので古いものには興味がないし愛情もない。
好きなものを手に入れてもすぐに飽きてしまう。飽きてしまう前に全てを壊してしまおうと考える。
石の中で眠りながら自分を取り囲む石に噛り付いてばらばらにしてしまう夢を見ている」
私は合いの手を入れるつもりはないのだが、曲が一段落着いたあたりで問いかけた。
「それで、小鬼たちは山を降りて壊して回るというのか?石の中で眠るってなんだ?あいつらを止めるとしたら方法は・・・弱点とかあるのか?」伴奏付きだった。
彼女は楽器の余韻を楽しむように静かに眼を閉じた。ほんの少しだけ時間が止まったかのような静けさ。
「あれたちはね、全部壊してしまうの。全部・・・それがどういう結果になってしまうかも全くお構いなしに・・・
今を楽しむために明日を楽しむことを捨てた可愛そうな子供たち。昨日を愛せないから明日を愛することもできない、そして今を愛することもなくただじっと石の中に閉じこもっている。
壊れてしまえば何もない、ただ在るだけのはかない子供たち・・・」
「うん、それで?」
「悪意が、よくない意思が迫っている・・・名前をありがとう・・・」
彼女はそよ風になびくように静かに息を吐きゆっくりと眼を閉じた。
「あれ、話はそれだけか?おい、起きてくれよ」ウタコはそれきり動かなかった。
まるでそこに生えている木のように森の一部として在る、それは風景のようだった。
それにしてもあまり具体的な情報が得られず私は落胆した。いや、彼女にしたらありったけの情報を与えてくれたつもりなのかも知れない。
よく考えたらこの女にとって、電気・水道など人間の生活基盤に打撃が与えられるかも知れないという事態もそれほど深刻ではないし予測も出来ないことだろうから、話の切り口が違うのだろうか。
それにしても悪意が迫るって何なのだろうか、子鬼が山を降りたことへの警告にしては要領を得ない・・・。
バキバキバキバキ!遠くで低いうなり声を上げながら木々を踏み倒して何かが進んでゆく音が聞こえる。
「なんだ、あれ?」もう音は聞こえなくなった。新手の妖怪かなにかだろうか、だが気にしている暇はない。
私は見晴らしの良い場所に立って、はるか下界の美しい夜景を見下ろした。
山あいのふもとの田舎町を抜けると徐々に賑やかになってくる。
その先には人々が仕事や息抜きや刺激を求めて集まってくる、たくさんの車が行き交い、夜になっても光の洪水を撒き散らす歓楽街。
その一部がぱっと暗くなる・・・あれだ!
私が基地に戻ったのはまだ夜更けというには早い時間帯であった、にもかかわらず辺りは辛気臭く静まり返っており、私が勢い良く宿舎に飛び込むと隊員の皆は絶叫に近い悲鳴で迎えてくれた。
「大丈夫だ、足はついている。それより緊急事態、状況だ!山を降りる」私はさっさと支度を始めた。
部屋の隅っこで私を拝みながら震えている平沢の首根っこをつかんだ「色男、案内してくれ。協力を頼む」
ヒィィィィィと情けない声を上げてなんでもしますから連れて行かないでくださいと泣き出す平沢も、ようやく私が生きていることに気が付いたようだった。
「ど、どこへ行くんですかぁ」裏返った声、まだ怯えているらしかった。私は精一杯の笑顔を作った。
「あんたの大好きな繁華街だ、金を用意していこう。な?」
でこぼこのダート道を平沢に運転させ、私は懐中電灯で必死に新聞を読み漁った。
地方欄の何でもない記事に目が止まる「ああちくしょう、全然気付かなかった」
田舎スーパーの駐車場で車が大量に壊された、目撃情報によると野生の猿の悪戯か?とあった。
車はアスファルトの道路に出て、信号の少ない田舎道を走った。時々山が切れて、遠くにたくさんの明かりが見え隠れする。
平沢が鼻歌を歌う。怖さを紛らわすためなのか、もうすでに気持ちが歓楽街に行っているからのか、彼が今何を思っているのか私には分からない。
携帯電話を見る、圏外・・・ここまで出てきて圏外というのはおかしかった。
送電基地から携帯電話基地局。進行方向にある重要設備がことごとく破壊されている。
都市部に行けば重要な設備はもっと出てくる、人が集まれば集まるほど人は共通のシステムに依存した生活を余儀なくされる。
プルルルルルル・・・携帯電話が鳴った。
無言で切る。
「あれ、出なくていいんですか?」平沢が呑気に聞く。
いいんだ、今は目の前のことに集中しろ。
圏外にかかってくるでたらめな番号の電話など無視だ、怪談は後回しで良い。
つづく
乙!
稲川の仲の人がが喜びそうだな>圏外にかかる携帯
充電が不完全だ
『小人島』投下
*
「それは意思のある行動だったというわけですね?」雉蔵は何かを考えるようにつぶやいた。
私はあの市街地で起こった騒ぎの顛末を一先ずは非公式ながら実質の上官である雉蔵に報告したのであった。
実際、戦車を妖怪に乗っ取られましたなどとは発表できないし、その危機をうまく凌げた次第はこうですと正直に言ったところで誰もその話を信じてくれないだろう。だから雉蔵へ話した。
「たとえば、あの小鬼どもは驚くべき破壊工作を実行しますが、やつらの性根はただ壊すことなんです。しかしその性根をうまく利用してあの町の、いやこの国の設備やシステムに打撃を与えようとする意思が別にあるように取れるのです」
*
道路の車線が増え、辺りの景色が建物ばかりになった。
住宅やオフィスは明かりが消えているところも多くなったが、もう少し行けば今が盛りの賑やかな一帯に辿り着く。だがこれ以上車で進むのはあきらめなければならなくなった。
信号機が点燈していない。消えているのは全てではなく目に付く限りでは一部であったが、交通を麻痺させるには十分効果があるようだ。
私はこれくらいのことは何となく予想できたので早めに車を空き地に置き去りにさせてタクシーを拾っていた。
もうこれ以上進めないというくらい渋滞がひどくなったあたりでタクシーを降りた。
今は連なった車の列を抜けながら繁華街を目指している。
ネオンの消えたパチンコ屋が見えた。
明かりが『消えた』ということはもう遅いということだ、そのパチンコ屋を起点に次に向かっていきそうな場所を探す。暗いパチンコ屋にまだ何人もの人間が残っている。
非常事態に遭遇しても自分の出玉とそれに対する店の対応しか興味がない者たちがこんなにいるのだと少し感心した。
前方の雑居ビルの明かりが突然消えた。
「平沢隊長、頼みがあります」私は言った「今日はこんな事態なので酒を飲むのはやめましょう」
平沢は先ほどからの街の異変に眼を白黒させており、私が何を言ってもかくかくと頷くばかりである。
「私はあの雑居ビルに行って停電の原因を探ってみますので、あなたは地図を手に入れてください」
平沢はかくかくと頷いた。
「それからさっきのパチンコ屋とあの雑居ビルを線で結んで、大体でいいから、さらにその先に何があるのか・・・例えばショッピングセンターとかオフィスビルとか目立ったものが無いかどうかを調べてください」
また2,3度頷く。
「それと、ここはもう安全ですからあまり遠くへは行かないでください。後であの雑居ビルの入り口付近で落ち合いましょう」
もうすでに渋滞の混雑は一帯を埋め尽くしており、一般送電の停滞は町全体を覆おうとしていた。
この社会における電気供給の遮断は通信を含め視覚・聴覚はおろか血液の流れすら止めてしまいかねない程深刻なものであろう。
私はビルに向かって駆け出した。
ビルから出てきて騒ぐ薄いドレスを纏った水商売の女や酔っ払ったサラリーマンをすり抜けて小さな影が走り去る。
あっ、と思ったがとりあえず確認のためにビルの中へ飛び込んだ。
エレベーターが止まっているので階段は混雑していたが、地下へ向かう部分には誰もいない。
制御関係は地下だろうと見当をつけて降りるとすぐに『管理室』とプレートの張られたドアが見つかった。
ドアは簡単に開き、懐中電灯で照らすと現代建築のセキュリティサービスとして売り込まれたであろう補助電源を含めた制御装置関係が見事に破壊され尽くされている。
床には散らばった部品以外何も見当たらない、小鬼たちはもう次の建物か壊し甲斐のある機械を目指して行ってしまったのだろう。
私もここはもう手掛かり無しと決めて外へ向かった。
ビルから出ると数十メートル離れて平沢が不安そうな表情でちゃんと待っていた。
「ご苦労さん、地図は手に入った?」
平沢は、コンビニも営業不能状態であったが何とか手に入れたという一枚ものの地図を出した。
「坂道さんに言われた線をたどってみたんですが」地面に拡げてしゃがみ込む「ほら、ここ。ホームセンターがありますよ」
私は平沢の指差す部分を飛ばしてその先を見ていた、火力発電所があった。
私は子供の頃に不思議な夢を見たことがある。
どこかの工場の中を友達と歩いていた。
工場は自分たち以外は全くの無人で、機械すら動いていなかった。
むき出しの金属で作られた階段や柱や手すりに囲まれた私たちは、悪の組織と闘っているか逃げているところだった。
闘っているのか逃げているのかどうにもはっきりしなかったのだが、その最中であることは間違いなかった。
鉄骨の足場のような一人がやっと通れるくらいの剥き出しの通路、高さは2階か3階くらいあって落ちたらひとたまりもなかった。
その通路の途中にある障害物を乗り越えて私たちは先へ進まなければならなかった。
その障害物は金属で出来た巨大な、招き猫だった。
招き猫は一定時間の間隔で、招くために持ち上げた腕を目の前の通路に勢い良く振り下ろす。
ちょうど振り下ろしたときにその場所にいてしまったらひとたまりもないのである。
私はタイミングを計ると、意を決して金属の通路を駆けた・・・。
「あー、えー。平沢さん、はこれからどうするのかな?」我ながら間抜けな質問だったが私は急ぎたかった。
再び突然の停電とざわめき。クラクションとサイレンがあちこちで聞こえている。
平沢は不安そうに騒然としている辺りを見回して言った「できれば・・・坂道さんと一緒に行動したいです」
残念、罰ゲームです。平沢君、ニ択に失敗しました!
「じゃ、行こうか」私はさっさと歩き出した。
壊された信号機や明かりの消えた建物をつなぐと、少しは蛇行しているが奴らは発電所を目指しているはずだ。
真っ直ぐ目指さないのはたぶん小鬼たちは何かを壊していれば満足するからだろう、そしてそれは予定外の行動のはずだ。
なぜなら途中、もっと壊し甲斐はあるがルートを大きく外している家電量販店や中古車展示場をあえて迂回してまで通過することは無かったから。
さっきのパチンコ屋や雑居ビルは恐らく目的地へせき立てられるまでの道のりで奴らがつまみ食いした『餌』だ。
そしてこの先のホームセンターは、発電所という目的地の途中にある最後の餌場のはずだった。
急ぐぞ平沢君、先回りだ。策は無いがどうにかして奴らを止めなくてはならない。
「坂道さん、何をやってるんですか!」平沢が喚いた。
無理もない、私は道端に停めてあった鍵のついていない自転車を探し出して躊躇なくまたがっていたからだ。
「窃盗ですよ、それは窃盗です!」
分かってるよ平沢君。
「うん、窃盗だ」私は後ろの泥除けに貼られたシールを指差す「これはあのホームセンターで売られていたものだな、よし!返しに行こう」いいから荷台に乗れと手招きした。
「しかも二人乗りなんて」
「途中で交代だぞ」勢いをつけて漕ぎ出した。
大都市と違ってこの田舎町の繁華街エリアは小さい。
自転車を漕ぎ進むとすぐにビルのような建物は姿を消してしまい、まばらな住宅地や暗く広がった畑や空き地が目立ってくる。
暗い上に無駄に広い道路を一生懸命漕いでいると目的地が見えて来た。
田舎のホームセンターは朝が早い分閉店も早いらしく、我々が着く頃には店の周辺を含めて人の気配が全くなくなっていた。
自動販売機の明かりだけがさびしくあたりを照らしている。
広い駐車場を自転車で突っ切り店の入り口付近まで進んだ。
自転車を降りて様子を伺う。
「一体何なんですか?」声をひそめて平沢が言う。
「テロだ」私は軽く応えた「もうすぐここは襲われる」
平沢は目を剥いた「テテエテテッテテテテ・・・」
「大丈夫だ、ここで行われる攻撃はまだ社会的ダメージが少ない。あ、来た」
数匹、いや十数匹の猿のような群れが一目散に店舗入り口へ殺到する。
自動ドアに張り付き、または上のほうに飛びついてガタガタと激しく揺らすとあっけなくドアがこじ開けられた。
防犯のブザーと赤色灯が一瞬反応したように見えたが一切機能せず、群れは一斉に店の中へ飛び込んでいった。
「猿・・・ですか?」平沢はぽかんとしていた。たしかに猿に見えなくもないが、私は奴らがかつてボンネットの中で見たことのある茶色いまだらの小鬼であることを確認した。
私はこじ開けられた入り口に近づき、腹を決めると中へ入っていった。
つづく
投下乙
相手の戦闘力は不明だがゴブリンかグレムリンとの戦闘は
自衛隊はおろか、この世界の誰も想定外だろうけど坂道くんがんばれ〜
おんやぁ、久しぶりに来てみたら、新しいのが投稿されてるぞ。
これで暇せずに済む、期待大。
ようやく規制解除された、投下乙
構成の辻褄あわせが下手で、小鬼をグレムリンと呼ばせる機会を持てなかった
解説感謝
『小人島』投下
*
「それは我が日本に対してあまり友好な感情を抱いていないように思える言葉でした」私は率直な表現を避けたかどうか疑問だったが、あえて遠回しな言い方をした。
雉蔵は何も言わずに先を促した。
「初めは、よく聞き取れない程度のものが次第に大きく聞こえてきたのです。
しかもその時にはもうその音を遮る術はありませんでした、私の思考にリンクするようにとめどなく負のイメージが流れ込んでくるようでした」その言葉は好意的なものではなく、むしろ悪意の塊だった。
その言葉はこうです、と私はいつまでも耳の奥に残る感覚に似たあの不愉快な響きと共に聞こえてきたあの忌まわしい言葉、というよりもイメージを再現した。
『血の流れを止め・細胞を破壊して・呼吸することも・見ることも・聞くこともさせない・日本・滅ぶべし』
*
人気のない真っ暗なホームセンターの売り場のあちこちで物の動かされる音や擦れあう音や叩きつけられる音がしていた。静かに近づいていき、意を決して懐中電灯を照らす。
鋭い光の中に浮かび上がったまだらの茶色い小鬼は一心不乱に電動工具をいじりまわしていた、電池が嵌っていたのでウィィィィンと工具が始動する。
こちらを向いてニィーっと笑う。額に生えた二本のツノと耳まで裂けた口から覗く尖った牙、そして大きな目が見開かれ瞳孔は猫か夜行性の爬虫類のそれのように細長かった。
小鬼はそのまま電動工具をふりかぶると私目掛けて投げつけてきた。ケケケケケと鳴き声か笑い声のようなものを残して走り去る。
電動工具が私の背後で大きな音を立てて落下した、避けなければ頭に当たっていたところだった。
たった今の工具の軌跡を反芻し私の動悸は高鳴った。
私を狙い攻撃する意思があった、じっとしていたら怪我を負うかあるいは・・・。
私はここにきて膝が震え呼吸が荒く乱れるの感じた。
「坂道サンッ!」音を聞きつけて平沢が飛び込んでくる。
私は叫んだ「平沢君!逃げて!応援を要請してきてください!」
叫んだことで何か吹っ切れた。私はひとつ息を吐いて慎重に小鬼を探した。
電動ノコギリや充電ドライバーが床に落とされて散らかっている。
カチャカチャと何かをいじる音。
私はすぐ側の商品棚を見た、片手用のハンマーが置いてあった。私はそれを掴んでそっと進む。
棚を曲がって覗くと小鬼が小型コンプレッサーのようなものを壊そうとしている。私には気づいていない。
「坂道サーン・・・」か細い声がする。あの馬鹿、店内についてきたのか!
目の前の小鬼が顔を上げた、取り外したコーヒー缶ぐらいのタンクか何かを振りかぶって平沢の頭に狙いをつけている。
私は咄嗟に無防備な小鬼の背後に近づき手にしたハンマーで頭を小突いた。
バランスを崩して狙いが逸れればいいと思っていたのだが、玉子の殻を割ったようなぐしゃっとした感覚、小鬼の姿が薄れていきすぐに消えてしまい、タンクが重い音を立てて床に落ち転がった。
「貧弱ッ!」私は呆気にとられた。
「坂道さん、ここですか。一体どうしたんです、一緒に行きましょう」破壊されたコンプレッサーを不思議そうに見ている。
「平沢君、作戦変更だ。奴らを割るぞ!」棚からハンマーを抜き取って手渡した「なんでもいい、硬いものをやつらの頭に当てるんだ、あっ!危ない!!」
ペンキ缶が飛んできた、危うくかわすと小さな影がケケケケケと笑い声を上げながら物陰に隠れた。
「慎重に、落ち着いて行こう」私は平沢に言った。
「あいつらは頭を狙ってくる、だから頭に注意していればいい。そしてあいつらの弱点もたぶん、頭だ」
ポカンとしている平沢には、正直何も期待しなかった。
口に出す事によって自分のやること、注意すべきことを確認したかっただけだ。
そして足手まといの平沢だからこそ、いまここにいてくれることによって私は冷静に正気を保っていられた。
今の奴が隠れて行った物陰へ足を忍ばせる、すると手前のコーナーに別の奴が床に座り込んで何かを解体している。
天井を仰ぎケケケケと笑うところをゴツンとやると、ぐしゃっと潰れる感覚が手に伝わり、あっけなく姿が薄れて消えた。けたたましい笑い声だけがほんの少しだけ遅れて消えてゆく。
「な、何なんですか?あれ」平沢が泣きそうな声で言う。
私は説明に苦しんだ。とりあえず「こいつらは外来種なので駆除しなければならないのだ」と適当なことを言ったらあっさり納得した。
前方の商品棚が大きな音を立てて床に倒れた。二人共飛び上がって驚きその方向を見る・・・棚に乗ってひっくり返した小鬼がケケケケと笑っている。下敷きになった別の小鬼が同じような笑い声を残してうっすらと消えてゆく。
「ひでえ、仲間を殺したぞ!」平沢が興奮して叫ぶ。
これはたぶん・・・私は思った。
遊んでいるんだ、こいつらは同族すらも破壊して遊んでいる。
こいつらにとって死とは何だ?
『石の中で眠りながら・・・』ウタコの言葉を思い出した『ただじっと石の中に閉じこもっている。壊れてしまえば何もない、ただ在るだけのはかない子供たち・・・』
「・・・こいつらは夢なのか・・・?」私は熱に浮かされたようにつぶやいた「夢だとしたら・・・」
「俺は起きていますよ」平沢が不安そうに言う。
違う、しかしその考えを口に出すのをためらった。
私たちじゃない、あいつらの夢なんだ。あいつらの見ている夢の中に私たちが居るとしたら・・・。
金属製の巨大な招き猫が無表情に鉄の塊のような太い腕を振り下ろす・・・。
首を振った、自分を無理矢理現実へ引き戻す。
頭に軽い衝撃を感じる。
ありえない、自分はここにいる。平沢もいる。街で多くの人々が機械を破壊され停電によって苦しめられている。
「うわわわあああああ!」
平沢の悲鳴、私は目を疑った。
目の前に夥しい数の子鬼がいる!爬虫類のような目を細めケケケケケと一斉に笑う。
私たちを囲み徐々にその輪が狭まってくる。
消えろ幻!起きろ平沢、自分も起きろ!
「・・・サン?坂道さん!」
棚が倒れ商品が散らばっている。そこには私と平沢だけがいた。
「小鬼・・・やつらはどこに?」びっしょりと汗をかいていた。
「分かりません、あそこにいたやつは飛び上がると空中で消えてしまいましたよ」倒された棚を指差した。
平沢はあのたくさんの小鬼を見たのだろうか?
彼の様子からして見たのは自分だけか、このような緊迫した事態の中で幻覚を見てしまうほど私の精神は衰弱してしまったのだろうか・・・。
気が付くと、暗く広い店内はひっそりと静まり返っていた。
「なんか気持ち悪いです、もう帰りましょうよ」平沢は辺りを気にしながら泣き言を言う。
たしかにこのままいてもまずいことになる、誰がどう見ても私たちは泥棒である。
・・・カツーン、カツーン。
突然物音がした、私は音のするほうを見た。入り口だ。
カツーン、カツーン、カツーン。
何かが歩いて来ていた。暗い店内からだと逆に入り口のガラス窓の向こうの景色が明るく見える。
カツーン、カツーン、さっきの小鬼どもよりはるかに大きな影が駐車場を横切ってこちらへ向かってくる。
「ねえ、何か見える?」私は平沢に声を掛ける、平沢は駐車場を見て呆然としている。
「あれ、何ですか?」
ありえない光景を目にしていた、ここは日本だし。水牛って・・・。
私は入り口へ向かった。水牛はもうすぐそばまで来ていた。
日本の牛には無い巨大な二本の角がうねった弧を描くように前方へ伸びている。
ぎくりとするような気味の悪い図形だか文字のようなものが書かれた白いマスクを着けている。
さらに驚くことにその水牛には乗り手がいた。
ボソボソボソ・・・背中の乗り手は黒い装束に身を纏って、か細い声で何かをつぶやいていた。
目に生気がなく手足がない・・・というかそいつは水牛から生えているみたいだった。
ボソボソボソボソ、背中のものが何を言っているのか全く聞き取れない。すると突然、頭の中に言葉が飛び込んできた。
「魔・・・国家・・・日本・・・」
それは唸るような音であった、初めは言葉かどうかも怪しいと思えるほど不明瞭なものだった。
そして、これは先程から何かをつぶやく気味の悪い乗り手から発せられているものではない。
マスクの奥の、赤く濁った生気のない瞳がぎょろりと動き水牛が言ったのだ。
「日本、滅すべし!」
突然私の頭の中に言葉の洪水が襲ってきた。
平沢は必死に耳を塞いでいる、だがきっとそれは無駄だろう。
私は歯を食いしばり次々と襲い来る負のイメージと戦った。
『血流を停止させ・細胞を破壊し尽くす・呼吸・視覚・聴覚剥奪す・日本・日本・滅すべし』
繰り返し繰り返しこだまするこの不気味な声から逃れる術はなかった。
音が腹に響き膝が震え立っていることができない、私も堪らずついに耳を塞いで崩れ落ちた。
そして、絶望が襲ってきた。
水牛だけでもどうしようもないのに、その背後にはさらに大きな何ものかの影が動いていたからだ。
気力を振り絞るがどうにもならない、気が遠くなりながら迫りくる巨大な影をただ見ているしかなかった。
巨大な影は頭をくるくる回し、長い鼻が見え隠れする。ああ・・・あれってアレだよな・・・思考も限界だった。
つづく
投下乙
何で怨まれるのか判らない恐怖、てのがいっちゃん怖い
水牛の角って、前には伸びないね・・・
頭を下げて、かろうじて「上」だ。ごめん。
『小人島』投下
*
「水牛は、アジアに広く分布する偶蹄目ウシ科の哺乳類ですね」
雉蔵の目がわずかに光った。
「しかし農耕・家畜用として日本で見かけることはない」
だが、と雉蔵は続ける。それは生物としての水牛ではない。
それは何かに遣わされてやってきた使者であると。
そして、その意図を忠実に実行するために小鬼を操っていた使役者であると。
なぜ水牛の形を取って現れたかは分からないが、その形に何らかの意味が隠されているのかも知れない。
*
ドゴオオオオオオオオオオオオン!!
すさまじい砲撃の音、水牛の思念に対抗するために耳を塞いでなかったら鼓膜が破れていたかもしれない。
突然の轟音に全身を叩かれて私の意識は覚醒した。
転がるようになんとか脇へ逃げ延びることができた。
水牛の後ろからやってきた大きな影の初弾は、目標を外しあさっての方向へ飛んでいったようだ。
だが新手はそんなことをものともせずそのまま前進して水牛に乗り上げるとぐしゃぐしゃの挽き肉にしてしまった。
そいつは見覚えのある新型戦車だった。
前代未聞の市街地発砲という快挙をもっての華麗なる舞台復帰である。
「坂道公太郎、助けに来たぞ!」新型戦車のハッチが開いて緑の姿が現れた、すぐに押し出されて次々に赤・黄色・水色・黒も出てくる。
「小鬼どもに出来てわしらに出来ん道理はない、わしらだって竜を操ってみせたぞ」
「そんなことを言っておるが、中では何度も頭をぶつけてひどい有様じゃったわい」
「さっきのあれは何だ?すごい音がしたぞ!」
「組み立てたんだよ、あれがちょうど良かったんだきちんとはまったんだ。ほんとにね、ちょうど良かった」
小人たちが騒ぐ中、腰を抜かした私は戦車が押しつぶした正体不明の怪物の姿に目を移した。
肉塊にされた水牛がしぼんでいく・・・。
背中に生えていた人間のような姿が残り、ぼろぼろの服を着たマネキンのように横たわった。
「人間・・・死体?」
それはぴくりとも動かず戦車の鼻先に倒れている。中年までは達していない若い男性のように見えた。
「ところでな坂道公太郎よ、えらいことになった」まとめ役の赤が大声で言った。
「この地に魔術師の呪いがかけられておる。魔界の呪いじゃ!」
怒りんぼの水色が続けた「どうも異国からの呪いらしい、異国にて作られたおぞましい呪物がこの地へ運び込まれた!」
「人間が、魔界に協力している人間がいるよ。異国の魔法使いがこの国に送った」
ブルルン!戦車が身震いをする。
「え?・・・おいおいまだ誰か乗っているのか!?」私は小人たちを見た、ちゃんと5人いる。
それじゃ・・・あれ、死体が・・・無い!
ブオオオオオン!戦車はディーゼルエンジンの咆哮を上げて勇ましい前進を始め、見ているこっちが痛みを感じるほどのすさまじい破壊音を立ててホームセンターへ入店する。
バキバキバキバキッ!ガラスが割れているのか柱が折れているのか分からない鈍くも腹に響く振動と大音量。
もういい、もういい!と手をこまねくも、強力な突進力は衰えずレジを踏み潰し棚をなぎ払いあらゆる商品を無価値なものにせんと猛威を振るった。
「停まれええええええ!」無駄だとは分かっていながらも叫んだ。
戦車は店の奥まで進み、ブロン、と最後のガスを使い切ったのかようやく止まった。
私は疲れ果てて駐車場の冷たいアスファルトにぺたんと尻餅をついた。
「もうすぐここには人間がいっぱいやって来るからもう帰ろうよ」
意外性の黒が意外にも普通のことを言った。
「ところで坂道公太郎、お前さん魔法にかけられたな」
「え?」人懐っこい緑からの言葉に心臓が跳ね上がった。
「うん、まだ呪文が絡み付いている」
私は全身の毛が逆立った「ととと取ってくれ!」
「無理。わしら、魔法使いじゃないもの」
「じゃあ、なんで分かるんだ?」さすがに半泣きだった。
ほら見てみな、割れずに残ったガラスの前に立たされる。
ガラスに映った私の頭に小鬼が乗っている。半透明で全く動かない、触っても手が空を切るだけで何の感触も無い。
小人たちはそれを見ながらげらげらと笑い、そのうち取れるから、と当てにならないなぐさめのことばをかけながら山へと帰っていった。
新聞に、郊外のホームセンターに戦車で突っ込んで死亡した男性がいる、と報じられた。
男性の身元は不明で年齢は25歳から35歳と見られ、戦車を店内へ突っ込ませそのまま死亡していた。
戦車は陸上自衛隊所有の試作型であり犯人がそれをどうやって入手したのか、経路は不明。
山中の極めて走行困難なルートを通って郊外に現れた直後に一発の砲弾が発射された。
砲弾は約5km離れた山の中腹あたりに着弾し、けが人や施設への被害はなかった。
また、数日前に陸上自衛隊駐屯地において解体処分予定の旧型戦車が暴走し施設を破壊する事件が発生しており当該戦車から採取された指紋と死亡していた男性のものが一致したと発表された。
同時刻に多発した付近の装置類破壊による停電騒ぎとの関連性も疑い警察は複数の工作員によるテロ行為の可能性もありと事態を重く見て捜査に乗り出している。
私と平沢は駆けつけた警察に一旦は拘束されたが、たいした状況証拠もなくすぐに目撃者の立場となった。
我々は出来るだけ実際に起こった事を伝えたが、伝えていない事実もあった。
戦車が突然現れて発砲し、店内に突っ込んで止まった。これが状況証拠の示す事実である。
しかし小鬼が現れ店内を荒らし、水牛の形をした怪物に苦しめられ、戦車をここに持ち込んだのは実は小人たちであった、という出来事は証拠もなく伝えようも無い・・・。
つづく
投下乙
一つの事件は終わったが
なにも解決してないのが気になる
公太郎が魔法にかかったのが「いつから」なのかも...
軍板の方が落ちたな・・・
なんか急に人がいなくなった
落ちてない板が移転しただけ