前スレにてスレタイでは略さないほうがいいと言われていたので、今度のスレタイはこのようにしました。
>>1 スレ立て乙です。
それでは続きを投下します。
修練を積んだか。
「カブトォ!」
ハチの姿を模すザビーのつり目が、憎しみを持ってカブトを貫く。
しかしカブトは冷静にザビーの拳を手のひらで逸らした。ザビーの右足が鞭のようにしなり、カブトを襲う。
肉のぶつかり合う音が大きく響き、“ザビーが”呻く。コーカサスを真似し、カブトは膝で蹴りを迎撃したのだ。
片足にダメージを負ったザビーの体勢が崩れたのを見逃さず、カブトは懐に入って鳩尾を蹴る。
ザビーが壁に叩きつけられたと同時に、カブトクナイガンを銃に変形させて弾丸を放った。
ザビーの体表を二発の銃弾が跳ねるが、三発は躱される。
すれ違いざまにニードルガンをザビーが発射し、カブトはクナイガンの刃で弾く。
一旦距離をとった瞬間、カブトへ通信が入った。
「プレリーか。どうした?」
『天道さん、エールがそちらに向かったみないなの! あの身体で……』
「なに……?」
カブトの動きが一瞬止まり、ザビーが接近して胸を強打する。
カブトはうめきながら後退しつつ、それでもプレリーの連絡の続きを促した。
「エールは……どこにいった?」
『天道さん! 今……』
「問題ない。それよりエールだ」
『……エールはおそらく、そこの隣のエリアに向かったのだと思います』
「わかった。後は俺に任せろ」
カブトはそう言ってベルトの横に設置されているスイッチを叩く。
『Clock up』の電子音と共にカブトが加速する。ザビーもクロックアップの世界へ入ってくるが、カブトは眼中に無い。
ザビーが右拳を振るうが、カブトはその拳に飛び移る。
「なにっ!?」
「悪いがキサマの相手は後回しだ」
体重をまったく感じさせないカブトの動きに戸惑うザビーの顔を踏んで跳躍した。
地面に倒れたザビーが苛立たしげにカブトの名を呼ぶが、振り向かず進む。
もはやザビーのことはカブトの脳裏にない。カブトはエリアを抜けて、エールがいるはずの場所へと突入した。
カブトを取り逃がし、ザビーは追いかけるかどうか迷ったが変身を解く。
顔には憤怒の表情が浮かんでいたが、弟切は大きく深呼吸して自分を鎮めた。
「今はモデルVの回収が最優先だ……」
自分に言い聞かせるように弟切はつぶやき、踵を返す。
すでに空高くモデルVは上がっている。自分に与えられたマシンゼクトロンに乗り込んでエンジンをかけた。
一度だけ弟切はカブトのいるほうを向いて、アクセルを回す。
排気音が轟き、加速させていった。
□
閉じられた壁をクナイガンで切り開き、身体をねじ込ませる。
カブトは焦るように地面を転がり、正面を睨んだ。
「おや、遅かったですね」
そう言って迎えた存在の様子にカブトは愕然とする。
クワガタムシを模したフォルスロイド、ダブルホーンはメットが脱げたエールの黒髪をつかんでカブトへ視線を向けていた。
右手に掴まれたエールは全身を斬られて血を流しており、焦点が合っていない。
赤い装甲に血が流れ、黒い下地が破けて白い肌が覗いている。
全身が細かく震えており、いつもの勝気な様子は感じられなかった。
「ようやく代わりになる実験体が現れましたか。それではこの娘はいりませ……ッ!」
ダブルホーンのエールを掴む手を、クナイガンで正確に撃ち抜く。
エールを離した瞬間、クロックアップを使わずエールを抱き上げながらカブトはナイフへと変形させたクナイガンを振り上げた。
ダブルホーンの右肩が大きく縦に斬り裂かれる。
カブトは手元のエールを楽な姿勢にした。
「天…………道……?」
「喋るな、エール」
「ごめ……ん……。アタシ……」
エールが顔を伏せて頬を涙が伝う。ヒトに弱い部分を見せるのを嫌う彼女が、天道の前で泣いていた。
「それにしても、まったく私を攻撃できないとは予想外でしたねぇ。実験用のヒトビトが全員死んでしまいましたよ」
「ごめん……なさい……みんな……。アタシの……せいで……。倒さないと……ダメなのに……」
カブトが首だけを回し、モニターを見つける。黒焦げのヒトビトの姿があった。
今のエールは剣が振れない。そのエールを身体も心も嬲るような真似をダブルホーンはしたのだ。
「大丈夫だ、エール。後は俺がなんとかする」
「ごめん……なさい……。ごめ……」
カブトは優しくエールを降ろし、ダブルホーンへと振り向いた。
カブトの殺気をダブルホーンは受け止めて楽しそうに顔を歪める。
「いいですねぇ。素晴らしいデータの予感だ。行きますよ!」
ダブルホーンの姿が消える。クロックアップとは違って、単純に速度が速いのだろう。
カブトの周囲を空気がこすれあい音が鳴る。
クロックアップのできないカブトはゆっくりとクナイガンを持ち上げて、一直線に刺突した。
「ぐふっ!」
加速途中のダブルホーンの腹部にクナイガンの刃が埋まり、カブトは縦に大きく斬り裂いた。
ダブルホーンはうめきながらも、両手にナイフを握ってカブトを斬りに迫る。
カブトは紙一重でナイフをやり過ごし、振り下ろした手を踏み砕いた。
「――ッ! ワームのライダーより速い……いや、違う。速いと錯覚するほど鋭い!?」
「ライダー……キック」
死のカウントダウンを終えたカブトゼクターが『Rider kick』と鳴った。
踏みつぶした勢いのままダブルホーンの顔を叩き潰す。
大きく吹き飛んだダブルホーンを前に、カブトは殺気に満ちた言葉を送った。
「お前には……おばあちゃんの言葉を送る資格すらない」
カブトがいい終え、ダブルホーンが爆発する。表面をなでる爆風すら構わず、カブトはエールの涙をぬぐった。
「くく……素晴らしい……素晴らしいデータ……だ……」
半壊状態のダブルホーンが立ち上がり、カブトを賞賛する。
カブトはまだ息のあるダブルホーンにウンザリするが、ダブルホーンは虫の息だ。
放っておいても死ぬ。なのに、ダブルホーンは構わずカブトの方へ進んだ。
「ガタックゼクターは返しましょう……もともとワームには使いこなせる奴がいなかった。
くく……最後の最後に……私はいいデータを……とれた…………」
ダブルホーンは顔をゆがめ続け、身体じゅうを走る火花が大きくなる。
バチッ、と音が鳴って瞳の光が消え失せる。カブトは実験室から飛んでいくガタックゼクターを見届け、ベルトだけを回収した。
エールの謝罪するつぶやきがカブトの耳に入る。
カブトやロックマンのデータが誰かに送られていくなど、もはやカブトに関係ない。
徹底的に打ちのめされた少女を前に、カブトは己の不甲斐なさをただ悔やむことしか出来なかった。
To be continued……
投下終了します。
年末に私用があって、九話以降は遅れます。
質問があれば、目についたときに答えますので遠慮なくどうぞ。
それでは失礼します。
投下乙
完全にプッツンな天道。悩むエール。
どれも内面が察せられていい感じです。
そういえば弟切ソウってあのディケイドが通りすがったカブト編で
目をやられたのか?そこらへん、自分はっきりしてなくてスマソ
8 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 13:45:16 ID:2zWV08mo
おおう、一日早いクリスマスプレゼントが来てるw
天道の怒りっぷりが来るな……
しかし前スレ落ちたら、新しく来た人はもう読めなくなっちゃうのかー
残念だな
まとめてるとこないよね?
なんだったらwikiでも借りようか
ダブルホーンがいい感じのゲスで良いキャラだった。
天道かっこいいよ天道。
質問なんだけど、どうしてこんな異色のクロスオーバーを?
あと書いてる作者さんの脳内映像はどうなってんですかw
レスが多い……w
>>11 まとめありがとうございます。
自ブログでメモ代わりにまとめていたのですが、wiki書式に慣れているので、
そちらの方を更新したいと思います。
少なくとも、自分には需要がありますw
>>7 弟切ソウはディケイドでは、ソウジカブトに擬態後目をやられています。
今作では、劇場版カブトの過去に似たようなことが起きた、程度の認識でOKです。
>>10 少し前にいたSS企画のスレを完結させて暇ができたのと、
ロックマンZXを最近プレイしてエールが可愛かったのでw
カブトをチョイスしたのは、前いたSSスレで昭和ライダーを思う存分書いたため、今度は平成ライダーで動かしやすいカブトを選びました。
一番好きなカブトキャラは神代剣なのですが、ぼっちゃまは出番がありませんw
一つ忘れていた。
>>10 >あと書いてる作者さんの脳内映像はどうなってんですかw
マジレスすると、天道を二次元絵にしているところで脳内補完を(ry
絵の腕はからっきしなので、ゼクターとモデルXの融合フォームを描けないのが残念ですw
できれば明日拙作を投下しようと思うんですが。何か気を付ける事ありますか?
>>15TRICK(テレ朝のドラマ)とMASTERキートン(漫画)です
>>16 トリックとキートン……ww
トリック勢がシュールすぎるw
特にルールはないかと。投下お待ちしてます。
LRにあるようにエロ以外は何でもウェルカムさ
>>16上山田とキートンが会話してるの想像するだけで吹くww楽しみにしてます。
昨日書き込んだものです。早速投下させていただきます
T×M 炎を操る男 前編
―――――初冬のロンドン・ベイカー街のあるオフィス
オフィスでは2人の男が話している。
「……でこないだの件どうなっているんだダニエル?」
「こないだの件?ああ、お前に借りた50ポンドな。返すよホラッ」
ダニエルと呼ばれた金髪の男が50ポンドを取り出すと黒髪の男に渡す。
「違うって!休暇だよ休暇!約束しただろ?ここの所まともに休んだ記憶がない」
憤慨している黒髪の男はタイチ・キートン・平賀。日英のハーフでオックスフォードで考古学を学びSASに在籍したこともあるという、風変わりな経歴を持つ腕利きのオプである。
「わかった、わかってるって。そういきり立つなよキートン」
非難されてる金髪の男はダニエル・オコンネル。キートンの相棒でこの保険調査オフィスの共同経営者をつとめている。
「まったく…労働法無視もイイとこだ」
「なぁ落ち着けキートン。ストライキでもするつもりか?」
「それもいいかもね」
そう呆れたように言うとキートンとは自分の席に座り込んだ。もう仕事なんかするもんかという表情である。
「ったく俺だってそんなに休んでねぇんだぞ……っといい仕事あるぞキートン!」
「私の話聞いてたかい?仕事の話なんか今は聞きたくないね」
「それでも聞けよキートン。実は日本での仕事あるんだよ」
「日本?」
「そう、こないだ日本の証券会社の支店長が日本に帰国中に事故で死んでな。その調査の依頼が来てるんだよ。コレが資料だ」
と笑顔で言ってキートンの机にに資料の束を手渡すダニエル。
「加藤信也…証券会社支店長…妻の加藤玲子と2人の子供あり…」
「その案件をさっさと片付けてさ、残りの日は日本でゆっくり休んで年が明けたら帰ってくれば良いじゃないか?ウン、コレはいいアイデアだ」
「いいアイデアねぇ…また厄介な仕事にならなきゃ良いけど…」
「なに言ってんだ俺も資料を一通り見たけど長引きそうな事情は見当たらんぞ」
「これは?イギリスに来る前に妻と別居中って書いてるけど?」
「別に珍しくもない事だろ色々あるさ夫婦でも。お前さんもそうだったろう」
「うっ…」
離婚経験のあるキートンへの痛いところをつくダニエル。
「いや〜我ながらよく思いついた。俺はすばらしい相棒だろキートン?」
「まったく、調子の良い奴だなぁ」
やれやれという顔のキートンをよそにダニエルは嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
21 :
T×M:2009/12/26(土) 23:02:56 ID:5ufTmSPW
名前付け忘れました
―――――同じく初冬の頃東京某所
山田奈緒子がかなりの量のパンの耳を抱えながら歩いている。
「今日は店長さん気前よかったな〜コレだけあれば5日は持つかもしれない」
彼女の職業はマジシャン―――であるのだが仕事には恵まれず貧窮しており喰うや食わずの日々である。
「やぁまぁだおかえり〜」
「ハ、ハルさん!?」
大家のハルに声を掛けられ明らかに狼狽する奈緒子。狼狽した理由は当然ながらお金がない彼女は家賃をまともに払えていないからだ。
「ずいぶんご機嫌だねぇ〜お金入ったならお家賃払えそうだね〜」
「ち、近いうちに必ず!」
そう言うと奈緒子は強引にハルを押しのけ自分の部屋に逃げるように入る。
「ふぅ〜危なかったー」
「まーた家賃を滞納してるのかYOUは?」
部屋に入り胸を撫で下ろした奈緒子に誰もいないはずの中から男の声がした。
「あぁ、上田!」
「まったく交わした契約を守らないなんて社会人として少しは恥ずかしいとは思わないのかね」
非難の声を無視してお茶を啜る男は上田次郎。日本科学技術大学の名物教授であり超常現象を否定する本を出版している。
そのせいもあってか数多くの自称霊能者や超能力者に挑戦され、その度に奈緒子はつき合わされ共に謎を解明してきたのだ。
「人の部屋に勝手に入る人が社会人がどうのとか言わないでください!」
という最もな突っ込みをする奈緒子だが上田はまったく意に介さずお茶を別の湯飲みに注いでいる。
「ま、座れよYOU」
初めてのことではないとは言え上田の悪びれない態度に腹を立てつつ奈緒子は座った。
「一体何しに来たんですか?」
「今日ここに来たのは実はウチのゼミの…」
「お断りします」
奈緒子は上田の話を最初で遮り、きっぱりと断った。
「人の話を最後まで聞け!」
「そうやって上田さんの話を聞いてて、良かった事なんてなかったじゃないですかっ!帰ってください!ヤンキーゴーホーム!」
よほど嫌なのか凄い剣幕になる奈緒子。しばし沈黙する2人。
「おお、偶然にもここに高級焼肉弁当があるぞ!」
と沈黙を破り、ワザとらしく言うと上田は弁当を二つ取り出す。
「良いですよ。そんなお肉なんかなくても私にはパンの耳が…パンの耳が…は、話だけなら聞いてやってもいいぞ上田」
食欲には逆らいきれなかったようだ。
22 :
T×M:2009/12/26(土) 23:03:51 ID:5ufTmSPW
「うちのゼミにな加藤早苗という子がいてだな」
「ふんふん」
説明を始めた上田に食べている弁当から目をはなさず生返事をする奈緒子。
「ま指導教官の俺が言うのもなんだが性格の良い子でな。成績も良くから日頃から目を掛けてるんだよ」
「惚れたんですか?」
「失敬なことを言うな!まったく、YOUはその胸と同じで発想も貧困だから、学問に取り組む美しい師弟愛が理解できんのだろう」
「む、胸は関係ないだろエロ巨根教授!」
口から激しく米粒を飛ばしながら、お互いのコンプレックを言い合う二人。この部屋で幾度となく繰り広げられた光景である。
「…でだその早苗君が指導教官であり稀代の物理学者である俺に相談に来たわけだ」
「上田さんにいやらしい目で見られて迷惑ってですか?」
「違うといっているだろう!…でだ彼女が言うには彼女のお母さんがとある宗教ににもう何年も嵌っていて、お父さんとも別居状態だったらしい」
奈緒子はまだ弁当から目をそらさず食べることに集中している。そんな態度に上田は不満のようだが、話を続けた。
「そして、その宗教団体は炎の家というらしい」
「なんだかまともな宗教じゃなさそう名前ですね」
「ああ、彼らは人間は火と共に生きてきた、それで火こそ命の根源であり崇める対象としているみたいだな。」
「うさん臭せー」
「それで会長は火野炎蔵という男で信者にはグレート・ファイアと呼ばれている。
「グレート・ムタ?」
「違う!なんでも火野には不思議な力があって、何もない所から火を出したり、遠く離れた所にある物も自由に燃したりできるるそうだ」
「ますますうさん臭せー」
「真剣に聞けよ。火野はなその力で人間も燃やす事が出来るという噂なんだぞ」
「!?」
驚いて奈緒子は口に運ぼうとした肉を落とした。
「そ、そんなことが出来るわけないじゃないですか」
「まあ俺も実際にそれを見たわけじゃないからあくまで噂だ。で話を戻すとだな今では彼女のお母さんはその炎の家の本部で共同生活をしているらしい」
「ふんふん」
「しかも7歳になるの弟の弘樹君も無理やり一緒にな」
「で上田さんに助けて欲しいというわけですか」
「ああ母はともかく、幼い弟にはまともな生活をしてほしいと涙を浮かべながら言うんだよ。見上げた兄弟愛じゃないか。どうだ手伝いたくなっただろ?」
と尋ねる上田。奈緒子は焼肉弁当を平らげると顔を上げてこう言った。
「なんで私が手伝う必要があるんですか?上田さんの教え子なんだから自分で頑張れば良いじゃないですか」
「ほうそういう事を言うのか。残念だなせっかく家賃を三ヶ月分払ってやろうと思っていたのに」
「え?」
明らかに奈緒子の表情が変わる。
「この寒い年の瀬に住む所を追い出されたらさぞ堪えるだろうなぁ」
「ええ?」
「まYOUがどうしてもそれを望むならそれも仕方ない。じゃあな、今度YOUを見るのは上野公園の炊き出しかな」
そう冷たく言い放ち席を立とうとする上田。
「ま、待て上田、マテッー」
再び幾度となく繰り返された光景が広がりつつ凸凹コンビはまた結成されるのだった。
23 :
T×M:2009/12/26(土) 23:06:50 ID:5ufTmSPW
「…うんわかった。じゃあ年末にはお父さんも空くと思うから」
キートンは娘の百合子との電話を終え、加藤信也の日本での家であるマンションに来ていた。
「もしもし保険調査員のキートンです。お父様の保険の件でお話を伺いに来ました」
インターホンで用件を伝えるとドアが開き中から女性が出てきた。
「…お待ちしていました娘の早苗です。すみませんわざわざイギリスから」
「いえいえコレが仕事ですか。どうもこの度は」
「どうぞお入りください」
早苗に促されキートンは中に入り早苗から保険に関する様々なことを聞いていた。
「それで受取人の事ですがあなたとお母様になっていますね?」
「……はい。」
「お母様とは別居中だそうですがどちらに?」
言いたくないのかなかなか口を開かなかった早苗だが少しして答えた。
「……母は埼玉と群馬と栃木の県境にある、宗教団体の共同生活施設で弟と暮らしています。父がイギリスに行く半年ぐらい前ですから…もう2年近くは会ってません」
「宗教団体?」
「ええ、パンフレットがあるんですがご覧になります?」
早苗は引き出しから小冊子を取り出すとキートンへ渡した。
「宗教法人炎の力?…なんだこれは?まるでゾロアスター教だな」
パンフレットを読みながら呟くキートン。
「ゾロアスター教?」
「ええ、ゾロアスター教というのは紀元前にペルシアで発祥した宗教です。彼等も光の象徴として火を崇めていたので拝火教とも言われています」
「それじゃあ炎の力はゾロアスター教なんですか?」
「いや確かに火を崇めるという点は似ていますが、パンフレットを読む限り内容はよくある新興宗教ですよ。」
「そうですか……あの探偵さん?」
「はい?」
「父はなんで母にも保険金を残していたんでしょうか?私はもう母のことは半ば諦めています。父だってあんなに言い争っていたのに…」
「……」
「弟はわかります。何も分からない内に母に騙されて連れて行かれたんです。でもそうなったのは母のせいなんですよ?そんな母になんで…」
言葉に詰まる早苗。キートンは少し考えると口を開いた。
「これは私の推測なんですけどお父様はお母様をずっと愛していたのではないでしょうか。それで宗教にのめり込んでいったお母様を救えなかった事をずっと悔やんでいた」
「……」
「だからもし自分に何かがあった時にはあなたたちとお母様ために…多分宗教から立ち直るタメにも」
早苗は何も答えず眼に涙を浮かべている。
「あ、すいません余計なことを言って…ほんとうに私の推測だから気にしないで下さい」
「探偵さん…いやキートンさんってとても優しい方なんですね」
「いや私にも実は別れた女房と、あなたぐらいの娘がいましてね。お父様の事は他人事のような気がしないんですよ」
「まぁそうなんですか」
「ええそれで最近は彼氏が出来たなんだの話もあってそんな話を聞くと気が気がじゃないんですよ」
「まぁっ」
笑い合う2人。それは早苗がキートンに見せる初めての明るい顔だった。
「あっもうこんな時間か。それじゃあありがとうございました、お母様にも近いうちにお話を伺いますでは私はこれで…んっ?」
早苗は帰ろうとしたキートンの手を掴んで思いつめた顔をしている。
「キートンさん…これは言おうかどうか迷っていたんですけど、聞いてください。父は…父は母の信望している団体に殺されたのかも知れないんです?」
「なんですって!?」
キートンは早苗の言葉に驚愕して叫んだ。
24 :
T×M:2009/12/26(土) 23:07:43 ID:5ufTmSPW
埼玉と群馬と栃木の県境にある炎の力の施設を目指し上田の愛車トヨタパプリカ(次郎号)が走っていた。
「そういえばその早苗さんのお父さん亡くなったんですよね?」
「そうだ…言ってなかったけど死因は焼死だ。電気スタンドから引火したようだな」
「焼死!?それってもしかして」
「やつらの仕業だと思うか?」
「だって炎を崇める宗教と対立して焼死なんて話が出来すぎでしょう?」
当然の疑念を口にする奈緒子。
「しかしお父さんの死に事件性はないとされているんだ。事故なんだよ…一つ引っかかることはあるがな」
「こないだ言っていた教祖の能力」
「そうだ。だからと言って能力とやらを信じられる訳じゃない」
シリアスな表情と低い声で言う上田。都合よく雷も鳴っている。
「しかし彼らがどんな手段で俺達を嵌めようとしてくるか、分かったもんじゃないからな。YOUも気を引き締めていけよ」
とシリアスな顔のままで決めた上田だったが助手席の奈緒子は既に寝てしまっていた。
「思ったより早くつきましたね。ここ何処なんです?」
本部に到着し車から降りつつ上田に尋ねる奈緒子。眼前には炎の絵が描かれた大きな建物が建っており『宗教法人 炎の力』という立派な看板もあった。
「埼玉と群馬と栃木の県境だ。正確に言うと建物の31%は埼玉県で42%は群馬県、残りの27%が栃木県にあたる」
「や…ややこしいですね」
二人は話ながら本部へと歩を進めていくと中から白いスーツを着た男が現われた。
「これはこれは上田先生初めまして炎の力の副代表の奥田です」
「連絡した日本科学技術大学の上田です初めまして」
「いや私どもの教団に『どんと来い超常現象』でおなじみの上田先生が検証にやってきて下さるとは光栄です」
「いやいや学者としての知的探究心には勝てませんでね」
「ハハハ…おや?其方の女性の方は?」
「私は……」
「こいつは110番弟子の山田です109番弟子までが多忙だったので連れてきました」
「おいっ!上田、警察かあたしは!」
相変わらずのぞんざいな紹介に抗議する奈緒子だったが、奥田は聞く耳持たず勝手に納得してうなずいている。
「それでは施設をご案内しましょう」
そう変なポーズを決めながら言う奥田に促され歩き出す二人
「上田さん」
何か相談事があるのか、小声で上田に話しかける奈緒子
「なんだ?もうちょっと若い番号の弟子が良かったか?」
「違いますよ。何か友好的な態度ですけど、何て言って来てるんですか?」
「まさか教え子の家族を説得して取り返しに来たなんて言えないだろ。だから俺がここに興味を持って見学、そして教祖の不思議な力を検証しに来たといったんだ。」
「なるほど」
「しかももし俺が不思議な力を認めたら、この教団を著作で思い切り宣伝すると言ったら大喜びで食いついたよ。フッこれも俺という天才学者の知名度のおかげだな」
胸を思い切り張る上田だったが奈緒子も奥田も相手にせず進んでいった。
「こちらが修行場です」
その部屋では炎を目の前にして信者達がなにやらブツブツと呟いていた。
「上田さん、居ますか加藤さんのお母さん」
「いや預かってきた写真と一致する女性は見当たらない」
「次の部屋をご案内しますね」
その後奥田に大聖堂やグラウンドなど案内されたが加藤玲子と弘樹の姿はなかった。
「どうですわが教団の事を理解していただきましたか?」
「ええ…大変素晴らしいと思います。それで話は変わるますが信者さんたちはここにおられるので全てですか?」
「いえいえ、100メートル程離れた場所に共同生活している場所がありましてね。こちらに居ない者はそっちに居ると思います」
またもや妙なポーズを決めつつ話す奥田。
「そうですか。もしよろしければココを自由に見て回りたいのですが?」
「はい構いませんよ。もう少ししたら我らがグレート・ファイア様も帰ってきますので、先生もどうぞ見て回って下さい」
そう言い残すと奥田は妙なポーズのままて歩いてていってしまった。つられたのか奈緒子も変なポーズをとっている。
「おそらく玲子さんと弘樹君もそこだな。行くぞYOU」
本部から少しはなれた共同生活の建物には奥田の言ったとおり沢山の信者が暮らしていた。上田はその中の一人に話しかける。
「あのうつかぬ事を伺いますが」
「はい?」
「こちらに加藤玲子さんと息子の弘樹君はいませんか?」
「ああ加藤さん、加藤さんならあっちの畑ですよ。今日は加藤さんによくお客が来るね
自分達以外にも玲子を訪ねてきたものが居たのかと顔を見合わせる二人。
「お客?誰ですかその人は?」
「ナントカ保険の調査員とか言ってたよ…確かキートンとか」
支援
26 :
T×M:2009/12/26(土) 23:09:45 ID:5ufTmSPW
「それではあなたは信也さんの死は教団に逆らったからだと?」
「ああそうだよ。あの人は死ぬ少し前に、あろう事かグレート・ファイア様をインチキ扱いしたんだその報いを受けて当然さ」
「しかしですね火野はその日ココに居たことがはっきりしている。警察の方でも信也さんのことは事故という事になってるんですよ?」
「だから言ってるだろう、グレート・ファイア様は火を自由自在に操る事が出来るんだ」
そう言い放つ玲子を見てキートンは真剣な表情で言った。
「あなたは本当に心からそう思っているんですか?火野にはそういう力があり、信也さんは殺されてもしょうがないと!?」
「……そ、そりゃあ」
口ごもりキートンから目をそらす玲子。その時畑に2人の男女がやって来た。
「加藤玲子さんですか?」
「あぁ?一体なんだい?今度は」
「失礼。私は貴女のお嬢さんの通っている日本科技大教授の上田です」
そう言って玲子に名刺を渡す上田。
(日本科学技術大学教授?こりゃなんだかややこしい事になって来たぞ)
「ふーん、早苗が行っている大学の…でその教授先生が何の用?」
怪しそうな表情で二人を見る玲子。
「貴女のお嬢さんに頼まれて来たんです。あなたと弘樹君を連れ戻すようにって」
「いやだね。あの子がなんて言ったか知らないけど、私は望んでここにいるんだ」
「あなたはそれで良いかも知れませんが、弘樹君はどうなります?断言しますが、ここにいても弘樹君の為にはなりませんよ!」
「……うるさいね。親子の間に口出し内で貰いたいね。」
「あなたと話しても埒があかない。弘樹君は何処ですか?」
「あっちで寝てるよ。でも勝手につれて帰ろうなんて思わない事だね。中には仲間がたくさん居るんだから」
そう言うと玲子は勝手に話を切り上げ、畑仕事に戻っていった。
「お、おいちょっと!待ちなさい…ああっ、クソ!」
「聞く耳もたずって感じですね」
「まったく早苗君の母親とは思えんな」
「同感ですね」
横からスーツの男が出てきて上田に同意した。
「あなたは?」
「あ、失礼しました。私は保険の調査員をやっているキートンです。加藤信也さんの保険の調査に来てます」
苦笑して上田に答えるキートン。
「これはこれは、日本科技大教授の上田です」
「あああなたが。早苗さんが仰ってました。ゼミの教授に弟の救出を頼んだと」
「私は……」
「117番助手の山田です」
続けて自己紹介しようとする奈緒子に先んじて言う上田。
「コラッ上田!一度ならず二度までも…オホン、マジシャンの山田です」
「へーマジシャンの方ですか」
「マジシャンといってもロクに仕事もない半人前なんですけどね」
「黙れ上田!私が居ないと事件なんかひとつも解決できない癖にっ!!」
キートンを無視していつもの言い争いを始める二人。キートンは何を言うでもなく二人を見ている。
「あっ……すいませんねキートンさん。コイツが生意気なもんでつい」
「いえいえ私は気にしませんよ。お二人はとても仲がよろしいんですね」
そう穏やかな笑顔で言われたこともない事をキートンに言われ、二人は口ごもるのだった。
27 :
T×M:2009/12/26(土) 23:13:07 ID:5ufTmSPW
その後三人はお互いの事を話しながら歩いていた。
「…じゃあ上田教授は加藤早苗さんの教官なんですか」
「ええ」
「教え子のためにこんな事までするなんて。上田教授は素晴らしい方ですね」
「いや〜あまり善人過ぎて困っているんですよ」
「キートンさん下心ですよ下心。」
「YOUは黙ってろ!」
「上田教授のご専門は何なんですか?」
「物理学ですこのような著作も一応」
そう言うとカバンから自分の本を取り出す上田
「全冊持ち歩いてるのか上田?」
奈緒子の問いを無視してひたすら上機嫌に上田は自分の研究についてキートンに話し始めた。
「なるほど…上田教授の探究心は凄いんですね。私も考古学を齧っててこういう事には結構興味があるんです。」
「ほう考古学。失礼ですがキートンさんはどちらの大学のご出身で?」
「オックスフォードです」
「オックスフォード!それは凄い!」
キートンの言葉を聞き驚く上田。
「おくす…ほど?」
「オックスフォードだ!イギリスの超名門大学で、君なんか一生縁がない所だぞ。」
「そんな事ありませんよ。私も考古学で食べて生きたいんですけどままならなくてね。発掘には資金が必要だし…正直上田教授がうらやましいです」
「はははっ自分の言うのも何ですが、私ほど人から羨望される人間はいませんからね」
「少しは謙遜しろ」
非常に傲慢な事を平気な顔で言う上田に後ろから突っ込みを入れる奈緒子。
「いや本当にお二人は仲がよろしいんですね。一緒に居ると、とても楽しいですよ」
またもや言われたことがない事を笑顔で言うキートンの言葉に、2人は今度は赤面してしまった。
「オホン…えー、キートンさん良かったらお互い情報を出し合って協力しませんか?目的に似ているんだしそちらの方が効率的かと」
「こちらからお願いしたいぐらいですよ」
握手をする二人。奈緒子も混ざろうとするが足で邪魔をしている。
「上田先生!こちらにいらっしゃったんですか?」
などという事をしていると突然奥田が上田に声を掛けながらやって来た。
「奥田さん一体どうしたんですか?」
「グレート・ファイア様が帰ってこられました」
29 :
T×M:2009/12/26(土) 23:20:43 ID:5ufTmSPW
上田たちは奥田にそう促され三人は先ほど見た、大聖堂と書かれたれている大きなホールにに入った。ホールには既に本部に居る全ての信者達が所狭しと集結していた
「一体こんなにどこに居たんだ?」
「ざっと300人は居ますね」
「なーに俺はこれの2・5倍程の人数相手に論文を発表したことがある」
三人が話しているとホールのざわめきが静まり壇上に奥田ともう二人、炎パターンが入ったジャケットを着た中年の男と秘書らしき女性が入ってきた。
「アレが火野炎蔵?」
その男が入場すると信者達の様子が目に見えて豹変し、中には涙を流している者もいる。
「……ファイアー!!」
「ファイアー!!」
火野が叫ぶと信者達は一斉に叫んだ。
「オオニタ?」
「お久しぶりです皆さん。私が留守の間もしっかり修行を積まれたようですね」
火野が続けてこう言うと信者達はそれまで以上に喜びをあらわにした。
「静かに静かに…皆さんの変わらない燃え上がるような情熱はわかりました。話を本題に入れますが今日はお客様が来ています」
会場の視線が一斉に上田達三人に集まる。
「お、落ち着くんだYOUこれからが本番だぞ」
「お前が落ち着け上田!もっと多い人数の前で話したことあるんだろ?」
「上田先生、初めまして代表の火野です。どうぞこちらに上がってきてください」
火野に促され壇上に上がる三人。
31 :
T×M:2009/12/26(土) 23:22:10 ID:5ufTmSPW
「上田先生、改めて初めまして。今日はわざわざ私の力をご覧になりに来たそうで」
「ええ、炎を操ると言う能力をね」
「良いでしょう。日頃から超常現象に否定的な先生が認めたとなれば私と教団にとって大きな名誉だ。では早速、奥田君」
火野はそう言うと奥田紙と天井が開いた水槽を持って来た。
「これからこの紙を私の力で燃やしてご覧にいれましょう。上田先生、仕掛けがないかチェックをお願いします」
水槽と紙を上田に手渡す火野。
「何の変哲もない水槽と紙のようだな…」
「ええ」
「そのようですね」
三人は舐めるようにチェックするが不審な点は見られない。
「よろしいですか?では、」
火野は水槽の中に紙を入れると両手を上げ水槽にかざした。信者達も上田たちも、もちろん火野と奥田も何も言わず聖堂にに静寂が広がった。
「…上田さん何か暑くないですか」
「暑い?まさか奴の力で気温が上昇してるとでも言うのか?バカを言うなYOU」
「いや確かに暑いですよ上田教授」
三人だけではなく信者達も暑さを感じてているようだ。
「はぁぁぁぁ」
急に低くうなりだす火野。すると水槽の中から焦げ臭いが漂い始めた。
「まさか」
「上田教授、見て下さい火がっ!」
キートンが言うと確かに水槽の中の紙には火がついている。
「馬鹿なそんな…」
驚く三人。歓声を上げる信者達。火野は得意そうな笑みを浮かべ懐から水の入ったペットボトルを取り出し紙にかけた。
「どうです上田先生?」
「いやその、あの」
上田は即答できない。
「まだ半信半疑とい感じですね。いいでしょう今日は特別だ、いまから奥田君に火をつけてご覧にいれましょう。」
「はっ!?」
「いきなり何を言い出すんですか火野さん!?」
火野の言葉に驚きを隠せない三人。
「大丈夫です。私の炎は私に敵意の無い人間を焼くことはありません。ねぇ奥田君」
「当然です」
「しかし」
なおも止めようとする上田を無視すると火野は精神を集中させるような構えを始めた。
「んんんんっ…はぁーっ!!」
そう叫び奥田に気孔を送るようなポーズを取る火野。
「来ました来ましたグレート・ファイアの力が…キター!!」
奥田は体を身悶え始める。そうしていると奥田のスーツの背中から煙が立ち込め、ついには燃え始めためた。
当然男の背中がもえだすという、その異様な光景に一瞬唖然となる一同。
「は、早く消さないと上田教授!」
キートンと上田は奥田に慌てて駆け寄る。さらに信者達の歓声が上がる中、奈緒子は不適な笑みを浮かべる火野を睨み付けていた。
これで前編終わりです。後編もできれば早く書き込みたいと思います。スレ汚し失礼しました。
乙!
乙。上山田の会話が非常に『それっぽい』です。
乙!
トリックの空気がやばいww
35 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 17:32:09 ID:Gl8A8b+t
また異色なクロスが来てるww
浦沢絵の上田や山田を想像して吹いたww
>>35カブト×ロックマンXとかトリック×キートンとか組み合わせようと思わんよな。
保守
お久し振りです。
今日まで帰省していました。
さっそくですが、第九話投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
※二次創作ようの設定あり(劇場版におけるサソードの末路など)
※ディケイドの設定、キャラを出していますが、ディケイド本人が出ることはありません。
九話 WING [翼よ、再び]
エールはベッドの横になりながら、妙にクリアになった耳に医師の声が届く。
今まで着たことのない患者用の服に身を包み、傷ついた四肢は包帯が巻かれていた。
白いベッドで白い天井を見つめながら、エールは意識を覚醒させながらも黙っている。
喋る気力も、起き上がる気力ももはやない。
「身体の傷はたいしたことはありませんが、精神的疲労が大きいですね。しばらくの間、ゆっくりと休むことを勧めます」
「そうですか……ありがとうございます」
プレリーの礼を告げる声が聞こえてくる。
いつもなら、『そんなことはない!』と否定して立ち上がるのだが、今のエールにそんな力はなかった。
モデルXが、今のエールの状態を『心が折れている』と評したことをエールは知らない。
それでもエールは自分の心が、抜け出せない底なし沼へと沈んでいくのを実感していた。
□
ここはガーディアンの支援施設が多く存在する街。
街外れの郊外にはガーディアンの研究所もある。
そこの街の病院へとエールを診てもらうことをプレリーは決定した。
ガーディアンのメンバーからは反対は皆無でだった。当然である。
ただし、なぜエールがそこまで追い詰められていたのか、知りたがるものは少なくなかった。
「天道、エールがどうしてああなったのか、こんどこそ答えてもらうぞ」
金髪の冷静そうな青年、アランがガーディアンベースの通路で黒いクセッ毛の青年、天道総司へと尋ねている。
細身ながら鍛えられて背の高い天道をアランが見上げる形となったが、アランの瞳には明らかな不満が浮かんでいた。
アランだけではない。ガーディアンの殆どのメンバーがアランに同意するように天道へ視線を向けている。
それに対し天道の答えは素っ気ない。
「どうもこうもない。これを知るにはまだ早すぎる」
「早いも遅いもあるか。あのエールがああなったんだぞ。いったいなにがあったんだ?
あの殺人事件が起きる街のミッションを終えてからエールの様子がおかしい! いい加減に答えろ!!」
アランが苛立った様子で詰め寄るが、天道の様子は変わらない。
天道はあくまで沈黙を貫くようだ。しかし、周囲の雰囲気は険悪になっていく。
天道と仲のよかったトンでさえ、しかめっ面だ。プレリーはため息をついて、隠しきれないことを悟った。
「天道さん、構いません。ここから先は私が説明します」
「プレリー様……!?」
どよめきがメンバーの間に広がる。天道が咎める視線を向けているが、プレリーは首を横に振った。
「これから伝えることは極秘事項です。一般の方に噂レベルでも広がることを許しません」
プレリーは前置きを終えて、前にした隊員たちへと説明を始める。
その姿は、司令官にふさわしい厳然たる態度であった。
ガーディアンの一般隊員に伝えられているワームの特徴は、フォルスロイドのような異形に戦闘能力。
そして人間形態と戦闘形態に分かれており、加速装置を持っているということだけであった。
擬態能力、そして人の心を持ちえることは、副司令官に位置するフルーブにすら秘密にしていた。
天道と相談した結果、ワームの得意な能力は混乱をもたらすだけだ、と判断していたからだ。
しかし、ガーディアンの名の下に集った彼らは今までともに戦ってきたエールを放っては置けなかった。
もうプレリーは打ち明けるしかないと判断したのである。
「擬態能力、そして精神までコピーするタイプまでがいること。それが私が天道さんに頼んで黙ってもらっていたことです」
「プレリー、一つ訂正だ。俺は頼まれた覚えはない。俺は俺の判断で黙っていただけだ」
プレリーがギョッとして天道を見ると、彼はいつもの涼しげな表情であった。
アランが明らかに天道へ不満を示し、掴みかかろうとする。
プレリーが静止するが、その横をすり抜けて天道の胸元を掴む存在がいた。
それは気が優しく身体の大きい、天道と仲がいいガーディアンの一人、トンであった。
「天道……ワシらを舐めるなよ」
「舐めていたわけじゃない。現状を計算し、お前たちに擬態能力を告げるのはマイナスだと……」
「そんなことはどうでもいい!」
トンが普段は気持ちのいい表情しかない顔を凄ませ、天道を睨みつける。
天道はあくまでトンの視線を正面から受け止め、胸元をつかまれたまま黙していた。
「お前さんがプレリー様をかばって一人悪者になろうってのがバレバレなんだよ。それくらい見抜けないと思ったか?
確かに、エールがああなるまで黙っていたのは不満だ。ワームの能力を知ればワシらの中にだって戸惑うものはいるとはいえ、もう黙っていられる段階ではない。
だからといって、お前一人を恨んで丸く収まると思うのか? 馬鹿にするな!」
トンがさらに熱を入れて、天道を掴む手に力を強くしていた。
辛いはずなのに、天道はうめき声一つ上げない。プレリーが止めようとするが、その前に天道をトンが離す。
「いいか、天道! お前はワシらの、ガーディアンの仲間だ。だからエールがああなったのはお前一人の責任じゃない。一人で背負おうなんてもう考えるな。
ワシらを信頼しろ。お前を絶対裏切らない、気のいい仲間たちだ!」
トンが本音を天道にぶつける。対して、天道はただ無言でいるだけであった。
その場はプレリーが解散を命じるまで、ただ重苦しい空気が流れていた。
□
「フォルスロイドがもう二体……倒されている……」
抑制がないながら、鈴を転がすような美声が薄暗い研究室で静かに響いた。
白いアーマーに横幅の広い帽子状のメット、魔女のような杖を持つロックマン。
パンドラは目の前にいるプロメテに現状を伝えていた。
一方、白い三角状のメットに紫色のアーマー。狂相が不満を持って歪む死神はいらだたしげに大鎌壁にぶつける。
「それで、“あの男”はガーディアンの研究所に眠るライブメタルの奪取を命じた、というわけか」
「そう……成功すれば、それで失敗を帳消しにするって……」
「失敗だぁ!? エールに欲情する屑に、わざわざ自分から敵を呼びだした屑が勝手に自滅しただけだ。俺たちが気にする必要すらないね」
「けど……“あの男”はそう思っていない……」
「自分から不良品を押しつけた尻拭いを俺たちにさせるか……とことん屑だな」
プロメテが嘲笑するように吐き捨てる。そして、プロメテの皮肉げな笑みは自分たちにも向けられていた。
屑と忌み嫌う男の言いなりになるしかない自分たちが、滑稽でしょうがなかったのだ。
そこへ、カツーンと一定のリズムの足音がプロメテの耳朶を打つ。
ごく自然に視線を向けて、またもウンザリとした表情を浮かべた。
「使者の諸君! お困りのようですね」
「なんの用だ、乃木怜治」
黒いコートに黒い長髪の、メガネをかけた長躯の奇人。彼こそはこの世界へと漏れでたワームの首魁、乃木怜治ことカッシスワームであった。
病的なまでに鍛え上げられた肉体を持って、フォルスロイドすら擬態した状態で圧倒していたのだ。
ワームを毛嫌いしていたプロメテですら、無視できない存在。それが目の前の男である。
「我らの同志、黒崎一誠に動いてもらうかとも考えたが……今度の任務はずいぶん重要そうだ。今度は私自らが手を貸そう」
「……なんのつもり?」
乃木の言葉に、パンドラが警戒心を強めて尋ねる。乃木はチッチッチ、と右人差し指を左右に振り、続きを継げた。
「なに、我々ワームもここのところは無様なところしか見せていないのでね。汚名を私自らがそそごうと思ったのさ」
「ハッ、ずいぶんと殊勝な言葉だな。そんなおためごかしを俺たちは聞きたいわけじゃない。……本音を言ってみろ」
「さすがに一筋縄ではいかないな。ことは単純さ。私はここで生まれたため天道総司と戦ったことがない。
だからここらで我らワームの力の差を見せておこうと思っただけさ」
「…………目立ちたがり……」
「なんとでもいいたまえ。それでは、向かおうではないか。私たちが協力するのはすでに決定事項だ」
ニヤリ、と乃木は自信たっぷりの笑みを浮かべた。彼の前方に赤いバイクが鎮座しいる。
確かガレオンが動かそうとして、あまりの馬力に振り落とされたじゃじゃ馬だ。
あれは乃木が気に入ってそのまま使っている。確か名前は……。
「カブトエクステンダー……本当についてくる気……?」
パンドラの疑問に対し、乃木は「当然」とだけ答えている。
嫌そうなパンドラの表情が、プロメテには妙に記憶に残った。
□
真っ白で清潔な病室がエールは嫌いだった。十一年前のイレギュラー襲撃事件で、怪我を負ったエールたちは病院に収容されたのだ。
別に病院自体が悪いわけではない。ただ、エールが一人になったのだと思い知らされたのが病室であったというだけ。
似たような経歴の子と一緒にジルウェに引き取られ、運び屋としてのイロハを教えてもらった。
そう懐かしく思っていると、まるで一気に老け込んだかのような錯覚に捉われる。
「エールさん、やはりまだどこか具合悪いんじゃ……」
「ああ、ローズ。そんなことはないよ。ちょっと昔を思い出しただけで……」
エールが窓に向けていた視線を戻し、いつもの白衣姿ではなく私服のローズへと答えた。
ただ、ローズへ向けた笑みが自分でもわかるほど、作られたものだ。
ローズの不安そうな表情が広がるが、エールでも返すほどの余裕がない。
申し訳ないが、これが自分にできる精一杯なのだ。だからこそ余計に、これが“心が折れた”状態なのだと否応なしに自覚させられた。
「エールさん、これが頼まれていた着替えです。それと、プレリーさんが万が一のために護身用にって……」
「モデルX……モデルZ……」
『今はなにも言わないで、エール』
『これは俺たちの希望だ。なるべく傍を離れないようにな』
エールのことを気遣ってくれるライブメタルに、エールはもはや返せるものがなくて申し訳ない気持ちになった。
護身用といっているが、エールの容態を気にして二人はエールのもとへと来たのだ。
もう戦えないエールのために、である。
「それじゃ、エールさん。申し訳ありませんが、私はこれで……」
「うん、ローズありがとう」
「あ、それと……」
ローズが思い出したようにエールに振り向き、前髪で隠れた目をエールへと向けた。
「皆さん来たがっていましたから、また誰か来ると思います。それじゃ、私も仕事がないときはなるべく訪れますので」
そういってローズは退室して言った。ローズの姿が消えたとき、エールは思わず「ありがとう」とつぶやく。
それはローズだけでなく、お人好しの仲間たちにも向けたものだった。
エールはローズがいなくなった後、迷いながら二人のライブメタルを手に取った。
終始無言の彼らを連れて病室を立つ。少し散歩したくなったのだ。
通路を抜けて中庭に出ると、十人程度の患者がさまざまな行動をとっていた。
リハビリするものや、エールと同じく散歩するもの。趣味なのか花へ水をやるものも。
暖かい光景。これを守るために戦ってきたはずなのに、今のエールには申し訳ない気持ちしかなかった。
「モデルX、モデルZ……アタシ、もう一度戦えるかなぁ……?」
『今はそんなことを考えるな。傷を癒すことだけを考えろ』
モデルZはにべもなくエールを一刀両断する。彼なりの気遣いだ。
この街の外れにはガーディアンの研究所がある。そこにはモデルHたちが眠っているのだが、今のエールでは彼らの力を引き出せない。
エールがうつむくと、モデルXが静かに『エール……』と警戒心に満ちた呼びかけをした。
「本当にここにいたとはなぁ……」
地獄の底から響くような低い声。紫色のジャケットに、黒いインナーをまとったボサボサの金髪頭の青年がエールに無造作に歩いてくる。
顔には笑みが浮かんでおり、一戦交える気なのは明らかだ。まずい、ここでの戦闘もそうだが、それ以上に今の自分の状態がだ。
変身し、武器を振るう自分を浮かべて……斬り裂かれるジルの姿が存在しエールの呼吸が荒くなる。
全身に脂汗が流れて、がくがくと震えた。モデルZが逃げることを促しているようだが、耳に入らない。
そのエールを、モデルVAに選ばれた青年、ベンテが顎を掴んであげた。
エールの瞳を見た瞬間、歓喜に満ち溢れていた顔は急に色をなくしていった。
「チッ、つまらない顔をするようになりやがって……」
『関係ない……周りの連中を撃ち殺せばこいつらも考えを変える』
『モデルVA……君はなんてことを!』
ライブメタル同士で互いにやる気が出るも、ベンテは踵を返した。
モデルVAが苛立たしげにベンテを急かすが、ベンテにはもう殺気がない。
「今度見たとき、まだ傲慢なおびえ方をするなら殺してやるよ」
「ばっ……馬鹿に……」
エールはベンテの舐めきった態度に反発を示すが、急速に意思がしぼんで最後まで続けれなかった。
うつむいて震えた身体を抱くエールを、ベンテは振り向かずに離れていく。
エールはただ、モデルXたちの慰めの言葉も届かず、悔しさと安堵と怒りで唇をかみ締める。
ただ一言、ベンテの言う“傲慢な脅え方”という意味がわからず、エールは立ち尽くした。
□
エールがベンテと再会してから一週間経ったその日の天気は晴れだった。
さんさんと降り注ぐ太陽の光にのんびりと身体を伸ばし、昼食を終えて眠気をかみ殺した男が見たものは、銃撃であった。
ヒュンヒュン風を切る砲弾がビル群へ叩き込まれるのを目撃し、平和な日常から遠ざかったことを自覚した。
男は必死に方向転換をして街を変えるが、ビルに設置された大型のCM用テレビから聞きなれない声がする。
『ガーディアンの諸君! 私は君たちが戦ってきたワームの首魁、乃木怜治である。
これから私とゲームをしよう。そう、私が総攻撃を仕掛ける。君たちがそれを阻止する。実に単純なゲームだ。
すでに我々が本気であることは示した。私の目的がどうあれ、君たちは対処をしなければならない。
さあ、始めよう! ヒトビトの命を懸けた、壮大なゲームを!!』
演技のかかった喋り方をする男に、恐怖を抱きながら男は思う。
これは夢だ。夢であって欲しいと。
その願いは虚しく男の背中に着地したガレオン・ウイングが銃弾で男の命を奪う。
転がる男の身体が理不尽を体現したまま静止した。
「ワームの総攻撃!? いったいなぜ……?」
「プレリー、今は原因を解明している場合じゃない。あそこには戦いに巻き込まれているヒトビトがいる。
なら、俺たちがすることは単純だ。おばあちゃんがいっていた。料理と物事の本質を見抜くことは重要だと」
プレリーは司令室の椅子に座り、一度だけ深呼吸をする。
天道は冷静になれといっていたのだ。周りを見渡すと、プレリーの命令を待つ部下たちがいた。
プレリーに年相応の顔が消える。司令官として過ごした日々は少女を鍛え上げてきた。
いや、正確にはプレリーは、イレギュラー戦争を潜り抜けた伝説の英雄との……。
「皆さん。私たちとワームの戦いに、無実のヒトビトが巻き込まれてしまいました。
これは許せる行為ではありません。ワームとイレギュラーを撃退し、ヒトビトを守り、ガーディアンの力を見せてあげましょう!」
「おう!」という力強い声がガーディアンベースのブリッジへと広がった。
プレリーは修理を終えたガーディアンベースを浮上させ、火で燃え上がる街の上空へと発進させる。
「いまこそ私たちの力を見せるときです。伝説の英雄の名に懸けて、守り手たる力を存分に発揮します!!」
プレリーの激励にガーディアンのメンバーの士気が上がる。
天道は満足げに笑みを浮かべ、転送装置へと急いだ。
「天道さん……敵のボスの相手をお願いします」
「任せろ。奴を倒しヒトを救う。それこそが俺が往くべき道だ」
天道はいつもの通り宣言して離れていった。
小さくなっていく背中に、なぜかプレリーは不安を覚えてしまう。
いままでと変わらないはずなのに、なぜかプレリーの不安は消えずにそのままであった。
□
規則正しい足音が燃え盛る街の中、威圧感を持って響く。
ガレオン・ハンターの群れにヒトビトはなすすべもなく蹂躙されていくばかりであった。
「怖いよう……」
つぶやく七歳の少女、エレンもまたイレギュラーの襲撃に巻き込まれた一般人である。
一緒に避難していた親ともはぐれ、ただ一人身を縮めるだけであった。
そんな無力な少女にもガレオンは容赦しない。少女の呟きを耳にして足を向ける。
「ひっ!」
少女の悲鳴にも無反応のまま、ガレオンはバスターを少女へと向けた。
銃口が光り、光弾が放たれようとした瞬間ガレオンの頭部が消し飛んだ。
「大丈夫かい? 嬢ちゃん」
少女が振り向くと、二メートル近くの巨体にいかつい顔を朗らかな笑みを浮かばせるガーディアンの隊員がいた。
トンは少女を抱き上げて、迫るガレオンに銃口を向ける。
「嬢ちゃん、悪いがちょっとばかり目を瞑ってくれ。ワシがすぐに助けるからな」
「う、うん」
素直に目を瞑り、トンにギュッとしがみつく少女の重さを確認してトンはガレオンの頭部を殴りつけた。
勢いよく吹き飛ぶガレオンを前に、すぐに踵を返して安全なルートをとる。
避難所へ少女を引き渡せば安全を確保できる。数が多いためトン一人では対処ができない。
「天道……」
そして、トンはつい最近仲間になったが常に孤高でいる友人の心配をする。
彼はまた一人で戦っているのだろうか?
本来は本調子でない上病院に収容されていたエールを心配するのが筋なのだが、なぜか天道に対して不安があった。
虫の知らせとも言うべき説明できない感覚を抱えたまま、トンはガーディアンの仲間がいる道を疾走した。
避難するヒトの群れは、ガレオン・ウイングにとってはいいカモである。
上空から無力なヒトの行列を見つけた一体のガレオン・ウイングが右手のバスターを向けながら急降下した。
目的を足腰の弱そうに老人へ定め銃口を向けようとした瞬間、一発の銃弾がガレオン・ウイングの羽を砕いてそのまま地面へ落下した。
「これで十三体目か。ちくしょう、何体いやがる」
「ぼやくな。ヒトビトを守るのが、俺たちガーディアンの仕事だ」
スナイパーライフルのスコープに目を通した金髪のクールな青年、アランが同じガーディアンの仲間、トラードに窘められていた。
舌打ちしつつも、アランは空薬きょうを排出して次弾を備えた。
観測者を担当するトラードが電子スコープを除きながら話しかけてくる。
アランは面倒そうに返事をしながら、トラードの言葉を待った。
「アラン、最近は妙に天道に絡むな」
「俺は個人的にあいつが嫌いなだけだ」
アランはそう吐き捨てて、スナイパーライフルを振り回す。
姿は見えないものの、油断はできない。
「本当にそれだけかぁ?」
「しつこいぞ、トラード」
ニヤニヤと笑みを浮かべるトラードに、アランは苛立たしげに答える。
おおかた、トラードはエールと共に戦えてかつライブメタル以上の力を持つ天道に嫉妬しているのだと思っているのだろう。
まあ、実を言うとそんなに間違いではないのだが、アランはそれを自覚するには若かった。
それだけではないのは確かだが。
「……あいつを気に入らない理由は単純さ。なんでもできるからって一人になるってのが気に入らない」
「お前が言うかねぇ。しかし、天道にああ大見得切ったトンが、プレリー様が号令をかけた瞬間言いよどむのは意外だったな〜」
「あいつはプレリー様の前だといつもああだ。……次くるぞ。気を引き締めろ」
「ああ」
トラードの顔つきが真剣になり、アランは引き金を絞った。
インナーのヒトビトの犠牲を抑える。
これはガーディアンとしての義務であり、アランもトラードもその使命に命を懸けることに異存はなかった。
□
カブトが放送のあった場所へと駆けていく。
炎で包まれた道を行きながら、建物に潜むイレギュラーを討って道を作る。
他者の生きる道を確保するのも、天の道を往くゆえ。
エールが無事避難していることを祈りながら、カブトはTV局の屋上へとたどり着いた。
「ようこそ、天道総司。始めましてのほうがいいかな?」
「くだらない。お前は俺が倒す。挨拶など不要だ」
姿を見せない乃木に、カブトは堂々と挑発を仕返す。奇襲に対応できるよう、半身の構えをとった。
そのカブトをあざ笑うかのようにバイクの排気音が周囲に轟く。
TV局の屋上に多くの照明が当たった。逆光を背に男がバイクにまたがって進んでくる。
カブトはその赤いバイクを目にして静かにつぶやいた。
「カブトエクステンダー……わざわざ持ってくるとはな」
「私に勝てたのなら返してやらんこともない。もっとも、私に勝つのは無理だがな」
メガネのレンズ越しに挑戦的な視線を送られてカブトは顔を引き締める。
ワームの首魁を名乗っているだけはあり、構えだけで黒崎に迫る強者だとわかった。
「さあ、踊りたまえ。天の道を往くものよ」
「乃木怜治……キサマを倒す」
二人は地面を蹴って間合いを詰めて交差する。
戦士が二人、ぶつかりあう音がビルの屋上で奏でられていた。
病院から避難勧告が流れたのは一時間ほど前。
エールも知る病院の患者医者含む数十人の行列の中、煙を吸わないように身を低くしながらエールは進んだ。
彼女の手をとり、率先して先を進む後姿を見つめる。
エールの胸あたりの背丈のガーディアンの少年、サルディーヌにエールは手を引かれていた。
「エール、みんな、こっちだよ!」
サルディーヌは元気いっぱいに勇気づける。
今日、エールを見舞いに来ていたのは彼と……。
「安全は確保したわ! サルディーヌ、患者から優先して案内して!」
「わかったよ、ウイエ!」
ガーディアンの正式隊員であることを示す制服を身にまとう、女性だった。
ウイエは普段はかわいらしい顔を凛々しく引き締め、銃を片手に安全の確保に勤しんでいた。
彼女やサルディーヌの姿を見て、エールはライブメタルを右手で握る。
その様子に気づいたウイエが近づいて笑顔でエールの右手を押さえた。
「調子が悪いときくらい戦うのは私たちに任せてよ、エール」
「で、でも……」
「大丈夫、エール! ウイエも絶対僕が守るから!」
サルディーヌとウイエがエールを励ますが、ますますエールの表情は曇るだけ。
エールのことを心配している様子だが、ウイエもエールだけに構っていられる場合ではない。
サルディーヌに耳打ちして、すぐにしんがりにまわる。
後ろを襲われたらひとたまりもないからだ。
「嘘……みなさん、逃げてください! 新手のイレギュラーが現れました!!」
ウイエの語気が荒くなり、ヒトビトに動揺が走る。
銃声が二、三発鳴ってエールは振り向こうとするが、サルディーヌが手を強く引っ張って叶わなかった。
「サルディーヌ……?」
「エール、いまは駄目。いまのエールはとても戦える状況じゃないんでしょう? だったら逃げなきゃ、ウイエの足を引っ張っちゃう」
エールは息を呑み、言葉を失くした。まだ幼いといってもサルディーヌは立派なガーディアンの隊員だ。
ヒーローに憧れ、玩具を片手にガーディアンベースにいたとはいえ物事の道理はわかっている。
混乱する集団をサルディーヌは勇敢にも誘導を開始し、避難場所を目指して再び動いた。
一度だけエールは後ろを振り返り、ただウイエの無事を祈った。
□
ドサ、というヒトが倒れる音が白い通路で響く。
音源の原因、死神の鎌を振るったかのような状態のプロメテがつまらなそうに鼻を鳴らす。
「やはりエールか天道総司がいなければこんなものか」
「……乃木の陽動が成功している証拠……。今のうちにライブメタルを回収する……」
白い女性用アーマーに身を包むパンドラが、杖に乗って飛行しながら答えた。
パスワードつきの扉へ遭遇するが、パンドラがあっさりと開く。
ガーディアンの研究所の一つ。ここにモデルHたちが眠っているのは、さるハンターより伝えられていた。
ハンター……いや、違法ハンターたちは金に糸目をつけなければ貴重な情報ですら仕入れてくる。
シャルナクとかいった男は“あの男”が目をつけただけはあるか、と思考を続けてプロメテは研究室へと足を踏み入れた。
『キサマたち……ッ!』
プロメテとパンドラを怒声が迎える。暗闇の中で光る四対の瞳を受け流し、プロメテは一歩前に出た。
「久しぶりだなぁ。もう一度、力を貸してもらうぞ」
『ケッ! そうはいかねぇ……暴れさせてもらうぜ!』
『またあんな美しくないボディに入れられるなんてまっぴらごめんよ』
赤いライブメタルと青いライブメタルがプロメテに反抗を示す。
紫と緑のライブメタルもまた、口を開かずプレッシャーをかけていた。
「お前たちの意思は関係ない。やれ、パンドラ」
「少し……長い間眠ってもらう……」
抑制のないパンドラの声とともに、浮遊デバイスが浮いてライブメタルに光を送る。
ライブメタルたちは震え、必死に抵抗しようとしたが、パンドラの杖からエネルギーを送られて動きが鈍くなった。
『なに……力が……』
「やはりゼクターとライブメタルは似ている。感謝しろ、お前たちがいま動けないのはゼクターという同類のおかげだ」
ありがたくもないプロメテの説明に、やがてライブメタルたちは沈黙した。
四つのライブメタルを手中に収め、プロメテは踵を返す。
気に入らなさげにプロメテは顔を歪めるが当然だった。
彼自身が気に入らないと告げたロックマン同士による争い。
このライブメタルたちの役割は、そんなくだらない争いを加速させるものというだけ。
ただそれだけだったのだから。
ウイエが囮を買って出て三十分経ったころだろうか。
ようやく数名の隊員とフルーブの姿を見つける。フルーブはエールとサルディーヌの姿を見つけて、嬉しそうに駆け寄った。
「よかったぁ、みなさん無事のようでして」
「でもフルーブ、ウイエが……」
「ウイエさんなら大丈夫です。先ほど連絡がありましたから。さあ、どうぞ。この先に避難用のトラックが……」
フルーブが続きを告げようとしたとき、爆発音がかき消した。
慌てふためくフルーブをよそに、普段はガーディアンベースの動力炉を守っているセードルの荒々しい声が通信機から響く。
彼女が前線に出るということは、それほど人員が足りない事態なのだ。
『すまない、アタイとしたことが二体逃がした!』
エールは脳裏に通信機にガナリたてているセードルの姿を想像しながらも、上空へ視線を移す。
ガレオン・ウイングが二体、上より銃口を向けていた。
先ほどまで安心していた集団がとたんにパニックに陥る。
「みなさん、落ち着いてください! ここは我々が抑えますから!!」
フルーブが必死で叫ぶが、一度崩れた集団は簡単には戻せない。
狙われている恐怖はヒトビトに恐怖をもたらし、地面を襲う銃弾はガーディアンにけが人を増やした。
一体のガレオン・ウイングが地面すれすれを飛んでくる。銃口がエールに向けられているのを見て、ライブメタルをつかみ、胸をぎゅっと締めつけられるような感覚に陥った。
身体が硬直し、呼吸が荒くなり、大きく目を見開いてガレオン・ウイングが視界に入る。
だがエールの目は逃げ惑うヒトビトをみていた。そして、エールは気づいてしまった。ガレオンの姿が、イレギュラーの姿が離れられないことを。
「エール! 危ない!!」
サルディーヌが叫んで、エールの前に両手を広げて立つ。小さい身体をめいいっぱい広げたその姿に、エールは叫ぶが遅い。
ライブメタルを持つ手に力を入れるものの、身体が震えて行動に移せない。
やめてくれ、とエールは内心で力いっぱい叫んだが、届くはずがなかった。いや、届かないはずであった。
重い衝撃が金属の塊りにぶつかったかのような轟音が二つ、天と地で鳴り響く。
エールが涙でぬらした顔を上げると、サルディーヌの眼前のガレオンにサソードゼクターが体当たりをしていた。
体勢を崩したガレオンの四肢を容赦なく打ち据えて、サソードゼクター銃弾のさながら一直線にガレオンの顔面を砕いた。
同時に、上空のガレオンも空中をきりもみしながら地面へ落下していく。
ガレオンは羽を砕かれて、地上に落下する間ドレイクゼクターの体当たりで全身を細々にされていったのだ。
ベシャ、と潰れた音がガレオンの最期を告げる。エールを守るように、ドレイクゼクターとサソードゼクターが周囲を回った。
先ほどまで混乱していたヒトビトの声が静まり、沈黙が場を支配する。
混乱が収まったことを察して、フルーブが老いた身体に鞭を打って指示を出した。
「今のうちです。皆さん、避難所へ向かってください!!」
フルーブの言葉に、ようやく集団は従って歩みを再開した。
途中、ヒトビトがエールに「ありがとう」「たすかったよ」「まだ小さいのにすごいねぇ」などと声をかけてくれる。
だが、エールの表情は晴れなかった。サルディーヌが格好がつかないような顔を一瞬だけして、エールに笑顔を向けた。
「やっぱりエールはすごいよ。こんなことができるしさ……」
「ちがう」
サルディーヌの明るい声を、思わずエールは否定してしまう。
戸惑うサルディーヌに悪いと思いながらも、エールは限界であった。
サソードゼクターとドレイクゼクターを抱きしめて、涙が一滴流れる。
わかってしまったのだ。一週間前、ベンテがエールのおびえを『傲慢なおびえ方』と評した理由が。
「ようやくわかった……。アタシが……アタシがずっと怖かったこと……」
エールはゼクターたちが迎撃したガレオンを見て、胸が引き裂かれそうになったのだ。
二体のガレオンが砕けるのと、殺されそうになったヒトビト、そしてジルの最期。
死ぬ相手よりも、殺す相手に“エール自身”が重なった。
がくっ、と膝が崩れる。懐から二つのライブメタルが、周囲を舞う二つのゼクターがエールを心配そうに見つめる。
「アタシは……セルパンと戦ったときのように憎しみでヒトを殺すのが怖かった。だってセルパンみたいになりたくなかった。イレギュラーになりたくなかった!
なのに……アタシはジルさんを殺した……大切なお母さんを守るために戦っていたジルさんを! アタシは……アタシが……イレギュラーになるのが怖い」
エールが剣を振るうことができなかった理由。フォルスロイドを傷つけられなかった理由。
セルパンはモデルVを作り上げた男の血がエールに流れていると告げた。
そのエールをジルウェは自分で自分の運命を作り上げろといってくれた。
エールはその言葉を胸に行動を続けた。だから仲間を、ヒトビトを守り続ける。
なのに、ジルのときは叶わなかった。挫折は始めてではなかったはずなのに、ジルの命がエールの胸に重くのしかかる。
確かにベンテのいうとおり、傲慢なおびえだ。エールは殺されることより、殺すことにおびえている。
強い相手と戦うことを好むベンテにとっては、戦う相手に心配されることなど腹立たしいだけだ。
エールはそのことを知らないため、ベンテの言葉がただ戦えない、守れないエールを責める言葉に思える。
自分に希望を託したジルウェに、守るべきヒトビトに、仲間たちに、自分に力を貸してくれたライブメタルに、罪悪感を抱きつつもなにもできず自己嫌悪を続けていた。
エールは自分の二の腕を抱きしめて、寒さに耐えるように唇をかみ締める。
やがて漏れる嗚咽とともに、エールの涙が零れ落ちた。
『エール……』
モデルXはエールの感情の吐露を受けて、自分と似ていると感じた。
モデルX……かつて英雄と呼ばれてイレギュラーと終わりのない戦いへ身を投じていたとき、ふと気づいたのだ。
あんなに重かった銃の引き金が、殺し続けてとても軽くなっていった。
イレギュラーを倒しても倒しても終わりは来ない。鬼(イレギュラー)となって他の敵をすべて殺し、自身をも殺すと決意したこともあった。
イレギュラーと戦った相手に罵られたことも、一度や二度ではおさまらない。
己が道を突き進み、疲れきった自分を回想してモデルXはエールを見る。
エールは挫折が早かった。十一年前のイレギュラー襲撃事件による母親の喪失。育ててもらい、兄のような存在だったジルウェを殺された。
だからこそ、他者を守れる力を持って守ることに固執した。めげることも少なかった。
ジルの存在は、そんなエールに力の重さを伝えたのだ。
自覚していなかったわけではない。エールが迂闊だったわけじゃない。
モデルXでさえ、死体の山を築いて始めて思い知ったものなのだ。
いまがそれを知る時期だ。
だからこそモデルXはエールを見守る。
他に手を取れないことを知っていたから。
□
黒いコートを翻し、炎で燃え盛るビルの屋上を乃木が跳ぶ。
銀の重装甲をまとったカブト・マスクドフォームは右拳を一直線に突き出した。
速さ、角度ともに乃木が避けれる道理はない。なのに、カブトの拳は空を切る。
「またか……!」
「遅い」
カブトの背後に気配を感じ、振り向くと乃木が人間の姿のまま拳を振るった。
人間の限界を超えたような重く速い拳の連打がカブトの胸部に打ち据えられる。
衝撃にわずかに後退しながらも、カブトは最後の三発を華麗に捌いてカウンターの拳を放った。
再度空を切る拳。狙いの場所より、乃木は数十メートル後ろにいた。
「噂の天道総司もこの程度か」
そういって悠然と立つ乃木を前に、カブトは右拳を引いて構えを取る。
冷静に思考を奇妙な空振りにあてた。擬態形態の乃木に、クロックアップを使われたのだろうか。
擬態形態でクロックアップが使えるワームなどいない。
しかし、それが一番しっくり来る答えである。それでもカブトはこの答えを否定した。
(クロックアップを使ったのなら、移動時の余波による風、空気の振動、音が発生する……となると)
「答えないとは、考え中かね?」
背後でささやかれて、カブトは目の前にいたはずの乃木が目にも留まらぬ速さで移動したことを知った。
いや、これは“速さ”ではない。風も振動も音もなく移動できる。候補を数個考え、クロックアップの進化系と結びつけた。
「……時間停止能力か」
カブトは振り向いて、ゆっくりと距離をとりながら答えた。
乃木のメガネの奥の瞳が驚きに満ちる。感心したかのように両手をたたいて拍手をし始めた。
「数分の戦闘、ノーヒントで能力を当てられたのは始めてだよ。さすが天道総司」
「世辞はいらない。いい加減本性を現したらどうだ? その姿で手加減するほど、俺は甘くない」
「ただの余裕だよ。すぐに決着がついては面白くないだろう?」
乃木はパチン、と指を鳴らしてメカニロイドを呼んだ。カブトが強化された視力で確認すると、撮影用カメラを向けている。
先ほど犯行声明を出したときに使ったのか。
「ここからは生中継だ。さあ、天道総司。ヒトとワームの殺し合いを始めよう!」
乃木の宣言とともに耳にカメラの起動音が聞こえる。
空間が凍ったような音ともに、紫のオーラが乃木をまとった。
鎧甲冑のようにオーラがかたどり、軟体が崩れるような音ともに乃木の全身が色を失いながら広がった。
西洋の兜を深くかぶったかのような顔。鎧のように広がる甲殻。右手にレイピアのような刃。
全身に広がる紫色の、カブトガニを模した宇宙生命体・カッシスワーム。
それがワームの首魁である乃木怜治の正体であった。
「キャストオフ」
カブトゼクターが同音を宣言して、浮いていた銀の鎧が勢いよくはじける。
サナギ程度なら破砕できる金属の塊をそよ風のように受け止めるワームを前にして、カブトの赤い角が上がった。
青い二つの瞳を輝かせ、『Change beetle』の電子音とともに赤の戦士ライダーフォームへと転身する。
「それが君の本気か。一つ忠告しよう。この戦いは放映されている。せいぜい無様な姿は見せないように気をつけるんだな」
「いくぞ……」
カッシスワームの挑発を受け流し、カブトはクナイガンを逆手に脇の前で構える。
風が吹き肌を撫でた。カブトが地面を蹴って、たった二秒で数十メートルはあったカッシスワームとの距離を0にする。
カブトクナイガンの刃が炎の光を反射する。光りが弧の軌跡を描き、甲殻を斬り裂かんと紫電のごとく速さでカッシスワームの胸部を通り過ぎた。
時間停止は使っていない。相手は油断しているとカブトは判断して、さらに踏み込んだ。
三合、カッシスワームの右手の剣とクナイガンの刃が交差する。
炎を反射して繰り返される二人の剣戟は、さながら光りのダンスのようだった。
「油断だと思っているのか?」
カブトは無言。答える義務などない。カブトは右転してクナイガンの剣先をカッシスワームに放つ。
そのクナイガンの刃が、カッシスワームの剣に跳ね上げられて強制的に軌道が変わる。
カブトが軌道を修正する間もなく、カッシスワームの剣がカブトのわき腹をえぐった。
重い衝撃にカブトが吹き飛び、火花が散りながら転がる。
「油断などではない。これは余裕だ……」
カッシスワームの言葉は嘘ではないことを証明するかのごとく、立ち上がったカブトに右ストレートをぶつけた。
カブトが固めたガードの上に拳がのっかかり、衝撃に地面が陥没する。
尋常でない足腰でカブトは耐え抜くが、腹部を軌跡の見えない横蹴りが襲った。
カブトが壁にぶつかり、「ぐ……」と呻き壁が衝撃でへこむ。ひび割れた壁からずり落ちながらも、まだ闘志を失わない瞳でカッシスワームを睨みつけた。
「無様な姿はさらさないほうがいい……といったぞ?」
「おばあちゃんがいっていた。料理は仕上げこそ気を抜いてはいけないとな。お前は必ず後悔する」
フッ、とカッシスワームは馬鹿にしたように笑って構えを取る。
それも当然だ。カッシスワームといまのカブトでは開きが大きい。
それでも諦めるわけにはいかない。エールもヒトビトもこの男は消すだろう。
ヒトの道を切り開くことが天の道。断じて許すわけにはいかない。カブトは勝ち目の少ない戦いへと、立ち向かった。
□
サルディーヌはエールの言葉の意味を考えながら、首をひねった。
なぜエールはイレギュラーになるのを恐れているのだろうか。
そんなことは絶対起きないのに。
だけどエールは怖いといっている。悲しいと涙を流している。
そんなのは嫌だ。サルディーヌの中で、炎に包まれるビルから逃げることよりも、イレギュラーから逃げることよりも、ヒーローになることよりも。
「大丈夫だよ、エール」
手を差し出し、笑顔を向けることを優先する。
泣いているエールに早く笑ってほしいと、幼いなりに考えた結果だ。
そして、サルディーヌは一つ確信していることがある。
「エールがイレギュラーになることから、僕たちが絶対守るから」
よどみなく、しっかりと、意志の強い目を輝かせてエールに宣言した。
サルディーヌの言葉に、エールは目を見開く。
ジッと見つめられて、サルディーヌは少し照れながら続けた。
「エールは強いよ。イレギュラーを倒してきたし、もっと強いフォルスロイドやロックマン、ワームだって倒してきた」
「だからアタシは……その力をみんなに向けるのが……」
「大丈夫。だってみんな、エールのことが好きだから、そんなことしても絶対元に戻すよ」
サルディーヌのあっけらかんとした声に、エールは虚を突かれた。
サルディーヌは特別なことと思っていない。ごく当たり前のことのように告げる。いや、少年にとってはそれは普通のことだ。
「僕はフルーブに、エールが強いのは勇気が、心が強いからだって教えてもらった。
だけどエールがどんなに強くても、一人で辛そうなときだってあるってみんなわかっている。
だからそんなときは僕たちがエールを助けるんだって、決めているんだ!」
サルディーヌがエールの右手をギュッと握り、漆黒の瞳を覗き込んでくる。
どこまでも純粋な瞳が、エールを捉えて離さなかった。
「エールが傷ついたときはみんなで戦う。エールが悲しいときは、みんなで一緒に楽しくする。
エールが辛いときは、みんなだって辛くなる。エールが嬉しそうなら、みんな嬉しい」
サルディーヌの言葉は当たり前のことだった。
すべて存在するからこそ、ガーディアンもエールも仲間だと胸を張っていえる。
事実今、ガーディアンはエールがいなくても戦い続けていた。
みんなはエールが戦ってくれるから、仲間だといっているのではない。
ともに道を歩むからこそ、仲間なのだ。
「だからエールがイレギュラーになるのが怖くても無駄だよ。だって、僕たちが、仲間がついているんだもん!
絶対イレギュラーなんかにさせるもんか。エールは僕たちの仲間だい!」
真剣に、純粋に、この絆が永遠のものだとサルディーヌは力強く肯定する。
だからだろうか。乾いた土に水がしみこむように、エールの心を打ったのだ。
「エールさん、サルディーヌ君の言うことが本当か、確かめてみますか?」
フルーブがいつもの優しい笑顔で、エールに通信機を渡した。
始めに届いた声はセードルのガナリ声だ。
『この……馬鹿エール!!』
エールの耳がキーンと鳴るのもかまわず、通信機にセードルは怒鳴り続けた。
間に砲撃音が聞こえるが、彼女はかまう様子がない。
『なに当たり前のことでウジウジしてやがる! アタイたちが絶対あんたを裏切らないし、あんたが間違っていたら鉄拳制裁だ! わかったか!!』
厳しいながらも暖かい、セードルの叱咤激励が通信機から胸に響いた。
さらに遠慮がちなローズの声がセードルに続く。
『エールさん。もしもイレギュラーになるかもしれないって思っていても大丈夫です。
私が新型医療アイテムを開発して、エールさんを元に戻して見せますから。
だから安心して……っていうのもおかしいですね。ごめんなさい。
でもエールさんがイレギュラーになることは絶対させませんから。
私だけでは無理かもしれませんけど……みんなで力をあわせれば絶対大丈夫です』
目を合わせる必要のない通信機だと、長くしゃべる娘だ。
エールの胸の奥がホッカリと暖かくなる。続けて通信が別の人物と切り替わる。
『エール、ワシは信じている。だからなんの心配もしておらん』
通信機越しでも、男臭い笑みをたやすく想像できるトンの短いながら、精一杯の応援。
通信が切れた瞬間、新たにアランとトラードがでてきた。
『あー、エール。きついなら無理するな。戦うことくらい、俺たちでもできる』
『そうだな。アランのお目付け役はちゃんとやるから、エールは自分のことを考えていろよ』
トラードがしゃべり終えると、通信機越しに喧嘩を始めた。
その二人を無視して、ウイエが通信を入れてくる。割り込んでも文句が出ないので、二人は喧嘩を続けているのだろう。
『馬鹿は無視して、と。エール、あなたは今まで一生懸命だったんだから、卑屈に思うことはないわよ。
どれだけ頑張ったか、世界が相手でも私たちが証明して見せるからね』
ウイエの後も、次々と仲間たちの通信が入ってくる。
アンギーユがエールをいつもの軽い調子で褒め称えた。カルレが合理的に、でも慣れてない様子でエールを励ましてくる。
コングルがおびえながら、エールはどれだけ勇気があるのか熱心に告げた。
シリュールがやさしい口調で、老人らしく物腰をやわらかくエールを労わる。
他にも次々、ガーディアンの仲間たちがエールを励ました。
最後にプレリーが通信機に出てくる。
『エール、聞こえている?』
「プレリー……アタシ……」
『それ以上なにもいわないで。みんな、あなたのことが好きなの。なにも返さなくていい。ただ、それだけを感じて』
エールはうつむいて、サソードゼクターを見る。
エールを励ますかのように、ジルが乗り移ったかのように一度だけサソードゼクターは鳴いた。
サソードゼクターをギュッと抱きしめ、エールはつい呟いた。
「ねぇ、モデルX……モデルZ……ドレイクゼクター……サソードゼクター……アタシ、とっても怖い。
ジルさんを傷つけたから、イレギュラーになってみんなを失うかもしれないから……。
だけどね……アタシの大切なヒトを失うのはもっと怖い。いいのかな、こんな自分勝手で。
ジルさんを殺したのに……イレギュラーになるかもしれないのに……アタシなんかが力を持っても、みんなを守るために戦ってもいいのかな?」
『エール、僕は君の勇気とともにある』
『大丈夫だ。エール、自分を……仲間を信じろ』
エールは顔を上げて、大型ビルに設置されたTVに映るカブトとワームの首魁の戦いを見た。
高い身体能力に、消えるワームの力にカブトは押されている。
何度も何度も倒されても、あきらめず立ち上がり続ける。
天道総司らしくない、泥臭い戦いを続けているのはきっと自分や街を守るため。
『ククク……もう終わりだ。天道総……っ!』
カッシスワームが勝ち誇るが、倒れたままクナイガンの銃弾を浴びせたカブトが中断させる。
肩で息をしながら、装甲にひびを入れられながら、角を折られながら、カブトは再度立ち上がった。
『しつこい。なにが君をそこまで駆り立てる。この世界で孤独に生きるしかないのだろう?』
『たとえ俺が一人でも、ここには守るものがある。それがないお前には一生理解できない』
『守るもの? くだらない。世界が気に入らないのなら、世界を私たちに合わせて変えればいい』
再びカブトとカッシスワームが激突する。エールは孤独に戦う天道を見て、モデルXを掴んで瞳を見つめた。
エールは気づいた。ガーディアンの仲間たちが、エールとともに道を歩んでいることを。
エールはわかっていた。天道は自分たちと並ぶ道を行きながら、強すぎて孤独だったことを。
だからこそ、エールは天道に伝えなければならない。自分は、天道は、一人じゃないと。
「モデルX! モデルZ!!」
エールは知らず叫び、二つのライブメタルを両手に掴んだ。
エールは笑顔で心配そうに見つめているサルディーヌとフルーブに答える。
「少しだけいってくる。だからみんな、後はお願い!」
完全じゃないかもしれない。ジルのことは一生吹っ切れないだろう。
それでも背負って生きれる。それだけの強さを、仲間が与えてくれたのだから。
エールは二つのライブメタルを天に掲げて、堂々と宣言する。
「ダブルロックオン!!」
傷ついた翼(エール)は、仲間という風の助けを受けて、再び空へと飛び出した。
□
加速空間の中で、カブトは宙に浮かぶ大きな瓦礫に飛び移りながら、カッシスワームへと接近を果たした。
このタイミングなら、時間停止能力を使われる前に斬り避ける可能性がある。
クナイガンの刃を返し、右肩を狙って振り下ろした。
「遅い」
つまらなそうな声が後ろから聞こえてくる。防御も間に合わず、背中から右わき腹を突かれた。
カブトのヒヒイロカネという希少金属で構成された装甲が砕け、血が噴出す。同時にクロックアップが解けて、瓦礫がカブトの周囲になだれ落ちた。
カブトはどうにか地面を蹴って刃を強引に引き抜き、振り返りながら銃弾を放つ。
そのすべてが、カッシスワームによって迎撃された。
「これでわかっただろう? 我がフリーズの力を持ってすれば、仮面ライダーなど恐れるに足らないことを」
「悪いが、俺は諦めが悪くてな……」
「フン、無駄な足掻きだ」
カブトはクナイガンをアックスモードに変形させて、片膝をつきながらも構えを取った。
顔の前に斧の刃を構え、カブトは一つ作戦を思いついた。
(あいつの剣が刺さった瞬間、掴んで逃がさない……)
いくら時間を止められても、刃を掴まれては逃げようもない。
カブトとて無事ではすまないが、相手はワームのボス。無傷で勝てるようなぬるい相手ではない。
刺し違えても倒す。黒崎やロックマンVAVA、まだ見ぬ黒幕が残っているが、エールにすべてを託す決心を終えた。
カブトは……天道総司は孤独だ。世界を否定し、壊し、妹や仲間たちが生きる道を切り開いた。
だから天道は世界に否定されて、見知らぬ場所へたどり着いた。
ここでなら、妹であるひよりもともに戦った加賀美もいない。ガーディアンの仲間たちとはあえて距離を置いた。
エールは優しいから悲しむだろうが、今の状態からも自分の死からも立ち直ると信じている。
(俺が死ぬか……お前が生き残るか……)
カッシスワームが右手首から生える細剣をカブトに向ける。
急所を外せるか否か、それこそが肝心だ。カッシスワームが純粋に脚力で加速する。
時速百キロに迫る速度に達し、カブトへと一直線に剣を突く。
カブトはただひたすら、カッシスワームの右手に集中して空の左手を開いた。
「天道ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
カブトの集中力をトンの野太い声が中断する。カッシスワームに銃を発射しながら走ってきた。
カブトには「馬鹿、くるんじゃない!」と忠告する暇すら与えられない。
カッシスワームは体表を跳ねる銃弾を無視して、トンを鬱陶しげに見つめる。
ターゲットが変わってしまった。カブトがトンを庇おうと足に力をこめるが、カッシスワームが刃をトンに届けるのが速い。
カブトがうめいて、さらに力を入れた瞬間、赤い影が剣を振るった。
「なにっ!?」
カッシスワームは突然の乱入者にフリーズを使う暇もない。
振り下ろされ、莫大なエネルギーを開放して発生する衝撃波がカッシスワームを十数メートル後退させた。
ザッ、と足を地面に滑らせながら、赤い装甲を身にまとうロックマンが立ちふさぐ。
「エール……」
カブトがつぶやき、少女以外何者でもない存在を見つめた。
風が吹き、ロックマンとしての金の髪が火の粉が舞う中なびく。
カブトはジッと傷ついた翼を見つめた。
風が吹いてモデルZの特色であるやわらかい金の長髪が舞う。
炎が吹いてビルを焦がす中を歩き、エールは一言後ろのトンに尋ねた。
「トンさん、怪我はない?」
「ああ、ワシはピンピンしておる。それよりも天道だ!」
エールはうなずいて、膝を曲げて跳躍のための力をためる。
屈伸した膝は充分な力を補充し、一跳びでカブトとカッシスワームの間に立った。
「エール、トンを連れて逃げろ」
「いや」
「……あいつはまだお前が倒せる相手ではない。立ち直ったのなら、後のことを考えてここは俺に任せろ」
「いや」
エールの答えに表情の変化がいちいちキザな彼のことだ。きっとカブトの仮面の下で眉をしかめているだろう。
エールは意外にもそのことに腹を立てる気にはならなかった。だから本題に入る。問題はあのワームではあるが。
「エール……」
「天道、ずっと考えていたんだけどね、アタシはやっぱり……今後もジルさんみたいなワームを守ると思う」
エールは告げながら剣を構えるが、カッシスワームが動く気配がない。
余裕ぶっているのだろう。腹が立つ。
そして、震えそうになる心と身体が、先ほどの仲間の言葉で暖かさを取り戻して震えがとまる。
今のエールは、ZXセイバーを振るえる。
「天道は天の道を往くから、アタシとは違う道なんだってわかる。喧嘩することもあると思う。だけどね、天道」
エールはZXセイバーを銃に変形させて、チャージショットを放つ。
カッシスワームは余裕で避けるが、距離が開いた。好都合。
「違う道でもアタシたちの道は交わっているよ、天道」
エールはカッシスワームを警戒しながら、カブトへ右手を差し出す。
カブトはその右手より、エールの顔を見ていた。エールはなんの緊張もなくカブトへ笑顔を向ける。
ジルを殺して以来、久しぶりの笑顔。吹っ切ったわけではない。開き直ったわけではない。
心に残る重みを残したまま、前に進むことを覚悟したエールの笑顔だった。
「天道が強くて、一人でなんでもやろうとして距離を置いてくれるのはわかる。
ジルさんのときも、アタシのために汚れ役を引き受けてくれたことを知っている。
けどね、天道。アタシもみんなも、天道が考えるほど強くない。けど、弱くもない
天道が口で言わないとわからないくらい察しが悪いし、わかっていても反発するかもしれない。
だからアタシは決めたの。仲間を……みんなを守る力を持って戦うって。一緒に戦ってくれる、“仲間”と一緒に!」
エールはカッシスワームへと踏み込んで、三合剣を合わせた。
火花が散り、神速を超える剣戟のやり取りを繰り返して、カブトのいる場所へと弾き飛ばされた。
あのワームは強い。やはり一人では無理だ。だからエールはカブト……いや、天道総司に再度手を差し出す。
「天道、あなたもアタシも一人じゃない。みんながいてくれて、天道もいるからきっとあいつでも倒せる。
だからお願い。アタシたちに……あいつを倒すため、この街を守るために力を貸して!」
掴んでほしい。ともに手を取り合い、立ち向かってほしい。
カブトは天の道を往く。それは時にエールは戦わねばならない道かもしれない。
それでもエールは叫ぶのだ。
ガーディアンの仲間たち同じく天道総司は、自分たちの仲間であると。
カブト……いや、天道総司は差し出された右手を見つめてフッ、と力を抜いた。
天道総司は孤高に戦い続け、孤独であった。
彼が人付き合いが苦手というわけではない。天の道を往く彼は人に好かれることも一流であった。
非常識で言葉使いがぶらっき棒だが、他者のために動く天道は好感をもたれやすい。
しかし、天道は一人でなんでもできすぎた。
立ち向かうべき障害は一人で乗り越えてきた。もともとあった才に加え、努力をいとわない。
ゆえに天道は自分一人で動くことが一番うまくいくと思っていたのだ。
もっとも、それは幻想であった。
ネオゼクトの力を利用しなければハイパーゼクターにたどり着けなかった。
ハイパーゼクターがなければ妹は救えなかった。
ガタックに変身する加賀美がいなければ、コーカサスからハイパーゼクターを奪えなかった。
そして、天道に力を貸したものはみな消えていく。
失う運命なら、自分一人で責を背負おう。だから一人で七年前まで戻った。だから一人で世界を破壊した。
なのに、少女は言う。天道は自分たちとともにあっていいと。
(もう一度、お前たちのような奴とともに戦っていいか? 織田、加賀美……)
あの男たちが否定するわけないか、と天道は笑った。
ゆっくりとエールの差し出した右手を掴む。
「それはこちらの台詞だ。あいつは強い。エール、トン、みんな。力を貸してくれ」
エールとトンに満面の笑顔が浮かぶ。
カブトはボロボロながらも、天道は強く満ち足りた心持ちであった。
「ようやく終わったかね?」
カッシスワームが両腕を組み、退屈そうに尋ねた。
エールは挑戦的な笑みを浮かべ、カブトを立ち上がらせて告げる。
「ええ、おかげさまで。お礼にあなたを倒してあげる!」
「そうだ、その意気だ!」
トンがエールを力強く肯定し銃を構える。ぼろぼろの身体なのに、無理をする。
だが、無理といえばエールもカブトもそうだ。カブトは満身創痍。エールは病み上がり。
それでもエールはZXセイバーの刃を展開する。身体が軽い。どこまでもエールは飛べそうだった。
正眼にエネルギーの刃を構えるエールの横を、カブトが一歩前に出た。
いつもの台詞か。どこか心待ちにしていたことをエールは自覚する。
「何度でもかかってこい。キサマらでは私に勝つことは不可能だからな」
「不可能か。その言葉を必ず後悔する。なぜなら……」
カブトは右人差し指を天に向けて、カッシスワームを見据える。
静かな迫力。取り戻した余裕。傷だらけでなお、闘志は衰えず。
「仲間という風を受けて、傷ついた翼で飛ぶ者がいる。その翼を暖めることしか太陽はできなかったが、飛翔するのを見届けれた俺にもはや不可能はない。
なぜなら俺にも……絆という風がついていたのだから」
「それもおばあちゃんの言葉か?」
カッシスワームの侮辱する言葉に、カブトは鼻で笑って無造作に一歩踏み出す。
一拍おいてカブトは宣言をした。
「いいや、これは俺の……俺の仲間たちの言葉だ」
エールは驚いてカブトの顔を見る。トンは一度照れくさそうに鼻頭をこすり、銃を構えた。
カブトは悠然と歩み、エールの頬が緩む。
自分が言った「天道も一人じゃない」という言葉に対する返答だ。
そしてエールは知らないが、トンがいった自分たちを信じろという言葉に対しての答えでもある。
ゆえに天道総司が告げたのだ。仲間の言葉であると。
カッシスワームは立ったままカブトたちを迎えた。
肩が上下し、明らかに嘲笑っている。だがエールは挑発に乗らない。
笑いたければ笑えばいい。その程度でカブトたちの覚悟は揺らがない。
「一人で戦うこともできないとはな。弱くなったか? 天道総司」
「……そうでもない。前からだ」
カブトの寂しげな声が風に溶けて消えた。エールだけに聞こえたほど小さな声。
しかし、カブトの足取りはしっかりしている。
「いくぞ、エール。トン、援護を頼む!」
「うん!」
「任せろ!」
トンの銃撃を背中に、エールは身を低くしながら高速移動を続けた。
トンの銃弾を蚊ほども感じていない様子でカッシスワームが身をかがめて剣を腰だめに構える。
突きの用意か。エールは恐れずに突撃する。カッシスワームの右手が動くと同時に、モデルXを通じてサソードゼクターを動かした。
「ほう」
感心したようなカッシスワームのつぶやきと同時に、彼の右手の剣をサソードゼクターが弾き飛ばす。
右腕が上がった瞬間、エールが輝くZXセイバーのエネルギーを開放する。
エネルギーの衝撃波がカッシスワームを狙うが、姿が掻き消えて空振りした。
くる。エールの背中に斬撃の衝撃。前にバランスを崩しながらも、どうにか立て直す。
一拍遅れて剣戟の音を耳にする。振り返りZXセイバーを横薙ぎに振るった。
予想通り、カッシスワームの刃をカブトがクナイガンで受け止めている。
エールの刃がカッシスワームの紫色の甲殻を削る。
カッシスワームが舌打ちをしながら後退をした。始めて攻撃が通ったことにカッシスワームが戸惑っているが、エールは続ける意思をセイバーに込めた。
『エール、天道。そのまま続けろ!』
『過去に僕たちが戦った相手に、同じように時間を止める敵がいた。何度も連続で使えるのは脅威だけど、持続時間はそう長くない』
「なるほどな。時間停止の時間は短く、相手に接触すると同時に解けるというわけか」
カッシスワームはライブメタルたちとカブトの推理に沈黙を返した。
三人の推理が当たっていることの証明だ。エールは笑みを浮かべ、地面を蹴る。
カッシスワームが壁の瓦礫をエールに飛ばすが、トンが射撃で撃ち落す。
ナイス援護、と内心でつぶやいている間に、カブトがカッシスワームに斬りかかった。
カッシスワームの姿が消える。モデルXの声がエールの耳朶を打つ。
『エール、左だ!』
振り向き、迫るカッシスワームの刃をサソードゼクターが打ち落とすのを目撃する。
カッシスワームが力任せに軌道を修正し、エールの肩へ刃を落とした。
チャージセイバーとカッシスワームの突きが同時に当たり、エールは吹き飛ぶ。
「フリーズを破ったと勘違いしては困る。この私の最大の力はこの接近戦にあるのだからなぁ!」
知るか、そんなこととエールは内心叫び、飛んできたサソードゼクターを受け取った。
モデルXの額が光る。サソードヤイバーをエールは掴み、変身を宣言する。
「クロスロックオン!」
エールの叫びにサソードゼクターが応える。
サソードゼクターから生成された六角形の金属片が光となってエールの身体をまとう。
光から装甲が形成され、小手、胸、腰とパーツを形成していった。
腕と肩をつなぐ、マスクドフォームの特徴のチューブが形成し、サソリを模したヘルメットがエールの頭部を収める。
サソードヤイバーを一度だけ横に振り、エールはロックマンSX(サソードエックス)へと姿を変えた。
おかしい、とカッシスワームは内心つぶやく。
エールとトンが駆けつけてからというもの、カッシスワームは押されるばかりだった。
カブト単体ではかすり傷すら負わなかったのに、今は何度も直撃を受けて確実に体力を奪われている。
カブトもそうだ。妙に動きの切れがよくなり、怪我人とは思えないほど鋭い攻撃を繰り出していた。
おかしい、と二度つぶやく。
カッシスワームの時間停止能力(フリーズ)は、クロックアップの究極進化系といってもいい能力だ。
リスクといえば使用時間がクロックアップよりも短く、エネルギーを大きく消費するためクロックアップほど連発が利かず、攻撃を当てて“他者を動かした瞬間”能力の行使がとまるといったところだ。
カッシスワームはその弱点を熟知しており、接近戦において無敵を誇るほど鍛錬を積んだ。
ゆえにフリーズを破られても無敵の近接能力がある。複数対一だろうが、フリーズを無効化しようが、カッシスワームに敗れる道理はないないはずだ。
(なのに……この私が追い詰められているだと?)
カッシスワームの戸惑いは当然だ。クロックダウンチップによってフリーズを無効化されても、複数で襲われても誰一人傷をつけることは敵わなかった。
なのにただ、カブトとロックマンZXの少女と、雑魚といっていい隊員一人に追い詰められている。
その事実が、今まで無敵だったカッシスワームの矜持を傷つけた。
(認めん!!)
カッシスワームがフリーズを起動させようと準備する。強引に接近をしてカブトを斬り、返す刀でエールを引き裂けばいいとやや短絡的に考えた。
能力を行使しようとしたとき、モデルXの声が舞台に広がる。
『時間停止の力が来る! エール、天道さん、準備を!』
忌々しい、とカッシスワームの顔が歪む。地球人には認識できない表情の変化のまま、カッシスワームの耳に『Put on』の電子音が届く。
一拍遅れてフリーズを使うが、エールはサソードの触手を繭のように巻いて、カブトはマスクドフォームとなってガードを固めていた。
トンのことは眼中にない。一瞬だけカッシスワームは迷ったが、エールを斬り裂いてフリーズを解除。
流れるようにカブトへ刃を走らせるが、斧に変形したクナイガンで受け止められる。
「ありがとう、トンさん」
カッシスワームの後ろでエールの声が聞こえる。振り向くと、トンがエールを受け止めて体勢を予想よりも早く立て直していた。
エールの肩と腕からチューブが伸びて、カッシスワームの全身を巻きつける。同時に弾けたカブトの装甲が身に降り注いだ。
トンを軽視したことが裏目に出たのだが、カッシスワームはそのことを反省しない。
「終わりだ、乃木怜治」
一から続く死のカウントダウンを終えて、カブトゼクターがライダーキックを宣言する。
後ろではサソードゼクターがライダースラッシュと電子音を鳴らしていた。
フリーズを使って触手を振りほどこうとするが、もともとはマスクドフォームのもの。
フリーズの有効時間では千切れず時が戻る。
「……いいだろう。今回はキサマたちの勝利だ」
エールとカブトの「ライダースラッシュ」と「ライダーキック」の言葉がほぼ同時に出る。
前後を挟んで迫る蹴りと刃を前にしてカッシスワームは吼えた。
「だが、我らワームの終わりではない。私は……私は必ず戻ってくる! 地獄の淵からなぁ!!」
カッシスワームの身体が砕け、裂ける。爆発が全身に回り、甲殻を砕く感触を受けてもカッシスワームの意識はなお怒りに燃えていた。
ビルの屋上に火柱が走る。カッシスワームであった存在が、その強さを証明するように火柱はどこまでも天に続いた。
エールは天に昇る火柱が消えるのを見届けて、大きく深呼吸をした。
通信によると街を襲っていたイレギュラーも退いていっているらしい。
事件はお終いだ、天道を見る。天道の変身が解除されて、珍しくボロボロの姿を見せた。
「よくやったな、エール」
天道はそれでも余裕の態度でエールに笑顔を向ける。
エールは笑顔を返そうとして、天道が後ろに倒れた。
トンと一緒に、思わず名前を呼ぶ。
「「天道!?」」
天道はビルの淵にいたため、地上へ落下しそうになる。体力を失っているのか、腕を動かしていない。
エールが地面を蹴って右手を伸ばそうと考えるが、どう見ても間に合わない。
それでもエールは地面を駆けて天道を掴もうとする。天道の空の右手が空を切った。
「あぶなっかしいな」
そのとき、やや苛立たしげに告げて天道の右手を掴む者がいた。
金髪に煤に汚れた顔を不機嫌そうにしながらアランは天道を助け起こす。
エールがホッとしていると、アランは天道に肩を貸しながら告げた。
「天道、勘違いするなよ。俺はまだ認めていないからな」
「なに言っているんだ、アラン。天道を巻き添えにするからって、狙撃から接近戦に切り替えようって言い出したのはお前だろ。
それは間に合わなかったけど、無事な二人を見て安心したくせに」
トラードが現れてアランに呆れた様子で告げると、アランはやや顔を赤くしながら勢いよく振り向いた。
「あれはエールもいたからだ! 絶対こいつ一人だったら撃っていた!」
「天道が倒れそうになったからいきなり走ったじゃないか。あの反応速度は凄かったぞ。
それに、天道が俺たちの言葉だってTVに映ったとき、とても嬉しそうだったじゃないか」
「ほう、そうか。迷惑をかけたな、アラン」
天道がアランに礼を言うと、とたんにアランが顔を真っ赤にしてトラードを睨みつける。
トラードは涼しげに受け流したため、アランは実力行使に出ることにした。
「うるさい、トラード! それ以上喋るなぁぁぁぁ!」
アランが天道を放置されていた赤いバイク(後にカブトエクステンダーということを知った)に座らせ、必死にトラードを追いかけるがトラードは飄々とした様子で逃げ出す。
必死になるアランの姿に、エールはトンと顔を合わせて笑っていた。
プレリーから隊員に「ミッションコンプリート」の命令が告げられる。
エールはしばし風に身を任せて、心地よい気分に身を委ねていた。
物語はまだ終わりではない。
ワームは存在し、パンドラやプロメテは暗躍している。
被害は重く、最小限に抑えたとはいえ犠牲者は存在していた。
それに彼女たちにライブメタルが盗まれたことと、ガーディアンの研究員が皆殺しにされた報告が届くのは遠い未来ではない。
だが、今は彼女たちに勝利の美酒は許される。
空を飛ぶことを思い出した翼と、それとともにある風。
他人と交わることを再び選択した天の道。
すべてが一体感に酔い、笑顔を顔に浮かべるくらいの報酬はあってしかるべきだった。
□
夜となって星の光りの下を、白いスーツに身を包んだ厳つい男が歩く。
イレギュラーによって襲われた街は沈黙を保っているが、傷跡は深い。
ガーディアンによる復興作業の合間を縫って、カブティックゼクター……コーカサスゼクターに選ばれた黒埼一誠が目的の場所へたどり着いた。
「調子はどうですか? 乃木怜治」
黒崎がつぶやくと、黒い長髪に黒いロングコート。メガネは砕けて、むき出しのナイフのような狂気を全身に身をまとわせた男がいた。
死んだはずの男は月を見上げながら、荒々しい咆哮を天に飛ばす。
「最低で……最高の気分だ。黒崎」
そういって振り向いた男が変わったことを黒崎は肌で実感した。
カッシスワームこと乃木怜治は突然変異種だ。高い科学力で全身を分析した結果、体内にエネルギーが残っている状態であれば進化を遂げつつ復活できる。
もっとも、高い実力も持つため簡単に死ぬことはなかったが。
「私……いや、俺は身体の全エネルギーを使って究極の進化を遂げた! フリーズを維持しつつ、相手の技を奪い取る能力を!」
酔ったように告げる乃木を見つめ、黒崎はわずかに目を見開いた。
分析によれば二回復活用のエネルギーが蓄えられているはずなのに。
それほどこの男も悔しかったことか、と結論をつけた。
「天道総司……エール。その名を覚えた。いずれ……我らがワームの生贄に奉げてやる!!」
吼えながら禍々しい紫の甲殻をまといあげる。
その姿はもう、ワームといえるのだろうか。
黒埼には判断ができなかった。
そう、まだ物語は続いていた。
脅威はさらなる力を得て天道たちの壁となって立ちふさがる。
天道たちを迎え討つ試練はまだまだ存在していた。
そしてまた、夜の街を歩く影がある。
短い茶色の髪の今風の優男。白い柔らかい衣装を着たまま月を見上げる。
淡く光る満月に、丸いコウモリのような影が入った。
「いくよ、キバット」
丸いコウモリのような影が、男の肩にとまる。
それ以上喋らず、不思議な雰囲気の男はただ一言呟いた。
ディケイド……と見知らぬ名を。
To be continued……
投下終了。多数の支援をありがとうございます。
新年一発目終了。
今年も完結までお付き合いをお願いします。
それでは失礼。
投下乙でした
前回あまりに痛々しかったエールだけど、立ち直ってくれたか
よかったよかった
一人では勝てない相手に、仲間の力を借りて勝つのは王道だよね!
そしてラスト、まさかの渡乱入にびっくりした
GJです!
はじめまして。面白そうなスレを見かけたので。
拙作ですが、よろしければどうぞ。
クロス元はタイトルまんまです。
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宇宙人、未来人、異世界人、超能力者。
あいつが求めてきたものはいつだって普通じゃないものたちだ。
だが良く考えたらそこに"魔法使い"とかファンタジーなものは無かったな。
そこがアイツにしてみれば常識という最後の一線なのかもしれない。
(俺にはまったく良くわからない線引きだが)
だがすでに宇宙人、未来人、超能力者と遭遇した今となっては、
そんな奴らももしかしたら実際にいるのかもしれない、と思ってしまう。
例えば天使とか悪魔とか、――そう、死神とかな。
涼宮ハルヒの死神〜ブギーポップ・レイトケース
#1 不気味な泡の噂話
「キョン、"ブギーポップ"を探すわよ!」
世間ではキリスト教の祭典にあわせたバカ騒ぎに向けて、赤白緑の三色に色づき始める季節。
個人的には俺の根底を揺るがすようなパラレルワールドへの出来事の記憶も色あせない
そんな季節に我らがSOS団団長、涼宮ハルヒはそうのたまった。
何の脈絡もないのはいつもの発作のようなものだから、いまさら驚きすらしないが……
今回気になったのは、その中に聞きなれない単語が混じっていたことについてだ。
「何よその鳩が豆の顔は。 ブギーポップよ! ブ・ギ・ー・ポ・ッ・プ!」
「ちょっと待てハルヒ。なんだそのブギー……何とかさんとやらは」
「え、アンタもしかしてブギーポップ知らないの?」
まるで日の丸を知らない日本人を見たとでも言うかのように変なものを見るような目でこっちを見るハルヒ。
そんな目で見られても知らんもんは知らん。
「すみません涼宮さん、僕も不勉強でして。"ブギーポップ"というものを知らないのですが」
助け舟を出したのは意外にも机を挟み、アメリカ産の推理ボードゲームをしている古泉の奴だった。
おや、イエスマンであるこいつがこういう意見を言うのは珍しい。
「あ、あの……涼宮さん、その噂は女子の間でしか広まってないって、
確か鶴屋さんもそうおっしゃってました」
そう鈴の鳴るような声でおっしゃるのは朝比奈さん。
ああ、メイド服が今日も似合ってらっしゃいます。
「え、そうなの?」
「肯定。数ヶ月前から市内の女子学生を中心に流布しているものと推測される」
長門も本に目を落としたままフォロー。
今日も今日とて難しげな本を読んでいる。
題名は『VS.イマジネーター』か。心理学書か何かだろうか?
「いい? キョン、古泉君。ブギーポップってのはねぇ……」
それからハルヒたちが話してくれた話を要約するとこうだ。
曰く、黒尽くめで神出鬼没である。
曰く、男か女かわからない正体不明の存在である。
曰く、人が最も美しい時に殺してくれる――死神。
それらを聞いた俺が抱いた感想といえば。
「……アホ臭い」
その一言に尽きる。
10代特有の潔癖症とスーパーマンに対する憧れがフュージョンした様な人物像だ。
中学生のころに考えた小説にだって、もうちょっとましなものが出てくるに違いない。
「何よキョン!」
「……というかお前はそいつが実際にいると思うのか?」
「火の無いところに煙は立たないって言うでしょ!」
だったら口裂け女も人面犬も実在しているってことになりゃしないか。
まったくもって付き合ってられん。
――と、春先までの俺ならその一言を一笑に付していただろう。
だが俺はもう知ってしまっている。
非日常は想像以上に日常のそばに近寄っているものなのだ、ということを。
その証拠にこの部屋には窓際で本を読む宇宙人、お茶を入れるメイド服を着た未来人、対面でゲームを行う超能力者がいるのだ。
この――それも近辺に"ブギーポップ"がいないとは言い切れないのだ、情けないことにな。
そんな俺の心境など知る由も無いハルヒは、いつも通り三重水素の核融合のような輝く笑顔で、
「というわけで、明日、いつものところに10時集合! もちろん遅れたら罰金だからね!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
下校チャイムが鳴ると同時、ハルヒは朝比奈さんと長門と連れ立ってどこかへ行ってしまった。
なんでも今日は『女の子限定イベント』らしい。意味がわからん。
結果的にその場に残された古泉と連れ立って帰路に着くこととなった。
話題は自然と、今日のハルヒの一言についてになる。
「……古泉、お前はどう思う。ブギーポップとやらについてなんか機関のほうで掴んでいないのか」
「"機関"というと大げさに聞こえますが、あなたが思っているほど大したものではありませんよ。
例えばあの"ムーンテンプル事件"についても、僕たちはほとんど把握していません」
通称、ムーンテンプル事件。
今から一年前、隣町のショッピングモールで起きた集団昏睡事件のことだ。
一時期はどのワイドショーもその話題で持ちきりだったが、時期とともにその建物の所有者であった寺月何某の仕業(なんでも大変な変わり者だったらしい)ということで決着が付いた。
当時中学生の俺たちには格好の話題だったがね。
「へぇ、そりゃ意外だな」
「ええ、途中で涼宮さんとは完全に無関係だと判断した時点で、調査する価値は僕らにとってありませんでしたからね」
「ならお前個人としてはどうなんだ。ブギーポップとやらは実在すると思うのか」
「さぁ? 現時点ではどんな手段をもってしても『ブギーポップがいない』とは言い切れない。
今回のコレはいわゆる悪魔の証明というやつでしょう?」
だから、そんなの抜きにしたお前の意見はどうなんだ。
「そうですね……いて欲しいような、いて欲しくないような、が正直なところですかね。
だってそうでしょう?
もしもその噂に影響されて涼宮さんが物騒な考えに至ったとしたら……これは、ちょっとした恐怖ですよ」
馬鹿らしい。
アイツがそんな考えを好きじゃないのは、お前にだってわかっているだろ?
今回のコレだって、アイツにとって重要なのはブギーポップがいるかどうかじゃなくて
"俺たちとブギーポップを探す"って行為が必要なだけだろうさ。
俺がそう返すと、古泉はいつもの困ったような笑みを浮かべた。
「それはそうですが……万が一、ということも考えてしまうんですよ。
僕の役割上どうしても、ね。
……と、どうやらここでお別れのようです。では、また明日」
そう言い残し、古泉はY字路を左へ進む。
俺は当然右へと進み、そして歩きながら思考に埋没することにした。
人を殺す死神の噂――ハルヒも、朝日奈さんも、長門も知っていた。
だが女子とそれなりに接点のあるであろう(文化祭での黄色い声援を受けた姿を今でも思い出せる)古泉ですら知らなかった噂。
もちろん俺は聞いたこともない。
とりあえず家に帰ったらもっとも身近な女性陣である妹にでも聞いてみるとするかね――
「きゃっ!」
ドンッ、と胸に軽い衝撃が走る。
考え事をしてたからなのか、交差点で出会い頭にぶつかってしまった。
しかも俺のほうはとっさに踏ん張ることができたが、相手の方は地面に倒れこんでしまった。
「す、すみません。大丈夫ですか?」
慌てて謝りつつ手をさし伸ばす。
ぶつかったのは大き目のスポルティングバッグ――部活の帰りだろうか――を抱えた女子高生。
カーキ色のカーディガンと赤いスカーフは市内でも有名なあの進学校、深陽学園のものだ。
「いえ、こっちこそごめんなさい。
君も怪我とか無かった?」
手を借りて、立ち上がった女子高生は深々とお辞儀する。
普段極端な女性陣と付き合ってるだけにこういうリアクションは逆に新鮮だ。
「ええ、大丈夫です」
「そっか、良かった。それじゃあ、私急いでるから」
そう言って彼女は踵を返し、軽快な足取りで道を行く。
何てことない後姿を数秒見送って、俺も背を向け再び家への進路をとった――その時だった。
「――なるほどね。確かにこの辺りにいるようだ」
「え?」
振り向くとそこにはさっきの女子高生がこっちをじっと見ていた。
そうだ、彼女は少し気になってふと後ろを振り返っただけに過ぎない。
だからこれはなんでもない光景のはずだ。
だが何故か、俺はその表情がやたらと印象に残った。
笑うでもない。泣くでもない。かといって無表情という訳でもない不思議な表情。
長門のそれとも違う左右非対称の歪んだ顔は、まるで彼女が別の存在であるのかのように錯覚させる。
この感覚は何と例えればいいのか。
まるで違うものがそこにいる、例えば空を魚が飛んでいるような、――そんな奇妙な感覚だった。
……しかしながらしばらくすると、彼女はどこか照れたような笑みを浮かべた。
その瞬間、この奇妙な雰囲気は霧散した。
彼女はペコリ、と頭を下げると再び背を向けて歩き出した。
しばらく呆然とその背中を見送っていた俺だが、帰路へと付いた。
もちろんこれ以上のイベントなどあるはずもなく、家へと到着することができた。
だからこの件もここまでのはずだと、俺は心のどこかで思って――いや、願ってたんだろうよ。
だがこれがあの騒動の始まりになるとは、この時点の俺に予想などできるはずも無いんだ、これが。
#2 不気味な泡の影 に続く
----------------------------
多分全部で7,8話を予定しています。
読んでいただきありがとうございました
ブギーホップクロスかーw
続きが楽しみ。乙!
面白い作品が……自分も作品投下します。
・仮面ライダーディケイド×とある魔術の禁書目録
・ディケイドの冬の映画のネタバレあり
・ところどころオリジナル設定あり
・ノリは戦隊VS系列な感じで
イギリス某所。
『ATTACK RIDE BLAST!』
マゼンダに黒と白のラインが入った奇抜な鎧と仮面をつけた男が、二人のシスターへと銃弾を放つ。
その銃弾は背の低い方のシスターの前に浮かんでいた袋に命中し、中身の金貨が辺りにばらまかれた。
「ひゃあ!?」
「シスター・アンジェレネ、下がりなさい!」
もう一人のシスターが木製の車輪を構えながら叫び、その直後車輪が爆発し破片が男へと襲いかかる。
迫る破片に対し男は動じず、持っていた銃身部分がノートのような形状の銃で一つ残らず打ち落とした。
「この程度か?」
「し、シスター・ルチア……」
「くっ……あなた、何者です!?」
ルチアの言葉に男は一瞬間を置き、勿体ぶるかのように答える。
「俺は世界の破壊者ディケイド……覚えておけ」
◇
仮面ライダーディケイド
VS
とある魔術の禁書目録
第一話「世界を破壊する者」
◇
学園都市。
東京都の三分の一もの面積を誇る巨大都市だ。
総人口は二三◯万、その八割は学生で占められていた。
記憶力、暗記術という名目で超能力研究、つまり脳の開発を行っている。
この都市にいる学生はそれらのカリキュラムによって普通の人は持たない「異能」の力を持っていて、その力の強さによってレベル0〜5と区別されている。
学園都市第7学区に存在する地下街。
人々が行き来するその一角に、見慣れぬ写真館が立っていた。
つい昨日まで存在しなかったはずのその建物を誰かが気にする様子はない。
その「光写真館」の扉が開き、三人の男女が学園都市に現れた。
「ここはどんな世界なんだろうなぁ」
「さあな、ライダーの世界ではないと思うが……」
「そういえば士君、今回は服が変わってませんね」
門矢士、光夏海、小野寺ユウスケ。
この三人は消滅しようとする世界を救うため、いくつもの世界を巡っていた。
一つ前にいた世界でその使命を見事果たし、今は気ままな旅を続けている。
「けどどうしようか、もうこの世界で士がやるべきこと! とかって探す必要がないんだよな?」
「言われてみればそうですよね……」
「なら簡単だ、適当に観光でもすればいい」
士の言葉に二人は明るい表情を浮かべ、早速辺りを探索しに駆け出していく。
「……子供かあいつらは」
常盤大中学の制服を着た二人の少女が歩いていた。
一人は風紀委員【ジャッジメント】である白井黒子、もう一人は学園都市に七人しかいないレベル5の電撃使い【エレクトロマスター】"超電磁砲"の御坂美琴。
二人は買ったばかりの服が入った袋を持ち、寮への帰路についていた。
「お姉さま、またそんな子供っぽい服を……」
「う、うっさいわね、そこまであんたに言われる筋合いはないわよ」
談笑しながら歩くその背後、直前まで何の変哲もなかった空間が歪み、オーロラのような壁が現れその中から一つの影が飛び出し美琴達へと迫る。
影は辛うじて人の形をとっているものの不自然に歪み、左腕に至ってはカニのハサミのようになっている。
そのハサミのような左腕を振り上げ、美琴へと狙いをつけ――
「黒子!」
次の瞬間、二人の姿が消えた。
獲物を見失った影……カニの怪人、シオマネキングは慌てた様子で消えた二人の姿を探す。
「どなたかは存じませんけど」
辺りを見渡すシオマネキングの背後、数瞬前までオーロラの壁が存在していたその場所から黒子の声が発せられる。
「私と、よりにもよってお姉様に襲いかかるなんて、命知らずもいいところですわね」
呆れたような声で喋る黒子に、シオマネキングの姿を見ての動揺は感じられない。
学園都市の能力者には自分の姿を隠したり、変えたりできる者もいる、目の前の異形の姿もその手の能力だと判断したのだ。
その横で美琴もパリパリと前髪から火花を散らして臨戦体勢に入っている、この都市の人間だったならば迷わず逃げる状況だろう。
だがシオマネキングはすぐさま美琴へ向けてカニに酷似した口から泡状の溶解液を発射した。それを軽く横へ飛んで回避し、
「危ない!」
「うわっ!?」
更に横から飛び出してきた青年に押し倒される。
側で黒子が恐ろしい形相になっているのに気づかないままその青年、ユウスケはシオマネキングを睨みつけながら美琴へと声をかける。
「大丈夫!?」
「えっと、あー……一応」
「よかった、士、こっちは大丈夫だ!」
完全に余計なお世話だったのだが、完全に善意の行為のようだし責めるのはあんまりだろう。
そのままユウスケが声をかけた方向に目を向けると、玩具のようにも見えるベルトを持った男が疲れたような顔で歩いてきていた。
「どうしてこの世界に怪人がいるんでしょう?」
「シオマネキング……スーパーショッカーの残党ってところか」
そのベルト、ディケイドライバーを見て黒子と美琴が表情を変えるがユウスケは気づかない。
士はディケイドライバーを装着し、一枚のカードを取り出した。
「どうやらこの世界でも、俺のやるべきこととやらは存在するらしい……変身!」
『KAMEN RIDE DECADE!』
カードをバックルに入れながら叫び、それと同時に士の全身を鎧が覆う。
マゼンダに黒と白のラインが入った奇抜なデザイン、緑色の目は昆虫の複眼を模したものか。
更に七枚の黒い板が現れ、仮面へと突き刺さり七本の黒いラインと変化する。
ディケイド、門矢士の変身する仮面ライダーである。
「ユウスケ、その二人を任せた、夏みかん、他に人が来ないよう見張っておけ!」
鍔の部分がノートのような形状の剣、ライドブッカーを取り出しシオマネキングへと斬りかかる。
シオマネキングも左手のハサミと溶解液で対抗するが、どちらが優勢かはすぐにその場の全員が理解できた。
「よし、ここは士に任せて君たちは早く離れて!」
ユウスケが二人の手を掴んでその場を離れようとするが動こうとしない。
「何してるんだ、二人とも早く!」
「黒子、あれって……」
「ええ、間違いないようですわ」
二人の視線はディケイドとなった士に固定されている。
ユウスケは一瞬顔を顰め、もう一度避難を促そうと口を開く。
――直後、ユウスケの体は地面に倒されていた。痛みも衝撃もなく、いつの間に、誰に倒されたのか理解ができない。
「動かないでいたただけます?」
「なに、を――」
状況が分からないままとにかく立ち上がろうとするが、ドカドカドカッ!と電動ミシンのような音と共にその動きが封じられる。
慌てて体の様子を見るが、金属矢が服と地面を縫いつけていて動けそうにない。
「ですから、動くなと申しておりますの」
その言葉で、自分が助けようとした少女が何かをしたのだと理解する。
だがいったい何をしたのかが掴めない、ユウスケも士と同じ仮面ライダーとして戦い続けてきた戦士だ、直接倒されて気づかないわけがない。
黒子達はユウスケの方を振り向こうともしない、黒子の能力、レベル4の空間転移【テレポート】を利用した攻撃についてわざわざ説明する気などなかった。
『FAINAL ATTACK RIDE DEDEDECADE!』
ディケイドが再びバックルにカードを差し込むと同時に電子音が鳴り響く。
うおお何だこの夢のコラボレーション!!?
お前神か!?
直後、ディケイドとシオマネキングの間に10枚のカードのようなエネルギーの壁が現れ空中へと浮かび上がる。
そのカードめがけてディケイドが飛び蹴りを放ち、次々とカードのエネルギーを吸収していきそのままシオマネキングの体へと直撃させた。
シオマネキングの体が吹き飛び、地面に倒れ伏したまましぶとくもがくが、爆発し跡形もなくなってしまう。
戦いが終わり、ディケイドライバーへと手をかけるが地面に縫いつけられているユウスケの姿を見てその手を止める。
「……どういうつもりだ?」
「それはご自身の胸に聞いた方が宜しいのでは?」
士の問いかけに挑発するように黒子は返す。
背後の美琴による「手伝おうかー?」という言葉は「これはジャッジメントの仕事ですの」と一蹴している。
「ジャッジメント? その年で裁判官か?」
「あらあら、ジャッジメントがわからないとは、外からの侵入者にしてももう少し勉強してきたらどうですの? 世界の破壊者さん」
「……またそれか」
◇
「指名手配犯……?」
ツンツン頭の青年、上条当麻は配られたプリントを見て眉を顰めた。
ペラペラなA4サイズの用紙には思わずコメントを避けたくなるセンスの仮面が印刷され、その上には「この顔にピンと来たら警備員【アンチスキル】へ!」などとデカイフォントで書かれている。
更に玩具のようなデザインのベルトやら、大雑把な身体的特徴が小さく書かれているがむしろこちらを大きくすべきなのでは、と上条は思う。
(何やった奴か知らねーけど、こんな目立つ仮面すぐ外してるだろうに)
こんなインパクトのある仮面の写真を出されては、対して興味のない人間はそれ以外の情報などすぐに忘れてしまう、上条自身もその例に漏れずさっさとプリントをしまおうと動く。
「今渡したプリント、よく見てくださーい」
「へ?」
その動きを抑制する声に教壇の方へと目を向ければ、見た目12歳な酒好きヘビースモーカー女教師、月詠子萌がプリントをひらひらと振り回して声をあげている。
仮面以外に何か注目すべきところがあったのか、と上条は渋々しまいかけのプリントを机の上に戻して視線を落とした。
「えっとですねー、実は先生も詳しいことは聞いてないのですけど、アンチスキルの人が言うにはレベル5にも相当する強い力を持っているので、間違っても自分で取り押さえてやろう、等と考えないようにとのことですー」
子萌の言葉に教室がざわつく。
レベル5とと言えば一人で軍隊とも戦える、とまで評される学園都市に七人しかいない能力者だ。
上条もその内二人と出会ったことがあるがどちらも反則のような力を自在に操っていた、レベル0の上条からしてみれば別の世界の住人だ。
と、そこで先程の言い回しに違和感を覚える。
(レベル5『相当』……?)
能力者が相手だとしたらこのような言い回しはしないだろう。
だとすると考えられるのは学園都市の武器で武装した無能力集団【スキルアウト】か大人か……それも不自然に思える、銃器などを指して能力者のレベルで例えることなどないからだ。
(だとすると……魔術師か!?)
上条の背筋を冷たいものが走る。
星覇祭の最中に学園都市を支配下に置こうとした魔術師と激戦を繰り広げたことはまだ記憶に新しい。
無意識に拳を握るが、直後自分の机に丸めたメモ用紙が投げ込まれることで我に返る。
誰だ? と思いながら紙を開くと「後で話がある」という短い文だけが書かれていた。
周囲を見渡すと、金髪サングラスと目立つ格好で話を聞くふりをしている土御門元春がサングラスの下からじっとこちらに視線を送っているの気づき、頷いて答える。
(土御門が関係してるってことはやっぱ魔術師か! くそ、狙いはなんだ……インデックスは大丈夫だろうな!?)
「結論から言うと、相手は魔術師じゃないぜよ」
「…………は?」
放課後、上条は土御門に先導される形でいつもの寮への帰宅ルートからは外れた道を歩いていた。
裏路地のようなすぐに思いつく「人のいない場所」ではない、それなりに店などもあるのだが人通りのない、人気の無いスポットというやつだ。
そこでの土御門の第一声に、上条は思わず間抜けな声をあげてしまう。
「じゃ、じゃあ能力者なのか……」
「いーや、それも違う。どうやらこいつは魔術サイドでも科学サイドでもない、完全な第三勢力らしい」
「第三勢力……?」
その言葉で上条が思い出したのは、以前学園都市の人間になりすまし美琴に近づこうとしていた魔術師から聞いた話だ。
彼は上条を中心とした科学サイドと魔術サイド両方の人間による強固な人間関係を新たな「上条勢力」と呼び、二つの勢力のバランスを崩すのではないかと危惧していた。
この手配犯はそういった今保たれているバランスを崩そうと動いているのだろうか。
「詳しい目的や正体は掴めてない、ただこいつが魔術師に攻撃を加え、今学園都市にも刃を向けていることは事実だ」
「……? でも待ってくれよ、魔術師でも能力者でもない奴がそんなことできるのか?」
「現に行われてるんだからそこはできるもんだと思ってもらうしかないにゃー、問題なのは、こいつが魔術師と敵対しながら学園都市にいるってところだ。こいつは自分たちの敵なんだからこっちも黙っていられない、
なんて理由をつけて好き勝手学園都市をうろつかれちゃたまったもんじゃないぜい」
確かに敵を探す、という名目で学園都市の機密を探り出そうとする者は出てくるだろう、監視の目はあちこちにあるものの、今まで幾度となく学園都市内部に侵入してきた魔術師達を知っている上条としてはほとんど気休め程度なものである。
「一応今は実際に襲撃を受けた必要悪の教会【ネセサリウス】が人材を派遣するってことで抑えがついてるが……時間の問題だ」
「早いとここっちで捕まえないとまずいってことか」
「ま、それは実際アンチスキルやジャッジメントの仕事なんだけどな、カミやんは禁書目録を守ってほしい」
突然出てきた名前に上条の表情が険しくなる。
「インデックスが狙われてるのか!?」
「わからない、だが相手は『世界の破壊者』を名乗っている……禁書目録の十万三千冊の魔道書を利用する可能性もあるってところだ」
「世界の破壊……!?」
「ああ、こいつの名前は世界の破壊者ディケイド、最も自分で名乗ってるだけで本名かどうかはわからないがな」
◇
黒子は士から一定の距離を保ちながら、そっとふとももに巻かれているベルトにセットしている金属矢に触れる。
彼女のテレポートは強力な力だが、その制約も多い。
ししししえん
3次元から11次元への特殊な移動は複雑な式で計算しなくてはならず他の能力より脳への負荷が大きい、そのため痛みや動揺などで集中が切れてしまえば使用不能となる。
更に現状で最も厄介なのは対象物に触れなくてはならないということだ、極端な話テレポートで士を飛ばせれば床や壁に埋め込んでしまうことも可能だが、それにはまず直接触らなくてはならない。
だが先程の戦いを見る限りそれは容易なことではないだろう、一撃でもくらえば致命傷になりかねない。
「おい、誰に吹き込まれたかは知らないが、俺はもう破壊者なんかじゃ」
「犯罪者の言う事を聞く趣味はありませんの、大人しく捕まってくれるのでしたら弁護士がいくらでも聞いてくれますわよ」
「このガキ……ちょっと躾が必要なようだな?」
流石に少女に斬りかかるのは気が引けたか、ライドブッカーをしまい黒子へと駆け出す。
士の間合いに入る直前にテレポートを発動、士の真後ろに現れる。
「なっ……!?」
「相手を見た目で判断する、そういうのは死亡フラグですわよ?」
言いながら士へ手を伸ばそうとし、再びテレポートで間合いを離す。
直後黒子がいた空間を士の拳が通りぬけ、やはり直接触れるのは難しいと判断する。
「なんだ、クロックアップ、じゃないな……」
「降参する気になりました?」
「この、人が手加減してれば調子に乗りやがって……ぐあっ!」
ライドブッカーに手を伸ばした右手に金属矢が突き刺さる。
転移先の物体を押しのけて移動させるテレポートには、ライダーの装甲さえも意味をなさない。
士は右手を抑えながらその場に蹲ってしまう。
「まったく、気は済みましたの?」
「……いいや、これからだ」
「っ!?」
蹲り黒子の視界から隠していた左手に二枚のカードが握られていた。
黒子が再び金属矢に触れるよりも早く、一枚のカードをバックルに入れる。
『KAMEN RIDE KABUTO!』
電子音と共に士の纏っていた装甲が姿を変化させる。
青い複眼、緋色の装甲、そしてカブト虫を模した赤い角が目をひきつける。
カブト、天の道を往き、総てを司る男が変身する仮面ライダーだ。
「姿が変わった……?」
「黒子!」
何か攻撃が来ると思っていた黒子は予想外の出来事に思考を巡らせるが、美琴の声に我に返る。
起死回生の一手を打とうとしている相手に受身になるなど悪手以外のなにものでもない、だが黒子が行動に移る前にすでに士は二枚目のカードをバックルに差し込んでいた。
『ATTACK RIDE CLOCKUP!』
瞬間、世界が止まる。
慌てて金属矢に触れた黒子も、そのフォローをしようと駆け出した美琴も、拘束を外そうともがき続けていたユウスケも、全員が不自然な体勢のまま動きが止まっていた。
全てが静止した世界でただ一人、士だけが平然と動き右手に刺さっていた金属矢を引き抜き放り捨てる。
金属矢は地面へ落ちるが、その穂先から流れ落ちた血は空中で不自然に留まったままだ。
クロックアップ……カブトの持つ周囲の時間の流れを何倍も遅くする力である。
「まったく、厄介な世界に来たな……」
愚痴りながら黒子の背後へと周り、その首に軽く手刀を降ろす。
『Clock over』
再び電子音が鳴り、それと同時に時間の流れが元に戻り黒子は気を失いその場に倒れ伏す。
「なっ!?」
倒れた黒子と士を交互に見ながら美琴は驚愕に満ちた声を上げる。
彼女からしてみれば一瞬で士が黒子の背後に移動したようにしか見えないのだ、士もテレポートの能力を持っているという可能性が頭をかすめるがそれなら今まで使わなかった理由がわからない。
警戒を強める美琴に対して、士は疲れた視線を向けた。
「やめとけ、子供を虐める趣味はない」
その言葉に美琴の目つきが鋭くなる。
七人しかいないレベル5の第三位、そのプライドを逆撫でするには十分すぎる言葉だった。
「世界の破壊者だなんて名乗って、人の後輩傷つけて、それでそんなセリフよく言えたわね」
「お、おい待て! 世界の破壊者を名乗った覚えはないし、先に手を出したのはそっちだろう!」
「今更トボけたこと言ってんじゃないわよ!」
前髪から火花を散らし、叫びながら士へと雷撃を放つ。
側の黒子を巻き込むことを恐れたか狙いは甘い、なんとか回避に成功するが士は仮面の下で表情を歪める。
「今度は雷……なんなんだこの世界は」
ぼやきつつも新たなカードを取り出す。
クロックアップは時間を止めるわけではない、元々の速度が光速に近い雷が相手では回避しきれる保証はない。
雷に対抗するには――
「こっちも雷だ!」
『KAMEN RIDE STRONGER!』
士の姿が再び変化する。
カブト虫を模した角に赤い装甲、それは先程のカブトと似ているともいえる。
そんな中、風になびく白いスカーフと装甲の胸に刻まれたSの文字、更に先程はスマートな印象だったフォルムからは力強さを感じるようにはっきりと変化していた。
ストロンガー、電気の力を扱い友人の仇を討とうと戦う熱き男が変身する仮面ライダーだ。
「また変わった!?」
「少し大人しくしてもらうぞ!」
『ATTACK RIDE ELECTROFIRE!』
電子音と共に地面へと拳を叩きつける。
拳を通じて放出された電流が地面を伝い、美琴へと襲いかかった。
(電気!? こいつの能力は――!)
しかしレベル5のエレクトロマスターは伊達ではない、自分の電撃をぶつけて無理矢理に軌道を曲げる。
「そうか、あんたの能力は模倣【コピー】……!」
「はぁ?」
黒子との戦いでは空間転移、自分との戦いでは電気を操る士の力を美琴の常識で当てはめて思い浮かぶのはそれだけだ。
自分だけの現実【パーソナルリアリティ】による能力は通常一人一つしか持つことはできない、仮に美琴が黒子に空間転移の理屈を説明されたところで空間転移の能力が発現したりすることはない。
だがもしもパーソナルリアリティを読み取り理解する力があったらどうか? 相手の力を理解し真似ることができるのではないだろうか。
「上等、どこまで真似できるか見てやろうじゃない!」
瞬間、美琴の前髪から雷撃の槍が生み出される。
それは自然界で生み出される雷とほぼ同等の紫電で作られた、青白い光の槍。
その迫力に士もたじろぎ、焦りをのぞかせながら更なるカードを引き抜く。
「『あいつ』に撃った時よりは手加減するわ、私の力をコピーしてるってんなら、死にはしないはずよ」
『FORM』
「いけぇ!」
『RIDE――
光の槍が放たれる。空気中の酸素を分解しオゾンへと組み換えながら突き進み、一瞬にして士の目の前へとたどり着き轟音を撒き散らし直撃する。
「……ちょ、ちょっと?」
それは美琴にとって完全に予想外の出来事であった。
彼女の考えていたようにレベル5のエレクトロマスターをコピーしているならば、いや、そうでなくとも先程のように電気を操る力を持っているなら直撃を避けることができたはずだ。
そう、今の一撃はかわされるのを前提で打ち込んだのだ、それだけの威力を持っている……直撃すれば、命の危険があるレベルの攻撃。
美琴の手の平にじっとりと嫌な汗が浮かんでくる、殺してしまったのだろうか? そう考えると自然と体が震えだす。
御坂美琴は人の死を平然と受け入れられる人間ではない、自分のせいで誰かが死ぬのであれば、自分の命を投げ出してでもその相手を守ろうとする人格者だ。
たとえ犯罪者であろうとも殺してしまって「やりすぎちゃった」で済ませられはしない。
「う、そ……」
「そう思うなら、初めっから撃つな」
「――っ!?」
――CHARGEUP!』
雷撃の影響で舞っていた土煙が収まり、その中から平然と士が現れる。
その姿に先程と変化はない、胸の装甲に銀色のラインが入り、額の角も同じ色に染まっているが――ダメージはない。
「なんで……?」
無事だったことに安堵し、それ以上に恐怖を抱く。
先程の攻撃が直撃した、それは間違いない。だというのにダメージがないということは例え自分の力を利用したところでありえないはずだ。
「確かに凄い雷だったが、超電子の力には適わなかったようだな」
「超、電子……」
通常の電気技が通じない敵と戦うため編み出されたストロンガーの力、超電子。
その力はそれまでのストロンガーを遥かに上回り、幾度とないピンチを救ってきた。
未知の力に美琴は数歩後ろへ下がる、エレクトロマスターの彼女でも超電子などという物は聞いたことがない。
士の能力はコピーなどではないのだ、レベル5の自分をも上回る電撃使い……そう考えた瞬間、美琴はポケットから一枚のメダルを取り出し士へと向ける。
「おい、いい加減にしろよ」
「っ……!」
超電磁砲。
彼女の二つ名ともなっているこの技は美琴の切り札と言ってもいい。
直接の雷撃が効かなくとも、超高速の弾丸を受ければ無事では済まないだろう。
……だが、その絶対的な威力こそが美琴を縛る。
直撃させては今度こそ殺してしまうかもしれない、美琴はこの超電磁砲をある一人を除いて人に向けて放ったことがないのだ。
このままでは負ける、だからといって切り札を切ってしまえば殺してしまうかもしれない、美琴の思考が限界に近づき、士も美琴が暴走しかねない状況であることに気づき迂闊な動きを取れない。
と、硬直状態に入りかけた二人の間を青い影が走り、次の瞬間には美琴の手にあったメダルが消えていた。
「え?」
「この場面で出すからには何かお宝かと思ったけど……どうやら大したものじゃなさそうだね」
「海東! お前今までどこに行ってたんだ!」
メダルをしげしげと眺める青い仮面の男、海東へ士が問い詰める。
ディエンド、士と同じように世界を渡る仮面ライダーだ、その姿は基点の色が青であることを除くとディケイドによく似ている。
「なにをする気かはわからないけど、何か切り札を使うつもりだったんだろう? 感謝したまえよ士」
「お前は……いつになっても相変わらずだな」
「仲間? そんな……」
親しいのか険悪なのかわからない会話をする二人を見て、美琴は表情を曇らせる。
士一人に苦労しているというのにもう一人など相手にできない、それに黒子が最初に拘束した青年まで加わってしまえば勝ちの目はほとんど消えるだろう。
思わず後ずさろうとするが、背中に人気配が現れ動きが止まる。
(うそっ、いつの間に後ろに――)
「黒子!?」
「お姉さま、一端退却しますわ!」
いつの間にか意識を取り戻していた黒子が美琴を連れてテレポートでその場から消え去る。
士と海東は辺りを見渡すがどこにも二人の姿は見つからない。
「残念、逃げられてしまったようだね」
「たくっ、いったい何だったんだ」
ディケイドライバーを外し、元の姿へと戻る。隣で海東も変身を解いて青年の姿になっていた。
「そうそう士、こんなものを見つけてきたんだ」
「何だ? ……指名手配、か、どっかの世界で似たようなことがあった気がするな」
「まったくだね、でもここはライダーとは関係ない世界だ……どういうことかわかるかい」
「ああ、嫌ってほどにな」
疲れ果てた表情で天を仰ぐ。
地下街を覆う天井を見ながら、士はその名を呟いた。
「鳴滝……」
第一話 END
NEXT STORY「お宝、禁書目録」
一話投下終了します。
それではまた次回まで。
投下乙!禁書世界まで通りすがるディケイド、
このコラボは面白すぎだぜ
冬映画の世界をくぐり抜けたのか
昭和ライダーまで変身できる士がさらに強力に・・・
さてはゴルゴムの仕業かっ!!許ざんっ!!
そういやCUにまでなってる・・・まさに外道
最終的な敵はSショッカー残党なのだろうか
しかし次回のタイトルが不穏だw
ファイナルアタックライド「DE」がいっこ足りなくないか?w
おもしれええええ!意外にはまってる
また期待したい作品が出てきた
しかしディケイドってなんでもありの能力も設定も便利すぎるなw
ディケイドと禁書のクロスw 続きを楽しみにしています。
それでは、第十話投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
※二次創作ようの設定あり(劇場版におけるサソードの末路など)
※ディケイドの設定、キャラを出していますが、ディケイド本人が出ることはありません。
これまでのロックマンZX×仮面ライダーカブトは!!
http://www31.atwiki.jp/crossnovel/pages/15.html(まとめwiki)
九話 DIFFERENCE [ズレ]
燃え盛るビルの屋上、一人男が壁に背を預けて立っていた。ボサボサの金髪に野性味あふれる顔つき。
紫色のジャケットに紺のズボン。黒いインナーを身につける男、ペンテの視線はビルの大型テレビへと向いていた。
『天道、あなたもアタシも一人じゃない。みんながいてくれて、天道もいるからきっとあいつでも倒せる。
だからお願い。アタシたちに……あいつを倒すため、この街を守るために力を貸して!』
少女の言葉に天の道を往く男が応えた。
その様子を見つめて、ペンテの右手に収まるライブメタルが吐き捨てる。
『相変わらず甘ちゃん坊やだ』
「フフ……」
嫌悪感丸出しのモデルVAを無視して、ペンテの口は笑みを形作る。
モデルVAとは真逆の感情。歓喜を胸に宿らせたまま、踵を返す。
自分がやることはない。放っておけばいい。
なぜなら、エールと天道が勝つことが確定したのだから。
□
建物が焦げている臭いが天道の鼻腔を刺激していた。
一週間前に襲撃されたこの街は復興の兆しをみせている。
破壊された建物の修復に被害にあった人たちの支援にとガーディアンのメンバーは忙しい。
ただ、数名の隊員とフルーブ、プレリーの姿はない。ガーディアンの研究所が襲われたとのことだ。
プレリーはその調査に出向いていた。少し前まではエールも一緒だったのだが、今頃は別行動を取っていることだろう。
エール自身、『自分にはやることがある』と言って離れたのだ。
向かった場所はジルの母親であるエリファスのところだ。
この件を決着付けたいということだ。今はその優しさがいい方向に向かってくれて嬉しい。
天道は赤いバイクへまたがった。一見中型バイクに見えるのだが、重装甲に隠された馬力はとんでもないものを誇る。
カブトエクステンダー、ワームから天道が奪い返したものであった。
鯖を入れてあるクーラーボックスを後部にくくりつけてエンジンキーを回したとき、天道の傍を茶髪の白い服を着た青年が通りすぎる。
「仮面ライダーカブト。残された時間は少ない」
天道はその声に振り返るが、先程の青年の姿はない。おそらく、あの青年の言葉なのだろう。
時間が少ない。真意は知らないが、その言葉の理由はなんとなく察しがついている。
天道が右手のグローブを外すと、金色の粒子が僅かにあがっていた。
七年前に遡り世界を破壊したときより緩やか、しかし同じ終りの現象。
数秒してようやくタキオン粒子は消える。天道は一つため息をつき、青年が消えた先に視線を向けてバイクを発進させた。
天道が数秒前視線を向けた先には段差がある。
その段差につまづき、倒れている青年の姿があった。
どこからともなく、コウモリに似た生物が青年の頭上へ飛び降りてくる。
「大丈夫か? 渡」
「結構痛い……助けて、キバット」
「……本当にお前一人でなんとかなるのか……?」
キバットと呼ばれた生物が呆れた様子でぼやいた。
渡といわれた青年は消えたのではない。つまづいて転んだため、タイミング悪く振り向いた天道の視界から消えていただけだった。
なんともトロイ青年だが、彼を知るものはすべてこういうだろう。
『渡らしい』と。
□
何度か歩んだ道を進み、陽光に目を細めながらエールはジルの店へとやってきた。
見知らぬ店員とエリファスが会話しているのが外からわかった。
すぅー、と一回だけエールは深呼吸をする。
緊張しているのが自分でもわかった。ライブメタルの二人が心配しているが、大丈夫だとエールは告げる。
最近は襲撃された街の復興、盗まれたライブメタルの探索で時間を作ることが出来なかった。
一日だけ時間ができたとき、エールは休むよりも優先すべきことを見つけて足を運んだ。
そういえば、天道が「自分もついていくか?」などと心配していたな、とエールは楽しそうに笑みを浮かべる。
ジルウェとはちがった意味で天道には兄のような感覚を持っていた。
少しだけ心が楽になり、エールはドアを潜る。
柔らかい金髪のショートカットに、メリハリのきいた身体。車椅子に乗った女性はエールをみて少し驚いた。
「お久しぶり、エリファスさん」
「ええ。いらっしゃい、エールちゃん」
エリファスはやや緊張したエールの挨拶に、ごく自然に返した。
エールは彼女に招きいられ、さらに足を踏み込んだ。
「エールちゃんはコーヒーに砂糖を入れる?」
「うん、お願い」
エールはエリファスに勧められ、コーヒーカップを手にとった。
口調を改めようとも思ったが、エリファスがそのままでいいといったためいつも通りだ。
言葉少ないのはエールが多少なりとも緊張している証拠。
だからといってガチガチになるほどでもない。
「新しい人雇ったんだ……。やっぱりジルさんがいないから?」
「ええ。あの子、いなくなる前に手配していたらしいの。本当、準備がいいできた息子だったわ」
エリファスの屈託のない笑顔にエールは頷く。
三日欲しい、とジルが告げたのはこういうことだろう。
エリファスは事故で車椅子の生活を余儀なくされていた。彼女が生活を送れるよう、彼は手を尽くしたのだ。
「エリファスさんは強いね……」
「どうしたの?」
エールはエリファスの疑問に、眉を八の字にして困ったように続きを告げる。
「アタシ、ジルさんが死んでからしばらくうまくいかなくて……それで、元気に過ごしているエリファスさんがすごいなぁ、って」
「そんなことはないわよ。エールちゃんの仕事は大変なんだから、そういうこともあるわ」
エールは苦笑いのままコーヒーをすする。黒い液体の苦味に少し顔をしかめ、エリファスの顔を見つめた。
瞳は相変わらず穏やかなままだ。エールを恨んでいないはずがないのに。
エールは一度目を伏せてエリファスへと顔を上げた。
「エリファスさん、アタシ……ジルさんを殺した。だからエリファスさんはアタシを恨む権利があるよ」
「エールちゃん……」
なんだ、そんなことかとエリファスは穏やかにつぶやいた。
エリファスは少し天井を見つめ、数秒してエールと目を合わせる。
「むしろ私は……きっとジルもエールちゃんに感謝しているわ」
「そんな……」
エールの唇をエリファスの人差し指がおさえ続きを紡ぐ。
エールの困った顔がおかしかったのか、エリファスがほほ笑んだ。
「ジルはずっと死にたがっていた。私ではその願いを叶えれなかったわ」
「けど……」
「そしてね、エールちゃん。私は最後にエールちゃんがジルと会わせてくれて感謝している。
天道さんは私に息子が死ぬところを見せたくなくて置き去りにしたんだろうけど……私はジルに再会してよかった。
だって、エールちゃんが『本物の愛情』を届けてくれたもの」
「本物の愛情……?」
「私はジルとずっと偽りの日々を過ごしてきた。お互いに隠しことをして、本当に自分を愛しているか確かめるのが怖かった。
いつか終わるってわかっているのにねぇ。だから……最後の最後にエールちゃんがジルとの本当の気持を伝えさせて、とても感謝している。この気持ちは本当よ」
エリファスは穏やかながらも、しっかりとした口調でエールへ感謝を示す。
エールはなにを告げようとして、言葉にならなかった。
ありがとう。
エリファスの言葉は、エールの中のひっかかりを解消してくれる。
エールはまだ自分を許せないかも知れない。
それでも、自分を許して感謝してくれている人がいた。とてつもない救いの言葉だ。
エールは目頭が熱くなって、思わず顔を伏せた。エリファスが心配するが、エールは笑う。
自分の救いになった、とその極上の笑顔でエールは告げた。
□
氷に閉ざされ、雪が積もった地域で爆発音が断続的に鳴り響く。
足を踏み入れたヒトビトを凍らせ、震わせるエリアで爆煙を尾のようにまとわせながら転がる戦士がいた。
紫の鉄仮面にT字状の黒いゴーグルが備え付けられ、中央の単眼が赤い光を放つ。
紫色のアーマーに黒いインナーのロックマン。ペンテが変身するロックマンVAVAであった。
右肩に装備されたキャノン砲、左肩に装備されたミサイルランチャーから火線を放ちながら地面を滑って後退していく。
青と黒をメインカラーにした人影がレーザーとミサイルの雨をくぐり抜け、ロックマンVAVAへの接近を許す。
「チッ!」
『振り切れ、ペンテ!』
ロックマンVAVAが舌打ちし、モデルVAが指示を飛ばす。
左後方に飛ぼうと力を入れるが、目の前の人影は読んでいたように右拳を脇腹に突き刺した。
ロックマンVAVAは吹き飛び、無様に地面を転がる。
二度目の舌打ちとともにロックマンVAVAは立ち上がって敵を睨みつけた。
「追い詰められると左後方に跳ぶ癖は変わっていないようだねぇ、ペンテ」
「あん?」
低い女性の声にペンテが訝しげに顔を歪ませる。目の前にいる“フォルスロイド”は女性のようだった。その割には背は高い。大柄のペンテとたいして変わらない。
全身刃のような鋭角なアーマー、胸部と腹部は白いが脇から背中までは真っ黒だ。
退化した翼のような両腕。鳥のような黒いマスクに鋭いクチバシ。足には三本の爪が鈍く光っている。
金のラインが眉毛のようにかたどっている。イワトビペンギンを模したフォルスロイド。
確か名はコールドエンプレス・ザ・ペンギロイドといったか。
正直なところ、大まかな外見と名前しか知らない。なのになぜこうも自分を知っているかのように話しかけるのか。
『知り合いか? ペンテ』
「さあ……なっ!」
ロックマンVAVAがどうでもよさそうに吐き捨てて、右肩のキャノンからレーザーを発射させる。
不意打ちだ。避けれるはずはないのだが、またも読んでいたらしいコールドエンプレスは跳躍してロックマンVAVAの頭部を蹴る。
鋭い爪に装甲を数ミリ削られるが、辛うじてやり過ごせた。
「アタイの声を忘れたかい、ペンテ。しょうがないねぇ」
そう言ってコールドエンプレスの装甲が光に変換される。
ロックマンVAVAの眼前でアーマーが体内に吸収されて、人型のレプリロイドが姿を見せた。
青い髪にレプリロイドであることを示す三角の赤いマーキングが額に収まる。
肩までで切りそろえられたショートボブにキツメの美人。
迷彩柄のジャケットを羽織ったメリハリのきいたボディのまま、コールドエンプレスがロックマンVAVAと対峙する。
「キサマ――ッ!」
「ようやく思い出したかい? あんたに生きる術をすべて教えた師匠をさ」
薄く笑ってコールドエンプレスが皮肉げに告げる。
ロックマンVAVAは言葉を失い、立ち尽くしていた。
『変身……キサマもロックマンなのか?』
「いいや、アタイはレプリロイドからフォルスロイドに改造を施してもらっただけさね。
潜入型フォルスロイドとして開発されたから、一般人形態も残してわあるのさ」
疑問をつぶやくモデルVAに律儀に答えてコールドエンプレスはロックマンVAVAを見つめる。
対し、ロックマンVAVAの反応は薄い。ただ風とともに雪が舞う。
先に言葉を発したのはコールドエンプレスだ。
「ペンテ。あんたがこっちに戻るか、モデルVAを渡すかしないかい? そうすれば元教え子のよしみだ。命だけは助けてあげるよ」
「フン、くだらない。お前こそここから逃げれば、元先生のよしみで命だけは助けてやるぜ」
「相変わらず強気だねぇ。そうでなくちゃ、裏切り者の討伐なんて汚れ仕事は引き受けないさ」
クックック、ととてもおかしそうにコールドエンプレスは笑う。
モデルVAが馬鹿にされた気がしたのだろう。苛立っている。
ペンテはこの上から目線の態度は無意識の癖だと知っていた。
もっともそんなことは関係ない。ただ一つ確定していることがある。
「お前が相手なら少しは楽しめそうだな。やろうぜ」
「……ホント、せっかちなところも変わらないねぇ」
コールドエンプレスは懐かしそうに告げて、一瞬でフォルスロイド形態へと姿を変える。
氷の散弾がロックマンVAVAを襲い、迎撃しながらロックマンVAVAは吠えた。
爆発が轟き雪が盛り上がって吹き飛ぶ。
キラキラ光る雪の中、コールドエンプレスとロックマンVAVAの蹴りが激突した。
衝撃で雪原が波打ち、互いに反動を利用して大きく距離をとる。
着地と同時にロックマンVAVAが右のレーザーを発射と見せかけ、指に仕込まれたバルカンを掃射する。
コールドエンプレスは冷静に吹き飛ばした雪を固め、氷の壁を作り上げる。
銃弾が通らないことにロックマンVAVAは舌打ちを一つ。思考を切り替え地面を踏んで跳躍する。
接近戦で倒す、と思考を進めて氷の壁ごと殴りつけた。
「甘いねぇ」
頭上から降り注ぐ声。相変わらずの余裕にロックマンVAVAの鉄仮面の下で唇を持ち上げる。
やりにくい相手だ。それが最高によかった。
『氷のショットガンか。砕け、ペンテ』
言われなくても、とロックマンVAVAは内心で答える。
両腕のマシンガンで砕くが、取りこぼしたものがロックマンVAVAの右肩のアーマーを砕いた。
血が流れ雪にシミを作る。キャノン砲が無事であるのを確認し、レーザーを発射する。
一筋の閃光が雪を蒸発させるが、コールドエンプレスには命中していない。
氷をまとった敵の拳がロックマンVAVAの鳩尾に突き刺さる。
血反吐を鉄仮面の口に当たる部分から吐き出して吹き飛び、ロックマンVAVAは地面に全身を叩きつけられた。
追撃がくる、と後転してコールドエンプレスの踏みつぶしを回避する。
ギュッと雪を一握りつかんで、コールドエンプレスの目を狙って投げた。
「くっ!」
「いくぞ、モデルVA!」
『いいぜぇ……』
低い笑い声を背にロックマンVAVAが地面を蹴る。ロックマン特有の高速移動、ダッシュが二人の間合いを詰めた。
ロックマンVAVAの身体が青い炎をまとい、コールドエンプレスへと迫った。
バーニングドライブで炎に弱いだろうコールドエンプレスを吹き飛ばそうと考えたのだ。
ロックマンVAVAの持つ技で最強のもの。倒せるとロックマンVAVAは確信する。
そのロックマンVAVAを前にコールドエンプレスは一言つぶやいた。
「本当にあんたは昔と変わらないねぇ」
懐かしむような声とともに、雪が大量に宙に舞う。
ロックマンVAVAの視界を白い雪が阻害して一瞬だけ目を背けた。
その一瞬でコールドエンプレスは姿を消している。
『下だ、ペンテ』
モデルVAが忠告するが遅い。雪の中をコールドエンプレスが移動して、真下より胸部を斬り裂いた。
斜めに走った胸の傷から血が流れ、衝撃にロックマンVAVAが吹き飛ぶ。
後ろには崖。地面までの距離はかなりある。いくらロックマンでも重傷は必須。
ロックマンVAVAは辛うじて出っ張る岩肌を掴んだ。そのロックマンVAVAをコールドエンプレスは見下ろす。
「どうだい? さっきの件、考えなおすかい?」
「……ハッ。俺のいいたいことはわかるだろ? …………フィオ」
「懐かしい名だねぇ。それじゃ、サヨナラだ」
コールドエンプレスがぶら下がるロックマンVAVAへと右手を向ける。
氷の弾が形成されて、ロックマンVAVAを狙っていた。紫の鉄仮面の下で、ロックマンVAVAが獰猛に笑う。
「お前に殺されるなんてゴメンだな」
そうつぶやき、あっさりとロックマンVAVAは手を離した。
落下していきながらもふてぶてしい態度は微塵も変化がない。
崖下の暗闇にロックマンVAVAは飲まれる。絶対死なないと根拠不明の自身を持ちながら。
コールドエンプレスは両腕を組み、崖を前に瞑想をしていた。
ロックマンVAVAとの戦闘から二時間は経つ。崖下の調査をメカニロイドに任せてジッとしていたのだ。
元の職業柄、過酷な環境で待つことには慣れていた。
ペンテも好戦的な性格とは逆に、待つことは得意だった。
見たところあのモデルVAとペンテは似ているようで似ていない。
コールドエンプレスは閉じていた目を開くと、偵察に放っていたメカニロイド・メカヤンマが飛んできた。
「……やっぱりペンテの反応はない、と」
特に意外そうでもなく、コールドエンプレスはつぶやく。この程度で死ぬようなやわな鍛え方はしていない。
コールドエンプレスは戦闘用のフォルスロイドの姿から、潜入用の人型レプリロイドへと姿を変える。
かつてフィオと名乗った姿で崖から地面を見下ろす。この先はインナー指定を受けている場所だ。
ならばこの姿が役に立つ。
コールドエンプレスことフィオは極寒の地を離れた。
□
薄暗い研究所のような場所で黒い高級スーツに身を包み、右眼を眼帯に隠した男が歩いていた。
弟切ソウが目当てのドアの前で足を止める。
ドアに備え付けられた電子パネルから声が聞こえた。
『弟切さん? 準備なら出来ていますからどうぞ、お入りください』
「わかった」
弟切は短く答えて、パネルを操作してドアを開く。
薄暗い室内の中の淡い光りに弟切は眉をしかめた。サイバーエルフがカプセルに保存されている。
大きなモニターはこの研究所のメインコンピューターとつながっていた。
弟切の左眼に揺れる金のポニーテールが映る。赤いジャケットの上に白衣をはおった見た目だけなら二十代前の女性が、弟切へと近寄ってくる。
綺麗というよりは可愛らしいと記憶していた顔には白いのっぺりとした仮面が覆っている。
細身の身体を弟切に向けて対面してきた。
「ライブメタルはどうなった? ドクターCL」
「モデルH以外は意識を封じ込めたまま力を引き出すことに成功したわ。ゼクターと一緒よ」
「再調整のためには意識を戻さないといけない……面倒だ」
「それもこれで最後。きてみる?」
ドクターCLは立ち上がって隣の部屋へと誘った。弟切は頷いてあとをついていく。
ドアをくぐるとカプセルの中でエネルギーを送られている緑のライブメタルがいた。
『キサマら……パンドラたちの仲間か!?』
モデルHが怒りに任せたまま叫ぶ。弟切はニヤリと笑うが、モデルHの抵抗が激しくなった。
カプセルがピシリ、とヒビが入って弟切が尋ねる。
「おい、本当に大丈夫なのか?」
「問題はないわ。それに……」
ドクターCLはあっさりと弟切に告げてモデルHへと歩み寄る。
モデルHへ向けて仮面を外し、笑みを浮かべて優しく話しかけた。
「モデルH、アナタたちの力を私に貸してくれないかしら?」
『……ッ!? あなたは……そんなバカな!?』
ドクターCLはフフ、と笑みを浮かべる。驚愕に満ちて隙ができたモデルHへとエネルギーが送られていった。
モデルHから悲鳴が上がり、ドクターCLは仮面を再びかぶる。
鈴を転がすかのような美声でドクターCLはつぶやいた。
「たとえ影でもアナタたちは私に力を貸すことになる。なぜなら、かつて影に仕えたのはアナタたち自身なのよ?」
歌うように紡がれる言葉。
含むような笑いとモデルHの悲鳴が暗い室内に響いた。
□
うっすらとペンテが目を開くと、木目調の天井が視界に入った。
身体にかかるシーツが上半身をあげると同時に剥がれた。素肌に巻かれた包帯を触り、手当てを終えていることを知る。
じくり、と傷口が痛む。周囲を見回すとどうやら民家のようだ。
木の家というアンティーク調に仕立てられた周囲を見回し、回想する。
崖から落下して地面に叩きつけられてながらも、倒れるまで全速力で逃げたのだと思い出した。
血の跡を誤魔化した覚えはあるが、どこで意識を失ったかはわからない。
モデルVAはどこにある? とペンテは思考して首を回した。
とたん、ドアが開いてペンテは視線を向け直す。そこには見知らぬ女性が一人立っていた。
「目を覚ましたんだ? よかったぁ……」
若い声だ。外見はペンテと歳の差はないように見える。
柔らかい栗色の髪が腰まで届いている。童顔で大きな瞳には安堵の色が浮かんでいた。
首まで隠す柔らかい布地の白いセーターに淡い桃色のプリーツスカート。
黒いタイツがスラッとした足を包んでいる。可愛らしいデザインの手袋を脱ぎながらペンテに歩み寄ってきた。
「アタシはリーネ。お兄さんは?」
「…………ペンテだ。礼を言うが、俺の荷物はどこだ?」
「せっかちね。そんなに大事なものが入っていた?」
そういってリーネは籠に入ったペンテの荷物を渡してくる。
目的のライブメタルも紛失していない。確認を終えながらも、手にとったモデルVAが不機嫌なのを感じ取った。
まあいいか、と脇に籠を置いてリーネに向く。ペンテが現状確認をする前にリーネが話しかけてきた。
「ねぇ、ペンテさんお腹すいていない?」
ペンテが「ああ」と頷くと同時に嬉しそうに隣の部屋へと移動する。
もっともすぐに戻ってきたが。持っていたトレイにはスープとパンが乗っていた。
「アタシの特製よ。後で味の感想を聞かせてね!」
そういってリーネが押し付けた料理をペンテは受け取った。
体力を回復するため食事は必要だ。リーネはおしゃべりらしく食事中にも話しかける。
適当にあしらい、モデルVAの苛立が増していっているのを感じた。
あれは他者とのコミュニケーションを破壊以外でとることがない。会話を続けるという行為を嫌悪している節すらあった。
とはいえ、ペンテは他者との会話は苦痛ではない。
(フィオもお喋りだったしな)
自分をこんな目に遭わせた敵との思い出を浮かべて、ペンテは心の中だけでつぶやいた。
『ハンター時代の先輩だった?』
「と、いうよりは先生だな。俺に生きる術をすべて教えていた」
モデルVAへとコールドエンプレスとの関係を問われ、ペンテはあっさりと答える。
もっとも特に隠し立てするような内容ではない。今まで話さなかったのはモデルVAがペンテの過去に興味を持っていなかったからだ。
モデルVAとしてはロックマン以外に傷つけられてコケにされたことが気にくわないのだろう。
ペンテが不甲斐ない、とすら考えている節がある。常に飢えているペンテと、それを諌めるモデルVAの立場が逆になっていた。
それほどモデルXたちに拘っているということだ。
『ところでだ、ペンテ』
「なんだ?」
『キサマ、いつまでこうしているつもりだ?』
モデルVAが指摘すると、ペンテは右手に下げた買い物袋を持ったまま肩をすくめて「さあな」と答える。
いつもの紫色の毒々しいジャケットではない。雪の降る商店街で街灯に背をあずけるペンテは青いセーターを着けていた。
今は世話になっているリーネの死んだ父親ものらしい。彼女曰く、もともとのジャケットより似合っているとのことだ。
雪原エリアに接しているだけあって、街一面銀世界。
ペンテが顔をあげると、街で保管されている旧化石燃料所が視界に入る。大きな施設だが可動はしていない。
別のエネルギーが開発され、捨てるわけにもいかず昔から放置されていたらしい。
この街を案内した時のリーネの言葉だ。
「ペンテさん、待った?」
店から出てきたリーネが尋ねるが、ペンテは首を横に振る。
待つことは慣れていた。数分寒空の中立つことは苦痛ではない。
馴れ馴れしくひっつくリーネにも億劫だが、拒否することもなかった。
これがモデルVAがいらついている理由であることは充分にわかっていたが、互いに互いのことを想いやるような関係ではない。
イザというときだけ力を貸し合う。モデルVAとはドライな関係だと思うが、このくらいが丁度いい。
リーネが荷物を持って前をいくのをペンテはついていく。
ケガの治り具合は順調といったところか、と内心つぶやいた。
ペンテがリーネの手当を受けて一週間経つ。
もともと生命力の高いペンテは二日で動けるようになった。
その間なにをしていたかというと、ペンテにいわせればなにもしない。
「おう、新入り。リーネも一緒に買物か?」
「トーマスおじさん。そうよ」
大柄でガテン系の男の野太い声がペンテの耳に届き、リーネが返した。
ペンテは軽く挨拶をして男へ向く。世話になっている間、目の前の男の仕事に加わったこともある。
ゆえにペンテは『新入り』と呼ばれているわけだ。ちなみにリーネは昼はウェイトレスとして暮らしている。
独り身なのに自分のようなものを担ぎ込むとは無防備だと呆れたものだが、彼女の父親が目の前のたくましい男と友人だったらしい。
手を出せばどうなるかは考えなくてもわかる。遺跡の発掘作業を請け負っているトーマスは現場監督のようなものか、とペンテは把握した。
「しっかし、リーネと一緒に暮らしているのに手を出さないとはな。まあ、色気は足りないのはわかるがな!」
「ちょっと、おじさん!」
ガッハッハ、と大口開けてトーマスはペンテの背を叩いた。どういうわけかペンテは彼に気に入られている。
黙々と仕事をこなすのがよかったのだろうか。よくわからない。
仕事を通してこの街に知り合いが増えた。モデルVAはそのことが気に入らないようだが。
「そういえば新入り。お前さんを探しているって奴がいたぞ」
ペンテは首を傾げる。とはいえ、相手は想像ついていた。
「どこにいましたか?」
我ながら陰気な声だ、とペンテは感想を抱きつつもトーマスに尋ねる。
リーネを家へ送ってから向かおう、と思考してトーマスと別れた。
星がまたたき、月が淡く光って地面を照らす。
雪が積もり、白くなった木々が少しだけ光を反射していた。
雪景色は美しいものだ、とフィオは感想を抱く。
やがて雪を踏みしめる一定のリズムの音が聞こえてきた。来たか。フィオは笑みを浮かべて振り向いた。
「やっぱり一人ね」
「フン。こいつもいるさ」
そういってペンテがライブメタルを見せたが、フィオは笑う。
相変わらずの様子にいくらか安堵した。
「……覚えているかい? アタシたちが離れた日のことを」
「唐突だな」
ペンテが答えてフィオは当時を思い返す。
あの日は珍しくフィオがドジって敵に捕まってしまった。
ペンテは人質をとられた形となったが、フィオは心配していなかった。
自分ごと殺す。そういう男だと知っていた。なのに、ペンテは撃たなかった。
「あの日なんでアタイごと撃たなかったんだい?」
フィオが尋ねてもペンテは沈黙を返す。そう簡単に本心を明かす男ではない。
特別な感情を抱いてもらっていると期待していいのか、などとは聞かない。今は敵だ。
『いいかげんにしろ、キサマ。用件をいえ』
モデルVAがイライラした様子で忠告する。今にも暴れかねない。
ヤレヤレ、とフィオは肩をすくめて本題に入った。
「最後の忠告だよ、ペンテ。ライブメタルをアタシに渡しな。そうすればあんたに干渉しないように取り計らう」
『ふざけるな。すぐに鉄くずに変えてやる。ペンテ、準備しろ』
「あんたには聞いていないよ、モデルVA。これはアタイとペンテの問題さ」
そういってフィオはペンテを見るが、来たときと変わらず黙っていた。
フィオとてすぐに片付くとは思っていない。これは自分の未練といってもいい。
殺し合いを一度、交わしたとはいえだ。
「三日だけ待つよ。三日後のこの時間にもう一度答えを聞く。ペンテ、またね」
フィオはそういってあっさりと踵を返した。
ロックオンされればすぐに殺されるような真似だ。
しかし、ペンテは動かない。森の闇に消え、フィオはやがて消える足音だけを残した。
ペンテは消えていったフィオの後ろ姿を見届け、微動だにしない。
モデルVAの刺すような殺気を受け流し少しだけ昔を思い出した。
イレギュラーに襲われ、孤児となったペンテを引き取ったのは彼女だった。
当時のフィオは若いながらも、周囲に一目置かれている違法ハンターの一人だ。
ペンテの前を歩き、圧倒的な力を見せつけた彼女に憧れていた時期もあったと回想した。
今はどうか知らない。ただ、モデルVAがイラつく事実、人質をとられた彼女を撃てなかったのは本当だ。
ペンテは少しだけ微笑む。自分がとる手は決まっている。
しばらくは雪を踏む自分の足音だけが耳に入った。
□
風が吹いてエールは思わず身体を抱きしめた。
モデルXがエールの心配をするが、エールは問題ないと応えた。
エリファスと会ってよかったと思っている。後ろを振り返るのはここまでにしたい。
転送装置まで歩く道のりの中、エールは思考を切り替えた。
ガーディアンの研究所からライブメタルが盗まれた。
ワームの首領ですら囮に使った作戦に驚き、悔しく思う。
自分がめげてさえいなければと考えたのは一度や二度ではない。
だけど、エールの瞳は前を向いている。もう二度と後悔はしない。
(待ってて、モデルHたち。アタシが絶対助ける!)
エールは内心そう決意して一歩踏み出す。
すべてを守るロックマンになる。その想いに微塵も偽りはないのだから。
□
リーネが用意した夕食を平らげ、時計をみてペンテは席を立った。
あれから三日経ち、約束の時間が来たのだ。ペンテは隣の部屋で黒いインナーに紫のジャケットと、いつもの服装へと着替える。
モデルVAはいまだ不機嫌だが問題ない。頑丈なブーツをはき外へ出る。
「ペンテさん、いくの?」
後ろでリーネが声をかけてきた。バレないようにするつもりだったが、予想外に勘がいいらしい。
首だけ動かして顔を見ると不安そうにしていた。
本当にフィオといい女とは面倒だとペンテは感想を持つ。
「アタシ……少し不安で……」
ペンテは自分になにを期待しているんだろうか、と呆れた。
ペンテは普通とは違う。モデルVAのように日常を送るのに支障が出るほどではないが、それでも穏やかな日々では生きていられない存在だ。
モデルVAが自分のそうした特性に疑いを持っているのは笑えるのだが、ペンテは自分の異常性を痛いほど自覚している。
だから彼女が期待するように、「必ず戻る」とも「一人にはしない」とも告げない。
「今日はずっと家に入っていろ」
なぜなら、これは別れの言葉だから。
ペンテは彼女に特別な感情を持ちはしない。一人で強くある。
それこそがペンテを支える信念であったからだ。
風が強く雪が舞う。吹雪が近いのか、とペンテは感想を抱いたがもうどうでもいい。
三日目の約束の場所へたどり着き、ペンテは現れた女性とわかるシルエットに近づいた。
肩で切りそろえられたショートボブのキツメの美人。
かつてペンテが「フィオ」と呼び、生きる術を授かった存在。
「答えは出たかい?」
フィオの声に僅かに期待の色が混ざっていることにペンテは嘆息した。
答えなどわかっているはずなのに、僅かな可能性に縋っている。
教え教えられる関係など戻れはしない。ペンテは静かにライブメタルを取り出して構えた。
「……そうかい」
僅かに落胆した声にペンテは眉を上げる。それ以外の答えなどありはしないのに、と。
ペンテの口が動いたのと、フィオの全身がうごめいたのは同時だった。
「ロックオン」
あがる戦いのゴング。二人の激突に、雪が積もった木々が揺れた。
カミナリが落ちたような轟音が周囲に轟く。
紫色の装甲を纏ったロックマンVAVAと、漆黒の鋭利な装甲を持つコールドエンプレスの拳が激突した音だった。
ギシギシと音が鳴り、数秒の間拳が拮抗する。先にコールドエンプレスが舌打ちをしてロックマンVAVAに力負けをした。
吹き飛び、地面を滑るコールドエンプレスを見届けてロックマンVAVAは踵を返す。
『どういうつもりだ、ペンテ?』
「今は黙っていろ」
そうつぶやいて後ろから襲う氷の散弾を右手のバルカンで迎撃する。
逃げきるほど全力の速度は出さず、追いかけることが可能の速度を保つ。
引きつけているとはわかるほどわざとらしくロックマンVAVAは駆けた。
『キサマ……』
モデルVAが不機嫌になる。それもそうだ。ロックマンVAVAは今、街から離れるコースを取っているのだ。
コールドエンプレスが突進してきて、その刺突を捌いた。
「妬けるねぇ。あの街に未練があるのかい?」
コールドエンプレスの言葉にロックマンVAVAは低く笑った。
コールドエンプレスはロックマンVAVAに付き合い、街から離れる軌道を追ってくる。
まったくもって甘い奴である。その昔から変わらない甘さが、
「モデルVA、いくぞ」
命取りである。ロックマンVAVAは急に旋回してコールドエンプレスに接近した。
突然の方向転換にコールドエンプレスは反応出来ない。
ロックマンVAVAは仮面の下で薄く笑い、コールドエンプレスの四肢にガッチリと組み付いた。
虚をついた、たった一度の機会。癖を読まれている以上、この手しかない。
「準備はいいか? モデルVA、フィオ。地獄の炎へ一緒に逝こうぜ」
『……クックック。そういうことか』
ロックマンVAVAの背中からブースターの炎が吹く。
加速し続け、途中でコールドエンプレスが殴りつけるが距離が近すぎて威力がでない。
森と街は近い。インナーに入り、深夜とはいえヒトがロックマンVAVAたちを目撃するが関係なかった。
目的へ一直線だ。ロックマンVAVAが進む先には化石燃料を保存しているタンクがある。
「まさか、あんた――――」
コールドエンプレスが焦るが関係ない。この距離では氷の散弾も使えないのも計算済み。
いや、たとえ使われてもこの手は離さない。コールドエンプレスの身体をタンクの表層に叩きつける。
反動の衝撃がロックマンVAVAの全身にも届き、仮面の下で血反吐が出るが獰猛な笑みが消えない。
「ペン……テ……」
「ここからが地獄だ」
右肩のキャノン砲を向ける。コールドエンプレスのぶつかりひび割れたタンクから漏れている化石燃料ごと狙い撃つ。
光が走り、ロックマンVAVAの視界を炎が占拠した。
真っ白い閃光とともに爆発が轟いて一つの街が炎に飲まれた。
「が……くはっ……」
コールドエンプレスは全身にまとわりつく炎をそのままに、四つん這いになって喘ぐ。
燃え盛る瓦礫の上で呼吸を整えることが、今できる唯一の手段。
震える四肢に活をいれ、膝立ちになった瞬間コールドエンプレスの周囲に影が落ちる。
「よう、元気そうだな」
ロックマンVAVAの低い声を耳にして、振り向いた瞬間鉄パイプが視界を覆う。
コールドエンプレスの腹部に鉄の棒が埋まり、強制的に身体が浮いた。
『クッハッハ……ハハハハハハハッ! ペンテ、やれ!』
「いわれずとも……」
ロックマンVAVAはモデルVAに応えて、中空に浮くコールドエンプレスへ回し蹴りを放った。
コールドエンプレスの頭部の装甲が凹み、地面を数メートルバウンドする。
顔だけを上げてロックマンVAVAを見ると、彼も傷が深い。
装甲にヒビははいり、左肩のミサイルランチャーはとても使える状態ではない。右肩のキャノン砲は半壊し、使えて二、三発という状態である。
鉄仮面の左側が四分の一破損して、ペンテの狂気に満ちた瞳が覗いていた。
「相変わらず……タフだ……ねぇ……」
ロックマンVAVAが僅かに覗いた口の端を持ち上げて両手のバルカンを掃射した。
体表を跳ねる銃弾にコールドエンプレスはうめきながら、してやられたことを実感する。
コールドエンプレスは名が示す通り氷属性のフォルスロイドである。
炎の攻撃には極端に弱い。ゆえに化石燃料の炎はコールドエンプレスに深い傷を負わせた。
とはいえ、街のほとんどを覆うほどの爆発だ。間近にいたロックマンVAVAとて無事ではすまないはずである。
いや、ロックマンVAVAなら……ペンテなら不思議じゃないとコールドエンプレスは回想した。
傷つけば傷つくほど、ペンテの動きは鋭さを増していった。
まるで傷つくことを望むように。なにかを満たしたように。
「どうした!? フィオ、お前の力はそんなものか!?」
「余計なお世話……さねぇ!!」
コールドエンプレスが氷の散弾を作り出し、ロックマンVAVAへ直撃させる。
距離は三メートルもひらいていない。遠くなら周囲の熱で氷が溶けるが、近距離なら威力はそこまで落ちない。
なのに、ロックマンVAVAは当たった場所から血を流しながら盛大に笑った。
「そうだ、それでこそ俺に生きる術を教えた女だ! さあ、残った命で抵抗しろ!!」
一瞬でロックマンVAVAはコールドエンプレスの懐に潜り、固めた拳が鳩尾を襲った。
胃の中身が込み上げてくるが、どうにか飲み込んでコールドエンプレスはその場に踏みとどまった。
両手に氷の刃を作り、ロックマンVAVAを斬り裂く。
パッ、と花火のようにロックマンVAVAの斬り裂いた箇所が血を吹くが、ロックマンVAVAは加速して右つま先を左頬に打ち込む。
視界が衝撃につられて揺れ、全身をバルカン砲が撃ち抜かれた。
マズイ、とコールドエンプレスは距離をとるが、ロックマンVAVAは離さない。
狂おしいほど愛するようにロックマンVAVAが笑う。そうだ、こいつはこういう奴だ。
少しだけ、コールドエンプレスは嬉しくなった。
足を止めてロックマンVAVAの拳を受け止める。炎で弱まった装甲が歪んだ。
『観念したか?』
「モデルVA、アタイとペンテの間に割って入るな。そうさね、結局これが互いに一番好きなことさね。ペンテェェェェ!!」
コールドエンプレスは愛する者を呼ぶように叫び、蹴りを放った。
ロックマンVAVAが応え、互いの右足がぶつかり合う。
力負けし、コールドエンプレスの足から血が流れるが構わない。
そうか、そうだ。このペンテをコールドエンプレスは、フィオという名の女性型レプリロイドは、愛したのだ。
ロックマンVAVAの右拳が右脇腹の装甲を砕き、衝撃に地面を転がる。
コールドエンプレスはすぐに立ち直って、ロックマンVAVAの頬を斬った。
かすっただけだ。ロックマンVAVAの頭突きに打ち据えられ、泥を顔からかぶった。
泥の味が口内に広がるが、それ以上に過ごすロックマンVAVAとの時間の甘美さが胸に満ちる。
泥を吐き捨てながら、氷のショットガンを放った。
ロックマンVAVAは気にせず進み、膝蹴りを腹に叩きつけてきた。
後ろに倒れるコールドエンプレスの首をつかんで、熱せられた壁に押し付けられる。
コールドエンプレスは悲鳴をあげながらも、ロックマンVAVAを何度も何度も殴り続けた。
まるで喜んでいるようだ、と頭の隅で自分の悲鳴を評する。
ロックマンVAVAは仮面の下で微笑み、貫手の形を右手で作った。
「楽しいなぁ、フィオ!」
ペンテにとって最高の褒め言葉を受けて、コールドエンプレスの腹部が貫かれる。
血反吐がロックマンVAVAの鉄仮面を赤く染めて、だらりと両手が垂れた。
ドサ、とやけに倒れた音が大きく響く。ああ、そうか。コールドエンプレスは蜜月が終わったことを知った。
(終わりか……)
コールドエンプレスは地面に伏せながら、そう思考した。
レプリロイド用の血に染まった右手を引き抜くロックマンVAVAの顔を見つめて、一つだけ納得がいないことを思い返す。
あの日、人質にとられたのはコールドエンプレスのミスだ。
ペンテならば自分ごと殺すだろうと期待していた。だけど事実は逆。
その事実が、コールドエンプレスの愛したペンテに傷がついていた。
首を動かしロックマンVAVAを見る。そのことだけは確かめたい。
そう思考したコールドエンプレスの耳に、ペンテの名前を呼ぶ声が聞こえた。
コールドエンプレスは無理して身体を跳ね上げ、ペンテの名前が聞こえる場所へ跳躍する。
『チッ、しぶとい!』
モデルVAが吐き捨てるが、コールドエンプレスが早い。
栗色の髪を腰まで伸ばした女性をつかみ、追ってきたロックマンVAVAへ盾として向ける。
「ひっ!」
「お嬢ちゃん、黙りな。さて、ペンテ。……あのときの答えを聞かせてくれないかね?」
『俺を渡すということか? そんなの――――』
「違う、そんなことじゃない。ねぇ、ペンテ?」
「ペンテ……さん……?」
リーネが戸惑ったように視線をロックマンVAVAへと向ける。
対するロックマンVAVAは無言。コールドエンプレスは知りたかった。
なぜ自分が人質になったときは撃たなかったのか。なぜ自分をねじ曲げたのか。
ロックマンVAVAはコールドエンプレスへ視線を向けて、右肩のキャノン砲を光らせた。
熱線がリーネの腹部とコールドエンプレスの胸を貫く。リーネは即死だ。助かりはしない。
「だから家に入っていろと忠告はした」
ロックマンVAVAは興味なさげにつぶやいて、右手をコールドエンプレスの頭へ向けた。
高価な宝石についた傷が埋まったような感覚に包まれ、コールドエンプレスは微笑む。
よかった、これでこそペンテだ。
銃弾がコールドエンプレスの頭部に降りそそぎ、トマトのように砕け散る。
コールドエンプレスの想いも、思考もそこで途絶えた。
ロックマンVAVAは標的が沈黙したことを悟り、踵を返す。
低く笑って満足であることを示した。
あの日、コールドエンプレスを……フィオを撃たず、今回リーネを撃った理由は単純だ。
フィオは生きていれば戦う相手として申し分ない。
リーネは生きていたところで、倒すにあたいすることは一生ない。
ただ、それだけ。
事実フィオはフォルスロイドへと改造を施し、裏切り者となったロックマンVAVAと戦った。
リーネにはそれを望むべくもない。
血で血を洗う死闘。
これこそがロックマンVAVAを満足させ、気持ちを昂らせた。
『フン、ペンテ。この調子でモデルXたちを殺すぞ』
ロックマンVAVAはモデルVAに適当に返事をする。
モデルVAと、ロックマンVAVAことペンテの目的は似ているようで違う。
モデルVAはモデルXたちに“勝ちたい”のだ。
だがペンテは一人でどこまでも強くなれる自分と死闘を繰り広げる“過程を味わい続けたい”だけ。
自分と同じ理由で強くあるフィオは倒せた。
ならば、自分とは真逆の理由でどこまでも強くなれるエールと天道と死闘を演じることこそ、今のペンテの最大の楽しみだ。
モデルVAとは違う。
ただ戦うことで乾きが癒されるペンテは、地獄の道を修羅となって歩み続けた。
死が確定したその道。ペンテは恐れはしない。
行き着く先には興味ない。ただその過程を実感できれば、それでいいのだから。
To be continued……
以上で十話の投下を終了します。
次回は早めに投下します。
お付き合いありがとうございました。
投下乙!さすがVAVAだ。師匠の絆なぞなんともないぜ!
根っからの戦闘狂なのだなあ。ペンテは
そして相変わらずのメッセンジャー渡。
今回も重要な役所なのかな
それにしても次から次へとライダーの世界と融合した
面白いクロス作品が生まれるなぁ
きっとこれも乾巧ってやつのせいなんだな
いろいろ来てるな
ブギーポップとハルヒのが楽しみだなw
売った覚えないけど、まだうちにブギーポップあるだろうか
112 :
ディケイド×プリキュア ◆CuresnXjlA :2010/01/13(水) 16:21:45 ID:wIyA3aBZ
初めまして、前からクロス作品には興味があった上に、面白い作品が続々と書かれているのに堪らなくなって書いてみました
クロス元の作品は名前欄通り仮面ライダーディケイドとプリキュアオールスターズDXです
独自解釈を含んでおり、場合によってはオリ設定も存在しますので苦手な方はNGを
「……アルバイター、か? このおざなりな服の感じは」
無地のシャツと紺のズボン、その上に青を基調としたエプロンで長身の身体を包んだ青年はポツリと呟く。
やれやれ、と呟きながら天気の良い空を眺めて、目の前に広がる緑の多い公園を眺める。
目の前に広がる光景を数秒ほど眺めた後に、なにかを思い出したように首からぶら下げた二眼レフのトイカメラを持ち上げる。
そして、上からのぞき込みながら被写体にピントを合わせ、両手でカメラを固定しシャッターキーに指をかけて。
――――スカッ。
シャッターを空回りさせる。
逆光の問題もなく、手ブレもない。
なのに、青年のカメラはシャッターを切れない。
「……この世界も俺を受け付けない、ってことか。まあいい」
だが、青年の顔に驚きらしいものは一切浮かんでいなかった。
今までの経験からそういうこともあることを知っているのだ。
そんな青年の耳に馴染みのある声が聞こえてきた。
「士くん!」
「……夏みかんか、どうした」
長い髪の、まだ幼さの残る顔立ちをした少女が士と呼びながら青年へと近づいてくる。
その顔にははっきりとした動揺と戸惑い、そして怒りのような感情を浮かんでいる。
だが、それもいつものことだと言わんばかりに青年・門矢士は顔色一つ変えない。
「この世界、ライダーの居ない世界みたいなんです」
「ライダーの居ない世界……なるほど、シンケンジャーの世界と同じか」
「驚かないんですか?」
「別に、二度目だからな。目新しさも感じない。この世界でもゆっくりと、俺の役割を探すだけだ」
そう言いながら士は夏みかんと呼んだ少女・光夏海から視線を外す。
が、夏海が手に持った雑誌に興味を惹かれたのか、士は半ば奪い取るように強引に手から盗みとる。
「っと、そう言えば夏みかん。お前さっきからなに持ってるんだ?」
士のあまりといえばあまりな行動に夏美は眉をしかめるが、いつものことだと言わんばかりに溜息をつくだけで咎めはしない。
慣れたくはないが慣れてしまったのだ、溜息をつくしか方法はない。
そんな夏海の思考を無視するように士は雑誌の記事を読んでいき、徐々に顔に疑問符を浮かべていく。
「……なんだこりゃ?」
雑誌に目を通した士がまずつぶやいた言葉は、疑問に満ちた言葉だった。
その雑誌のメイン記事には全員で四人の少女が大きく写っていた。
フリフリのスカートと露出が多い服を着た三人の少女、その三人に比べると露出の少ないが派手な真っ赤な服を着た少女だ。
写真の下には、その少女たちはプリキュアと名乗っており得体の知れない怪物と人々を守るために戦っている、という記事が載っている。
「プリキュアねぇ……お、夏みかん。こいつら全員果物の名前がついてるぞ。
キュアピーチにキュアベリーにキュアパイン、それでキュアパッションだ。
はは、良かったな。お前もプリキュアとか言うのの仲間になれるぞ、キュアみかんってところか?
特に被りもないな。よし、これからお前はキュアみかんだ」
「士くん! ……もういいです、次にこれを見てください」
パラパラと雑誌をめくる士へと夏海は怒ったような呆れたような表情をして、次は新聞を投げつける。
新聞と言っても本格的な新聞ではなく、全部で三頁ほどしかない小さな新聞だ。
士は雑誌をパタンと閉じて、夏海の持つ新聞を素早く手に取る。
そして、目を通して、やはり先ほどと同じように顔に疑問符を浮かべる。
「……プリキュア5? さっきのヤツらとは違うな」
「はい。さっきの四人組のプリキュアとは違う、また別のプリキュアのようです」
「ドリーム、ルージュ、レモネード、ミント、アクアにミルキィローズ……こりゃまた多いな」
「ちなみに、ここの先の屋台に置いてあったものですから知名度は高いみたいですよ」
夏海の説明を聞きながら、士は顎を触りながら何かを考え込むように黙り込む。
そして黙ったままに、脇に挟み込んでいた雑誌を取り出してプリキュアの記事の乗ったページを開く。
黙りこくったままの士が不気味に思えたのか、夏海は伺うように顔をのぞき込む。
「士くん……?」
「よし、夏みかん! キュアみかんの口上をやっと思いついたぞ!
『柑橘色ハートは小皺の証! 卸売りフレッシュ! キュアみかん!』ってのはどうだ?」
「光家秘伝・笑いのツボ!」
ぐさり、と夏海は突き出した両の親指を士の首の付け根に差し込む。
一寸の狂いもなく、戸惑いもなく、武道の達人のような速さで突き刺したその指は。
「バカ、おま……ハハ! ハハハッハ! ハハッ!」
士に唐突すぎる笑いを緑に包まれた公園のそこら中に木魂させた。
士は腹を抱えながら、笑い続ける。
酸欠で死んでしまうのではないかと思うほどに笑い続ける。
そんな士の様子を見てやっと腹の虫が治まったのか、夏海は腰に手を当てて見下すような視線を向ける。
「ま、まあなるほど……だいたい分かったぞ」
士は腹を抑えたまま新聞を閉じて、雑誌と共に夏海へ荒っぽく投げつけるように放り投げる。
それを夏海はやはり顔をしかめながら、それでも士の次の言葉を待つ。
何だかかんだで士は物事を一言でまとめるのは下手ではないのだから。
「つまりここはプリキュアの世界ってことだな。それもプリキュアは結構な数居るってことだろう?
そして恐らく、俺はそのプリキュアに会う必要があるってことだろうな」
「多分そういうことですね」
だろう、と笑いのツボによって強制的に出された笑いでない、いつもの傲慢な笑みを浮かべて夏海へ向ける。
夏海は何度笑いのツボで懲らしめても変わらない士の態度にため息をつき、そこでようやく気がついたように士の服を指差す。
「それにしても、そのエプロンって?」
「ああ、今回の役割だろうな」
「タコカフェですか、そう言えばこの雑誌と新聞を貰ってきたのもこのお店ですよ」
「何のアルバイトかと思ったが……屋台か、やれやれ金になりそうにはないな」
「駄目ですよ、士くん。せっかくですからうちの現像代とコーヒー代、カメラの修理代を稼いできてください」
夏海がそういうと、士は顔をそっぽ向かせる。
はあ、と何度目かになるため息をついて、これは説教をしなければいけないと本腰を入れようとした瞬間。
「あー、居た居たー!」
一人の女性の声が響いた。
その女性は士にとっては見知ったものではなく、夏海にとっては先程見たばかりの人間。
タコカフェと書かれたエプロンを身につけたその女性、つまりタコカフェの店員は笑顔のままで士へと近づいていく。
「今日から連休の三日間入ってくれるアルバイトくんでしょー、早速だけど来てもらえるかなー」
そう言って士の手を引いて屋台のある公園の広場まで引っ張っていく。
士は少し抵抗しそうになったが、ここで夏海の小言を聞くよりはマシだと考えたのか素直に着いていくことにした。
「そういうことだ、夏みかん。俺の役割が決まっている以上そのうちプリキュアは出る。
だから、お前はゆっくりユウスケと観光でもしていろ」
半ば夏海から逃げるように女性へと着いて行く士。
この様子では給料をツケの支払いに使うつもりはないな、と夏海は確信する。
そして、やはりため息をついて空を眺める。
「プリキュアの世界、ですか。
まさか、ここが士くんの本当の世界じゃないでしょうし……ここでの士くんの役割って一体……?」
門矢士、彼は自分の意味を知るための世界を巡る旅をしている青年。
仮面ライダーディケイドとして、世界を救う一方で破壊者ディケイドと呼ばれ続けるヒーロー。
その瞳はこの世界で何を映し何を思うのか。
仮面ライダーディケイド×プリキュアオールスターズDX みんなともだち☆奇跡の全員大集合!
【世界の破壊者!? 仮面ライダーディケイドがやってきた!】
「おー、筋いいねえお兄ちゃん。ひょっとして始めてじゃないとかー?」
「俺に苦手なことはない、例えそれが始めてでもな。もちろんたこ焼き作りも……」
そこで言葉を区切り、士は素早くタコ焼きをひっくり返していく。
もちろん鉄板の穴から零れるような無様な真似も、生焼けでひっくり返すような失敗も犯しはしない。
「その例外じゃない」
士の勝ち誇ったような顔に、おおー、と無地のシャツとエプロン、頭にバンダナを巻いた店主・藤田アカネは素直に歓声を上げる。
アカネもこの仕事をやって長い年がたつが、これほど器用なアルバイトは初めてだった。
とは言え、アカネもこの道云年になる。
それなりに名の知れたたこ焼き屋台、士を煽てながら次々とたこ焼きを焼いていく。
「んじゃ、そのたこ焼き二番テーブルにお客さんに持っててー」
アカネのその声に士は先程自分で焼いたたこ焼きを手に取り、ジューサーから絞ったジュースと共に持っていく。
空は真っ青なほどに晴れ上がっており、こんな空の下で食べるたこ焼きは美味しいだろう。
その考えの後に、特に俺のならな、と自信満々に付け加えるところが士らしい。
「お待たせしました、たこ焼き二つとオレンジジュース……ってなんだ、ユウスケか」
「よっ、士!」
そこにはテーブルに雑誌と新聞を広げている、一人の中肉中背の青年がいた。
好青年という形容が似合う気持ちの良い笑いを浮かべながら、士に手招きする。
青年の名は小野寺ユウスケ、夏海と同じく士の旅の仲間だ。
「ここにはプリキュアって女の子のヒーローが居るらしいな」
「知っている。かなりの人数が居ることも、そいつらがまだ若いってこともな」
「あ、士も知ってたのか。いやあ、凄いよなぁ」
ユウスケと知っては雑誌や新聞に載っていることは大した驚きではない。
何故ならユウスケも士と同じ、仮面ライダーだからだ。
士の記憶の中では最初にライダーとして関わった世界の住人だ。
彼は仮面ライダークウガとして、グロンギと呼ばれる怪物と戦いその戦果を新聞や雑誌で取り上げられたこともある。
秘密裏の戦士ではない彼にとって、正体の知られていない謎のヒーローとはそう縁の遠い人物ではないのだ。
「シンケンジャーの世界と一緒で、ここにもライダーは居ないみたいだな」
「ああ。シンケンジャーの世界、プリキュアの世界と続いたということはもうライダーの世界には行かないのかもな」
士は乱暴にたこ焼きとジュースをテーブルにおく。
ユウスケは少し士を柔らかくにらみつけるが、やはり夏海と同じように諦めたように
「あー、ちょっとなに乱暴に扱ってんのよ!」
だが、ユウスケが許してもアカネは許さなかった。
客商売である以上は仕方ないことだろう。
士は不承不承と言った様子でユウスケに頭を下げる、知人とは言え今はアルバイトであるため仕方ないと思ったのだろう。
ユウスケは士の顔が全く反省していないことに苦笑しながらもたこ焼きに手を付ける。
「お、美味い!」
「当然だ、俺が作ったんだからな」
「あはは、ありがとねお客さん」
侘びにきたのか、士に注意しに来たのか。
アカネはエプロンで手を拭いながらユウスケのテーブルまで近づいてくる。
と、そこでユウスケがテーブルに広げていた雑誌を見て嬉しそうに声をあげる。
「プリキュアかー。ここによく来る後輩が好きで、どこからか集めてきたのかここに置いているのよ」
「後輩さんですか、まあカッコいいですしね」
「はは、だよねー。ちょっと現実味が湧かないというか、遠い世界の出来事みたいだけど。
あ、アルバイト君は早く仕事に戻ってね」
アカネはそう言って屋台の中へと戻っていく。
士はそのアカネの後に続こうとするが、ふと新しい客が訪れたのを見つけて接客を優先することにする。
その少女たちは四人組だ。
少し早かったかな、せつなの紹介だから早すぎたねー、などと言っている声が聞こえる。
どうやら待ち合わせをしているようだ。
それにしても四人組の女の子となると、先程見た雑誌のプリキュアを思い出させる。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか」
「あ、はい。えーっと……とりあえずたこ焼き四ツください!」
真ん中の髪を上部で二つに絞った女の子が元気よく答える。
そして長い黒髪のファッションセンターしまむらの服で揃えた少女に、ここのたこ焼きはすっごく美味しいんだよー、と言っている言葉が聞こえた。
その言葉に士は、今日は俺も作るからもっと美味いがな、と付け加えた。
◆ ◆ ◆
栗色の毛をした、大型のリスを思わせる一匹の動物が机に向かって作業をしていた。
机の上には可愛らしい装飾がついた小さなペンライトがひとつだけ置かれてある。
動物の正体はパルミエ王国の王子の一人であるナッツ。
ペンライトの本当の名はミラクルライト、伝説の戦士と呼ばれるプリキュアに力を与える奇跡の光である。
このミラクルライトはナッツが作ったものだ。
ナッツは何かを作るという行為に非常に長けていた、芸術肌という奴なのだろう。
今日は人間の世界で日銭を稼ぐために営んでいる『アクセサリーショップ・ナッツハウス』の休業日のため、ミラクルライトの改良を行うつもりなのだ。
と言っても、一朝一夕で出来るものではない。
今日は午前の時間を使って、ミラクルライトの内部の構造のおさらいをするためだけのつもりだった。
「ふぅ……とりあえず今日はここまでにしておくナツ」
可愛らしい声を上げながら、小さな手で自分の肩を揉む。
午前の時間を使って、と述べたのは午後からは予定があるからだ。
そう、このナッツ作ミラクルライトの初お披露目となった、あの事件で知り合った新しい『仲間』との久しぶりの再開だ。
お互いの住む街がかなり離れていることもあり、全員が集まるのはあの事件以来だ。
何でも、キュアブルームたちにはあの事件の際には居なかった仲間が二人も居るという。
さらにキュアピーチたちには新たな仲間であるキュアパッションが加わったというではないか。
そうだ、確か姿だけならば雑誌に載っていたはずだ。
ピーチたちの世間的な露出は他のプリキュアと比べて、明らかに多い。
その雑誌を観てみようと思ってナッツはミラクルライト片手に自室から広間へと移動する。
「あれ、雑誌がないナツ……?」
机の近くに置いていた雑誌が見つからないことにナッツは首を傾げる。
本ならば何でも読む上に開発もするにしては、この広間はキチンと整理整頓が出来ている。
お世話役のミクルが毎日掃除をしているからかもしれないが。
とにかく、広間はいつものように片付いているにも関わらず雑誌が簡単に見つからないのはおかしい。
ナッツが首をひねると、部屋の片隅から声が響いた。
「お探しのものはこれかな、パルミエ王国のナッツ様」
「ナツ! 誰ナツ!?」
その唐突に響いた声にナッツが驚いて振り向くと、そこには長身痩躯の青年が壁にもたれかかって雑誌を読んでいた。
こんな青年をナッツは部屋に招待した覚えがない、そもそもこの青年のことをナッツは一切知らない。
そんなナッツの動揺を知ったことかと言わんばかりに、青年は雑誌を投げ捨てて大股で近づいてくる。
「それがミラクルライトか……スーパープリキュアやシャイニングドリーム、キュアエンジェルへのパワーアップに必要なものだね。
うん、光栄に思いたまえ。君の作ったそのミラクルライト、この海東大樹がお宝と認識してあげるよ」
「ミ、ミラクルライトが目的ナツか!?」
ナッツはそう言いながらミラクルライトを抱え込む。
海東大樹と名乗った青年はナッツを首根っこを掴み、その抱えるミラクルライトを奪い取ろうとする。
小動物と人間、ナッツも頑張っているもののその結果は直ぐに出るだろう。
海東がミラクルライトを奪い、ナッツはミラクルライトを奪われる。
ナッツは知らないが、海東は世界を巡ってお宝を盗んで行く、いわばワールドワイドな泥棒。
たかだか一国の王子とはキャリアが違うのだ。
だが、ここに一つのイレギュラーが混じった。
いや、正確に言えばイレギュラーとは海東のことなのかもしれない。
いずれにせよ、海東とナッツとミラクルライト、そして今から介入する物のどれかが欠けていればこれから起こる戦闘はありえなかった。
ここで、プリキュアの世界の崩壊が始まったのだ。
『見つけたぞ……強大な力を……』
低いがよく通る声がナッツハウスに響く。
ナッツは聞き覚えのある声に恐怖を覚え、海東は何処からか響いてきたことに対する驚きにお互いが身構える。
そして、ナッツの抱えたミラクルライトから、大量の粘ついた液体が飛び出る。
水銀色の液体はナッツハウスの中心に水たまりを作っていく。
やがて、その水たまりは一つの大柄な人間を形を変えていった。
とは言え、色合いは銀一色。僅かに影とくぼみで目や鼻や口の位置が分かる程度だ。
だが、その姿にナッツは見覚えがあった。
「ナツ!? こ、こいつはあの時の!」
「やれやれ、この世界はプリキュアの世界だというのに……どうして僕が戦わなければいけないのかな」
『一つに……全てを私と一つに……!』
海東は首を揉みながら、腰からぶら下げた玩具のような装飾のついた大きな銃を取り出す。
そして、同じく腰にぶら下げたホルスターから一枚のカードを取り出し、カードを銃に差し込む。
ナッツが不思議そうに眺めているのに気づいているのかいないのか、海東は上空に銃口を向ける。
―――― KAMEN RIDE ――――
「変身!」
その言葉と共に海東はトリガーに指をかける。
激しい撃鉄音と共に、奇妙な形状の銃から青い光線が飛び出る。
海東に装甲のツイた暗いスーツに包まれ、上空にシアン色の何本もの棒、左右それぞれに顔を思わせる紋章が生まれ。
――――― DIEND ――――――
機械音と共にシアン色の棒が海東の仮面に加わり、顔を思わせる紋章がピッチりとしたスーツを仮面と同色へと変えていく。
そのスーツの上に装甲を加えることで、『海東大樹』と言う一人の男は『仮面ライダーディエンド』へと姿を変えた。
「ナ、ナツ!?」
「とりあえず、邪魔なアレを消してからそのお宝を貰うよ」
ナッツが後生大事に抱えるミラクルライトを指でさしてから、ディエンドは走り出しながら腰のホルダーから『BLAST』のカードを取り出す。
そのBLASTのカードを奇妙な形の銃・ディエンドライバーに差し込み、トリガーを引く。
――― ATACK RIDE BLAST ―――
機械音が響くと同時に、銃口から幾つもの光線状の銃弾が発射される。
上下左右前後斜め、あらゆる角度から時間差も用いて銀色の怪人に襲いかかる。
動きの鈍い怪人はその一切を避けることは出来ずに、デイエンドの攻撃をまともに食らう。
だが、怪人は足元に溶けるように水たまりを作ったかと思うと、直ぐに元の形状へと姿を戻す。
ディエンドは僅かに眉をしかめ、次はパンチとキックで応戦する。
怪人は最初の一撃、二撃を止めることには成功したが、三、四、五、と怯まずに手数で押してくるディエンドのスピードにやがて着いてこれなくなる。
その様子に怪人は完全でないことディエンドは悟る。
万全でない姿で挑んできたことに怒りを覚えながら、ディエンドライバーの銃口を腹部に押し付けてトリガーを引く。
ゼロ距離射撃だ、おまけに銃はディエンドライバー。
腹部に巨大な風穴を作って、やはり怪人は水たまりへと姿を変えた後に時間をかけて元の形へと戻っていく。
ただ、先程の再生よりも時間がかかっている。
「液体状の怪人か……効いてないってわけじゃないみたいだけど、面倒なのには変わりはないね」
『……私の知らぬ強大な力……貴様、何者……?』
「何だって構わないだろう? それに、今から死ぬ君にはどうでもいいことだ」
そう呟きながら、再びホルスターから一枚のカードを取り出す。
そのカードには一人の鬼を思わせる異形の人間が写されている。
異形の名は仮面ライダー斬鬼、音を操り敵を攻撃する音撃を繰り出す仮面ライダーだ。
「こういう奴には、変則的な攻撃に限る」
―――― KAMEN RIDE ZANKI ――――
ディエンドはギターを思わせる音撃武器・音撃弦『烈雷』を持った仮面ライダー斬鬼を召喚する。
堂々とした立ち振る舞いと目の前の異形にも一切動じないその姿は歴戦の勇士という言葉がしっくりと来る。
鬼のような仮面にも雄々しさを感じさせ、まさに戦士の名に相応しい。
「音撃道との相性は悪いんじゃないかな?」
ディエンドのその言葉に答えるように斬鬼は走り出す。
烈雷をまるで剣のように振り回して、怪人へと襲いかかる。
怪人はやはり緩慢な動きで斬鬼を迎え撃つ。
斬鬼が振るう烈雷の攻撃はディエンドよりも与し易いと読んだのか、怪人は防御を考えずに拳を握り締める。
その予想通りに斬鬼の烈雷では液体を切れずに、腕から腹部まで突き抜けた上に液体を硬質化させた怪人に囚われてしまう。
勝機と怪人は拳を思いっきり振りかぶり。
「決まりだね」
だが、ディエンドはその様子に笑みを浮かべる。
斬鬼が倒されるのを喜ぶわけがない、つまりこの状態をディエンドにとって喜ばしい状態なのだ。
怪人の脳裏に疑問符が過ぎった瞬間に。
『……なんだと!?』
始めて怪人が驚愕に満ちた声をあげる。
だが、その驚きの声も斬鬼の演奏する音楽にかき消される。
そう、斬鬼は怪人に埋め込まれた烈雷で激しい演奏を行っているだ。
まるでナッツハウスをライブ会場かと見間違うような激しさで演奏をし続ける。
普通ならば斬鬼の正気を疑うところであるが、これが音撃道の真髄。
清めの音で邪悪なものへと戦うことなのだ。
現に怪人は内から響く形容し難い痛みと戦っている。
ディエンドの変則的な攻撃とは振動と清めの音の波状攻撃、そしてそれは見事に効果を上げた。
「さあ、これでトドメだ」
ディエンドはその様子を眺めながら、腰のホルスターから一枚のカードを取り出す。
ディエンドの仮面が金色で描かれたカードだ。
それをディエンドライバーへと差し込み、手馴れた動作でポップアップする。
―――― FINAL ATTACK RIDE ――――
機械音が響き、無数のカードによって幾つもの円が宙に浮かび上がる。
それはディエンドドライバーの銃口の先に伸びており、そのゴールには斬鬼の攻撃に身悶える怪人の姿だけ。
ディエンドは仮面の奥で、ニィ、っと笑みを浮かべ。
――――― DI DI DI DIEND ―――――
トリガーを引いた。
その瞬間に烈雷で攻撃を行っていた斬鬼が吸い込まれるようにカードに戻り、円を形作るパーツの一つとなる。
そして、カードの円をくぐる様に、ディエンドライバーから飛び出た光線が飛び出て行く。
それは怪人を貫き、ナッツハウスの片隅を吹き飛ばしてもなお止まることはない。
傍目からみているナッツにも分かるほどの火力だ。
『ぐおおおおおおお!!』
怪人は断末魔の叫びを上げて、その身体を破裂させる。
崩れ落ちるのではなくはじけ飛んだその様子を観て、ディエンドは勝利を確信する。
もとよりファイナルアタックライドを使ったのだ、勝利して当然のつもりであったが。
「手応えのない奴だ……まあ、いいさ。ソッチの方が楽ってものだしね」
「お、おかしいナツ……」
「……何がおかしいんだい、珍獣くん」
『珍獣』というディエンドの言葉にナッツは跳びかかりそうになるが、不承不承と言った様子で続ける。
ディエンドはナッツの抱えるミラクルライトを狙っているが、とても離しそうにないため隙を作ることにしたのだ。
「この前のあいつは、たしかに最初は弱かったナツ……だけど幾らなんでも呆気無さすぎるナツ」
「それはこの僕が強いから、じゃないのかな?」
ディエンドの軽口にナッツは眉を顰める。
別にディエンドが強いことに文句があるのではない。
だが、その言い方に自分たちの仲間であるプリキュアが弱いと言われているような気がしたのだ。
そんな時だった。
『仮面ライダー……強大な力……』
低い声が響くと同時に、ディエンドの足元に巨大な水銀色の水たまりが作られる。
濁った銀色、先程の怪人の身体を作っていた液体と同じ色。
ディエンドの背中に始めて嫌な汗が流れる。
「これは……!?」
「ナツ!?」
ナッツは怯えるネズミのように素早く机の上に登る。
ディエンドも水たまりから離れようとするが、脚が完全に埋め込まれてしまって身動きが取れない。
動けないことを悟った後のディエンドの行動は素早い、ディエンドライバーでの射撃に移る。
トリガーを一度、二度、三度、四度、五度と留まることなく打ち続けるが、対して効果はない。
ならば、とカメンライドで仮面ライダーを召喚して水たまりから抜け出すのは手伝わせようと考える。
が、既に腰元まで埋まっておりホルダーからカードを取り出すことが出来ない。
『その力……渡してもらうぞ!』
「そんな、この僕が……あ!」
腰元で飲み込んだ瞬間、怪人はスピードを急激に上げてディエンドの頭まで覆いかぶさる。
スピードの変化に虚を突かれたディエンドは対応が出来ず。
『フ、フ、フハハハハ! 素晴らしい力だ……!』
怪人の力の一部となり、怪人と一つになった。
怪人はなにかを確かめるように、拳を閉じ開きをする。
そして、ゆったりとした動作でナッツの方へと顔を向けて行く。
「ナツ!?」
『貴様も……私と一つに……!』
「い、嫌ナツ!」
ナッツはミラクルライトを小脇抱えて部屋から飛びでようと走り出す。
だが、ディエンドと戦っていた時よりも素早い動きでナッツの逃げ道を防ぐ。
恐怖に顔に張り付かせたナッツは一歩二歩と後ずさっていく。
怪人は慌てることなく、鼠を狩る猫のようにゆったりと追い詰めて行く。
「ナッツー!」
「シロップナツか!?」
部屋の中だというのに突風が吹き、ディエンドが壊した部屋の片隅に一匹の強大な鳥が姿を表す。
その鳥の名はシロップ。ナッツと同じく、この世界の生き物ではない動物だ。
ナッツはミラクルライトを抱えてシロップの背へと乗る。
それを追いかけようとするが、シロップの速度に怪人はついていけない。
なんとかナッツは怪人の魔の手から逃げることに
「あいつはこの前の奴ロプ! 何が起こったんだロプ!?」
「ナッツにもまだ分からないナツ……でも、とにかく今はプリキュアに知らせるのが優先ナツ!
アイツを倒せるのはプリキュアしかいないナツ!」
「分かったロプ! タコカフェに行けば良いロプね!」
◆ ◆ ◆
『逃がしたか……』
銀色の怪人――――フュージョンはポツリと呟く。
突然手に入れた強大すぎる力、仮面ライダーディエンドの力を制御しきれなかったのだ。
手元の狂いが生まれ、結果的にナッツとシロップを逃してしまったのだ。
だが、問題はない。シロップたちの居所は分かる。
むしろ、ある程度待ってプリキュアたちの居場所を探る方が優先だろう。
それに、あの程度の力を逃がしたことなど些事に過ぎない。
今はこの強大な力を手に入れた喜びに浸るべきだ。
ディエンドの最初のアタックライドでフュージョンは今の自分との力の差を思い知った。
万全な状態ならば、何の問題もない。
苦戦こそすれど真正面から叩き潰せていたはずだ。
だが、今の力の宿っていない状態では万が一にも勝てない。
そこでフュージョンは作戦を立てたのだ。
まず二割ほどの力を分離させ、ディエンドの足元へと待機させておく。
その後にディエンドが弱った、または油断した瞬間に取り込む。
今の少ない力とは言え、捕獲した後ならば吸収も可能のはずだと考えた。
その作戦は見事に成功し、こうして強大な力を再びフュージョンは手にいれたのだ。
『仮面ライダーディエンド……素晴らしい力だ……これさえあれば……プリキュアにも……』
先のプリキュアとの戦いで傷ついた身体を治すことで精一杯だった今までの日々。
プリキュアの必殺技全てを合わせた合体技に破壊されたフュージョンだったが、最後の瞬間にナッツの持つミラクルライトに身体の一部を移したのだ。
その間にミラクルライトの力を吸い上げ、じっくりと身体を治すことだけに集中してきた。
そんな日々も今日までだ。
突然手に入れた、プリキュアと比肩するほどの強大な力を持つ仮面ライダーの力。
これならば全てを一つとなることを拒むものを倒すことが出来る。
『全てを……全てを一つに……そのために力が、さらなる力が必要……』
フュージョンは仮面ライダーディエンドの記憶から強大な力を検索する。
するとフュージョンが想像していた以上の膨大な知識が浮かび上がる。
そして、そのどれもがフュージョンにとって未知の力だった。
『クウガ、アギト、龍騎、555、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ……強き力……!』
確かめるように一つ一つつぶやいていく。
口に出したもの以外にも強大な力はまだまだある。
そして何よりもフュージョンの心を揺さぶった名称があった。
『その全てに繋がる鍵……破壊者ディケイド……!』
仮面ライダーディケイド、仮面ライダーの中でも破壊者と恐れられているライダーの名称。
そのディケイドのこの世界へと訪れている。
ならば、フュージョンのやることは一つしか残されていない。
『さらなる大きな力を……全てを、仮面ライダーの力を……一つに!』
フュージョンはそう呟く。
ディケイドと一つとなれば、世界を渡る力を手にいれることが出来る。
それにこの世界の強者、プリキュアも吸収していけば例え数多の世界に存在する仮面ライダーが相手であろうと敵ではない。
全ての世界へと訪れ、全ての世界と一つになる。
それだけがフュージョンの使命であり、唯一持ち合わせた欲望である。
『全てを破壊し……全てを一つに……!』
フュージョンは一度水たまりへと姿を変え、仮面ライダーディエンドの姿を形作る。
全身が銀色の、塗り絵のような姿。
だが、それは確かに。
新たに生まれた、人に恐怖を与える『仮面ライダー』だった。
Next―――――――――――――――――――――――――――
おお、新しい人が来たか
投下乙!
キュアみかんに吹いたぜw
日朝クロスwww
投下乙です。
続きを待っていますw
126 :
T×M:2010/01/17(日) 16:08:05 ID:AwLZQ2bw
年末に書き込んだ者です。規制とかいろいろあって遅れましたが後編投下させていただきます。
T×M 炎を操る男 後編(完結)
いちおー登場人物紹介
平賀=キートン・タイチ(MASTERキートン)………オックスフォード卒でSASに在籍したこともある保険の腕利きオプ(調査員)。
平賀太平(同上)………キートンの父親で無類の女好き。
山田奈緒子(TRICK)………売れない奇術師。そのマジシャンとしての知識を活かして数々の自称霊能力者・超能力者と戦ってきた。
上田次郎(同上)………日本科学技術大学の名物教授。超常現象に否定的な立場で山田との凸凹コンビで多くの事件を解決してきた。
矢部謙三(同上)………上田・山田に協力してくれる刑事。不自然な頭髪をしている。
加藤早苗(オリジナル)………上田のゼミの学生。宗教団体炎の力から母と妹を助けてくれるようにたのむ。
加藤玲子(同上)………早苗の母親。火野に心酔している。
加藤弘樹(同上)………早苗の弟。玲子に連れられ共に教団で暮らしている。
火野炎蔵(同上)………宗教団体炎の力の教祖。炎を自在に操る能力を持つという。
奥田浩ノ介(同上)………教団の副代表で事務長。火野に心酔している。
127 :
T×M:2010/01/17(日) 16:08:51 ID:AwLZQ2bw
日本科学技術大学上田次郎研究室。あれから三人は炎の力本部から帰ってきていた。
「……奥田さん本当にどこも火傷してなかったんですか?」
沈黙を破って上田に尋ねる奈緒子。
「ああYOUも見ていただろう。火もすぐ消えたしな」
「じゃあ上田さんもうすぐ敗北宣言しなきゃなりませんね」
「YOUは一体どっちの味方だ!」
憤る上田。しかし今度はキートンが口を開く
「私に一つ疑問あるんですよ。なぜあの時あの会場はあそこまで暑くなったんでしょう?」
「あ、私も思いました。あれが火野の超能力じゃないとすれば…誰かが暖房を操作したんでしょうね」
「しかしそれは何の為に?」
「………上田さん、キートンさんあれ位の暑さで自然発火物質ってありますか?」
「あれぐらいの気温で自然発火するとしたら…燐ぐらいですね」
「リン?」
「番号15!P!の物質だ。非常に燃えやすい性質で30℃程でも自然発火する。マッチなんかにも使われてるな」
「じゃあ、あのとき火野はその燐を使ったんですよ!それなら説明がつきます」
奈緒子は堰を切ったようにトリックの推論を話し始める。
「あの時最後に紙に触ったのが誰だか覚えてます?火野です。その時に手に塗っていた燐を紙に少量つけるんです」
「なるほど、その後は大袈裟なポーズで合図を送って暖房を挙げされば燐が自然発火する」
「ええこれならあの時の紙が燃えた説明がつきます」
「しかし奥田さんの背中が燃えたのは?」
「簡単ですよ。あの時私達は火野に100%集中していましたからね。その隙に自分の背中に燐を塗る」
「まてよ。それだとその場で火がついてしまわないか?」
「それは紙に火がついた時点で暖房を下げればいいんです。後はあの身を悶えている時に擦って火を付ければ火がつきますよ」
「たしかに燐ならそれも可能だな…」
「山田さん凄いですよ。さすがマジシャンですね!」
「普段の私の指導の賜物ですね」
「黙れ上田」
「しかしこれで何とか火野のやった事は超能力などではないと言えるな」
と得意げに言う上田。
「いや…でもひとつ気になる事が或るんですよ教授、山田さん」
「それは?」
「私がね早苗さんに会ったときに聞いたんです。お父さんが教団に殺されたって」
「それは私も知っていますしかし警察は事件性なしと判断したようですし偶然としか」
「偶然にしては出来すぎではないでしょうか?早苗さんの話だと原因の電気スタンドは滅多に使って無かったようですし」
「んー……しかしそれだと火野の力でお父さんは亡くなったと?」
「いやそうではありませんが…もっと情報が欲しいところですね」
「それなら私に任せてください警察にも顔が利きましてね」
「どうせ矢部だろ」
「そうですか警察に…それではそちらは上田教授と山田さんにお任せします。私はもう一人重要な人物と会ってきますから」
「それってもしかして弘樹君ですか?」
「ええ、今日は会えませんでしたけどやはり弘樹君にも会ってみないと」
「もしかしてこれから行くつもりですかキートンさん?」
「荒事は苦手なんですけどね。それじゃあ」
キートンは二人にそう告げると研究室を後にした。
128 :
T×M:2010/01/17(日) 16:09:44 ID:AwLZQ2bw
『父さん、ちょっと教えて欲しいんだけど今日本で子供に人気があるキャラクターって何かな』
『なんだ太一。藪から棒に。そんな趣味があったのか?』
『ちょっと仕事で男の子にね。こっちは日本に居ないから知識がないんだよ』
『うーん…そうだな、人気があるのかは知らんが猫科戦隊ニャンダー5ってのはよくCMやってるぞ』
『わかった。ありがとう父さん』
電話を切るキートン。
『なんだあいつ…』
「猫科戦隊ニャンダー5ね」
そう呟いたキートン目の前には玩具屋があった。
午前2時頃炎の力教団本部この時間だけあって静まり返っておりゲートも封鎖されている。
赤い虎のような覆面をした男は安々とそれを乗り越えロータリーに侵入する。監視カメラは幾つかあるが男の動きは的確で捉えられない。
「昼間来た時見ておいてよかった…」
男はそう言うと暗がりを動きながら建物の中へと入っていった。
内部はさらに静かで人影はない。男はなにやら捜している・
「ええっと信者達の部屋は…」
「おいっ!お前ウチの者じゃないな?一体何をしている?」
突然逆方向から声を掛けられる。どうやら見つかったようだ。
「私はレッドタイガーですけど?」
「ふざけた奴だ。その面を外して…うぐっ!?」
覆面の男に素早くみぞおちを殴られると男は言い終わらないうちに倒れた。
「ごめんなさいねっと…」
男はここで修行している信者達の部屋を見つけ入った。中には二段ベットがいくつか並んでいる。そして写真を出すとその写真に写っている少年を探し始めた。
「おっ?いたいた」
写真の少年とよく似た男の子を見つけた。
「弘樹くん、弘樹くん」
「……んっ、なぁに……え?レッドタイガー?」
寝起きに特撮ヒーローの覆面をつけた男がいるので当然のように困惑する少年。
「そうだよ私がニャンダー5のレッドタイガーだ」
「えー…ちょっと信じそうになったけど嘘でしょ?おじさん誰?」
弘樹の夢の無い発言を受けて覆面を外すキートン。
「私はね君のお姉さんに頼まれて君を助けに来たんだ」
「え!?お姉ちゃんが?」
弘樹の表情が変わる。
「そうだよ。君の事をとても心配していたよ。」
「…でも駄目だよ。お母さんも一緒じゃないと」
弘樹は沈痛な表情で呟いた。
「君はお母さんに無理やり連れてこられたんじゃないのかい?」
「ううん、違うよお母さんは悪くないんだ。ここに来たのだって…」
「ここに来たのだって?」
「……ううん、やっぱり言えない」
首を振る弘樹。よほど大事な理由があるようだ。
「弘樹君。会ったばかりだけど私を信じてくれないか?君もお母さんもお姉さんも助けたいんだ」
そう言いながらキートン真剣な目では弘樹の方を見る。しばらく二人は目を合わせていたが弘樹が口を開く。
「…分かったよおじさん。実はお母さんは…」
129 :
T×M:2010/01/17(日) 16:10:35 ID:AwLZQ2bw
翌朝上田の研究所には奈緒子と公安課刑事矢部謙三が来ていた。
「無理言ってすみませんね矢部さん。」
「いや〜大恩あるセンセのためならお安い御用ですよ。それにウチらもあいつらに(炎の力)には目ぇつけとったんですわ」
そう茶を啜りながら矢部が言う。矢部は二人とは少なからず親交があり共に捜査を行ってきた仲だ。
「んでこれがあいつらの資料ですわ」
矢部はバッグか紙の束を出しテーブルの上に置く。
「まず教祖の火野…こいつは教団始める前はなんや海外でボランティアやってたみたいですわ」
「ボランティア?」
「ええ、なんや現地の人にも評判もよくて炎ような男と慕われとったらしいですよ」
「炎?そのまんまだな」
「けど滞在先で妻子を亡くしてしばらく消えててたみたいなんですわ。そしてその後日本に現われるや今の教団を起しとりますね」
「何か教団を作った事と妻子を亡くした事が関係ありそうですね」
「大方嫁さんと子供亡くしてトチ狂ったやないか?ありそうな話やろ」
そう言うと矢部は火野の資料の下から別の資料を出してくる。
「次にコイツ副理事の奥田浩ノ介。コイツはめちゃくちゃうさん臭い奴でっせセンセ。ええ大学出とる癖に炎の力の前にも色々いかがわしい商売ばっかりやってますわ」
「長生きになる水…健康食品…白イチジク茶?……ふーむつまりあの教団を実務的にとり仕切っているのは奥田か」
「そうです。なんや暴力団とも繋がりがあるみたいですわ」
「だんだん正体が掴めて来ましたね」
「それで矢部さん、早苗君のお父さんの事件は?」
「いやーセンセこれは事故ですわ。自宅のマンションの自室で死んどるんですよ?しかもマンションには鍵かかってたみたいですし」
「第一発見者は娘さんですし、娘さんと加藤信也以外に鍵を持っている人間はいません。娘さんのアリバイもありますし事故としか考えられませんわ」
「でも合鍵を作っていたとしたら?加藤さんは滅多に日本におらず早苗さんは大学生で奥さんの玲子さんは信者。やろうと思えばいつでもできる」
「アホか山田。仮にそうやとしても動機はなんや?」
「動機は多分加藤さんの保険金…殺害方法は加藤さんを何らかの方法で眠らせるかもしくは既に殺害しておく……」
「なんやて?」
奈緒子の推論に驚いて目をむく矢部。
「なるほど、それでその後はスタンドから発火するように細工をして、その後は合鍵で鍵をかけて出れば良いわけか」
「しかしですねセンセ、さっき言ってたのはぜ〜んぶ山田の推論ですよ?ウチらの調べでも他殺の証拠らしきもんはありませんし」
「矢部さん。他にも炎の力がらみで同じようなケースの件がないか調べて貰えませんか?」
「なんでや?」
「もし似たような事件があるのならそれは奴らの仕業って事になると思いませんか」
「つまり奴らが信者の家族の保険金を資金源にしていると言いたいのか?」
「そうです」
「それがホンマならとんでもない連中やな」
自覚がないのかまるで人事のように言う矢部。
「まなんにせよ次教団本部に行く時にハッキリしますよ。行きましょう上田さん。」
「そうだな奴らのトリックもこの天才物理学者、上田次郎が解き明かしたことだし早苗君のお母さん達も愛想をつかすだろう!」
そう言って景気よく机を叩いた上田だったが奈緒子には相手にされず、矢部の弱々しい拍手だけが響いた。
炎の力本部へと向かった二人は車を駐車場に止めると本部へと歩き出した。
「しかし一つだけ疑問なんだが、さっきYOUの推理が正しいとして奴らは何で焼死に見せかけるんだろうな?疑ってくれというようなものじゃないか」
「死因とか証拠とかを誤魔化せるからじゃないですか?」
「だからと言って焼死だと聞けば誰だって教団がからんでいると考えるだろYOUのように」
「なにか他に理由があるんでしょうか?」
「どんな?」
「それはその…」
そのまま二人は良い考えが浮かばず考え込んでしまった。その時上田の電話が鳴る。
「はいもしもし上田です。あ、矢部さん。」
電話を掛けてきたのは矢部の様だった。
「はいはい、わかりました。どうもありがとうございます」
「矢部さん何だって言ってました?」
「君が予想していたとおりのようだ。確かに早苗君のお父さんのような件が複数あったようだ」
「という事は限りなくクロじゃないですか」
二人は炎の力の核心へとに近づきつつあった。
130 :
T×M:2010/01/17(日) 16:13:26 ID:AwLZQ2bw
「たのもぉー!!」
建物に入るやいなや大声で叫ぶ上田。その声に信者達は驚いてザワザワとしている。
「そんな大声出さなくても良いじゃないですか」
「何を言う。叫ぶことは体にとても良いんだぞ?それに前にも言ったように俺は大声コンテストの優勝経験もあるしな」
そんなやり取りをしていると奥田がやって来る。
「こんにちは上田先生、今日は何の御用ですか?まさか入信されたいとか?」
「違いますよあなた達の嘘を暴きに来たんです」
答えたのは奈緒子だった。
「ほう……分かりました。グレートファイア様はこちらです」
奥田に案内され前回の聖堂に案内される二人。火野は既に壇上にいたが聖堂には前回のように信者達は居なかった。
「今回は信者の皆さんは呼ばないんですか?」
火野は笑いながら答える。
「上田先生があんまり自信満々でいらっしゃものですから、私の不正が暴かれんじゃないかと心配で心配で」
「認めるんですか?」
「冗談ですよ」
意外な火野の言葉に大きく反応する上田だったが即座に否定される。
「それ、冗談になりませんよ」
「これはこれはお嬢さん。手厳しいですね」
「余裕ぶったって駄目ですよ。あなたのトリックは分かっているんですから」
「ほう是非伺いたいですね」
燐を使ったトリックを説明する奈緒子。
「燐ですか…上田先生もお嬢さんも実に聡明な方だ」
火野はトリックを当てられて動揺している様子ではない。
「しかしですねいくら聡明な方がその頭脳を活かしたとしても限界と言う物があるんですよ」
「何が言いたいんです?」
「この世界には理性で捉えられる事ばかりではないという事ですよ」
「そうやって煙に巻くのはやめて下さい。こっちはもう調べがついてるんですよ」
「何の事です?」
「あなた達教団は信者の家族を殺して保険金をえているんだ!」
告発するように言う奈緒子。奥田は驚いた表情で火野は苦虫を噛む潰したような顔だ。
「……心外ですな。それでは私が金のために動いているようですな」
「違うって言うんですか?」
「当たり前じゃないですか!私はね一度たりとも信者の方の家族を、悪く思っていた事はないんですよ。そりゃ理解していただきたいとは思っていたがね」
凄い迫力で一気にまくし立てる火野。
「それにこの教団でお金儲けをしようなんて考えは私にはこれっぽちもない!」
あまりの迫力に反論できない二人。
「どうやらまだ疑っておられるようだ。奥田君!!教団の資金を持ってきてくれ!」
「は、はいっ」
奥田は慌てて走っていった。
「何をするつもりですかね」
「…さあな。ただYOUが火野に火を付けたことは確かだ」
「…おもしろくないです」
しばらくすると奥田がバッグを抱えて帰ってきた
131 :
T×M:2010/01/17(日) 16:14:54 ID:AwLZQ2bw
「私が私利私欲のために動いておらず、私の力が本物だという事をこれから証明してご覧にいれましょう」
そう言って火野は奥田から受けとったバッグを開ける。中には札束が入っていた
「どこの国のお金?」
「なに言ってるんだこれは一万円札だろう。火野さんこのお金は?」
「教団の今使えるお金ですよこれで8割ぐらいですか」
「それで一体何を」
「このお金を私の力で燃やしてご覧に入れましょう。勿論燐など使わずにね」
「なんだって!?」
「もったいな!」
火野の言葉に違う反応をする二人。
「それぐらいの事をしなくてはね。誤解されたままは不本意ですから」
「その札束調べさせてもらってもよいですか?」
「どうぞどうぞお気の済むまで」
二人は火野からバッグを受け取り札束をチェックを始めた。
「YOU、ネコババするなんじゃないぞ」
「しませんよ。でもこれだけあったら家賃に怯えなくてよいだろうなぁ」
などと言い合いながら調べるが特に怪しい点は見当たらなかった。
「よろしいですか?奥田君消火の用意はできてるね?では始めましょうか」
火野がバッグをとり机に置くと前回と同じようなポーズをとり札束に念を送る。
「んんぐぐぐっ…かぁーっ!!」
叫ぶ火野。呼応するようにそれに焦げ臭い匂いが立ち込める。
「おおYOU見ろ、煙だ」
上田が言うように札束から煙が上がり始め、ついには火がついた。
「ああ勿体ねぇ!」
そうしている内に火はみるみる大きくなり殆ど札束が燃え尽きると奥田が火を消した。
「ハァハァ…どうです?わたしの気持ちと力が今度こそ、お分かり頂けましたか?それではまた」
大分体力を消費したのか疲れた様子で火野は奥田を伴って去っていった。
132 :
T×M:2010/01/17(日) 16:15:49 ID:AwLZQ2bw
「まさか教団の資金を燃やすとはな。しかも手も触れずに」
「ええあんな勿体無いことするなんて…燃やすなら私にくれればよいのに」
ピントのずれたことを言う奈緒子。
「おい真面目に考えろよ!」
「考えてますよ。でもあんなに沢山のお金が燃やされるなんて…ああ勿体無いあれいくらあったんだろ」
だめだコイツと思いながら上田は話題を変えた。
「YOU、もう一つ我々には目的があっただろ。早苗君のお母さんを説得に行くぞ」
「いちまんえん…にまんえん…さんまんえん」
よほど先程の光景がショックだったのか奈緒子は放心状態になっている。
「おう?おい戻って来い山田、山田!モドレ〜モドレ〜」
上田は必死に呼びかけ体をゆする。そうしていると奈緒子から紙切れが落ちた。
「ん?なんだこれは?」
紙切れを上田は拾い上げる。
「なんださっきのお札の切れ端か」
「よんまんえん…ハッ!?上田さん何やってんですか?」
どうやら正気に戻った様だ。
「それはこっちの台詞だ!まったくあれしきの事で放心状態になるなよ」
「いったい何円あったんだろって考えたらボーっとしちゃって…すいません」
「すこしは金銭と付き合いの有る生活をするべきだな。よし落ち着いたなら行くぞ」
二人は玲子のいる部屋に向かった。
二人は玲子を見つけるといやがる彼女を庭に連れ出し、先日の火野のやった行為の謎解きをしていた。
「……と言う訳ですよ。僕が解明したとおり火野に炎を操る力なんてないんですよ」
「……」
「ちょっ違っ」
抗議をする奈緒子を遮り話を続ける上田。
「それにねあなたの旦那さんをお金目当てに殺した可能性もあるんですよ?」
「そんな…」
「あなただって帰りたいという気持ちがあるんでしょう?ここにいたって、弘樹君のためにもならないし早苗さんだって!」
「もうほっといて下さい!早苗にもそう伝えてください!」
「待ってください」
強引に話を切り上げ去ろうとする玲子だったが畑の方から声がした。
「いや〜いいトウガラシでしたねよく育ってます」
声の主はキートンだった。キートンはそう言いながら上田たちの方へ歩いてくる。隣には男の子も一緒だ。
「弘樹?どうしてその人と?」
「お母さん…」
「いやー弘樹君と友達になりましてね」
「一体いつの間に?」
「ちょっと昨日の夜にですね…それでね聞いたんですよ玲子さん、あなたがここに来たわけを」
「えっ!?」
「大変失礼な事を言いますが…玲子さん、昔流産なされたそうですね?」
「どうしてそれを!?」
表情が一変する玲子。キートンは続ける。
「弘樹君に聞いたんですよ。あなた宗教にのめりこんでいったのは流産のショックだって」
「落ち込んでいたあなたは教団のことを知り、教祖の火野に会った。それからあなたは魅入られるように変わっていった…違いますか?」
「……」
なにも玲子は答えないがその表情からはキートンが言っている事は正しいようだ。
「それでですね昨日弘樹君は教えてくれた後に言ったんです。まだ家には帰らない、お母さんは今心が痛いから僕が一緒に居なきゃいけないからって」
静まり返る一同玲子は堪えきれず泣き出している。
「帰りましょう。あなたの事を思う弘樹君のためにも」
「それでも私はグレートファイア様を裏切れない…どうあれ私を救ってくれたのはあの人だから」
搾り出すように言う玲子。その言葉を聞いて奈緒子が話しかける。
「だったらこうしましょう。これから私と上田さんがあなたの目の前で火野のインチキを暴いてきます。それができたら家に帰ってあげて下さい」
「……分かりました」
奈緒子に小声で話しかける上田。
「YOU、ちゃんと勝算はあるんだろうな?」
「もちろんですよ。100%って訳じゃないですけど」
133 :
T×M:2010/01/17(日) 16:17:42 ID:AwLZQ2bw
上田と奈緒子、キートンと玲子と弘樹の五人は火野の下へ向かっている。
「そうですか。今度は札束を」
「ええ、私が警察から入手した複数の教団信者の家族が、亡くなっているという事実を突きつけてやったら豹変しましてね」
「しかし燃やすとは、なんとも勿体無い」
キートンは呆れたような調子で言う。
「確かになんとも思い切った行動ですよ。あ、これは燃やしたお札の切れ端です」
「へぇ…ん?」
「私が最初に疑問に思ったこともそこなんです。何も燃やす必要はないですよ何処かに寄付したっていい」
「それは…そうですね。山田さん何か思いついたんですか?」
「さっき上田さんにも言いましたけど、それなりに目星はついてますよ」
「そうですか。最初のトリックといい山田さんは凄いですね。」
「いやいやキートンさんコイツに全幅の信頼は禁物ですよ。私がなんど煮え湯を飲まされたか分からない」
「黙れ上田!考えはちゃんとありますよ。さっきの聖堂に戻りましょう」
聖堂に戻ってくると奈緒子は壇上に上がり机を調べ始める。
「YOU一体なにを探しているんだ?」
「ちょっと話しかけないで下さい……あった!」
奈緒子が机に指をさすとそこには小さな穴が開いている。
「それがどうかしたのか」
「これが火野のトリックの肝なんですよ!キートンさん上田さん手伝って下さい。あいつらビックリさせましょう」
上田に呼び出され聖堂には火野・奥田が来ていた。
「なんですか上田先生急に?」
「実はですねウチの山田が火野さんと同じことができると言うもんで」
奈緒子は演説机の前に立っており机には新聞紙がバッグに入っている。先程火野がやってみせたのと同じ状況である。
「本当ですか?」
「ええ、本気ですよ」
「そうですか分かりました。是非見せてください出来るものならね」
「ではチェックを」
火野と奥田は奈緒子からバッグを受け取り中身の新聞紙を確認する。
「良いでしょう仕掛けはなさそうだ」
バッグを奈緒子に返す火野。
「では始めます……ううう…うにゃーっ!」
火野と同じようなポーズで奇声を上げる奈緒子。火野達は冷ややかな目で見ている。
「まだですかお嬢さん?」
「もう少しもう少し…ん?来てます来てます!」
その言葉に火野達は驚いて新聞紙を見るとたしかにうっすらと煙が上がっている。
「こ、これは!?」
そうこうしている内に煙は大きくなりやがて火が付いて燃え出し、上田が用意していたバケツの水をかけて消火した
「ファイヤー!!…どうですか火野さん?」
「ば、馬鹿な!こんなものはインチキだ!」
「そうですよ」
そうあっさり奈緒子が言うと演説机の下からキートンが出てくる。
「な、なんだアンタは?」
「あなたと同じ事をやっただけですよ」
「どういう事だ!?」
問い詰められトリックの説明を始める奈緒子。
「簡単な事だったんです。この穴を見て下さい」
机に空いた小さな穴を指す奈緒子。
「あなた達はこの穴を使ったんです」
「そんな穴は知らん!」
「とぼけたって駄目ですよ。あの時この机の下に誰かがいて、その人がこの穴からバッグの底に穴を空けて火を付けた…違いますか?」
そう言うと奈緒子は火野を指差した。
「ち、違うそんな事はない!なあ奥田君もなんとか言ってくれ」
「……グレートファイア様いや、火野さんもうやめましょう」
「なんだって!?」
「もう限界です全て上田先生の言う通りだ!警察に全てを話しましょう。私達はこれまでだ」
「何を言ってるんだ奥田君…君まで君まで裏切るのか?」
火野は奥田の肩を掴んで訴えるが奥田は答えない。
「違う、違うんだ私は炎を操る力があるんだ、今度こそ皆を救うために…」
頭を抱えてうわ言のようにぶつぶつと火野は呟く
「今度こそあの時とは違う…」
「火野さんっ…もういい、もう良いんだ……警察に全てを話しましょう」
奥田に肩を抱かれ火野は去っていった。
「行っちゃいましたね」
「ああ、これで早苗君のお母さんも家に帰るだろう」
「火野さんはどうしちゃったんでしょうか?」
「恐らく堪っていた物がトリックを暴いた事と奥田が認めた事で吹き出したんだな」
「…とにかくこれで矢部さん呼んで終わりですね上田さん」
「そうでしょうか?」
話している二人にキートンが割って入る。
「どういう事ですかキートンさん?」
「どうしても気になるんですよねコレが…」
キートンの手元には上田が渡した一万円札の切れ端があった。
支援ホントありがとうございます。
159 :
T×M:2010/01/17(日) 16:41:11 ID:URJBLq4d
本部の裏口中から何かを抱えた人影が出てくる。
「一体どこに行くんですか?」
いきなり声を掛けられうろたえる人影。その間に声の主が姿を現すキートンと上田と奈緒子だ。
「やっぱりあなたが黒幕だったんですね……奥田さん!」
「なんの事です?黒幕って?」
「このお札の切れ端を見て下さい」
キートンはポケットから一万円札の切れ端を出して奥田に見せる
「これ、本物みたいだけどカラーコピーですよ。あなたは教団のお金をこっそりカラーコピーして本物を隠していたんでしょ?こういう時が来たときのために」
「な、なにを馬鹿な」
「ならなぜ逃げようとするんです?」
「そ、それは……」
「最初から全て火野さんになすりつけて、自分は逃げるつもりだった違いますか?」
「何を言うんだ!私と火野さんは仲間だぞ!」
「そうですかね?」
上田も問いかける。
「あなたの経歴調べたたんですがね。あなた怪しい商売をずいぶんやって来たみたいですけど主犯にはどれもなってない」
「つまりそれがあなたの手なんじゃないですか?決して表にはでず、利益だけを得て消える」
「んんん…」
「まだありますよ。今日の火野さんは嘘がばれたって言う様子じゃなかった。自分に炎を操る力があると彼は信じてた…いや、あなたが信じさせていた」
・・・・・
「あなたが裏で火野さんのあの超能力を演出して操って、そして彼のカリスマ性を教団に利用していた。そうあなたこそ火野さんという炎を操る男だったんだ」
「な…なんの証拠があるっ!?全部想像だろ?そんな事は」
「そうですね。なら、ならその荷物を見せて頂けないでしょうか?勿論札束なんて入ってないですよね」
笑顔でそう言うキートン。奥田は図星なのか何も言わず黙っている。
「さぁ奥田さん荷物を見せて下さい」
確認しようと近づくキートンしかし突然奥田が笑いだす。
「くくく…はぁーーはっははは…まったく俺としたことがヘマだったな」
「やはりキートンさんが話した通りだったんですね」
「そうだよ教団を興した最初から最後はこうするつもりだったのさ」
「なんでこんな事を?」
「金だよ金!全部金のためさ火野を教祖に仕立て上げたのも奴の力を演出したのも!」
開き直ったのか地が出ているのか奥田はこれまでとは別人のようだ。
「完璧な計画の筈だった…上田先生のようなおあつらえ向きな、解決役まで現われてくれたのによ!」
「奥田さん……自首してください」
「嫌だね。捕まれば多分俺はもう終わりさ。だから悪あがきさせてもらう」
奥田は手を叩くと裏口から柄の悪そうな男達が出てくる。おそらく奥田と付き合いのあるというヤクザだろう。しかし最後に出てきた三人の知っている人物だった。
「弘樹君!」
玲子と弘樹が男達に挟まれて出てきた。
「上田先生達と探偵さんがこの母子に用があったのは分かってたよ。俺の言いたいことは分かるな?」
「やめなさい!そんな事したって逃げ切れるもんじゃない」
「うるせぇ!この二人が傷ついて欲しくないなら、俺が安全な場所に逃げるまで何もするな!」
そう言うと奥田はジリジリと車の方へ歩いていく。
「…上田教授、山田さん」
「…何ですか?」
「私が今からあいつらの気をそらしますからその隙に二人を助けてください」
「何こそこそ喋ってやがる!?黙れ!」
「せぇー…のっ!」
その瞬間キートンはなにやら白い物を男達の顔に投げつける。
「ぐわっ!?」
「うぎゃっ!」
白い物はぶつかるや否や弾けて赤い粉になり男達は目を押さえ悶える。
「てめぇ何を…うごっ!?」
その隙を見逃さずキートンと上田は得意の格闘技で一人一人制圧していき、奈緒子は二人を助ける。
「ち、ちくしょーっ!」
走り出そうとした奥田だったが後ろからキートンにタックルされ気絶してしまった。
「凄いやおじさん!もしかして本当にレッドタイガーなの!?」
そう満面の笑顔で言う弘樹の言葉にキートンは笑顔で応えた。
164 :
T×M:2010/01/17(日) 16:42:57 ID:URJBLq4d
格闘劇の後奥田と男達は柱に縛りつらけれて伸びている。
「もうすぐ矢部さんも来る。それで今度こそ終わりだな」
「ええ、私もこれで家族と年末年始を過せそうです」
「そう言えばキートンさん、さっき投げつけたアレ一体何なんですか?」
「ああ、これはこの教団の畑からちょっとトウガラシを拝借して作った即席のトウガラシ爆弾です。役に立ってよかった」
「へぇトウガラシ……キートンさんちょっとそれ貸してください」
「良いですけど何を?」
「こいつらにおしおきですよエヘへッ!」
それからしばらくすると奥田は目を覚ました。目の前には奈緒子がいる。
「…なんだい嬢ちゃん」
「奥田さん今からあなたを燃やします」
「何だと!?」
「人を騙したり殺したりしてきたむくいですよ御愁傷様」
そう言って合掌する奈緒子。
「ふ…ふざけるな!あんたらにそんな事出来るもんか」
「そうですかね段々背中が熱くなって来てませんか」
その言葉が終わるとすぐ火野の背中が燃え出す
「へ、どうせ燐でも塗ったんだろ。俺は騙されねぇぞ!」
「燐ならそんなに熱くなりますかねぇ」
そんな馬鹿な…と思う奥田だったが確かに背中が熱い。燃えるようだ。
(まさかこいつら…本気で俺を?)
「どうです?まだ熱くないですか?」
「嬢ちゃん、なぁ止めてくれよ!アンタだって人殺しなんて御免だろ?」
「悔い改めたら消えるんじゃないですか?それじゃまた」
踵を返し奈緒子と二人は歩き出す。奥田は必死に懇願して叫んでいるが相手にされない。
「ありゃあ完全に信じてるな」
「燐を服に塗ってトウガラシを背中に、直接すり込んであげただけなんですけどね」
「拷問みたいだけど、少しはあれで反省するべきですね」
「あのぅ…皆さん」
玲子に声を掛けられ止まる三人。
「今回のことは…なんてお礼したら良いか…」
「良いんですよ。それより今度こそ帰ってくれますよね」
「早苗は私なんか許してくれるでしょうか?」
「だいじょーぶだよお母さん!お母さんは悪くないしお姉ちゃんそんなイジワルじゃないよ!」
「弘樹君の言うとおり。最初はギクシャクするかもしれないけどまた元に戻れますって」
「そうですね…グレートファイア様と違って私には家族が、早苗と弘樹がいる…やりなおしてみせます、ありがとうございました」
深々と頭を下げる玲子と笑顔の弘樹。三人はそれを見て再び歩き出す。
「これにて一件落着…今回も私が大活躍でしたね上田さん」
「何を言ってるんだ君は。俺が教え子のために大奮闘しただけだ」
「学者の癖に事実を平気で捻じ曲げるんじゃない!」
「まぁまぁお二人とも…あ、もうこんな時間!?」
上田の腕時計が目に入り叫ぶキートン。
「どうかしたんですか?」
「いや今朝に娘と4時に出かける約束をしてまして…それではまた!」
愛娘の百合子との約束を思い出し駆けていくキートン。その背中をボーっと見ている上田と奈緒子。
「……行っちゃいましたね」
「ああ」
「良い人でしたね。キートンさん」
「惚れたのか?」
「バカ言わないで下さいよ。ただこれでもう会えないと思うとちょっと寂しいじゃないですか」
「なに、名刺交換はしたから会おうと思えばまた会えるさ」
「……今度は事件以外だと良いですね」
佇む二人にサイレンの音が遠くから聞こえてきた。
これで後編終わりです。スレ汚し失礼しました。さる支援本当にありがとうございました。
おっとと、乙でする
乙!さるにも負けず良く頑張った。
オツ!
おつ!
TRICKしか知らないけど楽しめたぜ
マスターキートン読んでみようかと思ったけど、売ってなくてまいった
古本屋でも回るかな
番外編その1 TASTE [俺の味]
乾いた風が吹く道を一人の青年が進んでいた。
灰色の髪に無骨な顔。緑のズボンと赤いアーマーを着込んだ男はナップザックを背負いながら正面を向いた。
青年の名はロイ。料理が趣味の旅人である。
趣味とはいえ調理師免許をもつくらい腕はある。そこらの料理人には負ける気はない。
料理に携わるものとしてのプライドも持ち合わせている。
(今日はここで休むか)
ロイがたどり着いたエリアから、近い街を選び今日の宿を選ぶ。
治安もしっかりしていると手持ちのデバイスで確認して、エリアへと足を踏み入れた。
その彼がそこで忘れられない存在と出会ったのは、ただの偶然である。
当時は料理人かハンターか悩んでいる彼が、料理人の道を断念した記念すべき日だ。
これはひどい、とロイは思わず思考してしまう。
破壊されたビルに撤去されていないメカニロイドの残骸が道路に転がっている。
残っている建物も炎で焼けた跡や車がつっこんだ状態が放置されていた。
ガーディアンのメンバーがやたら多く、瓦礫などを撤去しているために一人つかまえてロイは尋ねる。
「おい、なにがあった?」
「一週間前にイレギュラーの襲撃があったんです。ここは危ないので、速やかに安全エリアへと移動をしてください」
そうロイへガーディアンの隊員は説明して、瓦礫の撤去の作業へと戻っていった。
タイミングの悪いときに訪れたものである。
自分が宿泊できる施設は残っているだろうか。
一縷の望みに託すようにロイは奥へ進む。
その考えが甘いことはすぐに分かった。
公共施設はヒトビトで溢れかえっている。本来の街の住民ですら避難所暮らし。
流れ者であるロイが過ごせる場所などありはしないだろう。なんてことだ。
(このまま通り過ぎて、別の場所へ向かうのもいいか)
そう考えてため息をつき、歩くのを再開する。そこへ食事用トレイを持った子どもが通り過ぎた。
トレイに乗った食材に気づき、視線を移動する。
「サバ……?」
珍しい食材を見たものだ。魚自体最近は収穫量が減ってきている。
クローン食材がほとんどで、養殖ものすら魚は珍しい。
「あ、新しいヒトですね。食事はいかがですか?」
ロイが話しかけられ振り向く。ヒラヒラのメイド服が視界にはいり、内心なぜメイド服? とツッコンだ。
それはさておき、ロイは少し考える。旅の途中食料が不足し、食材の補充を期待して寄ったのだが今の状況では望むべくもない。
ゆえに一食でも浮かしたい、というのが理由の一つ。
もう一つの理由が珍しい食材をどう調理しているのか、料理人として気になった。
「わかった、案内してくれ」
ロイがそういうと、メイド服の女性が列の最後尾へと案内してくれる。彼女の他にも、複数のメイド服の女性がいた。
災害時の配給所としかいいようない施設でメイド服の女性が接客しているのシュールだ。
これでサバの食材をダメにしているような料理だったらどうしよう、とロイは本気で頭を痛めた。
□
「天道、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
端正な顔つきの長身の青年、天道総司は料理をしていた。なぜかというなら答えは単純。
一週間前のワームとイレギュラーの混合部隊の襲撃を受けた街のヒトビトに、暖かく美味しい食事を届けるためだ。
作務衣姿の天道はかつて妹に振舞ったように、料理をヒトビトに振舞っていた。
「なんで……アタシたち女性陣はメイド服なの?」
そういって喋る少女、エールはヒラヒラのスカートをちょんとあげる。
フワっとした黒い服にエプロンドレスを着けた、エールにしては珍しい可愛らしい服装だった。
普段は男勝りな性格に隠れる可愛らしいエールの顔が、やや紅潮して愛らしさを強化している。
そのエールに天道はサラッと告げた。
「似合っているぞ」
「うん、それはありがとう。けどこんな場違いな……」
「それは違うぞ、エール」
天道はあっさりと告げて天へ人差し指を向ける。
「おばあちゃんがいっていた。料理とは口に入ってからが料理ではない。目に入ってからが勝負だと」
よく通る澄んだ声が堂々と告げる。やや呆れ顔のエールに対し、なんの不満があるか本気でわかっていない顔だった。
「うん、この前みたいに食材を調達するのはよくわかる。けど今回は理解できない……」
ときどき天道は暴走する、とエールは天を仰いだ。
□
この日から二日ほど前、ライブメタルの捜索を一旦中止してエールは街の復興を手伝うことにした。
なぜか堂々と指揮を取っている天道に呼び出され、とある漁港へ連れてこられたのだ。
「天道、食材はプレリーたちが調達してくれるみたいなんだけど……」
「基本はそれで構いはしない。だが、新鮮であることが重要な食材もある。そのための交渉はすでに終えている。付き合え」
はあ、と料理は専門外であるためエールは天道に従った。
しかし、なぜ自分だろうかとエールは疑問をもつ。
そうこうしている間に、港の一つの船へ天道が向かった。
「お、天道のアニキ! 船の用意は出来ているぜ」
そういう男に天道は静かに頷いた。エールはガラの悪い服に身を包み、赤い兜をかぶった男を観察した。
なんとなくだが、堅気の人間っぽくない。
「礼をいうぞ、ウルフ」
「へへっ、あのとき助けてもらった礼ですぜ。ところで、そのお嬢ちゃんは天道のアニキのコレで?」
ブッ! とエールは小指を立てるウルフの仕草に吹き出した。
顔を真っ赤にするエールを前に天道は微塵も動揺せず説明する。
「同僚だ。今回の仕事を手伝ってくれる」
「通りでアニキのコレにしちゃ子供すぎると思ったぜ。嬢ちゃん、俺はウルフってんだ。よろしくな!」
「……アタシはエール。ヨロシク」
エールは子供扱いされたことに不機嫌さを隠さず、ウルフの差し出した手を握り返した。
口調が棒読みになりウルフにプレッシャーをかけて引かれているが、気にしない。
「時間がない、ウルフ。船を出してくれ」
天道の指示通り、ウルフは操縦室へ指示を飛ばす。船が出てエールの不機嫌さを指摘した天道に「なんでもない!」と答えた。
数時間かけて訪れた地点で船を止め、天道が海を前に網を用意した。
そこへウルフが愚痴ってくるのをエールは見ている。
「天道のアニキ、漁業ができる時間は少ないですぜ。まったく、魚の保護とかいって量も時間も決められているなんて……」
「しかたない。より美味しい魚が多くのヒトに行き届くためだ。俺は妥当だと思っている」
今回必要な分さえ確保できればいい、と天道は告げてカブトゼクターを掴んだ。
いつの間にかベルトを巻いているのに、エールは疑問符を浮かべる。
ウルフがそのエールの疑問を尋ねてた。
「へ、変身するんですか!?」
「その方が早い。あと十分ほどでサバの群れがここを通る」
「いったいどういう根拠でいっているの?」
「俺の計算と、長年の勘だ。変身!」
ウルフは変身できるのを知っているんだ、とポツリと漏らすが気にするものはいない。
変身を終え、銀の仮面ライダー、カブト・マスクドフォームへと変身を終える。
カブトは網をつかんで、エールへと視線を向けた。
「エールも変身しろ」
「へ? アタシも?」
「ドレイクゼクターを使えば水中も行動できるはずだ。確かマスクドフォームとライダーフォームの特製が混ざっているという話だったな?」
『ええ、それは本当だけど……もしかしてサバを捕まえるためにエールを連れてきたの……?』
「その通りだ」
モデルXの疑問にカブトは迷いなく答える。モデルZは呆れて声もでない。
エールは天道らしいなあ、ぐらいしか感想がでなくなっていた。慣れって怖い。
エールは特に反対らしい反対もせず、あっさりとロックマンDX(ドレイクエックス)へと変身した。
□
(ごめんね、ドレイクゼクター。あなたの力をくだらないことに使って……)
まあ、謝ってもしょうがないかとエールはあっさりと思考を切り替える。
配給用の食事をトレイに乗せて次々配っていった。
エールも協力したかいがあってか、サバはヒトビトに人気だ。
サバを使った料理は天道の得意料理らしい。昨日作ってもらったときは確かにうまかった。絶品だ。
灰色の髪の旅人らしきヒトに配給し、エールは離れた。
「ムッ! この味は…………」
男のつぶやきになんとなく興味を持ってエールは振り向く。
男は身体を震わせてスプーンを口に含んだままで目を見開いている。
さらに身を切り分けてサバを三口に含み、男ははぁ、とため息をついて空を見上げた。
「な、なんという味わい深さ……。サバを煮て味噌とタレをかけただけの一見単純な料理に見える。
しかし火はサバ全体に均等に通り、子供も食べやすいように小骨をとっているというのに身が崩れていない。コレは料理人、手馴れているな……」
男のつぶやきにエールは思わず笑みを浮かべる。
天道の料理の腕はガーディアンのみんなが認めている。
その彼が褒められているのは、なぜか知らないが誇らしかった。
男はさらに食を進めて感動に身体を震わせていた。
「赤味噌と白味噌がいい具合に混合されている……四:一くらいの割合か? サバを知り尽くしている……まさか。
すまないがそこの娘さん、頼みがある」
「はい?」
話しかけられるとは思っていなかったエールが、思わず間抜けな返事をする。
男は真剣にサバを示して詰め寄ってきた。
「このサバの味噌煮を作った男のもとへと案内して欲しい!」
溢れる熱意に少しだけたじろぎながら、エールは首を縦に振った。
エールは天道の元へ怪しい男を一応警戒して連れてきた。
天道の手際は恐ろしくよく、溢れかえっていた街のヒトビトへの配給分の食事はすでに作り終えている。
後の巡回に加わるためである。いつか天道がプレリーのことを働きすぎだと評していたが、エールからすれば天道もその類の人間である。
閑話休題。
天道のもとへロイを案内したエールの眼前に、奇妙な光景が映っている。
ロイが土下座して天道へ今後の料理の手伝いをさせて欲しいと懇願している。
なぜこうなったのか、少しだけエールは記憶をさかのぼってみた。
「あんたがこのサバの味噌煮を作ったのか?」
「そうだ」
ロイの不躾な態度に、さらに上回る不遜な態度で天道が返した。
問答無用なロイの態度にエールは疑問を抱く。先程まで味に感動をしていたのに。
「あんた……いったいなに者だ? こうまでサバに精通しているなんて」
「おばあちゃんがいっていた。料理の道は天の道に通じる。ゆえに俺こそがすべての味を知る資格があるとな」
「天の道!?」
ロイが天道の言葉に反応する。エールとしては聞き慣れたが、初見で天道の口上は呆れるよね、と頷いた。
もっとも、天道本人にいってもフッ、とキザな笑みを返されるだけだが。
しかし、ロイの反応はエールの期待したものではなかった。
「まさか……あの天の道か!?」
「天の道は一つしかない」
「バカな……あの天の道はとっくの昔に後継者をなくしたという話だ……。だが、このサバの味……本当の本当に天の道なのか……?」
「あのー、天の道のどこに驚いているの?」
エールはロイの予想外の反応に思わず尋ねてしまう。ロイはエールを一度みて呼吸を整え、静かに話を続けた。
「万の料理法に精通し、特にサバと豆腐の調理において右にでるものはいない。食べたものを天国へ招待し、味わったものはすべて神の福音を耳にする。
その料理はいくら金を出しても味わえるものではないが、真に飢えたものには無償で料理を振舞い義の料理人と称された。
東にサバを担いで現れたと目撃されて、すぐ西で豆腐をもって神に迫る腕を披露した神出鬼没の存在。
かつて料理界を闇の料理人が支配しようとしたとき、天の道を極めた料理人が立ち向かって世界の料理を守ったといわれる救世主。
幻の白包丁を持つ伝説の料理人の称号……“天の道”。その後継者だというのか……?」
半信半疑といった様子でロイが熱く語る。途中でエールへの説明という部分を失念しているように見える。
どちらかというと天道に確認をしたいという様子だ。
いくらなんでもおおげさだとエールが思っていると、天道は真剣な眼差しのままロイへ告げる。
「よくわかったな」
「ちょっとは否定しなさいよ! おおげさでしょうがッ!」
エールがツッコムが、天道はむしろエールを不思議そうな瞳で見つめる。
エールが悪いのは自分か? と疑問を抱いて言葉をぶつけた。
「だいたい、白包丁なんて持っているの? 今まで使っていないでしょ?」
「持っているぞ、ほら」
エールの疑問に天道があっさりと答えた。あるのかよ! という内心のツッコミをしたままエールは差し出された白包丁をつかむ。
白い鞘に包まれた包丁を引き抜こうとするが固い。エールが「ぬぅぅぅぅ……」と力を込めるが抜けない。
「なにこれ……?」
「そう乱暴に扱うな。俺にも触らせてもらっていいか?」
ロイが横から口を出し、エールから包丁を受け取った。ロイも包丁を抜くことが出来ないらしい。
砥が行き届いていないんじゃないか? と責めるように天道を見るが、天道はあっさりと包丁を引き抜いた。
暖かい陽光のように刃が光を反射している。曇りない刃は見事に研ぎ澄まされていた。
ならなぜ先程は抜けなかったのか不思議だが、疑問はロイが解いた。
「本物の白包丁……自らが扱うものを選び、その者しか抜けないという伝説は本当だったのか」
いや、疑問が解けたのではない。わけわからない答えが返ってきたのだ。
エールはファンタジーの伝説の剣のような設定の“包丁”がバカバカしくて溜息をつく。
斬る相手は魔物ではない。食材なのだ。呆れるのも無理はない。
「本物の天の道がこんなところに……いや、天の道だからこういう場所にいるのか……」
なんだか天の道に対してのエールの印象が崩れていく気がするが、事実ならしょうがない。
天道が異世界の人間ということを知らないため、天道にそういうことをしている暇がないはずなのだがエールにはツッコメない。
エールの呆れた感情が膨れ上がるなか、ロイが地面に屈する。
両膝を折りたたみ、地面に手をつけて頭を下げた格好。たしか土下座といった行為だ。
「頼む、俺をあんたのもとで料理を手伝わせてくれ!」
ロイがこれ以上にないくらい真剣な言葉で告げる。
置いてきぼりを食らったような気持ちのエールが天道を見ると、天道は厳かに頷いた。
「いいだろう。だが俺の指導は厳しいぞ」
偉そうに。エールの感想は感激したロイの威勢のいい返事に掻き消えた。
ため息をつき、エールは再び悟る。天道に常識は通用しない、と。
□
ロイが天道のもとで料理を手伝うようになって翌日。
またも街を訪れる男がいた。黒いマントで全身を包んだ男が笑う。
道いく人は振り返り、妙な格好をする男に首を傾げていたが構わない。
「フフ……天の道。待っていろよ……」
男が不気味に笑いカミナリが落ちる。雷雲轟くなか、不気味な男の笑い声が響いた。
「おい、そこの男。身分を確認させてもらうぞ」
ガーディアンのメンバーがあっという間に取り囲み、男をチェックし始める。
ちなみに男が不審人物と通報されて解放されるまで一日を要した。
「天道さん、賄いをつくってみた。どうだ?」
「ふむ」
天道がロイの用意した賄い食を一口分スプーンで掬った。忙しい昼時も終り、ロイは批評を頼んでいたのである。
その天道のスプーンが横から奪われ、怪しい風体の男が食べた。ロイは怒り、男へ抗議する。
「あんた、なにをする!?
「ふん。天の道がいると聞いてきてみれば……なんだ、この賄いは?」
ズイ、と男がスプーンをロイへ突き出す。ロイが困惑しているが、怪しい男は興奮して責めつづけた。
「火の通りは悪くないが、魚に金物臭さが染み付いている。キサマ、包丁を使ってこの魚を切ったな?」
「あ、ああ」
「身が崩れにくい魚にはなるべく竹包丁を使うのが常識だ。身が崩れやすい魚でも、金物臭さが染み付かないように気を付けるのは当然の心構え。こんな料理、豚の餌だ!!」
男が興奮しロイを罵倒する。エールは横で聞いていたが、いきなり現れて偉そうに説教する身元不明の男に我慢がならなかった。
言葉を失っているロイをよそに、エールがくってかかる。
「いきなり現れてなによ、あんた!」
「ふむ、そういや自己紹介がまだだな。天の道、キサマに勝負を挑みに来た。我ら……闇の料理人がな!」
「闇の料理人だとォ!?」
「…………知っているの? ロイさん」
またワケのわからない男が出てきた、とエールが呆れながらロイに尋ねる。
ロイはエールに天の道を説明したように険しい顔で闇の料理人について語りだした。
「この世に権力者が現れて以来、彼らはみな腕のいい料理人を傍らにおこうとした。
権力に仕える料理人の中から、やがてその料理の力で権力者の心と身体をも操る者が現れた。
そのような闇の料理人の頂点に立つ者に伝わってきたものがある。白包丁と対をなす、その名も……」
「黒包丁。こいつのことかな?」
不気味な男が含み笑いを浮かべたまま、妖しい光を放つ包丁を掲げた。
エールは眉をピクリと動かす。確かにあの刃には普通の刃物にはない妖しい雰囲気が存在する。
まるで血を吸い取り、光を増すような妙な感覚にとらわれた。背ずじがゾクリとする。
あれはそうそう簡単に手にしていいものではない。ごくり、とエールはツバを飲み込んで思った。
(でもあれ、包丁なのよねぇ……)
いまいち、緊張感に欠ける。エールは誰かに愚痴りたい衝動をこらえた。
だいたい闇の料理人ってなんだ。権力者を操るとか、たかが料理に出来るのか。
ミニ四駆で世界征服を目指すマッドサイエンティストを漫画で読んだ大人のような醒めた感想しか浮かんでこない。
「なるほど……俺を倒し闇の料理人の再興の憂おいを断つということか」
「そういうことだ……クックックック」
そういってマントを男が脱ぎ、秘密のヴェールを脱ぐ。
和服をスラッとした肢体で着こなした妖しい光の瞳の男。
「俺の名はヨミ! 闇の料理人最強の後継者として、天の道! キサマを倒す!」
「いいだろう、俺はどんな勝負からも逃げはしない」
そういって二人は黒包丁と白包丁を構えた。ニヤリ、と天道が強敵を認めた笑みを浮かべる。
始めて見る表情だが、なんだかもったいない気がする。それもご愛嬌。
「勝負は明日、午前十二時……パスタ対決だ! 逃げるなよ?」
ヨミの挑発に天道はフッ、と笑って挑発する。いつもと変わらない態度。天道はいつでもどうぞ、と言外で告げていた。
踵を返す男を見届け、エールはドッと疲れる。妙なことにもなっったのだと呆れ果てるしかなかった。
ヨミが帰った後、ロイがすぐに天道に頭を下げた。
天道は首をかしげるが、ロイは悔しそうに声を搾り出す。
「すみません……俺のせいで……」
「いや、どの道奴との対決は免れなかった。そう悔やむな」
それに、と天道は不敵に笑う。戦場で何度も目にした頼もしい眼差しだ。エールには見覚えがある。
「俺は負けはしない。なぜなら最強だからな」
それは料理対決で使う台詞か。
そうツッコム気力もエールにはなかった。
「天道さん……しかし、パスタ対決……」
「問題はない。材料は揃っているからな」
「いつの間に?」
「なに、こんなこともあろうとだ」
伝説の台詞を告げる天道だが、いったいどういう場合を想定したというのだろうか。
まだ単純に明日のメニューはたまたまパスタだった、と説明された方が納得いく。
もっともそんな常識的な答えが返ってくることは、エールはとうに諦めているが。
「ロイ、お前の賄いは奴の言い分が一部正しい」
「ああ……俺はまだ未熟だ」
「だが、そう落ち込むことはない。なにより、食べるものに喜んで欲しい。そういう料理の王道から逸れていない。俺が保証する」
そういって天道はロイにほほ笑んだ。ロイは驚いて戸惑っていた。
本当、面倒見はいい奴だ、とエールは少し胸が暖かくなった。
□
太鼓が叩かれ、賑わっている配給所に一際大きい音が鳴り響いた。
テントが並び、普段はここでの料理を楽しみにしている一般人も祭りの雰囲気に色めきだつ。
ちゃんとお客さんが味わえるように五十ほど席が作られている。あぶれた人は立ってまで見ようと足を運んでいた。祭り好きなんだろうか。
観客席の眼前では、TV局のスタジオくらいの広さの空間が開けられていた。
対をなすキッチンが二台。食材が山ほど周囲に詰まれている。
キッチンの奥には、三つの客席が存在していた。上には観客に見えやすいようにTVまで取り付けられている。
その準備の良さをみて、エールは何度目かわからない呆れたため息をついた。
「お、どうっスか? エール」
「これ、アンギーユが用意したの?」
「そうっス! ちょっと苦労したけど、また料理対決が始まるなんて楽しみっス!!」
「また……?」
「あ、そういやエールは病院にいたっスね。そのころ闇の料理人の使いってのが天道に挑んできたんっス。
今度は大物だから、一番白熱したバトルになりそうっス!!」
そんなことがあったんかい、というエールのツッコミは虚しく消えた。
髪が逆立ったアンギーユが忙しそうに離れていった。なんだかなー、とどこか醒めた目つきでエールは舞台へ視線を移す。
料理勝負は間近に迫っていた。エールは自分に与えられた席へ向かった。
「え〜と、ほ、本日は天道さんと闇の……闇? 闇の料理人・ヨミさんの料理対決へお集まりいただき、感謝します」
金のブロンドが陽光を反射して輝き、赤に近い桃色の司令官用制服に身を包んだプレリーが戸惑うように料理対決の始まりを宣言する。
同時に場は盛り上がり、盛大な歓声が広場に響いた。
エールは周囲の盛り上がりを醒めた目つきで見ながら、プレリーまで巻き込んでいたことに驚いた。
最初真ん中の席に座らせたとき、プレリーが戸惑ったようにキョロキョロしているのをプレリーは見逃していないが。
「勝負の方法は簡単。二人に料理を作ってもらい、みなさまに食してもらって採点してもらいます。料理品目はパスタ。
手元に二つのスイッチがありますので、食後に美味しいと思った方のスイッチを押してください」
そういってエールは手元のスイッチを見た。白いスイッチが天道、黒いスイッチがヨミという人だ。
ガーディアンのメンバーが判断すると天道が有利すぎるため、発案したルールなのだろう。
まあ、天道なら「美味いとみなが思う料理こそ、最高の料理だ」とでもいいそうだが。
ふっ、と場の空気が変わる。まるで戦場のような感じにエールは警戒して周囲をみやる。
周囲のヒトビトも空気が変わった程度は理解したらしく、戸惑っていた。
エールは殺気の発生源を見つける。ヨミと名乗っていた男が、天道を殺しかねないほど鋭い視線を送っていた。
ニヤリ、とヨミが笑う。
「この料理対決、一筋縄ではいかないな……」
「ロイさん」
エールはいつの間にか隣にいた青年の姿に驚く。
料理に真摯な態度の彼は天道とヨミの姿を凝視していた。
場を支配する緊張感を前に、プレリーが合図をする。
「それでは料理対決、始めてください!」
プレリーの凛と通った声が広間に響き、同時に天道とヨミが包丁をとる。
神速の包丁さばきが両者のキッチンで繰り広げられた。
□
パスタを茹で上げる時間はほぼ同時。ヨミはデュラム小麦を使って練り上げ、切り揃えたパスタ麺のお湯を切りながらソースの続きに取り掛かる。
パスターメーカーを横切りニンニクの香りがするフライパンを確認する。ウィンナー、マッシュルームを炒め煮ていたトマトソースを準備する。
食欲を刺激する強い香りに周囲の人を取り込んでいることをヨミは自覚していた。
料理に置いて見た目の前の段階、匂いが重要である。食材が持つ香りを何倍にも増幅し、鼻に届けることによって食欲を刺激する。
見た目、食感、味、とさらに段階を踏ませて五感を通したときこそ、ヒトは料理に支配される。
料理の進行状況は満足といっていい。天道を見る余裕もあった。
ヨミは天道の手際のよさに感心し笑みを浮かべる。闇の料理人と天の道……光の料理人は対をなす存在だ。
しばらく途絶えた光の料理人。最後と思われる後継者の登場にヨミは心が踊った。
料理とは味で相手を快楽につけて、屈服させるもの。
闇の料理人の基本であり、これまで生きたヨミの信念だ。
そのヨミと違う料理を作るものを屈服させることで、闇の料理人が正しいことを世界に知らしめる。
ガーディアンの司令官が存在しているとは都合もいい。
光の料理人、天道に勝ちここを世界の支配の足がかりにする。
長年の闇の料理人の悲願。ヨミは力を入れて自慢の逸品を作りあげていった。
天道を意識するヨミとは対照的に、天道は気負わずいつもの通り料理を作っていた。
本来の時間軸とは違い、天道は闇の料理人が一人、生簀一郎と料理勝負をしたことはない。
だが、白包丁を手にしたあの日、似たようなことが“この”天道にもあったのだ。
オリーブオイルをひいた鍋から、強い磯の香りが広がる。
イカの輪切り、殻を剥いたエビ、あさりを均等に火が通るように炒めあげていった。
シーフードソルトにトマトの香りがただようソースを入れて、しばらくして小皿にとって味を確かめながら満足に頷く。
天道はヨミを見ていない。それは眼中にないのではなく、料理にとって大切にしていることの相違の現れだ。
タマネギを転がして包丁を手に取る。そこでヨミが話しかけてきた。
「おい、天の道。キサマ……ふざけているのか?」
「なんの話だ?」
「なぜキサマ……白包丁を使わない!」
フッ、と天道が笑う。最前列のロイがなにか気づいたような顔をしている。
こいつはあの日、ヨミによってバカにされた料理の時に使っていた包丁だ。
「お前がバカにした金物包丁だが、こういう場合は白包丁より役に立つ。ただそれだけだ」
「ほざけ……後で泣き言をいっても遅いぞ!」
そういってヒートアップするヨミを余所目に天道は手を進めた。
ヨミがあえて香りを強調しているのを天道は止めはしない。
料理は香り、見た目、味と五感からくるものと基本がわかる相手。
しかし、惜しいと思う。ならば天道の天の道が示してやらねばならない。
リズミカルにタマネギを切る音がやみ、みじん切りになったそれを鍋に入れた。
「終了!! 二人とも手を止めてください!」
マイク越しに司会者を買ってでたウイエの声が拡大されて広場に響く。測ったかのように天道とヨミは手を止める。
出来上がった料理を前にヨミは腕を組んで自信満々に佇んでいた。
対し、天道はあくまで自然体である。
「それでは両者の料理を皆さんに食べてもらいます。まずは…………」
「俺からいかせてもらうぞ、天の道」
ヨミが自信満々に前に出る。天道は無言で頷いて文句はない、と態度で示した。
ヨミはバカな行為だと天道を蔑んでいる。わざわざトマトソースを使ったパスタとしてメニューをかぶらせたのは偶然ではない。
同じくトマトを使ってかつ、天の道より闇の料理人が優れているというのを示す。
それだけではなく、先に料理を出した方が有利なのは明白。味に慣れてしまい後出しの評価が落ちやすいのだ。
もっともこれは、出来上がった料理の味が同等以上でないと意味がない。もし後出しがうまければ、あっという間に先出しの料理の味は上書きされる。
だからこその自信。絶対負けないという闇の料理人の自負がヨミにはあった。
ヨミはニヤリと笑みを浮かべて、モッツアレラチーズを乗せた真っ赤なパスタを評価をするヒトビトへ配ることを顎で指示した。
偉そうな態度であるが、周りは従って配っていく。
客という名の支配するべきヒトビトが、鮮やかな赤いパスタの香りにどよめいた。
見た目、香りともに客を支配している。後は口にしてもらうだけだ。
「品目はモッツアレラチーズのトマトソースパスタ。トマトソースの香りがお腹を刺激します。早く食べた〜い! それでは皆さん、試食をどうぞ!」
ウイエの合図とともに、フォークを手にとってヒトビトがパスタへ手をつける。
勝ちを確信しているヨミは口の端を持ち上げるだけだった。
(パスタか……)
ガーディアンの司令室でモデルVの反応を追っていたプレリーは、ウイエたちに無理やり連れてこられて解説役を押し付けられた。
平和のためにガーディアンの司令官としては有能であるが、プレリーは料理に詳しくはない。
天道が着てから食事が豪華になったのだが。
それはさておき。
料理に疎いプレリーだからこそ、試食役兼解説役を勤められた。プレリーの両隣にいるヒトは、この街の住民だが普段は天道食道に足を運んでいないヒトたちだ。
プレリーと同じく料理に詳しいわけでもない。あくまで平等に、とは天道の望みだ。
プレリーはフォークでパスタを巻いて、トマトソースで赤く染まった麺を口に運ぶ。
モッツアレラチーズを巻き込んだパスタがプレリーの可憐な唇の中へ入り、チュルンと少しでた麺を吸い込む。
「……ッ!? こ、これは……」
プレリーがつぶやき、驚愕の色が瞳に宿る。いや、プレリーだけでなく周囲の人間すべてがそうだ。
口内から立ち昇るトマトスープの香り。舌を這い通る麺の柔らかくかすかに芯の通ったアルデンテの感触。
モッツアレラチーズとトマトで染まった麺が舌を刺激、かつ後味がすっきりしている。
プレリーの眼前に光が満ちて視界が白くなり、思わずつぶやいた。
「天国だ〜〜〜〜」
プレリーだけでなく、食した全員が同じ言葉を叫んだ。
プレリーの右隣りに座る恰幅のいい中年男性が皿を持ち上げる。
つられて左隣の品のいい老女も立ち上がった。
「これは……のどごしがよく、コシもある! いくらでも口にパスタを流し込める!!」
「後味もすっきり。それにしても滴るスープにどこかで飲んだような味が……昆布茶? そう、昆布茶で塩の量を少なくしているのね……」
感心したようにテンションが高くなっていくヒトたちを左右に置き、プレリーはさらにもう一口食べた。
その瞬間、プレリーの眼前が爆発して津波が襲ったような錯覚をする。
「すごい……トマトを使ったソースの味が残っているのに、しっかりモッツアレラチーズの味を際立ている。それだけじゃない。
素材一つ一つ……麺の味すらも私にしっかりと伝わる。すごい、まるで味のオーケストラよ!!」
食したみなの頭上から光が射しこみ、天国に昇るような気持ちを味わう。
その瞬間こそヒトが無防備になる。よって、闇の料理はヒトを支配する。もう天道の料理に彼らが美味いということはない。
癖になるほどの食の快楽。闇の料理人に伝わる秘法こそ、ヨミの切り札だ。
ヒトビトは味の快楽に味わわされ、しばらくは身体を流されるまま至福の時を過ごした。
ロイは目の前のパスタを味わい、手を震わせていた。
美味い、美味すぎる。もはや周りはヨミの料理に夢中だ。
天道は、光の料理人は勝てるのだろうか。
「ロイさん、大丈夫だよ」
驚愕に打ちひしがれるロイにエールの声がかかる。
彼女はヨミのパスタを口にしても、安心しきった笑顔をロイへ向けていった。
「天道は勝つよ、絶対」
落ち着き払ったエールの笑顔を前に、ロイは彼女の信頼の深さに驚いた。
ロイは天道を見る。勝って欲しい。料理界のためにも。
手に汗を握り、天道の料理を待った。
勝ちを確信して笑みを浮かべるヨミだが、天道は自分の番をただ静かに待つ。
微塵も動揺していない天道を前にヨミが絡んできた。
「白包丁を使わなかったことを後悔するがいい」
ヨミの自信満々の言葉に天道はフッ、と笑顔を浮かべる。余裕の態度にヨミが少しだけ不機嫌になるが、自分の勝ちが確定だと思っているのだろう。
ヨミはすぐ離れた。
「みなさん! 闇の料理人・ヨミシェフの料理は堪能いただけましたか? ならば次は我らがガーディアンの天才料理人、天道総司シェフの料理です! どうぞ!!」
司会であるウイエの合図に拍手があがり、天道の料理が配られていく。
配られた客に浮かれたような空気が流れ、司会のウイエがマイクを持つ。
「品目はあさりと魚介のペスカトーレ! 天道シェフの一番得意な食材は魚貝類です。これは楽しみ! それでは試食を始めてください!」
司会の誘導と同時にみなのフォークがバラバラに進む。
先程のヨミの料理に酔いしれている者もいるのだ。フォークの動きが遅いのも当然だ。
ヨミが勝ち誇ったように胸をはる。パクリ、とプレリーたちが天道のペスカトーレを口にした。
「うっ…………」
一瞬で静まり、周囲がうなだれる。その様子をみてヨミが口を出してきた。
「悲しいほどマズイのか? ならば俺の料理をお代わりさせてやろう。さあ、存分に……」
「「「うま〜〜〜い!!」」」
会場がどよめき、一斉に叫ぶ。完成に地面が揺らいだようにも錯覚させた。
ヨミが驚き戸惑う。その中、天道が不敵に笑っていた。
「新鮮なあさりの味がとても濃い。それでいてしつこくなくあっさり。イカとエビもあさりに負けないで、口の中で弾けて味が染み込むわ……」
「具だけではない。エビとあさりのダシとトマトソースが麺に吸い込まれて舌が刺激される。麺との調和が絶妙だ!」
解説席の老女と中年男性が満足そうに麺を口に運んでいく。
プレリーはその中央で優雅に食事を口に運んでいった。ナプキンで口を吹きながら天道に微笑む。
「天道さん、相変わらず美味しいです。ありがとうございます」
「当然だ。俺は食べるヒトの笑顔のために料理を作っているのだから」
偉そうながら、真摯な態度が声色に現れていた。天道総司は料理を作ることに命を懸ける。それこそ仮面ライダーとして戦うのと同等なほどに。
プレリーたちはそれを知っているため、満足に頷いて食事を再開した。
そこに納得いかない男が一人いる。ヨミはキッチンを飛び越え、天道の料理を一つ手にとった。
「なぜだ……俺の料理の暗示は完璧のはず。これを超えるには俺の料理より美味くなければならない!
白包丁を使っているならいざしらず、ただの包丁……ッ!?」
ヨミは言葉の途中できる。口に運んだ天道のペスカトーレを味わい目を見開いていた。
震えるヨミに天道が近づく。
「どうだ?」
「……う、美味い。だがなぜだ? 黒包丁を手にした私を……」
「包丁はしょせん、包丁に過ぎない。たとえそれがどんな銘を持とうがな。食材こそが味を決める。
例えばイカには醤油をベースにみりんと酒を加えたものをすりこんで保存がきいて美味しくなるように工夫している」
「それだけで、ここまで美味しくなるはずが…………」
「積み重ねだ。それらの積み重ねで俺の料理はヒトに笑顔をもたらすことができる。
お前のように至高の味を持って他者を動かすという考えもあるだろう。だが、持っている味をヒトに伝えることこそ、笑顔を見るためのコツだ」
「そんな甘い考えで!」
「ならば思い出せ。お前が始めて包丁をとった日を。始めて食したヒトの笑顔を見たときを」
天道が指をさすと、審査員からはぶられたヒトビトが天道の料理を口にして雑談する姿があった。
天道は審査を兼ねる観客だけでなく、見に来ただけのヒトビト全員分作っていたのだ。対し、ヨミは審査員分の五十食と予備を少ししか作っていない。
ヨミの胸に敗北感があふれ、うなだれる。やがて審査を終える太鼓の音が響いた。
どこまでも広がった青空のもと、勝者となったのは天道であった。
□
「もういいの? ロイさん」
エールがそう尋ねると、すっきりした表情のロイがナップザックを背負って街の出入口に立っていた。
エールと傍にいる天道にロイは笑顔を向けてあっさりと宣言する。
「ああ、俺は決めたよ。ハンターになる」
「料理は続けるのか」
「当然。料理人でなくても料理は作れる。ならばハンターとして鍛えながら、料理を身近なヒトにふるまって鍛えていくさ!」
ロイはそういって天道に右手を差し出す。
結局、闇の料理人のヨミは自分を曲げなかった。自分のやり方で、いつか天道を超えてみせる。
彼が宣言して行き先を告げず旅立ったのをみて、ロイも自分の道を決めたのだ。
「あのヨミが再挑戦をしたらどうする?」
「決まっている。成長したアイツを迎え討つだけだ」
「ハハ! 俺も挑戦するつもりだから、そのときは手加減しないでくれよ!」
天道は笑顔を浮かべ、当然だと答えた。ロイはその答えに満足する。
生きる伝説の勝負をみて、ロイは街をあとにする。
このときの経験から彼は仲間のハンターに料理を振るうことを趣味として見出した。
右手を上げてロイは歩く。行き先は風にきいた。
天の道。いつか超えてみせると己に誓い。
To be continued……
以上で投下を終了します。
支援に多謝。次回は普通に十一話を投下します。
それでは失礼。
投下乙
ちょwwwなんだこれwww
おのれ、ディケイド!ゼクスの世界とミスター味っ子の世界が融合されてしまった!
投下乙です
面白い内容だったのは間違いない
けど、前回までの流れとのギャップがすごすぎるw
お久し振りです。
第十一話投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
※二次創作ようの設定あり(劇場版におけるサソードの末路など)
※ディケイドの設定、キャラを出していますが、ディケイド本人が出ることはありません。
※原作で曖昧にされている設定、プレリー=アルエット、初代司令官=シエル について明言していますが、あくまで二次創作です。
公式設定ではありません。
これまでのロックマンZX×仮面ライダーカブトは!!
ttp://www31.atwiki.jp/crossnovel/pages/15.html(まとめwiki)
十一話 PERFECTZECTER [黄金の剣]
「それで、頼んでいたあれは完成したのか?」
白い壁に包まれた僅かな光が差し込む陰気臭い研究所で、黒いスーツに身を包んだ男が確かめる。
サイバーエルフが保管されているカプセルの傍で、白衣を着た金髪のポニーテールの女性が頷く。
二十代前後に見える女性だが、顔は仮面に隠れて確かめることができない。
もっとも、スーツの男、弟切も右眼を眼帯で包んでいるのだが。
「ようやく完成、といったところね」
そういって女性はカプセルに手を入れて引き抜いた。計測用のケーブルが巻き付いている黄金の剣が女性、ドクターCLの手にあった。
弟切が満足そうに頷く。この黄金の機械的な剣は、弟切たちの元の世界で未完成のまま放置されたパーフェクトゼクターなのだ。
「先にドレイクゼクターたちを操作出来るか実験していて助かったわ。私が得た技術で完成できたゼクター、大事に使かってね」
鈴を転がすような声には一切の感情が宿っていない。
ぬっ、とさらに人影が現れる。いつの間にか現れた、紫色のアーマーのロックマンが現れた。
後ろには黒崎と最後のフォルスロイド・スティールエッジ・ザ・アルマジロイドがついている。
アルマジロを模した白い装甲のフォルスロイドは無言で佇み、白いスーツの巨体をもつ黒崎はパーフェクトゼクターに興味なさげであった。
「フン、なにをしているかと思えば。武器さえ上等なら、天道に勝てると思っているのか? 二度も負けたお前が?」
「好きにほざけばいい。もっとも、フォルスロイドを三体も失って後のない誰かには、俺が負けてほしそうだがな」
プロメテの皮肉に弟切が嫌味たっぷりに返す。プロメテは笑みを浮かべていたが、内の殺気は弟切へ向けていた。
弟切もパーフェクトゼクターの柄を握る。元の世界とここの世界で負けたと言われれば、我慢も限界である。
その間にスティールエッジがスッと割り込んだ。
「こんなことをしている場合ではござらん」
「なんの真似だぁ? 不良品の仲間が」
「……プロメテ殿。確かに我が兄弟たちはいささか性格に問題がござった。だが、その貶める言葉は撤回していただけぬか?
彼らもまた、自分に与えられた任務に殉職をしたのだから。弟切殿も、これ以上拙者の上司を侮辱する発言は控えていただきたい」
ジロリ、とスティールエッジがプロメテと弟切を睨みつける。物言いは穏やかだが、全身から発する圧力は重い。
さすがは現在最強と呼ばれるフォルスロイドではある。弟切と互角のコールドエンプレスでさえ、彼には勝ったことがない。
それでもまだプロメテに不満を向けようとした弟切を、黒崎が先に発言して飲み込んだ。
「スティールエッジ、ここは私の顔に免じて剣を収めていただきたい。プロメテさんも同士の無礼は私が謝罪します」
「かたじけない、黒崎殿」
「…………チッ」
黒崎の謝罪にプロメテが小さく舌打ちをして承知した。
こうなると弟切にはもうなにもいえない。乃木はなにを考えたのか、黒崎に弟切以上の権限を与えている。
黒崎が睨んでくるため、弟切もしぶしぶ了承した。続けて、ギラギラした瞳をここにいない天道へ向けて宣言する。
「では、次は俺がいかせてもらうぞ」
自信たっぷりに告げるが、周りの反応は薄かった。
どういうことだ? と弟切が訝しげに思っていると、ドクターCLが説明を始める。
「いいえ、今回の作戦は私と黒崎さんも同行し、天道総司の相手は黒崎さんが。
モデルZXのロックマン、エールの相手はあなたにしてもらいます」
「なに?」
ドクターCLの決定に弟切は不満を露にする。ドクターCLは弟切の視線を涼しげに受け流しながら続けた。
「パーフェクトゼクターの波長ではカブトゼクターとガタックゼクターに影響を与えるのは不可能なの。
だから弟切さんにはドレイク、サソードを使うエールを相手にしてもらって、天道総司は黒崎さんに一任してもらいます。これは決定事項です」
ギリッ、と弟切が歯を鳴らしてドクターCLを睨みつけるが、彼女には通用しない。
天道と弟切の因縁を知っての上だというのが、弟切には余計腹立たしかった。
弟切は熱くなった頭のまま踵を返し、地面に転がるゴミ箱へ当たってドアをくぐり抜ける。
誰も弟切へなにも言わなかった。
弟切の気配が完全に去ったことを確認して、ドクターCLがため息をつく。
「天道総司に関係すると頭に血が上る性格さえ治れば、いい戦士になると思うのに……」
「仕方ありません。ワームはほとんどがプライドが高い。彼もまた、例に漏れずそうなのでしょう」
黒崎がドクターCLに応えてた。返ってくるとは思わなかったドクターCLは白いのっぺりとした仮面の下で皮肉げに笑う。
彼に他意がないことは、それなりに交流があった上でわかっている。
それでも思うのだ。もしかして――――。
「それで、拙者の任務は継続ということでよろしいのですか?」
「フン、お前は特に問題を起こしていない。ビッグドンやダブルホーンと違っていな」
そういってプロメテも去っていった。スティールエッジは静かにお辞儀をして見送った。
ドクターCLにとっては、あまりいい印象を持っていなかったフォルスロイドの中で彼だけは別だ。
「それじゃ、また仕事で別れちゃうわね」
「お互い大事な任務があるのでいたしかたなし。ドクターCL殿、貴殿もお気を付けて」
「ええ、あなたもね。送ろうか?」
「私が送りますよ。ドクターCL、あなたは働きすぎだ。次の任務までゆっくり休んでください」
黒崎にそう告げられて、ドクターCLは肩を竦める。
記憶のなかの彼女にとって一週間睡眠時間が一時間であることは苦痛ではない。
もっと過酷な時を生きてきた。だが、黒崎は気を遣っていってくれた。見たところ、スティールエッジも同意のようだ。
ドクターCLは二人の好意を受け取ることにする。
「わかったわ。それじゃ、二人とも。またね」
スティールエッジも黒崎も頷いて、扉をくぐり抜ける。
二人が意気投合しているとはじめて知ったときは驚いたものだ。
黒崎は謎が多い。趣味嗜好も、元ZECTのライダーでありながらなぜワームに協力するのかその目的も。
その彼がスティールエッジには心を許し、彼を通じてドクターCLを気にかけている。
黒崎の無言の優しさが、かつての“彼”を思い起こした。
ドクターCLは久しぶりにベッドへ横になる。すぐに可愛らしい寝息が部屋に訪れた。
スティールエッジが乗っている車が離れていくのを見つめ、黒崎は黙ったまま振り向いた。
一歩床を踏んだ瞬間、周囲の景色が変わる。どこかの街の噴水。青かった空は夜の闇が広がっている。
噴水の水は凍りついて、よく見ると周囲の爆発や落ちる瓦礫がそのままの状態で固まっていた。
クロックアップを超えるフリーズの景色はこういうものだろうか、と黒崎は感想を持った。
「仮面ライダーコーカサス。用件はわかっていますね?」
黒崎は視線を移動して、暗い闇のなかでハッキリと存在感を示す白い服の青年を見つめた。
茶髪に細い体つきの青年。肩にはコウモリに似ている謎の生物が乗っている。
「またアナタですか」
「仮面ライダーコーカサス。決着の時は近い。世界の選択が迫っています」
「わかっています。あなた方……世界とやらにいわれなくても天道総司と決着は着けますよ。
…………あなた方の言いなりになるかどうかは別ですが」
「ひとまずはそれで構いません。七番目の物語を継ぐもの……その存在がアナタなのか、天道総司なのか。見届させてもらいます」
そういっていつか渡と名乗った青年は姿を消した。
同時に景色が戻ることも知っている黒崎はただ黙して待つ。
余計な真似を、と黒崎は態度で示して凛と立っていた。
□
ガーディアンベースから降り立ち、コートを羽織ったプレリーは金の長髪を風になびかせて周囲を見渡す。
荒れ果て、一面真っ黒焦げの地面と建物。雪が積もって人気のない道が続く。
プレリーが周囲の被害を確認しながら進むと、避難所に指定された数少ない形の残った建物へと進む。
市民会館へと足を運んだプレリーは眉を寄せて唇を噛んだ。
聞こえてくるのは嘆きの声。視界に入るのは並べられた死体に泣きつく遺族。
半月程度しか経っていないのに二度目にすることになった光景が、プレリーの心をギュッと締め上げた。
ガーディアンに街一つが火災に飲み込まれ、被害が甚大であるという連絡が届いたのはすべてが終わってからだ。
ワームの総攻撃があった街に半数のガーディアンのメンバーを残し、もう半数で事後処理をすることになった。
キツイ仕事だったと思う。だけどガーディアンメンバーはよく応えてくれた。
しかし、ガーディアンが存在していた街とは違い、遅れてやってきたこの街の被害は甚大だ。
街一つ飲み込んだ炎の勢いは凄まじかった。
「リーネ、リーネ! 目を覚ましてくれ……お前のオヤジにあわす顔がねぇ!!」
泣き叫ぶ厳つい男性を見つめてプレリーは目を伏せる。
ここに居るヒトたちは大切な家族や恋人、親友を失ったヒトたちだ。プレリーになにも言えるはずがない。
だからこそ、プレリーができることは一つしかない。
(目撃証言から察するに、フォルスロイドとロックマンVAVAの戦いに巻き込まれたってこと……。
こんなこと放置はしておけない。私たちが止めてみせる……ッ!)
プレリーの瞳が決意の炎で燃え盛る。
ロックマンVAVAへの怒りがプレリーを動かした。
フォルスロイドの残骸を前にエールは思わずため息をつく。
白い息が可愛らしい唇から漏れて、エールはあらためて寒いことを実感した。
「ほら、マフラーだ。ちゃんと着込まないと風邪をひくぞ」
「わかっているって! それにしても天道、これは本当にたった二人で引き起こした事態なのかな……?」
「証言と奴の能力から考えればほぼ間違いはない」
エールの疑問に長身の整った顔立ちの青年、天道が答えた。
豊かな黒髪にさすがに防寒具を着込んでいる天道はしゃがんでフォルスロイドの様子をみている。
同じく防寒具を着込むエールもまた、その様子を真剣に見つめていた。
「詳しく調べないとわからないが、氷系統の攻撃手段をもつタイプか」
「多分ね。アタシたちじゃなくてペンテへ向かったってことは、裏切り者を倒そうとしたのかな?」
「そうだろうな」
天道がエールに同意して周囲を見回す。街を飲み込むほどの炎の中心地だ。
地面が黒く焦げて、降り積もる雪ですら白で染めることはかなわなかった。
煤で焼け焦げたフォルスロイドだけが放置されている。近くで黒焦げになり誰か判別もつかない街の住民はすでに回収されていた。
エールは奥歯を噛んで目の前が真っ赤になる。ロックマンの力をただ破壊だけに使うペンテをとても許せそうにない。
これではまるでイレギュラーだ。
(あいつはアタシか天道を狙ってくる。次に会ったときが最後よ、ペンテ)
二度とロックマンに変身させない。エールの怒りはイレギュラーのロックマンに向けられた。
モデルXは周囲の風景を見ながら、モデルVAとなったレプリロイドのことを思い出していた。
シグマと呼ばれた最大のイレギュラーの最初の反乱とともに敵として現れたのが最初だ。
イレギュラーを狩るものとして存在していたときから、VAVAと呼ばれた男は凶行を続けていた。
VAVAはモデルXのもつ無限の可能性を否定し、鬼【イレギュラー】こそが可能性であると主張を続けていた。
いや、きっとライブメタルとなった今も主張を続けている。
だからこそエールとモデルXの前にこうして立ちふさがってきたのだ。
かつてVAVAはいった。
『鬼【イレギュラー】がぁ!』
二度戦って、二度怒りの感情にモデルXは飲まれた。
エールは大丈夫だろうか。
(……大丈夫だ。エールは僕と……俺と違って強い……)
モデルXはかつての自分を呼び方“俺”を懐かしそうに内心でつぶやく。
エールは内心のイレギュラーを恐れながら、負けずに立ち上がってくれた。
彼女の勇気は自分が見込んだ以上だ。そして彼女を支える仲間がいてくれる。
モデルVAとの決着が近いことを感じながら、エールなら大丈夫だとモデルXの信頼が胸に満ちた。
□
街の復興を手伝いながらペンテとモデルVAの行方を追っていた天道とエールは、久しぶりにガーディアンベースの通路を歩いていた。
普段はガーディアンの隊員でごった煮返している通路が、今はどこか寂しい。
多くの隊員が被害の大きい街二つにかかりきりだからだろう。
司令室に現れた天道とエールを、艦長席に座るプレリーと傍にいるフルーブが迎える。
同時にエールと天道は顔をしかめた。プレリーの目の下に、うっすらとクマができているからだ。
また無茶をしたのだろう。
二人が呆れているのにも気づかず、プレリーが説明を開始した。
「忙しいところを無理にきてもらってすみません」
「それは構わないが、プレリー。お前こそ休むべきだ」
「大丈夫です。……それに、お姉ちゃんならこのくらいこなしたはずですから」
答えるプレリーの語尾は僅かに小さくなる。それほど姉はプレリーにとって存在が大きいのだ。
二年近い付き合いのエールでもそれくらいはわかる。
「それで、天道さん、エール。次のモデルVAの位置がわかりました。そこに向かい、基地を襲撃してモデルVAへの道を開けてください」
「わかった。モデルVAを調査するの?」
「ええ、敵の本拠地を突き止めるのにこれ以上時間を掛けることはできない。私とフルーブが直接乗り込んでモデルVAを調べるわ。
イレギュラーを殲滅して安全を確保しきったあとでは、彼らへの道のデータは失われている可能性が大きい。
エールは天道さんと一緒に、解析する私とフルーブを護衛して欲しいの」
「それはもちろん構わないけど……プレリー。少し焦りすぎなんじゃ……」
「わかっている。けど、もうこれ以上被害を増やしたくないの。お願い、エール」
真剣に見つめるプレリーの瞳に、エールは困ったように頭をかいた。
天道はどうだろうか、と見ると彼が前に一歩でる。
「わかった。俺とエールが全力をあげて守ろう。エールもそれでいいな?」
「う、うん……」
「よかった……では、当日はよろしくお願いします。天道さん、エール」
「ただし、一つ条件がある」
天道が人差し指を天に指してプレリーの言葉に割り込んだ。
あっさりと引き受けるか、なにかしらの理由で拒否するかのどちらかだと思っていたエールは少しだけ驚く。
「向かうのは二日後、そしてプレリーはその二日間休むことだ。引継ぎは俺とフルーブがやる。
エールと息抜きをしていろ。いいな、エール?」
そういうことか、とエールが微笑んだ。プレリーは抗議しようとするが、その手をエールが握ってにんまり笑みを浮かべる。
逃がさないよ、と言外で告げた。
「で、でも……」
「大丈夫ですよ。後は私と天道さんでなんとかしますから、プレリーさんはエールさんと一緒に骨を休めてきてください」
フルーブが告げてもプレリーの顔は曇っている。
追い打ちをかけるように、オペレーター席の女性隊員が声をかけてきた。
「そうそう、プレリー様は働きすぎですよ」
「休むことも仕事の内です」
「私たちも手伝うから、プレリー様は羽根を伸ばしてきていいよ〜」
ガルデニア、テュリップ、マルグリットが続けていうと、エールはプレリーの手をとって引っ張った。
ひゃあ、と可愛らしい声をあげるプレリーを容赦なくつれていく。
「じゃあ、みんな後はよろしく! さあて、どこ行こうっかな〜♪ その前に着替えが必要よね〜♪」
「ちょっと、エール!?」
エールはそう機嫌よく告げてプレリーを部屋に押し込んだ。
よそ行きように着替させるためである。「自分で着替えるから!?」って叫ぶプレリーに構わず、エールはワキワキと両手を怪しく動かした。
□
「それで、二日間楽しめたか?」
「もうバッチリ。プレリーはしっかり寝かしつけたしね」
プレリーが聞いたら「私は子供じゃないわ、エール」と呆れそうなことをエールは平気でいってのける。
いつもの青いジャケットに白い短パンのいで立ちのまま、エールは目の前のモデルV発掘基地へとやってきた。
岩肌が露出した採掘場にカモフラージュをしているが、たびたび周囲を警戒するメカニロイドはイレギュラーたちが使っているものだ。
警備は厳しそうだと思いながらエールはモデルXを取り出す。傍にいた天道もカブトゼクターをつかんで立っていた。
エールが左手にモデルZを掲げ、右手に握るモデルXを前に突き出す。
天道は左肩まで右手のカブトゼクターを上げて、エールと同時に叫んだ。
「ダブルロックオン!」
「変身」
それぞれの電子音とともに、エールは赤の装甲を、天道は銀の装甲をまとって戦士となる。
エールは右手のセイバーを確かめて正面の扉を見た。
「プレリー、こっちは準備OK」
『わかった。少し待っていて。今扉を開けるから……よし』
プレリーの言葉通り、扉が開いてエールを誘う。
カブトと頷いてエールは内部へと飛び入った。そのエールをガレオンの銃撃が迫る。
エールとカブトは冷静に弾道を見極めて跳躍した。エールとカブトが蹴った地面が蜂の巣にされる。
エールはその様子を見ずに壁を蹴って加速した。ガレオンの懐に入り、ZXセイバーを横に一薙ぎ。
ガレオンの残骸が転がるエールの右隣に、カブトが遅れて降り立った。
マスクドフォーム特有の重厚な着地音と一緒に空から残骸が降ってくる。
カブトが天井のヤドカリ型メカニロイド・エレキダーツを撃退したのだ。
「先に進むぞ、エール」
カブトが告げてエールは頷いた。ここにはどんな敵がいるのか見当もつかない。
気を引き締めるのは当然だった。二人は長く続く通路と、銃を構えるガレオン・ハンターを前に地面を蹴った。
□
ハニワを模した空を浮かぶ巨大なメカニロイドの両の瞳が輝いた。
赤く軽装な姿のカブト・ライダーフォームは地面をレーザーが走ると同時に蹴って宙を浮く。
左隣に並ぶエールのセイバーとともに、カウントを終えたカブトゼクターの角を倒す。
「ライダーキック」
「こいつぅっ!」
エールのチャージセイバーとカブトのライダーキックがクレイド・ザ・ジャイアントの瞳を通じて内部に衝撃を与える。
暴走する二人の衝撃に巨大なメカニロイドの全身に亀裂が入り崩壊した。
バラバラになって深い崖さきへと落ちていく残骸に目もくれず、カブトとエールは巨大な機械の塊を見つめた。
モデルVと呼ばれる巨大な機械の塊の形状はどこか勾玉に似ているな、とカブトは思う。
破壊する前にモデルVからデータを引き出し、どこへ帰投する予定だったのが探るのが今回の目的だ。
エールへ視線を送ると彼女は頷き返してきた。カブトは神速の動きでクナイガンの斬り筋を壁へ作る。
同時にエールがチャージショットを壁へ当てた。爆発音とともに煙があがる。その様子を見つめてカブトは見つめた。
「これで道はできたな」
カブトのつぶやきの通り、壁の残骸が弾けてヘリ一台が通る道をつくる。
すかさずエールが通信機をONにしてプレリーに合図を送った。
「プレリー、大丈夫よ。道は確保したし、アタシたちが守る準備もできた。けど、気をつけて」
通信機からプレリーが了解と告げる音がカブトに聞こえる。
守らねばならないと周囲を警戒するが、やがておかしいことに気づく。
エールへ向くと、彼女もとっくに察しているようだった。
少しだけカブトは嬉しくなる。彼女も周囲を見る余裕ができた。
若い者の成長とは早いものだ。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか……)
カブトは静かに周囲をみやる。敵の手が読めないのなら、迎撃の準備を整えておくのが常道だ。
やがてヘリのローターを回す音が聞こえてくる。カブトは黙ってプレリーを待った。
バリバリとうるさくなるヘリコプターからプレリーは髪を抑えながら降りてきた。
運転を任せているモリュに礼をいい、分析のサポートをするフルーブとともに降り立つと警戒をし続けるカブトとエールがいた。
「ありがとうございます、天道さん、エール。後は私が……」
「気をつけて、プレリー。……明らかに敵は誘っている」
プレリーの真剣な面持ちにプレリーは表情を引き締める。
そういう可能性だって考慮していた。だからこそ余計に退くわけにはいかない。
顎を引いて一度だけ頷き、プレリーはモデルVを観察するコンピューターのパネルへ指を走らせた。
モニターに現れる数値を流し読みして、自前のコンピューターでデータをコピーしているフルーブにチェックも頼む。
ハッキングソフトを起動してコンピューターに直にかけたとき、モニターに『ERROR』とでた。
「離れているならともかく、お姉ちゃんの開発したツールを直に使っても……?」
「ええ。そのツールが使われることを想定してセキュリティソフトを構築したの、アルエ……いいえ、プレリー」
凛とした声に驚いてプレリーは顔をあげる。同時に二つの金の影がエールとカブトを襲った。
エールとカブトが分断され、エールには仮面ライダーザビーが、カブトには仮面ライダーコーカサスがそれぞれ対峙していた。
一気に戦力を投入してきたことにも驚いた。しかし、プレリーの固定された視線を動かすことはできない。
プレリーの視線は現れた一人の女性に向いている。
流れるような長い金の髪を束ね、ポニーテールを形作っていた。
赤に近い桃色の袖のないジャケットとスカート。さらに白衣を羽織り、スラッとした手足の長い細身の身体。
二十代前半で時を止めたような女性が階段を降りて姿を見せる。
白いのっぺりとした仮面で顔を隠しているが、プレリーがその声を聞き間違えるはずがない。
フルーブがプレリーの傍で「そんな馬鹿な……!?」とうろたえている。
「お姉ちゃん……?」
「…………久しぶり、でいいのかしら?」
どこか疲れたような声の主は一つため息をつく。ドクターCLと弟切に呼ばれていた女性はプレリーに顔を向けた。
もっとも、白い仮面があってはいかな表情を浮かべているか、知る術はない。
それでもわかってしまった。プレリーが会いたかった存在、プレリーが愛した存在がそこに立っていたのだと。
「お姉ちゃんって……プレリーが会いたがっていたあの……ッ!?」
『うろたえるな! キサマ、まずは仮面を取れ』
モデルZが冷静に叫び、ドクターCLが仮面に手をかける。
エールがザビーを警戒するが、ザビーの二つの瞳は攻撃の意思を今のところを見せない。
確かめる方が面白い、とでも考えているのだろう。思考が外に漏れている。嫌なやつだ。
「モデルZ、これで満足?」
『…………ああ。確かにお前はあいつだ』
仮面をとった女性の蒼い瞳が淋しげにモデルZを見る。やや右上がりの細い眉。薄く優しげな口元。
そして儚さを宿した可憐な顔が憂おいに満ちると、同性のエールでもドキリとする魅力があった。
『ただし、外見はな。ワームには“擬態”能力があることを忘れてはいない。そうだろう、エール、プレリー』
「そ、その通りです! あのヒトがワームに手を貸すことなど……」
「ないでしょうね。ああ、安心していいわよ。オリジナルの私は生きているはずだから。どこにいるかは、私でもわからないわ。
今の私はドクターCL。この世界に現れた最初のワームよ。よろしくね」
フルーブの言葉を肯定してドクターCLは再び仮面をかぶる。エールは疑問に思うことがあった。
なぜ自分をワームだとわざわざ告げたのだろう。
モデルZは擬態だと言い切ったが、そんな証拠はない。本物のフリを続けこちらを混乱させることもできたのに、なぜ――。
「よそみをしている場合か?」
エールは声に反応する前に、セイバーを構えて襲ってきた黄金の刃を受け止めた。
甲高い刃の交わった音を聞き届け、エールは後方に跳躍する。
「邪魔よッ!」
「それはこちらの台詞だ、ロックマンのガキ。キサマを殺し、天道総司をこの手で血祭りにあげてやる……」
執念を感じさせる相手にエールは不快感を顔に出した。
クロックアップに対抗するためドレイクゼクターを呼び寄せる。
ドレイクゼクターがエールの周囲を舞い、「クロスロックオン!」とかけ声と同時にザビーが低く笑う。
「バカめ」
ザビーのもつ黄金の剣が光の波が放たれ、ドレイクゼクターに届く。
その瞬間ドレイクゼクターはエールを離れて黄金の剣に装着された。
「なっ……!?」
『エール、あれは剣に見えるけど、ゼクターを呼び寄せる新しいゼクターだ。僕と違って他のゼクターの力を引き出すことに特化している……マズイ!』
モデルXの忠告と同時に、ザビーのもつ剣が銃へと変形する。
青いボタンを押したと同時に黄金の銃から電子音が響いた。
『HYPER SHOOTING!』
その電子音を聞いてエールは危険を察する。多くのイレギュラーを葬ったドレイクの最強技に似た電子音。
大きく横に跳び、直進してきた光弾を避けた。
「甘いな」
愉悦に満ちたザビーの声にエールが疑問を浮かべていると、光弾が弾けて分裂する。
光弾が軌道を変えながらエールの胸に直撃し、エールは吹き飛んで壁に背中を強打した。
「か……は……」
「フン、なかなかいい性能だ。パーフェクトゼクター……実験台にはちょうどいいか」
冗談じゃない、とエールは唇を噛み締める。立ち上がってチャージショットを放つが、ザビーの姿が掻き消えた。
エールが防御を固めると重い衝撃が四度身体を通り過ぎ地面を転がった。
「クロックアップのできないキサマなど、ただの的だしな」
ザビーの言葉に悔しげにエールは呻く。高速移動をやめたザビーは嬲るようにエールを見ていた。
(……サソードを使ってもその瞬間に奪われる。頼みのクロックアップは使えない。あのパーフェクトゼクターとやらは強い。まいったな)
圧倒的不利な状況にエールは思わず内心ひとりごちた。
ああいう武器を開発していたのなら、クロックダウンチップを一つでも奪っておくのだった、と後悔をする。
それでもエールの瞳に諦めの感情はない。防御を固め、訪れた危機を前にエールは頭脳をフル回転させて打開策を探った。
「エール……ッ!」
「相変わらず甘いようですね、天道総司」
ドレイクゼクターを奪われる様子を見せつけられながらも、カブトはコーカサスを前に動けずにいた。
コーカサスの右拳がカブトの脇を狙って迫る。後方に跳躍することで直撃を避けるが、かすっただけでもその重さが衝撃となって伝わる。
相変わらずでたらめな強さであった。カブトはクナイガンを構えてコーカサスを見つめる。
プレリーもエールも危機に陥っている今、全力で相手を倒すことこそカブトに取れる唯一の手だ。
「そこをどけ。お前を相手にしている暇はない」
「あなたはそうでも、私にとってはそうではない。そして、世界にとっても……」
コーカサスが意味深なことを告げて、カブトが疑問を浮かべる前に距離を詰めてくる。
一瞬の間も必要もない速度に、カブトも神速をもって対応した。
クナイガンの刃の軌道がコーカサスの槌とも言える拳の衝撃とぶつかって互いに弾き飛ばす。
コーカサスとカブト、二人の青い複眼が互いを見つめて呼気を整えた。
「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」
どちらの口からともなく、戦いへの咆哮がモデルVを収める部屋に轟く。
カブトが激しさを見せたのは先ほどの一度。いつものように無駄のない流麗な動きでコーカサスの剛腕を逸らし続ける。
衝撃でカブトの身体が右へ左へ流されるが、辛うじて直撃を避けて距離を詰めた。
カウントダウンを終えたカブトゼクターのホーンを戻し、電子音とともにタキオン粒子を右足に纏う。
同時にコーカサスも右手にタキオン粒子をたたえて、カブトの回し蹴りとコーカサスの拳が衝突した。
「ぐぅぅぅ……」
どちらの口から漏れたかも分からないうめき声。二人は一歩も退かない。
足を、拳を押し込んでやがて衝撃波が部屋を走った。
□
「ぐっ!」
変身が解け、必殺技が相殺する反動のまま地面をバウンドして天道はうめいた。
寝てはいられない。すぐに立ち上がり、敵を睨む。黒崎もまた、変身が解けて天道と同時に立ち上がるのを成功していた。
互いの荒い息遣いが聞こえる。天道はゆっくりと周囲を見回し、違和感を感じた。
(ここはどこだ?)
岩肌が露出し、モデルVが部屋の中央に鎮座して円環状に廊下があった部屋とは違う。
夜の闇に空は染まり、整えられた石畳の地面に水が動きを止めた噴水。さらに遠くへ視線をやれば爆発が止まって見える。
天道と黒崎の間をコウモリのような生物が通り、足音が聞こえた。
「ようやく決着を着けるときがきましたか。黒崎さん、天道……天道……」
「天道総司だ、渡」
「ありがとう、キバット。天道総司さん」
「そんなコントを見せるために、俺たちをここに連れてきたのか? 早く戻せ」
現れた白い服の青年、渡に天道はにべもなく告げる。
渡は少し面食らった様子をみせて、咳払いを一つした。
「えーと、その点は大丈夫です。確かここは時間が止まっていて、戻っても時間差はないはずですから」
「ほう。そういうことか」
天道は渡の説明に苦笑し、視線をゆっくりと移動する。
どこかでみられる感覚。これはあのとき、七年前に戻ったときと一緒だ。
「なんの用だ? 世界を壊した俺に、破壊を嫌う世界が?」
天道の問いに渡が驚いた。そもそもこの世界に天道が訪れたことが疑問だったのだ。
この天道総司は自分の世界を壊している。これは変えようのない事実であり、自ら望んだ所業だ。
世界は軽くない。一つの世界の消滅はそれこそ永遠のときの中で苦しむこととが相応しい。
楽に死ねるとは思っていない。だがなにも知らず、なにも苦労せずこの世界に天道が存在している。
その状態が続いているということは、世界はなんらかの異常を見つけてしまったのだろう。
“世界を破壊した天道総司”にすら頼らざるえない機会を。
彼はそのメッセンジャーといったところか。
「……察しのいい人だ。世界は破壊をしたあなたを生かしている。この世界にワームがいたことは想定外でしたが……それでも世界はあなたに猶予を与えざるを得なかった。
…………なぜなら、ディケイドが生まれ多くの世界が滅びに向かっているからです」
天道は渡の言葉に片眉を潜めた。その言葉の真意を確かめるように続きを待つ。
渡の唇が動き、さらに天道へと真実を告げた。
□
「エール!」
銃弾が直撃したエールに、思わずプレリーは叫んだ。
エールは両足を踏ん張って銃撃に耐え、親指を立てて無事であることを示す。
それも長くは持たない。天道は強敵、コーカサスを相手に苦戦をしている。
打開策はないか、プレリーは視線を初代司令官……いや、ドクターCLという名のワームに向けた。
攻撃を仕掛ける様子はないことにプレリーは訝しげる。
「……ずいぶんとやつれているわね。プレリー……ちゃんと休みはとっているの? 司令官をやるなんて意外だったわ。あなたは優しいから……」
「やめて! そんな……アナタがお姉ちゃんみたいに言わないで!!」
ドクターCLの言葉にプレリーは全身で拒否を示す。
懐かしそうに、愛しそうに告げるドクターCLの言葉など罠に決まっている。
ガーディアンのメンバーやプレリーを惑わしてその隙を突く。
今までワームがとってきたと思われる戦法だ。
「そうね。それが当然の反応だわ。ごめんなさい」
だから寂しそうな声も、戸惑って歩みを止めたような仕草も、すべては罠にはめるための動作なのだ。
そうに決まっている。そうでなくて、他になんの理由があるというのだ。
「……私にそんな資格がないのはわかっているけど……プレリー。顔をよくみせて」
プレリーは顔をあげて、ドクターCLを見つめた。
仮面の下なのに明確に安堵の表情をして、口元に微かに笑みを浮かべているのがわかる。
肩が揺れたのはプレリーに声をかけようとして戸惑ったのだ。
ワームとはそういう生物だ。擬態した相手の癖から性格、記憶に技術を得れる脅威の生命体。
「お姉……ちゃん……」
それでも無意識にプレリーはつぶやく。プレリーの感情をとどめていた枷が外れた。
フルーブが驚愕の表情をプレリーに向けて申し訳ないが、止められない。
そもそも、ドクターCLの行動はおかしかった。
ワームであるなど黙っていればよかった。仮面などかぶらなければ、もっと効果的にプレリーたちに揺さぶりをかけれた。
なのにその手をとらない。その方が効率的でもあるに関わらず。
思考がそこへ至った瞬間、プレリーは理解してしまった。
そう、ワームは擬態した相手のすべてを得られることができる。だがその“すべて”は個体差があった。
目の前のワームは、ドクターCLは……。
「…………お姉ちゃんの心は……そこに……あるの……?」
プレリーの言葉にドクターCLは静かに首を振って否定する。
優しい嘘。
彼が……ゼロが死んだのか? とプレリーが質問したときと同じ否定の様子。
『ゼロはきっと生きているわ』
彼女自身そうであって欲しいという願望をにじませながらも、プレリーを心配させまいとした優しい否定。
彼女の身体はワームだ。だけど、その心はジルの事件と同じ。
初代司令官であり、プレリーの姉であり続けた最愛の人。
その心が目の前の女性とともにあった。
To be continued……
投下終了。
今回は前段階。次回の話とともに最後に向けて進め様かと構想しています。
それでは、なるべく早いうちに次を投下したいと思います。
次の投下まで失礼。
初めてこの板に書かせていただきます。
ローゼンメイデンのSSを読んで以来、「こういうのを書きたい!」と勝手に思い立ち、
<仮面ライダーディケイド&ローゼンメイデン>なる作品を書きあげてみました。
・・・しかし、初心者ゆえに不安な箇所も多いため、とりあえず予告編だけ投下させていただきます。
本編に関しましては、身勝手かもしれませんが、予告編で皆様から良い反応を頂けましたら投下するという形にさせていただきます。
つ まずは予告編をどうぞ。
BGM:
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9194765 次回、仮面ライダーディケイド!
「…以前は暖かくて、明るくて、親切な人がいっぱいいる世界だったの。
それなのに、今は真っ暗で寒くて…何も感じられない世界なの…。」
「奴らには体や心というものが存在しない。まるで幽霊のような存在…。」
「幽霊退治は任しとけ。」
FORM RIDE…BLACK RX!BIO RIDER!!
全てを破壊し、全てを繋げ!!
tesr
おニ方、作品投下乙でございます。
>◆SaBUroZvKo氏
渡がだんだん物語に関わってくるようになりましたね
事件の陰にはやっぱりディケイドかw
カブトとロックマンZXの世界も融合するディケイドめ、ゆ゛る゛ざん゛っ!!
>◆jPpg5.obl6氏
こっちのディケイドはローゼンメイデンの世界も破壊する気かw
このディケイドもてつを化するってことは冬映画を乗り越えてきたのか
チートにさらにチートを重ねるとは…きっとゴルゴムの仕業に違いない!
>208
てつを乙・・・じゃなくて、反応ありがとうございます。
とりあえずですが、本編のほうを投下させていただきますので、よろしかったらお読みください。
>このディケイドもてつを化するってことは冬映画を乗り越えてきたのか
一応そうですが、細かい設定などについては投下時に説明いたします。
(注意)
この作品を読む時は、部屋を明るくし、モニターに近づきすぎないようにして、
以下の項目を守って読んでください。
・ディケイドが旅する世界はリ・イマジネーションの世界
・この作品の時系列は<MOVIE大戦>以降
・この作品のマシンディケイダーはかなりの改造済み
・はらしーもきらきーも立派なローゼンメイデンのひとり(強調)
ガラガラという音とともに、そのカーテンロールは彼らの前に現れた。
「これは…。」
光 夏美はカーテンロールに描かれた絵を見て、黙り込んでしまった。
そこに描かれていたのは枯れ果てた大地、空を果てしなく覆う厚い黒雲、そして絵の中心には真っ黒にくすんだ宝石のような物が8つほど。
この絵から想像されるのはマイナスイメージのみであった。
「士くん…私たち、とんでもない世界にやってきたんじゃ…。」
「だいたいそうだろうな。今までもとんでもない世界ばかりだったが、ここは今まで以上だろうな。」
不安そうな夏美を後目に、門矢 士はそう言いながらテーブルのコーヒーをすすった。
「…って、随分と余裕そうだこと。」
奥のテーブルで、小野寺 ユウスケがどんぶりに入った大盛りのご飯をかきこみながら言う。
「お前も随分と余裕そうじゃないか。」
「余裕じゃないから…モグモグ…こうやってエネルギーを補充して…シャクシャク…いつでも戦闘態勢に…モグモグ…。」
「お前…食うか喋るかどっちかにしろ!」
「モグモグ…ズズズ…ズズズ…ごちそうさまでしたっと!よし、夏美ちゃん!さっそくだけど、この世界の調査に行こう!」
味噌汁を飲み終えると、すばやくユウスケは玄関の方へと向かってしまった。
「あいつ…食う方を優先しやがった…。」
「ユウスケ、待って!…あ、士くん。留守番よろしくお願いします。」
そう言って、夏美が玄関へと向かおうとしたその時だった。
突然、外のほうから聞こえてきた『ドスン』という何かが落下するような音。
「?!」
いきなりの出来事に驚いた夏美は玄関を見る。
すると、半開きになったドアからは、暗闇の中で何かにつまずいたがためにうつ伏せでの大の字状態と化したユウスケと、
ユウスケがつまずいた大きな何かが見えてきた。
夏美は急いでユウスケを起こす。
「大丈夫ですか…?」
「イテテテ…なんでこんなものがドアの前に…?」
そう言って、ユウスケと夏美はその何かを見る。
それは、四角い大きな鞄であった。
BGM:
http://www.youtube.com/watch?v=BXcR1ekN9oQ ----------------------------------------------------------------------
世界の破壊者と呼ばれた男、ディケイド。
いくつもの世界をめぐった今、彼の瞳には更なる世界が映ろうとしていた…。
----------------------------------------------------------------------
「お前ら、玄関で何ドタバタやってるんだ?」
カバンを見つめる二人の前に士がやってくる。
「あ、士くん。ユウスケが…って、何ですか、その格好?」
「ん…?」
士は自分の格好を確認する。
先ほどまでいつものジャケットだった士の服は、中世ヨーロッパを思わせる丈の長いジャケットと
スカートのようなゆったりしたズボンという真っ黒なゴシック・ファッションとなり、
ジャケットの襟もとにはディケイド・カラーであるマゼンダのマフラーが巻かれていた。
「それって…『ゴスロリ』でしたっけ?」
「『ゴスロリ』って女のみの言葉だろ。これの場合は『ゴシック・ファッション』だ。…で、結局お前らは何をやってたんだ?」
「…そうだそうだ!」
そう言って、夏美はカバンのもとへと駆け寄る。
「ユウスケがドアの前にあったこのカバンに…。」
そう言いながら、夏美はカバンを持ち上げようとする。
その時だった。
彼女の腕に伝わる、カバンのズシリとした重さ。
この重みが彼女に何かを感じさせた。
「…おい、夏ミカン?」
突然、黙り込んだ夏美に士が声をかける。
「…え?…あ…ハイ!」
「…どうしたんだよ、いったい。…ま、とりあえずは、そのカバンを開けてから考えてみるか。」
「イテテテテ!」
「おいおい、仮面ライダークウガがこんな擦り傷で音を上げちゃダメじゃないか。ほれほれ、我慢ガマン!」
光 栄次郎が消毒液を含んだ綿をユウスケの鼻の上に叩きながら言う。
「もうちょっと優しく…優しくね…イダダダダ!」
「…ったく。」
その光景を見ながら、士はため息をついていた。
「それにしても…これ、いったい何なんでしょうか?」
「とりあえずカバンだろ。」
「それは分かってます!私が聞きたいのは、『中身が何なのか?』、『なんで玄関に置いてあったのか?』ってことです!」
「知るか。…ま、とりあえず一問目に関しては開けりゃ分かるだろ。」
そう言って、士はカバンのフックに手をかけた。
フックを外し、カバンのフタに手をかける士。
中身に興味津津な夏美は、士の背後へと回り、カバンの中身を覗く。
そこにあったものは…。
「これは…人形…ですか?」
カバンの中には、<頭にリボンを付けた金髪の小さな女の子>を模したと思われる人形が横たわっていた
…いや、まるで生きているかのような容姿からは『眠っていた』と表現するのが正しいであろう。
この時、士はこの人形を見てハッとする。
「これは…ローゼンメイデンか…?」
「ローゼン…なんだって?」
鼻に絆創膏をつけたユウスケが士に問いかける。
「ローゼンメイデン、中世の時代のドイツにいた錬金術師ローゼンが作り上げたと言われている『生きた人形』のことだ。」
「『錬金術』?『生きた人形』?なんのこっちゃ?」
士は立ち上がると、部屋の中を歩きながらユウスケにローゼンメイデンについての説明をしだす。
その後ろで、夏美はカバンの中に人形とともに螺子らしき物を見つけるのだった。
----------------------------------------------------------------------------
3分に1回で投稿していたら、「やりすぎ」と板からの警告が出てしまいました(泣)
とりあえず、これ以降はゆっくりと投稿していきます。
「そのローゼンっていう男は『究極の人形』というのを作ろうとしていたらしい。
だが、いくら人間と見まがうような容姿を作ったとしても、それはただの人形でしかない。」
螺子を手に取る夏美。
…と同時に、その人形に螺子を入れるためと思われる穴があいていることに気づく。
「そこで、普通の人形とは違う『生きた人形』を作ることを考えたローゼンは、錬金術を使って人工生命…通称『ローザミスティカ』を作り出したそうだ。」
螺子を手に、その穴を見つめる夏美。
だが、次の瞬間には螺子を入れ、ギリギリと回し始めていた。
まるで、何かに誘導されるように…。
「ちなみに、当時ローゼンはすでにいくつかの人形を完成させていた。
その数は6とか7とか8とか諸説あってよく分からんがな…。」
回され続ける螺子。
その回転数が何十回目かに達したその時、人形から『カチリ』という音が聞こえてきた。
そして…。
「まあ、とにかくそのローザミスティカを全ての人形に分け与えて完成させたのが…。」
「雛苺なの〜!」
「そうだ、第6ドール 雛苺などのローゼンメイデンというワケだ。…って、え?」
士とユウスケが即座に声の方向を振り向く。
「あ…なんか…起きたみたいです。」
「うにゅ?」
そこには、カバンから上半身を起こして二人の姿を見る雛苺と、バツの悪そうな夏美の姿があった。
「ハイ、どうぞ。」
栄次郎が雛苺の分も含めた4つのコーヒーカップを持って、彼らの前に現れる。
「ありがとうなの〜。…う〜、苦い…。」
「とりあえず、夏ミカンの疑問はひとつ解決した。…で、二問目だ。
どうして、お前の入ったカバンが写真館の前にあったんだ?」
「士…お前、こんなかわいい子に『お前』って言い方はないだろうよ…。」
士の問いかけに対し、雛苺はコーヒーカップをうつむいて見つめながら答えた。
「分からないの、雛が気付いた時にはカバンの中にいて…。それに…。」
そう言って、窓の外を見る。
「ん、なんだ?」
「それに…以前は暖かくて、明るくて、親切な人がいっぱいいる世界だったの。
それなのに、今は真っ暗で寒くて…何も感じられない世界なの…
ジュンみたいな優しさも、翠星石のような力強さも、真紅のような絆の力も…。」
「真っ暗で寒くて…か。」
そう言って、ユウスケが後ろのカーテンロールを見る。
その絵が、この世界が『真っ暗で寒い世界』であることを物語っていた。
「雛はひとりぼっちなの…。」
雛苺の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「雛ちゃん…。」
「つらい時は、甘い物でも食べて元気出しなさい。」
そう言って、栄次郎は彼らの前にソフトボールの球ぐらい大きなおまんじゅうを置いた。
「じいさん、これは…?」
「光家秘伝!びっくりイチゴ大福だよ。ささっ、召し上がれ。」
「あ〜!デッカイうにゅーなの!!」
そう言って、雛苺は大きなイチゴ大福にかぶりついた。
「ホッホッホ、ほ〜ら元気が出ただろう?」
「うんなの!おじいさん、とってもありがとうなの!!」
先ほどまで涙を浮かべていた雛苺の顔は、あっという間に笑顔へと変わるのであった。
『ありがとう、おじいちゃん!』
夏美の心の中で、幼き日の記憶が蘇る。
かつての自分は人見知りが激しく、同年代の子供と接するのが苦手であった。
そのため、小学校ではいつも一人ぼっちになり、寂しい思いをしていた。
そんな寂しさが頂点に達したある日、夏美は学校をサボり、栄次郎のいる写真館へとやって来たことがあった。
今考えてみれば、何故あの時、真っ先に「おじいちゃんちに行こう!」と思ったのかは思い出せないが、
もしかしたら子供の頃からすでにこの写真館の不思議さに気付き、そして魅かれていたのかもしれない。
そして、学校をサボってやって来たにもかかわらず、おじいちゃんは私を優しく迎え入れ、
そして今のようにこのイチゴ大福をごちそうしてくれた。
「夏美、お前はつらいとか寂しいとか考えているが…そんなことなんて生きていくことに必要ない。
必要なのは明るくいることだよ。だから、このイチゴ大福を食べて、いつもの明るい夏美になっておくれ。」
「…うん!」
そう言って、大きなイチゴ大福を頬張った。
口の中で広がるイチゴの酸味とあんこの甘さ、この2つがそれまで抱えていた自分の寂しさを嘘のように消し去ってくれるのであった。
「美味しい!」
「ホッホッホ、いつもの夏美に戻ったようじゃの!」
「ありがとう、おじいちゃん!」
「ありがとう…おじいちゃん…。」
「…うん?夏美、何か言ったかい?」
夏美はハッとする。
かつての自分を思い返しているうちに、少々自分の世界に入り過ぎていたようであった。
「あ…なんでもないです。…そうだ!雛ちゃん、これ食べ終わったら私とトランプで遊ぼうか?」
「大貧民やるの〜!」
「おっ、いいねぇ!じゃあ、俺も…。」
「お前は仕事しろ。」
そう言って、士はユウスケの首根っこをつかむと、彼を引っ張りながら玄関の方へと向かっていくのであった。
暗闇と化した廃墟の街を、マシンディケイダーが疾走する。
だが、1時間以上走っても人っ子ひとり…どころか虫一匹さえも見つからなかった。
『何も感じられない世界なの…。』
雛苺の言葉が士の脳裏をよぎる。
まさに、この世界は生気を失った世界であった。
『士、聞こえるか?』
突如、マシンディケイダーに搭載された無線機からユウスケの声が聞こえてくる。
「どうした?何か発見したか?」
『いや…。いったいこの世界は何なんだ。まるで…生命という存在を完全否定したかのような世界だ。』
「確かにそうだな…。とりあえず、俺はもうちょっと調査してみる。ユウスケは1時間後に再度連絡してくれ。」
そう言って、士が交信を終えようとしたその時だった。
『了解。それじゃあ一時か…うわっ?!』
突然のユウスケの叫び声に、士は急いでマイクを取る。
「おい、ユウスケ!何があった?!」
『…。(ガタン!)』
だが、彼からの返答は無く、聞こえてきたのはバイクが倒れる音のみであった。
何者かによってトライチェイサー2000ごと吹き飛ばされたユウスケは、体を起こし、
自分を吹き飛ばした相手を確認しようとする。
だが、周囲が暗いために敵の正体が掴めないでいた。
「こうなったら…。」
何とか起き上がり、変身の体勢に入ろうとする。
だが、敵は暗闇を利用してユウスケに連続攻撃を仕掛けるのであった。
「ぐぁっ!…変し…うわぁっ!」
謎の敵からの攻撃をただただ受け続けるユウスケ。
そして、ついにユウスケは膝から崩れ、地面に倒れこんでしまうのであった。
「おい、ユウスケ!ユウスケ!!」
『…。』
士が無線機のマイクに向かって叫ぶ。
しかし、ユウスケの声が返ってくることは無かった。
「…くそっ!」
ユウスケを救出するべく、マシンディケイダーのアクセルを吹かせようとした。
『ディケイドよ…。』
「…ん?」
突然、闇夜に響いた謎の声。
いきなりの出来事に驚いた士は周囲を見回す。
『こっちだ…ここだ…。』
士が声の方向を見る。
すると、何かの影らしきものが路地の方へと向かっていくのが見えた。
「おい、待て!」
先ほどの事態に気が動転していた士はバイクを降りると、その影を追って路地へと向かってしまうのであった。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
とりあえず、前編のAパートはここまでです。
Bパートについてですが、急用で出かけなくてはならなくなったので、夜に投下させていただきます。
お手数ですが、ご了承ください。
とりあえず前編その1投下乙でございます
なかなか面白いな、続きが楽しみだ
期待してもいいよね?答えは聞かないけど。
「答える必要も無いな!」
「士くん、
>>233さんに対して失礼です!!(グイッ)」
「ナハハハハ…夏ミカン…やめろよ…それ…ナハハハハ!」
ありがとうございます。
とりあえず、これよりBパートのほうを投下させていただきますので、よろしければお付き合い願います。
一方、倒れたユウスケに対し、敵はさらに攻撃を加えるべく、ゆっくりと彼のもとに近づいていた。
かわすことの出来ない連続攻撃によって戦意を喪失してしまったユウスケに近づく敵の影。
そして、その影はついにユウスケの心臓部分目がけて拳を落とすのであった。
だが、その時、敵の足元に向かって数発の銃弾が飛来した。
突然の攻撃に後退する敵。
目の前にいたのは…。
「よう、僕なりのモーニングコールは気に入ってくれたかな?」
「か…海東…。」
先ほどまで倒れていたユウスケだったが、自分の頭上で起きた銃声と爆発、そして火薬のにおいで目を覚ました。
すかさず、海東 大樹がユウスケに肩を貸す。
「ありがたいが…次回からはもうちょっと優しく起こしてくれ…。」
「次があったら…ね。」
だが、ユウスケと海東が会話している間にも、謎の敵からの攻撃が襲いかかる。
それに気づいた海東は敵に向けて発砲した。
ところが、ディエンドライバーから発射された弾は敵の体をすり抜けるのであった。
「そんなバカな…。」
海東が驚くが、そんなことなど気にすることなく謎の敵からの攻撃が海東を襲った。
吹き飛ばされる海東、そして海東の肩を借りていたユウスケも近くの壁に叩きつけられる。
しかし、海東は吹き飛ばされながらもディエンドライバーにカードを挿入し、変身するのであった。
KAMEN RIDE…DIEND!!
吹き飛ばされた勢いを利用し、壁を蹴って敵の胸元へと飛び込む仮面ライダーディエンド。
だが、彼の体は敵の体をすり抜けてしまった。
すかさず受け身をとり、攻撃態勢に入るディエンド。
だが、謎の敵の素早い動きに、胸元へ大きな一撃を喰らうのであった。
「海東!…くそ…変身!!」
ユウスケはボロボロの体を無理やり起こし、仮面ライダークウガへと変身した。
「ぐっ…。海東!ディエンドライバーをこっちへ!!」
「分かった…うわっ!」
クウガからの声に、ディエンドは攻撃を受けながらもそれに答え、彼のもとへとディエンドライバーを投げるのであった。
「超変身!!」
緑の光に包まれたクウガはペガサスフォームとなり、ディエンドライバーもペガサスボウガンへと姿を変えた。
そして、クウガは己の耳に全神経を集中させる。
この時、クウガは自分たちの攻撃が当たらないのにもかかわらず敵の攻撃が自分たちに当たっていることから、
敵の正体を<幻影を利用した存在>と考えていた。
そこで、敵の正確な位置をつかむべく、感覚神経の優れたペガサスフォームへと変身したのであった。
ところが…。
「…!何も感じられない?!」
支援してみる
クウガは再び集中する。
だが、何度やっても彼は何も感じることは出来なかった。
音も、熱も、敵の息遣いも、そして敵の生命感も…。
「危ない!」
ディエンドが叫ぶ。
だが、無防備状態であったクウガは謎の敵からの攻撃を再び喰らい、その勢いでユウスケの変身は強制解除してしまう。
強制解除によって今までのダメージがユウスケの体を襲う。
それにより、彼はまたしても倒れるのであった。
だが、ユウスケが倒れこんだ時、偶然にも彼の手がトライチェイサー2000のライトスイッチに触れたらしく、
ライトから発せられた光が謎の敵を包み込んだ。
まるで影のような存在を露わにする謎の敵。
すると突然、敵は唸り声をあげて苦しみだすのであった。
「なるほど…。」
そう言うと、ディエンドはユウスケが持つディエンドライバーを再び手にし、一枚のカードを挿入する。
ATTACK RIDE…FLASH!!
ディエンドライバーの銃口から強力な光が発せられる。
さらに苦しそうな唸り声をあげる敵。
そして、先ほどまでの強さがまるで嘘だったかのように、敵はあっさりと消滅するのであった。
「まるで幽霊みたいなやつだったな…。」
海東は変身と解き、ユウスケのもとへと寄る。
「おい、ユウスケ!大丈夫か?」
ユウスケの顔を叩きながら、海東は声をかける。
だが、ユウスケのダメージは大きかったらしく、完全に気絶していた。
「…さすがに、放置しておくのはまずいよな。」
そう言うと、海東はユウスケの体をヒモで自分に縛り付け、
そしてトライチェイサー2000にまたがり、光写真館を目指すのであった。
----------------------------------------------------------------------------------------------
>>238 支援、感謝です。
その頃、士は鏡の前に立っていた。
先ほど見た謎の影を追って、迷路のような路地を走り続けた結果、この場所にたどりついたワケだったのだ。
「まさかと思うが…まあ、いい。物は試しだ。」
そう言って、ディケイドライバーと装着すると、ディケイドのカードを挿入した。
KAMEN RIDE…DECADE!!
続いて、別のカードを挿入する。
KAMEN RIDE…RYUKI!!
ディケイド龍騎に変身すると、ディケイドは鏡の中へと突入していった。
彼の前に広がる光景、それはミラーワールドとはまったく異なる未経験の世界であった。
「これは…。」
「ここはnのフィールドです。」
突然の声に驚いたディケイドは声の方を向く。
そこには一人の青年が立っていた。
>>241 いえいえ
申し訳ございません、このような支援で
俺にできることはこれくらいなもんですし
「この世界にようこそ、仮面ライダーディケイド。…とりあえず、今はその鎧を脱いだらどうだろうか?」
「じゃあ、そうさせてもらう。」
そう言って、士は変身を解除した。
「…あんたがローゼンか?」
「そうだとしたら…?」
「ノーなら俺の質問は1つだけ。イエスならサービスでもう1問追加してやる。」
「面白い方だ…。では、Ja(ヤー=イエス)と答えておきましょう。」
「まず…この世界のことについて教えてもらおうか。俺はいろんな世界を旅してきたつもりだったが、
ここまで生命力の無い…いや、存在しない世界は初めてだ。いったい、この世界で過去に何があったんだ?」
「かつて、この世界は他の世界同様、全ての生き物が平和に住む世界でした。
そして、我が娘たちもそれぞれのマスターとともに生活し、幸せな生活を続けていた…はずだった。」
「…だった?」
「だが、ある時、空から見たことも無い奴らが現れ、この世界の全ての生物に対し攻撃を開始したのです。
奴らは『自分たち以外に生きる存在は必要ない』と…。」
「だいたい分かった。それでこの世界には人どころか虫一匹いないのか。」
「それだけではありません。そいつらの誰かが私の娘たちが持つ秘密に気付いたのです。」
「…ローザミスティカか?」
「ローザミスティカは、体を破壊されない限り娘たちに命を与える、いわば『不死身』のようなもの。
それに目をつけた奴らは我が娘にまで手を出し始めたのです。」
「そうだったのか…。」
「それと、約束通りもうひとつの質問についても答えておきましょう。
雛苺をあなたたちの家に置いた件についてでしょうが…あれは私ではありません。」
「なんだと…?」
「でも、偶然ではありません。おそらく、この世界が『あなたたちならこの世界を救える』と判断し、置いたのでしょう。」
「まったく…神話みたいな話だな。だが、これでだいたいどころが全て分かった。俺がこの世界ですべきことが…。
ところでだ、サービスでもう一問いいか?」
「本来ならNein(ナイン=ノー)と答えたいところですが…あなたに頼らざるを得ない今はしかたありませんね。」
「敵の正体について知っていることはあるか?」
「詳しいことは分かりませんが、奴らには体や心というものが存在しない。まるで幽霊のような存在…。
私は一応、あれをゴーストと呼んでいますがね。」
「ユウスケがやられたのはそいつらか…。」
「そして、奴らを束ねる存在…それが、あなたがこの世界で倒すべき敵です。」
「そいつの名前は?」
「銀河王…。」
「も〜い〜か〜い〜?」
光写真館に夏美の声が響く。
「ま〜だなの〜!」
大貧民に飽き、かくれんぼへと移行した雛苺は写真館内で隠れ場所を探す為、とてとてと走っていた。
「も〜い〜か〜い?」
夏美の楽しそうな声が再び響く。
「え〜っと…あ、あったの〜!」
そう言って、雛苺は現像室へと入って行った。
「もうい〜の〜!」
雛苺の声を確認した夏美が、彼女を探し出そうとしたその時だった。
バタンという荒くドアが開く音とともに、重傷のユウスケを肩に抱えながら入ってくる海東の姿があった。
「大樹さん!それにユウスケ!!」
「夏メロンとマスター、すぐに手伝ってくれ!」
ユウスケを居間へと連れていく海東。
その体も、ユウスケほどではないが傷だらけであった。
「大樹さん、その怪我は!!」
「僕のことはいい…。それよりも、コイツの手当てを。」
「…分かった。夏美、倉庫から包帯を持ってきてくれ!」
栄次郎の指示で夏美が倉庫へ向かおうとしたその時だった。
「キャーッ!!」
突然、雛苺の悲鳴が響く。
「…雛ちゃん!!」
夏美が、声が聞こえてきた現像室へと走る。
「た…助けて!助けてなの!!」
雛苺に迫る謎の影、それは先ほどユウスケたちを襲ったのとは別個体のゴーストであった。
暗闇の中をゆっくりと迫るゴーストに対し、雛苺は現像室のドアを開けて逃げようとノブを何度もガチャガチャと回す。
ところが、先ほど簡単に開いたはずのドアはまったくと言っていいほどビクともしなかった。
そう、誰かが押さえているかのように…いや、そのドアは押さえられていた。
「…え?」
雛苺の手を押さえつける何か、それはもうひとりのゴーストであった。
あまりの恐怖に、泣きだす雛苺。
その声を聞いて、夏美が現像室前のドアへと現れる。
「雛ちゃん!雛ちゃん!!」
今度は夏美がドアノブをガチャガチャと回す。
だが、やはりビクともしない。
「夏メロン、退くんだ!」
海東がディエンドライバーでノブを破壊し、解錠を試みる。
しかし、ドアに開く気配は無かった。
「こうなったら、ディメンションシュートでドアを…。」
そう言って、変身しようとした時であった。
突然、写真館内の電気が全て消え、館内は外と同様の闇に包まれる。
その途端、館内にはいくつものゴーストたちが出現した。
発砲による攻撃を行なう海東。
だが、先ほどの戦い同様、ディエンドライバーからの銃弾はゴーストの体をすり抜け、館内の壁に跡を残しただけであった。
「夏メロンとマスターは逃げろ!」
「そんな…大樹さんは?!」
「いいから早…ぐぁっ!」
ゴーストのうちの一体が海東にネック・ハンギング・ツリーを仕掛ける。
「はや…く…逃げ…。」
「でも…。」
『雛ちゃんと大樹さんを置いて自分だけ逃げるなんて出来ない…。』
そんな気持ちが、夏美を迷わせていた。
「は…や…。」
海東の腕からディエンドライバーが落下する。
「大樹さん!」
窒息し、気を失う海東。
その魔の手は次の標的を夏美たちへと変えようとしていた。
支援
BGM:
http://www.youtube.com/watch?v=RSWjR1DK_Xw&feature=related 「おっと、そうは問屋が卸さねえぜ。」
突然響き渡る声。
すると、写真館の玄関から強力な光が発せられる。
あまりのまぶしさに目を押さえる栄次郎と夏美、そしてゴーストたちは苦しみだした。
そしてドアが開き、マシンディケイダーから発せられていた光はさらに強力になる。
…と同時に、何かの影が夏美たちの前に飛び込んでくるのであった。
「…士くん!」
それは、仮面ライダーディケイドであった。
「幽霊退治は任しとけ。」
KAMEN RIDE…BLACK!!
ディケイドBLACKとなった士はさらにもう一枚のカードを挿入する。
ATTACK RIDE…KING STONE FLASH!!
ディケイドライバーからの音声とともに、太陽のような強力な光が発せられ、ゴーストたちは一掃された。
「よし…。」
「まだです!現像室に雛ちゃんが!!」
「なら、これだ!」
FORM RIDE…BLACK RX!BIO RIDER!!
バイオライダーのカードを挿入したディケイドは、体を液状化させ、ドアの隙間から現像室へと侵入した。
実体化するディケイド・バイオライダー。
だが…。
「いない…?」
あたりを見回すディケイド。
その時、光る何かが目に入る。
「これは…。」
それは、まぎれもなく雛苺が頭に付けていたリボンの飾りであった。
「士くん!」
ドアが開くようになった現像室に夏美が入る。
「まさか…雛ちゃんは…。」
「ああ、そのまさかだ…。」
その言葉に、夏美は膝から崩れ落ちた。
「そんな…そんな…。」
「放して!放してなの!!」
とある薄暗い研究室。
その中で雛苺は両手足を拘束され、壁に貼り付けられていた。
「助けて、夏美!ユウスケ!士!」
大声で叫ぶ雛苺。
だが、その声は研究室内でむなしく響くだけであった。
「何トモ騒ガシイ奴ダ。」
突然の声に雛苺が振り向く。
「ダガ、勝手二騒イデイロ。モウスグ、オ前ハ私ノ物トナル。オ前ノ姉妹ノヨウニナ…。」
そう言うと、突然研究室の一画がライトに照らされる。
ライトに照らされる『何か』。
始めは何か分からなかったが、雛苺はそれが何であるかすぐに理解した。
「そんな…嘘なの…。」
「分カッタカ。確カ、オ前ノ姉タチモオ前ミタイ二騒イデイタ。
ダガ、結局ハ私ノ物トナッタ。ソレガろーぜんめいでんノ運命ダッタノダヨ。」
そこには7体の人形があった…いや、胴体を砕かれ、頭を砕かれ、
バラバラにされ原型を留めていない7体のローゼンメイデンがあった。
「ソシテ、最後二オ前ノろーざみすてぃかヲ頂ク。
ソウスレバ、私ハ…銀河王ハ完全ナル不死身ノ存在トナルノダ!!」
光のもとに現れ、高笑いをする機械生命体の銀河王。
その体には他のローゼンメイデンから抜き取った7つのローザミスティカが輝いていた…。
つづく
BGM:
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9194765 *音がデカイので注意してください
<次回予告>
次回、仮面ライダーディケイド!
「夏美、昔言ったことがあるだろう。『必要なのは明るくいること』だと。」
「限リアル命ナド存在価値モ無イ!存在シテ良イノハ不死身ノ銀河王ダケダ!!」
「あぶぞーぶ・くいーんなの〜!!」
全てを破壊し、全てを繋げ!!
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50レス近くも使ってしまい、ご迷惑をかけましたが、とりあえず前編はこれでおしまいです。
後編は30日の朝9時ぐらいに投下しようかと考えてますので、ご迷惑でなければ、またよろしくお願いします。
258 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/28(木) 22:35:50 ID:hIcy5bJB
乙
乙ー
投下乙!
確かにリ・イマジ世界だ。だけど悪くない!
ついに出たディケイド・てつを
もうあいつだけでいいんじゃないかなw
そして今回の敵、ゴースト。銀河王
銀河…王…銀河さんの王…銀河万丈の王…ハッ!
おのれ、サウザー!ゆるざんっ!!
>>258-260 さっそく、ありがとうございます。
思いつきで書き始めた作品だったため、皆様の反応などが不安だったのですが、
とりあえず及第点は頂けた感じなので、胸を撫で下ろしている次第です。
これまたおもしろいクロスだね
続きに期待したい
ただ1レスをもっと長くしようぜ
まとめればレス数は半分以下ですむはず
カブト×ZX参考にすると良い
>>262 感想ありがとうございます。
あと、レスの件ですが…本当にすみません(汗)
見直してみたら、1レスで済みそうな場面に3レスも使っているよな箇所があったりで恥ずかしい限りです。
とりあえず、明日の投下時には気をつけますので、よろしくお願いします。
おはようございます。
それでは、9:00より仮面ライダーディケイド × ローゼンメイデンの後編を投下させていただきます。
よろしければ、お付き合い願います。
BGM:
http://www.youtube.com/watch?v=og1nGqfLBG4&feature=related ---------------------------------------------------------------------------------------------------
これまでの仮面ライダーディケイドは・・・。
「以前は暖かくて、明るくて、親切な人がいっぱいいる世界だったの。
それなのに、今は真っ暗で寒くて・・・何も感じられない世界なの・・・。」
「夏美、お前はつらいとか寂しいとか考えているが・・・そんなことなんて生きていくことに必要ない。
必要なのは明るくいることだよ。」
「かつて、この世界は他の世界同様、全ての生き物が平和に住む世界でした。
そして、我が娘たちもそれぞれのマスターとともに生活し、幸せな生活を続けていた・・・はずだった。」
「・・・だった?」
「だが、ある時、空から見たことも無い奴らが現れ、この世界の全ての生物に対し攻撃を開始したのです。」
「そいつの名前は?」
「銀河王・・・。」
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ゴーストの襲撃を受け、暗闇と化していた光写真館に再び明かりが灯る。
だが、先ほどの攻撃で小野寺 ユウスケと海東 大樹は戦闘不能となり、
また不死身の力を与えるローザミスティカを宿した『生きた人形』、
ローゼンメイデンの一人である雛苺も戦闘のどさくさで誘拐されてしまった。
そんな状況で光 夏美が思うことは『悔しさ』であった。
「士くん・・・ごめんなさい!!」
「夏ミカン・・・?」
「私が・・・ちゃんと雛ちゃんを守っていれば・・・雛ちゃんを・・・。」
夏美は涙をボロボロ流しながら言う。
「別にお前の責任じゃないだろ。」
「でも・・・あの時・・・。」
「だから・・・。」
「『かくれんぼしよう』なんて・・・私が言いださなければ・・・。」
「しつこいなぁ!じゃあ、お前はその『責任』に対する『償い』が出来るのか?!」
「・・・!」
「夏ミカンは何が『悔しい』のか分からんが・・・『責任』を償えないお前が軽はずみに『責任』とか口に出すな!!」
「・・・。」
そう言って、士は居間から出て行った。
夏美は言い返せなかった。
確かに、夏美は悔しかった。
雛苺の姿をかつての自分と重ねていた夏美にとって、雛苺は妹のような存在・・・いや、自分の分身のように感じていた。
だからこそ、かつて自分が味わった『寂しさ』を雛苺に味わせないよう、彼女は雛苺と一生懸命に遊んだのであった。
だが、その『遊び』が結果的に彼女に『寂しさ』を再び与えることとなってしまった。
夏美は、『自分』の運命を変えることが出来なかった『自分』を悔やんでいた。
「私は・・・どうしたら・・・。」
「これを飲んで、落ち着いてから考えたらどうだい?」
そう言って、栄次郎は夏美のもとに赤いジュースの入ったコップを置いた。
「これは・・・。」
「雛ちゃんに作ってあげたびっくりイチゴ大福のイチゴが余ったんでね、ジュースにしてみたんだよ。」
「おじいちゃん・・・。」
ジュースを見つめる夏美。
だが、飲む気にはなれなかった。
「おじいちゃん・・・私・・・。」
「夏美、昔言ったことがあるだろう。『必要なことは明るくいること』だと。」
「でも・・・雛ちゃんを・・・あの子をあんな目に遭わせた私に『明るくいろ』なんて・・・。」
「じゃあ、夏美は一生そうやってジメジメとしているつもりかい?」
「・・・。」
「夏美は雛ちゃんの『明るさ』を守りたかったんだろう?『朱に交われば赤くなる』ってことわざじゃないが、
夏美が暗いままでいれば雛ちゃんまで暗くなってしまう。
・・・もし、士くんの言っていた『償い』をするのだとしたら、
それは雛ちゃんを明るくするほどの『明るさ』を夏美が持つことなんじゃないのかな?」
「『明るさ』・・・。」
『雛苺なの〜!』
『あ〜!デッカイうにゅーなの!!』
『大貧民やるの〜!』
夏美の頭の中で、雛苺の笑顔はフラッシュバックする。
自分の『責任』に対する『償い』・・・。
それは、再び彼女を笑顔にすること!
そして、一緒に笑顔でいられるように自分も笑顔でいること!!
そして、夏美は一気にイチゴジュースを飲み干した。
「うん、それでこそ夏美だ!」
「ごちそうさま!・・・おじいちゃん、私行ってきます。」
BGM:
http://www.youtube.com/watch?v=BXcR1ekN9oQ ----------------------------------------------------------------------------
世界の破壊者と呼ばれた男、ディケイド。
いくつもの世界をめぐった今、彼の瞳には更なる世界が映ろうとしていた・・・。
----------------------------------------------------------------------------
「ちょっとちょっと、あてもなく行こうってつもり?」
夏美が出かけようとしたその時、彼女のもとへ一匹のコウモリがやって来た。
「キバーラ!」
「夏美ちゃん、銀河王って奴のところへ行くつもりなんでしょ?だったらお姉さんが教えてあ・げ・る!」
「知ってるの?」
「ええ、あなたたちとは別にこの世界の調査をしていたからね。
とりあえず、場所については先に出て行ったディケイドにも伝えておいたわ。
・・・あと、もうひとつ。」
「もうひとつ?」
「外に出れば分かるわよ。」
「これって・・・士くんのバイク!」
「そう、マシンディケイダー。どうやら、ディケイドは分かってたみたいね。あなたが戦いに行くことを。」
「士くん・・・。」
「さて・・・雛苺って子を助けに行くんでしょ?キバって行くわよ!!」
「ハイ!!」
そう言って、夏美はキバーラを掴み、空に掲げた。
「変身!!」
夏美を包むピンクの光。
それは形を作り、白銀の鎧へと化した。
「待っててください、士くん!雛ちゃん!!」
仮面ライダーキバーラはマシンディケイダーとともに銀河王のもとへと走って行った。
一方、仮面ライダーディケイドは苦戦を強いられていた。
実体の無い、幽霊のような存在のゴーストたちにはBLUSTのカードもSLASHのカードも通用しない。
唯一の攻撃手段は<ATTACK RIDE:SIGNAL SHOOT>・・・つまり、信号弾による発光とバイクのライトによるけん制のみであったが、
無尽蔵に現れるゴーストを一掃するには程遠かった。
そして、苦戦を強いられる理由はバイクにもあった。
「くそっ・・・カッコつけてユウスケのバイクなんか使うんじゃなかった!」
オンロード・タイプで重量系マシンあるマシンディケイダーを使うディケイドにとって、
オフロード・タイプで超軽量系マシンのトライチェイサー2000はとても相性が悪く、
慣れないバイクの操作に手こずっていた。
そんなディケイドの隙をついてか、何体かのゴーストがディケイドをトライチェイサー2000から引き摺り下ろす。
すかさず受身を取り、信号弾での反撃を試みようとしたが、別方向から現れたゴーストの攻撃に反応出来ず、
ライドブッカーを手放してしまった。
「しまった!」
すぐさま取り返そうとするが、ディケイドの周囲を多量のゴーストが囲む。
襲い掛かる全方向からの連続攻撃に、ディケイドはサンドバックと化していた。
その時・・・。
ATTACK RIDE・・・AUTO BAJIN!!
突然聞こえてきた音声とともに、上空から現れたオートバジンがディケイドを救出した。
「士くん!」
オートバジンの肩に担がれたディケイドのもとへキバーラが駆けつける。
「夏みかんか・・・待ってたぜ!」
立ち上がるディケイド。
そして、オートバジンもマシンディケイダーへと戻る。
再び、ゴーストたちの攻撃が始まる。
「夏みかん!跳べ!!」
ディケイドの言葉に反応し、空高く跳ぶキバーラ。
一方、ディケイドは『愛馬』であるマシンディケイダーに乗り、ゴーストたちとの距離を空ける。
「相手が夏の風物詩の幽霊なら、こっちも夏の風物詩だ!」
そう言って、ディケイドはマシンディケイダーにある予備ホルダーから一枚のカードを取り出し,マシンディケイダーに挿入した。
ATTACK RIDE・・・SIDE BASHER!!
変形するマシンディケイダー。
そして、ディケイドはサイドバッシャーのモニターに何かを打ち込む。
「そぉ〜れ、花火大会の始まりだ!」
そう言って、モニターのENTERを押す。
そして、サイドバッシャーからは無数の閃光弾がゴーストたちに向けて発射された。
強力な光によって消滅するゴーストたち。
その数は確実に減っていた。
・・・と同時に、閃光弾の光によって、それまで暗闇に姿を隠していた銀河王の巨大円盤が姿を現した。
「あれが・・・雛ちゃん、待ってて!」
そう言って、キバーラは乗り捨てられていたトライチェイサー2000にまたがり、
巨大円盤の入り口へ一直線に走っていった。
円盤内を駆け抜けるトライチェイサー2000。
キバーラはある場所を目指していた。
それは単なる勘でしかない。
しかし、「もうひとりの『自分』を笑顔にしたい」という強い思いが、彼女に神がかり的な勘を与えていたのかもしれない。
「・・・ここだ!」
バイクのまま、キバーラは扉に突っ込む。
そこは、銀河王の玉座であった。
「ヨク来タ、仮面らいだーヨ。」
「あなたが・・・銀河王!雛ちゃんを返しなさい!!」
「雛チャン・・・?アア、アノろーぜんめいでんノコトカ。
計算上、モウ返シテモ問題ハ無イ。素直二返シテヤロウ。」
そう言って、銀河王は何かを取り出した。
「・・・!!」
「オ前ノ言ッテイタ『雛チャン』トハ、コレノ事ダロウ?」
キバーラは絶句した。
銀河王の手に握られた物、それは見るも無残なほどに崩壊した雛苺の頭部であった。
そして、銀河王は雛苺の頭部をキバーラのもとへと投げる。
「ホレ、返シテヤッタゾ。・・・アト、胴体ヤラ足ヤラハソコノごみ箱二入ッテイル。必要ナラバ持ッテイケ。」
思わず、雛苺の頭部を拾い上げるキバーラ。
その顔は死ぬ間際の恐怖と絶望感を物語っていた。
「オ前ノ用件ハ済ンダカ?私ハコレカラ別ノ仕事ガアル。
邪魔二ナルカラスグニ失セロ。ソレガ嫌ナラ強制的二排除スル。」
「・・・排除されるのは・・・お前だぁっ!!」
銀河王の言葉に怒りが爆発したキバーラはキバーラサーベルを手に取り、銀河王へと襲い掛かる。
「計算結果・・・避ケル必要ハ無イ。」
「うわぁあああああっ!!」
キバーラのサーベルが銀河王の体を貫く。
だが・・・。
「ソレガオ前ノ実力カ?」
「そんな・・・効いてない?!」
「次ハ私ノ番ダ。」
突然発光する銀河王の頭部。
その光とともに発せられる衝撃波でキバーラは吹き飛ばされ、体を壁に叩きつけられた。
そして、銀河王は自分の胴体に刺さったサーベルを、
まるで何事も無かったかのように引き抜くと、キバーラのほうへと歩き出した。
一方、キバーラもなんとか立ち上がる。
・・・だが、立ち上がるのが限界であった。
しかし、キバーラは気力で銀河王に立ち向かう。
『笑顔』のために・・・。
「計算結果・・・アト2回ノ攻撃デ、コノ仕事ハ完了スル。
ナラバ、死ヌ前ニ良イコトヲ教エテヤロウ。ソレガ私ノ不完全生物ヘノ『情ケ』ダ。」
そう言うと、銀河王は自身の体を包むマントに手をかけた。
「コレヲ見ロ。」
露わになる銀河王の胴体。
そこには銀、金、緑、青、赤、黄、白、紫のローザミスティカが輝いていた。
「カツテ、私ハ居大ナル創造主ニヨッテ『機械ノ体』トイウ不死ノ体ヲ頂イタ。
ダガ、機械ト言エド、イツカハ部品ガ壊レテ死ンデシマウ。
コノ偉大ナル宇宙ノ支配者ヲ失ッテシマウ事ハ全宇宙ニトッテ大損害ダ。
ソコデ私ハコノ星ニアッタろーざみすてぃかニ目ヲツケタ。
ろーざみすてぃかヲ持ツベキ資格ガアルノハ、アンナ人形ナドデハナイ。
私ダケダ。・・・ダガ、コノ星ノ住人ハ偉大ナル支配者ニ恐レ多クモ抵抗シタ。」
「だから・・・攻撃したって言うの?!」
「『攻撃』ダト?ソンナ生ヌルイ事ナド銀河王ハシナイ。抵抗スルナラバ星ゴト殺スマデダ。」
「許さない・・・。」
「話ハ終ワリダ。マズハ1回。」
そう言って、銀河王によるサーベルの一撃がキバーラを襲う。
火花をあげるキバーラの体。
そして、再び壁に叩きつけられる。
その勢いはすさまじく、叩きつけられた壁は崩壊し、隣の部屋の窓が露わになった。
一方、外ではライドブッカーを回収したディケイドと、自動操縦のサイドバッシャーがゴーストを相手に戦っていた。
閃光弾で数を減らしたものの、未だに増殖し続ける敵に対し、ディケイドは疲れだしていた。
「キリが無い・・・他にも相手を一掃する手は無いのか?」
「士!」
聞こえてくる声に後ろを振り向く。
そこには、クウガ・ゴウラムとそれにつかまる仮面ライダーディエンドの姿があった。
ディエンドは飛び降り、そして仮面ライダークウガも元の姿に戻ってのもとへ駆けつける。
「海東、ユウスケ、重役出勤のつもりか?」
「ちょっ・・・せっかく助けにきたのにその言い草は無いだろうよ。」
「相変わらず素直じゃないね、士は。
もうちょっと素直になってくれたら『とっておきの作戦』を教えてあげたのに。」
「何だと・・・?」
ディエンドの言葉にの動きが止まる。
「どうする、士?」
ディエンドが言う。
「・・・。」
「どうするどうする?」
クウガがさらに言う。
「・・・。」
「「5・・・4・・・3・・・。」」
「・・・分かったよ、素直になってやるよ!だから、早く力を貸してくれ!!」
二人のしつこい勧誘にはついに降参した。
「士はツンデレだねぇ〜。」
「うるさいっ!・・・で、どうするんだ?」
クウガを一喝し、ディケイドがディエンドに聞く。
「か・み・だ・の・み!」
「・・・ハァ?!海東!お前、こんな危機的状況で俺をおちょくってるのか?!」
「いいや、僕はいたって真面目だけどね。」
そう言って、ディエンドは一枚のカードをディエンドライバーに挿入した。
--------------------------------------------------------------------
すみません、
>>275で脱字を見つけたので記載しておきます。
申し訳ありません。
×:ディエンドの言葉にの動きが止まる。
○:ディエンドの言葉にディケイドの動きが止まる。
×:二人のしつこい勧誘にはついに降参した。
○:二人のしつこい勧誘にディケイドはついに降参した。
あと、また「連続投稿しすぎ」と板から警告受けました(泣)
とりあえず、もう少しタイミングを遅くして投稿していきます。
せめて、Aパートだけでも投下し終えたい・・・。
--------------------------------------------------------------------
この板は1レス60行までだから、もっと1レスに詰められるぜ
KAMEN RIDE・・・FAIZ!!
召喚される仮面ライダー555。
そして、ディエンドはもう一枚のカードを挿入する。
「痛みは一瞬だ。」
FINAL FORM RIDE・・・F・F・F・FAIZ!!
555が変形し、ファイズ・ブラスターとなってクウガの手元に渡る。
「士、何ボーッとしてるんだ。早く君も555を呼び出すんだ!」
「あ・・・ああ!」
ディエンドの言葉に戸惑いつつも、ディケイドはケータッチを取り出す。
KUUGA,AGITΩ,RYUKI,FAIZ,BLADE,HIBIKI,KABUTO,DEN-O,KIVA!
FINAL KAMEN RIDE・・・DECADE!!
コンプリートフォームへと変身するディケイド。
そして、ディエンドに言われたとおり、555を召喚した。
FAIZ!KAMEN RIDE・・・BLUSTER!!
登場する仮面ライダー555 ブラスターフォーム。
「・・・で、どうするんだ?」
今回ばかりはディケイドも『だいたい分かった』と言えないため、ディエンドに再度聞く。
「神頼み・・・って言ったろう?これから神を呼び出すのさ、天からね。」
「・・・そういうことか。だいたい分かった!」
FINAL ATTACK RIDE・・・F・F・F・FAIZ!!
FINAL ATTACK RIDE・・・D・D・D・DIEND!!
ディエンドが挿入した2枚のFINAL ATTACK RIDEのカードによって、ファイズ・ブラスターとディエンドライバーにエネルギーが集約される。
FINAL ATTACK RIDE・・・F・F・F・FAIZ!!
ディケイドも同様にFINAL ATTACK RIDEのカードを挿入した。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
>>277 アドバイスありがとうございます。
ただ、ある程度場面の切り替えごとに投稿したいので、どうしても少ないレスが発生してしまうんですよね…。
申し訳ないです。
「外ニモ仮面らいだーガイタノカ・・・。ダガ、今ハこいつノ処刑ガ先ダ。」
気絶するキバーラの首もとに、銀河王が持つキバーラサーベルが近づく。
「コノ一撃ダ。」
そう言って、銀河王はサーベルを振り下ろした。
「士、行くぞ!」
ディエンドの号令をきっかけに、上空に向けて一斉発射されるディケイドフォトン、ディメンションシュート、フォトンバスター。
4つの光線は大きな光の束となり、周囲を包む厚い黒雲を部分的に消し去った。
そして、そこから現れたのは・・・。
「どうだい?まるで神が光臨したかのようだろう?」
黒雲の穴から放たれる太陽の光。
その光は円盤の周囲を包み込んだ。
消滅する全てのゴースト、そして・・・。
「グアッ?!コ・・・コノ光ハ?!」
計算外の事態にキバーラへの攻撃を止める銀河王。
そして、銀河王の周りを窓からの太陽光線が包み込んだ。
『暖かい・・・。』
--------------------------------------------------------------------------------------------
とりあえず、後編のAパートはここまでです。
お付き合いしてくださった方、ありがとうございました。
Bパートはちょっと間を挟んで投下させていただきます(14時くらいを予定)。
それではBパートです。
---------------------------------------------------------------------
「オノレ・・・。計算修正・・・完了。ヤハリ、オ前ハアト一撃デ死ヌノダ。」
再び迫る銀河王の魔の手。
しかし、依然キバーラは気絶したままだった。
「コレデ終ワリダ。」
キバーラの首にサーベルを突きつけようとしたその時だった。
「・・・ム?計算修正・・・『ソウハ・・・サセナイ・・・ナノ』?何ダ、コノでーたハ?」
「・・・ん?」
キバーラが目を覚ます。
「計算修正・・・『ナツミ・・・タスケル・・・エガオ・・・ナノ』?」
「まさか・・・雛ちゃん?!」
「?!でーたガ・・・勝手二・・・私ノ計算ヲ・・・!!
『ナツミト・・・マタ・・・イッショニ・・・アソブノ・・・絶対に!!』」
その直後、銀河王の体に埋め込まれた雛苺のローザミスティカが発光を始めた。
それだけではない。
他のローザミスティカも発光しだしたのであった。
「でーたガ・・・でーたガ・・・計算ガ・・・計算ガ・・・『夏美、あなたを助けるの!』
『ちび苺、私たちも手伝ってやるですぅ!』『僕も行くよ!』『カナの出番かしら!』
『あなたの力になるのだわ』『こいつをジャンクにするお手伝いをしてあげるわぁ!』
『私たちも行くわよ、ばらしー』『もちろんですわ、雪華綺晶お姉さま・・・』」
強くなるローザミスティカの光。
「カ・・・体ガ・・・熱イ・・・体・・・ガ・・・。」
苦しみだす銀河王。
そして、ついにローザミスティカは銀河王の体から離れ、キバーラの前に現れた。
「雛ちゃん・・・雛ちゃんなの?!」
『ただいまなの!』
「雛ちゃん・・・ごめんね・・・あなたを守れなくて・・・。」
『のんのん!夏美は泣いちゃだめなのっ!!』
「・・・うん、そうよね。おじいちゃんも言ってた。『笑顔』を守るなら『笑顔』でいろって・・・。」
『うぃ!だから泣いたらメっ!なの。』
「計算・・・修正・・・完了・・・。私ノ・・・計算ハ・・・ヒトツモ・・・間違ッテイナイ・・・。
アト・・・一撃デ・・・私ガ・・・勝利スル!!」
体の機能を破壊されながらも立ち上がる銀河王。
それはまるで、亡霊のようであった。
BGM:
http://www.youtube.com/watch?v=yvnNxOOpQ64 キバーラが・・・いや、夏美が言う。
「銀河王!お前は機械の体という不死の力を手に入れるだけに飽き足らず、
『完全なる不老不死』まで手に入れようとローゼンメイデンたちに手を出した。
だが、それは宇宙の摂理に反することだ!」
「宇宙ノ摂理ダト・・・?」
「人は・・・いや、全ての生き物の命は限られている。
だからこそ、その命を大事にして人と触れ合ったり、遊んだり、笑顔になったり出来るんだ!」
「限リアル命ナド存在価値モ無イ!存在シテ良イノハ不死身ノ銀河王ダケダ!!」
「・・・お前がそう思うなら、勝手にそう思っていろ。だが、命の大切さが分からない機械人形のお前こそ存在価値も無い!
暖かさも優しさも・・・そして笑顔も分かる雛ちゃんたちと比べたら、お前などジャンク以下だ!!」
「私ヲ侮辱スルノカ!貴様ハ・・・何者ダ!!」
「通りすがりの・・・仮面ライダーだ!!」
そう言って、仮面ライダーキバーラは構えた。
それと同時に8つのローザミスティカがキバーラの体を包み込んだ。
「これは・・・!」
『あんなジャンク以下、私たちだって放っておけないわぁ!』
『だから、あなたにローゼンメイデンの力を貸してあげるかしら!』
『私たちをジャンクにしやがったあいつをボッコボコにしてやるですぅ!』
『僕も許さないよ、翠星石に手を出すような変態野郎は!』
『人間と薔薇乙女の絆の力にひれ伏すのだわ!』
『そして悔やむがいい、己の愚かさを!』
『さあ、お前の罪を数えろ!』
『みんな!あぶぞーぶ・くいーんなの〜!!』
雛苺の掛け声とともに、光の塊となるローザミスティカ。
そして、8つの光はキバーラを包む鎧と合体し、薔薇のように鮮やかな紅色をした鎧へと変化を遂げる。
今ここに、仮面ライダーキバーラ クイーンフォームが誕生した!
「何ガくいーんダ!」
銀河王がキバーラサーベルでの攻撃を仕掛ける。
だが、キバーラは振り下ろされたサーベルを左手で掴み、
それだけでなく右ストレートによるカウンター攻撃で今度は銀河王を壁に叩きつけるのであった。
「何故ダ・・・ドコ二ソンナぱわーガ残ッテイタトイウノダ・・・?!」
動揺する銀河王。
一方、キバーラはチャンスとばかりに、サーベルを再び手に取り、銀河王に斬りかかる。
「とぉりやぁあああああっ!!」
思わず右腕でガードする銀河王であったが、パワーアップしたキバーラは相手の腕を斬り落とし、
さらには胴体の回路を叩き割るのであった。
「グワァアアアアア・・・ピー・・・ピー・・・icl.inzwcj834lihsa8o&i7T87Ugi7ty7TKJGi7tKbitknslhe・・・」
回路が破壊され狂いだす銀河王。
しかし、狂いながらも銀河王は最後の攻撃手段として頭部から衝撃波を放つ。
だが、キバーラには問題ではなかった。
「ハッ!!」
飛んでくる衝撃波をサーベルで受け止めたキバーラは、さらにローザミスティカのエネルギーを注入し、
8色の光線として投げ返す。
「lily8(OUG).knlihno8ldxl.m;cxoi&%BKUGI8678h54u・・・。」
キバーラからの攻撃に対し、衝撃波を連射する銀河王。
しかし、8色の光線は全ての衝撃波をはじき返し、そして銀河王の頭部で大爆発を起こした。
「・・・。」
ついには衝撃波装置も破壊され、音声機能も破壊された銀河王。
だが、まだ活動していた。
「よし!みんな・・・行くよ!!」
『『『『『『『『ハイ!!』』』』』』』』
キバーラの声に答えるかのように、鎧から飛び出す8つの光。
それは次々と薔薇の形の光となって、順番に並んでいく。
8つの光の薔薇が完成したことを確認すると、キバーラは空高く跳んだ。
「これが・・・薔薇乙女式のディメンションキックだぁあああああっ!!」
キバーラのキックが銀の薔薇を通過する。
続いて金、緑、青・・・と次々に薔薇の中を通過し、それとともにキバーラの落下速度は増していく。
そして、最後の紫薔薇を通過した時、そのスピードは光速の域に達していた。
「これでぇえええええ、最後だぁあああああっ!!」
キバーラの・・・いや、夏美たちの全ての思いが詰まったディメンションキックは銀河王の体をまるでガラスのように粉々にするのであった。
こうして、銀河王は倒された。
・・・だが、戦いはまだ終わっていなかった。
突然揺れだす円盤。
「いったい何が・・・あ!」
キバーラは窓を見て気付く。
それは、この円盤が上昇し始めているということであった。
『夏美、早く脱出するの!』
「でも、どうやって・・・?」
『・・・あ、あのバイクですぅ!』
キバーラは自分が乗って来たトライチェイサー2000のことを思い出し、すぐさま搭乗した。
「ちょっと我慢してね、みんな!」
『もしかして・・・かしら?』
トライチェイサー2000のアクセルを全開にする仮面ライダーキバーラ。
そして、円盤の窓に突っ込み、そのまま外へと脱出するのであった。
「・・・!あれは夏美ちゃん!!」
「どうやら、銀河王を倒したらしいな。あとはあの円盤だけだ!」
「発射!」
再び、ディケイドたちから4つの光線が放たれ、大きな光の束と化す。
その光線は円盤を貫き、円盤は大爆発を起こした。
そして、この大爆発によりこの世界を覆っていた厚い黒雲は全て吹き飛び、
この世界に再び光が戻るのであった。
キバーラは円盤の中であった出来事をディケイドたちに話した。
「そうか・・・雛苺は・・・。」
「士くん、そんな悲しそうな言い方をしないでください!」
キバーラが言う。
『そうなのよ。体は無くても雛たちは悲しくないのよ・・・。悲しくは・・・。』
「そうですよ。私だって・・・悲しくは・・・。」
無理に明るくなろうとする雛苺とキバーラであったが、やはり本心では悲しかったのか、
泣きそうな声を出すのであった。
その時、ディケイドのライドブッカーが開き、一枚のカードが飛び出した。
「これは・・・!」
すかさず、そのカードをディケイドライバーに挿入する。
FINAL FORM RIDE・・・K・K・K・KIVARLA!!
「夏ミカン・・・笑いのツボ!」
ディケイドがキバーラの首元に親指を押し当てる。
その途端、キバーラを包んでいた鎧にヒビが入りだし、その鎧は8つの破片へとなって夏美の体から分離した。
そして・・・。
「ハハハハハ・・・何・・・するんですか・・・士くん・・・ハハハハハ!」
「ハハハハハ・・・笑いが・・・止まらない・・・かしら・・・ハハハハハ!」
「キャハハハハ・・・何よぉ・・・これぇ・・・キャハハハハ!」
「フヒヒヒヒ・・・何・・・するですぅ・・・ピンク人間・・・フヒヒヒヒ!」
「あはははは・・・く・・・くすぐったい・・・ああ・・・あはははは!」
「だはははは・・・誰か・・・止めて・・・だはははは!」
「だはははは・・・よくも・・・やってくれたわね・・・ディケイド・・・だはははは!」
「フハハハハ・・・お腹が・・・苦しい・・・フハハハハ!」
「ヒャハハハハ・・・お姉さま・・・助けて・・・ヒャハハハハ!」
「ウヒャヒャヒャヒャ・・・笑っちゃう・・・なの・・・ウヒャヒャヒャヒャ!」
そして、3分後。
笑いが止まった乙女たちはディケイドの前に押し掛け、同時に叫んだ。
「「「「「「「「「いきなり何するんだ!」」」」」」」」」
「・・・お前ら、突っ込むのは良いが、その前に自分たちの状況に気付けよ。」
そう言いながら、士は変身を解いた。
「・・・状況?」
そして、乙女たちはすぐに気が付いた。
「手があるですぅ!」
「足もあるのだわ!」
「羽だって!」
「僕の帽子も!」
「私たちの体が・・・!」
「再生してる・・・!」
「かしら・・・!」
「これはいったい・・・?」
「さあな・・・。もしかしたら、俺たちが神様にお願いしたからかもな。」
「神様・・・?」
夏美がその意味を士に聞こうとしたその時、夏美の足元に何かが触れる感触があった。
「・・・雛ちゃん?」
すると、雛苺は木に登るかのごとく夏美の体を登り始めた。
「うんしょ・・・うんしょ・・・。」
そして、夏美の頭の上に到達すると、こう言った。
「ふふっ・・・夏美登りなの!」
そこには、元気そのものの笑顔があった。
ファイナルフォーム ライド シシシシ支援!
それから、夏美たちとローゼンメイデンたちは一生懸命に遊んだ。
「・・・なるほど、紅茶派である私をここまで唸らせるとは。
やはり、あなたの言うようにこのコーヒーはお宝というべき価値のあるものだわ。」
「・・・なるほど、いろいろな世界を旅してきたつもりだったが、ここまでの紅茶は僕にも初めてだ。
まさにお宝だね。」
「・・・あの二人、何やってるですか?」
コーヒーと紅茶について語り合う海東と真紅を見ながら、翠星石が言う。
「さあね・・・。おっと!翠星石ちゃん、そろそろ焼けてきたんじゃないかい?」
「おぉう、バッチコイですぅ!」
そう言って、栄次郎とともに焼き立てのスコーンをオーブンから取り出す。
「翠薔薇のお姉さま、イチゴジャムが出来ましたわ。」
雪華綺晶が鍋に入ったイチゴジャムを煮ながら翠星石を呼ぶ。
「お〜、きらきーすげーですぅ。」
「よし・・・じゃあ、おやつにしようか。海東くん、真紅ちゃん、手伝ってくれ。」
「私はコーヒーの研究で忙しいのだわ。」
「僕はこんな紅茶に出会った今、動くことなんて出来ない。」
「・・・こいつら、使えねぇですぅ。」
「しょうがない、わしらでセッティングするか。
・・・そうだ、きらきーちゃんは外にいる士くんたちを呼んできてくれないか?」
「分かりましたわ、おじいさま。」
一方、写真館の外では士、ユウスケ、蒼星石、金糸雀、水銀燈、薔薇水晶の6人が野球をしていた。
「喰らえ!僕の魔球・・・エビ投げハイジャンプ魔球!!」
「なんの!土佐名物、カツオの一本釣り打法!!」
蒼星石の魔球をユウスケが打ち返す。
キャッチャーをやっていた士が、すかさず指示を出した。
「金糸雀!そっちに向かったぞ!!」
「任せるかしら!・・・って、あれ?あ・・・あ・・・あああああ!!」
ユウスケが打った球は金糸雀のおでこへ一直線へと落下し、周囲に『ゴツン』という鈍い音を響かせるのであった。
「大丈夫ですか、金糸雀お姉さま?!」
薔薇水晶が駆け付ける。
「う〜ん・・・宇野のヘディングかしらぁ〜・・・。」
「あの子は本当に運動オンチねぇ・・・。」
ネクストバッターズ・サークルにいる水銀燈が愚痴っていると、彼らのもとへ雪華綺晶がやって来た。
「士さん、ユウスケさん、お姉さま方、ばらしー、おやつの用意が出来ましたわ。
・・・あれ?桃薔薇のお姉さまと夏美さんは?」
「ああ、あの二人なら高台だ。俺が呼んでくるよ。」
「それじゃあ・・・士さん、お願いしますわ。」
士たちが野球をしていた場所から少し離れた場所にある高台。
そこにある壁だけになった廃墟の一角に夏美と雛苺は寄りかかっていた。
「お〜い、夏みかん!雛苺!ティータイムの・・・ん?」
士が彼女たちの顔をのぞく。
どうやら、夏美と雛苺はポカポカした日の光を浴びて、そのまま寝てしまっていたようであった。
二人から聞こえてくるスースーという寝息。
そして、夏美の膝の上で幸せそうな寝顔をこぼす雛苺と、同じく幸せそうな夏美。
そんな光景に、士は思わずカメラのシャッターを切るのであった。
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>>289 FINAL ATTACK RIDE・・・カ・カ・カ・感謝!
そして・・・。
「行ってしまうのね?」
士たちを前に真紅が言う。
「ああ、俺たちには別の世界を救う仕事が残っているからな。」
「さびしくなるですぅ・・・。」
「・・・大丈夫!もし、俺たちの仕事が終わったら、またこの世界に遊びに来る。そして、また野球しような!」
「ああ!僕もそれまでに新たな魔球を開発しておくよ!!」
「望むところだ、蒼星石!!」
ユウスケと蒼星石が妙なライバル心を抱く。
「夏美!これ!!」
雛苺が夏美に何かを渡す。
それは、雛苺のトレードマークとも言うべき、頭のリボンであった。
「雛ちゃん・・・私にくれるの?」
「違うの!」
「・・・え?」
「今は貸してあげるだけなの。だから・・・絶対にまた戻ってきて、雛に返してなの!
ユビキリゲンマンなの!!」
「うん・・・この仕事が終わったら、絶対に返しに来るから!!」
そう言って、夏美は小指を雛苺の小指に絡めるのであった。
「さて、次の世界に・・・って、夏みかん、なんだそれ?」
士が言う。
彼の前には、雛苺のリボンを付け、ポニーテールになった夏美の姿があった。
「どうです、士君?」
「・・・。」
もちろん、直後に夏美の笑いのツボが士に炸裂したのは言うまでもない。
「・・・なんか、名残惜しいよなぁ。」
ユウスケがカーテンロールを見ながら言う。
「でも、これが私たちの仕事なんだから仕方ありませんよ。・・・それに、この世界はもう大丈夫ですよ!」
「そうだね、あのカーテンが物語ってるもんな・・・。」
夏美もカーテンロールを見る。
この世界に来た当初は『真っ暗で寒い世界』を表現していたカーテンロールであったが、空を覆う厚い黒雲は澄み切った青空となり、
太陽の光を浴びて大地からは植物の芽が現れ、絵の中心に存在していたくすんだ宝石は8色のローザミスティカとなっていた。
そこから感じるもの、それは『暖かく生命感溢れる光の世界』であった。
「行きましょう、次の世界へ!」
そう言って、夏美はカーテンロールの鎖を引っ張るのであった。
光の壁に飲み込まれる光写真館。
そして、建物はローゼンメイデンたちの前から姿を消した。
「行ってしまったかしら・・・。」
金糸雀が言う。
「さて・・・僕たちも行かなきゃね。この世界の復興と新たなマスターを探しに。」
「・・・って、どこへ行くなの?」
「じゃあ、私は北を目指すわぁ!」
水銀燈が言う。
「北・・・ですか?何故に?」
「私は、闇を纏わされ逆十字を標された薔薇乙女最凶のドール。
究極の闇を求めし私には北の冷徹な寒さが似合う・・・ってな感じ。」
「・・・なんという厨二発言。」
「何とでも言いなさぁい、水性石。私が一番最初に新しいマスターを見つけて、この世界を支配しちゃうんだから!
・・・それじゃ、じゃ〜あねぇ〜!!」
そう言うと、水銀燈は大きな羽を広げ、空の彼方へと一直線に飛んでいくのであった。
「くぉるぁっ!人を塗料みたいな呼び方するな!!・・・くそぅ、こうなったら!!」
翠星石は突然、蒼星石の襟を掴み、ズカズカと歩き出した。
「ちょ・・・翠星石、いきなり何?!」
「水銀燈が北なら翠星石は南を目指すですぅ!
そして、超イケメンなマスターを見つけて、水銀燈をギャフンと言わせてやるですぅ!!」
「いや・・・行くのは分かったけど・・・襟を掴まないで・・・あ〜れ〜・・・。」
こうして、翠星石と蒼星石は南を目指した。
「ばらしー、私たちも行きましょう。」
「ハイ、お姉さま。」
「どこへかしら?」
「・・・東へ。太陽が昇り、新たなる一日が始まるきっかけとなる方角へ・・・。」
「お姉さまと共に求めてみますわ、太陽の輝きというものを・・・。」
そう言うと、雪華綺晶と薔薇水晶は東に向かって歩き出すのであった。
「・・・残ったのは私たちだけなのだわ。」
「まあ・・・流れ的に考えて、西を目指すかしら。」
「さんせーなの〜!」
こうして、真紅、金糸雀。雛苺の3人は西を目指した。
終わり・・・かな?
その後、彼らはどうなったのだろうか?
彼女たちは新たなマスターに会えたのか?
そして、この世界はもとの姿に戻れたのだろうか?
その先の物語は作者である私にも分からない。
だが、ひとつだけ言えることがある。
この世界には太陽の輝きがある。
この世界には太陽の暖かさがある。
この世界にはローザミスティカという命がある。
『もうこの世界は大丈夫なの!』だ。
おわり
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>>294 ハイ、これでおしまいです。
駄文ではありましたが、読んでいただきありがとうございました。
もし、今後またディケイドの更なる旅の様子を描く機会がありましたら、よろしくお願いします。
投下乙!ディケイドらしくていい作品だ、感動的だな
夏みかんも活躍しててよかった
>>296 ありがとうございます。
楽しんでいただけたようで、こちらとしては感謝感激です。
ちなみに余談ですが、当初は今回のようなハッピーエンドではなく…
雛苺のローザミスティカで銀河王が不死身に→銀河王を倒すため、止むをえず、キバーラがローザミスティカを破壊
→残された雛苺の亡骸をディケイドがカード化→ディエンドライバーの力で一時復活し、夏美に「ありがとう」→消滅END
…という<ちょい鬱展開>にしようかと考えていました(ゲストも当初はローゼンと雛苺のみでした)。
しかし、「さすがにこの終わり方は自分でも引くわ…」と思い、なんとかハッピーエンドにしようと考えた末、
<FINAL FORM RIDE:DEN-O>をヒントに<夏美と合体した雛苺を分離させる>という展開を思いつき、
そこから逆算で<仮面ライダーキバーラ クイーンフォーム>や<全ローゼンの登場>などを考え、最終的に今回のお話になった次第です。
それと、ついでで申し訳ありませんが、このスレのまとめwikiのほうに今回の作品を追加してくださった方、
本当にありがとうございます。
この場を借りてお礼申し上げます。
投下乙でした!
完結するのは尊敬しちゃいます、同じスレで書いてる者としてこちらも頑張りたいと思います。
いい刺激というか、執筆欲をくすぐられました
二度目になりますが、投下乙でした!
では、こちらもディケイド×プリキュアの第二話投下します。
予定よりもかなり長くなったので、途中でさるさんに引っかかるかもです。
注意
※今回登場するプリキュアと戦うライダーはオリジナルの能力を持ったライダーではなく、敵キャラが作った劣化ライダーです。
※オリジナル要素、原作の独自解釈が入っています。
※以上の要素が駄目な方はNGを
「シロップ!急ぐナツ!」
「これで精一杯のスピードロプ!」
晴れ上がった空に、一匹の巨大な怪鳥が空を舞っていた。
オレンジ色の毛皮をした全長十メートルはあろうかという巨体だ。
怪鳥はシロップ、異世界を行き来することが出来る配達人である。
背中に作られた十人は軽く乗れるであろうスペースに居座った茶色の大型のリス、ナッツがシロップへ急かすように声を掛ける。
とは言えシロップもこれが全速力である。
無駄口を叩く暇すらなく自分の全力で飛行しているのだ。
それはナッツにも分かっている、だが急かさずにはいられなかった。
あの時に現れた銀色の怪人が復活してしまったのだ。
―――― FINAL VENT ――――
「ロプ……!?」
突如頭上から響いた、男の声を思わせる機械音。
シロップは周囲を見渡すが音声を発するような物は自身と背中のナッツしか存在しない。
しかし、あの音はとても空耳とは思えないほどはっきりとした音。
とは言え辺りには何もない。
どんなはっきりとした物音が聞こえようとも視界に入らないのならば、やはり空耳であろう。
今はとにかく先を急がなければいけない。
だが、シロップの左翼に一つの衝撃と激痛が走る。
「ロプゥ!?」
驚愕と痛みの悲鳴を上げるシロップ。
片翼が射ぬかれたことにより、安定した飛行を不可能とさせる。
痛みを感じ取りながら、必死に襲撃者の姿を探す。
シロップの下方に当たる位置に、銀色の影が会った。
騎士を思わせる仮面と剣を持った、水銀の人形のような男。
フュージョンは仮面ライダーディエンドの知識を元に作り出した、仮面ライダーナイトのまがい物。
だが、その能力の詳細はほぼナイトと同じ。
先程の飛翔斬によりシロップの左翼を貫いたのだ。
「シロップ!大丈夫ナツか!?」
シロップにはナッツの悲鳴が何処か他人事のように感じた。
脂汗を流しながらなんとか着地出来る場所を探すが、幸いと言うべきか目的地であるタコカフェまでたどり着けそうである。
この調子ならばあそこまでは行ける、そう確信した瞬間だった。
背の高いビルの屋上に、シロップは一つの影を見つけた。
巨大なランチャーを構えた、一つの影。
人が持つには巨大すぎるランチャーを構えた銃士の名は仮面ライダーゾルダ。
ナイトと同じく、フュージョンにより複製されたライダーのレプリカだ。
背筋に嫌な汗が走る、なんてものじゃない。
今度こそシロップは確実に死が忍び寄ってきているのを感じ取る。
「ナッツ!悪いけど、ここまでだロプ!」
シロップは急ブレーキをかけて背中を斜めに傾けて、ナッツを背中から放り投げる。
慣性の法則にしたがって、ナッツの身体を宙へと放り出される。
「ナ、ナツゥゥゥゥゥゥ……!」
もちろんシロップも何の考えもなくナッツを放り出したわけではない。
ナッツはアレでも耐久力は大したものだ、死にはしない。
なによりあの方向はタコカフェの方向。
この時間ならば恐らくキュアブラックかキュアホワイト、シャイニールミナスのグループが既に居るだろう。
あの三人ならば、ナッツを守ることが出来る。
そう思った瞬間、一人の男がタコカフェから顔を出すのが見えた。
シロップは配達業を生業としており、このように空を舞うことが多いことから目がかなり良い。
故にタコカフェに居た男を見つけることが出きたのだ。
その男をシロップは見て、自分と似ている、と思った。
シロップはキュアローズガーデンの住人、どの世界に行っても『同種』ではなかった。
それと同じ、帰る家をなくした迷子のような雰囲気を持っている。
シロップが最後に見つけた、タコカフェのアルバイトらしき男の名は門矢士。
仮面ライダーディケイドとして世界を巡り、その世界で役割を果たす男である。
その瞳はこの世界で何を映し、何を思うのか。
仮面ライダーディケイド×プリキュアオールスターズDX みんなともだち☆奇跡の全員大集合!
【対決! オールプリキュアVSレプリカライダーズ!】
「それにしても、ひかりったら遅いなぁ……せっかく友達が来てくれたっていうのに」
「ひかり?」
士はテーブルを拭きながら、女店主・藤田アカネが漏らした名前に反応を示す。
その士の疑問の言葉にアカネは「あれぇ、言ってなかったっけ?」という逆に疑問の言葉で返す。
「あたしの従妹で一緒に暮らしてるから、いつも手伝ってくれてるのよ。
今日は買出しを頼んだんだけど、帰ってくるのがみょーに遅くてさぁ」
「寄り道でもしてるんじゃないのか?」
「うーん、なぎさ達の所に行ったのかなー。今日は遠くから友達が来るから一緒に来るつもりなのかもしれないね」
アカネは心配そうに公園の外を眺める。
さっぱりとした性格なようだと思っていたが、心配性な一面もあるようだ。
そんなことを考えていると、『決めた!』とアカネは弾んだ声を出してエプロンを外しながら士へと声を掛ける。
「あー、実はちょっと買い置き切らしてるのにさっき気づいてさぁ。
悪いけどちょっと店番頼めるかな。あたし、買出し行ってくるから。
こればっかりは自分の目で確かめないと気が済まなくてね」
「ああ、こっちも仕事だから構わない。仕事の内容もだいたい分かったしな」
テーブルを拭きながら士は軽く返事をする。
実際にもう一人でやっていけると思ったから当然だ。
「んー、旨かった! じゃあ士、俺はちょっとブラーっとしてくるからなー」
「ああ、分かった。テキトーにやっておけ」
士はトレイに乗せた大量の入れざらとコップを片手に、ユウスケからお代を受け取る。
そして、屋台の中へと入る。
まだ昼前のためかお客はそう多くはない。
恐らくアカネもそれを承知したから士一人に店番を任せたのだろう。
それにしてもよく晴れた空だ、と士は思いながら空を眺める。
この世界ではいつもの事件らしきものも起きる気配すらない。
あるいは、このままここでバイトをして自由に出来る金を増やすと言うのも良いのかもしれない。
ブレイドの世界以来となる収入だ、大事にしておきたいところだ。
だが、士は忘れていた。
事件とはいつも唐突に、気配すら感じさせずに、影のように常に後ろにぴったりと引っ付いてくることを。
「……ゥゥゥ!」
「ん……なんだ……?」
何処からか響く、甲高い声。
一瞬空耳かとも思ったが、外に居る四人もキョロキョロと周囲を見渡している。
となると単なる空耳ではなく、なにかの生き物の鳴き声。
だが、何処から聞こえてくるのだ?
士が珍しく不思議そうな顔をして、もう一度空を眺めると。
「ナツゥゥゥゥゥゥ!」
「なっ!?」
ポコリ、と間抜けな音がして士の顔面に柔らかいものがぶつかった。
痛みは少ないが、驚きは大きい。
真っ暗になった視界から光を求めるように顔に張り付いた『物』をもぎ取る。
ふわふわとした感触とその奥に感じる硬い感触。
小動物だ、手のひらサイズではないがリスにしてはかなり大きい。
士の顔を覆えるほどの大きさのリスだ。
「なんだこれは……?」
「ナッツやないか!?」
士が頭をひねっていると、タコカフェに来た四人組の一人が反応する。
だが、今の声は確かに高めの声ではあったが、あの中に関西弁で喋るのは居ないはずだ。
じーっと、不審そうに見る士。
その視線に慌てたように二つ分けの少女、桃園ラブが口を開く。
「あ、あー! な、ナッツやんけー! どないしたんやぁ!?」
「そっちのペットか」
「え、あ、そ、その……え、ええ! そうなんですよー!」
「空から降ってくるのか、お前のペットは」
「ハハハハッハ! い、いやあ、居なくなったと思ったらお空を飛んでただなんてー!」
あからさまなほどの胡散臭い関西弁を操りながら、足元のフェレットを蹴飛ばす。
士は今気づいたが、先程から『何か』を風呂敷に包んだフェレットが四人組の足元に寄りそうように座っている。
士は顔面に張り付いた小動物を引き剥がし、その客へと向かって差し出す。
ナッツに顔面直撃を食らい、気が立ったのだろう。
店員から客への丁寧な言葉遣いではなく、いつもの不遜な口調で士は尋ねる。
四人組の客の一人、桃園ラブたちはその言葉遣いにむっと思う暇もなくナッツのことを誤魔化すためにシドロモドロになる。
その様子に眉をひそめながらも、別にナッツ返さない理由もないため投げつけるようにラブたちへと渡す。
(こらっ!タルト! 人前では声を出さないでって言ってるでしょ!)
(す、すんまへん……! でもナッツが……)
「……ん?」
だが、その瞬間に上空に銀色の陰りが見えた。
士はナッツを持ったまま目を細める。銀色の影はどんどんと近づいてくる。
また顔にぶつかるのか!?と若干顔をしかめるが、今度は顔に当たることなく士の目の前に現れる。
その影の正体は、士には見覚えのあるそれだった。
銀と黒という色合いの違いはあるものの、影は龍騎の世界で見た仮面ライダーナイトだ。
さらに同じ龍騎の世界のライダーである仮面ライダーゾルダも連れなって現れたのだ。
「ナイトにゾルダ? おいおい、ここはプリキュアの世界だろうが。それにその格好はなんなんだ」
士の呟きを無視するように銀色の銃士・仮面ライダーゾルダはカードを使用する。
ゾルダはそれだけでも強大な力を持つ銃のマガジンスロットに差し込む。
―――― SHOOT VENT ――――
ゾルダは上空から降ってきたキャノン・ギガキャノンを肩に装備する。
話をする気が毛頭もない二人のライダーの様子に、士は僅かに舌打ちをする。
仕方ないと呟きながら、士はホルダーから『ディケイド』のカードを取り出す。
ナイトとゾルダの心情は全く察することが出来ないが、敵意があることははっきりと分かる。
ならば、士も迎え撃つしかない。
「はぁ!」
だが、変身などさせるものかと言わんばかりにゾルダが装備したギガキャノンの二つの砲口が火を噴く。
無防備な人間程度ならば一撃で殺し得る威力のギガキャノン。
士の背後の木々を巻き込んで、爆炎と煙が上がる。
「店員さん!」
―――― KAMEN RIDE ――――
爆風から目を守るように手を翳したラブが叫ぶと、同時に爆発の中心から機械音が響く。
低い男性を思わせる、だが何処か人間味のない声。
その機械音と同時に、コツコツと小気味いい足音が響く。
――――― DECADE ―――――
「ったく……節操のない奴だ」
爆炎から現れたのは先程の顔立ちの整った長身の店員、門矢士ではなかった。
現れたのは、マゼンダ色と黒を基調としたスーツと装甲、そして仮面をつけた一人の戦士。
剣呑な雰囲気と飄々とした掴みどころのない雰囲気を併せ持つ、門矢士のもう一つの姿である仮面ライダーディケイドだ。
その姿を見たナッツが驚いたように声をあげる。
「ディ、ディケイド!?」
「プリプー!」
「うわ、シフォン!?」
ナッツの驚きの声に答えるように、一匹のフェレット、タルトの風呂敷の中から一人の赤ん坊が顔を出す。
と言っても、人間の赤ん坊ではない。まるで人形のような、ふわふわとした赤ん坊だ。
「でぃけいど……? ナッツさん、あの人のこと知ってるの?」
驚きに満ちたナッツの声にただならぬ気配を感じ取ったのか、祈里は説明を促す。
ナッツはコクリと頷き、冷や汗を流しながら本で得た知識を頼りに中学生にも伝わるように説明していく。
「確か古い本に詳しく書かれていたナツし、人づてにも聞いたことがあるナツ。
マゼンダ色と黒色のスーツを着た仮面の戦士……その名は世界の破壊者ディケイド。
同じように仮面をつけた戦士・仮面ライダーの世界を巡り、そのことごとく壊していくらしいナツ。
でも、本当に居るなんて……ただの作り話だと思ってたナツ!」
ナッツが説明しているうちにもディケイドはゾルダへと交戦し続ける。
ライドブッカーをガンモードへと変化させ、ゾルダを上回る機動力でポジションを変えながら銃撃戦を仕掛ける。
だが、ディケイドは若干違和感を覚えていた。
以前、龍騎の世界でゾルダの戦いを見たことがあるが、戦闘におけるポジショニングの上手さと銃撃の精密さが特徴的なライダーだった。
しかし、このゾルダは動きが鈍い上に直線的な攻撃しか行ってこない。
まるでゾルダらしくない動きだ。
恐らくこれは仮面ライダーではなく出来の悪いなにかだろうとディケイドは当たりを付ける。
「単なる出来の悪いレプリカか……なら直ぐに終わらせれてやる」
そう呟き、腿のホルダーから一枚のカードを取り出す。
赤い角と青い複眼が特徴的な、カブトムシを模しているであろうライダーのカードだ。
それを腰に巻いたディケイドライバーへと差し込む。
―――― KAMEN RIDE KABUTO ――――
機械音が響くと同時にディケイドが姿を変えていく。
カードに描かれていたライダーと同じ姿、仮面ライダーカブトへと姿を変えたのだ。
姿を変えた意味が分かったのか、ゾルダは焦ったようにギガキャノンを発射する。
だが、遅い。
ディケイドは一枚の『CLOCK UP』と書かれたカードをいつの間にか取り出し、トントンと指で側面を叩く。
そして、手首と肘の動きだけを使ってディケイドライバーへ投げ込むように差し込む。
―――― ATACK RIDE CLOCK UP ―――
その瞬間に、ラブたち一般人はもちろん同じライダーであるゾルダの目にすら追えないスピードでディケイドは移動する。
気づいたときには、超スピードでギガキャノンの砲撃を避けてなおかつ距離をゼロ距離まで詰めていた。
瞬きをしているだけで見逃しそうなほどのスピード。
―――― FINAL ATACK RIDE ―――
背後を見せた堂々とした姿でディケイドはカブトの仮面を模した絵が描かれたカードを取り出す。
それをやはりディケイドライバーへと投げ込む。
―――― KA KA KA KABUTO ―――
「はあ!!」
小気味の良い機械音が鳴り響く中で、勢い良く回し蹴りを行う。
仮面ライダーカブトの決め技であるライダーキックだ。
クロックアップにより回り込まれたゾルダがそのライダーキックを避けれる訳がなく、直撃を受け爆散する。
その戦闘を惚けた様子で眺めていたラブたちだったが、せつながいち早く事態を把握する。
とにかく敵意を感じないディケイドは今は関係ない。
それよりも敵意を剥き出しにしているナイトをどうにかしなければいけない。
「とにかく、私たちも戦いましょう!」
「ええ、分かったわ!」
「ナッツさんとタルトちゃん、シフォンちゃんは下がっていて!」
せつなの声にラブ、美希、祈里の三人が反応する。
そして携帯電話を思わせる変身アイテム・リンクルンを取り出し、鍵の形をしたもうひとつの変身アイテムであるピックルンを取り出す。
リンクルンに上部にある差込口にピックルンを差し込み、扉を開けるようにピックルンをひねる。
ピックルンによって開かれたリンクルンの中央に埋め込まれているボールを、四人全員が人差し指と中指を回転させる。
『チェインジ! プリキュア!』
『ビィート!アァ―ップ!』
その一言と共に、ピーチとベリーは前方へ走り出し、パインとパッションは下方へと落ちて行く。
光の中をそれぞれがそれぞれの方法で動いていく。
そして、その身体を包んだ光が四人の服を形作っていく。
髪、チョーカー、イヤリング、リストバンド、髪飾り、ブーツ、フリフリの服とスカート。
四人はそれぞれがそれぞれの順番で確かに『変身』していく。
変身し終わった四人が上空から落ちてきて、ブーツのかかとで地面を、トントン、と小気味の良い音を立てて四人が並ぶ。
「ピンクのハートは愛ある印!」
向かって右から二番目に立った長い髪を二つに分けたプリキュア――キュアピーチが両手の長い指でハートを作る。
そして手の皺と皺を合わせるように、パン!、と音を立ててハートを崩して手を打つ。
「もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望の印」
向かって左端のくるくるの青い長髪をしたプリキュア――キュアベリーが同じく長い指で胸の前にハートを作る。
そして、やはり手の皺と皺を合わせて手をたたき、踊るように一回転し。
「摘みたてフレッシュ! キュアベリー!」
「イエローハートは祈りの印!」
今度は向かって右端にいる、唯一短いオレンジ色の髪のプリキュア――キュアパインが両手で作ったハート。
それを崩しながら手を叩きながら、はしゃぐように回り始める。
「採れたてフレッシュ! キュアパイン!」
「真っ赤なハートは幸せの証!」
他の三人よりも早口で、真っ赤な服を着たプリキュア――キュアパッションが素早くハートを崩して手をたたく。
見様によっては天使の羽にも見えるボリュームのある髪が特徴的なプリキュアだ。
「熟れたてフレッシュ! キュアパッション!」
『レッツ! プリキュア!』
四ツ葉町に住み、管理国家ラビリンスと戦う四人組プリキュア。
それがラブたちの持つもうひとつの顔だ。
「こいつらがプリキュアか……雑誌に乗ってた連中だな」
ディケイドは呟き、腕を組んで試すような目をしながらタコカフェの屋台へともたれ掛かる。
仮面ライダーゾルダらしきものは龍騎の世界で見た時よりも弱かった。
士は見物に徹する。
新聞や雑誌ではイマイチ強さは分からないためディケイドとしてもプリキュアの強さが気になるのだ。
精々分かっていることなど、少女にしては勇ましいという程度だ。
バイト先のタコカフェに危害が出るようなら士が手を出せば良い。
店主が留守中にタコカフェが破壊されたとなれば、士のバイト代にも影響がある。
そう考えているうちにナイトがベルトから一枚のカードを取り出し剣、ダークバイザーの柄へと差し込む。
―――― TRICK VENT ――――
再び機械音が響き、ナイトの身体が四つに分かれる。
シャドーイリュージョン、機動力に優れたナイトの得意とする戦法の一つ。
これで一対一の形となった。
「はああ!」
プリキュアが勇猛果敢に攻め込む。
ピーチとパッションが直線的に進み、ベリーとパインが回りこむように左右に分かれる。
一対一ではなく四対四に持ち込むつもりなのだろう。
ディケイドの考えどおり、パッションが大きく跳躍し四人のナイトの後ろへと回り込む。
これでナイトたちは前方にピーチ、左方にベリー、右方にパイン、後方にパッションと囲まれた形となった。
それぞれのナイトがダークバイザーを持つ。
背中合わせに陣形を取り前方へと注意を向ける。
あくまで一対一に持ち込む腹なのだろう。
まず最初に動いたのはピーチだ。
ナイトの一人がピーチを迎撃するためにダークバイザーを振るう。
ピーチはそのダークバイザーを姿勢を低くすることで避け、ナイトの懐へと潜り込む。
その様子を見て、やはり動きが鈍い、とディケイドは思う。
プリキュアは確かに速いが、スピードならばナイトもそれなりのものだ。
いくら四人に増えても、これではプリキュアが勝つだろう。
「とりゃあああ!」
ピーチは肘をナイトの腹部へ叩き込む。
見兼ねたナイトの一人がピーチへと攻撃するが、陣形を崩すのはマイナスだ。
崩したナイトの前方にいたパッションが連鎖するように動き出す。
がら空きになった背後からの攻撃。
ナイトは避けきれずに直撃を受け、その瞬間だけでも四対二へと状況が変わる。
その瞬間を逃すような真似はしまい。
彼女たちもまた何度も戦闘を行ってきた戦士なのだから。
ディケイドの予想通り、隙を窺っていたベリーとパインも動き出す。
四方からの攻撃、しかも二人は体勢を崩している。
圧倒的にプリキュア側に有利な状況だ。
その有利な状況を崩さずにプリキュアたちは攻撃を開始する。
それぞれの目の前にいるナイトへと一撃を与える。
虚を突かれる形をなったナイトたちはその一撃を食らう。
そこで四人全員がナイトを一つの方向へと吹き飛ばす。
木々へとぶつかり、ナイトたちの動きが僅かに止まる。
その瞬間にリンクルンを取り出し、ボールを回転させる。
そうすることでリンクルンからそれぞれの必殺技をさらに強化させるアイテムを取り出すことが出来るのだ。
「届け! 愛のメロディ! キュアスティック! ピーチロッド!」
ピーチが持つキュアスティック、ピーチロッドは先端にハートをついた武器。
リコーダーのようについたボタン、そのボタンを指を滑らせながら押していく。
「響け! 希望のリズム! キュアスティック! ベリーソード!」
ベリーが持つキュアスティック、ベリーソードは先端にスペードがついた武器。
刀を構えるように腰だめに持ち、やはり指を滑らせてボタンを押していく。
「癒せ! 祈りのハーモニー! キュアスティック! パインフルート!」
パインが持つキュアスティック、パインフルートは先端にダイヤがついた武器。
フルートを吹くように唇へと持って行き、十の指を使ってボタンを押す。
「歌え! 幸せのラブソディ! パッションハープ!」
パッションが持つのは唯一キュアスティックではない、パッションハープという武器。
パッションは、そのハープを奏でる。
「吹き荒れよ幸せの嵐!」
その言葉と共に、ハープを天へと掲げる。
「プリキュア! ハピネスハリケーン!」
その状態で回転を始める。
そして、どんどんとハープを下ろしていく。
何度回転したか、胸元までハープが降りてきた瞬間。
彼女の回転は方向を変え、ナイトたちの方向へと突き出した。
『悪いの悪いの、飛んでいけ!』
その一方でピーチたちはキュアスティックで模様を描いていく。
「プリキュア! ヒーリングプレアー!」
「プリキュア! エスポワールシャワー!」
「プリキュア! ラブサンシャイン!」
ピーチはハートを、ベリーはスペードを、パインはダイヤを。
それぞれがキュアスティックで作った模様を目の前にあられる。
そして、その模様をキュアスティックで押し出すことで、その模様がナイトへと向かっていく。
『フレェェッシュ!』
ハート・ダイヤ・スペードと小さなハートの群れが四体のナイトに直撃する。
或いはピーチとベリーとパインのキュアスティックによる必殺技だけならば逃れることが出来たかもしれない。
だが、パッションのハピネスハリケーンがナイトの行動を阻害する。
そして、四人はそれぞれのキュアスティックとパッションハープを前へ突き出す。
円を描くように回してくことで、ナイトに直撃したハート/ダイヤ/スペードを巨大化させる。
『はあああああああ!!!』
先程の十代の半ばほどの少女が出したとは思えない、雄々しい声。
これがプリキュアの実力か、とディケイドは独りごちる。
ナイトの動きはイマイチだったが、それでも仮面ライダーだ。
それなりの実力は持っている。
一人で戦うよりも、複数で戦って実力を発揮するタイプなのだろう。
「仲間、か」
ディケイドはポツリと呟く。
共に戦い、励まし合い、困難を乗り越えていく。
言ってしまえば、仲間とはそいつの居場所だ。
「ふん……」
渡り鳥であるディケイドには、何とも言えない感情を覚える。
それがどんな感情なのかはイマイチ掴みきれない。
だが、それを考えるとどうも落ち着かない。
「駄目ナツ!」
そんな風にディケイドが考えているところを、何処からか声が響く。
方向は下方、先程ラブたちがペットだと言い張ったディケイドの顔面にダイブしてきた大型のリスだ。
そのリスは尋常ではないほどに焦り切っている。
『素晴らしい……!』
その瞬間に、プリキュアの攻撃を受けて弾かれたはずのナイトが声を挙げる。
いや、それはもうナイトではない。
水銀状の怪人へと変わっていったのだ。
「なっ……! この声!」
「そうナツ! こいつはあの時のアイツなんだナツ!」
ピーチの頭に過ぎったのは、あの時の水銀の怪人の姿。
アレはどんどんと力を吸収し、最後にはプリキュア全員でかからないと勝てないほどに強くなっていた。
まさか、キュアスティックでパワーアップした必殺技を吸収したのだろうか。
だとすると、不味い。
されるがままにピーチたちが主導権を握れていたのも、こちらに必殺技を撃たせる布石だったのだ。
『仮面ライダーカブトの力にパワーアップしたプリキュアの力……! 確かに頂いたぞ!』
興奮したような音色と共に水銀は空中へと消えていく。
このままでは大変な事になる。
あの時と、いや、下手をすればあの時以上の事件が起こってしまうかもしれない。
「早く皆と合流しないと!」
ピーチは慌てた音色で声を掛ける。
パインとパッションはうなづくが、ベリーだけが難しい言葉をして全く別の方向を見ていた。
その様子にピーチは不思議そうに小首を傾げる。
「どうしたの、ベリー?」
「……その前に、この人に話を聞いた方が良いと思うわ。ディケイド、だっけ?」
ベリーの視線の方向は腕を組んだ仮面の戦士、ディケイドが佇んでいる。
そう言えば先程襲ってきたフュージョンの姿も似たような姿だった。
「あの、貴方は……」
「ディケイドだ」
それだけで分かるか、とベリーは眉をひそめて低い音色でディケイドへと問いかける。
「貴方は何者なの? さっきの仮面の奴と、何の関係が?」
「……俺は仮面ライダーディケイド、さっきの奴は仮面ライダーナイトと仮面ライダーゾルダ」
「仮面、ライダー?」
パッションが不思議そうに呟く。
元・管理国家ラビリンスの一員として平行世界の存在を知っている彼女でいても知らない名だった。
その疑問に答えるように、ディケイドが口を開く。
「お前たちプリキュアと同じだ。様々な理由で敵と認識した者と戦う戦士……一括りで説明するのは難しいな」
「えっと、つまりディケイドさんは私たちの仲間、っていうことですか? 私たちと一緒に、さっきの仮面ライダーって言うのと戦ってくれるんですね」
仲間、パインのその言葉にディケイドはマスクの下の顔を歪める。
「やめろ、ムズ痒い。俺はただこの世界でやるべきことをやるだけだ」
「この世界でやること……?」
「プリキュアの世界に仮面ライダーが現れた……俺が現れたからか、それとも現れたものをどうにかするために来たのか。
いずれにせよ、タイミング的にも俺はその原因を探る必要があるってことだろう」
投げ捨てるように呟き、ピーチへと視線を向けた。
「他のプリキュアは何処だ、あの敵についても話してもらうぞ」
◆ ◆ ◆
「ふーんふふふーん♪」
赤桃色の髪をした少女が空を眺めながら、見るからにご機嫌な様子で歩いている。
その周りには同じ年頃の少女が六人、保護者らしき青年が一人だ。
彼女たちもラブたちと同じプリキュア、プリキュア5というグループだ。
先ほどの赤桃色の髪の少女が夢原のぞみ。
橙色の髪をした勝気そうな少女が夏木りん。
黄色の髪を二つにしたこの中で最も幼い容姿をした少女が春日野うらら。
緑色の髪をした落ち着いた少女が秋元こまち。
青色の髪をした年に不相応な落ち着きを持った少女が水無月かれん。
紫色の髪をした背伸びをしたような雰囲気を持つ少女が美々野くるみ。
そして、背の高い端正な顔立ちをした青年が小々田コージ。
彼女たちは傍目からでも分かるほどに、浮き足立った雰囲気が溢れている。
特に元から『抜けている』と言ってもいいほどののぞみなど見ていて危なっかしいほどだ。
「ちょっとのぞみ。あんまりはしゃがないでよ恥ずかしい」
のぞみを見てため息をつきながら、けれども嬉しそうにくるみが呟く。
諌めるというよりは軽口を叩くような、仲の近しい間柄だから口に出来る語調だった。
のぞみを特に怒るようなこともなく、笑いながら振り返る。
「ええー、だって久しぶりに皆に会えるんだよ? ナッツも一緒に来ればよかったのにー」
「ナッツなら後から来るよ、何でも休日の内にやりたい事があるって言ってたね。
大丈夫、シロップと一緒に来るから十分間に合うよ」
「そっかー! えへへ、どうせなら皆で会いたいしね! ……ってたぁ!?」
後ろ向きに歩いていた、人よりも数倍抜けているのぞみ。
そののぞみがそんな歩き方をしていたら通行人と当たってしまうのは当然と言えるだろう。
あちゃー、とのぞみの幼馴染であるりんは顔を抑える。
「こらぁ、のぞみ! すみません、友達が……」
「え、ええ、大丈夫ですよ」
のぞみがぶつかったのは髪の長い二十前後の女性。
門矢士と共に旅をしている光夏海だ。
夏海はなにか情報はないかと歩き回っているところをこうしてのぞみたちと出会ったというわけだ。
しかし、謝れると夏海としても困るところがあった。
何故なら夏海も周囲を見渡しながら歩いていたため、夏海の方にも僅かにも非があるのだ。
「すみません、この子ちょっとはしゃぎすぎちゃうところがあって……ほら、のぞみもちゃんと謝る!」
「ごめんなさい〜……」
のぞみが頭を下げて、沈んだ声の調子で謝る。
夏海は、別に構いませんよ、となるべく明るめの声で答える。
そしてもう一度プリキュアのことについて探ろうと思い、七人組の横を通り過ぎて周囲を見渡す。
「……あれ?」
その周囲には、人っ子ひとり居なくなっていた。
おかしい。
確かにあまり一通りの多そうな道には見えない。
しかし、それでも車の一つも通っていないなんて事態があり得るだろうか?
夏海の頭が疑問符で占められる。
その瞬間だった。
保護者のように一番後ろで六人を眺めていた小々田が顔を歪める。
そして。
C
「なにか出たココ!」
そして、そんな言葉を発して、突然『ポン!』と漫画的な擬音を立てて小々田は姿を消す。
消えた!と思った瞬間、その足元に一匹の可愛らしい小動物がいた。
モフモフとした柔らかそうな大きな尻尾が特徴的だ。
「え? ええ? え?」
だが、夏海は可愛いと思うよりもさらなる混乱に陥ってしまう。
整った顔立ちをした青年が突如として可愛らしい獣へと姿を変えたのだ、混乱しない方がおかしい。
それに加えて、ココの視線を追うと何者かが立っていた。
先程、人が突如として消えたこの場に、だ。
しかもその何者かは夏海も知っている人間だった。
いや、正確に言うならば良く知っている人間に似た何かだった。
「仮面ライダーキバ!?」
そこに立っていたの特徴的なマスクと鎧を身に纏った騎士を思わせる男、仮面ライダーキバだ。
キバの様子とココの言葉、そして夏海の驚愕にただならぬものを感じたのだろう。
のぞみたちは一歩足を引き、素早く変身アイテムであるキュアモを取り出す。
「みんな、行くよ!」
『Yes!』
そして、のぞみの声と共に五人全員がキュアモのボタンを右、左、中央と押していく。
『プリキュア! メタモルフォーゼ!』
それぞれが光りに包まれ、胴、腰、腕、脚にその光が集まっていき、服を作り出す。
襟の立った二の腕までの袖の服と極端に短いスカート、その下にあるスパッツ。
それぞれが色違いに装着される。
「大いなる、希望の力! キュアドリーム!」
夢原のぞみ、大いなる希望の力・キュアドリームには白と桃を基調とした衣装。
「情熱の赤い炎! キュアルージュ!」
夏木りん、情熱の赤い炎・キュアルージュには白と橙を基調とした衣装。
「弾けるレモンの香り! キュアレモネード!」
春日野うらら、弾けるレモンの香り・キュアレモネードには白と黄色を基調とした衣装。
「安らぎの緑の大地。キュアミント!」
秋元こまち、安らぎの緑の大地・キュアミントには白と緑を基調とした衣装。
「知性の青き泉! キュアアクア!」
水無月かれん、知性の青き泉・キュアアクアには白と青を基調とした衣装。
『希望の力と奇跡の光! 華麗に羽ばたく五つの心!』
『Yes! プリキュア5!』
プリキュア5、それが凸凹な組み合わせの彼女たちが抱える共通の秘密。
支援
そして、彼女たちと共にいる美々野くるみもただの人間でない。
何処からか取り出した、パレットのような形状をしたミルキィーノートを構える。
ピピピ、と備え付けの筆を使って右からボタンを押していく。
「スカイローズ・トランスレイト!」
大きな声と共に、くるみの身体が青い光に包まれていく。
やはりプリキュアたちと同じようにその光は服へと形を変えていく。
「青い薔薇は秘密のしるし!」
くるみは胸に手を当て、人撫でする。
すると唐突にリボンに青い薔薇が咲き誇る。
「ミルキィローズ!」
ミルキィローズ、美々野くるみがキュアローズガーデンの青い薔薇の力によって戦う力を得た姿。
単純なカタログスペックならばプリキュア5よりも高く、単独で敵組織の幹部を撃退できるほどの力を持った戦士である。
「プリ……キュア……!?」
夏海はその揃った姿を見て驚いたように呟く。
探していたプリキュアが現れた。
突然起こった目の前の出来事が信じられないのだ。
「ココ様、後ろに下がっていてください! 貴女も!」
ローズはココと夏海に後ろに下がるように言う。
ココも自分が力をもっていないことを自覚しているため、素直に後ろへ下がる。
夏海もなにがなんだか分からないまま、ココと同じように後ろに下がる。
そして、揃った姿でキバを見据える。
キバはベルトに一本の鍵を差し込むことで剣を召喚し、その右腕に鎖が巻き付いていく。
仮面ライダーキバ・ガルルフォーム。
剣を使った近接戦闘を得意とする、機動力とキック力に優れたフォームだ。
身を低くしたまま剣を構えたキバが俊足で移動する。
片手で持った剣を、まず近くに居たレモネードへと振るう。
「きゃあ!」
レモネードは驚いたように悲鳴を上げながら必死で避ける。
近接戦闘はあまり得意ではない。
元々必殺技の性能ゆえかミントと共に他のメンバーのサポートをすることの方が多いレモネードだ。
「とりゃあ!」
そこへ助け舟に入るようにドリームが飛び蹴りを入れる。
だが、ガルルフォームは機動力に優れている。
ドリームの蹴りは空振りに終わった。
とは言え失敗したわけではない、レモネードが距離を取ることが出来た。
そして、ドリームがキバとレモネードとの間の壁となる。
その瞬間にレモネードは腕を目の前で交差させる。
そうすることで胸の蝶と両手の甲の蝶が光を放ち、レモネードの周囲に数えきれないほどの黄色い蝶が現れた。
「プリキュア! プリズムチェーン!」
プリキュア・プリズムチェーン。
幾つもの蝶が鎖を形作り、相手に絡みつくレモネードの必殺技だ。
C
そのプリズムチェーンがドリームの後方からキバへと向かって放たれていく。
足元に巻きつかれ、キバは大きく体勢を崩す。
その隙を逃しはしない。
アクアがレモネードと同じように胸の前で腕を交差させる。
レモネードの黄色い蝶とは違い、アクアの周囲に出てきたのは水流。
「プリキュア! サファイアアロー!」
アクアがその水流で弓と矢を作り出し、素早く撃ち放つ。
キバは左手に持ったガルルセイバーを左手へと移し、鍵を取り出しベルトへと差し込む。
その瞬間、ガルルセイバーを銃へと形を作る。
銃、バッシャーマグナムでキバはサファイアアローを撃ち落とす。
「はああ!」
しかし、僅か生じた隙に後頭部へとドリームとローズが蹴りを叩き込む。
二人の体重を乗せた蹴りにキバ・バッシャーフォームは大きく身体を傾かせる。
その隙を逃さないとドリームとローズは追撃を狙うが、キバはバッシャーマグナムを連射し追撃を逃れる。
未だにプリズムチェーンで固定されたままだが、バッシャーマグナムによる牽制で距離を稼ごうとする。
「プリキュア! エメラルドソーサー!」
だが、そのバッシャーマグナムによる射撃はミントの作った薄いが固い盾に防がれる。
足をチェーンに結ばれている以上、機動力を使って移動することは不可能。
ミントのエメラルドソーサーに防がれると思いながらも、バッシャーマグナムを連射する。
「プリキュア! ファイアーストライク!」
その隙に放たれるのは、ルージュの炎のボール。
足元に作り出されたその炎球は、サッカーボールのようにルージュによって蹴り出される。
避けることが出来ない上に、バッシャーマグナムを撃っても威力が足りない。
サファイアアローを打ち落とした時のように連射出来れば迎撃も可能だが、この状況では振り向いての一発が限度。
ならば、とキバはベルトに鍵を差し込む。
バッシャーマグナムは巨大なハンマー、ドッガハンマーへと形を変える。。
それを両手で持ち、振り返りながら大きく振り切る。
ドッガハンマーがファイアーストライクにブチ当たる。
「なぁっ……!?」
そして、ドッガハンマーによりファイアーストライクが『打ち返される』。
必殺技を放った後だけあって簡単に動ける姿勢ではない。
「ルージュ!」
そこに助けに入るのはドリーム。
ファイアーストライクの破壊力は仲間であるドリームも良く知っている。
ルージュを押し倒す形で庇う。
「大丈夫!?」
「ありがとう、ドリーム!」
幸い、ファイアーストライクをかすりもしなかった。
そのことにドリームが『ふう』っと息をついた瞬間。
「きゃああ!」
支援
レモネードの悲鳴が響く。
何が起こった、とドリームは視線を移す。
そこには脚に引っかかったプリズムチェーンを手に取り、レモネードを振り回すキバ・ドッガフォームの姿があった。
ドッガフォームは腕力と防御力に特化したフォームだ。
機動力とチームワークによる攻撃を得意とするプリキュア5には、迎え撃つのに適したドッガフォームで行くべきだと思ったのだろう。
ドリームはそれを見て立ち上がり、手の甲の蝶を光らせる。
パワーにはパワー、向こうが迎え撃つと言うのならばこちらから向かっていってやるという腹づもりなのだ。
視線を夏海とココを守るように立っているローズへと動かす。
その意味をローズは理解したのか、頷いて一歩前に出る。
ドリームが走り出す。
光はさらにまし、ドリームの目の前に巨大な蝶が現れる。
その蝶へとドリームは手を差し出し、脚を強く蹴り出して飛び出す。
「プリキュア! シューティングスター!」
それがドリームの必殺技、プリキュア・シューティングスター。
桃色の蝶と共に、宙を飛び突進する技。
だが、キバはドッガハンマーを振るいドリームのシューティングスターを打ち返した。
そのままにドリームは建物の壁へと打たれる。
「ローズ!」
「ええ、任せなさい……!」
ドリームは痛みに耐えながらも、ローズに合図を出す。
その瞬間にローズがミルキィノートを取り出す。
必殺技の用意だ。
プリキュア五人分の力を持つと言うローズの必殺技ならば、キバを一撃で葬り去ることが出来る。
「邪悪な力を包み込む、薔薇の吹雪を咲かせましょう!」
キバが一息ついた瞬間、ローズの高らかな言葉が響く。
マズイと思い距離を取ろうとするが、いつの間にかレモネードだけでなくルージュ・ミント・アクアまでもがプリズムチェーンを抑えている。
さすがに四人のプリキュアの力となるとドッガフォームと言えども上回ることは出来ない。
「ミルキィローズ・ブリザード!」
キバの身体を、一輪の巨大な青い薔薇が包み込む。
それはキバの身体を浄化して行き、砕いていった。
「えっ……?」
その瞬間、プリキュア5とキバの戦いを呆気に取られて見ていた夏海が不思議そうに呟く。
他の人は気付かなかったのだろうか、と周囲を見渡すが不審そうにしているプリキュアはいない。
夏海の目には、キバが口元に笑みを浮かべながら水銀のように溶けていくのが見えたのだ。
C
「ミル!」
そして、それを見届けた瞬間、ポン、という小気味の良い音がなる。
何が起こったのかと視線を音の方へと向けると。
紫の髪の少女が、真っ白な長い耳の人形のような可愛らしい動物へと姿を変えていた。
この美々野くるみという少女、本来の姿をココやナッツと同じパルミエ王国の住民なのだ。
キュアローズガーデンに咲く、奇跡の青い薔薇の力で人間になれるだけ力をつけただけ。
なので、力を使い果たしてミルクという本来の姿へと戻ってしまうのだ。
「え、ええええ!?」
「あたたた……えっと、大丈夫ですか?」
ドリームは強かに打ち付けた腰をさすりながら、動揺しきった夏海へと話しかける。
だが、夏海は惚けた顔をして特に反応を示さない。
ドリームは顔をのぞき込むようにして、夏海の顔の前に手をぶらぶらとさせる。
「あのー、大丈夫ですかー?」
「え、あ、プリキュア!?」
「はい、えーっと、その、このことはご内密に……」
一方でアクアは先程からローズがココと一緒に守っていた女性、光夏海へと話しかける。
だが、夏海が驚いたようにプリキュアと尋ねてきたことに動揺する。
プリキュア5も新聞には乗っているが、学内新聞だ。
ピーチたちと比べると知名度も低い。
だが、何時までも照れているわけにはいかない。
コホン、と可愛らしい咳をレモネードがした後にアクアが真面目な表情で話しかける。
「仮面ライダー、ってなんなんですか?」
夏海が口走った『仮面ライダー』という言葉。
そんなことはプリキュアたちは知らない。
コワイナーやホシイナーと同等以上の力を持っていたあの敵。
未知の敵が現れたのだ、情報を集めたがるのは当然のことと言えよう。
ドリームは知識は足りないと思ったのか口を挟まない。
ただ、他のプリキュアと共に新たな敵がいつ現れても良いように身構えている。
「え、えーっと、その、仮面ライダーっていうのは……そうだ! 早く士くんに知らせないと!」
「士、くん?」
夏海が唐突に出した名前に、アクアは不思議そうな顔になる。
慌てるように夏海はアクアたちに背中を見せて走り出す。
「タコカフェっていうお店に知り合いが居ます! そこに知り合いが居て――――」
タコカフェ、夏海がそう言った瞬間に。
『タコカフェ!?』
「ココ!?」
プリキュア5とココがその言葉に予想以上の反応を示した。
◆ ◆ ◆
支援
「うーん! 今日もいい天気で絶好調なりー!」
電車から四人の少女が降りてくる。
長い髪をした少女が二人と、短い髪の少女が二人。
その中で最も背の高い綺麗なおでこをした長い髪の少女、霧生薫が前に歩く少女へと尋ねる。
「ここが他のプリキュアのいる場所なの……?」
「うん! タコカフェって言う屋台で待ち合わせしてるんだ!」
その疑問の声に短い髪の眉毛が少し太い少女、日向咲が元気よく答える。
薫は、そう、と冷たいようだが確かに期待のあふれた声で呟く。
「満さん、パン焼いてきたんだね」
その横で笑いながら長い黒髪の少女、美翔舞が隣の少女へと話しかける。
「ええ、どんな人かは会ってみないと分からないけど……仲良くなりたいしね」
柔らかい表情をしながら手に持ったバスケットを持ち上げた少女は霧生満。、
背も少しだけ低く、この中では唯一前髪でおでこを隠している。
「チョココロネならなぎささんが喜ぶと思うよ!」
満が笑顔なのが嬉しいと言わんばかりに、咲もこれ以上がないほどの笑みを浮かべる。
どの少女も嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに笑っている。
何も知らない人間から見れば微笑ましい光景であるが、当事者たちにとってただ笑いあうだけでも大変な道程であった。
彼女たちは海原市に住む女子中学生。
会話から分かるように、四組のプリキュアの一組である。
正確に言えば薫と薫の隣にいる咲とは違う短い髪の少女、霧生満はプリキュアではない。
それどころか彼女たちは滅びの力を操るダークフォールというプリキュアと敵対する側の人間だった。
紆余曲折あったものの二人は人と交流することで人と共に生きる喜び知り、プリキュアと和解できたのだ。
「っと、ごめん君たち!」
そんな笑いあってる四人に声を掛ける一人の青年。
スマートなバイクに跨り、手には雑誌と新聞が握られている。
先は不思議そうな顔をして振り返る。
「はい? なんですか?」
「ここからサンクルミエール学園と四つ葉町ってところにはどう行けばいいかな?」
ヘルメットを脱ぐと、咲たちと遜色のない爽やかな笑みを浮かべた青年の顔。
青年の名は小野寺ユウスケ。
プリキュアの情報を求めて、上の二つへと向かおうとしていたところなのだ。
咲は嫌な顔をせずに、ニコリと笑って西へと向かって指を指す。
「ここからだと遠いですけど、サンクルミエール学園にはここから先に行けば……」
ユウスケはメモを取り出し、咲の言葉を記していく。
サンクルミエール学園も四つ葉町もそれなりの距離があるらしい。
とは言え、スーパーマシンであるトライチェイサー2000ならば十分に行き来できる距離だ。
メモをしまい、ユウスケは咲へと礼を言う。
「ありがとう、長い時間を取っちゃってごめんね」
「いえいえ……って、どうしたの? 満、薫?」
C
咲は少し照れたように笑っていたが、ふと黙り顔を強ばらせた満と薫に気づき不思議そうに尋ねる。
満と薫は咲の言葉を聞いても、顔の強ばりを取らない。
それどころか強引に前に出る。
「み、満さん? 薫さん?」
「気をつけて……変な感じがする」
「人が消えたわ」
その言葉にユウスケと咲と舞は周囲を見渡す。
いつの間にか、駅前に群がっていた人々は姿を消している。
そんな駅前に、突如二つの影が現れていた。
その二つの影が目しできるようになった瞬間に
何故ならば、その二人はユウスケにも見覚えのある姿だった。
「ギルスに……G3、X!?」
それは色合いがないものの、確かに『仮面ライダーアギト』の世界で見たライダーだった。
その二人のライダーはユウスケの反応など気にもとめずに、G3-Xがサブマシンガン、GM-01スコーピオンを連射する。
まだ変身もしていないユウスケと、まだ年若い四人の少女に向かってだ。
「なっ……って、ええ!?」
思わず姿勢を低くするが、その頭の上に銃弾は通りはしなかった。
何事かと目を開けると、そこには服を変えた満と薫が立っていた。
鮮やかな服から、暗い色合いのネックセーターと長いロングスカート。
二人は手を前にかざして、赤黒いバリアを張っていたのだ。
仮面ライダーG3-Xと仮面ライダーギルスはそれぐらいは承知のうえだ、と言わんばかりに動じていない。。
G3-XがGM-01スコーピオンで連射してくる攻撃を、満と薫が滅びの力を使った防御障壁で防ぐ。
コンクリート道路を抉り取る一撃でも砕かれないその障壁はスコーピオンの銃撃にヒビすら入れない。
とは言え、咲や舞を庇ったままではこの防御障壁を解くことが出来ない。
G3-Xとギルスもこのままでは千日手になると感じたのだろう。
ギルスは腰を落として身構え、G3-Xは新たに超高周波ブレードであるGS-03デストロイヤーを取り出す。
その様子に、先程のスコーピオンによる銃撃以上の攻撃が来ることを察する。
咲と舞も剣呑な雰囲気を感じ取り、お互いに顔を合わせる。
「舞! フラッピ!」
「ええ、咲! チョッピも!」
『分かったラピ!』
『任せるチョピ!』
支援
ギュッとお互いの手を握り、クリスタルコミューンを取り出す。
二人はクリスタルコミューンの姿をしている泉の里の精霊、フラッピとチョッピの力を借りることで変身するのだ。
上部に備え付けられたボールを一回転させ、次は円を作るように大きくクリスタルコミューンの持った手をまわす。
『デュアル・スピリチュアル・パワー!』
同時に発したその変身のスイッチの言葉と共に手を前方へと伸ばす。
そして、光がその身体を包んでいく。
天へと登り、落下していく。
「未来を照らし!」
「勇気を運べ!」
光が例のごとく服へと変わっていく。
咲は輝くような黄色を基調とした服とスパッツ。
舞は煌めくような白を基調とした服と天女のような肩飾り。
「天空に満ちる月! キュアブライト!」
「大地に薫る風! キュアウィンディ!」
キュアブライトとキュアウィンディ、滅びの力の化身ダークフォールと戦うプリキュアである。
精霊の力を用いて中遠距離攻撃と防御に優れた、肉弾戦を得意とする物が多いプリキュアにしては珍しいプリキュアだ。
『ふたりはプリキュア!』
その言葉と共に、二人は目つ気を鋭くしたまま、ギルスとG3-Xへと指を向ける。
「聖なる泉を穢すものよ!」
「あこぎな真似は、およしなさい!」
力強い瞳だ、楽しみにしていた再開の日に邪魔をされたのだから当然だろう。
「これが……プリキュア!」
ユウスケは歩みを止め、ぼうっと二人を眺めてしまう。
プリキュアは妙な存在感を持っていた。
それは今まで見てきた仮面ライダーのほとんどが成人していたということもあるのだろう。
中学生ほどの少女がそのままの姿で戦うことに戸惑っているのだ。
「ムープ! フープ!」
「ムプ!」
「フプ!」
ユウスケが呆気に取られていると、突如人魂のような小さな妖精が現れた。
その人魂、ムープとフープが手を上げて大きく叫ぶ。
「月の力!」
「風の力!」
『スプラッシュターン!』
ムープとフープが小型のデスクトップ型パソコンのようなスプラッシュ・コミューンへと身体を移す。
そして、ワイヤレスのキーボードが回転し、ディスプレイから光が放たれる。
その光は真っすぐにブルームの腰へ、イーグレットの左手首へと向かっていく。
光の正体はプリキュア・スパイラル・リング。
プリキュアの能力を底上げし、強力な必殺技を放つことが出来るアイテムだ。
339 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/30(土) 21:16:04 ID:+kdXqFEy
しえん
C
そのスパイラルリングが装着されたのを確認し、ブライトはウィンディへと目で合図する。
「行こう! ブライト!」
「ええ、ウィンディ!」
そのブルームの言葉と共にプリキュアは大きく跳躍する。
G3-Xとギルスは二人の姿を目で追う。
高い、跳んだと言うよりも飛んだと言い換えた方が良いかもしれない。
それもそのはず、彼らは世界の何処にでもいる精霊の力を使って空を飛んでいるのだから。
「薫!」
そのプリキュアに気を取られている隙に、満と薫が左右へと分かれる。
速い。
ギルスたちは反応は出来たものの、直ぐさまに攻撃に移ることが出来ない。
満と薫の手に赤黒い光が走る。
G3-Xの攻撃を防いだバリアと同じもの。
ギルスは嫌な予感を感じ取ったのか、満へと攻撃を仕掛ける。
そのギルスの行動に合わせるようにG3-Xは薫へとGS-03デストロイヤーを持ち走り出す。
ブライトとウィンディは超上空。
あの距離からの攻撃、何が来るかは二人は分かっている。
だからこそ、満と薫の側にいることがなにより安全だと判断したのだ。
まさか仲間が巻き添いになる可能性を考えずに攻撃は仕掛けてこないだろう。
ブライトとウィンディはプリキュアでは数少ない、長距離砲台。
その攻撃は強力かつ反撃不能なものだ。
G3-Xの武器ならば迎撃も可能ではあるが、ギルスの触手では到底届かない。
ギルスの拳が満を襲う。
だが、満はギルスの言葉に手を添えて背中を見せる。
それだけで回転する形となり、回し蹴りを撃った。
ギルスの顎が跳ねる。
が、ギルスはそこで終わらずに顔が上空を見たままにもう一度拳を振り下ろす。
あくまで攻撃を避けるための動きから行った無理やりな攻撃だったため威力が低かったのだろう。
しかし、防御をしている。
誘ったのだ、ギルスの攻撃を。
ギルスの腹部に大きな衝撃が走る。
あの赤黒い光による攻撃だと悟るよりも早く吹き飛ばされる。
「かっ……!」
「くはぁ……!」
腹部だけでなく、背後からも衝撃が走る。
G3-Xも同じように薫の赤黒い光弾で吹き飛ばされたのだ。
そして、直ぐ様に満と薫が巨大な光弾でギルスとG3-Xを包む。
最初にG3-Xの攻撃を防いだ障壁だ。
G3-Xがスコーピオンを取り出し、二発三発と銃弾を撃つがピクリともしない。
「はあああああ……!」
その一方でブライトは上空で力を貯めている。
黄味がかった緑色の精霊の力を込めた光の円、それをどんどんと巨大化させていく。
何かのレンズのようだが、大きさは直径五メートルほどの大きさになっている。
ギルスとG3-Xにもこの四人が何を狙っていたかを理解した。
満と薫が足を止め、ブライトとウィンディが砲撃を決める。
単純だが決まってしまえば強力な戦法だ。
支援
「風よ!」
その間に、後方に備えていたウィンディが暴風を振り下ろす。
立ち上がることが困難なほどの風だ。
或いはギルスとG3-Xが本気で攻撃すれば破滅の力でのバリアも破ることが出来たかもしれない。
だが、ウィンディが放った暴風により動くことすら難しい状況となっている。
「はあああ!」
光の円が直径で10メートルほどの巨大なものになった瞬間。
その円が、浮き出るように楕円を描き。
「っ!」
「ああ……!」
光が飛び出した。
ギルスとG3-Xはその光に押しつぶされる。
暴風は防御することすら許さず、彼らの足を止める。
さらに周囲に張られたバリアは天へと向かって攻撃することすら許さない。
「ブライト!ウィンディ!」
薫は二人へと叫びかける。
まだ、ギルスとG3-Xは生きている。
ブライトとウィンディはゆっくりと頷き、地上へと降り立つ。
地上に降りた二人はスパイラルリングの側にあるリングを取り出した。
そして、ブルームはベルトに、イーグレットはブレスへとリングを装着する。
目を閉じ、ブライトは手を地面へ、ウィンディは空へと向ける。
呼応するように光が溢れ出す。
世界のあらゆる物に住む、精霊の光だ。
ブライトたちは精霊の力を借りて攻撃を放つことが出来る。
今の光はこれまでのそれとは比べ物にならない。
つまり、威力も比べ物にならない、ということだ。
「精霊の光よ! 生命の輝きよ!」
ウィンディの高い声と共に、地面と空から溢れていた光がベルトとブレスへ集まっていく。。
G3-Xとギルスはそれが強大な力の前触れだと直感的に理解する。
だが、満と薫の作った滅びの力によるバリアにより大きく移動することが出来ない。
「希望へ導け! 二つの心!」
手につけられたハートのアップリケからいくつもの光が飛び出していく。
そしてその光は、ブルームとイーグレットの目の前に二つの円を作る。
それがブルームたちの身体の8割を覆うほどの巨大な円になった瞬間に。
『プリキュア! スパイラルスター!』
バッと勢いよく握り合っていた手を解き、大きく後ろへと振りかぶる。
『スプラァァッシュ!』
二つの水流が混じり合い、一つの螺旋を描く光線へと変わっていく。
G3-Xとギルスへと前方へと届いた瞬間に、それぞれが螺旋状ではなく別れることになった。
直撃するのではなく、まるで包み込むように水流が広がる。
滅びの力ではなく、精霊の力に二人は包み込まれてゆく。
支援
C
ギルスとG3-Xは浄化された。
それを眺めていたユウスケは素直に感嘆の情を覚える。
四対二とは言え、相手は仮面ライダー。
それを圧倒したのだ。
四人全員が中距離・遠距離戦闘型。
だがG3-Xは近距離よりも銃器での遠距離戦闘方が優れており、
それぞれの役割をそれぞれがこなしていた。
幾ら仮面ライダーと言えども、このコンビネーションとスペック相手ではたとえ数が整っても簡単に勝てはしない。
「危ない!」
「え?」
ユウスケはチームワークの取れた戦闘を離れたところから見ていた。
故にユウスケは気づくことが出来たのだ。
遠くから距離を取っていたからこそ、背後から襲いかかろうとするアナザーアギトの存在に。
「変身!」
先程までは存在しなかった腰元のベルトに握りこんだ左拳を添え、右腕を前方に差し出して横一文字に動かしながらユウスケは走り続ける。
そして、一文字が完成すると同時にベルトに添えた左拳へと右拳を持っていく。
それがブルームたちがクリスタルコミューンを交差させるのと同じ変身に必要な動作、ユウスケが変身するためのスイッチだ。
このスイッチを入れることによってユウスケはただの青年から、グロンギと戦うための戦士・仮面ライダークウガへと姿を変えることが出来るのだ。
「はぁ!」
赤い鎧と黒いスーツ、そして金の装飾を施した赤い複眼の戦士。
マイティフォームのままに、クウガはプリキュアたちに奇襲をかけようとしていたアナザーアギトを殴り飛ばす。
アナザーアギトの頬へと直撃したそのパンチの威力は凄まじく、アナザーアギトは縦回転しながら吹き飛んでいく。
その感触にクウガは違和感を覚える。
ライダーにしてはひどく軽いのだ。
「こいつ……そんなに強くないのか!?」
「え? え? ええ!?」
「貴方は……?」
顔に多大な疑問の色を貼りつけたまま、ブルームはクウガを見つめ続ける。
そんな風にブルームが驚いている横で、イーグレットがクウガへと尋ねる。
クウガは拳を見つめていたが、そのイーグレットの声にハッとしたように顔を向ける。
「俺はクウガ。ちょっと訳があって、その、別の世界から来たんだ」
「別の世界って、フラッピたちと同じような?」
「いやあ、なんて言えば良いのか……とにかく俺はいろんな世界を巡って旅をしているんだ」
支援
シドロモドロになりながらも、クウガは自身の状況を掻い摘んで説明していく。
今の敵は仮面ライダーキバと言い、クウガが旅をしてきた世界の戦士だったこと。
自分たちは様々な世界の崩壊を防いできたこと。
他にも門矢士と光夏海という旅の仲間が居ること。
先の経験から、この世界にライダーが現れたのは恐らく自分たちが関わっているだろうということ。
「ひょっとすると、海東さんがまたなにか絡んでいるのかも……」
「かいとう?」
「俺と同じ、仮面ライダーの一人なんだ。仲間、というと少し違うのかもしれないけど」
海東大樹、仮面ライダーディエンドの考えていることはクウガには理解できない。
悪い人間ではない、とは思う。
だが、無条件に助けてくれるようなタイプの人間だとも思えないのだ。
他に気になることといえば、今のG3-Xとギルスとアナザーアギトはまるで銀細工のような姿だった。
ディエンドが召喚するライダーはあのような姿ではない。
シンケンジャーの世界と同じようにディエンドライバーを取られた、というわけではないのだろう。
だが、今は考えている場合ではない。
クウガは変身を解き、小野寺ユウスケへと姿を変える。
そして慌てたようにプリキュアへと言葉をかける。
「とにかく、今は士の所に行こう! 多分、アイツか君たちプリキュアを中心に事件は起こるはずだから!」
「でも私たちも早く他のプリキュアと合流しないと……」
ユウスケの提案にイーグレットが答える。
どうやらこのプリキュアの中では、イーグレットが頭脳を担当しているようだ。
「大丈夫、士はこの近くにあるタコカフェって言うところに居るんだ! そう時間はかからない」
ユウスケはバイクに跨り、ヘルメットを被りながら言う。
この四人は空を飛べる、一直線にタコカフェへと向かえばバイクで向かうユウスケと同じ時間につくだろう。
場所を説明しようと、地図を広げるが四人は声を揃えて驚いたように声を発した。
『タコカフェ!?』
四人の言葉が一斉に放たれる。
いきなりなんだ、とユウスケは動揺する。
そこで少し慌てているような、恥ずかしがるように頭を掻きながらブライトは答える。
「えっと、私たちの行こうとしていたところも、その、タコカフェでして」
◆ ◆ ◆
シエン!マキシマムドライブ!
C
「ありえなぁーい!」
茶色に染まった短い髪が風に揺られながら、美墨なぎさはカモシカのような健脚で走っていた。
後ろから追ってくるのは、濁った銀色で作られた色の塗られていない未完成の絵のような怪人。
その名は仮面ライダーパンチホッパーと言うのだが、仮面ライダーとは全く縁のないなぎさは知らない。
なぎさに分かるのは奇天烈な格好をした男が、一切の言葉を発さずに襲いかかってきたことだけだ。
ラクロスで鍛えた俊足が虚しく感じるほどのスピードで迫ってくるパンチホッパーに対して、とにかく地の利を活かして逃げ回る。
たった一人のなぎさにはそれしか出来ないのだ。
「だから昨日は早く眠れって言ったんだメポー! ほのかと早くに会ってたらこんなことにならなかったメポ!」
「そんなこと言ったってしょうがないじゃない! 久しぶりに皆に会えるって思ったら興奮して寝れなかったんだもん!」
裏路地に入り息を殺してパンチホッパーが何処かへ言ったのを見送る。
すると、小声で怒鳴という器用な真似をしている声がなぎさの腰元から響く。
腰元にぶら下げた、一見玩具に見えるそれは実は一つの生き物。
光の園と言う異世界からなぎさの前に現れた『選ばれし勇者』メップルなのだ。
本当の姿は薄いオレンジ一色の人形を思わせる姿である。
なぎさとの相性は良くも悪くも似たもの同士で、こうして口喧嘩をすることが多い。
「とにかくほのかの所に行かないと……!」
「だーかーらー! 早起きしてればこんなことにはならなかったんだメポ!」
「うっさいわねえ! それは分かったって言ってるでしょ!」
そんなことを言いながら、携帯としか見えないハートフルコミューン状態のメップルへと怒鳴りつける。
ちなみにこのなぎさ、率直に言っておツムはあまりよろしくない。
おまけに似たもの同士と説明した通りメップルもなぎさと同じようにおツムは残念な出来である。
その二人が激情のままに怒鳴りあっていれば当然、潜めていた声も大きくなる。
「……」
まだ口喧嘩をしようとしていたが、壁にもたれかかるように座り込んでいたなぎさに影が差し込む。
その影に気づいた瞬間、なぎさはもちろんメップルも口が止まる。
なぎさとメップルはゆっくりと、出来れば見たくないなー、と思いながら首を動かす。
先程まで喧嘩をしていたとは思えないほど、シンクロした動きだ。
やはり似たもの同士である。
「はっ!」
だが、そんな感想など抱いていないのだろう、いつの間にか現れたパンチホッパーは気合の一声と共に拳を振るう。
その勢いよく放たれた拳はなぎさの頭上にある壁へと突き刺さる。
ヒビを入れたのではなく、貫いたのだ。
それだけでパンチホッパーのパンチの威力がよくわかる。
「なあぁ!」
「逃げるメポー!」
なぎさは慌てた様子で四つん這いになりながら裏路地を走り出す。
ゴミ箱を蹴り飛ばしたり、猫を踏みそうになったがそんなことは関係ない。
後ろから追いかけてくるパンチホッパーの怖さと言ったら、そんな世間体がどうでもよくなるほどだ。
やがて、なぎさが裏路地を抜けて閑散とした住宅街に出ると、メップルが弾んだ声をあげる。
「メポ! ミップルとポルンとルルンの気配がするメポ!」
「ホント!? やったぁー、これでなんとかなるよぉ!」
その言葉になぎさも釣られるように弾んだ声を上げた。
彼女は抜けていると言うわけではないが、基本的に楽天家である。
それにほのかと共ならば、戦う力を得ることが出来る。
支援
>>298 こちらこそ、読んでいただきありがとうございます。
感謝の気持ちを込めて、心より支援させていただきます。
「そこを曲がったところだメポ!」
メップルの言葉に脚が軽くなる。
ラクロスで鍛えた健脚を最速で飛ばし、角を曲がる。
そこには、見慣れた二人の少女の姿が。
黒い長い髪をした利発そうな少女、雪城ほのかと金色の光るような髪をしたおさげの少女、九条ひかり。
なぎさの親友にして仲間である少女。
特にほのかと一緒ならばなんでもできると思えるほどの間柄だ。
だからこそ、見つけたときには考えるよりも早く大声でその名を叫んでいた。
「ほのかぁ! ひかりぃ!」
「なぎさ!?」
「なぎささん!」
角から現れたなぎさの姿にほのかとひかりも声をあげる。
なぎさは嬉しそうな顔をするが、瞬時に顔を歪める。
ほのかとひかりも走っている。
そして、なぎさと同じように、背後には、銀色の怪人、仮面ライダーキックホッパーがいた。
喜びの表情を歪ませ、半ば目に涙をにじませながら、なぎさは叫んだ。
「ありえなぁーい!」
「なんでなぎさも追われてるの!?」
ほのかもなぎさの背後から現れたパンチホッパーの姿にほのかも叫びを上げる。
結果、なぎさたちはキックホッパーとパンチホッパーに挟み撃ちにされることになった。
「ありえない……なんでこんなことになってるの!? 今日は大事な日だっていうのにー!」
「知らないよ……でも、今はとにかく!」
そう言ってほのかは腰に下げていた携帯電話状の変身アイテム、ハートフルコミューンを取り出す。
それはなぎさの相棒メップルと同じ希望の姫君ミップルの姿。
なぎさも頷き、ハートフルコミューンを手に持つ。
「ロプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
その瞬間に、上空から声が響いた。
ハートフルコミューンを動かす手を止め、なぎさとほのかはその声が響く上空を眺める。
聞き覚えのある声だ。
そう思った瞬間になぎさの顔面に柔らかいものがぶつかる。
衝撃に尻餅をつく。
なぎさは顔にぶつかった物をむしりとる。
「なによこれぇ……ってシロップ!?」
「ひどい……! 血が出てる……!」
なぎさの顔にぶつかったのは、シロップと言うペンギンを思わせるぬいぐるみのような動物。
この前の事件で出会った仲間の一人だ。
シロップの両腕からはひどく血が出ていた。
その様子になぎさたち三人は顔をしかめる。
「ロ、ロプぅ!?」
シロップも何か言おうとしていたのか、仮面ライダーを見て怯えたようになぎさの胸の中に逃げ込む。
明らかに恐怖に満ちた様子。
そのシロップの様子になぎさは感づく。
シロップにこの傷を与えたのは目の前のライダーだと。
C
「まさか、アンタたち!」
「許さない……!」
なぎさとほのかは目を合わせて、力強く頷く。
全てを食い尽くす力と二年もの間を戦った二人には言葉は要らなかった。
ハートフルコミューンにカードを差し込み、手をかざす。
そうすることでハートフルコミューンは光となり天空へと登っていく。
光が登っていく様子を見た後に、なぎさとほのかは手を繋ぐ。
そして、空いた片方の腕を大きく天へと捧げると。
『デュアル・オーロラ・ウェーブ!』
上空から降り注いだ光に包まれた。
その光の中を二人は上昇していく。
光がフリルのついたかわいらしい服へと変わっていく。
なぎさの服は黒を基調として桃の装飾をあしらった短いスカートとスパッツ、そして肩にかかる程度の長さの袖。
ほのかの服は白と基調として青い装飾をあしらった膝丈のスカートと、なぎさと同じく肩にかかる程度の長さの袖。
上空で変身した二人はものすごいスピードで落下していく。
なぎさはバタバタと脚をもたつかせながら、ドンッッッ!!、と激しい音を立てて着地。
ほのかは対照的に静かに着地し、されど衝撃を逃がすようにもう一度ジャンプをして月面宙返りを行う。
「光の使者、キュアブラック!」
「光の使者、キュアホワイト!」
なぎさとほのか、全てを食い尽くす力と戦う全てを生み出す力を持つ戦士プリキュア。
美墨なぎさ、キュアブラック。
雪城ほのか、キュアホワイト。
光の園の希望である二人だ。
『ふたりはプリキュア!』
強い言葉で自分たちの名乗りあげを済まし。
やはり強い目でパンチホッパーとキックホッパーへと指を指す。
「闇の力の僕たちよ!」
「とっととお家に、帰りなさい!」
一方でひかりもポシェットの中から携帯電話のタッチボードのような変身アイテム・タッチコミューンを取り出す。
ひかりはメップルやミップルと同じ、光の園から現れた『未来へ導く光の王子』ポルンと力を合わせて変身するのだ。
そして、蓋を開いて手で撫でていく。
ひかりもプリキュアではないが、志を共とする光の園のクイーンの『生命』だ。
「ルミナス! シャイニングストリーム!」
ひかりの言葉と共に、タッチコミューンから光が放たれる。
その光はやはり身体を包んでいき、服を形作る。
鮮やかな桃の布地と金色の装飾を施した衣装となる。
そして手元には特徴的な、桃色のハートの形をしたハーティエルバトンを持っている。
「輝く命、シャイニールミナス!」
九条ひかりがタッチコミューンにより変身したプリキュアではない光の戦士、シャイニールミナス。
「光の心と光の意志……全てを一つにするために!」
兄貴ィ!支援
支援
キュアブラック、キュアホワイト、シャイニールミナス。
ザケンナーが登場する際には、他の人間が眠ってしまうため知名度にしては低いが、高い実力を持つプリキュア。
「ルミナスはシロップをお願い!」
「分かりました!」
ブラックはルミナスに声をかけ、腕の中のシロップをルミナスへと渡す。
ルミナスはサポートに優れている戦士だ。
特にバリアも張れることが大きい。
「よぉっし!」
ブラックはポキポキと手を鳴らした後に、腕を前方へと持ってきてファイティングを構える。
ホワイトも僅かに腰を落として、ホッパーズの攻撃へと身構える。
先に動いたのはパンチホッパー。
建物をも砕くその拳をホワイトへと放つ。
だが、ホワイトは背中を見せるようにしてその拳を交わし、振り向きざまに後ろ回し蹴りを叩き込む。
ホワイトの蹴りで前のめりになったパンチホッパーに追い打ちをかけるためにブラックも蹴りを狙うが、キックホッパーの蹴りによって邪魔される。
瞬間、次は一人自由なブラックがキックホッパーの追撃を防ぐために殴りつける。
パンチホッパーとキックホッパーは距離を取り直す。
そして、二人はベルトについたバッタの脚を引っ張り身を低く屈める。
銀色の光が足元へと届く。
―――― RIDER JUMP ――――
―――― RIDER JUMP ――――
その瞬間、機械音が響く。
何かが来ると、今までの経験でブラックとホワイトはそれを確かに感じる。
だが、ホッパーズは低い体勢のまま高くジャンプした。
五メートルは超えているであろう垂直跳び。
そして空中でベルトのバッタを叩く。
―――― RIDER KICK ――――
――― RIDER PANCH ――――
機械音がもう一度響いた瞬間に、ヒヤリと二人の背筋に嫌な汗が走る。
ライダーキックと、ライダーパンチ。
間違いなくキックホッパーとパンチホッパーの最大火力だろう。
「だああああああああ!」
「はああああああああ!」
ブラックはパンチホッパーのライダーパンチを、ホワイトはキックホッパーのライダーキックをそれぞれ迎撃する。
ライダーパンチへと力任せに拳を叩きつけるブラック。
強い威力を持つ二つの拳がぶつかったことにより、衝撃で周囲の建物の窓が割れる。
お互いが強く歯を食いしばり、その拳を押し込んでいく。
力と力、技術の入る余地のない戦い。
「とりゃああああ!」
C
その拳のぶつけ合いに打ち勝ったのはブラックだった。
思いっきり拳を振り抜き、ライダーパンチを吹き飛ばす。
そして、空いた腹へと蹴りを叩き込む。
テクニックではプリキュアの中でも若干劣る部類に入るブラックだが、ことスピードとパワーに関してはトップクラス。
蹴りでも吹き飛ばなかったパンチホッパーへと固く握りしめた拳を振るっていく。
一撃、パンチホッパーの足が地面から離れる。
二撃、パンチホッパーの身体が前かがみになる。
その二撃でパンチホッパーのガードが完全に消えたことを察したブラックは拳を思いっきり振りかぶり。
「とうりゃああああああああ!!!」
威勢の良い雄叫びと共に、弾丸のように拳をパンチホッパーの腹部に叩き込む。
吹き飛び、建物に埋め込まれるパンチホッパー。
上方より襲いかかるライダーキックに、ブラックとは対照的に自身の体を回転させながら迎え撃つホワイト。
キックホッパーのホワイトの突然の奇行に若干動揺の色を見せるが、既に新たな攻撃に変える時間はない。
そのままに全力でライダーキックの動作へと移るが、ホワイトは回転しながら右手をキックホッパーの左足へと添える。
そして、そのライダーキックの威力で右手が強く押されてさらにホワイトの回転は激しくなる。
「ふっぅ!」
だが、ホワイトの回転とは対照的に、ライダーキックの威力は完全に流される。
非力な印象をあたえるホワイトだが、こと肉弾戦におけるテクニックにおいては他の追随を許さない。
現にキックホッパーのライダーキックもホワイトから外れ、地面へヒビが作っただけだ。
ホワイトはライダーキックが外れたことによって生じた隙を逃しはしない。
がら空きになった首へと後ろ回し蹴りを叩き込む。
「はああああああ!」
完全な不意打ちとなったその一撃にキックホッパーの膝は折れる。
それだけではホワイトは終わらせない。
追撃の腹部へのトーキック。
そして、体がよろけた瞬間にキックホッパーの左足を掴む。
力任せではなく、キックホッパーの体重移動に合わせて脚を大きく上へと上げる。
崩れるキックホッパーを、持てる力を振り絞りパンチホッパーが埋め込まれた建物へと向かって投げつける。
パンチホッパーとキックホッパーが同方向にいる。
ブラックとホワイトは顔を合わせて、合図を送る。
支援
二人は手と手を繋ぎ、空へと向かって大きく腕をあげる。
「ブラック、サンダー!」
「ホワイト、サンダー!」
その叫びと共に、天から雷が落ちてくる。
ブラックには黒い雷が、ホワイトには白い雷が。
二人が雷に呼応するように光を纏う。
「プリキュアの、美しき魂が!」
「邪悪な心を、打ち砕く!」
ギュッと、強くお互いの手と手を握り合う。
そして空いた手、雷のたまった腕を突き出す。
『プリキュア! マーブルスクリュー!』
一年前の二人ならばここで終わりだった。
だが今の二人はここからまだ動作が残っている、より強い必殺技を放つために必要な動作が。
ぐっと勢いよく腕を引き、その手に雷がより強く渦巻いていく。
『マックスー!』
そして、もう一度だけ、腕を勢いよく突き出した。
溜まりに溜まった雷が二人の手から飛び出す。
螺旋を描くように黒と白の雷が混じり合っていく。
やがて螺旋は巨大な一つの雷となり、キックホッパーとパンチホッパーへと向かっていく。
もちろんホッパーたちもただで直撃を受けるつもりはない、腕を前へと出してマーブルスクリューを受け止める。
だが、弱りきったパンチホッパーとキックホッパーでは止めることは出来ず。
二人の仮面ライダーは光へと帰っていった。
「ふう……」
ブラックは長く息を吐いて身体をリラックスさせる。
スポーツをしているため疲れている身体にはどうすれば良いのか知っているのだ。
「ルミナス、シロップは!?」
「大丈夫です、傷はひどいですが直ぐに治療すれば……」
「ま、待つロプ……!」
ルミナスの腕の中でシロップは呻くように言葉を振り絞る。
声を出すのはやめた方が……とルミナスは言いそうになるが、シロップの様子に切迫したものを感じ言葉を止める。
まだ腕が痛むのだろう、シロップは顔を歪ませながらも
「大変ロプ……敵が、敵が現れたロプ……早く、タコカフェに……」
「タコ……?」
「カフェ……?」
「タコカフェに何があるんですか!? シロップさん!?」
◆ ◆ ◆
影山「兄貴、いたよ…この世界にもプリキュアが…」
『プリキュアの力と仮面ライダーの力……素晴らしい……!』
街の超上空で、仮面ライダーディエンドの姿を取ったフュージョンが呟く。
先程、回収したプリキュアの力と仮面ライダーカブトのライダーキック。
ディエンドの力と相まって、それはまるで暴れるようにフュージョンの身体を駆け巡っていた。
フュージョンはニヤリと笑みを浮かべ、両手を前に出す。
幼児を列に真っすぐと並ばせる際に教える、『前ならえ』の状態。
そして、その手と手の間に一つの赤黒い球体を創りだす。
『もう一度』
フュージョンがそう言葉を発した瞬間に、球体は凄まじい速度で落下する。
ただ落下するだけでは出しようがない速度。
その速度で落下した球体は、地面に染み込むように広がっていく。
建物を、植物を、動物を、人間を。
全てを巻き込んで、広がっていく。
フュージョンの目的、全てを一つにするという目的を果たすために動き出した瞬間。
『全てを、一つに……!』
それは、空が黒い雲に覆われた瞬間だった。
To be next ―――――――――――――――――――――――――――
投下終了です、たくさんの支援本当にありがとうございました
そして同時に長々と失礼しました、次の投下の際はもっと短くまとめたいと思います
デケイドはどこにでも現れる
投下乙、プリキュアとディケイド。だんだんと集結しつつあるな
ライダーとプリキュアの対決カードもイイッ!
これで鳴滝さんが来れば言うことなしだねw
投下乙です
プリキュアVSコピーライダー軍団、いいですねえ
次回は全員集合とまではいかなくても、ある程度合流するのかな?
wikiにある小ネタの「孤独のグルメ×キン肉マン」ですが、どうみても出て来たのは「美味しんぼ」の山岡さんなのです・・・
お久し振りです。
第十二話投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
※二次創作ようの設定あり(劇場版におけるサソードの末路など)
※ディケイドの設定、キャラを出していますが、ディケイド本人が出ることはありません。
※原作で曖昧にされている設定、プレリー=アルエット、初代司令官=シエル について明言していますが、あくまで二次創作です。
公式設定ではありません。
これまでのロックマンZX×仮面ライダーカブトは!!
ttp://www31.atwiki.jp/crossnovel/pages/15.html(まとめwiki)
十二話 SISTERS [姉妹]
「…………これが、ディケイドが生まれたことによって、僕たちがとろうとしている手段です」
時が止まった噴水の上に浮かぶ白い服の青年が天道へ告げた。
天道の癖の強い黒髪が月光に照らされ、宙に浮かぶ渡へと鋭い眼光を向ける。
「だいたいわかった」
「そうですか。それでは…………」
「だが、了承するとはいっていない。お前たちを信用できないからな」
そういった天道を前に、渡が目を白黒させた。拒否されるとは思っていなかったのか。
ずいぶんと世間知らずだ。
「確かに僕たちを信用してください、と言うのは無理かも知れない。けれど……そういっている場合じゃないんです」
「そうか。ならば俺はお前たちとは別の道を往く」
「天道さ……」
渡の表情が険しくなると同時に、白い影が迫るのを天道は視界の端で発見した。
右手で衝撃を流しながら、白い影の正体である黒崎と位置を交換する。
ザッ、と踏み鳴らし、黒崎を睨みつけた。
「紅さん、そこまでにしてもらいましょうか」
「黒崎さん…………」
「アナタたちがどうなろうと私の知ったことではありません。ですが、天道総司との決着はここで着けます。元の世界へ戻してもらいますよ」
そういって黒崎が右手のライダーブレスを輝かせた。天道もベルトを腰につけて右手を構える。
空中を舞うコーカサスゼクターとカブトゼクターが数度衝突し、それぞれの手へ収まった。
「「変身ッ!」」
二人が同時に叫び、世界の色が変わる。
仮面ライダーカブトへと変わる瞬間、天道は確かに視界の端でため息をついている渡をおさめた。
元の世界へと戻った二人を見届け、渡は思わず肩を落とす。
キバットが周囲を飛び回り、「大丈夫か? 渡」と聞いてくるが答える気力はない。
実を言うと、渡にとっても天道が世界の命令をきくかどうかはどうでもよかった。
最初自分が聞いたときも思わず、『なにそれ?』と言ってしまったことがあるからだ。
ディケイドの存在は脅威だが、世界とやらも胡散くさくてたまらない。
その使いとなって伝言を伝える自分がどれだけ馬鹿らしいか、考えるだけで身悶えしそうだ。
名護が聞いたら、『渡くんには向いていない。私に代わりなさい』といってくるだろう。
名護に任せたら天道と衝突するのが明らかなため、絶対にあの人だけには譲れないのだが。
けど、一つだけ問題がある。世界への天道の伝言よりも、渡はそれが気になり思わずつぶやいた。
「……あの人、このままじゃ消えちゃうけど、どうするんだろう……」
それは純粋に天道の身を案じた言葉である。
渡はどこまでいっても、お人好しそのものだった。
□
戦闘によって生まれる衝突音が響き、振動が数百メートル離れているプレリーたちにも届く。
岩肌が露出した壁に、コンクリートで固められた螺旋状の地面。
大きな部屋の中央には十メートル近くある巨大な勾玉状の機械、モデルVが鎮座していた。
モデルVを観測するコンピューターの前で、数人の男女が一人の女性と対峙している。
プレリーと同じく長い金髪をポニーテールにくくり、赤に近いピンクのジャケットとスカートを着た女性。
白衣を羽織る彼女はガーディアンの先代司令官にして、プレリーの姉である女性と同じ心をもつワームだった。
プレリーはそのワーム、ドクターCLを前にして言葉を失っている。
フルーブはドクターCLと、先代司令官の差異を探そうとして、逆に彼女であることを悟りつつあった。
モリュはヘリから降りてプレリーを守るように立っているが、ドクターCLに銃口を向けようとして向けられず戸惑っている。
そうして迷っている彼らの前で、ドクターCLは後ろで戦っている四人からプレリーへと視線を移動して止めた。
「私はあなたの姉じゃない。あなたの姉の記憶はあっても心はないわ」
「じゃあ、なんで……」
自分に気を使ったのか、というプレリーの言葉をドクターCLが遮る。
声からは感情が感じられないが、先ほどまでは確かに温かいプレリーの姉の心があったのだ。
「プレリー。アナタに貸したガーディアンの力を私に返してくれないかしら? ああ、アナタが司令官のままで構わないわ。私に必要なのはガーディアンの力なの」
「…………いったいなんのために必要なの?」
「私たちワームの生き残りをこの世界に呼ぶためよ。ハイパーゼクターによって時空の狭間にいる、無数のワームの卵をね」
プレリーは愕然とする。サラリとドクターCLが告げた事実はプレリーにとって衝撃的だった。
ワームが数多く存在することもそうだが、危険な存在を呼び起こそう、と告げるプレリーの姉の言葉にだ。
ゆえにプレリーは彼女を姉じゃないと判断する。
「やめてよ…………お姉ちゃん……」
そう、プレリーは目の前の女性を姉じゃないと判断した。ただし、頭だけでだ。気持ちは追いつかない。
プレリーにとって姉は絶対だ。命の恩人でもあり、育ての親でもあり、自分の半身といってもいい存在だった。
だからこそ、理屈でなく本能で理解してしまったのだ。目の前のワームは、確かにプレリーの姉の心を持っていると。
「プレリー、私はあなたの姉にはなりえない。ワームとしての記憶と本能が混ざっているもの。
だけど、彼女が持てたものは私にも持てる。だから大人しく、私に力を貸して。そうすれば……アナタの姉の真似事はできるわ」
プレリーの気持ちを否定しながら右手を差し出すドクターCLを、プレリーはただ黙って見つめていた。
同行しているフルーブたちはなにも言わない。よりにもよって、モリュもフルーブも先代司令官と面識があった。
だから彼らも、ドクターCLを否定できないプレリーの気持ちを理解していたのだ。
揺れるプレリーの視界がドクターCLから逸らせずにいると、エグゾーストノイズが近くで響きわたる。
驚き、プレリーたちが音がした方向に首を向けると、カブトが赤いバイクの装甲を弾けさせた瞬間が目にはいった。
赤い大型バイク、カブトエクステンダーの前輪が二つに割れて、間をカブトムシの角をもしたホーンが伸びる。
銀色の印象の違う大型な乗り物が空を飛び、カブトが操縦する席の後ろにエールが跳び乗った。
「プレリー、モリュ、フルーブ! 掴まれ!!」
カブトが左腕を伸ばしながら、カブトエクステンダー・エクスモードで宙を翔けてプレリーたちを回収する。
そのまま爆音をあげて、モデルVの観測部屋から脱出を果たした。
時間は少し遡る。
紅渡が作り出した特殊な空間から脱出したカブトはキャストオフしながら、ぶつかる装甲に委細構わずコーカサスが突進してくる。
腕だけに残したマスクドフォームの装甲にコーカサスの右拳が突き刺さる。
耳をつんざくような衝撃音が耳朶を打ち、右腕に残っていた装甲が砕け散った。
飛び散る破片の中、同時にクロックアップの世界へ突入しカブトはコーカサスの胸を強打する。
カブトの拳は振り抜かず、コーカサスは大木のように身じろぎもしない。
「ヌゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
コーカサスが気合一閃。カブトの胸ぐらをつかんで一直線に駆けた。カブトは壁に叩きつけられ、ひび割れた壁に身体が半分めり込む。
追撃を仕掛けようと左拳を構えているコーカサスの脇腹へカブトは蹴りを繰り出した。
コーカサスは微動しないが、カブトは蹴りの反動でコーカサスと距離をとる。
空いたカブトがいた空間へコーカサスの左拳が叩き込まれた。
「逃げまわることしかできませんか?」
「なら味わえ」
コーカサスの軽蔑した声に、いつもの余裕の返しをカブトはする。瞬間、エグゾーストノイズとともにカブトエクステンダーが現れた。
突進してくるカブトエクステンダーに、壁へ拳が突き刺さっていたコーカサスが避けれることはない。
仮面に設置された誘導装置で走るカブトエクステンダーがコーカサスを跳ね飛ばすのを見届け、座席へ跳び乗った。
「天道総司……」
「いったんお預けだ。エール!!」
カブトエクステンダーを走らせて、ザビーと戦うエールを呼び寄せた。
エールは顔を上げるが、ザビーが遮るように間に立つ。
「行かせるか。天道総司、お前をこの俺が……グワッ!」
ザビーがパーフェクトゼクターを構えようとするが、その言葉は最後まで告げられない。
なぜなら、エールがザビーの後頭部を踏んで跳躍していたからだ。
「油断大敵。アナタの攻撃、その剣以外は軽いのよね」
エールは笑ってそう告げて、カブトの後ろへと座った。機会を窺うために防御に徹していたのだろう。動きが軽快だ。
エールがカブトの腰を掴んだのを確認し、眼下でせり上がるパネルを前にカブトは小さくつぶやく。
「キャストオフ」
カブトのつぶやきと同時に、カブトエクステンダーが赤い外装をパージする。
三輪駆動のもはやバイクとはいえないモンスターマシンが地面を滑走して飛ぶ。
「プレリー、モリュ、フルーブ! 掴まれ!!」
カブトが左手を広げ、三人の名を呼ぶ。
クロックアップ世界に突入したカブトエクステンダー・エクスモードを駆使して三人を回収し、出口へ向かって走り抜けた。
時間は稼げた。プレリーには心を落ち着ける時間を、エールには対策ができるまでの時間をもたらせれる。
カブトエクステンダーが加速し、地面に火花を散らしてひたすら直進を続けた。
「くっ! 逃がすなぁ!!」
「無駄ですよ。カブトエクステンダーがエクスモードになったのなら、追いつくのはガタックエクステンダーのエクスモードのみ」
激昂する弟切に黒崎は正論を告げる。弟切が思わず殺気を視線に込めるが、黒崎はそよ風のように無視をした。
黒崎の視線はドクターCLへ向いている。
ドクターCLは黒崎に答えるように頷いてみせた。
「ロックマンZXと仮面ライダーカブトの力を使っても、ここ以外で壊せる壁はないわ。場所も封鎖したし、戦闘に向かない三人を抱えている時点で逃れることもできない。
場所を封鎖してルートを指示するから従って、天道総司たちを倒して。プレリーは私がこちらに引き入れるわ」
「ふん。引き入れるって本気か? そうちんたらやるからこそ、逃げられた」
「弟切……少し黙りなさい」
弟切が低く渋い声を受けた瞬間、うろたえて数歩後ろにさがった。
自分に向けられていないとはいえ、黒崎の圧倒的な殺気にドクターCLは思わず身震いした。
幾多のワームとネオゼクトを葬ってきた黄金のライダーの名は伊達ではない。
「それではドクターCL。私たちに指示をお願いします」
「はい。このモニターをみてください」
ドクターCLの手持ちの携帯端末からモニターが宙に浮かび上がる。
五つの光点がモニター内のMAPに示されていた。これが天道たちなのだ。
「天道総司の現在位置はこちらになります。罠を起動させ、通路を三ルートほど封鎖して限定させますので、私たちはこの部屋で待ち構えましょう」
「制御室ですか。こちらなら頑丈ですしね。弟切、構いませんか?」
黒崎の確認に弟切は渋々頷いた。ドクターCLが先頭に向かおうとするが、黒崎がその前に立つ。
仲間に引き入れたわかったことの一つが、黒崎はフェミニストであるということ。
大きく広い背中が視界に入る。ドクターCLたちはそのまま、戦闘の場となる部屋へ向かった。
□
プレリーもまた携帯端末のモニターに映るMAPを見届け、苦い表情を浮かべた。
天道たちはその表情から察したのか、なにも言わない。
とはいえ、プレリーは結果を告げなければならないのだが。
「通路がどんどん封鎖されている。ルートを限定されて、戦いは避けられないわ」
「そう、じゃあやるしかないってことね」
エールは特に気負うわけでもなくあっさりと告げる。サソードゼクターがエールの肩に乗りながら、お辞儀をするように動いた。
どことなく元気が無いように見える。エールと敵対したのが自身に応えているのだろうか。
エールはサソードゼクターに「大丈夫、悪いのはあいつだから」とあっけらかんとしていた。
「簡単にいっているが、エール。勝算はあるのか?」
「うん、大丈夫。あいつがワームになってあのパーフェクトゼクターを使わない限り、なんとかなる」
「ほう」
『僕とエールが話しあった結果、あのパーフェクトゼクターの攻略はすでにつかんでいる。任せて』
モデルXの言葉に天道が頷いていた。細かく説明しないのは、盗聴を恐れてか。
妥当で冷静な判断だ。エールは問題ない。天道も再び、黄金の仮面ライダーと戦うだろう。
そこまで考えて、プレリーはドクターCL……いや、彼女の姉の姿と心をもつワームと対峙できるか不安になった。
「プレリー、大丈夫?」
「エール……私はガーディアンの司令官。私情は挟まないわ」
そうだ。プレリーはガーディアンの司令官なのだ。
ヒトビトを守るためには私情を殺さねばならない。そういう道を選んだ。
誰でもない、姉を誇りに思っているのだから。
「駄目だよ、プレリー」
そのプレリーの決心を、エールは簡単に否定した。
プレリーの頬をぐにっ、とエールは引っ張った。プレリーの頭が混乱する。
「へぇーる、ひっはいはひふるの(エール、いったいなにするの)?」
「……顔がこわばっている。こんなに緊張していたら、簡単な判断も間違うって。プレリー、よく聞いて」
エールはそういってプレリーの顔を解放した。
両手で痛む頬をなで、真剣なエールの瞳を見つめ返す。
「アタシはジルさんを殺して後悔している。それはワームが擬態したジルさんを殺したからじゃない。
ジルさんの心を受け継いで“自分として生きているヒト”を殺したから後悔しているの」
エールの瞳が憂おいに満ちる。エールがジルに擬態したワームを倒し、後悔していたのは知っていた。
立ち直った今もその傷は癒えていないのだと、プレリーは思い知る。
だからこそ、これはエールの優しさだ。自分と同じ傷をプレリーが負わないようにとエールは気遣っている。
「確かに彼女はアナタのお姉さんじゃない。だけど、アナタのお姉さんの記憶を持った、心がある相手だよ。
プレリーにかける声が優しかった。だから話してあげて。ワームはイレギュラーのようにヒトを殺す殺人マシーンじゃない。
心のあるワームは、人間やレプリロイドと一緒の“ヒトビト”だってアタシは思う」
エールの言葉は優しく、温かいものだ。ヒトを守るためにロックマンになった少女そのもの。
そんなエールだからこそ、信頼して親友であった。それでもプレリーは迷っている。
エールの言う通りに動くことは、私情を挟んでいるのではないか。その思いがあったからだ。
だが、そのプレリーの心配はフルーブの言葉で打ち砕かれる。
「プレリーさん、私からもお願いします。彼女と話してあげてください」
「フルーブ!? アナタまで……」
「ワームについて詳しいのは、実際戦った天道さんかエールさんです。エールさんがそうおっしゃるなら、きっとワームも話が通じる相手なのでしょう。
私には初代司令官とあの女性は通じるものがあると思っています。だから、プレリーさんと話をして欲しいのです」
「フルーブ……」
「大丈夫です、プレリー様。邪魔する奴は私が守りますから」
フルーブを補佐するように、モリュも銃を構えて告げた。プレリーの目頭が思わず熱くなる。
お人好しの集団だ。プレリーも人の事をいえないのだが、今この瞬間はこう思うより他にない。
「…………本当にいいの?」
「もちろん。けど、プレリーが頑張るのはこれからだよ。天道もいいね?」
エールが確認するように告げると、天道は無言のまま肯定も否定もしなかった。
一度プレリーをみて、天道は「危なくなれば助ける」とだけ告げる。
エールは笑って天道に礼をいった。
(……お姉ちゃん)
プレリーは心の中だけで一度つぶやく。思い浮かべる姉の姿は優しく温かなものだ。
それを彼女にも受け継いでいるのだろうか。
(お姉ちゃんは強い……)
どんな逆境にもめげず、多くのレプリロイドを救いあげた女性。
彼女がワームの本能に負けることが信じられない。
「わかった、私は確かめるわ。お姉ちゃんの心があのヒトにあるのかを……」
プレリーはようやく告げる。わがままを一ついったような罪悪感が胸に宿るが、迎えるエールたちの瞳は優しい。
心強い仲間を得た。それがとても嬉しくて、プレリーは知らず笑みを浮かべていた。
「この部屋よ」
ドクターCLの誘導に従い、管理室へと三人は足を踏み入れた。
ちょっとした体育館くらい広がる空間で三人は宙に示された光点へ歩み進む。
逃げるのをやめたのか、光点の移動はない。
「割り振りは先ほどと同じで構いませんね。弟切」
「ええ、従いましょう」
今のところは、と言い出しかねない剣呑な雰囲気をあらわにした弟切に、黒崎もドクターCLも無言だ。
とりあえず彼には実力さえあればそれでいい。性格までは期待していなかった。
「天道総司。いつまで隠れているのです? 私たちの決着はまだ着いていませんよ」
黒崎がそう告げるが、反応は全くない。聞こえていないはずはないのだが。
静けさがむしろ不気味だ。黒崎は一歩進もうとして、途中で止める。
黒崎はなにかに気づいたように眉をしかめ、急に踵を返して走った。
「黒崎さッ……」
「失礼、ドクターCL!」
黒崎はドクターCLを抱えながら、「変身ッ!」と叫ぶ。コーカサスゼクターから発する金属片が仮面ライダーへと姿を変えさせた。
同時に扉が跳ね飛ばされ、銀の閃光が一直線にコーカサスへとぶつかる。銀色のホーンをコーカサスは踏んで、ダメージを和らげた。
エクステンダー・エクスモードのカブトがコーカサスを道連れに突進を続ける。弟切の叫び声が轟いた。
「天道総司! 逃がすか……」
「アナタの相手はアタシよ!」
エールの声がバイクより響き、バイクから赤い影が飛び出してセイバーを振るっていた。
辛うじて反応した弟切が、ザビーに変身しながらパーフェクトゼクターで受け止めている。
ドクターCLは皮肉げな笑みを仮面の下で浮かべた。
「なるほど、やり返された、ってことね……」
カブトたちは分断作戦を、今度は彼ら側で行ったのだ。
カブトエクステンダーが突進を続けドアを跳ね飛ばし、二エリア先の部屋へドクターCLたちを運ぶ。
ドクターCLを睨みつけるプレリーに、思わず褒めるような視線を送ってしまった。
赤いロックマンZXの装甲をまとったエールの金の髪が翼のように舞い、セイバーを右手に正眼に構えた。
半身を開いた形で間合いをはかり、慎重にザビーの動きに注目する。
(そういえば天道と訓練したときにいっていた……)
エールが思い返してみる。天道と戦闘訓練を繰り広げ、エールの動きを先読みされたことに疑問を抱いて質問したことがある。
そのときの天道の答えはこうだ。
『エール、戦いとはへそでするものだ。動きには流れがある。手足が動いてから反応するよりは、へそから敵の動きを読む方が対応は早い』
天道のその言葉に感心し、真似しようとしたが上手くいかなかった。
天道がいうには素質があるらしいのだが。
(今回の“作戦”は相手より早く動くのが必須条件……やってみるかな)
エールは慎重にへそへ視線を集める。悟られないように注意しながらも、ザビーが両手を広げて余裕を見せていた。
当然の反応だ。ゼクターは通じない、クロックアップはザビーだけができる、パーフェクトゼクターの性能は高い。
しかし、エールの顔に恐怖はない。
「また懲りずにきたようだな」
明らかな挑発だ。エールは乗らず、薄く笑うだけ。ザビーが無言のエールに疑問を持ったらしく首を傾げる。
それも数秒。すぐにパーフェクトゼクター・ガンモードの銃口をエールへ向けた。
引き金に指がかかるまでの流れが、へそ付近の筋肉の動きが教えてくれた。
エールはどこへ銃口が向けられるのかを予測し、身を低くして地面を蹴る。
銃口の向きを修正しようとザビーが動くが遅い。エールは思いっきり胴凪ぎにセイバーを振るう。
「ぐあっ!?」
「一個、貸返し」
エールが静かにつぶやいて、怒りに任せながら立ち上がるザビーと距離をとった。
コツは掴んだ。あとは作戦を実行するだけ。
「望み通り嬲り殺してやる……!」
ザビーが告げると同時に、クロックアップ用のスライドボタンに触れた。
いまだ、とエールは内心告げて地面を駆ける。空間を裂いて現れたサソードゼクターを右手にとったとき、ザビーが高笑いをした。
「バカめ! サソードゼクター、こい!」
ザビーの叫びとともに、パーフェクトゼクターから金色の波長が流れ出た。
サソードゼクターは僅かに抵抗するが、無意味だ。エールの手から離れ、パーフェクトゼクターに装着される。
「くははは! このまま自分のゼクターの力に無残に斬られろ! クロックアッ……」
ザビーは加速世界への突入を宣言するが、途中で『Change ROCKMAN』の電子音で遮られる。
ザビーがクロックアップの世界へ消えたものの、ロックマン“DX(ドレイクエックス)”へと変身をしたエールも存在する。
紫の毒を流すパーフェクトゼクターの刃を身をかがめて避けて、エールはザビーの懐へ潜り込んだ。
「きさっ……!?」
ザビーの言葉を最後まで告げさせない。向けたドレイクゼクターから銃弾が吐き出され、ザビーの胸部装甲から火花が散る。
ザビーが転がり、クロックアップを強制的に止めた。ザビーがエールを睨みつける。
再び、エールはドレイクゼクターの引き金を引いた。
コーカサスが無理やりカブトエクステンダーの中央で伸びるホーンを走り、カブトを蹴りつけてきた。
腕で防ぎながら、コーカサスが反動でカブトエクステンダーから脱出を果たす。
タイヤをスライドさせ、カブトエクステンダーを止めながら「ここがしおどきか」とカブトは内心つぶやく。
「やってくれましたね、天道総司」
「安心しろ。ドクターCLとやらには手を出さない。だが、お前たちがなにかをするなら、俺も黙ってはいない」
カブトが庇うようにプレリーたちの前に出て言い切った。
ドクターCLの顔は仮面に隠れて表情がわからない。
だが、彼女が合図するまでコーカサスには攻撃する意思がないとみての牽制だ。
「天道総司。信じてもらえないでしょうが、私は彼女の前でワームにはなりたくありません。
ですので、危害を加えたくても加えられないのです」
「そうか。ならいい」
あっさりとカブトが引き下がり、プレリーへの道をあける。
カブトが簡単に引き受けたことをドクターCLは疑問に思っているだろう。
カブトにとって、ワームは憎んでも憎み足りない相手なのだ。
それでも、譲るべきことはあると知っていた。ただそれだけだ。
「さて、私たちは部外者です。席を外しましょうか」
「せっかちな奴だ」
コーカサスの言葉に応え、スッと両腕を下げた構えをとる。
二人の間に緊張が走り、同時に「クロックアップ」のかけ声は響いた。
カブトは風となり、黄金の疾風へ稲妻のごとく左右三連発の拳を繰り出す。
心の中でプレリーのことを応援して、カブトはコーカサスとの決闘へ乗り出した。
□
ザビーが左手を向けて、無数のニードルを弾丸として射出した。
エールは冷静に軌道を見極めて、両腕で構えたドレイクゼクターの引き金を引く。
『Rider shooting』
電子音を引き連れて、エネルギー弾がザビーの放ったニードルをけちらしてザビーの胸で弾けた。
ザビーが地面に転がるのを尻目に、エールの耳に『Clock over』の電子音が届いた。
「く……キサマ! サソードゼクターを囮に使ったな……。こい! ドレイクゼクター!!」
「その前にこいつをあげる。キャストオフ!」
エールの宣言とともに、ロックマンDXの装甲が弾けてモデルXの姿となる。
青いロックマンのまま、エールは破片を避けながらドレイクゼクターをパーフェクトゼクターに装着させたザビーを見つめる。
そのザビーの挙動は致命的な隙だ。エールはサソードヤイバーを取り出して宣言した。
「クロスロックオン!」
ザビーがクロックアップすると同時に、紫の装甲をまとったロックマンSX(サソードエックス)のエールも加速世界へと突入する。
風となったはずのザビーが自分の世界へ入られて唸り、エールを睨んだ。
わかりやすい相手だ。アドバンテージを奪ってしまえば驚異的な相手ではない。
モデルXとともに立てた作戦はこうだ。
複雑な作戦ではない。ドレイクグリップとサソードヤイバーをいつでも取り出せるようにして、ゼクターを二機待機させる。
相手がパーフェクトゼクターで片方のゼクターを奪うなら、もう片方のゼクターでクロックアップに対向する。
ただそれだけだ。
もっとも、最大の懸念は二つのゼクターを同時に奪えるのではないか、ということだ。
先ほどの戦闘では片方を使っている間は、もう片方を奪えていなかった。
それがブラフである可能性を考慮したのだが、こうして作戦を実行したあとでももう一つのゼクターが奪われることはない。
パーフェクトゼクターにゼクターの装着口が三つあることは、ただの杞憂か。
そのままエールはサソードゼクターの尾を押し込み、パーフェクトゼクターから放たれた分裂するエネルギー弾を迎撃する。
ザビーが再度エネルギーを充填しようとしているが、そんな暇は与えない。
この作戦に慣れて対応を早くされても困る。モデルXも静かに進むよう促した。
エールは地を駆けて、肩をかすめる銃弾を無視してザビーとの距離を零にする。
「きぃぃぃぃさまぁぁぁぁぁ!!」
「はああぁぁぁっ!」
パーフェクトゼクターに生まれた斧状の刃を避けて、サソードヤイバーを逆袈裟に振るった。
狙いはザビーゼクターを装着し、パーフェクトゼクターをもつ左手首。
「うぎゃあああぁぁぁぁぁっ!!」
豚のようなザビーの悲鳴が響き渡る。脇を通り過ぎてパーフェクトゼクターを蹴り、ライダーブレスとザビーを奪い宣言する。
「形勢逆転ね」
ザビーの装甲が剥がれ、弟切が低い唸り声をあげる。エールが刃を向けて近寄った。
こうなっては戦えない。エールはそう考えた。顔を上げた、弟切の左目を見るまでは。
「そうはいくかぁぁああぁぁぁぁっ!!」
弟切の姿が揺らぎ、銅色の怪人へと姿を変える。
アブラムシを模したワーム、フィロキセラワームであった。
背中の羽が蜂のように羽ばたき、残った左腕でエールの身体を持ち上げる。
天井にエールの身体が叩きつけられたが、エールは耐え切った。
「しつ……こい!!」
エールは鉄の味がする口内を無視して、サソードの鎧のチューブをワームに巻きつけた。
ワームが戸惑うが、エールは構わず「キャストオフ」と宣言した。
装甲にワームは引きずられ、高速に地面へ叩きつけられた。エールは重心を操縦しワームの上へ落下をする。
ワームの瞳の憎悪がエールを貫く。まだ諦めていない。ならば今の状況はまずい。クロックアップをれる前に変身をする。
青いロックマンのエールは、左手にライダーブレスをはめる。モデルXの誘導にザビーゼクターが装着された。
ドレイクグリップを取り出すよりこっちが早い。エールは落下しながら叫んだ。
「クロスロックオン!!」
『Change ROCKMAN』の電子音とともに、エールの意識が電子空間へと飛ぶ。
拡散した意識の中で、エールは新たな姿を感じ取った。
モデルXが放つ光がエールの全身を包む。
両腕を金色と黒のグローブと篭手が一体化した装甲がまとう。
青い硬質化したジャケットの色が黄色に染まり、肩に白い蜂の羽を模したショルダーアーマーがおさまる。
黒の装甲が足を包み、黄色のブーツで地面を踏みしめて、蜂の頭部に似たヘルメットが被さった。
蜂の巣状のゴーグルが降りて、エールの目を保護する。これで変身は終わった。
さっそくエールはZECTとバックルに刻まれたベルトのスライドスイッチを操作する。
エールの左腕に衝撃が走り、目の前のフィロキセラワームが低く唸る。
ロックマンTX(ザビーエックス)と化したエールは、冷静に敵の頭を蹴り飛ばした。
壁に叩きつけられたワームに左拳を打ち込んで壁に縫いつける。
「がぁっ! こ、小娘……め……!」
「悪いけど、いつまでもアンタの相手をしている場合じゃないの。ライダー……スティング!!」
エールの左手首に収まったザビーゼクターの腹部が伸び、針がワームに突き刺さる。
電撃を模したエネルギーが左腕に集まり、爆発的な衝撃を生み出してワームを壁ごと貫いた。
□
隣の部屋でカブトの戦う音がプレリーの耳に届く。
それ以外は本当に雑音もなく、プレリーは姉の姿と心を得たワームと向きあっていた。
四角い無機質な部屋で互いにかける言葉を失っている。
エールたちが戦っているのに黙ってはいられない。プレリーは意を決して口を開いた。
「お姉ちゃん……一つ聞かせて」
「プレリー、私は……」
「お姉ちゃんよ。私にとってはどうしても。そう思うことにした」
嘘だ。本当はプレリーの心は揺れている。
もしもドクターCLの選択が姉の心だとして、それが本心だとすると自分がガーディアンの司令官失格だといわれたも同然だ。
そしてすべての人類を排除し、ワームの世界を作る。それが姉の本心だと信じたくない。
様々な感情がプレリーの心中で渦巻いている。それを無視して時間は進む。
「甘いわね、プレリー」
「お姉ちゃんこそ! ワームの使命が大事だっていうなら……なんで私を殺してガーディアンを奪わないの?」
エールの問い掛けに、フッっとドクターCLが微笑む。
彼女の姿が消えたとプレリーが認識したときには、右頬に温かい手のひらが添えられていた。
「アナタが欲しいからよ、プレリー」
「お姉ちゃん……」
「そうね。結局のところ、私自身が違うといっても同一なのでしょう。アナタとの戦いを避けたい。未練がましいわ。
けど、彼女と違うところもあるの、プレリー」
ポツンとつぶやくドクターCLの声に感情は宿っていない。
モリュが銃口を向けようとして迷っているのが見て取れる。
ドクターCLも気づいているはずだが銃弾程度効かないのか、撃たないとみているのか無視していた。
プレリーの思考がそう進み終わった後、ドクターCLが優しくプレリーの頬をなでる。
懐かしい感触。プレリーの意識が一瞬だけ過去に戻った。
「私は彼女の影。影は本物になれないのはアナタも知っているはずよ。コピーエックスのようにね」
「そんなっ……!」
「だからこそ私は彼女と違う。彼女は英雄たちのデータをおさめたライブメタルを作った。
だけど私は……ワームを利用して“彼”が守ったこの世界を守ることを選択した」
「世界を……守る……?」
プレリーの頭が混乱する。無数のワームがこの世界に現れれば、混乱は必須だ。
なのに彼女はプレリーにごく自然と語ってくる。かつて、人間とレプリロイドの理想郷を語ったときと同じように。
「プレリー。この世界は一人の英雄……彼によって救われた。おかげでヒトビトは人間もレプリロイドもわけ隔てなく共存しているわ。
私はこの世界が好き。彼が守ってくれた……彼が存在してくれた証と言っていいこの世界が」
「お姉ちゃんならきっとそういうと思っていた。けど、私は納得がいかない。ワームはその平和な世界を壊すじゃない!」
「ええ、そうよ。けど、ワームが現れる前からこの世界は危機に晒されているわ」
そういってドクターCLが仮面をとる。深く静かな知性の輝きを宿した蒼い瞳。
プレリーはその姉の瞳が大好きだった。
「モデルVを作り、セルパンのような存在を次々生みだすヒトがいる。彼らの目的はこの世界を自分の都合のいいように作り変えること。
ワームになったおかげで私はその存在を知ることができた。彼らはいずれワームとは目的を違えるわ」
「まさか……お姉ちゃん!!」
プレリーはそこまできて、ようやく姉の意図をおぼろげながら掴んだ。
確かに、人間の姉なら取るとは思えない手段だ。
しかし、“彼”が守った世界を愛するため、どんな手でも使うその姿は確かにプレリーの姉だ。
ドクターCLは優秀な生徒を褒める先生のような顔で頷き、プレリーだけでなくモリュとフルーブにも視線を送る。
「毒を持って毒を制する。ええ、人間の私が使えない手だわ。だけど、影の私は……“彼”がいた世界を守るためなら手段は選ばない。
だからワームと“あの男”を潰し合わせるため、プレリーたちの力を私に貸して」
プレリーは言葉を失っていた。目の前の女性は彼女自身がいったように姉では取りえない選択をしている。
同時に、姉であるからこその選択だ。立場とワームの力を得た彼女がその選択を取るのは自然のことだった。
なぜなら……
『――――ット、――ロは言っていたわ。自分を信じろって。だから私は……ずっと信じている』
“彼”への想いの深さで世界をどんな手を使ってでも守ることを、選択していたのだから。
プレリーはなにか言葉をかけようとして、形にならず霧散する。
「そんなことは聞いていないぞ、裏切り者め!!」
だからこそ、入ってきた存在に気づかなかった。プレリーとドクターCLを狙って銅色のフィロキセラワームが右手を振るってくる。
甲高い音とともに、現れた黄色の蜂を模した装甲をまとっているエールが防いで吹き飛ばす。
プレリーが振り向くとドクターCLは跳躍して距離を取っている。
密かに、プレリーは彼女と対峙するのを引き伸ばせて安心をした。
ドクターCLは後方に跳躍して、プレリーたちともフィロキセラワームとも距離をとる。
同時に壁が崩れ、カブトが吹き飛んでいた。
とはいえ、フィロキセラワームと違って体勢をすぐに整え、プレリーたちの傍に寄る。
崩れた壁からコーカサスが現れた。ドクターCLはここまでか、とため息をついた。
「黒崎、ドクターCLを捕まえろ! その女は裏切り者だ!!」
フィロキセラワームは叫んでドクターCLを指さした。失礼な男だ、とドクターCLは眉をひそめる。
コーカサスはフィロキセラワームの言葉に従わず、ドクターCLの傍でカブトと睨み合った。
「キサマ……どういうつもりだ」
「アナタ方にもいったはずですよ。バラが見つめてくれるのはもっとも美しく、もっとも強いもの。
誰がどういう目的で動こうとも、私には関係のないこと。それに…………」
「乃木怜治はとっくに私の目的を見抜いているわ。私たちはしょせん利用しあうだけの仲……気づかなかったのはアナタくらいよ。
それよりも、弟切。ザビーゼクターをとられたのね」
ドクターCLが意識して冷たく言い放つ。仮面を再びかぶり、表情のない瞳がフィロキセラワームを見下ろした。
コーカサスが「自分がやろうか?」と視線で尋ねてくるが、ドクターCLは首を振る。
これはプレリーがいるからこそ、ドクターCLがおこなわなければならない。
「弟切ソウ、アナタに粛清を与えます。パーフェクトゼクター!!」
ドクターCLが右手を掲げた瞬間、黄金の剣の形をしたゼクターが飛んできた。
柄を掴んでドクターCLは剣先をフィロキセラワームへと突きつける。
パーフェクトゼクターが黄金の波動を発して、エールのもとからザビー、ドレイク、サソードのゼクターが飛んでくる。
「嘘! ゼクターが全部操れるなんて……さっきはそんなことできなかったのに!」
「それは当然よ。パーフェクトゼクターの資格者は彼ではなく、私なのだから」
そういってドクターCLはザビーたちが装着したパーフェクトゼクターを銃に変形させて、ワームへと姿を変える。
プレリーが息を飲むのが感じ取れた。
全身黄金のザリガニを模したワーム。サブストワームがドクターCLの変身体だ。
ハサミ状の大きな手甲の中、『ALL ZECTER COMBINE!』とパーフェクトゼクター・ガンモードが宣言する。
「くそっ! ドクターCLぅぅぅぅぅぅ!!」
「マキシマムハイパーサイクロン」
雄叫びをあげて直進してくるフィロキセラワームへ、サブストワームは無慈悲につぶやきながら引き金を引いた。
部屋に白い閃光が満ちて、視界を染めあげていく。
パーフェクトゼクターの銃口から山一つ消滅させることができる極太の光線が放たれる。
一瞬でフィロキセラワームは消滅し、ただひたすら放たれる光線をサブストワームは見続けた。
圧倒的な光の束が収束するまで、エールは一歩も動けなかった。
焦げた臭いがエールの鼻腔を刺激する。フィロキセラワームが特攻した地点へと、エールは視線を移動した。
岩肌が露出した壁も、コンクリートが固めていた地面もそこには存在しない。
高熱で熱せられ赤くなって融解する光景が、エールの視線いっぱいに広がっていた。
綺麗にエールたちを避けて放たれた光線は、体育館ぐらいの広さはある部屋の半分を消失させていた。
フィロキセラワームが存在した証すらない。
冷や汗が額から流れ、エールはバスターをサブストワームに向けながらプレリーを背中においた。
「……そんなに警戒しないでいいわ。今日のところはこれまでね」
「私はそれで構いません。天道総司……少し失望しましたよ。もっと強くなっていると思っていたのですが」
コーカサスの言葉にカブトは沈黙を返した。
仮面に隠れた顔からは表情は判断できない。
サブストワームの全身が揺らぎ、細身の女性へと姿を変わった。
同時にザビー、ドレイク、サソードがエールの元に戻る。
「待って、お姉ちゃ……」
「プレリー、ちゃんと考えていてね。できるなら、また一緒に暮らしましょう……」
そうドクターCLがプレリーに告げると同時に、地面が大きく揺れる。
地の底から低く響く音に、エールはここを爆破させるつもりだと判断した。
「それではまた会いましょう」
『待て! ……シエル』
モデルZが呼び止めたが、ドクターCLは反応しない。ドクターCLが指を鳴らすと、呼応するように天井が爆破して崩れた。
プレリーが「お姉ちゃん!」と叫んで飛びでるが、エールは止める。
「天道!」
エールが名前を呼ぶとカブトは静かに頷いた。
再びカブトエクステンダー・エクスモードがエールたちの傍に寄る。
「みんな、乗れ。あいつが開けた穴から逃げる。…………モデルVは諦めろ」
カブトの言葉に従い、エールは唇を噛んだ。
弟切には勝ったが、それ以上にプレリーの精神的な被害は大きく、敵の情報も得れていない。
実質的な敗北だ。苦いものを噛みしめて、エールはプレリーを掴んでカブトエクステンダーに乗った。
□
「モデルVを転送するのを成功したわ。あれだけ巨大なものだからずいぶんエネルギーは失ったけど……」
ドクターCLはコーカサスに告げて携帯端末をおさめる。
視線はプレリーたちがいるだろう方向へ向けていた。
「彼女たちなら心配はいりませんよ。天道総司がついている」
「……意外ね、アナタからそういう言葉を聞けるなんて」
「過小評価をしないだけです。それよりも、アナタは大丈夫ですか?」
コーカサスの変身を解きながら、黒崎が聞いてきた。
ドクターCLはキョトンとして黒崎の瞳を見つめ返す。彼の目は真剣であった。
「大丈夫よ。私は決めたもの……この世界を守るために手段を選ばないって」
「そうですか」
ドクターCLの言葉に黒崎の返事は簡素であった。
あのとき、ドクターCLの告げた言葉は弟切が指摘したように、裏切り行為だ。
乃木怜治が黙認しているとはいえ、黒崎に殺されても仕方ないことである。
なのに、彼とスティールエッジは黙認する道を選んだ。いや、むしろ彼らは協力的ですらある。
ドクターCLは不思議だった。世界などどうでもいい、といった割に黒崎の態度はおかしいのだ。
無関心とは違う。むしろ……。
「今が辛くとも、いつか報われるときもきます。薔薇につぼみの時期があるようにね。ドクターCL、乗ってください」
慰めてくれたらしい。本当に掴めない相手だ。
ドクターCLは仮面の下で微笑み、弟切が残したマシンゼクトロンに乗る黒崎の後ろへ腰をおろした。
To be continued……
投下終了します。
次はもう少し早く投下しようかと。
それでは失礼します。
投下乙
前回渡が本格的に介入してきたんでクライマックスかと思ったんだけど、まだまだ続きそうだなあ
それと、終始小物のまま逝った弟切さんに合掌
投下乙!
あ〜ん、弟切さんがしんだー!まぁあいつらしい末路だったから問題ないんだけど
ザビーもゲットし、残るゼクターはガタック、ホッパーか
ホッパーはやっぱりあの人たちが持ってるのかなあ?
ドクターCLの目的が明らかになったけど、まだまだストーリーは続きそうだな
随分時間があいてしまいましたが……二話目を投下します
・仮面ライダーディケイド×とある魔術の禁書目録
・ディケイドの冬の映画のネタバレあり
・ところどころオリジナル設定あり
・ノリは戦隊VS系列な感じで
仮面ライダーディケイド
VS
とある魔術の禁書目録
第二話「お宝、禁書目録」
◇
海東は一人第七学区を歩いていた。
二人の少女との戦いの後、この世界で自分たちがおかれている状況を詳しくしるために動こうとしたのだが、士は指名手配されてる上右手に深い傷を負っている。
そこで士と夏海を光写真館に残し、ユウスケと海東の二人が別々に情報収集している最中だ。
最も、海東の意識はすでに学園都市の「お宝」に向いているのだが。
「この世界はすごいね、技術レベルが他の世界の数十年は先に行ってる……どれも他の世界から見ればお宝として申し分ない」
そう言いながらも、海東は幾度とすれ違っているドラム缶のような清掃ロボット等には手を出そうとしない。
彼が狙うのはその世界におけるお宝、こんないくつも走っているような量産品など問題外だ。
しかし、自分の知っている技術レベルを上回っている世界で果たしてそのお宝を見つけることができるのだろうか。
彼にしては珍しく弱り顔で考え込んでいると、近くから何やら言い争う声が聞こえそちらに意識を向けてみる。
「とーまはどうしてそう一人で危ないことに首を突っ込もうとするの!?」
「あのなぁ、これは学園都市に起きてる事件なんだ、魔術師が関係ないならお前が出てくる必要性はないだろ」
「だからってとうまが行く必要もないんだよ! それに魔術師が相手じゃなくたって、私の十万三千冊の魔道書が役に立つかもしれないもん!」
次の瞬間、海東は迷うことなく声のする方へと足を進めていた。
◇
上条と土御門の二人は簡単な状況を確認した後、男子寮の前で話している二人の少女を視認する。
白の修道服に金の刺繍を施した銀髪の少女の名はインデックス、完全記憶能力を持ち、その頭脳に十万三千冊もの魔道書を記憶しているシスターだ、元は魔術サイドの人間ながら複雑な事情から上条と共に暮らしている。
そのインデックスと話しているのはメイド服を着た少女、土御門舞華、土御門元春の義妹でありメイド学校に通い一人前のメイドを目指して日々精進する毎日を過ごしている、何故清掃ロボットの上に正座しているのかは本人にしかわからない。
楽しそうに会話する二人を見て上条の表情が曇る。ディケイドからインデックスを守るには、上条の部屋で隠れているのが一番だ。
だがそうなると舞華との会話を邪魔することになってしまう、正式な手続きの元学園都市に潜り込んでいるインデックスは上条を介さない友人がほとんどいない、例え緊急事態だろうとその数少ない友人関係はできる限り大切にしたいと思ってしまう。
「ま、その辺はしかたないにゃー、禁書目録や舞華を巻き込むわけにはいかんぜよ」
「……そりゃそうだよな、悪い」
そんな思考を見抜いたのだろう、土御門がワンテンポ歩調を速めて二人の元へ先にと向かう。
一度会話を邪魔された程度で途切れてしまう程度の関係ではない、それをわざわざ守ろうとしてそれ以上の脅威に曝すわけにはいかない。
上条も歩調を速めて土御門と並びインデックス達へと声をかける、こちらに気づき笑顔を浮かべて手を振ってくるのを見ると、世界の破壊などというふざけた目的のためにこの少女を利用するなど許せることではないと怒りの感情が湧いてくる。
(そいじゃかみやん、俺は舞華を寮まで送っていくから、こっちは頼んだぜい)
小声で上条へそう伝えると、どう制御してるのか清掃ロボットの動きを器用に操る義妹を連れて土御門は去っていく。
いつもなら常日頃から学園都市を歩き回って(清掃ロボットを使った移動方法を「歩く」と表現するならばだが)いる舞華に付き添いなど不必要だろう。
しかし今は違う、危険人物がいる中彼女を一人にするという選択肢は土御門に存在しない、彼がこの世のなによりも守りたいもの、それが土御門舞華なのだから。
(そうだ、世界の破壊者だなんてわけのわからない奴に大切なものを壊されてたまるかってんだ)
「とーま? 急に黙ってどうしたの?」
首を傾げながら見上げてくるインデックスを見て、上条は少し考える。
土御門はアンチスキルやジャッジメントの仕事と言っていたが、ディケイドの脅威に対して受身のままでよいのだろうか?
流石にレベル5にも相当する力を持つ相手に上条一人で勝てるとは思わないにしろ、相手がどこにいるかを探す程度はできるはず。
ディケイドがいる限り学園都市の住人も怯え続けることになるのだから、出来る限りのことはして損はないだろう。
「インデックス、先に部屋に戻っててくれないか、俺はちょっと用があるから」
思いっきりジト目で睨まれた。
「……何故そのような目で上条さんを見つめておられるのでしょうか?」
「とーまが何か隠し事をしてるんだよ」
「ははっ、何を言ってるのかなインデックスさんは、そうか、お前また腹が空いてるんだろ? わかったわかった、帰りに何か買ってくるからそれまで――」
「人をいつでも飢えてるみたいに言って欲しくないかも! 後ご飯は今すぐ欲しい!」
「お前それやっぱ飢えてるんじゃ――待て! 上条さんの頭は決して食料では――――!!」
※ただいまお見苦しい映像が流れています。今作で欠片も出番がない姫神さんをご覧になってお待ちください。
「その話ならマイカから聞いたんだよ」
執拗に噛み付いてくるインデックスを何とか引き剥がし、渋々とディケイドに関する話を伝えた。
指名手配されてるだけのこともあり、学園都市全体にその話は伝わっているようだ、インデックスは舞華から受け取ったらしきプリントを見せてくる。
「そっか、それなら話が早いや、上条さんはそいつを探すのに忙しいのでインデックスは部屋にいるように、以上」
「ところどころ話が繋がってないんだよ」
相変わらずジト目のインデックスに対して、上条は面倒くさそうに頭をかきながら口を開く。
「仕方ないだろ、こんな奴いつまでも野放しにするわけにはいかねーよ」
「とーまはどうしてそう一人で危ないことに首を突っ込もうとするの!? せめて私を連れて行ってほしいかも!」
「あのなぁ、これは学園都市に起きてる事件なんだ、魔術師が関係ないならお前が出てくる必要性はないだろ」
「だからってとうまが行く必要もないんだよ! それに魔術師が相手じゃなくたって、私の十万三千冊の魔道書が役に立つかもしれないもん!」
寮の前で言い合いになる、互いに危険な真似をさせたくないという同じ感情からの行動であるがために話は平行線のままだ。
このまま不毛な口論が続くかと思われたが、一人の男が間に割って入り中断される。
「すまない、少し話を聞かせてもらえないかな」
「え、あんたは……?」
「僕は海東大樹、覚えておいてくれたまえ」
些か高圧的な態度に少し眉を顰めるが、大声で言い争っていた自分が言えることではないと気づき肩を落とす。
続けて先ほどの話を聞かれていたのではないかと焦る、インデックスは本来魔術側の人間でありながら科学サイドの学園都市に住んでいるという特別な存在だ、学園都市のIDなど持ってはいないし、そのあたりのことを問われると様々な方向から面倒なことになってしまう。
「えーと、な、なにか……?」
「うん、そっちの子に聞きたいことがあってね」
「私?」
インデックスを指して言う海東に上条は焦りを強くする。
当のインデックス自身は何も理解していないようで首を傾げて一歩近づき、
「……いい反応だね」
「インデックスに何の用だ、てめぇ」
怒気の籠った視線で睨みつけると、インデックスに伸ばし上条に掴まれた手を戻しながら海東は小さく笑みを浮かべる。
「そんなに睨まないでくれたまえ、危害を加える気はない」
「何の用だ、って聞いてるんだ」
「僕の望みはただ一つ、その子の持っているお宝を頂戴したいだけさ」
「――っ!」
その言葉を聞き、上条はインデックスを庇うように前に立つ。
海東はその笑みを崩さぬままディエンドライバーを取り出し上条へと向けた。
突きつけられた銃口にも、上条は怯まず睨みつける。
「邪魔をしないでほしいな、誰かを怪我させると士がうるさそうだ」
「ふざけんな!」
「交渉決裂か……なら、力づくで頂こう、変身!」
『KAMEN RIDE DIEND!』
「とうま!」
「インデックス、下がってろ!」
ディエンドへと変身した海東を見て上条は拳を握る。
相手がどういった力を持つのかわからないが、上条に勝算は充分にあった。
今の「変身」は間違いなく異能の力、ならば彼の右手に宿る、全ての異能の力を打ち消す幻想殺し【イマジンブレイカー】であの鎧を破壊することができるはずだ。
海東が次の行動に移る前に踏み込み、その右手を構え――軽く左手で払われる。
「がっ!?」
「君はさっきの女の子達みたいに変な力を使わないんだね、それじゃあ僕には勝てないよ」
(こいつ、速い……!)
視界が揺れる、軽く叩かれただけだというのに体の芯までダメージが届いていた。
イマジンブレイカーは右手で触れなければ効果はない、純粋な身体能力で負けていてはいいように打たれるだけだ。
それでも上条は立ち上がる、圧倒的な力の差、上条当麻にとって「そんなもの」は退く理由にならない。
◇
土御門元春は一人の青年と対峙していた。
すでに舞華は先に帰らせてある、多少不信感を持たれたかもしれないがそれでもこれから行われることに巻き込むわけにはいかない。
サングラスの下の視線を鋭くさせ、土御門は対峙している青年、ユウスケへと口を開く。
「それで、この手配犯について聞きたいんだったか」
「ああ、何でもいいから知ってることを聞かせてくれないか?」
ユウスケが自分のバイク、トライチェイサーから降りてくるのを見て、土御門は人懐っこい笑みを浮かべる。
「いいぜよ、俺の知ってることなら何でも教えるにゃー……でもその前に一つ聞かせてくれないか」
「え、何だ?」
「お前、どうやってこの街に入った?」
「どうって……ふ、普通にバイクで――!?」
他人に言っても到底信じてもらえない方法で来たユウスケは咄嗟に嘘をつくが、その瞬間土御門は深く踏み込んでくる。
突然の行動に思わず身を引こうとするが、それよりも早く土御門は更にもう一歩、足を強く前に出す。
「が……あ!?」
土御門の着地点は地面ではなく、足。
ユウスケの神経が集中している足の親指を踏み潰すという、格闘技では反則技とされている行為によって激痛が走る。
思わず後ろへ下がろうとするがその足は縫い止められている、動きが止まり、思わず視線を落とした直後死角から土御門の追撃が決まる。
揺れる視界の中、自分のこめかみへと拳が放たれるのをかろうじて確認する、咄嗟にガードするが衝撃は来ない、この距離で外したのかと不思議に思った瞬間、
「―――っ」
ユウスケがその場に崩れ落ちる。
ブレインシェイカー、後頭部に強い衝撃を与えバランス感覚を完全に「壊す」技。
先ほどの踏み潰しと同じように各種格闘技で反則技とされている行為である、後頭部への攻撃はどれだけ体を鍛えようと防げず、脳障害を引き起こしやすい。
土御門の戦い方はまともな勝負では絶対に許されない反則攻撃のオンパレードだ、だが彼はその事に抵抗感は感じない、大切なものを守れるのならば「汚い」だの「卑怯」なんていう罵りはいくらでも受けてやる。
「さて、もう一度質問だ……お前、どうやってこの街に入った?」
サングラス越しでもその視線の冷たさを感じる。
すぐに体勢を整えなければと考えるが、先ほどの攻撃の影響で体はいうことを聞いてくれない。
(くそ……もう俺が士の仲間だって広まってるのか!?)
この世界で最初に出会った二人の少女は自分に対しては無警戒だった、だからまだ大丈夫だろうと考えていたが甘かったようだ。
「答えろ、喋る程度の事はできるはずだ」
土御門の声に思わず背筋が凍りそうになる。
相手を殺すことに恐怖を抱いていた少女とは違い、この殺気は本物だ、この青年は必要ならば迷わず自分を殺す。
「ま、待ってくれ……俺達は、士は世界の破壊者なんかじゃ……」
「聞いたことだけ喋れ」
頭のすぐ横を強く踏み砕く。
思わず言葉を失うユウスケを、土御門は一切の感情を排除した魔術師としての表情で見降ろしていた。
◇
「いい加減諦めてほしいな」
「と、とうま……」
声に疲労の色を混ぜながら海東が呟く。
あれから一方的な蹂躙が続いていた。
インデックスに海東が近づこうとすると上条が立ち塞がり一撃で倒される、この繰り返し。
海東が上条を殺してでもお宝を手に入れようという考えを持っていたらとっくに決着はついていただろう、それほどまでにディエンドの力は上条を上回っていた。
だというのに、
「うる、せぇ……!」
上条は立ち塞がるのを止めない。
必死に振り回す右手がかすりもしなくとも、一度倒されるたびに致命傷には遠くとも無視していいレベルではない傷が増えても、
その身を盾として、海東とインデックスを引き離そうと立ち上がる。
「……やれやれだ」
深く溜息を吐き、ディエンドライバーを振り上げる。
素手で殴られただけで吹き飛ばされていたのだ、これをまともに食らえば無事では済まない。
「とうま!」
インデックスが叫ぶが、上条は一歩も引かずに海東を睨みつける。
海東はその目を見て一瞬動きを止め、そのまま腕を、
「炎よ(Kenaz)―――」
突如聞こえた男の声に動きが止まる。
その声の聞こえた方向に視線を向け――
「――――巨人に苦痛の贈り物を(purlsazNaupizGebo)!」
轟という爆発が生んだ摂氏3000度の炎の剣が海東を吹き飛ばした。
「ぐ……! 何だ!?」
「これは……」
「何をやってる上条当麻、そんなことでその子を守れるのか?」
「ステイル!?」
ステイルと呼ばれた男が懐からパラパラとカードのような物をばらまきながら歩いてくる。
その赤い髪が目を引き、続いて右目の下のバーコード状のタトゥーが見るものの気を引いている。
タバコを上下に燻らせながら吸っていたりと、とてもそうは見えないだろうがネセサリウスの神父である。
「なるほど、仲間が来るのを待っていたってわけだね」
上条にそんな考えはなかったのだが、それに気付くわけもなく海東は一人納得しディエンドライバーをステイルへと構えた。
「なら、君を倒せば大人しくお宝をくれるかな?」
「お宝?」
「……こいつ、魔道書を狙ってるんだ」
「へぇ……」
その言葉を聞いてステイルの目が鋭くなる。
ステイル=マグヌスが戦う理由は一つだ、ある少女を守るため。
その少女を傷つける者がいるなら、例えそれがどんな相手であろうとも焼き殺す。
「なら……遠慮は、しない!」
彼が魔術を使うのに欠かせないルーンの印が刻まれたカードを一帯にばらまき、二本の炎剣を手に海東へと駆け出す。
正面から突撃してくるステイルに対し、海東は冷静に照準を合わせて銃弾を放つ、その狙いは違わずステイルの肩口へと向かい――すり抜けた。
「なに!?」
「灰は灰に(AshToAsh)
塵は塵に(DustToDust)
吸血殺しの紅十字(SqueamishBloody Rood)!」
驚愕する海東へと両手に持った炎剣を叩きつけ爆発させる。
ステイルは炎の属性に特化した魔術師だ、故に熱や温度の変化による現象に関してはお手の物。
彼の『蜃気楼』によって視覚を狂わされた海東はまともにステイルの姿を捕えることができず、防戦に回る。
「ふん、この程度か」
「勘違いしないでくれたまえ、僕はまだ全然本気を出していないよ?」
いつの間にか海東の左手に一枚のカードが存在していた。
ステイルが表情を険しくして炎剣を振るうが、それを軽く回避しながらディエンドライバーへセットする。
「実態が見えないなら、こういうのはどうかな」
『ATTACK RIDE BLAST!』
電子音と共に放たれた銃弾は不自然な軌道を描きながら周囲一面へと降り注ぐ。
これでは視覚を誤魔化したところで関係はない、舌打ちをしながらステイルが下がり、その隙に更にカードを取り出す。
「頼んだよ、兵隊さん」
『KAMEN RIDE RIOTROOPER!』
ディエンドライバーから三人の新たな仮面ライダーが出現する。
全員が同じ姿のこのライダーの名前はライオトルーパー、簡易型の量産仮面ライダーだ。
「召喚魔術か!」
「違う、この人の使う力はどれも魔術じゃない!」
「けど、科学の力でこんなこと……!?」
ディエンドの力の正体が掴めず困惑する三人へと、ライオトルーパーと海東が襲いかかる。
◇
「俺が、俺達がこの街に来た方法は」
土御門に見降ろされたままユウスケは口を開く。
「……来た方法は?」
話すのを躊躇うユウスケを急かすように足を踏み鳴らす。
下手に時間を稼ごうとすれば手足を折るぐらいはやりかねない、ユウスケは慌てて言葉を続ける。
だが、それは土御門に屈したわけではない。
「俺達は、士は破壊者なんかじゃない!」
「っ!?」
叫ぶと同時に足首を掴み引き倒そうとする。
ブレインシェイカーの影響で動けるはずがないと考えていた土御門は対応しきれず、倒れこそしないものの大きく体勢を崩してしまう。
その隙にユウスケは距離をとり、自らの力を引き出す"スイッチ"となる動作を始める。
自身の腰元に現れたベルトに左の拳を添え、右手を前方に突き出し水平に動かしてからベルトの左拳へと右拳を移し、叫ぶ。
「変身!」
次の瞬間、ユウスケの体をクウガの力が包み込む。
黒いスーツに赤い装甲、赤い瞳、金色の角と装飾で彩られた、人類の敵グロンギと戦うためのリントの戦士、仮面ライダークウガ。
土御門の予測より遥かに早くブレインシェイカーのダメージから回復したのも、クウガのベルトに埋め込まれた霊石アマダムの力だ。
「頼む、話を聞いてくれ!」
「……」
ユウスケの言葉には答えず、土御門は静かに拳を構える。
話し合うことはできそうにない様子に悔しげに拳を握り、自身も構えを取る。
「どうしても戦うっていうなら、相手になってやる!」
姿を変えたユウスケを警戒するように慎重に間合いを取る土御門へ、一気に駆け出し間合いを詰める。
先程は為す術なくやられてしまったが、この相手は電撃などの能力ではなく打撃がメインらしい、それならばクウガの力で防ぎきれるはずだ。
クウガの速度にわずかに焦りの感情を滲ませながら土御門も前に出て、繰り出された拳に肘を合わせる。
拳破壊を狙ったその行動は完全に裏目に出た、クウガの力によって強化されたユウスケの拳は逆に土御門の肘を打ち砕く。
「がっ……!」
「あ!?」
呻きながら飛び退く土御門にユウスケは慌てて攻撃を中断する。
生身の人間を攻撃するにはクウガの力は強すぎる、怪人でもない人に余計な怪我を負わせたくないが、今のように攻撃的な受け方をされてはこちらが意図しないダメージまで与えてしまう。
せめて今の一撃で戦意を失ってくれればよかったのだが、砕かれた肘を抑えながらも土御門は逃走する気配を見せない。
「もう止めるんだ! どうしてそこまでして戦う!」
「……」
無言のまま土御門は黒い折り紙を取り出す。
瞬間、周囲一帯の空気が冷たく変わりユウスケの本能が危険を告げる。
「黒キ色ハ水ノ象徴(さあおきろクソッたれども)――」
「くっ!?」
土御門の口から紡がれる言葉の意味は理解できない、だがそれが放って置いてよいものではないことだけははっきりと伝わってくる。
「超変身!」
開いた間合いを駆けながら叫び、クウガの更なる力を引き出すスイッチを入れる。
一瞬にしてクウガの装甲と瞳が青く変わり、その手に同じ色の棒状の武器、ドラゴンロッドが生み出される。
青のクウガ・ドラゴンフォーム。
先程までの赤のクウガ・マイティフォームと比べると力で劣るが、その分機動性に優れる形態だ。
その速度を持って一気に間合いを詰め、折り紙を持った腕へとドラゴンロッドを振り――
ごぽり、と。
土御門の口から赤い液体が溢れる。
「え――?」
「其ノ暴力ヲ以テ道ヲ開ケ(ぜんぶこわしてゲラゲラわらうぞ)!!」
次の瞬間、何もない空間から直径一メートルほどの水の球体が生まれ、勢い良くユウスケの体に突き刺さった。
◇
「このおおおおおお!」
上条の放った右拳がライオトルーパーの顔面に突き刺さり、同時にその存在がイマジンブレイカーの力によってかき消される。
その横でステイルが残る二人のライオトルーパーを炎剣で焼殺し、そこで体力が尽きたか二人ともその場に膝をついてしまう。
「思ったよりも頑張ったけど……チェックメイト、かな?」
海東が僅かばかり感心したような声をあげながらディエンドライバーを構えるが、上条とステイルは睨み返すことしかできない。
そのまま引き金にかけられた指に力が込められ――動きが止まる。
「これ以上、二人を傷つけないで!」
「イン、デックス……!?」
「……!」
上条達の前に立ち、睨みつけてくるインデックスに海東は「ふむ」と肩を竦めて構えを解く。
「何度か言ったけど、僕はお宝さえ貰えればそれでいいんだけどな」
「……魔道書は危険な物なんだよ、並の人じゃ読んだだけで心が壊れてしまう」
「それは凄いね、ますます手に入れたくなったよ」
投下!きた!支援!
警告にも耳を貸す様子のない海東にインデックスは目を伏せる。
二人を守るには自分が行くしかないだろう、魔道書を悪用させるわけにはいかないが、このままでは上条達が死んでしまう。
相手に殺す気はなさそうだが、それでも大切な者を守るためには絶対に退かないのが上条当麻という男だ。
「……わかった、あなたについてくよ、だからとうま達に手を出さないで」
「うん、賢明な判断だ」
満足そうに頷かれ、それでも少し躊躇しながら足を進める。
最後に一度、上条の方を振り返り、
「え?」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
先程まで動くことすらままならかったはずの男が、叫びながら駆け出していた。
これが上条当麻という男、他人のためなら、例え神が相手だろうと限界を超えて立ち向かう。
一瞬でインデックス側を駆け抜け、そのまま海東へと右手を振りかぶり、
「諦めたまえ」
たった一発の銃弾で打ち倒される。
「とうま!」
「死んではいないさ、さあ、お宝を――」
「まだ……だ……!」
「――なに?」
倒れ伏したままで、それでも拳を握り上条は声を上げる。
その言い得ぬ気迫に海東は僅かにたじろぎ、上条の更に背後から感じる殺気に視線を移す。
「そうだろ……」
「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ(MTWOTFFTOIIGOIIOF)
それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり(IIBOLAIIAOE)
それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり(IIMHAIIBOD) 」
「なあ、ステイル!」
「その名は炎、その役は剣(IINFIIMS)
顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ(ICRMMBGP)!」
詠唱と共にステイルの修道服の胸元が大きく膨らむ。
轟! という炎が酸素を吸い込む音と同時に、服の内側から巨大な炎の塊が飛び出した。
それはただの炎などではない。
真紅に燃え盛る炎の中で、重油のような黒くドロドロとしたものが芯をなして人の形を成している。
これこそがステイル=マグヌスの切り札、『必ず殺す』という名の下生み出された炎の巨神。
「やれ、"魔女狩りの王"【イノケンティウス】」
炎の巨神が海東へとその腕を振り下ろす。
慌てて逃げ出すインデックスが目に入るが、流石にこの状況でそちらにかまけているわけにはいかない。
『ATTACK RIDE BARRIER』
素早く取り出したカードによって目の前に青い盾を生み出しイノケンティウスの攻撃を防ぐ。
すぐさま間合いを取ってディエンドライバーによる銃撃を加えるが、一瞬はじけ飛ぶもののすぐに元に戻ってしまう。
「再生能力か、確かにやっかいだけど……」
あくまでも余裕を崩さぬまま、切り札となるカードを差し込みディエンドライバーを構える。
『FAINAL ATTACK RIDE DIDIDIDIEND!』
ディエンドライバーの先に無数のライダーが描かれたカードによる円が現れる。
その先にイノケンティウスを捕らえ、海東は引き金を引く。
「イノケンティウス!」
ステイルの指示を受け、放たれた光弾を叩き潰すように炎の巨神が迎撃しようとする。
「無駄だよ」
海東の言葉通り僅かな拮抗の後イノケンティウスは弾き飛ばされてしまう、ただの銃撃でもダメージを負う以上、それを遥かに上回る攻撃を防げる道理はない。
それでも弾かれる先から再生してはいるのだが、ディエンドの攻撃を防ぎ切るにはいたらない、エネルギーの本流はステイルへと目がけて突き進んでいく。
イノケンティウスの制御に集中しているステイルにそれをかわす術はなく――
「上条当麻!」
「おお!!」
もはや何度目になるのか、またも立ち上がった上条がその右手で光弾を抑え――消滅させた。
「……まさか、ここまでとはね」
ライオトルーパーを消し去った時から、否、執拗に右手での攻撃を繰り返していた時から上条の右手には何らかの力があると考えてはいたが、まさかこちらの切り札さえも一発で消されるとは思っていなかった。
どうするべきか思考する間もなく、イノケンティウスが再度海東へと迫りその腕を振るおうとする。
「仕方ない、今日はこの辺りで退散しよう」
『ATTACK RIDE INVISIBLE!』
電子音が流れると共に海東の姿が消え去り、イノケンティウスの腕が空を切る。
姿を消して攻撃してくるのかと三人は周囲を警戒するが、いつまで経っても何も起こらないことに、本当に撤退したのだとようやく息を吐いた。
「くそ、何だったんだよ、あいつ……!」
「まったく、この街に来ると碌な事がないね」
「ふ、二人とも早く怪我の手当をしないと!」
慌てるインデックスをよそに、上条とステイルは海東の事を思い浮かべる。
魔術でも科学でもない力、それを自在に操り世界を混乱に招こうとしている者。
奴を放っておくのは危険だ、あれだけの力、世界を破壊するとは些か大げさとも思えるが、それでも力の無い者の平穏を脅かすには充分すぎる。
……だが、二人にとってはそんなことどうでもいい。
彼らにとって重要なのはただ一つ、目の前のこの少女を巻き込んだという、それだけのことが何にも勝る戦う理由となるのだ。
◇
「ぐ、あ……!」
ユウスケは地を這いながら呻き、何とか立ち上がろうとするがすぐさま崩れ落ちてしまう。
次の瞬間青い装甲が白くなり、どこか先程と比べると弱々しい印象へと変化する。
白のクウガ・グローイングフォーム。
言わば不完全なクウガの力、ユウスケのダメージが大きくなりクウガの力を扱いきれなくなった時に変化する緊急時の形態だ。
(しまった……紫のクウガだったら、ここまでのダメージは……!)