ラノロワ・オルタレイション part6

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1創る名無しに見る名無し
このスレは、ライトノベル作品を題材にバトルロワイアルの物語をリレー形式で進めてゆく、
「ラノロワ・オルタレイション」という企画の為のスレです。
※内容に流血や死亡を含みますので、それを予め警告しておきます。


前スレ
ラノロワ・オルタレイション part5
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1249912869/l50

ラノロワ・オルタレイション@wiki (まとめ)
http://www24.atwiki.jp/ln_alter2/

ラノロワ・オルタレイションしたらば掲示板 (避難所)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/10390/

予約用のスレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10390/1234868971/
※予約のルールに関してはこのスレの>>1を参照のこと
2創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:24:01 ID:X2e3miWP

 【参加作品/キャラクター】

 4/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
    ○キョン/○涼宮ハルヒ/○朝倉涼子/●朝比奈みくる/○古泉一樹/●長門有希
 5/6【とある魔術の禁書目録】
    ○上条当麻/○インデックス/○白井黒子/○御坂美琴/○ステイル=マグヌス/●土御門元春
 5/6【フルメタル・パニック!】
    ○千鳥かなめ/○相良宗介/○ガウルン/○クルツ・ウェーバー/○テレサ・テスタロッサ/●メリッサ・マオ
 4/5【イリヤの空、UFOの夏】
    ○浅羽直之/○伊里野加奈/●榎本/○水前寺邦博/○須藤晶穂
 4/5【空の境界】
    ○両儀式/●黒桐幹也/○浅上藤乃/○黒桐鮮花/○白純里緒
 1/5【甲賀忍法帖】
    ●甲賀弦之介/●朧/●薬師寺天膳/●筑摩小四郎/○如月左衛門
 4/5【灼眼のシャナ】
    ○坂井悠二/○シャナ/●吉田一美/○ヴィルヘルミナ・カルメル/○フリアグネ
 3/5【とらドラ!】
    ●高須竜児/○逢坂大河/○櫛枝実乃梨/○川嶋亜美/●北村祐作
 2/5【バカとテストと召喚獣】
    ●吉井明久/○姫路瑞希/○島田美波/●木下秀吉/●土屋康太
 4/4【キノの旅 -the Beautiful World-】
    ○キノ/○シズ/○師匠/○ティー
 4/4【戯言シリーズ】
    ○いーちゃん/○玖渚友/○零崎人識/○紫木一姫
 3/4【リリアとトレイズ】
    ○リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ/○トレイズ/○トラヴァス/●アリソン・ウィッティングトン・シュルツ

 [43/60人]

 ※地図
 http://www24.atwiki.jp/ln_alter2/?plugin=ref&serial=2
3創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:24:44 ID:X2e3miWP

 【バトルロワイアルのルール】

 1.とある場所に参加者60名を放り込み、世界の終わりまでに生き残る一人を決める。

 2.状況は午前0時より始まり、72時間(3日)後に終了。
   開始より2時間経つ度に、6x6に区切られたエリアの左上から時計回り順にエリアが消失してゆく。
   全エリアが消失するまでに最後の一人が決まっていなければゲームオーバーとして参加者は全滅する。

 3.生き残りの最中。6時間毎に放送が流され、そこで直前で脱落した人物の名前が読み上げられる。

 4.参加者にはそれぞれ支給品が与えられる。内容は以下の通り。
   【デイパック】
   容量無限の黒い鞄。
   【基本支給品一式】
   地図、名簿(※)、筆記用具、メモ帳、方位磁石、腕時計、懐中電灯、お風呂歯磨きセット、タオル数枚
   応急手当キット、成人男子1日分の食料、500mlのペットボトルの水4本。
   (※名簿には60人中、50名の名前しか記されていません)
   【武器】(内容が明らかになるまでは「不明支給品」)
   一つの鞄につき、1つから3つまでの中で何か武器になるもの(?)が入っている。

 ※以下の10人の名前は名簿に記されていません。

  【北村祐作@とらドラ!】【如月左衛門@甲賀忍法帖】【白純里緒@空の境界】【フリアグネ@灼眼のシャナ】
  【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック!】【零崎人識@戯言シリーズ】【紫木一姫@戯言シリーズ】
  【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】【島田美波@バカとテストと召喚獣】【土屋康太@バカとテストと召喚獣】


 ※バトルロワイアルのルールは本編中の描写により追加、変更されたりする場合もある。
   また上に記されてない細かい事柄やルールの解釈は書く方の裁量に委ねられる。
4創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:26:33 ID:X2e3miWP

 【状態表テンプレ】
 状態が正しく伝達されるために、作品の最後に登場したキャラクターの状態表を付け加えてください。

 【(エリア名)/(具体的な場所名)/(日数)-(時間帯名)】
 【(キャラクター名)@(登場元となる作品名)】
 [状態]:(肉体的、精神的なキャラクターの状態)
 [装備]:(キャラクターが携帯している物の名前)
 [道具]:(キャラクターがデイパックの中に仕舞っている物の名前)
 [思考・状況]
  基本:(基本的な方針、または最終的な目的)
  1:(現在、優先したいと思っている方針/目的)
  2:(1よりも優先順位の低い方針/目的)
  3:(2よりも優先順位の低い方針/目的)

 [備考]
  ※(上記のテンプレには当てはまらない事柄)

 方針/行動の数は不定です。1つでも10まであっても構いません。
 備考欄は書くことがなければ省略してください。
 時間帯名は、以下のものを参照してそこに当てはめてください。

  [00:00-01:59 >深夜] [02:00-03:59 >黎明] [04:00-05:59 >早朝]
  [06:00-07:59 >朝]   [08:00-09:59 >午前] [10:00-11:59 >昼]
  [12:00-13:59 >日中] [14:00-15:59 >午後] [16:00-17:59 >夕方]
  [18:00-19:59 >夜]   [20:00-21:59 >夜中] [22:00-23:59 >真夜中]
5 ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:27:28 ID:X2e3miWP
では、前スレに投下した前編の続き、投下します。
6創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:28:07 ID:vyKwovA3
7創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:28:29 ID:cxvJHhDC
 
8『物語』の欠片集めて(後編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:28:57 ID:X2e3miWP

「――それで、これからのことでありますが」

 各人が手元のカップラーメンを食べ切って、すっかりスープも冷めた頃、一通りの情報交換は終了した。
 そこで得られ共有された情報は、しかし、大して芳しいものではない。
 もちろん、他の参加者の動向や人物像は、この残酷な椅子取りゲームの中で『長生きする』役には立つ。
 全く違う常識に拠って立つ他の『物語』の話には、興味をそそられずにはいられない。
 だが、椅子取りゲームそのものを引っくり返そうという時には、大して意味のないものばかりだ。
 もちろん、皆それが困難な道であることは理解している。まだまだ手間がかかるだろうとも思っている。
 誰もそう簡単に事が進むとは思ってはいない。ゆえに、まずはインデックスが口を開く。

「既に日は昇っちゃったけど、明るいうちに一度しっかり天文台を調べておきたいんだよ。それに会場の『端』もね」

 以前ヴィルヘルミナとも語り合った、夜空の観察・確認という方向からのアプローチ。
 その糸口から『この会場そのもの』を調べようと思ったら、天文台にある設備については予め習熟しておく必要がある。
 むしろ日の出ているうちにこそ、先回りして調べておく必要があるだろう。
 また、御坂美琴によって「簡単には破れない」ことが既に判明している『会場の端』についても、調べておく価値はある。
 美琴とは異なる専門知識を持つ者の目で、一度確認しておく価値はある。
 そもそもインデックスたちがこの辺りまで来たのは、それらの目的あってのこと。
 多少のドタバタに後回しにされてはいたが、決して忘れていたわけではないのだ。

「ただ、あんまり機械とかについてはよく分からないかも。誰かそういうのに強い人がついてきてくれると嬉しいんだよ」
「では、わたしが行きましょう。わたしも一度、その『壁』を確認しておきたいですしね」

 助けを求めるインデックスの声に手を挙げたのは、テレサ・テスタロッサだった。
 もちろん天体観察は彼女の専門ではないが、しかし、彼女は元の『物語』では世界最高レベルの天才技術者だ。
 機械を調査し操作することに関して、彼女ほどの適材はいないだろう。『壁』についても、新たな見解を見出せるかもしれない。
 誰もが無言で頷いて、その意思に賛同する。


「逢坂さんが今すぐ動けない以上、このまま全員でゾロゾロと天文台に行くわけにもいかないけど……
 そのこと抜きにしても、この『神社』ってウチらの拠点に丁度いいんじゃないかな?」

 地図を眺めつつ、おもむろにそう言ったのは島田美波だ。
 彼女は試召戦争で敵味方の位置関係を考え部隊を動かしていた経験から、この神社は有用な拠点だと直感したのだった。

「ほら、ここまで登ってこれる道はほぼ1本だし、用事もなしに誰かが迷い込むような場所じゃないし。
 位置的にもかなり守りやすい、かなり安全な場所だと思うのよねー」
「確かにそうね。いまさら山から下りてくる人もないだろうし、それに、3日目までしっかり残る場所、ってのも大きいか……」

 部屋の片隅で寝息を立てる逢坂大河を眺めながら、御坂美琴も同意する。
 他ならぬ山の上から降りてきた美琴である。天文台からここまで一本道、これより上に留まっている者が居るとも考えにくい。
 晶穂たちが使った、川の北岸を延々と遡って神社の裏手に至るルートも、いまさら辿る者もいないだろう。
 テッサとヴィルヘルミナの2人も、それぞれの観点から判断を支持する。

「そうですね……長くかかるようなら、交代で休憩も取れるようにした方がいいでしょう。
 全員がここに留まる必要はありませんが、『帰るべき基地』はあれば嬉しいですね」
「ここで逢坂大河に義手をつけようと思ったら、腰を据えてかかる必要があるのであります。
 自分はこう見えても工作や器械にはそれなりに詳しく、各種の自在法も併用すれば万全の処置ができましょう。
 が……流石に時間はかかってしまうのであります。移動の片手間に行うのは無理なのであります」

 ある意味、このグループの最大の強みは「人数」である。生存者の2割弱を占める8人、という人数。
 これだけ居れば、『留守番』に人手を割くことも可能だ。探索・捜索に当たる者とは別に、あえて動かない者も用意できる。
 交代で休憩することもできるし、伝言や持ち物を預かっておくようなこともできるだろう。
 全員がせわしなく動き回る必要はどこにもないのだ。
9創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:29:32 ID:vyKwovA3
10『物語』の欠片集めて(後編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:30:18 ID:X2e3miWP

「……そういうことであれば、早急に物資の調達をしておく必要があるな。
 カップラーメンも残り少ないし、缶詰だけというのも味気なかろう。
 せっかくそこに流しがあることだし、材料さえあれば簡単な料理くらい作れるはずだ。
 寝泊りすることも考えるなら、毛布やら何やらも欲しいところだ。ちょっと何人かで街に下りて取ってくるか。
 なに、そう遠くまで行かなくても、そこら辺で何か見つかるだろう。手頃な民家に侵入して頂戴してみてもいい」

 そう言って腰を上げたのは、水前寺邦博。
 ここにいるメンバーで唯一の男性である彼は、また、この中で唯一バギーを運転することができる人物でもある。
 もちろん、この不思議なデイパックを使えば大量の荷物を軽々と運ぶことができるのだが、しかし車があるに越したことはない。
 足さえあれば、いざ何かあった時に逃げ出すのも容易だ。

「なら、私も付き合うわ」
「短髪が?」
「ヴィルヘルミナはそこの逢坂さんの治療があるから、今は動けないでしょ。
 さっきは零崎相手にカッコ悪いとこ見せちゃったけど、ちょっとした護衛くらいにはなれるんじゃないかな」

 手の内に小さな稲光を走らせながら、御坂美琴は自信ありげに微笑む。
 なるほど、今この場で一番強いのがヴィルヘルミナだとしても、2番手につけるのはおそらく美琴。
 誰も居ないであろう天文台に向かう組は護衛抜きでも大丈夫かもしれないが、街に出るならどちらかがついて行くべきだ。

 そして――美琴としても、街に下りたい理由というのはある。
 『学園都市』における彼女の異名は、『超電磁砲(レールガン)』。
 そのあだ名は、『超能力(レベル5)』にも到達する最強の『電撃使い(エレクトロマスター)』が用いる最強の技の名でもある。
 電気を操る力は、磁力の操作にも繋がる。磁力を操れば、金属片も動かせる。
 リニアモーターカーの原理を応用し、超強力な磁場で金属弾を加速して射出する、御坂美琴の超大技である。

 ただし……この技。
 いささか強すぎて、著しく使い勝手が悪い。手加減ができない。
 美琴としては、無駄な大量殺戮などもってのほかなのだ。
 戦いに『超電磁砲』を使うにしても、その余波で相手を弾き飛ばすとか、相手の足場だけを正確に打ち抜くとか。
 とにかく、御坂美琴の流儀を崩さず戦闘に応用するためには、正確無比なコントロールが必須なのだ。
 そしてそのため、彼女はこの能力の使用においては規格の整った『弾丸』を必要とする。
 原理から言えばどんな金属片でも弾となるはずだが、毎回違う弾を使っていては繊細な制御はおぼつかない。

 何の変哲もない、小さなゲームセンター用のコイン。
 それが、御坂美琴が普段愛用している『弾丸』であり、また、今ここで手に入れておきたい『武器』でもある。
 ガウルンや零崎人識に打ち砕かれたプライドを立て直すのに、是非とも欲しい品物なのだ。
 物資調達のために街へ下りるというのなら、護衛ついでに探しておきたいところである。

「もちろん、軽く探して見つからないようなら、無理せず諦めるけどね。直接放電するだけでも十分なんだし」
「もし、調達の途中で知り合いや信頼できそうな人物を見かけたら、同行を求めることになるのだろうが……
 今回はひとまず、物資の調達が優先だ。本格的な調査は、それらが済んでから、だな」


「ということは、当面は3組に分かれて行動するということでありますな。
 天文台の下調べ、及び『壁』の調査班。
 神社での留守番、及び逢坂大河の治療班。
 当面必要な物資を調達に行く班。
 天文台以外の施設の探検や人探しは、それらが一段落してから改めて、ということでありますな」
「要帰還」
「なるほど、刻限を定めておくべきでありましょう。
 そうでありますな……きりのいい所で、正午までということで。
 天文台方面の調査班も、物資調達班も、成果がなくとも次の放送までには戻ってきて欲しいのであります。
 無論、現場の判断で柔軟な対応を要することもあるでありましょうが……せめて、一報欲しいのであります」
11創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:30:40 ID:wzO2uKTD
 
12創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:31:24 ID:vyKwovA3
13創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:31:30 ID:iaBhcoxI
14創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:31:35 ID:cxvJHhDC
  
15『物語』の欠片集めて(後編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:31:58 ID:X2e3miWP

   ◇


 ――太陽はすっかり空へと昇り、山は朝の強い日差しに照らされてキラキラと輝く。
 振り向けば眼下には、お城を中心として遠く広く広がる街並みの姿。
 振り仰げば――視線は山頂まで抜けることはなく、遠く世界を黒く区切る壁が見える。

 そんな、登山と呼ぶにはラク過ぎる、ハイキングと呼ぶには僅かに辛い山道を、2人の少女が歩いていた。
 天文台の探索班。禁書目録(インデックス)と、テレサ・テスタロッサの2人だった。
 2人はのんびりと並んで歩きながら、語るともなく互いの考えを語っていた。

「零崎人識、島田美波、フリアグネ、紫木一姫、北村祐作、メリッサ・マオ……。
 うーん。伏せられてた10人のうち6人の名前は分かったけど、やっぱり法則性とかは無い感じなんだよ」
「50人分の名簿と同様、日本人が多いというくらいですよね。
 ……メリッサのように、『日本人以外』が残る4人に含まれている可能性はありますが」

 マオの名を口にした瞬間、テッサの表情に僅かな憂いと怒りの色がよぎる。
 強い信頼を置く部下であり、また、公私の垣根を越えた親友であった彼女。
 大酒飲みでヘビースモーカーで、そのせいで大ゲンカをしたこともあったけど、憎めない存在だった彼女。
 そんな彼女が同じ舞台にいたということも、たった6時間も持たずに殺されたということも、共に未だ信じきれない。
 信じきれないが――しかし一方では、あの『人類最悪』が嘘をつく理由が思い当たらない。

 部下を失うのはこれが初めてではない。
 過去の作戦や事件でもそういうことはあったし、メリダ島陥落の際にはとてつもない犠牲を強いられた。
 皆の前で無様に泣き崩れたりしなかったのは、そういった辛い経験に拠るところが大きい。
 しかし踏み止まったとはいえ、この喪失感は何度経験しても慣れるものではない。慣れたいとも思わない。
 ゆえに、テレサ・テスタロッサは誓う。心の底から誓う。

 メリッサ・マオの、仇を取ると。

 これは復讐だ。名誉も大義も何も無い、ただの復讐だ。
 アマルガムによってメリダ島が落とされた時に抱いたものと、同質の怒り。それが熱く静かにテッサを突き動かしている。
 あの時と違って、彼女の手元に〈トゥアハー・デ・ダナン〉はない。信頼できる部下たちもいない。
 あるのはやや持て余し気味の大型拳銃が一挺。そして、出会ったばかりの、無力な一般人さえ含む7人の仲間たちだけだ。
 それでも、彼女には諦めるつもりは毛頭なかった。

 そして――でも、だからこそこうして、天文台と『壁』の調査をするべく、慣れない山歩きに志願したのだ。
 テッサの復讐の対象は、単にメリッサの命を直接奪ったどこかの誰かに留まらない。
 もちろん、その直接の殺害者も、機会さえあればそれ相応の報いを与えてやるが……
 メリッサが死なねばならない状況を作った、その首謀者たちも。
 『人類最悪』。いや、その『人類最悪』すらも「スピーカー代わり」でしかないのなら、「その背後にいるはずの者」。
 今は全体像すら掴めない、アマルガム以上に捉えどころのない、この催しの元凶――。
 そいつらもまた、、報いを受けるべき存在だ。
 この怒りを、ぶつけるべき対象だ。
 せめて一矢報いてやる。そのためにこそ。

「僅か6時間のうちに、早くも10人もの脱落。そう時間は無いのかもしれません。
 あるかどうかも分からぬこの『箱庭』から出る手段、その向こう側にいる連中を『ブン殴る』手段。
 早々に見つけなければなりませんね」

 あえて下品スレスレの言い回しで、テッサは静かに微笑んだ。
16創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:32:40 ID:wzO2uKTD
 
17創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:32:44 ID:vyKwovA3
18『物語』の欠片集めて(後編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:33:02 ID:X2e3miWP

【C-1/道路上/一日目・朝】

【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣、
     不明支給品0〜2個、缶詰多数@現地調達
[思考・状況]
1:天文台の下見と、地図の「端」「なくなったエリア」の確認
2:できれば、正午頃までにはまた神社に帰る

【テレサ・テスタロッサ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:S&W M500 残弾数5/5
[道具]:予備弾15、デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
1:天文台の下見と、地図の「端」「なくなったエリア」の確認。
2:できれば、正午頃までにはまた神社に帰る。
3:メリッサ・マオの仇は討つ。直接の殺害者と主催者(?)、その双方にそれ相応の報いを受けさせる。




   ◇
19『物語』の欠片集めて(後編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:34:21 ID:X2e3miWP

 神社で留守番しながら大河の回復を待つつもりだった須藤晶穂は、しかし唐突に首根っこを掴まれた。
 見上げて確認するまでもない、新聞部の部長・水前寺邦博である。
 そのまま、訳も分からぬまま引っ張られ連行され、強引にバギーの助手席に放り込まれた。
 御坂美琴は苦笑しながらも後ろの荷台の方に飛び乗って、バギーの座席を囲むパイプをしっかりと掴む。

「あんまり速度出さないでね。コッチも振り落とされたりしたらたまらないから」
「了解だ。しっかり捕まっていたまえ。よし、では出発進行っ!」
「ちょっ、部長っ! わたしは残って、わっ、きゃあっ!」

 晶穂の悲鳴もなんのその、そのままバギーは神社の前から急発進。街へと下りる坂道を駆け下りる。
 辺りはすっかり明るくなって、こんな状況でもなければ絶好のドライブ日和だ。吹き抜ける風が心地よい。
 目的地はすぐそばに広がる市街地。あまり遠くまで行く予定はなし。
 年齢の近い中学生トリオによる物資調達、ちょっとしたお使い気分である。

「……まったく、もう。人遣い荒いんだから。人手が欲しいのは分かりますけど、もーちょっと頼み方ってモンが、」
「それもあるのだがな」

 頬を膨らませる晶穂に、水前寺はしかし、目を合わせない。
 いや運転中だから前を見ているのは当たり前なのだが、彼には珍しく、少しだけ躊躇の色を見せて。

「言いづらいかもしれんが、浅羽特派員との遭遇の話を、もう一度じっくり聞かせて欲しくてな。
 さっきは大雑把に上っ面をなぞるだけで終わってしまったが」
「…………」
「あー、なるほど。その浅羽って奴、確かアンタたち2人の部活仲間だっけ。そりゃ気になるわよね」

 そういうことなら気にせずじっくり話し合いなさい、私は聞かないでおくし、なんなら耳塞いどいてあげるから。
 と、あっけらかんと御坂美琴は笑って、2人から顔を離した。そのまま後部の荷台で遠くの街並みを眺めている。
 単純な好意だけでなく、「護衛」という任務上警戒している、という側面もあるのだろう。
 好奇心剥き出しで追求してこないのは有難かったが、美琴の存在を抜きにしても晶穂の口は重くなってしまう。

 大河の叱責のお陰で、俯いて立ち止まることはやめようと思った。
 まだ何も整理はついていないけれど、もう一度浅羽に会おうと決めた。
 だが改めてあの時のことを語れ、と言われて、はい分かりましたとペラペラ喋れるほど割り切れてはいない。

 それでも、珍しくも真剣な水前寺の横顔には、確かに浅羽に対する心配の色が混じっていて――
 沈黙に促されるまま、晶穂はぽつり、ぽつりと、あの最悪の再会のことを語り始めた。


   ◇
20創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:35:12 ID:vyKwovA3
21『物語』の欠片集めて(後編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:35:42 ID:X2e3miWP

 水前寺邦博は、そして、須藤晶穂のより詳細な報告を聞きながら、悩んでいた。
 ハンドルを握りながら、考えていた。

 伊里野加奈のためにと思い詰め、晶穂にまで銃を向けた愚かな後輩。
 浅羽の暴走の様子は、ちょうど学校で出会った高須竜児そっくりだ。
 救いの手が間に合わず、目の前で細切れの肉片になる姿を見るしかなかった高須竜児そっくりだった。
 普段は飄々とした態度を崩さぬ水前寺も、これには少し、思うものがある。

 水前寺は脳裏に地図を思い浮かべる。
 川に落ちて流されたということは、今浅羽がいるのはそれより下流か。
 二股の分岐のどちら側に向かったのか分からないのが痛い。範囲が絞り込めない。
 それでも、そう遠くに行く前に岸に上がったであろうことは容易に想像がつく。
 いくらビート板や浮きがあったとしても、夜中の着衣水泳は辛すぎる。可能な限り早く岸に上がりたいと思うはずだ。
 川の最初の分岐のどちら側に流されたとしても、橋を越えてまで流されたということはないだろう。
 地図上の升目で言えば、B−3エリアかその近辺。上陸してからも、そう遠くまで歩き回る元気はないはずだ。

 そして――バギーで幹線道路を飛ばし、城の中を突っ切っていけば、すぐにでもその辺りに到達できる。
 身軽になって素早い移動だけに専念すれば、さほど遠い場所でもない。水前寺邦博はそう考える。

 ここで仮に晶穂と美琴の2人を放り出してしまったとしても、きっと彼女たちは大丈夫だろう。
 神社までは歩いてもそう遠くはないし、荷物を運ぶ上でも例の不思議なデイパックがある。
 そして美琴はなんと『超能力者』だ。と言っても水前寺が半年前に研究していたものとは微妙に異質な『電撃使い』だが。
 自己紹介によれば、『学園都市』でも7人しか居ない『超能力者(レベル5)』。よく分からんが字面だけでも強そうだ。
 これならきっと晶穂1人くらい、守りながら帰れるだろう。
 神社に集まった女子たち(そういえば、揃いも揃って女の子ばかりだ。唯一の男だった零崎は逃げ出した)もいい奴らだ。
 大切な部員である晶穂を預けておくのに、これほど頼りになる連中もいない。
 もし晶穂が水前寺の後を追おうとしても、ちゃんと引き止めてくれることだろう。

 そう――水前寺邦博は、たった1人で浅羽を探そうとしているのだ。
 自ら志願した物資調達の仕事を途中で放棄し、正午までに帰る約束すらも放り捨て、単身探索行に出ることを考えている。
 仲間たちを裏切り、騙し、全てを投げ出して浅羽のところに行こうとしている。

 浅羽直之は、水前寺邦博にとっては数少ない理解者だ。
 その意気地のなさや回転のにぶさに苛立たしさを覚えることもあるが、それでも大事な大事な、後輩だ。
 知り合いこそ多い水前寺だが、『友達』と呼べるほどに心許せる相手は、1つ年下の浅羽しかいない。
 もちろんこんなこと、小恥ずかしくて面と向かって言えたものではないけれど。

 だから、思ったのだ――浅羽の目を覚まさせてやるのは、おれの仕事だ、と。

 離れた所から冷静に見れば分かる。浅羽の暴走する先には、破滅しかない。
 あるいは勢いで1人や2人殺してしまうことはありえるかもしれないが、どう逆立ちしたって浅羽の想いは通せっこない。
 浅羽では曲絃師の相手は務まらないし、ヴィルヘルミナのリボンも避けられないし、御坂美琴の電撃にも耐えられない。
 だから、取り返しがつかなくなる前に止めてやらねばならないのだ。

 水前寺邦博は、やる、と決めたらやる男である。
 だから、残された唯一の問題は「いつ実行に移すか」、だけだった。
 まさか走行中のバギーから女の子2人を叩き落すわけにも行かない。
 物資調達の途中で適当な言い訳でもでっち上げて単独行動の余地を作るか。
 それとも、どこかで何も言わず2人を置いていってしまうか。
 あるいは、今は素直に物資調達に付き合って、2人を神社まで送り帰してからまた出直すか。
 
 思案する水前寺を乗せたまま、バギーはやがて木々の間を抜け、家々が立ち並ぶ市街地へと入っていった。

22創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:36:49 ID:vyKwovA3
23創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:36:57 ID:cxvJHhDC
  
24『物語』の欠片集めて(後編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:37:12 ID:X2e3miWP

【C-2/南東・市街地/一日目・朝】

【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーを運転中
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!、シズのバギー@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
1:どこかで須藤晶穂・御坂美琴と別れ、神社の仲間から離れて1人で浅羽直之を探す? たぶん北東の方にいるはず
2:それとも、今は素直に食料・物資の調達に専念しておく?
3:もし途中で探し人(後述)を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。

【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーの助手席
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
1:とりあえず食料・物資の調達。そのついでに誰かと接触できれば情報交換。危険なら逃げる。
2:正午頃までには一旦神社に戻る。
3:もし途中で探し人(後述)を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
4:浅羽にもう一度会いたい。

【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:肋骨数本骨折(ヴィルヘルミナによる治療済み、急速に回復中)、シズのバギーの後部荷台
[装備]:さらし状に巻かれた包帯(治癒力亢進の自在法つき)
[道具]:デイパック、支給品一式 、金属タンク入りの航空機燃料(100%)、ブラジャー
[思考・状況]
1:水前寺邦博と須藤晶穂の護衛。および食料・物資の調達。
2:ついでに、ゲームセンターのコインが入手できれば嬉しい。
3:正午頃までには一旦神社に戻る。
4:もし途中で探し人(後述)を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。

[備考]
 当面の探し人の名は以下の通り。
  涼宮ハルヒ、上条当麻、白井黒子、吉井明久、姫路瑞希、逢坂大河、浅羽直之、伊里野加奈、
  櫛枝実乃梨、川嶋亜美、相良宗介、千鳥かなめ、クルツ・ウェーバー
 ただし、危険人物となっている可能性もあるので接触は慎重に。浅羽のように暴走が判明している者もいる。
 問題が無いようなら保護、あるいは神社に向かうよう誘導する。

[備考]
 神社では他の『物語』との差異を確認することを優先したため、また走行中は現在の浅羽の話に終始したため、
 水前寺と晶穂は、まだ詳しい情報交換をしていません。
 2人の参戦時期に差がある可能性がありますが、もしそうだとしても、まだどちらもそのことに気付いていません。
 ちなみに、晶穂の参戦時期は2巻終了時。水前寺の方は未だ確定していません。
25創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:38:11 ID:vyKwovA3
26『物語』の欠片集めて(後編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:38:15 ID:X2e3miWP

   ◇


 あの咄嗟の瞬間、竜児の名を先に口にしていた自分に気がついた時、少しだけ哀しかった。


   ◇


「……というわけで、皆はそれぞれ、天文台と下の街に出かけているのであります。
 あなたさえ良ければ、これより義手の取り付け作業に入る所存でありますが……」
「そうなんだ……。晶穂も、テッサも……」

 山の上と下、双方のチームが出発してからしばらくして。
 逢坂大河は、静かに目を覚ましていた。
 膝や肘など擦り傷を負っていた場所には、いつの間にかリボンのような、包帯のようなものが巻かれている。
 どうやら、寝ている間に応急手当が成されていたようだ。包帯の巻かれた所がほのかに温かく、心地よい。

 やはり、気付かないうちに疲れていたのだろう。相当気を張っていたのだろう。
 僅かな時間とはいえ少し寝たことで、かなり気分も落ち着いていた。
 ある意味、大河自身にも奇妙に思えるほどの平坦な気分だった。
 あるいはそれは、心ごと押し潰されかねない悲劇を前にして咄嗟に発動した、ある種の心理防衛機構なのかもしれなかった。

 高須竜児と、北村祐作が死んだ。
 大河の知らないところで、誰かに殺された。
 否定できるものならしたかったあの放送は、しかし、夢でも聞き間違いでもないことが確認されてしまった。
 優しくも無愛想で無表情な、目の前のメイド(!)さんが太鼓判を押してしまった。
 ヴィルヘルミナ・カルメルと名乗った彼女は、あくまで淡々とこれまでの経緯を説明する。
 大河たち3人を発見した経緯。
 7人で頭を突き合わせて行った情報交換の大筋。
 そして、天文台に2人、下の街に3人、それぞれ出かけてしまったこと。晶穂もテッサも、それぞれ外に出ていること。
 大河が望むのなら、これからヴィルヘルミナが義手の取り付け作業を行うつもりであること。
 工具も痛み止めの薬もないが、『自在法』という魔法にも似た技術を使えばなんとななりそうであること――
 淡々と、事務的とさえ言える口調で説明してくれた。大河は、その半分くらいを聞き流していた。
 今はただ、その無関心にも近い、踏み込まない態度が有難かった。

 不意に、腹の音が鳴った。
 どうやら悲しい時も辛い時も、生きていれば腹は減るらしい。
 そういえば辺りには、他の7人が朝食代わりに食べたカップラーメンの残り香が漂っている。
 ヴィルヘルミナは大河に食欲の有無を尋ね、未開封のラーメンを手に取ると、お湯を沸かすために流し台の方に立った。
 小さなコンロに、水を満たしたヤカンをかける。
 逢坂大河は、ぼんやりとその後姿を眺めている。
 普段の『手乗りタイガー』を知る者が見たら驚くような大人しさで、ただ、ぼんやりと見ている。

「――ええと、逢坂さん」
27創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:38:43 ID:wzO2uKTD
 
28創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:38:56 ID:OqZO6l3j
29『物語』の欠片集めて(後編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:39:09 ID:X2e3miWP

 不意に、横から声をかけられた。大河はゆっくりと振り返る。
 長い髪をポニーテールにまとめ上げた、どこか共感を覚える、おそらくは同年代の少女だ。
 肩と首元に赤いラインの入った、地味な印象の運動用ジャージに身を包んでいる――
 このジャージは彼女の本来の服ではなく、消火剤で汚れた制服を愚痴った彼女にテッサが差し出したものなのだが、
 目覚めたばかりの大河にはそこまでのことは分からない。
 ともかく、初対面の人物である。
 さて自分はどこに共感を覚えたんだろう、と首を傾げた大河は、そして彼女の胸元の膨らみ(の欠如)に目を留めて、

「……ああ、あんたも苦労してんのね……分かるわ……」
「……なんかものすごく失礼な想像されてる気もするけど、アンタ相手だと怒る気にもなれないわ……」

 溜息をつく大河に、そのポニーテールの少女も溜息で返した。同病相哀れむというやつだった。
 互いにその点にこだわると惨めな会話になりかねないと気付いたのだろう、小さく咳払いすると少女は仕切り直す。

「それはともかく――ウチは、島田美波。大体の話はテッサたちから聞いたわ。よろしくね、逢坂さん」
「大河でいい。逢坂大河よ。よろしく」
「それで……その……」

 簡潔な自己紹介のまま、自然に握手の手を伸ばしかけた大河は、そして不審げに眉をひそめた。
 大河の手を取ろうともせず。島田美波は何か言いづらそうに俯いている。
 沈黙すること数秒。
 やがて意を決したように顔を挙げた美波は、そして、はっきりと言った。

「ウチ、大河に言わなきゃならないことがあるの。大河たちには、伝えなきゃと思って」
「……私、に?」
「ウチは……高須に、高須竜児が死んだその時に、一番近くにいたの」

 朝の日差しがカーテン越しに差し込む、神社の社務所の中。
 小さな沈黙が、その場に下りる。
 ようやく沸騰したヤカンが甲高い音を奏で、ヴィルヘルミナは静かにコンロの火を止めた。

30創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:39:35 ID:vyKwovA3
31創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:39:44 ID:OqZO6l3j
32『物語』の欠片集めて(後編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:40:27 ID:X2e3miWP

【C-2/神社/一日目・朝】

【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:カップラーメン(お湯を注いで3分の待ち時間中。逢坂大河に渡す分)
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(8/20)、缶切り@現地調達
[思考・状況]
0:逢坂大河にもカップラーメンを。まずはお湯を沸かさねば。
1:大河の治療。治療効果のある自在法も駆使し、彼女の右手に義手をつけてやる。
2:拠点となる神社を守りつつ、皆の帰りを待つ。
3:下手な口出しは無用でありましょう。しかし……ここでただじっとしていてもいいものでありましょうか?


【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:全身に細かく傷(ヴィルヘルミナによる治療済み・急速に回復中)、右手欠損(止血処置済み)、少し寝て消耗回復
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、フラッシュグレネード×2@現実、無桐伊織の義手(左右セット)@戯言シリーズ
[思考・状況]
0:……え? 竜児……の?
1:美波の話を聞く?
2:ヴィルヘルミナによる治療を受ける?
[備考]
 一通りの経緯はヴィルヘルミナから聞かされましたが、あまり真剣に聞いていませんでした。聞き逃しがあるかもしれません。
 また、インデックス・御坂美琴・水前寺の顔はまだ見ていません。


【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:大河のデジタルカメラ@とらドラ!、第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ
[道具]:デイパック、支給品一式、文月学園の制服@バカとテストと召喚獣(消火剤で汚れている)
[思考・状況]
1:逢坂大河に、高須竜児の最期を伝えたい。
2: 川嶋亜美、櫛枝実乃梨の2人も探して高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
3:竜児の言葉を信じ、「全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒ」を探す。


【文月学園の制服@バカとテストと召喚獣】
島田美波の初期衣装。
姫路瑞希が着ているものと同じデザインであるはずなのだが、どう見ても胸元が(ry

【第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ】
テレサ・テスタロッサに支給された。
リリアが通うロクシェ首都の第四上級学校で、運動や作業の際に着用される運動用のジャージ。
厳密に言えば「リリアとトレイズ」のスピンオフ作品「メグとセロン」に登場する衣装。「メグとセロン」U巻の表紙を飾る。
(舞台となる学校が同じなので、リリアも日常的に同一デザインのジャージを着ていたはずである)
袖と首回りに入った赤いラインが印象的。男女兼用。

33創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:40:30 ID:vyKwovA3
34 ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:41:18 ID:X2e3miWP
以上、投下終了。支援感謝です。
スレの残り容量や新スレ立てでドタバタして、申し訳ありませんでした。
35創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:58:15 ID:wQ0lo03b
スレ立て&投下乙

人数が増えた結果の情報交換&考察パート。大人数が違和感なく動いてていい感じ
……うん、ていうかネタキャラ一気に死んでこれから荒んだ空気になっていきそう、って予想の後にこれだよ!
しかし、放送直後ということでシリアスの予感を伺わせつつ……? 水前寺! それは死亡フラグだ!
個人的には、これからの大河の反応が気になるところ
36創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 22:00:11 ID:ljTwFDTz
スレ立て&投下乙

うーむ、見事にまとめあげたな。
感服。
無理なく分散させて続きも書きやすそう
37創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 22:36:53 ID:lbohCS5E
スレ立て&投下乙

大人数をよくここまでまとめあげつつ丁寧に仕上げられてて凄いです
水前寺と大河が火種になりそうだがどうなるやら
ロワで大グループが出来るのは波乱の幕開けって言うしw
38創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 22:39:10 ID:q2s3l8S5
スレ建て&投下乙

零崎ちょと待てw ノリ的に間違いは起こる心配はなかったけど美波は九死に一生を得たなぁ
揃い揃ったこの面子。戦力的に心配なのはインデックスとテッサのコンビなんだが他のトリオも
微妙に火種が…

>>all
日を跨いだら、恒例の死亡者AA埋めしますが宜しいか?
39創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 22:48:39 ID:lbohCS5E
あ、死亡者AA埋めがあったか。いいですよ。
40創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 22:51:29 ID:q2s3l8S5
AAは準備してるので、日を跨ぐ前後で全部投下しますが、
AAと前スレの容量的にギリギリかな?
41創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 23:30:13 ID:xDbhDV8F
スレ立て&投下乙

すごい。なにがすごいかって、これだけの内容を二分割程度で済ませちゃったことだよ!
ラノオルタにもいよいよ本格的な『対主催集団』が生まれたなぁ。セオリーでいくと待っているのは鬱展だが、さて。
それと前スレ>>682。これだけの人数が一変に喋ってるのに、どれが誰の台詞かちゃんとわかるってのもすっげぇや……
後続への配慮がまたニクイ。メンバーを分散させて、新しい指針を授けて、続きが格段に書きやすいように思える。

綺麗にまとまってる話って読んでて嫉妬と快感を覚えるわ……改めてGJです!
4238:2009/09/29(火) 00:13:08 ID:fDjn8uXf
前スレ、埋めました。乙
43創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 00:42:52 ID:xpofcYud
乙です。
ところで、実際に配られた名簿って、名前は五十音順に並んでるんですか?
44 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 13:42:23 ID:Le1GIAHy
再びの期限切れとなりましたが、完成しましたので投下します。
45喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 13:46:00 ID:Le1GIAHy
人類最悪、という名を冠した狐面の男。
そんな彼が主催した今回のゲームにていずれ行われると宣言されていた"放送"。
それが遂に始まり、終わった。
名簿にてたった二文字の言葉でその存在を表現された女性、"師匠"は顔を顰める。
理由は当然、放送にある。だがそれは決して"呼ばれた名前"によるものではなかった。

(元の世界が同一ではない。別々の世界。フィクションで言うところの、"異世界"ですか……)

さて、確認しよう。
師匠は金品に関しては激しく人が変わる俗な一面を持つ人間ではあるが、一応現実的である。
否、現実的であるからこそ金品に対し目の色を変えるのである。
つまりは普通の人間。こと戦闘等において鬼の如き強さを発揮する事以外は、彼女は普通の人間なのだ。
なまじ朝倉涼子と互角に闘ったおかげで忘れていた者も多いのではないだろうか。
しかし忘れてはならない。彼女はあくまで人間である。そう、朝倉涼子とは違う、現実的な。

(随分と突飛ですね……)

故に、だ。
彼女は疑問を抱く以前に、納得が出来ないでいた。
しかしながらそれは当然だ。急に異世界がありますよと言われても困るものは困る。
都市国家間で文明の隔たりがあるのは常識であると認知して入るが、それとこれとは話が違うのだ。
"違う国から来た"ならまだしも、"違う世界から来た"とは一体なんだ。理解に苦しむ。混沌に過ぎる。
だが。

(しかし、そうなると……朝倉涼子やあの"眼の少女"の説明が出来ない)

それでは、例えば朝倉涼子の様に人間離れの力を持つ者達の説明が出来ない。
殺すには容易過ぎる人間がいるこの地で明らかに"浮いた存在"の者。
放送のあの言葉を借りるならば、大海の中の淡水魚。またはその逆。
弱肉強食すら生温い、そんな突飛な存在。それらはどう説明すれば良いのか。

(例えあの不可解極まりない狐面の言う事でも、さすがに今回は「そうですか」と流すわけにはいかないようですね)

簡単に信用するわけではない。決定的な証拠などどこにも存在はしないから。
故に今回は"保留"としておく。信じるわけではなく、だが執拗に突っぱねることもしない一応の"保留"だ。

(まあ、本来の問題はそこではないですね……問題は、この後)

別に自分の見知った人物が放送で呼ばれたわけでもないので、本来この放送は元々"ほぼ"意味を成さないものである。
だから、放送へのリアクションとしては、今は朝倉涼子に対してこう告げるだけに留めておこう。

「話があります。警察署についたら覚悟をしておきなさい」

後ろに座している朝倉涼子の体がビクリと跳ねた。


       ◇       ◇       ◇
46創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 13:46:58 ID:dUDMjZT7
47喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 13:47:56 ID:Le1GIAHy
「気に入りませんね。ええ、気に入りません」

バレた。

「私はあの後"一点です"と言いましたが……遺憾です。やはり零点でしたね、間違いなく」

思い切りバレた。

「自分から協定を持ちかけておきながらこれでは……」

全部あの狐面のあの男の所為だ。
まさかこうまで白日の下に晒してくれるとは。
というか、危うく放送の存在を忘れかけていたのが仇だったか。

「何故水面下で勝手な行動を取るのですか?」

警察署、一階ロビー。
現在そこで朝倉涼子は、師匠から"姫路瑞希の処遇"に関する小言を受けている。

きっかけは放送。
そう、師匠は姫路瑞希の名が呼ばれなかったことに疑問を抱いたのだ。
朝倉自身も「しまった」といった具合だったのも手伝い、放送直後にすぐさま感づかれる始末。
しかも"指示に従わなかった"という事実が露骨に浮き彫りになるオマケつきだ。
こうしたイレギュラーが度々重なった事で、師匠の苛立ちはウォー○マン式に増えてしまったらしい。
そんなこんなで結果、このネチネチとした小言に至るわけである。

だが、朝倉にも言い分はある。
朝倉はこの椅子取りゲーム開始時に"師匠と取引をしている"。
内容は既に諸君らの把握通り。早い話が朝倉は"金塊で師匠を購入した"と同義なのだ。
更に乱暴に表現をすれば、金を払っている以上は師匠は朝倉の所有物である。
実際のところ流石にそこまでの結論には至らなくとも、朝倉は師匠との"対等な関係"を望んでいた。
単純な"力"という部門ではそれは実現している。互いに互いを半端に陥れようとすれば、痛い目を見る。
いや、それどころか陥れようとする事すら難しい程に拮抗した力関係なのである。
だからこそ今まで問題なく付き合えたのだが。
48創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 13:48:02 ID:dUDMjZT7

49喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 13:49:29 ID:Le1GIAHy
「師匠」
「何ですか?」
「どうしてあなたにそこまで縛られなくてはいけないの? 私達、対等よね?」
「戦闘に関しては確かにそうでしたね。それは悔しいですが、今は互角であると認めましょう」

その筈なのに、あからさまに師匠が主導権を握ろうとしているのはおかしいのではないのだろうか。
そうだ、確実におかしい。そもそも自分と師匠は同盟を組んでいる立場。どちらかが精神的に抑え付けられるのはおかしい。
つまり今は、戦闘力以外での力関係がおかしいのだ。天秤が傾きすぎているのだ。

「私は遊びでやっているわけじゃないわ。それは確かに、好奇心で動いていた場面もあったけど。
 あったけど、でも、それらは私達二人でこの先人間を殺し切る面倒を解消する為の行動でもあるわ。云わば気遣いよ」
「そんな気遣いなど不要です。それに理由などどうでも良いのです。今私が訊きたいのは、"何故勝手に行動を取るのか"です。
 自分がやりたいことがあるのならばはっきりと言えば良いではないですか。論理で武装し、説き伏せられれば文句は言いません」

それは確かにそうだが。

「けれど、あなたは勝手に金目のものを探しているじゃない? 私に勝手は許さず、自分は自分の赴くままに。
 それって、人間がコミュニティを築き上げる際には非常に非合理的であると私は思うの。
 この同盟が互いを力で押し付ける冷戦のものの様なピリピリしたものであっても……いや、だからこそよ。
 だからこそ、貴方が自由に行動する権利を行使するならその分私も自由に行動する権利を行使出来る。そう思うの」

一方がやりたい放題、というのも面白くない。

「それに人間の俗な言葉を借りるならば、貴方のその"上から目線"も気になるわ。少し不可解なのよね。
 私の力を見た上で慢心しているのか。それとも性分なのか。仲良しこよしを望むわけではないけれど、前者なら大問題ね」

人間が所謂上司に対して怒りを覚える要因は、この様なものなのだろうか。

「"喧嘩するほど仲が良い"という諺があるわ。そして人間には喧嘩している者を止めずに"納得行くまでやらせよう"と言う者もいた。
 ねぇ師匠。私達、まだまだ相互の理解が不十分である気がするの。だから……一度やってみない? "喧嘩"。確かめたい事もあるし」

今の自分を俯瞰すれば、まさに今は不当な行いに対し苛立ちを覚えた人間に似たものであるという結論が出た。
自分自身にバグが溜まって行くかのような漠然とした恐怖。更にこのままでは師匠との関係が終了するかもしれないという危機感。
朝倉はそれら全部を解消する為、一度人間流に"喧嘩"をしてみようかと考えたのである。
いや、むしろ、というより、

「結果……その"上から目線"も、変わるかもしれない」

ちょっと気に入らない部分があるので、それをぶつけてみたかった。


       ◇       ◇       ◇
50創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 13:49:45 ID:dUDMjZT7
 
51喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 13:53:45 ID:Le1GIAHy
「そもそも私はね、現場が手をこまねいている状況で、そうと知らずに労働者を押し付ける"上"が嫌いなの」
「そうですか。私もです」

師匠が蹴り、朝倉が受け止める。

「師匠、今のあなたが"それ"よ。二人で全員を殺しきるなんて面倒にも程があるわ。だからこそ私は"武器"を撒いた。
 温泉での姫路瑞希という少女を、自律行動の可能な武器に仕立て上げたのはその為よ。少しでも早く済んだ方が良いじゃない?」
「それが余計な気遣いといったのです」

朝倉が殴ると、師匠は避ける。

「そこよ、師匠。そうやって現場の行動を全否定。自分は自由に動いている代わりに、私の行動を肯定的に見ないじゃない」
「いいえ。仮にその行動自体を是としましょう。しかしさっきから言っていますが私が気に入らないのは貴方の"勝手な行動"自体です」

ルールは、銃器や異能の使用不可。それのみ。

「これもさっきから言ってるけど、自分だって金目のものを勝手に探してた癖に……」
「私は貴方にその旨を伝えた上で行動しています。あれは"勝手"ではなく申告制です。貴方とは違うんです」

基本は徒手空拳。

「じゃあ私が姫路瑞希を殺さないでおこうと申告したら?」
「断ります」

戦いに必要なのは、腕と脚と口である。

「やっぱり! 私は師匠の行動を咎めるつもりは無いのにそちらは咎め放題というのはフェアではないわよね?」
「咎められるような事をしているつもりは無いのですが。あなたが止めないというのはそういうことでしょう?」

いざ!

「……師匠って、友達少ないでしょ?」
「…………」

朝倉の口撃に対し、師匠の突きが唸る。危うく耳を掠めた。


       ◇       ◇       ◇


で。数十秒後。ロビーは静寂に包まれていた。
決着がついたわけではない。むしろ決着がつかない所為で沈黙が続いているのである。
結局泥沼化か、と師匠はため息をつく。しかし正直予測出来た事態であったので何も言えない。
力の一号技の二号とどこぞの英雄達ではないのだが、やはりまともにぶつかり合っても事態は悪化するばかりなのだ。
何せこの自分と互角という初めての相手である。更に朝倉涼子が人間らしからぬ存在である事も、ぶつかりあった事で改めて確認する。
"あれ"に巻き込まれたものは可哀想だ。
妙な形にひしゃげた椅子。少しではあるが凹んでいる床や柱。なんとまぁ哀れな姿にされたことか。
最初は槍や反射神経等々を見て脅威を感じた。だがそれ以上にあの身に隠されたただの単純な"力"も恐ろしいのだ。
師匠は水族館での奇襲失敗の折、そしてそれから延々と、朝倉涼子が一筋縄ではいかない実力を備えている事を実感させられ続けている。

そして、現在師匠と朝倉は互いに不可視の場所へと身を隠していた。
戦場が警察署の一階ロビーであることは変化無し。問題は位置関係。
師匠が受付の机に、朝倉は巨大な柱の向こうに潜んでいるのだ。

受付の机は安い四脚テーブルではない。大企業の本社にある様なそれらと同じ、受付嬢らの下半身が隠れるような作りとなっている。
対して朝倉が潜む巨大な柱も、見栄えを意識したのか人間がすっぽりと隠れてしまう程に太かった。
そして、互いに停止。自分から動こうという気が毛頭ないのは自分も相手も同じなのだろう、と師匠は容易に悟ることが出来た。
52創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 13:54:01 ID:dUDMjZT7

53喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 13:59:49 ID:Le1GIAHy
最後に見た朝倉の表情から察するに、彼女も自分の攻撃が相変わらず当たらない事に危機感を覚えたに違いない。
当然だ。また全部避けてやった。当たりそうになった攻撃は最小限の力で逸らす事で事無きを得ている。
威力は殺したが結局は顔面を殴られたあの嫌な事件が脳裏を掠めたものの、とりあえずセーフ。
そうなるとこちらとしても警戒無しに突っ込むのは遠慮願いたいし、必然的に距離を離すことになってしまう。
そうして、今に至るわけだ。

銃があれば賭けに出られたかもしれないが、ルール上無理。
律儀に護ってやる必要は無いのかもしれないが、相手も徒手空拳で来た以上は護らねばなるまい。
ああ、結局朝倉の望む"喧嘩"が出来たのは最初の数十秒間だけだった。
残る時間は武器も無いままに好機を待つ為に隠れるだけ。そうせざるを得ない状況。
やはり自分達がぶつかり合うと、こんな非建設的な結果しか待っていないのだ。

『了承しました。ですが私が今……いえ、これからの三日間の間にあなたを裏切って奪い取ろうとするかもしれませんよ?』
『それは大丈夫。私を相手にして"それを簡単に出来るとは自分でも思ってない"でしょ?』
『逆にあなたが逃げないという保証もありませんが』
『"それが簡単に出来ない事も私は知ってる"わ』
『……なるほど。確かにそうです、そうでしょうね』

今更実感する。まさしく、その通りだった。

「参りましたね……」

恐らく、今から自分が不用意にて朝倉を屈服しに行けばとんでもないカウンターを喰らうだろう。
同じく、自分に対して朝倉が向かってくれば返り討ちにするだけだ。無謀な突進などわけは無い。
今は正に"どちらかが動けば負ける"という非常に面倒な状況であると言えよう。どうしてこうなった。
正直に言おう、面倒くさい。少し冷えた頭で考えれば、何故こんな事をしているのだろうか。

互いに手出しが出来なくなって結局距離を取らざるを得なくなるスデゴロ、なんて実に新しい。新しすぎて誰もやらない。
熱くなりすぎて喧嘩を買ってしまったのは良いのだが、互いにこんな展開は望んではいなかった筈だ。
勿論その気になれば一時間も二時間も好機を待つことは出来よう。師匠はそんな人間である。
だがそれは拙い。安全であろう箇所に放置したあのもう一人の少女(注・拾い物。物を曲げる者だけを指す)はどうなる。
このままじっとしていたら今に起き上がって、逃げるかもしくは馬鹿らしく手を拱いている自分達を始末するだろう。
乱入者も現れるかもしれない。もうそうなれば色々な意味で面倒くさい。まだこの警察署も物色していないというのに。
54創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 14:00:05 ID:dUDMjZT7

55喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 14:02:33 ID:Le1GIAHy
大事な事なので二度言おう、どうしてこんな事になってしまったのだろう。何故自分達はこんな馬鹿げた事を始めてしまったのか。
思えば喧嘩するほどの事ではなかったのではないだろうか。朝倉涼子にきちんと説明すれば良いのではなかったのか。
覚めてきた頭で自分の行動を省みれば、正直少しばかり言い過ぎた気までしてくるのが不思議だ。
いや……

(良く考えれば……私も"前提がおかしかった"でしょうか。朝倉涼子は朝倉涼子であって"彼"ではない事を忘れていた気がしますね)

きっと多分、恐らく、もしかしたら言い過ぎた、かもしれない。そんな可能性がある。
何せ相手は見知ったあの"弟子"では無かったのだ。ならば当然彼とは違った形での反発も起きるというものであろう。
今回のこの騒動は、相手が違うというのにいつものテンションを維持しすぎた自分のミスかもしれない。
いつも通りにやりたいならば、もう少し朝倉涼子を自分好みに"調教"してからではないといけなかったのだ。
そもそも相手は弟子でもなんでもないのだから、もう少し反応を窺うべきだったのだろう。

それに、自分も妙に苛立ちが過ぎていた気がする。
いつも通りに事を運んでいる割には、朝倉涼子との連携制度の悪さも相まって些細であった筈の苛立ちが蓄積したのだろう。
奇襲に失敗し、あまつさえ相手を一方的に圧倒するに至らなかった最初の事件から、既に自分はおかしかったかもしれない。
いや、それ以前の問題だ。自分がこんな場所にいる事がそもそも腹立たしいことだったのだ。
ベルトにも今やカノンも、挙句ホルスターすらもなく寂しい。あの当たり前に存在していた重量感が無い事に違和感を覚える。
なるほど。こういう違和感と苛立ちの積み重ねだったのだろうか。
と同時に師匠まさかの反省。反省した結果に"調教"という物騒な言葉が入った辺りは流石と言った具合ではあるが。
転んでもただでは起きない傲慢さが滲み出る妙な反省会だったものの、元の世界の弟子辺りが見たら泣くのではないだろうか。

(とりあえずここは大人である自分が余裕を持って一歩引いてあげるべきですね。今後の為に調教はしっかりと……ええ、覚えましたよ)

もう良い。負けを認めるのではないから、別に悔しくは無いのだ。
少し大人の余裕を見せるだけ。別に悔しくなんか無いんだからね。
これ以上"時間の無駄"としか言いようが無い喧嘩を続けるわけには行かないので、師匠は立ち上がる。
そして柱の向こうにいる相手に対して「もう良いです。やめましょう」と言おうとした。

「……?」

のだが、見れば既に相手は柱の影から姿を現していた。しかも、

「師匠……ちょっと言いすぎたわ。ごめんなさい。体動かして言いたい事好き放題言ったら、なんだかすっきりしちゃった」
「……はあ」
「よく考えたら、確かに師匠が隠し事をしていないのに私だけが隠し事というのもフェアじゃないわよね」
「…………ええ」
「これ以上は時間の無駄だし……その無駄を提案してしまった私のミスについても謝らないといけないしね」
「………………はい」
「ごめんなさい、師匠。これからはもうちょっと器用に立ち回ることにするわ。怒りを買うのも嫌だし。
 これからは互いに冷静に行きましょ。互いに意地を張りすぎるのも弱点だって気もしたしね。うん、得るものはあったわ」
「……………………そうですか」

先に謝ってきた。
なんだろう。ちょっと悔しい。まるで相手のほうが大人の対応をしているようじゃないか。
だが、面倒ごとが消えたのでまあ良い。まあ良いとしよう。
とりあえず今は、警察署の物色に移行する。それだけである。
抱いた悔しさは仕方が無いので一旦置き、そんな事を考える師匠であった。

結局、あの苦労はなんだったのだろう。
56喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 14:04:28 ID:Le1GIAHy
       ◇       ◇       ◇





モヤモヤした感情をぶつけるが如く、師匠が警察署の中で金目の物を探しています。
留守番中の朝倉涼子と近くに放置されている浅上藤乃達と共にしばらくお待ち下さい。





       ◇       ◇       ◇
57創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 14:04:47 ID:dUDMjZT7

58喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 14:07:10 ID:Le1GIAHy
「探索は終わりました。残念ですが武器の類は無く、収穫は再びゼロ……遺憾でした。
 ついでに中にあった地図も私たちの持つそれらとは変わりなし。意図的に伏せられたとも考えられますが、果たして……」
「そう……残念。じゃあどうする? 乗り物とか」
「このパトカーを頂きましょう」
「やっぱり」
「それも一台や二台ではありません……全部です」
「やっぱり。でも四台も拾ってどうするの? 全部乗り倒すつもり?」
「それも良いですが、数があればバリケード代わりにでも使えるでしょう。乗車が全てではありませんから。
 では今度は運転席に私が乗ります。後部座席でその"拾い物"が妙な事をしないよう見張りなさい。貴方の仕事です」
「了解したわ。あ、今更だけどキーは?」
「あります」

喧嘩の後に始まった師匠の物色タイムを経て、朝倉達は再び合流。用事も終了したので外に出ていた。
背中には未だ目覚めない魔眼の少女。そろそろ目覚めても良いはずだが、あれ程騒いだというのに兆候は無い。
加減を間違えたのだろうか。起きてくれれば移動も非常に楽なのだが。

「それにしたって、サイドカーがすっかり死蔵状態なのは寂しいわね……折角引き当てたのに」
「そんな事はありませんよ。これから路地での戦闘が起これば嫌でも酷使することになるでしょうから。
 あれの小回りの良さは軽視出来ませんし、攻撃に転じる容易さは自動車に勝りますからね。貴方も良い支給品を手に入れたものです」
「……師匠、急にどうしたの? 私を褒めたことなんて一度も無かったのに」
「事実を述べているだけです」
「変化が急激過ぎて違和感を抱かざるを得ないわ……これが人間の抱く"気持ち悪いと表現される嫌悪感"というものなのかしら……」
「移動方法を変更します。このまま貴方だけ車外でマラソンという形式にしましょう」
「悪かったわ」
「変更案を破棄します」
「良かったわ」

そうした漫才染みた会話を経て、辺りの様子を軽く眺めてみた。
不審者はいない。改めて実感したのは、ゲーム開始から数時間経ったおかげで辺りもうすっかり明るくなっている事のみ。
既に何時間も経過した後だ。おそらくこの舞台の北側、そのいくつかの"エリア"は既に何らかの力で封鎖されているのだろう。

しかしそれでも目的は変わらない。変わらず他の"ゲームの参加者"を殺し尽くすだけだ。
師匠との衝突もあったが、互いにこんな面倒ごとは御免だろうからこんな事もしばらくは起きないだろう、きっと。
何も問題はない。後はきちんと目的を完遂して涼宮ハルヒを保護出来れば、問題はないのだ――――
59創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 14:07:39 ID:dUDMjZT7

60喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 14:10:53 ID:Le1GIAHy
――――と言いたいところだが、その前に朝倉には師匠に言わねばならないことがあった。
現在、最も懸念すべき情報。それを、共有しておかねばなるまい。

「師匠……早速だけど、正直に伝えたいことがあるわ」
「なんでしょう」

今回の涼宮ハルヒを生存計画において、最悪の障害と最強の協力者のどちらかになる筈だった同類。
恐らくは誰もが手出し出来ぬはずであった強大な存在。恐らく放送で呼ばれることは無いはずであった固体。
同じ情報統合思念体によって製造され、最も涼宮ハルヒに近い位置に座る同業者。
恐らく、師匠無しでは決して勝利する事は出来ないであろう、分厚く高い壁。

パーソナル・ネーム"長門有希"。

その彼女に関する、驚くべき、そして信じられぬ報告が放送された事を伝えなくてはいけない。
師匠は、どう思うだろうか。正直、切実な問題なので真剣に考えて欲しい。
自分の危機感は通じるだろうか。いや、話せばわかってくれるはず。

「率直に言うけど……私や師匠より強い存在が、さっき名前を呼ばれたわ」

"あの長門有希"が死んだという恐るべき事実。
そこから浮かび上がるのは、つまり、この世界にはとんでもない強者が潜んでいるという事。

「詳しいスペックは後で話すわ。けれど、私が"自分に有利な状況を作ったけれど敗北した"と言うと、彼女の脅威が解ると思う」

師匠がこちらを見た。常々余裕が見て取れるその瞳からは、流石に驚きという感情も見え隠れしている。
いつもの彼女のポーカーフェイスが、僅かながら崩れた。

「彼女のパーソナルネームは長門有希。私の同業者であり、私より重大な任務について、私よりも強大だった存在。
 もう一度言うわ……その彼女が、死んだそうよ。誇張無く、師匠よりも強いはずのあの特別な固体の名が今、放送で呼ばれたの」

それはつまり、自分達の身を脅かす程の脅威が存在している可能性が高いという事に他ならない。

「師匠……やっぱり私たち、もう少し気合を入れるべきだったわ。喧嘩なんてしている場合じゃない」

故に、

「利用し合うのは結構。仲良しこよしの関係になろうとは言わない……けれど、もう少し互いに協力する意思も見せないと……」

おそらく、

「私達、多分死ぬかも」


       ◇       ◇       ◇
61創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 14:11:04 ID:dUDMjZT7
62喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 14:12:05 ID:Le1GIAHy
流石に朝倉涼子が真剣な表情で放った言葉を突っぱねるのは愚の極みとも思えた。
故に師匠は反論をせずに、一言「そうですか」と返事をし、朝倉達と共にパトカーに乗り込んだのであった。

確かに、気合を入れなおすべきだろう。苛立ちを覚えている暇は無かった。
これからはもう少し臨機応変に行動をしなくてならない。
まさか朝倉涼子からそれを教わる事になるとは思わなかった。
この街に潜む脅威。自分達はそれを意識するべきであろう。よく理解した。
これからは更に気を引き締めなければ。













だが金目のものは探す。
63喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 14:13:39 ID:Le1GIAHy
【D-3/警察署前/一日目・朝】

【師匠@キノの旅】
[状態]:健康。パトカー運転中。
[装備]:FN P90(50/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x18)@現実、両儀式のナイフ@空の境界、パトカー(1/4)@現実
[道具]:デイパック、基本支給品、金の延棒x5本@現実、医療品、 パトカー(3/4)@現実
[思考・状況]
 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
 1:天守閣の方へと向かう。
 2:朝倉涼子を利用する。
 3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?


【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康。パトカー後部座席に乗車中。
[装備]:シズの刀@キノの旅
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4、金の延棒x5本@現実、軍用サイドカー@現実、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、
     フライパン@現実、人別帖@甲賀忍法帖、ウエディングドレス、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。
 1:天守閣の方へと向かう。
 2: 師匠を利用する。
 3:SOS料に見合った何かを探す。
 4:浅上藤乃を篭絡し、活用する。無理なようなら殺す。
[備考]
 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。


【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:気絶。無痛症状態。腹部の痛み消失。パトカー後部座席に乗車中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:湊啓太への復讐を。
0:(気絶中)
1:朝倉涼子と師匠への対処? 朝倉涼子の「協力」の申し出を検討する?
2:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
3:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。
64創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 14:14:01 ID:dUDMjZT7

65 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/29(火) 14:17:26 ID:Le1GIAHy
投下完了です。予約期限を再び超過し、申し訳ないです。
66創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 18:01:49 ID:6y672qYP
投下乙です。

…いちばん敵に回したくないコンビが真の意味で誕生した気がする…
この二人を打ち砕くにはこの上下関係を利用するのが最も有効だと考えてたのにそれがほぼ完全に取っ払われたとは。
二人をなんとかできそうな力を持つ長門は死んでるし、配下(姫路)はストッパーがいないため事実上バーサーカー状態。
どーすんだこいつら
67創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 18:55:28 ID:ssLvKOd7
投下乙。
殴り合いで深まる友情……とか笑ってる場合じゃないな、こりゃ。
そうだよなぁ、長門死亡はショックだよなぁ。
この2人が本腰入れるとなると……想像するだに恐ろしい。
藤乃はさりげなく放送聞き逃しかー。これも今後に与える影響が楽しみだ。
68創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 19:24:51 ID:qQD4hU61
投下乙です

やっていることはえげつないマーダーコンビだけど、こういうシーンを見るとなんだか応援したくなるw
長門の訃報により意識を改める朝倉と、それに諭される師匠の掛け合いがまた
しかしフィアットの後継機がパトカーとは……ロワ内をパトカーで疾走っていうのもなんかシュールw
69 ◆olM0sKt.GA :2009/09/29(火) 22:51:33 ID:naB18R7W
投下乙であります。
戦力的に申し分なかった二人が精神的にも磐石に……wそれでもドライな部分が保たれてるのがこの二人らしい。
愛車もチェンジして気分一新というところでしょうか。今後の活躍も楽しみです。


さて、仮投下スレに拙作の追加パートを投下いたしました。問題等ないかチェックをお願いします。

70創る名無しに見る名無し:2009/09/30(水) 23:19:50 ID:llyJj1c4
ちょっと質問。
Wikiの用語集の温泉のジンクスって、確か忍者も温泉施設には入っても入浴はしてないから
むしろジンクスは継続してるんじゃないだろか?
71創る名無しに見る名無し:2009/10/02(金) 14:11:26 ID:IXjVJr7w
一般人が淘汰されつつあるから異能者の制限って緩んでるんだよね。
今後は一般人の扱いがキーになるかも。
72創る名無しに見る名無し:2009/10/02(金) 21:50:39 ID:5VZLYrSj
マーダーに強キャラが多くて戦える対主催が何故かやたらとダラダラしてるのも関係あるよな
73 ◆olM0sKt.GA :2009/10/02(金) 22:58:23 ID:9g48NDun
古泉一樹、投下します。
74とある神について ◆olM0sKt.GA :2009/10/02(金) 22:59:09 ID:9g48NDun
え?
その後、ですか?
ああ、僕が紫木一姫さんから辛くも逃げおおせた、それ以降のことですね。
分かりました、お話しましょう。

まさに九死に一生を得た僕は、命からがら学校を抜け出すと北側の市街地に身を潜ませました。
ええ、それはもう這々の体という言葉そのままで。いやぁ、今思い出してもお恥ずかしい。誰かに見られていたらと思うと顔から火がでそうな気さえします。

・・・・・・おや、それは心外ですね。これでも、人並みに死への恐怖は持っているつもりなのですが。
ましてや、今我々がいるのは紛うことなき異常事態、ですからね。
なぜ、北か。というのは、言うまでもないでしょう。
紫木さんのような特異な存在とまたしても鉢合わせするのは僕としては遠慮したいところですし、「彼」を捜すにせよ図書館に向かうにせよ、方角的には北側が適しています。
四方が丸々無人の市街地というのも好都合でしたねぇ。住む者の途絶えた家、というのは、静かにさえしていれば身を隠すにはうってつけです。
肉体的な休息を取りながら、さて何を優先したものかと思案していたのですよ。

そんな折りに、あの放送です。
邪魔の入らない環境で聞けたのは運がよかったと言うべきでしょう。心境ですか?
いやぁ、口では色々言いましたが、やはりあのよう形で仲間の死の可能性を突きつけられるのは堪えますねぇ。本当ですって。
涼宮さん・・・・・・ええ、もちろん。ご存命であることを心から喜んでいますよ。
SOS団団員として、団長の無事を喜ばないわけがありませんからね。

放送について他に感想を述べるとしたら、胡散臭い程に親切、と言ったところでしょうか。
確かに、おかげで色々腑に落ちたところはあります。玖渚機関なる存在に対しての齟齬もこれで説明できますし、僕が超能力を僅かとはいえ使えたのは、そのように調整を施されていたからのようです。
もっとも、「何故」「どうやって」という点に関しては、一切の説明がありませんでしたが。
考えてみれば、これは親切とも言い難いかもしれませんねぇ。凡人たる我々の身では、一を聞いて十を知るなどと都合よくはいきません。
いきなり、突拍子もない事実を差し出されても混乱が増すばかりですからね。是非とも解説役にご登場願いたいものです。
いつもなら、それは僕の役目なのですが。
75とある神について ◆olM0sKt.GA :2009/10/02(金) 23:00:49 ID:9g48NDun

しかし困りましたねぇ。あまりの衝撃に無意識に判断を保留してしまっていた、「長門さんの死」という情報が、これでほぼ確定されてしまったことになります。
ですが・・・・・・これは由々しき事態です。

考えてもみてください。長門さんの死は確かに驚愕に値する事実ですが、先ほどの水質の例もあります。
何らかの手段、それが可能であるとしてですよ、何らかの手段を用いてTFEI端末であるところの彼女の機能に制限が加えられ、結果としてそれが敗北に繋がった可能性は否定できません。
また、この場には朝倉涼子がいます。一度消え去ったはずの彼女が何故また我々の前に現れたのかは不明ですが、長門さんと同一存在である彼女ならば、条件次第で勝利することも可能でしょう。

・・・・・・と、我々はこのように「長門有希以上の存在」を仮定することによって、ようやく彼女の死を受け入れることができます。そいつは長門有希よりも強かった、それならば仕方ない、とね。
ですが・・・・・・そう、我々は既に答えを得てしまっています。誰が彼女を殺したか、という、本来なら迷宮入りしてもおかしくない程難解な命題に対する答えを、ね。

その通り、紫木一姫さんです。
彼女は自ら長門さんを殺したと言いました。そこに嘘が交じっている気配はありません。それが原因で、あわや僕は命を落とすところでしたしね。
重要なのはここです。「僕は命を落とさなかった」言い換えればこれはつまり、彼女はその程度の存在であった、ということです。
もちろん、彼女の技術は驚異的です。精神面においても常軌を逸していると言ってしまっていいでしょう。僕が今もこうして生きていられるのは幸運によるものでしかなく、間違いなく二度目はないでしょう。
ですが、やはり僕が逃げられる程度の相手に、長門さんがすんなり殺されてしまったというのは、素直に頷ける話ではありません。
不可視の糸どころか、本当に物理的に見ることが不可能なレーザー光線でさえ、彼女はものともしないのですよ。
これは・・・・・・どういうことでしょう?
何が、これは死因が何であるかと言った狭い範囲の話ではありません。一体、どのような「要因」が彼女を真実死に至らしめたのか。

76とある神について ◆olM0sKt.GA :2009/10/02(金) 23:02:10 ID:9g48NDun
おや、何やらもの言いたげですね。僕は、自分の思うところを素直にお伝えしているだけなのですが。
えらく長門さんを買っていると?それはもう、ああ、ならば何故彼女を頼らなかったのかと、あなたはそう言いたいわけですね。

長門有希という希望にすがるのではなく、涼宮ハルヒを絶望に至らしめる道を選んだのは、一体何故なのかと。
僕なりに必死で考えた結果なんですよ?
確かに、絶対確実とは言えませんし手間も労力もかかりますが、それでもみんなで帰還できるなら、とね。
信じられないと?無理もないかも知れないですね。もっとも、何を言われようと私としてはこれが真実ですとしか申し上げられないのですが。
長門さんに頼み込んで、事態を速やかに解決してもらう。それが可能であればどれだけよいかと思いましたよ。
ですが、それは僕の役割ではなかった。僕では役者が不足しています。可能だとしたら、それをするのはやはり「彼」の仕事でしょうね。
複雑なんですよ。
僕たちSOS団も。我々機関も。おそらくは情報統合思念体も、ね。

ですがそれも危うくなってきました。長門さんの死を知らされてもこの世界は一向に変わろうとしません。彼女が聴き逃した可能性も、イベントの重要性を考えれば低いでしょうね。
やはり「彼」でなくては駄目なのかと、そう考えることもできますが、さて、悠長に次の機会を待っていればよいものか、少々不安になってきました。
不安とは脳が送る危険信号です。気のせいであることも多いですが、往々にして真実が含まれるのもまた事実です。

さて、ここで一つの仮説を検討してみましょう。
すなわち、彼女の能力がこの世界に影響を与え得ないとしたら、というものです。
高須君には既に可能性を示唆しましたね。その場合「次善の策」を取るとお伝えしました、例のやつです。
もっとも、挑発の意味も大きかった部分はあるのですが。
加えて言えば、一姫さんとの出会いと先ほどの放送……これらを併せてもなお「涼宮ハルヒを優勝させる」というプランに現実味を感じられる程、僕は自分を過大評価できないのですよ。
困ったものです。

77とある神について ◆olM0sKt.GA :2009/10/02(金) 23:03:37 ID:9g48NDun

涼宮さんがこの世界に対して無力だと、確証が得られたわけではありません。単に涼宮さんがまだ本心から世界の変革を願っていないだけかも知れない。
あるいは「濃度調整」の結果、それが可能でない状態に追いやられているのかも知れない。我々が全能と考える彼女の能力に、どうやって細工を加えたかは知る由もありませんが。
杞憂かも知れませんが、長門さんが死を迎えた今、再度考慮しておくだけの価値はあるでしょう。
涼宮ハルヒは果たして、この世界に影響を及ぼし得るのか・・・・・・について。
こう考えてみてください。ある砂場があったとします。そこは涼宮さんにとってお気に入りの場所で、毎日のように訪れては、望みのものを作り、そして壊している。
慣れ親しんだ砂場の砂は彼女にとって操るのに何ら苦労するものではありません。彼女はその四角く区切られた世界の中で、まさに神の如き存在として君臨しています。


ところが、ここで新たな事実が判明しました。砂場は他にも複数存在していたのです。それぞれの砂場には涼宮さんと同じく主が存在していて、更に困ったことに、各々の場所では全く質の異なる砂が用いられていたのです。

ええ、仰る通り。この話の中で「砂場」は放送で言われていた『物語』に、「砂の質」は『文法』に、それぞれ相当します。
石英か磁鉄か雲母か、あるいは砂と言いながら粘度を使っているところもあるかも知れません。原料はどうあれ、どれか一つにしか親しんでこなかった者が、突然全く質の違う場所に連れてこられたとき、一体どれほどの能力を発揮できるものなのでしょうね?
あるいは、放送にならって物語に比すならこうも言えるでしょう。
一つの『物語』の原作者に過ぎない涼宮さんが、見もしらぬ他の『物語』の原作者にどこまで口出しできるのか、とね。

これらの推察はここが「涼宮ハルヒの世界ではない」ことを前提にした、論拠のあやふやなものでしかありません。
ですが事実だとしたら・・・・・・「涼宮ハルヒが力を使えない」ことが、「涼宮ハルヒに並び立つ存在」を示唆しているとしたら。
涼宮さんの意思の及ばない世界で死亡した我々は、仮に涼宮さんが無事帰還することができたとしても、元のままの我々として復活することは果たして可能なのでしょうか。
あまり考えたくない……というのが本音ですね。

考えがまとまりました。ひとまず、僕は図書館を目指しましょう。
というか、もうそちらに向けて歩いているのですが。
やはり、長門さんが明らかに格下の相手に、何もなしに殺害されたとは考えにくいでしょう。少なくとも、現場を見ておくだけの価値はあります。

もっとも、これも淡い希望という奴なのかも知れません。
もし、この世界が本当に涼宮ハルヒの庇護下にないのだとしたら、彼女の願望に従って存在を許されている情報統合思念体にも、何らかの悪影響が出たというのは、想像に難くないでしょう。

観測の結果、長門有希が純粋に敗北を喫しただけだと証明されてしまったら。
そのとき、僕は一体どうしましょうかね。
これまで通りか、あるいは別の道か。

あなたなら、どうしますか?


78とある神について ◆olM0sKt.GA :2009/10/02(金) 23:04:26 ID:9g48NDun
【D-2/市街地南部/一日目・朝】

【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(小)
[装備]:
[道具]:デイパック×2、不明支給品1〜3
[思考]:
1.図書館に行って長門の死亡状況を確認する。
2.ハルヒに対するプランについての疑念
[備考]
 カマドウマ空間の時のように能力は使えますが、威力が大分抑えられているようです。
 ハルヒへのプランは以下の三つ。
 1.彼女を絶望に追い込み能力の発動を促す
 2.不可能であればハルヒを優勝させる
 3.ハルヒが死亡した場合自らが優勝を目指す
79創る名無しに見る名無し:2009/10/02(金) 23:04:47 ID:aTaOTe5V
sien
80 ◆olM0sKt.GA :2009/10/02(金) 23:05:10 ID:9g48NDun
以上で投下終了です。
81 ◆olM0sKt.GA :2009/10/02(金) 23:08:27 ID:9g48NDun
っと、支援ありがとうございました。
82創る名無しに見る名無し:2009/10/02(金) 23:20:24 ID:I7ZMvVd1
おぉ、投下乙です。
なんともスマートでわかりやすい考察。
古泉くんらしいし、この後どう発展してゆくのか楽しみですね。

GJでした!
83創る名無しに見る名無し:2009/10/02(金) 23:22:50 ID:YFKg/8gV
投下乙。
おお、古泉が悩んでる……!
そうだよなぁ、奴にとってはそこは死活問題だよなぁ。
なまじそういう方面の考察に強いだけにこの苦悩。丁寧な良考察でした。GJ!
84創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 13:05:04 ID:iy0rls7e
投下乙
確かに悩むよな。良考察だよ。
ただ古泉の思考ってほぼ完全にハルヒ頼みなんだよな
ハルヒの能力は確かに強力だけど……上手く言えんな
85創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 15:50:46 ID:8DUsrYk0
ハルヒの能力って原作からして結構謎だよな。
細かい設定なしにこういう物としてしか扱われてないからよくわからん
86創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 19:20:15 ID:lxGDJ1Mu
ただ回りから神の如く扱われてる
古泉がハルヒの能力を前提で殺人や裏切りを肯定してるのがムカつくような(褒め言葉)
87 ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:03:42 ID:GGmvb4WI
お待たせしました少しオーバーしてしまいましたが投下始めます。
88 ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:06:33 ID:GGmvb4WI





与えられた選択肢。


それが、先に繋がるなら



――――わたしはそれを喜んで選ぼう。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





89創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:08:08 ID:2EHDRRaU
90A new teacher and pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:08:16 ID:GGmvb4WI
「サイクリング、サイクリング、いやぉっほーい!」
「……煩いです。もっと静かに運転してくださいよ」

静かに流れる景色。
心地よい振動が身体に伝わっていく。
わたし―――黒桐鮮花の横には金髪の喧しい男、クルツ・ウェーバーが自転車を運転している。
つまりわたしは彼の運転する自転車の荷台に居る訳だ。
有体に言うなら、二人乗りである。
わたしは荷台に腰をかけ、足をプラプラさせながら流れる景色をただ見ていた。
跨る形は何となく癪であったから。

わたし達はあの後そのまま逃げるようにして摩天楼に向かう事にした。
だけど、わたし達がいた城付近だと摩天楼は歩いていくには少し遠い。
どうしようかとわたしが思案しているとクルツさんがそこら辺の民家から拝借してきたもの。
銀色のフォルムで籠と荷台がついたいかにも頑丈そうな形。
それは、ママチャリといわれる類の種類の自転車だった。

わたしは彼に従い荷台に乗ったのだけれども……よく考えれば

「自転車、もう一台無かったんですか?」

近くに民家は他にもあったはず。
自転車は普通に考えれば割と何処の民家にもあるものだ。
ならば、自転車をもう一台見つける事ぐらいは造作ないはず。
なのに、わざわざ二人乗りなんてしているのだろう。

「あぁ……単純さ」
「何ですか?」
「可愛い鮮花ちゃんと二人乗りしたかったか……ぐぎゃ!? あ、危ないって!」
「煩いです」

言い終わる前に背を思い切り叩いてやった。
この、男は…………全く不潔なんだから。
……そんな理由でわざわざ……
……頭が痛くなってくる。というより頭が痛くなってきた。
どうしてこの男はこんなに飄々としているのだろう。
しかも軟派の軽い男だ。

はぁ……


しかし不思議に思う所もある。
というより、明らかに可笑しいとも言えるものが。

この男……クルツ・ウェーバーは何で『今まで通り』なのだろう?
恐らく金髪サングラス……土御門元春は死んだのだろう。
そしてクルツさんの知り合いも死んだというのに。
どうして、こんなふざけてられるのだろうか。

わたしは……わたし自身は……
黒桐幹也が死んで。
土御門元春が死んで。

やっぱり少し心が揺れ動いている。
今、戦闘が終わって落ち着き始めた所で。
今更ながらに人の死が重くのしかかり始めている。
簡単に割り切れるものではないのだから。
例え復讐に燃えようとも……帰ってこないのは確かなのだから。

91A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:10:41 ID:GGmvb4WI

なのに、この男はその心の動きすら微塵に感じさせない。
それが妙に怖く感じる。
何故かはわからないけど、そんな気がするのだ。
その軽薄そうな顔の下に何を隠しているのか全く解らない。

一体何を考えて……



「きゃっ!?」
「おっと……ごめんごめん段差乗り越えちゃってさ」
「全くもう……気をつけください」
「いやぁそう手を回されたらもう一度やりたく……」
「黙れ」
「……はい」

くっ、不覚だ。
段差を乗り越える衝撃で不意にクルツさんの背に手を回してしまった。
こんな男に……不覚だ。
とりあえず、黙らしておこう。
そして忘れよう。

「ああ、鮮花ちゃん」
「何ですか?」
「俺のことはクルツさんじゃなくてクルツくんと呼んで……」
「嫌です」
「いや、そこをなんとか」
「嫌です」
「もう一声……」
「嫌です」
「はい……」

この男は……
明らかに落胆の声を出しているが気にしない。
全く……本当に軽い人だ。
なんか馬鹿らしくなって私は少し微笑む。
そして不意に顔を上げると……

「そろそろ着くぜ、鮮花ちゃん。摩天楼に」

天まで高く聳え立つビル。
わたしの始まりの地。

そう、摩天楼が見えてきたのだった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





92創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:11:21 ID:2EHDRRaU
93A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:11:53 ID:GGmvb4WI
「此処も……はずれですか」

わたしは疲れたように大きくため息をつく。
何回目の溜息だろうか……これは。
少なくとも10回以上溜息をついた気がする。
砂漠の中で針を探す様……とまでは言わないけど流石にこれは骨が折れる作業だ。

わたしが居るのは地図でいう摩天楼の中。
具体的に言うと東棟のマンションの中層、大体30階〜40階に位置する一室だ。
やっている事は……野探し。
人の家を荒らしているといえば聞こえは悪いがそもそも誰も住んでいないのだ。
だから、問題ないと思う。多分。

野探しをして探しているものといえば……銃。
クルツさんの獲物である銃だ。
わたし達は当初の目的通りここに辿り着き、そして一軒一軒確認している。
だけど、そんな簡単に見つかるわけでもない。
見た所、ここは日本の住宅と一緒だ。
だから、猟を趣味をする人、もしく危険な職業についてる人の家ではない限り銃は見つかる訳がない。
そのせいで私たちは今の所銃なんて存在は見つかりはしない。
見つけたとするなら刃物類だ。
包丁とかナイフとか、料理などに使えるもの。
持っていて損はないので回収をしてた。
だけど、肝心のものは一向に見つからない。

その事にわたしはもう一度大きくため息をついた。
今はクルツさんと別行動でこの階を手分けして探している。
もう10階以上見た気がする。
一時間以上……いやもっとかかったか。
時間の感覚すら忘れてしまいそうなぐらい没頭していた。
だけど、成果はゼロ。
全くため息をいくらついても鬱憤は晴れない。

ゆっくりしている暇など無いのに。
少しでも早く復讐の相手を探さなければならないのに。
でも、武器はとても大切で。
今の無力のわたし達にとってはそれほどまでに欲する道具だった。
だからこそ、そんな感情と現実に板挟みなって鬱憤がたまっていく。
そんな悪循環だった。


「……にしても、気味が悪いですね」

わたしはこのマンションに対してそんな感想を持った。
そう、何か気味が悪いのだ。
本当に……『今ここに居住者が居る』錯覚に陥ってしまいそうなぐらい。
なぜかというと……

例えば先程入った所。
見た所、夫婦と子供2人の家族が住んでそうな一般的な家庭の部屋に見えた。
子供部屋と両親の部屋、それにリビングでそんな印象を持ったのだ。
だけど異質とするのなら……食卓に『今、出来た料理や食べかけな料理が並べられていた』

はたまた違う場所だと。
画家が住んでいたのだろうか。
沢山の絵と沢山のキャンバスが所狭しと置かれていた。
だけど異質というのなら……その作業場に『今、チューブから出されたばかりの絵の具があった』
94創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:12:04 ID:2EHDRRaU
95A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:12:34 ID:GGmvb4WI
更に違う場所だと。
一人暮らしの独身の男性だろうか。
野球が好きなのか、野球の本やビデオ、グローブがあちらこちらに置かれていた。
だけど異質というのなら……テレビに『今、ビデオを一時停止にした瞬間の野球の映像が映し出された』


そんな―――『異質』


このマンション以外にも人が住んでいた形跡があった民家などはあった。
だけど、このマンションは違う。
『今、この瞬間』にこの殺し合いの舞台に持ってこられたというのがありありと存在している。

何がしたいのだろう、この殺し合いを作った人間は。

正直、気味が悪くて鳥肌が出てきてしまう。
その人間は……

『人の存在』だけを消してこのマンションを持ってきたでも言うのだろうか。



……正直、身震いがした。
何かこれ以上考えてはいけない。
そんな感じがして思考を打ち切ってしまう。
でも、心にとげがささったまま。
いずれ、このマンションの異質を調べなければならない。

そんな感じがして。

わたしはもう一度大きく身を震わせたのだった。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




96創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:13:44 ID:2EHDRRaU
97A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:14:04 ID:GGmvb4WI
「鮮花ちゃん、どうだった?」
「全然。そちらはどうです?」
「こっちもだ」

わたしは自分の持ち回りの部屋を全て確認してクルツさんの所に行く。
見た所、クルツさんも外ればかりだったみたいだ。
クルツはやれやれという感じに手を上げる。
そして、ちょっと疲れた様に言う。

「後、一つなんだけど手伝って貰ってもいいかい?」
「ええ、別にいいですよ」
「うし、じゃあこの部屋を終えたら休憩しようぜ……流石に疲れた」
「ええ、そうしましょう。私もちょっと……」

クルツさんの懇願にわたしは二つ返事で聞く。
わたし自身もそうだったから
そしてそのまま、この階でまだ入ってない最後の一室の扉を開ける。
やはり、鍵は掛かっていなかった。
その扉を空けた瞬間……

「熊の頭…………?」

わたしが見たのは大きな熊の頭。
それがまず真っ先に目が入ったのだ。
そして、辺りを見回すと鳥の剥製や、鹿の頭らしき剥製がある。
何だろうと考えているとクルツさんが途端に喜びの声を上げた。

「……やっとあたり臭いぞ。これはっ!
「そうなんですか?」

疑問を呈したわたしにクルツさんは笑顔でその疑問に答える。

「ああ、これだけの剥製。まさか集めるだけって訳じゃないだろう」
「ああっ!……つまり……」
「そう、自分で狩ったんだと思う。という事は……?」
「銃がある!」
「そういうことだ!」

わたしもその推理に喜びながら、そのまますぐ近くの部屋の扉を開ける。
そこには玄関に飾られた以上の剥製があって。

そして

「あったっ!」

存在を誇示するように壁に飾られた一丁の銃。
クルツさんは喜びながらその銃を取る。
形状をみるとライフルの類だろうか……?
クルツさんはそのライフルを調べ言う。
98A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:14:54 ID:GGmvb4WI
「うし……これは使えるぞ……だけど」
「だけど?」

少し残念そうに銃を私に見せながら彼は言葉を続ける。

「これは遠距離狙撃は無理だな……」
「どんな銃なんです?」
「ウィンチェスター M94……レバーアクション式の一昔の銃さ」
「成程……でも使用できるですんよね?」
「ああ、勿論。遠距離狙撃は無理だが猟をするぐらいなら充分さ」
「なら、充分じゃないですか」
「まぁな……でもまぁ狙撃銃もあったらよかったなと……」

未だ悔しそうに呟くクルツさん。
やっぱり狙撃手なのだから狙撃銃のほうがいいのだろうか。
でも、銃には違いない。
だからわたし達はその銃の発見に喜んだ。
そのまま、クルツさんは近く棚を野探しし始める。

「サイドアームと銃弾もあるはず……」
「サイドアーム?」
「ああ、予備銃だ。普通ライフル一つで猟には行かない。戦いもな。何か不慮があった時の予備の銃なんだけど……あった!」

そういって取り出したのは一つのリボルバー。
片手にはその銃弾だろうか。

「コルトパイソン……よっし、これで武装は揃ったぜ!」
「よかったですね。探した甲斐がありました」

そう喜ぶクルツさん。
だけどわたしはそんな彼を尻目にそのリボルバーを見つめていた。
何故か……何処か妙に気になる。
その銃が。
99創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:15:33 ID:2EHDRRaU
100A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:15:57 ID:GGmvb4WI
「どうしたんだい?」
「いえ、別に……ちょっとそれが気になって」
「これが?」
「ええ」

リボルバー。
その銃弾を喰らえば人は死ぬだろう。
私の発火の魔術と違って。
当たれば大方殺せる武器だ。

そのリボルバーが何処か気になって。
わたしはそれを見続けている。


そんな時だった。


「鮮花ちゃん」


クルツさんが真剣になって私に話しかける。
その眼差しは軽薄さはなく……兵士の顔だった。


「銃だ。それは。それを使えば人を殺せる」
「ええ……」
「そのトリガーを引くだけでだ……なあ鮮花ちゃん」
「はい?」


その視線はわたしを射抜いて。
ただ、わたしの心を試すように。


「復讐する気……あるんだよな」



そう聞いた


わたしはその問いを吟味するまでも無く即答する。


「ええ、勿論」


クルツさんは何かを悟ったように。
そして、わたしの顔を真っ直ぐ見て。


「なら――――銃の扱い教えてやろうか?」


わたしにそんな選択肢を投げつけた。


「鮮花ちゃんの魔術だっけ……? それじゃああいつは殺せない」

101A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:16:51 ID:GGmvb4WI


わたしはその言葉を重く受け止める。
反論はしない、できない。
その通りだったから。


「銃は当たれば人を簡単に殺す事ができる」


もし、と彼は続ける。
自問自答するように。


「もし、鮮花ちゃんが望むなら……復讐の手助けとしても…………教えてやる」


銃の扱い方を教えると。


そしてわたしに


「だから――――君はどうする?」


その選択肢を与える。



わたしは。


わたしはどうする?



いや、決まっている。


もう、復讐する事は決めているのだ。
どんなに後悔しても、どんなに苦しんでも。

黒桐幹也の仇は絶対とってみせると。

102創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:17:17 ID:2EHDRRaU
103創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:18:21 ID:5VT01UEn
104創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:19:02 ID:5VT01UEn
105創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:19:15 ID:2EHDRRaU
106創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:20:01 ID:5VT01UEn
107創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:20:18 ID:2EHDRRaU
108A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:20:48 ID:GGmvb4WI

ならば。

答えはもうでている。

与えられた選択肢。


それが、先に繋がるなら



「はい……よろしくお願いします――――先生」


――――わたしはそれを喜んで選ぼう。



そのわたしの答えに。


クルツさん―――わたしの新たな先生は。




何処か


とてもとても。

哀しそうに


――――笑ったのだった。


【E-5/摩天楼 東棟 マンション中層30〜40階/一日目・午前】



【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:腹部に若干のダメージ、疲労(大) 、強い復讐心
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界 コルトパイソン(6/6)@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、包丁×3、ナイフ×3、予備銃弾×24
[思考・状況]
基本:黒桐幹也の仇をなんとしても取る。
1:クルツと行動。クルツから銃の技術を教わる。
2:この後は休憩する。
3:このマンションの調査?
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦。
※白純里緒(名前は知らない)を黒桐幹也の仇だと認識しました





109創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:21:24 ID:2EHDRRaU
110創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:21:30 ID:5VT01UEn
111A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:21:35 ID:GGmvb4WI
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





俺はその選択肢を与えながら何処か哀しかった。

俺は復讐からこの道に進んでしまった。

鮮花ちゃんはまだ戻れるというのに。


俺自ら鮮花ちゃんの道を戻れない方向に連れて行ってしまう。

そんな自分が何処か嫌で。


でもそれでも、鮮花ちゃんに教えようとする。

冷静な部分で戦力が欲しいと思ってしまったからだ。


でも、心の中では鮮花ちゃんをこの修羅の道に連れて行くのがとてつもなく苦しい。


復讐にたぎる鮮花ちゃんを止められないのもだ。


戻れる道があるかもしれないのに。


ただ、その道に堕ちていくのが。


何処か哀しかった。


なぜなら、復讐の先に、復讐を望んだものが待ち受ける先なんて。



――――更なる地獄しかないのだから。




112創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:22:10 ID:5VT01UEn
113A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:22:19 ID:GGmvb4WI
【E-5/摩天楼 東棟 マンション中層30〜40階/一日目・午前】


【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:左腕に若干のダメージ 、疲労(中)、復讐心
[装備]:エアガン(12/12)、ウィンチェスター M94(7/7)@現実
[道具]デイパック、支給品一式、缶ジュース×17(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、BB弾3袋、予備弾28弾、ママチャリ@ママチャリ
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサとの合流を目指す。
1:鮮花に銃を教える。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。
3:知り合いが全滅すれば優勝を目指すという選択肢もあり。
4:ステイルとその同行者に復讐する。
5:メリッサ・マオの仇も取る。
6:ガウルンに対して警戒。
7:この後は休憩。
8:鮮花に罪悪感、どこか哀しい
【備考】
※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。

114創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:24:17 ID:5VT01UEn
115A new teacher and a new pupil ◆UcWYhusQhw :2009/10/04(日) 04:25:04 ID:GGmvb4WI
投下終了しました。
支援ありがとうございます。
此度は延長&少しオーバーしてしまい申し訳ありません。
何かありましたら、指摘などよろしくお願いします。

タイトルは二つありますが
「A new teacher and a new pupil」が正しいです。
収録の時は此方でお願いします
116創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 04:25:46 ID:lYQA1Ib+
 
117創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 11:16:47 ID:2EHDRRaU
投下乙です。

しばらく経って悲しみに暮れるターン到来かと思いきや、鮮花はまだ踏ん張っていた。
女は復讐を選んで男はそれを支えて、ってなんとも物悲しい関係だなぁ二人。
しかしそれだけに深みが出てきた印象。っていうか、居眠り中の人とめっちゃ至近距離……w

そのへんとの遭遇の可能性も含めて続きが気になる引きw
改めてGJでしたー。


では、こちらも投下始めますね。
118「続・ネコの話」― Destroy it! ― ◆LxH6hCs9JU :2009/10/04(日) 11:20:08 ID:2EHDRRaU
 私の名前はシャミセン。猫だ。
 世にも珍しい、オスの三毛猫をやっている。
 ティーが、私の今のご主人様だ。白い髪に緑色の瞳が印象的な少女で、歳は前のご主人様と大差ないだろうか。
 同行人は白井黒子。リボンで髪を二つに結っており、この年頃にしては物珍しい喋り方をする少女だ。

 海が一望できる防波堤灯台に、私たちはやって来ていた。
 白井黒子は到着して早々に「実験を始めます」と言い出し、ティーもその提案に従った。
 彼女たちは今、灯台の見晴らし台の上から、海の向こう側に聳える『黒い壁』の破壊を試みようとしている。

 ティーは、肩にRPG-7を掲げていた。
 白井黒子は、その横で発射のタイミングを窺っていた。

 RPG-7といえば、人間の戦争において頻繁に用いられていた兵器である。
 簡単に言ってしまえば、爆薬の詰まった先端を火薬で飛ばす道具、だっただろうか。
 子供の背ほどの細長い筒で、肩に載せるためのパッドがついているので、小柄なティーでも問題なく使用できる。

「発射」

 白井黒子の号令に合わせ、ティーはRPG-7を発射した。
 これの射程は約1000メートル。海に極めて近いここからならば、『黒い壁』にも届くという計算だろう。

 実際、RPG-7の弾頭は海の向こうの『黒い壁』まで届いた。
 届きはしたのだが、それはぶつかって爆発したりはせず、そのまま『黒い壁』の中に入り消えてしまった。
 飲み込まれてしまった、という表現がこの場合は適切だろうか。

「ある程度予想はしていましたけれど……やはり、物理的破壊は難しいようですわね」

 白井黒子はたいして悔しくもない風に言った。
 ティーは言葉にこそしなかったものの、非常に悔しそうな顔をしていた。


 ◇ ◇ ◇


 白井黒子が摩天楼の展望室から確認した『黒い壁』は、やはり夜の闇などではなかった。
 もしかしたら夜が明ければ消えるかもしれない、といった願望は雲散霧消する。
 朝になり、外も明るくなったことで、その存在感は余計に増したのだった。

 街路の隙間から空を眺めるだけでも容易く視認できるそれを、白井黒子はわざわざ灯台まで確認しに出向いた。
 より近いところから見れば、なにかわかるかもしれない。
 より近いところからであれば、物理的干渉も可能かもしれない。
 そう思ったから、白井黒子はティーをつれて灯台を訪れた。

 灯台から見る『黒い壁』は、近くて大きかった。
 長時間眺めていると、自然と生唾を飲んでしまうような威圧感がある。
 首を上に向ければ、空と『黒い壁』の接する部分には微か境界線のようなものが見えた。

「囲まれてはいるものの、覆われてはいない――そういうことでしょうか?」

 朝の空は青く澄み渡り、白い雲がまばらに流れ、大地に陽光を照らしている。
 少し前までは、綺麗な星空を映していた空。
 『黒い壁』との境界線が見えても、『空』として違和感のある部分は見当たらない。
119「続・ネコの話」― Destroy it! ― ◆LxH6hCs9JU :2009/10/04(日) 11:21:23 ID:2EHDRRaU
 ならば飛行機や気球でも飛ばし、空路を取ってあの『黒い壁』を乗り越えるということもできるのかもしれない。
 もっとも、空と『黒い壁』の境界線は地上からの目算でも雲以上の高さにあるのだが。
 実際の計測など不可能に違いないが、はたしてあの『黒い壁』の高さは何メートルになるのだろうか。

「ま、そんな非現実的なことを考えても仕方がありませんわね。客観的に捉えて、あの壁は乗り越えるよりも壊すほうが簡単そうに見えますもの」

 灯台の見晴らし台に立って、白井黒子は改めて考える。
 『黒い壁』がどういったものなのか、視覚から得たイメージだけで判断するのはあまりにも愚かしい。
 より詳細な部分について知るには、やはり実際に触れてみるのが一番だろうと思い立ち、しかし位置が悪かった。
 一番近い位置にある『黒い壁』は、海の向こう。直接触れて調べるためには、船を出す必要がある。
 さすがにそれは手間だ。なので、白井黒子は調査の過程をすっ飛ばし、これを遠距離から壊してみることにした。

 持ち出したる破壊兵器が、ティーの支給品にあったRPG-7である。

 白井黒子の『空間移動(テレポート)』は応用すれば物体や人体の破壊とて可能にするが、あの『黒い壁』のような大質量のものを破壊するにはパワーが足りない。
 それに比べれば、ティーの持つRPG-7は火力が売りの純然たる破壊兵器である。
 学園都市出身の白井黒子にとっては旧世紀の遺物だが、資料で知るその破壊力は本物だ。
 『黒い壁』の耐久力を計るには、ちょうどいいものさしと言える。

 RPG-7の弾頭は全部で三発。消費を惜しむほどではない。
 それにティー自身、前々からこれを使いたがっていたようなので、白井黒子の案には首肯一つで賛同してくれた。

 そして、実際に撃った。
 『黒い壁』は壊れなかった。
 RPG-7の弾頭も、爆発した気配はなかった。

「あれでは、壁というよりもむしろブラックホールですわね」

 こちらのRPG-7を無傷で飲み込んでしまった『黒い壁』に対し、白井黒子は嘆息する。
 予想していた通りの結果ではあった。だめでもともと、収穫はあった。
 砲撃を務めたティーは納得がいかないのか、次なる弾頭を装填しようと荷物を漁っている。
 さすがに二発撃っても得はなし、と白井黒子はこれを止めた。

「たぶん無駄ですわ。あれはどんな兵器を持ち出したとて壊せないでしょう。おそらく……『超電磁砲(レールガン)』であったとしても」

 その名を口にし、白井黒子は学園都市の半ば名物とも言えたあの電撃を思い出す。
 常盤台中学のエースにして、学園都市でも七人しかいない『超能力者(レベル5)』の一人、そして白井黒子が何者よりも敬愛する――お姉様。
 『電撃使い(エレクトロマスター)』の最高峰、『超電磁砲(レールガン)』として名を馳せた彼女でさえ、あの『黒い壁』を壊すことはできないだろう。

 破壊力云々が問題なのではない。おそらく、物理的に不可能なのだ。
 もっと言ってしまえば、あの『黒い壁』には物理的干渉自体が不可能とも取れる。

 ゆえに、壁ではなくブラックホール。
 RPG-7の弾頭を中に吸収し、爆発すらさせないなど、それはもはや壁ではない。

 では、あの『黒い壁』はいったいなんなのだろうか。
 新たな情報を仕入れても、謎は深まるばかり。
120創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 11:24:53 ID:tVdfGg5q
121「続・ネコの話」― Destroy it! ― ◆LxH6hCs9JU :2009/10/04(日) 11:27:04 ID:2EHDRRaU
「私が思うに、あれは『壊せない壁』ではないだろうか」

 思案する白井黒子、もともと黙していたティー、そのどちらでもない老獪な声が、割って入る。
 RPG-7を用意する際デイパックから出てきたらしい、シャミセン(オスの三毛猫)だった。

「キミはどうやら、あの『黒い壁』がそちらのアールピージーとやらで破壊できないことを訝っているようだが、
 ヒトの作った兵器が必ずしも破壊を生み出すとは限らない。いや、キミにとってのそれは間違いなく破壊兵器なのだろう。
 しかしあの壁が破壊に至り得る物質であるという保障はどこにもなく、たまたまキミの認識するところの壁の定義から外れ、
 未知の物質として破壊を無効化、またはそれに似た結果を残してしまったという説も大いに考えられるだろう。
 だからといって、あれが壁でないと決め付けることはできないと私は考える。
 人間の間では『壁』という言葉はたびたび比喩に用いられているようだが、その場合は当然、物質を指し示してはいない。
 この場合の『黒い壁』が比喩表現であると断ずるほどの根拠を私は得ていないが、壊す壊せないで物事を見るならば、
 壁という言葉に囚われ思考を停滞させることは極めてナンセンスと言えよう。これは私なりの助言である。
 さて、私はなんと言っただろうか。そう、『壊せない壁』だ。しかしそれは『絶対に壊せない壁』とは言い切れない。
 あたりまえのことだが、『黒い壁』とて白く塗りつぶせば『白い壁』になる。これは人間ならば容易なことだろう。
 染色と破壊の難易度を同列に語ることは猫である私でも馬鹿馬鹿しいと思えるが、だがこの場は考えてみてほしい。
 あの『黒い壁』はなんなのか? 手持ちの情報は視覚から得たイメージと自身の常識、そしてアールピージーを
 放ってみての不発という結果のみだ。そこから得た解に従って次に進むのもまた正しくはあるだろう。
 私はそれを否定しないし、肯定もしない。ただし喋れというのであれば喋るし、黙れというのであれば黙ろう。
 キミは私が人語を介していると思っているようだが、私のほうとしてはそのような認識は持っていない。
 だがかろうじて会話が成立しているのはキミの反応を見るに定かだ。なればこそ、この場はこのように喋らせてもらった」

「わたくし、猫とのお喋りは苦手だと今この瞬間に自覚しました」

「私もだ、お嬢さん。キミと正しい意思伝達が行えているかどうか、私には確信が持てない」

 シャミセンは「にゃあ」と猫らしく鳴き、白井黒子はため息をついた。

「そうですわね……既に六時も回ったことですし、見晴らしのいいこの場所で朝食をいただくとしましょうか」

 時計を確認して、白井黒子はそう提案する。
 ティーは首を縦に振ってこれに賛成した。
 シャミセンは毛づくろいをしていた。

 あいにく、猫缶はなかった。


 ◇ ◇ ◇

122「続・ネコの話」― Destroy it! ― ◆LxH6hCs9JU :2009/10/04(日) 11:28:26 ID:2EHDRRaU
 『黒い壁』を壊すことばかり考えていたが、よくよく考えてみれば白井黒子の最終的な目的は別にある。 
 それは、この椅子取りゲームからの脱出。殺し合い以外の方法を行使しての、平和的解決だった。

 この場所が隔離された空間であるというのなら、四方一面を覆う『黒い壁』を破壊して離脱するのが一番の近道と思える。
 ただ、『黒い壁』を越えた先に平穏が待っているという保証はどこにもなく、そもそもが不可能である可能性も否めない。
 ならばどうすればいいのだろうか。隔離された空間――密室から抜け出すのに、最善の策とはなんなのか。
 扉をこじ開ける、窓ガラスを割る、壁に穴を開ける、床を壊して通路を作る、天井裏を伝っていく、いろいろ考えられるが、

 白井黒子の場合はやはり――『空間移動(テレポート)』。

 これを活用するほかないのではないか、とも思う。

 ここで先ほどの放送、『どこからともなく聞こえてきた人類最悪の独り言』について考えてみよう。
 彼は白井黒子の『能力』に関して、『その力が環境のシステムによって抑えられている』ような発言をしていた。
 淡水魚と海水魚を同じ水槽には入れておけない、だから世界が魚たちのために調整を施している、と――まるで戯言みたいに。

 白井黒子の『空間移動(テレポート)』は、世界によって“異端”と判断されたのだろう。
 この能力はあくまでも『空間移動』であり、世間一般の人間が思い描く『瞬間移動』とはまた違った性質を秘めているのだが、
 学園都市外部の人間が見れば異端には違いあるまい。
 考察としては、『内』から『外』に跳ぶことも可能なのでは――と考える人間が現れるのも妥当と言える。

(実際のところ、そんなに万能な力ではないのですけれど)

 『空間移動(テレポート)』は比較的珍しい能力であると言えるが、それでも白井黒子は『大能力(レベル4)』。
 長距離空間跳躍などSFの領域であり、いくら努力に努力を重ねようとも、発揮できる力には限度というものがある。

 しかし、可能性としては考えられてしまうものでもある。
 今はお姉様に憧れを抱くしがない『大能力(レベル4)』の白井黒子。
 それがもしこの場で、なにかのきっかけを経て『超能力(レベル5)』へと変じでもしたら――と。

(……可能性、などと称すのもおこがましいですわねぇ、我ながら)

 すぐに、そんな寝ぼけた考えは打ち消した。

(あのような努力の到達点、二日や三日でどうにかなるはずもありません。
 『幻想御手(レベルアッパー)』のようなお手軽アイテムがあるならまだわかりませんが、それでも頼る気など毛頭ありませんし)

 所詮は戯言、いや幻想。
 『空間移動(テレポート)』による内から外への脱出など、夢のまた夢。
 考えてみたところで虚しいだけ、と白井黒子はまた嘆息した。

(それとはまた別の部分で、考えさせられるところもあるのですけれど)

 『どこからともなく聞こえてきた人類最悪の独り言』の中には、能力の抑制、世界の調整の話などよりももっと気にかかる部分があった。
 今は深く考える必要はないだろう、と本人が補足しておいたところにあえて足を踏み込み、考えてみる。
 曰く、『この世界の端に集められたお前達にとっての”元の世界”というのは必ずしも同一ではない』と。
 曰く、『それぞれが別の世界。つまりは別々の物語でそれぞれの役を演じていた登場人物であったというわけだ』と。
 さらに極めつけは、

(物語……それに文法などと、まるでわたくしたちのことを小説のキャラクターかなにかのように喩えますのね)
123「続・ネコの話」― Destroy it! ― ◆LxH6hCs9JU :2009/10/04(日) 11:31:19 ID:2EHDRRaU
 人類最悪の口から語られる話に、どれだけの意味、または価値があるかなどわかったものではない。
 真偽すら不明な戯言を考察の材料として扱うほど白井黒子は切羽詰ってはおらず、しかし与太話としてはありなのではないか、とも思う。

(たとえば、わたくしたちは『物語(ストーリー)』の中から出てきた妖精のような存在であったとして、
 本当は実在する人間などではなく、誰かによって作られた架空の登場人物……それこそ『キャラクター』にすぎないのではないか)

 自身が『現実に存在する人間』などではなく、『物語から抜け出たキャラクター』だという仮説。
 人類最悪の言葉が比喩表現のないストレートな『説明』であったとするなら、すんなりと頷ける真相ではある。

 喋る猫や、喋る犬と旅をしてきた少女、そして超能力者。
 異なる物語から抜け出たキャラクターたちが彩るお話は、それはそれはファンタスティックな――

「……空腹時というものはそんな幻想すら生んでしまうものなのですね。まったく、非科学的な」
「なにかいったかね?」
「いえ、なんでもありません」

 くだらない考察をしている間に、準備は整った。

 場所は変わらず見晴らし台。天気は快晴、景色も良好、潮風の香りが食欲をそそる。
 境遇さえ思わなければ最高、境遇を思えば喉の通りが悪くなる、それでも腹は満たしておかなければ困るという世知辛さ。
 唯一、まともな食事にありつけることだけが救いと言えた。

「ナイフに槍、それに加えて『お弁当』とは些か理解に苦しむ組み合わせですが、この場は良しといたしましょう」

 白井黒子はそう言って、付属されていたビニールシートを床に敷き、その上に『最後の支給品』を並べていった。

 それがなくては始まらない、定番の鶏のからあげ。
 きらきらと光る白米、俵型に握られた小さめのおにぎり。
 包むのはベーコン、野菜とお肉のハーモニーが絶妙のアスパラ巻き。
 先端から飛び出た小さな尾っぽ、こんがりきつね色の光沢を放つエビフライ。
 豪勢な重箱の中に、それら代表的にして大人気なお弁当のメニューが敷き詰められている。

「味気のない缶詰では、頭も回らなくなってしまいますものね。では、いただくとしましょうか」

 白井黒子とティーとシャミセン、二人と一匹がシートの上でお弁当を囲う。
 先人切って、白井黒子がからあげに手をつけた。
 パク、と口に運ぶ。白井黒子は死んでしまった。


 ◇ ◇ ◇

124「続・ネコの話」― Destroy it! ― ◆LxH6hCs9JU :2009/10/04(日) 11:33:32 ID:2EHDRRaU
「うぅ〜ん……頭とおなかと間接の節々が麻痺したかのような違和感を訴えていますわわ……こここれはもしやー」
「そう。それはきっと恋のせいね」
「ああ、やはりこのビリビリはお姉様の……ああぅ! そんなに強くされては、黒子はもう!」
「えぇ〜? あんた、いつも嬉しそうに私の電撃受けてたじゃない?」
「あ……っ! 痛っ!? お、お姉様! さすがにこれ以上は体がもたな……きゃあうぅッ!」
「あら、私のパートナーならこれくらい耐えられるでしょう?」
「ぱ、パートナー!? わたくしとお姉様が!? なんという甘美なる響き……黒子は感激です!」
「じゃあ……もっと強くしても大丈夫、よね?」
「うああっん! そ、そんないきなり……ああ、しかしこれはお姉様の伴侶となるために課せられた試練なのですねー!」
「そうね、これは試練ね。ほら、もっと強くするからちゃんと耐えてね……」
「あやうっ! いつもシャワールームやベッドで親睦を深めようとすると拒絶なされるお姉様が……こうも過激に!」
「もう、黒子ったら……ヨダレ、垂れてるわよ?」
「そ、それはお姉様が黒子のことをいじめなさるから……ああうう! ビリビリを弱めないでぇ〜」
「ふふふ。だんだんクセになってきたでしょう? もうこのまま委ねちゃいなさい……」
「委ねます! 委ねちゃいます! 黒子はお姉様と生涯共に歩むことを誓いこの川の向こう岸へと旅立ちま――」


「いきろ」


 ◇ ◇ ◇

125「続・ネコの話」― Destroy it! ― ◆LxH6hCs9JU :2009/10/04(日) 11:34:37 ID:2EHDRRaU
 私の名前はシャミセン。猫だ。
 世にも珍しい、オスの三毛猫をやっている。
 ティーが、私の今のご主人様だ。白い髪に緑色の瞳が印象的な少女で、歳は前のご主人様と大差ないだろうか。
 同行人は白井黒子。リボンで髪を二つに結っており、この年頃にしては物珍しい喋り方をする少女だ。

 その白井黒子だが、つい先ほど死んでしまった。
 支給物資であった弁当を食べたのが原因のようだが、毒でも盛られていたのだろうか。
 なんとも運のない少女である。私には人間の死というものがよく理解できないが、哀れみの感情くらいは抱こう。

「…………」

 白目をむき、口から泡を吹いて倒れる白井黒子。
 ティーは、その無残な表情を眺め下ろしていた。

 語る言葉はない。ただ黙って、RPG-7を持ち上げた。
 新しい弾頭はまだ装填されていない。この場は必要ないのだろう。

「いきろ」

 ティーは無表情に徹したまま、RPG-7を白井黒子の腹の上に投下した。

「げふぅ!」

 嗚咽にも似たうめき声が漏れた。
 死んだかと思われた白井黒子が蘇生した。
 私はこの瞬間、人間でいうところの奇跡というものを目撃したのかもしれない。

「う……わ、わたくしはいったいなにを……頭がふらふら、舌がぴりぴりしますわ……」

 ティーは白井黒子の腹に乗ったRPG-7を素早く取り除き、彼女に悟られぬようデイパックにそれをしまった。
 白井黒子は意識が覚束ないのか、現実を確かめるかのように周囲を見渡している。
 すぐに目の前の弁当に気づき、自身が気を失っていた事実に辿り着いたようだ。

「わたくしとしたことが、なんという失態を……支給品に飲食物という時点で察するべきでしたのに!」

 まったくもってそのとおりだと、私は思う。ティーもそう思っているだろう。
 しかし臨死体験を味わった彼女の表情はどこか清々しく、死んでいるときもなぜか幸せそうだった。
 おかげでティーが蘇生させるべきかさせないべきか悩んでいたようで、箸に口をつけたときから数えてかなりの時間が経っている。

「って、いつの間にこんな時間に!?」

 白井黒子も今、時間の経過を手元の腕時計で確認した。
 先ほどの一口で食欲も失せたのだろう。迅速に弁当を片付け、ティーに出立を促す。

「手早く済ませるはずでしたのに、これ以上の時間はロスできません! すぐに出発しますわよ!」
「…………」
「出発するのは構わんが、いったいどこに向かうというのだね?」

 ティーは喋らないので、私が代わりに質問した。

「北ですわ。より具体的に説明しますと、『消滅したエリア』になりますわね」
126「続・ネコの話」― Destroy it! ― ◆LxH6hCs9JU :2009/10/04(日) 11:36:10 ID:2EHDRRaU
 講釈するように、白井黒子が続ける。

「あちらの『黒い壁』が、RPG-7でも破壊できないということは理解しました。
 とはいえ、それだけで完全に破壊不能と決め付けてしまうのもどうかと思うのです。
 ここはもっと間近から、可能ならば直接手に触れて、今一度『黒い壁』がどういったものかを見極めたい。
 いえ……そもそもこの前提が間違っているとも限りませんわね。
 なにせ、『黒い壁』と『消滅したエリア』がイコールであるとは断言されていないわけですし。
 それも含めて、北上という選択が一番だと考えます。
 まっすぐ進んでいけば、時計回りに増え続けている『消滅したエリア』にぶつかりますもの」

 私とティーに地図を見せながらの説明だった。
 猫である私には理解が追いつかなかったが、彼女の選択は概ね正しいと言えるのだろう。
 ティーも反対はしなかった。もちろん私も反対はしない。

「……本当は、もっと大胆に切り込んだ活動をしていきたいところですけれど。
 いえ、焦ってはだめですね。どこかの誰かさんを意識するわけではありませんが、ここは地道に……ですわね。
 その誰かさんも、先の放送を聞いてどのように動くか……機会があればまたお話したいところではありますが……」

 ビニールシートを畳みながら、白井黒子はぶつぶつと独り言を呟く。
 その誰かさんというのが何者なのかは知らない。彼女の独り言の真意もわかりはしない。
 なので、私もティーも特に口は挟まなかった。

「では、いきましょうか。……ところで、あなた方はあのお弁当には手をつけていませんの?」

 ティーはふるふると首を振った。
 私は言葉で答える。

「いの一番に口にしたキミがああなったのでな。私もティーもそれで警戒に至った」
「そうですの……まあ、なによりですわね」
「相当な危険物のようだが、廃棄は考えないのかね?」
「あら。これはこれで、なにかに使えないとも限りませんわよ?」

 そう言って、白井黒子は黒い笑みを浮かべた。
 やれやれ、こちらのお嬢さんは腹の底でなにを企んでいるというのか。
 人間という生物はまったくもって度し難い。
 かつて私の周りには、『私と会話を成立させていたように思える人間』が複数いたが、彼女たちの度し難さはそれ以上だ。

「……と、ティー? どうしたんですの。もうここは出ますわよ?」

 白井黒子は灯台の階段を下りようとしたところで、ティーが見晴らし台の際に立ったままでいることに気づいた。
 ティーはその無機質な瞳で、海を見つめている。いや、正確には海の向こうに聳える『黒い壁』だろうか。

「ティー?」

 白井黒子がもう一度その名を呼んで、ティーはこちらを振り向いた。
 しかしまたすぐに、海の向こうにある『黒い壁』を見やってしまう。

「名残惜しいのだろう」
「え?」
127「続・ネコの話」― Destroy it! ― ◆LxH6hCs9JU :2009/10/04(日) 11:37:15 ID:2EHDRRaU
 私はなんとなく、言葉を発していた。
 白井黒子はわかっていない顔をしていた。
 私自身、ティーの心がわかったわけではない。


「ぜったいにこわす」


 だが、そう口にしたティーの瞳はいつもと輝きが違った。
 私には、なぜだかそれがわかった。



【F-6/灯台/一日目・午前】

【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、支給品一式、姫路瑞希の手作り弁当@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
1:北上し、『消滅したエリア』の実態を間近で確かめる。また『黒い壁』の差異と、破壊の可能性を見極める。
2:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
3:できれば御坂美琴か上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
 現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。
※黒桐鮮花を『異能力(レベル2)』の『発火能力者(パイロキネシスト)』だと誤解しています。

【ティー@キノの旅】
[状態]:健康。
[装備]:RPG−7(1発装填済み)@現実、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG−7の弾頭×1、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:「くろいかべはぜったいにこわす」
1:RPG−7を使ってみたい。
2:手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
3:シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
4:『黒い壁』を壊す方法、壊せる道具を見つける。そして使ってみたい。
[備考]:
※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。


【姫路瑞希の手作り弁当@バカとテストと召喚獣】
「からあげ、おにぎり、アスパラ巻きにエビフライなどの人気メニューを揃えました。
 ビニールシートもつけておきましたので、屋上でのランチにも最適です。
 あ、デザートにフルーツのヨーグルト和えもありますよ! もちろん手作りです!」
……見た目はいかにも美味しそうなお弁当だが、その『破壊力』は自称『鉄の胃袋』をも容易く沈める。
まともに食らったらば死を覚悟せざるを得ないお味。
128創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 12:26:10 ID:keezxZO3
投下乙です

鮮花とクルツは切ないな……崩れそうになりつつも復讐を目指す女とその先が地獄とわかってても協力しようとする男か
確かに引き返す道も、止めさせることも出来たのに敢えてその道を行くのか……

真面目な考察話だと思ったらw
ただの手作りの弁当で死ぬ寸前まで逝くのかよw
そして黒子とティーの絡みは何かほのぼのするなw
129創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 13:31:30 ID:7D/gwOGI
>396 名前: ◆LxH6hCs9JU [sage] 投稿日: 2009/10/04(日) 11:40:12 gP.Y8bic0
>全部投下しきったところでさるさんくらいました。のでこちらで。
>
>投下終了しました。
>ご意見ご指摘等あればどぞー。

投下乙でした
忘れた頃にやってくる姫路さんの弁当に吹いた。いきろー
130創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 19:21:09 ID:uWiYwh2u
乙です


しかしやはり恐るべし姫路弁当。原作作中でも姫路弁当を用いた毒殺を行ったことがあるが…
黒子はテレポーター、つまり姫路の弁当は最高の武器ということに…!
131創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 19:29:34 ID:9diVbRKu
両者とも投下乙!

>A new 〜
鮮花とクルツ、なんか哀しいな……。
力を求めて魔術を学んだ鮮花が、復讐の力を求めて銃の扱いを習う、か。
辛抱強く探せば銃も見つかる可能性があるとか、マンションの各部屋の様子とか、
先にどう繋がるのか楽しみな要素も散りばめられてるのが面白い。

>続・ネコの話
真面目な話かと思ったらコレだよ!www
姫路さんの殺人弁当に、容赦のないティーの蘇生術w、シャミセンの突き放した語りと実に楽しいお話。
あと最後のティーの決意が密かに怖い。この子は何かやらかしそうだ
132創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 20:37:07 ID:JDtNgmrL
しかしクルツ地獄ってほど大袈裟なもんかね
確かに今まで散々な目にあってるけど、言動見るかぎりそんなに悲壮感無いんじゃないかな
むしろその辺の感情にはきっちり折り合いを付けてたくましく生きてるような
133創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 21:06:26 ID:N8WrhZby
地獄の中でも笑っていられるってだけだろ
サイドアームズとニックオブタイム読んだ?
134創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 21:22:25 ID:RwY46f5W
後は鮮花がそう折り合いつけて生きていけるのかというのもあるかもな
135創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 21:58:34 ID:JDtNgmrL
>>133
読んだ読んだ
だからクルツは地獄とかそんな事言うようなガラじゃ無いよなあとな
まあいいけどな
136創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 22:30:19 ID:BbKe9OX1
確かに、ここでもしクルツが口にしてたら「?」だったかもな>地獄
ただ、声に出さない心の声の範囲なら一解釈としてアリとも思えた。
この辺、たぶん危ういラインのギリギリを攻めてる
137創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 22:51:27 ID:RwY46f5W
口で言ってないからなー。
クルツは元々サイドアームズ見る限り日常の方がいいと思ってる節もあるわけだし。
解釈としてはありありだと思う

そういう意味ではさすが心理のUc氏だ……w
138 ◆LxH6hCs9JU :2009/10/06(火) 00:51:06 ID:MK1KuQfv
トレイズ、川嶋亜美投下します。
139 ◆LxH6hCs9JU :2009/10/06(火) 00:52:26 ID:MK1KuQfv
 ガン、ガン、ガン。

 自動販売機の正面を何度も何度も、壊れるまで蹴りつける。
 電灯の点っていない廊下は、薄暗くて気味が悪かった。

 ガン、ガン、ガン。

 自販機のラインナップを確認してみる。
 コーラ、コーヒー、烏龍茶、果肉入りオレンジ……面白みもない定番。
 トマトしるこ、ホットナタデココ……あ、このへんはゲテモノだった。

 ガン、ガン、ガン、ガコン。ガラガラガラガラ。

 数回に渡って蹴り続けた結果、自販機は我が軍門に下った。
 中に入っていた缶ジュースがごろごろと、滝のように流れ落ちてくる。
 こんな状況だもん、校則違反とか知ったことじゃないし。そもそもここ、大橋高じゃないけどさ。

 あたしは缶ジュースの山からお気に入りのミルクティを発掘する。
 気分的にはホットがよかったんだけど、缶は冷えすぎなくらい冷え冷えだった。
 冷え切った心は簡単に温めちゃくれないってわけか。世知がれぇー。

 ……うん。やっぱり、ここは落ち着く。

 壁際、あたしは二つの自販機の間に隠れるように座っていた。
 少し……時間が許すまで、ここで頭を冷やしてよう。
 もう、さ。ここにいたって誰も声をかけちゃくれないってわかってるけどさ。
 それでもあたしは、ここにいたい。

 そんな気分なんだよ――高須くん。


 ◇ ◇ ◇

140創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:52:43 ID:vVEXYgD4
141創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:53:24 ID:SxBIR4Gf
 あたしとトレイズくんがその放送を聞いたのは、図書館を出てしばらく経った後だった。
 これといった目印もない、地図でいうところのどこっていうのも判然としない路地で、唐突にそれはやってきた。

「祐作と……高須くん?」

 壊滅的にインパクトだった。
 脱落者と称して発表された、十人の人名。
 その中にはクラスメイトの高須竜児と、幼馴染の北村祐作の名前が含まれていたのだ。

 ちょっと、待ってよ。
 高須くんはまだわかるとして、どうして祐作の名前が呼ばれるのよ。
 だって、あたしが確認した名簿には――ああ、そうか。そういえばそうだった。
 名簿に載っている五十人の他にもあと十人、どこの誰かもわからない人間がいるんだった。
 その中の一人に、祐作がいたってこと……ね。
 なによ、それ。

「死んだ……?」

 虚空に向かい、わざわざ口に出して問う。空は答えちゃくれないってのに。
 脱落なんてお茶を濁した言い回しをしていたけれど、つまるところそれは――死んだってことだ。
 高須くんと祐作は、ここに連れてこられてわずか六時間の間に、死んだ。ううん、違う。誰かに殺されたんだ。
 それだけは決定的。覆らない事実。それをどこからともなく響いてきた声に知らされて、あたしは。

「……なんだよ、それ」

 呆然と立ち尽くすことしか、できない。
 それは、あたしの隣を歩いていた彼――トレイズくんも同じだった。
 違うところがあったとすれば、一点だけ。

「――リリア」

 トレイズくんは、放送で呼ばれた十人の故人の名前ではなく。
 あのやたら長くて印象的だった名前を、まだ生きているはずのリリアーヌなんとかさんの名前を呟いていた。


 ◇ ◇ ◇

143創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:54:50 ID:SxBIR4Gf
144創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:55:08 ID:vVEXYgD4
 プルタブに手をかけて、缶を開ける。
 指が一本入るくらいの隙間から、ミルクティの香りがしてきた。

 少しだけ、やすらぐ。
 ほんの少し、気休め程度だけどね。
 こんなもんで亜美ちゃんのブルーが治ってたまるかってんだ。

 そういやここ、なんて名前の学校なんだろう。
 校門を調べれば学校名くらいはわかりそうだけど、入ってくるときには失念してたし。
 自動販売機なんてあるくらいだからまさか小学校ってことはないと思うけど。

 あー、でもなんか……どうでもいいや。


 ◇ ◇ ◇


「……いつまでそうしてるつもり?」

 あれから。
 つまりは放送の後、あたしとトレイズくんは北東への進行を中断せざるを得なくなった。
 原因は八割方このヘタレに、人目につきにくい路地裏で蹲っているトレイズくんにある。

 真横には青いポリバケツまで置いてあったりして、あたしとしては居心地が悪いことこの上ない。
 万が一ねずみや名前すら口に出したくないアレが出てこようものなら……それ相応の責任は取らせてやるんだから。

「ちょっと今後のことを考え直してる。静かにしててくれ」

 おいおい、なんて言い草だよ。
 こっちは一応、心配して声かけてやってるってのに……生意気な。

「今後のこと、ってさー。なにもこんなじめじめしたとこで考えなくてもいいでしょ?」
「誰にも邪魔されたくないんだ。大通りだったら襲われる危険性だってある」
「亜美ちゃんはあんたが落ち込んでいるようにしか見えない。そう言いたいんだけど」
「黙っててくれ。頼むから」
「……なによ」

 塞ぎこんだまま、亜美ちゃんの目を見ようともしない。
 これが今後の方針を練り直す男の仕草かね。さっぱりだわ。
 呆れに呆れてため息も出ない。そんな心境のあたしに、トレイズくんは顔を上げず喋りかけてくる。
146創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:55:36 ID:SxBIR4Gf
「あのさ」
「なに」
「あいつ……人類最悪が言ってた脱落者って、いったいなんのことを指すと思う?」
「はぁ?」

 それはなんとも今さらな質問だった。
 質問というよりは確認だろうか。現実を否定したいがあまり、藁をも掴む気持ちで?
 なにそれ。だいたい、現実否定したいのはこっちのほうだってーの。

 さっきの放送のどのあたりに、こいつがヘタレる要素があったのか。
 それはまだ教えられていないし、あたしには推測することもできない。

「ひょっとしたら。これは仮定なんだけどさ……脱落っていう言葉が、イコール死亡だとは限らないんじゃないかな」

 なに言ってんだ、こいつ。

「たとえば、エリア消失の話があっただろう? あれに巻き込まれた人は、実際どうなってしまうのか。
 俺たちはまだその解を得ちゃいない。俺も一歩踏み込んではみたけれど、確証を得られたわけじゃないんだ。
 だったら、だ。消失っていうのは、必ずしも死と同義ではない……どこか、別の場所に繋がってるとか」

 呆れに呆れてため息も出ない。さらに呆れて、反吐が出た。
 違うでしょうが。仮定だなんだと前置きしようが、それはあんたが口にしちゃいけないことでしょうが。
 守るとかなんとか言ってたあんたがさ、今さら、そんな後ろ向きな希望抱いちゃってどうするのよ。

「つまり……さっき読み上げられた脱落者の人たちは、必ずしも死んでしまったとは限らない。そう言いたいわけ?」
「そう、それ」
「はっ」

 あたしは鼻で笑ってやった。
 そんでもって、


「ふざけんな――――――――――――っっっっ!!」


 我慢しきれずぶちまけてやった。


 ◇ ◇ ◇

148創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:56:36 ID:SxBIR4Gf
 我慢するのにはいい加減慣れっこだけどさ、あれだけはどうにもならなかったよ。
 諭したって悟るタイプじゃないって、彼は。
 鈍感……っていうのもちょっと違うだろうけど。
 う〜ん、なんていうか、褒めるよりは叱って伸びるタイプ?
 なにそれ。亜美ちゃんあいつの母親かってーの。

 ずずず……とミルクティを口に含む。
 味は意外とまともだった。
 少なくとも、支給された水で喉を潤すよりは万倍いい。
 本音を言うとスタバのラテが飲みたい気分なんだけど。

 ……ああ、いや、ううん。
 今日に限っては、スタバよりもスドバの気分だ。
 願うことなら、あの場所に帰りたい。

 みんなでまた、ふざけ半分に宿題囲ってさ。


 ◇ ◇ ◇


 激昂した直後、あたしはトレイズくんの胸ぐらを掴み、俯いていた顔を強引に引きずり出してやった。
 驚いた表情をしている。これはまあ、そうだろう。
 予想と違っていたのは、瞳に熱のある色が点っていたということ。
 てっきりあたしは、こっそり泣いているんじゃないかとも思ったけれど……さすがにそこまでヘタレではなかったようだ。

「あんたさぁ、どうして今になってそういうこと言うわけよ? なに、亜美ちゃんのこと馬鹿にしてんの?」
「……気に障ったなら謝るよ。自分でも馬鹿げたこと言ってたと思う。ごめん」
「今度はすぐ謝るし……なんか言い返したいこととかないわけ?」
「自分の非くらいは認めるさ。亜美さんの気持ちも考えずに失言でした。申し訳ありません」

 イラッとした。
 けれど同時に、威勢を削がれちゃった感じ。
 あたしはトレイズくんの胸ぐらから手を離し、疲れた風に言う。

「話しなさいよ」

 トレイズくんは表情をそのままに、でも今度はちゃんと、あたしの顔を見て立つ。
150創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:57:38 ID:vVEXYgD4
151創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:57:56 ID:SxBIR4Gf
「なんで、急にあんなこと言ったのよ。放送で呼ばれた人たちが、実は死んでないんじゃないか、なんてさ」
「希望的観測だよ。素人の浅はかな思い違いさ。話すことなんてそれだけ」
「だから、その希望的観測に至った経緯を説明しなさいよ」

 知り合ってまだまだ数時間ほど、腹を割って話せる関係ではないけどさ。
 この場はきちんと聞いておかないと、納まりがつきそうにない。
 トレイズくんは数秒ほど迷って、おずおずと口を開いていった。

「さっき、アリソンさんの名前が呼ばれた。リリアのお母さんだ」

 端的に。
 それだけで、すべてが納得できてしまうように、説明してくれた。

 そういえば、苗字が一緒だったっけ。アリソンって人も、トレイズくんが探していた知り合いの一人だったわけだ。
 正直、頭に入れてなかった。一度は入れたのかもしれないけれど、すっかり忘れていた。
 ああ、その程度でもあるってことか。そりゃそうか。顔も知らないわけなんだし。

 こいつにしたって、亜美ちゃんの美貌に寄ってきた男の子の一人に過ぎないんだ。
 高須くんや祐作なんかとは比べるのもおこがましい。

「優しい人でね。リリアにそっくりだったよ。目元とか、俺の意見も聞かずに話を進めるところとか」

 好きな子の、お母さんが死んじゃったのか。
 それなりに交友があったみたい。ってことは、親公認の仲か、もしくは幼馴染かなんかだったのかな。
 いや、王子様とかなんとか言ってた気もするから、ひょっとして許婚とかかも。

 なんて、普段なら楽しい詮索だったんだろうけど。
 今はそういう状況じゃないよね、残念ながら。
 あたしは、酷だろうとは思いつつもトレイズくんに訊いてみる。

「そのアリソンさんが死んじゃって、悲しい?」
「そりゃ悲しいさ。でもさ、それ以上に」

 トレイズくんが、あたしの目を見た。
 視線を逸らさず、強く主張するように言い放つ。

「アリソンさんの死を知ったリリアのことが、心配になった……」

 でもその視線は、すぐに下に向けられてしまう。

「傍にいてあげたい、って、そんな風に思ったんだ……」

 言い終わる頃、トレイズくんの声は消え入りそうなほどに儚くなっていた。


 ◇ ◇ ◇

153創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:58:37 ID:SxBIR4Gf
154創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:58:39 ID:vVEXYgD4
155創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:59:38 ID:SxBIR4Gf
156創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:00:06 ID:vVEXYgD4
 似てるな、って思ってはいたんだよね。
 本命がいるのに、他の女の子にかまけてるところとか。
 ああ、いや、違うな。ううん、これじゃ全然違う人だわ。
 なんていうか……優しいんだよねぇ、あほらしいくらいに。
 それでいて、ずるい。

 普段から変なところばっか気づいちゃってさ。
 目に付くものはもう片っ端からって感じで。
 家の中掃除するのとは訳が違うっていうのに。
 おかげで亜美ちゃん、調子狂わされっぱなし。

 だから、パパ役なんてやってたのかね。
 高須くんだから、タイガーの傍にいられたんだろうね。
 じゃああたしはさ、結局、さ。

 ……トレイズくんにしたってさ、そうなんだよ。
 亜美ちゃんのお守り役なんて、する必要なかったんだよ。
 もっと言っちゃえば、してる場合じゃなかったんだよ。

 いい加減、気づくの遅かったんだよ。


 ◇ ◇ ◇


「ならどうして、こんなところにいるの」

 トレイズくんは、えっ、という反応で亜美ちゃんを不快にする。
 またしても、だ。ホント最悪。デリカシーないし、ヘタレだし。
 リリアって子に同情するわ。こんなんでさぞかし大変でしょうね、って。

「トレイズくんのいる場所、ここじゃないでしょうが。んなこともわかんないのかっつーの……」

 あー……これは、ちょっと、ヤバイ。
 堪えろ。堪えろ、あたし。
 こいつの前で感情あらわにするなんて、死んでもイヤ。
 冷静に、呼吸整えて、言いたいことだけ言ってやろう。

「護るのに理由なんてない? 護りたいから護る? ふざけたこと言ってんじゃねーよ。おまえはドラえもんか、って……」

 なんで。
 なんでこんなヤツに、揺さ振られなきゃ。

「後悔してからじゃ遅いって、なんでわかんないのよ。心配なら傍にいてやりなさいよ。甲斐性なし……」

 これは、誰に対して言いたかった言葉?
 高須竜児か、逢坂大河か、櫛枝実乃梨か、それとも――川嶋亜美?
158創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:01:02 ID:SxBIR4Gf
159創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:01:13 ID:vVEXYgD4
 あたしは、もう……後悔とか、そういう境界踏み越えちゃってるし。
 あたしは……最初から、枠の中には入ってなかったし。
 その枠作ってた人も、もういないし。

「……………………ッ」

 いつからだろう。
 気がつけばあたしは、その場にしゃがんで顔を伏せていた。
 今の表情は、トレイズくんに見せるわけにはいかなかったから。

「亜美さん」

 いつの間にか、逆の形。
 塞ぎこむあたしを、トレイズくんが見下ろしながら言う。

「俺、行くよ」
「……どこに」
「リリアのところ」

 聞きたい言葉が、やっと聞けた。
 みんながそうやって、最初から素直ならよかったのにね。
 そうすれば、こんなことにはならなかったかもね。

「だから、亜美さんとは一緒に行けない」

 だから、遅いって。


 ◇ ◇ ◇

161創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:02:33 ID:vVEXYgD4
「……そして亜美ちゃんはロンリーになったのであった、とさ」

 空になったミルクティの缶を、潰れそうなくらい強く握る。
 ペコペコ、と間の抜けた音が数回鳴って、実際に潰しはしなかった。

 学校に流れ着いたのは、単なる偶然。
 特等席に挟まってみたくなったもの、偶然自販機を見つけたから。
 これからもきっと、偶然に支配されて動くんだろうな。

 ……ここに来て最初に出会ったのがトレイズくんだったのも、些細な偶然。
 フェミニスト気取りの王子様が、ついでと言わんばかりに亜美ちゃんの傍にいたのも偶然、か。
 ま、仕様がないよね。亜美ちゃんってば天然のお姫様気質だし。つい守りたくなっちゃうっていうか〜。

 虚しい。
 誰と話してるわけでもないのに、こんな取り繕う必要ないじゃん。

 とにかく。
 リリアって子のことを気にかけるトレイズくんを見てたら、我慢ができなくなった。
 お守り役に翻弄する男子を見るのはもうたくさん。
 本音隠して上辺だけ取り繕ってる友達なんて、一緒にいても疲れるだけだもん。
 そんなの、あたし一人でいいし。
 鏡見てるみたいで、気持ち悪いし。

 あーあ。

 高須くんも祐作もいなくなっちゃって、あの手乗りタイガーはどうしてるんだろう。
 今の亜美ちゃんはめちゃめちゃ素直だから、声に出して言えるよ。

「あー、心配だなぁ」

 ちょっと白々しいか。
 でも、心配なのは本当。
 あの子、あれで打たれ弱いし。
 かと思えば強かったりもするし。
 けど今回ばかりは、厳しいだろうなぁ。

 それはあたしだって同じなんだけどさ。
 ここにいたってなにも変わらない。
 誰かが見つけてくれるわけでもない。
 下手したら、ずっとこのまま。

 ……脱落者の意味、か。
 ねぇ祐作。あんた、本当に死んじゃったわけ?
 高須くんもさ。その顔で誰に殺されたっていうのよ。
163創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:03:23 ID:vVEXYgD4
164創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:03:28 ID:SxBIR4Gf
「……しんどい、なぁ」

 手の平から、ミルクティの缶が零れ落ちた。
 カラン、カラン、カラン……って、床を転がっていく。

 拾いに行く意味なんてなかった。
 拾いに行きたくなんてなかった。
 あたしは、ずっとここにいたかった。

「少し、休憩…………亜美ちゃんかわいいから、許してね」

 それは、誰に向けた言葉だったんだろう。



【E-2/学校・自販機の間/一日目・朝】

【川嶋亜美@とらドラ!】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】支給品一式、確認済支給品0〜1(ナイフ以上の武器ではない)、バブルルート@灼眼のシャナ、『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』
【思考】
1:しばらくここにいたい。


 ◇ ◇ ◇

166創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:04:14 ID:vVEXYgD4
 かつて、“リリアのお父さん”に言われたことがある。

 まず自分を守り、そして――自分の好きな人を守ってください、と。

 その言葉を、忘れてしまっていたわけではない。
 だけど俺は、心のどこかで楽観してしまっていたわけだ。

 リリアは大丈夫、リリアは大丈夫――と、そんな風に。

 クソッ。
 馬鹿か俺は。なにが大丈夫なもんか。
 これまでに、どれだけ彼女を見てきたっていうんだ。
 アリソンさんと一緒になって微笑んでいる彼女を、どれだけ見てきた。
 どの口が、リリアは大丈夫だなんて吐けるんだ。

 傍にいてやらなきゃ、だめだろうが――!

 リリアが不安がってるなんて口には出せないけれど――じゃなきゃ俺が安心できない。
 彼女の隣は俺の定位置だなんて傲慢を言うつもりないけれど――俺以外に適任なんかいない。

 ああ、そうだ。守るべきは誰でもなくリリアだろうがよ。
 誰彼構わず、なんて俺はいつからそんな器用な人間になった。
 俺は英雄なんかじゃない。魔法使いにだってなれやしない。
 けどたった一つ、リリアの王子様としての席だけは守ろうとした。
168創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:04:54 ID:vVEXYgD4
169創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:05:45 ID:vVEXYgD4
 できることをやるんだ。
 しなくちゃいけないことをするんだ。

 だから俺は、謝らないし振り向かない。
 仮にあれが、亜美さんとの今生の別れになったとしても。
 送る言葉があるとすれば、感謝くらいなものだ。
 彼女がいたから、俺は自覚できた

 祐作、高須くん――その名を口にする亜美さんに、俺は彼女の影を見た。
 そしてその影は、馬鹿な奔走の果てに迎える未来の俺の姿なのかもしれない。
 そんなの、ごめんだ。

「リリア…………ッ!」

 俺はまだ、後悔はしたくない。
 だから今の内に、最善を尽くす。

 そのためには、切り捨てるものだって出てくる。



【E-3/市街/一日目・朝】

【トレイズ@リリアとトレイズ】
【状態】腰に浅い切り傷
【装備】コルトガバメント(8/7+1)@フルメタルパニック、銃型水鉄砲、コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、鷹のメダル@リリアとトレイズ
【所持品】支給品一式、ハイペリオン(小説)@涼宮ハルヒの憂鬱、長門有希の栞@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
基本:リリアを守る。
1:リリアの捜索。彼女を守るためだけに行動し、彼女を守るためだけに最善を尽くす。
【備考】
マップ端の境界線より先は真っ黒ですが物が一部超えても、超えた部分は消滅しない。
人間も短時間ならマップ端を越えても影響は有りません(長時間では不明)。
以上二つの情報をトレイズは確認済。
171創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:06:55 ID:SxBIR4Gf
172 ◆LxH6hCs9JU :2009/10/06(火) 01:06:56 ID:MK1KuQfv
投下終了しました。
支援ありがとうございます。
173創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:13:44 ID:vVEXYgD4
投下乙です。
……深いなぁ。亜美の語りが実に深い。そして痛々しい。
亜美もトレイズも、明らかにマズい選択してるのに……してるのに……!
あてもなく走り出しちゃったトレイズの気持ちも、あえてトレイズの手を振り払っちゃった亜美の気持ちも分かるだけに凄い納得感です。
ああもう、どうなるんだろう。ってかよりによって学校かよ。よりによってトレイズそっちに行くかよ!
いろいろ作中人物にツッコミつつも先が気になって仕方ない! GJ!
174創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:29:18 ID:4yG9Rz68
投下乙です
確かに本当ならまずいのだが、それでも、いいなぁ
亜美ちゃん、マジでいい女w 抱きしめたいよw
トレイズはリリアに出会えればいいんだが学校かよ!
いやあ、俺も先が気になる GJ!
175創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 22:29:35 ID:suim2TFr
ごめん、マジでちょっと泣いた。
いや謝ることじゃないんだけど。
亜美ちゃん、いい女度高すぎるだろ…。
176 ◆olM0sKt.GA :2009/10/09(金) 01:48:05 ID:wyap35Hg
姫路瑞希を仮投下します。
177 ◆olM0sKt.GA :2009/10/09(金) 01:59:28 ID:wyap35Hg
仮投下スレにて投下終了しました。
理由についてもスレの方に書きましたので、よろしければ意見をお願いします。
178創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 02:10:56 ID:05YepYpz
>>177
仮とはいえ投下乙ですー。
個人的には問題はないと思いますよ。感想は本投下の折に改めて。
179 ◆olM0sKt.GA :2009/10/09(金) 18:38:22 ID:wyap35Hg
ありがとうございます。
問題ないということですので、指摘のあった誤字を修正したものをこれよし投下いたします。
180冷たい校舎 ◆olM0sKt.GA :2009/10/09(金) 18:39:56 ID:wyap35Hg
生きるものの絶えた校舎に放送が届く。
古泉一樹木は北に、紫木一姫は南に。それぞれの登場人物は各々の場所に舞台を移した。一時の邂逅を演出した学び舎は静寂を取り戻し、温もりさえ感じる穏やかさの中で日の出を迎えていた。
放送は誰にも聞かれることなく、しめやかに幕を閉じた。朝日の照り返しに光る真新しい校舎もまた、眠りにつくように動きを止めた。
無音の世界となってしばらく。声を無くした姫路瑞希が学校を訪れたのは、そんな曖昧で頼りない時間の中だった。

おぼつかない足取りで正門をくぐり、校庭を越え校舎に至る。その表情は亡霊のように不確かだ。弛緩しきった顔に涙の跡だけが目立つ。普段の爛漫とした美しさを反転したかのような絶望が、彼女の全身を包んでいた。
あてのない行軍を続ける姫路の心身は、救いを求める罪人のそれであった。犯した罪が、彼女を背後から追い立てる。
階段を上る足が鉛のように重かった。罪業を数えるように一歩一歩を段差を踏みしめる姿は、絞首台に向かう囚人のようでもあった。
彼女が真実死を欲していたのだとしたら、それもまた救いとなり得たのかも知れない。
だがそうではなかった。死によらぬ救済をもたらされず、彼女は決して許されない。冷たく乾いた校舎は何も語ってくれない。
愛する人は、影も形も見えなかった。

ろくに力も入っていないはずなのに、潔癖なまでに白く塗りあげられた廊下はよく音を返した。一定の間をおいて続けられるトントンという拍子だけが、僅かに彼女を刺激する。
学校は彼女を拒絶することも受け入れることもしなかったが、姫路にとって安らぎを得られる場所でもなかった。
身近だからこそ些細な違いが気にかかる。下駄箱の仕様が違う。職員室の間取りが違う。教室で使われている机が違う。
ここは、彼女がよく知る「学園」ではなかった。
181冷たい校舎 ◆olM0sKt.GA :2009/10/09(金) 18:41:21 ID:wyap35Hg
立っていられなくなった。磨耗した精神は逆に崩れ落ちることを許さず、白壁にもたれながらずるずると腰を下ろす。
外気にさらされた足から何かいやなものがまとわりついてくる気がして、姫路は体を縮めた。無我夢中で働かされた体が、休息を要求していた。
体育座りのまま、ぼうとした時間を過ごす。光沢を無くした瞳は虚無を見ていた。
考えていることは特になかった。頭の中では黒桐幹也と吉井明久が交互に現れ、ときおり朝倉涼子など他の人物もそれに加わってきた。
ひっきりなしに現れるそれらは像と呼べる程明確な形にはならず、ただ彼女の中の暗い影に吸い込まれるように消えていった。
吉井明久。最後に残ったのはその名前だった。

姫路瑞希がいつの時点で吉井明久のことを好きになったかと言えば、これは正確には答えることができない。
進級時のクラス分け試験のときかも知れないし、Aクラスを目指した試召戦争の最中だったかも知れない。それ以降ということは流石にないだろうが、確たる一瞬を断ずることも難しかった。
いつの間にか、だ。気づいたときには、明るさと活力では群を抜く文月学園Fクラスの中にあって、明久は特別な輝きを持って姫路の中に存在していた。
同じ輝きを秘める親友と火花を散らしたことさえ、思えばかわいらしい思い出だったのだ。
帰りたかった。自分の背負った罪をどうしていいのか分からなかった。昭久と一緒に、何もかも忘れて元の場所に戻りたいという儚い望みだけが彼女を絶望の淵から繋ぎ止めていた。
あのとき助けてくれた「明久君」は、まだ現れない。
182冷たい校舎 ◆olM0sKt.GA :2009/10/09(金) 18:43:03 ID:wyap35Hg
座ってばかりいられないということは分かっていたが、どうしても体が動かなかった。
彼女の精神を支える芯がもう少し細かったならば、過去の思い出に耽溺し今を忘れられたかも知れない。あるいは太かったならば、己の所業と向き合い前に進むことができたかも知れない。
どちらでもなかった彼女は、ただ停滞することを選んだ。
絶望はやがて死に至るという。彼女がそのまま存在を止めてしまう未来も、可能性としてはあり得たのかも知れなかった。

姫路を動かしたのは臭いだ。階下か、階上か。いつの間にか一階に降りてきていたので階下ということはないだろうが、廊下の遙かから線香の煙のように細い臭いが漂ってきていた。
鼻腔への刺激は気付いことが不思議なくらい僅かだったが、姫路にとっては十分過ぎる程に不快だった。
押さえつけていた悪寒が復活して肌の表面に寒気を走らせる。気持ちが悪い。眼尻に枯れたはずの涙が溜まった。
全身が拒否感を訴えている。この臭いは厭だ。記憶にあるどれとも違っていたが、聡明な彼女は直感的に察していた。これは人が死んだ臭いだ。どこかに死体がある。
臭いがする程の死体の状態というのがどういうものか知っていたわけではないが、同じ空間にいるというだけで逃げ出したくなった。
顔を向けるとすぐそこに死体があるような気がして、姫路は臭いの元を見ることさえせずその場からよろよろと立ち去った。
その死体はさっきまで存在せず、姫路が臭いに気づいた瞬間廊下の真ん中にその身を転がしたんじゃないかという嫌な妄想が広がる。
途端、恐怖が走った。その死体が自分の後を追いかけてきているような強烈なプレッシャーを背後に感じたのだ。振り向けば目が合ってしまうような気がして、姫路は前を向くことしかできなかった。

臭いが完全に消える場所まで必死に逃げた。次に気が付いたとき、姫路は学校の廊下にうずくまるようにして倒れていた。どうやらどこかで気を失ったらしい。
それに気付くのにさえ、時間がかかった。
183冷たい校舎 ◆olM0sKt.GA :2009/10/09(金) 18:45:22 ID:wyap35Hg
ブレーカーが落ちたことで少しだけ冷静さを取り戻せていた。怪談じみた恐怖はもうない。
そのまま、さっきまでの全てを妄想にしてしまいたかったが、あの臭いが嘘じゃないことは何となく分かっていた。
多分、自分も死ねば同じ臭いがするのだろう。
温泉も今頃は同じ臭いに満ちているに違いない。その責任の一端が姫路にあるのだとしても、じゃあどうすればいいかまでは分からなかった。
すん、すん、と。鼻音を立てて彼女は泣いた。寝ころんだ床とやたら遠い天井の間で、彼女は一人ぼっちだった。
安らげる場所などなかったのだと、ようやく実感として思い知った。この学校は彼女の通う学校ではなく、この世界はどこまで行っても彼女の知るそれには通じていないということを、まざまざと感じた。
動くこともできず、すすり泣く音だけが吸い込まれては消えていく。
やがてそれさえ聞こえなくなり、校舎は再び時間を止めたかのように思えた。
無音が続く。生者を抱えたはずの世界はガラス細工のような張りつめた静けさを湛えて存在していた。
やがて、床に打ち捨てられた彼女の指に、とん、と言う
柔らかい音が鳴る。視線をやったのは単なる反射だった。

廊下の直線に隠れるように、なだらかなスロープがある。そこから転がってきたのだろう。姫路の指に触れたのは、プルタブの開け放たれた、飲みさしのミルクティの缶だった。
冷えきった手に缶からこぼれた液体がかかる。薄茶色のそれも、冷たかった。
何が刺激になったわけではない。相変わらず、彼女は罪に怯えている。危険から逃げている。助けを求めて、しかし誰にも会えずにいる。
この世界は絶望しているのだ。死に向かってひた走っている場所なら、子供のように膝を抱えて小さくなっていれば一緒に消え去ることもできたはずだ。
なのに、姫路は立ち上がることを選んだ。缶が転がってきた方へ歩く。目は虚ろなまま、動作も緩慢だったが、逃げまどっているだけのときよりは生きている気がした。

それができたのは、やはり、彼女が誰かに支えられていたからなのだろう。


【E-2 学校前/一日目・朝】

【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:精神的ショック大、左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:黒桐の上着
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2
     ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品1〜2個
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:缶の転がってきたほうに向かう。
1:朝倉涼子に恐怖。
2:明久に会いたい
184 ◆olM0sKt.GA :2009/10/09(金) 18:46:52 ID:wyap35Hg
投下終了しました。
185創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 21:09:15 ID:P6tWqZOW
投下乙です
どうなるんだろうな・・・
不吉な予感しかしないな・・・
186創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 21:12:25 ID:NASe1SFO
本投下乙です。
姫路さん、追い詰められてるなぁ……。静かな描写が実に合ってる。
そしてここでミルクティ! 追い詰められた者同士、どんな遭遇になるのか。
すごく気になる引きです。GJ!
187 ◆UcWYhusQhw :2009/10/09(金) 22:37:20 ID:6muN/Xjm
すいません急用が入ってしまい30分〜1時間ほど待ってもらっても構わないでしょうか?
延長の末申し訳ないのですが……
188 ◆UcWYhusQhw :2009/10/09(金) 23:14:45 ID:6muN/Xjm
お待たせしました
帰宅したので、投下始めます。
189創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:16:50 ID:E35dtNMU


―――アリソン・ウィッティングトン・シュルツ



「………………ぁ……あぁ」


呼ばれた。
呼ばれたくなかった名前が。
わたしにとって大切な人が。
わたしにとってかけがえのないの無い人が。


ぁぁ。


リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツに生を与えたママ―――アリソン・ウィッティングトン・シュルツが。



―――死んじゃった。



もう、戻ってこないんだ。
もう、いつもの様に寝ぼけたりしないんだ。
もう、わたしを大好きっていってくれないんだ。
もう、わたしと一緒にいてくれないんだ。
もう、一緒に空を飛ぶこともできなんだ。
もう、一緒にご飯をたべることもできないんだ。
もう、キスしてくれることもできないんだ。


もう、会えないんだ。



あぁぁあぁ……


ママ……大丈夫だって思ってたのに。


おかあ……さん。


嫌だ……嫌だ。



わたしを愛してくれてたたった一人の人。

たったひとりのおかあさん。

たったひとりの大好きな人。


191創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:16:54 ID:i23DB+mE

192創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:17:09 ID:QFYbZrUe
 
193創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:17:33 ID:NASe1SFO
 
なんで、なんで死んじゃうの?


なんでなんでなんでっ!


嫌だ……


わたし……わたしさぁ……


ああ、駄目だ……涙が溢れてくる。



おかあさん、おかあさん、ママ、ママ。



帰って来ない……帰って来ないんだよね。

いくら泣いても、いくら待っても。


帰ってこないんだよね。


ねぇ……わたし


わたし……


本当に



「独りぼっちになっちゃった」







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





195創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:18:16 ID:QFYbZrUe
 
196創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:18:17 ID:NASe1SFO
 
泣いていた。
俺の目の前でリリアが。
俺は、相良宗介は何も出来ない。何も出来やしない。
ただ知っている事は出来ないという事だけだ。

メリッサ・マオも呼ばれていた。
隠されていた10人に彼女が居たとは思いもしなかった。
ショックだったが、今の俺には何も出来はしなかった。
無念と思う心と仇は絶対にとる。
そんな事だけだった。

でも、今は目の前で泣いている少女に対して俺はどうすればいいか解らない。
むしろ、どうにかするべきなのだろうか。
俺は両親がいない。
だから、母親を失うという気持ちが解らない。
仲間を、戦友を失うよりきっと耐え難い喪失の気持ちなのだろう。

そんな母親を失ったリリアにかける言葉なんて何があるのだろうか。
付き合いも浅い俺にどうしろというのだ。
ただ困惑するだけだ。

だが、それでも、リリアがこんなにも苦しんでいるのは俺のせいかもしれない。
俺がリリアを襲ったから。
元々空港に向かうはずだったリリアにちょっかいをかけて遅らせたのは俺だ。
リリアの母親は間違いなく此処に居た。
もし早くついたならば会えていた。

だからリリアを……


「独りぼっちになっちゃった」


そんな時、そんなリリアの声が聞こえた。
その声で、俺は苦しくなってしまう。

……そう、俺がリリアを独りぼっちにしたのかもしれない。

俺と同じく天涯孤独にしたのかもしれない。
リリアはもう独りぼっちだ。
リリアを護ってくれる人はもう居ない。
リリアを心の底から大切にしてくれる人がもう居ないのだ。

俺がもしあの時あっていなければ。

リリアはきっと一人にならなかったのかもしれなかった。


俺はそんな罪の意識に襲われてしまう。
俺はそんな独りぼっちになったリリアに何が出来るのだろう。


何も出来やしない。
198創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:19:58 ID:NASe1SFO
 
俺は彼女の事なんて深く知らない。
彼女も俺のことなんて深く知らないだろう。

そんな俺が。

彼女に出来る事など


「……すまない、リリア」


謝る事ぐらいしかない。
ただ、独りにしてしまった彼女に。


「自分が君に声をかけなければ……」


君は母親にあえたのかもしれない。
その続きの言葉は言えなかった。
俺は下を向きながらそう、呟く。

そして彼女に贖罪出来る事というのなら。

リリアが俺に言った事。
俺に願った事。


ただ、ひとつ俺に願った事。


考える事もできない俺が言われた通りに出来る事。

それは


「だから……代わりに護ってやる」


リリアを護ってあげる事だ。
彼女が俺に言った通りに。
彼女を護り抜く事だ。

罪滅ぼしに俺が出来る事。


ただ、一つ。それだけだった。



200創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:20:34 ID:QFYbZrUe
 
201創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:20:57 ID:NASe1SFO
 
リリアは……


その言葉を聴いて……



「………………何それ」


怒っていた。
泣いてたせいで真っ赤になっている目と同じように顔を赤くしながら。
俺に向かって怒りを向けていた。


「何よそれ…………」


俺はわけがわからず立ちすくむばかり。
リリアは今にも胸倉をつかみかかそうな勢いで。

「ふざけるな……ふざけないでよっ!」

いや、実際に掴んで俺に怒りをぶつける。
俺はわからず立ち止まるばかり。
善意で言ったつもり言葉だった。
なのに彼女はこんなにも怒っている。
俺はただ、解らなかった。


「謝ってママが帰ってくるの? 謝ったらママが生き返るの?  そんな訳無いに決まってる」

リリアはまた涙を溢れさせながら。
俺をただ咎めている。
俺は黙って聞くしかなかった。
リリアの顔を直視できなかった。

「自分の贖罪の為に護ってあげる? 『代わりに』?」

代わりにという言葉を強調して。
俺の胸倉をもっと強くつかむ。

リリアは……怒りながら。

哀しそうに。
切なそうに。

「宗介にママの代わりが出来ると思ってる? それとも………… 」
203創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:22:06 ID:QFYbZrUe
 
204創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:22:20 ID:NASe1SFO
 
涙で目を潤ませた顔を。
強引に俺の顔の前に持ってきて。

見つめて。

とてもとても。

哀しそうに。


「ただ、宗介自身がかなめさんやテッサさんの『代わり』にわたしを護りたいだけじゃないの?」


そう、言った。

俺は何も言えなかった。
何もいえる訳……無かった。
図星だったのだろうか。
解らない。

でも言える事は。

俺はその言葉に何も言えなくなった。

それだけだった。


「わたしは同情なんてして欲しくない。もし贖罪というのなら、それはただの思い上がり」


リリアはそんな俺の行動を一蹴する。
怒りながら、泣きながら、切なそうに。

そして、一度だけ。

切なそうに笑って。


「わたしは宗介の護る代わりの人間になんかなりたくもない。わたしはそんなの絶対嫌だっ!」


そう、俺を拒絶して。
そう、俺に言って。

ドンと強く俺の胸を押す。

リリアと俺の距離が離れて。


リリアの表情は隠れてよく見えなくて。

ただ涙が零れたのをもう一度だけ見て。


「バイバイ」


そう言って。

206創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:23:00 ID:NASe1SFO
 
207創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:23:27 ID:QFYbZrUe
 

リリアは走っていった。



俺はその背に手を伸ばそうとして。



最後まで伸ばす事なんて出来なかった。


俺に何が出来る?
俺がリリアの為に何が出来るというのだ。
俺はただの『代わり』を求めていたかもしれないのに。
俺のせいでリリアを更に傷つけたかもしれないのに。

付き合いの浅い俺に。


リリアの心なんて解る訳がない。


俺はそうして。



立ち止まった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





209創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:23:36 ID:ew5lfgHj
210創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:23:46 ID:NASe1SFO
 
ぼくはもうよく解らなかった。
伊里野の為に殺したのに嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で。

嫌で仕方なかった。

浅羽直之は伊里野加奈の為に人を殺したのに。


嫌で嫌で嫌で仕方ない。

ぼくはそのまま何処かの民家にいって吐いた。
吐くものなんて何もないのに吐いて吐いて。

ぼくは一体何の為に殺したんだろう。

人はあんなにもあっけなく死んじゃう。
その死体にただ嫌悪感しかだせなくて。

ただ、嫌悪感に苛まれている時に放送は始まった。
そして呼ばれた名前。

榎本。

多分、ぼくがよく知ってる人物だと思う。
その人が死んだ。

ぼくは訳がわからず戸惑って。
そして死を噛み締めて。

そのまま床の上に寝そべっていたんだ。
ぼくはそしてまた気持ち悪くなってしまった。
もう一度何かを吐いて。


ぼくは怖くなった。
何でも出来るあの人すらこんなにも早く死んじゃったのに、ぼくは伊里野の為に出来るのだろうか。
解らない、解らなくて。

そもそも殺せるのだろうか。
そんな疑問すらわいて、その時台所で見つけた包丁。
人を殺せる道具を見つけてそんな靄が掛かった想いが晴れた。

殺さなきゃ。
伊里野の為に殺さなきゃ。

殺せるのかじゃない。
殺さないとだ。
212創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:25:34 ID:QFYbZrUe
 
213創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:26:10 ID:NASe1SFO
 

伊里野の為に何としても殺さないと。

殺さないと……!


そう思って僕はあても解らず駆け出したんだ。

走って走って。


そして彼女にあったんだ。

栗毛の少女。

リリアという人に。

殺さないと思って僕は近づく。

まさかあんな事になるとは思わずに。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




215創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:27:04 ID:QFYbZrUe
 
216創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:27:06 ID:NASe1SFO
 



もー最悪……
何が最悪って……わたし自身よ。
何で宗介にあたってる訳。

それで何も解決にならないじゃん……


あーーーもーーーーー


……ママ。
居ないんだよね? もう。
じゃあ、わたしはどうすればいいのかなぁ。

それが解らずにただ私は走っている。
闇雲に、哀しみと罪悪感に逃げながら。

何でかなぁ……

ママ……

ママはどうしてそんなに優しいのかなぁ。

ママが残した手紙。
あんな事書かれていたらわたしは……ママを殺した人を恨む事なんてできない。

ママは優しいから。


じゃあ残されたわたしはどうすればいいのかな?


その答えも出ずただ走る。
そんな時だった。
路地から一人の少年が飛び出してきたのは。
少年が手に持つのは包丁。
わたしを見つめている。

「……貴方は?」

わたしは彼の名前を尋ねた。
だけど、彼は何も言わずに駆け出してくる。

「……きゃぁ!?」

そしてそのままわたしに向かって包丁を振りかざす。
わたしはその瞬間に横とびをして距離をとろうとするが彼はしつこく追って来ようとする。

間違いない。
彼は殺し合いに乗っている。
218創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:28:10 ID:QFYbZrUe
 
219創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:29:02 ID:NASe1SFO
 
その事実に少し怖くなって……そして宗介が居ない事に気付く。
護ってくれる人がいないことに。


あぁ……ばかだなぁわたし。
わたし……少しぐらい頼りにしてたじゃん。


ばかだなぁ……


少年は先ほどと変わらずこっちに迫ってきて。
わたしはそんな少年に追いつかれて。

彼は包丁を振り上げようとして。



……ああ、死ぬんだ。
わたし……


ママ……



「伊里野の為に……死んで」


その言葉を聴いて。



わたしは……




「……今、何て言った?」




彼の振り下ろした腕を寸前で受け止めていた。



ただ。


怒りのままに。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
221創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:29:36 ID:QFYbZrUe
 







立ち止まっている。
何もする事も無く去っていったリリアの方向を見ながら。

俺はただ立ち止まっている。

これでよかったのだろうかと自問する。
だが、答えなど返ってくる訳が無い。

結局俺は何をしたかったのだろう。
すぐさま千鳥達を探さずにリリアと居て。
彼女を護ろうとして。

そしてそれは俺の思い上がりである事を指摘されて。

彼女を傷つけた。

しかし……俺は。

俺は……俺はリリアなんか気にせずに本当は千鳥達を真っ先に探すべきではなかったのだろうか?

それが本来、いや元々此処に来る前から任されていた任務だ。
だからリリアなど気にする必要など無かったのだ。

リリアを護るとかではなくて千鳥達を……だ。

そうでなければならなかったのだ。

だから……もういい。


元に戻ろう。

千鳥達を……護るんだ。
俺が護るべきはリリアではない。


さあ……行こう。

彼女には別れを告げられたのだから。


バイバイと。


その言葉が何処胸に刺さりながらも。


俺は元通りの目的の為に歩き出した。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
223創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:29:54 ID:NASe1SFO
 
224創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:30:50 ID:QFYbZrUe
 







「……今、何て言った?」


ぼくはただ驚いていた。
目の前の少女の咄嗟の行動に。
掴まれた手が振りほどけない。
ぼくは慌てて、でも逆に少女はその勢いでぼくを全力で殴ってきた。
その力に僕は思わず尻餅をついて、そして握っていた包丁を放してしまう。
少女はそのまま包丁を思いっきり蹴り飛ばして不遜に僕を見下ろしている。


「どうしてこうも……バカばっかり……あーーーーーーもう! ふざけるなぁ!」

腕組みをしながらぼくを睨み、顔は怒りで真っ赤に染まってる。
ぼくはそんな彼女の様子に情けない事に竦んでいた。
彼女は僕を指差し力強く言う。

「そんな誰かの為なんて言葉…………ただの思い上がりだっ!」

強く、強く。
その言葉で僕を否定しながら。
髪を大きく揺らしながら力強い言葉を言い続ける。

「伊里野って子好きなんだよね? きっと本当に心の底から……」

少女はそう、呟いて。
優しそうな目線をぼくに向ける。
ぼくは静かに頷いて。
けど、彼女はそのまま怒りに変えた。

「でも、だからといって伊里野を護りたいといって誰かを殺していい理由になってならないわよっ!」

まるで先程会った小さい少女と同じのような事をぼくに言う。
ぼくはその強い言葉にやはり目をそらしてしまう。
その少女は言葉を続ける。
ぼくは彼女の言葉に、情けない事にただ何も言えなかった。

「そうやって、単なるエゴの押し付けなんて…………最悪よ」

そして少女はとてもとても哀しく笑う。
少女の目にはいつの間にか沢山の涙が溢れて。


「わたしはね…………さっきお母さんが何処かで死んじゃった」


そう、哀しそうに告げたのだった。




226創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:31:22 ID:NASe1SFO
 
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「わたしはね……お母さんが何処かで死んじゃった」


そう言った時、わたしはやっぱり心がズキズキと痛んだ。
思い出したママの笑顔が溢れて、たまらず涙が零れていく。
喪失という傷は深すぎて。

きっと永遠に癒えないんだろうと思う。

亡くなった人は戻らないから。

だから


「やっぱり……凄い哀しいわよ……心が壊れそうになるくらい」


凄い哀しい。
苦しくなるくらい。
とても、とても。
心が壊れそうになって。
立っていられなくなってしまいそう。

それぐらい大切な人が亡くなるって事は大きい哀しみなんだ。
そして、それは怒りにもなったりしてしまう。

復讐という形になったり。


でも。
それでも


「お母さんの為に復讐するなんて……絶対に思わない。お母さんもきっとそう願ってる」


わたしはこう思うんだ。
だから、私は復讐なんて思わない。

だって……

ママの手紙に書いてあったんだもん。
あの手紙にはただ、こう書いてあっただけ。

228創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:33:08 ID:NASe1SFO
 
『リリアへ。
 貴方がこの手紙を見ている時、わたしはどうなっているかわからないけど言える事は一つだけ。
 逢えなくっても、わたしは傍に居ます。
 貴方の気持ちが永遠である限り私の気持ちも永遠だから。
 だから……貴方は哀しみや憎しみに囚われず、貴方の思うままに生きてね、リリア。
 貴方はとても優しい子なんだから。
 勿論生きてあえたらそれが一番だけれども。でも解らないから言葉だけ残します。

 どうか幸せに生きてね、愛しています。
                                        アリソン』


って。

そんな事、書かれたら。
そんな事、言われたら。
わたしは憎しみの通りに生きる事なんかできないじゃない。

ママは優しいから。
そうやってきっと殺した人も憎んでないんだろうな。
そんな事思ったら……わたしはもう憎しむことなんて出来やしない。

だって……わたしは……

ママの子だから。たった一人の子供だから。

だからわたしはママの言葉通りに生きなきゃ。


そう思うしかないじゃない。


だから


「わたしは貴方の勝手な思い込みで殺しを許容するなんて……絶対に許さないっ!」


そんな殺しを許す訳いかない。
それがわたしのエゴだとしても。
わたしはそんな殺人を選び取るのは許してはいけないんだと思う。

230創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:33:41 ID:QFYbZrUe
 
231創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:34:02 ID:NASe1SFO
 
それに

「それにお母さんが死んだ哀しみはね……癒える訳が無い。もう二度と会えないんだから……もう二度と笑ってくれないんだから……もう二度と抱きしめてくれないんだから。 
 もう二度と大好きといってくれないんだから……大切な人だったのに……わたしだってだいすきだったのにっ! もう無理なんだからっ!」

大切な人が死んだ。
その哀しみほ御免……ママ……癒える訳は無い。
あえないから。
好きという気持ちを伝えられないのは……

とても哀しい。


ねぇ……貴方は……


貴方はさぁ



「切ないよ……哀しいわよ……ねぇ貴方は……そんな哀しい想いを貴方は他の人に押し付けるのって押し付ける覚悟があるのっ!?
 誰かの大切な人を奪って、哀しみや憎しみに染めるような事、貴方はできる決意があるというのっ!? わたしはそんなに風に見えないっ!」





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







歩く歩く。


俺は考える。




そして、思った。


ああ―――それは堪らなく嫌だ。


そう思って、俺は踵を返し




――――走り始めた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「切ないよ……哀しいわよ……ねぇ貴方は……そんな哀しい想いを貴方は他の人に押し付けるのって押し付ける覚悟があるのっ!?
 誰かの大切な人を奪って、哀しみや憎しみに染めるような事、貴方はできる決意があるというのっ!? わたしはそんなに風に見えないっ!」


少女は泣きながら叫んでいた。
強い強い言葉でぼくを責め立ててる。
ぼくはその言葉を唖然と聞いていた。

そして、何も返せない。

目の前の大切な人を失った少女に対してぼくは何も言えない。
言ったって説得力がある言葉なんて吐けない。
ぼくは大切な人を失っていない。
伊里野を失っていない。

ただ流されるままで居たぼくに。

彼女の言葉に何も言い返せない。
思い上がりとか決意とか覚悟とか……わからない。

何もいえない……何もいえない。

234創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:35:39 ID:QFYbZrUe
 
ぁあ……何かもう嫌だ。

全てを投げ捨てたい。
でも、出来ない。
一人殺したから。

だからぼくは決まりきったような……


これだけは確かといえる言葉を言うんだ。

「それでも伊里野を護りたいんだ。だから何でも頑張ってやる。それが伊里野のためだから」

伊里野を護りたい。
伊里野の為なら何でも出来る。
伊里野の為だから。
そう信じて。


その言葉に……

「伊里野の為……伊里野って人の未来も何も考えてないのに?」

少女は正しく肩を震わせ。
ぼくの方を強く睨み。
ぼくの顔に向かって指をさし

とてつもない大声を上げる。


「何が、『伊里野を護る』よ! 沢山の罪も無い人を殺して何が『伊里野を護る』よ!……護るって言葉は……そんな意味じゃない! 今すぐ自分の歪んだ頭を拳で殴りなさい、バカ! 」


少女は……激昂していた。
ぼくの身勝手かもしれない言葉に。
伊里野のことを考えてないと。
拳を震わせ、『護る』という言葉を強調して。

ぼくは……ただ言葉を紡ぐだけ。

伊里野をこの場所で護るには……この方法しかないんだから。
236創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:37:13 ID:QFYbZrUe
 
237創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:37:32 ID:NASe1SFO
 

「……そんなの関係ない……ぼくがただ伊里野を護りたいだけ。他は知らない」


少女は紡いだ言葉に対して。


「そんな身勝手で……そんな自分よがりの考えで…… 」


今度こそ。
全ての感情をぶつけるように。
ぼくに向かって。


「あんたは悪い人間だーっ!」


そう言い切った。


「あんたは、人間の風上にも置けない悪人だ! 絶対ろくな死に方しないって断言してやる!―――伊里野は護りたい、他は知らない? ふざけるなっ!」

完全に涙は乾いた顔で。
怒りだけで。

そして


「どんな事がやりたくても、どんな理由があっても、そこに無辜の人間の大量死があるなら、そこに誰も想っていないのなら、それは単なるテロだ! 極悪非道の犯罪だーっ!」



そう、ぼくを軽蔑して言った。


「たとえ、伊里野を護りたくても、そこに罪の無い人を殺すというのなら、それに誰も考えてない自分の思い込みなら、それは理由になんかならない、ただの人殺しだっ!
 だから、あんたがいってる事……やってる事は……ただの言い訳だ。伊里野を護るという言葉で何でも解決しようとするエゴの塊だーっ!」

239創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:38:19 ID:QFYbZrUe
 
ぼくはそんな言葉に何も言えず。
でも、沸々とした怒りが溢れてくる。
なんで、こんなに言われないといけないんだ。

何も知らないのに!
何も解らないのに!
何も……何も……!

なのに、この女はなんでそんなに偉そうなんだ!


ふざけ……ふざけるな!


「 煩い煩い!……何も知らないくせに……何も知らないくせにぃいいいい!!!!!!」
「きゃぁ!?」

ぼくは勢いで彼女をドンと押した。
だけどその勢いでぼくもそのまま同じように倒れてしまう。
互いにもみくちゃになって押し倒すような形になってしまった。

そしてふとその少女の身体を見ると。

制服が大きくはだけて、可愛らしいブラと肌が露出して。
スカートもめくれて、下着が露になって。

ぼくはその姿を見て息を呑んだ。
そんな女の子らしい姿に。
今ぼくが力で押さえつけている状況で。
彼女は何も出来ない。


ぼくは……ぼくは……


ああ。


どうにでもなってしまえ。


だったら何でもしてやる。
どんなに軽蔑されようと。
どんなに恨まれようと。

ぼくはぼくのためにやってやる。

そのためなら何も後悔しない。

後はどうなって知らない。


そう想って。

ぼくは彼女の胸を鷲掴みにした。




241創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:39:25 ID:QFYbZrUe
 
242創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:40:21 ID:NASe1SFO
 
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「ちょっ……と……!……やめて……よぉ!……あんた……さい……あくだっ!」

そう、わたしは叫ぶも聞かない。
さっきは抑えられたのに今は彼に反抗する事ができない。
恐ろしい力で押さえつけられている。

手は胸などを蹂躙し始め制服は乱れ始めている。

流石に恐怖し始めている。
けど、ある意味好き勝手言った代償かもしれない。
なんか、これも罰かなぁと自分のことなのに客観に見ていて。

どうにかなる訳がない。

……なんだろうなぁ。

……でも、まぁいっか。


いまのわたしに助ける人も護る人もいないから。
独りぼっちで。
だから、このまま好き勝手されるのだろう。

「……ママ……助けて」

なのにお母さんの名前を自然によんでいた。

ばかだなぁ……わたし。

もういないのよ……ママは。

呼んだって絶対にこない。


「トレイズ……」

勿論あのヘタレもこない。
来てくれるわけが無い。
何処にいるかもわからないのに。
どうでもいい時にいるのに。

トレイズは助けに来ない。



ああ……もう無理なんだな。

護ってくれる人もいない。

244創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:41:23 ID:NASe1SFO
 

だから、きっとここで私は御終い。

ママごめんね……




あー……でも。
もしかしたら……

ううん……わたしが拒絶したんだ。

わたしが解れたんだ。

来るわけ……

「宗介っ……!」


な……


「――――呼んだか?」


い……?


え……?

あの制服。
あの解りやすいむっつり顔。


まさか……


「宗介っ!?」
「うむ……タイミングがよかったみたいだな……リリア、俺は此処に居るぞ」


ぁぁあ……ぁあ。


居た。

此処に。

彼が。


相良宗介が。



私の為に


やって……着てくれた。
246創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:42:48 ID:QFYbZrUe
 






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




俺が辿り着いた時にはリリアは危なかった。
リリアが俺の名前を呼んだ時、俺はちょうど辿り着く事ができた。
そのまま、リリアに乗りかかっている少年を思いっきり蹴り飛ばす。

「ぐぎゃ!?」

少年は吹っ飛び近くの電柱にぶつかっていた。
俺は構わずリリアの安全を確かめる。
服は乱れて少し破れている所もあるようだが、彼女自身は大丈夫だった。
俺は制服の上かけてやってあげる。

「あんたなんで……」
「……考えた」
「え?」
「考えて考えて……」
「うん……」

そして俺が考えて出したその結果を言う。
それは間違いなく俺の本心だった。

「リリアが無残に殺される事、慈悲無く蹂躙される事、俺が見てない所で死んでしまう事―――それが不愉快で見たくなくて嫌った。それだけだ」

単純な事だった。
あのままリリアと今生の別れになってしまう事。
無残に殺される事、慈悲無く蹂躙される事。
それが堪らなく嫌だっただけだ。
俺は千鳥達を探すべきなのかもしれない。
それがミスリルの軍曹である相良宗介がやるべき事で。
俺が優先するべき事だ。

でも、それでも俺は動いていた。
たとえ後悔する事になってもリリアの方に向かった。
底まで突き動かしたのは何かはよく知らないが。
ただ、無我夢中で走っていた。

俺は最善を尽くす。

だけどリリアを切り捨てる事を選ばなかった。

ただ、それだけだった。

「そう…………ありがと」
「うむ……ではまずあいつを」

リリアの疲れながらも気丈な笑みに俺は頷き返す。
そしてそのまま電信柱にぶつかってくらくらしている少年の下に駆け出す。

「ぐぎゃ!?」
「報いは受けて貰うぞ。貴様はリリアに酷い事をしたっ!」

そのまま膝蹴りを少年の腹に。
少年は痛みで屈みこんだが容赦はしない。

「ガッ!?」

そして肘を少年の顔に。
衝撃で少年の歯が折れ、地面に落ちたが気にする事ではない。
俺はそのまま殺そうとナイフを首元に当て

「終わりだ」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」

一閃に引き裂こうとした瞬間




「――――――――殺すなっっ!!!」



リリアの大きな叫びが響いたのだ。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




ぼくは痛みに堪えていた。
宗介と呼ばれた人の蹴りが凄く痛い。
これが報いだというのだろうか。

痛くて痛くて堪らない。

そして宗介と呼ばれた人がぼくを殺しにやってくる。
ぼくは敵う訳も無く彼に暴行されるだけ。
痛くて痛くて。
そして歯も欠損してしまう。

そしてナイフの輝きが見えた時。
ああ、死ぬんだなと思って。

怖いと思って。

思い起こすのは伊里野の顔で。

それを想って死ぬのかなと。
249創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:45:07 ID:NASe1SFO
 

ならそれでいいのかなと想って。

目を閉じた瞬間


「――――――――殺すなっっ!!!」


そんなリリアと呼ばれた少女の叫びが聞こえてきた。
宗介という人は戸惑って反論する。

「だが、リリア! こいつはリリアを……!」
「いいからっ! 貴方がこんな人の為に手を汚す必要なんてないっ!」

渋々といった感じ宗介はぼくの首元からナイフを降ろす。
そして警戒しながら僕を見下ろしていた。

だけど、ぼくはリリアの言葉に戸惑うだけだった。

つまり、ぼくは彼女に殺す価値も無いといわれたのだろうか。


「わたしはねっ……それでも貴方が伊里野の事を本当に大好きで……大好きで仕方ないと思ってた。だからこんな短慮な殺しまでやってるんだって……そう思ってた」

リリアの言葉が続く。
だけど、その言葉はぼくの心を更に抉るような感じがして……とても怖い。


「でも、思い違いだったのかな?……あなたはそんなんじゃない。貴方はやっぱり…………『伊里野』という存在に託けて酷い事をしたいだけっ!」


そして、ぼくの伊里野の想いまで否定されて。
リリアは言う。

決定的な一言を

「貴方は『伊里野』という存在の為にやってるんじゃないっ! わたしを襲うような酷い事を伊里野の為という自己肯定の為にやってるだけだっ!」


ああ……

「貴方は……本当に『伊里野』を好きといえるの!? わたしはそんな歪んだ想い……認めたくないわよっ!」



あぁぁあああああああああああああああああああああああああ。






251創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:46:48 ID:NASe1SFO
 
252創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:47:14 ID:QFYbZrUe
 
その言葉を聴いた瞬間はぼくは駆け出していた。


解らない解らない。
ぼくは何の為にやっていたかわからなくなった。

伊里野の為。
そう伊里野の為のはずなのに。

それを否定されて。
なんでぼくは否定できないんだ?

解らない解らない。

伊里野の為じゃないなら?

ぼくは何の為にやっていたの?

ぼくは何の為にころしたの?



違う!

伊里野の為なんだっ!


なのになのに。


解らない解らない。

自分の心がわからない。
自分の行動がわからない。


でもぼくはきっと酷い人間で殺す価値も無い屑なんだろう。
彼は宗介はヒーローのように現れてリリアを守り抜いた。
でもぼくは伊里野の元に辿り着く事も出来ず助けることすら、殺すことすらできない。

護る事もできないで欲情までしてぼくはなんて人間だろう。


ぼくは伊里野の為といえるのだろうか?


ぼくは本当に伊里野の為に?


わからない。

だから走っている。


もう此処が何処だかわからない。
もうどれくらい走ったかわからない。
254創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:47:47 ID:NASe1SFO
 
255創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:47:55 ID:E35dtNMU
256創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:47:56 ID:QFYbZrUe
 


もし伊里野の為じゃないなら。



ぼくは今までやった事にどうすればいいのだろう?



【C-6/北部/一日目・朝】


【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:自信喪失。茫然自失。全身に打撲・裂傷・歯形。全身生乾き。右手単純骨折。 微熱と頭痛。前歯数本欠損
[装備]:毒入りカプセル×1@現実
[道具]:デイパック、支給品一式 、ビート板+大量の浮き輪等のセット(三分の一以下に減少)@とらドラ!、カプセルを入れていたケース
[思考・状況]
0:????????????
[備考]
※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
※浅羽が駆け出した方向は後の書き手にお任せします。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




258創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:48:49 ID:NASe1SFO
 
「ふう、ここまでくれば大丈夫かしら」
「ああ」

わたしと宗介はあの後、あの場所から離れていった。
わたしがあの場所に居たくなかったから。
今は飛行場近くの草原に居る。

そして、落ち着き始めた今。


「あのね、宗介」


彼と話し合わなければならない。
わたしの今の気持ちを。

「なんだ?」
「お母さんが死んでね、かなしくて、わたしどうしようか迷ってたんだ……ううん、今も」

ママが死んで。
私は哀しくて。
いや、今もその哀しみは消えない。
でも、でもね

「でもね……わたし、お母さんが手紙に書いてくれた通り……生きようと想ったんだ頑張って」

そう、頑張って。
哀しくても。
苦しくても。
それでも。

「だから、わたしは頑張って生きたい。そして憎しみに囚われるような……復讐に囚われるような生き方してる人止めたい」


わたしは、生きていく。

そして、憎しみや復讐に囚われない生き方を……教えたい。

「そうか」

宗介は頷いて。
そして、わたしは

「でもね、わたしはね……無力、こんなにも無力」
「……」
「結局貴方の手を借りた……わたしも弱い、力も心も」

わたしは弱くて。

だからこそ。


2602578-5829-3272 ◆3MYA30euSM :2009/10/09(金) 23:49:35 ID:QFYbZrUe
 
261創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:49:37 ID:E35dtNMU
「お願い、傍に居て」


宗介が傍に居てくれる事を望んだ。


「あんなに啖呵きって、別れもしたけど…………お願い……」


あの時、私の呼びかけに応えた少年に。

傍に居てほしい事を願った。



そして宗介は


「了解した」


短く、でもしっかりした返事をくれた。
私は笑って、


「うん、お願いします」

そう応えた。
何処と無く突き出した拳。

それを互いにぶつけ合った。



「……あれ? 可笑しいな」

涙が出て来ている。


あぁ……やっぱり。


「簡単には癒えないなぁ……お母さんが失った傷……」
「リリア……」
「あはは……はは」


ごめんね、宗介。


ちょっと……ちょっとだけ。


「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!」


今はお母さんの為に。


泣かせて下さい。
263創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:50:32 ID:NASe1SFO
 
264創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:50:41 ID:ew5lfgHj
265創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:50:52 ID:QFYbZrUe
 
266創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:51:20 ID:NASe1SFO
 
267創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:51:50 ID:QFYbZrUe
 



【B-5/飛行場脇草原/一日目・朝】

【リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康、深い深い哀しみ
[装備]:陣代高校上着@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式(ランダム支給品0〜1個所持)、ハーゲンダッツ(ストロベリー味)@空の境界×6、アリソンの手紙
[思考・状況]
0:今は泣く。
1:がんばって生きる。憎しみや復讐に囚われるような生き方してる人を止める
2:宗介と行動
3:トレイズが心配。
4:トレイズ、トラヴァスと合流。

【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:サバイバルナイフ、IMI ジェリコ941(16/16+1)
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜2個所持)、予備マガジン×4
[思考・状況]
1:リリアの傍に居る
2:かなめとテッサとの合流。
3:マオの仇をとる?
269創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:52:06 ID:NASe1SFO
 
投下終了しました。
支援ありがとうございます。
此度は延長&オーバーしてしまい本当に申し訳ありません。
何かありましたら、指摘などよろしくお願いします。
271創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:59:14 ID:NASe1SFO
投下乙。
浅羽ボロボロだなぁ……とことんまで追い詰められてる。
そしてリリアと宗介の関係が……トレイズ殿下ー! 急がないと居場所なくなるぞー!
272創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 00:18:31 ID:oig3wnt8
投下乙です
リリアと宗介がかっこいいやらいい雰囲気やらで何だかいいなぁw
そしてこれじゃあ浅羽は完全に引き立て役だ。これからどうなるんだ?
273創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 01:02:55 ID:POSk5a3Q
投下GJ!
あwwwwwwwさwwwwばwwwwwwwww
もう何も言えねぇwwwwwwwwwwwwwwwww

リリアは宗介と順調に育みつつあるな、色々と。
困難を乗り越えたは良いが、さてどうなるか。
やっぱ母親の死は辛いわなぁ。
274 ◆02i16H59NY :2009/10/10(土) 01:06:58 ID:ausC2QRv
予約していた キノ 1名の分、投下します。
275「契約の話」 ― I'm NO Liar ―  ◆02i16H59NY :2009/10/10(土) 01:07:53 ID:ausC2QRv

朝日が差し込むその病院のロビーは、戦争でもあったかのような有様になっていました。
窓ガラスは割れ、砕け散った茶のみの残骸があちこちに転がり、そして、あたり一面血の海になっていました。
死体が4人分、横たわっていました。
首筋にナイフを突き立てている死体もあれば、刀か何かでばっさり切られている死体もありました。
至近距離からの散弾で、みるも無惨な死体も2つ、ありました。うち1つは、首と胴が離れてしまっているようでした。

そんな戦場跡のような場所に、静かに入ってくる人影がありました。
キノでした。
茶色く長いコートには返り血の一滴もついておらず、帽子の下の顔には喜びの色も悲しみの表情もありませんでした。
肩には散弾式のパースエイダー(注・銃器のこと。この場合は散弾銃)を掛けていました。
腰の片方には長い刀が差されていて、反対側にはハンド・パースエイダー(注・拳銃のこと)を差していました。
そしてキノは、両手で何かを押して歩いていました。
どこで見つけてきたのか、それは何の変哲もない、小さなスクーターでした。

「――ここに連れてきたのは、あなたにボクのことを知って欲しかったからです」

キノは言いました。
それに応える声はありませんでした。

「この4人を殺したのはボクです。ついさっき、やりました。
 こっちにも言い分はあるけれど、でも、この時点で『絶対に嫌だ』と言う人もいると思います。
 もしあなたがそうなら、遠慮なく言ってください。すっぱり諦めます。無理強いはしません。
 ボクはあなたの意思を無視して強引に事を進められる立場だろうとは思いますが、でもそういうの、好きじゃないので。
 できればあなたと協力したい、と思ってますから」

キノは言いました。
それに応える声は、やっぱりありませんでした。
たっぷり数秒間、沈黙を待って、キノは言いました。

「……あなたって、無口なんですね」

やはり、誰も何も答えませんでした。


    ◇   ◇   ◇
276「契約の話」 ― I'm NO Liar ―  ◆02i16H59NY :2009/10/10(土) 01:08:46 ID:ausC2QRv

「まずこっちの人――薬師寺、とか言ってましたっけ? ――は、ボクがこの国で最初に会った人です。
 あまり平和的な遭遇とは言えませんでしたが」

ひときわ損傷の激しい死体を覗き込みながら、キノは言います。
返事をする人も相討ちを打つ人もいませんでしたが、キノはそのまま言葉を続けます。

「一応、こういう状況ですからね。ボクもハンド・パースエイダーを向けて警告しました。
 でも、その警告を無視して刀を抜こうとしたので、撃ちました。そうしないと、たぶんボクが死んでいたので。
 ええ――即死したはずでしたよ。心臓を撃ち抜いたんですから。
 だから、この病院で改めて彼を発見した時は、ボクも驚きました。
 傷が治っていて、さらに今度は毒で死んでるなんて――
 確かに死んていたのが、ボクの目の前で生き返るなんて――
 まあ、彼が生きていた以上、ボクに報復を試みるのは当然と思われたので、また殺すことになったんですけど」

言いながらキノは、近くに転がっていた首を拾い上げました。
首と胴体が千切れるほどの散弾を浴びせられたその顔は、それでもかろうじて元の人物の面影を残している状態でした。
キノは首なし死体の胴体から着物の一部を破くように剥ぎ取ると、それで傷だらけの生首を包み込みました。

「『忍者』の『忍法』。その原理も限界も、ボクにはよく分からないですけど……
 流石にこうして首を持ち去っておけば、もう生き返りはしないと思います。
 まさか胴体から首が生えてきたり、首から胴体が生えてきたりはしないでしょうから」

キノは淡々とした態度で呟きました。
呟いた後、ふと思い出したように、

「……あなたは、どう思います?
 この人、また『生き返る』と思いますか? この生首、どうしたらいいと思います?
 ボクとしては、万が一また生き返っても即座に溺れ死ぬよう、海に捨てておくくらいしか思いつかないですが……」

尋ねて、また十数秒の沈黙を置きました。
当然、返事はありませんでした。
キノは溜息と共に言いました。

「……あなたは、本当に無口なんですね。丁寧に話すのも疲れちゃいますよ」

やっぱり返事はありませんでした。


    ◇   ◇   ◇
277「契約の話」 ― I'm NO Liar ―  ◆02i16H59NY :2009/10/10(土) 01:09:58 ID:ausC2QRv

「こっちで死んでるのが、吉井くん。
 彼は一言で言えば…………バカ、としか言いようがなかったかな?」

キノは今度は、散弾で撃たれているもう1つの死体を指して、遠慮のない言葉を吐きました。
けれどもその顔には、嘲りの色もなければ、落胆の表情もありませんでした。
ただ淡々と、同じ調子で語り続けます。

「彼は、ボクが2番目に会った人でした。
 ちょっと話して、それで、しばらく彼を護衛する『契約』を結びました。
 姫路さん、という人と会うか、その人が死ぬまでという約束で。報酬は、この『箱』でした」

キノはそこで荷物を探って、やや小ぶりの鞄を1つ、取り出しました。
中には暗視装置セットや、小口径拳銃用のサンレンサーや、首を絞めるための暗殺用ワイヤーなどが詰め込まれていました。

「こういう場では、悪くない取引だったと思いますよ。
 その時ボクの手元にあったのは弾数に不安のあるパースエイダー1つと、使い慣れない刀が1本きりでしたから。
 状況が変わればコレを返して『契約』を破棄することもできましたし、ね。
 彼は想像もしてなかったでしょうけれども、物納で報酬の先払いを受けるというのは、つまりそういうことですから」

キノは淡々と語りながら、残る2つの死体の方に歩み寄りました。
眼鏡をかけたままの少年の死体から、力を込めてナイフを引き抜きました。
少しだけ血が零れましたが、心臓が止まってからたっぷり待ったこともあって、返り血を浴びるようなことはありませんでした。
金属探知機に引っかからない、プラスチック製の暗殺用ナイフでした。
キノは死体の少年の服の裾で刀身の血を拭うと、さきほどの暗殺用セットの箱の中に戻しました。

「えーっと、こっちが土屋くん、あっちが朝比奈さん、だったかな?
 どちらも吉井くんと一緒にいた時に、出会った人たちです。ずっと2人で行動していたようです。
 吉井くんと土屋くんは知り合い同士だったらしくて、すぐに馴染んでましたね。
 こんなに無警戒でいいのかな、ってくらいに。裏切りとかもあるかもしれないってのに」

キノの指した先には、背中をばっさりと斬られた少女の死体がありました。
メイドのような服を着て、頭には猫の耳のような飾りをつけている少女でした。

「まあ、ともかくそうして合流して、何故か男の子2人は勢い勇んでこの病院に向かって……
 あとは、さっきも言いましたよね。そっちの薬師寺って人が『死んでる』のを見つけたんです。
 ボクは面倒は御免でしたし、それに……少しは好奇心があったっていうのも嘘じゃない、かな?
 彼ら3人に『生き返った』ばかりで目が覚める前の彼の世話を任せて、隠れて様子を窺うことにしました。
 そして――その結果が、これです」

キノは両手を広げて、少し芝居がかかった様子であたりを見回しました。
血の匂いでむせ返りそうなロビーの中、しばらく沈黙が続きます。
やがて、キノは言いました。

「……君って、とことん無口なんだね。ここは『何で?』とか言って欲しかったんだけど」

今度も、返事はありませんでした。


    ◇   ◇   ◇
278創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 01:11:36 ID:kQMDNoVU
  
279「契約の話」 ― I'm NO Liar ―  ◆02i16H59NY :2009/10/10(土) 01:11:58 ID:ausC2QRv

キノは死体の間を歩いて回って、見落としていた武器や道具がないことを軽く確認すると、スクーターの所まで戻ってきました。
スクーターを止めたあたりは、血で汚れていることもなく、綺麗なものでした。
そして、肩にひっかけてあった4つのデイパックを地面に置きました。
そのまま床にあぐらをかいて座ると、それぞれの中身を探り始めました。

「……ああ、これは荷物の整理をしようと思ってね」

キノは作業の手を止めることなく、言いました。
もちろん合いの手を入れる者も、質問を重ねる者もいません。
それでもキノは中身を床に並べながら、言葉を続けます。

「旅人だからね。余計な荷物は、基本的に増やしたくないんですよ。
 この『デイパック』は重さも大きさも無視できるようだけど、だからって調子に乗るのはよくない」

少しだけ砕けた口調になりながらも、キノはテキパキと中身を整理していきました。
最初に揃えられたのは、全ての参加者に支給された実用品の数々――
筆記用具一式、メモ帳、方位磁石、腕時計、懐中電灯、お風呂と歯磨きのセット、タオルに、応急手当のキットでした。
1つ1つは小さくても、5つも並べられるとそれなりの量になります。
それをキノは、順番に1つ目のデイパックに収めていきました。

「まずは実用品。どこを旅するにも使える、大事な道具だからね。
 それに予備があって困るものじゃないし、需要も高いから、どこかの国でお金に換えるのもたやすい。
 まあ、決して高く売れるものじゃないけど、それでもね」

同様にキノは、4人分の食料と、ほぼ5人分の水とを荷物の中に収めなおしました。
数を確認しながら入れて、ふと気付いて言い足しました。

「ああ、さっき君を見つける直前に、食事は済ませたんだ。
 そこの4人がお茶を入れた設備もあったし、食料には余裕があったしね。
 できればもっと美味しいものを食べたかったけどね。それは今後のお楽しみ、かな」

続いてキノは、名簿と地図も5枚ずつ、荷物に加えました。

「これは予備なんていらないと思うけど、でも、紙というのはそれだけで使い道が多いからね。
 炊き火の時に燃やしたり、メモを取ったり、他にもいろいろ。そう重いものでもないし、あって困るものじゃない」

さっきも手にした暗殺用グッズ一式の入った鞄も、迷わず仕舞いこみました。
ロケット弾も、簡単に故障やトラップが無いことを確認すると、同じようにしまいました。
続けて手に取ったのは、金色の鍵のような不思議な物体でした。キノは言います。

「宝飾品の類は、軽くて小さくて、大抵の国で高く売ることができるんだ。
 とはいえ、誰かを殺して奪ったと思われるとトラブルになるから、特徴的過ぎるものは避けるのが基本。はめてる指輪とかね。
 これは――ちょっと変わっているし、本来の目的は分からないけど、アクセサリーとして売ることができると思う。
 『非常手段』……変わった名前だね。『支給品』だったようだし、誰かの恨みを買う心配もなさそうだ。持っていこう」

次に手に取ったのは、何かの充電器、のように見えますが正確には使い方も意図も分からない小さな機械でした。
キノは言います。

「これ、どこかで見た気がするんだけど……うーん、思い出せないや。気のせいかもしれない。
 エルメスがいれば何か気付いてたかもしれないけど、ボクだけじゃ、『よく分からない』な。
 ああ、『よく分からないもの』は、基本的に危険だね。爆弾とかがこっそり仕込まれてないとも限らないから。
 同じように、ボクにとって使い道のないもの、どこかの国で売れるアテのないものは『要らないもの』、だね」

キノはその機械を、『要らないもの』として脇にどけて置きました。
同じように、望遠鏡のような黒い筒も、キノは説明書を散々読み返した挙句、首を捻りながら『要らないもの』に分類しました。
280「契約の話」 ― I'm NO Liar ―  ◆02i16H59NY :2009/10/10(土) 01:12:51 ID:ausC2QRv

予備の散弾――これは、『要るもの』。一部は散弾式パースエイダーの空きが出来た弾倉に装填し、残りは荷物に入れました。
吉井明久が喜んで着ていた着ぐるみ――これは、『要らないもの』。
さきほど包んだ、男の生首――これは、どこか遠くに捨てる予定とはいえ、今は『要るもの』。デイパックに入れておきます。
そして最後に手にとったのが……

「……大きいなあ」

シンプルなデザインの、かなり胸が豊かな人用らしい、女性用のブラジャーでした。
しばらくそれを眺めた後、キノは、

「……これはボクには『必要ない』ものだし……。
 その気になれば換金できないこともないだろうけど、なんとなく、そこまでする気にはなれないな……」

溜息をつきながら、それを『要らないもの』の方におきました。


    ◇   ◇   ◇
281創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 01:13:07 ID:POSk5a3Q
 
282創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 01:13:58 ID:POSk5a3Q
 
283「契約の話」 ― I'm NO Liar ―  ◆02i16H59NY :2009/10/10(土) 01:14:04 ID:ausC2QRv

「少し、説明が後回しになったかな――」

荷物をまとめ、空っぽになった4つのデイパックを畳みながら、キノは言いました。
やっぱり答える者はいませんでしたが、構わず続けます。

「ただ、ボクもちょっとどう説明したものか悩んでたんだ。理詰めで決断したわけでもなかったし。
 旅の途中での咄嗟の決断には、そういうこともあるんだ。
 『なんとなくだけど、そうした方がいいと思った、だからやった』ってね。
 決断が遅れると、それだけで死ぬこともあるから」

キノは4つの空っぽのデイパックを、最初から持っていたデイパックの中に入れてしまいました。
キノは言います。

「決定的だったのは――ボクと『契約』を結んだ吉井くんが、嘘をついていたことだ。
 『契約』の大前提だった、『姫路さん、という人ならこの状況をなんとかできる』という話――
 それが嘘だったなら、これは契約違反だ。ボクも彼らを守り続ける義理はない」

喋りながら、キノは着々と身支度を整えていきました。
持っていたハンド・パースエイダーに問題がないことを確認し、刀の刀身に血の汚れが残っていないことを確認します。

「もっとも、『ただ嘘をついていただけ』なら、殺しはしなかったと思う。
 あの『死んでも生き返る人』は殺さなきゃならなかったけど、残る3人は放置することもできた。
 『契約違反』を理由に、報酬を引き上げてみてもよかった。
 けど……彼らは、『バカ』だったんだ。だから、殺すしかなくなった」

鞘に収めた刀を腰のベルトに納め、散弾式の大型パースエイダーを肩にかけます。
その状態で、何度か姿勢を変えてハンド・パースエイダーを構え、動きの邪魔にならないかどうか確かめました。

「さっきの『嘘』も、計算した上での『嘘』だったならボクも違う対応があったんだ。
 裏がある場合、それを見抜けば余分に儲かることもある。油断なく交渉できる相手なら、こっちが利用する価値もある。
 でも……物陰で話を聞いていて、そうじゃないことが分かっちゃったんだ。
 そして吉井くん以外の2人も、吉井くんと大差ないことも、分かってしまった。
 『希望』、って言えば聞こえはいいけど、結局、『まだ何も分かってない』ことすら分かってなかった人たちだったから。
 これじゃ、彼らを無理してまで見逃す理由はない。そもそも、薬師寺って人を『もう一度殺す』ことは決まっていたんだしね」

少し刀の位置が気になるのか、キノは微妙に鞘を動かして調整します。
再度、パースエイダーを構えてみて、納得がいったのか軽く頷きました。

「弾の残りや敵味方の戦力にもよるんだけど、『殺す』と決めた時の基本は『殲滅』、なんだ。
 もちろん状況次第では『逃走』や『交渉』も考えるけど、少しだけ殺して少しだけ残す、ってことはあんまりしない。
 だからこそ、『殺すかどうか』は慎重に考えるんだけど、ね。
 パースエイダーで手加減するっていうのは難しいし、そんなことをしてる間にこっちが殺されるかもしれない。
 普段は温厚な人でも、血を見た途端に豹変するってのはよくあることだ――
 実際、吉井くんは持ち慣れないパースエイダーを向けてきたしね。
 でも生き残りが誰もいなければ復讐される心配もない。
 あることないこと言いふらされて、後々面倒に巻き込まれることもない。
 …………。
 『死人に無花果ってやつ?』 『……くちなし?』 『そうそれ』 」

誰かの口真似なのか、最後に口調を変えて一人芝居をしたキノは、数秒の後、がっくりと疲れたように肩を落としました。
恨めしそうな視線を傍らに置かれたモノに向けて、呟きます。

「……ボクが悪かったよ。君はエルメスじゃないものね。
 でも……ここまで無口で通されると、少し、傷つくなぁ……」


    ◇   ◇   ◇
284「契約の話」 ― I'm NO Liar ―  ◆02i16H59NY :2009/10/10(土) 01:15:14 ID:ausC2QRv

「さて――そろそろ、最後の質問をします」

キノは完全に身支度を終え、動き出せる装備を整えた上で、改まった様子で言いました。
それに応える声は、やはりありませんでした。

「ボクが初めてエルメスに乗る前、ボクにとって大きな恩のある『ある人』が言ってました。
 モトラドと乗り手は、『契約』が必要だと。
 互いに助け合う約束をする必要がある、ってね」

キノは言います。
生きてる者が他に居ないロビーで、キノはそれでも、丁寧に説明します。

「モトラドは速く走れるけど、誰かが跨ってバランスを取らないと転んでしまう――
 ボクはモトラドほどに速く走ることはできないけど、モトラドに跨ってバランスを取ることができる。
 2人で助け合えば、より旅がラクに、楽しくなります」

キノは言います。
誰も何も答えませんでしたが、それでも語り続けます。

「ボクの見たところ、君は、1つの国から出たことがないのではないか、と思います。荒野に向いた身体ではないですからね。
 だから説明しました。旅人であるボクが、どういう風にものを考えて、どういう行動を取るのか、ということを説明しました。
 説明をしないで君を騙すこともできましたが、ボクはそういうの、好きじゃないので。
 無自覚とはいえ、吉井くんがしたような真似を、ボクは繰り返したくない」

キノはそして、傍らに止めてあったスクーターに手を載せました。
キノは言います。

「これが最後の質問です――ボクと、『契約』してくれますか?
 ボクは、必要と判断したら人を殺すこともあります。必要と判断したら、殺さないでおくこともあります。
 もう少し現実的な作戦や計画があれば別ですけど、基本的に、他の人を殺して最後の1人を目指すことになると思います。
 だけど世の中には、『何があっても人殺しはよくない』と言う人もいますし……
 君のように平和な国に留まってる人の中には、そういう人もけっこう多いってことも知っています。だから確認しています。
 ……君が無口なのは分かってますが、ここでの沈黙は肯定とみなしますよ。
 拒否されても、ボクは君を元あった場所に戻して、歩いて立ち去るだけです。悪いようにはしません。
 それで――どうですか?」

キノはたっぷり数十秒、沈黙を守って返事を待ちました。
辛抱強く、待ちました。

返事は、もちろんありませんでした。

キノは軽く溜息をつくと、スクーターに跨ってエンジンをかけました。
そのまま、軽快なエンジン音と共に、病院のロビーを飛び出しました。
ガラスの破片を踏み越え走りながら、キノは言いました。

「世の中、エルメスみたいにお喋りなモトラドばかりじゃない、ってことなのかな。
 それにしても、君って本当に、無口なんだね。……そうだ、ところで君、名前は? 何て呼べばいいのかな?」

問いかけられたスクーター(注・モトラドではない)は、やっぱり最後まで何も答えませんでした。
朝日に照らされた街の中、小さくも規則的なエンジンの音だけが響きます。
285「契約の話」 ― I'm NO Liar ―  ◆02i16H59NY :2009/10/10(土) 01:16:05 ID:ausC2QRv

【B-4/市街地/一日目・午前】

【キノ@キノの旅 -the Beautiful World-】
【状態】:健康
【装備】:エンフィールドNo2(4/6)@現実、九字兼定@空の境界、トルベロ ネオステッド2000(12/12)@現実
     スクーター@現実
【道具】:デイパック×1、支給品一式×5人分(食料だけ4人分)、非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ、
     暗殺用グッズ一式@キノの旅、ロケット弾(1/1)@キノの旅 、12ゲージ弾×71、空のデイパック×4、
     薬師寺天膳の生首
【思考・状況】
基本:生き残る為に最後の一人になる。
1:薬師寺天膳の生首を、海かどこか『万が一、もう一度生き返ってきたとしても困らないような場所』に捨てる。
2:エルメスの奴、一応探してあげようかな?
[備考]
※参戦時期は不詳ですが、少なくとも五巻以降です。
 8巻の『悪いことができない国』の充電器のことは、知っていたのを忘れたのか、気のせいだったのかは不明です。
※「師匠」を赤の他人と勘違いしている他、シズの事を覚えていません。


[備考]
 以下のものが病院のロビー、死体の近くにひとまとめにして残されています。
  ボン太くん改造型@フルメタル・パニック、(『悪いことができない国』の)カメラの充電器@キノの旅、
  リシャッフル@灼眼のシャナ、(朝比奈みくるの)ブラジャー

 また、『悪いことができない国』の眼鏡@キノの旅 は土屋康太の死体に残されています。
 キノがスクーターに語りかけた一部始終を記録している可能性があります。


【スクーター@現実】
 キノが病院の駐輪場で発見したもの。キーも病院内の探索で発見した。
 50ccの原付クラス。

 もちろん、最初っから喋ったりはしない。
286 ◆02i16H59NY :2009/10/10(土) 01:16:53 ID:ausC2QRv
以上、投下完了です。支援感謝です。
287創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 03:24:07 ID:kQMDNoVU
投下乙です。
おおう……スクーターをエルメス代わりに現状説明。
キノの説明がわかり易い……
しかしこれは、キノはエルメスを求めてるのかな?w
これからどうなるか楽しみです。
GJでした
288創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 17:42:49 ID:5xhFqfmZ
投下乙です
何だろう? ほのぼのとしてるようで淡々とぶっそうなことを口にしてるぞw
マーダーらしいのからしくないのか首を傾げるがキノらしいわ
キノはキノなりの悟りを開いてるのだろうが……他の人から見たらロワでは勘弁してくれだろうなw
個人的に一度痛い目見ろとか思っちゃいましたw GJです 
289創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 19:55:53 ID:tElNIVe+
乙です

キノ冷静だな
修羅場はバカが原因だったワケで、他二人はとばっちりかw
結果、キノがマーダー路線になったしロワ的にバカはいい仕事したと思う
290創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 22:47:50 ID:SssDSQKN
投下ラッシュ!
えーいみんなまとめて乙だー!


>冷たい校舎
誰もいない校舎の描写が際立つな……姫路さんの心の安寧はまだか
でも実はいる亜美ちゃん。ミルクティの缶が遭遇のきっかけとなるかな?

>リリアとソウスケ〈そして二人は、〉
浅羽が一番悲惨だな……もう頑張れとしか言いようがない
そしてリリア……や、これはむしろ宗介のが悲惨だ。かなめとテッサどうする気だおまえ……

>「契約の話」 ― I'm NO Liar ―
これはいい死亡補完話。天ちゃんの生首持ってくキノは堅実だなwww
スクーター(注・モトラドではない)に話しかける姿がコミカルw
291創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 08:04:13 ID:r+y0+ARG
投下乙

>リリアとそうすけ
割り切れないよなあ。
一番合理的な判断はリリアを見捨てる事なのにそれが出来ないのはやはりそうすけらしい。
そしてあさばWWWWW
もうこいつはなんで毎回地雷ふんでんだ
もうどこに向かってるんだよWWW
しかしあさばと関わるヒロインって何故か精神成長果たすな
反面教師みたいなもんだろうか。

>「契約の話」
キノは、お前は地獄に堕ちろ
292創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 13:06:10 ID:5O+Ty1+X
白純里緒のあたり、続き書こうとしてる人いるー?
293創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 13:11:03 ID:T9m6tnPe
予約は入ってないね。入ってない以上、何か考えてても取られても仕方ない。
逆もしかり。「書こうとしてる人いるー?」なんて尋ねても、他に誰かがサッと予約とったらご愁傷様、で終わり。

ところで、予約期限、今のままでいいのかな。
延長とか増えてきたし、延長しても書ききれないケースも出てるようだし。
厳しい人が多いなら、デフォルトの予約期間、あるいは延長で得られる追加期間を延ばすことも考えるべきかと思うけど。
もちろんサラサラ期限内に書いちゃう人もいるけど、そーゆー人だけでもないようだから
294創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 14:12:20 ID:gRmPdUf0
>>293
確かに最近、期限越えをちらほらと見かけますね。
デフォルトの予約期間を延ばした方が、わざわざ延長申請を申し出る必要が無いので、
「予約期間をプラス1日か2日、延長期間はそのまま」というのを挙げてみる。
295創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 14:21:46 ID:3RoXi/Sb
はげど
期限を二日くらい伸ばした方がいいんじゃないかなーと思う
296創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 21:45:10 ID:F4d/LK47
伸ばした方がいいぞ
これからもっと書きにくい局面が多くなるのに今のままでは支障きたす
297創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 22:33:14 ID:I3FlFN8p
もうどっちでもいいよ
どうせ書き手はアニロワに持って行かれるんだしさ
Lx氏とかは間違いなく向こうに行くだろうし
298創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 22:38:46 ID:rU2w8VV1
>>297
そういう根拠のない悲観的な考えはやめとこう
299創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 22:39:04 ID:F4d/LK47
いちゃもんは他で吐いてね
300創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 23:18:16 ID:D/bNxKVq
とりあえず期限を伸ばす形になるのかな?
後はこの後予約期限も近いし投下されるかもしれないから議論を流さない為にもしたらばの議論スレの方に移らない?
301 ◆LxH6hCs9JU :2009/10/12(月) 00:07:13 ID:0jkCygaG
投下します。
「事実――長門有希は確かに、紫木一姫に殺害されたようです」

 『ロールト・リヴァーで会いましょう』という表題の本をパラパラとめくり、古泉一樹は語る。

「高須くんと同様に身体のほうはバラバラにされてしまっていましたが、首から上は損傷が少なく判別も容易でした。
 普段の彼女からは想像もできなかった表情ですが……まさかそれで別人と断定するわけにもいかないでしょう」

 机の上に本を置き、その上にもう一冊、『ボビーと檸檬』を積む。

「ですがやはり、不明な点は残りますね。なにせ目の前の惨状は、誰がどう検分しても『人間の死』に違いありません。
 長門有希が紫木一姫に敗北した。百歩譲ってこれは肯定しましょう。しかし、だからといってこの死に方はおかしい。
 『機関』のお偉方からの情報を信用するなら、長門さんがこんなにも血生臭い死に様を晒すはずもないのですが……」

 『ブラウ・フラウ・ブラウ』を本棚から取り出し、ページをめくってまた机の上に積む。

「……水槽の話がありましたが、あれはあくまでも能力に関しての喩えであったはず。
 存在そのものの構成情報を変えてしまうほどの力が、彼らにはあるというのでしょうか?
 インターフェイスに過ぎない長門さんの『肉体』を、ただの『人間』に改造……いえ、改変してしまうなど。
 それこそ、情報統合思念体をも超越した、言うなれば涼宮ハルヒの領域に踏み込みうる力だと言えるでしょう」

 隣にあった『レルター・テンスン・ロジジコネルサレ』も手に取り、積む。

「試しに、この『血液』をDNA鑑定にでも回してみましょうか? 今は無理でしょうが。
 サンプルとして『機関』に持ち帰れば、情報統合思念体の未知なる部分が見えてくるとも限りません。
 支給品に試験管でもあればよかったのですが。さすがにペットボトルに汲むというわけにもいきませんし。
 人体収集の趣味はないのですが、この綺麗な『生首』を持ち帰るというのも手ではあるかもしれませんね。
 間違いなく、『機関』にとって有益な情報へと昇華されるでしょう。俗っぽく言うと、宇宙人の脳なわけですから」

 堆くなってきた本の上に、新しく『車輪はただ回るだけ』が積まれた。

「この世界における長門有希は『人間』だった。結果を正しく読み取るなら、正解はこれしかないのかもしません。
 ここまで考えて、同姓同名のそっくりさんというオチではさすがの僕も落胆するというものです。
 いえ。もしくはこれは、長門有希に成り代わった別の誰か――という可能性も捨て切れはしないでしょうか。
 ここはいろいろと特殊なようですから。そういった技術、あるいは能力、もしくは魔法か、それとも忍法か。
 おっと、摩訶不思議な支給品に頼ったという可能性も考慮に含める必要がありましたね。
 僕の場合は『鈍器』と『宝箱』と『爆弾』でしたが、彼女の場合は変身道具かなにかだったのでしょうか?」

 古泉一樹の手には今、『パッケージ・ナインティーン』があり、

「とにもかくにも、これで長門有希の死は証明されてしまったわけです」

 本の山のてっぺんには、『重力は四十五歳で窓を割る』が置いてある。著者は同じようだった。

「彼女がどれだけ環境に対して適応化していたのかはともかくとして、これだけは揺るぎないものと言えるでしょう」

 その上からさらに、と『ケリストネルトネス』と『ルルトネルトネス』を積み、
「では、力量的な面で彼女に大きく劣る僕は、はたしてこの事実をどう受け取るべきなのか」

 『ボルト・アップ ―運命の三叉路―』、『ラムはこう言った』をさらに積んだところで山が揺れ、

「なにも変わりませんよ」

 最後の一冊、『トモッマ・レデヤツイ 〜私の愛の唄〜』を積み切る前に山は崩れた。

「我々『機関』は涼宮ハルヒを『神』と定義し、それを前提として行動する――ならばもちろん、僕もそう在るだけです」

 血の滲む白いシーツの上に、どさどさと名著がなだれ落ちていく。
 生前、大変な読書家であった彼女は、この餞別をどう受け取ってくれただろうか。


 ◇ ◇ ◇


 ――スーパーマーケット。

 伝統的市場の統合、あるいは凝縮とも言うべきその商店は、日本の代表的な小売店として世に普及した。
 食料品に生活雑貨、衣料品に薬品と、多種多様な品物が棚に並べられ、平台に積まれている。
 生鮮野菜や生肉、生魚の類も冷房ケースに取り揃えられており、見た限りでは腐ってもいない。
 今が何年の何月何日なのかはわからないため、消費期限の表示を頼ることができないのが痛かった。

「この鞄って、保冷効果とかあるのかな?」

 さすがにないか、とセルフサービスの氷をポリ袋に詰め、お客様お持ち帰り用の発泡スチロールに入れる。
 中には氷だけでなく、パックに詰められた魚介や豚肉が満載だった。

「あ、インデックスは豚とか食べられない人だったりすのかな。なんかそんな宗教あったわよね」

 どうだったっけかな、と大して悩まずこれを黒い鞄に収納していく。
 生ものが入った発泡スチロールの他にも、ダンボールが五箱ほど。
 こちらには使えそうな日用雑貨やヴィルヘルミナ要望のインスタント食品が詰まっている。

「これも投入……っと。ん。こんなところで十分でしょ」

 上出来上出来、と須藤晶穂は満足げに頷いた。
 買い物を終えて会計を済ませる場所、すなわちレジの付近に、彼女の姿はある。
 山中の神社を拠点とした八人から成るグループ、その物資調達係として使わされた晶穂は、たった今あらかたの作業を終えたところだった。

「本当に、あれもこれも入っちゃうのね。便利っちゃ便利だけど……まあ」

 内容量は無尽蔵という驚異のテクノロジーに感心しつつ、足元の黒い鞄を拾い肩にかける晶穂。
 このスーパーで仕入れた物資は発泡スチロール一箱とダンボール五箱に分けて入れ、デイパックにまとめた。
 八人分ということで結構な量を入れたのだが、肩にかかる重みはここに来る前と大差なく、むしろ軽い。
 これなら難しく考えず、棚にあるものを片っ端から放り込んでいけばいいのではないだろうか。
 とも考えたが、整理が面倒くさくなりそうなのでやめた。
「欲しいものが欲しいときに出てこないってのもあれだしね。さて」

 入店したときとなんら変わりない軽装で、晶穂は店の出入り口ではなく、奥へと向かっていった。
 ここでの用事はもう済んだが、どうやら店内のどこかに忘れ物をしてきてしまったらしい。
 それを見つけないことには、勝手に帰るわけにもいかないだろう。
 と晶穂が疲れ気味に嘆息したところで、その忘れ物は発見された。

「……なに食ってんですか、部長」
「む、須藤特派員。君も一口どうかね?」

 言って、紙の受け皿に盛られた試食用のサラダを差し出す男。名前は水前寺邦博。
 場所は生鮮野菜売り場の一角。ガンガンの冷房が少し肌寒かった。

「勝手に食べていいんですか、そんなの?」
「馬鹿を言うな。客が試食品を食べてなにが悪い」
「あたしら客じゃないですよ。むしろ泥棒です」

 値札がかけられ、価格が設定された商品を店の者に無断で持ち出そうとしているのだから、泥棒には違いないだろう。
 晶穂たちが踏み入ったスーパーは、あたりまえのことだが無人だった。
 目的の品はちゃんと確保できたからそれで問題はないのだが、がらんとした店内はどこか薄気味悪い。
 できることならさっさとここを出たい、といった心境の晶穂を蔑ろに、水前寺はむしゃむしゃと試食のサラダを咀嚼する。

「味、食感、鮮度、どれを取っても異常なしだ。おかしいとは思わないかね?」
「おかしいところがあるとしたら、試食のサラダにそこまでがっついてる部長くらいです」

 水前寺邦博はその中学生離れした体格に見合う大食漢である。
 朝昼晩とガッツリ食う健康優良児ではあるが、なにもそこまで食い意地が張っているというわけではない。
 まあなにかしら考える部分があったりするんだろうな。とは思うものの、その先を予想するのは少し怖かった。

「真面目な話だ、須藤特派員。君はマリー・セレスト号の乗組員失踪事件を知っているかね?」

 案の定、試食のサラダとどう結びつくのか見当もつかない話題が飛び出してきた。

「1872年11月5日、アメリカからイタリアに向けて出航したはずのマリー・セレスト号が、
 同年の12月5日にポルトガルとアゾレス諸島の間の大西洋で漂流しているのが発見された。
 難破ではなく漂流だ。しかし航行しているわけでもない。ただ漂っていただけという状態だ。
 マリー・セレスト号を発見した船はこれに近づき声をかけてみたが、一向に応答がない。
 発見した船は、中でなにか事故が起きているのではないかとこれを訝り、数人の乗組員が確認のため船内に乗り込んだ。
 しかし中はもぬけのから。人っ子一人いなかったという話なのだが、さてマリー・セレスト号の乗組員はどこに消えたのか?」

 興味もなさそうに、晶穂は思ったことを口にする。

「時代が時代ですし、海賊に襲われでもしたんじゃないですか?」
「不正解だ。船内には死体はおろか、血の跡すらなかった」

 試食に使っていた割り箸をゴミ箱に捨て、水前寺が続ける。
305創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:13:16 ID:rlZkXq6t
 
「マリー・セレスト号は無人で漂流していた。しかし、中に人がいた痕跡は確かに残ったままだったのだ。
 船長室のテーブルでは食べかけの朝食が温かいまま残されていたし、調理室では火にかけたまま鍋が煮立っていた。
 洗面所には誰かが今までヒゲを剃っていたような形跡があり、倉庫の中の飲み水や食料は大量に残っていた。
 極めつけは、船に用意されていた脱出用の救命ボートがすべて残されていたという点だろう。
 船内で争った形跡も、積荷が盗難にあった形跡も、乗組員が船外に出た形跡もまるでないのだ。
 さて、ではマリー・セレスト号の乗組員はどこに消えたのか? 須藤特派員、わかるかね?」

 船内に生活の跡を残しておきながら、人間だけが消失したという怪事件。
 新聞部の一員として、水前寺の与太話にはこれまでにも何度か付き合ってきたが、今回はかなり難解だ。
 考えさせられるという要素がある分、余計に難解だ。常なら「知ってるわけないでしょうが」の一言で返す。

「……あ」

 考えるうちに、晶穂は気づいた。
 答えに気づいたわけではない。
 水前寺の語るマリー・セレスト号の事件と、試食のサラダの結びつきについて気づいたのだ。

「客も店員もいないというのに、なぜ試食品などが置かれているのだろうな。こうも新鮮な状態で」

 言われてみれば、そうだ。
 この試食のサラダは、いったい誰が調理し、ここに用意したというのか。

 気にかかるのは試食品だけではない。
 生鮮野菜コーナーの先にある、惣菜コーナーのほうを見やる。
 買い物かごが載ったカートが一台、無造作に放置されていた。
 そして買い物かごの中には、惣菜のパックが数点入っている。
 それが温かいかどうかなど、わざわざ確かめる必要もない。
 そのカートは買い物の途中であったかのように――放置されている。

「先ほど惣菜売り場の中に潜入してみたが、揚げ物用の油がそのままになっていたよ」

 つまり、そういうことなのだ。
 このスーパーは、まるでマリー・セレスト号そのものだと。
 水前寺は新鮮なままのサラダを食べながら、そう言いたかったのだ。

「もっとも、先ほど語ったマリー・セレスト号の話はだいぶ脚色がしてある。
 実際には脱出用の救命ボートなど残っていなかったらしいのだが、この場合はそんなこと関係あるまい。
 仕事中だった店員と、買い物中だった客はどこに消えたのか。いや、どこに消されたのか?
 営業中だったこのスーパーは、いったいどこから持ってきたのか――興味深いテーマだとは思わないかね?」

 晶穂はなにも返答できなかった。
 しかし、無人のスーパーに感じていた薄気味悪さの正体が、これで掴めたような気がした。

「ところで」

 神妙な面持ちの晶穂に、水前寺はやたら高いトーンで声をかける。
307創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:15:06 ID:C8jUwMZs
308創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:15:32 ID:rlZkXq6t
 
309創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:15:54 ID:C8jUwMZs
「我々の護衛を務めると言ってのけた彼女は、いったいどこに行ったのだ?」

 話が摩り替わった。
 晶穂は多少あっけに取られたものの、そういえば部長は食料品を漁っている最中に消えたんだったな、と思い出す。
 なので彼女が一度外に出たことは知らないのだろう。
 ってこれじゃ護衛の意味もないわね、と晶穂は出口への道を目指しながら、水前寺に説明する。

「彼女なら――」


 ◇ ◇ ◇


 須藤晶穂と水前寺邦博がスーパーで物資調達に勤しんでいた頃、はす向かいのゲームセンターでは御坂美琴が一人苦悩していた。

「む」

 美琴の眼前にはショーケースにも似た箱型の機械が一台設置されており、中に収められた景品の数々が彼女の意識を攫う。

「むむむ」

 クレーンゲーム、あるいはUFOキャッチャーという名称で知られるそれにべったりと顔をつけ、美琴はキュピンと目を光らせた。

「むがぁー!」

 かと思ったら、吼えた。
 そしてへなへなと花が萎れるようにその場にへたり込み、「う、う、う、う、う」と悲愴な呻きを漏らした。
 もちろん、誰にも見られていないという状況を理解しての羞恥度外視オーバーアクションである。計算ではなく、天然だが。

「運がいいのか、悪いのか、ぐぬぬ……」

 唸りながら、美琴がUFOキャッチャーの中へ熱っぽい視線を注ぐ。
 その対象は有象無象ではなく、ピンポイントに一つだけ。
 髭を生やしスーツを着た、珍妙なカエルのぬいぐるみにのみ向けられていた。

「こんなところでゲコ太を発見するだなんて……しかもぬいぐるみなんて! 激、レア、じゃん!」

 どん、とUFOキャッチャーに拳を叩きつける美琴。
 透明な壁一枚が、美琴とゲコ太の距離を何倍にも遠ざけていた。

 ゲコ太というのは、現在美琴がご執心中のカエルのマスコットである。
 元は携帯電話サービスの特典として配られていたストラップで、他にグッズ展開はしていなかったはずなのだが、目の前の愛くるしい紳士服姿はパチモンには見えない。

「いやいや、今は遊んでる場合じゃないって。そもそも財布持ってないし、昔からクレーンゲームは貯金箱だって言うし」

 もともと、美琴は『弾』となるコインを求めてこのゲームセンターに訪れたのだ。
 なにも遊びたかったわけではないし、そこで運命的な出会いがあろうとも、時間を無駄にする理由にはならない。
 と、頭では理解している。あとは欲望との闘いだった。
311創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:19:22 ID:C8jUwMZs
「……別に壊したからって、誰が文句を言ってくるわけでもないのよね。無人なわけだし。そうよ。手早く済ませればいいのよ!」

 ビリビリ、ビリビリ、と美琴の身体が電気を帯び始める。
 本気になれば、学園都市を区画単位で停電に至らしめることができる彼女である。
 UFOキャッチャーの一つや二つ、電撃でショートさせることができないはずもない。

 ――カツン。

 邪な考えを抱き始めたとき、美琴の背後で革靴が歩を刻む音が鳴った。
 思わず、全身の毛が逆立つ。ほとんどいたずらが露見した男の子の面持ちで、背後を振り返った。

 そこに立っていたのは、ブレザータイプの制服を纏う男子学生だった。
 さわやかな印象を全身に宿す、細身の姿。柔和な目元は薄く笑み、こちらを眺めている。 
 自分の顔が、かぁーっと赤くなっていくのがわかった。初対面の相手に、見られたくはない一面を見られた。

 そんな感情が先行していたから、彼の右掌の上でふよふよと浮遊する『光の球』に気づくのが遅れた。


 ◇ ◇ ◇


 スーパーのはす向かいに建っているゲームセンターから、爆音が轟いた。
 既に店内から脱し、店先に停めておいたバギーへの乗車を済ませていた水前寺と晶穂が、慌てて降りる。
 なんだなんだと近寄っていったところで、粉塵舞うゲームセンターから一つの影が飛び出してきた。
 ブラウスにサマーセーター、ミニスカートの三点から成る格好の短髪。御坂美琴である。

「何事かね御坂くん! 状況を説明したまえ!」
「げほっ……ぐっ。見りゃわかるでしょ、敵よ敵!」

 美琴は水前寺と晶穂への説明もそこそこに、すぐさまゲームセンターのほうへと向き直った。
 出入り口用の自動ドアは無残に破壊され、外から窺える範囲での店内は業火で燃えている。
 いったい中でなにが起こったというのだろうか。水前寺はその疑問の答えを、すぐに得ることになる。

「おや」

 ゲームセンターから美琴を追うようにして出てきた、その少年の記憶に新しい顔を見て、状況は理解した。

「久しぶり、というほどの時間は経過していませんね。こうも早く再会に至るとは、どういった縁でしょうか?」
「さてな。しかし白昼堂々超能力で市街破壊、その上婦女暴行とは恐れ入ったぞ――古泉一樹」

 見るからに二枚目な容貌、宿している思想にそぐわぬにこやかな表情、一概に悪とは決め付けられない印象。
 以前園原新聞部部長水前寺邦博に対し『超能力者』を自称してのけた愚かな少年が、そこにいた。

「共闘体制にあった高須竜児が死亡してもやることは変わらずか。紫木一姫からはどうやって逃げたんだ?」
「彼女のことをご存知でしたか。ならば話が早い。今では高須くんに代わり、彼女が僕のパートナーを務めています」
「また挟撃狙いとでも言いたいのか? 見え透いた嘘はやめたまえ古泉クン。今の君は単独で動いているはずだ」

 学校で相対したときと同じように言葉を交わす水前寺と古泉。
 そこに表面的な殺意はなく、言動の凶暴性も無に等しい。
 お互いが、腹の底を探り合うように舌を回していった。
「すぐそこに停めておいたバギーに、まさか気づかなかったなどとは言わんだろうな?
 君はそこのスーパーにおれと須藤特派員がいることを知っていた。なのに標的にはしなかった。
 おれたちではなくゲームセンターにいる御坂くんを襲ったのは、彼女が一人でいたからに違いあるまい。
 それに島田特派員からは、紫木一姫は二人がかりでの挟撃など必要がないほどに危険な輩だとも聞き及んでいる。
 わざわざ狙いやすい的を絞らずともおれたちは襲えたはずなのだ。いや、そもそも共闘自体拒みそうな人物ではあるが?」

 水前寺は古泉の襲撃、そして紫木一姫との共闘体制について看破していく。

「ご明察の通りです。彼女にはぜひとも高須くんの後釜を頼みたかったのですが、ふられてしまいまして。
 彼女の糸から命からがら逃げおおせ、独り身となったところで心機一転、とりあえずお一人ご退場願おうかと思ったしだいです。
 それはそうと、貴方のほうも両手に花で羨ましい状況のようですが、前の彼女はどうしたんです?
 そう、貴方が島田特派員と呼んでいた彼女です。島田が苗字と仮定するなら、名簿から外れた十人の内の一人でしょうか。
 僕と高須くんが起こした騒動がきっかけで喧嘩別れしたというならお察ししますが、しかし貴方も節操がない」

 水前寺が語れば古泉もまた語る。
 端に置かれた女子二名は、よくもまあこうも舌が回る男たちだと感心していた。

「ふん。あれだけ痛い目に遭わされて懲りん男だな、君も」
「高須くんは僕とは比較にならないほど痛い目に遭いましたからね。彼の分も奮起しなければなりません」
「ほう。その奮起というのは――『涼宮ハルヒ』を活用して、か?」

 古泉の眉がピクリと釣り上がるのを、水前寺は見逃さなかった。
 やはりか、と確信すると同時、畳み掛ける。

「島田特派員が高須竜児から仕入れた情報だ。『涼宮ハルヒ』なる人物がなにかしら鍵を握っているそうだな?
 なんでも、『皆が揃って助かるかもしれない方法』があるとかないとか。話の出所は君だろう、古泉一樹」

 古泉一樹と高須竜児の共闘関係について、水前寺は詳しく知っていたわけではない。
 しかし、高須竜児が島田美波に語った内容の一部始終で推察はできる。
 謎のキーパーソン、『涼宮ハルヒ』について。最も情報を有しているのは、この古泉一樹に違いないと。

「さて、三対一なわけだが……いい機会だと思わんかね? 我々にも、『涼宮ハルヒ』の話を聞かせてもらおうか」

 『涼宮ハルヒ』の正体がわかれば、古泉が他の人間を襲う理由、そして目的も見えてくるはずだ。
 これは勘にすぎないが、古泉がただ保身のためだけに動いているとは思いがたい。
 なにかしら裏がある。そう考え水前寺は直接これを問いただそうとしたが、

「残念ですが、それはできません」

 答えは簡潔に、古泉の緩く笑んだ口から吐き出された。

「涼宮さんに関する情報は他人においそれと吹聴していいものではありませんので。高須くんのときは特例です。
 でもそうですね。どうしてもと仰るなら、考えないでもありません。一つ、僕と勝負をしませんか?」

 三対一という状況を盾にしての詰問を放ったつもりだったが、古泉はそれをものともせず、勝負の提案という形で返す。
 水前寺以外の二人が女子ということで見くびっているのか、それとも自身の超能力を過信しているのか。
 どこか余裕の態度と窺える古泉に疑念を抱きつつも、水前寺は黙って耳を傾ける。

「勝利条件は、そうですね……『僕があなた方三人を殺し切る前に、あなた方の誰かが僕を無力化する』というのはどうでしょう」

 飛び出したのは、なんとも強気な発言だった。
314創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:21:42 ID:rlZkXq6t
 
「そうすれば『涼宮ハルヒ』について話す、と? しかしおれたち三人を一人で殺すとは随分と大きく出たな。まさか学校での一件を忘れたあけではあるまい」
「お言葉ですが、貴方は僕を過小評価しすぎているのではありませんか? あの場ではつまらない挑発に乗ってしまいましたが、今回はそうはいきません」

 水前寺に電気銃で撃退されたのを忘れたわけではないらしい。
 たしかにあのときは、上手く挑発が機能したのと、地の利を活かせたのと、逃走のための足が確保できていたからの、三つの条件が重なっての勝利だった。
 正面からの真面目な『勝負』ともなれば、小細工が利かない分、水前寺の勝ち目は薄い。
 そうわかってはいても、古泉の強気な提案に対抗しないわけにはいかない。

「知っているか超能力少年? そういうのを、負け犬の遠吠えと――」

 水前寺が言い返そうとして、しかし言い終わるよりも先に、古泉がその力を行使し始めた。
 全身が淡く輝き、光のドレスを纏う。持ち上げた右掌から、光の球が発現した。
 水前寺を追い掛け回していたときのそれとは、明らかに威圧感が違った。

「貴方にお見せした超能力など、僕の力の一端に過ぎない――と言ったら、どうします?」

 このときばかりは、さすがの水前寺も息を呑んだ。
 古泉の標準装備とも言うべき微笑が、一時だけ邪悪な色に染まる。
 眼前の未知なる輝きには横の晶穂も驚いているようで、一歩分後ずさっていた。
 そして、襲撃者古泉に第一の標的と定められた御坂美琴は、

「へぇー」

 と、大して驚いた風でもない平坦な声を上げる。

「それがアンタの『能力』。ふむふむ。はぁー、なるほどねー」

 感心しているのか納得しているのかそのどちらでもないただのポーズなのか、よくわからない態度を取る。
 他三人が彼女の言動を怪訝に思う中、美琴はスカートのポケットを探り、一枚のコインを手に取った。

「それじゃ、さっきのお返しもあるし……私も一つ見せてあげちゃおっかな」

 右手で緩く拳を作り、親指の爪に当たる部分にコインを乗せる。
 その状態で右腕を古泉のほうへと伸ばし、狙う。
 パチ、パチ、と美琴の周囲の空気が鳴いた。

 そして、美琴の親指がコインを弾く。

 ピン、と勢い良く放たれたそれは回転力はもちろん、電磁石の原理を応用した反発力を伴い、一直線に前へ。
 ほとんどレーザービームと称しても間違いではない威力と速度で、古泉の掌にある光球を撃ち抜いた。
 しかしそれで失速などはせず、そのままドゴン、と古泉の背後にあるゲームセンター内部へと到達。
 中に置かれていた機械がまた爆発する様子が、外からでも見て取れた。

 それら、すべて瞬きの間に。

 須藤晶穂はあんぐりと口を開け、燃え盛るゲームセンターを唖然と眺めている。
 古泉一樹は光球が消えてもなお掌をそのままに、そっと背後を振り返っていた。
 水前寺邦博もやはり驚愕は隠せず、しかし声までは失わない。
316創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:22:39 ID:rlZkXq6t
 
317創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:23:57 ID:rlZkXq6t
 
「……なるほど、それで『超電磁砲(レールガン)』か」

 呟き、神社で顔を合わせた際に知った彼女の肩書きを思い出す。
 学園都市にわずか七人しか存在しないとされる『超能力者(レベル5)』。
 その界隈でも最高峰と言える『電撃使い(エレクトロマスター)』。
 常盤台中学が誇る最強無敵の『超電磁砲(レールガン)』。
 いかにも強そうな用語の数々は、実際に強さの証明だった。

「で、これでもまだ私と『勝負』だなんて戯言が吐けるのかしら?」

 ポケットからもう一枚コインを取り出し、指で真上に弾く。電気は帯びていない。
 美琴の表情はどこか得意気だった。それも古泉の反応を受けてのことだろう。
 あんなものを見せられれば、戦意などすぐに消沈してしまう。

「……ふっ」

 古泉一樹はやれやれと言わんばかりに首を振り、そして、

「ええ、これは実におもしろい勝負となりそうです」

 変わらずの微笑で、宣言の撤回を拒む。
 これには、美琴が呆れた様子を見せた。

「あんた、バカ? 私とあんたの能力とじゃ、天と地ほども差があるのよ。勝ち目なんて――」
「まともにやり合っての勝ち目は、たしかに薄いでしょう。ですが、今の一撃で勝算はあることがわかりました」

 古泉の不敵な発言に、美琴が顔を顰める。
 勝ち目は薄いが勝算はある、という言葉の意味が理解できないのだろう。

「目にも留まらぬ速さでコインを打ち出し、僕の能力すら霧散させてしまうその威力は恐るべしです。
 もし人体で受けようものなら、どの部位であったとしても跡形もなく消し飛んでしまうでしょうね。
 頭が吹き飛ぶか、四肢が弾け飛ぶか、腹部に風穴が開くか、いずれしても、命中は死を意味します。
 あまりにも強大で、それでいて絶対的な破壊の技。それゆえに、手加減も利かないのではないですか?」

 古泉の指摘に、美琴が「むっ」と唸った。
 反応から見るに、どうやら図星らしい。

「ならば、あなたの勝利方法は『僕を殺す』しかない。先ほどの力の使用を前提とした話ではありますが。
 あなた方が涼宮さんの話にどれだけの興味を抱いているかはわかりませんが、僕の口は生かしておきたいのでしょう?
 いえ、たとえ涼宮さんに関する情報を僕が有していなかったとしても、あなたに僕を殺すことはできないはずです」

 違いますか、と古泉は尋ねる。
 美琴は答えなかった。
 沈黙が答えとなった。
 水前寺は分析する。

 先ほどの、『超電磁砲(レールガン)』。
 一見しただけでもわかるその驚異的破壊力は、手加減がどうのこうのといった次元ではなかった。
 当たれば木っ端微塵。それは対象が機械だろうが人体だろうが関係なく、一撃必壊だ。
 命が備わっているなら、当然それは潰える。人間に当てれば、死ぬ。殺してしまうのだ。
319創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:26:29 ID:rlZkXq6t
 
320創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:27:04 ID:C8jUwMZs
321創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:27:11 ID:rlZkXq6t
 
322創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:27:36 ID:lwLs4/4X
323創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:28:52 ID:rlZkXq6t
 
324創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:29:16 ID:C8jUwMZs
 なら、古泉一樹に『超電磁砲(レールガン)』は使えない。
 使えば彼を殺してしまうから。美琴に殺人の意思はないから。
 美琴の異能は、強すぎるがゆえに封殺されたも同然なのである。

「……たしかに、さっき見せたのは加減が利くような力じゃないわ。けどね、私の力があれだけだなんて――」
「もちろん、それだけを理由に勝算を見出したわけではありませんよ」

 反論を試みようとした美琴に対し、古泉は鷹揚に微笑んで見せる。

「三対一。彼は現在の状況をそのように解釈していましたが、僕はそうは考えません。
 僕にとって、彼と彼女は数の内には入らないからです。
 これは紛れもなく一対一。お荷物を背負っている分、貴女のほうが不利ではあるでしょうが」

 言いながら水前寺と晶穂を指す古泉。
 一度辛酸を舐めた相手である水前寺すら、古泉は敵というほどの障害にはなりえないと断じた。
 これに憤慨するところはない。実際、水前寺本人もそう見ている。
 二人の異能者が睨み合うこの状況下、自分と晶穂は明らかに足手まといだ、と。

 ――ならば、考えようもある。

 水前寺は一人、美琴の耳元にまで寄り、古泉には聞こえぬようひっそり声をかけた。

「御坂くん。単刀直入に訊こう。我々は邪魔かね?」
「は?」
「おれと須藤特派員は、あのエセ超能力者をぶっ飛ばす上で君の足手まといになるかと訊いているんだ」
「そりゃ、本音を言うと一人のほうがやりやすいけどね。けど問題ないわよ。あれしきの能力者、私の実力なら――」
「そうか。わかった。ではこうしよう」

 美琴からの返答を受け取ると、水前寺は今度は晶穂のほうへ向き直った。

「須藤特派員。部長命令だ。荷物を貸したまえ」
「へ? あ、はい」

 晶穂が持っていたデイパックを預かり、それを美琴のほうに投げてよこす。

「ちょっと、なによこれ」
「調達した物資だ。食料品に生活雑貨、薬品に衣料品とすべてそれに入っている。持ち帰ってくれ」

 端的に告げる水前寺。続けて、晶穂の腕をつかんだ。
 頭の上を疑問符でいっぱいにしながら、晶穂は半ば引き摺られるように水前寺に連行されていく。
 辿り着いた先がバギーの助手席だった。水前寺は晶穂にシートベルトを締めるよう促し、自身は運転席に座る。

「では、我々は事態が収束するまで逃げ回っていることにする。午後六時までには拠点に戻ろう」

 と、車中から車外の美琴へと、これまた端的に告げた。
326創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:30:01 ID:lwLs4/4X
「健闘を祈るぞ、御坂くん!」

 一応の激励としてその言葉を残し、フルアクセル。
 水前寺が運転するバギーはエンジン音を轟かせ、美琴と古泉のもとより遠ざかっていった。

 去っていったのは二人。残されたのは二人。
 須藤晶穂は水前寺邦博に拉致も同然な形で同行を強いられ、御坂美琴と古泉一樹はただ呆然とその出立を見送る。
 運転席のバックミラーに美琴と古泉の間抜けな顔が映り、しかし水前寺は悪びれた様子もない。

「ちょ、ちょっと水前寺〜っ!?」

 背後からそんな声が響いてきても、ブレーキを踏むことはなかった。


 ◇ ◇ ◇


 逃げた。
 誰がどう見てもそうとしか解釈できないほどに逃げた。
 いや、本人としては足手まといにならないようこの場から退避したかっただけなのかもしれないが、それにしたってもっと言いようがあったはずだ。
 水前寺の奇天烈な行動には、説明が欠けすぎていた。

「見捨てられてしまいましたねぇ」

 標的を二人取り逃がしたことになる古泉は、しかし笑みのまま置き去りにされた美琴を揶揄する。
 古泉一樹を無力化し、『涼宮ハルヒ』に関する情報を聞き出す。これを達成するには、確かに一人のほうがやりやすい。
 水前寺は気を配っただけなのだ。そうに違いないのだ。わかってはいる。わかってはいるが。

「女の子一人に任せて男がとんずら、ってのもどうなのよ……」

 バチ、と美琴の前髪が音を立てて弾けた。
 火花にも似た閃光が彼女の周りで発生し、古泉は瞠目する。
 放電現象。静電気体質などというレベルを超越した電圧が、音で相手を威嚇する。

 バチバチバチバチバチバチ、と、いつの間にか。
 美琴の足元のアスファルトが、黒く焦げていた。

「なるほど。電撃使い……といったところでしょうか。興味深い能力です」
「『超電磁砲(レールガン)』。それが私の異名よ」
「名は体を表す、というわけですか。貴方に相応しい異名だと思いますよ」
「上等じゃない……その減らず口、今すぐ感電させてやるわ」

 臨戦態勢はすでに整っている。
 これから始まるのは、殺すか口を割らせるかの『勝負(ゲーム)』。
 対立するのは共に能力者、『電撃使い(エレクトロマスター)』と『超能力少年』の二人である。


 ◇ ◇ ◇

328創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:31:05 ID:C8jUwMZs
 戦場から遠ざかっていくバギーの速度は、速い。
 アクセルペダルを踏む運転手、水前寺に躊躇いはなかった。
 あの場を御坂美琴に任せ、遁走を決め込むことになんら悪気を感じていない。

 実際の心情としてはどうなのか知らないが、少なくとも須藤晶穂の目にはそう映った。
 だからこそ、許せない。

「なにやってんですか部長! 御坂さん一人に任せちゃって、男として最低だと思わないわけ!?」
「落ち着きたまえ須藤特派員。あの場にいておれたちができたことなどなにもない。せいぜいが足を引っ張るくらいだ」

 助手席から騒ぎ立てるが、水前寺は視線を進行方向に預けたまま、平坦にこれを諌めてくる。
 須藤晶穂と水前寺邦博は火と油のような関係だ。ここぞという場面では馬が合わない。口論の回数も数え切れないほどである。

 そんな晶穂がなぜ、水前寺が部長を務める新聞部などに属しているのか。
 それには複雑な事情が、というほどでもなく、もう一人の男子部員の存在が起因となったことも自覚してはいる。

 彼なら。浅羽なら、今の部長の行動をどう捉えただろうか――と。
 晶穂は怒りの端でそんなことを考え、感傷に浸る。

「それに、絶好の機会でもあったわけだしな」
「絶好の機会? いったいなんの――」
「これよりおれは、浅羽特派員の捜索に向かう」

 だからこそ、水前寺がそう発言したときには考えを見透かされているような心持になった。

「浅羽……の? なんですって?」
「君にも同行の権利はあると思うが、どうだ」

 水前寺からの誘い。
 晶穂は思考する。

 浅羽を、捜す。その目的は、語らずとも容易に察することができた。
 水前寺は浅羽を正そうとしているのだ。山から街へ下りる際、事細かに浅羽のことを訊いてきたときから予感はしていた。
 部長として、友人として、人殺しの道に進もうとしている浅羽を、ぶん殴ってでも更正させるに違いない。
 水前寺邦博とはそういう男だ。悔しいが、浅羽への理解度は誰よりも深い。

 そんな水前寺が、同行者として自分を誘っている。
 一度は浅羽の説得に失敗した、この須藤晶穂を。

「もちろん、無理強いはしない。これは神社に残してきた彼女たちを裏切るにも等しい行為だ。
 今ならまだ距離も離れていないし、古泉一樹に見つからぬよう一足先に神社に帰るという手もあるぞ。
 これから先、おれについてきたからといって安全が保障されるわけでもないからな。むしろ危険な旅路になるかもしれん」

 川に流された浅羽の行き先は見当がついている、と水前寺は言う。
 バギーという足があるとはいえ、それなりの時間はかかってしまうだろう。
 神社に残してきた皆には、多大な迷惑をかけてしまうことになる。
 いや、そもそも無事に帰れる保障だってないのだ。
330創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:32:30 ID:rlZkXq6t
 
331創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:33:28 ID:RKX0I79k
332創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:34:21 ID:rlZkXq6t
 
 気を失ってしまった逢坂大河のことが、気がかりではある。
 壁の調査に向かったテッサたちの報告が、楽しみでもある。
 一人だけ戦場に残された御坂美琴のことが、心配でもある。

 どれもこれも気になる。
 だがそれ以上に、晶穂の中では依然――浅羽との因縁が燻っている。

 もう一度会いたいとは思っても、もう二度と会えないかもしれない。
 機会があるとすれば、おそらくこの一回限り。
 拒めば、水前寺は自分を下ろして一人で浅羽を捜しに行くのだろう。
 一緒に行く、ただそれだけを口にすれば、このまま助手席に座っていられる。

「今も神社からどんどん遠ざかっていっている。迅速に決断したまえ、須藤特派員」

 返答を急かされた。
 時間が許せば、小一時間ほど悩んだだろう。
 しかし、晶穂はここで決めた。
 決めざるを得なかった。

「あたしは――」

 水前寺はアクセルペダルを踏む力を緩めることなく、その返答を受け入れる。



【D-2/北東・道路上/一日目・午前】

【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーを運転中
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!、シズのバギー@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
1:晶穂の返答を待つ。その後、バギーから降ろすか、一緒に行くかを検討。
2:浅羽捜索のため、北東の方角へと移動する。
3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
4:浅羽が見つからずとも、午後六時までには神社に帰還する。

【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーの助手席
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:なし
[思考・状況]
1:水前寺と共に浅羽を捜しに行くか、それとも一人で神社に帰るか、決断する。
2:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。


 ◇ ◇ ◇

 戦鐘が鳴って古泉がまず取った行動といえば、一時退却だった。

「あれだけ大見得切っといて、ケンカのやり方がせこいってのよ……!」

 不平を漏らしつつも、美琴は街中を走って古泉の姿を捜す。
 近辺はオフィス街とも住宅街とも言い表しがたい雑然とした街で、人が潜むのに不自由はないように見える。
 駐車場付きの二階建ての家宅に、24時間営業のコンビニ、駐車スペース四台分程度の駐車場、廃れたビル、
 昼間だと言うのにシャッターの閉まった銀行、ファミリーレストラン『Beny's』といった新鮮な街並みが目に映った。

「さて、アイツはどこにいるかな、と……」

 まさかあのまま逃げた、などとは思いたくない。
 正面からの攻防は不利と考え、潜みながらの闇討ちを狙っていると見るのが妥当だ。
 敵の攻撃を座して待っているのも馬鹿馬鹿しい、と美琴は街中を東奔西走、動きながら古泉の出方を待つ。

 軒先に特売のケース売りビールなどが積まれた酒屋の角を曲がったところで、それは見つかった。
 バレーボール大の球が一つ、淡い採光を放ちながらふよふよと宙に浮いている。
 傍らに古泉一樹の姿はない。

「……?」

 訝る美琴の背後、その気配は突如として現れた。
 『おすい』と書かれたマンホールが音を立てて弾け飛び、下水道の中から古泉お得意の光の球がもう一つ浮かび上がる。
 美琴が後ろのそれに気を取られた直後、前方でただ漂っていただけの光の球も動きを見せた。
 前と後ろ、両方向から光の球が迫り来る。

(遠隔操作も可能、ってわけね!)

 美琴は俊敏な動作で横に跳び、地面を転がりながらこれを回避する。
 二つの光球は互いに衝突し、消滅。急な方向転換までは難しいようだった。

(アレ自体が意思を持っているとかそういうわけじゃないだろうし、だとしたらアイツは私が見える範囲に……いる!)

 学園都市でも見たことがない、未知の能力である『光の球』。
 発現させ、操ることがその本領と見て取れるが、さすがに自身の視覚外にあるものは操作できないだろう。
 ならば攻撃を受けたこの瞬間こそが好機と捉え、美琴も負けじと能力を行使する。

「こそこそ隠れてないで、出てこいやぁ――――っ!」

 左右前後を確認した後、放電。対象を指定せず、無差別に電流を送り込む。
 酒屋に置いてあったビール瓶が一斉に破裂した。向かいの理髪店の看板が黒こげになって弾けた。
 頭上を伝う電線が焼き切れた。猫避けに置いてあったペットボトル入りの水が破裂した。雷でも落ちたような被害だった。

 美琴を中心とした半径十メートルほどが電撃の余波を受け、しかし標的の悲鳴は聞こえない。
 賛嘆に値する徹底したヒットアンドアウェイ。付き合う側としてはストレスが溜まることこの上なかった。

「また走らせるつもりかい……っ」

 ビリ、と美琴の憤懣を表すように火花が散る。
 古泉の嫌みったらしいほどにさわやかな微笑みを思い浮かべると、イラつきはさらに増した。
335創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:35:23 ID:rlZkXq6t
 
336創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:35:44 ID:lwLs4/4X
337創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:36:05 ID:rlZkXq6t
 
338創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:36:52 ID:C8jUwMZs
 常盤台の『超電磁砲(レールガン)』相手に、『体力の消耗を狙う』などといった戦法は通用しない。
 大抵はスタミナが切れるよりも先に終わらせてしまうからだ。御坂美琴の攻撃力はそれほどなのである。

(とはいえ……ここに来てからの違和感も考えると過信してはいられないわよね。
 放送でアイツが言ってた話も気になるし、土壇場で電池切れでも起こしたりしたら目も当てられない)

 せめて無駄な力の放出は抑えたい。そのためにはやはり、きちんと古泉の姿を視認しなければ。
 あの光の球、攻撃方法はなかなかにトリッキーだが、防御にまで応用が利く能力とも思えない。
 さすがに『超電磁砲(レールガン)』を使うわけにはいかないが、電撃を叩き込むだけでも無力化は容易だろう。

 何度目かの奔走を続け、やがて美琴は古泉の姿を発見する。
 これまでの行動が冗談かなにかだったかのように、隠れもせずにただポツンと立っている影。
 景色に溶け込んでいると言っても過言ではない。危うく見落としそうになった。走り抜ける横合いの月極駐車場に。

「どうも。お探しの僕、古泉一樹です」

 古泉は数年ぶりの知人にでも会ったかのような様相で、手を振っていた。
 美琴は駆ける足にブレーキをかけ、停止。古泉に向き直る。
 駐車場には二台の乗用車が停めてあった。ハードトップとミニバン。空きスペースが四台分ある。
 古泉は駐車場の中央に立っており、その背後はブロック塀。逃げ場のない袋小路。思わず、美琴の口元が歪んだ。

「いよいよ観念した、ってわけ?」
「ええ。一度、正攻法で貴女を迎え撃ってみたくなりまして」

 古泉はそう言って、右手に握っていたものを指し示す。
 遠くからでも傷や凹みがわかる、使い古した野球バットだった。

「能力で劣るからって、今度は武器に頼りますか。しかもただのバット。私も見くびられたものね」
「なにを隠そう、僕は超能力者であると同時に天才野球少年としての顔も持っていましてね」

 相も変わらずふざけたことを言う口である。
 いい加減辟易し始めた美琴をよそに、古泉はその場でバットを構えた。

「リクエストします。貴女お得意の『超電磁砲(レールガン)』――僕に寄越してみてください」

 まるで、バッターボックスにでも立つかように。
 マウンドではなく駐車場入り口に立つ美琴を、投手かなにかと仮定して。
 『超電磁砲(レールガン)』を寄越せ、それをかっ飛ばしてやるからよ――と。

「ふざけんのも……っ」

 これにはさすがに、堪忍袋の緒が切れた。
 スカートのポケットからゲーム用のコインを取り出し、古泉に向ける。
 美琴の周りでまた、空気が震動した。怒りがそのまま、力のブレーキを外してしまう。

「大概に、しろってのよぉ――っ!!」

 やれるもんならやってみろ、と美琴がコインを指で弾いた。
 超速の『超電磁砲(レールガン)』は古泉がバットを構える真横を狙い、一直線に伸びる。
 大リーグ投手のストレートすら比較にすることはできないその『弾』に、しかし古泉は表情を崩さず、
340創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:37:11 ID:rlZkXq6t
 
「ふん……もっふ!」

 バットを一閃、これをホームラン。
 カキーン、という爽快な音が電流を帯びたコインを軽々空へと上げ、そして消えた。

「……………………なっ」

 そんな馬鹿な、と零れんばかりの驚愕が美琴を襲う。
 快打を披露した古泉はバットの具合を確かめながら、

「ふむ。どうやって飛距離を稼いでいたのか疑問でしたが、なるほど。そういう風に情報を改変していたわけですか。
 バットがボールを追うだけならまだしも、彼の妹さんですらスタンドに運べてしまうわけですからね。
 物理干渉の法則性自体を変え、涼宮さんのご期待通りにしたと。いやはや、さすがの手腕と言うべきでしょうか」

 美琴を打ち負かした余韻になど浸ることなく、ぶつくさと訳のわからないことを呟いている。

「も、もう一回よもう一回! まぐれは二回も続かないんだからね!」
「いいですよ。受けて立ちましょう」

 美琴がまた、電撃に乗せてコインを放った。
 古泉がバットを振り、これを虚空へとかき消した。

 快音の響きがなんとも馴染む、午前の青空だった。

 わかってはいるのだ。まぐれなどあるはずがない。
 そんな不確かなもので、『超電磁砲(レールガン)』が攻略されるなどあってたまるものか。
 こんな珍事、常盤台中学で知れればたちまち大ニュースである。
 《超能力少年古泉一樹、御坂美琴の『超電磁砲(レールガン)』をホームラン!》――など。

 笑い話にもならない。

「……三度目の正直よ、構えなさい」
「ええ、構いませんよ」

 ポケットからまた新しいコインを取り出し、親指の上に載せた。
 古泉は「どうせ当たるから」と言わんばかりのだらけたフォームでバットを構える。
 電流が迸った。周囲の空気がはためいた。勢いで雷雲すら呼んでしまいそうだった。

 パチン、と美琴の親指がコインを弾いた。
 その速度は実に、音速の三倍と検証されている。
 電磁力の反発によって打ち出されるそれが、金属バットなどで打ち返せるはずがない。

 打ち返せるはずがないのだ――絶対に。
 追尾機能でも備わっているのか、古泉のバットがコインを真芯で捉えた。
 ドゴン、と快音が轟き、バットの上半分が木っ端微塵に砕け散った。
 続いて、古泉の背後にあったブロック塀が弾け飛んだ。

「おや」

 驚いた風に、古泉はバットをしげしげ眺める。
 コインに触れた部分が綺麗さっぱりなくなってしまっている。
 どうやら、二度あることは三度あるとはいかなかったようだ。

「なめんじゃないわよ」

 語気重く、美琴が言う。

「どんなふざけた能力だか知らないけど、私の力が通用しない相手なんてこの世で『二人』しか存在しないのよ」

 怒りを込めた、だからこそ静かな語り。言う『二人』とは、美琴にとって因縁深い人物である。
 一人は、『一方通行(アクセラレータ)』。七人しかいない『超能力者(レベル5)』の頂点、つまりは学園都市最強の存在。
 彼のベクトル変換にかかれば、いかな電撃を放とうとも容易く反射、もしくは受け流されてしまう。
 そしてもう一人は、名簿にも名を連ねている『無能力者(レベル0)』の少年。 

「ふむ……さすがの長門さんといえど、高速で射出されるコインとの接触など想定の範囲外でしたか。
 バット自体の耐久力をあとほんの少し上げておいてもらいたかったところですが、言っても始まりませんね。
 まあ二度も持ち堪えただけ上出来としましょうか。ただの『鈍器』として活用するよりかは、役割が見出せました」

 アイツの、上条当麻のみょうちくりんな力の前では、たとえ古泉の超能力といえど――と。

「……って、無視すんなやこらぁ――――――っ!!」

 バットにばかり注意がいき、まるで美琴の話を聞いていない古泉だった。
 もはや問答無用、と美琴は手中に、目に見えるほどの巨大な雷撃を形成する。
 槍のように先端を鋭く尖らせたそれを、古泉目掛けて思い切り投擲した。

「おっと」

 途端、古泉の身体が淡く発光し、真上に跳躍した。
 無重力にでもなったかのような高さまで上がり、真下を雷撃の槍が突き抜ける。
 また軽やかに着地して、依然微笑は崩さない。

「いやはや、身内の作ったものなので期待していたのですが、そう上手くはいきませんね」

 損壊したバットを放り捨て、嘲笑。
 美琴は怒髪天をついた。

 そのときだった。
343創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:39:32 ID:rlZkXq6t
 
344創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:39:59 ID:lwLs4/4X
345創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:40:16 ID:rlZkXq6t
 
346創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:40:18 ID:RKX0I79k
347創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:40:19 ID:C8jUwMZs
348創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:40:45 ID:lwLs4/4X
 距離を詰めようとした美琴の進路を塞ぐようにして、駐車場に業火が渦巻く。
 なんの前触れもなく、ほとんど天災に近い形で、その炎は空からやって来た。
 美琴と古泉は、揃って上空を見やった。一人の少女の姿が、そこにある。

「なっ……!?」

 目を見張る中、空を飛んでいたその少女は駐車場へ降下する。
 放った炎は早々に消え、しかし少女の像は陽炎のように歪んだ。

 見た目の年齢は自分たちと大差ない。小柄な体格は比較対象として白井黒子を呼び起こさせる。
 仰々しいことに漆黒のコートを羽織っており、チラリと見える中の着衣は見慣れない学生服だった。

 特筆すべきは、髪と背中。

 少女の髪は紅蓮の二文字がぴったり合致するほどに紅く染まり、そしてなにより『燃えている』。
 背中からは荒鷲を思わせるほどに巨大な『炎の翼』が生えており、今もなお微かに、少女の身を宙に浮かせていた。

 人と見るには異様すぎる出で立ち。歳不相応なまでに凛とした佇まい。首から下げたペンダント。右手に握った木刀。
 炎のように燃える髪と、灼熱のように紅い眼が印象的な少女は、美琴と古泉の間に割って入り、そして告げた。

「どちらが先かは知らないけれど、二人とも今すぐ戦闘をやめなさい」


 ◇ ◇ ◇


 翼での形状維持に、自身の頭髪の燃焼、さらに先ほどの『火炎放射(フレイムスロアー)』。
 あのような形で炎を繰るなど、『発火能力者(パイロキネシスト)』の力の範疇を超えている。
 それこそ、『超能力者(レベル5)』の領域だ。
 しかし『超能力者(レベル5)』の域にいる『発火能力者(パイロキネシスト)』など、美琴は知らない。

「なに、アンタ?」

 ぶっきら棒に尋ねる言葉の端で、おおよその見当はついていた。
 おそらく、能力者ではない。古泉と同じく、別の『物語』に住まう人間だ。
 力の原理はよくわからないが、実力は『超能力者(レベル5)』と断定しきれる。
 それほどの威圧感が、対峙する美琴に生唾を飲み込ませた。

「言っておくけど、襲ってきたのはそいつのが先よ。私は一方的な被害者なんだからね」
「それはあんまりな言い草ですね。こちらは危うく、消し炭にされるところだったというのに」

 軽口を叩く古泉の表情も、どこか険しい。明らかに余裕がなくなっている様子だった。
 少女は炎髪の熱気に反し、極めて冷淡に言葉を紡ぐ。

「どちらが先か、なんて本当はどうでもいいのよ。私は、おまえたちが争っているのを見たから止めに来ただけ。
 無用ないざこざなら仲裁役を買って出てもいい。双方共に殺意あってのことなら――二人とも討つ」
350創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:41:14 ID:rlZkXq6t
 
351創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:41:52 ID:lwLs4/4X
 炎の翼がフッと消え、代わりにどちらに向けてでもなく木刀を構えた。
 突如として戦闘に介入してきたイレギュラー因子を前に、古泉は押し黙る。
 一方、美琴は、

「おもしろいじゃない……」

 少女の行為を『ケンカへの参加』と解釈し、電流の流れを止めるどころかむしろ活性化させる。

「どうにも、ここに来てからなめられっぱなしなのよねぇ……ガウルンとかいうおっさんといい、零崎といいさ」

 今に至るまで自身に感じていた不甲斐なさ、古泉に向けていた敵愾心を、そっくりそのまま少女に転化して、

「ここには黒子もいるってのにさ……常盤台の『超電磁砲(レールガン)』が、このままじゃいられないでしょうがっ!」

 名誉挽回のために、もっと言えば溜まりに溜まった憂さを晴らすために、美琴は電撃の猛威を振るう。
 傍に止めてあったハードトップが、電撃の余波を受けて弾けた。ボンネットから煙が噴き出し、タイヤは破裂して車高が下がった。
 少女と古泉がその事態に刮目する中、美琴は右掌を中心に磁場を発生させ、駐車場の砂利から砂鉄を引き寄せる。
 集まった砂鉄は少女が握る木刀を意識し、剣の形を形成。刀身全体が黒く澄んだ色をしていた。

「忠告はしたはずよ。やめる気がないって言うんなら、容赦はしない」
「お生憎様。私、売られたケンカは倍の値段で買い取る主義なのよ、ね!」

 美琴が駆ける。砂鉄の剣の先端を突き出すように構え、一直線にそれを放った。
 少女はその刺突を微細な動作でかわし、わずか身を翻して美琴の背中に木刀の峰を打った。

「あでっ!?」

 間の抜けた声を上げて、美琴が転倒。砂利の地面に思い切り顔を滑らせた。

「刃が振動してる?」
「そのようだな」

 少女の独り言に、遠雷のような重い声が返したように聞こえたが、気にしていられない。
 美琴はひりひりとする顔面を摩りながら、立ち上がってまた砂鉄の剣を構える。

 少女の言うとおり、砂鉄で作った刃は音こそ静かなものだが高速で振動し続けている。
 触れれば切れる、ではなく、触れれば切断される、といった次元の切れ味だ。
 美琴が構えるのは、剣というよりは小型のチェーンソーに近かった。

「う、りゃ! こ、のぉ!」

 少女もそれを理解しているのだろう。安易に木刀で受けようとはせず、後退しながらの回避に努めている。
 顔色一つ変えないところが癪に触り、美琴は必要以上に剣を振り回してこれを追った。
 横薙ぎの一撃を、少女が跳躍して避ける。停車されていたミニバンの屋根の上に、トン、と乗った。
353創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:42:47 ID:lwLs4/4X
「ちょこまかとぉ――っ!」

 距離が開いたのを鑑みて、美琴が攻撃方法を切り替える。
 前髪が、避雷針のようにピンと伸びた。
 瞬間、ミニバンに向けて電撃が放たれ、大型の車体を焼く。
 屋根に乗っていた少女はまた跳躍し、今度は美琴の背後に降り立った。

「電撃か……『震威の結い手』を髣髴とさせる自在法だが、やはり不可解だな」
「“ミステス”でもないのに“存在の力”を扱えている。ただの人間じゃないみたい」
「『あの二人』とは違うと考えるべきか。心してかかれよ」

 背後からまた、遠雷のような声が響いてきた。振り向いて確認するも、少女は一人だ。
 まるでそこに、少女以外の誰かが存在しているかのように。
 少女はまるで、自分以外の誰かと会話しているかのように。
 この姿に既視感を覚えるのも、美琴はまだ止まれない。

「逃げ回るのは結構だけどね……」

 接近しても軽くいなされる。美琴に剣術の心得などはなく、斬りかかっても少女を仕留めるのは困難と判断。
 なので、美琴は距離を六メートル間隔ほど置いたその場から、『遠距離攻撃として』砂鉄の剣を振るった。

「こいつには、こういうこともできんのよっ!!」

 美琴の掛け声と同時に、砂鉄の剣がうねうねと蠢動する。
 鞭のようにしなやかに、蛇のように艶かしく、刀身は不規則な軌道を描きながら少女の胸元を目掛け伸びた。

「――ッ!」

 刹那、少女の表情が引き締まる。
 さすがに顔に出たか、と美琴は一瞬だけ笑み。
 少女はしかし、これまで通りの回避ではなく、かといって防御でもなく、

「なっ――!?」

 伸びてくる刃に向かって、駆けた。

(ちょっと、自殺でもするつもり!?)

 美琴は絶句するが、すぐにそんな心配は不要だったと、考えを改める。
 少女はその小柄な体躯を、ほとんど地面に滑り込まんほどに屈め、伸びゆく刃の下を抜ける。
 それで体勢が崩れたりはしない。刃と身が触れ合う瀬戸際の境界を行き、そして。
 あっという間に、刃の根元へと――御坂美琴の正面へと、躍り出た。

「あっ……!」

 怒気に塗れていた美琴の表情が、蒼白に変わる。
 少女は一切の間断も置かず、美琴の右掌、砂鉄の剣を操る支点へと、木刀の峰を叩きつけた。
 骨が破壊されたのではないかと思うほどの激痛が、美琴を襲う。
355創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:43:25 ID:rlZkXq6t
 
356創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:43:47 ID:lwLs4/4X
「くっ、あ――ッ!!」

 そこで、集中力は絶たれた。
 剣の形状を保っていた砂鉄はコントロールを逃れ、砂利に戻る。
 無手となった美琴はその場で尻餅をつき、しかしすぐに起き上がろうとして、

 ヒュッ、と。

「これで終わり」
「…………っ」

 眼前に、木刀の先端を突きつけられた。

 息を呑む。起き上がるに起き上がれない。
 少しでも妙な動きを見せれば、このまま顔面に刺突を食らうか。
 そうでなくとも、介入の際に放った業火で丸焼きにされる可能性とてある。

(強い、なぁ……)

 普段、『唯一の例外』を除いては、戦う際にも力をセーブしてきた美琴である。
 ここに来てから傭兵に辛酸を舐め、殺人鬼に言いようにあしらわれ、超能力者に翻弄されて、果てには少女に命を握られた。
 『超能力者(レベル5)』、『超電磁砲(レールガン)』――強すぎるがゆえに相手を殺しかねないほどの力は、この地においては決して頂点ではない。

 認識を改めると同時、どうやってこの場を切り抜けるか、必死に模索していた。
 敗北という苦い現実を噛み締めながら、どうにか生き延びるすべは、と考えて。

(髪……綺麗だな。キャンプファイヤーの炎みたい。煌々として、なんだか神秘的で……)

 思慮はいつの間にか、少女の燃える髪――『炎髪』のほうへと、意識や視線と共に奪われてしまっていた。
 手入れが大変そうだな、とか。洗髪や散髪はどうやるのかな、とか。そんなどうでもいいことを考えてしまう。
 燃える髪も印象的ではあるが、力漲る紅い瞳――『灼眼』も見事なものだと思った。
 カラーコンタクトなどといった紛い物ではないだろう。あの紅い瞳からは、今の光景がどう映っているのか。

 気になった。
 気になって――ついに気づいた。

 あれ、と。
 あれ……えっと、と。

 一時のクールダウンを置いて、ようやく。

「ちょっと待った!」

 美琴は声を絞り上げ、少女に確認する。

「……あなた、ひょっとして『炎髪灼眼の討ち手』さん? シャナっていう名前の」

 この質問に、少女の身がピクリと動く。確かに反応した。
 肯定もなく、木刀もまだ下ろさないので、さらに付け加える。
358創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:44:57 ID:lwLs4/4X
359創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:45:35 ID:rlZkXq6t
 
360創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:46:29 ID:lwLs4/4X
361創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:46:37 ID:C8jUwMZs
「私、御坂美琴。ついさっき、ヴィルヘルミナって人とお知り合いになったばっかなんだけど」

 『万条の仕手』ヴィルヘルミナ・カルメル。
 『炎髪灼眼の討ち手』については、彼女から聞いた。

 炎のように燃える髪と、紅い瞳が印象的な少女。どちらとも黒く染まっている場合もある。
 名簿にはシャナという名前で記載(なぜかヴィルヘルミナは頑なにこの名を口にしようとなかった)。
 外見年齢は人間でいうところの十二歳程度、しかし戸籍上は高校生。
 高確率で首からペンダントをかけている――と、伝え聞いていた情報がすべて合致する。

 頭に血が上りすぎていた。
 どうして今の今まで気づけなかったのか。
 美琴は猛省しつつ、シャナが木刀を納めるのを待った。
 そして、

「御坂美琴……ひょっとして上条当麻の知り合いっていう、ビリビリした中学生?」

 相手側からも思わぬ確認が齎され、このいざこざは落着した。


 ◇ ◇ ◇


 急遽乱入してきた炎髪の少女と、それに突っかかっていった御坂美琴、そして一人その場を離れた古泉一樹。
 街路を緩い足取りで歩きながら、離脱者、古泉一樹は思案に暮れる。

「紫木さんの殺人技術も相当なものでしたが、なるほど。ああいった異能者の類も、僕や長門さんだけではないというわけですね」

 高須竜児や水前寺邦博のような一般人はむしろレアケースなのかもしれない、と古泉はそうであってほしくはない仮説を立てる。
 なんにしても、今回の戦いで一つわかったことがある。
 『閉鎖空間』の中ならまだしも、いつぞやの『カマドウマ空間』程度しか力を発揮できない己では、最後の一人になるのは難しい――ということだ。

「知恵はいつも以上に絞らなければいけないと、そういうわけですか。それに、最後の望みも――」

 誰に説明しているわけでもなしに、古泉は考え事を呟いていた。
 その口が、ぴたっと止まる。
 寂れた煙草屋の角を折れたところで、歩も停止した。
「……おやおや。これはさすがに、己の運を呪うべきでしょうかね?」

 曲がった道の先に、置き去りにしたと思い込んでいた二人が立っている。
 一人は、水前寺に御坂と呼ばれていた短髪の少女。名簿の記述を辿るなら、御坂美琴がフルネームだろうか。
 そしてその隣に立つもう一人は、先ほど天壌より飛来し、美琴の怒りの矛先になったと思われた炎髪の少女。
 どちらともにいがみ合うことなく、並んで古泉のほうを睨みやっている。
 電撃と火炎の熱が、痛いほど肌に突き刺さっていた。

「知り合いの知り合いは味方、ってね。ネットワークは築いておくもんだわ」
「事情は御坂美琴から聞いた。古泉一樹、とりあえず捕らえさせてもらうわよ」

 いったいどのような交渉が為されたというのだろうか。
 すっかり共闘体制を組んでいた二人は、揃って古泉の敵として君臨する。
 これにはさすがに、肩を竦めざるを得ない。

「困ったものです。僕としては、今回はほんの挑戦程度のつもりだったのですが。
 このまま捕まれば、今後の活動に支障をきたす恐れすらありそうです」

 が、古泉はめげなかった。
 収穫はすでに、経験という形で自身の中に吸収されている。
 これ以上、この二人から得るものはなにもない。ならば、と。

「そこでどうでしょう。この場は僕と、一つ取引をしてみませんか?」

 古泉は美琴と少女に対し、そんな話を持ちかける。

「僕の支給品の中に、『宝箱』があります。なにかの比喩というわけではなく、文字通りの意味でのお宝です。
 鑑定額はなんと、驚きの千三十一万五千五百ドル。日本円に換算してざっと十二億円の価値になるかと思います。
 お二人で山分けするとなれば、一人頭六億ですか。その年齢でそれだけの財産を築き上げれば、将来に困りませんよ」

 三つ配られた支給品の内の一つ、交渉材料としてしか使い道がないだろう『宝箱』を譲渡する、と古泉は真顔で言った。
 だからこの場は見逃せ、と発現の中に相応の意味も含めて。
 美琴の反応は、

「はっ」

 冷え切った目つきでの、嘲笑。
 周囲を取り巻く空気がビリリと振るえ、古泉の足下でバチッと火花が迸った。

「この場でそんな取引をする意味がわからない」

 と、炎髪の少女は至極もっともな切り返しをしてくる。
 だめでもともとではあったが、ツッコミすら入らないとはおもしろくない。
 古泉は「やれやれ」と首を横に振りながら慨嘆し、「仕方がありませんね」と次なる策を取ることにした。

「では、こちらも切り札を使うほかありません。『鈍器』も『宝箱』も通用しないとなれば……残るは『爆弾』のみですし」
364創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:47:36 ID:rlZkXq6t
 
365創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:48:16 ID:lwLs4/4X
366創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:48:18 ID:rlZkXq6t
 
367創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:48:59 ID:rlZkXq6t
 
368創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:49:07 ID:lwLs4/4X
369創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:49:24 ID:C8jUwMZs
370創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:49:47 ID:rlZkXq6t
 
371創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:50:12 ID:C8jUwMZs
 そのフレーズに、美琴と少女の顔が険しくなった。
 これ以上、猶予を与えてはいけないと――そう判断されたのだろう。

 美琴の前髪が揺れた。電撃を放とうとしている。
 少女の炎髪が煌いた。業火を放とうとしている。

 それよりも速く、古泉は動いた。
 肩に提げていた『二つのデイパック』の内、一方を掴んで上空に投擲する。
 そしてすぐさま、片方の手で『光の球』を形成、頭上高く舞い上がったデイパック目掛け、放つ。

 美琴と少女の視線が、真上のデイパックへと向いた。
 古泉はその間、踵を返して逃走を開始する。
 逃がすまい、と美琴は前方に向かって駆けた。
 少女は逡巡も刹那に、姿勢を低くしながら美琴を追った。

 上空のデイパックは、光球の直撃を受け破裂。
 内容物がぼろぼろと、真下を走る美琴たちの頭に落ちていった。

 うねうねと、蠢動を繰り返しながら。
 それも大量に、二百匹ほどの規模で。

「――ひっ」

 髪の上に、首筋に、服の中に、靴の上に、鼻頭に、肩に、ぴとりと。
 毛虫の大群が、虫嫌いというステータスを持つ少女たちを襲った。

「ぃきゃぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 阿鼻叫喚をバックミュージックに、古泉はクスクスと笑いながらその場を去った。


 ◇ ◇ ◇

 ――『我学の結晶エクセレント29004―毛虫爆弾』。

 それが古泉一樹に支給された三つ目の支給品、『爆弾』の正体である。
 最初に荷物を確認した際、ビニール袋一杯に計五百匹もの毛虫が入っていたときはどうしようかと思ったが、結果的に言えば三つの支給品の中では一番役に立った。
 『物語』や『文法』が違おうとも、少女という生き物は往々にして害虫の類が苦手なものである。

 そして、古泉一樹は今度こそ安全圏にまで達した。
 傍には警察署らしき建物が建っており、背後に追っ手の気配はない。
 今頃は身体に纏わりついた毛虫を引っぺがすのでてんやわんやだろう。

「……可能ならば、涼宮さんを生かすために僕が奮起する――という選択肢を選びたかったのですが、やはり難しいようです」

 古泉はふらり、と警察署の駐車場に迷い込んだ。

「まず第一に、実力が足りていません。僕一人が生き延びるだけなら十分と言えるでしょうが、涼宮さんを害しうる障害を取り除くとなると、些か役者不足です」

 そこにはパトカーや護送車の類が一切見当たらない。がらんとしていた。

「それを確かめる意味での『挑戦』だったわけですが、いざ最悪の結果に直面してみると、堪えますね。
 これはやはり、当初の予定通り『涼宮さんを絶望させる』ほうが簡単と言えるでしょうか?
 しかし、長門さんの訃報でも足りなかったところを見るに……切り札は一つに限られてしまいます。
 天秤にかけてみたとして、どうでしょう。『彼』と接触を図るためのきっかけみたいなものがあればいいのですが」

 警察署内なら、拡声器の一つでも見つかるだろうか。
 道行く人々に交通安全を呼びかけるがごとく、『彼』の名を呼んでみるのもおもしろいかもしれない。

「どちらにせよ、この『物語』に対して涼宮さんの権限がどこまで有効なのか、その答えは出ていないわけです。
 現状、最大権限と考えられる『彼絡みの絶望』を行使したとしても、はたしてどうなるか。わかったものではありません。
 ……などと疑念を抱くこと自体が、間違っていた。ええ。僕とあろうものが、少し自覚が足りなかったようです」

 述懐して、古泉は自らの迷いを戒めた。

「古泉一樹は『機関』の一員にして『超能力者』である。これだけは覆らない事実です」

 ある日突然、涼宮ハルヒが及ぼす世界への影響について知った少年。
 ある日突然、自身に備わった妙な力の本質がなんなのかを知った少年。
 ある日突然、閉鎖空間の放置と《神人》の危険性について知った少年。

 それが『機関』に所属するという証であり、今この場に在る『古泉一樹』のすべて。
374創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:52:08 ID:rlZkXq6t
 
375創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:52:21 ID:lwLs4/4X
376創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:52:52 ID:rlZkXq6t
 
「『機関』は涼宮ハルヒを『神』と崇め、世界は彼女の力によって成り立っていると信じて疑わない。そう、疑ってはならないです」

 信奉者のように、古泉一樹は涼宮ハルヒを語る。

「そもそも我々はなぜ、涼宮さんを神と定義しているのか。それは世界が、彼女が見る夢のようなものと考えているからです。
 この『物語』が他人の夢であったとするなら、それはそれで興味深い事実です。しかし、僕個人で『機関』の思想を違えるわけにもいきません」

 時折、歳相応の少年としての顔を見せながら。

「僕は特に、何事もなく平穏無事に世界が継続されることを望んでいます。そこは『彼』となんら変わりませんよ。
 元の世界はそうであってほしい。逆にこの世界、いえ『物語』は、滅んでほしいというのが本音です。
 ふぅ……いくら考えても、鍵は『彼』以外に存在しませんね。ともなれば、当面は彼の捜索でしょうか」

 時折、残酷な組織の一員としての顔を見せて。

「……いえ。減らせる傷害は減らしておくべき、ですね。先ほどのような方々は御免被りますが。
 仮に、彼女も『彼』も死んでしまうようなら――僕が帰るべき世界はないのかもしれません。
 一応、『機関』への手土産は用意しておいたのですがね。情報統合思念体への、とも言えますか」

 古泉一樹は様々な立場にいる苦労人として、深くため息をついた。

「なんにせよ……少し休憩しましょうか。朝から運動して疲れてしまいました」

 頭の整理を終え、古泉は警察署へと歩を向ける。
 地図で言うところのD-3エリア。
 この椅子取りゲームが三日間続けば、最後に残るのはこの区画、そしてこの施設となる。
 あるいは、それを見越して篭城している人間がいないとも限らないが……一時休止の場として活用するくらいは許されるだろう。

「できることなら、この先の邪魔は遠慮していただきたいところです」

 その後はまた、超能力少年古泉一樹としての奮闘が始まる。
 鍵となりうる唯一の存在、『彼』を探し。
 世界の中心にして『神』たる存在の彼女を探し。
 己の脆弱な力で潰せる芽があれば、積極的に潰していく。
 やらなければいけないことの数は、膨大だった。

「なにせ僕がしなければ、確実に世界は崩壊しますから」
378創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:54:24 ID:rlZkXq6t
 
【D-3/警察署/一日目・午前】

【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式×2、キャプテン・アミーゴの財宝@フルメタル・パニック!、
    我学の結晶エクセレント29004―毛虫爆弾(残り300匹ほど)@灼眼のシャナ、長門有希の生首
[思考]:
基本:涼宮ハルヒを絶望させ、この『物語』を崩壊させる。もしくは、彼女の生還。
1:警察署の中でしばらく休憩。
2:涼宮ハルヒを絶望させうる唯一の鍵である『彼』――キョンの捜索。
3:涼宮ハルヒを最後の一人にすることも想定し、殺せる人間は殺しておく。
4:涼宮ハルヒが死亡した場合、『機関』への報告のため自身が最後の一人となり帰還する。
5:帰還の際、『機関』と情報統合思念体への手土産として長門有希の首を持ち帰る。
[備考]
 カマドウマ空間の時のように能力は使えますが、威力が大分抑えられているようです。

[備考]
『ホーミングバット@涼宮ハルヒの憂鬱』はC-2市街地の駐車場にグリップ部分だけの状態で放置されています。


【キャプテン・アミーゴの財宝@フルメタル・パニック!】
十七世紀の大海賊『キャプテン・アミーゴ』がメリダ島に残した財宝。
古風な宝箱の中に金銀財宝がざっくざっく。
〈ミスリル〉鑑定額は千三十一万五千五百ドル(約12億円)。


【ホーミングバット@涼宮ハルヒの憂鬱】
野球の試合で長門が細工した、金属製のインチキバット。
属性情報をブースト変更。ホーミングモード。


【我学の結晶エクセレント29004―毛虫爆弾@灼眼のシャナ】
“探耽求究”ダンタリオンこと“教授”が発明(?)。元は『夜会の櫃』に装備されていた。
のべ五百匹もの精鋭毛虫軍団がビニール袋に収められている。
あるフレイムヘイズの少女を半狂乱半泣き状態にまで追い込んだ実績を持つ。


 ◇ ◇ ◇

 阿鼻叫喚の宴がようやくの終焉を見せ、少女たちはへとへとだった。
 炎と電撃で毛虫の大群を焼き払いどうにか事なきは得たものの、古泉を追う気力はもう残っていない。

「サイアク……もぉ、なんなのよ〜」

 御坂美琴は半ベソをかきながら、ガサガサになった髪をなでる。

「二度も……二度も、あんなものにやられるだなんて……ッ」
「う、ううむ……」

 炎髪灼眼を潜めた、黒髪黒眼状態のシャナが、怒りに震える声で呟いていた。
 彼女が首から下げるペンダント型の神器“コキュートス”から、遠雷のような声が響き渡る。
 彼の声の主こそ、シャナと契約せし強大なる“紅世の王”、“天壌の劫火”アラストールだった。

「よもや、あの“教授”と同じ手を打ってくる人間がいようとはな。それはそうと」

 傷心に浸る二人の少女に対し、アラストールは戸惑いながらも厳格に、今後の動向について促す。

「御坂美琴といったか。今後のことについて議論したい。『万条の仕手』と“夢幻の冠帯”のもとへ案内してはくれぬだろうか?」
「……ヴィルヘルミナに、会うの?」
「うむ。現状、『万条の仕手』と連携を取ることは最優先事項と言えるだろう」

 数瞬間を置いてから、アラストールが続ける。

「櫛枝実乃梨を見失い、坂井悠二の消息も未だ掴めていないのだしな」
「……うん」

 その通りだ、とシャナは胸に深く刻み込む。
 ヴィルヘルミナとの合流の機会。これは願ってもない。
 自身の元養育係にして、同士でもあり、なによりも友である、彼女。
 常在戦場を心がけなければならないフレイムヘイズの、理想とも呼べる姿。

 弱音を吐きたくはない。
 だが、今は彼女のような道しるべが欲しい。
 己が迷走していることは自覚している、だからこそ、厳しく律して欲しい。

 叱咤が欲しいという、子供の甘えにしかならない想いを胸に。
 シャナは、己の言葉で美琴に案内を頼む。

「お願い。ヴィルヘルミナのところに案内して」

 毅然とした物言いに、美琴は感嘆しながら返した。

「ん。まあ私もいろいろ聞きたいことあるしね。水前寺と須藤さんは追いかけようにもバギー乗ってっちゃったし」
「ヴィルヘルミナ以外にも、人がたくさんいるって言ってたけど……」
「そのへん、歩きながら話すわ。今はとりあえず」

 美琴は立ち上がって、

「ざけんじゃねーぞゴラァァァァァァ!!」

 空に向かって吼えた。
381創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:55:56 ID:lwLs4/4X
382創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:56:15 ID:rlZkXq6t
 
383創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:56:59 ID:lwLs4/4X
384創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:57:05 ID:rlZkXq6t
 
「なっ……!?」
「ど、どうしたというのだ」

 不意のことに驚くシャナとアラストール。
 美琴の怒りは、決して二人にして一人のフレイムヘイズに向けられているわけではない。

「あンのやろぉぉぉぉ! 次会ったら絶対、ボコボコにしてやんだからぁ――――っ!!」

 毛虫の恨み――と御坂美琴は熱く咆哮し、シャナとアラストールは呆気に取られた。

「むぅ……随分と気性が荒い娘であるようだが」
「でも、御坂美琴には同意する」

 叫ぶという原始的行為で怒りを発散させている美琴に、シャナはいたく共感した。
 少し前まで互いに刃を向け合っていた事実など、古泉の所業に比べれば些細なことである。
 美琴の叫びに賛同できるからこそ、シャナは強く言い放つのだった。

「毛虫の恨みは、いずれ必ず晴らす」
「そ、そうか」

 アラストールはなにも言えなかった。

386創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:57:29 ID:RKX0I79k
387創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:57:47 ID:rlZkXq6t
 
【C-2/南東・市街地/一日目・午前】

【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:肋骨数本骨折(ヴィルヘルミナによる治療済み、急速に回復中)、全身各所に擦り傷
[装備]:さらし状に巻かれた包帯(治癒力亢進の自在法つき)、ポケットにゲームセンターのコイン数枚
[道具]:デイパック、支給品一式×2、金属タンク入りの航空機燃料(100%)、ブラジャー、
     須藤晶穂のデイパック(調達物資@現地調達 入り)
[思考・状況]
1:シャナを連れ、神社に戻る。その際、水前寺と晶穂のことを報告。
2:上条当麻との接触について、シャナから詳しい話を聞く。
3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
4:古泉一樹への報復(毛虫の恨み)を果たす。

【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
基本:この世界を調査する。
1:美琴の案内で神社へ。ヴィルヘルミナとの合流を果たす。
2:古泉一樹への報復(毛虫の恨み)を果たす。
3:悠二に会いたい。

[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭〜クリスマス(11〜14巻)辺りから登場。


【調達物資@現地調達】
須藤晶穂がスーパーで調達した諸々の品。ダンボール五箱と発泡スチロール一箱。
食料品、生活雑貨、衣類に日用品、薬品と特に考えずいろいろ詰め込んだ。
389創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:58:28 ID:lwLs4/4X
390創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 00:58:58 ID:rlZkXq6t
 
391 ◆LxH6hCs9JU :2009/10/12(月) 00:59:18 ID:0jkCygaG
投下終了しました。支援ありがとうございます。
392創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 01:23:24 ID:rlZkXq6t
投下乙。

古泉頑張るなぁ。支給品までフルに駆使して明らかにパワーでは上の2人相手によく頑張った。
さてここで正確に限界を把握した彼は、この先何をやらかすんだろう。気になる。
そして抜け出しちゃった水前寺と晶穂はどうなる? 晶穂は行くのか、残るのか?
揺れるシャナはヴィルヘルミナに会ってどうにかなるのか? ああ、先が気になる!GJ!
393創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 02:15:12 ID:EIT32Ebq
投下乙でした。対主催グループは着々と顔合わせが済んでいるけど
古泉は孤立状態だな…マーダートリオと合流して報酬ぽいもの
渡そうにも、微妙にすれ違ってるし。明日はどっちだw

>>all
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10390/1234719214/92n-
議論スレに、予約期限について書き込みました。
議論自体の期限は…一週間くらい見た方がいいのかな?
394創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 03:07:02 ID:C8jUwMZs
投下乙ですー
古泉、持ちえる力を出して最強クラスのシャナ美琴と渡り合ったか……流石だ。
水前寺達は浅羽に向かう? どうなるのだろう。
しかし、毛虫w
嫌がるよなーw
互いにキャラらしさが凄い出てました。
GJでした
395 ◆UcWYhusQhw :2009/10/12(月) 03:07:49 ID:C8jUwMZs
さて、お待たせしました。
投下を始めます
396必要の話―What is necessary?― ◆UcWYhusQhw :2009/10/12(月) 03:10:00 ID:C8jUwMZs
「どーもー」

たった一人の大切な人を探す為に護るべき者であった少女と別れた少年、トレイズ。
その目的の為にはきっと切り捨てるものも出てくるだろう。
また、そうした覚悟をトレイズは持った、持たされた。
ある意味、気負いながらも彼がまず最初に見つけたのは人ではなく二輪車。
それも、見つけた瞬間喋りだしたトレイズの常識範囲外のもの。

「……どうも……バイクが喋った」
「何回目だろこれ……バイクじゃなくてモトラドだから」
「そうですか」
「まったくもー……」

大きくため息をつくモノはバイクじゃなくてモトラドというらしい。
トレイズにとってはどう違うか見当もつかないが特には期待する事ではない。
喋る機械も、放送で語られた事で何となく察しはつく。
放送の事について考えを巡らしてもいいが、それは二の次でしかない。
今は、探すべき人をいち早く探し出す事。
その為にもトレイズは目の前のモトラドに話しかける。

「俺はトレイズというけど……君は?」
「エルメス」
「そう、よろしく……早速だけどリリアって子知らないか?」
「……んー知らないなー。知ってるのはここでは五人居るけど。何処に行ったかは知らないや……まったくもー酷いんだから。動けないの知って放置とか」
「それは災難だったね。この中に人は?」

トレイズが指差すのは温泉旅館。
純和風の建物はトレイズにとっては始めてみるものだったが、特に気にする事も無く。
淡々と用事を済ませるのみだった。

「いなーい。死体は有るみたいだけど」
「どうも、ありがとう」
「……あれ? 居ないのに入るの?」
「ええ、まあ。色々何か必要になるものや武器があればいいし」
「ご苦労な事だね」
「ええ、お陰さまで」

トレイズは一つため息をついて温泉旅館の方に向かっていく。
本当はその死体がリリアじゃないか確かめたかっただけ。
確立的には低いだろうけど、とりあえずと心の中で呟きながら。
最も今の武装も心もとないのも確かである。
何か、あればいいけどと今度は口に出しながら。

トレイズはエルメスはそのままにしていき中に入っていった。
取り残されたのはエルメス。
エルメスはさっきの少年の事を考えながらひたすら立ちすくむだけ。

「運転できるかな? 彼?……できるといいねぇ。旅は道連れ、世は無情と言うし」

もしかして、旅は道連れ、世は情けってやつ?という回答を期待しつつ。
でも結局、彼は一人なのだから答えは返ってくるわけがない。

「……そうそれ」

そして、エルメスはそう一人で寂しく呟くのだった。




397創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 03:11:03 ID:lwLs4/4X
398必要の話―What is necessary?― ◆UcWYhusQhw :2009/10/12(月) 03:12:08 ID:C8jUwMZs
やがて、トレイズは先ほどと変わらない様子で温泉旅館から出て来た。
心なしか表情に安堵の様子は浮かんでいるようだが。
そして、許可も無いのにエルメスに乗っかかった。

「ちょっとー!」
「ごめんごめん」

トレイズは少し笑いながらエルメスから身体をどける。
そんな、先ほどと変わらないトレイズに向かってエルメスは口を開く。

「死体見たのに特に変わらないね」
「うん? まあ何回も見た事あるし」

トレイズはそう何も変わらないように呟く。
実際、死体自体は巻き込まれた事件で沢山見てきた。
なにより先程バラバラ死体を見たばかり。
それに、トレイズは何回か自分の手で死体を作り出している。
今更気にする事はなかった。
それよりもリリアじゃなくてよかったという感情だけ。
それだけで後は関係もなかった。

「『必要』なもの見つかった?」
「いや……無いかな……御免、違うな」

エルメスの問いにトレイズはそっけなく答えようとして何かに気付いたような素振りを見せる。
そして、エルメスを見て意地悪く笑って

「一つ見つかった。君が『必要』かな。勝手に乗っていこうか」
「きゃー人攫いー」
「人なのか? モトラド攫いじゃないのか?」
「……微妙に突っ込みにくいね、それ」
「俺もそう思う……」

そんな下らないやり取りをする二人。
しかし、トレイズにとって足は必要である。
その中でバイクを運転で切るというのは移動に関して大きなメリットになりえる。
だから、エルメスを持っていこうと考えた。

「まあ『必要』なら乗っていけばー?」
「それでいいのか?」
「モトラドはね、走っているときが一番幸せなんだ。君運転できそうだしね」

エルメスとしてはトレイズが運転してくれるなら願ったりの事だった。
少なくともシャナには伝言を伝えた。
それなのに放置のまま、流石に堪らない。
出来る事なら運転してくれる人がいるならばそれでいいのだから。

「じゃあ『必要』だから乗ってこう。リリアを護る為に『必要』なんだ」
「そう。乗ってくれればなんでもいいや」

エルメスの許諾を受けてトレイズはエルメスに乗り込む。
エンジンをかけて、そのまま勢いよく走り出した。
トレイズの運転はなれたもので、乗りなれているのだろうかとエルメスは思う。
そして少し気になった事を言う。

「君は『必要』になったら何でもするの?」
「どうだろうな……まぁリリアを護るなら何でもするかな。リリアを護る為に『必要』なら」
「そう……人殺しも?」
「『必要』ならね」
399創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 03:12:21 ID:lwLs4/4X
400必要の話―What is necessary?― ◆UcWYhusQhw :2009/10/12(月) 03:13:06 ID:C8jUwMZs

そう呟いたトレイズ。
エルメスはそのトレイズに特に言うこともなく。
久々の風を切る感覚に身を委ねる。

トレイズはそっと微笑んで。
自分が言った必要という言葉を咀嚼しながら。

「そう……『必要』ならね」

もう一度確かめるように呟いて。

走るスピードを上げた。


そのまま、一人の少年と一人のモトラドは瞬く間に風を切って温泉旅館から離れていたのだった。




【E-3/温泉旅館/一日目・午前】

【トレイズ@リリアとトレイズ】
【状態】腰に浅い切り傷
【装備】コルトガバメント(8/7+1)@フルメタルパニック、銃型水鉄砲、コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、鷹のメダル@リリアとトレイズ、エルメス@キノの旅-the Beautiful World-
【所持品】支給品一式、ハイペリオン(小説)@涼宮ハルヒの憂鬱、長門有希の栞@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
基本:リリアを守る。
1:リリアの捜索。彼女を守るためだけに行動し、彼女を守るためだけに最善を尽くす。
2:リリアを護るのに『必要』なら……?
【備考】
マップ端の境界線より先は真っ黒ですが物が一部超えても、超えた部分は消滅しない。
人間も短時間ならマップ端を越えても影響は有りません(長時間では不明)。
以上二つの情報をトレイズは確認済。
401必要の話―What is necessary?― ◆UcWYhusQhw :2009/10/12(月) 03:14:04 ID:C8jUwMZs
投下終了しました。
支援ありがとうございます。
何かありましたら、指摘などよろしくお願いします。
402創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 04:00:26 ID:RKX0I79k
投下ラッシュ……! 両者とも投下GJ!

>スキルエンカウンター〜
ヤバい、全員が「らしい」。水前寺の薀蓄やらビリビリの喧嘩っ早さやら。
そして何よりも古泉! ついにこいつのターンがやってまいりましたか!
微妙な戦歴だった今までと変わって、なんという場の引っ掻き回し様か。

まぁ勝者に離れなかったんだけどなw でもあのメンバーに一人でたいしたもの。
シャナもまたいつかのサブラクみたいな登場するしなw よくやった。
で、そのシャナも一体これからどうなるやら。


>必要の話〜
おお、エルメスを運転出来る奴降臨!
トレイズとしても良い乗り物をゲットしてラッキーだったな。似合うだろうしw
しかし正味単独行動だぞ、大丈夫か殿下。

そして、気になった箇所が。
入り口近くに黒桐の死体があるはずだから、トレイズも到着時に流石に何か反応するのでは?
反応したからって何かあるわけでもないけど、それでも一応気になったので。
403 ◆UcWYhusQhw :2009/10/12(月) 05:45:47 ID:C8jUwMZs
感想指摘ありがとうございます。
指摘された黒桐部分、および前半部分を改訂したものを投下しました。
404 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 12:25:26 ID:csCsLSzC
遅れに遅れて申し訳ありません。
予約が入っていないようなので破棄したパートの投下を行います。
405リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 12:28:21 ID:csCsLSzC
 もういいかい?

  ――まーだだよ。



 ◇ ◇ ◇



 ――結論から先に言ってしまえば、上条当麻の見通しは甘かった。


「…………壁、だな」
「…………壁、ね」
 上条当麻と千鳥かなめは二人して、目の前いっぱいに広がる『壁』を見つめる。

 つい先ほど三人の少女達と別れて、壁の近くまで来た彼ら。
 もちろん彼女達と別れる際に、そのうちの一人、シャナという少女から会場の端にあるものはただの『黒い壁』でしかないことは話として聞いていたのだが、見ると聞くとでは大違い。
 もう大分空も明るくなり始めたこの時間帯、はるかに遠く北のほうまで続く黒にはそれを見たものにしかわからない威圧感のようなものが感じ取れる。

「ねえ、当麻」
 ややあって、我に返ったかなめは隣で突っ立っている上条に声をかけた。

「あ、ああ。なんだ千鳥」
「……アレの調査って言うけど、どうするの? あんたさっきは何か考えがあります、見たいな顔してたけど」
「調査って言うか……やることは単純なんだけどな」
 そう言いながら、上条は小さい石を一個拾い上げると、『壁』に向かって投げつけた。
 『壁』にぶつかった石は弾かれることも無く、音も無くまるで呑み込まれるように壁の向こうへと消えていった。

「っと、音も光も無いか。これなら……」
「? アンタ一体何やってんのよ」
 ぶつぶつと呟く上条に疑問の表情を浮かべて、かなめは話し掛ける。
「ああ、まあ見てろって」
 そう言うと上条は『壁』に向かって歩を進める。

 上条当麻の右手には『幻想殺し』という超能力、魔術を問わずにありとあらゆる異能の力を打ち消す力が備わっている。
 シャナ達が調査を済ませた『壁』にわざわざ当麻が足を運んだのも、そんな奇妙なモノならば、あるいは自分の右手で打ち消せるのではないか、そう考えたからに他ならない。
406リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 12:30:07 ID:csCsLSzC
 ただし、彼の右手で打ち消すことが可能なのはあくまでも異能の力に限られる。
 学園都市第3位超電磁砲(レールガン)の一撃さえ打ち消す彼の右手は、それよりもはるかに威力が落ちるただの銃弾にはまるで無力なのだ。
 まあ少し話が逸れたが、先ほど上条が石を投げつけたのは、あの『壁』があくまでも科学的な防御方法を採っていないかのテストであった。
 音も光も熱も無い。
 少なくともあの壁による「消滅」は銃やレーザーといった兵器の類とは関係ない、と考えていいだろう。
 
 そうとわかれば『幻想殺し』の出番だ。
「ちょ、ちょっと危ないわよ!」
「大丈夫だって」
 慌てるかなめの声を聞きながら、上条は右手を『壁』へと差し込み、
 
 次の瞬間、猛烈な圧力を右手に感じて、彼はバランスを崩した。

(や、やべえ!)
「きゃっ!」
 猛烈な圧力によって極端に右手が下へと引かれて、上条の体はあたかも倒立をするかのように回転し、そして倒れこむ。
 その方向は当然のように前方、すなわち『壁』の方向だ。
 上条は咄嗟に体をひねった、だが間に合わない。
 捻ったことによって全身が呑まれることまでは免れたが、それでも足は闇の中へと吸い込まれ――。

 ……何も起こらない。

「……は?」
 上条はあっけに取られる。
 消滅すると言う話はなんだったのか、『壁』の中に消えた足にはちゃんと感覚が残っている。
「でたらめ、なのか?」
 上条が呆けた表情でそう呟いた次の瞬間、『壁』の中に呑み込まれている部分に妙な寒気を感じた。

「うわわわっ!」
 慌てて足を引き抜いても、特に異常はない。
 だが、とてもではないがあの違和感は忘れられそうに無い。あたかも自分の足が水に入れた砂糖のように、この闇の中に溶け出していくかのような感覚。
 存在自体が稀薄になったかのようなあの感覚が告げている。
 
 あの《人類最悪》の話に嘘は無かった。
 時間にしてわずかに数秒、この『黒』に完全に呑まれてしまえばそいつは跡形も無く『消滅』してしまうと。
407リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 12:31:31 ID:csCsLSzC
 
「収穫といえば、収穫になるのか……?」
「…………ふうん」
 額に浮かんだ冷や汗を拭いながら立ち上がった上条に、何故か千鳥かなめの冷たい視線と言葉が向けられる。  

「あの〜、千鳥さん?」
「なあに、上条当麻くん」
「何ゆえに貴女はこの身を張ってあの『壁』を調べた、ワタクシ上条当麻にそのような冷たい視線を向けられるのでしょうか?」
「あらあら、わからないの? 上条当麻くん」
「ひょっとしてなのですが……先ほどからあなたが押さえていらっしゃる、そのスカートの裾と何か関係があるのでしょうか?」
「……やっぱりわかってんじゃないの! この変態!」
 
 そう、先ほど上条が大きく前に倒れこんだ際、彼の足は『偶然』近くにいた千鳥かなめのスカートを捲り上げていたのである。
 言われてみれば視界が回るその一瞬、視界の端にちら、と何か白いものが映ったような気がしないことも無かった。

「ち、違う! これはただの偶然だ! 事故だ!」
「黙りなさい! この変態! 変態! やっぱり最初の『あれ』もわざとだったんでしょう!」
 言葉と同時に飛んでくるかなめの攻撃をかわしながら上条は必死で弁解する。
 しかしかなめの攻撃は止まらない。

「天誅ぅぅ!」
「うべ! ぐはっ! くそっ! やっぱり不幸だぁぁぁっ!」
 正義の一撃(おとめのいかり)が振り下ろされる。
 上条当麻の断末魔があたりに響いた。


 ――数分後。

「ふ、不幸だ……」
「それで、結局何がやりたかったのよ? まさかほんとにあたしのスカートを捲るためだけに……」
「違う! というかお前の頭の中じゃあ、俺はどんだけ無謀なチャレンジャーなんだ?」
 ぼろぼろになってうめく上条にお構いなく浴びせ掛けられるかなめの質問に、力なく上条は答えを返す。

408リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 12:34:35 ID:csCsLSzC
「えーっと、まあ簡単に言うとだ、俺の右手には『幻想殺し』っていうそれが異能の類ならば魔術や超能力、神様の奇跡だって打ち消してしまえる力があるんだけどな」
「神様の奇跡? 何それ? 話だけだと凄く胡散臭いだけど」
「まぜっかえすなって。で、だ。あのおかしな壁だって、俺の力なら何とかできるんじゃないかって思ったんだけどな……」
「消せなかった、と」
「あー、ちょっと違う」
 上条の言葉を先回りして、結論を口にしたかなめの言葉に上条は異を唱える。

「違うって……何が違うのよ? 普通にあの壁残っているじゃない?」
「あの壁は『消せなかった』じゃない。『消しきれなかった』だ」 
 かなめの問いに上条は結果としては変わらないが、しかし大きな違いを指摘する。

「……? えーっとごめん。何が違うの?」
「つまりだな……悪い。説明するよりも見せる方が早いわ」
 どう説明すればいいのか上条は少しの間悩んだが、上手い言葉が見つからず、ならば実際にかなめにその違いを見せた方が早いと判断して、再び壁へと近付いた。

「いいか? よく見とけよ」
「うん」
「……お前、それ……いやいいけどよ」
 上条の言葉にスカートをしっかり両手でカバーしながら頷いたかなめに、疲れたように息をついてから上条は「左手」を壁の中へと差し込んだ。
 上条の左手は徐々に闇の中に消えるといったレベルではなく、はっきりと壁を境界線として闇の中に溶け消えて見えなくなる。

「って、やっぱりこの感覚慣れるもんじゃないな」
 先ほどと同様に壁の中に入って数秒、妙な寒気を感じるのと同時に上条は左手を引き抜くと、感覚を確かめるかのように手をぶらぶらとさせつつかなめに視線を向ける。

「まあ見てのとおり、普通はああなる。多分5、6秒も突っ込んでいたらそこは消えるんじゃねえか? で今度は『幻想殺し』の場合だと――こうなる」
 今度はしっかりと腰を入れ、上条は右手を、『幻想殺し』を差し込んだ。

409リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 12:37:09 ID:csCsLSzC
「え、ああ!」
「まあ、こういうこと」
 文字通り、見てわかる『違い』に納得したようにかなめは頷いた。

 右手にかかる重圧は先ほど同様強烈ではあるが、来るとわかって構えていれば決して耐え切れないほどのものではない。圧力に耐えながら、上条はかなめに違いがよりよく見えるように、さらに右手を突き上げる。

 ……上条が言った消しきれないという意味がどういうことなのか、それは一目でよくわかる。

 壁の中に差し込まれた上条の右手は左手の時とは違って、その形が見えなくなっているということは無い。右手の周りのわずかな空間だけぽっかりと穴でも開いたかのように壁がへこんでいるためだ。
 しかしそのへこんでいる空間はほんのわずか。
 おまけに圧力に耐えている上条の手が動くたびにそのへこみも右手に合わせて動いており、結果として穴の総量は変わりない。

 ――イメージとして言うならば滝に手を差し込んでいるというのが近いだろうか。 
 手の真下にほんの少しだけ水が無いスペースができていても、圧倒的な量の水がすぐのそのスペースを埋めにかかる。
 上条と壁の力関係はまさにそんな感じであった。

「ふう……」
 十秒以上、右手だけならばどれだけ壁の中に差し込んでいても寒気がやってこないことを確認した上で上条は右手を引き抜き、息をついた。

「消しきれないって言う意味がわかっただろ?」
「って、結局この壁が消せない以上は意味がないんじゃないの?」
 上条はその言葉にいや、と首を横に振った。
「少なくともこの壁は絶対に壊せないものじゃないっていうのはわかったんだ。インデックスとかの魔術に詳しい奴らから話を聞けば、もっと大きい穴を空けられる可能性だって出てきたってことだろ」
 上条当麻のこれまでの経験の中では『幻想殺し』が殺しきれない異能というものは無かった。
 しかし知識としてならば竜王の吐息(ドラゴンブレス)や魔女狩りの王(イノケンティウス)などの殺しきれない魔術が存在することは知っている。
 そして魔術に関してならばインデックス以上に知っている人間の心当たりなんてものはない。
410リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 12:49:38 ID:csCsLSzC
「じゃあどうする? このまま他の人たちを探しにいく?」
 上条の言葉は逆にいうと今ここでできることは全て終わった、ということにもなる。ならばこれ以上ここにいることもないだろう。かなめの問いに上条は少しの間悩んでから結論を出す。
「一旦温泉に戻ろうぜ。北村があのエルメスってバイク……じゃなかったモトラドだっけか? あれに乗れるって言うんなら行動半径は大分広がることになるしな」
「あ、そうか」
 上条の意見に賛成してかなめは早速元来た道を戻ろうとした。
「あ、千鳥ちょっと待て」 
「何よ?」
 そんなかなめを上条は制止する。胡乱げに振り返ったかなめに上条は北東の方に建っている建築物、教会を指差す。 

「悪いけど、戻る前にちょっとあそこに寄っていっても構わないか?」
「え。別にいいけど……何? 実はあんたクリスチャンだったの?」
「いや、俺じゃなくって、インデックスとかステイルとか……魔術サイドの知り合いのほとんどがキリスト教徒なんだよな」
 インデックスやステイル、ひょっとしたら名前の載っていない十人の中にいるかもしれない神裂など上条の魔術サイドの知り合いはほとんどがキリスト教徒だ。
 ひょっとしたらあの場所に立ち寄った可能性だってあるし、そこで知り合いに向けてメッセージを残している可能性だってある。
 幸いなことに位置的にも遠くない。よってみる価値は十分にあるだろう。
 別にかなめにも異論は無い。
 
 そして二人は教会へと足を運んだ。



 ◇ ◇ ◇



 ――それをそっと物陰から見つめる影が二つあった。
 甲賀の忍び如月左衛門と傭兵ガウルンの二人である。

 如月左衛門の忍術を活かすために、とりあえず草原へと移動、北へと動き出してからしばらく、彼ら二人は南のほうから声が聞こえるや否や、慎重にそれでも最大限急ぎ元来た道を駆け戻った。
 人の気配に足を止め、辺りを覗うとまだ若い男女の二人組みが今まさに教会の中へと踏み込もうとしているところへと行き当たったのであった。

「ふむ……。お主の読みどおり端を目指す愚か者がいたらしいな。まったくおぬしの読みは見事なもの……よ……な?」
 わずかにでもこの相手の気を緩めることができるならば儲けもの。ガウルンへと賛美の言葉を浴びせようとした如月左衛門の動きが驚きで止まる。
 振り返った彼の目に入ってきたのは、両腕で自らの体をかき抱き、それでも抑えきれずに全身を振るわせるガウルンの姿であった。

「いかがした?」
 ガウルンに声をかけつつ、左衛門は思い出す。
 あの忌々しいガウルンとの『交渉』の折、彼が口にしていたあの言葉『自分は病気で先が長くない』半ば以上はでたらめと思っていたあの言葉、あれは真実だったのか。
 そんなことを思いながら様子を詳しくうかがうために、ガウルンの側へと近付こうとした左衛門ではあったが、それは彼を止めるように突き出したガウルンの手によって、止めざるをえなかった。
411リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 12:55:11 ID:csCsLSzC
「……うむ」
 口惜しげに頷くと左衛門は教会の方へと音も無く、走っていった。
 どのみち今、彼にガウルンの言葉に逆らうことなどできはしない。

(今に見ておれ……!)
 胸中の怒りを面には出さず、彼は静かに教会の中の様子をうかがい始めた。 


 ◇ ◇ ◇

 もういいかい?

  ――もういいよ。

 ◇ ◇ ◇


 ――教会にここしばらくの間人がいた気配はまったく無かった。

「…………」

「…………」

 教会の重々しい扉を開いた瞬間に感じた、そこに長い間人のいた気配が無かった空間特有のどこか冷たい空気を感じ取って、上条とかなめの間にどこか気まずい空気が流れた。

「いやあ、あの、えーっとですね……」

「何が言いたいのかしら? 『上条当麻君』」

「ひいいぃ! いや、あのですね。ワタクシ上条当麻の勘もたまには外れてしまうこともあると申しましょうか、元々何かあったらむしろラッキーぐらいのつもりで、ここへは来ただけと言いましょうか……」
 気まずい雰囲気をごまかそうと、しどろもどろに弁解をする上条に、にっこりとかなめは微笑みかけた。

「へえぇ、ということは結局無駄足を踏ませるのが目的でここまで足を運んだんだ……上条君は」
 なぜかしら、上条はひいぃぃ! と悲鳴をあげるとばたばたと大慌てで何かないかと教会内を調べ始めた。

「って当麻冗談だってば。って言うか私そこまで無茶な人間だって思われているの?」
 上条に苦笑しながら声をかけたあと、かなめも日頃の他人から見える自分のイメージというものについて少々疑問を感じながら教会内の調査へと乗り出した。

 ――とはいえ場所が場所。
 ここしばらく人がいた痕跡がない礼拝堂は整然と机が並べられており、ざっと見るだけでも使えそうな道具がないことがわかる。
 もしもここが博物館や、美術館であるならば美術品としての武器の類が見つかったのかもしれないが、教会内にそんなモノがあるはずもない。
 
「……こんなのを使うんなら、おとなしくさっき貰った鎌とか、スタンガンとかを使った方がいいしね」
 苦笑を浮かべつつ、かなめは多少は武器になりそうなキャンドル立てを元に戻す。

「無駄足か、ま、しょうがないわよね」

412リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 12:56:26 ID:csCsLSzC
 実際少し考えればわかることだ。
 いくら六十人もの人間がいるとはいっても、この会場自体の広さもなかなかのものがある。
 こんな会場の隅で、そうそう都合よく知り合いに出会えるなんて、よっぽどの運でもなければ土台無理な話というものだろう。

「当麻ー! そろそろ温泉に戻らない?」
 礼拝堂のさらに奥、司祭室の方を調べに行った上条にかなめは声をかけた。

「……おわっ!」
 しかし戻ってきた返事は上条の叫び声と、ベキバキという轟音。

「どうしたの!」
 かなめも慌てて司祭室へと飛び込んだ。

 ――大して広くない室内に上条の姿はどこにもない。

「当麻、どこ!」
「こ、ここだ……」
 かなめに問いかけにややあって、上条の答えが聞こえてくる。声は司祭室の片隅、本棚の脇に目立たずにあった黒い穴から聞こえてきた。

「大丈夫?」
「ふ、不幸だ……」
 声は穴から、それも下のほうから聞こえてくる。
 かなめは穴のふちに手をかけるとその中を覗き込んだ。

 中は暗く、様子はうかがえない。
 かなめは懐中電灯を取り出すと、中を照らしつつ、もう一度覗き込んだ。

 穴の深さは目算で六、七メートルほどだろうか。
 いくつかの木片らしきものを下敷きにして、上条当麻は穴のそこでよろよろと身を起こしていた。

「大丈夫? 怪我はない?」
「なんとかな……なんでこんな不幸な目に……」
 ……実際にはこれだけの距離を落下しておいて、首をはじめ、骨折の一つもない今の上条の状態は幸運以外の何ものでもないのだが、それでも上条にとっては今は不幸以外の何ものでもなかった。

「ま、平気そうね」
 ぱっと見にはたいした怪我は負ってないように見えることに安心しつつ、念のために間近で上条の様態を見ようと、かなめは降りれる場所を探して、懐中電灯で穴のあちこちを照らした。
 だが、足場らしきものは見つからない。
 いや、正確には足場だったと思しき残骸が壁のとある一面にあるにはあったが、今現在足場になりそうなものは見つからなかったというべきか。

「……」
 かなめはもう一度穴の底を照らした。
 どうしてそんな物が穴の底にあるのか用途不明な木片が、幾つも上条の足元に転がっている。

「…………」

「…………」

「どうするのよ当麻!?」
「ふ、不幸だああぁぁぁぁっ!」
 二人の絶叫が響いた。

「そもそもどうして落とし穴でもあるまいし、こんなトコに落ちているのよ?」
「どうしてって言われてもなあ、手をついた壁の一部が急に崩れたとしかいえねえぞ」
413リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 12:58:00 ID:csCsLSzC
 かなめと上条、二人の調査でもこの教会内にロープや梯子などは見つけられなかった。
 そうすると助けを他から呼んでくる他にない。

「じゃあ、北村君とかを呼んで……」
 かなめの言葉が途中で止まる。
 とりあえずかなめが温泉に先に向かおうとした、そのタイミングでこの会場内の全てに「放送」が流れた。


「……な? 冗、談だろ……」
「嘘……」
 上条とかなめ。
 穴のふちと底にいる両者の口から共に驚きの声が漏れた。
 放送の前置きそのものは、最初の北村との話し合いでの考察を裏付けるかなり重要な内容を含んではいたのだが、正直今の彼らにそんなことはどうでもいい。

――北村祐作。

ほんの数時間前に別れた仲間の死が告げられたのだ。

「どういうこと!?」
「わかんねえ!」
 混乱の中、かなめと上条は互いに大声を張り上げる。

 先に多少なりとも落ち着いたのは、荒事の経験がかなめよりも多い上条の方だった。

 努めて冷静になって上条は考える。
 
 ――北村が死んだ。

 ――どこで?
 ――どうして?
 ――誰が殺した? 

「――千鳥!」
「何よ!」
「いいか、落ち着け。ひとまず俺の事は無視して、お前は先に温泉に向かってくれ。ただし、一人じゃ危険だ。だから多分、まだ温泉にはシャナ達がいるだろうからあいつらと合流しろ。 ……もしも、温泉に人の気配がないようだったら南、海の方に向かってくれ。」
「……あ、ひょっとしたら……」
上条の言葉にかなめは少しぶつぶつと何かを呟いた後で、怒鳴り返してくる。
「ってあんたはどうするのよ!? ここにもしも殺し合いに『乗った』のが来たら逃げ場所がないじゃない!」
「大丈夫だ!」
 上条は叫び返す。

 そう、上条だってむざむざ死ぬつもりはない。
 死地に留まりつづけるつもりもない。
 そう、どんな時でも諦めないのは上条の長所の一つ。
 
「千鳥、っと……ここらへんを照らしてみてくれ」
「何かあるの?」
 言われるがままに、かなめは上条が指差した場所に明かりを移す。そこには取り立てて変わったところはない。 
「……何もないじゃない?」
「いや……」
 そう言いながらそこに上条は両手を当て、強く押し込む――その前に。
 
414リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 13:01:00 ID:csCsLSzC
 ばぎん、という上条にとっては慣れた手ごたえと同時に、そこを中心に人一人が身を屈めれば通れそうな穴があいた。

「やっぱりな」
 それを上条は得意そうに見た。

 そう、落ち着いて周りを見渡せば気がついた。
 上条が派手に降りた……もとい、落ちたせいで穴の中には埃が満ちていた。
 明かりの中でその埃をよく見れば、横の方から風が流れていることには簡単に気がつく。

 後は簡単だ。
 例えここの入り口と同様に「そこ」が隠されていようとも、風が通るぐらいに薄ければ少し力を加えたらどうにかなる。
 ……実際には薄いのは何らかの力で補強してあったからなのだが、そんな事実は上条の右手には関係ない。

「風が流れてるってことはここは外につながってるはずだ。俺もすぐに行くから頼む!」
「……わかった!」
 本音を言うなら、例え何回かの荒事に巻き込まれていようとも、かなめはただの普通な女子高生だ。こんな場所で一人で行動するのは少し不安があった。
しかし、上条は上に登ってこれそうにないし、逆にかなめが地下に降りようにも、この高さを無事に降りるだけの自信はない。
それに彼女も温泉で何があったのかは知りたくもある。
(うん、何かあったら逃げ出せば平気よね……)

そして彼女も決意を固めた。

「……当麻!」
「何だ?」
「最初会ったときから思っていたけど、あんたは運が悪いみたいだから用心しなさいよ」
 かなめの言葉に上条は小さく笑う。
「サンキュ、千鳥こそ安全第一。危ないと思ったらすぐに逃げろよ」
「わかってるって」
 かくして彼らの道は一旦は分かたれた。
 きっとお互いにすぐ合えることを信じて。
  

【E-1/教会地下/一日目・朝】

【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
【状態】:全身に打撲(行動には支障なし)
【装備】:無し
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品1〜2)、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣
【思考・状況】
基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
1:この地下から脱出。その後温泉に向かう。
2:かなめや先に温泉に向かったシャナ達とも合流したい。
3:インデックスを最優先に御坂と黒子を探す。土御門とステイルは後回し。

【備考】
※地下道の先がどうなっているのかは次の書き手にお任せします。
※教会内には何らかの異能の力が働いているところがありました。

415リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 13:02:09 ID:csCsLSzC
【E-1/一日目・朝】

【千鳥かなめ@フルメタル・パニック!】
【状態】:健康
【装備】:とらドラの制服@とらドラ!、二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣、小四郎の鎌@甲賀忍法帖
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品×1)、陣代高校の制服@フルメタル・パニック!
【思考・状況】
基本:脱出を目指す。殺しはしない。
1:温泉に向かって情報を集める。
2:何かあったら南、海岸線近くで上条を待つ。
3:知り合いを探したい。
4:上条にはああ言ったが、少しだけシャナ達に対して疑念。
【備考】
※2巻〜3巻から参戦。



【備考】
※マップ端からはみ出しても数秒間は大丈夫。それ以上は不明だがおそらくは消滅する。
※『幻想殺し』で壁は少しだけ壊せるが、壁はすぐに再生するために今のところは脱出することはできない。

以上の情報を上条当麻と千鳥かなめは知りました。



 ◇ ◇ ◇


「…………」

 六時間ごとに流れる放送。
 その最初の一回を興味なくガウルンは聞き流した。

 彼にとって興味がある人間は今のところ三人だけ。
 その内一人、この会場で出会ったガキは名前も知らない。
 しかし、興味を持つもう一人カシムこと相良宗介と同様、あいつがそうかんたんに殺されるはずがないから、ガウルンが殺すまで、あいつらが死ぬはずがないから気にするまでの事もない。
 故に放送で名が呼ばれることを気にしなくてはならない相手は一人きりだったのだが、その相手、千鳥かなめは放送前にその姿を発見した。

 ならばどうして放送を真面目に聞く必要があるだろう。

 だからこそ、放送の少し後千鳥かなめが教会から飛び出してきた瞬間にも、ガウルンは対応できた。

(何をやっているニンジャ!)
 咄嗟に動きを止めるために、彼に気がつかないで走っていくかなめに銃を向けたものの、彼女を気にせずこちらに向かってくる左衛門の姿に気が付き、銃を下ろす。

「どういうことだ?」
 彼から少し離れたところで動きを止めた左衛門にガウルンは問い掛ける。
「うむ……実はの」
 そうして彼は教会で様子をうかがって得た情報を語りだす。

416リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 13:04:50 ID:csCsLSzC

「……成る程な。上出来だぜ、ニンジャ」

 教会で何か事故か何かがあって、あのかなめと同行していたガキは動きが取れない状況に陥ったこと。 

 温泉に奴らの仲間がいたこと。

 その仲間が今の放送で呼ばれたこと。

 かなめが先行して様子を見に行くことにしたこと。

 左衛門が伝えた以上の情報を吟味しながら、ガウルンは考えをまとめる。

「よし、じゃあ……」
 当初、ガウルンは彼が教会に残されたガキをいたぶりながら殺して、左衛門にかなめを確保させるつもりだった。

 しかしその指示を出そうとする直前に、ふと気がついたのだ。
 ひょっとしたらニンジャの奴は勘違いをしているかもしれないと。
 ガウルンにとってはかなめは、あくまでもメインデッシュであるカシムを苦しめて、絶望させるためのスパイス程度でしかない。
 しかしもしも、左衛門がかなめをガウルンにとっての重要な存在だと勘違いしていたらどうする?

 もちろんいざとなれば二人まとめて殺すつもりではあるが、そんなもったいないことをわざわざする必要はどこにもない。

「俺はかなめちゃんの後を追って、温泉に向かう。ニンジャ、お前は教会に残ったが気の方を始末しな」
「うむ、心得た」
「ああ、それとついでだ。あのガキの顔も奪ってこいや」
 あとはついでに口調のテストも済ませておく。
 会話を聞くついでにあのガキの声の方も覚えたことだろう。
 ニンジャが追いついたらかなめと会話をさせて、ぼろを出さないようなら上出来だ。

「なるべくはやくこいよ」
 そう言い捨てると、左衛門を残してガウルンは走り出した。

 相手の目的地が分かっているいる以上、先回りをすることは簡単だ。
 だが、温泉で殺しをやった奴がこちらに向かってこないとも限らない。そんな見知らぬ殺人者にせっかくの獲物をくれてやるつもりはガウルンにはカケラもない。

 ならば一番いいのはかなめの後を尾行することだ。

 ガウルンはつい先ほど走っていった少女の跡を追い始めた。  


417リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 13:07:28 ID:csCsLSzC
【E-1/一日目・朝】


【ガウルン@フルメタル・パニック!】
[状態]:膵臓癌 首から浅い出血(すでに塞がっている)、全身に多数の切り傷、体力消耗(小)
[装備]:銛撃ち銃(残り銛数2/5)、IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)
[道具]:デイパック、支給品一式 ×4、フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、甲賀弦之介の生首
[思考・状況]
基本:どいつもこいつも皆殺し。
1:温泉でかなめを補足しつつ、ニンジャが来るのを待つ。温泉にまだ殺人者がいるようならばそいつの相手も楽しむ。
2:千鳥かなめと、ガキの知り合いを探し、半殺しにして如月左衛門に顔を奪わせる。
3:それが片付いたら如月左衛門を切り捨てる。
4:カシム(宗介)とガキ(人識)は絶対に自分が殺す。
5:左衛門と行動を共にする内は、泥土を確保しにくい市街地中心での行動はなるべく避けるようにする。
[備考]
※如月左衛門の忍法について知りました。
※両者の世界観にわずかに違和感を感じています。


 ◇ ◇ ◇


 肝心の仕掛け、隠し口そのものはものの数分程度で発見できた。
「ふむ……」
 だがしかし、せっかく見つけた入り口を前に、如月左衛門はそこに入ろうとはせずに顎に手をやり考え込む。
 彼が悩む理由は一つ。この先は一体どうなっているのかということである。
 せっかく見つけた隠し口ではあるが、戸棚の奥に隠されていたそこは光が差し込まず、忍びである彼の優れた視力をもってしてもその奥を見通すことは適わなかったのだ。
 
 うかつにここを降りていったその先には、あるいはあの若者が武器を構えて待っておるかも知れぬ。
 あるいは底に逆しまに立てられた無数の刃が犠牲者を待っているかも知れぬ。

 今やこの如月左衛門の命は彼一人のものではない。
 甲賀卍谷の里全ての者の未来と同じ。
 ましてやこの地での彼はどうにもふがいなきことばかりが続いている。疫病神か何かに取り憑かれたかと思えし現状、とてもではないが無謀な賭けに挑むつもりは彼にはない。

 だからといって、このままここを立ち去るわけにはいかないのもまた事実。
 あのにっくきガウルンめの指示はあの若者の殺害だけではない。あの若者を殺害したのちその顔を奪ってくることが彼への指示。
 それに背けばどうなるか……。
 主君、甲賀弦之介の生首をガウルンめに奪われている今はあ奴めの命令は如月左衛門にとっては絶対に守らなければならない。

「ええい、忌々しい!」
 いつまでもうつけのごとくこの場所を見張っておくわけにもいくまい。
 がうるんと、そして何よりも奴程度の男にまんまとしてやられた自分自身に悪態をつきながら、如月左衛門はひとまず入り口から離れると、教会内を探索することにした。
 灯りか何かが見つかれば、この中にも入っていける。

 ――そうして数分後。
「ないのう……」
 十字架がある広間、そしてこの部屋もくまなく調べつつ左衛門は落胆の溜息をついた。
 探索を開始してすぐに、数本のろうそくを発見して喜んだのもつかの間、この場には肝心の火種が無いのだ。これではせっかく見つけたろうそくもただのゴミと変わらない。
「…………」
 それでも諦めずに、黙々と探索を続ける左衛門ではあったが、その胸中はがうるんへの怒りが残る。

418リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 13:11:33 ID:csCsLSzC
 そもそもがうるんめに奪われた彼自身の、そして弦之介の荷物があればこのような苦労は最初からしなくとも済んだのだ。
 ところがあの男は左衛門にこうした指示を出しておきながらも、返した道具は何一つない。
 もしもこの手にあのふらんべるじゅがあったのならば、あるいはあの闇の先に何が待ち構えていようとも恐れずに飛び込んでいけたかもしれない。

「……まったく無駄を…………む?」
 不意に如月左衛門の動きが止まる。
 確かに、聞こえた。

「――人の声?」
 聞こえてきたのは間違いなく人の声。おまけにその内容は……。
 わずかに逡巡した後、如月左衛門は声が聞こえた方へと向かうことにした。
 少なくともこの地で容易く己の居所を明かすようなものが危険であるとは思われない。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
 距離はそれほど遠くない。
 そこにいる相手がどのような相手であろうとも、先ほどのような失態は二度と見せまい。そうした固い決意を胸に彼は慎重に街を駆けていった。

 

◇ ◇ ◇


「はぁ……はぁ……」
 温泉旅館を出てからしばらく、ただただ真っ直ぐ西に、走りつづけた櫛枝実乃梨の息はかなりあがってきていた。
 しかし彼女の足は止まらない。
 ソフトボールの練習と数多のバイトの経験によって鍛え上げられた彼女の根性はこの程度で音を上げてしまうほどやわではなかったし、それ以上に今の彼女に足を止める意思は一切、なかった。

(――いない)
 走りつづける彼女の目に見覚えのある光景が映る。
 そこはほんの少し前、シャナと秀吉とエルメスと、一緒になって訓練していた場所。

『ちょ、ちょちょっ、木下くんってば! ちゃんと後ろ支えててよ? 絶対離しちゃダメだかんね!?』
『無理じゃ! 自転車じゃあるまいし、支え切れるわけがなかろう!?』

 あの時からまだ何時間もたってはいないのに、それがもうずいぶんと過去のことのように思える。
 あの時はまだ、こんなことになるなんて想像さえしていなかった。また後であーみんや大河、高須君。みんなと元のように戻れるって信じていられたのに。
 そうして「彼ら」から貰った情報で、北村君もここに呼ばれたことに驚いて、けどすぐに会えるから、他のみんなとも同じように簡単に会えるはずだって、そうあの時は思えたのに。

 ――だけど今はどうだ?

 実乃梨の足は止まらない。
 あの場所はあっという間に後方へと流れて見えなくなった。

(やっぱりどこにも見当たらないじゃんかぁ!)
 あの時「彼ら」が調べに行くといっていた会場の端、黒い壁までは後わずか。
 もしも嘘をついていなければ、本当に北村の仲間だったというのなら、とっくに異変があったはずの温泉へと向かうはずの彼らとは出会っていなければおかしい筈だ。

 人がいい二人組みのようにあの時は見えた。
 けれどそれは本当に確かだったのか。
 北村君に会えるって思い上がったあまりに、何かを見逃していなかったのか。
 
419リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 13:16:16 ID:csCsLSzC
 実乃梨の心の内でどんどん彼らを信じたいという気持ちが薄れていく。
 代わりに心の中に残るのは疑念。

 そうこうする内に、ついに実乃梨はこの世界の端にまでたどり着いた。

「はぁ…………はぁ…………」
 呼吸を整える間も惜しんで、周囲を見渡すが人影はどこにも無い。

「……っく!」
 実乃梨は大きく息を吸い込み叫ぶ。

「上条当麻ぁぁぁああ! 千鳥かなめぇぇぇぇええ! いるんだったら、出、てこぉぉおおいぃぃぃぃ!」

 ……おおいぃ

 ……いいぃ

 ……ぃ

 ただ彼女の叫び声だけがこだまする。
 周囲には、誰もいない。来る気配も無い。

 ……あるいはもう少し彼女が冷静であったなら、彼女達が別れた時間と距離の関係から、早期に調査を終わらせた彼らがどこか別の場所へと向かい、そのせいで出くわさなかったと思い至れたかもしれない。
 しかし、普通の学生である彼女にそのような冷静さを期待するのは酷というものだろう。

 だから結果として、彼女の疑惑は確信へと変わる。

「……許せない」
 怒りと共に彼女は呟く。
 北村君を殺したあの二人には絶対にそれ相応の報いを受けさせてやる。
 今は温泉に戻るだけの時間も惜しい、少なくともあの二人がこの近くから北の方へと向かったことは間違いないはずだ。
 だから彼女も北へと走り出し、すぐにこちらへと向かってくる人影を見止めて足を止めた。

「――誰、ですか?」
 今は状況が状況だけに誰もが疑わしく見える。
 とりあえず相手が声が聞こえる距離まで近付くのを待ってから、実乃梨は相手に声をかけた。
 返事が無いようならそのまま逃げよう、そんなことを考えたが、意に反して相手はそこで足を止める。

 中肉中背の特徴が無いのが特徴といった男だった。
 そのまま男は害の無い笑顔を浮かべると、実乃梨に話し掛けてきた。

「あ、いや済まぬ。わしの名は如月左衛門じゃ」
「あ、私は櫛枝実乃梨」
「……」
「……」
「何か用でもあるんじゃ?」
 しばしの沈黙の後に実乃梨の言葉に男は気恥ずかしげに頬を掻いてから聞いてきた。
420リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 13:18:01 ID:csCsLSzC

「うむ、聞き違いならばすまんのじゃが、おぬし今かなめ、と叫んではおらんかったか?」
「!? 知ってるの?」
 思いもしなかった男の言葉に実乃梨は食いついた。

 その勢いに男はやや引いた態度を見せたものの
「うむ。それが千鳥かなめという女子ならばの。そうじゃな容姿は……」
 と頷いた。
 彼の語る千鳥かなめの風貌は間違いなく、彼女の知る千鳥かなめと同一人物だ。   

「本当!? 居場所とかは知ってるの?」
「まあ、待て。先にわしの問いにも答えてもらおう」
 さらに勢い込んで質問を重ねる実乃梨をやんわりと制止すると、一転して鋭い目つきで男は実乃梨をじろり、と見据える。
「わしが聞きたいのは一つ。おぬし一体あやつとどのような関係じゃ?」
「…………」
 左衛門の問いかけに、実乃梨は一瞬押し黙った。

 彼女とかなめの関係を正直に言った場合、もしも彼が実乃梨と同様に知り合いを傷つけられていたのなら、きっと同じ敵を持つもの同士、彼女の味方になってくれるだろう。
 だがもしも、かなめの味方だったのならば彼女の悪行を知る実乃梨の口をなんとしてでも封じようとしてくるはずだ。

 逆もまたしかり。
 関係が友好的なものだといってしまえば、正直に言ったときとはきっと逆の結末が待っている。   

「…………」
 悩んだ末に彼女は正直に答えることにした。 

「成る程のう」
 左衛門は彼女の言葉にうんうんと頷き、ふと思い出したようにいう。
「おお、そういえば先ほどの質問の答えじゃが……」

 ゴクリ、と実乃梨は唾を飲み込み、そしてそっとデイパックの中のバットの柄を握る。

「わしもそれは知らんのじゃ」

……

…………

………………。 

「……は?」
 実乃梨はあっけに取られたように呟いた。

「は? あのどういうことでしょうかい?」
「うむ、実はわしはそのかなめという女子とは直の知り合いではない」
「じゃあどうして?」
 当然の疑問を浮かべる実乃梨に向かって、左衛門は笑いかける。
421リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 13:22:04 ID:csCsLSzC

「じつはの、わしと一時期行動しておったがうるんという男がそ奴を探しておったのじゃ。確か……大事な仲間とか言っておったのう」
「行動していた?」 
 しかしそういう彼は今一人きりだ。
 さっきと同様、周囲に他の人影は無い。 

「そう、奴はわしを裏切ったのじゃ」
 苦々しげに左衛門は言い捨てる。
 成る程と、驚くと共に実乃梨は納得もしていた。類は友を呼ぶという。そのがうるんという彼女の仲間も彼女同様に汚い奴だということだろう。
 そんな実乃梨に左衛門は話し掛ける。

「話は変わるが実乃梨とやら、わしに手を貸さんか? おぬしもあ奴の仲間には恨みを持っているようじゃ。
ご覧のとおりわしはあ奴に襲われた際、荷物を全て奪われてしもうた。このまま奴らに挑むのは少々心許ないのが本音。
頼む! 力を貸してくれ!」
「うわ、頭をあげておくんなせえ!」
 手をこすり合わせて、頭を下げる彼に慌てて実乃梨は駆け寄った。

「あたしだってあいつらには腹を立てているんだよ。左衛門さんだっけ? あんたが手を貸してくれるっていうんならむしろこっちこそ願ったり適ったり。共に力を合わせやしょう!」
「うむ、よろしく頼む」
 やや芝居がかった口調の実乃梨に苦笑を浮かべつつ、左衛門は顔をあげた。

 ――そして。

 

◇ ◇ ◇


 つかまえた
 

◇ ◇ ◇



――――――――――――――――――――ゴキッ。
 


◇ ◇ ◇
422リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 13:27:49 ID:csCsLSzC


「好き好んで女子を殺したいわけではないのじゃがな……」
 沈痛な面持ちで櫛枝実乃梨だったものを見下ろしながらも、手は止めずに如月左衛門は、いや、櫛枝実乃梨の顔を奪った如月左衛門は呟いた。

 彼とて人の子だ。 
 何も好き好んで婦女子を、それも一見して争いごととは無関係に過ごしてきたような町人を殺すことに胸が痛まぬといえば嘘になる。
 だが。

「済まんな……わしの事ならば冥府にていかように恨んでくれても構わぬ。じゃが、甲賀の里の皆のためじゃ。祟るのはしばし待ってくれい」
 沈痛な表情とその言葉とは裏腹に左衛門の手は淀みなく動き、実乃梨の髪を奪ってかつらを作り、そして服を脱がしていく。

 ――数分後。
 そこにいたのはぱっと見には、逢坂大河や川嶋亜美などのもともとの彼女の知り合いでさえ、区別がつかないほどそっくりに櫛枝実乃梨そっくりに化けた如月左衛門であった。

 新たに得た知識、「でいぱっく」に彼女の遺体を詰め込むと、素早く境界に移動。そしてそのまま死体をほうり捨て「境界葬」を済ませると、ようやく「彼女」はにんまりとした笑みを浮かべた。

 ようやく風は彼に向かって吹き始めた。
 がうるんめが知らぬこの女子の顔なれば、奴の油断を誘い、近付くことも容易であろう。
 なおかつこやつはあのかなめとやらの知り合い。
 万が一、己の忍術をあのがうるんに見破られようとも、奴の指示を破って、あの若者の顔を奪ってこなかったことに対しても言い訳は立つ。

423リアルかくれんぼ ◆ug.D6sVz5w :2009/10/12(月) 13:32:48 ID:csCsLSzC
 すなわち、今のこの状況。
 何がどう動こうとも、彼にとっては有利になりこそすれ、不利となることなどはありえない。

「……くっくっく」
 先ほどまでガウルンの側で浮かべていた作り笑いとは違う、久方ぶりの心からの笑みも借り物の顔ではちともの足りぬ。
 しかし、上手くいけばその我慢も後少しの辛抱だ。

 己の顔にて心からの笑みを浮かべられることを楽しみにしながらも、彼は油断なく温泉目掛けて走っていった。


【櫛枝実乃梨@とらドラ! 死亡】



【E-1/一日目・朝】

【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲 ガウルンに対して警戒、怒り、殺意 櫛枝実乃梨の容姿。
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣
[道具]:デイパック ×2、金属バット 、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持。武器ではない?)

[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:温泉に向かい、 気付かれないようならガウルンを襲う。
2:気付かれたなら適当にごまかして、再び機を覗いながらガウルンの指示に従う。
3:弦之介の生首は何が何でもこれ以上傷つけずに取り戻す。
4:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。
[備考]
※ガウルンの言った「自分は優勝狙いではない」との言葉に半信半疑。
※少なくとも、ガウルンが弦之介の仇ではないと確信しています。
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました
※千鳥かなめ、櫛枝実乃梨の声は確実に真似ることが可能です。また上条当麻の声、及びに知り合いに違和感をもたれないはなし方ができるかどうかは不明。
※櫛枝実乃梨の話から上条当麻、千鳥かなめが殺し合いに乗った参加者だと信じています。
 
424創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 14:10:38 ID:EIT32Ebq
>407 名前: ◆ug.D6sVz5w [sage] 投稿日: 2009/10/12(月) 13:40:31 cpbw8F7Q0
>最後にさるさんなのでこちらに
>
>投下完了です。
>大幅にオーバーしてしまったことを謝罪します。
>また「壁」についての勝手な設定などにご意見等あれば、よろしくお願いします
425創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 14:30:20 ID:EIT32Ebq
投下乙でした。

>必要の話―What is necessary?―
ようやく得エルメスにまともな乗り手がw
しかしトレイズ、リリアとの対比というか、徐々に思考が物騒に。
いい女(亜美ちゃん)と別れたのが起因とはいえ…。
仮投下の修正案、問題ないと思います。

>リアルかくれんぼ
みのりん……orz
ガウルンは、ついに獲物を見つけたせいか楽しそうだなぁ。かなめ逃げてー!
そして上条さんはやはり不幸、とw
426創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 17:00:45 ID:rlZkXq6t
投下乙!

>必要の話
ようやくエルメスにまともな乗り手がw
トレイズ、死体慣れはしてるけど急いではいるんだな。色々端折ってるw

>リアルかくれんぼ
うわーい。「お前先に行け、あとから追いつく!」って、
いかにも上条さんが言いそうなことだけど、でもロワではやっちゃらめぇぇぇ!w
実乃梨はご愁傷様としか言いようがないなぁ。ミスと言えば単独で飛び出したこと自体がミスだったんだが。

427代理投下◇リアルかくれんぼ:2009/10/12(月) 18:20:09 ID:EIT32Ebq
>すみません抜けがありました。
>正しくは>>410>>411の間に以下の文が入ります

文面多いので、2つに区切って投下するかもしれませんのでご了承を。
2分間隔くらいで投下します。
428代理投下◇リアルかくれんぼ:2009/10/12(月) 18:22:20 ID:EIT32Ebq
 そもそもこのガウルンという男、例え死病に犯されていようとも、それゆえの弱みを人に見せるような男ではない。それはガンに犯されてすでに全身ぼろぼろの、今このときも変わらない。
 そんな彼が見せた震えはただ単に――

 心から楽しげに嗤っていただけに過ぎない。
 
「くっくっく、こりゃあすげえ。俺かニンジャ、お前によほどの幸運がついているのか。それともあいつらによほどの厄病神でも憑いているのか、どちらだと思う? なあ、おい。お前は一体どっちだと思う? くっくっく。ははっ、はははははっ!」 
 そうして再びこらえ切れないと言わんばかりに、ガウルンは声を押さえつつ大笑いする。
 その一方で如月左衛門はどうしてガウルンがそこまで上機嫌になっているのか、まるで理解が追いつかない。
「一体どうしたのだ?」
 故に尋ねることにしたのだが、彼の言葉にガウルンはテンションが落ち着いたらしく、ようやく笑うのを止めるとはあ、と大きく息を吐く。
「察しがわるいぜニンジャ。お前ももう少し喜ぶべきなんだぜ。せっかく大事な弦之介サマが戻ってくる第一歩だっていうのによ」
「……まさか!」
 ガウルンの言葉に気付いた左衛門は驚きの声を漏らす。
「へッ、ようやく気付いたか。そう、あれがかなめちゃんだ」
「おお!」
 ようやく左衛門も喜びの声をあげた。

 ――とはいえ、実際彼にそれほどの非は無い。
 それというのもガウルンはカシムこと、宗介の事は特徴的な傷跡のことなどいろいろ詳しく話していたのだが、かなめに関しては髪の長さや背の高さなどに関してのことがほとんど。
 むしろそれだけの情報しか与えられずに、見分けられる方がどうかしている。

 しかしそうした己に非がない糾弾に対しても、今の彼には気にならない。
 これで一歩、弦之介様を取り戻す道が近付いた。

「――待て、ニンジャ」
 早速女を半殺しにし、その顔を奪いにいくべし、と駆け出した左衛門に対してガウルンが声をかける。

「なんじゃ? 言われんでもかなめとやらを殺さぬことぐらいは……」
「――心底バカか? お前は」
 振り返った左衛門に対して、さも呆れたといわんばかりに、ガウルンは嘲笑と罵倒の言葉を浴びせ掛ける。
「何だと?」
「あのなあ、お前は散々お預けを喰らった犬ッころなみのおつむしか持っていないのか? もうちょい頭は使えよこの阿呆。
いいか? 考えても見ろよ。せっかく今かなめちゃんは『お友達』といっしょに行動しているんだ。
かなめちゃんの『お友達』に対する話し方やらちょっとしたしぐさなんかをお前のものにするこれ以上のチャンスがあるのか?」
「……ぐっ!」 
 左衛門は言葉に詰まった。
 
 ……その口調こそ乱暴で聞いているだけで頭に来るものではあるが、ガウルンの言うことの大筋はまったく理に適っている。
 如月左衛門の忍術『泥の死仮面』はあくまでも相手の姿かたちを真似るだけのもの。己の姿を欺くことが目的というのであらばともかく、その容姿を真似た相手の知人を騙すとなれば、相手のことをよく知らねば術としては不完全。

「わかったらとっと様子を覗ってこい。
俺はここで待っているから適当に戻ってきな。どの程度の出来栄えかちゃんと確かめてやるからよ」
429代理投下◇リアルかくれんぼ:2009/10/12(月) 18:23:37 ID:EIT32Ebq
代理投下完了。
430創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 18:40:02 ID:Z9a4Ttc6

では感想をば

>必要の話
トレイズ少しさばさばしてきたな…まぁロワに慣れてきたからだろうけど。
マーダー化も視野に入ってきたから不安だー…。
>かくれんぼ
みのりん…
予約の時はかなめ・上条さんに拾われると思ってたんだが
…ご愁傷様。
にしても上条さんが相変わらずおいしいポジションに…
どうせ穴から出たらまた女の子だろ(`ε´)
男だったら死亡フラグwww

なにはともあれ投下乙!
431創る名無しに見る名無し:2009/10/13(火) 16:03:00 ID:GdDFBXP3
>どうせ穴から出たらまた女の子
そういえば、すぐ近くにセロテープで人を輪切りにした女の子がいたような・・・
432創る名無しに見る名無し:2009/10/13(火) 19:02:18 ID:/m0y1yds
予約来てるな
セロテープの
433創る名無しに見る名無し:2009/10/13(火) 20:25:12 ID:OIbRjw5n
さあ上条は一体どんなフラグを立てるのか楽しみだ
一人は危ないというふざけた法則があるがまずはその幻想をぶち壊してしまうか逆にぶち殺されるのか

どう動くラノベ屈指の(駄)フラグゲッター
434 ◆LxH6hCs9JU :2009/10/13(火) 22:27:07 ID:bN2RWfhI
投下します。
435国語――(酷誤) ◆LxH6hCs9JU :2009/10/13(火) 22:28:01 ID:bN2RWfhI
 【0】


 こくごのじかんです。



 ◇ ◇ ◇



 【1】


 ひうん――と。
 朝の日差しが極細の鋼線に光を落とし、キラキラと実体を映し出している。
 常人の視力では見ることも適わないそれが、五指の律動に合わせて踊り狂う。
 まずは反動のままに首根っこを断ち、その後上半身、下半身へと切り分けていく。
 細切れ肉のようにばらばらに、そしてジグザグに断割していくつもり――空を。


 ひうん――と。
 糸は何者かの意思に呼応し、巻尺のように音を鳴らしながら指に戻っていく。
 一本が戻ればまた一本、二本戻ればもう二本、指先五つで自由自在。
 腕を大きく振ると、空気が鳴いた。軽いソニックブームである。


 ひうん――と。
 空気が真空に裂けていく。大空は糸を避けられない。避けた空間は意図を語らない。
 首を吊った死体はそこにはない。人体がないのだからあたりまえ。操者の意図はお試し。


 ひうん――と。
 《曲絃師》にして《ジグザグ》、《戯言遣いの弟子》にして《紫木一姫》。


 ひうん――と、少女は満足げに《曲絃糸》を操ってみせるのだった。



 ◇ ◇ ◇

436国語――(酷誤) ◆LxH6hCs9JU :2009/10/13(火) 22:29:02 ID:bN2RWfhI
 【第一問】

  問 以下の意味を持つ慣用句を答えなさい。
    『強い者がさらに良い条件を得て強くなること』

  ■文月学園高等部二年Fクラス、坂本雄二の答え
  『鬼に金棒』
  ■教師のコメント
  正解です。慣用句の問題としてはさすがに初級すぎましたね。

  ■紫木一姫の答え
  『鬼の目から金棒』
  ■教師のコメント
  同じ『鬼』という単語を使っているだけに、紛らわしかったですかね。
  きっと『鬼の目にも涙』と言いたかったのでしょう。どちらにせよ不正解です。


 【第二問】

  問 以下の意味を持つ四字熟語を答えなさい。
    『弱者の犠牲の上に強者が栄えること』

  ■甲賀卍谷衆頭領、甲賀弾正の答え
  『弱肉強食』
  ■教師のコメント
  正解です。まさに喰うか喰われるか、忍者の世界を体現したかのような言葉ですね。

  ■紫木一姫の答え
  『焼肉定食』
  ■教師のコメント
  定番の間違いですね。


 【第三問】

  問 以下の意味を持つことわざを答えなさい。
    『獰猛さを隠し、あたかも大人しい猫のように振舞うこと』

  ■大橋高校教師、恋ヶ窪ゆり(30)の答え
  『猫をかぶる』
  ■教師のコメント
  正解です。上手く猫をかぶれていれば、今頃はきっと……

  ■紫木一姫の答え
  『猫をあぶる』
  ■教師のコメント
  動物虐待はいけません。


 ◇ ◇ ◇


437国語――(酷誤) ◆LxH6hCs9JU :2009/10/13(火) 22:29:55 ID:bN2RWfhI
 【2】


 紫木一姫が手に入れたレーダーは、単三電池四本で六時間稼働する。
 電池ボックスはカバー式で、交換には特別な工具等も必要としない。
 古泉一樹との悶着のおかげで中の電池を紛失してしまったが、機械自体が壊れたわけではなかった。
 電池の交換さえ済ませれば、今すぐにでも再利用することができるだろう。

 手持ちの荷物に単三電池はなかった。基本支給品の中には懐中電灯が入っていたが、これは単一電池二本で動いている。
 探すしかない。探すのが馬鹿らしいくらい簡単だとわかっていても探さなければならないのがなにか癪だ。
 別になくても困らないものではあるが、あったらとても便利なものでもある。なら探そう。

 辺りは住宅街で、電池が売っているような店はなかった。
 民家にも電池くらいは置いてあるかもしれないが、六時間というシビアな時間制限を計算しておけるよう、できれば新品が欲しかった。
 埃塗れの柱時計に残された使い古しの電池や、テレビのリモコンにセットされた別メーカー同士の二本なんかは、ちょっと気持ち悪い。

 選り好みしている場合じゃないでしょ、と指摘を受けるほど紫木一姫の状況は切羽詰っていない。
 放送では《師匠》の名前も呼ばれなかった。《師匠》といっても名簿に載っていた本名不詳の《師匠》さんではないが。
 いや、もしかしたら《師》が苗字で《匠》が名前なのかもしれない。《のり・たくみ》さんだったりとか。

 そんな風に一見楽しそうではあるけど実のところまったく楽しくないことを考えていると、紫木一姫は電気屋を見つけた。
 こじんまりとした建物の中は、雑多なほど電化製品に塗れ、安いのか高いのか微妙な値札の数々が狂喜乱舞している。
 大手量販店に日々客を持っていかれつつもどうにか持ち堪える人情派町の電気屋さんといった感じの店だった。

 ごちゃごちゃした店内を眺め回しながら、目的の品を探す。ごちゃごちゃしすぎていて見つけるのに手間取ってしまった。
 アルカリ単三電池四本のパックを入手。さて、そういえば六時間というのはアルカリとマンガンのどちらを基準にしたものなのだろう。
 電化製品についてはあまり詳しくない紫木一姫だったが、アルカリ乾電池のほうが長持ちハイパワーというのはどうにか記憶している。
 ならこっちのほうで問題ないか。値段も安いよりは高いほうが高性能ってことだろうし。とすぐに自己完結。

 どうせなら他になにか使えそうな電化製品を貰っていこうかとも考えたが、どれもこれも役に立ちそうにないのでやめた。
 あたりまえだ。炊飯ジャーやファンヒーターやサイクロンジェットクリーナーが生き残りの役に立つなどあろうはずがない。
 今、紫木一姫の手にある《曲絃糸》。《曲絃師》の証たるそれだけで、事は足りる。

 道草を食わず、またもとの進路に戻るとしよう。もっとも、その進路はこれから決めるのだが。
 手に入れたばかりの電池をレーダーに入れ、電源が復活するのを待つ。

 すぐに周囲一帯の簡易地図が表示された。
 そしてそこには、紫木一姫以外にもう一人、知らない誰かさんの名前が表示されていた。



 ◇ ◇ ◇

438国語――(酷誤) ◆LxH6hCs9JU :2009/10/13(火) 22:30:57 ID:bN2RWfhI
 【第四問】

  問 以下の意味を持つ慣用句を答えなさい。
    『無駄なお金を使わないこと』

  ■学園都市某高校教師、月詠小萌の答え
  『財布の紐が固い』
  ■教師のコメント
  正解です。煙草やビールといった嗜好品は特に出費が激しいかと思いますので、気をつけましょう。

  ■紫木一姫の答え
  『財布の紐が高い』
  ■教師のコメント
  きっと高級な財布なんでしょうね。


 【第五問】

  問 以下の意味を持つ四字熟語を答えなさい。
    『数ばかりが多くて役に立たないものや人々を蔑む言』

  ■県立北高校二年、生徒会長(本名不詳)の答え
  『有象無象』
  ■教師のコメント
  正解です。相応の立ち位置にいる人物が使うと、どうにも恐ろしいニュアンスになってしまいますね。

  ■紫木一姫の答え
  『うどん無双』
  ■教師のコメント
  どんなうどんなんでしょう。先生ちょっと食べてみたいと思ってしまいました。


 【第六問】

  問 以下の意味を持つことわざを答えなさい。
    『何事も実際に試してみなければわからないので、とにかくやってみるのがよいということ』

  ■御崎高校一年二組、池速人の答え
  『物は試し』
  ■教師のコメント
  正解です。チャレンジはしてみるべきです。たとえ玉砕覚悟であったとしても。

  ■紫木一姫の答え
  『元はタニシ』
  ■教師のコメント
  今はなんなんでしょう?


 ◇ ◇ ◇


439国語――(酷誤) ◆LxH6hCs9JU :2009/10/13(火) 22:32:22 ID:bN2RWfhI
 【3】


 《トレイズ》。

 それが現在、紫木一姫の手元のレーダーに表示されている、唯一の名前だった。
 名前からして外国の人だろうと推測できる。
 名簿にファーストネームしか載っていなかったのは、なにかの手違いだろうか。

 配られた名簿ははっきり言って欠陥品だった。本来、こういったものは本名を正しく明記するのが普通である。
 にも関わらず、《師匠》を始めとして名簿には愛称で記載されている人物が多く見受けられた。
 キョンやシャナ、キノやシズといった名前がそれに該当する。彼ら、もしくは彼女らに苗字はないのだろうか?

 紫木一姫の名前はもともと名簿からは外れていたため、誰にとっても認知外のはずである。
 仮に紫木一姫の名前が名簿の中に組み込まれていたとしたら、どう表記されていたのだろう。
 そのまま紫木一姫か、それとも《戯言遣いの弟子》か、それとも《ジグザグ》か、さて。

 本人に直接聞いてみるのもいいかもしれない。あなたのお名前は――と、トレイズくん、もしくはトレイズちゃんに。
 今現在、紫木一姫は《トレイズ》の反応がある場所へと急行している。
 どうやら彼、あるいは彼女は一箇所にとどまってなにかをしているらしく、レーダーを見る限りでは動く気配がない。
 ご愁傷様でした。この時点でそんな言葉が送れてしまう。もしただ隠れているだけなのだとしたら、結末は確定しているから。

 と、残りの距離が50メートくらいにまで縮まったところで、《トレイズ》の表示が動いた。
 紫木一姫は足を止め、レーダーの画面を注視する。すでに追いかけても無駄っぽかった。
 《トレイズ》はものすごい速さで、索敵領域である半径500メートルの枠から脱していく。

 感づかれたのだろうか。足音が届く距離ではないし、まさか気配を悟られたというわけでもないだろう。
 急激に遠ざかっていったスピードを見るに、ひょっとしたらなんらかの乗り物に乗っているのかもしれない。
 だとしたら追いかけるのは骨だ。さて、どうしよう。逃げていった方角くらいはわかるのだが。

 とりあえずは、《トレイズ》がとどまっていた場所に向かってみるとしよう。なにか残されているかもしれないから。



 ◇ ◇ ◇

440国語――(酷誤) ◆LxH6hCs9JU :2009/10/13(火) 22:33:55 ID:bN2RWfhI
 【第七問】

  問 以下の文章に合う四字熟語を答えなさい。
    『生命あるものは、必ず死ぬときがあるということ』

  ■陣代高校用務員(勤続25年)、大貫善治の答え
  『生者必滅』
  ■教師のコメント
  正解です。なんでしょう。ただの用務員の解答とは思えないすごい説得力を感じます。

  ■紫木一姫の答え
  『そんなのあたりまえですよ。大切なのは、天寿を納豆にするよりも前に殺されないことです』
  ■教師のコメント
  これは四字熟語の問題です。ついでに言えば、『天寿を全うする』ですね。


 【第八問】

  問 以下の文章に合う慣用句を答えなさい。
    『知恵と力は、ありすぎて困ることはないということ』

  ■『伽藍の堂』社長、蒼崎橙子の答え
  『知恵と力は重荷にならぬ、だな。しかし……重荷、ね。よく言ったものだとは思うが――』
  ■教師のコメント
  誰ですか彼女に出題したのは。解答用紙が真っ黒になって返ってきたじゃないですか。
  っていうかなんでこの問題で魔術云々の話が出てくるんですか。先生しまいには泣きますよ。

  ■紫木一姫の答え
  『羊羹です』
  ■教師のコメント
  紫木さんはちょっとふざけているとしか思えな間違いが多いですね。あとで先生のところに来るように。


 ◇ ◇ ◇


441国語――(酷誤) ◆LxH6hCs9JU :2009/10/13(火) 22:35:20 ID:bN2RWfhI
 【4】


 《トレイズ》がしばらくとどまっていたと思われるそこは、温泉施設だった。
 旅館を思わせる古風な外観は、入り口にいた門番によって酷く陰鬱とした印象に変えられる。
 あの《首吊高校》だって、ここまで異質ではない。あそこは傍目から見れば単なるお嬢様学校だった。

 紫木一姫は門前に置かれていたその、《死体》という名の門番を見下ろす。
 死体というよりは《肉塊》と称すべきだろうか。顔面がまるでザクロのようになってしまっている。
 体格から男性ということはわかるが、面相のほどはイケメンだったのかブサイクだったのかもわからない。
 無残な壊死体だった。凶器はいったいなんだろう。考えはするものの、答えは別にいらなかった。

 さて、下手人について一人心当たりがある。さっきまでここにいたはずの《トレイズ》である。
 死体の状況を見るに、そう時間が経っているわけでもない。
 さっとやって来てさっと殺してさっと去っていった、と考えるのは妥当も妥当。
 逃げるように去っていった《トレイズ》への疑惑が生まれる。

 まあ、これが別に《師匠》というわけではないだろうから、やはり紫木一姫にとってはどうでもいいのだが。
 《トレイズ》が死体には目もくれずただ温泉を楽しみに来ただけだとしても、なにかが変わるわけではない。
 選ぶべきルート、その数にも変化はなく、レーダーに落とす視線はぶれもかすれもしない。

 ここから先はどうしようか。
 具体的な行き先は不明だが、向かっていった方向だけはわかっている《トレイズ》を追うという手もある。
 もしくはこの場にとどまり、誰かが近くを通りがかるのを待つという手もあるか。
 死は人を引き寄せる。接近はレーダーがあれば容易に気取れるし、温泉は憩いの地だ。
 血に汚れた身体を湯で清めようという残酷可憐な乙女が――来ないとも限らない。

 そういえば、この温泉の中はどうなっているのだろう?
 手元のレーダーは死体には反応しないようだから、目の前のザクロも正体が知れない。
 もしかしたら、他にも死体が転がっていたりして。安易に否定はできない。結構高い可能性がある。

 紫木一姫は、一歩を踏み出した。



【E-3/温泉施設/一日目・午前】

【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ、曲絃糸(大量)&手袋、レーダー
[道具]:デイパック、支給品一式、シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発) 、裁縫用の糸(大量)@現地調達
[思考・状況]
1:《トレイズ》を追うか、諦めて温泉の中に入ってみるか考える。
2:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。
3:SOS団のメンバーに対しては?
[備考]
※登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。 
※SOS団のメンバーに関して知りました。ただし完全にその情報を信じたわけではありません。



 ◇ ◇ ◇

442国語――(酷誤) ◆LxH6hCs9JU :2009/10/13(火) 22:37:07 ID:bN2RWfhI
 【補習問題】

  問 以下の文章に合う四字熟語を答えなさい。
    『花びらが細かく分かれているように、バラバラに千切れる様子』

  ■紫木一姫のの答え
  『姫ちゃん知ってますよ。《ジグザグ》ですね。花びらが細かく、ってレベルではないと思うですけど。
   でも、そのあたりの加減も指先一つでどうとでもなります。なんてったって《曲絃師》ですから。
   あ、でもここでは加減、いらないですよね? そもそも加減っていっても、首を落とすか指を落とすかの違いですし。
   姫ちゃん落ち零れだから難しいことはわかんないですけど、細かく《解体(バラバラ)》に、なら得意です。はい』
  ■教師のコメント
  ※先生はバラバラ死体となってしまったためコメントできません。

  ■戯言遣いの答え
  『七花八裂』
  ■弟子のコメント
  さすがです師匠。
443創る名無しに見る名無し:2009/10/13(火) 22:37:13 ID:TSoj/26S
>リアルかくれんぼ
上条さんはおいしいなぁ。
みのりんは……順当な結果か。悲しいことではあるが。

禁書目録の世界では「キリスト教」ではなく「十字教」などと表記されているので
上条に「キリスト教徒」と発言させる、あるいはステイルなどがキリスト教徒であると書くのは問題あるかもしれない。
ロワ内でも「COGITO_ERGO_SUM」でインデックスとヴィルヘルミナが考察要素としてあげているので。
444創る名無しに見る名無し:2009/10/13(火) 22:59:27 ID:TSoj/26S
リロミス申し訳ありません。
445創る名無しに見る名無し:2009/10/13(火) 23:10:48 ID:TSoj/26S
>409 名前: ◆LxH6hCs9JU 投稿日: 2009/10/13(火) 22:41:56 ID:JIEQHvJs0
>またしても最後の最後でさるさんくらったのでこちらで。
>「国語――(酷誤)」、投下終了しました。
446創る名無しに見る名無し:2009/10/13(火) 23:22:23 ID:TSoj/26S
姫ちゃんの解答は面白いが本編の方は笑ってられない状況。
トレイズはとりあえず逃げ切ったが姫ちゃんにマーダーと疑われてどうなるやら。
戯言遣いはしかしさすがの解答だ。
447創る名無しに見る名無し:2009/10/13(火) 23:37:41 ID:OIbRjw5n
>うどん無双
>七花八裂

お前ら俺の緑茶返せ
448創る名無しに見る名無し:2009/10/13(火) 23:51:03 ID:Hj/YXpDz
投下乙です
テストの面白さと本編の不穏さが落差がありすぎて素敵。
トレイズは運良く逃げ切れたが、レーダー持ちの姫ちゃんのいるかもしれない温泉に近づいているかなめが不安。
温泉地にまた血は流れるのか……!?

最後に
>先生はバラバラ死体となってしまったためコメントできません。
せ、せんせぇーい!?w
449創る名無しに見る名無し:2009/10/14(水) 00:18:35 ID:s2y1RNSO
投下乙。
うわぁw 姫ちゃんの国語力は酷すぎるww
てか番外のバカテストでまで死人出したよこの子w
何気に温泉に来たのはえらいこっちゃ。さてどうなることやら
450創る名無しに見る名無し:2009/10/14(水) 00:29:36 ID:IWWDyJ6R
投下乙
もうバカテスはないのか……
しかしなんという投下の速度だ

これトレイズの話見てから書いたんだよな……
しかも前日に前後篇で書きあげて……どんだけ速いんだよ!
451創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 17:29:02 ID:5dmV5qoS
登場人物が確実に死にそうな予約が入りやがったwww
楽しみだ
452創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 21:54:53 ID:AMfUrFEV
ぶほwwなんなんだこの物騒な予約はw
453創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 02:47:06 ID:u5snM+t4
これは…先輩……
454 ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:36:30 ID:XnCHGsla
ステイル=マグヌス、白純里緒、零崎人識投下します。
455愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:38:09 ID:XnCHGsla




    殺人鬼は鬼なんかじゃない。
    誰よりも人間らしい人間なんだ。
    ただ、他の人間よりもちょっとだけ器が小さかっただけ。
    小さい器に大きい感情を盛れば、それは溢れて零れる。
    愛情であれ憎悪であれ、溢れた感情は痛みに変わる。

    耐えられない。
    この感情に耐えられない。
    ならいっそ殺してしまおう。

    ほら、感情豊かな人間だ。
    鬼なんかじゃない。鬼なんかじゃないよ。
    どうしようもないくらいに、人間じゃないか。

    ああ、けどさ。

    それは違う、それは違うよ。
    殺人は人間だからこその行いだ。
    きみのそれは、違う。

    それはただの殺戮だ。

    違いなんて、それだけ。


                          /愛憎起源




 ◇ ◇ ◇

456創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:38:32 ID:8flRkoM1
457創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:39:36 ID:2mE2sTYz
458愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:39:43 ID:XnCHGsla
「――たとえ君はすべて忘れてしまうとしても、僕はなに一つ忘れずに君のために生きて死ぬ」


 今でも一字一句違えることなく覚えている、そのセリフ。
 まだ僕が『味方』であった頃、彼女に立てた誓いの言葉。

 それは己の命よりも重く、彼女の『敵』であろうと志した起因でもあり、今の僕の存在意義とも言えるものだ。
 ここでさえ、この異常な環境下でさえ、そう在ろうとした。彼女の命を守ることこそが、僕の行動理念だから。

 口元にあてがった煙草が、酸素を得て輝きを増す。
 先端から灰色の煙が舞った。広間に靄が満ちる。
 ああ、最高だね。
 ニコチンとタールがない世界は地獄だ、と僕は考える。
 僕が死んだときは、願わくば煙草のある天国へと昇りたい。

 標的を天国へ逃がすような真似はしない――それが『必要悪の教会(ネセサリウス)』の始末人である僕の矜持だ。
 この場合、標的とするべきは誰なんだろうね。駆除すべき異端信者なんてこの地にはいないだろうに。
 もちろん、彼女に害を為す存在は滅すべきだろう。それで事が片付けば、僕もこんなに悩みはしないんだが……。

 “結末”について、考える。

 これから三日、いや、あともう二日と半日ほどか。
 『人類最悪』の背後に立つ者が定めたタイムリミットは、今も刻々と迫っている。
 もし仮に、僕と彼女、あるいは彼と彼女がそこまで辿り着けたとしたら……いったいどんな“結末”が待ち受けているのだろうか。

 “海水魚ばかりになれば水槽の中の塩分濃度は高まり成分は海のものに近づく。また逆も然り”

 放送では、『人類最悪』がそんな戯言めいた言葉を残していった。
 口を滑らせるだの解釈は任せるだの、まるで僕たちにヒントを与えるかのように。

 『人類最悪』という男について、僕は詳しく知らない。
 単なる言葉遊びにも思えるそれには、どんな意図が含まれているのか。
 推察はし切れない。希望的観測を抱いて溺死する趣味はないからね。
 だが僕の同僚である土御門元春は、こんな推論を立てていたな。

 “僕たちの世界から来た人間だけを会場に残せば、上条当麻の『幻想殺し』でどうにかできるかもしれない”

 彼女の命を最優先に考えていた僕では、導き出すことはできなかった上等な仮説だ。
 『人類最悪』の戯言を信じるなら、この会場には別々の世界に住まう人間たちがひしめき合っているらしい。
 SFっぽい解釈をするなら、パラレルワールドか。いや、パラレルワールドというよりはアナザーワールドかな?
 あの狂犬にしても、『幻想殺しの眼』を持つ少女にしても、まったく認知外の存在と言えるだろうし。

 土御門はそんな別世界の住人たちがひしめき合うこの状況を、“海水魚ばかりの水槽”と考えたのだろう。
 不要な海水魚たちを駆除していき、やがて生き残りが僕たち淡水魚だけになれば、水槽の塩分濃度は元に戻る。
 そうすれば、おそらくその効力はセーブされているだろう『幻想殺し』も十全となる。

 つまり、“同胞以外を皆殺しにすれば、制限されている力は元に戻る”――と、そんなところか。

 まあ確かに、僕の『魔女狩りの王(イノケンティウス)』や彼女の『首輪』すら殺してしまう彼の右手だ。
 なにができても不思議じゃないし、しかしだからといって安易に頼る気にもなれない。そんな曖昧で謎に満ちた力。
 『人類最悪』の話の信憑性と天秤にかけて、僕が傾くべきはどちらの皿だろうか。

 決まっている。
 彼女が生きるほうだ。
459愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:40:32 ID:XnCHGsla
 口の端にあった煙草を指で挟み、一息。
 暗がりの広間に、灰色の煙が漂う。
 どんな状況下であっても、ニコチンは安らぎをくれる。
 まったく、この世は天国だよ。


「――どこに隠れてやがるッ! 隠れてねェで出てきやがれクソ魔術師ィィィ!!」


 さて。
 どういうからくりを使ったかは知らないが、しぶといことにあの狂犬はまだご存命らしい。
 始末を怠ったつもりはないのだけれどね。なにかしら、急速に傷を治す手立てでも持っていたのか。
 獣の生命力というものは侮りがたい。理解したよ。理解したから、もう一度だけ相手をしてやる。

 おまえみたいな狂犬、野放しにはしておけないんだよ。
 彼女に噛み付かれたら迷惑だ。


 ◇ ◇ ◇


 遭遇した。
 山を下りてからのことだった。
 堀の外側の住宅街を歩いていたら、だった。

「うわっ」

 朝っぱらからご近所迷惑な野郎がいるな、と思ってホイホイ歩いていたらこれだ。
 目の前の曲がり角からいきなり、猫が茂みから飛び出してくるみたいに、人が走ってきやがった。
 まあそれだけなら別に「うわっ」なんて声上げねーんだけどよ。
 困ったことに、そいつ猫でも人でもなさそうなんだわ。

「うわぁー……また厄介なもんと目が合っちまったな」

 まずそいつ、性別が不明だった。一見しただけじゃ男か女かわからない。
 つーのも格好が全裸に近かったからだ。いや、全裸なら全裸で一目瞭然なんだが、こうも黒くなってたらな。

 ところどころ布きれみたいなもんは見えるが、踊ればボロボロ零れるんじゃないかってくらい炭化しちまってる。
 右半身なんかもっと酷いな。右肩からなんかぷらぷらしてるが、ありゃ腕じゃないだろう。竹炭か?
 火傷っていうか焼き損ないっていうか、ウェルダンじゃなくどっちかっていうとレアだな。

 ま……要するに焼かれたんだろ、こいつ。火遊びが好きな誰かさんによ。
 エグイ殺し方しやがるぜ。殺しきれてないところが一層エグイ。
 あー、なんか魔術師とか叫んでやがったが、そいつが犯人か?
 で、こいつは最後の力振り絞ってその魔術師に復讐を――と。
460創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:40:43 ID:2mE2sTYz
461愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:41:18 ID:XnCHGsla
「…………ッ」
「おいおいなんだよ、こっち見るなよ。俺は魔術師なんか知らないぞ」
「……ロす……っ」
「ったく、わざわざ曲弦師を避けて来たってのによ。不幸すぎるだろ、俺」
「…………してやるよ」
「言葉通じてるか? 右の耳が焼かれてるなら左から話しかけてやろうか?」
「ぶっ殺してやるよ、魔術師ィィィ!!」
「だから魔術師じゃねーって」

 聞く耳持たずか。ますますもって厄介だな。
 しかし本気で俺を魔術師なんかと勘違いしてるのか、こいつ?
 俺は人殺すのにメラとかファイアとか使ったりしねーって。使えねーし。
 外見が似てるのかね。その魔術師とやらも、俺みたいに顔面刺青だったりするのかもしれない。
 だとしたらぜひ会ってみてーや。んでもって、この焼き残しの後始末を頼みたい。

「――――」

 『そいつ』は声にならない声を上げて突っ込んできた。
 やれやれだぜ、なんて余裕ぶったセリフを吐く暇もないってか。

 俺はベストのポケットに右手を突っ込み、一本のナイフを取り出す。
 刃渡りはほんの八センチ程度。パン切り用のナイフだからしゃーない。武器っていうよりは食器だものな。
 ただまあ、こんなもんでも『ナイフ使い』が持てばダムダム弾程度の凶器にはなる。
 安易に人を殺すわけにはいかない今なら、かえって都合がいいくらいだ。

 突っ込んできた『そいつ』の攻撃を、ひらりひらりと後退しながら避ける。
 得物はなし。武器といやぁ、その左手に備わった獣の爪くらいなものだ。
 腕の振りは速いし、四肢が万全なら厄介だったろうけどよ。左一本なら凌ぐのは軽い。

 しかしなんなんだろうね、こいつ。
 こんだけの重傷でまだ生きてるってのも不思議だが、あの左手の爪は異常だろ。
 あれじゃ人間っていうより肉食獣だぜ。触れれば抉られる。こんな上等なナイフで受けるとなると、ちと躊躇っちまうな。

 というわけで、俺は避ける。ことごとく避ける。相手を嘲弄するように避ける。
 左足で跳んで右足で着地する。顔面を狙う爪をナイフで弾く。反撃は入れない。
 避けに避けて、ときどき弾いて、それでも『そいつ』はしつこく迫ってきた。
 ああ、もうなんか面倒だわ。『こいつ』のことはストレートに『ケモノ』と呼称しよう。
 なんだか知らねーが、もう人間やめてるだろうがよ。おまえ。

 っていうか、人間じゃないんなら別に殺しても問題ないんじゃねーか?
 あの赤いバケモンと約束したのは、あくまでも『人は殺さない』ってことだけだ。
 なら『ケモノ』の一人や二人殺したって、約束を破ったことにはならないだろ。
 ……解釈の仕方がご都合か? ま、なんにしても。

「おまえ、わかってんのか?」

 とりあえずはコミュニケーションだろ。
 人間なら、言語機能は最大限に活用しなきゃな。
 戯言は得意じゃねーんだが、まあ一応だ。
462創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:41:29 ID:8flRkoM1
463創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:42:13 ID:8flRkoM1
 
464愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:42:23 ID:XnCHGsla
「自分の身体のことなのにわかんないのか? 俺なんか襲ってる場合じゃねーだろうがよ」

 これも今さらだけどよ。目の前のケモノは誰がどう見ても死に体だ。精神が肉体を凌駕している、ってなところか?
 本人が口で言ってるよう、『魔術師をぶっ殺す』って意志だけでなんとか生き永らえている。
 怒りに塗れた復習鬼ってのは怖いもんだ。なにも殺人鬼に八つ当たりして殺されたくなんかないだろうに。

「こっからだと、たしか北のほうに病院あったろ。悪いこと言わねーから行っとけ。もう手遅れかもしれないけどよ」

 堀とは反対側の方向を指差し、教えてやる。
 ケモノは頭から突っ込んできた。もちろん避ける。

「人の話を聞かねーやつだな」

 嘆息する。
 厄介ごとは背負いたくないし、約束破んのも癪だからできればトドメは刺したくない。
 だからってこのまますたこらさっさってのもな。街で猛獣が暴れてんのを知りながら放置なんて気が引ける。
 始末をつける義理もないし、他の誰かに被害が及ばぬようにって柄でもないが、まあ理由があるとすればだ。

 なんとなく、だな。

 そりゃそうさ。いつだってそうだよ。人殺すのにいちいち高尚な理由なんていらないだろ。
 楽しいから。嬉しいから。安心するから。
 正義のため。大儀のため。愛しい女のため。
 模範解答はいろいろあるよ。そりゃ結構。
 俺はそいつら全員変態だと思うがね。

 ここで俺がこいつを殺したからって、実は得るものなんてなにもない。
 別に命が追い詰められてるって状況でもないんだから、命が助かるってわけでもないしな。
 全身焼け爛れで荷物なんかも持ってないし、本当に無価値だな。価値なんて求めないけどよ。

 まったく、傑作だぜ。

 つまるところ約束だとか自己防衛の手段だとか障害の駆除だとか、そういうのはどうでもいいんだよな。
 要は殺すってことだ。要さなくてもそれだけだ。
 殺人鬼は人を殺す鬼と書くが、その正体は人を殺す人であり、そして俺は殺人鬼だ。

 殺し合いだろうがなんだろうが、それは変わらないだろ。
 いや――別にこれは、殺し合いってわけじゃないんだっけか?
 けどま、殺し合う気で俺を襲ってくるやつがいるんだ。

 応えてやるべきだろうよ。
 お望み通り、いや魔術師ではなく。
 殺人鬼として、な。


 ◇ ◇ ◇


 ――ボクはいったい、なにをしているのだろう。
465創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:43:04 ID:2mE2sTYz
466愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:43:25 ID:XnCHGsla
 白純里緒が人間を襲う中で、ふとそんなことを考える。
 彼は、いやもしくは彼女は、だろうか。
 襲っている相手の姿すら、きちんと知覚できない。
 視界が歪む。音が聞こえにくい。風景が霞んでいた。
 肉体にだいぶガタがきているな。もう長くは持たない。

 ボクにしても、俺にしても。
 この殺し合いの結末がどうであれ、もう限界はすぐそこまで迫っている。
 そのわずかな時を――ボクは、あるいは俺は、どう生きるべきだ?

 いや。
 違った。

 ボクなんて存在は、とっくのとうに死んでいるのだった。
 おそらくはあの瞬間、黒桐幹也の名前が放送で告げられて。
 彼は特別ではないからと執着をやめ、両儀式を求めたそこで。
 ボクという白純里緒は消えて、俺という白純里緒が確立した。

 じゃあなんで、ボクはまだ――ここに存在していられるのだろうか。

 ボクは黒桐幹也を欲した。
 起源に覚醒し、衝動に打ち負けたボクは、彼の前でのみ白純里緒に戻れた。

 俺は両儀式を欲した。
 同類よりももっと高潔な仲間として、殺人鬼である彼女を追い求めた。

 殺人衝動を持つ俺は――たしかに白純里緒なのだろう。
 殺し合いの隅で幹也の言葉を反芻するボクは――白純里緒なのか?

「上等だぜ――」

 声が聞こえる。
 白純里緒と対峙する者の、冷え切った声だ。
 突き刺さる殺意が妙に心地よい……そうか、これは殺意か。

 じゃあ、白純里緒は俺なんだな。
 なんだ。
 結局のところ、一瞬だったじゃないか。

 死に掛けの白純里緒は、幹也の幻影なんかじゃなく、仲間を求めている。
 それはかつて恋焦がれた相手、両儀式であるのかもしれない。
 しかしこの場は、名も知らぬ殺人鬼へと衝動が向いていた。

「――殺して解して並べて揃えて晒してやるよ」

 ああ、素敵だ。
 感覚も不鮮明になってきたってのに、やけに透き通って聞こえる。
 おまえはいったい誰だ。幹也じゃないだろう。なら式か。それともあのクソ魔術師か。

 誰でもいい。
 もう、なんでもいいや。
 とにかく殺したい。
 応えてくれるんなら願ってもない。

 ――殺して噛んで砕いて呑んで喰らってやるよ。

 白純里緒の起源はどこまでいってもそれだ。
 ケモノは今さら、ヒトになんて戻れない。
467創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:43:28 ID:8flRkoM1
 
468創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:44:12 ID:8flRkoM1
 
469愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:44:44 ID:XnCHGsla
 白純里緒の身体が弾む。
 腰を捻りながら、右腕を振り上げようとした。
 感覚も反応もなかった。
 燃えたんだったな。
 なら左だ。
 左腕を殺人鬼の顔面目掛けて伸ばす。
 派手な刺青が垣間見えた。
 爪が顔の肉を削ぐ、そんな感触は一切残らなかった。
 左腕は空を切ったのだ。
 殺人鬼の手元がきらりと光った。
 太陽光が反射して、それがナイフだとわかる。
 ナイフは剥き出しになっていた俺の胸を浅く撫で、血風を巻き上げた。
 痛みを感じる暇もなく、身体は動き続けた。
 致命傷でないなら動くさ。
 目の前にいるだろう殺人鬼に向かって、飛びかかる。
 全体重を乗せて、そこからじっくり嬲り殺しにしてやろう。
 そんな魂胆は見透かされていたのか、俺は大地を滑った。
 すぐに起き上がり、感覚を研ぎ澄ませる。
 殺人鬼を探す。
 背後にいた。
 振り向き様に爪で切り裂く。
 当たらない。
 喉に激痛がきた。
 鋭いなにかが声帯を潰したような感触。
 叫んだ。
 音が出ていたのかはわからないが、とにかく叫んだ。
 ヤバイな、感覚がもうほとんど残っていない。
 殺人鬼の位置がわからない。
 姿が見えない、声が聞こえない、動きが読めない。
 我武者羅に、唯一の武器である左腕を振るった。
 ひうん――と音が鳴った。
 俺の左手が、爪のある左手が吹っ飛んだ。
 手首のやや上あたりから鮮血が噴き出す。
 火傷の痛みがまだ残ってるってのに、これだよ。
 爪を失った獅子に残されたものっていったらなんだ。
 牙だ。
 今となっちゃ俺はもう、殺人鬼だから。
 ケモノと大差ないヒトだから。
 人を殺す鬼だから。
 殺し方なんて選ばない、殺せればそれでいい。
 殺してすぐに喰えるからむしろ都合がよかった。
 最後の力を振り絞って、殺人鬼を殺しにかかる。
 殺人鬼はどこだ。
 そこか。
 白純里緒は大きく口を開け――――
470創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:45:27 ID:8flRkoM1
 
471愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:45:32 ID:XnCHGsla


 ――――また燃えた。


 ◇ ◇ ◇


「――炎よ 巨人に苦痛の贈り物を(Kenaz PuriSazNaPizGebo)」

 詠唱を終え、発動させる。
 ルーンを刻んだ紙が猛然と燃え盛り、一本の剣に変ずる。
 それは炎によって形成された質量なき剣だ。剣の形をした炎と言ってしまってもいい。
 ゆえに僕はそれを、振るのではなく放つように、斬るのではなく包み込むように、手負いの狂犬へと差し向けた。

 狂犬の身体が業火に包まれる。喉でも潰されていたのか、悲鳴すら上がらない。
 三千度を越す熱に苦しみ、神経が焼き切れる過程に苛まれ、地獄を味わっている。
 火葬。なんとも残虐な処刑方法だと思うよ。だけど悪いね、天国には逃がせないんだ。

「――よぉ、にーちゃん」

 炎に包まれたケモノが地面をのた打ち回る中、その男は僕に話しかけてきた。
 タイガーストライプのハーフパンツと、赤い長袖のフード付きパーカ、その上に黒いタクティカルベストという格好。
 纏う身体は華奢で、身長もかなり低いほうだ。二メートルの僕の視点からすると、それがよくわかる。
 目を引くのは首から上だ。右耳の三連ピアスに、左耳の携帯ストラップ、それになんといっても――

「イカした刺青してんな」
「君もね」

 ――右顔面に禍々しくほどこされた、紋様とも言えるような刺青。
 僕の右目の下にあるバーコード柄の刺青よりも異様なそれが、男の異常性を物語っていた。

「あんたが魔術師か? そいつ、散々あんたのこと探してたぜ。殺してやるよ〜、ってな」
「らしいね……君には面倒をかけたようだ。二度とこんなことが起きないよう、始末はここでつけるよ」
「人の殺しにいちゃもんつける気はねーけどよ。ヘタに生命力強いやつってのはいるもんだからな。あんま苦しめてやんなよ?」

 そいつは無理だな。道を外れたクズは死んでも苦しめ、という『必要悪の教会(ネセサリウス)』の流儀に反する。
 それにね。自ら進んで重苦を背負おうとしているのはこのケモノだよ。
 あの場で大人しく焼き死んでおけば、もっと楽に地獄に落ちれただろうに。

「まったく、なにが君をそうまでさせるのか」

 血の色を纏っていたジャンパーは黒に、黒いスカートはより黒い炭に、肩口まで伸びていた金髪は見る影もない。
 すべてが炎に侵され、蹂躙の果てに炭化しようとしていた。なのに。

「っ……、ぁ――」

 ケモノは炎の中でまだ動く。炭となっても蠢き続ける。鋭さを失ってしまった牙を、懸命に僕のほうへと近づける。
 彼にはもう、僕に対する憎しみにしか残っていないのかもしれない。
 死を拒絶してまで僕を殺しにかかるだなんて、見上げた憎悪と殺意だ。
 そしてそれ以上に――憐れだね。
472創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:47:03 ID:8flRkoM1
 
473創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:47:12 ID:2mE2sTYz
474愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:47:34 ID:XnCHGsla
「かはは、傑作だぜ。曲弦師を避けて来たら、曲芸師に出会っちまったってところか?」

 偶然この場に居合わせた男は、僕と狂犬の構図を見てそんな風に笑う。
 曲芸師ね。炎を操り、猛獣を従える。仕置きに焼却と、まああながち間違ってはいないか。
 この狂犬にしたって……おっと、そういえば一つ気がかりなことがあった。

「さて、そろそろ逝こうか狂犬」

 僕はこの狂犬の名前を知らない。狂犬だって、僕の名前を知らないはずだ。
 邂逅してから今の今まで、呼び名は『猛獣』と『魔術師』で通してきたからね。
 真名なんて喋る必要はなかったし、互いにそれを訊こうともしなかった。
 本当に、一時だけの共闘だったわけだ。

「灰は灰に(AshToAsh)」

 確認していないことは他にもある。狂犬が殺し合いを肯定していた理由だ。
 なんのために戦うのか。なにを目的として殺すのか。僕は狂犬の人間関係すらまともに把握してはいない。
 行動に意味を持たない殺人鬼……いや、こいつはただの殺戮するケモノか。

「塵は塵に(DustToDust)」

 なんにせよ、もはや些事だ。
 仮に、狂犬に僕にとっての彼女のような存在がいたとしても――なにも変わりはしない。
 狂犬は今、この瞬間に果てる。

「吸血殺しの紅十字(SqueamishBloody Rood)」

 二度に渡る炎剣の精製。
 身動ぎはできても避けるなんてことはできない地べたの狂犬に、二振りの爆炎を叩き込む。

 摂氏三千度の猛火に包まれて、狂犬は今度こそ――


 ◇ ◇ ◇

475創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:47:44 ID:8flRkoM1
 
476愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:48:30 ID:XnCHGsla
 ――――なにも感じられない。

 ボクは生きているのか、それとも死んでいるのか。
 俺は死んでいるのか、生きているのか。
 白純里緒はまだこの世に存在しているのか。
 白純里緒はもうこの世に存在していないのか。

 自分という存在が酷く曖昧だった。
 そこに在るという確証が持てない。
 そこに在ったという自信も抱けない。
 白純里緒って結局なんだったんだ?

 両儀式は、俺が愛した特別な女は――俺をどんな風に見ていた?
 黒桐幹也は、ボクを先輩と慕ってくれた彼は――ボクをどんな風に見ていた?
 荒耶宗蓮は、白純里緒の起源を覚醒に向かわせた魔術師は――白純里緒の起源はなんだと言った?

 なにもかもが虚無へと消えていく。
 なにを為そうとしていたのか、なにを成すべきだったのか、それすらも。
 憎しみの対象が思い出せない、愛情の対象が思い出せない、殺意の矛先が見出せない。

 このままただ消えていくだけなのか?
 違うだろう。
 死を予期して、それでも身体は動いたんだ。
 死ぬ前になにかやらなきゃいけなかったはずだ。

 ――――殺人鬼と、魔術師の視線を感じた。

 それは決して、両儀式と荒耶宗蓮のものではない。
 自分という存在をことごとく死に向かわせた、忌むべき敵だ。
 ああ、そうか。
 白純里緒はこの二人に殺されようとしているんだな。

 じゃあこの感情の正体は――怒りか。
 両儀や幹也に向けていた愛情。
 両儀と幹也に向けていた憎悪。
 それらに連なる“喰いたい”という起源。
 なにもなかった。
 あるはただ、純然とした怒りだけだ。

 ブチ殺したい――っていう衝動だけだ。
477創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:48:32 ID:2mE2sTYz
478創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:49:16 ID:2mE2sTYz
479創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:49:56 ID:2mE2sTYz
480創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:50:07 ID:8flRkoM1
 
481創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:50:41 ID:2mE2sTYz
482愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:50:47 ID:XnCHGsla
 叫びたかった。
 声を振り絞ろうとしても、喉が焼かれていてできなかった。
 魔術師が炎の剣を二振り、放ってくる。
 全身は業火に包まれた。
 足の先から腕の先まで、余すことなく。
 傷口から熱が侵入する。
 身体の中身まで焼かれている気分だった。
 火はアスファルトの地面にこすり付けたところで消えやしない。
 身動ぎ一つで身体は一センチほど進んだ。
 魔術師は蔑んだ目つきでこちらを見下ろしている。
 その顔、ずたずたに引き裂きてぇ。
 殺人鬼は汚物でも見るような顔だった。
 どうでもいいがどういうセンスだ、その顔面。
 不思議だな。
 目玉なんてとっくに蒸発してるってのに、姿が見える。
 ああ、もう少しだ。
 このままナメクジみたいに這って行ってやろう。
 炎に塗れた身体で魔術師に抱きついてやる。
 愛情も憎悪も超越した純すぎる殺意で滅茶苦茶に抱いてやるよ。
 魔術師が一歩身を引いた。
 こら、逃げんな。
 逃げんなよ。
 俺はてめぇをぶっ殺してぇんだ。
 ボクだってそうだ。
 これは白純里緒の十割が肯定する殺意なんだよ。
 大人しく死ね。
 この身が焼失する前に殺されろ。
 クソッ、もう膝まで燃え尽きちまった。
 肘なんかとっくに炭だ。
 肩と腹を支えに芋虫のように進む。
 一ミリ程度しか動かなかった。
 爪は燃やされて、腕は断絶されて、牙は神経ごと焼き切れた。
 だが殺す。
 金色の髪は毛根に至るまで全部なくなっちまったが、関係ない。
 殺すといったら殺す。
 それが殺人鬼だ、どれが殺人鬼だ?
 ああ、頭の端にはまだ両儀と幹也の姿が燻っている。
 白純里緒は本当に、あの二人を愛していたんだな。
 肌が焼けた、肋骨が燃えた、心臓が黒こげになる。
 筋肉はただの線に。
 身体の水分はとっくに弾け飛んで、空気に還る。
 白純理という存在の核が、燃え尽きる。
 燃えた。
 焼け死んだ。
 だが殺す。
 屍も残らない。
 この世からの焼滅。

 ちくしょう……だな。
 最悪……っ。
 死んだよ、ああ。

 本当に…………最悪だ。


 ◇ ◇ ◇

483創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:51:10 ID:8flRkoM1
 
484愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:51:40 ID:XnCHGsla
 どこの誰か、なんてのは結局わからなかったが、まあとにかく。
 狂犬と呼ばれていたケモノは死んだ。正確には、燃え尽きた。いや、あしたのジョー的な意味ではなく。
 骨の一本も残さない。残したのは炭だけ。血液すら完全に蒸発させて、存在自体を焼き消したのだ。
 すげーな魔術師。火葬っていったって骨くらいは残すぜ。容赦も無駄もあったもんじゃねぇ。

「ちゃんと地獄に落ちろよ、狂犬」

 トドメがこのセリフだ。
 俺が言うのもなんだが、ヤバすぎるだろこいつ。

「……なにか言いたげな顔だね?」
「いんや、なぁんにも」
「遠慮することはないさ」
「本当になにもねーって。しいて言うなら、ちょっとかっくいーと思っただけさ」

 服装もなかなか、センスがあると思うね。
 髪はまっかっか、耳にはあたりまえのようにピアス、指には十本とも指輪が嵌められている。
 傍にいるだけでもヤニと香水の匂いがぷんぷんしてきやがるし、目元にはバーコード柄の刺青だ。
 そしてそんな装飾過剰な出で立ちでありながら、着ている服が修道服っていうんだから、まあなんとも。

「炎の必殺仕置き人ってところか? かはは、傑作だぜ。閻魔様にでも遣わされたのかよ」
「地獄は嫌いだ。僕は神様の遣いだよ。疑わしいって言うんならこの場で聖書の中身でも暗唱してやろうか?」

 本物の修道士かよ。いったいぜんたいどんな神様を信仰してるってんだ。邪神か? 世も末だな。

「……で、君はいったい誰なんだ? どういう経緯で狂犬と戯れてた」
「単なる通行人だぜ、俺は。道を歩いていたら突然バッタリだ。向こうは誤解して襲ってくるしよ」
「ふうん……誰かさんを思い出すくらい不幸だね」
「俺だったからよかったがよー。一般人だったらまず喰われてたぜ。危なっかしいったらありゃしねぇ」
「それはそれは。で、通行人。狂犬に噛み付かれそうになってもナイフと鋼線一本でそれを凌いでいた君はいったいなんだ?」

 こいつ、物陰で俺の奮戦ぶりを見てやがったな。
 トドメ刺しに来るタイミングも見計らっていたに違いない。
 ますますもって聖職者とは思えねぇ。

「なんだよ、通行人以外の回答をご所望か? なら、そうだな……『殺人鬼』、ってなところでどうだ?」

 俺の発言に、魔術師は顔を顰めた。
 反応はまったくもって常識人だな。ま、こんな場所で殺人鬼と言われて反応しないのもおかしいわな。

「っていっても、今は人殺しも控えてるんだけどよ。怖い怖いおねーさんとそういう約束をしちまってね。
 実のところ、あんたが狂犬にトドメを刺してくれて助かった。あのまま殺しちまってたら、約束破ったことになるし」

 魔術師は「ふうん」と興味もなさげに相槌を打つ。
 修道服のポケットから煙草を取り出し、それに火をつけた。

「殺人鬼、ねぇ」

 俺の目の前でもくもくと煙を吹かしながら、視線だけはぶらさずこちらに向けてくる。
 なに考えてんのかわかんねーやつだな。
485創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:51:54 ID:8flRkoM1
 
486愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:52:50 ID:XnCHGsla
「そういうあんたは何者よ。魔術師で神に仕える者、ってのはなしだぜ。名前は?」
「うーん、そうだね……ここは“Fortis931”と名乗っておこうかな?」
「あ? なんだそりゃ。どっかのコードネームか?」
「魔法名だよ。僕たち魔術師は魔術を使う際、真名を名乗ってはいけないという因習があってね。殺し名とも言うかな」

 『殺し名』、ねぇ。
 《死神》や《掃除人》ならまだわかるが、《魔術師》なんてのは聞いたこともねぇ。

「奇遇だな。それなら俺も持ってるぜ。『零崎一賊』って知ってるか?」
「聞かないな……そうだ。そのへんの説明も兼ねて、少し話をしないか? ちょうど近くにホテルがある」
「男にホテルに誘われてもなぁ。っていうか、だな。あー……うん。やっぱ、悪いけど断らせてもらうわ」

 俺は軽く手を振って、足早に魔術師の横を通り過ぎる。

「あんたと付き合ってるとなんか面倒なことになりそうだ。これは勘な」

 魔術師はそれを、ただ眺めるだけだった。
 俺の言葉を聞きながら、美味そうに煙草を吸っている。

「んじゃ、悪く思わねーでくれよ」
「おい。待てよ殺人鬼」
「待たねーよ」

 口から煙草を外し、俺に一声かけるがもう遅い。
 魔術師がなにかするより先に、俺は駆け足でその場から遁走した。
 魔術師は追って来ない。遠ざかっていく俺を見ながら、ただ立ち尽くすだけだった。

 おいおい、そんな恨みがましい顔すんなっての。
 面倒だからってわざわざ『曲弦師』を避けて来たんだぜ?

 それなのに、魔術師なんてわけわかんねーのと殺し合えるかよ。


 ◇ ◇ ◇


 名も知れぬ殺人鬼にフラれ、僕は帰途についた。
 ここが帰るべき場所というわけじゃないんだけどね……後始末はしておかないと。

「感づいていたんだろうね、きっと」

 正面玄関からホテルの中に入り、薄暗いロビーを炎で照らす。
 篝火によって姿を現したのは、壁や床、柱やカウンターなどに貼られた無数のコピー用紙。
 これはただの紙なんかじゃない。魔術師である僕、ステイル=マグヌス手製の――いや、この場合は違うかな。
 『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』手製の――炎のルーンが刻まれた、魔術行使のための布石である。
487創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:52:51 ID:8flRkoM1
 
488創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:53:33 ID:8flRkoM1
 
489創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:54:28 ID:8flRkoM1
 
490創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:54:33 ID:2mE2sTYz
491愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:55:07 ID:XnCHGsla
 僕は本来、設置型の魔術師だ。野外での白兵戦は、本来なら望むところじゃない。
 手負いのケモノにトドメを刺すだけならともかく、市街の真ん中で自称殺人鬼を相手取るほどの身体能力は持ち合わせていなかった。
 あのナイフ裁きと神裂の鋼線を操る手腕は、決して侮れるものじゃない。観察していてよくわかったね。
 ああいう手合いは、ある意味魔術師や能力者よりも厄介だよ。

 だからこそ――僕の教皇級の威力を持つ『魔女狩りの王(イノケンティウス)』で、確実に屠ろうと思っていたんだが。

 ロビーのいたるところに貼っておいたルーンを剥がしつつ、僕はため息を零す。
 用意周到に張り巡らせていた罠は、こうして無駄になってしまった。
 殺気はできるかぎり秘めていたつもりなんだが、さすが殺人鬼にはお見通しというわけだろうか。

 まあ、今回は狂犬を始末できただけでもよしとしようか。
 人殺しを控えているという言を信じるなら、あの殺人鬼も彼女への直接的な害とはならないだろう。
 それにしたって、危険因子には変わりないのだ。排除できる内に排除したかったが、それは次の機会としよう。

「あれは助言として受け取ったよ、土御門。僕が辿るのはやはり――彼女を生かす道だ」

 選択肢なんて、最初からそれしかなかった。
 彼女を生かすためには、まず害虫を駆除する。狂犬や幻想殺しの目を持つ少女、それに殺人鬼なんかをだ。
 殺意ある者たちを消すだけで、彼女の生存率は格段に高まるだろう。僕はそれをやれるだけの力を持っている。

 そして殺す標的は……この際、害虫だけにはとどめておくことはできない。
 見境を作らず、無慈悲に無差別に、僕は魔術の力を振るうことを決意した。

 今、彼女の隣に立つ彼には――上条当麻には、決して真似のできない汚れ役だ。

 彼も彼でなにをしているかは知らないが、まさか彼女を軽視した行動には走っていないだろう。
 馬鹿正直に正義を志し、誰も傷つけず傷つかせず、悪党がいたらぶん殴って更正させるに違いない。
 目指す終着駅は生存者全員での脱出。これしか考えられない。まったくなんてわかりやすい男だろう。

 なら僕は――彼と別方向からアプローチするべきだ。
 たとえそれが、彼に説教を食らうような悪行だったとしても。
492創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:55:29 ID:8flRkoM1
 
493愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:55:49 ID:XnCHGsla
 現状、彼女を生かす道は二通りある。
 一つは、彼女以外の人間を皆殺しにし、巡ってきた一つきりの椅子を彼女に渡すこと。
 一つは、土御門の考察に従い彼女と上条当麻、それに御坂美琴と白井黒子、そして僕以外の人間を皆殺しにすること。

 なんだ、どっちにしろ皆殺しじゃないか。わかりやすくて涙が出てくるね。
 前者は僕がこれから歩む道だ。後者は前者も兼ねる『保険』といったところだろうか。

 水槽の話が土御門の考察の通りだとすれば、上条当麻の『幻想殺し』で状況をどうにかできる可能性がある。
 それにしたって、他の世界の人間は殺さなければいけない。二通りの道は、極めて近い位置で隣り合っているのだ。

 もっと極端に考えれば、だ。生き残るのは上条当麻と彼女だけでもいい。
 同一世界の住人が全員生き残っていなければいけないというなら、土御門が死んだ時点で破綻している。
 念を押すなら、科学サイドの人間は生かしておくべきなんだろうけど……それも他二人のスタンスしだい、かな。

「……構図が元通りになるだけさ。僕は彼女の敵として、彼女のために戦おう」

 皆殺しの始末人――僕が志すべきは、そんな物騒な役割しかない。
 僕が彼女に誓いを立てて以降、僕が学園都市で上条当麻と出会う以前の関係に戻っただけ。
 彼女の記憶にはもう残っていない、あの頃の僕みたいに。

「たとえ君は全て忘れてしまうとしても、僕は何一つ忘れずに君のために生きて死ぬ――」

 この場においても、ただそう誓うだけだった。



【C-4/ホテル/1日目・午前】

【ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:ルーンを刻んだ紙を多数、筆記具少々、煙草
[道具]:デイパック、支給品一式、ブラッドチップ(少し減少)@空の境界 、拡声器
[思考・状況]
基本:インデックスを生かすために行動する。
1:インデックス、上条当麻、御坂美琴、白井黒子以外の人間を皆殺しにする(危険人物優先)。
2:インデックスの害となるようなら、御坂美琴と白井黒子も殺す。
3:生存者をインデックス、上条当麻、御坂美琴、白井黒子、自分の五人のみにし、『幻想殺し』を試す。
4:万が一インデックスの名前が呼ばれたら優勝狙いに切り替える。


 ◇ ◇ ◇

494創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:55:50 ID:2mE2sTYz
495創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:56:21 ID:8flRkoM1
 
496愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:57:15 ID:XnCHGsla
「あのメイドのねーちゃんといい、美琴ちゃんといい、おかしなやつが多いとこだなここも」

 “Fortis931”とかいう魔術師から逃げた先、零崎人識は命の重みを噛み締めながら歩くのであった。
 いやはや、九死に一生だったぜ。あいつ、俺のこと燃やす気まんまんなんだもん。たまんねぇって。

「さって……放送によりゃ、《蒼》もあいつもまだ生きてんだよな。ホント、どこほっつき歩いてんだ?」

 もっと東のほうかね。《蒼》はどこか一箇所に留まってる可能性が高そうだが、地図に載ってる施設でも巡ってみるか?
 下手に街中歩いてても、出会うのがああいうのばっかりじゃなぁ。さすがにやる気なくすわ。もともとそんなにねーけどよ。

「しかしあの魔術師、地獄は嫌いだとかなんとか言ってたが……気づいてないのかね」

 “ここ”がもう既に、落ちるべき地獄だってことによ。
 神様の遣いってんならわかれよ、ってツッコミたい。勉強不足だぜ魔術師。

 お釈迦様は慈悲深いんだ。
 殺人鬼っていってもよ、ケモノの儚い命を奪うことを思いとどまる俺には、きっと救いの糸を垂らしてくれるぜ。
 そしたら何人か糸に群がってくるんだろうが、俺は心優しいからな。カンダタみたいに蹴落としたりはしない。
 清く正しくみんな揃って天国に――って、それだとやっぱ結局死ぬのか? というかもう既に死んでんのか、俺たち?

「蜘蛛の糸、ね」

 開会式の際、耳元で囁かれていたフレーズを思い出す。
 思うことなんて一つだけだった。

「俺は、芥川よりかは太宰のほうが好きなんだがな」

 あいつに言わせりゃ、こんなものは程度の低い戯言なんだろうけどよ。



【C-4/道路上/1日目・午前】

【零崎人識@戯言シリーズ】
[状態]:疲労(中)、背中に軽度のダメージ
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、礼園のナイフ8本@空の境界、
     七閃用鋼糸5/7@とある魔術の禁書目録、少女趣味@戯言シリーズ
[思考・状況]
1:地図に載ってる施設でも回ってみるか。
2:両儀式に興味。
3:ぶらつきながら《死線の蒼》といーちゃんを探す。飽きてきてはいるけど、とりあえず。
4:学校にいたという曲絃師(名前も容姿も聞いてない)とは、面倒なので会わずに済ませたい。

[備考]
原作でクビシシメロマンチスト終了以降に哀川潤と交わした約束のために自分から誰かを殺そうというつもりはありません。
ただし相手から襲ってきた場合にまで約束を守るつもりはないようです。



【白純里緒@空の境界 死亡】
497創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 03:57:20 ID:8flRkoM1
 
498 ◆LxH6hCs9JU :2009/10/18(日) 03:57:58 ID:XnCHGsla
投下終了です。
夜分遅くの支援ありがとうございました。
499創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 04:27:42 ID:2mE2sTYz
投下乙ですー
里緒……死ぬかと思ったけどやっぱり死んだか。
里緒の一人称描写のところが何処か切ない……
ステイルはマーダー化……修羅になるか。
人識はかわらず……かw
何処か静かな雰囲気の作品でした。
GJでした
500創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 08:16:19 ID:XyUA02Fn
乙です
興奮しすぎて痙攣しながら読みましたw
流石の先輩も、片腕だけで魔術師と殺人鬼と戦うのはきつかったか・・・。
501創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 14:38:35 ID:VNVpeAS+
てっきり人識の曲弦糸でバラされるかと思ってた。
中々切ない死に方をしたな…先輩…俺先輩好きなんだよ…
◆LxH6hCs9JUさんよかったよ、乙かれ様。
502創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 19:03:50 ID:dL5W7EHu
投下乙
うおおおおお
畜生一番好きなマーダーががが
死に方は何とも呆気ないな。
ある意味相応しい末路だか
503創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 19:11:10 ID:6HjrpLpm
投下乙。
仕方ないよなぁこれは。一般人か死体かを見つけて食べることができてりゃまた違ったんだろうけど。
完膚なきまでに焼失した里緒、淡々と物騒なやりとりが味のある人識&ステイル。
人識の愚痴が実にらしいw GJでした。
しかしこいつら、とことん互いの名前を明かさんなぁ。
504創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 19:52:20 ID:Gfoip5Wf
投下乙ー

うん、そうだな、やっぱり死ぬよなー
死の瞬間までの執念が文字通りに熱い

律儀に約束を守りきっている人識にびっくり
いや、そういえば原作でも結局まだ破ってないけどさあ
いつまでそのノリでいけるのか楽しみにしておこう

ステイルもよかったかな
こいつはこいつで何とも一途で好きなキャラクターだし
自分を決して好いてはくれないだろう相手のために何だってできるっていうのは実にいい

三者三様個性が見れて実に良い作品でした
505 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:02:43 ID:mU9ltq8V
少々オーバーしてしまいしたが投下始めます。
506告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:03:49 ID:mU9ltq8V


告別と再見という中国の言葉がある。

その二つの言葉の意味は一緒で。


それは――――


『さよなら』







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






出逢いはほんの些細な偶然で。


それすらも必然だったのかもしれないけど。


でも、そのお陰で私は彼に出逢えた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「……え?」

小さな社務室の中で紡がれた戸惑いの言葉。
その呟きは逢坂大河のものだった。
目の前の同類、島田美波の予想外の言葉に戸惑うしかなかった。

「うん、ウチは知ってる。高須竜児の生き様を」

彼女は神妙にそう言って大河を見つめる。
美波の眼差しは真剣そのもので。
大河には美波が語る竜児の生き様から逃れることは出来なかった。
聞かずに逃げ出すという選択肢を選び取ることが出来なかったのだ。
507創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:04:13 ID:8flRkoM1
508創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:04:57 ID:TO5L7ZU0
 
509創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:05:13 ID:8flRkoM1
 
510創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:05:34 ID:shGBXluw
 
511告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:05:46 ID:mU9ltq8V

「うん……教えて」

だから、大河は頷く。
聞き入れなければならない。
受け入れなければならない。
高須竜児の生き様を。

「……食事であります。お腹へっているでありましょう?」
「栄養補給」

そのタイミングを見計らってメイドさん、ヴィルヘルミナはカップラーメンを大河に渡す。
彼女の気遣いに感謝しながら、慣れない左手を使って食べ始める。
何も食べてなかったせいだろうか、酷くお腹が減っていた。

そして大河は思う。
心が壊れそうになっても。
哀しみに押しつぶされそうになっても。
いつものようにお腹が減ってしまう。
そして、難なく目の前の食物を食べることができる。

心はどうしようもなく傷ついているのに。
身体が求める純粋な食欲には従ってしまう。
そんな自分が可笑しくて。
そしてたまらなく哀しかった。

「辛いだろうけど……聞いてね」

辛いだろうといいながら自身も辛そうな顔をする美波。
それを何処か可笑しいなと大河は思いつつもきっと優しいんだろうとも思った。
そんな美波の表情のお陰か、大河は何処か落ち着いて聞くことが出来る。

「高須竜児は………………殺し合いに乗ってたの」
「―――――っ!?」


大河は本当に心臓が止まったような錯覚をしてしまった。
ありえた可能性?
いや、大河は殆どその可能性を考慮していなかった。
考えたくもなかったから。
そんな事考えたら心が壊れそうで。
でも、彼は乗ってしまった。
その事実が大河の心をしめつけていく。

「三名を生き残らせる為にって……その中に逢坂さんも入っていた……」
「……私を含めた三名……なら……みのりんとばかちーだ」

あの名簿に書かれていた自分を含めた縁者は4名。
逢坂大河、櫛枝実乃梨、川嶋亜美そして高須竜児。
名簿外に北村祐作が存在していたけど、多分竜児が生かそうとしていたのは名簿に載っていた三名だと大河は推測していた。

そして、殺し合いに乗った理由がそれだと聞いて。
心に怒りのような、哀しみのようなものがぐるぐると螺旋を描いて廻っている。
知らないままなら哀しいままでよかった。
でも知ってしまった。
高須竜児が過ちを犯そうとしていた事を。
しかも、自分達の為に。
あの悪人面してどうしようもない位の善人が殺しをしようとしていた。
本当に顔通り悪人になってしまう所だった。
512創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:06:16 ID:TO5L7ZU0
 
513創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:06:40 ID:8flRkoM1
 
514告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:06:46 ID:mU9ltq8V

(ああ……なんだろう……これ)

心が。
心が痛い。
心が苦しい。
心が壊れそうだ。

怒り。
哀しみ。
虚しさ。

そして。

愛しさ。

感情が溢れて。

止めようと思っても止まらない。

(駄目……このままじゃ……)

それでも、大河は押さえ込もうとする。
今ここで決壊してはいけない。
誰かの前で心を曝け出してはいけない。
曝け出したら、きっともっと辛くなる。苦しくなる。
心が、生きる事が。
だから、頑張って、無理に

「……それで?」

そう突き放すように言った。
美波はそれに少し戸惑う。
泣きそうな表情をしたと思えば、急にむすっとした顔をする。
涙が溢れそうな目を、それでもぎろぎろ輝かせながら美波を睨んだ。
美波はその視線に竦みながらも言葉を続ける。

「彼はね……貴方たちに合わせる顔がない、他に方法がない……そのために三人の為ならなんでもすると言ってたのよ」
「…………」
「でも、その後、考えを改め殺し合いを放棄したのよ。それでも。他に方法があるって」
「……へぇ」

殺し合いに放棄したという言葉に大河は反応した。
何処かほっとしたように。
美波はそのまま、言葉を続けて

「『涼宮ハルヒ』によって『みんなが揃って助かる方法』があるって」
「……」

その言葉に怪訝な顔を浮かべる大河。
そんな、眉唾ものの方法を直ぐ信じろと言うのも無理な話で。
竜児はそんなのを簡単に信じたのだろうかと思ってしまう。
でも、彼はそれほどまでに三人を救いたくて。
それが何となく解って……哀しくなってくる。
515創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:06:57 ID:TO5L7ZU0
 
516創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:07:22 ID:8flRkoM1
 
517告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:07:46 ID:mU9ltq8V
「それで……その瞬間……あいつ……は……バラバラに殺されちゃった」
「っ……」

そして、高須竜児は死んだ。
美波の声はとても震えていて。
今にも泣きそうで。
それでも、最期の言葉を告げる。

「ウチの身代わりになって、ウチを助けて最期に……ウチに大河を皆を……頼むって……」

最後が涙声になって上手く伝えられない。
それでも精一杯、竜児の生き様を大河に伝えたのだ。
これで、すべて。
島田美波が逢坂大河に伝える事を彼女に全て言ったのだ。
美波は託された事、使命感などの肩の荷が下りた感じがしてふっと力が抜ける。
そして大河を見つめる。

大河は


「はっ………………」


大河は


「何やっているのよ……ばか犬…………ばかばかばかばかばかばかばかっ!!!!!」


キレていた。
全身から怒りを発して。


「あんたなんか大っっっ嫌いだあぁああああ!!!!!」


竜児に対して嫌悪を露わにしながら。

ただ、キレていた。


その大河に対して美波は怒りを露わにしながら

「ちょっと……逢坂さんそれは無いんじゃ…………っ……」

咎めようとして止まった。
何故なら。

518創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:08:08 ID:TO5L7ZU0
 
519創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:08:08 ID:8flRkoM1
 
520告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:08:47 ID:mU9ltq8V

「ばか……ばかばかばかばか………………うぇ……ぁ……ばかああああああ!」


大河が怒りながら。

ぼろぼろに泣いていたから。

涙が溢れて溢れて。

止まらない。

頬にいくつもの筋をつくりながら。

雫が流れていく。


苦しくて。
哀しくて。
痛くて。
壊れそうで。


ただ、泣いていた。


「……ばかぁ……!」



そして、そのまま社務室から駆け出していった。
美波はそんな大河を心配し彼女を追おうと立ち上がり、

「ヴィルヘルミナさん……!?」
「追わない方がいいでありましょう」
「自重要請」

ヴィルヘルミナがそれを制止させた。
冷静に大河出て行った先を見ながら。
窓から見えた大河は独りで境内を歩いている。
このまま、境内から出るという事は無いだろう。
もし、出るようならばすぐさま追いかけるつもりだが。

「今は一人で考えさせた方がいいであります」
「……ヴィルヘルミナさん」
「貴方は充分、役目を果たしたのであります」
「使命達成」
「……あっ」

今は一人で考えるべきなのだろう。
大切な人を失った苦しみを悲しみを。
その大河の哀しみをまだ美波もヴィルヘルミナを癒せるほど親しくもない。
彼女の傷は残酷だけど彼女自身で癒すしかないのだ。
だから、今は一人でその傷に向き合う時間が必要なのだから。
521創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:08:57 ID:8flRkoM1
 
522創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:08:58 ID:TO5L7ZU0
 
523告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:09:35 ID:mU9ltq8V

そして、ここにも頑張った少女が一人。
逢坂大河に一人で頑張って高須竜児の顛末を話した少女、島田美波。
目の前で人が殺されたことは美波が思っている以上に重みになっていて。
そして、竜児から託された想いも重いものだった。
たった一人の少女が背負うには重すぎるもので。
でも、それを美波は立派にやり遂げた。
後は、大河自身の問題。

美波は託された使命を充分に達成したのだ。
そんな美波をヴィルヘルミナたちは労う。
辛い仕事をよくやったと。

「うん……ウチ頑張ったよ……高須」

美波はそっと高須に向かってそう呟いた。
安心するように、労わるように。

そう。

竜が託した遺志は美波を通して、しっかりと虎に伝わったのだった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





524創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:09:40 ID:8flRkoM1
 
525創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:09:43 ID:TO5L7ZU0
 
526告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:10:16 ID:mU9ltq8V
私はその温もりが嬉しかった。

彼がくれた温もりは思いのほか心地よくて。

優しい彼は本当に私にとって大切なものになっていたのだった。

彼と過ごす時間は段々私にとってかけがえのないものになって。

それは恋心を抱く彼とは違った大切な想い。


大切な……大切な想いを。


失って……初めて気付いた。


失った後じゃ遅いというのに。


ばかなのは……私じゃん……




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






歩く。
歩いている。
逢坂大河は一歩ずつしっかりと。

哀しいのに、苦しくて壊れそうなのに。
しっかりと歩けていた。
それが不思議でならない。

高須竜児が死んだ。
北村祐作が死んだ。

それは大河にとって本当に大切な人で。

まるで心の大切な部分をごっそり奪われた感じに思えて。

涙が溢れて止まらない。

527創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:10:50 ID:8flRkoM1
 
528告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:11:06 ID:mU9ltq8V


どうして、竜児はあんな生き方をしたんだろう。
あんなに優しい彼が殺しを許容したなんて。
そう、大河が考えた時……

根本な所で大河と竜児が同じだと気付いた。


それは大河と竜児が

実乃梨や亜美、北村と過ごしていた学校生活を。
あの騒がしくも楽しかった生活を。


『とても愛おしく大切』だと思っていた事。


そう、思った瞬間、耐え切れなくなった。
竜児がとった選択肢は決して許されない行為ではあったけれども。
根本で思っている事はとてもとても優しいもので。

なのに、そんな手段をとってしまった竜児が。

哀しくて。
哀しくて。


「だから……ばかなのよ……」

ばかで。
ばかで。


涙が溢れてくる。


「ばか……死んだら……何も叶わないじゃない……」

死んでしまったら。
竜児が望んでたもの。
護りたかったもの。

何も叶わないのだから。

自分も気付いたのに。

どれだけ竜児が大切なのかやっと理解できたのに。

それを恥ずかしがらず伝える事もできない。

もうできない。
529創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:11:50 ID:8flRkoM1
 
530創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:11:57 ID:TO5L7ZU0
 
531告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:12:10 ID:mU9ltq8V
北村だってそうだ。
大河にとって恋焦がれた人なのに。
勝手に何処か知らない所で死んでしまって。

死んでしまったら想いを伝える事もできない。
死んでしまったら何も出来ない。

やっと人を好きになれそうな人だったのに。
初めて恋焦がれた人なのに。

どうしてこんなに簡単に死んでしまうのだろう。

何にも始まってない。
なのに終わりは突然で。


こんな終わりは絶対に嫌なのに。


無慈悲に終わってしまう。



「……ばか……ばか」

壊れた人形のようにその言葉しか出てこない。


失った時に大切と気付いて。
想いを告げることも出来ず。

なんて、愚かなのだろう。

大河の感情はぐるぐるまわって。
鬱屈な感情が溜まってくる。
立っている事すら辛くなる。


竜児も北村もいない世界。

そんな世界で自分でどうやって生きていけばいい?

自問するも……答えは出ず。


疲れて……


「もう……いいや」


崩れ落ちようとした時に。


532創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:12:37 ID:8flRkoM1
 
533告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:12:51 ID:mU9ltq8V
「うん……?」


見えたのは何の変哲もない電柱。


でも、それは竜児と蹴った電柱に何処か似ていて。
あの時、あの行為を思い出して。
何かにあたりたかったあの時。

そして竜児との優しい思い出。


思い出して。

あの時は、感情を爆発させて竜児と一緒に蹴って。


それで……


「ああ……もう」



そして――――大河は獰猛そうに笑った。



「むかつくんじゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


思いっきりハイキックを無実の電柱にお見舞いしてやった。
もう一度ににやりに笑って

「ばか犬ーーーーーーー勝手に死んでんじゃねぇぇ!!! 何が大河を頼むよぉおお! あんたに言われんでもしっかりやってやるわよ! 
 勝手に殺し合いに乗りやがっていい気になってんじゃないっ! あんたは私の所要物なのよ、勝手な行動許すかぁああーーーーーーーー!」

思いっきり蹴り始める。
ままならない感情。
変えられない現実。
むしゃくしゃして、全ての感情を吐き出す様に。

もうここにはいない誰かの変わりに。

思いっきり電柱を蹴っていた。


「私の所要物なのに! 勝手に死んでえ! ふざけるなあああ! あんたやっちゃんどうするのよ! インコちゃんどうするのよ!
 私は面倒見ないわよっ! あんたがしっかり面倒見なきゃ駄目でしょうが! あんたが大切にしてたものだろうがああーー!」

534創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:13:21 ID:TO5L7ZU0
 
535創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:13:22 ID:8flRkoM1
 
536告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:13:50 ID:mU9ltq8V
理不尽な怒り。
高須竜児がどれだけ大切か。
どれだけ死んでほしくなかったか。

そして、その死がどれだけ哀しかったか。

ただ、想いを感情を発散したかった。

「みのりんがすきだったんだろぉ! 想いを伝えないで死んじゃうのかぁああばか犬ーーーー! 今までの苦労はなんだったんだぁあ!
 北村君のも手伝ってくれるといったじゃないっ! 勝手にしぬなぁああああああああああ!」

哀しくて。
哀しくて。

まだ未練も沢山あって。

これから成すことなんてもっともっとあったのに。

勝手に死んでしまった。

「北村君だってそうだっ! 何も言わず、何も知らないまま、しなないでよぉ! 私だって伝えたい事沢山あるんだからっ! 
 なのに、勝手に死んじゃって、私どうすればいいのよ、このふざけんなああああああああ!!!」

北村祐作だってそう。
好きだった。
大好きだった。

なのに死んでしまった。

悔しくて。
哀しくて。

ただ、感情をぶつけるしかない。


「皆……皆……勝手に死んでむかつくんじゃぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


虎の咆哮。

それはあふれ出る感情を吐き出すだけで。

死んでいったものへの想いでもあった。


その咆哮は何処までも哀しく。

何処までも重く。


「ばかばかばかばかばかばかばかばかっ!!!……ふざけんなっ……むかつくんじゃぁぁぁーーーー!」


ただ、電柱を蹴り続ける。

ままならない世界。
戻らない命。

537創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:14:19 ID:8flRkoM1
 
538告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:14:39 ID:mU9ltq8V


全てが哀しくて。
全てが痛くて。


何かを変わって欲しいと願いつつ蹴るしかない。


そして


「どうして………………死んじゃんたんだぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」



大河の……本当の純粋な想いを……告げた。

高く蹴り上げた足が同時に痛む。
痛くて強く電柱に打ってそのまま座り込んでしまう。
立ち上がるの苦しかった。

「くそっ……くそっ……くそっ……!!」

足を押さえながら大河は電柱を見据える。

電柱は……傾いている訳が無かった。

あの時と違って。

高須竜児と北村祐作が死んだ事実は変わらないと証明するように。


「……りゅうじぃ……きた……むら……くん」

また涙が溢れてくる。
じんじんと痛む足。

それはまた痛くなっている心と同じような感じがして。


苦しかった。
哀しかった。

大河は


「死んじゃった……竜児……北村君」


そうして、二人の死を受け入れるしかなかった。

539創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:15:41 ID:8flRkoM1
 
540創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:16:24 ID:8flRkoM1
 
541創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:17:06 ID:TO5L7ZU0
 
542創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:17:49 ID:8flRkoM1
 
543創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:18:18 ID:TO5L7ZU0
 
544告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:18:28 ID:mU9ltq8V


そんな大河はどうすればいいのだろう。
死んでいった二人の為にいう事は何だろう?
想う事は何だろう?


解らない。
心の整理がつかない。

だけど思うのは。

幸せな時間。
竜児と北村と実乃梨と亜美に囲まれた幸せな時間。
幸福で、幸福でたまらなかった時間。
下らなく見えるかもしれない。
けど、それは大河にとって初めての温もりで。
それが嬉しくて。
笑って、笑って。
皆と笑ってすごして。
失いたくなくて。
かけがないもので。
ただ、幸せだった。
本当に幸せだった。



そんな


幸せの意味を教えてくれて


「ありがとう」


そんな感謝の言葉を短く告げて


「ぁ―――――――――」


今度こそ、声を上げて泣き始めた。

わんわんと。

おおきな、おおきなこえで。

哀しみを抑える事もなく。

ただ、ただ。

泣いて。
泣いて。


逢坂大河がこれから生きていけるように。


涙を流し続けたのだった。
545創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:18:52 ID:8flRkoM1
546告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:20:01 ID:mU9ltq8V


哀しみを溢れさせたまま。


ただ、泣いて。


「―――さよなら」


そう一回呟いて。


また泣き始めた。



そうして。


逢坂大河は高須竜児、北村祐作を失った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




告別とは漢字通り『別れを告げる』という意味である。
それは離別であり、もう会うことも無いであろう別れの時に使うさよなら。


再見とは漢字通り『再び見る』

つまり……また、いつか、何処かで会いましょうという再会を約束する言葉。

また会えるだろう時で使う時のさよなら。



でも日本語は曖昧で「さよなら」の言葉だけで通じてしまう。

本当に隠されている意味は本人しか解らず。

逢坂大河が呟いた『さよなら』


それはもう二度と会わない死別の哀しい言葉なのか。
それは今すぐなのか、それとも何十年後に死んでからなのだろうか、それは解らないけど、けど、またいつか何処かで会える
そんな意味での言葉なのだろうか。

逢坂大河にしかその意味は解らない。


果たして逢坂大河が告げた『さよなら』は


どっちの意味なのだろうか?
547創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:20:13 ID:8flRkoM1
548告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:20:45 ID:mU9ltq8V





【C-2/神社/一日目・午前】


【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:全身に細かく傷(ヴィルヘルミナによる治療済み・急速に回復中)、右手欠損(止血処置済み)、右足打撲、精神疲労(極大)深い哀しみ
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、フラッシュグレネード×2@現実、無桐伊織の義手(左右セット)@戯言シリーズ
[思考・状況]
0:???????????????
[備考]
 一通りの経緯はヴィルヘルミナから聞かされましたが、あまり真剣に聞いていませんでした。聞き逃しがあるかもしれません。
 また、インデックス・御坂美琴・水前寺の顔はまだ見ていません。



【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(8/20)、缶切り@現地調達
[思考・状況]
0:今は見守る。
1:大河の治療。治療効果のある自在法も駆使し、彼女の右手に義手をつけてやる。
2:拠点となる神社を守りつつ、皆の帰りを待つ。


【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康、精神疲労(小)
[装備]:大河のデジタルカメラ@とらドラ!、第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ
[道具]:デイパック、支給品一式、文月学園の制服@バカとテストと召喚獣(消火剤で汚れている)
[思考・状況]
1:大河が心配。
2:川嶋亜美、櫛枝実乃梨の2人も探して高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
3:竜児の言葉を信じ、「全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒ」を探す。
549創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:21:14 ID:8flRkoM1
550告別/再見 ◆UcWYhusQhw :2009/10/18(日) 21:21:34 ID:mU9ltq8V
投下終了しました。
支援ありがとうございます。
此度は延長&オーバーしてしまい本当に申し訳ありません。
何かありましたら、指摘などよろしくお願いします。
551創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:35:37 ID:sn9aoY9k
これを語る感想は一言でいい
泣いた
552創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 21:54:59 ID:5i4CMgoL
投下乙です
おれも一言で
GJ!
553創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 22:08:09 ID:Sdghrr6d
ならば我も感想はひとつだ

二人とも、よく頑張った
554創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 22:08:31 ID:XnCHGsla
投下乙です。

『さよなら』の意味か……冒頭と締めの一文、そしてタイトルが深い
大河の反応が「らしい」を通り越してなんかシンクロしてるなぁ
そんな一話で片付くような衝撃じゃないよね、大いに納得させられてしまう
ああ、しかも次の放送みのりん呼ばれるし……大河がんばれ超がんばれ
555創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 22:53:24 ID:6HjrpLpm
投下乙。
これはいい死の受容話。
そうだよなぁ、割り切れるわけないよなぁ……
泣いて喚いて電柱八つ当たりすることでようやく受け入れる大河が愛しい。
いかに失ったものが大きかったか分かるなぁ……。GJ。
556創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 23:02:29 ID:1pN9eF4Q
投下乙
やばい泣きそう

こことはスレチだけど、大河最萌優勝おめ
557創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 23:08:18 ID:4zBhZdC/
投下乙です
なんだろう、言葉に出来ない何かがあるが上手く言葉に出来ない
ってよく分からん感想だwうん、泣いた・・・

>>556
最萌知っている人が俺以外にもここにいたとはびっくりだぜ!?
558創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 23:13:01 ID:sn9aoY9k
そりゃあんだけあちこちに迷惑も考えずに貼り付けてりゃあな……
559創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 23:21:13 ID:4zBhZdC/
そんなに迷惑かけているんだ・・・そこまでとは知らなかった・・・
560創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 23:31:19 ID:hBcbK7i3
投下GJ! GJだよ!


>愛憎起源〜

くっそう……先輩、くっそう……切ないなぁ。悔しいなぁ。
まさか先輩がここまでおセンチ担当に生まれ変わるとはのう……。
こんな繊細な奴だっけなぁ……ああもう、すっげぇなぁ。
ステイルと人識の絡みもまた凄い。賢しい奴らの牽制合戦がたまらん。


>告別/再見

大河……乙。そして美波も、ヴィルヘルミナもティアマトーも乙。
真正面から受け取った結果……いやはや、大河もよく耐えた。
これからも強く生きて欲しいものだ。実乃梨死んでるけどな。
そして美波はポストマンの仕事は大河に関してはクリア。これで一息……とは行かないのだよな。
彼女自身も放送後は大河のように阿鼻叫喚だろうし。うむ、本当このチームはこれからどうなるやら……。
561創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 01:59:54 ID:JTIE3cbw
投下乙です
大河が凄いらしくて良かった
ただ落ち込むだけじゃなくて、電柱に八当たりする所とか、「ああ、大河だ」って感動すら覚えたくらいw
しかしまだ親友の死亡も待ってる訳だし、マジで大河は苦難の道を歩んでるなあ
562創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 08:43:51 ID:0gk0NTdw
予約も一区切りついてるようなので、期限延長についての話

話題出して議論スレで議題出てから一週間経過したけど、
これ以上他に意見が出ないようなので、今後は
『予約期限:5日 / 延長期限:2日』で問題ないかな?
563創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 10:20:26 ID:OItIWNmd
それでいいかもしれない
564創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 20:46:48 ID:yjhlLiBr
異論なしー。

このまま異論がなければ、新期限への移行は区切りよく次の日付変更あたりからかな?
テンプレとかも直さないとね
565 ◆JBm/UI5J5tXv :2009/10/19(月) 22:37:15 ID:0gk0NTdw
>>563-564
了解。
日付変わるタイミングくらいで、日付修正したテンプレで新予約スレ建ててきます。
566創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 22:39:16 ID:0gk0NTdw
………………トリップ変わってる。
桁数がどうので強制的に変わったんだっけか。鬱だ。
567創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 00:17:45 ID:7HKqOIrB
新予約スレです。テンプレ微修正しております。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10390/1255965122/

一時的にスレ乱立していたかもしれませんが、気のせいです。
前スレからは誘導、及びスレッドストップしておきます。
568創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 00:37:52 ID:S90iZQsA
おお、乙ですー。

トリ変わってるけど、この作業ができるってことは、したらばの方の管理人さんかな?
いつもご苦労様です。もちろん常々感謝してるけど、普段はお礼を言うタイミングがないw
569創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 09:49:51 ID:y+S4iSoj
すげえなあ大河そのものだよこれ
570創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 15:49:22 ID:Xu8U6wPR
>>566
知っているかもしれませんが、トリップは全角だったら最初の四文字、半角だったら最初の八文字だけにすれば元のトリップに戻りますよ〜。
571創る名無しに見る名無し:2009/10/22(木) 17:42:50 ID:A0ddhIR/
予約が3つもキター!

1つ目はおかしい・・・
予約内容的には再会話しか予想できないのに不吉な予感でいっぱいだ。

2つ目は式に期待が
万が一堕ちたら手がつけられないがw

3つ目は上条さんに新たなフラグ?
それとも姫路さん不幸伝説に新たなページ?

どれもこれも楽しみすぎるw
572 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/24(土) 19:08:31 ID:/PmQPlNd
浅羽と伊里野、投下します
573最後の道 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/24(土) 19:10:59 ID:/PmQPlNd
 歩くことが苦痛だった。
 考えることが嫌だった。
 
 それでも留まっていることも嫌で、一歩歩くたびに痛む体を鞭打つように歩きつづけた。
 考えるつもりはなくとも、次々に頭の中に浮かぶ事があった。

 頭の中でぐるぐると、浅羽がここで出会った人たちの言葉が浮かんでは消えていく。 

『あんたは悪い人間だーっ!』
 ぼくが乱暴しようとした、あの栗毛の少女は僕を軽蔑していた。

『報いは受けて貰うぞ。貴様はリリアに酷い事をしたっ!』
 そう言って彼女を守ったあの人は、きっとぼくなんかとは全然別の種類の人間なのだろう。

『っしゃぁーーっ!
 このバカガキがそこを動くな逃げるな口答えするな、いやたとえ逃げても逃げきれると思うなっ!
 ぶっ殺してやるっ! 絶対にぶっ殺してやるぅっ!』

 ……そういえばあの子もぼくのことを怒っていたっけ。

『あんた、まさか……みんな、こ、ころ、殺す気、なの?
 本気で?
 あたしや、部長も、みんなみんな……殺す、っていうの?』

 そう晶穂は信じられないようなものを見るような顔で言った。
 だってそうしなくちゃいけないじゃないか。
 そうしないと生き残れないんだから。
 そうしないと伊里野が……。

(……っ!)
 そこまで考えたところで、この半日あまりの間に散々責められた言葉が浅羽の脳裏によみがえる。
 でも、『自分の為』に人を殺すことなんて、とても悪いことだから、決して許されることじゃないんだから、とてもできることじゃなくって、でも殺さなくちゃいけないんだからそれは結局『イリヤのため』に殺すんであって。
 ああ、でもそれは言い訳だったと言われて、でもあいつらはぼくの事情も知らなくて伊里野は生かさなくちゃいけなくってでもその責任は僕には背負いきれるものじゃなくて……。

 終わりのない思考の循環。
 出せない答えはがぐるぐると浅羽の頭の中で回りつづける。

 そんな風に考え事に気を取られすぎていたせいで、引きずるように踏み出した足が、路面の出っ張りに引っかかっても一瞬何の反応もできなかった。
574最後の道 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/24(土) 19:12:49 ID:/PmQPlNd

「……っ!」
 咄嗟に突き出した両手のうち、右手は骨が折れていてひどい激痛を浅羽にもたらし、残った左だけでは自分の体重を支えることはできなくて、体をひどくアスファルトの路面へと打ちつけた。

「うくっ……!」
 痛みにうめく。

 ――右手が痛い。
 当然だ。さっき折られたのだから。

 ――口が痛い。
 当然だ。殴られて、打ち付けて、歯が数本折れたのだから。
 少し前に唾を吐いたら、真っ赤になっていて気持ち悪かったのを覚えている。

 ――体が痛い。
 当然だ。この半日の間で転んで、倒れて、噛まれて、殴られて、蹴られて、今も地面に打ち付けて。
 この体で傷ついていない場所など一つもない。

 ――頭が痛い。
 当然だ。川に流されたあの時のまま動き回ったせいで、はっきりとわかるぐらいに熱っぽい。
 きっと学校の保健室に行ったなら、保健室のベッドで休んだ後に帰宅させられるぐらいの熱はとっくに出ているに違いない。

 ――心が痛い。
 ……当然だ。これまでの自分を振り返ってみろ。  
 ……伊里野を守ると決意して、これまで自分は何をやった?

 女の子にマシンガンで襲いかかって、殺せずに。

 晶穂と出会っただけで、慌てて、言い訳をして。

 ぼくを尋問しようとした人をもっていた毒で殺してしまって。

 あのリリアって子に乱暴して、欲情して、それでも殺すことはできなくて。

 宗介って人に殺されかけて、そのまま見逃されて。


 ……伊里野のために何ができた?

 罪悪感、後悔、情けなさ、自嘲、自己嫌悪。
 そうしたもろもろの感情がぐちゃぐちゃになって、浅羽の頭の中を埋め尽くしていく。
 ぐちゃぐちゃになった感情は、ほどなくしてひとつの単語となって固まった。

(……どうしてっ!)
 そこまで考えた途端、ぼろぼろと、馬鹿みたいに涙が出てくる。溢れ出す涙と同時に刃のような傷みが元々あったずきずきとした痛みとは別に頭の芯を刺す。
 柔らかく朝日が照らす、誰もいない静かな通りをふらふらと歩きつづけながら、浅羽は嗚咽をこらえようとして、それでもこらえきれずに声を漏らした。

「…………!」

(……どうしてっ!)
 言葉には出せずに、ただ頭の中でその単語がぐるぐると回る。

 どうして、なぜ、なんで。
 疑問は頭の中を駆け巡るばっかりで、彼ののうみそは部長や榎本のように正しい答えは導き出してはくれない。
 
575最後の道 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/24(土) 19:14:22 ID:/PmQPlNd
(どうしてっ!)
 どうしてこんなことになった。
 一体自分は何を間違えた?
 こんなはずではなかった。
 こんな風になるなんて、想像さえしていなかった、望んではいなかった。

 ほんの少し前の日々、当たり前だった日常を思い出す。
 部長がいて、晶穂がいて、伊里野がいたあの日々はどこへいってしまったのだろう。
 何が、違ってしまったせいで、何を間違ってしまったせいでこんなことになったのだろう。

「くっ……!」

(帰りたいっ!)
 やはり言葉には出せずに心の中でのみ願う。
 強く、固く握り締められた左手にははっきりと爪の跡が残っていた。

 ……あの時、リリアって子をそのまま殺していたら何か違っていたのだろうか。

 それとも、あの男の人にそれは毒だって言って、あの人を殺さずに済んでいたら何か変わっていたのだろうか。

 晶穂にあった時に迷わずに銃を向けていたら、こんなことにはなっていなかったのだろうか。
  
 あの時、最初に出会ったあの子を殺せていたらもっとましになっていたのだろうか。

 いや、それよりも。
『よお、久しぶり』
 榎本の顔を見た瞬間、全身から力が抜けていったあの瞬間のことを浅羽は思い出す。
 あの時諦めずに逃げ出していたら、伊里野はまだ自分のそばにいてくれたのではないか。

 むしろいっそ、あの夏休み最後の日に、おとなしく家に帰ってさえいれば『日常』は今も続いていたのではないだろうか……。

「……っ!」
 地に倒れ伏せたその体勢のままで、浅羽はぶんぶんと首を振る。

 ……一体、今ぼくは何を考えようとした。 

 自分自身に浅羽はぞっとしたものを感じる。
 一瞬頭の中に浮かんだ考えはひどくおぞましく、そんなことを思いついてしまう自分自身が嫌になってしまう。

 結局、ぼくは伊里野を言い訳にしていただけなんだろうか。  
 
 あの子たちが正しくて、ぼくが間違っていただけなんだろうか。

 そうじゃないと信じたい。
 でも、じゃあ何で、ぼくはあの子たちの言葉に『伊里野のため』以外の答えを返すことはできなかったんだろうか。

576最後の道 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/24(土) 19:20:46 ID:/PmQPlNd
 けれど、もしもぼくが間違っているのだとしても、すでに人を殺してしまったぼくはこの道を進む以外のことはできなくて、でも伊里野を言い訳にすることはできなくて。

「…………うっ、うううううううう……」
 路上に伏せた、そのままで浅羽は泣いた。


 ……じゃり

 路面に近かったせいでその音は聞こえた。
 不意に聞こえてきたその音に、咄嗟に浅羽は声を押さえた。
 そして咄嗟にそんな行動を取れる自分自身にまた嫌気を感じる。
 振り返ってみれば最初からそうだった。

 銃を持っていたくせに、それを使って女の子一人殺すことはできなくても、とっさに浮き輪やビート板を使っておぼれることは防いだ自分。
 腕を折られて、人を殺した直後だっていうのに、道具を持って逃げた自分。
 
 ぼくが『正しい』行動を取れたのは、イリヤのために何かをしようとしたときでなく、いつも自分の身を守るときだけだった。

 改めて自分の醜さというものを思い知らされながらも、浅羽はのろのろと身を起こすと、音の主が姿を見せる前にビル影へと体を引き摺っていった。

 浅羽がビル影に身を隠すのとほぼ同時に、足跡の主はその姿を通りに晒す。

 それは浅羽が守りたいと願っていた少女の姿。
 ……ただし、来ている服を血で染めて、ふらふらと前が見えていないような危なっかしい足取りであるいているという予想外の姿。

「……イリヤ!」
 思わず浅羽はよろよろとビル陰から飛び出す。本当はそのまま飛びつきたかったけど、それをするには体の節々が痛くて。
 だから代わりに彼女に声をかけた。
 口内の痛みのせいで、あまり大きな声は出せなかったけどその声はちゃんと彼女に聞こえたのか、少女はゆっくりとその視線を浅羽のほうへと向けた。 



 ◇ ◇ ◇
577創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:26:18 ID:wQD1HJhy
578最後の道 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/24(土) 19:29:15 ID:/PmQPlNd


 ……良かったことが一つ。
 ……悪かったことが一つ。

 放送を聞きながらわたしはそう状況を判断する。
 
 よかったこと、あさばはまだ生きている。
 榎本以外は聞いたことがない名前が十人分呼ばれたけれど、放送を聞き漏らさないように注意して、なんだかよくわからないことを言っていた長い前置きの途中から頑張って聞いていたけれど、あさばの名前は呼ばれてはいない。
 のこりは50にん。
 あさばの為に私も入れた49にんをころせば、あさばは生きて園原に戻れる。
 それがとてもうれしい。

 そして悪かったこと。 
 一時的なものだと思っていた目の不調は確かに一時的なもので、少し休んだだけで目はもとに戻ってくれた。
 けれど、もとの調子でいられるのもやっぱり一時的でしかなかったらしいということ。

 榎本を刺して少し装備がましになったわたしはもう少しだけ中心部に近付こうとした。
 さっき考えたとおり、きっと中心部に行けば行くほど自分に自信があるひとがいる。そのひとたちの装備の方が優れているに違いない、そう考えてわたしは進み。
 歩き出して少しして放送が流れて、あさばが無事なのを喜んで、また歩き出そうとした矢先にまた調子が悪くなったのだ。
 その時は少し休むだけで、またもとに戻ってくれたけど、またいつ悪くなるのかわからない以上考えないといけない。

 だからわたしは考えた。
 
 そして病院へと向かうことにしたのだ。
 
 病院へ向かう、と言っても別に薬が欲しいわけじゃない。
 わたしが今欲しいのは強力な装備。
 
 わたしが今もっているのは、手榴弾と刃物と銃が二挺。
 悪くはないけど、視力がいつどうなるかわからない以上、確実に殺せる装備が欲しかった。
 今の装備じゃ、手榴弾以外だと急所に当たらなきゃ殺せない。
 そしてそれだとあまり遠くの人間は殺せない。
  だから榎本に止めを刺すちょっと前、逃がした二人組みのうち、男の子の方の武器が欲しかった。
 あのロケット弾ならかなりの距離があっても相手を襲うことができるし、威力の方も十分、また視力が落ちて、狙いが多少ずれてしまっても、殺せる。

 確か土屋といった男の子の名前も呼ばれなかったし、お腹を三回も刺して、あそこまで血色が悪くなっていたのだ。
 きっと彼らは病院に向かって、傷の治療をしたに違いない。
579創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:29:56 ID:wQD1HJhy
580最後の道 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/24(土) 19:30:34 ID:/PmQPlNd

 今度はもう、油断しない。
 ころして、うばう。

 そう決めてわたしは歩き出したけど、しばらく進むとまた目の前が見えにくくなってきた。
 本当は休んだ方がいいのだろうけど、あの子達もいつまでも病院にいるはずがない。今は急ぐ必要があった。
 幸い、と言っていいのかはわからないけど、目の前の様子はぼんやりとは、もしも誰かがいればわかる。
 ならもう少しだけ、進める。
 そうして、がんばって歩いていると、横の方から誰か、出てきた。
 誰かはそのまま様子をうかがっているのか、その場に立ったままで動かない。

 ……距離は近い。
 
 ひょっとしたらこの人も何か強い武器を持っているかもしれない。 
 そうじゃなくても、あさばの為には殺さないといけない。

 わたしはそのまま、ぼんやりと見える人影に銃を向け。

「……あさばのために、しんで」

 言い切るよりも早く、引き金を引いた。



 ◇ ◇ ◇
581創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:30:49 ID:wQD1HJhy
582最後の道 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/24(土) 19:31:23 ID:/PmQPlNd

 ぱぁん。
 
 最初に浅羽が持っていた軽機関銃に比べればはるかに小さい銃声が響く。
 同時に見えない誰かに思いっきり突き飛ばされたかのような衝撃がはしって、浅羽はどしん、と尻餅をついた。

(…………え!?)
 疑問が浅羽の脳裏を埋め尽くす。
 
(……今、何が起こった?)
 そんな疑問にわずかに遅れて浅羽の右腕が燃え上がる、いや、違う。右腕が燃えているかのような灼熱した痛みに襲われた。

「う、うわわわ、うわああああああああああああぁああああああああああ!」
 絶叫する。  
 絶叫する。
 絶叫する。

 叫ぶ浅羽をよそに、彼の目の前で伊里野が銃を構えている。


「い、伊里野……どうして?」
 痛みと恐怖、そしてそれ以上の絶望。
 歯ががちがちとなってかみ合わない。
 撃たれた右肩からはそんなに血が流れてはいないけど、きっとそんなのは見た目だけ。
 だって、ひどい貧血の時のように頭からどんどん血が抜けていって、目の前が暗くなってきているんだから。
 だけど、それでも伊里野を信じたくて。
 伊里野がぼくを撃ったなんてことが嘘なんだって、何かの間違いなんだって思いたくって、震える声で問い掛ける。
 
 出てきた言葉はとても小さい上にしどろもどろな自分でもなんていっているのかわからないような、これが自分の声だって信じられないようなもので。
 それでもその言葉は伊里野に届いたのか。
 彼女の口は動いた。

「……あさ――」
 それと同時の二回目の銃声。
 伊里野の言葉に気を取られていた浅羽は動くことさえできなくて、ただ彼女のことを呆然と見つめつづけているのが精一杯だった。
 それでも浅羽にとっては幸運なことにその一撃の狙いは逸れて、浅羽の背後、ついさっきまで浅羽が隠れていたビルの窓ガラスに当たるとそれを粉砕した。
583創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:31:37 ID:wQD1HJhy
584創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:32:21 ID:wQD1HJhy
585最後の道 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/24(土) 19:32:33 ID:/PmQPlNd

 だが、そんなことは今の浅羽にはどうでもいいことだった。
 銃が撃たれた瞬間、反応さえできなかったが故に浅羽は伊里野を見つめつづけていたのだ。
 伊里野のことだけに気を取られていたのだ。
 銃声のせいでわずかに途切れたところがあったけど、間違いなく伊里野が言った言葉の最初と最後は浅羽の耳に届いていたのだ。

 伊里野は確かに言っていた。

『……あさば――――しんで』
 
 ぴしり、と浅羽の中で何かが壊れた。
 
 ……伊里野は今、ナントイッタ?
 ナンデソンナコトヲイッタ?

 ……決まっている。
 伊里野を理由にしてひどいことをしてきたからだ。
 伊里野の為に伊里野の友達だった晶穂にさえ銃を向けたからだ。
 伊里野のために、伊里野を言い訳に人を殺そうとしたからに決まっているじゃないか。

 みんな言っていたじゃないか。
 それはエゴの押し付けだって。
 お前は伊里野って人のことを考えていないって。
 
 だからそう、人殺しの理由にされた伊里野がぼくのことを怒るのは当然で。
 ぼくを守るために闘った、ぼくを守るためにあの最後の戦いに向かって伊里野からしてみれば、それはひどい裏切りで、きっとぼくに今こうして銃を向けてくるぐらいにぼくを恨むには十分な理由で。

 ……ならぼくはどうなる。
 伊里野の為に殴られて、噛まれて、蹴られて骨さえ折られてそれでもがんばっていりやのためになるとおもってくじけそうになってもがんばってきたのに、それが全部無駄になるなんてことがあっていいはずなくって、
なんでぼくが撃たれなくちゃ、そんなのはきっと間違いだ。そうだそうにきまっている。がんばってがんばってがんばってきたことが全部無駄だったなんてことは認められない。
 ――それならいっそ。

586創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:33:31 ID:wQD1HJhy
587最後の道 ◆ug.D6sVz5w :2009/10/24(土) 19:34:02 ID:/PmQPlNd
「うわわあわぁぁぁあああああああああああああ!!」
「!?」
 絶叫と共に飛び掛る。
 それは銃では埒があかないと判断して、刃物を取り出そうとした伊里野の、『相手』からの反撃がなくって油断していた伊里野の虚をつくタイミングで。
 
 肩口から伊里野に体当たりをした浅羽はずざざっ、と伊里野ごと地面に倒れこんで。
 怒りのままに、これまでのように痛みに震えることもなく素早く伊里野の上に馬乗りになると叫び声をあげながらも何度も伊里野を殴りつけた。

「この! この! このおおぉぉぉぉっ!」
 左の拳を何度も振るう。
 興奮しきった浅羽の狙いは定まらずに、何発かは伊里野には当たらずに路面のアスファルトを殴りつける。
 拳がアスファルトで擦り切れて、真っ赤になっても浅羽は気にせずに何度も拳を振るう。
 そうして激昂したまま、両手で伊里野の首を締め上げ――ようとして。
 興奮状態でも騙しきれなかった右手の骨折と右肩の銃創。
 この二つの負傷が発した痛みによって、ようやく少しだけ我に返った。

「…………え?」
「あ……さ…………ば……」


 ……結局それが浅羽直之という少年にとって幸運だったのか、それとも不運なのかはわからない。

 自分の手で守りたかった少女を殺さずに済んだ、殺す前に我に返れたという点では、それはこれ以上なく幸運で。

 自分の手で守りたかった少女を傷つけていたという事実に気がついてしまったという点では、それはとてつもない不運で。

 その事実を前に彼は。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 わからない。
 わからない。
 わからない。

 一体何をしたかったのか。
 一体誰の為にがんばっていたのか。
 一体何をすればいいのか。
 
 わからない。
 わからない。
 わからない。

 絶叫と同時にこの場から、いや……『全て』から逃げ出した。


588創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:34:13 ID:wQD1HJhy
589創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:35:30 ID:wQD1HJhy
590創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:35:53 ID:/sxngC4D
591創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:36:29 ID:wQD1HJhy
592創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:39:22 ID:/sxngC4D
593創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:41:31 ID:/sxngC4D
【C-6/一日目・午前】



【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:自信喪失。茫然自失。現実逃避。全身に打撲・裂傷・歯形。右手単純骨折。右肩に銃創。左手に擦過傷。 微熱と頭痛。前歯数本欠損。
[装備]:毒入りカプセル×1@現実
[道具]:デイパック、支給品一式 、ビート板+大量の浮き輪等のセット(三分の一以下に減少)@とらドラ!、カプセルを入れていたケース
[思考・状況]
0:????????????
[備考]
※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
※浅羽が駆け出した方向は後の書き手にお任せします。 (ただし北〜北西方面ではない)




 ◇ ◇ ◇


 ……気がついたら地面に倒れていて、あさばが泣きながらわたしのことを叩いていた。
 それからいったいどれくらいの時間がたったのだろう。
 やがて、あさばは大声をあげながら、なんだかとても悲しそうな様子でどこかへ走って行ってしまった。

「……あ」
 わたしはよろよろと手を伸ばして、あさばのことを引きとめようとしたけれど、その手はあさばに届かなくて、何故だか声も出なくって、あさばの姿はやがて見えなくなってしまった。

「…………」
 わたしは黙ったままでゆっくりと体を起こした。

 あさばに叩かれたのはとても辛い。
 あさばに叩かれたところはとても痛い。

 でも、我慢しなきゃいけない。
 だって最初からわかっていたことだから。
 だってあさばは優しいからわたしがみんなを殺そうとしているって知ったらきっと怒るってわかっていて、それでもわたしはあさばを助けるって決めたから。

 ――たとえあさばがわたしのことを嫌いになっても、わたしはあさばがすきだから。

 そして彼女は再び進む。
 大好きな彼とは異なる道を。

【C-6/一日目・午前】
594代理:2009/10/24(土) 19:42:39 ID:/sxngC4D
【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:顔に殴打の痕。返り血で血まみれ。たまに視力障害。 とても哀しい。
[装備]:ベレッタ M92(13/15)、『無銘』@戯言シリーズ、北高のセーラー服@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフTT-33(8/8)、トカレフの予備弾倉×4、
     べレッタの予備マガジン×4、ポテトマッシャー@現実×3
[思考・状況]
基本:浅羽以外皆殺し。浅羽を最後の一人にした後自害する。
1:他の人間を探す。
2:晶穂も水前寺も躊躇いも無く殺す
3:さっき逃がした2人組を追いかけ、病院へと向かう。
[備考]
 不定期に視力障害をおこすようです。今のところ一過性のもので、すぐに視力は回復します。
 『殴られた』ショックのせいで記憶に多少の混乱があります。そのせいで浅羽直之を襲撃した事実に「気がついていません」



以上代理投下終了です
595創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 20:01:00 ID:wQD1HJhy
投下&代理乙。こっちもこっちで支援でさるさん喰らってました。

うわぁ……! なんというエグい展開……!
すれ違う2人がなんとも救われないけど、実に「らしい」なぁ……。
浅羽よお前はどこへいく。伊里野もお前、どこまで壊れてくんだ……!
GJ。キッツいな、いやこれ褒め言葉だけど……。
596創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 20:27:08 ID:RVz2Zbsl
投下乙ですー
浅羽……うわぁえぐい。
救われない……救われないなぁ。
伊里野も切ないし……
素晴らしく、きつく、らしい展開
GJでした
597創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 21:53:02 ID:c8Q+rNsN
投下乙
もう心がえぐられそうだよ。
もう何かが狂ってもうもとにはもどらなさそうなのが悲しい。
この二人は何処にたどり着くんだろ
GJでした。
598創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 11:41:37 ID:5RHLNeuy
投下乙です
えぐい展開で誰も救われないな
もうね、見ていて辛いよ
本当にGJでした
599創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 02:02:33 ID:xx/HIM/7
代理投下を始めます。
 【天文台】

 山中にひっそりと聳えるドーム型の建物は、来訪者をただひたすらに待ち続け今に至った。
 もともとは学者が星を観測し、天文学についての研究を行うために建てられたその施設。
 昨今ではそういった学術研究目的以外にも、純粋な天体観測をために訪れる者もいる。

 こんな山中では来訪者も多くは望めないかもしれないが、この立地環境にももちろん理由はある。
 天文台というのは天体からの微かな光を観測するため、光害のない暗い場所に建っているのが好ましい。
 夜でさえ電灯の光が絶えることはない、市街地から離れた山の中というの、まさに打ってつけだ。
 天文台の立地条件には高所であることも必須であると言われている。これは広い視界を確保するためである。
 実際、近年の有名な天文台はマウナケア山やアンデス山脈などの名だたる山々に建てられることが多い。
 山中というのは、以上の条件に最も適した、天文台を建築する上で最高の立地条件を揃えているのだ。

 天文台には、観測装置として天体望遠鏡が一つ、大きなところでは複数設置されている。
 この天体望遠鏡というのは、一般で扱えるような普通の望遠鏡とはものが違う。
 その名のとおり、天体を観察するための望遠鏡なのである。
 ほとんどが大型なため、持ち運びは不可能。観測の際にも必ずと言っていいほど架台に乗せなければならない。
 また、これらの天体望遠鏡はただ単純に星を見るための道具というわけではない。
 あくまでも天体を観測するための道具なのであり、その用途によって作りが異なってくるのだ。
 天体観測というのは、天体からやってくる電磁波や可視光線を受け、それを分析することである。
 これを可能にするのが天体望遠鏡という装置であり、天文台という施設であり、そして天文学者なのだ。

 この地に置かれていた天文台には、あたりまえだが天文学者はいなかった。
 傍には観測者用の宿泊施設と見受けられる小屋が建てられていたのだが、中はもぬけの殻。
 天体観測というものは複数夜に渡ることが多いので、こういった観測者用の施設も付属されることが多い。
 ただ、人がいないというのに布団が敷きっ放しになっていたのが気がかりと言えば気がかりだった。

 天文台内部は外観の素朴な印象に反して、一流企業のオフィスを思わせる近代的な空間が広がっていた。
 床を這うケーブルの数々、雑多に散らばった資料と思しきファイルの群れ、スクリーンセーバーが起動してるPC。
 近年の天文台では、膨大な量の観測データをまとめるためコンピュータを運用しているところが多い。
 遠隔地に建つ天文台には、通信ネットワークを利用した自動遠隔操作システムや解析ソフトを使っているところもある。
 ここも類に漏れず、その名残が散乱していた。PCモニターなどを指でなぞってみても、それほどの埃は溜まっていない。

 天体望遠鏡が設置されているフロアは、観測室とは違い綺麗さっぱりとしていた。
 冷房が効いているのか、どこか肌寒い。これは望遠鏡に余計な熱を与えないため、温度環境を一定に保つための処置だろう。
 間近に捉えてみると望遠鏡は実に巨大で、先端が空に向かった伸びる様はさながら大砲のようにも思えた。

 今ここに、インデックスとテレサ・テスタロッサの二人が立つ。
 来るべき天体観測の時刻に備えるため、少女たちは天文台の下見に来たのだった。
 ◇ ◇ ◇


「――昔の日本では、天文台のことを『占星台』なんて言ってね。占星術に役立てたりしてたんだよ」
「占星台……ですか。ただ星を観測するための場所、という認識は間違いなのでしょうか?」
「間違ってはいないと思うよ。実際、現代の天文台は占星術を前提として作られてはいないわけだし。
 ここの天文台だってそう。純粋に、天体を観測するために作られている部分が多々見受けられるんだよ」
「占星術を前提として作るとなると、やはり天文台の作りからして変わってくるものなんでしょうか?」
「うーん、難しいところだね。私は機械には詳しくないから、この天文台がどれだけ優れているかはわかんないし。
 望遠鏡が発明されたのは17世紀のことだけど、天体観測や占星術はそれ以前からあったんだよ。
 それを踏まえるなら天文台なんてそもそもいらないし、逆に占星術に最適な天文台を作ることも可能ではあるだろうし……」
「占星術って、要は占いなわけですよね? だとすると、学問……というには少し違ってくるんでしょうか?」
「今じゃ科学とは違う別の技術と定義されているからね、占星術は。
 天体の位置や動きを、人間や社会の在り方に結び付けて考えてみる占いだから。
 星座占いってあるでしょ? あれだってもともとは占星術が起源なわけだけど、今じゃすっかり別物だし」
「科学とは違う別の技術、ですか? それって、例の魔術……っていうのと、同じものなんでしょうか?」
「定義が難しくはあるんだけどね。占星術も魔術の一端には違いないよ。私の中の十万三千冊の魔導書にも、ちゃんとそういうのは含まれてる。
 星を見たいっていうのも、私の頭の中にある星図と照らし合わせてこの世界の環境をよく知るため。
 あの神社を調べてみた感じ、この世界は日本のそれと当てはまる部分が多いんだけど、ただ模しただけっていう可能性もまだ捨てきれない。
 あっ……と、そのへんの詳しい話はヴィルヘルミナとしかしていなかったね。テッサにもこの場で説明しておくことにするよ」
「……インデックスさんって、なんでも知っているんですね」
「なんでもは知らないよ。知ってることだけ」


 天文台の中でささやかれる声。
 十万三千冊の魔導書を有する少女が語り、テッサが聞く。
「――で、どうかな? この機械、使えそう?」
「ここまで専門的とは思っていませんでしたので……ちょっと、難しいかもしれませんね」
「え、そうなの……?」
「そんな不安そうな顔をしないでください。普通の人なら難しいかもしませんが、私になら簡単です。
 幸いにも、制御はコンピュータで融通が利くようになっていましたから。キーボードをちょちょいのちょい、です」
「ふーん。私にはあんな箱、とてもじゃないけど使いこなせないんだよ。テッサってすごいんだね」
「得手不得手はありますよ。私は機械が得意な人間として、インデックスさんに同行したんですから」
「頼もしい限りなんだよ。でもこれだけ大きな設備だと、活用できる人間も少なそうだよね」
「ええ。どういった用途でここに天文台が置かれていたのか……そこが少し、不可解ではあるんですけど」
「天体を観測するためじゃないの?」
「もちろんそうなんでしょうけど、椅子取りゲームの最中に天体観測をする人はいないんじゃ……って思ってみただけです」
「むむ。言われてみるとそうかも。私みたいに星に関しての知識を持っていたとしても、大抵はそれどころじゃないだろうし」
「コンピュータが使いっぱなしのまま放置されていたのも疑問と言えば疑問です。
 ざっと調べてみたところ、観測中と思しきデータも見当たりましたし、熱暴走気味の機械も少しだけありました。
 まるで今の今まで、そこで研究していた人がいたような……なんて、考えすぎかもしれませんけど」
「ネットワークには繋がってなかったの? 世界のいろんな人とリンクできるやつ」
「残念ながら。環境自体は整っていましたし、ケーブル等の機器もそのままではあったんですが、アクセスしてみても応答はありませんでした」
「あの箱って、他にもいろんなことができるんでしょ? なにか役立ちそうなものってなかったのかな?」
「天体の観測データが残されていましたけど、それが現在の環境と一致するという保障はありません。
 後はまあ、特に有益なものはなにも……ノートパソコンでもあれば、端末としていろいろ運用もできたのですが」
「あー、なんかいろんな色のケーブルがごちゃごちゃしてたよね。あれを運び出すのはちょっと面倒かも」
「欲を出して足を取られては元も子もありませんからね。ここは当初の予定どおり、観測を行うだけに留めましょう。
 観測を始める時間は、夜が更けてから……準備等も含めると、午後六時にはまたここに足を運びたいですね。
 コンピュータはもとより、CCDカメラや分光器も細かい調整が必要なようですから、その際には私も同行します。
 あ、でもただ星を見るだけで済むというのならそこまでの細かい作業は必要じゃありませんよ。
 機械に馴染みのある方ならあの望遠鏡も扱えそうですし、逆に詳細な観測データが欲しいというならそれなりの技術は必要ですが」
「……テッサって、なんでも知ってるんだね」
「なんでもは知らないですよ。知っていることだけです」


 天文台の中でささやかれ続ける声。
 ブラックテクノロジーの宝庫とも言われた存在が語り、インデックスが聞く。
「それじゃあまた夜が更けた頃、ここに足を運ぶってことでいいかな?」
「そうですね……そのあたり、他の方々ともよく話し合ってみましょう」


 天文台を離れていく二人の少女。
 下見を終えたインデックスとテレサ・テスタロッサが次に向かう先は、北の山奥……。


 ◇ ◇ ◇


 【黒い壁】

 世界という名の環境を成立させるための囲い。もしくは塀。または柵。あるいは檻。
 絶対の不可侵領域。質量を持たない絶壁。立ち入り禁止の境界線。抜け出せない外側。
 御坂美琴曰く、それは電撃の類を弾くのではなく吸収したという。
 それは単に、耐電性に優れただけの防御壁というわけでは決してない。
 壁のように見えて壁とは考えがたい代物。その調査のために彼女らはここに訪れた。

 エリア【A-1】とエリア【B-1】、その左下隅と左上隅が交わる直角の位置。
 地図を辿るだけでは目星をつけるのも難しいそこは、『黒い壁』の存在感のおかげで容易く判別できた。
 インデックスとテレサ・テスタロッサは今、天文台からさらに山奥へ進んだ北西の果てを訪れている。
 山林は深く生い茂り、しかし大自然の繁栄は不可思議に、黒い境界線によって途切れてしまっていた。
 ここが境目。ここが世界の果て。これより先にそれぞれの帰るべき場所があるのかは定かではない。

 御坂美琴が見たという『黒い壁』、そして零崎人識が見たという『消失したエリア』。
 双方を同時に眺められる『かどっこ』で、彼女たちの調査は始まる。


 ◇ ◇ ◇
「――黒い、ね」
「……ええ、黒いですね」
「夜だとイマイチわかりにくかったけど、日が昇ってから見てみると……」
「……壮観、ですね。こうやって間近にまで迫ってみると、余計にそう思えます」
「でも、こんなことで感動を覚えてはいられないんだよ」
「それはもちろんです。水平線を見て感慨にふけるのとは、わけが違いますから」
「まずはこっち。西側に立ってる『黒い壁』。ううん、立ってるって表現は適切じゃないかもしれないね」
「そうですね。聳える……いえ、置かれている……? この奥が見えないことには、なんとも言いがたいです」
「同感なんだよ。とりあえずどうする? テッサ、触ってみる?」
「え、遠慮したいところですっ……御坂さんは実際に、『黒い壁』に対して攻撃を試みたと言っていましたけれど」
「短髪のビリビリだね。電撃には耐性があるってことなのかな? 物理的干渉が可能かどうかも試してみたいんだよ」
「石でも投げてみますか? 都合よく転がっていましたけれど。まあ森の中ですし、不思議じゃないですね」
「あ、それ私やりたいかも! 貸して貸して!」
「はい、どうぞ」
「てぇりゃあぁぁぁぁぁ!」


 ひゅるるるるる〜……………………。


「……コン、って音すら鳴らないんだよ」
「……御坂さんが言うとおり、吸い込まれちゃった感じですね」
「肉眼で見ると壁のようだけど、やっぱり正体は壁じゃないのかもしれない」
「見ただけではわからない、ですね。ここはリスク覚悟で触れてみるしか……」
「待ってテッサ。それなら私が中に入ってみるよ」
「え……インデックスさんが? ですが……って、入ってみる……? 中に、ですか?」
「うん。自分の目で情報を得ることも必要みたいだしね。やってみて損はないと思うんだよ」
「き、危険すぎます! さっきの石みたいに、吸い込まれちゃったらどうするんですか!?」
「吸い込まれなきゃ中には入れないと思うんだよ。あ、でも外に出て来れなくなっちゃうのは困るかも」
「そんな危険な真似、容認できません!」
「だ、大丈夫だよ!」
「なにを根拠に大丈夫だなんて言えるんですか!」
「え、え〜っとね……ほら、私のこの服! これの加護があれば『黒い壁』の力なんてへっちゃらなんだから!」
「その修道服がですか? なにか特別な効力でも……?」
「うん。これは『歩く教会』って言って、その布地には幾重もの結界が張り巡らされているんだよ。法王級の防御力なんだからっ」
「……そんな安全ピンで無理やり止めているような服が、ですか?」
「うっ……テッサの瞳が欺瞞に満ちてるんだよ。こ、これはとうまが起こした事故の名残で……」
「あ、どうやら『黒い壁』の中に入ってもすぐに消えるということはなさそうですね」
「あーっ!? なにしてるのさテッサ!」
「木の枝が落ちていましたので、ちょっと差し込んでみました♪」
「それって抜け駆けだと思うんだよ!」


 わいわい。がやがや。
「…………う〜ん」
「どうですかインデックスさん。『壁の向こう側に二、三秒ほど入り込んでみた』感想は?」
「……正直、あまり気持ちのいいものではないんだよ。むしろ気持ち悪い。鳥肌が立って止まらない感じ」
「気持ち悪い……ですか」
「中は真っ暗だし、足下も覚束ない。もう一歩踏み込んでたら危なかったかも。あとは……音がなかったんだよ」
「音というと?」
「無音なんだよ、この壁の向こうは。声なんかを出そうとしても、即座にかき消されちゃう感じだね」
「……私も試してみていいでしょうか?」
「ダメとは言えないよ。けど、私の手をしっかり握ってて。最大でも三秒が限界。そしたら強引にこっちに引っ張るから」
「はい、よろしくお願いしますね」


 ザッ………………ぐい。


「……どう? 感想は」
「インデックスさんの言ったとおり……ですね。声だけでなく、足音なんかも鳴りませんでした」
「視界も真っ暗だったでしょう? なんて言うのかな。この壁の向こう側はまるで別空間なんだよ」
「虚無……と言ったような感覚でしょうか。もう少し長く中に留まっていたら、消える……そう本能的に実感してしまうような」
「考えてみたんだけど、消えるっていうのとはちょっと違うかも」
「え、違うんですか?」
「うん。消えるっていうよりは、中に溶け込んじゃうって言ったほうが正しいかな」
「溶け込んじゃう……」
「たとえるとね、この中は迷路みたいなことになっていると思うんだよ。一度踏み込んだら絶対に戻っては来れない、永遠の迷宮だけど」
「永遠に闇の中……というわけですか。なんだかゾッとします……」
「消滅っていうのは、たぶんそういうこと。『黒い壁』に取り込まれて、この世からは消えてしまう。
 それはきっと、死よりも悲惨なこと……ううん、死すら奪われて、永遠に虚無の中で生き永らえるだけ」
「実際に中に入ってみただけで、そこまでわかるものなんですか?」
「ん、言ってることに確証はないんだよ。手持ちの知識から憶測して、推論を口にしているだけ。
 十万三千冊の魔導書だなんて言っても、この『物語』の中では必ずしもその知識が適用されるわけじゃないから」
「……インデックスさんは、この『黒い壁』の正体をなんだと考えますか?」
「類似しているものは挙げるとすると、やっぱり『結界』かな」
「結界? 結果って、あの――」
「そのあたりを説明するよりも先に、次はこっちのほうを調べてみたいんだよ」


 二人の視線は北側に聳える『黒い壁』――と似て非なるモノ、『消失したエリア』に向く。


「一見、『黒い壁』とまったく同じように見えますけど……」
「うん。黒いし暗いし高いし不気味だし、見た目はまったく一緒だね」
「あっ……やっぱりこれも、『黒い壁』と同じものみたいです。ほら、木の枝が普通に入ります」
「なら、さっきと同じやり方で中の様子も窺ってみたいんだよ。テッサ、手を繋いでて」
「三秒が限度、ですよね? 任せてください」
「それじゃ、入るよ」


 ◇ ◇ ◇
 【消失したエリア】

 零崎人識が『零次元』と例えたそれ。つまりは三十六で区切られた升目の消失。終わった世界。
 外観はとにかく黒い。夜の闇に酷似した深い黒さ。見ているだけ吸い込まれそうな錯覚に陥る。
 空を仰いでも果ては見えず、そのまま宇宙と繋がってさえいそうな気がした。

 現在までで消えたエリアの数は五つ。【A-1】から【A-5】まで、横に五つ。
 あと小一時間ほどで【A-6】も消えてしまうだろう。そうなれば、【A】のラインは全滅。
 続いては【6】のラインから縦に侵食が始まり、そこから【F】、そして【1】と……会場は時計回りに狭められていく。
 そして最終的には、無になって消える。それがこの世界の宿命。制限時間は三日間。これは前提とされた絶対のルール。

 それをよく捉えているからこそ、消えゆく世界の中に閉じこめられた者たちは抗うのだ。
 自分たちを包囲している『黒い壁』、そして『終わった』という結果のみを残す黒い領域――『消失したエリア』。
 終焉が近いこの環境から脱するすべは、壁の突破こそが最短の道。そう考えるしかない現状。

 実地調査にあたるのは当然として、問題は真理を見抜けるかどうか……。
 少女たちは考察する。


 ◇ ◇ ◇


「…………う〜ん」
「あの、インデックスさん……? 先ほどと反応が同じみたいですけど……」
「そう? だって、感想もおんなじなんだもん。仕方がないよ」
「じゃあ、やっぱり?」
「うん。この『消失したエリア』も、中の感覚は『黒い壁』のそれとほとんど同一。同じものと考えていいだろうね」
「違いがないとするなら……攻略法も同じではある、と考えていいんですよね?」
「そうだね。その攻略法自体がまだ全然見えてこないけど……ねぇ、テッサは『結界』というものについてどれくらい知ってる?」
「私は魔術というものに関しての知識を持っていないので、イメージでの回答になってしまいますけど……」
「全然構わないんだよ。話してみて」
「そうですね……聖域、外界からの侵入を拒むもの、立ち入り禁止……つまりは壁、ですかね。どうでしょう?」
「その認識で間違いはないんだよ。結界魔術は多種多様に存在しているけど、不可侵領域を作るという部分はある程度共通してる。
 テッサ、日本文化についての知識は持ってるよね。たとえば障子や襖。身近なところだと、あれも結界の一種であると定義できる。
 日本って、本来は他国と比べても空間を仕切る意識が希薄だった国だからね。ああいったものにはそれなりの意味があるんだよ」
「この会場の作りは、日本のそれと近しいんですよね? だとしたら、結界の意味も……?」
「結界っていうものは、本来は仏教用語なんだよ。神道や古神道なんかでも同様の概念を持つものはあるけど。
 西洋魔術でも普通に使ってる言葉だったりするね。防御結界や隔離結界、あとは魔術をサポートするための認識結界なんかも。
 結界という言葉の原点は仏教だけれど、同様のものであると言える『空間に作用する魔術』はむしろこっち側で栄えたものなんだよ。
 広義の言葉としては便利だよね、結界。完全な魔術用語ってわけでもないし、こうやって会話に持ち込む分にはかなり便利かも」
「やっぱり、この世界を囲っている『黒い壁』や『消失したエリア』は、結界の一種だと言えるんでしょうか?」
「類似したもの……とまでしか言えないのが正直なところなんだよ。
 これが結界魔術の一種だと定義したとしても、私の十万三千冊の魔導書の中にそれに該当するものはないんだ。
 これだけ大規模な空間隔離、一番近いものを挙げるとなると魔術ではなくヴィルヘルミナが言ってた自在法、封絶になる。
 違う物語の話だからね。自在法についての知識は圧倒的に足りてないし、足りていたとしても該当するものが見つかるとは限らない。
 う〜ん、一度ヴィルヘルミナの視点からも意見が欲しかったかな。テッサの世界の技術ではどう? こういったものを作り出せる機械とかある?」
「あー……えーっと……」


 ……………………長々。
「……それでね。この『黒い壁』や『消失したエリア』を、結界魔術や封絶等の自在法に類似したものと定義するなら、だよ?」
「はっ、はい……」
「大丈夫、テッサ? なんだか疲れてる顔してる」
「いえ、軽いカルチャーショックです。頭にはきちんと入ってるので、心配しないでください」
「そう? それじゃあ続き。これを結界に類似したものと定義するなら、問題はそれを行使している方法と、術者の存在なんだよ。
 まさか世界が消えるだなんて現象が自然の仕業だとは考えがたいよね。魔術にしても自在法にしても、術者はいて然るべきもの」
「あ、実際にエリアを消している人物は誰か……って話ですか?」
「そう。今のところ、考えられる人物なんて“人類最悪”以外にはいないんだけどね」
「彼の背後に別の人間がいる……と、そんな風にかぐわせてはいましたけど、存在が露呈しているのは一人だけですものね」
「“人類最悪”が魔術師や自在師かどうかなんてわかんないけど、裏になんらかの術者がいる可能性は高いんだよ」
「人間が行使する術式……ではなく、機械技術を応用した装置……という可能性はないのでしょうか?」
「もちろんあるよ。むしろ可能性としてはそっちのほうが高いかも。
 私の知識だけでは語るには忍びない事象だし、別の物語の技術っていうんならそのほうが納得もしやすい。
 別の物語の技術じゃないにしても、魔術効果を持つ霊装や自在式が込められた宝具って線もあるかな。
 まあ人間か機械がエリアを消しているとして、共通して考えられる事柄があるんだよ。なんだかわかる?」
「……所在地、ですか?」
「うん、そのとおり。この場合重要になってくるのは、術者、もしくは装置の居場所。
 私たちが目指すのは、『黒い壁』や『消失したエリア』の正体を突き止めた先、消えゆく世界を停止させること。
 そのためにはやっぱり、大元を絶たなきゃ問題の解決には至れない。
 だからまずは、術者か装置の所在地を突き止めなきゃいけないんだけど……テッサはどう? 心当たりはある?」
「正直なところ、皆目検討もつきません。ですが、観測的な希望を言わせてもらうとすると……『中』、ですかね」
「それには私も同意する。エリアを消している――結界を張っている術者か装置は、この会場の『中』にあると思うんだよ」


 地図を取り出し、揃って視線を落とす二人。
608創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 02:09:00 ID:WKRxg0Po
「『黒い壁』と『消失したエリア』が同じものだとするなら、だよ? 私たちの認識は間違ってたことになる」
「この世界は、時間経過と共に消えていっているのではなく……『結界の範囲が増えている』というのが正しい」
「そう。そして結界魔術っていうのは、基本的には自分を中心にして周囲に張り巡らせるものでもある。
 隔離が目的だって言うんなら、『外』から張るタイプの結界魔術ももちろんあるんだけど、
 それだと地図に沿って四角い升目どおりに、それも二時間ごとだなんて細かく時間を設定して領域を増やすのは困難。
 結界魔術の常識で語るなら、術者は結界の『中』に……私たちと同じで、この会場内にいる可能性が高いんだよ」
「ヴィルヘルミナさんが言っていたという、自在法だとどうなるんでしょう?」
「私も詳しく知っているわけじゃないけど、因果孤立空間を作り出す自在法、封絶も要領は同じはず。
 自分自身を起点にして、周囲一帯にドーム型の結界を張るって感じのものと私は聞いてるし解釈してるんだよ。
 これにしたって改良の余地はあるだろうし、形や方式は使う術者によりけりなんだろうけどね」
「ただ一つ疑問なのは、術者が『中』にいるのだとしたら、その人物も世界の消失に巻き込まれてしまうという点ですよね」
「そこはいろいろ考えられる部分だと思うよ。一番簡単なのは、術者じゃなくて装置で結界を作り出してるって考え方。
 仕事をやり終えたらあとは機能を停止するだけ、っていうんならあちら側にしてもさほどデメリットはないだろうし」
「それも都合のいい解釈ではあるけれど、一番簡単と言えるのは術者本人が脱出の術も持っているという考え方じゃないでしょうか?
 大前提として、この椅子取りゲームは最後に残った一人だけは生きて帰ることができる。
 なら、“人類最悪”の一派はその方法も保有していて然るべきはずです。それを握っているのが、その術者なんじゃないかと」
「私たちが一人きりになったら、その人が顔を見せて私たちを会場の外に連れて行ってくれるのかもしれないね。
 もしくは、世界の消滅自体を停止させてくれるのかも。結界を全部キャンセルしてしまうってのも大いにアリかな」
「そうなると、次なる疑問も浮上してきます。術者は『中』にいると仮定して、いったいどこに潜んでいるのか……?」
「定石としては、領域の中央。さっきも言ったけど、結界って基本的には自分や術式を引いた陣を中心にして作り出すものだから。
 ただ今回の場合はちょっと考え方を改めなきゃいけない。なにせ、この世界は時計回りに消えていってるんだからね。
 真の意味で世界の中央と言えるのは、この地図を眺めた上での中心点じゃない。最後に残るここになると思うんだよ」
「……【D-3】、ですか」
「うん。時計回りにエリアが消失していくとなると、最終的に残るのはこのエリアになるよね。
 このエリアの中心点こそが、世界の中央。術式は領域拡大における範囲の誤差も込みで行使されているのか、
 それとも実際の地形と私たちに配られた地図には多少の狂いがあるのか、あるとしたら意図的だろうけど、そこは定かじゃない」
「このエリアに置かれている『警察署』が、少し気にはなりますけど……インデックスさんの言う中心点とは微妙にずれてますね」
「どうだろう。それだって誤差の範囲内かもしれないし。けどやっぱり、怪しいのはここだよね……」
「結界を張っている術者、あるいは装置。それらが隠れている、もしくは隠されている場所……それが、【D-3】」
「手持ちの知識と論理、それに常識をフル活用して導き出した確証性のない推論だけどね」
「いいえ、推論としてはなかなか上等だと思います。調査の価値は十分にあるかと。
 距離もそう遠くはありませんし、神社に戻ったら天体観測班とは別に、調査班を編成してみましょう」
「星を見れるのは私だけだし、機械に詳しい人は他にいないみたいだし、そうなると調査班は私とテッサ以外の人になるね」
「天文台には私たちで向かわないと意味がありませんからね……須藤さんたちが首尾よく人を集めていられればいいのですけど」
「そのへんは一度戻ってみてから考え直そうよ。私としては、とうまの右手を試してみたくもあるんだけど……」


 そんな風に、世界の端で議論は交わされ……やがて、時計の針は午前11時を回った。
610創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 02:11:04 ID:WKRxg0Po
611創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 02:14:37 ID:WKRxg0Po
612代理:2009/10/26(月) 02:16:06 ID:2Yu4rS7Y
「……っと、そろそろ戻らないと、正午までの合流に間に合わなくなってしまいますね」
「天文台に世界の端、二つをじっくり調べるとなると、やっぱり結構な時間がかかっちゃうんだよ」
「このあたりは整備された道もないですし……山道は大変ですね。下山の際に迷わなければいいんですが」
「楽しいハイキングとはいかなかったね。っていうか……そろそろ、限界、かもなんだよ」
「限界? あ、あの……インデックスさん? なんだかぷるぷる震えてますけど……大丈夫ですか?」
「山を登るっていうのは結構な体力を消費するわけで、それ相応のカロリーはあらかじめ摂取しておかなきゃで……」
「あー……ほ、ほら! きっと須藤さんたちがなにか調達してきてくれますよ。だから、ここはもうしばらく辛抱して――」


「おなかすいたぁ――――っ! おひるごは――――ん!」


 ◇ ◇ ◇


 【お昼ごはん】

 山登りと考察の後にはおなかが空くということ。
 家に帰る頃にはお昼ごはん。
 はてさて、今日のメニューは……?




【B-1/北西部・『黒い壁』と『消失したエリア』の傍/一日目・昼】

【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:空腹
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣、
     不明支給品0〜2個、缶詰多数@現地調達
[思考・状況]
0:おーなーかーすーいーたー!
1:神社に戻る。
2:神社にて『天体観測班』を編成。午後6時を目安に天文台へと向かい、星の観測。
3:神社にて『D-3調査班』を編成。D-3エリア、特に警察署の辺りを調査する。
4:とうまの右手ならあの『黒い壁』を消せるかも? とうまってば私を放ってどこにいるのかな?
[備考]
『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。


【テレサ・テスタロッサ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:S&W M500 残弾数5/5
[道具]:予備弾15、デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
0:い、いい子だからもうしばらく我慢してください! あ〜っ、噛み付かないで〜!
1:神社に戻る。
2:神社にて『天体観測班』を編成。午後6時を目安に天文台へと向かい、星の観測。
3:神社にて『D-3調査班』を編成。D-3エリア、特に警察署の辺りを調査する。
4:メリッサ・マオの仇は討つ。直接の殺害者と主催者(?)、その双方にそれ相応の報いを受けさせる。
[備考]
『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。
613代理:2009/10/26(月) 02:17:06 ID:2Yu4rS7Y
代理の代理終了しました
614創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 02:23:20 ID:2Yu4rS7Y
そして投下乙ですー
濃い……滅茶苦茶濃い……w
この二人の会話はこっちの頭が混乱しそうになるほど濃すぎる……w
それにしても随分考察進んだなーさすが頭脳&知識チート組……w
実に濃厚な話でしたw
GJです
615創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 02:28:22 ID:8AMaS0Xx
投下GJ! なんという会話の嵐wwwwww
いらんかったんや! 地の文なんていらへんかったんや!

いやぁ、考察が進む進む。そして弾む弾む。
でもまだまだ収穫という収穫には至らずといったところか……。
うむ、互いの得意分野が活かされるのは実に素晴らしいことですね。
おかげでインデックスに一瞬橙子さん乗り移ったけどなwwwwwwww
なんという薀蓄全一!
616創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 02:29:01 ID:WKRxg0Po
投下、代理投下、代理の代理、いずれも乙です。

喋り倒すなぁ、こいつらwww 互いにない知識を補い合ってる2人がなかなか。
壁際では「ひょっとして戻ってこれなくなるんじゃ!?」とヒヤヒヤしたぞ……w どっちもドジっ子だから……w
しかし着実に考察とそのための調査準備を進めている2人。順調だなぁ。
GJ。しかし、神社に帰っても食事はあるんだろうか……??w
617創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 02:55:44 ID:U8ies9ir
投下乙です

この二人は、なんとまあwww
考察魔というべきか考察が進む進むwww
でも目立つた収穫はまだか。順調だけど一抹の不安があるな
マーダーが来たらゆっくり考察も出来なくなるからな
618創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 12:36:01 ID:6IwExZC1
両者の間にあららぎさんと羽川のお馴染みのやりとりが見えたが、本当にこの二人によく合うよなあ、このセリフ
しかしかなり進んだなあ。目立った収穫はないにしろ、考察がなあ。
とにかく乙でした
619創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 00:48:04 ID:aWW6zuKh
乙です。
主催者は戦闘能力も高いだろうからいいけど、狐さんは見つかったらどうするつもりなんだろう・・・。
なんか手段作っておかないとフルボッコにされるぞw
620 ◆MjBTB/MO3I :2009/10/27(火) 03:18:18 ID:jviByYcr
予約していたパートを投下します。
621創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:18:52 ID:1IUFvtZ9
 
622創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:19:52 ID:45ESvNAx
623創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:19:53 ID:V6F0pTpu
  
624創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:19:55 ID:1IUFvtZ9
 
625BREAK IN ◆MjBTB/MO3I :2009/10/27(火) 03:20:09 ID:jviByYcr
親愛なるアリソン


これを"ヴィルヘルム・シュルツとしての最後の手紙"とする。

放送は聴いたよ。まさかこの様な結果になるとは思ってもみなかった。
君と別れるのはどちらかが"仕事上で何かが起きたときだけ"だと相場が決まっていると、そんな事を漠然と考えていたから。
けれど君は遂に命を散らした。君の金の髪が、蒼い瞳が、艶やかな唇が、活き活きとした表情を奏でることはもう無い。
死んだ人間は生き返ったりなどしないのだから。放送の内容が真実なら、そういうことなのだろう。
後悔の念は勿論ある。すぐに君を探しに行けば、あの"王"相手に現を抜かさなければ、と様々な"もしも"を想像する。
僕もやはり人間だ。トラヴァスであろうがヴィルヘルムであろうが、感情を持つ人間なんだ。

けれど、それでも、今はただの"少佐"としていさせて欲しい。
大局を見据えるが故に感情を殺す、汚れ仕事に染まりきった"トラヴァス"としてここにいさせて欲しい。
救うべきものを救いたいから、だから今は鉄面皮という名の仮面を被る。
君の弔いを後回しにしてしまうことを許して欲しい。
目の前の目標を達成させるまで、君の事を思い出す機会が減るであろう事を許して欲しい。

不器用な男だと蔑んでくれて構わない。それこそが"私"で、"僕"なのだから。
代わりに僕は、リリアを……娘を、必ずや"しわくちゃのお婆さんへと成り果てさせてみせる"から。


それでは僕は"仕事"に戻る。君と再会し、大いに語り合うのは"六銭を支払った後で"。



だから今は、"さようなら"ではなく、

"また、後日"。



ヴィルヘルム・シュルツ
626BREAK IN ◆MjBTB/MO3I :2009/10/27(火) 03:21:10 ID:jviByYcr
       ◇       ◇       ◇


優秀な"狩人"に対し、運命の女神は気まぐれを起こしたらしい。
結局"狩り"を開始したフリアグネは、トラヴァスと共に誰に会うことも無いまま放送を聴くこととなった。
戦力外でしかなかったあの"木偶"は随分と沢山の人間と出会ったというのに、何が悪かったのだろうか。場所か、運か。
百貨店から北へ進み、飛行場近くに。そこから暫く周りを歩くものの、前述の通り運か場所が悪いが故に出会いは皆無。
気にせず更に捜索範囲を増やせばとも思ったが、「闇雲に動き過ぎるのは、かえって何かと隙を生みやすい」とは"少佐"の弁。
そうして結果、彼らは再び百貨店近くへと戻っていたのだった。随分と時間を無駄にしてしまったと思う。
だがおかげで放送を聞き逃す機会が生まれなかったという点は不幸中の幸いというべきだろう。

「……気になることは多いが、まずは十の名から振り返るべきかな。少佐、復唱を」

さて、ではそのじっくりと聴く事が出来た例の"放送"に関して。
低い建物の屋根に立つ人外の王と大地に立つ出来の良い少佐の会話は、王の問いから開始される。

「はい。長門有希、榎本、黒桐幹也、甲賀弦之介、筑摩小四郎、吉田一美、高須竜児、アリソン・ウィッティングトン・シュルツ」
「それらは私と違い、名簿に名を連ねられた者達だね」
「ええ。更に加えてメリッサ・マオと北村祐作の"名簿にて名を語られなかった秘められし"二名。以上十名が死亡した者です」

トラヴァスは容易く全てを答えて見せた。一字一句、その全てがフリアグネの脳に刻まれている名と一致している。
なるほど、"これくらいはメモを取らずとも"というわけか。銃の腕だけではない、頭の方も合格といったところだろう。
フリアグネは簡潔に評価を付け終えると、話題は続いて放送の内容へと入り込んでいく。

「そうか。やはり私にとって有益な死は発生しなかったようだね。そして同時に懸念すべき者もいない」
「プラスマイナスゼロ、といったところでしょうか。この椅子取りゲームが開始されて初の放送です。仕方の無い部分もあるかと」
「うふふ、全くだよ……それで、君はどうだい?」
「どう、とは?」
「君にとって懸念すべき情報はあったかい?」
「"いえ、特に何も"」
「……本当に?」
「はい」
「…………それなら良かった」
「存外と慎重ですね……まだまだ私は信用に値せぬ存在であると?」
「"この椅子取りゲームが開始されて初の邂逅です。仕方の無い部分もあるかと"……と、ね」
「……なるほど。"全くだよ"」

このトラヴァスが嘘を言っていないのであれば、あの狐面の行った"今回の死者の発表"は無価値であると言えよう。
フレイムヘイズが死んでくれたわけでもなければ、同属の王が亡くなったわけでもない。
そして"少佐の言葉を信じるならば"、彼の仕事に差支えが発生するような内容でも無かったというわけである。
一応念を押してみたは良いが、険悪な雰囲気になるのも好かないのでこれ以上の深追いは中止。
故に今回のこの放送、その"前半"に関する会話はすぐに終わった。
しかし問題は、いや、本題はここからだ。

「少佐も聴いたかい? あの男の言うこの世界の仕組みを」
「にわかには信じがたいですが、死者の名を呼ぶのを"前編"とすれば、この"後編"も"後編"で実に聞き逃せないものとなりましたね」
「ああ。実に面白い事を言う。けれど詩的じゃあない、言うなればそう……"戯言"」
「復唱の必要は?」
「構わないよ。頭には叩き込んである……さて、どう思う?」

フリアグネの問い。それに対しトラヴァスは少し考える素振りを見せ、だがそれでも沈黙の時間を"一寸"程度に抑えて答えた。

「世界が同一ではない、という発言には驚きました。我々が違う物語の役者であるとは、突飛と思うばかりです」

やはり、そうか。

「ああ、しかし私は信じるよ。私も"元の物語では似たようなもの"なのだから」
「と言いますと」
「譜面どおりに受け取ってくれて構わないよ。ただ、あの"戯言の男"の話に納得がいくか否ならば、私の答えは前者だ」
627創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:21:15 ID:d52X8o9t
 
628創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:21:24 ID:V6F0pTpu
   
629創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:21:50 ID:1IUFvtZ9
 
630創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:22:05 ID:V6F0pTpu
    
631BREAK IN ◆MjBTB/MO3I :2009/10/27(火) 03:22:27 ID:jviByYcr
トラヴァスにはまだ知らせてはいなかったが、"紅世"自体が人間にとっては別の物語である。
その物語にて"王"として君臨する本人としては、戯言の男が我々に放った言葉も納得がいくのは当然の話。
問題があるとすれば、どうやって違う物語を統合したのかということ。
そして、

「"淡水魚と海水魚"……この話は実に面倒なものだ。封絶や燐子の製造も上手く機能しないというのは御免蒙りたかった。
 この忌まわしい結果からして、私は当然割を食う"異端"であるというわけなのだけれど……しかしそれでもまだ希望はある」
「はい。"海水魚ばかりになれば水槽の中の塩分濃度は高まり成分は海のものに近づく。また逆も然り"。この一言は重要かと」
「そうだね少佐。これはつまり"異端を殺し続ければ異端の者の力は更に弱まる"という警告に他ならないが、同時に……」
「"フリアグネ様の如き異端の者で埋め尽くせば解決する"可能性も出たということですね」
「そうだね。そうなれば喜ばしいのだけれど」

最後に放たれた"おさかなのおはなし"は、非常に興味深かった。
塩分濃度はこの世界の物語を構成する駒の質によって変化するらしいのだ。
現在の水質では、異端である自分は割を食っているらしい。誰とも出会わなかったのもそこに起因するようだ。
だがそれでも絶望にはまだ早い。今考えるべきは、逆にこのゲームが激化した果てに条件を満たす事が出来た場合。それは、つまり。

「っと、さて……ひとまず会話は終えよう。何かあれば後程聞こうじゃないか」
「どうしました?」

突然のフリアグネの提案。それに対しトラヴァスは疑問を浮かべる。
"また何かの気紛れなのだろうか"といったところか。表情は硬いままではあるが、そのようなものだろう。
しかしそれを答えることを放棄するように、フリアグネは跳んだ。屋根から屋根へ、まさしく忍の如く!
それを確認したトラヴァスがフリアグネを追う為に走り出したのは一瞬遅い。
その為、互いの距離は見る見る内に離れていく。

「うふふ……やっと、狩れる!」

故に、"紅世の王"のこの呟きは"少佐"には届かない。
しかしあの"少佐"ならば"王"の行動など筒抜けだろう。
そんなある種の信頼とも呼べなくも無いモノを抱き、フリアグネの出撃は始まる!


       ◇       ◇       ◇


何者かが近づいている事を感知し、女は背に仕込んでいたナイフを抜いた。
女は和服にジャケットといういでたちで、狐の形をした面を被っている。
面は"人類最悪"と名乗ったあの男と瓜二つであり、衣服さえ似せればもしや、といった具合である。
名は両儀式。素顔は凛とした美人だ。

式は悲しみの淵で立ち止まり続ける事を一旦やめ、南下している最中だった。
当然世界の端で無に飲み込まれるのは是としないので、少し西向きに歩くのを意識しながらである。
そうしてそうこうしている内に、自身に迫り来る危機に気付いた、というわけだ。
このまま南下すれば百貨店に到着するはずなのは把握しており、そこから"何者かが潜んでいる可能性"は考えていた。
だがまさかこうしてすぐに出会う事になろうとは。

自分を貫く様に注がれる殺気からして、狙いは式一人だ。
そして近い。恐らく気付かれる事を前提として潜んでいるはず。
ならば敵にも長期戦という発想が無いのだろうと思える。

丁度良い。こうなったら八つ当たりだ。
ビバ、エネミー。

だが、そんな考えとは裏腹に式は獰猛な笑みを浮かべるようなことはしなかった。
それは黒桐幹也に関する様々な感情と敵とあいまみえる喜びの板挟みにされている事が大きかった。
死者は蘇ることは無いのだ。今更八つ当たりして何になる、という想いが先行する。
と思いきや、今のこの悲しみを敵対心に変えて誰かにぶつけてしまいたいとも思う。
だがそれでは自分の心を埋める事など出来やしない、と悟ってしまってもいる。
632創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:22:35 ID:1IUFvtZ9
 
633創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:22:45 ID:V6F0pTpu
       
634創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:23:35 ID:V6F0pTpu
  
635創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:23:37 ID:45ESvNAx
636BREAK IN ◆MjBTB/MO3I :2009/10/27(火) 03:23:42 ID:jviByYcr
式は複雑な、或いは分裂した存在だ。
空虚な心を持ち、確かな力を持ち、死を視る異能を持つ、生物学上は女性の人間。
二つあった心の一つを失い、故に酷く喉が渇いたかのように、人の命に触れることを渇望する。
そんな不安定な彼女は、数少ない信頼する人物を亡くした事で更に支えを失いかけていた。
果たして一体自分はどうすれば良いかわからない。だが、それでも敵が目の前にいるのならば――――

「――――!」

突如。
突如、殺気の主が背後から迫って来たことに気付いた式は、姿勢を低く取ると転がるように前方に移動した。
受身を取って背後へと体ごと振り返れる。見れば自分の元いた位置――その地面には大きな一本の線が引かれていた。
横薙ぎ一閃。避けなければ、恐らく式の体は容易く両断されていただろう。
何故ならその襲撃者――目の前に立つ白いスーツを纏った男――が持つ剣は、明らかに常軌を逸していたからである。
あまりにも巨大であり、見た目からして両手で持っても普通ならば苦労するであろう。
西洋剣のシルエットは上質な材を使用しているのか美しい。そしてよく切れそうだ。
しかし、そんな雄雄しい得物は――――柄の短さからして"片手で持つ事しか許さない"異常なモノであった。
フェンシングに使うようなものならまだしも、これはおかしい。そしてその様な面妖な剣を使用出来る相手は更におかしい。
異形と異形が組み合わされれば、常識を逸脱した化学物質がこんなにも容易く完成するのだ。と今更ながら理解する。

「流石に避けられるか。いやはや、実に疾いね……何かかじっているのかな?」

しかし彼が何者なのか、そんな事はどうでもいい。
こちらを殺そうとかかっているのならば、正当防衛を行使するまでなのである。
その相手がどういった存在なのか。それを知ったところで何になるのか。
そういうのは蒼崎橙子に任せておけば良い、と心底そう思う。

「その仮面の奥……少々気になるけれど、外してはくれないのかな?」

果たして一体自分はどうすれば良いかわからない。だが、それでも敵が目の前にいるのならば――――今はただ、闘う。
黒桐幹也のいない世界へ抱く違和感は、未だ拭い去れないけれど。

「無視かい? ……やれやれ」


       ◇       ◇       ◇


流石に速い。あの王め、やってくれる。
突然のフリアグネの行動に辟易しながら、トラヴァスはあの気ままな"王"を追っていた。
ここに来てあの表情、そして会話を途切れさせてまで起こした突然の跳躍。
確実にあれは、狩りを開始する合図だ。
油断していたわけではない。しかしフリアグネよりも先に第三者を発見出来なかったのはこちらの不手際。
こちらも屋根に上ったほうがよかったか。いやしかし。

敵は何者だろうか。少年か少女か青年か妙齢の女性か、中年か老人か。
だがフリアグネならどの人間に対しても容赦はしないだろう。少し話せば解る、あの王はそんな男だ。
先程の"放送"に対してのリアクションからも見るに、弱い相手ならば尚更なのではないだろうか。
どうか被害者が"持ちこたえられる類の人間である"事を祈る。

フルートは構えた。フリアグネの向かった場所に関しても、方角からして大方の目星は着いている。
少しばかり道が入り組んでいるのは厳しいが、そう遠い距離でもあるまい。
さて、どの程度妨害出来るか。


       ◇       ◇       ◇
637創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:24:01 ID:d52X8o9t
 
638創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:24:26 ID:V6F0pTpu
   
639創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:24:38 ID:45ESvNAx
640創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:24:44 ID:1IUFvtZ9
 
641BREAK IN ◆MjBTB/MO3I :2009/10/27(火) 03:26:08 ID:jviByYcr
殺気だけで人を殺せそうな勢いだ。フリアグネは目の前の和服女をそう評価した。
燃えている。少佐とは別種の雰囲気を持ち合わせている。
目の前にいる邪魔者に対してのこの激しさは、あの"討滅の道具"達とある種通じる部分があるだろう。

しかし、それもどうも安定していない様だ。
何かが揺れて、何かがぶれて、波がある。急いているのか焦れているのか。いや、違う。
恐らく、心を揺らす何かが起こったのだろう。理由としては、あの放送の内容辺りが適当か。
人間は弱い。何か事が起こり、自身に降りかかればそれだけで力を自在に震えなくなるものだ。
フレイムヘイズですらそうだったのだ。
なるほど、これは勿体無い。通常はもう少し有能な人間だったのだろうに。実に惜しい。

だがしかし、これはこれでまた違った趣があるというもの。
それに怒りの如き何かに任せた大振りな攻撃が目立つのは、未だ殺気が消え逝かないという事実を反映させているということ。
否、それどころかますます強まっているようだ。"燐子"や並の"徒"では飲まれる程度にまで、というところか。
例えるならば"crescendo"の記号。"f"は"ff"となり、後は"fff"を待つのみだ。
人間の癖に、ここまで練り上げたか。もし君が万全の状態なら、少々怖かったかもしれないね。

気に入った。面白い。そろそろ行こう。
様子見程度に刃物を避け続けるのはここまで。

フリアグネの手に納まった巨大な宝具が、容赦なく動いた。


       ◇       ◇       ◇


ただただ避け続けるだけであった目の前の優男が、突如としてこちらを斬り付けてきた。
受け止めるだけで手首の骨が持っていかれそうなあの大剣が振るわれたのは、これで二度目となる。

一度は見た。しかしそれでも脅威は脅威。
避けたは良いものの、ここからどうするべきか――と、考える暇も与えてくれはしない!
理由は単純。優男が勇敢にも何歩も進みながら、返す刃で三度目の横薙ぎを発動させたからだ。
長いリーチでの牽制と強大な力で敵をねじ伏せる見事な二段構えだ。
ずるい。こんなもの、もう人間業でも何でもないじゃあないか。何かのファンタジーの住人かよお前、と式は心中で吐き捨てる。
現実的に考えてみるなら魔術で身体強化を施しているという可能性が大いに高いし、式もそれはわかってはいるのだが。
もしくは度々出会った者達の様に"人間じゃない"か"人間をやめた"か。

と、そんな事を考えている間を相手は隙と見たか、今度はそのリーチが今まで以上に活かされる突きを放ってきた。
まるで大剣を片手で振るったとは思えぬほどの速度! 一気に距離を詰めるその刃が首ごと命を刈り取ろうと接近する。
式はここですぐさま跳躍。しかしそれで終わることは無い。彼女はそのまま幅広の刀身へと飛び乗ったのである!
こちらもこちらでまたこれも忍の如き妙技。気配を消すなどといったものとは違う方向性の、その極限。
そしてそのまま剣を床代わりに跳躍し一気に距離を詰めようと式は画策、実行に移そうと両脚に力を込めた。

が――――それは未遂に終わった。
突如足元に浮かんだのは真紅の紋様。血にも酷似した禍々しいそれが広がると同時に、式の体に異変が起こったのだ。
紅の光が発せられた瞬間、"全く刀身に触れていない首筋に切り傷が浮かび上がった"。
いや、それだけでは終わらない。異変を感じて飛び降りようと式が動いている間にも、衣服を飛び越えて胸や右腕にまで傷が及ぶ。
一つ一つが繋がっているわけではない。それに小さい。しかしこのままでは自分の体に緋色の流星群が描かれてしまう。
式はその白くしなやかな肢体に幾つかの傷をつけながら、仕方なく横に跳んだ。
そしてそのまま着地。設置した脚にまたも力を加え、側面からの奇襲に転じる。

だが今度はあの紋様を浮かべたままの大剣が斜線上に突き立てられてしまった。
まるで巨大な盾へと変化したそれに対し、勢いのままナイフを突き立ててしまう式。
このまま力押しが出来るわけがない。行き場が無くなった力は霧散し、式は立ち止まってしまう。
それは最早相手にとっては好機そのもの。その僅かな間に式の体には傷は容赦なく刻まれていく。
急いで剣からナイフと体を離すがもう遅い。既に背中に傷が増えてしまっている。
わけが解らない。何がどうなって、どうなった?
642創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:27:07 ID:V6F0pTpu
    
643創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:27:13 ID:1IUFvtZ9
 
644創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:28:08 ID:d52X8o9t
  
645創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:28:19 ID:1IUFvtZ9
 
646BREAK IN ◆MjBTB/MO3I :2009/10/27(火) 03:28:31 ID:jviByYcr
「必要ならば解説しよう」

そんな疑問を見透かしたかの様に優男は口を開いた。甘ったるく、奇妙な韻を踏むように話し始める。

「宝具"ブルートザオガー"。それがこの剣の名だ。ブルートザオガーとは"Blutsauger"、つまり"血を吸う者"。
 即ちこの名が意味するのは"吸血鬼"。随分と洒落た名が付けられたものだ……ああ、独語はご存知ではないかな?」
「オレが知るか」
「おっと、随分と可愛らしい声で喋るのだね。マリアンヌ程ではないけれど……で、その仮面はいつ外してくれるのかな?」
「……」
「うふふ、また逆戻りかい? まぁいいだろう」

そんなことは式にとってどうでもいいものであった。
カラクリを説明してくれるのだろうと思って耳を傾けたのだ。ならば会話の内容は望ましいものでなくては困るというもの。

「さて、本題に移ろうじゃないか。このブルートザオガー、面白いことに"触れたものに傷を与える"という力を持っていてね。
 更にその傷の程度は込める"存在の力"に比例する。交響楽団の指揮者の様に、こちらで好きに強弱をつけられるというわけさ。
 今、まるで紙で指を切った時のような傷が体のいくつかの箇所に浮かんでいるだろう? それらは無事に君へと力が届いた証だ」

そうか。忌まわしい緋色の線、その正体はあれの力か。思い切り触れていた所為だったか。
数々の"特殊"な者と出会う機会が多かった式が、こうしてそんな話を受け入れることにそう時間はかからなかった。
しかし問題なのは一つ。そんな逸品を聞いたことも無いということである。
存在の力といった言葉も、全く聞き覚えが無い。あの蒼崎橙子辺りが喋っていてもおかしくはないというのに。


 この世界の端に集められたお前達にとっての”元の世界”というのは必ずしも同一ではない。
 それぞれが別の世界。つまりは別々の物語でそれぞれの役を演じていた登場人物であったというわけだ。


唐突に思い出したのは、放送で"人類最悪"が口にした言葉――――正解に近いのは、これか。
ブルドーザーだかブレイブルーだか知らないが、あの剣が"別々の物語"のどこかにあるというのならば話は早い。
更に言うならこの優男も"式の物語"から外れた存在である可能性もあるわけだが、橙子の知り合いである可能性も残念だがあるので割合。
しかし今回ばかりは人の話を聞いておいてよかったと思う。黒桐の件が無ければ、あの男の戯言など――――
647創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:29:02 ID:V6F0pTpu
  
648創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:29:36 ID:1IUFvtZ9
 
649創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:29:39 ID:45ESvNAx
650BREAK IN ◆MjBTB/MO3I :2009/10/27(火) 03:29:40 ID:jviByYcr
(黒桐……)

やはり、頭を掠めるのは彼の顔だ。結局こうして殺し合いに発展した状況ですら、脳にこびり付いてしまって離れない。
何もかも忘れてしまえれば良いのに。ああ駄目だ、集中出来ない。目の前のあいつを倒すのもなんだか気だるい。自分に腹が立つ。
何故死んだ。何故居ない。何故逝った。何故往った。
脳内でぐるぐると回るのは、"もう一人の自分"が姿を消したあの日にも似た焦燥感。そして心の空白の認識。
最早人生の一部だったのだ。どう足掻いてもそうだったのだ。それを今何故唐突に奪われなくてはならない?
何故こんな思いをしなくてはならないのか――――

「うふふ、これはまた付け入り易い隙があったものだ」

思考を停止させるには十分過ぎるほどの衝撃が、式の右手を襲った。


       ◇       ◇       ◇


そろそろ良いだろう。決着もついた。"進言"という名の戯言を始めるにも丁度良い。

駆けつけて暫く様子を見てみれば、存外あっさりとフリアグネの戦闘は終局を迎えた。
決着の要因は彼の持つ例の大剣。相手の右腕のナイフ、その柄から先を見事に粉砕した一撃によって幕は下ろされたのだ。
得物を失った少女の体に小さな傷以外の損傷は無い。右腕にも特に異常はない様子だった。脱力気味だったのが助かったのだろうか。
今はフリアグネの左手がその首を掴んでいる状態だ。しかしそれでも殺気は消えない。
とりあえずはこちらも協力しておくしかあるまい。

トラヴァスは物陰からやっと姿を現し、あの"フリアグネの被害者"に対し"フルート"を構えた。
それを見たフリアグネは「ご苦労様」と労うが、とりあえずそれは無視しておく。
恐らくは様子見に徹していたことはばれているのだろう。しかし何も言われないならばそれはそれで良しだ。薮蛇は勘弁したい。

「少佐」

突然フリアグネに声をかけられる。これは何を言い出すか予測出来そうには無い。
仕方なく次の言葉を待つ。

「彼女は、良い眼をしていると思わないかい?」
651創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:30:19 ID:d52X8o9t
   
652創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:31:06 ID:V6F0pTpu
   
653創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:31:30 ID:1IUFvtZ9
 
654BREAK IN ◆MjBTB/MO3I :2009/10/27(火) 03:31:41 ID:jviByYcr
フリアグネの手が、妙な形の服を着ている相手の狐面にかかった。
過剰な力を入れることもせず、彼はそのままするりと優しく外す。
そんな彼の表情は何か楽しげだ。面を外された相手は、対照的に憮然としていたが。

「この私に、この"紅世の王"に対して、彼女は望みを捨てずに挑みかかった。その勇気は賞賛に値するよ。
 けれどそれ以上に……うふふ、この私にここまで"敵意"を失わずにいられるこの精神力……素直に言おう。感動した」

狐の面の向こうでは、ギラギラとした光を写した両眼があった。
そしてこれがこちらを見たとき、何故かトラヴァスはフリアグネの言葉に納得出来てしまった。
厳密には"良い眼"か"悪い眼"かは知ったことではないのだが、それでもあの"王"が喜ぶには値するだろう。
そう、これは、この眼はまるで、

「まるで、全てを殺し切る魔眼の様だ……」

フリアグネの滑らかな声が、トラヴァスの抱いたものと同じ感想を放った。


       ◇       ◇       ◇


ここでフリアグネ達三名の織り成す物語の舞台は、近くにあったモダンな雰囲気を漂わせるバーへと移る。
理由は、トラヴァスとの合流後にフリアグネがかけた以下の号令である。


 ご覧、このおぞましき水晶の輝きを。こんなものを私に向けていたんだよ、彼女は。
 この"私"に、この紅世の王に対し、同属でもフレイムヘイズもないただの人間がね。
 素晴らしいとは思わないかい? 君の時と同じだ。再び私は猛々しい種と出会えた。
 いやはや、これは面白い。取って喰うつもりだったが非常に惜しい。
 …………だからここは一つ、戯れをしようじゃないか。親睦を深める意味でも、ね。


フリアグネの企みは単純なものであった。
それは"和服"の――フリアグネは両儀式の名を知らないので、今はこう呼称する――スカウト。
正しく"少佐"の時と同じ、"ただの人間という括りから逸脱した存在"であろう和服を気に入ったのだ。
勿論こちらの提案に従わないようであれば、すぐに躊躇い無く殺すが。

しかし、ここで少し問題が発生した。
戦闘終了直後、和服の突き刺すような殺気は霧散。何故だか消えてしまったのだ。
目の前の邪魔者全てを刈り取らんとするが如きあの凶暴性。それが今、微塵も無い。
狐の面は既に回収してあり、この手の中。故に和服の顔はよく見える。
明らかに、闘争の中で感じられた"あれ"が微塵もなくなっていた。
何故なのだろうか。


補足すると、それは彼の推測通りの事態が発生したからである。
"和服"両儀式の支えとなっていた黒桐幹也が、自分の及び知らぬ場所で死ぬ。
放送によって生み出されたのは精神の均衡の崩れ。悲観的な思考。そして敗北。
ごくごく単純な言葉で表現するならば、彼女はもう"何もかもがどうでも良かった"のだ。

勿論この事実を、フリアグネは把握していないのだが。


ともかく、それでも和服に対する興味の強さは変わってはいない。
脆弱なフレイムヘイズを上回るのではないかという予感。それが今は勝っている。
少佐とはまた違う方向性へと突き抜けるこの和服の真髄、見てみたい。出来れば、臣下とした上で。
655創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:32:43 ID:d52X8o9t
    
656BREAK IN ◆MjBTB/MO3I :2009/10/27(火) 03:33:26 ID:jviByYcr
フリアグネはカウンター奥へと引っ込んでいくと、まずは近くにあった放送器具に手を伸ばした。
それらしいボタンを何度か押してみるといとも簡単に稼動。スピーカーから緩やかなスムーズジャズが流れ始める。
BGMとしては問題はないだろうと判断してそれ以上弄る事はせず、次は多段棚から酒を適当に数瓶持ち出した。
蜂蜜をアルコール発酵させた"タッジ"に、トウモロコシ等が原料であるビールに似た飲料"テラ"、蒸留酒"アラキ"など。
チョイスが独特だが全く気にせずグラスも人数分用意。少佐と和服が立っている場所、その近くのテーブルに置いてやる。
これで準備は完了。後はこれを振舞ってやれば場の雰囲気は微かでも暖まるはずだ。
と、思っていたが。

「私は遠慮しておきましょう。知っての通り銃器を扱う身……酔いは怖いですから」
「――――オレも却下」

即、断られてしまった。案を断固として受け入れないという意思が透けて見えるくらいだ。
苦笑しながら「残念」と呟くと、再びカウンター奥へ。
そうしてそのまま所定の位置に酒を戻そうとして、"これも何かの縁"とデイパックに放り込んだ。
"紅世"には存在しないものを好くのは"徒"の本能。それにもしかしたら何かに使う可能性もある。
ただの気まぐれと言えば、それまでなのだが。

さて、どうするか。
あの真面目な少佐はともかくとして、和服の方は未だに言う事をきかないのか、と感心した。
ここに来るまでに、戦意も殺気も消えうせていた相手だ。梃入れをしなければもう燃え上がらないかもしれないと覚悟していた。
これでもう少しやる気を見せてくれれば完璧なのだが。敵意のみでは何も生まれはしない。ただただ非生産的な時間を過ごすままだ。
後一歩及ばないといったところだ。やはり、駄目か? ここで殺すか? いや、もう少し様子を見よう。

「確かに朝から酒というのもみっともない話ではあるね。ではこちらではどうかな?」

カウンターから戻ったフリアグネは酒絡みの思考を捨てて、店内の"別のゾーン"へと二人の視線を導いた。
フリアグネの掌が指し示したのは、店内にどっしりと居座るビリヤードのセットだった。
ハスラーはいない。あるのはポケットテーブルにビリヤードボール、キューやチョークやメカニカルブリッジ等。
"椅子取りゲームの参加者以外の人間は存在しない場所である様子なのに、何の問題もなくプレイが出来そう"だ。

「ルールは"ナインボール"にしよう。私もたまには息抜きくらいはしたい……付き合ってくれるね?」

大人気なくも、少し殺気を込めてしまった。
すると少佐は何かを察したような目でこちらを見ると、せっせとゲームの用意を始めた。
手玉一つにカラーボール九つをテーブルに並べ、先程フリアグネがグラスでそうしたようにキューを人数分用意してくれた。
そうしてこちらに近づき、囁きかける。

「あの子を我々の傘下に、という企みなのはわかりましたが……敢えてのビリヤードというのは?」
「別に酒でも良かったのだけれど、あの"和服"の心を探りたいと思ってね……」
「なるほど、何かをきっかけに少しずつアプローチをかけようと……?」
「ああ。人間というものは必ずその心理が行動に現れるからね。そこを狙い、探り、推理する」
「ああ、ようやく話が繋がりました。しかし相手がこちらに乗り気でなくてはなりません……今は厳しいのでは?」
「そうだね。だから今回は脅してでも舞台に立たせよう。そして少しずつ和服の心中を探る」
「心に隙間があり、それを利用出来るならば利用したいと」
「そういう事さ。やはり少佐は賢い」
「では相手がこちらに隙を見せなかったり、または使い物にならないと判断した場合は?」
「殺すよ」
「そうですか……ふむ」
「そういうことだ。ではそろそろ始めようじゃないか。とは言え和服は乗り気ではないようだし、ここは……」
「私が説得しましょう」
「大丈夫かい? 取って喰われてしまわないようにね」
「ご安心を。ところで、質問なのですが……」
「おや、どういった内容かな?」
「……"ワフク"とはどういう意味ですか? あの子を表している事は解るのですが」
「…………ん? 和服は和服だよ?」

そんな内緒話を経て、トラヴァスは和服へと向かっていった。それを確認してカラーボールを並べ始めるフリアグネ。
あの様子では暫くかかりそうか、とつまらなそうにため息をついてしまった。
657創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:33:34 ID:1IUFvtZ9
 
658創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:33:45 ID:V6F0pTpu
  
659創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 03:33:46 ID:45ESvNAx
660BREAK IN ◆MjBTB/MO3I
が、その予想は大外れ。直後に和服がこちらにあっさりと近づいてきた。しかも驚くことに、その足取りは何故かしっかりとしている。
少佐から奪い取ったのか、キューも持っている。突然あの出会ったばかりの頃の"やる気"を髣髴とさせる何かを感じさせてくれた。
些か奇妙だが、乗り気になってくれたのであれば嬉しい話である。一体何があったのか。ナインボールと言った途端これとは。
と、ここですぐに少佐も戻ってきた。和服のここまでの変化だ、何を言ったのかは当然気になるので耳打ちをする。

「見事だよ少佐。一体何を言ったんだい?」
「いえ……私は別に何も。こちらが不思議なくらいです。密やかに催眠術でもかけていたのですか?」
「まさか。そんな悪趣味に興じたりはしないよ……」
「では彼女に裏があると考えても?」
「さてね。だがとにかくチャンスだ。折角の面白い人間なのだから……がっかりさせてくれないで欲しいな、和服」
「同意です。私も"簡単に死なれたくないと思っています"から」
「おい、始めないのか?」

王と少佐若干二名の内緒話を途切れさせるように、和服の声が響いた。


       ◇       ◇       ◇


相容れなければあっさりと殺そうとするこの野蛮な王には少し冷や冷やさせられた。
故にトラヴァスはあの"ワフク"――王に従い、こう表現する――が乗り気になってくれた事に心底感謝した。
だが同時にそれは、今度はあのワフクの心をどう動かすかに気を配らねばならなくなったという事だ。
自分が見た最初のワフクはダウナーの化身とも言える状態だったので、恐らくは自分と同じく放送絡みの何かがあったのだと予想出来た。
しかし今は違う。何故だか笑みまで浮かべている。元気を取り戻した、という言葉の範疇ではない。
やけになったか? それともビリヤードに何か深い縁があるのか。それとも強烈な負けず嫌いか。
何がなんだか解らないので判断に迷うが、とりあえずは臣下として"王"に従い、ビリヤードを楽しむとする。

「公式な試合でもないし、ブレイクはやりたい人間に任せるとしよう。順も最後で良い」
「オレは良い。眼鏡に譲る」
「……では不肖ながら」

任されたので、二名の視線に晒されながらトラヴァスはブレイクショットを放った。
放たれた手玉が"一番"ボールと衝突し、その力が全体へと伝わっていく。
手玉は衝撃によって急速に停止。それを尻目に残り九つのボールは好き放題にテーブル上を暴れまわった。
だがそれもそこまで。ボールは各ポケットに吸い込まれないままやがて停止。
結果は一番がコーナーポケットの近くまで移動してくれただけ。これではトラヴァスへのメリットは無に等しい。
本来はここでいくつか落としておけば美しく、また有利なのだが。

「いやはや不甲斐無い。申し訳ありません」
「いいや、構わないさ。だがこうなると次は……」
「オレだな」

ワフクが構えた。散り散りになったカラーボール、その一番目をしっかりと見据えている。
さて、こういう場合にはまずは一つ一つを綺麗に落としていくのが賢明だ。
恐らくはコーナーポケットに一番を華麗にイン。そのまま二番へと手を伸ばす計画だろう。普通はそうする。
集中するワフク。その姿をトラヴァスは見つめるものの、心の内まではまだ悟れそうに無い。彼女の得体の知れぬ高揚が邪魔をしている。
それはフリアグネも同じようで、両名のワフクと手玉への視線は通常のハスラー達のそれとは全く違っていた。
当然だ。重要なのはこのゲームの結果ではないのだから。

「ん?」

と、ここまでトラヴァスは気付いた。
このワフク、コーナーポケットを狙ってなどいない。その隣にあるクッションに対し一番をぶつけるつもりだ。
何を考えているのか。他のボールにぶつけることで間接的に数を減らそうという算段か?
いや、違う。"そうだが違う"。トラヴァスが視線をずらせば、答えはすぐに判明した。
そう、このまま跳ね返った場合、その斜線上にあるのは!


小気味良い音が鳴る。