フィンファンネルが成すIフィールドの檻は、ビームを内部に蓄え、より強固な物になる。リリルは徐々に、確実に、
ルーラーを追い詰めていた。
檻を形成しているフィンファンネルは、適正なタイミングでインターバルを繰り返し、決して弱まらない。しかも
ガンダムGSFに合わせて移動し、外に逃さない様にしている。
ルーラーはファンネルを操り、檻を作っているファンネルを破壊し様としたが、動きを読まれて簡単に躱されてしまい、
当たる気配は一向に無い。メガ粒子の閉鎖空間で、ガンダムGSFのIフィールドは徐々に耐久限界を迎える。
「早く過ちを認めて、投降してしまいなさい」
「姉さん、どうして解ってくれないんだ!」
「戦いの最中に泣き言を! この子は!」
リリルは弟が命乞いすれば、直ぐに解放してやる積もりだった。無論、殺す気など元より無いのだが……降伏
しなければ、どうするのかまでは考えていなかった。
徒に苦しめる真似はしたくないが、ここで甘やかしては本人の為にならない。取り敢えず、パイロットの生命が
危うくなるまで待つ。
しかし、弟は意地を張り続けた。
「……本当に焼け死ぬ積もり?」
弟は応えない。檻の中は既に、血の様に濃く赤い粒子で埋め尽くされている。
リリルの心に焦りが生じ始めた時……。
ブゥン……。
突如、ガンダムヒマワリのフィンファンネルが、リリルの意思に反してIフィールドを解除した。
溢れた荷電反重粒子が、空気分子に触れて対消滅を起こし、光の洪水を生み出す!
「くっ……どうしたの!?」
閃光の後、リリルが見た物は……空飛ぶ重砲撃ガンダム。ガンダムレボルシGソコル。
(この私が、気付かなかった!?)
弟に気を取られ過ぎたていた。誘き出された当初は増援を想定して警戒していたのに、知らず熱くなっていた。
いや……敵機が見えなかった理由は、それだけではない。
「ルーラー、この様は何だい? 必ず説得すると言うから任せたのに、失望させてくれるなよ」
革命の名を冠するガンダムのパイロットは、アルシャンジュ・リア・ル・ロロ。
彼の憮然とした態度に、ルーラーは言い返す事が出来ない。代わりに、リリルが噛み付く。
「この感覚は……アルシャンジュ!! 貴方ね! ルーラーを唆したのは!」
「人聞きの悪い事は言わないでくれ。君の弟は、善意で僕等に協力を申し出てくれたんだ」
「有り得ない。あの子に革命を起こす度胸なんて無い事は、姉の私が誰より知っている」
「それは見縊り過ぎと言う物だよ。そんなだからルーラーは君から離れたんじゃないのかい?」
訳知り顔をするアルシャンジュに、リリルは怒りを露にする。
「他人が知った風な口を! 良いわ、貴方も纏めて片付けてあげるから覚悟しなさい!」
自信過剰に思えるリリルの言葉は、決して驕りでは無い。リリルは同年代では並ぶ者が居ない程の能力者。
アルシャンジュとルーラーを同時に相手取っても、彼女が負ける事は先ず有り得ない。
……しかし!
「御子様、お願いします」
「はいはい」
アルシャンジュがガンダムレボルシの背面にドッキングしているGソコルのパイロットに声を掛けると、ガンダム
ヒマワリの動きが止まった。
強念を感じ、リリルはガンダムレボルシの背後、Gソコルを睨む。
「このプレッシャーは……!」
ガンダムヒマワリ最大の欠点は、ニュータイプの共感を利用したインターセプトを受けてしまう事。
同格、或いは格下相手なら問題無いが、能力で大きく上回る相手が現れた場合には、その危険が生じる。
試作機故の欠点。戦争が終わって未だ半年。彼女にとって乗り慣れた愛機であるガンダムヒマワリを本格的に
改修するには、時間が足りなかった。
リリルが哨戒任務中に行方不明になった事は、直ぐに地球連邦軍の上層部に伝わった。
ニュータイプ能力を加味すれば、彼女は間違い無く、連邦軍の中でも上位の実力者。しかし、ガンダムヒマワリの
反応が消えた地点で、大規模な戦闘が行われた形跡は無く、それが不気味だった。
しかし、上層部の焦燥とは逆に、連邦兵士の危機意識は薄かった。リリルが消息を絶ったのは、彼女の身勝手な
行為の結果と切り捨て、高が子供一人、大勢には影響を及ぼさないと考えたのだ。
そんな中、場所は変わり、火星。マリディアニ高原都市の市役所でMSの登録手続きをする男性がいた。
「フォールス・アリアス……さん?」
「はい」
係員の女性に応える彼は、サングラスで素顔を隠している。
Folse Arias……False Alias? 冗談の様な名前に係員は小さな疑問を抱いたが、然程気に留めず管理データに
情報を書き加えた。
「御確認致します。登録なさるのは連合のMS、Qザクで宜しいでしょうか?」
「はい」
返事と同時に、カタンとキーを押す音。係員はフォールスに向き直り、接客の笑顔を見せる。
「では、これで登録終了となります。木星から観光目的でアステロイドベルト内に御越しとの事ですが、無用なトラブルを
避ける為にも、御搭乗の際は必ず登録証を御持ちになって下さい」
「はい」
事務的な遣り取りの後、フォールス・アリアスは差し出された登録証を手にして踵を返した。
火星と木星は長らく交流が途絶えていたが、戦後になって人の往来が戻った。元々規制の緩い火星では、余程の
事が無い限り、外来者を拒まない。故に違法改造MSが出回る等、治安は余り好くないが、そこも魅力の一つだった。
アステロイドベルト外からの客人にも寛容な理由は、中立を装って連邦から距離を置く政治的な思惑があったから
なのだが、フォールスにとっては好都合だった。個人登録は既に済んでおり、後は登録されたMSを持って、堂々と
地球に降りるだけ。
(順調過ぎて、後が怖いぜ……)
フォールスは笑う。平穏無事に済ませられるのは今の内。
これから彼が臨もうとしている所は、地獄に勝る窮地なのだから……。
太平洋に浮かぶラパ・ヌイ。長い歴史の中で、大陸が大きく姿を変えたの同じく、この小島も海抜0mを行き来した。
現在は地盤隆起によって、300平方km程度の陸地面積を有している。その南西、陸続きとなったモツ・イチに木造の
一軒家が建っていた。
ダン、ダン、ダン、ダン。
小縮んまりとした家の戸を、やや乱暴に叩くのはフォールス・アリアス。
中から足音が聞こえると、彼は一歩下がって待ち受けた。海風が運ぶ潮の香りは、気になるが不快ではない。
コロニー育ちの者には不思議な匂い。正体を隠す為のサングラスは、常夏の暑い日差しを遮るのに御誂え向き。
頑丈な造りの木戸が、ゆっくりと開く。
フォールスを出迎えたアロハスタイルの男性は、小麦色に焼けた肌に、逞しい体付き。
「お待ちして居りました……って、あんたは!?」
彼は客人の顔を見るなり、驚いて後退った。フォールスは苦笑いを浮かべる。
「……人違いなら申し訳無いんですが、貴方は……」
「ああ、ハロルド・ウェザーだ」
フォールスはサングラスを外し、日焼けした男性……ズー・カンバーノに素顔を見せた。鋭い三白眼、真っ直ぐな
鼻筋、横に大きく裂けた口、薄い唇。印象的な“悪人面”。
ズーは大袈裟に頭を抱えて愚痴を零す。
「アキレスの馬が仲介者だったから、徒事じゃないとは思ってたんですよ。ああ、厄介事を引き受けちまったなぁ……」
「酷い言われ様だ。降りるのか?」
「へっへ、冗談ですよ、冗談。お客様あっての商売、信頼に係わる様な真似は出来ませんや」
眉を顰めるハロルドに、戯けて応えるズー。彼の冗談好きで調子良い性格は相変わらずだった。
ここまで。
毎度毎度、お話の腰を折る様な投下で申し訳無い。
長文と投下ペースの為に他の人が話題を振ったり作品を投下したりし難い様な状況なら
いっそ独立してしまおうかとも思っていますが、どうなんでしょう?
164 :
名無し:2010/03/13(土) 22:55:17 ID:njbawAFp
そのままでいいと思いますよ
何かネガネガした書き込みで済みません。
独占状態が心苦しかった物で。
自分の作品をスルーしろとまでは言えませんが、
その位の勢いで投下や雑談が増えて欲しい。
被りとか連投とか全く気にしないので! 本当に!
166 :
名無し:2010/03/14(日) 18:38:17 ID:4wUGgDlQ
一応作品を考えたりするけどなんか挫折してしまう
考えるだけじゃなく実際にメモったりとかして出力してみるといい
168 :
名無し:2010/03/15(月) 21:40:49 ID:oZlMktHj
今考えてるのはグレミー残党の話 まぁなんでかって言うとZZ見なおしたりUC見たりしたからなんか影響されやすいんだよなー
投下開始。
水深4000m、太平洋の大海溝を進む、100m級の潜水艇がある。その正体は水陸両用艇、Bフリーデン。
海中ではジェット水流を吐き出し、地上ではホバーで進む大型艇。
乗組員はズー・カンバーノとブラド・ウェッジ、そして数名のラパ・ヌイの船乗りで構成されている。
名義上、艇の所有者であるズーは艇長。ブラドは甲板長。ラパ・ヌイの人々は、この時の為に雇い入れたのではなく、
近所付き合いで艇を貸与していた義理返しで集まった有志である。
艇橋の指揮座に腰掛けているズーは、浮かない表情で立ち尽くしているハロルドに声を掛けた。
「土星の旦那は客室で寛いでいて下さいよ。一応、お客様なんですから。目的地は北極でしたよね?」
「ああ。しかし……良かったのか?」
ズー・カンバーノとブラド・ウェッジは、既にスイーパー組織を辞め、現在は所謂、“何でも屋”をやっている。今回
ハロルドが依頼した内容は、彼自身とQザクを誰にも見付からない様に北極まで運ぶ事。その為、届出では遠洋
漁業と偽っている。
しかし現在、地球は全域厳戒状態で、聖戦団だけでなく連邦軍に発見されても、攻撃を受ける可能性がある。
決して安全な仕事とは言えない。
「何を今更!」
それにも拘らず、無用な気遣いとズーは笑い飛ばす。
「スイーパーの仕事を辞めて、理想の楽園を買ったは良かったんですが、人間暇を持て余すと碌な事になりませんや。
俄かに大金が入った所為で、浪費癖が付いちまって、遊んで暮らすのが難しくなって来た所で……いやァ、旦那は
本当に良いタイミングで仕事を持って来てくれました! 感謝感謝の極みですよ」
彼の陽気な声に、モニターを覗いていたブラドが振り返った。
「手前が艇なんか買うからだよ! 馬鹿みたいに税金取られて、とんだ金食い虫だ!」
「ヒャハハ、そう言うなよ。艇を買ったのは、退屈な毎日に厭き厭きしてたからで、お前も反対しなかったじゃん?
宝探しで海底を這い回るよりは面白いさ。フッフッ、平和が一番とか言いながら、結局、俺達は生まれ付いての
冒険野郎なんだ。お前も同じだぜ、ブラド」
「……素寒貧になると判ってたら、反対したさ」
ズーが底抜けに明るく返すと、ブラドは呆れた様に溜息を吐いてモニターに視線を戻す。その口元には小さな笑み。
彼は口で言う程、悪くは思っていない様だった。
2人の遣り取りに、ハロルドは親友のダグラスを思い出し、暗い気分になった。今も彼が生きていれば……。
(好い加減に、死んだ奴の事は忘れろよ……)
何時までも女々しく過去に囚われて続けている自分を情け無く思う。
忘れ様としても忘れられないのは、“呪い”の所為。暗く静かな深海は宇宙に似て、ハロルドを悩ませるのだった。
「高速で追跡して来る影を探知! クジラ並の大きさです!」
「MSか? 距離は……5000って所だな。速度からして、振り切れそうにはないぜ」
透かさずブラドが確認する。艇内に動揺が走る中、ズーは静かに溜息を吐いた。
「幾ら何でも見付かるの早過ぎるんでない? もしかして、マークされてた?」
彼に焦りは見られない。
「……どうするんだ?」
「今後の為にも揉め事は避けたいんですが、立ち入り検査で連合のMSを見られたら色々とアウトでしょう」
ハロルドの問いに、ズーは苦笑しながら応えた。
「高が1機、力尽くで黙らせるって事で。取り敢えず、海溝の最深部まで逃げて、誘い込みます」
彼の指示通り、Bフリーデンは海底を行く。果たして、追跡者の正体は……?
敵機を迎え撃つべく、Bフリーデンから1機のMAが発進する。
嘴の位置に巨大キャノンを持つ白黒の機体、Gギレモット。コクピットは左右座席で、右にブラド、左にズーが
着いている。
Gギレモットは、アステロイドベルトでの決戦で半壊したブラドのソードボーンガンダムとズーのハイパーウェポン
ガンダムのパーツを寄せ集めて造られた機体。潜水ボートとして登録してあるが、換装すれば水中戦だけでなく
空中戦まで熟せる、万能戦闘機。そんな事をしているから金が無くなるんだよ。
発進前、戦闘になるならと、ハロルドがQザクでの支援を申し出たが、置いて来た。連合のMSと行動を共にしている
と言う理由だけで先制攻撃されては堪らないからである。
ブラドは艇から送られるレーダー情報を確認し、ズーに話し掛ける。
「敵は1機、恐らく偵察機だ。交戦距離に入ったら逃がすなよ」
「了解、了解」
軽く応じ、トーピードの照準を合わせるズー。彼は敵機をロックオンする際、そのシルエットに既視感を覚え、目を
凝らしてモニターを睨んだ。
「あれは……エピオン? ガンダムスティングレイ!」
スティングレイとはアカエイの事である。ヒートロッドを毒針のある尾に擬え、このガンダムは、そう名付けられた。
尖った性能の為、連邦軍には制式採用されて居らず、市場にも流通していない。データに遺された旧時代の兵器を
現代技術で復刻する“FAX計画”の際、各々性能が微妙に異なる試作機が少数生産されて、それっ限の存在。
この様なガンダムは、大半が民間企業かコレクターに売り払われる。
骨董品の様なガンダムエピオンのFAX機体を、実戦で扱う者は一人!
「って事は、ジェントかよ! 連邦は討伐にスイーパーの手を借りたのか!」
可能性として有り得ない事では無く、寧ろ予測出来ていた事態だったが、元仲間と戦う破目になるとは流石に
思って居らず、2人の動揺は可也の物だった。
数秒の逡巡の後、ズーが閃く。
「……いや、待て。こいつはラッキーだ。相手がジェントなら事を荒立てずに済むかも知れない」
「そ、そうだな。あいつの事だから、行き成り攻撃して来るって事は無いだろうし……」
ジェントは生真面目で融通の利かない所があるが、元仲間を問答無用で殺しに掛かる様な凶漢でない事は確か。
互いの不安を消し合う様に、2人は見合って頷いた。
Gギレモットは先制攻撃を取り止め、敵対の意思が無い事をライトの明滅で表しながら、ガンダムスティングレイの
進路を塞ぐ。同時に、エコー通信で会話を試みた。
2人乗りと言う事で、やや広目のコクピット内。深海の静けさに発信音が響く。
ガンダムスティングレイは真っ直ぐGギレモットに向かって来る。
真っ直ぐ、真っ直ぐ……その距離が200mを切っても、全く減速しない!
ズーは祈る様に叫んだ。
「止まれ! 止まれっ!!」
「止まらないぞ!? えぇい、ジェントの奴っ!!」
ブラドが声を上げたと同時に、ズーは機体を急旋回させた。
シュゴォッ!!
擦れ違い様、尾鰭のヒートロッドがGギレモットの左翼を裂く。
スティングレイが巻き起こした水流に呑まれ、ギレモットのコクピット内は大きく揺れた。
「くっ……! ズー、確り避けろ!」
「避けたっての! 尾には掠ってない!」
「だったら、何で翼が切れる!?」
「俺が知るか!」
ズーは嘘を吐いていない。彼は確かにスティングレイの尾を避けていた。しかし、事実として“切れた”のだ。
ブラドが避け切れなかったと思うのも無理ならぬ事。
2人が言い争っている間にスティングレイは凄まじい機動力で旋回し、尾をGギレモットに巻き付ける。
「拙い! ズー、何とかしろ!」
「何とかって、お前……どぅわっ?!」
スティングレイは高速でギレモットを引き回しながら、海溝を隠れ進むBフリーデンに向かい始めた。
「野郎、どう言う積もりだ!? マジで殺す気か!? それともジェントじゃないのか!? 死んだら化けて出てやる!
ジェント、怨むぞー!!」
激しくローリングするコクピット内で、ズーは自棄になって絶叫する。
ガンダムスティングレイはギレモットを牽引した儘、Bフリーデンとの距離を見る見る縮めて行った。
ラパ・ヌイの船乗り達に戦闘経験などある筈も無く、水中でも高い機動力を持つガンダムスティングレイを相手に、
彼等は抵抗する術を持たない。Gギレモットの醜態を目の当たりにして、艇内はパニックに陥った。
ざわつく艇内で、ハロルドは声を張り上げる。
「狼狽えるな! その儘、海溝を進め! 俺が奴の相手をする!」
突然命令を出した客人に、ラパ・ヌイの船乗り達は驚いた。
「あ、貴方は一体!?」
「俺は元軍人だ! 俺の言う通りにしていれば、間違い無い!」
自信過剰に聞こえるが、こうでも言わないと、彼等を落ち着かせる事は出来なかった。当のハロルドとて、この
判断が全く正しいとは思っていない。言う通りにしていれば、“間違い無い”……? いや、間違いは“起こさせない”。
必ずガンダムを止める決意だった。
ハロルドは駆け足で格納庫に向かい、パイロットスーツに着替える間も惜しみ、コンテナの中に置かれている
MA形態のQザク、緑茶色の蟹に乗り込む。ズーとブラドが支援を拒んだ理由は察していたが、今は他に手が無い。
コンテナのシャッターが開き、Qザクは這う様にフロアへ降りる。その儘ゆっくりと艇尾方向の別区画へ。
「オールライト!」
ハロルドが合図すると、隔壁が下りてQザクは密閉空間に閉じ込められる。密室を海水が完全埋め尽くした後、
Qザクは開いた発進口から深海へ飛び出した。
「……出て来たな。やはり聖戦団だったか」
ジェント・ルークはBフリーデンから発進したQザクを見て、したり顔をする。
ガンダムGSF強奪以降、地球連邦軍は宇宙からの大規模な降下作戦を警戒していたが、アラブ襲撃前に、
その形跡は無かった。コロニー連合正規軍から一部が離脱して結成された聖戦団は、アーロ・ゾットの死後、
大幅に弱体化し、現在の聖戦団は軍隊として十分な能力を持ってない“筈”。
聖戦団が連邦軍の警備網を潜り抜けるのは容易では無く、また攻撃の度に事前察知される危険を冒すとも
考えられない事から、最初のガンダム強奪以前から懐に潜んでいたと推測するのが普通。
海溝捜索は聖戦団討伐作戦の一環だった。
この様な状況では、ジェントが発見した不審潜水艇を聖戦団の物と思い込んでも致し方無い。正規登録されている
艇だろうが、相手はガンダムを強奪した聖戦団。偽装工作くらい、お手の物に違い無いと買い被っていた。
Gギレモットを即座に仕留めなかったのは、潜水艇が聖戦団の物で無かった場合を想定しての事だったが、今その
必要も無くなった。大量の電気が送られ、ヒートロッドが熱を帯びて赤い光を放つ。鋼の鞭は蠕動を繰り返し、刃を
ギレモットに喰い込ませて行った。
機体の損傷は耐圧性能を著しく劣化させる。ズーとブラドは焦った。
「敵さん、本格的に殺しに掛かって来やがった! ズー、ここは分離して逃れるしかない!」
「この水深でやったら、絶対に壊れるって……言っても他に手は無いからな! 成る様に成れ!」
ガコッ!
Gギレモットはコクピットのある先端部と、キャノンを背負った中央部、そして推進機能を持つ後部の3つに分かれた。
ヒートロッドが巻き付いている中央部以外は拘束から解放される。
「この状態だとメインウェポンが使えない上に、水圧の所為で長くは保たないぞ!」
「解ってる! さっさと終わらせてやるさ!」
ブラドの警告に応じたズーは、先端部と後部を合体させる。出来上がったのは、MSの胴体と下半身。
「ミサイル、ファイア!!」
その両脚から計4発のミサイルが発射され、ガンダムスティングレイに襲い掛かる!
中央部に搭載されているトーピードに比べて、水中での性能は劣るが、破壊力は十分。追尾式のミサイルは、
避けられても動きを制限する位の役目は果たせる。
ボン、ボン、ボゴォン!
しかし、ミサイルは標的に命中する直前で全て爆散した。それは恰も不可視のバリアが張られている様……。
ブラドは敵パイロットの正体を確信する。
「……あれはジェントだな。間違い無い」
「やれやれ、“元”リーダーまで一緒とは」
冷静に事実を受け止める2人。ヒートロッドを避けた筈の片翼が切れた事も合点がいった。スティングレイの背に
掴まって、見えない敵が1機いるのだ。
「こいつは手に負えんな……だが、今ので土星の旦那も気付いた筈。俺等は限界まで支援に徹しよう。危なくなったら
艇に逃げ込めば良い」
「アイアイ! 先のは不意打ちだったが、相手がジェントなら手の内は判ってるんだ! そうそう後れは取らんぜ!」
ズーの案に乗り、威勢良く応えるズー。MSの下半身は、Qザクの接近にタイミングを合わせてスティングレイから
距離を取る。2対2。深海の異形タッグ戦が今、始まる!
>>171の冒頭1行が抜けていた。
> 立ち惚けに疲れたハロルドが客室に引っ込もうとした時、レーダーを見張っていたラパ・ヌイの若者が声を上げた。
これで投下終了。
……と思ったら最終段落修正。
> ズーの案に乗り、威勢良く応えるブラド。
もう駄目だ。
178 :
AXIS:2010/03/21(日) 17:09:41 ID:gDW6JnWo
ミネバのもとで戦うシャアとは斬新な
機動戦士ガンダム 0081ロストナンバー
1.ラ・マキナ
宇宙世紀〇〇八一年二月。
人類の数を半減させた史上最悪の戦争が終結して一年、人類はようやく復興に向けた気
力を取り戻し、再建に向けて地上と宇宙それぞれに立ち上がっていた。ある者は額に汗し
て瓦礫を取り除き、ある者は道を舗装すべく重機に乗り込み、またある者は新たな都市の
姿を図面に描いた。人々は再生に向け確実に歩き始め、政府はその支援のために国庫を開
放し資金を投じた。
その流れの中にあって逆に予算を削られ、規模を大幅に縮小させられる組織もある。軍
隊である。彼らは復興の支援とテロリストからの市民の防衛へとその役割を変え、多くは
辺境の地で新たな任務に赴いていた。
ミゲル・クライン大尉は愛機に乗り、コロニーの外壁上で作業を眺めていた。
彼は今、一年戦争で破壊されたコロニーの内、破損の比較的軽いいくつかを修復し再び
居住可能とする「ユミル計画」と呼ばれるプロジェクトに関わっている。もちろん、計画
を実行するのはコロニー公社の主導だが、地球連邦政府も人材協力として軍を貸与、実作
業や警備の任に着いていた。
一年戦争時にはエースの一人としてそれなりには名を知られた男だが、戦争がなくなれ
ばただ他者より人を多く殺した戦争屋にすぎない。謹厳実直な性格ゆえに平時でもアム
ロ・レイなどより有能ではあったが、なまじ実績があるだけに軍も彼を完全に机上の人に
する事を惜しみ、こうして辺境でMSパイロットとして飼い殺しているのであった。だが、
本人はそれ程今の境遇に不満でもなく、現場で働ける事を喜んでもいた。
だが、最近は多少彼が気にかけている問題もある。
「大尉、交代の時間です」
交代要員の部下が時間を告げた。ミゲルは頷き、そしてこう質問した。
「連中はおとなしくしているか?」
部下は肩をすくめた。
「昨日の今日ですからね。それに今はフィリップ中尉が睨みを効かせているから、暫くは
大丈夫でしょう」
「それが一番心配なのだがな」
苦笑をほんの一瞬浮かべ、ミゲルはコロニー内部に入っていった。
戦後地球連邦軍は大幅な組織改造を行い、陸海空の三軍を地上軍として統合した上で、
宇宙軍を大幅に増員しその人員を旧三軍からの移籍で賄った。結果、現在の宇宙軍は旧三
軍と在来の宇宙軍の二派閥に分かれ、さらに旧三軍内でも出身により陸海空の三派が生ま
れていた。
更に事をややこしくしているのはこれに以前からのアースノイドとスペースノイドの対
立が深刻さを増している事だった。彼の所属する隊でもこれらの要素が複雑に絡み合い、
さながらNYのブロンクスの様相だった。昨日も食事中に小競り合いが起き、一部は懲罰
房で夜を明かす事件があったばかりである。
平時の軍隊と言うのは官僚機構と大差ない。出世は人脈と処世術、それに慣例で決まり、
例えば一介の下士官が昇進出来るのは中尉まで、定年間際にやっと大尉になれると言うの
が慣例である。しかし、一度戦争が起これば事情が変わる。功績次第では平時の数倍の
ペースで栄達する事も可能である。事実、アムロ・レイは普通の高校生から戦争中偶然に
戦闘に巻き込まれて三三か月で少尉となった。自分より三歳年少のユウ・カジマは自分と
同じ大尉に上っている。一歳年長のフィリップ・ヒューズは中尉だが、彼は過去に上官を
殴って少尉に降格させられている。戦争がなければとても二年で復位など出来なかっただ
ろう。
今の若い軍人たちは、そう言った戦争で出世した人間を間近に見ながら、自身にその
チャンスがない事に苛立っている。そこに軍再編で宇宙軍に組入れられた者が左遷された
かのような疎外感を持ち、無用の対立を生み出しているのだった。
(いっそ戦闘でもあった方が楽なのだがな)
思いながらミゲルは苦笑せざるを得ない。戦争を終らせるために命を懸けて戦った軍人
が、戦争が終ると同時に仲間内でいがみ合うとはどんな皮肉か。これではただ闘争を求め
るだけの闘犬ではないか。
食堂に入ると三、四十人の士官が食事を摂っていたが、よく見ればやはり各テーブルは
はっきりと宇宙軍組、元地上軍組にはっきりと色分けされ、互いの縄張を侵さないように
固まっていた。
ミゲルは小さくため息を吐き、自分のトレーを受け取って席を探した。幸いにして格好
の場所を見つけた。
「先輩、前、いいですか?」
言いながら返答を待たずにトレーを置く。先輩と呼ばれた男はその事には気にしなかっ
たが、代わりに他の苦言を口にした。
「先輩はやめろ、ミゲル。今はお前が俺の上官だ」
「ああ、そうでしたね。しかし、それなら私に大してその口の利き方はないんじゃないで
すか、フィリップ中尉?」
フィリップ・ヒューズはうやうやしく頭を下げ、
「ではミゲル大尉、小官の事はお気にする事なくどうぞヒューズと及び下さい」
「やめて下さい」
降参と言うようにミゲルは手を上げて、椅子に腰を下ろした。
「――連中、どうですか?」
真顔に戻りミゲルが訊いた。連中とは言うまでもない、食堂内も含めた兵全体の事であ
る。
「どうもこうもねえよ。次の資材搬入の艦にどっちか片方乗せて返したいもんだね」
フィリップの声には冗談の要素は含まれていなかった。フィリップは元からの宇宙軍所
属だが、一年戦争中には四軍の垣根を越えて集められたMS実戦投入テストの特別部隊の
パイロットとして――その実はたまたま適性試験で好成績を出した窓際族を厄介払いした
だけなのだが――参加していた事もあり、軍の縄張り意識が希薄だった。個人的な好悪の
感情は彼にもあるし、むしろ露骨に表に出す方だが、地上軍か宇宙軍かなどという次元で
いがみ合う連中など関わるのも馬鹿らしいと言う気分だった。
「しかし、そんなわけに行かないのは先輩もご存知でしょう。何かガス抜きのアイデアあ
りませんか?」
フィリップは顎を撫でた。
「そうだなあ……スポーツ大会なんてどうだ?それもとびきり荒っぽい奴。LGボールな
んていいんじゃないか」
LGとは低重力と言う意味で、コロニー中心部などの低重力ブロック上にコートを設営
して行われるアメフトとバスケットをかけ合わせたような球技である。フィールドはアメ
フトに近いがゴールが地上八メートルの高さに設置され、キックでゴールに叩き込むか、
ボールを持ってゴールまで飛び込むかで得点が入る。低重力による派手な空中戦と地上で
のぶつかり合いが見所となっており、「全方位型格闘技」とも呼ばれている。
「LGボールですか?うーん……」
ミゲルは頭の中で検討していた。フィリップが更に推す。
「今ならコロニーの中も修理中で丁度いいくらいの重力だろ?空き地も多いし何面でも
コートが作れる。どうせならコロニー公社の連中にも声を掛けて大々的にやろうぜ」
ミゲルは積極的に次々と提案をしてくるフィリップを意外そうに見ていたが、突然ある
考えに行き着いた。
「先輩、断っておきますが、賭け試合は禁止ですからね」
あからさまにフィリップが慌て始めた。
「ななな、何を言ってるんだ、そんな事、考えて、いいるわけないじゃ、ないか、うん」
「…………」
ミゲルに無言で睨まれ、ついにフィリップは居直った。
「……なんだよ、賭けがあった方が燃えるだろうがよ!それに同じ側に賭けた者同士、地
上も宇宙もなく一緒になって応援でもすりゃ、それだけで溝が埋まるってモンよ」
「とにかくダメです。感情的な対立に金まで絡んだらもっとややこしくなる。しかし、ま、
スポーツでレクリエーションというのは悪くないですね。提案してみます」
「つまんね。どちらにしても俺は出ないぞ。酒でも呑みながら見物してた方がいい」
「それでいいですよ。どうせ希望者はそれなりに集まるでしょうしね。――それじゃ、お
先に失礼します」
ミゲルは先に席を立った。
「これは中々の掘り出し物だな」
ジョー・クラントンは満足げだった。
「まさかMSがほぼ完動品で見つかるとわね」
ディック・クレメンタインも上機嫌である。
二人は、この宙域を縄張とするジャンク屋のリーダー格だった。戦後宇宙には撃沈され
た艦艇やMSの残骸が無数に漂流する事となった。宇宙空間での質量体は危険なデブリと
なるため、当然軍やコロニー公社が除去作業を行っていたが、対応しきれず、民間の業者
にライセンスを発行して除去・回収を委託していた。しかし、正規のライセンスを受けた
回収業者だけでなく、軍事上重要なパーツや希少金属などを独断で抜き出し横流しするモ
グリのジャンク屋も横行しており、彼らもそんな違法業者の一つだった。
今彼らはチベ級巡洋艦の残骸を発見し、内部に潜入したところだった。破損状態はそれ
程大きくないが、ブリッジが完全に潰れており、航行不能になって生き残りは乗り捨てて
行ったらしい。
「まだ使える装置もかなりあるな。艦ごと引っ張って行きたいくらいだぜ」
ジョーの感想も納得なな状態の良さあったが、違法業者が巡洋艦丸ごと牽引するなどと
言う目立ちすぎる事をするわけにもいかない。少しでも金になりそうな部分を厳選してそ
れ以外はそのまま放置するしかない。後から来た同業者が同じように削り取っていって、
最後は文字通りのゴミになって正規業者に回収されることになるだろう。
そしてMSハンガー内に入り、ほとんど無傷のMSを発見したのである。
「しかし、こいつはなんだ?見た事もない型だな」
ディックはMSを見上げて首を捻った。ボディカラーはチャコールグレー。頭部はザク
に似てシンプルな丸い形状、両肩はスパイクアーマーになっているが、グフのような威嚇
するような大きなスパイクではなく、ザクのものとも違う。動力パイプは外見からは認め
られず、ジオンMSとしては脚が細く感じられた。どんなMSとも似ていないが、あえて
言うならディテールはジオン系なのにシルエットが連邦系に見える、と言えば適切と言え
るだろうか。
「試作機か?ひょっとしたらまだ世に知られていない新型が隠されていたのか?」
「そんな凄ぇもんがそうそう転がってるかよ。おい、エディ!こいつが何か判るか?」
呼ばれて出てきたのは年の頃十四、五の少年だった。赤毛の髪を帽子で隠した少年は手
を止めてこのお宝を上から下まで見回した後、数秒考えてから答えた。
「判りません。こんなの俺も見た事がない」
「お前が見た事ないってこたあよっぽどのレア機体だな」
「ええ、試作段階でボツになった機体なのかも。でもこんなに完成していて世に出てない
なんて――」
ジョーが口笛を吹いた。
「そいつはいい。高値で売れるぜ。よし、積み込むぞ。エディ、お前が操縦しろ」
「え、いいんですか?」
エディの目が輝いた。ジョーが笑って言う。
「そりゃ完動品のMSなら自分で歩かせた方が早いしな。うちじゃ一番操縦が上手いのは
お前だ、ついでに大きい荷物は運んでやれ」
「ウッス」
エディはMSに近づくと踵の辺りを探り、スイッチを操作した。ハッチが開き、ロープ
が降りてくる。それに掴まってコクピットに乗り込むとMSを起動しようとした。
「あれ?」
エディが声を上げた。商売柄ジオン製MSを動かした事は何度かあるが、このコクピッ
トはそのどれとも似ていない。前方のモニターは大きく、レバーが重い。連邦軍のコク
ピットに近かった。
「とすると、これが起動スイッチ……か?」
スイッチを入れるとモニターや各種計器が発光し、システムの起動を知らせた。エディ
は指を鳴らしつつモニターのチェックを始める。システムが起動したという事は反応炉も
アイドル状態を維持していたという事だが、反応炉に何らかの不調があったり、冷却剤が
切れていたりしたら動かす事は出来ない。
「……よし、いける!」
反応炉も冷却剤も問題ない。それどころかプロペラントの推進剤まで満タンになってい
たのは驚いた。もしかすると直前まで出撃の準備をしていたのかもしれない。
「どうだ、動きそうか?」
ディックの声にエディは現実に引き戻された。
「あ、はい、大丈夫そうです!」
「よーし、じゃあそのまま運搬も手伝ってくれ」
「はい」
エディがペダルを軽く踏むと驚くほどの速さで足を踏み出し、彼は慌てて足を離した。
バランサーが働いているから転ぶ事はないが、気をつけないと周囲の人間まで踏み潰して
しまいそうだ。
「なんだ、これ……軽すぎるぞ」
エディは二年前からジョーらのジャンク屋の一員となり、MSの整備や操縦を行ってい
たが、今までに操縦したMSにこれほど応答の速い機体はなかった。もっと機械的なフリ
クションロスを感じさせる挙動で、ある程度先読み気味に動かすのがコツだったが、これ
を同じ感覚で動かしたら歩くだけで破壊活動になりそうだ。
「少し慎重に……」
エディは自分に言い聞かせながら、周囲のパーツを拾い、運び出し始めた。
コロニー内部に縦六〇メートル、横二〇メートルのコートが八面描かれていた。フィ
リップが呆れていた。
「まさか本当に企画通すとはな」
「案外簡単でしたよ」
ミゲルが答えた。親睦LGボール大会の提案は発案者も提案者も拍子抜けするほど簡単
に了承され、司令部・幕僚チームまでが参加し賞品も用意される本格的なものになってい
た。明日には自転速度も調整され、コロニー内部は月と同レベルの低重力に設定される。
「それだけ上層部(うえ)も問題に頭を痛めていたんでしょう。きっかけになりそうなも
のなら何でも試すつもりだったのでは?」
「その割には今まで全くの無策だったけどな」
フィリップは容赦がない。不敵な外見通り、彼は上層部に対する不敬と不信が強い。ミ
ゲルの推察するところ、何か策を講じていたとしてもフィリップは何か文句を言っている
だろう。
「ま、これがきっかけにでもなってくれれば何でもいいや」
フィリップはそう言って話を終わらせようとした。
その時、ミゲルの近距離通信機が鳴った。
「私だ」
「クライン大尉、海賊に追われていると保護を求める船が接近しております」
「海賊だと?追われているのは商船か?」
「いえ、それが……未登録の回収業者のようです」
「ジャンク屋かよ」
フィリップが言った。違法業者であるジャンク屋が軍に助けを求める事は殆んどない。
つまりはそれだけ状況が深刻という事だ。
「いかがなされますか」
「……助けないわけには行くまい。私とヒューズ中尉の中隊を招集しろ、私達もすぐに準
備する」
通信を切るとフィリップは先に走り出していた。ミゲルも後に続いた。
ジョーらの船「ピースメーカー」は元は中古の貨物船で、一応自衛手段として砲座を増
設してはいるものの、本格的な戦闘艦を相手に戦える船では元々ない。現在彼らを追跡し
ているのはムサイ級二隻であった。
「何でここまでしつこいんだよ!」
ディックの声は叫びに近かった。
「いいから今は逃げ切る事だけ考えろ!」
ジョーも怒鳴り返す。他のクルーも必死で救難信号を上げ、少しでも障害物の多いコー
スを捜索し、気休め程度の応射をしている。誰もが生き残ることに必死だったが、同時に
誰もが攻撃される理由を薄々察していた。
ブリッジで椅子にしがみついていたエディが立ち上がり扉に向かった。ディックが大声
で叫ぶ。
「エディ、どこへ行く!」
「戦います!あのMSなら戦える」
「馬鹿が!MSを動かせるって事と戦えるって事は別だ!」
「でも、このままじゃ――!」
「いいか、奴らの狙いは多分あのMSか、少なくともチベから持ち出したどれかだ。そん
なので出撃(で)てみろ、集中攻撃食らうだけだ」
エディは詰まった。相手の言う通りである。
「いいからお前はそこで座ってろ。不本意だが連邦軍にSOSを出した。お宝は没収され
るが命の保証は奴らより確実にもらえる。援軍が来るまで生き残れるよう祈ってろ」
エディは一言も返せず、椅子に戻った。
ピースメーカーはその小ささ故にデブリが飛び交う厄介な場所を進むことが出来、ムサ
イに追いつかれる事を辛うじて免れていた。ムサイは何故かメガ粒子砲を撃ってこず、そ
れもジャンク屋達を生き長らえさせる一因となっていた。しかし、それもムサイからMS
が発進し、リックドム六機がデブリを躱しながら接近してくると船員の誰もが最後を予感
した。
『停れ!停って持ち出したものをこちらによこせ、そうすれば手荒な真似はしない』
オープン回線で警告が飛び込む。ジョーとディックは顔を見合わせた。やはり思った通
りだ。そして両人共に相手の口約束など信用する気はなかった。
「そうかい、だが生憎こちらも商売でな、金払う気のねえ冷やかしと遊んでる暇はねえ」
『ならば実力行使をせねばならない』
「へっ、最初(はな)からそのつもりだろうが!」
ディックが最大船速で振り切ろうと試みる。しかし直線的に加速するならリックドムの
方が速い。回り込まれ、正面からジャイアント・バズを構えられた。エディが思わず頭を
抱えてうずくまる。閃光が堅く閉じた瞼を通してすら目を灼くほど強く飛び込み、衝撃で
椅子から転げ落ちた。
しかし、その後に予想された爆音も、五体が引きちぎられるような激痛もいつまで待っ
てもやってこなかった。恐る恐る目を開けると、目の前のドムは消滅し、周囲を飛ぶ他の
ドムがピースメーカーの遥か前方に注意を向けていた。エディの目には何も視認出来ない。
「味方か!?どこだ?」
長距離からの狙撃となればピースメーカーも迂闊に動けない。しかし、現実にジャンク
屋達のレーダーはおろか、周囲を囲むドムのセンサーでも狙撃者を補足出来ていないよう
だった。
突然リックドムがまた一機、狙撃された。コクピットを正確に狙い撃たれ、貫通しなが
ら背部のスラスターには傷をつけず、爆発すらせずにドムは機能を停止した。
「すげえ……」
ディックが半ば呆然と呟いた。後ろから見える射出孔は溶解の跡がない。ビームではな
く実体弾での狙撃という事である。少なくとも六キロ、宇宙空間上でも肉眼で点とすら認
識出来ない事から推定して十キロ近い距離からこのようなピンポイント狙撃を実弾で行う
とは、まさしく達人の域であった。
「助かるぞ、俺達!」
誰かの声を皮切りに、艦橋内に歓声が上がった。救援が間に合ったのだ。
やがてジョー達の目にもはっきりとジムの姿が見えてきた。数は九機、皆シールドとマ
シンガンで武装している。その内の一機、背中にサーベルを二本差した隊長機は僚機より
速く接近し、ドムに向かってマシンガンを浴びせかけた。
アウトレンジからの狙撃に為す術もなかったリックドム部隊だが、姿を現した敵には勇
敢だった。すかさずジャイアントバズで応戦し、突出して仕掛けてきた一機を半包囲する。
数の上の不利を分断しての各個撃破で挽回する作戦、ジオンにとっては定石である。
「危ない!」
エディは思わず声に出したが、ジムのパイロットはリックドム以上に戦い慣れていた。
シールドを斜めに構え、螺旋を描くように接近する。リックドムが狙いをつけられずに
いる間にマシンガンを撃ち、ドムのモノアイを破壊した。そのまま頭を失ったドムに接近
すると相手の胸を蹴り、その反動で別の敵に向けて一気に方向転換しつつ加速した。
「うめえ!」
思わずジョーが呟く。対艦戦を得意とするエースの中にはこの技術を使いこなすパイ
ロットがいたが、MS戦闘で、しかも模擬戦ではなく実戦で使う者がいたとは驚きだ。
隊長機が二機目のドムに襲いかかる間に他のジムも残りのドムに攻撃を開始していた。
完全に多勢に無勢となったリックドムは撤退を開始した。
「よし、敵が逃げるぞ」
ジョーが喜んだが、ディックの声が再び緊張をはらんだ。
「まだだ、ムサイが……!」
ムサイがデブリを避けつつメガ粒子砲を動かしているのが見えた。ついに鹵獲を諦め、
艦ごと破壊する事を決断したのだ――だが、攻撃は実行されなかった。ムサイの主砲の一
基が見えざる狙撃手により爆発、もう一隻も機関部から火を噴き始めた。
リックドム、ムサイが撤退するが、ジムは追跡しなかった。任務は「ピースメーカー」
の保護であってジオン残党の掃討ではない、と言う事だろう。
「ちっ……」
ジョーとディックが同時に舌打ちした。追撃してくれればどさくさ紛れに逃げようと考
えていたのだろう。
隊長機が近づいてきた。ビームサーベルが二本になっている以外は普通のジムに見えた
が、よく見ると左肩にパンを抱えたモルモットかハムスターのイラストが描かれている。
パイロットのマークなのだろう。
『我々は連邦軍第三〇五分艦隊、俺はMS隊副隊長のフィリップ・ヒューズ中尉だ。要請
によりお前達を救援に来た。これから俺達の指示に従い基地まで案内する。その際は悪い
が積荷のチェックもさせてもらうのでそのつもりで――妙な気は起こすなよ。お前達には
見えないだろうが、はるか向こうでミゲル・クライン大尉がお前達を捉えている。狙撃の
腕は今見た通りだ。大人しくするのが賢明だぞ」
実質的には逮捕拘留の恫喝と言っていい。しかしディックは相手の素性を知ると天を仰
いだ。
「ミゲル・クライン、『ラ・マキナ』か!よりにもよって……」
「有名なんですか?」
エディが訊いた。ディックが答える。
「スナイパーだよ、ソロモンとア・バオア・クーで六十機超えるスコアを叩き出した。腕
は今見た通りだ。その正確無比な狙撃の技術から付いた異称が『精密機械――ラ・マキ
ナ』。ちなみに目の前にいるフィリップ・ヒューズも『真紅の稲妻』ジョニー・ライデン
と互角にやりあったと言うエースだよ」
観念した様子のジョーとディックを見て、他のメンバーも全員観念したようだった。全
員が無抵抗の意志を示し、保護というより投降したのだった。
続く
【キャラクタープロフィール】
・ミゲル・クライン
地球連邦軍宇宙軍大尉。士官学校を卒業後は戦闘機や先頭車両のパイロットではなく、参謀として幕僚チームに所属。
一年戦争ではルウム戦役にも参加し、奇跡的に生還している。ルウムでMSの重要性を認識、パイロット選考の際には
自ら志願、参謀からパイロットに転向した稀有な例。ソロモン、ア・バオア・クーなどでMS68機、巡洋艦3隻を沈め、
その正確な狙撃から“ラ・マキナ”の異称で呼ばれる。フィリップとは士官学校、及び戦前の配属先で先輩後輩の仲。
0053年生れ、28歳
・フィリップ・ヒューズ
地球連邦軍宇宙軍中尉。0075年士官学校を卒業し、戦闘機パイロットとなる。0076年中尉に昇進するが、0077年、
上官を殴り少尉に降格。原因は上官の女性士官に対する嫌がらせであったが、これにより資料室勤務に左遷されてしまう。
一年戦争中のジムのテストパイロットを募集する際に適性を認められ抜擢、そこでの活躍により戦後中尉に復職する。
バケットを抱えたモルモットをパーソナルマークを使用するが、これは一年戦争時所属がモルモット隊と呼ばれた事から。
0052年生れ、29歳
【MSデータ】
・RGM-79SC ジムスナイパーカスタム
全高 18.2m
本体重量 42.1t
全備重量 56.5t
ジェネレータ出力 1350kw
推力 55,000kg
ミゲル・クライン専用機。一年戦争時代から使用する愛機を更に部分的に改良しながら使用している。
一般的なスナイパーカスタムとは外観が違い、超長距離狙撃用の高性能カメラ・バイザーと増加スラスターが特徴。
最大の特徴として狙撃姿勢に入ると各関節がロックされMSと銃が一個の固定砲台となるジョイントホールド機構がある。
各種センサーが大幅に強化され、最大11km離れた距離からの狙撃を可能とする
武装
R-5ライフル
一年戦争時の狙撃用ビームライフルR-4の後継モデル。3.1MWと大出力を誇る反面、3発しか撃てない使い勝手の悪さが難点。
75mm狙撃用ライフル
75mm×550mmのタングステン弾を初速2.9km/sで撃ち出す実体弾型狙撃用ライフル。装弾数5発。
90mmマシンガン
連邦軍が採用した90mm弾を使用するマシンガン。弾薬は0083年でも使用されている高速弾頭だが、プルバックではなく
通常のマシンガンの形状をしている
ビームサーベル
左腰に吊り下げるように携行(一般的なスナイパーカスタムは左前腕部に収納する)
・RGM-79s ジム指揮官仕様
全高 18.0m
本体重量 42.1t
全備重量 56.5t
ジェネレータ出力 1310kw
推力 55,500kg
フィリップ・ヒューズが使用する指揮官仕様のジム。外観はジムのビームサーベルが左右二本となった程度しか変わらない。
しかし、テストパイロットであったフィリップがOSから各関節のアライメントまで細かに専用のチューニングを行っており、
フィリップが乗った場合に限り、ベース機とケタ違いの性能を叩きだす。左肩とシールド裏にパーソナルマーク付き
武装
90mmマシンガン
ビームサーベル×2
シールド
ここまで
今回はガンダム他戦争ロボットアニメのTVシリーズ第一話を意識した構成にしてみました。
正直続きが本当に書けるか怪しいのですが、一応続きのストーリープランはあります
190 :
名無し:2010/04/01(木) 21:26:43 ID:WJdv9Cym
MAMAN書きさん書いた小説はやっぱり全部おもしろいですね
第二話
まだタイトルが決まらない……仮に「ラ・マキナ」で
コロニーに到着するとジャンク屋一行は仮設された基地内の一室に通され、待機を命じ
られた。
エディが不安そうに見回しながらジョーに訊いた。
「俺達、これからどうなるんですか?」
ジョーが答える。
「とりあえず全員の身元を確認して、戦利品は全部没収、そんなところだな」
「……それだけですか?」
「そりゃやってる事はゴミ捨て場からベッドを拾って売るのと同じ、微罪だからな。俺達
の場合拾ってくるのが軍需物資だが、それでも逮捕するほどの犯罪でもねえし、モグリの
ジャンク屋もデブリ回収の役に立ってる事は連中も知ってる。船を取り上げられる事もね
えだろうよ」
「はあ……」
何となく拍子抜けした声を出した。エディとて刑務所に入りたいわけではないが、十五
歳の少年としては、自分のしている事が軍にも無視される軽犯罪に過ぎない、と言われる
のも釈然としないものがある。どうせやるならでかい事をしたい年齢なのだ。
彼の表情から察したか、ジョーが笑って付け加えた。
「軍を敵に回しながらアウトローな人生送るのは格好いいが、現実はこんなもんさ。奴ら
を本気にさせない程度でやめておく、それがこの商売を長く続けるコツだ、覚えとけ」
「……はい」
エディはまだ納得していない様子だったが、頷いてみせた。
そのころミゲルとフィリップは「ピースメーカー」から荷物を搬出する作業をしていた。
二人の目を引いたのはやはり謎のMSだった。
「これ、見た事ありますか?先輩」
ミゲルが訊ねた。フィリップは首を振る。
「いや、ねえな。パーツ別に見れば見たような形もあるが、全体で見るとどれにも似てね
え。どういう素性の機体だ」
「先に運び出された物の中にビームライフルらしきものまでありました。もしかするとジ
オンのデータベースにも入っていない極秘開発のMSなのかもしれません」
「あるいは最近ロールアウトした全くの新型か、な」
フィリップの述べた可能性にミゲルは反論しなかった。無酸素の宇宙空間では金属や機
械の経年変化はほとんど進行しない。ジャンク屋からこれがチベ級に積まれていた事は聞
き出していたが、それが一年戦争中に破壊されたか、二か月前に沈められたかを外観だけ
で判断するなど不可能である。
「でも、ま、それはねえか。この宙域で最近チベ級に攻撃したなんて話は聞かないしな」
フィリップ自らそう言って自説を取り下げた。本能的に事態が悪い方向へ進む事を嫌っ
たとも思える。彼はトラブルメーカーではあるが、トラブルに巻き込まれるのは好まな
かった。
「いずれにしても、後でそのチベ級は回収に向かわせましょう。連中の話じゃまだ色々と
残っているらしい。デブリとしても邪魔だし調べればもっと判るかもしれない」
ミゲルはそう言うと、必要な準備をするためオフィスに戻っていった。
結果として彼らは判断を誤った。それが発覚するのは四時間後の事である。
奇襲と言うものは簡単に成功するものではない。ミノフスキー粒子によりレーダー索敵
が困難となっても、哨戒に就く敵の目を潜り抜け先制の第一撃を与えるのは容易ではない。
当然大部隊を送る事は出来ず少数をもって反撃を挫くほどのダメージを撃ち込むには奇襲
をかける側の練度ももちろんだが受ける側が無警戒である必要がある。戦後一年を経過し
たとは言え警護任務に就いた連邦軍が無警戒である事は本来ありえない。
しかし、この時コロニー周辺の哨戒に当っていた小隊はやや複雑な事情があった。小隊
長のウッズ少尉はルナリアンで宇宙軍一筋だったが、部下の二人はアースノイドの地上軍
転属組、さらに後方任務の通信士は地上軍転属組だったが、こちらはスペースノイドで
あった。小隊と言いながら仲間意識は皆無だったのである。
まず部下の一人、ロイ曹長がムサイ級を発見した。彼は同僚であるヨーク軍曹には連絡
をとったが、ウッズにも本部にも報告しなかった。つまり、手柄の独占を目論んだのであ
る。彼は地上軍出身だがソロモン攻略戦にも参加した手練であり、上官に対する反感も手
伝って出し抜こうと考えたのであった。ムサイの主砲の一基が潰されていた事も彼の慢心
を助長している。ヨークもロイと同様の心理から反対せず、二人だけでムサイに接近した。
通信士のピケ軍曹は二人の会話を聴く事は出来なかったが、識別信号の動きからロイと
ヨークが哨戒ルートを外れて行く事に気づいたが、放置した。彼女はアースノイドの二人
がしばしば軍規を無視した勝手な行動をとる事に辟易しており、この時も警告するのも面
倒と無視を決め込んだのである。
ムサイに接近した二人は一切の警告も発さず攻撃を開始した。ジオン残党に対する敵対
心よりも、アースノイドのスペースノイドに対する憎悪のほうが動機としては強い。
ムサイからリックドムが発進したが、想定の内だった。ヨークが出撃の瞬間を狙い撃ち
し、一機を破壊した。ここまでは順調だった。
だが、止めを刺そうとムサイに迫ったロイが別方向からのメガ粒子砲に薙ぎ払われた時、
優劣は逆転した。ザンジバル級が後方から全速で向かってきていた。それが機関部を損傷
し行動に支障をきたしたもう一機のムサイに代わりジャンク屋の追跡に加わる事になった
援軍である事など、彼らは知るはずもない
ヨークは先制攻撃が失敗した事を悟ったが、ここでもまだ隊長にも後方にも連絡を入れ
なかった。まず彼が選択した行動はその場から撤退する事だった。しかし一難を逃れたム
サイの副砲乱射がスラスターを掠め、ヨークの機体もまた爆散した。
ピケはロイとヨークの識別信号が消失して初めて、深刻な事態を予感した。彼女はよう
やくウッズにロイとヨークが共にルートを外れ同じポイントに向かって移動していた事、
たった今二人の識別信号がロストした事を伝えた。
「なぜ俺にすぐに言わない!」
ウッズの怒りはもっともだった。ピケは悪びれず、
「申し訳ありません、二人に対して呼び掛ける事を優先いたしました」
と返答した。上官に報告すれば当然ロイとヨークは叱責を受ける。下士官同士の連帯感
を知るウッズも強く咎める事は出来なかった。
「それで、そこに何があると言っていた?」
「それが、呼び掛けに応じないまま信号がロストしました」
むう、とウッズは唸った。結果を先に言うなら、ここでウッズは判断を誤った。即座に
基地に連絡し、応援を呼ぶと同時に警戒態勢をとらせるべきだった。しかし、自己保身が
彼の判断力を狂わせた。ピケが言い訳として上官からの叱責を持ち出したように、彼も自
身の監督責任を問われる事を恐れた。ウッズは自分の目で確認してから報告すると決断し、
哨戒艇のピケと共に二人が消えた宙域に接近した。そこで見たザンジバルとMS群が彼ら
の見た最後の光景となった――。
「なんだ、騒がしいな」
ディックがドアを見ながら呟いた。声に出したのはディックだが、その場にいる全員が
同じ感想であった。
二時間前までは通常の事情聴取と身元確認も終り、あとは事務的に書類にサインをして
船を返してもらって終り、となるはずであった。
だがその後、役人が姿を見せることはなく、部屋の外では廊下を慌ただしく駆ける足音
が聞こえてくる。何かあると考えるのが普通だった。
「ドンパチでも始まるのか?」
「やだぜ、軍の施設の下敷きで死ぬのは」
「この分じゃ表に見張りもいないだろ、勝手に逃げちまおうぜ」
「船どうやって取り返すんだよ、港で巡洋艦と並んでるんだろ」
好き勝手な会話をしているが、意外なほど緊張感はない。エディを除けば皆それなりの
修羅場を経験している。最悪な事になる前に逃げ出せると楽観しているのだ。
しかし、このままここにいても安全ではないと言う点で意見が一致し、部屋の外に出よ
うとまとまった所でドアが開き、軍の人間が顔を出した。どうやら軍の全員がジャンク屋
附勢を忘れたわけではなかったらしい。
「お前達、早くここを出ろ」
「何かあったんですかい?」
何もないはずはないが、ジョーは一応質問した。意外にも相手の士官はあっさりと事情
を伝えてくれた。
「ジオン残党のコロニー内への侵入を許した。応戦してはいるがここも安全というわけで
はない。非戦闘員や公社の人間も避難しているから誘導に従うように」
「俺たちだけ帰らせてもらう訳には……いかなそうですね」
「船でか?出口を狙われる可能性もある。許可出来ない」
「……仕方ねえ、大人しく隠れてます」
一同が部屋を出、下士官の誘導に従い基地を出ようとした時、壁が崩れ、天井が落ちた。
誰のものかも判らない悲鳴とガラガラとコンクリートの崩れる音が音楽性のないハーモ
ニーを紡いだ。
迎撃が完全に出遅れた連邦軍はコロニー内戦闘という望まざる戦場と戦術を強いられて
いた。まだ修復途中の建築物も重要な軍事施設もないこのコロニーに対し、いかなる種類
のテロリストにとっても攻撃目標になり得ない。必然的にパトロール内容は海賊対策が中
心となり、コロニーへの侵攻に対する備えは十分とは言えなかった。その意味では、帰投
したミゲルとフィリップがそのままコロニー内に残り、MSが整備されたばかりである事
は不幸中の幸いであった。
ミゲルはマシンガンを持ち、単発でザクに向けて発砲した。頭部を掠めたものの装甲の
表面を滑って逸れ、機能へのダメージは与えらなかった。即座にザクがマシンガンで応射
してきたが、これはジムに命中しない。もう一度、ミゲルが今度は三連バーストで射撃す
ると今度こそザクのモノアイを直撃し、敵は大きくバランスを崩した。
「……照準が狂っているか」
一射目で照準のズレに気付いたが、敵を目の前に調整を直す暇などあるはずもない。二
度目の射撃は照準の誤差を自分で補正して狙いを定め、撃ちかけたのであった。
三度目の射撃でコクピットを直撃し、ザクを沈黙させたところでようやく照準の修正を
行い、完了したところでフィリップから通信が入った。
『ミゲル、作業員の避難誘導に護衛がいねえ、誰を向かわせる?』
「ハジ軍曹を行かせて下さい。一番近いはずです」
『判った。――こいつら、目的は何だ?ただの嫌がらせにしちゃやりすぎだぜ』
それが判れば苦労はない。比較的安全な宙域での護衛ということもあり、戦力は決して
多くなかった。戦闘艦はサラミス改級巡洋艦『カサブランカ』のみ、MS十九機は輸送艦
で運ばれていた。現在コロニー内で戦闘に当たっているのは八機である。侵入者がMS六
機である事は諸処の報告から判明していたが、その六機すら全てを発見できていない事が
フィリップを苛立たせた。
「とにかく数では勝るはずです。確実に叩いていきましょう」
『そうだな……』
二人の会話に突然別の回線が割り込んできた。基地からの通信だった。
「どうした?」
『隊長、敵の攻撃を受けました、至急援護をお願いします!」
「何!相手は何機だ!?」
当然だが基地の周囲には四機を配置して守備に当たらせている。それでもなおミゲルに
戻れと言うからには四機で対処出来ない事を意味する。
『な、七機です!』
予想もしていなかった数字にミゲルよりも先にフィリップが
『七機だぁ!?そんなわけねえだろ』
『し、しかし事実です!クワン少尉機、ヒュー曹長機が撃破されました!救援を!』
「判った、すぐに戻る。先輩もお願いします!」
『くそっ、了解!』
まだ重力が二割程度しか発生していないコロニー内部でミゲルはスラスターを全開に飛
行した。四十秒で到着するはずだ。
(しかし、七機とは……それほどまでにここを落とすことに意味がるのか?)
既に二機の僚機は落とされている。自分とフィリップが駆けつけても戦力比は一対二、
厳しい戦いを覚悟しなければならない。
しかし、基地を見たミゲルは予想以上の惨状に愕然とした。
「基地が……!」
既に基地は半壊し、ザクとリックドムが取り囲むように立っていた。まだ行動している
ジムは一機のみ、戦意こそ失っていないが、数的劣勢に打つ手が無いようだ。
敵は基地だけでなく、隣接するMS格納庫をも攻撃対象としているようだった。
『ミゲル、俺が相手をする、お前は後ろから援護だ!』
フィリップの通信が入り、ミゲルの視界にフィリップのジムが突進するのが見えた。ミ
ゲルは生き残った僚機に接近する。
「無事か?」
『大尉、申し訳ありません、不覚を取りました」
映像は入ってこなかったが、音声からパイロットを特定した。
「通信では二機はやられたと聞いた。もう一機は?」
『ジギッチ伍長が撃たれました。――立派な最期でした』
ミゲルは頷いた。
「よし、アンドレ・アウグスト伍長、すまんがもう少し力を貸してくれ。ヒューズ中尉を
援護するんだ」
『は、はい!』
さすが生還率連邦軍最低とも噂されたモルモット隊の生き残りだけはあり、フィリップ
は七機の敵を相手にも巧妙に被弾を避けつつ接近、格闘戦に持ち込んだ。乱戦にする事で
相手に火器の使用を躊躇わせる狙いだ。しかしそれによりミゲル達も狙いを付け難くなり、
フィリップは前後から三機のドムとザクに囲まれる形となっていた。
『た、隊長、このままでは中尉が――』
「判っている」
ミゲルはマシンガンを両手で保持し、構えに入った。フィリップの一見無謀な選択には
自分に対する信頼があっての事と、エースは理解していた。
「伍長、私に攻撃する者は貴官が排除しろ」
言葉の意味を理解したアンドレが慌ててマシンガンを構え、彼らに気付いたザク目掛け
て撃ちかけた。その間にミゲルは激しく動き回る四機のMSに向けて単発で撃った。
九十ミリの劣化ウラン弾は正確にフィリップの背後を取ってヒートサーベルを振り上げ
たドムの脇の下、装甲の隙間に命中し、そのまま内部を直進しコクピットを貫通した。ド
ムは大上段に構えたまま、ドウと音を立てて倒れた。
神業を見せられ優勢の賊が一瞬怯んでミゲルに警戒を向けた。その一瞬をフィリップが
見逃さず、ビームサーベルでザクを一機横薙ぎに胴を斬り払い、上下に両断した。
『すげえ……』
回線を開いたままのアンドレが息を呑むのが聞こえた。一年戦争のエース二人と知って
はいたが、その芸術とも言える射撃や天衣無縫と形容される剣技を目の当たりにしたのは
これが最初だった。
ミゲルはその賞賛にも眉ひとつ動かさず、
「後五機だ。三人で殲滅するぞ」
とだけ伝えた。
『はい!』
アンドレの声に生気が戻った。数的にはまだ劣勢だが、この二人と一緒なら生き残れる
と希望が湧いたのだ。名将やエースの存在が時に過大に喧伝されるのは、それによって兵
の士気や民衆の戦意が向上する効果が実際に認められるからである。「悪名も名なり」と
はよく言ったものとミゲルは自嘲していた事もある。
その時、ミゲルはモニターの隅で何かが動くのを見た。サブカメラを巡らすと、倉庫に
向かって誰かが走っていた。軍人でも公社の作業者の服装でもない。勾留していたジャン
ク屋の一人だと気づくのに時間がかかった。
「おい、君、何をしている?止まれ!」
ミゲルが声を上げたが、スピーカーになっていないので外部には聞こえない。ミゲルが
切り替える間に倉庫に辿り着いてしまった。
そちらにもザクとドムがいた。二機は倉庫はむやみに破壊せず、扉だけを爆薬で吹き飛ば
し、中に侵入しようとするところだった。ジャンク屋はそれより一足早く人間用のドアか
ら倉庫に飛び込んでいた。
「ちぃっ……!」
ミゲルは仕方なくバースト射撃でザクとドムの注意をこちらに向けた。民間人に被害を
出してはならないと言う職業意識がそうさせた。
倉庫のMSがミゲルとアンドレに殺意を向ける。フィリップは依然として三機を相手に
単身奮闘している。厄介な状況になってしまった。
「アンドレ、君はフィリップに加勢しろ、この二機は私が引き受ける」
そう指示を出した時、倉庫の奥から重機の起動する音が聞こえた。
エディは頭を上げた。猛烈な耳鳴りで周囲の音が拾えない。
「何が起きた……?」
自分の声も聞こえないので自然大声になる。誰かがそばに来てくれるのを待ったが、誰
も来なかった。
思い出せ、何がどうなった?自分達はジャンク屋で、仕事帰りにジオン兵の残党だか海
賊だかに襲われて、連邦軍に保護されてついでにモグリ営業で勾留された。そこに敵襲が
あって俺達は安全なところに避難しようとして――いきなり凄い音がした。そこまでは覚
えている。そして今――。
手に何か生温かい液体がまとわりついてきた。赤い色をしていた。
声にならない叫びを上げて跳ね起きる。自分のの身体を撫で回し、自分がどこか大怪我
をしていないか確認した。自分の血でないと確信してようやく落ち着くと、少しだけ落ち
着いて改めて周囲を見た。
目に入ったのは瓦礫に埋れた仲間達。崩れた壁と天井に押しつぶされて、動かなくなっ
ていた。
今度こそエディは絶叫し、瓦礫をどかそうと遮二無二押し始めた。しかし、瓦礫は幾重
にも重なり、下手に動かせば他がさらに崩れてしまいかねない。途方にくれてその場にう
ずくまると、ジョーと目が合った。瞳孔は開き、鼻からも耳からも血が流れていた。
エディは慌てて後ずさりし、そして吐いた。何度も何度も吐いて、胃が空っぽになって
も空嘔吐を繰り返した。
「エ……エディ……」
エディは他のどんな音も聞こえなかったが、自分を呼ぶ声にだけは反応した。振り返る
とディックが手を伸ばしていた。
「ディックさん!」
血まみれの手でディックの手を掴むエディ。ディックは右足が天井の下敷きになってい
たが、意識ははっきりしているようだ。
「ディックさん!ディックさん!」
「他の……連中は?」
エディは答えられない。それでディックには通じたようだった。
「そうか……俺も、足はもう駄目そうだ……」
「そんな!」
「馬鹿、足だけ……だ。そうか……簡単にくたばるか……よ。しかしな、早くここから逃
げねえと、やばい……ぜ」
言われてエディは初めて、自分達の周囲が戦場となっている事に気付いた。このままで
は巻き込まれる。この瓦礫をどかす方法を考えなければ。
エディの目は一点に釘付けになった。MS格納庫。あそこに行けば動かせるMSが一機
くらいあるはずだ。エディはMS操縦には自信があった。瓦礫を順番にどかすような慎重
な作業もやってのける自信がある。それに何よりも、仲間をこんな目に合わせた奴らに一
発食らわせずには済まされない――。
「待ってて下さい。今、何とかします」
そう言うとエディは走った。格納庫に向かって。
格納庫の前にはザクとドムがいたが、扉の前で何か作業中でエディには気付かない。エ
ディは復讐心に満たされていたが、丸腰で立ち向かわない程度には冷静だった。ドアに手
をかけると簡単に開いた。衝撃か何かでセキュリティが壊れたのだろう。中に入り、MS
を探した。
「あ――」
エディが思わず声を上げたのは、そこに自分達がチベから運び出したMSがあったため
だ。考えてみれば押収品としてどこかに保管しなければならないわけで、ここに置かれて
いても不思議ではないのだが、ジムしか念頭になかったエディは反射的にこのMSに近付
いた。踵にあるスイッチを操作し昇降用のロープを下ろす。ロープに掴まってコクピット
に乗り込み、既に一度行った事のある起動シークェンスを繰り返す。押収時に何らかの封
印がされている事もありえたが、特に障害もなくコクピット内が仄かな光りに包まれた。
機体の起動が終了するのと、格納庫の扉が大きな爆破音と共に破壊されるのと、ほとん
ど同時だった。四角い大穴から二機のジオン製MSのシルエットが見えた。
「テメエら、覚悟しろよ!」
エディはMSのレバーに手をかけ、吠えた。
突然目の前の無人と思われていたMSが動き出した事で賊は驚いたようだった。連邦軍
に注意を向けていたため入り口に背を向けていた。エディが格納庫から出てくるのは、だ
から簡単だった。
しかし、外に出た瞬間、エディはこの後のプランが全くない事に今更思い至った。彼は
MSを操縦は出来るが戦闘経験などもちろんない。手には銃も持っておらず、今どんな武
装が使えるのか、そもそも何か武装がついているのかすら判っていない。エディはこの場
にいる唯一の素人だった。
エディの心に猛烈な恐怖感が襲ってきた。仲間を殺された復讐の炎は消えていないが、
それを上回る程にたった今実感したばかりの「死」が自分に迫っている事を感じた。自分
の歯がカチカチと鳴る音を生まれて初めて聞いた。
「ぶ、武器、何か武器は……!」
コンソールやモニターを見回し、それらしいボタンを押してみたが、何も起こらない。
焦りがさらに恐怖を呼んだ。
賊は最初こそ警戒したものの、相手の挙動から戦闘能力がない事を確信したようだった。
ザクが銃を構えたまま近寄ってくる。赤く光る単眼にエディはパニックに陥った。
体当たりしかない!何が使えるのか、使えないのか全く判らない以上攻撃手段は最も原
始的な手段に頼るしかない。せめてもの救いはこのジオン製MSはジムと違って肩に体当
たりを助けるスパイクが付いている事であった。
姿勢を低く、右肩を相手に向けてタックルの姿勢をとる。ザクは全く意に介する様子も
なく接近を続ける。直線的なタックルなど躱す自信があるのだろう。
この時エディの精神は恐慌状態にあるので、そのスイッチに手が触れたのは、全くの偶
然だった。カチリと手応えを感じると同時にモニター上にある変化が現れた。
「ヒート……パイル?」
モニターの隅にエディが読んだ通りの文字が浮かび、自機のシルエットと思われる図が
黒で表示され両肩だけが赤く光った。意味は判らないが、肩に何らかの仕掛けがあってそ
れが作動したらしい。それが何かを考えている時間はない相手はすっかり手が届こうかと
いう距離まで近づいている。これ以上の接近はタックルでも十分な衝撃を与えられないか
もしれない。
「やるしかない!」
エディの決断は他に選択肢がなかった故だが、それ故に迅速だった。一瞬身体を沈めて
力を貯め、スラスターも全開に突進した。
ザクのパイロットの回避行動は遅くはなかった。彼の悲劇は目の前のMSのレスポンス
の鋭敏さを知らなかった事、それと肩に仕込まれた仕掛けの存在だった。
チャコールグレーの機体は内部のパイロットが背もたれに身体を押し付けられる程の強
烈な加速で飛び出し、横に開いていなそうとしていたザクの懐に飛び込んだ。肩のスパイ
クがザクの胸にめり込んだ時、エディはヒートパイルの意味を理解した。
スパイクはザクよりも長く、グフと違って直線的だったが、そのスパイクがザクの胸部
装甲を紙のように貫通したのだ。いかにダッシュが強烈だったとは言え、ただ運動エネル
ギーだけの現象でないことは即座に理解した。
「肩アーマーが高熱を出しているのか!?」
体当たりと言うよりは刺突呼ぶ方が近い一撃をコクピットの正面で受けたザクは十数
メートルも後方に飛ばされ、二度と動くことはなかった。
残されたドムはようやくこのMSの危険性を認識し、背中からヒートソードを引き抜い
て構えをとった。腰だめの構えは相手の突進に対し真っ向から迎え撃つ意図を示している。
重MSとしての重量とパワーを信頼した選択だった。
相手がカウンターの意図に気付いたエディはまたも恐怖を感じたが、出来る事は他にな
い事も理解していた。そして何より、一度目の死の危機を回避した事で、復讐心が恐怖を
上回ってもいた。再び体当たりの姿勢をとる。より低く、より強く当たれるよう上体を沈
み込ませる。
エディが突撃する。ドムはその場でヒートサーベルを水平に突き出した。当然ながら肩
のスパイクより剣の間合いが長い。切先が頭部を貫通すると思った刹那、ミゲルがフルオ
ートで集中砲火し、ドムは全身に劣化ウラン弾を受けて倒れた。空振りする形になったエ
ディは大きくバランスを崩して転倒した。慌てて起き上がろうとするが上手くいかない。
『落ち着きたまえ、もう敵は片付けた』
音声は回線ではなく集音マイクから聞こえてきた。ジムが一機こちらに近づいてくる。
『無事かね?』
「……大丈夫、です」
そう答えたエディは声は相手に伝わっていないはずだと気付いた。ジムが手を触れ、接
触通信を行って来た。
『まず回線を開いてくれ。共通回線の二番でいい。どれか判るかね?』
エディが操作盤を探り、通信関係のスイッチが集中した一角を見つける。何度か試行し、
回線が繋がった。
『よろしい、私はミゲル・クライン、このコロニーの守備隊長を務めている。君は私が保
護した廃品回収船のクルーだね?』
「はい……エディ・ホリデイです」
『ではエディ、MSを勝手に動かした件については何も言わないでおこう。まずここの救
助を手伝ってもらえないか?瓦礫を取り除く作業を手伝って欲しい』
「は、はい」
元よりそのつもりである。エディは立ち上がると基地の瓦礫の山に向かって行った。周
辺には五機のMSが大破していた。
エディは慎重に瓦礫を取り除き始めた。ジャンク屋でも作業用のプチMSでスクラップ
の山を仕分ける作業の経験がある。このMSは扱い難いが少しづつ要領を得て来ていた。
「上手いもんだな」
フィリップが感心した。彼が指導している新兵よりよほど手馴れている。ミゲルがフィ
リップにクローズ回線で話しかけてきた。
「先輩、『カサブランカ』との連絡が取れない。そちらに向かってはもらえませんか」
「判った、見てきてやる」
フィリップが請け合ったのと、ドックから爆発が起きるのと、同時であった。
「うわ!」
「な……なんてこった!」
ミゲルとフィリップが声を出したのは同時だった。
『カサブランカ』のブリッジが消失している。正面にはザンジバルと思われる艦艇。侵入
を許していたのだ。
「先輩、奴らを押し返します!」
『判ってる!』
フィリップは既にザンジバルに向かっている。しかしザンジバルの周辺にはゲルググが
三機展開していた。
「ゲルググ!こんな時に!」
フィリップが唸った。ゲルググ相手に数的不利はさすがのフィリップも苦戦は免れない。
ミゲルが格納庫から持ち出した一八〇ミリキャノン砲で援護した。ボールに採用されて
いる主砲にジムが手持ちするためのアタッチメントが付けられたもので、前線でボールに
もジムにも転用出来るようにとの意図で設計されている。
「『カサブランカ』!誰か応答してくれ!」
ミゲルは艦橋の失われた巡洋艦に呼びかけ続けた。
エディは瓦礫を取り除き続けた。基地やその他の場所にいた無事な者たちも一緒になっ
て救助作業は進んでいる。生存者ばかりでなく死者もいたが、エディは涙を流しながら操
縦を続けた。
その作業はもしこの場に熟練パイロットがいれば目を見張るほどの速さと正確性だった。
僅か一時間で大きな瓦礫をどかし、細かい破片の除去作業に入っていた。
――助けて
「!?」
エディは周囲を見回した。共に作業に当っていたアンドレが声を掛ける。
「どうした、エディ?」
「今、助けてって……」
「声か?俺は聞こえなかったが」
「でも、確かに……女の子の声が……」
――助けて
「まただ――上?」
エディは上を見上げた。信じ難い事だが、声は上から聞こえたように感じたのだ。当然
見上げればそこにも「地上」があるが、そこから声が届くとはさすがに思えない。
――ここから出して
「まさか……」
エディは今思い浮かんだ考えを自分でも信じられなかった。信じられないにも関わらず
同時に確信もしていた。声の主は……。
エディはMSを走らせた。アンドレが回線でなにか叫んでいたが聞こえなかった。声に
向かうので一杯だった。
途中でスラスターを開きジャンプし、飛行体制に入る。向かうのはドックである。
空中で加速しつつヒートパイルを使用し、自分は衝撃に備える。そのままドックの隔壁
に肩からぶつかり、隔壁を破って侵入した。隔壁の内部に入ると目の前にゲルググがいた。
「う……うわっ!」
突然の乱入者にゲルググも一瞬怯んだようだが、さすがにゲルググを預けられるだけは
あり、すかさずビームナソードを抜いて斬りかかってきた。
「アァー!」
パニックを起こしたエディはレバーから手を離し両手で頭を抱えた。当然、彼のMSは
棒立ちである。
「エディ君!」
「あの馬鹿!」
ミゲルとフィリップが同時に声を上げたが二人とも行動が間に合わない。その場の全員
が同じ未来図を覚悟した。
だが。ゲルググの袈裟掛けの一太刀はエディのMSの肩で受け止められ、ビームの刃は
それ以上斬り込む事が出来なかった。
フィリップのマシンガンとミゲルのキャノン砲が同時にゲルググを襲い、ゲルググは間
一髪で攻撃を避け距離を取り直した。何が起きたか判らないエディにフィリップが接近し
怒鳴りつけた。
『馬鹿野郎!何しに来た!』
「え、あ、あ……」
『邪魔だ、下がってろ!』
「こ、ここで、誰かが助けてって……」
『何だそりゃあ』
「わ、判りません、でも、確かにここから出して、って……」
『わけ判んねえ事言ってねえで下がってろ!』
そう言って乱暴にエディの機体を突き飛ばし、敵に備えた。しかし、敵の行動は意外な
ものだった。
「撤退する!?」
ザンジバルが後退を始めたのだ。ザンジバルだけではない、ドックに展開されていたゲル
ググも退却していた。
ミゲルがキャノンを撃ったが、ゲルググのシールドで防がれた。ミゲルもフィリップも
罠を警戒してそれ以上追わず、退却を許してしまった。
「何で今退却なんだよ……何がしたかったんだ、あいつら」
フィリップが呟いた。エディが加わったところで優勢は変わらなかったはずだ。それを
何故簡単に撤退したのか。しかし、あのままでは持ち堪えられなかったのも事実だ。命拾
いしたと言うべきだろう。
『うわっ』
エディの声が聞こえた。フィリップが不機嫌に訊く。
『今度はなんだ?』
『あ、いや……ヒートパイル使いっぱなしにしてたら、オーバーヒートしかけてて……』
『ヒート?ああ、肩にそんな仕掛けが付いてるのか』
「なるほど……ヒート系の兵装だからビームサーベルを弾けたのか」
ヒートホークやヒートソードがビームサーベルと切り結ぶ事が出来る事は経験的に知ら
れていた。原理は解明されていないが、表面に発生する電磁場がIフィールドに干渉して
斥力を発生させるのだ、と言われている。肩のスパイクが高熱を発する仕掛けなら、同じ
現象が起きてもおかしくない。
「とにかく、今は敵が退却しました。まず被害状況を確認しましょう。これからの方針は
その後です」
ミゲルはそう言うしかなかった。
「まさか前線に出してくるとはな……」
ザンジバル級巡洋艦「ブレーメン」の艦橋で艦長席に着いた男が半ば独白のように呟い
た。年齢は二十代半ば、茶色の髪を短く刈り込んではいるが、顔立ちはむしろ繊細と言っ
ていい容貌である。
脇に立つ士官が同調する。
「奇襲が鮮やかすぎましたかな、ファンダ少佐」
「……上手く行き過ぎて失敗など、笑い話にもならんな」
フォンダと呼ばれた男は苦笑した。
「いかがなさいますので?つまり、バドー奪回を優先するのか、と言う意味ですが……」
「ふむ……いずれにせよバドーが極めて高性能なMSである事は変りない。しかし、連邦
軍の戦力とされるくらいなら破壊するべきだろう。一旦閣下にご報告申し上げる。その後
閣下のご裁断を仰ごう」
改めて操舵士に撤退を命じ、ムサイと共に撤退したのだった。
その「ブレーメン」の奥、士官用の個室に部屋の用途を思えば不釣合な少女がいた。
暗い赤毛にブラウンの瞳の少女は虚ろな視線を壁に向けたまま、ぽそりと呟いた。
「また……」
ここまで
【キャラクターデータ】
エディ・ホリデイ
「ピースメーカー」のクルーで最年少。母親を幼くして失い、父親とは折り合いが悪く、家出同然にジャンク屋に仲間入りした。
起用でMS操縦に才能があり、ジャンク屋では早くからMSや作業用プチMSの操縦を任されていた。
0066年生れ、14歳
【MSデータ】
MS-19-O バドー@
全高18.3m
本体重量44.1t
全備重量61,3t
ジェネレータ出力1410kw
スラスター推力71,200kg
小惑星ペズン製MS。型式番号はペズンの通例通りダミーである。ジオン製だが流体パルスシステムではなく
フィールドモーターを採用、構造もモノコックではなくセミモノコック方式を採用するなど異色の機体。
フィールドモーターにはマグネットコーティング処理も行われており、高出力と高レスポンスを両立させている。
武装
ヒートパイル
肩アーマーのスパイクをヒート系兵装としたもの。本機のダッシュ力の高さもあり破壊力は高い。
本来は敵のビームサーベルの斬撃を止める効果が期待され、攻撃手段は二次的なものである
ぬう、レスが無いな
204 :
ヴァンプ:2010/05/16(日) 10:30:15 ID:d/fJUQUY
突然ですが、前々から妄想してたガンダムを企画だけカキコします。なんかとダブってたらゴメス。
作品名 機動戦士ガンダム Lost Angels
時代 UC0230
冥王星育ちの16歳の少年スルガは地球連邦をも手中に収めた秘密結社オリンピアンズの人類総奴隷計画を阻止すべく、[メサイアガンダム・イカルス]とともに混乱の大地に舞い降りる!
「うおぉぉおぉ!」
と気合いでドンドン強くなるスパロボ的なものをいれた感じにしたいなーと思っております。
できたらまた小説書きます。
なんという厨二病
ネタであることを祈る
207 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 23:26:48 ID:tT6BzqzY
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