1 :
創る名無しに見る名無し:
昔々のお話です。
ある小さな村に、神の子として敬われている少年がいました。
少年は何でもできました。勉強だって、運動だって、なんでもできました。
小さな村の誰もが少年を敬い、愛していました。
その少年も、村人をとても愛していました。
ある日のことです。少年の友達が泉に溺れてしまいました。少年は助けようと、泉に飛び込みます。
でも、そこは神様が住んでいる泉でした。
そのことは、村人の誰もが知っています。そして、「誰もこの泉に入ってはいけない」という掟がありました。
少年の友達は足を踏み外したのです。わざとではありません。
少年はそう考えました。だから、助けるために泉に入るのも、悪いことでもありません。
だから少年は泉に飛び込みました。
友達を助けるために飛び込みました。
友達は助けられました。友達はとても喜んでいます。少年も友達が助かって、とても喜びました。
しかし、どうでしょう。泉が金色にピカピカと光ると、立派な白い髭の老人が泉から現れたのです。
「ここで水浴びをしていた者は、お前たちか」
年老いた容貌ですが、こちらに何も言わせない雰囲気があります。それでも少年は、自分が正しいことをしたと思っているので、こう言いました。
「違うよ。僕の友達が溺れちゃったんだ。友達は泳げないから、僕が助けたんだ」
「ほう。この泉には入ってはいけない、という私の言いつけを無視してまで助けたのか」
「僕は悪いことはしてないよ」
2 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 04:25:07 ID:bVq1Astu
少年は自信があります。自分は正しいことをしたのですから、怒られないと思っています。
「例えどのような理由があろうと、この泉には入ってはいけない。その言いつけを守れなかったのは、悪いことではないのかね?」
少年は言葉が出ません。神様が言っていることは正しいからです。でも、少年は言います。
「それでも僕は、友達を助けたかったんだ」
すでに少年は頭が回りません。目から涙が溢れてきそうなほど、気持ちが高ぶってしまっています。そして、とうとう、少年は神様の怒りを買う一言を言ってしまいました。
「溺れた子供も助けられない神様に、何を言う権利があるっていうんだ!」
神様は、もうかんかんです。顔を真っ赤にして、少年に言います。
「なんと愚かな子だろう! 私が今までそなた達にしたことを、知らぬと言うのか! いつも美しい水をお前たちに与えてやったというのに!」
まだまだ神様の怒りはおさまりません。
3 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 04:26:18 ID:bVq1Astu
「なんと傲慢な子だろう! 自分の立場をわきまえず、私に意見するとは!」
神様はその場で足踏みします。すると、泉の色がどんどん黒く変わっていきます。
「なんと哀れな子だろう! 一言でも謝れば許してやったのに!」
泉は真っ黒になって、どろどろとなっています。それは変な臭いがして、具合が悪くなってしまいます。
「一生お前はこの罪を償うがいい! お前がしでかしたことを、一生後悔するがいい!」
神様は、泉に戻るのではなく、空へと戻っていきました。
◆
この話は、あっという間に小さい村に広がりました。
神の子が神の怒りを買った。なんということだ。なんてことをしてくれたんだ。村人たちは口を揃えて嘆きます。
村の畑の野菜は腐り、家畜は次々と死に、村には奇病が流行りました。
少年は家に引きこもるようになりました。家の窓は、石を投げられ全て割れました。隙間風がびゅうびゅう吹いてきます。
両親は、少年を置いてどこかに行ってしまいました。
少年が助けた友達は、村の人たちと一緒に少年をいじめます。
それでも少年は、この村に居続けました。
4 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 04:27:15 ID:bVq1Astu
小さな村の誰もが少年を忌み嫌いました。
それでも少年は、村人たちを嫌おうとは思いませんでした。
村で、ようやく作物が育ち始めたある日のことです。少年はいつもの通り、夜中にこっそりと出かけ、村の畑に食べ物を盗みに行きました。
少年は泣きながら野菜を一つ盗みました。
悲しくて泣いたのではありません。
あまりにも自分が情けなくて泣いたのです。
しかし、見つかってしまいました。
見つけたのは、少年の友達だった男の子です。
「お前は……」
男の子が、汚物でも見るかのような目で呟きます。
男の子が見たのは、汚い服に身を包み、髪はぼさぼさで、顔には黒い汚れがべっとりとついている少年の姿でした。
5 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 04:28:15 ID:bVq1Astu
「君は……」少年が言葉を続けようとしましたが、男の子がそれを止めるかのように叫びます。
「泥棒だ! やっぱりあいつが今までの泥棒の犯人だ!」
少年は再び泣きました。今度は辛くて泣いたのです。
少年は村人が自分を嫌っていたことを知っています。でも、この子だけは、自分が正しいことをしたとわかってくれていると思っていたのです。
村の大人たちがたくさん出てきて、少年を追いかけます。大人たちは、鍬やら、包丁やら、棒切れやらを手に持っています。少年は腕に野菜を抱えて必死に逃げました。
いっぱい、いっぱい走りました。もう息ができないのではないかと思うほど、必死に走りました。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
少年は泣き叫びながら、まだまだ走ります。悲しくて、辛くて、苦しくて、心が痛くて……。
やがて、少年はあの泉の前に着きました。
泉は黒くて、変な臭いがします。
ここまで逃げれば大丈夫と思った少年は、いつものように「いたぞっ!」「あの泉だ!」「悪魔の子がいたぞ!」「こっちだ!」しました。
少年は追い詰められました。
「お前のせいで!」
「お前がいたせいで!」
「お前があんなことをしたせいで!」
少年の友達だった男の子が、前へ出てきました。
「お前があんなことをするから!」
それは少年にとってはとても残酷な言葉でした。助けたことが悪いことだと言われている気がしたのです。
「僕は悪いことをしていない!」
少年は言い返します。泣きながら、苦しみながら。
「何を言うんだ、悪魔の子め!」
6 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 04:29:03 ID:bVq1Astu
大人の一人が、手に持つ棒切れで少年を殴ります。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
少年があまりの痛さに叫びます。
でもその大人はやめません。しかもそれに続くかのように、次々と大人たちが少年を痛めつけます。
「やめて、やめて!」
少年は叫びます。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
ぐちゃ、と辺りに響くようなにぶい音がしました。
その音と同時に、少年の叫びが消えました。
大人たちが少年だったものから身を引きます。少年だったものは、いとも無残な姿になっていました。それは人だったとは到底考えられないくらいでした。
大人たちが息切れしています。
すると誰かが言いました。
7 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 04:35:42 ID:bVq1Astu
「こいつは悪いことをした。それを償わせただけだ」
「そうだ」
「その通りだ」
「悪いのはこいつだ」
すると空が薄っすらと明るく光ります。
空から立派な白い髭の老人が現れ、言いました。
「なんということだ……」
老人はゆっくりと少年に近づき優しく抱きかかえます。
その老人は、泉に住んでいた神様でした。
皆が跪きます。
「お前たち、この子に何をした」
そして一人の大人が言いました。
「こいつはあなた様の泉を汚した罪人として、我々が裁きました」
とても誇るようにその大人は言います。
「なんと愚かな者たちだろう! この子が何をしたかも聞かずに、このような行為に及んだというのか!」
神様はぽろぽろと涙をこぼします。
「なんと哀れな子だろう……あの日からずっと、私に許しを乞うていたのに……。私がもう少し早く許してやれば」
少年は、あの日からずっと神様に謝っていました。盗んだものとはいえ、お供え物を毎日していました。泉に浮いているごみを、毎日拾いました。膝を地に着け、深く頭を下げ、泣きながら何度も謝っていました。
「この子が昔言っていた通りだ。子供も助けられない神が、何を言う権利があるというのだろう。すまない、すまない……」
神様は泣きます。泣きます。泣きます。
「おぉ、愚かな者たちよ。自分たちが裁きを下せる権利があると思い、この子を痛めつけるとは。何も見ない愚かな者たちよ、一生後悔し、生き続けよ。この子が受けた苦しみをお前たちも受けるがよい」
そして、神様は少年を抱えたまま空へと戻っていきました。
それを大人たちはただ黙って眺めることしかできませんでした。
だって、自分たちは正しいことをしたと思っているのですから。
痛いけど、こういうの割と好きかも
財布がマジックテープ式だったら理不尽にも彼女に振られた
>>1-7 入れ子構造ですか。
この話の中の神様は、アニミズム的な能力の高い精霊のような存在というより、
絶対神的な存在によった「神」として書かれているように思えます。
そして、その「絶対の存在であるはずの神」が、「過ちを犯した」というところが、
「何かを絶対的なものと思っていることの暴力性、危うさ」をより強く提示することに効果的に働いていると思います。
今後は理不尽な話を投下するスレになるのかな。
12 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 03:09:41 ID:HSFRFju2
「斉射用意!」
「待てよ!彼らは何の政治的要求もしていない。ただ食料を求めているだけだ」
「ああ。ここでは食えるか食えないか、それが政治なのさ。兵隊が命令に従うのも食い扶持を
保証されているからに過ぎん」
「狙え!」
「てーぇ!」
「何て事を・・・」
「覚えておくんだな。俺も、あんたも、一度鉛の弾を食らえば、二度とパンを食わせろと叫ぶ
必要も無くなる。これは連中に対する救いなのさ」
13 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 11:04:55 ID:yV5iwamz
>>10 入れ子構造とか、細かいことは考えていなかったww
しかし、そこまで客観的に分析してくれると、すげー参考(と言えばいいのかわからないが)になるw
あざっす。
>>11 というより、『理不尽な話』といえるような小説を集めるスレになればいいと思っている。
まだ何個か小説はあるが、みんなの評価を見てから投下しようと思ってたので……。
14 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 21:44:30 ID:KfDEH05a
なんか胡散臭いスレ。
神の子と称して、人を散々脅して、不幸にし、二股かけながら、偽りの愛を
語って欺いた人間もいるけどね。
15 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 21:47:47 ID:KfDEH05a
罪を犯した本命の子を助けるがために、彼はどれだけの罪を犯したんだろう。
隠蔽するために、どれだけ脅迫し、私を不幸なめにあわせたんだか。
長期間、私のこと馬鹿にしながら神にでもなったきでいたんだろうね。
天からすべてみられていることも知らずに。
16 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 21:52:21 ID:KfDEH05a
真理に背いて、罪を重ね続けた彼らは、
どれだけ美化しても自分たちが正しいと主張しても、
それは虚しく、永遠の恥として語り告げられることになるよ。
17 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 22:01:36 ID:KfDEH05a
彼は、
「兄弟だから全部許されるんだ」
「俺の言うこと聞かないから、どんどん脅せ」
「何をしても全部許されるんだ」
「兄弟を許さないやつが悪者だ。どんな悪をしても許さないとまた脅すぞ!」
って思っていたのかもしれない。
18 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 05:42:51 ID:GSMdNJs9
浮気男と嘘つき女。
19 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 11:24:16 ID:GSMdNJs9
偽の兄弟
…?
21 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 20:21:28 ID:hFsQ7d5p
財布の厚みがなかったから理不尽にも彼女に振られた
弟が悪い事をしたので兄としてそれを叱る
↓
弟泣く
↓
弟を泣かせたと何故か兄が怒られる
すごく……理不尽です
エスカデはスパッツがキモいから始末する
24 :
「隣人」:
ある日隣人が家にやってきた。「引越してきたばかりで、足らない物がたくさんある」と困った顔をした。僕が「必要な物があったらどうぞ」と言うと、ありがとうありがとうと何度も繰り返した。
「では遠慮なく、これを貰っていくよ」
隣人はそう言って、僕の足を持って行ってしまった。
足がなくなって、生活が不便になったけど、「みんな不自由だよ、あんたはまだまし」そう言われて納得した。
そうだ、もっと不幸な人はたくさんいる。
これも人助けだと思って、僕は気にしないことにした。
外出できないので、僕は家の中で過ごすようになった。
そんなある日、隣人がやってきて僕の手を持って行ってしまった。
「ちょっと借りるだけだから」
イヤだったけど、イヤといえなかった。
「困っている人を助けるのは当たり前でしょう?」
そう言われたから。
身動きひとつできなくなったけど、困ったときはお互い様だ、仕方ない。
僕は我慢することにした。
隣人がやってきた。顔を真っ赤にして、激怒している。
どうしたんだろう?
「おまえの手がオレの大切なものを壊した。責任をとれ、金を出せ」
金はないというと、じゃあ頭をよこせと言う。無理だというと、体を持って行ってしまった。抵抗しようにも、手も足も、すでにない。
頭だけになった僕は、一晩中泣きつづけた。
隣人がやってきた。
僕の泣き声がうるさくて眠れなかったと言う。
「僕の体、返してよ」
僕が叫ぶと、隣人は大きな声で笑った。
「おまえのものなんて、何一つないさ。見ろ、おまえはオレのモノだ」
隣人は、僕の頭が知らぬ間に僕の手が書いたという『契約書』をひらひらさせた。
そして、呆然と固まる僕の頭を新聞に包んで小脇に抱え、僕の家を出た。
その日から、僕はもとの僕ではなくなった。
隣人は気のむくまま一方的に僕を怒鳴りつける。足を踏みならし、両手を振り回す。
見れば、それはどちらも僕の足、僕の手だった。
「使ってやっているのだから、感謝しろ」
僕の体は、サンドバッグ代わりにされて、あちこち痣ができて黒ずんでいる。
「泣いてばかりでうるさい」
泣き言がうるさいと、ある日とうとう舌を抜かれた。
涙が流れて湿っぽいからと、目玉もくりぬかれてしまった。
息をすること、耳で聞くこと、考えることだけが、僕に残された自由だった。
「プライバシーを大事にしたい」
ある日、僕の耳に男が耳栓をした。もう、音が聞こえない。僕は闇の中に、たったひとりで取り残された。
そして、随分と長いときが経った。うとうとと眠っていた僕の耳から、突然栓が取られた。久し振りの音、音、音。なんて素晴らしいんだろう。僕は全身を耳にして、周囲の音を拾い上げた。
「ただ黙って寝てるだけなんだし、もう考えるための脳みそもいらないだろう」
耳に男の声が聞こえた。
「頭の中身を取り出してタン壷にしよう。それで少しは役に立つだろう」
こうして『僕』はいなくなった。