1 :
創る名無しに見る名無し:
このスレは皆でシェアードワールドを創るスレです
世界観やどういう感じのスレにするのかは、話し合って決めましょう。
※シェアードワールドとは※
世界観を共通させ、それ以外のキャラ達を様々な作者がクロスさせる形で物語を進める事です。要するに自らが考えたキャラが他作者のSSに出たり、また気に入ったキャラを自らのSSにも出せる、という訳です。
さぁ、貴方も一緒にシェアードワールドを楽しみませんか?
2 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 23:28:47 ID:3Ex0+Gqe
なんか久々にシェアードワールド見た気ガス
でも仁科があると(ry
世界観かぁ、個人的にはスパロボみたいに色んな世界が交じった奴とか、戦争もんとか
ネラースの方とスレタイが紛らわしいな
シェアードワールドねえ…
うまく廻れば実に楽しいんだが、書き手が数人いないと話になんないから成立させるの難しいんだよね
この板で成功してるのは惑星ネラースに二科学園に佳望学園(獣人スレ)ってとこかな?
他と被らず人が集まりそうな世界じゃないといけない
成功してるに入れてもらえなかった……
成功してないけど……早く続き書けよ俺
6 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 23:37:53 ID:8t4ZiCqs
>>5 多分シェアードスレって分からないんじゃないの?
俺も二つくらいかと思ってたし
正直俺は現代と西洋がごっちゃになった感じみたいな…
すまん、俺は説明は駄目な様だ
何かしら案出してみて、それなら俺書くよ!って人が三人以上いればそこそこ形にはなるね
舞台は地球から離れること50、032、000光年にある太陽系の中の四番目の惑星「モノカン」
直径は8000マイル、7つの大陸があり、自転周期は18時間
実際に冒険する場となるのは大陸の一つである「アニス大陸」
アニス大陸の国々
ジェグ帝国
大陸北西部に位置する国家で、もともとはオーガが支配する未開地域でしたが、
遭難したマルデイク島の商船(12隻)にのっていた奴隷達により文明の灯を灯されました
現在では最も富強な国家として認識されるほどに、成長しました。
マルデイク連邦
大陸西部に浮かぶ大きな島がマルデイク連邦です
早くから船を用いた海運業、交易を発展させ、大陸に大きな影響を与える存在となっています
魔法権威の象徴ともいえる大魔法学院が建てられていることでも有名です
チャク郡
大陸北西部に位置する地域の名で、国家の名前ではありません
チャク郡には、この地域を統一するような勢力が存在していないのです
しかし、他の国からの侵略に対しては部族同士が協力し跳ね返し続けています
ワイルドランド
大陸中央に位置する未開地域の名です
周囲を山岳に囲まれ、地域のほとんどが深い森林に覆われています
都市すら存在しないので交易も行われず、文明の恩恵からは見離されています
ただし、その魔境の奥には古代文明の遺産が眠っているといわれ、中に分け入る者は絶えません
アマゴン連合
単一の国家ではなく、いくつかの地域の国家連合体です
外交問題、行政問題などは議会に相当する組織によって検討、決定されます
スクアル僭主皇国
国土の大半が砂漠と乾燥地帯であるこの国には、他の国には見られない大きな特徴があります
スクアルでは、テクノロジーを国家事業としている点です
スクアルが製作した兵器「バトルアーマー」などは技術的には
まだまだ荒削りながらも他国にとり大きな脅威となっています
またスクアルでは「魔法使い」に対する徹底的な弾圧を行っています
事実、スクアルの「魔法使い狩り」で命を落とした魔法使いは数え切れないほどです
サイング連盟
その名のしめす通り、地域ごとの小国家の連合体です
山地が多く鉱物資源が豊富です
セイラー王国
「魔法のセイラー」と呼ばれるこの国は、マルデイクとともに魔法権威の双璧をなしています
スクアルをはぶく、多くの国と友好関係を結んでおり、多くの留学生が、この地に学問を学びに訪れます
スルーム大皇国
強大な国家でありながら、ほとんどその実態が知られていないのが、スルーム大皇国です
スルームでは昆虫人間であるスラス族が政治的権力の中心にいます
スラス族は、その怪異な外見と裏腹に高度な知性と高い文明を持っています
しかし、その生活習慣・言語など、他の種族との共通点がほとんどないため、
政治形態や思想に今一つ不明な点が多くなってしまっています。
最初から作るタイプのシェアワって大枠が固まった頃に勢い落ちるよな。
やっぱそこまでがいちばん楽しいんだろうな。
10 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/29(木) 03:09:53 ID:1MDUH7ER
正直世界観的はやり尽くした気が…
いっそのこと創作発表板オールスターでパロロワなり架空戦記でもやるかwww?
箱庭スレというのがあってだな
議論とか面倒だし、誰かが適当になんか投下して、そこから早い者勝ちで広げていけばいいんじゃね?
大雑把にだけ世界観決めて議論は無し、細かい設定は最初に書いた者勝ちってのも手だよな
獣人スレで自然発生した佳望学園はそのやり方で成功してる
若干敷居は高くなるかもしれんが、設定は決まったが投下がない、ってショボンな状況にはなりにくい
職人は言葉ではなく腕で語れって感じでどうだ
学園物は適度に範囲が限られててクロスさせやすい
能力とか魔法が飛びかう、みんなだいすき中二病な学園物ってどうだろうか
禁書目録な感じで
学校シェアードは現行にもあるし、青春シェアードっていうのもあったから、個人的にはそれとは全然違う方向性のがいいな
和風な国のシェアワとかどうだろうか
えぇ、東方厨です
17 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/29(木) 21:42:24 ID:zsk0+b9F
現実世界にある超巨大ネット掲示板。
雑談や悩み相談などに多くの利用者が訪れている。
その中にあるトピの一つ、
『********』
(正式名称未定)
に集まった5人から話が始まっていく。
妖怪モノなんてどうか?
誰かが見切り発車で投下したり、それいいね俺書くよ、って人が出始めれば話は進むんだがな
いくら何でも完全に白紙の状態じゃ見切り発車のしようもないでしょ
何やってもいいなら俺が書くけど
面白いモノにリンクする、それがスピンオフなりシェアの本来の始まりだと思う。
外枠なしでSSから始めるの賛成
23 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 23:40:59 ID:dnO8CIUB
じゃあ外枠っぽいのを考えてみるよ。ここを参考にして。
シェアードといえば、話をクロスさせるのが醍醐味なんだけど、クロスさせやすい環境ってどんなんだろう
・適度に範囲が限られていて出会いやすい
・キャラはある程度自由に動ける
・全体的なイベントが起こる(キャラが集まりやすい)
限られた空間とか集合住宅とか学園とか…
26 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/01(日) 00:50:19 ID:ge1jtaUR
・ある話は現代の一般家庭が舞台、そして太古の神話世界の話に、超未来の星間帝国の話。おぼろげに覗く魔界…
『この設定を是非とも使いたい』と思えるSSが来れば、スレ内で異ジャンル複数のシェアードが発生してもいいと思う。
なんかネラースの方と同じ流れだな
28 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/01(日) 09:03:12 ID:h/uUlztv
これ使わせてもらえばいいんじゃない
299:創る名無しに見る名無し 2009/10/20 10:38:41 8OUkbrvl
現代世界の並行世界
皇国日本帝國
皇(すめらぎ)を代々戴く東洋の最先進国家で首都は東京と京都にの二都一首都制
分析学的には異能力者の研究で世界最先端を行く
国家をあげ異能力者特性検査を出生時に実施しており、全ての国民に可・不可の称号が与えられる(ただし、可は全人口の1割に満たない)
また、それとは別に国家に属する全ての異能力者には甲乙丙丁の分類が行われている
物語開始時の1941年12月初頭で既に中央共和国との戦争状態にあり、中央大陸を領有するに至っている
統合アメリカ合衆国
南北アメリカ大陸全土を支配する世界最大の国家
軍需力に長け物量で最大勢力を誇る国家ではあるが異能力者の研究では遅れを取っている
物語開始時には日本との武力闘争は行っていないものの、明確な敵対関係にある
第三ローマ帝国
ヨーロッパの過半を支配する軍事国家
圧倒的科学力を生かした異能力者の研究に熱心で、ブリティッシュ王国など多数のヨーロッパ各国とは戦争状態にあり、日本及びアクシズ党イタリアとは、同盟関係にある
アクシズ党イタリア
イタリア半島は支配する伝統ある民主制国家
アクシズ党の台頭により戦時体制に移行、統合アメリカとの対立に至る
中央共和国
中央大陸を支配する巨大国家
日本と戦争状態にある
ユーラシア帝国
ツァーリと呼ばれる皇帝が治めるユーラシア最大勢力
労働者の大規模な国家動乱を経てより専制的な国家運営に移行している
なりふり構わぬ非人道的な実験により異能力者の開発を行っている
ブリティッシュ王国、大帝領フランス、低地同盟、ユグドラシル連邦、EEC(東ヨーロッパ共同体)
ヨーロッパ各国だが第三ローマ帝国の侵攻を受け統合アメリカに助けを求めている
★☆★史上最強の厨ニ病世界を作ろう!★☆★
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220944520/
他スレのネタ使うなら最初からこのスレいらないじゃん
じゃあやめよう
32 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/01(日) 14:18:18 ID:gTcOIq2/
設定が細か過ぎてもシュアードワールドになりにくいのでは?
ホラーやろうぜホラー
幽霊屋敷がいっぱいある町みたいな感じで
そう近くはない時代…いや、もしかしたらずっとずっと遠くの時代なのかもしれない、いわば簡単に纏めると「未来」の世界の、小さな閉鎖都市が存在していた。
今の日本の東京都が一つ入ってしまう広大な土地で、何者にも指図されず、独自の法を創りあげ、様々な人々が行き来する…そしてその独自の文化は、高い壁によって守られていた都市が確かに存在していた。
だがもう一つ。この都市には特徴があった。
この都市という小さな国には、いわば「常識」は通用しない。
先程上げた法も最低限な物だし、日本刀や薙刀だとかいう刀類や、マグナムやリボルバーとかの銃器に、魔法や固有能力、更にはパソコンや車、ロボットまでもある始末。
…つまりは、この都市は国なんかそういう中途半端な言葉で指すよりか、何処かの一つの世界の様にもなっていたのだ。
…最後に言っておくが、この世界は一応「未来」である事を忘れないでほしい。
そしてこれを読んでる貴方。もしこの閉鎖都市に一つでも興味を持ったら、是非是非、覗いて見てほしい。
そこにはきっと、非日常的な、貴方が見た事が無い「未来」が広がっているはずだから。
スレの意見を取り入れた結果。
自由度は低いかもしれん。すまんね。
…しかし、考えたらカオスだな、この未来
・20XX年、日本全土で局地的な地震が多発
政府、地震とそれに伴う二次災害の対応に追われる
・地震による断層、地裂から異形の物が出現
人々を襲う事が報告される
・政府、自衛隊の派遣。そして駐留している米軍にも支援を要請
第一次掃討作戦の開始
大都市に徘徊する異形達の掃討に成功
・国連、日本を特別危険地帯に指定
渡航などが制限される
・地方自治、政府対応の遅れに批判が続出
自らの都市防衛する為に独立武装隊を持つ事を主張し始める
政府、これを黙認
・異形の物から未知の物質「魔素」を発見
安部 蘆屋 小角 平賀 玉梓 の五人が独自理論を発表
これにより、魔法体系が確立される
・第二次掃討作戦開始
各地の異形の掃討及び出現地帯の封鎖
出雲、黄泉比良坂まで押し戻す事に成功
・日本、鎖国を宣言 海外との国交を断絶
日本への渡航が完全に禁止させる
米軍、日本より撤退
上をうけて妄想してみた
災害で中世まで文明レベルが落ちているけど
残った前文明の遺物と魔法でなんとかやっていける感じ
政府は名前だけで各都市が独自で頑張ってる
もしかしたら食料とかで各都市と争う事があるかもしれない
あと、異形は未だそこかしこにいる
人々は防衛のために武装したり、倒せる人を募集したりするの
面白そうだけど、皆やりたいことの方向性がてんでバラバラだなあ・・・
37 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/02(月) 09:32:39 ID:hJFrRIRa
ここはシュアードワールドの舞台を募集スレにしちゃってある程度決まったらその世界限定スレを立てればいいんじゃね?
38 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/02(月) 09:39:58 ID:hJFrRIRa
あと、細かい設定は後回しにして、やりたいジャンルをまず絞るほうがいいのでは?
もう面倒くさいから安価でも出して何するか決めようぜ
このまま話し合ってても決まる気がしない
安価に頼るのは流石にどうかと?
まあそうなんだけどさ
何やるか決まらんことには始まらないし、企画始まる前から延々議論続けるなんて不毛だと思うんだよね
42 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/02(月) 21:45:48 ID:hJFrRIRa
43 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/02(月) 21:54:01 ID:hJFrRIRa
今まで出てる世界、
やってみたい世界を書き出して
『この世界でやりたい!』という意見が1番多い作品で始めるのは?
期限は11/8(日)まで
もしくは書き込みが100レスに達するまで
…というのはどうでしょう?
46 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 00:33:42 ID:+c1MSj6x
日曜は遠いから木曜くらいでおkじゃね?
俺は
>>34(カオス都市)で
俺は
>>16か
>>19みたいな方向性がいいな
シェアワっていうと大体SFだから参加しにくい
49 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 03:35:38 ID:rYYhDR0i
沸き立つ血の池、聳える針山、轟く悲鳴。
ここは地獄の三丁目。
人間界と地獄を繋ぐ虚無の扉(ゲヘナゲート)の建設地である。
「まだ出来ないのかよー、おっせーなー」
黒のランドセルを担いだ男の子が、図面を持った現場監督のおっさんに文句を言う。
「申し訳ありません、殿下。なにぶん人間界の時空は硬くて、ドリルがボリボリ折れちゃうんです」
おっさんは脂汗を作業着の袖で拭いながら、ランドセルの小学生にへいこらして言った。
どうやらこの小学生、閻魔様の息子らしい。
おっさんは顔色は優れないが、酔っているわけでもないのに真っ赤だ。
赤鬼だから。
「これじゃあ小学校に遅刻しちゃうっつーの。
もし遅刻したら、親父に言って、朱天グループを地獄公共事業カルテルから外すからな」
「そ、そんなー!勘弁して下せぇよ!」
おっさんは苦悶の表情。
「なら早くゲートを完成させろ。明日までに出来なかったら、カルテル追放に加えて、地獄ダイ○ウスでヘウルゲイトスの門を買うからな。
領収書を回すぞ。金山なら二つ、人間なら一万人、鬼なら1000匹だ。一括払いしか受け付けられんそうだぞ」
ランドセルが一人でに開き、中から黒い靄が溢れ出す。
靄は大きな黒い手のシルエットになって、ランドセルの中から地獄○イワハウスのパンフレットを取り出した。
それを赤鬼のおっさんに手渡す。
おっさんは、パンフレットの参考価格欄のゼロの数を数えて、赤鬼なのに真っ青になった。
「ひいー!掘削急げー!!」
おっさんもシャベルを持ってトンネルの中に駆け込んで行ってしまった。
(ゼネコンの下請けはつらいものだな、ひっひっひ)
殿下は一通りほくそ笑んで、ランドセルから例の黒い靄を召喚し、PSPを取り出させた。
「さて、今度こそホワイトハウスに火柱見せてやるぞ」
PSP。
ペンタゴン・シューティング・プログラムである。
地獄には趣味の悪いゲームが売られているのだ。
亡者の積んだ石山に腰掛け、地獄の殿下はゲームに没頭し始めた。
その足下に、一匹の猫が寄ってくる。
「殿下、殿下。ゲームばかりしていては、お脳が倦んでしまいますニャ。
もっと閻魔大帝の御子息らしく振る舞っていただかニャいと」
猫がにゃにゃにゃと喋りにくそうにしゃべった。
その猫が、ピョーンと飛び上がって宙返りすると、「ドロン」というSEとともに煙が巻き起こる。
煙がはれるとそこには、スレンダーな女性が立って居た。
ただし全裸でネコミミだ。
ゲームからチラと目をあげ、溜め息ひとつ漏らしてから殿下はまたゲームを始めた。
「外で人化するなと言ってるだろ。侍女長(じじょちょう)が全裸で歩き回ってる方が家の恥だっつの」
「あら、ごめんニャさい。私ったらつい」
そう言って、猫又の侍女長はエプロンを付けた。
裸エプロンて奴だ。
「殿下も好き者ですねぇ……さぁ、存分に視姦してくださいニャ!さぁ、さぁ!折檻も強姦も承るニャ!」
「はぁ……教えてくれ、侍女長。夜魔族はどうしてそこまでおミソが沸いているんだ」
「そりゃ、閻魔様の血族を孕めば、覇権を握るチャンスですからニャ。
それに、“イカガワシイこと”してライフドレインするのが夜魔族の主食ですし」
「主人から覇権やライフを奪おうとするなっつの!お前は飯抜き!後宮の男娼減らす!」
「にゃ、ニャんですとぉ!?」
53 :
47:2009/11/04(水) 03:52:42 ID:v89qA1NL
>>50 俺の考えてたのとはちょっと違う感じだけど
こっちで妖怪始めても似たような感じになりそうだ…
紹介ありがとう!wikiの河童と猫又がよかった
>>52 色々ツボなんですけど!
GJ!
とりあえず
>>52の続き書いていいかな?
みんなでシェアする世界が決まったら、その世界に時空ゲート的なものでキャラ移植するし。
こういうのは描いた者勝ちだぜ
作品が投下されればされるほどイメージが膨らむからな
>>55 てっきり俺はあそこで終わりかと思ってたよ…w書いてもらった方がええかな。
一応見る限り
>>34>>35>>52が人気なのかな?
まとめると
>>34は『文化閉鎖都市』
>>35は『女神転生風世界』
>>52は『門前』(こればかりはどう説明すればええか分からんお)
こんなんでええの?
>>55 決まるまで待った方がいいんじゃないか?
どうなるか分からないから書いたのが無駄になるかもしれないし
59 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 20:04:39 ID:blwtZWJa
いやいやどんどん書くべきだと思うよ
今なら書いたものがそのままスレの方針になる確率が高い
世界を創るのは今だぜ
てか皆が決めたシェアワールドに繋げるつもりで
>>52書いてたんだが、
シェアワ候補に立候補した形になっちゃった?
まぁどっちでもいいんだけど。
>>59 ヌコ小がケモ学になったのはビビったよマジで
>>60 設定談議はそこそこに作品投下で色々決まってくあの流れはなかなか理想的だったと思うんだぜ
やっぱ作品が投下されてこその創作発表板だし
あとこのスレ、まだまだ企画段階で多くの人に見られてなんぼなんだから常時ageでもいいと思う
62 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/05(木) 03:37:35 ID:0+cfDyFp
>今なら書いたものがそのままスレの方針になる確率が高い
これを狙って投下しようとしたんだが
上手く話がまとまらないってかシェア向きの設定じゃねー!
ピチューン
書きあがったら導入部なのにとても長くなっちまった。
議論中のお試しSSとしては何か失格感が拭えないwww
>>62氏といっしょにピチューン
>>64 さあ、出来上がったssを投下する作業に移るんだ
66 :
62:2009/11/06(金) 00:18:32 ID:WaYiNtyg
ああ、なんか誘い受けみたいになっちまって顔から火がでそうだわ!
そうだ、創発は投下がジャスティス!
結果の是非はおいといて、
>>52氏の世界観へ合流すべく投下開始。
高校生になったら、きっと素敵な出会いが待っていて、もっと楽しい人生になるだろう。
そう思い続けて早半年。俺の人生のサブタイトルは「中」が「高」になっただけで、
すでに3クール目を迎えるくだらない学園ドラマの様相を呈していた。
かといって別に落ち込んだりするような悲劇的な学生生活でもなく、まあ起伏がない
のもそれはそれでいいじゃないか、というところに落ち着いてため息をつくのが、ここ
毎日の日課みたいなもんである。
思うに俺は何か突拍子もないことに期待をしつつも、どこか平穏無事でいたい、あまり
感情を揺さぶられたくない、と常日頃から考えているが故、その結果として今の自分が
あるのだろうと分析しているのだ。例えば――
「どいて、どいてー、ちこくひひゃう!」
――こんなベタを通り越してネタみたいになった台詞が聞こえたその時ですら、自分に
はなんら関係のない事象だろうと、その瞬間は思った。
大方かじりかけの食パンでもくわえているのか、おぼろげに近づいて来るもごついた声
をよそに、ふと時計に目をやる。
もちろん腕時計などではない。
暗い部屋の中で薄緑色に光る長針と短針は、ちょうど深夜の二時を指していた。
「こんどちこくひたら、ただじゃすまにゃいひょー」
いや、これは何かおかしいぞ、とようやく声が聞こえてきた方に起き上がると、突然壁
から何かが飛び出してきて、確認する間もなく息が止まるほどの強い衝撃に襲われた。
何が起きたか分からないままベッドからごろごろと転がり落ちたかと思えば、続けざま
罵声が浴びせかけられる。
「ちょ、ちょっと! どこ見て寝てんのよ!」
夜ベッドで眠りかけていたら、遅刻寸前の少女がぶつかってきた。
世の人類を二分したとして多少はツッコミ側にいるであろう俺も、さすがにこの事態は
予測不能であり、すぐ隣で「あいたたた」なんて腰をさすっている白装束の少女に対して
なんら有効な言葉が思い浮かぶことはなかった。
「ぼーっとしてないで、拾うの手伝ってよ!」
かつてないほど寄っていると思われる俺の眉間のシワの先には、薄汚れた巾着袋から
これまた薄汚れた何冊かの本がはみ出し、そのうちの何冊かは見るも無残に散らばっている。
「ああ、もう本当! 遅刻したらあなたのせいだからね!」
何がなにやら、こちらが面食らっているのもおかまいなしに文句を言うものだから、
何か急に悪いことをした、なんて気持ちになってしまい、散らばった本に手を伸ばしてみた。
《幽霊の歴史(現代編)》
《霊数学(T)》
それを見て、俺はようやくふう、とため息をつき、落ち着きを取り戻すことができた。
これはきっと何かおかしな夢を見ているに違いない、とそう思ったからだ。
「何ため息なんかついてんのよ、こっちは急いでるんだけど?」
「んなこと言われてもな、ここは俺の部屋だぞ? 勝手にぶつかって小汚いもん散らかし
やがって、ため息のアドバンテージはこっちにあるんだよ」
「な、なによ! 急にむつかしいこと言って」
怒りの形相を見せた少女は、黒く艶のある髪を伸ばしながらすうっと立ち上がり――。
いや、立ち上が――。そいつに足はなかった。
さすがに我慢の限界である。いくら夢とはいえこんなばかげた話はない。
一体何のコントだというのか、これじゃあまるでベタベタの幽霊じゃないか。
しかも幽霊といえばあれだ。あの頭につける三角のやつ。名前は知らないがもしやそれ
もついているのでは、と目をやると――あった。白く小さな額を覆うように、ちょこんと
可愛らしくそれがついている。俺はたまらずに吹き出した。
「お前、もしかして幽霊なのか」
「そうよ、何か可笑しい?」
腰に両手をあててむすっとしている少女だったが、はっときづいたように窓の外へ目を
やると、がくりと顔を落とす。ずいぶん落ち着きのない幽霊だな、なんて思っていると、
やがて気落ちしたような声を漏らした。
「もう、いいわ……」
「何が」
「もう間に合わないから」
「だから、何がさ」
笑いを堪えながら聞き返す俺の前で、少女は行儀正しく膝の裏へ手を回し、白装束を
折りながら静かに正座をした。
「私は夜々重」
「ややえ?」
「そう、享年15歳」
俺は再び吹き出した。
「どうせ遅刻だからさ、もう、今日は学校休むことにする」
「お前は俺を笑い殺すつもりか」
「……ねえ、さっきから本当、失礼にもほどがあるわよ」
少しだけ冷たいその言い方に、俺は何かうすら寒い気配を感じて我に返った。確かに
夢とはいえ、幽霊とはいえ。こんなに笑っちゃあ悪いのはこっちだろう。
「ああ、悪かったよ。俺の名前は――」
卍 卍 卍
夜々重と名乗る幽霊は生きた人間と話すのが久しぶりらしく、それからしばらくの間
続けられた会話から、物言いは高飛車でもどことなく愛嬌のある幽霊であることが伺えた。
こいつは頭の後ろに巨大な鈴を付けており、それは一体なんだとか、かわいいでしょ、
みたいなやりとりも、結局何か分からずじまいだったが心潤わすものがある。
これが夢でなければ、まあなんと言うか、素敵な出会いというものに分類してもいいの
かもしれない。
ひとしきり話すネタも尽き、訪れた静寂。窓から差し込む眩しい月明かりが、夜々重の
ほころんだ唇をきらきらと輝かせている。
「じゃあ、そろそろ私行くね」
この頃になると俺は夜々重と別れるのが少々名残惜しくなっていて、それは大変に非現実
的な感情であるにも関わらず、なんとか長い間この夢を見続けていたいと感じはじめていた。
そして、彼女を引きとめようと口を開こうとした時、それは起きた。
「なあ、もう少しだけ……」
首が熱い。
「こ、ここに……いてくれ……な」
焼けるように熱い、息が出来ない。
「どうしたの!」
苦しさのあまりうつむいてしまった俺の背に、夜々重の冷たい手が触れるのを感じた。
「なにか病気? ど、どうしよう!」
慌てる夜々重の声、そんなもの患ってない。ただ、首が。首が燃えるように熱い。
視界の端を闇が侵食し始め、みるみるうちに何も見えなくなる。暗闇に閉ざされた感覚
の中、ぱらぱらと何かをせわしくめくる音と、夜々重の焦った小声だけが響き渡っていた。
「あ、これだ……ええっと。大丈夫、ゆっくりそのまま」
恐らくは俺に向けられているのだろうその言葉を頼りに、まるで冷たい鉄の塊に圧縮
されていくような苦しさに身を委ねる。俺は一体どうしちまったんだろう。
「苦しいけど頑張って、身体は無理に動かさずに。大丈夫だから」
心の中で「ああ、わかった」と答える。
「心配しないで」
心の中で「ごめん、なんか急に」と答える。
「私が助けてあげるから……」
卍 卍 卍
深く、暗い海の底から急浮上していくような、止めることのできない眩しさが、凄まじい
速度で身体を貫いていく。
それは永劫かと思われるほど長い、ほんの一瞬だったのかもしれない。とてつもなく長い
夢から覚めた、とてつもなく短い時間。
取り戻した視覚が彩る世界は、相変わらず真っ暗な部屋の中で、俺の記憶の残るままに
正座をしている夜々重の姿があった。
「大丈夫?」
「あ、ああ……、何だったんだ? 今の」
「いや、その……ね」
何か動揺したようなばつの悪そうなひきつった笑顔をたたえながら、夜々重は黒い手帳
を差し出してきた。
表紙には「死徒手帳」と小さな箔押しがされている。
「死徒手帳?」
「死んでるから、私」
「ああ、生徒手帳みたいなもんか」
折り目を付けて開かれた内容は次のようなものだった。
《私たち幽霊は、生きた人間と長い間接していると、本人の意思に関わらずその「呪い」
を人間へ付与してしまします。呪いの種類はさまざまですが、概ね私たちの死因に関わる
ものが多いようです》
「なんだこりゃ」
手帳越しに視線をあげると、夜々重はそれに気づいて目を逸らした。
どうも様子がおかしい。
「なんだっていうか、そのまま……なんだけど」
「はあ?」
《恨みのない人間に対して呪いを付与することのないよう、十分に気をつけましょう》
「なるほど、幽霊と長い時間一緒に過ごすと呪われちまうってことか」
「ご、ごめん。そんなのすっかり忘れてて……驚かないの?」
ふんと鼻を鳴らして、俺は続きに目をやった。
《誤った呪いを付与してしまった場合、速やかに担当教師に報告し、その後閻魔大帝もしく
はその親族と相談のうえ、解呪申請を提出してください》
「閻魔大帝だってよ」
「私みたいな低級霊じゃ、そう簡単には会えないんだよ」
夢というのが、その人間の想像力や発想力から創られるものならば、俺はなんと現代
社会に汚染された夢を抱いているのだろう。まるでニュースで報道されている役所みたい
ではないか。
「いいじゃねえか、地獄に殴りこみだ!」
「ねえ、本当に分かってる? 悪いのは確かに私だけど、これって大変なことだよ?」
「分かってるって!」
笑いつかれて深呼吸する俺のすぐそばで、ごとり、となにか倒れる音がした。
「あ」
「あ? あってなんだよ」
白く細い指が、震えながら示す先。
苦悶の表情で目を見開く、俺が倒れていた。
「俺じゃねえか」
「う、うん」
俺の目の前で、俺が死んでいる。
この時、もしやこれが現実だったらという、とても不吉な予感がした。
もちろんそんなことはないのだろうが、笑いが込み上げてくることもなかった。
「なあ、夜々重」
「なに?」
「これ、夢だよな?」
ごくりとのどが鳴る。
「なに言ってんの?」
怪訝な顔を向ける夜々重の頭の後ろで、あの大きな鈴が、がらんと大きく鳴った。
卍 卍 卍
きっとこの先、素敵な出会いが俺を待っていて、楽しい人生になる。
ほんの数時間前までそんな風に考えていた俺を待っていたのは、
夜々重と名乗る変な幽霊との出会いと、人生の終着駅だった。
72 :
64:2009/11/06(金) 00:28:48 ID:WaYiNtyg
投下終わりです、議論中なのに長くてすみません。
人間界側からの視点なので、さぐりさぐりですが、
殿下と侍女長へ突撃していきたいと思ってます。
いいねいいね!
その調子でいこうぜ
適当に出揃ってきたら勝手にキャラ借りて自分も参加してみるかね
元々二次創作出身だからある程度土壌があるほうが書きやすい
ややえちゃんになら呪い殺されてもいい
75 :
64:2009/11/06(金) 17:47:44 ID:WaYiNtyg
今気づいた。
>>65の名前欄に62って入れちゃったけど、間違いです。
76 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/06(金) 19:40:11 ID:YqKmGJKS
これ流れ的にもう決まったん?
良き案があればまだ変えれるんじゃないかな
78 :
64:2009/11/07(土) 13:21:39 ID:+p5uUL6O
うん、俺も52を読んで勝手につなげたくなった話を書いちゃっただけで
長くなっちゃったのは申し訳ないんだけど、
単なる賛成の一票だと考えてもらえれば。
コンペ式にリンクしたくなる作品を待つ、というのはいい出だしだと思う。複数盛り上がりそうなシリーズが出来て煩雑になれば新スレ立てればいいしね。
この案がいい、とかあの案がいいとかでもめるより、
それぞれ枝を伸ばしていく方がいいかもしれないね。
81 :
◆GudqKUm.ok :2009/11/08(日) 22:22:09 ID:b1JH0TQo
このままじゃいけない…泣き喚く幼い二人の弟を懸命に慰めながら由希はそう思った。灰色の街並みはますますぼんやりと歪んで見え、行き交う人の顔すら、もはやはっきりとは判らない。
「…帰りたいよう!! おうちに帰りたい!!」
声を振り絞って嗚咽する弟たちは、なぜか綺麗なままの洋服を着ている。そう、あの事故の前日に買ったばかりだった、お揃いの小さなパーカー…
ひどい事故だった。由希の最後の記憶は、フロントガラスを砕いて宙高く飛び出す弟たちの姿と、ひしゃげた車体が自らを押し潰す激痛。次に気付いたときには、弟たちと一緒に見慣れないこの街角に立っていた。
(…死んじゃったんだよね、私たち…)
あれから何度考えてみても、由希の結論は変わらなかった。道行く人も車も彼女たちには気付かず、触れてみるとまるでどちらかが幻灯の映し出す虚像であるかのようにすり抜けてしまう。
空腹も眠気も感じることなくただ過ぎてゆくだけの時間。耐えがたい孤独と絶望のなかで由希を支えているのは、自分がただ一人の保護者である弟たちへの責任感、恐らくもう逢えないであろう両親に対する、まだ十歳の彼女には重すぎる義務感だけだった。
「…ね、拓ちゃん、真ちゃん、お姉ちゃんと行ってみよ? 怖くないから…」
「いやだ!! 怖い!! 怖いよお!!」
そしてもう長い間、三人は暗い『穴』の傍らに佇んでいた。深く、寂しげな『穴』。しかし由希の揺るぎない直感は、自分たち死者を黙殺して不快に軋むこの世界を離れ、一刻も早く向かうべき場所はこの『穴』の向こう側にあると告げていた。
ぐずぐずと場違いな生者の世界に留まっていては、取り返しのつかない恐ろしい事になる。たとえ行く手に由希がまだその存在を信じている、身の毛もよだつ『地獄』が待っているとしても。
82 :
◆GudqKUm.ok :2009/11/08(日) 22:24:51 ID:b1JH0TQo
(…この子たちは大丈夫。私も、多分…)
まだ保育園児の弟たちは地獄に落ちるような罪を犯せる筈がない。由希も両親や、去年亡くなった祖母のいう通り正直に嘘をつかず生きてきたつもりだった。心配ない。きっと大丈夫だ。
近づいていた誕生日、遠足…心残りは数え切れないが、胸を張って神さまの用意した道を進まなければ…
「いやだあ!! ママ!! ママ!!」
まるで分厚い硝子板に隔てられたような近くて遠い景色のなかを、仲睦まじい家族連れが歩いていた。決して届かない生の世界に小さな手を伸ばし、悲しく叫ぶ弟たちの手を引いた由希は、静かに冥府へ続く『穴』に向けて脚を進めた。
(あっ!?『穴』が…)
由希の目前で不定形の闇は確実に小さくなっていた。急がなければ。これまでも何回となく彼女は『穴』を見送ってきた。せめて見慣れた世界から弟たちを無理に引き離すのが忍びなく、いけないと知りつつも目的もなくふらふらとこの街を彷徨い続けて。
(…これが最後の『穴』かも…)
思えば、最初は街の至る所で見掛けた『穴』が、どんどん減ってゆくような気がする。時間の経過は全く判らない世界だったが、『穴』を見つけるのは久しぶりの事だったのだ。
(…最後のチャンス、かもね…)
断じてこの虚しい徘徊が死者の歩むべき正しい道の筈がない。こうして魂がある限り、短か過ぎた生涯を超えてなお輝く道を目指したい。
姉として二人の弟をその道に送り出す為に、震える弟たちの耳元に優しく唇を寄せた由希は、そっと生まれて初めての『嘘』をついた。
「…あの向こうで、おばあちゃんが待ってるよ。『拓ちゃんと真ちゃんはまだかな?』って」
「…ほんと?」
「…お姉ちゃん、嘘言ったことないでしょ? ほら、おばあちゃんが呼んでる…」
83 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 22:27:15 ID:b1JH0TQo
ようやく泣き止んだ二人に微笑んだ由希は、抑えられぬ戦慄に少しだけ身体を震わせた。『嘘をつくと、閻魔さまに舌を抜かれる。』半信半疑で守ってきた教えだったが、まさか閻魔さまにこれほど近い場所で、生涯最初で最後の嘘をつく事になるとは思わなかった。
(…きっと、痛いだろうな…)
また沢山血が出て『死んで』しまわないだろうか?もし喋れなくなっても、はたして弟たちの世話は出来るのだろうか?
とりあえず弟たちの今後に見通しがつくまでは、なんとか舌を抜くのは待ってほしい…
しかしもう、躊躇っている暇はなかった。染み入るような恐怖としばらく闘った由希は、やがて決然と足を進める。漆黒の『穴』が消え失せてしまえば、永遠に公正な裁きすら受けられず彷徨い続ける事になるのだ…
(…さよなら、みんな…)
両親や友達…数え切れぬ親かった者たちとの決別。無慈悲な魔物がその鋭い鉤爪で、なす術もない三人を鷲掴みにして、この辛い旅路を黄泉へと連れ去ってくれればどれほど楽だろう。あるいは、あるいは…
縋りつく二人を背後に庇い、堅く眼を閉じて黄泉への長い回廊に飛び込んだ彼女の耳に、久しぶりに聞く弟たちの明るい声が飛び込んだ。その信じられぬ歓声に、由希は恐る恐る眼を開く。
「おばあ…ちゃん!!」
弟たちが由希の手を引っ張って慌ただしく駆け出す先、思ったよりずっと明るい世界に祖母は立っていた。三人の孫を抱きしめようともどかしく皺だらけの手を伸ばした祖母の姿に、十歳の少女には長すぎる時間、ずっと由希が堪え続けていた涙はとめどなく彼女の頬を零れ落ちた…
84 :
◆GudqKUm.ok :2009/11/08(日) 22:30:56 ID:b1JH0TQo
◇
「…四名、収容しました。」
部下のほっとした声に頷いた獄卒長、紫角は新しく着任した上司に向かい毅然たる念を送った。彼の頭上を覆う地獄の暗雲の中、未だ姿を見せぬ新しい上司の強大な気配は、静かに紫角を見下ろしていた。
(…新しい規定には違反致しました。しかし、幼い亡者を迎えるとき、人間界での親族を迎えに出すことは、過去数千年間ずっと認められてきた慣例であります!!)
虚空から応えはない。しかし紫角はその魁偉な牛面に恐れの色を浮かべることもなく、明らかに越権行為である上申を続ける。ふと気付くと部下の獄卒たちや、普段は不仲な『渡し守』の長たちまでが紫角の背後で、同じ想いを新任の監督官に送っている。
(…重ねて、重ねてお願い致します。幼い者に心細い思いをさせる『合理化』など、現場には不必要であります!! 畏れ多くも統括おかれては、何卒御再考のほどを!!)
昏い地獄の空へ、紫角と部下たち、そして死者たちを冥府へ迎える役目を担った全ての者たちの嘆願は静かに、しかし力強く立ち登ってゆく。
すでに紫角は、この制度改悪を阻止する為なら他ならぬ地獄の支配者、閻魔大帝その人への直訴も決意していた。たとえその結果が、有無を言わせぬ自らの速やかな消滅であったとしても。
しかし、紫角の巨体が煙と化すことはなく、長い沈黙のあと、獄卒たちには窺い知ることの叶わぬ高みから、厳かな返答の念が賽の河原へと返った。
(…詮議の上、善処しよう…)
反り返った角を微かに震わせ、その頭を恭しく垂れた紫角は、遥か上位の次元、宇宙の秩序を司る存在に感謝の念を送ると、三人の新入生が『死業式』に間に合うかを、普段のいかめしい顔のまま、小首を傾げて考え始めた。
おわり
>>84 乙
鬼もいい人達が多いみたいだな
地獄がこれだけ人情味に溢れてれば安心して死ねるw
投下乙だよー
いいねえ、
重苦しい雰囲気の中に存在してる優しさが、なんともたまらんw
>>34で書いてもいいのならば投下。
「…暇、だな」
小さな小屋の個室に、一つ、声が生まれる。
ただ、周りは殺風景。
この未来と呼ばれる時間帯では珍しい風景である。
そんな中、ぽつん、とそこにある小さな小屋。
ケヤキの木で出来た、その家には人が居た。
生まれた時からそこに居て。
気がついたら、彼女は居たのだ。
性別はおそらく女、年齢は推測で20くらい。名前は知らない。
誰も近寄らない。そんな小屋に、彼女は一人、静かにすごしていた。
そんなある日の朝の事。それは唐突に訪れた。
「ふわぁ」
敷いた布団から起き上がり、大きく口を開け、欠伸をする。
「朝なんか、無かったらよかったのになぁ」
そう呟くと、いつもの様に、外に出る。
清々しい朝なんかじゃない。朝が嫌いな自分にとっては強敵だ。
「…中に戻ろう」
そうまた言って中に戻ろうとしか瞬間。
「ん?」
足元に何かが落ちていた。
拾って見ると、自分宛て…といってもおそらくここらしい住所が書かれている手紙。
「手紙なんて久々だなぁ…」
そう言って持った手紙の封を破りながら、部屋の中に手紙を持っていく。
「さぁ、中身、中身〜」
そう期待しながら開けると出てきたのは一枚の紙。
「…どれどれ…」
‐この度、閉鎖都市の人員が一人減りましたので、貴方をこちらに招待致します‐
「閉鎖都市っていうと、あれか」
閉鎖都市。
閉鎖しきった空間故様々なものが飛びかってると聞く。
だが、招待と言われたら別だ。
おそらく長旅になるだろう。
ならば、準備しなくては。と、彼女は立ち上がり、辺りを物色する。
「え、えっと、フライパン、フォーク、布団、それにトーテムポールも…」
………………と、詰め込んだ結果。
「…うわぁ」
自らの持つリヤカーには入りきれず、少し動かすだけで崩れかけていたほど。
…少しは妥協しよう、と彼女の作業はまた始まったのだった。
◇◆◇◆◇◆
「よーし、完成」
そしてしばらくしたあと。
そこには奇跡的にリヤカーに入った荷物の姿が!
と、いっても…先程の半分であるのだが、これが傾いている。
おっそろしいもんである。本当に。
「んじゃ、レッツゴー!あ、そうだ、大きい都市に行くんだから名前が無いと…」
そう顎に手を当て、少し考えた後、閃いた様に、
「…今空都(いまからいく)。うん、言いネーミングセンス」
と言った後、彼女はリヤカーを動かし、走りだしたのであった。
…目指すは閉鎖都市!
投下終了!
…KYって言われても、わしゃ知らんぞ!
タイトルは「そちらにいくよ!」で。
乙です
せっかく一番槍なんだから、もう少し設定に踏み込んでも良かったのでは?
>>90 …まぁ、どうせ俺なんてKYな訳だし、書きたいな、と思って書いた訳で…
これでも妥協した方なんだ…すまんね。
>>91 まてまて、へこむところじゃないと思うぞw
ともかく投下乙
手紙で招待されるっていうのは、何かの組織の陰謀なのか
はたまた誰かの策略なのか、運命なのか気になるところ。
ネーミングセンスゼロの今空都の活躍に期待するぜ!
タイトル的にはネコ耳宇宙人を出さなきゃならないな
94 :
一応トリップ ◆08m4elzWR2 :2009/11/09(月) 20:33:45 ID:O9zOwq3K
>>92 なんかありがと。
少し心が軽くなったよ。
>>93 実はタイトル元ネタはそれなんだ。分かる人おるかなーって思ったら居た訳で吹いたw
>>91 >>90だが言葉不足のようなので補足。
流れ的にKYでもなんでもない『閉鎖世界』の第一作SSなんだから、思いっきり自分の世界観を全面にだして、他の書き手が参入したくなるようなSS頼む!ってエールを送った訳だわ。
今実際に進みつつあるシェアワが2つってことだよね。
たまにまとめレス入れておかないと、はために分からなくなりそうw
3つめを創作中だよ!
筆が進まない…
ロボ総合に投下する予定だった終末世界ものこっちでやろうかな
世界の人間が半数以上ゾンビ化した近未来、隔離された街の外で
ゾンビハンターのアルバイトに勤しむ少年少女の日常的な話
設定やSSを晒すと誰かがクロスしてくれるかもしれないスレ
みたいな感じがおもろいな。
と言うか今んとこそんな感じのスレだよね
まあどっちにしても、こういうのってやっぱり短編ぽいほうがいいんだろうな、
なんて疑問あったりするが、そこはあたって砕けとけ、俺。
てことで投下
「おいおい……マジで死んじまったってのか」
少し前、不可抗力で殺人を犯してしまった高校生カップルを主役にした、鬱展開ドラマ
があった。
当時色々と世間を騒がせたものだったが、流行り物から目を背けてしまう傾向にある俺
にとって、話題作りのために見なければならないそれは苦痛以外のなにものでもなく、
とても苦い思い出となっている。
そして今、なんの因果かそのドラマの中で行われていた会話と全く同じやりとりが、
自室で交わされていた。
「ど、どうしよう……」
ただ被害者が俺自身であるという部分が、ある種ユニークと言えなくもない。
まあユニークという一言で済まされるほど俺の人生は安いのかというと、自信を持って
「ノー」とも言いがたく、とはいえ「そう気にするな」などと言える状況でもない。
ぴくりとも動かない自分の死体を見下ろしながら頭を抱える一方で、その原因となった
夜々重といえば、ちぢこまって謝るばかり。
「……怒ってる?」
「いや、そういう問題じゃねえ」
とにかく今は蘇生することが第一だ。このバカ幽霊を叱るのはその後でいい。床に落ち
ていた死徒手帳を拾い上げ、もう一度さっきのページに目を通す。
「担任教師に連絡って書いてあるぞ」
「か、書いてあったね」
なぜか目を逸らす夜々重を覗き込むようにして、もう一度同じ言葉を繰り返した。
「担任教師に連絡しろってよ」
「いやあ……そうなんだけど」
再び腰をよじって視線を避け続ける夜々重。不思議に思い壁際まで追い詰めると、観念
したかのように信じられないことを言い放った。
「せ、先生ね。ものすごく怖いの」
俺はゆっくりと目を閉じて、たっぷりの空気を吸い込む。
恐らく肺を満たしたであろう空気は怒りという名のエネルギーで膨張し、やがて臨界点
に達する。
「お前、バカか!」
「ひゃっ!」
しゃっくりみたいな声と同時に夜々重の鈴が、がらりんと鳴った。
「じゃあなにか? お前は先生が怖くて連絡を取りたくないから、俺に死ねってのか?」
「そそそうじゃないけど、本当に! で、できれば穏便に済ませられないかと!」
「冗談じゃねえぞ! そんなもんクソクラエだ、責任とれよ、このバカ幽霊!」
「バカ幽霊……ってひどい!、怒ってないって言ったくせに! 嘘じゃん!」
「お前な! っていうか……ああ、もう!」
この緊急事態がまるで子供の口喧嘩のようになってしまい、言葉に窮した俺は思わず
両手で顔を覆った。その手はひんやりと冷たく「ああそうか、俺も幽霊だからな」などと
納得していると、不本意ながら頭の方も冷えてきたようだ。
指の隙間から覗く自分の死体からはよだれなどがたれ始めており、大変痛々しい表情の
中で見開かれた瞳は、ぼんやり白くにごり始めていた。
マズイ、何かマズイ。それほど人体に詳しいわけではないのだが、このままでは非常に
マズイのではないかと、頭の中でエマージェンシーコールが鳴り響き始める。
「わ、悪かった。怒ってるわけじゃないんだ、すまん」
「絶対ね?」
「とにかくこれを――というか俺の身体を何とかしてくれ。このままじゃ腐っちまう」
「うんわかった、調べてみる」
夜々重は薄汚れた巾着袋から何冊かの本を取り出すと、それを丁寧に床に並べて腕を
組み、何度か唸ってから一冊の本を指差した。
「これ! これに書いてあったはず!」
「やさしい保健屍育?」
「私、この成績はいいのよ!」
出掛かったツッコミを口元で殺す俺の気持ちなど知らず、夜々重は目で目次を追うと、
ぴたりとその動きを止めて本をめくった。
どうもこの巾着袋は夜々重の通学カバンであるらしく、中には幽霊学校のものと思われる
教科書や道具が満載されているようだ。
「いい? 読むよ?」
「お、おう」
その内容がどういったものかは分からないが、今はそれにすがるしかない。
「まず内臓と脳を丁寧に取り出し、内表面を熱いコテなどで焼きます」
「よしわかった、まず内臓だな。――って内臓?」
「うん、そう書いてある。それで表面が乾燥したら、取り出した内臓は瓶に保管します」
「瓶?」
ぱたんと教科書を閉じて、したり顔の夜々重。
「壷でもいいみたい」
俺は夜々重の手から教科書をふんだくり、窓に向かって投げ捨てた。
「ミイラか!」
「え、なにが!」
「何がじゃねえよ! ちょっとそれ貸せ!」
悲しいほどの怒りに身を任せて巾着袋を逆さに振ると、奇妙な物品がばらばらと床に
落ちる。俺はその中から、和風柄にデコレーションされた携帯電話を見つけ出した。
「あっ! それはだめっ!」
「うるせえ!」
コイツは恐るべきバカだ。もはや天然などという萌え要素を含んだ言葉は相応しくない。
俺は自分の運命を呪った。既に呪い殺されているというのに、自分でも呪った。
そして強く首を振る。こうなってしまっては自分を頼るしかないのだ。
遅刻常習犯で教師恐怖症という二つのキーワードから、この携帯電話に教師の着信履歴
がある可能性は高い。
掴みかかってくる夜々重を片手で制しながら、ぱちんと木製の携帯を開いて、人間の
ものとは少々――いや、結構違う部分もあるのだが、竹筒でできたダイヤルをぐるぐる
回し、果たしてそこに「鬼先生」なる履歴を見つけ出すことに成功した。
「かけろ! どうすればいいか聞け!」
「わ、わかったわよ……もう、本当に怖いんだからね!」
「知るか!」
夜々重はしぶしぶといった表情で携帯を耳にあてていたが、どうやら電話が通じたらしく、
何度も「しゅみません」を繰り返しながらぺこぺこしていた。
時折携帯から漏れ聞こえる野獣の咆哮みたいなものに疑問を感じつつ、俺はさらに巾着
袋の中を漁る。
死徒手帳に書かれていた解呪というものが、死んでからも効果があるかはわからない。
だからといって他の方法を探している余裕もない。つまり「効果はある」という前提の上
で次なる行動の準備をせねばならないのだ。
「ち、違うんれす! 今日遅刻したのはおなかの調子が悪かったからで……その」
閻魔大帝もしくはその親族との謁見。
それを夢だと思っていた俺はついつい笑い飛ばしてしまったが、不正や賄賂にまみれた
手続きの上にそれが成り立っていることは想像に易い。恐らく謁見の順番など、弱者には
永遠に巡ってこないのだろう。
どうする、どうすればいい?
いっそ自分で言ったみたいに、殴りこみにでも行くか?
いや、そもそも地獄ってどうやって行くんだ?
「せせ、先生。しょれで、もう一つ大事なことが……」
考えれば考えるほど不安はつのり、焦りが思考を気化させていく。そんな途方もない
時間の末、俺は一枚の奇妙なちらしを発見するに至る――
《ゲヘナ・ゲート開通記念☆幽霊カップル限定ラブラブ地獄巡りツアー ¥4,980》
そこに書かれたコース内容の一文に、俺は目を止めた。
《閻魔大帝ご子息殿下の宮殿観光(トイレ休憩含)》
ここまで投下。
じっくりと。
106 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:47:43 ID:17tJNjEQ
乙!
ややえちゃんに呪い殺されたい
最近ロリっ気が抜けた俺は侍女長に踏みしだかれたい
108 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 01:28:01 ID:pPBHn752
お前らwww
夜々重ちゃんは幽霊しゅみませんかわいい
でスレたてるか…
立てんなwww何のスレだwww
111 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 22:43:23 ID:1RH5N1Rs
>>110 アニスはファンタズムアドベンチャーという商業RPG設定のそっくり転用だが問題ないの?
>>111 そうなんだ、知らんかったw
二次創作扱いなら板的には許容範囲かもだけど
せっかくシェアワを創るスレなんだから、次から省いておこうか。
113 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 09:25:23 ID:4I+ioVbY
全てがパラレルワールドとして存在し、死んだらややえちゃんに逢える。
ややえちゃんの人気に嫉妬
116 :
『タイトル未定2』 ◆GudqKUm.ok :2009/11/12(木) 22:08:56 ID:agf3wW0s
長い修練の旅から戻り、本日付けで正式な部下となった私にボソボソと祝福の言葉を掛けながら、聡角は何やら人界のものらしい妙な機械装置から離れて私を部屋に招き入れた。
「…で、鬼としての名は?」
「『怜角』と名乗ります。人界での名前から取りました。」
「…そうか…良い名だ。」
照れたように呟き、窓辺から三途の流れを見つめる聡角は私の恩人だ。遥かな昔、憎悪と憤怒を撒き散らしながらこの悠久の流れを地獄へと運ばれてきた私。醜い魔物だった私は今、冥府の官服に身を包み、長かった贖罪をずっと支え続けてくれた青い鬼、聡角と並んで立っている。
「…綺麗になった。後宮に引き抜かれるかもしれんな。」
彼らしくない冗談混じりの賛辞に、今度は私が顔を赤らめ俯く。今の私は二十歳だった頃の人界での容姿に落ち着いているが、彼と初めて会ったとき、私は波打つ黒髪に全身を覆われ、目だけを爛々と光らせた浅ましい妖怪の姿だったのだから…
◇
『山中で過激派女子大生の変死体見つかる』
これが数十年前、私の死を報じた小さな新聞の見出しだ。両親の庇護のもと何不自由なく育ち、大学で机上論だけの革命理論に傾倒した私は、一度として額に汗して働くこともないまま、青臭い理想論と角材を振りかざして世界と対峙する戦士を気取っていた。
『体制打倒』『世界革命』
胸を昂ぶらせた麻薬のような言葉。無上の高揚感と偽りの連帯感に酔いしれた私たちは暴走を続けた。やがて脆いバリケードが破壊され、自分たちが英雄ではなく無責任で悪質な粗暴犯だと気付いても。
官憲に追われながらも仲間と庇い合い、身を寄せ合う暮らし。それでも日々が輝いて見えたのは、いつも傍らにある男性がいたからだった。アジトを転々とする生活のなか、私はその男、所属するセクトのリーダーと結ばれていた。
117 :
『タイトル未定2』 ◆GudqKUm.ok :2009/11/12(木) 22:11:38 ID:agf3wW0s
ずっと私の憧れだった、熱っぽく理想社会を語る彼。内気だった私の遅い恋は、付属してきた副リーダーの地位と共に、ほんの短い間だけ、私に至福の時を与えた。
…強大な権力に追われ、転戦を続けながら深く愛し合う二人の闘士。だがそんな幻想は儚く終わる。公安警察からの絶え間ない逃避行に子供じみた団結はたやすく破れ、エゴと疑心暗鬼に支配されたセクトは徐々に崩壊し始めていた。
そして、許せなかった彼の裏切り。何人もの女性メンバーと彼の乱れた関係を知ってしまった私は、惨めな嫉妬心の隠れ蓑として彼女たちのスパイ容疑を捏造し、潜伏先の孤立した山小屋で、残忍に彼と関係したメンバーを処刑していった。
…恐怖と猜疑心に支配された残るメンバーが、半ば狂気に取り憑かれた私の粛清を決めたのは当然だったと思う。理想も情熱も失い、山奥に追い詰められた『革命評議会』が一斉逮捕される前夜、私はかつての同志たちの手で生きながら埋葬され、その惨めな一生を終えたのだ。
人生の最後に見上げた涙で滲む星空。黙々と私を冷たい土中に埋めるメンバーのなかには、哀れに泣き叫び命乞いをする私から目を背け、弱々しくシャベルを振るうリーダー、見る影もなく憔悴した『彼』の姿もあった…
◇
…水面に幾多の悲哀を映し出し、三途の川は絶えまなく流れる。窓の外ではまた、苦しみに満ちた旅を終えた老若男女が船を降り、冥府への第一歩を踏み出していた。
しかし稀に、死してなお魂をどす黒く焦がし、憎悪を糧として人界に留まる者もいる。あのあと、復讐の魔物と化し、怨念の黒髪を蠢かせて地上に這い出た私のように。
もはや化け物になった私には憎しみの対象すら問題ではなかった。絡みつき、締め上げることだけを虚ろな歓びとして存在していた私は、闇に潜み幾多の罪無き命を奪い続けた。
118 :
『タイトル未定2』 ◆GudqKUm.ok :2009/11/12(木) 22:14:16 ID:agf3wW0s
もし高徳の僧侶に調伏され、封印されてこの地獄に流されなければ、ついには自らが人であった記憶すら無くすまで祟り続けたに違いない。
因果応報。いずれ無間地獄へ投げ込まれ、完全な消滅を待つばかりだった運命から私を救ったのは、監視役であった短い聡角の一言だった。
『…とりあえず、話を聞いてみよう。』
…それから何年も、聡角はただ寂しげな瞳を私に注いだまま、吠え猛る私に向かい合い続けた。やがて地上で蓄えた障気が抜け果て、唯一の武器であった髪一本動かせなくなるまで。
精根尽き果て全く無力となった私は、次に駄々っ子のように泣き始めた。耳障りな嗚咽を聡角に浴びせながら、また何年も、何年も…
こうして私は地上での寿命と同じ位の歳月を費やした後、初めて聡角に向けて掠れた声を発したのだった。
『…私は、悪くない…』
あのときの聡角の微笑みを忘れることはないだろう。ただし忘れ果てていた他人の笑顔に混乱した私は、悄然と俯いて再び黙り込んでしまったのだが。
『…まず、そこから一緒に検証していこう…』
聡角の言葉に、はたして私が頷いたかは覚えていない。しかしその瞬間から、長い償いは始まっていたのだ…
◇
『…違う!! 違う!! 違う!!』
地獄の責め苦とは刑罰ではない。己の愚かさや醜さと向き合う苦痛そのものが償いなのだ。逃れられぬ過去という針の山を歩き、逃げ口上で満たされた血の池に溺れる。
弱さ故の狡猾さ、無知ゆえの無慈悲さに覆われた私の過去は、息を呑むような罪業に満ちていた。
『…違わない。君の意識を正確に再生しただけだ。疑うなら閻魔庁の…』
聡角の追及は苛烈を極めた。自分を騙し、臆病さを取り繕う傲慢さ。慈しみを知らず、与えられる愛だけをひたすら貪った貪欲さ。そしてその数え切れぬ罪を他者になすりつけ、何も生み出さぬ憎悪にどっぷり浸り続けた頑なさを抉り出すように。
119 :
『タイトル未定2』 ◆GudqKUm.ok :2009/11/12(木) 22:17:45 ID:agf3wW0s
しかし、信じられぬ苦痛と長い年月を経て、何度となく挫折しそうになりながらも、私はついに全ての過ち、魔物にまで堕ちた全ての元凶である自らの弱さとまっすぐ向き合った。
『…ごめんなさい…』
聡角の支えでようやくたどり着けた短く簡単な言葉。その言葉が迷いなく唇から漏れた瞬間、法を犯し、人を殺め、そして魔物になった真樹村怜は赦された…
そのあと一般の亡者と変わらぬ待遇を与えられた私は、迷わず鬼として冥府のために働きたいと願い出た。聡角の口添えと、皮肉にも命を落とすまで気付かなかった生来の魔力の強さが『前科者』にもチャンスを与えてくれた。
そして長く地獄を離れ、厳しい鍛錬に勤しんでいた私は今日、晴れて閻魔大帝の任官を受けて、片時も忘れぬ師であった聡角のもとへ配属されたのだ。
◇
「…当分は地獄門と外宮の警護に当たって貰う。最近、面倒事が多くて増員が追いつかん。」
「了解です。」
頭を下げると、ちょこんと頭頂に伸びた短い角が気恥ずかしい。話したいことは山のようにあったが勤務中だ。辞去を告げて部屋を出ようとすると、聡角は私を呼び止め、先ほどから気になっていたテレビのような人界の機械へと私を招いた。
「…君は『コンピューター』を知っているな? これは現在の人界で普及している形のものだ。」
「は…」
私の知るコンピューターはピコピコと点滅してパンチカードを吐き出す、冷蔵庫のようなSFの小道具だった。このテレビとタイプライターのあいの子が、難しい計算でもしてくれるのだろうか…
「…君が行を積んでいる間に人界も色々進歩してね…座ってみなさい。」
『コンピュータ』に向かい腰掛けた私の横で聡角は少しぎこちなく機械を操作する。動き出した画面を覗いた私は、そこに並んだ文字に思わず眉をしかめた。
120 :
『タイトル未定2』:2009/11/12(木) 22:20:44 ID:agf3wW0s
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
誤字…だろうか?意味の無い文字の羅列はなぜか私に不吉で危険な印象を与えた。ちょうど私を覆い尽くし、目も心も塞いでいたおぞましい黒髪のような…
「…冥府から出られぬ我々も、この装置を使えば生者と会話ができる。…上がいつまで黙認するか判らんがね…」
聡角が青い指先で複雑な印を切ると、私のまだ未熟な心の眼に果てしない光の曼陀羅が広がる。そしてその先に、この蛍光色の文字を綴った少女がの姿が見えた。
…まだ若い彼女は薄暗い部屋のなか、同じ機械を挟み鏡のように私を睨んでいる。落ち窪んだ頬と怒りと悲哀に暗く濁った瞳。まるで…
「…危険な状態だ。近いうち自分も、そして周囲をも滅ぼすだろう。」
…震えるか細い指がカタカタと憎悪を文字に変えてゆく。日夜理不尽な蔑みと嘲りを浴び続け、暗闇に籠もった彼女の狂おしい憤りは、唯一開いた外界に向けて抱えきれぬ焦燥を膿のように吐き出しているのだ。…だが、その悲痛な限界は、鬼の千里眼を使わずとも明らかだ。
「…話してみるかね、彼女と?」
常に心弱き者に差し伸べられる聡角の大きな手が、そっと頷いた私の手を『マウス』に運ぶ。ようやくこれが聡角の用意した次なる試練と気づいた私は、深呼吸して師の言葉を思い出した。
『…とりあえず、話を聞いてみよう。』
…苦悶する彼女の魂が、いつ自ら救いを求める声を発するかは判らない。しかしその日まで、私は彼女の言葉に耳を傾ける者がいることを、この不慣れな機械越しに決して諦めることなく、いつまでも伝え続けるのだ。
(^O^)/
おわり
121 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 22:24:21 ID:agf3wW0s
投下終了
>>116 投下乙!
いやー、前回に引き続き人情味あふれる地獄を堪能させてもらいました。
魔物、鬼、人間、幽霊と少しずつ設定が増えていくのがシェアぽくて素敵。
ところで最後の顔文字は、怜角が返事として打ったのかしら。
だとしたら俺は、俺はもう……
乙だぜ
本当にこの世よりよほど人情味がある地獄だなw
あと、連合赤軍とかの時代の人間がパソコン見たら、そりゃ驚くだろうなw
うまいなぁ、セクトとか思い浮かばんよ俺じゃ。
125 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 23:45:29 ID:Bu2UaSgr
地獄シェア以外のSSも読んでみたいんだぜ!
と、期待age
>>125 すまぬ……すまぬ……
ややえ第三話(というか前回ここまで入れるべきだった)投下します。
「――で、どうだったんだ?」
返事の代わりに返ってきたのは、深いため息と携帯電話を閉じる音だった。
ふと訪れた静寂に一瞬最悪の結末を予感させたが、それは全く別の意味で的中すること
となる。
「ハナちゃん、今日も学校に来てないんだって……」
「それは一体どこのどいつだ」
「私の友達でね、すっごい可愛いの」
限界を超えていた怒りゲージは悲しみゾーンを通り過ぎ、すでに哀れみフェイズへと
シフトしていた。
携帯を胸にあてたまま不安そうに目を伏せる夜々重を見ていると、なんだか自分のこと
よりもこいつの頭のほうが心配になってきてしまう。
「いいか、夜々重。お前があんなに怖がっていた先生のことだ、色々とヤイヤイ言われて
動揺しているのは分かる。しかし俺はハナちゃんとかいう奴のことは知らないし、きっと
ハナちゃんも俺のことは知らないはずだ、そうだろう?」
「……ええと、ハナちゃんに会いたいってこと?」
「いやつまりな、それはどうでもいいことなんだよ。どうでもいい、わかるか?」
「あんまり学校来ないのよね」
会話のキャッチボールとは良く言ったもので、例えば夜々重をこれに当てはめると、
投げたボールをキャッチできないのは当たり前、転がっていったボールを追いかけて
彼方まで走り去り、あげく戻って投げ返してきたのは全く別の石ころか何かなのだ。
犬の姿でもしていれば、その個性に免じて抱きしめてやりたいほどである。
「……困ったもんだな」
「本当にね」
卍 卍 卍
それから俺はたっぷり1時間ほどかけて、心理カウンセラーのように丁寧に言葉を選び、
根気よく接していくことで、奇跡的に必要な情報を聞き出すことができた。
まず結論から言うと「蘇生は可能」である。
本来人を死に至らしめるための呪いではあるが、今回のような事故の場合に限り、解除
申請書を所持することで魂と肉体を接合することができるらしい。
さて、その間必要な死体の保存方法に関してだが、ここで出てくるのが謎の人物「すごく
可愛いハナちゃん」である。
なんでも彼女は大変な死体愛好家で、人間ならほぼ完全な状態のまま2日間ほどの保存
処置をできるらしい。感心できない趣味ではあるが、この期におよんでは誠に助かる。
「……あ、もしもしハナちゃん? うん、元気元気、超元気!」
問題になるのはただ一点、解呪申請書の取得手段だ。
これには閻魔一族との相談が必要になるのだが、ある程度予想通りというか、多忙な
ことも相まって、通常の手続きなら1〜2年ほどの期間が必要になる。
「でね、急で悪いんだけど、一つお願い頼まれてくれたりする?」
死体の保存期間が2日ならば、全てはその間に済ませねばならない。
俺はゾンビになりたいわけではないのだ。
「やってくれるって!」
「でかしたぞ、それじゃあ次にこれを見るんだ」
派手な文字が踊るチラシを夜々重の顔に押し付ける。やはりこれに頼るしかない。
「幽霊カップル限定……ラブラブ地獄巡りツアー? ……ってまさか!」
「身体で責任取れとか言ってるわけじゃないぞ。いいか、ここを良く見ろ」
ここまで夜々重と接してきた俺はいくつかのコツを掴んでおり、先にボケを殺しておく
ことで、割合普通の反応を得られることに気づいていた。
「ええっと、閻魔大帝ご子息殿下の宮殿……そっか!」
「ああ、親族というからには息子も入るんだろう、いや入れてもらうんだ」
「……でもこれって、あと1時間で出発になってるけど」
「行くんだ、今すぐに。断られて諦められるような状況じゃない。場所はわかるか?」
「う、うん!」
空は既に薄紫に染まり始め、夜明けを待つ鳥たちの影が飛び交っていた。
不安と焦りが生み出す動揺を、深呼吸と一緒に飲み込む。
役に立つか分からないが、念のために財布をポケットへとねじ込み、ドアノブに手を
掛ける。と、それを止めるかのように夜々重が俺の手を掴んだ。
「飛べるよ」
「お前は飛べるんだろうが、俺は――」
開かれた窓から流れ込んでくる風の冷たさが、忘れかけていた事実を呼び覚ます。
そう、俺も幽霊なのだ。
「いや、そうかもしれないが、ついさっきまで人間だったんだ、そんなこと言われても」
「ほら、行こう! ハナちゃんにはここの場所伝えておくから」
「バカ離せ! ちょっと待――」
卍 卍 卍
俺はこの町で生まれ、16年という時間をこの町で過ごしてきた。
1時間に2本ほどしかバスが来ないような田舎町で、本一冊買いに行くのも予定を立て
なければならないほど不便な場所だ。
それでも、目を閉じても歩けそうな広い道やいつも点滅している街灯。子供だった頃は
怖かった裏の森も、勝手に入ってくる隣の猫だって、全てが安心できる見慣れた景色だった。
それを今、見下ろしている。
朝焼けのピンクに彩られた自宅の屋根や通学路は、まるで初めて訪れた別世界のようで、
頭の中に構築されていた近所の家並みも、その間を流れる川も、思いのほか斜めだったり
曲がりくねったりしていることを、初めて知った。
「ね? 幽霊っていうのもそんなに悪いものじゃないでしょ」
俺はウソをつくのが嫌いだった。
かといって「ああ、そうだな」なんてロマンチックに浸る状況でもない。
――だからその問いかけには答えず、ただ手を引かれながら、ぼんやり遠く離れていく
自分の町を、心に強く焼き付けていた。
投下終了です。
とまあ、地獄への道のりはなかなか長いわけですが、夜々重のバカっぷりに免じて
お読み続けていただければと。
ちなみに怜角さんが外宮の警備に入ってくれたので、接触フラグと受け取りました。
130 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 10:06:27 ID:0jLHI3LS
投下乙です!
どうも辛気くさい鬼たちが、軽快なややえちゃん一行といかに絡むのか…
こちらは連作短編ですので、ひとつ乱暴にやって下さいw
132 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 12:49:51 ID:j7BWUF4f
投下とまとめ乙!
また濃そうな新キャラきたw
ところで、どこに行けばややえちゃんに呪い殺してもらえますか?
133 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 18:26:22 ID:Z2FXQxTc
投下乙です。いつか参入したい…
>>34 の世界観でムリヤリ童話書いてみました。
この世には、ヘンクツと呼ばれる人たちがいます。
大抵は人と接することを嫌い、自分だけの世界で暮らしている人の事をそう呼ぶ
らしいのです。例えば、ゴキブリの標本を作ることに命をかけ、家族の嘆きも
なんのその、家中を不気味な標本箱で埋め尽くして近所から『ゴキブリ御殿』
と呼ばれても一向に意に介さない人がいます。
あまりの悪趣味に妻と子供が出て行っても、これ幸いと生きたゴキブリの飼育を
始める始末。ところがこういったヘンクツ者は、一般人が出来ないことを異常な
情熱を持って行うので、意外と重要な発見をしている場合があります。
彼が死んで遺品を整理しようとすると、それこそ世界中のゴキブリの標本が現れ、
独自の見事な体系で分類までされており、有名大学から是非譲って欲しいなどと
申し入れがあったりします。すると生前、彼をバカにしていた人たちまで
『わが町の誇り、ゴキブリ博士』などと尊敬したりするのです。
勝手なものですね、人間って。
さて、この物語の主人公であるユータの住む町にもヘンクツ者が住んでいました。
ユータも名前は知らず、『ハカセ』と呼んでいました。独り者の70歳くらいの
おじいさんで、若い頃は大学で難しい研究をしていたそうです。それが今は家の
表札の代わりに『超時空研究所』という怪しい看板を掲げ、門扉には『関係者以外
立ち入りを禁ず』と大書してあって、近所からは押しも押されぬヘンクツ者として
扱われておりました。
念のために言っておきますが、今は西暦2009年の初冬です。日本中で超時空など
真面目に研究しているのはこのハカセだけだと思われます。
ユータはたった一人、ここへ立ち入りを許可された関係者でした。ユータは夏の
終わりにこの町に引っ越してきた小学4年生です。二学期が始まって2ヶ月が経ち
ましたが、おとなしくて本ばかり読んでいる性格からかまだ友達が出来ず、学校
からの帰り道の公園で寂しそうに一人遊ぶのが日課になっていました。両親とも
夕方6時頃まで帰ってこないので、家に帰ってももっと寂しくなってしまうためです。
ハカセは子供といえども滅多に心を開かぬヘンクツ者ですが、ある夕方にブランコ
に揺られながら泣いているユータを見て、珍しいことに「大丈夫かね」と声をかけ
ました。ユータは友達が出来ず家に帰っても誰もいない事が、深まる秋の夕日を
見るにつけ、どうしようもなく悲しくなって泣いていたのです。
話を聞いたハカセは、一人ぼっちでいるユータに自分の姿を重ね合わせたのかも
知れません。
「よし、うちへおいで。面白いものを見せてやろう」
そういうと、ハカセはユータを十数年ぶりの客として家に招きました。
そこでユータが見たものは、無数の計器がついた複雑極まりない機械でした。
奇妙な機械ですが重厚な質感を備えており、小学生のユータにもこれが適当に
作られた子供だましのハリボテでないことは分かりました
「これは何なの?」大好きな空想科学の本の世界へ迷いこんだような興奮を覚え
ながらユータは聞きました。
「これこそ超時空移動装置、俗にいうところのタイムマシンじゃ」と、ハカセは
得意そうに言いました。
「ええっ、これで未来に行ったことがあるの?」
ユータは心底おどろいて聞き返しました。ユータは未来がどんな世界か空想する
ことがよくありました。きっと、空飛ぶ車やロボットが居て、遊びには事欠かず
楽しい世界が待っているに違いありません。ところが、ハカセの答えはちょっと
がっかりするものでした。
「いや、これはまだ完成しておらん。年末までには完成する予定じゃが」
「ねえ、おじさん、ぼく時々これ見に来ていい? これが完成したら、一緒にぼくを
乗せてくれないかな?」
「おじさんじゃなくて、ハカセと呼びなさい。成功したらもちろんお前を乗せてやる」
こうして、ユータとハカセは奇妙な友達になったのです。
ユータはほとんど毎日、ハカセの研究所へ通いました。初めて出会ってから2ヶ月
が経ち、クリスマスが近づいていました。タイムマシンは日を追うごとにさらに
複雑極まりなく部品が取り付けられていきました。
いよいよクリスマスイブになりました。友達のパーティにも誘われず、両親は相変
らず帰宅の遅いユータは、やっぱりハカセの研究所に遊びに行っていました。
「いよいよ完成じゃ、ユータ。ワシはついに世界で一番最初にタイムマシンを作り
上げたのじゃ!」
「すごいや、ハカセ! それでどこへ行くの?」
「うむ、今まで話さなかったが、遠く未来に『閉鎖都市』というものがあるらしい。
実験の途中でたまたま未来からの通信を受信したことがあってな。そこへ行こうと思う」
「閉鎖都市ってどんなところなの?」
「人が完全に他の人間から離れて暮らせる世界じゃ」
「ええっ?」ユータにはそれがどんな世界か想像もつきませんでした。
「そこではあらゆるものが閉鎖されておる。なにしろ学校も、役所も、スーパー
マーケットも、全部閉鎖されておるのだ」
「そんなの不便だよ」ユータにはわけが分かりませんでした。
「いや、ワシのようなヘンクツ者には天国のような世界じゃよ。ややこしい他人
とのかかわりを一切せずに、それでも不思議に暮らしていけるらしい」
「そんなの寂しいよ。誰とも会えないなんて」
「お前にはそうじゃろう。それが当たり前じゃ」と、ハカセは笑いながら言いました。
「どうしてそんなところへ行きたいの?」ユータはハカセがそんな寂しいところへ
行ってしまうのが悲しくなりました。
「この世界でもワシは誰ともつきあわず暮らしてきた。だが、世間の目はそういう
人間に冷たい。変わり者とかヘンクツとか呼んで気味悪がる。気にしていない
つもりだったが、そういう連中が周りにいる事自体がうっとうしいのでな」
「ハカセはヘンクツじゃないよ。ぼくにはやさしかったじゃないか!」
ハカセはその言葉を聞くと、声を落として言いました。
「ワシはその事を時々後悔している。お前を巻き込んでしまったために、お前まで
周りから変わりもの扱いされているのではないかとな。今日はクリスマスイブじゃ。
子供は友達とパーティをして楽しく過ごす日じゃ。それをこんなワシの研究に
つきあわせてしまって……」ハカセは言葉につまりました。
「そんなことないよ! タイムマシンを見られるなんて、最高のクリスマスプレゼント
だよ!」ユータは心からそう思っていましたし、ハカセを友達と思っていました。
「すまん、すまん……。ワシの身勝手から……」
ハカセは何度もユータにあやまりました。その目からはとめどもなく涙が流れ出ました。
「ハカセ、ぼくはとても楽しかったよ。どうして泣くの?」ユータはハカセがとても
弱々しく見えて、自分まで悲しくなってしまいました。
「うむ、そうじゃな。お前が楽しんでくれたなら、それはそれで良かったのかも知れん。
ワシは閉鎖都市へ行くが、お前はこの世界に残って友達を作って子供らしく遊びなさい。
だから一緒に乗るという約束は無しじゃ」
「ええっ、そんなあ!」
「お前にそんな世界を見せたくないのじゃ。わかってくれ」
「もう二度と会えないの? ぼく、また一人ぼっちだよ」ハカセが遠くへ行ってしまう。
そう考えると、ユータの目からも熱い涙がこぼれました。ハカセは少し悩んでいましたが、
ポケットを探りながら言いました。
「会うことは出来ないが、お前はワシのたった一人の友達じゃからな。これを預けておく」
ハカセは携帯電話をユータに渡しました。
「これは……?」
「見ての通り電話じゃ。もしワシが無事に閉鎖都市についたら、これで話をすることが
出来る。他人とは係わり合いたくないが、お前は別じゃ。たまには電話をしてきておくれ。
ではさらばじゃ」
そういうと、ハカセはタイムマシンに乗り込みました。
機械が低く唸り、周りの空間が一瞬歪んだ気がしました。
機械の唸り声が高まるなか、ユータは「待ってー!」と叫びましたが声は機械の音に
かき消されてしまいました。周りが静かになったとき、タイムマシンの中からハカセの
姿は消えていました。
ユータはふと気付いて携帯電話をかけてみましたが「おかけになった番号は現在電波の
届かない場所にあります」とむなしい返事が返ってくるだけでした。
研究所の外へ出るともう夕闇が迫っておりました。ユータはクリスマスイブの町を
とぼとぼと家路につきました。商店街から聞こえるジングルベルの賑やかな音は、
閉鎖都市へ旅立ったハカセにはもう聞こえることはないのでしょう。そう考えたユータ
はくるりと振り返ると、元来た道を研究所に向かって走り出したのでした。
投下終了です。
もっと破天荒な笑えるものにしたかったんですが、なんか途中から
盛り下がってしまいました。続きが書けるならもう少しキレた内容にしたいですね。
139 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 20:34:51 ID:0jLHI3LS
>>閉鎖都市のクリスマス
投下乙でっす!
孤独な博士と少年のやりとりには、ぐいぐいと物語に引き込まれるものが
ありました。その読ませる文章力に嫉妬w
博士がどうなったのか気になる、ちょっぴり切ない読後感でした。
>――なんか途中から盛り下がってしまいました。
そんな風には感じませんでしたよ。ただ、楽しい続きがあるならばもちろん、
文化閉鎖都市シェアの今後も含めて期待しちゃいます!
>>139 ありがとうございます。
最初はマッドサイエンティストに冷静な少年がツッコミを
入れるような展開にしようと思ってたんですが、全然違う
ものになっちゃいました。
141 :
『タイトル未定3』 ◆GudqKUm.ok :2009/11/16(月) 21:12:41 ID:/Pp0bw5q
怜角に手を貸して『いすぱにあ』に続く霧深い桟橋を渡りながら高瀬剛は弾んだ声を上げた。
「…この店は旨い海鮮焼き飯を食わせます。自分が最近、一番贔屓にしている店であります。」
波に揺れて重い軋みを上げる『いすぱにあ』は異国の幽霊船だ。なぜか三途の河口へ迷い込み、座礁して立ち往生していたところを酒呑系列の企業に乗組員ごと買い取られたこの船は、改装の後シーフードレストランとして営業を始め、かなりの繁盛を見せている。
「…やあリカルド、展望席は空いてるかな?」
のっそりと二人を迎えた給仕、長身で鷲鼻の船幽霊に声を掛けながら、剛は伴った美しい女鬼、怜角を店内にエスコートする。その颯爽とした立ち振る舞いは、生前は優秀な軍人だった剛らしい、堂々とした快活さに溢れていた。
「…昨日は貴女が来てくれて、本当に助かった。全く『渡し守』の偏屈さには、ほとほと手を焼いておる次第でありまして…』
先の大戦で戦死して以来、三途の川から冥土へと上陸する亡者の移送業務に就いている剛は、しょっちゅう頑固な『渡し守』と衝突する。
昨日も危うく融通の利かない『渡し守』が亡者の引き渡し拒否を始めそうなところを、たまたま居合わせた怜角の協力で無用のトラブルを回避できたのだ。
「…高瀬さまは、何故移送のお仕事を? ずいぶん長く此処に留まっておられるようですが…」
普段は無口な怜角が控えめながら朗らかに問いを発する。昨日の礼だと宿舎に押し掛け、強引に彼女を食事に誘ったこの朴訥な元軍人は、亡者が鬼に抱くある種の畏れを全く持たぬ、怜角の知る数少ない人物の一人だ。
休日のほとんどを宿舎で過ごす怜角が、こうして様々な魔の行き交う賑やかな沿岸地域に仕事以外ど足を運ぶことは本当に珍しかった。
142 :
『タイトル未定3』 ◆GudqKUm.ok :2009/11/16(月) 21:14:55 ID:/Pp0bw5q
「…話せば長くなります。あ、章魚の和え物も旨いですよ。」
屍鬼めいた赤毛の給仕に次々と料理を注文しながら、剛は自らの経歴をぽつり、ぽつりと怜角に話し始める。名前の通り怜悧という形容がぴったりのこの鬼に少しはにかみながら話す剛は、かつて『軍神』と呼ばれた男だった。
◇
先の大戦は人の世だけでなく、この地獄界にも未曽有の大混乱をもたらした。日夜到着する膨大な死者に、神代以来の旧態依然とした体制では対応出来ないと判断した閻魔庁は非常事態を宣言した。
すなわち能力ある亡者を獄卒の補佐に任命し、夥しい戦死者の管理に当たらせるという方策だ。戦場にも等しい阿鼻叫喚の巷となった賽の河原でも冷静さを失わず、常に民間人死者の優先に尽力し続けた青年将校、高瀬剛陸軍中尉に白羽の矢が立ったのは当然のことだった。
優秀な士官として南方戦線に出征し、部隊を救うため華々しい戦死を遂げた軍神高瀬中尉。まだあどけなさすら残す彼の軍組織や戦況に関する深い知識に助けられ、地獄界はこの難局を辛うじて乗り切ったのだ。
そして月日は流れ、悲惨な戦争被災者が地獄に運ばれてくることはなくなったが、その卓越した業務能力と誠実な人柄で『渡し守』や獄卒幹部の厚い信頼を受けた高瀬中尉は、転生の資格を保留して地獄に留まり、仕事を続けているのだった。
◇
「…や、怜角さんの事も聞かせて下さい。自分は、どうもその、女性と話すのが下手で…」
「あ、はい…」
湯気を立てて並び始めた海の幸を前に、怜角が少し憂いを帯びた瞳を伏せたとき『いすぱにあ』の重い扉が乱暴に開いた。ドヤドヤとなだれ込んできた一団を見た剛がガクリ、と頭を垂れる。
その集団、戦後六十余年を経て未だ彼を苦しめる旧軍の亡霊は、二人の寛ぐ眺めの良い展望席へと、脇目も振らずに突進して来た。
143 :
『タイトル未定3』 ◆GudqKUm.ok :2009/11/16(月) 21:19:50 ID:/Pp0bw5q
「…こちらでしたか!!高瀬小隊長殿!! 」
震える手で敬礼を送る迷惑な来訪者はみな時代がかった軍服を着ていた。しかし…曲がった腰と皺だらけの顔が、この野暮な来客がかなりの高齢である事を告げている。
への字口でちらりと怜角を眺めてから、老軍人の一人は直立不動らしき姿勢で言葉を続けた。
「…本日、戦友である田宮上等兵がこちらに参りますっ!! 高瀬小隊長殿におかれては、何故こんな所で油を売っておいででしょうか!!」
「…まだ船は着かんだろう…それより貴様、御婦人の前で失敬だぞ!!」
「…別嬪な鬼殿でありますな…」
申し訳無さそうに怜角の顔色を窺う剛の横で、年老いた日本兵たちは興味津々たる眼で呆気に取られる彼女を眺めている。この老人たちこそ、剛が未だ地獄に留まっているもう一つの理由だった。
◇
『冥土で逢おう』
迂闊にこんな約束をしてはならない、と高瀬剛は痛切に思う。
遥か昔、確かに剛はこの言葉を遺言にして、部下たちを守り壮絶な爆死を遂げた。その英雄的行為で命を救われた剛の部下たちは皆彼の言葉を胸にしっかりと焼き付け…そしてその過半数がその後、とんでもなく長生きしたのである。
最初の一人が冥土にやって来たときは剛も感涙に咽んだのだが、すぐに彼は容易ならざる事態に閉口することになった。この類の生前での口約束は霊魂の世界において、のっぴきならぬ拘束力を持っている。
比較的早くやってきた部下に説得された剛が男らしく地獄に腰を据えたのをいいことに、どこからか軍服を調達し、無許可で野営基地まで造営したかつての部下たちは、
あの時居合わせた戦友が全員揃うまで地獄を離れないと勝手に決め、冥土の住人に迷惑を掛けつつ剛につきまとい続けているのだった。
144 :
『タイトル未定3』 ◆GudqKUm.ok :2009/11/16(月) 21:22:04 ID:/Pp0bw5q
◇
「…なのに、倅は自分が倒れるとすぐに、自分が女房や職人と汗を流した工場を閉鎖して、生産拠点を全部中国へ移したのでありますっ!! よろしいですか!? 素晴らしい靴ベラとは…」
…せっかくの展望席はむさ苦しい一団に占拠され、いつの間にか二人の初デートは『田宮上等兵の到着を待つ宴会』と化していた。図々しく怜角の隣に座りこんだ岡野伍長が、また生前の愚痴をまくし立てている。
終戦後、さまざまな産業界で活躍した者も多いのだから、いいかげん余所で盆栽なりゴルフなりでも楽しめばどうか、と剛はいつも言うだがこの困った老人たちは全く聞く耳を持たない。
「…申し訳ありません。せっかくのお休みを下らない長話で…」
しかし、消え入りそうな声で詫びる剛に、アルコールで頬を少し赤らめた怜角は明るく答えた。『いすぱにあ』名物の強いラム酒で、既に全員がかなり酩酊している。
「…いえ、うちの紫角隊長だって蹴鞠の話になるとすごく長いんですよ。『俺が源実朝に蹴鞠の極意を伝授してやった』とか…」
勝手にまたオードブルを追加した老人たちと愉しげに談笑する怜角を見て、剛は苦笑しながら思う。士官学校から南方戦線、そして僅か二十歳でこの冥土へ。つくづく自分は女性と縁がない性分だ。
今度生まれ変わったら、多少は艶っぽい人生を歩めればな。…怜角のように清楚な女性がいつも傍らにいるような…
窓から見える水面に、賑やかな幽霊船の灯りは映っていなかった。大航海時代、家族のもとへ帰ることが出来なかった水夫たちが、遥か異郷の地獄で調理と接客に追われている不思議。
遠からず全ての戦友が揃ったとき、果たして自分はどこへ行くのだろう。果てしなく流転する自らの魂に、いつか寄り添うもう一つの魂は現れるのだろうか…
145 :
『タイトル未定3』 ◆GudqKUm.ok :2009/11/16(月) 21:24:59 ID:/Pp0bw5q
…柄にもなく感傷に耽る剛の隣りに、グラスを片手に悪戯っぽい笑顔の怜角がそっと移動してきた。どきまぎと灼けるようなラム酒を一気に飲み干した剛は、賑わう店内に照れ隠しのような大声を張り上げる。
「…おおいリカルド!! ラムを樽で追加だ。それから貴様ら!! 焼海老が食いたい者は挙手しろ!!」
◇
…微かに聴こえた霧笛に、短い微睡みに落ちていた剛は眼を開けた。肩に感じる重みにそっと視線を送ると、同じく睡魔に襲われたらしい怜角が癖の無い漆黒の髪から短い角を覗かせ、剛に凭れて愛らしい寝息をたてている。
彼女の神秘的な芳香に酔いながら、相変わらずの喧騒に満ちた店内を剛が見渡したとき、もう一度死者たちの到着を告げる霧笛が低く響いた。
「…船が着いたぞ!!」「田中上等兵だ!!」
興奮した部下たちの呂律の回らぬ叫び。ふらつく脚で席を立ち始めた彼らの歓声に、剛は名残惜しく怜角の肩を揺する。
「怜角…さん。」
「…あ…」
「大丈夫ですか?部下が到着したようなので、ちょっと行って参ります。」
我先に駆け出す老人たちを見送り、剛は静かに席を立ったが、むくりと椅子から腰を上げた怜角は、危なっかしく揺れながら剛の腕に縋った。
「わ、私も…お供致し…ます…」
揃って底無しの酒量を誇る筈の鬼が、ふらふらと覚束ない足取りで出口を探すのが可笑しかった。
「…無理しないで下さい。自分は田中上等兵を迎えたら、また奴らに付き合って朝まで軍歌の合唱です。今日は本当に…ご迷惑を掛けました。」
剛は姿勢よく踵を合わせ、怜角に宿舎まで送れぬことを謝罪した。二人が寄り添って深い霧に包まれた幽霊船を出ると、リカルドが手回し良く差し向けた鬼火が足元を照らす。
「…高瀬さま、私…まだまだ呑めますよ…」
…怜角の小さな囁きと、桟橋を駈ける老兵たちの気の早い万歳の唱和が重なり合って、少し火照った剛の耳に届いた。
おわり
146 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/16(月) 21:26:09 ID:/Pp0bw5q
投下終了。タイトルが浮かびません…
>>138 遅まきながら投下乙です。不思議な読後感のお話でした。『閉鎖都市』は一体どう発展するのか、次回作も楽しみにしています。
投下乙
軍人さん達楽しそうだなw
そして怜角が色っぽい
148 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/17(火) 19:00:13 ID:aN607rDQ
>>141 なんという味わい深さw
いままで重めの話が多かっただけに、読んでるこっちもほっとできる、
怜角さんは萌えのチラリズムや!
149 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 18:26:39 ID:TcsajDNF
age玉ー!
夜々重に案内されてたどり着いたのは、町からいくつかの山を越えたところにある小さな
廃校だった。
それは見た目ずいぶん古いものらしく、木造校舎の外板はほとんどが剥がれ落ち、ところ
どころ覗いている教室も「荒れ果てた」というよりは、もはや自然の一部と呼んでも差し
支えのない物件である。
「ねえ、部屋の死体なんだけど、お家の人に見つかったらまずいことない?」
「大丈夫だろ、週末はいつも出かけて帰ってこないんだ」
ちょうど敷地の裏側に着陸した俺たちは、校舎裏を覆う湿った影を抜け、校庭とおぼしき
開けた場所に出た。
「あ、ホラ見て! バス停まってるよ!」
弾んだ声の先では古ぼけた洋風バスが白煙をもうもうと吹き出していて、入り口あたりで
搭乗の手続きをしている数名の人影が見て取れた。
そうした連中も幽霊とはいえ、足がないことを除けばそこそこ普通の奴らなのだが、その
中心でぱたぱたと対応している少女だけが、何か尋常でないオーラを放っている。
「いらっしゃいませデス! ツアー参加の方デスね!」
その高いテンションの持ち主はちゃんと足があり、頭の両側を覆うようにぐるぐるした角
が生えていた。おまけに満面の笑みの後ろでは、ひらひらと尻尾が見え隠れしている。
「ああ、予約はしてないんですけどね。俺とコイツで参加できますか?」
「ノープロブレムなのデス! くたばり損ない2名様で4980円になりマス!」
「じ、じゃあこれ、よろしくお願いします」
「ハーイ、お釣り20円! ではでは空いてる席へとっとと座りやがれデス!」
ぐいぐいと押されるように車内へと案内され、俺は一体何に乗ってしまったのかと一抹の
不安が頭をよぎるも、振り返れば財布に入っていた金で普通に乗れたという事実。
とりあえずそのことだけに安堵のため息をつき、空いた席に腰を下ろした。
「ねえねえ今の、悪魔の子じゃない? 初めて見たよ私」
「知るか、幽霊も悪魔もこの際一緒だ」
死んでから言うのもなんだが、ここまできたら腹をくくらねばならない。
卍 卍 卍
予想よりも早く到着したおかげで出発までは少々時間があるらしく、暖機を続けるバスに
揺られながら、俺は夜々重のわけの分からない話を聞き流していた。
「――それで私ね、じゃあハナちゃんは何で死んじゃったの? って聞いたのよ」
バスは見た目のオンボロさとは裏腹に、車内はなかなか小奇麗に清掃されていて、座席の
シートも新品とまではいかないが、座り心地も悪くない。
「そしたらハナちゃんさ、死んでないって言うの。なんだっけ、生霊?」
席にはツアーの詳細なパンフレットが備え付けられており、手に取って確認してみると、
殿下宮殿に到着するのはちょうど今日の正午になっていた。
「私そういうの全然わかんなくてさ、――ねえ、さっきから聞いてる?」
「聞いてるよ。聞いてるおかげでハナちゃんの謎は深まるばかりだ」
「もう、聞いてないからだよ」
ツアー自体は日帰りで、その後も様々な地獄を巡るらしいのだが、俺たちにとっては関係
のないことだった。
パンフレットをポケットへ押し込むとエンジン音が一際大きく鳴り響き、天井に付けられ
たスピーカーからイントネーションの狂ったアナウンスが流れ出した。
「本日は当ベリアル観光をご利用いただき、誠にくそ喰らえデス! ワタシ、本日のバス
ガイドのリリベル言いマス、オマエらどうぞ一日よろしくデス!」
愛くるしい笑顔から繰り出されるカタコトの日本語は、なぜだかところどころに禍々しい
表現を含んでいて、まあ、悪魔なら少々態度がでかいぐらい大目にみてやろうとも思うの
だが、まばらにしか起こらない拍手に「あれ?」みたいな表情をしているところを見ると、
どうも素でやっているらしい。
「あの子リリベルちゃんっていうんだ! いいなあ、可愛いなあ」
一方そんなことを気にもとめず、だらしない顔で励ましの拍手を送る夜々重に気付いたの
か、リリベルちゃんは気合を入れるように、きゅっと唇を結んでいた。
その姿はどことなく健気な風があり、リリベルなんていう名前をしているぐらいだから、
外国か何かからやって来たのだろう、きっと日本語が教えた奴がバカに違いない。
「なお本ツアーは地獄への進入許可を一切受けていまセン! 万が一危険な状態に陥った
場合、オマエら幽霊がどうなるのか知ったこっちゃありまセンので、あしからズ!」
ということで、結局リリベルちゃんがどういった人物なのかは闇に葬ることにした。
「本当に大丈夫なんだろうな、コレ」
「し、知らないよ……自分が誘ったんじゃん」
やがてバスはのろのろと旋回を始め、窓から見える景色がゆっくりと動き出す。
見まわす限り道らしい道もなく、一体どこへ向かうつもりなのかと思っていると、がくん
と縦に角度を変えて地面へともぐり始めた。
一瞬闇に包まれた車内を、薄緑がかった蛍光灯がちかちかと照らし出す。
「当バスはこれよりデモンズバイパスを通り、ゲヘナゲートへ向かいマス!」
窓の外はただ黒いうねりが凄まじい速度で流れていて、油断していると意識を吸い込まれ
そうになる。
不安のため息を漏らすと、窓に映っていた夜々重の口が静かに動いた。
「ずっと寝てなかったもんね。いいよ、私ゲートに着いたら起こしてあげるから」
向き直った笑顔に、ようやく自分が眠いのだということに気付かされる。
どうも俺は、非現実の激流に流されまいと気を張るあまり、正確な判断が出来なくなって
いるらしい。
バスの振動は疲れた身体に心地よく、夜々重の鈴をからからと鳴らし続けている。
不規則ながらも単調なそれは、俺を深い眠りの底へと沈めていった――
卍 卍 卍
「やい、オマエら! 右手に見えて参りましたのが超最新式! 閻魔大帝のクソガキ専用
通学路、第25号ゲヘナゲートでありマス!」
きんきん響く声に一瞬で夢から覚め、ふと感じた重みに目をやると夜々重が肩にもたれて
静かな寝息を立てていた。
少し揺すると「あうあ」みたいなことを言いながら、口元から伸びているよだれをぬぐい
取っている。俺は肩一帯に感じる冷たさの正体は確かめずに、窓の外を指差した。
だいぶ長い間眠っていたらしく、すでにそこは暗闇ではなく、青空の広がる雲の上だった。
「アレが地獄の入り口だってよ」
「……うわあ、大きいなあ」
遥か彼方に霞んで見えるその「輪」は想像を絶するほど巨大なもので、円環部になめらか
な光沢を滑らせながら、異界の門であることをゆっくりとした回転で誇示していた。
「ゲートを越えると間もなくクソガキ宮殿に到着デス! オマエら覚悟しやがれデス!」
バスが正面へ進路を変えるに従い、ゲヘナゲートはその内面に赤く鈍い光を蓄え始めた。
俺は勝手にそういうものなのだろうとぼんやり見ていたのだが、不意に運転席から聞こえ
てきた会話に思わず耳を疑った。
「リリベルお嬢様、勘付かれました。ゲートが閉じ始めています」
「さすがは天下の朱天グループ製! このケイオスシェルコーティングを見破るとは日本
の技術もちっとはやるようデスね。ぐずぐずしてたら閉じちゃいます、強行突破デス!」
無許可――記憶の彼方からそんな言葉が掘り起こされる。
「かしこまりました」
恐らく誰もがその会話を聞いていたのだろう、車内にはざわめきが広がり始めたが、すぐ
さまそれを一喝するような声がスピーカーびりびりとを震えさせた。
「オマエら心配するなデス! なにしろこのバスはベリアルコンツェルンの英知の結晶。
666人の魂を原動力にした特殊な加速装置が備わっているのデスよ!」
状況を把握するにはあまりにも意味不明の説明。一瞬静まったバスの外側で、何かが開く
音がした。
「放魂!」
号令と同時に、急激な加速が俺の身体をシートに縛り付ける。
その強烈で未体験な力に目を開けていることもできず、それなのに景色だけは虹のような
光彩をもって瞼を突き抜け、頭の中に映し出されていた。
息をつく間もなくバスはさらに加速を続け、凄まじい速度で迫るゲート。
その赤い光は近づくほどにコントラストを強め、限りない白が一瞬で車内を飲み込んだ。
上も下もわからない、目を開いているのかもわからない白い瞬間。
それはおびただしい数の叫び声と泣き声で満たされているような気がした。
卍 卍 卍
視界が通常の色合いを取り戻すにつれ身体への負担は徐々に和らぎ、ようやく追いついた
聴覚が最初に捕らえたのは、あの運転手の声だった。
「リリベルお嬢様、通過には成功しましたが想像以上にゲートロックが早く、車体後部が
吹き飛んだようです」
固まっていた首を無理やりひねって後ろを見ると、バスはちょうど2列分ほど後ろからが
ぽっかりとなくなり、不気味な赤黒い空が覗いていた。
記憶によれば、確かそこにも誰かいたはずである。
「あらホント。でもこれだけ残ってればノープロブレム! 料金は前払いで貰ってマスし、
ツアーはこれからが本番デスよ!」
このとき俺は、自分にとって今一番危険なのは、このバスに乗っていることそれ自体なの
ではないかと、そう感じ始めていた。
つづく
154 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 22:45:07 ID:FeH/twU5
投下終わり。
結局ハナちゃんが何なのかは俺にも分からないのでageときます。
155 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 23:02:04 ID:G6hL3xGM
GJ
鬼とかの和風クリーチャーだけでなく悪魔もいるのか
新キャラのテンションとか色々ひっくるめてカオス度が増してきたぜ
それにしても、肩にもたれかかって寝ているややえちゃんは本当に可愛いな
156 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 23:51:10 ID:I3vDM1nB
投下乙!!
つかシェアードを謳いつつここまで個性的な作品ばかりでこのスレ一体どうなるのやらw
地獄突入編の展開に期待します!!
ややえちゃんシリーズおもしれぇw
お前らほんとややえちゃん好きだなw
夜々重ちゃんはあうあ幽霊しゅみませんかわいい
で俺もスレたてるか……
立てんなってばw
160 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 21:05:30 ID:lacB/bjE
仕方ないから我慢する。
しかしこのへんでまとめを入れておくぜ!
※現在このスレでは3つのシェアードワールドが展開されています。
この世界、俺が盛り上げてやろうじゃん!てな方はお気軽にご参加を!
○文化閉鎖都市:設定
>>34 SS「そちらにいくよ!」
>>87 SS「閉鎖都市のクリスマス」
>>134 ○女神転生風世界:設定
>>35 ○地獄風世界:元SS
>>52 SS「ややえちゃんはお化けだぞ!」
>>67 >>102 >>127 >>150 SS「タイトル未定」
>>81 >>116 >>141 そろそろ夜々重ちゃんと怜角さんがクロスしそうなのに期待。
閉鎖都市の今空姉御と博士も出会ったりすんのだろうか?
女神転生風シェアも誰か書いてくれるといいなあ。
161 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 21:21:00 ID:kNasIpcp
まとめ乙!!
地獄風世界は退魔モノとか妖怪モノとか色々クロス出来そうだ。
地獄のやつは外枠がなかった分、書き手さんが書きやすいのかもしれないね。
閉鎖都市も内側と外側を描いたり、メガテン風のも国内と国外を書くことで
また違った発展をするような気がする。
もちろんクロスするのは難しくなるかもしれないけど、作品同士で世界観を
昇華していけるのは、シェアードワールドのいいところじゃないかしら!
163 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 22:35:42 ID:qtrCzVar
地獄書き手ですが、実は最初メガテン風で参入予定でしたw もっと賑わえば、色々書いてみたいですね。
なんとwいますぐメガテン作業を再開するんだ!
なんて冗談はさておき、俺はいまだに
>>55を待っているわけだが。
「服着るから許して欲しいにゃ!」
侍女長が慌てた様子で指をパチンと鳴らすと、石山の影からメイド服が飛んで来た。
飛んで来た、とは言ったが、実際には侍女長の使い魔である魑魅が持って飛んで来ただけである。
一つ眼の小鬼に蝙蝠の羽根を生やしたような魑魅は、低級の畜霊が成れの果て。
殿下のPSPくらいしかない身体で、重そうにメイド服を運んで来た。
「キー、これ重いキー。早く受け取って欲しいキー」
キーキーと甲高い鳴き声混じりで喋る魑魅からメイド服を受け取ると、侍女長はメイド服を広げてみた。
「下着が無いにゃ。下着も持って来いにゃ」
「キヒー、人使い荒いキー」
「うるさいにゃ。頭から囓られたくなかったら早く行けにゃ」
くわっ、と侍女長は犬歯(猫歯?)の鋭い口許を見せつける。
「キキー。胸のパッドは6枚でいいキー?」
それを聞いて地獄の殿下は吹き出した。
「んにゃ?!人前でそのことを言うにゃ!馬鹿魑魅!……てか8枚にゃ」
枚数の訂正にまた殿下が吹き出す。
「んじゃ取って来るキー」
魑魅はパタパタと羽ばたいて上昇し、見るまに地獄の雲いにまぎれてしまった。
地獄の殿下は腹を抱えてうずくまっている。
もはやゲームどころでは無い。
抱腹絶倒、ここに極まれり。
「じ、侍女長。お前、胸パット8枚も付けてるのか」
「……乙女の悩みにゃ。餓鬼が口出すんじゃないにゃ」
侍女長は顔を赤らめてエプロンの胸元を隠した。
>>52ではスレンダーと表現したが、要するに貧乳なのだった。
胸に自信が無いのに、むやみに全裸なりたがったり服を着ている時は巨乳に見せたがったりするのは、
ひとえに夜魔ゆえの性である。
悲しい。
取りあえずメイド服を着た猫又侍女長であったが、超ミニのスカートがピラピラしていて、
いわゆる“はいてない”状態のそれはヤバかった。
チャタレー夫人と四畳半襖の下貼りくらいヤバかった。
「キヒヒ、絶景ですキー」
いつの間に戻ってきたのか、魑魅が“はいてない”侍女長の足下に立って、スカートの中を見上げていた。
「下着を渡せにゃ」
「どうぞキー。グエッ」
下着を受け取ってすぐ、侍女長は魑魅を踏んづけた。
「タダ見してんじゃねーニャ。お前は忠誠心てもんが欠けてるにゃ」
「いや、お前だって欠けてるっつーの」
殿下のつっこみ能力はこうして日々研鑽されてゆくのであった。
続き来た!
一瞬、侍女長の乳が6個あるのかと思っちまったじゃねえかwww
いや……アリか?
167 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 10:22:00 ID:GmjPDUHF
投下乙!!
…………アリかとw
168 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 11:58:01 ID:85C3MX73
待ってたぜ!
複乳……アリだな
何このTAGROの時代。
変態さんばっかりじゃないか!
おまいさんがたとは仲良くなれそうだw
170 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 18:33:31 ID:z/jtzLgH
ありなのかよ!!1
すまん、修行して出直してくる
いやいや!アリだけど!
侍女長のおっぱいはふたつがいいです!
あと、どうすれば侍女長の使い魔になれますか
○女神転生風世界:設定
>>35の
安部 蘆屋 小角 平賀 玉梓 ってのはやっぱ清明さんとかそこら辺の人かね?
時代が違うけどそれっぽい人たちじゃないんだろうか
その中で平賀だけ浮いてる気がするがw
その5人の名前にピンともすんともこなかった俺は、明らかに知識不足。
安部と平賀はかろうじて分かったけどあとは分からん
たしか賀茂とかもそれ系統だったっけか
あべのせーめーとあしやどーまんは道満晴明の元ネタとして認識。
おづぬは風水学園で名前だけ認識。
他ワカンネ
そいつらが科学者風になってるのかな。
まずい、ちょっと魅力を感じ始めたw
安部 清明
蘆屋 道満
役 小角
平賀 源内
が元ネタだと思う
玉梓はググッたら里見八犬伝が出てきたから多分コレかな?
179 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 22:26:36 ID:7rlkXjBo
陰陽道か……
なんかあの世シェアと接点多そうなw
派手に伸びないが面白い発展してきたw
じゃあ俺メガテンはデビチルしかやったことないから書いてある設定だけでなんか書いてみるよ!
……たぶん
こいつぁ楽しみが増えまくりんぐだ!
期待してるけど、無理はしないようにね!
バスはまるで巨大な獣に噛み切られたかのように後部を失い、その大きく開いた断面から
地獄の空を覗かせていた。
突然の惨劇、しかし嬉々とした表情のリリベルに、乗客全員が声を失っている。
「さあオマエら! 散っていった仲間たちのためにも、共に崇高な目的を達成しようでは
ありまセンか!」
おおげさなジェスチャーを交えながら、もはやツアーというより何かの危険集団を髣髴と
させる現状、最初の目的地が殿下の宮殿であることは幸運だった。
「おい、夜々重」
脱出の決意に目をやれば、夜々重はゲート突入時の衝撃ですっかり目を回していた。
「うーん……」
この状況の中、これがパートナーかと思うと情けない次第である。
「大丈夫か、しっかりし――」
「ハナちゃんダメ! 女の子同士でこんなことしたらっ!」
叫ばれた返事の意味を解する間もなく、俺の頬には夜々重の見事なパンチが炸裂していた。
僅かな回転をもってヒットしたそれに、一瞬意識が朦朧とする。
俺はハナちゃんではないし、健全とは言いがたいが、れっきとした男子高校生である。
「だ、だめだって言ってるにょに……」
やがてうつろな目線は中空から腕へと降り、ゆっくりと俺の目にたどり着いた。
「ハ、ハナちゃんじゃ……ない!」
「当たり前だバカ」
夜々重は頭が悪いうえにヘタレなので、頭ごなしに叱るとテンパってしまい、更なるバカ
スパイラルへと陥ってしまうのだ。
一刻も早くこのバスから脱出せねばならない今、その事態だけは避けたい。
「だって……だってハナしゃんが!」
「落ち着け、ハナちゃんが変態なのは分かった。それより後ろを見てみろ」
「……え、後ろ?」
さすがの夜々重も後部座席の惨状を見てこの危機的状況を把握したらしく、珍しく深刻な
表情を見せていた。
「お前が気絶してた時、つまりゲートをくぐる時だが、閉じるゲートに間に合わず、吹き
飛んじまったらしい。そこに居た奴らがどうなったか俺にもわからん」
「それじゃまさか……そんな」
とはいえ、ゲートをくぐれば宮殿まではすぐだと聞いていたので、放心している夜々重を
よそに、それほど多くない荷物をまとめにかかった。
「とにかくな、バスが止まったら即行で脱出するんだ。こんなバスでのんびりしてたら、
命がいくつあっても足りん」
「う、うん。わかった」
「それと、あのリリベルとかいう悪魔、何か変だぞ。いつの間にかお嬢様とか呼ばれてる
し、やっぱりこれはただのツアーなんかじゃ――」
言いかけたその時、バスが再度強い衝撃に見舞われた。
俺たちは前座席に強く打ち付けられ、空ふかしの唸りをあげるエンジン音に目を上げると、
窓の外がうごめく黒い影で覆われていることに気が付いた。
「一体何事デスか!」
その事態はリリベルも予想していなかったようで、少し間をおいてから運転手の無感情な
声が続く。
「捕獲されました、高度が落ちています」
「何デスって!」
「――鬼です」
鬼。
その単語にぴくりと反応したリリベルから、今までの能天気な雰囲気が消え去った。
「な、何? リリベルちゃんどうしちゃったの?」
「いや……俺にも」
、
悪意に口を歪ませながらゆっくり数歩前に出ると、両指を組んで鳴らし始める。
少女然とした体躯にうっすらと黒い光を帯び、今までは愛くるしい笑顔の中にあった瞳も、
今や邪悪な炎を宿す――まさに悪魔の目と化している。
「……早速現れやがりましたネ。積年の恨み、父上の仇、晴らさせて貰うデス」
「この能力はグリモワールにも載っていません、配属されて間もない番兵かと思われます」
「ブチ殺してやるデス……」
唐突に展開され始めたドラマに眉をしかめ、しかし車窓を埋め尽くす影は徐々にその濃度
を高めていく。前に向かって車体を侵食していくそれは、まるで生き物のようにざわつく
「髪の毛」だった。
「しかし、このようなところで力を使ってしまわれては――」
「黙れファウスト! 人間の分際で私に命令するな!」
「命令ではありません、これは諫言です。ベリアル一族の恨みを晴らすならば、このよう
な場所で力を開放すべきではないのです。何のために『生きた魂』をこれだけ運んできた
のか、もう一度よく考えてください」
「くっ……」
その会話は、こいつら二人と地獄界との間に並々ならぬ怨恨があることを感じさせた。
「……このクソ忌々しいキューティクルヘアー、振り切れマスか」
「再度『放魂』を使用すれば必ず。ただその場合、ツアーなどを行っていては燃料がもち
ません」
「任せマス。リリベルは少し休むデス」
「はい」
金属でもこすり合わせるような歯軋りを鳴らした後、リリベルはバスが丸ごと揺れるほど
の蹴りを壁に放ち、諦めてガイド席に座った。
おびただしい量の髪の毛は隙間から車内へと侵入し、バスが軋みを上げる中、スピーカー
から気だるそうな声が聞こえてきた。
「おいオマエら。ツアーはここで中止デス。このバスはもうどこにも止まりまセン」
車外で鉄の扉が開くような、聞き覚えのある音。
あの急加速に巻き込まれたら宮殿から離れたあげく、恐らく二度とここへ戻ってはこれない
だろう。
「我が一族、復讐の糧となるがいいデス……」
乱暴な破裂音がスピーカーを揺らす。
壁際で粉々になったマイクはぱらぱらと床に落ち、その短かかった使命を終えた。
「夜々重、行くぞ」
「え? 行くって……どこへ?」
さすがの俺にも焦りがあった。どれもこれも一つずつ理解している状況じゃない。
ただ一つ確実に分かるのは、これ以上こいつらに関わってはいけないということだ。
「いいから、急げ!」
「はうあっ!」
夜々重の手を掴み、中央路へと引きずり出す。
幸い半壊している後部は穴が大きく、うごめく髪の毛もいくつかの束になってはいたが、
人ひとりが通れるくらいの隙間はある。
「キサマら、何してるデスか……」
重く太い声が、背中越しに腹に響き、一瞬だけ俺の足を止めた。
「悪いが俺たちは殿下様に用があるもんでね、ここで途中下車させて貰う」
「逃げられるぐらいなら、今ここで喰ってやる!」
背後に大勢の悲鳴が聞こえた、しかしそれを確認している暇もない。
「お嬢様、間に合いません。加速します」
恐怖で硬直している夜々重を抱き上げ、今は存在しているかも怪しい足に懇親の力を込め、
バスの外へ飛び出した――。
卍 卍 卍
どれくらいかしてふと振り返ると、そこにバスの姿はなく、何か半透明の軌跡だけが遥か
彼方に向かって伸びていた。
その軌跡になびくように、霞む眼下から伸びる黒く巨大な塊が静かに形を崩している。
バスを襲った髪の毛だろう、それもやがて地面へ吸い込まれるように消えていった。
「……夜々重、もう大丈夫だぞ」
返事はなかったが、恐怖への震えと漏れ聞こえる嗚咽だけが、その無事を伝えていた。
空中に浮かんだまま深く息を吐き、改めて周りを見渡す。
地獄というのは小さい頃に本で見たものとそれほど違いはないようで、見渡す限りの暗い
雲の隙間から赤い空が覗き、地面は霞んでよく見えないが、ぼんやりとした茶色で
占められているところを見ると、一面岩場で覆われているらしい。
そんな光景にしばし目を奪われていると、ようやく小さな声が耳元で聞こえた。
「ごめんね……私、怖くて」
あのとき俺を突き動かしていたのも勇気などと呼べる立派なものではなく、ただ単に恐怖
からの逃避、簡単に言えば「怖いから逃げた」という子供じみたものでしかない。
このバカが怖かったように、俺も怖かったのだ。
「いやな、正直俺も怖かったんだ」
ここまできてようやく、俺と夜々重は一つの感情を共有することができたのかもしれない。
強張っていた身体から力を抜く夜々重が、今はほんの少しだけ愛おしく見えた。
「……もう少しだけこのままでいてもいい?」
「ああ、落ち着いたらハナちゃんの話でも聞かせてくれ」
卍 卍 卍
緊張からの開放は必要以上の油断をもたらし、束の間の安堵はいつからか自嘲へと変わる。
「――そりゃ、まあそうくるだろうな」
「え、何か言った?」
自分の足に巻きつく黒い髪の毛に気付いたのは、少ししてからのことだった。
つづく
186 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 21:55:22 ID:AR2t5N55
投下終わりです。
何か書こうと思いましたが忘れました。
変態バンザイ!
187 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 22:45:54 ID:Vpj/D7eG
ややえちゃん&リリベルキタ-!!伶角さんも髪だけキタ-!!
次回も待ち遠しいぜ!!
188 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 22:48:37 ID:J9+1uMpN
乙!
まだピンチは続くか!
悪魔のお嬢さんはどうも訳ありみたいだな
それはそうと、ややえちゃん!俺を呪い殺して!
お嬢さんが御乱心の急展開!
熱いねこの展開!
>熱いねこ
待女長のことですね、わかります。
相変わらずおもしろいなあ。
続きが気になってしかたないです!
192 :
『タイトル未定』4 ◆GudqKUm.ok :2009/11/25(水) 21:16:13 ID:M31I51ee
閻魔庁の地下深く、その虚ろな口を開けた無間地獄。地獄の閣僚による慎重な審議を経て、閻魔大帝の裁決を得なければ決して開かれる事の無い恐ろしい『虚無』への縦穴。
魂すら塵となり、転生もかなわぬ完全な消滅という極刑を受ける魂は少ない。しかしこの日、ある条件と引き換えに自らの意志でこの奈落へ墜ちるようとするものがいた。
その名を『我蛾妃』。底知れぬ魔力と邪悪さを備え、幾度となく人界に大きな災禍をもたらした悪霊『蛾我妃』は、悪運尽きて捕らえられ、閻魔庁の広大な敷地の一角に聳える、窓の無い塔に幽閉されて久しい。
しかし今なお狂信的な崇拝者を人界に持ち、『邪神』とすら呼べる魔力を秘めた彼女にその幾多の罪業にもかかわらず無間地獄への引導を渡す者は居らず、今日まで冥府の住人たちは少なからぬ戦慄を常に感じつつ、忌まわしい虜囚の塔を見上げてきたのだった。
◇
(…閻魔庁は、我蛾妃の請願を受諾し、無間地獄への放逐を決定するものとする。)
獄卒長紫角は、未だ彼の前に姿を見せぬ統括長官が、おぼろげな霧のなかから下した信じられぬ通達に低い唸りで応えた。
「奴の…要求については!?」
(…君たちの関与するところではない。)
「し、しかし…」
先日、我蛾妃から突然の呼び出しを受け、最初に彼女の申し出を聞いたのは他ならぬ紫角だった。鬼たちの長であるこの精悍な牛面の指揮官に、長い拘禁を経て未だ妖艶な我蛾妃は、そのどす黒い本性を微塵も感じさせぬ柔和な笑顔のままで囁いた。
『…赤子の魂が喰いたい。』
恐ろしい言葉を発するふくよかな唇。無邪気そうに細く下がる目尻。全てが彼女の肉体に食い込む禍々しい拘束具とひどく不釣り合いだった。
『…囚われの身にもほとほと飽いての。されど、ひもじいまま死ぬるのはまっぴらじゃ。真っ白な…罪汚れの無い赤子を喰ろうて…』
193 :
『タイトル未定』4 ◆GudqKUm.ok :2009/11/25(水) 21:18:48 ID:M31I51ee
…それから、安らかに無へと還りたい。初めは彼女らしい策謀もしくは邪悪な冗談と考えた紫角は全く取り合わなかった。
しかし彼女が閻魔大帝と直々に話したいとまで言い出すに及び、牛頭大将紫角は我蛾妃にしばしの猶予を乞って、閻魔大帝に代わる彼ら獄卒の新しい統率者『統括長官』にこの未曽有の事案を上申したのだった。
「…では、奴に赤子を呉れてやると!?」
罪と迷いに満ちた魂に溢れるこの三界で、穢れなき子供の無垢な魂は最も尊ぶべき宝、と考えるのが地獄の鬼だ。長く我蛾妃の処刑に凄まじい抵抗と甚大な被害を想定していた地獄の法廷にとって、この度の要求は千載一遇の好機であるのは確かに真実だ。
しかし地獄の倫理を曲げてまで、罪無き赤子を生贄に捧げることは、紫角のみならず全ての獄卒が断じて承服できることではなかった。
「お言葉ですが閣下!! 我々は…」
(…以上である。)
紫角が鼻息荒く睨んだ茫漠たる闇のなかに、一切の感情を覗かせぬ上司、『統括長官』の強く静かな気配はすでになかった。
◇
「にゃあっ!! ら、嵐角さまあ!!」
慈仙洞嵐角。生まれ落ちてすぐ、哀れにも命を落とした嬰児の魂が集う『慈仙洞』を管理する女鬼である。
身の丈六尺を優に超える逞しい躯と豪放磊落な性格はおよそ子守には縁遠く人に映るが、その母性溢れる胸に赤子を抱え、幾千の泣き声が響く慈仙洞狭しと駆け回る彼女を慕う者は多い。
「…嵐角さまあ!! り、竜が、おっきな竜が閻魔庁のほうに飛んできましたぁ!!」
そして、ゆさゆさと揺れる胸を窮屈そうにエプロンに収め、慌ただしく慈仙洞に駆け込んできた少女の名はチャナ。野暮ったい三つ編みの髪は夜魔族らしからぬ蜂蜜色だ。
194 :
『タイトル未定』4 ◆GudqKUm.ok :2009/11/25(水) 21:21:51 ID:M31I51ee
女官見習いとして宮廷に上がったのだが、悲しいかな城内の小うるさい作法や派閥の確執について行けなかった彼女は、追い出され路頭に迷っているところを唯一の取り柄である巨乳を嵐角に見いだされ、赤ん坊の世話係として慈仙洞で働いているのである。
「…神仙界から来た監視の竜だね…いよいよ我蛾妃が塔を出た…」
武装した部下と共に慈仙洞を出た嵐角は、その鋭い眼光で遥か我蛾妃の塔を睨み、獄卒長紫角の密命を思い出しながら愛用の戦棍を握りしめた。
『誰の命令であろうと決して赤子を渡すな』だ。新参の『統括長官』が何者か知らないが、もとより大切な赤子には指一本触れさせない。
「…チャナ、奥に入ってな。」
「で、でも…」
「大丈夫。大丈夫だから。
嵐角たち鬼が絶対の忠誠を誓ってきた閻魔庁が、法と正義を曲げてまで我蛾妃の処刑を断行するとは思いたくなかった。
しかし、彼女と仲間がこの慈仙洞の赤子たちを守り抜いても、生贄の赤子の魂など幾らでも不正に入手出来るのも現実なのだ。堕天狗、ベール・シンジケート…
「…せめて、聡角がいてくれればねえ…」
緊迫する地獄の空気をビリビリと感じながら、この優しき女鬼はため息を洩らす。閻魔庁獄卒隊の副官、明晰な頭脳と俊敏な判断力を持つ青鬼の聡角は、この厄介事が持ち上ってすぐに閻魔庁からの別命で姿を消しているのだ。
彼がいれば、このような反乱まがいの緊張状態は避けられたかも知れない…
いずれにせよ無間地獄の蓋は開いた。今頃紫角たち本隊は我蛾妃を塔から連行し、長い回廊を恐ろしい無間地獄に向けて行軍しているに違いない。果たして我蛾妃は奈落の傍らで、最期の晩餐にありつく事になるのか…
195 :
『タイトル未定』4 ◆GudqKUm.ok :2009/11/25(水) 21:24:18 ID:M31I51ee
◇
「…そういえば、聡角どのの姿が見えんの…お風邪でも召されたか…」
朗らかに軽口を叩きながら、絢爛たる衣装に身を包んだ我蛾妃は、自らの血塗られた生涯を終える『無間地獄の間』へ優美に歩を進めた。立ち並ぶ冥府の文官と、この地下まで自分を連行した鬼たちを見回した彼女は、愉快そうに小首を傾げる。
「…さて。」
美しく死化粧を施した顔に、相変わらず悔悟や諦念の色はない。だが策略と欺瞞に満ちた我蛾妃の生涯を知る紫角たちはいかめしい態度で彼女の監視を緩めなかった。
「…閻魔大帝陛下の代理到着までしばし待つよう。」
白髭の文官がうわずった大声を上げる。部屋の誰もが、非常事態に備え閻魔庁の上空に集結した神仙たちの強大な気に脂汗すら浮かべていたが、我蛾妃は全く気にも留めぬ素振りで、軽やかに奈落の縁へと歩み寄る。
人界では深い地の底にあるとも言われてきた死者の集う異界、地獄。そしてその最深遠に存在する無間地獄。逃れる術のないその虚無を覗き込んだ彼女は無表情にその感想を告げた。
「…なんと…深い…」
恍惚とも戦慄ともつかぬ謎めいた面持ちで我蛾妃がその美しい顔を上げたとき、突如として重苦しく澱んだ空気にそぐわない素っ頓狂な声が『無間地獄の間』に鋭く響いた。
「お、お待たせしましたニャ!! 閻魔大帝よりの下賜品…ですニャ。」
飛び込んできた声の主は細身の躰を濃紺の仕着せに包んだ女官だった。緊張に耳をピンと立てた夜魔族の彼女は、その胸にしっかりと幼い赤ん坊の霊体を抱いている。
「宮廷…侍女長!?」
ざわめきを抑えられぬ部下たちのなか、紫角の瞳が暗く曇った。彼が信じてきた地獄の秩序は崩れ去ったのだ。清浄な輝きを放つ赤子の魂がどこから運ばれのかは判らないが、紫角と部下たちの儚い抵抗は、たった今空しい徒労に終わった…
196 :
『タイトル未定』4 ◆GudqKUm.ok :2009/11/25(水) 21:26:54 ID:M31I51ee
「…ほほ…大儀であった侍女長どの。それでは、頂こうかの…」
優雅に侍女長の抱く赤子を受け取った我蛾妃は、獄卒たちの憤怒の視線を浴びながら嬉しげに獲物を眺める。果たして新たな指導者は、惨い犠牲の上にこれからも地獄の安泰を築いてゆくのだろうか…
「可愛いやのう…なんとも旨そうじゃ…」
居並ぶ幾人かがたまらず眼を背けるなか、手の中の赤子をじっと見つめる我蛾妃の姿は、まるで鏡に映る自らの顔を眺めているようにも見えた。しかし、その邪悪な眼差しをまっすぐに見つめ返す、まだ恐れを知らぬ赤子の魂はキャッキャ、と明るい笑い声を立てる。
「…可笑しいか?」
低い声だった。いつもの道化じみた嘲りの声音ではない、真摯とも言える我蛾妃の問いに赤子はまた愛らしい高笑いで答える。悄然と逞しい肩を落としていた紫角がゆっくりと顔を上げた。
「…そうよのぅ…可笑しいのう…浅ましい人喰いの浅ましい最期…可笑しいのう…可笑しいのう…」
詠うように囁き続けるこの罪深い妖姫がかつて誰かの娘であり、母であったのかは誰も知らない。だが紫角は顔を伏せた我蛾妃の頬を伝い、赤子の柔らかな頬に落ちた一粒の雫を確かに見た。
「…なにやら…喰う気が失せた。」
ぽつりとそう呟き、我蛾妃は静かに立ち上がる。向かい合う紫角に見せた菫色の瞳に、涙の跡はもう微塵も残っていなかった。
「…もともと、男の子はあまり口に合わんしの…紫角どの、手間を取らすがこの子が人界のどこか良い母に生まれるよう、計らってやってくれんか…」
差し出された赤子を、紫角の太い腕がおずおずと受け取る。彼が我蛾妃の願いに答えようと乾いた唇をそっと開いたとき、数百年の齢を重ねた悪霊我蛾妃は一匹の華やかな蛾のように、永遠の虚無が待つ無間地獄へその身を踊らせた。
197 :
『タイトル未定』4 ◆GudqKUm.ok :2009/11/25(水) 21:29:10 ID:M31I51ee
◇
「…隔壁確認。『無間地獄』閉鎖します。」
誰もが複雑な想いを胸に秘め、寡黙に閉ざされてゆく無間地獄の前に立っていた。閻魔庁を取り巻く神仙の気配も消え、激しい脱力感のなか紫角は不器用に抱きかえた赤ん坊に呟く。
「…良かったな。すぐに…」
「いいから早く降ろせ。獣くさい。」
赤ん坊はぎろりと紫角を見上げて無愛想な言葉を発し、一瞬獄卒長としての威厳も忘れてグゥと驚愕の鼻息を洩らした紫角の腕からひらりと飛び降りた。
「な、な!?」
「殿下!! ご無事でしょうかニャ!?
呆然と見守る一同のなかで、いそいそと走り寄る侍女長だけが赤ん坊の正体を知っていたようだった。やがて妖しく光る赤ん坊の霊体は急激に成長し、十歳ばかりの少年、誰もが知る地獄の皇太子の姿となった。
「…ペッ!! 『口にあわぬ』のはこっちだっつーの!!」
顔をしかめた彼が床に吐き出したもの、それは一匹の小さな芋虫だった。弱々しく蠢くその赤い幼虫は、待ち構えた侍女長の手で素早く小さな瓶に収められた。
「捕獲完了ですニャ!!」
「…で、殿下!! これは一体…」
ようやく我に返った紫角が目を白黒させながら尋ねる。ちょっと…ついていけない展開だ。
「…我蛾妃の極小化された魂だよ。奴がこっそり涙に忍ばせて僕の体に染み込ませたんだ。」
「我蛾妃の…魂!?」
「赤子の魂に極限まで圧縮した自分の魂を隠して、お人好しのお前ら鬼の手で人界に転生させる…なかなかの名演技だったけど、奴の企みはハナっから僕にはお見通しだった。」
得意げに語りながらもチンチン丸出しの主人をマントで被いつつ、侍女長は説明を補足する。
「…シンプルな変身こそ難しいニャ。『穢れなき魂』ニャんて特に殿下とは程遠いですし…」
「…うるせーよ。」
198 :
『タイトル未定』4 ◆GudqKUm.ok :2009/11/25(水) 21:35:39 ID:M31I51ee
彼女の策略を見抜き、見事に裏をかいた年若い皇子に畏敬の念を抱きつつ、紫角は我蛾妃の大芝居にまんまと騙された自分を恥じた。獄卒の長として部下に顔向け出来ぬ大失態だ。
「…ま、気にすんな。お前らに作戦を教えないほうが我蛾妃を油断させられる、っていうのも、僕の計算の内だ。」
「…恐れ入ります…」
そのまま黙り込んだ紫角を宥めるように、次なる閻魔大帝は弾んだ声を上げた。
「…さーて、我蛾妃の塔がめでたく空いたから、僕専用のゲーセンでも造るかな。いや、改築して分譲マンションにすれば…」
「…殿下!! 宮廷女官の宿舎も老朽化がひどいですニャ!! ここはひとつジャグジーとムード照明付き夜這い大歓迎女子寮に!!」
「全力で却下。」
臣下たちが唖然と見守るなか、二人の主従関係とは思えぬ息のあった掛け合いは延々と続いた。
◇
(…おい聡角、持ってきてやったぞ…)
『殿下』の思念と共に、赤い毒虫が封じられた小瓶が、コトリと聡角の机の上に現れた。
「…恐れ入ります。上首尾だったようですな。」
立ち上がり恭しく頭を下げた聡角は、小瓶の中でもがく虫を興味深げに見つめる。紫角や仲間たちには気の毒だったが、『移魂』の専門家である自分が立ち会えば用心深い我蛾妃の警戒を招く、という聡角の判断は正しかったようだ。
「…見事ですな。霊子配列まで変えて完全に正体を消している。もっとも知能も魔力も赤ん坊程度ですが…」
(…そして構成霊子の98%が純粋な『悪』。いっそ無間地獄へ捨てたほうが良かったんじゃねーか?)
「…いえ、残る2%の部分と話してみたいのです。まあ、そこまで育つにはどれだけ掛かるか判りませんがね。」
(…テメ!!…て…!!◎#☆!!)
…遠い空間の向こう側で、なにやら『殿下』と侍女長らしい意識が騒がしく争い始めた。再び瓶の中をそっと覗き込んで微笑んだ聡角は、もう一度年若い主に丁寧な感謝の言葉を送った。
「…感謝致します、『統括長官』閣下…」
おわり
199 :
◆GudqKUm.ok :2009/11/25(水) 21:36:42 ID:M31I51ee
投下終了
>>186 「――鬼です」にいろんな意味でゾクゾクしました。シェア書き手の醍醐味ですね。有り難うございました。
>>52 勝手に殿下&侍女長に登場願いました。不都合ありましたら黒歴史に致します…
タイトル未定さんはいつも奥深い人情とか優しさみたいのがテーマになってるから
俺もすっかり我蛾紀にだまされてたw
そして殿下の名探偵っぷりに、フルチンも忘れるほどテンションがあがる俺。
瓶詰めの我蛾紀がリリベルちゃんに奪われる、なんてそんな超展開を期待しても
罪にはならないよな!?
どうも
>>52です
侍女長出て来たとき吹いて殿下も出て来て更に吹いたw
自分のキャラ使ってもらえると嬉しいですね
煮るなり焼くなりそれこそ殺っちゃってもらっても構わないですよ!
つっこみ役とエロ貧乳担当って設定くらいしかありませんからw
我蛾紀が涙に――ってのは予想してたんだが
まさか魂がフルチン王子だとは思わなんだ
乙です!面白かった
しかし鬼の名前がごっちゃになる……
203 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 12:18:39 ID:Dx96KJ8q
面白かったんで遡ってROMった。こんなスレあったんだ。
204 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 13:11:08 ID:GYrY5d2o
投下乙!!
チャナ、いいかも・・・
えぇい!このスレには一体何人のフェチ男共がいると言うのだ!
(^^)/
>>184 >クソ忌々しいキューティクルヘアー
こんな言葉の組み合わせ初めて見たわw
リリベルの独特の言い回しが大好きだ
208 :
◆GudqKUm.ok :2009/11/27(金) 15:42:10 ID:yv6YPiDV
2レスほど失礼します。地獄シェアここまでの部分的なまとめ、『タイトル未定』登場人物紹介と、『ややえちゃんはお化けだぞ!』ストーリーダイジェストです。
209 :
◆GudqKUm.ok :2009/11/27(金) 15:42:51 ID:yv6YPiDV
登場人物
【獄卒】地獄の管理、運営に携わる『獄卒隊』に属する鬼。さまざまな容姿、能力、出身の者がいる。
・牛頭大将紫角
獄卒長。牛頭の巨漢で情にもろい獄卒のリーダー
・聡角
獄卒副長 頭脳明晰な青鬼の副官。白髪の側頭部から角二本。
・千丈髪怜角
新人の女鬼。元過激派学生にして元悪霊。ストレートのロングヘア。角は一本。
・慈仙洞嵐角
地獄の育児施設『慈仙洞』の責任者。豪放磊落な褐色の女鬼。癖毛のショートヘアに短い二本角。
【その他】
・高瀬剛中尉
亡者の陸路移送を担当する生真面目な旧日本陸軍将校。
・我蛾妃(ガガヒ)
閻魔庁に幽閉されていた強大かつ凶悪な女妖。
・チャナ
夜魔族の少女。『慈仙洞』の下働き。巨乳。
・リカルド
船幽霊。冥土のレストラン『いすぱにあ』の給仕長。
・『統括長官』
突然獄卒隊を指揮下においた謎の閻魔庁官僚。その正体は…
210 :
◆GudqKUm.ok :2009/11/27(金) 15:43:53 ID:yv6YPiDV
【ややえちゃんはお化けだぞ!1〜5話ダイジェスト】
卍 卍 卍
田舎町の平凡な高校生、『俺』はある日突然現れた天然ボケの幽霊少女、ややえちゃんとの予期せぬ接触により『死んで』しまった。
再び生命を取り戻す為《ゲヘナ・ゲート開通記念☆幽霊カップル限定ラブラブ地獄巡りツアー》なる怪しげなバスツアーの乗客となり、二人は遥か地獄の支配者、閻魔大帝のもとへと向かう。
無許可での地獄門『ゲヘナ・ゲート』強行突破に巻き込まれたツアー一行に、次第に凶悪な正体を見せ始める悪魔のバスガイド、リリべルと謎の運転手。垣間見える彼の恐ろしい目的は何か?
そして迎撃を受けるバスから辛うじて逃れ、ようやく目的地である地獄の土を踏んだ二人の足元に、さらなる脅威が忍び寄る…
まとめ乙!
ややえちゃんの主人公が名無しなことに今更気づいた
こうしてみるとややえちゃんの展開はむちゃくちゃだなwww
だがそれがいい
213 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 21:05:50 ID:fYsZ6Aa3
他ワールドも期待してるぜ!
214 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 22:07:22 ID:fYsZ6Aa3
215 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 22:42:11 ID:3GDmyU8Z
まとめ乙!
216 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 23:07:06 ID:5ioLa1R0
まとめ乙!!
そろそろ〜風世界、とか『タイトル未定』とか淋しいねw
ああ、確かにw
気が向いたら名前でも付けてほしいな。
ややえちゃんの主人公もw
218 :
Tさん:2009/11/29(日) 03:53:14 ID:c1xP97p5
和泉、大阪に近しいそこは災害以降、大阪を中心とする自治都市群の内の一つとして機能していた。
陽光が眩しい、そう自然に感じられる晴天の中、青い空の下で人が百人程は入りそうな道場の外部鍛錬場に十数人からなる道着姿の少年たちと一人のジーンズにTシャツ姿の青年がいた。
少年たちが立っている地面は踏み固められて雑草の一つも生えていない。
彼らは皆手に竹刀を握っており、息を合わせて鋭い足運びと共に竹刀を振っている。
どうやらこの踏み固められた地面は彼らの普段からの鍛錬の成果らしい。
少年たちが竹刀を振るう中、それを監督するように見ていた青年は一つ頷くと、
「よし、やめ!」
よく通る声が張り上げられ、少年たちの動きが止まる。
青年は自分の前に集まってきた少年たちをひと通り眺め、
「≪魔素≫の扱いが上手くなってきたな。今日はここまで、年少組は整地、年長組は竹刀を片付けてくるよーに!」
『はーい!』
元気よく答える少年たちを見ながら青年はふう、と深呼吸。
肩をほぐすように腕を回していると、道場の方から初老の男性がやって来た。
白髪混じりの頭髪に精悍な顔つき、道着の上からでも分かる鍛え抜かれた身体。
初老を確認し、青年は声をかけた。
「師範」
師範と呼ばれたその初老はおお、と体格に良く似合う大ぶりな手の振りでもって青年に答える。
「すまんな、匠」
「いや、まあ居候させてもらってる身だし、用心棒業務も最近暇だし、これくらいなら」
匠と呼ばれた青年がそう答えると、
「用事棒業務なんてものは建前だろう」
少年たちには聞こえないように低く抑えられた声で師範は言う。
「……」
「大阪自治組織の腰抜け共に追い出された勇士、坂上匠。番兵はよく噂しとるが?」
無言の匠に師範は事実を確認するかのように言う。
匠は一つ息を吐き、
「いや、自治組織にとってみれば処置は当然のことだったと思うし、俺が彼らの立場なら間違いなく同じことをするからなー」
それに都市群自体からは追い出されずに済んだし。
そう言って笑う。
「だがなぁ、やり方が気に食わん」
「初めて俺がここに来た時、師範もあの子に襲いかかったじゃないか」
皆異形は怖い。つまりはそういうこと。
そう言う匠に師範は気まずそうに頭をボリボリかき、
「自治会から通達があったのだ、『第二次掃討作戦の戦地で拾われた異形が来るから気を抜くな』とな。それで一応様子見のつもりだったのだが……」
「それでいきなり女の子に拳を向けるんだな」
匠の言葉に師範も苦笑い。
「それでまさか異形を連れた若造の方と闘う羽目になるとは思わなんだがな」
そう言う師範に、ん。と匠も頷く。
「俺もまさかおっさんと殴り合いになってあの子に止められるまで延々とやり合う羽目になるとは思わなかった」
うん。ともう一つ頷き、師範の方に半目を向け、
「大人げない奴め」
「なんだと若造?」
数秒互いに半目で睨みあい、笑う。
「まあその縁でこうして居候させてもらってるわけだし。――感謝してるよ」
そうかい。と手をひらひら振る師範。その時、焦りを帯びた声が辺りに響いた。
「異形が出たぞー!」
匠はピクリと反応すると整地をしている少年のうちの一人に声をかける。
「良平、トンボ借りるぞ!」
「え? う、うん」
良平と呼ばれた十歳程の少年が答えきる前に鉄製のトンボを一本ひったくり、声の聞こえた方へと走り出した。
「おい、匠! お前武器は!?」
「今は平賀のじいさんとこだ!」
「大丈夫か?」
訊いてくる師範の声に匠は数秒考え、
「――たぶん!」
言い捨てて駆けた。
道場の敷地から出て所々ひび割れたアスファルトの舗装路を走り二分ほど、高さ五メートル程度の壁が延々と続いているのが見えた。騒ぎはその壁の向こうを中心に起こっているようだ。
開門とかしてくれるわけ……ないよな。
思い、壁の手前で跳躍。壁の上に立つ。
「獣型、8、9……10匹か」
既に異形との戦闘は始まっていた。下手な牛よりも大きな、そして細身の、犬にも似た四足の黒い獣と戦っているのは五人の男たちで、
「和泉の番兵さんか。俺も一応、建前とはいってもここの用心棒だしなー。応援が来るまで手助けしようか」
飛び下り、近くの獣にトンボの角を叩きつけた。
ギャン、という悲鳴が響き、トンボの角に頭を割られた獣はそのまま血を傷口から溢れさせて倒れ伏す。
「匠さん!」
「どうも!」
匠に気付いて声をかけてきた番兵と軽い挨拶を交わす。
機関銃から弾をばらまいていた番兵がマガジンを交換がてら情報を与えて来る。
「中の食料が目当てのようです!」
匠はトンボを振るってもう一匹を銃の射線上に殴り飛ばして、
「くれてやるわけにはいかんな」
言って、先端に振動刃を備え付けた槍を持つ番兵と共に獣を更に一匹討ち取る。
「残り一匹!」
番兵が声を上げる。匠がその最後の一匹に視線を向けると、
獣の口が開かれていた。中には≪魔素≫の光が輝いており、
「危なっ!」
口の直線上にいた番兵を蹴り飛ばす。
同時に獣の口内から光が吐き出された。狙いは番兵を蹴り飛ばして位置を番兵が居た位置へとずらしていた匠だ。
「っの!」
匠はとっさに手に持ったトンボをぶん投げる。
トンボはあっさりと光に呑みこまれた。
「根性ねえなぁ!」
芳しくない成果に大声で抗議し、両手でガードの構えを作る。
動作と共に身体に流れる≪魔素≫が腕に集まり、淡く腕が輝く。
これでなんとか……っ!
思って身構えていると、後方から炎が飛来してきた。それは獣が吐き出した光ごと獣をも焼き、消し炭にした。
「――っと、」
匠が構えを解いて後方に振り向くと、人影が壁から飛び下りてくる所だった。
人影は女性のものだった。見た目は十代前半といった所だろうか。先程放ったのだろう炎の余波に火の粉を舞わせたその女性は、しかし普通の人間ではなかった。
長い銀髪、人のそれよりも高い位置から生えた獣の耳、狩衣から覗く銀毛の尻尾。
ソレは間違いなく人以外のモノ――異形だった。
「クズハ……」
彼女は歩いてくると匠に詰め寄り、キッ、と匠を見上げた。
「なんで武器も無いのに異形に挑んだんですか!?」
そう責め立てる。
匠はあー、とかうー、とか言って目をあちらこちらに逸らしている。
少女――クズハは何事か匠に説教をし始めた。その様子を番兵たちは異形の死骸の片付けをしながら横目に見ている。その光景を見る彼らの目は微笑ましいものでも見ているかのようで、先程の異形に向けていたものとは大きく違っていた。
「ほんとに……危なかったんですよ?」
最後に、心配で心配で仕方ないというような、そんな風情で訴えかけたクズハにやっと視線を向けて匠は、
「ああ、すまない」
頭を撫でるとクズハの尻尾が力なく垂れ、眉尻が下がり、
「……いいです」
無事だったんですから。
そう言うとクズハは番兵たちに向かって頭を下げた。番兵たちは手を挙げて答え、
「匠さん、助かりました。クズハちゃんもお疲れ様〜」
「あ、皆さんもお疲れ様です」
気の抜けたような声を上げる番兵に同じように労いの言葉をかけるクズハ。気を抜くなよー、と番兵に向かって匠が言う。その番兵はうーい、という返事の後「あ、匠さん」、と言ってきた。
「ん?」
振り向いた匠に番兵は手持ちの槍で空中に円を描きながら、
「平賀博士がその内ウチの隊長と一緒に直した武器を持って来るって言ってましたよ」
「了解」
答えた匠はあ、と言って振り向く。
「トンボ、一本持って来るように平賀のじいさんに言っといてくれ。――無くなっちまったからな。師範に怒られる」
そう言って今度はしっかりと壁の一部に設けられた門から、隣に異形――白狐のクズハを当然のように連れたまま、都市へと入っていった。
なにやら他の作品と空気が違いすぎる気がするけどきっと気のせいじゃない 女神転生風世界 でした!
続く……のかなー?
今回勝手に付け加えた設定。
・≪魔素≫
異形から強く感知できた未知の物質だったが人にも個人差はあれどそれは存在した。
よく言う霊能力とかの類であり、安部 蘆屋 小角 平賀 玉梓 の五人が独自理論を発表したことにより、魔法体系が確立され、それと同時に≪魔素≫の効率的な扱い方も周知のものとなる。
これによって身体能力に補正とかかかって人によっては白兵戦の方が銃器を使うより強い。
・異形
中央政府が力を失ってから各都市の自治が開始、都市によっては知性ある異形と条約を結んだりして共存したりとかしてるんじゃないか? ってイメージ。
・第一次掃討作戦から第二次掃討作戦まで15年位で、うちの子たちのお話は第二次掃討作戦終了後から三年後くらい。
>>221 おつー
クズハは安倍の関係者かな?
まだこれからって感じやね 続けてほしいよ
ほかとクロスできるといいね
おお、ここにきて女神転生風世界(だよね?)に投下が!
しかも今までなかったバトル物じゃあないか!
しかしお前、潜在変態数の多いこのスレに狐幼女なんてものをブチ込みやがって
全く無茶しやがるぜ……
ともかく投下乙でした、続きも期待!
>>221 投下乙です。
こちらもクロス作が投下されて賑やかになれば良いね。
225 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 10:15:14 ID:LBBi0PIv
乙でした
狐幼女とかいいと思う!上にもあるけどやっぱりクズハは安倍縁の子なのかなー?
続き待っとります
いつ「破ァァァーーーー!!」ってくるか、Tさんがクズハ吹っ飛ばすんじゃないかとハラハラしたw
227 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 18:46:48 ID:2Qa6JKMx
バトル物だ!
期待してるぜ
そして、タイトル吹いたw
「――なあ夜々重、鬼ってのは怖えのかな」
絡みついた髪の毛は、その締め付ける力を増しながらゆっくりと俺の足を登り始める。
しかし夜々重はそれに気付く様子もなく、今まさに非常事態だというのにも関わらず、
緩んだアホ面を向けていた。
「私の先生も鬼なんだけど、すっごい怖いよ……」
ただこいつはそういった表情が大変よく似合っているし、恐怖に怯えたり苦痛に顔を歪め
たりするくらいなら、そのままのほうがいくらかマシなのではと思う。
目を閉じ一度心を空にして、最初に思いついた行動をとる。それは俺の覚悟だ。
「じゃあお前、ちょっと離れとけ」
「え、なんでそうなるかな」
首に回されていた腕をくぐるようにして外し、むくれる夜々重を押し離す。
すでに腰まで達していた髪もそれに気付いたのか、急激に速度を上げ、俺の視界を一瞬に
して黒い奔流で埋め尽くした。
それから一体どんなふうにして、どうなっちまったのか。
引力とも遠心力ともつかない圧倒的な加速による衝撃は、すでに限界が近かった俺の思考
と感覚を遮断するには充分すぎるものだった。
卍 卍 卍
気を失うなんてのは人生初のことだったので、それに気付いて周りを見渡しても一体どれ
くらいの間こうしていたのかもわからない。
呼吸をするたびに入り込む砂埃にむせびながら、不気味な赤い空を見上げる。
ずいぶん上から引きずり落とされたように思えたが、こうしてみると幽霊の身体というの
はなかなかに丈夫なもんだな、とため息をついた。
ただ足には相変わらず黒い髪が巻きついていて、その先へと目を動かせば、俺を見下ろす
人影へとたどり着く。それは古めかしくも整った官服に身を包む女だった。
「……久しぶりだったもので力加減が分からず乱暴になってしまい失礼ました。私は外宮
警護の任に当たっている――貴方の世界で言うところの『鬼』です」
落ち着いた口ぶりはまるで怯えた野良犬でもなだめるようでいて、しかし、その黒く艶の
ある髪のてっぺんには小さな角が生えている。
「お、鬼っすか……」
「別にとって食べたりしませんから、そんなに緊張なさらないでください」
状況を鑑みれば絶望的な結末しか見えないところではあった。しかし地獄に似つかわしく
ない透き通った声で「怜角」と名乗るその鬼からは、不思議と恐怖は感じられなかった。
「いや、俺はてっきりもう殺されちまうもんだと」
「もう死んでいるんでしょう?」
「ええまあ、はい。いや、そうなんですが」
ここでのやり取りが今後の明暗を決する状況に変わりはない。
だというのにしどろもどろな俺の対応に笑いをこぼし、手ごろな岩に腰を掛けて脚を組む
怜角さんに、妖艶な色気すら感じてしまうのは男の悲しさか。
「――これ、貰っても良いですか?」
不意な問いかけに慌てて目線を戻すと、怜角さんがバスツアーのパンフレットを手でちら
つかせていた。
自分のポケットを確認してみるもそこにはない。俺が気絶している間、取り調べはすでに
終わっていたのかもしれない。
「ああ、それは構わないです、そんなもの」
「不謹慎ですよ……地獄巡りツアーだなんて」
「……すいません。でも、俺は――」
「黄泉返るために太閤殿下に会いに来た、違いますか?」
一瞬言葉に詰まった。
「……どうしてそれを」
「あなたには『未練の鈴』が付いていませんから」
「未練の鈴?」
「ええ」
組み直される脚に気を取られまいと目を伏せ、まるで美人数学教師を思わせる淡々とした
説明に耳を傾けた――
通常人間が死ぬとその魂は三途の川を渡り、閻魔の裁きを受けて地獄なり天国なりに行く
ことになる。ここまでは俺の知識どおりだった。
ただし、生涯に強い未練を残している人間の場合、その未練は鈴へと形を変え、魂は人の
世に残る。それが「幽霊」と「未練の鈴」だということらしい。
つまり鈴のない霊というのは、単に自分の死に気付いていないか認めたくないかのどちら
かであって、こんな場所にいるとすれば後者。その目的は一つしかないとのことだった。
「はあ、そういうもんですか」
正直よく分からないが、結果状況は当たっているので素晴らしい推理であるといえよう。
「それが許されるかどうかは、私の判断するところではありません。そもそも私はここの
警護を預かったとき、捕らえたものは好きにして良いと言われていますので」
「もしかして、それって……」
「あなたは無害と判断しました」
その言葉は俺にとって光明だった。現時点ではお咎めなし、そういうことだ。
しかし何とも、俺の想像の中の鬼ってのは虎パンツで金棒を振り回すような乱暴者でしか
なかったのだが、これはもしも生き返ることができたあかつきには、大勢にその正しさと
美しさを伝えてやらねばならない。
そんな決意とともに、深い安堵のため息が身体の緊張をほぐした。
卍 卍 卍
しばらくの間そうして不器用ながらも人情味溢れる会話を堪能し、さてと前置きしながら
立ち上がって埃を払う優雅な鬼の姿は、惚れぼれするほどの魅力で満ち溢れていた。
「もしお邪魔でなければ、案内して差し上げますよ」
「そりゃ助かります、でもいいんですか?」
「宮内までは及びませんが、それでも――」
と、その時、怜角さんの表情が一瞬曇る。
「ちょ、ちょっと? どうしました?」
かと思えば急に首をおさえて苦しみ始め、倒れるようにして俺に身体を預けた。
「く……」
何が起きたのかと震える背中に手をかける。すると俺の記憶の中から何かが掘り返された。
これはもしかしてあのときの、夜々重に呪い殺されたときの俺と同じではないだろうか。
小さく漏れる呻きと、震える黒髪の遥か向こうでは――
「遅くなってごめんね! 助けにきたよ!」
――救いようのないバカが誇らしげに仁王立ちしていた。
そう、俺は忘れていたのだ。といってもそれはもちろん夜々重自身の事ではない。
好機を絶望へと変える、そのカタストロフ的なバカさ加減を。
「違うんだ夜々重、やめろ!」
渾身の叫びに一瞬きょとんとした夜々重であったが、すぐさま表情に勇ましさを取り戻す。
「そう……鬼はいろんな能力を持ってるって聞くし、きっと洗脳されちゃったのね。でも
大丈夫だよ、私が助けてあげるから!」
「そうじゃあない、怜角さんは素晴らしい人なんだ! 今すぐ呪いを解け!」
「さっきはあんなにいいムードになりかけてたのに……許さないんだから!」
以前会話をキャッチボールに例え、どんな球も取れない夜々重を表現したことがあったの
だが、なぜだ。この重要な局面において、こいつは全てホームランで打ち返してくる。
飛んでいった打球のひとつがどこかの窓ガラスを破るのも、もはやお約束であろう。
「許さない、ですって……?」
気が付けば怜角さんの震える指に光が灯り、なにやら不思議な図形を宙に描く。と、その
首に巻き付いていた太い縄が弾け飛び、同時にその瞳からは優しさが消え去っていた。
「ち、違うんです、あいつはバカなだけで――」
「この地獄に於いて、無知は罪と知りなさい!」
戦慄が走った。
喉をさすりながら立ち上がる怜角さんの髪の毛は、再びざわざわと伸び始め、地面を黒く
塗りつぶすように広がり始める。
それを避けるように跳び退きながら、夜々重は大きな岩へと軽やかに着地した。
にやりと不適な笑みを浮かべる夜々重。
やればできる子なのはわかったが、明らかにそのシチュエーションを間違えている。
「……さしずめ首でも吊った地縛霊、といったところですか」
静かに言い放たれた言葉と共に、黒い沼から数匹の大蛇にも似た塊が伸び上がった。
力を蓄えるようにして鎌首をもたげる大蛇の群れは、全て夜々重へと標的を定めている。
「待ってくれ!」
咄嗟に怜角さんに飛び掛り、押し倒す。
しまったと思った時には既に遅く、背後からの強烈な打撃と共に大蛇に飲み込まれた俺は、
そのまま夜々重の方へと突っ込み、短く聞こえた悲鳴と黒い攪拌に沈んでいった。
抗いがたい力の渦はやがて俺と夜々重の頭だけを外へと押し出し、目の前にあの美しい脚
を見せ付けている。
「私は上官から常日頃、何においてもまずは『話を聞くべき』と教えられていますが」
「そ、それじゃあもう少しだけ俺たちの話を聞いてくれませんか……」
「――ただ、秩序が乱される状況にあっては、それを鎮めてからが筋でしょう?」
そりゃあもっともだと納得する反面、俺の行き場のない怒りが、隣であえいでいる夜々重
へと向かうのも当然だった。
「貴様……ここまでバカだとは思わなかったぞ」
「ちょっと、バカってひどくない? 私助けに来たんだけど?」
「私にも獄卒としての面子がありますので、ってあの……聞いてます?」
「黙れ、何が助けに来ただ。少しは状況を把握する努力をしろ!」
「そんなこと言うなら来なければよかった。もう生き返れなくていいんじゃないの?」
その台詞に、俺の中で何かが千切れる音がした。
「てめえ……どこをどうしたらそんな台詞が言えるんだ? いっぺん殺すぞ!」
「もう死んでますよーだ」
悪びれる風もなく舌を出して小憎らしい顔をする夜々重を前に、怒りは最高潮へと達する
「……いえ、もういいですから」
「いや怜角さん。ちっともよかないんです。こいつは100回死んでも足りないぐらいだ」
「どういう意味よ!」
「そのままの意味だろうが! そんなこともわかんねえのかよ!」
「なによもう! この、ぼんぼなす!」
不意打ちのように突然飛び出した聞いたことのない言葉に一瞬ひるむ。
一体どんな意味が込められているのかわからないが、とにかくバカにされた気分だ。
「なんだとこのバカ幽霊!」
「それこないだ使ったもん! アウト! アウト! 私の勝ち!」
「勝ちも負けもあるか!」
「ふんだ! ウィナー、夜々重!」
「お前、正気か!」
そのあまりの腹立たしさに頭を捻っていると、ふと地震のような地鳴りに気が付いた。
「もう……いい加減にしてください!」
卍 卍 卍
こうして俺たちは怜角さんから30分ほどの説教を受け、大変にありがたい言葉をいただ
いたあと、無事に開放される運びとなった。
本来ならば宮殿まで怜角さんが案内してくれるはずだったのだが、何かのっぴきならない
急用ができたらしく、ここで別れることとなってしまったのが非常に悔やまれる。
「最後に一つ聞かせてください。あのバスに乗っていたのはリリベルという悪魔ですね」
「ええ、それは間違いないです。それとファウストと呼ばれる男の運転手です」
「分かりました、貴方たちは無関係だと報告しておきます。ではお気をつけて」
「すいません怜角さん、ご迷惑おかけしまして。ほら夜々重も謝れよ」
「ごめんなさい……」
やや不服そうに謝る夜々重の頭を優しく撫で、丁寧にお辞儀をして去っていく怜角さんの
後ろ姿に、俺は地獄界の「まともさ」を見た気がする。
「……何よ、デレデレしちゃってさ」
「してねえよ」
もしかして、ひょっとすると――
俺たちの目的地、恐らくは怜角さんたち「鬼」が守っている殿下宮殿というやつも、実は
案外まともなんじゃないかと、希望の光はそのまばゆさを強めていた。
つづく
233 :
◆zavx8O1glQ :2009/11/29(日) 20:58:08 ID:mpxdESW4
投下終わり。自分もトリだしておきますね。
リリベルバスについては、訳アリな感じも含めて物語で書いた以上のことは
設定してませんので、もし使われてみたい書き手様がいらっしゃればぜひ。
というとそこそこ聞こえは良いですが、要するに投げっぱなしです。
投下乙!! シェアードらしくなって来たなぁ。
乙です! 良い感じっすね! 嫉妬とか良いとおも(ry
傷ついたややえちゃんは俺が引き取るから安心しろ
乙です。八々重ちゃんの過去すごく気になる。怜角さん客演もGJでした
でもみんな、筆早いなぁ…
×八々重
○夜々重
こんな話読んでみたい! なんてレスも歓迎されるだろうか?
お前が書けってのはない方向で
届けこの思い!
>地獄
侍女長+怜角たん+ややえちゃん(温泉旅行)
>閉鎖都市
今空姉御+博士(ケミカルコメディ)
>女神転生風
クズハたんはぁはぁ(はぁはぁ)
俺、間違ってるかな
>>240 おまえは、正しい。
間違いなく、正しい!!
242 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 00:00:09 ID:0cu0nEcT
変態・・・!(褒め言葉)
元の作者じゃなくても、キャラ借りて書いても構わないってのがシェアワのいいとこだよね
いや、いまさらなんだけど。
>>228から結構勢いで怜角さん使わせてもらっちゃったから、
何かやりづらい要素があれば言ってください。
でもたぶん絶対美脚だよね、ね?
>>240 温泉旅行を書ける自信はないなあ……
245 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 19:07:48 ID:adgNXZz2
オリキャラ書けないんだけど、いきなり借り物で始めるのもなんだかな〜、と葛藤中。
どのシェアに書きたいとかは、もうあるのかしら
247 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 20:15:22 ID:adgNXZz2
妖怪バトル系。地獄かメガテンかな〜
妖怪バトルいいね!
なんか聞いておいてアレだけど、結局まだどこも設定があるようなないような
ものなんで、既存キャラを使うのに抵抗があれば、これを機会にオリキャラ
作ってみるのもいいかもしれないよ!
>>244 いえ、しつこいですけど髪の毛設定拾って貰った時はほんと嬉しかったです。
ちょっとしばらく投下出来ないんですが、リリべル絡みは少しお借りするかもw
>>245 シェアワで自分の考えたキャラが他の人に使われるってのは普通に感想貰う以上に嬉しい物
よっぽど変なことしなければどんどんやっちゃっていいと思うんだぜ
ここはどんどんやるスレ
>>218に刺激されて書いてみた
けど違うかもしんない
空気読めてなかったらごめん
牛に似た醜悪な異形は、暴風のような鼻息を出して襲いかかる。
光の刃が一閃し、異形の首に落ちた。
怪物は頭を飛ばし、青い血が滝になって血だまりを作った。
乾いた風が砂を巻き上げる。
見渡すかぎり荒れ地が広がって、ところどころビルが傾いている。
かつての天変地異によりできた地割れが、まだ痛々しく残って口を開けていた。
異形を斬った女の光る剣は、魔素をうしない刃を消した。
砂避けのゴーグルを額に上げ、短めの髪を押さえると女は一息つき、腰の水筒を取って
口に当てた。
うがいすると、皮のツナギに身を包む若い女は、口の中の砂ごと水を地面に吐く。
がれきに囲まれた集落の入り口に向かい、女が歩いた。かつてビルの一部だったがれきが、
今は異形に対する防壁だ。
男が地に木の杭を打ち込んでいる。
「ズシ、終わったよ」
女はズシと呼ばれた男に近づいていく。ズシは白衣と呼べるだろうか、茶色く汚れた
白衣をまとい、荒れた髪をして、何かつぶやいていた。
「結界は大きいと希薄になるのであるからして、つまり強度を上げる一つの方法は結界を
小さくすることであるからして、つまりアンジュの『魔素刀』もごく薄い一種の結界である
からして、つまり……」
打ち込まれた杭に縄をかけ、符を貼り、ズシは念じる。
「木克土、土克水、……万物の理を以て邪を制す」
そんなズシを、集落の子供が不思議そうにながめていた。
「こいつは、魔法科学のやりすぎで頭のネジが飛んじゃってるのさ」
アンジュは数人の子供に言ってやった。ズシはかまわず念じ続ける。
魔素が濃度を増し、結界が強まるのを、アンジュは感じた。
「おねえちゃん」
少女がアンジュに声をかけ、小さな指を見せた。アンジュはしゃがみ込み、頭をなでてやる。
「ん、なあに」
「あたちねえ、よんさいなの」
「ふーん、そう」
「でも、ごさいになるの」
「へえ、いつ?」
「あのねえ、あしたのあした」
「そう……」
アンジュはゴーグルの下の顔をくもらせるが、すぐ笑顔を作った。
「よかったね」
子供たちを呼ぶ、大人の声が聞こえてきた。子供たちは駆けていく。彼らに親はいない。
集められた孤児だ。
集落の大人はアンジュとズシに複雑そうな目を向けると、子供たちを連れて去った。
自治組織の武装隊を敬遠する者も多い。異形を退治する、今の世には必要な連中ではある
が、中には高額な報酬を要求する者や異形殺しを楽しむ異常者などもいる。嫌われても
仕方ない。
アンジュは短くため息をつくと、ズシに言った。
「なあ、やっぱり集落の人たちには避難してもらおう。うちらじゃ守り切れないよ」
ズシは答えず、古くなった魔法書に目を近付けていた。五系統のうち、ズシは蘆屋系に
属する魔法科学の見習いだ。
アンジュとズシは大阪自治組織の武装隊から派遣され、異形退治・結界の補修に来ていた。
もし防衛が無理なら集落の住民たちと相談し、土地を捨てるよう説得することも任務の
うちだ。
避難先として自治都市近くにテント村が用意されてあり、以前から集落の代表に話は
通っている。
すでに住民の半分は納得していた。
「金ももらったし、もういいじゃないか。ケガしたら損だよ」
アンジュも、人助けをしたいという正義感がないわけではない。だが、どちらかといえば
生きていける金さえもらえばいい、という現実主義者だ。開き直っていた。
「意地になったってしょうがないよ。なんか、武装隊から追い出された奴がいたみたいだ
けどさ、あんなのは馬鹿だよ」
ズシはきこえていないかのように、結界を繕う。
「そりゃ、避難してそのあとどうなるかはわからないけど。ここはダメだよ、なんでだか
異形があとからあとから来てキリないや」
避難すれば人々の何割かは助かる。三日後には自治都市の武装隊から、本格的な部隊が
やってくるはずだ。
「あとでまた戻ってきてもいいんだしさ。いつになるかわからないけど」
「……結界の強度を上げるいまひとつの手段としては、より強力な符など魔法具を使うこと
であるからして、つまりより確かな媒体が必要であるからして、つまり……」
「ズシ、あの子たちが気になるのか?」
「……つまり」
アンジュとズシはコンビで面倒な仕事をしてきた。異形退治の後処理など、メインに
ならない裏方作業だ。二人は武装隊では下位のほうだった。
「いまどき、親がいないぐらいなんだよ。普通じゃないか、うちらだって」
こんな時代だ。身寄りのない者は、生きる手立ては限られる。
魔素の素質があったアンジュとズシは、まだ運がよかった。
「そりゃあさ、誕生日はテントか、野宿か……それでも死ぬよりはましだろ?」
ズシは細い顔を魔法書にうずめるようにして、つぶやき続けた。
「……魔法は宇宙の法則を理解し、少し曲げるものであるからして、それによりできる歪みを
補うことが必要であるからして、それがつまり符であったりあるいはなんらかの魔法具で
あるからして、つまり……」
「……ダメだこりゃ。私は集落の代表の人に言ってくるよ。もう結界の補修はいいよ、ズシ」
アンジュはあきれ、ズシから離れた。
翌日、住民たちは井戸のある広場に集まり、避難準備をしていた。
人々の顔は暗い。無理もない。自分たちの土地を捨てるのだから。
アンジュは人数確認の報告をききながら、荷物のチェックをしていた。
ズシの姿はない。どうせあとで来るだろう、とアンジュは怒り半分で探しもしなかった。
「誰か、誰か知りませんか!」
さわいでいる施設の職員に、アンジュはたずねた。
「なんかありましたか」
「うちのハナがいないんです」
「えっ……」
明日が誕生日といっていた女の子だ。
異形の魔素を、アンジュは砂を含む風とともに感じ取る。
アンジュは駆け出した。
荒野を少女が一人、歩いていた。古くなったウサギのぬいぐるみを抱き、少女は遠くの
山を見つめていた。どこかで缶が転がる音がすると、少女はおびえてぬいぐるみを強く抱く。
前時代の異物である斜めのビル、壊れた自動販売機などが、少女の目にはひどく恐ろしい
ものに見えた。
また物音がした。少女が見ると、そこにはやけに細い、大きな犬のような異形がいた。
異形が開けた口には、鋭い牙が並んでいる。
五歳に満たない少女にできることは、ただ身を硬直させることだった。
獲物に向かい、異形は四つ足を曲げ、飛びかかろうと力をためる。
異形の足が地から離れた。異形がすばやく突っ込んだのは女の子、ではなく光る刀の刃
だった。
異形は真っ二つに分断される。少女の左右に、分かれた異形の半身が倒れた。
雨のような体液の中で、少女はやはり何もできないでいた。
「何で結界の外に出たんだ!」
このときのアンジュは教育的に怒ってみせたのではない。計画を邪魔されて、ただ腹を
立てていた。
おびえて白い顔をするハナは、消え入りそうな声を出した。
「ぱぱとままが、いるっていわれたの」
「何?」
「おやまのむこうにいるって、いわれたの」
「……異形にか」
(頭のいい異形に誘い出されたのか……)
しくじったことに気づき、アンジュはハナを無造作に抱き上げ、駆ける。
魔素を持つ者は身体能力を高められる。野性の獣のような速さでアンジュは荒野を走り、
来た道を戻った。
(しまった……! 誘い出されたのは私だ)
集落の入り口に、異形が黒々と群がって恐ろしい声を上げている。
壊れそうな結界が、青白い光を起こしていた。ズシが必死に魔素を縄に送り、結界を
維持している。
「ズシーッ!」
アンジュは魔素を高めると、がれきを駆け上がり、飛んだ。
少女を抱えたアンジュが、鳥のように空に軌跡を描く。異形でさえ口を開けたまま、
そのさまを見上げた。
結界の内側に着地すると、ハナを立たせてアンジュは腰の魔素刀を手にする。柄から
光る刃が生成された。
「もうダメだ、ズシ。ハナちゃんを連れてみんなで逃げな。私は少し足止めする」
「結界の強度を上げるにはより強力な魔法具が必要であるからして、つまり……」
「ズシ、もう結界はいい!」
魔素刀を逆手に構え、アンジュは異形の群れを見据える。
突然、虎のような異形が、猿のような異形にかみついた。何が起きているのか、アンジュ
にはわからない。
「仲間割れか?」
猿のような異形の肉を引きちぎり、骨までむさぼり食う虎の
ような異形に、今度は熊のような異形が牙を立てた。
「な、なんだ? 共食いしてやがる」
「いや、あれは共食いというよりつまり……」
ズシはなおも杭に符を貼り、結界を修繕する。
さらに、蛇のような異形があごをはずして、熊のような異形を頭から呑みはじめた。
強引に蛇のような異形は熊のような異形を呑み込み、胴体を限界までふくらます。蛇の
ような異形は張り裂け、熊の胴体が出てきた。頭は猿のようで太い牙をつけ、手足は何本
もあって熊や虎のものだ。尾は蛇だった。
「合体した!」
「いや、合体というより、あれはつまり」
奇妙な異形は天に向かって、雷鳴のような鳴き声を響かせた。
ズシは魔法書を手に、魔素を練り上げて高める。
「あれはつまり、本来ああであったのであろうからして、つまり」
「今まで分裂してたのか」
異形の強力な魔素が、アンジュの全身をしびれさせる。先程よりはるかに強くなった
のは、間違いない。
異形が虎の前脚で爪を突き出すと、宙に青い火花が飛ぶ。結界はあっさり破れた。
縄は切れ、杭は倒れ、符は焼けて黒くなる。
「ダメだ、逃げよう」
アンジュは動けないでいるハナに駆け寄り、小さな手を取った。
ズシはうずくまっている。
「ズシ!」
「魔法とは宇宙の原理を知り、バランスを少し崩すものであるからして、つまりそのとき
生まれるひずみを埋める必要があるからして、つまり……」
ズシは切れた縄の両端を握った。
「おい、ズシ?」
「より強力な結界を造るにはより『確かな媒体』が必要であるからして、つまり……」
ズシの全身が光り輝く。
「おまえ……」
アンジュの視線の先で、強大な異形が爪を振り上げた。
「水克火、火克金、金克木、天地陰陽の理を持って邪を退かん」
「ズシ! やめろ!」
爪がズシの頭に落ちようとした瞬間、強烈な光が発せられ、異形を撃ち抜いた。
防御の力が張り巡らされ、周辺を包み込む。異形たちは悲鳴をあげ、つぎつぎ焦げて
崩れた。
「ああ……」
黒い煙が漂う中に、ズシだったものがある。石化し、一個の岩になっていた。
風が煙を流し、辺りを明るくしていく。隠れて見ていた集落の住民たちが、恐る恐る
アンジュに近づいた。
「いったい、どうなったんです」
「終わったよ。もうどこへも逃げる必要はない」
アンジュは人の形をとどめない岩のそばに魔法書を見つけて、拾い上げた。
「ズシが、結界の一部になった。特別頑丈なのを造ってくれたよ。……命を捨ててね」
住民たちは言葉にならない声を漏らした。
アンジュは手をズシだった石に当てた。手触りは、まったくただの石だった。
「なぜ、そこまで……」
あくる日も、アンジュは石のそばでぼんやりとしていた。
施設がある方角に顔を向けた。
ささやかながら、ハナの誕生日会がもよおされているはずだ。
(ズシ、何を伝えようとしたんだ……?)
一日過ぎて、アンジュの頭も少しは働くようになっている。
(あの異形は普通じゃなかった。あれは……)
蘆屋の研究所で、異形を魔法科学の実験に使っているとアンジュはきいたことがある。
ズシはなおさら知っていたはずだ。
アンジュは魔法書に目を落とした。
(あれは実験の失敗作か? それをここに差し向けて、住民を追い出そうと……)
思えばこの任務ははじめから不自然だった。アンジュたち二人に、多数の異形を撃退
するのは無理だ。そんなことは自治組織もはじめからわかるはずだ。
避難するにしても、あまりに多勢に無勢過ぎる。
(この土地を使って実験か何かするために、失敗作を差し向けた……。自治組織もグル?)
「だからって、私にどうしろってんだ。戦えって? 蘆屋と、自治組織と……」
力なく、アンジュは自嘲して笑んだ。
(無理に決まってるじゃないか……)
終わり
>>35の世界です メガテンよく知らないが……
蘆屋はちょっと悪いイメージ
地獄とクロスしたり実は大災害が人為的なものだったりとか妄想するけど壮大すぎて書けない
乙でした!
人柱かー、そして自治組織の闇、続きに期待です!
261 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 23:42:43 ID:4DBb2RLi
乙
アンジュとズシか。
なぜメガテン風世界の作者さん方は暗めな話を元ネタにするんだwww
みんな幸せになるよな!?
投下乙でした。
スピード感のある戦闘、いいよいいよ!
メガテン風世界もなんとなく雰囲気がでてきたねえ。
続きも期待してます。
坂上匠が居候している大阪圏辺境の集落にある道場。
その離れの一室で彼は普段生活させてもらっているのだが、今、その離れは客を迎えていた。
「久しぶりだのう匠君」
畳に胡坐をかいて元気そうでなにより。と言うのは煙管を咥えた白衣の老人だ。
「平賀のじいさんも元気そうでなによりだ」
匠も笑顔で受け答えをしている。
平賀は匠の言葉を受けて手をブンブン振り、
「これがけっこう≪魔素≫やら≪魔法≫やら災害以前の技術の研究やらが忙しくてのぅ、わしゃしんどいわい」
そう言うと、ホレ、と傍らに置いてあったザックから先端が覗いていた袱紗を匠に差し出した。
匠が袱紗を開くと中には二メートル程の長さの金属製の棒が入っており、
「あずかっとった魔棒、名はやっぱりマーボ――」
「ありがとぉっ! 助かる!」
あまりの命名センスに気がついたら匠は言葉をかぶせていた。
「……それにしてもトンボで異形に挑むとはまた無茶な」
平賀が言葉を潰されたことに若干不満そうな顔をしながら小言を言う。
「しっかり働いておかないと今度は大阪圏から追い出されそうだからなー」
クズハに何度も注意されたよと苦笑いしながら匠。その声に応えるように男の声がかかった。
「――しっかり働いてるっていう偽証くらいならウチの番兵がするんだがな」
その言葉と共に部屋に入ってきたのは短い黒髪を刈り込んだ精悍な顔つきの壮年の男。匠はそれを見て、
「門谷隊長」
「おう、坂上。兵舎への挨拶も終わったんで平賀の爺さんのお守りついでに顔見にきてやったぞ」
門谷と呼ばれた男は凄みのある笑みで言う。
「あー、お疲れさんです。大変でしょう? この人と居ると」
門谷は匠の言葉に深く、深く頷く。
少し遠いものを見る目をして、
「なんなんだろうな、俺はこんなのが魔法体系を確立した五人の内の一人で、あまつさえいろんなところで重要人物扱いを受けているという事にひどい違和感を感じたよ」
「そうでしょうね」
匠も深く頷く。それを見ていた平賀は、よよよ、と泣き崩れるふりをして、
「匠君、養父であるところのわしにそんなこと言っちゃうのかな!?」
「いや、ほら、身内には厳しく?」
匠が答えると、平賀は今度はハンカチを取り出して「どこで教育を間違ったんだろうかのぅ」と目元を抑えながら言う。
それらを無視してそんなことより、と門谷が匠に鋭い視線を向ける。
「聞いたぞ匠、あまり無茶しようとするなよ? 俺たち和泉の自警団はお前に第二次掃討作戦の時に信太の森で救われてから多大な恩があるんだぞ? 返させないまま死ぬ気か?」
……またですかー。
会う人会う人にいろいろ言われるな。と思いつつ匠は不機嫌そうな顔の門谷を視界の端に収め、
「いや、一応トンボで全然いける予定だった……んだけ、ど」
「実際攻撃食らうところだったんじゃねえか」
目を逸らしながら言った言葉は簡単に切って捨てられた。
「アレくらいなら気合いでどうにかなってた」
「お前は――」
開き直った匠に身を乗り出した門谷は、しかし盛大にため息を吐いた。
平賀はそれを見て、はははと笑いながら、
「信太の森というと、クズハ君を拾ってきた時のことだの?」
「ん、そうそう」
匠は頷き、
「第二次掃討作戦、つまりは異形出現地域の封印戦で信太の森から湧いて出る異形の掃討・封印作業をしてたらいつの間にか異形に囲まれてて……」
「で、俺が涙を呑んで副長――坂上を異形の足止めにして敵ん中に突っ込んどいたんだよな」
「俺が残るって言ったら最後まで止めようとしてたのは門谷隊長だけどな」
言われて門谷は気まずそうに咳払い一つ、匠を小突いて、まあ、そんなわけで。と話を続ける。
「いつまでたっても帰ってこないから、こりゃあ永久欠番かなー。と考えていたらこいつ、ボッロボロになりながら異形の娘を抱えて戻ってきやがったんだよ」
「その異形の娘がクズハ君か」
平賀の言葉に匠と門谷は頷く。
「それから負傷を理由にあの娘ごと一度平賀の爺さんの所に帰ったんだな。
しかもそのまま自警団を辞めやがって、俺たちは皆揃って驚いたわけだが」
「いつの間にか英雄扱いされてて俺もビビった」
匠はそう言うとジト目を門谷に向ける。
「異形の子は目を覚ましてみれば記憶を失ってて何も覚えてなくてな。あわよくば何か異形の情報でも聞けないかと思ったんだけどな。名前も忘れていたようだから俺がクズハと名付けてそのまま平賀のじいさんの所で生活していたわけだ。
それで万事解決ならよかったんだが、一年くらい経って自治組織の上の連中に異形を匿っているのがばれちまった」
ちなみに自警団を辞めたのはこのタイミングな。と匠は門谷に告げ、話を続ける。
「大阪圏から追放されるかなーとか思ってたら自警団の皆が口をきいてくれたんだよな」
いや、感謝感謝。と門谷を拝む匠に門谷は、「そりゃまあ恩返しとかあるしな」と言って返す。
そしてまた不機嫌な顔で愚痴を言う。
「にしても上の腑抜け共は」
「そりゃまあ、しょうがない。信太の森の異形の元締めは巨大な狐だったんだし、クズハの耳と尻尾は恐怖ポイントでしょうよ」
苦笑いで門谷に言う匠。その言葉に答えるように、
「まったく、萌えポイントなのにのぅ」
平賀が重々しく言った。
「ハイハイソウデスネ」
適当に答えて匠は門谷に笑顔を向ける。
「おかげさまで追い出されずに今はここで用心棒って名目でのんびりさせてもらってるよ。道場の人にゃあ世話かけるけどね」
そうかい、と門谷は頷く。
そして匠に半目を向け、
「しかし坂上、お前アレだな? まさかの光源氏計画を進行中っていう」
言葉の途中で匠は立ち上がって叫んだ。
「どこのどいつだ!? んなこと言うのは!?」
まあまあ落ち着け。そう言って匠を座らせると門谷は指折り数え、
「番兵とか道行く人々とか道場の師範夫妻とか……」
「嫌な認識が広まってる!?」
匠が叫んだとき、襖の向こうで声がした。
「失礼します」
そう言って部屋入ってきたのは狩衣に銀髪、耳と尻尾を生やして湯呑を盆に載せた――
「クズハ君」
何かと話題に上っていた異形の少女だった。
「お久しぶりです。平賀さん、隊長さん」
クズハは笑顔で二人に深々と頭を下げて挨拶する。
「んむんむ、半年ぶりくらいかな」
目を細めた笑顔でクズハを迎える平賀。
「坂上にいじめられてないか?」
「なにか調教のようなものを受けた覚えはないかな?」
「いえ、そんな……ちょうきょう?」
門谷の言葉と平賀の妄言に笑って答えながらクズハは盆に載せた湯呑を三人に差し出す。
「おお、いただこう……。どれ、クズハ君に持ってきた新兵器をお披露目しようかの」
茶を一口啜って平賀がそんなことを言いだした。
「え?」
「新兵器?」
……これでもクズハは≪魔素≫の扱いに長けている。こと≪魔法≫においては右に出る者がいない程の腕前なんだが……。
そんな彼女に何か新兵器などいるのだろうか? いや、接近戦用の武具か?
匠がそう思っていると、
「じゃーん!」
そう口からセルフで効果音を出し、傍らに放置されていたザックに手を突っ込み平賀が取り出してきたのは、
「『エ……エレキ、キテルノ!!』」
「………………」
叫ばれた言葉と共についと差し出されてきたのはティッシュ箱程の大きさの、木製の外付けハンドルが付いた箱だった。
「エレキ、テル?」
「のんのん、」
クズハの疑問混じりの言葉ににちっ、ちっ、と平賀は指を振って、
「もっと切なそうに、こう、『エ……エレキ、キテルノ』って、気持ちひらがな表記で、さあっ! クズハたん、カモン――ブフォッ!?」
気がつくと匠は受け取ったばかりの魔棒で平賀を殴っていた。
「い、痛いじゃないかね!?」
「痛いのは手前だ爺っ!」
「とりあえずこれはぶっ壊しておくからな」
説教を始めた門谷を見つつ、匠は棒を更に振って用途不明の謎の物体を叩き潰す。
「え……と?」
「クズハちゃんは気にしなくていいぞ」
目の前で一体何が起こったのかいまいち理解していないクズハに門谷が言い聞かせる。平賀は念入りに物体を破壊している匠を見て嘘泣きしながら、
「何度でも、何度でも蘇らせて見せようぞ……!」
「何を無駄に熱い決意してんですか」
呆れたように匠が言うと、平賀は人差し指で畳をなぞりながら、
「だってー匠君だけずるいんだもーん」
「ずるい、ですか?」
問うクズハに平賀は、うん。と女の子座りで頷き、
「だってー、クズハ君匠君に懐いてるしー、二人ともなかなか帰ってきてくれないしー」
語尾を伸ばす平賀。男二人は引いていたがクズハは言葉を額面通りに受け取り、
「すみません」
申し訳なさそうに頭を下げた。
「気持ち悪い喋り方をせんでください」
「まったくだ。クズハちゃんもその爺の怪しい行動に反応してもいいんだからな?」
ひたすら頭を下げているクズハを不憫に思った二人がフォローを入れ始める。
「まあ、爺さんの所に自由に戻れないのはやっぱり不便だよな」
それなら。と門谷が匠を振り向き、
「帰れるように上に打診してみようか?」
匠は緩く笑んで首を左右に振る。
「いや、平賀のじいさんの所は大阪の中枢に近いからなー。正直、自警団の一隊長の立場じゃあキツイと思う」
「やはりそうか……」
沈み気味な門谷。
既に幾度かこの人は打診してくれていたのかもしれない。そう匠が思っていると、
「……すみません」
「へ?」
再び謝りだしたクズハを見て門谷が気の抜けた声をあげた。
「私が異形で、匠さんが私を拾ってくださった場所が狐の異形の領地だったから……」
「なんのことかの?」
とぼける平賀を見て匠は「もういいんだよ」と苦笑する。俯いているクズハに手を伸ばし、
「『引っ越し』した理由を知っちまったんだよな。――成長したってことだよ」
元住んでいた場所を移動せざるを得なかった理由。異形を匿っていたが故に今までの場所に居られなくなったという事実。当初は隠していたそれもいつの間にか彼女は知り、理解していた。
……自分は異形だからと、そんなに卑下することは無いと思うんだけどな。
部屋に入ってから謝ってばかりのクズハの頭に手を乗っける。
クズハは黙って撫でられ続けているだけだった。
平賀と門谷は兵舎に泊まると言って道場の離れを後にしていった。
匠には去り際に門谷が残した、
「最近信太の森周辺の異形の数が増えてるから気をつけとけ」
という言葉がいやに耳に残っている。
……先日の異形のこともある。少し気を張った方がいいのかもな。
辺境とは言え大阪圏の集落であるここに異形が現れたのだ。何か異変が起こっているのかもしれない。
そして、
「……」
先程からクズハはずっと俯いている。
……あ〜、いかん。この空気はいかん。
思うが、俯く少女にかける言葉はすぐには思いつかない。
……負い目、かな。
住んでいた所を追われて辺境のここで暮らすことになったのは全て自分のせいだとでも思っていそうだ。
……元々突出した戦闘力を持ってた俺を上はあまり良く思っていなかったようだし、そこら辺も含めて追放したんだと思うんだけどな。
そう匠は思い、ため息。
「あー、ほら、母屋に行こう。師範たちがそろそろ食事の準備を始めてるはずだし」
……俺一人じゃあこの空気はキツイしな!
思い、クズハの背をポンと叩く。
「……はい」
促されて頷いたクズハの声は沈んだもので、
……どうしたもんかねー。
平賀に調整してもらった魔棒の感触を確かめるように幾度か振りながら匠は母屋への道を歩き出した。
●
森の中、災害以降、異常繁殖しだした木々に封鎖され、更に第二次掃討作戦で封印された。昼でも人が寄りつくことのない、そんな森の中にあるはずのない人影があった。
「さて、目覚めてもらおうか」
言葉と共に人影のある位置で何かが光った。
数十秒に及ぶ発光現象の後には人影は無くなっており、代わりに、
――ック、ッククク……、あの若造への復讐の機会を与えてくれるか……。
何かが目覚める兆候があった。
メガテン風世界書いてくださる人が来なさった!!
しかも微妙にうちの子の存在が匂わされる言葉ありですよ! 嬉しさ爆発です!
そしてシリアス風味な蘆屋と対照的に平賀は変たゲフンゲフン――奇人ですね。
派閥の人はきっと皆まともなんだろうけど……。
だって源内さん奇人だって書いてあったんだもん!
閉鎖都市が実はこの世界の都市の一つだったりとか地獄へGO! とかそんな感じの妄想もできなくもないけども文章力が無いので断念
上手い感じに皆様とつながれば嬉しいなと思ったり。
>>262で言われていた雰囲気が粉砕された気がせんでもない……土下座ああああああああああぁ!
乙です
打って変わってコミカルだなw
平賀軽いw
でもやっぱなんか悪い奴らがいるのね
二次掃討作戦がちょっと重要なんかな
続き期待
朝起きたらもう一作きてる! なんて素敵な日曜日!
こっちのワールドも盛り上がってきたのー
しかし狐幼女が記憶喪失とは、なんというフラグ乱立www
ていうかエレキキテルノ壊すなよwなんだったんだよw
この板で書くの今回のが初めてなのでどこまでスレ内での質問やらに反応していいのかいまいち分からんのだけど、とりあえず言いたいことがあったので
クズハの表記は十代前半の少女≠ネのに迷いなく幼女≠チて書いてくるお前らに感動を禁じえない……www
エレキキテルノはたぶんこの板じゃあ書けないことに使うかもしれないしただの蓄電器かもしれない。
夢が広がるね!?
シェアードワールドを気軽に楽しむにはいくつかの条件がある。
その一つは「細けぇことは気にすんな」だ
つまり何が言いたいのかと言うと
クズハたんとキャッキャウフフしたい
倒壊した家屋、瓦礫が散らばる道路。
荒涼とした風景は大災害の爪痕を今も残している。
多くの人々は都市へと避難し生きていこうとしていた。
郊外で生活するのはよほどの事情があるか、かなりの変人だろう。
そういう輩は遠からず、異形の被害に遭い命を落とす。
20XX年、日本。
そこは八百万の異形達が闊歩する、悪鬼夜行の世界。
かつてはネオンの輝きに彩られていた都市群も、今は見る影もない。
夜ともなれば人々はひっそりと、夜が明けるまで家に篭もる。
電気設備が十分ではないのが理由だが、それだけではない。
夜は、異形の領域だからだ。
月明かりの中、ひび割れた舗装道路を一台の馬車が進んでいた。
二頭の馬にひかせて夜の街中をカラカラと、静かに奔って行く。
見るものがいれば驚愕したであろう。
馬には首が無かったからだ。
いや、馬車に乗っている人物さえも。
黒光りする甲冑を着こんだ馬上の人物にも首が無かった。
己の首を脇に抱え、威風堂々と立っている。
その首は不敵に笑い前方を見据えている。
異形。
その言葉が、彼等をあらわすに相応しい言葉であろう。
人間が往来していた街道は、今や異形達のものだった。
悠然と歩んでいた馬車に、突然の衝撃が襲いかかった。
轟音をあげて路面が爆ぜる。
異形はとっさに手綱を握るが間に合わず、横転する。
その横倒しを合図に、廃墟から次々と人が出てきた。
「へっ、作戦成功。大枚はたいて爆弾を手に入れた甲斐があったぜ」
「リーダー、油断しては駄目です。まだ終わっていません」
「解ってるって、これからが本番さ。一条、佐伯! 俺の援護に回れ!
巴はそのまま後衛にいな」
リーダーと呼ばれた男は、片手をあげて号令をかけた。
それに合わせて他の者は武突撃を行う。
「異形タイプ・デュラハン、頭部以外の箇所による攻撃はあまり効果がありません!」
「承知」
「アイアイサー」
一条と佐伯は銃に弾を込めた。
横転した馬車にむかって照準をあわせる。
大きな音と共に炎と雷が銃より発射され、馬車を異形ごと包んだ。
魔素を詰め込んだ特殊弾丸、炎弾と雷弾だ。
「もういっちょ!」
爆音をあげてリーダーが追い打ちの銃弾を放つ。
燃えさかる業火の馬車にむかって、それは見事に異形へと命中した。
ガアアアアッ!
苦し紛れか、それとも威嚇なのか、異形が雄叫びをあげる。
「異形、いまだ魔素反応有り」
「だろうねえ。各自散開、のち再び攻撃開始! 一箇所に固まるな!」
リーダーの合図に皆バラバラの方向へと距離をとった。
異形には個々で違う能力を持つ者が多数いる。
まとめてやられるのをさけるためだ。
廃墟の死角へと身を動かしながら、続けて銃弾を叩き込む。
首のない馬がどのようにしてなのかわからないが嘶きをあげた。
ゆっくりと、そして力強く馬車が起きあがる。
ズズズゥゥゥゥ……。
石臼を引き摺るような低い声を異形が発すると、次の瞬間
異形を中心として衝撃波が起こる。
爆風によって、馬車を被っていた炎はかき消されてしまった。
リィ、リィ……ウルゥゥゥリィィィィ……。
地獄の底へと響くかのような声を異形が絞り出すと、
馬車の周りの地面が盛り上った。
ボコリ、またボコリとひびが入る。
そのひびから這い出るように、複数の異形が姿をあらわした。
「……タイプ・スケルトン。敵、増援です」
先ほどとは違う、沈んだ声で巴は報告した。
新たに現われた異形は五体。
こちらは四人。しかし巴はオペレーターとしての役割があるので
戦力には数えられない。
「……へ、まいったね」
自嘲気味な笑みを浮かべ、リーダーはガンベルトへ手を伸ばす。
「勝てねえからって仲間呼ぶかよ、そりゃぁ……ねえぜ!」
悪態をつきながら異形達の中心に手榴弾を投げる。
大きな音と閃光をあげてそれは炸裂する。
スタングレネード。
対異形用に改良した強力な奴だ。
もっとも、それなりに値段が張ったが命には替えられない。
ダメージは無いが数秒は時間を稼げるだろう。
「仲間呼ぶなんて聞いてねえぜ! 退却だ! 全員退却!」
叫びながら、スタンの影響を受けた巴を肩に抱きかかえ、
リーダーは逃走を開始する。
一条と佐伯も背をむけて一緒になって逃げる。
離れていた場所に止めてあった車に飛び込み、急いで発進させた。
やっと状態が回復したのか、巴が車中で批難の声をあげた。
「いきなりスタンなんて、ちょっとは考えてくださいよ」
「おいおい、多勢に無勢だぜ? 逃げるのも選択肢に入るだろ。
一条と佐伯をみな。ちゃんとかわしてついてきたぜ」
後部座席に座っていた一条は、当たり前といわんばかりに指を差す。
「ま、リーダーの事ですからね。どうするかは何となく読めてましたよ」
「無論」
一条にあわせて佐伯も相槌をうつ。
いまだ納得のいかない巴であったが、二人が無事ならばしょうがない。
自分が未熟だったという事なのだろう。
「……で、これからどうするんです、リーダー?」
「ま、敵の詳細を聞かされなかった事は不満だけどよ、俺達の実力不足もあるわな。
キチンと報告して別の街だ」
「やれやれ……また違約金ですか」
「ははっ、そういうなって。次はもっとかるーく稼げるような仕事を頑張ろうぜ」
「アイアイサー」
「承知」
「そう上手くいくといいんですがね……」
他の三人の陽気さとは裏腹に、巴はおおきくため息をついた。
―――数日後
「依頼内容を説明します。うち捨てられた都市に大型の異形の報告がありました。
幸いに我が都市から離れていますが、異形の目的がわからない以上、これを
放置しておく事は付近住民の不安に繋がります。よって、あなた方に異形の撃破を依頼したい。
敵は報告されている限り、ヂュラハンタイプ一体。あなた方の技量があれば、造作も無いこと
でしょう。○○都市自治連は、あなた方の信頼しています。
色よい返事がある事を期待しています」
依頼内容
異形タイプ・デュラハンの撃破
報酬
500000cr.
この依頼を引き受けますか? →YES NO
>>35の世界支援
異形が徘徊してるんなら、当然それを商売にしてる人もいるんだろうなという事で
巴は女性で、他の三人は男性です
それなりに武装しています
なんだこの週末ラッシュはw
それにしてもなんというスピード感。
他のと違って実兵器使用ってのがまたいいね!
こういう依頼に乗じてクロスさせるってのアリだな。
また来た乙!
魔素を利用した兵器があったり金目当ての連中がいたりすんのね
世界ができていくのはおもしろいな
異形も雰囲気いい タイトルがほしかったかな
リーダーの名前はリーダーなのか
色々気になるぜ!
>>34の閉鎖都市の世界観で書きました。
つけっぱなしのラジオが騒々しい曲を垂れ流し始めた。朝の八時に決まって流れるラジオ番組の冒頭だ。
ブラインドの隙間から朝の日差しが無遠慮に侵入し、薄暗い事務所が外から炙られているような錯覚をおぼえる。
ソファでくたばっていた体を無理やり起こす。体の節々が痛い。昨日の疲れが抜けきらぬまま、俺は今日の活動を開始する。
「ステファン、いるのかいないのか返事しろ」
ゴミだらけのテーブルからミネラルウォーターのボトルを摘みあげ、寝ている間に失った水分を補給する。美味い。ピチカー社製よりイマカラ社製のほうが体に馴染みやすくて気に入っている。
汗を吸ったシャツを脱ぎ捨て、ロッキングチェアに掛けてあったシャツと取り替える。
投げ捨てられたワイシャツの胸ポケットからタバコを抜き取り、口にくわえた。
「おいステファン、三秒以内に返事しないとマコールのジュディにお前のことバラすぞ」
「ちょっと待ってよ神谷さん! なんで知ってるのさ!」
ダイニングの扉から金髪頭の少年が顔を出した。
俺の目を盗んでサラミを丸ごと頬張っていたようだがその生意気そうな顔もいまは驚きと戸惑いで愉快な面になっていた。
ズボンから取り出した簡易ライターでタバコに火を点ける。安物の紫煙が肺の空気を洗浄し、ようやく朝が来たことを実感した。
「神谷さん、なんでオレがジュディのこと好きだって知ってるのさ!」
「いいからお前はベーコン焼いとけ。コーヒー淹れるのも忘れるな」
ステファンはぶちぶちと文句を言いつつもキッチンへと消えていった。
足の踏み場もないくらい散らかった床を見下ろすと人生をやめたくなってくる。
この閉鎖された都市で、代わり映えのしない閉鎖された一日がまたやってきたのだという事実に俺はため息を吐いた。
閉鎖都市。
あらゆる文化と文明をぶちこんで煮詰めた希望と絶望の坩堝。
なんでもありゆえに自由でなんでもありゆえに限界がなく、そのために定形を保てない不安定な世界だった。
誰がいつ何のためにつくったのか、それすらも定かではない。
一説によると天上人が地上の人間を試しているのだとか、また別の説を頼れば人が神になるための蟲毒の儀式なのだとか。
だがそんなことはどうでもいい。
閉鎖都市でもとりわけあぶれ者たちが密集する掃き溜め、廃民街で探偵業を営む俺に都市の由来も目的も関係ない。
今日の飯にありつき明日の寝床を確保できれば、それでいいのだから。
ステファンの淹れた味の薄いコーヒーを飲み下し、もはやアンティークと呼んでも過言ではないブラウン管テレビの電源を入れた。二十インチの狭い四角形の中でモノクロのキャスターが今朝のニュースを読み上げていた。
「ん? このキャスター不倫問題がバレて局をクビになったんじゃなかったか?」
「いつの話をしてるのさ。それはけっきょく眉唾でちゃんとした婚約者と結婚したでしょ、三ヶ月も前に」
「そうだったか」
流行りのキャスターの身上など道端で踏み付けるスパゲティの残飯みたいなものだ。ボロ雑巾で拭き取ったらすえたにおいを残して跡形もなく消えてしまう、たかだかその程度のもの。鼻が曲がるほどの悪臭でもしなければ記憶の片隅にも残らない。
コーヒーのおかわりを頼み、カリカリに焼けたトーストにマーガリンをひいた。その上で輪切りにしたトマトとレタスとベーコンを乗せて半分に折りたたむと簡単ながらもフレッシュなサンドが出来上がる。
料理などほとんど作らない俺が胸を張って人に勧められる唯一のメニューだ。
『次のニュースです。昨夜、避民地区でも有数の大手IT企業であるCIケールズの代表取締役、ジョセフ・J・ケールズ氏が何者かに殺害されるという事件が起きました。現場は――』
旧式テレビの枠に収まりきらないテロップが自殺の可能性を否定していた。
これはまたでかい事件が起きたものだ。全都市放映の局でわざわざ廃民街(他の地区では避民地区と呼んでいる)のニュースを流すことなどそうそうない。
住み分けができているというよりも平和な地区でわざわざ汚く治安の悪い地域の情報を電波に乗せる必要がないからだ。
CIケールズは主に廃民街を中心に営業しているだけでなく、少なからず外の地区にも技術提供をしているため社長の顔は広く知られていた。
綺麗好きな都市民たちも無視できない人物だったわけだ。
「うちのパソコンもケールズだったよね」
「回線込みだとエクセプテラより安かったからな。まあ、どちらも品はいいが貧民の懐に優しくないのが問題だな」
サンドに噛み付きコーヒーで流し込む。明日はチーズを挟んでみてもいいかもしれない。
「でも社長が殺されるって尋常じゃないよね。護衛とかもいただろうに」
「無能なごろつきを雇ったのか、殺った野郎が凄腕だったか。どちらにせよ、しばらくは街が荒れるな。お前も不用意に出歩かないほうがいい」
「へえ、神谷さんが心配してくれるなんて雨でも降るんじゃないの?」
「余計な火種を作るなと言ってるんだ。ただでさえ俺のことを快く思ってない連中がごまんといる。ごたごたに巻き込まれても俺は知らんぞ」
にべもなく返すとステファンは頬を膨らませてウインナーにホークを突き刺した。
おんぼろテレビのキャスターは現場のビル前で中継しているレポーターに状況を訊ねている。
デザートのヨーグルトに砂糖とリンゴの切り身を入れて平らげた。
俺は昨日の仕事の続き、富豪お求めの骨董品探しに出掛けるためワイシャツに着替えた。
「ステファン、ゴミ出しと新聞を取ってこい」
「はいはい、人づかい荒い人は事件に巻き込まれて禿げ上がるほど苦労すればいいのに」
「そういえば新しいバリカンを取り寄せたまま試し刈りしてなかったな」
ふくれっ面だったステファンは慌ててゴミ袋を担ぎ、裏口から出て行った。
さすがに坊主頭にされては恰好もつかない。マコールのジュディに会わせる頭もないということだ。
電気髭剃りを充電していると飛び出していったステファンがゴミ袋を抱えて帰ってきた。
「ゴミ出しに行ってゴミを持ち帰れとは教えてないぞ」
「お、女の子だよ、神谷さん!」
要領を得ない返事をするのでさらにからかってやろうかと思ったがやめておいた。ステファンの身振りによると裏口のほうで何かがあったらしい。
「なんだ、何があった」
「女の子が倒れてるんだよ! 裏口出てすぐのところに!」
視界が灰色に濁っていくような気がした。
これはどう考えても良くない兆候。一日の始まりからして最悪な事態に巻き込まれそうな予感。
俺は薄汚い天井を仰ぎ、目を覆った。
続きます
おおーこっちの世界も乙です
投下の波が来ているw
ハードボイルドな感じがしてくるぜ
探偵の神谷ときいてシティハンターを連想してしまった
続き待ってます^^
皆様乙です!
チーム組んで異形狩るのを生業にしている人もいいなー、傭兵とかそんな感じだろうか?
閉鎖都市内部の描写は実はこれが初めてだよね? なにやら魔都って感じだ。
あと探偵の神谷と聞いて毛利小五郎が浮かびました!
なにやら投下ラッシュが来てる感じだ。
テンション上がるww
なんか今日はほんと凄いw
>廃民街の名探偵
これは今までになかったタイプだ、投下乙です。
ちょっとした表現も小道具も小洒落た感じがたまんねえw
閉鎖都市の中を書いたのもこれが初めてじゃないかな?
今後に超期待!
あと「イマカラ社」て、姉御に何が起きたんだwww
287 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 21:08:13 ID:Wih30fAO
書き手諸氏、まとめ氏乙です!!
確かにごちゃごちゃ感は否めないけど、まだスレ分派は早い気がする。
んだねえ、というかぶっちゃけこのスレこのままでもいい気がするw
むしろこのカオスッっぷりがいいのではないだろうか
下手に分けると過疎りかねん
――このままいけば上手く生き返れそうな気がする。
そんな希望の兆しは、地獄という絶望の地においてすら足取りを軽くするものだった。
本来恐れるべき存在である「鬼」の物腰のよさは、好感すら持てるものだったし、夜々重
に関しても、助けにきてくれたという部分だけを見れば、それほど悪い奴でもないのかも
しれない。
「ここ飛べないんだね、私こんなに歩くの久しぶり」
「一度地面についたらダメなんだと」
「……はあ、また怜角さんから聞いた話? もう結婚しちゃえば?」
この十重二重に塗り固められたバカの奥底には、意外と責任や勇気なんてものが眠ってい
るのではないかと、そんな風に捉えるのは少々前向きすぎるだろうか。
「この先も怜角さんみたいな人ばかりなら、多少は希望を持ってもいいだろうよ」
「私みたいのじゃダメってこと?」
小高い丘の上、それには答えず足を止めた。
眼下に開ける荒涼とした景色の中、白い外郭に取り囲まれた建造物が姿を現す。
それは宮殿というより広大な平屋敷のようで、荒れた大地を覆い隠す整然とした和の芸術
は、遠目に見てもその美しさと厳格さがにじみ出ていた。
「あそこに殿下ってのがいるんだな」
僅かに残る不安は、勢いと決意で閉じ込める。
暗雲の下にして輝く宮殿に向かい、俺たちは再び歩を進めた。
卍 卍 卍
宮殿の門は重厚な木造のもので、年季を感じさせる黒ずんだ艶は下手な鉄製扉などよりも
よっぽど頑丈そうにみえる。
ここまで来る途中いくら歩いてもたどり着けなかったこの門に、一時は蜃気楼ではないか
と疑念すら抱いたのだが、それは単に門の巨大さが故だったらしい。
さてどうしたものかと門を見上げていると、先にいた夜々重が嬉しそうに手を振っていた。
「ねえ見て! ここ呼び鈴ついてるよ!」
「呼び鈴?」
仁王像を彷彿とさせる太い門柱には、夜々重の言う通りすすけた小さな押しボタンが取り
付けられており、すぐそばに下手クソな文字で「ごようのかたはおしてくださいニャ」と
記されていた。
何か非常に違和感を感じざるを得ないところだが、文化の違いということで目をつぶる
ことにする。
「用があるんだから……押せばいいんだよな?」
「じゃない?」
意を決してボタンに指をやる。が、どうも具合が悪いらしく反応はなかった。
察するところ何百年も経ってそうな建物だし壊れていてもおかしくはないが、とりあえず
ボタンを押す力や向きを変えつつ挑戦すること数分。ついに巨大な門が仰々しい音をたて
ながら開き、その隙間から不機嫌そうな女がひょっこりと顔を覗かせた。
「お前ら、聞こえてるからそんなに押すニャって」
つんと唇をとがらすそいつの頭には、猫のものとおぼしき耳が生えている。
さすがにここまで悪魔やら鬼やら見てきた俺がそんなもので驚くはずもなく、まあ猫耳が
付いていたところでどうということはないのだが、そいつが次第に姿を現すにつれ、俺の
身体は凍り付いていくかのような感覚に襲われた。
「そんなに連打したら、せっかくの侍女長マーチがイントロばっかになってまうニャ」
巨大な尻尾をぷりぷりと揺らしながら近づいて来たのは、スクール水着を身に着けた猫女
で、不自然に大きな胸のあたりには「ねこ一番」と書かれた名札が付けられている。
危うく目覚めかけた不安を「異文化圏だから」という理由で再び寝かしつける中、夜々重
が何かに気付いたのか、小さな声で耳打ちをしてきた。
「私知ってる。有名な人だよ、確か……頻尿の侍女長さん」
「は?」
頻尿。見た目俺たちとそれほど変わらないようにも見えるが、ずいぶんお年を召されて
いるのだろうか。というか「侍女長」という部分はまだしも、頻尿などというヒントを
与えられて、俺は一体どうすればいいのだ。
「で、お前ら一体なんの用ニャ?」
「あ、いや。俺たち解呪申請書ってのを貰いにきたんです」
「はー、こりゃまた金にならん公務もってきたもんだニャー」
呆れた様子で腕を組もうとする侍女長さんだが、その巨大な胸に阻まれて上手くできない
ようだった。
「その、なんとかお願いできませんか、時間がないんです」
「ダメってことはニャーけど、殿下は今出かけてるからここにはおらん。まあ今日は土曜
だし、ちっと待てば帰ってくるニャろ。そしたら取り次いでやるニャ」
なんと、門前に立ち尽くした時には土下座すら覚悟した俺の願いは、いともあっさり許諾
されてしまったのだ。
果たしてこんなものでいいのだろうか。いや、悪いわけがない。
何かを勘違いしたような格好をしてはいるが、侍女長などという身分であられるこのお方
がおっしゃられるのだ。ここを甘えずになんとしよう。
「ありがとうございます!」
深い感謝の気持ちを胸に抱き、呆けていた夜々重の頭を掴んで一緒にお辞儀をする。
侍女長さんはそんなことに興味がないのか、澄ました顔で耳を掻き、指先を吹いていた。
要するに俺ごときの人間の命がどうなろうと、このお方にとっては些細なことなのだろう。
そう考えるとなにやら嬉しくも情けないような気分にさせられる。
「ま、実際こんなとこに幽霊が来るなんてのは珍しいんでニャ」
言いながら侍女長さんはなにやら怪しげ飛行生物を呼び出し、時代劇の団子屋にでも出て
きそうなイスとテーブルを用意してくれた。
なにもそこまで、と一度は制したのだが「地獄堕ち」が確定していない俺たちのことは、
あくまでも客として扱うという、大変立派な心がけをお持ちらしい。
気の緩んだ俺の目線は、たちまち侍女長さんの豊満な胸へと釘付けになった。
――ねこ一番。
全くその通りである。
卍 卍 卍
「大体男っちゅうんは、女の価値を胸の大きさくらいでしか判断しないんニャ」
「ほんとほんと、そうですよね!」
侍女長さんと夜々重はその胸の大きさの違いに反して妙に気が合うらしく、二人してため
息をついては「世の男どもは」などと愚痴をこぼしあっていた。
とは言っても侍女長さんの胸はとてつもなくふくよかであり、夜々重の平べったいそれを
気遣う様子を見ていると、巨乳に相応しい器の大きさだと言えるだろう。
「そうだお前、ちょっと私の部屋来い。いいもんやるニャら!」
と、侍女長さんが何かを思いついたらしく、夜々重の手を引いて立ち上がった。
夜々重は少々とまどったような顔をしていたが、男である俺がそういった付き合いに口を
挟めるはずもなく、失礼のないようにとだけ注意して、二人の背中を見送った。
――静かになった門前。ぼんやりと、ゆっくり流れる黒い雲を目で追う。
あとは殿下から申請書を貰うだけという事実に、ようやく焦りも消え始めていた。
無事に生き返れたら、どんな人生にしよう。
おかしなもので、こうやって死ぬ前にはそんな風に考えたことがなかったように思う。
それに気付かせてくれたのは夜々重のおかげ、だなんてことにするのは行き過ぎかもしれ
ないが、人間界に戻れたら何か飯でも奢ってやるのも悪くない。
そういえば夜々重は何か好きな食べ物でもあるのだろうか、とそこまで考えたとき。門の
奥からただならぬ叫び声が聞こえてきた。
「貴様ァァッ!」
「あーん、助けてー!」
驚いて目を向けると、門の隙間から二つの影が躍り出てきた。
逃げる夜々重とそれを追う侍女長さん。その顔は怒りに満ちた般若のごとき形相である。
もしやこのバカ幽霊が何かをしでかしたのでは、と嫌な汗が背を走った。
飛び込んで俺の後ろに隠れた夜々重も、そんな疑惑を抱かれていることに気付いたのか、
頭の鈴を鳴らしながら首を振る。
ぎゅっと腕に押し付けられた夜々重の胸は、何故か妙にふっくらとした弾力を持っていた。
「騙したニャ!」
「だ、騙してなんかないですってば!」
一方、肩で息をはずませる侍女長さんの胸は、まるで魔法のように消えており「ねこ一番」
と書かれていた名札も、たるんだ水着の中央で申し訳なさそうにちじこまっている。
ともかく穏やかでない雰囲気に、まずは間へ割って入った。
「侍女長さん、こいつが何かしちまったなら俺が代わりに謝りますから」
とは言ってみたものの、一体何が起きているのかさっぱりわけが分からない。
侍女長さんは震える指先を夜々重へと向けながら牙を剥いた。
「その女、さらしを巻いていやがったニャ」
「は、何です? さらし?」
「そいつの胸、よーく見てみろニャ!」
言われて夜々重を押し離すと「あん」などと言いながら胸を隠す。しかしはだけた白装束
の胸元からは、見るからに柔らかそうな白い膨らみが溢れていた。
夜々重は頬を染めながら、訴えるような目を向ける。
「侍女長さん……頻尿じゃなくて、貧乳だったみたいなの!」
「貧乳言うニャ! パッド4枚重ねてもずれない方法を伝授してやろうと思ったのに!」
空いた口が塞がらなかった。
もう異文化がどうとか言ってる場合じゃない。こいつら二人ともバカだ。
「そんなの必要ありません!」
「ようも言ってくれるニャ、この豊乳幽霊!」
――いやだが待て、よく考えろ。バカとは言え格式高き閻魔殿下の宮殿侍女長。なんとか
この場を治めねば今後に関わる。この状況に於いてはこいつらの乳の大小問題と俺の命は
等価値なのだ。
とはいえどうすればいいのか見当もつかない。「夜々重の乳がでかくてすいませんでした」
とでも謝ればいいのか。いやいや、それでは火に油を注ぐようなものだ。
これはマズイ。本格的にどうしていいのか分からない。
怒り狂う侍女長さん、恥らう夜々重。そして困惑する俺――
その混沌を破ったのは、たった一言の聞き覚えのない声だった。
「お前らアホか」
一瞬静寂が場を満たし、侍女長さんがけろっとした顔で応じる。
「あら殿下、お帰りニャさいませ」
「人んちの前で乳の話してんじゃねーよ!」
目の前――というか、だいぶ下。
そこには小学生としか思えないちっぽけなガキが、怪訝な顔で俺を見上げていた。
「……で? 侍女長、なんなんだこいつらは」
つづく
296 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 00:12:51 ID:TPdDfeJi
投下終わりです。
せっかくシリアスな投下が続いてたのに、なんだか下品でごめんなさい。
リアルタイム乙!!
この路線は極めるべき。
298 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 00:29:34 ID:dLV58CNe
さらしとな?
いいぞ、もっとやれ
サンスクリット語ならばナラカ。
ギリシャ語ならばタルタロス。
舞台の闇が嫉妬と憎悪に澱んで渦巻く暗鬱の場所。
そう、ここは底なし奈落の有り得ざる底、魂のターミナルステーション、地獄。
その生命の旅の最果てにおいて、一際豪奢な築造物があった。
閻魔大帝殿下の御殿である。
赤々と燃えたぎる地獄の空色が差し込む自室にて、殿下はDSをやっていた。
「うむ、あざといツラだ。男に媚びる女の顔を良く表現しているな」
ひとりごち、ニヤと笑う。
部屋の床に適当にうっちゃってある殿下のランドセルからは、黒い靄が溢れ、殿下の背後の空間に滞留して居る。
殿下の肩越しにDSを見ているらしい。
心なしか靄が和やかな気配を醸しているのは、ゲームのキャラに萌えて居るからに違いない。
プレイしているソフトの名前はラブプラス……ではなくアプサラス。
乳海攪拌の海に生まれた天女アプサラーとデートを重ね、本来夫となるべきガンダルヴァから略奪するゲームである。
決してザ○頭の付いた粒子砲搭載機ではない。
タッチペンでそんなもん撫でれても反応に困る。
殿下は、動物園で見た片牙の折れたガネーシャにはしゃぐアプサラスをタッチペンで撫でる。
『もう、私じゃなくて象さんを見なきゃ』
「ふふふ、良いではないか、良いではないか」
いやいやと頬を染めてかぶりを振るアプサラーに、殿下の魔の手(タッチペン)が伸びる。
何度も撫でて嫌がられそれでも飽きずに撫で続ける。
嫌がる姿を見るのが好きなのだ。いわゆるドS。
と、ゲーム中のヒロインすら置き去りにして一人で悦に浸っていた殿下は、自室の扉から響く重々しいノックで我に帰る。
外側に付いて居るノッカーの鉄輪がゴンゴンと鳴らされた。
紫亶の板材に黒塗りの鉄鋲を打ち漆朱塗で仕上げた部屋の扉は、
地獄のイメージにも閻魔の子息のイメージにもぴったり。
が、これは殿下の父・閻魔大帝の趣味であり、殿下自身は家電やゲームの馴染む洋風建築にしたいのだった。
ノッカーはガンガン鳴るが、殿下は部屋から出ない。
鍵は掛けてあるしなにより人様にお見せできないゲームだ。
だが、ノッカーが鳴りやむと同時、鍵穴の辺りでなにやらガチャガチャと。
ガチン。開いた。
「殿下〜、居ますかにゃー? 誰か来たっぽいニャ」
メイド服を着た侍女長が部屋にズカズカ入って来る。
背後には一つ目鬼に蝙蝠の羽根を生やしたみたいな、侍女長の使い魔が重そうに鍵束を持って飛んで居た。
「なんで鍵が掛かってるかとか考えないのかお前は」
殿下は怪訝を隠さず表情にし、ランドセルから溢れてゲームを覗いてた靄は慌ててランドセルに戻っていった。
「男の子が鍵掛ける理由ニャんて一人エッチくらいニャ。そのゲーム、妄想ネタでしょ?
閻魔大帝殿下ともあろうお方が情けないニャ。言ってくれればいつでもお手伝いするニャ」
侍女長は手でいやらしい動きをして見せた。
赤い舌をチロと出し、何かを舐める仕草をする。
いつものことなので殿下は気にも止めない。
「ゲームの邪魔されないために鍵掛けただけっつの」
と言いつつ、プレイする姿を人に見られたくないゲームであることが、鍵を掛けた理由の大部分ではあった。
「じゃー、とりあえず出かけてるってことにするニャ。一人エッチ済んだら応対してあげて欲しいニャ」
「だから違うっつの」
聞いているのかいないのか、侍女長は
「鍵戻してスク水持って来いニャ」「キー!人使い荒いキー!」
とか使い魔と話しながら部屋を出ていった。
ちなみに殿下が訪問者と謁見したのはゲームが一段落した後だったが、その事実は誰も知らない。
一段落までの時間が猫一匹のいかがわしい誤解を増長させたなんて事実は、尚更誰も知らない。
下品支援……と言うわけでもないですがw
乙です!
下品なんてとんでもない!!
高尚な趣味ですよw
投下乙!!
てか部屋に居たのかよwww
殿下何やってんすかwww
ぼちぼちついていけなくなりそうなので、タイトル前後に【地獄】【メガテン】【閉鎖】とか入れてほしいな
長い影をひび割れたアスファルトに落とし、俺は上機嫌で旧街道を歩いていた。すれ違う者などいる筈もないが、もし今の俺を見た者はさぞかし不気味がるに違いない。
年季の入ったつぎはぎの装甲服を纏い、それを上回るつぎはぎのご面相をした中年男。くたびれた傭兵が満面の笑みを湛えているところなど、そうそうお目にかかれるものではない。
(…待ってろよ、魔術師さんよ…)
計画は順調だった。河を隔てた二つの自治都市の争いをようやく調停し、予想を遥かに上回る報酬を手にしたのだ。武術と魔術、このご時世を生き抜く為にはどちらも傭兵には必要不可欠な技能だが、この俺の『話術』も立派な実戦兵器だった。
今は皆生きる為に自分たちの欲しいものだけをデカい声でがなり立てる時代だ。しかし考えを変え、互いに提供できるものを叫んでみろ。そんな簡単な工夫一つで、相手が『異形』でもないかぎり大抵の交渉は上手く行く。
長い傭兵稼業で学んだそんな知恵は、魔素刀だのガトリングガンなんぞよりよほど実用的に、俺にこうして永年の夢を叶えられるだけの資本をもたらしてくれたのだ。
旧街道を徹夜で歩けば、明け方には目的の街に着く。情報が確かならば目当ての男はそこで仕事中の筈だった。車や設備の調達はほぼ片付いた今、あとは花形魔術師をスカウトすれば念願の『割れ鐘ゴンドー』一座、堂々の旗揚げ巡業に出発という訳だ。
たしかに同業者たちは笑うかもしれない。しかしこんな殺伐とした時代だからこそ、俺は街から街を巡って驚きと笑いを提供する、護衛要らずの気ままな旅芸人に商売変えするのだ。
各地から集めた珍妙な異形の芸に子供たちが目を見張り、魔法使いの不思議な技に老人も息を呑む。そしてもちろん、座長である俺、『割れ鐘ゴンドー』の軽快なジョークが集まった客を大爆笑させる…
俺の半生は血なまぐさい殺戮の連続だった。たった一人の息子も異形相手の戦いで亡くした。それほど素質に恵まれなかった彼を魔学士などにしてしまった親馬鹿な俺の罪だ。
せめて残りの人生は疲れた人々の糧となるような仕事に費やしたい。盛りを過ぎた傭兵兼交渉人がそんな夢をみても、決して罰は当たるまい。
団員のほうも何人かとは既に話がついている。一癖も二癖もある、しかしとんでもない特技を持った連中だ。そしてもう一人、どうしても巻き込みたい魔術師を追いかけて、俺はこうして、単身さびれた旧街道を西へと旅しているのだ。
「…一座に魔術師がいなければ話にならないのであるからして、なかでも特に派手な幻術は欠かせない訳であるからして…」
その男、ズシの口真似をしながら俺はまた一人でクスクス笑った。どうしても雇いたい奴。まだ若い魔道学士で、紀伊封鎖戦で一緒だった少し…風変わりな若僧だ。いや、いっそ比類なき変人と言った方がいいだろう。だが俺の欲しい魔術師は彼以外には考えられなかった。
古い相棒と二人で俺なら絶対関わらぬ組織に身を置き、相変わらず割りに合わぬ危険な仕事を押しつけられているズシ。奴は戦いの世界で長生き出来る男ではない。
全財産を賭けてもいい。彼はその才能を俺と同じ道、子供たちの陽気な歓声の為に使い、暗い道とは無縁に生きるべき人間なのだ。
なんとか追いつければくだらない仕事から足を洗い、俺の一座に加わるよう説得する自信はある。なんなら相棒の女も一座の華として、彼と一緒に雇ってもいい…
いずれにせよ、関西圏でこのゴンドーの追跡を逃れられる奴はいない。道を塞ぐ苔むしたビルの残骸を乗り越え、俺は彼らを捕まえる最短ルート、いささか物騒な夕暮れの旧街道を急いだ。
◇
「…けて……助けて…」
…月明かりのなか、もはや森の一部となった瓦礫の何処かから、か細い女の声が聞こえた。少なくとも近くに人間の集落はない筈だが、以前近くで『狐』の流れ者に出会ったことがあった。
旅を急ぎたいが、こんな所で仮にも人語で助けを求める者を放っておく訳にもいかない。倒壊した建物の隙間を縫って、俺は声の方向に脚を向けた。
「…助けて…誰か…誰か…」
やがてたどり着いたぽっかりと口を開けた縦穴。哀れっぽく響く声はその底、奈落のような暗い地下から聞こえていた。灯りを向けると、古井戸じみた穴の底で確かに動くものがある。
「大丈夫か!? 何事だ?!?」
俺の声が闇の中に不気味に反響し、しばらく助けを求める声は途絶えた。降りてみるしかないか…そう考えたとき、突然俺の耳に低く聞き覚えのある声が返って来た。
「…だァイじョォおブかァァ…ナにぃごト、だァァァ…」
縦穴にこだまする歪んだ呻き。その不気味な声は紛れもなく…俺自身のものだった。危険を悟り身をかわす間もなく、瞬時に穴底から空気を切る音と共に、鋭く太い棘が俺を襲った。
「ぐっ!!」
…深々と棘の刺さった肩からは緩慢な痛みしか感じない。やがてその痛みすら薄らいでゆくのは、敵の飛び道具が毒入りだった証拠だ。自分の迂闊さを呪う間もなく、俺以上に口が達者らしい異形がズルズルと自分の巣穴を這い上がって来た。
「…だァァァイじョォぶかァ…」
人語を操りながら目前に迫る巨大な異形は、黒光りする山椒魚のような姿をしていた。眼の無いのっぺりした顔に人間そっくりの小さな唇。この声帯模写野郎には尻尾の毒棘を飛ばす以外、大した武器はなさそうだった。
「くそっ…」
しかし、急速に傷口の麻痺は全身に広がってゆく。粘液を滴らせた異形は、崩れ落ちた俺を抱きしめるように骨張った腕をこちらに伸ばしてきた。捲れ上がった唇から覗く牙はびっしりと細かく、剃刀のように鋭かった。
「…毒針…が…飛んでくるぞ…」
もはや観念した俺の最期の話芸だ。こいつが鸚鵡返しの台詞しか言えないなら、きっと俺の仇討ちをしてくれる誰かの役に立つ筈だ。
「…ドくバりがぁ…とんでくる…ゥぞ…」
…よし、覚えのいい生徒だ。今度腕の立つ連中が通ったときに、思いっきりその台詞を叫ぶがいい。…あと、ゴンドー一座初巡業の宣伝文句も覚えてくれたら有り難いのだが…
ゆっくりと喉元に牙が迫るなか、急速に意識が遠のいてゆく。なぜか眩しくぼやけ始めた視界の彼方に、俺が追いかけていた誰かが待っていた。
その汚れた白衣の男はズシのようにも、そして息子のようにも見えた…
終
投下終了
ズシ、お借りしました。じゃ、地獄に戻りますw
おおぅ、いい奴ほど早死にする……なんて世界だ
コラボ乙です!
投下乙!
これは気になるところで終わりやがるぜ……
って、終わったのか!?
ズシさん、彼を助けてあげて!
314 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 21:53:20 ID:9OEb8ilh
まさか死んでしまうとは
一瞬の油断が命取り
異形も頭脳派からパワー型まで色んな種類のがいるみたいだな
異形が危険なのは確定的に明らか
おおズシ使われてる
ありがとうございます!
泣ける話です それにしてもひでえ世界w
地獄で会えるかも知れんねw
死んだら地獄シェアいくのかwww
地獄VS異形はいずれ必ず勃発しそうな…
タイトルに世界観を入れるのは賛成だが
メガテンと入れると新規さんに誤解されそうな気がする
出来れば別名にならないだろうか
賛成。メガテンは前から気になってた。「異形世界」とかなんかいいのないかね。
みんな異形でてきてるし、異形世界賛成
閉鎖異形地獄
並べてみるとまさにこのスレのカオスっぷりが浮き彫りにならざるおえない
生き残れる気がしないwwwww
死んだら地獄でのセカンドライフが過ごせるよ
猫耳ひんぬーやサラツヤロング鬼やきょぬー保母さんが見れたり見れなかったり
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//| 『おれは死んで地獄行きのバスに乗っていたと
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ 思ったらいつのまにか天国に着いていた』
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ |
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ おれも何をされたのかわからなかった
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ 頭がどうにかなりそうだった…
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \ 現世の方が地獄だとか地獄でセカンドライフだとか
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ シェアードワールドのカオスっぷりを味わったぜ…
とりあえずややえちゃんの主人公と殿下の名前が知りたいw あと侍女長もね。
326 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 21:28:39 ID:R4y88o6E
…いまリアルでポルポルの話してたんだ…
マジびびった。
「――なるほど、解呪申請書か。別に出してやらんこともないが」
俺たちの目的は閻魔大帝ではなく最初から皇太子殿下、つまりは閻魔の息子だったわけで、
それがちっぽけなクソガキなんじゃないか、なんて想像もしなかったわけじゃない。
しかし実際にこうして、年齢が二桁にいっているかも怪しい子供に見下された態度を取ら
れるのは、いささか腑に落ちないものがある。
思い返してみればここまで全部、おかしな話なのだ。
頭の悪い幽霊に呪い殺されてはキチガイ悪魔に恐怖し、秀麗な鬼の優しさに触れたかと
思えば変態猫女に翻弄される。挙句の果てには高飛車なガキにすがらねばならなという
この有様。
確かに俺は人生に退屈していた感はある。怠惰な生活を送りがらも人生バラ色なんて言葉に
憧さえ抱いていたようにも思う。
だが、バラ色という言葉のそれは、決してバラエティ色が強いという意味ではない。
「まあ、とりあえず中に入れ。お前らがそれに値するかどうか、オレが見定めてやる」
もし蘇ることができるのなら、俺は今後「ほどほど」の人生を送るため惜しみない努力を
すると、ここに誓おう。
卍 卍 卍
門をくぐると白砂敷の広がる庭園になっており、ところどころに珍妙な形をした岩や木が
植えられていた。
見ようによっては美しいのかもしれないが、地獄の陽光を浴びる庭は皆紅く染まっている
ため、どうも不気味な感じが拭えない。
やや狭い間隔をもって並ぶ敷石は俺の歩幅とちょうど具合が悪いらしく、時折踏み外したり
飛ばしたりしながらも、ひょいひょいと前を進んでいく夜々重の背中を追っていた。
そんな俺につかえるようにしていた閻魔殿下が、つぶやくように声をもらす。
「それにしてもでかいな……」
夜々重の胸は侍女長にさらしを取られてしまっていたせいで、形をあらわにしてはいたが、
それもあくまで侍女長と比べればで、特別でかいというわけでもない。
下品な言い方をすれば「中の下」だ。
「……鈴のことだぞ?」
「あ、ああそうか」
「まったく、どうしてオレの周りには、こう煩悩にまみれた奴ばかり集まるんだ」
閻魔殿下はそれだけ言い残すと俺を追い抜き、足早に先へと進んでいった。
これはなんとも、返す言葉もない。
敷石は途中から二手に別れ、一つは大きな本殿に、もう一つは小さなお堂のような建物へと
続いており、俺たちはそのお堂へと案内された。
打ち付けられた古めかしい木の板には、かすれた文字で「魂言堂」とあり、そのすぐ下には
「堂内嘘ツクベカラズ」と注意書きがされている。
「なに、ちょっと話を聞くだけさ」
声と共に、華奢な木戸が軽い音を立てながら開かれた。
覗いてみると中には大きな机と椅子が置いてあるだけで、奥は暗がりに隠れていてよく見え
ない。
「この魂言堂の中ではウソをつくことができん、質問に対しては真実のみで答えろ」
「ウソをつく気なんてさらさらないね」
即答する俺に対し、閻魔殿下は見た目に似合わず、あごを撫でながら不適な笑いを浮かべた。
「お前に言ってるんじゃない、そっちの女幽霊だ」
「……え、ウソつけないの?」
恐らくはここが最後の関門。しかし夜々重はこういう場面でヘマをするのが大概であり、
それを考えると心配でならない。
「入るのは一人ずつ、加呪者の聴取が先ニャ」
侍女長が言いながら夜々重の腕を掴む。いつの間にかメイド服になっていた侍女長の胸は、
先ほどにも増し、内に秘めた怒りを思わせるほどの巨大さを誇っていた。
「すぐに終わる。お前はそこで待っとけ」
まるで予防注射を受ける子供みたいな顔をする夜々重を、親のような気持ちで見送る。
地獄で言うのも変な話だが、神にでも祈りたい気分だ。
卍 卍 卍
家を出てから何度か思ったことなのだが、腕時計でも持ってくればよかったと思う。
魂言堂の石段に腰をかけてはみたものの中のやりとりは全く聞こえず、それが故に随分と
長い時間が経ったように思える。
周りでも歩いてみようかと立ち上がったとき、ようやく木戸が開き、うつむいた夜々重が
力なさげに出てきた。その姿を見て、また何かやらかしたのかとため息が漏れる。
「……代われって」
しかし、例えどういう状況になっていたとしても、今や夜々重の保護者となった俺が
全ての責任を回収せねばならない。
不安げな顔を向ける夜々重の頭を一度撫で、石段を登って魂言堂へと入った。
薄暗い堂内は随分使われていなかったのか、カビのような臭気で満たされており、机の
上に灯された蝋燭が偉そうに座っている閻魔殿下の影を背後の壁に映し出している。
「桐嶋祐樹、十六歳――だな」
「そうだ」
黒いノートをめくりながら放たれる威圧的な口ぶりの前、命ぜられるままに前へ出て椅子に
座ると、俺を迎えたのはくぐもった笑い声だった。
「あの女幽霊め、とぼけた風を装いながらも実に面白い話だったぞ」
「……間違って呪い殺されたのがそんなにおかしいか?」
やや皮肉混じりに腕を組んでみせると、閻魔殿下と侍女長は顔を見合わせ、盛大な笑い声を
あげた。
「こいつ、何も分かっちゃいねー!」
「まったくおめでたい奴ニャー」
一瞬言葉に詰まった。
二人の妙な態度に、ふと何か俺の知りえない事態が進行しているような、そんな不安が
ふつふつと沸き起こる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。どういうことだ」
「お前あの女幽霊について、一体どこまで知ってる?」
暗い堂内を照らす蝋燭の火が揺れた。
言われてみると俺は夜々重についてほとんど、いや何一つとしてその素性を知らない。
あいつが一体ここで何を聞かれ、そして何を話したのか――
そのバカの奥底に秘めた恐るべき過去を、俺はこれから聞かされることになる。
つづく
投下終わりです。
相変わらずですが、少々のキャラぶれは何卒ご容赦を……
主人公の名前、前からあったんだけどタイミングを逃しまくったあげく
ご依頼もあったので、今ようやくここにて。
投下乙です!!
コミカルさに垣間見える今後のドラマが楽しみです。
投下乙!
な、に?
ドジっ子じゃなく策士だったのか……!?
334 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/13(日) 15:19:53 ID:QKM8MELC
乙
たとえ過去に何があろうと、ややえちゃんが俺の嫁であることに変わりはないぜ
ややえちゃんの適乳をやすやすと渡すわけにはいかんな
大事なことを書き忘れてた、投下乙です!
乳のことばっかりでもあれなんで、分かる限り地獄シェアのキャラ相関図を作ってみた
チャナ>ややえちゃん>侍女長
(大) (小)
乳の大小関係を図解してどうすんだwww
338 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/13(日) 21:58:55 ID:X1d8qv/P
339 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/13(日) 22:05:14 ID:QKM8MELC
いつもまとめ乙なんだぜ
あんただったのかw
乳図解とまとめ乙でした!
◇
「放魂!!」
…リリベルの狂気めいた絶叫と共に、閃光を放つ弾丸と化したバスは閻魔宮に迫る。すでに撃墜は不可能な距離だ。それに先般の『髪』がバスの乗客、いやリリベルに騙されてこの自爆テロに巻き込まれた罪もない霊たちの存在を仲間に伝えている筈だった。
リリベルには不可解な『魂の道』に拘る鬼たちが、彼ら生きた魂を犠牲にして、このバスを破壊出来る訳はない。
「…ファウスト、最後までよく尽くしてくれマシタ…」
リリベルの感謝に運転席の老人はただ静かに頷いて応え、ただ感極まった瞳を目前の標的に向ける。二人の悲願が成就し、閻魔大帝とその一族がその領地もろとも灰と化す瞬間はすぐそこだった。
既にバスの動力炉では666の不浄な魂が、その凄まじい苦悶により超高熱の魔素核を形成している。宮殿の大爆発は地獄界を崩壊させ、噴き上がる夥しい魔素の塵はゲヘナゲートを逆流してちっぽけな島国を、亡き母の祖国でもあるその国を滅ぼすだろう。
リリベルが唇を噛んでフロントガラス越しに迫る閻魔宮を睨んだとき、背後で聞き慣れない声が響いた。
「…『移魂』完了しました。部下がなぜか外宮付近でさらに二人を保護したそうです…」
「誰デスか!!」
悲鳴のような叫びと共に振り向いたリリベルの後ろに、先ほどまで身を寄せ合いすすり泣いていた幽霊たちの姿はなく、代わりに一人の鬼、銀髪にいかめしい顔の青鬼が、破損したバス後部から覗く地獄の暗い空を背に腕を組んでリリベルを見据えていた。
「…諦めろ。乗客たちは全員保護した。」
「くっ…」
この青鬼がいつの間にか車内に侵入し、並外れた移魂術で人質を全て何処かへ逃がしたのだ。怒りに言葉すら失い、呆然と立ち竦むリリベルを文字どおり次なる激しい衝撃が襲った。
「ぐうっ!?」
業火の凶弾となって空を翔けていたバスが、だしぬけの急制動でピタリと宙に静止していた。背中の翼を広げ辛うじて壁面への激突を免れたリリベルは、散弾のように飛来するガラス片を避けつつ運転席に目をやった。
「ファウスト!!」
生身の人間が耐えられる衝撃ではなかった。ぐったりハンドルに顔を伏せた老人は身動きひとつしない。停止してなお揺れ軋み続ける車内を運転席まで這い進んだリリベルは、砕け散ったフロントガラスの外に信じ難い急停止の原因を見た。
ブフォォォォ!!!!!
…噴き込む熱い蒸気と耳を聾する唸り。それはバスを掌にすっぽり掴んで吠え猛り、巨大な眼で車内を覗き込む信じられぬ大怪獣の鼻息だった。
「そ、そんな…」
ひしゃげたバスを掌に載せ、標的である閻魔宮より高く立ち塞がる牛面の大怪獣は牛頭大将紫角。そして力なく崩れ落ちたリリベルの肩にそっと手を置いた先刻の青い鬼は蒼灯鬼聡角。
「…紫角隊長、首謀者と思われる悪魔の身柄を確保しました。早く降ろして下さい…」
『グリモワール』にしっかりと記載されたこの鬼将たちの存在を無視していたのは、退路を失ったリリベル主従の致命的な誤算だった…
◇
重い扉が音もなく閉ざされ、再び悪魔リリベルは逃れられぬ闇に包まれる。この異境の冥府で、奮戦空しく鬼に捕らえてからどれくらいの時間が経ったのかすらもう判らなかった。
「ぐぅ…っ…」
すでに瞼すら開けられないほど体力を消耗している彼女に、暗闇は何の恐怖ももたらさない。俯せて荒い息をつくリリベルの全身を駆けめぐる痛みは、地獄の審問官たちによる厳しい尋問、文字通り『地獄の責め苦』によるものだ。
(…もう…駄目かも…)
ベリアル一族は閻魔庁爆破未遂という前代未聞の破壊工作は全て私怨によるリリベルの暴走として無関係を声明し、何らかの救いの手が彼女に差し伸べられる可能性はない。
それでいい…純粋の悪魔ではない義妹リリベルの為に破壊兵器と燃料の魂を調達してくれた義兄たちにこれ以上迷惑は掛けられない。いずれにせよ彼女の計画は失敗したのだ。閻魔大帝を暗殺し、一族の汚名を晴らす計画は。
(…父上、御免なさい…復讐は叶いませんでした…)
失意と憤怒のうちに亡くなった父。リリベルに黒い瞳を遺した人間の母。数奇な境遇の彼女を育て上げ、終生行動を共にした執事ファウスト。リリベルは脈絡もなく甦る過去の記憶を漂う。そして、一族の再興を賭け、リリベルをこの片道の地獄行に送り出した義兄たち…
◇
リリベルの父は大悪魔ベリアルの血を継ぐ魔界の大君主だった。父祖に恥じぬ長い権勢を誇った彼はその晩年に、旅行者であった一人の平凡な人間女性と恋に落ちた。
最初は魔王らしい気紛れだった老ベリアルの恋はすぐに真実のものとなり、すでに多数の嫡子を持っていたにもかかわらず万難を排して彼女を娶った彼は、この妻との間に一人の女子、すなわちリリベルを為した。
老いらくの魔王の恋は無邪気で、純粋ですらあった。
悪魔らしい用心すら忘れ、ただ深い愛のみで結ばれた妻を里帰りに送り出した彼は、母国で事故に巻き込まれた若い妻の訃報を耳にしてようやく、人間と悪魔が交わす契約、主従関係を結び魂を繋ぎ止める契約を済ませていない事に気付いた。
契約さえ行っていれば新しい肉体は与えられる。老魔王はすぐに妻の魂を取り戻すべく、遥か彼女の故郷を統べる冥界の王、即ち閻魔大帝に使者を送り、身を低くしてただ一度の例外、規則を曲げて死後の契約を認めてくれるよう嘆願したのだった。
(…でも奴らは、母さんを返してはくれなかった…)
老ベリアルの度重なる懇願も恫喝も、三途の川を越えてしまった愛妻を取り戻すことは出来なかった。
ただ天の理のもとに生と死を司る閻魔庁が、魂を契約により私物化し、生命の支配者のごとく振る舞う西欧の悪魔と取引などしないのは当然だ。
しかし老ベリアルは諦めなかった。次第に周囲の状況も顧みず閻魔庁に戦争まがいの武力行使まで始めた当主のもと、名誉あるベリアル一族は次第にその力を失い、崩壊の一途を辿り始めた。
耄碌した愚かな老人、とライバルの君主たちの嘲笑を浴びながら、ついには由緒ある魔界の城や領地まで失ったベリアル一族は、失意と憤怒のうちに老ベリアルが亡くなったあと、再興を固く誓いながら人間界にその拠点を移したのだった。
◇
…リリベルの復讐が成功すれば欧州の名だたる魔王たちはベリアル一族の執念に震え上がる筈だった。人間の血が混じった義妹を分け隔てなく扱ってくれたベリアルの王子たちは、胸を張って魔界に凱旋できる筈だった。それなのに…
◇
(…それなのに、私は失敗した。捕虜になって、さらにベリアルの名を汚した…)
暗い牢獄のなか、リリベルは静かに嗚咽を漏らす。そのとき、絶望と諦念に沈む彼女の胸に小さな囁きが忍び込んできた。
(…大丈夫かい?お嬢さん。)
最初は極限に近い疲労による幻聴かと思った。しかし喘ぎつつ必死に身を起こしたリリベルの心に、再び間延びした嗄れ声が流れ込む。
(…もう降参かい? 前の女はここで二百年、眉一つ動かず頑張ったがね…)
「…誰デスか?」
漆黒の闇にリリベルの問いだけが小さく響く。この塔…窓のない塔の虜囚は彼女一人の筈だった。しかしあらゆる思念波を遮断し、一切の調度品すら置かれていないこの部屋に、性別も判らぬ怪しい囁きは続く。
(…はて、誰なんだろう。つい最近目覚めたばかりでね、名前は…ないんだよ)
ふざけた答えだ。何も見えないと知りつつ周囲を見回し続けたリリベルは、ようやく部屋の中で唯一自分の肉体以外の存在に気付き、痛む両腕でそっと胸から脇腹を撫でてみた。
「まさか…」
(…その通り。驚いたかい?)
リリベルの指に触れる拘束具は、厳重な身体検査の後、審問官たちによって素肌に直接装着された特殊なものだ。魔獣の骨と皮、それに霊木や魔石から丹念に製造された封魔の枷。
一切の魔力を吸収し、ギシギシと装着者を締め上げる拘束具こそ、リリベルに聞こえた嗄れ声の主だった。
「…『付喪神』デスか?」
年を経て、魂を持つに至った器物の精霊。『彼』の霊妙な組成からして驚くにはあたらない事だ。だが恐らく誰もその覚醒を知らぬであろう彼が何故自分に語りかけてきたのか、リリベルは用心深く次の言葉を待った。
(…そう。造られてずっと、私は『我蛾妃』っていう妖怪を縛っていた。凄まじい魔力を吸い取りながら、ずうっとね。この間、初めて彼女の身体から離れて、だしぬけに自分の存在に気付いた。ま、すぐこうしてあんたの身体に引っ越した訳だがね…)
女妖『我蛾妃』の名は強大な極東の悪霊として『グリモワール』にも記載されている。しかし、リリベルには彼女の現在に想いを馳せている余裕はなかった。尋問の小休止である短い時間内に、この奇妙な邂逅を何とか生き抜く道に繋げなければ…
それでも無表情を崩さずにリリベルは俯いて呟く。まだ得体の知れぬ相手だ。
「『おさがり』デスか…気に入りませんネ…」
(おいおい、贅沢言うなよ、だいぶ私の方で、寸法は調整してやってるんだよ?)
笑いに相当するらしい振動と共に、リリベルの身体に食い込んでいた拘束具、獲物を掴む五本指の巨大な鉤爪を模した『おさがり』がダラリと緩む。牢獄にリリベルの白い裸身を照らし出す光は無かったが、湧き上がる羞恥心に彼女は身を竦めた。
「きゃあ!?」
(…これが我蛾妃の腰回りさ。殆ど別誂えと言ってもいいだろう?)
「わ、判りマシタ!!早く元に…」
もぞもぞと身体を這い上った『おさがり』がようやく然るべき位置に収まると、リリベルはいつの間にか馴染んでいた装着感に驚く。やがてクスリと小さな笑みを漏らした彼女は、今や諦めかけていた復讐への闘志を完全に取り戻していた。
続く…かな
投下終了
リリベル、お借りしました。『ややおば!』外伝ということでw
少し煩雑ですが、ここまでの設定等まとめてみました。
【尻でかい】我蛾妃>リリベル【尻ちいさい】
乙です。
それにしても、エロいな、付喪神。
裸なんてえっちです〉〈
まったくだ
マソの設定が地獄にも!
もはや地獄と異形は繋がってると見て良さそーやね。
ところで、もうちょっと改行したほうが良いんじゃ
あのリリベルにここまで深い設定がつくとは……
豊富な語彙力に嫉妬せざるおえないw
気になる展開と素晴らしいクロスに、投下乙&感謝です!
しかし地獄は女体要素を忘れないところが潔い。
一番古い記憶は、拾われ、抱きあげられた時の安心感だった。
太陽が西に沈み始めて数時間、村の所々綻びた舗装路を歩いている二人分の人影がある。
片方は長い銀髪に耳と尻尾がある少女、クズハ。もう片方は2メートル程の長さの金属製の棒を携えた青年。
「匠さん」
そう呼ばれた青年はクズハに振り返る。
「どうした?」
「その武器があるということは……」
途中で止まった言葉に訝しげな顔をしながらも匠はうんと頷き、
「しばらくの間、俺の補助で用心棒をやらせてごめんな。もうクズハは戦わなくても大丈夫だ。
ったく、魔素刀とか貸してくれりゃいいのになー。門谷隊長もそこら辺融通きかねえ」
そうぼやく匠を見上げてクズハは無言。
「……」
「どうした?」
「い、いえ」
匠に声をかけられ、ぼぅっとしていたクズハは慌てて首を横に振る。
平賀さんがあの棒を匠さんに返さなければまだ私が力として使ってもらえたのに……。
もう私は用済みで捨てられるのではないだろうか? そう、少し不安を混ぜた感情で思いながら、クズハは匠が自分を拾ってくれた時から今までの記憶を思い返す。
不安になった時、何度も何度も思い返しては自らのよすがとしていた記憶たちだ。
……私を拾った匠さんは平賀さんの所で私の検査などをして暮らしていました。
「こんにちはー」
道場帰りの生徒たちが道場に向かっている二人の姿を見かけては次々に挨拶していく。二人はそれに手を振ってこたえる。
……でもある日、引っ越すことになってしまいました。匠さんと二人、歩いてたどり着いたのは私が拾われた場所の近くにある、自治街の一つで、
そこは大阪圏内にあっても異形出現地帯の近くだったために辺境とされる場所だった。
「師範、手伝いに来たぞー」
「おーう匠。裏の畑だ早く来てくれー!」
道場の裏から聞こえてきた声に応じてそちらへと回る。そこでは道場の裏を使って作られた畑で農作業中の師範さんとその奥さんがおり、
「草むしりですか?」
鎖国以降、日本の食糧事情は決して良くはない。この自治街ではどこの家でも小さな菜園が見られるし、本格的な畑や水田もそれなりの面積で営まれていた。
道場に居候させてもらっている二人は時に食料や、場合によっては人間を狙ってくることもある異形ないし人間に対する用心棒業務と、畑の手伝いを日々の仕事にしていた。
……最初にここに着いたとき、師範さんが匠さんといきなり喧嘩をして、私が止めたら二人とも困った顔をしてました。
そして以後は師範さんの道場でこうしてお世話になって、翌日になって自分たちの兵舎に寄って行かずにいきなり自治街に入ったことを門谷さんに怒られて、その時はどうして怒られるのかよくわからなかったけど――。
私は普通の人とは違っていて、
尻尾が栽培されている野菜に当たってがさりと音を立てた。畝の間隔をもう少し空けて欲しいなと思い、苦笑が浮かぶ。
「普通の人なら、これくらいの幅で問題ないんですよね」
小さく呟き、尻尾を背に張り付けて出来るだけ邪魔にならないようにし、作業を続ける。
それが異形と呼ばれるモノだと知ったのはいつだったろうか。
……匠さんのここでのお仕事の内容を知ってからそれを手伝おうと思って番兵の皆さんにいろいろと訊ねて回って、
その時の番兵たちの反応を思い出す。
「皆さん返答に困ってましたよね」
その時の彼らの心境を思い苦笑が漏れる。
自分のような出生不明な異形を村に置いてくれるだけでもありがたいことなのに、その上こちらに気遣いまでしてくれたのだ。
「それでも皆さんには申し訳ないですけど、異形についての知識は入って来るもので」
異形について知ってからは、
「捨てられないように、傍に置いてもらえるようにと≪魔素≫の扱いを勉強して」
気がつけば魔法の扱いに長じていた。
それでも、
視線を振ると匠が師範と話していた。内容は最近あった事件の事で、
「熟練の傭兵だったんだろ? 異形にやられたのか?」
「どうもそうらしい、この辺りも最近異形が多いし気をつけた方がいいな」
誰かが異形の被害にあったらしい。
魔法という力を持った私もいつか危険だと判断されて捨てられてしまうんでしょうか……。
その時はせめて匠さんの手で終わりにして欲しい。そう思っていると、
「異形が出たぞー!」
街の外の方から声が聞こえた。続いて警報が響き渡る。
「言わんこっちゃない」
そう言いながら立ちあがり、畑を出て道場の壁に立てかけた棒を手にとって駆けだす匠。
「あ、私も」
クズハがついて行こうと腰を上げるが、
「クズハは待ってろ」
言われてしまった。
それはクズハにとっては拒絶とも言える行為で、
――ああ、
「どんなに力があっても、私はあなたの傍には置いてもらえないんですね」
自然と目尻に涙が浮かび、それを隠すように俯き呟かれる言葉は誰にも聞かれることはない。
しかし、誰にも聞かれていないはずの言葉に対して返答があった。
――では、お前が奴を強引に手に入れて傍に繋ぎとめてはどうだ?
どこか自分と似たような声が、確かに、した……。
以上、異形世界でした!
おっかしーなー
俺、狐ッ娘とイチャイチャする話書こうと思ってたんだが……あっれー?
く、くそう、ぜったいイチャイチャさせてやる! させてやるもん!!
投下乙です!!
地獄とはまた違う風情がいいな。
ところで、次スレはなんてタイトルになるのか…
場合によっては分かれる事になるかもね
とりあえず「シェアードワールドを創るスレ 2」とかでいいんじゃない
また別の世界が出来上がるかもしれんし
359 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/17(木) 23:33:55 ID:9KQ+pRE+
おつー
何故か地獄より厳しげな異形世界www
やっぱり現世こそが本当の地獄なのだろうか・・・
尻尾が農作業の邪魔になったりコンプレックスになったりしてるクズハたんかわいいよクズハたん
>>357 まだ500も行ってないのにwwww
360 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/17(木) 23:51:57 ID:yOl4iNIU
不安になってるクズハがかわいくてしょうがない
クソッ!俺のところに来れば寂しい思いはさせないし、あんなことやこんなことも(ry
スレタイに関しては上の方でも書いたけど、他に「シェアード・ワールドを作ってみよう」っていうスレがあって、
そこと紛らわしいから、混乱を避けるために違う名前に変えた方がいいと思う
投下乙です!
異形という事実すら忘れさせるクズハたん……
声の正体が一体何なのか気になるぜ!
まだ容量もレスも余裕はあるけど、スレタイからシェアードワールドという言葉は
外し難いなあと思ったり。
1雑レス1スレタイ案推奨ってことで
「いろんなシェアードワールドで遊ぶスレ」
【地獄異形】シェアードワールド創作スレ【閉鎖その他】
とか
【女体地獄と】皆で書こうシェアワールドその弐【異形天国】
364 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/18(金) 19:54:51 ID:oRQuJ4wG
熟練の傭兵というと、ゴンドーさんだよな〜
今頃地獄で楽しくやってるだろうか……あれ?
【閉鎖された】シェアードワールド【異形の地獄】
リリベルテロ失敗→地獄/異形世界の分岐
だよね?
366 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/18(金) 21:11:52 ID:G0H53iIQ
>>365 それもひとつの解釈として、必ずしも厳密な設定、ではない位が丁度だと思う。
367 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/18(金) 21:16:31 ID:w0MtZ+MZ
黒檀の机で揺らぐ炎が、まだ幼い殿下の顔に深い陰影を作り出す。
組んだ指を動かしながら嫌らしい笑いを浮かべる姿は、まるで腹黒い政治家のようだった。
「さて、どこから話したもんか……」
殿下は椅子を斜めに倒しながら、俺の表情を堪能するように目を細めていたが、思い立った
ように前のめりになると、再び指を組み直した。
「アイツの鈴のデカさはちょっと異常でな。オレはちょっとした好奇心でその未練の正体を
探ってみたんだ。まあ、最初から最後まで話したら日がくれちまうんで掻い摘んで話すが、
あの女は生前、そこそこ大きな領地を有した大名の娘だったのさ――」
そう前置きすると、殿下は腰を落ち着けるように座り直し、夜々重がまだ生きていた頃の
話を、ゆっくりと語りだした。
卍 卍 卍
今からはもう何百年も昔、長きに渡る戦国時代が幕を閉じてまだ間もなかった頃、夜々重
はある裕福な大名の家にその生を受けた。
天下泰平の名の下、表だった戦は確実に減り、男と女の立場が徐々に形を変えていく中で、
夜々重の父親もまた娘を大変に可愛がり、それは大切にしていたという。
当時にしてもかなり贅沢な生活を送っていた夜々重は、やがて毎日のように城内を騒がす
「おてんば姫」として育っていった。
そんなある日、父親の気まぐれから鷹狩について行くことになった夜々重は、めったに見る
ことのない外の世界に心を踊らせるあまり、崖から足を滑らせ皆とはぐれてしまったのだ。
箱入り娘としてぬくぬくと城で育ってきた夜々重が道に迷うのは必然。
どこへどう繋がっているかも分からない獣道を何時間かさまよい、ついに疲れて座り込んで
いるところを、偶然通りがかった一人の男に助けられることになる。
その男は山間にある集落に住む男で、貧しい身なりの人間だった。
夜々重は最初こそ警戒していたものの、隠しきれない不安の中でたった一人頼れるその男に
対し、徐々に心を開いていった。
男も夜々重を城まで届けてやりたい気持ちはあったが、夕暮れに染まる山の中、これ以上
進むのは危険と判断し、眺めの良い場所を選んで焚き火を起こした。
奇妙な出会いが気持ちを高揚させていたのか、二人は疲れて眠ってしまうまでも笑いながら
語り合ったという。
次の夜明け、なんとか城まで辿りついた二人を待っていたのは、鬼の形相で門前に立つ
夜々重の父親だった。
溺愛する娘が行方不明となり正気を失っていた父親は、お前が娘をさらったのかと男に
食ってかかった。
当然夜々重が一言いえば済むところだったのだが、優しい笑顔しか見せたことのなかった
父親が牙を剥いて怒り狂う前、夜々重はついにそれを言い出せなかったのである。
恩人であり、少なからず好意を抱き始めていたはずの男はその場で斬首。
浴びる返り血、ようやく事態の重さに気づいた夜々重は、転がった男の首を抱きしめると、
父親を跳ね飛ばし、そのまま再び行方知れずとなる。
自分のせいで、恩人が罪人として殺されてしまった。
こうして夜々重は暗く深い苦悩の果て、自分にも男と同じ苦しみをと首に縄をかけ、15年
という短い生涯を自らの手で絶つも、不甲斐ない自分への未練は小さな鈴に形を変え、幽霊
となって現世に魂を残すことになる。
――ところがこれで全てが終わったわけではなかった。
無言での自害、それがさらなる悲劇を巻き起こしてしまう。
数日後、夜々重の遺体は近くの山で発見された。
父親は娘の変わり果てた姿に悲しんだ末、あの男が娘に呪いをかけたのだと信じ込み、
城下の浪人者たちを引き連れて、今度は村の人間を皆殺しにしてしまったのだ。
わけも分からず殺されていく罪の無い人々。叫びと血飛沫が舞う凄惨な光景。
自らが招いた惨劇を目の当たりにした夜々重の鈴はさらに大きく膨れ上がり、あのように
巨大な未練の鈴を背負い込むことになる。
卍 卍 卍
「これがアイツの未練の正体だ。ちなみにお前とは何の関係もない」
ここまで聞いて、俺は深い溜息をついてみせた。
まさか夜々重のヘタレっぷりが人をも殺していたとは、思いもよらなかったのだ。
しかし、とはいえだ。
何百年なんて昔の話をされても、全く現実味を感じられないのが正直なところ。
夜々重には出来損ないの昔話みたいな過去があるんだな、ぐらいにしか思えなかった俺は、
素直にそれを言葉にする。
「なんで俺にそんな話を」
「お前にとってはただのバカにしか見えないのかもしれないがな、数百年の時を後悔と共
に過ごすという苦痛は人間ごときに計れるものではないと言いたいのだ。その永い年月は
あのバカ女にひとつの妙案を思いつかせることになったのだ」
「妙案?」
「アイツは誰かの命を救うことで、自らの罪を清められるのではないかと考えたのさ」
それは立派な心がけじゃないか、と思うこと数秒。
ふと蝋燭の炎が大きく揺らぎ、俺の心の中に穏やかでないほころびが生じ始めた。
「まさか、自分で殺して……」
「分かったか? あいつがお前を呪い殺したのは『わざと』なんだ」
全身に寒気が走った。
同時に、この流れをどうしても否定しなければならない衝動にかられる。
「ちょっと待ってくれ、そんなバカな」
「思い出してみろ。あいつと最初に会った時、何かおかしなことはなかったか?」
「……いや」
「壁を抜けてお前にぶつかってきたんだろう? 壁を抜けられるのに、どうしてお前に
ぶつかるんだ」
「それは……そういうものなんだと」
「ふん、まだあるぞ。呪いのことを忘れてただ? バカを言え、忘れるぐらいの未練なら
幽霊になどなれる訳がない」
「あいつはバカなんだ……」
「バカはお前だ。じゃあ聞くが、なんで都合よく地獄巡りの広告なんか持ってるんだ?」
あらゆる言い訳を考えてみても「わざと」という言葉の前に全て打ち砕かれてしまう。
思わず握りしめた拳を見て、殿下は立ち上がり背を向けた。
「最初にも伝えたが、この魂言堂ではウソがつけん。あいつは確かに言った――」
呼吸すら忘れていたのか、思い出したように息を吸い込む。
「わざとです、とな」
最悪だ。
自分が今、一体どういう気持ちなのかすら分からない。
落ち着いて整理したいのに、どこから手をつけていいのかまるで分からないのだ。
あざ笑う殿下と侍女長。堂中にこだまする二人の笑い声にも、怒りを感じる余裕すらない。
「くくく、分かるぞ、お前の気持。オレですら憤りを感じたのだ。人の命を冒涜したその
所業、これは断じて許されることではない。お前には悪いが、解呪申請書など絶対に発行
してやらん」
混乱の渦は絶望と嘲笑を巻き込み、目眩という形をもってその姿を現す。
過去、夜々重のせいで死んでいった人たちと同じように、俺もまた何一つ理解できぬまま、
その生涯を終えるというのか。
言いようの無い焦燥感に思わず下をむいて頭をかきむしっていると、不意に笑い声が消えた。
「――とまあ思ってたんだな、アイツがここを出て行くまでは」
漏らされた言葉に顔を上げると、殿下はにやりと口元を曲げ深く椅子に座り直す。
「オレが面白いと言ったのは、まさにここからなのさ」
その手には、最初に見てそのまま机に置かれていたはずの黒いノートがあり、表紙には
不気味な昆虫の写真と、ポップな字体で「ジャパニコ閻魔帳」と書かれていた。
つづく
投下終りです。
ややえが終わったら閉鎖でも行ってみようかなあ。
投下乙です!!
ちと重い展開……ややえちゃん幸せになりますように。
374 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/18(金) 23:55:12 ID:w0MtZ+MZ
乙
ここまでも結構意外な展開だったんだが、まだ何かあるのか
殿下の秘密道具ってろくな使い道じゃなさそうw
乙です
ややえちゃん……俺は君になら呪い殺されて(ry
投下乙、ややえちゃんももう九話か…‥
これじゃややえちゃんが悪い子みたいじゃないか!
さあ今すぐ俺を呪い殺してくれ
おお、ややえちゃん乙!
あと俺はずっとハナちゃんに期待してるんだ……
また投下させてもらいます
起伏のある灰色の大地に伸びる、ひびの入った道路を軽トラックが走った。
荷台には緩衝材で何重にも包まれ、ロープで縛られた荷が、いくつか積まれている。
その後ろを、人員輸送用のトラックがついていく。中には何人かの武装隊員が乗っていた。
アンジュもその中の一人だ。
車は蘆屋の研究所に向かっていた。
蘆屋の研究所は、自治都市から研究に使う材料を定期的に仕入れる。その輸送の護衛が
武装隊の仕事だ。
異形が出て荷を奪うという事件が、何件か起きている。
揺れるトラックで、アンジュはズシの形見の魔法書を読みふけっていた。
同僚の隊員が、アンジュを心配して声をかける。
「あんまり思い詰めるなよ」
アンジュは小さく首を振り、肩あたりまでの赤茶けた髪を揺らした。
「魔法ができればつぶしがきくと思ってさ。それだけさ」
「つぶしがきくねえ。そういや、ズシを旅芸人一座にスカウトしたがってた人がいたって
話があったな」
別の隊員が思い出すまま言うと、アンジュは乾いた笑みをこぼした。
「あいつが旅芸人か。まあ、そうなってれば死ななかったかもね」
「かわいそうなことやけどな。俺らの仕事にはつきもんや。あんまひきずってもしゃあない。
供養にならへんからな」
と、低い声で言う上官の渡辺は、『鬼切り』の異名を持つ猛者だ。太い首をした、筋肉を
固めてできたような男だった。
隊員たちはおごそかな気分になって、うなずいた。
直後、外で爆発音が響き、大気の振動、熱が伝わってきた。
「きよったで!」
渡辺の指示で、隊員はトラック後部から飛び降りる。
まぶしい火の玉が飛んで、前を行く軽トラをかすめた。地面が焼かれて煙が上がり、焦げ
臭いにおいがあたりに広がる。
「魔法だな」
皮のツナギに包んだしなやかな体を曲げて、アンジュは身構えた。
隊員たちは身を低くし、敵を確認する。
人間のようだが、丸い耳を二つ頭につけた男が立っていた。細長い尾を尻からしならせ、
膨らんだズボンをはいている。格好はとびのようだ。
「俺様は魔法義賊、人呼んで鼠小僧次郎吉よ」
異形の盗賊らしい。頭のいい異形は人間と生活したり、自治都市と条約を結んだりも
している。だが、異形をよく思わない人間もいれば、人間を憎む異形も当然いる。
「食らえ、正義の熱き炎!」
異形が叫び、指を組んで印を作る。中空に赤い火が生まれ、矢の形をとった。
放たれた火の矢は、軽トラックの荷台に向かって飛ぶ。
ほぼ同時に、アンジュは水の属性を持つ障壁を張っていた。
火の矢は半透明の障壁にさえぎられ、破裂した。赤い火の粉が地面に散らばり、黒い煙
が立ち上る。
「やるじゃねえか、姉ちゃん」
あとずさりする次郎吉に、武器を手にした隊員たちが少しずつ近づいていく。
アンジュも魔素刀の柄から、光る刃を伸ばした。
次郎吉はやや恐れながらも、おどけてみせた。
「ずいぶん多いじゃねえか。俺様も有名になったのかな?」
「さあ、知らないよ」
アンジュは魔素刀を逆手に構え、身構える。
「愛想がねえなあ。とにかく、荷はいただくぜ」
次郎吉が軽トラックの荷台に向かって跳ねた。高い魔素を持つ異形だけあって、次郎吉の
動きは野獣のように俊敏だ。
アンジュは魔素の流れを読んで先読みし、次郎吉に斬りかかる。
あわてて次郎吉は指を立て、薄く光る盾を中に造った。
魔素刀が盾を打って、青白い火花を散らす。アンジュの瞳が一瞬、輝いた。
その輝きに次郎吉はわずかの間、魅入られたようになる。
すぐに刃が襲うと、次郎吉は砂を飛ばして跳ね、遠のいた。
武装隊のメンバーがナイフに魔素を帯びさせ、また魔法を詰めた銃を構えて狙う。
「ちょっと分が悪いや。姉ちゃん、その顔、その体、その魔素、覚えたぜ!」
次郎吉が飛び上がり印を結ぶと、紫の煙が湧いた。
「伏せろ、アンジュ」
隊員たちは声を飛ばす。武装隊が銃口を向け、魔法が入った弾丸を何発か撃つ。空に
銃声が轟いた。
煙の晴れた先に、次郎吉はいなかった。
「逃げられたか」
隊員たちは舌打ちしたり、ため息ついたりと残念がった。
軽トラックを確認した若い男の隊員が、渡辺に報告する。
「渡辺さん、だめっす。走れないですね」
「ほんまか。しゃあないな。牽引するか」
隊員たちは人員輸送用トラックの後部と軽トラックの前部を、ロープでつなぐ。
トラックがトラックを引き、また研究所をめざす。スピードは出せない。予定は大きく
遅れ、渡辺たちは苦々しい顔をした。
中継地点で、車は止まった。かつてはサービスエリアと呼ばれた場所で、水と食料を
少ないが蓄えている。
自治都市が管理していて、そうした食料などを旅人に供給していた。
アンジュは食堂の外、壁に貼られた紙を見つめていた。
異形退治の募集だ。高額なデュラハンタイプの異形の写真が一番目立つ。異形を支配する
異形で、値段はこの所上がっている。
すぐ下には、写真のない異形の退治募集がある。
『山椒魚に似ていて毒針を射つ。人の声真似をするとの報告あり』
写真がないのは、出会った人間のほとんどが死んでいるからだろう。情報も少なく、報酬
は高い。
その隣に、鼠小僧次郎吉の写真があった。報酬は安い。人殺しをしていないかららしかった。
写真をアンジュが見ていると、地をこする靴の音が近づいた。アンジュが振り向いた先
には、岩のような渡辺の姿があった。
「胸くそ悪いなあ。傭兵なんてホントはいらんねん。俺らだけでやるちゅうの」
異形退治のため傭兵を募ることに反対の渡辺は、写真の次郎吉をにらみつけた。
「こんな情報あてにならんで。人殺しても見つかってないだけや。人間型の異形が一番
あかん。なんや、狐みたいなガキの異形飼うとった奴おったんや。捨てろ言うたんやけど
きかんから、しゃあないわ、出てもらった」
クズハを保護した坂上匠を、武装隊から追い出すのに賛成した一人が、渡辺だ。
やや間を置き、渡辺は別の話題を振った。
「自分、蘆屋さんの研究所で警備員したいて?」
砂よけのゴーグルをつけた額を、アンジュは軽く縦に振る。
「はい。志願の届けは出しました」
「なら、伝わってるやろけど」
渡辺は太い腕で腕組みし、眉間をせばめた。
「殉職したズシは気の毒や……けど、変なこと考えるなよ」
「そんなんじゃありません。蘆屋さんとこの研究所付きなら、食いっぱぐれないと思った
だけです」
「うん。そんならええ。この仕事うまくやったら認めてもらえる思うで」
笑顔になると、そろそろ出発や、と言い渡辺は立ち去った。
また大きなトラックが小さなトラックを引き、うねる大地に伸びた道路を進む。
たまに、前時代の遺物である壊れた信号機などが、道路のすみに見られた。
地面のあちこちには、まだ深い亀裂がある。以前の二次掃討作戦で異形の強力なものは
封印され、地割れから異形が出現することも現在は確認されない。だが、まだ地上に異形
は多かった。
トラックの中で、アンジュは魔素の動きを感じ取った。
「何か来る」
隊員たちの敏感な者は、アンジュと同じように神経を研ぎ澄ます。
「おい、止めてや」
渡辺が運転手に言い付け、車は止まった。
出てみると、上空に異様な暗雲が渦巻いている。
「何だありゃあ……」
隊員たちが言い合ううちに、黒い雲は膨れ上がり山のようになった。
「まずい、離れろ!」
直感して、アンジュは地を蹴って走った。
黒い雲からは大きな液体がしたたり落ちる。落ちた泥のようなものは地面を溶かし、混ざり
合い、奇妙に人間に似た形をとった。
「異形かっ、くそっ!」
隊員は銃を撃つが、弾丸は泥みたいな異形の体を突き抜けてかなたへ飛び去る。
雲からは無数の液体が落ち、それらが次々形を作って隊員を取り囲む。溶けたアスファルト
の不快なにおいがあたりに充満した。
アンジュは魔素刀に「木」の属性を込め、刃を造った。
魔素刀が光の弧を描き、泥のような異形を斬り裂く。不気味なうめき声をあげ、二つに
なった泥は地面に広がった。
「やっぱり、こいつらは土の属性だ。木が効くよ」
最近、まじめに魔法科学の勉強を続けているアンジュは、魔素の扱いがよりうまくなって
いる。
頭上の暗雲は絶え間なく液体を落とす。隊員が退治しても減るようすはない。。
泥の異形に抱きつかれると、隊員の防具は溶け、煙が起きる。
アンジュは鷹のように飛びかかり、異形を斬り裂く。
「あの雲をなんとかしなきゃ……」
あやしい雲を見上げ、アンジュは魔素刀の柄を強く握る。
そのとき、赤い球が飛んで、吸い込まれるように雲の中へと消えた。
直後、雲の中で光が発した。火の粉が飛び散り、雲は割れて小さくなる。
赤い球の出所をアンジュが探すと、丸い耳を揺らす男が地に立っている。
「鼠……」
「義を見てせざるはなんたらかんたら。魔法義賊・鼠小僧次郎吉、手ぇ貸すぜ」
親指を立てて気取る鼠小僧次郎吉は、前歯を見せた。
いくつかに分かれた雲はまた集合し、大きさを戻していく。
「ありゃ、火は効かねえか」
「こいつらは土、でもあれはたぶん水だよ」
アンジュは意識を集中させ、魔素を練り上げ高めていく。
「土克水、いけっ!」
気合いとともに、アンジュは地面を割り、岩を浮かび上がらせる。
「ダメだあ姉ちゃん、魔素が足りねえよ」
「う、うるさいっ!」
足をふるわせアンジュは大岩を浮かすが、次郎吉の言う通り魔素不足で雲には届きそう
にない。
次郎吉は指をからませ、魔素を送る。
「印をそのままにしてくれ。俺様、実は火の魔法しかできねえが、そこまでやってくれりゃ
あとはいけるぜ。連携魔法だ」
アンジュの魔法に次郎吉の魔素が加わり、大岩は空へと飛び立つ。
黒い雲に下からぶつかり、岩は雲を四散させた。さらに岩が音とともに破裂し、砂になる。
砂が吸収して、見る間に雲を消していった。
おお、と隊員たちは驚きと歓喜の声をきかせる。
「さあ、あとはこいつらだ」
アンジュはまた魔素刀を伸ばし、泥の異形に立ち向かう。さすがに魔素を減らして、
アンジュの腕は揺れていた。
隊員たちは魔法を飛ばしたり、魔素をまとわせたナイフで斬りつけたりして異形を倒す。
アンジュは魔素刀で泥を斬り、次郎吉も火を発して泥の異形を焼き焦がした。
泥が地面に散らばる。
数十分後、異形はすべて退治された。
矢尽き刀折れといったようで、アンジュたちは腰を落とした。魔素の消耗は精神の消耗だ。
次郎吉は散らばった泥をながめて、大きなため息をついた。
「こいつら、蘆屋が改造した異形だ。かわいそうに」
武装隊のメンバーは、何のことかと顔を見合わせる。アンジュは特に驚きもしなかった。
「やっぱり、そうか」
「蘆屋は魔法の実験して、異形を改造しやがる。封印した異形を買い取ってんだ。だが、今回
は違ったみてえだな」
軽トラックの荷台に積まれた荷のロープを、次郎吉はナイフで切った。
緩衝材を引きちぎると、中から石がこぼれ落ちる。
「なんだそれは」
予想しない光景に、隊員たちが目を見張る。
「見ての通り。ただの石コロよ。今回の実験材料は、まあ……」
次郎吉は哀れみの目を、隊員らに向ける。
「私らが実験台ってことさ」
自嘲して薄く笑むと、アンジュはおっくうそうに立ち上がった。
「そんな……」「俺たちを使って、実験を?」「これから、どうする」
隊員たちは騒然となる。蘆屋の研究所に行くわけにもいかない。実験のために捨てられた
のなら、武装隊に帰ることもできない。
「そういえば、渡辺さんは?」
若い隊員が言ったとき、空間を何かが走る。
炸裂と同時に破裂音が響き渡り、破片が飛び散った。えぐれた地面が黒くなっている。
銃を手にした渡辺が、石像のように立っていた。
「あんた……」
アンジュの鋭い目が、渡辺を射るようににらみつける。
「おっと、動くなよ。動いた奴から撃つで。一秒でも長生きしたいやろ」
大きめのいかつい拳銃を手に、渡辺は悪魔のような笑みを見せる。
「すごいなあ、この銃、蘆屋さんとこからもろたんや。生き残りがいたら始末しろて。まさか
みんな残るとは思わんかったけどな」
「そんなもので私たちを殺すのか。鬼切りがきいてあきれるね」
アンジュが腰のホルダーに手をやる。中には、魔法書が入っている。
すかさず、渡辺は狙いを定める。
「通り名なんてハッタリや。そんなもんやろ。変な真似すな。まずおまえから殺しとこか」
「冥土の土産に教えてよ。蘆屋の目的は何だ? 異形を改造して、何をたくらんでいるんだ」
「そんなん知らんわ。偉い連中の考えることに、よう首つっこまん。ろくなことにならへん
からな。
冥土の土産いうなら、教えたるわ。ズシとおまえを行かせたんは俺や。蘆屋さんとこが
改造異形つこてみたいいうから、おまえら実験台にしたった。
俺、魔法使い大嫌いや。あんなん異形と変わらん、バケモンやないかい」
渡辺が得意げに口を動かす間に、アンジュは魔素を練る。だが、もう彼女の魔素は残り
少ない。
「無駄や。ズシに会うてこい」
特殊な大きい銃が火を噴いた。アンジュは弾丸の軌道を読み、すでに小さな結界を飛ば
している。
小さな結界にはじかれ、弾丸は地面に刺さった。破裂が起き、土ぼこりが舞い上がる。
「な、なんや……? おまえ、魔素ないやん」
うろたえる渡辺に、アンジュは冷たい目で、淡々と告げた。
「魔法は宇宙を少し曲げることであるからして、つまりそのために必要なのが魔素であり
符など魔法具であるからして」
アンジュの腰で、ホルダーがわずかに光っている。さみしそうな顔をして、アンジュは
つぶやいた。
「ズシの奴、魔法書に符をたくさんはさんでたのさ。しおり代わりにね」
「バケモンが……!」
渡辺は銃を連発した。空を突き進む銃弾は、ことごとく小さな結界に打ちはじかれ、地で
爆発する。
たび重なる爆音のあと、落ちる石や土の下、アンジュは微動だにしない。
驚愕して口を開け放ちつつ、渡辺は弾切れの銃を馬鹿みたいに構えていた。
「ズシだったらこんなもんじゃないよ」
アンジュは魔素刀の柄を手に、一歩また一歩前進する。
「ま、待ってくれ」
銃は捨てられ、重い音を響かせる。手を前にやり渡辺は命乞いした。
「俺かて仕事でやってたんや。わかるやん」
きこえないかのように、アンジュは魔素刀の光る刃を伸ばした。
「な、なあ、頼む、助けてくれ」
「嫌だね」
「頼む、頼むて。何でもするから、なあ」
涙ながらに手を合わせる渡辺に向かい、アンジュは魔素刀を振り上げた。
「ズ、ズシは喜ばんで!」
この一言は、魔素刀を止めるのに成功した。
すぐさま、渡辺は足に隠したナイフを手にする。
「死ねや、バケモン!」
ナイフがアンジュの腹を突こうとする瞬間、明るい炎が発した。
火に包まれた渡辺は、黒煙をあげ、悲鳴をきかせる。
やがて声もなく、渡辺は地面に倒れた。焦げ臭い煙の中で、渡辺は人型の黒いものに
なっていた。
「こんな奴のために、姉ちゃんが手を汚すこたあねえよ」
アンジュが振り向くと、次郎吉が印を結んでいる。
「ごめん」
あやまられて、次郎吉は不思議そうに目を大きくした。
「何が?」
「おまえ、人殺しはしないんだろ」
「ああ、そんなことか。気にすんなよ。あんなの人間のうちに入らねえや。賞金が上がれば
ハクが付くってもんよ」
それでも、アンジュはすまなそうにうなだれた。おのれの未熟さをアンジュは恥じた。
ひとすじの黒い煙が、暗くなりつつある空へとのぼっていく。
「これから、どうする」
武装隊のメンバーたちが、不安げな顔を突き合わせる。
「どっかで傭兵か、それこそ旅芸人でもやるか。アンジュ、おまえもそうするだろ?」
隊員の一人にきかれると、アンジュは首を振り赤茶けた髪を揺らした。
「私は蘆屋の研究所に行く。警備員の志願を出してるから」
正気を疑い、隊員たちは目をむいく。
「まさか、蘆屋を殺しに行く気か?」「やめとけ、かなうわきゃない」
五系統の一を確立した大魔法使いだ。アンジュでは勝負にもならないだろう。
「そんなんじゃないよ。ただ、知りたいのさ。何でズシが死ななきゃならなかったのか」
「向こうが仇討ちに来たと思ったら、何されるかわからないぞ」
「いざとなりゃ、逃げるくらいできるよ」
本心では、いまやアンジュは命をさほど惜しんでいない。刺し違えても構わない、という
覚悟がある。
決意が固いと知ると、隊員たちはトラックに乗り込み、去った。
あとに、アンジュと次郎吉が残った。
「アンジュちゃんってんだな。研究所までは行けねえや。風が吹いたらまた会おうぜ」
歩きだしたが、思い出したように次郎吉は立ち止まって振り向く。頭の丸い耳が左右に
ふるえた。
「おっと、そうだアンジュちゃん。あんたはちょっと、セクシーだぜ」
「バーカ」
「あばよ」
魔素を発揮し、次郎吉は飛ぶ鳥のような速さで駆けていった。
次郎吉が見えなくなると、アンジュは研究所へと続く道路を歩き始めた。
終わり 長々失礼
関西弁よくわからんので間違ってたらごめん
設定ちょこちょこ借りました ではー
投下乙です!
次郎吉とはまた、異形のバラエティぶりを魅せつけますなw
ズシは一話で死んだものの、その存在の大きさを感じさせるものがある。
続きも期待!
投下乙!!
やはり蘆屋は悪役なんだよね〜
それより、次郎吉の脳内ビジュアルがどうしても某世界的有名鼠にwww
乙です!
次郎吉がどうしてもゲゲゲの森の住人で返還されるぜ!!
ジロキチが某ガンバに(ry
お前らの想像力の乏しさに絶望した!
耳が丸いってあるんだから、どう考えたってトッポ○ージョだろうが!
おっと、言い忘れ。
まとめの作品名とか適当なんで、書き手様方希望があれば言ってくだちい。
週刊見出し(こんな名前だったのかww)乙です!
個人的にはアンジュさんは様付けで呼びたい今日この頃(淫らな意味でなく、こう、雰囲気で)
397 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/21(月) 00:00:15 ID:OrDQmrr6
俺も様付けで呼びたいな(淫らな意味で)
そこでこれですよ!
つ魔素鞭
というか1レスに入れられるアンカー数って決まってたのかな。
次から2レスに分けようかなあ、でも面倒だしどうしよう。
◇
…『アサヒ号』は妖狐観光団の貸し切り、『ハヤテ号』は慈仙洞経由で定期路線。『ミドリ弐号』は…
びっしりと詰まった午後の配車予定表を眠い目で見つめていた高瀬剛は、やがて頬杖をついたまま短い眠りに落ちていった。
慌ただしく昼食を終えたこの多忙な元軍人は閻魔宮城下の交通を担う配車主任だ。『ゲヘナ・ゲート』が開通してからも地獄住人の大切な足として、彼の愛するバス達はフル稼働している。
最近ラヂエタァの不調が多い最古参のミドリ壱号に、子供客を嫌がる神経質なコダマ号。
みんな恐ろしく型の古い骨董品じみた車体だが、人間に愛され、仕事を愛した彼らはその誇りを魂として天に与えられ、ここ地獄の地で再びそのエンジンを唸らせているのだ。
…やがて、眠りの淵をさまよう剛の配車予定表に艶やかな黒髪の鬼が悩ましく割り込んでくる。端正な横顔によぎる寂しげな微笑み。
…確か、外宮勤務には夜勤明けの連休がある筈だ。怜角は湖畔のドライブなど嫌いだろうか…
パアアァ…!!
「わっ!?」
剛の甘美な夢は突如響き渡ったクラクションに破られた。剛の耳は全てのバスの些細な駆動音すら聴き分ける。この音は整備を終え車庫で休んでいるハヤテ号の仕業だ。
「…全く、貴重な休憩時間に…」
不機嫌に仮眠室を出た剛は、そのまま一階の広い車庫に向かう。振り切れぬ睡魔にふらつく彼が階段を下る間も、クラクションは甲高く鳴り続けていた。
「…おい!!ハヤテ…」
元将校らしい厳しい怒声と共に車庫へと飛び込んだ剛は、幾つもの眩しいヘッドライトに照らされ思わず顔をしかめる。クラクションの騒音もまた、まるで伝染したかのように全てのバス達から発せられていた。
「うるさいっ!! 貴様ら、一体何の騒ぎか!?」
剛の一喝で狂乱するバス達は一瞬だけ沈黙したが、手におえぬ大騒ぎを止めようとはしない。午後の激務を考え頭痛を催しつつ、剛はハヤテ号の車体に触れて辛抱強い問いを発した。
「……『仲間』?『苦痛』?…」
掌を通じて返った答えは不可解なものだった。『バス』『仲間』『突入』『苦痛』『苦痛』『苦痛』…
「…おい待て!! 待ってくれ!!」
理解出来ぬバス達の怒りと混乱に剛が思わず悲鳴に近い声を上げたとき、作業用のオート三輪トラック『フクロウ』が、丸いヘッドライトをぱちぱち瞬かせながら、キィ、と水色のドアを開けた。小回りの効く剛の愛車だ。
「乗れと? 一体…」
躊躇う剛を怒鳴りつけるように、また音と光の洪水が彼に降り注ぐ。車庫の重い鉄扉までが剛を急かすようにミシミシと唸りを上げた。
「…判ったよ。事情によっちゃ、承知しないからな…」
…『フクロウ』が剛を乗せて車庫を飛び出した後も、残されたバス達は不安げに車体を震わせ続けていた。
◇
「…おい、まだ行くのか? 何にもないじゃないか。」
かれこれ数十分『フクロウ』のシートに揺られながら、剛は冥府の砂利道に油断ない目を配っていた。
次第に市の中心部から離れ寂しい草原を走るトラックからは、特に剛の注意を惹くものは見当たらない。
「…おい。一体どこまで行くつもりだ? お前もまだタイヤ運びが残ってるだろ?」
やがて頑なに直進する『フクロウ』にうんざりと呟いた剛の前方に、小さな数人の人影が飛び出した。見覚えのある軍服姿。…出来れば迂回してやり過ごしたい連中だった。
「…高瀬小隊長殿!!」
駆け寄ってきたのは剛が未だ地獄に留まっている理由の一つ、彼を慕うかつての部下たちだ。外見上は剛の祖父、といった年齢の彼らは、未だ迷惑な忠誠心を惜しみなく半世紀前の上官に捧げ続けているのだ。
「何だ!? また突撃訓練か?」
「はっ!! 演習の最中でありましたが、非常事態が起こりまして…」
頭痛の種とはいえ、先の大戦を勇猛に戦い抜いた古強者たちだ。剛はすぐ彼らの様子から『非常事態』がかなり深刻なものであることを悟った。
「…空から人が…いや、幽霊が降ってきたのであります。何やら機械の破片と…」
「何だと!?」
「仲間が救護に当たっております。是非小隊長殿もお力添えを!!」
老兵たちに案内され、剛と『フクロウ』が向かった先には、酸鼻を極める光景が広がっていた。
地獄絵図…という形容はいささかおかしいが、荒れ野に倒れ伏した数人の幽霊は白目を剥いてガクガクと痙攣し、弱々しく呻き続けている。
「…落ちて来たって…一体どこから?」
分厚い黒雲に覆われた地獄の空を見上げながら剛が呟いたとき、流れる雲の隙間にジジッ、と青白い閃光が走った。
「…恐らく第4番、もしくは第25番ゲヘナゲートの方角ですな…」
重苦しい斉藤軍曹の言葉に間違いはない筈だった。戦場のジャングルで、星の位置を頼りに常に高瀬小隊を導いた彼の眼は老いても全く衰えてはいない。
「…ゲヘナゲートの事故か!?」
いずれにしても、負傷者の救護が先決だった。恐らく凍てつく高空に投げ出された幽霊たちは恐怖と寒さに半ば失神した状態で、この草もまばらな地表へ激突したに違いない。
「…獄卒隊にも連絡は取りました。もうすぐどなたか鬼殿が来られる筈ですが…」
剛たちが抱え上げて一カ所に集めた被害者たちは、いずれも死んで日の浅い未熟な霊だった。このまま激しい苦しみに囚われ続ければ、霊核を失い消滅してしまうかも知れない。
「しっかりしろ!! 自分の名前と姿だけを念じるんだ!! しっかり…」
「…寒い…寒い…」
高瀬小隊の必死の処置も空しく、幽霊たちの姿がぼやけ始める。彼ら修練を積まぬ霊体が意志の力で実体を保持するには、痛みと寒さが激し過ぎるのだ。
暗雲の隙間から時おり青い火花が下界を照らす。ただの事故ではなかった。その慎重さで知られる閻魔庁技術部門が、こんなか弱い一般の幽霊を惨事の巻き添えにするなど剛には考えられなかった。
「駄目だ…」
ただ声を掛け続ける事しか出来ぬ歯がゆさに剛が思わず悔しげな言葉を洩らしたとき、激しく空間が歪み褐色の女鬼、慈仙洞嵐角がその堂々たる姿を現した。小柄な部下二人を脇に抱えた乱暴な瞬間移動だ。
「嵐角さん!!」
「…今日はなんて日だろうね!! 閻魔庁に不審車両が突入したそうだ。この怪我人も恐らく関係者だろう!!」
「えっ!?」
部下と共に手早く怪我人の容態を調べながら、この逞しい女鬼は手短かに現在の状況を剛に話す。その短い内容は大戦の勇士たる高瀬剛中尉をも戦慄させるものだった。
『…本日未明、所属不明ノバス一台ガ第弐十五番ゲヘナゲートヲ強行突破シタ後、閻魔庁ニ侵入セリ。自爆攻撃ノ可能性アリテ現在獄卒隊ガ応戦中…』
部下が嵐角の話を無線機で仲間に伝える傍らで、剛は茫然と立ち尽くした。閻魔庁外宮では怜角が警備任務に当たっている。もし彼女に万一のことがあったら…
「…中尉!! ボサっとしてないで!! 早く暖めなきゃ死んじまうよ!!」
「あ…」
慈仙洞嵐角の太い怒号で我に返った剛は、嵐角が着衣を解き始めたのを見て慌てて背を向けた。以前凍死した赤子の霊を、彼女が素肌で暖めるところを見たことがあるからだ。
「ほら、胡蝶角!! チャナ!! あんたたちも!!」
「は、はいっ!!」
嵐角の二人の部下も恥ずかしげに胸をはだけ始め、高瀬小隊の男たちは比較的軽症の怪我人を毛布でくるみながら、懸命に彼女たちから目を逸らせた。
賽の河原で鬼の子が 迷子になって泣いている
来る船来る船覗いても 鬼の母者は見当たらぬ
…豊かな胸に凍える亡者を抱いた嵐角が低く唄う。亡者たちの苦悶の呻きは鬼の静かな子守唄に混じって小さく溶けてゆき、やがて安らかで深い安堵の吐息へと変わっていった。
鬼の子乗せた丸木船 三途の川をすいすいと
母を探して幾千里 浮きつ沈みつまた明日…
◇
「…じゃ、高瀬中尉、私たちは先に城へ飛ぶから怪我人は頼んだよ。」
「…判りました。御武運を祈ります。」
衣服を整えて再び瞬間移動の精神集中に入った嵐角を敬礼で送り、『フクロウ』の荷台にかなり精気を取り戻した幽霊たちを寝かせた高瀬小隊は、市内の治療所に向かうべく移動を始めた。
「…小隊長殿!!」
「何か!!」
ふと気付けば、今日もまた旧軍の肩書きに応えていた。助手席の剛は頭を掻きながら、駆け寄る部下の報告を聞いた。
「あちらに侵入車両の一部らしき物が!!」
「何だと!? 停めろ!!」
『フクロウ』から降りた剛は、荒れ野に突き刺さる禍々しい金属塊に近付く。それは、抉り取られたような古いバスの車体後部だった。
「小隊長殿!! 急ぎませんと!!」
部下の叫びに手を挙げた剛の唇から、以前彼が親しい技術部門の鬼に聞かされた、ある血なまぐさい最新技術の名が洩れる。
「…ケイオス・シェルコーティング…」
墓碑のようにそそり立つそれはギラギラと妖しく輝き、救助された亡者たちとは比べものにならぬ凄惨な苦痛の慟哭を、剛に向けて絶えることなく発し続けていた。
「…すぐ迎えに来てやる。騒ぎが収まったら、自分の所へ来るといい…」
『フジ号』や『ハヤテ号』が懸命に案じていた仲間を見捨てる訳にはいかない。声無き悲鳴を上げ続けるリヤ・ウインドウをそっと撫でた剛は、急いで『フクロウ』に駆け戻った。
◇
「…よし、このまま閻魔庁に走る!!」
治療所に幽霊たちを運び終え、騒然とする市内を『フクロウ』は走る。飛び交う噂の断片は曖昧だったが、閻魔宮の…怜角の危機は剛を感じたことのない不安に突き落としていた。
(…怜角さん…)
小さな『フクロウ』の荷台には高瀬小隊の面々がぎっしりと乗り込んでいる。久々の『実戦』の張りつめた空気に、彼ら老兵の興奮した歌声は剛にも抑えられなかった。
神州遥か密林の 護国の砦よ高瀬隊
亜細亜の明日を守らんと 道無き道を拓きゆく
…剛の戦死後作られた歌だ。自分の鎮魂歌を聴く奇妙さにももう慣れた。しかし果たして今、あの時と同じ死に方が出来るだろうか? 若く、耐え難い離別を知らなかったあの時と…
怒涛の敵軍睨み据え 絶壁散った若虎よ
讃えよ我等の勇将は 嗚呼軍神高瀬中尉…
「…駄目ですな、また通行止めです。」
運転席の斉藤軍曹が呟く。今や城下は前代未聞の緊迫を見せていた。閻魔庁の広大な敷地に続く主要な道路はことごとく封鎖され、それぞれ戦闘体の鬼たちが油断の無い眼差しを周囲に配っている。
剛は碁盤の目のような閻魔庁周辺の道には詳しかった。静まり返った通りを縫ってできる限り閻魔庁に近い区画にたどり着いたが、突如『フクロウ』に立ち塞った黒い鬼が棘だらけの腕を上げて一行を制止した。
「…申し訳ないが、民間人は此処からは進めない。」
「民間人!? 我々は大日本帝国陸軍…」
『民間人』という言葉に鼻息を荒げる部下たちを制し、剛は無表情な黒鬼に丁寧に状況を尋ねる。
「…城内の様子はどうなのでしょう? 被害は…」
「…機密事項だ。発表を待ってくれ。」
事務的な鬼の答えに剛は沈痛な眼差しを閻魔宮の高い塀に向けたが、怜角のいる幾つもの門に守られた外宮を窺うことはできなかった。
「…そうですか…」
良くも悪くも剛は組織に仕え、命令を守る苦労をよく知っている。南方戦線で彼を死に追いやったのも抗えない、そして抗おうともしなかった祖国の『命令』だった。
この黒鬼や怜角もまた、死の国の秩序に忠誠を誓い、その能力と命を閻魔大帝に捧げた『獄卒』だ。剛に彼らの任務を妨げる権利はない。
「…お務め、ご苦労様です。では…」
敬礼で黒鬼に応え、クルリと踵を返した剛の背後で陽気なメロディが響いた。それはいかめしい黒鬼にはなんとも不似合いな通信機の着信音だった。
「…こちら南ノ六。はい…」
思わず振り向いた剛は黒鬼の表情が僅かに和むのを見た。そして黒鬼の声はちょうど待っている高瀬小隊に届く高さまで跳ね上がる。
「…事態は収束、庁内の負傷者はゼロ、ですね。了解です…」
…通信を終え深い吐息をついた黒鬼に向け、剛はもう一度感謝の敬礼を送った。彼が照れたように頷くと、整列した高瀬小隊が相変わらずの騒がしい万歳を唱和し始めた。
◇
…そして、権力は時として身勝手なものだ。封鎖が解除されると高瀬小隊はすぐ召喚を受け、つい先ほどまで近寄ることすら叶わなかった閻魔庁の門を急いでくぐることになった。
テロリストとは思えぬ傷付いた幽霊たち。そして禁断の邪法で強化されたバスの断片。携えた情報と共に剛の胸を大きく占めているもの、それは怜角の顔を早く見たいという、少し不謹慎な欲求だった。
既に日常の静けさを取り戻した庁内を、獄卒に案内されて高瀬小隊は会議室へと急ぐ。そのとき、眉間に深い皺を寄せた斉藤軍曹が、剛の傍らで歩みを遅めた。
「どうした、斉藤軍曹?」
「は…どこかで、『未練の鈴』の音がしたような…」
剛はこの頑固な老下士官の耳が、その眼と同じ位正確で鋭かったことをふと思い出した。しかし剛がいくら耳を澄ませても、もう悲しいその音色が聞こえることはなかった。
続く
以上【地獄】投下終了。週間まとめ様、乙&毎週楽しみにしています!!
GJ!
リリベルたそ地獄突入時にこんなことがあったのね
そして女体要素がちゃっかり盛り込まれてるw
投下乙です!
なんだかここまで話が大きくなってしまうと、リリベルバスを投げっぱなしたことに
罪すら感じてしまう。
キャラクターはともかく、書き手さんが困っていないことを切に願って。
それにしても斉藤軍曹、微妙にいい味だしてるなw
410 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/21(月) 23:05:27 ID:OrDQmrr6
投下乙
軍人さん達いい味出してるな
まあ、俺の目はおっぱいに釘付けだったんですがね
うほっ!いい軍人…
キャラが生きてるなぁ。凄いわ。
せっかくだから、俺はこの閉鎖都市を選ぶぜ!
「………」
この閉鎖都市での盛えている場所の一つ、第二北地区に男は来ていた。
冬でもない季節に合ってないロングコートとアタッシュケース、更に錨を綴ったタトゥーと、目立つ物が多いせいか、通行人から少し白い目で見られるが、もはや慣れた物だ。
この地区のすぐ近くの地域には廃民街が広がっているらしく、その影響もあり、治安は悪い方だ。
一度、前スリにあい、財布を盗まれた。しかも相当入った物を。
(しかしその後、そのスリ犯を半殺しにしたのは秘密だ)
更に、自分のこの様な格好の為か、そこらの不良を寄せ付けたりする。
そしたら自信がある身体能力を使って、適当に色々と聞き出す。
これが最近のマイブームというか、ポリシーというか。
しかしこの錨のタトゥーのせいで案外顔が広まっている様なのだが、損は無い。
必要と言われればそこへ行く。
それが自分の役目だ。名前と顔が広まるのは何も悪い事ばかりじゃない。
…話は変わるが、いわば自分は旧ヨーロッパから存在する傭兵と呼ばれる物に近い。
昔、その傭兵が主人公の小説を読んだ事もある。
確か、傭兵は最後は仕事を全うして死ぬ話だった。だが、生憎だが自分にそんな気は無い。誰かに殺される気も無い。
仕事を全うするのなら、この天寿を全うするのが良さそうだ。
だからといって、天寿を全うするのは、仕事柄からして、仕事を全うして死ぬよりも難しいのだろうが…。
「…陰気臭(くせ)えのは嫌いなんだ」
切り替える様に、男は言葉を漏らした。
誰からも聞こえない程、小さな声で。
◇◆◇◆◇◆◇◆
空き部屋が多い寂れたビルの五階に自分の事務所、「DMS」に帰ってきたのは少し夜に差し掛かった頃だ。
ちなみにDMSとは日本語で訳すと「出来れば無理はしたくない」の頭文字らしいのだが、日本人では無いので、知った事か。
「ただいま」
ドアノブを右に回し、中に入ると、やや大きめのソファーにちょこん、と座る少女が、自らの携帯の画面を見ながら大笑いしていた。
どうやら彼女が好きなお笑いコンビなのだろう、と男は感じ取る。
「ん、今日は先に帰ってきてたんだな」
「あ、ハーバードさん。買い物なの?珍しい」
そう言うと少女はとててとハーバードと呼ばれた男へと駆け寄る。
少女の齢は十五か十六くらいで、髪は腰まであるロングに、猫の形を型どった青色の目立つヘアピンをつけていたのが特徴で、目は小動物の様に大きく、ハーバードの胸元くらいの背丈。そうなると身長は155cmくらいか。
「買い物ぐらいだったらあたしがするのに」
「…お前、今日昼まで何処行ってた」
「ん〜?野暮用だよ。ハーバードさんには関係無いもん」
「…深くは尋ねないぞ、如月」
津布樂如月(つぶら きさらぎ)。それがこの少女の名前。
色々あってここに来た。深く話すと、一週間、文で表すと原稿用紙四十枚が必要になるので、また今度時間があった時に話す事にする。
「まぁ、一先ずもう夕方だ、飯でも作るか」
「今日はあたしだよね、ハーバードさん」
「あぁそうだ。なんか適当に作れば良い。肉も、魚も、野菜もある」
「ん〜、そうだなぁ…まぁ、適当にやってみる」
「そうか。じゃ、任せる」
そう言うと部屋の片隅にあるドアへと向かう。
もともと、ここには部屋が六つもある。
自分の部屋、如月の部屋、キッチン及びリビング。それと残りは物置と空き部屋。
何時になればあの空き部屋は使われるのだろう、と思った事は多々あるが、気には止めない。
414 :
第一話『二つの銃は出番が来るまで待ち続ける』:2009/12/22(火) 01:17:28 ID:JnCRUY2H
ドアノブに手をかけ、左に回すと、相変わらずのマイルームが待ち構えていた。
短銃をオーバーコートから出し、壁にかけ直し、机の下にアタッシュケースを入れ、オーバーコートを床に脱ぎ捨てる。
帰ってきた時の基本動作がこれだ。
後はこれに銃の点検か、机に書類を置くとかが加わる時がある。
『ご主人様、メールが届きましたにゃん♪』
「ん?」
ふとパソコンから鳴ったメール呼び出しボイス。
最近依頼で偶然手に入れた、パッケージに美少女が写っているソフトに入っていた、『おまけボイス』だとかいうデータから切り取った物だ。
ちなみに、そのソフト自体は未だ起動しておらずだが、便利なので結構使わせてもらっている。
そういえばその美少女は猫耳を付けていたのだが、何故だろうか。まぁ良いか。
「…どれどれ…」
送り主、内容を慣れた手付きで下にスクロールさせる画面から読み取ると、スッ、と立ち上がりアタッシュケースを持ち、そして黒のロングコートを着ると、短銃を右ポケットに入れ、またドアノブを左へと回す。
「依頼だ」
誰に聞かれた訳でもないのに、彼は呟いた。
そして玄関へ向かうハーバードのその格好に気づいた如月は、料理の手を止め、ハーバードへと顔を向けると、
「いってら」
と、クセの無い笑顔で、ハーバードに言った。
これが行く前に言われる必ず言われる言葉だ。
ハーバードはそれに小さく頷くと、ドアノブを右に回した。
空は既に、星が姿を見せていた。
「残業代出してくれんのかなこれ」
呆れながら、少し笑った。
>>411と
>>413の間にこれを…
キーボードを叩くカタカタという音が狭い部屋全体に響く。
その部屋は三畳半程で、壁には短銃が飾られており、更にそこには机とその下にアタッシュケース。そして机のそばに一つだけある椅子には、先程のキーボードの音を出している男が座って居た。
髪はブラウンのウルフヘアーで、右眉から右頬にかけて特徴的な錨(いかり)のタトゥーが入っており、赤色の瞳をしている。
首には蛇が巻き付いた十字架のネックレスをかけており、両耳にはピアスを開けていた。
その雰囲気は閉鎖都市というのに似合わない、粗暴な物を思いつく。
「しかし、やっぱこのご時世。不景気なのかねぇ、旦那方も」
男はそう呟くと、パソコンの電源を落とす。
機能を停止する低い音が、キーボードに変わり、今度はその音が部屋を支配するが、少し経つと今度は無音に戻る。
「よっと」
無音となった後、ソファーから立ち上がると、床に落ちていた黒のロングコートを手に取り、壁にかけられた短銃をロングコートに入れ、机の下にあるアタッシュケースを取る。
少し大きめで、持って動くたびに、中の物が上下する振動が、持っていた右手に伝わる。
「さて、と」
そう言うと、ドアノブに手をかけ、それを右に捻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
違った、
>>411〜
>>412だ。
…投下終了です。
続きます。一応。
それと、そろそろwikiがあった方が良いかもしれませんね。
お二方とも乙です
やっぱり鬼たちは良い人が多いなー、あと乳万歳!! ……万歳!!!
閉鎖都市の方は探偵ものになるのだろうか?
続きが楽しみだ
>>409 困るどころか死ぬ程楽しんでますよw あと一、二編ほどリリベルちゃんはお借り出来れば嬉しいです。
>>416 投下乙です!!
ハードボイルドか、はたまたゴシックホラーか…『銃』の出番を楽しみにしています。
【魔乳】異形閉鎖シェア地獄【妖尻】
おお、久しぶりに閉鎖都市に投下が……
何か仕事人みたいな感じだろうか、続きに期待!
しかし設定だけみると一番カオスな閉鎖都市が
一番平和そうにみえるのはなんでなんだぜ
420 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/22(火) 22:51:37 ID:JnCRUY2H
>>419 HAHAHAHA。それはだなボーイ、閉鎖都市が投下少ないからなんだZE?
>>399 遅レスですまんかった。
一応色々な人に見てもらえるようにレスアンカーのみでまとめてたんだ。
でもせっかくだから落とさせてもらったぜ! もう一度過去作品まとめて
読んでみるかなw
>>420 人が少ないことで大人のムードが出てきたなw
>>421 まとめてくださっている方だろうか?
俺はまとめ業務を持続することはちょっと無理っぽいのでまとめの案その1くらいに参考にしていただければ幸いです
把握
いや、しかし見やすさに関しては399には及ばないのだw
まとめwikiの話も上で出てたけど、とりあえず俺はこのスレ内のみで尽力させてもらうぜ!
まあ、まとめ風情がでしゃばるのもあれなんで、この辺にしておく。
SS書けってのは無しなw
まとめたりwiki編集してくれる人ってのは、スレにとって作品投下並に貢献度高いと思ってるんだぜ
そういうのはスレが盛える要因のひとつになってる
いつも乙です
426 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/25(金) 22:46:45 ID:GktpK7Vz
一度何か絵書こうと思ったけど、魅力ある奴しか居ないから困る
つ侍女長の使い魔
いや、今は次郎吉が狙い目か……
428 :
東:2009/12/25(金) 23:51:19 ID:h0LPJY9D
勘違いでなければ、以前別板でここの書き手さんに絵を描かせて貰ったことがある……
ほうほう、そんなことが……
もし気が向いたらこのスレでも描いてみては!
「人は皆運命という大きな流れの中にあり、短い生涯の中でわずかに流れを変えることは
できても、決してそこから出ることはできん。この閻魔帳にはそうした運命の一部、人間
の犯した罪と末期が記録されている」
鋭い眼光をもって放たれる言葉はもはや子供のそれではなく、人を裁く閻魔という名に
ふさわしい威圧感を有していた。
「オレはあの女を追い出した後で、念のためにお前の過去に目を通した。平々凡々として
はいるがそれなりに誠実な、実につまらん人生だ。ついでに溜息もついてやった、こいつ
は蘇らせるに値しないとな」
目の前でひらひらと動くジャパニコ閻魔帳の前、俺は未だ自分がどういう状況におかれて
いるのかを把握できずにいる。
「しかし、しかしだ。お前の記録の最後に妙な一文が記されていることに気がついたのさ、
オレは目を疑ったね。一体何が書いてあったと思う?」
「分かるわけないだろ……」
「それじゃあ自分の目で確かめてみろ」
そう言うと殿下は開いたページに折り目をつけ、机の上を滑らせてよこした。
見ると確かに俺の罪とも呼べるか分からないような行いがいくつか書かれており、最後に
は今日の日付の下、ただ一言でこう締めくくられていた。
《午後0時13分 交通事故により死亡》
「どうだ、面白いだろう?」
眉をしかめて見せると、殿下は軽く舌打ちをしながら呆れたようにふんぞり返った。
「本来の運命では今日の正午、お前は交通事故で死んでいる筈だったのだ」
閻魔帳を机に戻しかけたところで、手が止まる。
「……なんだって?」
「分からないか? あの女と会わなかったら、お前は今日ここに書かれている通り死んで
いたんだ。運命によってもたらされる死は如何なる存在でも抗うことはできん。ところが
アイツはそれが訪れる前に偶然を装った呪いでお前を殺害した――」
殿下はそこで言葉を切り、床に落ちた閻魔帳を拾うと埃をはたいて丁寧に閉じた。
その落ち着いた動作に、おぼろげながらもようやく話が分かってきた気がする。
「申請が受理されれば蘇る可能性があるからな。死をもって死を制す、実に見事な計画だ。
さらに付け加えるなら、数多くいる閻魔一族の中でもオレを狙ってきたのがまた悩ましい。
親父や他の連中じゃ一笑に付された挙句、即刻却下されるのがオチだろうに」
殿下がちらりと目線を動かした先では、侍女長が退屈そうにあくびをしている。
いつの間にか短くなっていた蝋燭の炎が、小さな音をたてて強く揺らいだ。
「しかしオレは今こうしてお前を生き返らせることに興味を持っちまっている。もしそこ
まで計算してのことなら、あの女ただ者じゃないぞ」
「でも、どうして夜々重はそんなことを……」
「さっきも言ったがこれはあの女の罪滅しだ。何故お前だったのかということならオレは
知らん、それこそお前自身が確かめればいい。どちらにせよお前は救われたのさ」
「……なんで」
「くどい」
揺れる感情を決するかのように、殿下は机の上に置かれていた木槌を振り上げ、降ろす。
固く短い音が堂中を駆け巡った。
「ではこれをもって大賀美夜々重による呪詛は過失による事故とみなし、閻魔一族の名に
おいて、その呪いの解除を許可する!」
驚愕と困惑、絶望と覚悟の果て――
「桐島祐樹。運命から外れたお前の未来、見せてもらおうじゃないか」
ついに差し向けられた一枚の紙切れを受け取る。
そこには仰々しい筆文字で書かれた「解呪許可」の文字と「認」の印。
もちろん全てが理解できたわけではない。それでも子供にしか見えない殿下と、ウトウト
し始めた侍女長に対し、これまでに感じたことのないほどの感謝の気持ちをもって、深く
頭を下げた。
「すまん、恩にきる。この借りはいつか必ず返させてもらう」
「大逸れたことをぬかすな、それはあの女に言ってやれ」
その言葉を聞いて、ここに入る前に見た夜々重の悲しそうな顔が蘇った。
椅子を倒す勢いで立ち上がると、殿下は腕をひねって伸びをする。
「ま、お前も何百年か生きてみれば、あの女と釣り合うようになるんじゃねーの?」
「俺は人間なんだ、そんなに長く生きちゃいられないさ」
「……そいつはどうかな」
不適な笑いを含んだ言葉はもはや意味をなさず、俺はただ夜々重に結果を伝えたいという
一心で魂言堂の扉を押し開いた――
卍 卍 卍
相変わらず赤暗い空の下、石段で膝を抱えてうつむく夜々重の姿があった。
後ろ手に扉を閉めると、それに気づいたのか一度小さく肩を震わせ、より深く顔を埋め
ながら掠れた声を漏らす。
「……ごめんね、ダメだったでしょ」
俺は答えず、続きを待った。
「私もね、私なりに頑張ってはみたの。でもやっぱり閻魔様には通用しなかった。言い
たくないことも全部言わされて……笑われて、怒られて――」
夜々重は想像以上に落ち込んでいたようで、それからしばらく感情的な台詞が続いた。
嗚咽に揺れる未練の鈴に、俺はそっと手を伸ばす。
「いいよもう。顔上げろよ」
「やだよ、またバカってなじるんでしょ?」
「んなこと言わねーから」
「言うに決まってるよ! 私のせいだって! そうやって私のこと」
ようやく顔を上げ、その泣きはらした赤い目に、俺は申請書を突きつけてやった。
「……え?」
素っ頓狂な声でも出すかと思ったのだが、いまいち反応が悪い。
驚きのあまり心臓発作でも起こしたかと覗いてみると、顔をしかめながらぼろぼろと涙を
流していた。
「いやいや、ちょっと大げさだろ」
「大げさなんかじゃないよ! 先に言ってよ!」
「むしろ泣いて喜ぶのは俺のほうじゃないか?」
「私が泣いたっていいじゃん!」
「まあ、悪くはないけどよ」
「でも……でも本当に」
夜々重は両手で涙を拭き取りながら、詰まる喉を落ち着けるように大きく深呼吸をすると、
「よかった……」
微笑み閉じられた瞼から、一筋の涙が頬をこぼれた。
卍 卍 卍
度重なる危機と苦難の末、俺が辿りついたもの。
そこへ導いたのは夜々重が過去に犯した罪への同情でもないし、殿下をもって言わしめる
ほどの賛美でもない。
それはただ、こうして向けられる笑顔に悪意がなかったという、たったひとつの事実だった。
しかしその事実だけが今、申請書を貰うという当初の目的すらぼやかすほどに、俺の心を
満たしている。
つまり多分俺は――夜々重のことが好きなのだ。
つづく
434 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 10:18:54 ID:7s/XlTGc
以上、地獄シェアへ投下終了。
SSだって絵だって、描いたもん勝ちなのがこのスレだと思ってる!
乙です!
死ぬ運命だったのか……
しかも一つの死の運命を避けても別の死因で死ぬタイプのやつとかたちわりぃww
夜々重ちゃんはさてどうなるのだろうか
436 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 12:03:28 ID:L+LdY62j
投下乙
ややえちゃんはやっぱりいい娘だった
さすが俺の嫁
投下乙した!
ややえちゃんに絞め殺されたい
てか何気に殿下かっこええなw
GJ!!
地獄モノは色気ある上になんかストーリーが精緻だな。次回も期待!!
439 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 13:38:11 ID:WbutMD/j
乙
流石八々重ちゃんだぜ!
440 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 14:48:57 ID:NGl3pZkJ
殿下ぁ!殿下かっけえぇぇ!
ややえちゃんかわいいよややえちゃん
みんないいキャラだなあ
441 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 16:42:00 ID:0kQttwJS
GJ!!
久々にシャーペンで頑張った。
左上…らき☆すたのこなた風ややえちゃん。鈴が分からんった。
右上…某Hのアレンジ曲PV風今空さん。ただのHとかは言わないで。
左下…次郎吉。え?何処かで見た事ある?何言ってるんだ…おや、誰か来たようだ
http://gban.jp/d/g/z1i2og.jpg 見れなかったらごめん
おお、上手いw
次郎吉がミッ●ーwwwww
おお、スレ初絵投下ktkr
夜々重限りなくこなたwww
しかし次郎吉は限りなく俺の脳内イメージと同じだw
1シェア1キャラ描いてくれてるんだなあ。
GJ!
でもやっぱり次郎吉www
いいねいいね!
俺も玲角さんはこんなイメージだよ、GJ!
乙です
制服かっけええ!
乙!
今度はイラスト祭か!!
うほ、もういっこきてた。玲角さんGJです!
451 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 20:54:13 ID:0qY4dQgc
452 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 20:55:34 ID:0qY4dQgc
453 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 21:06:06 ID:G1To7KI6
まとめ乙
まとめ乙です
まとめ人さん乙!
●
匠は開門を待たず自治街を囲む壁に飛び乗り、一息に外へと飛び下りた。
外では既に戦闘が開始されていた。
「多いな」
視界の中、獣型が三十体以上、更に二足で歩行する巨体の異形もいくつか姿が窺える。
これだけの数が居るのに統率している異形がいない?
そう疑問を抱きつつ近くの番兵に声をかける。
「どんな感じ?」
気付いた番兵が前方、急ごしらえの柵を挟んで銃撃を行っている仲間を示し、
「数は多いんですけど基本的に突撃してくるだけなので問題なし。といったところですかね」
番兵が言う通り、柵を挟んで行われている銃撃は確実に異形に怪我を負わせ、数を減らすことに成功している。
「このままなら俺たち前衛はあの巨体相手だけで行けそうだけど」
なにかおかしい気がする。そう番兵は言う。匠も頷き、
「頭があまりよろしくなさそうなのしかいないのになんでこんなに組織だってコイツら動いてんだ?」
「隊長も言ってましたけど、なにか裏でもあるんでしょうか?」
話していると驚き混じりの敵影発見の叫びが聞こえた。
瞬時に場に緊張が走り、現在銃撃を行っていた者以外が一斉に声が示す方向に顔を向けた。
異形が回り込むように現れている。壁の外周に掘られた堀に沿って番兵たちに対して横殴りに進んでくる。
「やっぱりなんかヤバい感じしてたんだって!」
言い、そちらに対して柵が用意されていないのを見るや、
「門谷隊長はそっちに対策してないのか?」
「信太の森封印以後あまり異形の大量発生は目撃されてないので兵自体あまりいないんです。
だから堀を広く掘らせてこっち側の出入り口は橋でつないだ壁にある扉だけだし、たまにそういうの無視して飛んだり跳ねたりしてるビックリ人間がいますけど!」
言って己の持つ槍を確認する番兵。横殴りに現れた異形に対応したいようだが正面から来る二足歩行の巨体には銃弾があまりよい成果を上げていない。どうやら≪魔素≫で体を強靭にしているようだ。
このままでは正面の巨体相手に白兵戦を挑まなければならない公算が高い。
「あーくそ、持ち場を離れられねえ!」
もどかしそうに言う番兵に匠は声をかける。
「俺が行く」
「坂上さんが?」
「武器はあるし、まあたぶんいける。門谷隊長に言っておいてくれ」
そう告げ駆ける。
ずっと携えていた金属製の棒の中程を片手で握って軽く振る。使い慣れた武器の感触。
「実戦テストと行くか」
呟き、≪魔素≫を棒を伝い流す。棒全体を≪魔素≫が伝い、淡く発光しだすそれを振りかぶり、
「っ!」
異形の群れの先頭の一匹の頭を砕き伏せた。
頭を割られ沈黙したそれを跳び越え、匠の姿を認めて突っ込んでくる後続に対して棒を両手で槍を扱うように構える。
頭部に角を持つ異形がその角を向けて迫っている。
匠は腰を落とし、≪魔素≫を更に棒に流し込む。と、棒に≪魔素≫の輝きで複雑な模様が浮かび上がる。
棒の先端と獣の角がぶつかる。
異形の、疾走の速度を持った突撃。それは匠が構えた棒を砕き、匠本人をも貫くかに見えた。
しかし異形は見た。棒にまとわりついた≪魔素≫が変化し、個体となり、棒の先端から刃が形成され、自らの頭部を貫いていく様を。棒を構えた匠は異形の与える衝撃にびくともしない。
異形はそれでも本能のままに匠への突進を止めず、そのまま絶命した。
棒から伸びた刃が異形を貫いた。しかし次の、更に次の異形が既に匠へと接近している。刃を抜いている時間は無く、
「なんの!」
だから匠は深々と異形に刺さった≪魔素≫製の刃を自壊させた。
ガラスを割るような澄んだ音色が響き、刃で貫かれていた異形が支えを失って横倒しに傾いていく。
次いで棒の尻に当たっていた部分から槍の穂先状に形成された≪魔素≫の刃が突き出て異形を刺し貫いた。
再度澄んだ砕音。
前後で異形が地面に倒れる音を聞きながら棒に≪魔素≫を流し込み棒の半ばから刃を形成、鍔無しの直刀となったそれで更に一匹を屠る。
そして最後の一匹、二足の巨体へと走り込む。相手は見上げるような巨体。
匠は地を蹴り、膝を足場にし、肩に至り、両手で棒の両端近くをそれぞれ握りこむ。≪魔素≫が流れ込み、刃が形成される。
先端から伸びた刃は白く光る幅二メートル、長さ七メートル程の巨刃。
一振りで異形の首が落ちた。
地面に飛び下りると刃が自壊して固まった≪魔素≫が周囲で解かれていく。それを見ながら匠は吐息を一つ吐く。顔に付いた返り血を拭っていると、森の奥から先程と同じような巨体が現れた。
匠を無視して猛然と番兵の方へと向かう。
「まだいたか!」
匠は刃を作り追う。それを振るおうとした所で炎弾が飛来した。≪魔素≫で個体と化した炎が巨体の顔にぶつかり、爆発が起こる。
「これは……」
異形の頭部は粉々に吹き飛んでいる。倒れてくる体を避けるようにして炎が飛来した先を見る。
視線の先には、
「クズハ?」
よく見知った長い銀髪の少女がいた。
クズハは匠の方へと歩いてくる。匠は表情を努めて厳しい物にして問う。
「何でここに来た? 危な――」
クズハの足元から土が槍になって匠を貫いた。
「っ……が、……な……?」
腹に来た灼熱感、それを受けてなお痛みよりもなによりもクズハに対する疑問が頭を占めた。
「……ほら」
クズハは微笑んで告げる。
「これでもう、私を置いていけませんよ?」
微笑んだまま、頬を涙が伝っていた。
……ああ、なるほど。そうか。
その涙に、クズハの行動に対する疑問を匠は解消した。
「誰……だ?」
「何を言っているんですか? 私です、クズハですよ?」
「クズハは」
≪魔素≫の刃が土の槍を半ばから切断し、土が崩れる。
「そこで泣いて……る方だ。……クズハの中に居る……お前、は……っ、だれだ?」
言葉と同時、銃撃がクズハの周囲の地面を跳ねさせる。
「?」
目を向けると門谷たちが銃口を向けていた。襲撃をかけていた異形たちは全て倒れている。
クズハはそちらを見ると舌打ち混じりに手に≪魔素≫を現した。それは腕を中心にして複雑な紋様を描く。そして常とは違う口調、声音で言う。
「邪魔をするな」
手を堀に向けると堀から水の柱が複数立ち上がる。それは宙で門谷たちに狙いを定める。
門谷たちが目を剥き動揺した。まさかクズハが彼らに攻撃するそぶりを見せるとは思わなかったし、彼ら自身が銃をクズハに向けることにも迷いがあるのだ。
しかしクズハの動きに停滞はない。水柱が門谷たちへと飛びだそうと≪魔素≫を集中させる。その間際、クズハが跳ね飛んだ。
「誰も、攻撃するな」
棒を振り抜いた匠が告げる。クズハは匠を見ると、
「…………」
周囲を見回し、村から離れるように森に向かって走り出した。
「待、て……」
言う言葉は細く、届かない。
棒を支えにして立っていると門谷がやって来た。
「坂上、大丈夫か!」
声に匠は朦朧とする意識で顔を向け、
「……かど……さ、上に、何も……言わないで、頼みま……」
それだけ告げて意識を失った。
「……何がどうなってやがる」
気を失った匠を支える門谷が困惑のままに吐き出す言葉に返事はない。
異形世界より失礼いたしました
ヤンデレ化とは……俺もビックリだ!
絵描ける人いいなー。俺も絵心があれば……
それでは俺も閉鎖都市から。
461 :
第二話『旧友の依頼に嫌でも答えるのがこの世の性である』:2009/12/27(日) 23:57:19 ID:kZP3PxIj
―――暗闇が広がる夜だった―――
アタッシュケースの音が何時もより激しい。
久々に足を早めているからだろう。
夜は物騒だし、銃も定め難い訳だし、だから経営時間に一般的に夜と言われる七時以降は入れてないというのに、お得意から、しかもそれが旧友来たとなれば、やはり行かなくてはならないだろう。
それが役目な訳であるし、長年の付き合いもある訳だし。
更に、メールでかなり懇願された。世界が終わると言っている様な文だったが、それを見ると、かなり困っているのだろうと思う。
(…ま、気軽にやってみるか。問題はそれからにしよう)
◇◆◇◆◇◆◇◆
462 :
第二話『旧友の依頼に嫌でも答えるのがこの世の性である』:2009/12/27(日) 23:58:36 ID:kZP3PxIj
「おーし、今日も気合い入れるぞー!」
甲高い女の声に、ツナギ服や作業服を身に包んだ男達の叫び声が倉庫に響く。
その中に混じっている錨のタトゥーが目立つ、白地のシャツを着た男。彼はロングコート未装着状態のハーバード。
「今日は急ぎの用事だ、お前ら。早く帰って寝るぞ!以上!全員散らばれ!」
先程の女の号令により、ハーバード含めた男一同は、突如として散って行く。
茶色のウルフヘアを掻きながら、あらかじめ言われた場所に行くと段ボールの山、山、山。
「どうしてこうなっちまったんだよ…」
そうぼやきながら、指令された段ボールの城を少しずつ崩していき、その残骸の一つを両手に担ぐ。
その段ボールに書かれた『小日向輸送業』という青色の文字と『割れ物注意』とシールが貼られている。
これから分かる通り、今回の仕事は…いわば運送業の手伝いだった。
正直面倒臭いが、仕事ならば仕方ない。
こんなの、たまにある戦闘に比べたらまだ良い方だ。
463 :
第二話『旧友の依頼に嫌でも答えるのがこの世の性である』:2009/12/27(日) 23:59:22 ID:kZP3PxIj
「…はぁ〜」
溜め息を吐きながら、荷物を規定されていた場所に降ろし、着ているYシャツの袖で汗を拭う。
しかし、ロングコートが無いと何か安心しないものだ。
一種の体の一部分か何かと化しているのだろうか。
大体、腕はあまり露出したくない理由で着ているのに、相手がうざったいから脱げと言われたからなのだが。
「しかし…こんなに何運んでんだよ」
周りを見渡すと数人でこの荷物をまるで機械の様な慣れた作業で繰り広げているところを見ると、感心してしまう事がある。
一つで2kgはある荷物。
それを何度も運ぶのは容易では無いはずだ。
それも長年の経験とチームワークから来ているのだろう、と感じた。
「手作業止まってるぞ、ハーバード」
ふと、名前を呼ばれた。
振り向くと、先程の号令をかけていた女が立っていた。
キリリと鋭く、化粧はしていないのだろうが、充分美人の部類に入るであろう顔。
後ろに一本でまとめている、紅色の髪。
胸の谷間が見える程ジッパーを開け、しかも着ているのがバイクスーツ。元々それが密着している為か、豊満な胸は勿論、細いくびれ、多くの男や女が見とれる様な長い足。
その全てが一目で分かる程であった。
464 :
第二話『旧友の依頼に嫌でも答えるのがこの世の性である』:2009/12/28(月) 00:00:08 ID:kZP3PxIj
「聞いてないぞ、綾代。メールには書いてなかったろ」
ハーバードの半ば怒りと呆れが混じった言葉を、小日向綾代(こひなた あやしろ)は適当にはいはいと流す。
ところでこの女性、小日向綾代とは誰かというと、ハーバードの旧友の一人でありながらも、閉鎖都市の企業の一つ、『小日向輸送業』の社長。
閉鎖都市でも成功している会社の一つらしく、本人のカリスマ性もあってか、既に創業で二年だというのにここまで来ている。
運ぶ物を確認せず、ただシンプルな輸送業故に、普通は運ぶのが困難な物―――例えるなら普通運ばせるのが無理な物でも、小日向輸送業なら運ぶ事が出来る、という事で、中小企業、大企業、果ては危険な集団までにも、依頼が来る物だ。
だが、その依頼主に敵対する企業やチームが、よく奇襲されたりしている為、対抗したいのだが、生憎社員達は魔法も銃も使える者はおらず、覚える気は毛頭無いので、仕方なくそこそこ腕の立つハーバードに来てもらう訳である。
しかし、ハーバード自身、手伝い等は長い付き合いで初めてだったのだが…
「ほらほら、早く運ばないと、依頼した意味が無いじゃないか。喋る暇があったら手動かせ」
「…こういうのは力仕事出来るだけじゃダメってのは、俺だって知ってんだぞ」
「人手が足りないんだよ」
「社員が百人ちょい居るのに?人手が足りない?ハァ?あれか、昔お前のお気に入りのストラップ、あの趣味悪い、黄色と紫の熊みたいな鳥の」
「趣味悪いは余計だ」
「あれ壊した事まだ根にもってんのか?それなら、そうと言ってくれ」
「さぁ、どうだろうなぁ…」
そう笑いながら遠くへ目を逸らす綾代を背に軽い舌打ちをし、また段ボールの山へ向かおうとしたハーバード。
しかし、その瞬間に
ゴォンッ!
という轟音が倉庫一体に鳴り響いた。
465 :
第二話『旧友の依頼に嫌でも答えるのがこの世の性である』:2009/12/28(月) 00:01:59 ID:noXGqT/u
その音の方向から髪を逆立たせた綾代よりも若い男が駆け寄ってきて、一礼してくれから、息を切らしながら綾代に言う。
「しゃ…ちょ…ゼェ…ゼェ…あの…その…来まし…た」
「…待て、まずは深呼吸だ」
綾代の言葉に、一度一二回深呼吸をし、ピシッとして話す。
「その…あの…治安維持部隊が…」
「なっ…嘘だろう」
「嘘じゃなきゃここに来てませんよ!」
「…厄介な事になったか…」
「え、誰そいつら」
取り残されていたハーバードが、綾代へと尋ねる。
綾代は少し唸ってから、「知らないのか?」と逆に尋ね直す。
「知らん」
「この都市の情勢とか詳しいんじゃないのか?」
「前言ったろうが。そういうデカイのは知らん」
「…流石に呆れた」
「うっせぇ」と小さく返し、鳴り止まぬ轟音の中、ハーバードはその轟音の方を見ながらまだ呆れているらしい綾代に言う。
「なぁ…それ、やった方が良い?まだ知らんけど」
「当たり前だ。ほら」
部下がいつの間にか持ってきたかは知らないが、何処からともなく上手投げで黒いアタッシュケースと黒いロングコートを顔にめがけて全力で投げた。
「危なっ!」
それを両手で顔を庇うついでに受け取ると、若干浮かび上がった冷や汗を痺れが残る手で拭う。
そして、早速黒のロングコートを身に纏い、アタッシュケースを握り直す。
何処か冷たくなっていた気がしたが、時間のせいか。
「仕事内容はメールの通りだ。後は、お前の好きにやれ」
「あいよ」
そう綾代の命令に軽く返事をすると、その足を前へと進める。
後ろから聞こえる綾代の社員への撤退命令を背に受け、耳へと送りながら、ハーバードは慣れた手つきで短銃の弾を八発、アタッシュケースを脇で挟んだまま、込め直した。
その銃弾も、アタッシュケースのグリップと同じくらいに冷たかったのもやはり時間なんだ、とハーバードは一人暗闇の下で感じていた。
466 :
◆80o7I6nDeA :2009/12/28(月) 00:05:15 ID:kZP3PxIj
投下終了です。
>>458 クズハ怖いよクズハ
匠さんどうなるのかなぁ…腹とかならまだ大丈夫だろうけど…死ぬのは嫌だよ…
おおーまたもラッシュ乙乙です
>>459 まさかの展開! やばいよこれは
クズハ退治ってことになるのか
>>466 こっちも急展開、そして綾代さんにこき使われたい
世界がだんだん見えてきたな
絵描きさんもGJです!
まとめ氏、書き手さん絵氏さん乙です!!
やたら進行していたので驚いたわw
おお、乙です。
どんどん進行していくなww
>>456 続き投下乙です!
これまでずーっと「棒」とだけ書かれてたから、どう使うのかと思ってたけど
魔素で強化できる万能武器だったのか、かっけえw
それにしてもクズハたんは怖カワイイな。
>>461 こちらも乙乙!
治安維持部隊か、閉鎖都市も徐々に設定が追加されていくねえ。
しかし一体何が入った箱なんだろうか。
続きも楽しみにしてるぜ!
こう、他の世界が盛り上がってくると、負けられねえみたいな気持ちになるのは
不純でしょうか? ねえ殿下。
夜々重えええええええ俺だああああああああ呪い殺してくれええええええええええええ
473 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/29(火) 23:47:10 ID:bmLxDqop
ややえちゃんと一緒に地獄特攻バスツアーに行きたい
この表情いいなwww
GJ!俺の嫁!
475 :
レス代行:2009/12/30(水) 00:20:10 ID:2+3zZd5S
スゲエGJ!!是非とも他キャラクターも!!
477 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/30(水) 23:55:12 ID:X9k3RwDm
いい感じに胡散臭いw
GJ乙!
でも、その後鬼に捕まって裸にされちまうんだよな……
ハァハァ
里帰り前に良い物を見せて頂いた! GJ
480 :
代行です:2009/12/31(木) 10:20:16 ID:exJVU0W1
仕事早っ!!しかもカワエエ…
規制で寂しいが来年も良作に恵まれますように
481 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/31(木) 16:52:14 ID:n27V/qPG
いwwwいwww笑www顔www
スレ住民の方々 明けましておめでとうございます
今年はどんなふうに展開していくのやら
楽しみ楽しまれるスレになりますように
\|/
―●―― / ̄\ ⊂⌒⊃
/|\ /〜〜〜\⊂⊃
⊂⌒⌒⌒⊃/人\\\
⊂⌒⌒⌒⌒⌒⊃\\\\
483 :
代行です:2010/01/01(金) 22:51:18 ID:DBqjntqt
勝手に考えた声優イメージ
キャラ少ない+合ってなかったらごめんね。
地獄世界
桐嶋祐樹…吉野裕行
大賀夜々重…豊崎愛生
殿下…くまいもとこ
侍女長…生天目仁美
千丈髪怜角…甲斐田裕子
高瀬剛中尉…平田広明
リリベル…中原麻衣
異形世界
坂上匠…福山潤
クズハ…能登麻美子
平賀…若本規夫
ズシ…浪川大輔
アンジュ…小清水亜美
次郎吉…山口勝平
閉鎖都市
神谷…大塚芳忠
ステファン…阪口大助
今空都…井上麻理奈
ハーバード…森川智之
津布樂如月…釘宮理恵
小日向綾代…田中敦子
ハカセ…青野武
まぁあくまでもイメージって事で。
二人ぐらいしかわからんかったwww
「本当に貰えちゃったんだ、すごいなあ……」
ほんのりと薄暗くなってきた地獄の空に顔を上げると、宮殿を取り囲むようにして提灯が
灯された。静寂に包まれた祭りを思わせる庭園は、穏やかながらも厳粛な雰囲気を漂わせ
ている。
夜々重のつぶやきは静かに空に消え、遠くどこかから聞こえた鹿威しの音に顔を戻した。
見回してみてもそれらしいものは見当たらなかったが、長い間その響きを受け止めてきた
のだろう枯山水は、ゆったりとした波紋を広げていた。
「ま、とにかくこれで後は帰るだけだ」
「そう思うとちょっと寂しいね」
「……かもな」
現状、俺たちにとって地獄というのはそれほど居心地の悪い場所ではない。
不気味に見えた宮殿からはこうして風情すら感じられるし、殿下や侍女長だって見てくれ
はどうあれ、今では奇妙な友情めいた気持ちまで抱いている。
それは彼らからしてみれば失礼な話かもしれないが、素直に言葉にしてみればそうとしか
言えない感情だった。
かすかに水が流れる音、間を持って再び鳴る鹿威し。
やがて魂言堂の木戸が開かれ、小脇に紙束を抱えた殿下と侍女長が出てきた。
「早く帰った方がいいんだろう? 送ってやるぞ」
「ああ、いや。なにもそこまで」
立ち上がり埃を払う俺に一瞥をくれると、殿下は空いていた手を腰にあて、呆れたような
目線を夜々重へと動かす。
「あのな、お前ら無許可なんだぞ? 地獄ってのはそんなに気軽に出たり入ったりできる
もんじゃないんだ。そもそも一体どうやって帰るつもりだったんだ?」
そういえば――と、ここに着いてから空を飛ぶことができなくなっていたことを思い出す。
入るときにくぐったゲヘナゲートも遥か上空にあったはずで、言われる通りこのままでは
帰ることができないのだ。
そんな殿下の問い掛けに、夜々重はうつむきながらもそっと目を上げる。
「それは、その……」
「オレがこう出ることも計算のうちか? 喰えん女め」
言い捨て、追い抜き際に見えた表情は、うっすらとした笑みを帯びていた。
卍 卍 卍
遠く厳かにたたずむ本殿は、果てしなく連なる提灯の明かりを浴び、美麗な輪郭を夜の闇
に際立たせている。
おそらく人の身にあっては決して望めないだろうその光景に心を奪われながらも、相変わ
らず歩幅に合わない敷石を渡っていると、足を止めた夜々重が後ろから袖を引いた。
「ねえ、来るときあんなのあったっけ?」
続く敷石の先、門の側には派手な装飾のテント小屋が立っていた。
確かにそんなものがあった記憶はなく、好奇心に歩を早めると、小屋を支えるパイプには
女の子のものらしい可愛い文字で「冥土の土産」と札が貼られていた。
「いらっしゃいませー、冥土の土産屋にようこそニャー」
「おすすめは夜魔族変身セットですニャー」
テントの奥には侍女長によく似た猫女が二人並んで立っていて、それぞれ三毛猫とブチ猫
を思わせる柄が入ったジャージの上、爛々とした瞳の中に怪しげな光を宿している。
並べられたワゴンの中にはおびただしい数のぬいぐるみや、得体の知れない不気味なアク
セサリが詰め込まれていた。
「ニャーお前ら」
と、不意に背後から俺たちを包み込むように華奢な腕が肩に回され、振り向くと侍女長の
荒いだ鼻息が頬を撫でた。
「ここへ来たのも何かの縁、客人をもてなすのが侍女の役目ニャれど、絞りとるのもまた
務め。渡る世間に鬼はニャし、されど地獄は金次第。お前ら思い出買うてけニャ……」
腹黒い台詞をストレートに放つ侍女長に一瞬たじろぐも、値札はどれも意外と良心価格で
あり、二つ三つ買って帰るのも悪くない。とはいえ、せっかくが殿下送ってくれるという
ところで時間を掛けるのもなんだし、と目をやれば、殿下はいつの間にか側の石に座って
携帯ゲームに興じていた。
「侍女隊フィギュア全6種類もコンプリート可能ニャー」
「入れたら二度と出せない侍女長貯金箱もあるニャー」
「ああ、お構いなく」
わけの分からない侍女グッズを薦めてくる二人を制しながら、夜々重はというと既に口を
半開きにしながらワゴンを漁っており、ひとつ取り出しては何事かをぶつぶつ言いながら
戻し、やがて小さなキーホルダーを俺の目の前にぶら下げた。
それはどこの観光地にでも売っていそうな安っぽいデザインで、短い紐に赤い玉がくくり
つけられているだけのものだった。
「お洒落ソウルキーホルダーだって」
「なんだよそれ……」
ちっともお洒落でない外観と名称にうっかり反応すると、二人の侍女が間髪を入れず説明
を入れてくる。
「人の魂には様々な色と形がありましてニャ、自分の魂と同じものを付けるのが、地獄で
大流行なんですニャー」
「おやおや、これはお二人とも珍しい魂色をしていらっしゃるニャ、これはちょっと高く
なるけどSクラスニャ」
ブチ侍女がそう言いながら、テントの奥から小さな箱を取り出してきた。
演技じみたやりとりを見る限り、どう考えてもうさんくさいのだが、開かれた箱を覗いて
みると、濃紺の星形キーホルダーが2つ入っていた。
「あれ、同じなんですか?」
夜々重が首をかしげながら質問をする。
「これはもう奇跡と呼んでもいいですニャ!」
「二人が強い絆で結ばれているという証拠ニャ!」
キャッチ紛いの説明に、夜々重は頬を紅くしながら口元を押さえ、輝く瞳を俺に向けた。
「私これ欲しい!」
「マジでか……」
「500円ニャ!」
「税込で510円ニャ!」
「じゃあ二つください!」
即答する夜々重、ハイタッチを決める侍女たちを前に、俺は大げさにため息をつきながら、
仕方なく財布を開いて、残り少ない金を渡す。
「別に俺が欲しい訳じゃねえんだからな」
「こいつ……ニャんだっけ、あれ」
「ツンデレニャ!」
「ちげーよ!」
ひそひそと嫌らしい目を向ける侍女たちに一言反論しつつも、自分を鑑みるになるほど、
ツンデレというのはこうした過程をもって生成されていくのか、と納得してみた。
「おそろいだね」
「あ、ああ。しょうがねえな」
手渡されたキーホルダーに気恥しさを感じつつも、そうしたやりとりを続けながら過ぎて
いく時間は不思議と心地よいもので、侍女コンビニのニヤニヤした笑顔にすら、修学旅行
最終日の土産屋を思わせる哀愁を感じる。
「まいどニャー」
「またくるニャー」
卍 卍 卍
笑顔を絶やさずにキーホルダーをくるくると回す夜々重を連れ、殿下のところまで戻った
とき、また遠くで鹿威しの音が響いた。
足を止めてもう一度辺りを見回してみたが、やはり見つからない。何気なく殿下にそれを
訪ねてみると、携帯ゲーム機をぱたんと閉じて怪訝な顔を俺に向ける。
「鹿威し? そんなもんここにはないぞ」
「いや、でも確かに。なあ夜々重も聞こえてただろ?」
「え?」
「鹿威しだよ、ししおどし」
「あ、もしかして……」
そこまで言いかけた夜々重は突然思い立ったように巾着袋を漁ると、あの木製の携帯電話
を取り出して、何やら操作をしはじめた。
「これ着信音なの」
「お前、それ大分前から鳴ってたぞ」
何故そんな環境音に近いものを着信音にしていたのかは分からないが、そういうとぼけた
ところがこいつらしくもあるのだろうと口元を緩めると、夜々重が青ざめた顔を上げた。
「ハナちゃんからだ、すごいメールの数……」
その震えた声は穏やかだった俺の心に微かなヒビを穿ち、たったひとつ残されていた不安
要素をじわじわと滲ませはじめた。
即ち、蘇るべき俺の身体に何か起きたのでは――と。
いやいや、まさかそんな。きっとハナちゃんもこっちが心配になってメールを入れてきた
のだろう、と無理にかぶりを振ってみたが、ぽつりと続けられた言葉は油断しきっていた
俺を、再びどん底へと叩き落とすものだった。
「死体、バレちゃったって……大騒ぎになってるみたい」
つづく
489 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/02(土) 23:50:07 ID:MSA4BgRt
という訳で新年一発目を投下終了。
なにやら規制が激しいようですが、
正月に地獄の話を投下するのもどうかと思います。
ややえちゃんとお揃いとか羨ましすぎるw
そしてついにハナちゃん登場か
楽しみだw
491 :
代行です:2010/01/03(日) 01:29:31 ID:kuVUENqG
>>489乙です!! 再び舞台は地上へ!?
…早く規制解けないかな…
投下乙!
身体のことなんて俺も忘れてたぜwww
おそろい? まったくリア充ってやつはこれだから……
さて、ししおどしの着信音でも探してくるか
>>487 誤)侍女コンビニの
正)侍女コンビの
誤字訂正とかいつもしないんだけど、これはさすがに。
どうしてこうなった……
おお! 乙です!
そしてついに俺の嫁であるところのハナちゃん登場か!
495 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/03(日) 21:02:55 ID:QjevR5rm
※現在このスレでは3つのシェアードワールドが展開されています。
この世界、俺が盛り上げてやろうじゃん!てな方はお気軽にご参加を!
○ここまでのまとめ
>>451-452 ○今週の更新
・閉鎖都市
>>461 「ハーバード」 第2話
・異形世界
>>456 「白狐と青年」 第3話
・地獄世界
>>485 「ややえちゃんはお化けだぞ!」 第11話
・イラスト
>>471 「地獄:大賀美夜々重」
>>476 「地獄:リリベルちゃん」
今週は各ワールドのSSが1作品づつ、またイラストも2作品追加!
異形世界は、クズハちゃんまさかの豹変ぶりに次回も目が離せないところ!
広がりを見せる閉鎖都市(どういう表現だ)ではどんな戦いが繰り広げられるのか!
そして地獄世界はややえちゃんとリリベルちゃんのイラスト投下に加え、
ついに謎の人物ハナちゃんが登場の予感!?
創り手諸氏にエールを込めて、今年も一年良い年でありますように!
496 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/03(日) 21:12:21 ID:Z6snV0SX
まとめ乙
498 :
代理:2010/01/05(火) 00:11:30 ID:P4Dj/crm
またもやGJです!!いい挿し絵付くと萌えるなあ…
早く規制解除されて賑わいが戻りますように
499 :
代理(別の人):2010/01/05(火) 00:12:45 ID:P4Dj/crm
イラスト乙です!
書き手さんたち今年も楽しみにしています
500 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/05(火) 15:08:36 ID:LNs0adEc
規制ひどい
501 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/05(火) 15:19:24 ID:LNs0adEc
書けた!!
皆さんあけおめです!!
新作待ってます!!
503 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/05(火) 20:57:41 ID:P4Dj/crm
俺がいつでも傍に置いてあげるぜ
フヒヒ
504 :
代理:2010/01/05(火) 21:41:10 ID:P4Dj/crm
相変わらずGJです!! どのイラストもSSのイメージ通りで驚き
>>497 クールな目線と脇のラインがたまらん
そして角が可愛すぎるwww
>>502 台詞とあわせて胸がきゅんてなった!
両方ともGJだぜ!!
●
目が覚めると番兵の兵舎内にある救護室のベッドの上だった。
しばし白い天井を見つめていた匠はのそりと起きあがり――眉根を寄せた。
「……痛い」
「そりゃそうだろう。風穴が空いていたんだからな」
匠が腹に巻かれた包帯をさすっていると部屋の入り口から声がかけられた。
「門谷隊長」
名を呼ばれた門谷はおう、と答えてベッド脇に置かれていたパイプ椅子にどっかりと座った。どうも自分が目覚めるまでそこで様子を見ていてくれたようだ。
「あれから一晩経った。本当ならもっと都会の、そうでなくてもこの自治街の病院にでも放りこんでおきたいんだがな」
腕を組みながら言う門谷。彼が言葉通りに匠を病院に放り込まなかった理由は簡単だった。病院に入ることになれば壁の外で起こった出来事が露見してしまう可能性が格段に増えるのだ。
異形が自治街に攻めて来ているタイミングで人と共に住まうことを許可されていた異形が人を攻撃して重傷を負わせた。このことがばれ、上に報告でもされたらクズハは間違いなく討伐の対象になる。
それらの事態を予想し、意識を失う寸前に頼み込んだことを果たしてくれている門谷に匠は深く頭を下げた。
「すみません」
「かまわん」
門谷はそう言うがクズハの事を黙っているのは自治組織に対する背信と取られてもおかしくない行動だ。この自治街の人間が辺境ゆえか異形に対してある程度おおらかなのを差し引いても危険な橋を渡っていることに違いは無い。
「クズハの事、どこまで広がってますか?」
それが分かっていてもここはこの人に甘えるしかない。そう思いながら匠は訊いた。
「緘口令を敷いた。外部に漏れることは無いだろうが戦いに参加した番兵たちは皆あの光景を見たと断言していい。
自治街内部だが、道場の師範夫妻、他にも幾名かがお前を追うように走っていくクズハちゃんを見たとのことだがそれ以降の行方は知らないらしい。こっちの奴らはお前がこんなことになっているなどとは夢にも思ってないだろうな」
匠はとりあえずクズハの事がばれてないことにほっと息をつきつつ、
「そうですか……クズハはどこに?」
訊ねた。答えはやや重い声でなされる。
「お前があの子を拾ってきた場所、信太の森の方に行っちまったよ」
「森か……っと」
クズハの行方を聞いた匠はベッドから出ると部屋の中に用意されていた上着を着た。そして壁際に立てかけてあった全長2メートル程の金属製の棒を掴むと、
「よし」
救護室から出ようと足を進めた。
それを見咎めた門谷の慌てたような声が救護室に響く。
「おい!? お前なぁ、一応平賀の爺さん手製の薬で無理やり傷口を塞いじゃあいるがとても外出できるような状態じゃねえだろうが!」
アレでいて平賀の作る薬は異常によく効く。元来その方向で≪魔素≫を調べていたと本人が以前言っていたのを匠は昔聞いたことがあった。
両親を第一次討伐戦で失った匠は平賀に育てられたために彼の扱う薬を多くその目で見てきている。
その薬の効果も既に身をもっていくつか体験しており、今回使われたのは≪魔素≫と何か得体のしれない薬液が損傷した体の部品を代行するタイプの薬でも使っているのだろうと当たりをつける。
とっさに急所は外したとはいえ、匠が負った、通常ならば生と死の狭間をギリギリアウト気味にさ迷うことになるであろう貫通創がたったの一晩で日常生活を送れるほどにまで緩和されているのは驚嘆に値することであった。
そしてその薬を使ったのならば今の自分の状態でも戦うことができると匠は経験から判断していた。だから、言う。
「クズハを迎えに行く」
「……それだがな、坂上」
突然門谷がいやに静かに話しだした。匠は部屋の入り口を前に立ち止まり、門谷に背を向けたまま話を聞く。
「俺にはあの場でクズハちゃんが俺たちに敵対したようにしか見えなかった。あのでかい異形を撃った魔法もお前を狙うのに邪魔だからそれをどかすために撃った。と思える」
その言葉は武装隊の隊長としての冷厳な言葉だ。
「あの子は、クズハちゃんはどうしてお前を刺した? どうして異形の出現地点であり、封印されている信太の森へと去った? そして、最近信太の森に異形が多いのはこのことと関係があるのか?」
立て続けの質問だ。それらの疑問――疑念は匠も抱いているものであり、しかしそれらの答えは、
「わからない……」
けど、
「泣いていた」
「なに?」
門谷の聞き返す声。匠は言葉を選ぶように少し考え、言う。
「俺を刺して、それでクズハは表情だけ笑いながら、泣いていたんだ。あの表情、クズハの中に何かが居たように俺には見えた。だから迎えに、助けに行く」
「なんでクズハちゃんの中に何か居るという仮説が出てきた? その根拠は?」
「確証がないので言えない」
「それなら」
尚も言い募ろうとする門谷に匠は笑みで問うた。
「門谷隊長、クズハはなにもしていない。だからそんなことを気にする必要は無い。そうだろ?」
確かに、緘口令が敷かれている今、実際に被害を受けた匠が何もなかったと言うのならば少なくとも自治街の中では何もなかったと言うことができなくもなかった。
実際に今現在自治街では匠がこうして伏せっている事実も存在してはいないのだ。
門谷はむ、と唸り、
「じゃあ既に一晩クズハちゃんが帰ってこないことはどう説明すればいいんだ?」
辻褄合わせの相談を持ちかけてきた。
それはクズハが何もしていないということを肯定してくれていることであり、
折れてくれたか。
ありがたい。そう感じながら回答する。若干自信無さげに、
「反抗期だから……とか?」
「反抗期か」
門谷はそれを聞いて苦笑いで俯き、ため息をつく。顔を上げるとやはり苦笑いで言う。
「壁の外で全て起こったのが救いだったな。アレを見たのは俺の部下共だけ。そして奴らは隊長である俺と恩人であるお前の頼みを無下にしないだろうよ。
何も無かったことにしたいのならそれもできるんじゃねえか? お前もクズハちゃんも無事に戻ってきて俺たちに納得のいく説明をするんならな」
「世話をかけます」
得られる限りで最高の答えを聞いて匠は深く頭を下げた。
「かまわん」
鼻息交じりに答える門谷に無言で背を向け、告げる。
「じゃあ、ちょっと家出娘を連れ戻してくる」
「俺も行くぜ?」
「いや、門谷隊長は自治街から決して出ないで下さい」
「しかし坂上、お前の傷、一応塞がってはいるがまだまだ完治には程遠い。あの森に入っていくのは危険だ」
門谷の言うことはもっともだ。しかし、
「番兵が、武装隊の隊長が動けば事が公になります。それに、この異形量産期に隊長が隊を離れるわけにもいかんでしょう」
むう、と口惜しげに門谷が唸る声が背から聞こえる。匠は口元を緩めながら歩き出す。
「坂上」
呼び声に振り向いた匠に門谷は問う。
「お前は何を知っている?」
匠はその質問に困ったような笑みを浮かべて答えた。
「……何も知らないんですよ、知りたいことは、何も」
●
クズハは森の中で木にもたれかかり、投げやりに心を閉ざしていた。
思うのは先程自分が匠にやったことだ。
匠さんを刺した。自分が。
土の槍が匠を貫いた光景がまぶたに浮かぶ。その時の匠の顔はとても意外そうなものを見るような表情だった。
その後番兵たちに魔法の矛先を向けたときに自分に向けられた匠の表情は怒っていたようで、
傍に置いてもらう為に得た力でもう二度と傍に居られないようなことをしてしまった。
そうさせたのは頭に響いたクズハ自身にどこか似た声だ。今もクズハの体の自由を縛っているそれは、あの時クズハの体を彼女の意思に関係なく動かしていた。
しかし、聞こえた声は他の誰かの声である一方で、
……私が心のどこかで望んでいたことなのかもしれない。
もう私を置いてどこにも行けないようにする。それはいつか捨てられてしまうのではないかという恐怖と共にあったクズハがどこかで望んでいたのかもしれないことだった。
なんてあさましいことでしょう……。
そう考え、もしかしたら殺してしまったかもしれない匠の事を思い、半ば自棄になって体を操作している相手に早く自分を食べるなり殺すなりして欲しいと願っていると、心の奥底を浚うようにあの声が話しかけてきた。
自分の声ではない。けどどこか似ているような気がする声は言う。
――我には分かるぞ? お前の苦しみが。我は感じるぞ、その悲しみを。
じゃあ、どうして……。
あんなことをさせたんですか?
心の中で発された問いは無視され、声の意識が外に向いた気配がした。二三言何かを話しているらしい気配があり、突然笑い声が聞こえた。
――フ、クク、やりすぎなどではない、あの若造にはアレくらいで良いのだ。しぶとく生きておるだろう?
どうやら誰かと喋っているようだが心を閉ざしているクズハには外部からの情報は入らない。
――フン、分かっておるわ。だがもし、殺そうとするのであれば……。
しかし、話の内容が匠と関係ありそうだと思うなり、意識が外へと向けられた。自分とどこか似た声の主は一人の男と喋っているようで、
「見込み違いだったのならばそれもまた仕方ないか」
男のどこか懐かしい気がする声が聞こえ、
「む、しばし寝ておるがいいわ」
顔を向けたクズハに気付いた声の主の、肉声として聞こえた声がクズハの意識を絶った。
新年初なのになんか暗いお話でしたとさ!
なんと、クズハの絵を描いてくださる方がいらっしゃるとは……っ!
テンション上がります!
絵心ほしーなーほしーなー……
510 :
レス代行:2010/01/07(木) 23:33:44 ID:2Aq0bLHx
投下乙です!!そろそろ各世界観のダイジェスト紹介文が欲しいな。
投下乙!
声っていうのは、クズハたん異形ゆえの葛藤なのか
それともまた別の異形なのか……
俺には悲しい展開しか思い浮かばないけど、
匠ならきっとなんとかしてくれるはず!
次回も楽しみにしてます!
512 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/08(金) 17:32:41 ID:/OGspCH9
gj!!
イラストも乙!!
無精ひげをさすりながら考える。なぜ俺はこうも厄介ごとに巻き込まれるのか、と。
どれだけ考えを巡らせたところで、いつも終着点はそういう星のもとに生まれたのだ
という結論にたどり着くほかなかった。
汚らしいソファに寝かせた少女はクマのぬいぐるみを抱えて穏やかな寝息を立て
ていた。まだ年端も行かない少女でおそらくステファンよりわずかに若いくらいだろう。
長い茶髪をツインテールにまとめ、廃民街の住人とは思えないほど上品な洋服に
身をつつんでいる。顔立ちは生意気な小娘のそれで、子ども嫌いな俺がとくに苦手と
している口やかましいタイプに分別できることが予想できた。
「ステファン、確認しておくがお前のこれじゃないだろうな」
俺は小指を立てて見せた。
「冗談じゃないよ。オレは年下には興味ないんだ。そういう神谷さんこそ怪しいものだ
と思うけどね」
「チャールストンの大根芝居にも劣るジョークだ」
どうだかねと言いたげにステファンは肩を持ち上げた。こいつにはいつか目にものを
見せてやる必要がある。
俺は眠れる少女の頬を軽く叩いた。
「おい起きろ、眠り姫。ここはビジネスホテルじゃないんだ。モーニングコールには
追加料金を払ってもらうぞ」
ぴちぴち叩いていると少女は眠たそうに目をこすりながら体を起こした。
しばし目をパチパチさせて周囲を見渡し、見知らぬ場所で見知らぬ男を前にしている
ことに気付いてようやく目が覚めたようだ。
「え、ど、どこここ? どど、どうなってるの?」
「どうかなってるのはお前の頭だ。とりあえず落ち着け」
ステファンから水がなみなみ注がれたコップを受け取り、少女に差し出した。それを
ゴクゴクと勢いよく飲み干し、深呼吸をしてから少女は落ち着きを取り戻した。
「ここはどこなの? あなたはだれ?」
「ダメだ、まだ混乱してる。ステファン、もう一杯たの――」
「ちがうわよ! わたしはもう大丈夫! 目が覚めたらこんな汚くてせまい場所にいて
無精ひげ生やした男がいるものだから怪しむのも当然でしょ!」
クマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめてヒステリックに叫び声をあげた。
やはり俺の予想は正しかった。吊り目がちで強気な顔立ちの女はかならず甲高い
罵声を浴びせかけてくる。俺の経験則は間違っていなかったことが分かり、うんざり
した心地で話しかけた。
「分かったからボリュームを落とせ。あんまり騒ぐと強制的にミュートにするぞ」
「大の男がかよわい女の子を力ずくで言うとおりにさせようっていうのね! 変態だわ!
このロリコン!」
「やっぱり神谷さんはロリコンだったか……」
ガキどもをまとめて吹き飛ばしたい気持ちに駆られたが大人の忍耐強さをもって
我慢した。大人が子ども相手に感情的になるなどみっともないにも程がある。ましてや
俺は探偵だ。この廃民街で探偵業を営むほどの男がまだ尻の青い小娘ごときをやり
こめなくては名が廃るというものだ。
すっかり警戒心を露にした小娘に、俺はしゃがみこみ、目線の高さをあわせて言い
聞かせた。
「いいか? 俺はここで探偵をやっている神谷だ」
「オレはステファンっていうんだ」
「お前はコーヒーでも淹れておけ」
余計な口は挟ませない。
「いいか? 俺たちが今日も今日とてクソったれな一日を始めようとしたらそこの裏口
を出たところに倒れていたのがお前さんだ」
「それで連れ込んでいやらしいことを――」
「そんなことしてないだろう、いま、現に。放っておこうかとも思ったが寝覚めが悪くなる
のも願い下げだ。心優しい俺に感謝するんだな」
家出少女が野宿して無事に帰れるような街ではない。たいていはろくでもない連中に
つかまって取り返しのつかない事態になるのがオチで、耳に入ってくる話だけでも枚挙
にいとまがない。朝まで何事もなくグースカ寝ていられたことはまず奇跡に近かった。
そしてろくでもない世界に生きている中ではまともな俺だからこそ助けてやったのだ
ということをしっかり憶えていてもらいたいものだ。
だが少女は言うに事欠いて、
「恩着せがましい男の人ってきらーい」
「あはは、オレも同感だな」
いいかげん話を切り上げて外に放り出そうかと思った。ついでにステファンはバリカン
の練習台にすべきか本格的に検討したいところである。
俺はなかば少女の説得をあきらめ、安物のタバコをくわえて火を点けた。思いきり
紫煙を吸い込み、いっきに吐き出す。少女が嫌そうな顔をしたが知ったことではない。
この安物の煙と味の薄いコーヒーだけが俺を慰めてくれる。閉鎖された都市の中でも
いっとう汚らしいこの街で、くだらない毎日をやり過ごすためのなくてはならない嗜好品だ。
嫌なことも汚いことも、体の隅々までニコチンが綺麗さっぱり洗浄してくれるのだ。
俺が煙を吐き捨てているかたわら、ステファンは年の近さもあってか、少女と通常の
会話をくり広げていた。やりきれない思いはすべて煙で押し流す。
「オレは助手みたいなことをしてるんだ。住み込みでね。給料はたいして出ないけど。
ところで君の名前は?」
俺が聞きたかったことをいともたやすく聞き出す姿に釈然としないものの、人には向き
不向きというものがある。今回にかぎってはステファンに花を持たせておくとしよう。
「わたしはヒカリ。ヒカリ・E・ケールズ」
「え、ケールズって、まさか……」
今朝、ニュースで流れていた殺人事件の被害者とおなじ姓だ。
ステファンが俺の顔をうかがうように横目で見てくる。あいにく俺の顔はマコールの
ジュディとは似ても似つかないものだ。あんまりちらちらと男の目線をもらっても
うれしくない。俺は短くなったタバコを灰皿にこすりつけた。
「ヒカリ、ひとつだけ言っておく」
「呼び捨てにしないでよ!」
「俺は厄介ごとに首をつっこむつもりはない。巻き込まれるのもごめんだ。お前は
いますぐ自警団に連絡して保護してもらえ。それがベストでそれ以外は考えるな」
嫌な予感が頭の中をシェイクする。
俺の尻を叩きにやってくる死神の足音が聞こえるようだ。
被害者の遺族であるヒカリがあんな路地裏に寝転がっているはずがないのだ。犯人
に出くわしていたらいっしょに殺されていただろうし、目にしていないのだとしたら自分
から自警団に足を運んでいることだろう。遺族なのだからニュースよりもはやく知らせが
来て当然で、この汚らしい事務所にいることがそもそもおかしいのだ。
「あなた、探偵なら犯人を……」
さきほどまでの強気な表情が鳴りをひそめ、ヒカリの幼い顔に不釣り合いな感情が
浮かんだ。それは悲しみや恐れを超えてあふれだす、止めどない憎しみに他ならなかった。
「パパを殺した犯人を見つけ出して――殺して!」
目の端からひと筋の涙を流し、少女は俺を睨み付けた。おそらくは覚えたての憎悪
の気持ちを爆発させて、彼女は俺に依頼をつきつけたのだった。
ここは探偵事務所。ワケありな依頼人が面倒な厄介ごとを持ち込んできたり、あるいは
悩みを抱えた羊が迷い込むなんでも屋だ。
今日も今日とて、俺の人生はまるでそうあるのが正しいかのように歯車が狂っていく。
上等な葉巻の煙が恋しくなるような朝だった。
続きます
レイアウトというか、すこしまとめてみたのだけれどどうでしょう?
見やすければそのままに、見づらければ元に戻したいと思いますが…
投下乙です!
相変わらずセリフ回しが粋だなあw
思ったよりも大事件に巻き込まれそうで楽しみ。
あとレイアウトってなんだろう、素でわからなかったw
改行とかのことなら、詰まってるようにもみえるけど
非常にスラスラと読めましたよ。
見当違いなことだったらごめん。
521 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/09(土) 14:53:57 ID:Nw+kTb2q
投下乙です!!
美少女の依頼人、まさに探偵モノの王道ですな・・次回が楽しみ。
乙です
ハードボイルドな雰囲気醸し出されてていいね
改行とかのことなら問題ないと思うよー
>>520-522 感想ありです。
それです、改行です。
ではひとまずこの形でやってみようと思います。
感想ありがとうございました。
蘆屋の研究所は要塞にも似て、近代的ながら無愛想な外観だ。角張った中央棟を、荒野
から空へと突き出していた。かつて長岡京と呼ばれたあたりにある。
アンジュは南側の入り口付近で、警備にあたっている。
自治都市武装隊に籍を置きながら、警備員として雇われたものの、蘆屋は中央棟にいて
姿を見ることさえアンジュはできないでいた。
砂混じりの風が、日に焼けた赤茶の髪をなでる。退屈な見張りの毎日に、アンジュは
いらだつばかりだ。
一本道の道路を、見慣れない車が走ってきた。定期的に来る、入荷のトラックではない。
なんだろう、とアンジュは目を細めて車を確認しようとした。
車は大きくなる。アンジュのそばまで来るととまった。
骨組みが露出した、造りかけみたいな車で、上部にひさしのようなパネルがついている。
まもなく運転席のドアが開き、中から老人が出てきた。
片田舎の長老といったふうの、小柄な男だ。
「やあ、ご苦労じゃの」
気さくに話しかける老いた男に、アンジュはけげんそうな顔を向ける。かまわず、老人は
口を動かした。
「こいつは太陽光と魔素で走るソーラー・魔素・ハイブリッドカー、『ソラマーソーカー』じゃ!」
自慢して、老人はふしくれだった手で車体をなでた。
首をかしげながらも、研究所の関係者かとも思い、アンジュは相手を客として応対する
ことにした。
「ここに用ですか?」
「いい野菜がとれたんで、蘆屋に持ってきてやったんじゃ」
「はあ?」
車の後部座席から、老人が荷物を引き寄せる。布の袋には、大根や泥の付いた長葱などが
入っていた。
「じいさん、何勘違いしてるか知らないけどね」
日頃のうっぷんもあり、アンジュの声は荒くなる。
そこへ、何事かと年配の警備員がやって来た。老人を見るなり、顔色を変えて警備員は
頭を低くする。
「これは、うちの新入りが失礼しました!」
「いや、全然かまわんよ」
少ない歯を見せ、老人は愉快そうにしわを増やした。
「蘆屋にこいつを持ってってやろうと思ってのう」
「では、届けておきます」
「なんの、わしが行くわい」
「しかし、今、武装隊の幹部のかたと会議中とのことで」
年配の警備員がへり下るのを、アンジュは不思議に思う。所員のOBか何かだろうか、
などとアンジュは推測をめぐらした。
「結構結構。ほれ、姉ちゃん、一緒に行こう」
「へ?」
「ボッチだと思われたくないんでの。いいじゃろ」
老人に招かれとまどうも、アンジュはついていくことにした。まさか蘆屋には会えない
だろうが、もし少しでも近付ければそれも成果だ。
研究所内のすれ違う所員は、老人を見ると深く頭を下げる。
見た目より偉い人なんだなあ、とアンジュは考えを改めた。だが、野菜の入った袋を手
にさげる老人は、やはりどこにでもいる気のいい老人にしか見えなかった。
二人は通路を進み、いくつもゲートをくぐり、中央棟のエレベーターに行きついた。ここ
まで到達したのは、アンジュは初めてだ。
中央棟のエレベーターは大きな円柱で、鈍く銀に光っている。エレベーター前の警備員
は、やはり礼をした。
「通してもらうぞ」
「そちらは?」
警備員は、アンジュにやや敵意のある目線を向ける。
「そちらはもないじゃろ、あんたらの身内じゃよ。さっきナンパしたんじゃ」
おい、と突っ込みたくなるのを、アンジュはこらえる。
慣れたようすで、老人は数字の付いたパネルを操作する。
エレベーターが降りてくると、ブザーが鳴った。入り口が開き、内部へいざなう。老人は
アンジュをうながした。アンジュが先に入り、あとから老人が入る。
エレベーターは上昇していった。
「あんたは、いったい……」
アンジュが疑うような目をすると、老人は静かに笑んだ。
エレベーターが加速する。やがてエレベーターは最上階で止まり、またブザーが鳴り
響いた。
アンジュと老人はエレベーターを出る。黒い床は二人を映すほどなめらかだ。壁は一面
ガラス張りで、遠くの山々が一望できる。
大災害以降、日本は中世に戻ってしまったかのようだが、ここは別世界だといわんばかり
に未来的だ。
老人は勝手知ったる、というふうで歩いた。扉の前に老人が立つと、男の声がきこえ
てきた。
『失礼。今、来客中なのだが』
扉の向こうから、通信機でしゃべっているらしい。老人は軽くうなずいた。
「知っとるよ。かまわんて。入れておくれ」
『そちらの連れから強い金属反応がある。武器は置いていただきたい』
老人がアンジュの顔を見上げる。アンジュは皮のツナギに包んだ体を曲げ、足首に
仕込んだナイフを取った。
老人が台を枝のような指でさす。アンジュは小型ナイフを円筒の台に置いた。
厚い扉が三つに割れて、静かにスライドしていく。
広い部屋がアンジュの目に入った。ここもほぼ全面ガラス張りで、明るい。
部屋に入るアンジュは、妙な違和感をおぼえた。魔素が抜けていくような感覚だ。
部屋の真ん中のテーブルをはさんで、男が二人いた。
一人は三十歳程度に見える。薄いフレームの眼鏡をかけ、黒いスーツに身を包み、白い
髪をして、やせて長身だ。老人を迎えるように、男は立っていた。
もう一人は歴戦の勇士といったさまで、盛り上がった肩をして、顔にいくつか古傷を
つけている。ぶぜんとしたような態度で、皮張りのイスに座っていた。
「よお、蘆屋の」
老人は立っている黒スーツの男に歩み寄る。
(あれが蘆屋……?)
蘆屋は、一次掃討作戦以前から現役の研究者だったはずだ。それなりの年齢のはずだが、
アンジュにはそうは見えなかった。髪は白いものの、せいぜい三十歳前半ほどに見える。
だが、蘆屋はその魔素で若さを保っているのだった。
「平賀博士、出迎えもせず失礼した」
蘆屋が特に感情を込めず、老人にわびる。
(平賀博士……?)
「げっ、平賀って、平賀?」
驚きのあまり、アンジュは飛び上がった。平賀は蘆屋に並ぶ、五系統の一を確立した
大発明家だ。
「そのかたは?」
蘆屋はアンジュを見て、たずねる。
「みんなひどいのう。ここで働いとるんじゃぞ。わしの彼女じゃ」
「そうか。大所帯なもので、恥ずかしい」
「服部君も、久しぶりじゃな」
平賀は座った男にもあいさつした。野獣を思わせるような男は、平賀に会釈する。
服部という名を、アンジュはきいたことがある。武装隊の幹部だ。魔法もできて武芸
百般と言われ、百人隊を十個率いる大隊長だ。
アンジュは蘆屋を見つめる。
(殺せるか……?)
この部屋にいると、魔素を集中できないらしい。腰に魔素刀があるが、使えないだろう。
(武器もない。けど、殴って締め上げれば、いけるかも……)
蘆屋も魔素を使えないなら、都合がいい。蘆屋は長身で目つきは鋭いが、アンジュの見る
ところ戦士ではないようだ。服部は止めるだろうが、ごく短い時間ですませればできる、
とアンジュには思えた。
「で、ご用件は?」
蘆屋は明らかに不愉快そうに、平賀にきく。
「うん、わしんとこでいいのが取れたんでな、おすそ分けじゃ」
「心づかい、痛み入る。それだけかな」
「うん。二人とも、何といっても食いもんじゃよ。これがなきゃあ、魔法使いじゃと偉ぶっ
てもどうにもならんからのう」
「ご教授、感謝する」
蘆屋は手を少しあげた。部屋のすみから、コーヒーカップが二つ浮かび、宙をゆっくり
と飛んでくる。
テーブルのポットには、いまや高級品のコーヒーが入っている。
カップは小さな音を立て、テーブルに置かれた。
「飲んでいかれるといい」
蘆屋が勧めると同時に、アンジュは絶望に打ちのめされる。この部屋では、蘆屋だけが
魔素を使えるのだ。
(これじゃ、勝てるわけない……)
蘆屋は殺気に気づいて、わざとカップを浮かせてみせたのか、とアンジュは戦慄し、額
に汗をにじませる。蘆屋がアンジュを殺すのは簡単なはずだ。
「んにゃ、お構いなく。もう帰るよ」
平賀は首を振ると、歩きだす。
「では。送りもせずすまない」
「いやいや。じゃあの。今度またの」
「そのときはよろしく」
アンジュも平賀のすぐあとを歩く。複雑な思いをあとに残しつつ、アンジュは平賀に
従い、部屋を出た。ドアが閉まるとアンジュは息をつき、台に置いたナイフを取った。
「あなたが平賀博士とは知らず、失礼しました」
アンジュが頭を下げると、平賀は肩を揺らして笑う。
「悪いと思うなら、茶に付き合ってくれ。休憩室に行こう」
「はあ」
精神的な疲れを引きずり、アンジュは平賀のあとについて行った。
中央棟を離れ、所員寮近くの休憩室に二人は入った。長いテーブルがいくつか並んで、
イスは誰にも使われていない。
「貸し切りじゃ。二人きりじゃのう」
「はあ……」
テーブルの一角に平賀が座る。アンジュはサーバーから二つの紙コップに茶を入れて、
平賀の向かいに座った。
平賀は、ポケットからウサギの置物のようなものを出した。
「わしが造った『きいちゃイヤーン』じゃ」
「はあ?」
「耳のイヤーとイヤーンをかけてるんじゃ」
「えーと、何かの装置ですか」
「ふむ、きいてみよう」
平賀がウサギの背中を押す。人の声がきこえてきた。
『次の異形退治作戦は大きくなる。必要な魔素兵器だが……』
男の低い声だ。アンジュは思わず目を見張る。
「これは……」
『要望には応える。代わりに、こちらの要望はいれていただく』
蘆屋の声だ。
「これは、盗聴器?」
アンジュがきくと、平賀はうれしそうに口の端を上げる。
「魔素をほとんど感じさせないすぐれものじゃよ」
『異形はなるべく生け捕ってほしい。うちから魔法使い数人を出すから連れていってくれ』
蘆屋の要求に、服部の声は不満そうだ。
『異形はできる限り殺す。それが今度の作戦だし、そもそも武装隊はそういうもんだ』
『そのために使う魔素兵器は、誰が供給しているのか』
『今までどれだけ実験に協力してきた? 実験に犠牲者まで出しているんだぞ!』
服部の荒い声とは対照的に、蘆屋の口調は落ち着いたままだ。
『人体実験はそちらから申し出たことで、こちらから願い出たことは一度もない。引き換え
にと提示された魔素兵器は十分に納品しているはずだ』
『この前も、戦死者が出たんだ』
『本当にうちの改造異形による死か? 口封じにあなたがたが殺しているという話もきいたが』
『人体実験がばれて困るのはあんたらだろう!』
『いや、うちはいっこうに困らない。そちらの意向であろう。嫌なら結構。こちらがほしい
のは人間の実験台より、材料としての生きた異形だ』
少しの間が空いたあと、また服部の声がウサギの機械から出る。
『魔素兵器を造っているのは、あんただけではない』
『他にどこと取引する気かね。安倍は異形と共存しようというほうだろう。さっきの平賀
博士もだ。小角、玉梓は確かにすぐれた魔法技術を有している。だが我々のように汎用
魔素兵器を量産できてはいない!
うちは期間労働者まで雇って、そちらが要求する魔素兵器を供給している。もはや一大
産業だ。自治都市も経済的依存をうちに頼ることになる。我が蘆屋系魔法科学だけが、この
荒廃した世の光となれるのだよ!』
突然、盗聴が切られる。
「ありゃ、気づかれたか。壊された」
平賀は頭をなでた。
「えっ!」
「最初から気づいてて、わざとこっちに話をきかせたんかのう」
「ええっ!」
「いや、何、わざとならまあ蘆屋も怒ってないじゃろ。きいてほしかったんじゃよ、たぶん」
ひどく疲れを感じ、アンジュは肩を落とす。紙コップを手にし、さめた茶を一口飲んだ。
「わしはな、自治都市のもんと話をしててのう。全然別の件じゃが」
平賀は自治都市の幹部と話し合うなかでズシのことを偶然知り、アンジュに会いに来た
のだという。
「はじめから、私に会いにきたんですか」
「まあ、そうじゃ。いやあすまん、あんたがどんな人かわからんかったから。蘆屋に何か
する気なら、止めたほうがいいかのかなと思ってのう」
アンジュは何とも言えず、茶を見つめる。
「蘆屋も昔からああではなかったんじゃが」
「私は、どうしても許せない……」
「じゃがきいたじゃろ、人間を実験台にするのは、武装隊がやっていることでもあるしのう」
「じゃあ、悪いのは武装隊……」
「うーん、でもそういう武装隊を使っとるのは自治都市じゃ」
「じゃあ自治都市が……」
「しかし実際、異形は危険、武装隊は必要と」
平賀は茶を取り、のどを鳴らして一気に飲み干す。
「というわけじゃから、なかなか難しいの、こりゃ。さて、そろそろ帰るとするかな」
立ち上がり、平賀は出口に向かう。アンジュも立ち、見送ることにした。
通路を歩き、やがて最初に二人が出会った南の門にたどりつく。
「アンジュ、はやまらんことじゃよ。さっきも言ったが、これは難しいからのう」
「……はい」
「見極めることじゃ。あんたが本当に正しいと思ってすることなら、わしは止めんよ。しかし
迷いがあるなら、少し考えてみることじゃ」
平賀が乗り込むと、車はモーター音をきかせる。
アンジュは頭を下げた。車はひびの入った道を走り、遠ざかる。
黒いつぶのようになり、車が見えなくなるまでアンジュは見送った。
終わりです
(異形世界)て書き忘れてました
平賀さんお借りしました キャラ壊してたらすんません
どーしようもない矛盾があったりしたらパラレル的なものにしておいてください
ではまたー
投下乙!
蘆屋もまるっきり悪ってわけでもなさそうなんだな。
登場人物一人ひとりにドラマがありそうでワクワクするぜ!
しかし平賀のじいさんは相変わらずだw
読み手としてみる分にはまったく違和感ないw
むしろもっとやれ
投下乙でした
平賀のネーミングセンスがいいw
そのうち発明品一覧でも作ってみたら面白そうだよねw
「ハナちゃん、死体は置いてとりあえず逃げるって」
「……そうか」
可能性がないとまでは言い切れなかったものの、ほとんど来客のない我が家で本当に死体
が見つかってしまうとは、思いもよらなかった。
親が予定よりも早く帰ってきたのだろうか、ともかくハナちゃんによって保存されている
身体が自然な状態にあるとは考えづらい。静かな田舎町が大騒ぎになっているのは間違い
ないし、警察だって来ていることだろう。
目の前で起きている事象ならまだしも、俺の家で起こってしまったアクシデントにはどう
することもできず、殿下に経緯を話すと表情を曇らせて石段から飛び降りた。
「分かった、緊急事態ということでゲートはここまで呼んでやる。しかしオレは立場上、
人間界では力になれん、そこは分かってくれ」
黙って頷き、走り出した背中を追う。
まだ開ききっていない門の隙間から身を滑らすように外へ出た殿下は、いつの間にか手に
していた携帯電話をポケットへとねじ込み、暗くよどんだ空を睨みつけた。
遥か上空に青い稲妻が走る。そこに見えたのはあのゲヘナゲートだった。
流れる黒い雲を押し退けて、その雄剛な輪郭に滑らかな光を反射させながら、ゆっくりと
こちらに降りてきているのが分かる。
殿下はイラつくように踏み鳴らしていた足を止め、ちらと夜々重に目をやった。
「――もう少し話を聞きたかったんだが、まあ仕方ない。ところでさっきのハナちゃんと
やらだが、もしや葵という名ではあるまいな」
「あれ、殿下様ハナちゃんのこと知ってるんですか?」
唐突に交わされた会話は何故かハナちゃんに関するもので、俺もここまで断片的には聞か
されていたものの、未だその人物像は掴めずにいる。
そんなハナちゃんのことを、殿下は「葵」と呼んでいた。
「知ってるもなにも、蘇生を前提にした死体の処置ができるヤツなんてそうそう居るもん
じゃない。お前、葵とどういう関係だ」
「友達ですけど?」
「友達ってお前……いやそうか、こいつの死期が分かったのはそういう訳か」
俺へ向けられた視線とため息に、首を振って答える。
「葵は厳格たる閻魔裁判が見逃した汚点の一つさ、あまり関わるなとだけ忠告しておく」
間もなく頭上に迫っていたゲートが耳を裂くほどの破砕音と土煙を伴い、その巨体を大地
に食い込ませた。静まる砂埃の中で、そそり立つ水面のように揺らぐゲート。
これをくぐれば人間界に戻れる。
問題が先にあることは分かっていても、最初から考えてみれば俺たちは確実にゴールへと
近づいているのだと、そう自分を奮い立たせる。
「ま、せっかく解呪許可を出してやったんだ。ちゃんと生き返ってこいよな」
背中から聞こえた無愛想ながらも気遣いを含んだ言葉に、落ち着かない気持ちを抑えつけ、
殿下の手を握った。
「何から何まですまなかった……本当に感謝してる」
「アホか、とっとと行け」
殿下はすぐに手を振り払って、顔を隠すようにして横を向いた。こういう姿は例え閻魔
殿下といえども見た目相応の可愛らしさがあり、思わず口元が緩む。
もしもまた俺が死ぬことになったのなら、こうやってもう一度殿下や侍女長、玲角さんに
会うことがあるのかもしれない。それはそれで悪くないような気もするが、今そんなこと
を考えているようではダメなのだ。
「――じゃあな」
固めた決意を確かめ合うように夜々重と手を握り、俺たちはゲートへと飛び込んだ。
卍 卍 卍
一瞬の閃光が視界と意識を白で塗りつぶし、幾つもの叫びと悲鳴が身体を通り抜けていく。
やがて目の前に黒い澱みが生じ、大きな手のひらとなって俺たちを包み込む。
そこが自分の町の上空であることに気付くのに、さほど時間はかからなかった。
夜々重の手を引きながら、僅かな街灯を頼りに辿りついた我が家。赤色灯に照らされて
明滅する大勢の人影が見える。
それは住み慣れた自分の家だというのに、今までに見てきたどんな景色よりも非現実的な
光景だった。
塀沿いには集まった人たちに囲まれてメモをとっている警官がいて、人々はしきりに裏の
森の方を指差しながら「何かが逃げて行くのを見た」と喚き散らしている。
おそらくハナちゃんのことだろう。
一方、玄関は青いビニールシートが張り渡され、数人の救急隊員が黒い袋をのせた担架を
運び出している。あれは俺だ、疑う余地もない。
「――ねえ、炭焼き小屋ってどこかわかる? ハナちゃんそこに隠れてるって」
「森を抜けたところに、たしか」
「お願い、助けてあげて……身体のことは大丈夫、私が絶対取り戻すから」
伸ばされた冷たい手が両頬に触れた。
分かっている。夜々重は最初に思っていたようなバカじゃない。
「ああ、任せといてくれ」
「もう一人で飛べるよね?」
当たり前だとばかりに鼻をならし、頬に添えられていた手に自分の手を重ねる。
返事の代わりに返ってきた穏やかな笑みからは、今までにない頼もしさが感じられた。
夜々重も含め、これまでに出会ってきた連中がおかしなヤツらだったことは否定しない。
しかし思い返せばその誰しもが、自分の役割をきちんと果たしていたように思える。
ならば俺だって、そうあるべきなのだ。
卍 卍 卍
近所にある炭焼き小屋、といっても記憶の中のそれは単なる廃屋であって、ぼんやりと
しか場所は思い出せない。
――落ち着いて探そう。身体の事は心配ない、夜々重が必ずなんとかしてくれる。
そう何度も心の中で反芻しながら森の上をさまよっていると、ふと横を並ぶように飛んで
いるおかしなカラスに目がいった。
というのもそいつの身体は所々が腐りかけ、羽などは半分もげているし、何より俺の方を
向きながら飛んでいるのだ。
「……随分遅かったですわね」
風の音に混じって、欠けたくちばしから澄んだ声が聞こえた。
明らかに不自然なその現象は、俺の頭にひとつの仮定を導き出す。
「も、もしかして君がハナちゃんなのか」
頷き「ええ」と答えるカラス。それはあらゆる面で想像を超えていた。
ハナちゃん。可愛いけど引き篭もりの死体愛好家であり、生霊にして変態。
訳の分からない存在であることは察していたが、まさかカラスだとは――
「なんですその目は。まずはここまでの礼を言うのが紳士でなくって?」
言われてみれば確かに、俺の身体をこれまで保護してくれていたことについては感謝して
いるわけで、一通りそれらしい言葉を述べると、ハナちゃんは満足そうな顔で「よろしく
てよ」などと言う。俺はそのあまりのギャップに失笑を禁じえなかった。
しかしカラスなら逃げる必要ないじゃないかと思いつつ、無事にハナちゃんを回収できた
ことに胸を撫で下ろしていると、ハナちゃんは突然俺の顔めがけて蹴りを放ってきた。
「ちょっと、何をのんびりしているのです!」
「……は?」
ハナちゃんキックは痛みよりもその匂いの方がひどく、顔に付着したねばねばした液体を
拭っていると、何か得体のしれないウイルスでも混入してはいないかと不安が頭をよぎる。
そんな俺をよそに、ぷいと奥へ進んでいくハナちゃんを追いかけて到着した炭焼き小屋。
暗緑に苔生した板戸の前、ハナちゃんがばさばさと羽と腐臭をまき散らしながら地面へと
降り立つ。そうかと思えば力なく倒れ、そのまま動かなくなってしまった。
「お、おい……ハナちゃん、どうしたんだ! 返事をしてくれ!」
訳が分からず呆然とする中、追い討ちをかけるようにして小屋の戸が開き、中から一人の
少女が現れた。
黒いドレスに包まれた、人間というには無機質すぎる病的なまでに白い肌。
少女は蔑むような目を俺にやると、むんずとカラスを掴んで森の奥へと投げ捨てる。
モノトーンと錯覚しそうな姿の中にあって、唯一の色彩である紅い唇が静かに開かれた。
「では改めて――私、華菱葵と申します」
汚れたうさぎのぬいぐるみを片手に抱え、柔らかそうな内巻きの髪をかきあげると、月光
が青白い笑顔を照らす。
自分が今おかれている状況を忘れさせるほどの美しさと、ただならぬ雰囲気に、俺は返す
言葉を失っていた。
つづく
539 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/10(日) 20:26:50 ID:uyU7paNu
地獄シェアより、ややえちゃんはお化けだぞ!十二話目を投下終了
ハナちゃんが変な子になってしまった気がする。
540 :
代行です:2010/01/10(日) 20:56:31 ID:30CtaOa8
『アンジュと博士』『夜々重ちゃんはお化けだぞ!』
投下乙です!!
どちらも次回が待ち遠しい展開過ぎ。ハナちゃんは禿しくツボ…
これはヤバイ、ハナちゃん一体何者なんだwww
GJ!
542 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/10(日) 23:06:17 ID:lWfOHji6
※現在このスレでは3つのシェアードワールドが展開されています。
この世界、俺が盛り上げてやろうじゃん!てな方はお気軽にご参加を!
○先週のまとめ
>>495 ○今週の更新
・閉鎖都市
>>514 「廃民街の名探偵」 第2話
・異形世界
>>506 「白狐と青年」 第5話
>>525 「アンジュ」 第3話
・地獄世界
>>535 「ややえちゃんはお化けだぞ!」 第12話
・イラスト
>>497 「地獄:千丈髪玲角さん」
>>502 「異形:クズハちゃん」
まとめ乙です
テンテンツクツンテンツクツン ジャーン
「はーい、みなさんこんばんニャ」
「こんばんニャー!」
「ミケニャ!」
「ブチニャ!」
「二人あわせて」
「ミケとブチ」ビシッ
……ザワ……ザワ……
「――というわけで、今日は名前と顔だけでも覚えて帰って欲しいのニャ」
「そうニャ、名前大事ニャ」
「名前といえば、ウチらの名前は全く個性がないよニャ?」
「ミケ、ブチってこれ、そもそも名前なんかニャ……」
「お客さん、そもそもお前ら誰って顔しとるニャ」
「ゆゆしき問題ニャ」
「一大事ニャ」
「まあ、名前に限らず地獄は個性的な面々が多いからニャー」
「個性といえば、名前よりもシルエットのインパクトも大事ニャ」
「シルエット?」
「例えばほら、夜々重の頭にはでっかい鈴が付いてるニャろ?」
「そういや、リリベルとかいう悪魔もおっきなぐるぐる角があるニャ」
「鬼の玲角はながーい髪と、ちんまい角が特徴ニャ」
「ニャるほど、覚えやすいシルエットが人気の秘訣ニャ」
「それにひきかえ、うちらはコレ」
「ジャージ」
「一体ジャージのどこをどうすれば個性に結びつくニャ?」
「ネコマタ人生最大の試練ニャ」
「そこで! ウチは先日侍女長様に掛け合ってみたのニャ!」
「それは初耳ニャ」
「侍女長様、侍女長様! 話を聞いておくんなましニャ! と」
「ほうほうニャ」
「そしたら侍女長様、こう言ったのニャ」
「なんとニャ?」
「――何の話ニャ、ブチ」
「これね、一見分かりづらいけど、いきなり名前間違がっとるニャ」
「そう、ウチはミケなのニャ」
「もう付き合い長いのにニャー」
「ウチは涙ながらに訴えたニャ。侍女長様、ミケですニャ、と」
「そらそうニャ」
「そしたら侍女長様、こう言ったのニャ」
「なんとニャ?」
「――そんなもん、どっちでもええニャ」
「話す前から、ウチらの個性が否定されとるニャ」
「まったく酷い話ニャろ? しかも鼻ほじりながらニャ」
「鼻ほじりながニャ!」
「噛んどるがニャ。でも、ここでウチは思ったんニャ」
「ニャにを?」
「間違えられても仕方ない、ミケとブチは二人で一つ」
「……」
「どっちの台詞か分からなくてもいいほどに、ウチらは一心同体なんニャ!」
「……ウチはお前のような仲間がいて幸せニャ」
「これからも一緒に」
「頑張っていこうニャ!」ギュッ
「はい! ということで今後もミケとブチを」
「よろしくなのニャ!」ビシッ
テンテンツクツンテンツクツン ジャーン
……ザワ……ザワ……
なんだこれクソワロタwww
546 :
レス代行:2010/01/11(月) 20:31:26 ID:uUdhQyYs
こういう小ネタ大好きだ!! この位置のキャラこそシェアの華だと思うww
547 :
代行です:2010/01/11(月) 22:35:59 ID:Hycs1bKj
皆様見事なイラストやssにショートネタ乙です!
規制で投下出来ないのがもどかしい…
「廃民街の名探偵」「アンジュ」「ややえちゃんはお化けだぞ!」「ミケとブチ」さんおつです!
それぞれお話が進んできていて読んでて楽しいです! なんかこう、子供の頃のゴールデンタイムもアニメを見ている感覚です
>>532 平賀全然問題無しっす、使っていただいて感謝感激!
>ゴールデンタイムのアニメ
なんかすごく同意
軽くショックを受けた
552 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/13(水) 20:37:41 ID:v2NRXoFl
>>551 申し訳ない…
他意はなくて、
>>471氏の絵のイメージも強くて
ビックリしちゃっただけなんです、ごめんなさい
>>553 あ、いやいや
ぇwwうぇwwwってなっただけでwww
ハナちゃんまでいたことに、不覚にも。
555 :
ミケとブチ(地獄世界):2010/01/14(木) 23:16:39 ID:ecWYLB3L
テンテンツクツンテンツクツン ジャーン
「笑う門には――」
「福来たる!」
「侍女長様には――」
「服着せろ!」ビシッ
……ザワ……ザワ……
「はい! というわけで、やってまいりましたミケとブチニャ!」
「ニャんと今日で二度目の舞台! 頑張っていかなあかんニョですが」
「あかんニョですが?」
「不思議ニャー」
「何がニャ」
「侍女長様ニャ、あの人いっつも好き放題やってるニャろ?」
「素っ裸になったり鼻ほじったり、色々やってますニャー」
「それなのにえらい人気者ニャ、ウチはどーしてもそれが分からんのニャ」
「侍女長様の人気の秘訣、それはギャップなのニャ」
「ギャップ?」
「可愛い顔してド変態、見た目の印象と行動のギャップが侍女長様の魅力の一つニャ」
「ニャるほどニャるほど、こんな顔してあんなこと! みたいなやつニャ?」
「殿下様だって、あんなチンチクリンなのにもっそい頭いいニャろ?」
「そうニャ」
「リリベルはクルクルパーでも、メチャメチャ悲しい過去があるニャ」
「そうニャ! あー、ウチもそういうの欲しいニャー」
「そんなん適当にでっち上げたらええんニャ」
「お前……頭良いニャ!」
「それじゃあ早速、ブチをじっくり観察するところから始めるニャ!」
「任せたニャ!」
「……ふむふむニャ」
「な、なんか改めて見られると恥ずかしいニャ」
「……ほうほうニャ」
「あーもう、はよしてニャー」
「……」
「どしたニャ」
「取っ掛かりがないニャ」
「どゆことニャ!」
「そもそも見た目に特徴がないゆーことニャ」
「えーもー、そんなん言わんといてニャー」
「ほんならもっかい良く見てみるニャ」
「ほんまニャ、しゃんとしてニャー」
「……ふむふむニャ」
「や、これほんと恥ずかしいニャ」
「……ほうほうニャ」
「あーあかんて、何か目覚めそうニャ」
「……」
「どしたニャ」
「スタート地点が分からんニャ」
「なんニャそれ! スタート地点の意味が分からんニャ!」
「……でもニャ、ホンマはこうなることは分かってたんニャ」
「なんでニャよ……」
「ウチらもう長いニャろ? お前の顔なんか見たって安心感しか沸き起こらんのニャ」
「……もう、ウチはお前さえいてくれたら他には何もいらんニャ」
「これからも二人の世界で」
「生きていこうニャ!」ギュッ
「はい! ということで次回もミケとブチを」
「お楽しみにニャ!」ビシッ
テンテンツクツンテンツクツン ジャーン
……ザワ……ザワ……
侍女長みたいに人気が出たいなら、脱げばいいのさ
期待して待ってるぜ
557 :
代理:2010/01/15(金) 10:43:10 ID:QA5gJKQN
お前らホント仲いいなw
今のままでも好きなんだが、脱ぐことに反対はしないぞ!
558 :
代行です:2010/01/15(金) 13:52:20 ID:yNjsfd2O
『鬼と白梅』
◇
襤褸を纏い、寂しい河原に座り込んだ少年の姿は異教の聖人にも似ていた。まだ堂々と魔が闊歩するこの時代だが、彼が人の姿をとった鬼と気付く者はいない。
じっと濁った水面を見つめる彼の名は聡角。長じては蒼燈鬼聡角を名乗る、酒呑、茨木と並ぶ名家の鬼である。故郷である地獄を出奔して数日、まだ年若い彼は鬼の力で病や傷を癒やし、人命を救う旅を続けていた。
戦乱、飢餓、疫病。その短い生涯を苦痛のみで塗り潰され、やがて聡角の住まう地獄へとやって来る夥しい亡者たち。
坐して彼らを裁き、再び罪に満ちた現世に送り出すことだけが、鬼の使命とは若い聡角には思えなかったのだ。
恐れられ、忌み嫌われる鬼とて、姿を変え善を積めば人界に秩序を与えられるはず、そして鬼がその名を神仏と連ねる日が必ず来ると信じ、彼は生まれ育った地獄を後にしたのだった。
(…梅か…)
黙想に耽る聡角の鋭敏な嗅覚が、まだ冷たい春の風に混じる仄かな香りを感じ取る。鮮やかに綻んだ蕾を求め彼は周囲に視線を巡らせたが、低い河原からは寒梅の枝を見つけることはできなかった。
「…ずっと川上の村や。こっからは見えへん。」
不意に聡角の耳元で愛らしい声が響き、姿の見えぬ声の主を探して静かに立ち上がった聡角の前に、ひときわ濃厚な梅の香りと共に一人の少女が出現した。
「…あんたは…鬼やな?」
ふわふわと聡角の頭上に浮かぶ可憐な彼女は白梅を想わせる純白の小袖を着ていた。自らと同じ孤独な化生の気配に納得した聡角は、静かに頷いて答えを返す。
「…梅の精か。それじゃずいぶん遠い散歩だな?」
「うん。香りが届くとこまでは、こうやって飛んで来れるねん。」
春の訪れを喜ぶように、彼女はほのかな芳香を振りまきながら、くるくると聡角の周囲を舞う。
559 :
代行です:2010/01/15(金) 13:53:01 ID:yNjsfd2O
辛苦に満ちた人界にあって、唯一聡角を慰めるものは移ろう四季だった。燦々たる夏の緑、黄金に染まる秋風、峻烈に地を覆う霜…
厳しい顔を少し和ませた聡角は彼女の本体、寒風に凛と咲く健気な白梅を観ようと風上へと歩きだしたが、疾風のごとく彼の前方に舞い降りた梅の精は、瞳に非難の色を浮かべて厳しい声を上げた。
「…あんたやろっ!? 病人や怪我人直しながら都に向こてるっちゅうアホ行者は!?」
唐突な怒声に少し戸惑った聡角は、彼女の膨れっ面をまじまじと見る。野に生きる獣や虫、ざわめく木々の言葉は何より早く地を駆けるのだ。聡角の噂はその主より早くこの河原を通り過ぎたようだった。
「…いかにも、できる限りの事はしている。」
「…ちょっと前に、権左ちゅう名前の刀傷の男の怪我を治したやろ!?」
権左という名に覚えはなかったが、二日前に酷い刀傷の男を助けたのは事実だった。凶相の男ではあったが、満身創痍の彼を捨て置けず、幾つかの鬼術と薬草で瀕死の彼を救ったのだ。
「…あの男は人殺しの野盗や。この土手の上…うちが咲いてる村の人たちが、必死に戦って追い払ったのに…」
「…されど死にかけ、助けを求めていた…」
聡角は、唇を尖らせ自分を睨む精霊を見つめながら、おずおずと彼女の怒りを解く釈明を口にした。暴力に暴力で応えて平和は無い。たとえ罪人のものであっても、等しく尊い命を守ることが世を善に導く礎になることを。
訥々と聡角が説く慈悲の教えに、白梅の精はさして納得する様子もなく聞き入っていたが、やがて眉間に皺を寄せた彼女はふわりと宙を舞い、頭から聡角に突撃した。
「うあ!?」
ごちん、と音を立てて梅の精の頭突きは説法中の聡角の額に命中した。意表をつかれてたじろぐ聡角に、梅の精は甲高い怒声を浴びせかける。
560 :
代行です:2010/01/15(金) 13:53:43 ID:yNjsfd2O
「屁理屈はええねん!! 鬼の癖に仕事もせんとこんな所でいらん事してからに!!」
梅の精の剣幕に気圧された聡角は言葉を失った。確かに彼女の言うとおり、地獄で死者を裁き、道を反れた魂を厳しく浄化するのが鬼の役目だ。
「…怖い鬼が地獄で待ってなかったら、なんぼでも悪い事する奴が出るやろ!! さっさと帰って亡者シバいてこい!!」
乱暴だがもっともな彼女の意見に聡角は沈黙を続けた。果たして、ただ今日を生き抜く為だけに殺し、奪う人間たちを断罪することが天が鬼に与えた使命なのか。
(…神仏はどうお考えなのか。今や人界こそ地獄、そして地獄にこそ救済が必要ではないのか…)
そんな聡角の苦悩は、この短気な梅の精にも伝わったようだった。頭突きで崩れた結い髪を直しながら、彼女はぼそりと拗ねたように詫びる。
「…ごめん。鬼も…辛い仕事やな。悪人の相手ばっかりで、嫌われて。たまにええ事したら、うちに頭突きされて…」
「…謝ることはない。私は…余計なことをしたようだ。」
「…ううん、判ったらええねん…」
梅の精はしばらく所在無げに聡角の頭上を浮遊していたが、やがて照れたように小さな呟きを洩らした。
「…そや、うち明日は忙しいねん。一年一度の晴れ舞台や。」
「晴れ舞台?」
「…この辺で咲く梅はうちだけやから、あした村の人がみんな…わざわざ見に来るんや。ご馳走も何もない、情けないほど貧乏臭い花見やけどな…」
凍てつく朝霧のなか、雪よりも白く咲く小さな花が聡角の瞼に浮かぶ。誇りに満ちた眼差しで村の方角を見つめる梅の精の横顔を、聡角は美しいと思った。
「…日和に恵まれれば好いな…」
静かにそう答えた聡角はくるりと向きを変え、川下へと静かに歩み去る。梅の精は慌てて彼を追おうと舞い上がったが、その姿は無情な寒風にかき消され、透き通った声だけが聡角の背に追いすがった。
561 :
代行です:2010/01/15(金) 13:54:23 ID:yNjsfd2O
「…で、でも本当は今朝がいちばん綺麗に咲いてるねん!! 観てい…」
北風に散る香りと共に彼女の声は途絶えた。一度だけ振り返った聡角は、しばらく白梅の残り香を探るように佇んでいたが、やがて灰色の寂しい河原を踏みしめて歩き去った。
◇
…前日と同じように赤茶けた藪を抜け、ごろごろと鈍色の石が転がる河原に降りた聡角は、昨夜から堂々巡りを続ける自問自答を繰り返した。
(…何故、戻ったんだ…)
その答えは、何より理を重んじる聡角にしてはいささか乱暴なものだった。『神託』という鬼らしからぬ結論が、彼を昨日梅の精に出逢ったこの場所へ導いたのだ。
朗らかな彼女の声と、まだ観ぬ一輪の花。染み入る寒さに負けぬ凛とした生命力に、聡角は自らが求め続ける、万人を救済する強い力を垣間見たのだった。
しかし寒々と曇った空の下、二人が別れた場所を過ぎても、あの清楚な芳香は漂っては来なかった。
(…!?)
代わって聡角の鼻腔に、冷たい風に乗った焦げ臭い匂いが届く。不吉な予感に彼が慌てて駆け登った土手の下には、白梅咲く小さな村の最期が惨たらしく広がっていた。
(なんと…いうことだ…)
焼け落ちた何軒かの粗末な家屋からはまだ細く白煙が立ち上っている。悲惨な略奪の光景だった。怒りに満ちた鬼の眼をもってしても、生き残った住人の姿は見いだせない。
「…誰か!! 誰かいないか!!」
抵抗空しく斬られた者、為す術もなく矢に貫かれた者。そう広くない村落を巡った聡角は、一人の生存者も見つけられぬまま哀れな亡骸に掌を合わせ続けた。
そして己の無力を詫び、既に黄泉へと旅立った彼らの骸を荼毘に付そうとしながら、彼は村人たちが愛した可憐な白梅の姿を探し求める。あの愛らしい精霊の樹は無事だろうか…
562 :
代行です:2010/01/15(金) 13:55:05 ID:yNjsfd2O
(…ここ…あんたの前…)
微かな応えが聡角の前、燃え落ちた梁の下から発せられた。梁に薙ぎ倒され、焼け焦げた梅の木は、もはや一片のくすぶる炭のようにしか見えなかった。
「あ…あ…」
悲痛な呻きと共に彼女に駆け寄った聡角は、掌が灼けるのも構わず重い梁を持ち上げ、無惨に折れた彼女の幹に触れた。
「大丈夫か!? 一体…」
(…権左が…仲間と仕返しに来て…みんな、殺されてしもた…)
…彼女をこんな姿にしたのは、他ならぬ神仏を真似ようとした己の傲慢だった…抉るような後悔に震える聡角の手中で、灰となったか細い枝が音もなく崩れてゆく。
「…私は、どう…償えば良いのだ…」
(…しゃあないよ。あんたも悪気は無かったんや…)
「しかし…しかし…」
耐え切れぬ自責の念に、ただ爪で地を掻き毟る聡角の前に、白梅の精の霞む姿が横たわった。煤で汚れた青白い頬に、屈託ない昨日の笑顔はなかった。
(…何人かは逃げ延びた人も居る。その人らの為に、うちは来年も絶対に花を咲かすんや…絶対に、な…)
毅然と言い放ち、苦しい息のなかでようやく悪戯っぽい笑みを浮かべた白梅の精に手を触れ、聡角はありったけの魔力をその身体に注ごうとした。傷付いた幹と渇いた根に、再び瑞々しい生命を喚び戻そうと。
(…また、あんたは要らんことをする…これくらいで枯れるうちやない。それより…)
力なく白梅の指が差し示す先、壊れた荷車の影に、一人の亡者がブルブルと震えながら潜んでいた。
(…権左や。分け前のいざこざであっけなく仲間に殺されたんや…)
自らの死に取り乱した権左の霊は、聡角の視界から逃れようとさらに暗がりへと潜り込んだ。このまま彼の悪しき魂が闇に堕ちてしまえば、さらなる悲劇の連鎖は続いてゆくだろう。
563 :
代行です:2010/01/15(金) 13:56:30 ID:yNjsfd2O
強くなった北風が、罪なき者たちの嗚咽のように聡角の全身を刺す。鬼のなすべき務めは、やはりこの地上には存在しないのだ。
(…さ、行くんや!! あんたが助けるんは私やない。鬼は…この世で救いようのない、権左みたいな奴を救うんが仕事や…)
聡角の逡巡を断ち切るように、消えゆく精霊の叱咤が響いた。悲哀に満ちた顔を上げ、恐ろしげな鬼の姿に還る聡角を見届けた彼女は、最後にもう一度微笑んで、傷を癒やす深い眠りの底に沈んでいった。
(愛しい白梅よ、私は…私は…)
天を仰ぐ聡角に彼女が残した言葉は、彼の予見した『神託』だったかもしれない。自らの位置など知ることもできぬ無限の宇宙で、生きる者全てに与えられた始まりも終わりも判らぬ使命。
儚く、そして強い白梅の教えを噛みしめた鬼は、向かい合うべき弱き魂、地獄の業火に怯える権左の霊へと静かに歩み寄った。
ガチガチと歯を鳴らし、子供のように泣きじゃくる権左は何処でその道を誤ったのか。それを確かめ、過ちを正す慈悲の鬼こそ即ち『獄卒』なのだ。
「か、勘弁してくれ…地獄は嫌や…勘弁してくれ…」
「…立つのだ権左。私は長い贖罪の道を常にお前と並んで歩く。恐れることはない…」
朗々と響く力強い聡角の声に、権左がはじめてその憔悴した顔を上げた…
◇
…それから聡角は、数え切れぬ年月を数え切れぬ権左と歩き続けた。現世では重過ぎた荷物を共に背負い、その罪と同じだけ深い、彼らの嘆きに耳を傾けながら。
はにかみながら聡角に感謝を告げ、さらなる階梯を登ってゆく者、聡角のもとに留まり、共に宇宙の秩序を支える者。かつての罪人が光ある道を歩き始めたとき、聡角はいつも不屈の白梅をその瞼に浮かべる。
「……おい聡角、やっぱ駄目だ。こないだの修理から、昇降機構ずっと調子悪いからな…」
564 :
代行です:2010/01/15(金) 14:02:39 ID:yNjsfd2O
眉をしかめて遥か上空の専用ゲヘナ・ゲ−トを見上げた殿下は縁側からちょこんと腰を上げた。
ここは聡角の私邸。その広い庭園に集まった大勢の魔物たちは、ときおり夜空を見つめながら並べられた酒肴を楽しげに囲んでいる。
「ねぇねぇ聡角さま!! もう食べ物が無くなったニャ!!」 「『いすぱにあ』から出前をとったらどうかニャ?」
「…そうしてくれ。」
微笑んで頷いた聡角の背後で、このやたら騒がしい侍女二人組はピョンと跳んでハイタッチを決める。美しく着飾った宮廷侍女に、慣れぬ式服が少し窮屈そうな獄卒たち。
賑やかな宴会から少し離れた聡角は、まだ携帯ゲーム機のようなゲ−ト操作端末をいじくり回している殿下に答えた。
「…どうかご心配なく。こんな私用でお借し頂けただけで充分です。…ゲ−トからは私が降ろします。」
「…おかしいなあ。こないだは調子よく降ろせたんだが…そろそろ時間だよな…」
ため息をついた殿下が端末をポイと投げ捨てたとき、長い髪を結い上げた美しい獄卒が聡角に走り寄った。部下である彼女に予定通りの進行を告げた聡角は姿勢を正し、全身に満ちる魔素を虚空の一点に向けた。
「…ゲ−ト始動しました。秒読み、開始します。」
時を刻む獄卒の落ち着いた声。思えば自分はこの日の為に、『移魂の術』に磨きをかけ続けたのかも知れない…ふと、そう考えた聡角の背後から嬉しげな冷やかしが飛んだ。
「…しっかりやれよ聡角!! ゲ−トから女房落っことしたら、洒落になんねーぞおい!!」
だいぶ酔った、獄卒長紫角の声だ。生真面目な副官を茶化せる珍しい機会に紫角は有頂天のようだった。
しかしチラリと恨みっぽい眼を上司に向けた聡角の術は、生と死の門を越えた妻をしっかりと掴んでいた。名高い霊木『鬼寒梅』は今夜地上での長い役目を終え、彼女を待ち続けた鬼のもとへ嫁いで来るのだ。
565 :
代行です:2010/01/15(金) 14:04:36 ID:yNjsfd2O
「…ゲ−ト、開きます。」
聡角の裂帛の気合いと共に、黒雲の隙間から雷鳴が轟く。
「招!!」
一同が舞い降りた眩しい稲妻に目を覆った次の瞬間、丹精込めて手入れされた庭の一隅に、見事な白梅が静寂に包まれ佇んでいた。
「…おお…」
闇に映える白い花に、最も無骨な獄卒さえ息を呑む。そして墨色の幹からさらに見目麗しい花嫁がその姿を現したとき、この婚礼に集まった全員が深い感嘆の吐息を洩らす。
馥郁たる香りに包まれ、慎ましく夫の傍らに並んだ白梅の精に、かつてのおてんばな少女の面影はない。
焼け焦げ、捻れた幹から逞しく新芽を伸ばし、驚嘆する人々の目を長年楽しませ続けた彼女は、今や落ち着いた趣を備える艶やかな妖となっていた。
「…鬼寒梅と申します。山家育ちの不調法者ですが、何卒よしなに…」
「…殿下殿下、迎えの御言葉ですニャ!!」
「お、おう…」
侍女長に促された地獄の皇子が、ぎくしゃくと進み出て婚礼の開始を告げる。離れてなおひとつの魂であり続けた鬼と白梅、その二人きりの時間は、まだもう少し先のようだった。
おわり
投下乙でした!
聡角って結構謎の存在だったんだけど、昔はそんなことしてたのね……
寒さと規制は強まるばかりですが、心温まる話GJでした!
しかし殿下はどの話に出てきても自然だよなあ
クロスということを忘れるぐらいにw
そしてレス代行してくださってる方にもGJを送りたい
いつもありがとう。
馴れ初め話かw
鬼達、実はイイ奴ばっかりw
規制脱出
投下乙です。
権左も改心できたのだろうか。
いまんとこ地獄で決定的な悪役って、我蛾妃ぐらい?
リリベルちゃんは敵ではありそうだが、憎めない・・・
569 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/17(日) 23:38:12 ID:YSEOf5hL
※現在このスレでは3つのシェアードワールドが展開されています。
この世界、俺が盛り上げてやろうじゃん!てな方はお気軽にご参加を!
○先週のまとめ
>>542 ○今週の更新
・地獄世界
>>544 「ミケとブチ」 一席目
>>555 「ミケとブチ」 二席目
>>558 「鬼と白梅」
ということで今週更新は地獄のみでした!
宮廷侍女コンビ、ミケとブチが繰り広げる異色漫才には期待大!
そして聡角さん、ご結婚おめでとう!
カラスと入れ替わるようにして現れた黒尽くめの少女、ハナちゃん。
その親しみやすそうな名前とは反する異様な雰囲気に、森の木々さえも隠れるようにざわ
めきを潜めていた。
「それじゃあ……さっきのカラスは」
「アレも私」
しかしハナちゃんが一体何者なのかという素朴な疑問は、こともなげに返された不自然な
答えを前に「何がなんだか分からない娘」という白紙に戻ってしまった。
これなら正直、カラスのままであってくれた方がまだ分かりやすいようにも思える。
「そんなことより、早く私を連れて逃げていただけないかしら? もしも見つかるような
ことがあれば――」
言いながら歩み寄るも、すれ違った目線は森を走るいくつかの光に向けられていた。
町の人たちが不審者を探しているのだろう、草をかき分ける音に混ざって数人の話し声が
近づいてきている。
「――私、あの方たちを殺しますよ」
「いやいや、殺しちゃダメだよ」
「夜々重さんに止められていたので逃げてはきましたが、捕まったら面倒なんですもの」
冗談とは思えない冷笑に一瞬たじろぐも、俺は自分が何のためにここへ来たのかおぼろげ
に理解することができた。
おそらく俺はハナちゃんを助けに来たのではない。ハナちゃんによって引き起こされるで
あろう惨事を防ぐために派遣されたのではないだろうか。
俺は激しい憤りを感じながらも、白紙だったハナちゃんメモに「性格面、大いに問題あり」
と一筆書き添える。とにかくここは地獄でもなんでもない穏やかな人間界なわけで、そう
いうアグレッシブな思考はいただけないのだ。
「分かった、背中に乗ってくれ」
「もっとこう……ジェントリーに言えなくて?」
やおら不服そうな顔を向けるハナちゃん。
それで事が済むならば、ここは堪えねばなるまい。
「……お、お嬢様。背中に御乗りください」
「よろしくてよ」
後ろからそっと首に回された白い手の先で、うさぎのぬいぐるみが虚ろな目を向けている。
さすが夜々重の親友と言うべきか、その掴みどころのなさは今まででもトップクラスだ。
卍 卍 卍
「夜々重さんに任せてあるなら、身体のことは心配ありませんの」
「そうならいいんだが……」
人ひとりを乗せて飛ぶというのは思ったよりも難しいことらしく、早くハナちゃんを安全
な場所まで連れていって夜々重の元へ戻りたいのだが、前に進むように気持ちを込めても、
なかなか速度は上がらない。
逸る気持ちに加えて、背中に押し当てられる感触の濃淡は男心に大変気恥ずかしいものが
あり、必要以上に緊張していた俺を覗くように、ハナちゃんが肩ごしに顔を並べてきた。
「人が集まる場所において、幽霊はその力を充分に発揮することはできません。あの子が
一体どうやって貴方の身体を取り戻すのか……とっても楽しみね?」
「人の生死に関わることを、そんな紅茶のお菓子みたいに言わないでくれ」
先程の「殺す」発言もさることながら、ハナちゃんという奴はどうにもそのへんがズレて
しまっているようで、思えばどことなくあのリリベルと彷彿とさせるものがある。
しかしそんなハナちゃんをして、なぜ死体が見つかってしまったのかと訪ねれば、勝手に
入ってきた隣の猫に驚いて声を上げてしまったからだそうで、なかなかに憎めない子だ。
「とと、とにかくですね、あの子はどんなに些細な問題でも常に私の想像を超えたやり方
で解決してくれます。時には手段も選ばないというところが余りにもチャーミングで」
「それはハナちゃんも一緒のような気がするけどな」
「あら、お上手ね。でもあの子に比べたら私など足元にも及ばなくてよ」
皮肉のつもりで言ったのだが、前向きに受け止めるあたりさすがハナちゃんというところ。
これが命の恩人かと思うと少々薄ら寒いものがある。
気付かれないように肩をすくめて正面に向き直ると、途切れた森の先におかしな光景が
広がっていることに気がついた。
最初は自分の目を疑ってみたものの、その深刻さを把握するにつれて、徐々に胸の鼓動が
高まっていく。
「ほら、やっぱり面白い」
「……じ、冗談じゃねえぞ」
できうる限り速度を上げて町の上に辿り着き、見下ろす景色――俺の町が燃えていた。
「なにやってんだ、あのバカ!」
建ち並ぶ家々が暴れるように炎を噴き、火の粉と共に巨大な黒煙を巻き上げている。
空を覆い尽くすように広がった煙は至る所でくすぶる赤い炎を投影し、まるで悪魔の嘲笑
のように揺らめいていた。
まさか俺の身体を取り戻すためにこの大惨事を引き起こしたというのか。即座に町の中へ
と向きを変えるも、強い力に首を締め付けられ、一瞬喉が詰まる。
「大丈夫、落ち着いて。これは夢よ」
飛び交う怒号と悲鳴、逃げ惑う人々の影。家の脇に止まっていたはずの救急車は電信柱に
激突しており、弱々しく点滅する赤色灯がその無力さを訴えていた。
俺にとっては確かに非現実的な光景だが、夢と言うには余りにも無理がある。
「これが夢なわけあるか! ふざけんじゃねえ!」
「もちろん貴方の夢ではないわ、これは夜々重さんの夢。物理的な現象ではありません」
「ああ? 夜々重の夢だ?」
「そう、今目の前に広がっているのはあの子が何百年もの間、毎晩見続けてきた悪夢よ。
元々思念体である幽霊にとって、幻覚を見せることなど造作もないこと」
理解不能な説明と首を締め付けるありえない力に、呼吸だけが激しさを増していく。
そんな中、遥か上から大きな鈴の音が聞こえた。それは今までに何度も聞いたことのある、夜々重の鈴の音だった。
「……聞こえるでしょう? あの子の悲しみが」
答えることを忘れて見上げた夜空に、また大きな鈴の音が響き、町に降り注ぐ。
その乾いた切ない余韻は、俺の身体から次第に怒りを失わせていった。
「それならなにも、こまでしなくたって……」
「混乱に乗じて貴方の身体を運び出すためでしょう、しかしそれだけではありません」
何か言おうと開きかけた唇に、冷たい指が触れる。
途切れた会話。ひときわ大きな鈴の音が町を包み、全ての炎が闇に消えた。
町は何事もなかったかのように元に戻り、路上を逃げ惑っていた人たちも周りを見回して
困惑している。俺の家を囲んでいたはずの人だかりは既になく、救急車を前に首を傾げる
数人の影があった。
「貴方の死体発見と突然の大火災。人は同時にいくつかの不可解な事象に見舞われたとき、
とかくその原因をひとつに絞りたがるものです。即ち火災が幻だと理解すれば――」
「俺の死体が幻だったとしても、おかしくないってことか……」
「ご明察」
ハナちゃんはそう言いながら、眠そうなあくびをかみ殺す。
俺は初めて目の当たりにした夜々重の知略に、ただ呆然と町を見下ろしていた。
卍 卍 卍
寂れた小さな駅、商店街の路地裏にハナちゃんを降ろすと、スカートを持ち上げながら
丁寧にお辞儀をしてくれた。
「いつかまたどこかで会うこともあるかもしれませんね、その時はどうぞ宜しく」
「こっちこそ、身体のこと……ありがとう」
言いながらも、結局俺は何一つ役には立っていないような気がして、どこか沈んだ気持ち
を隠せずにいた。
向けられた笑顔から目を逸らすと、白い顔がその距離を詰める。
「気にすることなくてよ。貴方の心はまだ人間なのですから」
人間だから――。バカバカしくも的を射た答えに、つい笑いがこぼれた。
そういえばハナちゃんは何者だったんだろう。と別れ際に訪ねてみると、恐るべき答えが
返ってきた。
「死神」
「し、死神……?」
冷たい風が路地を通り抜ける。
ハナちゃんは驚いた俺を確認すると満足そうに微笑み、背を向けてから「自称ですけどね」
とだけ言い残して、灯りの消えた商店街へと姿を消していった。
つづく
574 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/18(月) 23:18:07 ID:99l/PyBY
投下おわりです。
まとめに間に合わなかったのがちょっと悔しい!
乙でした!
ハナちゃん死神だったか! つまり死ねば会える!?
夜々重ちゃんの悪夢重いなー、いつか晴れる日は来るのだろうか……
/⌒ /⌒ヽ
_ノ`‐-―‐‐'|_
'-`======='-' / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(6 (_゚_人゚丿 < 迎えに来たぜ
/`ー';-ぅ~ゝヽ、 \______
(j-(d-'-'---i |
./ 死 |ノ
/ 神 |
投下乙!
自称死神ってどういうことだw
しかし最近ややえちゃんのかわいいところが見れなくて切ないぜ。
まとめは締切じゃないんで、そんなに気を使わないでね。
>>576 お前じゃねえw
578 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/19(火) 00:18:31 ID:dEmjkXzM
鬼寒梅たん!俺にも頭突きしてくれ!
ハナちゃん!俺の背中にも乗ってくれ!
いや、むしろ踏みつけてくれ!
579 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/19(火) 08:53:18 ID:rm31AQVa
記念すべき十三話、投下乙です!!
580 :
代理:2010/01/19(火) 12:51:43 ID:dEmjkXzM
まとめさん乙!!そしてややえちゃん乙です!!
果たしてハナちゃん再登場は……
581 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/19(火) 21:16:23 ID:kR891k+q
さて、残り100kを超えたところでスレタイ決定を促してみる。
○いままでに出た案
1.シェアードワールドを創るスレ2
2.いろんなシェアードワールドで遊ぶスレ
3.【地獄異形】シェアードワールド創作スレ【閉鎖その他】
4.【女体地獄と】皆で書こうシェアワールドその弐【異形天国】
5.【閉鎖された】シェアードワールド【異形の地獄】
6.【魔乳】異形閉鎖シェア地獄【妖尻】
シンプルなのもいいと思うけど、目を惹くスレタイも捨てがたい。
とりあえず無難に2を押しておくけど、特に深い考えがあってのことではない。
○その他の課題
・テンプレ案(
>>1の改変でも)
・wiki作る?(作れる人がいれば)
今のペースならここも半月ぐらいはもちそうだけど、一応。
しかし大規制に続いてP2までイカれるとは、まさに閉鎖異形地獄。
1.シェアードワールドを創るスレ2
シンプルがいい
次スレでまた別の世界が生まれるともわからんし
簡潔なほうが良いのでは
3、4、5、6あたりの、内容が分かるスレタイが良さそう
「シェアードワールド」で板検索すると、全く同じようなスレタイが三つ出てくるし
>ハナちゃん
まさかの自称死神w
ハイチのサムディ男爵が大忙しの昨今、ハナちゃんの活躍に注目せざるを得ない
そうなんだよね。
1というか今のスレタイは、ほぼ同じ名前のスレが既にあって
そもそもだから変えようってことになったのよ。
ただ愛着が湧いている感は俺も否めないw
まあまだ焦らなくてもいいし、案があればちょいちょいあげていこうよ。
585 :
代理:2010/01/19(火) 22:45:00 ID:dEmjkXzM
やはり先発スレのタイトルを考慮して、印象の違うタイトルがいいと思うなぁ
586 :
代理:2010/01/19(火) 23:02:39 ID:42I//szd
やはり現スレタイにもは愛着あるよねw
それと分派したいってシェアはないよな?
分派しちゃうと過疎っ過疎になりそうだよ
まだ分ける必要は無いと思われ
一応色々な意見を盛り込んで考えてみたけど、どうだろう。
地獄・閉鎖・異形というキーワードを入れるか悩むところ。
【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】
589 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/21(木) 23:29:33 ID:KSj9V0dT
590 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/21(木) 23:37:46 ID:uSq2yB1O
ハナちゃんかわいいよハナちゃん
それにしても、ハナちゃんは何を思って、こんな不気味なうさぎを持ち歩いてるんだろうw
>荒野を少女が一人、歩いていた。古くなったウサギのぬいぐるみを抱き〜
異形のアンジュとズシに出てきたハナちゃんも持ってる。
関係があるか無いかは分からないw
592 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/22(金) 10:50:43 ID:x2pjH6vi
ハナちゃんGJ!!
593 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/23(土) 08:05:16 ID:KxkmhNnH
>>581 おいらはこれがいいな
5.【閉鎖された】シェアードワールド【異形の地獄】
規制が解除されつつあると目にしました
雑談がてら書き込みテストしてみては!
594 :
代行です:2010/01/23(土) 18:35:16 ID:0ZNlVhLU
…相変わらず規制中。ま、保守がてら一席伺います。
『冥土の土産』 ◆GudqKUm.okです
あとこれまでのタイトル整理しました。
連作短篇『地獄百景』投下リスト
(※は他作品と密接にクロスさせて頂いたもの)
『序』(無題)
>>81 『昏い道を越えて』(タイトル未定2)
>>116 『霧笛を待ちながら』(タイトル未定3)
>>141 『窓の無い塔※』(タイトル未定4)
>>192 『報復の断章※』
>>341 『黄泉に響くもの※』
>>400 『鬼と白梅』
>>558 【登場人物】
>>209
595 :
代行です:2010/01/23(土) 18:35:58 ID:0ZNlVhLU
テンテンツクツンテンツクツン ジャーン
「…こら社長!!起きんかい!!」
「…い、痛い!?…あ、あんた誰だ!! こんな時間に一体…」
「うちは鬼寒梅の精や。ちょっと話があって来た。」
「そんな馬鹿な…って!? う、浮いてる!?」
「当たり前やアホ!! 商売の恩人の言うこと疑うんか!!」
「い…痛い!! し、信じます、信じましたから、頭突きはもう勘弁して下さい!!」
「…判ったらええねん。さて、大事な話や。あんた今日、『銘菓 鬼寒梅』の売り込みに都会のデパート行ったやろ?」
「は、はい…過疎の村唯一の観光スポットだった鬼寒梅さまが枯れておしまいになってから、饅頭もみやげ物も売り上げがガタ落ちでして…」
「アホ!! この村でしか買われへんから、あの饅頭は値打ちがあるんや!! どこでも買えたら、ますます村から観光客が離れて行くやろ!?」
「で、ですが、工場の存続も危うい現状なのです…」
「アホアホアホ!!そうやって只でさえ少ない村の働き口潰すんか!? 代々世話になった村を捨てるんか!?」
「あ…頭が…割れます…血が出てきました…」
「うちもおでこ痛いわっ!! とにかく街のデパートへ『名菓 鬼寒梅』卸す話は御破算や!!」
「し、しかしこのままでは首をくくるしか…」
「し、しかしこのままでは首をくくるしか…」
「…ええか社長、頭は生きてるうちに使わなあかん。そやからうちが村のために、こっそりあの世から里帰りして来たったんや。」
「…で、頭突き百連発ですか…」
「やかましい。ま…嫁に行ったうちの責任もある。ほんまは、もう半年くらい頑張れた。でもな、やっぱり結婚にはタイミングちゅうもんがあってな…」
「…そうでしたか…お亡くなりじゃなかったんですね。安心致しました。」
「…あんた意外とええ奴やな。まあええ、過疎や過疎やと愚痴ってても一銭にもならへん。うちが一発逆転のアイデアを授けたる。」
「と、おっしゃいますと?」
596 :
代行終了:2010/01/23(土) 18:37:19 ID:0ZNlVhLU
「…今の『銘菓 鬼寒梅』の包装紙、戦時中のカルタみたいな格好悪い図案やろ?」
「はい、先々代の頃からデザインは変えてません。」
「『…古えのロマン溢るる銘菓鬼寒梅を是非皆様で御賞味下さい…』コピーもダサい。」
「確かに…」
「…そこで『萌えキャラ』『萌えコピ』の出番という訳や!!」
「…萌えキャラ、ですか?」
「そうや。まずイラストの上手い人にやな、うちの可愛いイラストを描いてもらうんや。アニメっぽいタッチでな。ほんでそのイラストを…」
「あのう…」
「…なんや!?」
「…なんで『イラスト』っていうとこだけ、声がやたら甲高くなるんですか?」
「…気のせいや。とにかくそのイラストを包装紙に印刷して売る。来月『鬼寒梅を偲ぶ』ちゅうてテレビの取材来るやろ? そのときが新デザインお披露目のチャンスや!!」
「…上手くいきますかね…」
「アホウ!! 上手くいかすんや!! 先代のハゲ親父は偉かった。火事で工場丸焼けになっても、歯ぁ食いしばって今の新工場立てたんや。ええ機械と職人も揃えた。」
「ああ…あのとき私、小学生でした。親父は鬼寒梅さまの与えた罰や、言うて泣いてましたが…」
「…あのハゲ、解ってたんか。勝手に砂糖と小豆を安物に替えよったさかいに、ちょっと懲らしめたったんや。あはは。」
「…あのときの借金、私がまだ払ってます…」
「と、とにかく梅の木も商売も、いっぺん焼けてからが勝負ちゅうことや!! それより、うちの言うたこと判ったな?『萌え』や!!『イラスト』や!!」
「は、はい。なんか少し、希望が湧いてきました。」
「よっしゃ!!また様子見に来たるさかい、アドバイス料ちゅうことで店舗にある銘菓鬼寒梅、冥土の土産に全部持っていくで!!」
テンテンツクツンテンツクツン ジャーン
投下乙です!
この様子じゃきっと聡角も尻にひかれるんじゃないだろうかw
598 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/24(日) 02:49:11 ID:oAge+NoN
食い物の不満で工場燃やすなwww
※現在このスレでは3つのシェアードワールドが展開されています。
この世界、俺が盛り上げてやろうじゃん!てな方はお気軽にご参加を!
○先週のまとめ
>>569 ○今週の更新
・地獄世界
>>570 「ややえちゃんはお化けだぞ!」 第13話
>>595 「冥土の土産」
・イラスト
>>589 「地獄:ハナちゃん」
今週の更新も地獄のみ!
規制の波はおさまりませんが『名菓 鬼寒梅』でも食べながらのんびりいきましょう。
※現在スレタイ案を決議中。詳しくは
>>581を見てね!
600 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/25(月) 09:06:31 ID:oUqiL9If
まとめ乙です!!
別ワールドも期待!!
まとめ乙
あぴゃあああmるおおお!!
ストーリーエディタと聞いて
>>604 ストーリーエディタはなんだかんだでけっこう使えると思うんだ
タダだし!
さて、書かなきゃなー
設定だけ作ってポシャる俺がやってきました
>>603 うpおつ!
落とさしてもらったぜい!
>>606 設定だけでも投下してみたら、誰かが書いてくれたりするかもしれないのぜ?
シェアワだと設定抜きで、
いきなりキャラクター描写から始めたほうが都合良いからなぁ
キャラ設定スレもあるけど、どうせなら此処に落としたほうが
SS登場の可能性は高い気がする。他SSの登場人物よりも、書き
手さんも使い勝手が良かったりして。
――自称死神。
ということはつまり死神そのものではないのだろうか。確かにハナちゃんの存在感自体は
人間のものであったように思えたが、カラスの姿で現れたり幽体である俺を締め上げたり
できるところを見ると、常人であるとも考え難い。
しばらくそんな謎に頭を捻ってみるも答えが出るはずもなく、俺は夜々重を捜すために町へ
と引き返した。
町民たちは未だ興奮冷めやらぬ様子で、老人連中などはここぞとばかりに数珠を握りしめ、
山に向かって祈りを捧げている。幻覚による大火事騒ぎは、既に山神か何かの祟りに置き
換えられているようだった。このオカルトじみた空気の満ちた状況ならば、例え蘇生した
俺がひょっこり町に戻ったとしても、大事には至らないのではないだろうか。
「たいしたもんだよな……」
自分でも珍しく一人つぶやく。
身体を取り戻すと一口に言っても俺には強引なやり方しか思い浮かばないし、仮にそれで
事が済んでも、今後つきまとう不自然さは拭えないものになっていただろう。
嘆息をつき腰に手をやると、上の方から俺を呼ぶ声が聞こえた。
見上げた先では夜々重が黒い大きな袋をぶら下げていて、ずるずると手を持ち替えながら
高度を下げている。
ぱっと見分かる緊急事態ではあったが、俺は夜々重のそんな締まらない部分にどこか胸を
撫で下ろし、思わず緩んだ口元を隠した。
卍 卍 卍
「――魂と肉体を接合する際は、絶対に人に見られないよう注意してください」
月を後ろに仰向けでぷかぷかと浮かびながら、夜々重が申請書を読み上げる。
言われて下に目を向けるも、まだ町のいたる所には落ち着きのない人々の姿があり、確実
に安全な場所というのは見当たらない。
「つってもこれじゃなあ……見られたらどうなんだよ」
「えーと、目撃者と共に冥土へ堕ちます……だって」
険しい顔を見合わせ、同時にため息をつく。
ずり落ちかけた死体袋を抱え直し、山に入れば大丈夫かと見回していると、遮るよう
に夜々重が顔を近づけてきた。
「じゃあ、私のうちに来ない?」
言いながら両手を後ろに組み、笑顔で首を傾げる。
「供養塔なんだけどね、ここからそんなに離れてないし、あそこなら誰も来ないから」
「供養塔ねえ……まあ、別に安全ならどこだっていいけどよ」
「……せっかく女の子が誘ってるのに、そういう答え方はどうかと思うよ、本当」
むくれた顔を適当に受け流しつつも、俺は夜々重の住んでいるという場所に少なからず興味は
あった。人の寄り付かない供養塔という響きに多少の戸惑いはあるものの、よくよく考えて
みれば俺も幽霊な訳で、別に不気味がるようなものでもない。
「じゃ、決まりね」
指を鳴らして背を向ける夜々重の頭で、未練の鈴が小さな音をたてる。
風になびく長い髪が残していくほのかな甘い香りを追っていくと、程なくして山の中腹に
ある開けた場所に辿りついた。
大きな枯れ木の下にある苔生した丸い石。供養塔と呼べるのかどうか、それは既にいくつ
かの石の残骸に成り果てており、小さな梅の若木が寄り添うようにして蕾を揺らしている。
「随分寂しいところなんだな……」
木々の隙間からは町の灯りが見下ろせるのだが、それが逆に周りの暗さを際立たせ、もの
哀しい孤絶感が漂っていた。
「そうなのよ。だからこうやって人が来てくれるの、すごく嬉しくて」
ここから町が見えるということは、俺の家からもそれほど離れていないのだろう。無事に
生き返ることができたら、ここへ来て話し相手になってやるのも悪くない。
そんなことを考えながら死体袋を開くと、不思議なことに身体にはまだほんのりと温かさ
が残っていた。
「ハナちゃんはね、死体に乗り移れるの」
「なるほどね……」
唐突とも思える説明ではあったが、俺には想像ができてしまった。
魂の移動。もしもそれが本当なら二つの身体を行き来して生を繋ぐことも可能なのだろう。
ハナちゃんが何故そんな力を持っているのかは夜々重も知らないらしい。
「でもこれなら大丈夫そうだね」
「ああ、全部おわりにしよう」
夜々重は返事の代わりに笑顔で頷くと、申請書を取り出して読み上げ始めた。
「被呪者が死亡している場合の魂接合法――」
静まり返った木々の合間に澄んだ声が響き、これまでの記憶が頭の中を駆け巡る。
「――まず肉体の脚部に幽体が残っているかを確認してください」
悪魔少女リリベル。結局目的は分からずじまいだったが、あのツアーがなければ地獄には
行けなかっただろう。
「――脚部に残された幽体が、自分のものであることを、強く意識してください」
不法侵入した俺たちを捕まえた怜角さん。あの厳しくも優しい鬼がいてくれたからこそ、
俺たちは地獄の地を歩むことができたのだ。
「――幽体部を接合した後、幽体と肉体をゆっくり重ねます」
殿下宮殿を預かる侍女長。その立場からは考えられぬだろう適当かつ大胆な性格に翻弄さ
れたことは、一生忘れることができないだろう。
「――目を閉じ、力を抜いて呼吸をとめてください」
閻魔殿下。小生意気なガキと思いきや、その小さな身体にまう威厳と人の心を見抜く力は
名に恥じぬものだった。
「――はじめは小さく、徐々に大きく、肉体を同期させながら呼吸を始めます」
結局最後まで謎の人物だったハナちゃん。魂を自在に操るという少々人間離れした存在で
はあるが、今こうしていられるのは彼女のおかげなのだ。
「――目を開き、身体が動かせるようなら、接合は成功です」
俺はたくさんの人たちに感謝しなければならない。
もちろん夜々重にだって感謝している。俺を呪い殺すという驚愕のファーストコンタクト
ではあったが、殿下曰く、俺はそのおかげで本来の死から救い出されたのだから――
「どう? 動く?」
「ああほら、見てくれ」
腰を起こして手を開いて見せると、夜々重は緊張を解いて大きく息をついた。
立ち上がり、煌々と輝く月に向かって伸びをする。長い間幽霊でいたせいか、身体は少し
だけ重く感じられた。
踏みしめる枯葉は音をたて、同時に気付く肌寒さに思わず身を縮める。
「これ持ってきたの、寒いと思って」
そう言って夜々重は死体袋から厚手のジャンパーを取り出す。聞けば救急車にあったもの
を拝借してきたらしい。
よくもまあそこまで気がまわるものだと一度はそれを受け取り、袖を広げてから夜々重の
肩に回してやった。
「お前が着てろよ」
触れた腕に一瞬身体をこわばらせ、しかし安心したように肩の力を抜く。
「ありがとう……でも、生き返ったんだから私と居るとまた呪いがかかっちゃうよ」
「また死んだっていいさ。そんときゃまた地獄旅行だ」
「じゃあ、もう一回殺しちゃおうかな」
いたずらな笑みをこぼして逸らされる視線。沈黙の中、冷たい風が木々を揺らす。
夜々重は座っていた石から腰を上げると、遠くに見える町の灯りに目を移した。
「……なんちゃって、私にはもうそんな力残ってないの」
振り向き見せた、どこか悲しそうな笑顔。俺はふと覚えた違和感に瞠目する。
最初はそれが意味することに気付かず、ただ感じた疑問のみが口をついて出た。
「お前、鈴……どうしたんだよ」
夜々重の未練の鈴が――消えていた。
つづく
615 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 01:16:01 ID:AlSSIA0s
地獄シェアより「ややえちゃんはお化けだぞ!第十四話」を投下終了。
シェアワでこれもどうかと思いますが、次で最終回です。
乙でしたー!
これは……成仏……か?
乙!GJ!そしてうわああああああ
そんなことしたら俺も成仏するからな!
投下乙です!
最悪の展開を阻止するために、俺も一足先に成仏しておくぜ。
ややえちゃんの面倒は俺が見るから、みんな心配しないでくれよな……
殿下「地獄にようこそ」
◇
「…ああああ!?」
全身から魔素を絞り取られる脱力感に震えながら、私は硬い尋問室の床にガクリと膝をついた。
すかさず私の身体を盾に、野獣のごとく周囲を威嚇する裸身の悪魔はリリベル。閻魔庁爆破を目論んだ凶悪犯だ。
長い拘禁生活にも関わらず鋭い眼光と機敏な身のこなしが、今日までの虚脱状態が彼女の巧みな演技であったことを告げていた。突然の形勢逆転に、一緒に彼女の尋問に当たっていた同僚たちが立ち竦む。
「止まるデス。動けばこの鬼をぶっ殺しマス…」
背後から音もなく私に襲いかかり、五本の鉤爪で魔力を啜り尽くしたものは、ほんの一瞬前までリリベルの身体に装着されていた、妖力を封じる拘束具『顎』だった。
名だたる悪霊『我蛾妃』すら長年に渡り完全に封じ込めてきた『顎』をどうやってリリベルが操っているのか、私は混乱のなか懸命に思案するが、答えは何一つ見つからない。
「き、貴様!! 馬鹿な真似は止めろ!!」
「…離れナサイ。とりあえず角からへし折りまショウカ?」
仲間の怒号と、我慢出来ず洩らす私の呻きが重なって部屋中に響く。深々と食い込んだ『顎』の爪からは、五体を沸騰させるような激痛が全身に間断なく流れ込む。
(…ま…た、ヘマしちゃった…)
『茨木のドジ胡蝶角』。名の通り、私は鬼の名家茨木一族の出身だ。
父は隠居しているが未だ『茨木翁』の名で地獄界に隠然たる勢力を誇る実力者であり、閻魔大帝の腹心の友の一人。そして兄たちもみな、地獄界の中枢を担う重要な役職に就いている。
しかし末娘の私だけは、茨木の家系に流れる優秀な血を何ひとつ受け継いでいなかった。厳しい修行に耐えて奉職した閻魔庁獄卒隊でも、私は今期一番のダメ新人だ。
訓練生同期の筆頭格、怜角や鐵角なら、狡猾な悪魔相手に決して隙を見せたりはしなかっただろう。
「…ふふん、痛いデスカ?」
「くう…う…」
なすすべもなく立ち竦む仲間の前で、巨大な掌を模した『顎』の指がギリギリと私の身体を握り締める。やがて苦痛に霞む視界がぼんやりと暗くなり始めた。
「…ま、待て!! すぐ上の指示を仰ぐ!!」
「…いいでしょう。雑魚じゃ話になりマセン。責任ある地位の…そうデスネ…閻魔大帝のヤローでも連れて来ナサイ。」
周囲の緊迫したやり取りのなか、私の胸を責め苛むものは決して『顎』の無情な爪だけではなかった。兄たちに負けないよう、初めて家族に逆らって進んだ獄卒の道でも、これまで私は数々の失態を晒してきた。
猛り狂う悪霊に腰を抜かし、典礼の行進中に派手な転倒を見せるそそっかしく臆病な鬼。活躍する同期たちと対照的に、未だ私は様々な部署をたらい回しにされている。
最近ではもっぱら資料の整理や子守りといった雑用に明け暮れていた私にとって、頑なに黙秘を続ける悪魔リリベルへの尋問は、久しぶりに与えられた獄卒らしい仕事だった。
私への命令は唯一の特殊技能である読心能力を活かし、リリベルの背後関係、特にベリアル・コンツェルンの事件への関与を解明すること。
しかし、『顎』によって完全に無力化されていた筈のリリベルに向かい合い、彼女の意識に潜り込むべく精神集中を始めた途端にこの失態だ。今度こそ仲間も、そして家族も愛想を尽かすに違いない。
躊躇しつつも事態を報告するため仲間の一人が尋問室から駆け出ると、ほくそ笑んだリリベルは私を乱暴に立たせ、残ったもう一人の同僚に声を掛けた。
「…キサマも邪魔デスネ。出て行きナサイ。」
リリベルを睨みつけながらしぶしぶ扉に向かう彼も私と同じ、経験豊富とは言えない新人の獄卒だ。さほど強力ではない悪魔相手とはいえ、備品であった『顎』の力を過信していた私たちの致命的な油断だった。
(…なんとか、しなきゃ…)
ようやく少し落ち着きを取り戻した私は、混乱する頭で懸命に事態の打開策を思案した。リリベルの目的…どう考えても彼女の要求は、この『我蛾妃の塔』からの脱出の筈だった。
更なる目論みがあるにせよ、まず脱獄が彼女の急務。リリベルを再び捕らえる方策をこの一点に賭けた私は、うわずった声で、憔悴してなお冷たい美しさを失わない悪魔に話しかけた。
「…塔の出口に案内します。どうか命だけは助けて下さい。」
「…出口?」
何故か余裕すら感じさせる嘲笑でリリベルは応える。うまく彼女を尋問室から回廊に誘い出せば…
「…閻魔庁は獄卒ひとりの為に悪魔と交渉などしません。すぐに…『鎮圧』されますよ。それより…」
塔から出るには獄卒だけが知る正しく安全な道を辿って長い迷路のような回廊の潜り抜けなければならない。そしてその正しい通路も、呪文ひとつでたちまち『八寒地獄』に直結するのだ。
どんな魔物すら凍らせる地獄の冷気。この『非常装置』を呪文で起動した者以外は瞬時に超低温の吹雪に包まれる。
「…さ、早く…」
リリベルを罠へと誘う為、私はまだガクガクと震える脚を扉へと踏み出したが、彼女が後に従う気配はなかった。
「…『我蛾妃の塔』は脱出不可能と聞いてマス。どうせ何かクソッタレな罠があるんでショウ?」
「そ、そんな…」
冷ややかな彼女の声。自分の駆け引きの下手さに歯噛みしながら言葉に詰まった私の背中で、嘲笑うように『顎』が震えた。
(あ!! 駄目…だ…)
蜘蛛のごとくしがみついたこの拘束具の能力を思い出した私は、蒼白な顔色をさらに無くした。
『顎』に魔力の全てを吸い尽くされた今、私には『八寒地獄』を起動させる、指を鳴らす程度の魔力すら残っていない。
最後の手段は、回廊の間違った通路へリリベルと一緒にに足を踏み入れることだけ。そうすれば自動的に発動する『安全装置』は私もろとも脱走犯を凍てつく氷像に変えるだろう。
(…それでも、茨木の家名は守って死ねる…)
蘇生できる可能性は極めて低い。しかし獄卒として私が採るべき道はそれしかなかった。苦痛は一瞬の筈だ。それに…これでもう一族のお荷物と言われることはない…
「…わ、私は安全な通路を知っています。こっちに…」
「F・u・c・k!!」
しかし精一杯の平静を装った私を、リリベルの罵声と鋭い蹴りが襲った。脇腹を抉る痛みと衝撃に、再び私は息も出来ず再び崩れ落ちた。
「ぐふ…うっ…」
「…見苦しいデス。バカは大人しく寝てナサイ。」
吐き捨てるように言い放ち、傲然と椅子に腰を降ろしたリリベルは、苦しむ私を見下ろしながら独り言のように呟いた。
「…さて、待ちマショウ…」
◇
「…遅いデスネ…餌が不味いのでショウカ…」
私とリリベル、二人の虜囚にとって長い時間が過ぎてゆく。リリベルが時おり洩らす独白めいた言葉は、まるで姿の見えぬ相棒に語りかけているように思えた。
…これが夢だったら…眼を覚ませば退屈だが賑やかな慈仙洞での子守が待っていたら…朦朧とする意識のなか私はとりとめもなく考える。今ごろ塔の外は大騒ぎたろう。
父や兄たちはきっと激怒しているに違いない。私が問題を起こすたび、彼らが穏やかに浮かべる失望の表情、険しい眉と堅く結ばれた唇がありありと脳裏に映る。
(…そういえば、この子も…)
資料によるとリリベルもまた、私と同じ厄介者の末っ子だった。犯行の背後にちらつく彼女の異母兄弟、べリアルの王子たちは事件への関与を真っ先に否定し、テロに使われた装備は得体の知れぬ父の私生児が無断で持ち出したもの、と主張している。
いつの間にか背中から伸ばした蝙蝠の羽根でクルリと均整のとれた身体を隠し、じっと尋問室の扉を見つめるリリベルに、私が哀しい親近感すら覚え始めたとき、騒々しい物音と聞き覚えのある声が扉の向こうから響いてきた。
「…来やがりましたネ…」
…てっきり交渉に現れるのは獄卒隊の幹部だと思っていた。しかし武装した獄卒を従えて私たちの前に現れたのはなんと、茨木宗家の次期当主たる私の長兄だった。
(兄さん!?…なぜ…)
「…君たちは外してくれ。何かあればすぐ呼ぶ。」
伴った獄卒を外に待たせ、ただ一人入室してきた颯爽たる官服の鬼。
この次なる茨木童子、将来を嘱望される優秀な冥府官僚の兄は、現在は外交を担当する部署の事務官を務めている。一連のリリベル事件とは明らかに管轄外の立場だった。
「…前置きはなしだ。君の要求を聞こう。」
兄は悄然と眼を伏せた私の顔を見ようともせず、事務的に交渉の開始を告げた。しかし油断なく私に密着し、いつでも人質の命を断てることを示しながら彼を睨むリリベルは無言だ。
無表情な兄の心中を想い、私が沈黙に耐えられなくなったとき、再び静寂を破ったのは兄の静かな声だった。
「…釈放か? 亡命か? それとも…」
「…Fuck」
不躾けに言葉を遮るリリベルに動じもせず、兄はゆっくりと指を組む。彼は百戦錬磨の外交官だった。私は幼い頃から、感情を露わにする兄をまだ見たことがない。
「…君は重罪人だぞ? この交渉自体、実は破格の処遇なのだがね?」
落ち着いた兄の言葉が私の胸に刺さる。私の失態が家名を汚す前になんとかこの事件を収拾する為、あえて茨木一族はこの事件に介入したに違いなかった。
「…じゃあとっとと帰りナサイ。ワタシは『責任ある立場の者』を呼んでくれ、と言っただけデス。」
しかし、赤みがかった前髪を退屈そうに弄ぶ、小馬鹿にしたようなリリベルの仕草は追いつめられた者の態度には見えなかった。
兄はまるで脱獄そのものに全く興味がないような彼女の片言に我慢強く付き合っていたが、私の制服から滴り落ちる血が床を伝って足元に届いたとき、重々しく身を乗り出し、険しい声でリリベルに囁いた。
「…ここを出たいのだろう? 大人しく…妹を解放すれば、茨木の名に賭けて君を安全に逃がしてやる。あまり…時間が無いのだ。」
少し苛立たしげに指を組み直した兄の提案は、冥府の良心として清廉さを誇ってきた茨木一族にあるまじき法からの逸脱だった。成り行きに驚いた私は、思わず不安な視線を兄に向ける。
「…ベリアル・コンツェルンとは私が折衝する。私なら外交上の裏取引として、うまく話をまとめられる…」
もはや職務に背く譲歩を見せた兄の額には汗が滲んでいた。最近では若手の実力者として貫禄すら見せ始めた彼をここまで追い詰めるものは…
いまや焦りを隠そうともしない兄を悲痛な思いで見つめていた私の胸に、絶望に近い惨めな感情が溢れる。
こんな役立たずの出来の悪い妹は、いっそこの塔でさっぱり殉職するのが兄や家族、名誉ある茨木一族の為ではないだろうか。
これまで私は、一度も自分の読心能力を個人的な理由で使ったことがなかった。臆病な私が決して覗こうとはしなかった恐ろしい他人の心。しかし今、私は切実に兄の本心を知りたかった。
そこにある失望と軽蔑が大きいほど、つまらない自分の存在を終わらせる決心がつけられる。忌まわしい『顎』さえ、がっちりと私の魔力を封じていなければ…
(…え!?)
そのときまるで私の願いを聞き届けたように、突然『顎』がその強力な封魔の力を弱めた。俄かに全身を駆け巡る魔素に呆然とした私は、なぜか自我を持っている『顎』もまた、私の心を読んでいたことを確信しながら、おずおずと思念の糸を繰り出してみた。
(…胡…蝶…)
伸ばした意識の先端がしっかりと兄の心に届き、私は生まれて初めて家族の魂に触れる。
(…上手くいけば俺の更迭だけで片付く)(すぐ俺が)(俺が助けてやる)
リリベルを相手に粘り強く恫喝と懐柔を繰り返している兄の胸中には、名家の誇りも官僚としての保身もなかった。ただ…妹を助けたいという強い想いだけが、この狷介な事務官を動かしていた。
(…悪魔め)(胡蝶にもしもの事があったら)(八つ裂きにしてやる)
緻密な日誌のような兄の記憶。その全ての頁に愛情深く刻み込まれた、不器用で頑固な妹の姿。そしてそんな私とそっくりな寡黙さゆえに、兄があえて口に出せなかった幾つもの言葉…
(…父上がおまえの任官祝いをしたがっていた)(でも、仏頂面で誰かが言い出すのをずっと待ってる)(胡蝶)(この厄介事が片付いたら…)
…身を震わせる私が知った、ごく簡単な事実。それはいつもしかめっ面の父や兄たちが、間違いなく私を愛しているということ。そして今までそれを確かめる勇気がなかったのは、同じしかめっ面の私だったということ…
場違いな深い安堵に震え続ける私は、部屋中に響く兄の怒号で切迫した現実に引き戻された。同時に『顎』の爪も再び私の能力を縛りつける。交渉がついに決裂したのだ。
「…ふ、ふざけるな!! 悪魔風情が…身の程をわきまえろ!!」
兄を激昂させたリリベルの要求。それは『脱獄』などという私の想定とはおよそかけ離れた、殆ど狂気の沙汰とも言える不敬なものだった。
「…簡単なことデショウ? ワタシと、閻魔大帝の一騎打ちデス。名誉を賭けた恨みっこなしの真剣勝負…」
「…冗談にしても畏れ多い!! そんな要求が呑める訳がないだろう!!」
しかしリリベルの危険な眼差しは、その言葉が駆け引きや冗談ではない事を告げていた。小さな牙の間から覗いた彼女の舌が、ペロリと私の頬を舐める。
「…じゃ、私とこの子のラブラブ無理心中デス…」
「き、貴様…」
尋問室を支配する、ささくれ立った沈黙。私にその静寂を破る大声を上げさせたのは、皮肉にも『顎』が垣間見せてくれた兄の心だった。今なら獄卒として、茨木一族のひとりとして、私は立派に死ねる。
「…事務官、我ら茨木一党は大帝陛下の盾。悪魔などに何ひとつ譲歩する必要はありません!!」
「…黙らせナサイ!!」
初めて私に憎しみの眼を向けたリリベルの命令で、『顎』から身を抉る激痛が駆け巡る。だが私の血に流れる茨木千年の誇りはその痛みをも捻じ伏せた。
「兄上!! 早く獄卒隊に武力鎮圧の指示を…」
「い、いかん!! 胡蝶!!」
錯綜する怒号のなか、鞭のようなリリベルの尻尾が私の首を絞め上げる。暗く霞む視界の隅に、一時撤退を決めたらしい獄卒隊が部屋に突入してくるのが見えた。
「…事務官!! お静まりを!!」「時間です!! 後は我らにお任せ下さい!!」
机を隔て睨み合う鬼と悪魔。…やがて、深い溜め息と共に手を挙げて獄卒隊を制した兄は、信じられぬ譲歩をリリベルに告げた。
「…然るべき筋と相談する。少し…時間をくれ。」
己の悪運を揺るぎなく信じる笑みを浮かべてリリベルが頷く。私の意識が途切れる瞬間、もう一度だけ去りゆく兄の心が見えた。
(…待ってろ胡蝶角、父上が…父上が必ずなんとかしてくれる…)
つづく
投下終了です
ややえちゃん乙でした!!最終回は淋しい限りです…
乙です!
ぶきっちょな家族いいな……
リリべルさんがどんどんイケナイ道に進んでいらっしゃるのも気になるところ
ややえちゃんやら地獄シェアやらいろいろと佳境に……!
めっちゃ続きが楽しみだ!
投下乙! というか規制解除おめ?
最初はあんなだったリリベルに知性と色気を感じてしまうとはw
対照的な境遇の二人という組み合わせは、なかなかそそられるものが……
どこかタイミングがあえば、この流れにも絡んでいきたいです。
おお、リリベルちゃんの続き来た!
悪びれてみえても父親の無念を晴らすためなんだよね……
ここに胡蝶角が出てくるとは思わなんだ。
しかしどの作者さんも自然にクロスキャラを動かせるもんだなあ。
明言されてない共有要素っぽいのを見つける度にwktkするぜ。
●
信太の森、第二次掃討作戦時に封印対象地区に指定されたそこは第二次掃討作戦から数年を経た今も人の寄りつかぬ地となっていた。
その森を一人歩く影がある。匠だ。手に携えた棒の先端から≪魔素≫の刃を形成し、彼は槍のようになったそれで散発的に現れる異形を斬り払っては森を奥へ奥へと進んでいた。
その歩みは門谷の『森へと行った』という情報のみで動いているにしてはあまりにも迷いのない、まるで何か確信でもあるかのような足取りだった。
「おかしいな……」
匠の口から言葉が零れた。足は急ぎ気味に森の奥へと依然向けたまま、彼は思考する。
ここ最近の異形の発生数からみてもっとしんどい事態になるもんだと思ったんだけど……。
実際には襲いかかってくる異形などほとんど居ない。むしろ周囲の鳴き声を聞く限り≪魔素≫を持たない普通の獣たちの気配の方が強く感じられるくらいだ。
「信太の森が異形の発生地点じゃない?」
そう呟いた時、視界に妙に荒れた地形が現れた。掘り返されたり焼かれた跡が残っている地面。そこはかつて信太の森に異形を呼びこんでいた地割れがあった場所であり、
「地割れは復活していないってことは……」
その地割れが無いということはこの森の封印が解かれていない事を意味していた。
「封印がそのままってことはあの異形共は森から出てきたんじゃなくて森を通過点にしているだけだったのか?」
独りごちながら歩みを進める。周りの木には大きな獣が爪で抉ったような傷痕を持つ木が大量にあり、その傷の内のいくつかは匠にも憶えがあるものだった。
クズハを操った下手人はあの狐だろうな。
木に残る傷痕を横目で見ながら匠は過去を思い返す。
数年前、第二次掃討作戦の折、信太の森の大狐と戦ったのはこの場所だった。
●
周りには異形や武装隊、双方によって放たれた火がある。武装隊の仲間を逃した匠は疲労を滲ませながら多くの人と異形の屍の中で一匹の狐の異形と向き合っていた。
その狐の異形――人の身よりも巨大な金毛の狐は匠を見据え、流暢な人語を話した。
「住処を荒らされるのは頭に来るものだな、若造。我としてはあの武装した連中全員を狩ってしまいたい所なのだが」
その声は年若い女性のもので、案外に落ち着いた言葉だった。
匠は見据えてくる狐を見返し、
「ただ森に住んでいるだけならまだよかったんだけどな。この森の異形は人を食い過ぎた」
だから討伐対象だ。
そう言って棒の本体を芯にするようにして形成した≪魔素≫の刃の切っ先を大狐へと向けた。
「我は人を食ってはおらんよ。人は不味そうでな」
嫌そうに言う狐に匠は。それでも、と言って剣状の棒を突きつける。
「この森の異形の統率者はあんたで異形が人を襲うのはお前の差し金だって上から聞いてる。信太主(しのだぬし)」
「それが我に付けられた名か?」
ほう、と興味深げに訊いてきた。
「ああ、あんたが信太の森の異形の主だろうってことで武装隊の上が決めた」
「ふむ……」
思案気に呟き、
「別に我が奴らを操っているわけではないぞ? あの獣共が邪魔だから我の周囲から除けていただけよ」
「それで森からあぶれた異形に近くの村が襲われてるんだ」
元々異形出現地区として目をつけられていた上に被害が出ていた村から届が出たために今回、第二次掃討作戦において信太の森は封印対象地区となっていた。
「おや、アレらは外に出ておったか。ククク、森も無限にあるわけではないからなぁ」
「それで近隣の武装隊が信太の森の異形出現地区を封印しに来た」
「封印技術ができたのか」
驚きとも感心ともつかない声を発した信太主に匠は頷き、周囲の地割れが閉じていることを示し、武装隊内で出回っている情報を告げた。
「今全国で第二次掃討作戦、封印戦が行われているって話だ」
信太主は感嘆の声を発し、
「人というのは面白いのう、その武器も、≪魔素≫を使っていると言ったか。器用なものよ」
実に面白そうな笑みで言った。
「作ったのは変態じいさんだけどな」
刃の位置の関係上、剣のように取り回している棒を構えて匠が言う。
「っふっふふふ、是非に会うてみたいものだな」
信太主は切っ先を見つめ、≪魔素≫を発散させ始めた。その口が言葉を紡ぐ。
「お前たちが異形と呼ぶモノにも守りたいものの一つや二つ、あるものなのだ――」
●
森の中心部封印箇所付近、そこには巨大な木が立っている。そしてそれをねぐらにするように蹲る獣の影があった。
狐の異形――信太主と、その尻尾に埋まるようにしている、
「クズハ」
クズハは匠の呼びかけにも応えることも無く信太主の尻尾に目を閉じて身を委ねていた。
生きてるな……。
僅かに耳や尻尾が動いているのを確認してそっと安堵の息を吐き、匠は信太主に視線を向けた。信太主はその狐の面に明らかにそれとわかる笑みを浮かべて話しかけてきた。
「久しいのう若造、数年ぶりか?」
「第二次掃討作戦以来だな。――クズハを返せ」
「この娘はお前の所に帰る気はないようだが?」
そう言って尻尾でクズハをはたく。目を開けたクズハは匠を虚ろな目で見て、立ち上がった。その口は引き結ばれたままでなにも言葉を発しない。
「お前がどうにかして操っているんだろ? あそこでクズハに俺を刺させたのもお前の差し金じゃないのか?」
「おお、正解だ。見抜いたか。良い目をしておるのう」
賛辞の言葉を無視して匠は矢継ぎ早に訊く。
「お前とクズハはどういう関係だ? なんでクズハはあの時ここに居た? お前が封印戦で森から去る際連れていくこともできたろうに、なぜクズハを置いていった? そしてなんで殺せたはずの俺を見逃した?」
「娘――クズハを調整した者から聞いてはおらぬのか?」
「なに?」
「ふむ、そうか、聞いておらぬならば我には何も言えんな」
信太主はのそりと起き上る、匠は棒を構えるが、信太主はクク、と小気味よさそうに笑って、
「我は戦えぬよ、そういう約束だ――しかし、我は少し失望しておるのよ、若造」
「失望?」
「そう、親兄弟の心境というものだ」
そう言ってクズハを見る。クズハはゆらりと匠の方へと一歩足を進めた。
「さあ、感情のままに暴れよ。そして訴えかけるがいい」
信太主の言葉に応えるようにクズハの周りで≪魔素≫が集中し始めた。
すごく久しぶりな気がする今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
来週にはなんとかケリがつくといいなーと思ってみたり
636 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 22:16:20 ID:iMhfPxWE
乙でした!信太主カッコいいな
637 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 22:27:16 ID:oFFEBtlx
皆さん乙でしたー!
リリベルは一騎打ちを望んで何を得ようとするのだろうか・・・
胡蝶たんはどうなるんだろうか
不器用な家族愛に俺は感動した!うわあああ!
白狐と青年の方はいろいろと謎が多いな・・・小生予想しますに信太主はきっと人化すると思う!
女性ボイスとか親兄弟発言から察するに!
くそう……みんな気になるところで終わりやがって……
大丈夫、クズハたんはきっと良い子!
そして投下乙でした!
お久しぶり投下乙です!
これでそれぞれの関係が明らかになっていくのだろうか、しかしこちらも終り際予告とな。
ああ、もっとクズハたんの尻尾をもふもふしたいのに……
640 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 23:10:52 ID:oFFEBtlx
あれ?
ややえちゃんの感想が反映されてない?
未練の鈴がなくなったってことは、成仏か? 成仏なのか!?
641 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 23:11:32 ID:7H8+i5eH
※現在このスレでは3つのシェアードワールドが展開されています。
この世界、俺が盛り上げてやろうじゃん!てな方はお気軽にご参加を!
○先週のまとめ
>>599 ○全SSまとめ(要ストーリーエディタ)
>>603 ○今週の更新
・異形世界
>>633 「白虎と青年」 第6話
・地獄世界
>>611 「ややえちゃんはお化けだぞ!」 第14話
>>620 「報復の断章」 第2話
今週の更新は異形1作品、地獄2作品。
地獄で暴れ始めたリリベルちゃんをよそに、ややえちゃんはまさかの最終回予告!
白虎と青年も決着が近いのか!? 寂しいよ! 寂しいけど目が離せないぜ!
※現在スレタイ案を決議中。詳しくは
>>581を見てね!
まとめ乙です!!
643 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 23:54:25 ID:oFFEBtlx
まとめ乙!
志村ー! 白狐! おきつねさんだー!
ぎゃー、ごめんよおおおおお
クズハたんが虎になりませんように……
ぱっと見白狐と白虎、気付かなかったww
646 :
◆puW8yV/uYA :2010/02/04(木) 20:08:05 ID:CAaS0u5I
閉鎖都市で投稿させてもらいますー。
「閉鎖都市の名探偵」出かな? 自警団という単語があったので便乗させて頂きます
自警団というか警察、軍警察みたいなものを想像してます、はい。
閉鎖都市の中心部に位置する、三階建ての古くさいぼろビル。
外壁の塗装は剥がれおち、一部に至っては内部の鉄骨がその顔を覗かせている。
その姿は、常に不安定で危険のつきまとうこの都市の現状を、端的に表していると言っても過言ではなかった。
何故ならこの場所こそが、都市を守らんと常日頃果てのない戦いを繰り広げる、閉鎖都市自警団の本部であるからだ。
……余談ではあるが、正確には警察を名乗っているものの、市民達に浸透はしていないという事実もある。
さて。この物語は、閉鎖都市自警団管轄のとある閑職部署――もとい、自警団の最終秘密兵器こと、『特務室』に所属する人々の活躍を描いたものである……。
多分。きっと。
◆
「おとう――ごほん、大尉! どういうことですか!」
ぼろビルの中にあるとはいえ、改修補強が繰り返されたからか他の部屋とは比べて幾分かマシな装いの小部屋に、豊かな髭を蓄えた禿頭の中年と、まだうら若い金髪の少女が相対していた。
ご丁寧に高級カーペットや家具が立ち並んでいるこの部屋、外のドアには『署長室』と書かれたプレートが汚い字で引っかかっている。
つまり少女が唾を飛ばさんばかりに詰め寄っているのは、この自警団のトップである男、アンドリュー・ヒースクリフということだ。
アンドリューはガミガミとまくし立てる少女の言葉を聞いているのかいないのか、静かに机に肘を置き、組んだ掌に顎を載せてその瞳を閉じていた。
泰然としたその態度に更に腹を立てたのか、まだ皺のついていない、真新しい自警団の制服――カーキ色の軍服――を着用した金髪の少女は、更に口調を激しくする。
「大尉! いい加減私たちにも……仕事を下さい! 我々が必ず、ケールズを殺した犯人を――」
「……いい加減にしろ、アシュリー。ケールズの件は一課が担当する」
「ですが、あんな堅物達にこの事件が解決できるとは……」
なおも食い下がるアシュリーに、アンドリューは諦めともつかないため息を漏らした。諦めを知らないこの少女は果たしてどのような教育を施されてきたのやら。
親の顔が見てみたい――などと考えてみたが、結局親は鏡に映る禿頭の男なわけで。
育て方を少しばかり間違えただろうかと、自警団団長、もといアシュリー・ヒースクリフの父親ことアンドリュー・ヒースクリフ大尉は様々な書類が転がる机の上で鈍く輝く銀色のベルを鳴らした。
「……何を?」
「一課の代表を呼んだだけだ。お前の評価を聞かせてやれば良い」
「な……卑怯ですお父様!」
「ここでは私はお前の上官だ。家族ではないと何度言えばわかる。アシュリー・ヒースクリフ少尉」
「ぐ……」
核心を突く父の言葉に、アシュリーは喉まで出かかっていた言葉を呑込み、申し訳ありませんと呟いた。
そんな姿に満足したか、アンドリューは珍しく口元に笑みを浮かべて彼女の肩を叩く。
「一課は優秀だ。だが優秀すぎる故に危険が常につきまとう。お前はまだ若い、いくらだってチャンスはある」
「……はい、大尉」
「特務室だって悪くはない。住めば都と言うだろう」
「……イエス、ボス」
「よし、もう行け。私はこれからケールズの件でやらねばならんことがある」
わざとらしく机の上に転がっていた書類を叩いて示したアンドリューに敬礼を返し、アシュリーはトボトボと所長室を後にした。
今日もまた、負けである。
◆
自警団には全部で四つの部署がある。
一課――、別名『軍』とも呼ばれる課で、閉鎖都市でほぼ毎日のように起こる殺人事件や放火強姦などの凶悪犯罪を取り締まる部署である。
統率されたその動きと、非情に犯人を追い詰めるその姿は尊敬と畏怖を持って『軍』と呼ばれる。
二課。自警団の中でもあまり評判は良くない課である。それは、彼らが主として取り締まる犯罪が通貨の偽装や、収賄問題のためだ。
巨大企業との癒着などが懸念される、自警団の中でもかなりグレーな部署と言えよう。
三課は軽犯罪を取り締まる課である。窃盗やひったくりなど、殺人事件以上の発生率を誇るこの部署は、常に人が出入りする、別名『眠れないの課』だ。
そして最後、アシュリーが室長を務める自警団最高の閑職部署、特務室。
建前上署長であるアンドリューの名によっていかようにでも動く部署の筈だが、未だかつて出動の命令が下されたことはない課であった。
自警団本部の三階、端の端に居を構える特務室は、毎日忙殺されている他の署員から、揶揄を込めて『お気楽特務室』と呼ばれる悲しい部署である。
室長であるアシュリーは元来真面目な性格もあって、この現状を打破すべく署長であり父親でもあるアンドリューに働きかけたわけだが失敗してしまった。
と言っても、失敗した方が逆に良かったのかも知れない。
何故なら特務室メンバーはたった二人。
そして進んで事件を解決させようと思うような気概を持った者は、ここにはいないからである。
「……ただいま」
「よ、お帰りー」
「……失敗してしまった……。すまない、ハーヴィー」
「いやいや、一日ずっとここにいて、そんでおまんまにありつけんだからこれほど幸せなことはねぇよ」
ハーヴィーと呼ばれた男が、のんびりと目を通していたグラビア雑誌を床に投げ捨てつつ言う。
特務室の中心に置かれた来客用のソファ(未だかつて客が座ったことはない)にごろりと寝転ぶその男は、体中からやる気のないオーラを発していた。
「だがなハーヴィー……、私は心苦しいのだ。同僚たちが粉骨砕身しているというのに、私はただ日の当たる窓際でコーヒーを啜るだけなんて」
「お前さんは昔から真面目だからな」
「君が不真面目すぎるだけだ」
ジト目でハーヴィーを睨んだアシュリーは、彼が床に投げ捨てたグラビア雑誌を拾い、それをゴミ箱に捨てた。
既にゴミ箱は雑誌やインスタントコーヒーの殻で溢れんばかりになっている。
「……はぁ、市民を守るのが夢だったんだがなあ」
「ま、いつか叶うんじゃねえか?」
「……そんな日が来ることを願うよ……」
アシュリーの、特務室での日々はまだまだ続く……。
『アシュリー少尉の憂鬱 続く』
というわけで閉鎖都市世界でひとつ。
特務室メンバーの巻き起こすドタバタを描ければと思います。
短くて申し訳ない……。
それでは失礼
652 :
代理:2010/02/04(木) 21:08:38 ID:l0Je2gY6
投下乙です!!シェア的には別部署とのクロス、私立探偵との絡みなんかが楽しみ。
乙でした!
特務室がこれからどうなっていくのか楽しみです!
一日中ぼーっとしていて給料もらえるのは個人的に理想の生活だとおも(ry
投下乙でした!
なるほど自警団の中にも厳しいところやのんびりしたところがあるわけか。
特務室と一課の確執なんかも色々楽しめそう
ケールズ事件は一体どうなるんだろうw
久々に閉鎖都市に投下キタ!
しかし本当閉鎖都市は現実感あふれる作品が多いぜ
どこでどうなるのか全く予想がつかないw
656 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/06(土) 17:21:30 ID:9V7JYswA
次スレも近いね・・・
そろそろスレタイとテンプレ考えないとだねえ
658 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/07(日) 23:10:26 ID:fkoNY+BT
※現在このスレでは3つのシェアードワールドが展開されています。
この世界、俺が盛り上げてやろうじゃん!てな方はお気軽にご参加を!
○先週のまとめ
>>641 ○2010/01/25までのSSまとめ(要ストーリーエディタ)
>>603 ○今週の更新
・閉鎖都市
>>648 「アシュリー少尉の憂鬱」 第1話
再び規制が勃発か!? 今週は久々に閉鎖都市に1作品が追加!
自警団特務室を舞台に繰り広げられる新機軸の「アシュリー少尉の憂鬱」!
一作目にして他作品との絡みも見せるとは、今後の期待も大でございます!
※そろそろスレタイとテンプレ考えようぜ!積極的な意見募集中!
詳しくは
>>581を見てね!
659 :
代理:2010/02/08(月) 00:04:27 ID:Ah9PPGGJ
毎週のまとめ乙です!!
次スレ移行は、先発後発の類似スレタイとカブらない程度に修正するのが良いかなあ、と。
新規参加大歓迎!!的なニュアンスのがいいですね。
「どういうことなんだよ……分かんねえよ」
それは素直な疑問だった。
俺にはなぜ鈴が消えてしまっているのか、どうして夜々重がそんなに悲しそうな顔をして
いるのか分からなかった。分からないまま、ただ突きつけられた結果に、漠然とした不安
だけが焦燥を煽り立てる。
「あなたを助けるにはこうするしかなかったの、黙っててごめんね」
全ての試練は乗り越えたんだと、残されているのはハッピーエンドだけなんだと、当たり
前のようにそう思っていた。
でもこれは違う。俺の望んでいた結末とは何か違っている。これは決してハッピーエンド
なんかじゃない。でも、一体何が俺にそう思わせているのかも分からない。
木々の隙間から降り注ぐ月光が夜々重を照らす。その身体は僅かに透き通って見えた。
危機感にも似た感情が全身を粟立たせる中、不意に殿下の言葉が蘇る。
(アイツは誰かの命を救うことで――)
「……おい」
(――自らの罪を清められるのではないかと考えたのさ)
「ふざけんじゃねえぞ、てめえ!」
鈴がないということは、夜々重の未練は消えたということになる。未練がなければ幽霊は
現世にとどまることができない。
俺が生き返ったら夜々重がいなくなるなんて、そんなバカな話があってたまるか。
「きっとこれが私の、幽霊としての運命なんだよ」
「ちょっと待てよ……なんでそうなるんだよ! ごめんねで済む問題じゃねえだろうが!
せっかく生き返れたっていうのに、そのままいなくなっちまうつもりかよ!」
思わず拳に力が入る。
こんなことで命が救われたとしても、それが罪滅ぼしになるなんて、例え閻魔が許そうが
俺は許さない。
大体なんだ。俺は大事なことは夜々重の口から何ひとつ聞かされちゃいない。でもそれは
きっとそうする必要があったんだと、そう思ってたからこそ黙っててやったんじゃないか。
それなのにこれはなんだ、人をバカにするにもほどがある――
俺は行き場のない怒りに任せ、そんなようなことをわめいた気がする。
「やめてよ……」
目を伏せる夜々重。決して怒鳴りつけたりしないように誓ったはずなのに、どうすること
もできない気持ちで胸が詰まりそうだった。
俺はこれからも夜々重と一緒にいたい。二人で笑い合ったり、どこかへでかけたり、あの
時みたいにケンカしたっていい。悪魔や鬼、妖怪も閻魔も、運命ですら二人で乗り越えて
きたのに、どうして何も言ってくれなかったのか、そんなにも俺は頼りないのか――
「もう……やめて」
俺は怒りに心をゆだねることで悲しみを押し潰していた。だだを捏ねるように、思いつく
限りの悪態をつく。今の俺はまるで子供だった。
夜々重はしばらく黙っていたものの、不意に俺を睨むと強い口調で言い返してきた。
「やめてって言ってるでしょ! 言わないほうがいいことだってあるじゃない! 何よ、
こっちの気も知らないで自分ばっかり言いたいこと言って! それならあの時、あなたは
明日死にますって言ったら信じてくれたの? 私がこうなるってそう言ったら生き返って
くれたの!?」
――できなかったかもしれない。
突き刺さる冷たい目線は、明らかに俺の心を見抜いたものだった。
しかしそれを責めるでもなく、夜々重は背を向けると、自分を落ち着かせるように小さく
ため息をついて続ける。
「何でも言えばいいってものじゃない、そう気づいたのもつい最近。これでも何百年かは
悩んできたのよ? 臆病なところも直して、しっかりした子になれれば、きっと成仏でき
るんだろうって……でもそれは違ってた。幽霊として存在するために与えられた時間は、
変わるためのものじゃない。自分が何のために生き、なぜ死んだのか。それを知り、納得
する為の時間なのよ。私は私なりの、私にしかできないやり方であなたを助けたかった。
自分の罪が生み出した呪いで始まり、自分の罪が招いた悪夢で終わらせる。大事なことを
言えなかった私の罪が、もしもあなたを救えるなら……それなら私は」
ひときわ強い風が、夜々重の長い髪を大きくなびかせた。
「私はきっと……あなたのために生まれてきたんだって、そう納得できるから……」
木々のざわめきが止み、再び取り戻された沈黙が、ささくれ立っていた心を撫でつける。
俺にとって、今のこの状況が理不尽なように思えていたのは、これからも夜々重と一緒に
過ごしたいという、わがままが故なのかもしれない。何百年もの間悩み続けてきた夜々重
の気持ちを考えていなかったのは、俺の方なのかもしれない。
そう思い至るとともに、俺は夜々重がいなくなってしまうという事実に対して、抗う術を
失った。言い返す言葉も、取るべき手立ても、俺にはなにも思い浮かばなかった。
無力だった。
最初から最後まで文句を言うばかりで、何ひとつ夜々重の役には立っちゃいない。だから
そんな俺が、たったひとつ夜々重のためにしてやれることがあるとすれば、それはこんな
風に不満をたれることじゃない。笑顔で送り出してやることなのかもしれない。
分かってはいる。しかしそんなことすらもできないほど、俺は無力だった。
「なんで……どうして俺なんかのために、そこまで……」
怒りは押し流され、悲しみの底から浮かび上がった、一つの疑問。
嗚咽に震える夜々重のそばに立ち、またたく町の灯を――生命の灯火を見下ろす。
夜々重はこの寂しい場所で、ずっとこの灯りを見てきたのだろう。それがこいつにとって
どういう風に映っているのか、俺などに計り知ることはできない。
既に夜々重の身体は、後ろの景色がほのかに透けて見えるほど、その色を失っていた。
「私……ずっとあなたのことが好きだった」
ジャンパーを羽織り直す夜々重の動きが、目端に入る。
唐突に告げられた思いに、返すべき言葉を探せず、ただその続きを待った。
「笑っちゃうでしょ? 知り合いだったわけでもないし、別に何かされたわけでもない。
あなたはただ私の通学路に居た、それだけだもん。もちろん最初っからそうだった訳じゃ
ないよ。でもやっぱり毎日見てると、今日は機嫌が良さそうだなとか、今日は元気がない
な、なんて思っちゃうから、それで私……いつの間にか……」
ふと俺の手を握るようにして夜々重の手が添えられていることに気がつく。
文字通り重なり、しかし触れる感触はもう、そこにはなかった。
「この間ハナちゃんがここに遊びに来てくれた時、あなたのことを教えたの、そうしたら
ハナちゃん、あの人もうすぐ死んじゃうよって……そう言うの。本当はね、最初にそれを
聞いたとき、ちょっと嬉しかった。だってほら、一緒に幽霊になれるかもって思ったから。
でもすぐに気がついたの、あなたは幽霊になれるほどこの世に未練をもってない。あなた
は死んでも幽霊にはなれないって……だから私は、こうするしかなかった。あなただけが
いなくなるなんて、いやだった……」
沈黙――冷たい風が、ほてった身体を通り抜ける。
まさか夜々重はたったそれだけのことで、通学路にたまたま居た俺に惚れたというだけで、
自分の幽霊としての存在をかけ、俺を救ったと、そう言いたいのか。
「き、急にそんなこと言われても困るよね! ああもう私何言ってるんだろう。ごめんね、
最後に変なこと言っちゃって。バカなやつだって思うよね、独りよがりなやつだって思う
よね……でも、それならそれでもいい、変な幽霊に取り憑かれたんだって笑ってくれれば
いいよ」
やっぱり夜々重はバカなんだ。そんなことバカでなければできるハズがない。何が策士だ、
何が知略家だ。こいつは100%ピュアな、穢れの無いバカだ。
「だから、お願い――もう、泣かないで」
最後まで大事なことを言えずにいたのは俺だって同じだ。
思ったことを言えばいい、感じるままに動けばいい。タイミングなんかどうだっていい。
それが言葉じゃなくたっていい。
夜々重に向き合い、手を重ねる。触れることができなくても気持ちは伝わるんだと、指を
絡める。一瞬張り詰める空気、こわばり不器用ながらも閉じられた瞳と、重なる唇。
ふとそこに感じる柔らかい温かさ。しかしそれが夜々重の最後の温もりなのだと理解する。
夜々重の姿はほとんどもう、うっすらとしか見えなくなっていた。
「あなたに会えて、本当によかった……ありがとう」
「ごめんな、こういう時どうするもんなのか、分かんなくて……」
「ううん、いいの……嬉しいよ」
照れくさそうに目を逸らし、ちらと俺を見て微笑む。
俺はそんなにおかしな顔をしているのだろうかと自分の頬を撫でてみると、溢れていた涙
が手のひらを湿らせた。
「不器用なのはお互い様だね」
「そうだな……」
笑ってやることができた。
あまりにも突然すぎる別れに塞ぎきれない気持ちはあるものの、これが今の俺にできる
精一杯だし、それが一番いいように思える。
夜々重は今までずっと見続けてきたであろう景色を見回したあと、向き直り顔を近づけて
きた。
「……じゃあこれが最後のお別れ。いつかまたきっとあなたと会える、魔法のおまじない」
「幽霊が魔法のおまじないってのも、どうなんだかな」
「もう、ちゃかさないでよ」
夜々重はふてくされながらも、バカバカしく、しかし今においては正しいと思えるような
おまじないを俺に教えてくれた。高く昇った月が、明るい光で俺たちを包み込む。
「いい? ちゃんと気持ちを込めて言うんだよ」
「ああ、わかったよ」
きっとこれが最後になる。それでも笑っていられるのは夜々重のおかげなのかもしれない。
もう一度指を絡め、額を合わせて微笑みあい、瞳を閉じた。
「いつの日かまた――」
「――冥土で、逢おう」
言い終え間を置き、込み上げる気恥しさに思わず吹き出す。
そっと瞼を開くと、そこにはもう、夜々重はいなかった。
二人で重ねたその言葉を最後に、夜々重は俺の前から姿を消した。
何度か名前を呼んでみても、返ってくるのは木々のせせらぎと穏やかな風の音。
やがて涙で滲む月から、静かに雪が舞い降り始めた。
俺は自分が価値のある人間だとは思えない。
でも、もう俺の人生は俺だけのものじゃない。俺のこれからの人生は夜々重とともにある。
夜々重と笑い、夜々重と泣き、夜々重と怒り、夜々重と生きる。
繋ぎ止めてくれた命は決して無駄にしない。それが俺のできる唯一の恩返しだ。
小さな雪の粒が、手のひらで溶ける。
きっとこれが夜々重の「ありがとう」なんだと、そっと握り締め、俺は主を失った供養塔
を後にした。
別れの言葉なんて言わない、いつかまた必ず夜々重には会える。
どうしてか俺には――そんな気がしてならなかった。
卍 エピローグ 卍
沸き立つ血の池、聳える針山、轟く悲鳴――ここは地獄の三丁目。
暗雲立ち込める地獄において今日もなお、殿下宮殿は一段と怪しい雲行きに包まれていた。
「殿下様、殿下様! 起きてくださいニャ!」
閻魔殿下のプライベートルーム。扉の外でがなりたてる侍女長の声に、殿下は目をこすり
ながら時計を見て、ごろりと寝返りをうつ。
「んだよ、うっせーな。休みぐらいゆっくり寝かせろよ」
まどろんだ声が終わらぬ間に、扉の鍵ががちゃがちゃと音をたて、がちんと開かれた。
「だから、勝手に開けんなっつーの!」
「それどころじゃないですニャ! 宮殿建立以来の大ピンチがやってきましたニャ!」
「……はあ?」
未だベッドから出る気配を見せない殿下に業を煮やしたのか、侍女長はずかずかと部屋に
押し入りカーテンを開いた。差し込む眩い朝日に、殿下は目を細める。
ため息をつきながらベッドから足をおろし、だらしなくパジャマを引きずりながら窓辺に
近づくと、門前に立つ夜々重の姿に気がついた。
「あいつ、この前の女幽霊じゃないか……なんでここにいるんだ?」
「それがですニャ……あいつ成仏したっぽいんニャけど、逢瀬許諾書持ってるんニャ」
「逢瀬許諾書? ああ、あの『冥土で逢おう』ってやつか。そんなもんほっとけ、あの男
が来るまで冥土で待つと言うならそれもまたここのルールだ。親父の裁きを延期できても、
それがここに入っていい理由にはならんだろうが。今すぐ追い出せ」
寝起きにあっても正しい理屈を並べるあたり、さすが閻魔の息子というところ。
しかし侍女長は「そんなこと分かってますニャ」と言わんばかりに怪訝な目を向ける。
「忘れてませんかニャ? あのとき一緒に来た男、自分じゃまだ気がついてニャいけど、
死線を越えて蘇ったもんだから、不老不死になってますニャ」
気だるそうに言い放たれた報告に、殿下はぽんと手を叩いた。
「おおそうか! やはりな、そうでなくては解呪許可を出した意味がない。そうかそうか、
ちょうど人間界で動くには不便だと思ってたんだ。これからはあの男に色々と……」
「殿下! 喜んでる場合じゃないですニャ!」
ほころんでいた顔を甲高い声がぴしゃりと一括する。閻魔殿下もこれには目を丸くした。
「あの乳幽霊。もしも宮殿に自分を置いてくれなければ、大帝様にそのことをバラすとか
ぬかしとるんですニャ」
殿下の瞳が、さらに大きく開かれる。
「なんだと!?」
「故意の呪いと知っておきながら、不死が成立すると分かっていながらも許可を出したと。
そんな不正が大帝様やクソ真面目な鬼連中に知れたら、どうなりますニャ!」
「ま、まずいな……実にまずい」
ふとよぎった嫌な予感に、思わず殿下は口元を抑えた。
門前に佇んでいた夜々重が殿下に気がついたのか、笑顔でひらひらと手を振っている。
「女中見習いでもいいとか言ってるんですがニャ……週休六日で盆と正月、それから大安
と吉日には現世に戻せとかほざいてるニャ」
「そんなバカな労働条件を押し付けてくる見習いがあるか!」
「じゃあ、断りますニャ?」
「い、いや……」
殿下は難しい顔で部屋をぐるぐると歩き回った後、力なく足を止め、頭をかいてつぶやく。
「仕方ない……条件を飲んでやれ。くそ、また変なお荷物を抱えちまった……」
「はーあ、自業自得ニャ……こんなんじゃ先が思いやられるニャ」
「うっせー!」
その叫びは、広大な殿下宮殿をゆるがすほどのものだったという。
こうして地獄の殿下宮殿にまた一人、やっかいな存在が足を踏み入れることとなった。
おてんば幽霊、大賀美夜々重。彼女が自分の罪を償う日は――
「お世話になりまーす」
まだまだ先のことのようである。
シェアードワールドを創るスレ 地獄世界より
「ややえちゃんはお化けだぞ!」
(完)
666 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 18:37:57 ID:Dp2y6QCv
と言うわけで「ややえちゃんはお化けだぞ!」これにて終了です。
ここまで3ヶ月もかかったのに、物語は24時間すらたってないという驚愕の事実。
つたない文章に気を遣わせてしまった部分もあると思いますが、ここまで読んでくださった方
本当にありがとうございました。
乙でしたああ!!
ああ、夜々重ちゃんもたくましくなって(ホロリ
完 結 乙 !
いやー面白かった!大満足!
ドタバタな展開でも、こうしてみると案外まとまって思えるよなあ…
キャラが死のうが成仏しようがまったく問題ない地獄シェアの懐の深さを
思い知ったぜw
避難所の件も把握した!
ややえちゃん完結お疲れ様でした!
めっちゃ面白かったです!
まずは「ややえちゃんはお化けだぞ!」完結、本当にお疲れ様でした!!
寂しいですが、激しく次回作に期待しております。
(…なあリリベル、君の復讐が終わったら、私はどうやって暮らすんだろう?)
「…二百年分の未払い賃金があるでショウ? ワタシが閻魔庁に掛け合ってアゲマス。)
◇
垂れ込める黒雲から重苦しい雷鳴が絶え間なく響く。ようやく『我蛾妃の塔』から足を踏み出した悪魔リリベルは、塔の広い敷地を埋め尽くす地獄の軍勢と対峙した。
…鬼、鬼、鬼。戦装束に身を包んだ精悍な獄卒たちは、怒りに満ちた表情でリリベルと、彼女が肩に担いだ人質を完全に包囲している。
「…う…う…」
ドサリと湿っぽい地面に投げ出され、力無く横たわった人質が呻いた。彼女の名は胡蝶角。獄卒にして由緒ある茨木一門の鬼姫だ。
「…じゃあね、チビ鬼サン…」
瀕死の彼女に冷たい一瞥を向けたリリベルは、怯む素振りもなく待ち受ける大軍との距離を詰めていった。鬼たちの遥か背後で翻る、閻魔王家の旗だけをひたと睨み据えて。
人質が駆け寄った救護隊に運ばれてゆくと、それを合図に数名の鬼がリリベルの歩みを阻むように進み出る。いずれも若いが、恐ろしく戦慣れした風貌の鬼たちだった。
(…おやおや、話が違うな。謀られたんじゃないか?)
カタカタと振動しながら、リリベルの心に語りかけるのは『顎』。彼女の身体をきわどく覆い、今は防具の役割を務めるこの妖は、奈落の底でリリベルが出逢った、たった一人の盟友だった。
「…大丈夫デス『おさがり』、いえ、『顎』、あなたの知りたい事はしっかりと教えてアゲマス…」
自らの名前も知らず、暗闇の中で偶然にも生まれた付喪神、閻魔庁の便利な備品だった『顎』は、ただひとつの見返りだけを求めて、この悪魔の少女と行動を共にしていた。
冷たい拘束具に過ぎなかった彼のなかで、その覚醒と共に芽生えた疑問。『生命』の意味とは?そして『死』とは?
リリベルは答えた。その答えは暗い塔の外、自分が孤独な疾走を続ける復讐の道にある、と。
その言葉を信じた『おさがり』、巨大な鉤爪にも似た『顎』は、文字通りリリベルにぴったりと寄り添い、長らくその住まいであった窓の無い塔から初めて外界に出たのだった。
「…見ていなさい。このリリベルの死に様が、ベリアル栄光の歴史に刻まれるワタシの生きた意味デス…」
いまや互いの間合いに入った鬼たちとリリベルは、憎悪に満ちた視線を注ぎあう。正面にいた棘だらけの黒い鬼が、傍らで音もなく抜刀した女鬼に向けて呆れた声を発した。
「…おいおい怜角、こりゃ何の冗談だ? 陛下どころか、俺らの相手にもならん小悪魔じゃねえか?」
怜角と呼ばれた女鬼は、黒鬼に無言の同意を示しながら無造作にリリベルの前へと脚を進めた。そして彼女が手にした一振りの太刀は、眩しく閃きながらリリベルの手元へと舞った。
「…使いなさい。丸腰じゃ…それこそ冗談にもならない。」
嘲るような鬼たちの言葉にも眉ひとつ動かさず、リリベルはおもむろに受け取った太刀を振るう。重い唸りを発して空を切った太刀はまずまず悪い造りではない。
「…で? 鬼の試し斬りも無料サービス中デスカ?」
立ちふさがったままの怜角に向かい、小首を傾げたリリベルは無邪気な声で尋ねる。怜角はゆっくりと喉元に突き付けられた切っ先を無視し、表情を変えず悪魔に答えた。
「…試してみる?」
怜角の切れ長な眼が次第に妖しい光を帯びてゆく。逆立ち、ざわざわと蠢く彼女の長い黒髪は、いつの間にかリリベルの握った太刀の柄まで絡み付いていた。
「…キサマでしたか…」
どこか嬉しげなリリベルの囁き。しかし美しい二人の魔物による応酬は、いつの間にか近づいた煌びやかな一団によってあっけなく終わりを告げた。
二人を遮ったのは、地獄の様式美を体現した古風かつ鮮やかな礼装の女たち、典雅な香りを振りまく閻魔庁宮廷侍女団だ。彼女たちを率いる夜魔族の侍女長は、あたりに充満する濃密な殺気に臆することもなく、柔和な物腰で怜角に語りかけた。
「…ごきげんようニャ、怜角どの。」
「……」
リリベルが黙って刀を降ろす。侍女長の声は淀みなく、この敷地に集まった全ての者の耳に届いた。
「…おかしいニャ、大帝陛下におかれては、畏れ多くも今日、茨木翁の御自害をお止めになるため、そこなる悪魔と直々に刃を交えられるとの事…」
すっと細くなる侍女長の瞳。いつになく感情の窺えぬ厳粛な面立ちは、整然と居並ぶ侍女たち全てに共通するものだった。
「…しかし獄卒隊諸卿はどういう訳かその悪魔と争っておられる様に見える。これは…陛下が偽りの御言葉で人質を救い、悪魔を騙し討ちにする計略…という事かニャ?」
「…いえ…私は、悪魔に太刀を貸す役目を仰せつかっただけです…」
俯いて答えた怜角と周囲の鬼たちが、悔しげな表情でリリベルの周囲から遠ざかる。細い眉を下げた侍女長は、満足げに喉を鳴らして言葉を続けた。
「…良かったニャ。仮ににも名誉ある獄卒隊士が、同期の仲間を傷つけられた怨みで、大帝陛下の御意向を蔑ろにする、などと…」
侍女長の視線の先には、偶然に地獄に居合わせた来賓、妖狐や精霊の君主、様々な魔物たちが固唾を呑んで成り行きを見守っていた。閻魔大帝と悪魔の果たし合いという前代未聞の事件は、いかなる魔物にとっても大きな関心事なのだ。
「…私のように愚かな誤解をする方が出ては一大事ニャ。獄卒諸卿におかれては、くれぐれも御自重のほどを…」
侍女長が雅やかな衣装を翻してその言葉を締めくくったとき、ざわめく決闘場の空気が変わった。どれほど鈍感な者でも思わず身を竦ませるであろう強大な気配。揃って姿勢を正す魔物たちに向け、再び侍女長の声が厳かに響き渡った。
「…大帝陛下のお出ましである…」
◆
(…リリベル、ちょっと見当違いをしたんじゃないか? あまりに…力が違い過ぎる…)
『顎』の見解は正しかった。遥か前方…果てしなき生命の流転、魂の巡る永遠の旅が描かれた見事な陣幕の前に、忽然とその巨躯を現した閻魔大帝は、遠目にもリリベルの予想を遥かに超える戦士だった。
冥府に君臨する無敵の魔王。抗うことすら愚かしい、『運命』という言葉にも似た裁きの大魔神。確信にも近い敗北の予感が、リリベルの五体にじわじわと這い登った。
(…無理だよ…リリベル、なにか別の方策を…)
しかし彼女は震える脚を懸命に操り、亡き両親を引き裂いた仇敵に向かって歩き始めた。
「…勝てるなんて思っていまセン。でも、奴にほんの少し、髪一本ほどの傷でも付ければ…ワタシと母さんの生は報われるデス…」
(…言っている意味が判らない。それは『自殺』という行為じゃないか? そんな『死』に一体どんな意味がある!?)
いつもは従順な『顎』の反論に、リリベルは当惑しつつも語気を荒げ、彼の言葉を一蹴した。
「…娘が間抜けな爆破未遂犯じゃ、母さんの名誉は守れナイ!! 復讐を成し遂げてこそワタシはベリアルの姫デス!!」
首の無い亡霊騎士、頭頂で髪を結わえたあどけない魔女。すでにリリベルは居並ぶ立ち会い人の中に何人か、西欧の名だたる魔王たちと接点のある者を見つけ出していた。
彼らの目前で、ほんの僅かな手傷でも閻魔大帝に与える事が出来れば、リリベルの、いやベリアル一族の名は世界のあらゆる魔の国で燦然と輝く事になるのだ…
『…わが妹よ。一族の中には、君の母は大魔王ベリアルを籠絡した淫売だ、と謗る者たちもいる。そしてその娘もまた、ベリアルの名には値せぬ、とな…』
魔界の貴族が集う壮麗な舞踏会の夜、慣れない豪奢なドレスを纏ったリリベルの耳元で、異母兄であるベリアルの王子が囁いた言葉だ。
『…ベリアルの姫が憎むべき父母の仇に正当な復讐を遂げる。そうすればどんな愚か者も、君の亡き母を栄えあるベリアルの后として、永遠に讃えることだろう…』
◆
…血の気の失せた顔をまっすぐ決闘の相手に向け、歩き続けるリリベルに『顎』の声はもう届かなかった。しかしリリベルの内なる悲鳴にも似たその声は、とめどなく伝う涙となってリリベルの頬を濡らした。
(…間違っている。君が生命を賭けるベリアルの名誉とやらは、なぜ君の命を軽んじる!? なぜたった一人で闘っている妹を、兄弟たちは助けに来ない!? 例えば…)
例えば…取るに足りぬ小悪魔相手に、閻魔大帝さえ決闘の場に引きずり出したもの。『顎』の強い探究心は先ほどの人質から、在るべき形の名誉と肉親愛すら学びとっていたのだ。
もし違った形で出逢っていたなら、血なまぐさい道具に過ぎなかった『顎』の誠実な魂は、リリベルと共にもっと明るい道を歩めたかも知れない。
(例えば…例えば…たとえ…ば…)
しかしもう、全ては遅かった。リリベルは今、その狂おしい憤りを全霊でぶつけるべき仇敵、恐るべき閻魔大帝の目前に立っていた。
帝位を示す冠と吊り上がった太い眉の下で、あらゆる虚偽を見透かす眼がギロリとリリベルを睨み据える。噴き上がる熔岩のごとき憤怒の形相を見上げた彼女は、初めて恐怖に身を竦ませた。
「怖い、デス…『おさがり』…」
一騎当千の獄卒隊さえ、この魔神の前では戯れる小鳥に等しい。あとほんの少しで閻魔庁と共に粉微塵になる筈だった瞬間さえ、リリベルはこれほどの恐ろしさは感じなかった。
「…『おさがり』、お願いデス。もう少しだけ、力を貸して下サイ…」
諦めたように沈黙していた『顎』が、蓄えた魔力を防御に集中させた。ようやく闘志を取り戻したリリベルに向けて、彼女の倍を超える高みから、閻魔大帝は地を揺るがす重々しい唸り声を発した。
「…小娘よ。口上を聞こう。」
その巨躯にすら収まり切らぬ圧倒的な威圧感が、空気を割いてリリベルに突き刺さる。その耐え難い戦慄から逃れるように、悪魔リリベルは太刀を振り上げ、甲高く叫びながら突進を始めた。
「…問答…無用!!」
◆
…周囲の喧騒は疾走するリリベルの耳には届かない。だが無謀な挑戦者がすぐに跪き、慈悲を乞うと信じていた来賓たち、狡知に長けたリリベルを警戒し、油断ない視線を注ぐ獄卒たちは彼女の堂々たる突撃に賞賛の混じった声を上げる。
注意深い者は気付いていた。閻魔大帝がこの闘いに愛用の巨大な魔剣を用いず、リリベルと同じ官給の太刀を振るっていることを。
そして、大帝の後継者たる皇子とその侍女たちがあろうはずもない敗北に備え、略式だが即位の準備を整えて、この決闘を見守っていることを。
いかなる要請によって応じた決闘にせよ、これは裁き、裁かれる者の衝突ではなく、誇り高い武人同士の名誉を賭けた私闘だった。
父王の古めかしくも厳正な決闘を、まだ年若い皇子は静かな、そして落ち着いた眼差しで見つめていた。
◆
(…跳べ!! リリベル!!)
巌のごとき巨体から俊敏に繰り出される正確な斬撃。『顎』の冷静な指示がなければ、とっくにリリベルの身体はすっぱりと両断されていただろう。
いまや一心同体で跳び、伏せるリリベルと『顎』は、その不遜な挑戦に恥じない健闘を続けてはいた。しかし圧倒的な技量差の前に、ただ疲労と焦燥だけが募ってゆく。
決して踏み込めない絶望的な間合い。幾多の戦歴において敗北はおろか、一切の負傷すら知らぬ地獄の王は、着実にリリベルを追いつめていた。
「…もう充分だ。塔に戻り、裁きを待つが良い。」
幾分穏やかな閻魔大帝の声が、低く身構えるリリベルの耳に届く。だが彼女はその言葉を無視し、太刀を握る痺れきった腕を、渾身の力で振り上げた。
「…クソッタレ…デス!!」
おそらく最後の突撃になるだろう。高く叫んで駆け出した彼女の瞼には、泥にまみれ息絶える自らの姿がはっきりと映っていた。まるで踏みにじられ、見向きもされぬ薊の花のように。
もはや自決に等しい、退くこともできぬ死への疾走。そのとき躊躇なく大帝の懐に斬り込むリリベルの身体から、『顎』の黒い影が音もなく跳んだ。
「…え!?」
(…脚だリリベル!! そのまま脚を狙え!!)
リリベルの首があっけなく宙を舞うはずの瞬間、鈍い破壊音が彼女の頭上に響き渡った。ひび割れた『顎』の欠片が、リリベルの紅い髪とあらわな肩に落ちる。
「『おさがり』っ!!」
大帝の振るった太刀は『顎』を半ば断ち割って停まっていた。リリベルは僅かな隙を見せた標的をしっかりとその間合いに捉えながら、、悲願の一撃すら忘れて愕然と頭上の『顎』を見上げた。
「ああ…あ…」
(…リリベル、君と逢えてよかった。私たちは、まるで…)
はらはらと舞い散る欠片が『顎』の思念をリリベルに伝える。ふつり、と途切れたその想いを、立ち尽くすリリベルの震える唇が引き継いだ。
「…きょうだい、デシタ…」
…痛々しい名誉の為でも、欺瞞に満ちた栄光の為でもなく、ただ、同じ孤独を知る者の為に闘うこと…それが、『生命』の意味を問い続けた『顎』がリリベルに遺した答え。
リリベルはようやく気付いた。自分が本当に死を賭してまで求め続けていたものと、地獄の暗闇で、父も母も、兄弟もなく生まれた『顎』が欲しかったものとは、全く同じものだった、と…
その身体で閻魔大帝の斬撃を止め、悪魔リリベルを守った付喪神『顎』は、砕けてなお白刃に噛み付いていたが、やがて命なき本来の姿で、ドサリとリリベルの傍らに落ちた。
続く
投下終了
◆zavx8O1glQ様乙でした!! 次スレでもどうか宜しく!!
うわああ乙ですだー!
おさがりさんに敬礼っ!!
投下乙でした!
これはまためっちゃ気になるところで続きに。
正直今の地獄シェアの流れを見てると、何が起きても不思議じゃないw
緊張感溢れる睨み合いの中に混ぜる小ネタもまた……GJ!
投下乙!
厄介払いのための口車に乗せられていたとは、リリベルちゃん……なんという悲しき少女。
でも自分でも納得できるものがあったからこそなんだろうな。
しかしおさがりたんがいなくなった今……
すっぽんぽんじゃないか! いいぞもっとやれ!
規制解除キタ
リリベルたそは可哀相なのにセクシー!
そっかまとめwikiとかないんだった
このスレ落ちたら読み返せないんだな…
今のところまとめwikiを作ろうという勇者は現れていない。
創作発表板まとめwikiでやるのもいいと思うけどね。
まとめ乙です!
スレがもつのって512kだっけ?
だとすると残り19k
容量的に投下待ちの作者さんとかがいるようなら
そろそろ立てた方がいいかもしれないね。
>>687 出来ればお願いします。
書き手様、絵師様乙でした。次スレでもどうか宜しく!!
では一応避難所の方にも書いて置きましたが、もう少ししたらスレ立ててきます。
もしダメだったらお願いいたします。
さて、埋めようか
埋めでしか出来ない話がある。埋めだからこそ出来る話がある。
ついにやって参りました埋めタイム。
今回のテーマは「俺、こんな話書こうと思ってるんだ」です。
ええ、ありますよねそういうの。
ていうか「俺、こんな話書こうと思ってるんだっていうのを聞いてもらいたいんだ」
が正しいのかもしれません。
つまり「俺、実際は書かないと思うけど、こんな妄想してるんだ」
と言い換えることもできます。
既に作品を投下している方、書いてみたいけどどうも輪に入りづらいという方。
あなたの妄想を初代スレとともに電子の海へ流してみませんか?
正直、高杜市の再興を画策してました…
代行ついでに俺も。
ヒロインがいろんな作品の男キャラにフラれ続ける。
そんな話を書こうかとおもったのだけど。
どこも女キャラばかりだったという。
「俺、こんな話書こうと思ってるんだ」ということで言い訳ついでに少し書き書き。
とりあえずイチャイチャさせたい。
よし、満足だ。
さあ! 言い訳のコーナーですだよ。
私今期末考査ネ。忙シイネ。でもそのくせつい二日前まで別板の別スレで長編書いてたネ。
あー、次スレでの皆様の作品を読むのが楽しみだー
あんたの投下も楽しみにしてるんだぜ!
697 :
創る名無しに見る名無し: