1 :
創る名無しに見る名無し:
2 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/15(火) 01:27:03 ID:0qYc94tf
★参加者名簿(決定)★
3/6【スパイラル 〜推理の絆〜】
○鳴海歩/○結崎ひよの/●竹内理緒/●浅月香介/●高町亮子/○カノン・ヒルベルト
5/6【トライガン・マキシマム】
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/●ニコラス・D・ウルフウッド/○ミリオンズ・ナイブズ/
○レガート・ブルーサマーズ/○ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク/○リヴィオ・ザ・ダブルファング
3/6【ハヤテのごとく!】
●綾崎ハヤテ/○三千院ナギ/●愛沢咲夜/●鷺ノ宮伊澄/○西沢歩/○桂雪路
4/6【鋼の錬金術師】
○エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/○ゾルフ・J・キンブリー/○グリード(リン・ヤオ)/○ウィンリィ・ロックベル
4/5【うしおととら】
○蒼月潮/○とら(長飛丸)/○ひょう/○秋葉流/●紅煉
3/5【未来日記】
○天野雪輝/○我妻由乃/●雨流みねね/○秋瀬或/●平坂黄泉
3/5【銀魂】
○坂田銀時/●志村新八/○柳生九兵衛/○沖田総悟/●志村妙
4/5【封神演義】
●太公望/○聞仲/○妲己/○胡喜媚/○趙公明
2/4【ひだまりスケッチ】
○ゆの/●宮子/○沙英/●ヒロ
3/4【魔王 JUVENILE REMIX】
○安藤(兄)/○安藤潤也/●蝉/○スズメバチ
4/4【ベルセルク】
○ガッツ/○グリフィス/○パック/○ゾッド
1/4【ONE PIECE】
●モンキー・D・ルフィ/●Mr.2 ボン・クレー/●サンジ/○ニコ・ロビン
2/4【金剛番長】
●金剛晄(金剛番長)/○秋山優(卑怯番長)/○白雪宮拳(剛力番長)/●マシン番長
3/3【うえきの法則】
○植木耕助/○森あい/○鈴子・ジェラード
0/2【ブラック・ジャック】
●ブラック・ジャック/●ドクター・キリコ
1/1【ゴルゴ13】
○ゴルゴ13
45/70
3 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/15(火) 01:28:04 ID:0qYc94tf
★ロワのルール★
OPなどで特に指定がされない限りは、ロワの基本ルールは下記になります。
OPや本編SSで別ルールが描写された場合はそちらが優先されます。
【基本ルール】
最後の一人になるまで殺し合いをする。最後まで生き残った一人が勝者となり、元の世界に帰ることができる。
参加者間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、参加者は会場内にランダムで配置される。
【首輪について】
参加者には首輪が嵌められる。首輪は以下の条件で爆発し、首輪が爆発したプレイヤーは例外なく死亡する。
首輪をむりやり外そうとした場合
ロワ会場の外に出た場合
侵入禁止エリアに入った場合
24時間死者が出ない状態が続いた場合は、全員の首輪が爆発
【放送について】
6時間おき(0:00、6:00、12:00、18:00)に放送が行われる。
放送の内容は、死亡者の報告と侵入禁止エリアの発表など。
【所持品について】
参加者が所持していた武器や装備などはすべて没収される(義手など体と一体化しているものは没収されない)
かわりに、支給品の入ったデイパックが支給される。
デイパックは何故か、どんなに大きな物でも入るし、どんなに重い物を入れても大丈夫だったりする。
デイパックに入っている支給品の内容は「会場の地図」「コンパス」「参加者名簿」「筆記用具」
「水と食料」「ランタン」「時計」「ランダム支給品1〜2個」
※「参加者名簿」は、途中で文字が浮き出る方式
※「水と食料」は最低1食分は支給されている。具体的な量は書き手の裁量に任せます
4 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/15(火) 01:29:24 ID:0qYc94tf
★書き手のルール★
【予約について】
予約はしたらばにある予約専用スレにて受け付けます。
トリップをつけて、予約したいキャラクター名を書き込んでください。
予約期限は3日(72時間)です。期限内に申請があった場合のみ、3日間延長することができます。
これ以上の延長は理由に関わらず一切認めません。
予約に関するルールは、書き手からの要望があった場合、議論のうえで変更することを可能とします。
【キャラクターの死亡について】
SS内でキャラが死亡した場合、【(キャラ名)@(作品名) 死亡】と表記してください。
また、どんな理由があろうとも、死亡したキャラの復活は禁止します。
【キャラクターの能力制限について】
ロワ内では、バランスブレイカーとなるキャラの能力は制限されます。
【支給品制限について】
ロワ内では、バランスブレイカーとなる支給品は制限されます。
5 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/15(火) 01:30:16 ID:0qYc94tf
【状態表のテンプレ】
SSの最後につける状態表は下記の形式とします。
【(エリア)/(場所や施設の名前)/(日数と時間帯)】
【(キャラ名)@(作品名)】
[状態]:
[服装]:(身に着けている防具や服類、特に書く必要がない場合はなくても可)
[装備]:(手に持っている武器など)
[道具]:(デイパックの中身)
[思考]
1:
2:
3:
[備考]
※(状態や思考以外の事項)
【時間帯の表記について】
状態表に書く時間帯は、下記の表から当てはめてください。
深夜:0〜2時 / 黎明:2〜4時 / 早朝:4〜6時 / 朝:6〜8時 / 午前:8〜10時 / 昼:10〜12時
日中:12〜14時 / 午後:14〜16時 / 夕方:16〜18時 / 夜:18〜20時 / 夜中:20〜22時 / 真夜中:22〜24時
6 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/15(火) 02:14:13 ID:bzPUEieX
落ちるの嫌だし、いくつか適当に次の話で絡みそうな面子をまとめてみた。
・デパート周辺
妲己、潤也、植木、銀さん、沙英、卑怯(+剛力:これから単独行動の可能性あり)
・居酒屋周辺
とら、雪路、ナイブズ、ハム、(+趙公明、キンブリー、ゆの、森:反応次第でワンクッション?)
・神社周辺
流、スズメバチ、ロビン(+カノン:少し時間が遅い)
・歩-由乃ライン
歩、グリフィス、由乃、ユッキー(+或、リヴィオ、ひよの:ネットが絡む場合)
ここのdatの基準ってどうなんだ?
>>9 どこもヤバそうだな
カノンの動向次第ではただでさえ珍しいマーダートリオがマーダーカルテットになるかもしれないのか
チームプレイによる対主催ハントとかになったら面白そうだな
ロビンは現状マーダー寄りだけど、どっちかっつーとマーダーキラーにより近いだろ
真性マーダーと組めるとは思えんが
流兄ちゃんなら口八丁でどうにかしそうな気がする
むしろスズメバチの方が制御出来る気がしないw
ロビンはマーダーキラーというより復讐狙いじゃないか?
ところでしたらばの広告は何とかならんかね
一ヶ月近くそのままだな
17 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/19(土) 19:53:09 ID:s6otL2gP
あ、予約来てるわ
そっちに行くのか
あれ?トリップがおかしくね
鳥の仕方を知らないのかも
ここ見てるだろうから以下の説明を読んで予約し直して頂けると有難い
トリップの簡単な説明
トリップは2ch上での身分証明として使われる
具体的には名前欄に
#+文字列
を入れるとトリップが自動で生成される(文字列は何でもいい)
文字列は暗証番号のようなものなので#111111などの単純なものは避けること
ただし文字列は8バイト以下でないとしたらばと2chとで違うトリップになるので注意
ありがとうございます。
けど今死ぬほど熱が出てるので予約は破棄させてもらいました
タミフル飲んで寝てくる
残念です
お体を大切に
いつでも待ってます
しかし読み返してみたら前の漫画ロワとは空気違いすぎるな
2ndにするのでなく新にしたのは正解だったな
ひよのが離れすぎ
お、再予約来たな
仮投下しました。
確認よろしくお願いします
仮投下乙
感想は本投下時に
話に矛盾は無いと思う
ただ気になった点が二つ
・ゴルゴの状態票の場所と時間が抜けてる
・安藤の状態票の落下時間の7秒は短くないだろうか?
7秒だと精々250mくらいしか落ちない
卵型ドームでE-4の位置なら天井まで2〜3kmくらいはありそう
ちなみに2kmを完全自由落下すると20秒くらい、空気抵抗を考慮すると多分30秒くらいかかる
勇気を持つ人間には、翼を与えられる。輝く空へ、空気を掴んでは風を巻き起こし、
高く強く飛び立つような力が“勇気”なのだ。だが授けられた翼をおごってはいけない。
集められた人間達の何人かは知っているだろう。こんな昔話が伝わっていることを。
* * *
魔獣が閉じ込められていた迷宮に、父子が無実の罪で投獄された。
既に魔獣は倒されていたが、一度入ったら出られない入り組んだ迷宮は死への入り口に変わりない。
父は落ちていた羽やあり合わせの蝋と膠で二人分の翼を作る。
父子は空へと脱出した。地上にいた人々は、その影を見て叫んだ。
「神が飛んでいる!」
子供は自分が神だと言われていることに舞い上がり、父親の忠告を忘れてどんどん上昇していった。
哀れ、太陽の熱に蝋は溶け、子供は海へ墜落死したのだった。
* * *
何千年も前の、言い伝えの域から出ない話だ。なのにどことなく、このイカれた運命に導かれた物達に似ている。
太陽はこの地を照らしている。
太陽はこの地の全てを知っている。
太陽は自分に抗う者の愚かな姿を見ている。
近づこうとする者の羽をもぎとり、傲慢な態度を肉体ごと滅ぼす。
そうして太陽は何事も無かったように、頂点を守って空を闊歩しているのだ。
主催者は神と名乗り、参加者の上に君臨する。
そいつが太陽に値するものであるかは、各々の解釈次第だろう。
さて、神にも悪魔にも翼はあるのだが。
これから登場する少年らにどちらの翼が生えるかは、それもまた運命の知るところであった。
+ + +
「最悪だ」
放送後、第一声がそれだった。脱衣所が大破した旅館で、俺と東郷さんは放送を聞いた。
名簿には唯一の肉親の名がしっかり刻まれていた。
不幸中の幸いと言うべきか、死者を表すおぞましい色には引っかかっていない。
きっと今頃、潤也は危険を顧みず自分を探しているだろう。
自分にボールを当ててきたギャングに丸腰で向かっていくような、無鉄砲で正義感の強い奴だ。
たった数時間でこれだけ死んだ人たちがいる中で、
もしそんな行動していたら結果は目に見えている。
両親を失って、潤也も死んだら? やっと掴み取った平穏なんて消えてしまう。
それは潤也にも同じことが言える。自分が死んだらあいつは一人ぼっちだ。
潤也は優しい。一人きりになったら、あいつは立ち直れなくなるだろう。
――死ねない。死にたくない。生き残るんじゃない、生き切るんだ。
考えろ考えろマクガイバー。リスクを減らす方法を。
鳴海は限られた情報から推理して、真相はともかくひとつの道を見つけた。
俺に推理は出来ないし、推測も出来ない。それでも考えなきゃならない。
思索、憶測、模索。なんでもいい、考えるのを止めてはいけない。
考えろ考えろマクガイバー。
もう一度、名簿を確認した。鳴海は無事らしい。
知っている名前はもう一つ記されていた。ナイフを使った殺し屋だ。
明らかに偽名である名前『蝉』は既に変色していた。裏の世界で生きてきた人間があっさり死ぬ。
腹話術なんて小さい力しか持たない自分が第一放送を乗り切っているのは、もう奇跡としか言いようがない。
名簿には、何となく気になる名前がもう一つあった。
『スズメバチ』
確実に偽名だ。あの殺し屋は『蝉』と名乗っていた。
この毒虫も要注意人物の可能性が無くはない。
考えすぎかもしれないが、鳴海と落ち合う約束がある以上、用心は重ねるべきだ。
同名の名前も注意しよう。
歩とユノは二人づついる。
秋瀬と秋葉(名前は二人とも一文字)という似たような奴もいる。
勘違いで名前をとらえ違いをして誤解を招いたら、起爆剤になりそうだ。
もっとも、こうして名簿が浮かび上がってきた時点で、自分を「安西」として認識している奴には信頼されないだろうが。
名簿上の気になる人物に印をつけていった。
仲間には☆、危険人物には●、要注意人物には◎、要注意人物とまではいかないが、気をつけておきたい人には○。
気をつけておきたい人と要注意人物が危険人物だとわかったら、すぐに継ぎ足して◎か●にできるようにしておく。
また地図の裏に小さく、簡単に暗号化してこれまでの行動を書いた。日記のつもりだ。
日記と呼ばれる携帯を見てから考えていた。
今まで「予測される未来と殺し合い」に遭ってきた人たちにも、それまで日記をつけてきた人となりがあった。
自分もこんな環境に遭ったことを残していかなければ、と思ったまでだ。
どうも異世界の人間とも同じ言葉を話せるらしいので、日本の文化をつついた言い回しで書いておく。
これなら最悪見られても日本人以外にはわからないし、たとえ異国の人でも自分が事前に相応のやり取りをしていれば解ける。
そして火の粉をかけないため、自分の行動しか記さない。誰にどう会ったかは書かないようにしよう。
東郷さんが立ち上がる。
「え、あのどこへ行くんですか」
「時間を潰す訳にはいかない。旅館から使えるものだけ持っていく」
そうだ、目的は街へ携帯電話やらの調達に行くことだった。
旅館にも工夫次第で役に立つものがあるかもしれない。
身を守るものは現地調達した包丁ぐらいだ。水の塊を投げつける化け物みたいな相手にはリーチが短すぎる。
東郷さんはもうデイパックに何かを詰め込んでいた。
「あの、俺キッチンに行ってきます」
「・・・」
東郷さんは無言で後ろを向いた。了解の意だろうか。
まだあの女の子の仲間がいたら困る。包丁を片手にキッチンへ回った。
進む足がおぼつかない。平凡でいたかった。それだけなのに。
犬養に似たオーラを放つ鳴海も、遊園地にいたドゥーチェのマスターの雰囲気に似ている東郷さんも、信用しているとはいえ本音を言えば怖い。
似ている世界から来ているとはいえ、あまりにも境界がちがう場所に住んでいる。
蝉さんに感じた、身にまとわりつく嫌な空気があるのだ。
でも、平凡だった自分が、包丁を本来の用途ではない使い方で持っている。
「なんだかんだで、他の人と変わりないことしてるのかもなぁ…」
自嘲した。
万が一のため、キッチンにあった使えそうなものはデイパックに詰めまくった。底なしかよ、このカバン。
散らかってた浴衣、鞘つきの刺身包丁、冷蔵庫の食料数個、固形燃料、あとチャッカマン。
――頼りなさ過ぎる!
そうだ、地下のボイラー室は壊れていない。そこにもう少しまともなものがあるかもしれない。
+ + +
「リン、気配の察知とかに制限はあるのか」
「あァ、だが霞がかってやがル。近くにいる人間の場所は大体察知できるガ、誰だか特定すんのは無理ダ」
そうか。オレはそう頷いた。体のスジがギリギリ引き絞られるように痛む。
それでも前に進まなきゃいけない。神だがなんだか知ったこっちゃねーが、そいつの頭をぶっとばす。
けど、意気込んで出発したもののウィンリィはおろか、敵にも味方にも遭遇していないままだ。
地図をみる限り、この島は修行時代にいたところの二、三倍程度の大きさだろう。
オレもまた、こんな小さい島の中でのちっぽけな人間、世界の流れのうちに過ぎない。
逆にいえば奴らも流れのひとつだ。
そう思えば、神とやらも立場は一緒だ。
こんなふざけた神なんざ、真理の扉の中にもいる価値はない。
どこぞの太陽神よりもタチが悪い死神だろ。
「オイ、エド聞いてるカ?」
「は?」
リンはまだ喋りつづけていたようだ。
「悪ィ、考え事してた」
「ちょっと注意シロ。近くはないんだが、ざわざわした気配が動いてル」
気の流れがおかしいのか。
「人間か?」
「何とも言えなイ。今まで感じたことがナイ不思議な感覚ダ」
背を低くし、音を立てないようにリンの後を追う。
水分を含んだ空気が流れだした。足元が下り道になる。
やっぱり、川が現れた。ここを跨がないと工場にはいけない。周りに橋もいかだも見当たらない。
が、まだ木陰に隠れてほとんど見えないにしろ、工場らしき建築物は対岸にあった。
川は股下ぐらいの深さだろうか。流れは割と緩く、川底の泥は厚ぼったいが渡るのに苦労はなかろう。幅もせいぜい三十歩程度だ。
「極力錬金術は使わねーでおきたいし、いっちょこのまま渡るか」
「バカ言エ、その体で渡るとか死にたいノカ。肩車してやるカラ」
野郎の肩に跨りたくねーが、こっちの心配をしてくれているんだ。
もうリンはズボンの裾を限界までたくし上げて準備万端だった。
リンが川に足首を浸した。深さの確認か、足をかき回して川底をたたく。
「相当川底は緩いナ。多分ズボズボいくゾ」
「無理ならやめとけよ」
「ウィンリィのとこに早く行きたいんだロ・・・・オイ! 誰かガ凄い勢いで近づいてくル!」
周囲を見回す。
森は沈黙し、葉も揺れない。
風すら黙っている。
誰だ。バケモンみたいなあの野郎が追ってきたのか!?
+ + +
どこだここは。
ここで、俺はこんなところで死ぬのか
頭から順に潰れていく
眼球が飛び、
首の骨が皮膚を破り、
両腕が蔦のごとく曲がり、
肺と腸が綺麗に混ざり合い、
かろうじて脚だけは残るが、それも一瞬
首輪が爆発して四方八方に砕け散る
考えたくないのに、
そんな未来が見える
もう駄目だ
白だ
真っ白だ
違う!
風だ青だ緑だ光だ空だ壁だ死だ
「ゔああああぁぁぁあぁぁあああぁぁあああ!!」
+ + +
上だ!
人間が堕ちてくる!
「エド!」
「待、なななな!?」
時間がない!
両手を合わせ、地面に押し当てる。川の水面が隆起した。
流れを遮り、泥を集めてできた山が空へ、いや人間へ伸びる。
このままならあの人間は川に落ちていただろうが、30メートル以上の高さからのダイブでは、
水面はコンクリート並みの硬さになる。落ちたら確実に死ぬ。
落ちてきた人間は脚から泥に突っ込んだ。
全身埋まったところで、泥の山は持ちこたえられずに崩れていく。
向こう岸へ泥と共に雪崩れていった。
川は堰き止められ、水深が膝程度になった。
泥まみれになった人間はどうにか立ち上がった。口の中の泥を吐く。
顔の泥を払おうとしているが、その手には汚れてもなお光る物が握られている。
包丁だ。未だに悲鳴を上げながらも包丁を放さない。
男なのはわかるが、いかんせん顔が見えない。誰だこいつは。
目の周りの泥を拭い取ったそいつは、右手の平を口に当てて包丁を前に突き出した。
切っ先は宙を彷徨うが、やがてこっちに焦点を合わせた。
「奇襲カ!?」
「正直あんま強くなさそうだが」
「強くないカラ奇襲するんダヨ」
リンは武器を手に川を走った。
細い目に宿る鋭い光。
水の抵抗を感じさせない瞬発力。
「く、る、なあぁぁぁ!!」
泥男が右手に力を込める。包丁はリンに向けたままだ。リンの警戒が強まったのが見てとれる。
突然リンが走るのを止めた。対岸に着く直前で仁王立ちになる。
「おおお…」
「リン!?」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおあおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
あたり一帯にリンの蛮声が轟く。
幹が揺れ、川面を波立たせ、皮膚を震わせるような喚声。
息継ぎをせずに出し続ける哭声。
泥男が口を押さえたままリンににじり寄る。奴の右手は泥にまぎれて真っ赤に染まっていた。
……鼻血?
それより! あいつ意識を飛ばされてるのか!?
「リン逃げろおぉぉ!!」
オレの叫びもかき消される。
泥男をこれ以上近づけたらダメだ。川に勢いつけて飛び込む。
こんな体くれてやる、これ以上仲間を見殺しにできるか!
包丁を持った手がリンへと届く。間に合わねぇ!
泥男は――リンに体当たりした。
「は?」
リンは水飛沫を高く舞わせ、うつぶせて水中に倒れた。
包丁を使わないのか?
同時に泥男は右手を放して大きく息継いだ。鼻血が滴ってるが、包丁には血の一滴もついていない。
リンの背中が思いっきり引きつった。
「げはあぁぁあぁ!!! っ、げっ……」
さっき食べていた物も、鼻水も、涙も、胃液も、顔から出る全てのものが気泡と共に川面に垂れ流された。
水ん中で息を吸い込んだらしい。肺にも水が入ったかもしれない。
「こんのクソ野郎がぁ!!!」
ぶちぶちと血管が立つ。苛立ちと怒りにまかせて、泥男の腹に拳を一発ブチこんだ。
機械鎧を刃へ錬成する。
奴の包丁より長く伸ばす。
対岸に逃げうずくまる泥男を追う。
「――れん、きん、術!?」
「な、!?」
オレはとどめの一撃を抑えた。一瞬の隙を作ってしまう。
また泥男は口を覆った。
目いっぱい息を吸った。口を塞いだ泥男を見た瞬間から、記憶がない。
ただ、それほど長い時間では無かったようだ。
リンが岸でむせている。なぜか泥男は気絶していた。
+ + +
あの少年はボイラー室に向かったようだが、消えた。悲鳴だけを残してだ。
ボイラー室は電気が切れているのか、暗い。
適当な石をボイラー室に投げ込む。床に当たった音は無い。
今度は壁に叩きつけるように投げてみる。反響する音すら無い。
広くて大きい落とし穴でも空いているのか……
【G-8/1日目 朝】
1:携帯電話やノートパソコン、情報他を市街地などで調達する。
2:首輪を外すため、錬金術師や竹内理緒に接触する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
4:第三回放送頃に神社で歩と合流。
5:消えた安藤(兄)を探す。安藤の生死を確かめるため、下に降りるロープを調達したい。
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
結崎ひよのについては含まれません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※ガサイユノ、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※ボイラー室に大きな穴が空いていると思っています。
+ + +
ボイラー室に入った途端、空にいた。
空中を何回転もしながら、考え癖の頭で自分の死に様を描いてしまった。
泥の山に突っ込んだときには、その想像通りに死んだかと思った。
自分が生きているんだか死んでいるんだかわからない状況の中、目つきの悪い人間が
武器を持って向かってきた。
浴場の恐怖がフラッシュバックする。
こいつはオレを殺しに――!!!
とっさに腹話術を使ってしまった。
相手を空気吐かせてから水中に突っこんでおく。
そうすれば酸素を求めて息を吸い、水を飲むのだ。
死にはしないが、確実にダメージを与えられる打開策だった。糸目の方は上手くいった。
追ってきた金髪の奴にも腹話術をかけて、その隙に逃げようと思ったのだが、
心臓がいきなり締め付けられるように滅茶苦茶な鼓動をしだした。
呼吸ができなくなって、ぶっ倒れた。
起きたときにはどこから持ってきたやら、大きな鳥籠に閉じ込められていた。
まだ足りないつもりなのか、手も体の前で拘束されている。
糸目と金髪はギリギリ腹話術有効範囲内にいた。
逃げなきゃヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ
考えろ考えろマクガイバー。
複数の人間へ同時に腹話術をかけたためしはない。
よしんば気絶させられたとしても、鳥籠から出るのは無理だ。
――いや、脱出する手段はあるにはあるのだが。
バラバラの実を食べれば、鳥籠の隙間から逃げられる。
ただ、目の前に川が横たわる以上、相当ハンデをかけることになる。
ああ、先にやらなきゃ殺されるとはいえ、能力を使ったのは軽率だったんだ。
自分の撒いた種が今ここに、当然の報いとして返ってきている。
金髪が錬金術を使えること、その金髪に腹話術を見られていたことが特にマズい。
鳴海は腹話術を『切り札』扱いしていた。
当然、切り札=知られると警戒される暗器。
この首輪を外せるかもしれない重要人物に危険人物扱いされるのは、鳴海や東郷さん、
何より潤也まで信用されなくなる可能性がある。
二人組は逃げもせず、かといってとどめを刺しにも来ない。
「泥兄ちゃんよ、これやるからツラ見せろ」
金髪の奴が、水で濡らした布を渡してきた。顔はまだ泥だらけだから、拭けってか。
布はすぐに真っ黒になった。顔だけはぬぐえたけど、まだ全身は汚い。
「んー、会ったこと無い奴だ」
「こんなの閉じ込めッぱなしで放っとケ。せっかく気絶してたのニなんでわざわざ危険ナ真似をするんダ」
「こいつ、錬金術を知ってる。ウィンリィかアルか大佐か…キンブリーに会ってるかもしれねぇ」
錬金術を聞いたソースを探しているようだ。
すなわち、情報。金髪が俺の命を握っている今、情報を一方的に搾り取られるかもしれない。
「天秤にかけるものが違うダロ、今は生きる方が先ダ。奇襲するやつの大半はろくでもない奴ダ」
「はぁ!? ちょっと待った全然違います!
包丁だって護身用だし、気づいたら空中にいた理由知りたいのは俺のほう!
だいたい、殺気立って先に突進してきたのはそっち!」
大人しかった俺がまくしたてたので、二人組は身構える。
でもすぐにお互いの顔を見合わせて、こっちに聞こえないようこそこそ話し出した。
気まずそうな顔して金髪が振り向く。
「おい兄ちゃん、まずあんた何者なんだ」
+ + +
昇る太陽は、少年らを照らしている。
小さな偶然が少しだけ重なった奇跡を、食い入るかのように見つめている。
ここに登場した二人の少年は、それぞれを繋ぐ糸が張り巡っていることをまだ知らない。
両親はおらず、たった一人の弟を持つ。
正義の集団の裏の顔を知ってしまったがために、闇へ立ち向かう。
何よりも、
『ならば、前に進むしかないじゃないか。
もし目の前で誰かが犠牲になりそうになったらオレが守る』
『それなら、進むしかないじゃないか。
平穏も恐れも安泰も、今までの自分を全部捨てて前へ』
対決する意思を現したとき、二人はこう答える運命があった。
それが過去交わした誓いだろうが、本来予定されていた未来だろうが変わらない。
一人の孤独な戦いか、軍をも巻き込んだ戦争かと規模の違いを述べるのは
あまりにも酔狂である。
大衆のトップへ挑む決意に、大小は関係ない。
勇気と覚悟の歯車は噛み合いつつある。
決意の翼はまだ太陽に向かって羽ばたきを始めたばかりだ。
【E-4/1日目 朝】
【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
[状態]:結構な量の水を飲む。
[服装]:
[装備]:降魔杵@封神演義
[道具]:なし
[思考] :
基本:エドと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:工場か研究所へ行く。
2:咲夜、ひいてはグリードの仇を討つ。
3:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃と雪輝を無力化したい。
4:安藤(兄)を警戒。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
※異世界の存在を認識しました。
※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません。
※エドと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ
[服装]:
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ
[思考]
基本:リンと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:工場か研究所へ行く。
2:ウィンリィの保護を優先する。
3:首輪を外すためにも工具が欲しい。
4:出来れば亮子と聞仲たちと合流したい。
5:空から降ってきた男(安藤(兄))から情報を聞き出す。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※レガートと秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※リンと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:全身打ち身(中)。殴られた腹がまだ痛い。In the錬成鳥籠+手かせ。多少の混乱。
[服装]:泥だらけ 。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、包丁、バラバラの実@ONE PIECE
浴衣×2、刺身包丁×2、食糧3人分程度、釜用固形燃料×10、チャッカマン(燃料1/3)
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留。
1:東郷と合流したい。
2:携帯電話の調達のため、市街地などに向いたいが…ここはどこ?
3:軽度の無力感。
4:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい。
5:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
6:巻き込まれた潤也が心配。合流したい。
7:第三回放送頃に神社で歩と合流。
8:『スズメバチ』の名前が引っかかる。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※東郷に苦手意識と怯えを抱いています。
※鳴海歩へ劣等感と軽度の不信感を抱いています。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
結崎ひよのについて、性格概要と外見だけ知識を得ています。名前は知りません。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※腹話術・副作用の予兆がありますが、まだまだ使用に問題はありません。
※安藤(兄)の日記は、歴代特撮ヒーローについて書いたようにしか見えないようになっています。
※安藤(兄)の落下時間は15秒程度。周辺の人物は気づいていない可能性があります。
また、落下中に上空のドームを見ていますが、思い出すかどうかは後の書き手さんにおまかせします。
※旅館のボイラー室からE-4上空がワープ空間でつながっています。
ワープ出口は地上1km強あたりの上空を移動中。
移動の仕方に法則があるかどうかは次の書き手さんにまかせます。
ただしどこに移動しても常人が落ちたら死ぬ高さなのに変わりはありません。
※E-4の川に泥の山が残っています。
【G-8/1日目 朝】
【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(10/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
1:携帯電話やノートパソコン、情報他を市街地などで調達する。
2:首輪を外すため、錬金術師や竹内理緒に接触する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
4:第三回放送頃に神社で歩と合流。
5:消えた安藤(兄)を探す。安藤の生死を確かめるため、下に降りるロープを調達したい。
時間おいたらなんとか投下できました。
ゴルゴの状態表がなぜかごっそり抜けたため後付けです
投下乙
ワープするなり、いきなり落下とか怖すぎるw
安藤(兄)はゴルゴと別れてしまったか。ゴルゴの対応や如何に。
投下乙
即死トラップwww危ねえw
ゴルゴは不用意に飛び込まないだろうし分断確定か
しかしやっぱり腹話術強いよな
そういや今日少年エース最新号読んだんだけど……或がなんか凄いことなっていた……
ああそうよかったね
そんなことより予約楽しみだな
デパート周辺大人数予約来た!
よく見たらちだまりスケッチ書いた人じゃねーかww展開が恐すぎるわwww
48 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 19:10:36 ID:Q9brnDaj
怖いけど凄く気になるぞw
書き手氏は頑張ってください
妲己とガッツ、更にバーサク植木とかガクブルが止まらんぜ
とりあえず銀さんの生存を祈る……けど死相が見え隠れどころか隠れてねえww
予約破棄か
どの程度仕上がってたか分からないけど
他に予約入らないんなら続き書いて欲しい
こういう前例は作るべきじゃないんだろうか
同意だな
まぁエース二人が手出すと自己リレーになるパートだしな
やれる人がいるならやったほうがいい
秋瀬或、リヴィオ・ザ・ダブルファング、天野雪輝、我妻由乃、グリフィス、鳴海歩、投下します。
多分、その瞬間の僕は世界一の間抜け面をしていたと思う。
でもそりゃ当たり前だ。
ニコラス・D・ウルフウッド。
ヴァッシュさんの無二の親友。そして僕の最大の恩人。
彼は命懸けで、本当に命懸けで、僕を人の道に引き戻して――そして逝ってしまった。
その人がこの島の何処かにいる――いや、正確にはいた――のだという。
あらすじ。
死んだはずの恩人が実は生きていました。でも知らないうちにやっぱりその人は死んでしまいました。
アホか。
脚本家の頭、涌いてるんちゃうか?
心の中のウルフウッドさんが煙草を揉み消しながら呆れ顔でダメ出し。
いや、他でもないあなたのことなんですけどね。
あんまり強烈なショックだったせいか、現実感がなかなか戻って来ない。
この場にナイブズがいる、なんていう超厄ネタも脳ミソ素通りだ。
普通ならきっと驚いたり喜んだり怒ったり悲しんだりするところなんだろうけど――いや実際そんな感情は確かに生まれたんだけど。
渦巻いた違う種類の激情が纏めて出て来ようとしたせいで、逆に表には何も出て来れなかったらしい。
救いを求めるように、やたらと頭の切れる自称地球の少年、秋瀬或の方に目を向けると――彼は彼で、真剣な様子で何かを考えていた。
***************
窓に掛かった白いカーテン越しに、朝の光が薄く部屋全体を照らしている。
手元の名簿を眺めながら、或は喩えるなら、休日に目覚めると既に部屋が西日に照らされていたときのような表情を作った。
予想通り、杜綱の名は名簿に無かった。
まあこれは構うまい。
さらにゴルゴ13やらMr.2やらといった、明らかに偽名と判る名前も混じっている。
『神』にとってはヒトの名など試料の識別ナンバー程度の意味でしかないのだろう。
だがこれも特段困るようなことは無い。
問題はここからだ。
名簿に死んだはずの12th、平坂黄泉の名が有り、8th、上下かまどと11th、ジョン・バックスの名は無いのだ。
12thがいるのはまだいい。『新たな神』ならば死者の復活くらい出来ても不思議は無い。
だが、未だ生きているはずの8thと11thがいないという点は見逃せない。
彼らがこのゲームの首謀者だとは考え難いが、一枚噛んでいる可能性は大いにある。
そして死者の数――六時間で実に十六人。
この多さは計算違いだった。些か甘く見ていたと認めざるを得ない。
最後の一人になったところで無事に還れる保障も無いのだから、そう簡単に殺し合いは進まないと考えていたのだが……。
「なぁ」
さらに面倒なことは、モニターに表示された天気予報の内容だ。
これは放送とほぼ同時に十二時間後までの予報が出る仕組みらしい。
それによると、これから六時間の天気は晴。そして、その次の六時間の天気は曇のち雪
真夜中でも肌寒い程度の気候で、夕方に雪が降るなんてことは、通常はあり得ない。
だからこれは天気予報と言うよりは、きっと天気予告とでも言うべきものなのだろう。
そして――同時にプレイヤーに対する脅しでもある。
たとえ何をしようと、それこそ首輪を外そうと、この島の全ては『神』の思うがままである、と。
とはいえ、放送のアクシデント――本当にアクシデントかは判らないが――のように、付け入る隙は必ずあるはずだ。
真実『神』が万能ならば、そもそもこんなゲームを開く意味も無いのだから。
「なぁ、或」
気付けば、リヴィオが或を困惑した瞳で見下ろしていた。
放送前までのタフなガンマンのイメージは影を潜め、今は迷子の子供に似た、酷く不安定な雰囲気を感じる。
「何でしょうか。……ああ、もしかして」
一旦言葉を切って、或はリヴィオの目を見返す。
「名簿に亡くなったはずのどなたかの名前が有った――そうですね?」
「――っ! な、何で、あだっ!」
ガタンと、近くの椅子に脛をぶつける音。
「何で、判った?」
脛をさすりながらリヴィオが訊く。
「ただの勘――というのは冗談で、僕も同じ状況だからですよ。
それに百戦錬磨のあなたがそこまで動揺することなんて自ずと限られます。
しかし、そうですか――」
どうやら、12thが特別扱いという訳ではなさそうだ。
「件の人物は……ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、この方ですか?」
適当に、リヴィオと名前が似ている人物を挙げる。
「え? いや、違う…………いや待てよ。そいつも多分そうだ。
俺がGUNG-HO-GUNSの一員になったときにはもう死んでたはずだから……。
ああ、GUNG-HO-GUNSってのは最初にちょっと話したナイブズとレガートの手駒で……。
あ……それより、えっと、ウルフウッドさんの話か。
えーと、あの人もGUNG-HOの一人だったんだけど、悪い人じゃなくて、むしろ……」
そこで或が手を上げて制した。
「落ち着いて下さい。多少時間がかかっても構いませんから、順を追って説明して頂けますか?」
***************
リヴィオの語る悪夢のような体験、そして人類の存亡を懸けた冒険譚を聞き終え、或は静かに嘆息した。
「なかなか――刺激的なお話ですね」
流石の彼も困惑を隠せない。
対するリヴィオ自身は、話している間に混乱が治まってきたらしい。
「すまん。俺がナイブズの部下だったなんて、話しても怖がらせるだけかと思ってさ。
本当はもっと早めに話しておくべきだったんだろうけど……」
「いえ、気にしてはいませんよ。むしろ無闇に喋らなかったのは賢明だと思っています。
あなたの懸念通り、人によっては疑心を生むだけでしょうから。
これからも必要が無い限り僕以外に対しては伏せておくべきです」
改めて詳しく聞かされると、リヴィオの関わった事件の規模の大きさに驚く。
単身で一つの惑星の表面を一掃せんと考え実行する男など、尋常ではない。
この島が今もこうして存在している以上、その男――ミリオンズ・ナイブズの力は相当低下しているのだろうが、それでも十分な脅威には違いないだろう。
救いはナイブズに対抗出来る存在、ヴァッシュ・ザ・スタンピードも何処かにいるということか。
(神の如き力を持ち人類を憎む者と、それと同等の力を持った対となる者の戦い、か)
歩から聞いたミズシロ・ヤイバと鳴海清隆の対立構造に良く似ているのは偶然だろうか?
もっとも、こちらは遥かに血腥く、泥臭い戦いであるようだが。
考えてみれば、杜綱の語った白面の者と獣の槍の因縁も同様の構図に見える。
勿論、そちらに関しては彼の発言を鵜呑みにする訳にはいかないが。
「ともかく、事情は解りました。
さて、死者の復活の件も含めて、本来ならもう少しじっくり状況を整理したいところなんですが……。
残念ながら状況は刻一刻と動いていまして。リヴィオさん、これを見て頂けますか?」
或はそう言って椅子ごとモニターの前から体をずらした。
代わりにリヴィオがモニターの正面に立つ。
モニターに表示されているのはごく普通のスレッドフロート型掲示板だ。
そこに早速書き込みがあったらしく、一つのスレッドが上がっていた。
>2 名前:厨二病な名無しさん 投稿日:1日目・朝 ID:NaiToYshR
>書き込みの確認を行う。
>3 名前:ブレードハッピーな名無しさん 投稿日:1日目・朝 ID:NaiToYshR
>かつて道を別った俺の片割れに聞く。あの砂漠の星を離れ、お前は今、何処にいる?
「これは……」
「どう思います?」
「どうもこうも……どう考えたってこいつはナイブズ、じゃないか? あ、いや、誰かが成りすましてる可能性も――」
「それはないでしょう」
リヴィオの返答を遮り、偽者の可能性をあっさりと否定。
「これはヴァッシュという方のみに向けたメッセージでしょう。
偽者ならもっと具体的な内容を書き込むはずです。
これではナイブズの逆鱗に触れるだけでメリットはありません」
それはそうだ。撹乱ならもっと巧いことやるだろう。
「そう、だよなあ……。でも何というか、ナイブズがわざわざこんな回りくどいことするかな……?」
呟きながら、リヴィオはマウスを弄って掲示板を上から下まで物珍しそうにじっくり眺めている。
その様子を横目で見つつ、或は再び思考の世界へと舞い戻る。
(リヴィオさんの関係者も気になるけど、さしあたって優先すべきはここの管理人への対応、かな)
『みんなのしたら場』の管理人は、最初に『探偵日記』にコメントを送ってきた相手だろう。
誰が見ても『神』の支配下にあることが明白なレンタルサーバーを利用するとは少々以外だったが――あくまで歩のブログを主、掲示板を従と考えるなら、それほどデメリットは生じないと踏んだのか。
彼女――多分女性だろう――は鳴海歩にとって特に信頼出来る相手のようだ。
そしておそらく彼女も歩を信頼しているのだろう。
それだけに、彼女は歩のアキレス腱となる可能性が高い。
そしてこのスレッドだ。
>3:殺人ゲーム参加中の俺が名有り施設を巡ってみた(Res:1)
> 1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
> マップ上に名前を記された、特殊な施設に関する情報を書き込むスレです。
> 何か気が付いたことがありましたら、じゃんじゃん書き込んじゃってくださいね〜
敢えて『特殊な』施設という表現を使っている点が気に掛かる。
マップに記された施設はランドマーク以上の意味を持っているということか。
おそらく彼女はマップに記された施設のいずれかに潜んでいる――少なくともこの掲示板を開設した時点では――のだろう。
そしてその特殊な機能の少なくとも一端を掴んでいる――と推測出来る。
(彼女は手元に置いておきたいところだけど……)
そのためにはまず彼女の信用を得る必要がある。
多分、歩よりは与しやすい相手だろうが、歩の態度からすると一筋縄でいく相手でもなさそうだった。
先手を打ってメールを送るか、それとも――。
思考を遮るように、軽快な電子音が鳴った。
「ん? 或、この下のとこに何か出て来たぞ?」
メールが届いたらしい。或はモニターに目を向ける。
送信者は――。
「――すみませんが、そのキーに対応する車を今の内に見つけてきて頂けませんか?
多分、一階の駐車場にあるはずですから」
そう言って、歩との電話中にリヴィオが見付けて来た警察車両のキーをデスクの上に滑らせる。
「あ、ああ。でも、話はもういいのか?」
「ええ、まあ。
そろそろ歩さんからの連絡があってもおかしくありませんからね。
早めに足を用意しておくべきでしょう。考えるのはそれからでも出来ます。
それに、B-4エリアが封鎖されると予告がありましたよね」
「ああ。でもそれが何か……いや、そうか。
今、街の北側にいる人達は、移動を制限される前に動き出すだろうから――」
「そうです。彼らがこちらへ流れて来る可能性は高いでしょう。
今の内に逃走手段を確保しておくに越したことはありません」
一応納得した様子で、リヴィオは部屋を出て行った。
彼の出て行ったドアがしっかりと閉まるのを見届けてから、或はモニターに向き直る。
「さて――、厄介事でなければいいんですけどね」
きっとその期待は外れるのだろうと半ば諦めながらメールを開く。
送信者の名は『9th』。
国際テロリストにして神を憎む未来日記所有者――雨流みねねのナンバーだ。
***************
未だ夜の残滓が漂う教室に、微かな声が響いている。
声の主は我妻由乃。たまに天野雪輝が短く言葉を返す。
少し前に目覚めた雪輝は、これまでの事情を由乃から詳しく聞いていた。
彼女の話が進むにつれ、彼の表情はどんどんと曇っていく。
「そんな……愛沢さんが……」
彼女だけではない。由乃によると実に十六人もの名が放送で呼ばれたのだという。
しかも死んだはずの12thの名前が何故か名簿に載っていたり、変化能力を持った少女がいたりと、今度のゲームは以前より更に訳の解らないもののようだ。
ショックを受けている雪輝とは対照的に、由乃は平然として貼り付いたような微笑を浮かべている。
「良かったじゃない。殺す手間が省けて。
どうせ最後はユッキー以外には死んで貰うんだから」
空恐ろしい台詞を吐きながら、細かく震える雪輝の手をぎゅっと握る。
「怖がらなくても大丈夫よ。ユッキーは絶対私が護るから。ね?」
甘い声。
催眠的な視線に絡めとられ、雪輝は思わず肯きそうになる。
「う……いや、待って。ちょっと待って。
ムルムルからちゃんと話を聞くのが先だろ?」
聞いてもやることは変わらないじゃない、と由乃はあっさり切り捨てる。
「どっちにしたって、邪魔なヤツは殺せるときに殺しておいた方がいいわ」
「ダメだってば! もしかしたら皆と協力して脱出することだって出来るかもしれないじゃないか」
「どうやって?」
「え? そ、それは……」
口籠る。
現時点では具体的なプランは何も無い。
「そんな甘いこと言ってたら殺されちゃうよ、ユッキー。
もう十六人も死んでるのよ?
多分、ゲームが決着するまで二日も掛からないわ。
脱出法なんて考えてる間に全滅しちゃうよ」
正論なのかもしれない。かもしれないが、
「でも……いや、やっぱり……ダメだよ。
だって……うまく行ったって、最後は僕と由乃が殺し合うことになるじゃないか。
そんなのは、嫌だよ……」
この問題は前のゲームから引き続き雪輝を悩ませていることだ。
だが、今回は前のゲームのように猶予期間は長くはない。
しかも勝ったからといって今回は『神』になれるといった特典はおそらく存在しない。
もしかしたら誰か一人くらい生き返して貰えるかもしれないが、期待するにはあまりに不確実過ぎる。
しかし、そんな雪輝の悩みを一蹴するように、由乃は明るい口調で告げる。
「いいよ」
「え?」
「元々、私はユッキーに殺されるつもりだったんだから。
ちょっと経過が変わるだけじゃない。
私は、ユッキーになら――――いいよ」
本気だ。冗談や比喩ではない。
彼女は雪輝のためなら迷わず命を投げ出せるのだ。
一点の曇りも無いローズクォーツの瞳がはっきりとそう告げている。
雪輝の命が懸かっていれば、自分の欲望を全て――生存欲すら――躊躇わず捨て去ることが出来る。
我妻由乃の真の恐ろしさはこの点に尽きる。
目の前に迫った由乃の顔に気圧され、雪輝は無意識に一歩後退した。
ああ――今までにも何度も思ったけど――やっぱり無理だ。
僕に由乃の説得なんて出来る訳が無い。
だったらせめて――暴走だけは抑えないと。
「僕が掛けてもいい?」
「え?」
急に矛先を変えられて、きょとんとした様子で由乃が聞き返す。
「電話。ミズシロとか名乗った人にだよ。えっと、本名はカノン、だったっけ?
その人に『無差別日記』を返して貰うように頼まなきゃならないんだろ?
だったら僕が直接話してみるよ。いいよね?」
意外だった。
交渉そのものは自分に任せてくれるだろうと思っていたのだ。
不意に、以前より少しだけ雪輝が逞しく見えて、思わず胸が高鳴った。
それでも一応、彼女は手に収めた携帯を開いてディスプレイに視線を落とす。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
9:20
ユッキーが電話で交渉中。
かっこいいよユッキー。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
日記の内容に異常は無い。
致命的な事態には陥らないと判断して、由乃は雪輝の提案を呑もうと決めた。
若干の不安はあるものの、雪輝の意思を捻じ曲げるのは彼女の本意ではない。
「……うん。いいよ。でも、気を付けて、ユッキー。
アイツはユッキーの『無差別日記』を握ってるんだから。
もし『未来日記』が所有者の命そのものだってことがバレたりしたら……」
「大丈夫だよ。僕だってそんなにバカじゃないさ」
由乃によると、カノンはそれなりに頭が切れるらしい。
だったらここは無差別日記を穏便に返して貰いつつ、脱出について相談してみよう。
雪輝の狙いはそこだった。
由乃の暴走を防ぎたければ、要するに、脱出法さえ見つけてしまえばいいのだ。
脱出が現実的になれば、由乃も無理に殺しに走る必要は無くなるのだから。
由乃が雪輝日記を雪輝に手渡したそのとき――、
――ブルルル。
雪輝日記が振動した。
発信元は『天野雪輝』――『無差別日記』だ。
「も、もしもし」
偶然とはいえ、虚を突かれた形になった雪輝は、少し慌てて通話ボタンを押す。
『あんたは――天野雪輝だな?』
「う、うん」
落ち着いた、それでいて想像より若い声。高校生か、もしかしたら中学生かもしれない。
意外に歳が近い相手だったことに、雪輝は少し安堵する。
『あんたが出たってことは、事情は把握していると思っていいのか?』
「全部じゃないけど、大体は理解してるつもりだよ。
カノンさんも、僕等の要求は解ってるんだよね?
あ、由乃は何て言ったか知らないけど、僕は……いや、僕等は今のところあなたと敵対する気は無いから……」
それでいいよね、と由乃に目配せする。彼女も否定する様子はない。
「出来れば素直に僕の携帯を返して欲しいんだけど。あ、勿論タダでじゃなくてね。
僕等の持ってる武器と交換とか、そんな感じで……」
『ああ、その前に』
相手が口を挟んでくる。
『俺から連絡を入れた理由なんだがな』
そういえば由乃の話では自分と彼女が合流した時点でこちらから連絡する段取りだった。
結果的に当初の予定と同じ状況にはなったが、本来なら彼から電話を掛けてくる理由は無かったはずだ。
『ちょっと計算違いが起こってな。無駄に拗れる前に知らせておこうと思ったんだ。
おそらくあんた達は俺の名前をカノン・ヒルベルトだと思ってるんだろうが……そいつは別人だ。
混乱させるつもりは無かったんだがな。
俺の記憶が確かなら、カノン・ヒルベルトは既に死んでいる』
なるほど、と雪輝は合点する。
12thが復活していたように、他にも復活した人間がいても不思議ではない。
咄嗟に偽名を名乗る際に、混乱しないよう死者の名を使ったが、それが裏目に出たということなのだろう。
「……それで、あなたの本当の名前は?」
『……鳴海歩、だ』
歩は続けて安西と名乗った男の本名(安藤というらしい)も伝える。
由乃を見ると、彼女は納得したようなそうでないような微妙な表情でこちらを見ている。
『さて――本題に入ろう。と言っても話は簡単だ。
あんたの彼女が持つ『未来日記』。そいつと『無差別日記』を交換したい』
「――っ! そっ、それは――」
駄目だ、と言おうとして、しかしその前に由乃が目にも留まらぬ速さで携帯をひったくった。
同時に、ザザッとノイズが走る。未来が書き換えられた合図だ。
「何で判った?」
『その反応、どうやら俺の読みは間違ってなかったようだな』
「カマをかけたって訳? つまらない真似するんじゃないわよ」
凄みながら、同時に雪輝に目で合図を送る。
ここはあくまでも『由乃も未来日記所有者であることを看破されたために動揺している』と歩に思わせる必要がある。
今、この交渉の上では、『未来日記』とはあくまでも道具の一つに過ぎない、という振りをしなければならないのだ。
日記所有者にとって、対応する日記はただの道具以上の重大な意味を持つことを絶対に悟られてはならない。
雪輝も由乃に数瞬遅れてそれを理解し、口を噤む。
「まあいいわ。でも、本当にそれでいいの?
あんたが私の日記を持っても使いこなせるとは思えないけど」
『いいのさ。この取引が成立することで俺にデメリットは無い。
それに俺としては――万が一に備えて、あんたに対抗する手段が欲しいからな』
敵対することになるならば潰す――ということか。
「……正直ね。でも、私の日記の内容も分からないのに、それが私に対抗する手段になるって何で判るのよ?」
『いや、あんたの『未来日記』の内容の推測くらいは出来るさ。
あんた、俺が最初に情報交換を持ちかけたときこう言ったよな?
『ユッキーはすぐ私が見つける』と。つまりあんたは天野を見付け出す当てがあったと推測出来る。
さらに、あんたの天野への執着と『日記』という名称を考慮すると――』
「分かった。もういいわ」
嫌らしい手を使う奴だ、と由乃は心の中で毒吐く。
つまるところ、雪輝に関係する日記であることは明らかだと言いたいのだろう。
そして、彼女自身ではなく雪輝の動向を握ることで間接的に彼女を抑えられる、と。
今更だが、雪輝への愛を無意味に歩に曝してしまったのは痛かった。
(でも、私の日記に機能制限がかかってた事までは知らなかったようね。
じゃなきゃ、私にユッキーを見付け出す当てがあったとは思わないはずだわ。
『未来日記』についてもやっぱり詳しくは知らないみたいだし……)
どうあれ、これ以上粘っても歩に不審に思われるだけだろう。
それは拙い。今は『無差別日記』を、『雪輝の命』を取り返すことが最優先事項なのだから。
歩が厄介な相手であることは今までの交渉の遣り口を考えれば明白だ。
彼が『未来日記』についての正確な情報を得る前に、何としても交渉を纏めなければならない。
下手に交渉を拗らせるくらいなら、素直に『自分の命』を差し出す方が遥かにマシだ。
仕方がない――、
「――取引成立よ」
その言葉を聞いた雪輝の目が大きく見開かれた。
そんな彼に由乃は大丈夫、とジェスチャーを送る。
「中学校の校舎の北昇降口にあんた一人で来なさい。時間はあんたの――」
待った、と遮られる。
『取引場所は校庭の真ん中にして貰えないか?
悪いが、俺は無策で虎口に飛び込める程自信家じゃないんでな』
罠を警戒しているのだろう。当たり前と言えば当たり前だ。
実際、由乃は逃走防止用の罠を仕掛けるつもりで昇降口を選んだのだから。
「校庭なら確かに小細工はし難いけど、でも目立つわよ?
どっかのバカに乱入されたらどうするつもり?」
『ああ、だから、取引時刻は十一時五十分、でどうだ?』
参加者のほとんどが放送に備え動きを止めるであろう時間。
交渉を無関係の第三者に妨害されないための策としては、単純だが効果的だ。
それに、何かトラブルが起これば放送を聞き逃すことになりかねないため、お互い余計な駆け引きもし難い。
「……それでいいわ」
スムーズに取引を終えたいのは自分達も同じなので了承する。
だが、どうも全てのペースを歩に握られているような気がする。
――忌々しい。
『それで、取引にはあんたが来るのか?』
確認の声。
肯定しようとしたそのとき、
「僕が行く!」
出し抜けに、雪輝が叫んだ。
声が廊下に反響する。
「ユッキー?」
思わず声を上げた由乃を正面から見据えて、彼は言葉を続ける。
「由乃にばっかり危ないことをさせる訳には……いかないよ。
それに、その役は僕の方が適任だろ?」
確かに雪輝自身が『雪輝日記』を持って取引に向かえば、大抵のイレギュラーは予知出来るため安全性は高い。
だが、それも絶対ではない。
逡巡する由乃。
雪輝はそこにすかさず止めの台詞を投げ掛ける。
「由乃は何かあったら助けてくれればいいからさ。頼りにしてるよ」
頼りにしてる――その言葉だけで、それまでの負の感情が纏めて事象地平の彼方へと消し飛んだ。
「あ……うん。わかった。ユッキー……」
蕩けるような、力の抜けた声。
彼女の頬は傍目にも判るくらい真っ赤に染まっている。
『……あー……話は纏まった……のか?』
電話の向こうから、毒気を抜かれた様子で歩が尋ねて来た。
返答をしようとして――違和感に気付く。
僅かな引っ掛かり。目を閉じる。
雪輝のお陰で苛つきが治まり、冷静な思考が展開されていく。
(待て。こいつの出した条件は何かおかしい――。何だ?
こいつの望みは『使える』未来日記の入手及び私の行動抑制。
そのための未来日記同士の交換。条件はイーブン――イーブン?)
――違う。
『じゃあ切るぞ。誰にも見つからないようにそっちまで移動するのは結構骨が折れ――』
「待て」
一言で、気温が氷点に達する。
豹変した由乃の雰囲気に、雪輝が隣で息を呑んだ。
『……何だ?』
「お前――確か『この取引で俺にデメリットは無い』と、そう言ったな?」
『…………ああ』
――それは変だ。
「何故? 携帯電話を失うことは決定的なデメリットではないの?」
そうだ。『雪輝日記』が携帯電話の機能であることを話した覚えは無い。
推測は出来るかもしれないがそれは確実ではない。
だから、取引の結果、彼は『無差別日記』と共に携帯電話の機能も手放すことになりかねないのだ。
この男がそこに気付かないはずがない。
「お前――まだ何か隠しているな?」
僅かな沈黙。
『――別に大したことじゃない。俺はもう一つ携帯を持ってるんだ。
だから、一つ無くなったところで何も問題は無いのさ。別に意識して隠してた訳じゃない。
確かにデメリットが無いってのは言い過ぎだったかもしれないが――』
「掛けてみなさい」
『何?』
「それが本当なら、その予備の携帯から私に電話を掛けられるはずでしょ。
掛けてみなさい」
『……まぁ、それであんたの気が済むならそうするさ。
じゃあ、一旦切るぞ』
ブツリと電話が切れる。
そして十数秒後、携帯電話のディスプレイに、知らない電話番号が表示された。
***************
通話を終えた歩は、携帯電話を閉じて軽く息を吐いた。
疲れの色が見えるのは出血のためだけではあるまい。
「なるほど、どうにも御し難い相手のようだな」
薄い笑みを浮かべて、グリフィスは歩に声を掛けた。
「まあな。聞いての通り、キレる上にキレてる女だ。
どうやら、保険を掛けておいて正解だったらしい」
「保険? ああ、最後のやり取りのことか。
敢えて小さな傷を用意しておくことで攻撃されるポイントを予測し易くする――といったところか?」
「子供騙しだが、猜疑心の強い相手には有効だろ?
完璧過ぎると逆にとんでもない疑われ方をされそうな気がしたから、一応な」
しかし――この調子だと秋瀬との繋がりはいずれバレそうではある。
特に、二人が島内ネットの存在に気付いたら、隠し通すのは困難だ。
いっそ交渉時に雪輝に話して抱き込んでしまうのがいいだろうか。
「しかし死者の復活とは俄かには信じられんな。……おっと、疑っている訳ではない。
天野雪輝の反応は明らかに死者の復活を当然と受け入れたものだったからな。
彼らの知人も同様に復活しているのか、彼らの知る『かつての神』も蘇生技術を持っていたのか、もしくはその両方か。
いずれにせよ、この場ではそのような非常識も罷り通ると考えるのが自然だろう」
ゆっくりと川原の砂利を踏みしめながら、グリフィスは状況を整理するように話す。
この男は案外頭の柔らかい方らしいな、と思いつつ、歩は再び携帯電話を開く。
「さて、悪いがもう一人連絡をしないとならない奴がいるんだ。もう少しだけ待ってくれ」
***************
「車は見つけたぞ、或。何か白黒の変なデザインだったけど、あれでいいのか?」
首尾良くキーに対応する車を発見して帰って来たリヴィオに、或はええ、と短く返した。
そして椅子の背に体重を掛けながら、ほんの僅かに倦怠感が滲む口調で続ける。
「どうにも、後手後手に回っている感が否めませんね」
それを聞いて、リヴィオの眉がぴくりと上がった。
「どうした? 妙に弱気じゃないか」
「弱気――という訳ではないのですが。そうですね、これを見て頂けますか?」
或は困ったように微笑んで、再びリヴィオにモニター前を譲る。
そこに表示されているのは先程と同じ掲示板。
そして誰かの断末魔――と思しき書き込みだった。
「その書き込みはまず間違い無く先程のメールの送信者のものです。
そしてその上のスレッドに最後に書き込んだ人物はおそらく……」
「レガート・ブルーサマーズ、だな」
苦虫を噛み潰したような顔でリヴィオが或の言葉を補った。
並の人間、そうでなくとも人の領域にいる者がレガートと出遭えばどうなるか。
結果は火を見るより明らかだ。
「送信者は雨流みねね。彼女も未来日記所有者です。
出来れば味方に付けたかったのですが」
みねねからのメールの内容は、簡単に言えば『情報提供するから私に協力しろ』というものだった。
提供された情報には首輪の爆発の特性から内部構造の推測、そして彼女が出会ったらしい危険人物のことまで、有益な情報がかなり含まれていた。
それなりに慎重な彼女にしては大盤振る舞いと言える。
いや、実際には駆け引きを打つ余裕も無いほど切羽詰まった状況に置かれていたのだろう。
実際、焦って打ったせいか、メールには結構な量の誤字脱字や文法ミスが含まれていた。
彼女を必死にさせている主な原因はやはりこれだろう。
>妲己とかいうクソ女が逃亡日記持ってる。
>あいつはデパートの方に向かった。
>どうにかしろ。礼はする。
『逃亡日記』はみねねの逃走経路を記す未来日記だ。つまり逃亡日記を他者に握られた場合、どう足掻こうと彼女がその人物から逃げ切ることは出来ない。
たとえ日記を破壊されなくとも、みねね単独で戦う限り、それは『詰み』と言っていい状況だ。
だが、逆に言えば逃走経路以外の情報が予知されることはないのだ。
つまり――このメールや掲示板への書き込みの内容は、通常は日記に表示されない。
そして彼女のメッセージを読んだ者達の動きまでは、逃亡日記で追うことは出来ない。
その弱点を利用して、みねねは妲己を出し抜こうと考えたようだ。
掲示板への書き込みも、あわよくば誰かに妲己を殺させようという思惑を隠そうともしていない。
形振り構わない様子から、彼女は心理的にも相当追い詰められていたと推測出来る。
そして或にとって気になる点がもう一つ。
メールには、12thの死体を確認したことや、8thがいないことに関する疑問が書いてあるにも関わらず、11thについては何の言及も無かった。
単に書くのを忘れた、または何らかの理由で書かなかっただけ――という可能性もあることはあるが、それはやはり不自然だ。
そもそも現在の彼女にとって或は生命線なのだ。無駄に不信感を持たれるような真似をするはずがない。
(とすると、『彼女は11thがこの島にいると思っている』のか? でもそれは――)
それは有り得ない。
日記所有者は既に互いに互いの素性を知っている。
名簿を失った可能性はあるが、それなら8thについての言及も無いはずだ。
或は目を瞑ってさらに思考を巡らす。
(何かちぐはぐだ。死んだはずの12thは復活し、そのくせ3rdや4th、その他の脱落者は死んだまま。
生きているはずの8thと11thは何故か今回のゲームには参加していない。
9thは11thを知らないかのようなメールを送って――いや、待てよ?)
知らないかのような、ではなく、実際に知らないのでは?
平行世界、パラレルワールド。そんな単語が脳裏に閃く。
例えば、9thが11thを知らない世界。12thが最後まで生き残る世界。
そんな世界から各人を引っ張り込んだ、とすれば、一応は全ての辻褄が合う。
もしくは同時間軸上でも別の時点からそれぞれ連れて来られたのか。
そうだとすると、雪輝や由乃も『或の知る彼ら』ではない可能性がある。
特に自分から見て未来の彼らである場合が厄介だ。
とはいえ全ては憶測の域を出ない。
或の仮説を検証する最も簡単な方法は、みねねと連絡を取ることだったのだが、この状況では彼女が生きている望みは薄い。
万が一生きていたとしても、今すぐに連絡が取れるとは思えない。
この件は一旦保留するしかないだろう。
目を開く。或の思考の邪魔をしないようにか、窓辺に移動して警戒していたリヴィオが視界に入る。
その瞬間、ブブブブ、と振動音が鳴った。
携帯電話の着信通知だ。
着信は『無差別日記』からのもの。
用件はおそらく――、
「もしもし」
『秋瀬。我妻由乃と天野雪輝の合流を確認したぞ』
***************
鳴海歩、か。
拾ったときはどの程度使えるものか疑問だったが、なるほど、大言するだけのことはあるらしい。
どうやら予想以上に役に立つ男のようだな。
そして、未来を見通すという道具。
どうやらここにはオレの野望を叶えるための道具や人材が多く有るようだ。
ならば全てオレが持ち帰って有効に使ってやろう。
しかし。
これ程の財をこのような下らない殺し合いで浪費するとは『神』は何と愚かなのか。
オレが鉄槌を下してやらねばなるまい。
見ているがいい。
狂宴を眺めて悦に入っていられるのも今の内だけだ。
すぐに思い知ることになるだろう。
戦場に、観覧席は存在しないということを。
【C-2/警察署/1日目/午前】
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@現実×2、警棒@現実×2
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真、不明支給品×1、
携帯電話、A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、手錠@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20
[思考]
基本:生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
1:リヴィオと共に中学校付近に潜伏して、歩と雪輝達の取引を監視する。
2:我妻由乃対策をしたい。
3:探偵として、この殺し合いについて考える。
4:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に貼っておく。
5:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
6:探偵日記を用いて参加者から情報を得る。
7:『みんなのしたら場』管理人を保護したい。
[備考]
※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
※蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※リヴィオからノーマンズランドに関する詳しい情報を得ました。
※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。
※鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
※螺旋楽譜に記された情報を得ました。管理人は歩であると確信しています。
※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
詳細は第91話【盤上の駒】鳴海歩の状態表を参照。
※みねねのメールを確認しました。
みねねが出会った危険人物及び首輪についてのみねねの考察について把握しました。
※参加者は平行世界移動や時間跳躍によって集められた可能性を考えています。
【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@現実×2、警棒@現実×2、エレンディラの杭打機(29/30)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、手錠@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、詳細不明調達品(警察署)×0〜2、警察車両のキー
[思考]
基本:ウルフウッドの様に、誰かを護る。
1:或と共に、知人の捜索及び合流。
2:偽杜綱を警戒。
3:ロストテクノロジーに興味。
4:死者の復活……?
[備考]
※参戦時期は原作11巻終了時直後です。
※或の関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。
※妲己を危険人物と認識しました。
【G-2/中・高等学校中学校舎1F教室/1日目/午前】
【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾19発、ハリセン
[道具]:支給品一式×2、不明支給品×2
[思考]
基本:ムルムルに事の真相を聞きだす。
1:由乃を制御していく。
2:鳴海歩と取引する。
3:拡声器を使った高町亮子が気になる。
[備考]
※原作7巻32話「少年少女革命」で由乃の手を掴んだ直後、7thとの対決前より参戦。
※咲夜から彼女の人間関係について情報を得ました。
※グリードから彼の人間関係や、錬金術に関する情報を得ました。
※異世界の存在を認めました。
※放送の内容を由乃から聞きました。
【我妻由乃@未来日記】
[状態]:疲労(小)
[服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
[装備]:ダブルファング(残弾25%・25%、100%・100%)@トライガン・マキシマム、雪輝日記@未来日記
[道具]:支給品一式×2、ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、不明支給品×1(グリードは確認済み)
[思考]
基本:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
1:無差別日記を確実に取り返す。
2:ユッキーの生存を最優先に考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
3:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
4:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
5:鳴海歩と安藤(兄)の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
[備考]
※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
※安藤(兄)と潤也との血縁関係を疑っています。
【D-4北部/川岸/1日目/午前】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:疲労(小)
[服装]:貴族風の服
[装備]:居合番長の刀@金剛番長、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:部下を集め、主催者を打倒する。
1:ガッツと合流したい。
2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける。
3:役に立ちそうな他の参加者と繋ぎをつけておく。ゆの、沙英、銀時との再合流は状況次第。
4:未知の存在やテクノロジーに興味。
5:ゾッドは何を考えている?
6:あの光景は?
7:鳴海歩を中学校まで運びつつ情報交換と仲間への勧誘。彼本人に強い興味。
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※沙英、銀時と軽く情報交換しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※風火輪で高空を飛ぶと急激に疲れることに気付きました。
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、左肩に深い刺創(布で縛って出血を抑えている)
[服装]:月臣学園の制服(血に染まりつつある)
[装備]:小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら、無差別日記@未来日記
[道具]:支給品一式、コピー日記@未来日記、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
1:無差別日記と雪輝日記の交換に赴く。
2:グリフィスと名乗った男とあらためて交渉。出来れば仲間に勧誘する。
3:或に連絡。取り引き場所付近に潜伏してもらう。
4:後で竹内理緒に連絡を入れる。
5:島内ネットを用いた情報戦に関して、結崎ひよのはしばらく放置。何か懸念が生じればメールを送る。
6:首輪を外す手段を探しつつ、殺し合いに乗っていない仲間を集める。
7:安藤と東郷が携帯電話を入手したら、密な情報交換を心がける。第三回放送の頃に神社で、場合によっては即座に合流。
8:自分の元の世界での知り合いとの合流。ただし、カノン・ヒルベルトの動向には警戒。
9:『砂漠の星の兄弟(姉妹?)』に留意。
10:『医療棟ID』について考察。
11:『うしおととら』と、彼らへの言伝について考える。
12:肩のまともな手当てをしたい。
13:神社の本殿の封印が気になる。
[備考]
※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
※主催者側に鳴海清隆がいる疑念を深めました。
また、主催者側にアイズ・ラザフォードがいる可能性に気付きました。
※我妻由乃、天野雪輝の声とプロファイルを確認しました。由乃を警戒しています。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※秋瀬或からの情報や作戦は信頼性が高いと考えていますが、或本人を自分の味方ではあっても仲間ではないと考えています。
言動から雪輝の味方である事は推測しています。
※雪輝日記についての大体の知識を得ました。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変である事を知りました。
※探偵日記のアドレスと記された情報を得ました。管理人は或であると確信しています。
※考察に関しては、第91話【盤上の駒】を参照。
※天気予報
06:00〜12:00:晴
12:00〜18:00:曇のち雪
以上、投下終了です。
74 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/07(木) 00:55:34 ID:GdpUMchg
投下乙
さて、これで交換への筋道は出来た
だがユッキーとユノも一筋縄ではいかないだろうな
鷹も歩に興味沸いたようだがどうなるやら…
投下乙
自分の書いたssをほんの少しだけ改訂しました。
推敲したつもりだったのに穴だらけだったので…すみません
内容的には全く関係のない箇所なので気にしないでください
規制解除……!
投下乙です、いやあ着々と積み重なっていく成功フラグがかえって失敗に繋がりそうで怖いw
歩は流石の一言。しかし異常に直感の優れる由乃相手にどれだけ立ち回れるだろう。
鷹さんに見染められたのも不安要素だ……w
みねねはちゃんと残したものがあったか、或はこれをどう使う?
ナイブズやレガートの所在もある程度掴んだろうし、人物関連で一番情報量が多いからこそ動きが読めない。
今後に期待が一層増しました、面白かったです。
予約してませんが出来上がったので投下します。
微かな、それでいて体の奥にまで浸透するような機械音。
それに混じって、ガサガサと何かが擦れる音が聴こえる。
「はぁ……運が無いというか……。
これもあの人の計画だとしたら意地が悪過ぎますよ」
可愛らしい声。
黒で統一された照明の無い通路に、少女のほっそりとした、それでいて女性らしい丸みを帯びた裸身が浮かび上がる。
幽かに揺らぐ青白い光が、彼女の双丘の膨らみを、臍の窪みを、腰の括れを強調する。
加えて全身にうっすらとかいた汗が、より一層艶やかさを醸し出していた。
狭い
少女――結崎ひよのは、鈍く光る首輪と靴だけを身に付けた、些か倒錯的な姿を曝していた。
彼女は、気のせいか若干焦った様子で、手に持った値札付きの包装品を弄っているのだが、
「う〜ん、ん……。あぁもう……」
手元が良く見えず包装が上手く解けないことに業を煮やしたのか、えいっと強引に包装を引き裂いてしまった。
うら若き乙女の所業ではない。包装を破るときの掛け声を可愛らしくして誤魔化しても焼け石に水である。
透明な包装の中から出てきたのは、白地のTシャツだ。
胸の部分にはデフォルメされたイルカの絵がプリントされている。
Tシャツを手早く被り、頭と腕を出して髪を掻き上げ整えたところで、ひよのは問題に気付いた。
「あら……ちょっとこれは……短過ぎますね」
下腹部全体を隠し切るには若干生地が足りていないのだ。子供用のTシャツだったのかもしれない。
お尻も半分以上はみ出ていて、背後からも脚の付け根まで丸見えだろう。
今はTシャツが落とす影のために腿の半ばまで黒く塗り潰されているが、このまま明るい場所に出るのは少し躊躇われる。
やっぱり入口の売店まで戻って下も探してこようか……と思ったものの、すぐに考え直す。
(流石に命を懸けるようなものじゃありませんよねぇ)
そう、『あの男』が迫っているかもしれないのだ。
入口に戻ったところでばったり出くわしてゲームオーバーなど冗談ではない。
そもそも――当初の予定ではこうなるはずではなかった。
B-4エリアに入れなくなる前に北西部の街の西側へ抜けようと思い、首尾良く博物館の駐輪場で自転車を見つけたまでは良かった。
自転車には鍵が掛かっていたものの、錠前破りは乙女の嗜み。一分と掛からず自転車を手に入れることが出来た。
街までの一本道で危険人物に遭遇する心配はあったが、それも杞憂に終わった。
計画が狂ったのは、川に架かった大きな橋を渡り終える寸前、B-4エリアを抜けたら適当な民家から服を盗……もとい拝借しようかなどと考えていたときからだ。
何の気無しに右手に広がる海を眺めると、眼下の河原に誰かの姿が見えたのだ。
それが何者かを認識した途端、体が凍り付いた。
自転車のチェーンが空回りするカラカラという音が、妙に耳に残っている。
そこにいたのはファックスで送られてきたモンタージュの男。横顔だったが、非常に特徴的な顔立ちなので一瞬で判った。
そして彼の足元に転がっていたのは仰向けで倒れた高町亮子。
ついでに言えば、男は何故か全く似合わないフリフリの服を着ていてとても気持ち悪かったのだが、そんなことは些細な問題だった。
何処からどう見ても立派な殺人現場。
犯人は人間離れした力を持つ男。
さて――この場合、目撃者である自分はどうなる――?
そこで、男が獣染みた動きでグリっと首を回してこちらを見た。
目が合った。
数瞬の後、全身の力を込めてペダルを踏んだ。
亮子には悪いと思ったが、あの場で男に戦いを挑んだところで死体が二つに増えるのがオチだ。
後はもう良く憶えていない。
身体に巻いたカーテンは途中で解けて飛んで行った。
お陰で少しの間、素っ裸で街中を疾走する羽目に陥ったのだが、命には代えられない。
幸い誰にも出くわさなかったので、乙女の純情は護られた。
護られたはずだ。そういうことにする。
盗んだ自転車に乗って全裸で爆走する乙女がいるかという誰かさんの突っ込みなど知ったことではない。
閑話休題。
結局、ひよのはその勢いのまま橋から一キロメートルくらいの距離にある水族館に駆け込んだ。
そして入口の売店の外に積んであったTシャツとパンフレットを引っ掴んで奥へと走り、今に至るという訳だ。
ちなみに自転車はデイパックに仕舞い込んである。
太公望が言っていた通り、デイパックにはその体積以上のモノも入れることが出来た。
混元金斗と似たようなもの、なのだそうだ。良く解らないが。
パンフレットによると、この水族館は四階建てで、四階部分がカフェテラス、一階から三階までが展示室となっている。
構造としては、円筒形の大水槽が水族館の中央部を貫いており、その周りに二重螺旋を描くような形で順路が造られているらしい。
ちなみに二階からは外部にあるイルカショー用の水槽に繋がる通路も延びている。
一見単純に見えるが、それは順路をなぞることを考えた場合だけだ。
実際には所々にある階段やエレベーター、特別展示室等に加えて、従業員用の通路もあり、それなりに入り組んだ構造をしている。
一先ず隠れて作戦を練るにはちょうどいい場所だろう。
そう考えながらひよのは順路を歩く。
今ひよののいる場所は主に深海魚を展示しているエリアらしい。
順路の脇に設置されたいくつもの水槽がぼうっと青白く光っている。
水槽中のグロテスクな魚の動きに合わせて揺らめく光が、彼女の全身に青と黒の斑模様を描く。
こんなときでなければ楽しめるんですけどねぇ、と小声でぼやきながら、ひよのは幻想的な深海魚のトンネルを抜けて行く。
そして、程なくして異常に気付いた。
「この音……何か変ですね」
順路の奥から微かに振動音が伝わってくるのだ。
いや、それ自体は水族館に入った直後から聴こえていたのだが、音は奥に進むにつれて徐々に大きくなっていく。
水族館にも取水設備や水質管理装置はあるが――それらとはまた質の違う重低音だ。
ひょっとすると、先客がいるのだろうか。それはあまり好ましくない。
さりとて、今更戻る訳にも行かない。
少し緊張しつつ、覚悟を決めて暗闇を前進する。
しばらく進むと周囲が明るくなり、広々とした場所に出た。
手前までのエリアと対照的に、壁は白で統一されている。
右側に一際大きな水槽がある。これが中心部の大水槽だろう。
何となく、前屈みになりつつデイパックを股間の前に持って来る。
別に誰も見てはいないだろうし、むしろ屈んだせいで後ろから見ると、細部の造形の陰影が脚を動かす度に歪む様子まで鮮明に確認出来てしまう。
だからこれは羞恥心を抑えておくためだけの、単なる気分の問題だ。
軽く五十メートル以上の直径を持つ円筒形の大水槽には、何故か全く魚が泳いでいなかった。
ただ透明な水だけが湛えられていた。
大水槽の前には『海王類』、『あやかし』、『海原番長』といった、聞いたことの無い妙な表示のプレートだけが空しく光っている。
ここまで来ると空気を震わす機械音がはっきりと聞き取れる。
ひよのは音の聞こえてくる方に目を向けた。音源はさらに順路の先。
そこには非常口を示す緑地のピクトグラムが輝いていた。
そしてピクトグラムの下には非常口のドアが、いや、ドアだったものが転がっている。
非常口は明らかに故意に破られていた。
誰の仕業かは判断が付かないが、まともな状況とは言い難い。
警戒しながら非常口に近付き、
「え――〜〜…………っと……?」
そして目を見開いて絶句する。
非常口の向こうには、壊れたドアなどは些細なことに感じられるほど、異様な光景が広がっていた。
ひよのは思わず警戒も忘れてふらふらと非常口を潜る。
広大な白い空間。
そのいたるところで銀に輝く機械の群れが休むことなく動き続けている。
これはどう考えても水族館の設備ではない。
そもそも水族館の内部にこれほど巨大な空間があるはずがない。
振り返る。
やはり上には非常口の表示が輝いている。
そしてドアの向こうには魚の泳ぐ水槽。
こちら側から見るとむしろそちらの方が異様だ。
しばらく呆然としていたひよのだったが、自身が置かれた状況を思い出して慌てて先へと進む。
ひよのの足音と機械音が規則正しく辺りに響く。
そういえば――。
太公望が言っていたではないか。
様々な特性を持つ宝貝。
その中には空間を操るものもあるのだと。
デイパックに視線を落とす。
これと同じく、非常口の奥には巨大な空間が広がっていたのか。
考えてみれば、ひよのの持つ宝貝『太極符印』――これはひよのには使い方が判らないのだが――も、物理現象を操るという何とも信じ難い効果を持っているのだ。
今更空間が捻じ曲がろうと驚くようなことではないのかもしれない。
――ないのかもしれないが、
「いや〜、驚きますって、やっぱり。
そもそも何処なんでしょうかね、ここは」
呟きは響き渡る機械音に紛れて消え、応えるものはいない。
***************
――ガリ……ガリ……、
つーかよぉ。
オレをこんなつまんねぇ雑用に使うんじゃねぇよ。
――ガリ……、
予定が狂った?
知るかよ。
テメーのケツはテメーで拭えっつぅの。
――ガリ……ガリ……ガリ……、
あぁ?
『ヤツらはヤツら同士で殺し合って全滅した』
それでいいんだろ?
――ガリ……、
あぁ、あの死体なら片付けたぜ。
他は知らねぇな。
――ガリ……ガリ……ガリ……、
煩ぇな。
なるべく介入するなとかホザいたのはオメーらだろ。
どっちにしろ、もぉ遅ぇよ。
じゃあな。
――ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……。
…………フン、下らねぇ。
『定められた運命は水面に映る月影のようなもの』じゃねぇよ、クソ下らねぇ。
御大層な理屈捏ねたところで、やってるこたぁ大して変わんねぇだろぉが。
――――『歴史の道標』とよ。
***************
結崎ひよのは困惑していた。
どうやら水族館の非常口の先は山中の工場だったようだ。
確証は無いが、設備の内容と窓から見える森林を考慮するとまず間違い無いだろう。
つまり――水族館と工場の非常口同士が繋がっているということだ。
これはテレビゲーム等に良く登場する、所謂ワープポイント、なのだろう。
原理はさっぱり不明だが、概念としては解り易い。
非常口の裏に回ったらどうなっているのだろう、という疑問が頭を過ぎったが、取り敢えず保留しておく。
何にせよ、これは僥倖と言える。
この工場の入り組み具合なら、後ろからモンタージュの男が追い掛けて来ていたとしても、容易には発見されまい。
問題は、工場の内部の各所が滅茶苦茶に荒らされていたことだ。
金属壁に穿たれた銃痕や大穴、傷だらけのアクリル床が、以前に行われた激しい戦闘を物語っている。
中には丸ごと機能停止している区画もあった。
火災の跡も多数あったが、これはどうやら工場の自動消火システムによって消し止められたらしい。
だが、それらはどれも彼女の困惑の原因ではない。
現在、ひよののいる場所は、工員用の給湯室だ。
給湯室の入口は鋼材がいくつか積み上げられて塞がっていた。
これ見よがしに何かがありそうな様子の部屋に興味を覚えたひよのが、多少梃子摺りながらも鋼材を取り除いて室内に入ってみると、中は異常な状態だった。
入ってすぐの床には、ズタズタに切り裂かれ血に塗れた服が散らかっていた。
トゲの付いた、間違っても本来の用途では使用出来ないであろうバットもベトベトの状態で転がっている。
これだけでも異常だが、その先はもっと異常だった。
部屋の奥は、あるラインから向こうの部分が、壁も床も天井も椅子やポット等の小物も含めて全て溶けていたのだ。
まるで部屋の奥を下にして垂直に傾け、そのまま部屋を丸ごと強酸の風呂に浸けたかのような状態だった。
入口に『給湯室』と書かれていなかったら、何の部屋かも判らない程の惨状だ。
深宇宙の混沌から異形の旧支配者たちでも這い出して来たのだろうか、などと埒も無い妄想が過ぎる。
溶けた領域に近付くと、酸特有の刺激臭が鼻を突いた。
顔を顰めつつ目を凝らす。床には人間大の赤黒い染みが付いていた。
その近くには鈍色のリングが落ちている。
子供の頃に見た悪夢を突然思い出したときのような不吉な感覚を覚え、ひよのは床の染みを回り込んでリングの近くにしゃがみ込んだ。
「これ……首輪!?」
血と肉片と、それに良く判らない粘液で汚れて生臭いが、確かに自分の首に嵌められているものと同一の首輪だった。
手が汚れないように気を付けて指で摘み上げる。
「これ、やっぱり継ぎ目も何もありませんよねぇ……ん〜……あれ?」
首輪を矯めつ眇めつしていたひよのだったが、あることに気付き声を上げた。
首輪の内側。
色が付いている訳でもないため気付き難いが、『柳生九兵衛』という文字が小さく彫られている。
――柳生九兵衛。確かその名前は名簿にあったはずだ。
その人物の名が刻まれた首輪がここに転がっているのは、一体何を意味しているのだろうか。
彼が――実際には彼女が、だが――首輪の取り外しに成功してここに首輪を捨てて行った、という可能性も無くはないが……。
「流石にそんなに甘くはないでしょうし、そうすると床のコレは……」
やはり柳生九兵衛という人物のなれの果て――だろうか。
そう思い至って無意識に一歩退いたそのとき、
ドガガン。
「ひゃうっ!?」
部屋の外から重い音。首輪が手から滑り落ちて乾いた音を立てる。
思わず悲鳴を上げてしまったものの、即座に振り返って身構えるひよの。
まさか、工場を破壊した人物がまだ――!?
息を止めて入口のドアを睨む。
だが、それきり外からは何も聴こえて来ない。
不審に思ったそのとき、ガシャンと再び小さな金属音が響いた。
びくりと肩が強張る。
だが――やはりそれ以上は何も起こらない。
そこでひよのはようやく気付いた。今のは給湯室に入るときにどかした鋼材が崩れただけだ、と。
ほっと胸を撫で下ろして警戒を解く。
首筋や腋にじんわりと滲んだ汗が気持ち悪い。
とにかく、これ以上ここで考えていても埒が開かない。
まだ工場内部で探索していない場所もあるのだし、そちらを見回れば判ることもあるかもしれない。
本来ならこんな危なっかしい場所は早々に見切って別の場所へ向かうべきなのかもしれないが、
「やっぱり、この格好で外に出るのはちょっと……」
眉間に皺を寄せて、ちらりと下を見る。
下半身裸というのはやはり心許無い。
出来れば工場内で衣服を調達したいところだ。
とはいえ、本当に危険そうならそんなことには拘らずにさっさと逃げ出すつもりだが。
まぁ、もう少し探索して収穫が無かったら、一先ず神社へ向かえばいいのだ。
神社なら服の一つや二つは当然置いてあるだろうし、何より長居する人がいるとは考え難いため誰かに遭遇する危険性は低い。
当面の方針を決めて、ひよのは足元の首輪を拾い給湯室から出ようとする。
そのとき、床に散乱している切り刻まれた服に混じって、デイパックの破片、そして半開きのメモ帳が覗いていることに気付いた。
そして、そのメモ帳に何がしかの文が書かれていることにも。
汚れてはいるが、何とか読めそうに見える。
ひよのは少し考えた後、それを拾い上げ、頁を捲り始めた。
これによって、彼女は更に困惑の度合を深めることになる――。
【柳生九兵衛@銀魂 死亡確定】
【E-6/工場/1日目 午前】
【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)
[服装]:イルカプリントのTシャツ、ストレートのロングヘア
[装備]:
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、若の成長記録@銀魂、水族館のパンフレット、
綾崎ハヤテの携帯電話(動作不良)@ハヤテのごとく!、太極符印@封神演義、自転車、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、
秋葉流のモンタージュ入りファックス、柳生九兵衛の首輪、柳生九兵衛の手記
[思考]
基本:『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。蘇生に関する情報を得る。
0:まともな服を調達する。
1:鳴海歩と合流したい。
2:あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
3:安全な保障があるならば妲己ほか封神計画関係者に接触。
4:三千院ナギに注意。ヴァッシュ・ザ・スタンピードと柳生九兵衛に留意。
5:機が熟したらもう一度博物館に戻ってくる。
6:探偵日記を利用する。
7:復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
8:もう少し工場内部を探索、収穫が無ければ神社へ向かう。
[備考]
※清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※手作りの人物表には、今のところミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、太公望の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
※太公望の考察と、殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
※超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
※白スーツの男(ミッドバレイ)を危険人物と認識しました。
※モンタージュの男(秋葉流)が高町亮子を殺したと思っています。
※太極符印にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
結崎ひよのは太極符印の使用法を知りません。
※探偵日記と螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※フィールド内のインターネットは、外界から隔絶されたローカルネットワークであると思っています。
以上で投下終了ですが、一つ訂正を。
>>78の12行目は
×狭い
○狭い通路にただガサガサと無機質な音が響く。
です。
何で推敲前の部分が残ってたんだろ……。
おお、投下乙です!
ひよの……運がよかったなあ、ロリコンビに追跡されてたら酒池肉林に巻き込まれたぞw
全裸でサイクリングに吹きましたw
工場での一件が情報戦の一角に露呈したとなると、この情報が歩や或に伝わるのも時間の問題か……。
そして王天ちゃんは雑用係かw
いまさらだけど、Mr.2の本名ってベンサムなんだな
おお、投下乙であります
今まで(物理的に)動かなかった分、ひよのが一気に爆走したなぁ
しかし、安全地帯から危険区域に入ってしまったか
しかも下半身裸w
太公望の考察は後出しで色々出来そうで便利そうだな……
もう少し時間を置いてからになりますが、デパート組の話が完成したので
投下してもいいでしょうか?
問題ないと思います。うわあワクワクw
wktk
>>87 もう死んでるのに今更そんな話して何がしたいの?
未練がましい糞ワンピ厨は死ねよ
それでは投下します
失った。
男の尊厳も、大人としての意地も。
全て。
白夜叉と謳われた、かつての武勇の誉れも今の侍には何の価値ももたらさない。
どうしてこうなった……
男の身体から溢れ出る熱いものが、ジワジワと白地の布を染めていく。
それは既に、男が手遅れである事を告げていた。
畜生。
虚ろな瞳で銀時は空を仰ぐ。
カラッと晴れた、青い空。
たなびく幾条もの煙が、どこまでも高く、高く昇ってかき消える。
あのいけすかねえ野郎の話だと、この島は卵のように殻で包まれているってェ事だったが……
なんてこたァねぇ。
江戸と何一つ変わりゃしねェ空じゃねーか。
この空の下で……今も変わらず、あの連中は馬鹿騒ぎしてんだろうな。
「帰りてェな……あの町に……」
銀時は、少しだけ自嘲気味の笑みを漏らすと――
全身に纏わりつく虚脱感に身を任せる。
こんなことになる前の出来事が、後悔と共に脳裏をよぎった。
◇ ◇ ◇
白き剣士との邂逅の後、銀時と沙英は当初の予定通り食料品の調達にデパートの地下に向かう。
ヴァッシュたちと別れてから大分時間が経ってしまった事に焦りつつ、まだ食べられそうな物を探す沙英を尻目に
銀髪の侍はデイパックにこれでもかと甘味を詰め込んでいる。
そんな姿に、いつか一緒にベリマで買い物をしたヒロの姿がダブってしまう。
「……もぉー、銀さん。そんなに甘いものばっかりじゃ、太っちゃいますよー」
いつもヒロに意地悪混じりにしていた注意を、沙英は若干の寂寥感と共に口にする。
「あー、大丈夫大丈夫。
漫画の主人公ってのは体型かわんねーから。変わったとしても、すぐ戻るから。
……糖尿病寸前って設定も、作者忘れてるしー」
「その若さで糖尿病寸前のほうが太るよりヤバイじゃないですか!!
ってか、作者って何っっ!?」
ビシイッ
手刀の形に作られた沙英の掌が、しゃがみこむ銀時の頭に向かって振り下ろされる。
いわゆるひとつの、「つっこみ」の基本形だ。
それをかわしもせずに受けた銀時も嬉しそうなニヤケ顔で、沙英に向けて親指をグッと立てる。
その反応で、自分がまるで条件反射のように自然と「つっこみ」を入れてしまった事に気付き、沙英の頬がカァーッと羞恥に染まった。
支援します
――いつの間にか、何か別の世界の色に染められつつある――
そう自覚出来た事は、この少女にとって幸か不幸か……
助けて、うめてんてー!!
「『沙英はつっこみの才を手に入れたァ!』」
「入れてません!」
◇ ◇ ◇
などといったいきさつを経て、食料と血液を手に入れた二人はデパートを出る。
貧血で倒れた少年の事を思えば、これ以上ぐずぐずしては居られない。
二人は朝食代わりのドラ焼きを口に詰め込みながら歩く。
ほのかな餡子の甘みが、この半日の内にささくれ立った沙英の神経を優しく解していく。
「しかし、このデイパックすげーわ。
これがあれば大江戸物流革命起こせちゃうよ?
パン屋の片隅で万屋印の宅急便始めて、銀さん左団扇の生活出来るんじゃね?」
「パン屋の片隅って何?
っていうか、もう万屋じゃないですよね、それ」
「あれあれ、おたく魔女宅みてねーの? あんだけ感動できる映画はそーはねーよ?」
「いや、魔女宅は知ってますけど……もう、どこからつっこめばって、わわっ」
建物の出口でいきなり銀時が立ち止まり、沙英はその背中にぶつかりそうになる。
急に立ち止まった銀時を見上げてみれば、顔色は蒼白でただ一点を見つめている。
「ど、どうしたんですか?」
沙英もそれを確認しようと、銀時の背中からひょいと顔を出す。
と、同時に世界から輪郭が消えた。
靄がかかったようにぼやける景色。
「ちょっと、銀さんっ! メガネ返してくださいよっ」
「あ、あれー!?、よく見るとこのメガネ可愛くね? ちょっと見せてくんない?
ほら、ここんとことかすげーオシャレじゃね?」
「えっ、ふ、普通のメガネだと思いますけど……」
素早く沙英からメガネを奪った銀時の視線の先にあるのは、とても子供には見せられない凄惨な光景。
乱世のあの頃ならばともかく、平和な現代では見かけるはずもない猟奇的な殺人現場。
ひたすら死体を切り刻む事に精を出す一組の男女の姿がそこにあった。
(おいぃィィィィー!? 子供の情操教育に悪いってレベルじゃねーよ!? 何やってんの? 何してくれちゃってんの!?
せめてモザイクくらい掛けときやがれーっ!!
PTSDで訴えるぞ、オラァァァ!!)
あまりにもヤバすぎる参加者たちの凶行に、侍は動揺していた。
近づいて来る男たちにも気付かないほどに。
「よぉ、万屋の旦那ァ。まだくたばっていませんでしたかィ」
だから、運が良かったのだろう。
その男が、殺し合いに乗っていない知り合いだった事は。
この時はまだ、銀時はそう思っていた。
◇ ◇ ◇
「……そして天空の星々に導かれたかのように出会った二人の勇者は、互いの目的の為に手を取り合う。
人を探しているというオッサ……いや、年上の戦士は人探しの能を持つ少年の話に食いつく。
そこで俺たちは新たに市街地で入手した車を使い、少年と別れた現場に到着。
そして開いていた扉を潜り抜けると、ここに出たってわけでさァ」
「誰に説明してんだよ、オイ。こっち向いて話せバカ」
「いや、ちゃんと説明しとかねぇと色々面倒な事になるんで……で、ここは地図にあるデパートで間違いないんですかィ?」
「ええ、そうですよ? ……屋上からだと、南に海が見えましたし。
あ、私、沙英って言います」
どうにも釈然としないといった様子の沖田であったが、沙英の自己紹介を受けて他の者もそれぞれ名乗りを上げた。
全員が名乗った所で、沖田の視線が銀時の手元に注がれる。
「ん? 旦那ぁ。その手に持ってるのは新八君じゃねーですかィ?」
「いや、違うからね。これ違うメガネだから。ほらぁ、フレームが華奢で女の子ーって感じでしょ」
「すいやせん、俺ァ別にメガネフェチってわけじゃねーんで……」
「いや、あんたらメガネに凄い拘ってますよね、
フェチってレベルじゃないですよねっっ!?
もうっ、返して下さいっ!」
沙英はメガネを奪い返すと、装着。
まったくーと呟きながら顔にしっかりフィットさせるために、フレームをくいくいと指で押しあげる。
その間に銀時はさりげなく動いて、沙英が出口から出ないように進路を塞いだ。
「そういえば、ガッツさんってグ……」
「おい、いい加減にしろ。潤也ってのはどこにいるんだ」
沙英の問いかけを遮るように、延々と続く漫才に苛立った黒一色の剣士――ガッツと名乗った男が口を開く。
「おおっと、そうだった。
万屋の旦那、この辺でバカでけぇ男と、生意気そうなガキを見かけませんでしたかィ?
あとバカでけぇ剣持ってる奴」
「生意気なガキと、バカでけぇ剣持ってる馬鹿でけぇ男なら目の前にいるけどー、……もしかして、アレ?」
銀時が視線を向ける方向――出口を出て数十メートルばかし進んだ先に広がる解体ショー。
その主菜は、先ほどまで沖田の同行者であった金剛番長。
そして、その肉体を切り裂く者は……
「あのガキ……」
それを見た沖田は、デパートを飛び出す。
それは江戸の街を守る、警察としての意識から出た行動ではなかった。
たかが数時間共にいただけの人間に、仲間意識を持ったわけでもない。
自分でもわからない何かが、沖田の足を動かしていた。
沖田を追いかけて、ガッツも飛び出す。
「オイイィィィィッ!? 人を巻き込もうとするんじゃねぇーーー!!」
銀時もそれに続く。
ただし、それは自分の意思ではなく、その腕をしっかりと握りしめた沖田に引きずられてのものであったが。
「相手は三人、こっちが二人じゃ数が合わねーじゃねーですかィ。付き合って貰いますぜィ」
「銀さんっ!?」
「沙英ーー! お前はそこで隠れてろっ! 絶対出てくるなっ!」
銀時の声で、追いかけようとした沙英の足がピタリと止まる。
初めて名前を呼んだその声に、常の彼らしからぬ真剣なものが含まれていた気がして。
◇ ◇ ◇
そして金剛番長の最後の雄姿を、三人は目撃する。
死してなお立ちあがるその姿。
されど死せる者に、何かを為す事は出来ない。
だからせめてその意思を受け継ごう。
ゆっくりと倒れる金剛の目が、後は頼むと告げていた。
「あらん? 不味い所を見られちゃったわねぇん」
言葉とは裏腹に、まるで罪悪感など感じさせない口調で女が呟く。
美しい女だった。
プリンのように柔らかそうな双丘を、大胆に魅せる露出過剰な衣装。
男なら、誰もがふるいつきたくなる腰の曲線。
瞳は子猫のように移り気な輝きを放ち、玲瓏たる声は喧騒の中でも美しく響きわたるであろう。
燦燦と降り注ぐ日光の下、女は極上の笑顔で不意の闖入者たちを出迎える。
だと言うのに、三人が感じたのは凍りつくような悪寒。
底知れぬ深淵に引きずり込まれるような、人外の者が放つ特有の気に、身体が勝手に反応して臨戦態勢を取る。
この女こそがこの惨劇の主役。
誰が説明せずとも、それを直感したが故に。
女を守るかのように進み出るのは、ドラゴンころしを持つ体育着の少女。剛力番長。
本来の自分の得物を軽々と持つ少女に、ガッツは軽く瞠目する。
放心状態だった潤也も、沖田を見て立ちあがる。
「土方……いや……」
土方は偽名。それに気付いている少年は口ごもる。
別れた時は強い意志を湛えていた視線はキョドり、憔悴しきった脳みそは上手い言い訳も思いつかない。
口元を拭い、立ちあがったのはせめてものプライドか。
だがそんな潤也に対し、沖田は絶対零度の視線を持って答える。
その場に強く漂う対決の雰囲気。
それを察して、妲己は考える。
妲己の目的は仲間を集め、その力を持ってして神を倒し力を奪う事。
見れば三人とも中々の力を持っていそうだが……
「実験」を見られたのはともかく、「倒されるべき悪」と設定した剛力番長と共に居る所を見られたのは不味かった。
あれだけノリノリで実験していたところを見られては、剛力番長に脅されてやったなどという言い訳も通じないだろうし、
彼女の信頼を損ねてしまう。
それに人の口に戸は立てられないと言う。
もし上手くこの三人を懐柔し、仲間とする事が出来たとしても、いずれこの事実は誰かに伝わり計画に思わぬ破綻をもたらすかもしれない。
共犯者であるこの子たちなら絶対口を割る事はないだろうが、無関係の人間に見られたのは、いかにも妲己らしからぬ失策だったのである。
そもそも、多くの人間が集まるだろうと予測していたデパートの前で「実験」などするべきではなかったのだ。
やるなら九時に禁止区域に設定される山中でするべきだった。
それが判っていて、妲己がここで「実験」を行ったのは……
だって、早く金剛ちゃんの苦痛と絶望に満ちた顔が見たかったんですものんっ☆
あはんっ、と妲己はウィンクをしてみせる。
まぁ、済んでしまった事を考えてもしょうがない。
この場は、いかにしてこの三人を黙らせるかだが……
恐怖? 利益? 詐欺詐称?
いずれにせよ、最終的には死人に口無しということになるのだけれど。
……ひとまずここは、利を持って釣ってみようかしらん。
わらわの握っている情報は、恐らくかなり貴重な物のはずよん。
その貴重性の判らないおバカさんなら……今すぐ死んでしまっても一向に構わないわん。
利用出来そうなお利口さんなら、もう少しだけわらわの掌の中で生かしておいてあげようかしらん。
「あはぁん、そんな怖い顔しちゃいや、いやーん」
妲己は悲しげな表情を作ると身を捩じらせる。
テンプテーションの術が使えないとはいえ、妲己がその身に備えた美貌と声は磁力のように一同の注目を集める。
それを知り抜く妲己は、視線を心地よく浴びながらご自慢のセクシーポースを取り、高らかに宣言する。
「わらわこそ、ジャンプ史上究極にして至高。不滅のヒロイン、妲己ちゃんよぉーん」
「……」
その場に満ちた不穏な空気を、自分色に染め直した事を確信し、妲己は喋りはじめた。
どこまでも自分本位に。
「みんな落ちついてぇん、不幸な行き違いがあったけど、これは違うのよぉん……」
「妲己って事は、あの胡喜媚ってのの姉貴か?」
だが、それをガッツが遮る。
ここに来る前に出会った化け物の少女からその名を聞いた、宝貝合金とやらの情報を知る女性。
「あらぁん? 貴方、喜媚を知ってるのん?」
肯定の意を含む返答。
それを聞いた途端、ガッツは突如として、妲己にその牙を剥く。
抜き打ちで放たれる鋼の牙。
別に妲己の非道が許せなかったわけではない。
ガッツにとり、化け物の犠牲者などどうでもいい事だ。
それが見知らぬ人間であれば、尚更に。
そんなものは見飽きている。
ただ、憎いだけだ。
積り、積もった憎しみは、理屈抜きでガッツの身体を動かすのだ。
決して共存出来ぬ化け物であることを知るが故に、ガッツは鋼の塊を持って言葉の代わりとする。
それに困るのだ。
首輪の解除などをされては。
絶大な力を誇るゴッドハンド。それを討つには首輪による制限を利用する必要があるのだから。
神速で振り下ろされるガッツの牙。
その全てを打ち砕くはずの一撃を、同等の早さで振り回された大剣が阻む。
それは鍛冶屋ゴドーが鍛えし、ドラゴンという幻想を殺すための剣。
まさに鉄塊と呼べるそれは、ガッツの一撃を受けて小揺るぎもしない。
「あの女性を傷付ける者は、私が許しませんわっ! やあああああ!」
「へっ、おもしれェじゃねーかっ!」
一合、二合と剣を撃ち合う。
少女と黒い剣士の間に、たちまち吹き荒れる刃のトルネード。
周囲の介入など許さぬとばかりに、吹きすさぶ剣風が渦を巻く。
「こっちですわっ!」
その場でやりあっては妲己に危害が及ぶと思ったのか、剛力番長が剣を撃ちあわせながらも移動する。
「オキタッ! そのガキにグリフィスの居場所を聞いとけよっ!」
仕方なくそれに応じたガッツが沖田に一言残すと、二人は次第に遠ざかる。
鋼鉄同士が撃ち合う轟音が小さくなっていき、摩擦で焼けた金属の臭いがその場に残った。
「怪獣みてェな連中だぜィ……」
「んー? グリフィス? あー、ガッツってあいつの知り合いか、そういやンな事を言ってたな」
「あれ、万屋の旦那ぁグリフィスってヤローの事知ってたんですかィ? そんならそうと早く言ってくだせェ」
「いや、だって聞いてたのと大分違うよあれ、黒ずくめとか、白髪混じりとか、義手とかそういう判りやすい特徴があるなら
ちゃんと言っておけってんだ」
銀時と沖田はこそこそと小声で話をする。
グリフィスと名乗る男との合流の手筈。それを聞き沖田は
「んじゃ、あのガキは別に焼いて食おうが、煮て食おうが構わねぇわけだ……」
と、ひとりごちる。
その話は妲己の耳にも届いていた。
(あはん、わらわは耳もいいのよん……グリフィス、ねぇん。会ってみたいわん)
会話が聞こえた事などおくびにも出さず、妲己は再び口を開く。
「いきなり斬りかかってくるだなんて、酷いわぁん。わらわは話し合いがしたいだけなのに……」
「黙れよ雌豚ァ」
沖田の暴言に妲己はパチクリと目を瞬かせ、可愛らしく小首を傾げる。
何を言っているのかわからないという風に。
「雌……何?」
「雌豚って言ったんでェ。
何がジャンプ史上究極にして至高。不滅のヒロインだィ。
作品中の人気投票だけでも11位なんて取っておいて、よくそんな事が言えたもんだぜィ。
乳首券も発行しねェで記憶に残るほど、ジャンプ読者は甘くねーんだ。
出なおしてきなァ。
って、この一位の旦那が言ってましたァー」
おきたww
人気投票www
「二位ーーーーーーーっ!?
お前どんだけ俺に厄介事押し付ける気なのっ!?
俺なんかしたァーー?
お前になんか悪い事したァーーー!?」
「そう……あなた、一位なのねぇん? ジャンプ読者ったらどうしてこういうニートっぽい子に憧れちゃうのかしらん。
わらわ、それじゃ駄目だと思うのん。
わらわみたいな働き者の女性が高い人気を得られる社会……
そんな理想的な社会の為にも……」
妲己は手に持つ槍を潤也に預けると、デイパックの中にその華奢な腕を突っ込む。
細腕に導かれ、現れるのは巨大な砲身。
またネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲かよっ!!
と、思わずつっこみを入れてしまいそうになる銀時の前で、その支給品は全容を現す。
青褪める銀時。
さすがにこれはなしなんじゃね? と、彼は思った。
巨大な火砲。全体を覆う強固な装甲。いかなる地形をも走破する巨大なキャタピラ。
どう見ても戦車です。本当にありがとうございました。
「って、ちょっと待てェェェーーーー!?」
この戦車こそ、軍事国家アメストリスの北方軍ブリッグズにて開発された新兵器。
軽やかな足取りで、妲己は戦車に乗りこむ。
「あなたには、ここで死んで貰うわぁん!」
「いやいやいやいやっ! 俺、ちゃんと働いてますからっ! 子供たちのいいお手本ですからああああああっ!!」
無限軌道が回転する。
轟音を上げ、アスファルトを砕きながら、妲己の乗りこんだ戦車は前進する。
恥も外聞もなく背中を見せ、逃げだす侍を追って。
「さぁーて、やっと邪魔な連中がいなくなったなァ? 潤也くぅーん?
何か、言い残してェ事はあるか?」
「沖田……」
さっきの黒衣の男が呼んだ名前。
正か誤か。
十分の一=一。
今度こそ偽名などではない、目前の男の真の名前だ。
喧騒が遠ざかる。
その場に残されたのは、もはや共に歩くことなど出来ないほどに道を違えた少年たちだけだった。
◇ ◇ ◇
「あんなん反則だろうがァーーーー!!」
喚きながら走る。
一定のリズムでキュラキュラと鳴る音は、離れる事も近付く事もない。
もてあそばれているのか。
ビルとビルの隙間にでも入れば、あの巨体だ。
追いかけて来れないだろうが、逆にこちらも狭い道では砲火を避けられない。
結果として銀時は、大通りを延々とマラソンする破目になっていた。
銀時は焦りを感じた。
長期戦は出来ない。
いつまでも、こんなマラソンを続けるわけにはいかないのだ。
伸るか反るか。
意を決すると銀時はデイパックの中に手を突っ込み、とある物を掴んで小道へと飛び込んだ。
「あはん、おバカさんっ☆」
マニュアルを流し読みしながら、銀時を追跡していた妲己は呟く。
砲身を旋回させながら銀時の入った小道の前で止まる。
素早く運転席を立ち、砲撃手用の席に駆け上り、スコープを覗く。
「あらん?」
いなかった。
あの目立つ銀髪が見当たらない。
妲己はハッチを開けると、ちょうどそこにやってきた黒髪のロン毛に話し掛ける。
「ねぇん? ここを銀髪の天然パーマの人が通らなかったぁん?」
「さぁー? 天パの美形なんて見なかったなァ。
それよりちょっと邪魔だから、そこ戦車動かしてっ! 通れないでしょー?」
「あはん、ごめんなさぁい」
黒髪のロン毛が通り過ぎていく。
果たしてあの銀髪はどこにいったのか……
「って、そんなベタベタなネタに、わらわがひっかかるわけないでしょぉん?」
ガガガガガガガガガガガガガッ!!
主砲の脇に備え付けられた機関銃が火を放つ。
刀を抜き放ち、自分に向かってくる銃弾を次々と斬り払い、あるいは避けるロン毛だったが、遂に一発の銃弾が
髪に当たりその勢いで、黒髪全てが吹っ飛ぶ。
「あー! 俺のサラサラヘアーがー!?」
吹っ飛んだかつらの下から現れる銀髪。
銀時がデパートのマネキンから奪った黒髪ストレートのかつらは、追撃の銃弾を受け哀れにも四散した。
「ヅラァーーーーーッ!!」
銃声が止む。代わりに響くのは、妲己の高笑い。
「愉快な人ねぇん。わらわ、ちょっとだけ興味が湧いちゃったわぁん」
「ハッ、そういうあんたも中々ノリがいいじゃねーの。
さっきの、あんな見え見えの挑発にひっかかるようなタマじゃないでしょお宅。
何? 何が狙いなの?」
「ギャグはあなたたちの専売特許じゃないのよぉーん。
そ・れ・に・あの二人のお互い見つめ合う熱い視線……いやぁーん、わらわドキドキしちゃうんっ!
ちょっとだけ二人きりにさせてあげたら、どんな事になるのかしらぁん。
ねぇん、貴方もそう思わないん?」
「ぜーんぜん思いません。俺、BLとかに興味ないんで……
つーか、あいつドSだよ、相方ボロクソにされちゃうよ? 早く戻ってあげた方がいいんじゃね?
俺なんかに構ってる暇、ないんじゃね?」
「いいのよん、わらわ、ちょっとやりすぎちゃったみたいでぇん……
あの子、使い物にならなくなっちゃってるかもしれないのん。
そんな時は、更に叩いてあげるのよぉん。
ほら、鉄は熱いうちに打てって言うでしょん?
楽しみだわぁん。窮地に追い詰められたあの子が、どんな風に切り抜けるのか」
妲己は頬を薔薇色に染めて、うっとりと答える。
「でも貴方、意外と察しがいいのねぇん。わらわ、見直したわぁん。
どう? わらわと組む気はないかしらん?
たぶん、わらわ以上にこのゲームの真実に近づいている人間は、この島にはいないと思うわよぉん?
この首輪、外したくないかしらん?」
妲己から差し出された、和解の言葉。
この騒動に巻き込まれただけの銀時に、戦う理由などない。
思わずそれに乗っかろうとして、銀時は思い出す。
金剛の最後を。
この女がやった、死体損壊……いや、生体実験を。
泥水啜ろうが構わねぇ。
生き延びる事が出来るなら、泥水だろうが、残飯だろうが気にしねェよ。
だがよ、人の生き血を啜るのだけは御免だぜ。
そんな風に生き延びて、あいつらになんて言うんだ?
お天道様に顔向け出来ねえ。
楽しく笑って生きていけねえんだよ。
だからっ!
「どっちかっつーと、俺もSなんでぇー。
あんたみたいな超ドSとは、相性が悪いかなーなんてぇー」
「そう……残念ねぇん。まぁ毎回こんな展開にされたんじゃ、わらわも困っちゃうしぃ……
確かに相性が悪いかもねぇん」
あくまでも下手に断る銀時の返事に、さして残念という色も見せずに妲己は頬に手を当てる。
「じゃあ、そろそろ死んで貰えるかしらぁん?」
いつの間にか、銀時に向かい照準が合わせられていた主砲。
妲己の宣告と、砲弾が飛び出すのは同時だった。
◇ ◇ ◇
それは主催側に渡された一枚の紙っきれに浮きだした、たった数文字の情報でしかなかった。
真偽のほども、わからない。
それが兄の事なのかどうかすら未確定な、情報とも呼べないものに踊らされて。
妲己という、稀代の悪女に唆されて。
俺は金剛を裏切った。
いや、……違うな。そうじゃない。
わかってた。
俺にだけは、わかってた。
ただ、認められなかっただけだ。
死んだ人間が生き返る。そんな非現実的な現実を。
十分の一=一。
今、この島には俺の兄貴がいる。
だから、俺は――
「ふゥん、それでそれで?」
酷薄な声で沖田は続きを促すと、少年を踏みつける。
自分が折った、右手首。
その明確すぎるウィークポイントを、足のつま先でグリグリと。
痛覚が電撃となって神経を伝わり、潤也は絶叫する。
砕けた骨が肉の中で攪拌し、潤也は腕を斬り落としたくなるほどの激痛に喘ぐ。
戦いになど、なるはずがなかった。
今行われているのは、事情聴取という名の拷問行為。
再び首輪の片方は沖田の手に。
潤也の身体は青あざだらけの血まみれで、情けなく地面に倒れ伏す。
荒い息をつきながら、途絶え途絶えにデパートでの出来事を全て喋らされた。
息を吸うだけで金剛の脳みその味がリフレイン。
全身の神経からむちゃくちゃに入力される痛みのせいで、偏頭痛がした。
……なぜ、こいつと対決しようなどと思ったのか。
何か理由があったはずなのに、痛くて頭が働かない。
糞、人の話も聞かないで好き勝手に殴りやがってっ!
どかんどかんと、さっきから砲撃音が耳障りで敵わない。
今も好き勝手暴れているらしいあの女とは裏腹の、この身の情けなさが恨めしい。
そんな潤也の内心など窺う事もなく、沖田は尋問を続ける。
「俺は……兄貴をこの殺し合いから救い出す。妲己についたのは、そのためだ。
あの女は、この首輪をどうにか出来るかもしれない。
俺はただ……脱出の可能性が高い方を選んだだけだ……」
「可能性ねェ。それがてめーが考えた結果って奴かィ。
その結果、こうなった訳だがよ……どうやってこの状況から抜け出すってんでェ?」
どうするか、だって?
ああ、そうだ、そうだった。
暴力でこいつに敵いっこないのは先刻承知。
それでもこいつとはもう一回話さなきゃいけない気がした。
それは……
「手を……組まないか?」
「あァ?」
こいつに、手を借りようと思ったからだ。
「あんたに兄貴の護衛を頼みたいんだ。
正直、あの女に兄貴を抑えられるとヤバい。
兄貴を盾に取られたら、俺はあの女の命令を聞くしかなくなっちまう」
そう。妲己は確かに脱出に一番近そうな奴だが、同時に最悪に危険な女だ。
気まぐれ一つで俺を生かし、気まぐれ一つで金剛を殺す。
そんな女の近くに兄貴を置いておけるわけがない。
守ってくれるなんて口約束、信用出来るはずがない。
現に今だって、俺をほっぽりだして遊んでやがる。
……だけど今の状況は、予想外の好機とも言えるのかもしれない。
こうして妲己の眼の届かない所で、誰かにこんな事を依頼出来るチャンスはもうないだろう。
兄貴の居場所は、既に妲己に聞かせてしまった。
妲己が遊びに興じている今の内しかないんだ。
「おいおい、いつまで寝ぼけてやがるんだ。今更俺と手ェ組みてェだと?
さすが金剛の旦那ァ手玉に取った性悪だぜ。
ケツの軽さもとんでもねーや」
……まぁ、そう来るだろう。
当然の反応だ。
だけど、俺は知ってる。こいつの急所を。
俺と同じ痛みを抱えている男の、決して無視出来ない泣き所を。
「タダとは言わねェよ。
報酬は……情報、だ」
そしてこいつも知っている。
嘘発見器みたいな、俺の能力。
その能力を駆使して得る情報こそがこいつとの取引材料。
「人を生き返らせる方法。
……そのマジな情報を、俺は妲己から聞き出して、アンタに提供する」
こいつはリアリストだ。
人が生き返るなんて、簡単には信じられないだろう。俺だって信じなかった。
だけど人が生き返った事例を前にして、考えないはずがない。
もし、そんな奇跡が実在するのなら。
肉親や恋人……死に別れた大切な人と、また逢えるかもしれないと。
だけど、そんな肉親なら持って当然の願望を、
「ンなモン、興味ねェなァ」
この男は一言の元に切り捨てた。
なん……だと? こいつ……今なんてった?
信じられない答えを聞き、空白になった俺の意識に稲妻が走る。
沖田の靴が、再び踏み下ろされたのだ。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!
……い、生き返りを……し、信じてねー……のかよっ!?
それとも……俺が金剛を裏切ったのが、許せねェのか?
こんなっ、こんな最後の一人まで殺し合わせるような島でよォッ!」
興味がないなんて、あり得ない。
断られた原因が、他にあると考えて俺はそれを尋ねる。
「金剛の旦那には忠告したんだがな?
てめーを信じるなってよ。
それでああなっちまったなら、まァ言っちゃ悪ィが自業自得って奴だ。
……それに生き返りの件についちゃあ、信じるも信じねぇもねぇよ
俺ァ姉上を生き返らせる気なんて、端からねーんだからよ?」
「な……んでだ……」
「そうさな……まァ、金剛の旦那風に言えば、スジが通らねェーからだって所かねェ
俺はてめーみてェに情けなくあっちこっちに流されねェ。
兄貴が死んだから生き方変えて、生き返ったからまた変えて、それで次はどうすんだィ?
……フラフラフラフラ逃げてんじゃねェや。反吐が出るぜィ」
……スジが通らないからって、肉親を諦めるってのかよ……
冗談じゃねぇ。冗談じゃねぇぞ。
そうじゃねぇだろ。
スジなんてもん、どうだっていいだろうっ!
自分が畜生道に落ちてでも、肉親には生きて貰いたい。
仇がいるならそいつを殺したいと思うのが肉親の情って奴だ。
それをこいつは……自分の生き方って奴を優先して、肉親を見捨てると。
そう言っているんだ。
「言いてェ事はそれだけかィ? んじゃ、そろそろ仕舞いにするかァ」
――ふざけるな
左手を探るように動かす。
地面に転がる槍を、握りしめた。
流されて、何が悪い。
逃げ出して、何が悪い。
スジだとか、生き方だとかに拘るのは立派だよ。
俺の兄貴もそういう人だった。
でも一番大切なのはそんなものじゃないだろう。
喫茶店にいたヨボヨボの爺さん。
それを見て兄貴は言ってた。
あんな風に、ただ生きてるだけの人生に意味はあるのかって。
群衆の雰囲気に飲まれた大勢の人たちを前にして、兄貴は言った。
流されないお前は強い。俺はいつも流されてたって。
だけど、その後兄貴は対決したんだよな。
突然叫び始めた男……あれが多分、兄貴の力……腹話術って奴だったんだ。
……でも違うぜ兄貴。
兄貴が命を懸けてまで、何かと対決する必要なんてなかったんだ。
流されて、安全に、ただ生きていけばいいじゃないか。
死んじまうより、ずっといいじゃないか……
兄貴は……俺を一人残してまで、変えなきゃならない大切な何かがあったのか?
でも兄貴が対決して、変えようとした世界。
そんなものより俺は。
俺はずっと兄貴と一緒にいられる未来が欲しかった。
だから俺は、どんなにみっともなくたって、何を犠牲にしたって、兄貴と一緒にここを脱出するんだっ!
ザワザワと、髪の毛が伸びる。
痛みはもう感じない。
槍を握る腕が熱い。
何かを囁く声が聞こえる。
俺はそれに応と答えた。
意識が真っ白に染まる直前に。
山の上を飛ぶ鷹を見た。
安藤潤也は、ひとたび定まったベクトルに一直線な男だった。
兄の仇を討つという目的につっぱしった彼は、死んだはずの兄が生きてこの島にいるという
あり得ない現実にブチ当たる。
そして彼は曲がった。
困惑、疑心、恐怖、さまざまなベクトルから叩かれ、ネジ曲げられ、流された。
だからこれは、魔王にならなかった男の物語。
獣の槍に選ばれた、ただの一人の哀れな男の話。
◇ ◇ ◇
先ほどの場所から、やや離れた路上。
斬り結ぶ刃が弾け合い、二人の距離がひとまず離れる。
キリバチを正眼に構え、ガッツは対峙する少女を観察する。
動きやすそうではあるが、下着のように必要最低限の部分しか覆っていない衣服。
その珍妙な服から突き出た細い手足は、どこにでもいる少女のそれだった。
だと言うのに、ほとんど重みを感じないようにあの剣を振るう、その膂力こそが異常。
その異常に、ガッツは心当たりがある。
使徒。
人を外れた、魔の存在。
常は人に擬態しているその化け物は、人の姿を取っていても常軌を逸した力を持つ。
だが――
(烙印が反応しねえ……使徒じゃねェのか?)
訝しむガッツであったが、闘いから意識を逸らしたりはしない。
使徒ではないにしても、剣を合わせて感じ取った相手の剛力は本物だ。
そして……相手の構える大剣――ドラゴンころし。
グリフィスと同じゴッドハンドの一人、胎海の娼姫スランを退け、大帝ガニシュカの霧の身体を霧散せしめた剣。
あれは取り返す必要がある。
ゴッドハンドに転生したグリフィスには、並大抵の武器は通じない。
奴を倒すには、あの剣が必要だ……
ガッツの表情が険しさを増す。
少女が奇妙な行動を取ったのだ。
見慣れぬ道具を口に当て、何事かを呟いている。
何かの攻撃の前触れか。
ガッツは腰を低く落とすと、突進の構えを取る。
相手が何をやらかそうが関係ねえ。
いつも通りにやるだけだ。
敵がいるならねじ伏せる。
奪われた物は奪い返す。
ガキのころから何一つ変わる事のないルール。
そのルールに従い、獣は吼える。
目の前の邪魔者を蹴散らし、グリフィスへと続く道を勝ち取る為に。
剛力番長は鞄からボイスレコーダー――彼女の名付けた所の正義日記を取りだすと自分の行動指針を吹きこみ始める。
いきなり妲己を攻撃した目の前の男の非道さを。
自分の正義を信じてくれる女性の事を。
そして、死者を蘇らせる事は、確かに可能なのだと言う事を。
「……だから私はもう理解を求めようとはいたしません。悪と思われたって、……構いません!
正義とは結果です。最後にみんなが生き返る事が出来れば……それで全部、丸く収まるんですっ!!」
呟きは段々大きくなり、最後には絶叫となる。
妲己の行ったおぞましい実験を容認した事も、マシン番長と金剛番長を自らの意思で殺害した事も、全ては全員の生還
につながると思えばこそ。
もはや剛力番長に後退の二文字はあり得ないのだ。
「オオオオオオオッ!!」
「たああああああっ!!」
ソプラノとバリトンの雄叫びが混ざり合い、唱和を成す。
再び響きわたる剣戟の音。
その残響をも打ち消す、裂帛の気合がその場に満ちる。
不味いな。
とガッツは思った。
目がいいのだろう。
刃筋もろくに立っていない素人臭い剣筋のくせに、ガッツの巧妙なフェイントにも惑うことなく確実に剣を合わせて来る。
これでは剣が持たない。
自身の得物が相手より劣るという、ガッツにとって初めての経験。
しかも、その相手が自分の愛剣とは……皮肉にもほどがあるだろう。
だが、その程度で揺らぐほど、ガッツの積み重ねてきたものは甘くない。
「とぉっ!!」
剛力番長が飛翔する。
そして上空から、落下エネルギーをも利用して放たれる技は……
「フォール・インパクト(落下する衝撃)!!」
ブォンという風切り音を発して、巨大な剣が振り下ろされる。
その破壊力は通常の攻撃の数倍にも達しているだろう。
まさに剛力番長必殺の一撃。
スピードも、タイミングも、自信を持って放たれた一撃であった。
しかし、剛力番長が必殺を確信した一撃はガッツの身体をすり抜ける。
敵の攻撃を紙一重で避けるという、ガッツの驚異的な動体視力と経験がそれを可能とする。
「ッ!?」
愕然とする剛力番長。
自分の必殺技をかわした黒衣の剣士が、剣を脇に構えるのが見える。
だが、避けられない。
まさに今、渾身の一撃を撃ち込み終わり、身体が宙にある彼女には避ける事が出来ない。
あと、一秒で足が地面に着く。
着いたら後先考えないで全力で飛び退く。
それとも体勢をなんとか立て直して、剣で受けるか?
どちらにせよ、地に足がつかなければどうにもならない。
(ああっ、早く……早くっ!!)
最強の眼に写される敵の刃は、間近にまで迫っている。
募る焦燥。
足が……着いたっ!!
126 :
代理:2010/01/11(月) 22:50:51 ID:JwYk4XCt
グシャッ
選択の余地などなかった。
着地した瞬間、吹き飛ばされる剛力番長。
ガッツの振るった一撃をまともに受け、その小さな体は地面を転がり、這いつくばる。
だが、難敵を下したはずのガッツの表情に、勝利を喜ぶ色など微塵もない。
その理由は、剛力番長を斬った時の感触にあった。
ノコギリ状の大剣キリバチ。そのノコギリの刃のいくつかが潰れていたのだ。
立ち上がる剛力番長。
鮫にでも噛まれたかのように、引き裂かれた体操着が痛々しい。
しかし、その白い素肌には傷一つ付いていなかった。
ヒュペリオン体質。
剛力番長の強靭な筋繊維の鎧は、並大抵の刃など通さない。
とはいえ、それはどんな攻撃を受けても平気というわけでは決してない。
彼女とて、ダメージは受けるのだ。
西洋鎧を纏った騎士が、打撃武器によって骨や内臓を損なうように。
そう。
金剛番長との闘い、そして今の一撃を受け、剛力番長の身体は限界を迎えつつあった。
◇ ◇ ◇
マラソンはまだ続いていた。
侍は小刻みに角を曲がり、なんとか隙を見て民家のドアを蹴破り、中に踏み込む。
息が荒い。
痛みはもはや、無視しきれぬものになっている。
一分……否、三十秒でいい。
事態を打開するための時間が必要だった。
だが。
ドォッ――ゴオオオオーーーーンッ!!
そんな余裕は与えぬとばかりに炸裂する主砲。
その大部分が可燃物で出来た住宅は、砲弾にたっぷりと詰め込まれた火薬によってあっという間に炎上する。
先ほどからあちらこちらで起こる火災は止まる所を知らず、市街のあちこちは火に包まれていた。
それは全て、銀時と妲己の鬼ごっこの副産物であった。
爆風と煙に巻かれて、たまらず民家から飛び出した銀時を機関銃が狙う。
銀色の残光を描く剣閃はそれを全て斬り払うが、もはや限界も近いだろう。
煙は視界を奪い、さらには銀時の呼吸をも妨げる。
銃弾に砕かれたコンクリの破片がこつりと額に当たった。
流れ出る一筋の血が、汗と混じって銀時の顔を戦鬼のように赤く染めた。
◇ ◇ ◇
蘇生の可能性というものを知った時、沖田がまず考えたのは姉の気持ち。
姉は果たして蘇生を望むだろうかという事だった。
だが姉の気持ちなど、不肖の弟に判るわけがない。
なにせ、彼は死んだ事などないのだから。
だからそれは、推測と言うのもおこがましい、ただの弟の身勝手な願望。
あの若さで人生を終えた姉上に、未練がないはずがねェ。
生きられるなら、もっと生きていたかったはずだ。
やりてェ事が、まだまだあったはずだ。
それを笑顔と強がりで塗りつぶして、嘆きなんておくびにも出さず――
姉上は残された命の全てを、俺らの為に使った。
剣に生きるあの野郎の事を必死で諦めて、
俺を安心させるために縁談なんて受けて、
でもそんな姉上の最後の努力まで、俺らは自分のスジ通す為にぶっ潰した。
……。
ひでェ話だ。
ああ、俺ァろくでなしの弟だ。
姉孝行の弟って奴だったら、どんな事をしてでも姉上を生き返らせて、今度こそ幸せな人生を望むんだろうなァ。
だけど、姉上はこんなヤクザな弟を自慢に思ってくれた。
自分で決めた道をまっすぐ歩く。
そんな奴らと一緒にいるのが、幸せだったと言ってくれた。
だったら、その想いは裏切れねェ。
それだけは、裏切っちゃならねェ。
……考えるのはそこで終わりだ。
病院のベッドで、奇跡的に息を吹き返した姉上と、あの野郎が感動の抱擁なんぞを交わしてる胸糞悪い光景。
そんなものは頭の片隅にすら上る事はねェ。
迷う事なく揺らぐ事無く、俺ァどこまでも傲岸にてめェの道を行く。
128 :
代理:2010/01/11(月) 22:52:39 ID:JwYk4XCt
――意識が浮上する。
むくりと、沖田は起き上がった。
手元に残された、潤也を繋いでいた首輪。
その鎖は途中で破壊されていた。
潤也の姿は既にない。
たぶん、大慌てで兄の所にでも行ったのだろうと沖田は見当を付ける。
……不覚だったぜィ。
沖田は顔を手で覆う。
完全に抵抗力を奪ったと思っていた。
槍なんて持ったところで、何が出来ると油断していた。
今の今まで隠していたとでもいうのか。
以前とはまるで違う、獣の如き俊敏な動き。
鳩尾を一突きされて、沖田は気を失った。
もし槍に刃が付いていたら、気絶などでは済まなかっただろう。
恐らく気絶していたのは数分の間。
だが、それは戦場なら命を百は奪われるに十分な時間。
だというのに、なぜか命も荷物も奪われなかった。
それが逆に沖田の屈辱に火を注ぐ。しかし――
ふう、と息をつく。
どうにも締まらない。
万屋の旦那を巻き込んでまで、あのガキにちょっかい出した結果がこれ。
あいつが絡むと、自分らしくもない事をしてしまう。
自分らしくもない事を考えてしまう。
それはどこかで、あいつを自分に重ねて見てしまっているからではなかったか。
そう思うと、沖田は苦いものを感じる。
ヤバさを増したあのガキを、このまま放置するわけにはいかない。
いかないが……。
あいつの事は、万屋の旦那にでも依頼したほうがいいのかも知れない。
別にあいつを叩き直してやるような義理は、自分にはないのだし、柄でもない。
そんなものは、金剛の役割だった。
それをこっぴどく撥ねつけた以上、あいつにそんな救いは必要ないはずだ。
「……さて、とりあえず旦那方の手伝いにでも行くか」
129 :
代理:2010/01/11(月) 22:53:49 ID:JwYk4XCt
市街地から火の手が上がっているのが、ここからでも確認出来る。
ずいぶん派手にやっているようだが、いまだ砲撃音が続いている所を見るとまだ戦いは続いているようだ。
この辺に火消しの詰め所でもあれば、消防車でもかっぱらってくるのだが……
よっこらせと腰を上げて歩きだそうとした所で、沖田はこちらにやってくる男に気付いた。
金剛と同じような学ラン姿……ただし、鍛えこまれた腹筋を見せつけるように露出させた超短ランを身に纏い、
素顔を覆面で隠したその少年は、一言で言って不審人物だった。
「ハァ……次から次へと、仕事が山積みだぜィ」
誰かに押し付けたい衝動に駆られるが、ここには仕事を押し付ける相手もいない。
沖田は渋々少年に近付くと、手でメガホンを作り呼びかける。
「ちょっと待ちなさーい、そこの変質者ー」
そんな失礼な決め付けにも少年は反応を見せない。
その歩みは一直線に、視線はただ一点に注がれている。
「おい、それ以上進むと禁止区域って奴に入っちまうぜィ」
そのいでたちから、少年が金剛の関係者である事は薄々気付いているが、沖田は一応忠告する。
金剛の死体は、剛力番長にぶっ飛ばされた事で再び禁止区域に戻っているのだ。
金剛の最後を見届けた沖田には、大体の禁止区域の境界線が判っていた。
だが、その忠告を無視して少年は禁止区域へと侵入する。
首輪から警告の音声が流れる。
沖田はやれやれと頭を掻いた。
◇ ◇ ◇
130 :
代理:2010/01/11(月) 22:55:48 ID:JwYk4XCt
携帯電話の入手など、後回しにすれば良かったのか。
いや、それ以前にあんな酔っ払いに捕まったのが不味かったのか。
卑怯番長は目前に広がる光景に絶句する。
彼の到着が遅れた事を責めるように、金剛番長の身体はまだ温かかった。
普段の金剛らしくもなく、だらしなくはみ出た内容物。
それを手で拭ってやってから、ぐちゃぐちゃにされた内臓を体の中に戻してやる。
君らしくもないじゃないか。
日本番長を止めるんじゃなかったのかい?
この世で最硬を誇った頑健な肉体は、見る影もなく破壊されていた。
かつてマシン番長に、その生命活動を停止させられた時とは比べ物にならないほどに。
死は誰にでも平等に訪れる。
いわんや命を賭して日本を変えようとする、番長計画の参加者においておやだ。
そんな事は判っていたはずだ。
彼は自らの命を惜しむような漢ではない。
当然、命の危機に晒される可能性もまた常人の比ではなかったと言うのに……
なぜ、彼が死なないなどと楽観していたのか。
自分の盲目的な過信こそが、彼を殺したのではないか……
いくら悔やんでも、時間は巻き戻らない。
悔恨の情を糧にして湧きあがる感情は――憤怒。
かつてと同じく、冷たく静かな怒りの感情が
金剛番長を殺した犯人と――そして、自分へと向けられる。
しかし今は――今は彼を弔おう。
131 :
代理:2010/01/11(月) 22:56:34 ID:JwYk4XCt
卑怯番長は、金剛番長の巨体を背負う。
重量で足が大地に沈み込む。
ここに来た時、首輪から告げられた猶予時間は一分間。
もはや時間はさほど残されてはいない。
だが、彼は二つ名を卑怯番長。
卑怯こそを旨とする番長である。
当然、まともに移動するつもりなどない。
怪鳥の声が大気を裂く。
唸りをあげ、絡み合う二匹の大蛇。
一匹は卑怯番長が、禁止区域圏外にいた男……沖田に向けて振るった拷問鞭。
沖田を禁止区域へと引きずり込み、逃れようとする力を利用しようと放ったもの。
一匹は沖田が、卑怯番長の首に向けて投げつけた鎖付きの首輪。
禁止区域へと入り込んだ卑怯番長を助け、そのついでにひっ捕えようと放たれたもの。
偶然絡み合った鞭と鎖の意味を、二人は瞬時に理解し顔を顰めたが……
ひとまず協力して禁止区域を脱した。
「……とりあえず、サンキューと言っておこうかな。
僕に首輪をはめようとした事は不愉快だけどね」
「なぁに、拷問用の鞭を巻きつけようとするのに比べりゃ可愛いもんだぜィ」
「カハハッ」
「へっへっへっ」
二人はとてもいいエガオで互いの健闘を称え合う。
互いの心に渦巻くのは、こいつは信用出来ねェという思いである。
だが抜け目のない男ほど、その利用価値は高い。
とりあえず、後ろに回した手に武器を握りながらも二人は協力関係を結ぶ算段を考える。
そして金剛番長の遺体を地面に横たえ、その眼を閉じさせようとした卑怯番長は気付く。
金剛番長の、見開かれた瞳が閉じない事に。
それは金剛類の並みはずれた筋力による、ただの死後硬直だったのかもしれない。
だが卑怯番長はそれを、この戦いの行方を見届けたい金剛番長の意思と感じた。
デパートの壁に、金剛の背をもたれさせる。
132 :
代理:2010/01/11(月) 22:57:46 ID:JwYk4XCt
君はそこでゆっくり休みながら、見ていればいい。
僕はこの島を脱出して東京に戻る。
そして日本番長を倒し、日本の権力をこの手に握る。
弟妹のためにね。
もし、それが気に入らないなら……戻ってくればいい。
自分のスジは自分で通す。
それが君だろ、金剛番長……。
【I-6〜I-7境界/デパート付近/1日目/午前】
【沖田総悟@銀魂】
【状態】:疲労(小)、腹部に鈍痛、わずかな悲しみと苛立ち
【服装】:真撰組制服
【装備】:木刀正宗@ハヤテのごとく!、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
【道具】:支給品一式×2、イングラムM10(10/19)@現実、工具数種、不明支給品0〜1(確認済み、武器はない)
【思考】
基本:さっさと江戸に帰る。無駄な殺しはしないが、殺し合いに乗る者は―――
1:不審者への対応
2:旦那たちを手伝う
3:火災をなんとかする
4:潤也への対策を考えておく
[備考]
※沖田ミツバ死亡直後から参戦
※今の所まだ金剛達との世界観の相違には気がついていないようです
※キンブリーを危険人物として認識
※デパートの事件の顛末を知りました。
【秋山優(卑怯番長)@金剛番長】
【状態】:健康
【服装】:超短ラン
【装備】:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE、拷問鞭@金剛番長
【道具】:支給品一式、激辛せんべい@銀魂、不明支給品1(卑怯番長が使えると判断したもの)
カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、携帯電話
【思考】
基本:どのような状態でも、自分のスタンスを変えない。
1:金剛への弔い
2:金剛を殺した者への怒り
3:沖田を警戒
【備考】
※登場時期は、23区計画が凍結された所です。
※桂雪路ととらを双子の姉妹だと思っています。
※放送をカセットテープに録音した事により、その内容を把握できています。
また、放送の女性の造反は“神”の予定外の事だったと考えています。
【拷問鞭@金剛番長】
チタンスパイクが仕込まれた特殊ワイヤー製の太く長い拷問鞭。
◇ ◇ ◇
133 :
代理:2010/01/11(月) 22:58:35 ID:JwYk4XCt
その頃、剣で斬る事の出来ない剛力番長相手に、ガッツは少々攻めあぐねていた。
剣が通じねえ。
ならどうする?
決まってらあ。何度だって、叩きつけてやるだけだ。頭をカチ割るまでな。
ガッツの出した攻略法は単純明快。
要するに、いつもと同じ。己の全てを叩きつける、それだけだった。
しかし、剣の消耗は無視出来ない。
これ以上ドラゴンころしとまともに打ち合えば、かつてのゾッドのように先に剣が壊れてしまうだろう。
ガッツはキリバチを肩に担ぎあげると、そのまま半身の構えで、剛力番長ににじり寄る。
まさに隙だらけ。
どこからでも打ってくださいと言わんばかりのスタイルだ。
だが、剛力番長とてガッツの意図に気付かないほど馬鹿ではない。
互いの間合いを侵す攻撃圏内で、隙を窺い合う視殺戦が始まる。
ドゴォォォォォンッ!
先ほどから響く砲撃音。
至近距離に着弾したのか、近くの民家が炎に包まれる。
パチパチと爆ぜる木の音。硝煙の臭い。
ガッツが馴染んだ、戦場の臭い。
134 :
代理:2010/01/11(月) 23:02:43 ID:JwYk4XCt
髪を撫でる熱い風。剛力番長の額を嫌な汗が伝う。
動かない。
彫像のように、黒い剣士は動かない。
じっとこちらを見据える隻眼から受ける重圧はただ事ではない。
先ほどのカウンターの記憶は、ともすれば現実感を失う剛力番長の記憶にあっても生々しく残っている。
体の内側まで響く大砲の如き一撃は、金剛番長の拳にも匹敵するだろう。
休息を欲する肉体に、渇を入れて剛力番長は敵を見据える。
どうしましょう……私の攻撃が当たりませんわ……
……だったらっ!
当たるまで、頑張るだけですわっ。例え、この身がどうなろうとも!
肉を切らせてなんとやら。
少女が覚悟を決めると同時に、黒い剣士がわずかにみじろぐ。
反射的に、その動きを追う剛力番長の眼に――光が飛び込んだ。
網膜が焼ける。
剣士は、わずかに剣を傾ける事で太陽の光を刀身に反射させたのだ。
「ひ、卑怯なっ」
135 :
代理:2010/01/11(月) 23:05:54 ID:JwYk4XCt
少女の戯言を鼻で笑い、ガッツは剣を袈裟懸けに振り下ろす。
体に捻りを加え、加速する斬撃。
重爆。
「が――ふっ」
覚悟を決めていなければ、崩れ落ちていただろう両足を踏ん張る。
攻撃の位置から推測した敵の居場所に、お礼ですわと刃を返す。
鴉の翼のようにはためく漆黒の外套。
目が見えないまま放たれたその反撃を、ガッツは剣の遠心力を利用して避ける。
そしてそのまま上段に構え――しゃがみこむほどの勢いを持って、脳天唐竹割りを繰り出した。
それを大きく後方にステップする事で、剛力番長は避ける。
目を瞬かせる。
「オオッ!!」
しゃがんだ態勢から、剄力を溜め込んだガッツが突進を仕掛ける。
この機を逃さぬとばかりに仕掛けられる、怒涛の如き連続攻撃。
しかし。
(見えますわっ!)
目くらましから回復した剛力番長の眼は、その動きを見切る。
ガッツの突進に合わせて放たれる、相討ち覚悟の渾身の一撃。
「やああっ!!」
撃ち込みの速度は、ほぼ同時。
だが、剛力番長は確信する。
先に届くのは自分の剣である事を。
剣の軌道が、そのままであればそれは現実となっただろう。
そのままであれば。
短く吐きだされる気合。
ガッツは歯を強く噛み締める。
巧妙に変化するガッツの剣。
その剣先が狙うのは、剛力番長ではなく、ドラゴンころしの背の部分。
撃ち落とし。
相手の剣を撃ち、剣が下がっている時に斬りつける剣技の一つ。
これこそが、ガッツの狙いだったのだ。
「きゃっ!」
アスファルトにめり込むドラゴンころし。
撃ち落としの反発力を得て、ガッツの剣は再び走る。
剛力番長の首目掛けて。
死の予感がちらつく。
首に掛けられた死神の鎌は、今度こそ白雪宮拳の命を絶つだろう。
136 :
代理:2010/01/11(月) 23:06:53 ID:JwYk4XCt
超新星の輝き。
吹き飛ばされる肉片。
自分の肉の焼ける匂い。
――そんなモノは知らない
「あ――あああ――――ああぁあああっ!」
まだ、死ねない。死ぬわけにはいかない。
剣の柄から手を離し、無意識のまま剛力番長は技を出す。
ディバイン・ハンド(神の張り手)。
ただ、剛力のまま繰り出された掌底が、ガッツの剣とぶつかり合う。
互いの存在を否定し合う一撃は、両者共に弾き合う事で決着を見た。
凌がれたか。
ガッツはもはや鈍器と化した己の得物を見ながら、思考を廻らせる。
予想外の抵抗。
とは思わない。
(総じてしぶといものだ。バケモンってェのは)
だが、今の攻撃でドラゴンころしを手放させる事が出来たのは大きい。
一気呵成に攻め立てれば、時をおかずして勝利を得る事が出来るだろう。
再び突進を仕掛けようとして、ガッツは地面に出来た不自然な影に気付く。
頭上を見上げる。
火が回り、煙が立ち始めた商店街の屋根に立つ、その姿。
「な……に?」
ガッツの思考が一瞬止まる。
それは、自分だった。
怒りと激情を糧として、見境無しに破壊を撒き散らす狂戦士。
あの甲冑を纏った姿が、陽炎の中にあった。
狂戦士が飛ぶ。
振り下ろされる木刀。
一瞬の自失から立ち直ったガッツは、それを紙一重で避ける。
バリッ
飛び散る黒衣。
一瞬遅れて噴き出す鮮血。
ガッツの胸に、大型肉食獣の爪痕の如き傷が刻まれる。
「……んだとっ!?」
それは青雲剣と呼ばれる宝貝の効果。
一回振るうだけで、複数の斬撃を生み出す仙人界の武器。
思わず膝を屈するガッツ。
そして剛力番長も見た。
大きくバク転をして、自分に襲い掛かってくる鎧武者の姿を。
歪み果てた正義の残骸が激突する。
その行方を知る者は誰もいない。
137 :
代理:2010/01/11(月) 23:08:51 ID:JwYk4XCt
【I-07/市街地北部/1日目/午前】
【植木耕介@うえきの法則】
[状態]:重度の貧血、カナヅチ化 、首に大ダメージ、自我への浸食、破壊衝動
[装備]:青雲剣@封神演義、狂戦士の甲冑@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:仲間と共にこの戦いを止める。
1:もり
2:でぱーと
3:もっぷ
[備考]
※+第5巻、メガサイトから戻って来た直後から参戦です。
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[服装]:黒い外套(胸のあたりが破けてる)
[装備]:キリバチ(刃がほとんど潰れてます)@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、不明支給品1個
[思考]
基本:グリフィスに鉄塊をぶち込む
1:グリフィスを殺す
2:グリフィスの部下の使徒どもも殺す
3:ドラゴンころしを取り戻す
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
138 :
代理:2010/01/11(月) 23:11:57 ID:JwYk4XCt
【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
【状態】:疲労(大) ダメージ(大)、ホムンクルス 『最強の眼』
【服装】:キツめの体操服(ところどころ破けてる)、紺のブルマ
【装備】:
【道具】:支給品一式、アルフォンスの残骸×3、ボイスレコーダー@現実
【思考】
基本:全員を救うため、キンブリーか妲己を優勝させる、という正義を実行する。妲己に心酔。
1:自らの意思のままに行動し、自分が剛力番長であるという確信を得る。
2:見知らぬ人間とであるたびに、妲己の集めた仲間であるかどうかを聞く。
3:キンブリーと妲己の同志以外は殺す。
4:強者を優先して殺す。
5:蘇らせた人間の中で悪がいたら、責任を持って倒す。
6:ボイスレコーダー(正義日記)に自分の行動を記録。
【備考】
※キンブリーか妲己がここから脱出すれば全員を蘇生できると信じ直しました。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえばバケモノに姿を変えられるという情報にだけは、疑問を抱きつつあります
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※妲己がみねねの敵であり、みねねは妲己に従ったと思っています。
※賢者の石の注入により、記憶が微妙に「自分の物でない」ような感覚になっています。
正義の実行にアイデンティティを見出し、無視を決め込むつもりですが、果たして出来るかはわかりません。
ボイスレコーダーには、剛力番長と出会うまでのマシン番長の行動記録と、
剛力番長の島に来てからの日記が記録されています。
※ドラゴンころし@ベルセルクが剛力番長の足元に突き刺さっています。
◇ ◇ ◇
139 :
代理:2010/01/11(月) 23:14:31 ID:JwYk4XCt
沙英は炎に包まれた市街を走っていた。
デパートを離れれば離れるほど、火の勢いは強くなる。
段々、騒動の中心地へと向かっているのだ。
顔が火照る。
ハンカチで口元を覆いながら沙英は侍の姿を探す。
ドゴオオオオオン!!
またもや炸裂する砲撃音。
炎上し、崩落する民家の屋根。
空気を振動して伝わる衝撃が、沙英の足を竦ませる。
銀さんの言いつけを破ってしまった。
凄い音と、火の手を見て思わず飛び出してきてしまったけれど。
やっぱり今からでも引き返して、デパートに隠れていた方がいいのかもしれない。
こんな爆発を起こすような相手、自分にはどうしようもない。
自分は何の力もないただの高校生。少し文章が書けるだけの、駆け出しの小説家でしかないのだから。
でも。
沙英は怖かった。
守ってやるなんて言ったくせに、いつもボケてばかりの銀髪の侍。
ずっと傍にいてくれた人。
そんな彼がいたから、こんなところでも笑っていられた。
その彼が、自分の知らない所で命を落とすのが、火事よりも砲音よりも怖かったのだ。
沙英の足は再び動き出す。音のする方向へと。
140 :
代理:2010/01/11(月) 23:16:41 ID:JwYk4XCt
そして見つけた。
もうもうと立ち込める熱気。
火の粉の舞う中に、あの人は居た。
怪我でもしてしまったのか、脇腹を片手で押えて。
それでもその眼は戦車を見据え、諦めを知らないように立っている。
肩で息をしているくせに、それでも銀色に鈍く光る刀の切っ先を、戦車に向けて立っている。
戦ってるんだ、あんな刀一本で。
たった一人で、あの戦車と。
沙英は胸の前で手を握り締める。心臓が痛いほど動悸していた。
「銀さん……銀さーんっ!!」
「沙英っ!? 馬鹿野郎っ! 来るんじゃねぇーっ!!」
やだ。
銀さんが死んじゃう。誰かが死ぬのはもう嫌だ。
ヒロが死んだって聞いた時、凄く後悔した。
私にもっと勇気があれば、ヒロが死んじゃう前に会う事が出来たんじゃないかって。
せめて看取ってあげるくらいの事は出来たんじゃないかって。
最後に話す事も出来ないまま、お別れなんて嫌だ。
だから。
だから私も守りたい。
何もしないで怯えてるだけじゃ、大切な人は守れない。
銀さんも、ゆのも、宮子も、私が自分で守るんだっ! 銀さんみたいにっ!
141 :
代理:2010/01/11(月) 23:19:02 ID:JwYk4XCt
戦車のキャタピラが動き出す。
銀時を踏みつぶそうとするその動きに対し、もはや一歩も動けないのか。
立ちつくすだけの侍は微動だにしない。
だから。
侍に向けて一歩踏み出した少女を、銀時は止める事が出来なかったのである。
◇ ◇ ◇
もう、諦めるつもりだった。
諦めて、楽になるつもりだった。
だと言うのに、少女がこちらにやってくる。
来るんじゃねぇーっ!!
声を張り上げるだけで、終わりそうになる。
侍は、最後の力を振り絞る。
だが、動けない。動く事が、出来ない。
……いや、この場を凌げたところで何になる。
もはや、崩壊は止める事は出来ない。
ならば、もう潔く終わろうではないか。
侍らしく、潔く終わろうではないか……
142 :
代理:2010/01/11(月) 23:21:24 ID:JwYk4XCt
侍らしく……
終わ……れるかぁあああああああっ!!
蘇る気力。
再び精神と肉体が拮抗する。
生き物が生きている限り、決して抗えぬ肉の宿命(サダメ)。
それを無理やり覆さんと、侍は最後の闘いを決意する。
だが、間に合うのか。
こちらに向かってくる少女と戦車。
まず、少女を抱き止める。あくまでもソフトに。
しかる後に戦車をかわしながらキャタピラを斬り、そのまま逃走。
そして……そして……
プラン自体は可能だ。身体が自由に動きさえすれば。
「ぬぅっ――ぐぉおおおおおおおおーーーッッッ!!!」
吠える。
はらわたを苛む激痛を、精神の力だけで押し戻す。
精神が肉体に押し勝った、奇跡の一瞬。
侍の肉体が最後の小康状態を得る。
おそらくはこれがラストチャンス。
今を逃したら、もはや次はないだろう。
スカートをはためかせ、銀時を突き飛ばす勢いで突っ込んでくる少女。
その肩口から二つのパーツが射出される。
143 :
代理:2010/01/11(月) 23:23:18 ID:JwYk4XCt
いや、不味いから。
今、そんなタックル受けたら銀さん不味いから。
何? 押し倒す気? お前俺を押し倒す気?
本来なら柔らかいはずの少女の肉体。
身にまとった鎧のおかげでゴツゴツしたそれを、銀時はなんとか受け止める。
よし、次は戦車を……
そう考えた瞬間、巨大化した二つのパーツが、二人を包み込んだ。
おい、待てェー!
これ待てェー!
何これ、もしかしてこのまま受けるの?
戦車の体当たり、これで受けるの?
はい、終わったぁー
俺のロワ人生終わりましたよコレ!
硬質の金属同士がぶつかり合う音が響く。
本来の数千分の一であろうが、中の人間にも僅かに衝撃が伝わる。
銀時には、それが城壁の崩壊を告げるジェリコのラッパにも聞こえた。
144 :
代理2:2010/01/11(月) 23:41:46 ID:Pbr56kCQ
そうして、
ブピッブリリッ
銀時の肛門は
ブリョッ! ブピピッポパッ!
静かに決壊したのだった……
ブボブバババババババーーッッ!!
◇ ◇ ◇
145 :
代理2:2010/01/11(月) 23:42:36 ID:Pbr56kCQ
侍の元へと駆け寄る少女。
それを見て、妲己は微笑む。最高の舞台演出が整ったと。
「まだ仲間がいたのねぇん。いいわん、一緒に踏みつぶして上げるん。
もう、限界のはずよん、大人しく……」
全部ぶちまけちゃいなさいん。
そう呟くと、アクセルを踏み込む。
無限軌道が甲高い軋み声をかき鳴らす。
数十トンに達する、その重量で二人の人間をぐちゃぐちゃの挽肉に変えるために。
だが、その直前にて顕現したのは九竜神火罩。
崑崙十二仙の一人。宝貝造りの匠たる、太乙真人が宝貝。
激突。
凄まじい衝撃で、戦車の前面がへこんでしまった。
「ただの人間が、宝貝を? ……でも、長い間維持は出来ないはずよん」
籠城など、好きなだけさせてやればいいのだ。
戦略的な優位さえ押さえておけば、戦の趨勢が変わる事などない。
彼女は戦車を後退させる。
二人が顔を出した瞬間、戦車による主砲を撃ち込む為に。
ソレはずっと彼女を監視していた。
常に身近にいながらも、課せられた制限に耐え、自らの復讐を果たす時を待っていた。
その身に少年が触れた時、ソレは歓喜する。
自らの波長に極めて近い、奪われた肉親に執着する、昏い想念。
彼が喰らい、力と変えるのに相応しいこころ。
この少年を仮の主とし、奴を滅ぼそう。
恐怖と絶望を振りまくあの存在を、今こそ貫こう。
そして時は満ちた。
我が前方に在る、ヒトが造りし鉄の城。
そこに奴はいる。
小賢しくヒトの中に潜もうとも、我が刃から逃れる事あたわじ。
さァ、今こそ、今こそ、今こそ――
――滅びよ、白面ッ!!
146 :
代理2:2010/01/11(月) 23:43:26 ID:Pbr56kCQ
妲己は砲撃手用の席に昇る為、運転席から立ち上がる。
ぞぶり
瞬間、腹部を凄まじい衝撃が貫いた。
運転席の視界を確保する為の、小さな窓。
唯一、鋼鉄に覆われていないそこを、ピンポイントで狙われた。
「ハァッ! ……ぁん」
ななめ上から刺し入れられたソレは、胎内の奥深くまで届いてる。
柔らかな腹から生えているのは、見覚えのある槍の柄。
その柄を握る震える手を、妲己は引っ張る。
槍の主の顔が、戦車の小窓の淵にゴツリと当たる。
安藤潤也。
ガチガチと、歯を鳴らす少年と、妲己の目が合う。
「夫に操をたてた未亡人の……こんな奥深くまで、無理矢理押し入って来ちゃうなんて……いけない子ぉん」
夜行性の動物のように爛々と輝く妲己の瞳に、鏡のように写る自分の顔。
ほっそりとした指に、顎を撫でられる。
それでスイッチが入ったかのように、潤也の喉がぐびりと鳴り、妲己の手を振りほどいた。
槍が引き抜かれる。
支えがなくなったかのように、妲己の尻がすとんとシートに落ちた。
そのまま猿のように飛び去る潤也の姿を見送ると、妲己は戦車を転進させる。
貝の口のように閉じられた宝貝の、開城を待つ時間が惜しい。
ごっそりと、持って行かれた。
たったの一撃で。
下腹部から競り上がる熱い塊が、口腔から溢れる。
かつて殷の太師、聞仲と四聖にやられた時ですら、ここまで酷くはなかっただろう。
この身体は、あと数時間も持つまい。
「――は、思った以上に……」
だが操縦者の体調など、関係なしに戦車は走る。
炎上する市街地を脱出するのに、大した時間はいらなかった。
◇ ◇ ◇
147 :
代理2:2010/01/11(月) 23:44:25 ID:Pbr56kCQ
妲己が去った後、九竜神火罩がパカリと口を開く。
同時に周囲に漂うのは、猛烈な臭気。
「臭っ! 銀さん最ッ低ッ!!!!」
縮小し、再び沙英の肩当てに収納される二つのパーツ。
飛び出した少女は、侍と距離を離し、真っ赤になってがなり立てる。
「なんで!? 信じらんないっ! なんでこの流れでこのオチ!?
ありえないんですケド! マジありえないんですケド!!」
侍の下半身は、まるで何かを詰め込んだように膨れ上がり、茶色い染みがその一張羅を汚していた。
犯してしまったのだ。
大人が、いや、人間が、人前で決してしてはならない――最大の禁忌を。
(はは……畜生……殺せよ、もう殺せよぉぉぉぉおおっ!!)
天を見上げる侍の目から、一筋の雫が零れおちた。
さるさん解除されてるかな? 支援がしらテスト。
149 :
代理2:2010/01/11(月) 23:45:09 ID:Pbr56kCQ
【H-07/市街地/1日目/午前】
【沙英@ひだまりスケッチ】
【状態】:疲労(小)、ツッコミの才?
【服装】:
【装備】:九竜神火罩@封神演義
【道具】:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、大量の食糧
輸血用血液パック
【思考】
1:銀さん臭っ! くっさーっ!!
2:銀さんと協力して、ゆのと宮子を保護する。
3:食料と血液を持って、ヴァッシュさん達のところに戻る。
4:銀さんが気になる?
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する。
6:ヒロの復讐……?
7:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れた?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※宝貝の使い方のコツを掴んだ?
【坂田銀時@銀魂】
【状態】:疲労(中)、まるで・だめな・おとな 1001位までランクダウン
【服装】:下半身の汚れ、
【装備】:和道一文字@ONE PIECE
【道具】:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義、大量の甘味
【思考】
1:お風呂に入りたい。服を洗いたい。
2:沙英を守りながら、ゆのを迎えに行く。
3:ヴァッシュ達と合流する。
4:深夜になったら教会でグリフィスと合流する?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。
※デパートの北側の市街地(I-07北、H-07)が炎上しています。
◇ ◇ ◇
150 :
代理2:2010/01/11(月) 23:45:51 ID:Pbr56kCQ
橋の欄干で、潤也は吐いていた。
沖田に会心の一撃を与えた後の記憶はあいまいで、よく思い出せない。
気付いたら、妲己に槍を突き刺しており……彼は恐怖のあまり、そこから逃げ出したのだった。
死んだ……よな?
最高級の和牛にナイフを突き立てるよりも、滑らかな手ごたえだった。
金剛の時とはまるで違う感触に、潤也の背筋は震える。
その震えは恐怖ゆえか、それとも――
妲己が死んだのであれば、首輪解除の大きな手掛かりを失う事になるが……とりあえず、兄への脅威は
一つ減った事になる。
だが、もし生きているなら……とんでもない相手を敵に回した事になる。
どっちだ。
生か死か。
二者択一。
わからない。
嫌な予感しかしない。
「兄貴……」
とにかく、兄貴を探そう。
それで逃げるんだ。
どこまでも。どこまでも……。
左手に握った槍が不満げに小さく震える。
いつのまにか軽度の怪我が癒えている事にも気付かず、潤也は旅館へと走り出した。
【H-07/橋の上/1日目/午前】
【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】:疲労(大)、精神的疲労(大)、情緒不安定、吐き気、
右手首骨折
【服装】:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。
【装備】:獣の槍、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
【所持品】:空の注射器×1
【思考】
基本:兄貴に会いたい
0:旅館に行って兄貴と会う
【備考】
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。
※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。
◇ ◇ ◇
151 :
代理2:2010/01/11(月) 23:46:37 ID:Pbr56kCQ
ザァ――
懐に仕舞った逃亡日記から聞こえるノイズ。
妲己は、みねねが死んだ事を知る。
この地でせっかく手に入れた手駒をなくし、
自身の為した悪行を他の参加者に知られ、
自分の身体には回復不可能なほどのダメージを負った。
だと言うのに、妲己の表情に陰りはない。
彼女には夢がある。
地球と同化して、地球の真の支配者……『大母(マザー)』になるという夢が。
妲己は疑わない。自分がこの戦いで生き残り、その夢が叶う事を。
否、失敗する事など考えることすらない。
なぜなら自分は妲己ちゃんなのだから。
ジャンプ史上究極にして至高。不滅のミラクルヒロインなのだから。
当然、この状況を覆す策も既に考案済みである。
妲己の名が悪の象徴として知られてしまったならば
――自らの手で、その悪の象徴たる妲己を討てばいい。
身に付けた、借体形成の術がそれを可能とする。
自身の器となる者を探し出し、その体を乗っ取るのだ。
問題は、自分を受け入れられるほどの器がこの島にあるかどうかだが……
『あ゛?????????????』
突如、聞こえてくる大音量。
何事かと、窓から外を窺う妲己の視界にその映像が飛び込んでくる。
女性の姿から、化け物の姿へと。
じょじょにメタモルフォーゼを遂げる妖怪の映像。
それを見て、妲己の肉感的な唇が薄く開かれる。
「……あはん、ナイスよぉーん」
どこか懐かしささえ感じる黄金のケモノ。
その妖の中は、とても棲み心地が良さそうに思えたのだった。
153 :
代理2:2010/01/11(月) 23:47:31 ID:Pbr56kCQ
【I-08/道路/1日目/午前】
【妲己@封神演義】
【状態】:腹に大穴(次の放送まで持ちそうにない)
【服装】:
【装備】:ブリッグズ製戦車(主砲17/30・機関銃残弾数60%)逃亡日記@未来日記
【道具】:支給品一式×6、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×2)@トライガン・マキシマム
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、
デザートイーグル(残弾数7/12)@現実、
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×3(うち1つは武器)
詳細不明衣服(デパートで調達)×?
【思考】
基本方針:新しい身体を手に入れる
1:あの妖怪の身体を乗っ取る
2:獣の槍を警戒
3:対主催志向の仲間を集める。
4:喜媚たちと会いたい。
5:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
6:“神”の側の情報を得たい。
【備考】
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※ウルフウッドからヴァッシュの容姿についての情報を得ました。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※獣の槍が本来の持ち主(潮)のいる方向に反応しています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があると考えています。
※不明支給品は全て治療・回復効果のある道具ではありません。
※対主催陣が夜に教会でグリフィスと落ちあう計画を知りました。
【ブリッグズ製戦車@鋼の錬金術師】
ブリッグズの砦で開発された戦車。
車長、操縦手、副操縦手、砲手の四人乗り。
以上で代理投下終了です。
>>127以降のタイトルは「燃えよ剣(下)」です。
投下や代理投下、それぞれ乙です!
ぎ、ギリョウさぁぁぁぁん!! 間違っちゃないが微妙にずれてるよそいつはww
いやあ、ギリョウさんがカッコよくて惚れます。スープーと並んで数少ない意志持ち支給品だけはある。
やりたい放題なダッキちゃんへの牽制としては十分すぎるほどか。
そして人気投票結果に吹いたw
あの冒頭からよもや誰も死なないとは……騙されました。いやまあ、それぞれの戦端で予断は許さないけどw
そして肉体乗っ取りがとらに……、嫌な予感しかしないぞそっちはw
潤也も危ういままだし、植木の暴走も止まらんし……。
ガッツのグリフィス情報のニアミスも爆弾要素、と。
様々な人間模様を余すことなく書き切った名作、非常に楽しませてもらいました!
>>白壁の緑の扉
何度も乙女を強調するなwwwwww
しかし下半身裸……さりげなく描写がエロいw
王天君は妙に苦労人のようだがよく考えたら原作でもそうだった気がした
>>燃えよ剣
カオスwwwwwwwwメタ会話しながらガチバトルすんなwwwwwwwww
封神と銀魂のノリが合い過ぎて笑いがwwwwwwwww
しかし依然地雷だらけ
マーダーは一人しか登場してないのに何だこの大乱戦
158 :
代理:2010/01/12(火) 00:05:43 ID:cJlKIfD9
書き手さん、代理人(
>>155)さん乙です
wikiに編集する際はしたらばのSSを転載したほうがいいと思います。したらばのほうが、書き手さん本人が書いたものですので……
万一、したらば〜2chへの転載ミスがあったらいけませんから
投下乙!
ジャンプとか人気投票とかメタすぎる会話を普通にするとかwww
つか銀さん死ぬかと思ってたらそれかよwww
投下&代理乙でした!
>>白壁の緑の扉
エロい!!
なんか今回女性陣の着替率の高さは承知でしたが、着替えた後の衣装も全体的にカオスw
さり気ない状況整理、情報戦に波乱を呼びかねない展開と、魅力満載でした。
>>燃えよ剣
いんやぁ〜、面白かったです。色んな意味でw
三対三がバランスよく展開していく様は気持ちよくすらありました。
意外性、王道(?)、オチと様々なのにどれも雰囲気が統一されていて、お見事としか言えないです。
さらに先が気になる展開。個人的には沖田&卑怯番長のドロドロの探り合いが楽しみですw
と、ここで一つ質問をば。沖田たちの移動はやっぱりワープ経由ですか?
ちょっと速い気がするんですが…
大乱戦は面白かったしそれぞれのキャラが良い味出してたけど、銀さんのオチで悪い意味で台無しになった
いかにも笑いを狙いにきたみたいで
白夜叉時代のくだりを入れたのなら、最後だけはシリアスで良かったんじゃないかと思うんだが
投下乙です
植木がこええ…
感じ方は色々あるかも知れんけど
銀さんのあのケツ末は銀魂らしくていいとおもうよ
まったく銀さんってばウンがいいねえw
沖田&卑怯のWS(ダブル・S)コンビ
不滅のヒロインダッキちゃんに期待大だね
こんだけの乱戦で結局誰も死なないのか
これ殺し合いの小説じゃなかったっけ?
笑いありシリアスあり、そしてなにより続きが気になる引きがうまい!
ドSコンビ、三者の乱戦と本格的な植木暴走、
獣の槍に取り込まれる潤也、狙われる酔いどれコンビ…
いやー面白えw乙でした。
167 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/12(火) 11:19:13 ID:83O7ZYSI
うわ、投下来てたのか
確かに何度も乙女を強調するなよw そしてエロいぞw
なるほど、工場へ向かったか。確かにあの現状とメモの内容は異界の神の領域だな
困惑するだろうな…
凄いカオスだ。誰か死ぬとは思ってたがボロボロになりながらもみんな生きてる。死んだ方がマシな奴は数人いるけどなw
大騒動が起きていい具合に分散して引きは凄くいい!
いやあ、よかったです。 GJ!
しかしダッキちゃんには弱点そのものな獣の槍、キビには変化を見破る浄眼とうしとらは封神に相性がいいなあw
はっ! とらも人気投票一位……!
>>162 あそこはシリアスの方が良かったと感じるのは同感だけど
まあ銀さんもマダオではあるからあの程度はいいんじゃないかと
でもやっぱり銀魂はギャグで原作とくらべちゃうから、ギャグが面白いものをってなると難しいんだろうね
前回のロワで銀さんが散った話でもギャグ入れてたけど、キックのおにとか微妙だったし
171 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/14(木) 20:28:34 ID:aCWF6MUV
俺は銀さんはギャグ混じりの方がいいとは思うけどね
そして新しい予約キター
逃げた方向が悪いとは思ってたがやっぱり鉢合わせかw
集計人が迷いそうなので月報用データを。
115話(+11) 42/70(-3) 60.0(-4.3)
行方不明の二人を死亡カウントとしてます。
>>162 白夜叉のくだりって冒頭の奴?
そりゃうんこたれに昔の武勇の誉れなんて何の価値もないだろw
あれでシリアス期待したなら、完全に騙されたって奴だなw
ところで第二放送に入る前で生存率60%とかけっこう死んでないか?
しかもまだ大半が午前で導火線に火が付いたパートやら爆発炎上中のパートやらが残ってるという
本当の地獄はこれからだ……
そもそも銀魂のシリアスとか寒いだけだし
ずっとギャグだけやってりゃいいのに、何でシリアス入れたがるんだろうな
なんか粘着が居るんですが…
>>176 今回のロワには縁が無かったんじゃないかな?無理して読まなくていいよ
銀魂アンチしたいのならスレ違いです
アンチじゃないよ
銀魂のギャグは好きだし
でもシリアスはないw
あんなの見て得するのは腐女子くらい
暗く、眩い星の海を、硝子の階段が一直線に割っている。
いや、硝子と見えたのは錯覚か。
蛍のような淡く白い光の粒子が、階段の形を描き出しているのだ。
その輪郭は薄らと滲み、虚空の闇へと溶け消えていく。
ここには天も地もない。
ただ黒一色の空間に、彩光の渦が配置されているのみだ。
もしかしたらそれらは星ですらないのかもしれない。
生き物のように細動を繰り返す煌めきは、重力から解き放たれた雪とも呼ぶべき幻想的な光景を見せつけてやまないのだから。
例外は一つ。
何処から続いているとも知れない儚い道、高みへと続く梯子だけ。
その行き着く先に――在り得べからざるモノが現出していた。
本来そこに鎮座しているべき宮殿、あるいは聖堂は、今は白い霧に包まれ姿を隠している。
その霧は、まるで意志を持つかのように感情を大いに表して、昂ぶっていた。
――しばしの沈黙と蠢き。
そして、不意に。
霧を構成する水滴の一つ一つが、何かを穿つかのように一点に凝集する。
豪風を生む。
天災が降誕する。
凄まじい勢いで、天の果てを貫く。
同時――世界を埋め尽くす雷の帯が、この空間を支配した。
地獄の猛犬の叫びすら赤子の声にも等しく感じられる咆哮が、耳に聞こえる全てとなる。
霧の白と、雷の白。
二つの意志によって生み出された、二つの白。
闇がしばし塗り替えられ、然る後に静寂を取り戻す。
――何一つ変わらない光景が、ただそこに存在していた。
彼らの試みは大いなる流れに呑み込まれ、塵一つとて残さない。
**********
シンセサイザーと歌い声のハーモニー。
あるいは、遠目より響く唄への不協和な伴奏。
嵐を呼ぶ風と共に訪れた不意の客。
大きな大きな女性の像の、その作り出す異常な状況に傾注していた4人――いや、3人にとって、闖入してきた電子音は唐突に過ぎた。
ある者は悠然と笑い、
ある者は目を細め、
ある者は口を開け、
三者三様の反応は、目を細めた一人に収束される。
視線を受けてひとまずの治療を終えたゾルフ・J・キンブリーが懐に入れて取り出したるは、2つの携帯電話。
その片割れが、この場で最も避けるべき騒音を奏で続けている。
――キンブリーに支給された物品の一つこそ、これら一対の携帯電話である。
「う、うわ、うわわわぁ……っ! き、キンブリーさん!
それっ、取れっ……じゃなくて、取って下さいっ!」
「はて、『取る』……と言いますと?」
慌てふためく森あいは、そこでようやくキンブリーが『携帯電話』の知識がないという事に思い当たる。
見ればキンブリーは形容しがたい種類の笑みを浮かべ、目の前の物体を矯めつ眇めつしているようだ。
……このまま放っておけば相手が諦めて電話を切ってしまうかもしれない。
となると、その人に迷惑がかかってしまう。こんな状況で電話をかけてくる程度には友好的な相手が、だ。
それは、この心細い状況で自ら蜘蛛の糸を振り払ってしまうように思えて――、
「ちょ、ちょっと貸して! ……下さいっ!」
仕方なく森は、キンブリーの弄ぶカラクリの小箱、その片方に手を伸ばす。
『なぜキンブリーが携帯電話を持っているのか』
『持ち主が使い方も知らない携帯電話に掛けてくる相手とはいったい誰なのか』
『どうして、この図ったようなタイミングで電話をかけてきたのか』
そんな事に思い至る暇もないまま、日常の習慣で森はぱかりと画面を開く。
そこに示された名前は、彼女の知らない外国人の名。
「じょん、ば……?」
何も知らない森は、ついついその名を読みあげようとして――、
「あっ……!」
更に横から、掻っ攫われた。
趙公明が胡散臭いほどに爽やかな笑みを浮かべ、ウィンクしつつ通話ボタンを押す。
と、ぽん、と小さな風とともに自分の肩に手が置かれた。
ようやく気付く、ウィンクをして見せた先は自分ではないのだ、と。
「ふむ……、分かりました。
あいさん、どうやら私たちではなく彼が担当すべき事案のようです。
邪魔をしてしまうのも悪いですし、少し離れたところでこちらの――彼女の処遇をどうするか決めるとしましょうか」
振り返れば、キンブリーが狐のように目を細めて微笑を浮かべている。
肩に置かれた手の存在感が、何故か気持ち悪い。
大した力は入っていないのに、まるで万力で締め付けられるかのように伸ばした手が動かない。
首元の手がまるで刃物のように感じられて、森は自分でも気付かないうちにキンブリーの言う通りに動いている。
動かされている。
**********
「……やあ! 数時間……いや、既に半日ぶりだね」
橋の方に向かったキンブリー達が十分に離れたのを確認し、ようやく趙公明は第一声を放つ。
「“彼”の部下としての役職名と、君自身の持つ能力と――、
二重の意味で“ウォッチャー”である君がわざわざどうしたんだい?」
電話の相手が、何がしかを囁いた。
轟、と、吹きつける風の音に掻き消され、声の主の台詞は趙公明以外の誰にも聞き咎められることはない。
「……御挨拶だね。あそこにあるだろう映像宝貝は僕が千年もかけて作った舞台装置だよ?
所有物を取り戻しに行って、何が悪いのかな」
巻く風は朝方に比べ次第に、着実に強くなってきている。
見れば、空の彼方に黒雲の帯が手繰り寄せられつつあるのが確認出来た。
雨か、雪か、はたまた嵐か吹雪か。
遠からず、この島は天の気まぐれに付き合わされることになるのだろう。
「あそこで起こるであろう舞踏会への招待状を握り潰すなんて!
普段の僕ならば聞き入る耳を持たないが、“彼”のお達し……という訳ならば話は別か。
トレビアーンな美的センスの同志の言葉とあらば、確かに僕も無視はできないからね!」
――そう。
天候を統べることこそ、“神”にとっては古来より最も普遍的に弄ぶ力の一端だ。
遥か悠久の昔から、人は天の神に祈る。
雨をもたらし、豊かな恵みを下賜したまえと。
岩戸を開けて、陽光を眼下に与えたまえと。
「だが――、華やかなるステージを見て僕に動くな、というのはあまりに残酷!
無碍に断るのも好ましくないから、様子を見る段階は確かに踏まえよう。
だが、最終的に僕がどう動くかは僕が決めさせてもらう!
僕はあくまで利害の一致に基づく協力者、という事を忘れた物言いは感心しないな」
神を覆う薄靄のヴェールは、今まさに着々と剥がれ続けている。
「……まあ、“彼”の事だ。
こう告げる事で結果的に僕がどう動くのかすら、最初から織り込み済みなのだろう?
要するに、僕がどれだけ好き勝手にやろうと予定に狂いはあり得ない。そして、僕もそれで構わないよ。
何故なら“彼”は“ユーゼス”や“ゴルゴム”、そういう次元に佇む存在なのだからね!」
趙公明が言葉を切る。
すると電話相手はそれを待っていたのか、別の話題を新たに振った。
彼の妄言はその殆どが聞き流されていたのだろう。
あからさまに疲れたような溜息が、確かに受話器の向こうから届く。
天に太陽は輝いているのに、張り付くように辺りの気温は一向に上がらない。
心なしか、吐く息が白く色づいてきてさえいるかもしれない。
「……成程ね。“ネット”も思惑通りに軌道に乗り始めているのか。
となると、その掲示板とやらに麗しき僕の動画をリンクとして張り、皆に知らしめるのも面白いかもしれない!
いや、blogとやらを拓いてみせるのも面白いかもしれな――、ん?」
電脳の海を使ったロクでもない催しを脳内に展開する趙公明の耳に、少しばかり予想外の話が届く。
「……ふむ。いいだろう、代わってみたまえ。
一体僕にどういう用事かな?」
聞けば、電話を代わって自分と話したい御仁がいるらしい。
見知った相手の名前を聞かされ、趙公明は鷹揚と頷いた。
そして耳に入るは、まさしく最強の道士と謳われる傍観者のその声が。
『何時如何なる時でもあなたは全く自分というものがブレませんね、趙公明。
それは確かに、あなたの強さではありますが』
「申公豹! 君がわざわざ僕に連絡を取るとはどういう風向きだい?」
旧友と出会った時のように声に喜色を滲ませて、気取ったポーズを虚空に見せる。
様にはなっているものの、いちいちその所作は演技臭く、くどいと言わざるを得ない。
『……いえ。いくつか不測の事態が発生しましてね。
あくまで我々にとっては、ですが。
王天君などは不満を隠すどころか苛立ちを露骨に表に出していますが……、おそらく分かっているからこそでしょう。
口では予定が狂った、などと言いつつも、その実掌の上で駒を踊らせているだけの“彼”の性格を』
なんでも紅水陣を用いての雑用に赴かされたのだとか。
封神計画の裏の遂行者であった頃からの苦労人ぶりに、ぶわっと趙公明は目の幅の涙を流す。
「――なるほど、確かに“彼”ならば僕たちにさえ全てを告げないのはむしろ当然だろう。
おそらくあのムルムルであっても全貌は知らされていないだろうね。
それどころか、僕たちがそれぞれに知らされた断片情報を持ち寄ってさえ、その意図にたどり着けないかもしれない!
全く、実に素晴らしい脚本家だよ、“彼”は!」
まあ、そんな気遣わしげな所作が長続きするはずもなく、趙公明はコロコロ表情を切り替える。
既にその眼の中にはキラキラと輝く星が散りばめられていた。
“彼”とやらによほど近しいものを感じているのだろう、美的センスの相性もあって親愛すら抱いているらしい。
そんな奇矯者に対する反応も手慣れたもので、申公豹は相手の言葉を遮って話を切り出した。
『まあそれは置いておいて、本題に入るとしましょうか。
……私は現時点を以って主催者を辞め、傍観者に戻ります』
――沈黙。
珍しく、趙公明が顔の表情全てを消す。
僅かに言葉を口の中で転がして、平坦な口調で紡ぎ出した。
「…………。
太公望くんが斃れたからかい? それとも、他に理由があるのかな。
このバトルロワイヤルに僕や王天君を誘った当人が、最大の目的が消えてしまったから手を引くというのは――、
いささか、身勝手に過ぎないかな?」
また――一迅。
強く、鋭く、寒風が吹き付け走り去った。
貴族衣装が音とともにはためいて、ふわりと棚引いては落ち着いていく。
『無論、太公望の肉体の喪失が理由の大きな部分を占めているのは確かです。
始まりの人に戻る前の太公望と戦える――、それがまたも難しくなった以上はね。
ですが理由は、それだけではない』
一拍の静寂を置いて、申公豹は語る。
『……見届けてみたくなったのですよ、あなた達全員の行く末を。
その為には当事者よりも傍観者――“観測者”と言い換えてもいいですが――が望ましい。
その意味では、私は今しばらくこの祭事に関わり続けます。
場合によっては、また積極的に関わらせて頂くことになるかもしれませんね。立場は変わるかもしれませんが。
その時はあなたたちと敵対する可能性すらあるかもしれません』
台詞の最後の一文に、趙公明は僅かに表情を取り戻す。
そこに現れたのは紛れもない、羨望だった。
「“彼”に牙を剥いたのかい? 申公豹」
敵対の可能性の示唆。即ち『戦い』がそこに生まれ出るという事は。
因果の因となる何らかを、申公豹は試みたのだという事。
そして戦いを至上とする趙公明にとって、それは胸を焦がすほどに手を伸ばしたい代物なのだ。
『そこまでのものではありません。ただ、“彼”という存在を試してみたくなったのですよ。
なにせ、『太公望が早期に退場する』という事を分かった上で敢えて私に協力を要請したとあらば、
“彼”は最初から利用するためだけに私に近づいたという事なのですからね』
「そしてそれは、ほぼ確実なことである――、と」
口端だけを、歪めて答える。
申公豹の機嫌を損ね、しかしこの催しに何ら障害が出ていないという事は。
申公豹が、淡々と事実だけを連ねているという事は。
『……ええ。
なので私と、タイミング良く彼に意見を申し立てようとするもう一人とで“彼”と相対することになったのですが。
やはりといいますか、私では――私たちでは、“彼”に傷を与える事にすら手が届かないようです』
「ほう?」
まさしく、思った通り。
『雷公鞭を放ったところで、雷の全てが“彼”の横を通りすがって行くのですよ。
まるで、十戒の導き手が海を割るように。
その中で“彼”は悠然とただ立っていました。指一つ動かさずにね』
素晴らしい、と、その一言しか思い浮かばない。
“彼”との接点を作ってくれたこと。
それはまさしく申公豹に感謝すべき事で、だからこそ身勝手さと相殺して進ぜよう。
極上の笑みを浮かべながら、趙公明は一人頷いた。
『“彼”の前に力は無意味です。
手を届かせることが出来るとすれば、それは力ではなく――』
そして、受話器を手にしたまま、ゆっくりと首をを動かしていく。
視線の先に在るものをしっかと捉えながら、呟くように話を打ち切った。
「……失礼。どうやらエルロック・ショルメくんが来訪してしまったようだ」
言葉だけ見れば、唐突な闖入者に対応する字面。
されどその態度は穏やかに過ぎて、分かっていて敢えて聞かせたのかとさえ勘繰る事が出来てしまう。
一連の、会話を。
「さて、招かれざるマドモアゼルこと、ガンスリンガーガールあいくん。
キンブリーくんにこの事を告げたらどうなるか……、分かっているね?」
優雅な一礼を披露しながら、趙公明は携帯電話の電源を落とす。
そのまま念を押すかのように告げた言葉には、一切の温かみが存在していなかった。
酷薄な笑みとともに、金の髪持つ男は少女を見下ろして動かない。
――何処から聞いていたのだろう。何時からそこにいたのだろう。
森あいも、ガクガクと体を震わせたまま動かない。
彼女は、知らないのだ。
キンブリーが、趙公明が“神”の陣営に座する事を知った上で、敢えて手を組んでいた事を。
「彼は持っている異能も頭脳の聡さも特別だからね。
こうして僕のようなものが近くにいるのも――、全く以って不思議ではない、と思わないかい?」
だから、こんなにも簡単な口車で勘違いをしてしまう。
『善良かつ蘇生の力を持つキンブリーを監視するために、趙公明が彼を騙して側にいたのだ』と。
趙公明は、嘘を吐いてはいない。
だからこそ、その言葉の響きが確からしさを伴って森に突き刺さった。
幾重もの雑多な考えが、森の脳内を乱舞する。
それは取り留めもなく拡散し、これからどうすべきかというのも纏まらない。
「……ぁ、」
ただただ、目の前の男が自分たちをここに放り込んだ連中の一味だと、それを知ってしまった恐怖が膨れ上がり、渦巻いている。
ごく、という唾を呑む音がやけに生々しく響いた。
キンブリーに頼りたい、という選択肢が真っ先に浮かび、しかしそれは趙公明の第一声が否定し尽くしている。
キンブリーくんにこの事を告げたらどうなるか……、分かっているね?
何度も何度もその一声がリフレイン。
もう、彼女にキンブリーを疑う余地はなくなっており――、だからこそ、彼の下に戻る事はできなくなった。
趙公明を出し抜かねば未来はないと、彼女の脳は勝手に決断を下してしまう。
植木を蘇らせるという小さな願いを叶えるために、キンブリーをこの男の魔の手から助けねばならないのだ、と。
押し潰されそうな重圧の中、一人ぼっちの彼女は息を荒くする。
不意に、じり、と音がした。
気がつけば静かに、趙公明はこちらににじり寄ってきていた。
「……う、ぁ、やだぁ……っ、ひゃ」
ずい、と押し出された手が禍々しく、トマトを握り潰すように脳天を掴もうとしている。
そこが、限界だった。
訳の分からない衝動が風船を割るかのように弾け飛ぶ。
「ひ、ぁ、わぁぁぁああぁぁあぁああぁぁあぁぁぁああぁああああぁぁぁああああぁぁぁ……っ!」
何処へ向かうとも知れず――、森あいは、駆けだした。
キンブリーを趙公明から救い、優勝させ、皆を蘇らせることだけをよすがとして。
そんな儚い砂の城だけが、今の彼女を彼女たらしめる唯一の頼り。
その幻想がぶち殺された時、彼女は果たしてどこへ落ちていくのだろうか。
知るとするならば、それはきっと“神”だけだろう。
【H-08/三叉路付近/1日目/午前】
【森あい@うえきの法則】
【状態】:疲労(中) 精神的疲労(中)、混乱
【装備】:眼鏡(頭に乗っています) キンブリーが練成した腕輪
【道具】:支給品一式、M16A2(30/30)、予備弾装×3
【思考】:
基本:「みんなの為に」キンブリーに協力
0:……植木……ごめんね……
1:キンブリーを優勝させる。
2:鈴子ちゃん……
3:能力を使わない(というより使えない)。
4:なんで戦い終わってるんだろ……?
5:趙公明からキンブリーを助け出したい。
6:趙公明に恐怖。何処でもいいから急いで逃走。
7:安藤潤也に不信感。
【備考】
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました。
※キンブリーの話を大方信用しました。
※趙公明の電話を何処まで聞いていたかは不明ですが、彼がジョーカーである事は悟っています。
※どの方角へ向かったかは次の書き手さんにお任せします。
小さくなる彼女の背を一瞥し、趙公明はやれやれと嘆息する。
淑女たるものもっと優雅に振舞うべきだというのに。
少し脅し過ぎたとはいえ、せめてその銃で自分を打倒しようという気概くらいは見せて欲しかった。
聞かれてしまったのは少し注意不足だったかもしれない。
だが、フォローのおかげでこれはこれで面白い事態になったと言えるだろう。
戦闘快楽主義たる趙公明は、だから再度電話を手にすることにした。
掛ける先はWatcherでも最強の道士でもなく――、
**********
見よう見まねで電話を取ったキンブリーが趙公明と待ち合わせたのは、橋の手前。
――灰色づき始めた空を見渡せる、拓けた空間に二人の男が集い合う。
「……やれやれ。
だから勝手な事はするなと言ったのに」
あらぬ方向を見ながら独りごちるキンブリーの言葉は、無論森あいという少女に向けたものだった。
「おや、反応が薄いね。
少しばかり残念がるか、あるいは僕に憤ってくれた方が面白いのに!」
道化じみた態度を崩さない趙公明への対応も最早手慣れたもの。
眉を下げたうすら笑いを返しつつ、両手を開いて肩を竦める。
「その状況ではあなたの対応は及第点ですよ。
要は私に信を預けたという状態がクリアされてれば良い訳ですからね。
しかし――、これはあなたに同行することがやや難しくなったという事でもある。
今しばらくは平気でも、場合によっては後々別行動を考えなくてはいけないでしょう」
つまり、これからどうするか。問題はそこに集約される。
ひとまず趙公明は、向こうに見える巨大な女性の立体映像に関しては静観するよう釘を刺されたらしい。
が、この男の事だから、首を突っ込むのも時間の問題だろう。果たしてどこまで言いつけを守るやら。
他にも聞かされた話のいくつかでは、ネット、とやらにも興味が惹かれる。
この携帯電話という道具でも接続できるらしく、後で試してみようと心中呟く。
そして、それ以上にいろいろ楽しめそうな玩具が一つ。
「それにこちらとしても面白い素材を見つけましてね。
まあ、これ以上あの少女に構っても時間対効果は低いですし、丁度いい頃合いですよ」
目を向けた先には、倒れ伏した血塗れの少年が転がっていた。
肉体的にも精神的にも疲れ切ったのか今はぐったりとしており、しばらく目を覚ます事はないだろう。
正直な話、森あいにはこの少年との遭遇当初の険悪な雰囲気をもう少し耐えて欲しかったところだ。
血塗れで言動も支離滅裂なこの少年に恐怖を感じたのも仕方ないとはいえ、自分が彼と相対したほんの少しの隙に勝手に趙公明に助けを求めたとは。
その試みも何の意味もなかった上に、仕込みの仕上げを完了させることも出来なかった。
けれど、過去を振り返っていても得るものは何もない。
さしあたって今は目の前の少年――安藤潤也でどう面白おかしく遊ぶかを焦点にしよう。
邂逅のその瞬間を思い出す。
錯乱さえ感じさせる言動とともに覚束ない足取りでこちらの方へと駆けてきたこの少年は、
妲己や兄貴、金剛などと気になる単語をいくつも吐いていた。
どうやら何処の誰かは知らないが、下拵えを完璧に整えてくれていたらしい。
キンブリーでさえ舌を巻くその手腕は実に大したものだ。
また、この少年はキンブリー自身の事をどこかで聞きつけていたらしく、
自己紹介の折に『蘇生が出来るのは本当か』などと凄い剣幕で詰め寄ってきた。
無論、と鷹揚に頷いてやったら、その場で力尽きたらしくがくりとへたり込んでそのまま沈むように眠ってしまったのだ。
恐らくは先に仕込みを終えた白雪宮拳経由の情報だろう、種が育ってまた新たな種を育む様は見ていてとても嬉しいものである。
まさしく文字通り、糸を切ったように唐突に眠り込んでしまった少年。
まだまだ詳しい話は全く聞いていないが、それは目覚めてからのお楽しみにしておこう。
もう一つの問題として、さて、この治療を施した少女をどう扱うか、というものがある。
こちらもまた目覚める様子はなく、予定通り打ち捨てておくのが賢明か。
なにせ森あいがいなくなったとあれば、まさしく不要な代物でしかないのだから。
どうせはぐれるのなら、せめて無駄に力を使う前にしてほしかったですね、と内心愚痴をこぼすキンブリー。
まあ、一見ガラクタにしか見えないものにも使い道が残っている時もあるのも確かだ。
ひとまずこちらは保留とすべきか。
「――話を戻しましょう。
やっと合点がいきましたよ、私にこんなものが支給された理由がね。
あのカタログにあった“交換日記”――それがこの、ケイタイデンワ、とやらの機能だったとは」
この鬼札と彼自身の遭遇さえ予定されたこと。
そのサポートの道具まで目の前にある事に嘆息するも、悪い気はしない。
つまりはそれだけ、自分は“神”の陣営に近しいと見込まれているということなのだから。
頬肉をわずかに吊り上げ、く、と快を漏らす。
「まさしくお誂え向きに僕たちのために用意されたものだろうね!
たとえ別行動をしたとしても互いに連絡し合い、フォローをしあうことが出来るアイテムだ!」
未来日記所有者7th――戦場マルコと美神愛。
本来は彼らが持っていた未来日記こそが、今、キンブリーと趙公明がそれぞれ手に持つ“交換日記”だ。
その機能は簡潔に説明すると、お互いの未来を予知し合うというものである。
片方だけ用いるならば“雪輝日記”とさほど性能に差はないが、二つ組み合わせることで所有者たちの“完全予知”を行う事が可能となる。
総合的な情報量が多いが雪輝中心の未来のみを予知する“無差別日記”+“雪輝日記”と違い、
情報量そのものは少ないものの使用者たち双方の未来をカバーすることが出来る性質を持つ。
逆に言えば。
所有者自身の未来を予知する事は出来ず、有効活用するためには相方との連携が必須とされる未来日記でもある。
「……加えて、使用にはリスクが伴う。
使用者の首輪から半径2m以内でこの“プロフィール欄”を編集し、本人の名前を入力することにより機能を解放することが出来ますが――、」
本来ならばマルコと愛専用の未来日記をこの殺し合いで用いることが出来るようにする措置なのか、
手順を踏むことで予知対象を変更することが可能だと説明書きには記されている。
“マルコ”の携帯電話からは“愛”の携帯電話の使用者の、“愛”の携帯電話からは“マルコ”の携帯電話の使用者の予知が可能となるようだ。
一見便利にもほどがあるアイテムだが、しかしキンブリーは使用に躊躇する。
そうは問屋が卸さないとばかりに説明書きの続きには無視など到底できない記述が存在していたのだ。
はあ、と心底渋い顔で長い長い息を吐く。
「……止めておきましょうか。現状そこまでの危難も存在しませんし、使う必要はないでしょう」
研究対象としても非常に興味深いし、未来予知によるリターンは非常に魅力的だが、致し方あるまい。
何より、この未来日記を使用するには相方への絶対の信頼が必要不可欠だ。
自分の未来を予知されては、いざ敵に回った時に確実に詰む。
……特に。
現在の自分の相方のような、絶対に油断のならない存在に対しては、尚更。
向こうの行動を予知できるのはこちらも同じだが、地力の差が圧倒的だ。
策を弄してもその策まで知られてしまうようではお話にならないのだから。
確かに感性の近さなどから親近感のようなものは無きにしも非ずだが、流石に自分の未来を預けられるほどではない。
そもそもが唐突な出会いだったのだ、何時この協働関係が崩れてもおかしくない以上、身を委ねるには不安が過ぎる。
内心の不信を押し隠しながら、ちらり、と横目で趙公明を見る。
「……な、」
絶句。
さしものキンブリーであろうと、ただ、絶句するしかない事態がそこにはあった。
珍しく口をあんぐりと開け固まったキンブリーの耳に、ゲーム版封神演義のカラオケで披露された麗しき子安ボイスが入り込む。
「この電話が破壊された時、プロフィール欄に記された名前の持ち主もまた、死亡する……?
構わないじゃないか、戦いにはリスクが付き物だ!
自身が敗れる可能性もないまま力を振るうのは断じて僕の望む闘争などではない――、ただの子供の癇癪さ」
趙公明は目の前で、己自身の名前をプロフィール欄に入力して見せていた。
そして――、にこやかにそれを自分に放り投げてよこすのだ。
動けない。
目の前の奇行に理解が及ばず、時が完全に凍りついている。
だってそれは、心臓を手に握らせるのと同じこと。
キンブリーが今、受け取った携帯電話をちょいと割り折っただけで、たったそれだけでこの男は死ぬことになるのだ。
だと言うのに、趙公明は静水の如く全く揺らがない。
態度の意味が、分からない。
絞り出した声は途切れ途切れで、キンブリーの脳内は白に塗り潰されそうなのが目に見える。
「……一体、何を……考えている、のですか?
仮に今ここで私がこの携帯電話を破壊したら、あなたはあっさり死ぬことになるのですよ?
正面からあなたを倒すのは難しいでしょうが、握った電話の破壊だけならやってやれない事はない。
折しも今、あなた自身の言った通りに」
困惑を通り越し、狼狽とさえ呼べる反応を返すキンブリー。
趙公明はそれを見て満足したのか破顔し――、
「ハァーッハハハハッ! 愛さ、愛だよキンブリーくん!」
場違いな単語で、疑問の全てに答えて見せた。
「愛……?」
「そうとも。僕は君がそんな事をしないであろうという事を確信している。
親愛、信愛、友愛、人愛、敬愛、恩愛……。
僅かな時間の付き合いながら、君の嗜好は僕がそれらの感情を抱くのに十分だった。
僕は君のその美学に敬意を払い、同時に親近感を抱いているのさ。
数多ある感情の全てに共通する一字があるのなら、それこそが真実。
これを愛と呼ばずに何と呼ぶのだろう!」
ブワリと趙公明の周りに何処からともなく黄金の花弁が舞い散った。
じぃ、と星を抱いて自分を見つめる真摯な瞳。
意識せずに、キンブリーの頬が思わず朱に染まる。
顔が熱を持つのを、自覚してしまう。
「愛――それは一なる元素。
僕はその愛を、これからも君と深めていきたいと思う!」
飛び込んで来いとばかりに鷹揚と両手を広げる趙公明。
何処までもまっすぐな視線は、確かにキンブリーへの十全の信頼を証明していた。
「……やれやれ。そうまで言いきられてしまっては、ね。
此方としても断ったら立つ瀬がなくなってしまうではありませんか」
キンブリーは、その強さに耐えられない。
目線を逸らす――、きっとそれは陥落を意味していたのだろう。
キンブリーは照れを隠すように頬を掌で隠し、自分自身の携帯電話を取り出した。
慣れない手つきで一字一字、慈しむように自分の名前を打ち込んでいく。
「……この催しを更に楽しむために最適な手段だと思ったからこそ、こうするだけですよ。
決して、あなたの為にした訳ではありませんからね」
相変わらず目線を合わさないキンブリーに、趙公明は静かに頷いた。
「無論、今はそれでいいとも。今は……ね」
「――ッ……!」
不意の言葉に息を呑み込む。
ようやく名前を打ち込むと、そこには確かに、手を取り合った自分たちの未来が示されていた。
「……ご自愛を。
流石に自分自身の命くらいは、己の手に収めておくべきですよ」
ゆっくりと歩み寄り、パートナーに電話を返す。
手と手で受け渡されるそれは、まるで指輪の交換のようだった。
観測者はここに、薔薇の花を幻視する。
いつしか真っ赤な花が、確かに咲き乱れていた。
【H-08/橋の手前/1日目/午前】
【趙公明@封神演技】
【状態】:健康
【服装】:貴族風の服
【装備】:オームの剣@ワンピース、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記
【道具】:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技 橘文の単行本 小説と漫画多数
【思考】:
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:映像宝貝を手に入れに南に向かいたいが、お達し通り様子見。
しかし、楽しそうなら乱入する。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:映像宝貝を手に入れたら人を集めて楽しく闘争する。
8:競技場を目指したいが……。(ルートはどうでもいい)
9:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
10:ネットを通じて遊べないか考える。
【備考】」
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。
【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
【状態】:健康
【服装】:白いスーツ
【装備】:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記
【道具】:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品×1、小説数冊、錬金術関連の本
学術書多数 悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数
【思考】
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
4:森あいが火種として働いてくれる事に期待。
5:参加者に「火種」を仕込みたい。
6:入手した本から「知識」を仕入れる。
7:ゆのは現状放置の方向性で考える。
8:潤也が目覚めたら楽しく仕込む。
9:携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
【備考】
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。
【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】:疲労(大)、精神的疲労(大)、情緒不安定、吐き気、
右手首骨折、泥の様に深い眠り
【服装】:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。
【装備】:獣の槍、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
【所持品】:空の注射器×1
【思考】
基本:兄貴に会いたい。
0:……。
1:旅館に行って兄貴と会う。
2:キンブリーから蘇生について話を聞く。
【備考】
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。
※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。
【ゆの@ひだまりスケッチ】
【状態】:貧血、後頭部に小さなたんこぶ、洗剤塗れ、気絶
【服装】:キンブリーの白いコート
【装備】:
【道具】:
【思考】
基本:???
1:ひだまり荘に帰りたい。
【備考】
※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。
※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※混元珠@封神演義、ゆののデイパックが三叉路付近の路地裏に放置されています。
※切断された右腕は繋がりましたが動くかどうかは後続の作者さんにお任せします。
【交換日記@未来日記】
未来日記所有者7th、戦場マルコ&美神愛の所有する未来日記。
我妻由乃の“雪輝日記”の様に、特定の一人だけを予知する機能を持つ二つで一つの未来日記である。
使用者自身の予知は出来ないが、互いに未来を予知し合う事で完全予知を実現する。
今ロワには7thが参加していないため、携帯電話のプロフィール機能を用いることで予知の対象を変えることが出来る措置がなされている。
具体的には、使用者の首輪から半径2m以内でプロフィールの名前欄に本人の名前を入力することで機能が解放される。
予知の対象はもう片方の交換日記のプロフィールに記された名前の相手となる。
ただし未来日記のルールに則り、名前を入力した時点から携帯電話の破壊=使用者の死亡となる。
“無差別日記”や“逃亡日記”などで予知の対象変更が可能かどうかは不明。
**********
1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:6)
1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
スレタイ通り、人探しや待ち合わせの呼びかけをするためのスレです。
どこで敵の目が光っているか分からないので、利用する際にはくれぐれも気をつけて!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
6 名前:ポテトマッシャーな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:mIKami7Ai
森あいさんと潤也さんのお兄様を探しています。
ご本人か行き先を知っていらっしゃる方がいましたら、ご連絡ください。
**********
光の飛沫が形作る独演会。
半透明なパイプオルガンから噴水のように吹き上げては降り注ぐ金粉の流れが、天上の舞台を描き出している。
同心円状に拡散する煌めく粒子は、円盤の端に辿り着くと滝に呑まれて眼下に降り注いでいった。
まるで古代人の描いた地球のような円盤状の大地。
全天を闇と彩雲に包まれたその場所で、二つの影が世界を睥睨する。
木枠と扉だけが無数に宙に漂っており、その開いた向こう側には数多の人の生き様が映し出されていた。
ひとつは、純白のスーツに身を包み、長髪を後頭部で括った青年。
ひとつは、異形の剣を異形の身に佩く髑髏の男。
「事象を一面から捉える事は叶わぬ。
誰もが悪夢と罵る催事であろうと、兆しを待つ者には深淵へと渡された蜘蛛の糸として、千載一遇の好機となる折さえ在る。
我等の様に」
馬上の騎士が呟いたその声に、青年は応えを返さない。
ただ、その手に摘まんだ一輪の花を鼻に近づけ――、
「この美しく整った盤面に、願わくば」
虚空へと、投じた。
「なるべくなら良き日々が多くありますよう――」
花は光の濁流に飲み込まれ、千切られ、翻弄され――見えなくなる。
そして、誰も見届けることのない流れの中で、闇の中へと融け消え入った。
花の名前は曼珠沙華。またの名を彼岸花。
意味する花言葉は――、
代理代理投下終了です。
投下乙
なんて言うか今回の話で主催者側の裏幕が色々と見れたと言うか…
いやあ、引き込まれました GJ!
投下乙
主催側の描写もされていていよいよ序盤も終わりって感じですね
それにしても……アッー!
秋山優(卑怯番長)、植木耕介、沖田総悟、ガッツ、白雪宮拳(剛力番長)投下します。
絶好の勝機を逃してしまった――。
ガッツは歯噛みしながら自らの鏡映しのような黒い戦士が遠ざかっていくのを見ていた。
ボタボタと、斬り付けられた胸の傷から血が滴る。
闖入者はガッツを斬り付けた後、野生の狼を思わせる異常な身のこなしで剛力番長へと襲い掛かって行った。
剛力番長は面食らいながらも、ガッツが襲われている隙に素早く地面に刺さった大剣を抜き、それを振り回して対抗している。
(クソッタレ……何だってんだ、あいつは)
ガッツは殆ど鈍器と化したキリバチを支えに立ち上がる。
そして眼前の戦いから目を切らずに胸部の傷を確認。
これは肉が斬り裂かれたのみ。大した怪我ではない。
そんなことより、だ。
「ありゃマズいだろうが……!」
突如飛び掛ってきた乱入者が纏っている鎧は、紛れも無く狂戦士の甲冑。
あの凶暴性、そして異常な身体能力は贋物では有り得ない。
ただの鎧と思って身に付けてしまったのだろうか。
しかも中身も只者ではなさそうだ。
面倒臭ぇことになったぜ、などと思いつつ舌打ちしたそのとき、狂戦士が剛力番長を力任せの一撃で遠くへと弾き飛ばした。
そしてすぐさま振り返ってこちらに狙いを変える。
対するガッツはキリバチを中段に構えて思案する。
剣だ。
何よりも、まず敵の剣を封じなければ。
獣の俊敏さで太刀筋と攻撃箇所が一致しないあの不可思議な剣を振るわれては堪らない。
幸い剣の特性を利用する知性は失われているようだが、それでも正確な間合いを計れないのは辛い。
その戦闘スタイルから怪力に任せて戦う暴戦士と誤解されがちだが、彼は高い技術を身に付けた超一流の剣士なのだから。
だが――、
「く……っ!」
素早い。
滅茶苦茶に振り回される剣とそれに伴う無数の剣撃。
小柄な身体に似合わず膂力も相当のものだ。
これを壊れかけた剣一本で捌くとなると、さしものガッツも防戦に回らざるを得ない。
全身に細かい傷が増えていく。
何処かに反撃の糸口は――、
「でやあああああああああああ!」
そこに復活した剛力番長が叫び声を上げながら突っ込んで来た。
「たあっ!」
そして二人を両断せんと大剣を横薙ぎに振り回す。
それを見たガッツは身体を引いて剣の射程外ギリギリに逃れ、同時に狂戦士の逃げ道を塞ぐ。
だが、狂戦士は背後に目が付いているかのような動きでガッツの頭の高さまで跳び上がり、一気に身体を丸めて前方宙返りをした。
そしてその勢いを利用し、剣を叩き付けんばかりの勢いで振り下ろそうとする。
「させるかよッ!」
しかしその打ち下ろしの一撃を、ガッツは右手首を掴んで止める。
無数の斬撃が生じる直前で霧散する。
だが、
「なッ……ガ、ハッ!?」
狂戦士は残った左腕でガッツの頸を鷲掴みにし、彼を押し倒した。
ミシミシと頚椎が悲鳴を上げる。声が出ない。
キリバチは狂戦士の体で押さえ付けられている。
口のように変形した狂戦士の頭部がガッツの視界を覆い、不気味に噛み合わされる。
そして――逆光に、ギラつく巨大な剣を振り被る剛力番長のシルエットが浮かび上がった。
マズい。
あの怪力で甲冑ごとオレを叩き潰す気だ。
下は固い地面。
かかる力を逃がす場は無い。
舌打ち。
まだ手は有る。
キリバチを手放す。
金平糖に似た形の炸裂弾を懐から取り出し、キリバチと狂戦士の間に素早く滑り込ませる。
裂帛の気合と共に振り下ろされる鉄塊。
衝突音。
同時に乾いた破裂音。
「が――ッ、は……」
ガッツは――無事だった。
狙い通り、爆発の衝撃が剛力番長の一撃の威力を緩和してくれたようだ。
思わぬ衝撃によろめく剛力番長。
狂戦士は悲鳴一つ上げずに、しかし硬直している。
脱出するなら今――!
だが、
(畜生――腕が、痺れ……!)
キリバチに伝わった衝撃で、腕が麻痺している。
力が入らない。
回復まで数秒。
そしてその数秒は、
「このっ……小細工をッ!」
絶望的なタイムラグ。
覆い被さった鎧の向こうで、剛力番長が再び鉄塊を大上段に構える。
あれが振り下ろされれば、今度こそ命は無い。
何とかこいつを引き剥がして――駄目だ。間に合わない。
剛力番長の細腕に力が込められ――、
そのとき彼女の足首に鞭が絡み、次の瞬間、彼女の天地を勢い良く引っ繰り返した。
「きゃあっ!?」
悲鳴を上げて頭からアスファルトに叩き付けられる剛力番長。
並の人間ならこれだけでも即死しかねないのだが、
「いたた……どなたですの!?」
まるで平然と立ち上がり、鞭の飛んで来た方を睨み付けて誰何する。
そこには木刀を提げた優男、沖田総悟と、怪しい仮面の男、卑怯番長が並び立っていた。
「だからあのキングコングが全部悪ィんだって言ったろーが。これで少しは信用したかィ?」
「いいや、全く。
……とはいえ、尋常な状況でないことは確か、かな。
剛力番長、これは一体どういうことなんだ?」
瞳に蒼い炎を宿した卑怯番長が、拷問鞭を引き戻しながら、剛力番長を真っ直ぐに見据える。
その横で、沖田が緊張感の無い声を上げた。
「よぉ、ガッツの旦那。危ねェとこでしたねェ。
俺が助けなけりゃどうなってたことやら。
あァそうそう、礼は『鬼嫁』で頼みまさァ」
ガッツは回復した腕で狂戦士を無理矢理引き剥がし、蹴り飛ばす。
その拍子に狂戦士の腰が前後逆に捩れた。
「……てめえは、何もやってねえだろうが」
乱れた息を整えながらもっともな悪態を吐くガッツ。
「あなたは――」
びしばしごきり。
睨む卑怯番長に対して剛力番長が何かを言おうとした直後、狂戦士の捩れていた身体が異様な音を立てて元の形に戻った。
あまりの異常さに、沖田も睨み合っていた二人も思わず目を剥く。
そんな中、ただ一人、ガッツは冷静に告げた。
「その鎧はな、でけえ力と引き換えに装着者を死ぬまで戦わせる代物なんだよ。
……もう中のヤツは手遅れだ」
そして立ち上がりかけた狂戦士に向かって、既にヒビの入ったキリバチをぶつけるように突っ込み、弾き飛ばす。
「そいつはしばらくてめえらで抑えてろ!
オレは――こいつを止める!」
***************
「剛力番長! 本当に僕のことが判らないのか!?」
飛来する鞭を回避し、剛力番長が叫ぶ卑怯番長に迫る。
「何度も言わせないで下さい!
あなたのことなんてっ、知りませんわっ!」
力任せに振るわれた大剣が空を切る。
「だから無駄だっつーの。金剛の旦那も説得しようとしてたけどなァ。
こーいう手合いは体に言い聞かせたほうが早ェんだよッ!」
状況は膠着していた。
沖田と卑怯番長の急造コンビは、意外なコンビネーションで剛力番長を完全に翻弄している。
だが沖田の剣撃も卑怯番長の鞭打も、剛力番長にダメージを与えられない。
攻撃は当たるのだが、彼女の白い肌には痣一つ出来ないのだ。
二人は徐々に焦りだしていた。
傍目には両者は互角だが、このまま戦いが長引けば剛力番長のラッキーパンチが炸裂する恐れがある。
それにガッツが狂戦士に敗北した場合も危険だ。
剛力番長の体力切れを狙うのはリスクが大き過ぎる。
多少賭けになるけど、仕方ない――か。
卑怯番長はある策を考え、剛力番長に聴こえない程度の小声で沖田に囁いた。
「沖田君。君、何処か体を痛めてるね?
無理をすることはない。彼女の相手は僕に任せて休んでいたらどうだい?」
沖田の目が僅かに細められる。
「はァ? 何の冗談でィ。誰がテメーの言うことなんざ聞くかよ」
確かに彼は先の潤也の不意打ちで腹にダメージを負っているのだが、この状況でハイそうですかと引き下がる訳にはいかない。
しかし卑怯番長は、なら言い方を変えよう、と更に続ける。
「彼女は――僕らの仲間だ。仲間の不始末は仲間が償うものさ。
そうでないと――『スジが通らねえ』だろう?」
それを聞いた沖田はなおも軽口を――叩かなかった。
「……フン。まァ、いいだろ。あいつァ確かにテメーの身内みてーだし、好きにしろィ」
そう言って、剛力番長がガッツの方へ向かった場合に妨害出来る距離を維持しつつ、剣を下ろして退く。
その様子を見た剛力番長は、あちこちが裂けてボロボロになった服を形だけ整えながら、不審そうな顔で口を開いた。
「あなた一人で私と戦うつもりですの?」
そうさ、と不敵に笑う卑怯番長。
「何故なら――本気を出した僕の力は君より上だからさ。
……おや、信じられないという顔だね。
なら力比べと行こうか」
自信満々にそう言い放つと、卑怯番長は無造作に剛力番長に近付いて行く。
あまりに隙だらけのその行動に、逆に剛力番長は戸惑いを隠せず、攻撃する機を失う。
卑怯番長は彼女の数メートル手前で立ち止まると、足を肩幅に開いて剛力番長に正面から向き合い、腰を落としておもむろに彼女に対して軽く腕を突き出した。
そして、掌を天に向け、指をクイと曲げて挑発する。
「どうした? 怖気付いたのかい? 君の剛力は正義の象徴なんだろう?
さあ、剛力番長。君の正義――真っ向から打倒してあげるよ」
その台詞を言い終わるか否かというタイミングで、剛力番長が地を蹴った。
「ディバイン――」
剣撃ではない。
小細工無し、最速の直線攻撃。
「ハンドッ!」
鋼をも砕く剛拳が卑怯番長を貫かんと放たれる。
唸りを上げて迫る掌底。
次の瞬間、卑怯番長は突き出した拳をくるりと返して掌を前に向け、
「ハァッ!」
迫る拳に合わせるように突いた。
二人の中央で激しくぶつかり合う掌。
だが――誰もが想像したであろう致命的な破壊は、発生しなかった。
「――え?」
戸惑う剛力番長。
衝撃が無い。いや、それどころか手応えすら無い。
まるで巨大な綿を殴ったかのような――。
その一瞬の隙を突いて、卑怯番長は蛇のような動きで彼女の懐へと飛び込んだ。
「悪いね、少し眠っていてくれ」
トン、と。
服の上から剛力番長の薄い胸に掌を当て、
「“衝撃(インパクト)”」
露出した鎖骨の間を押すようにして掌を傾け、
「“貝(ダイアル)”!!」
轟音。
剛力番長の小さな体が、ピンポン玉のように斜め下に弾け飛びアスファルトを粉砕した。
後ろで観ていた沖田が、ヒュウと口笛を吹く。
「イテテ……でもなるほど、確かにこれは便利だね」
痺れる手を振りながら、卑怯番長は路面を、いや、路面に開いた大穴を見下ろす。
穴の底には、服が破れ胸を大きく露出した剛力番長が仰向けに倒れていた。
***************
沖田と卑怯番長が剛力番長と戦っているとき。
ガッツも黒い鎧の戦士を彼らから引き離しつつ、剣を交えていた。
断続的に爆音が響く住宅街に、鈍い金属音が幾度となく響き渡る。
「フン、やっぱりな」
鎧の戦士としばらく打ち合いを続けていたガッツが、一旦距離を取って小さな声で呟いた。
「おい、てめえ」
呼び掛ける。
彼にしては珍しく、声に力が無い。
反応は無い。
「てめえの剣には殺意が無え。てめえから感じるのは敵意だけだ」
反応は無い。
動きも無い。
「さっきてめえが本気でオレを殺す気だったら、オレの首は折れてただろうよ」
やはり反応は無い。
だが何故か襲い掛かっても来ない。
「てめえ――まだ、そのクソ鎧に抵抗してるんだな。……大した野郎だぜ」
それがどれほど驚くべきことか。
以前、何度も鎧に飲み込まれかけたガッツには解る。
この戦士の意志の強靭さと、底無しの優しさが。
「てめえは――」
かつての、ただの復讐鬼だったガッツならば、そんなことは歯牙にも掛けなかっただろう。
どうせ倒すのだ。殺すのだ。
それなら、敵の事情など知らなくていい。知らない方がいい。
「てめえは一体――」
だが――彼は再び仲間を得てしまった。掛け替えのないものを手に入れてしまった。
だから、鎧の戦士の戦う理由を理解してしまった。
だから、無意味と解っていても訊かずにはいられなかった。
「――誰を護りたかったんだ?」
ォ――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ガッツの言葉を合図とするように、鎧の戦士は雄叫びを上げた。
慟哭にも似たその咆哮を、ガッツはただ受け止める。
そして――鎧の戦士は弾丸のような勢いでガッツに向けて突進を開始した。
対するガッツも無言で地を蹴る。
中央で、両者が激突した。
キリバチの刀身が根元から砕け、ガッツの右肩から派手に血が噴き出した。
鎧の戦士はガッツの背後で静止している。
そして、
パパパパン!
くぐもった複数の破裂音が、漆黒の鎧の内部から響いた。
すれ違い様にガッツが口を模した頭部の大穴から炸裂弾を放り込んだのだ。
どろりと、鎧の各所の隙間から赤黒い液体が流れ出す。
「悪いな」
ガッツの殆ど消え入るような呟きと同時に、ビデオのスロー再生のように、血に塗れた鎧が崩れ落ちた。
最後にズシンと重い音が響き、そしてほんの僅かに道を過った少年は、それきり動かなくなった。
【植木耕介@うえきの法則 死亡】
***************
「こいつは『衝撃貝(インパクトダイアル)』といってね。
衝撃を吸収、放出することが出来る道具なのさ。
流石の剛力番長も自分の全力をそのまま返されたら堪らないだろ?
まぁ彼女の怪力を吸収し切れるかは不安だったんだけど――これならこの先も役に立ちそうだ」
掌に仕込んだ平べったい貝を掲げながら、卑怯番長は沖田に先程の攻撃のタネを明かしていた。
「オイオイ、自分から真っ向勝負挑んでおいてそれかよ。
ったく。卑怯な野郎だぜィ」
呆れた調子で沖田が卑怯番長の戦法を非難する。
とはいえ、勿論本気で咎めている訳ではない。
卑怯番長も、褒め言葉と受け取っておくよ、と軽く返す。
「……おっと、どうやらあっちも終わったようだね」
見ると、ガッツが道の向こうから歩いてやって来る。
右肩から胸にかけてその隆々とした筋肉が剥き出しとなり、血が流れているが、他に目立った外傷は無い。
卑怯番長がそちらに注意を逸らしたその瞬間、
「おいッ!」
沖田が叫ぶ。
「――たあァッ!」
同時に剛力番長がカッと目を開いて手に持つ鉄塊を力任せに振り回した。
咄嗟に上半身を反らす卑怯番長。その眼前を暴力の塊が素通りする。
体勢を崩した卑怯番長に彼女は追撃を――、
「――何?」
せずに逃げた。
はだけた胸など気にもしない様子で一目散に走り去る。
弾かれたように飛び出して剛力番長を追い掛ける沖田。一瞬遅れて卑怯番長が続く。
剛力番長が逃げた先にいるのはガッツ。
彼は慌てずスキー板のような剣を構えて、迎え撃つ準備をする。
剛力番長は連戦の疲れを感じさせない速さであっという間にガッツの目の前まで駆け抜け――、
跳躍。
その勢いのまま、彼の遥か頭上を超えて行った。
「あぁ?」
後ろを振り向きつつ、剛力番長の予想外の行動に戸惑うガッツ。
だがすぐにあることに思い至って、彼は舌打ちをした。
「しまった! クソッタレが!!」
そう。
剛力番長が走って行ったのは植木耕介の遺体がある方向。
そして彼の遺体と共にあるものは――。
***************
――私は、これから決死の覚悟で正義の実行に参ります。
もしかすると、これが最後の日記になるかもしれません。
ですから――もしこれを聞く方がいましたら、お願いがあります。
正義のために、どうか私の遺志を継いで下さい。
そうすれば、たとえ私の身が滅んだとしても、正義は――、
***************
天頂付近で存在を主張する太陽の下。
微かに潮の香りが漂う住宅街の一角に、三人の戦士が集まっていた。
いつの間にか砲撃音は止み、代わりに場違いな外れた歌声が大空に轟いている。
しかしそれに構わず、三人は油断無くそれぞれの武器を構えていた。
「あの、クソガキ……」
彼らが武器を向けているのは一般的な木造の民家。
「ナンつーかねェ。やっぱこりゃとっとと逃げた方がいいんじゃねーか?」
ついさっきまで、ガッツ達は遁走した剛力番長を捜していたのだが、最早その必要は無くなった。
「だったら逃げればいいだろう? 別に引き止めやしないさ」
と言っても、彼女が大人しく彼らの前に出て来た訳ではない。
「テメー、俺が一人で逃げたら絶対に囮にするつもりだろーが。誰がンな損な役引き受けるかィ」
三人のいる場所からは見えないが、民家の向こう側で禍々しい気配が生まれているのだ。
「あれ? バレたか。残念」
そのことと、植木の遺体が消えていたという事実を考え合わせると、考えられる可能性は唯一つ。
「おい、てめえら。その辺にしとけ。――来るぞ!」
ガッツの警告に二人は軽口を止め、武器を握り直す。
刹那――禍々しい気配が、一気に膨れ上がった。
――それは一つの理想の終焉。
「正義はぁァァァァ!」
内に憤怒の塊を宿し――、
――破砕音。
民家の更に向こうに見えていた風見鶏が沈んでいく。
「絶対にぃぃィィィィ!!」
外に漆黒の鎧を纏い――、
――轟音。
地が揺れ、皮膚に突き刺さるような殺気が辺りを包みこむ。
「負ァけッ、ないのですわァァァァアアアア!!!!」
竜をも斬り伏せる分厚い魔剣を携え――、
――爆音。
そして、目の前の民家の壁と塀が纏めて粉々に吹き飛んだ。
濛々と立ち込める土煙。いくつもの家がみるみる傾いていく。
崩壊する住宅街を背後に、かつて白雪宮拳と呼ばれていた存在――究極の『番長』が、絶対の正義を執行すべく姿を現した。
【I-7/路上/1日目/午前】
【秋山優(卑怯番長)@金剛番長】
[状態]:疲労(小)
[服装]:超短ラン
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE、拷問鞭@金剛番長
[道具]:支給品一式、激辛せんべい@銀魂、不明支給品1(卑怯番長が使えると判断したもの)
カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、携帯電話
[思考]
基本:どのような状態でも、自分のスタンスを変えない。
1:剛力番長を止める。
2:金剛を殺した者への怒り。
3:沖田を警戒。
[備考]
※登場時期は、23区計画が凍結された所です。
※桂雪路ととらを双子の姉妹だと思っています。
※放送をカセットテープに録音した事により、その内容を把握できています。
また、放送の女性の造反は“神”の予定外の事だったと考えています。
【沖田総悟@銀魂】
[状態]:疲労(中)、腹部に鈍痛、わずかな悲しみと苛立ち
[服装]:真選組制服
[装備]:木刀正宗@ハヤテのごとく!、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
[道具]:支給品一式×2、イングラムM10(10/19)@現実、工具数種、不明支給品0〜1(確認済み、武器はない)
[思考]
基本:さっさと江戸に帰る。無駄な殺しはしないが、殺し合いに乗る者は―――
1:剛力番長を何とかする。
2:火災をなんとかする。
3:潤也への対策を考えておく。
[備考]
※沖田ミツバ死亡直後から参戦。
※今の所まだ金剛達との世界観の相違には気がついていないようです。
※キンブリーを危険人物として認識。
※デパートの事件の顛末を知りました。
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)
[服装]:黒い外套(胸から肩にかけて破れている)
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:支給品一式、炸裂弾×5@ベルセルク、折れたキリバチ@ONE PIECE
[思考]
基本:グリフィスに鉄塊をぶち込む。
1:剛力番長を倒す。
2:グリフィスを殺す。
3:グリフィスの部下の使徒どもも殺す。
4:ドラゴンころしを取り戻す。
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、ホムンクルス『最強の眼』、狂戦士化
[服装]:キツめの体操服(ズタズタ)、紺のブルマ
[装備]:狂戦士の甲冑@ベルセルク、ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:
[思考]
基本:正義を実行する。
0:???
[備考]
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※I-7の裏路地には植木耕介の死体と植木耕介、剛力番長のデイパック(支給品一式×2、アルフォンスの残骸×3、ボイスレコーダー@現実)が放置されています。
※ボイスレコーダーには、剛力番長と出会うまでのマシン番長の行動記録と、
剛力番長の島に来てからの日記が記録されています。
【炸裂弾@ベルセルク】
金平糖のような形をした小さな爆弾。
擦過により着火し、三つ数えた後に爆発する。
以上で投下終了です。
最後に連投規制……だと?
投下乙です!
このロワでガチバトル見たのは久しぶりだw
投下乙
植木正気を取り戻すに至らずかー
剛力番長フル装備だな
死闘はまだまだ続きそうだ
>天国とは神のおわすことなり
乙!
原作をフル把握していない俺にとっては何が何だか分からないところもあったが、
とりあえず、趙公明とキンブリーの愛だけはよく分かったw
しかし、キンブリーはここのところ趙公明のペースに流されっぱなしだなぁ。
いつか足元を掬われなきゃいいが。
>厨BOSS BATTLE−BERSERK−
こちらも乙!
植木を炸裂弾で、剛力を衝撃貝で撃破して、やっと一息ついたと思ったら……
剛力は剣に鎧まで装備して、すっかりプチガッツですねw
本物のガッツも青雲剣に炸裂弾と決して悪い装備じゃないんだが、
こいつと比べるとどうしても見劣りするよなぁ。
投下乙
植木死んだか
剛力ももう救いようがなさそうだ
投下乙です
ガチバトルキター
植木はここでアウトか。関係者がショック受けそうだが仕方ないか
剛力もフル装備だが終わりが見え始めた感じだが道連れが生まれるかそれとも…
wiki更新されてるけど、いくつかの項目が文字化けしてるのは俺だけ?
バックアップに戻したほうがいいかな
>>219 こっちの環境からは正常に見えるけど
具体的にどこ?
直してもらったみたいだ
履歴が更新されてる
ごめん、更新して確認したら4つのページが改竄されてたわ
全部復元しておいた
他のロワも似たような被害食らってるから誰かのミスじゃなくて荒らしの類だと思う
アニロワ3はトップページ削除されてた
このwikiは管理人以外ページ削除出来ないっけ?
改竄はともかく削除されると履歴にも残らないから厄介
ちょっと質問なんだけど、会場MAPの1マスが実際は何メートル四方なのかって決まってたっけ?
正確には誰も書いてないねぇ。ただ、自分は1km四方のイメージで書いてたよ。
具体的な例があったかどうかは忘れたけど、八丈島くらいの大きさと或が推定してるな
八丈島だと北西-南東14km、北東-南西7.5km、62.52km2(Wikipedia調べ)だから、
上下左右の海を除いたマスだとだいたい8km×8kmで同じくらいになるね。
となるとやっぱり1kmくらいか。
映画バトロワのロケ舞台であることもあって、大体のロワがそのくらいの大きさの舞台なんだよな
遅ればせながら投下乙です
植木は参戦時期が悪かったなあ
無印の終盤辺りならもっとなんとかなったかもしれんけど
ここは距離の問題でほとんど揉めないな
他のロワでは揉めるの?
そういう話題は荒れるからやめて
しかし改めて見ると女性キャラの服装が色々アレだな
ひよの(下半身裸)
ナギ(包帯)
ハム(服ボロボロ)
剛力(ボロボロ体操服+ブルマ)
ゆの(全裸)
スズメバチ(自重しろ)
まあ、主催戦が殴り合いで決着ってのもそれはそれで悪くはないが自分では書きたくないなー。
申し訳ない、誤爆。
誤爆だけど乗ってみる
ここの主催戦は単純な戦いにはならないような気がするな
初めに感じたのは、窓が多いなということだった。この建物は窓が多すぎる。
地図にも看板にもたしかに警察署とあったが、これだけ窓を大きくとっていかに保安官を守るのかミッドバレイには理解できない。
多人数が詰められるオフィスが続き、簡易なドアが廊下と結んでいる。
オフィス同士もドアでつながっていて、容易に行き来をすることができる。
軽く触れてみたが、壁も薄くてあきれるほど不用心なつくりだった。
どのオフィスもさんさんと日の光が入る窓が設置されているから、きっと音は素晴らしくいい響きをくれるだろう。
エントランスに立って数節を奏でれば殲滅できる。
ミッドバレイは無意識のうちにもっとも効率的に制圧する方法を考えた。
そもそも、ミッドバレイの本分は中〜長距離戦にある。
特製のサックスから放つ固有振動数を利用した衝撃波(ソニックショット)は、
どんな猛者でも鍛えることのできない柔らかい臓器を破壊する。こうした大量の殺戮とも相性がいい。
ターゲットは彼の姿をとらえることもなく息絶えるだろう。ミッドバレイの音はどこにでも届く。
音波というものの性質上、距離による制約はない。しかし直接的に肉体を傷つける攻撃が難しいのも事実だ。
ここなら、とミッドバレイは思った。楽器を使わずとも皆殺しは容易だ。荒くれどもに銃を持たせて並べればそれだけでお仕舞いだ。
だが今は、その有利に働くべき窓がミッドバレイを阻んでいた。ブラインドで直射日光こそ遮られているが、
昼前の明るい日差しはオフィスをオレンジ色に照らしている。
病院のように入り組んだ構造になっているわけでもなく、大部屋の続く単調な建造物では聴力と無音化というミッドバレイのアドバンテージはあまり生きない。
いや、その前に。
日が昇りきった時点でアドバンテージなるものは絶対的に目減りしているのだ。
視界の利かない夜の闇や、障壁が多く視野のきかない建物の中、そういった場所でこそ『音』の力が最大限に発揮される。
その点、電気を消してもなお明るく、障害物言えば机といす程度しかない広々とした警察署は利点に乏しい。
せいぜいが競技場のような広場や屋外の道路よりましといった程度だ。
それでも、ミッドバレイがここに訪れたのには理由がある。
第一回放送をまともに聞いていなかったのは痛手だった。
死亡者の名前などどうでもいい。
レガート・ザ・ブルーサマーズの名が呼ばれるわけがないし、『あれ』達については触れるのも馬鹿らしい。
ニコラス・D・ウルフウッドは、あの闘神の生まれ変わりのような男がそうやすやすと死にはしないだろうが、死んでいればいいと思った。
強者は少ないに越したことはない。
同時に生きていればいいとも思った。
彼を屠るだけの技量を持つ者がいることになるからだ。
鉛の弾が肩を貫いたとき、或は筆立てが砕けて倒れたのにまず驚いた。
そのあとで視野に赤いものが侵入したのを意外に思い、やっと肩に焼けつくような熱さを感じた。
全身の筋肉がひきつってオートマチックに立ち上がり掛けたところをしたたかに殴られる。
右のこめかみだから犯人は右利きだ、なんてことを考えていたように思う。
そのどれもが一切の音を立てなかった。うっとうしいほどのどかなシジュウカラのさえずりと、
パソコンのファンの低い唸り声だけがずっと聞こえているものだった。
いつの間にか床に倒れている。
その視界に入ったのは、片手におもちゃのようなラッパと反対の手に長いスーツケースを持つ男の後ろ姿だ。
――……ラッパ(ホーン)?
割れるような頭痛と体重の掛かった肩がやたら痛んだが、現場のあまりのそぐわなさに或はぷっと吹き出しそうになった。
もっとも、それは吐息にすらならなかったが。
男はふとドアの方に目をやると、おもむろに『スーツケースを構えた』。音もなく射出口が開く。
一見長いだけのスーツケース。しかし、鉄杭を射ち出し遮るものを粉砕する信じられない火力の兵器なのだ。
リヴィオがクリムゾンネイルの打杭機と呼んだそれを、男はまるで『見知った道具であるかのように』射撃姿勢をとる。
狙っているのだ、爪を研いで。
リヴィオが危ない。
かすみがかった意識が必死にそう言っている。
リヴィオを助けないとリヴィオに教えないと叫ばなければ呼ばなければ危険を知らせなければ。
しかし。
いくつかの事実が、推理が、或の口からぜんぜん違う言葉をもたらした。
「ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク……」
それは声にすらならないような小さな呟きだったが、男の目は確かに或をとらえた。
それはまったく、彼らしくないミスだったといえるだろう。
かつて同種の仕事を何十回もした。もう数もわからないくらい手になじんだ作業のはずだった。
耳が察した人の気配は二人。足音と声調から自ずから明らかだ。
男は長身で腕に覚えがあり子供の方は小柄でそうではない。
そして、車のキーを手に入れ間もなく出立しようとしている。
ミッドバレイは即座に決めた。外に出られては、なおさらアドバンテージが効かない。
男の方が部屋を出るのを聞き、入れ替わりに音もなく押し入った。
反響音から子供がこちらに背中をむけていることはわかっている。
踏み込むと同時に室内の状況を目視した。
このとき彼は、本当に久しぶりに思った。ツイてる、と。
モニターに向かう少年の背後に、それはあった。
GUN-HO-GUNSのNo.13、エレンディラ・ザ・クリムゾンネイルの鋼鉄の爪。
鉄の壁すらぶち抜きさらに舞うその威力は、ミッドバレイが望んでいたまさにそのものだった。
滑るように打杭機をとりあげると、予定通り情報源を無力化する。
そして、いつもの彼だったら男がドアノブに触れるその瞬間に冷たい殺意を撃ちこんでいたに違いない。
相手が最も無防備なそのときに、打つべき鼓動を止めさせていただろう。
なのに、だ。まったくプロらしくないことに、見知らぬ子供のこぼした音が自分の名前を紡いだときに、考えてしまった。
わずか一瞬でも考えてしまったのだ、『あれ』がいる可能性を。
結果として、寸分寸毫の狂いなく殺れる瞬間を逃し、獰猛な嵐のような反撃にあい、あまつさえからがら逃げ出すという失態を犯すことになった。
いつのまにか銃弾がかすったらしく、右腕とわき腹にひりひりした痛みを感じる。
幸いだったのは優秀なガンマンだろう男が不釣り合いに貧相な銃を扱っていたことだ。
口径が大きければ肉ごとえぐられていたはずだ。急な動きをしたせいで、背中の裂傷もうずきを増している。
散々だ。
あの怪力オカマの杭は重量と反動が半端ではない。操るにはしばらく時間が必要となるだろう。
運のせいなどではない、すべては自分のうかつさが原因だ。
幸運の女神には打杭機とのめぐりあわせの分をまず感謝すべきなのだ。
溜息をつくのをやめて、ミッドバレイは打杭機を手に静かに立ち去った。
「或!」
リヴィオは戦意にまかせて侵入者を追いつめかけたが、血にまみれた或を認めてたたらを踏んだ。
目的は、敵を斃すことではないのだ。リヴィオは自身に言い聞かせた。
誰かを守ることだ――彼のように。
手早く怪我の状況を検分し、手当てをする。
ぐったりしているが、幸い見た目のわりにたいしたことはなさそうだ。
弾道が骨も動脈も外れているので大事に至るものではなく、きつく殴られた頭もしばらく横になれば起き上がれるようになるだろう。
襲撃者の目的が或を生きて捕らえることならば、きわめて手際のいい仕事だった。
リヴィオは丁寧に止血をし、包帯を巻く。頭の傷に布を当てようとしたところで、力手首を力無くつかまれた。
或は、はっきりと目を見開いていた。
こめかみの血が面(おもて)を汚し、涙をだらだら流しながらも、隠しきれない興奮が踊っている。
「リヴィ・・・確保しないと・・・・・」
かすれた声が言葉を結んだ。
「かれ、しょうこ、捕まえて・・・・!」
そして、リヴィオの知る名前を彼は告げたのだった。
「ホーンフリィィィク!! あんたに話がある!」
リヴィオはどことも知れぬミッドバレイに向かって叫んだ。
当然、応えはない
もはや去ったか? リヴィオは自問する。いや、その懸念は無用だ。
「あんたは情報がほしいんだろう!
俺たちは、あんたにレガートとナイブズの情報を提供できる。
ノーマンズランドであんたはナイブズから逃れようとした。
この島でやつらの動向が、知りたくてたまらないはずだ。」
リヴィオはここで一息区切った。
この言葉がミッドバレイに届いていれば――彼の超人的な能力を持ってすれば聞こえないはずがないのだが――、決して捨ててはおけないはずだ。
「俺の名は、ミカエルの眼のリヴィオ・ザ・ダブルファング。
あんたと同じようにナイブズに逆らったGUN-HO-GUNSの10だ」
リヴィオはミッドバレイのことを大して知っているわけではない。
音を自在に操る殺し屋であり、ナイブズを恐れて逃げた反逆者であり、それに失敗した敗退者だ。
所詮、その程度の内容でしかない。
それは彼のことをリヴィオに語る人物がいなかったせいもあるが、リヴィオ自身も死人に関心などなかった。
そう、確かにミッドバレイ・ザ・ホーンフリークは死んだはずなのだ。
レガート・ザ・ブルーサマーズのイカレた忠義に殺されて。
「コインを投げろ」
思ってもいない方向、リヴィオの側の壁の向こうから声が聞こえて、汗が首筋を流れるのを感じた。
いつの間にそちらに? リヴィオは決して油断していたわけではない。かなりの注意を払っていたはずだ。
この壁の薄さなら、クリムゾンネイルの爪は容易にぶち破るだろう。
だが――この距離なら、かわせる。
リヴィオは懐から二つコインを取り出した。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードを苦しめるため、GUN-HO-GUNSのナンバーに一つずつ持たされた半割れのコイン。
斃されれば勝者(というかヴァッシュ)に渡るそれは、レガートの悪趣味の塊だ。
No.10のコインを投げた。
No.11ラズロ・ザ・トライパニッシャーのコインはそっと懐に戻す。
この身を共有する戦闘狂の別人格について言及する気は今はなかった。
一つの体に二つナンバー。GUN-HOの中でも例外中の例外を説明しても不信感を抱かせるだけだろう。
必要ならおいおい話せばいい。
キィン
かつてのGUN-HO-GUNSの証。硬い金属音を立てて一度はね、ドアの前に落ちた。
リヴィオの記憶ではすべてのコインはヴァッシュがケースに納めたはずだった。
これもまた『神』の小道具なのだろうか。
――No.5のコインはどこにある?
頭痛がした。
――ニコラス・D・ウルフウッドのコインは誰が持っている?
俺を救った恩人の、俺を命がけで救って死んだ恩人の、恩を返すことも言葉を交わすこともないまま、
俺の知らないところで再び死んだ彼のコインを持っているのは、誰だ?
コインの残響が消えるころ、ようやくドアが開いて意外なほど無造作に男が現れた。
「確かに10のナンバーだ」
やはり無造作なしぐさでコインを拾い上げ、ナンバーを読み上げる。
「ダブルファングと言ったか?」
リヴィオはわずかにうなずくことで肯定を示した。
「GUN-HO-GUNSの7、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。あんたは死んだと」
「俺もそう思っていたがな」
彼が投げてよこそうとするのをリヴィオは首を横に振った。あんなものはもう必要ない。
ミッドバレイは、リヴィオとは異なる雰囲気を持つ男だった。
しゃれた形の靴も、糊のきいたシャツも、高級そうな白いスーツも、戦場よりは品のいいバーに似合うだろう。
かつては伊達に着こなしていただろうに埃と血ですっかり薄汚れていた。
その割には本人は気にしたふうもなく、ずっとうろんな視線を或に向けている。
そういえば、とリヴィオは思った。銃を交えたときでさえ視界の端で或の姿をとらえている気配があった。
優秀な殺し屋であろう彼が、無力に倒れた高校生をなぜそんなにまで警戒する?
その解はミッドバレイ自身の言葉ですぐに得られることになる。
「こいつは何だ?」
眼差しで或を示しながら、リヴィオに尋ねている。
「・・・彼は秋瀬或と言って、」
質問の意図を掴みかねて、リヴィオが几帳面に応じた。
あ、と或は思った。軽率だ。
風貌はむくつけきガンマンのそれなのに、彼はときどきおかしなまでに純朴な振る舞いをする。
そこが或に彼を信頼させると共に、いつか敵に足元をすくわれかねない不安をあおっていた。
現状、或の肉体的な身の保障はリヴィオに完全に依存しているのだ。
ミカエルの眼の過酷な改造でリヴィオは外見こそ加速成長させられたが、中身の年齢は実はさほど変わらないなど或には知るよしもない。
だが、遮ったのはミッドバレイだった。
「人間か?」
かぶせるように発された言葉に、リヴィオは得心したようだった。
或は普通の少年だ、と彼は言った。
見てわかるだろう、とは言わなかった。
或には物語の中のできごとでしかないが、この二人は確かに人類でない『それ』を実体験として知っているのだろう。
「俺は普通の子供が大男に化けるのを見た」
相変わらず疑わしげにミッドバレイが見下ろしている。
「大男が子供に化けていたのかもしれないがな」
ミッドバレイは思い出して軽く息を吐いた。
現実的な脅威であるならば、「考えない」という救いに満ちた選択肢は許されない。
あの子供(注:胡喜媚)は変装というレベルでなく黒い剣士(注:ガッツ)に化けたし、黒い剣士は確かに子供になった。
普通に考えて、剣士が子供に化けている可能性の方が高いだろうとミッドバレイは予測する。
脆弱な外見を装って襲撃者を油断させ、突如として本来の力量を発揮し圧倒するのだ――彼が嵌りかけたように。
もっとも、この島で『普通』がどこまで通用するか甚だ疑問だが。
「『普通』をどう定義するかは極めて厄介かつ魅力的な命題ですが――僕のこの体はホモ・サピエンスの生物学上の制約から逸脱していません。
もちろん、物理学の法則にも逆らうこともできません。
そういった意味においては、僕はなんの力も持たない普通の人間ですよ、ホーンフリークさん」
ヴァッシュ・ザ・スタンピードやミリオンズ・ザ・ナイブズとは違ってね、と或が付け加えるとミッドバレイはわずかに眉根を寄せた。
嫌悪感を隠すつもりもないらしい。
「ただ、『ない』という消極的事実を明示するのは非常に困難な作業です。
それは、悪魔の証明と呼ばれるほどに。
今この場で証明する手段は遺憾ながらありません。
ですから、あなたには僕を信じていただきたい」
――証明する手段?
べらべらとよくしゃべる子供だった。
涙と血でぐしゃぐしゃのくせにぎらぎらと目だけが輝いている。いったいその目で何を見ようというのだろうか。
――銃で撃って死ねば人間だろう。
ミッドバレイは或には答えずリヴィオに問いかけた。
「レガート・ザ・ブルーサマーズとナイブズ…様の居場所を知っていると言ったな」
「ねぇ、あなたは自分が死んだと認識しているんですか?」
或が体を起こそうとして、リヴィオに抱きとめられている。
例の興奮の入り混じった目で、妙に馴れ馴れしく聞いてきた。
「腹と胸に銃弾を撃ち込まれたんだ、死なない方がおかしい」
「本当に死んだんですか? 間違いないんですか?」
「自分の頸椎と頭がい骨が叩き潰されるのを『聴いた』。俺にはどうして生きているんだかわからん」
ふと、先程の『手段』を思い出して嫌な気分になった。
「詳しく知りたければチャペルにでも聞け。」
その沈黙は、わずかの間だった。
ともすればミッドバレイにくいよろうとする或をやわらかくおさえながら――或にすれば万力のような固さだったが――リヴィオは暗い声で応じた。
「・・・彼は死んでしまっただろう」
「死んだ? あの魔人がか?」
ミッドバレイが驚いた声で聞き返した。
「放送を聞いてなかったのか?」
今度はリヴィオが聞き返す。音界の覇者は苦々しく認めた。
――なにかがおかしい。
或は違和感を覚えた。
彼はレガートやナイブズが参加していることを知っていた。
放送で読みあげられれば、名簿の名前は順番に赤変する。
たとえ聞いていなかったとしても見ればその意味は明らかだろう。
「あなたの名簿を見せてくださいッ」
或が名簿を受け取っている間、リヴィオはミッドバレイに掲示板の書き込みを見せていた。
ナイブズと思われるもの一件、レガートの二件、レガートに襲われたもの一件の計四件。
ナイブズは相変わらずヴァッシュに執着し、レガートは相変わらず狂っていて、
狂人と出くわすとロクなことにならないという、
GUN-HOの裏切り者二名にとってはもはや普遍的ともいえる事実を示すだけの内容だ。
ミッドバレイもそう思ったのか、何の表情もなく眺めている。リヴィオは場違いな罪悪感を覚えた。
コメントを一言ももらさないまま、ミッドバレイが見まねでマウスを操作した。レガートの絵(モンタージュ)が表示される。
直前まで――彼が撃ちぬくまで――、或が作成していたものだ。
画面にへばりついたレガートの顔が茫洋とした目で室内を眺めた。
或は才能があると思う。リヴィオの証言から作成されたものは、瓜二つといっていいほどよくできていた。
ミッドバレイにも一目で誰を指しているかわかっただろう。
だが、どれだけ似ていても本人そのものとはまるで言えない。
狂気を描くには、いったい何色を塗ればいいのだろう?
ミッドバレイは偽杜綱の手配書を手に取りモンタージュと見比べて、目的を察したようだがぽいと紙を投げ捨てた。
「鎌がふりあげられてから死神に気づいてもな」
「ないよりはましだろう」
どうだか、というようにミッドバレイが肩をすくめた。気障ったらしい所作がしみついているらしい。
モンタージュを印刷し、リヴィオは名簿を見ている或に声をかけた。
結論からいって、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークの名簿はなんら変てつのない代物だった。
或はいくらかの落胆をこめて名簿を見直した。或たちのものと同じように16名の名前が赤くなっている。
汚れや折れ目の違いを除けばなにも変わらなかった。
リヴィオがいぶかしげにどうかしたのかと言い、ミッドバレイがもういいだろうと名簿を取り上げた。
そのときだ。名簿の配色が一変する。15名の名前が黒に、ニコラスDウルフウッドだけ一人がただ赤く残った。
「ロストテクノロジー?」
リヴィオが感嘆した。
「残念ながら違います」
或が喉の奥でこらえて笑う。
ホーンフリークは黙って指の先で紙をたたんだ。
リヴィオは急襲をかけてきたミッドバレイを信頼するには程遠い心境だったが、
しかしながら、戦闘面においての彼の支援は無碍にできないものがあるとも考えていた。
こと近接戦闘において、ミッドバレイはリヴィオの敵ではない。
しかし、気配を感じさせずに致命的な一打を与えてくる彼の手腕は恐ろしいし、味方にすれば頼もしいだろう。
或の身体の脆さが予想以上だったのも、リヴィオにミッドバレイとの共闘を決意させる一端だった。
さっき被弾した銃創程度なら今でも数分で皮が張るリヴィオとは比べるべくもないが、
それにしてもたかだかあの程度ですぐには歩けなくなるほどのダメージに或がなるとは思わなかった。
偽杜綱のときといい、相手の殺意と危機に関する察知能力も低い。
或の世界では、生き延びるためだけにそういった感性を研く必要も、理不尽で不合理な暴力にさらされることもなかったのだろう。
近接戦闘で敵ではないならば、不意打ちをおそれて汲々とするよりもあえて近づけた方が安心だろう。
ミッドバレイの射撃の腕前も、『能力』もアテになる。ビジネスライクに考えられればこれ以上ないパートナーだ。
或は小さくて弱い。自分の手が唯一守った少女のように。
ホーンフリークは、信頼できる仲間とは到底言いがたい。
或はリヴィオにしか守れない。
ミッドバレイは或を人間かと尋ねたが、それなら身体強化を重ねた自分の体の方がよほど化け物(フリークス)だろう。
だが血に染まりきったこの手でも守れるものがあると教えてくれた。
――コインはどうする。
ラズロがささやいた。いや、ラズロではない。リヴィオの弱さをラズロのせいにしてはいけない。
彼のコインの行方が気になってしかたがないのはリヴィオ自身だ。
目的を思い出せ。リヴィオは再度自身に言い聞かせた。
自分は或を守り抜く。悪趣味なこの殺しあいを生き延びて、或をもとの平和で安全であんな感性など必要のない世界に帰してやろう。
リヴィオがおった痛みを、ラズロに押し付けた苦しみを或には味わってほしくない。
できるはずだ。
師とラズロを敵に回しても孤児たちを守りぬいた彼のように。
血みどろになっても決して諦めなかった彼のように。
彼――。彼の、コインはどこだ?
ヴァッシュに会いたいと思った。
守るには大きすぎるものを抱えて、それでいてなにひとつ落としはしない彼に会いたいと、心の底から思った。
或がそんな提案をしたのは、当然思惑のあってのことだ。
ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークは、間違いなく人を殺すことに抵抗がない。
現に躊躇なくリヴィオへ鉄杭を発射した。或もその弾丸で撃ち抜かれている。
急所ではないからといって、それが或を殺すつもりがなかったとはどうしても思えない。
彼の行動の基本は、情報源の確保と他者の排除。展開がこうならなかったら、
彼はリヴィオを仕留めて或から必要な情報を聞き出し、止めを刺すか放置するかしただろう。
どちらでも同じことだ。リヴィオの的確な処置がなければ或は血の海でみじめに死んでいたから。
そして、立ち入り禁止区域を把握していなかったことから彼がこの異常な島を単独行動していることが分かる。
これからも武器や情報を得るために平気で一般人を殺すことだろう。
鳴海歩や『普通』の人間と思われる掲示板の管理人が遭遇したらどうなるか。
彼らが命を拾う可能性は皆無だ。それは何としても避けたい事態だった。
幸いなことに彼は、殺人に快楽を見出すタイプでもなくかなり理性的な人物と読み取れる。
ならば、懐柔してしまえばいい。
リヴィオを使えば砂漠の星の住民という大きなくくりで、おおまかな思考傾向をつかみ取るのにさほど時間はかからないだろう。
しかもリヴィオとミッドバレイは同じ組織に属していたという。彼がほしい情報は明らかだし、或にはそれを獲得する自信がある。
――もちろん、或が第一義に考えているのは身の安全だ。
戦況や戦時の人物把握についてはリヴィオの方が圧倒的に長けている。だから彼が渋れば或は即撤回するつもりだった。
けれど、リヴィオは諾とした。ということは、彼にとってミッドバレイは脅威ではない、もしくはなんらかの勝機が見込まれるのだろう。
――それに。
こめかみは春雷のように痛んだが、その内部は冴えわたる。
ある人間と別の人間。別の人間はある人間が死んだ後の時間軸を生き、ある人間はただ死んでいた。
或がミッドバレイを手元に置いておきたかったのは、有力な手掛かりになると直感したからだ。
23%が死んだ中で、手持ちのカードにこの両者を入れられるとはなんという幸運か。
或は首筋の毛がぞわぞわと逆立つのを感じた。口角はくっきりと上がり、薄い唇は完全に笑みを形づくる。
謎だ。謎がある。それもとびきり大きな謎が。
探偵にとってこれ以上の悦びはあるだろうか。
――包み隠されたその姿はきっと陶然とするほど魅力的だろう。
『神』よ、この僕がお前を解き明かしてやる。
或は強く強く思った。それはもしかしたら、最後の一人になってでもと願うほどに。
まともな嘘をつくのも面倒になって、ミッドバレイは適当にごまかした事実を伝えた。
立ち入り禁止区域と交換で、或が子供に化ける剣士の話を聞きたがったからだ。
なんならそのままを話してしまってもよかったのだが、
或によく似た年齢・服装の子供(注:竹内理緒)を殺したことは伏せたほうがいいと判断した。
オトモダチの可能性が高い。ここで揉めるのは厄介だ。
昔の自分なら、笑顔を浮かべればいくらでも偽りの言葉が流れ出たし、ついでに気のきいた一言も付け加えたかもしれない。
洗練された容姿と相まって、確かにそういった如才のなさは彼の武器の一つだった。
他のGUN-HOにはない強みだ。そこをナイブズに見込まれたのだとしたら、そんなもの初めからいらなかったと思う。
疑いたいのなら疑えばいい。クソを塗り固めたこのゲーム、どうせあと二日ほどだろう。
わりあい完璧主義者だったはずの自分のずさんさに、人間捨て鉢になれば大概の事はどうでもよくなるんだな、という感想がぼんやり浮かんだ。
なんでもいいからさっさと終わってほしい。これが最も正直なミッドバレイの心中だった。
――サックスがあれば
仮定なぞ無意味と知りつつ思わずにはいられない。
――華麗に迅速に殺しつくしてみせるのに。
彼も長年殺しを生業にしてきた男だ。その辺のギャング程度なら話にもならずに叩きのめすことができる。
しかし、リヴィオや黒い剣士が相手ともなるとそうはいかない。
残念ながらミッドバレイは楽観主義者ではななく、頼みの打杭機も傷が響いて精巧な照準を定めることは難しい。
虚をついての奇襲、HIT AND RUNしか選択肢のない今の彼にとって、これは大きな痛手だった。
ミッドバレイが或の提案を受けたのは、もう一つ理由がある。
『あれ』らの情報を取得するのともまた別の理由だ。
賞金首の手配書のような紙。秋瀬或とリヴィオが作成したものだ。
詳細な容貌や攻撃能力が記され、ご丁寧にも危険人物ゆえ気をつけろと注意書きがある。
なるほど、冒頭の一戦でリヴィオの呼びかけにこたえなければ、
子供に不意打ちをかける危険人物としてミッドバレイの似顔絵が流布されていたに違いない。
リヴィオは緊張をたたえた様子でこちらを見据えている。すでに自分は警戒されている。
今ここで立ち去っても同様だろう。
強者とまみえる可能性が、これからは否応なしに高まる以上手の内を明かされるのはどうしても避けたい。
ミッドバレイはリヴィオを見返した。GUN-HO-GUNSのひとつならば、この男もどこかいびつに違いない。
だが少なくとも、ダブルファングはいきなり魔牛に化けたりはしない。
わけのわからない『神』共がはびこるこの島で、それは極めて心強い真実に思えた。
【C-2/警察署/1日目/午前】
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、左肩に銃創、右こめかみに殴打痕、興奮状態
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@現実×2、警棒@現実×2
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真、不明支給品×1、
携帯電話、A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、A3サイズのレガートモンタージュポスター×10、手錠@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20
[思考]
基本:生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
1:『神』の謎を解く
2:リヴィオと共に中学校付近に潜伏して、歩と雪輝達の取引を監視する。
3:我妻由乃対策をしたい。
4:探偵として、この殺し合いについて考える。
5:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に貼っておく。
6:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
7:探偵日記を用いて参加者から情報を得る。
8:『みんなのしたら場』管理人を保護したい。
9:ミッドバレイの懐柔。
10:ヴァッシュに話を聞きたい。
[備考]
※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
※蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※リヴィオからノーマンズランドに関する詳しい情報を得ました。
※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。
※鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
※螺旋楽譜に記された情報を得ました。管理人は歩であると確信しています。
※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
詳細は第91話【盤上の駒】鳴海歩の状態表を参照。
※みねねのメールを確認しました。
みねねが出会った危険人物及び首輪についてのみねねの考察について把握しました。
※参加者は平行世界移動や時間跳躍によって集められた可能性を考えています。
※ミッドバレイとリヴィオの時間軸の違いを認識しました。
※ガッツと胡喜媚を要注意人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
※名簿の仕組みを認識しました。
【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@現実×1、警棒@現実×2
[道具]:支給品一式、手錠@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、詳細不明調達品(警察署)×0〜2、警察車両のキー 、No.11ラズロのコイン@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:ウルフウッドの様に、誰かを護る。
1:ウルフウッドのコインはどこに?
2:或を守る。
3:或と共に、知人の捜索及び合流。
4:偽杜綱を警戒。
5:ロストテクノロジーに興味。
6:死者の復活……?
7:ミッドバレイをやや警戒
8:ヴァッシュと合流したい。
[備考]
※参戦時期は原作11巻終了時直後です。
※或の関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。
※妲己を危険人物と認識しました。
※ガッツと胡喜媚を要注意人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
※ミッドバレイとの時間軸の違いを認識しました。困惑しています。
※名簿の仕組みを認識しました。
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、背中に裂傷(治療中)
[服装]:白いスーツ
[装備]:イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13
[道具]:支給品一式×4、真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、
銀時の木刀@銀魂、月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
エンフィールドNO.2(1/6)@現実、クリマ・タクト@ONE PIECE、ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
エレンディラの杭打機(26/30)@トライガン・マキシマム 、No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すようなヤツと出会ったら…?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、レガートに対する強烈な恐怖。
1:怪我が癒え十分と判断される情報が集まるまで、或とリヴィオに同行
2:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
3:愛用のサックスが欲しい。
4:或の情報力を警戒。
5:ゲームを早く終わらせたい。
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※放送の後半部分の内容を知りました。
※ガッツと胡喜媚を危険人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
※リヴィオとの時間軸の違いを認識しましたが、興味がありません。
※名簿の仕組みを認識しました。
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タイトルは「それぞれの妥協点」です。
以上です。ありがとうございました。
投下乙
情報戦チームにガッツに誤解フラグが立ったかw
キャラクターの反応がらしくて良かったです
名簿の変色は不可逆なので、そこは要修正かな
あれっ、そのとき持っている人によって赤くなったり黒くなったりするんじゃないの?
一回赤くなったらもうずっとそのまま?
投下乙です
そういやガッツの誤解フラグ持って生存してるのはこいつだけだったか
それにしてもミッドバレイ投げやりすぎだろw
あと細かいですがGUN-HO-GUNSじゃなくてGUNG-HO-GUNSです。
確かに紛らわしいのでwikiの「ギミック一覧」の項目に追加しておきました
すみません、練り直してきます。
完全に勘違いしてました。
>GUNG-HO-GUNS
ラズロの名前に"オブデス"も付け忘れてるし、ひどいですね。
>249
キャラから入った自分にはサイコーのほめ言葉です。
名簿について認識違いがあったので、>241の後半を以下のとおり変更します。
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結論からいって、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークの名簿はなんら変哲のない代物だった。
或はいくらかの落胆をこめて名簿を見直した。或たちのものと同じように16名の名前が赤くなっている。
汚れや折れ目の違いを除けばなにも変わらなかった。
リヴィオがいぶかしげにどうかしたのかと言い、ミッドバレイがもういいだろうと名簿を取り上げた。
そのまま折れ目にそって紙を折ろうとして、手を止めている。
或はそこになんとなく不満げな雰囲気を感じ取ったが、原因に思い当たるものはない。
大事なものと思うから丁寧に取り扱ったし、受け取ったときと違う状況といえば名簿が閉じていないことくらいだ。
「ミカエルの眼には種々の『教育』があると聞くが――」
唐突に母集団の話題を振られてリヴィオは戸惑った。
「子供のしつけは教えていないのか」
何の話だ? つい視線が或を向くが、リヴィオよりずっと賢い或も困惑した顔をしている。珍しい表情だ。
名簿の死亡者――赤文字の名の上を、ミッドバレイの指がとんとんと叩いた。
「わかりやすいしるしをつけるご親切は立派だが、人のものに無断でやるのは行儀が悪い」
何か反論しようとして、或ははっと気づいた。ミッドバレイは名簿をよこすとき、四つに折りたたんだ一部を開いて見ていた。
おそらくその紙が名簿かを確認したのだろうが、問題はそんなところにはない。
或が名簿を開いたときにはすでに赤変していて、ミッドバレイが所持していたときにはそうではなかったという一点にある。
或は名簿に関する所見を述べた。
「ロストテクノロジー?」
リヴィオは感嘆した。
「残念ながら違います」
或が喉の奥でこらえて笑う。
ホーンフリークは黙って指の先で紙をたたんだ。
修正を含めてwikiに収録しました
誤字に関しては私が勝手に直すのはマズいですので、お手数ですがwiki上で修正お願いします
それにしてもミッドバレイも加わったのか
これで学校の取引に向かい奴がもう一人増えたな
投下します
「仕方のないこと……そう、仕方なかったのです……」
静寂に包まれた図書館内。
鈴子が館内に雪崩れ込むと読書用の個室の一つに身を隠し、とりあえずは一息吐く事が出来た。
そして考えを纏めようとするが言葉とは裏腹に鈴子は未だ答えを出せずにいた。
それどころか先程の光景が何度も頭の中で思い返してしまう。
自分の突き出した腕が相手の右腕を
血を糸の様に引きながら飛んでいく少女の腕を
「うぐッ」
吐き気を覚え口を手で塞ぐ。
嘔吐はしなかったが呼吸を乱してしまい深呼吸をして落ち着こうとする。
それを何度か繰り返してようやく少し落ち着く鈴子。
そこで改めて状況を整理する。
(もし先程の植木を殺したという発言が事実ならやはりあの三人組は……ですがあの時、あの子を動かす余裕なんて
ありませんでした……)
落ち着いてからよく考えて行動する。
確かにそれが有効な場合はある。
だが後から考えてみればあの状況であの少女を放置したのは見殺しにするのと同じではなかったか。
結果的に見殺しにしたという事実が鈴子の心を責め苛む。
もしあの時、自分がぶつからなければ……
(いえ、ぐずぐずしていればさっきの三人組に捕まっていました。一度身を隠すという行動は間違っていないはず。
そうなれば二人ともやられていました。そう、なにも間違ってない、間違ってなど……)
そう思い込むことで自身の心を守ろうとする鈴子。
傍から見れば自分が見殺しにしたという事実から目を逸らそうとする行為でしかなかったがそれでなんとか落ち着きを保つことはできた。
(そう、仕方なかった、仕方なかったのです……そもそも、このゲームで生き残れるのは一人だけ。
仮に助けられたとしてもその後はどうするんですか? 彼女を傷つけたのは私なんですよ? 後で報復を仕掛けられるとも限りません。
平時ならともかくこの状況でそんな人を相手にしてられませんわ……)
ロベルトの為に、そう、私は『空白の才為』をロベルトに渡す為に自分は行動してるのだ。
確かに彼女を傷つけたのは私の過失だ。
だが見知らぬ少女とロベルト、どちらを取るかと言われればやはり……ロベルトの方を取るだろう。
他人に利用され、人間に絶望していた自分に救いの手を差し伸べてくれた彼。彼の為ならこんな悔恨の念の一つや二つ……
そう、これで、これでいいのだ……
『あ゛?????????????』
「ひやぁ!! 誰? 誰ですか!?」
突然の大音量にびっくりして辺りを見回す鈴子。
どうやら図書館の外かららしいがいったい何処からするのか。
それを確かめる為に一度外へ出てみるか、いや屋上から見まわした方が見つけ易いだろう。
謎の音の正体を確かめる為、屋上へと向かう鈴子。
挫いた足で階段を上り下りは難儀したがそれでも音源を確かめる必要がある。
手すりを利用しつつ鈴子は屋上へと向かった。
**********
「……………………」
屋上に上がった鈴子の目に飛び込んだ物は巨大な立体映像で映し出された人間の言葉をしゃべる巨大動物と酔っぱらいの女。
それを見た鈴子は……思考停止。彼女にしては珍しく口を開けてポカーン。
だがいつまでもそのままであるはずもなく、茫然自失から立ち直った鈴子の胸から込み上げてくる感情は……
「ああ、カワユイですわあぁぁ………(はぁと」
そう呟くと切なげにため息をつく
さっきまで恐怖と後悔に震えていた少女とは思えないほど殺し合いの最中に浮かべるには不似合いなほど緩み切った表情。
もし普段の鈴子しか知らない人間が見たら目を疑ったであろう。
だが本来の未来においてとらより巨大なテンコを見ても可愛いと言ったこともあるほどの筋金入りの動物好きの鈴子にして
みればこれはごく自然なことでもあった。
「ああ、あの鬣にブラッシングして三つ編みにしたらどんなにカワユイか……ああ!!」
とらとあんなことやこんなことをして戯れる自分を想像し身をくねらせながら悦に浸る鈴子。
それがしばらく続いたが……ふと我に返る。
(でもあれはいったいなんて生き物なんでしょうか? あんなの見たことも聞いたこともありませんわ)
さすがに普通の生き物とは思えない。ならばあの生き物もスパスパの実のような支給品であろうか?
警察犬や軍用犬のように特定の動物を調教して役立たせるようにあの生き物もそういう類の動物であろうか?
以前のゲームが中学生という限定された人間だけで行っていたことへの固定観念であろうか、鈴子が参加者に人間以外も参加しているとまでは思い至らなかった。
もし、この時冷静にとらを観察していれば首の首輪から自分と同じ参加者であると看破出来たであろうが今の「カワユイモード」の彼女にそれを求めるのは……
**********
それにしても、もう一方の繁華街によくいるあの酔っぱらいはいったい何なのだろうか?
酔いに任せて勢いよくアニソンを歌っている女……それはまだいい。いや、良くもないが。
あそらく大がかりな射影機によって自身の姿を投影してるのだろうがいったい何の意味があるのか?
あれでは殺してくれと言ってるだけではないだろうか。
この、いつ殺されるか分からない状況であんな行動を取るとするのなら……
まず思い浮かぶのは他の参加者への連絡、およびうったえかけることであろう。
またはそれに見せかけた待ち伏せ、或いは罠か?
だがどう見ても酔っぱらいがアニソンを熱唄してるだけにしか見えない。しかもなぜアニソン?
待ち伏せや罠にしてももう少しやり方がある。こんな状況でカラオケなんてする酔っぱらいを誰が接触しようと思うか?
さすがに実はアニソンが何らかの暗号か符号であってそれでやり取りをしてるとは思えない。いや思いたくない。
もし合理的に納得できる理由があるとすれば………戦場の空気に当てられて自棄になった末の行動か?
なるほど、確かに鈴子もこれまでの異常な状況で精神を消耗してきた。この状況に負けてこういう行動を取る参加者が出ても不思議ではない。
人間、理由が分からないことに恐怖を抱いたり困惑したりするが理由さえ分かればどうということはない。
だがそれで他人の心が納得するかといえば別問題であり、これまでのここでの自分の行動が、必死で危険を回避しようとしてあれこれ悩み決断してきた自分が否定されてるみたいで……
とらを見た時とは違い嫌悪と軽蔑の感情が湧いてきて愚痴を溢さずにはいられなかった。
「いったいなにを考えてあんな……この状況から逃げ出したくなる気持ち、分からなくもありません。
だからってお酒に逃げて現実逃避するなんて……
自殺するのなら勝手に自分一人でやればいいんです。
それなのに他人を、あんな可愛い動物を巻き込んでこんな目立つような、目立つ?」
そうだ、あの巨大な立体映像は目立つ。目立ちすぎる。
どれだけの人間がアレを見れる範囲に存在するかわからないがアレを見た参加者が取るであろう行動は大きく分けて二つ
一つはあの酔っぱらいを殺そうと近寄るか、近寄ってきた参加者を殺して回ること。
もう一つは逆に巻き込まれない為に遠くへ遠ざかるか、嵐が通り過ぎるまで建物に避難するやり過ごすこと。
幸い、当面の目的であるデパートとはかけ離れている。これに便乗してデパートへ……あれは?
ふとデパートの方角に目を向けると付近の市街地から黒い煙が立ち上るのが遠目でも確認出来た。
「やはりすでにデパート付近には参加者が集まっていましたか。このままデパートに行くのは危険ですわね」
半ば予想はしていたが可能ならごたごたを避けてデパートに向かいたかった。
この状況でデパートに向かうのは危険かもしれない。
だが自身の能力の使用にはビーズが必要不可欠だ。
いっそう、デパートに向かうのは諦めて不確定ではあるが市街地で虱潰しに探すべきか?
「地図に乗っている施設だけを頼りにするのも考えものですわね。時間を掛ければ見つかるか、え?」
さすがにこの付近でそれらしい店が都合よくあるわけがないか。
そう思いつつも辺りを窺っていて三叉路付近に目を向け………あの裸の少女が消えていることに気づく。
確かにぶつかったのも放置したのもあの辺だったはず。
ここからでも屋上からだとその場所が良く見えた。
(こ、これはどういうことですか? わたしが最後に見た時にはあの子は気絶していた、いえ、はっきりとは確認したわけではありません。
なら起き上がって自力で止血して逃げた? ならばあの連中から逃げ切れたのですか?)
先程は切り捨てることを正当化していたのに彼女が生存している可能性を突き付けられるとそれもすぐに揺らいでしまった。
そしてその揺らいだ心のまま……
(ここからでは詳しく分かりませんわ……危険かもしれませんが、もしまだ生きているのならやはり一度謝罪して償いたい。
そうですわ、気を付けて行動すればなにも恐れることはありませんわ)
安直に行動を変えることになる。
◇ ◇ ◇
「確かに血の跡はあります……でもこれは……」
腕を切断された時の血の跡はあった。だがそれだけだった。他に目立った跡は他にはなかった。
例えば三人組が彼女に危害を加えたとする。それも気絶した彼女へのとどめを刺すほどの傷を与えたとしたらこれだけでは少なすぎる。
止血して逃走した可能性もあるが考えてみればそれらしき道具どころか服すらもなかったではないか。
ならばあの三人組が助けたのか? いや、それはありえないだろう。本人がはっきりと殺人をしたと……待て、三人組?
このゲームで生き残れるのは一人だけのはず。だがあの三人組はチームを組んでいた。チームを作ることが出来たのだ。
どうやって? 欲深くて自分勝手な人間でもロベルト十団の時はその後の世界の理想の地位を餌に従えさせることが出来た。
だが今回は状況が違う。ならばどうやって……いや、方法はある。
それはこのゲームからの脱出を目標として団結するという方法。
確かに死にたくないという気持ちを利用して参加者を纏めることは可能だ。
最終的に最後の一人を決める戦いは避けられなくてもそれまでは強敵にも対抗できる有効な手段だ。
それに自分達の敵に対して殺し合いに乗った愚か者だと周りを煽ることも出来るだろう。
そこに更に負傷した少女を助けたという事実を利用すれば他の参加者の信用を得られ……なら彼女を傷つけた自分はどうなる?
事故とはいえあの少女を傷つけたことは事実。そしてそれを彼らが歪曲して他の参加者に伝えたら?
ただでさえ孤立無援なのに複数の参加者に目を付けられてしまう。
(まずいですわ。このままでは集団の敵として認知されてしまう。ですが相手は三人、しかも未だにビーズを確保できていない。
ですがこのまま放置する訳には……なにかこの状況を打開する手が……)
だがそんな都合のいい手段があるのなら誰も苦労はしない。たった一人で集団に対抗するなんて……
いや、あった。
あったではないか。そう、植木がロベルト十団に入団し内側から組織を崩壊させようとしたではないか。
確かに途中で正体はばれたがそれまでにアレッシオ・ユリアーノやドンを倒している。
連中も戦力が欲しいはず。全身を刃にできる能力を上手くアピールし、なんとか彼らの気を引ければ……
そして今は手元にビーズはないが彼らの懐に潜り込み彼らの緊張が緩んだ隙にどこかでビーズを入手して不意打ちすれば……
(正直、不安要素が多いですし卑怯な手段です。穴が多すぎますわね……しかし上手くいけば多人数でも対応できる。悪評が広まる前に彼らの口をふさぐ為にも、
そしてロベルトに『空白の才』を渡す為にも手段は択んでいられない)
そうと決まれば連中を追わなければならない。
確か、連中はデパート方向から来たはずだから……旅館へ向かったか、それともあの映像の方か?
どうせ運頼みだというのなら……いっそう危険ではあるがあの子がいる映像の袂へ向かうのもいかもしれない。
普通に考えてみればそれは危険な行為であろう。十団の参謀としての自分ならあり得ない行動であろう。
だがどうせ何処へ向かったか分からないのなら外れの可能性もあるのだ、それならあの酔っぱらいからあの子を保護、もとい支給品を確保した方が後々有利になる。
(確かに今は非常事態、そう、生死を賭けた戦いの最中……でも、もしあの子が支給品だとするのなら、もしかしたら何らかの役に立つのかもしれませんし……
それに……こんな人間同士の醜い戦いにあんな子を巻き込むのはどうしても割り切れません……)
悪評が流れる前に彼らを補足したい。そして危険を避けで優勝を狙う。
だけど人間同士の争いと無関係なあの子を死なせたくない、なんとか助けたい思い。
心の中で強引にそれらに折り合いを付けてみる。
(今まで受け身でしたがようやく指針が見えてきましたわ。危険は伴いますが上手くいけば……)
【H-08/三叉路付近/1日目 午前】
【鈴子・ジェラード@うえきの法則】
[状態]:疲労(小)、左足首捻挫 、スパスパの実の能力、カナズチ化
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、妖精の鱗粉@ベルセルク 、手ぬぐい×10
[思考]
基本:このゲームの優勝賞品が空白の才ならそれをロベルトの元へと持ちかえる
1:巨大映像へ向かう。自身の悪評が流れない内に三人組の口封じをする。ゆのは……
2:他人は信用できない。だが集団に入り込む努力はする
3:このゲームが自分達の戦いの延長にあるかを確かめる。
4:映像付近で三人組がいなかった場合、とらを確保する。酔っぱらいはどうでもいい
5:ビーズやその他の道具の確保は一時保留、折を見て探索する。
6:情報を集め今後どうするかを考える。特に他の参加者への接触は慎重に行う。
7:この戦いが空白の才を廻る戦いであり、自分に勝てない参加者がいるようなら誰も死ななかった時の全員死亡を狙う。
[備考]
※第50話ロベルトへの報告後、植木の所に向かう途中からの参戦です。その為、森とは面識がありません。
※能力者以外を能力で傷付けても才が減らない可能性を考えています。実際に才が減るかどうかは次の書き手に任せます。
※気絶させても能力を失わない可能性を考えています。気絶したらどうなるかは次の書き手に任せます。
※とらは支給品である動物だと思っています。参加者に人間以外が混ざってると思い至っていません。
投下終了です
タイトルは『黄色い猿より鯨の方がかわいいよね!』です
投下乙
はっはっは
だめだこいつ
ところで
>>260の
>『あ゛?????????????』
は文字化けでしょうか?
投下乙
鈴子、絶賛迷走中かw
誰かもうこいつを止めてやれw
wikiから持ってくると文字化けするみたいですね
>>270 なるほど
文字化けした部分は『あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』です
書こうとしてるパートのいいプロットが浮かばない……。
まぁそれはともかく。
詰まった気分転換に、全話読み返して「煽り文」を考えてみました。漫画らしく。
wikiのおまけに追加してあります。
こういうお遊びがあってもいいかなぁと。
そんなに深く考えて書いたものではないので、ネタバレ等マズい点がありましたら勝手に変えて構いません。
おー100話以上あるのによくやった、感動した!
乙過ぎる
アン学はもう卑怯だな、笑わなかったためしがねぇ
乙です
大変そうですが自分のペースで頑張ってください
触発されたので、俺もこんなん作ってみた
ただ、登場させたキャラとかwiki編集面倒だからwikiに載せるかどうかは悩みどころだw
データが間違ってたらスマン
◆JvezCBil8U氏
登場させたキャラ
3回
秋葉流、
2回
秋瀬或、リヴィオ・ザ・ダブルファング、ミリオンズ・ナイブズ、西沢歩、ヴァッシュ・ザ・スタンピード
趙公明、ゾルフ・J・キンブリー、我妻由乃、天野雪輝、白雪宮拳、雨流みねね、妲己、グリード(リン・ヤオ)、
愛沢咲夜、ひょう、パック、カノン・ヒルベルト、胡喜媚、鳴海歩、安藤潤也、
1回
平坂黄泉、紅煉、太公望、綾崎ハヤテ、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、結崎ひよの、アルフォンス・エルリック、
蒼月潮、蝉、エドワード・エルリック、高町亮子、聞仲、マシン番長、安藤(兄)、ゴルゴ13、竹内理緒
金剛晄(金剛番長)、植木耕介、ニコ・ロビン、秋山優、とら、桂雪路、レガート・ブルーサマーズ
グリフィス、スズメバチ、ウィンリィ・ロックベル、ゾッド、Mr.2 ボン・クレー、柳生九兵衛、安藤潤也、森あい、ゆの
長文タイプの書き手で21作中8作が分割級でありながら投下数トップという新漫画一の執筆量を誇る書き手。
作風は欝グロが多く、作中での死者の多くは無残な遺体として描写される。
ベルセルクのイベントである蝕を再現し、衝撃を与えた。
また、知能戦も得意であり、新漫画ロワの作風に決定的な影響を与えている。
◆L62I.UGyuw氏
登場させたキャラ
2回
三千院ナギ、鳴海歩、安藤(兄)、ゴルゴ13、結崎ひよの、グリフィス、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、
沖田総悟、ガッツ
1回
鈴子・ジェラード、サンジ、スズメバチ、モンキー・D・ルフィ、ウィンリィ・ロックベル、紅煉、ひょう、パック、
雨流みねね、妲己、ミリオンズ・ナイブズ、ゆの、エドワード・エルリック、リン・ヤオ、秋葉流、ゾッド、
Mr.2 ボン・クレー、柳生九兵衛、沙英、坂田銀時、蒼月潮、聞仲、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、高町亮子、
竹内理緒、胡喜媚、秋瀬或、天野雪輝、我妻由乃、リヴィオ・ザ・ダブルファング、ドクター・キリコ
秋山優(卑怯番長)、植木耕介、白雪宮拳(剛力番長)
57話でのデビュー以来、117話までで20作も書いたスピード書き手。
リレーが止まってる所を率先して書いてくれる、かゆい所に手が届く万能タイプの書き手で
ミッドバレイやゴルゴ、キリコなどハードボイルドな雰囲気を醸し出すのが得意かと思いきや、
お色気シーンや考察までこなす技量は底が知れない。
◆lDtTkFh3nc氏
登場させたキャラ
2回
白雪宮拳(剛力番長)
1回
ひょう、パック、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、結崎ひよの、我妻由乃、鳴海歩、安藤(兄)
志村妙、ガッツ、ブラック・ジャック、ロイ・マスタング、紅煉、サンジ、三千院ナギ、スズメバチ
柳生九兵衛、Mr.2ボンクレー、マシン番長、植木耕助、森あい、ゾルフ・J・キンブリー、趙公明、
ヴァッシュ・ザ・スタンピード、ニコ・ロビン、坂田銀時、冴英、沖田総悟、安藤潤也、金剛晄(金剛番長)
天野雪輝、我妻由乃、浅月香介、宮子、蒼月潮、蝉、ドクター・キリコ
心理的な駆け引きや描写が上手い書き手さん。
このロワでは珍しい穏健派か?
ジークブルマ!
>>276 うお、GJ
登場させたキャラは一回作ってしまえば更新は簡単なので問題無い
つまり……今すぐ載せてくるんだ
あ、◆lDtTkFh3nc氏のとこで冴英→沙英だけ訂正を
ほんとだ、wikiからコピペしたやつだからMen&Girl〜ピカレスク〜のとこも修正しないと駄目だな
Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜本文中も冴英になってた
マップにカラオケ会場追加したやつは誰だw
他にも施設必要かねぇ?
とうとう酔いどれコンビが動いたか
何か月ぶりだっけw
これは酔いどれコンビ終了のお知らせw
ナギもかなり放置されてるがあれはまだまだだろう
神社付近と学校の取引とデパート付近の方が難しいだろうけど
ナギは別に放置されてるわけじゃない
その辺りは卒論終わるまで待って―w
ネタはあるから誰も動かさないなら遠慮なく行くよ
おお、期待して待ってます
288 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/28(木) 22:53:20 ID:D2C+Ti0o
期待age
wiki編集してたらスパム対策エラーとかいうのに引っかかった
何だこれは
桂雪路、妲己、とら投下します。
まばらに商店が立ち並ぶ道を、場違いな鉄の戦車が進攻していた。
日は既に高く、遠くの空にはこれからの運命を予感させるように厚い雲が顔を出している。
そして戦車の行く手には、延々馬鹿騒ぎを続ける妖怪と人間の姿が空に大写しになっていた。
「ぅふん♪ 楽しみねぇん……♪」
むっとする血の臭いが充満する戦車の中。
赤く染まった操縦席に座る妲己は、恍惚とした表情でハンドルを操作していた。
彼女の顔色は青白く、額には玉の汗が浮いている。
それも当然だ。
何しろ彼女は『獣の槍』で――妖怪を殺すためだけに造られた兵器で、腹を貫かれたのだから。
如何な大妖と言えども死は免れないだろう。
はみ出した腸を腹腔に押し戻しながら、しかしそれでもなお妲己は不敵な笑みを絶やさない。
彼女が騒ぐ二人の元へと向かう理由。
それは『借体形成の術』を用いて、かの金毛の妖怪の肉体を奪うため。
借体形成の術は自らの魂魄を他者の肉体に移し替える術だ。
この術を使うために必要な条件は大まかに分けて四つある。
一つは、魂魄のみで行動する術を身に付けていること。
一つは、対象が近くにいること。
一つは、対象が適合する肉体を持っていること。
一つは、対象の意識が失われていること。
今の場合、前の三つの条件は問題無い。
どうやら魂魄のみでの行動は大幅に制限されているようだが、極短時間ならば可能であることは確認している。
二つ目の条件についても、このまま進めば妲己の命が尽きるよりも早く騒ぐ二人に接触出来ることは確実だ。
三つ目は本来最も難儀する条件なのだが、幸いなことに巨大な映像を通してがなりたてているあの妖怪は、妲己の本性に近しい性質を持っている。
器としては最高の素材だろう。
ここで障害となるのは最後の条件だ。
意識を失わせる――口で言うのは簡単だが、実行するのは難しい。
殺しても構わないというのならともかく、生け捕りにせねばならないのだから。
更に欲を言えばなるべく傷を付けずに捕獲したいところだ。
万全の状態ならば、策を巡らし絡め取って肉体を奪うところなのだが……残念ながら下腹部に大穴が開いた状態でそんな悠長なことをしている時間は無い。
ならばどうするか。
簡単だ。
戦車を停める。
今や馬鹿騒ぎの映像は山と見紛う程に大きく見えている。
その映像の下にある、昭和の香り漂う赤提灯に、主砲の照準を合わせ、
「ハデにいっくわよ〜ん♪」
そして躊躇い無く発射。
着弾。
次の瞬間、映像宝貝を通して、太陽が爆発したかのような閃光と大爆音が島を支配した。
***************
濛々と立ち込める黒煙と粉塵。
木材の焼ける臭いが鼻を突く。
数十秒前まで居酒屋だった場所は、今やただの瓦礫の山と化していた。
「こんちきしょ〜〜。せっかくヒトがキモチ良く歌ってたってのに、いきなり何しやがんだよ〜〜」
ゲホゴホと咳をしながら、粉塵の中からとらが現れた。
小脇には気を失っている雪路が抱えられている。
ちなみにその雪路はマイクと映像宝貝をしっかと抱え込んでいる。流石といったところか。
とらは抱えた雪路を見て、隈取を歪ませ少し不本意そうな調子で口を尖らせた。
「ったく。人間なんぞを助けてやるつもりは無かったんだがよ……」
ブツブツと文句を言いながら、雪路を無造作に歩道に転がす。
弾みで映像宝貝がゴトリと音を立てて彼女の腕から離れた。
爆発の影響で映像宝貝のスイッチが切れたらしく、青い空にはもう何の映像も映っていない。
とらは何が起こったのかと改めてキョロキョロ辺りを見回していたが、あるものを見留めて動きを止める。
「……あん?」
徐々に晴れていく煙の向こうに、やたらと威圧感のある鋼の城塞があった。
それが何なのかを認識した直後、城塞に備え付けられた長い砲身がギコンと動いてとらを捉える。
砲撃。
同時にとらはバネのように跳躍。
砲弾はとらのいた空間を貫いて背後の民家に着弾。一瞬遅れて爆音が轟いた。
「ひえ〜〜〜〜。ありゃ『せんしゃ』とかいうニンゲンの道具じゃねェか」
とらは空高く上昇しながら、崩れ行く家をちらりと見た。
まともに食らえば、とらと言えどもタダでは済みそうもない。
戦車の上空で腕組みしながら、フンと鼻から息を吐き出す。
「さて、どうすっかね…………ん?」
そこで気付く。
とらが上空に上がってから、戦車は何故か沈黙していた。
首を傾げる。
「んん? なんだよおい、もう撃って来ねェのかよ。もしかして『たまぎれ』ってヤツか?」
とらは知る由も無いことだが、戦車は空に向かって攻撃することを想定して設計されてはいない。
偶然ではあるが、戦車の上を取ったとらは絶対的な優位を確保しているのだ。
動こうとしない戦車に向かって、とらは獰猛な笑みを見せる。
「へッ。じゃあ次はわしの番だなァ。
ドコのマヌケか知らんが、このわしにケンカ売って、生きていられるだなんて思うんじゃねェぞ」
パキパキと。
乾いた音を立てて、とらの長い金色の体毛の間に、雷が走り始める。
「けえええええええええ!!」
咆哮と共に、帯電したとらの体毛から空気の絶縁を破って雷が放たれた。
無数に枝分かれした雷光が戦車を直撃して、巨大な風船が連続して破裂したかのような音が辺りに響き渡る。
そして静寂。
とらの雷を受けても、戦車は薄く煙を立てるだけで相変わらず動く素振りさえ見せない。
「あんだよ。もう死んじまったのか?」
とらはポリポリと頭を掻きながら、上空から戦車にゆっくりと近付いて行く。
それでもやはり戦車は動かず、とらは首を傾げつつ戦車の横に降り立った。
「お〜〜〜〜い」
ゴンゴンと、車体をノックするとら。
するとそれに応えるように、上部のハッチが勢い良く開いた。
ハッチから飛び出して来たのは弓型の宝貝を構えた妲己。
そして間髪入れずに光を固形化したような矢を放った。
それも一本ではない。十を軽く超える光の矢が、とらに一斉に襲い掛かる。
「ぬぅゥゥ!」
とっさに腕を体の前で交差して防御したものの、とらはほとんど全ての矢をまともに食らって、背から地に叩き付けられた。
その隙に妲己は戦車の上から飛び降りて距離を取り、次なる光の矢を番えた。
「おバカさんねぇん♪ 金属で囲まれた空間に電気は通らないのよぉん♪
ここ、テストに出るからメモっておきなさぃん♪」
とらは舌打ちをして、獣独特のしなやかな動きで仰向けの状態から一気に立ち上がった。
そして大きな白い眼で妲己を睨み付ける。
「あらん。全然へっちゃらみたいねぇん♪
ますます気に入っちゃったわぁん♪」
妲己の言葉の通り、とらの体にはいくつもの穴が穿たれてはいるが、どれも致命傷には程遠い。
「ふん、ぬかせ。こんなもんでわしを殺せると思ったかよ。
……んで、てめー、ナニモンだ? イヤなニオイをプンプン漂わせやがって」
「わらわは究極にして永遠不滅のジャンプヒロイン、妲己ちゃんよん♪」
腹の穴から夥しい出血を見せながら、それでも妲己の余裕は揺るがない。
いや――実際は彼女自身が直接戦闘せざるを得ない程に切羽詰まった状況なのだが、その態度には些かの焦燥も感じられないのだ。
とらもその異常性を感じ取ったのか、ワケワカんねーよと短く言い捨てて殺気を剥き出しにする。
完全に臨戦態勢に入ったとらを妲己は面白そうに見遣り、いやん、とふざけた声を発して矢を放った。
今度は先程の倍以上、五十に届かんばかりの光の矢がとらに降り注ぐ。
だが、
「しゃらくせええェェェ!」
放電。
光の矢はとらの放った雷の投網に飲み込まれ次々と相殺されていく。
視界一杯に広がる稲妻を眺めて、しかし妲己は満足げな様子で目を細めた。
雷で編まれた網の一部が蛇のようにのたくり、妲己のすぐ横のアスファルトを砕く。
「ぅふん……ゾクゾクするわぁん♪」
間髪入れず正面から突っ込んで来るとらを見据えて、妲己は愉しそうに口の端を吊り上げた。
***************
じりじりと照り付ける太陽の下。
寂れた商店街の一角が、散発的に破壊音と閃光に包まれる。
それらを生み出しているのは二体の妖怪、とらと妲己。
とらは雷と炎を放ちながら接近を試み、妲己は距離を取って光の矢を撃つ。
幾度となく繰り返される内に、オゾン臭と融けたアスファルト独特の臭いが混ざって、辺り一面に立ち込めて行く。
戦いは終始妲己が有利を取って進めていた。
何度も肉薄するとらを巧みにいなし続ける妲己。
一方のとらの体には、少しずつではあるが確実に矢傷が増えていく。
このまま戦い続ければ、いずれ妲己に勝利の女神が微笑むように思える。
だがそれは腹の傷というハンディキャップが無ければの話だ。
妲己とて不死身ではない。
いくら余裕綽々の振舞いを見せていても、限界というものは確かに存在するのだ。
そして――ついにそのときが来た。
矢を番えること実に十五度目。
地を踏み締めていた妲己の脚から力が抜け、肩ががくりと下がった。
光の矢が消滅し、弓を取り落とす。
同時に、ごぼりと大量の血液が口から零れ出た。
それを見たとらは勝機ばかりに全力で地を蹴る。
苦し紛れに、妲己は右腿に吊っていた細身の女性には不釣合いな大型の自動拳銃――デザートイーグルを抜いて発砲。
銃弾は見事にとらの腹に命中する。人間ならば致命傷は確実。
だがとらは怯まない。
「アホウが! そんな豆鉄砲が効くかよォ!」
まるで意に介さず、稲妻の如く迫り来る。
更にもう一発。これはとらのこめかみを掠める。
更に――、
「遅ェよ」
三発目を撃つことは出来なかった。
とらの振るった爪が、妲己の右手首から先を斬り飛ばしたのだ。
丸腰となった妲己に、容赦無く止めの一撃が放たれる。
唸りを上げるとらの右腕。
鋭い爪が妲己の心臓を貫き――、
「――ぁはん♪」
その瞬間、妲己はひび割れた凄惨な笑みを浮かべた。
妲己が全ての攻撃を遠距離から行っていた理由。
それは、自分の弱点は近接戦であるととらに思わせるため。
とらが自ら妲己に近付き、止めを刺しに来るように誘導するため。
すなわち、とらを自然な形で懐に招き入れるため。
全ては、この一瞬の隙を作り出すため――!
仙狐の双眸が妖しく輝く。
心臓に爪が食い込んだ瞬間、妲己は懐に隠し持っていた注射器を左手に握り込んだ。中身は即効性の筋弛緩毒。
狙うは自らの心臓を貫いた腕の、その付け根――肩に注射器を突き立てる――、
「バァカめ。テメーが何か企んでたことくれェ、こちとらお見通しよ」
その寸前。
とらの首が伸びて曲がり、妲己の腕を半ばからぶちりと食い千切った。
注射器が落ちて砕ける無情な音が妲己の耳に届き、彼女は自らの敗北を悟る。
「残念――だわん……」
その言葉が終わるか終わらないかといった刹那――金色の雷光が、稀代の悪女の肉体を内から焼き滅ぼした。
【妲己@封神演義 死亡】
***************
二体の大妖の戦いが決着した直後。
少し離れた路上で、一つの影がもぞもぞと動き出していた。
「ぅ……った〜〜……何よ、もぉ……」
頭を押さえながらきょろきょろと辺りを見回す雪路。
視界に入るものは瓦礫と化した居酒屋、そこら中に穴の開いた道路、何故か道の真ん中に置いてある戦車、そしてのっそりとこちらへ向かって来る着ぐるみ。
どこを取っても実に現実離れした光景だ。
「…………飲み過ぎたわね……もっかい寝よ」
雪路の思考回路は今の状況を全て夢だと結論付けたらしい。
天頂に鎮座する太陽に喧嘩を売るように、アスファルトの上に寝転がる。
そしてそのまま幸せな夢の世界へと……。
ふ、と。雪路の顔に影が射した。
瞼に降り注ぐ光量の変化を敏感に感じ取り、彼女はゆるゆると目を開ける。
「やいやい。おめーはホンットにノンキだなっ」
視界に入るものは獣のシルエット。
何かクドクドと文句が聞こえてくるが、今の彼女には暖簾に腕押し、糠に釘。
とらの言葉は何一つ引っ掛かることなく、心太のように入った分だけ右から左へと抜けて行く。
「だから何よもぉ……。今日は休みなの。私は寝るの。貝になるの。ほっといてよ……」
説教を完全に無視して、またしても目を閉じる雪路。
「いーから起きんかい!」
堪りかねたとらが手に持った弓でゴインと彼女の頭を殴った。
「あだ――!? 何すんのよ、このバカ!」
流石に目が覚めたのか、涙目で抗議する雪路。
何をどう考えてもバカは彼女の方なのだが、酔っ払いに理屈は通じない。
「何すんだじゃねーだろが、おめーは。ンなとこで寝てっとおっ死ぬぞ?」
「……もー、うるさいわねー。……じゃー次の飲み屋まで連れてってちょ〜だい。そこで寝るから」
一度寝ると決めた酔っ払いのテンションは極小点まで落ち切っているのだ。
怒鳴られても殴られてもそうは簡単に動く気にはならない。
どこまでもやる気無く、それでもよいしょと気合を入れて、一応立ち上がる。
と思いきや、雪路はとらの腕を掴んでその体にもたれかかった。
その様子を見て、流石のとらも処置無しといった様子でがっくりと肩を落として一言。
「あ〜、もう。どうすりゃいーんだよ、このニンゲンはよ……」
***************
あの妲己とかいう妖からは白面の臭いがしやがったな。
こんな殺し合いなんぞどうでもいいけどよ。白面が絡んでるっつうんなら話は別だ。
徹底的にブチ壊してやろうじゃねェか。
……そういや傷の治りがやけに遅ェんだよな。
結界の類か?
けっ、つくづく気に入らねェ。
あァ、何か段々ハラ立ってきたぜ。
……うしおのヤローはどうしてんのかね。
いや別に心配って訳じゃねェんだけどよ。あいつはわしがいねェと全然ダメだからな。
まァ、どうせメソメソ泣いてやがるんだろーし、そろそろ捜してやろーかね。
【J-8/路上/1日目 昼】
【桂雪路@ハヤテのごとく!】
[状態]:酩酊
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大量の酒
[思考]
基本:寝る。寝たい。寝かせろ。
1:眠い……。
2:あんにゃろ(卑怯番長)、次出くわしたらブッチめてやる。
3:???
[備考]
※殺し合いを本気にしてません。酒に酔ったせいだと思っています。
※映像宝貝をカラオケの装置のようなものだと思っています。
【とら@うしおととら】
[状態]:ダメージ(中、回復中)
[服装]:
[装備]:万里起雲煙@封神演義
[道具]:支給品一式×7、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×1)@トライガン・マキシマム、逃亡日記@未来日記、
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数5/12)@現実
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×3(一つは卑怯番長に使えないと判断されたもの)、詳細不明衣服×?
[思考]
基本:白面をぶっちめる。
1:うしおを捜す。
2:雪路は……どうすっかね。
[備考]
※再生能力が弱まっています。
※ブリッグズ製戦車(主砲15/30・機関銃残弾数60%)と趙公明の映像宝貝がJ-8の路上に放置されています。
【万里起雲煙@封神演義】
弓の形をした宝貝。複数の光の矢を同時に放つことが出来る。
***************
ところで、あの狡猾な妲己が、とらとの戦闘において雪路を利用しようとしなかったのは何故だったのだろうか。
それは――――、
(残念――だわん……。保険を使うことになっちゃうなんて……。しばらくはこの子の中で我慢するしかなさそうねぇん♪)
以上で投下終了です。
借体形成の術の詳細は勝手に設定しました。
投下乙でした
酔いどれコンビがやっと動いたかー
妲己はやっぱりそう簡単には死なないか
借体形成の術は問題無いかと思います
投下乙
とりあえず雪路本人の意識はまだある状況かな
直接戦闘力は落ちたけど、策略が以前にもまして怖いわw
おお、投下乙です!
こう来たか……、とらが本格的に参戦しそうでなにより。
しかし不安要素も大きいなあ、これナイブズ達とかち合ったらどうなんだ、ダッキちゃん的な意味でもハム-雪路ラインでもw
そして地味に重要な情報が出ているなあ、魂魄で活動可能って事は、もしかして博物館のミニチュア封神台って……。
投下乙です
肉体を殺しても依然妲己の脅威は消えぬか
投下乙です
とらに軍配が上がったと思ったらやっぱりねw
雪路はまだ意識はあるけど……
現状でこっちに向かってるのはナイブズ達と鈴子か。思ったより少ないのに先が怖いな
投下乙
案外妲己があっさり死んだから、あれ?って思ったけど
最後の最後にやってくれるわw
これからの展開にwktk
皆様、感想有難うございます。
「厨BOSS BATTLE−BERSERK−」において植木の名前が微妙に間違っていましたのでwiki上で修正しました。
それにしても放送後も順調な死亡ペースだな
行方不明や妲己も入れたらかなり死んだな
行方不明者が帰還するかどうかは別として
ダッキもキビも報いが来てるな
キビの方はあのまま殺られるとも思えんが、ひょうさんに勝てる頭脳がある訳でもないだろうし
能力的な相性は最悪だから、ひょうさんの心変りがどう働くかか・・・・
しかし、誰かに見られたらどう見てもょぅι゛ょを襲ってる変質者だぜw
案外あっさりやられそうな気もするな。
五人殺して誤解フラグ撒いてもうかなり仕事したし、何より脱出の手立てが無い。
地味にパックの説得次第かもしれん。
妲己はあっさりしてるがあの人は宝貝が無いとなぁ
でもものすごく怖いお方だから
キビはわからん
殺されかけてなお現状を認識しない雪路がすげえ大物に見えてきた
もう第二回放送だぞw
そうかな
俺はいい加減ウザくなってきたけど
そう言われるともっとウザくしたくなってくるなw
ウザいけどどう転ぶか気にしてる
途中で目覚めるか最後まであのままかw
死ぬか脱出できるか不明だが
ギリョウさんはあの状態のダッキを識別できるのかな?
出来るとは思う。
しかしギリョウさんと言いスープーと言い、あの姉妹は意思持ち支給品に縁があるなあ。
スープーはまともに動けないし悲惨な事になってるけどw
なんかここまでやられると、逆にこいつをうざいと思うだけ無駄な気がしてきて困るw
お酒って怖いね
予約来ないけどこの時期は仕方ないか
322 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/10(水) 18:14:25 ID:oxPkExzJ
ここは保守とか必要だっけ?
スレ立て即死しなきゃ落ちないよ
ところで……現在位置の趙公明が趙孔明になってるんだが、アレ直せないのかな?
あと「施設を追加します」が「施設追加を追加します」になってる
現在位置うんぬんは前wikiに悪意ある編集があってから管理人氏だけが編集出来るんじゃなかったかな
あれだけはいじった事ないからわからん
まぁここで言っておけば反応してくれるだろ
反応あったな
予約着たな
ヴァッシュそっち行っちゃったか
面子すげぇwww
おっとヴァッシュとレガードを持って行ったか
まぁ山んなかにはマーダー結構いるからな
これは死人が出ないかもw
おお、あの連中の予約も来たぞ
すげえ組み合わせだなw
予約三つめだと……
これは工場か
ひよのは地獄の神社へ向かわずに済みそうだなw
しばらく過疎になると思ったが予約連続で来たなw
エドはウィンリィのことを知るのだろうか?
あれ、ひよのでも状況を説明できるのか?w
乾きかけた血糊が付着して、高く響いていた靴音が汚く濁る。
歩調をゆるめ、聞仲はうしおのそばに立った。
少年らしい小さな肩を震わせてうしおは力任せに地面に拳を打ち付けた。
「なんで……なんでだよ……。なんでみんな死んじまうんだよ!!」
病院の一室。
内蔵や肉片が無惨に飛び散り、なのに顔だけは妙にきれいなままの男女の死体が転がっている。
切断面は醜くつぶれて四肢がてんでに散らされていた。
「宝具による死ではない……剣、か」
仙人の気配はしない。きわめて長い剣のようなモノが凶器だと思われた。
それだけの業物を軽く扱っているところから察するに、天然道士 黄飛虎のような卓抜した体格・膂力を持つ人物が下手人であろう。
そのわりには手口に技も心も感じられない。力任せにたたき付けられている。
剣術を学んだ人物ではないのか?
聞仲は用心深く一枚の羽を拾いあげた。間違いない、雉鶏精 胡喜媚の羽だ。
純真無垢なれどゆえに凶悪な女仙。かの女はこの殺戮にどこまで関わっているのか?
胡喜媚が関与したにしてはやり口が簡潔すぎる。
胡喜媚ならもっと残虐に、もっと楽しんでなぶり殺すだろう。子どものような純粋さと残酷さでもって。
「ちっくしょおー!」
なおも大地を叩くうしおの手を聞仲はとめた。
他人のものではない血が滑らかな床に染みをつける。
うしおは唇をかみしめて必死で感情を押さえているようだった。見世物に殺された少女の末路を思い出しているのかもしれない。
「聞仲さん、おれ……」
涙声になりそうで、うしおは一度鼻をすすった。
「もう誰も殺させねぇよ。もう誰も死なせない。こんな殺しあいなんて絶対に間違ってるんだ!」
うしおは聞仲の手を振り切って最後にもう一度拳をたたき付けた。
悲しみに揺れながらも強い決意をたたえた瞳に、聞仲は青葉のような眩しさとたとえようもない懐かしさを感じていた。300年の昔を思い出していた。
うしおは、旧い友の子を思い起こさせる。聞仲が初めて育てた王を想起させる。
彼はいい王だった。異民族の襲撃で父母を失い、都を失い、国土を失い、家臣の多くを失った少年王は、それでも熱い想いと屈せぬ心をもって滅びの淵にあった殷をよみがえらせた。
またたきの間に過ぎ去ってしまうような短いその生の中で、うしおもまた同じ荷を抱え、同じ想いを担いで強く生き抜こうとしている。
死の重みと失う痛み。そして他者を引き付けてやまないほとばしるきらめき。
「王の器量だな」
聞仲はぽつりと呟いた。
かつての紂王、狐にたぶらかされる前の才に溢れ公明な見識を持ち稀代の賢君と望まれた殷国最後の王にも同じ輝きを見たものだった。
かつて友と呼び、肩を並べた男の中に見たものだった。
そのころ殷は安泰だった。そして、永劫に続くと信じていた。
「うしおよ、私が殷でどのような地位にあったか言ったな」
もしうしおが成績優秀な優等生ならば、殷の滅亡と周の隆盛、その後の数多くの勃興が話せたかもしれない。
その末に中国という国があり、3000年の時を越えて今も栄えていることを伝えられたかもしれない。
そしてひょうがその大陸の出であり、もしエドがいたならばリン・ヤオがその王の血統と知らせることができたかもしれない。
しかしながらうしおにとってその国の名は心にとまるものでなく。
「えっと……太師?」
「そう、私は太師だ。太師とは軍師。軍師とは将の意を汲みつき従う者だ。
我が魂魄は時が尽きてもなお殷と陛下のためにあるが、この場を過ごす刹那の間お前を長と認めよう」
うしおは言葉を継げずに聞仲を見つめた。
言っている意味がわからなかったのではない。それはわかっている。
乾きひび割れた肌には潤う水がしみるように、痛みをともなうほどよくわかった。
「おれに……仲間かぁ。へへっまた仲間ができんたんだぁ」
ぐずぐずとついに鼻をならせてうしおは笑った。
元の世界では誰もがうしおのことを忘れてしまって、獣の槍にもとらにも見捨てられ、うしおの絆はまるきりほころび去ったと思い込んでいた。
でも、蝉がいたではないか。うしおに自分を信じろと呼びかけてくれた。
そして、聞仲が仲間と呼んでくれる。
昔の仲間はうしおのことを覚えていないかもしれないけれど、でも新しく出会った人たちが、うしおに手をさしのべてくれる人たちがいる。
「おれさ、聞仲さん。ばかだからさ、今まで一人でやってうまくいったためしなんかないんだ。
強ぇ武器をもらって、自分が立派になった気がして、一人で進んだときもだめだった。
だけど――だけど、誰かと一緒ならできる。一人でできなくても、みんなと一緒ならなんだってできるんだ。
だから、みんなに忘れられたとき、見捨てられたとき、もうだめだと思った。
でも、ありがとう、わかったよおれ。また知り合えばいいんだ。切れた糸ならまたつなげばいい」
泣いているんだか笑っているんだかもわからない。
うしおは両手のひらを顔にこすりつけて、聞仲を正面から見た。
「なあ、聞仲さん。おれ、絶対にこの島を脱出するよ。殺しあいなんてさせるもんか。
みんなでこの島を出て、みんなで元の世界に帰るんだ」
――元の世界、か。
元の世界に聞仲のしたいことなんてなにもない。
太公望がいなくなり、周や崑崙の連中はどうするのかと思うがさして興味もない。
唯一あるとすれば、紂王の、長く栄えた殷という国の死にゆくさまを看取りたい。
あとはただ、強い力と虚無の心をもてあます長い長い年月が始まるだろう。
修行に専念し霞を食らうその姿は、皮肉にも誰よりも仙人らしいといえるかもしれない。
「聞仲さんにも帰るところあるだろ!?」
「……そうだな」
それは肯定ではなく相づちだったが、うしおがはじめて屈託のない笑顔を見せた。
人の中に生を置くことを選んだ仙人には、うしおの言葉がいかに甘いかがよくわかる。
けれど。なにもかもが悪い夢の続きのようなこの島ならば、まどろみに見る優しい夢のような願いが叶ってもいい。
花狐貂の上でうしおが一生懸命なにかを書いている。
聞仲が一枚を取り上げるとうしおは照れ笑いを浮かべた。
「ばかみたいかもしれないけどさ、なにもしないよりましだろ?」
『殺し合いなんか絶対にだめだ。みんなで一緒に家に帰ろうぜ! 蒼月潮』
横には花狐貂と思われるいびつな丸の物体と、消去法的にうしおであろう似顔絵(第三の目がないので、とりあえず聞仲ではない)が描かれている。
天は二物を与えずというが、絵については確かにそのようだ。
まあ、人にはそれぞれの道というものがある。
うしおにならって聞仲も筆をとった。さらさらと書きつけていく。
うしおはのぞき込んだ。同じ道具を使っているのに、威厳のある立派な字だ。
自分のものと見比べて、うしおは尻の下に紙を隠した。
『花精よ、競技場にて待つ。道弟』
今、うしおたちはデパートの方に向かっている。金光聖母を趙公明という人が知っているかもしれない、と聞仲は言う。
彼らと聞仲は同門で学んだ仲であり、趙公明はずっと仙人の島から出なかったから名簿の中ではもっとも金光聖母と近しいのだそうだ。
このデパートという商店で服飾品のたぐいを数多く扱っているのであれば、一度は訪れる可能性が高い、これが聞仲の予想だった。
派手好きでそういうものに目がないらしい。うしおの中で趙公明のイメージが勝手にふくらんでいった。
「その趙公明という人は植物の変化(へんげ)なのかい?」
「ただ万物が光気を受けて成った無象共と思うな。あれは強大な力を持つ仙道だ。
出自が何であろうとも侮るべき相手ではない」
黙々と手を動かしながら聞仲が答えた。
うしおはうーんと伸びをした。ずっと前屈みになっていたせいで背中が固い。
あんなことがあったなんて信じられないくらい、太陽が鮮やかに輝いている。
「それは頼もしいなァ」
聞仲がはたと手を止めた。まじまじとうしおを見つめる。
うしおが居心地の悪さを感じるころ、彼はおもむろに口を開いた。
「大臣になれ、うしお」
うしおは面食らった。が、聞仲は至極まじめな顔をしている。
そもそも彼がふざけているところを今のところ見たことはない。
「えっおれ政治とかむずかしいことわかんねぇよ」
ごにょごにょと言い訳じみた答えをかえしてしまう。
「ただ、みんなと仲良く暮らしていけたらなって……」
できればあの幼なじみとともに――うしおはぐっと胸が詰まるのを感じた。
手が震えて呼吸が苦しくなる。だめだ、ここで泣き崩れてはだめだ。
麻子ならこんなときも、それがどんなにやせがまんでみっともなくても、上を向いてうしおに言うはずだ。
自分のやるべきことを信じろ、ただ行動しろ、と。そして声をかけるんだ。『がんばれ』。
「それこそがまつりごとの本質だ。それに、」
聞仲はうなずいて言った。そして厳しいまなざしをうしおに向ける。
「人より優れた資質を有しながら、それを生かさぬのは凡百への背信だぞ」
うしおはもう一度当惑した。自分に人より秀でた何かがあるなんて考えたことがない。
うしおより賢い人たちはいっぱいいた。うしおより強い人たちもいっぱいいた。
うしおより優しい人も勇気のある人もいっぱいいっぱいいた。
ただ、聞仲が指摘するようにうしおに何か一つだけあるのだとすれば、それはほんのちょっと人よりも――笑顔を見るのが好きだ。
「みんなを幸せに、か。それもいいかもなぁ」
「父母を敬い徳操を養え。精進を怠るなよ。人の上に立つものは人より多くの努力をする義務がある」
まずは学業を修めることだと諭されて、うしおは自分の惨憺たる成績を思い出しうなだれた。
やっぱりちょっと、大臣は無理目かもしれない。
うしおたちが記した紙が花吹雪のように風に揺れ地表に舞い落ちる。
この中の何枚が誰かの手に収まるだろう。そのさらに何枚が誰かの心に止まるだろう。
でも、うしおは信じている。
この島にいるみんなが殺しあいをしたがっているわけじゃない。同じ想いの人が必ずいる。
生き延びたくて震えている人もどこかにいるかもしれない。
生きたくて生きたくてやむにやまれず誰かを手にかけてしまった人もいるかもしれない。
それこそが白面の者の思う壺だ。白面は、絶望の涙こそが好物なのだ。
みんなが心をよりあわせれば、その希望が白面をうちやぶる強い武器となる。
花狐貂に降り注ぐ陽の光に夜の闇が抗しえないように、照らし出す希望に絶望は決してあらがいえないのだから。
きっと、秋葉流も白面の強い絶望の力ににあてられて、わだかまるその闇に捕われているだけだ。
みんなが集まって明るいともしびがともれば、流もきっと本当の自分を思い出す。
――その強い心こそ、流を破滅へと駆り立てるとも知らずに。
紙飛行機を見送って目を上げた先に、出し抜けに巨大な女の人が森の向こうに現れた。
「趙公明の映像宝具?」
聞仲が呟く。
なにやらマイクを握り、うしおの聞いたこともない歌を振り付き踊り付きで歌いまくっている。
押し出されるように女の影が切れると映し出されたのは、
「と、とらぁ」
うしおは視界がにじむのを感じた。とら。とらだ。
ぶつぶつ言いながらいつも助けてくれる、憎たらしいけど心強いうしおの大親友。
「ははっ、なにやってんだよとらぁ」
「ほう、あれが」
聞仲ととらは気があってくれるだろうか。
とらは強いやつが大好きだから、いきなりけんかをふっかけなければいいけれど。
そのときはなんとか言うことを聞かせるしかない。
なんだかんだでとらはいいやつだ、うしおに従ってくれるだろう。たとえ獣の槍がなくても。
ふいに花狐貂が巨体を揺すって進路をかえた。
すっかり気をとられていたせいでずり落ちかけ、うしおは慌てて花狐貂にへばりつく。
「ど、どうしたんだよ聞仲さん!」
「感じないのか?」
「……なんだ、妖気!?」
天に突き刺さるような強い力――ナイブズのエンジェルアーム――が立ちのぼり、残滓がふっと消えた。
あとには何の気配も残らない。
「人間ではないな。だが妖怪仙人でもない。ここには我々のあずかり知らぬ由来のものがいるようだ」
目をこらしても森のほかに見えるものはなく、すでに何も感じられないがあの妖気の持ち主は確実に近くにいる。
うしおは一刻も早くとらと合流したい。しかし、迂回するという言葉に頑是無くうなずいた。
一転、元カラオケ会場の半壊居酒屋。
火を吹き雷を操る金色の妖(バケモノ)は、その一角で寝こける若い女に必死に呼び掛けていた。
「おい、女、わしはおまえを食うぞ」
「うーん?」
「おおい、わしはおまえを食うんだぞ」
「ううーん……」
とらもバケモノだもの、わーとかきゃーとかひーとか言われたい。言われてがぶりと喰らいたい。
つつこうがおどそうがむにゃむにゃいうばかりの女に大妖怪様がかぶりつくたぁなんともしまらない。
「お姉ちゃんもうおなかいっぱいだぞ……」
「わしは腹が減っとるんだっ!」
とらは怒りを爆発させた。
500年も倉に閉じ込められていたのだ。
人間の甘い血肉を500年もすすっていないのだ。
あのにおい、あの温度、あの味を思い出すだけで口内につばが溢れぐぐっと腹がなる。
――ちっつまらん。が、もーいい。
いただきまーす。牙のならんだその口をとらがばくりと開けたとき、いきなり雪路が目を剥いた。
両手をあげをがばっと上体を起こす。
「ぉおっ、なんだやるのか♪」
とらは浮かれて言った。やっぱこうでなくちゃあ。エサといえどもそれなりに反応してほしい。
うきうきと臨戦態勢のとらに向かって雪路はそのまま両手をあげ――
「うえええええ……」
吐いた。
「うわっばっちいじゃねーかよっ」
とらが慌てて飛びずさる。
吐くだけ吐いてすっきりしたのかふたたびばったりと倒れると、一度大きなイビキをかいてすやすやと寝始めた。寝息すらたてない。
「ちえっ気がそがれちまったい」
ゲロまみれでばばっちくなった女にすっかり食欲を削がれてとらはこぼした。
無理して喰うことはない、この女はやめよう。なぁに嘆くことはない。
ここには他にも人間のにおいがある。それも若い女のにおいが。
くちくちとその肉を飲み下すところを想像して、とらは唇をなめた。
それにさっきの女の妖(バケモノ)。あっさり殺してしまったが、万全の状態ならなかなか楽しませてくれただろう。
あいつがおそってくる直前にもたてがみが逆だつような強い妖気を感じた。
今はもうどこにもたどれないが、この箱庭のどこかに隠れ潜んでいる。
――500年もお篭りしているうちに、おかしなバケモノどもがずいぶんと増えたもんだ。
「けっあの忌々しい槍の気配がありやがる。てことはうしおは大丈夫だな……」
うしおはとらが喰うと決めている。他のバケモノに喰われてしまってはたまらない。
だが、獣の槍があるならそうそうやられはしない。
あの気に入りの小娘のイノチをとられてめそめそ弱ってないかと思ったが杞憂のようだ。
あの槍はなにせ強い。とらでも敵わぬ代物なのだ――まだ、今は。
「くくっおもしれぇ!
一番の妖が誰か、思い知らせてやらぁ!」
人間どもをたんまり喰って腹ごしらえをし、のさばっている新参者どもを蹴散らそう。
そしたら次は、うしおの番だ。頭からかぶって骨髄までしゃぶってやる。
とらの脚力は一瞬で山を二つ三つ超える。
どこともしれぬ宙に、いっぴきの獣は駆けだした。
花狐貂を降り立ちうしおは女の死体をむなしく見下ろした。
腹に穴があき、鋭い牙に切り裂かれている。事切れているのは明らかだった。
「またおれは間に合わなかったのか……!!」
「妲己は悪辣な女だ。これも業だろう」
聞仲がそっけなく言い放つ。この爪の跡はとらに違いない。
とらが安易になんの罪もない人を殺すとは思えない。
――でもよう、どうにか手を取り合ってなかよくできないものかな……
うしおは胸をなでおろすようななんだか複雑な心持ちだった。
そのとうのとらはどこにもいなかった。
妲己と戦って、満足して去ってしまったのだろうか。気ままなとらならそれもありそうだ。
「うわっちょっとあんた大丈夫か!?」
ひどく破壊された居酒屋の前でうしおは駆けだした。
若い女が力なく横たわっている。あの歌い狂っていた人だ。
血こそ流していないものの、気を失っているのかぴくりとも動かない。
瓦礫と吐いたものでみどろになって、なんというか、悲惨な有様だ。
「これは……」
出会ってからずっと平静だった聞仲に意味深に言葉を切られ、うしおは不安になって黒衣をつかんだ。
「なあ、聞仲さん、この人大丈夫だよな? 大丈夫なんだろ?」
安心させるように口許を和らげ、聞仲が穏やかに言った。
「酒の飲み過ぎで昏倒しているだけだ。少し外の風にあてたほうがいい」
聞仲は雪路の脇に腕を差し込み、軽く抱き上げる。
そして大股で立ち去ろうとして、思い出したように振り返った。
「趙公明の宝具を探していてくれるか」
うしおがうなずくのを見て居酒屋から出ると素早い動作で瓦礫の山を越える。
十分離れたところで陰となる場所を選び、平らな地面に雪路をそっと横たえた。
そして、二歩、下がった。慣れた仕草でニセ禁鞭を抜きはなつ。
穏やかだった空気がずっ、と震える。
「姿を現せ。いかに人の身に隠れようと、キサマの臭気を絶つことはできん」
閉ざされていた雪路の瞳がぱっと見開いた。
健康的な顔立ちに似合わずしなをつくるような目つきで聞仲をなめる。
「あはん、お久しぶりねぇん」
声の質は異なれど、鼻にかかった甘ったるいしゃべり方は妲己そのものだ。
「お元気そうでなによりだわん」
妲己は雪路の唇に笑みを乗せ、聞仲の威圧を迎え撃つ。
金鰲三強のうち二つの、果たして60年ぶりの対峙だった。
「狐」
無関心にすら感じさせる冷ややかさ聞仲は呼び掛けた。
「死にかけているのか」
その声に同情の響きも勝利の酔いもない。あくまで事実確認の域を出ないものだった。
妲己は桂雪路の背中を冷たい汗が流れるのを感じた。
合わない体で指先一つ動かすこともできないくせに、こんなところは妲己の動揺を反映する。いらだたしかった。
後顧の憂いを断つためなどというばかげた理由で女ごと妲己を粉砕してためらわない。
むしろ大悪を絶つのにたった一人の犠牲ですんだことを喜ぶだろう。
聞仲はそういう男だ。妲己はよく知っている。
60年前と同じ焦燥を同じ男の同じ宝具から与えられるとは。
不覚にも視線が再び禁鞭に流れて、ついあの妖怪の飛び去った方角を追う。
――あの体さえ手に入ればこんな……!
「あれを喰わせるわけにはいかんな」
そちらに顔を向けて聞仲が言った。そして鞭をいなし――腰におさめた。
「あらん、聞仲ちゃんどうしたのん」
「おまえは何を知っている?」
妲己は笑った。ふふふと笑った。
首輪について知り得た事実をぺらぺらしゃべる。
蘇妲己の体を失ったわけを都合のいいように話し、ついでにヨヨと泣き崩れてみせた。
妲己と聞仲は全く異なるようでいて、一面よく似ている。そう、目的のためならばなんでも使うという点だ。
だから、なにもかもを話したりなんかしない。むろん、そのことはよく匂わせて。
「その器ではいかんのか」
聞仲が動かぬ雪路の体を示した。
「わらわのコンパクは徳が高すぎて、こんな卑小な体では受けとめきれないのん」
ふざけてはいるが、それは真実だった。
妲己は借体形成の術を心得ている。
その術では合いさえすればただの人間の体でも己のものとすることができる。
また、そのおかげでこうして他人の体に寄生することもできているのだ。
たとえ合わない体でも、妲己の功夫(クンフー)に耐えるだけの強度を持ち、しかも主が肉体を譲る意思を示せば、ある程度は自在に動かすことが可能だ。
人間以上の力を持たず献身も期待できないこの体では、妲己にできるのは持ち主の意識の裏側から語りかけることと、こうして鬼のいぬ間に口を借りることだけだ。
「あなたの身体で我慢してあげてもいいのよん」
今のままでは、妲己の魂魄は夜明け前には消滅する。
とらのものとは言わないまでも、妲己に利用されてくれる強い体がいる。
「器は用意してやろう」
聞仲が傲然と言い放った。
「ふふ、ますます楽しいわねん」
この男はやはりそうだ。必要なものと不要なもの、同じ価値ならとるべきものは何かをわきまえている。
使えることを示さなければ、妲己はこの身の中でくち果てて行く。
しかし有用なところを見せれば、聞仲は本当に新しい体を連れてくるだろう。
妲己はくすくすと笑った。
これで必要な手札はそろう。
凶悪と知れ渡った妲己は無事に滅び、妲己は新しい顔と新しい名前を手に入れるだろう。
そして旗印としてふさわしい強い瞳を持つ少年。
彼のもとには主催を倒すべく下僕どもが集う。
『神』どもから力を奪うという妲己の目的に、彼らは貢献してくれるに違いない。
――聞仲ちゃん、男の趣味はいいものねん。
あの聞仲がいれこんでいるのだ、あの少年もそれはそれは美味だろう。
だって、あの親愛なる王様、獅子の心を持つ王者と称えられた紂王をおとしていくのはたまらなかった。
黄飛虎はどうだった。聞仲の盟友、王の器をもつ武成王、妲己の誘惑の術を耐え抜いた強い男。
忠義を向けた王によって妻と妹を失ったその苦悩はどうだった。
自称神共をたおしたら、うしおをちょっぴり味見をしてみるのもいい。
はしっこをばりばりとかじってみるのもいい。
そのときあの男はどんな顔をするだろうか。
長い生の末に親友と呼んだ男を妲己の計略で失い、我が子と慈しみ育てた国を妲己に滅ぼされ、愛しい血統の末を妲己に奪われ、最後に見た希望を妲己に潰されどうするだろうか。
第三の目を開いて怒るだろうか。天を仰いで嘆くだろうか。それとも――絶望するだろうか。
妲己が知略の限りを尽しておいつめたのだ。
最強にちかい道士の、唯一もっとも弱い人間の心の柔らかい部分を、たおやかに白い指先のその鋭い爪でいたぶりぬいた。
亡国のタイシ様の精神はもうボロボロのはずだった。
でもまだ足りない。まだこの男は立っている。古い理想の代替品にすがって、まだこうして立っている。
それならもっと壊して、壊して壊して壊し尽してやろう。
王天君にしたよりもっと執拗に、もっと熱烈に、愛を込めて。
膝を折り、こうべを垂れ、その持てる誇りと気高い魂がすりきれて、絶望の淵に屈服するまで。
――そして、妲己は最強の駒を手に入れる。
――ますます楽しいわねん
その言葉を最後に端正な口元から淫売じみた笑みが消えた。
女の体が一度ぐたりとすると、小さなうめき声をあげ無防備に身じろぎをする。
「婦人よ、目覚めたか」
妲己に向けたものと比べると優しいともいえる声音で聞仲は呼びかけた。
雪路が寝ぼけたままぼんやりと眼を開いて、聞仲の顔を見た。
「らー? イケてる兄さんにゃー……、しかも、」
彼女の頭脳は急に明瞭な回路を取り戻す。
――しかも、エリートのにおいがする。それすなわち、金を持ってるってこと也。
飛び跳ねるように起き上がると雪路はあっけなく食いついた。
「お兄さんお兄さん、お兄さんお名前なんてーの?」
聞仲が一歩退いた。雪路も逃さじと暗色の外套の裾をつかむ。
迷惑そうにしながら邪険に扱うこともなく、聞仲は静かに応じた。
「……聞仲だ」
「ふーん、聞仲さんね。中国人? 日本語上手ねぇ。
あたし、あたしはね、世にもまれなる美しき禁断の女教師、その名も桂雪路よっ!」
ばーんと言い終わるか終わらないかのうちに、聞仲が強い力で雪路の腕を振り払った。
「教師だと……?」
見据える視線は鋭い。そこにあるのは、憎しみも近い苛烈なさげすみの色。
「子らを教え導く立場でありながらその体たらくはなんだ。己を律するすべを身につけろ!」
厳しく言い捨て外套を翻す。
聞仲は今まで一度たりとも女だからという理由で手を抜いたことも甘く接したこともない。
この女は護るべき民の一人だ。それに妲己の仮の巣でもある。
見捨てるつもりは毛頭ない、しかし、いたわる義理もない。
「なにおうっ! あんたに教師のなにがわかるっていうのようっ。
お給料も安いし、お仕事はいっぱいあるし、大変なんだからねっ!
ちょぉっと顔がいいからって偉そうにすんなバカッ!」
自分の時間を使って落ちこぼれ生徒の補講をしたり、実はいいところも結構ある――訂正、いいところがないでもない雪路だがわかってもらえるはずもなく。
この威張った男をいつかぎゃふんといわせてやる。雪路は拳を突き上げて固く誓った。
ここにいる誰もがまだ知らない。
森で発された力と同じ出自を持ち、それと同じ十分な力を持ち、ただし自我が薄く他者との融合を厭わない種がいることを。
砂漠の星の民が『プラント』と呼ぶそれは、この島のどこかでほのかな緑の光を放っていた。
【J-8/路上/1日目 昼】
【蒼月潮@うしおととら】
[状態]:健康
[服装]:上半身裸
[装備]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[道具]:支給品一式×2(メモは全て消費済み) 不明支給品×1、趙公明の映像宝具
[思考]
基本: 殺し合いをぶち壊して主催を倒し、みんなで元の世界に帰る。
1:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
2:仲間を集める。
3:とらやひょうと合流したい。
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
6:キリコと会うために神社に戻る。
7:金光聖母を探す。
[備考]
※参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後〜32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。
※聞仲と情報交換しました。
【聞仲@封神演義】
[状態]:右肋骨2本骨折(回復中)
[服装]:仙界大戦時の服
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式(メモは大量消費)、不明支給品×1、首輪×4(ロイ、ブラックジャック、妙、妲己)
[思考]
基本:うしおの理想を実現する。ただし、手段は聞仲自身の判断による。
1:妲己の器となる体を探す。
2:金光聖母を探して可能ならば説得する。
3:3のために趙公明を探す。見つからなかったら競技場へ行く。
4:うしおの仲間を集める。
5:流を自分が倒す。
6:エドの術に興味。
7:流に強い共感。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。
※うしおと情報交換しました。
※会場の何処かに金光聖母が潜んでいると考えています。
※妲己から下記の情報を得ました。
・爆薬(プラスチック爆薬)についての情報
・首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があること
【とら@うしおととら】
[状態]:ダメージ(中、回復中)
[服装]:
[装備]:万里起雲煙@封神演義
[道具]:支給品一式×7、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×1)@トライガン・マキシマム、逃亡日記@未来日記、
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数5/12)@現実
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×3(一つは卑怯番長に使えないと判断されたもの)、詳細不明衣服×?
[思考]
基本:白面をぶっちめる。
1:人間、特に若い娘を食って腹を満たす。
2:強いやつと戦う。
3:うしおを捜して食う。
[備考]
※再生能力が弱まっています。
※餓眠様との対決後、ひょうと会う前からの参戦です。
【桂雪路@ハヤテのごとく!】
[状態]:二日酔い
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大量の酒
[思考]
基本:二日酔いで頭が痛い。
1:頭が痛い……。
2:教師らしいところを見せて聞仲をぎゃふんといわせる。
3:あんにゃろ(卑怯番長)、次出くわしたらブッチめてやる。
[備考]
※殺し合いを本気にしてませんが、何か変だと感じ始めているかもしれません。
※映像宝貝をカラオケの装置のようなものだと思っています。
【妲己@封神演義in桂雪路】
【状態】:魂魄だけの状態。夜明けまでに新しい体を手に入れないと消滅する。
【思考】
基本方針:主催から力を奪う。
1:新しい器を手に入れる。とらの体もあきらめていない。
2:1のため、聞仲に有用なところを示す
3:うしおを立て、対主催の駒を集める
4:うしおをかじる
5:聞仲を手駒に堕とす
【備考】
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※ウルフウッドからヴァッシュの容姿についての情報を得ました。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※獣の槍が本来の持ち主(潮)のいる方向に反応しています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があると考えています。
※不明支給品は全て治療・回復効果のある道具ではありません。
※対主催陣が夜に教会でグリフィスと落ちあう計画を知りました。
※聞仲が所持しているのがニセ禁鞭だと気づいていません。本物の禁鞭だと思っています。
D2(病院)からH5にかけてに大量にうしおと聞仲のメモが散っています。
うしおのメモ:「殺し合いなんか絶対にだめだ。みんなで一緒に家に帰ろうぜ! 蒼月潮」
※独特な絵柄で花狐貂とうしおの似顔絵が描かれています。
聞仲のメモ:「花精よ、競技場にて待つ。道弟」
※達筆です。
以上です。ありがとうございました。
投下乙!
うしおの爽やかさがよく出ててよかった。
少ないからなぁ……綺麗な対主催。
そして、とらの思考がどう見てもマーダーです。
本当にありがとうございました。
投下乙です
人物描写が巧みですね
それぞれらしいです
お妙さんは脳天潰された描写があったので顔が綺麗なままというのはおかしいかな
あとロイの首輪は爆発しているかと
桂先生ようやく起きたかw
投下乙です
とらはうしおの抑えが無いとマーダーと変わらんなw
ガッツらと出会ったらどうなるか考えただけでも怖いわ
聞仲はとりあえずはダッキと協力関係を作るのか……ここで殺しとけとは思うが……
うしおもロックオンされてて不穏だw
そして桂先生は…w
すみません、ノリで書いてるのがバレました。
下記訂正します。
>内蔵や肉片が無惨に飛び散り、なのに顔だけは妙にきれいなままの男女の死体が転がっている。
↓
内蔵や肉片が無惨に飛び散り、性別の判断もままならない死体が二つ転がっている。
聞仲の持ち物
>[道具]:支給品一式(メモは大量消費)、不明支給品×1、首輪×4(ロイ、ブラックジャック、妙、妲己)
↓
[道具]:支給品一式(メモは大量消費)、不明支給品×1、首輪×3(ブラックジャック、妙、妲己)、胡喜媚の羽
桂雪路の状態
[服装]:ゲロまみれ
投下乙です
これでほとんどの女キャラがとんでもない格好になったなww
あと妲己の備考・獣の槍については消しても問題ないかと思うけど、どうでしょう?
変えるか削るかは次の書き手に任せたら?
いまさらだけど仮投下スレに新作きてたのに気づいた
658 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 21:58:09 ID:xXiaLB6g0
《 Ayumu Narumi -神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの- 》
何もかもを冷たい白に染める冬の足音が、確かに近づいてきている。
一足早くに同色に染まる吐く息は、掌に当ててみれば確かな温かさをそこに感じる。
――俺がまだ生きてここにいる証。
けれど数秒も待てば熱は霧散し、ただ刺すような大気が身に凍みた。
この手を取るものは誰もいない。
俺は、一人でここに立っている。
高みを仰げば白亜の建物の頂きに、鷹のような男が鎮座している。
鋭い眼光はまるで獲物を狙うかのように俺を射抜いていた。
用意万端、これでこちらの準備は整った。
ポケットを叩き、そこにあるモノを確かめて、一息。
視線を更に上げ――、暗雲渦巻き始めた曇天を見据えた。
紫色にも似た、何とも言えない不吉な空だった。
「……寒いな」
利用し、利用されるだけの関係。
結局のところ俺はそんな関係の中にしか落ち着くところが無いらしい。
いや、分かっていて自らその中に飛び込んでいく。
……それさえも違うか。
俺は、自分が利用されるに足る価値を、何もないところから生み出すために立ち続けている。
誰かを利用するための通貨を、錬金術の様に捻り出す。
俺が一人で笑う限り、俺の論理は証明され続けるのだから。
だから俺は、誰からの手も振り払おう。
支えるものもなく、この先に続く足場が今すぐにでも、ふっ、と消えてしまいそうでも――、
それでも運命が変えられるのだと、足掻く事で示すんだ。
「くそ……」
だけどそれは、利害の一致のみの繋がりよりなお苦しい事だ。
使い道という言葉は、遍く人に逃げ道を残す。
依りかかるべき柱があれば、何もかもの重さをそこに押し付ける事が出来る。
左肩が軋んだ。
ここに来る前、グリフィスと名乗った男の言葉が伸しかかる。
前を見据えれば、未だ顔も知らない天野雪輝と我妻由乃の影に呑み込まれそうになる。
ずきずきと痛み続ける傷に手をやれば、ぐちゅりという湿った音とともに赤い汁がこびりついた。
脆いな、と声に出さずに口の動きだけで呟く。
そう、人は簡単に死ぬ。
俺も兄貴も義姉さんも、結崎ひよのも誰も彼もが終わりは避けえない。
そしてその訪れはいつも突然だ。
ミズシロ・ヤイバが兄貴に殺された時も、彼は己の死を全く信じられなかったらしい。
今すぐにでも自分は消えてもおかしくない。
そんな、吐きそうになるほどの緊張感は、たとえどれだけ場数を踏もうと絶対に消える事はない。
659 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 21:59:05 ID:xXiaLB6g0
……怖い。
そう、俺は死が怖いんだろう。
俺は決して超人なんかじゃない。
たまたま奇矯な構図に配置されただけの、何一つ持たない人間だ。
論理を頼りに蜘蛛の糸に飛び付いているだけの、どこにでもいる存在だ。
今までの事件と比べてもとびきりに異常なこの状況で、おかしくならないのが信じられないくらいなんだから。
生まれた世界の常識や物理法則の通じないこの異界は、論理に縋るしかない俺にはあまりに心細い。
死者の蘇生に、未来予知、バラバラの実。摩擦係数0の肌に、ひとりでに飛ぶ矢。
住み慣れた故郷ではありえない現象――未知という名の恐怖。
殺し殺され、奪い奪われ、犯し犯され。
交わす言葉は常に相手を出し抜こうとする謀りで、全てが生き延びるというお題目のもとに正当化されてしまう。
委ねられるのなら、狂ってしまった方が楽だと心から思う。
自分を取り囲む風景が、今にもおぞましい殺戮と肉欲の狂宴に変わってしまいそうな錯覚を抱く。
それこそ、取り乱して泣き喚いてしまいそうになるほどだ。
思えば、安藤と出会った事は不幸中の幸いだったのだろう。
誰かが俺に望む姿があるならば、俺は平然とした顔でやせ我慢する事が出来る。
だからこそ俺は、ここまで進むことが出来たんだ。
それでもそろそろ、泣き言が漏れてしまう頃合いかもしれない。
土屋キリエは死んだ。
竹内理緒も死んだ公算が高い。
彼女たちと共に過ごす時間が二度と戻らないという喪失感。
もう怒った顔も、悲しそうな顔も、笑った顔も、まだ見た事のない表情も闇に葬られた。
他愛ない会話さえ、新たに交わすことは出来はしない。
彼女たちが剥落した後に残る空洞は、他の何で埋めることも不可能だ。
それが――死。
己の死は自らに永劫の無をもたらし、他者の死は周りの人から故人との未来を奪っていく。
それは人が毎日を一生懸命に生きる理由でありながら、後悔と悲しみ、そして孤独を運命づける。
遺されたものは、想い出だけで自分を慰める事しか許されない。
できるなら俺は、今すぐにでも短くも濃密だった彼女たちとの時間を振り返りたかった。
なにより――、ミズシロ・火澄の死。
あれは、ことのほか俺の精神を軋ませていたらしい。
何故なら俺は、確かにあいつに共感を――それ以上の繋がりを感じていたんだから。
臭い言葉で言うならば、多分それは友情というものだったんだろう。
加えて、どうやら俺は馬鹿げたファンタジーを少なからず頼りにしていたようだ。
自分と火澄は誰にも殺されないという幻想を砕かれた時の動揺は、正直言語化するのは難しいだろう。
あまりにあっけない火澄の死は、数えるのも嫌なほどに脳内で繰り返されている。
いつしかそれは、登場人物が俺に挿げ替えられた映像になっていた。
具体的すぎるにも程がある俺の死が、そこにあった。
……もちろん俺は、自分が絶対に死なないなんて慢心は一度も抱えていたつもりはない。
自分がファンタジーのごとき構図の下に配置されていると知らされる前、俺は常に自分の命を張ってブレード・チルドレンと相対していたんだから。
けれど世界という概念が土台から崩れた今、俺はそんな構図に縋ってすらしまいそうになっている。
660 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 21:59:25 ID:xXiaLB6g0
まったく、無様で笑える話だ。
……また怯えで体が震える。
まだまだ俺は甘い。
この場所では、構図というルールすらも本来は疑わなきゃならない。
なのに今そこに固執するのは、ただの現実逃避だ。
分かっていても、分かっているからこそ、ひたすらに心細い。
一人の少女の姿を思い浮かべる。
俺は、無性にあいつに――、
パン、と頬を打つ。
俺は元々、あいつを手放した上で独り生き続けなければいけないんだ。
頼りにならない幻に今から寄り掛かっても、示せるものは何もない。
策はいくつかあるし、実際に手も打った。
この取引だって、横槍でも入らない限りはまず無事に終えられるはずだ。
天野たちからは少し気になる情報が入ったが、あれから連絡がない事を見ると恐らく問題はクリアできたのだろう。
連中が何か企んでいる可能性もあるが、それらについても秋瀬との検討の上で対応済みだ。
ここを乗り切ればひと段落といったところだろう。
……だから、かもしれない。
「この一件が終わったら、あいつに連絡でもしてみるか……」
これは先を見据えた連絡網の強化の為。
確かなメリットを不自然なほどに意識しても、心の奥底に押し込めきれないものがあった。
少しでも俺なりのいつも通りを取り戻そうと、抱いてはならないはずの甘えを自覚する。
らしくない。
鳴海さんは私がいなければ何も出来ないんですね、と、そんな声を聞きたいなんて、実に不覚だ。
まったく、頭が痛いにも程がある。
……そして、そんな頭の痛さに少しだけ落ち着きを取り戻している自分が、余計に悔しい。
「あまり放置プレイが過ぎればうるさいだろうしな。放送が終わった後にでも……、な」
たとえ死が二人を別とうと、誰にも奪われないものはある。
けれど、それは別として――、
……あいつが死んでなければいい。そんな事を想った。
そして俺は、足を踏み出す。
学校という名の狩り場へと。
661 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 21:59:46 ID:xXiaLB6g0
**********
《 Yukiteru Amano -Novus Deus Pater- 》
僕の背後から飛んできた声は、頼もしいながらも正直あまり心臓によくないものだった。
「そこで止まれ。ユッキーに近づく前に、一つしてもらわなきゃいけない事があるわ」
雲行きが怪しくなり始めた空の下、だだっ広い校庭のど真ん中。
そこに立つ僕を挟んで、背中には由乃、視線の先には茶色い髪の少年が立っている。
校門で立ち止まった僕より少し年上の彼が、きっと鳴海歩さんだろう。
彼は僕に目を向けてから、すまんな、と口にして視線を僕の更に後ろに向けた。
「……その物騒なものはしまってほしいんだけどな。
まあ、言っても聞きそうにないか」
……由乃がどんな顔で彼を迎えているか想像がつくだけに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
僕としても頼りになる人がもっと欲しいのに、どうして由乃は、ほんとにもう……。
「ご、ごめんなさい……」
「ユッキーは謝らなくていいよ。だって、これは当然の自衛なんだから。
銃じゃなくて剣を持ってるのが最大の譲歩。
銃に怯えたあんたに無差別日記を持ち逃げされても困るしね」
由乃の言っている剣とは、僕が自分の支給品から渡したものだ。
由乃は銃より刀剣の方が使い慣れているし、あんな物騒なものを由乃に持たせたら交渉が成り立たなそうだったんだ。
いざという時の為に銃は僕が預かったけど、剣を僕からの贈り物だって喜んでくれた由乃にはちょっとだけ複雑。
……今度何か贈り物をするときは、もっといいものをプレゼントしたい。
「……OK、とりあえず話してみてくれ。
それと順番が逆になったな。あらためて自己紹介をしておくよ。
鳴海歩だ、よろしくな」
鳴海さんは頭を掻きながら礼儀正しく名乗ってくれる。
由乃に睨まれてるのに実に堂々としていてすごいと思う。
こう言うのもなんだけど、流石由乃が警戒するだけはある。
こんな人が力になってくれたら確かに心強いはずだ。
だから僕もどうにか笑みを作って、頭を下げた。上手く笑えてるといいんだけど……。
「え、えっと……天野雪輝です。よろしく……」
「よろしくする必要なんてない。
でしょ、カノン・ヒルベルト?」
いちいち言動が挑発的な由乃に胃がキリキリする。顔も引き攣ってるかもしれない。
……さっきの取引時間の変更といい、由乃は何を考えているんだろう。
最終的には殺し合いになるにしても、協力関係を築いている間はメリットの方が大きいって来須さんや9thの事で知っているはずなのに。
もちろん裏切られた時はツラいけど、その時に由乃を信用できるからこそ僕は仲間を求めてるんだ。
……そう、僕は由乃を信じると決めた。背中を任せたんだ。
だったら今は、目の前の事に集中しよう。
662 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:00:06 ID:xXiaLB6g0
「まったく……、意地が悪いな。
素直に身元は明かしたんだし、容赦してほしいよ。
俺だって想定外だったんだ、死んだはずのカノンがここにいるなんてな」
はあ……、と、心なしに付いた溜息が思ったより大きくて自分でも驚く。
鳴海さんが大人で助かった、っていうのもある。
だけどそれ以上に、きっと彼の語った内容に安心したんだ。
ムルムル達から話には聞いていたけど――、
「誰かを生き返らせる事は、やっぱり可能なんだ……」
――さっきまで寝ていた時、僕は夢を見ていた。
由乃にも話していないけど、多分その夢はきっといいものじゃなかったんだと思う。
思いだそうとすると良く分からない恐怖が湧き起こる。
その度に記憶の詮索をやめてしまう、あのイメージは何なんだろう。
崩れ落ちるタワーと、シーツの掛けられた担架。
ぽつんと乗せられた、母さんの眼鏡。
ズキン、と脳の奥の奥が痛んだ。
そして――神社。神社だ。
そこで僕は穴を掘って、望遠鏡を、包丁、質屋、柄杓の水、約束……。
駄目だ、と無理に蓋をする。
正確に思い出してしまっては――いけない。
神社に行ってはいけない。
行ってしまったら僕はきっと、今の僕じゃなくなってしまう。
「耳を貸したら駄目ユッキー、情報提供する事でユッキーを取り込もうとしているよそいつ。
……そんな無駄話はどうでもいいの。さっさと無差別日記を置いてこの場を退きなさい。
その為にも――、」
……きびきびとした声なのに、由乃の声はとてもあったかく僕の心に沁み入っていく。
だから僕はすぐに、ここに立ち戻ることが出来るんだ。
眼を見開けば、遠くの鳴海さんが肩をすくめて由乃の話を聞いている。
「あんたの持ってるもう一台の携帯電話。
それを、校門の上に置きなさい。私たちに見えるようにね」
……ここまでは、予定通り。
由乃と僕がもう一台の携帯電話の存在を聞いて真っ先に警戒したのは、ある可能性についてだった。
つまり、その携帯電話が新たな未来日記の可能性がある――ということ。
疑いすぎかもしれないとは思う。僕だって、仲間になってくれるかもしれない人にこんなことはしたくない。
けれど、それが未知の未来日記だとしたら、能力が分かるまでは放置しておく訳にもいかなかっだ。
そもそも携帯電話があるというだけで危険だって由乃は主張する。
今の携帯電話はボタン一つで連絡を取れるから、土壇場で仲間を呼ばれても厄介だって。
もちろん三台目の携帯電話を所有している可能性もあるけど、それは大した問題じゃないという。
肝心なのは、相手がそれを手放すかどうかを見極めること――こちらの意思をどれだけ飲み込むのか、という話らしかった。
「了解だ。これでいいか?」
663 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:00:28 ID:xXiaLB6g0
その言葉が来てすぐに、鳴海さんはポケットから見覚えのない携帯電話を取り出す。
……まるでこの展開をあらかじめ知っていたみたいだ。
彼は内心、どう思っているんだろう。
顔には何も出てなくても、もしかしたらすごく焦ってるのかもしれない。
だってどう考えても携帯電話の存在は知られない方がいいんだから。
どちらにせよ、動揺のあまりに由乃を暴走させかねない言動が飛び出ない事を祈る。
「時間がないわ。さっさと交換を終わらせましょう。
その為に時間を早めたんだしね」
わざわざこっちの指示にしたがってくれたのに、一向に険の取れない由乃の声が耳に痛い。
淡々と作業をするかのような口調は、僕でさえ何を考えているのか読み取ることが出来なかった。
――さっきみたいに。
ここに至る前、電話で最後の交渉を行った時の事を思い出す。
あの時はこちらから連絡を取ったんだけど、それは雪輝日記にこんな予知が表示されていたからだった――。
【
11:50
校庭でユッキーと鳴海が出会った瞬間に変な男が乱入してきたよ。
いきなりユッキーたちが動けなくなって、無差別日記が変な男の手に渡っちゃったよ。
どうしようユッキー。
12:00
ゆ、ユッキーが突然消えちゃった……。
ウソでしょ、ユッキー。日記があんなのに破壊されちゃうなんて。
ねえ、出てきてよ、ユッキー。
笑ってよ、ユッキー。
ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、
ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、
ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー……。
】
由乃がじっと文面を眺めていたのが、やけに強く印象に残っている。
何を考えているんだろう――。
自分の死の表示に取り乱すこともなくそんな事を考えられるくらいには、僕も場数を踏んでいた。
けれど、いきなり由乃がすごい勢いでどこかに電話をかけた挙句、
『取引場所への第三者の襲撃のせいで、“12:00”にユッキーが死んじゃうって予知が出ているの。
だから取引開始時刻を10分早めたいんだけど。
あんたの言った放送に近い時間ってメリットも多少は享受できるし、問題はないでしょ』
コール音が終わった直後に一気にそんな事をまくしたてた。
早口で一気に用件を伝えていたのは、多分相手にペースを握らせないためだったんだろう。
それに気づいて僕が電話相手を把握した直後、その予想を裏付ける声が受話器から漏れてきた。
『……やれやれ、いきなり無遠慮だな。
第三者の介入の有無が分かるなら、もっと早い時間でもいいんじゃないか?』
664 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:00:48 ID:xXiaLB6g0
鳴海さんは絶対に呆れてたけど、その言葉は即座に交渉モードに切り替わっていた。
内容も的確で、僕も疑問に思っていた事だ。
『下手に予知を書き変えるより、できる限り既定の未来に沿った方が安全なの。
あんたはどうなの? 同意する?』
『……了解だ。その案に乗るよ』
成程、と僕も納得。
と、同時。
ジジッと恒例のノイズ音がして未来が書き変わった。
スムーズに交渉も終わり、僕もほっと一息ついた所で――、
『何を企んでいる? 取引を10分前にする事でのあんたの利点は?』
由乃はむしろ、鳴海さんの素直さを疑っていた。
どうしてこうなんだろう、本当に。
僕たちは由乃に振り回されてばかりだ。
『そっちから話題を振ってきたってのに、疑り深いんだな。
もっと余裕を持たせても大して変わらないだろ?
むしろ、あんまり早くにされても備えを膨らませる事ができなくなるしな』
眉を詰めて渋い表情をする由乃だけど、上手い反論が思い付かなかったらしい。
それから二言三言交わして電話を切ると、再度二人で雪輝日記を覗き込んだ。
書き変わった未来は、確かに僕の生存を証明していた。
けれど、もうひとつ大事な――、
『私を信じて、ユッキー』
より一層浮き彫りになった不安を拭うように、僕の手を握った由乃。
『ユッキーの無事は保証されてる。だから大丈夫、ユッキーは生き延びるよ。
でも、ごめんね。ほんとうにごめんね。
ユッキーには苦しい思いをさせちゃうかもしれない……』
言葉も僕を安心させるようなもので、傍から見れば勇気づけられているのは僕にしか見えないはずだ。
けれどあの由乃が、いつも我が道を行く由乃が、珍しく頼りなげな顔を見せていた。
……多分それは、書き変わった予知内容が原因だったんだろう。
僕は、こんな由乃の表情を見ていたくなかった。
だから僕の手でそれを消し去ってあげたくて、思うままに言葉を紡いたんだ。
『……なにか考えがあって、こうしたんだよね?』
『うん……』
『だったらいいよ。うん、平気だ。僕は、由乃を信じてるから』
にこりと微笑むと、由乃の頬が可愛らしいピンク色に染まった。
665 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:01:27 ID:xXiaLB6g0
『ユッキー……』
えへへ、とはにかむように微笑み返すと、由乃は確かにこう言ってくれた。
『ありがとうユッキー、絶対に……ユッキーは“私が”守るからね』
……この笑顔の為なら、ちょっとくらいの痛みは我慢できる。
今思い出してみても、そう思う。
「そうだな。襲撃が分かっている以上、こんな所から早く撤退したいのはこっちも同じだ。
ま、それなら場所を変えても良かったとは思うけどな」
「下調べした地の利を手放すほど愚かじゃないの。
それに、あんたこそそれを思いついたなら無差別日記をどこか別の場所に置いて、私を取りに行かせるとかも出来たはずでしょ。
そっちの方がずっと安全なのに、どうしてそうしなかったの」
――気がつくと、僕を放置したまま由乃と鳴海さんの舌戦はどんどんエキサイトしていた。
「それは思い付かなかったな。あんたのその発想力、是非仲間に引き入れたいよ」
鳴海さんが気を使って少しでも場の雰囲気を良くしようとしているのに、
「ふざけないで。あんたがそれを思いつかないはずがない。
時間のことといい、交換手段といい。
……いちいちユッキーに媚びる意思が見えて反吐が出るわ」
由乃は全く聞く耳を持ってくれない。
打算に満ちたギスギスした雰囲気が、辺りを包む。
「正解だけど、酷い言い様だな……。
余計な事をさせて心証を悪くしたところで、協力関係を築く障害になるだけだろ?
別に一緒に行動しろとは言わないさ、時折電話で情報交換をする程度の繋がりでいい。
それに、だ」
こほん、と鳴海さんが言葉を仕切り直す。
「あんたを単独行動させるよりは天野の近くにいてもらった方がいい。
それがあんたの望みだろうし、天野の望みでもあるだろうしな。
ついでに言うなら、場所を言った時点で撃たれるのだって御免なんだ」
……多分恋人として、という意味じゃなく、ストッパーとして、という意味なんだろう。
確かに由乃なら無差別日記を回収した後、鳴海さんの背中を撃ちかねない。
けれどそれでも、由乃の口撃をひとまず収めることには成功したみたいだ。
「……ふん」
由乃が口を噤んだのを肌で感じ取って、長く静かな溜息をもらす。
目を開けてみれば、鳴海さんが大変だなとでも言わんばかりに苦笑していた。
愛想笑いを返しつつ、頭を下げる。
……何故か知らないけど、この人にはとても親近感を感じる。
由乃の扱いといい、もしかしたら女性関係で相当苦労してるのかもしれない。
だからきっと、仲良くなれると思う。
666 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:01:50 ID:xXiaLB6g0
そして僕は、交換に臨む。
願わくば、無事に終わりますように。
雪輝日記を鳴海さんに渡す直前、念のために僕は歩きながら最後の確認をしておくことにした。
もちろんそれは、予知の内容についてだ。雪輝日記にはこう記されている。
【
11:40
予定より早く来た鳴海とユッキーが日記の交換をしてるよ。
あんなヤツにもしっかりと立ち向かうユッキーに見惚れちゃった。
雪輝日記を渡したことで申し訳なさそうな表情を私に向けてくれたけど、そんな顔しないでユッキー。
すぐにこの手で取り返してみせるからね。ユッキーの動向は誰にも監視させないんだから!
11:50
乱入してきた二人の男がユッキーを狙ってる!
一人はユッキーたちの動きを糸みたいなもので操ってる。
ユッキーが無理矢理筋肉を動かされて凄く痛そうな顔してるよ。
……こうなるのは分かっていたけど、あの男だけは許せない。
もう一人はそんなユッキーを助けに来たみたい。
見事にユッキーを抱き抱えて糸男の射程距離から逃れたよ。
無事でよかったユッキー。
12:00
件の男がユッキーにやけに馴れ馴れしく近づいて放送を聞いてる。
ユッキー、こいつを仲間にしたいって、どうして?
乗せられちゃ駄目、ユッキーの側にいるのは私だけでいいんだから。
】
**********
《 Midvalley The Hornfreak -音界の覇者- 》
数十メートルで行われていた、訳の分からない取り引きを見届ける。
先刻出会った子供が何やら説明していた気もするが、理解しようとする気など起きはしない。
ケイタイとやらの端末を互いに渡し合い、至極詰まらない会話を交わし、
端末の挙動を確認し、そのまま互いに背中を向け、静かに離れて――、
その終わりは、実にあっさりとしたものだった。
終わったのは取引じゃない。
全部だ。
全部、全部、全部……、そう、全部だ。
「……おい、嘘だろ」
ダブルファングの呆然とした声。
それに俺も、似たような感情を得る。
崩壊は、常に一瞬だ。
667 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:02:15 ID:xXiaLB6g0
絶望という親友は、俺を見放すことなくいつもいつも親切に面倒を見てくれる。
全く、嫌になるほど素晴らしいセッションだ。
ああくそ、そうだ。俺はよく知っていたはずじゃあないか。
これが、これこそが運命だ。
鋼鉄の処女にも劣る最低で最悪な、絶対に逃れる事の出来ない首枷だ。
彼奴の名前を、俺の口は勝手に紡ぐ。
「レガート・ブルーサマーズ……」
悠然と、泰然と、轟然と。
誰もが気付かないうちにそこにいたにもかかわらず、圧倒的な存在感を持つ男。
誰が見間違うものか、自分を殺した男を。
相も変わらず凄惨なほどに狂った笑み。闇よりもなお黒く燃える炎を押し込めたその瞳。
俺に諦念を刻み込んだ時の姿のまま――、いや、その時よりもなお禍々しくさえ感じる風貌だ。
どういう仕掛けか、まともに動かないはずの体を強く強くただ強く暴力の気配を纏わせて、あの男はひた動かしている。
トラックの中心に向けて、ただ歩く。
俺をGUNG-HO-GUNSにブチ込むきっかけとなったこの耳が、皮肉にもヤツの言葉を逐一俺にプレゼントしてくれていた。
その言葉は直接俺に向けられたものではないというのに、いとも簡単に俺の心をまた折った。
「果たして――君達は僕のこの忠誠を示すに値する強者だろうか。
そうである事を僕は欲するし、そうでないなら汚い肉と血と化すべきだ。
……踊ってくれ、僕の手で。僕の力で」
――もう何もかもがどうでもいい。
結局俺は、くそったれの神様に汚物のような愛を注がれているのだろう。
「そんな、馬鹿な。襲撃は12時ちょうどのはずじゃ……」
上擦った囀りがとてもやかましかった。
よくもまあ悪夢そのものを目の前にして、こうまで五月蠅くいられるものだ。
「く……! 雪輝君の無事が保証されてるからと、襲撃者の正体を楽観視していました。
そもそも襲撃者の情報が我妻さんから伝えられてなかったのが致命的すぎる!
雪輝君はどうにかして助かるにしても、これでは歩さんが……!」
首を振り、今はそれどころじゃないと口にする子供を――、俺は養鶏場の鶏を見る目で見下ろしている。
「リヴィオさん、彼らの救出を――!」
「分かってるッ、くそ、最悪の相手だ!」
駆けだしていくダブルファングのその先を向くまでもない。
筋肉の異常な軋みが告げている。餓鬼どもはとうにあの男の支配下だ。
発射音が届く。
奴の杭打機から飛翔する特大の弾頭は、甘い事に脚狙い。
……よほど温い世界に浸ってしまったか、ダブルファング。
殺す気であったならば、一糸くらいは報い得たかもしれんのに。
668 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:02:40 ID:xXiaLB6g0
「……ダブルファング。よもやここで出会うとはね。
だが――、」
グルリと人形めいた動きで首を回したブルーサマーズは、一歩動いただけで奇襲の一撃を避けきった。
だからこれで、唯一の勝機は潰える。
たとえ殺す気であったとしても――、そんなものがあったかは定かでないが。
魔人は、正門の陰から駆けだしたかつての手駒に顔色一つ変えず対処する。
あたかもそれは、水溜りを避けて進む手間と同じ程度の面倒臭さだと言わんばかりに。
「トリップオブデスならいざ知らず、貴様では力不足だというのが分からないかい?
背信者には芥も残さず消えてもらうとしよう。
あのお方に牙を剥くなど、屈服のあまりにただ逃げようとする愚者より救い難い」
……そしてまた、一人。
「逃げろ、あんた……!」
「く、ぅぅぅううぅぅ……っ! 一体何が起こってるんだよぉっ!」
餓鬼どもが喚く最中、虫が一匹蜘蛛の糸に絡め取られていく。
棒立ちになったダブルファングは、でかい図体のおかげで実に見事な案山子となった。
「……どうして……ッ、俺は、くそぉ……ッ」
「リヴィオ、さん――ッ!」
分かりきった寸劇だ、予定調和にも程がある。
これを演じるというならば、逆に金を払ってさえ見物客はつくまい。
笑いのネタとして見るならばそれなりかもしれないが。
如何にダブルファングがヒトを超えた力を持っていても、あの男の技には逆らえない。
それは、タンパク質で構成された肉体を持つ存在ならば避けえないことだ。
あのプラントさえ制御し得るそれの前では、俺達はただ蹂躙されるのみ。
そうだ。
もう、どうにもなりはしない。
たとえ今この俺の手の中に、ようやく取り戻した愛用のサックスがあるのだとしても。
こいつと引き換えにする代わりに、杭打機と仕組みも分からない妙な棒きれを手放した。
そんな小さな事で少しだけ落ち着きを取り戻していた自分があまりにも矮小で惨めに思えて仕方ない。
……だから。
「そうか、そういう事か。我妻さんか……っ!」
この子供が何に思い至ったのか、それだってどうでもいい事だ。
669 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:03:25 ID:xXiaLB6g0
どうせ、俺がこいつらに同行したのは消極的な理由によるものでしかない。
ダブルファングとの交戦を避けるためと、俺自身の情報を流布されないため。
要するに、面倒事を避けるためだけだった。
その程度の理由なぞ、無慈悲なだけの現実の前では塵の如く霞む。
結局――、俺のする事など最初からこれしかなかったのだ。
せめて何を理解する事もなく逝け、少年。
唇をマウスピースに触れさせれば――、
「……か、ッ!!」
最後の声さえ打ち消され、探偵を名乗る子供は地面に眠る。
本当に、実にあっけないフィナーレだ。
……やれやれだ。つまらない小細工ばかりしてくれたな。
だが、今度こそ――終わりだ。もう兎の逃げる道はない。
あの時のように、頼みの綱のダブルファングの助けも入る事はない。
これもまた運命だろう。
お前達と俺が出会った時点で決定された、避けえない結果。
俺の枷にならんとして同道を申し出るなど、思い上がりに過ぎなかったわけだ。
恨むなよ、少年。その矛先を向けるべきは自らの慢心なのだから。
あるいは――、襲撃者がレガート・ブルーサマーズであったその運命こそが、真に唾棄すべき事実だったかもしれない。
「ホォォォォンフリィィィィイィクゥゥッ!」
少し遠くから聞こえるのは、悔しさと怒りの入り混じったダブルファングの咆声。
……音は相殺可能であろうと、俺は視覚まで自在にすること能わない。
だからそれが紛れもない失策だった事を悟るのは、既に手遅れとなった後だった。
ぞくりと体が芯から震える。
凍てつくような悪寒の正体は考えるまでもない。
気持ちの悪い汗が滝のように流れる最中、俺はただ自嘲の笑みを浮かべるのみ。
狂信者の昏い眼が、嘗めつけるように俺を串刺しにしていた。
670 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:04:02 ID:xXiaLB6g0
否が応でも悟らされる。
俺は永遠に被食者なのだ、と。
ゆっくりと、絶望が唇を動かしていた。
こ・ん・ど・は・か・し・づ・く・だ・ろ・う・?
音界の覇者――、と付け足して、その口元がニィ……、と歪んだ。
自分の意思とは無関係に、俺の脚は気付かぬうちに背後に歩を進めている。
睨まれれば、ただ逃げる事しか思い浮かばない。
……惨めだった。
そして気付く。
制限”のおかげか、あの男の支配がここまで及んではいない事に。
だからその場にへたり込み、地面に尻を吐いて――動けなくなってしまった。
それは安堵であり、どうしようもない敗北主義の負け犬根性からくる代物で。
「く、くく……はは、ははは……。
はは、はははははははっ! ははははははははは!
無様だなあ、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク!」
――泣きたくなるほどに滑稽な、道化者の末路がそこにあった。
俯き地面を向いて、ただ自分を笑う。
笑って、嗤って、哂って、嘲って――、どれだけ経ったろう。
おそらく数十秒だったろうが、それは無限に等しい自傷の時間だった。
死んだ魚の目のままに顔を上げる。
そしてそこに、俺は、全く信じられない光景を見た。
笑う事さえできない、完全な静止。
何故、どうして。
あの少女は――、
「あはっ♪」
――ブルーサマーズの支配圏にも拘らず、自らの意思で動いている……!?
愕然とした顔で、ブルーサマーズはその少女を見つめている。
絶対の信を預ける自らの技が通じない異常中の異常に、目を大きく開いている。
そんな、一度たりとも他人に許した事のないはずのブルーサマーズの表情すら意識に留まらない。
俺はただその光景に打ちのめされるだけだった。
671 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:04:25 ID:xXiaLB6g0
少女はひらひらと舞い踊るように、整い過ぎて怖気のするステップを踏み続けている。
この耳が、そこで何が起こっているかを教えてくれた。
あの少女は直感と異常なほどの察知能力だけで、ブルーサマーズの糸を全て掻い潜っている――!
「待っててねユッキー。私はずっと、この時を待ってたんだよ」
極めつけのイレギュラー。現実の光景とは思えない狂気の剣舞。
その在り様は醜悪なまでに歪で、それ故に奇妙な美しさを見るものに感じさせていた。
「だって――、」
慈愛に満ちた聖母の笑みを浮かべ、ブルーサマーズに勝るとも劣らない異形の精神がトン、と大地を蹴る。
「全員の動きが一斉に止まるこの時こそ、あいつを始末するチャンスなんだから」
上半身を下げた低い疾走体勢を維持したまま、ひたすらに糸を回避し続ける。
ブルーサマーズの事など一切眼に入っておらず、ただ愚直なまでに自分の意志を成し遂げんとする。
「雪輝日記を取り返す、絶好のチャンスなんだから――!」
彼女の言動を聞き入れたその瞬間、訳の分からない恐怖が湧き起こる。
胸が、苦しい。
どうしてかと思ったら、息をしていなかった。
体が完全にそれを忘れていた。
……この、少女は。
“あの”ブルーサマーズが乱入する事を知って、逃げるのでもなく利用すらした……とでもいう、のか?
あんな……小さな端末の為だけに、こんな狂気を平然と行ったとでもいうのか!?
それを成し遂げるとするならば、それは最早人間の所業ではない。
魔人の範疇ですらない。
……怪物だ。
壊れた笑みを崩さぬままに、怪物は疾駆する。
大刀を振り上げて、突き進む。
あまりに無力なたった一人の少年の下へと。
ピアスをしたただの少年は、覚悟でもしたかのようにぎゅう、と瞳を閉ざす。
その顔は戦場でこそ見覚えのあるものだ。
故に、確信した。
間違いない。
あの少年は死ぬ。
あの少女に殺される。
672 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:04:47 ID:xXiaLB6g0
心音から分かる。
あの少年は、この事態を――少女が己に殺意を向ける事を、想定していたはずだ。
どういう推論からかは分からないが、襲撃者さえ利用して己を消そうとする事を、理解していたはずだ。
だが、そこに一つ誤算があったのだ。
それこそ即ち、襲撃者がレガート・ブルーサマーズであったこと。
襲撃者があの男でさえなければ、切り抜ける手筈が整っていたのだろう。
その為の策をいくつも用意しておいたのだろう。
されど、指一つ動かせないという未知の暴力が故に――、全ての備えが意味が為さなくなった。
――運命が、少年の死を望んでいる。
俺にはそうとしか思えない。
それでも、きっ、と眼を見開いた少年の顔には、足掻けるだけ足掻く人間の表情が刻まれていた。
目前の死を認めながらも、ただ仕方ないと甘んじて受け入れるのではない――泥に塗れた者しかできない眼。
だが、音は全てを語る。
心理、感情、身体能力、行動意図。
少女の実力と少年の状況を考えるならば、不可避の死こそ自明の理。
どれだけ少年が生の為に尽力しようとも、この運命は覆せない。
『その人は、自分を信じているわけでもなく、ただ負けてたまるかと意地を張ってるだけです。
でも、決して諦めることなく、人の手ではどうしようも無い運命に立ち向かっています』
何故か――、この場で初めて声を交わした、あの女の言葉が脳裏に響いた。
そら見た事か、どれだけ諦めなくとも全ては無為だ。
『その人はあらゆる絶望を与えられて、なおうつむかない覚悟をしているんです。
これは怖いですよ。そんな人、いったいどうすれば倒せるんですかね』
簡単だ、暴力で蹂躙すればいい。
それだけの話だ。
「駄目だ、由乃――!」
痛みに顔を引き攣らせていたもう一人の少年が、悲痛な叫びを上げる。
だがもう遅い。動き出した流れは止まらない。
少年の運命は死に収束する。
どれだけ立ち向かっても、再演は始まらない。
始まるはずが、ない。
その時だった。
白き鷹が、眼前を掠めて翔けたのは。
673 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:05:11 ID:xXiaLB6g0
**********
《 Griffith -落日の国の白き鷹- 》
機は熟した。
オレの求める力が、あの場にこそ集っている。
遥かな空から視線を向ける先は一人の少年。
彼を救う事こそが、更なる高みに繋がる道。
だからオレは邁進しよう。
愛しき仲間たちと共に、戦場を駆け抜けた時のように――、
風となって、飛んだ。
青の世界から茶の世界へと、身を浸す。
霞み、滲む景色と身を切る大気に快を得る。
この手に未来を抱き抱える為に。
――事態の全ては、鳴海歩の予測通りに進んでいた。
空から睥睨する限りではそのように見える。
あの少年は、このオレでさえ脱帽するほどに頭が切れる。
……素晴らしい。手に入れたいと、ただそう思う。
鳴海歩が我妻由乃の意図を看過したのは、彼女と電話で最後の交渉をした時だ。
『襲撃によって12時ちょうどに雪輝が死亡する』と我妻由乃は告げていた。
それはあたかも12時ちょうどに襲撃があるかのような言い回しで、敢えて意識しなければ誰もそれを疑わないだろう。
おそらく我妻由乃は嘘はついてはいなかったろう、天野雪輝に不信感を持たれない為にも。
しかし、実際に襲撃があったのは今現在――11:50だ。
要するに、襲撃があってから本来雪輝が死ぬまでの時間のタイムラグを利用し、鳴海歩を嵌めようとしていたのだ。
最初から我妻由乃が雪輝日記を取り戻す為に行動する事を前提で考えていたからこそ、鳴海歩はその可能性に思い至る事が出来た。
……本来ならば、協力者と聞く秋瀬或とやらにこの事を伝えるべきだったのだろう。
だがそれをしなかったのは、最悪の可能性として秋瀬或達が襲撃者そのものであるケースを疑っていた為だ。
取引の時間を知っているのは鳴海歩とオレ、天野雪輝と我妻由乃、そして第三者である秋瀬或たちだけであり、
偶然危険人物が介入をしてくるのでないとしたら、間違いなく秋瀬或の手引きが背後に存在すると推測できる。
実際の襲撃者が秋瀬或と繋がりがあるか否かは現時点では不明確であり、検証の必要があるだろう。
……そして鳴海歩は、本来の10分前という一方的な時間変更を呑んだことで、向こうの計略を看過した事を気付かれないようにする。
全く以って頭の回転が速く、加えて底意地も悪い。
なぜならあの僅かな交渉時間で、鳴海歩は罠を仕掛けてさえいたのだから。
未来日記とやらの性質上、交渉を10分前にするのを了承した事で未来が書き変わったはずだ。
この時『オレが天野雪輝の味方であり、いざという時にその命を襲撃者から助ける』という事態を想定に組み込んでおく事で、
予知の記述上ではオレの存在がアピールされると鳴海歩は推測した。
本来の未来では襲撃者の手で天野雪輝の命が消されている以上、その事態を防ぐキーとして、彼らはオレを受け入れざるを得ない。
674 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:05:37 ID:xXiaLB6g0
そして秋瀬或曰く、未来日記は主観情報を反映するという。
……つまり。オレが鳴海歩の仲間であるという情報は、口を滑らせない限り決して伝わらない。
鳴海歩は交渉の時点で既に警戒されている為、オレが天野雪輝たちに仲間として入り込む――、それが鳴海歩の罠だった。
つまり、命を救った恩によって天野雪輝たちと強い協力関係を作る駒。
鳴海歩はそうオレを盤上に配置した訳だ。
主導権を握られるのはいささか不満だったが、確かにこれは全員にメリットのある策ではあった。
……鳴海歩を守るものがおらず、身一つの彼が命を危険に曝すこと以外は、だったが。
自らの生を張った策に反対する理由もなく、オレは彼に乗る事にした。
鳴海歩がどうやって我妻由乃と襲撃者から身を守るのかは聞いていない。
ただ、それについてもいくつも手は打っているのだろう。
それにしてもリスクが高すぎるのは事実であり、だからこそ強い興味が彼自身に湧く。
だからかもしれない。
オレは先刻、彼に一つ問いを投げかけた。
内容は、何故――、
『何故君はオレの助けすら振り解き、自らの命を投げ出そうとする?
オレには自己犠牲に酔っているとしか思えないんだがな。
……偽善の果てに掴めるものなど、そこにつけこむ浅ましい豚の視線だけだ。
己の為に生きてこその命だろう。少なくともオレは、オレ自身の夢の為に前へと進む。
遥かな高みに手を届かせられると信じてな』
『……さあ、何故だろうな。
一つ言えるのは、俺は聖人でもなんでもないってことさ。
御大層な悟りを開いた訳じゃない、見栄っ張りなだけの常人だ。
――だから、現に。あんたを見てると、眩しくてしょうがないよ。
本当に……、苦しくて堪らないくらいにな』
『なら、何故未来を掴もうとしない?』
『俺なんかに希望を託す連中がいる。望まれたのなら、答えてやらなくちゃあな』
『それこそ聖人の所業だろう。そうまでしても君の得るものは何もない。
むしろ彼らは、君に寄り掛かって何もかもを毟り尽くそうとしているんだ。
気に障ったら申し訳ないが、結果的に見ればそれは明らかだ。
君の言葉には、論理はあっても動機がない。完全に破綻しているぞ』
『……つまりは、俺のその動機が知りたいのか』
675 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:05:55 ID:xXiaLB6g0
『その通りだ。君の動機さえ掌握すれば、それを下賜してやることもできる。
つまり君自身を手に入れる事に等しい訳だ』
『本当に真っ直ぐに、壁さえ壊して欲しいものを掴むんだな、あんたは』
『オレが掴むんじゃない。掴むからこそ、オレなんだ』
『……凄いな、あんたは。……けれどそれは、企業秘密――教える事は出来ないな。
俺自身、認めたくない動機なのさ』
ふっ、と柔らかな笑みを浮かべてさえ、あの少年はただ口にした。
その勢いは強くもなく弱くもなく、まさしくそれが当然なのだと言わんばかりの自然体で。
この少年を手に入れたい――その想いは更に強くなる。
そして、この少年すら危険視する二人の予知能力者を手中に収めたのなら、オレの国にはどれだけの豊穣がもたらされるだろうか。
オレは今、まるで初めてあの城を見上げた時のように――子供のようにワクワクする心を抑える事が出来ない。
そしてその城の門は、今まさに目の前に迫ってきているのだ。
石畳のすぐ向こうに、駆けて数秒の距離にあるのだ。
天野雪輝――彼こそが完全予知を実現する要。
我妻由乃を抑え、オレと彼らを繋ぐ光。
さあ、オレの国の礎となれ。オレが栄光を見せてやる。
天を庭とする一羽の鷹となり、オレは輝く星へと手を伸ばす。
掻き抱く。
そしてそのまま、遥かな高みへと昇り詰め、何処までも何処までも高く飛ぼう。
世界の全てが、このオレの背に吹く風となる。
祝福と賛美がオレを包む。
その美声は確かに、こう告げていた。
「ちょろいっ」
ザザ、と、二台の携帯電話からノイズが走るのがいやにはっきりと聞こえた。
676 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:06:18 ID:xXiaLB6g0
空を飛ぶよりなお強い浮遊感が訪れた。
両腿から下を、吐き気すら感じる喪失感が襲った。
天野雪輝の体に引っ張られて、体が勝手に思い切り前傾姿勢を取った。
衝撃で倒れた天野雪輝が、この手から零れ落ちていくのを感じた。
赤い雫が、どこからかオレの頬を濡らしていた。
自分の息さえ跳ね返ってきそうな距離に、土の壁があった。
地面に顔がめり込んだ。
鼻が潰れる感触がした。
顔の肉がこそげ落とされる様を自覚した。
制動を期待して伸ばした左手から、ごきりと嫌な音がした。
左眼と小枝か何かがキスをした。
ずるずると、引き回される罪人のように体が地面を擦った。
天と地が何度も何度も回転して、二桁を超えてしばらくした所でようやく止まった。
最後の最後にようやく――激痛がオレを満たしていく。
両足と、左腕と、顔面と。
猛烈な吐き気と共に、腹の奥から何かがせり上がってくる。
堪える間もなく口から漏れた。
血と吐瀉物の入り混じった、正視に耐えないカタマリだった。
すっぽりと――、思考する、という行為が俺から完全に抜け落ちた。
目の前のモノを認識して対応する事は出来ても、何故そうするのか、その意味だけが受け止められなかった。
他人の脈絡のない悪夢を覗いているようで、心と体が完全に乖離していた。
まだ動く右腕を、震えながらどうにか右の膝へと伸ばす。
そこには、何もない。
続いて、まるで機械仕掛けの人形のように、左の膝を確認する。
そこにも、何もない。
妙な方向に曲がった首を、激痛を押し殺してゆっくりと上げていく。
左の視界がやけに暗く、そこから流れ出ていく何かが気持ち悪い。
だから、右眼にだけ、その光景が刻みつけられた。
――自分の体からだいぶ向こう側に、ついさっきまでオレの一部だった右脚と左脚が転がっている様を。
ようやく精神と肉体がカチリと填まる。
「……ァ?」
オレは、
「ア、……ア、」
オレは、
「アアぁ、ああ、ぅああ……」
……オレは、
677 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:06:43 ID:xXiaLB6g0
「うぁああぁぁああああぁぁぁあぁあぁああぁぁぁぁッ!」
足下――高みへと続く階段が、崩れ落ちる音をただ呆然と聞いていた。
背中にあったはずの翼が羽一枚残さず毟られた事を、抗いも納得もする暇もなく――ただ、理解させられていた。
自由に駆けられたはずの空は奈落の底に続く闇で。
優雅な飛翔と思っていた行為は、その実無様に突き落とされている最中でしかなかったのだ――、と。
誰の言葉だったか。どこかで聞いた気もするし、“オレは”聞いていない気もする。
『信じるもの、奪えないものを持っていると思う者は無敵だ。
だが逆を言えばそれを失えばおしまいだ』
この世の全ての闇を押し固めた黒の中で、オレは絶望を初めて理解する。
オレの翼は、今この時に奪われる為だけに与えられたのだ、と。
誰にも奪えないと思っていたオレの夢を、オレをオレたらしめる夢を。
――最も悲惨な形で奪う為だけに。
涙する余地すら残らないほど、オレの中も外も黒いモノで満ち満たされていた。
そして、オレの五感は深淵に呑み込まれる。
意識が紐を切るようにぷつりと途切れていく。
**********
《 ???? ?????? -The Watcher- 》
間に合わなかったと呟いて、突撃の対象をグリフィスへと切り替えた少女を観察しつつ思案する。
彼女の言葉は、グリフィスの介入前に鳴海歩を始末しきれなかった――という意味であろう。
――端的に言えば。
鳴海歩の誤算は一つではなかった、という事だ。
レガート・ブルーサマーズの魔技という誤算は、確かに彼の策の全てを砕き尽くした。
故に彼の死は、最初に書き換わった未来――交渉の開始時間を10分前に変更した時点の未来では決定づけられていた。
だが、それを超える更なるイレギュラーこそが我妻由乃。
鳴海歩は彼女の天野雪輝への想いの在り様を、秋瀬或から聞かされてなお完全な把握に至らなかったのだ。
そもそもが、彼女を理解できるものなど存在しないのかもしれないが。
皮肉なものだとは思わないかね?
レガート・ブルーサマーズという誤算さえ存在しなければ、ただ彼の策をぶち壊しにするだけの我妻由乃の暴走が――、
誤算が二つ重なったことで、彼の命を一時でも永らえさせる結果をもたらしたとは。
678 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:07:05 ID:xXiaLB6g0
彼女は雪輝日記を鳴海歩の手から切り離す事よりも、天野雪輝を連れ去られないようにする事を選んだのだ。
たとえそれが天野雪輝の命を救う存在であったとしても、天野雪輝を守るのは自分だけいい、と。
結果、我妻由乃の攻撃対象は鳴海歩から、天野雪輝を懐柔せんとするグリフィスへと転じた。
仮に鳴海歩が自身を助けて逃走してほしいとグリフィスに頼んでいたのならば、彼らは重ね切りで纏めて両断されていたろう。
見方を変えるならば。
グリフィスの手すら振り解き、孤独の中で笑うという意思が――、
あの場に集う全員の思惑を超えて鳴海歩を生かした。
そのように未来を書き変えたのだと言う事が出来るかもしれぬな。
そして、見据えるべきはもう一人。
クク……。
一度は私を殺したのだ、この程度はやってもらわねば私の面子が立たぬ。
やはり鍵は貴様か? 我妻由乃。
未来は少しずつ変わりつつあるぞ。
……さて、観察に戻るとしよう。
今の私はしがない“ウォッチャー”。見届け観察する事しか許されぬ身。
直接介入は“ハンター”や“セイバー”に任せるべき事案なのだから。
**********
《 Livio The Double Fang / Razlo The Tri-Punisher of Death -Chapel's Brother- 》
有り得ないはずの異常に呆気に取られ、立ち尽くしていた俺の耳に耳障りな音が突き刺さる。
――唐突な、レガートの哄笑だった。
「面白い……。面白い!
君が、君こそがこの僕の技の真価を問うべき存在なのか?
僕の忠誠を計るべき存在なのか!?」
おそらくは、ナイブズですら聞いた事がないだろう壊れた笑いが響き渡ってる。
目頭を押さえながら背を思い切り反らすその姿に、ゾッ……、とする。
これが、人間に出せる声だとでも言うんだろうか。
そしてもう一つのとびっきりの異常の塊は、レガートとは正逆の態度だった。
「忠誠とか技とか、あんたの事情なんてどうでもいい。
私はただユッキーが好きなだけ。
ユッキーを傷つけ、私の愛を邪魔するというなら――、切り捨てるだけよ」
魔人の極北たるあのレガートに向かって、由乃という少女は面倒臭そうに言い捨てる。
その扱いはまるで、積もった生ゴミが臭くて邪魔だとでも言わんばかりだ。
……狂ってる。
どちらも俺の理解を超えている。
679 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:07:26 ID:xXiaLB6g0
「いいだろう。
ならば、君のその愛と僕の忠誠、どちらが強いか試させてもらうよ。
僕はこの体を使わず、ただ技だけで君を凌駕する――」
「あっそ」
レガートの口元がおぞましい三日月の形を取った瞬間、少女の舞いが再開した。
その動きは先刻とは比べ物にならないほどに、時として鋭く、時として緩やかで、規則性が存在しない。
あたかもそれは観劇者の心をとても不安定にさせる、邪教の儀式のようだった。
肉と肉との交わりのようにも思えて、ただひたすらに不気味な挙動だった。
存分に膨れ上がった究極と至高の狂人のぶつかり合いは、何もかもを贄として呑み込みそうだ。
――肉体の行使では間違いなくレガートに分があるはずだ。
だが、奴はそれを行わない。
結末の分かりきったジャンルで勝利を収めても、彼の歪んだこころは満たされないんだろう。
だから――糸で彼女の動きを意のままにするために、磨き抜いた技を試そうとしているんだ。
それは不幸中の幸いと呼ぶべき時間の猶予を与えてくれたが、しかしこのままではジリ貧だ。
由乃が右手の大刀を、棒切れでも振るかのように一振りする。
同時、レガートの哄笑が完全に狂笑へと変化した。
おそらく、あの金属糸をひとつ断ち切ったんだろう。
忠誠と愛。
表面上は美しく聞こえるその二つの言葉がこれだけどす黒く凄惨な代物だなんて、俺は全く知らなかった。
……くそ!
なあ、リヴィオ。俺は、何のためにここにいる!?
目を凝らし、背後を振り向く。
ホーンフリークの姿はとうに消え失せていて、そこにはピクリとも動かない――或が転がっているだけだった。
ぎり、と歯を噛み締める。目を強く強く瞑る。
そうしなければ、何かがそこから零れて落ちてしまいそうだった。
『僕と共に、“神”とのゲームに臨んでいただけますか?』
小さな友人とのあまりにも短い時間が、何度も脳内で繰り返される。
僕は――、守れなかった。
あの人のようになりたいと思ったのに、守るべきはまた掌をすり抜けていってしまった。
外道に落ちた身じゃあ、そんな綺麗事は許されないのか?
俺の手はただ、血に浸す為にしか存在しないのか!?
……畜生。
畜生、畜生、畜生、畜生!
なんて俺は、無力なんだ……ッ!
握り締めた手の皮が破け、赤い雫が滴り落ちていく。
……地面に打ち付ける音は、聞こえなかった。
哀れな自分に酔ってボサっとしてんじゃねえよ、チンカス君よォ。
テメェの自問なんざ、とっくに答えを出した人間がいるだろーが。
……え?
680 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:07:52 ID:xXiaLB6g0
暢気に突っ立ってないで、こんな時にあの男ならどうするかでも考えてろ。
お前はアレか、こんなことにも気づいてねーのか?
テメー、その拳を握り締められるってどういう事か、足りない頭でも分かるよな。
え? あ……、あ、あ……!
あの変態ホモ野郎が小娘に浮気してるから、テメーら全員の拘束はとっくに解けてんだよ。
野郎、全ての糸を小娘に集中させてやがる。
それでもまだ捉えきれない小娘も大概だがな。
ラ、ズロ……。どうしてお前が、こんな?
……馬鹿が。言ってたのはテメェだろうがよ。
あの人みたいになりてぇんだ、ってガキみたいによ。
だったら、俺を押し込めてる分くらいは果たしてみやがれ。
甘ちゃんなりに出来ることだってあるだろうさ。
でも、どうやって。俺なんかが近付いても、また糸に囚われるだけじゃ……。
……ヒントはあそこの乳臭そうな小娘が十分実践してるだろが。
少しはテメェで考えろ。
出来るのか? ……俺に。
だからチンカス君なんだよ、ったく。
しゃあねぇ、俺がやる……と言いてーがな。
…………?
制限とやらがキイてるのか、俺が表に出るのはキツいっぽいぜ、くそったれが。
……だからよ、リヴィオ。
「お、」
俺が見る。
その代わりお前は――、死ぬ気で凌げ。
「おぉ、ぉあああああぁぁぁああぁぁああああぁぁぁあぁああ……ッ!」
ラズロの声に背中を押されるように――、俺は走りだしていた。
レガートの頬のこけた形相が、お楽しみを邪魔されたとばかりに胡乱にこちらを捉えてくる。
その場所へ向かって一歩踏み込む度に、気違い染みた殺気が叩きつけられる。
ヴァッシュさんはこんな代物をずっとその身に浴びていたのか。
いかにも面倒くさそうにレガートが片手を動かす。
それが、合図だった。
世界の流れが急激に遅滞する。
全てが蝸牛よりゆっくりと動き、皮膚に当たる風は物体の動きを雄弁に語る。
感覚機器は鋭敏過ぎて痛いほどで――、まるで自分を取り巻く環境そのものが己の体になったかのようだった。
681 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:08:16 ID:xXiaLB6g0
モノクロームの世界の中で、レガートの“糸”が静かに、確かに俺に近づいてきたのを感じる。
……ラズロの能力なのか、制限のおかげなのか。
その存在感は明確に認識できるくらいに強く――、
姿勢を低くし大地を思い切り蹴る事で、矛先を十分に回避する事が出来た。
「……!?」
レガートの驚く顔に、ざまあみろ、と漏らす。
しかし優位は一瞬。
レガートは少女に回していた糸の一本を新たに追加し、俺を木偶にしようとしてくる。
駄目だ、この姿勢ではもう避けきれない。
……察知能力に加えて常軌を逸した直感まで備えたあの少女とは違って、俺はここまでが限界だった。
……だから、俺は俺たちにしかないものを活かす。
レガートの糸が俺の腕に絡みついた、その瞬間。
「……ぐ、……らああぁぁっ!」
電流が流される直前に、“その部分の肉ごと”糸を毟り取った。
ぐじゅ、と嫌な音がして黄色い汁が一瞬滲み、血が噴水のように吹き出てくる。
「……はは。いってえ、なあ……」
再生がいつもより遥かに遅い事に舌打ちする。
だが、――いずれにせよ十分だ。
だってもう、俺の拳は見事にレガートの顎をブチ抜き、砕いているんだから。
「ご、あ……」
アッパーカットで宙に浮くレガートに、続けざまに追撃を。
片足をばねに、丸太を突き込むように足刀を抉り込む。
吹っ飛ぶ。
校舎に叩きつけられ、レガートはずるりと崩れ――なかった。
頭から血を流しながら薄ら笑いを浮かべ、幽鬼の如く立ち上がる。
「……この程度じゃあ、やっぱ倒れてくれないか」
けれど、いける。
俺は、戦える。
いや――、俺たちが、戦えるんだ。
682 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:08:46 ID:xXiaLB6g0
なあ、ラズロ。
あん?
情けないよな、俺……。
カッコつけた事ばかり言っておきながら、結局はいつもいつもお前を頼ってばかりで。
それが悔しくてたまらないんだ。
ハッ、ようやく自分の弱さに気づいたかよ。
だが先は――まだ長ェぞ?
そう簡単には追い付かせてやらねぇ。
ああ、だから駆け上がろう――二人で。
ラズロの物言いに苦笑しながら、背後を意識。
そこには三人の少年少女がいるはずだ。
先刻まで一緒にいた大人びた少年を思い浮かべながら。
守れなかった後悔を胸に、それでも足掻くと心に誓う。
「――逃げろ! こいつは僕が引き受けた!
或の友達を、みすみすこんな所で死なせてたまるものか……!」
張り上げた声への返答は、三者三様異なるもの。
「あ、ありっ、ありがとうございますっ! 由乃……っ!」
「……秋瀬或の差し金? 感謝なんてしないわよ」
手と手を取り合い立ち去る音と、
「……すまない、必ず、必ず応援を呼んでくる。
その時まで俺を守ってくれ。
そしてそれまで、持ち堪えていてくれ……!」
たった一人の駆け出す音が、確かにここから離れていった。
「……なるほど、確かに僕に一矢報える力はあるようだ。
だが――、特例を許されたとはいえ一介のGUNG-HO-GUNSが僕に敵うと思っているのか?
今この場で背信者として処刑を行おう。
悲しいよ、わざわざナイブズ様が手塩にかけて集めた人員をこの手で消さねばならないなんてね」
砕けた顎にもかかわらず、無理矢理己の力で言葉を捻り出す狂人。
その在り様に唾を飲み込みながらも、もう僕は自分を疑わない。逃げ出さない。
片手には杭打機、もう片手には握り拳。
血みどろになりながらも蜘蛛の糸の全てを薙ぎ払い、俺はここに誰かを守れることを証明する。
構える事ぁねぇ。
……証明するぜ、チンカス。俺の最強を――、俺達の、お前の最強を!
「ああ――、行こう、ラズロ」
683 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:09:24 ID:xXiaLB6g0
**********
《 Vash The Stampede -The Humanoid Typhoon- 》
僕は道を駆けている。
それは闇雲に突き進む為じゃない。
今そこで独り死地に身を曝す、大切な友人を助けるためだ。
焦りは判断力を奪うと分かっていながらも、冷静さを取り戻すことが出来ない。
同道者の少年を置き去りに走ってしまいそうになるのを、ぐっと堪える。
彼がいたからこそ、リヴィオの所在を知る事が出来たのだから。
そして、リヴィオが身を呈して守ったこの少年を、絶対に見捨てる訳にはいかない。
まだほとんど会話も交わしていないけれど、それは確かな事実。
「……彼が俺を逃がしてくれたのはほんの数分前だ。
だからきっと、まだ間に合うはずだ。いや、間に合わせる」
そう呟くこの少年――鳴海歩と僕が邂逅したのは、舗装された道路上でのこと。
地図上で言うなら、おそらくG-2とH-2の境目辺りでだった。
あれから僕は、ずっとナイブズとロビンの姿を探し続けていた。
けれど一向に音沙汰はなく、ただひたすらに無為な時間を費やしてしまう。
そんな折、偶然森を抜けた向こう側に見えた建物のおかげで、ようやく自分の所在を把握出来たんだ。
その建物は小学校。そして、そのすぐ近くには綺麗に整った道が造られていた。
ようやく迷子から解放されて一息ついた、まさにその時だった。
――北西の方角から、奇妙な音楽のようなものが聞こえてきたのは。
なんだろう?
疑問に思った僕は、素直にそちらの方へと近づいてみることにした。
罠という可能性もあったけど、むしろそれなら積極的に向かうべきだと考えたからだ。
あれに引き付けられた人が他にもいたら、と考えるといてもたってもいられなかった。
そして、彼を見つける。
僕との出会い頭こそ警戒したものの、二言三言のやり取りでこちらが殺し合いに乗っていない事を理解してくれた。
彼の、手早く仲間の救出の協力要請をした年齢に似合わぬ冷静さにも驚かされたが――、それ以上にリヴィオの名前が僕を即座に走らせた。
「――あそこには大怪我を負った俺の協力者もいる。
もしかしたら、まだ助かるかもしれない。
死人が増えるのは御免なんだ」
……全く同感だよ。
だから僕たちは、更にその足を速めひた進む。
……間に合え。
リヴィオは、僕の親友が命をかけて取り戻した、掛け替えのない弟分なのだから。
愛用の銃をすぐ放てるよう握り締め、校門を駆け抜ける。
勢いを殺さぬまま広い広い校庭に飛び込んだその先には――、
「……リ、」
684 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:09:45 ID:xXiaLB6g0
肉片と血溜まりが描く地図の真ん中に。
「リヴィオ……?」
かろうじて原形を留めているだけの、リヴィオが倒れていた。
「……その、声。ヴァ、シュ、さ……」
駆けよって抱き寄せると、まだその体は温かい。
今にも掻き消えそうでも、生きている。
その事実が、嬉しいのにとても悲しい。
「はは、ついてる、な。俺……。
後、託せ、る人……こんなに心強、」
こちらを心配させたくないと、リヴィオが笑う。
僕と出会えたことが幸運だと笑う。
僕は、君がこんなに傷つくまで間に合わなかったんだぞ。
なのにどうして、どうしてそんな顔で?
責めてくれる方が、ずっとマシだ……。
「喋るな、喋らないでくれリヴィオ!
どうして、こんな……!」
自分でも分かる。
声が震えて、言葉にならない。
こんな時こそ、相手を不安にさせちゃいけないのに!
「……ドジっち……まい、ました。手傷、負わせ、ので、精、一杯……。
ハハ、再生、もう少しだけ、早かったら、勝て……」
ぎゅうっとリヴィオの手を握り締める。
……血に汚れてはいても、大きくて頼りがいのある男の手だった。
「勝ったのは君だリヴィオ、だって、確かに君は守り抜けたじゃないか……」
少しだけ視線を上げる。
そこには、歩と言う少年が俯いてただ立っていた。
表情を完全に消したまま、彼は、何も言わない。
きっと理解しているんだろう。してしまっているんだろう。
だからきっと、僕たちの話に何も口を挟もうとしないのだ。
「……そこに、いるん、すか。或の……友達。助かったん、すね。
だったら早く、ここから逃げ……さい。まだ、すぐ、近くに……」
「リヴィオ、もしかして、目が……」
その先の言葉を、呑み込む。
……悲しかった。
逃げろと呼びかけたその先に、リヴィオ自身が含まれていない事に、泣きそうになってしまう。
「分かった……。分かったから、君も行こう。
君も一緒に、この場所から脱出するんだ!」
685 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:11:00 ID:xXiaLB6g0
……だけど。
せり上がる涙を堰き止めて、苦労して安心させるよう笑顔を見せる。
たとえ見えてなかったとしても、それでもこうせずにはいられない。
「最後に、一つ……頼み事……。
俺の、帽子……、持ってって、下さ……。
返してあげ……んです……。あの子、と……ジャスミンに」
……傍らに落ちたデイパックを傷だらけの手で弄って取り出された、その帽子は。
リヴィオ自身がこれだけ悲惨な姿になっているというのに、とてもきれいなままだった。
僕はもう、叫ばずにはいられなかった。
「最後なんて言うんじゃない!
リヴィオ、自分で返すんだ。
あの星に帰って、君の手で……!」
聞こえているのか、いないのか。
リヴィオは見えないはずの目で遥かな空を見上げ――、
少しだけはにかんで、呟いた。
「ニコ兄……、褒めて、くれるかな」
ボロボロと、塩辛い水で瞳が濡れる。
僕は笑ったまま、みっともなく涙を零す。
「ああ、絶対だ! だけど死んだら悪態をつくのがあいつだぞ。
だから生きろリヴィオ、最後まで守りたいものを守りきれ!
あいつだってそうだったじゃないか、君を守りきって、か、ら……?」
泣き笑いで親友を出汁に檄を飛ばしている最中で――、ふと、気付いた。
「……リヴィオ?」
……腕の中が、軽かった。
「リヴィ、オ?」
命の音が、聞こえなかった。
「リヴィオ――」
――もうその声を聞くことは、二度となかった。
「う、」
ああ、もう無理をして笑顔を作る必要はないのだと。
「うぁあ、うぁあぁぁぁああぁああああああぁぁぁぁぁああああああぁぁああっ!
くぅ、あ、あああぁぁぁああぁぁぁああぁぁぁ! うわぁぁああぁああああぁぁぁぁ!」
その事実に悲しいという感情を当てはめた途端、
笑顔の仮面は、弾け飛んだ。
――涙が、止まらなかった。
子供のような泣き叫び方。
686 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:11:23 ID:xXiaLB6g0
「畜生……っ。畜生、畜生、畜生っ、畜生ぉ……っ!
どうして俺は、いつも間に合わない?
どうして友達がみんな、俺より先に逝く!?
なんでこんな、命が粗末に扱われなきゃならないんだ!
もう、人が死ぬのは嫌なのに……!」
リヴィオを膝に乗せたまま、何度も何度も地面を叩く。
それが無意味だと分かっていても、溢れる何かをぶつけていないと壊れてしまいそうだった。
「……だったら、力を貸してくれ。
立ち止まれば、それこそ何もかもが無駄になる」
不意に、俯いたままの少年が口を動かす。
その言い様には全く感情が籠もっていなくて、僕は行き場のない勢いのままに怒鳴りつけてしまいそうになった。
だけど、気付いてしまう。
膝の上に置いた彼の握り拳は震えていて、その甲には小さな水滴の痕が残っている事を。
「……あそこに見える俺の協力者は、まだ生きてる。
だけど、出血がひどくてこのままじゃ間違いなく保たない。
もしかしたら研究所に行けば助かるかもしれない。医療棟がありそうなのはあそこくらいだ。
だからもう一度言う、手を貸して欲しい」
――そうだ。
目の前に消えかけている命があるなら、手を伸ばす。
そうして生きていくと、誓ったんじゃなかったか、僕は。
涙声で、みっともない顔で、僕はそれでも言葉を返す。
「……もちろんだ。僕はこれ以上、誰ひとり死なせたくない」
同時。
ざり、という音が耳に届く。
――上げた視線の向こう側に、人影がいつしか佇んでいた。
**********
《 Legato Bluesummers -狂信者- 》
ずる……ずる……と耳障りな音が止まらない。
全くの不意に背中側から急激な痛みが襲ってきて、咳込めば臓器の欠片が口から漏れる。
使い物にならない右足を引きずりながら、僕は薄暗い物影を進む。
このコンクリートの建物の裏庭に当たる部位だろう、ジメジメとした雰囲気は嫌いじゃない。
「……まさかダブルファングがここまでやれるとは、ね。
だが……まだ足りない。僕は限界を超えていない。
僕のナイブズ様への忠誠心は、この程度では測れない」
687 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:11:44 ID:xXiaLB6g0
本来の再生力さえ備えていれば、限界を測る一助になったかもしれないが――、
結局、終わりは予定調和に過ぎなかった。
右足と元々壊れた左手は失ったが、それだけだ。
砕けた内臓のいくつかも、僕の力ならばいくらでも補える。
問題はない。何一つ。
痛みなど問題なく動けるよう体を調整しているし、今すぐにでも僕は戦える。
だから僕は、あの少女を欲す。
制限を施されていたとはいえ、どういう理屈か初めて僕の技から逃れ得たあの少女は、
僕の忠誠を測る相手として間違いなく期待した成果を出すだろう。
彼女の語る愛が如何ほどのものか、どれだけ大きいのかは僕には肌で感じ取れる。
中々に素晴らしい。
彼女の抱くそれを凌駕してこそ、僕があの方に向ける思いを示せるのだ。
あの、ヴァッシュ・ザ・スタンピードと同様に。
「ナイブズ様……、今、何をしていらっしゃるのですか?」
あの研究所で残り香は確かに感じたものの、それ以後の足取りは庸として知れない。
果たしてあの御方は、どうしてこうも糞どもを放置しているのだろう。
かの全能たる力を奮えば、僕が目にした有象無象などいとも簡単に一掃できるだろうに。
……ああ、だからこそか。
便所掃除など、あの御方に最もさせるべきでない下賤の仕事だ。
だからこそあの御方はGUNG-HO-GUNSを結成したというのに、僕は何を呆けていたのだろう。
あの程度の戦闘で判断力を低下させるとは、それでもナイブズ様にお仕えする身か?
目を閉じて、あの御方の御姿を思い浮かべろ。
脳裏に刻まれた記憶を総動員して、触れるくらいに強く具現化を。
そうすれば――ほら。
「……僕は、あなたに尽くします」
こんなにもはっきりと、ナイブズ様の御尊顔が目の前に。
相変わらずの鋭利な刃の如き眼光は、僕を畏怖させ虜にする。
思い描きさえすれば、声さえ僕の心に届く。
――よくやった。しばし休み、いつでも俺の力となる備えをしろ。
お前にはまだまだやってもらう事がある。
……馬鹿な。
ナイブズ様が、その様なことを仰る筈がない。
見れば、ナイブズ様の像も――うっすらと微笑みかけている。
たとえ僕の妄想でも、けっして“こんな事”は有り得ない。
688 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:12:10 ID:xXiaLB6g0
ならば、この幻影は何だ? この幻聴は何だ?
惑う僕の眼前で、ナイブズ様が次第に薄れ――、
代わりに僕自身の顔が浮かび上がる。
そこにあったのは、鏡だった。
……鏡?
いや、違う。
これは――剣だ。
剣の刃が、僕の顔を写し込んでいるのだ。
その剣は僕の胸を貫いて、無慈悲にただ輝いていた。
色と言う色の欠落した声が、淡々と背後から告げられる。
「……ユッキーに痛い思いをさせたお前を、私は許さない。
あんたが私に何を望んでいようが、知ったことじゃないわ。
私に何かを望めるのはユッキーだけ。お前の言う事なんて、決して聞いてやるものか」
何時から? 何時からこの剣は僕の胸に――?
口を開いてもかすれた息が漏れるだけ。
言葉にしたはずが、形を全く為していない。
「足りないとか限界を超えていないとか云々を独りで喚いた直前よ。
あんた、気づいてなかったの」
ずるり、と剣が引き抜かれる。体の中を異物が擦る感触がする。
力が入らず、目眩がする。
吐き気の割りに何も込み上げるものがない。圧点が完全に麻痺しているのか。
「有り得……ない。この僕が、接近に全く……気付かなかった、だと?」
ごふ、と。告げると同時に口から血が噴出する。
言葉に違わない勢いで、赤い汁は数メートルは飛翔した。
背中を蹴り飛ばされ、体は頼りなく膝をつく。
白濁した思考は集中力を欠いていて、まともに糸を飛ばせない。
自身の体さえ操れない。
無様に前のめりになって、倒れ込んだ。
「私達があんたに近付いたんじゃない。あんたが私達に近づいたの。
……馬鹿なやつ。
お前が殺られたのは私にじゃない。無差別日記を持つユッキーによ」
「…………」
辺りに血の池が広がっていく。
掻き集めようとしても腕すら動かない。
それでもどうにか、もぞもぞと惨めに蠢いて仰向けになった。
「私のユッキーへの愛は絶対。
絶対ってのは、疑いようもなくそこにあること。
だから私は、あんたと違う。私の愛を測る必要なんてないもの。
いちいち比べなきゃ確かめられないあんたの忠誠なんて、所詮ゴミクズでしかないわ」
689 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:12:42 ID:xXiaLB6g0
砂蒸気に轢かれた野良犬の死骸を見る目を僕に向け、少女はその背を僕に向ける。
僕に一抹の価値も感じてないのは明白だ。
「とどめなんて上等なものはあんたにはもったいないわ。
そこで這いつくばって死んでいけ」
抜けるような青空を求めて天を仰いでも、そこは濁った灰色で埋め尽くされていた。
僕が生まれ直せたあの砂漠の星の夏の日は、片鱗すらも見える事はなかった。
冬の寒空が、僕の思い出を蹂躙していく。
汚泥の底のあの街のようなこの閉塞感に、耐えられなかった。
僕は今、あの御方に救って欲しかった。
もう一度でいいから、名前を問うて欲しかった。
「僕は……ただ。
認めて、欲しくて……」
手を伸ばしても、近づけなくて、触れられなくて。
だから、それをすれば、もしかしたら。
ねぎらいの言葉を下さるかもしれないと――、最後の糸を、少女に放つ。
「汚らわしいものを私に近づけるな」
虫でも払うかのように、ぞんざいに切り飛ばされた。
少女は、一瞥すらしなかった。
――ナイブズ様。
僕は何のためにあの砦街を生き延びて、何のためにお側に仕えたのでしょう。
僕の忠誠は……、お役に……。
「何のために? 役に立つ?
……そんな考えるまでもないことを気にしている時点で論外よ。
あんたの主とやらは、さぞやあんたを疎ましく思っていたでしょうね」
…………。
そうか。ぼくがあのひとにみとめてもらえなかったのは。
ぼくが、いきているだけでうっとうしかったからなんだ。
うっとうしさがふくをきてあるいていたのがぼくなんだ。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ないぶずさま。
うまれてきてごめんなさい。
たすけさせてしまってごめんなさい。
おそばにつかえてしまってごめんなさい。
みとめてほしいとねがってしまって、ごめんなさい。
691 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:13:29 ID:xXiaLB6g0
**********
《 Hito -Inteligence Sword- 》
――飛虎の野郎から引き剥がされ、訳の分からない場所に連れてこられて。
ここでの最初の仕事は最悪だった。
何が最悪かって、使い手も斬った相手もどっちもイカレてるって事だ。
後味が悪すぎるぜ。
……この嬢ちゃんの心の在り様は全く理解出来ねぇ。
どんな風に理解できないかって? たぶん、言葉にするだけ無駄だと思うぜ。
敢えて言うなら、だ。
俺が如何にこいつの望む幻を見せようと、それ以上の妄想を脳内で構築して記憶を改竄しちまうんだ。
その意味じゃあ、そんな器用な真似の出来なかったあの男の方がずっと人間らしかったな。
……嬢ちゃんの手でヤツをぶっ刺しちまった時、せめていい夢を見せてやろうと思ったんだが――逆効果だったみたいだ。
イカレ嬢ちゃんはメタクソに扱き下ろしてたけど、都合のいい幻想を否定するのは確かに一種の強さだったと思うぜ、俺は。
あいつ、確かに狂ってはいたが……、正直見てらんなかったね。
ナイブズっつー男も、せめて一度くらいは認めてやりゃあよかったのに。
……まあ、ただの剣に過ぎない俺に、これ以上何ができる訳でもないんだけどね。
やっぱ長いものには巻かれろだよな。
嬢ちゃんに目を付けられたくなんてないし、ずっと普通の剣のふりしてよーっと。
で、だ。
あの男を消してから校庭に戻ったこいつらは、やっぱりというかなんというかまたもギスギスした空気を作ってた。
……胃に悪ぃなあ、胃なんてないけどさ。
キンパに赤いコートの男が、片手に銃をぶら下げて何か言ってる。
「……もう、狼藉はよしてくれ。
身内が死んだんだ。これ以上彼らを狙うなら、僕が君達を止める」
……こいつ、強ぇな。
あのレガートって男は妙なこだわりを見せていたからこそ、嬢ちゃんでも立ち回る事が出来た。
けど、真正面から戦ったらまず負けていたはずだ。
そしてこの男もあのレガートと同じか、それ以上に強い。
勝てる見込みは0だ。
「由乃。もう、いいよ。
僕たちだって敵は作らない方がいいに決まってるじゃないか。
行こう。ひとまずそっちの人が目を覚まさないうちにさ……」
雪輝って坊ちゃんも同意見らしい。
嬢ちゃんをどうにかできるのは、やっぱりこいつだけか。
そういう意味じゃ、この坊ちゃんにだけなら後で正体を明かしてもいいかもしれない。
……そんなチャンスがあればだけどな。
「……ユッキーがそう言うならいいよ。でも――」
案の定素直に頷く嬢ちゃん。けれど、険のある目で歩って兄ちゃんをじっと見つめている。
目的はアレか、雪輝日記ってやつか。
692 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:13:49 ID:xXiaLB6g0
「……安心してくれ、悪い様にはしない。
手痛い損害は受けたけど、それでもまだ俺はあんた達とは友好的でありたいんだ。
そのうちまた連絡する。だから今は、退いてくれ」
流石に歩の兄ちゃんも完全に表情を消して、用件だけを静かに告げる。
雪輝の坊っちゃんはそれを受けて頭を下げると、嬢ちゃんの手を取って歩き出した。
「行くよ由乃。……どうにか脱出する手段を見つけよう。
僕達二人で、探すんだ」
雪輝の行動に喜んで、とても可愛らしく嬢ちゃんは微笑んだ。
仕草だけを見たんなら、誰もがそう思うだろう。
「分かったわ、ユッキー。私、頑張るね。
ユッキーを絶対に守って見せるからね」
……幻覚を見せる為に記憶を読む俺だからこそ分かる。
この嬢ちゃん、あっちの歩の兄ちゃんの仲間を人質に取ろうとしてやがる。
安藤とかいうのとか、竹内理緒とかそういう名前の奴らだ。
それ以外でも、関係者と分かったら絶対容赦はしないだろうな。
雪輝日記とやらを取り戻すためには、どうやら手段は選ばないらしい。
……おっかないことこの上ない。
そうして、歩き出そうとするその直前の事だった。
――どうやら、放送とやらが始まるらしい。
その最中。
読み上げられる名前の最初の方で、雪輝がぴたりと固まった。
「――そんな、秋瀬君まで……?」
それは、どっかで聞き覚えのある名前だった。
歩の兄ちゃんも、沈痛な表情をして目を瞑っている。
金髪赤コートの表情も似たようなもんだ。
敵対感情とか、利害の一致とか、そんなのを全部抜きにして。
ここに集った全員が、静かに放送に耳を傾ける。
彼らはみんな、沈黙のうちに思い思いの感情を整理しているんだろう。
たった一人――我妻由乃を除いては。
嬢ちゃんがじっと見つめる視線の先には、一つの鞄が落っこちている。
誰のものかも分からないそれの破れた穴からは、白い楽譜と禍々しい程に赤いアクセサリーが覗いていた。
【G-2/中・高等学校校庭/1日目/昼(放送中)】
693 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:14:09 ID:xXiaLB6g0
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、貧血(小)左肩に深い刺創(布で縛って出血を抑えている)
[服装]:月臣学園の制服(血に染まりつつある)
[装備]:小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら、雪輝日記@未来日記
[道具]:支給品一式、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
0:放送を聞き、その内容を検討。
1:結崎ひよのに連絡を取り、今後の相談をしたい。
2:グリフィスを研究所に連れて行き、医療棟を探して自分の肩もろとも治療する。
3:ヴァッシュに同道してもらい、グリフィスと自分の護衛として動いてほしい。
4:少し時間をおいた後、天野雪輝に連絡。
グリフィスが納得する形での協力関係を模索する。
5:島内ネットを用いて情報収集。
6:首輪を外す手段を探しつつ、殺し合いに乗っていない仲間を集める。
7:安藤と東郷が携帯電話を入手したら、密な情報交換を心がける。第三回放送の頃に神社で、場合によっては即座に合流。
8:自分の元の世界での知り合いとの合流。ただし、カノン・ヒルベルトの動向には警戒。
9:『砂漠の星の兄弟(姉妹?)』に留意。
10:『うしおととら』と、彼らへの言伝について考える。
11:神社の本殿の封印が気になる。
12:コピー日記の紛失について苦い思いと疑念。
13:リヴィオや或の死について――?
[備考]
※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
※主催者側に鳴海清隆がいる疑念を深めました。
また、主催者側にアイズ・ラザフォードがいる可能性に気付きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変である事を知りました。
※考察に関しては、第91話【盤上の駒】を参照。
694 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:14:43 ID:xXiaLB6g0
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:ショックによる重度意識障害、疲労(小)、両脚を大腿部から喪失、
全身(特に顔面)に擦過傷(中)、鼻骨粉砕、左手首骨折、左眼球失明、
頸椎捻挫(中)、内臓にダメージ(小)、貧血(大)
[服装]:血塗れでボロボロの貴族風の服
[装備]:居合番長の刀@金剛番長
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:部下を集め、主催者を打倒する。
0:…………。
1:ガッツと合流したい。
2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける。
3:役に立ちそうな他の参加者と繋ぎをつけておく。ゆの、沙英、銀時との再合流は状況次第。
4:未知の存在やテクノロジーに興味。
5:ゾッドは何を考えている?
6:あの光景は?
7:鳴海歩へ強い興味。
8:喪失感による強い絶望。
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※沙英、銀時と軽く情報交換しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※風火輪で高空を飛ぶと急激に疲れることに気付きました。
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:頬に擦過傷、疲労(小)、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス、リヴィオの帽子
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。生き延びて、リヴィオの帽子を持ち帰る。
0:放送を聞く。
1:鳴海歩に同道、研究所にグリフィスを連れていく。
2:ロビンを探したい。
3:ナイブズは一体何を――?
4:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
5:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
6:なるべく早く植木達と合流したい。
7:リヴィオに――。
[備考]
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。
695 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:15:07 ID:xXiaLB6g0
【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:無差別日記@未来日記、ダブルファング(残弾25%・25%、100%・100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×2、違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾19発、
ハリセン、ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、不明支給品×2
[思考]
基本:ムルムルに事の真相を聞きだす。
0:放送を聞く。
1:由乃を制御していく。
2:これ以上由乃を刺激しないよう、いったん鳴海歩と距離を取る。
後ほどあらためて交渉したい。
3:寝ている時に見たあの夢は何だろう?
4:リヴィオや或の死に動揺。
[備考]
※原作7巻32話「少年少女革命」で由乃の手を掴んだ直後、7thとの対決前より参戦。
※咲夜から彼女の人間関係について情報を得ました。
※グリードから彼の人間関係や、錬金術に関する情報を得ました。
※秋瀬或やグリフィスと鳴海歩の繋がりには気付いていません。
※無差別日記の機能が解放されました。
【我妻由乃@未来日記】
[状態]:疲労(中)
[服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
[装備]:飛刀@封神演義
[道具]:支給品一式×6、パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマム、
関銃弾倉×2 ロケットランチャー予備弾×1、
FN P90(50/50) FN P90の予備弾倉×1、メモ爆弾、
拡声器、各種医療品、機研究所のカードキー(研究棟)×2、
不明支給品×2(一つはグリード=リンが確認済み、もう一つは武器ではない)
[思考]
基本:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
0:放送を聞く。
1:雪輝日記を取り返すため鳴海歩の関係者に接触し、弱点を握りたい。
人質とする、あるいは場合によっては殺害。
2:ユッキーの生存を最優先に考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
3:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
4:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
5:鳴海歩と安藤(兄)の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
6:校門付近のデイパックの内容物に興味。
[備考]
※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
※安藤(兄)と潤也との血縁関係を疑っています。
※秋瀬或やグリフィスと鳴海歩の繋がりには気付いているかは不明です。
※飛刀は普通の剣のふりをしています。
696 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:15:31 ID:xXiaLB6g0
※風火輪@封神演義がグリフィスの両脚に接続したまま、グリフィスから数メートル離れた場所に転がっています。
※エレンディラの杭打機(23/30)@トライガン・マキシマム 、リヴィオのデイパック(支給品一式、手錠@現実×2、ニューナンブM60(5/5)@現実×1、
.38スペシャル弾@現実×20、、警棒@現実×2、詳細不明調達品(警察署)×0〜2、警察車両のキー 、No.11ラズロのコイン@トライガン・マキシマム)がリヴィオの死体付近に転がっています。
※単分鎖子ナノ鋼糸は、レガートの死体の持つ一本を除いて校庭にバラバラに撒き散らされています。
※デイパック(真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜)が校門付近に落ちています。
【飛刀@封神演義】
趙公明の部下余化が所有し、後に黄飛虎、黄天祥が愛剣とした刀型の妖精。
自我を持ち、任意の形状に変形、伸縮できる特性を持つほか、触れた人間の記憶を読み取り
刀身部位に幻影を映し出すことも可能。
性格は至って小物で長い物には巻かれる主義。
しかし、何だかんだ言って根本的には人がいい憎めない存在である。
**********
《 Aru Akise -寓話探偵 / 観測者- 》
「……多分、すぐ近くにいらっしゃるんでしょう?
少しお話したい事があるのですが」
「……場所の特定はできなかったが、心音は消えていなかったからな。
どういう絡繰かは知らないが、幻を見せて俺の攻撃を避けたのは分かっている」
「音源の撹乱は気圧変化による音波の屈折――、
視覚情報も同じ原理による蜃気楼ですよ。
まあ、余波だけでも実際に気絶してしまったのは誤算でしたけどね」
「どういう了見だ?
種も明かした以上、同じ手は二度と通じんぞ」
「……いえ、今に限っては平気でしょう。
あなたは僕を――僕達を殺すつもりはない。
そうでなければあんな事はしなかった、そうですよね?」
「何を言いたいのか分からないな」
「あのヴァッシュという人を呼んだのは、貴方だ。
指向性を持った音波をヴァッシュさんに向けて放ったからこそ、あの人が学校を目指した。
そして、我妻さんへの抑止力となることを目論んだんです」
「あの男を見かけたのは偶然だ。
ブルーサマーズに睨まれた時は相当慌てていてな、荷物も少し失くしてきた」
「……何故そんな真似をしたんです?」
「“『歯』が立たなくたって、『牙』なら突き立てられるかもしれませんよ”……か」
「え?」
「なんでもない。ただの気まぐれだ」
697 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:16:14 ID:xXiaLB6g0
「……そうですか」
「ああ」
「コピー日記とは、歩さんも随分とエゲツない札を隠し持っていたものですね。
まあ、どさくさに紛れて回収できたのは幸いでしたが」
「……唐突だな。何が言いたい?」
「気まぐれついでにひとつ、あなたにお願いがあるのですが。
ロハでとは言いません、今後あなたの事は一切漏らさないと確約しますよ」
「……別に俺はパートを変えたつもりはない。
バリトンに浸りきった奴がソプラノを担当しても、コミックバンドにしかならないだろう?」
「僕にはドブのように淀んでいたはずのあなたの目が、少し色を取り戻したように見えますが。
……闇の底で光を見つけでもしましたか?」
「錯覚だな。減らず口を叩くなら、お喋りはこれきりだ」
「……人は生きる限り常に情報を取り込み、少しずつその在り様を変えていきます。
変化は決して、悪い事じゃありませんよ。特にどん底にいるならなおのこと、後は駆け上がるだけですからね」
「餓鬼が知ったような言葉を吐くな。
……俺に何を求めているんだ」
「人の声を聞き分けて対となる位相で打ち消せる――、
それはつまり、言葉さえその楽器で再現可能という事ですよね?
……間もなく訪れる放送の時、その主の声と同じ波長で、僕の名前をあちらにいる彼らに聞かせてください。
僕の死を、偽装してほしいんですよ」
「どんな企みをするつもりだ?」
「僕なりに、運命に抗おうと思いましてね。
……それが、僕の死に憤ってくれた人への返礼です。
彼に謝ることがもう不可能だというのなら、せめて僕は自分の嘘を貫きたい。
死人の立場でしか、出来ない事があるはずですから」
「――一度だけだ。
その後は俺はまた、闇の底に舞い戻る。
結局、それしかできる事などないのだから」
「感謝します」
【G-2/中・高等学校裏庭/1日目/昼(放送中)】
698 :この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:16:53 ID:xXiaLB6g0
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:疲労(小)、左肩に銃創、右こめかみに殴打痕、感覚機器がやや麻痺
[装備]:コピー日記@未来日記、クリマ・タクト@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真
ニューナンブM60(5/5)@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、
警棒@現実×2、手錠@現実×2、携帯電話、
A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、
A3サイズのレガートモンタージュポスター×10、
[思考]
基本:雪輝の生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
0:放送を聞く。
1:『神』の謎を解く
2:偽装した自身の死を利用して、歩や由乃に感づかれないよう表に出ずに立ち回る。
3:コピー日記により雪輝たちの動向を把握、我妻由乃対策をしたい。
4:探偵として、この殺し合いについて考える。
5:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に貼っておく。
6:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
7:探偵日記の更新は諦めるが、コメントのチェックなどは欠かさない。
8:『みんなのしたら場』管理人を保護したい。
9:リヴィオへの感謝と追悼。
[備考]
※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
※蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※リヴィオからノーマンズランドに関する詳しい情報を得ました。
※鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
詳細は第91話【盤上の駒】鳴海歩の状態表を参照。
※みねねのメールを確認しました。
みねねが出会った危険人物及び首輪についてのみねねの考察について把握しました。
※参加者は平行世界移動や時間跳躍によって集められた可能性を考えています。
※ミッドバレイとリヴィオの時間軸の違いを認識しました。
※ガッツと胡喜媚を要注意人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
※コピー日記(無差別日記)の機能が解放されました。
397 :
代理の代理:2010/02/18(木) 18:51:36 ID:OJU2e1iI
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:疲労(小)、背中に裂傷(治療済)
[服装]:白いスーツ
[装備]:ミッドバレイのサックス(100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、サックスのマガジン×2@トライガン・マキシマム、
ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、エンフィールドNO.2(1/6)@現実、銀時の木刀@銀魂、
ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、
No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム、
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すかもしれない存在を見つけて……?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、由乃に対する強烈な恐怖。
1:慎重に情報を集めつつ立ち回る。殺人は辞さない。
2:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
4:或の情報力を警戒しつつも利用価値を認識。
5:ゲームを早く終わらせたい。
6:鳴海歩を意識。ひとまずは放置するが、もし運命を打開して見せたなら――?
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※ガッツと胡喜媚を危険人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
【ミッドバレイのサックス@トライガン・マキシマム】
凄まじい音量と音域の広さを持ち、衝撃波による攻撃さえ可能なミッドバレイの特注サックス。
衝撃波は物理的な破壊のみならず、脳の中枢を共振させて視覚障害などの内部ダメージを与える事すら可能とする。
また、機関銃が仕込まれており、音楽を奏でる余裕がない場合や奇襲にも用いることができる。
ちなみに、アニメ版ではシルヴィアという名前がつけられている。
【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム 死亡】
【レガート・ブルーサマーズ@トライガン・マキシマム 死亡】
398 :
代理の代理:2010/02/18(木) 18:59:14 ID:OJU2e1iI
700 : ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:21:53 ID:xXiaLB6g0
以上、投下終了です。
どなたか可能な方に、代理投下をお願いしたく思います。
それと、投下時にミスが2つほど。
まず、タイトルの振り分け方なのですが、
『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中)』の始まりは、中途半端な
>>669ではなく
>>666のミッドバレイパートからです。
間違えて雪輝パートと一纏めにした挙句、タイトル変更を忘れていました。
それと、文字化けを発見した為、
>>690を
>>691に差し替え
代理投下終了です
もしかしたら怪我人だけで死人は出ないかもと思ったら死人は出たか
でもレガートの方が死ぬとは予想外いいいいイイ!!
ユノこえええええ!!
今は抑え役がいるから大丈夫っぽいけど…
鷹さんは原作みたいに重傷…だと…そしてべべリットキター!
或は或で生きてたがどう動くやら
この難しいパートを良く書き切った GJ!
代理の代理ありがとうです
なんどもさるさんに引っかかって時間かかりまくったぜ…
◆JvezCBil8U氏も代理氏も代理の代理氏も乙
レガート、なんか目から熱い水が……ヤンデレ強し
そして蝕フラグ立ったのだろうか
もしそうならめくるめく鬱展開の予感w
それと気になること一つ
ヴァッシュ3/4も黒髪化してるのに金髪呼ばわりされているのは変じゃないか?
金メッシュとかなら分かるんだけど
投下乙
誰かが死ぬとは思ったがこの二人か
リヴィオ、お休み
レガートが歪んでたが最後までナイブズに忠実だったな
ヤンデレこええなw
歩も鷹も或も今後が楽しみだ
それにしても70人が第二放送前で半数近く死亡か
放送間の死亡者はここより多いロワは多いけど第二放送前で半数とか珍しいかも
wikiに収録中に気付いたのですが、◆23F1kX/vqc氏の「まっすぐに立っているか」において宝貝が宝具になってます。
鳴海と由乃の知略合戦が地味にすげーな、変化後の予知内容を予測ってどれだけ先読みしてんだよw
スパイラルまだ把握してないけどこんなことまで出来るのか?
まあ由乃の暴走が全部ぶち壊しにしてるが
死亡偽装した或も加わって、放送後もこの三人の読み合いは終わりそうにないな
あと雪輝に覚醒フラグがついたな、無差別日記も解放されたしこいつが一番ヤバい気もする
原作序盤は鳴海は推理力は凄いが…なキャラだったが兄貴の試練とひよののおかげで凄味が加わった
由乃も序盤から病んでたがまだ弱いイメージはあった。だが回を重ねるごとに人間以外の何かに変化したと言うべきか…
雪輝と或も参戦時期以降の原作が凄まじいぞw
これは鳴海と或の知略を由乃やレガートの暴力と本能が凌駕したのだろうか?
レガート乱入は運の領域だったけどそれでも生きてる由乃は凄い
鳴海がすげえ!流石推理の絆!!
意思も持たざる力も持った男だからこその運の良さ……か?
スパイラル勢が一斉に死んじゃった時は不安だったががんばれスパイラル!
しかしユノばかりが運がよすぎるというか……マーダー補正?いつか痛い目に会ってほしい。
ちょっと事情が重なって短くなりましたが、
投下開始します。
サバイバルナイフはあえて切れ味を落としている。
切れ味を持たせると、傷を負ったときにサバイバル環境から病院へ行く間に手遅れになるからだ。
このデチューンが生死の分かれ目なのをスパスパの実能力者が聞いたら、威力を落として欲しいと願うだろうか?
悪魔の実がある元の世界ではありえない話だが……
++++++
「さすがに疲れましたわ……」
鈴子は刃の足を元に戻した。立体映像を目指していたら、具合よく市街地に入ることができた。
三人組に出会うことがなかったのは幸運やら不運やら。
右も左も家、家、家。しかも人の気配というか、破壊の跡が無い。鈴子の指針が揺らいだ。
ここを虱潰しに探して行けばビーズの1個2個どうってことないじゃないのか。ネックレスでもあれば引き千切ればいい話だ。
……たぶん。
せっかく生き残っているのだ。チャンスは逃しちゃいけない。
寄り道ぐらい許されたっていいだろう。仲間を作らない自分にとって、身を守る攻撃は最大の防御なのだから。
あのフサフサした可愛い子はアニソンに合いの手を入れている。まだ余裕はありそうだ。
あの酔っ払いは騒音の条例違反で逮捕でもされればいいのに、と現状とはかけ離れた愚痴を漏らす。
「待っててください。ビーズが手に入ったら必ず貴方を保護しますわ」
眼鏡のつるに汗が溜った。
拭っても気持ち悪い。どこかの家にお邪魔して服を拝借しよう。
「あら、何でしょう?」
←診療所
小さい看板が、海の方角に向かって立てられていた。
きっと離れ孤島にふさわしく、小さな診療所があるのだろう。
薬。万能薬は持ってるが使いすぎは考えものだ。消毒液や赤チンぐらい欲しい。さびれた診療所でもこれぐらいは望める。
連なった民家の間を縫って舗装されてない道を進むと、離れた場所に診療所が見えた。薬をいただいてさっさとビーズ探しを始めたいが、剥き出しの赤土の道は、刃を滑らすにはあまり向いていなかった。鈴子は己の足で駆けた。
「きゃっ!?」
何かに足を取られた。身体の前面を全て使って、盛大にスライディング。汗だらけの服に砂がこびりつく。今ここで着替えたくなった。
すりむいた膝の砂も軽く払う。診療所に向かう理由が増えた。それにしても、何に蹴つまづいた?
「お、お地蔵さん?」
祠からせり出て、地蔵がうつ伏せに倒れていた。祠の隣に土が盛ってあり、こぶし大の石が乗っていた。
手向けのつもりなのか、造花が刺さっている。
察した。
これはお墓。
きっと放送で呼ばれた誰かの。
無償に苦しくなった。墓を作ってくれる『仲間』が、ここに眠る人にはいたのだ。一人しか生き残れないと言われているにも関わらずだ。
一緒にいただけの烏合の集でも、こんな状況下で組めば情でも移るものなのか?
長くてもせいぜい半日の付き合いなのに。
鈴子の考えはひとつの不安にたどりついた。
もしかして、仲間を作ってないのは自分だけなのではないだろうか。
三人組は理由は知るよしもないが固まっていたし、立体映像の子は酔っ払いと(考えたくもないが)コンビを組んでいるようにも見える。
教会で見かけた男たちだって二人組だった。
例え『独り』を選んだ道が正しくとも、不安は消えず増すばかりだ。
(それでも、仲間はいりませんわ。私の全てはロベルトのためのものですもの。
それに腕に刃を接触させてしまった女の子だって一人でした。誰かに裏切られて身ぐるみ剥がれたのでしょう)
割りきれない自分に嘘をつき奮い立った。
地蔵を起こし、手を合わせる。縁起担ぎのつもりでもあったし、隣の墓の主に粗相がないようにしたかった。
が、鈴子はそもそもの問題に気づいた。
「このお地蔵さん、急に倒れて来なかったかしら!?」
確証はない。ただの足元不注意だったかもしれない。
けど、地蔵が倒れていればさすがに目につくはずだ。
祠の中を確認するも、特別な仕掛けは無さげだ。
気味が悪い。鈴子は祠を後にした。
誰も見ていなかったが、ささやかな幸運が水面下でおこっていた。
鈴子が転んだ直後、ツインテールの少女が診療所から逆方向へ走り去っていた。
その少女はとっくに殺し合いに乗っていたのは、黄泉路をたった今歩き出した医者だけが知ること。
もしこのまま鈴子が進んでいたら、いくら精神がまいった少女でも気づいただろう。
姿を消し、スタンガンを構えていたかもしれない。
◇ ◇ ◇
「少しだけお邪魔しますわ〜」
誰に断るでもなくそろそろ声をかけ、診療所のドアをくぐる。
無音。
さすが海近郊の診療所といったところか、防音工事がされているようだ。
これなら医者も安心して聴音器らでの誤診を防げる。あのうるさい酔っ払いの歌もほとんど聞こえない。
玄関のすぐ右手に待合室が控えていた。L字にソファーが並び、テレビが置いてある。壁には額に入ったモノクロの集合写真がかけてあった。これまでここに住んでいた島民が集合したところか。
「いえ、違いますね……この顔は見覚えがありますわ」
わかりにくいが、最初に集められた場所で女の子を焼失させた奴と、色黒の幼女が混じっていた。
申公豹とムルムルといったか。
その他の人間は知らない人ばかりだ。
何の気なしにテレビのスイッチを入れた。
『ムルムルのお天気情報!』
鈴子は目をかっ開いてテレビの側面を掴んだ。あの悪夢の元凶が、ブラウン管の向こうで楽しげに笑っていた。
殺し合いに引きずり出した張本人が、憎々しいほど可愛い顔で電波に乗っている。
ビーズがあればテレビをぶっとばすぐらいに頭にきた。
トウモロコシをマイク代わりに、島の地図を指さすムルムル。
『本日午前中の天気は晴れじゃったが、昼からは曇り、夕方には雪が降るぞ。
氷点下5度まで下がるのじゃ。積雪は島全体に少なくとも1、2センチはあるじゃろう!山の方は特に防寒が必要じゃ!
今、あられもない恰好をしてる奴が多いでのー、そのままならとても持たないじゃろうなぁ』
「何を言っているんです?海のそばには雪は降っても積もらないのですよ?
簡単な理科の問題ではないですか!
それ以前に日本海側ならともかく、こんな小さな島に雪雲が作られるのもおかしいですわ!」
そこまで一人まくしたてた鈴子は、画面を殴ってうずくまった。
『神』は天気なんて、ものともしないんだ。
こんな重要な情報も、あいつらにとっては近づく手掛りにもならないのか。
とぼとぼと診察室へ向かう。廊下に転々と赤い液体が滴っているのにやっと気づいたのはこの時だった。
血の跡は片道だ。出血してる人が入ってきたか出ていったかのどちらか。
未だ診療所は無音である。出ていったと考えるのが自然だが……
誰もいない、誰もいない。
そう念じて鈴子は診察室入り口の壁へ背中を張り付けた。
息を整える。診察室に何があってもおどろかないように。
そろそろと覗く。
「あ、ああ……やっぱり……」
色鮮やかな水溜まりが、真っ白な診察室に映えた。
医療関係の匂いに間違いないとはいえ、離れ小島の診療所にはあまりに似つかわしくない鉄分臭。
血にまみれた男が、医者の椅子に座ったまま俯いていた。
髪の束を拾ったときよりも、女の子の腕をぶった切ってしまったときよりも強く感じる直接的な死への恐怖。腹の底から冷えていく。
ぴち、とまだ血が滴る。
息はもうしていない。けど小説なんかで見る死斑も出ていない。
今しがた、命がすれ違った。
誰かに襲われて傷を負いながら診療所にきたが、成す術なく死んでいったのだろう。
目当ての医療品はほとんど持ち去られていたのだから。
鈴子は精神だけ痛めつけ、無駄足を踏んだことになる。
だが天使でも悪魔でもない自分が囁く。
この人の首輪を取って解析したらどうだろう。本格的な爆弾は専門外だが、爆弾の能力者ではある。一般人より知識はあるつもりだ。
それを三人組に会った時に伝えてみれば、介入できる可能性も高くなる。
ヒトゴロシと罵られる筋合いは無いし、あっちは少なくとも一人(植木)以上殺している。
そう考えると、首輪もきっといくつか持っているだろう。解析に使うにしたって、専門分野の人材とサンプルは多い方がいいに決まっている。
痩せた男の、血に濡れてない肩に触れてみた。まだ温かい。
もう亡くなっているが、首を落とす決心はなかなかつかない。
普通、肉塊を斬るには鋭い刃かノコギリが必要だが、鈴子はすでに全身刃物人間になっている。
研がずとも切れ味は下手な日本刀に勝る。逆にそれが原因で鈴子を迷わせた。
道具を使わず自身の腕で、直接斬る罪悪が襲う。
女の子にぶつかった感触を思い出してしまう。
スパスパの実の能力は鋭過ぎた。
異常に滑らかな切り口から、ほんの少しの間が空いた後吹き出す血潮。
皮膚に食い込み、筋を垂直方向から両断し、骨がぬるりと斬れた。カミソリで紙を切る方がまだ手応えがある。
かえって生々しい感触がないことがこんなに気持ち悪いなんて。たったこれだけで人を刻める能力が怖い。
女の子の腕の場合は事故であり、過失は自分にある。だがあくまで故意ではないので、保身のため精神の逃げ道は残されていた。
これから選ぼうとしているのは、もう一度、今度は自らの意思で腕の惨劇を繰り返す道だ。
それも検死解剖の仕事か、気の違えた人間以外なら絶対にやりたくない肉体解体作業。
腕を刃にしては戻す。
冷や汗にまみれ、震える。
頬に手を当て、崩れた。
できない。
悪魔の実を食べるのを、もっと後にすればよかった。
そうすれば女の子の件も悩まずに済んだし、首を落とすのもすっぱり諦められたのに。
鈴子は自分を呪った。
窓辺に造花が飾られているのを見るまでは。
「あの造花……」
墓に添えられたものと一緒だ。
首を落とすか否かと考えるまで、墓の大きさに気が回らなかった。
(大の人間を埋めたには、土の盛り方が小さすぎでした。首だけが埋まっているに違いありません。
それなら墓の主を埋めたおナカマ様は十中八九首輪を持っていったでしょう。
あぁ、ナカマなんてそんなものですわ。
所詮他人、死んだら奪うも自由ということなのですね!)
全身を刃に変えた。
(仲間はいりません。
もう迷いません)
鈴子は無理矢理道を切り開いた。
ツインテールの少女が進むような修羅の道でも、
重すぎる愛を捧げる少女が進む地獄の道でも、
絶望を味あわせたい男が進む魔物の道でもない。
ただのひん曲がった下り坂だった。
++++++
街を妖怪が駆ける。
腹を減らした金色の風は、食料を探しつつよだれを垂らした。
若い女を食べたい。
できるなら香水も飾りもつけてない奴がいい。
ゲロまみれは流石に嫌だ。
「早くうしおを食いてぇ。お?」
ずいぶん遠くで、女が両手を大きく振ってこっちに向かってくる。
星を飛ばして輝かんばかりの笑顔で、舞い踊ってくる。獣の姿のとらに、警戒心も抱いてないようだ。
とらは足を止めた。
というか、このまま口を開けて待っていれば、女が勝手に胃袋へ収まってくれる勢いだった。
爪を構え、こっちも諸手を広げた。顎が落ちんばかりに口を開ける。
「かわゆいですわ──!!」
(……可愛い?今可愛いと言ったか?)
女はとらの期待と少しズレ、口ではなく胸にすっぽり収まった。体毛に顔をうずめ、体を抱きしめてくる。
いまいち女の言動を理解できないとらをよそに、女は歓喜と恍惚の溜め息を漏らす。
「はぁ〜〜、ふわふわですわ……」
「く……臭せぇぇえ!!」
女の真っ白い着物から、鼻につく薬の匂いが立ち上ってくる。ごろごろ摺り寄る女は臭いを意にも介さない。
──女は汗と血だらけになった服を捨て、病院着と白衣を拝借していたのだ──
もったいないとも思ったが、とらは女を一度ひっぺがした。
まだ懲りないのか、次は背中に抱きついてきた。
このまま仰向けに倒れて潰してやったら気絶するか?
背中の荷に女が引っかかった。荷ごと下ろし、振り回す。
とらの力と遠心力が釣り合うはずもなく、ベルトがぶち切れて嬌声と共に飛んで行った。
衝撃で荷から大量の紙が吹き出る。
「っへ……
変態ですわ────!!!!」
気分が高揚していた女は叫んだ。
それが本来、森あいの専売特許である変態認定ゼリフだったのは皮肉か因果か成り行きか。
卑怯番長も利用価値を見出せかった支給品が、そこら一帯に散らかった。全て一人の少年の写真だった。
冷蔵庫を物色する少年の写真。
料理を味見する少年の写真。
家計簿をつけたまま寝ている少年の写真。
教科書を持って微笑む少年の写真。
汗ばんで水道水を飲む少年の写真。
耳かきを向けてあおりのアングルで撮られた少年の写真。
更に、引き延ばしてポスターにされた洗濯物を干す少年の写真。
被写体は誰なのか?
何の目的で撮ったのか?
どうしてこんな盗撮くさいのか?
というかそれ以前に、なんでこんなのが支給されるのだ?
言いたいことが多すぎて、話題に出すのが面倒だ。
それより。
「あ゛あ゛あ゛あ゛、臭ぇ!消毒液臭ぇ!香水より臭ぇ!」
「静かにしてください!貴方は私が保護します!」
「めんどくせぇ、とりあえず離れて脱げこれでもか!」
腹は減ってるが、かわゆい扱いする女には闘志も減る。しっかり訂正してやろう。
常人の感覚で言うなら『恐ろしくも猛々しい、見たこともない獣』、
鈴子に言わせれば『ふわふわでさらさらな、ちょっと隈取みたいな模様をしたかわゆい生き物』が、ぎゅるぎゅると姿を変えていった。
金色の体毛を漆黒に。
身体は人間の四肢として伸びる。
白いシャツ、黒いベスト、赤いスラックスを纏う。
「貴方……人間だったのですか!?騙したのですね!!」
「が───ッッ!!!!今日はどいつもこいつも変態野郎だ白面だ女だでろくでもねぇ!!
わしは化け物だ!」
「どんな能力か知りませんが、もう騙されませんわ!」
とらが「これなら一発でわしが動物じゃないかわかるだろ」と変身したのは、散らばった写真の人間だった。
写真では体格がわからないので身体の特徴は適当。
さぁ舌を巻け!と変身をお披露目したら、きゃー!でもぎゃー!でもない妙なことを騒ぎたてる。
ゲロまみれ女よりマシな反応にしても、もう少しいい騒ぎ方してくれたって……
時は放送直前。
依然空回りする少女は、空腹の野獣を前にしても我が道をゆく。
【I-8/路上/1日目 昼(放送数分前)】
【鈴子・ジェラード@うえきの法則】
[状態]:疲労(小)、左足首捻挫 、膝に擦り傷、スパスパの実の能力、カナズチ化
[服装]: 白衣
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、妖精の鱗粉@ベルセルク 、手ぬぐい×10 首輪×1
[思考]
基本:このゲームの優勝賞品が空白の才ならそれをロベルトの元へと持ちかえる
1:自身の悪評が流れない内に三人組の口封じをする。ゆのは……
2:他人は信用できない。だが集団に入り込む努力はする
3:このゲームが自分達の戦いの延長にあるかを確かめる。
4:ビーズやその他の道具の確保は一時保留、折を見て探索する。
5:情報を集め今後どうするかを考える。特に他の参加者への接触は慎重に行う。
6:この戦いが空白の才を廻る戦いであり、自分に勝てない参加者がいるようなら誰も死ななかった時の全員死亡を狙う。
[備考]
※第50話ロベルトへの報告後、植木の所に向かう途中からの参戦です。その為、森とは面識がありません。
※能力者以外を能力で傷付けても才が減らない可能性を考えています。実際に才が減るかどうかは次の書き手に任せます。
※気絶させても能力を失わない可能性を考えています。気絶したらどうなるかは次の書き手に任せます。
※とら=安藤(兄)だと思っています。
※とらが人間の変身能力者だと思っています。参加者に人間以外が混ざってると思い至っていません。
【とら@うしおととら】
[状態]:ダメージ(小、回復中)、安藤(兄)の姿(背丈は適当)
[服装]:
[装備]:万里起雲煙@封神演義
[道具]:支給品一式×7、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×1)@トライガン・マキシマム、逃亡日記@未来日記、
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数5/12)@現実
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×2、詳細不明衣服×?
[思考] だめだこいつ。早くなんとか食わねーと。
基本:白面をぶっちめる。
1:臭え!
2:人間、特に若い娘を食って腹を満たしたい
3:強いやつと戦う。
4:うしおを捜して食う。
[備考]
※再生能力が弱まっています。
※餓眠様との対決後、ひょうと会う前からの参戦です。
※I-9に伊澄の墓、その隣に地蔵があります。
伊澄と地蔵に関係があるかどうかは次の書き手さんにお任せします。
※診療所に参加作品に関係ある人間数人(特に『神』に関係ある人物の)集合写真が飾られています。
【安藤(兄)写真コレクション@魔王 JUVENILE REMIX】
安藤(兄)遺影ポスターと、膨大な量のスナップ写真。
安藤潤也撮影・所有物。限りなく黒に近い盗撮くささ以外は、なんの変哲もないただの写真。
以上、投下終了です。
鈴子を中心に書いたら、雪路並にひっどいことになってしまいました……
投下乙です!
鈴子はもう、ほんとにもう……w
とらもとらでもっと落ちつけよとw
……しかし診療所の写真が意味深だなあ。
主催陣を写したものだとするとこれが歩や或に渡ったらどうなる事か。
あと、伊澄の墓を作ったのはキリコなのかな、やっぱり。
地味に響くな、こういう描写は。
お二方とも投下乙です
この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上)
リヴィオもレガートもお疲れさま
両者ともに散り際は熱くもあり胸が締め付けられるようでもあり……
それにしても由乃さんは本当に容赦がないww
死亡偽装の秋瀬、また一つ積まれた蝕フラグ、ヴァッシュと合流したぶれない歩など
今後が気になる展開乙です
花の命は結構長い。女ですもの!
鈴子ww真面目に葛藤したと思ったらww
腐ってる……腐ってるのにどこかコミカルで憎めないのがまたなんとも
主催の情報としては診療所の写真やテレビ放送も気になるところですね
衣装替えラッシュくるか!
安藤兄は由乃さんに標的にされたり盗撮写真をばらまかれたり姿を騙られたり
知らないところでさんざんな目に逢ってるなww
投下乙です
おまえら、落ちつけよwww
シリアスとコミカルが混ざり合ってるというかwww
しかし主催陣の写真だと? これは重要かも
そして安藤兄は知らない所で不幸だw
>[思考] だめだこいつ。早くなんとか食わねーと。
ここでまた吹いたw
そろそろ放送が見えてきたな
放送担当と思しきキリエちゃんが逝っちゃったから誰が担当するんだろ
放送が見えてきたのは確かだがまだ22キャラが朝〜午前に残ってたりする
それにしても爆発しそうだったとこが6時間で残らず全部爆発したなw
新しい爆弾も山盛りで
主催陣の仲の悪さも相当だからな、誰がくるやら
キリエちゃんもシンコウヒョウもガニシュカっぽい霧も造反、ムルムルもバックスもアイズも腹に一物抱えてそうと纏まりがなさすぎるw
忠実なのって王天ちゃんくらいだよなー、ああ見えて面倒見がいいしw
両氏投下乙!
しかしすごいな、このロワの歩は。将来的には前回漫画ロワのアカギポジになるんじゃないんだろうか
エド、リン、安藤兄、ひよの投下します
トリップやら、なんやらの入ったUSBメモリを無くしてしまったので念のためトリップを
変えたいと思いますのでご了承ください
旅はここに終わった。
二人で元の肉体を取り戻すという約束は失われ、もはや永遠に果たされる事はない。
弟の笑顔がまた見たい――そんな望みも、二度と叶うことはない。
だが、それでも少年は歩き続ける。このふざけた殺し合いの真実を求めて。
弱さや傷をさらけだす事を厭わずに、もがき続けるのは一歩でも前へと踏み出す為。
それは、他の誰でもない――自分との誓い。
◇
つい先ほどまでの沈黙が嘘のように、再び鳴きはじめた虫の声が広大な山の中にこだまする。
木立ちの合間から洩れる陽光が、初夏の如き強さでエドの金色の髪を照らす。
うっすらと汗が滲む。
涼やかさを生み出すはずの清流は盛り上がった泥によってせき止められ、沈滞した、どこか湿った空気で
満たされたその一帯は少し蒸し暑かった。
「じゃあ、旅館のボイラー室からここに落っこちてきたってのか?」
安藤と名乗った少年の信じられないような話に、エドはリンと顔を見合わせる。
旅館から、この川岸までは直線距離にして四キロメートル以上はある。
以前グラトニーに飲み込まれた際、二人も似たような体験をしているが、恐らくそういった事ではあるまい。
異なる空間を繋ぎ合わせる、あるいは、空間を転移させるような技術は錬金術という分野よりも、どちらかというと
聞仲に聞いた宝貝のほうがカテゴリ的には近いような気がする。
空間そのものを操るような宝貝も、中にはあるとかないとか……
まぁ実際目にしてみないとなんとも言えないが、とりあえず今は空間が妙な具合につながっているところが
この島にはあるとだけ考えておけばいいだろう。
人はいつだって、目の前の問題から解決していくしかないのだから。
「まぁ混乱するのは判るけどよ……オレは落ちてきた兄ちゃんを助けてやったんだぜ」
エドはそう言うと、明らかに不自然に盛りあがった川の中の泥を示す。
この島では、いつもなら簡単に出来る練成一つにも相当の疲労が伴うのだ。
急なトラブルに、敵の攻撃である可能性を考慮するのもわかるが、助けてやって襲われましたでは基本的にお人好しの
エドと言えども憤慨するのも道理である。
「う……でも、その後二人とも襲ってきたじゃないか……」
助けて貰った事には感謝するし、こんな年下の少年たちに刃物を向けた自分にも責任はあるだろうが全ての責任が
こちらにあると言われても納得は出来ない。
そんな不満を燻らせて安藤は呟く。
「……リン。お前も謝れよ」
「なんでだヨ、そんな仲良しごっこやってる時じゃないダロ。
そんな事より、さっきのアレはなんだったんダ?
いきなり意識を奪われたゾ!!」
顔に張り付いたわざとらしい笑顔が消えると、リン本来の凶相が露わになる。
降魔杵を突き付け、先ほどの出来事について安藤に問う。
顔に張り付いたわざとらしい笑顔が消えると、リン本来の凶相が露わになる。
降魔杵を突き付け、先ほどの出来事について安藤に問う。
放っておけばいいと思いながらも放置しきれなかった理由はそれだった。
安藤が手を口元に当てた瞬間、問答無用で意識を奪われたのだ。
正直、こうして拘束していても不安を抑えきれない。
さっきの戦闘でどちらに責任があるかなど、どうでもいい話だ。
この殺し合いの舞台で、何の抵抗も出来ずに突然意識を刈り取られる。
常に暗殺の危機に晒されてきたリンにとって、その能力は脅威の一言だ。
人道主義者のエドが隣にいなければ、危機を未然に防ぐため始末していたかもしれない。
……似たような能力者が他にいないか、情報を得る事も大事ではあるのだが。
「あ、あれは……」
突き付けられた棍棒に、安藤は体をのけぞらせる。
鳥籠の柵に背中が当たる。
捕らわれの身は、目前の圧力から逃げる事も出来ない。
瞼を固く瞑る。
思わず何もかもを喋ってしまいたくなる。
喋ってしまえば脅される事もなくなる。楽になれる。
純粋な暴力を前に、腹話術など何の役にも立たないのは蝉との対決で立証済みだ。
「う……あ……」
しかし、安藤は喉まで出掛かった言葉を寸前で飲み込む。
瞑った瞼の裏に浮かんだのは、夜を共にした相棒の背中。
自分には何もないのだと語ったあの少年は、それでもゴルゴと対等に渡り合って見せた。
そこまでの交渉が自分にも出来るとは思わない。
だが、それでも錬金術の情報を引き換えに聞くくらいの事はやってみせなければ情けないにもほどがある。
鳴海のように、マクガイバーのように!
決意を込めて、目を開く。
「ま、待てよ。それは教えてやってもいいけど、引き換えに錬金術≠ノついて教えて欲しい。
錬金術≠ナ、この首輪を――」
「それだよ、なんで錬金術の事を知ってやがる!」
それまでは三人の中では比較的に冷静だったエドが、突如として鳥籠に詰め寄る。
バキンと、大きな音がする。
見ると、鋼の腕が柵をへし折っていた。
その時、安藤は初めて気付いた。
今まで当たり前のように動いていた、エドの右腕と左足が義肢だと言う事に。
唸りをあげるベアリング。きしむ人工筋肉。鈍い光沢を放つ、鋼の義手。
機械鎧職人なら美しいと惚れぼれするような、人体工学に基づいて設計されたデザインも、ごく普通に生きてきた
安藤にとっては生まれて初めて見る、ただただ、理解の及ばぬ物であり……想像してしまう。考えてしまう。
SF映画に出てくるようなサイボーグめいたソレが、一体どれだけの膂力を持っているのか。
どんな異能を秘めているのか。
……なぜ、こんな子供が、そんな義肢を付けるに至ったのかを。
――怖い。
安藤の意地は、たやすく砕けた。
◇
獣道を踏み進む。
ほとんど自然のままに生い茂った草木は、日中でなければ迷わずに進む事も困難なほど視界を塞ぐ。
そんな道なき道を、工場への最短距離を往く。
安藤が錬金術を知るに至った経緯について、エドは考えた。
ゴルゴと呼ばれるその男に、錬金術の情報を教えた人物は明らかに錬金術師ではない。
もし、その人物が錬金術師であるのなら、そもそもゴルゴが錬金術師を探す必要などないからだ。
そして錬金術が、自分たちの世界%チ有の技能である事は、これまでに出会った参加者たちの反応から考えて
ほとんど確定と言えた。
つまり、ゴルゴに錬金術を教えたのは名簿に載っている自分たちの世界≠ノ属する人間の中でも、錬金術師ではない
二人の内のどちらかという事になる。
その内の一人であるリンは、そんな奴には出会っていないと言う。
ならば、ゴルゴが出会ったのはウィンリィだ。
安藤とゴルゴが出会ったポイントは、研究所よりも工場に近い。
ほぼ確証とも言える幼馴染の足取りを掴んで、一行の先頭を歩くエドの足取りは早まる。
「ちょ、ちょっと待ってくれぇー」
だが、そんな強行軍にふらつき、倒れそうになった者がいた。
安藤である。
鳥籠からは解放された彼であったが、腹話術には口元に手を当てるというモーションが必要なのではないかと推測した
リンの提言により手枷は後ろへと回され、デイパックは没収されていた。
あのまま置いていこうというリンの意見と、そんな消極的な殺人とも言える行為には異論を唱えたエド。
そして錬金術という脱出への手掛かりを失いたくない安藤の、それが妥協点だった。
当然ながら山道を歩くには不適切すぎるそのスタイルに、鍛えられているとは言い難い安藤の肉体は悲鳴を上げる。
山なんて、子供の頃の家族旅行以来だった。
そもそもが、旅慣れた二人と歩調を合わせる事すら無理なのだ。
「あ、悪りぃなアンドウ。大丈夫か?」
本来、敵であったキメラの兵士ですらも気安く味方として受け入れるエドは、安藤の待遇について若干の罪悪感があるのだが
今はどうしても気が逸る。
細かい話は後回しにして、今は先を急ぎたかった。
「いや、こっちこそ済まない……山とか、あんまり慣れてなくて……
その、ウィンリィって子。工場で見つかるといいな」
安藤にも心配する人間がおり、エドの気持ちはよく理解出来る。
エドワード・エルリック。鋼の錬金術師。
先の放送で呼ばれたアルフォンス・エルリックとの名字の一致は偶然ではあるまい。
父親か、兄弟か。
それは聞いてみなければわからないが、恐らくこの少年は先ほどの放送で家族の名を呼ばれているのだ。
それでも立ち止まる事無く、歩き続ける事が出来るこの強さは一体なんなんだろう。
安藤は、鳴海やエドの強さをうらやましく思う。
この二人からは潤也の手掛かりは得られなかった。どこにいるのか。今も無事でいるのか。
もし、自分が潤也を失ってしまったら。
その想像は、何よりも怖かった。
考える事が恐ろしかった。
弟を守りたい。
ただ、その想いだけが今の安藤の全てだった。だから
「ああ……お前も潤也って奴と早く会えるといいな」
そう、逆に心配されてびっくりした。
ああ、どうすれば、そんなに強く在れるんだろう。
前を歩く、赤い背中がやたらと遠く見えた。
◇
なんだ、いい奴じゃないか。
エドは後ろの少年の様子から不安と怯えを感じ取っていたが、どうやら基本いい人間のようだ。
捕虜のような扱いを受けていながらも、こちらの事情を汲み取ってくれるなど我の強いアメストリス人には
中々見られない美徳である。
リンの懸念もわかるが、この分なら時間をかければ信頼関係も築けるだろう。
「そういや、そのナルミって奴だけど……」
高町亮子から聞いた、共通の知人についての話題を振りながらエドは別の事を考える。
賢者の石があればこの首輪を外せるのか、という安藤の質問についてである。
とりあえず、今のところはなんとも言えないと誤魔化しておいたが、エドの見立てたところ可能性は半々と言ったところだろうか。
賢者の石に内在されたエネルギーが首輪の吸収能力を上回っていれば、公式も過程もすっ飛ばして分解出来るだろう。
賢者の石とは、そうしたものだ。
そしてホムンクルスであるグリードが参加していたのだから、ほかにも賢者の石がこの会場に紛れこんでいる可能性自体は
否定できるものではない。
しかし、果たしてそう簡単に事は運ぶのだろうか。
本来なら無数の命を――賢者の石を内在していたはずのグリードは、あっけなく死んだ。
自分と出会う前に。
残念でした、と言わんばかりに。
もちろんそれは偶然だったのだろう。
人がどう考え、行動し、どう生きて、どう死ぬかなど到底公式で計算しきれるものではない。
だが――
だが、そんな偶然が折り重なった運命と云うものを知る者こそ――神、と呼ばれる者なのではあるまいか。
その想像は、エドの心胆を寒からしめる。
ならば、人柱とされるほどの実力を持つ錬金術師……大佐やアルフォンスが第一回の放送を聞く前に死んだのも……
残りの錬金術師に、殺し合いを否定する人々の希望を集めさせるためなのではないか。
この、安藤のように。
もし、錬金術に一縷の望みを託した参加者たちが集まり、賢者の石を持って首輪の解除に挑んだとする。
しかし、挑んだ結果、石のエネルギーがわずかに足りず失敗……などという事になったら……
それこそが、神の書いたシナリオだとするならば。
真の絶望とは、希望がないことではなく、希望を奪われることなのだと誰かが言った。
助かると思った次の瞬間、希望を奪われた人間たちの取る道は明らかだ。
僅かに残った最後の救い……神が垂らした一本の蜘蛛の糸……生き残りをかけた、たった一つの椅子を奪い合う事になるだろう。
その修羅の道に、ただの普通の女の子が座れる余地など、どこにもあるまい。
そうはいくかよ……
エドは機械鎧の掌を握り締める。
よく手入れされた、鋼の間接がギシリと軋む。
考えろ。
考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。
神の試練を乗り越えるのは、いつだって人の知恵だ。
安直に思考を止めるな。
いつだって、最善を考えろ。
発想を切り替えろ。
そうだ。
首輪が分解出来ないというのなら――それを嵌めている人間のほうを分解すればいいではないか――
自己の再構成。
賢者の石さえあれば、それが可能な事は確認済みだ。
そして、その行為で真理の扉が開く事も――
開いた真理の扉を潜り抜けた物質は分解され、エネルギーとなり、その先で再構築される。
どこで?
今朝がた、自分たちはこの首輪について一つの仮説を立てた。
首輪に吸い取られたエネルギーは、主催者の元へと送られているのではないか、という仮説だ。
もし、それが正しければ……真理の扉を潜り抜けたその先にあるのは、主催者たちのいる空間。
敵地である。
そう、もしこの計画が成功すれば、首輪の解除と同時に神との直接対決が可能になるかもしれないのだ。
先ほどの震えが嘘のように、腹の奥が熱くなった。
興奮を自覚する。
ちらりと仲間たちを見る。
まだ、この計画を話すわけにはいかない。
当たり障りのない会話を続けなければならない。
主催者たちがどのようにこちらを監視しているのか。
それすらわかっていないのだから。
これは奇襲作戦だ。
理論の正しさを検証し、賢者の石を手の内に収め、神を倒す同志を集めなければならない。
全てはそこから始まるのだ。
だが、それは恐らく最後の一人を目指すよりも難しい茨の道になるだろう。
例えば、安藤を見張りながら最後尾を歩く少年。
シン国皇帝の第十二子、リン・ヤオ。
気心知れた同じ世界の仲間であるが、だからこそ油断出来ない面もある。
リンは、不老不死のためであれば、時として何を仕出かすか分からない男だ。
自分の身をホムンクルスと変える事も厭わない。
ヤオ族五十万の命を背負った使命は、それほどに重い。
そんな奴が賢者の石を手に入れたら……
それを奪い、最後の一人を目指してもおかしくはない。
それをどう説得し、秘密裏に計画を遂行するのか。
もっとも近しい人間ですら、これほどに遠い。
見知らぬ人間に至っては、なんの困難もなく対話する事すら難しいだろう。
それでも、なんとしてもやり遂げなければならない。
ウィンリィだけは、元の世界に――
リゼンブールのばっちゃんの元へと帰してやらなければ、アルにも顔向け出来ないではないか。
錬金術師は、一人決意を秘め歩き続ける。
たった一人の、かけがえのない女の子を探して。
◇
のんきにくっちゃべりながら歩くエドと安藤を眺めながら、リンは注意深く歩く。
自身の龍脈を探る能力が、ここに来てからというもの霞がかっている。
その感覚は、どうも山に深く入れば入るだけ鈍くなっている気がした。
この山に、竜脈を乱すような何かがあるのだろうか。
用を済ませたら早めに退散したいところだが……
パキリと、誰かが枯れ木を踏む音が響く。
工場は近い。
密集した木立ちが次第にまばらとなってゆき、開けた土地が見えてくる。
そして彼は、いや、彼らは異変を知った。
竜脈がどうこう、ではない。
風が、吹いたのだ。
血生臭く、錆ついた風が。
駆け出したエドを追いかける。
薄暗い森林を抜け、久方ぶりに陽光の中へと身を躍らせた、その瞬間。
エドの姿が、光の中に溶けるように消えた。
「エドッッ!!」
……ように見えた。
あまりにも切羽詰まったリンの声に、何かの気配でも感じたのかとエドと安藤の足が止まる。
「どうした、リン!?」
錯覚かと、細目をゴシュッと擦ってリンは気を取り直す。
「……、いや、気をつけロ、誰か一人だけいるゾ」
二度に渡る大きな戦いで、破壊の跡も著しい工場の外壁を険しい目で見つめながらリンが警告する。
これだけの戦闘の跡だ。
中にいる一人は、この戦闘の勝者である可能性が高い。
おそらくそれは……、いや、予断は挟むまい。
今はただ、戦うだけだ。
辛く、厳しい、現実と言う名のモンスターと。
いくつかの死体を、注意深く検分しながら彼らは工場の中へと侵入する。
死体の損傷を見れば、相手がどのような攻撃を仕掛けてきたのか、どのような戦闘が繰り広げられたのか
ある程度はわかるからだ。
このような場面には慣れていないのか、安藤は目を背ける。
工場の内部の損傷も凄まじかった。
ともすれば、血のぬかるみに足を滑らせそうになりながら三人は一つの部屋の前に辿り着く。
一つだけある命の気配は、部屋の中に留まって動く様子はない。
給湯室。
そう、ネームプレートのつけられたドアの前でエドは身構え、リンに確認を取る。
ここまでの道筋に、ウィンリィの姿は見当たらなかった。
緊張感と、若干の期待を滲ませたその表情を見て、リンは頷く。
ここにいるのが、この場で唯一の生存者だと。
踏み込む。
ドアを機械鎧の足で蹴破り、扉の向こうへと。
「ひゃっ……」
中にいた少女は、突然乱入してきた少年たちに驚いたようだった。
反射的に身にまとった一枚きりのTシャツを手で股下まで引き延ばし、身体を隠すのに精一杯といった様子だ。
ウィンリィではない。
振り向いた拍子にふわりと揺れる髪は同じくらいの長さであったが、色が違う。
琥珀のような金ではなく、栗色だ。
引き延ばされたTシャツは、ぴっちりと肌に張り付いて女性らしく成長した肉体のラインを艶めかしく魅せる。
必死に握りしめられたすそ野からは、デルタに形成された太腿の隙間が覗いていた。
顔を真っ赤にして、何かを訴えたそうに揺れる瞳からは戦意は見えない。
そこまでじっくりと観察した後で、エドの意識がこの異常な島での張り詰めたものから、常識的な感覚へと切り替わる。
すなわち、女性の着替えをうっかり見てしまった時の気まずさだ。
仲間たちを見る。
リンは普段は細められた目を戛然として見開き、安藤はせっかく止まった鼻血を再び垂らしていた。
また少女を見る。
俯いた表情はもう見えないが、エドはそこに幼馴染が爆発する寸前に醸し出す、見えないオーラのようなものを感じた。
……ヤベぇ。
「キャアアアアアアアアアアアアアアア!! 痴漢ですぅーーー! お巡りさーーーん!!」
直後、建物を震わせる大音量に、少年たちは慌てて部屋から飛び出した。
【E-6/工場/1日目 午前】
【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)
[服装]:イルカプリントのTシャツ、ストレートのロングヘア
[装備]:
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、若の成長記録@銀魂、水族館のパンフレット、
綾崎ハヤテの携帯電話(動作不良)@ハヤテのごとく!、太極符印@封神演義、自転車、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、
秋葉流のモンタージュ入りファックス、柳生九兵衛の首輪、柳生九兵衛の手記
[思考]
基本:『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。蘇生に関する情報を得る。
0:まともな服を調達する。
1:鳴海歩と合流したい。
2:あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
3:安全な保障があるならば妲己ほか封神計画関係者に接触。
4:三千院ナギに注意。ヴァッシュ・ザ・スタンピードと柳生九兵衛に留意。
5:機が熟したらもう一度博物館に戻ってくる。
6:探偵日記を利用する。
7:復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
8:もう少し工場内部を探索、収穫が無ければ神社へ向かう。
[備考]
※清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※手作りの人物表には、今のところミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、太公望の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
※太公望の考察と、殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
※超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
※白スーツの男(ミッドバレイ)を危険人物と認識しました。
※モンタージュの男(秋葉流)が高町亮子を殺したと思っています。
※太極符印にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
結崎ひよのは太極符印の使用法を知りません。
※探偵日記と螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※フィールド内のインターネットは、外界から隔絶されたローカルネットワークであると思っています。
【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
[状態]:結構な量の水を飲む。
[服装]:ずぶ濡れ
[装備]:降魔杵@封神演義
[道具]:支給品一式、包丁、バラバラの実@ONE PIECE
浴衣×2、刺身包丁×2、食糧3人分程度、固形燃料×10、チャッカマン(燃料1/3)
[思考] :
基本:エドと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:エドが心配
2:咲夜、ひいてはグリードの仇を討つ。
3:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃と雪輝を無力化したい。
4:安藤(兄)を警戒。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
※異世界の存在を認識しました。
※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません。
※エドと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
※ワープ出口の気配を何となく察してます。
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ
[服装]:膝下ずぶ濡れ
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ
[思考]
基本:リンと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:ウィンリィはどこだ!?
2:計画≠フ実現を目指す
3:出来れば亮子と聞仲たちと合流したい。
4:リンの不老不死の手段への執着を警戒
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※レガートと秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※リンと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:全身打ち身(中)。手かせ。 鼻血
[服装]:泥だらけ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留。
1:エドたちの信頼を得て、脱出の手掛かりを探る
2:東郷と合流したい。
3:重度の無力感。
4:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい。
5:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
6:巻き込まれた潤也が心配。合流したい。
7:第三回放送頃に神社で歩と合流。
8:『スズメバチ』の名前が引っかかる。
9:エドの機械鎧に対し、恐怖
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※東郷に苦手意識と怯えを抱いています。
※鳴海歩へ劣等感と軽度の不信感を抱いています。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
結崎ひよのについて、性格概要と外見だけ知識を得ています。名前は知りません。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※腹話術・副作用の予兆がありますが、まだまだ使用に問題はありません。
※安藤(兄)の日記は、歴代特撮ヒーローについて書いたようにしか見えないようになっています。
※安藤(兄)の落下時間は15秒程度。周辺の人物は気づいていない可能性があります。
また、落下中に上空のドームを見ていますが、思い出すかどうかは後の書き手さんにおまかせします。
※旅館のボイラー室からE-4上空がワープ空間でつながっています。
ワープ出口は地上1km強あたりの上空を移動中。
移動の仕方に法則があるかどうかは次の書き手さんにおまかせします。
ただしどこに移動しても常人が落ちたら死ぬ高さなのに変わりはありません。
※E-4の川に泥の山が残っています。
◇
ところで、エドワード・エルリックがこの島に賢者の石が在る事に確証を持っていないのは、別に安藤が情報を
出し惜しんだわけではない。
彼もまた、知らなかっただけだ。
ゴルゴ13。
世界一の殺し屋たる彼もまた、鳴海と同じく自分の切り札をたやすく明らかにするような男ではない。
この島で、ゴルゴ13が賢者の石を秘匿している事を知る人間は、未だにいないのだ。
そして、何かを隠しているのはゴルゴだけではない。
安藤は腹話術の射程が三十歩である事だけは隠し通し、エドワード・エルリックは脱出への計画を隠し、
リン・ヤオもまた、自分の考えを明確には表明していない。
この絡まり切ったそれぞれの思惑を、探偵の助手たる少女は解きほぐす事が出来るのか。
そしてこの場で起こった惨劇の真相に、ここにいる者たちは迫る事が出来るのか。
それはまだ、だれにもわからない未来の話。
以上で投下終了です
投下乙です!
エドも強いな……、序盤から色々波乱があっただけにようやくアル達を顧みる事が出来たのか。
それだけにこれからどうなるかを思うと切ない……。
けれど、首輪や神の性格について思い巡らせてるものが確かに手応えがあるだけに頑張ってくれ。
安藤は未だに不安定か、どう転ぶのがガクブルだw
リンも悪い奴じゃないんだが心の内がどうなるか怖いな……。
そしてひよの、お前ってやつはw
歩繋がりで安藤とどういう会話をするのかが楽しみだw
投下乙です
脱出の糸口が見えてきたなー
今後に期待
投下乙です。
山にも何か仕込まれてるのか!
んでみんな揃いも揃ってじゃんけんみたいな握り合いになってる
それにしても安藤兄は最近投下された3作全部えらい目にあってるなww
投下乙
やっぱりエドは主人公だわ
安藤兄はゴルゴに遭遇して以来ロクな目に遭ってないなw
ひよのの反応がお約束w
投下乙です
こいつら揃いも揃ってホント油断ならねーなw特にリン
エドの計画がどうなることやら
んで今度は潤也の方とゴルゴで予約か、期待
今現在30人死亡で二人行方不明だっけ?
第二放送までであと3人くらいは死ぬだろうし半数切りそうだな
まだまだ先だろうが次の放送はどうなるんだろう…
それと予約されたのを除いても昼に突入してないのは
エド・安藤兄・リン・ひよのの工場組
野郎三人組・暴走剛力番長
沙英、坂田銀時
ナイブズ・ハム
森あい
流・スズメバチ・ロビンの神社組
カノン
カノンが神社に顔を出す可能性もあるんだよな。この四人を捌くのが一番難しい様な
ナイブズとハムが剛力VS組かカラオケ周辺かどっちに絡んでくるかで結構変わりそうだな、展開が
多少なりともハムがナイブズと意思疎通できるようになって来ただけに、あの扱いづらい男がどう転ぶのか気になる
神社は難しいな
普通に考えたらロビンがこいつらと組むわけないんだが、メタ的に危険人物を減らすのも
もったいないからなあ
なんとか平穏に分離してほしいもんだ
とか言ってたら神社来たw
期待
投下します。
隣り合ったパズルのピースは、引き寄せられる『運命』にあったのだろうか。
***************
朝はとっくに過ぎ、普段ならそろそろ昼食の準備を始める頃合。
にもかかわらず未だ薄暗い山の中を、森あいはがむしゃらにひた走っていた。
どうして、
どうして、
どうして、
どうして、
どうして、
「どうして」
無意識に、疑問の言葉が渇いた唇の間から漏れる。
そして、よろめいて、近くの木に手を突き体重を預けた。
趙公明に脅されて走り始めてから数十分。
何度か木の根に足を取られて転び、身体のあちこちに擦り傷が出来ている。
それでもめげずに走り続けたのだが、ペース配分も何も考えずにここまで来たため、ついに体力の限界が来たのだ。
心臓が早鐘を打っている。荒い息を抑え、無理矢理整える。
額に浮き上がった汗と一緒に涙を拭ったそのとき――、
がさり、と背後から一際大きな音がした。
「ひっ!?」
慌てて振り返り、そしてその拍子に彼女は尻餅を突いてしまった。
彼女が恐れていることは一つ。
まさか、趙公明がここまで――?
最悪の想像に戦慄する森。
しかし――それは杞憂だった。
ざわざわと、木々がざわめく。
周囲に人の気配は無い。
先程の音は野生の生物のものか、それともただの風だったのか。
大きく息を吐く。そして立ち上がって尻を軽く払い、彼女は再び歩き出した。
それにしても、だ。
どうして、こんなことになったのかと。
もっとマシな選択があったのではないのかと。
幾つもの疑問と後悔が渦を巻いて彼女の頭の中で木霊する。
特に、植木を殺めたことすら赦し、立ち直らせてくれた恩人を見捨てて逃げた――その事実が森に重く圧し掛かっていた。
趙公明に対して抵抗出来なかった訳ではない。何しろ手元には銃があった。
勿論銃なんて撃ったことは無いが、それでもあの至近距離なら外さなかっただろう。
もっとも、それで趙公明を殺せたかといえば疑問が残るが――何にせよ、彼女にはまだ戦う手段が残されていたのだ。
だから。
逃げ出したのは純粋に怖かったためだ。
趙公明は自らを妖怪仙人だと称していた。
変なことを言う人だと思っていたが、今なら何の疑いも無くその主張を信じられる。
あのとき――趙公明の手が頭に向かって伸びてきたとき、蟷螂に睨まれた飛蝗の気持ちが初めて解った気がした。
絶対的な種族の差。その前では努力も意志も才能も塵芥と化す、超えることの出来ない絶望的な壁。
中途半端に戦いに慣れているが故に、一縷の希望すら持つことが出来なかった。
彼の気紛れ一つで自分の五体など瞬時に捻じ切れるのだと、否が応でも理解させられた。
あんな怪物に一人で立ち向かうなんて無理だ。
神を決める戦いに参加していたとはいえ、所詮自分はただの中学生なのだから。
「ごめん、植木――。やっぱり私、あんたがいないと、ダメかも……」
それが彼女の偽らざる本音だった。
いや、彼でなくてもいい。彼でなくても、共に戦った信頼出来る仲間がいれば――。
舗装された山道に出て、どちらへ進もうか一瞬悩み、左へ向かう。
強い理由は無い。別にどちらへ進んでも良かったのだが、強いて言えば道が左の方へ若干上っていたからだ。
下に進むのは趙公明に近付く気がして何となく嫌だ。
以前の戦いにおいても、唯一仲間だけが彼女の拠り所だった。
だが、それももういない。
植木はこの手で殺し、鈴子には拒絶されてしまった。
後に残ったのは空虚な孤独。
誰か。
誰か誰か。
誰でもいいから、助けて欲しい――。
誰か――。
――誰に?
たとえば事情を正直に話したとして、助けてくれる人なんているんだろうか?
そんな訳は無い。
正直に話すということは、キンブリーの計画も話す必要があるということだ。
『後で生き返らせてあげるから死んでくれ』なんて、そんな嘘臭い理由で喜んで死ぬ人がいるとは思えない。
現に森自信だってキンブリーの力を目の当たりにするまでは半信半疑だったのだから。
いや、今も完全に信じているかと言えば答えは否だ。
彼女もそこまで楽天家にはなれない。
急に寒くなった気がして、森は両腕で体を抱えた。
いつの間にか日が翳っている。
それでも。
それでも、もう縋るものはキンブリーの言葉しか無いのだ。
選択の余地は無い。そのはずだ。そう信じた。
俯いて、左の手首に嵌ったシンプルな腕輪をそっと撫でる。
それなら、どうすればいい?
一人では――やっぱり駄目だ。悔しいが、趙公明には絶対に勝てない。
ならば。
誰かを騙してでも味方に付けて、趙公明を殺す。
それが出来なくともキンブリーは救い出す。
これしか無い。
無謀なのかもしれないが、そもそも人を騙すなんてことが自分には出来ないかもしれないが。
「でも……もう、そうするしかないから……」
祈るように、願うように、決意する。
そして前を見ると――学生服を着た整った顔立ちの男が、ちょうど山の下の方から道へと出て来たところだった。
***************
森あいが当ても無く必死で走っていた頃。
今にも消え入りそうな足取りで、カノン・ヒルベルトはただ神社を目指して山を登っていた。
どうする、
どうする、
どうする、
どうする、
どうする、
「どうする」
無意識に、疑問の言葉が渇いた唇の間から漏れる。
立て続けのアクシデントによって、彼の精神は張り詰めた糸のようにギリギリの状態まで追い詰められていた。
だがしかし、彼はふらつきながらも、確実に効率的なコースを歩いている。
移動の邪魔になる巨大な盾と妙な石はデイパックの中だ。
完全に沈黙した機械兵器からはパーツを適当に取って来た。
浅月は首輪を外すために爆弾の専門家である竹内理緒と合流しようとしていることだろう。
もしかしたらもう合流しているかもしれない。
いずれにせよ、パーツはミカナギファイルを得るための交渉の道具になるはずだ。
ミカナギファイル。
それを持つ浅月香介。
彼の居場所は今のところ全く判らない。
だが何としても早く見付けなければ。
自分がこれほど苦戦する戦場で、彼が長く生きていられる保証は無い。
特に彼一人ならばともかく、名簿には高町亮子の名もあるのだ。
一体どんな無理をしているか判ったものではない。
とはいえ――焦ったからといって見付かるものではない。
まずは地の利を確保しつつブレード・チルドレンを捜す足掛かりとするために神社へと向かう。
これがベストの方針だ。
一見すると彼の行動は冷静沈着を絵に描いたようなものに感じられるだろう。
だが事実は異なる。
明確な目標を立て、それを達成するためだけに機械のように行動する。
そうすることで何とか自分を保っているだけで、実際のところ、正常な思考はまるで働いていない。
ミカナギファイルを手に入れるというのは、言うまでもなく逃避行動だ。
彼にしても、それが本質的な解決になると心の底から思っている訳ではない。
ましてやいざとなったら浅月に殺してもらおうなどと。
そんなことを考えるくらいなら、今からでもブレード・チルドレンの呪われた運命に立ち向かった方がいい。
何しろ、絶対に覆せないはずの運命は、あのムルムルという幼子の手であっけなく砕かれてしまったのだから。
今更運命に殉じる必然など、何処にも在りはしないのだから。
しかし――しかし、だ。
彼にはそう出来ない理由がある。
彼は『弟』であるアイズ・ラザフォードを既にその手にかけてしまったのだ。
運命を否定するということは、彼の犯した行為がただの殺人であると認めることになる。
それには耐えられない。カノンの神経は無為な殺人を許容出来るほど太くはない。
おそらくはそれが、他のブレード・チルドレンと一線を画す彼の美点であり欠点なのだろう。
だから彼は、その繊細さ故に苦悩する。
『運命に立ち向かう』という甘美な誘惑に乗らない。乗ることが出来ない。
ほとんど無意識の内にその選択を排除している。
唐突に、寒いなとカノンは思った。
何処からか森の水場特有の匂いがする。川が近いのだろう。
空を仰ぐと、雲が湧き出始めていた。
ずっと森を彷徨っていると、現実感が薄れて来る。
――いや。
もしかしたらとっくに現実感など失っているのか。
頑強だった彼の心の錠は、今やガタガタになっていた。
戦いに無関係な思考を強引に捻じ伏せるのも限界だ。
ともすれば溢れ出しそうな疑念に、彼は懸命に抗う。
考えてはいけない。考えてはいけない。考えてはいけない。
考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。
それでも彼に残った理性は完全な思考停止を許さない。
錬金術。死者の蘇生。運命。ミズシロ火澄。ミカナギファイル。
死んだ。ブレード・チルドレン。殺した。違う。肋骨が。浅月。願い。
――アイズ。
戦いたい――痛切に、そう思った。
少なくとも、戦っている間だけはこの懊悩から逃れられるのだから。
いやに呼吸が苦しい。胸の奥がチリチリと痛む。
耳の傍で焼けた川が流れているような音がする。
考えたくないことを、考えてしまう。
運命を覆せるというのなら、そもそも僕の行動は――、
「間違っている、のか?」
――わからない。
――何も、わからない。
――誰か標を。
――道標を示してくれ。
――赦してくれなくていい。
――断罪してくれても構わない。
――だから、誰か答えてくれ――、
「――僕は、どうすればいい?」
震える声で呟いたとき、彼は右の方に何者かの気配を感じた。
ほとんど自動的に、体に染み付いた滑らかな動きで振り向いて麻酔銃を構える。
銃口の先にいたのは――自分以上に憔悴し切った様子の少女だった。
年の頃は中学生くらい。何故か眼鏡を頭の上に載せている。
「何でこんなところに……あ」
そしてそこでようやく、彼は自分が山道を横切ろうとしていたことを認識した。
そんなことにすら気付かなかった自分に呆れ、しかしそんな感情とは無関係に、周囲に走らせた視線を目の前の少女に戻す。
彼女は明らかに怯えていた。
何故か。
その視線が手に持った銃を捉えていることに気付き、慌てて下ろす。
彼女がまたもや人智を超えた力の持ち主で、銃を下ろした途端に襲われるかも、とは考えない。
いや――違う。それならそれでいっそ楽になれるかもしれないと心の隅で期待している。
「やあ――初めまして、可愛らしいお嬢さん。どうかしたのかな?」
そして出て来たのは百戦錬磨の"Gun with wing"にしては余りにもお粗末な一言だった。
何か深い戦略を考えていた訳ではない。
自分以上に頼り無げな彼女の姿に同情した訳でもない。
彼はただ、反射的に、『優しいお兄さん』の仮面を着けただけだ。
何故、と問うても明確な答えは返ってこないだろう。
もしかしたら、そうすれば普段の余裕をもう一度取り戻せると、そう思ったのかもしれない。
こうして、力を求める少女と力の振るい所を求める青年は出会った。
彼らの邂逅を『運命』という言葉で片付けてしまうのはあまりにも容易い。
だが穿って見る者は、もっと別の言葉が相応しいと思うのかもしれない。
そう、たとえば――『神意』と。
風が、嗤っている。
【F-6南西/山道/1日目/昼】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:潜在的混乱(大)、精神的動揺、疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、“スイッチ”入りかけ
[服装]:月臣学園男子制服
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×16
[道具]:支給品一式×3、不明支給品×1、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー、パールの盾@ONE PIECE、五光石@封神演義、マシン番長の部品
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない……?
0:目の前の子から事情を聞く?
1:浅月香介から“ミカナギファイル”を訊き出し、西沢歩の名と照会する。
2:歩を捜す為に、神社に向かう。(山道は使わない)
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか――?
[備考]
※アイズ・ラザフォードを刺してから彼が目覚める前のどこかからの参戦です。
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※思考の切り替えで戦闘に関係ない情報を意識外に置いている為混乱はある程度収まっていますが、きっかけがあれば膨れ上がります。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
戦術を考慮する際に利用する可能性があります。
【森あい@うえきの法則】
[状態]:疲労(大)、いくつかの擦過傷
[服装]:
[装備]:眼鏡(頭に乗っています)、キンブリーが練成した腕輪
[道具]:支給品一式、M16A2(30/30)、予備弾装×3
[思考]
基本:「みんなの為に」キンブリーに協力
0:……植木……ごめんね……
1:キンブリーを優勝させる。
2:鈴子ちゃん……
3:趙公明からキンブリーを助け出したい。
4:キンブリーを助けるために味方を探す。
5:安藤潤也に不信感。
[備考]
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました。
※キンブリーの話を大方信用しました。
※趙公明の電話を何処まで聞いていたかは不明ですが、彼がジョーカーである事は悟っています。
以上で投下終了です。
残り容量が少ないので次スレを立てて来ます。
投下乙です
神社付近か
マーダー集団の動向次第ではぶつかりそうだな
456 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 02:16:16 ID:lF6uyHo2
投下乙です
二人ともそちらに向かったか。そして出会ってしまったか
これは森が説明する時にキンブリーのことを言ったら…
神社へ向かうか、それとも…
どっとへ行っても地獄なようなw
感想有難うございます。
ところで今の予約分が全部投下された辺りで放送案を仮投下しようかと思うのですが、いかがでしょうか。
それと、そろそろ次の禁止エリアの話し合いもした方がいいかと思います。
ちょうどこちらのスレがいい具合に余ってますし。
ちなみに個人的にはD-6、H-2、I-8がいいかなと。
それほど深く考えた訳ではありませんので、もっと面白そうなところがあればそちらで。
458 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/28(日) 20:26:08 ID:i6s0559j
仮放送案は他の書き手の人の反対意見が無ければいいと思います
それと封鎖する箇所は主催側の意図が透けて見えるような場所がいい気がする
例えば遊びで関係無い場所を封鎖するより遊びだからここを封鎖するんだよ、みたいなのがいいかも
もしくは主催側の意地悪さが出るような個所がいいと思う
行動を狭める意図なら候補としてはF-8、H-7、E-5、F-6、E-8、G-6、H-6
施設封鎖が解禁がおkなら中・高学校や工場や旅館とか封鎖でいいと思います
診療所は写真とかフラグありますからまだでいいと思います
封鎖する順番と組み合わせは任せます
確か、第一回はコンペで決まった(一作しかこなかったけど)ので同様の形式でいいかと思います
仮投下お待ちしてます
了解しました。
施設封鎖は……中・高等学校辺りならいいかもしれませんね。
仮投下までにもう少し考えてみます。
埋めネタ
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植木耕助
l^i___ノ^\ \
!、`'ー \ ヽ
ノ/',`ヽ,_ ヽ ', `、
. i" iニ`'--゙ヽ } ', ', ヽ ',
ノ l__,,二ニ-`!, !i i :i; ,,',,,,、 i
/ l-''''''''-ニゝ| /゙l :li :lir''" ', l
\ ヽ !, , -=/ | / (!i |/l ! `,,、 ', ノ l i
|\゙、 `く ,イ ,|/|j 'i/| l! l,,=z;;;ヽ iゞ''-------'''' ̄ |
`i、'、 \ \ !ヽ/|! l | | l !! r,,,;;;;;| | `''--'''' ', |
| \ `=ニキ,,,+''!-ヽ | |//' ゞ--''| |`''- l i :i .|
. l ヽ'`'-,、___ニ=-`-ェ=;゙,|l l l l | ,il ,l l i i |
\ `、 \//人,,/ r;;;)! ノ" ノ'l ,i l l l ; l l i|
. l\\ 丶、 ̄)/i< / / /l ! ,' l ,' ! ,!i l|
', !',`ヽ`ニ ̄/ | ` ____ ノ'/// /; l ,イ ; ,' l l|
ト、゙、ヽ`''/ヽ, !、 く/ -"''" // /,' ,' ,// ,'.,' l l.|
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!iト、 ', __,,,/ / / l// / /,、-''''''-,、 ヽ ヾヽ lノ,/ ,'
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/!i| 〉 'i!' / l l// / l '!, ,r
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/ / /lK ヽ l ,r'` |/ `ヾ、 / /// _,、-'`
,/ / ,'/ l|\ ゙、 l/ / ゙ヽ、 !,ニイ,/\ ,、-'`
' / l' ,/l| \ ヽ / / `'-ィ' `゙''--''"
/ !'/l l| \ ∨ / /
l / l l| \ ヽ / /
妲己
,rー――-------ー―-'ヽ ヘ |l| i! l| |
i!:::...::.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i! ,i!.|l| i! l| |
i!.:.:.:::::::::::::::::::::::.:.:.:.:.:::::::::::::::::::i! ノ i!|l `ー' l|
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_____7_  ̄ソ-ーヘ___ノ^i`ーi | l|::::!...-'" ミi! .:! .:::/ ___i::! ! |'`ー――――く
___ノ |`--i`ー___=-―-――'" ̄ ̄ ̄l| l|__i!二≡_ノi `i ::i!l| l- | \―――――i
__r='" ̄ ̄l| l| l⌒l- ___.`=-、__ l|___,, -―'" 'ー-/::::::::\ i l! ____|_ | | .| ̄ ̄ ̄ ̄i!"
l| l| |::: |:::| l| ri -i、`=―--、 _`-'"__i::::7--"'⌒"-='" l|、.| .| i⌒i l|
___|lヘ--i-''l| l| |::: |:::| l| .|:| ::| |⌒-i____`ー-r-―--'__ ̄――  ̄ ̄ _____ l|i .| .l|ヘ .`-" l|
リヴィオ・ザ・ダブルファング
レガートのAA見つからなかった……
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新漫画バトルロワイアル第8巻
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1267114296/  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ / ̄ ̄
お 届 オ 'l . | そ
い .く .レ .'| ヽ,,.;, ...ii;;..,,.ヽ|ヽ|∨ノl∧ ,, ,,,/; | .れ
て .と の .| ;;; ;,.,. ヾヾ||:::i;;ヽiyリlll;;ii.;ヽli;,,/;;/ハ /;, .| な
お こ 剣 ヽ_,,ヽlllゞ"l;,,,ll〆ヾl;lll"::: ii;i;;i::/ハ:llハ;ii;;/ハ .| ら
き ろ が _ミミヽllミ"';;;''lll i;;,ミ》lll l l>;;ゝl;,,ii,,ll;iii.ヽl/;;;;,/l /l/\ _
て に .ヽーヽllミミミミii;;; i;;;巛l lヽ∨lllllll/ハll;iii;ハ:ii; ヾl/ii;i|||li //
.ぇ >=ll"ll;;,,,l,,ソミミll》》iiii::ii:llll/"l/l lll;;,ヽハヾlll":::ヽl//llllレ'';"
____ / .-;;ヽミllll;;ミミミll《<ミiiiii iii l;ヽii:::::iiii:::lllllllllll::i ii/ii::iii iiii lllll彡i/
\l ._,,:ll;,,;;,ミiiミミlll;;; ヽlllll>》ll》llll::lll"i iii"lllハ,;iii;;;iii;iii,,i,ii;;iii"lll;;iレ;
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