新漫画バトルロワイアル 第6巻

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1創る名無しに見る名無し
ここは、漫画作品のキャラクターたちによるバトルロワイアルパロディ(パロロワ)の
リレーSS企画スレです。
この企画は性質上、版権キャラの残酷描写や死亡描写が登場する可能性があります。
苦手な人は注意してください。


前スレ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1245674870/


したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12531/


まとめwiki
http://www42.atwiki.jp/newmangabr/
2創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 02:56:45 ID:0qlkqrak
★参加者名簿(決定)★


6/6【スパイラル 〜推理の絆〜】
○鳴海歩/○結崎ひよの/○竹内理緒/○浅月香介/○高町亮子/○カノン・ヒルベルト
6/6【トライガン・マキシマム】
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/●ニコラス・D・ウルフウッド/○ミリオンズ・ナイブズ/
○レガート・ブルーサマーズ/○ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク/○リヴィオ・ザ・ダブルファング
5/6【ハヤテのごとく!】
●綾崎ハヤテ/○三千院ナギ/●愛沢咲夜/●鷺ノ宮伊澄/○西沢歩/○桂雪路
6/6【鋼の錬金術師】
○エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/○ゾルフ・J・キンブリー/○グリード(リン・ヤオ)/○ウィンリィ・ロックベル
5/5【うしおととら】
○蒼月潮/○とら(長飛丸)/○ひょう/○秋葉流/●紅煉
5/5【未来日記】
○天野雪輝/○我妻由乃/○雨流みねね/○秋瀬或/●平坂黄泉
5/5【銀魂】
○坂田銀時/●志村新八/○柳生九兵衛/○沖田総悟/○志村妙
5/5【封神演義】
●太公望/○聞仲/○妲己/○胡喜媚/○趙公明
3/4【ひだまりスケッチ】
○ゆの/○宮子/○沙英/●ヒロ
4/4【魔王 JUVENILE REMIX】
○安藤(兄)/○安藤潤也/●蝉/○スズメバチ
4/4【ベルセルク】
○ガッツ/○グリフィス/○パック/○ゾッド
4/4【ONE PIECE】
●モンキー・D・ルフィ/○Mr.2 ボン・クレー/●サンジ/○ニコ・ロビン
4/4【金剛番長】
○金剛晄(金剛番長)/○秋山優(卑怯番長)/○白雪宮拳(剛力番長)/●マシン番長
3/3【うえきの法則】
○植木耕助/○森あい/○鈴子・ジェラード
2/1【ブラック・ジャック】
○ブラック・ジャック/●ドクター・キリコ
1/1【ゴルゴ13】
○ゴルゴ13


54/70
3創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 02:57:49 ID:0qlkqrak
★ロワのルール★


 OPなどで特に指定がされない限りは、ロワの基本ルールは下記になります。
 OPや本編SSで別ルールが描写された場合はそちらが優先されます。



【基本ルール】


最後の一人になるまで殺し合いをする。最後まで生き残った一人が勝者となり、元の世界に帰ることができる。
参加者間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、参加者は会場内にランダムで配置される。



【首輪について】


参加者には首輪が嵌められる。首輪は以下の条件で爆発し、首輪が爆発したプレイヤーは例外なく死亡する。
首輪をむりやり外そうとした場合
ロワ会場の外に出た場合
侵入禁止エリアに入った場合
24時間死者が出ない状態が続いた場合は、全員の首輪が爆発



【放送について】


6時間おき(0:00、6:00、12:00、18:00)に放送が行われる。
放送の内容は、死亡者の報告と侵入禁止エリアの発表など。



【所持品について】


参加者が所持していた武器や装備などはすべて没収される(義手など体と一体化しているものは没収されない)
かわりに、支給品の入ったデイパックが支給される。
デイパックは何故か、どんなに大きな物でも入るし、どんなに重い物を入れても大丈夫だったりする。
デイパックに入っている支給品の内容は「会場の地図」「コンパス」「参加者名簿」「筆記用具」
「水と食料」「ランタン」「時計」「ランダム支給品1〜2個」


※「参加者名簿」は、途中で文字が浮き出る方式
※「水と食料」は最低1食分は支給されている。具体的な量は書き手の裁量に任せます
4創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 02:58:54 ID:0qlkqrak
★書き手のルール★


【予約について】

予約はしたらばにある予約専用スレにて受け付けます。
トリップをつけて、予約したいキャラクター名を書き込んでください。
予約期限は3日(72時間)です。期限内に申請があった場合のみ、3日間延長することができます。
これ以上の延長は理由に関わらず一切認めません。
また、書き手枠に関しては、延長はできず予約期限は3日のみとなります(詳細は下記の書き手枠ルール参照)

予約に関するルールは、書き手からの要望があった場合、議論のうえで変更することを可能とします。



【キャラクターの死亡について】

SS内でキャラが死亡した場合、【(キャラ名)@(作品名) 死亡】と表記してください。
また、どんな理由があろうとも、死亡したキャラの復活は禁止します。


【キャラクターの能力制限について】

ロワ内では、バランスブレイカーとなるキャラの能力は制限されます。
 ※詳細は現在議論中です


【支給品制限について】

ロワ内では、バランスブレイカーとなる支給品は制限されます。
 ※詳細は現在議論中です
5創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 02:59:44 ID:0qlkqrak
【状態表のテンプレ】

SSの最後につける状態表は下記の形式とします。

【(エリア)/(場所や施設の名前)/(日数と時間帯)】
 【(キャラ名)@(作品名)】
 [状態]:
 [服装]:(身に着けている防具や服類、特に書く必要がない場合はなくても可)
 [装備]:(手に持っている武器など)
 [道具]:(デイパックの中身)
 [思考]
  1:
  2:
  3:
 [備考]
  ※(状態や思考以外の事項)

【時間帯の表記について】

状態表に書く時間帯は、下記の表から当てはめてください。

 深夜:0〜2時 / 黎明:2〜4時 / 早朝:4〜6時 / 朝:6〜8時 / 午前:8〜10時 / 昼:10〜12時
 日中:12〜14時 / 午後:14〜16時 / 夕方:16〜18時 / 夜:18〜20時 / 夜中:20〜22時 / 真夜中:22〜24時
6創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 16:28:28 ID:FiXxadts
>>1新スレ乙!
7創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 19:20:29 ID:HoNDzkXH
>>1新スレ乙
8 ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 21:51:49 ID:PxRYBiz9
>>1スレ立て乙です。

さて、遅くなりましたが浅月、宮子、雪輝、由乃を投下します。
9浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 21:52:53 ID:PxRYBiz9

「メンドくせぇな…全部持っていけりゃいいんだが」

ぶつくさと、真っ暗な学校の理科室で愚痴る少年が一人。
鮮やかなサツマイモ色の髪の毛をツンツンに逆立てた浅月香介は、役立つアイテムを探していた。
さながらRPGの主人公のように、勝手に物をあさる。
彼はRPGの主人公ではなく、現実に生きる少年だ。勝手に物品を持ち去るのは窃盗にあたる。
だが、今さらそれを気にするような甘っちょろい人生は歩んでいなかった。
支給された鞄に手に入れた薬品などを入れて持ち去ろうという魂胆だったが、問題が1つ。
RPGの主人公同様、浅月が持てる物の量は限られているのだ。

「こんな鞄じゃすぐに一杯になっちまうな。先にリュックか何かを探しとくべきだったか…」

ひとまず入れられるだけ入れておこうと、浅月は鞄にめぼしい物を放り込む。
めぼしい物といっても彼には薬品にまつわる知識がそれほど無い。
ほとんど全てがめぼしい物に見えた。

「フラスコとかは…いらねぇか。アルコールランプとか持ち歩くわけにいかねぇし…ん?」

窃盗行為にいそしんでいた浅月が、とある事に気がつく。
物をどれだけ入れても、鞄が一杯になる気配が無いのだ。
試しにに手を突っ込んでみる。確かに入れたものは存在していた。
だが、底のようなものを感じない。さらに様々な道具を入れてみる。
やはり鞄は一向に埋まる気配を見せなかった。

「ド○えもんじゃあるまいし…四次元デイバックだってのか?」

にわかには信じがたい。しかし、ワープやら電撃攻撃を目の前で見せられた実績もある。
なによりも、だ。彼はここに来た時からずっと抱えていた違和感をあらためて分析する。
自分はカノンとの戦いの怪我でまだ入院中だったはずだ。その怪我がすっかり治っている。
これも連中の細工なのだろうか。だとしたら、とんでもない相手だ。

大体、こんな殺し合いに今更常識を求める事の方が間違っているのだろうか。
そんな事を考えながら、1つのことを思いつく。
顎に手をあて、少し考え込むと、浅月は理科室の隅にある人体模型に近づき、箱から取り出した。
あまり気味のいいものではなかったが、気にせずそれを鞄に入れてみる。
すんなりと入っていった。
10浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 21:53:46 ID:PxRYBiz9

「…なるほどね。これならもしかすると…」

そう言うと鞄を開いたまま床に置く。そして深呼吸すると、自分の足を鞄に突っ込んだ。

「…ちっ、さすがにこれはダメか」

足はするすると入ってくれたが、すぐに床のような固い底に行き着き、そこで止まってしまった。
どうやら人間が入ることは出来ないらしい。

別に彼はこの鞄に隠れて殺し合いをやり過ごそうとしたわけではない。
ただ、何を入れてもほとんど重さの変わらないこの鞄に騒がしい同行者を入れて運べば、
少しは楽かな、と考えただけだった。

(それじゃ弱い奴らは皆これに隠れてればよくなっちまうしな)

妙な事に納得すると、彼は再び窃盗行為にとりかかる。


理科室のチェックを終え、次に保健室へ。
包帯や薬の類を集め、ついでにベッドのシーツやカーテンも剥がして頂戴する。
鞄の容量の多さを考えれば、無駄かもしれない物や大きい物も持っていって大丈夫だろう。
武器は手に入らなかったが、いろいろと収穫はあった。気を良くしたのかもう少し、と欲が出る。
どうやらこの学校は中学と高校が1つの敷地に別々に配置してあるらしい。
分けてあるのには何か意味があるのかもしれないと、浅月は中学のほうにも足を伸ばした。
昇降口にたどり着いた所で、どこからか音楽が流れ始める。
聞き覚えのあるこの曲は…

「……『孤独の中の神の祝福』、だったか?気にいらねぇな……」
11浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 21:54:43 ID:PxRYBiz9

     ◇     ◇     ◇

静まりかえった教室内に、ユッキーの寝息だけが聞こえていた。
それが由乃にはなによりも幸せで、とてもとても心地よかった。
ここに来てからいろいろあった。嫌な奴らにも会ったし、面倒事にも巻き込まれた。
それも全部、このユッキーの寝顔で癒される。彼女は今、本当に幸せだった。

そんな静寂に、無粋にも割り込んでくる音楽。
一瞬顔をしかめる。こんな音楽なんか流して、ユッキーが起きちゃったらどうしてくれる。
しかし、彼女の手にある『雪輝日記』は、彼が起きることを示していない。
気を静めて、由乃は放送の内容を聞き取る事に集中する。
それもこれも、今はスヤスヤと眠る愛しい人の為に。


結論から言うと、放送からは特に必要な情報は得られなかった。
まず参加者。自分が知った名前は二つ。
雨流みねね。未来日記を用いたゲームの9th。
何度か顔を合わせたことがあるし、アイツと戦った時のユッキーもかっこよかった。
別に雨流みねね自体に興味は無いが、もし未来日記を持っているなら厄介ではある。
しかし、自分やユッキーの例から考えてアイツに自分の未来日記が支給されている可能性は低い。
むしろ気にかかったのはもう1つの名前。
平坂黄泉。同じく未来日記のゲームの12th。
だが、コイツは死んだはずだ。他でもない、この手で倒したのだから。
そんな奴がどうしているのだろう。おまけに、ご丁寧に死亡者として読み上げられた。
この殺し合いが例のゲームの延長で、以前の死亡者もここで読み上げたのか。
だがそれなら、4thや6th等も呼ばれていなければならない。どうにも奇妙な事だった。

だが、それだけだ。
平坂黄泉は死んだ。それだけだ。ユッキーと自分には何の関係も無い。
それが彼女の結論だった。

他に気になる事と言えば、ミズシロの事だ。
ヤツの名前は見当たらなかった。だが、奴自身が偽名であることは宣言している。
その際にあげた偽名の1つが名簿に載っていた。これが奴だろうか。
まだ信用はしていないが、名前に関しては嘘をついていないと見ていい。
しかし、それも奴に限って言えば、だ。
同行者の『安西』と名乗った男。ソイツの名前が無かった。
安藤という性の人間が二人おリ、一人が奴にメッセージを託された『潤也』という名前だ。
偽名を用いたのがもう一方の『安藤』で、『潤也』の方はその肉親、という可能性もある。
もちろん推測に過ぎないが、あの男が嘘をいっていたのは事実。
それをミズシロこと、カノン・ヒルベルトは知っていたのかいないのか…
奴自身も騙されていたのか…それとも…?

奴らとは後でもう一度接触する必要がある。ユッキーの命でもある未来日記を取り戻す為だ。
その時の為にも、警戒しておくにこしたことはない。

後は特に気にとめるような内容ではなかった。
ユッキーに擦り寄ってきていたあの女がどうなったか気になったが、名前を聞いていない。
死んでいるといいなぁ…そんな事を考えている時だった。
12浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 21:57:37 ID:PxRYBiz9

人の気配。
匂いでわかる。この中学校舎の方に、誰かが侵入してきている。
高校校舎にいた人間なのか、それ以外か。
殺し合いにのっているか、いないか。
そんな事はどうでもいい。
ただ、放っておけばユッキーの安眠の妨げに、あるいは命の危険になるかもしれない。
『雪輝日記』を確認する。相変わらず彼はしばらく目を覚まさないらしく、寝顔日記のままだ。
だが、その理由はわからない。
自分がこれから相手を迎撃することで始めて、この未来が成り立つとすれば。
何もしないでいれば未来が変わってしまうかもしれない。

「ちょっとだけ待っててね、ユッキー」

バッグを枕に彼を寝かせる。名残惜しいが仕方が無い。
彼の安全は『雪輝日記』で逐一確認できる。今は侵入者の確認が優先だ。
武器を両手に構え、やる気マンマンで由乃は教室を飛び出した。
13浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 21:58:21 ID:PxRYBiz9

     ◇     ◇     ◇


「やっぱり…な」

放送後、上階から順に探索中だった校舎内で名簿を眺めながら浅月が呟いたのはその言葉だった。
それは、あまりにも予想通りの面々が呼ばれていたことを指している。
声からほぼ確実と踏んでいた亮子と鳴海弟。ブレードチルドレンの仲間である竹内理緒。
少し予想外だったのがおさげの新聞部員、結崎ひよのくらいか。
いやもう一人、予想外がいる。カノン・ヒルベルトだ。

「カノンの野郎は確か軟禁状態だったハズ……なんでここに?」

同姓同名の別人、ということはさすがに無いだろう。
これだけ自分の関係者が固まって集められているのだ。
なによりも、と浅月は思う。放送から掴んだ情報が、最大の理由だった。
『孤独の中の神の祝福』『土屋キリエ』この二つを使った放送。
参加者に多数のブレードチルドレンと、鳴海歩の存在。
これで鳴海清隆の関与を想像しないほうがどうかしている。
予想はしていたが、これはきっと奴の企みだ。
それならばカノンが解放され、参加しているのも納得がいく。

「フザけやがって…好き勝手するのも大概にしろよ」

湧き上がる苛立ち。これもまた奴の手の中なのだろうか。
とにかく、自分の関係者はまだ誰も死んじゃいない。
いや…放送を聞くに、土屋キリエはもしかすると……
だがこれ以上考えていてもしょうがないかと、浅月は一端思考を停止した。

頭が冷え、名簿を見渡したところで、一人の名前が目に留まる。
この名前、聞き覚えがある。確か放送で…
いや、確かにそれはそうだ。しかしそれ以前に聞いた記憶もある。
少しだけ考え込み、気がついた。

「……クソッタレ」

それは宮子から聞かされていた友人の名前。
彼女が語ったとても仲の良いという先輩の名前だった。
放送は宮子も聞いているはず。浅月は、考えるより速く動き出していた。

(あのバカ、変な事考えてなきゃいいが…)

身近な人間が死んだ。
それは人をおかしくするには充分な理由だ。
彼女を一人にしておいた事を少し後悔する。

(チクショウ、何で俺がこんな一生懸命走んなきゃなんねーんだ!
 あいつがどうなろうが放っておきゃいいのによ…)

そう考えつつも、少しも走る足が鈍らないのは『仲間』の大切さを知る彼故なのだろうか。
14浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 21:59:07 ID:PxRYBiz9


     ◇     ◇     ◇


中学校舎一階の廊下。
由乃はその真ん中に武器を構えて立ち、待っていた。
ココは一階。人の気配は上の階から降りてきているようだった。
何か焦っているのか、少し足音が聞こえたのである。
音の聞こえる階段の出口は1つしかない。
そこから外に出るためには必ずこの廊下を通る必要があり、ここで待ち構えていれば必ず侵入者に対処できる。
接触するだけなら武器を構える必要は無い。彼女は奇襲をかける気マンマンなのである。
それは彼女の中で

ユッキーの安全>ユッキーの安眠>>>超えられない壁>>>他人の命

という価値観が出来上がっているからであった。
武器を構えていると『雪輝日記』を確認できない。
そんな状態を一分一秒でも長くかけたくないのである。
相手は参加者であるわけだから、死んでありがたいことはあれど、困ることは無い。
じっと階段の出口を見つめ、銃の引き金に指をかける。

人影が現れた一瞬、ほんの一瞬で全ては決した。
彼女の両手の『牙』は一切の躊躇い無く銃弾を放つ。狙いもなにもない。
圧倒的な量の弾丸が人体の周辺一体を埋め尽くし、粉々にしていく。
彼女が引き金から手を離した時には、もうそこに人影と呼べるものは存在していなかった。
15浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:00:17 ID:PxRYBiz9


     ◇     ◇     ◇


(あっぶねーーー!!!あの女、なんの躊躇もしやがらねぇ!)

階段の陰で、浅月は胸をなでおろす。
危機察知能力はブレードチルドレンの中でも高いほうだ。
そんな彼がむき出しの由乃の殺気に気づかぬはずもない。
彼は身の危険を感じとり、様子見として身代わりを差し出した。
理科室で入手した人体模型である。
それが粉々に砕かれていく様を見るというのは、なんとも奇妙な感じだった。

(一切手加減なしだな。おまけになんて得物持ってやがんだ!あれじゃ姿も見せられねぇ)

相手は女だった。なぜか宮子と同じ制服を着ている。高校生だろうか。
手にはその格好に似合わぬゴツイ機関銃らしきものを構えていた。
身代わりをたてたのは正解だったが、状況は悪いままだ。
相手はもちろんこっちを倒したなんて勘違いはしないだろう。
こちらにも武器はあるが、いかんせん火力に差がありすぎる。
逆に接近戦に持ち込めば何とかなるかもしれないが…相手の得体のしれなさがそれを思い留まらせる。
階段を上って一度逃げるか?廊下の反対側にも階段はあったはずだ。
だが、モタモタしていたら相手が近づいてくるかもしれない。
急いで高校の方の校舎に戻らねばならない今、相手と命がけの鬼ごっこなんてゴメンだ。
身体能力如何では、あっさり追いつかれる可能性もある。

「(クソ…)よぉ!!まさかお前は殺し合いにのってんのか!?」

ダメもとでまずは説得を試みる。
だが、返ってきた言葉は冷たいものだった。

「邪魔するなら、とりあえずお前は殺しておく」

冗談には聞こえなかった。本気の声。
だが、浅月は逆に交渉の余地を見出した。
16創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:01:09 ID:Z6E6FUnX
しえん
17浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:01:11 ID:PxRYBiz9

「待て!何のつもりか知らないが、俺はお前の邪魔はしない!今もここを出ようと思ってるトコだ」

利害の一致。
それがあれば何とかなるかもしれない。
相手はこちらに近づいてくる様子が無い。何かを気にしながら戦っている風だ。
何かを守っているのかもしれない。

「通してくれりゃもう金輪際ここには近づかない。アンタがここにいる事も誰にも言わない。
 どうだ、見逃してもらえないか!?」

我ながら情けない状態だ。しかし、背に腹は変えられない。
今更かっこいい悪いを言ってられるかと、開き直った必死の懇願。
しかし、相手の声には一切の変化が見られなかった。

「関係ないわ。お前は後々厄介になりそうな気がする」

冗談じゃねー!「気がする」なんて理由で殺されてたまるか!
そう叫びたい衝動を抑え、半ば諦め気味に浅月は鞄をあさる。
支給品の1つが、この状況を乗り切るのに役立つものだったハズだ。
それを取り出し、握り締める。後は少しでも隙が出来れば……

「由乃!!何してるんだ!!」

どこかから聞こえた声。
それを耳にしたとたん、今まで獲物を見つめるハンターのようだった少女があっさりと視線をはずす。
背後に現れた少年に、完全に意識を取られている。

(今だっ!!)

浅月は手にしていた手榴弾を少女に向けて放り投げ、走り出した。
18浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:01:52 ID:PxRYBiz9


     ◇     ◇     ◇


悔しそうな顔で立ち尽くす由乃と、心配そうな顔を浮かべる雪輝。
二人の周囲にほとんど被害は無かった。先ほどの手榴弾はダミーだったのである。
由乃が雪輝に気を取られた一瞬の隙を突いて相手は脱出をはかった。
とは言え相手の位置から次に身を隠せそうな場所、教室の入り口までは距離があった。
由乃ならすぐに対応できる。しかし、それは相手も織り込み済みだったようだ。
その時間稼ぎとしてダミーの手榴弾を放ってきたのである。
由乃一人の状態ならともかく、雪輝の安全を守るためには手榴弾の処理が最優先。
ブラフの可能性を感じながらも、彼女は処理せざるを得なかった。
窓の外に爆弾を蹴り飛ばし、雪輝を伏せさせ安全を確保。
危険が無いことを確認した時には相手の姿は無く、すかさず教室内を確認したがもぬけの空だった。

「……ごめんね、ユッキー。うるさかった?」
「あ、いや……こっちこそごめん。邪魔になっちゃったみたいだね」

『雪輝日記』によれば、彼はまだ寝ているはずだった。
懐から携帯を取り出し、『日記』を確認する。
そこには
『ユッキーが起きて、私を心配して見に来てくれたよ。嬉しい、ユッキー!』
と記されていた。
由乃にとって本当に嬉しい内容ではあったが、これは先ほどまでの記述とは違っている。
彼女が動いたことで、未来が変わったということだろう。
自分の放った銃撃音が彼を起こしてしまったに違いない。
あの時侵入者を気にせずやり過ごしていれば、彼の安眠は守られたかもしれない。
そう思うと、由乃の中で先ほどの男への怒りが激しく高まる。しかし

「むしろ寝すぎたくらいだ。放送も終わってる、よね…?
 何があったか、詳しく聞かせてくれないか、由乃」

ユッキーが、私を頼ってくれた。
それだけで彼女の感情メーターは一気にプラスへと振り切れる。
今はあんな男の事は無視だ。ユッキーに事情を説明し、彼の未来日記の確保を優先する。
彼女の行動の中心はあくまで天野雪輝、ただ一人なのだから。
19創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:02:05 ID:F7e4OL1G
支援。
20浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:02:54 ID:PxRYBiz9


【H-3/中・高等学校中学校舎1F廊下/1日目/朝】


【天野雪輝@未来日記】
 [状態]:健康、軽い眠気
 [装備]:違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾19発、ハリセン
 [道具]:支給品一式×2、不明支給品×2
 [思考]
  基本:ムルムルに事の真相を聞きだす。
  0:由乃の話を聞く。
  1:由乃の制御。
  2:拡声器を使った高町亮子が気になる。
  3:咲夜の生死が気になる
  4:由乃の代わりにミズシロ達に連絡を入れたい。
 [備考]
  ※咲夜から彼女の人間関係について情報を得ました。
  ※グリードから彼の人間関係や、錬金術に関する情報を得ました。
  ※原作7巻32話「少年少女革命」で由乃の手を掴んだ直後、7thとの対決前より参戦。
  ※異世界の存在を認めました。
  ※未来日記の内容は行動によって変えることが可能です。
   唯一絶対の未来を示すものではありません。
  ※放送を聞き逃しました。



【我妻由乃@未来日記】
 [状態]:健康 疲労(小)
 [服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
 [装備]:ダブルファング(残弾25%・25%、100%・100%)@トライガン・マキシマム、雪輝日記@未来日記
 [道具]:支給品一式×2、ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、不明支給品×1(グリードは確認済み)
 [思考]
  基本方針:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
  0:ユッキーに今起きた事と、放送の内容を伝える。
  1:話を終えたら無差別日記に連絡し、現在の持ち主と接触。なんとしても取り返す。
  2:ユッキーの生存だけを考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
  3:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
  4:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
  5:ミズシロと安西の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
 
 [備考]
  ※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
  ※電話の相手として鳴海歩の声を「カノン・ヒルベルト」と認識、
   安藤兄の名前が偽名であると気がつきました。潤也との血縁関係も疑っています。
  ※未来日記の記述が本当に変わったかどうかはわかりません。


  ※中学校舎のどこかに、ダミーの手榴弾×1(ピンなし)が落ちています。
21創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:03:45 ID:F7e4OL1G

22浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:04:49 ID:PxRYBiz9


     ◇     ◇     ◇


「ハァ…ハァ…冗談じゃねぇ、あんな奴の相手なんかしていれられるか」

辛うじて由乃から逃れた浅月は必死で走り、高校の校舎へと戻っていた。
あんな危険人物がいるとわかったらもうこんな場所にいる理由はない。
情報を引き出せなかったのは痛いが、ゲームにのった人間に接触して生きていただけマシだろう。
亮子も宮子の知り合いもここにはいないようだし、さっさとズラかるのが賢明というものだ。
そういえばさっきの女、宮子と同じ制服だった。確か『ユノ』とか呼ばれてたが…
まさか、宮子の知り合いの『ユノ』って子じゃねーだろうな。
あんな危険人物と合流なんざごめんだぜ、と浅月は毒づく。
まぁ特徴が違うのでおそらく別人であろうが…
そこでなぜ、自分が急いでいたかを思い出した。

「そうだ、宮子…」

友人の死を知って取り乱しているだろう宮子と早く合流しなければ。
疲れた体に鞭打ち、浅月は更に加速する。

23創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:05:12 ID:F7e4OL1G

24創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:06:31 ID:F7e4OL1G

25浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:06:39 ID:PxRYBiz9


     ◇     ◇     ◇


浅月少年が高校校舎へ舞い戻る数十分前。
さらに言えば放送の数分前。
宮子は高校校舎の三階、美術室の中でご機嫌だった。

「う〜ん、カワイイ♪これ、ゆのっちに着せたいなぁ…」

浅月の鞄の中になぜか入っていた女物の服に袖を通し、浮かれていたのである。
変わってはいるが彼女も女の子。さらには美術を愛する芸術少女だ。
かわいい服など見れば、それなりにテンションがあがるというもの。

「ヒロさんの方が似合うかな?でも、冴英さんあたりが実は一番似合ったりして」

悪戯っぽい笑顔を浮かべる。そこには嫌味が無く、朗らかなものだった。
普段は着ることが無いような衣装に身を包み楽しくなった所で、いい具合にBGMが流れ出す。

「お、なんだろう。もしかしてファッションショースタート?粋な演出しますなぁ〜」

とてもそんなイメージを持つような曲ではなかったが、浮かれ気分の宮子にはそう聞こえたのか。
ならばこの後に待ち受ける出来事は、彼女にどんなイメージを与えたのだろう。

26創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:08:02 ID:F7e4OL1G

27浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:08:57 ID:PxRYBiz9


     ◇     ◇     ◇


「おい、宮子!」

ドアを勢いよく開き、浅月が姿を現した。息を切らし、疲れが容易に見て取れる。
薄暗い美術室の中には窓際に佇む少女が一人きり。
非日常な衣装を着たその姿は、1つの絵画のようにも見えた。

「あ、あさっちおかえり〜」

振り向いた少女の後ろに、カーテンの隙間から漏れ出る朝の陽射しが重なって思わず目を伏せる。
眩しさで、宮子の表情は見えなかった。ただ、嫌な予感が背筋を走る。

「おま、大丈夫……か?」

こんな時に気のきいたことが言える様なら、いつも亮子に殴られることもないだろう。
そんな事を考えていた。

「大丈夫って?」
「そりゃ…」

言いかけて、口をつぐむ。放送を聞いていなかったのか。
それはないだろう。なぜなら自分と別れる前と今とでは、彼女はあまりにも雰囲気が違う。
かといって取り乱しているようにも見えない。だが、冷静であるとも思えなかった。
そういう時はきっと…

「よく聞け、宮子」

真剣な面持ちのまま、浅月が言葉を選ぶように投げかける。
対する宮子の雰囲気は変わらない。

「なになに?何か見つけたのー?」
「……放送は、嘘じゃない。あれは事実だ。そんでもってこれは、現実…だ」

はっきりと、だが最大限に気を配り、告げる。
彼女が取り乱さぬ理由は一つ。森の中で目を覚ました時と同じだ。
今この一瞬を、夢だと思っている。否、思いたいと思っているのだろう。
それを肯定してあげる方法もある。だがそれはより残酷な結末を呼び込むのではないか。
浅月はそれを良しとしなかった。
28創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:09:26 ID:F7e4OL1G

29浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:09:39 ID:PxRYBiz9

「え、どういうこと?」
「…死んだんだよ」
「誰が?」
「死んだんだ!お前の先輩の、ヒロって人は…!」

思わず声を荒げる。こういうところが、自分はまだまだ出来てないと思っていた。
真実を告げる。これは時として非情に辛いことだ。
嘘つきなだけだった過去の自分はどんなに楽だっただろう。

「……やめてよ、あさっちってばー。そういうのはさ……」
「お前…」

あるいは浅月が思っている以上に、この娘は賢いのかもしれない。
もうとっくに気がついていて、でも、だからこそ。
心が冷静でいられる唯一の方法をとっているのかもしれない。
それでも、と浅月は譲らない。

「逃げるな、宮子!今は逃げ出していられる状況じゃない」
「やめてよ、あさっち!」

教室内へと踏み込み、宮子の肩を掴む。
少女は何かから逃れるように必死で抵抗する。意外にしっかりした力に、少し驚く。

「ねぇ、なんでそんな事言うの!?楽しくないでしょ、あさっちだって!」
「楽しかねぇよ!けど、黙ってたって楽しくなんかなりゃしないんだよ!」

眠った少女を起こすかのように体をゆすり、必死で訴えかける。
だが、宮子も頑なにそれを拒もうと、逃れようと抵抗する。

「いい加減に目を覚ませ!宮子!!」
「やめて…ったら……やめてーーーー!!!」

はずみ、だった。
思い切り突き飛ばされた拍子に、浅月がよろめく。

「なっ…」
「あっ」

足元は宮子が物探しで荒らしていろいろな紙が散乱している。
あるいは彼も動揺していたのだろうか。滑らせた足が制御を失う。
行き着く先は窓。開け放たれ、朝の風が流れ込む窓。
少年の体は、そのまま宙を舞った。

「あ、あさっち!」

咄嗟に少女が手を伸ばすも届かず、少年は落下していく。最後に見えたのは、少女の顔。
先ほどまでとは少し違う。出会った時に近い、なんだがほっとする表情だった。

(チッ、なんだよ……俺の命も……安くなったな)
30浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:10:48 ID:PxRYBiz9


     ◇     ◇     ◇


薄暗い、いや、朝日が差し込み多少明るくなった教室内。
宮子は膝をつき、顔を覆って泣いていた。
こんな風に泣いたのはいつ以来だろう。懐いてきた猫がいなくなった時も、こんな風にはならなかった。
猫と一緒にしたら、あさっち怒るかな。ごめんね。
そんな事を考える度、さらに罪悪感が心を埋め尽くす。

この手で人を殺してしまった。
そんなつもりはなかった。ただ、怖かったのだ。認めたくない現実を突きつけてくる彼が。
彼女だってなんとなくわかっていた。ヒロさんは……もうこの世にいないのだろう。
彼女は物分りの良い娘だ。前述の猫の時も、「自由が一番いいからいいんだよー」と笑ってみせた。
ただ、それとは比べ物にならない悲しみが、あまりに大きすぎる悲しみが、彼女を苦しめた。
その結果、さらに1つの命を奪ってしまったのである。

「どうしよう…」

知らず呟いていた。
どうしようもこうしようもない。
逃げ出してしまおう。そう思った。
こんな馬鹿げた殺し合いなんか夢だと思って、逃げてしまおう。
行くあてなんかないが、これは夢だ。それならどこでもいい。
どこかでのんびり絵でも描いて、笑って過ごしていればいつか目が覚める。
だから、どこかに行ってしまおう。

しかし、そんな考えはもう通用しなかった。
最後の最後、落ち行く少年が見せたのは、笑顔。
咄嗟の事態に現実を直視し、少年を助けようとした彼女の顔を見て彼は、笑ったのだ。
自分が再び夢へと逃げ込めば、彼の笑顔を裏切ることとなる。それは、イヤだ。

だが、だからといって何が出来るわけでもない。
自分はもう人殺しだ。ゆのっちや冴英さん達と、楽しくおしゃべりしたり、絵を描いたりする資格は無い。
戻る場所がない。ただふらふらと生きるしか道がない。
そう思うと、涙が止まらなかった。いっそここでこのままぼーっと過ごして、殺されるのを待とうかな。
そんな事を考える。

“それでいいの?”

それは幻聴だった。
間違いなく、その場にはいない人の声。誰だかはわからない。
ただ、宮子の心を取り戻させる力を持った幻聴だった。

そうだ、これでいいのか?

自分はもう、ゆのっち達と楽しく過ごすことなんて出来ない。
けど、ここで何もしないのはズルだ。だって、できることがあるから。

宮子はゆっくりと立ち上がると、震える足で校舎を出た。
31創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:11:08 ID:F7e4OL1G

32浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:11:39 ID:PxRYBiz9


彼が落ちたとすれば、この辺りか。
その場所が近づくにつれて、宮子の震えは大きくなる。
顔は青ざめ、吐き気を催す。でも、逃げない。
できることをするんだ。その一念で、歩を進める。

足が、見えた。
植え込みの中でピクリとも動かぬ少年の姿。
校舎を見上げるように横たわるその姿を見て、宮子の涙がとめどなく溢れる。

「あ、あさっち……ご……め、ん、ねぇ……うぐっ」

涙を拭うことさえせず、ただただ謝りながら、彼女は少年の遺体に近づき、そっと手を触れた。
まだ、暖かかった。当然といえば当然か。
宮子はその現実と向き合うために、ここに来たのだ。

このまま逃げたり、何もしなかったら、ゆのっち達にあわせる顔がない。
そのまま死んでも、ヒロさんにあわせる顔がない。
自分が地獄に落ちるとしても、閻魔様の所で会っちゃうかもしれないし。
あわせる顔がなければ、謝ることができないではないか。

許してもらえるなんて思ってない。
でも悪い事をして謝るというのは、絶対に欠かしてはいけないことだと思った。
今まで一緒に楽しく過ごしてきた、大切な人たちだからこそ……
一緒に居られなくたって、謝る事だけはしたいと思った。
なによりも……まず謝っておかねばならない人がいる。

出会ったばかりの自分を見捨てず、運んでくれた。
理解出来ずに騒ぐばかりの自分に、言葉をかけてくれた。
放送の後自分を心配して、走って帰ってきてくれた!!

そんな、ゆのっちにも負けないお人好しな少年。

……この手にかけてしまった、少年。
彼に謝りたい。そう思った。

だから、その為に。
今の自分に出来ることをする。
辛くても、恐ろしくても……あさっちの埋葬くらいは、できる。
33浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:12:20 ID:PxRYBiz9

「あ、あた、し…もう、逃げ、逃げな、いから…ぐす…だがら、ご、めん、って…」

彼を抱き起こすように引き上げる。
まるでまだ生きているようなその体が、さらに少女の心を痛めつける。
それでも、彼女は放り出さない。

「い、言い、たぐで……ぐず……ホ、ホントに…ホント、に、ごめ「良し、そこまでだ」
「ぶぇ?」

宮子が奇妙な声をあげる。
今の声は、誰だろう?自分の正面から聞こえたような気がしたが……

「頑丈な体でわりぃな……まぁ、しぶとさが数少ない自慢なんだ。勘弁しろ」

間違いない。それは正面からの、目の前の少年からの言葉だった。
まん丸に見開いた瞳で、彼の顔を確かめる。
そこには先ほどまでと同じ、笑顔があった。


「あ、あさ、あさ、あさあささ……」
「…………誰だよ」

「あさっぢぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


抱き起こしていた体に、今度は正真正銘、抱きつく。
涙と鼻水で塗れた顔を拭くように、少年の胸にすがり付いた。
34創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:12:28 ID:F7e4OL1G

35創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:13:48 ID:c+v97v5p
支援
36浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:13:49 ID:PxRYBiz9

「ぐが…い、いてーっての…やめろ!ついでに汚いぞ!仮にも女だろ」
「だって…うぐ、だって…なんで…」
「笑えることにな、こういうの、初めてじゃないんだよ」

この浅月少年、以前にも学校の校舎の、それも三階から投げ落とされたことがある。
その時も、左腕や左足を怪我した程度で助かったほどのしぶとさの持ち主なのだ。
この学校の美術室も3階。おまけに落ちた先は植え込み。助かる見込みのある高さではある。
冷静に考えればわかることだ。
だが、こんな状況で人を突き落とし、誰がそこまで考えられるだろう。
宮子にとっては奇跡としか思えぬ状況だった。

「良かった……よ、よかっ、た……ごめん、ごめんよ、あさっち……」

やっと、少しだけ落ち着きを取り戻してきた声で、宮子が呟く。
ふぅ、とため息を1つ吐くと、浅月は言葉を放つ。

「忘れんなよ、宮子」
「え?」
「さっきの気持ち、忘れんな。人を殺しちまうってことは、そういうことなんだ。
 とんでもない後悔に襲われて、二度と元には戻れなくなっちまう。それを忘れんな」

それは彼の実体験から来た言葉なのだろう。
一度手を汚した人間がどの様な人生を辿るか。それは誰より知っている。
彼自身に後悔はないとはいえ、人に歩ませたい道でもなかった。
そんな彼の心情を汲み取ったのか、宮子もまた、真剣な表情で答える。

「……うん、忘れない。忘れられないよ」
「なら、それでいい」

また1つ、ため息を吐く。
複雑そうな笑顔を浮かべ、少年は眼鏡の位置を直した。

「じゃあ…1つ聞かせろ。お前、なんなんだ?その格好」」
37創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:13:55 ID:F7e4OL1G

38創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:14:36 ID:c+v97v5p
支援
39浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:15:00 ID:PxRYBiz9


     ◇     ◇     ◇


浅月を保健室に運びこむと、宮子が応急処置を始めた。
浅月の指示があるとはいえ、意外としっかり出来ているのには驚く。
治療を終えると浅月はすぐにここを出ようと言い出した。

「ダメダメ!そんな体で動いたらよくないよー!」
「ダメだ。九兵衛との約束もあるし、何よりここはやばいんだ」

浅月は簡単に中学校舎にいた危険人物の情報を伝える。
宮子もそれを聞いて顔を曇らせたが、それでも譲らなかった。

「せめて、病院いったほうがいいよー。その体で山道なんて危ないし」
「九兵衛との約束がある」
「じゃあ、あたしが一人で」
「ダメだ」
「なんでさー」

ぶーたれる宮子に、やれやれと頭をかきながら返事をする。

「ぶっちゃけ、俺一人でどっか行く方があぶねぇ。戦えないわけじゃないが…
 何があるかわかんねーからな。誰かと一緒のほうがいいんだよ」

自分の体のことはわかっている。これはかなりのハンデになる怪我だ。
これでは亮子どころか、鳴海弟ですら守れるか怪しい。どちらかというと、守られる側だ。
情けない話だが、彼らを確実に守るには他者の協力が欠かせないだろう。
仲間を集うなら既に約束のある九兵衛を頼るのが今の所一番現実的だ。
最悪宮子を預けて、仲間の事を託したら自分一人で行動するくらいの気持ちでいる必要がある。
心の奥に、彼女を一人にするわけにはいかないという気持ちもあった。

「うーん、けどなぁ」
「安心しろ、こう見えてそれなりに頑丈なんだよ。とにかく今はここを離れることだ」

そういうと、有無を言わさず立ち上がる。
足は痛むが、歩けないほどではないのが救いだった。

「あ、あ、ちょっと待って」
「なんだよ、まだ文句あんのか?」
40創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:15:36 ID:F7e4OL1G

41創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:15:51 ID:c+v97v5p
支援
42浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:16:10 ID:PxRYBiz9

少し強く言い返すが、宮子も立ち上がり準備を始めていた。
しかしその準備が問題。その場で服を脱ごうとしている。

「わーーー、バカ!何してんだ!!てっ…!!」

大声を出したので傷に響く。
宮子は何してんの?といった顔をしている。

「え、着替るんだよ?この服かわいいけど、動きづらいし」
「そういうことを言ってんじゃねー!」
「あ、あさっちってば、えっちー。外で待っててよー」

お前なぁ!と浅月から文句が飛ぶ。
ひと悶着の後、結局浅月は外で待ち、宮子は着替えを終えた。

「おまたせー」

再びやまぶき高校の制服に戻った宮子を連れて、浅月は歩き出す。
しっかりと警戒しながら学校を出ると、外はすっかり朝だった。
悪夢は未だ覚めないが、それでも朝はやってくるらしい。
浅月が前を行き、すぐ後ろに宮子がついていく。
校門に差し掛かったところで、宮子が口を開いた。

「あのさ、ヒロさんのこと、なんだけど…」
「……何だ?」

振り向かず、答える。
声は元気こそなかったが、彼女らしい明るいものだった。

「もう、ちゃんとわかったから。だから、だからさ、あさっち……」
「……」

黙り込むしかない。
少しうつむいて語る宮子に、浅月はかける言葉が見当たらなかった。
ただ、これだけは言える。今のコイツは、さっきまでとはちょっと違う。
ちゃんと向き合えるはずだ、このクソッタレな現実と。
後は向き合った現実と戦うだけ……ただ1つ、勝利を信じて。

「全部終わったらさ、一緒にお墓作るの、手伝ってよ。すんごく立派なヤツ」
「……生きてたらな」

どうしてこう気のきいたことが言えないのか。
頭をかく浅月の後ろで宮子は確かに、笑っていた。

43浅月香介は二度死ぬ ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:16:51 ID:PxRYBiz9


【G-2/中・高等学校裏門/1日目 朝】


【浅月香介@スパイラル〜推理の絆〜】
【状態】左腕骨折、肋骨にヒビ、左足首捻挫 打撲(全て応急手当て済み) 眼鏡にヒビ
【装備】 レガートの拳銃@トライガン・マキシマム
【所持品】支給品一式、手榴弾(ダミー)×2@スパイラル 〜推理の絆〜
     薬品多数、フラスコ等実験器具数種類、薬や包帯多数、シーツ数枚、カーテン
【思考】
基本:亮子を守る。理緒や鳴海、ひよのとも合流して協力したい。
1:神社にて九兵衛と合流。使えそうな仲間を探す。
2:最悪、宮子や仲間の事を信頼できる誰かに託す。
3:ひとまず殺し合いには乗らないが、殺人に容赦はない
4:亮子が死んだら―――
5:殺し合いには清隆が関与している……と思う
6:男女の二人組(由乃と雪輝)を要警戒

※参戦時期はカノン死亡後。ただし、彼の死をまだ知りません。
※宮子から「ひだまりスケッチ」関係の情報を得ました。
 参加者ではゆの、沙英、ヒロについて詳しく聞いています。
※中・高等学校、高校校舎の大体の見取り図を把握しました 。
※デイバックの性質と、中に人が入れないことに気がつきました。
※殺し合いの主催者が清隆であると睨んでいます。


【宮子@ひだまりスケッチ】
【状態】健康、精神的疲労(中)
【装備】  
【所持品】支給品一式、メイドリーナのフィギュア@魔王JUVENILE REMIX、ハヤテの女装服@ハヤテのごとく!
      筆と絵の具一式多数、クレパス一式多数、スケッチブック多数デッサン用の鉛筆や木炭多数
     缶スプレー塗料数種類多数、彫刻刀一式多数、粘土多数 キャンバス多数
【思考】
基本: 絶対に殺し合いはしない。逃げ出さない。
1:あさっちを助ける
2:ゆのっち達とはやく合流する
3:全部終わったら、ヒロさんに立派なお墓を作ってあげる

※殺し合いについてしっかりと理解しました。
※浅月から亮子について詳しく聞いています。
 鳴滝歩や他の知り合いまで知ってるかどうかは次の書き手に任せます。
※デイパックの性質にはまだ気がついてません。


【手榴弾(ダミー)@スパイラル 〜推理の絆〜】
その名の通り、手榴弾のダミー。ぱっと見では区別がつかないくらいに精巧。
もちろん爆発はしないので、武器としてはほとんど使えない。


44創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:16:57 ID:F7e4OL1G

45 ◆lDtTkFh3nc :2009/10/15(木) 22:19:02 ID:PxRYBiz9
以上で投下終了です。長々とすみません。
支援ありがとうございました、助かりました!
46創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:20:50 ID:F7e4OL1G
投下お疲れ様です!
躊躇も容赦も慈悲もない由乃に吹いたw いきなりそんなもんぶっ放すなw
そしてこーすけ、天然ジゴロだなお前! 代償は大きかったが、しかしキメるところはキメててカッコよくもあり。
人を手にかける重みをしっかり伝えられていてお見事。
スパイラル勢は何だかんだでしぶといなあ、やっぱり何か補正でも受けてるんだろうかw
47創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:21:28 ID:c+v97v5p
投下乙
あさっち……なんというラブコメ野郎……
宮ちゃんはなんとか立ち直ったか。
ひだまり勢の中でも精神的にタフな彼女でもこのありさま。
お母さん役の死を知った他の面々の反応や如何に。
48創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 22:36:20 ID:HoNDzkXH
投下乙です
浅月がヤンデレに襲われるのは予想してたけど生き残ったか
ユッキーのおかげで生き残れたがお互い損のあるコンタクトだったな
そして浅月が落ちた時はまさかと思ったが生きてた。よかった〜
宮子、どうなるかと思ったが立ち直ってよかったぞ
俺としてはあの服のまま行動して欲しかったがw
49創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 00:50:12 ID:DloTT8kM
今回は誰も死ななかったが前回からのを含めて放送直後でもう三人死亡か
順調順調w

しかしブラック・ジャックの方がキリコより先に死亡してたのか
50 ◆28/Oz5n03M :2009/10/16(金) 21:04:35 ID:coCAXvr4
ミッドバレイ投下します。
51魔人、憐れなるかな ◆28/Oz5n03M :2009/10/16(金) 21:05:35 ID:coCAXvr4
奏でるのはコンチェルト。

絶望の音。

恐怖の音。

苦しみの音。

それぞれが混ざり合い、紡がれる音のハーモニー。

奏者はGUNG-HO-GUNSの「音界の支配者」、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。

第一楽章は第一放送をもってカーテンフォール。

すばらしい演奏でした。

なんてったって二人も死の音に取り込んでしまったんですから。

続く第二楽章。

どんな演奏をしてくれるのでしょう。

では、第二幕の始まり、始まり。

決して抜け出すことのできない闇の底でのコンサートが――――



♪ ♪ ♪




ミリオンズ・ナイブズ。

あれは人という存在から逸脱している。
52魔人、憐れなるかな ◆28/Oz5n03M :2009/10/16(金) 21:07:19 ID:coCAXvr4
常識的な所が全く無い。

あの方の目。

目がものすごく怖かった。
俺の仲間を何の感慨も無く殺していったあの目。
俺は恐怖に屈しGUNG-HO-GUNSとして邪魔になる者全てを葬った。
性別。年齢。職業。何でも問わずだ。
ただひたすらに殺した。
機械の如く淡々と。
それでも恐怖は募る一方だった。

あの目は変わらない。

結局俺はあの方の都合のいい道具に過ぎない。
いや、道具ですらないか。
ただの捨て駒。
あの方の掌で踊るこっけいなマリオネットだろう。
いや、俺だけじゃない。
GUNG-HO-GUNSが。
レガート・ブルーサマーズが。
あの方にとってこの世界全てをそのように見ている気がする。
しかし、俺は……

ここでもまた俺は怯えなきゃいけないのか――

ガタガタみっともなく震えて。
立ち向かう?
無理だ。震えが止まらない。
ああそうさ。
今もまだショックから立ち直れない俺は傍から見れば確かにみっともなく見えるだろう。
でも仕方ないじゃないか!!

怖いものは怖いんだよ!!!!

っ……!落ち着け…………落ち着くんだ!ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク!!
53魔人、憐れなるかな ◆28/Oz5n03M :2009/10/16(金) 21:09:15 ID:coCAXvr4
はぁ、はぁ…………。
素数……素数でも数えて落ち着こう。

2……3……5……7……11……13……17……19……

ふう。少しは落ち着いた。
クールに考えよう。
少なくとも自分が知ってる中ではあの方以外に二人『化け物』がいる。

一人目。
レガート・ブルーサマーズ。
あの方直属にして腹心の部下であり、GUNG-HO-GUNSのナンバーズとは一線を画す存在。
ただあの方への忠誠を示すことのみを唯一の存在意義としている心の『化け物』。

二人目。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード
あの方と同じ次元の異なる存在で肉体的な『化け物』。

自分が知ってるだけでも三人。
それにそれ以外にもまだ『化け物』はたくさんいる。

ここは異常だ――

俺にここまで言わしめる狂気。
ふん、俺だって普通の人間から見れば充分に『化け物』なのにな。
戯言だな……
54魔人、憐れなるかな ◆28/Oz5n03M :2009/10/16(金) 21:11:07 ID:coCAXvr4



♪ ♪ ♪



ひたひたと。
朝日で照らされた道路を歩く。
しかし朝日が眩しいな。
燦燦と照っている朝日が恨めしい。
俺の心の中は闇で染まっているというのに。
あの方に対しては会わないことを祈るしかない。他の二人についても同様だ。
あれから俺は次の獲物を探そうと歩き始めた。
おっと、獲物から殺す前に先程動揺したせいであまり聞き取れなかった放送の内容を聞かなければ。
さぁ、どこへ向かうかな?


【B-5西部/路上/1日目 朝】

【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:右足打撲
[服装]:
[装備]:イガラッパ@ONE PIECE(残弾60%)、エンフィールドNO.2(2/6)@現実
[道具]:支給品一式 真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、銀時の木刀@銀魂
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すようなヤツと出会ったら…?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、レガートに対する強烈な恐怖。
1:積極的に参加者を襲って情報と武器(特に銃器)を得る。
2:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
3:愛用のサックスが欲しい。
[備考]
※ 死亡前後からの参戦。
※ ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
   ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※ 放送の後半部分を聞いていません。
55 ◆28/Oz5n03M :2009/10/16(金) 21:12:11 ID:coCAXvr4
短い話ですが投下終了。
56創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 22:24:56 ID:LLm5pD16
投下乙です
とりあえずは落ち着いたが問題の先送りというかなんというか
何の解決にもなってないのがロワらしいかなw
57創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 22:30:23 ID:Rm4rdGP3
投下乙
やっぱり動揺しているなw
リアリストがどうにもならない現実と対峙した時どうなるのか
これからが楽しみだ
58創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 02:30:47 ID:c9pWa2sZ
>>20
H-3とありますが、G-2では?
とりあえずwikiにはH-3のまま収録しておきますので、間違っていたら報告お願いします。
59創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 14:36:19 ID:c9pWa2sZ
しかし、もしかするとあの霊能者が死んでもその辺徘徊しているのかな……
金票さんあたりなら目撃出来そうだが
60 ◆lDtTkFh3nc :2009/10/17(土) 21:34:04 ID:NAizBoWh
>>58
対応が遅れて申しわけないです。
ご指摘の通りですね、ありがとうございます。
wikiは自力で何とかしておきます。
61創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 02:41:19 ID:sn9aoY9k
今気付いたけど、>>1の前スレが4巻だなw別にいいけど。
あとTOUGH BOY検索して吹いたwたっぽいたっぽいって歌詞かよw
んで、とらの状態表が本文中の描写と異なるのでは?
雪路に変身中はもういらなくね?

作品投票はもうこれで終了かな?
事前の話し合いにはもうちょっと人いたような気がしたけど、まぁ予想通りか。
したらばとか借りなくて良かったな
銀の意志T〜W 8P
殺伐フレンズ   5P
夜明けだョ!全員集合(前後編) 3P
Men&Girl〜ピカレスク〜
Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 1P
指し手二人    1P
かな
62 ◆JvezCBil8U :2009/10/18(日) 22:56:36 ID:VjFkrcDX
>>61
……とと、その通りですね。
ご指摘ありがとうございます。直しておかないと……。
63 ◆L62I.UGyuw :2009/10/19(月) 10:41:39 ID:H5SmpRnj
いきなりですが、胡喜媚、高町亮子、竹内理緒、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークを投下します。
64Spiral of Fortune 〜 Reverse Position 〜 ◆L62I.UGyuw :2009/10/19(月) 10:42:44 ID:H5SmpRnj
彼は明確な理由があって病院を目指した訳ではない。
強いて言うなら、ケガ人などの弱者が集まる公算が大きいことと、現在地から比較的近いこと。
その程度の理由だった。
もし病院に辿り着くまでに別の獲物を見つけていたら、あっさりとそちらに狙いを切り替えたことだろう。
しかし、誰とも遭わなかった。
彼らの運命はそんなことで定まってしまった。

運命とは一体何なのだろうか?
そのリアリストに訊けば、きっと陰鬱な眼を向けてつまらなさそうにこう答えるのだろう。



『どうにもならない偶然のことだ』


***************


静かな病室に二つの寝息だけが響いている。

一つは高町亮子のもの。
故あって中学生かそれ以下のような姿になっているが、彼女はれっきとした高校生である。
彼女は川に落ちたためか肺炎にかかり、今ベッドで眠ることを余儀なくされている。

もう一つは胡喜媚のもの。
ナース服を着ているが、別に彼女に看護師としての能力があるわけではなく、単なる趣味である。
彼女は初めは真面目に亮子の汗を拭いたりタオルを換えたりしていたのだが、容態が安定したため、気が緩んで彼女の横で居眠りをしている。

病院独特の匂いが辺りに満ちていた。
ベッドが並んだ一般的な病室。
閉め切られた窓の外からは朝の柔らかな陽が射し込み、その向こうには青空が広がる。
やはり窓から見える背の高い常緑樹の枝には小鳥が留まり、歌っていた。
至極平和な光景。ここだけを見ればとても殺し合いの場とは思えない。



突然、病室のドアが無造作に開かれた。
だが、ドアノブを回す音も、蝶番が軋む音も聞こえない。
それもそのはず、ドアの発する音は全てキャンセルされていたのだから。
やはり音も無く正面から病室に侵入した長身の男、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークによって。

無音の演奏を続けながら、闖入者は歩く。
特に妨害も無く、彼は病室の中央のベッドに辿り着いた。
一旦演奏を止め、見下ろす。
ベッドの二人は気付かない。
もったいぶるように、無言で鈍く光る銃を取り出す。
まだ気付かない。
再び演奏を開始して、銃口を眠る喜媚の額にポイントした。
それでも、彼女は気持ち良さそうに寝ている。

引金に指を掛ける。
目を細めて、指先に殺意を込め――――、
65Spiral of Fortune 〜 Reverse Position 〜 ◆L62I.UGyuw :2009/10/19(月) 10:43:41 ID:H5SmpRnj
いきなり、喜媚がバネ仕掛けの玩具のように跳ね起きた。

「何!?」

慌てて跳び退くミッドバレイ。
喜媚の頭に狙いを定めたまま、退がる。
様子がおかしい。彼女は薄目を開けているもののその焦点は定まらず、身体はゆらゆらと揺れている。
だがその隙だらけの見た目とは対照的に、発せられるプレッシャーは『魔人』ですら戦慄するほどのものだ。
ミッドバレイはさらに一歩後ずさる。

「Buu〜 Buu〜☆ 亮子ちゃんをいじめちゃダメなのっ☆
 ロリロリリン☆」

どろどろどろんっ☆

緊張感の無い掛け声と共に喜媚の姿が変化する。
ミッドバレイは思わず我が目を疑った。
少女の姿は掻き消え、代わりに立っていたのは漆黒の隻眼剣士。
鉄塊と見紛う程の巨大で分厚い剣を構え、黒い外套を翻す。
それは直前で喜媚達が別れた戦士、ガッツの姿そのものだった。

「チィ!」

直感的に、危機を察知した。
即座に身を翻し、開いたドアから逃げ出そうとするミッドバレイ。
そこに弾丸のような勢いで黒い剣士が突っ込む。横薙ぎに振るわれる大剣。
室内に風が奔る。
間一髪ドアから転がり出るミッドバレイ。

「く……このっ……」

背中の肉を僅かに抉られた。白いスーツに血が滲む。
ほんの少し反応が遅れていたら、今頃彼の身体は真っ二つになっていたことだろう。

「LlLOOoOOOooo!! LliIiiieEee!!!!」

野太い咆哮を上げながら、黒い剣士は廊下を突進する。
ミッドバレイは走りながら背後に向けて発砲。
だが弾は剣士の持つ巨大な剣に弾かれる。牽制にもならない。



クソッ。油断した。
不用意に近付いた俺が馬鹿だった。
あわよくばもう片方のガキから情報を引き出そう、などと欲を出すべきではなかった。
姿形など実力を判断する基準になどなりはしないというのに。
そんなことは嫌というほど知悉していたはずだったのに。

化け物め――。



逃げる。ただ逃げる。
リノリウムの廊下を無様に逃げる。
この距離では銃のアドバンテージは無きに等しい。
一旦引き離さねば殺される。
巨体に似合わぬ速さで追い縋る黒い剣士。距離は開かない。
苦し紛れに三叉路を左へ。
黒い剣士は――、
66Spiral of Fortune 〜 Reverse Position 〜 ◆L62I.UGyuw :2009/10/19(月) 10:44:50 ID:H5SmpRnj
「……何、だ?」

黒い剣士はミッドバレイが曲がった三叉路をそのまま直進し、その先にある扉を破壊し始めた。
分厚い金属がひしゃげる派手な音が聴こえる。
ミッドバレイは足を止めて困惑していた。

何が起こった? 目の前で曲がったんだぞ? まさか俺が見えていなかったとでもいうのか?
訳が分からない。分からないが――しかし逃げるチャンスであることは確かだ。
いつまた奴が戻ってくるか分からない。ここで考え事をするのは愚策というものだろう。
ならばここは状況が『聴こえる』ギリギリの距離まで遠ざかるべきだ。



時間にして数十秒。破壊の音が続き、生命の音が二つ失われた。
元来た道を戻る剣士の足音。それが途中から変質し、少女のそれと取って代わる。
そして破壊された部屋から唯一の命が、外へ。剣士の後を追って行く。



数分後、レントゲン室に一人佇むミッドバレイがいた。
竜巻が通ったかのような光景。精密機械の群れは今やスクラップの山と化していた。
スクラップの中の、頭を失った女と無残に切り裂かれた男の死体に目を遣る。
そしてむせ返る血の匂いを気にも留めずに、その二人が確実に死んでいることを確かめる。
――やはり死んでいる。ミッドバレイを誘き出すための見せ掛けの仲間割れ、というわけではない。

レントゲン室の中心で、彼は憮然とした様子で虚空に問い掛ける。

「結局、何だったというんだ……?」

彼の疑問に答える者はいない。
彼には『何が起こったか』は判っても『何故起きたか』は解らない。

だから喜媚は単に寝惚けていただけであり、彼が襲われたのは喜媚が殺意に反応した結果であり、
レントゲン室の惨状は彼女が理緒を助けようと思って暴れた結果であり、
目的を果たしたと思い込んだ喜媚はそれで満足して病室に帰ったのだ、などと思い至ることはない。

故に彼は考えるのを止めて必要な行動を開始した。
外に注意しながら部屋の中を物色する。程なくして二人分のデイパックが見つかった。

「悪く思うなよ。俺も余裕など無いんでな」

祈りの代わりにかそう呟くと、ミッドバレイは彼らの荷物を回収してその場を後にする。
空になった部屋で、バラバラになった機材からパチリと弱々しい放電が起こった。


***************


理緒が祈るように扉を開けると、そこには平穏があった。

ベッドの上で健やかな寝息を立てる亮子と、その布団にもたれかかるように眠る喜媚。

知らず零れ落ちる涙と共に、埒もない希望が頭をめぐる。

やっぱりさっきの光景はあたしの白昼夢だったんじゃない?
だってガッツさんとはちょっと前に別れたはずで。
彼はブラック・ジャック先生と妙さんの仲間だったはずで。
67Spiral of Fortune 〜 Reverse Position 〜 ◆L62I.UGyuw :2009/10/19(月) 10:45:42 ID:H5SmpRnj
ああ、いや、駄目だ。そんな甘い考えじゃいけない。
さっきのは、紛れもない現実だ。受け入れないと。
ガッツさんの事情なんて分からないけど……彼はもうあたし達の『敵』なんだ。

涙を制服の袖で拭って立ち上がる。

そう、呆けている場合ではない。
ガッツはこの病室の場所を知っている。とにかくまずはこの場から離れることだ。
だが彼の動きが見えない以上、鉢合わせする可能性の高い病院の出口へ向かうのは危険だろう。
とはいえ、その点は問題にならない。喜媚の能力があれば窓から空へ逃げられるのだから。
理緒は急いで生乾きの亮子の服をデイパックに詰め、肺炎の薬とついでに医学書も放り込む。
そして喜媚を揺り起こそうと彼女の肩に手を掛け――気付いた。




そうだ。先程の惨劇はガッツの仕業とは限らない。
もう一つ、可能性があった。もう一人、出来る者がいた。
理緒は別れる直前の、理性を持ったガッツの言葉を思い出す。

『おい、あの化け物女とは早いとこ別れといたほうがいいぜ。
 人間と、化け物じゃ所詮生きる世界が違うんだからな』

彼が化け物と呼んだ者。胡喜媚。
彼女の変身能力を使えば、ガッツの振りをすることも容易だろう。

つまり。
喜媚は、彼女は、実のところ全て計算尽くで行動していたのではないか?
亮子を見つけたのだって本当は偶然などではなかったのでは?
わざとガッツ達に発見されるような道を選んだ可能性は?
理緒を殺さなかったのもガッツに罪を擦り付けるためだったのでは?

首を振る。

いや、いやいや。そもそも喜媚ちゃんがそんな手の込んだことをする理由は?
ああ、でもそれはガッツさんだって同じことか。

喜媚の肩からゆっくりと手を離す。
そして――気持ち良さそうに上下する彼女の胸に銃口を向けた。

確証なんて無い。
確証は無いけど……連れ歩くにはこの子はやっぱり危険過ぎる――と思う。
それに、亮子ちゃんを護るため、という大義名分もある。
いっそ不確定要素はここで排除した方が……。

引金に指を掛ける。
目を細めて、指先に殺意を込め――――、



なかった。



銃口を下げ、深い息を吐く。
68Spiral of Fortune 〜 Reverse Position 〜 ◆L62I.UGyuw :2009/10/19(月) 10:46:28 ID:H5SmpRnj
「らしくないなぁ……」

どうもさっきから判断が拙速過ぎる。事態に翻弄されていると感じる。
冷静に考えれば、やはり喜媚がそんな凶行に及ぶメリットは無いのだ。
それに殺すなら皆殺しの方が、後に禍根を残さない確実な選択だといえる。
こんな中途半端な殺し方はガッツへの嫌がらせ程度の意味しかない。

考えてみれば、実は喜媚と同じような変身能力を持つ第三者の仕業、という可能性だってある。
この場合は強敵である喜媚に対する間接的な攻撃となる。病室を襲わなかった理由にもなる。
まだこちらの方がマシな仮説かもしれない。
何にせよ喜媚の仕業だと決め付けるのは論理的ではない。

それに何より――、

「……ん〜〜〜〜ロリンロリン☆」

妙な寝言を呟きながら至福の表情で眠る、この態度が演技だとは思えない。

一度深呼吸をして、辺りを見回してみる。
院内は、先程の騒ぎが嘘のように静かだ。
今はもう、あのガッツのような人物が暴れまわっている様子はない。
念のため部屋は移動すべきではあるが、慌てて逃げ出すよりも、むしろ院内に留まった方が安全かもしれない。
それに気が動転して忘れるところだったが、ブラック・ジャック達の荷物も取って来なければ。
本当に、らしくない。
病室のドアを慎重に開いて一歩外に踏み出す。

顔が爆ぜた。

肉と頭蓋骨と脳のブレンドが壁や床に飛び散り抽象画を描く。目玉が一つ、遠くへと転がっていった。
何が起きたか理解出来ない、とでもいうように、背が低くなった理緒が立ち尽くす。
僅かな間。
彼女の身体は支えを失ったように廊下に崩れ落ちた。比較的大きな脳の欠片がその下敷きになって潰れた。

廊下の奥からミッドバレイが滲むように現れ、ゆっくりと理緒の傍まで歩いて来る。
一連の出来事に病室の中の二人は気付けない。良く出来たサイレント映画だった。
彼は、頭部を失った理緒には一瞥もくれずに、デイパックとベレッタを拾い上げる。
そして開いたままのドアから病室を覗いた。相も変わらず、まるで時が止まったように平穏な光景。
彼は珍獣を見つけたかのような面持ちでしばらく病室の中央で眠る二人を眺めて――やがて音も無く立ち去った。


【竹内理緒@スパイラル 〜推理の絆〜 死亡】

69Spiral of Fortune 〜 Reverse Position 〜 ◆L62I.UGyuw :2009/10/19(月) 10:47:31 ID:H5SmpRnj
【D-2/病院/一日目 午前】


【胡喜媚@封神演義】
[状態]:疲労(中)、いねむり
[服装]:ナース服
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:???
1:妲己姉様やスープーちゃん達、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
2:理緒ちゃんと亮子ちゃんは喜媚が守りっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化の制限に関しては不明です。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※第一回放送をまったく聞いていませんでした。
※原型の力が制限されているようです

【高町亮子@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(特大)、打撲&背中に打ち身(処置済み)、肺炎(処置済み)、睡眠中、若返り
[服装]:裸
[装備]:毛布
[道具]:なし
[思考]
基本:この殺し合いを止め、主催者達をぶっ飛ばす。
0:…………。
1:なんで子供に……
2:理緒や喜媚と協力してこの殺し合いを止める
3:ヒズミ(=火澄)って誰だ? 鳴海の弟とカノンは、あたし達に何を隠しているんだ?
4:できれば香介は巻き込まれていないといいんだけど……
5:あのおさげの娘(結崎ひよの)なら、パソコンから情報を引き出せるかも。
6:そういや、傷が治ってる……?
7:エドの力に興味。
8:エドや流、うしお、知らない女の子(咲夜)は助かったのだろうか。
9:流の行動に疑問。
[備考]
※第57話から第64話の間のどこかからの参戦です。身体の傷は完治しています。
※火澄のことは、ブレード・チルドレンの1人だと思っています。
 また、火澄が死んだ時の状況から、歩とカノンが参加していることに気付いています。
※秋瀬 或の残したメモを見つけました。4thとは秋瀬とその関係者にしか分からない暗号と推測しています。
※聞仲とエドの世界や人間関係の情報を得ました。半信半疑ですが、どちらかと言えば信じる方向性です。
※中1前後の年齢に若返っています。元に戻るかどうかは後続の書き手さんに任せます。
70Spiral of Fortune 〜 Reverse Position 〜 ◆L62I.UGyuw :2009/10/19(月) 10:48:18 ID:H5SmpRnj
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:右足打撲、背中に裂傷
[服装]:白いスーツ
[装備]:イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13
[道具]:支給品一式×4、真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、
銀時の木刀@銀魂、月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
エンフィールドNO.2(1/6)@現実、クリマ・タクト@ONE PIECE、ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すようなヤツと出会ったら…?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、レガートに対する強烈な恐怖。
1:積極的に参加者を襲って情報と武器(特に銃器)を得る。
2:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
3:愛用のサックスが欲しい。
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
   ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※放送の後半部分を聞いていません。

※病室の前に携帯電話を所持した理緒の死体が放置されています。
71 ◆L62I.UGyuw :2009/10/19(月) 10:49:20 ID:H5SmpRnj
以上で投下終了です。
72創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 11:35:00 ID:OItIWNmd
投下乙です
うわ、確かに喜媚犯人説は考えていたがこういうことだったのね
ミッドバレイは余計なことをしていきました。でも本人も何がどうなったのかわかりませんw
理緒は不運が続いて退場となったが喜媚殺害を思いとどまったか。ブレチルの運命に負けなかったと言うべきかな
ここで殺すのは惜しいかもしれないけどこれはこれで美味しいかも
眠り姫の二人が目を覚ましたらどうなるか? 次の放送が流れたらどうなるか?
先が気になる展開でした
73創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 15:01:08 ID:xQhbewyU
やっとスパイラルキャラが死んだ。乙
74創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 16:26:18 ID:x04X5Voq
投下乙
でもなんで、二人は始末しなかったんだろ?
化けものヤバいってんならそもそも手を出さないはず
75創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 19:26:13 ID:5Gstdn6l
神視点の俺らだからそういえるけどあの状況だと迂闊に相手したくないぞ
76創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 19:31:23 ID:WckOvRY1
投下乙です。
ミッドバレイは運があるんだかないんだか…
しかし、トラブルメイカーとは彼女のようなのを指すんでしょうね、喜媚w
理緒がつくづく残念ですが…マーダーにならなかったのがせめてもの救いですね。
77創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 21:12:11 ID:YH/tMzoR
投下乙です
ガッツの忠告が最悪の形で実現したか・・・しかも当の本人は悪気なしときたもんだw
78創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 22:31:11 ID:rTSkql8K
投下乙です
喜媚、お前ってやつは……

>>74
ミッドバレイは慎重かつ大胆だよ
まともにやったら負けるヴァッシュ&ウルフウッドにもブレながら挑んだ
確実に殺しにかかって、ちょっと相手の様子見て、また確実に殺しにかかって、相手の様子見て……という感じ

喜媚たちを絶対殺さないといけない状況じゃないから様子見たかと
戦闘狂じゃなくて殺し屋だし
79創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 22:37:57 ID:L4iALr55
ああ、なるほど。
まだ病院内にいるもんな。
ってことは、今後の反応によっては皆殺しもありうるのか
80創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 22:44:24 ID:g/vZrvOU
喜媚を倒せる算段次第だろうな
ラストの状況で正面からもう一度挑む程無謀じゃないだろうし
81創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 22:50:56 ID:aO+Zi6x8
ミッドバレイは地味だけど堅実に強いからな。
今回で実はトップマーダーになってるしw
下手な勝負手打たず奇襲に徹すれば確実に対主催削っていける能力の持ち主だしなあ。
82創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 23:37:05 ID:n51Wdh1R
無差別マーダーは命知らずが多いからな
ああいう暗殺者的なキャラは貴重だ
83創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 16:10:26 ID:xr8uyulq
ギャグ漫画がバトル漫画になった件
84創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 16:15:28 ID:KcmfEYCr
心当たりが多すぎて分からん
でもこのロワの関係だとハヤテか?
つーかハヤテも最近の展開見てると主催候補の一つだな
85創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 19:35:21 ID:ECcI5JwO
主催やりそうな財団多すぎw
86 ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 19:43:41 ID:1ktFSruH
安藤潤也、金剛晄(金剛番長)、白雪宮拳(剛力番長)、妲己投下します。
えーと、今回のお話は微グロなので、嫌悪感や不快感を示される方は注意してもらえればと。
87ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 19:45:17 ID:1ktFSruH
死神の足音が聞こえる。
もう、すぐ傍だ。
たぶんこのまま自分は助かることもない。

さながらクラレッタのスカートを直すかのように、理不尽に立ち向かった結果がこの有様だ。

ああ……、なんという惨めな末路なのだろう。
文字通り臓物をブチ撒けて、脳天ど真ん中に開いた孔から命が流れ出していく。

これじゃあ、考えて、考えて、考えることすらできはしない。

知ったことか、と、本当にその一言だけで解決できたのならどれだけこの世は芳醇だったろうか。
つい先刻までの同道者の顔を思い出そうとして――、止めた。

振り返るべきは、ここに連れ去られる前にどうして辿り着けなかったのかという後悔だけでいい。

「……兄貴、どうして」

どうしてあんな行動に出たのかと、今わの際のここに至ってすら繰り返し、問う。
結局彼の真意にすら辿り付く事は出来なかった。

今まで出合ってきた様々な人間の顔が、走馬灯として流れていく。


バカジャナイノー、とすぐ近くで誰かが呟いた気がした。


消灯ですよ。



**********


時はしばし、遡る。


**********


「太公望ちゃんがやられたみたいねぇん。
 あはん、あの子はこの場にいる仙道の中でも最弱……。
 人間ごときに負けるとは道士の面汚しよん」

最悪、極悪、凶悪、劣悪。
蝿の王の如き暴言をあまりにもあっさりと告げた後。
悠然と泰然と、妲己は己が仇敵の存在とその死を一瞬だけ心に留め、それきり放り捨てて奥底に沈める事にした。
はや思い出すことはなく、浮上する事もなし。
無論彼にはそれなりに思い入れがあったが――、それも生きている太公望に対してであって死体と話す趣味はない。
結局それを意識するのが面倒くさいと、そう思うことすら面倒くさいと切り捨てた。
これが妲己なのだから、まあ、それについてとやかく言うのは止めておこう。

“そんな事”より今は別のことを考えるほうがずっとお得でポイントセール。
放送を噛み噛み口の中で転がし、一人ごちる。

88ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 19:46:48 ID:1ktFSruH
「どうやら神の陣営も一枚岩じゃないのは確かみたいだけどぉん、あまりにも見せ方があからさますぎるわぁん。
 “わらわを拉致できるくらい”の存在が、こんな簡単に手下に出し抜かれるはずはない。絶対に、ね。
 ……と、なると」

くすくすと、哀れで惨めな道化女を嘲笑いながら鼻歌を。

「いい趣味してるわねぇん、“神”はわらわと気が合いそうだわん。
 わざわざ『付け入る隙を演出して』、大多数の参加者に幻の希望を見せ付けるなんて、わらわゾクゾクしちゃうん。
 必死になって、命を賭けて、ようやく何かを伝えようとした放送の女も、全部計算通りの動きしかしてないってことよねぇん」

どこか放送の趣向に相通じるものでも感じ取ったのか、妲己は朝霧の中を闊歩しながら素直に賞賛の言葉を送る。
それが自分を踊らせんとする存在であっても構わない。
むしろ、その手口が実に好ましいからこそ受け入れる。拍手する。
それこそが己の度量の広さと言わんばかりに。
ぱちぱちぱちぱち。

「最後の最後に奪い取る為だけに希望を与えるなんて、わらわでも作るのに一苦労する状況だわん。
 気づいていようと気付いていなかろうと、人間らしい感情の持ち主ならまず心が受け入れられないでしょうねぇん」

何の為にそんな事をするのか、それを推し量るのは無粋というもの。
答えなど一つしかない。
徹底的に自分達を屈服させて、“神”とやらの指図を受け入れざるを得ない心持ちにする為だ。

楽しみだ、とペンライトのように指を振り振り。
当然分かっていてそれに乗るつもりもないが、どこかワクワクする気分も確かにある。
この自分をそんな状況に追い込む事が出来るなら、是非ともやってみせて欲しいものだ。
そしてその自信があるからこそここに妲己を招き、アピールしてみせているのだろう。
申公豹をも従わせた“神”の不敵さが非常に心地よい。
鼻っ柱をヘシ折って、ぐじゅぐじゅに踏み潰してあげたいくらいに。

「さしあたっては喜媚との合流が当面の目的かしらぁん。
 あの子の事だから遊びが高じて味方を一人か二人殺しちゃってるかもだけど、まあそのくらいは多めに見ちゃうわん。
 どうせわらわの邪魔になる連中には死んでもらうことになるんだしぃん」

現状何だかんだ言ってまだまだ戦力が足りないのは確かだが、自分の妹は確かに頼りになるはずだ。
味方と書いて手駒と読む関係こそが妲己の望むもの。
必要なのは甘い夢に誑かされる純粋(おろか)さや、利用されるのを分かっていて敢えて操り糸を託してくるような狡猾さを持つ人材である。

無論、多少の跳ねっ返りも許容しないわけではない。
これから手駒を集めていく際、当然中にはあからさまに自分を嫌悪するものも出てくるだろう。
自分のやり方が好まれるものではないのは最初から織り込み済みだ。
上手く使えば、むしろ自分に敵意を持つものの方がいい働きをしてくれる場合すらある。使い捨てる場合なら特に。

自分を誘蛾灯にして“神”に対抗しようとする人材も危険人物も誘き寄せ、優秀な人材を選別する。
そこまでの過程で参加者同士が勝手に殺し合うのは目論見通りだ。
だがその後――、せっかく掌の上に集めた戦力を下らない小競り合いで零してしまっては元も子もない。
後々を見越した場合、頭角を現して、尚且つ迎合や協調を望めない芽は潰しておいた方が明らかに効率的である。
そう、例えば激昂した聞仲の様な。

――聞仲。
死んだはずの男が、今ここにいるという。

89ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 19:48:48 ID:1ktFSruH
「……そうそう、あの二人の事も考慮に入れないといけないわねぇん。
 まあ、蘇生そのものはわらわ達の時代じゃありえない事じゃないから、そんなに気にする事でもないでしょうけどぉん。
 王天ちゃんはいい例だし、復活の玉なんてモノもあるわよねぇん。
 魂魄さえ残っていれば肉体を与えてやれば済む事でしかないわん」

とは言えあの男はそれなりに賢いから、刺激しすぎなければそれなりの共闘は可能かもしれない。
聞仲はひたすらに殷に執着していた。妄執といっても過言ではなかろう。
逆を言えば、結果的に殷の利になるならば、仇敵と手を組む事すら辞さない男なのである。
厄介なのはそういう損得計算にすら頭が回らず、人の言葉を理解できないお猿さんの類だ。

そして残る一人――趙公明は色々と使えるかもしれない。
なにせ女カの存在を知っていながら、それでもなお自分の趣味の命ずるままに動く人間なのだから。
あの男なら、舞台の上で踊らされるままのこんな殺し合いを否定するか?

否。
むしろ自分から連中に協力すると言いかねない。
踊らされるのではなく、自らの意志で舞台に飛び込み踊るのが趙公明だ。
この殺し合いを優雅にする為に、という理由だけで、あの男は好き放題やることだろう。

そ・れ・に・し・て・も。と、節操ない速度で思考が切り替わる。
死者といえば。

「……解せないわねぇん。どうしてわざわざ、『名簿に死者が自動で記される』のかしらん。
 これじゃあ、死んだ人間を生きていると偽って弄ぶ事ができないわぁん」

たとえば、
『自分が人を殺したと思い込んだ人間に放送を聞かせず、その勘違いのままに殺し合いに乗せる』
ような遊び方も出来ないではないか。
そもそもの放送の意味すら薄れてしまう。
“神”がそんな手落ちをするとは思えない。

「――首輪と合わせて、色々と確かめてみたいわねぇん」

多分この名簿は、単純に放送と同時に死者の名が赤く染まるわけではないはずだ。
どういう条件で名簿の名が赤く染まるかそれは大体想像がつくが、その検証の為には実験動物が必要となる。
首輪の研究と合わせてちょうどいい木人形が欲しい。
その意味では、さっきの死に掛けの男の首輪を回収しなかったのは完全にミスだった。
もう顔も思い出せないが。

「まあ、ヒロインにはドジっ娘属性があるのもお約束よねん♪」

てへ、と舌をだして失敗失敗と嘯く妲己。
どこまで本気なのか、あるいは狂言なのか。
多分正解は、後者。
あの時は近くにまだ例の男へ襲撃を敢行した輩がいたはずだ。
後れを取る事などないだろうが、あの男はそれなりの使い手だったろうし、言葉で説得する頭もあったはず。
なのにボロボロにされたという事は、襲撃者は話を聞く余地を持ち合わせないということ。
だとしたら、そんなのを相手取っても仕方ない。

それよりも気にするべきは首輪なのだ。
90ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 19:50:51 ID:1ktFSruH
「多分、制限というのもこの首輪の機能だわぁん。
 体に密着した状態ならばチカラを奪い取る事が出来る。
 あはぁん、まさしく王天ちゃんの寄生宝貝と全く同じシステムの代物よねぇん。
 ……申公豹だけでなく、王天ちゃんも“神”とやらに手を貸してるのかしらん」

もしそうなら念入りにお仕置きしなくちゃねぇんと口ずさみ、首輪について思考を巡らす。
確定というわけではないが、力を制限している要因は首輪の可能性が高い。

「まあ、とにかくこの首輪は十中八九宝貝合金で出来てるわねん。
 仙道がこの舞台……ゲーム盤の作成を手がけたのは間違いないわん。
 他にも、これなんかも宝貝技術を使って作ってるわねぇん」

今度は大量にモノが詰め込まれているはずなのに、全く膨らみを見せないデイパックに視線を投げかける。

「――――空間宝貝。
 このカバンの中にいくらでもモノが入るのはその恩恵。
 ひょっとしたら、この会場そのものも空間宝貝のチカラで作られたのかもぉん」

地図で見る限り、この位の閉鎖空間なら十分に作り出す事が出来そうだ。
とはいえ、普通の空間宝貝と考えると解せない点もいくつかあるのも確か。
たとえば空間宝貝の弱点である、相手が中に入り込むまでは完全に待ちに徹するしかないという前提。
それはあの見知らぬ聖堂からここに『入り込んだ』のではなく『いつの間にか飛ばされていた』事実と相反する。
故にここは普通の空間宝貝内ではない可能性が高い。
そして、弱点を克服した空間宝貝は非常に限られている。
通常空間そのものを自分の領域にする王天君の紅水陣や、蛇の形を取り自ら相手を呑み込む女カの山河社稷図。
そういった特殊な空間宝貝により、ここは作られているのかもしれない。

しかしそれでも――、自分の知る技術である事は、変わりない。
だが、首輪だけは違うのだ。

「この首輪だけはわらわ達の知る技術だけじゃあ出来ていない。
 そうよねぇん、“神”。じゃないと、さっさとわらわがこれを解除しちゃうものぉん。
 わらわ達が紂王さまを改造できる技術力を持つ事を、当然知っているはずでしょう?
 でも、あのみねねが口にしていた通り、わらわ達より未来の技術も使われている。
 つまりわらわだけじゃ迂闊に手を出せない。
 ……未来の技術とのハイブリッド技術。つまり、どっちにしろ必要なのは味方や知識、って事よねぇん」

最悪、必要な知識を持つ技術者はもうとっくに死んでいる可能性がある。
だとしたら色々自分で積極的に試していく必要があるだろう。
あらためて首輪の威力や禁止エリア進入時の性質を調べてみたい。
特に、爆発力については人体実験を行ってみたいところだ。

――例えば、聞仲などは核爆発にも耐える耐久力を持つ。
アレほど頑丈な仙人が、たかだかこの首輪一つの爆薬で生首を転がらせるとは思い難い。
しかしおそらく『今の聞仲』なら容易く首を落とせるのだろう。
課せられた制限とやらが、それを可能とする。
91ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 19:53:16 ID:1ktFSruH
仮に、本当に制限が首輪の宝貝としての機能だったなら。

その場合、是非とも欲しいのはスーパー宝貝の一つ、太公望の太極図である。
あれがあれば、首輪の機能のうち少なくとも能力制限は無効化できる事だろう。
そうすればある程度の耐久力を持つものは爆発を気にせず首輪を破壊できるはずだ。
つまり、その『ある程度』を見極めさえできればいい。

もし大した事がないのであれば、人によっては『太極図を使わずともそのまま爆破して』解除してしまえるかもしれない。
流石に希望的観測が過ぎるとはいえ、頭の隅っこには置いておこう。


そんな事を考えながら、足を止める。
ようやくその建物に辿り着けば、妲己は誰に見止められることもなく、口元を三日月に歪めた。
妖艶に、淫靡に。


**********


どういう事だ?

どういう事だ!?


混乱の極みに陥りながら、それでも少年は為すべきことを過たない。


駆ける。駆ける。駆ける。駆ける。

逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。

ずきんと折れた手首が体全てを軋ませる。
じくじくと鑢をかけるような痛みが、冷静な判断力を奪っていく。

近づくは突き当たり、延びる行き先は階下か階上。

進むべきは二択。
間違えれば、それはすぐ死に繋がる。

何故なら――、と考えるまでもなく、その答えは少年のすぐ傍に。

1、2、3、4、5、6、7。

7歩を数えたその瞬間、少年はいきなり横っ飛ぶ。

ぼひゅうと水蒸気の帯を靡かせて、脇腹のすぐ傍を砲弾が通過していった。
ホンのコンマ1秒でも遅れていれば糞の詰まったソーセージをぶち撒けていた事だろう。

1/10=1。
走り始めてからの歩数を10で割ったその余りは、必ず10以下となる。
次の投擲時までの総歩数÷10の余りは何歩になるのかを指定する。
あとはその余った歩数が来るたびに、回避行動を取ればいい。
92ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 19:55:04 ID:1ktFSruH
だが、それが出来るのは回避するに十分なスペースがある場合だけだ。
このまま階段に突っ込んだ場合、上と下と、どちらに向かおうと必ず一瞬だけ動きを止めて方向転換しなければならない。
その隙をあの少女が見逃すはずはない。
どちらに進むのかを先読まれれば、確実に潰される。

――二択の勝負。

だから、少年こと安藤潤也の逃走は確定した。
少年が向かった階下とは見当違いの、昇り階段に鉄クズが突き刺さる。


これでしばらくは一安心。
金剛と戦いながらもこちらの動きを完全に把握し、機を見て投擲を仕掛けてくるあの動体視力は、まさしく人間のものじゃあない。
……あの金剛なら少なくともしばらくは持ちこたえるだろう。
剛力番長とやらに自分を追わせないよう、階段の前で時間を稼いでくれるはずだ。

その間に自分はどうすべきか。

具体的な行動案として浮かぶのは、2つ。
金剛があの剛力番長とやらを完全に無力化するのを待つか、ここから金剛を見捨てて逃げるか。

どちらを選んでもそれなりのリスクが付き纏う。
前者はもちろん、金剛が殺されてしまっては元も子もない。
さすれば座して待つは断頭台に首を預けるのと同じ事となる。
……おそらく勝負は金剛がやや有利か、互角といったところだろう。

金剛と剛力番長、どちらが勝つか、二択。
これについて1/2を1にしようと思考の海に沈んでも、どちらもしっくりこない。
なれば出される答えは、新たな選択肢である『決着がつかない』だ。
こうなると今後の展開が全く読めない。

だから、見えない未来よりも確実にこの場から脱出する後者の選択肢を選びたくなる。
されど後者もまた確かにリスクを孕んでいるのだ。
つまり、金剛番長を敵に回す――そこまでいかずとも悪印象を持たれるというリスク。

金剛は相当な実力者だ。だから、出来る事なら敵には回さず味方につけておきたい。
スジを通す、なんてつまらない理由で自由な行動を束縛される代償を支払ってもだ。
ついさっき、仲間を集めて脱出する事を心に決めたばかりでもあることだし。

……ああ、そうだ。
ついさっきまでは、それが全くの最善だった。最善だと思っていた。

だからもし今が放送前だとしたら、多分前者を選んでいたことだろう。

だけど、放送で全てがひっくり返された。

「……どうして、兄貴の名前があるんだよ……」

93ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 19:56:44 ID:1ktFSruH
何分かぶりに、ぽつりと、ようやく言葉が漏れてくる。
気がつけばもう下りる階段はほとんどなくなっていて、一階まで辿り着いていた。

名前と言えば、土方という名前が名簿に見当たることもなかった。
だが、あんな男の事など今はどうでもいい。
見覚えのある名前として蝉の死亡も告げられたが、それすら今は気にならない。

「死んだ人間が生き返るとか、あの女の言葉は本当だって言うのかよ……!」

がしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがし
がしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがし
がしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがし
がしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがし

何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も。
まだ動く左の手でひたすらに頭を掻き毟り続ける。

血が出てきた。
でも止めない。
爪に肉が挟まる。
それがなんだ?

考えろ、考えろ、考えろ。

偽者、という可能性が一番高い。
だとしたら許しがたい。あるいは同姓同名か。
だがこの名簿を作ったのは“神”とやらだ。
あの連中が、わざわざそんなつまらないオチを持ってくるだろうか。

だが、本当にほんものの兄だとしたら?
自分はどうすべきなのだろう?

自分が脱出を志したのは、帰還して兄の仇を討つ為だ。
だが、兄が生きてここにいるというならば全ての前提は覆される。

兄には、生きていて欲しい。
その為ならば何でもしよう。
泥を啜り、草を食み、糞尿に塗れても兄を生かそう。

……もし兄を騙る何者かなら、殺す。
それは兄への最大の侮辱だからだ。

で、どうするんだ?

兄とともに脱出する為に、これまで通りの方針を貫徹する?
一刻も早く兄と合流する為に、さっさとあの男を見捨てるべきか。
あるいは、何が何でも兄を生かすために、敵を排除して排除して排除して、ひたすら攻勢に徹すべきか。


「俺は――」



**********
94ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 19:58:15 ID:1ktFSruH
目を開けると同時に、ごふ、と血を吐いた。

仰向けに寝転がったまま口元に吹き零れた血を拭い、静かに肩の辺りに手を持っていく。
そこにはぱっくりと口を開いた傷口から黄色い体液と赤い血とピンクの肉と白い骨が見えていて、あるべきものがごっそりと抉り取られていた。
けれど、突き刺さっていたはずの馬鹿でかい剣はとっくに抜き取られている。

地べたの自分のものだった血に触れてみれば、まだ微妙に暖かい。
……倒れていたのは数十秒ではないにしても、そう長い時間ではないはずだ。

「……強くなったじゃねえか、剛力番長」

そのまま怪我人とは思えない動きで足をカチ上げ、振り子の要領で一気に立ち上がった。
どすん、とフロア全体に金剛の再起が知らしめられる。

「だったら……余計に放ってはおけねえな」

剛力番長は、おそらく潤也を追って下に向かったはずだ。
その潤也自身も、長い時間目を離しておくわけにもいかない。
危険な匂いを感じるのはむしろ剛力番長よりあの男の方であるとすら言えるのだから。

エレベーターは使えない。
剛力番長がデパートに入ってきてからすぐ、逃げ場を塞ぐ為に叩き潰してしまったからだ。

疾駆。疾走。大跳躍。
このデパートは吹き抜けの構造になっており、上の階の喫茶店に設けられたバルコニーから
一階のテラスを見下ろせる形になっている。

そこを、一息で飛び降りる。
下手に階段などを使うよりもそっちの方がよっぽど早い。

フロアの織り成す縞模様が、高速でスライドしていく。

着弾。

びりびりと建物全体が震え、砕けた床からもうもうと白煙が立ち込める。
すっくと背を伸ばして睥睨すれば、金剛の到着を待ちわびていたかのように近寄る影二つ。

「……!」

ふしだらな格好をした女と、体操服という出で立ちの少女の追いかけっこがこちらに向かって展開中。


「そこの人、助けて頂戴ん? わらわ怖ぁい女の子に追われているのぉん」

その台詞が終わるより早く金剛は己が大腿の筋肉を爆発させる。
轟、という音と共に暴風が吹き荒れ、二つの影を断ち割った。

「……! やはりまだ生きてらっしゃいましたか。
 今度こそ、引導を渡して差し上げます」

その言葉を無視。
金剛はじっと目線を剛力番長に合わせ、睨みを効かす。
放送を経ても、神に反逆を試みたあの勇気ある女性の意志を聞いても未だ、彼女は相も変わらずただ頑なに敵意を見せるだけ。
盲目である事を自ら望み、手段を目的に成り代わらせたままだ。

95ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 19:59:41 ID:1ktFSruH
……ならば、その眼をこじ開ける。
昔の彼女自身を突きつける。

「女一人にテメエで培った暴力を叩き込むのが番長の仕事か? 剛力番長。
 ……違うだろうが。
 以前のお前の行動だって、結果的に迷惑をかける事になったとは言え全部住人の為にやったことだったろう!
 初心を忘れるんじゃねえ! それでも本当に、お前はあの剛力番長なのかッ!」


ぷつ、と、何かがキレた音がした。

「わ……、わた、私は……ッ!」

灼熱の憤怒を滾らせて大山が鳴動。

「私はッ! 剛力番長です! 白雪宮拳です!
 あなたなどの言う事を聞き入れなくても、誰に認められ――、」

噴火を目前としたその間際。


ぞく……。


金剛の芯に悪寒が走った。
背中に氷を入れられた――、などと、生易しいものではない。
鋭利に研ぎ澄まされたつららで心臓を一突きにされたような、この世のものとも思えない怖気。

何だ? 何なんだ?

振り向きたくとも振り向けない。
今、自分の後ろで何が起きているのか確認しようとしても、それをすれば剛力番長の暴走を許してしまう。

……いや、分かっている。
背後の女は特に何もしていない。ただじっとこちらを見ているだけに違いない。
なのにその目線がいやに自分の癇に障るのだ。

そして当の剛力番長は自分の後ろにいる女に目線を動かし、ハッと息を呑んだような――そんな気がした。

「…………、そうでしたわね。ええ。私は私です。
 “あなたのお言葉通り”その淑女さんには手を出すべきではありませんわね。
 ここは退いておきましょう」

そして余りにも唐突に、じりじりと後退。
何かを告げよう暇もなく、実に不自然な気持ち悪さと共に屋外へと、舞台袖へと剛力番長は引っ込んでいった。

それはまるで、大好きなプリンの中から生きた毒虫が這い出てきたかのような。
あるいは、自分以外誰一人いないはずの廃墟の食卓に、たった今焼きあがったばかりのほかほかのパンを見つけたような。
そんな得体の知れない不快さが拭えない。

茶番劇としか思えない一連の出来事に、金剛は剛力番長を追う事もなくその場に立ち尽くすだけだった。


その背中に対して届けられる、おぞましい猫撫で声。
96ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 20:01:45 ID:1ktFSruH
「助かったわぁん。あの子を追い返すなんて、貴方、相当お強いみたいねぇん。
 くす、わらわの力になってもらえないかしら?」

ようやく振り返っての開口一番は、相手の要求を一切考慮しない訊問を。
 
「……俺と出会う前に剛力番長に何を吹き込んだ?」

されど目をすがめて覇気を発してみても、柳に風。暖簾に腕押し。
目の前の女は掴みどころなく、ただただ薄笑みを浮かべているだけだ。

「あん、わらわの過去が気になるのぉん?
 出会ったばかりで口説くなんてとっても大胆。
 でも御免なさいん、わらわの体は紂王さまだけのものなのん。もう死んじゃったけどねぇん」

戯言に混じって平然と言葉に出される、死という単語を耳にして思い出す。
そうだ、今はこの女よりも優先せねばならない事がある。

「お前、安藤潤也という男を見なかったか?
 俺より先にこっちに向かったはずだ」

――放送の時。
名簿に目を通してすぐ血相を変えたあの男は、どうしているのか。
どう考えてもまともな精神状態じゃあない。
何故なら、死んだはずの彼の兄がここにいると言うのだから。

「知らないわぁん? 貴方のお仲間なのぉん?」

手応えはない。
いつ崩れるかも分からない泥の橋を渡るような心持ちで、潤也について口を動かす。

「……奴は今危うくてな。放っておける状態じゃねえ。
 さっきの放送と同時に浮かび上がった名簿に、あいつの死んだはずの兄貴とやらの名前があったらしい。
 胡散臭え戯言に乗せられて変な考えに取り付かれてなきゃいいんだが」

……自分の兄を思い浮かべる。
安藤の気持ちも良く分かる、というのは言い過ぎかもしれないが、それに近い感情は確かに自分にもある。
今こそ自分と兄は敵対しているが、それも兄が家族だからこそ止めたいと思うが故の行動の結果だ。
大切だからこそ敵対することすら厭わないし……、その逆も、また然り。

「あらん、胡散臭いってどういうことかしらぁん?」

「言うまでもねえ事だろう。死んだ人間が生き返るはずが――」

「ある、わよん?」

――聞き捨てならない言葉が、差し込まれた。

「!? どういう事だ……?」

目を見開き詰め寄れば、女は嘲笑うようにチッチッチと指を振り振り。
97ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 20:04:01 ID:1ktFSruH
「単純だわん、わらわ達の時代じゃあ、死人を蘇らせる方法もあるって事よん♪
 情報を集めた限り、他にも蘇生の技術を持つ人たちがいるみたいねぇん」

例えば、空想の中に住む全能の神の力とか。
例えば、真理の扉の向こうにある理とか。
例えば、友人たる鯨との再開を夢見た男の食した悪魔の実とか。

女の住む世界の様々な道具以外にも、存外生と死を弄ぶチカラは転がっている。

金剛はその真贋を見極めようとして女に手を伸ばすも、ひらりとかわされ行き場を失う。
……ただ、なんとなく理解する。
この女は掴み所がないが、こうも強気に断言する以上はそれなりの根拠があるのだろう、と。

「……剛力番長の言ってた事も、あながち嘘じゃねえって事か。
 だが、それでも蘇りなんぞを認める訳にはいかねえな」

「死んだ人間を生き返らせる。悔いを残して死んだ人も、彼らに未練を残す生者も救われるのにぃん?
 素晴らしいことだと思うけどねぇん?」

大きく、大きく息を吐く。
先刻から一々、この女の態度に吐き気を催してしょうがない。
まるで命をなんとも思っていないかのようだ。

きっと本能のレベルからしてこの女と自分は相容れない存在なのだろう。
生理的嫌悪というべきか、それくらいに何かが致命的なまでにズレてしまっているのを感じる。

怒りに身を任せてしまえば楽だが、向こうは確かに何もしていない。
己からスジを違えるのは流石に自分を許せない。
心を落ち着け、ただ愚直に毅然と相対する。

「そいつはスジが通らねぇな。命ってモンを弄んでるのと同じ事だぜ。
 死んだ人間に対しての最低限の義理すら果たしてねえ。
 仮にそんなふざけた事をエサにして人を釣る連中がいるってんなら、そいつらをぶっ潰すまでだ」

「……生きているものだけに許される傲慢ねぇん。
 死んだ人間が皆が皆満足して死んだとでも思ってるのかしらん?」

だが、一向構わず女は楽しげなまま。
それどころか遥か高みから値踏みするようにこちらに刺激を与えて反応を楽しんでいる風すら感じる。
一挙手一投足の品定めに、金剛は激情を滲ませないよう務めるので忙しい。

「何が言いてえんだ?」

「さて、それくらいは自分で考えて頂戴? わらわが教えられることなんてこのくらいしかないわぁん。
 ……生きとし生けるものは全て、永遠に生きることを望むものなのよん?」

いい加減、ふざけた態度が目に余りすぎた。

ぶゥん、と、渾身の、痛恨の、会心の一撃を以ってして、いきなり殴りかかる。

拳より出でる風は荒く猛り、しかしその速度をすら超えて風は生みの親にブチ破られた。
98ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 20:06:33 ID:1ktFSruH
しかし、女はそれでも微動だにすることはない。
ぴたり。
まさしく文字通りに目の前で止まった拳を、さも当然の帰結であるかと言うように優しく優しく撫でてみせる。
こうして寸止めされることすら、きっと彼女の読んだ未来のシナリオ通り。

「……こんな事は言いたくねえが、どうにもお前は信用できねえ。
 悪ぃが、何か用があるってんならしばらく俺に同行してもらおうか。
 お前がスジの通った奴だって分かったんなら話を聞く。
 ちゃんとそれまでは身の安全も確保してやる。これで構わねぇだろ」

「酷い扱いねぇん、野蛮だわん。
 ……わらわ、束縛されるのって嫌いなのん。
 その潤也って子を探してあげるから、二手に分かれないかしらん?
 見つけて連れきたんなら、その時にわらわのお願いを聞いてほしいのぉん」

「…………」

何も答えることなく、さっさと歩きだす。
やましいところがないなら一緒に行動したって問題はないはずだ。
目のつかないところで得体の知れないことをされるより、同行して監視している方が好ましい。
それが嫌なら最初からお願いなどしなければいい。

分かっているのかいないのか、女はへらへらと表情を崩さず静かに後ろについてくる。

……どうしてか。
この女が特に何かをしているところを見たわけでもないというのに、結局。
スジが通らないと分かっていながらも、心の奥底から涌き出る汚泥を隠しきることは出来なかった――――。


**********


意外とそれには時間がかからなかった。
僅か数分。
下る階段を乗り換えて、エスカレーターにて階下へ辿りつけばそれで仕舞い。
安藤潤也は、地下にいた。

「見つけたぜ、潤也。
 ……どうやら逃げ出しちゃあいなかったみてーだな。
 少し見直したぜ」

――生鮮食品などが本来は並べられていたであろう地階。
いわゆるデパ地下と呼ばれるエリアの、エスカレーターの真正面。
そこで潤也はあたかもその空間の主であるかのように、ぼうっと座して待っていた。

「――無事だったのか、金ご、う……?」

此方に振り向きの第一声は、当然の事ながら背後の女に対してのもの。
道すがらに妲己と名乗ったふざけた格好の女は、いつの間にやらその手にいくつもの服を抱えてどれを着ようかなどと暢気なことをほざいていた。

「……その女は誰だ?」

不信感をあからさま過ぎるほど見せ付けて、潤也はニヤニヤ笑いの狐を睨みつける。
99ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 20:09:25 ID:1ktFSruH
「わらわはジャンプ史上究極にして至高のヒロイン、妲己ちゃんよん。
 よろしくねぇん、潤也ちゃん」

それに何を思ったのか。
挨拶に答えることなく、潤也はただただ最初から用意していたであろう台詞を繰り出した。

「まあいい。それより金剛、あの女がどうにかなったんなら、すぐにでも向かいたいところがあるんだ」

なに、と金剛は小さく息を呑む。
潤也の態度は、どう見てもこれまでの彼とは全く異質な雰囲気を纏っていて、金剛すら僅かに怯ませる意思が漲っていた。

――潤也曰く。
以前と同じく兄の名前を持つ人物の所在について地図上の各施設を調べたところ、旅館にその名前が該当したらしい。
死人であるはずの潤也の兄の存在は眉唾物であるが、名簿にはマシン番長の名も記されている。
もしそれが金剛の思うとおりの人物であるなら、妲己や剛力番長の言葉の信憑性を完全に零と断定することは出来ない。

潤也は告げる。
あの連中なら、死人を生き返らせる事が出来てもおかしくないだろう、と。
そうでないとしても兄を騙る人間を野放しにし、一秒たりとも生かしておきたくない。
制裁せねば、と、そう断言した。

……やはり、この男は危うい。
その確信を深めながらも、金剛はいつの間にか、彼のどこかに共感するものを感じていた。

口では物騒なことを言っていながらも、本心ではむしろ兄に生きていて欲しいと願っているようにさえ見える。
その感情が兄と敵対する自分にいつしか重なって見えていたのだろう。

たとえ、その決意がどれ程強固であろうとも。
やっぱり人殺しなんてしたくないという気持ちは、きっと潤也だって持っているはずなのだ。

「――本物か偽者かは置いといても、一刻も早く兄貴を見つけなきゃ。
 その為にも、俺は旅館に向かわなきゃならない」

とはいえそれでも、彼のギラギラとした目つきは金剛を不安にさせて止むことはない。
妲己と、潤也。
こんなのを二人も同道させることになるとは、自分はよほど運がないのだろう。
……いい加減自分も少し疲れてきた。
潤也の急く気持ちは確かに伝わってくるが、いつも全力疾走ではすぐにガタが来る。

「……考えは分からねえでもねえが、その前にそろそろメシを済ませといた方がいい。
 剛力番長は退いたが次にいつ敵が襲ってくるとも限らねえ。
 体力補給はこまめにやっておかないと体がもたねえぜ」

結局は、その当の剛力番長の説得も出来なかった。
どこに向かったか見当もつかない以上、見知らぬ誰かが被害を蒙っていなければいいのだが。

とりあえずの休息の提案に、しかし潤也はそれも予期していたといわんばかりにデイパックを逆さにする。
全部が全部、シナリオ通り。

「ああ、それは俺も考えてた。
 けど、このカバンの中の食料はいざという時にとっておくべきだと思う。
 だからとりあえずこのデパ地下で適当にカロリーの高そうな食いもんを集めといたんだ。
 おかげで菓子系ばっかりだけど、そこは我慢してくれ」

どさどさどさ、と、いくつかの洋菓子が零れ落ちてくる。
種類はどれも違っていて、確かに糖分補給には十分そうだ。
100ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 20:11:30 ID:1ktFSruH
「ふぅん、スイーツがいっぱいねぇん。これは少しだけ楽しめそうだわん」

「……あんたの分は想定してなかった。
 まあいいや、さっさと自分の分を取ってくれよ。
 兄貴を名乗る奴はすぐにでも旅館から離れちまうかもしれない。
 ちんたら時間をかけて食ってる暇はないんだ」

不機嫌そうに潤也は妲己を一瞥したのち、顎で不動のままの金剛に意思表示。

「……金剛? 甘いものは嫌いか?」

「そんな事はねえさ。そのプリンをもらっとくぜ」

本当に時間が惜しいのだろう。
やれる事は全てやっておいたから、あとはここを発つだけとでも言いたげだ。
金剛がプリンを手に取った直後、潤也は床に並べた菓子の一つをまるで飲み物であるかのように掻き込み、咀嚼。
ウーロン茶で流し込むというパティシエに一番失礼な食べ方をして、息つく暇なくさっさと立ち上がった。

「さあ、早く行こうぜ」

「……いい加減余裕がなさすぎだぜ、潤也。なんか汗まみれじゃねえか。
 ちょっと待ってろ」

金剛の巨体には、こんな小さなプリンはそれこそひと呑みだ。
だからこそ時間はさほどかからないだろうが、それでも折角の好物くらいは味わいたい。
見れば、妲己はとうに自分の分を確保してトロけるような顔でそれを堪能している。

仕方ない、と諦める。
こんな事で不和を招いても無意味だ、ここは潤也の望み通りにしておこう。
それにもし妲己の言うとおり死者が蘇っているのだとしたら、潤也の兄はこの男のストッパーになってくれるかもしれない。

ぱくりと口腔に放り込む。
甘ぁいカラメルと卵の芳醇なハーモニーを舌の上で楽しみながら、内心潤也に感謝する。
まさかこんな殺伐とした場所でプリンを楽しめるとは思わなかった。
どうにも不信感ばかりが募る一方ではあるものの、これだけは素直に礼を言っておくことにしよう。

ありがとう、と呟こうとしたその瞬間、転がしていたプリンが気管に入り込んだ。

「……かはっ!?」

ごほごほごほ、と一気に咳き込む。
らしくない。全く以ってらしくない。

……いきなり訳の分からない状況に置かれて、殺し合いを強制されて。
存外、結構緊張していたのかもしれない。自分でも意外に思ってしまう。

「ぐっ……!」

こちらを今か今かと待ちながらさっきから掌に握ったままのウーロン茶を弄ぶ潤也。
そちらを向いて、慌てて手を伸ばし要求する。

「み、水……。それをよこせ。
 それも一台や二台ではない……、全部だ!」

何をやってるんだ金剛、と苦笑する潤也が差し出すペットボトルを掴もうとして、気付く。
101創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 20:16:40 ID:+qzgsdwu
しえん
102ともだちになるために ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 20:19:17 ID:1ktFSruH
手が。
腕が。
肩が。
首が。腰が。腿が。臑が。足が。


何一つ、動かない。

この息苦しさは、プリンが喉に詰まったからなんかじゃあない。

ああ、そうだ。
予感はきっと、すぐ近くの女に感じた印象はきっと、間違っていなかったのだろう。


「ざァんねん♪ わらわに同行を指図しなければ手駒として生かしておいたのにぃん。
 下手に統率力があって我が強かったのが災いしたわねぇん」

1/10=1。
金剛がどの菓子を選ぶかなど、潤也には最初から周知の事。
さっさと目の前で自分の分を食事してみせたのは、この菓子類が金剛に安全だという印象を植え付けるため。

プリンの中に、生きた毒虫のその汁が仕込まれていた。
たぶん、その程度の事なのだろう。


「潤也ちゃんから話を聞いた時はまだ、利用されてくれる余地があるかもって考えてあげたのよぉん?
 なのに、せっかくのチャンスをフイにしちゃうなんて、わらわ悲しいん。
 それだけ強いなら色々便利だったでしょうに、わらわのお願いすら聞く耳持たないんだものぉん」


その程度の事で、自分は――――、


意識が薄れていく。
けれど完全に消えることなく、崖っぷちに必死でぶら下がった状態で固定されたかのように、
ある一線の手前で貼り付けにされている。

――いっその事、完全に意識を失ってしまえれば楽だったのに。


「あはん、わらわ命令するのは好きだけど、されるのは大嫌いぃん。
 貴方みたいなのに同行されたら、色々動きにくくなっちゃうわん。あと貴方、わらわより目立ちすぎぃん。
 覚えておく事ねぇん、押し付けがましい男ってのはモテないのよん」

ああ、もし二手に分かれる事に同意していたのなら。
今となっては詮無いことで、その一言で金剛の命運は断ち切られた。


妲己と潤也とが、ドライアイスのような目で見下ろしている。
視線はもう人間に向けるそれではなく、養鶏場から出荷されるブロイラーを見るのと同じものだった。


「さぁて、あんまり簡単に壊れないでねぇん、木人形ちゃん?
 貴方の尊い犠牲が首輪を解除する一助になるんだけどん、
 その前に耐久力のテストをしとかないと参考にならないんだから、分かったぁん?」
103僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 20:22:15 ID:1ktFSruH
**********


ぶすり、と、もう何度目か数え切れないほどの、肉に鉄の塊を突き刺す音がした。
ぐりぐりと傷口を抉じ開け、体の中に切れ味の鈍い槍が奥へ奥へと入り込んでいく。

つい先刻の戦いで傷つけられた肩口を橋頭堡に、体の中を至る所を蹂躙される。
こんな感触は初めてで新鮮で、まったく実にエキサイティング。
尤も、それを楽しむには常人なら発狂して当たり前の痛みを堪えなくちゃいけないけれど。

ぐちゅぐちゅ、ぐちゅぐちゅ。

まず最初に、肺を一つ潰された。
感触で理解。
肺を形作る小さな小さな部屋の群れ、肺胞のひとつひとつがエアークッションのようにぷちぷちと潰されていく。
血液が流れ込んでは漏れ出して、まるでそれはホットケーキを焼くかのよう。

いきが、できない。
溺れて苦しんでいるのに、いくら藻掻いても海辺にはたどり着かない。
だってそれは当然のこと。
ここは馬鹿が見ても分かる陸の上で、息をする根本の器官が潰されたのだから、。
それはひたすらにヘリウムガスだけが充填された風船の中身のみを吸うのを強制されるのと同じコトなのだから。
違いといえば、ダックボイスではなく漏れるのはガラガラ声だってことくらい。

じくじくとかつて肺だったものと肋骨と、神経と血管とがハンバーグを作れそうなぐらいにミンチにされていく。
そこまで至って初めて、ようやくにして新たなステップに移行した。

傷口を下方向に押し広げて、腹を掻っ捌かれた。
びくびくと震える薄皮の上をつつぅ……、と撫でられた後、生きながらにリアル手術ごっこ。お肉屋さんごっこ。

横隔膜の鼓動を直に見物されている。
ハラミに相当するその部分の脈動だけで、信じられない量の血液が千切れた血管から体腔に零れ落ちていく。
腎臓やら肝臓やらが、糠に沈められるかのように血溜まりに浸っていた。

そんな状態で、腕を体の中に突っ込まれた。
それこそ糠みそを掻き混ぜるように胃から腸から捏ね繰り回される。
内臓を直に触られる感覚が、胸の裏側から骨の一本一本をなぞられる感覚が。
着実に確実に堅実に、その場に居合わせる全ての人間の理性を破壊していく。

痛みは最早、まっしろ、と形容するので精一杯の、未知との遭遇大フィーバー。

あんまりテンパリすぎたためにまだこの段階では傷つけるつもりはなかった大腸まで切り裂いてしまったのはちょっと失敗。
おかげで辺りは糞塗れ。
さっき食べたばかりの毒入りプリンもハミ出てきてしまっている。
104僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 20:24:45 ID:1ktFSruH
ここに至るまで。これだけの損壊を遂げるまで。
安藤潤也がその手で、これらの全てを執り行っていた。
金剛の解体を、行わされていた。

妲己の手持ちの支給品と、金剛に渡された二つの武器と。
耐久度テスト兼それらの武器の試し斬りとして、ありとあらゆる暴力を振るうことを強制された。
動かない右手の分は、気前のいいことに妲己ちゃんの御奉仕サービスで埋め合わせ。

虚ろな目で獣の槍を手に、潤也はただただ動かない。
ぴくりと震えることもない。
息を荒く、小刻みに吐き出すだけ。

それはたぶん、獣の槍を使わされた反動だけではないのだろう。
へらへらと、正気で浮かべられるはずもない笑みを顔に張り付かせていた。

「ねぇねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ちぃん? ねぇねぇ、悔しいぃん?
 わらわみたいな貴方の一番嫌いな類の輩に弄ばれてどんな気持ち?
 自分よりずっと弱い潤也ちゃんに嬲られてどんな気持ちぃん?」

ビクンビクンと痙攣するだけの金剛の残骸を見下ろして、実に妲己はご満悦。
目的だとか手段だとかそんなものは置いておいて、彼女はこういうのがだぁいすきなのだ。
それにしてもこれだけイジってもまだまだ活きがいいとは驚愕である。
体の頑丈さは首輪のテストに実にもってこい。
死なないのではなく、死ねない。そして、死なされない。
そんな残酷さを心の髄から楽しんで、恍惚。

だけどこれは、金剛だけを弄んでいるのではない。

「潤也ちゃぁん?」

びく、と純也が身震いする。
顔の笑いは、恐怖から精神を守る為の防壁。
今まさに一線を越えつつある自分の残虐無比な行動に、怯えている。

もう後戻りなど出来ない事を、理解していながら認めたがっていない。

だって、当然だろう。
いくら道を踏み外しかけていたとは言え――、彼は、ついこの間まで普通の高校生だったのだ。

潤也は強い。確かに強い。
だから、表面上は従ったように見えてもいつ牙を剥くか分からない。
ことに脅迫という手段をとっているなら尚更だ。

だから、徹底して彼の理解できない闇の深遠を刻み込む。
潤也のこころをへし折り、従順な奴隷にするためだけに、常軌を逸した行動をその手で行わせる。
最初はちょっとだけ罪悪感を募らせるだけのものから、徐々に深みへ深みへと。
格の違いを、思い知らせてやる。

それだけの話なのである。

人体、というのはその為の道具に実に都合がいい。
かつて周の文王に息子伯邑考のハンバーグをご馳走してあげたのと同じやり方だ。
ただ今回は血の繋がりという強固な絆がないから、代わりとして潤也自身の手を汚させた。
105創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 20:26:27 ID:ECcI5JwO
しえん
106僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 20:27:41 ID:1ktFSruH
……そろそろ、頃合だろう。

「聞いたかしらぁん? 潤也ちゃん。その首輪から流れた声を」

「……え?」

機械めいた動きで潤也はゆっくりと首をこちらに向けてくる。
顔の表情もまた、つくりものめいた笑みのまま。

どうやら全く聞いていかなっかようだ。
ある意味で見込み通り、この少年はどこまでも残酷なことに夢中になれる性質を潜めているらしい。
それはそれで面白いけれども、今は少しばかり手間を増やす結果となった。

「『当地区は、残り十分で禁止エリアに変更されるわ。速やかに脱出しなさい』
 そうさっきの放送の女の声でメッセージが流れたのぉん。
 だから金剛ちゃんで遊ぶのはもうお終い。
 良く頑張ったわねぇん、ご褒美をあげるわぁん」

もうじき7:30。デパートに隣接したこの地区、I-06に金剛を運び込んだ本当の目的を果たさねばなるまい。
安全地域との境界は数メートル先。
そこからなら、首輪が爆発する様をじっくり観察できるというわけだ。

「あ……」

ようやく解放されるのか、と安堵の吐息を漏らした潤也にしなだれかかり、妲己は笑みを湛えて頷いてみせる。

「……さて、これがご褒美よぉん」


そう呟いて、ずぶりと金剛の額のど真ん中に研ぎ澄まされた指先を埋め込んだ。

「――――!」

悲鳴は誰のものだったろう。
金剛か、潤也か。はたまた両者のものか。

皮膚と骨を貫通して、灰色の脳細胞が侵食される。
頭蓋骨の裏側から、前頭葉が豆腐のようにぐずぐずに崩されていく。
はてさて、本来ありえない場所からの圧迫感というのはどれ程気持ち悪く、不気味な代物なのか。
それはあまりに筆舌に尽くし難い。

程よくかき回したのち取り出せば、指の先にはたっぷりとディップがこびり付いている。
トロリとした粘性がいかにも生々しい。

それを静かに妲己は潤也の口元へと持っていって――、
何をされるのか、とうとう潤也は気付いた。

気付いて、しまった。
107僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U :2009/10/20(火) 20:30:39 ID:1ktFSruH
まあ、気付かなくてもすぐに身をもって思い知らされることになるのだけど。

「ん――――っ、んん――! むぐ、ん、ふぅ、やべ、が、あべろぉ……、かっ!
 むんぐぐぐ、ああ、やえ、やぶぇ、やべろぉぉぉおおおおおおぉぉおぉぉっ!」

必死に閉じようとした口を無理やり抉じ開けられて、どれだけじたばた暴れても束縛から抜け出す事叶わなくて。


男の子は何で出来ているの?

蛙に蝸牛、子犬の尻尾。

女の子って何で出来ているの?

砂糖とスパイスと素敵なモノ全部さ。

じゃあじゃあ、金剛の脳ミソは何で出来ているの?

プリンに生ウニ、煮詰まった醤油に違いない!


ふんだんにべ……っとりと、取れたて新鮮そのものな金剛の脳ミソを口内の至るところに塗りたくられる。
ウニのような、醤油のかかったプリンのようなそれを、
頬肉に、
歯茎に、
顎裏に、
口蓋に、
舌全体に、
余すところなく満遍なく、擦り込まれる。

生臭くて、やけにコクがあって、ぬるぬるした感触が不快さを手繰り寄せる。
飲み込もうとしないから唾液がたっぷり溜まってきて、それで余計に血の香りが口の中に充満する。

ちゅぽっと指を引き抜かれた拍子に耐え切れず、とうとうごくりと嚥下してしまうと同時――
こころの奥で何か大切なものが砕けてしまったと、潤也はまざまざと感じさせられる。


あとはもう、がく、と膝を突いて、口元の脳ミソを拭おうともせずあらぬ方向を見つめているだけだ。
そうして、数秒。

「おご、ぅぅうぅええげ、げ、えげげげうぅおおぉぅぇえええええぇぇぇええぇぇっ!
 げっ、げえっ、おうぅるろぉぉおおぉぉげぇぇぇぇ……」

吐いた。
臓腑に溜まった何もかもを吐き出した。

……それでは皆さんお待ちかね。
ずるずると純也を引きずって、妲己は安全な観客席へと退避する。
108代理:2009/10/20(火) 20:39:43 ID:ECcI5JwO
爽やかな朝の風が吹き抜ける。
空は青く、まるで南国の海のよう。
走る街を見下ろして、のんびり雲が泳いでく。
さわさわとコンクリートの上に必死に根を張る雑草が揺れるなか、金剛の首輪から流れる女の声がそれを告げた。

『貴方は進入禁止エリアに入り込んでいるわ。
 この警告が終了してから一分以内に当地区から退避しないと、首輪が爆発してしまう。
 至急、退避してちょうだい』


そして、一分。


ぼぉん。

肺を潰されて、臓物を掻き回されて、脳ミソをシェイクされて。
それでもなお意識を失うことのなかった金剛は、ようやく生き地獄を抜け出す事が出来た。

おめでとう。


【金剛晄(金剛番長)@金剛番長 死亡】



**********


爆発は小規模。
しかし、普通の人間相手なら十分に致命傷だろう。

少なくとも金剛の損傷は思ったより少なくて、死体はだいぶ綺麗ではあるけれど。
首の肉が一部こそげ取られただけとはいえ延髄が吹っ飛んでいるのは確実だ。
どうやらその部分に重点的に爆薬が仕掛けられているらしい。
傍目から見ても間違いなく死んでいる。

「バカジャナイノー」

その余りにもあっけない死に様を見て、何故か潤也はそう呟いていた。
まだ、生臭い。金剛の脳ミソフレーバーは、一生口の中から消えてくれる気がしない。

まるで料金未満の価値しかない映画の感想でも吐き出すかのような潤也とは対照的に、
妲己は依然として今にも鼻歌でも始めそうな調子を変えることはない。
手に持つ名簿をためつすがめつ、一人推論を呟いてみせる。

そこでは、金剛の名前が確かに赤く染まっていた。

「……思ったとおりだわぁん。
 この名簿の死人の名前は、『本人が確かに死亡したのを確認した』その時点で赤く染まるのねぇん。
 つまり、実際に死体をその目で見るか、放送を聞くかしない限りこの名簿は黒字のままってことぉん。
 伝聞情報とかは確度が低いからきっと色は変わらない。死んだ人の名前を知らない場合もきっと同じでしょうねぇん。
 放送を聞き逃しちゃったらそれまでってことかしらん」
109代理:2009/10/20(火) 20:42:25 ID:ECcI5JwO
知らないところで生き返った場合とかはどうなるのかしら、と洩らすも、考えても分かるはずはない。
それよりもこの名簿は、黒字の上から赤いペンでなぞったり、あるいはその逆をすることで面白い使い方ができるかもしれない。

けれど、今は情報整理が先だ。

「くすくすくすくす。金剛ちゃんのおかげで他にもいろいろ面白い事が分かったわぁん。
 たとえばこの槍の力ねぇん。
 上手く使えば人体に全く影響を与えず、首輪の宝貝合金だけに干渉できるみたいん。
 でも、どこが貫いてもいい場所か、ってのはまだまだ分からないわねぇん。

延髄付近に爆薬がセットされていることは分かったが、斬ってはいけないコードとかが他の場所にある可能性も高い。
破壊に着手するのは時期尚早が過ぎるだろう。
金剛の死に様を見る限り、制限さえ無効化すれば爆破されても耐え切れる見込みは結構高い。
とはいえ肝心の制限を無効化する方法が問題だ。

「この槍を使った方があるかないかも分からない太極図を使うより確実かもねぇん。
 でも、まだまだ情報を集めないとぉん」


如何せん、それは不意打ちに過ぎた。

妲己の背中に影が差す。


たとえ内臓が全部零れて、腹の中が空っぽになっていたとしても。

潰れた肺のせいで酸素が行き渡らず、四肢が壊死し始めていたとしても。

考える為の前頭葉が、破壊しつくされていたとしても。

運動系を支える延髄が、吹っ飛ばされていたとしても。

プラント融合体すら押さえ込む、砂虫の切り札たる筋弛緩系の毒が回っていたとしても。

生物学的に、間違いなく死んでいるのだとしても。


「知った……ことかァ――――ッ!!」


この女だけは、生かしておくわけにはいかないと――――!


「蛮漢魔王陀(バンカラバスター)ぁぁぁぁあああぁぁぁあぁぁぁぁぁっ」


回避不能。
防御不可。
迎撃無視。
必殺必滅。

潤也にも、妲己自身にも、最早かつて金剛番長と呼ばれたソレを、止めるはおろか減衰させることすら出来はしない。

だから、妲己が生き残る道理はない。
110代理:2009/10/20(火) 20:43:56 ID:ECcI5JwO
……ただ、まあ。

「死人は動かないものよぉん? 金剛ちゃん。
 それこそ貴方の一番嫌いなスジが通らないことよねぇん」

そんな奇跡が許される道理の方が、よっぽど認められるよーな代物でもないという。


「終わりですわ」

ドラゴンころしが生ける屍にめり込んだ。
それが、今回のお話の終わり。


単純な話だ。
金剛の巨体を禁止エリアに運び込むなんて力仕事、妲己がすると思うかい?
手首を骨折した潤也に出来ることと思うかい?


【I-6〜I-7境界/デパート付近/1日目/朝】

【妲己@封神演義】
【状態】:健康
【服装】:
【装備】:獣の槍@うしおととら、逃亡日記@未来日記
【道具】:支給品一式×6、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×2)@トライガン・マキシマム
    マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、
    デザートイーグル(残弾数7/12)@現実、
    マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×4(うち2つは武器)
    詳細不明衣服(デパートで調達)×?
【思考]】
基本方針:神の力を取り込む。手駒を集める。
1:旅館に向かって潤也の兄と接触するか、獣の槍の反応する方に向かい本来の持ち主を見極めてみるか考える。
2:対主催志向の仲間を集める。
3:喜媚たちと会いたい。
4:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
5:獣の槍と、その関係者らしい白面の者と蒼月が気になる。
6:“神”の側の情報を得たい。
7:剛力番長を具体的な脅威としての槍玉に挙げて、仲間を集める口実にする。
【備]】
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※ウルフウッドからヴァッシュの容姿についての情報を得ました。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
 錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※獣の槍が本来の持ち主(潮)のいる方向に反応しています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
 首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があると考えています。
※不明支給品は全て治療・回復効果のある道具ではありません。
111代理:2009/10/20(火) 20:45:18 ID:ECcI5JwO
【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】:疲労(大)、精神的疲労(特大)、情緒不安定、吐き気、
     右手首骨折(応急処置済み)、たんこぶ一つ、体の数箇所に軽い切り傷
【服装】:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。
【装備】:首輪@銀魂(片方の首輪をはめている)
【所持品】:空の注射器×1
【思考】
基本:兄の仇を討つ……? 妲己に屈服。
0:旅館に向かって兄の名を名乗る人間が本物か見極めたい。本物なら取引通り妲己に兄を守らせる。
1:兄の仇がこの場にいれば、あらゆる方法を使って殺す。いなければ、確実で最速なやり方でここから脱出する。
2:ひとまず脱出の為に殺し合いにのっていない参加者を集め、協力してもらう。
3:その集団を、能力を活かして確実最速な脱出方法へ導く。
【備考】
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※土方が偽名であることに気付きました。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。


【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
【状態】:疲労(中) ダメージ(中) ホムンクルス 『最強の眼』
【服装】:キツめの体操服、紺のブルマ
【装備】:ドラゴンころし@ベルセルク
【道具】:支給品一式、アルフォンスの残骸×3、ボイスレコーダー@現実
【思考】
基本:全員を救うため、キンブリーか妲己を優勝させる、という正義を実行する。妲己に心酔。
1:自らの意思のままに行動し、自分が剛力番長であるという確信を得る。
2:見知らぬ人間とであるたびに、妲己の集めた仲間であるかどうかを聞く。
3:キンブリーと妲己の同志以外は殺す。
4:強者を優先して殺す。
5:蘇らせた人間の中で悪がいたら、責任を持って倒す。
6:ボイスレコーダー(正義日記)に自分の行動を記録。
【備考】
※キンブリーか妲己がここから脱出すれば全員を蘇生できると信じ直しました。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえばバケモノに姿を変えられるという情報にだけは、疑問を抱きつつあります
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※妲己がみねねの敵であり、みねねは妲己に従ったと思っています。
※賢者の石の注入により、記憶が微妙に「自分の物でない」ような感覚になっています。
 正義の実行にアイデンティティを見出し、無視を決め込むつもりですが、果たして出来るかはわかりません。
※ボイスレコーダーには、剛力番長と出会うまでのマシン番長の行動記録と、
 剛力番長の島に来てからの日記が記録されています。
112代理:2009/10/20(火) 20:47:18 ID:ECcI5JwO
【砂虫の筋弛緩毒@トライガン・マキシマム】
GUNG-HO-GUNSが12、ザジ・ザ・ビーストの切り札。
ミリオンズ・ナイブズ融合体やエレンディラ・ザ・クリムゾンネイルを完全に無力化できるほどの筋弛緩系の毒。
ただしレガートのように無理やり肉体を操作する力の持ち主は封じることは出来ない。
また、ナイブズもプラントの力で毒素そのものを消去することにより行動が可能になった。
投与された場合、意識は僅かに残るが体を動かす事が殆ど出来なくなる。
エレンディラの場合投与されてから約12時間後には後遺症もなく動き回れるようになっているので、持続時間は数時間程度だろう。
注射器に入れられたものが3本セットで支給されているが、直接注射する以外にも食べ物に混入させる、武器に塗布する、などの使い方もできる。


**********


くすくすくすくす。地図なんか取り出してなァにをやってるのん?

あらあらん、どういうつもり? そんな怖い目で睨んじゃってぇん。
わらわ臆病だから、そんな目をされると暴れちゃうかもん。
仲良くしましょう? 貴方の首と胴体みたいに、ね。

さて、もう一度聞くわねぇん。『貴方は誰で、何をやっている』のかしらぁん?


ふぅん、そうなのぉん。正直者でわらわ嬉しいわぁん。
運が良かったわねぇん、気が変わったわん。
あなたのそのチカラ、わらわの為に役立てて頂戴ぃん?


ぅん? 気が変わったとはどういうことかって聞きたいのん?

……もうすぐ、7:30よねぇん。
そしてここからすぐの所に禁止エリアがあるでしょぉん。
つまり、そういう事。
平凡なつまらないコだったら、足手纏いなりに役に立ってもらおうかと思ってたのぉん。

でも困ったわねぇん。時間が圧してるのに、都合のいいモルモットちゃんがいないのぉん。
貴方、何かしら心当たりはないかしらん?


……いいわねぇん、そんな態度、素敵よぉん。
と、なると。貴方には同行者がいるって見た方が自然よねぇん。それも相当の実力者。
貴方一人じゃあ出来ることなんて限られてるのに、わらわ相手に強気に出てくるってだけで十分それくらい分かっちゃうのよぉん?

でも、あなたはもっと賢くなった方がいいわぁん。
わらわにだって選択肢はたくさんあるのぉん。

わらわのご機嫌を損ねたら、決していい事が起こらないのは貴方や同行者の人だけじゃないわぁん。
た・と・え・ば。
これから先、わらわが貴方のご家族――この名簿の同じ苗字の人に出会ったとして。
“偶然不幸な事故を目撃”しちゃう可能性は0じゃないのよん?
113代理:2009/10/20(火) 20:48:58 ID:ECcI5JwO
なるほど、ねぇん。
あなたの兄貴さんとやら、もしかしてもうとっくに死んでるはずなのぉん?

くすくすくす、ドンピシャリみたいねぇん。
ついさっき名簿を確認してみて、そのせいで動転している、ってとこかしらぁん?

ひとつ、アドバイスしてあげるわん。
たぶんソレ、本物の貴方のお兄さんよぉん。
理由はカンタン。わらわの時代には人を生き返らせる手段が実際にあるんだもぉん。

……まあ、こんな言葉が信用できないのも当然だけどねぇん。
でも、信じようと信じなかろうとどっちでもいいのぉん。
貴方、偽者なら追い詰めて殺してやる、って考えてるでしょう?
負の感情はわらわにはぜぇんぶ、お見通しなのぉん。


なるほど、金剛ちゃん、ねぇん。
そんなに強いなら、首輪の爆発力を試すいい素材かもん。

あらん、金剛ちゃんに義理でも感じているのぉん?
安心して頂戴ん。
わらわ、まだその金剛ちゃんとやらに会ったことないからモルモットちゃんになってもらうと決めたわけじゃないわぁん。
ただ、話を聞く限り、どうにもわらわのお邪魔虫になりそうな予感がするのは確かねぇん。


さぁて、ようく考えてぇん?
考えて、考えて、考えて。
どっちがお得なのか、をねぇん。

わらわを満足させて、空気を吸える喜びを噛み締めて、お兄さんを助ける心強ぉい味方を手に入れるか。
わらわを悲しませて、考えることすらできなくなって、お兄さんに二回も死ぬ恐怖をプレゼントするか。


貴方は、ちゃあんとモノを考えられる子よねぇん?


**********


あらん、また会えて嬉しいわぁん。無事に生き延びられたのねぇん。
もしかして、この“再会の才”とやらのおかげかしらぁん。


……迷うことは無いわぁん。
わらわがあなたの邪魔になると思うなら、好きにして結構よぉん、くすくす。
だって、あとあと生き返らせてくれるんでしょぉん?


他の人はみんな否定したのに、どうして蘇りを信じてくれるのかって?
あたりまえよん。
だって、わらわはあなたの言うことが全部、本当だってわかってるんだからねぇん。
信じるとか信じない、とかじゃなくて、わらわの時代にも蘇らせる力は存在してるのよん。
錬金術、とやらとはまた別にねぇん。
114代理:2009/10/20(火) 20:50:54 ID:ECcI5JwO
……どうしたのぉん、不安そうな顔をして。
自分の記憶が信じられないのぉん?

わらわが保証してあげるわぁん。
貴方は、貴方。
思う存分貴方の正義を執行なさいん、それは決して誰にも咎めることなど出来ないのぉん。

誰が否定しても、世界中が敵になっても、わらわ“だけ”は貴方の行いを認めてあげるわぁん。
でもねぇん、だからと言ってわらわは貴方に同行しろとも言わないし、指図なんてするつもりもないわよぉん。
ただ、いくつかの選択肢を教えるだけ。
どの真実をその中から選ぶのか、それは貴方次第なのん。

そうすれば、ちゃんと貴方が自分の意思で決めたことになるでしょぉん?
だったらわらわが口を挟む権利なんかないじゃなぃん。


くすくす、そう、今はわらわを殺さないでいてくれるのねぇん、ありがとぉん。
それでもわらわが貴方を助けた借りには全然足りない?
あはん、それじゃあ数時間前と今――貴方を助けた回数と同じだけ、2つだけお願いを聞いてくれないかしらぁん。

一つは、もしこれから貴方が知らない相手と出会うたびに、
『もしかして妲己の集めた仲間か』、って聞いて欲しいのぉん。
聞くだけよぉん、それ以上は余計な気を利かさなくっていいわぁん。


そしてもう一つは、ちょっとした雑用なのぉん。
今から7:30くらいになるまで付き合ってもらうことになるんだけど、構わないかしらぁん……?
それから後は、貴方の好きにしていいからぁん。

それじゃあ、よろしく頼むわねぇん。
115代理:2009/10/20(火) 20:57:32 ID:ECcI5JwO
: ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:46:37 ID:c2RPz3ts0
以上、投下終了です。

名簿の仕様と首輪などについて、ご意見を伺いたいところ。
特に名簿ですが、放送と同時に死者が自動で浮かび上がるという仕様だと、キンブリーの森への作戦などが台無しになりかねないので……。
なので、いつでも正確な死亡者を知る事はできないようにしておきたいな、と。放送の意味合いも薄れますし。
これはポータルサイトの名簿機能にも共通する懸念ですね。

代理投下終わりです

金剛が剛力をどうにかしてくれる。潤也もどうにかしてくれると考えてた俺が甘かった……
妲己……そこまでやっちゃうのか……
何だろう、潤也も剛力ももう妲己の掌の上だな。もう死んでくれた方がマシじゃないのか?
このまま妲己の独壇場か? これは銀時逃げてー
116創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 21:03:26 ID:ujBerwWb
うわぁ。人肉ハンバーグ食べさせちゃうネタはいつかあるだろうなと思ってたけど
予想をはるかに上回る妲己ちゃんの外道ぶり
お前のどこが対主催だ!
投下乙でした

まぁキンブリーなら未だ放心状態のあいの所持する名簿の練成とかして、軽く対処出来ると思うけど
名簿の真実で説得失敗して爆弾とかにされちゃってもそれはそれでいいんでないかな
117創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 21:05:56 ID:ujBerwWb
ところでこれはキルスコアは誰につくんだろう
118創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 21:23:23 ID:95LoDL2F
投下乙
ダッキちゃんマジ外道
流石ジャンプ誌上で人肉ハンバーグ作っただけはあるw
潤也はもうダメかこれは

名簿について
無駄に複雑化すると書きにくくなるような
あとリンの見た名簿がエドのだからこのままだとマズイのでは?
119創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 21:35:05 ID:ujBerwWb
まぁ放送を聞いていた人間が名簿を見た場合、名簿の文字が変わるって仕様なら有りかな
全自動ではないと言う事で
120 ◆UjRqenNurc :2009/10/21(水) 00:03:01 ID://B5/INB
未来日記のように読んだ本人の主観が影響するようにすればいいのでは?
何の情報も知らなければ黒文字のまま
死んだ!?と信じたら赤くなるとか

短いですが、グリフィス投下行きます
121白き鷹 ◆UjRqenNurc :2009/10/21(水) 00:03:47 ID://B5/INB
人間にとって、大空とは見上げるものでしかなかった時代。
その絶対的才能から、人々の手の届かない存在という畏怖を込め「白き鷹」と呼ばれた一人の英雄がいた。

今、まさにその異名通りグリフィスは空を翔る。
もはやそれは比喩ではない。
宝貝「風火輪」。
人による飛行を可能とする宝貝。
その新たな道具に、グリフィスは夢中になっていたのだ……


       ◇       ◇       ◇


地面と水平に飛ぶ軌道から、足の向きを変え上昇へと転じる。
円弧を描くような軌跡。
だが、その頂点に達しようかというその瞬間。
風火輪が突如、力を失いグリフィスの身体は引力に引き寄せられる。
迫る地面。
激突まであと、3、2、1……再点火!
再び揚力を得て、地面スレスレを飛行――浮上!
グリフィスは再び大空へと舞い上がる。

「ハハハハハ!」

あと一瞬で命を失うところだったと言うのにグリフィスの顔に恐怖の色はない。
むしろ休日の遊園地、ジェットコースターで遊ぶ子供のような満面の笑みだ。
そう、今の失速は風火輪の性能を試す為の意図的な機動。
この短時間の内に、グリフィスはこの宝貝を使いこなしつつあった。

力を抜き、滑空。
風に乗り、旋回。
刀を抜き、燕の如く翻りながら斬撃。
好奇心の赴くまま、空中での動き方を試してみる。
まるで遊ぶ子供のような風情であったが、グリフィスの専心は手に入れたこの道具を
如何に効率的に運用するかということにある。

とはいえ、ニヤケ笑いは止まらない。
これをつけてガッツに会ったなら、奴は一体どんな顔をするだろう。
驚くだろうか。うらやましがるだろうか。それとも奴にもこんなおかしな物が支給されているのだろうか。
決めた、再会シーンは空からだ。

心に決めるとグリフィスは南へと向かう。
とりあえず確認しておかなければならぬ事を、確かめる為に。


       ◇       ◇       ◇
122白き鷹 ◆UjRqenNurc :2009/10/21(水) 00:04:29 ID://B5/INB


地図の南端。
島と外界とを分つ大海原。
水面は静かに光をはね返し、その深さをうかがい知る事は出来ない。
その上空にグリフィスは佇む。
目の前の物を検分するために。

それは乳白色の壁。
遠目にはどこまでも続く海原に見えたが、近くで見てみると逆に壁の向こうの様子がよく見えない。
またしてもグリフィスの知識にはない未知のものだった。

刀の柄で叩いてみる。

パィン!

乾いた音を立てて弾き返される。
さほど強く叩いたわけでもないのに、その反発力は凄まじかった。
おそらく切っても無駄だろう。

自分たちを逃さぬために、島という舞台を用意したのだと思っていた。
だが、それではゾッドのような空を飛ぶ参加者や、こんな支給品が渡された説明が付かない。
不審に思い、調べに来た結果がこれ。
島は完全に「神の力」により封鎖されていたのだ。

そして、いったいどこから聞こえてくるというのだろうか。
こんな箱庭の世界の果てまでも聞こえてくるピアノのメロディー。
第一回の放送が始まる……


       ◇       ◇       ◇


「鷹の団から連れてこられたのは、オレとガッツだけだったか」

名簿にあった70名のなかでグリフィスの知る名はわずか2名。
ガッツ、そして不死のゾッド。
いや、「知っている」だけの名前ならばまだある。
先ほどまでの同行者ゆのの知り合いだ。
その内一人は死者として名が呼ばれている。
これを聞いた彼女が大人しく旅館で待っていてくれればいいのだが。


そして禁止エリアの情報。
今回禁止されたエリアはI-6、F-7、B-4。
この、目の前の壁の存在と合わせて考えるなら主催たちの考えは明らかだろう。
それは逃げ場を塞ぎ、参加者たちに背水の陣で戦わせる事だ。
自分もそんな状況に兵を追い込んだことがあるからよくわかる。
人間、逃げ場がないとなれば死に物狂いで戦うものなのだ。


だがこの禁止エリアを、ただ脅威とだけ捉えるのは戦の機微のわからん人間の考えと言えるだろう。
これはゾッドのような人外の存在に対する武器ともなるはずだ。
片腕を切り落とされようが、たやすく再生するあの不死のゾッドと言えども首輪が爆発すればただでは済むまい。

そうでなければ……このような戦いの大前提が成り立たないこととなる。
123白き鷹 ◆UjRqenNurc :2009/10/21(水) 00:05:12 ID://B5/INB

故に、先ほど為すすべもなかった人外の存在に対する策がここに成る。
それは禁止エリアへと誘い込む事。
そして、そのためのカード。
機動力という手札がこちらにはある。
だが、敵とてバカではない。
露骨に誘い込んでも禁止エリアに気付かれては策は成らない。
それを如何に相手に気付かせずに成し遂げるか、だが……
いくつもの策略を成り立たせてきたグリフィスにはその自信があった。

「しかし、念入りな事だな……」

人知を超えた神、もしくは悪魔……か。
どちらにせよこれほどの力を持つ存在ならば、こんな大掛かりな真似をせずとも参加者たちを逃さぬことなど
たやすいはずだ。
神とやらは、よほどオレたちの「殺し合い」をご所望と見える。
この分では、他にもいくつか悪辣な仕掛けがあってもおかしくない。
オレたち参加者がどう動こうが、所詮は神の書いた脚本通り。
神の掌の上で踊る道化に過ぎんと言う事か。。


面白い……

かつて、奴にだけ話した事がある。

この世には、人の定めた身分や階級とは関係なく世界を動かす鍵として生まれついた人間がいる。
それこそが宇宙の黄金律が定めた、真実の特権階級。
神の権力を持ち得た者だ。

もしオレがこんな戦いも乗り越えられず、ここで死ぬと言うのであれば、それはオレが選ばれし
人間ではなかったという事。
他の凡百の人間と同じように、運命に押し流されて生きるしかない人間だったということだ。
失った「夢」に焦がれ、「夢」を忘れて生きていくしかない敗残兵たち……
そんな存在と伍するようになるくらいならここで神に殺されるのも悪くはない。

グリフィスは、神のくれた試金石に感謝する。
「国取り」も秒読み段階に入った今、政治屋どもとの戦いに正直退屈を感じつつあったところだ。
ガッツも力を持て余していたに違いない。
なぁ、ガッツ。どうやらオレたちの戦いは、まだまだ続くらしい。

さて、これからの方針だが……
どうやらずいぶんと出遅れたようだ。
兵は拙速を尊ぶ。
考えすぎて動きを止めるより、まずは動くべきだった。
これだけの死者が出て、また名簿が公開された今となっては見知らぬ参加者たちを集め、指揮を取るのは難しいだろう。

ここはまず、ガッツとの合流を優先するか。
奴もまた、主催どもの喉笛を食い千切ろうと動いているに違いない。

グリフィスは足に装備した宝貝に力を注ぎ、再び空を駆る。

オレとお前の二人しかいなくとも、オレたちは鷹の団だ。
まだまだお前の力を貸してもらうぞ、ガッツ。
オレたちは生きてミッドランドに戻る。
皆で夢を掴むためにな。
124白き鷹 ◆UjRqenNurc :2009/10/21(水) 00:06:05 ID://B5/INB





【J-8北部/上空/1日目 朝】

【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:健康
[装備]:居合番長の刀@金剛番長、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式
[思考] ガッツと合流
1:ガッツと合流
2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける
3:役に立ちそうな他の参加者と繋ぎをつけておく。ゆのとの再合流は状況次第
4:未知の存在やテクノロジーに興味
5:ゾッドは何を考えている?
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
 ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのと情報交換をしました。
 ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。
※会場を囲む壁を認識しました。
125 ◆UjRqenNurc :2009/10/21(水) 00:08:22 ID://B5/INB
以上です
126創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 00:23:22 ID:uSPle9W+
投下乙
なんという爽やかなグリフィスw
そういや過去編ではこんな奴だったな
127創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 00:42:42 ID:CiNw4RcU
投下乙です。
あぁ、何て綺麗なグリフィスw
ガッツはあんなに荒れてるのにねぇ…

あと、名簿について。
赤字=死者とは明記されてませんよね?
なら放送を聞いてない人間には意味がわからないから問題ない気もします。
普通はたやすく推察できるでしょうが…
しかし未来日記風の設定というのも惹かれますね…そうすれば矛盾も大体収まるでしょうし。

意見を見て、書き手氏本人が最終判断を下せばいいと思います。
128創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 10:20:58 ID:OSWlPdyP
投下乙
爽やかなグリフィスw
でもガッツに会う前に死ぬかもw
129 ◆JvezCBil8U :2009/10/21(水) 21:23:05 ID:JoNpfh3z
まず、代理投下してくださった方と支援をしてくださった方に感謝を。
ありがとうございました。

次に、感想をば。
こんなグリフィスを見られるとは、何とフレッシュな……w
地味に危険地帯に突っ込んでるけど、上空にいるというのが色々生かせそうで面白く使えそうです。
投下お疲れ様でした!

そして、ご意見感謝です。
確かに未来日記という前例もあることですし、主観情報に左右されるというのが無難かつ展開にも絡んできそうですね。
そういう方向で修正したいと思います。
wiki上で直接修正で大丈夫……かな?

ただ、ポータルサイトの死者名簿機能の扱いが難しくなりそうなので、そこはどうしましょう。
名簿と同様アクセスした人間の主観情報に左右されるのか、いっそ機能に含まれないことにするか。
前者は自分で意見を出しておいてなんですが、ネット上の共通ソースなのにどう主観情報を判別しているのか……という問題が出て余計ややこしくなるかもですね。
お手数ながら、◆9L.gxDzakI氏にご意見をお聞きしたく思います。

>>117
キルスコアは……妲己ちゃんでいいんじゃないかとw
剛力が最後に一撃加えた時点で既に生物学的には死亡している設定ですし、潤也は下手人とはいえ支持を全部妲己ちゃんが出してましたし。
130創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 21:31:50 ID:wVaSrw2z
>>129
「触れた人間の主観」に左右されるとすれば修正する必要はないかもしれません
妲己ちゃんが少し勘違いしてるってことで
次以降の書き手がもう少し詳しく突っ込む余地も生まれますし

ポータルサイトの方はややこしいですね
131創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 21:40:25 ID:JoNpfh3z
>>130
ああなるほど、触れた人間の主観情報、の方が確かに具体的で分かりやすいかもです。
けれど『触れる』という条件については今回の話では検証する必要はないですかねぇ……。

ただまあ、あのまんまですとやっぱり読みにくいですし、妲己ちゃんがそういうミスをするのもらしくないですし。
今回の修正はそんな大した手間じゃないので、とりあえずは着手してしまおうと思います。
132 ◆JvezCBil8U :2009/10/21(水) 21:41:19 ID:JoNpfh3z
……とと、トリ忘れ。
IDが同じだから平気でしょうが、一応>>131は私ですw
133 ◆9L.gxDzakI :2009/10/22(木) 09:36:28 ID:ZdcRo0O5
えーっとですね、ポータルサイトの死亡者表記は、「最新の放送までに発表された人間のみ」ということで書いてあります。
これは放送を聞き逃した人のために、っていう意味合いなので。
ですから、放送でまだ名前の出ていない死者までどんどん追加されていくのは、ちょっとどうかと思うのですが。
134 ◆JvezCBil8U :2009/10/22(木) 21:57:05 ID:yC5D8bWO
返信ありがとうございます。
その、大変申し上げにくいんですけど、『放送を聞き逃した人のために』というのが今後一部の展開を書きづらくしてしまいかねないのが問題点かなー、と。
放送を聞き逃した事で成り立つ状況、例えばキンブリーが森に対して取ったような作戦や、それとは逆にとっくに死亡している人間を生きていると思い込んでいるが故に成立する行動。
また、放送の情報をカードにした取引など。

こうした展開が、『主催者に保証された、誰にでも共有できる情報』として『いつ何時でも』確認できてしまう事で成り立たなくなってしまいます。
名簿の方はこれを『あくまで見た人の主観情報に左右される』代物にした事で回避できますが、ネット上ではそうはいかないのが難点かと。
これが主催者が用意した機能でなく、参加者がblogや掲示板に書き込んだ情報であるのなら疑われる余地が生じますが、主催者自らの手によるものとなると信じる以外になくなってしまいますし。

それらを考えると、殺し合いをさせたい主催側がこうした機能を用意するメリットはあまりないわけでして……。
また、キンブリーの作戦に対してジョーカーである趙公明が何も言わなかったのがおかしくなってしまいます。

アクセスした人間の主観情報に左右されるという案は、なので単純に名前の出ていない死者が追加されるというわけではないです。
上に挙げたような矛盾や展開の不成立を回避する為の一案としてお考えください。
135創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 02:19:17 ID:srqWbmeZ
よくわからないけど、この話って『俺はこの展開好き/嫌い』って話でいいの?
136創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 02:26:33 ID:XH3QBjkW
馬鹿かお前は
137 ◆9L.gxDzakI :2009/10/24(土) 09:49:41 ID:afde9G2B
>>134
了解しました。
ただ、実を言うと、何をどうすれば解決するのか、自分もよく分かっていないわけでして……
……もういっそ、死者一覧と地図一覧は、サイトからとっぱらっちゃった方がいいかな?
その場合は、近日中に修正案を用意します。
138創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 10:41:15 ID:rkMcWuWW
>>137
それでいいんじゃないかな

んで名簿の仕組みなんですが、情報を反映させる事が出来るのは自分の名簿のみでいい?
他人の名簿でも触れば情報の更新が出来るとかだと、例えば他人の名簿奪った時とかに
情報の誤差に気付く事がなくなると思うんだけど。

エド・リンも、リンが放送の時エドの名簿で参加者確認しても全員の名前が見れただけだったけど
リンの話を聞いたエドが名簿確認したら赤文字に変化してリンもびっくりみたいな展開に出来ると思う
139 ◆9L.gxDzakI :2009/10/24(土) 11:50:52 ID:afde9G2B
了解です。

あと、キリエちゃんごめんなさい、年齢1つ間違えてたorz
拙作「盤上の駒」でのキリエの年齢を、28から27に直しておきました。
ここで報告すべきかどうか、そもそも報告がいるのかどうかは、正直微妙なところなのだけど
140 ◆JvezCBil8U :2009/10/24(土) 19:07:57 ID:Z6+2ZBOB
>>◆9L.gxDzakI 氏
お疲れ様です。
その案でおそらく問題ないかとは思われます。
一応他の案としては、アクセスした人間の主観情報を判別する方法として、首輪にcookieと電波発信機能のようなものがある、
というものなども考えてみましたが……少々複雑になりすぎる気もしますね。
その辺りはお任せいたします。

>>138
名簿の情報は一次ソースでなく主観によるものですから、それで構わないと思います。
他の人の名簿を見てもあくまで他の人はこう思っている、という情報が手に入るだけですしね。
141創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 22:04:39 ID:m6lp1nYC
次で100話か
142 ◆L62I.UGyuw :2009/10/25(日) 00:12:38 ID:SdB7C0l2
沖田総悟、ガッツを投下します。
放送が終わって数分。
沖田総悟は名前が浮き出した名簿を眺めながら、島の南西部の道を北へと歩いていた。
周囲の木々はまばらになってきており、道の先には畑が見える。
辺りはすっかり明るい。そのためか、同じ道であるにも関わらず、先程通ったときとは随分違った印象を受ける。

「オイオイ、万屋のメガネはもう死んじまったのかィ。
 ……まァ長生きしそうなタイプじゃなかったけどよ」

そう言って、赤く染まった『志村新八』の文字を指で弾く。
真選組の隊士にとって、死は常にその身の隣に在るものだ。知り合いの死には慣れている。
それでも僅かに表情が曇ったのは、この場にいるらしい彼の姉、志村妙の心境を慮ったからだろうか。

「……ま、それはそれとして、だ。どうやらここにいる真選組は俺だけみてーだな。
 ったく。こういうのに巻き込まれるのァ土方のヤローの方が適任だろってんだ。
 ……さて、これからどうすっかなァ」

警察署で仲間と合流出来る可能性はこれでかなり低まった訳だ。
名簿を信じる限り、デパートにいるらしい銀時の他に、元から沖田が知っている者は三人のみ。
そのうちの二人は志村姉弟。
そしてもう一人は柳生九兵衛だ。
九兵衛の性格を考えると、彼女がこんなゲームに乗る可能性は低い。それに彼女は沖田に匹敵する剣の腕も持っている。
可能ならば優先して合流したいところだが……。

「だから、んな簡単に見つかりゃ苦労しねーんだって」

結局、そこに行き着く。妙についても同様だ。

「かったりィなァ……」

元来、彼は勤勉な性質ではない。
地道な人探しなど彼の性には合わない。考えるだけで気が滅入るのだ。
それに訳の分からないことに巻き込まれ、夜通し歩き、変な連中に絡まれ――そろそろ嫌気が差してきていたらしく、

「まァいいか。警察署まで行きゃ誰かいるかもしれねーし。
 あとやっぱ武器も要るよなァ。バズーカ的なモノとかよ」

作戦の立案を放棄して引き続き警察署に向かうことを決定。
そして名簿をデイパックに仕舞い込もうとして――あることに気付いた。
潤也から没収した支給品。その中の名簿。それに浮き出た文字が、全て黒で表示されている。

「ん? こいつァ……」

どういうことだ、と呟きながら、潤也の物だった名簿を手に取る。
しかし名簿を摘み上げた瞬間、死者の名前が一斉に赤く変色した。驚いて目を見開く沖田。

「目の錯覚――なわけねーな。どうなってんだこりゃ?」

首を傾げる。名簿を太陽に透かしてみたり、指で擦ってみたりするが、特に変化は無い。
両側を畑に挟まれた道路の路肩に立って、沖田は名簿を凝視する。
放送中は死者の名前が読み上げられる度にその名が赤く染まっていった。
そして今度は触れた瞬間に死亡者全ての名が赤く変化。
素直に考えるとこれはつまり、

「こんな紙っきれが、触った奴の頭ン中を読んでる、ってことかィ? 気色悪ィぜ」

文字色の変化が可逆か不可逆か、までは判らないが、そうとしか考えられない。
どこぞの天人が開発したものなのだろうか。いかにもありそうな話だ。
そうだとすると、この下衆なゲームは腐った特権階級の連中を楽しませるための催しといったところか。
例えば――本物の殺し合いを見世物としていた地下闘技場『煉獄関』のような。
……どうもしっくり来ないと感じるが、他に心当たりも無い。
何にせよ、これだけの技術を持つ組織を一人で叩き潰すのは骨だろう。首輪を外せるかすら怪しい。
放送のアクシデントを考慮すると、運営組織の仲間割れも多少期待出来そうではあるが――それでも一人でどうにかなるものではない。
やはり――非常に面倒だが――仲間が必要だ。

「ホント、厄介なコトに巻き込まれちまったぜィ……」

青みを増す空を見上げて、沖田は心の底から嘆息した。


***************


再び沖田は畑の間の一本道をひたすら歩いていた。地図が無くても迷う心配など無い単純な道だ。
それにしても静かなものだ、と沖田は思う。
二ヶ所の市街地を繋ぐ一本道でなら誰かに出遭えるのではないかと彼は期待していたのだが、そう上手くはいかないようだ。
そうこうしているうちに、開始地点である学校が見えてきた。

「こんだけ時間掛けて、結局元の場所に戻って来ただけかィ」

ぼやく。何故自分がこんな苦労をしているのかと。
地図を見る限り、警察署まではそれなりの距離がある。やっていられない。
勿論、彼にとってはその程度の道のりは大した障害ではないのだが――怠け癖はどうしたって治らない。治す気も無い。
ふと、何の気なしに学校の敷地内へと目を遣る。
正門のすぐ向こうに見える中学校の校舎。門の脇にある申し訳程度の植え込み。駐車場に停められた数台の車。
適当に視線を泳がせていた沖田だったが、何かを思い付いた顔で一点に目を留めた。

「あァ、そーだ。端っからこうすりゃ良かったんじゃねーか」

そして思い付きを実行に移すべく、門を通り抜けて駐車場へと歩いていった。


***************


数十分後。

学校の正門から走り出す自動車が一台。

「ふう。案外時間食っちまったぜィ。でもまーこれで足の心配はいらねーな。
 そんじゃ、とっとと出発するぜィ」

運転者は沖田だ。
彼は正門を右へ曲がると、次々とギアを切り替え一気に加速する。

彼はどうやって自動車を手に入れたのか? 言うまでも無く窃盗である。
ミニバンの窓ガラスは木刀によって破壊され、ハンドル近くにあるイグニッションスイッチは剥き出しになっている。
ちなみにキー無しで車を動かすために必要な工具は車の中にあった。本来は修理用なのだろうが。

なお詳しい手口については色々とマズいので省略する。

一つ確実に言えることは、彼の発想は一般的な警察官のそれとは大きくかけ離れている、ということだ。
金剛がこの場にいればきっと烈火の如く怒ったことだろう。
とにかく彼は今、駐車場から勝手に拝借した白のミニバンを運転している。

端から見れば襲撃者のいい的なのだが、そもそも襲撃にいちいち怯えているような神経では真選組の隊長は務まらない。
木刀を手元に置いて、来るなら来やがれなどと考えながらハンドルを操る。
「土方のヤローにでも運転させりゃもっと楽出来るんだけどなァ」

誰に言うともなく呟く。
景色がどんどん後ろに流れていく。程なく畑が少なくなり、まばらに家が見えてきた。
この調子ならすぐに警察署まで辿り着けるだろう。

それにしても割れた窓から吹き付ける風が少々寒い。朝方の冷える時間帯だから当然といえば当然だが。
どうせなら学校で適当に上着でもかっぱらってくりゃ良かったか、とそこまで考えたところで――沖田は前方に人影を認めた。

道の先に大男が立っている。奇妙な格好だ。
沖田はアクセルを緩めて男を注意深く観察する。
黒い短髪に隻眼。漆黒の外套。手にはノコギリのような形状の巨大な剣。
遠目では判り難いが、身体は相当鍛え抜かれているようだ。

男は道の中央で手を高く上げ、左右に振っている。
見たところ、止まれ、というジェスチャーであると思われる。
少なくとも問答無用で斬り掛かって来るつもりではなさそうだ。

その様子を見た沖田は安堵の笑みを浮かべて、









――――アクセルをベタ踏みした。


***************


「いえね、向こうにバカでけぇ剣を振り回すキングコングみてーなガキがいましてね。
 俺ァちょうどそいつから必死に逃げてきたとこだったんでさァ。
 そこにまたでっけぇノコギリ持った男が立ってると来たもんで。
 素直に車停めてまた襲われるのも馬鹿馬鹿しいじゃないですかィ。
 それでまァちょいと考えた結果……とりあえず轢いてから話を聞こうって結論に」

「遺言はそれで終いか?」

「オイオイ、俺だって車ぶった斬られて迷惑してるんだぜィ。あれじゃもう使いもんにならねーや。
 昔から喧嘩両成敗って言うでしょーよ。ここはお互い悪かったっつーことで一つ。
 ……だからそろそろこのノコギリ首からのけてくれやせんかね」

「あァ!? 何が喧嘩両成敗だ! てめえが突っ込んでこなけりゃ何事も無く済んだんだろうが!」

「いやいやまァまァ。ちょっ、待った待った、ノコギリで首突付くのもやめて下せェって。
 そんな青筋立てて怒ることねーでしょーが。
 あんなもん江戸じゃ時候の挨拶みてーなもんですぜィ。
 大体、FF1○で事あるごとに主人公を導いてそうな中二的格好のメンドくさそうなオッサンが突っ立ってたらそりゃ思わずアクセル踏む足に力も入るってもんでさァ。
 誰だってそーする、俺もそーする」
「……三枚おろしと微塵切り、どっちがいいんだ?
 あとな、オレはオッサンなんて呼ばれるような歳でもねェ」

「細かいことにグチグチ拘る男はモテませんぜィ?」

「てめえが言うな!
 ……ったく、ベラベラとよく口の回る野郎だ。
 今すぐその舌引っこ抜いてやろうか?」

「俺の舌なんざ抜いたって煮ても焼いても食えねーぜ。
 舌が好きってんなら後で牛タン奢りやすからいーかげん解放してくれやせんかね?
 そろそろウンザリでさァ」

「……ああ、奇遇だな。オレもそろそろウンザリしてきたところだ。
 だからてめェの知ってることを洗いざらいブチ撒けたらもう放してやるよ。
 いい条件だろ? それも嫌なら、ここで死んどけ。
 ……で、どうすんだ?」



【F-2/道路/1日目 朝】


【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:健康
[服装]:黒い外套
[装備]:キリバチ@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、不明支給品1個(未確認)
[思考]
基本:グリフィスに鉄塊をぶち込む
0:目の前の馬鹿野郎に情報を吐かせる。
1:グリフィスを殺す
2:グリフィスの部下の使徒どもも殺す
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。

【沖田総悟@銀魂】
[状態]:疲労(中)、わずかな悲しみと苛立ち
[服装]:
[装備]:木刀正宗@ハヤテのごとく! 
[道具]:支給品一式×2、イングラムM10(10/19)@現実、工具数種、不明支給品0〜1(確認済み、武器はない)
[思考]
基本:さっさと江戸に帰る。無駄な殺しはしないが、殺し合いに乗る者は―――
0:メンドくせェ。つーか車返せ。
1:警察署に向かい、武器と仲間を探す。銀時達知り合いと合流したい。
2:金剛と潤也が気がかり
3:……姉上、俺は――
[備考]
※沖田ミツバ死亡直後から参戦
※今の所まだ金剛達との世界観の相違には気がついていないようです
※キンブリーを危険人物として認識
147創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 00:18:56 ID:oWysYK3Q
支援します。
148創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 00:19:06 ID:ggQkHpqM
アーロンの事かああ!!
149創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 00:22:41 ID:m65PuYno
乙!
150 ◆L62I.UGyuw :2009/10/25(日) 00:25:25 ID:SdB7C0l2
以上、投下終了です。
名簿の仕様は上の意見と衝突しますが矛盾は無いかと思います。

◆9L.gxDzakI氏へ
特にポータルサイト関連の情報戦の構想がある訳ではないのでしたら、修正でもそのまま次に丸投げでも構いませんよ。
「情報戦組が有効利用させようとするとメタ視点で厄介」というだけですので、有効利用させなくていいのでしたら実は問題無かったりします。
151創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 00:25:33 ID:ggQkHpqM
おお、車きたか…と思ったらあっという間に破壊されたw
投下乙
152創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 00:40:05 ID:oWysYK3Q
投下乙です!
うぅむ、潤也と別れてこっちに来たら、いきなり轢き逃げアタックとはw
そして地味にガッツが凄いことしてるw

>>150
情報戦組に踊らされる側が知ってしまうとマズくないですか?
とりあえず、明確に死者名簿機能が存在するって箇所だけ削除して残りの機能の詳細は不明、程度でいいと思いますが。
153創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 00:45:34 ID:ggQkHpqM
まぁ車両断は他ならぬ沖田自身がやってるしなw
使徒切りに比べればまぁどうってこともあるまい
154創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 08:31:13 ID:r0zRXYEf
投下乙
相変わらず悪い性格しとるなあ沖田w
155創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 11:35:58 ID:5RHLNeuy
投下乙
沖田、おまw

156創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 02:05:21 ID:Onr/rVdt
>>聞仲などは核爆発にも耐える耐久力
耐えたのは黒麒麟な
157創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 05:37:43 ID:bV4kVIL3
あれ普賢が推測してただけではっきりとは描写されてない
確実に黒麒麟が防いだのは十二仙の一斉攻撃
まぁどっちにしろ普賢の零距離自爆食らって軽傷で済むんだから、核爆発程度軽く耐え切れるんだろうけど
158創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 09:00:14 ID:elyjzoOO
あんとき手を出すなって言ってなかったか

159創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 19:16:14 ID:uVAbjt76
ところで卑怯番長が金剛惨殺を見てたらヤバいよな……
時間的にはぎりぎりで間に合いそうだし
160創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 22:21:55 ID:yPFwtCtt
投下乙
このロワの沖田はらしくていいなw
ってかよく口が回る回るw
161 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 01:47:47 ID:3KjWgBxH
高町亮子、胡喜媚、浅月、宮子投下します
162 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 01:48:30 ID:3KjWgBxH
亮子ちゃんが、頭を無くしちゃった理緒ちゃんの前で泣いてるの。
喜媚たちがお昼寝してた、ほんの少しの間に理緒ちゃんは死んじゃった。

姉サマっ☆ どうしてヒトはすぐ死んじゃうの?☆ 喜媚、つまんないっ☆

――あはん、ダメな子ねん、喜媚。そのギリギリを見極めながら遊ぶのが楽しいヒトとの遊び方なのよぉん。

心の中で、姉サマに御相談。
でも姉サマの言う事はいつも難しくて喜媚、わかんない☆

理緒ちゃん。
あんなに可愛かったのに時折、喜媚に向けてくる視線がとっても剣呑で、そこが堪らなく好きだった。
姉サマがいてくれたら、もっとあの子と仲良くなれる方法を色々教えて貰えたのに☆
でも今、姉サマはいない。
喜媚が自分で考えなきゃいけないんだ。

理緒ちゃんに取り縋る亮子ちゃん。
彼女を元気にする事が、理緒ちゃんの最後の願いだった。

じゃあ、喜媚がその願いを叶えてやりっ☆
理緒ちゃんもきっと喜びっ☆

でも、どうやって?
変な格好のヒトに変身しても、理緒ちゃんも亮子ちゃんも笑ってくれなかった。
喜媚、どうすればいいの? 理緒ちゃん……

「そだっ☆」
  
閃いた。
このやり方ならきっとうまく行きっ☆

「亮子ちゃん、元気出してっ☆」

言葉と同時に再びスープーちゃんの姿を借りっ☆
どろろんっとマジカル大変身っ☆
最初に理緒ちゃんに見せた時みたいに、亮子ちゃんもビックリっ☆

「な、あ、あんた!? それは……」
「喜媚、亮子ちゃんをいいところに連れて行きっ☆」

理緒ちゃんの死体をデイパックの空間の中に放り込むと、スープーちゃんの短い腕で亮子ちゃんをキャッチ☆
そのまま窓から飛び出して、マジカル胡喜媚の亮子ちゃん慰め大作戦、はっじまっるよっ☆


     ☆     ☆     ☆
163 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 01:49:17 ID:3KjWgBxH
日が昇る前に歩いた道を、俺と宮子は戻る。
学校から森に入る、1km程度の開けた土地。
完全に日が昇り切った今、障害物も何もないここは格好の襲撃ポイントとなるだろう。
速く森に入らなければならない。
周囲を警戒しながら、移動。
だが、一歩進むたびに足首に蓄積される痛みが俺から集中力と体力を奪う。

「あさっち……大丈夫? やっぱり病院に行こ?」
「いや、大丈夫だ。急ぐぞ」

保健室に鎮痛剤はなかった。
最初からなかったのか、目端の利く人間が持って行ったのか。
それはわからない。
だが、今の状態でこれからの戦いを勝ち抜けると考えるほど俺は楽天家じゃあない。
これでも場数はこなしてるんだ。
捨て身で戦って、後一回の戦闘行為に耐えられるかどうか……といったところだろう。
そんな状況で、何が待ち受けいているかわからない所へ行くわけにはいかない。
例え鎮痛剤が手に入ったとしても、その後が続かなければ意味がないのだ。
どうせならその一回限りのカードは、自分ではなく仲間の為に切りたかった。

「……あさっち〜、左腕を上げてみて〜」
「ん? こうか?」

骨折した左腕を持ち上げる。
しっかり固定してあるから、ゆっくり動かすくらいなら平気だ。
すると、宮子が脇の間に頭を滑り込ませ、俺に肩を貸してくれる。
鼻腔をくすぐる甘い香りに、思わず息を飲む。

「お、おい」
「へへへ、あたしがあさっちの足になってあげるよ♪
 ……それで、これからどうするの?」
「ああ、さっきもちらっと言ったけど、神社に行って九兵衛ってやつと合流する
 あいつは……信頼出来る」

先ほどの放送で呼ばれた志村新八という名前。
九兵衛が探していた奴は、どうやら死んだらしい。
そして名簿にあった志村妙、坂田銀時という名前。
これが恐らく彼の探し人だろう。
自分は放送でスタンスを変える事を匂わせておいたが、それは誰にでも当てはまる事だ。
知り合いの死を知った奴が、果たして以前と同じでいられるのか。

だが、それでも香介は九兵衛を信じられると思った。
あの誤解を受けてもしょうがない初対面の場でも、彼は冷静に状況を判断し香介を信じてくれた。
それにどちらかというと奴は生真面目で秩序を重んじる委員長タイプに見えた。
きっと殺し合いなどという選択は取らないはず。

あいつが弟や、亮子を見つけてくれていたら……
亮子、理緒、お前ら、無事でいろよな。

(あれ〜? あたしのことは心配してくれないんですか? 一緒に戦った仲なのに、薄情な人ですね〜
 女の子にモテませんよ?)

謎の女の幻聴が聞こえた気がしたが、無視。お前のような奴は殺しても死なん。
頭を振るうと、宮子が自分をじっと見ている事に気付く。

「なんだよ」
「へへ、今あさっち亮子さんの事考えてたでしょ。隅に置けませんなぁ♪」
「ば、バカ。そんなんじゃねーよ」
164 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 01:50:00 ID:3KjWgBxH
女ってのはどんな状況下でもこういう話が好きだな。
やたらテンションをあげてくる。
だがその様子からは親しい人をなくしたショックを、乗り越えようとする強さを見て取れた。

(でもお前、女ならもうちょっと意識しろよ……さっきから当たってんだよ……)

脇腹に感じる、柔らかすぎる感触。
亮子や理緒からでは到底得られないその触感に、年頃の健全な男の子の五感はどうしようもなく掻き乱されていた……


     ☆     ☆     ☆


変なカバみたいなのに変身した喜媚ちゃんに抱えられて、あたしは空を飛んでいた。
初めのうちは暴れたりもしたが、もし落とされでもしたら死んでしまう。
態勢的に話し合う事も無理だったので、あたしは大人しくされるがままに運ばれていた。
喜媚ちゃんは何かを探しているのか、あっちに行ったりこっちに行ったりとその行動には一貫性が感じられない。
いったい何がどうなっているっての?
この子、いったい何なの?
もしかして、この子が理緒を……
いやいや、あの疑い深い理緒が仲間だってあたしに紹介したんだ。
そんなはずがない。
それに、もしこの子が理緒を殺したんだったら、寝ていたあたしを生かしておく理由がない。
この島に来てから目にしてきた数々の異能。
たぶんこの子の力もそんな能力の一つなんだろう。
じゃあ、エドや聞仲を信じたようにこの子の事も信じられるはず。
でも、だとすると理緒を殺したのは一体誰?
なんで寝ていたあたしと喜媚ちゃんだけ生かしておいたの?
もう事態はあたしの処理能力を超えていた。
頭がパンクしそうってこういう時の事なんだ。
流されるがままに、TVでも見るようにあたしは状況を俯瞰する。
悪夢……という一言で片づけられたらどんなに良かったか。
でも、この身を切り裂くような風の勢いも、手にこびりついた血の感触も夢と言うにはあまりにもリアルすぎた。

「あっ」

ばさりと、身体に巻きつけていただけの毛布が風に流されてどこかへ飛んでいく。
あまりにもシュールな状況に、羞恥心も感じない。
思うのは、寒いな……ということだけ。
理緒の血で濡れた手で二の腕を抱く。
歯の根が合わずにガチガチと顎が痙攣を起こす。

この子、一体これから何をどうするつもりなんだろう。
敵から逃げてるのかな
あたしは一体、どうなるんだろう。
こんな小さくなっちゃって、ちゃんと元に戻るのかな。
香介はちゃんと、あたしの事わかってくれるのかな。
理緒……あんた、いったいどうして死んじゃったんだ。

熱のせいか、思考はまったく纏まらない。
為すべき事も、為さなければならない事も今のあたしにはわからない。
教えてくれ、弟……この悪夢は、いったいどうすれば終わるんだい?

「あ☆ みーっけ☆」

背面のカバは楽しそうに呟くと、眼下の森に向けて急降下。
地面へとしばらくぶりに降ろされたあたしは、足がもつれペタリと座り込む。
目前には元の姿に戻った喜媚ちゃんと。
木陰に座り込んでおにぎりを食べていた二人の男女……
香介と、知らない女の子が、こちらを唖然とした顔で見ていた。
165 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 01:50:51 ID:3KjWgBxH


     ☆     ☆     ☆


香……介……よかった、無事だったんだね。
あたしと違ってカノン戦での怪我は治っていないようだったけど、それでも生きていてくれた。
それだけで良かった。
目の前が歪む。
あたしの頬を、大粒の涙がポロポロと零れ落ちていた。

「う……うう、香……介……」
「ロリッ☆ ロリッ☆ マジカル変身美少女喜媚ちゃん参上りっ☆」

「お前……亮子か? なんで……お前小さくなってんだ!?
 それにそっちの子、今カバから変身してなかったか? 空飛んでたし……」
「うわぁ、凄い凄い。ねぇ、見た見たあさっちっ!? 凄い手品だったねぇ!?」

驚いている。それはそうだろう。あたしだってわけわかんないんだから。
でも、あたしの事わかってくれたんだ。
すぐ亮子だって、気付いてくれた。
その事が嬉しい。

「おお、あさっち、その人が噂の亮子さん!? うわぁ、感動の再会だぁ♪」
「宮子、俺のバックに毛布入ってるからこいつにかけてやってくれ!」
「ほーい、宮子、了解♪」

毛布?
言われて気付く。
自分が今、素っ裸な事に。
慌てて胸を両手で隠し、涙目のまま香介の奴を睨みつける。

「ば、バカ、香介のバカ! 何見てんのよっ!」
「お、お前がそんな格好してくるからだろーがっ、だいたい、そんなぺたんこな胸見たってなんとも思わねーよっ!」
「なによ、ロリコンのくせにっ、あんた、こういう身体のほうが好きなんでしょっ!?」
「誰がロリコンだ!俺はいつものお前のほうが……っ
 ……まぁとにかく、お前が無事で良かった」

ぽすっ

右手で、頭を抱き寄せられる。
涙が香介の服に吸い取られる。
温かい……
そっか……喜媚ちゃんは、香介を探してくれてたのか。
きっと理緒から話を聞いて……
香介に言わないと……理緒が……死んじゃった事……

「おにい……ちゃん……」
「その姿でお兄ちゃんはマジやめろって……」


     ☆     ☆     ☆
166 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 01:52:19 ID:3KjWgBxH
あさっちのデイパックから毛布を探す。
なんだか、色々入ってて判りにくいな……
これかな。
後ろから聞こえる痴話喧嘩。

へへへ、良かったねぇ、あさっち♪
喧嘩出来るのも仲がいい証拠だよ。
あたしは嬉しい気持ちの反面、少し物悲しくなる。
だって、沙英さんはもう、ヒロさんと喧嘩することも出来ないんだから……
沙英さん、落ち込んでるだろうな。
ゆのも、大丈夫かな……
あたしも早くみんなに逢いたいよ……

ドンッ

突然の衝撃。
交通事故にでも遭ったかのような、凄い音がした。

ベキベキ、ボキ

決して聞こえてはならない破砕音。
その正体も知覚出来ないまま、あたしの身体は宙を舞う。
喉を逆流する流動物。
吐いた。
というか、勝手に口から出てきたのは見た事もないようなドス黒い赤い絵の具。
あたしはそれを周囲の草むらに撒き散らかしちゃった。
大家さんに怒られちゃうと思った。
ここはひだまり荘じゃないのにね。

目の前に迫る大木。
あたしはその枝に掴まって衝撃を和らげようとする。

スカ

伸ばした腕は目測を誤ったのか空を切る。
……ううん、伸ばしたと思った腕の先には、何もついていなかった。

ドシャ

木にぶつかる。
そのまま落ちるかと思ったあたしの身体は、枝にひっかかる。
そこで初めて、あたしは自分の身体が半分なくなっている事に気付いた。

あ、もうあたし、絵が書けないんだ。
ねぇ、神様。あたし、何か悪い事したのかなぁ。
もっとみんなと落書きしたり、遊んだりしたかった……

最後に目に映ったのは、目前に迫る鉄塊と、悲鳴を上げる亮子さんとあさっちの顔。

ねえ、あさっち。
あたし、あさっちと出会えて良かったよ、ありがとね。

「りょ…こさんと……しあわせに……」

あたし、上手く笑えたかなぁ

グシャ


     ☆     ☆     ☆
167 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 01:53:04 ID:3KjWgBxH


「宮子ーーーー!!」

香介の怒号。
いったい何が起こったの?
見たこともない黒い大男が、香介の連れの女の子を……剣で叩きつぶした。
あれは……まさか……

「てめぇええええええ!!」
「香介っ! 逃げてええええーーー!!」

香介が銃を放つも、黒い男はその身の丈をも超える大剣でそれを弾き飛ばし、こっちに向けて突っ込んでくる!

「ロリイイイイイイイ!!」

っ!?
その口癖……やっぱりあんたは!

「亮子っ! にげ……」

突き飛ばされる。
思わず、眼をつぶってしまったあたしが次に見たのは鉄塊を胴体に生やしたまま立っている香介の姿。

「こ……すけ……?」

ゆっくりと、剣が引き抜かれる。

ビュッ ブシャー

びちゃっびちゃっと、脈動に合わせて勢いよく香介の■■があたしの身体にかかる。

■■から噴き出したばかりの新鮮な■■は湯気が出そうなくらいで。

あったかい……

崩れ落ちる。
息も絶え絶えの香介を抱きかかえて、あたしは目前の男に問いかける。

「ど……して……どうしてこんな事をしたーーーー!! 胡喜媚ーーーーーー!!!」
「喜媚、亮子ちゃんを元気にしっ☆」

男は、黒い男に変身した胡喜媚は、にっこりと笑いながら、そんなトンデモナイ事を口にする。

理解出来ない。

あたしを……元気づけるためだって?

「さぁさぁ、亮子ちゃんもお楽しみっ☆ お酒もあるよっ遠慮せずにやりっ☆」

胡喜媚が、デイパックの中から一斗缶を出すと放り投げる。
空中で剣で破壊。

ばしゃぁっ

大量の医療用アルコールが、あたしたちに降り注ぐ。
噎せかえるような、酒精の臭い。
傷口にアルコールがかかったのか、痙攣する香介。
168 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 01:53:54 ID:3KjWgBxH
「コースケ! コースケ! いやああああああっ!!」

必死に抱きしめるあたしの腕から、悪魔が香介を奪い取る。

「ほらほら、そんな顔してないで、笑ってっ☆ 亮子ちゃんっ☆」

まるでボールをトスするように胡喜媚は香介の身体を放り投げる。
そしてフルスイング。

「ローーーーリッ!!」
「いやああああああああああああ!! お兄ちゃああああああああん!!」

空中で血の華が咲き、■や■■がその辺の木の枝に引っかかる。

「あ、ああ……」
「まだまだお酒もたっぷり有りっ☆」

どんっ

デイパックから取り出される新しい一斗缶。
その封を切ると、胡喜媚はあたしの口にそれを押し当てて流し込む。
立て続けの嚥下で、喉が焼ける。
血に濡れていない部分の肌も、真っ赤に染まっていくのが判る。

「へべれけ、へべれけ、うたいます☆ はまぐり、はまぐり、のみまくり☆
 あ、そーれ、イッキッ☆イッキッ☆イッキッ☆」

野太い声が調子よく歌うのを聞きながら、あたしは目前の光景を目に焼き付ける。

大地には血と酒で出来た泥水。
木々には、人だったモノがぶら下がっている。
この世のものとは思えない、赤黒い世界。
香介の■と■■で出来た世界。



■■■■■


「朝歌だったら、姉サマに頼んでもっと凄いパーティーが出来るんだケド、喜媚にはこれが精いっぱいっ☆
 亮子ちゃん、元気になったっ!?☆ ロリッ☆」

■■■■る


「ひひ、ひっひひひひひひひひひ」


■し■■る


「あ、亮子ちゃん笑ってる、やったーーーーっ☆
 ほんとは姉サマのために持ってきたお酒だけど、もっと飲んでいいよっ☆」


■し■やる


「そうだ、理緒ちゃんにも手伝ってもらおっ☆ 魂魄がなくなっちゃったんだから……
 別に使っちゃってもいいよね☆」
169 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 01:54:40 ID:3KjWgBxH


■してやる



「ロリっ☆……わぁっ☆ 理緒ちゃんの■■■■かわいー☆
 見て見て、亮子ちゃんっ☆」




殺してやる





殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる

殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる

殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる

ミズシロ・ヤイバアアアァァァァァ

あんたの力をあたしにくれええぇぇ!!

こいつを殺せる力を……

悪魔の力をあたしに寄越せえええええええ!!

成人にならずとも、「きっかけ」さえあれば目覚めると言うブレード・チルドレンの呪われし血。
あれほど忌避していたその力を、あたしは今こそ欲する。


殺す!

殺す!

殺す!


こいつだけは、あたしが絶対殺してやるっっっ!!!





     ☆     ☆     ☆


「あれ、亮子ちゃん?」

胡喜媚も血と酒の宴に少し夢中になりすぎたのか。
気がついてみると亮子の反応がない。

「寝ちゃったのかなっ☆」
170創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 01:54:53 ID:hdTSgLv5
しえん
171 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 01:55:29 ID:3KjWgBxH
顔を覗き込む。
亮子の眼は見開かれていた。
虚空を睨みつけたまま、その表情はもう動かない。
高町亮子の魂魄は、胡喜媚を恨んだままその肉体から抜け落ちていた。

「………」

胡喜媚はしばらく高町亮子の顔を眺めていたが、やがて立ちあがる。

「亮子ちゃんも壊れちゃった……喜媚、何か間違えり?☆」

小首をかしげる。
だが雉鶏精たる彼女は過去の事は気にしない。
済んでしまった事はしょうがないのだと頭を切り替える。

だが、頭の片隅で少し想う。
四不象を見つけたら、その復活の玉を使って貰って彼女たちを生き返らせ、また遊びたいと。


ズンチャラッカホーイホーイホヒッホヒッ♪
ズンチャラッカホーイホーイホヒッホヒッ♪

胡喜媚は元の姿に戻ると、踊りながらその場を後にする。
己の作り出した、酒池肉林の地獄に背を向けて……


【高町亮子@スパイラル 〜推理の絆〜 死亡】
【浅月香介@スパイラル 〜推理の絆〜 死亡】
【宮子@ひだまりスケッチ 死亡】

【F-3/森/1日目 昼】

【胡喜媚@封神演義】
[状態]:疲労(中)
[服装]:原作終盤の水色のケープ
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:支給品一式 、お酒の入った一斗缶×2
[思考]
基本方針:???
1:妲己姉様やスープーちゃん達、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
2:スープーちゃんの持ってた復活の玉で理緒ちゃんと亮子ちゃんを復活しっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化の制限に関しては不明です。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※第一回放送をまったく聞いていませんでした。
※原型の力が制限されているようです

【お酒の入った一斗缶@現実】
病院で喜媚が見つけりっ☆
妲己姉サマにも飲ませてやりっ☆



※浅月香介と宮子のデイパックがその場に放置してあります。
172 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 02:00:16 ID:3KjWgBxH
以上です
タイトルは「ちだまりスケッチ 〜酒池肉林編〜」

ちょっとやりすぎたかな?
伏字もwikiで使えるかどうか……
173創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 02:45:13 ID:aMJHXMjL
>>172
と……投下乙です。

……どうしてこうなった? どうしてこうなった?
ど う し て こ う な っ た ッ ッ ッ !?

浅月ー!? 亮子ー!? 宮子ー!?
うわあああああ、好きだったキャラが次々と死んでいくううううう、あばばばばばばばば(ry

……本当に、どうしてこうなった……orz
174創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 02:53:17 ID:1GjRTHED
投下乙

…さすが妲己の妹、純粋に邪悪だ
175創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:39:51 ID:kX9WJ//t
な、なんという……
惨劇というのも生易しい……虐殺、惨殺……喜媚てめええええ!!

ものすごく感情を揺さぶられる作品でした!
ちっくしょおおお!!
176創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:53:32 ID:iULv3vvk
乙!死亡ラッシュだな。
今思ったんだがガッツと沖田ってさげまんじゃね?
177創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:55:51 ID:hdTSgLv5
>>176
さげまんの意味を知ってから出直せ
178創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 13:50:13 ID:It4PpePE
投下乙です
こ、個人的にはここで殺すにはもったいないかなとは思うけどこれはこれでありか?
ああ、まだ前回なのは不幸な事故で済むかもとは思ったがこれはもう弁護できん
純粋に邪悪だな。喜媚死ね。氏ねじゃなくて死ねと思いました
凄い話だけどもったいない。もったいないけど凄い話でした
179創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 14:04:58 ID:ODVUCFBO
これ亮子の死因は酒の飲み過ぎになるのか?
180sage:2009/10/27(火) 14:16:18 ID:Ee72JvJf
投下乙。香介は亮子に会えて良かったな。カップルで死亡はある意味幸運な気がする。

>>179
自分は香介死亡とそれによる怒りのあまりのショック死かと思ってたけど、
そういえばそれっぽいな。
181180:2009/10/27(火) 14:19:57 ID:Ee72JvJf
間違えてあげてしまった。すまんorz
182創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 14:42:35 ID:It4PpePE
アルコール中毒でいいんじゃないか?
どこぞのへべれけへの当てつけみたいだw
183創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 17:29:14 ID:xbyCBXer
喜媚……恐ろしい子
こないだまで普通の対主催だったのに
やっぱ妖怪だな、人間とは感覚が違う
それ故に無邪気なのがまた恐ろしいw
投下乙でした
184創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 17:45:42 ID:9QLI+BQL
そういや原作でもうっかり太公望殺してたりするんだよなぁ
でも普通にここから対主催主戦力にもなり得るのが怖いw
185創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 18:34:39 ID:zMFk/eDi
そしてこれで喜媚がトップマーダー
まさかこうなるとはw
186 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 18:48:58 ID:3KjWgBxH
感想ありがとうございます
亮子の死因は、飲料用ではないアルコールを無理やり飲まされた事に因る中毒死ということで
お願いします
ちょっと描写がわかりにくかったかな
187創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 19:28:48 ID:SKySWyDb
投下乙です
むしろ酒池肉林なんて教えた妲己が憎い
188創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 19:33:05 ID:9QLI+BQL
>>186
ん?だとすると
>[道具]:支給品一式 、お酒の入った一斗缶×2
これ中身は酒じゃなくて別のアルコール類では?
189 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 19:35:11 ID:3KjWgBxH
喜媚視点での認識で書いたのですが、客観的な情報のほうがいいですかねぇ
リレーだし。
190創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 19:41:48 ID:9QLI+BQL
状態票は書き手向けメモなので客観視点の方がいいと思われます
191 ◆yuVy4gPLQo :2009/10/27(火) 19:46:56 ID:3KjWgBxH
では
【エタノールの入った一斗缶@現実】
病院で喜媚が見つけりっ☆
妲己姉サマにも飲ませてやりっ☆

ということで。
192創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 12:10:08 ID:kv7ZkLB1
妖怪姉妹こえー
亮子は信念ごと堕とされたな
193創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 13:38:33 ID:F0SzHtCe
マーダー一人もいないのに血の雨が降る気しかしない予約が来たw
ハム逃げてーー
194創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 14:50:39 ID:FtJRugRr
ハヤテは見事なバトル漫画だな伊澄が生き残ってたら、扱いが相当変わっただろうに
195創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 16:49:27 ID:MtYAHlUG
自分以外のブレチルが全滅した事を知ったらカノンはどうするんだろう
まずこの危険地帯を抜け出さなけりゃ話にならんけどなw
196創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 18:15:24 ID:ApKsCcSV
なんかまともな正統派対主催ばかり餌食になってるよなw
残った対主催のうち、未来日記勢はどいつもこいつも協調性ないし、
妖怪姉妹は言うに及ばず、安藤兄弟はどっちもダーク化フラグ……w
197創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 19:02:49 ID:jECOyU9e
それでもきっと、雪路ととらなら何とかしてくれる……!
198創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 20:42:09 ID:5atw2O4y
うわぁ
レガートまで……どうなるんだ
読めなくなったぞ
199創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 21:27:55 ID:MtYAHlUG
逃げてー、ハム沢さん逃げてー
200創る名無しに見る名無し:2009/10/29(木) 00:51:12 ID:IbJBRPA9
パロロワwikiの新漫画バトルロワイアルの項目が更新されてたから見てみたが……
うん、確かにその通りだよ。
ここまで惨劇が連続して起こってるのも珍しいだろうな……
201創る名無しに見る名無し:2009/10/29(木) 01:16:47 ID:S8xPlraR
更新乙
202創る名無しに見る名無し:2009/10/29(木) 09:15:18 ID:jEixE0Ur
死因急性アルコール中毒って前代未聞だなw
203創る名無しに見る名無し:2009/10/29(木) 10:22:46 ID:7+O8zcuE
そういやもうカノンが殺せる相手誰もいないんだな。
本編で一番最初に死んだカノンがロワではブレチルで一番長生きってのも皮肉だなあ……www
204創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 00:41:48 ID:r+cHeQDy
今月の未来日記カオス過ぎるだろw
由乃どうしようこれ・・・
205創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 01:04:41 ID:C7tx+64O
バラすなよっ、絶対バラすなよっ
206創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 01:30:08 ID:Q7sis+13
ついに人外だと判明したか?
むしろ今までの何処にも一般人だと思える要素が無かったけどな
207創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 01:37:21 ID:r+cHeQDy
人外だったくらいなら別にいいんだが
読んでてポルナレフの気分だったw
下手すると「このロワに参戦してる由乃って誰?」なことに
208創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 08:58:28 ID:zm8Fd4ML
あ、ありのままに起こった事を話すぜ。
禁則事項が禁則事項で禁則事項だった。
何を言ってるのか(ry
次回でどんな超設定が判明する事かwww
209創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 19:43:46 ID:5qbI9bFX
むう、気になるではないかw
どこにいったらそのネタばれがみれる?
最悪の場合、原作と大きく乖離する前に殺すしかないな……

ところで作品に対する不満ってどうすればいい?
いままでいってなかったけど、唐突にいったら
「あの時はいってなかったじゃないか」的なことを言われたロワがあったから、
定期的に毒吐いて「こういう不満があったんだぜ」ってことは表に出しておきたいんだけど。

かといって本スレは荒らしたいわけではないからこういうこと言うんだけど。
210創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 20:34:57 ID:F8uTtWbT
好きにしろ
211創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 20:49:26 ID:qrhKXu2h
まあ落ち着け
毒はきの誤爆スレを使えばいいと思うよ
212創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 21:01:06 ID:r+cHeQDy
本気で不満があるなら議論スレ
単に「俺にとっては不満」ってんなら何も言うべきではない
それでも我慢できないなら最悪の行為であることを理解した上で誤爆スレ

こんな感じで
213創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 23:55:57 ID:C7tx+64O
本気でこれおかしいんじゃねって時は議論スレ行きだが、既に後続が書かれている時は
修正は難しい
まぁ俺は面白ければ少しくらいの問題は流すけどね
214創る名無しに見る名無し:2009/10/31(土) 15:35:35 ID:Hk7VeS/V
A読んだ
むしろ或が振り下ろされた日本刀の背を片手でつまんで止めたことに驚いた
しかしデウスのみねねへの仕掛けはなんだったんだろう
215創る名無しに見る名無し:2009/10/31(土) 23:46:09 ID:t92HY+Dn
用語集ワロタよ
GJ
216創る名無しに見る名無し:2009/10/31(土) 23:56:35 ID:D4FHNBbM
ついに用語集ができたか
GJ
217◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 15:57:08 ID:yxYmQEpk
「…………」

「…………」

重苦しいまでの朝の沈黙が、無機質なリノリウムにこだましない。
“神”様の箱庭に集う生贄たちが、今日も奴隷のような辛辣な無表情で、背の低い天井に抑えつけられている。
汚れに満ち満ちた心身を包むのは、深い色の血化粧。
仇への殺意は乱さないように、黒い憎悪は翻らせないように、ゆっくり煮詰めるのがここでのたしなみ。
もちろん、禁止エリアギリギリで走り去るなどといった、はしたない参加者など存在していようはずもない。

ずかずかと入り込んできた女のことなど毛ほどの気にも留めず、目を眇めてミリオンズ・ナイブズは思索する。

やはり、あまりにも不自然すぎる。
それはもちろん、この島という存在そのものが、だ。

直径は約9km。
全周は30q弱、面積にしておよそ65?。
ナイブズには知る由もないが、この島の大きさは八丈島とほとんど変わらない。
なのに、博物館、水族館、研究所、デパート、工場、……研究所。
いくらそれなりの面積とはいえ、雑多かつ高密度に配置された施設は離島ひとつに全く必要ないものばかり。
設置する意味さえ見いだせない。
離島と断言するのは人目に付かないからという程度の理由ではあるが、いずれにせよ運用するにはコストが高すぎるものばかりだ。
しかもこの研究所を見る限り、一つ一つの施設の大きさは相当なものなのだろう。
あの人間の少女はここが体育館並みに大きいと評し、山の中に埋まっているとは信じられないとさえ言い切った。

要するに――あまりにも人工的すぎる。まるでシップ内部を見ているかのようだ。
この場所がこの殺し合いのためだけに創られた可能性はかなり高いと踏む。
『探偵日記』にはここがニッポンとやらではないかと記載されていたが、それは違うという確信がある。
むしろ“神”陣営の上層部にニッポン出身の人材が食い込んでいるのではないかとみた方が妥当だろう。
あるいは“神”本人がニッポン出身なのか。

いずれにせよここを設計した存在は、理知的ながらかなりの遊び好きだ。
配置された施設が娯楽と教養を兼ね備えた施設ばかりなのだ。
まるで自分がそういう性格ですよと言わんばかりの自己アピールに、静かに腸を煮え滾らせる。

そしてナイブズは誓いも新たに神との敵対の意思を確かめる。
『螺旋楽譜』の主の言葉を鵜呑みにするわけではないが、成程確かに与えられた情報だけでたどり着ける真実は単なる挑発でしかない。
今こうして自分が憤っていることそのものが掌の上という訳だ。
踊らされていることへの憤怒こそが思う壺だとは、何という悪循環。
分かっていながら堰を切ったように流れ出る感情を止められはしない。

いや、小難しい事はいい。自分の行動理念はシンプルだ。

これだけの島を創造し、今もなお維持し続けている。
なのにこの島にはそれらしい発電施設はない。
いや、地図に載っていないだけかもしれないが――、実際にも存在しないと断言できる。
何故なら、同胞たちの胎動が、悲鳴が、自分の耳に届いているからだ。
こんな事のためだけに、この島のどこかで彼女たちは今もなお搾取され続けている。

その苦しみの代弁者として、今一度刃を振るえばいい。
218◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 15:58:08 ID:yxYmQEpk
斃すべき相手でしかない“神”の人となりを慮るなど余計な考えに至ったのは、放送と二つのblogという情報源に当たったからか。
……全く、自分が人間の言葉などに触発されるとは実に腑抜けていると、ナイブズは自嘲する。

ただまあ、それでも。
価値は認めてやるとしよう。

放送の女は“神”に反逆を試みて――、消された。
何を残したかったのかは知らないが、その心意気だけは買ってやってもいい。

そして、この『螺旋楽譜』。
ひたすらに自分への不信と“神”の思惑への警告を謳うだけの、無愛想な文面。
だが、そこには確かに抵抗の意思が感じられる。
“神”の傀儡の可能性はあるが、それでもこの記事の管理人は使えるかもしれない。
少なくとも行動の監視があっても碌なものではないだろうという考察は、それなりに理には適っている。

ただ、いずれにせよ彼らの行動の意味を推し量り、信じなければ何の価値もない代物にすぎない。

「――人間を信じる、か」

何という皮肉だろうか。
今の自分は、あまりに無力。
人間の言葉尻を信じ、盲になってでも“神”の尻尾を掴もうとしなければ戦うことすら――、
いや、“神”の輪郭を捉えることすらできない有様だ。

その無様さに不思議と嫌悪感は抱かなかったが、ただただ空虚な笑いを堪えるので精いっぱいだった。

ふと立ち返り、静かに目を瞑る。
人間から得た情報を信じようが信じまいが、自分の為すべきことは変わらない。

――名簿に、目を通す。
見知った名前がいくつもあったが、やはり一番に目に付いたのは弟の名前だった。
人間を信じるというならば、彼こそが適任だ。

“ヴァッシュ・ザ・スタンピード”

「お前は今――何処にいる?」

良く馴染みのあるゲートの拓いた感覚を得てからおよそ4時間。
それきり彼の行方は杳として知れず、ただ放送で無事に生き延びていることを理解できたのみ。
『探偵日記』とやらの管理人に利用されているのが彼なのかどうなのか、現状確かめる術はない。
コメント公開を要請しても返事は綺麗に飾り立てられた言葉で有耶無耶にされ、あらためて人間の愚劣さを思い知らされただけだった。
当然ながら『探偵日記』の管理人は信用に値しない。

「……度し難い」

本当は無視してしまいたいところだが、しかしヴァッシュが関わっている可能性もある以上そうはいかない。
とはいえ、まともな交渉などしてやるつもりもない。
ならば、どうするか。
219◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 15:59:15 ID:yxYmQEpk
答えは情けないことだが、様子見の一手だ。
いや、一つだけ手を打っておいたが、あまり期待はできないだろう。
『螺旋楽譜』の出現に追随するかのごとくリンクの張られた掲示板に、自分を匂わせる書き込みをしただけでしかない。
あまり積極的に動かないのは、冷静に現状を分析してのこと。
放送直前に更新を行っていることから『探偵日記』の管理人はそれなりに安全な環境にいるはずだ。
ヴァッシュの能力を酷使するメリットはない。
ならば、下手に藪を突いて警戒させることもないだろう。
今後の『探偵日記』の更新を確認してから動けばいい。その為の端末――携帯電話とやらも既に調達している。
屈辱を押し殺して『探偵日記』の文面を信じたのは、敢えて口車に乗ってやった方が得られるものが多かった。それだけの話だ。
――今更、どんな顔をして弟の前に出ていけばいいのかという思いもある。

それに利用されているのがヴァッシュとも限らない。
自分の知る限り、名簿の中で見知らぬ人間に手を貸しそうなお人好しは3人だ。
そのうち一つは放送と同時に浮かび上がった多くの見知らぬ名前と共に真っ赤に染まっている。

“チャペル”

どういうことなのだ、と、一人口の中でその単語を転がす。
いや、彼だけではない。

レガート・ブルーサマーズ。
ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。

最後まで自分への忠義を貫き続けた男と、自分を怖れ逃亡兵となることを選んだ男の二人の名が、確かにここにある。
――それを最初に目にした時、確かに自分の中の何かが疼いた気がした。

偽物かと疑るも、そうである意味はない。
悪趣味な“神”の成したこと、本物であるのだろう。
死んでいった男たちは、どうしてか今生きてここにいる。

“神”は蘇生の力でも持っているというのか?

可能性は0ではない。
……しかし、たとえそうだとしてもだからどうした、としか思い浮かばない。
その方法さえ皆目見当がつかないし、たとえ思い付いたとしてもどれほどのコストがかかることか。

それよりも現実味がありそうなのは、と一つの考えがナイブズの脳裏に浮かぶ。
かつて、銀河で初めて個人にして跳空間移動を可能としたナイブズだからこそ思いつける可能性。
時間と空間に精通しているからこそ、至れる可能性を。

――並行世界。
そこから彼らは連れてこられたのではないか。
蘇生の力よりは、こちらの方が色々な疑問に答えを付けることができる。
蘇生と並行世界移動、両方の能を持っている可能性も否定できないが。

ほんのわずかな間だけ、呼吸を止める。
理解している。これはただの逃げだ。

いずれこの殺し合いの場で彼らと巡り会ってしまったその時に――どう向き合えばいいのか。答えは出ない。

いや、そもそも自分は彼らと向き合ったことすらなかったのだ。
ただ利用するだけの存在として、軽蔑すべき人間の指の一本としてしか彼らは存在しなかった。
220◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 16:00:03 ID:yxYmQEpk
向き合うなどということをあらためて考えてしまったのは、ヴァッシュに毒されたからだろう。
あるいは、彼の考えを認めてしまったからなのか。
その意味では最早、あの男たちが畏れ敬ったミリオンズ・ナイブズはとうに死んでしまったのだ。

それでも見知らぬ人間としてぞんざいに扱う事の出来る連中はまだ楽だ。
逃げを選んだミッドバレイも、捨て置けばいい。どう動いていようと追うつもりもない。

しかし、しかしだ。
――レガート・ブルーサマーズ。
あれ程の忠義を傾けてきた男を、これから自分はどう扱っていけばいい?
まず間違いなく自分にかしづくためだけに狂気を存分に振るっているであろう男に。

……既に自分には、人間を滅ぼそうという気もない。
だからあの男に特に何かを期待することもないが、それで鞘に納まっている男でもないだろう。
もしかしたら自分に失望し、妄念を暴走させる可能性すらある。
今の自分を見て、あの男がどうなるのか全くもって予想がつかないのだ。

得体の知れない不安のようなものを飲み込む。
馬鹿馬鹿しい。
仮に自分の邪魔となるのだとしたら、たとえレガートといえど排除すればいいだけの話だ。
きっと、それだけのことでしかない。

そのまま名簿をデイパックに放り込もうとして、最後に一つの名前に目が行った。
西沢歩――確か、そう名乗っていたか。
良く生き延びられたものだと僅かに心の端で思い、そんな思考ノイズをさっさと忘れることにする。
あの娘が口にしていた綾崎ハヤテとやらも死んだ。
ただの人間がこの場で生き延びられる道理はなく、故にあの娘も遠からず後を追うだろう。

あの道化男を始末した後、一瞬だけでもあの娘の後を追うなどと考えたこと自体がおかしいのだ。
今更人間とともに歩む道はない。
そしてまた、人と寄り添うことを示し続けたヴァッシュの前に出て行くことも出来はしない。
いくら弟の安寧を祈っても、おめおめと姿を見せる事を自分自身が許さない。

あの男が無事ならば、それでいい。

たとえここに招かれたのが並行世界のヴァッシュであっても、彼はただLOVE & PEACEを高らかに響かせ続けている筈だ。
どこであろうと弟は変わらないという確信がある。
あの娘がどんな末路を迎えても知ったことではないが、幸運にも弟に出会えたならば生き延びられるだろう。

……いつ以来だろうか、誰かの無事を願ったなどというのは。
ヴァッシュは、生きるべきなのだ。


「あー……、ヤツを殺ったのは、アンタか?」

先刻からずっと、敢えて無視していた存在からようやくのお声がかかる。
自分の背後で何やら唸っていたが、気にするほどの存在でもないと完全に意識の外に置いておいた。
そしてそれは詰まらない第一声の内容によってより確かな認識となる。
情報交換を持ちかけるなら持ちかけるなりに、単刀直入にそれに値する手札を提示するべきだろうに。

道化男の死体の周りをウロチョロしていたようだが、彼奴の同類だというなら先んじて始末しておくべきだろうか?
小蠅というのは潰しても潰しても沸いてくる上に、この上なく鬱陶しい。
人間全体への既に殺意は抱くことはないにしても、ただただ愚昧なだけの個人は己の存在が当然であるかのように生き恥を曝している。
奴原を消し去る面倒臭さを思えばナイブズは気付かれないほどの溜息を漏らさざるを得ない。
221◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 16:01:09 ID:yxYmQEpk
***************


「おい、無視かよ。このみねね様相手に――」

ぞく……、と。

空気が変質し、雨流みねねは呼吸ができなくなる。
かたかたと勝手に体が震え、あたかも彼に跪くかのように足が体を支えられなくなった。
みっともなく、尻餅をつく。
震えを消そうとして腕を回し、それでようやく思い出した。
抑え込みたくても、その為のてのひらは吹っ飛んでしまったのだ。
痛くて痛くて凄い喪失感でいっぱいだったはずなのに、一睨みされただけでそんな事すっかり脳裏から消え去ってしまった。

こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい

「……人間か。さっさと立ち去れ、俺の機嫌が変わらんうちにな」

それきり興味を失ったかのように、みねねの目の前の男はPCの画面に向き直った。

呼吸が荒い。心臓の音が鐘のように五月蠅く鳴っている。
目の前に血の河が流れたように見えた。
生きていることが嬉しいのに、歯牙にも掛けられない自分が惨めで泣きそうになる。

這いつくばって、ずるずると部屋を離脱しようとして――、

「……逃げ出せるかよ」

このままほうほうのていで裸足で出ていったりすれば、みねね様の名が廃る。
ああ、怖い。確かに怖い。
けれどそれを抑え込む。
自分の人生は戦いの連続だった。
立ち向かわねば理不尽を捩じ伏せる事が出来ない事を、思い知っているのではなかったか。

それに考えようによっては、これは好機だ。
この男ならあの妲己に間違いなく対抗できる。
しかも、あの女が絶対に想定していないであろう札だ。
ヤバさはこの男の方が上かもしれないが、それでも逃してはならない。

どうすればいい? どうすれば引き込める?
考える時間は僅か。ヒントは男自身の言葉にあり、そこに切り入れば済む事だ。


「生憎だが、私は人間を辞めたのさ」

そう呟いて手近にあった適当な本を手にし――爆破。
男が、目だけをこちらに向けてきた。
222◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 16:02:02 ID:yxYmQEpk
自分がもうまともなニンゲンではないという事実にチクリと痛む胸。
その棘に気付かないふりをして、みねねは男を睨み付ける。
一秒後には心臓に刃が突き刺さっているかもしれないという暴力的な緊張感と闘いながら。

「お互い人外同士、情報交換といこうじゃないか。
 立場はフィフティフィフティ、後腐れない取り引きを終えて、そのあと私は出て行く。
 そうすりゃ問題ないだろ? どっちにとってもメリットしかないはずだ」

見返りは十二分。
男はぐるりらと首を回し、見下ろす目線でみねねの方を検分してくる。
そのまままったく期待のこめられていない口調で投げ掛けられた問いが一つ。

「ヴァッシュ・ザ・スタンピードを知っているか?」

ちぃ、と舌打ちする。
おそらく人名だろうが、みねねにとっては聞きなれない代物でしかない。

「生憎だが心当たりは――、」

と、仕方なしにそれを告げようとして、何かが引っ掛かった。

「……いや、待った。確かに聞いた。どっかで聞いたぞ」

ある一人の女の顔と、失った自分の手がフラッシュバック。
耳にしたのはつい先刻。朦朧としていて聞き流していたが、あの女が自分を送り出す直前に口にしていたのだ。

「……そうだ。あの女が手当の時に訊いてきやがったんだ。
 どこかの死にかけがヴァッシュとやらは頼れるとか言い残したが、私に心当たりはあるか……って」

「女? ……何者だ」

目つきを変え、男が俄然と食いついてくる。
態度の変わりように驚きながらもみねねは悟る。

――これは、千載一遇のチャンスだと。
妲己を追い詰めるために、あの女について躊躇わずに所見を述べていく。

「妲己っていう自称妖怪のクソいけ好かねぇ女さ。性格的にも実力的にもあいつはヤバい。
 自分で言うのも情けねーが、奴に大切なものを握られててな。
 今の私は仕方なしにあいつの手駒に成り下がってる。
 飴も鞭もどっちも使って、周りの連中をみんな誑す悪女だよ」

「そいつが、ヴァッシュの名を口にしたのか?」

「そうだよ。ついでにそいつの特徴も私に教えて、探すよう言付かったぜ?
 金髪の赤いコート、だっけか」

ニィ、と口端を歪めて証拠を提示。
うろ覚えだが、どうでもいいと思った知識も意外と役に立つものだ。
妲己に感謝しようと一瞬思ったが、そもそもの元凶はあの女なのでやめておく。
223◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 16:03:22 ID:yxYmQEpk
「何度も言うが、あの女は掛け値なしにヤバい。
 なにせ、私への命令が『これから会う奴全員に対して、自分が仲間を集めている事を伝えろ』だ。
 ……イカれた命令だよ。
 自分を餌に殺し合いに乗った奴も乗ってない奴も潰し合わせて、使えそうな奴を選びだそうとしてる。
 そのヴァッシュって奴も、奴の周りの騒乱に巻き込まれるかもな?」

最後の一言に、男は何を思ったのか。
全ての表情を無くして黙りこんだ後ずかずかと歩き出す。
みねねを全く無視する形でだ。

「――行くんだったらデパートだ。とりあえずそっちに向かうって言ってたぜ」

そうは問屋が卸さない。あの女を御すために、もう少しこの男に踏み込んでおかねば。

「これだけ教えたんだ。
 見返りとして、妲己の奴が持っている携帯電話を取り返しちゃくれないか?
 ちょっと大切なもんが入ってるのさ」

返事はない。
ただ、一瞬だけ先刻と同じように殺気が膨れ上がったのが肌身に突き刺さった。
二度目だから流石に尻をつきはしなかったものの――、

気付いた時には男の姿は影も形もなくなっており、滝のように流れ落ちる汗が自分が生きている事を教えてくれている。
思うのはシンプルなたった一つの事。

……助かった。それだけだった。

「……手はとりあえず、これで一つか。悪くない取り引きだったとは思うが、いかんせん心臓に悪すぎる」

はあ、と思いっきり息を吐き、くずおれる。

「つっても、まだまだこれじゃ足りないな。
 打てる手が残ってる以上は地獄の釜底であろうと足掻かせてもらうわよ」

目線の先にあるのは、男が使ったまま電源が付きっぱなしのPC。
その向こうにはブラウザが立ち上がっており、いくつかのサイトの内容が表示されている。
利用しない手はないとみねねの経験は告げていた。

「妲己。あんたの知らない私の世界の技術で、あんたを出し抜いてやる。
 のんびりとふんぞり返っていられるのも今のうちだぜ?」

汗まみれで口にしても我ながら説得力はないな――とみねねは愚痴を零し、苦笑した。

それが、命を握られてもなお立ち向かえる強さの証。
生きているから、戦えるのだ。


【F-05地下/研究棟/1日目/朝】
224◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 16:04:09 ID:yxYmQEpk
【雨流みねね@未来日記】
[状態]:疲労(中)、左拳喪失(ほぼ止血完了、応急処置済み)、貧血(小)、爆弾人間
[服装]:
[装備]:メモ爆弾×6
[道具]:支給品一式、単分子鎖ナノ鋼糸×4@トライガン・マキシマム
[思考]
基本方針:神を殺す。
1:研究所のPCを用いて、情報戦を仕掛ける。
2:出会った人物に、妲己が主催に反抗する仲間を集めていると伝える。
3:首輪を外すため、神を殺すためならなんでも利用する。
4:妲己を出し抜いて逃亡日記を取り返すため、日記所有者を探す。
5:出来ればまともな治療をしたい。
6:恐怖しながらもナイブズが妲己を始末することに期待。
7:12thの蘇生について考察する。
[備考]
※ボムボムの実を食べて全身爆弾人間になりました。
※単行本5巻以降からの参戦です。
※妲己と情報交換をしました。封神演義の知識と申公豹、太公望について知りました。
※アルフォンスと情報交換をしました。錬金術についての知識とアルフォンスの人間関係について知りました。
※メモ爆弾は基本支給品のメモにみねねの体液を染みこませて作っています。


***************


――たぶん、だけど。
夢を見ていたと思う。

どんな夢だったかは思い出せない。
けど、きっとあんまりいい夢じゃなかったんじゃないかな。
普通はこういうときに見るのはいい夢じゃないかなって思うんだけど、私やっぱりついてないみたい。
というか、夢枕に誰かが立つってイベントすらすっ飛ばされてなかった事になっちゃうんだ、私……。
せめて夢の中でくらい幸せでもいいのになあ。

痛い夢。辛い夢。苦しい夢。

……怖いよ。

ハヤテくんがもういなくなった事を認めちゃって、私は生きているのが辛くなった。
大切なものがこころから融けるように消えてしまって、ぽっかりと大きな穴が開いた。

――孤独。

そう、だ。
多分だけど、私が自分の命を断とうとしたのは、たとえようもない寂しさを感じたからだ。
ここには誰もいない。
ほんとうの意味で言えば知っている人はまだ何人か生きているんだろうけど、今は誰ひとり私のそばにはいない。

私には特になんにもないけれど、それでもずっと私の周りには優しい人たちがいた。
お父さん、お母さん、一樹。
ちょっと不穏なところもあったけど、それでもかけがえのない家族。
ヒナさん――ともだち。
私なんかとは違って何でも持っているのに、何でもできるからこそ一皮剥けば可愛らしいところのある人。
225◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 16:05:10 ID:yxYmQEpk
ナギちゃんはどうしているだろう。
わがままで意地っ張りだけど、あの子は多分すごく強い子。
大切なひとを失ったからって、私みたいに何もかも諦めちゃう訳じゃないんだろう。

そして、ハヤテくん。
……やめよう。大切だけど、大切だったけど。
だからこそあの人の事を考え続けると私は潰れちゃう。……壊れちゃう。

私は、強くない。ぜんぜん強くない。
大切なひとを失っても、悲しみを糧にしてもう一度立ち上がれるほど強くない。
大切なひとを失ったから、自分を忘れて怒りに身を任せられるほど強くない。

そう、私は強くないんだ。
気絶しちゃって、目が覚めて。
こうして落ち着いてしまった今、はっきりとそれを悟る。

……普段の私は、自分から死を選べるほども強くない。

この手で命を捨て去ろうとした激情に、体が震えだす。
ぶるぶるがたがたぐらぐらがくがく。
私は一体、何をしようとしていたんだろう。

死を選んだんじゃなくて、生を諦めた。
でもそれは――、死ぬことへの覚悟を決めたって訳じゃない。

死ぬってどういう事?
今考えているこの私が、消えてなくなるの?
私は、どこへ行くの?
どこにも行かないの?

まっくろな闇の中でまどろんでいるような感じ?
それとも、極楽って言われるように、これまでの亡くなった人すべてが集まる理想郷に辿り着く?
ううん、きっと違う。
そこにあるのは闇ですらない、完全なゼロ。
もちろん先に逝った人と永遠に穏やかな暮らしをする、なんて事だってありえない。

痛いのと怖いのが嫌だから、私は死のうとした。
確かに死ねば、痛いのも怖いのも0になる。

……でも、きっとそこには誰もいない。
私すらいない。
ハヤテくんだっていない。

ごめん、ハヤテくん。
あなたに会えるかもって理由で、さっきは命を捨てようとしたのに。


「私――、まだ、死にたくないよぉ」


…………、皮肉だなあ。

今度こそ助からないって、まさにその時になって気付くなんて。
226◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 16:06:08 ID:yxYmQEpk
知らないお兄さんが、馬乗りになって私の首をぎりぎりと絞め上げていた。
5たす5。
十本の指の感触が、私の喉に食い込んでくる。

気がついたら、もうこんな状態だった。

自分が死ぬって事がまるで他人事のよう。
だって、そう思ってないと心が砕けちゃう。
人の心って本当に難しいね、ハヤテくん。ついさっきまで私はあなたのいるそこを信じていたんだよ?
なのに今は、死ぬのが怖くて、怖くて怖くて、死んだ後の世界を信じられないよ。
ほんの上っ面だけでも信じられたら、ずっとずっと楽になれるのに。

あはは。
これで死んだ人の魂の集まる場所が本当にあったのなら、つくづく私はついていないなあ。
“神”様がほんとうにかみさまなら、そのくらい用意してるかも。

あはは、はは、は……。
私、都合のいい妄想ばっかりだ。ずっとずっと、最後まで強くないまま。

何かがこきりと鳴った。
目の前が薄暗くなってくる。
苦しくて息ができなくて辛くて、私の首から伸びたお兄さんの手首を必死で掴んだ。
ぎゅうっと握りしめると自分のとは信じられないくらい強い力が出る。
それに驚いても、手は勝手に動く。
お兄さんの手に私の爪がぶすぶすと突き刺さった。
血に濡れる感触が気持ち悪いけど、それでもお兄さんの力の方がずっと強い。

口から泡が出てきた。つばを飲み込みたくても出来ないんだ。
私の死体には首に手の形の青あざがついちゃうかも、なんてどうでもいい事を考える。
少しづつ、体の力が抜けていく。一緒に私の命も抜けていく。
考えられる量が少なくなってきて楽なはずなのに、苦しいよ……。
息ができないって、こんなに苦しかったんだ。

お兄さんは焦点の合わない目で、私でない何かを見つめている。
今にも泣きだしそうに震えてて――、どこか悲しそうに感じられた。
なんでかわからないけど、私を殺そうとする人なのにまったく憎くなんてなかった。

だから、私はぱくぱくと口を動かす。
何を伝えたかったのかは、分からない。

でも、声が出なくても、意識が朦朧としていても。
確かに私はお兄さんに何かを言ったんだと思う。

――本当に突然だった。
お兄さんは不意に、怯えた顔をして首から手を離した。

ごほごほと、咳が出る。
いきなり肺の奥に流れ込んだ大量の空気とつばが、苦しいぐらいに痛い。
痛いのに、胸を掻き毟りたいのに、体がそれを許してくれない。
もうやめてって叫びだしたいくらいに、パンパンになるまで勝手に息を吸わされる。

でも生きてる。
まだ私は――、生きてる。
227◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 16:07:03 ID:yxYmQEpk
お兄さんは呆然としながら、一歩、二歩と後ずさった。
頭を抱えてフラフラと掻き毟って、今にも風で吹き飛んでしまいそう。
そんな頼りない姿なのに、血の混じった痰を吐きだしたら、急に体中に戦慄が走った。
さっきまで体を委ねさえしたお兄さんが、急におぞましい化け物のように見えてくる。

「ひ、ぃ……っ」

まだぜんぜん覚束ないのに、お酒を飲んだお父さんのように千鳥足で逃げ出す。
走ろうとする。
早速転んだ。
膝小僧がずるりと剥けて、泥が肉に入り込んだ。けど立ち上がった。
また走り始めた。
すぐ転んだ。また、別のところが裂けた。けど立ち上がった。
後ろも見ず、お兄さんの動きも確認せず、とにかくここにいたくなかったから。
――私は、また逃げ出す。
森の道へと。逃げていく。
体中に擦り傷を作って、ぼろぼろになって。

……誰でもよかった。
私はガラガラに潰れた喉で助けを求め続けている。

「ヒナさん! ボンさん! 平坂さん! ブランドンさん! ハヤテくん!」

涙で顔をぐちょぐちょにして、喉に手形の青あざを作って。どんなにみっともない姿でも。

私は強くないから、素直に気持ちを吐き出してしまう。
ただ、死にたくないから。

「助けてよぉ……っ!」

その瞬間、目の前がオレンジ色に染まった。
花開いた炎と黒煙は――、本当に花火そっくりで、それが暴力の象徴だなんて思えなかった。

いつの間にか、私は空を飛んでる。
片方の耳が何にも聞こえない。
ただ、耳から首筋に血が流れてる感触がする。
鼓膜が破れたのかもしれない。

あ、爆発したんだ。

そう気付いたのは、地面に思いっきりぶつかってごろごろ転がった後だった。
なあるほど、といやに冷静にうなずく。
あのロボットもこうやって壊れちゃったんだ。
燃えていた服は泥にまみれたせいか次第に消えていったけど、繊維の燃える臭いが頭に響く。臭いよ。

寒い。
服が燃えていたのに、寒い。

何気なく頭に手を持っていってから目の前にかざすと、

べちょ。

「わあ、真っ赤……」
228◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/03(火) 16:07:56 ID:yxYmQEpk
火が消えたのは、泥のせいなんかじゃなかった。
泥に見えたのは、

「私の……血だぁ」

血で濡れたから、火は燃えなくなった。子供でも知ってる当たり前のこと。
なのに私は、濡れているのに全く気付かなかった。
口の中が鉄臭いし、自分の肉の焼ける臭いも気持ち悪い。
ぱちぱちと、まだ何かが燃えている音がする。
ちょっと酸っぱい血の味が、気持ち悪い。
見える世界は白っぽくて、強い光を見て麻痺しているんだって生物で習った事を思い出した。

なのに、体が何かに触っている感覚が全くない。
触覚だけがぶつっと途切れて、それが際立って、自分はもう壊れてしまったんだって強く思い知らされた。

「あは、あはは……」

ずたぼろで使い物にならない服が、血に浸した雑巾になっただけ。
なのに、なぜか涙がこぼれてくる。
私だって、女の子だもの。
ぜんぜん似合わないけど、褒めてくれる人ももういないけど、かわいい服とか大好きだもん。
こんな酷い恰好は嫌だった。
こんな酷い恰好で終わりだなんて、あんまりにも辛すぎた。

辛すぎて――、なんでか笑ってしまう。
おかしいな。何がおかしいんだろ。
ああそうか、私自身がおかしくなっちゃったんだ。

「あはは、あは、あは。あは……、あははははっ!
 あはっ! あははは、あははははははははっ!」

こんな終わりじゃ、さっきのお兄さんに殺してもらった方がまだましだった。
だって、そうすれば独りじゃない。独りで死んでいったわけじゃない。

こんな誰にも見つけられないような暗い森の中で、おかしくなって独り死んでいく。
それが私の、最期。

……死にたく、ないよ。
でも、生きたいわけでもない。
独りで生きたくなんてない。

「あはははっ! あはは、あは……は……は……、う、ぁは、はぅ、
 ……ぅ、う、う、ひ、ぁ……」

なんにもなかった私が、今更何を望んでいるんだろう。

「ひ、……ひっ、ひっ、うぇ……、やぁ、うっ、ぁ、やだぁ。
 やだよぉ、うぁぁああぁ、あぁぁぁぁ、わぁぁあぁ……っ!
 わぁぁあぁ、やだぁっ! やだぁあぁっ!
 わぁあぁぁぁああぁああんっ! うわぁあぁぁぁああぁぁあん!」

……笑い続けるのも限界だった。
自分が自分であんまりに痛々しくて、狂った演技さえ最後までできなかった。

結局私は――、おかしくなれるほどさえ、強くなかった。
229代理:Should Deny The Divine Destiny of The Destinies:2009/11/03(火) 16:52:39 ID:WqXfHLsv
ざり、と、まだまともな方の耳に砂の擦れる音が届く。
カタツムリみたいにゆっくりと首を曲げると、そこにはここに来て出会った人の顔が一つ。
相変わらず鋭くてすくんじゃう目だなあ、と。こころの中で密かに思った。

「ぅあ……、あ、ブランドン、さん」

呼びかけても返事はない。
血まみれの体を見ても、涙でぐちょぐちょの顔を見ても、表情一つ変えてくれない。
それでも、何を考えているかもわからない人だけど、一つだけは確かだ。

「良か……た、まだ、生きて、たん、ですね」

「脆いな」

上から悠然と見下ろされて、一瞬痛みや苦しみを忘れるくらいに圧倒された。
物凄い存在感に、押し潰されそう。
……それも当然か。
ブランドンさんはきっと強い人で、殺し合いにも慣れているのだろう。

「あは、死んじゃう、みたい……です、私」

けれど、最後の最後で少しだけ、ツキが回ってきたのかも。
嬉しいな。だって――、

「あ、の……お願、いです。私が、死ぬまで、見てて、ほしいん、です。
 独りは……、寂しいまま、で、死んでくのは、やだか、ら……」

そういうの嫌いだってなんとなく分かりますけど。
そう言おうとして、もうまともに口が動かないのに気づいた。

この人はきっと冷徹で恐ろしい人で、もしかしたら平坂さんが言っていたみたいに、悪い人でもあるかもしれない。
でも、だけど、決して救いのない人ではないんじゃないかって思う。
役立たずで足手まといのはずの私を、完全に無視しきってはいなかったんだから。

ゆっくりと、何も言わず。ブランドンさんは手を掲げていく。

「…………」

ブランドンさんの手が、歪んでいく。
目の錯覚かと思ったけど、そうじゃない。
――まるで天使の羽のように、腕の中からいくつものいくつもの刃が創り出されていく。
一枚一枚の煌めきが、まるで星のようだった。

「綺麗……」

……ありがとう。って、うまく言えてるかな。
楽にしてくれるんだって、なんとなく気付いた。


最後が一人でなくって、よかった。


***************
230代理:Should Deny The Divine Destiny of The Destinies:2009/11/03(火) 16:53:20 ID:WqXfHLsv
どこでもない虚空を見つめたまま、カノン・ヒルベルトは頭を抱えて震えている。

「……今。僕は、何を……して、いた?」

途切れ途切れに、口を動かすことすら覚束ず。
まるで冷たいプールに放り込まれた時のように、ガタガタと歯の根がぶつかり合って落ち着いてはくれない。

誰が信じられることだろうか。
こんな捨て猫のような表情でうずくまっているのが、翼ある銃と呼ばれ、全てのブレード・チルドレンの中でも最強と謳われた男だと。

カノンの精神はもはや崖っぷちに立たされている。
……いや、そんな余裕のある状況じゃない。
崖の端っこに手をかけて、どうにか腕一本で奈落に落ちないよう踏ん張っているというべきか。

なにもしてないのに、と、あの女の子は呟いた。
そのおかげで正気に立ち返ることができたのに、自分の行動が原因で怯えた彼女は、文字通りの地雷原に突っ込んでいってしまった。
自分はその間ただ呆けていただけで――、結果起こったのは身も蓋もない爆発だ。
自分が殺したのだ。
殺したのだ。
殺したのと同じ事だ。

助かった見込みは、極めて低い。
だって、今も隣に転がっているカラクリ人形を破壊できるほどの威力なのだ、あのトラップは。
爆発音や目に見えた爆炎、火薬の臭いから、カノンの戦場での経験はまず助かるまいと断言している。

いやいや待て待て。
彼女は、ブレード・チルドレンの可能性が存在した。
だから彼女が死んでも、自分の“ルール”には抵触しない。

そうだ、そうだ!
失礼ながら女の子とはいえ触診させてもらった時、肋骨が一本足りなかったじゃあないか!

「……そうだ、ブレード・チルドレンだ。あの子はブレード・チルドレンなんだ」

何度も何度も、誰かに言い聞かせるように穏やかな口調で繰り返す。
……誰に?
そんな事は言うまでもない。
けれどもカノンは、そうせずにはいられない。

だって、彼女の名前も容姿も、カノンの知る如何なるブレード・チルドレンにも該当しないのだから。

彼女を調べた時に制服から零れ落ちた生徒手帳に記された名は――西沢歩。
何にも知らない、巻き込まれただけの、ごくごく普通に幸せな人生を送るべき少女にしか見えなかった。

分かっている、彼女がブレード・チルドレンである可能性が極めて低い事なんて。
自分たちと同年代で、肋骨の感触が一本足りなかった。
疑う理由はそれだけで、難癖と言っても過言ではない。
でも、そんな理由だけで今の自分を殺人衝動に駆らせるには十分すぎた。

薄っぺらい思い込みと理解していてそれに縋るのは、予感がするからだ。
もし自分が“ルール”を破っていたのなら、蜘蛛の糸が千切れるのにかかる時間はあまりに若い――と。
きっとそのままあたまのなかのたいせつななにかが弾け飛んで、自分が最も忌み嫌い恐れる殺戮者に堕ちてしまう。
231代理:Should Deny The Divine Destiny of The Destinies:2009/11/03(火) 16:54:07 ID:WqXfHLsv
ぼう、と少女の落としていったデイパック、その脇に落ちた名簿に目を落とす。
いくつかの名前が真っ赤に染まっていたが、カノンが手に取った瞬間それらは消えてしまった。
代わりとでもいうかのように、西沢歩、と、その名前だけが血の色へと変わる。

「……っ!」

赤い色の名前の意味は、何となくだがわかってしまう。

もう、限界だった。
彼女がブレード・チルドレンである保証が欲しい。
ブレード・チルドレンの中でも年長であるこの自分にも知らないブレード・チルドレン。
そんな都合のいい可能性が存在するのだろうか?

存在する。

カノンは、その可能性を知っている。

名簿の片隅に、その可能性はしっかりと鎮座していらっしゃる。

「“ミカナギファイル”だ……」

セイバー・ハンター・ウォッチャーのいずれの勢力にも所在不明となった13名のブレード・チルドレン。
その行方や個人情報を記し、『オルゴール連続殺人事件』の発端となった禁断の果実“ミカナギファイル”。
その“ミカナギファイル”を受け継いだ所持者が、この殺し合いにも招かれている。

浅月香介。

彼こそが、雨苗雪音より託された“ミカナギファイル”の後継者。

もし“ミカナギファイル”の中に西沢歩の名前がなければ、その時は――、

「浅月に僕を殺してもらおう」

ルールを破ったことを理解してからスイッチが入るまでのわずかな猶予。
だが、浅月ならばその刹那とも呼べる隙に自分を仕留めることは不可能じゃないだろう。
亮子には申し訳ないが、彼女にはできないことでもある。

ブレード・チルドレンの皆殺しを宣言しておいて、ブレード・チルドレンに引導を渡してもらう、なんて虫のいい考えだ。
けれどもうそれしか頼れるものはない。
目標を全く達成できてないのは心苦しいが、それでもただの血に飢えた獣と化すよりは――、


「人間として、兄弟の手で死にたいんだ」

それはきっと、誰にも看取られない獣の死よりもずっとしあわせなこと。




運命はそこまで優しくなんてないけれど。


【H-5/山道入り口/1日目/午前】
232代理:Should Deny The Divine Destiny of The Destinies:2009/11/03(火) 16:54:50 ID:WqXfHLsv
【カノン・ヒルベルト@スパイラル?推理の絆?】
[状態]:潜在的混乱(大)、精神的動揺、疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、“スイッチ”入りかけ
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×16、パールの盾@ワンピース、五光石@封神演義
[道具]:支給品一式×3、不明支給品×1、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない……?
0:浅月を、探そう。
1:浅月香介から“ミカナギファイル”を訊き出し、西沢歩の名と照会する。
2:歩を捜す為に、神社に向かう。(山道は使わない)
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか―――?
5:マシン番長の残骸から使えそうなパーツを回収したい。
[備考]
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※思考の切り替えで戦闘に関係ない情報を意識外に置いている為混乱は収まっていますが、きっかけがあれば膨れ上がります。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
 戦術を考慮する際に利用する可能性があります。

***************


どこでもない虚空を見つめたまま、ミリオンズ・ナイブズは腕を組んでただ静かに息を吐き出す。

「俺は、何をしている……?」

……自分の行動が理解できない。
わざわざ死にかけた人間一匹の為に、時間を無駄に使ったなどと。
放っておけば勝手に死ぬだろうに、わざわざ手を煩わせたとはどういう了見なのだろうか。
単なる気まぐれと片付けるにはいささか干渉しすぎた。
それも、残り少ないプラントの力を用いてやる――など、自分のことながら正気の沙汰とは思えない。

……這いつくばって苦しんでいたから楽にしてやろうとでも考えたのだろうか?
人間相手にそんな慈悲が浮かんだとは、全く、弟に毒されすぎている。


『私ノ『正義日記』ノ告ゲル未来ニ間違イハナイ!
 今カラ貴様ヲ倒ス我々コソガ勝者デアリ、正義ナラバ。
 我々ニ倒サレル敗北者ノ貴様は間違イナク、悪ッ!
 引導ヲ渡シテクレルッ!』

『私ガ倒スノハ悪ダケダ! 私ノ未来日記『正義日記』ニAM2:43ヲ持ッテ貴様ガ悪トナルト予知ガデタノダ。
 ダカラ、ソノ前ニ貴様ヲ倒ス!』


ああ、成程と嫌々ながら納得する。
道化者のほざいた通り敗北者が悪というならば、まさしくあの時、AM2:43を以って自分は悪となったのだ。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードがこの場に招かれていると確信したその時に。
233代理:Should Deny The Divine Destiny of The Destinies:2009/11/03(火) 16:55:31 ID:WqXfHLsv
「なんで……私、生きてるの?」

――ほんの少しだけ馬鹿な戯言につきあってやるなどと考えてしまう程度に。
弟に負けたことを、あらためて認めてしまった。

傷一つないからだでこちらの方を唖然と見ている少女を完全に無視して、ナイブズはそれでもやはり眉をしかめる。

LOVE & PEACEを唱える気は更々ないが、ヴァッシュならばあの場面で少女を放っておくことはしないだろう。
そんな事を思ってしまい、魔が差したのだ。
最後の戦いでヴァッシュの胸を貫いた、即死確定の致命傷を塞いだ時のように――、

プラントの力を用いて、傷を癒した。
あるいは少女の独りは嫌だという嘆きが、またも誰かの言葉と重なったのが原因だろうか。

ナイブズを……、孤独(ひとり)にしないで。

そんな台詞を聞いた事などなかったのに、あたかも耳元に語りかけられたかのよう。
確かに“彼女”はそう誰かに託したのだと、生々しく“彼女”の声で再生された。

気まぐれはそこまでだ。
後の事は知ったことではない。

戸惑いと混乱を含んだ目で、ボロボロの服―服の体はもはや整っていないが―を着た少女はナイブズの方を向き続けている。
何を尋ねればいいのか、そもそも尋ねるという行為すら許されるのかも分からず、意味もなく手を上げては下げての繰り返し。

これ以上付き合っても時間の無駄だ。
そう判断して背を翻すナイブズに、慌てた様子で少女は声をかけることにした。
内容は何でもよかった、そう、例えば姿の見えない同行者について。

「平坂さんは、どうしたんですか?」

「始末した」

「……っ」

びくりと怯えを露わにし、少女はそのまま動きを止める。
だけど疑問は尽きないようで、目をつぶったまま何事か口にしようとして……呑み込んだ。
なぜ自分を生かしたのか、聞きたくて踏みとどまったといったところだろうか。

まあ、それを聞かれてもナイブズ自身にもよく分からないのは確かだ。
いちいち返事をする義理もないし、無駄口を叩くつもりもない。

少なくとも言えることは、今回の事はこの少女の為にやった事などでは決してない。
ヴァッシュという存在と彼に敗北したこと。その2つに対しての何がしかの想いが引き起こした奇行なのだろう。

少女は明らかに自分に恐怖している。
その事に何の感慨もなく、ナイブズは早々に立ち去ることを決めた。
この後少女が生き恥を曝そうが垂れ死のうが、それはナイブズとは無縁の話なのだ。
……だと、言うのに。

「ブランドンさん。恩返し……させてください」

少女ははだけかけた服を抑えて、とことことハムスターのように後ろをついてくる。
その表情には確かに理解できない存在への畏れと不信が渦巻いているのに、だ。

「私、死にたくないだけだけど。もう生きる目的なんてなくなっちゃったけど。
 それでも命を助けられたのは、事実だから……」

嘘ではないのだろうが、上っ面の体のいい綺麗事だ。
ナイブズはその眼の奥に存在するのが、
『単にこれからどうすればいいのか分からないから、とりあえずついていく――』
なんて雛鳥のような未熟な思考でしかないことを見通している。
少女の目は、それだけ空虚な代物だった。

返答はここにきて出会ったときとまったく同じだ。

「好きにしろ」

どうせ自分の周りにいれば戦いに巻き込まれる。
死に場所がそこでいいというのなら、自分が口を出してやることもない。

その時だった。

『Tough Boy! Tough Boy! Tough Boy! Tough Boy!』

女のがなり立てる騒音が、二人の耳に届いてきたのは。
はっとして少女がそちらの方を振り向いてみれば、目に届くのは信じられないほどに大きいけれど見た事のある誰かの姿。

「ヒナさんの、お姉さん……?」

一瞬全ての状況を忘れてきょとんとするも、訳のわからない馬鹿をやらかす友人の姉がどれだけ危険な事をしているのかをすぐに悟る。
……想い人を失い、姉さえ亡くした友人の悲嘆にくれる姿が、少女の脳裏に浮かぶ。

いてもたってもいられなくなった。
だから少女は、ナイブズの方に一歩踏み出す。

「……あの、ブランドンさん」

「ナイブズだ」

え? と聞きなれない単語を耳にして立ちつくす事数秒。
ようやくそれが彼の名前なのだと気づく。

「勘違いするな、別に貴様の為などではない」

そう呟いたナイブズは少女の方を見ようともせず、すでに天をも覆う人影の方に歩み出していた。

「お人好しの弟がまた進んで馬鹿を見ようとはしていないか、確かめてくるだけだ」


【H-6西端/森林/1日目/午前】
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行
[服装]:普段着にマント
[装備]:金糸雀@金剛番長
[道具]:支給品一式×2、エレザールの鎌(量産品)@うしおととら、正義日記@未来日記、
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:……俺は何をしている?
1:騒いでいる馬鹿2人にヴァッシュが引き寄せられる可能性があるため、デパート方面に向かう。
2:デパートに向かったという妲己とやらを見極め、ヴァッシュを利用しかねないと判断したら殺す。
3:首輪の解除を進める。
4:搾取されている同胞を解放する。
5:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
6:レガートに対して――?
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約4回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※朝時点での探偵日記及び螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。

【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康、無気力
[服装]:焼け焦げた制服の残骸、血塗れ、ストレートの髪型
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:死にたくないけど、生きる目的もない。一人でいたくない。
0:ハヤテくん、まだ死にたくないよ……。
1:ナイブズとその力への恐怖と恩義。
2:デパート方面に向かって、ヒナギクの姉と合流したい。
3:孤独でいるのが怖い。
4:恥ずかしいので、できれば着替えたい。
[備考]:
※明確な参戦時期は不明。ただし、ヒナギクと友人になった後のどこか。
***************


1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:5?)
 1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
 スレタイ通り、人探しや待ち合わせの呼びかけをするためのスレです。
 どこで敵の目が光っているか分からないので、利用する際にはくれぐれも気をつけて!

 2 名前:厨二病な名無しさん 投稿日:1日目・朝 ID:NaiToYshR
 書き込みの確認を行う。

 3 名前:ブレードハッピーな名無しさん 投稿日:1日目・朝 ID:NaiToYshR
 かつて道を別った俺の片割れに聞く。あの砂漠の星を離れ、お前は今、何処にいる?

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 4? 名前:ゲンスルーな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:NaiToYshR
 妲己って女が腕に自信のある奴を集めてる。あんたらの探し人もあいつに近づくかもしれねえ。
 だが、あいつは厄介だ。警戒しとけ。

 5? 名前:Legato Bluesummers 投稿日:1日目・午前 ID:NaiToYshR
 ナイブズ様がつい先ほどまでここにいらっしゃったことをこの肌で感じています……!
 僕に忠誠を示す機会をお与え下さい。
 すぐにでもナイブズ様の下へ馳せ参じ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードをはじめとする御身の敵を必ずや葬って御覧にいれます。


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2:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど(Res:3?)
 1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
 殺し合いのゲームに巻き込まれたのなら、危険な人に襲われたり、裏切られたりすることも多々あります。
 ここはそんな危険人物に関することを書き込み、注意を促すためのスレです。
 もちろん、扱う話題が話題なので、書き込まれたこと全てを鵜呑みにせず、
 詳しいことを質問するなどして、特に慎重に真偽を判断するようにしてくださいね。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 2? 名前:キラークイーンな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:NaiToYshR
 妲己には注意しろ。隙を見せたら平気で人質やモノ質を取ってくるぜ。
 単純な戦闘能力も多分ヤバい。始末できる実力者なら早々に始末しといた方がいい。

 3? 名前:ニアデスハピネスな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:NaiToYshR
 ふざけるなよ畜生畜生ちくしょぷなんだよなんあんだよこいつはかrらだだが勝手にうgおいてきnkにくがねじmがあっr1stこんおレgアーtってきtガイニハ気をちゅk
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しとしと、ぽたぽた。
しとしと、ぽたぽた。
しとしと、ぽたぽた。

リノリウムに紅の雫が僅か一瞬の王冠を作り出す。

壁にはおおきなおおきなあかいはな。
真っ赤な花が、咲いていた。

ううん、咲いているんじゃない。
実に見事な大輪の押し花が作られているのだ。

原形を留めないほどに叩き潰され広がった命の残骸は、かつて2本の根っこと2本の枝と一つの果実と、
それらをつなぐ幹に分かれていたとは俄かには信じられないだろう。
それだけ細かく薄皮の裏側から何もかもがミンチになっていた。
べっとりとへばりついたそれは、人間一人分の重さがあるのに一向にずり落ちる様子を見せない。
信じられない力でぎゅうぎゅうに叩きつけられたのだろう。
未だに電源が付いたまんまのPCの画面、その向こうの『探偵日記』とメールソフトは黄色とピンクの何かと赤い汁にお隠れ遊ばされている。

「あの方が貴様のような人間と――虫ケラと“取り引き”をしただって?」

圧倒的なまでの、暴力。
絶対的なまでの、狂信。

「口を慎め。小人如きがあの方と対等であるような戯言をさえずるだなんてね。
 生かしておくにはどうにも許しがたい……否。万死億死兆死――京死を以っても償えない重罪だ」

戦場を潜り抜けて得た経験も、一夜漬けで得た人外の力も。
口にするのもおぞましいなにかの前では、日の目を見ることさえ認められなかった。

その男は、自らの両手を眺めながらぶつぶつと独り言をつぶやいている。

僕ですら、あの方に認めてもらえた事などないというのに。
絶大なる忠誠を持ちながらも、一度として顧みて貰えてすらいないのに。

「もしあの方が僕以外の人間を認めることがあるとしたら。
 僕は、それを見て僕でいる自信がない」

先刻ようやく拾った己の得物を両の指で弄ぶ。
数はこれで計五本。
ただ、自分に課された制限により、同時に4人も操れば精度も持続時間も本来のそれに比してみすぼらしいことこの上ないだろう。
せいぜい数秒足を止める程度だろうか。

だが、それで充分だ。
己の忠誠こそが、何人たりとも防ぐ事叶わない唯一無二の鉄槌となるのだから。

レガート・ブルーサマーズは誰にも知られることなく恍惚を得て――、

ただ、嗤った。


【雨流みねね@未来日記 死亡】
【F-05地下/研究棟/1日目/午前】

【レガート・ブルーサマーズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:全身にダメージ(小)、左拳骨折(応急処置済み、能力で動かせる)、異能の者たちへの興味と失望
[服装]:
[装備]:単分子鎖ナノ鋼糸×5@トライガン・マキシマム FN P90(50/50) パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、FN P90の予備弾倉×1、メモ爆弾、不明支給品1(武器ではないようです)
    拡声器、各種医療品 機関銃弾倉×2 ロケットランチャー予備弾×1
[思考]
基本:ナイブズの敵を皆殺しにし、ナイブズに自分の忠誠の強さを知ってもらう。
1:ヴァッシュ・ザ・スタンピードを探して殺す。
2:ナイブズを探し、合流する。
3:未知の異能を警戒。
[備考]
※11巻2話頃からの参戦です
※自分に使用している単分鎖子ナノ鋼糸が外れると、身動き一つできなくなります
※単分子鎖ナノ鋼糸の相手へ使用する際の最大射程は、後続の書き手さんにお任せします
※自分の技能の制限内容に気付きました。精度や効果時間は操る人数に反比例します。


※みねねが朝に『探偵日記』の管理人に向けてメールを送った痕跡がありますが、その内容は不明です。
239創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 17:01:57 ID:WqXfHLsv
以上で投下終了。
>>501からのタイトルは『The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew』です。

作中の掲示板でのレス番号に?がついているのは時間帯上別の作品で書き込みが生じる可能性があるからなので、
一通りキャラの行動時間帯が出揃ったら修正します。

アライヴネタは出し渋らずもっと早く書いておけばよかったかも、まあ一応この時間帯ではまだこーすけは存命中ではありますがw


代理投下終了
というわけで、タイトルは>>230からが『The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew』です。
ミスして申し訳ない
240創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 17:21:42 ID:yxYmQEpk
投下&代理投下の続き乙です。

前半のやりとりはほぼ予測の範囲内、カノンの動揺も予想通り……と思ったらみねね様死んだぁァァーー。
レガート容赦ねぇ。

ナイブズの死亡フラグが着々と積み重なってる気がする。
そしてシリアスぶちこわしにすんな雪路w


気になった点を二つ。

・みねねとレガートが研究棟に入ったときにカードキーが必要だったはずだが、状態表にそれが無い。
 (カードキー以外の方法で入ったならその描写が必要)
・カノンが手に取った名簿の赤文字が消えているが、これは以前の描写に矛盾する。
 (エドがアルの死を知らない状態で名簿を手にしたときには名簿の名は赤いままだった)
241創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 17:27:37 ID:WqXfHLsv
感想と指摘をば

冒頭の血なまぐさいマリみてネタでワロタ
妲己情報を手に入れたナイブズ
危険な対主催二人が潰し合うか?

みねねのなんという本編とのシンクロシニティ
本編で腕がなくなったらこちらでも腕がなくなり、本編で死んだらこっちでも死んだ!

レガートは武装充実……ついに金属糸まで。
サラマンダーになりそうだなと思っていたけどキルスコア1を稼いだか。
掲示板にしっかり名前書き込んでるのにワロタ

そしてまた一人女の子の服が脱げたー!

指摘
研究棟は侵入にカードキーが必要なので、みねねが入るには爆破でもするしかないと思うんだけど
さすがにそこまでされたらナイブズも無視というわけにはいかんのでは?
侵入するならまずは医療棟からだと思うし。

あとナイブズの回復能力
これは原作でナイブズが生まれなおしたように、プラント同士の間でしか通用しないものなんじゃないかなぁ
ロワ的にも回数制限ありとはいえ、瀕死の人間を完全な健康体まで戻せるのはどうかと…

とはいえ、良くわからん能力なのでこのままでもいいかもしれませんが。
西沢さんに死んでほしくないしなぁ。
242創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 17:31:13 ID:WqXfHLsv
おっとダブったか
主観に反応しはするけど、一端赤く染まった文字はそのままって事かな
可逆性はなしと。
243創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 18:27:20 ID:5w9nOpXx
西沢さんは、作中では雪路に会ったことないはず。
西沢さんの家庭教師=雪路という説があるぐらい雪路と西沢さんの関係は原作でも謎に包まれている。
少なくとも、ヒナさんのお姉さんという表現はない。
244創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 19:18:58 ID:WqXfHLsv
ああ、あと一つなんか忘れてたと思ったらそれだな
ギターやってた頃の話だから今の雪路見てもわからんかもなぁ
原作でもまだ踏み込んでない領域だし、ここはあんまり反応させないほうがいいかも。
なんか騒動の種っぽいイベントキター→ヴァッシュがくるかもしれんから行ってみるか
みたいなノリでどうか。

しかし原作といえば、連載中の作品みんな凄いことになってきてるなw
245創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 19:31:59 ID:yxYmQEpk
ナイブズの回復能力については、無からリンゴの樹を生み出せるならそのくらい出来てもいいかな、と。
終盤のナイブズはほぼ完璧にプラントの力を使いこなしてますし。

原作は確かに色々面白いことに。
未来日記は花子と寓話のテラーの作者だけに何が起こるやらw
ハヤテはハヤテで「神になり損ねた云々」とか、「え?それロワで使えってこと?」な設定が。
ワンピースは漫画史上に残る超大乱戦。
鋼は完全に佳境に入ってそろそろ全ての真相が明らかになりそうな雰囲気。
246創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 19:49:23 ID:R90PqUFt
投下乙
みねねここで死んだか・・・その状況で書き込むなw
原作読んだことないけどレガートの狂信ぶりは変態の領域だな。名前欄は書き込まなくていいんだよwww
247創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 19:54:43 ID:WqXfHLsv
剛力や聞仲みたいな耐久力持ちにそれやられると首輪爆破→治療→解除みたいな事になりそうだけど
性格的にそう簡単に人の為に力使わんだろうしまぁ大丈夫かな。

個人的には人間の治癒は無理だと思うけど……出来ないと決めつける事も出来ないからな。

じゃあ修正ポイントは
・カードキー
・名簿
・雪路への西沢さんの反応ということでお願いします
248 ◆L62I.UGyuw :2009/11/03(火) 23:50:28 ID:yxYmQEpk
対策無しに首輪爆破は即死だから大丈夫かと思います。

ではゾッド、Mr.2 ボン・クレー、柳生九兵衛を投下します。
249F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw :2009/11/03(火) 23:51:46 ID:yxYmQEpk
ノイズの乗った銃声。
女の言葉が不自然に途切れ、後には静寂だけが残った。
異常事態。
人智を超えた力を持つ『神』の陣営。そこに入った僅かな亀裂。
これを好機と捉えるか、さらなる困難と捉えるかは人それぞれだが――彼ら二人にはその事態は大した影響を及ぼさなかった。
理由は至極簡単。直前に、そんなことを気にする余裕は二人から失われていたからだ。



「麦ちゃん達が、死ィんだですって? ジョ〜ダンじゃなーいわよーう……」

実感など湧かない。湧く訳がない。
笑い飛ばそうとして、しかしその語尾が力無く消えた。

忘れるはずもない。麦わら海賊団。その船長とコック。
彼らとは、国を二分する内乱で、敵同士として死闘を演じたのだ。
そして紆余曲折の末――何の因果か友情を育んだ。
共に戦った時間はほんの僅かではあるが、彼にとってそんなことは些細なことだった。
正しく彼らは彼――Mr.2の親友だったのだから。

その彼らが――死んだ?



「新八君……」

実感など湧かない。湧く訳がない。
知らず半開きとなっていた形のいい唇から、既に意味を失った名が零れ出た。

忘れるはずもない。妙の唯一の弟。志村新八。
彼とは、柳生家での騒動で、妙を巡って死闘を演じたのだ。
そして紆余曲折の末――何の因果か友情を育んだ。
深く関わったのはたった数度ではあったが、彼女にとってそんなことは些細なことだった。
正しく彼は彼女――柳生九兵衛の親友だったのだから。

その彼が――死んだ?



二人は工場を目前とした森の中で、地図と名簿を手に呆然と立ち尽くしていた。
目に沁みる空の白。木々のざわめきと朝を告げる鳥の声だけが森に響いている。

「……ボケっとしてる場合じゃ……ナッスィンッッ!」

沈黙を破ったのはMr.2。
ギュンと音を立ててその場で回転。
そして、がっしりと、まだ放心したように空を見上げている九兵衛の両肩を掴んで告げる。

「いいこと? よく聞きなサイ。たったの六時間で十六人よ? ジュ〜〜ウロク人。
 事故や自殺なんかで死ぬ人数じゃな〜いわ。皆を殺して回ってる連中がいるのよう。
 つーーまり、こんなトコでの〜〜んびりしてる間にも、ドンドンこの数は増えていくっっっってことよーう。
 妙ちゃんを護るんでしょーう? だったらこんなところで落ち込んでるヒマなんて無いんじゃナ〜イ?
 後悔なら後でいくらでも出来るわよう。だから、今は前を見なきゃダ〜〜メよーう」

励ます彼の目にこそ、光るものが浮かんでいるように見えるのは気のせいだろうか。
しかし実際、彼の言は正しい。もしかしたら九兵衛がここで呆けている間にも、大切な人が危険に晒されているかもしれない。
事態は刻一刻と動いているのだ。
九兵衛の、どこか気の抜けていた瞳に、すっと意志が戻る。
250F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw :2009/11/03(火) 23:52:36 ID:yxYmQEpk
「ああ……すまない。その通りだ。ボンちゃんだって辛いのに、な。
 ありがとう。目が覚めたよ。
 妙ちゃんを絶対に救い出す。それが――僕の出来る新八君への最大の弔いだ」

彼女らしく、素直に感謝の言葉と決意を述べる。

「ようし! それでこそあちしのダチだわ。
 でも焦るのもダ〜〜メよーう。こういうときこそ冷静にねい」

Mr.2の提案で、二人は改めて名簿を確認する。
知った名があれば今後の方針もいくらか変わってくるというものだろう。

「ふ〜ん。変な名前が多いわねい」

名簿に目を落としてすぐ、自分を棚に上げた発言をするMr.2。
事実奇妙な名は多いし、一般的な日本人の名は彼から見れば珍妙に映るのだが――Mr.2自身、彼の世界の基準ですら『変な名前』である。

「あ、九ちゃん、ニコ・ロビンって女には注意した方がいいわよーう。
 バロック・ワークス社が滅んだ今、この女がナ〜〜ニを企んでるか分かったもんじゃないわ。
 他には……うーん、あちしの知ってるヤツはいないみたいねい」
「妙ちゃんと新八君の他に僕が知っている人は……坂田銀時と沖田総悟の二人だな。
 この二人は信用出来る。二人とも仲間のために柳生家に正面から乗り込んできた真の侍だ。
 彼らなら、他人を蹴落として一人だけ生き残ろうなんて汚い真似は絶対にしない。
 それで、ボンちゃん。……さっきの爆発の原因を調べたら、僕は妙ちゃんとこの二人を捜そうと思う。
 これは僕の我侭だから、ボンちゃんは――」

九兵衛の言葉を遮り、Mr.2が大きく口を開いた。

「ガッハッハッハ! 今更な〜に水臭いこと言ってんのよう。
 ダチのダチはやっぱりダチに決まってんでしょ。
 あちしもモチロン協力するわよう」
「……かたじけない。それじゃあ――」



ふ、と。
二人の周りが翳った。

「上だ! ボンちゃん!」
「分〜〜かってるわよう!」

鋭く叫ぶと同時に、互いに正反対の向きに飛び退く二人。
地響き。
森が揺らぎ、鳥が一斉に羽ばたいて逃げる。
上空から高速で落下してきた影が、一瞬前まで二人のいた地点に小さなクレーターを作った。
立ち込める土煙。

「いい反応だ……。こうも次々に強者と巡り会えるとは、今日はなんと良き日か。嬉しいぞ」

クレーターの中心で、蹲ったままの黒い獣が静かな、それでいて暴力的な声を発する。

「不意打ちとは穏やかではないな」
「いきなりな〜〜んのつもり?」

獣を挟む形で、険しい表情の二人が向かい合う。
揺さぶられた木々から、はらはらと幾千枚もの葉が降り注ぐ。
葉の雨の中で、九兵衛は片手で羽を模した剣を構え、Mr.2は片足を上げたバレエダンサーのような奇妙なポーズを取っていた。
251F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw :2009/11/03(火) 23:54:01 ID:yxYmQEpk
ゆっくりと立ち上がる巨獣の右腕には斬撃、左腕には打撃の痕。
交錯の瞬間に放たれた二人の攻撃を腕で受けたのだ。

土煙が晴れていく。
闇を纏った分厚い巨体。鋭い爪。赤く濡れた牙。そして天を衝く一本角。
重機を思わせる両の腕には、業物の刀と槍とがそれぞれ握られている。

「何のつもり、だと? 知れたこと! 闘争こそ我らが掟! 死こそ我らが糧!
 強者が弱者を屠るに理由など要らぬ!
 さあ、人間共よ。死を逃れたくば――見事このオレを倒してみせよ!」

人間のゆうに数倍はあろうかという巨大な悪魔が、蝙蝠のそれに似た巨大な翼を広げて叫んだ。
大気が戦慄く。地が震える。氷点を遥か下回る敵意が暗黒の渦を成し押し寄せる。

『不死のゾッド』

歴戦の勇士をも震え上がらせるその堂々たる威容を仰ぎ、しかし二人は冷静だった。

「ボンちゃん、これも――この姿も、悪魔の実の能力、なのか?」

もしMr.2の知っている能力ならば、少しは戦い易くなるだろう。
そう期待して九兵衛は声を掛ける。しかし、

「こいつは……動物系の悪魔の実の能力かしらねい? でもあちしはこんなの聞いたコトなーいわよう。
 もしかして……これが古代種――それか幻獣種ってヤツなの?」

どうやら――ゾッドは悪魔の実の能力者ではないのだから当然ではあるが――Mr.2は知らないらしい。
だが、場の全てを圧倒する異質な存在感。嬉々として闘争を望む好戦的な姿勢。
そして何よりも、対峙しているだけで全身の肌が粟立つ絶対的な殺意。
その能力の詳細がどうあれ――強敵であることだけは間違いない。

じり、と慎重に間合いを測る二人。

一陣の風が二人と一体の間を奔り抜け、地に落ちた葉が舞い上がった。

二人を睥睨していたゾッドが焦れたように動き、

「どうした。来ないのか? ならば――オレから行くぞ!」

地を蹴った。
島を震わす咆哮を上げ、Mr.2を轢き殺さんばかりの勢いで迫る。

「アァンタ! ナ〜〜メンじゃな――――いわよ――――――う!!」

迎え撃つMr.2。
黒い暴風と化したゾッドの動きを見据え、

「アァン!」

腹を狙った槍の一撃を、身体を捻り回避。

「ドゥ!」

その勢いを利用して正面からゾッドの顔面に回し蹴りを叩き込んだ。だが、

「クルァッ?!」
252F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw :2009/11/03(火) 23:55:04 ID:yxYmQEpk
突進の勢いは殺せたものの、反動で軽々と吹き飛ばされて木に激突。
人の胴ほどもある幹がメキメキと音を立てて折れていく。

「ボンちゃん!」

風を纏い駆ける九兵衛が、ゾッドの背後――遥か射程外から剣を振るった。
その途端、剣から幾筋もの風の刃が生まれ、舞い散る葉を次々と斬り裂きながらゾッドに襲い掛かる。

「フン。下らぬ!」

だが風の刃はゾッドの振り向き様の一閃で消滅。

「死ねぇい!」

返す刀で間近に迫った九兵衛の無防備な胴を薙ぐ。
間合いが近過ぎるため刀は当たらない。それでも破城鎚の如き腕が胴に直撃すれば内臓という内臓が全て砕けることは確実。
だが凶器が九兵衛の身体を捉える寸前――彼女の姿がゾッドの視界から掻き消えた。

「ハァッ!!」

裂帛。
ゾッドの右脚から鮮血が噴き出す。

「ヌゥ!?」

片膝を突くゾッド。九兵衛はいつの間にかゾッドの背後へと抜けている。

ゾッドの反撃を予期していた九兵衛は、ゾッドの前で止まるのではなく、重力に任せて身体ごと沈み込み加速。
そのままゾッドの股を潜り抜けつつ脚を斬りつけたのだ。

「ボンちゃん、大丈夫か!?」

折れた木の横に倒れるMr.2に駆け寄る九兵衛。
Mr.2は痛みを堪えながら無理矢理笑顔を作って脚に力を込める。

「だ、だ〜いじょうぶよう、これくらい……。ちょ〜〜っと、背中が痛いけどねい。
 ……それにしてもアイツ、とんでもない馬鹿力じゃな〜〜〜〜いかしら? このあちしが力負けするなんてねい。
 九ちゃん、アンタは絶っっっ対にアイツの攻撃を受けちゃだめよう?」
「ああ、分かっている。僕の力じゃあの攻撃は止められない。
 一撃でもまともに食らったら――僕の命は無いだろうな」

Mr.2の無事を確かめると、九兵衛はゾッドに向き直った。

「それにあのデタラメな頑丈さ……。今のは脚を斬り落とすつもりで剣を振り抜いたというのに……」

至近距離からの風の刃を集中させた斬撃でも、脚の肉を抉った程度に留まっている。
そしてその裂傷すら特に気にならぬと言わんばかりに平然と体勢を立て直し、巨獣は二人をねめつけた。
Mr.2の額に脂汗が一筋。

「ショージキ、分が悪そうだわねい……だけど」
「フ、フハハハハハ。よもやオレに膝を突かせるとは、な。
 素晴らしい、実に素晴らしいぞ!」
253F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw :2009/11/03(火) 23:55:46 ID:yxYmQEpk
仕切り直しとばかりに、再び漆黒の翼を大きく広げるゾッド。
その顔は歓喜に満ち満ちている。

「……逃がしてくれそうもな〜〜いわねい。
 しゃーないわ。腹括るわよう! オカマの意地、見せたらァ!」
「どの道、こんな化け物を放置しておく訳にはいかないな。こいつは――ここで倒す!
 ――行くぞ、ボンちゃん!」
「おうよ、九ちゃん!」

地を踏み締め、九兵衛とMr.2が本気の構えを取る。
理不尽なまでの暴力、『恐怖』そのものともいうべき魔獣を前に、二人はまるで臆さない。
彼らの双眸に不退転の決意を秘めた力強い光が宿る。

「そうだ! うぬらの活路は背後に在らず! 我が屍の先に在ると知れ!!」

魔獣は吼え――――、そして三つの影が同時に地を蹴った。



「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」」」


254F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw :2009/11/03(火) 23:57:14 ID:yxYmQEpk
【E-6/工場付近/1日目 朝】


【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:疲労(中)、悪魔風脚による内臓へのダメージ(中・再生中)、右脚に裂傷(中、再生中)、使徒化
[服装]:
[装備]:穿心角@うしおととら、秋水@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、手榴弾x3@現実、未確認支給品(0〜1個)
[思考]
基本:強者との戦いを楽しむ。
0:九兵衛、Mr.2との戦いを楽しむ。
1:出会った者全てに戦いを挑み、強者ならばその者との戦いを楽しむ。
2:グリフィスが再び覇王の卵を手にしたら……
[備考]
※未知の異能に対し、警戒と期待をしています。

【Mr.2 ボン・クレー@ONE PIECE】
[状態]:背中打撲
[服装]:アラバスタ編の服、森あいの眼鏡@うえきの法則
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、スズメバチの靴@魔王JUVENILE REMIX、コインケース@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:友達を見捨てるようなマネはしない。脱出する。
0:ゾッドを倒す。
1:九ちゃんの人探しを手伝う。
2:殺し合いなんてどうでも良いけど自分の邪魔する奴や友達を襲う奴は許さない
3:霧の向こう側が気になる
[備考]
※アラバスタ脱出直後からの参戦。
※グランドラインのどこかの島に連れて来られたと思っており、脱出しようと考えています。
※ニコ・ロビンを警戒。
※マネマネの実の能力の制限
 メモリーが消去されています。現状変身できるのは消されていない
 麦わら一味(アラバスタ編まで)+BWのオフィサーエージェントと、
 直接顔を触れた人物→西沢歩、柳生九兵衛
 その他の制限はまだ不明。

【柳生九兵衛@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:シルフェの剣@ベルセルク、シルフェのフード@ベルセルク
[道具]:支給品一式、改造トゲバット@金剛番長
[思考]
基本:殺し合いにはのらない。大切な人の志まで含めて護る。
0:ゾッドを倒す。
1:爆音のした方向へと向かう。
2:神社で浅月と合流する。
3:妙ちゃんを最優先で探す。銀時と沖田も探す。
4:卑怯な手を使う者は許さない
5:あの霧はいったい?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降。
※西沢歩、麦わら海賊団(アラバスタまで)、BWオフィサーエージェントの顔と名前を知りました。
※ニコ・ロビンを警戒。
255 ◆L62I.UGyuw :2009/11/03(火) 23:58:57 ID:yxYmQEpk
以上、投下終了です。
256創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 15:21:35 ID:z3/H9s12
何となく気になったけど、レガートさんキーボード使えるの?
257創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 19:20:08 ID:24nV0T/c
投下乙
うーむ、九兵衛とボンちゃんのコンビがグリフィス・ガッツに匹敵するとしても嫌な予感しかしねぇ
近くにいる人で頼りになりそうなのはひょうさんくらいだが……
仇討ってからの行動指針や如何に。
258創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 19:29:38 ID:yo/cyUDo
投下乙
二人が勝てる気が全くしない・・・
ホント化け物がゴロゴロ転がっとるなあこのロワ
259創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 19:34:25 ID:zhrb4Pzd
投下乙
タイトル全滅フラグじゃねえかwww

ゾッドが生き生きしてるなぁ
ひょうさんもだがシルフェ装備に対応するパックもいるし、工場内部のウィンリィ乱入もありうるな
ここからどう転ぶか……

>>256
文字読める参加者なら大抵使えるんじゃね
よっぽどの脳筋でなければ
260創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 20:20:49 ID:mE6QlpVq
ひょうさん達がまだ付近にいるかも分からんしなあ。

ところでみねねは何死になるんだろw
圧死? 破裂死? 撲殺?

それと今日のサンデーで某キャラ復活……自己修復てw ロワじゃどうなる?
261創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 20:26:31 ID:AFfP41zq
投下乙
善戦するけど負けそうだwww
ゾットはロワ充してるなw
これはひょうさん次第だろうけど……

>>260
殺す時の描写がないからわからんw
262創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 20:51:25 ID:24nV0T/c
今週のサンデーは昨日発売だったんだぜw
ハヤテも金剛も凄い展開だったな

しかしこれはこれで自己修復で復活と言う手が使えなくなった罠
原作より強力な自己修復機能でもなきゃ一日二日じゃ直らんからなぁ
もしくは全てが死に絶えた島でひょっこり起き上がる影一つみたいな
263創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 20:58:18 ID:GV7pGHp1
ここで復活するとはな

しかしあのバオウ・ザケルガを使ってもこのゾッドは倒せる気がしないw
264創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 21:53:46 ID:24nV0T/c
しかし、もうちょっとWIKIの文字大きくならんかな〜
パロロワ事典くらいの大きさがちょうどいいんだが
265創る名無しに見る名無し:2009/11/05(木) 02:17:37 ID:zstwPdTg
研究所関連の作品(056、073、102)において、研究所の位置がF-05となっていたのをF-04に修正しました。
一応確認願います。
266創る名無しに見る名無し:2009/11/05(木) 06:58:06 ID:x1LpfROU
いや、あれは入口がF-04
内部空間がF-05になってるって意味だったんすわ
わかりにくくてすいません
267創る名無しに見る名無し:2009/11/05(木) 09:21:57 ID:ageaf7LZ
研究所でけえなオイw
でもそういう重要な情報は本文中で示唆しておくべきでは?
地図上でもずっとF-4だったし、多分勘違いしてる人の方が多いぞ
下手すりゃ禁止エリア関係で矛盾が出かねない
268 ◆UjRqenNurc :2009/11/05(木) 17:56:08 ID:x1LpfROU
文章中で研究所のでかさが表現しきれてなかったか
マップ上のポイントが入口で、

                    開発棟
                     ↑
入口→廊下(しばらく歩く)→ホール(体育館くらい)→研究棟(最初の部屋)→いくつかの部屋→行き止まりの部屋
                     ↓
                    医療棟
こんな感じで行き止まりの部屋はF-5あたりに入るか入らないかくらいを想定してました
個々の部屋のでかさは何百もの標本があったり、大人数で立ちまわれるあたりから想像してもらえればと。

まぁ別にF-4でもいいんですけどね。
研究棟入口あたりまで戻ってきてると間違いなくF-4ですね
269創る名無しに見る名無し:2009/11/06(金) 00:55:36 ID:CvvQFGcQ
後続で
・行き止まりの部屋から最初の部屋のFAXの音が聞こえる
・最初の部屋から行き止まりの部屋の様子が確認できる
描写がある
それに対する突っ込みも入ってない
つまりそもそもそれぞれの部屋がでかいとすら認識されてなかったのではなかろうか
実際、数百程度の標本とあのくらいの立ち回りなら20m四方の部屋があれば余裕だろう
270創る名無しに見る名無し:2009/11/06(金) 02:29:22 ID:jXcTbpNP
山の中に巨大な空洞があってそこを奥へ奥へと進んで行く
描写があるんだから現在位置なんて状態票でいいと思うんだが。

それが駄目なら目標物のない場所で終わってるSSなんて
ここは××とは描写されてないから○○に修正しときます
とか言われかねん
271創る名無しに見る名無し:2009/11/06(金) 03:41:43 ID:CvvQFGcQ
位置を全て元に戻した上で、現在位置の修正とエリア情報への反映を行いました
研究所本体の情報は丸ごとF-5に移しましたが、医療棟や開発棟がF-5にあると確定している訳ではありませんので念のため
272創る名無しに見る名無し:2009/11/07(土) 01:38:34 ID:ju2DbxaH
>治癒は無理だと思うけど
エネルギー、物質と生産出来ない物ない上に
髪が真っ黒になってる状態でほぼ死亡状態のヴァッシュを治し
無からリンゴまで製造してるから問題なく可能
273創る名無しに見る名無し:2009/11/07(土) 14:54:02 ID:HVZyc5le
そこは制限じゃね
274創る名無しに見る名無し:2009/11/09(月) 20:14:23 ID:ZcZZVLow
お、予約来た

ところでそろそろスズメバチを起こしてやろうぜ
取り残されるぞ
275創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 02:37:52 ID:hpdowrhT
名簿の問題で一時混乱してたから敬遠されてたかも
スズメバチは放送聞き逃がす展開もあるから
276創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 00:53:27 ID:6fkH0WBk
ちょっと勝手ながら、パロロワwikiを更新。
「カレーの悲劇」のところにここの名前を追加しました。

だってさ、カレー作って食べようとした直後に二人が惨殺されてるんだもんさ……
277創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 01:01:03 ID:pVa/RWl6
>>276
寧ろよくやってくれた。
すっかり忘れてたけど、病院組は確かにカレーの悲劇だわww
278創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 01:12:35 ID:mHyCY3mg
ナギの悲惨さは「釘宮のジンクス」だな!
279◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 17:55:20 ID:WjoIi8pH
代理投下いきます。
280◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 17:56:01 ID:WjoIi8pH
浮草。
泡。
ペットボトル。
油。
チラシ。
木の葉。
野菜くず。
小枝。
魚の遺骸。

細波に小滝に揺れて、コンクリートの四角い皿にたくさんのものがぷかぷかり。

ちょろちょろと流れるのはあたまのうえの水口からの、まれびと。川という名の旅人。
だけど、峠を越えたくても通れない。
……どうしてだろう?

通せん坊の相場はもののけと決まってる。
ひとをやめたものは、ひとでなくなったものは、ひとだったものは。
旅人たちの頑張りで、だから退治されるのだ。

通せん坊はその図体からは信じられないほど静かに、どぽ……、と水勢に負けて転がり落ちる。

とたんにざぁぁ……と、連なるひとつの音。
川のさ中の貯水池に、絶え間なく注がれる水の群れ。

たくさんのものがぷかぷかり。通せん坊もぷかぷかり。

その光景を――ただ、眺めているひとがいた。


一陣の風が吹く。

びょお、と叩きつけるように。
ごう、となぐり飛ばすように。
だれでもないものがだれかを打ちのめしていく。

木がざわめいている。
木の葉のすれる音が、まるでいのちの砂がこぼれ落ちるようにただ重なっていく。

いっぱい人の名前の書かれた紙がはためいて、ついには手から吹き飛ばされた。

赤くそまった名前たちは日の光に透けて、青の中へ溶けていく。
高く、高く――空のかなたへと。しろいしろい雲の向こうにかすんでいく。

まるで子どもの手をはなれた風船のように、もうにどととりもどせない。

けれど、女のひとは気にしない。ためらわずに水の中へと体をおどらせる。
じゃばじゃばと水をかき分けて、泳げない事を忘れたかのように。
むねの近くまで水いっぱいで、転んだりしたらただじゃあすまないのに、ただともだちだったひとのところへまっすぐに。
281◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 17:56:56 ID:WjoIi8pH
かたほうの目はつぶれて、自まんの脚はどこかに落っことしてて、からだの中の大切なものをいっぱいなくしてしまっていたともだちは――、

ただ、くやしそうだった。

ふだんからは想像もつかないほど真剣で、やくそくを守れなくてごめんと今にもあやまりそうな顔だった。

自分の体が汚れるのも気にせずに、ぎゅうっとともだちだったものを抱きしめる。
そうすればいつものように、楽しげに自分をくどいてくれるんじゃないかと、そんな気がしたのかもしれない。

たぶん、その顔は、なみだでボロボロだったんだろう。
だれにも見せないし、だれも見てもいないけど、そうだったんだろう。

その顔を映していくはずだった水面は、どこまでもあかくにじんでいく。



********************


積み重なる嗚咽は――、真っ青な空へと。
あんまりにも青くて優しいその空が、だからこそ全てを嘲笑っているかのよう。


同じ空の下、誰かもまた遠くに想いを馳せている。


********************


座り込んで空を見ている。
朝焼けもすっかり治まって、まばゆいほどに白い雲が良く映える青空を。

こんなにも青い空の下で、友は何を想い――そして逝ったのだろう。
ただぼうっと口を開けて、そんな事を思う。

……不思議と、その名前が偽りであるとは考えなかった。
どんなデタラメが起こっても、大抵の事は飲み込んでしまえる。
先刻出会った少年の語った通り、人を蘇らせる力を“神”は持っているのだろう。

ただ、仮にあの男が真実生き返ったのだとしたら、一目でいいから会いたかった。
会って、あの子どもに好かれる笑みをもう一度だけ記憶に焼きつけたかった。

しかしそれももう叶わない。
“神”は殺し合いをさせるためだけに先に逝った人々を呼び寄せて、躊躇いもなくそれを散らせた。
友を弄んだ事へのわだかまりがしこりとして淀んだ感情を蓄積させる。

いや、友だけではない。
誰ひとり死なせないと誓ったのに、こんな狭い場所で今も誰かが失われ続けている。
真っ赤に染まったその名前がまるで彼の血の涙のようだ。

「……何が、悪趣味な放送だ」

悲哀さえ帯びた目で、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは遥か高みを仰ぐ。
282◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 17:57:42 ID:WjoIi8pH
「僕はたった一人で戦った顔も名前も知らない仲間さえ、見殺しにしてしまった……」

仰ぎ――、不意にその目が鋭く引き締まる。
戦っているのは自分たちだけではなかった。
あの“神”の陣営も一枚岩ではない。放送の女性は、それを教えてくれたのだ。
それぞれの想いを抱え、確かに自らの意思を持てる人が確かにどこかにいる。
ならば、やる事は一つ。

「償いにはならないかもだけど、僕はこの手の届く限り立ち向かうよ。運命の螺旋とやらに誰ひとり殺させないために」

太陽に手をかざしてから、強く強く握り込む。

この手で止めるべき相手は“神”と、その思惑に乗せられているものたち。
そして、血を分けたもう一人の己。
誰よりもまっすぐで、だからこそ“神”の掌に留まらず――しかしそれ故に己の意思とぶつかり合うべき相手。

「ナイブズ。……今、どこで何をしているんだ」

名簿に確かにその名が記されているのに、あの巨大な融合体の圧迫感がどこからも感じられない。
……否。それどころか、ゲートが開いた感触さえこの身に届いていない。

どういう事なのだろう、と自らに問う。
けれどいくら考えても答えは出ない。頭の中の住人たちは、皆揃って沈黙を続けている。
いや……、その答えを認めるのが恐ろしいだけだ。

あの力を存分に振るえるなら、こんなに死人が少ないはずはないのだ。
20人に届こうかという人数を少ない、と言ってしまいたくはないが、それでも理にそぐわないのは確か。
いくら踊らされる事に甘んじる性格ではないとはいえ、あのナイブズがこの場に招かれた人類を前に手を下さない理由はないのだから。

なのに、その痕跡はない。不気味なまでにナイブズの存在を感じ取れない。

だから、分かる事が二つある。
ひとつはナイブズが何らかの理由でプラントの力を十全に行使できる状況にないという事。
もうひとつは“神”の力があの融合体ナイブズでさえどうにかして抑え込めるほどだ、という事だ。

……その仮定すらしっくりこない。
力を封じられているにしても、それでもナイブズの気配がここまで沈黙している、という事がどうしてか納得できていない。
もしかしたら力などではなくて、もっと根本的なところで何かが自分の知るナイブズと異なっているのではないだろうか。
意味もなくそんな事を考えてしまう。

だからこそ、ヴァッシュは目を閉じて兄の事を脳裏に描く。意識する。
一度でも力を行使したのであれば、すぐにその事を感じ取れるように。

耳に聞こえる風の音が、吹き下ろす夜の風から駆け上がる昼の風になったのを存分に教えてくれている。
そして合間に届く心地よいほどの木々の語らい、その中に混じるは人の声。

「森も鈴子も、どうにか生きてるみたいだな。……よかった」

植木耕介と、そう名乗った少年がゆっくり立ち上がってこちらへと。
慌てて手を振り制止を試みる。

「ちょっと、駄目だって座ってなきゃ! まともに動ける出血量じゃないんだぞ」
283◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 17:58:29 ID:WjoIi8pH
おおまかにここまで至った事情は聞いている。
仲間を案ずる気持ちは痛いほどに伝わってくるが、だからこそどうにも放っておけない少年だとヴァッシュは思う。
どこかその理由は共感できて、しかし背負うものが身近であるが故により純粋さが際立っているのだろうか、と。

「大丈夫……だ。俺、普通のヤツより頑丈にできてるし、回復も早、っ……」

……ヴァッシュには知る由もない、というより植木が話し忘れていることではあるが。
天界人という特殊な出生を秘めた植木は、回復力が常人のそれに比べて遥かに高い。
だからこそ多少の無茶を承知で行動しようとしているのだが――それでも限度というものはある。
多少動きまわれる程度にはなったとはいえ、植木はまだまだ横になって安静にしているべき状態だ。

はあ、と大きく溜息を吐き、ヴァッシュは説得の文を首を抑えてうずくまる少年に綴る。

「……じきにあの二人とロビンも戻ってくるはずだよ。動くにせよ、彼らが戻ってきてからの方がいい。
 集団でまとまってればそれだけ危険も減るはずだ。
 敵襲でもない限り、今は動くべきじゃない」

悔しい話だけど、と話を結び――、そして彼らは気付く。

ざり。
ざり。
ざり。

……ざり。

静寂の中の足音は、まるで白雪を踏みしめるかのよう。
妙に淡々と、無機的なテンポで近づいてくる。

びくりと植木ともども動きを止め、しかしすぐにこころを落ち着ける。
足音というのは存外個性的なもので、意外に人によって違いがあるのだ。
だからヴァッシュは安心して誰が来たのか特定し、明後日の方角へと振り向かんと。

「良かった、無事だったんのかロビ……」


――ずぶぬれの少女が、そこにいた。
植木とヴァッシュ、二人の声が唱和する。

「「…………え?」」

たぶん、少女とは呼ぶべき年頃ではないのかもしれない。
だけれども彼らには、そうとしか見えなかった。その背が、あんまりにも小さすぎるように感じられて。
妖艶ささえ漂わせていたついさっきまでのニコ・ロビンとは別物すぎると、二人共にそう思うしかなかった。

「私は――」

名前も知らない誰かの死体を背負ったニコ・ロビンの表情はあまりに寒々しくて、がらんどうだった。
ほんの少しだけ見せてくれたついさっきの笑みが幻のように記憶から掻き消されていく。
切り揃えられた前髪の向こうにあるはずの瞳は、うつむいているからか陰に隠れて表に出ない。

「私は、夢を見ていたの。……楽しい夢だったわ」

静かに誰かだった肉の塊を横たえて、うわ言のように小さく呟くロビン。
聞いてほしいのか、独りごとのつもりなのか。
本人にすらそれが分かっていないのかもしれない。
284◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 17:59:12 ID:WjoIi8pH
「あんまりに楽しくって――二度と目覚めたくなんてなかった。
 こんな私でも、生きたいって思えたのよ」

ごくり、と唾を飲み込む音だけを植木が漏らす。
かけるべき言葉も浮かばず、いや、許されさえせず。
彼女が危うい綱渡りをしている事だけが、嫌になるほど突き刺さった。

ただ、彼女の握りしめた包丁のその白刃の輝きが、銀雪に跳ね返る日の光のようにやけにぎらぎらしている事だけは覚えている。
いつの間にか汗が途切れることなく流れていて、ガチガチに拳が握り締められている。
……緊張感が疲弊を急速に誘い、意識がトびかけた。

意識がないその刹那の直後、目前に迫るは包丁の切っ先。
ロビンはとっくに、気狂い染みた瞬発力で自分たちを仕留めにかかっていた。

十分だ。
気づきさえできるならば、自分はこの程度は回避できる。
弱っているとはいえ腐っても新天界人、長時間の運動でなければ体力を余計に消耗することもない。
気がかりだったヴァッシュの方も、余裕で対応できる様相だ。

……けれども、その判断力こそが命取りだったと思い知らされることになる。

「“十二輪咲き”(ドーセフルール)」

六本の腕が、植木の体から生えた。
ヴァッシュの体からも生えた。

「え」

包丁に気を取られ、それだけに対処するつもりだった植木には――この不意打ちを何とかする方法がない。
理解。
首と、肩と、足と。それら全てを奪われれば、関節を極めて処理される。

ヴァッシュの方を見れば、彼は目を眇めて表情を崩していない。
何が起きたのか分かっていないのだろうか。
ちくしょう、と歯噛みする。なにもできない弱いままの自分が悔しくてしょうがない。
せめて戦えずとも何か口にしたい事があるのに、貧血は確実に体力も思考能力も植木から奪い去っている。

血が出るほどに、唇を噛み締めた。

どうしてこんなに理不尽なのだろう。
戦いたかった。
守りたかった。
森を救いたかった。
ロビンを止めたかった。
“神”に文句をつけてやりたかった。
かつて小林という教師に抱いた憧れを、彼の正義を全うしたかった。

「負けたく、ねぇんだ……っ!!」

けれど無情にも執行の合図は下される。
彼の意思は、願いは、信念は、想いはロビンに聞き入れられる機会などなく――、

「“クラッチ”……!」


しかし。
285◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 18:00:01 ID:WjoIi8pH
しかし、一人の男に確かに届く。


「負けないさ。負けさせない」


からん。からから、からん。
薬莢が三つ、零れ落ちた。

「――――」

感情を無くした消え入りそうな彼女の声は、事実銃声に掻き消され覚えられる事はない。
たった――たった一発の銃声に。

確かに落ちた薬莢の数は三つなのに、あり得ないはずの一発だけの銃声に。

狩人の銃は、抜き放たれている。

「……すげぇ」

孔が開き、ヘシ折れた包丁がくるくると宙を舞って――どすりと地面に突き刺さる。

植木の声は端的で、それ以外の何も一つも浮かんでこなかった。

三つの発射音が一つに聞こえるほどの高速連続精密射撃のその果ては、最小の消費で完璧な結果を叩き出す。

一発は植木を捉え始めていた肉の蔦に。
もう一発は、彼自身の体から生えてきた腕の群れに。
最後の一発は、ロビンの手にしていた抜き身の包丁に。

また、風が吹いた。

誰も何も言わず――、ほんの一時の沈黙がその場に満ちる。
万物の織りなす風琴の音色が治まると同時、静寂を破ったのは他でもないヴァッシュ・ザ・スタンピードだった。

「うわぁっ、ごめんっ! 君の能力がそんな代物だなんて知らなかったんだっ」

まるで場にそぐわない慌て顔と、情けない声。
しかしその内容は決して看過できるものではない。
今の一瞬の交錯で、この男は完全にロビンの能力を見極めたのだ。
だというのに。そのあまりの自然体に、彼女は芯からぞっとするものを覚える。

「教えた覚えはないから……それが当然よ」

上擦りを抑えた声を絞り出し、どうにか平静を演じる。
ただでさえ自覚できる程に精神が不安定なのに、そこに来てこの予想外は流石に少し刺激が強い。
……ヴァッシュの行動の結果として、彼女の左腕には二つの銃創がぽっかりと暗い孔を開けていた。

彼女の能力“ハナハナの実”の効果は任意の場所に自らの体の一部を生やすというものであり、
だからこそ生やした部位を傷つけられれば同じ場所に報いが課せられる。
攻勢に出ているうちこそ圧倒的な手数と縦横無尽の不意打ちで一方的な戦闘ができるものの、守勢に回れば俎上に体を差し出しているにも等しいのだ。
286◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 18:00:59 ID:WjoIi8pH
ロビンは落ち着けと自分に命じて、“敵”の実力の分析を行っていく。

怖気さえ覚えるほどの早撃ちすら、大した脅威ではない。
いや、早撃ちのその速度さえ神域を踏み越えた代物だが、
生えた腕と腕を結ぶ直線を縫う、あまりにも正確無比な射撃精度こそが真なる危険。

“六輪咲き”(セイスフルール)による二人同時への“クラッチ”は、首、腕、足を同時に掴む事で成立する関節技だ。
だが、それ故に技が成立する直前の一瞬だけに、斜め角度から腕が一列に重なり合う霞の道が浮上する。
刹那にそれを見切り、自分の背中側という完全な死角へと、不自然な体勢を強制されながらの迎撃を。
植木耕介へは――敢えてその足元を狙い、跳弾で無理矢理に入射角を変えての一撃を。

ヴァッシュ・ザ・スタンピードはこんな曲芸を、包丁による止めの一撃にも対処しながらやってのけた。

ロビンの不運はこの人間台風を相手取ったことに他ならない。
相手がヴァッシュと並び立つニコラス・D・ウルフウッドであったならば、まだ勝利の目を出す確率を上げることが出来ただろう。
彼の一番の得物たるパニッシャーは、その重量故に取り回しに難がある。
だが、ヴァッシュの相棒は拳銃だ。故に反応は高速と呼ぶすら生温い。

無論、彼女とてバロックワークスでクロコダイルの右腕を務め、8000万ベリーをその首に掛けられた身だ。
並みの使い手であるはずもなく、この失態は放送と死体との謁見という二重のショックによる心理的動揺に端を発するものであるのも確かだろう。
しかしたとえ彼女が平常心であったとしても――、ヴァッシュの実力の見込みには大幅に裏切られていたに違いない。
むしろヴァッシュの反射速度に対処して左腕“だけ”を何本も束ね、右腕をどうにか生かしたその判断力は称賛に値する。
左腕はたぶん、もう使い物にならないだろうが。
まともな治療を受けても数週間は動かせまい。当然ハナハナの実の力を行使し、左腕を生やす事も出来なくなった。


「ロビン。……どうしてこんなことを」

今まさに襲われた身であるのに、ロビンの事を案じる眉尻さえ下げた表情でヴァッシュは問う。

「…………」

彼女に答える義務は、ない。
腕から流れる血と、額から滴る汗の感触の気持ち悪さがやけに脂っこく感じられた。
けれどそんな沈黙に意味はなく、狩人にはおおよその理由が悟られていたらしい。
先刻の僅かな会話と放送と、再開際の行動がそれを伝えでもしたのだろうか。

「復讐、かい? 君の仲間たちを殺した連中と、そもそもこんな殺し合いを強要した神様たちへの!」

森の空気を引き裂くようなその言葉は、一気に時を進ませる。
呆然としていた植木がその言葉を聞いてハッと我を取り戻し、呟いた。

「この島にいる限り、そいつらに逃げ場はないって事か……?」

ああ、とヴァッシュは頷いて、その言葉に続けるべき台詞を引き継いでいく。
目を閉じて、こんな事は告げたくない、とでも言いたげに。

「そんな事をしても君の仲間は帰ってこない。それ以上に、彼らをこんな事をする理由にはしてはいけないんだ。
 君は仇を討ち漏らさないためだけに――この島の全員を殺し尽くすつもりなのか!?」

悲痛なまでのヴァッシュの叫び。
それでも俯いたままのロビンには、きっと届かない。届いていない。
287◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 18:02:15 ID:WjoIi8pH
「……口ではそんな事を言っていても、私と出会う前にあなたが何をしていたかなんて知る術はないわ。
 だからもしかしたら、あなたたちが彼らを殺したのかもしれない」

「……ッ!!」

対話を打ち切られ、ヴァッシュは泣き出しそうな顔で歯噛みする。
植木も、そのこころの内が身を刻まれるほどに分かってしまった。

ふざけやがって。
そうして口の中で言葉を転がしても、どうしようもないほど力ない。
そんな理由で皆を傷つける事など認めてたまるものか。
許さないとは言わない。仲間を失ったその衝撃は、慮ることすら出来はしない。
迂闊に自分にも分かる、とさえ言う事だって傲慢なのだ。
だがそれでも、その人たちが関係ない他人を皆殺してまでの復讐を望んでいるかと言えば、きっと違うだろう。

それを伝える手段も力もない事に、自分の無力さに、植木は腹が立ってしょうがない。
そんな惨めさが、明確な決裂のやり取りで一層浮き彫りになってしまった。

「その子を守りながら、あなたはいつまで凌げるかしら?」

「いつまでも、だ。僕が君を止めれば済む話なんだから」

足手まとい――。
そんな事実が、淡々と植木の心に楔を打ち込んでいく。
味方であるヴァッシュの放つ心強ささえ、眩しすぎて身を焼くかのようだった。

悔しくて、譲れないものがあって、怒りがあって。
植木は静かに己のデイパックへと手を伸ばしていく。
しかしそんな所作は、対峙するロビンとヴァッシュの裂帛の気合の前では霜の様に微細なものでしかない。

その場の圧迫感のほどは、まるで下降気流が吹き下ろすかのように近づき難く。
質量さえ感じられる静寂が満ち、ただヴァッシュの赤いコートが風にはためいている。


無言で先手を取ったのは、ロビンだった。
ヴァッシュはひたすらに迎撃に徹する。彼女の命を奪う意思は、全く存在しないのだから。

銀閃が煌めき、その手から紫電が飛び放たれる。
ひょう、と風を切る音がした。
だがヴァッシュは余裕さえ見せて回避。
ダーツの直線的な投擲など、銃で撃ち落とすまでもない。

問題はむしろ、その直後。
上半身をスライドさせながら横目で後ろを伺えば、樹に突き刺さったダーツを引き抜いて、ヤドリギのように生えた右腕が再度の投擲態勢を構え終えている。
だが、そちらだけに気を取られているわけにもいかない。

「……っとぉ!」

コントの転び方のように、思い切り身を沈ませる。
時間差で放たれたロビン本体からの二投目が頭上を掠めて飛んで行った。
前屈をするような姿勢を見逃すはずもなく、初撃に使われたダーツがリサイクルされて宙に舞う。
288◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 18:03:07 ID:WjoIi8pH
「ほわちゃっ!」

ヨーガの達人のように跳躍し、空中で奇妙なポーズをキメるヴァッシュ。
脚の下を潜っては、ダーツはまたも樹に突き刺さった。

ロビンの追撃は止まらずに、彼方の二投目と手元の三投目の同時投擲による挟撃を仕掛ける。
跳躍などという回避手段を選んだのが運の尽きだ、足場がなければ碌な回避行動を取れるものでもない。
そんな不安定な状態では、前後から同時に襲い来るダーツの格好の的だ。

……これで詰みだとは到底思えないけど。
そう内心呟いて、ロビンはまだまだ手を抜かない。
これからどう戦場を構築するかだけを念頭に置き、常人ならば対処不能の同時攻撃すら時間稼ぎとして策を練る。

――断言してしまうなら。
彼女のハナハナの実と、ヴァッシュの相性は最悪だった。
なにせ、最も得意とする相手の体に直接腕を生やしての関節技が通用しないのだ。
彼の凄まじい反応速度の前では、技を極める前に銃弾を腕に撃ち込まれてしまうのは文字通りに身を持って刻み込まれた事実。
そうなるとハナハナの実の最大の弱点である、ダメージが本体に帰ってくるという点が剥き出しの心臓となって彼女を縛り付ける。
更に言うなら、植木を人質に取ろうとしても銃の前には間合いは意味がない。彼が剣士ならまだ戦いようはあったのだが。

基本的に彼女の能力は、本人の言う通り暗殺や奇襲、そして雑兵の制圧戦向けなのである。
量と質でいうならば、量を相手取る事こそ本領なのだ。
条件さえ整えば絶大な効力をもたらすものの、純粋に彼女の速度を超える存在に真っ向勝負というのはあまりに無謀と言える。

だったら、どうする?
尻尾を巻いて逃げだすか?

いやいや、それはない。真っ向勝負で勝てないなら、勝てる状況を作り出してやればい。
すなわちヴァッシュの反応速度が役に立たない状況を、だ。

だから、ロビンはダーツで布石を打っていく。
彼の反応速度を超える連続攻撃によって、銃を撃たせた直後の僅かな隙に関節技を極める。
これがロビンが単独でヴァッシュを屠れる唯一の勝利条件なのだ。

無論ヴァッシュもそれは分かっている。
下手に銃を撃てば、その反動の分だけ次の攻撃への対応が遅れてしまう。
遅れが蓄積すればいつか必ず対処できなくなる瞬間が訪れる事だろう。
だからこそ、彼は迂闊に銃を撃たないのだ。
それ以上にロビンを傷つけたくないという理由が大きいのも確かであり、彼らしいやり方ではあるのだが。

彼女の予想通りブーツと銃底で二本のダーツを軽々と弾き飛ばし、ヴァッシュは砂埃を立てて着地する。
その頬を、チッ……と掠めていくのは一番最初に用いられたダーツ。

いつしか、無数の矢が縦横無尽にその場を飛び交っていた。
このまま座しているならば事態は彼の敗北の形で収束に向かう。
だから彼女の情動を受け止めて、言葉の応酬を始めよう。

「……頼む! これ以上、俺に君へと銃を向けさせないでくれ」

十字砲火の中央にて、僅かの一歩で射線を離れ声を張り上げて懇願する。
その眼の炎は青く静かに燃え盛っており、台詞とは裏腹にただただ揺るがない。
289◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 18:03:56 ID:WjoIi8pH
「狩人さん、何故あなたは私に迷いを強制するの?
 ……私を止めたいのなら、殺して止めれば簡単でしょう」

仲間を失った迷い子はしかし、彼の雄姿を目にしない。見ようともしない。
俯きの角度は地面と向き合ったまま、己と二つの衛星とで三角の檻を作らんと。
赤いコートのその背後と左右を縫い、次に向かうべき空白を埋めて断ち切る。

「そうやって生きることから逃げるつもりなのか!?
 君は怒りと悲しみを堪えるのを諦めてるだけだ。
 癇癪もいい加減にしようよ。復讐か死か、どっちかを選べば確かに楽にはなるだろうけど……」

たくさんの人々を見つめ続けてきた男は、告げる。

「そんなのは悲しすぎる。今の君はまるで、土砂降りの中で泣いている子供みたいだ」

ロビンの口端が、ぎちりと鳴った。
何かを抑え込むかのように、低い低い唸りが漏れる。

「知ったような事を言わないで……! その余裕が命取りと知りなさい。
 後ろの少年ともども、ここで始末しておいてあげるわ」

ダーツの速度が上がった。
人を貫く乱舞が陽光に煌めいて、あたかも光の五月雨のよう。
植木の傍を着かず離れず、赤いコートのガンマンは少年への蹂躙を一切合財許さない。

「君は誰も殺せないさ。それがたとえ、君の仲間を殺した人間であっても。
 僕が殺させない。彼らだって望まずして手を汚してしまったかもしれないんだ。
 そんな事をさせた奴が、確かにどこかで僕たちを嘲笑っている。君が思い通りに殺し合いに乗った事がそいつを喜ばせてるのさ。
 ロビン、共に戦おう。君が戦うべきはこの島にいる人々じゃない。
 ……大丈夫。大丈夫だ、僕も力になるから」

ほんの少しだけ彼女の口元が力なく緩んで――あっというまもなくぎゅう、と引き締められる。
感情の全てを切り取った口調で、その手に更に追加一本。

「……私はもう選んでしまった。
 この覚悟が緩む事を私自身が許せないし、そもそもどんな事情があったって大切な仲間を殺した連中を許すことはできないの……!」

腕が、伸びる。
一本二本三本四本、五本。
鎖のように五倍の長さになったその腕をしならせて振り降ろせば、遠心力により単純計算で先端の速度も5倍となる。

ただ、渾身の力を込めて。
幻想を、甘言を撃ち貫く。

その指先から放たれた高速の一投をヴァッシュは――、

「君だって、彼らだって、まだ引き返せる。やり直せない事なんてないよ」

?む。
避けず弾かず、真正面から掴み取る。
その手で握りしめたダーツを掲げ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは高らかに。
穏やかな顔で謳い上げる。


「……望みさえすれば、誓いさえすれば、いつだってどこからだって望む場所へと行ける。
 未来への切符は……いつも白紙なんだ」
290◇JvezCBil8U氏代理:2009/11/13(金) 18:04:55 ID:WjoIi8pH
……静謐が訪れる。
ニコ・ロビンは痛みを堪え、肩で息をしている。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードは頬の擦り傷以外は何も変わらない。その表情でさえ、普段のままだ。

勝敗は明らかだ。
でも、だけど、だからこそ――、

「へらへらとずっと笑ったままで、綺麗事ばっかり口にして――、
 あなたは、私の仲間の死を何だと思ってるの!?」

ニコ・ロビンは許せない。
悲愴なまでの彼女の想いが、この男の言葉の前に朽ちる事を認められない。

ヴァッシュの生きた一世紀を超える年月を、彼女は知らないのだ。
彼の言葉がどれほどの重みを帯びたものか、彼女は知らないのだ。

「……く、何をっ?」

彼女らしくもなく感情のままに身を任せれば、地面に何かが叩きつけられた。

「煙幕!?」

周囲に煙が霧のごとく立ちこめる。
まるで未来を閉ざし、行き場を無くした彼女のこころの具現でもあるかのように。
ヴァッシュの視界は閉ざされる。
ロビンの姿もまた、靄の向こう側に霞んでいく。

風斬り音。

「……っ! やめるんだ、ロビン!」

小槍を握りしめたままの義手の左手をそちらに動かせば、チィンという鉄と鉄のぶつかり合い。
五感の一つを奪い、じわじわと削り殺していく結界が出来上がっていた。

「このための布陣か……!」

苦い表情をはじめて浮かべ、絞るように目を閉じる。
見えないのなら、見開いていても大した違いはない。
神経を研ぎ澄まして植木以外の周囲の変化を意識する。

……もしかしたらこれは逃走のための時間稼ぎではないか。
そんな考えがちらりと脳を掠めたけど、届くと信じて言葉を紡ぐ。

ただ、彼女が心配なのだとそれだけを伝えたくて。

「ロビン、君は強い。戦場次第では、僕よりも君の方が遥かに強い事だってあるはずだ。
 ……だけど、たぶん今の君じゃあこんな酷いところで生き延びられない。僕はみすみす君を見殺しにできないよ」

無しのつぶても止むを得ないと思っていた矢先にしかし、確かに彼女のいらえを受ける。

「どうして?」

その言葉に安堵を得るも、彼女の無事を祈るが故に。
軋むこころをどうにか堪え、たったひとりの兄を思い浮かべる。
ああ、彼女とは違って僕はまだ失っていないのに、どうしてその顔を思い浮かべるのが悲しいのだろう。
291こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2:2009/11/13(金) 18:21:30 ID:2JS0NWFi
「……僕は君以上に容赦のない連中を、一人の男を知っている。
 がむしゃらに復讐を望むなら、君はきっと――その男に殺される」

不意に、ゆらりと人影が目の前に現れる。
正対を望んだのだろうか、それに希望を託してヴァッシュは油断を無くさず歩み寄る。

そして彼は見るのだ。

「私が聞きたいのは、そんな事じゃあないわ」

そこにいたのは、腕を編み上げて造られた案山子。
張りぼて、人形、でくのぼう。

ぞくりと背中が震える。
彼女は今、真後ろに。

急ぎ振り向き銃を突きつけ――、

「それだけ強いのなら、どうして。
 どうして私のたいせつなひとたちを守ってくれなかったの?」

ヴァッシュの動きが、ぴたりと止まる。
表情すら作れず、完全に固まっている。

「……ぁ、」

流れ落ちる汗が目に入り込む。
けれどそれでも、ようやくロビンの目が瞳に映り込んだ。

涙でぐちょぐちょになっていて、悲しみに染まっていて、がらんどう。
その先に繋がるのは希望などどこにも見えない、深い深い深淵へ。

だらりと、ヴァッシュの銃がぶら下がった。
彼もまた、今にも泣きだしそうだった。

「すまない」

いきをするのがくるしくて。
たったそれだけのことばをしぼりだすだけでせいいっぱい。


「救えなくて、すまない……」

――既にヴァッシュの痩躯からは、異形の腕が花開いていた。

頼るべき縁を失ったひとは、一瞬助けてほしいと叫び出しそうで、だけどすぐにその色が失われていく。
竜の顎のように柔らかな笑顔の青年を折り、喰らい尽くそうとし――、

「未来への切符は白紙、なんだよな?
 だったら、立ち止まんな!」

それを阻むのは不敵な笑みを湛えた少年。
モップなどこの場にありもしないのに、ただ己の腕で『掴』み取る。
292こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2:2009/11/13(金) 18:22:42 ID:2JS0NWFi
「「……!?」」

それは、あまりにも予想外の出来事で。
ヴァッシュとロビンの動きはスイッチしたかのように止まる。

先に立ち直ったのは、ロビン。
生やした腕を掴まれた感触のおかげだろうか。

「ごめんなさい、狩人さん……」

その言葉とともに再度煙幕を張り巡らせる。
一拍。
それだけの間で、雪が融けるようにニコ・ロビンは見えぬ世界の向こう側へと消えていく。

たった一人ぶんの足音を響かせて、夜の街の迷い子のように。

「あ、待て! 待つんだ、ロビンっ!」

一歩踏み出そうとするヴァッシュ・ザ・スタンピードはしかしその場で踏みとどまる。
迸る感情を無理矢理抑え込む顔で、振り向く相手は植木耕介。

視線の先にある顔は当然ながら蒼褪めている。
されどそれより目に付くのは、彼の着込んでいた漆黒の鎧だった。
戸惑うヴァッシュを無視し、植木は声を張り上げ命じる。

「何してんだ、早く追わなきゃだろ!」

はい? と間抜けな呟きを漏らして見つめてみれば、先刻までの様相からは想像もつかない覇気が感じられる。
そのギャップが不気味に過ぎて、鎧から黒々としたものが立ち昇ってさえいるようだった。

「俺はこいつのおかげで多少はマシに動けるようになったから。
 先にデパートでさっきの人たちと合流しとくから、さっさとあいつを連れ戻すんだ」

急展開にどう応じたものか戸惑っている間に、植木もその背を翻す。

「ちょっ……! 君はまだ動けるはずは……!」

その呼びかけに反して、邪悪ささえ感じるほどの強い圧力を伴って植木の姿もまた薄れていく。
彼の唐突な懇願と行動には何故か、焦りさえ感じられた。

彼の意思の通りロビンを追うか、それとも植木本人を追うか。
こころがあまりに揺れ動いてて壊れそうなひとと、弱り切っていたはずなのにおかしいほどに元気になったひと。
ヴァッシュが進むべき道を選ぶのを躊躇う理由には、十分すぎた。
彼の手の届く場所には、限界が存在しているのだから。

霞が晴れていく。
そこには最早ニコ・ロビンの姿はどこにも見当たらない。
それは突き刺さっていたダーツや彼女の仲間だった人物と思しき死体もろともで、植木耕介に関しても同じこと。

先刻の残滓は、未だに手に握ったままのダーツが残るのみだった。
293こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2:2009/11/13(金) 18:23:25 ID:2JS0NWFi
「く……、どっちに向かえばいい?」

逸るこころを押し留め、口端を噛んで決断せねば。

――そして、その傍らのどこかで安堵。
ちらりと、右腕を見る。今は翼も生えていないその右腕を。

かつてある街で、不意に放たれた銃弾を右腕の翼が反射的に受け止めた事があった。
あの時は片鱗のようなものでしかなかったが、おそらくより強力な自動防御機構が自分にはまだ眠っているのだろう。
あそこで植木が介入していなければ、自分の力の末端が――“尖翼”がロビンを打ちのめしていたかもしれない。
そうならなくてよかったと、心から思う。

「……戦うべきは、彼女のような殺し合いに乗せられた人々じゃない。
 止めよう、こんな争いを……!」
 
懸念事項はいくつもある。
怪しい動きをする趙公明と姿の見えない彼の仲間。
デパートに向かったままの銀時たち。
不自然すぎる復活を果たした植木。
あまりに危うい心理状態のロビン。
そして、何をしているのか行動の残り香さえ感じ取れない双子の兄。

――進むべき道は、どのようなものだったか。


【H-7/森の中の川辺/一日目/朝】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:頬に擦過傷、疲労(小)、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
0:救えなくて、すまない。
1:ロビンと植木、追うべきは――?
2:ウルフウッドをはじめとする死者たちを出した事への悲しみ。
3:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
4:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
5:動きの不透明なナイブズが色々な意味で心配。
6:ナイブズが“力”を行使したならばすぐに駆け付けられるよう、感覚を研ぎ澄ます。
[備考]:
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。
294こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2:2009/11/13(金) 18:24:13 ID:2JS0NWFi
********************


いつだってやり直せるのだと、自分を殺さず訴え続けた男の言葉が脳裏にいつまでも反響している。

その言葉に縋りたくなる自分が悔しくて、そんな自分を見限ろうとしない男に感謝と憎悪を同時に向けて。

強く心に決めたはずなのに揺らいでしまう脆さの存在を、潰れそうになりながらも確かに認める。

とにかく、ひとりになりたかった。

ひた走る中、森の中、無意識のうちに見て覚えた地図が脳裏に描写されていく。

確かこの先は――神社だ。

落ち着くために一休みするならば、もってこいの場所だろう。

【G-5南東/山中/一日目/朝】

【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]:左腕に銃創×2(握力喪失)、精神不安定、動揺
[装備]:ダーツ(9/10)@未来日記
[道具]:支給品一式(名簿紛失)、んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ×1)@銀魂
    双眼鏡、医薬品、食料、着替え、タオル、毛布、サンジの死体
[思考]
基本:麦わら海賊団の復讐。
0:……ごめんなさい。
1:ルフィたちを殺した可能性がある相手は逃がさず殲滅……?
2:殺す前に情報収集。主に主催者について。特にそれぞれが居た世界の違いを考察する。
3:可能なら、能力の制限を解除したい。
4:ヴァッシュに申し訳が立たない。
5:ひとまず神社で体を休める。
[備考]
※自分の能力制限について理解しました。体を咲かせる事のできる範囲は半径50m程度です。
※参戦時期はエニエスロビー編終了後です。
※ヴァッシュたちの居た世界が、自分達と違うことに気がつきました。
※冷静さと判断力は少しずつ戻ってきていますが、代わりにヴァッシュの言葉に動揺しています。
295こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2:2009/11/13(金) 18:24:54 ID:2JS0NWFi
********************


きがくるいそうだ。

なんではしっているんだろう。

ああ、そうだ。なにもできないのがくやしかったからだ。

はしって、はしって、はしって、だれかとであって、とめなきゃ。

とめるために、たたかわなきゃ。

……あれ?

たたかうために、とめるんだっけ?

あれ、あれ?

そもそも、なにをとめるんだっけ。

ああ――、たたかいたい。


動けないのが悔しくて、守られる弱さが嫌で、だからこそ躊躇わずに黒い鎧を身に纏った植木耕介は――、
実のところ、結局のところ、ヴァッシュの前で強がったのが精いっぱい。

でも、だけど、あの言葉に後悔も疑念も何一つない。
だって、あの女の人が見ていられなくて、どうしても助けてあげたいと思ったのだから。
けれどもともと自分は限界が近づいていたから、だからこそ素直に凄いと思ったヴァッシュにそれを託したのだ。

ゆだねろ。
ゆだねろ。

絶えず頭の中に直接そんな声が聞こえてきて、出血であやふやになった自我に入り込もうとしてくるのを無様なくらい必死な形相で飲み下す。

自分でも気付かぬ間にその手に魔剣を携えて、ひとをころす武器を握りしめて。
植木耕介はただひたすらに、デパートの方へ、森あいの消えた方へ。

もうすぐ、7:30。

植木の向かうその先では、金剛晄の公開解体ショー、そのクライマックスを迎える頃合いである。


【I-7/市街地/一日目/朝】
296こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2:2009/11/13(金) 18:25:55 ID:2JS0NWFi
【植木耕介@うえきの法則】
[状態]:重度の貧血、カナヅチ化 、首に大ダメージ、自我への浸食、破壊衝動
[装備]:青雲剣@封神演義、狂戦士の甲冑@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:仲間と共にこの戦いを止める。
1:もり
2:でぱーと
3:もっぷ
[備考]
※+第5巻、メガサイトから戻って来た直後から参戦です。

【狂戦士の甲冑@ベルセルク】
かつて髑髏の騎士が着用し、魔女フローラが封印していたドワーフ製の呪いの鎧。
使用者に合わせて形状を変える。
凄まじい防御力を誇り、物理攻撃で破壊する事は困難。ただし、内部に衝撃は伝わる。
……とは言っても、着用中は痛みを感じることすらないのだが。
また、着用者の身体能力を限界以上まで引き出すため、超人的な膂力と俊敏さを与える効果もある。
当然そんな代物がノーリスクであるはずもなく、力を振るった反動のダメージは惨憺たるもの。多種の副作用も。
着用者は肉と骨が崩れても鎧自体が変形して強引に体を動かすため、死ぬまでひたすら戦闘を強制される。
それどころか使用者の憎悪や破壊衝動を際限なく高め、まともな思考力と自我さえ奪われる事になる。
最悪、敵味方の区別なしにその場にいるものを殺戮する事だろう。

536 名前: ◆JvezCBil8U[sage] 投稿日:2009/11/13(金) 01:37:07 ID:qHg3gen60
以上、投下終了です。


代理2任務完了
297創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:46:53 ID:2JS0NWFi
やっぱりサンジの死体を発見してしまったか
悲しみのロビンと、それを包み込むヴァッシュの優しさが胸に迫りました。
しかし植木、お前なにやってんだw

7:30……だと?
そんなに時間経っていたのか
銀時&沙英も何やらひと波乱有りそうですな
298創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 19:23:03 ID:21gp1+0k
投下乙です
なんかどんどん危ない人が増えてくなw
299創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 20:05:56 ID:6gQ+wTjQ
投下乙
ロビン、ヴァッシュ、二人とも辛いな……こういう時は言葉は無力だ
そして植木は危ない。危ないぞ
銀時&沙英も確かにひと波乱ありそう
300創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 23:21:10 ID:WjoIi8pH
遅くなりましたが、投下&代理投下の続き乙です

一休みどころかそっちは危険地帯だぞロビン
植木はこの状態でデパートに向かうかwどうしようw

それと>>289に文字化けがあります。
301創る名無しに見る名無し:2009/11/14(土) 18:02:21 ID:Xv0K9EmL
相棒がまた死んだというのに相変わらずだなヴァッシュは
常に歩き続けても折れなかったからな
逆にロワではそんな性格が怖いが
そんで植木やべぇw

>その重量故に取り回しに難がある。
重量ではなく大きさ故の取り回しだよ。
重量は数百キロあるけど全く苦になってない
白兵戦で音速超えて一瞬で何十回も振り回してる
302創る名無しに見る名無し:2009/11/14(土) 18:31:20 ID:CGIRDlYR
植木w
狂戦士の鎧ってガッツでも初めボロボロになってなかったか
死ぬんじゃないのか植木
そして向かう先がw
303創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 00:16:43 ID:mfE2fgNd
F15の巡航速度ですらマッハ0.9なのに・・・
銃撃より確実かつ迅速に相手屠れんじゃね?

連邦の白スーツは化け物か!!!!
304創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 03:38:31 ID:shq8N0pD
遠距離、白兵の違いなだけだ
特性の問題
305創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 04:55:53 ID:mfE2fgNd
だって拳銃の弾って早くても初速が音速程度なんだぜ?
音速超えて機動出来るなら、何M離れてても音速パンチのが銃弾より早く到達出来るんだから白兵戦のが強いじゃん
306創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 08:34:16 ID:shq8N0pD
なんで白兵戦かしない前提なんだよ
>何M離れてても音速パンチのが銃弾より早く到達
そもそも接近と一動さ加えての攻撃の2動作以上かかるのが
範囲射撃の音速の3倍ほどの機関砲弾、しかも秒間100発以上のものより
有効なわけないだろ
307創る名無しに見る名無し:2009/11/16(月) 03:27:43 ID:uW8Co8Gv
1m程度から機関銃乱射叩き落す以上のヤツが
パニでの打撃戦で反応出来ない速度で行なってるから音速超えてるからなぁ
リヴィオも本気出さないで
100m近い距離を一瞬で詰めてしまう速度持ってるからな
308創る名無しに見る名無し:2009/11/16(月) 07:34:12 ID:XpUVXAeD
DBではないが
無印初期からマキシム最後ら辺は比べられん程
インフレしたからなぁ、あのマンガ
>>306
3倍ほどってかあの世界のプラント製で作られた特殊な物だから
そんな速度どこじゃないぞ
309創る名無しに見る名無し:2009/11/16(月) 09:19:40 ID:uCFzzgqI
トライガン勢の戦闘能力設定は真面目に考察すると色々おかしいから深く考えないのが吉
310創る名無しに見る名無し:2009/11/16(月) 17:16:42 ID:uW8Co8Gv
別におかしくはならないが
インフレしすぎたのは確かだ。          予約来たな。
311創る名無しに見る名無し:2009/11/16(月) 19:16:06 ID:9eEMzqWw
あの組み合わせはw
ゆのっち逃げて〜
312創る名無しに見る名無し:2009/11/16(月) 19:30:52 ID:KpayT2d3
ゆのっち(つーか混元珠)はキンブリー、鈴子と相性がいいからまだいい
鈴子は誰かと出会った時点でDEAD ENDしか見えないw
313創る名無しに見る名無し:2009/11/17(火) 23:47:53 ID:VZf3Rea1
予約は破棄かー残念。
まあ風邪なら仕方ないな。お大事に。
314創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 04:28:01 ID:c4+djMPr
現在地の禁止エリアが消えてるけど、なんで? 戻していいの?
315創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 16:57:33 ID:4shkRKRj
いいんじゃないの
316創る名無しに見る名無し:2009/11/19(木) 08:09:06 ID:HYt0Wxb7
ソニックブームまでどう避けてるの?
317創る名無しに見る名無し:2009/11/19(木) 20:18:41 ID:YfTTKRw3
新しい予約が来たな
あの二人に鷹さんだと!?
318 ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 08:46:17 ID:w7eAsMSg
グリフィス、沙英、坂田銀時を投下します。
319ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 08:47:15 ID:w7eAsMSg
捻じ曲げられた因果は、新たなる世界を産む。


***************


デパートの屋上。ビルの間から日が顔を覗かせている。
転落防止用の金網に手を突いて、直線的なフレームの眼鏡を掛けた少女――沙英は一人茫然と街を眺めていた。
時刻は午前六時を回ったばかり。
人々が起き出し、一日の活動を始める時間帯だ。
しかし未だ街は沈黙していた。
ジョギングに精を出すジャージ姿の会社員も、犬の散歩に出かけるおばさんも、眠い目を擦る新聞配達員も、この街には見当たらない。
生活の気配はあるのに、人が、生き物だけが存在しないという不自然さ。
そんな魂の無い街を見下ろしながら、沙英はほとんど風に消え入りそうな声で、ぽつりと呟いた。

「………………ヒロ…………」

きしりと、金網が軋んだ。

あのとき。
事務的にヒロの名前が読み上げられたあのとき。
沙英は銀時の手を振り切って、訳も分からず走り出してしまった。
まるでそうすれば認めたくない現実から逃れられるかのように。
嘘なのだと、これは全て夢なのだと、目を覚ませばいつものひだまり荘での日常が在るのだというかのように。

だが、指先から伝わる金網の硬い感触が、その儚い希望を否定し続けている。

分かってはいる。理解はしている。
多分、この島のどこかでヒロは死んでしまったのだと。
安っぽいドラマの端役のように、無意味に舞台から退場してしまったのだと。
そして、こんなところで無防備に身を晒していれば、自分もそうなるかもしれないのだと。
理解は――している。

でも、納得は――出来るはずが――ない。



だって。
だって、だって。
だってヒロは昨日だって夜食を作ってくれて。
お礼にシュークリームを出したら、また太っちゃう、なんて嘆いていて。
でも結局誘惑に負けて平らげちゃって。
それでからかったら涙目になって。
そんなヒロが死んだなんて――顔も知らない誰かに殺されたなんて。
あの砂糖菓子みたいな笑顔がもう何処にも無いだなんて。
ゆうべのドア越しの声が最後の言葉だなんて。
ああ――あのときドアの向こうでヒロは何て云ってたっけ?
そんなことも思い出せないのに。
そんなことも――――。

そんな――――。

そんなのは――――、



厭だ――――。


320ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 08:48:39 ID:w7eAsMSg
現実感が湧かない。悲しみも、何故か湧かない。
感情が――心が、麻痺している。
それなのに、涙がとめどなくぽろぽろと零れてコンクリートに染みを作る。

肌を刺す朝凪。
知らず、強く握り締めていた指が金網に食い込み白く変色していた。

コツリ、コツリ、と。
少し遠くから硬質の足音が聞こえた。
屋上の扉が開く音は聞こえなかったのに――。
ちらと頭の片隅で違和感を覚えながら、緩慢に涙を拭って沙英は足音の方を振り向く。

刹那――――何もかも忘れて、見蕩れた。

白を基調とした気品のある、それでいて飾らず動き易そうな服。
服の下にはしなやかさと力強さを併せ持つ肉体が想像出来る。
そして怖気のするほど完璧に整った顔立ち。
強い意志を宿す切れ長の眼に、高く筋の通った鼻。
朝の陽光を浴びて煌めく、軽いウェーブのかかった長い銀髪。
腰に提げた日本刀すら、アクセントとして全体の印象を締めている。
少女向けの甘ったるい恋愛小説にだって、これほど完璧な美男子は出てこないだろう。
少なくとも沙英自身が書いた小説には登場しない。

非の打ちどころの無い一枚の宗教画がそこにあった。

「君が沙英さん――かな?」

絵から抜け出た英雄が、涼やかな声で彼女の名を呼んだ。
沙英はただ圧倒されて頷く。

コツリ、と。また一歩前へ。

「ヒロさんのことは残念だったと思う」

びくりと沙英の肩が動いた。
だが――と、銀の英雄は彼女を見据えたまま更に続ける。

「――君はまだ生きている。それならば――出来ることがあるだろう?」

何故彼が自分や自分とヒロとの関係を知っているのか、だとか。
そもそもここにどうやって現れたのか、だとか。
そんな当然の疑問は、彼女の頭には浮かばなかった。
理屈ではなく、英雄とはきっとそういうものなのだ、と納得した。

コツリ、と。また前へ。

「もし君がこのままここで泣いていたいというなら、それはそれで構わない。
 だが、君が剣を取り復讐を望むというのなら――オレが、力を貸そう」

例えば童話に出てくる王子様なら、決して言わないであろう苛烈な台詞。
それすらも甘美な響きを持って彼女の胸の奥に届く。

復讐――考えてもみなかった。
麻痺していた心が、動く。
321ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 08:50:16 ID:w7eAsMSg
コツリ、と。



「選ぶのは君だ」



冷厳な言葉。

直感する。
ここで応えれば――きっと後戻りは出来ない。
もしかしたら、後悔することになるのかもしれない。
ゴクリと、唾を飲む音が耳を打つ。

でも――それでも、ヒロの仇を討てるのなら――――、



ドガンと。
無粋な音が響いた。



「ちょっ、オイテメッ、そこのバカヤロー! ナニ人の目の前でナンパしとんじゃァァァァァ!!」

威勢のいい濁声。
張り詰めた空気が、屋上の扉を蹴り開けて登場した天然パーマの男によって、粉々にぶち壊された。


***************


屋上にて、軽く互いの状況を話した後、

「気に入らねーな」

金網に寄り掛かっていた銀時が不機嫌な声を上げた。
二人の視線が集まる。

「オメーの話だとそのゆのちゃんを黙って旅館に置いて来たっつーことだよな。
 しかもだ、その化け物――何だっけ? ポットだっけ?」
「ゾッドだ」
「あァ、そうそう――で、そのゾッドみてーなヤツにまた襲われるかもしれねーってのを承知の上でだ。
 平たく言やァ足手纏いはどうなろうと構わねェってこったろ」

不快感を隠そうともせずに糾弾する。

「で、でも、それはグリフィスさんの言った通り――」
「その方が結果的には生き残れる可能性が高い、ってか。
 かもしれねーが、それでも女の子を一人でほっぽって来るようなヤローは信用できねーよ」

感情論ではあるが正論でもある。
沙英も、いやむしろ沙英の方がゆのの身を案じているので――それ以上のフォローが出来ない。

「言い訳をするつもりは無い。
 オレは必要なことは例え誰に憎まれようとも行ってきたし、これからも行うつもりだ。
 だがオレは――」
322ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 08:52:00 ID:w7eAsMSg
一片の曇りも無い瞳に二人を映して、グリフィスは続ける。

「神に誓って、こんな殺戮劇を善しとするつもりは無い」
「神に誓って、ねェ。この下らねー殺し合いを考えた奴らも『神』って名乗ってやがったけどな」

すかさず交ぜっ返す銀時。あくまでも信用するつもりは無いらしい。
だが信用するかしないかは別として、彼がこんなところでグリフィスと反目し合う理由は無い。
無いのだが、彼の勘が、彼の中に眠る『白夜叉』の直感がこう告げているのだ。
目の前の英雄然とした男からは、涼しい顔でどんな非道も行える――戦場において最も有能で最も危険な、そういう人種の匂いがする、と。
そしてそのような人種と笑顔で手を取り合えるほど、銀時は器用な人間でも能天気な人間でもない。

銀時はグリフィスを睨んだまま口を閉じ、グリフィスもまた沈黙した。
どちらの言い分も理解出来るが故に、沙英も口を挟めない。
会話に一時の空白が生まれる。
日はいつの間にか高く昇り、島の気温はじりじりと上がり始めていた。

「そ、そういえば、この島が封鎖されてるというのは本当なんですか?」

険悪な雰囲気を打ち払うように、沙英が多少強引に話題を変える。
グリフィスも銀時の説得は難しいとみたのか、彼女に目を向け、

「ああ、本当だ。この宝貝の性能の確認がてら、この島の南へ真っ直ぐ飛んでみたんだが」

そう言って海を眺める。
釣られて、二人も海の方に顔を向けた。
彼らの視線の先には、鏡のように冷えた海面が白く煌めいている。

「……それで?」

銀時が先を促す。

「海に出て少し進んだ所に、白い『壁』があった。横に延々と続いていて――おそらくは島全体を囲んでいるのだろう」
「え? でも、ここからは何も見えませんよ?」

沙英が疑問の声を上げた。
デパートの屋上からは、はっきりと水平線が見える。
グリフィスの言う白い壁らしきものは見当たらない。

「近付かないと見えないんだ。しかも、どんな仕掛けなのかは解らないが、壁に触れると強い力で弾き返されてね。
 オレの知識には無いものだが――」

君達はどうだとグリフィスは訊いた。
その言葉に二人は顔を見合わせ、そしてお手上げとばかりに揃って首を振る。

「壁ねえ……飛べるんならそんなもん上から乗り越えりゃいいんじゃねーの?」

銀時がやる気の無い声でもっともなことを言った。

「それは当然オレも考えたんだが、不可能だった。
 壁は上空へ行くに従って少しずつ反り返している。
 確認はしていないが、島全体を半球状に覆っているようだな」

元々期待していなかったのか、そうかい、と軽く返す銀時。その顔に特に落胆の色は見えない。
ちなみに――グリフィスが壁の形状を確認しなかった理由は、高空に行くと風火輪に急激に体力を奪われることに気付いたからなのだが、彼は敢えて銀時に弱点を開陳するほど迂闊ではない。

一方、いまいちイメージが掴み難かったのだろうか、沙英が遠慮がちに小さく手を挙げて訊く。
323ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 08:53:35 ID:w7eAsMSg
「えっと、つまり……壁というより、卵の殻、みたいな感じですか?」



――何でもないはずの言葉。
勿論、沙英もその言葉を発したことに他意があった訳ではない。
しかし――その単語――『卵』――を耳にしたグリフィスの脳裏に、突如異様な光景が過ぎった。







何十回と色を重ねた油絵を思わせる不気味な空。



――――肉の腐った臭いが鼻を突く。



深淵へと続く虚のような黒い太陽。



――――薄墨の光が色を奪う。



罪人の悲鳴を髣髴とさせる生気の無い風。



――――心音が世界に響く。



地面を埋め尽くす見渡す限りの巨大な顔、顔、顔。



――――身体の、深奥で、何かが、



どこからともなく涌き出でる異形の怪物達。



――――何かが、歓喜の声を、



そして、鷹の団の――――――。
324ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 08:54:22 ID:w7eAsMSg







「あの……大丈夫ですか?」

ハッと我に返る。
反応を失ったグリフィスの顔を沙英が心配そうに覗き込んでいた。

(今のは……?)

知らず胸元に手を持っていき、そしていつも持っていたお守り――ベヘリットが無くなっていることにグリフィスは気付いた。

「あ、ああ――――いや、大丈夫だ。少々――気になることがあっただけだ」

内心の動揺を悟られぬよう、須臾とも那由他ともつかぬ幻想を振り払い、彼は微笑みを取り戻す。
彼女に余計な不安や不信を与える必要は無い。

「卵――そうだな。オレ達がいる場所は巨大な卵の内側だと思えばいい」

顎を掻きながら、心配するでもなく二人のやり取りを見ていた銀時が割り込む。

「要はこの首輪をどーにかしたとしても、それだけじゃ逃げられやしねーってこったな。
 で、結局オメーはどうしようってんだ?」
「簡単だ。どうにかできるとは言わないまでも、首輪や壁についての情報を持っている者を捜せばいい。
 そして正しい情報があれば――」

活路は見出せるものだとグリフィスは自信に満ちた様子で言い切った。
でも、と沙英が不安そうに言い出す。

「そんな人が都合良くいるとは――」
「限らないな。しかし、いる可能性は充分にある。
 例えば――最初の場で説明を行った二人に食って掛かった者達、とかな」

確かに――『神』の陣営に属する者の知り合いならば、何らかの重要な情報を持っている可能性は高い。
銀時も沙英もその点についての異論は無い。

「それで、これからどうするかだが――」

グリフィスの計画は、銀時と沙英がヴァッシュ達と合流後にゆのを迎えに行き、彼自身は北部の市街地を回って仲間を集める、という段取りだった。
再度落ち合う場所は、ゆのが向かっている可能性もある教会と定める。

「出来ることなら、君達もなるべく多くの仲間を集めてから教会に行って欲しい。
 落ち合う時刻は、そうだな、今日の深夜――日付が変わる時でどうだろう?」
「ええ、分かりました」
「ま、そりゃ構わねーけど」

今までとやる事が大きく変わる訳ではないので、二人はすんなり了承した。
他にも教会で落ち合えなかった場合はメモを残すことや、教会が進入不可能になった場合は灯台へ向かうこと、その他細かい決め事を確認する。

「さて、オレはそろそろ行くことにしよう。
 西のエリアに入れなくなる前に向こう側へ抜けておきたいからな」
325ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 08:55:08 ID:w7eAsMSg
そう言うとグリフィスは風火輪を起動し、宙に浮いた。
沙英が一歩前に進み出て、胸の前で指を組み、

「その、どうか気を付けて下さい」

陳腐ながらも心の篭った言葉でグリフィスの無事を祈る。
そんな彼女に、

「ああ、君達もね」

彼も極上の微笑みを返した。
そして吹き始めた海風を纏うように高度を上げていく。
心配そうな様子の沙英と憮然とした表情の銀時を後に残し、白き鷹は再び空へと舞い上がった。


***************


グリフィスが飛び去って行った方を眺めていた銀時は、彼がビルの陰に消えた直後、盛大な溜息を吐いた。

「最後までキザなヤローだったなオイ」

その顔には『あーいうヤツは苦手だ』とはっきり書いてある。
事実、グリフィスの思惑を別としても銀時にとって彼のようなタイプは天敵なのだ。
具体的に言うと、ギャグにノってくれないタイプが。

「まァ悪党って訳じゃねーだろうし、一応協力すっかね。
 目的は同じらしいしな。仲間集めんのは賛成だし」

ただああいうのは悪党じゃねーからこそタチが悪いんだけどな、と心の中で付け加える。

「あ、そ、その……」

先程から黙っていた沙英が、顔を伏せ気味にしておずおずと切り出した。

「ん?」

銀時は首だけを動かして沙英の方を見遣る。

「さっきはごめんなさい。勝手に走って逃げたりして……。
 銀さんだって、あの、その、新八さんが…………わっ!?」

言い淀んだ彼女の肩に手を置いて彼はその先を制した。

「ハイハイストーップ。湿っぽい話は禁止な。
 大体な、あの変態どもが勝手に死んだっつってるだけだろーが。
 あのメガネはゴキブリ並にしぶてーんだ。そう簡単にゃくたばんねーよ。
 今頃どっかでガサゴソ這い回ってんだろ。
 だから」

一旦言葉を切る。
そして不思議な安心感を与える笑みを浮かべて、

「俺達は俺達であいつらをブン殴る方法を考えようぜ。な?」

優しく言い切った。
326ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 08:56:06 ID:w7eAsMSg
気休めであることは沙英にも分かっている。
新八も――ヒロも、生きている可能性は多分、無い。
それでも、銀時の優しさは彼女の心に沁みた。

「んじゃまあ、あいつらも待ちくたびれてるだろーしそろそろ行くかね」
「……はい。ゆのも早く迎えにいってあげないといけませんしね」

まだ少し赤い目を瞬いて、沙英はようやく、ほんの僅かに微笑む。
そして二人は並んで屋上の扉の中へと消えていった。



このとき屋上からヴァッシュ達の様子を確認しておけば――二人のこの後の行動も違ったものになったのかもしれない。

時刻は午前七時。
デパートから一キロメートルほど北で、彼らの仲間であるはずの三人が戦いを始めていた。


【I-7/デパート/一日目 朝】

【沙英@ひだまりスケッチ】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:九竜神火罩@封神演義
[道具]:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、
輸血用血液パック
[思考]
1:銀さんと協力して、ゆのと宮子を保護する。
2:貧血に効きそうな?食料を探す。
3:食料と血液を持って、ヴァッシュさん達のところに戻る。
4:銀さんが気になる?
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する。
6:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れたい。
7:ヒロの復讐……?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。

【坂田銀時@銀魂】
[状態]:ちょっと腹痛
[服装]:
[装備]:和道一文字@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義
[思考]
1:沙英を守りながら、ゆのを迎えに行く。
2:ヴァッシュ達と合流する。
3:深夜になったら教会でグリフィスと合流する?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。


***************

327ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 08:57:24 ID:w7eAsMSg
二人と別れ、再び空を西へ飛ぶグリフィス。
彼の眼下に見える家は徐々にまばらになり、代わりに緑が増えてきている。
そろそろ進入禁止エリアを抜ける頃だろう。

ゆのの友人である沙英を早々に発見出来たのは僥倖だった。
あの白髪頭の剣士、銀時は一筋縄ではいかなそうではあったが、見たところ実力はかなりのものだ。
打算的な行動を嫌う点も、扱い難くはあるが得難い資質であり、半端に賢しい者より信用出来るだろう。
とりあえずは悪くない滑り出しと言える。

彼らの言葉を聞いた者が教会に集まるまでに、おそらくは犠牲者も出るだろうが――構うまい。
結局のところ、自力で生き延びられぬ者は死ぬしかないのだ。

何にせよ、この調子なら意外と早く、この場で新たな『鷹の団』を結成することが出来そうだ。
だが勿論、そのために必要な、最も重要なものは――、

「ガッツ。お前は今、何処にいる?」

そう、彼がいなければ始まらない。

結局、銀時と沙英はガッツを知らなかったようだ。
南側の市街地にはいないのだろうか。とすると、彼のいる可能性が次に高い場所は北側の市街地か。
いずれにせよ、ガッツは逃げ隠れする性格ではないから、捜し続ければすぐに痕跡くらいは発見できるだろう。

逸る気持ちを抑え、低空から地上を俯瞰するグリフィス。
視界には今のところ大したものは入って来ない。

彼の意識を占めるものはガッツと、そしてもう一つ。

(それにしても――あのイメージは一体何だ?)

どうしても気になる。
先程、グリフィスの脳裏に突如浮かび上がったこの世では在り得ない光景。
ただの幻覚だと、白昼夢だと切り捨てるには鮮明に過ぎた。
周囲を油断無く見渡しながらも彼は思索にふける。

(あんなものは――オレは知らない――はずだ。だが、何故だ。何故あんな地獄のような光景にオレは――)

――――安らぎを感じたんだ?

328ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 09:00:47 ID:w7eAsMSg
【I-5/上空/1日目 朝】

【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:健康
[服装]:貴族風の服
[装備]:居合番長の刀@金剛番長、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式
[思考]
1:ガッツと合流する。
2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける
3:役に立ちそうな他の参加者と繋ぎをつけておく。ゆの、沙英、銀時との再合流は状況次第。
4:未知の存在やテクノロジーに興味
5:ゾッドは何を考えている?
6:あの光景は?
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
 ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのと情報交換をしました。
 ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※沙英、銀時と軽く情報交換しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※風火輪で高空を飛ぶと急激に疲れることに気付きました。


***************


それが、とある少年執事の今際の際に、何処からか混線した声と同質のものであることを彼は知らない。
それが、彼の求める黒い剣士にとって忘れ難い災厄であることを彼は知らない。
それが、本来の因果、定められていたはずの運命の断片であることを彼は知らない。

彼の疑問に答える者はない。

『覇王の卵』は今も何処かで、深く静かに脈動している。
329 ◆L62I.UGyuw :2009/11/20(金) 09:01:43 ID:w7eAsMSg
以上、投下終了です。
330創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 10:36:56 ID:/Ho62gXA
投下乙
沙英はやっぱりと思ってたが凄くご都合主義(褒め言葉)にグリフィス登場したなw
対抗するように銀時も来たがさすが本質を見抜いたか
そしてグリフィス、変な影響受け出したな。更に続きそうで他の参加者への影響が気になるよ
331創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 19:05:32 ID:AekbqBDV
投下乙です
銀さんナイス空気ぶち壊しw
沙英は今のところ乗り越えられてるか
そしてグリフィスの脳裏の映像が気になるな。ハヤテのは単なる幻聴じゃなかったか
332創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 20:15:36 ID:BXMXpads
投下乙
ある意味、銀さんが来てよかった〜
沙英、自分で書いた小説よりヒロインしてるような気がw
ハヤテのと絡んで単なる幻覚や幻聴でないのか。確かに気になるな
333創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 21:57:25 ID:deZzWlFS
グリフィスが流れを作り始めたな
島が卵とは面白い着想……全てが終わった時、いったい何が生まれるのか
市街地南部にもいくつかの流れが出来てきたな

投下乙でした
334創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 00:19:37 ID:MAN/NpJq
卵の中から生まれるのは何か
神はそれの誕生を期待しているのだろうか?

これで放送後がまだなのは
秋瀬、リヴィオ
趙公明、キンブリー、森あい
ゆの
鈴子
聞仲、潮
ウィンリィ
ひょう、パック
安藤(兄)、ゴルゴ13
スズメバチ

やっぱり書きにくいのかな?
335創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 00:46:06 ID:izifpw8H
書けるところはいくつかあるけど、遅筆ぎみなのはなんともかんとも
336創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 00:55:04 ID:MU8wWkuR
「神のたまご」という言葉が浮かんだが何だったか思い出せない
しかしつくづく神に縁のあるロワだな
337創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 00:59:22 ID:s4PZCirT
ハンプティ・ダンプティか?
338創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 08:15:17 ID:yXm0gFWA
>>334
趙公明、キンブリー、森、ゆの、鈴子は予約破棄したとはいっても◆UjRqenNurc氏が書いてくれるんじゃないかな。
もちろん風邪を治すのが先だけど。

それを除くと残りは

秋瀬、リヴィオ:動かし辛い位置の上に情報戦の要。後出しでないと難しいパート。
聞仲、潮:別に難しくはないのだが周りに人がいない。
ウィンリィ、ひょう、パック:脇役軍団。全員把握してる人は少ないかも。ゾッド戦絡みで纏めて書くのが吉か?
安藤(兄)、ゴルゴ13:扱いにくい能力と扱いにくい性格のコンビ。まぁ難しいと思う。
スズメバチ:いつのまにか取り残された感が。行動原理が狂い過ぎで困るキャラ。

こんな感じか。

あと書きにくいと言えば由乃、雪輝組。
今書いたら次号で設定ちゃぶ台返しとかやられそうで手を出せないw
339創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 09:54:09 ID:izifpw8H
今週寒すぎだろ常識的に考えて……
340創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 11:55:49 ID:Es8YmZE3
書き手氏が体を壊さないか心配
期待してるだけに書き手氏の安否が気になる
341創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 20:48:22 ID:NP5BkT5h
この寒波で書き手が冬眠しないか心配
342創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 21:58:54 ID:dKRwjHfZ
◆JvezCBil8U氏と◆L62I.UGyuw氏の二人だけで生存者の最新話の8割を書いてるのか
なんつーバイタリティ
343創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 22:16:37 ID:NxQF6SEq
西尾ロワもざっと見た感じ
結構同じ人が書いてるのも多いね
344創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 22:25:33 ID:izifpw8H
スズメバチはグリフィスさんの手駒にするつもりだったんだけど、あれよあれよと言う間に
彼が南下しちゃったからなぁ
グリフィスって犬飼っぽいから魔王勢と絡ませてみたかった
345創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 23:30:47 ID:MU8wWkuR
実はスズメバチも誰とも会わず南下してましたー、とかで何とか……。
無理があるか?
346創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 23:51:36 ID:aTzhhhtB
誰にも会わないのは余裕だが、川飛び超えるか市街地の施設を総スルーかの2択だから苦しい
347創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 02:29:58 ID:OZjoZsX0
>>336
テイルズロワかな? 
つかTOD2か。あそこまでどん詰まりになる可能性は……
安藤兄弟が魔王覚醒して妲己とともにあらゆる参加者の心をぐっちゃばっちゃとすれば
あるいはってとこか
348創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 14:43:44 ID:IXWRHS+d
Jv氏もL6氏もすげーな、どっちもクオリティと速度両立させてる
Jv氏は長文傾向が珠に傷だけどガチバトル、ギャグ、頭脳戦と引き出しが広い
L6氏は初作品が50話以降なのに速度と作品の密度が凄い、この人の大作も見てみたいな
349創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 17:11:45 ID:93g5Pjya
久々にハガレンFA見てみたらキンブリーさんも声変わってんのな
イメージ変わるわ
350創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 21:01:35 ID:7SLviYpp
あのメンバーにグリ……フィス?
何が起こるんだ
351創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 21:35:11 ID:9v5SrFuB
さすがは天下の鷹さんや
パネェっす
352創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 22:16:50 ID:lWkmYPTD
スズメバチはもしかしたらそっちに行くかもとは思ってたが鷹さんもかよw
353創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 11:16:03 ID:WQZOVMMX
違う予約も来てるな
飲んだくれ二人とヤンデレか……
顔見知り同士だがどうなるかな
354創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 11:52:53 ID:/aBMo730
……これ時系列マズくないか?
ナギだけすでに昼になってるのに、酔いどれ達が立体映像やらかしたのが午前。
昼の時点まで立体映像が出てるかも分からないし、ナイブズみたいな立体映像の方に向かってる参加者もいるはず。
デパート付近の面子と趙公明たちがあれ見逃すはずもないし、あいつらの午前での描写が来てからじゃないと破綻しそうだが……。
355創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 12:07:53 ID:xzy7PRri
それを全力でフォローするのもリレーの楽しさと言える
どっちにしろナギが起きた時点でカラオケは終了してる必要があるからナイブズは間に合わん
卑怯がわざわざ引き返すとも思えんし、爆弾の植木がいる以上時間の引き延ばしは可能
川より北の組を足止め出来れば多分どうにでもなる
356創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 12:37:00 ID:8AoQ62xn
覚えてないんだが、キリコはカラオケにどう反応したっけ?
357創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 12:40:49 ID:xzy7PRri
反応無し
メタ的に見ればキリコ、ナギの話の投下が飲んだくれの話より先に投下されてるから反応のしようがない
358創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 13:54:02 ID:8AoQ62xn
遅れたがとんくす
359創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 15:32:51 ID:yRx0TIQE
>>354
YOU書き手になっちゃいなよ
360創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 21:08:36 ID:/KekzdL5
ま、あっさり合流と決まったわけでもなし、今から頭を悩ませてもしょうがない
361創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 21:35:21 ID:vQ16rALq
それもそうだね
でも難しいな
それともなにか勝算でもあるのかな?
362創る名無しに見る名無し:2009/11/27(金) 03:01:29 ID:UohPC7UV
ヴァッシュの単独予約も来てるぞ
彼はどちらに向かうのか……
363 ◆L62I.UGyuw :2009/11/27(金) 03:58:31 ID:2IixDvfJ
舞台が被ったら申し訳ないですが、ヴァッシュ・ザ・スタンピード投下します。
364Eternal Desire ◆L62I.UGyuw :2009/11/27(金) 04:00:12 ID:2IixDvfJ
朝。
太い木々が生い茂る森にようやく陽の光が射す。空は高く、鮮やかな雲がまだらに浮かんでいた。
辺りには鳥の鳴き声が響き、適度に湿った空気は場違いなくらい爽やかだった。

緑の海の中を、派手な赤いコートを翻して、金と黒が混じったトンガリ頭のガンマン――ヴァッシュがひた走る。

あのとき、禍々しい鎧を纏った植木にハッパを掛けられて。
僅かな逡巡の後、結局彼は遁走したロビンを追い掛ける決断を下した。
元より『ロビンを見捨てない』ことを前提とするならば選択の余地は無い。
植木は引き止める間も無くデパートの方へ駆けていってしまったのだから。
それに客観的な事実だけを見れば植木は確かに復活したのだし、彼の判断――ヴァッシュがロビンを追い、植木がデパートへ向かう――も間違ってはいない。
仮に植木を引き止めたところで、半死人に近い状態だった彼と共に山林を駆け回るのは無茶だからだ。
だからここはヴァッシュがロビンを捕まえて説得、そしてすぐにデパートで植木達と合流するのが最良だろう。
胸騒ぎを強引に抑え付けて、ヴァッシュはそんな自らの冷静な部分の声に従う。

ただ実際に彼を駆り立てているのはそんな理性的な理由ではなかった。
ロビンの眼。傷付き、肩で息をしながらも、ヴァッシュを射抜いた視線。
彼には、彼女の濡れた闇色の瞳が、その奥に湛えられた底無しの孤独と絶望が、彼の兄のそれと酷く近しいものに思えたのだ。
仲間を、友を殺されたという苦悶の更に深みから溢れ出る、暗澹たるヒトへの嫌悪が――。
放っておく訳にはいかない。彼女に兄と同じ道を歩ませる訳にはいかない。
ヴァッシュ自身どの程度意識しているのかは判らないが、彼がロビンを追う決断をした決定的な理由はそれだった。

とはいえ――、

「ああもう! どこまで行っても木ばっかりじゃないか。こんなにあったら有難味ってモンがないだろ!?」

森の中に逃げ込んだ彼女を見つけ出すのは容易ではない。
いや、それ以前に真っ直ぐ進むことすら難しいのだ。
変わらぬようで常に変化する景色が、木々のざわめきが、地形の微妙な起伏が、ヴァッシュの方向感覚を狂わせる。
得体の知れない胸騒ぎも相まって、彼の焦りはどんどんと増幅していく。
そしてその焦りはさらに方向を見失わせる。
典型的な悪循環だ。

そうこうしている内に、とうとうヴァッシュは自分の居場所すら判らなくなってしまった。
砂漠しか知らない彼は、森林の脅威を軽く見過ぎていたのだ。
優に一世紀を超える旅の経験もこの場ではあまり役に立たない。
森の中で迷った時の対処法など当然知るはずもなく、一人途方に暮れる。

「……ボクチャンもしかしてこの歳で迷子デスカ? アハハハハ…………」

乾いた笑いが空しく森の奥へと吸い込まれていった。
ハァ、と。最後に大きく溜息を吐く。
完全にロビンを見失ったらしい。追うのを諦めるつもりは無いが、状況を打開する手が無いことも確かだ。
とりあえず、方角くらいは確かめておこう。
そう思って肩に掛けたデイパックからコンパスを取り出したそのとき、
365Eternal Desire ◆L62I.UGyuw :2009/11/27(金) 04:00:58 ID:2IixDvfJ



――――ズン。



山が微かに震え、狭い空に鳥が一斉に飛び立った。
ヴァッシュは、振動の正体は何かの爆発の余波であると瞬時に看破し、体に緊張を走らせる。
身構えたまま数秒。鳥の群れが編隊を組んでどこかへ飛んでいった。

周囲に神経を張り巡らせつつ、ヴァッシュは考える。
爆発は西の方で起こった。ロビンと関係があるのか否かは判らない。
だが、当てもなく彷徨うよりは、爆音の源へ向かった方が幾分マシだ。
そう判断した彼は、一度辺りに素早く視線を走らせると、向きを変えて再び走り出した。

鬱蒼とした森の中。相変わらず気を抜くと距離も方向も失いそうになる曖昧な景色。
それでも多少は慣れたのか、コンパスを確認しながら西へと疾走するヴァッシュ。
しばらく走ったところで、

「ん?」

妙な物を発見し、彼は慌てて立ち止まった。
木と木の間。ちょうど膝の高さに、何か――細い糸が張られている。

「これは――」

森にはこんなものもあるのか――などと一瞬間抜けな感想を抱いたヴァッシュだったが、すぐにそんな訳はないと思い直した。
多分、誰かの仕掛けた罠だろう。よく見れば十メートルくらい先にも、今度は首の辺りの高さに同じ糸が張られている。
相当注意していないと、普通の人間では気付くまい。
誰かが引っ掛かる可能性を考えると残らず解除しておきたいところだが、流石にそんな悠長なことをしている時間は無い。
何にせよ、まずは爆心地へ向かうのが先決だ。
そう思い直し、少し不本意ながらも目前の罠を飛び越えて――、



「――な!?」



着地した瞬間に、ごく近く、プラントの力の射程と比較すれば正に目と鼻の先で――ゲートが、開いた。


***************

366Eternal Desire ◆L62I.UGyuw :2009/11/27(金) 04:01:39 ID:2IixDvfJ
今更に、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは思い出す。

『ええかトンガリ……こないな時代やと人生は絶え間なく連続した問題集や』

全く、その通りだと思う。

『揃って複雑。選択肢は酷薄。加えて制限時間まで有る』

いつも複雑さに頭を悩ませて、最悪の選択肢を選んではいないかと怯えて、制限時間に背中を押されて、

『一番最低なんは夢みたいな解法を待って何一つ選ばない事や』

いつも恐る恐る手探りで、なるべく多くを、出来れば全てを取り零さないようにと努力して、

『オロオロしてる間に全部おじゃん。一人も救えへん』

そして結局――今度も、親友を救うことさえ出来なかった。

『……選ばなアカンねや!! 一人も殺せん奴に一人も救えるもんかい』

そう、なのかもしれない。いつもいつも犠牲無しに物事を丸く収める選択肢が在るとは限らないのかもしれない。でも、例えそうだとしても、

『ワシらは神さまと違うねん。万能やないだけ鬼にもならなアカン……』

ウルフウッド、それでもやっぱり、目の前の命を切り捨てるなんてことは、僕には――――。


***************


爆音。そして少し経って開いたゲート。
これらの示唆するところは、ナイブズと何者かとの戦闘。
相手はロビンかもしれないし、そうでないかもしれない。
だがどちらにせよ――ナイブズが立ち塞がる敵に対して容赦などするはずがない。
当然ながら、ヴァッシュとしては見過ごすわけにはいかなかった。だが、

「遅かった……のか?」

点在する罠を避けながら必死に走ってきた彼を待っていたのは、無人の爆発の跡だった。
憮然として立ち尽くすヴァッシュ。
動くものは、何も無い。焼けた有機物と微かな鉄錆の臭いが鼻腔を刺激する。
爆風の影響か、周囲の木々の樹皮は一部変色しており、沢山の葉が地面に積もって燻っている。
その大量の落ち葉に混じって、異物が――明らかな人工物が落ちていた。

「これは……」
367Eternal Desire ◆L62I.UGyuw :2009/11/27(金) 04:04:09 ID:2IixDvfJ
ヴァッシュは慎重に足元のそれを拾い上げた。
血と泥に塗れてボロボロになってはいるが、辛うじて女物の服であることは判別出来る。
よく見ると、近くには衣服の欠片らしき襤褸切れが他にも落ちている。その近辺の土は大量の血を吸って赤黒く染まっていた。
しかし、何故かその持ち主の姿が無い。これだけの出血量――控えめに見ても動ける傷でないことは明白なのに。
勿論、そこいらに誰かの死体が転がっているよりは遥かにマシなのだが。

それにしても――と、出来の悪い答案用紙を眺める学生のような表情でヴァッシュは考え込む。
ちぐはぐだ。
爆発が起こり、ナイブズが力を振るい、誰かが重傷を負い、その誰かは忽然と姿を消した。
事象の一つ一つは理解出来る。だがしかし、一つの場所で、短い時間で起こった現象と考えると訳が分からなくなる。
いや、無理にでもというなら説明を付けることは可能なのだが――それは歪な机上の空論に過ぎない。

ともあれ、ヴァッシュの理解を超えた何かがここで起こったということだけは確実だ。

緑の天蓋を仰いで嘆息する。
答えの出ない問題はひとまず脇に置いておくことにして、ヴァッシュは気持ちを切り替える。
どの道、ここにこうして突っ立っていても仕方ない。
少しの間顎に手を当てて考え込み、やがておもむろにコンパスで方角を確認。
そしてヴァッシュは再び何処かを目指して走り始めた。

後にはただ、僅かに燻る落ち葉が残されているだけだった。


【H-5/一日目/午前】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:頬に擦過傷、疲労(小)、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
0:何があったんだ?
1:ロビンを追って説得する。
2:ナイブズが近くにいるはずだが――?
3:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
4:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
5:なるべく早く植木達と合流する。
[備考]
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。
368 ◆L62I.UGyuw :2009/11/27(金) 04:05:24 ID:2IixDvfJ
以上、投下終了です。
369創る名無しに見る名無し:2009/11/27(金) 15:17:33 ID:3uSDvClF
投下乙
ロビン追ってたらあの現場か。ナイブズと行き違いか?
確かハムが負傷してナイブズがその場所で(?)治して会話してカラオケ騒動でそちらに移動
鉢合わせしてもおかしくなかったな
後、細かいけどカラオケ騒動はハムが普通に知るほど騒いでいたからヴァッシュも耳にしてると思うけど


370創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 00:15:01 ID:sCKSB9zP
投下乙
ヴァッシュはそっちにいったか
でもお前の力が必要な爆心地はそっちじゃないんだぜ…
371創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 00:53:05 ID:XEZP6MDc
カラオケの描写を付け加えた修正案が必要か?
ナイブズのSS見たら必要ぽいけど
372 ◆L62I.UGyuw :2009/11/28(土) 11:33:09 ID:EXbOTaDp
返答が遅くなりまして申し訳ありません。
カラオケは「聞こえなかった」or「まだカラオケが始まっていない」というつもりでした。

・H-5の森はカノンの位置から爆発地点を把握出来ないくらいには見通しが悪い
・ナイブズとハムが立体映像を目撃している

これらを両立させるためには、カラオケ騒動が始まった時点でナイブズとハムが見通しのいい場所(H-6)まで移動している必要があると考えました。
木々の上に立体映像が見える可能性はありますが、確認したところ、雑木林程度でも天頂部以外はほぼ見えません。
成層圏をブチ抜く大きさの映像なら見えるかもしれませんが、それはちょっと大きすぎる気が。
373創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 16:37:22 ID:rp5+GChL
そこまで拘る必要ないと思うしナイブズとハムが見通しのいい場所(H-6)まで移動したのならおkでいいと思うよ
374創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 16:48:34 ID:rp5+GChL
代理投下します
375Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 16:49:42 ID:rp5+GChL
はるかおおぞらよりだれもをみおろす

このだいちのうえをひとりただあるく


***************


《運命とは眼前を切り開くもの》

鷹の世界は、遥か雲の領域にまで足跡を刻み込んでいた。

生きとし生けるものが、命の息吹の残滓が、そこに在るよろづ全てのものが睥睨されている。
はや永きの眠りに沈んだものは多く、未だ目を閉じるのを渋り続けるものはなお多い。

天空は高く、広く。
雲海の切れ目に見える数々の人の在り様が、鷹の進むべき道を照らし出す。

眼下、彼の影と時折交わるのは転がった3つの死体。
いや、男女2つの屍と不気味なカラクリ人形だ。
少し離れた所には鎧の残骸のようなものも散らばっている。
……死体に用はない。

――デパートの方角を振り返る。
つい先ほど言葉を交わした二人の姿は、とうに見えない。
その屋上を通り越す。
ずっと先の地上には、ぽつりと米粒のように黒い人影がひとつ見受けられた。
遠目にはよく分からないが、何かの建物からちょうど出てきたところのようである。
その眼の周りはやけに黒っぽく染まっており、何かマスクのようなものでも付けているのかもしれない。
デパートの方に向かいじわじわ寄ってきているのが見て取れる。

しかしそれより目立つのは、デパートのすぐ近くで開演されている凄惨な宴だ。
思わず鷹は、口元に手を添え目を背けてしまう。
……アレには、近づいてはならない。
つい先ほど見た『悪夢のような光景』を思い出してしまい、怖気がする。
それは確かに『それ』そのものについて感じ入るものでもあるが、それ以上に『それ』に陶酔せんとする自分の中の何かが恐ろしい。
本来ならデパートで出会った二人に、警告に戻るべきなのだろう。
だが、臓物の祭典に近づくと自分が自分でなくなるような気がして――、鷹はどうしても踏み切る事が出来なかった。
大丈夫だ、と頷く。
あの剣士はそれなりの使い手のようだった。ならば、わざわざ危険に身を曝すような愚行はすまい。
そう口の中で繰り返した。

《運命は迷いを断つ》

そこから北に目をスライドさせてみれば、赤に身を包む金と黒の髪の男の姿が届いてくる。
どうやら交戦中のようで、鷹ですら感嘆させるほどの立ち回りを見事に披露していた。
木立に隠れてその男以外の姿はよく見えないが、どうやら彼を含め3人ほどが入り混じった乱戦であるらしい。
……いや、4人か。
通りすがった不気味な風体をした男が、彼らに気付かれぬままに、まるで医者が診療をするかのようにじっと脇から観察していた。
四人に声をかけようかと思うも、しかし鷹は思い直す。
あの赤い男は、強い。『現時点の』鷹の親友や、鷹本人すら超えるほどに。
もしかしたら不死のゾッドに並び立つ――あるいはそれ以上でさえあるかもしれない。
仮に彼が殺し合いに乗った人物であれば、下手な接触は危機を招くだけだ。
そうでないなら是非鷹の団に誘いたいが、その手を打つのは背中を任せられる仲間と合流してからにすべきだろう。
376Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 16:51:50 ID:rp5+GChL
されど、先刻確認した通りあの朋友たる威丈夫は影も形も見当たらない。
この島の南部にはその気配がない。

《運命とは進み行くもの》

だから鷹は、北を目指す。

北へ。

北へ――。


***************


《運命とは自ずと向かって来るものなり》

薄暗く、黴臭く。
剥き出しの木地が経年にも負けず磨き上げられたその中に。
光の帯の差し込む中に、舞い踊る埃が風に遊ぶ。
風の由来するは一人の男。
ごそごそ、がさがさ。
無造作に適当に、何かを探すために体を動かせば、停滞し淀んだ空気は僅かながらに流動をはじめるのだ。

「なーにをオレぁやってんだろーね……」

呟くその声には強い溜息が付帯しており、息は風となって壁の御幣を揺らしどこかへと抜けていく。

《運命とはその糸で人をとらえるものなり》

『ちょうどいい、手伝ってくれ』

顎に手を当て、暢気すぎるほどの歩みで石段を上ってきた少年の、自分を見るなり放った第一声がそれだった。

『は? いきなりなに言ってんだ?』

とらという名の化生と戦うのに備え、体力を温存しようと考えていた男――秋葉流。
どうせ一瞬で殺せるとの見積もり通り、ならば適当に情報でも聞き出そうと近づいたものの、どうも勝手が良くない。
少年は自己紹介すらせず、こちらの喋る機会を失わせるかのように言葉を次々と吐き出していく。

『殺し合いが始まってからもう大分経つ。
 なのにこんな――普通なら来ようともしない場所にいる時点で目的は同じだろ。
 だったら四の五の面倒臭い事言ってるよりも手を動かした方が得だと思わないか?
 別に言葉を交わすのは、探し物をしながらでだって出来るんだしな』

合理的だが、あまりにマイペース。流石の流も唖然と口を開ける。
直後、『俺はあっちを調べてみるが、妙なもの以外に何か探しとくべきものはあるか?』などと告げてすたすたと本殿の方向へ行こうとする。
どうにか独鈷杵などの金剛杵や錫杖のような神具法具の類を見繕うよう声をかけるのは間に合ったが、少しばかり調子が狂う。

結局そのやり取りに毒気を抜かれてしまい、また得物を探す人手として利用させてもらうという目論見も加わって、とりあえずは放っておく事にしたのだ。
こちらが殺気を放っているのに全く動じなかった態度からするに、見た目通り脳が茹だっているか修羅場慣れしているかのどちらかだろう。
とはいえ、腕っ節が強い様子もないし、やはり前者か――、などと考えながら手を動かす。

山の中にあるこの神社は、その立地条件にもかかわらずかなりの大きさだ。
とりあえず目に付く施設を並べてみるだけでも、
本殿、拝殿、社務所、手水舎、宝物殿、神木、鳥居――といくつも挙げる事が出来る。
石碑や狛犬などといった細かいものまで含めれば、さらに数は増える。
その中には『赤薔薇を咥えた黒き白鳥の像』などという突っ込みどころ満載の代物まである始末だ。
377Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 16:53:39 ID:rp5+GChL
それぞれの施設の全てを見て回ったわけではないが、いくつかの施設は既に流は探索を終えている。
まず手始めに向かったのは、やはり一番目につく拝殿だ。
拝殿とはその名の通り、拝むための場所である。
つまり賽銭箱などが置かれている場所であり、祭礼を取り行うためのスペースでもあるのだ。

よく誤解されることではあるが、賽銭箱の向こう側――拝殿の中には御神体は存在しない。無論、例外はあるが。
御神体などの神の宿るヨリシロは、本殿という拝殿より一回り小さい専用のスペースに収められているのが通例だ。

当然流もその辺りの事は熟知しており、拝殿では大したものは見つかるまいと思っていた。
そしてその予測は見事的中。
備え付けられた種々の祭具は武器にするにも心もとないものばかり。
完全に儀礼の為だけに存在しているのだろう。
ただ、祭壇の中央にある二重螺旋の彫り込まれた御柱だけが、やけに力を放っているように感じられる。
……持ち運べるような代物でもない以上、役には立たないが。

拝殿を一通り眺めた流が次に向かったのは、2本並び立った神木だった。
それぞれ『はじまりの樹』『絶園の樹』という名が看板に銘打たれたそれらの樹から、細い注連縄を頂戴したのだ。
広域結界を作るための手助けをする道具としては、まずまずの品だろう。

そしてこの神木のすぐ近くに、特記しておくべき一つの建造物を発見する。
ちょうど滝とは反対側の位置に石造りの小さな階段が備え付けられていたのだ。
そこを下っていくと、どうやら西の方――地図で言う研究所の方に繋がっているらしい。
それらしき建物は見えないが、地形の起伏にはところどころ不自然な箇所がある。
おそらく研究所は山体をくり抜いて造られており、石段の先はそのどこかに繋がっているのだろう。
神社は避難所として利用されるのも珍しくはない。ならば、研究所からの非常口として機能しているのかもしれない。

そして今流が探索をし始めたのは、宝物殿とは名ばかりの倉庫だ。
大抵のものが箱に仕舞い込まれているため、探索には一苦労しそうである。
試しに一つ箱を開けてみたところ、『念仏くんストラップ』などというインチキ臭い上に全く売れそうもないゴミが束になって詰め込まれている。
こんなイロモノばかりの箱に入っているのだとすれば、目ぼしいものを見つけるのも面倒くさい。
なのでとりあえず箱に手をつけるのはやめ、剥き出しになっているものから調べることにした。
使いやすさを考慮してなのか入り口近くによく使うであろうものが、奥の方に物々しい箱の群れが積まれているという配置になっている。

その、『よく使うであろうもの』が、流にとっては非常にありがたい。
錫杖や法螺貝の笛、鈴、注連縄、御幣に破魔矢。神道というより修験道系の道具だが、こういう所にあってもおかしくはない。
どれも法力を通すにはそれなりに適した神具である。
適当にデイパックに放り込んでは眇目で辺りを見回す流のその耳に、不意に声が届く。
先刻の少年の声で間違いない。

「――ちょっといいか?」


***************
378Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 16:54:49 ID:rp5+GChL
《運命は閉ざされた門を開ける》

見た事のないはずの光景がフラッシュバックしていた。

そのイメージはどこから来たのだろうか。今のこの時点と、とてもよく似た風景だ。

そう――、『あの時』も、こうして石段を登り続けていた。

歩み続けていた。

電車を乗り継ぎ、緑溢れる片田舎へと足を延ばす。

歩いて歩いて昇りつめた先に、不意に声が耳に届いた。

それはよく知る男の声。

森に囲まれた社の入り口。やけに記憶に残る赤の鳥居。

一人の男が本を読みつつ、缶を口元へと持っていく。

傍には誰もいない。

もう、いない。手放した。

きっとそうなるだろうという予感が、渦巻いていたのだ。

彼女はただ、奪われるためにだけ与えられたものだったのだ、と。

それでも自分の支えとなっていたのは、誰にも決して奪えないとても佳いもの。

すなわち――、


「悪いがそれは、企業秘密だ」


《運命は救世者の道となる》

ペチンと頬を叩き、意識を揺り戻す。
――先刻、石段を上っている時垣間見たあの光景は、きっとただの白昼夢。
特に意味があるとも思えないあのビジョンに気を取られ、現実を忘れては話にならない。
今為すべきは、行動だ。

鳴海歩は周囲の状況を捉えるために意識を先鋭化させながら、手元の携帯電話を操作する。
今はとにかく、よろしくない状況だ。
そういうスキルがないから仕方ないとはいえ、まさかあのblogに載っていた危険人物と鉢合わせしてしまうとは。

……不安も不振もおくびにも出さず、『あの男が危険人物だと知らない自分』を演じきる事にはおそらく成功した。
多分、疑われてはいないだろう。距離を取った以上はこのまま逃げ出すのも可能かもしれない。
けれど、その手はマズい。
あの殺気はカノン・ヒルベルトにも匹敵、いや上回ってさえいるかもしれない。とにかくヤバい。
このまま野放しにすれば、確実に被害は拡大していく。
ならばそれを食い止めるための手をひとつ、打っておきたい。
確かにそれには自分が死ぬ可能性というリスクもあるだろう。
だが、自分一人の危険程度で被害を抑え込む――あるいは遅らせられる可能性があるならば、打たない手はないのだ。
379Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 16:56:39 ID:rp5+GChL
と、その前に済ませておくべきことも多々あるのも確かだが。

「……あいつ、やっぱり趣味が悪いな」

本殿の柱に寄りかかりながら、あの男の気配がないことを確認して画面を覗き込む。
はあ、という思い切りのいい溜息は、掲示板に書かれた内容に関してだ。
よもや自分の義姉の名を語るとは、色々な意味で心臓がキリキリと痛む。
執筆者はおそらく、してやったりとばかりに笑っている事だろう。

『私はいつでも、管理人さんを信じてますよ☆ 』

まあ、それでも頼りにしてしまっているのは間違いない。
渋々ながら、とりあえず今のうちに返事でもしておこう。
そう思ったのだ――気が変わった。

意趣返しだ。
今連絡をするのは、敢えてやめておく。
考察はまだ確証のないあやふやなものばかりで、最低限の事はblogに書いてしまっている。
現時点で彼女だけに伝えておくべき情報はない。
ならば、然るべきタイミングまで放置しておこう。ちょっとばかりの嫌がらせだ。
どうせ殺したくらいじゃ死なない少女だ、しぶとく生き残っているに違いない。

それに、信じている、というのなら――、別にわざわざ礼を言うまでもない。
当然のこととして成された事であるのなら、形にせずともきっと分かる。分かってしまう。

……こんな自分の反応まで見透かされている気がして、しょうがなくもあるのだが。
もう一度大きく長くゆっくりと、気疲れを隠さず息を吐く。

どうやら『結崎ひよの』は、この殺し合いの中では自分の味方として立ち回ってくれるのは変わらない。
それが確かめられただけでも収穫だ。
たとえ『結崎ひよの』が幻想だとしても、『彼女』は自分を信じると告げている。なら、十分だ。

「秋瀬或の方は、とりあえず無難な内容だな。
 貪欲に情報を握り込もうとしてるが……、まあ、こいつに関しては手の打ちようがないか」

それよりも、と再度掲示板に目を通す。
今現在は訪ね人のスレッドに2件の書き込みがあるにすぎない。
警戒を幾重にも張り巡らせているのだろう、最低限の情報しか記されていない代物だ。
おそらくは先に秋瀬或のblogにコメント公開要請を寄せたのと同一人物か。

『2 名前:厨二病な名無しさん 投稿日:1日目・朝 ID:NaiToYshR
 書き込みの確認を行う。

 3 名前:ブレードハッピーな名無しさん 投稿日:1日目・朝 ID:NaiToYshR
 かつて道を別った俺の片割れに聞く。あの砂漠の星を離れ、お前は今、何処にいる?』

とはいえ、ここには個人を特定できるだけの重要なキーワードが記されているのは確かだ。
そうでなくては呼びかけの意味がない。
重要なのはおそらく『片割れ』『砂漠の星』だろう。
またも秋瀬或曰くではあるが、参加者の中に砂漠の星出身の人物がいるのは確かなようだ。
そして片割れ、という表現には、兄弟姉妹といったイメージが存在する。
――その兄弟のどちらかに接触できれば、もう片方とも繋がりを作れるかもしれない。
380Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 16:58:06 ID:rp5+GChL
最後に。
本来なら先刻送られてきたメールの送り主、すなわち竹内理緒と連絡をすぐにでも入れたい。
だが、あの危険人物に竹内理緒の存在を知られるのはマズい。
メールで済ませられれば良かったのだが、結崎ひよのとは違って竹内理緒はblogの文章の主が自分以外の誰かではないかと疑っているようだ。
その為にわざわざ直接の通話をご所望している訳で、しかし彼女との接触はそれなりに長い時間に及ぶものになる事が予想される。
……となると、やはり迂闊に連絡を入れる訳にはいかないだろう。
幸い、竹内理緒からのそれには、折を見てで構わないとある。

とりあえず、ネット上の情報確認はこの程度でいいだろう。
あまり電脳世界に入れ込み過ぎれば、現実で手痛いしっぺ返しが来る。

じぃ、と、胸元を見つめる。
そこに収められているのは、『医療棟ID』と書かれたカードキーだ。
社務所の中で見つけたそれは、他に見繕ったいくつかの小品と共に並べられた、あからさまに怪しいお守りの中に隠されていた。
どこのカードキーかは分からないが、見当は多少はつく。
時間を見繕って調べてみるのもいいかもしれない。

勢いをつけ、柱に預けていた背を起こす。
無言で歩き始め、ゆっくりと本殿の前に回っていく。
木造で白塗りのその建物は、拝殿より一周り二周り小さいながらもそれ以上の圧を以って、島の中央に君臨していた。
この島で最も高い場所に、荘厳ささえ伴って鎮座していた。

入り口にはごつい錠前やお札のようなものなどで厳重な封印が施されており、中に入る事は叶わない。
その如何にもといった風体が、歩に自然と唾を飲むという行為をさせていた。

おそらくここには何かがある。
だが、今は時期ではない。

――分かるのはただ、それだけだった。


***************


《運命とは戦うことに他ならず》

「――ちょっといいか?」

がさごそと小さいながら良く響く音を洩らしていた、宝物殿の前に立つ。
聞き咎められないほど小さく息を吸い、出来る限り自然に声を。
返事を待たずに言葉を連ねる。

「なあ、あんた……」

「あん?」

こちらとあちら。
外と内。
明所と暗所。

壁を挟んで対話する。
381Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 16:59:12 ID:rp5+GChL
「しばらくは表に出ない方がいい。
 あんたの目的は知らないけど、参加者の頭数が多いうちはもう動くべきじゃない」

ぴたり、と宝物殿の中の動きが止まった。

「……何が言いてえ」

この機会を作るために、共同で探し物などという提案をしてみせた。
向こうに相手がいる以上こちらに直接危害を加えるのは壁をブチ抜いてでなければ不可能だし、そんな無茶が罷り通るにしても正確な位置は掴めていない。
たとえ日の下に出て追おうとしても、暗闇に慣れきった目ではこの場所はあまりに眩しすぎる。
多少の時間は稼げるはずだし、森の中に逃げ込めば逃げのびる可能性は更に上がる。

そうした布石を打った上で、この男の動きをしばし封じるべく言葉を紡いでいく。
これが成功すれば、多少の時間稼ぎはできるはずだ。
戦術的でなく戦略的な意味合いを持つそれは、きっと自分たちにとって有益に働くはず。

「あんたはもう他の大多数の参加者にマークされてる。今はそうじゃないかもしれないが、いずれ必ずそうなるはずだ。
 ……ネットにあんたの情報や似顔絵が曝されてるんだよ。
 多分、その情報の載ったページのURL記したファックスとか音声情報とかがこの島中にばら撒かれてる。
 殺し合いに乗ってようが乗ってなかろうが、参加者全員にあんたの顔や能力が知られるのは時間の問題だ」 

沈黙。
じりじりと突き刺すような朝の光が痛いくらいに眩しい。
玉の汗がぷくりと浮かび始めるのは、しかし暑さのためなどでは決してない。

「そんなに殺られてーのか? んなハッタリが通用するとでも思ってんのかよ」

不意に投げ掛けられたその言葉は起伏も何もあったものではない。
あまりにも無感動かつ無感情に、ただ『邪魔をするなら殺す』という意思だけを実直に示していた。

「ん? わざわざ真偽を問わなきゃならないほど頭の回転遅くないだろ、あんた。
 疑うのは別にいいけど、そうしてくれた方が俺もあんたも得だってだけの話さ。なんなら言伝くらいは請け負ってもいい。
 伝えるだけ伝えた後で、その言葉の受け取り主を説得するくらいはさせてもらうかもしれないけどな」

……そう。
こんな言葉を投げかけられる時点で、何らかの情報ソースがあるはずだというのはあの男にも分かっているはずだ。
同時にそれは、ネットという媒体に彼の情報が流れている証明にもなる。

相手の立場で考えてみよう。こちらが提示している情報は、主に2つある。

・島中に男が危険だという情報がばら撒かれている。
・逃げられるはずなのに逃げず、男がしばらく動かない事を誓う代わりに言伝を行うという交渉を行おうとする。

まず、前者の情報は、時間が立てば男にも気付く機会があるはずだ。
だから真偽を確かめるのは非常に容易。つまり嘘を吐くメリットがこちらになく、信憑性は高いと考えるだろう。
しかも、男は一方的に情報を知られたままという不利な条件で戦う事を回避できることになる。
そもそもこの情報を知っていた可能性は、歩を見て平然としていたところをみると低い。故に、交渉の取っ掛かりとして十分機能する。

そして、後者の条件は互いにメリットしかもたらさない。
『探偵日記』に書かれた記述が正確ならば、男は無差別に殺戮をしているのではないことが読み取れる。
だから男はしばらく動かず潜む事で目的を達成できる可能性が上がるし、自分たち殺し合いに載っていない面子にとっても余計な争いを減らす事が出来る。
男自身が動かない事によるデメリットは、言伝という形である程度解消できるはずだ。
382Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 17:01:31 ID:rp5+GChL
「言伝をちゃんとするって保証はどこにあんだよ」

「ないな。だけど、不必要にあんたからの信用を落とすメリットはこっちにはない。
 あんたとしても、情報ソースとして俺を確保しておけば使い道はあるだろ?
 共闘なんて甘い事は考えてないが、情報交換の機会を残しておくのは損にはならない。
 誤情報に踊らされる、なんて幼稚な事態には陥らないくらいに分別がなきゃ、あんたみたいなやり口はできないはずだからな」

場合によっては情報提供を行うという意思表示。
殺し合いに乗った相手にそんな事をするとはいかにも矛盾しているようだが、これが成功すれば多少は動きを封じられるのもまた事実。
そうなったら儲けもの、程度の口約束でしかないのも事実ではあるが、しないよりはずっといい。

《運命とは力に曲げられぬもの》

「俺の武器は論理だ。言ってみりゃそれ以外に取り柄なんてないんだ。
 訳の分からない超能力も持っていないし、身体能力もとてもじゃないがあんたにゃ勝てない。
 あんたを殺せるような道具だって持ってはいない。
 あくまでも、お互いにメリットのある行動指針を提示しているだけさ。
 ま、さっきから再三言ってるように俺の言葉が真実だと思う必要はないけどな」

……そろそろ、潮時だろう。
撤退に行動を移さねば、激昂に触れる可能性もどんどん上がっていく。
いつでも森に逃げ込めるよう意識を壁の向こうに集中させて、鳴海歩は静かに問う。

「それじゃあ聞いとくが、誰かへの言伝はあるか?」


《運命とは出口を見せぬもの》

「……兄様と姉様に、伝えたい。もっともっと、私を愉しませてほしいの。
 まだまだ体が疼いて止まらないわ……」


ぞく、と震えが走る。

ただ直感に任せ、体を沈めた。

ぶゥん、と死神の鎌が頭上を駆け抜ける。

「兄様……。賢い兄様、遊びましょ?
 ほうら、蜂がやってきたのよ……」

若い女の声がすぐ後ろに。
こんな時に――と歯噛み。
けれど歩は、振り返らない。
蹲ったまま状況分析。
背後からの奇襲を行ってきたという事は、おそらく相手はこちらが振り向いたその隙を狙うはず。
カノン・ヒルベルトとの交戦の経験が役に立った。
場数を踏んだ相手の反応速度には、一度動いてしまえば対応できないのは身に染みている。

考える猶予はコンマ秒。
地面に落ちた影を見て推測。
おそらく相手は無手か、仕込み武器などを用いている。
この間合いを離れられれば僅かながら余裕が出来るだろう。
383Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 17:03:15 ID:rp5+GChL
来るのはどちらだ?
左? 右?
どちらに避ければ正解なのか?

「――正面だ」

膝の伸縮を用いての低空バックステップ。

「あら……!?」

鼻先を、艶めかしい白さの肢が掠めていく。

――相手の初手は、首を狙ったハイキックだった。
得意はおそらく足技と推測。
ならば低い姿勢を保ったまま、相手の蹴りに合わせて股下を潜り抜ければいい。

見事それは叶えられ、軸足に一撃をお見舞いせんと。
転ばせでも出来れば逃げる時間は余計に稼げる。
しかし、

「な、」

つるりと足払いが滑って有効打は与えられず。
異常な現象に戸惑うも、動きの流れを止めはしない。
背後を取り、更に距離を稼いで息を吐く。

「兄様、積極的……。でも駄目よ、スカートの中を覗いたりしちゃあ。
 それはもっともっと後のお楽しみなの」

ふっ、ふっ、ふっ、ふ、と小刻みに肺に空気を満たす。
あらためて襲撃者を眺めてみれば、見目も麗しい令嬢だった。
だが、鳴海歩はそんな事はどうでもいいとばかりに脇に寄せておく。
まあ、このような姿形が彼の女性の趣味ではないというのも事実だが、重要な問題ではない。警戒すべきは今の出来事、だ。
どういういう理屈かは分からないが、この少女にはまともに打撃が通用しないという事を理解。
それだけを念頭に置いて、現状打開を開始する。


――いや、しようとした。


「飛んでさされ」


《運命とは一直線に落ちるもの》

ザク。

「ぐ、あ……っ」

肩が、イッた。
384Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 17:04:27 ID:rp5+GChL
体内に異物がめり込み奥へ奥へ奥へと沈んでいく嫌な感触と、吐き気すら感じるほどの激痛。
にじむ、と呼ぶにはいささか早く、されど噴出と呼ぶには静かすぎるほどにじわじわと、歩の服が血に染まる。
鳴海歩の顔が、この島へ来て初めて歪んだ。
歯を食いしばって思考力が持って行かれないよう、踏み止まる。

「――やっぱ、軽ィなあ。微妙に狂っちまったぜ。
 独鈷の要領で飛ばせるって見込みは間違いじゃなかったけどな。
 ホントなら今頃そのいけすかねぇツラのド真ん中に、その肩にプレゼントした破魔矢が突き刺さってたはずだったのによお!」

ケタケタケタケタ、ケタケタケタケタ。
人間性を排除した笑いが場に沁み渡る。
砂利を蹴飛ばす無造作な歩みの足音が、これ以上ない戦慄をもたらした。

「……ま、いいさ。どうせ今のは試し撃ちだ。
 次は外さねえ。
 その次は2本同時だ。
 更にその次は3本か、4本か? まあ何本でも同時に飛ばせるだろうさ」

俺は、何でもできちまうんだからよ。

いつの間にかお外に出てきていた男の口がそう告げている。

――そんな言葉でも、必死になって現実に自分をつなぎとめるよすがへと。

マズい。
あまりに、マズい。

前門の虎、後門の狼。

この状況から逃げる算段が悉くブチ壊された。

あの『探偵日記』には、何やらとんでもないムチとやらの情報が記されていた。
今回の攻撃がそれでなかったのは僥倖だが、しかし向こうに飛び道具の選択肢が増えたのはあまりにまずい。

こちらには安藤から預かった結界発生器――バリアがある。
しかしそれは、バッテリーという形の制限時間の課せられた代物だ。
だからこそ、いざという時にはそのムチにカウンターの形で用い、相手の油断を誘った隙に逃走する心積もりだった。

だが、今は相手はここで調達した破魔矢を武器に用いると語っている。
……語調からして、それは切り札などというにはほど遠い。
ならばたとえバリアで跳ね返したとしても、逃げ出せるほどの隙を誘うのは難しいだろう。
必殺の一撃でなければ動揺は望めない。

どうする?

どうする!?

目の前の少女の奇襲が、今ではなかったなら。
男との交渉だけに、専心出来ていたなら。
そのどちらでも、まだ逃げられる目があった。

けれどその二つが組み合わさって、歩の自由を雁字搦めに奪い取っていく。
385Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 17:06:07 ID:rp5+GChL
「なぁにがオレノブキハロンリダー、だ、くっだらねえの。そんなモンがどうやって今のてめーを助けてくれるよ?
 いーいザマだなァ、どうだよ一番の頼りにしてたもんに裏切られた気持ちはよ。
 てめーの信じた論理とやらは、それこそクソの役にも立ちゃしねえ!」

げひゃひゃひゃひゃひゃ。

口が裂けんばかりに歯を剥き出した下品な笑いが木霊していた。

一通り嘲りを済ませた後、男は人形めいた動きでぐるりらと体を、顔を近づけてきた。
一片たりとも喜の表情は含まれていない、ただ不快感だけを前面に押し出した凄まじい形相がそこにある。

「……おい。そのドタマん中ぁ、腐ったカボチャみてーに空っぽなんじゃねえだろうな。
 今てめえは絶体絶命の窮地なんだぜ?
 休戦協定取りつけたと思った矢先に裏切られたってのに、どうしてんなツラしてんだよてめえはよ!
 ちったあ泣き叫んで喚いて悔し涙でボロボロになって見せやがれよ。んなつまんなそぉー……な顔で澄ましてんじゃねえよ。
 俺を愉しませるのがてめえの役割だろうがッ! サボってんじゃねえやァッ!」


《我が運命は未だ死を告げず》

――鳴海歩は、まだ、諦めには達していない。どんな時でも一人で立ってみせると、そう心に刻み込んだ。

だからこんな状況でも、ただひたすらに戦局を見極め切り抜ける術を模索する。

「お口の良くない兄様……、横取りはずるいわ。
 賢い兄様、こっちを見てほしいの。二人相手だなんて興奮しちゃう……」

……状況は、三つ巴。
二人を上手く潰し合わせられれば、そこに隙は生まれるはずだ。
その為にはとにかくこちらに興味を持たせなければ。
あまり切りたくはなかった札だが、仕方ない。
秋瀬或から得た利益、存分に使わせてもらうとしよう。

「……やれやれ。酷い言われようだな。
 まあ、それは水に流しとくとして。……本当に俺を殺してもいいのか?」

言葉を以って、論理を以って。
この絶望を打開する。孤独のままに立って、笑ってみせる。
たとえ一度それを否定されようとも、己が揺るぐ事はない。
それが――、ブレード・チルドレンを巡る一連の事件で育んできた彼の在り様だ。

「俺は、“神”の陣営の関係者と繋がりがある。その情報やコネを手に入れたくはないか?」

持てる知恵と道具を全て駆使して、生き足掻く。


《運命は救世者を見捨てない》


その言葉そのものではなく――生き様に。

『決して人の夢にすがったりはしない……、誰にも強いられることなく自分の生きる理由は自らが定め進んでいく者……。
 そして、その夢を踏みにじるものがあれば全身全霊をかけて立ち向かう……。たとえそれがこの私自身であったとしても……』

――鷹は、友と成りうる資質を見出すのだ。
386Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 17:08:08 ID:rp5+GChL
《運命とは駆け抜けるもの》

銀の閃光が煌めいた。

瞬くその間に少年の姿は消え失せる。

光の鷹は、すでに遥か空に。
そのかいなに気高き少年を掻き抱いて、何処までも高く、ただ高く。

男と少女は僅かに呆然。然るに驚愕。
続く言葉は興奮主と成す数多の感情。

「蒼月潮ととらに伝えとけ!
 とらぁ、てめーをメタクソにすり潰してグチャグチャにして、うしおの前でぶっ殺してやる!
 てめーらが腰抜けじゃねーってんなら、広い場所――、そう、競技場で待っていやがれ、ってな!」

去りゆく彼らの背に投げ掛けられる声は、やる気が全くないようでいてどことなく事態を楽しむ調子が含まれている。
その気になれば鷹を撃ち落とす事も出来るだろうに、それをしないのはいかなる心積もりか。

「逃げられちゃった」

ヘラヘラ笑う男とは逆に、少女は少しばかり不機嫌そうに眉をひそめる。
この展開は面白くないのだろう、その眼には欲求不満がありありと浮かびあがっている。

「貴方が邪魔しなければ、もう少し楽しめたのに……。
 責任取ってくれるかしら? 蜂を怒らせたら怖いのよ……」

されど、男は――秋葉流は少女を歯牙にもかけず、ただ見下ろすのみ。


「おもしれぇじゃねえか、暇潰しに遊んでやるよ」


***************


《運命は人を皇帝に変えるものなり》

空の上。雲の世界。
巻く風が吹き渡る青と白の中を、光の鷹はただ北へ。

「少年、大丈夫か?」

投げ掛けられた言葉に対し、鳴海歩は実に平然とした態度で冗談を返す。

「生憎と大丈夫じゃないな。助けるならもっと早く助けてほしかったよ」

……表情からは想像もつかないが、恐らくは強がりだろうとグリフィスは判断する。
額にいくつも浮かび上がっている汗の雫がその証拠だ。
突き刺さったままの矢が痛々しいが、ここで抜けば出血が激しくなる。
取りあえず安全に処置できる場所に到達するまでは、このままにした方がいいだろう。

「……君たちがそれぞれどういう立場なのかを把握したくてね。
 あの少女の奇襲がなければ、もう少し穏便に介入したかったんだが。
 とりあえず、君に接触するのが一番得るものが多いと判断した」
387Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 17:10:58 ID:rp5+GChL
成程、と歩は頷く。
救出のタイミングから考えるに、“神”陣営との繋がりを示唆した言葉にこそこの男は反応したのだろう。
どうやら殺し合いに載っているようでもないようだし、仲間を確保しておけるならそれに越したことはない。
とはいえ、未来日記の情報は迂闊に漏らしてもいいものでもなく、果たしてどこまでこの男を信じていいものか。

「悪いが、そう簡単に手の内を明かすつもりはないぞ?
 下手したら俺に構うのは時間の無駄になるかもしれないが……」

そう、あらかじめ断っておく。
すると先方も歩の考えに思い至っていたのか、返す言葉は少しばかり意外なものだった。

「ああ、君の性格は先刻のやり取りでよく分かった。
 だが、オレは人を見る目はあるつもりだ。いずれ君は、オレに協力するようになる。
 なら、その機が訪れるまでオレなりのやり方で君を捕らえておこうと思ってね」

なんとまあ、自信過剰な男だろうと嘆息。
けれど嫌な感じはしない。生まれつきの気質というものなのだろう。
とりあえず頭は切れるようだし、友好関係を結べるならそれに越したことはない。

「……やれやれだ。
 いずれ使い物にならなくなるかもしれない体とはいえ、この腕じゃちょっとピアノを弾くのは難しいな」

……とはいえ、やはりモノのように言われて黙っているつもりもないので少しばかり嫌味っぽく独り言を。 
ただ、この言葉は本心からのものでもある。
もしこれからピアノに触れる機会があったなら、片手だけで弾けるような編曲を考えなければいけないな、と、そんな事を少しだけ心に燻らせた。

「力がない事を理解しているなら、あまり無謀はしない方がいい。
 力ある者への牽制は確かに戦略的には意味があるが、命を賭けてまでする事か?」

打ちつける風を切り裂きながら、鷹は試すように問いを投げかける。
器を見極めんとするその言葉に、しかし少年は鷹揚と。

「……まあ、その辺りは企業秘密だ。
 それに自分から胸を吹っ飛ばすようなどこぞのお嬢さんよりはまだマシさ。
 俺にも虎の子があるかもしれないと、それを心に留めておいてくれ」

《運命は皇帝を人に変えるものなり》

にぃ、と、グリフィスの口端が上がった。
食えない。底が見えない。が、この少年には確かに何か感じ入るものがある。
まるであの時――ガッツと初めて会った時にも似た、それでいて静かに蒼く燃えるような、そんな高揚が心の内のどこかに湧いている。

これもまた運命なのだろう。
そんな鷹の感慨など知る由もなく、少年は事務的に要求を。

「助けてもらってなんだが、いったん下ろしてもらってもいいか?
 ちょっと早めに連絡しておきたい相手がいるんだが」


***************
388Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 17:12:26 ID:rp5+GChL
「……ふん。所詮こんなモンかよ」

実に期待外れだったと言わんばかりに、秋葉流は『それ』の方を見もしない。
どこでもない遠くを見つめ、独り言のようにブツブツ言葉を連ねるのみ。

「殴る事も斬る事も出来ないって利点を前に出して長期戦を仕掛け、毒でも仕込んだ針を掠らせる。
 そんな能力と体術頼りのゴリ押し戦法じゃオレに汗をかかせることもできねーぞ。
 ま、着眼点は悪くねぇけどな、見破られたらそれで終わりだ」

明後日の方向を向いたまま黒眼だけをぎょろりと動かせば、目線の先には不可思議な力でグルグルに縛られた一人の少女。

「物理的な攻撃や拘束が不可能なら、そうでない手段を選びゃそれで済む。
 嬢ちゃん一人を縛る結界を作るなんて朝飯前なのさ、オレにはな」

そんな独白にも近い文句を聞いているのかいないのか、少女は頬を赤らめて口を開く。

「毒は多分とっくにどこかへ消えてるの……。水につかって流れちゃった」

何を考えているのだろうか、どうせ碌な事になりはしないだろう。

「強くて歪んだ兄様……、気に言ったわ……。
 この蜂を連れていって。貴方の臨む場所へ、どこへなりとも……」

そうら来た。実に面倒臭い展開だ。
……だが、別にそれでもいい、と流は考える。
この女が生きようが死のうが知った事ではないし、自分が全力を出す状況を作るのに役立つかもしれないのも確かだ。
その逆もまた然りだが、その時は始末すればいいだけの話である。

ネット上に自分の情報がばら撒かれてるとすると、成程確かにしばらくは潜んでおくべきだ。
そしておそらく、あの少年の言葉も本当だろう。
なら、今後の方針としてはそうしたインフラを逆に利用してやればいい。

秋葉流が生きるのはかの往年の名OS、Windows95がリリースされ、インターネットの普及が加速した時代だ。
ネットがどういうものかは大体把握できている。
故に、それを用いた情報撹乱を主眼に据える事にしよう。

なら、電脳世界に介入しようとする自分にとって、現実での手足が増えるに越したことはない。
それに仲間と書いて手駒と読む存在がいれば、警戒されることも少なくなるだろう。

……だとするなら、そうした手駒を抱える苦労は別に一人でも二人でも変わらない。

「よう……、あんたもオレと組まねーか?
 構える事ぁねえ。どーせこの殺し合いに乗った最悪のクソ野郎同士なんだからよ」

当てずっぽうのカマかけとともに、秋葉流は一人の女性に声を投げかける。
片腕に開いた穴から血を流し続ける、考古学者の女性へと。


【F-5/神社/1日目/午前】
389Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 17:13:18 ID:rp5+GChL
【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(中)、法力消費(中)
[装備]:錫杖×2、破魔矢×15
[道具]:支給品一式、仙桃エキス(10/12)@封神演義、注連縄、禁鞭@封神演義、詳細不明神具×1〜3
[思考]
基本:満足する戦いのできる相手と殺し合う。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
0:休息中の手駒を増やすため、目の前の女を口八丁で引き入れる。
1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
3:高坂王子、リヴィオを警戒。
4:聞仲に強い共感。
5:体力が回復するまではどこかの集団に紛れ込むのもいいかもしれない。
6:万全の状態でとらと戦いたい。
7:しばらくは積極的に戦わず、ネットを利用して誤情報などをバラ撒いて撹乱する。
[備考]
※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
※或の名乗った「高坂王子」が偽名だと気付いたかは不明です。
※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。
※研究所への石段を発見しました。

【スズメバチ@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(中)、実の力で美しくなっている、結界でグルグル巻き
[服装]:ゴスロリドレス
[装備]:縫い針を仕込んだ靴(毒なし)
[道具]:支給品一式(コンパス以外)
[思考]
基本:皆殺し。帰って仕事を続け、優しい兄様と遊んであげる。
0:強くて歪んだ兄様に付いていく。
[備考]
※ スカートはギリギリで見えません、履いてるか履いてないかは…ご想像に(ry
※ 針は現地調達です。毒は浴槽に入ったことで洗い落とされてしまいました。
390Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 17:15:29 ID:rp5+GChL
***************

《天さえも運命の糸からは逃れられず》

むなしくコール音だけが繰り返される携帯電話を耳から離し、ゆっくりと目を瞑る。

「…………。返事はなし、か」

竹内理緒に連絡するもいらえはまったく返ってこない。
悪い予感がしてしょうがないが、話したい相手の現状を確かめる術もない。
虫の知らせとでもいうのだろうか――、もう二度と竹内理緒の声が聞けないなどと、そんな妄想ばかり浮かんでくる。
ずきり、と肩口が軋む。
矢を抜いて布をぎゅっと縛っただけの杜撰な応急処置だ。痛むのも無理はない。

……とはいえ、その痛みは肉体的な痛みではないだろう。
もしや、と質量すら感じさせるほどに肥大化した疑念が、精神的に負荷をかけているのだ。
それが分かっているけれど、だから軋みを見なかった事にする。
成すべき事を把握し、それを支えとして潰されないように。

竹内理緒は、ひとまず後回す。反応がない事には動きようがない。
ならば次は予定通り我妻由乃だ。

秋瀬或から重々聞かされた危険性を再認識しつつ、もう一度接触しようと電話帳機能を開いた、その時。

「――そろそろ話を聞かせてもらいたいな。
 きっと有意義な時間になると、オレの直感は告げているんだが」

天上のラッパのような、よく響く声が歩の耳に入ってくる。
けれど、物事には優先順位がある。
目に見える不安と目に見えない恐怖では、後者の方があまりに重い。
ならば、眼前にいる男には少しだけ待ってもらわねば。

「悪い。先にこれだけは終えさせてくれ。
 交渉先がいささか『ヤバくて重要な相手』なんだが、以前の交渉でひとつ手痛いミスを犯しちまったんだ。
 とりあえずそいつをリカバリーしておかないと、事態がどんどんこじれる可能性がある。
 『あんたにも会話内容は聞かせてやる』から、しばらくは静観しててほしいんだ」

……言葉の裏の意味は、通じただろう。それこそが目の前の男が欲しがっている情報のひとつなのだから。
だから男は頷いて、一歩歩みを後ろに戻す。

「分かった。なら、厄介事が終わるまでオレはそばに控えさせてもらうぞ?
 だが、その前にひとつだけ済ませておくとしようか」

クエスチョンマークを浮かべる歩に、美麗な青年は威風堂々と告げていく。


「グリフィス。それが、オレの名だ」

「……鳴海歩だ。よろしく」


《舞踏における運命とは手をとり合うことなり――》
391Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理:2009/11/28(土) 17:16:13 ID:rp5+GChL
運命を確信し誰も彼もを巻き込んで、燦然と煌めく未来へと己が道を突き進むもの。
運命を否定し誰も彼もを突き放して、重ささえ持つ暗闇へと己が道を一人歩くもの。

光と闇。
祝福と苦難。
転生と死の旅路。

絆と絆。

彼らの持つ要素はどれもこれも正反対なようでいて、あまりに良く似ている、似過ぎている。
けれど、決定的に違うのはその向かう方角だ。
青年は愚直な程に、自分の夢を叶えるために。
少年は疑いながら、人々に希望を残すために。
似ているのはあくまで手段。けれど、行きつく先は全くの正逆。

大切な何もかもを、これから自らの意思で手放す筈だった二人は――、こうして出会った。


【D-4北部/川岸/一日目/午前】

【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:疲労(小)
[服装]:貴族風の服
[装備]:居合番長の刀@金剛番長、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式
[思考]
 1:北へ向かい、ガッツと合流したい。
 2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける。
 3:役に立ちそうな他の参加者と繋ぎをつけておく。ゆの、沙英、銀時との再合流は状況次第。
 4:未知の存在やテクノロジーに興味。
 5:ゾッドは何を考えている?
 6:あの光景は?
 7:鳴海歩が連絡を終えるのを待って情報交換と仲間への勧誘。彼本人に強い興味。
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
 ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのと情報交換をしました。
 ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※沙英、銀時と軽く情報交換しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※風火輪で高空を飛ぶと急激に疲れることに気付きました。
392Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理2:2009/11/28(土) 17:36:41 ID:sCKSB9zP
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、左肩に深い刺創(布で縛って出血を抑えている)
[服装]:月臣学園の制服(血に染まりつつある)
[装備]:小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら
[道具]:支給品一式、無差別日記@未来日記、コピー日記@未来日記、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
 1:我妻由乃への連絡を入れ、本物のカノン・ヒルベルトがこの殺し合いに参加していることを告げる。
   その後、無差別日記と雪輝日記の交換に赴く。
 2:我妻由乃との連絡後、グリフィスと名乗った男とあらためて交渉。出来れば仲間に勧誘する。
 3:我妻由乃との連絡後、或に連絡。取り引き場所付近に潜伏してもらう。
 4:北上し竹内理緒を追ってみたいが、嫌な予感がする。
 5:島内ネットを用いた情報戦に関して、結崎ひよのはしばらく放置。何か懸念が生じればメールを送る。
 6:首輪を外す手段を探しつつ、殺し合いに乗っていない仲間を集める。
 7:安藤と東郷が携帯電話を入手したら、密な情報交換を心がける。第三回放送の頃に神社で、場合によっては即座に合流。
 8:自分の元の世界での知り合いとの合流。ただし、カノン・ヒルベルトの動向には警戒。
 9:『砂漠の星の兄弟(姉妹?)』に留意。
 10:『医療棟ID』について考察。
 11:『うしおととら』と、彼らへの言伝について考える。
 12:肩のまともな手当てをしたい。
 13:神社の本殿の封印が気になる。 
[備考]
 ※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
  また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
 ※主催者側に鳴海清隆がいる疑念を深めました。
  また、主催者側にアイズ・ラザフォードがいる可能性に気付きました。
 ※我妻由乃の声とプロファイル、天野雪輝のプロファイルを確認しました。由乃を警戒しています。
 ※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
 ※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
 ※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
 ※秋瀬或からの情報や作戦は信頼性が高いと考えていますが、或本人を自分の味方ではあっても仲間ではないと考えています。
  言動から雪輝の味方である事は推測しています。
 ※雪輝日記についての大体の知識を得ました。
 ※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
  未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変性である事を知りました。
 ※探偵日記のアドレスと記された情報を得ました。管理人は或であると確信しています。
 ※考察に関しては、第91話【盤上の駒】を参照。


※神社の本殿には封印が施されています。
※神社には研究所のどこかに通じる石段が存在します。
※神社のお守りには、医療棟のカードキーが隠されています。
393Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理2:2009/11/28(土) 17:37:24 ID:sCKSB9zP
***************


――最後に、少しだけ挿話を語るとしよう。
時は僅かに巻き戻り、二人の魔人から鷹が少年を救いだした、まさにその瞬間のお話だ。

これはミッドバレイ・ザ・ホーンフリークが病院に至り――、語るも無惨な一連の惨劇の引き金を引く、その直前の掌編である。


彼の耳には、確かに声が届いていた。
そこは病院と呼ばれる建物の前で、何があったのか、命を救うための場所にしてはあまりに酷い有様を見せつけている。
けれど、この中には確かに人がいる。
音界の覇者に聞きとれぬ音はなく、故にどれだけ沈黙を守ろうとも全ての人間の居場所は彼の前に丸裸だ。

自棄にも近い心情のまま、音界の覇者は赤十字の社に踏み入ろうとし――、しかし、何故かそこで立ち止まる。
どうしてかは分からないが自分のすぐ近く、いや、まさに彼の懐にとてつもなくおぞましい何かを感じ取ったからだ。

デイパックを開き、中から二つのものを取り出す。

ひとつは、片手で演奏できるよう編曲された誰かの手書きの楽譜だ。
それだけなら別に、取るに足るものでもない。

しかし――、取り出したるもうひとつはあまりに不気味にすぎた。
深紅の卵のようなそれは、ただじっと、その楽譜を見つめていた。
前に確認した時には確かに目や鼻、口が無造作に配置されたアクセサリーでしかなかったはずだ。

なのに、今は。
いつのまにか、まるで人の顔を模すように在るべき姿へと変化したそれは、楽譜から全く目線を動かさない。

その様相がまるで生きているかのように感じられて、覇者は肌を引き攣らせる。。
あんまりにも不気味なその光景に耐えかねて、唾を飲み込み乱暴な所作でそれらをまたデイパックに放り込んだ。

……何も、見なかった。
単なる夢幻、白昼夢。
自分にそうだと言い聞かせて、瓦礫を蹴飛ばし歩き始める。

人外の少女の巻き起こす惨劇の、その扉を開くために。


――『人の身では覆せない運命に屈した男』が握るのは、『人の身で運命に立ち向かう少年』と『人の身を捨てる運命に選ばれた青年』の未来の象徴。
果たして彼らの道が交錯する事はあるのだろうか。
そして、道が交錯したならば、その時に何が起こるのだろうか。

確かに言えるのはひとつだけだ。

これはきっと、偶然ではない。

558 名前: ◆JvezCBil8U[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 16:31:18 ID:RwaP6N1c0
以上、投下終了です。
394創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 18:05:06 ID:rp5+GChL
代理投下乙です

これは……確かにこの二人も運命に関わり合ってるよな。方向性は違うけど
マーダーの二人も組んで事態が加速し出した。この二人が出会ってから……
ん、印象深い話でした GJ!
395創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 20:07:03 ID:sCKSB9zP
投下乙
さすがは鷹さん、見事成果だけをかっさらっていったな
しかしこれからどうするどうなる

マーダー組はトリオ結成か?
しかしこんな不安定な連中が仲良く出来るはずもなし…
つーか、流。お前もうステルスの立ち位置返上しろよw
全然忍ぶ気ねーじゃねーか!
396創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 20:11:10 ID:sCKSB9zP
しかし改めてみるとミッドバレイの立ち位置ハンパねーな
リヴィオ・或

            聞仲、潮

ミッドバレイ          グリフィス・鳴海


            グリード・エド
ガッツ・沖田

              喜媚
由乃、雪輝

なんという包囲網
397創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 21:34:08 ID:DQHPZQsT
投下乙

運命づくしの展開の末、鳴海と鷹さんが合流したか
流もネットに注目し出したし、ますます情報戦が熱いな

確かに凄い包囲網だw
398創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 10:14:28 ID:iEjDNg1r
逆に言うとよりどりみどりではあるが、これまで相手にしてたみたいな一般人がかなり減ってきてるからなー
苦悩の日々が始まりそうだ
399創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 11:22:18 ID:5se7rkMU
歩も歩で、ここには理論が通じない本能のみで動く奴らが居るからな……。
ゾッドとか趙公明、レガートに会ったら結構ヤバいかもしれん。


何よりも着々と積まれていく触フラグが怖すぎるw
400創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 14:25:48 ID:h/UfAjFE
探偵タイプに本能で動く相手は天敵かもなw
401創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 16:30:28 ID:lsRaWq7K
「Eingeweide Schwert "Gelegenheit"」をwikiに収録しようとしたところ、容量オーバーとなりました。
分割点の指定をお願いします。
402創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 20:27:57 ID:dXZmTps9
流破魔矢どうやって飛ばしたの?
弓なんてないよね?
403創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 21:05:25 ID:FIkisEVH
法力
404創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 22:17:02 ID:1XAR+L8B
天才ですからー
405創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 22:18:49 ID:iEjDNg1r
どっこしょみたいな感じで飛ばしたんじゃね
406創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 19:48:33 ID:6c2aSD8L
よし、再予約キター
407 ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 00:42:07 ID:EIHm/i4G
なんとか出来あがったので投下します。
いささか長いかもしれないのでwiki収録は明日あたりに自分でやりますのでお構いなく〜
投下出来なくなったら避難所に投下します
408Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 00:42:52 ID:EIHm/i4G
カーテンから零れる柔らかな光。
朝を告げる小鳥の囀り。
肌触りのいい、清潔なシーツ。
いつもの時間、いつもの部屋。いつもの静謐な朝の風景。
ひだまり荘の自分の部屋だ。
悪い夢でも見ていたのか、身体がベトベトして気持ちが悪い。

(宮ちゃんが迎えに来る前にシャワー浴びとこ……)

自分で起きなければ誰も起こしてくれず、黙っていて食事が出てくるわけでもない一人暮らしの生活。
だが、家族に気兼ねなく自分のしたい事を好きな時に出来るのもまた一人暮らしの特権と言えた。
ゆのはベッドから身を起こすと、うとうとしたままお風呂場へと向かう。


蛇口を捻ると細かい水滴が裸身を叩き、起伏の少ない身体を水流となって流れ落ちる。

(あれ……私、いつパジャマ脱いだんだっけ……)

頭をよぎる些細な疑問。
だが、心地よい水流の流れがそんな疑問をも押し流す。
軽く指で髪を梳き、水を切る。
キモチイイ。
なんだか、久しぶりにシャワーを浴びた気がする。
ずっと入りたかったのに、入りそびれていたというか……
飢餓感にも似た衝動が充足するのを感じた。
だが、長々と入っているわけにはいかない。
軽く汗を流したらすぐ朝の準備をしよう。

石鹸を付けずに、掌で軽く身体をなぞる。
腕、首筋、胸元を経て、肋骨に沿うように脇腹を擦りあげた手が股間へと伸びる。

「ひゃうっ」

思わず、妙な声を出してしまう。
それまで自分の意思に御されて動いていた指。それが自分の意思に反して滑ってしまったのだ。
その原因は指先に感じるぬめり。

「え? なに……?」

思わず指を目の前に持ってくると、その指先から粘液が糸を引いて垂れ落ちた。
その雫を、無意識に目で追う。
足元のタイルに雫が弾けて消えるのと、果たしてどちらが早かっただろうか。


突然、足首をなにかに掴まれた。


それは、お風呂場と言う個人的な空間ではおよそあり得ない出来事。
心臓が止まるかと思った。
瞬間的にとび跳ねた身体は浴場の壁に当たり、押し付けられたお尻の肉が硬いタイルに密着して形を歪ませる。

私に気付かれないように、こっそり入ってきた宮ちゃんの悪ふざけ?

早鐘を打つ心臓を抑えながら、ゆのはゆっくりと視線を動かし足元を視認する。
まるで万力のように足首を固定するソレは、巌のような男の手。
断じて親友の物などではありえない。
409Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 00:43:58 ID:EIHm/i4G

鼓動が早まる。
見たくない。
見てしまったら、私はあそこに連れ戻されてしまう。
眼をつぶって、身体を丸めて、悲鳴を上げてしまいたかった。
階下に住む優しい先輩たちに、隣に住む親友に助けに来て貰いたかった。

だというのに瞼は閉じるどころか、引きちぎれそうなほどまで見開かれる。
壁にしっかりと押し当てられたお尻はそれ以上ずり落ちることもなく、脚を竦ませながらも自立している。
喉から漏れる呼気がわずかに声帯を振るわせ、声にならない音を立てた。


そしてついに、ゆのはそれを見てしまう。
うつ伏せに倒れながらも、自分の足を掴み、見上げてくる男の顔を。
強い意思を感じさせる、男性的な極太の眉。
固く結ばれた口元。
短く刈りあげられた髪。
そして機械のような冷徹な光を放つ眼差し。


「キャアーーーーーー!!」

限界まで溜め込まれた恐怖が爆発する。
一度見たら絶対忘れられないような、特徴ある顔。
こんな人、知らない。

(ほんとうに?)

「いやああああっ!!」

掴まれていない方の足を持ち上げ、踵で蹴りつける。
踵から伝わる鈍い衝撃。
だというのに、男に怯む様子はない。
無表情に、それでいて全てを見透かしているかのように。
男の視線が、ゆのの裸身を刺し貫く。

「ひぃうっ!」

手を離して欲しかった。
逃げ出したかった。
だから蹴った。何度も、何度も。

だが、逃げられない。
男の力は緩まない。

そのうち、自由だったもう片方の足も掴まれる。
今度はクラスメイトと同じくらいの背格好。
気弱そうだが、優しそうな男の子が同じように倒れながらもゆのを恨めしそうに見つめていた。
どこにでも居そうな男子だったが、やはり知らない人だった。

(ううん、知ってる……)

いつの間にか、お風呂場は自分の部屋の物ではなくなっていた。
見覚えのない、広い大浴場。
そこで自分を捕まえる二人の知らない男性。

(いや……)
410Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 00:44:42 ID:EIHm/i4G
歯の根が噛み合わない。
顎が痙攣するように震える。
歯と歯のぶつかり合う音がうるさかった。

手を振り上げる。
頭上にあるのは、大量の水で作られた鉄鎚。
ゆのはその柄を握り締めると……振り下ろす。

(いやああああああああ!!)

視界を染める、赤。
その色に包まれるように、ゆのの意識は赤暗く暗転する。





どこかで判っていた。
これが自分の罪の具現。
忘れてはならない……そして誰にも知られてはいけない記憶だと。

私が殺した……
まだ、何をされたわけでもないのに。

怖かった。
ただ、それだけの事で。

あの二人の命を、奪ってしまったのだ。

ごめんなさい。

ごめんなさい。

あんな事になるなんて、思ってなかったの。


……私、警察に捕まっちゃうのかな。
そしたらひだまり荘にも、学校にも、もう居られない。
宮ちゃんもきっと、口も利いてくれなくなっちゃうよ……

そんなの……やだよ……
でも……だれも……見てないんだから……このまま知らないふりをしていれば……


だけど、息が苦しい。
心が押しつぶされそうになる。
例え誰にも見られていなくても、誰にも知られる事がなくても。
私だけは知っている。
私が……人殺しなんだって。
411Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 00:45:24 ID:EIHm/i4G



そして眼に映るのは自分の部屋ではなく、どこかの見知らぬ路地裏。
背の高い建物に取り囲まれたそこで、ゆのは目を覚ます。

コンクリの壁に背を預けていたゆのの身体に、窓ガラスに浮かぶ朝露が垂れ落ちてきてぽつりぽつりと当たる。
人の眼につかない代わりに、陽の光も射さない路地裏。
いまだ色濃く漂う夜の残滓は、ゆのの素肌を粟立たせ乳首を硬く尖らせる。


あの時、温泉で二人の男を殺害してしまった後。
放送でヒロの死を知ったゆのは、思いっきり泣いた。

泣いて

泣いて

涙が枯れ果てるまで泣いて

意識を失うように眠りについたのだった。


心神喪失とも言える状態でこんなところに来たのは、誰の目にもつきたくないと無意識の内に思ったからだろうか。
冬眠から目覚めたばかりのリスのように、ゆのはのろのろと起き上がる。

身体をぶるりと震わせる。
全てを、覚えている。
トレードマークの×の髪飾りが力なく揺れた。

足に当たり、転がるバレーボールのような球体。
人殺しの凶器。
ゆのはそれに一瞬陰鬱な目を向けると、すぐに背ける。
そしてそれを置き去りにしたまま、その場を立ち去った。


       ×       ×       ×


このゲームのジョーカー、趙公明と共に初めて行われた放送を聞く紅蓮の錬金術師、ゾルフ・J・キンブリーの表情は渋い。
その渋面の訳は、齎された死者の数や名前といった情報によるものではなく、放送を前にして明かされた参加者たちの名を記した名簿が原因であ

った。
一人、また一人と、名を呼ばれるたびに赤く染まる文字列。

名簿にこのような小細工が施されていたのでは、あの少女への扇動など全てが無意味。
生存者への心理的な駄目押しが目的なのかもしれないが、キンブリーにとってはいい迷惑であった。

「どうやら、私の仕込みは失敗のようですね。無用なお時間を取らせてしまい、申し訳ありません……」

名簿から顔を上げ、同行者に視線を向けるとキンブリーはぎょっとする。

「サヨウナラ……サヨウナラ……太公望、そしてまだ見ぬ好敵手たちよ……オールヴォワール!!」

はらはらと、頬を伝う涙。その両眼からあふれ出す奔流は止まるところを知らない。
北の天を仰ぎながら腕を広げ、嘆きの声をあげる趙公明。
どこからともなく聞こえてくる、オーケストラの演奏を思わせる荘厳な葬送曲はキンブリーの幻聴であろうか。
本気で嘆き悲しむ趙公明の姿がそこにはあった。
412Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 00:46:26 ID:EIHm/i4G

「……どなたか、お知り合いが?」

「ああ……我が永遠の宿敵、太公望くんが……そして、決闘を楽しみにしていた数多くの実力者たちが
 はかなくも散ってしまったのだよ……」

「ほう、それは……残念でしたね」

キンブリーは趙公明の口ぶりから、あの合成獣と練成した少女や、森あいのような無力な存在ばかりが死んだわけではない事を知る。
この男が決闘を楽しみにするほどの実力者たち。
そんな存在もがこの六時間のうちに数多く散って行ったとは……なんという戦場であろうか。
事実、キンブリーの同僚であった焔の錬金術師や、鋼の錬金術師の弟といったキンブリーと比肩しうる錬金術師たちも、
たった六時間のうちに逝ってしまっていた。
それは彼らのような実力者ですらもが、この島では簡単に死んでしまうと言う事。
油断をすれば、自分もたちまちのうちに死者の列に加わることになるであろうという事。

(ですが……この戦いは単純な強さの比べ合いというわけでもないでしょう。
 どのような手段を使ってでも、生き残ったものこそが正しいのです)

どのような強者であろうが、次の瞬間に死を迎えていてもおかしくはない……この島がそんな場所であることを
知り、キンブリーは昂る。
そんな死と常に隣り合わせの戦場こそが、彼に最高の生を実感させるのだから。

そしてキンブリーは思う。
この素晴らしい結果に、自分の撒いた火種はどれほどの影響を及ぼしてくれたのだろうかと。
確認する術がないのが残念だが……きっと見事な爆発力をみせてくれたのではないだろうか。
一つの爆発は連鎖反応を起こし、自分すらも予期せぬ所に爆発が起きるだろう。
そしてそれはこの島全土を焼き尽くすのだ。ああ、それは、なんと美しい……
――そんな光景を幻視して、彼の口元が陶然とした笑みの形に歪む。


そのようなキンブリーの昂りが伝染したのか、はたまた彼独自の別の思考を経たのか、趙公明もまた常の姿を取り戻す。
生者の数が減っても、それは決して質の低下を意味するわけではない。
むしろ淘汰された参加者たちは、新たな装備も手に入れてより強大になっていることだろう。
参加者の間引き――放送までになるべく多くの死を作り出し、参加者たちの意識を戦いと死に集中させる。
それは本来ジョーカーである趙公明の仕事でもあったのだが……そのような些細な事を気にする彼ではなかった。
さっきの涙はなんだったのかと思うほどの晴れやかな笑顔でキンブリーに語りかける。

「さて……じゃあ、戻ろうか。
 ああ、そうそう。名簿の件だけど」

趙公明が懐から取り出した名簿を見せる。
ジョーカーである彼の持つ名簿は、最初から全ての名が記されていたのだろうか。
細かい書き込みと、マーカーによる色分けが為されていた。
だが、そんな情報よりもキンブリーの視線を奪ったのは――

「植木耕助の名が……赤く染まっていく……なるほど、そういう仕掛けでしたか」

彼の目の前で、黒い文字から赤く変色する植木の名。
それを見てキンブリーも名簿の仕組みを「理解」する。

「ありがとうございました……と礼を言うべきでしょうか」

「何、君の仕掛けたせっかくの火種だ。それが爆発する様を、僕もまた見てみたかったのさっ」

並んで歩く二人の男たちは軽く微笑みを交わすと歩きだす。
彼らの見定めた実験材料の少女の元へと。


       ◇       ◇       ◇
413Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 00:47:11 ID:EIHm/i4G


「……今回の死者は、以上ですね」

「17人……そんなに……」

呆然とする少女。
能力者同士のバトルを見続けてきたとはいえ、人の死に耐性があるわけではない。
キンブリーのもたらした情報を裏付けるように、変色した名簿の文字が彼女の心に追い打ちをかける。

「ええ、大変に悲しい事です……私の知り合いも、何人も呼ばれてしまいました……
 ですが、だからこそ私は優勝せねばならない。
 死んでしまった方たちを蘇らせるために」

「はい……」

とはいえ、多少時間を与えて気持ちを落ちつけた事が功を奏したのか、目に涙が浮かぶ事があっても受け答えは
しっかりした様子である。
これならばと、キンブリーは言葉を繋ぐ。

「それで、あいさん。貴女にいくつかの質問があるのですが……まず一つ。
 貴女は何か、武器を持っていますか?」

「……はい。まだ、使ってみた事はないけど……ですけど」

自分に与えられた武器。
あの妙な棒は植木の所で捨ててきてしまったが、デイパックにはもう一つ武器が入っていた。

「ああ、別に楽に喋って貰ってかまいませんよ。私は誰に対してもこういう口調ですからね」

「は、はい……私の武器は……これです」

それは少女が持つには、いささか不釣り合いな大きな銃。
M16A2。
アメリカ軍でも制式採用されている傑作アサルトライフルだ。

「へぇ……可憐だね。今度から君の事をガンスリンガーガールあい君と呼ばせてもらおう!」

「へ、へんなあだ名付けないでよっ! ……っ下さい」

図書館で何やら妙な知識を色々と仕入れてきたらしい趙公明が茶々を入れるが、確かに小さな少女に大きな銃というアンバランスな組み合わせにキンブリーも魅力を感じる。
そして兵器として見ても悪くはない。
キンブリーも錬金術師とはいえ一応軍人としての教練は受けており、基本的な銃の扱い程度なら教えられるし
銃ならば誰が使おうとも、破壊力に関しては一定の威力が出る。
当たれば……という前提付きではあるが、ある程度は戦力として計算出来るだろう。
元より彼女に純粋な意味での戦闘能力など求めているわけでもない。

「ふむ、いいでしょう。使う時が来るまではデイパックに仕舞っておいてください。
 ……では次の質問です。あいさん、植木君以外の知り合いの名前は名簿に載っていましたか?」

「はい。鈴子ちゃん……同じチームの仲間がいます。でも……」

「植木君のように、お互いの認識に食い違いがあるかも……と?」

キンブリーの補足に、森は目を伏せてこくりと頷く。
植木を誤解してしまった原因。
彼の話を素直に信じるなら、自分より三年先の未来からやってきたらしい植木。
もし、鈴子ともそんな食い違いがあったなら……それを森は恐れる。
414Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 00:47:59 ID:EIHm/i4G
「……最後の質問です。もし、その鈴子さんが私の前に敵として立ちはだかった時……
 貴女は彼女を撃つ事が出来ますか?」

キンブリーの最後の質問に対し、森は言葉に詰まる。
それはキンブリーのやり方に賛同した彼女がもっとも恐れる未来。
もし、植木を殺したその手で、鈴子をも殺すようなことになれば……果たして自分は正常でいられるのかと。
銃を握る手にぎゅっと力が入る。
冷たい鉄の塊……紛う事なき人殺しの為の道具。

(これを……鈴子ちゃんに向けて撃てって言うの? 無理……無理だよっ!)

だが心中の言葉を、森が口に出そうとした瞬間、キンブリーが先んじて口を開く。

「少し意地悪な事を言ってしまいましたね。謝罪します。
 先ほども言いましたが、私も憎くて人を殺すわけではありません。
 私に害を及ぼさないのであれば、無益な殺生をするつもりもない」

「じゃ、じゃあ……」

「ええ、鈴子さんと出会った時の対処は貴女に任せる事にしましょう
 なるべくなら説得して、私の計画を手伝っていただければ嬉しいのですが」

「説得……でも……」

「自信を持ってください、あいさん。
 貴女と彼女とは、仲間だったのでしょう?
 どのような食い違いがあるにせよ、貴女の知る彼女は話も聞いてくれないような人なのですか?」

違う。
と森は思う。
植木の正義に共感して植木の味方になってくれた彼女は、とても仲間思いの熱い女の子だ。
自分の為に怒ってくれた時は、本当に嬉しかった。
それに深慮遠謀を旨とする彼女であれば、私みたいに短絡的な行動はそうそう取らないはず……

(でも、鈴子ちゃんに植木の事、なんて言えば……)

森はキンブリーより与えられた初めての命令に思い悩む。
だから気付かない。
二人の男たちが自分を見る目に。
まるで研究用のマウスでも見るかのような、酷薄で、無機質なその眼差しに。


       ◇       ◇       ◇


放送を聞いた鈴子は、名簿をデイパックに仕舞いこむと再び滑走を始める。
結局ロベルトは参加しておらず十団の仲間も、いや、それどころか鈴子の知る限り以前の戦いから継続して参加しているのは
十団の裏切り者、植木耕助ただ一人。
むろん、鈴子が知らない能力者が参加している可能性もあるのだが――

生き死にに関わる戦いに、愛するロベルトが参加していない事は嬉しい。
だが知っているのが敵である植木一人という事実に、鈴子は心細さを覚える。
それは鈴子がこのゲームをたった一人で戦わねばならないという事なのだから。

「やはり私達の戦いとは、関係なく仕切り直しという事なのでしょうか……」

正直なところ、まだ判断はつかない。
なぜならば、これは新しい神による新たなゲーム。
ルールも、参加者すらもまるで違うゲームであるということは判る。
415Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 00:48:48 ID:EIHm/i4G
だがもし、優勝者に「空白の才」が貰えるのであれば、それは新たなゲームに参加出来なかったロベルトの代わりに
十団唯一の参加者である鈴子が手に入れなければならない。
そして、それをロベルトに渡せば……ゲームの新旧に関わりなく我々十団の目的は達成されるのだ。
同時にそれは、鈴子の二心のない忠誠をロベルトに知ってもらうチャンスでもあった。

「そう、私たち中学生の戦いとは関係なく神が選ばれてしまった。
 だからこれは、その補償のようなものなのかもしれませんわ」

天界の事情か何かで神は既に選ばれてしまったようだが、せっかく用意した「空白の才」だ。
だれか相応しい人間に与えようとしてこの戦いが開かれたのかもしれない。
その人選に関しては選出基準がまったくわからず、いささかの不信感を覚えるがまぁ天界など元々そんなものだ。

気絶ではなく死ぬまで殺しあえとは酷い話ではあるが、「空白の才」という報酬の大きさを考えれば……
むしろ、今までの扱いのほうが寛容すぎたのかもしれない。
そしてこんな酷いゲームでも、乗った参加者は相当いるのだろう。
たった六時間で16人もの参加者が死んでいるという事実、そしてこれまでに断片的に見聞きした戦いの様相。
これは銃や爆弾といった兵器を使用した、本物の殺し合いなのだ。
鈴子はごくりと唾を飲み込む。
前のゲームの進行と比べると、あまりにも急激。
新たなゲームの参加者たちは、人の命をなんとも思っていないのだろうか?
その狙いはやはり……

とにかく、これは慎重に事を進めなければならない。
ぽつぽつと、あたりの風景に現れはじめる人工物。

「まずは、デパートの傍まで行って様子をうかがうべきですわね」

人を傷付ける用途では使えず、また発動に際しビーズが必要になるとはいえ、使い慣れた能力であり
さまざまな事に応用出来る自身の「ビーズを爆弾に変える能力」は、やはり必要だ。

だがビーズがあるだろうデパートには人が集まっている可能性が高い。
だからまずはその近くの建物を拠点として、これからの方針を考える事にする。
鈴子は人殺しなど、したくはない。
だが、自分の事しか考えられない最悪な人たち。何の考えもなしに人を殺す人でなし。
そんな人に「空白の才」は渡せない。
最悪の場合は、24時間ルールによる勝者なしの結末を迎えなければならないだろう。

常ならば、街の住人たちが姿を見せ始めてもおかしくはない時間。
陽の光に照らされはじめた無人の街を、孤影が走る。
その後には、刃と化した足でアスファルトに刻まれた傷跡が残っていた。


       ◇       ◇       ◇
416Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 00:49:34 ID:EIHm/i4G


あれからしばらく歩き、森たち一行は北上していた。
太陽は既に高く昇り、建物の影が道路に色濃い陰影を映し出す。
初めて明るい所で見る街の全容だが、森にそれを眺める余裕などない。
頭の中はキンブリーの出した課題をどうこなすかで一杯だ。
逆にキンブリー、趙公明の二名は初めて見る異世界の施設や風景に興味津津といった様子である。

だから、最初にそれに気付いたのも趙公明であった。

「おや、あれはなんだろう」

遠くに見える、砂埃。
どうやらこちらに向かっているらしいそれは、

「鈴子ちゃん!」

森が叫ぶ。
ローラースケートでも履いているのだろうか。
トップスピードに乗った滑走はさながら自転車並みの速度でこちらに近づいて来る。

「鈴子ちゃーーーーーん!!!」

信頼する年上の親友に会えた喜びで、森は懊悩を忘れて大声で呼びかける。だが

「えっ!? ちょ、ちょっとぉ……」

森の大声でこちらを確認した鈴子は、突如進路を変え、彼女らから遠ざかっていく。

「ま、待ってよ、鈴子ちゃーーーん!!」

森は必死に追いかけるが、どんどん引き離されてしまう。
これ以上離されては、声も届かなくなるだろう。
頭の中を駆け巡るのは、鈴子にあったらあれを言おう、これを聞いて欲しいという先ほどまでのシミュレーション。
だから森はぶちまけた。今、森の思考の大部分を占めている悩みを。
この島で、自分の他に植木を知る唯一の人にこの想いを受け止めて欲しかったから。

「わ、わた……私……私、植木を殺しちゃったのぉーーーーー!!」


       ◇       ◇       ◇


「鈴子ちゃーーーーーん!!!」

突然呼びかけてくる少女の声。妙で明け透けで、親しみのこもった呼び方だった。
鈴子には、まるで覚えのない声だ。
声の聞こえてきた方角から位置を特定。
いた。
このままの進路を取れば行きあう事になるだろう所に、三人の男女が立っていた。
声を掛けてきたのは、その内の一人。
頭の上に眼鏡をかけた、中学生くらいの女の子だ。
手を大げさなほどに振って、こちらに存在をアピールしている。
見覚えはないが……中学生、という外見から考えるに、彼女も前の戦いに参加していた中学生だろうか。

前の戦いでは、最強の能力者として知られたロベルト。
そしてその配下である鈴子にも、ロベルト十団の参謀格としてそれなりに名を知られているという自負がある。
だからどこかで顔と名を覚えられてしまっていてもおかしくはないが……
それだけにしては、妙になれなれしくはないだろうか?
417創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 01:02:15 ID:xnkUabgv
代理投下開始します。
418◇UjRqenNurc氏代理:2009/12/02(水) 01:03:10 ID:xnkUabgv


鈴子は、こういうなれなれしく近づいて来る人間が大嫌いだった。
こういう人間は、必ず鈴子を利用する為に近づいて来るのだ。
お金、名声、力……そんなものだけが目当てで、声をかけてくる人たち。
そんな人たちは結局、鈴子の気持など考えておらず、自分の都合のいい道具としてしか扱われる事はないのだ。

大方、鈴子の力を利用しようというのだろう。
もしくは、ロベルトがいない事をいい事に十団に対する恨みでも晴らそうというのか。


「そうは参りませんわ……」

スケートの要領で右脚首を捻り、方向転換。
進路を別に取る。

「ま、待ってよ、鈴子ちゃーーーん!!」

妙に後ろ髪を引かれる、切羽詰まった声。
もし相手が少女一人であれば、鈴子は立ち止まって話くらいは聞いてしまっていたかもしれない。
鈴子・ジェラードは基本優しい人間なのだ。
だが、相手は三人。
もし襲われでもしたら、抵抗は難しい。
うかつに近づくわけにはいかない。
そして続く絶叫が、鈴子の心境を決定付ける。

「わ、わた……私……私、植木を殺しちゃったのぉーーーーー!!」

――っっ!!

殺した……植木耕助を?

十団を内部から壊すべく仲間入りした男とはいえ、顔見知りの人間が死んだという情報は鈴子の心を大きく揺さぶる。

(どこで十団内部の事情を聞きつけたか知りませんが……そんなことで私に取り入ろうだなんて……
 下種としか言いようがありませんわ)

接触する価値なし。
少女に侮蔑の眼差しを送ると、そう断じて鈴子は滑るスピードを速める。
そして角を曲がろうとした瞬間――――そこに人がいる事に鈴子は気付く。

その場に響きわたる二つの悲鳴。

一方は喪失と絶望に慄く悲鳴であり……
一方は驚愕と悔恨に彩られた悲鳴であった。


遠目にその光景を見ていた森たちが駆け付けた時、その場に残されていたのは白い裸身を血に染めてのたうち回る少女と、
一本の切断された腕だけだった。


       ◇       ◇       ◇
419◇UjRqenNurc氏代理:2009/12/02(水) 01:04:29 ID:xnkUabgv

「どうしましょう……私、なんてことを……」

鈴子は動揺していた。
さきほどの、交錯の一瞬。二人が起こした反応は同一。
ぶつかりそうになったから、手を出して衝撃を抑えようとした。
ただの反射行動だ。そこに悪意や害意が存在するはずがない。
身の軽い少女同士の激突など、悪くてもしりもちをつく程度。
何の問題もなかったはずなのだ。

そう、鈴子の四肢が刃となってさえいなければ。

まるで切れ味の鋭い包丁で、大根でもぶっ切ったかのような感触。
初めて人を切った感触は、残酷なほど味気なかった。
鈴子の腕には血糊一つついておらず、ともすれば先ほどの事は幻ではなかったのかとさえ思ってしまう。

「ロベルト……私は一体、どうすれば……」

そうだ、私の持ち物の中には血止めに使える手ぬぐいや、どんな怪我にでも効くという妖精の鱗粉があります。
さすがに腕を繋げるほどの効力は見込めないでしょうが、命だけは取り留める事が出来るはずです。
今すぐに戻って彼女の手当てをしましょう。
鈴子の中の感情的な部分が囁く。
そんなつもりはなかったとはいえ、あれは自分の過失。
例え許してもらえずとも、誠心誠意償うのが当然の事だと。

だが、鈴子の理性はそんな感情論には流されず、反論を試みる。
いいえ、確かに治療をすれば彼女は助かるかもしれません。
ですが今戻れば、あの三人組とはち合わせるのは確実。
あの殺し合いに乗った三人組と戦いながら、彼女の手当てをするつもりですの?
それにこの身はロベルトに「空白の才」を届けると誓った身ではありませんか。
覚悟を決めなさい、鈴子・ジェラード。

心中を苛む二つの意見。
滑走しながら思い悩む鈴子は目の前にひと際大きな建物を見つける。
図書館。
落ちついて思案するには打って付けの建物だった。

「そう……ですわ、まずは落ちついて……良く考えてから決めましょう……」



【H-08/図書館前/1日目 午前】

【鈴子・ジェラード@うえきの法則】
[状態]:疲労(小)、左足首捻挫 、スパスパの実の能力、カナズチ化
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、妖精の鱗粉@ベルセルク 、手ぬぐい×10
[思考]
基本:このゲームの優勝賞品が空白の才ならそれをロベルトの元へと持ちかえる
1:あの女の子をどうするか考える
2:他人は信用できない。
3:このゲームが自分達の戦いの延長にあるかを確かめる。
4:ビーズやその他の道具を確保する為に、デパートに向かう。
5:情報を集め今後どうするかを考える。特に他の参加者への接触は慎重に行う。
6:この戦いが空白の才を廻る戦いであり、自分に勝てない参加者がいるようなら誰も死ななかった時の全員死亡を狙う。
[備考]
※第50話ロベルトへの報告後、植木の所に向かう途中からの参戦です。その為、森とは面識がありません。
※能力者以外を能力で傷付けても才が減らない可能性を考えています。実際に才が減るかどうかは次の書き手に任せます。
※気絶させても能力を失わない可能性を考えています。気絶したらどうなるかは次の書き手に任せます。
420◇UjRqenNurc氏代理:2009/12/02(水) 01:05:46 ID:xnkUabgv



       ◇       ◇       ◇



「そんな……どうして? 鈴子ちゃん……」

気絶した少女を前に、森は呟く。
その呟きに答えたのは、少女の容態を見ていたキンブリー。

「彼女も殺し合いに乗った……ということなのではありませんか?」

「そんなっ! 嘘ですっ鈴子ちゃんが……」

「ですが……実際血止めはしましたが、この少女はもはや死に体。知っていますか?
 戦場でもっとも有効なのは、敵を生かさず殺さず、負傷兵を生み出して相手の行動の自由を奪う事。
 なるほど、あいさんのお話通り、実にクレバーなお嬢さんだ」

自分なら全てを完璧に吹き飛ばしますがね。と心の中でキンブリーはつぶやく。
まぁ、実際のところただの偶発的な出来ごとだったのだろう。
この裸の少女にとっても不幸だっただろうが、彼女にとっても恐らく不幸な出来事。

「素晴らしい切断面だね。これがスパスパの実の能力って奴かな
 鈴子・ジェラードくん……面白いね、是非戦ってみたくなったよ」

少し遠くに切り飛ばされた少女の腕を持って、趙公明が近づいて来る。

「止めてよっそんな……鈴子ちゃんと戦うだなんて……」

森が趙公明をポカポカと叩く。

「ハハハ。やめたまえ、ガンスリンガーガールあいくん」

「変なあだ名で呼ぶなぁーーっ!」

「ではガンスリあいくん」

「略しすなーっ!」

趙公明の軽口に思わず激昂する森だったが、彼の持つ少女の腕を見て我に帰る。

「そうだ、キンブリーさんお願いっ! この子の腕を錬金術で治してあげて」

「……あいさん、私は優勝狙いなのですよ。確かに哀れではありますが、結局全員死んで頂かねばならないのですが……」

「だってっ! 私、まだその錬金術って奴見てないもんっ! 本当に生き返らせる事が出来るなら、腕くらい治せるでしょ!?」

……生き返らせるにも、色々条件があると説明したのを忘れたのでしょうか。
まぁ、所持品どころか、身ぐるみすら剥がされた上に片腕の欠損した少女など、さすがに利用価値すらないと思っていたが
森あいがそれで完璧に私を盲信するようになるなら、それはそれで使い道が出来たと言えるでしょうか……
この切断面であれば、合成獣と少女を融合させた時の要領で、細胞同士を融合させればなんとかくっつけることは可能でしょうし。
動くかどうかまでは保障できませんがね。

「……いいでしょう、ではその腕を持ってきてください。」

キンブリーはゆのの身体と腕の接合面の下の大地に、小さく練成陣を描く。
迸る練成光。
421◇UjRqenNurc氏代理:2009/12/02(水) 01:07:15 ID:xnkUabgv

「凄い……これが錬金術……」

血の気が引いた白皙の肌には、傷一つ残っていなかった。
森が初めて目にする錬金術の奇跡。

(おや、血がコートに……)

先ほどの練成の時にでも、袖口に付着させてしまったのか白いコートに赤い染みが付着していた。
キンブリーはそれがスーツにまでしみ込まないように素早く脱ぐと、ゆのの上に被せてやる。
見る見るうちに、血を吸って赤く染まっていくコート。

「……ありがとう、キンブリーさん。私のお願い聞いてくれて……」

「いいのですよ、錬金術師よ、大衆の為にあれ。
 錬金術師としての常識です。
 ……ですが、その娘をこれからも連れ歩く事は出来ませんよ。我々にはやらねばならない事があるのですから」

「……わかっています」

森の顔つきが変わる。
堕ちたな、とキンブリーは感じた。

その時である。

『Tough Boy! Tough Boy! Tough Boy! Tough Boy!』

彼らが後にしてきた南の地より、混乱と混沌を感じさせる風が吹く。
その風に乗り、彼らはどう動くのか。
一つだけ言えるのは、彼らがその風に乗った時、風は嵐となり、台風をも超える暴風がこの島に吹き荒れるかもしれない
ということだけである。

【H-08/三叉路付近/1日目 午前】

【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:貧血、後頭部に小さなたんこぶ、洗剤塗れ、気絶
[服装]:キンブリーの白いコート
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:???
1:ひだまり荘に帰りたい。
2:
[備考]
※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。
※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※混元珠@封神演義、ゆののデイパックが付近の路地裏に放置されています。
※切断された右腕は繋がりましたが動くかどうかは後続の作者さんにお任せします。
422◇UjRqenNurc氏代理:2009/12/02(水) 01:08:44 ID:xnkUabgv
【趙公明@封神演技】
[状態]:健康
[装備]:オームの剣@ワンピース
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技 橘文の単行本 小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:太公望と闘いたい。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:自分の映像宝貝が欲しい。手に入れたらそれで人を集めて楽しく闘争する。
8:競技場を目指す(ルートはどうでもいい)
9:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。

【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:白いスーツ姿
[道具]:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品0〜2 小説数冊、錬金術関連の本
   学術書多数 悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
4:森あいを利用して他の参加者を欺く
5:参加者に「火種」を仕込みたい
6:入手した本から「知識」を仕入れる
7:ゆのの腕がちゃんと治ったかどうか森が知る前にこの場を離れる
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。

【森あい@うえきの法則】
[状態]:疲労(中) 精神的疲労(中)
[装備]:眼鏡(頭に乗っています) キンブリーが練成した腕輪
[道具]:支給品一式、M16A2(30/30)、予備弾装×3
[思考・備考]
基本:「みんなの為に」キンブリーに協力
0:……植木……ごめんね……
1:キンブリーを優勝させる。
2:鈴子ちゃん……
3:能力を使わない(というより使えない)。
4:なんで戦い終わってるんだろ……?
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました
※キンブリーの話をどこまで信じているかはわかりません

【M16A2(30/30)@ゴルゴ13】
アメリカ軍が現場の意見を採り入れ、旧型化したM16A1に近代化を施した傑作突撃銃。
ゴルゴ愛用の物かどうかはわからない。
423◇UjRqenNurc氏代理:2009/12/02(水) 01:10:15 ID:xnkUabgv
       ×       ×       ×


罰が当たったんだ……人殺しの私に。

どうしよう……お母さん。
腕が、利き腕が、なくなっちゃったよぉ……

ささやかに夢見ていた私の未来。
今はまだ、何をしていいかもわからないけど、美大に入って……やりたい事を見つけて……
それでみんなともずっと一緒……


でも、ヒロさんが死んじゃって……私も腕がなくなっちゃって……
もう、無理なんだ。
私の夢は、形を持つことすら許されなかった……

「無理じゃないよ……ゆのさんには出来る。信じて……」

えっ? 誰?
突然掛けられた声に、ゆのは振りむこうとするが身体が動かない。

背中に当たる、柔らかい感触。
風に揺れる、見覚えある髪の毛が先っぽだけ見える。

「え、ヒ……ロさん?」

ゆのの問いかけに、くしゃりと笑う声が応える。
そっか、夢の中まで会いに来てくれたんだ。
ありがとう、ヒロさん……

明晰夢。
沙英さんあたりからかな、聞いた覚えがあるよ。
夢を夢と自覚する夢。自分の都合のいいようにコントロール出来る夢だって。
神様からの、最後の贈り物なのかな……
それとも、私ももう……

私は力を抜いて、甘えるようにヒロさんにもたれかかる。
普段なら、さすがにこんな事は出来ないけど……えへへ、夢だしいいよね。
私が本当に寝ちゃうまで……死んじゃうまでずっと一緒に居て貰おう。

「ごめんね……それは出来ないの。私はもう行かなきゃいけないから……
 それにゆのさんはまだ死なないわ」

私の手に、ヒロさんの手がそっと重なる。
あ、なくなったはずの腕がある……夢って凄い。

「きっと、大丈夫……だから、信じて。
 絶対生きて帰れるって」

祈るように、信じるように、ヒロさんは囁く。
握られた手が暖かい。
そんな温かさに溶かされるように、私は心の中の重荷を口に出した。

「ヒロさん……でも、私は人殺しなんですっ!
 それが凄く苦しくて……辛くてっ!
 もうこんな嫌な思いしたくない。痛いのも、怖いのも、もう嫌なんです。
 このままずっとヒロさんと一緒にいたい……」
424◇UjRqenNurc氏代理:2009/12/02(水) 01:11:54 ID:xnkUabgv
「……それでもゆのさんには生きていて欲しいな……そして、沙英の事を助けてあげて」

「沙英さんを、私が? そんな、無理です。
 それに私なんかが助けなくても、沙英さんならきっと……」

「ううん、あの子は強そうに見えるけど繊細な子だから……誰かが傍にいて上げなきゃなの。
 こんなこと、もう……ゆのさんにしか頼めないから……」

ヒロさんの身体が離れていく。
振りむこうとしても、私の身体は動かない。
どうして!? 明晰夢なのに、思い通りになるはずの世界なのにっ!

「いかないでっ!! いっちゃやだぁ!!」

「ごめんね……私も、もっとみんなと一緒にいたかったな……
 一緒におしゃべりして、みんなに私の作ったご飯を食べて貰って……凄く幸せだったよ、ありがとう」

「ヒロさんっ! 待ってっ!」

動かない……身体が動かないよぉ。
もう会えないのに、お話出来ないのに、どうしてぇっ!

私はこれが夢だって事も忘れて、もがいて、もがいて……そして……何も聞こえなくなった。
425創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 01:13:31 ID:xnkUabgv
以上、代理投下終了です。
426創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 01:21:11 ID:xnkUabgv
よし読み終わった

ゆのが歩く誤解フラグと化しているな
銀さんたちは間に合うのか?
キンブリーと趙公明は何でこんな楽しそうなんだよw

鈴子は……何か色々とダメだこいつ……
427創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 14:12:14 ID:pi7oj7+x
投下乙

誤解が積み重なって行くねw
キンブリーと趙公明に拾われたゆの。片方がヒロさん死亡の元凶なんだよな
マジで銀さんたちの合流を望むよ

そして鈴子は……誰かこいつを止めてくれよ……
428創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 20:11:28 ID:Q5BiwyMW
卑怯番長の左手のアレどうにかしないとな
429 ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 20:26:55 ID:EIHm/i4G
wiki編集しました
なんとか分割せずに済んだよ

>>419の最後に

鈴子は自分の走ってきた道に、痕が刻まれていることにも気付かずに図書館へと入って行った。

という一文を追加しておきました。
なんで抜けてたんだろう。
修正した後保存し忘れたのかな
430 ◆UjRqenNurc :2009/12/02(水) 20:49:01 ID:EIHm/i4G
と、言い忘れてた
昨日は直後の代理投下ありがとうございました
431創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 12:20:37 ID:i7hlaa+K
卑怯番長の左手は別にいいんじゃねえ。
使いたくなければそのまま使わず、奥の手としてだすなら一撃で殺さなければ許容範囲だと思う。
432創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 13:22:33 ID:cB9PnfIh
ヴァッシュの義手にも隠し銃仕込まれてるしな
本人の能力扱いでいいだろ
433創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 14:17:48 ID:QT3FpdsQ
登場話と矛盾
434創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 14:30:56 ID:L9pF7tyJ
たぶんあの義手は霧幻台以降に付けたんじゃないか?
そうじゃないと磁力番長戦の時に引き寄せられていたはず
435創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 14:32:08 ID:4MwpKRvl
こまけえことは(ry
436創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 15:16:30 ID:cB9PnfIh
面子的にも書き手的にも凄まじい死臭のする予約が……w
437創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 17:43:07 ID:gGfSta6L
ウィンリィ;;
438創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 18:05:27 ID:4YOCMMzA
待て、まだ乾坤圏と番天印とパニッシャーでフル武装したウィンリィ無双の可能性が

ねぇな
439創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 19:30:24 ID:WXAWCiv+
ひょうが来てくれる

そう思ってた時期がありましたw
440創る名無しに見る名無し:2009/12/04(金) 20:49:11 ID:pJa0l83S
ところで南の市街地の爆弾一覧

・妲己ちゃんと愉快な仲間たち
・暴走植木
・ナイブズ接近中
・森→植木、鈴子の誤解
・ゴルゴ、安藤兄→ゆのの誤解
・マーダーコンビ趙公明とキンブリー
・ステルスナギ
・映像宝貝発動

全部いっぺんに爆発させたら何も残りそうもねーぞw
441創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 00:03:40 ID:42koNqN8
書き手がどう捌くか気になるねw

ところで神と関係あるキャラとか出たがゴルゴもそれに入りそう?
442創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 00:27:44 ID:aRpW+4c4
狂ったAI「ジーザス」は文字通りデウス・エクス・マキナ
主催候補の一人だろう
443創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 18:01:45 ID:Dmm2Ooat
ゴルゴ本人は神に関係深いけどな
ウィキでは

「ゴルゴタの丘でイエス・キリストに荊の冠をかぶせて殺した13番目の男」つまり、神に背を向けた、13番目という不吉な数字を背負った男という意味だし

ゴルゴ本人が死神の化身みたいなものだろ
444創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 12:04:37 ID:XRxPP2/9
代理投下開始します。
445弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U氏代理:2009/12/06(日) 12:05:47 ID:XRxPP2/9
風が吹く。 
轟と鳴く。
道を駆る。
地を穿つ。
空に踊る。

切り裂く大気に舞う木の葉は弾け飛び、決死の挟撃を巨躯は腕の一振りにて薙ぎ払う。
死合いを望む兵(つわもの)の妄執はつとに強く、渾身万力の痛恨撃はまたも果たせず。

これより先に、一切合財の言葉は不要(いら)ず。
ただ己が肉体を以って討ち克つのみ。
そこに在る事実を以ってして、命の炎を瞳の奥に焼き付けよ。



真っ直ぐに掘削し続ける右の剛槍。
それは跳躍した踊り手に触れる事はなく、彼であり彼女でもある者は静かにその上に降り立った。
Ta,tatatata,ta! とそのままに腕の上を助走し跳べば、真上から流星が降り注ぐ。

だから、不死の名を冠するものは左手を閃かせた。
左の白刃を宙の一点へと投擲する。打ち上げる。

流星は落ちず、踊り手は無様に体を捻る。
その脇を通りすがって、銀の閃光は遥かな青の向こうへ消えていく。

しかし、好機。
獣の視線は高みに向けられて、その左の腕には掲げられたまま武器もない。
土手っ腹のすぐ側ががらんどう。

侍は駆け抜けながら一閃を振り抜く。
されどその手に手応えはなく、転換する最中に不意に影が頭上に満ちた。
獣は空を支配して、砲弾の如き剛腕にて侍ごとに大地を抉る。

土くれの爆ぜる有様は、まるで大輪の花火のよう。
しかしその中に赤の色はなく、薄紙のように侍は風の上を走る。

飛翔。

ふわりと浮かびて木立に乗れば、空飛ぶ獣と視線がカチあう。

大上段に剣を構え――断ち割らんと。

その行為を見ると、獣の口端が吊り上がり歪んだ。
振り下ろされるその直前に、びきびきと獣の右腕が膨れ上がる。
握られた剛槍を独楽の如く振り回し、今まさに鎌鼬を繰りださんとする侍へ。

速い。
ひた速い。

防御は不能。受ければ即死。
されば、許されるは後退撤退逃げの一手に他ならず。

眼前を鉄の塊が掠めゆく。
良し、と頷いた。
円周運動は速く強いが、しかし生まれ出る隙もまた大きい。

背中が見えて、枝から駆ける。
獣の背後へ回り込むのは容易く、死角よりその心の臓を縫う。
446弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U氏代理:2009/12/06(日) 12:06:58 ID:XRxPP2/9
……それを叶えようとした瞬間、気付いた。

ごき、という嫌な音がする。
天より堕ちる最中の踊り手に、剛直が叩き付けられていた。
独楽回しはこの為に。
一石にて二鳥を撃ち落とすその為に。

ロケットでも付けたように横に吹っ飛び、ギャグ漫画のように壁にめり込む。
濛々と立ち込める白煙は防火対策の漆喰の残骸か。
工場の壁としての役割は、十分果たしているだろう。
その壁の白も、じくじくと赤に染まっていく。
白煙の中は見通せず、しかし投げ出された左脚はあらぬ方向へと折れ曲がっていた。
ひしゃげ、潰れた肉の残骸からは、砕けた骨の先端が突き出し、千切れかけてさえいる。
おまけと言わんばかりに、崩れた壁の残骸が踝から先を押し潰していた。

もう二度と、両の脚で大地を踏みしめる事はない。

侍の一つ目顔が、歪む。叫ぶ。
滞空中に自由が効かぬはまさしく道理。
故に獣は、笑ったのだ。
仲間を助ける事を忘れ、自分に一撃を入れる事に専心した侍の心に。

責められる事ではないだろう。
むしろ、そこに思い至る方が難しい。
ただそれでも、獣が嗤うには十分すぎる理由だった。
侍が己の判断力を鈍らせるには、十分すぎる理由だった。

獣の嘲りは止まらない。

よくもまあ、こんな空前の機会に攻撃を仕掛けぬとは!


侍が状況を思い出すと同時。
獣は空に左手を掲げ、丸太より太く鋼より強いその掌を叩き付ける。

既に覚え見たリーチを考慮。
避けることが可能と判断。
カウンターする転換点を把握。

バックステップ。
爪をぎりぎりで掠めて跳躍回避。
振り戻しを警戒しつつ、こちらからの反撃の起点とする。

それを成さんと一歩踏み込み、気付く。


振り抜かれた獣の拳に、眩く煌めく星ひとつ。


彼の手に握られるは先刻虚空へと消えた、秋水という名の希代の業物。
真っ直ぐ上昇して最高到達点まで辿り着いたものは、重力加速に従い落ちる。
従って、獣がその場を抑え続けていれば、当然の如くそれは空に掲げた手に収まる。

さてさて。
獣の爪の間合いを把握していたはずだったから、ぎりぎりで避けられた『はずだった』。
447弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U氏代理:2009/12/06(日) 12:08:08 ID:XRxPP2/9
……けれど。
もし、獣のリーチが刀一振り分追加されていたとしたら?

嫌な想像を振り払うために、侍は恐る恐る目線を下に向けていく。


真っ赤だった。
それでいて、いろんな赤がそこにあった。


ぱっくりと、横一文字に腹が裂けていた。
皮一枚でなく中身ごと。


一人はずるりとただ呆然と、力なく弱々しく尻をつく。
一人は血まみれの頭で目を剥き出して、怒りとも悲しみともつかぬ顔。
一人は肉の感触に喜色を浮かべ、狩りの充足に雄叫びを。

三者三様の反応はしかし、共通理解に由来するもの。

嗚呼。
放っておけば、もう長くない。


――不意に。
崩れた壁の向こうから、か細くも強い意志を込めた声が挙がった。

そこにいたのは、少女だった。
麦わら帽を抱き締めて、息絶えた少年をせめて埋めようと背負っていた少女だった。

少女は涙を零しながら、それでも懸命に立っている。

少女は、臓物を押さえ込む侍を見る。
少女は、二度と歩けぬ踊り手を見る。
少女は、彼女の闖入に水を差され不快を露わにする獣を見据える。

そして、躊躇いなくひしゃげた十字架を構え、放った。

直撃。

ロケットランチャーの爆炎が不死なるものを浄化する。
野太い赤子のような絶叫が轟いた。

炎の森が屹立し、不死の獣がその向こうに消えていく。


黒い煙が漂うその中で、踊り手はただ呆気に取られてオレンジ色に照らされる少女を見つめる。
そしてようやく、麦わら帽に目を止めた。
目線を下げて、静かに下ろされた一人の少年の眠る姿に息を呑む。

少女は踊り手の思わず呟く名前に耳聡く、絡まる視線と僅かな会話。
二言三言のやり取りで、十二分に互いの状況を把握した。
“彼”を知っているならば簡単に想像がつく。

そして“彼”の友であったからか、その生き様に感じ入るものがあったのだろう。
少女が毅然と告げるのは、紛れもない守る決意。戦う決意。
出会った時点から、彼ら彼女らは既に友としての絆を持っていた。
それが“彼”の残した最後の秘宝。
448弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U氏代理:2009/12/06(日) 12:09:07 ID:XRxPP2/9
踊り手の瞳に涙が浮かぶ。
友は逝った。だけど、その意思は自分たちの中に確かに息づいている。

安堵の吐息。
……そして、命の灯火の弱りつつあるもう一人の友を救わんがために、そちらの方に目を向ける。

その瞬間。
侍は目を見開いて、必死の形相で言葉を口に。
力なく片手で振るわれた風の刃が、少女に向かって突き進んだ。
碌な握力もない故に、すっぽ抜けた剣はざくりと踊り手のだいぶ手前に刺さって止まる。

爆発。

風と鉄がぶつかって、少女の数歩手前で花開いた。
オレンジの膜のあちら側から、手榴弾のプレゼント。

少女の肢体が、フッ飛ぶ。
直撃は防がれた。しかし無傷なはずもなく。
ごろごろ転がり泥に塗れて、ぴくりと痙攣を繰り返す。


おおぉうるろろろろろぉおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉおぉぉおおおおぉおおおぉぉっ!

歓喜の咆哮が満ち満ちた。

橙の薄膜に黒い影が映し出される。
その身を炎に包みつつ、ずるりとそこを抜け出てきたのは言うまでもなく、狂戦士たる獣の巨躯。
剛槍ごとに右腕の半ばから先は行方が知れず、しかしだからこそより凄惨な威圧を伴って、蹂躙者は闊歩する。

あちこちに破片が付き刺さったままの少女は傷だらけ。
耳から血さえ流れている。鼓膜が潰れたのだろう。
下手をすれば三半規管さえイカれたのかもしれない。
がくがくと体を震わせて、立とうとしてもその場にすっ転ぶ。

そんな有様でも、彼女は、この場にいる四者では最も軽傷だった。
腹から見えてはいけないものが覗いている侍と、
武器であるはずのその足さえ使い物にならなくなった踊り手と、
傷つきなお覇気を昂ぶらせる獣と。

故に彼女が戦わねば、守りきれない。
そして、既に彼女を戦士と認めた不死の獣も、逃がす気などとうにない。

立った。
転んだ。
立った。
転んだ。
立った。
転んだ。
立った。
転んだ。

吐いた。
自分の吐瀉物の中に倒れ込んで、すえた臭いが少女を打ちのめす。
449弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U氏代理:2009/12/06(日) 12:10:08 ID:XRxPP2/9
無駄だ。
所詮は人の身だ。
これ以上の戦闘の継続は全くもって不可能。

なのに少女は、自分にできる事を望む。
ボロボロと涙をこぼしながら、子供のように嗚咽を漏らして。

あまりにもみっともなくて無様なのに、踊り手はどうしてかそれが美しく思えて仕方なかった。

そう、そうだ。

“彼”が命を賭して守りきった少女を、生かさなければならない。
自分と同じ曖昧な存在である侍を、救わなければならない。

友とは、そういうものだったろう?

友だから助けるのではない。
助けたいと思える相手こそが、真の友なのだ。

こんなところで這いつくばって何をやっている。
足が潰れた?
それがどうした。
勝ち目が見えない?
それがどうした。

己を立ち上がらせるのは肉体などでなく友情の力だ。
使えぬ足などくれてやる。

ぎり、と歯の根を噛み締めた。

潰れた足を、壁の破片で切り落とす。
ぐちょり、ぐちょり。
筋繊維が削られる嫌な音がして、赤い水溜りに肉片が混じっていく。
使うのは切れ味などナイフに及ぶべくもない石の塊だ。
文字通り自らの体と命を削る度に、この世のものと思えない痛みが走る。
一往復の度に意識が深い闇の中に沈んでいきそうになる。

ごきゅ、と硬い感触がする。
砕けかかった骨の残骸だ。

はぁ、はぁ、はぁ、と荒い呼吸が踊り手本人の耳にやたらと響いた。
もうこれを砕けば、二度とこの足は戻ってこない。
腕が震えて、振り下ろせない。

――途端。
幽かな力ない音が、踊り手の下へ届いた。

中身が零れるのを手で抑え、侍が立ち上がろうとして失敗した音だった。
無理をしたからだろう、意識もなくうつ伏せに倒れているのが目に入る。


何かの切れる音がした。
全力で右手の石を、意思を、意志を、振り下ろす。

砕け千切れた。
自分の体だったモノが、もう自分ではないモノとして打ち捨てられていた。
450弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U氏代理:2009/12/06(日) 12:11:23 ID:XRxPP2/9
切断面から温かい血が流れ出ていく。
寒い程の喪失感が、沸きたちかけていた頭を完全に冷却した。

するべき事は明確だ。
匍匐するかのように地に伏せリ、進む。
這いずり、這いずり、這いずり――“彼”の友の傍らへ。

土と血に塗れて、炎に身を焼かれながらも血反吐を吐いて辿り着き、掴む。

それは先刻、侍の手放した風の剣。
精霊の力を担い手に与える不可思議の舶来品。

その剣を失った左脚の代わりにするかのように――、

豆腐のようにぐずぐずになった切断面へと躊躇いもなく突き刺した。

奥へ、奥へ、奥へ。
肉を貫き骨にめり込み神経を断ち割り、砂に指を埋めるように剣と脚が癒合していく。

それは足と言うにはあまりにも醜すぎた。
醜く、細く、軽く、そして大雑把すぎた。
それは正に“赫足”だった。

残る右足を楔として、地面を叩き勢い付けて体を起こす。
ぐらり、と軸がブレた。

……が、倒れない。
ぶしゅう、と切断面から流れる血の勢いが、なお増した。

剣の柄が――、しっかと大地を踏みしめている。


獣と踊り手の、目と目が合った。

途端、獣の姿がブレた。

ほぼ同時に、柱が踊り手にめり込んだ。
否、柱ではなく太い尾だ。翼の加速を用いての粉砕撃。
またも踊り手は吹っ飛んだ。

歓喜の表情を獣は浮かべ、あろうことか激さえ飛ばす。
立ち上がり、楽しませて見せろと。

大の字で宙を飛ぶ踊り手の勢いが、不意に弱まった。
風が渦巻き、木の葉がその背の後ろに集まる。その場所だけは周囲の部分より確かに明るい。
光の屈折力を歪めるほどに高密度に圧縮された、空気のクッションだ。
白い空気の渦はそこだけでなく、剣本体の周りにも纏わりつき――、ガラスのように足の形状を形作る。

みるみる速度を落とし、ふわりと降り立つ踊り手。
鼻は潰れ、右手の指は木の枝のように折れ曲がり、アバラも半分近く砕けた。
それでも闘志は衰えない。
肉の足と空気の足、両の足を踏みしめ、駆ける。
451弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U氏代理:2009/12/06(日) 12:12:12 ID:XRxPP2/9
あぎとを大きく開いた獣の口が、眼前に迫っていた。
その上を越えるように、跳躍。
獣の額に右の手刀を繰り出すも、相手の動きは止まることなく。
勢い任せに突っ切られ、嫌な音と共に右の腕が千切れ飛んだ。

にぃ、と、表情だけで踊り手は笑う。
それでいい。
どうせもともともう使い物にならなかった右腕だ。
なら、こうして『方向転換』する起点の役目を果たしてくれただけで十分だ。

今自分がいるのはまさしく頭上、完全な死角。
無駄な思考はこれ以上は余計に過ぎる。
今はただ、全身全霊で穿つのみ。

旋風が吹いた。

踊り手の左足に、周囲の空間全ての大気が収束していく。
竜巻とも呼べる勢いで構築された左足が伸長し、白鳥の形状を織り成した。

“爆撃白鳥――ボンバルディエ”

アラベスク、と踊り手の口が動く。


獣の残った右角が、半ばから砕け散った。

右腕の残骸が、塵と化した。

左の掌から、指が2本消え去った。

左の脛に、嘴の鋳型が刻まれた。

右足の裂傷が、抉られ赤霧を生み出した。

両の頬肉が、何処かへと失われた。

右の胸の背に、クレーターが作られた。

左の眼と耳が、完全に潰された。

翼がまるで、チーズのように穴だらけになった。


気体を圧縮して作られた白鳥は、鋼鉄製のそれの欠点である「返り」すら克服。
引導を渡す一撃を左胸に狙い澄まし――、


だが、それでもまだ足りない。


砕け散った角の先端が、獣の掌に握り込まれる。
急降下して地面に脚を着けば、鋭角ターンが成立する。

音速超過の水蒸気の帯を引きずって、投擲。

白鳥と角が正面衝突した。

凄まじい圧がその場の全てを薙ぎ払う。
452弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U氏代理:2009/12/06(日) 12:13:09 ID:XRxPP2/9
炎の最後の残り香が、白く煙り虚空を満たした。
焦げる血の臭いが澱のように降り積もり、全ての生物の嗅覚はとうに機能しない。


風が吹く。
停滞した全てをリセットするかのように。

鉄と漆喰と森と土に囲まれた焼け野原が、姿を露わにされていく。

屠殺場のような血溜まりだらけのその光景の中央に。

まさしく、不死(ノスフェラトゥ)と呼ぶべきバケモノは、轟然とそこに屹立していた。
膝をついて砕けた臓器の欠片を血とともに吐く、踊り手を見下ろして。


僅かな呟きの時間が訪れる。
不死の獣は、悦びのあまりつい口を緩めるのだ。

奇しくも己の体に傷を付けるほどの足技使いと、一日の内に二度も巡り会う希有への感慨を。
そう、先に戦ったあの男の生き様と散り様を、独りごちる。


踊り手は、それを聞き届けた。

顔を、かつて己を打ち破った料理人のそれへと変える。
確かめの言葉を問う。
果たしてあの友の命を奪ったのは貴様なのかと、普段の口調からは想像できぬ程の重く静かな声で。

肯定の言葉を獣が告げると同時。


踊り手は、不死の狂戦士を完全に凌駕した。


気がつけばその生身の足が、獣の胴に突き刺さっている。
ぐらり、と獣の体が揺れた。
更に深く深く踏み込み、通りすがりながらにオーバーヘッドキック。
顎を打ち上げ、獣の顔は天を見上げる。
左拳を更に腹に撃ち込んだ。
弾かれる勢いを利用し、回し蹴り。
頭突きに繋げ、更に蹴る。
蹴る! 蹴る! 蹴る!
蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る!
体を沈め、脚をバネと変える。
跳躍。
しかしそれは高く跳ぶ為ではない。
体全体を使っての突撃行。
インファイトによる超高速連続攻撃を実現させる。
先刻までのヒットアンドアウェイではなく、獣に攻撃する暇も与えず倒しきる!
鎌鼬が踊る。
真空の刃が、一度の蹴りで十を超える裂傷を生む。
その一度は一度で止まず、流れるように五月雨をもたらす。
わずか数度の交錯で、軽く百を超える傷が獣に刻まれた。
回復速度をはるかに超える連撃に、さしもの獣の鉄の腹もとうとう保たず裂けていく。
――思い出す。
あの煙草を咥えた料理人の事を。
蹴りと蹴りの交換を行い、絆を深めた友達の事を!
453弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U氏代理:2009/12/06(日) 12:14:08 ID:XRxPP2/9
肉体の動きがさらに加速した。
視界がまっしろに霞んでいく。
跳び上がり、“首肉”に一撃を。
続けざまに“肩肉”を破断する。
落ち様に死角に回り込み、“背肉”を叩き潰した。
止まらない。鈍い音が“鞍下肉”から響く。
股下を潜る。無警戒な真下より“胸肉”を強襲。
反動を利用した勢いにより、“もも肉”が砕ける。
イメージはより精細に正確に。
あの戦いの時を再現するならば、それの再来も必然か。
場の全てのそれを集束した大気の塊が、獣の背の向こう側に確かなヒトカタを構築していた。
それは虚ろな幻にすぎず、しかし確かな質量を以って料理人の影を成す。
散った漢の想いを背負い、涙流して有漏路発つ。
いつか旅の行き着く先にて、共に愛でよう艶花を。
“爆撃白鳥羊肉ショット 追加一人分”
踊り手と料理人による必滅の挟撃。
爆散。
不死の獣の胴体が1/3以上、ごっそりと持っていかれた。
終わらない。終わらない。
まだまだフルコースは終わらない。
踊り手と料理人は宴にてともに舞い踊る。
“肩ロース”血と汗とが青い空に跳ねる様は、まるで桜吹雪のよう。
“腰肉”斬る風は鋭く、しかし決して荒々しくはなく。
“後バラ肉”実に雅で儚い一瞬を描き出している。
“腹肉”この巡り合わせが運命の糸というならば。
“上部もも肉”手繰り寄せられた幸運にだけは感謝を。
“尾肉”残していくものへの懺悔もある。それだけが心残りだ。
“もも肉”だが、それでも信じよう。
“すね肉”この場を切り抜けさえすれば、助かる目はまだ残っているのだから。
だから、全力を以ってこの化け物を倒すことこそ自分の役目。
友よ、友よ!
すぐそちらに行く。
その時にはきっとまた、ともに歌い、杯を交わし、楽しく語り明けよう。
だから、その為にも――、
料理人が下拵えをしていた内臓肉へ、とっておきの“最高の一皿(スペシャリテ)”を。
“アラビア風(アラベスク)爆撃白鳥仔牛肉ショット 二人前”
散華せよ。










すべてのいろがしろにそまるなかで、むぎわらぼうとたぼこのけむりのふたつがみえた。










**********
454弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U 代理2:2009/12/06(日) 12:22:50 ID:GwKOTy5a
『ボンちゃんが最後の一撃を叩きこむと同時、地響きを立てて化け物の体が倒れ込んだ。
 そして、ボンちゃん本人も受け身も取らず地面に激突して、それきり何も喋る事はなかった。
 身動き一つさえ、する事はなかった。

 伝えるべき事はもう少ない。
 どうやら僕の命が尽きる前に、この手記を記しきる事が出来そうでなによりだ。
 時間がない。もう手を動かすことさえ厳しくなってきている。
 詳細な事も書けないし、妄想さえ含んでいるかもしれないけど、とにかく簡潔にその後の事を書いておく。

 喪失感に包まれるも、悲しみが麻痺したままの僕が、倒れていたままの少女―ウィンリィと名乗った―と目を合わせた時、それは起こった。
 凄まじい咆哮が周囲に満ちたんだ。
 僕とウィンリィは顔をひきつらせ、まさかという思いで体を震わせ、その方角を向く。
 そこでは、満身創痍で全身ボロボロ――僕以上に内臓が酷い事になり、右足を完全に引きずって、両腕さえ潰されているにもかかわらず――、
 あの化け物が空に雄叫びをあげていた。

 一度あの技を見ていなければ斃れていた、という内容の化け物の哄笑が響き渡る。

 もう、僕たちに出来る事はなかった。
 僕たちに許されていたのは、諦めだけだった。
 ウィンリィは座り込んで虚ろな目を何処かへ向けている。
 ……僕も、心情的にはほとんど同じだった。それでも体だけは、戦おうと動く。
 それが剣の道を生きてきた誇りだからだ。それだけが、よすがだった。
 ずるずると這いつくばりながらも、鞄の中に手を入れてバットを握り締める。

 その時だった。
 不意に、肩に手が回されたのは。
 ウィンリィが僕の体を引っ張って、強引に工場の中へ連れ込んでいく。
 僕が何を言っても聞こうとしない。いや、もう耳が聞こえていないのか。
 麦わら帽子を僕の知らない少年の上に被せて、どんどん暗闇の中へと。
 
 工場の孔が破壊され、こじ開けられる音が背後でしていた。
 あの化け物の巨体では小さな穴を潜り抜ける事は出来なかったのだろう、しかし時間の問題だ。
 ウィンリィは、とある部屋の前で立ち止まる。
 力がもうまともに入らない僕をその部屋――給湯室へと押し込め、彼女はごん、がたんと何か重いものを部屋の前に置く。
 鍵をかけるように僕に言うだけ言って、そのまま脇目もかけず走り去って行った。
 給湯室のドアに備え付けられた窓から見えるその背が、僕の見た最後のウィンリィの姿だった。

 そして、化け物の目の前に突撃し――銃撃。
 揺らいだ化け物に挑発の言葉をかけると、振り回される尾をかいくぐって背後へと回り込み、再度機関銃を撃つ。
 様々な機材が邪魔となって、化け物の行動を阻害していたから出来る行動だ。
 あるいは、ボンちゃんの与えたダメージがかなりの枷となっていたのかもしれない。

 そのまま化け物の拡げた穴に飛びこんで、日の光の下へ駆けていく。

 化け物もまた、躊躇わない。
 機材やらなにやらを全て力で吹き飛ばして、しかし脚を引きずりながらウィンリィを追っていく。
 かつての豪風のような速度は見る影もなく落ちていて、しかしじりじりと距離が縮まっていった。

 走って、走って、走って、何度も転びながらウィンリィは一心不乱に駆けていく。
 膝がボロボロになり、血が止まらずにズボンまで完全に真っ赤に染まった。
 けれど、やっぱり逃げ切る事は不可能だった。
 圧倒的な力で振るわれた腕と爪が、ウィンリィをとうとう捉える。
 木に叩きつけられたその時に、ウィンリィの腰から下はもうどこかに消え去ってしまっていた。
455弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U 代理2:2009/12/06(日) 12:24:32 ID:GwKOTy5a
 はぁ、はぁ、はぁ、と半分になったウィンリィの息が次第に弱まっていき、目から光が失われていく。
 けれど、それでも口元には笑いが残っていた。してやったり、と言わんばかりの悪戯めいた笑みだ。

 その事に化け物は気付かない。
 勝利に酔いしれ、天高く凱歌を謡っている。

 けれどどちらの耳も完全に潰れていて、誰にもその声は聞き咎められることはなかった。

 だから、それに気付いたのはもう、事が起こってからだったんだ。

 ウィンリィが小さく誰かの名前を呟いたと同時。
 ずる、と化け物の視界がズレた。

 疑問に思う化け物は、傾いでいく視界の中に、首から上を失った自分の体を発見する。

 ウィンリィの首から上も、胴体と泣き別れしている。

 そこはF-7、禁止エリアと呼ばれる場所だった。
 時刻は9時。

 とうとう今度こそ、完全に化け物は沈黙した。

 その場にあったのは一人の少女と化け物の、首なし死体。
 静かに日に照らされて、森の中は何ひとつ動く事はなかった。

 こうして――怪物退治は終わりを告げた。
 ボンちゃんと、ウィンリィ。二人がその命に代えて成し遂げた。
 
 そして最初に致命傷を負ったはずの僕が、こうしてどうしてか長らえている。
 けれど、やっぱりもう時間のようだ。

 せめて二人の事を残しておきたくて、僕はこうして筆を取った。
 これを誰かが読んでいるなら、どうか彼らの事を覚えておいてほしいと僕は願う。

 それでは、これで筆を置こう。
 確かな二人の生き様を記して僕も逝く。




 ……ああ、一連のそれが本当に起こった事だったら、まだ救われたのに。
456弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U 代理2:2009/12/06(日) 12:25:27 ID:GwKOTy5a
 僕にはもう、どちらが実際の出来事なのか見極められる判断力がない。
 こんな、悪夢としか思えない現象を書き記すのはやめておこうと何度も思った。
 だけど幻と片付けるには余りにも現実味がありすぎる。
 2つの記憶が混ざり合って混乱して、妄想と現実の区別がつかなくなっている。
 これから書いていく出来事と、これまで書いてきた出来事のどちらが正しいのかは、これを読む人に任せたい。
 

 ――そう、あれはボンちゃんが倒れた直後の事だった。
 山の頂上、神社の上を鷹のような何かが飛んで行くのを、その場にいる誰もが見つめていた。

 そしてまさしくその瞬間だ、世界が切り変わったのは。

 いきなり霧が湧いてきて、このあたり一帯を包み込んだ。
 おそらく、ボンちゃんと二人で確認した湖からの霧だったんだろう。
 目の前の化け物が歓びを露わにするかのように、この世のものとは思えない声で吼える。

 白一色に森と工場の中が満たされると、まるで日蝕が起こったかのように急激に暗くなり、周囲が冷え始めた。

 すると。
 濃霧の向こう側に、化け物の呼び声に応えたようにいくつもいくつもの異形の影が■れた。

 巨大な蛇のようなもの、ナ■クジのようなもの、蝶のよ■なもの、人のような馬のような■の、
 竜■よう■もの、一つ目■狼と人■■うなもの、形容■■ないもの、その他たく■■の怪物に取り囲■■■いた。
 さっきまで戦っていた化け物は、それらを指揮するかのように■■■■■■

 僕とウ■■リィは圧倒されて、そのおぞま■さに後ずさる。
 今■■■じた事のな■■怖が僕に満■た。
 それしか心の■■残っ■■■ず、ただひ■■らに逃げ■事を■んだ。

 ■■ンリィと手を取■■■■■■、工場の中■■■込む。
 ……■こから先の流れ■先刻書き記し■■■■同じ■。
 ウィン■■■■■給湯室に僕を■■■れると、一人奴らに向か■■■った。
 僕も■おうとした■■ど、もう■■■リィの力に■う事も出来■、されるがまま■■じ込められてしまった。
 銃声が連続し■■■、けた■ましい■■と金属■が響く。
 そして、嫌になるほどの静寂が満ちた。

 ……いや、■寂のようで、実はそうじゃな■■■。
 ぴ■■■ちゃと舌鼓を打つ■■■、子供■水たまりで跳ね■■うな音がしていた。
 その音が■■■■■■■ないから、僕は■くがくと脚を震わせ■■■■立ち■がって、壁に寄り掛■■。
 ■■してドアの窓までにじり■■、その光景をガラス越しに見た。
 見てしまった。

 そこではウィンリィが■され、嬲ら■■いた。僕は目の前■■■■■■■■■■を見て、■■■と■かできな■■た。
 ■を流して■■されるウ■■■ィは、強■■■を剥ぎ■■■■押し■さ■■■
 そ■■■て命ま■奪わ■■■■■く、■だの慰み■■■■■辱が、何も出来■■僕■無力■■■■
 ■在進行■でそれは■■■■■る。
457弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U 代理2:2009/12/06(日) 12:26:35 ID:GwKOTy5a
 こんな■■書くの■■■■■■■■■■緑色の■■■■■■■■■
 ■■こじ開け■■■孔へ■■■■血■■■■■■■■■■■白■粘液■■■■■■
 ■■■■産卵■■■■■■■■■■■■■■■だ。
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■茸のよ■な肉の■■■■■■■■■■■何百も■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■イボ■■いた■■■■■■■■■■■イソギ■■ャク■■■■■■■■
 ■■■ビク■と■■■浮き■■太い血管■■■■絡み■■て■■■■■■■触手■■■■■
 ■■■■■■■肉の■■■■■■■■■器官■■■■■■■赤ん坊■■■■■
 ■■■■犯■■■■■掻き回■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■臭■汚泥■■■■■■■■■■
 ■■■■■恍惚の■■■■■■■■■■■■■■滴って■■■■■脳髄■■■■■■
 ■■捕まっ■■僕もあんな■■■■■■■■■女に生まれ■■■■■■■■■■■■■
 逃げら■■■■このバットで■■■■■■■限度が■■■■■■■■無理■■■■
 ■■■■■■■■■■玩具に■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■自決しか■■■

 覚悟は決ま■■。奴ら■■こに入って■る前にこの命■終わ■■■う。

 ■の前に、こ■だけは書■■おか■いと■■■■■
 ■■を読ん■人は志■妙と坂■■■、■田■■■いう人■伝え■■■■■■■■
 妙■ゃ■■■特に■■■■■■■僕■先に■■■■■■■■■■ごめ■■■い、さよ■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■生きて■■■■

 あ
 窓の外に




 目




 』



【Mr.2 ボン・クレー@ONE PIECE 死亡】

【ゾッド@ベルセルク 消息不明】
【柳生九兵衛@銀魂 消息不明】
【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師 消息不明】


※工場東部の外壁は破壊されており、その付近の内外問わずに大量の血痕や肉片、粘液がこびりついています。
 また、Mr.2 ボン・クレーとモンキー・D・ルフィの死体は破壊された穴の外部に存在します。
※シルフェの剣@ベルセルクは、Mr.2 ボン・クレーの死体の左足に突き刺さったままになっています。
 また、デイパック(支給品一式、スズメバチの靴@魔王JUVENILE REMIX、コインケース@トライガン・マキシマム)もその側に転がっています。
※シルフェのフード@ベルセルク、ブラックジャックのコート@ブラックジャックは、工場内に九兵衛やウィンリィの服とともにズタズタに切り裂かれて散らばっています。
 修復は不可能です。
※ゾッドの所有物(穿心角@うしおととら、秋水(血塗れで切れ味喪失)@ONE PIECE、支給品一式、手榴弾x2@現実、未確認支給品×1)が工場外の東部周辺のどこかに散乱しています。
※工場内の生産ライン付近に、デイパック(支給品一式×2、工具一式、金属クズ、不明支給品×1)と
 ひしゃげたパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、が転がっています。 どちらも血や体液に塗れています。
※番天印@封神演義、乾坤圏@封神演義、パニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマムに手が触れられた様子はありません。
※工場内の給湯室に、デイパック(支給品一式、柳生九兵衛の手記)と改造トゲバット@金剛番長が転がっています。どちらも血や体液に塗れています。
 また、柳生九兵衛の手記には、簡単な彼女のプロフィールや人間関係、ここにきて得た情報、湖の霧について、一連の出来事の概略などが記されています。
458弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U 代理2:2009/12/06(日) 12:33:00 ID:GwKOTy5a
◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:31:36 ID:0n2wRd4s0
以上、投下終了です。
見たまま問題作と成りうる可能性があるので、ツッコミどころがあれば容赦なく指摘していただきたく。

代理投下終わりです
確かにこれは問題作です……いや、全滅もありかと思ったら斜め上行ってますよ
三人の奮闘を称える気持ちがどこかに行ったよ……
正直、このロワを象徴してると思います。一人の書き手がここまで話を進めるなみたい意見が出るかもしれませんが俺個人はこれもいいかなと思います
この現象はベルセルク関係だろうな……次は未来日記かスパイラルか、それともハヤテか封神関係か、それとも……
459弦がとぶ―圧倒する力― ◇JvezCBil8U 代理2:2009/12/06(日) 12:34:59 ID:GwKOTy5a
追伸

いやあ、ビビったわ。ほんまこれは……遅れましたが一言だけ
GJ!
460創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 12:47:46 ID:SEsUzAvI
投下乙
何がおきた・・・
461創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 14:33:16 ID:8XIRQ0jA
ウィンリィ…・・・
462創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 14:40:09 ID:XqnvGTc0
投下乙…ちょ、蝕はいやああああああああ!
セリフ無い文章だけですごい迫力だとか思ってたのに、その前半が吹っ飛んだ…ああ、吹っ飛んだ。
463創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 14:49:52 ID:UbDKcsZv
えろいな
464創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 14:53:06 ID:XRxPP2/9
遅くなりましたが代理投下の続き乙です。

読んでるときの感想

ああ、全滅か……だがウィンリィ最後に大金星……
→ん?
→え、ちょ、あああああああああああああああ!

いやもうね。吃驚したわ。

あと「何が起こったか」は解釈次第なので問題は多分無いかと思います。
465創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 14:54:47 ID:qPqoTXYW
投下乙です!
全身が震え上がった。
ボンちゃん、九兵衛、ウィンリィ…おまいら無茶しやがって
466創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 15:57:00 ID:haBpK886
その後どうなったかを想像すると……。
一思いにゾッドに殺されてれば良かったのにな。本当に。
ベルセルク未読の奴は一度読んで来るべき。
467創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 16:38:55 ID:t+oZKgex
( ゚д゚)……

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚)…………

(つд⊂)ゴシゴシゴシゴシ
  _, ._
(;゚ Д゚) ……………………!?

……どういうことなの……
468創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 18:18:36 ID:IzcJWxK5
何があったかさっぱり分からんから誰かkwsk
469創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 18:27:46 ID:Y3v8rqvN
>>453までが確実に起こった事実
>>454からが九兵衛の主観

九兵衛の主観部分をどう扱うかによって状況が変化する
以降の書き手の裁量に依るところが大きいのでこれ以上は説明出来そうもない
470創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 18:34:10 ID:GwKOTy5a
ベルセルクのアレにしては矛盾点や疑問はあるがアレでも別におかしくないのがまたw
とりあえず消息不明も放送で死亡扱いされるならロワの運営に支障はないから主催者も安心w
471創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 23:12:53 ID:MwqS2b/g
つまり後者の説を採るとウィンリィは原作のキャスカみたいなことになり
九兵衛も自殺しようとしたけど同様の状態に陥ったって事でいいのか?
472創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 23:27:28 ID:GwKOTy5a
しかしこれで消息不明も合わせて13人か
全体の四分の一死ねばロワとしては順調だから残り54人で13人死亡は順調?

それと消息不明の死因はどうなるの?
473創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 00:36:14 ID:RzsP6jZh
やっちまった…
474創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 01:07:05 ID:GPLMG9IA
最後のに完全に食われてるけどボンちゃんはもっと誉められるべきだと思うw
475創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 01:18:12 ID:Y38VwSx2
ゾッドの身体の三分の一を消し飛ばしたってよく考えると凄まじいな
ある意味サンジの仇をとったと言えるか?


女性二人は余りにもご愁傷様だが、ゾッドはどうなったんだろう
近くにひょうがいるから、生き残ってても危険だけどな
476 ◆UjRqenNurc :2009/12/07(月) 07:01:08 ID:RzsP6jZh
一応こっちでも告知しておくか
続きのようなものを書いてみたのでよろしければ目を通して確認してみてください
◆L62I.UGyuw氏のご意見としては
1、創作発表板のLR(※)に引っ掛かるのではないか?
直接的な表現を避ければ問題ない……と聞きかじったことがありますが、どうなんでしょうね
2、ウィンリィ、ゾッドの復活は有りか?
こっちに分岐すると、こういう結果になるんじゃないかなぁと思いました
九ちゃんの前者の認識なら全滅確定ですが

ご意見お願いします
477創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 10:32:48 ID:GPLMG9IA
ふと思ったんだけどガッツの烙印は絶対に反応するよなー、これw
北東に進路変えそうだ
478創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 12:26:01 ID:5KmpKlWi
蝕の発動条件ってさ
ベヘリット所持、力への渇望、大切な者を生贄に指定の3つだよな
何で発動したのか理由が分からんのだが誰か教えてくれ
479創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 12:50:58 ID:GPLMG9IA
つ前夜祭(10巻)
480創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 13:47:14 ID:5KmpKlWi
おk
とりあえず帰りに満喫よってくる
481創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 15:05:14 ID:2qakD3Nt
>>476

・確かに直接的な表現を避ければおkです
・話の展開次第ではおkだと思いますが納得出来る展開で無いと駄目だと思います
 ゾットはともかくウィンリィは……ですが
482創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 17:48:59 ID:Ykz8ulR5
キャスカはああなったしな
483 ◆UjRqenNurc :2009/12/07(月) 18:22:12 ID:RzsP6jZh
もうちょっと狂気を出そうかなぁとは思ったんだけど、個人的に狂ったキャラって
あんまり好きじゃないんだよね……まぁ狂わないとおかしいんだけど。
もし本投下するならもうちょっと狂気が出るような修正します。

とりあえず分岐前のダメージは手榴弾が目前で爆発したことによる破片のダメージと
鼓膜が潰れた?ダメージのみ。
あの連中に捕まったら普通に殺されるとは思うけど、触本番じゃないから別に殺す必要は
ないんだよな。
とりあえず解読出来る部分に死を思わせる表記はないし。
んで、個人的に部外者の介入で殺されるのは好きじゃないのでああいう制限があった
事にして……って感じっす。

まぁ、もうちょい寝かせてみますわ。
前者の解釈で分岐したいとか、こういう展開の方がいいだろ常考と言う人がいれば別に投下してもらってもいいです


ってか、エロ制限がよくわからんな
TVで流せる程度の内容ならいいのかな
484創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 18:46:08 ID:O0Q0emzm
いや、そういう中途半端なことされると書きにくいわけで
エロに関してはOKらしいので後は自身の判断で投下するか否か決めるべきでしょう
デリケートな作品出した上で他の書き手に責任投げるのはどうかと
485創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 19:04:55 ID:2qakD3Nt
デリケートな状況でしょうが自分は書き手の判断を尊重しますからぜひ投下を
486創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 20:39:42 ID:R8BOOwTv
キャスカを思い出すと鬱になるぜ……
487創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 00:34:59 ID:DMUXuqH8
投下するしないは書き手の判断だろうからご自由に
488創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 03:51:17 ID:BKjxrNKJ
首輪なしの使徒なんて出されたら全員詰みじゃん
489創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 04:34:50 ID:DMUXuqH8
少数でも首輪ありで対抗出来る参加者がいるのがまたw
この話題は書き手が作中でイベントとして爆発させるまで突っこみしないのが吉かもね
490創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 09:19:49 ID:xHSMcEvW
その辺りについて◆JvezCBil8U氏が議論スレに書いてるな。
他の書き手さんの意見待ちかね、進行に関わってくるわけだし。
491創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 10:14:40 ID:BKjxrNKJ
首輪付きであの生命力と数に対抗出来るのなんてゾッドと妖体趙公明ぐらいだろ
胡喜媚でも微妙かなってラインだ

制限の肝は性能(スペックダウン)もそうだが、燃費(コスパダウン)が一番影響がある
ゴッドハンドが主催じゃないなら使徒にも首輪を付けるべき

参加者以外の存在が首輪なしで舞台に出演してる説明が必要
492創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 13:21:35 ID:psrvLVg6
説明というより納得出来る理屈が必要
首輪でなくてもいい
主催者側に強者がいて何かしてたからとかでもおk
493創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 13:52:06 ID:9XXERzVj
素直に戦闘描写だけで終わらせれば良かったのに

めんどくせぇ事になったな
494創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 14:00:29 ID:lGPAUT0G
本スレで言うことじゃないだろ
議論スレ行け
495創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 14:49:35 ID:dWL6shum
別に面倒くさくもなんともないだろ、わざわざ事態を複雑にしようとしてないか?
あの後半の描写はこういったらなんだが妄想と変わらないんだからさ。

『戦闘の跡と手記が残っている』『生きた人間は誰もいない』という結果だけが全て。
そこに無理矢理生存者という唯一絶対の真実を突っ込むからいけないんだ。
続きを書いてくれたのに申し訳ないけど、ウィンリィとゾッド生存は正直蛇足に感じられるな……
496創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 14:59:20 ID:97BuLj0l
別に何もいけなくはない
矛盾はない
本気で問題提起したいなら議論スレで
そうでないなら黙るべき
497創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 16:19:22 ID:MvBjr1tp
少しだけ

二人の生存を蛇足と感じなくもない
ただマーダーの数は多めの方がロワを進行しやすいしあのウィンリィとエドが再会したらどうなるんだろうみたいな期待もある
正直、実は蝕関係ではありませんでしたの余地を残しておいた方もいいけど敢えて退路を自分の意思で断つのも書き手の決断だと思います
これはデリケートな問題なので書き手同士でじっくりと話し合って決めてください

ではROMに戻ります
498創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 18:10:44 ID:fVTkDha8
てか制限って首輪の力で掛かってるなんて決定してたっけ?
499創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 18:15:12 ID:97BuLj0l
エドが首輪の力なんじゃないかと推測してる
確定はしてないと思う
どっちにしろ議論で決めることじゃないな
500創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 18:18:21 ID:zZqLh2q9
でも前者の思考は明らかに矛盾してるんだよな
だって工場の給湯室に閉じ込められて動けない九ちゃんが禁止エリアまで走ってった二人の
顛末を記録してるんだから。
これは明らかに妄想。

だから事実は使徒が実際に現れたか、九ちゃんの妄想ではない真実のゾッドVSウィンリィの
結末しかないと思うんだ。
まぁ妄想だけど、真実そういう事になったという可能性もありえなくはないけど。
でも切り裂かれた服が散乱してたりとかなぁ。

うーん、難しい……
全滅エンドが一番楽なのも判ってはいるんだけど……
あとから誰かが工場訪れてしまったら、九ちゃんの遺体のあるなしで、真実がわかるかどうかは
ともかく蝕が起こったかどうかはわかる。
つまり謎を謎のままにしておくには、誰もここには触れないでおく必要がある。
となると、このエピソードは繋げなくなる。

ここで完結させてしまっても深い余韻を残す凄い作品だが、ちょっともったいないかなという思いもあり、
しかし蛇足というのも理解出来る

個人的にはあの状態のウィンリィを配置する事で数人のキャラが動かしやすくなるんだけど
あの辺すっきりさせたいって人もいるだろうしなぁ
>>491
首輪があったほうが不味くね?
501創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 18:23:46 ID:zZqLh2q9
あるなしでってかっちょわりー書きかただなw
有無ででいいじゃん
502創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 18:49:22 ID:xHSMcEvW
>>499
妲己ちゃんも宝貝ダニのような能力が首輪に付加されてるんじゃないかと推測してるな。

>>500
九ちゃんの死体がある必要はないんじゃないか?
手記を記した後どっかに消えたとしてもいいわけだし。
とりあえず手記は残ってるわけだから、それを誰かに発見させて考察させると十分エピソードは繋げられると思う。

まあ、服がバラバラになってる問題もあるけど、ゾッドとの戦いで使い物にならなくなった、という解釈もありだし。
血が染み込んだ服って実はかなり重いしね。
503創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 18:51:20 ID:BKjxrNKJ
>>500
主催の犬という立場
という、この隔離空間に存在出来る理由が出来るだろ

じゃないと、使徒程度のスペックでも外部からの干渉が出来るってことになっちまう
となると、因果律>>>>主催なら、もし触が発動して闇鷹が生まれたらゲーム終了だろ

首輪なしなら、実は真の黒幕はゴッドハンドさん達でした
だから使徒さん達もロワに干渉出来ちゃいます
って結論にならない限りこのロワの根底に関わる問題
504創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 18:56:28 ID:97BuLj0l
ID:BKjxrNKJ
お前引っかき回したいのか真面目に議論したいのかどっちなんだ
後者なら議論スレで主張してこい
ここで何言っても何の強制力も無い
前者なら去ね
505創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 18:58:18 ID:BKjxrNKJ
やられ約で出てきたカブト虫とカマキリの使徒ですら制限下で倒せるのなんて片手で数えられるくらいの脅威だろ

未知数アイテムのベヘリット様の触で召喚される分には無制限でも文句ない
506創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 18:59:30 ID:97BuLj0l
前者か
去ね
507創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 19:00:13 ID:BKjxrNKJ
本スレ>議論スレ
508創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 19:06:36 ID:zZqLh2q9
>>502
部屋は外から押さえつけられてる状況で九ちゃんは超重傷だからな
509創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 19:16:11 ID:xHSMcEvW
>>507
規制で書きこめないから ◆JvezCBil8U氏が見解だしてる。
読んだ上で意見出してくれ。

>>508
傷の具合はともかく、その記述が正確かどうかすらも定かでない。あくまでも、九ちゃんが手記に書いたことでしかない訳だし。
あのパートで信頼できるのは一番最後の備考だけ、うみねこでいう赤字以外は信用できないってやつだなw
510創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 19:57:43 ID:I3q/wDce
うみねこであったシュレディンガーの猫箱でもあるな。
開けてみるまでどれが真実か分からないから二つ以上の真実が同時に存在してもいい、と。
事実でもよし、九ちゃんの幻想でもよし。
511創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 20:05:37 ID:zZqLh2q9
>>509
なるほど。
となるとカオスすぎて手がつけられなくなるな……
状況証拠からして分岐前は正確な記述だと思ってたぜ
512創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 20:36:55 ID:9XXERzVj
つまり、本文は無いものと考えても全く問題ないワケだな
備考だけ読めばいいっていう

無駄というか肩すかしというかガッカリだ
513創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 20:57:21 ID:MvBjr1tp
久々に荒れてるな
読み手がずけずけと書き手に干渉するのは荒らしレベルに落ちるよ
514創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 22:09:42 ID:mRJu1FvL
なら干渉せざるを得ないものを出さないで欲しいもんだ
515創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 22:10:00 ID:xHSMcEvW
◆L62I.UGyuw氏の意見も分かる事は分かるんだが……
それでも蝕フラグに関してはもう少し期間を置いて確定させた方がやりやすかったと思うなあ。
同パートのフラグ処理のハードルって言っても、手記以外に掘り下げてリレーする必要性は特にもう残ってなかったパートだし。
別に続きを書く必要がないパートではあった。

内容そのものの是非は置いといて、時期ってものがあると思うのは確か。
あの話の投下直後に何が起こったかを確定させてしまうと、どうとでも取れるように書かれた意味がなくなる≒どうとでも取れるように書かれた意味がなくなる。
これの展開縛りは正直相当にきついと思う。
516創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 22:21:49 ID:lGPAUT0G
んでも今後のことを考えるなら確かに最悪のタイミングだ
色々考えたと言うが考えるべきなのは投下前だろうよ
投下後にやっぱやめたは何も考えてませんでしたと同義だぞ
517創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 22:43:09 ID:tuEVt6Pe
仮投下って本来そういう使い方の出来るシステムじゃねーの?
すっかり代理投下用スレになってるけど
518創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 22:57:31 ID:4Wihi0lR
少なくとも衝動的に書き散らした作品を投下するとこではないな
それは没投下スレの役割だ
普通は熟考しても不安だとかいう場合のためだろ
519創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 23:22:59 ID:MvBjr1tp
予約入ってるしどの位の長さになるか不明だから新スレ立てる?
容量が限界に近い
520 ◆L62I.UGyuw :2009/12/09(水) 02:36:59 ID:LqGUW/dw
蒼月潮、聞仲投下します。容量は足りると思います。
521非統一魔法世界論 ◆L62I.UGyuw :2009/12/09(水) 02:37:59 ID:LqGUW/dw
市街地から程近い森。
ゆったりとした暗色の外套を身に付けた長身の男、聞仲が微動だにせずその三つの目で手に持った名簿を睨んでいた。
名簿には彼の知る名がいくつかあったが、その中の一つが赤く染まっているのだ。

「太公望は、死んだか」

長い息を吐き、聞仲は喉に支えていたものを吐き出すように呟いた。
これで、滅び行く殷の太師としての最後の務めを果たすことは、永遠に出来なくなったという訳だ。
今更それほど意味を持つことではないのかもしれないが、それでも一抹の寂しさを覚える。

陽の光は東側の山に遮られ、森の中はまだ薄暗い。

そういえば、どうやら高町亮子はまだ生きているらしい。
禁鞭を掠めて逃げた彼女を秋葉流が追い掛けて行ったのは確認している。
彼に彼女を生かしておく積極的な理由など無いはずなのだが――。

「なあ、おじさん。大丈夫なのか?」

隣で同じく名簿を眺めていた槍を持った半裸の少年、うしおの言葉に聞仲は我に返る。
彼はどうやら先程から聞仲の様子を窺っていたらしい。

「ふむ……いや……心配することはない。向こうに置いて来た私の仲間達は今のところ無事のようだ」

今まさに死なんとしていた少女のことまでは判らないが。
ともかく、考えていても仕方がない。
無事でいるのならそれに越したことはないのだから、よしとすべきだろう。

「そうじゃなくってよ。あ、いや、もちろんそれも心配だったんだけどさ。
 でもそっかァ、無事だったのかァ……。
 ……あ、えっと、それでさ、その。……おじさん、流……兄ちゃんに、メチャメチャに殴られてたじゃんか。
 それ、結構ヒドいケガなんじゃねえかって……」

言われてみれば確かに体中が痛む。
顔を軽く撫でてみると、酷く腫れていることが感触だけで判った。
本来ならばあの程度の打撃でダメージを受けるはずは無いのだが……。
なるほど、これも『公正を期すための細工』とやらの一つか。
そう聞仲は納得する。

「気にするな。私の身体はそれなりに頑丈だからな。
 この程度ならば行動に大した支障は無い。それよりも、少年」
「う……その少年っていうの、むず痒いからやめてくれねぇかな。うしおでいいよ。えっと……おじさんは……」
「聞仲だ。では――」

思考を切り替える。

「うしお。皆を救いたいのだろう? ならば、私の心配などをしている場合ではあるまい。
 今こうしている間にも、多くの命が消え逝かんとしているのだからな」

――為すべきことを為すために。


***************

522非統一魔法世界論 ◆L62I.UGyuw :2009/12/09(水) 02:38:56 ID:LqGUW/dw
ある程度の情報交換の後、キリコの助言に従い病院へ向かいたいと言い出したうしおを制し、聞仲は一旦海に出ることを提案した。
その理由は二つ。
一つは、聞仲達は病院から逃げて来たところであり、今すぐに病院へ向かっても人がいる可能性は低いということ。
そしてもう一つは、聞仲には早めに確認しておきたいことがあるということだ。
確認しておきたいこととは、おそらく誰もが疑問に思っていること。すなわち『この島は一体どういう場所なのか』だ。
聞仲の話では、海へ行けばそれが判るかもしれないのだという。

彼の提案は理に適っており、とらやひょうの居場所の心当たりも無かったため、うしおもその案をすんなりと呑んだ。

そして今、彼らは海へと続く裏路地を歩いていた。
やはり無意識に焦っているのか足早に歩くうしおの後ろを、聞仲は大股で静かに追う。

「それにしても、奇妙な建物だな」

朝の光の下で改めて聞仲は街を見回す。
ここに放り込まれたときは茫然としていて、街の様子などに気を留める余裕は無かった。
しかし今こうして冷静に眺めると、彼にとっては興味深い街並だった。
足元は綺麗に舗装されており、方形を立体的に貼り合わせたような無機質な建築物がいくつも立ち並んでいる。
道の要所には標識が立ち、交差点には規則的に明滅するランプ(うしおは信号機と呼んでいた)が下がっていた。
裏路地に入ると民家と思われる建物が並んでいたが、これにも高い建築技術が使われていることが一目で判る。
聞仲が馴染んだ殷の城下とも、金鰲島とも全く異質な街の風景。

「そっかなァ? あ、でも、とらも初めは聞仲さんみたいなこと言ってたっけ」

だがうしおにとってはごく当たり前の風景であるらしい。
高町らも特段気にした風ではなかったし、おそらくは自分の方が異邦人なのだろう。
そして、

「……とら、か」

話の限りでは、かなりの力を持った、しかも希少な『術』を使える妖怪仙人らしいのだが、聞仲は知らない。
それどころか、かつて大陸を荒らしまわったという白面なる者の名すら彼は耳にしたことがない。
聞いたこともない妖怪といい、見たこともない街並といい、

(ここはやはり遥か未来の国を模した島。そしてこの少年達は遥か未来の民、ということなのか?)

聞仲は視線を地に落として黙考する。
全くナンセンスだと感じるが、そうとでも考えないと今の状況は説明が付かない。
そんなことを考えている内に、潮の匂いが強くなって来た。

「お。聞仲さん、もう少しで海みたいだよ」

前を歩くうしおもそれに気付いたらしい。
しばらく歩いて裏路地を抜けると、港湾地帯特有のだだっ広い湾岸道路が南北に伸びていた。
潮風に曝されて錆び付いた看板が、港への道を指し示している。

「ふむ、そろそろいいか。ここなら広さも十分だろう」

そう言うと聞仲はうしおを呼び止め、おもむろにデイパックからピンク色の物体を取り出した。
振り向いたうしおが怪訝な顔をする。

「へ? 何だよこのクジラのオモチャ…………うわァッ!」

思わず叫ぶ。
玩具は彼の目の前でみるみるうちに巨大化し、本物の鯨と見紛うばかりのサイズになった。

「どうした。行くぞ」
「え? う、うん」

呆気に取られつつも、うしおは何とか頷いた。
523非統一魔法世界論 ◆L62I.UGyuw :2009/12/09(水) 02:40:06 ID:LqGUW/dw


***************


港に泊まった漁船に僅かな間影を落とし、ファンシーなデザインの鯨が悠々と空を泳ぐ。
眺める者によっては幼い頃に読んだ童話を思い出す光景だろう。
ただし鯨の正体が凶悪な攻城兵器であることを知らなければの話だが。

「なァ、海に出ちまったぞ?」

その空飛ぶ鯨、花狐貂の上で、うしおが訝しげに言った。
実際、港はもう随分後方に見える。

「少し待て。私の予想が的を射ているかは、きっとすぐに判る」

疑問を浮かべるうしおを制し、聞仲は花狐貂を操ってひたすら西へ進む。
凪の海上。
磨き上げられた鏡を思わせる海が、一面に朝日を浴びて煌いている。
どこまでも続くかに見える澄んだ青空と、それを映す穏やかな海面。
しかし洋上を真っ直ぐに進むと、それらは程なくして終わりを迎えた。

「な……」

うしおが絶句する。
行く手には、大理石の質感を持った、毛ほどの瑕疵も見当たらない壁が海から聳えていた。
絶壁――としか表現のしようがない。
上や横の方を観察すると、壁は内側に緩く湾曲していて、島全体をすっぽり覆っている――ように見える。
はっきりと言い切れないのは、遠くに位置する部分が透けて視認出来ないためだ。

「やはり、か。どうやら――私の考えは間違ってはいなかったようだな」

驚くうしおとは対照的に、聞仲は平然と巨大な壁を眺めている。



放送直後に確認した名簿には、趙公明の名が記されていた。
聞仲の記憶が確かならば、この男は以前確かに封神されたはずだ。
にもかかわらず、彼はこの場にいるという。
ならば他にも封神された者が復活しているのではないか?
そう考えるのは自然なことだろう。

例えば――空間宝貝『十絶陣』の使い手、『十天君』はどうだろうか。

十天君は、何故か生きていた王天君を除いて全滅したはずだった。正確には聞仲自身が全滅するように仕向けたのだが。
だから、今の今まで『その可能性』を真面目に考えていなかったのだ。

だが彼らが存在するならば話は変わる。
つまり、今いるこの空間は彼らの宝貝によって創られた亜空間である可能性が出てくる。

ところで、空間宝貝には共通して一つ大きな弱点がある。
その弱点とは、無限大の体積を持つ空間を創ることは出来ないということだ。
つまり、もしこの場が空間宝貝によって創られたものならば、島の外の空間が何処までも広がっているということは有り得ない。
聞仲はそこに目を付けたのだ。

果たして彼の読み通り、島の外には『果て』があった。


524非統一魔法世界論 ◆L62I.UGyuw :2009/12/09(水) 02:41:52 ID:LqGUW/dw
「これ……何だか分かんのか?」

うしおが訊く。
聞仲は答えない。
代わりに短く下がっていろと言うと、前に進み出て手に持った長大な鞭を無造作に振るった。
鞭は風を切り無数の軌道を描いて激しく壁を打つ。
常人を容易に絶命せしめるその一撃は、しかし壁に傷一つ付けることも叶わなかった。

「フン……壁そのものはまやかしではないようだな。そして、カラクリの一端は見えたぞ。
 このような真似が出来る者は私の知る限り――」

金光聖母だけだ。

金光聖母――十天君の紅一点にして、姚天君と並び他の十天君と一線を画す実力者。
彼女の持つ空間宝貝『金光陣』の力で光を操れば、島を囲む壁が存在しないかのように見せかけることも容易だ。
そして、ここが金光陣の中だというのなら、この島の何処かに金光聖母が存在するのが道理。
何とか彼女の居場所を突き止めて倒すことが出来れば――。

「なぁ……聞仲さん、一人で納得してねえでよ……」

黙って隣で成り行きを見守っていたうしおが不満げな声を上げた。
目を遣ると、頬を膨らせた彼が歳相応の表情でこちらを睨んでいる。

「む、すまないな。だが、確認はもう終わった。陸に戻りがてら説明するとしようか」

そう言って、聞仲は花狐貂の進路を反転させた。
そして彼の推論を掻い摘んでうしおに話す。
説明を一通り聞いた後、

「ふうん……そっか。よし。じゃあその金光聖母って人を何とかすれば、みんなを助けられるんだな?」

にかっと白い歯を見せるように笑って、うしおは意気込んだ。
そんな彼の姿勢を好ましく思いながらも、聞仲はそう簡単には行くまいと続ける。

「まずはこの邪魔な首輪を外さねばならん。
 残念だがこれがある限り、我々は『神』の掌の上だ。
 金光聖母を捜すのは首輪を外した後でも良い。
 それに――おそらくは他の協力者もいるはずだ。
 金光聖母の力だけでこの島の全てを維持することは不可能だからな」

推測するに、金光陣を基本とした多重空間――それがこの島の正体だと聞仲は睨む。

実のところ、状況は相変わらず最悪だ。
首輪の外し方も判らない。金光聖母の居場所も判らない。
いや、そもそもこの亜空間は未来における未知の技術によって創られたもので、実は金光聖母は全く関係無いという可能性も皆無ではない。

だがそれでも、当ても無く島を彷徨うよりは遥かにマシだ。
為すべきことは見えた。
あとはそれが成せるかだが――。

「どうした?」

ふと気付くと、うしおが何やら眉を寄せて悩んでいる。
525非統一魔法世界論 ◆L62I.UGyuw :2009/12/09(水) 02:43:15 ID:LqGUW/dw
「なあ、もしかしたら、だけどよ」
「何だ?」
「もしかしたら、金光聖母ってヒトも、あいつらに脅されてるんじゃ……」
「あの、放送を行った女のようにか?」
「……うん」
「かもしれんな。そうであるならば好都合だ。
 だがもしそうでないならば――」

――私が殺す。
冷然と言い放ち、聞仲はニセ禁鞭を握り締めた。
そんな彼を見ていたうしおは絞り出すように食い下がる。

「……そいつは、ダメだよ。殺すのァいけねえって。良くねぇよ……」
「だが、金光聖母は甘い相手ではないぞ。少なくとも、手加減をしても勝てるなどとは考えぬ方が良い」

僅かに沈黙が流れる。潮風が二人の間を通り抜けていった。
うしおが、古傷を抉られたような悲痛な表情で実感の籠った言葉を吐く。

「……俺ァ頭悪ィから聞仲さんの話、全部ァ分かんなかったけどよ。
 でもその人は聞仲さんの仲間なんだろ? それなら、ちゃんと話せばきっと分かってくれるよ。
 だってさ……仲間同士で憎み合うなんてよ……悲しすぎるだろォ……」

そう言って、まるで我が事であるかのように哀しみを湛えた瞳で真っ直ぐに訴える。
聞仲にとっては話にならぬほど青臭い、そしてだからこそ今の彼にはとても眩しい正論。
流はこの正論に、そしてこの瞳に耐え切れなかったのだろうと改めて思う。

「フッ……話せば分かる、か」

ほんの少し前の聞仲なら、そんなことはつまらぬ夢想だと一蹴しただろう。
何しろ彼こそ、あらゆる説得を拒絶し、仙人界を絶対的な暴力で蹂躙した張本人なのだから。
それこそ、仲間であったはずの十天君すらも利用して、だ。
そんな自分が今更言葉で物事を解決しようなどとは図々しいにも程がある。

だが――と、彼は省察する。

殷のためと称して心を閉ざし、全ての対話を拒否して邁進したその結果はどうだった?
王天君や妲己、そしてその背後に潜む巨大な存在を喜ばせただけに終わったのではなかったか?
結局、護りたかったものは全て掌から零れ落ちてしまったのではなかったか?

過去をやり直すことは出来ない。後悔しても現実は覆らない。

だが。
だが、それでも。

例えば、十天君を力ずくで従わせようとせず、粘り強く説得していれば、完全な孤立は避けられたのかもしれない。
例えば、太公望や普賢真人の言に耳を傾けていれば、最悪の結果は免れたのかもしれない。
少なくとも――飛虎だけは失わずに済んだのかもしれない。
そう思うと、どうしても悔やまずにはいられないのだ。

だから――結果がどうであれ、この場で再び同じ過ちを繰り返したくはない。

短い記憶の旅から戻り、聞仲もまたうしおを真っ直ぐに見据えて応える。

「そう、だな。少し短絡的だった。一国の太師が力任せではいかんな。
 出来る限り説得してみるとしよう」
526非統一魔法世界論 ◆L62I.UGyuw :2009/12/09(水) 02:44:15 ID:LqGUW/dw
うしおの表情がぱっと晴れる。

「よし。約束だぜ、聞仲さん」

そう念を押して、うしおは花狐貂の進行方向を向いた。

いつの間にか、港はすぐそこにまで迫っていた。



【C-1/港/1日目 朝】

【蒼月潮@うしおととら】
[状態]:健康、精神的疲労(中)
[服装]:上半身裸
[装備]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[道具]:支給品一式×2 不明支給品×1
[思考]
基本: 誰も殺さず、殺させずに殺し合いをぶち壊し、主催を倒して麻子の仇を討つ。
1:病院に向かい、ブラックジャックと会う。
2:病院にブラックジャックがいなかったら一旦神社に戻る。
3:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
6:とらやひょうと合流したい。
7:金光聖母を探す。
[備考]
※参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後〜32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
 とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※ブラックジャックの簡単な情報を得ました。
※悲しみを怒りで抑え込んでいる傾向があります。
※黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。
※聞仲と情報交換しました。

【聞仲@封神演義】
[状態]:疲労(中)、右肋骨2本骨折、全身に打撲痕
[服装]:仙界大戦時の服
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:うしおを手助けしていく
1:流を自分が倒す。
2:エドの術に興味。
3:首輪を外す手掛かりを探す。
4:金光聖母を探して可能ならば説得する。
5:何をしたいか目標はないが、何かを成せるようになりたい。
6:流に強い共感。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。
※うしおと情報交換しました。
※会場の何処かに金光聖母が潜んでいると考えています。
527創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 02:44:27 ID:TtbrnykG
 
528 ◆L62I.UGyuw :2009/12/09(水) 02:46:01 ID:LqGUW/dw
以上、投下終了です。
次スレを立てるとさるさん食らいそうなのでやめておきます。
529創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 02:47:04 ID:TtbrnykG
投下乙
この2人は対主催組として安定してるなあ
マップの考察もいいかもです
530創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 09:30:13 ID:zMsPrHT7
投下乙です!
こんなに真っ直ぐな連中は見てて気持ちがいいなあ、やってる事は王道なのにw
聞仲といいナイブズといい、過去に悔いのあるキャラが変わっていくのを見るのは面白いです。
繊細な心理描写に想いが伝わってきました、そして十天君は王天君以外どれくらい関わっているのだろうか。
まあ、陽ゼン一人いれば事足りそうな気もするけど……w
531創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 15:22:33 ID:8V8e0+yX
投下乙です!
いやあ、久々に純粋対主催の行動見たよw 確かに王道だw
本来ならありえない原点後の聞仲は凄く新鮮だ
心理描写がよく書けてて想いが伝わりました
しかし実は陽ゼンがとか怖いこと言ってる人が出るしw 真実はいかに?

ちなみに自称神が主催者ならメガテン的に言えばこの二人はライト&カオスとライト&ロウか?
メガテンはうる覚えだが
532創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 19:32:09 ID:ATbwmpBO
投下乙
かっこいいなこいつら
533創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 01:09:35 ID:fPQ1OdiP
|||*´ゝソ||<呼んだかな?
534創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 19:15:48 ID:hBj6U5M4
あんた誰や
535創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 21:04:04 ID:4l0uBaVi
聞仲?
536創る名無しに見る名無し:2009/12/12(土) 00:01:07 ID:MR6amMB4
あー、言われてみれば聞仲だ
一瞬空気王かと思ったww
537創る名無しに見る名無し:2009/12/12(土) 00:29:40 ID:0QbzBizf
俺も空気王だと思った。
……鬱ロワ繋がり?
538創る名無しに見る名無し:2009/12/12(土) 14:38:39 ID:+AqBTUor
いや、多分楊ゼン…のネタAA(通称自演)じゃないかな
藤崎竜総合スレによく出没してるやつ
楊ゼンの話題が出たからだろうけど、よくぞまあこんなところにw
ちなみに聞仲には別の一行AAがある
539創る名無しに見る名無し:2009/12/12(土) 22:21:44 ID:cqvrY9za
……この予約は。
時間的には確かに移動できるだろうけど、どうなんだろ……。
540創る名無しに見る名無し:2009/12/12(土) 23:32:56 ID:fBoCOJmI
これは……正直、首かしげるな
何か読者を驚かす抜け道でもあるのだろうか?
面白そうではあるぞw
541創る名無しに見る名無し:2009/12/13(日) 00:17:32 ID:AmT4ACM6
まぁ変身して飛んでいけば余裕だと思うけどね
彼女なら何をやらかしても不思議はないし
事前予想はやめとこうぜ
542創る名無しに見る名無し:2009/12/13(日) 17:34:22 ID:z+jpGa8/
まあ、この組が終わったら放送直後で残ってるのは探偵組か
情報戦の要だから後出しでもいいだろう
543創る名無しに見る名無し:2009/12/13(日) 17:39:49 ID:spf8CICL
おいゴルゴと安藤兄忘れんなw
こっちは早めに動かさんとマズい

ところで次スレそろそろ立てるか?
544 ◆JvezCBil8U :2009/12/14(月) 02:02:19 ID:P4hPMYBJ
ぎりぎりで足りる……はず。
ようやっと規制解除されたので、こちらに久方ぶりに投下します。
545トラワレビト ◆JvezCBil8U :2009/12/14(月) 02:03:59 ID:P4hPMYBJ
帰れば、幸せが待っているはずだった。

幼なじみだった妻と、5つになる娘。

レイシャ、ハイフォン。
たったふたつの、かけがえのない大切な宝。

彼女らを奪われた時から私の道は暗黒に染まり、絶望の淵へとひた進むだけのものに成り果てた。

鍛えたのは、人の年月にて15年。
更に重ねて15年を、ただ殺すためだけに。

殺して。
殺して。
殺し続けた。

……その行き着く先が、これなのか。
蒼い目に浮かぶ世界はモノクロームの白と黒に染まっている。

失望感と倦怠とが、私をただ満たしている。
行き場のない黒々とした感情だけが、ぽっかと空いた隙間に滲み、溜まっていく。

ようやく辿り着く事の叶った仇は、あまりにも弱かった。
弱すぎた。
ひたすらに弱いだけの、誰かの食い残しに過ぎなかった。

私の15年は、残飯処理の為でしかなかったのか。

あまりにも無惨な現実が、私から生きる気力を奪い、代わりに暴力的な衝動をひたすらに高めていく。

八つ当たりだと分かっている。
それでも残滓と呼ぶにはあまりにも強すぎる黒の色を向ける矛先を、私は欲していた。

酒が欲しかった。

師の告げた通り、体の中の憎しみを追い出すために、酒で体を清めたかった。

これから私は、何をすべきなのだろうか。
どう生きるべきなのだろうか。

……もし、このまま生にしがみ付いたとして。
この渦巻く感情を何某かにぶつける為だけに、漠然と在り続けそうな気がする。
生きるのではなく、在るだけだ。

……だが。
その事すらももう、どうでもいいと感じてしまっている。
運命の大きな奔流に身を委ね、塵芥の一つとして漫然と人形のように動き続けることすら、今の私には怖れるべき事態に感じ取れなかった。

ああ、ミンシア。

もしかしたらあなたのところへと戻るという事も出来るのかもしれない。
……だが、私にその資格はない。
共にいる事を否定した私には、あなたの向ける想いを受け止める事は許されないのだろうから。
546トラワレビト ◆JvezCBil8U :2009/12/14(月) 02:05:30 ID:P4hPMYBJ
もうこの現世に留まり続ける理由はない。
なら、自ずから命を絶つのも悪くはないかもしれない。
私に帰る場所はなく、大切な人のところへ向かうという選択肢は非常に魅力的に感じられた。

いや、彼女たちのいる場所こそが私の帰る場所なのか。


……けれど。
少しばかりの懸念が、この地には残っている。

蒼月潮――。
彼の行く末の一助となる事が私が最期に成すべき事だろうか。



私は何処に帰るというのだろう。



「おじさん」

水面に映る蒼い目の男は、何も答えない。

「おじさん!」

その上に浮かべた仮ごしらえの木の板は、時計の針ほどの速度で静かに回り続けていた。

「おーじーさん!」

やけに低い位置から誰彼の声が届く。
おじさんとは私の事か。
首から上だけをわずかに動かして、そちらの方に目をやってみれば。

「……あのバケモノをやっつけた時からずっとだんまりでさー。
 もしかして、怒ってる? オレが理由も聞かず止めようとしたの」

……そういえば、そうだったか。
この小さな妖精とやらはずっと私にくっついてきていたのだ。
今の今までそんな事すらどうでもよくなっていた。

「ああ……、そうだな」

生返事をして、川の方へと視線を戻す。
言っている事が頭に入ってこなかったから、どう答えるべきかも分からない。

「え!? いやだって、確かにあんな卑怯なヤツだってのは知らなかったんだけどさ。
 あんまりにも……って、やっぱり聞いてないんじゃ?」

「そうだな」

紅煉の時のやり取りについて話していたのか。
……言いたい事は分かる。
だが、それでもどうにもならない感情とはこの世に確かに存在しているのだ。
むー、と栗のように顔を変え、妖精は偉そうに腕を組む。
547トラワレビト ◆JvezCBil8U :2009/12/14(月) 02:07:08 ID:P4hPMYBJ
「さっきからそうだな、しか言ってないじゃないか。
 そんな調子じゃすーぐ殺されちまうって!」

殺し――そうだ、殺し合いの最中だった。
苦笑。
殺し合うなど日常茶飯事にせよ、それでもそんな事さえ忘れ去る今の自分がどうしようもなく思えて仕方ない。

「……そうだな」

ダメだこりゃ、と溜息を吐く妖精を尻目に木片を凝視する。
……と、不意に回転が止まり、その表面に描かれた図象が一つの啓示を指し示した。

「それが、私の運命だとでもいうのか?」

目を閉じ、息を吐く。
そして流れる水の中に手を浸して板を掬い取ると、水気を取ってから鞄に仕舞い込んだ。

「……それ、ナニ? さっき“符”ってのを補充する時に一緒に作ってたみたいだけど」

聞いても答えてくれないんだろうな、と呟く妖精に向き直る。

「これは遁甲板と言ってな。まあ、占いに使う道具のようなものさ」
 
「おお、返事が返ってきたぁ! ウムウム、やっぱり言葉は人間の最大の発明品だよ。
 オレは人間じゃないけどさ」

……はて、なぜこれほどまでに全身で喜びを表すのか。
理解しがたい行為を無視し、とりあえず背を翻す。

「あ、ちょっと待てよ! どこに行くのさ!」

私は歩みを止めず、しかし鞄をぽんぽんと叩き、告げた。
どこか適当な、川幅が細くなっている場所で向こうに渡る必要がある。


「お前にも見せた『あれ』に縁(ゆかり)のある者がこの地にいるらしい。
 ……知り合いの少年を探そうと思ったのだが、どうやら強い宿縁が彼より先に反応しているようだ。
 ひとまずは先にそちらを片付けねばならないらしいな」



***************


宴が繰り広げられていた。

ただ、飛び入り客は間に合わず――、そのたけなわを遠目に見る事しか許されなかった。


***************


「……ひでぇ。ひでぇよ。このコなんか、まだまだ子供じゃんかよ……。
 ガッツ、なんであんな事をするんだよぉ……」

酒池肉林。
まさしくそう形容すべきだったろう。
悲惨で救いのない、退廃の宴。
548トラワレビト ◆JvezCBil8U :2009/12/14(月) 02:08:42 ID:P4hPMYBJ
死体が三つ、血の池を作り出している。
一つだけきれいな裸の少女の死体を、自分でも気づかぬうちに私は抱きしめていた。
まだ――温かい。

こんなにも温かいというのに、あと一歩で届かなかった。

「知り合いか?」

我ながら恐ろしいほどに平坦な声だった。
怒りが、沸々と湧いてくる。

「……うん。でも、どういう事だろう。
 なんか瞬きの間に消えちゃって、代わりに女の子の姿があらわ」

「バケモノだ」

言葉を遮り、その単語を口の中で何度も何度も転がす。
バケモノ。バケモノ。バケモノ。
バケモノバケモノバケモノバケモノバケモノバケモノバケモノバケモノバケモノバケモノ。

「……え?」

「バケモノさ。お前の知り合いの姿を借りて、罪でもなすりつけようとしたのかもな。
 ……私のこの蒼い浄眼に透かし視えぬまやかしはない。
 あの醜いニワトリの姿も、ちゃぁんと焼きつけておいたさ」

ああ、焼き付けたとも。焼き付けたともさ。
また間に合わなかったこの自らの愚かしさとともに、焼き付けた。
黒い炎が身を焦がす。

「まやかしか……。でも、あの姿を見せたって事はあの女の子、どっかでガッツに会っていたのかな。
 とにかく、捕まえて話を聞かないと……」

御託はいい。無駄口を叩く暇はない。

だってこの機を見逃したなら、次はいつ殺せるか分からないだろう?

「十五雷正法――十翼」

少女の体を横たえて、私は符を宙に投ずる。
空駆ける力以て、愚直なまでに追い縋る。
遠ざかるは、妖精の声。

「え? ちょっと、おじさーん!」


私には救えない。何一つ救えない。
血塗られた手に掴めるものなど何一つなく、目的を達した今となっても後戻りも許されず。

ならば、せめて。

この殺す力を、殺すためだけに存分に振るうとしよう。



――そうして。
森の向こうへ消えんとする化け物の背を追い越して、私は口の端を持ち上げる。
喜びによく似ていて全く異なる表情を、形作る。
549トラワレビト ◆JvezCBil8U :2009/12/14(月) 02:10:27 ID:P4hPMYBJ
「バケモノ。お前、子供を殺したな?」

「ロリ?」

あどけない童女の顔の下には、正視に耐えぬおぞましい妖の面。
滅。
滅。
滅。
肉の一片たりとも残さず消し飛ばしてやろう。

「亮子ちゃんのコト? ロリッ☆ 
 せっかく妲己姉様に教わったとっておきの方法で励ましてあげたのに、ヒトって簡単に壊れちゃう☆」

妖怪の姉……、妲己、だと?
妲己の名を冠する妖怪に該当するのは、かの三国伝来白面金毛しかありえまい。

「――白面の者の手下か。よもやと思っていたが、貴様の力。偽物ではあるまい。
 まさかかの白面すらをも遊戯盤に招くとは、“神”とは何者だ?」

……潮に、伝えねばなるまいな。
そんな冷静な思考が一瞬通りすがったが、それだけだ。
私の中の地獄の業火が、先のバケモノの言により激しく燃える。

やらねばならぬ事は、実に容易い。

私はごとりと荷を落とし、その中身を紐解いていく。
顕れ出るは、一体の石像。
これこそ私をここに案内した宿縁の持ち主。
間抜けな顔をしたカバの置物のように見えるそれはしかし、断じてただの彫刻などではない。

私の眼にはちゃんと、その真の姿が映っている。
そう、これは――、

「す……、スープーちゃん!」

甲高く耳障りなバケモノの声が、私の心を細波だてる。
石化した霊獣は何一つ言う事もなく。ただ、虚空を見つめていた。
その首には参加者と同じく首輪がしっかと嵌まっている。

トテトテと歩み寄ってくるバケモノが、笑顔を見せた。
なんと人好きのする無邪気な笑顔だろう。
その皮一枚の向こうにあるものを知れば、実に――したくなる。

「ありがとっ☆ スープ―ちゃんを連れてきてくれて、喜媚嬉しいのっ☆
 傷のおじさんに感謝しっ☆」

「そうかそうかァ、嬉しいかァ」

ぼき。
いい音だなァ。

「…………。え」
550トラワレビト ◆JvezCBil8U :2009/12/14(月) 02:12:36 ID:P4hPMYBJ
実に、滅茶苦茶に壊したくなる。
そう、丁度今しがた、石像の右腕を砕いて割ってやったように。

「く、く、くく」

バケモノの瞳が見開かれ――、くしゃくしゃに顔が歪んだ。
快なり。
実に快なり。

「く、くくくくくははははは! あっはははははははははは!
 どうだバケモノぉぉっ! 貴様の知己を砕かれる気分はぁっ!」

「や、やだぁぁぁあああぁぁぁぁぁああぁぁぁっ!
 スープーちゃん、スープ―ちゃん! 復活の玉もなくしちゃってる、やだぁ……っ!
 死んじゃやだ、やだよぅ……!」

へたり込み、こちらに手を伸ばす化け物。
が、ぐりぐりと短刀を石像に押し付けてやれば動きは止まる。
霊獣と言えどこのバケモノの同類であるなら、遠慮の必要はあるまい。

「おっと。動くなよォ?
 この霊獣を返して欲しくば、貴様のその羽衣を手渡せ。
 それを失えば貴様は無力なのだろう?
 ああ、汚らわしいバケモノの姿を曝しても無駄だ。私には見えているからなァ」

「う……」

伸ばしかけた腕がだらりと力なく下がった。それでいい。
さあ、どう痛めつけよう。
亮子というらしいあの子どもの苦しみの万倍を与える為に、何が出来るだろう。
思考を移行させようとしたその時に、幽かな呟きが耳に届いた、

「……たいこーぼーと同じ手にはのらない……。
 す、スープ―ちゃんは喜媚の手で……、喜媚の力で取り返し……っ!」

きっ、とバケモノが目を見開き、歯を食い縛った。
凄まじい圧が迸り、私ですら感嘆するほどの仙術の気配が場に満ちる。

轟、と一陣の旋が吹きつけ、私を刻み尽くさんと。

「風さんになーりっ☆」

……で、それがどうしたァ?

「天地万物の理をもちて微塵と成す。十五雷正法――四爆」

禁。


悲鳴が爆圧に掻き消される音が、子守唄のように耳に心地よい。
ごろごろと泥と血に塗れながら転がるバケモノは、あたかも手鞠のようだ。
551トラワレビト ◆JvezCBil8U :2009/12/14(月) 02:14:43 ID:P4hPMYBJ
「な、なんで……っ!? 風さんになった喜媚に痛いモノは当たらないはずなのにっ!」

のろのろと面を上げ信じられないという目でこちらを見るバケモノに、私は現実を突きつける。
新雪に足跡をつけるような楽しさが溢れてくる。

「驕るなよバケモノ。いかに姿形を変えようが、私のこの浄眼は貴様の本質を常に捉える。
 この世が貴様の思う通りに回ってるとでも思ったかァ? 
 コレを取り返せるとでも思ったか? 逃げられるとでも思ったかッ!
 子供を殺した貴様を逃がすものかよォォ」

かたかたとバケモノは、自らを掻き抱いて震えている。
よほど変化の術に自信があったのだろう。
そして、罪の意識もなかったのだろう。
全ては遊びの範疇だったのだろう。

ならば、遊びは遊びとして、私はそれに付き合ってやろう。
子供を殺す事すら遊びなら、貴様にもその遊びの意味を教え込んでやろう。

ではどう殺そう。どう躙ろう。
どう痛めよう。どう嬲ろう。

手足をもごうか?
首を撥ねようか?
臓符を抉ろうか?
脳を掻き出そうか?

さあ、さあ、さあさあさあさあ、さあ!

隠れん坊はこれでお仕舞い。鬼ごっこの始まりだ。

……ただし。
狩られるのは鬼の方だ。狩るのは人間の方だ。
逃げて逃げて逃げ惑え。

捕まえたら何して遊ぼうか。

あの殺してなお憎い憎い紅煉のように、あんまりあっさりと死んでくれるなよ?
せいぜい足掻け、藻掻け、悲鳴を挙げて痛みにのたうて。

――貴様の始めた酒池肉林は、甘美なる狂気の宴はまだ続く、まだ居着く。
終わらない。終わらせない。

いつまでもいつまでも、心地良い怨嗟の声に身を任そう。

「たすけて」

貴様がそれを言えた義理とでも思うかァ?
聞く訳がなかろう。


「……スープーちゃんを、たすけて」
552トラワレビト ◆JvezCBil8U :2009/12/14(月) 02:16:44 ID:P4hPMYBJ
喜媚は、どうなってもいいから。
スープーちゃんだけは、たすけて。

なみだでぐちょぐちょになったかお。

ごっそりとなかみがなくなって、がらすびんのようになったこころに。

めり、と、きしむおとがした。
ひびがはしる。


こどもそのままのこころのようかいを、それでもころすというのだろうか。

こどもそのままのこころのようかいをころして、れいしゃとはいふぉんのところへいけるのだろうか。


【F-3/森/1日目 昼】

【ひょう@うしおととら】
[状態]:健康、動揺
[服装]:
[装備]:短刀@ベルセルク、手製の符×30
[道具]:支給品一式(メモを大分消費)、ガッツの甲冑@ベルセルク、パニッシャー(機関銃:90% ロケットランチャー2/2)@トライガン・マキシマム、
    四不象(石化・右腕破損)@封神演義、手製の遁甲盤
[思考]
基本:やりどころのない憎悪が燻る一方、この世に執着できるほどの気力もない。が、潮と白面の事は気がかり。
0:殺す。/見逃す。
1:符術師として、人に仇なす化け物を殺す。
2:遁甲盤を用いて蒼月潮を探す。場合によっては保護、協力。白面の存在を伝えたい。
3:子供を襲うなら、人間であっても容赦はしない。
4:酒が欲しい。
[備考]
※ガッツの甲冑@ベルセルクは現在鞄と短刀がついたベルトのみ装備。甲冑部分はデイバックの中です。
※時逆に出会い、紅煉を知った直後からの参戦です。
※妲己を白面の者だと考えています。
553トラワレビト ◆JvezCBil8U :2009/12/14(月) 02:19:04 ID:P4hPMYBJ
【胡喜媚@封神演義】
[状態]:疲労(中)、全身に打撲と火傷、ひょうへの恐怖
[服装]:原作終盤の水色のケープ
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:支給品一式 、エタノールの入った一斗缶×2、理緒の死体
[思考]
基本方針:???
0:スープーちゃん……。
1:スープ―ちゃんを取り返しっ☆
2:妲己姉様、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
3:復活の玉を探して理緒ちゃんと亮子ちゃんを復活しっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化は可能ですが、時間制限などが加えられている可能性があります。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※第一回放送をまったく聞いていませんでした。
※原型の力が制限されているようです


【パック@ベルセルク】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式 不明支給品×2
[思考]
基本:生き残る。
0:数百メートル先のひょう達に追い付いて、少女(喜媚)からガッツの居場所を聞きたい。
1:ひょうについて行く。
2:ひょうが無茶をしないか気がかり。
[備考]
※浄眼や霊感に関係なくパックが見えるかどうかは、後の書き手さんにお任せします。
※参戦時期は少なくともガッツと知り合った後、ある程度事情を察している時です。
※デイパックの大きさはパックに合わせてあります。中身は不明。


【四不象(石化)@封神演義】
太公望の霊獣である四不象が、趙公明の石化ガスによって石化させられた姿。
石化を解除するためには専用の聖水が必要。解除に備えているのか、首輪も装着済み。
本来の姿はカバのような四足獣で、人を乗せて空を飛ぶこともできる。
また、変身して宝貝エネルギーを食らうという特殊能力も持つが、この時点ではまだそこまで成長していない。
当然のことながら復活の玉は取り外されている。
554創る名無しに見る名無し:2009/12/14(月) 08:47:30 ID:wxzstTpC
590 名前: ◆JvezCBil8U 投稿日: 2009/12/14(月) 02:25:40 ID:HSFlsEp20
本文そのものは投下し終えているのですが、終了宣言で引っかかったのでこちらに。

とりあえず、投下終了です。

……で、状態表で一つミスを。
前作の読み込みが足りず、理緒の死体を喜媚が持ったままだと勘違いしていたので、そこを訂正するのを忘れていました。
今気付いたのですが、本スレ>>548の冒頭でも転がっている死体は4つとすべきですね……。
555創る名無しに見る名無し:2009/12/14(月) 17:35:59 ID:0waka4/5
投下乙
スープーカワイソス
556創る名無しに見る名無し:2009/12/14(月) 20:55:16 ID:qNGTWiC2

可哀想なんだけど、ちょっとだけスカッとしちまったぜ
557創る名無しに見る名無し:2009/12/14(月) 21:18:25 ID:iuz1MCCK
投下乙
復讐完遂したのにひょうさん自身は生ける屍状態で全く救われてないのが何とも

妖怪キラーに特化してるからか妖怪仙人にもつぇーなぁ
558創る名無しに見る名無し:2009/12/14(月) 22:48:10 ID:Uj6lra2e
投下乙

確かに救われないな。憎しみの残滓だけが残ったみたいで化け物と変わらんぞ
喜媚は自業自得だがスープーは巻き添えだwww
そしてここで切るのか。ひょうはどうする?
559創る名無しに見る名無し:2009/12/15(火) 01:32:18 ID:0qYc94tf
新スレ立てて来た
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1260807976/

あと独断だが制限の
>※詳細は現在議論中です
はいい加減要らんと思ったので削除しておいた
560創る名無しに見る名無し:2009/12/15(火) 02:15:40 ID:bzPUEieX
乙です
561創る名無しに見る名無し
>>559
スレ立て乙です

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 お  届  オ   'l                          . |  そ
 い  .く  .レ   .'|     ヽ,,.;, ...ii;;..,,.ヽ|ヽ|∨ノl∧ ,, ,,,/;     |  .れ
 て  .と  の    .|   ;;; ;,.,. ヾヾ||:::i;;ヽiyリlll;;ii.;ヽli;,,/;;/ハ /;,   .|  な
 お  こ  剣    ヽ_,,ヽlllゞ"l;,,,ll〆ヾl;lll"::: ii;i;;i::/ハ:llハ;ii;;/ハ    .|  ら
 き  ろ  が   _ミミヽllミ"';;;''lll i;;,ミ》lll l l>;;ゝl;,,ii,,ll;iii.ヽl/;;;;,/l /l/\  _
 て  に     .ヽーヽllミミミミii;;; i;;;巛l lヽ∨lllllll/ハll;iii;ハ:ii; ヾl/ii;i|||li  //
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         」ミミミ巛ミiii;;;;::,::    //i////;::;::i/iiiii:ii:::::lllll;;;iii::ヽ"'ミ彡
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