剣客バトルロワイアル〜第四幕〜

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1創る名無しに見る名無し
夢が現か現か夢か ある者は泉下から、ある者は永劫の未来から
妖しの力によって、謎の孤島に集いし 古今東西の剣鬼八十名
踊る舞台は蠱毒の坩堝 果たして最後に立つ影はいずれの者か

前スレ
剣客バトルロワイアル〜第参幕〜
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1236686768/

避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12485/

まとめ
http://www15.atwiki.jp/kenkaku/
2創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 11:51:47 ID:w7X1uFEm
30/36【史実】
○足利義輝/○伊藤一刀斎/○伊東甲子太郎/○岡田以蔵
○沖田総司/○奥村五百子/○小野忠明/○上泉信綱
●河上彦斎/●清河八郎/○近藤勇/● 斎藤伝鬼坊
○斉藤一/○斎藤弥九郎/○坂本龍馬/●佐々木小次郎
○佐々木只三郎/○白井亨/○新免無二斎/○芹沢鴨
○千葉さな子/○塚原卜伝/○辻月丹/○東郷重位
○富田勢源/● 中村半次郎 /○新見錦/○服部武雄
○林崎甚助/○土方歳三/○仏生寺弥助/○宮本武蔵
● 師岡一羽 /○柳生十兵衛/○柳生連也斎/○山南敬助


1/1【明楽と孫蔵】
○明楽伊織
1/1【明日のよいち!】
○烏丸与一
1/1【暴れん坊将軍】
○徳川吉宗
1/1【異説剣豪伝奇 武蔵伝】
●佐々木小次郎(傷)
2/2【うたわれるもの】
○オボロ/○トウカ
1/1【仮面のメイドガイ】
○富士原なえか
2/2【銀魂】
○坂田銀時/○志村新八
1/1【Gift−ギフト−】
○外薗綸花
1/1【月華の剣士第二幕】
○高嶺響
1/1【剣客商売】
○秋山小兵衛
2/2【魁!男塾】
○赤石剛次/○剣桃太郎
1/1【里見☆八犬伝】
●犬塚信乃(女)
1/1【三匹が斬る!】
○久慈慎之介
3/3【シグルイ】
○伊良子清玄/○岩本虎眼/○藤木源之助
1/1【史上最強の弟子ケンイチ】
○香坂しぐれ
2/2【神州纐纈城】
○三合目陶器師(北条内記)/○高坂甚太郎
2/2【駿河城御前試合】
●屈木頑乃助/●座波間左衛門
1/1【椿三十郎】
○椿三十郎
3創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 11:54:53 ID:w7X1uFEm
1/1【東方Project】
○魂魄妖夢
2/2【八犬伝(碧也ぴんく版)】
○犬坂毛野/○犬塚信乃(男)
1/1【バトルフィーバーJ】
○倉間鉄山
2/2【刃鳴散らす】
○伊烏義阿/○武田赤音
1/1【ハヤテのごとく】
○桂ヒナギク
1/1【BAMBOOBLADE(バンブーブレード)】
○川添珠姫
1/1【必殺仕事人(必殺シリーズ)】
○中村主水
1/1【Fate/stay night】
○佐々木小次郎(偽)
1/1【用心棒日月抄】
○細谷源太夫
1/1【らんま1/2】
●九能帯刀
1/1【ルパン三世】
○石川五ェ門
5/6【るろうに剣心】
●鵜堂刃衛/○神谷薫/○志々雄真実/●四乃森蒼紫
● 瀬田宗次郎 /○緋村剣心

【残り 六十六名】
4 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/22(火) 09:32:18 ID:o4ns2HYA
スレ立て乙です。

富田勢源、佐々木小次郎(偽)で予約します。
5 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/22(火) 10:26:59 ID:o4ns2HYA
上記二名で投下します。
6偽りの再会 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/22(火) 10:29:20 ID:o4ns2HYA
「その武芸の妙技の悉くを尽くし、互いに相戦いて一人になるまで殺し合うべし」
最初にこの言葉を聞いた時は、いきなりこんな事を言われて素直に従う者などいるのかと思ったが、
意外と物分りの良い者が多かったのか、或いは各人に個別の事情があるのか、かなり多くの者が派手に殺し合ってるようだ。
先刻からあちこちで剣気がぶつかり合う気配がし、時には刃と刃がぶつかり合う音までもが耳に届く。
人間離れした感覚でそれら全てを感じ取っていながら、富田勢源はゆったりとした歩みを変えようとはしなかった。
周りの状況を意に介していない訳ではなく、単にそれ以上の速度を出せないのである。
言語に絶する鍛練によって、斬り合いの場ではしばしば目明きを圧倒する程に感覚を鍛え上げた勢源だが、
剣術用に特化して鍛えた為、日常の生活における盲目の不便を完全に解消するまでには到っていない。
初めて訪れた地、しかも正体不明の相手に無理やり連れて来られた場所での歩みが殊更慎重になったのも当然だろう。

そうしてゆっくりと北上していた勢源だが、ここで前方から真っ直ぐ向かってくる人の気配を感じ取る。
更に距離が縮まると、相手の方でも勢源の存在に気付いたらしい気配がわかった。
気付くのが勢源より遅れたとは言え、周囲を包む闇と考え合わせると、目明きにしては相当に感覚が鋭いようだ。
そこから更に数歩近付くと、勢源の閉じた眼を視認したか、それとも刀を杖代わりにする歩き方から見抜いたのか、
「盲か……」
という呟きが聞こえてくる。その声、そして身のこなしも、勢源には全く覚えのないもの。
にもかかわらず、勢源の脳裏に唐突に、一つの名前が浮かんで来たのはどうしてなのだろうか。

「失礼。違っていたら申し訳ないが、もしや佐々木小次郎殿ではありませんか?」
「そうだが、そなたは?」
駄目元で聞いてみたのだが、何と大当たりだったらしい。
勢源の弟子であり、齢十八にして一派を拓いて独立して行った天才剣士にこんな所で再会できようとは。
「富田勢源です。しかし、随分と声が変わられたな。剣も独自の境地に達したようで」
しばらく会わない内にここまで別人のようになるとは、さすがは天才と言うべきだろうか。
もっとも、短期間でも師と仰いだ勢源の事を記憶にとどめてすらいないあたり、高慢さは相変わらずのようだが。
「富田?私と……佐々木小次郎と面識が?」
「ええ。以前に少し。まあ、忘れてしまったのなら無理に思い出す必要もないでしょう。
 しかし、貴方は当時から中条流始まって以来の天才と謳われていたが、それに奢らず、良く修行されたようだ」
苦笑しつつも正直に褒めてみるが、小次郎は喜ぶどころか困惑した様子が感じられる。
何か悪い事を言ってしまったか、そう思う勢源の前で、小次郎は首を振ると武器……おそらくは木刀を抜き放つ。
「まあ良い。それより、せっかくの縁だ。一手勝負せぬか?」
中条流では他流試合は禁じられているが、佐々木小次郎は元々中条流を学んだ剣士。
殺気も感じられぬし、互いの剣を高める為の手合わせという事ならば問題はあるまい。
そして何より、この愛弟子がどのような剣技を編み出したのか、勢源は是非ともそれを感じてみたかった。
「わかりました」
返事と共に、勢源は小太刀を抜き放つ。
7偽りの再会 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/22(火) 10:31:39 ID:o4ns2HYA
「小太刀?」
小次郎の困惑した声が聞こえる。
確かに、どう見ても長刀にしか見えないのに、抜いてみたら小太刀というのでは小次郎が戸惑うのも当然だろう。
「この刀は一種の仕掛け武器になっていましてね」
こんな事で弟子を惑わすのは勢源の本意ではないので、小太刀二刀の仕掛けを小次郎に示し、一本を戻す。
「小太刀二刀……その内の一本のみで私と闘おうと?」
「脇差一本であらゆる危難を打ち払う……それが私の目指す護身剣。
 未だ完成には程遠い剣ですが、あなた程の剣士に協力いただければ、より理想に近付けるでしょう」
「このような殺し合いの場でも修練か。さすが、見上げた向上心だな」
「いえ。私の勘では、ここは修行の地としては理想的な場所。短期間の鍛練でもかなりの成果が見込める筈」
「ほう?」
「それどころか、こうしてただ歩いているだけでも時と共に力が増している感覚を覚える程です」
事実をありのまま述べる勢源だが、どうも小次郎はあまり本気に取ってくれなかったようだ。
何も言わずに薄く笑うと、小次郎は神速の連撃を放って来た。

暴風をやり過ごす柳の如く、小次郎の剣を最小限の力と動きで受け流して行く勢源。
手応えのなさに苛立ったのか、小次郎の攻めに糸一本ほどの無理を見出した瞬間、勢源は鋭い一撃を送る。
「なるほど、いい腕だ」
小次郎の木刀を破壊しようとした勢源の一撃は、素早く木刀を回転させる事で弾かれて不発。
それでも、小次郎を本気にさせる効果はあったようだ。
「行くぞ!」
言葉と共に来る凄まじい縦斬りを辛うじてやり過ごす勢源。
そこに、僅かの間をおいて横薙ぎと円を描く剣が勢源に迫り……
8偽りの再会 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/22(火) 10:33:45 ID:o4ns2HYA
(なるほど、これが小次郎の新しい剣か)
そう心中で呟く勢源。
呟いた時には、既に小次郎の縦斬りに続く横薙ぎと袈裟懸けは、勢源の脇差によってあっさりと弾かれている。
だが、小次郎の必殺の剣をたやすく防いでおきながら、勢源は小次郎を不甲斐なく思うどころか逆に感嘆していた。
今回は三つの攻撃の間の僅かな時間差、そして二太刀目以降の剣に小次郎本来の鋭さがなかった為に止める事ができた。
しかし、もし限りなく同時に、かつ鋭さを損なう事なく、今の三撃が放たれていたらどうなっていたか。
同時に十分な鋭さを持って放たれればあの三太刀の軌道は正に必殺……剣の一つの完成形と言ってもいいかもしれない。
つまり、小次郎には既に己の目指す剣が見えており、後は修練によってそこを目指せば良いという事だ。
その意味では、彼は未だに真の護身剣が漠としか見えていない勢源よりも先を行っていることになる。

そんな事を考えながら次の攻撃を待ち構える勢源だが、小次郎の方は戸惑った様子で構えを解く。
「どうしました?」
「……こちらから勝負を挑んでおいてすまぬが、この場は退かせてもらおう」
そう言うと、小次郎は背を向ける。
まあ、当然とと言えば当然だが、己の剣の完成形が見えたからと言って迷いや悩みが消えたりはしないようだ。
だが、迷いがあるのは剣士にとっては決して悪い事ではない。
その迷いを乗り越えさえすれば、剣士は更に一段進んだ境地に辿り着く事ができるのだから。

「勝負が中途半端になった詫びに一つ忠告しておこう」
小次郎が言って来る。そんな事で気を使うとは、高慢そうに見えてやはり良い子だと、勢源は弟子の成長を喜ぶ。
「この試合は、どこかの愚か者が剣士同士が殺し合うのを見て楽しむ為に開催した、といった類のものではあるまい。
 私の推測にすぎぬが、我等が戦うこと自体が、何らかの魔術的儀式……つまり呪いの一種かもしれぬ。
 まあ、私にはどうでも良い事だが、知らぬ間に己の剣を利用されるのが気に食わぬのであれば用心する事だ」
「そうですか。ご忠告感謝します」
素直に礼を言う勢源。
正直に言うと勢源には小次郎の言葉があまり理解できなかったのだが、そんな事より弟子の気遣いが嬉しかった。
そこで、勢源も師匠らしく、先程から気になっていたことを忠告してやる。
「お礼に私からも一つ。その木刀、どうもただの木刀ではないようですね」
「ああ、確かにこれは尋常の木刀とは一線を画する逸物。私も気に入っているが……」
「いえ、そうではありません」
小次郎の木刀の出来が良いのは確かだが、光を失った故に研ぎ澄まされた勢源の感覚は、それ以上のものを捉えていた。
「貴殿が持つ木刀の中でも、先程の縦斬りの後の二撃に使った物などは逸物の一言で片付けても良いでしょう。
 しかし、貴殿が今手にしている木刀だけは別。決してただの名刀ではなく、かと言って妖刀とも少し違う。
 妙な刀、としか私には言えぬが、とにかくそれを使い続けるつもりなら注意されよ」
誠心からの忠告だったのだが、小次郎が引っ掛かったのは別の部分だったようだ。
「その言い様、私が……二種の木刀を使ったと?」
「私にはそう感じられましたが?」
何時の間に武器を持ち替えたのか、そして持っていない方の木刀を何処に隠しているのか。
それは勢源にもさっぱりわからないが、小次郎が複数の木刀を使い分けているのは間違いない筈だ。
「そうか……忠告感謝する」
そう言うと、小次郎は去って行く。これが、富田勢源と佐々木小次郎の再会?の顛末である。
9偽りの再会 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/22(火) 10:39:40 ID:o4ns2HYA
勢源との邂逅から一刻近く後。海辺で剣を振り続ける佐々木小次郎の姿があった。
「はあっ!」
燕返しを繰り出す小次郎……まずは凄まじい速さの横薙ぎが繰り出され、少し間を置いて縦斬りと円を描く剣が現れる。
勢源と立ち会った時に比べても更に時間差が増した上、縦斬りと円は横薙ぎよりもはっきりと速度で劣っていた。
これでは燕返しはもはや必殺たり得ない。はっきり言って普通の連撃にすら劣るのではないだろうか。
だが、小次郎が幾度も燕返しを繰り出して確かめようとしているのは、己の必殺剣の惨状よりも、まず木刀の差異。
勢源の指摘を受けてからよく調べてみたが、確かにこの木刀は普通ではないようだ。
感覚を集中させると、妖気と言うほど凶々しくはないが、霊気と呼ぶには憚られる妙な気配が感じられる。
それなのに、何度試しても、燕返しの際に現れる二本の木刀からは、そうした気配はまるで感じられない。
つまり、燕返しで増えるのは、小次郎が持つ物とは違う、ただの――相当に出来が良いにしろ――木刀なのだ。
何故そんな事が起きているのか……ここで思い出されるのは、先刻の富田勢源と名乗る男の言動。

あの男は佐々木小次郎と面識があると言っていた。
確かに、伝承によれば佐々木小次郎は富田流の流れを汲む剣士だったと言うから、富田勢源と面識があっても不思議はない。
もちろん、佐々木小次郎が実在するのであれば、だが。
実際には佐々木小次郎は架空の人物であり、実在しない……だからこそ自分がアサシンの英霊として選ばれたのだ。
かと言って、あの富田勢源が居もしない佐々木小次郎と知り合いだなどという嘘をついたとも考えにくい。
彼が言っていた、小次郎の木刀の特異性や、燕返しで二種の木刀が現れている事は事実だったのだし。
そして、人別帖を見ればそこには三つの「佐々木小次郎」の名、更に二つの「犬塚信乃」なる人物の名。
これらの事から、一つの推測……いや、想像が成り立つ。
この御前試合の主催者には平行世界を運営する力があり、自分達を別々の平行世界から召喚したのではないかという想像だ。
無数の平行世界の中には佐々木小次郎が実在した世界もあり、あの勢源はそこから呼ばれたと考えれば説明は付く。
そして、主催者に多元世界を操る力があり、尚且つ、優勝者に古今東西天下無双の称号を与えるというのが茶番でなければ、
この御前試合が連なる平行世界を持たない、多元宇宙で唯一の催しである可能性が出て来る。
だとすれば、燕返しの不具合も当然……いや、むしろ、完全に使用不能になっていてしかるべきだろう。
多重次元を如何に折り曲げたところで、重なるべき近縁の世界が存在しないのだから。
しかし、燕返しは非常に中途半端な形ながら一応は使えている。
あるいは、主催者が、せっかく呼んだ小次郎が力を発揮できるように、何らかの救済処置を取ったのかもしれない。
例えば、別の時間と場所で振るわれた、遠く離れた平行世界の小次郎の剣を燕返しで召喚できるようにしたとか……
こう考えれば、燕返しで現れる二本の木刀が小次郎が手にしているものと違うのも説明がつく。
多元宇宙広しと雖も、この妙な木刀を手にした小次郎が他におらず、仕方なく普通に出来が良い木刀が呼ばれているのだろう。
それぞれの太刀に時間差が生じているのは、遠い世界の剣を召喚する際にどうしても生まれるずれとも考えられる。

では、燕返しで現れる二本の剣が本来より遅くなっている、しかもその度合いが時と共に酷くなっているのは何故か。
最初は主催者の制限かとも思ったが、先の考察が正しければ、奴らは小次郎の力を抑えるどころかか、その逆をしている。
そもそも、天下無双の剣士を決める為の試合で、参加者の剣技に制限を課すというのは、よく考えると不自然だ。
加えて、ここしばらくの燕返しの連続使用によって、小次郎は一つの法則を見出していた。
燕返しの一太刀目と二太刀目以降の間の時間差が、現れる太刀の速度と正確に反比例の関係にあるのだ。
ここで思い出されるのは勢源の「ただ歩いているだけでも時と共に力が増している」という言葉。
あの時は戯言と思って聞き流したが、その後の会話から、あの男は冗談とは縁のない生真面目な性格だと思えた。
更に、自分を佐々木小次郎と呼んだ事や、木刀の異常にすぐに気付いた事でわかるあの勘の良さ。
この件に関しても、小次郎の感覚よりも、勢源の言葉の方が真実を衝いていると考えた方が妥当かもしれない。
つまり、燕返しで現れた太刀の速度や現れるまでの時間が遅くなっているように思えるのは錯覚で、
実際には小次郎の感覚の方が速くなっているのではないか、という推論が成り立つのである。
10偽りの再会 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/22(火) 10:43:02 ID:o4ns2HYA
この場合、単に小次郎の感覚だけが速くなったのならば、燕返しの剣だけでなく、全ての物の動きが遅くなって見える筈。
そう思って足元の石を放り投げてみても違和感は感じられないし、風にそよぐ草の動きも普段通りだ。
それとも、この島では小次郎の感覚に加えて、重力や風速、星の瞬きまでもが同様に速くなっているのか。
もしそうなら、重力や風が強くなっていて何も感じないという事は、感覚だけでなく筋力も同様に増している事になる。
まあ、平行世界を越える程の強大な力を持つ主催者ならそれくらいの事が出来ても不思議はないだろう。
そして、小次郎だけでなく、全ての剣士の能力も同様に上昇していれば、己とこの島の異変に誰も気付く事はできまい。
そんな中、燕返しで現れる剣だけは別世界に属する為にその恩恵を受けられず、相対的に遅くなった……それが真相なのか。

「古今東西天下無双か……」
主催者が多元世界を行き来する力を持つなら、たった数十人の剣士を戦わせて天下無双を決める無意味さがわかるだろう。
何しろ、無限に連なる多元宇宙には、佐々木小次郎は無限に存在するし、それは他の全ての剣豪達についても同様。
例えば、ここで小次郎が宮本武蔵と戦って勝利したとして、他の無限の武蔵達をも上回ったとはとても言えまい。
だが、この御前試合が天下無双の剣客を「決める」のではなく、「作る」為のものだとすればどうか。
推測が正しければ、御前試合が始まって僅か数時間で、小次郎の腕は、平行世界の自身の剣がのろく見える程に進歩した。
この調子で行けば、生き残りが一人になる頃には、その者は天下無双の称号に相応しい強さを得ているかもしれない。
それこそが主催者の目的であり、剣客達の戦い自体が、彼等自身の強さを増す為の魔術的な儀式になっているのだとしたら。
剣客の強化と同時に環境が変化しているのは、この御前試合の真実を参加者に悟られまいとしているのかもしれないし、
単に、参加者に重力を利用した振り下ろしや、風を利用した技を使う剣士がいて、その強味を残す為の配慮とも考えられる。

まあ、もちろんこれもただの当て推量だ。
第一、仮に主催者の目的が無双の剣客を作る事だとして、その後どうするつもりなのかがわからない。
無論、作り出した無双の剣客を意のままに従わせられるのなら、出来る事はいくらでもあるだろう。
しかし、ここの剣士達は主催者に反感を持つ者も多く、そうでなくても好意を持つ者は少数派だと考えられる。
それではせっかく無双の剣士を生み出しても、その力を利用するどころか真っ先に試し切りされるのがオチだ。
そもそも今までの推測に穴があったのか、或いは主催者に無双の剣客をも従わせるような切り札が存在するのか……

ここで、小次郎は袋小路に入りかけた思考を打ち切った。こんな事をいくら考えても、それは逃避でしかない。
主催者の思惑など小次郎にはどうでも良い事だし、このままではそれを確かめる機会などなく彼は死ぬ事になる。
理由はどうあれ、彼の切り札である燕返しが、この島では使い物にならない技に成り果てたのは確かなのだから。
となれば、小次郎がやるべき事はただ一つ。
燕返しが役立たずになった理由の考察ではなく、それに代わる新たな技の開発だ。
富田勢源……あの異様に勘の鋭い盲人はこうも言っていた。
「私の勘では、ここは修行の地としては理想的な場所。短期間の鍛練でもかなりの成果が見込める筈」、と。
ならば、それを最大限に活用して燕返しに匹敵する、いや、燕返しを超える奥義を編み出して見せよう。
普通なら短時間で燕返し以上の技を開発するなど絶対に不可能だが、不可能は修練によって越えられる事を彼は知っている。
要は、燕返しを編み出した時以上の執念と渇望を持って励めば良いのだ。
決意を新たに、佐々木小次郎の名を持つ、今はこの島で唯一となった剣士は苦難の道を歩み出す。

【へノ漆 海辺/一日目/早朝】

【佐々木小次郎(偽)@Fate/stay night】
【状態】左頬と背中に軽度の打撲
【装備】妖刀・星砕き@銀魂
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:強者と死合
一:燕返しに代わる奥義を編み出す
二:愛刀の物干し竿を見つける。
三:その後、山南と再戦に望みたい。
【備考】
※自身に掛けられた魔力関係スキルの制限に気付きました。
※多くの剣客の召喚行為に対し、冬木とは別の聖杯の力が関係しているのか?
と考えました、が聖杯の有無等は特に気にしていません。
登場時期はセイバーと戦った以降です。
どのルートかは不明です。
※燕返しは本来の性能を発揮できないようです。
※この御前試合が蟲毒であることに気付き始めています。
11偽りの再会 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/22(火) 10:45:44 ID:o4ns2HYA
小次郎が立ち去り、その気配がすっかり消えると、勢源は我慢していた溜息を盛大に吐き出した。
漸く目明きの知り合い、しかも一番の愛弟子に会えたのだから、出来れば同行してほしかった、というのが正直な所である。
(しかし、小次郎の修行の邪魔をする訳にはいかぬ)
しばらくぶりに会った小次郎の剣が格段の進歩を遂げていた事が、勢源には素直に嬉しかった。
小次郎に完全に忘れられていた事も、その剣筋に己が教えた中条流の痕跡がなかった事も勢源の歓びに水を差したりしない。
そして、次に小次郎と会った時には更に完成された剣を見せてくれる。勢源はそう確信していた。
その時に、師として恥ずかしくない、今度こそは小次郎が一生覚えていてくれるような技を示せるよう、自分も精進せねば。
決意と期待、そして大いなる喜びを胸に、勢源は闇の中を進み続ける。

【へノ陸 街道/一日目/黎明】

【富田勢源@史実】
【状態】健康、
【装備】蒼紫の二刀小太刀
【所持品】支給品一式
【思考】:護身剣を完成させる
一:目明きを探す
※佐々木小次郎(偽)を、佐々木小次郎@史実と誤認しています。


※史実の佐々木小次郎の生年や師匠については諸説あるのですが、
 ここでは小次郎は16世紀前半の生まれで富田勢源の弟子だったと設定しました。
12 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/22(火) 10:46:26 ID:o4ns2HYA
投下終了です。
13創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 13:34:01 ID:mRdIpvG6
投下乙、勢源と小次郎の諸説でこうくるとは
14創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 10:47:22 ID:KHliJH2Q
投下乙
勢源はいい人っぽいけど師匠としては弟子甘やかしすぎ
これで全員2回以上登場か?
15創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 12:26:15 ID:0fX4CeVQ
その通りでございます
16創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 12:41:37 ID:4K2ICelU
このロワの場合、対主催がなかなかマーダー化しづらいから
そろそろ現役マーダーの皆さんに頑張って欲しいな。
現在までの死者がマーダー中心で対主催パーティ多めとなると
なかなか人数を減らし辛くなってくると思う。
17創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 15:56:01 ID:nb5cJ0/d
確かにあまりにマーダー死亡させると行き詰まるからな
18創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 17:50:32 ID:0fX4CeVQ
現時点マーダー
仏生寺弥助  東郷重位 岩本虎眼  伊烏義阿
塚原卜伝  佐々木只三郎  岡田以蔵  宮本武蔵
伊良子清玄  志々雄真実 土方歳三  小野忠明
新免無二斎
19創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 18:18:18 ID:734huB7R
待て待て、伊烏は殺害数トップだが一応中立だw
しかし随分減ったな純粋マーダー。
あとはサラマンダー街道爆走中の陶器師ぐらいか?
パーティ組んでる対主催はバラけさせるぐらいしか手はないのかね。
20創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 20:07:07 ID:Awb34v73
まあ後からでもマーダーに覚醒するキャラは書き手次第で
幾らでも出てくるだろうしあまり気にする必要もないんじゃないか?
現状殺害数0なだけでマーダー思考に近いキャラも多いしね。

沖田総司、高坂甚太郎、香坂しぐれ、高嶺響、武田赤音もキャラ的に準マーダーじゃね?
藤木源之助も虎眼先生になにかあったらどうなるかわからないし、富士原なえかも次の書き手次第では・・。
21おてつだい:2009/09/24(木) 20:33:40 ID:0fX4CeVQ
対主催グループ
柳生十兵衛、志村新八
坂本龍馬、斎藤一
犬塚信乃(男)、足利義輝
山南敬助、烏丸与一
徳川吉宗、秋山小兵衛、魂魄妖夢
剣桃太郎、坂田銀時
上泉信綱、林崎甚助
芹沢鴨、細谷源太夫、石川五ェ門
明楽伊織、倉間鉄山
22創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 21:01:21 ID:4K2ICelU
>>21

今のところマーダー同士の競り合いか対主催の勝利がほとんどだから
対主催パーティの死者がまだ出てないんだな。
基本タイマン勝負が多いから手を組まれると殺すのが難しい。
なえか辺りはマーダー転向しても実力的に太刀打ちできるか微妙だし。
23創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 21:03:10 ID:4K2ICelU
あ、清河は一応対主催コンビだったか
24おてつだい:2009/09/25(金) 18:17:48 ID:PunVo8/r
対主催
緋村剣心  千葉さな子  白井亨  桂ヒナギク
オボロ  犬塚毛野  トウカ  久慈慎之介 
神谷薫  中村主水  椿三十郎  川添珠姫
伊東甲子太郎  外薗綸花
腕試し
富田清源  佐々木偽  赤石剛次  近藤勇
不明
柳生連也斎  沖田総治  奥村五百子  藤木源之助
辻月丹  服部武雄  伊藤一刀斎  斎藤弥九郎
25創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 22:43:42 ID:TYW52urS
この前のロワラジのまとめあがってるね。HEY!!RYO-MAとかクソワロタw
26創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 14:50:31 ID:PFx5IZ7A
保守
27創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 13:29:48 ID:PsbUw4LL
放送はどうするんだ?
28創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 18:37:07 ID:pxgXyzdV
そもそも放送あるのか?
29創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 19:36:28 ID:HwAnC28i
放送はある、って事にしたらいいんじゃないか?
それよりも作中時間がまだ4時間しか経過してないけど、
放送はあるにしてもスタートから6時間後の早朝明けでいいんじゃないか?

しかし予約がこないなあ。
30創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 20:56:36 ID:srOyv58Y
元々まったりペースのロワだから。
こないだの連休がすごかっただけ。
予約がないのが気になるなら自分が書き手になって続きを書けばいい。
31創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 17:34:08 ID:bfAY20oY
武田赤音って最初の話を見る限りでは一応対主催なんじゃないかな?
チームを組んでってのはあんまり想像できないけど。
32創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 22:56:55 ID:WFmdkghc
主催に殺意を持っているのを対主催の定義とするなら、
小野忠明、柳生連也斎、岩本虎眼も対主催になるな。
33創る名無しに見る名無し:2009/10/07(水) 00:23:21 ID:FM/Av46K
あえて分けるとしたら対主催者マーダー、みたいな感じかな?
34創る名無しに見る名無し:2009/10/07(水) 00:32:12 ID:l6JSm6Pq
危険対主催ってやつだな
35創る名無しに見る名無し:2009/10/07(水) 14:29:08 ID:TEP3xCme
>>32
対主催よりも反主催のほうがしっくりくるな
36 ◆cNVX6DYRQU :2009/10/11(日) 21:03:27 ID:K7JVrzLL
塚原卜伝、宮本武蔵、伊烏義阿で予約します。
37創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 23:01:42 ID:O8U9yHuV
こ、これはまた異常極まりない剣狂者の面子…。
期待と興奮に満ちますなぁ。
38創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 02:34:29 ID:TDjRM4OK
予約キタ!
そしてこの面子、危険過ぎて何が起きるのか想像が出来ん。


39創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 00:28:09 ID:DaVis8mF
ここのところ連チャンの伊烏に死相が出ているのは気のせいかw
だが、過程が全くもって想像できない。一体どうなるんだ?
ともあれ、期待しています。
40創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 03:12:43 ID:AvWfptgx
まあまだそうと決まったわけでもないw
赤音が死んだら伊烏は37564モードになりそうだと個人的には思うが
41 ◆F0cKheEiqE :2009/10/17(土) 16:46:09 ID:b0bPK17m
香坂しぐれ、東郷重位、仏生寺弥助

予約
42創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 18:07:31 ID:adJOXXwY
予約2つめ来たー
みんなマーダーか…
43創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 18:20:05 ID:zMXY9jTp
こっちもえらいマーダーだw しぐれがヤバイ
44創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 20:42:04 ID:GHD+RzC5
>東郷重位、仏生寺弥助
しぐれに明日が見えないw
45 ◆FjuL6rOGS. :2009/10/17(土) 20:44:40 ID:tXECXak0
まあ何処かで血の雨が降るのは間違いないだろう
最悪全員相殺、はないかw
46 ◆cNVX6DYRQU :2009/10/18(日) 14:54:35 ID:WBrQFfqY
塚原卜伝、宮本武蔵、伊烏義阿で投下します。
47焦燥の中で ◆cNVX6DYRQU :2009/10/18(日) 14:55:59 ID:WBrQFfqY
罪もない少年少女を手に掛けて宿敵の刀を奪った伊烏義阿は、疲れた身を引きずって再び城下町へと戻って来た。
ただ、先程と同じ入り口には戻らず、そこより少し北にある渡しから町に入る。
疲労した状態でいぞうなる危険人物に行き遭うのを避けた、とは表向きで、真に避けたかったのは白髪の男の方だ。
あの男に再会し、信乃の事を聞かれたら……今の伊烏にとっては、強敵と戦うよりもそちらの方が煩わしかった。
それに、剣鬼蠢くこの地では、いぞう一人を避けたところで危険人物は其処彼処にいるだろう。
例えばそう、今伊烏の前方より現れた血塗れの老人のように。

着衣にべとりと返り血を付けた老人を前にした伊烏だが、その割にはあまり警戒する気にはならなかった。
何故なら、この老人からは、人斬りに特有の陰惨さや狂気が欠片も見られなかったのだ。
それどころか、剣客として一種の悟りの境地にまで達しているのではないかと思わせる程の風格が感じられる。
返り血を浴びているのだから誰かを斬ったのは確かだろうが、それも已むを得ぬ正当防衛だったのではないだろうか。
もしそうなら、相手と同じ状況を装う事によって話を聞き出す事も可能だろう。
そう考えて、伊烏は老人に話し掛けた。
「失礼。武田赤音という、女のように見える男を探しているのだが、御存知ないか?」
「知らぬな。ワシがここで会ったのは男と女のみ」
「……そうか。では、緋村剣心か伊東甲子太郎という名に心当たりは?」
伊東甲子太郎の名を聞いた老人の表情が微かに変わるが、それも一瞬。
「随分と探し人が多いようだな。一人では辛かろう。ワシが手伝ってやろう」
「いや……」
老人が見せた親切に、同じく親切だった少女を思い出してまた心を痛める伊烏。
だが、この老人の「親切」の形は、信乃のそれとは大きく異なっていた。
48焦燥の中で ◆cNVX6DYRQU :2009/10/18(日) 14:58:02 ID:WBrQFfqY
「武田、緋村、伊東だな。その三人にもすぐに後を追わせる故、先に冥土で待て!」
その言葉と共に、今まで毛ほども感じられなかった殺気が老人の身体から噴き出し、伊烏は反射的に剣に手を掛ける。
老人も剣の柄に手をやる……と見えた瞬間、その手が一瞬ぶれ、伊烏は本能に促されるまま抜き打ちを放っていた。
両断されて地に落ちたのは筆。あらかじめ袖の中に隠しておいた筆を、手裏剣代わりに伊烏の眼を狙って打って来たのだ。
それを防ぐ為に構えを崩してしまった伊烏に対し、老人は抜刀術の構えで一気に間合いを詰めてくる。
今の一撃で、伊烏の居合いの端倪すべからざる切れを察し、別の刀で居合いを使う間を与えずに斃そうという心積もりか。
ならば、逆に機先を制してこちらから攻め込むのが上策。
そう判断した伊烏は、老人が間合いに踏み込む直前、飢虎の勢いで一気に間合いを詰め、上段から剣を振り下ろす。
この間合いでは近すぎて居合いは不可能……だが、老人は慌てる事なく、更に半歩進んでより間合いを詰めて来た。
そして、右手を刀から離し、左手で鞘ごと抜きかけると、柄で振り下ろされる刀を斜め上から思い切り叩く。
思いがけない強烈な打撃で剣の軌跡が逸らされたが、この状態では相手も迅速な反撃は不可能。
伊烏は叩き落された剣を、その勢いを利用してくるりと回し、再び上段からの斬り下ろしを放つ。
だが、老人も流れるような動きで一歩退くと、抜き打ちで伊烏の剣を受け止め、二人は刃を噛み合わせたまま動きを止める。

鍔迫り合いの体勢のまま睨み合うこと数瞬、伊烏は己の剣に体重をかけて老人の剣を押さえ付ける。
老人の微妙な仕草から、剣を滑らせて顔面を斬り付けるつもりだと読み、それを封じ込めようとしたのだ。
「ぬん!」「くっ」
だが、その老人の動きは擬態。伊烏の剣を軸にして身体を回転させ、剣の柄で伊烏の鳩尾を突いて来た。
この険呑な攻撃を、咄嗟に後ろに跳んで避けられたのは、伊烏の並外れた運動能力があったからこそであろう。
しかし、傷を受ける事はなくとも、たった数合の闘いで伊烏の疲労は限界近くにまで達していた。

疲労と言っても、肉体的な疲労はまだ大した事はない。その点では、老人よりも若い伊烏の方に分があるだろう。
問題は精神的な疲労。何せ、元々伊烏は今までの戦いと、自身の非道な行いのせいで、精神を極度に消耗していた。
その上、対峙する老人はこちらの僅かな仕草から意図を読み、逆に、些細な動きでこちらの動きを誘導して来る。
彼我の身体の動きを隅々まで完全に把握・制御し続けなければ、たちまち術中に嵌って斬り捨てられるだろう。
常に極度の緊張を強いられるこの戦いは、弱りきった伊烏の精神にとってはあまりにも過酷だった。
このままでは長くは保たない。そう悟った伊烏は一気に勝負を決めようと決意する。
ちょうど間合いが空いたのを奇貨とし、更に大きく後ろに跳んで十分な間を取ると、反転して老人目掛けて走り出す。
剣鬼鵜堂刃衛すらも完璧に打ち破った魔剣・昼の月――その必殺の剣を、伊烏は再び発動させるつもりなのだ。
49焦燥の中で ◆cNVX6DYRQU :2009/10/18(日) 15:02:12 ID:WBrQFfqY
左手を剣にかけ、老人に向かって疾走する伊烏。
対する老人の方は、こちらを見据えて剣を構えたまま、微動だにしない。
その姿をじっと見つめて意図を図ろうとする伊烏だが、まるで何の意図もないかの如く、心が読み取れなかった。
いや、もしかしたら本当に何も考えてないのか。この老人は無念無想の境地にまでも達しているのではないか。
威厳あふれる老人の立ち姿からそんな考えが頭をよぎるが、ここで怯む訳にはにはいかない。
老人に如何なる返し技があろうとも必ず仕留めてみせる……その決意をもって抜刀術を放とうとした瞬間、
今までぴくりとも動かなかった老人が、何の前触れもなく飛び出し、身を沈めつつ伊烏の足元に跳びこむ。
あと一刹那、一刹那だけでも老人の動き出しが遅ければ、その前に伊烏の変幻自在の抜刀術が放たれていただろう。
逆に、ほんの僅かでも早く老人が動いていれば、伊烏は十分な余裕を持ってその動きに対応できた筈だ。
しかし、老人は伊烏が抜刀しようと力を籠めた正にその瞬間に仕掛けた為、対応が一瞬遅れ、間合いの内に潜り込まれる。
単に間合いの見切りや先読みに優れているだけではこうも完璧なタイミングは絶対に不可能。
天性のものか、それとも経験の賜物か、剣に関する常識外れに鋭い勘によってはじめて可能となる動きであった。

老人はしゃがんだ姿勢から、全身の撥條を使い剣を真上に突き上げて伊烏を串刺しにせんとする。
慌てて跳躍する伊烏だが、下方から真上への突き上げを斜め上への跳躍でかわし切るのは簡単ではない。
刃に追い付かれそうになった伊烏は、已むを得ず刀を抜いて老人の剣を受け止めた。
だが、空中で、抜きざまの刀で突きを受けた伊烏と、大地に立ち両手で柄を握る老人とでは安定性に大きな差がある。
老人が力を入れて刀を振るうと、伊烏としては為す術もなく吹き飛ばされる以外にない。
それでもどうにか足から着地して防御の体勢を整えると、目の前には剣を大上段に構えた老人の姿が。
その姿を見ただけで伊烏は理解する。老人が放とうとしているのは己の昼の月に勝るとも劣らぬ魔剣だと。
だが、ここで死ぬ訳にはいかない。武田赤音を討ち果たすまでは何としても生き延びねば……
必死の思いで守りを固める伊烏だが、何故か老人は動かない。

そのまま、凍り付いたような時間が数秒過ぎるが、老人は魔剣を放とうとはせず、訝る伊烏に声を掛ける。
「武田と言ったか、探す相手を見つけたとして、貴様はどうするつもりだ?」
「討つ!」
死地にある己を奮い立たせる意味も込めて力強く言い切る伊烏。
すると、何を思ったか、老人は刀を鞘に納めると、戸惑う伊烏に背を向けて歩き出しながら言葉を継ぐ。
「ついて参れ」
「何?」
「言ったであろう、貴様の人探しを手伝ってやると」
確かに言った。だが、それは、自分も赤音も殺してあの世で再会させるという意味ではなかったのか。
「但し、首尾よくその男を見つけ出して討った暁には、代償として貴様の命を狙う」
なるほど、要は赤音を伊烏に殺させた上で生きる目的を失った伊烏を討てば手間が掛からないという事か。
確かに、合理的な方法と言えるのかもしれない。
しかし、そんな回りくどい方法は、いきなり自分に切りかかって来たこの好戦的な老人には不似合いな気がする。
この男の言葉は信用できない……そうわかっていながら、伊烏は老人の後に続いた。
何を企んでいるにせよ、優位な状況で自分を殺さなかった老人が、後になって騙し討ちをする意味はなかろう。
また、既に人を斬り、今もいきなり自分に斬りかかって来るような男が、自分が赤音を殺すのを忌避するとも思えない。
ならば、老人が他に何を考えていようと、そんな事はどうでも良いのだ。
武田赤音を見つけ出して殺す。それが伊烏の全てなのだから。
50焦燥の中で ◆cNVX6DYRQU :2009/10/18(日) 15:03:42 ID:WBrQFfqY
表面上は伊烏を軽くあしらったように見える老人……塚原卜伝だが、その心は焦燥に包まれていた。
(一体、何が起きておるのだ)
卜伝が己の不調を悟ったのは、伊東と川添とかいう男女に襲い掛かった時にまで遡る。
まるで身体に重りを付けているかのように、思い通りに剣を操る事ができない。
そうでなければ、如何に複数の達人を相手にしたとはいえ、ああも簡単に不覚を取る事などなかったであろう。
老いが自分で思っていたよりも進んでいたのか、剣士としての技量を致命的に損なう程に。
そう思って内心不安を感じていた卜伝だが、愛弟子師岡一羽を斬った時、その束縛もまた断ち切られたと思えた。
あの一撃は、己が思い描いた通りの完璧な一撃。
身体はまだ十分に動く。若い頃に比べれば多少は衰えているが、老練の技にはそれを補って余りある冴えがある。
さっきまでの不調は、対手が殺気を向けてこないせいで調子が狂っていただけだろう。そう考えて納得していた。
実際、その直後に出会った伊烏との対戦でも何も問題はなかった……最後の一撃の直前までは。

あの時、卜伝は追い詰めた伊烏に奥義を……一の太刀を放てなかった。決して自ら放たなかったのではない。
伊烏の腕は卜伝が今までに出会った剣士の中でも有数のもの。
今回は魔剣を未発の内に封じて優位に戦いを進められたが、それも相手の消耗と自身の幸運があってこそ。
ここで伊烏を敢えて仕留めない選択など有り得ないにもかかわらず、卜伝はどうしても一の太刀を放てなかった。
舌先三寸で言いくるめはしたが、伊烏が真実に気付いて再戦を挑んで来れば、今度は一の太刀なしで勝つのは難しかろう。
と言って、伊烏に剣を収めさせる為に人探しを手伝うと言った以上、不調を見抜かれる危険を侵しつつ同行せざるを得ない。
(このままではいかぬ)
何としても不調の原因を突き止め、取り除かねば。
暗然たる想いを胸の奥に隠したまま、卜伝は己を貫き得る抜き身の魔剣を帯びて歩み続けるしかなかった。
51焦燥の中で ◆cNVX6DYRQU :2009/10/18(日) 15:05:53 ID:WBrQFfqY
塚原卜伝の中には神がいる。
と言っても超常的な存在ではない。剣士なら誰もが持っている、本能や直感のようなものの事だ。
神の剣を受け継ぐ一族の者としての遺伝か、それを更に発展させる為に捧げて来た人生の賜物か、
卜伝の本能は、他の一流の剣士達とすら一線を画する、内なる神と呼んでも大袈裟でない域にまで高められていた。
これまでの人生で、その本能の導きが幾度卜伝の危機を救ってきたか、数え切れない程である。
もっとも、卜伝のあまりに優れた本能が、高弟達の横死や、後の新当流の衰微を招いたという側面もあるかもしれない。
剣術を教える事はできても、卜伝の命を守った最も大きな要素である本能だけは、余人に伝えられないのだから。
それを悟った卜伝が、弟子達に危険を避ける事の大切さをどれだけ口を酸っぱくして説いたところで、
卜伝自身がいざとなると本能に任せて危険に踏み込んで行くのを知る高弟達が本気にしないのも無理ないだろう。
そんな訳で、卜伝に利益ばかりをもたらした訳ではないこの「神」だが、今回は卜伝自身をも害しかねない働きをしていた。

この御前試合の開始直後から卜伝の後を尾け、その剣を盗み取ろうとしている男。
巧みに隠れ、卜伝の意識が気付けずにいる、その恐るべき剣士の存在をも、彼の無意識は察知していた。
そして、その男がどれだけ奸智に長け、彼に手筋を、特に一の太刀を見られるのがどれだけ危険な事なのかも。
故に、卜伝の中の神は、尾行者を御前試合最大の脅威と位置付け、奥義を盗まれぬ為に卜伝の剣を抑えようとしている。
だが、普段ならいざ知らず、剣鬼蠢くこの島で、果たしてそんな手法が通用するか。
卜伝に奥義を使わせない事で一人の強敵は防げたとしても、脅威となり得る剣客は他に何十人といるのだ。
見張られたまま、一の太刀を使わなければ命を拾えない状況になったなら卜伝は、そしてその本能はどう動くのか。
それ次第では、卜伝は今まで己を加護して来た神の手で屍を晒す事になるかもしれない。

【ほノ参 城下町 一日目 早朝】

【塚原卜伝@史実】
【状態】左側頭部と喉に強い打撲
【装備】七丁念仏@シグルイ
【所持品】支給品一式(筆なし)
【思考】
1:自分の不調の原因を探る
2:伊烏義阿を警戒しつつ人探しを手伝う
3:この兵法勝負で己の強さを示す
4:勝つためにはどんな手も使う
【備考】
※人別帖を見ていません。
※宮本武蔵の尾行を本能的に察知し、奥義の使用に心理的抵抗を感じるようになっています

【伊烏義阿@刃鳴散らす】
【状態】健康、罪悪感、精神的疲労(大)
【装備】妙法村正@史実、井上真改@史実
【所持品】支給品一式×4、藤原一輪光秋「かぜ」@刃鳴散らす
【思考】基本:武田赤音を見つけ出し、今度こそ復讐を遂げる。
一:どこかで着替えを調達する。
二:武田赤音探しの援けになる限り、塚原卜伝と同行する。
三:もし存在するなら、藤原一輪光秋二尺四寸一分「はな」を手にしたい。
四:己(と武田赤音との相剋)にとって障害になるようなら、それは老若男女問わず斬る。
五:とりあえずの間は、自ら積極的にこの“御前試合”に乗ることは決してしない。
六:人斬り抜刀斎(緋村剣心)か伊藤甲子太郎に出会ったら、鵜堂刃衛の事を伝える。
※本編トゥルーエンド後の蘇生した状態からの参戦です。
※自分以外にも、過去の死から蘇った者が多数参加している事を確信しました。
※着物の全身に返り血が付着しています。
52焦燥の中で ◆cNVX6DYRQU :2009/10/18(日) 15:07:27 ID:WBrQFfqY
(何故斬らぬ!)
宮本武蔵は必死になって苛立ちを鎮めようとしていた。
今の立ち合い、武蔵にとってはかなり収穫が大きかったと言えるだろう。
前回と違って相手も老人を殺す気で戦ったからか、老人の入神の技をかなり見ることが出来た。
しかし、未だ全てではない。もっと根本的な、奥義に類する技を、何故かあの老人は披露してくれない。
その上、どんな話をしたのか、今まで戦っていた若者と同行するつもりのようだ。
老人が若者を盾として使って自ら戦うのを避けるようになれば、その技を見る機会は大きく減ずるだろう。
また、尾行する相手が二人になれば、監視しつつその視線を避けるのは飛躍的に難しくなる。
状況は良くない……しかし、武蔵は心中に生じた焦燥と迷いを強いて打ち消した。
多くの剣士を、心理戦で揺さぶる事で打ち倒してきた武蔵は、焦りが剣士にとってどれほど致命的か良く知っている。
例え今の流れが悪くとも、待っていればいつか必ず己の勝利へと続く分岐点が現れるものだ。
ならば、必要なのはその機会を決して見逃さず、即座に行動に移る為の冷静な判断力のみ。
決意を固めた武蔵は、老人と若者の観測に再び全神経を集中させた。
老人が秘匿する奥義を己の物とし、真に天下無双の兵法者となる為に。

【ほノ参 城下町 一日目 早朝】

【宮本武蔵@史実】
【状態】健康、塚原卜伝を追跡中
【装備】打刀
【所持品】不明
【思考】
最強を示す
1:老人(塚原卜伝)を倒す
2:その為に、老人(塚原卜伝)を追跡し、 太刀筋を見切る。
【備考】
※人別帖を見ていません。
53 ◆cNVX6DYRQU :2009/10/18(日) 15:08:20 ID:WBrQFfqY
投下終了です。
54創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 15:48:46 ID:XPUohneC
投下乙です! まさかのマーダーコンビ誕生。
二人とも返り血まみれでビジュアル的にもヤバ過ぎるw
そして武蔵は相変わらずか…
八丁堀の旦那といい亡き蝦蟇といい、ストーカーの多いロワだなあ。
55創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 16:15:29 ID:DOj/Ph/1
投下乙!
この2人に勝てるやつはいるのか?
56創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 16:28:36 ID:2lBoyWKk
投下乙!
正直予想の斜め上を行く展開だった。
下手すると現時点で最強のマーダーコンビなんじゃないか
57創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 17:32:59 ID:6wv+uLht
これはかなりの集団戦に持ち込むしか勝てないな
58創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 18:33:37 ID:3RBNDyLH
だが駆け引き上手の剣聖卜伝と剣鬼伊烏の事。
四方切りや火車で返り討ちにしそうで怖い。
59創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 17:22:00 ID:XTX6zrWf
wiki編集について質問というか疑問だけど、
異なる時間帯で終わったキャラがいた場合(黎明と早朝など)、
時系列順のSSの並びは早いほうと遅いほう、どちらに合わせればいい?

今のところ各編バラバラだからできれば統一したいと思ってる。
60創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 19:45:24 ID:VWuZKUoX
投下順と時系列の二通り作るのが基本
61創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 19:58:40 ID:XTX6zrWf
>>60
うん、それは既に両方あるんだけど、
同じSSの中で黎明と早朝の両方が存在してる場合、
時系列順はどちらに合わせるべきかな、と。
うまく説明できなくて申し訳ない。
62創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 20:14:18 ID:SRHkAWFV
黎明ちゃうか
63創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 21:32:03 ID:XTX6zrWf
>>62
thx
気付いた範囲で、早い方に合わせて修正しました。
64創る名無しに見る名無し:2009/10/23(金) 17:32:23 ID:cV1INcw7
支援
65 ◆F0cKheEiqE :2009/10/24(土) 15:07:15 ID:AYLeJy0q
済みません。
延長お願いします
明後日の夜十一時ごろに投下致します
66創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 20:41:00 ID:y4I43U06
今日じゃねーのか
67創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 20:55:38 ID:xPU0n4Jp
>>66どれだけ読み手様な言い草だよ
月曜の夜って書いてあるのに日本語も読めないのか

投下期待してます!
68創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 21:35:13 ID:H8kba4F9
【レス抽出】
対象スレ:剣客バトルロワイアル〜第四幕〜
キーワード:月曜の夜


67 名前:創る名無しに見る名無し[sage] 投稿日:2009/10/26(月) 20:55:38 ID:xPU0n4Jp
>>66どれだけ読み手様な言い草だよ
月曜の夜って書いてあるのに日本語も読めないのか

投下期待してます!




抽出レス数:1
69創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 21:38:44 ID:LGfAVdzP
>>68
涙拭けよwww
70創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 22:14:51 ID:8dJMO2bm
あれ、土曜日の2日後の夜は月曜の夜じゃないんだ
僕初めて知ったよ
71創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 23:12:27 ID:xPU0n4Jp
投下が来たのかと思ったら明後日という字がマジで読めない子だったのかorz
72創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 00:17:02 ID:/aH2Qp71
まぁこの人の投下遅延は今に始まったことじゃないからねぇ…
こうも繰り返されると流石に…
ある程度構想が煮詰まった後、またある程度書き進めてから予約するとか
方法はいろいろあると思うんだが
73創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 00:20:21 ID:vCVRQLCB
まあ焦ることはないですからね。
とはいえ、ある程度書きためてからのほうがいいとは思います。
74創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 02:42:47 ID:24HOfLsf
まぁ今月中に投下あれば御の字だと思ってますよ、この人の場合
75創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 10:06:42 ID:FcjKFD8G
◆F0cKheEiqE「いつを起点にした明後日かは明言していない。つまり1年後の今日から見た明後日でもよいのだよHAHAHA」
76創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 12:35:01 ID:hdTSgLv5
なんか荒れてる?
ともあれ、楽しみに待ってます。
77創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 14:20:08 ID:J4AviYie
時間はかけるけど、いつもそれ以上のクオリティ出してくれるから。
その辺りは安心している。
78創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 14:46:32 ID:rzbd4aQQ
同意。同じものを書け、と言われたら書ける気がしない
79創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 19:43:56 ID:RvZnoqmm
ここは書き手が少ないから、ある程度書き溜めてから予約してもいいと思うけどね
80創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 06:14:04 ID:IExZyX6t
>>70
どうやら1〜4日後ではないようだ
81創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 06:41:54 ID:cVl1UVdK
早く投下してほしいという気持ちはわからんでもないが
個人攻撃はそのへんで終了な。とくに読み手なら。
予約ってのはそもそも書き手が被らないためにあるもんだし。
書かれてないパートの続きを自分で書いて投下したほうがよほど建設的だよ。
82創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 15:49:59 ID:B1BujqTp
保守
83創る名無しに見る名無し:2009/11/05(木) 11:43:08 ID:RWna8vpT
烏丸少将希望
84 ◆UoMwSrb28k :2009/11/08(日) 07:51:05 ID:NfZs6nKv
桂ヒナギク、沖田総司、伊良子清玄、芹沢鴨、石川五ェ門、細谷源太夫
予約させていただきたく存じます。
85創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 17:19:41 ID:7B6AXojQ
おお、ついに新撰組が合うのか
楽しみにしてます
86 ◆UoMwSrb28k :2009/11/11(水) 13:13:08 ID:RHEE+dQ8
すみません本日20時くらいに投下予定ですが、規制くらっているようなので、避難所に投下すると思います。よろしくお願いします。
87 ◆UoMwSrb28k :2009/11/11(水) 20:34:30 ID:RHEE+dQ8
避難所に仮投下しました。
よろしくお願いします。
とノ肆 酒蔵の外

気配を感じた伊良子清玄は、刀を抜いた。
盲目の清玄にとっては、当然の動作である。
この殺し合いの場にあっては、まずはいつでも攻撃できるようにしておかなければ、死活に関わる。
抜いた刀身の切先を地面に突き立てる。一見すると杖をついた盲人。しかしその真の姿は、逆流れの構えをとった剣鬼。
先刻、富田勢源と刃を合わせた際も、このようにして待っていたのだ。
こちらの気配を察したのか、相手が近寄ってくる。目明きなら話を、とも思ったが、相手からもピリピリとした殺気が感じ取れる。
上質だ。これは無言のまま刃を交わすことになるか…と思いきや、発せられた言葉はおよそ緊張感に欠けるものであった。

「こんにちは。面白い構えですね。あなたもこの試合の参加者ですか?」

世間話をするかのような口調と、放たれる殺気の落差に、清玄は戸惑った。
だがその戸惑いをよそに、殺気は容赦なく近づいてくる。迷いは盲目の剣士には致命的となる。
すぐに気を取り直し、逆流れの餌食にせんと腕に力を込め…。

「やめなさい!」

女の声が、両者の動きを遮った。


足利義輝たちと別れた沖田総司と桂ヒナギクは、酒蔵に向かっていた。
城下町を通ればまた違う出会いもあったであろうが、入口のところで地図を確認し、
迷わぬよう川沿いを歩くことを選択したため、誰とも遭遇することはなかった。
途中、一言二言会話をすることもあったが、急がないと芹沢が酔いつぶれているかもしれないという沖田の推測から、
自然と足早になり、ほとんど有益な情報を交わすこともなかった。
そして酒蔵に近づいたところで、沖田が清玄を見つけ、戦いを挑まんとしたのだった。

「沖田さん!強そうだからってすぐ試合しようとしちゃだめでしょう!相手は真剣持ってるじゃない!?」
「相手もその気なんだし、ふりかかる火の粉は払わないと。」
「自分から突っこもうとしてふりかかる火の粉もないでしょう!
それによく見て。この人目が見えないから、身を護るために構えてたのよ。
盲目の凄腕剣士って、些細な誤解から人を斬ったりして、悲劇の人生を歩んだりするんだから!」
「そんなものですか?」

ヒナギクが座頭○をしっかり見ていたかどうかは定かではない。
が、清玄の異様な構えを見てもさほど動揺することなく受け入れられたのは、21世紀からやって来て、
フィクション・ノンフィクション含めて様々な知識があったからだろう。

二人のやり取りをききながら、清玄はしばし沈黙していたが、やがて逆流れの構えを解き、一礼した。

「失礼した。某は伊良子清玄と申す。ご覧のとおりの有様故、まずは刃にて意を示さんとしたこと、お詫び申し上げる。」
「ごめんなさい。私は桂ヒナギク。この殺し合いには乗ってません。」
「沖田総司といいます。僕はちょっと興味あるんですけど…」
「だからダメだって言ってるでしょう!」
「ではあらためて。」

再び漫才が始まりかけたところに、清玄が会話に加わるかのように近寄りながら口をはさんだ。
しかし、その無造作な行動に込められた意思は、懇意ではなく殺意。
声を頼りに間合いをつめ、刀を薙ぐ。不意打ちであった。
ギヂッ

鋸がこすれるような不快な刃音が鳴った時、誰が一番驚いただろうか?

清玄は、威嚇のつもりで打込んだため、踏み込みが甘かった。
沖田は、清玄の動きを注視し、ヒナギクの動きはあまり見ていなかった。

それらを差し引いても、両者の腕を知る者が見たら、驚愕すべき光景であったであろう。

奥義の流れでないとはいえ、元虎眼流一虎双龍の一角、伊良子清玄の横薙ぎを右手の無限刃で受け止め、
その清玄に突進しようとした新撰組一番隊組長、沖田総司の動きを左手の鞘をかざして止めている少女。

「…ダメです。二人とも。」

わずかに声を低くして言ったヒナギクの姿は威風堂々。まさに完璧超人の姿であった。

ヒナギクはこの会場にあっても、独特の戦歴を持つ。
殺し合いをしてきたわけではない。かといって実戦は素人というわけでもない。
白皇学院高等部の生徒会長として過酷な伝統行事を行ったり、また学園を取り巻くちょっと非常識な人々に囲まれる中で、
日常ではありえない戦闘に巻き込まれ、剣術を駆使したこともある。
ここまで殺伐とした環境は初めてだったが、洞察力と適応力に関しては、参加者随一と言っていいだろう。
明らかに消えない殺気。不自然なまでに自然に近寄る清玄。こういうシチュエーションはすぐさまイメージできた。
避けてもよかったが、そうすると沖田と清玄が戦い始めてしまう。とっさの判断で、無限刃を抜いたのだった。


しかし、洞察力や適応力に優れているからといって、判断力も優れているとは限らない。
意外とうっかり者と評されることもあるヒナギクは、すぐに自分がドツボにはまったことを思い知ることとなった。

「へえ…やるじゃないですか。」

沖田が二歩、三歩と後ろへ下がった。引き下がったわけではない。
すうっ、と目を細め、どちらへ攻撃しようか、見定めているかのようである。

清玄の方もしばし受け止められた刃に力を込めていたが、ジャリッ、と無限刃をかき鳴らすように音を立てて、後ろに下がった。
威嚇ではあったが、斬殺も辞さない打込みをしたつもりだ。
避けはされても、かくも容易すく受け止められるとは思いもしなかった。
やはりここには雑魚はおらぬ。そう考えて刀を担ぐ。「流れ」の構えである。

「…ダメですよ。二人とも。」

もう一度、ヒナギクが言った。見た目は冷静に立ち回っているが、内心はかなりパニック状態だった。
これはまずい。とっさに止めたが、後先のことを考えていなかった。
二人とも自分を軽視していたので今のは防げたが、次は油断しないだろう。
これはどうすべきか…。
ヒナギクは必死に考え…こんな時に状況を打破してくれそうな人物を思い出した。
桂雪路…お姉ちゃんならこういうときは…そう、強気に、えらそうに、口で自分のペースに巻き込む。これだ!

まずは極力冷静を装いながら、沖田に向かって言う。

「どうしてもやるって言うなら、沖田さんは手を出さないでくれる?仕掛けられたのは私なんだから。」

これは、沖田が勝手にしかけるのを防ぐと同時に、自分へも攻撃しないようにけん制したものである。
そして沖田が動かないのを確認すると、やおら伊良子に向き直り、居丈高に言い放った。

「伊良子さん…だったわよね?戦うつもりみたいだけど、あなたには致命的な弱点があるわ!教えてあげましょうか?」

「…?」

「それは…」

「…」

「こっちから間合いに入っていかないと、攻撃できないのよ!!」




沈黙が流れ…

ほぼ正確に、清玄がヒナギクへと踏み込んでいく。
声を出しているので、位置がわかるのは当然といえば当然である。

「キャアッ!」

切り込まれるはるか手前からヒナギクは身を大きく引いて…というよりはほとんど逃げるように後ずさりし、距離をとった。
ここまで逃げに徹されると、いかな流れであろうと届くものではない。

「ちょっと!今のところは『ガーン!!』ていう効果音とともにかたまるのがお約束でしょう!?」

ハヤテあたりがいたら「そんなの今時ギャグまんがでもなかなかお目にかかりませんよ」とでもつっこんだことだろう。

――そういえばお姉ちゃんは威勢だけはいいけど、事態が好転したことなんてほとんどなかったっけ。

そう思って激しく後悔したが、そこは負けず嫌いなヒナギクである。さらに言葉をつなげた。

「でもこれでおわかり?全力で避けたら、あなたでは追いつけないわ。
つまり、あなたの攻撃は私には通用しないのよ!!」

ビシィッ、と指をさした際のお互いの距離およそ10メートル…六間ほど。
先ほどと比べると、あまりかっこよいものでなかった。
ヒナギクの言葉に、再び沈黙が流れたが、先ほどのような重苦しいものではない。清玄が無言で刀を納める。
白けた、というよりは、何か別のことを考えている風であった。

「わ、わかってくれたようね。」
「左様。某の進むべき道は、まずは剣に在らず。」

むしろ自分自身に語りかけるようにつぶやいた清玄は、喝と目を開いた。

「心眼を開くことと見つけたり。」

にいっ、と笑ったその顔にある両眼は、横一直線に斬られている。
もはや光を灯さぬはずの目の奥から、不気味な光が放たれたかのように見えた。
その異形に、ヒナギクは思わず構えなおしたが、清玄はそれ以上何をするわけでもなく、慇懃に一礼する。

「ご教授かたじけない。失礼する。」

そう言って、あまりにも無防備にくるりと背を向け、歩き出した。
盲目故スタスタというわけではなかったが、悠然と城下町の方へ向かっていく。

「ちょ、ちょっと待って!」
「ふうん、そういうことですか。」

置いてきぼりにされた感のある沖田は、やや残念そうな顔をしたが、追おうとはしなかった。

「どういうこと?」
「今言った通りですよ。あの人、とても強いですけど、目が見えないから、仕掛けるのを待たねばならない。
相手に戦意がないと、どうしても今みたいになってしまう。だからまず心眼を開く修行をするってことですよ。
現にほら、今刀を杖代わりにせずに歩いているでしょう?目が見える人と変わらぬ動きを身につけようとしてるんですよ。」

確かに、普通盲人は歩く際は杖をつき、障害物を把握しながら歩くものだが、それをしていない。
あくまで目が見えるかのように動いている。尋常な集中力ではなしえないだろう。あれをずっと続ける気だろうか。

「心眼を開く修行って…要するに今度は容赦なく攻撃してくるってこと?」
「ええ、だから僕も見逃したんですよ。次に会った時は、もっと強くなってると思うんで。」
「ちょっと沖田さん!!」

沖田に向き直って、ヒナギクは再び緊張した。目の色がさっきと変わっていない。
沖田はヒナギクの腕前を見てしまった。そして清玄を半ば故意に見逃した。
と、すると、次に予想される行動はひとつ。

「さて、邪魔者もいなくなりましたし、遠慮なくやりましょうか。」

ヒナギクはそう言われることを予想し、どう言い返そうか思考を巡らした時、酒蔵の裏の方から別の声がきこえた。

「おいおい騒がしいと思ったら沖田君じゃないか。」


「ん?」
「ム?」

時は少し遡る。芹沢鴨、石川五ェ門、細谷源太夫の三名は、一人を除いて不本意ながら酒盛りに興じていたが、
公方様の話題あたりから話がすれ違い始め、酒が入っていることもあって、情報交換は一向に進まなかった。
しばし口論は続いたが、どうにも噛み合わないためにどちらともなく黙りこくってしまい、
源太夫は年のせいもあってかうとうとしだしていた。
残った二人も、しばし交代で寝ようかと話をしかけていたとき、人の気配を察したのだ。

「酒蔵の方か。ちと様子を見てくるか。」
「拙者も参ろう。」
「手負いでその刀では、何の役にも立たんぞ。そこのぼやき老人と隠れていたまえ。」
「いや、なにやら言い争いをしているような声がきこえる。相手が徒党を組んでいれば、立っているだけでも頭数はいるだろう。」
「フン。どうなっても知らんぞ。」

芹沢にやや遅れて、五ェ門も立ち上がった。傷は痛むが動けなくはない。
軽く寝息をたてはじめた源太夫を起こさぬよう、そっと外へ出る。
五ェ門としても、源太夫を独りにするのも気になるところだが、芹沢を独りにするのはもっと気になるところである。
この男、どうにも気に喰わないが、現況頼れる唯一の戦力であることは間違いない。
かといって交渉ごとをうまくできるとは思えない。
無口な自分にどこまでできるかわからないが、妙な行動を起こしていさかいが広がるのは避けなくてはならなかった。

そして様子を見に行くと、若い男女が立ち合おうとしている。
事情はわからぬが尋常なことではない。飛び出すべきか、と芹沢を見た時、先に芹沢が無造作に歩み寄り、声をかけたのだった。

芹沢を見た沖田は、にこやかに話しかけた。

「芹沢さん!やはり酒蔵においででしたか。」
「やはりとは失敬だが、まぁその通りだな、ワハハハハハ。」

沖田と芹沢が和気藹々と話し始めたので、ヒナギクもようやく緊張を解いた。
沖田としては連戦、乱戦でもいいから続けたい気持ちもあったが、芹沢がしらふではなく、かといって泥酔状態でもないこと、
そして何者かはわからないがもう一人現れたことなどから機を逸し、かわりに例の頼まれごとを思い出したのだ。

「では先に用件の方を済ませましょうか。桂さん、また後ほど。」

意味深な言葉に、ヒナギクは一瞬めまいを感じた。


ひととおり自己紹介を終えた後、沖田が足利義輝からの伝言を話した。

「と、いうわけで、正午に城に集まって欲しいとのことでしたので、やはりここは芹沢さんが我々の代表として会って欲しいと思ってですね…。」
「ちょっと待て沖田君。本当に相手は義輝公だったのか?」
「証拠はないですけど、嘘を言っているようには思えませんでしたね。太刀筋もなんていうかな、古い型に思いました。
古いといっても弱いわけじゃなくて、こっちもかなりやられちゃったんですけどね。」
「ふむ…」
「それに、佐々木小次郎とも会いましたよ。」
「ほう!佐々木小次郎に?」
「燕返しの太刀筋は話にきくとおり。でもその速さはききしに勝るものでした。
ですから人物帖にある人たち、本物なんじゃないですかね。僕は死者を蘇らせたんじゃないかと思うんです。
ただ、佐々木小次郎は宮本武蔵のことを知らなかったし、義輝様もご自分が討ち死にされたことをご存知なかったので、何か変なんですよ。
僕も記憶は曖昧ですし、記憶を消す術があるんじゃないかとも考えたんですが、よくわからないです。」
「う〜む。」

芹沢は腕組みをした。突拍子もないことだが、勘の鋭い沖田の言葉は、特に理を越えた部分では説得力を持つ。
また、ある意味純粋であるので、このような状況で不必要な嘘を言う輩ではない。
この御前試合は一体どうなっているのだろうか。

「あの…」

考え込む芹沢に対し、おずおずと、ヒナギクが手を上げた。

「私、さっき沖田さんと会う前に、新見さんと会ったんです。他にやることがあったみたいで、すぐ別れちゃったんですけど。」

その言葉に芹沢はもはや驚かなかったが、当然の疑問を発する。

「新見君ならつい先日、切腹したはずだが。」
「新見さん、局長って名乗ってました。皆さんのこと心配してましたよ。」

さりげなく新見の株をあげるような言葉を混ぜつつ、ヒナギクが付け加える。
「局長」という言葉に、芹沢は眉根を寄せた。

「新見君は三月程前に局長から副長へ降格されている。確かに傲慢なところもあるが、俺や近藤君がいるにも関わらず、局長と名乗るのは妙な話だな。」
「ええ。ですから今までの皆さんのお話から察するに、死者を蘇らせて記憶を消したんじゃなくて、連れてこられた時期が違うんじゃないかと思うんです。
義輝…様は討ち死にする前、佐々木小次郎は武蔵との決闘の前、新見さんは芹沢さんが連れてこられた時期から三ヶ月前ということになると思います。
どんな術かはわかりません。私たちを含めて、違う歴史を持つ世に来てしまったのかもしれません。」

言葉を選びつつ、ヒナギクは自分の推測を説明した。
タイムスリップとかパラレルワールドとか簡潔に説明しやすい用語はあるが、どれも通じるはずもない。
江戸時代の人にどこまでわかるか疑問だったが、これが精一杯の説明だった。


「ふむ。ならばここは、時を越えて剣豪たちが集う世というわけか。にわかに信じがたいが…そうか!」

芹沢が突如ポンと手を打った。そして五ェ門に向き直る。

「君、いつの生まれだ?」
「…しっ、知らぬ!」

とっさに応える五ェ門に、芹沢は得心したように大きく頷く。

「そうだろうそうだろう、君は天下の大泥棒、石川五右衛門の若き頃の姿だ。」
「なっ…」
「石川五右衛門が剣の達人とはとんときいたことはないが、歌舞伎はしょせん創りものだからな。
今の話とこやつの無知無学ぶりから察するに、五右衛門の若かりし頃に間違いない。」

反論しようとして、五エ衛門は考え直した。
言われようは気にくわないが、先ほどまでどう言い繕おうか迷っていたことについて、勝手に納得してくれた。
ここは誤解されたままの方が都合がよいのではないか。
そんな五ェ門の思惑にかまわず、芹沢は続ける。

「いや石川君、君はこれから天下に名を馳せる大泥棒になって、太閤殿下のお命を狙った挙句捕まって、
油で煮られるという、波乱に満ちた人生が待っている。まぁ悔いのないように生きたまえ。」
「芹沢さん、悪いですよそんなこと言っちゃあ。」
「何を言う。この言葉を糧に、別の人生を歩むかも知れぬから、助言してしんぜるのだ。
それに沖田君こそ、話しぶりからすると義輝公に討ち死にされることを言ったのだろう?
こちらの方が始末が悪い。」
「そうなんですか?」
「義輝公は将軍家を建て直そうと何度も近江へ逃れ、再起を図ったという。
ご自身が討死ということは、即ちその努力が報われなかったと言っているようなものだ。
心中穏やかならぬことであったろう。」
「あの…」

得意げに話す芹沢に対し、再びおずおずと、ヒナギクが手をあげた。

「あんまりそういう話、しない方がいいと思います。実は私、皆さんのいた時代から百四十年ほど先の時代から来たんです。」
「何ィ?」

過去の人物に対し、ある種の優越感に浸っていた芹沢は、一瞬固まり、表情が変わる。
歴史上で粗暴と評されることの多い芹沢に意見するのは、ヒナギクといえど勇気のいることだった。
しかし、会話を交わすうちに、今後大変重大な問題が起こる可能性があることを、頭脳明晰なヒナギクは思い至っていた。
ひとつ息をつき、意を決してその重大な言葉を口にする。

「今、近藤さんとあまりうまくいってないんですよね?」
「――!?」
97創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 22:35:16 ID:LwLwiHg+
支援
98創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 00:26:13 ID:n7zjIc7h
誤字報告
>>96
>反論しようとして、五エ衛門は考え直した。
五エ衛門→五ェ門
「でも、もし近藤さんが違う時期から連れてこられてたら…態度は違うと思うんです。
新見さんのこともそう。出会った時に、面と向かって三ヵ月後に切腹するなんて言ったらかわいそうです。
そういうことを話していたら、やりにくくなると思います。
だから誰と会っても、こういう話は、できるだけ控えた方がいいと思います。私もこれっきりにしますから。」

ヒナギクの言葉に、芹沢はちらりと沖田の方を見た。表情だけで大体察したが、口に出して確認する。

「沖田君、この娘に近藤君のことを話したのか?」
「いいえ。全く。」
「…なるほど。我々より先の時代から連れてこられたことだけは、確かなようだな。」

百年以上先ということは、形はどうあれ、自分たちが死んでいるはずだ。一瞬、様々な思惑が頭を巡る。
しかし、ヒナギクの目からは、これ以上は話さないという固い決意が伺える。
芹沢はしばしヒナギクを見続けたが、やがて沖田に矛先を変えた。

「沖田、お前はいつの時期から来た?」
「文久三年師走です。何日だったかは覚えてませんが、正月の準備をしていたところなので。」
「ふぅ…ん。俺より二月ほど先か。」
「十月より後のことでしたら、隊の再編が行われて…っと、それも話しちゃだめみたいですね。」

ヒナギクの表情を見ながら、沖田はしれっと言った。
「暗殺した人に余計なこと言っちゃだめでしょう!」と目で訴えていることがわかる。
沖田の嘘よりもヒナギクの表情で事態がばれてしまいそうだったのだが、少なくともその場では、芹沢は深くは追求しなかった。
言ったことは別のことである。

「まあ、確かに、石川君の人生を言ってしまった我輩も不用意だったかもしれん。以後、気をつけよう。」

しおらしく、というよりは、やや形式的な口調で、芹沢は言った。同時に殺気をはらんだ表情も消える。
しかし、すぐに気を取り直したかのように、ころりと表情を変える。

「だが、我が同志たちはともかく、清河と会ったらすぐ斬り捨てるぞ。そして死に際に嫌味のひとつも言ってやる。
屁理屈ばかりたれておるから二度も斬られるのだ、とな。」

そう言って再びガハハハと笑い出した。
この時清河は既にこの世になく、しかも斬った相手も同一人物であるのだが、それはまた別の話である。

「ちょっと…」

あまり反省の色がない芹沢に、ヒナギクはつっこもうとして、やめた。
心中はともかく、少なくとも表面上は受け入れてくれたようなので、内心ほっとした部分もあった。
かまわずに芹沢はその場を仕切る。

「よし。ではまず義輝公にお会いして、沖田君の件をお詫びをせねばならんな。」
「はあ、僕の件ですか。」
「うむ。会見は昼だったな。しばし間もあるし、まずは皆の出会いを祝して、酒でも飲もうではないか。」
「ちょ…私お酒は飲めません!」
「かまわんかまわん。ついてきたまえ。奥にもう一人、老人が寝ているから紹介せねばならんしな。
今の話をきいたら、あやつの無知ぶりもうなずける。いつの時代の老人か知らんが、きっとびっくりするぞ。」

そう言うと、芹沢は二人の肩をやや乱暴に叩き、裏の母屋へと足を向けた。


ヒナギクは考える。今にして思えば、新見が沖田のことをヒナギクに託した、というよりは押し付けた時は、
嘘が混じっていたこともわかるし、それがやむを得なかったのもわかる気がする。
沖田は素でこういう性格だということが、同行するうちにわかった。そして新見は芹沢派で、沖田は近藤派だった。
となれば、新見としては、芹沢がいない中で沖田と同行するのは気まずいが、かといって放っておくこともできない存在だったのだろう。

――錯乱してるようだから女の私から話してみてくれ、っていうのは、よく考えてみれば苦しい頼み方よね。初対面なのに。

後世の物語等では、新見は決してよく描かれていない場合が多いが、きっと策士のようでいて、こういう抜けた部分があるからだろう、
と、ヒナギクは好意的に解釈した。
また、それを請け負ってしまった自分もちょっと冷静じゃなかったかも、と、独り反省する。
一方で、芹沢と沖田の方は、描かれ方も千差万別だが、会ってみてなるほどと思う部分も多い。
歴史上では袂を分かった芹沢と沖田、先程の沖田の発言には血の気が引いたが、どうにか口裏をあわせてくれた。
今後、それぞれが抱く心情に溝があるようであれば、自分がうまく仲をとりもって、ここではいさかいがないようにしなくてはならない。
もうひとりの石川五右衛門…イメージとは随分違うが、伝説上の人物だし、史実ではあんな感じだったのかもしれない。
というかあの姿…ヒナギクの脳裏に違う人物が浮かびかけたが、深くは考えなかった。
ナギやワタルでなくとも知っている、国民的認知度が高いあのキャラクターにも思えるが…
ここがいくら非現実的な場であっても、実在するなんてありえない。フィクションだしアニメだし。
かわりに思い浮かべたのは、新見のことである。

――できれば新見さんと合流したいなあ。芹沢さんとは親しかったみたいだし。

足利義輝との会見にせよ、他の新撰組の隊員とばったり会った時にせよ、うまく交渉させるのは、自分だけでは荷が重そうだ。
しばらく緊張が続きそうな展開に、ヒナギクは小さなため息をついた。


【とノ肆 酒蔵裏の母屋外/一日目/早朝(黎明直後)】

【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
【状態】健康
【装備】無限刃@るろうに剣心
【所持品】支給品一式
【思考】基本:殺し合いに否定的な人を集めて脱出。
一:足利義輝たちと合流する。
二:沖田総司が馬鹿な事をしないよう見張る。
三:今後もチャンスがあれば新見の株を上げる。できれば合流したい。
四:柳生十兵衛を探して、柳生宗矩の事を聞きたい
五:自分の得物である木刀正宗を探す。
※自分たちが何らかの力で、様々な時代から連れてこられたことを推測しました。
※石川五ェ門を石川五右衛門の若かりし頃と思っていますが、もしかして…。


話をきいた沖田は、割合冷静にその推測を受け止めていた。
既に佐々木小次郎、足利義輝という歴史上名高い人物に実際会っていたこともある。
ヒナギクの推測に沿えば、自分の推測では説明できない部分もいろいろと辻褄が合うし、
ヒナギクが初対面の時から自分のことを知っている風だったことも納得がいく。
結局どんな術で何のためにこの御前試合が行われているのかはさっぱりわからないが、沖田にとっては、そんなことはどうでもよかった。
ヒナギクが桂小五郎の変装ではないかという考えも検討はずれだったが、かなりの使い手であることがわかったのは成果であった。
ただ、先程の初手は見事だったが、その後は明らかに動揺していたみたいだし、本気を出させるのは苦労しそうである。
だが、一対一で追い詰められた状況をつくれば、いい勝負をしてくれることだろう。
それだけでなく、死ぬ前というのでなければ、過去の天寿を全うした剣士たちも、この御前試合の趣旨上、全盛期の頃の年齢である可能性が高い。
今後の楽しみが増えたといってもいい。
それにヒナギクの言ったとおり、新撰組の面々も、年齢によってその実力も、そして人間関係も、かなり異なっている。
特に芹沢である。話からすると、死ぬ直前から連れてこられたようだ。
近藤や土方や山南が、自分と同時期以降の時代から来たのであれば、芹沢と会った時にどんな展開になるか、想像もできない。
ヒナギクは釘を差したつもりだろうが、受け取りようによっては煽っただけにも思える。芹沢の心情は考慮せねばなるまい。
と、いってもその心配はヒナギクとは間逆で、酔った勢いでしかけられたくはないし、先んじて近藤や土方とやって欲しくない。
やるとするなら自分と、しらふでやって欲しいということである。
実のところ、もし問い詰められれば「僕もあなたの暗殺に加わりました」とでも煽って、勝負をしてもよいとは思っていた。
だがヒナギクの手前もあるし、義輝との会見のこともある。まだその時期ではないと考え、先ほどは予め用意していた答えを言ったのだ。
せめて芹沢の酔いが醒め、全力が出せそうな状態であることを見計らわねばならない。
芹沢相手にせよ、ヒナギク相手にせよ、試合う場をつくりあげることを思案しなくてはならなかった。

――義輝様との会見次第かな。

対立して乱戦になるか、別勢力と対決して乱戦になるか…。
新たな相手と戦ってもよいし、乱戦の中で分散した際に、二人きりの状況を作り上げられれば上々だ。
いずれにしても、今後多くの剣豪と刃を交えられそうだ。
情報交換をし、また同行者が増えて、沖田は期待に胸を膨らませていた。
常人が考える期待とは、いささか異なるものであったが。


【とノ肆 酒蔵裏の母屋外/一日目/早朝(黎明直後)】

【沖田総司@史実】
【状態】打撲数ヶ所
【装備】木刀
【所持品】支給品一式(人別帖なし)
【思考】基本:過去や現在や未来の剣豪たちとの戦いを楽しむ
一:芹沢を正午に城に行かせて義輝と会わせる。
二:芹沢、ヒナギクと全力で勝負する状況をつくりたい。
三:伊良子清玄に再会できたら勝負したい。
【備考】
※参戦時期は伊東甲子太郎加入後から死ぬ前のどこかです
※桂ヒナギクの言葉を概ね信用し、必ずしも死者が蘇ったわけではないことを理解しました。
※石川五ェ門を石川五右衛門の若かりし頃と思っています。


ヒナギクと沖田の相反する心配を一身に受けている芹沢はというと、今どう面白くするか、ということに思考を切り替えていた。
あの小娘の表情を見ればわかる。きっと今後、自分は近藤と完全に決別し、どちらかが斃れるのであろう。
単純に勢力から考えれば、新見を失った自分の方が不利。そして小娘は今後話さない方がいいと、ことさらに言った。
つまり自分が負ける側か。そこまで芹沢は看破した。
追放か切腹か暗殺か討死か。いずれにせよろくな人生が待っていなかったということだ。
しかしながら一方で、百年後、こんな小娘まで自分たちの名を知っているということは、それなりに名が知れ渡ったのだろう。
それがわかっただけでも満足だった。
だとするとなおのこと、この御前試合は一から自分のやりたいことをやれる、格好の場といってよいだろう。

沖田にしては面白い話と、面白い小娘を連れてきた。上出来だ。
剣豪将軍とまで言われた者と会うというのであれば、時代も思想も違っても、興味深いものだ。
さすがに昼まで飲む気はない。この小娘に一杯くらいは酌でもさせて、沖田に見張りをさせつつひと寝入りして、それから城へ向かおう。
将軍様と共にあの気にくわない黒幕を斬るもよし。将軍様がいけすかない態度をとるようであれば、歴史どおりの結末にしてやるもよし。
どちらにしても面白くなりそうだった。

そうすると四人となった同行者をどうすべきか。
まずはあの小娘、桂ヒナギクと名乗ったか。偶然なのかふざけているのかわからないが、名乗りからして面白い。
生意気なところはあるが、頭もよさそうだし、女にしては腕も立つようだ。
だが考え方が甘い。先ほどの話も気遣いのつもりだったのだろうが、要は相手の態度次第。
いきなり斬り合いになる場合もありうるということをわかっていない。
使えるうちは行動を共にしてもよいだろうが、自分の行動を邪魔するようなら容赦するつもりはない。
そして五ェ門と源太夫についてだが、この手負いと老人は足手まといにしかならない。
置いていきたいところだが、言動からして、おそらく同行を希望するだろう。
無理やり放り出すか。道すがら盾くらいにはなるだろうか。鬱陶しいから斬ってしまおうか。
それに何より気をつけなくてはならないのは、沖田の態度だ。
沖田は独特の純粋さと、世渡り上手な老獪さを併せ持っている。
先程の話と小娘の表情からも、沖田の連れてこられた時期については、あまり信用できない。
だが、近藤子飼いであるにも関わらず芹沢とも親しかったように、沖田本人は派閥の対立などに左右されるような男ではない。
命令であれば忠実に遂行するが、それ以外であれば自分の思うままに行動する性分である。
即ち、注意すべきは、老獪さの方でなくて、純粋さの方。剣豪との勝負を求める姿勢の方だ。
その証拠に、先ほど自分が現れる際、明らかに小娘と立ち合おうとしていた。
この御前試合の趣旨は彼好みなものだ。状況によっては敵味方区別なく、自分のやりたいように勝負を挑むだろう。
その相手が自分であることも十分考えられる。
つきあってやってもよいが、面白いことに水を差されるのだけは勘弁してもらいたい。

――邪魔になるようなら、全員斬っちまうだけだな。

悪意や憎しみを持っているわけではなく、ごく自然に、芹沢は物騒なことを考えた。
先ほど情報交換をする際は、浪士組の名乗りをあげ、局長としてまとめあげた教養が前に出たが、
ある程度事態を把握し、落ち着いてくると、力士を斬り、京都で乱暴狼藉を繰り返した粗暴な欲望が頭をもたげてくる。
自覚しているかどうかは定かではないが、芹沢もまた沖田と同様、どこまでもマイペースに、やりたいことを思案していた。
【とノ肆 酒蔵裏の母屋外/一日目/早朝(黎明直後)】

【芹沢鴨@史実】
【状態】:若干酔っている
【装備】:近藤の贋虎徹、丈の足りない着流し
【所持品】:支給品一式 、ドブロク入りの徳利二つ(一つは半ばまで消費) いずれも母屋に置いてあります。
【思考】
基本:やりたいようにやる。 主催者は気に食わない。
一:もう一杯飲んでから寝るか。
二:昼になったら沖田たちと城へ向かい、足利義輝に会う。どうするかその後決める。
三:桂ヒナギクは利用価値がありそうだが、石川五ェ門、細谷源太夫は足手まとい。沖田を少し警戒。
四:会った時の態度次第だが、目ぼしい得物が手に入った後、虎徹は近藤に返す。土方は警戒。
【備考】
※暗殺される直前の晩から参戦です。
※桂ヒナギクの言葉を概ね信用しました。
※石川五ェ門を石川五右衛門の若かりし頃と思っています。





そして。
黙って裏の母屋にむかいながら、五ェ門はヒナギクに目を奪われていた。

「可憐だ…。」

セーラー服姿ということは、まだ高校生のはずだが、頭と口はまわるようで、自分の言いたいことや、気にしていたことを解決してくれた。
だが、こんな様々な時代の人物が入り乱れる中で、先ほどのような真っ正直なやりとりがどこでも通用するとは限らない。
そして、芹沢も沖田も、積極的に共闘してくれるとも思えない。
芹沢は言わずもがな。沖田もヒナギクに立ち合おうとしていたところを見ると、少なくとも危機が迫っても決して守ってくれるようには見えない。

――自分がこの少女を守らねば。

口には出さないが密かにそう決意し、五ェ門は三人の後をついていった。


【とノ肆 酒蔵裏の母屋外/一日目/早朝(黎明直後)】

【石川五ェ門@ルパン三世】
【状態】腹部に重傷
【装備】打刀(刃こぼれして殆ど切れません)
【所持品】支給品一式 母屋に置いてあります。
【思考】
基本:主催者を倒し、その企てを打ち砕く。
一:桂ヒナギクを守る。
二:斬鉄剣を取り戻す。
三:芹沢・沖田を若干警戒
四:ご先祖様と勘違いされるとは…まあ致し方ないか。
【備考】
※ヒナギクの推測を信用し、主催者は人智を越えた力を持つ、何者かと予想しました。
※石川五右衛門と勘違いされていますが、今のところ特に誤解を解く気はありません。


そんな外の騒ぎを露知らず。
細谷源太夫はごろりと横になり、小さな寝息どころか、大いびきをかいて眠っていた。

「う〜む、わからん…」

時々、寝言をつぶやきながら。


【とノ肆 酒蔵裏の母屋内/一日目/早朝(黎明直後)】

【細谷源太夫@用心棒日月抄】
【状態】アルコール中毒 就寝中。
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:勇敢に戦って死ぬ。
一:話がわからぬ…。
二:五ェ門に借りを返す。
【備考】
※参戦時期は凶刃開始直前です。
※この御前試合の主催者を江戸幕府(徳川吉宗)だと思っています。
※まだ沖田総司、桂ヒナギクのことを知りません。


153 :運命とか知ったり知らなかったり ◆UoMwSrb28k:2009/11/11(水) 20:26:05



「離れぬ…か。妙な組み合わせだが。」

清玄は橋を渡り、城下町入り口近辺で一時足を止め、つぶやいた。
盲目でありながら橋を渡りきることができたのは、この会場に何かの力が働いているからだろうか。
視覚を除いた清玄の四感は明らかに研ぎ澄まされてきている。
先刻も、どうにも場違いな空気のこともあったが、それよりも新手の気配を感じ取り、立ち去ったのだ。
誰の気配も消えないし、殺気も発せられないところを鑑みると、どうやら仲間となったらしい。
二対一ならまだしも、四対一では分が悪い。立ち去って正解だったようだ。
だが、感覚が研ぎ澄まされた清玄としては、むしろ不思議でならない。
明らかに異なる意思を持つものが同行している。
たとえるなら、狼と虎…いや、女の方は虎というよりせいぜい山猫か。
その違和感は、二人が四人に増えたところで変わるものでなく、むしろ火種が大きく膨れ上がっているように感じた。
餓えれば己たちで喰らい合う狼の群れ…そこに山猫が一匹紛れ込んでいる。仲良くやれるとも思えない。
いずれにしてもあの群れは、しばらく様子を見るしかない。別れるか、生き残った者を斬るのみである。

それよりも自分のことだ。
あの女の言葉、随分とふざけた言われ方であったが、痛いところをつかれたのも事実だ。
虎眼流への復讐の際は、相手が戦意があり、むこうからかかってきたから斬ることができた。
少なくともそういう状況をつくりあげてきた。
しかしこちらに来て二度続けて、相手が手練れであるにもかかわらず戦意がなく、思うような勝負ができなかった。
身の回りの世話をしてくれるいくもいない。
目明きの誰かと行動を共にしようとも考えたが、先ほどのような妙な組み合わせだと、交渉もうまくできるものではない。
このままではいかん。清玄は頭をふった。

この御前試合、最後の一人になるまで戦わねばならぬという。
最後の一人になるためには、むかってくる者だけでなく、逃げ回る者も斬れるようにしなくてはならない。
そして何より、独りでも戦い抜けるようにならなくてはならない。
人の気配や動きについてはほぼわかる。立ち合った時、わずかな息遣いや動きも把握できるように修行してきた。
だがそれだけでは不十分だ。

「こちらにはもっと大勢…か。」

清玄は振り向いた。そこは城下町。風の流れや音から、家屋が密集していることくらいはわかる。
そして、盲目故強く感じ取れること。あちこちで剣気や殺気が発せられては消え、離合集散が繰り返されている。
家屋の近くや屋内は、清玄にとっては最も不利な戦場である。
人の気配は読み取れても、初めての場所で、そしてすばやく動かねばならぬ中で、壁や柱の位置を正確に把握することは困難だ。
多くの剣豪たちがひしめいている城下町は、自分にとっては文字通り死地となる可能性が高い。
だが、屋内での勝負で勝つ見込がなければ、どうしてこの戦場で勝ち残ることができよう。
それに、かつて逆流れのきっかけを見出したのも、山林で夜盗に襲われ、木に刃が刺さってしまったことからだった。
また何かきっかけをつかめるかもしれぬ。

清玄は城下町に足を踏み入れた。

心眼を開くために。

より高みを目指すために。


【とノ肆 北西 橋をわたった城下町入口付近/一日目/早朝(黎明直後)】

【伊良子清玄@シグルイ】
【状態】健康、強い復讐心
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】:『無明逆流れ』を進化させ、この試合に勝ち残る。
一:心眼を開き、どこでも誰とでも立ち合えるようにする。
二:とにかく修練する。
※岩本虎眼を斬った後、藤木源之助の仇討ち前からの参戦です。
代理投下終了です。

それと投下乙!

個人的には即物的凶暴性と、理知的強かさを兼ね備えた芹沢君の描写がいいと思います。
こいつはいいトリックスターになってくれそうだ。

それとル○ン三世についてちゃんと知ってるあたりは、さすがヒナギクはハヤテ世界の住人wwww
正直予約のメンツ見た段階で、ヒナギクに死亡フラグ立ったかと思ったけど、
予想外の大活躍。
確かにハヤテ本編の描写見た感じだと、意外と化け物染みた能力なんですよね>ヒナギク
彼女の今後にも期待です。
107創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 15:30:45 ID:hQRyuYGv
何で時間空いたん?寝落ち?
中途半端さにイラっときて仮投下スレで直接読んじゃったぜ
108 ◆UoMwSrb28k :2009/11/12(木) 16:38:03 ID:pC3ZL6Um
代理投下ありがとうございます。
長文につき、さるったみたいな感じで・・・お手数かけました。
109創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 02:04:30 ID:5FN1TDiz
投下乙
新撰組二人がナチュラルに危険すぎるwwww
ヒナギクさんは斬られる前に胃に穴が開かないだろうか?w
そしてルパンwwww
110創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 03:15:49 ID:8OM0yXGK
くっ、ヒナギクさんはルパン知っててもシグルイは知らないか……!
まぁハヤテの世界観にモツチラは絶望的に合わないがw
111創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 04:35:38 ID:sN4WV9Qe
凄え、予約してから一カ月経ってるぜ……
112創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 05:34:01 ID:ywquCwdQ
いつまで経っても明後日がこないおw
113創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 16:07:04 ID:ClFXNT9D
きっと1000行の大作なのさ
114創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 18:09:32 ID:ywquCwdQ
完結しちゃうんじゃね?
115創る名無しに見る名無し:2009/11/19(木) 08:06:14 ID:HYt0Wxb7
明後日が待ち遠しいお
116創る名無しに見る名無し:2009/11/19(木) 12:52:10 ID:3sZjqhzC
1000行程度で完結するかよw
普通に改行したらせいぜい100KBくらいだぞ

…一行1000文字とかなら終わるかもしれんがw
117創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 05:41:47 ID:rLSeIXbh
1000行って本1冊分くらいじゃね?

改行厨なら1章で1000くらい使いそうだが
118創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 10:53:22 ID:C7Nm9L5o
保守
119創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 09:08:20 ID:RhfKcJsE
仮投下スレに予約きてた!
120創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 17:03:12 ID:25mG5W1W
マジで予約きてた!
どうもこの前の大量規制の余波で本スレに書き込めないみたいですね
121◇cNVX6DYRQU氏の代理カキコ:2009/11/28(土) 22:23:07 ID:25mG5W1W
規制により氏が書き込めないので仮投下スレより代理でコピペします。
みなさま下記予約の件よろしくお願いします。

156 名前: ◆cNVX6DYRQU 投稿日: 2009/11/26(木) 21:16:49
本スレに書き込めない状態が続いているのですが、こちらへの書き込みで予約は可能でしょうか。
可能であれば、岩本虎眼、藤木源之助、柳生連也斎、高坂甚太郎で予約します。
122霊珠に導かれて ◇cNVX6DYRQU:2009/12/02(水) 21:34:56 ID:4xO+QSN3
「先生、しっかりして下さい」
藤木源之助は石を枕に川辺で臥せる岩本虎眼の額に、川の水に浸した手拭を乗せる。
城下町で坂田銀時に殴られて気絶してから暫し、虎眼は時々うなされるばかりで一向に眼を覚ます気配がなかった。
木刀の当たり所が悪かったのか、他の原因があるのか、どちらにせよ藤木には打つ手がない。
どうしたら良いかわからず、辺りを見回した藤木の眼に、淡い光が映る。
不審に思って光の源をよく見ると、そこには小石に混じって光る珠が一つ転がっていた。珠の表面には「忠」の文字。
興味を持って拾い上げると、珠を持った手から温かみが伝わり、疲労が癒えて行く。
それを悟った瞬間、藤木は弾けるように動いてその珠を虎眼に握らせる。
効果覿面、師の荒れていた呼吸が穏やかになって静かな眠りに入ったように見え、ひとまず息をつく藤木。
だが、直後に虎眼が握る珠の光が強くなり始め、藤木は慌てて珠を取り上げると周囲を見回す。
と、北の方から、珠の光と同質の淡い光が、これもやはり徐々に光を強めながら人魂のように飛んで来ていた。

虎眼の枕元に刀を一本置くと、脇差を手挟んで珠を掲げつつ慎重に人魂に歩み寄る藤木。
近付くにつれて珠と人魂の光は呼応するように強くなって行き、珠の変化はあの人魂のせいだとはっきり悟る。
更に近付くと、既に予想していた事ではあるが、それが人魂ではなく、同様の珠を持った人間だとわかった。
だが、相手が化生の者でなかったという事実は、必ずしも藤木を安心させはしない。
今のような、背後に意識がない師を抱えた状況では、長大な木刀を持ち殺気立った男は妖怪以上に用心の要る存在だ。
警戒の念をあからさまにしないよう気を付けつつ男の出方を伺う藤木に対し、向こうは直截に話し掛けて来た。
「失礼。先程、この河を流されて来た者が居る筈だが、御存知ないか?」
言いながら、藤木の背後で寝ている虎眼を気にする様子を見せる。
この男がその流されたという者を見つけてどうするつもりなのか知らぬが、今は余計な事に巻き込まれたくはない。
「俺は藤木源之助、あちらは岩本虎眼先生だ。先生の具合が悪い為、少し前からここにいるが、誰も見ておらぬ」
正直に言って追い払おうとするが、相手は完全には納得していないようだ。
「ふむ、確かにこちらに来ている筈なのだが……。ああ、申し遅れた。拙者は「柳生!」」

いきなりの大声に驚いて振り向くと、眠っていた筈の虎眼が起き上がり、打刀を手にずんずんと歩いて来る。
その全身から溢れ出る殺気と、男に向けられた鋭い眼光を見れば、何をしようとしているかは火を見るより明らか。
対する男……虎眼が看破した通り柳生一族の正嫡たる厳包もそれに応じて珠を懐にしまうと木刀を構える。
あの老人にも岩本虎眼という名にも覚えはないが、柳生と名指しした上での挑戦を避ける事など厳包には考えられぬ。
藤木の戸惑いをよそに、虎眼と厳包の戦意は互いに刺激しあって高まり、戦端が開かれようとしていた。
123霊珠に導かれて ◇cNVX6DYRQU:2009/12/02(水) 21:36:22 ID:4xO+QSN3
「おのれ、柳生……!」
右拳に一撃を受け、親指を破壊された虎眼は厳包を睨みつけながら呻く。
元々虎眼は常人より一本多く指を持っているのだから、指一本潰された所で相手と五分になっただけとも言える。
それよりも致命的なのは、肝心の場面で敵の動きを完全に読み違えた事。
この男の新陰流は、宗矩のそれと一見似ているようで、根本の部分に差異があるらしい。
つまり、江戸柳生の知識のみを基に厳包の動きを予想するのは危険を伴うという事だ。
敵の動きを読み切れないなら、虎眼の打つべき手は唯一つ。どんな動きをしても防げない必殺の奥義を叩き込むのみ。
虎眼は刀を水平に構えると左手でその切先を掴む……虎眼流「星流れ」の構えである。

厳包は虎眼の構えを見て何らかの奥義の類いを放つつもりだと悟るが、ここでも選択したのは守りでなく攻め。
構えの形から虎眼の次撃が右方向への横薙ぎだと判断すると、舞うような動きで瞬時に虎眼の左側面に回り込む。
そのまま虎眼の左拳を破壊しようとしたところで、厳包の身体を戦慄が走り抜ける。
虎眼が横薙ぎを放つと同時に身体全体で回転することで、剣を一回転させて左側にいる厳包に届かせたのだ。
それを完全に見切った訳ではないが、厳包は本能が危険を察知すると同時に跳躍し、背面跳びの要領で虎眼の刃を飛び越えた。
しかし、跳躍の結果、厳包は虎眼に空中で背中を見せてしまう。
如何に柳生厳包と雖も、この状態で攻撃されれば対処の仕様がない。
一歩前に出て一息に厳包を両断しようとする虎眼だが、踏み出した足が柔らかい物を踏んで体勢を崩す。

そこにあったのは藤木源之助の身体。
厳包は、打ち倒した藤木の位置を意識の片隅で覚えておき、跳躍する際に、それが防壁となるように方向を調整したのだ。
万全な状態であれば、虎眼がこの程度の策にかかる事はなかったであろう。
しかし、今の虎眼は憎き柳生の面影を持つ男に出会った事で強烈な復讐心が喚起され、平常心を失っている。
強い想いは虎眼の剣に常以上の冴えを与えたが、一方で厳包に執着するあまり、他の者が目に入らなくなってしまった。
それによって生じた一瞬の遅滞……虎眼が藤木の身体を蹴り飛ばして構え直したときには、厳包は既に着地済み。
しかし、そんな事で虎眼は怯まない。大上段に構えると、渾身の殺気を籠めて腕を振り下ろす。

もしも、二人の戦いを傍で見ている剣士がいたならば、その者にはこう見えたであろう。
岩本虎眼が上段からの片手切りを放ち、柳生厳包が木刀の鍔でそれを受け止めたと。
だが、それは錯覚。岩本虎眼が振り下ろしたのは剣を握っていない空手であり、厳包の木刀にはそもそも鍔などない。
虎眼の凄まじい殺気と、それに応ずる厳包の気迫のぶつかり合いが、そんな幻を生じる程に激しかったのだ。
しかし、このぶつかり合いも所詮は前哨戦。続いて、虎眼の今度は刀を握った手を振り下ろす。
豪剣の使い手の渾身の一撃を木刀で受けるのは無謀。
そう判断した厳包は、間合いを外してかわそうとするが、そこで振り下ろされる刀の間合いが変化している事に気づく。
虎眼は斬撃と同時に柄を手の内で滑らせ、剣の間合いを伸ばしたのだ。
今からではかわしきれない、そう悟った厳包は、かわすのではなく攻勢に出た。
肋一寸……肉を斬らせて骨を断つ新陰流の剣理だ。
もっとも、厳包がこれから受ける傷は一寸程度の深さでは済みそうもないが、それでも止まるつもりはない。
例え自身が致命傷を受けようとも、必ず反撃をやり遂げて虎眼を斃す覚悟を厳包は固める。
そうなると、危険なのは虎眼の方だ。相手の身体に刀を埋めた状態で攻撃されれば満足な防御も回避も不可能。
だが、厳包が決死の反撃を狙っているのを気配で察しても、虎眼は剣を振り下ろす勢いを弱めようとはしない。
相討ち必至の状況でありながら、二人は己の剣が紙一重だけでも早く相手の息の根を止めると信じ、剣を振るう。
そして、二人の剣が交錯する。刃が肉を裂き木が肉を貫く音が周囲に響き、血が飛び散った。
一瞬の静止の後、二人の身体が同時に崩れ落ち……倒れる寸前、片方だけが踏みとどまる。
124霊珠に導かれて ◇cNVX6DYRQU:2009/12/02(水) 21:38:28 ID:4xO+QSN3
「お待ち下さい、先生。もうしばらく身体を休めなくては」
未だに混乱が収まっていないようだが、言葉を発するようになっただけ改善している。
そう考えた藤木は何とか虎眼を止めようとするが、虎眼の注意は厳包にのみ向けられていて藤木の事は眼中にない。
その間に虎眼と厳包の間合いはどんどん詰まって行き、そろそろどちらかが仕掛けてもおかしくない距離になっている。
「待ってくれ、先生は今っ!?」
二人の間に立ち塞がって今度は厳包を説得しようとした藤木だが、それは果たせなかった。
虎眼が無言のままの抜き打ちで藤木の背に斬りつけ、それとほぼ同時に厳包が木刀で藤木の鳩尾を突いたのだ。

虎眼も厳包も、特に藤木を害そうとして武器を振るったのではない。
虎眼にしてみれば、藤木は憎き柳生に斬り付けるのに邪魔な障害物であり、どかす為に切りつけただけの事。
対する厳包は、虎眼が刃を藤木に埋めたのを見、その身体が虎眼を牽制する良い武器になると考えて突いたまで。
そして、厳包の狙い通り、藤木の身体は突かれた勢いで吹き飛び虎眼にぶち当たろうとする。
虎眼は身をかわすが、藤木の身体に切り込んでいた刀が持って行かれて体勢を崩す。
そこに厳包は必殺の一撃を打ち込み――ガンッ――弾き飛ばされそうになって慌てて体勢を整える。
厳包の一撃を弾き返したのは虎眼の拳……拳撃を木刀の一撃に合わせ、受け止める所か逆に跳ね返したのだ。
(今の世にこのような技を使う流派が残っていたのか……)
前に戦った白井の洗練された剣とは真逆の、戦国期にもそうはなかっただろう虎眼流の荒々しさに戦慄する厳包。
だが、相手が強敵である事で厳包の戦意が削がれることは決してない。
それどころか、初めて見る異質な剣に興奮した厳包は、必死に探していた白井の事すら半ば忘れて虎眼に挑みかかる。

虎眼流開祖岩本虎眼と新陰流五世柳生厳包。
その実力は完全に拮抗していたが、実際の戦いは虎眼優勢で進んで行った。
二人の優劣を分けているのは情報量の差。
虎眼は若き日に厳包の大叔父宗矩と立ち合っており、その時に宗矩が見せた動きは目に焼きついている。
その上、虎眼が道場を置いていた駿府藩の藩士は大半が旗本の子弟で、柳生新陰流を学んだ者も多かった。
一方、厳包は虎眼流など知らないし、その手筋は彼が見知っているどの流派と比べても異質な物だ。
こちらの動きを読み、十一本の指を駆使した精妙な剣で攻める虎眼の前に厳包は追い詰められ、遂に木刀を切断される。
切断されたと言っても、切られたのは木刀の切先数寸のみであり、殺傷力が大幅に減じたとは言えないだろう。
むしろ、切先が鋭く切断された事で突きの威力は上昇するかもしれない。
それでも、勢いで虎眼が勝っているのは間違いない事実。新陰流ならばここで一歩引いて体勢を立て直そうとする筈。
その動きに乗じて一気に踏み込んで厳包を斬り捨てようとする虎眼だが、意に反して厳包は退かず、逆に攻撃して来た。

岩本虎眼は柳生新陰流を熟知している……先にそう述べたが、虎眼が知っているのはあくまで江戸柳生の剣。
江戸と尾張、根は同じ新陰流でも、時代の変遷に合わせて各々工夫を重ねる内に、少しずつ差異が現れている。
無論、同じ術技から出発して、類似点の多い境遇で同じ時代の変化を味わったのだから、その差は決して大きくない。
だからこそ、虎眼もここまで厳包の動きを読めていたのだが、江戸と尾張の剣には一つだけ根本的な違いがあった。
それは、尾張柳生が武芸者の剣であるのに対し、江戸柳生は貴人の剣になったという点だ。
嘗て、徳川家康が上泉伊勢守の甥にして高弟である疋田文五郎の剣を「匹夫の剣」と評したという逸話がある。
一軍の大将には、敵を討ち取る為の剣術は不要で、危急の際に部下が駈け付けるまで難を逃れる技があればいいと言うのだ。
そんな家康に指南役として仕える以上、伊勢守から石舟斎に伝えられた新陰流では重用される筈もない。
それ故、宗矩は己の新陰流を改革し、原型の新陰流よりも防御を重視した剣術体系に編み直した。
だからこそ虎眼はここで厳包が防御に回ると読んだのだが、尾張の新陰流にはここで退くという法はない。
将軍や多数の大名を弟子とした江戸柳生程ではないにしても、尾張柳生とて尾張藩主など、貴人の弟子を多く抱えている。
だが、尾張の柳生家は彼等の為に新陰流を改変して貴人の剣にしようとはしなかった。
新陰流正統としての、武芸者としての誇りが、そういう形で権力にすり寄る事を許さなかったのだ。
故に、厳包がこの場面で選択したのは攻め。
放たれた決死の剣は、相手の反撃を予想していなかった虎眼に防御の暇を与えず、鍔越しにその右拳を強かに打つ。
125創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 21:41:18 ID:McjRpBr6
支援
126霊珠に導かれて ◇cNVX6DYRQU:2009/12/02(水) 21:41:29 ID:4xO+QSN3
幾度か倒れそうになりながらもどうにか城下町に入ると、目に付いた民家の一軒に転がり込んだ。
中に誰も居ない事を確認して戸締りし、漸く一息付いて座り込む。
あの戦いの場からここまで、誰にも出会わずに来れたのは幸運だったとしか言いようがない。
もし、戦いの気配を感じた剣客が現れ、勝負を挑まれていたら最期だったろう。
今になって漸く仏の加護が顕れたかと、彼……柳生厳包は苦笑する。
本当に加護が欲しかった白井亨の捜索については、この状況ではしばらく休止するより他にあるまい。
その間に余計な事を言い触らされたら、という危惧はあるが、こんな身体で白井を見つけても討たれるだけだ。
あの老人の斬撃は、本来ならば間違いなく厳包の命を刈り取っていた程のものだったのだから。

厳包は懐に手を入れ、己の命を救ってくれた珠を取り出した。
「あの子供には感謝せねばならぬな」
白井を探す自分に、それらしい男が流れて行ったと教え、提灯代わりにとこの光る珠をくれた少年の事を思い出す。
肝心の白井は見付かっていないが、珠の方は提灯どころか厳包の命を救ってくれた。
あの時、虎眼の剣が懐にあったこの珠に当たり、そのお蔭で厳包は辛うじて致命傷を免れたのだ。
と、取り出した珠を見つめる厳包の眼が訝しげに細められる。
記憶違いでなければ、あの高坂という少年に渡された時、この珠には「仁」の文字が浮かんでいた筈。
しかし、現在この珠に浮き出ているのは「如」の文字。
不可解な現象を怪しんだ厳包だが、すぐに考えを改めて珠を置き、傷の手当を始める。
そもそも珠が光っている時点で十分に不可思議な現象だ。今さら文字が変わったくらい気にするほどの事か。
加えて、「如」の字は父利厳の号「如雲斎」の頭文字であり、厳包にとっては縁起の良い文字と言えよう。
そう考えれば、先程この珠が虎眼の剣を防いでくれたのも父の加護だったのではないかと思えて来る。
ならば、父の名を汚さぬ為にも早く回復し、白井を見つけ出して今度こそ討ち取らねば。
決意を新たに、新陰流正統継承者は、暫しの雌伏の時に入る。

【ほノ肆 城下町/一日目/早朝】

【柳生連也斎@史実】
【状態】胸部に重傷
【装備】打刀@史実
【所持品】支給品一式、「仁」の霊珠(ただし、文字は「如」に戻っています)
【思考】
基本:主催者を確かめ、その非道を糾弾する。
一:少し休んで傷と体力を回復させる。
二:白井亨を見つけ出し、口を封じる。
三:戦意のない者は襲わないが、戦意のある者は倒す。
四:江戸柳生は積極的に倒しに行く。
【備考】※この御前試合を乱心した将軍(徳川家光)の仕業だと考えています。


127霊珠に導かれて ◇cNVX6DYRQU:2009/12/02(水) 21:42:16 ID:4xO+QSN3
重傷を負いながらも岩本虎眼を倒した柳生厳包が、虎眼の刀だけを奪ってよろめき去ってからしばらく後。
一人の男……いや、少年が惨劇の現場へと忍び寄って来た。
「やっぱりここにもう一つ珠があったか。道理でさっきからこいつの光り具合が妙な具合だったはずだ。
 にしても、置いて行ってくれるたあ、あの侍、見込んだ通り気が利くね」
倒れた藤木の手に握られた珠を見ながら呟く少年……高坂甚太郎の手にもまた、「智」の字が浮き出た珠が握られている。
あの時……甚太郎が草叢にて柳生厳包に会った時、甚太郎は既に二つもの宝珠を手にしていたのだ。
それだけでも後の大泥棒の面目躍如だが、のみならず彼は、この宝珠の有効な使い方をすぐに発見した。

複数の珠を手にすればすぐにわかる事だが、これらの珠の光は、別の珠と近付けば近付くほど強くなる性質を持つ。
つまり、珠の一つを誰かに持たせれば、光の強弱でその者との大まかな距離の変遷が見分けられるのだ。
そして、甚太郎は己の歌にひかれてやって来た柳生厳包に、珠の一つ……「仁」の珠を与えた。
厳包には珠を提灯代わりにしろと言ったが、実際には珠を持った厳包自身を己の提灯代わりにするのが甚太郎の狙い。
いや、提灯と言うより、戦国の世に生きた甚太郎には通じぬ例えだが、鉱山で使われる金糸雀と言う方が正確か。
厳包と同じ歩調で歩く甚太郎が持つ珠の光が一定で保たれれば、それは即ち厳包が順調に進んでおりそこが安全だという事。
逆に光が強くなって来たら、厳包が誰かに襲われるなどして進めなくなった事を意味し、立ち止まって様子を見るべき。
それからまた「仁」の珠が動き出せば、厳包が危険を排除したか、誰かが厳包を殺し珠を奪ってさったと推測できる。
珠が長く留まったままなら、厳包が殺されて死体が珠ごと放置されたか、相討ちか、延々と殺しあってるのか、
何にしろ珠の傍には死体か長く戦って弱った奴しかいない筈なので、漁夫の利を得るのは容易いだろう。
そういう訳で、甚太郎は厳包を、先行して道中の安全を測る提灯に仕立て上げたのだ。

甚太郎の見るところ、厳包はこういう使い方をするのに最適の人物である。
大声で歌う甚太郎に寄ってきた事や、肝の据わった態度から考えて、襲われた時に襲撃者を放置して逃げる心配はまずない。
かと言って、甚太郎を問答無用で襲ったりはしなかったように、危険でない者を無用に襲ったりもしないだろう。
そして何より甚太郎にとって好都合なのは、厳包が白井とかいう男を探すのに非常に焦っていた事。
まず、休憩したり危険でない人物と長話をしたりすまいから、足を止めれば危険人物と会ったのだとすぐにわかる。
そして、こちらがより重要なのだが、厳包にとっては己が殺した者の死体を漁る事すら無駄な時間だと感じられる筈だ。
要するに、厳包が誰かに襲われて首尾良く返り討ちにすれば、その場には手付かずの死体が残る公算が高い。
そう考えて甚太郎は厳包に珠を渡したのだが、その目論見は見事に当たった。
この場には厳包がやったと思しき死体が二つあるのだが、老人の方の得物が見当たらない以外は、行李も珠も残されている。
特に、ここでもう一つ珠が手に入るのは甚太郎には有難い。
血の跡から見て厳包は城下に入ったようだが、入り組んだ町の中では、光の変化だけで厳包の位置を正確に探るのは困難。
だが、二つの珠をうまく使えば、町の中でも厳包を効率よく使えるはず。
ほくそ笑みつつ死体が握っている珠を取ろうとした甚太郎は、死体の手がぴくりと動くのを見てぎょっとした。
慌てて死体を見直すと、その見開かれた眼がぎょろりと動き、凄まじい形相で甚太郎を睨み付ける。
「ひゃあっ」
肝を潰した甚太郎は、珠を取るのも忘れ、一目散に城下町へと駆け込んで行った。

【ほノ肆 城下町入り口/一日目/早朝】

【高坂甚太郎@神州纐纈城】
【状態】健康、驚愕
【装備】竹竿@神州纐纈城
【所持品】支給品一式(握り飯を幾つか消費)、「智」の霊珠
【思考】:適当にぶらぶらする。
一:珠の性質を利用して安全を図る。
二:まずは島をぐるっと回ってみる。
三:襲われれば容赦しない。
【備考】※霊珠の、他の珠に近付くと感応する性質を把握しています。
128霊珠に導かれて ◇cNVX6DYRQU:2009/12/02(水) 21:43:10 ID:4xO+QSN3
高坂甚太郎が死体と見た若い男……藤木源之助は死んではいなかった。
そもそも、藤木の背を斬った虎眼にも、鳩尾を突いた厳包にも藤木を殺す意図はなかったのだから。
二人共、藤木を単なる障害物や道具として扱っただけであり、その剣は彼の命を奪いはしなかったのだ。
ただ、心身に受けた強い衝撃で身体が麻痺し、今まで動けなかっただけの事。
その鍛え抜かれた身体と、手放さなかった珠の加護のお蔭で、藤木は間もなく動けるようになるだろう。
しかし、命を落とさなかった事が藤木にとって幸いだったと言えるのかは誰にもわからない。
衝撃で身体は動かなくなっても、その眼と脳は機能を失わず、彼は全てを見ていたのだ。
師が最期まで己を障害物としか扱わなかった事も、実際に己が障害となって師があの男を斬るのを妨げてしまった事も、
そして、そのせいで師があの男に木刀で心臓を貫かれる場面も、藤木源之助は見ていた……全てを。
間もなく夜が明け、日が昇るだろう。しかし、師を失った藤木の心に光が射す事は決してない。
無明の世界へと放り出された藤木源之助が行く道は……

【岩本虎眼@シグルイ 死亡】
【残り六十五名】

【にノ肆 川辺/一日目/早朝】

【藤木源之助@シグルイ】
【状態】背中に軽傷、鳩尾に打撲
【装備】脇差@史実
【所持品】支給品一式
【思考】基本:???
一:虎眼の仇を討つ
【備考】
※人別帖を見ていません
129霊珠に導かれて ◇cNVX6DYRQU:2009/12/02(水) 21:45:49 ID:4xO+QSN3
仮投下終了です
2と3は逆です… ごめんなさい

あと、 ◆cNVX6DYRQUさん源之助の霊珠がないです
130創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 21:53:09 ID:4xO+QSN3
仮投下って何だおれ…
代理投下だったorz
131創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 00:31:12 ID:vfyQIldn
投下乙
うーん駿河城メンバー次々死ぬなぁ
もったいない気もするがw
132創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 23:26:37 ID:HATUN/2q
代理投下乙
これで残った駿河城のメンツは伊良子と藤木か
133創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 23:54:47 ID:vfyQIldn
この書き手さん珠ぽんぽん出しすぎ
134創る名無しに見る名無し:2009/12/04(金) 00:15:15 ID:e+vMGpLh
珠ぽんぽん出すとか出さないとか別にして仁の字が戻っちゃうのはどーよ
原作にそんな描写無いぞ
135創る名無しに見る名無し:2009/12/04(金) 00:22:45 ID:JNfMxDol
投下乙です
師を喪った藤木がこれからどう行動するのか・・
一般人が少ない故の遭遇即バトルな剣客ロワ独特の雰囲気いいですね
136創る名無しに見る名無し:2009/12/04(金) 04:22:31 ID:gSqVdU+M
投下乙です
しかし前回の甚太郎の所持品に珠の記述はなかったので
邂逅時に既に持っていたとなると辻褄が合わないような…?
137創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 14:25:36 ID:LrzBcn5J
収録遅れてた分も含めwiki編集しました。
先行して>>122を収録してくれた方thx。
霊珠の点などでもし◆cNVX6DYRQU氏が変更や追記をされる場合は
wikiにて編集よろしくです。

時系列に(黎明直後)とか指定されてると収録の際の順番変えが正直ちとしんどいw
>>88の回は鳥獣戯剣(早朝始まり頃)の後でもいいかな?
138創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 16:29:55 ID:1gGC/45w
>>137
gj
139 ◆UoMwSrb28k :2009/12/06(日) 15:11:09 ID:nJ0xKP/L
>>137
収録乙です。
編集しようかと思ったのですが、リンクとか不安なので、手を出せずおろおろしまいました。
その順番でいいです。ありがとうございました。
140創る名無しに見る名無し:2009/12/15(火) 00:04:49 ID:kTXNxby7
じょしゅい
141創る名無しに見る名無し:2009/12/25(金) 23:37:30 ID:EVNP+jnM
クリスマスかー
つってもここの剣客でまともにクリスマス祝いそうなのは現代人数名と竜馬くらいだろうけど
142創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 00:27:07 ID:4BNkKecY
キリシタンはいないんだっけ?
143創る名無しに見る名無し:2010/01/01(金) 21:53:57 ID:9sccvDXT
シグルイにドM先生出てきたけど想像以上にイケメンだったw
144創る名無しに見る名無し:2010/01/03(日) 18:28:03 ID:oStwlLCf
明けました!
今年は前半の夏までに第一回放送ができたらいいかな
145創る名無しに見る名無し:2010/01/03(日) 23:27:09 ID:TCaIIz39
竜馬伝観たよ
福山雅治かっけぇ
146創る名無しに見る名無し:2010/01/17(日) 07:56:05 ID:FGk2kbyX
>>145
昨日はじめて見てみたけど、こっちのお気楽英語竜馬とはだいぶキャラが違ったな
147創る名無しに見る名無し:2010/01/28(木) 20:05:14 ID:nD4igs+2
どうでもいい雑談だけど、
コンビニで復刊されてた平田弘史版駿河城御前試合の「風車十字打ち」読んで
久々にずッ転げたwwww
平田先生…その発想はなかったわwwww

雑談age
148創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 12:35:12 ID:+wT96XlS
風車十字打ちとは刀を二本クロスさせて投げて相手を爆発四散させる技である
149創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 22:21:32 ID:y7iLsflc
>>148
な、なんて科学的に考察された技なんだ!
150創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 22:35:25 ID:/xiw4MxZ
さっそくこのロワの奴らに使わせようぜ!

…なぜだろう、平田先生がゆでと同類に思えてきた
151創る名無しに見る名無し:2010/02/02(火) 03:20:05 ID:D3axFzSH
天空×字拳みたいな技か
152創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 22:03:35 ID:oAGFQSqg
>>148
それなんてクロスフィーバー?
http://www.youtube.com/watch?v=YozLj-xVin4
153創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 13:50:25 ID:unYxJWb1
婿殿……orz
154創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 19:46:32 ID:r1t+V2JV
>>153
気持ちは解る
今は上手く言葉が出ないが
155創る名無しに見る名無し:2010/02/19(金) 00:41:23 ID:VnclpT1T
まさか亡くなるとは…
病気がちだったらしいし、年も年とはいえ…
156 ◆cNVX6DYRQU :2010/02/20(土) 20:10:33 ID:+j7dD0Ci
上泉信綱、林崎甚助、武田赤音、神谷薫、岡田以蔵、緋村剣心で予約します。
157創る名無しに見る名無し:2010/02/20(土) 21:56:02 ID:lqnvd8il
久々に予約キター

あと>>134に対する回答希望
158創る名無しに見る名無し:2010/02/20(土) 22:16:13 ID:eAFIj136
ヤバイのが2人ほどいるなw 展開の予想ができん面子だ…
貴重なマーダーのいぞうには頑張って欲しいところ。
159創る名無しに見る名無し:2010/02/21(日) 08:57:39 ID:6ZKIMzgq
やばいの、二人だけなんか?ほぼ全員だろ。
特にいぞうと赤音はその時の気分次第で
何をしでかすかわからんから、これは楽しみ。
160創る名無しに見る名無し:2010/02/21(日) 17:08:03 ID:h62zRGTB
明らかにヤバいのが2、状況次第でマーダー覚醒の可能性を秘めた奴が2ってとこじゃね?
161創る名無しに見る名無し:2010/02/25(木) 07:33:48 ID:FdgetpYs
うおおお、久々に予約キター!!
しかも6人、一体何が起こるんですか!!
162 ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 09:40:32 ID:/Pt971Ot
>>134
八犬伝の珠の文字についてですが、原作では、役行者から受け取った時には「仁義……」だった文字が、
「仁義……」→「如是……」→「仁義……」と変化を繰り返しています。
よって、珠の文字は何らかのきっかけがあれば変化し得るものだと判断しました。

続いて、上泉信綱、林崎甚助、武田赤音、神谷薫、岡田以蔵、緋村剣心で投下します。
163活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 09:41:34 ID:/Pt971Ot
その女をはじめて見た時から、甚助には嫌な予感があった。
しかし、甚助はその予感を特に深刻には捉えなかった。そもそも、甚助は女人が苦手なのだ。
幼い頃から剣の修行にのみ打ち込んで来て、母以外の女人と接した事が碌にないのだからそれも当然だろう。
まして、このような場で正体不明の、それでいて無腰の女と出会えば戸惑って当然。
故に、甚助はその女を見た瞬間の嫌な感覚について深く考えはしなかった。
もしも、甚助がもう少し剣客としての経験を積んでいたならば、その感覚の正体もわかったのだろうが……

甚助をその女の元に導いたのは、同行していた上泉伊勢守である。
と言っても、信綱がその女を目指していた訳ではない。
甚助と出会った時から、信綱が第一に目指していたのは、一度はこの剣聖を退けたという獣のような剣士。
あの凄まじい獣性から他の剣士達を、そして彼自身をも救う事を、信綱は己に課している。
その為に、信綱と甚助は服部と別れた後、城下町へと入っていた。
他者への憎しみに囚われたあの男は、人の気配が多い城下町へ向かった可能性が高いと判断したからだ。

そして、城下に入った二人を真っ先に出迎えたのは無惨に首を切られた少年の遺体。
これは百万の言よりも雄弁に、この殺し合いの危険性を物語っていた。
しかも、信綱の見立てによれば、下手人は彼等が追っている「獣」とは別人であろうという。
信綱によれば、彼と戦った「獣」の剣は、技も理もない正に野性の剣であったとか。
対してこの死体を作った者の剣筋は、荒々しくはあるが正当な剣術を修めた跡がくっきりと見られる。
とすると、城下には彼等が追っている男以外にも「いぞう」なる危険人物がいるという事だ。
いや、それだけではない。
城下のあちこちから感じられる鋭い殺気と血の臭い……この地が既に修羅界に呑まれている事は甚助にもはっきり感じられた。

さすがの伊勢守も城下の異様な雰囲気に戸惑ったのか、しばらく瞑想していたが、急に眼を開くと、
「こちらだ」
と甚助を促して、傷と老体を感じさせない早足で歩き出す。
最初は信綱が急に目的地を定めた事を訝る甚助だったが、しばらく進むとかれもその殺気に気付いた。
殺気と言っても、他に幾つもある籠もった殺気とは質が違う。
現在進行形で斬り合いを行っているかのように、激しく鋭い殺気が断続的に発せられているのだ。
しかし、斬り合っているのならば当然あるべき、対手側の殺気あるいは剣気は全く感じられない。
という事は、戦う気が、あるいはその手段がない者を誰かが一方的に攻撃している、という事態も考えられる。
そう悟った甚助は、足を速めて信綱の先に立ち、殺気目掛けて進んで行った。

結論から言えば、甚助はそこまで急ぐ必要はなかった。
二人の前に現れたのは、熱心に剣の素振りをする男。剣を振る度に凄まじい殺気が放出されている。
どうやら、仮想の敵を想定して、それを相手に鍛錬をしているらしい。
女物の小袖を着た華奢な男だが、剣を振る姿を見れば相当の修羅場をくぐって来た一流の剣客である事は一目瞭然。
甚助はこんな状況でも修行を怠らない男に尊敬の念を覚えたが、気配に気付いた男がこちらを見るとそれも吹き飛ぶ。
その禍々しき眼、加えて甚助達を確認しても剣気を抑えず、逆に呑んで掛かろうとするかの如き不遜な態度。
先程の稽古を見るに、この男も一目で伊勢守の剣聖たる格を見抜く程度の腕前はある筈。
にもかかわらず、この大先達に対して挑みかかろうとする素振りすら見られる。
恐らくは剣の正道を外れた邪剣士……そう見究めた甚助の手が刀の柄に伸びるが、それを見た男は嘲るように笑う。
つられた甚助が激発しようとした瞬間、機先を制して信綱が男に声を掛けた。
「見事な太刀筋。一手、お相手願えぬか?」
164活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 09:42:54 ID:/Pt971Ot
互いに剣を構えて向かい合った瞬間、小袖の男……武田赤音は礼もせずに横合いに向けて走り出す。
しばし駆け続けた後に立ち止まって振り向くと、そこには年を感じさせぬ動きで追って来る老人の姿。
暫時そのまま睨み合うが、もう一人の男が追いついて来る様子はない。
(上手く引き離せたな)
心の中でそう呟く赤音。いきなり駆け出したのは、敵の二人を引き離すのが狙いで、その狙いの通りになったと。
だが、本当にそうなのだろうか。それにしては、赤音の表情からは策が図に当たった爽快感は見られない。
或いは、老人と供の男が揃って追い掛けて来るというのが赤音の見込みだったのではなかろうか。
そうして、彼等をあの場から、あの女から引き離すのが本来の目的ではなかったのか。
最早この問いへの答えが得られる事はないだろう。元来、人の心とは複雑怪奇で移ろい易く矛盾に満ちたもの。
ましてや、武田赤音のような歪みきった人間の本心など、余人は無論、赤音本人ですら、把握するのは困難だ。
何より、赤音の心からは既にこの件に関する事はすっかり拭い去られてしまっている。
仮に赤音の本意があの女を守る所にあったとしても、事ここに到っては赤音にこれ以上できる事は何もない。
加えて、赤音が対峙している老人は、おそらく剣士としての格では赤音を数段上回る強敵。
余計な雑念を捨てて、全身全霊で掛からねば勝ち目はないだろう。
それを悟った瞬間から、赤音の心は刃のように研ぎ澄まされ、気まぐれで拾った女の事などすぐに忘れ去ってしまった。

一度は助けた女の事を心から捨て去り、全力で目の前の老人を葬らんとする赤音。
しかし、猛る心とは裏腹に、その身体は老人と対峙したまま動けずにいた。
本来ならば、如何に相手が強敵であろうとも、積極的に攻め込むのが赤音の戦い方だ。
実際、それで体力勝負に持ち込めれば、若く睡眠をとって体力を回復したばかりの赤音が絶対に有利だろう。
にもかかわらず、赤音は動けない。
どのような技で攻めようとしても、全て相手に読まれている感覚を覚え、技を繰り出す事が出来ないのだ。
実際に老人が赤音の技を読みきっているのか、それとも全て剣客としての格の違いが見せる幻想なのか。
どちらにせよ、相手に技を読まれているという感覚は必然的に赤音の心に動揺を生み、
動揺を抱えたまま攻撃を繰り出せば、どうしても技は乱れ、隙を作る事になる。
それ故に赤音は攻勢に出ることが出来ず、ならばと隙を見せて攻撃を釣り出そうとしても老人は乗って来る気配がない。
結果、赤音は身動きが出来ないまま、空しく殺気だけを放ち続ける事となった。

格上の相手との対峙で神経を消耗しつつある赤音の脳裏に、一人の老人の姿が浮かぶ。
目の前にいる、静かに佇んだまま格の違いで威してくる老人とは対照的な、神速の剛剣の使い手を。
自分にもあの老人のような雲耀の剣が使えたならば、技を読まれているなどという疑いは無視して攻め込めただろう。
だが、今の赤音の剣にはそこまでの速さはない。軌道を完璧に読まれても尚、防御を許さず達人を切り捨てる程の疾さは。
とはいえ、それで諦めるほど武田赤音は甘い剣士ではない。
これが完全に一対一の試合ならさしもの赤音も打つ手がなかったかもしれぬが、実際は数十人が入り乱れての殺し合い。
一対一で戦っていても、常に他の剣士が不確定要素として紛れ込む余地が残されている。
そして、予想外の事態が起きれば、役に立つのは老人の経験よりも赤音の即応能力の方。
故に、赤音は先程から、精神力の浪費とも思える殺気の放出を繰り返しているのだ。
赤音が稽古で発した殺気に誘われてこの老人達が現れたように、今発している殺気が別の剣士を呼ぶ事に賭けて。
あっさり結果を言ってしまうと、赤音はこの賭けに勝った。それも、かなり恵まれた形で。
165活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 09:44:12 ID:/Pt971Ot
岡田以蔵は孤独であった。
四乃森蒼紫との戦いの中で取り戻した理性は、己が受けている傷がどれだけ危険な物かを教えてくれた。
そして、自身が複数の気配に追われており、この状態でその者達に出会えば勝ち目はないだろう事も。
理性の声に従い、民家に隠れて傷の手当てをする以蔵だったが、そうして追われ隠れる体験が過去の記憶を呼び覚ます。
政変によって土佐勤王党が勢いを失い、京で一人潜伏していた日々の記憶だ。
その記憶は、幕吏によって捕えられ、武士ではなく無宿者として扱われた屈辱の体験へと繋がって行く。
更に土佐藩に引き渡されての拷問、最後には敬愛する師の裏切り……いずれも以蔵を深く苛む記憶ばかりだ。
なまじ理性を取り戻してしまったが故に、以蔵の苦しみは増し、胸の奥に燃える炎はより激しく猛り狂い、以蔵の身を焦がす。
そんな以蔵が、赤音の剣気を感じて、追われているのも忘れて姿を現したのは当然と言える。
師によって己も一端の志士であるという自覚を真っ向から否定された以蔵にとって、残されたのは剣だけだ。
斬り合いの場では家柄も学問も思想も関係ない。誰もが以蔵を畏れ、或いは頼った。
人斬りの記憶が、今となっては蔑まれ続けた以蔵の人生の中の唯一の光芒となっているのだ。
それ故、岡田以蔵は姿を現した。剣以外の何も持たずとも、剣においては己こそが最強である事を示す為に。

以蔵が現れると、睨み合っていた二人の剣士は、ただならぬ気配を感じてそちらに目を向ける。
中でも年老いた方の剣士……上泉信綱は、以蔵を見た瞬間に瞠目して気を乱す。
単に岡田以蔵と再会しただけなら、信綱が動揺する事はなかったろう。そもそも彼を追って城下にやって来たのだから。
問題は以蔵の腕に施された応急処置。傷の手当てをしたという事は、彼の理性が戻っている事を示す。
以前は理性を失って暴れる以蔵に対し退くしかなかった信綱だが、理性が戻ったのなら打つ手はいくらでもある。
予期せずして千載一遇の好機に出会い、信綱の注意が一瞬、対手である赤音からそれたのも無理ないだろう。
無論、それを見逃す赤音ではない。信綱の動揺を察知すると同時に、突進して最速の剣を叩き付けた。

赤音の剣が走り、一瞬遅れてその軌道に赤い線が現れる。
信綱が赤音の振り下ろしを避けきれず、逆刃刀の切っ先が信綱の顔をかすめ、負傷させたのだ。
これは、信綱の気が逸れた瞬間に赤音が仕掛けた為という事も勿論あるが、それだけで一撃を受ける程、剣聖は甘くない。
にもかかわらず信綱が負傷したのは、赤音の剣が予想より……赤音自身の予想よりも更に速かった為である。
その為、赤音の動きから剣速を予測した信綱の目算が狂い、回避が遅れたのだ。
とはいえ、剣速が己の目論見と狂うのは、速いにせよ遅いにせよ、利は少なく害が多い。
今回の赤音も、予想以上の神速の振り下ろしで信綱に手傷を負わせたのは良いものの、己の激しすぎる勢いに体勢を崩す。
そこに襲い掛かる凄まじい殺気……対峙する二人に馳せ寄った以蔵が、折り良く隙を見せた赤音に斬り付けたのだ。
赤音もただではやられぬと、素早く刃を翻し、以蔵を切り上げる。
そして、二人の得物が交錯する瞬間、信綱の刀が割って入り、三本の剣は数瞬からみ合った後、三方に弾き飛ばされた。
166活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 09:47:01 ID:/Pt971Ot
弾かれた三人は間を置かずに駆け寄ると、激しく斬り合う。
しかし、それぞれの思惑……そしてそこから導かれる戦い方には大きなずれがあった。
この戦いを最も楽しんでいるのは赤音だろう。
先程は自身の剣が速すぎた為に危機を招いたが、把握さえしてしまえば速さが増すのが剣士にとって悪い事の筈がない。
どうも、東郷重位の雲耀の剣に触発されての稽古が、赤音本人の予想を超える成果を上げているようだ。
ここで二人の達人を実験台として更なる修練を積めば、予想よりもずっと早く雲耀の域にまで達せるかもしれない。
そんな剣士としての高揚感を胸に、赤音は刃の間で躍っていた。
以蔵の必殺剣が迫れば信綱を盾にし、信綱が押さえ込もうとして来れば以蔵をけしかける。
上手く立ち回って危険を避けつつ、機会を捉えて技を試す。ある意味、剣客の鑑のような振る舞いと言えようか。
対して以蔵の動機は単純明快。信綱と赤音の両者を殺す事だけを狙い、必殺の剣を振るい続けるのみ。
彼にとっては、二人が何者なのかも、どんな剣を使うのかも関係ない。
信綱がこの島で初めて戦った相手だという事すら気付いているかどうか。
仮に気付いていたとしても、以蔵にとってそんな事は無意味。彼は人斬り。天災の如く無差別に、ただ殺すだけだ。
信綱はそれとは全く対照的。哀しみと狂気を秘めた二人の若者を何としても救う。それが剣聖の目的である。
老いた信綱にとっては、若き達人二人との立ち回りは相当の難事だ。
以蔵が理性を取り戻した事や、赤音が自身の予想以上の剣速を完全には扱いきれていない事に最大限に付け込んだとして、
それでもこの二人を殺さずして制圧し、彼等を救う端緒を作るのが如何に困難か。
加えて、赤音と以蔵が互いに殺し合うのをも信綱は止めなくてはならないのだ。
おそらく、三人の中で最も危険な立場にいるのが信綱であろう。それでもやるしかない。それが活人剣の道なのだから。
三者三様の剣が交錯し、城下町の剣気は更に色濃く、熟成されて行く。

【へノ参 城下町/一日目/早朝】

【上泉信綱@史実】
【状態】疲労、足に軽傷(治療済み)、腹部に打撲、爪一つ破損、指一本負傷、顔にかすり傷
【装備】オボロの刀@うたわれるもの
【所持品】なし
【思考】基本:他の参加者を殺すことなく優勝する。
一:岡田以蔵と武田赤音を殺さずに制圧する
二:甚助と合流し、導く
【備考】※岡田以蔵と武田赤音の名前を知りません。
※服部武雄から坂本竜馬、伊東甲子太郎、近藤勇、土方歳三の人物像を聞きました。

【岡田以蔵@史実】
【状態】左腕に重傷(回復する見込み薄し、応急処置済み)、全身に裂傷打撲多数、この世への深い憎悪と怒り
【装備】野太刀
【所持品】なし
【思考】基本:目に付く者は皆殺し。
一:上泉信綱と武田赤音を殺す。
【備考】※理性は取り戻しましたが、尋常の精神状態にありません
※上泉信綱と武田赤音の名前を知りません。

【武田赤音@刃鳴散らす】
【状態】:健康、疲労(中)
【装備】:逆刃刀・真打@るろうに剣心
     現地調達した木の棒(丈は三尺二寸余り)
     竹光
     殺戮幼稚園@刃鳴散らす
【所持品】:支給品一式
【思考】基本:気の赴くままに行動する。とりあえずは老人(東郷重位)の打倒が目標。
     一:上泉信綱と岡田以蔵を実験台に剣を練磨する。
     二:強そうな剣者がいれば仕合ってみたい。
     三:女が相手なら戦って勝利すれば、“戦場での戦利品”として扱う。
     四:この“御前試合”の主催者と観客達は皆殺しにする。
     五:己に見合った剣(できれば「かぜ」)が欲しい。
【備考】
   ※人別帖をまだ読んでません。その上うわの空で白州にいたので、
   ※伊烏義阿がこの御前試合に参戦している事を未だ知りません。
   ※道着より、神谷活心流と神谷薫の名を把握しました。
   ※上泉信綱と岡田以蔵の名前を知りません。
167活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 09:49:26 ID:/Pt971Ot
武田赤音と上泉信綱が走り去った後、林崎甚助は訝しげな顔で辺りを見回した。
甚助としては、自分も信綱と共に赤音を追うつもりだったのだ。しかし、走り出そうとした甚助に信綱が一言。
「この場は任せる」
この場に何があるのか、何を任せると言うのか。甚助は不得要領のまま辺りを見回した。
と、信綱と赤音の気配が完全に消えてから、甚助はその場、民家の中にもう一つ気配が残っていることに気付く。
赤音の禍々しい剣気があまりに強烈で、それに紛れてもう一つの気配を感じ取れなかったようだ。
戸を開けて中に入ろうかとも思ったが、両手が自由にならない状態で襲われたら甚助には為す術がない。
「そこに居るのは何者だ!」
声を掛け、警戒していると、家の中で人が緩慢に動く物音がし、戸を開けて出て来たのが、神谷薫であった。

先にも述べたが、甚助は女人が苦手。ましてこのような特殊な状況で出会った女にどう接すれば良いのか。
無腰の女、しかも、今眠りから醒めたばかりの様子の女に必要以上の警戒を見せてしまった事を恥じる気持ちもあり、
同時に、あの見るからに危険な男の連れである以上、この女に対しても気を許すべきではないとも思える。
女の方はそんな甚助の逡巡を気にする様子もなく、無邪気に問いかけて来る。
「あの、剣心は?」
剣心などという名は知らなかった甚助だが、状況から武田赤音がそれだと考えたのも無理はあるまい。
「剣心?あの優男か」
武田赤音を評したこの表現が緋村剣心にも当てはまるものだったのは誰の不運であろうか。
甚助とて、どちらかと言えば優男の部類なのだが、彼は華奢な体格による剣腕の不足を必死の修練で克服して来た。
そんな彼が、女物の小袖という赤音の姿に反感を持つのも当然で、それが棘のある言い方に繋がったのかもしれない。
「今頃は伊勢守様に打ち倒されているであろう」
その言葉を聞き、顔色を変えて駆け出そうとする薫に対し、甚助は素早く抜刀して首に刀を突き付けて動きを封じる。
ああは言ったものの、小袖の男は油断ならぬ剣士。
この女が乱入して戦場が混乱すれば、まさかの番狂わせがないとも言えない。
もっとも、素手の女に刀を突き付けるような所業は甚助の望むところではないのも事実。
「心配せずとも伊勢守様は有情の方。あの優男の高慢をへし折りはしても傷付けはしない筈だ」
そう言って薫を静めようとする甚助だが、それは遅かった。
甚助の口からその言葉が発せられる直前に、叫び声が辺りを圧したからだ。
168活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 09:52:19 ID:/Pt971Ot
「薫殿!!」
そう大音声で叫びながら剣心は走っていた。
わざわざこんな大きな音を立てて自身の存在を触れ回れば、危険人物を招き寄せる危険がある。
危険人物でなくても、殺気立って走り回る剣心を見れば警戒するだろう。
それを承知の上で剣心は駆け回っていた。何としても薫を見付け、保護しなくては。
薫が剣心にとって大切な存在だというのもあるが、薫がこんな事に巻き込まれたのは己のせいだという責任感もある。
この御前試合の場で出会った剣士達は、いずれ劣らぬ超一流の剣士ばかりであった。
他にも名簿に載っていた幕末の動乱で活躍した剣士達や、伝説でのみ知る戦国から江戸期の剣豪達。
彼等が本物だとすれば……志々雄真実の存在を考えると本物の可能性が高いと思われるが……やはり最高峰の剣客ばかり。
そんな中、神谷薫の存在は、この御前試合の中で明らかに浮いている。
確かに彼女も剣客ではあるが、その実力は、天下無双を争える域には遠く及ばない。
にもかかわらず、どうして薫がこの島に呼ばれたのか。
考えられる事はただ一つ。薫を危機に曝す事で剣心の中の人斬りを呼び覚まそうというのだろう。
つまり、彼が薫を巻き込んだ事になる。その認識が薫への想いと相まって、剣心を追い詰めていた。
どれくらい捜し回ったか、剣心は遂に見付けた。喉元に刀を擬せられて絶体絶命の薫を。
その瞬間、剣心の中で何かが膨れ上がり、叫びながら駆け出していた。

「薫殿!!」
女を鎮める為に発そうとした言葉をかき消して叫び声が木霊する。
そちらを振り向いた甚助の目に飛び込んで来たのは、刀に手をかけて走って来る血まみれの男。
「剣心!」
男の叫びに呼応して女も叫ぶ。すると、女が言っていた剣心とはあの男か。では、小袖の男は一体……
甚助が不審に思っている間にも男は凄まじい走力で近付き、間合いに入ろうとしていた。
居合いの本義は納刀した状態から一挙動で切り付ける事で、相手が応戦の準備を整える前に倒す事にある。
裏を返せば、攻撃の機を逃せば先制されて無防備のまま攻撃を受ける危険があるという事だ。
それだけに、甚助は危険が迫れば事情がどうあれ自動的に居合いを使えるよう訓練を積んである。
素早く剣を引いて納刀し、居合いの構えを取るとそれだけで神経が研ぎ澄まされ、最適の行動が啓示の如く思い浮かぶのだ。

甚助は納刀して抜刀術の構えを取るが、限界以上の速度で走って来た剣心は既に間合いの間近まで迫っている。
このまま居合いを放っても剣心に対して振り遅れるのは必定……だが、そこは甚助も居合いの中興祖と言われる程の使い手。
疾走して来る剣心に対して自身も駆け寄り、相対速度を思い切り上げる。
居合いを奥義とする流派だけあって飛天御剣流の剣士は間合いの見切りに優れており、剣心も例外ではない。
とはいえ、限界を超える速度で疾走中に相手にも駆け寄られれば、流石に抜き打ちが間に合わず、振り遅れた。
互いに振り遅れた同士ならば事態は一転、後から動く甚助の方が有利になる。
抜き掛けた剣の柄を剣心の柄にぶつけて弾き、反動で横を向いて距離を確保すると、素早く納刀し、今度こそ抜刀術!
剣心も素早く刀を納めるが、弾かれた分だけ挙動が遅れて抜刀術は間に合わない。
その時、刀を抜こうとする甚助の耳に異音が届き、精神集中が失われて一瞬だけ動きが止まる。
剣心の神速の納刀によって凄まじい鍔鳴りが発生し、甚助の聴覚を揺さぶったのだ。
甚助はすぐに立ち直って居合いを放つが、その間に剣心も体勢を整えており、結果、二人の抜刀術が真っ向からぶつかり合う。
169活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 09:55:17 ID:/Pt971Ot
ギイイィィィン!
抜き打たれた二人の刀が衝突し、負荷に耐えかねた二本の武器が悲鳴を上げる。
耐え切れずにどちらかの得物が砕けるかと思えた時、二人の身体が同時に吹き飛ぶ。
剣心は鞘による抜き打ちを、甚助は鞘を半ば抜きかけての突きを、それぞれ相手に叩き込んだのだ。
全身への衝撃に耐えつつ着地し、素早く納刀する甚助。
鞘による攻撃を叩き込んだ点では両者同様だが、鞘を抜き放った剣心は再び居合いの構えを取るのに一挙動余計に掛かる筈。
その隙に抜刀術を叩き込もうと剣心の方を向いた甚助の前には、既に攻撃準備を整えた剣心の姿が。
緋村剣心と林崎甚助。剣の腕では優劣つけがたいが、強敵と戦って傷を受けた経験では剣心が遥かに勝る。
加えて、薫の危機で精神が高揚している剣心は、甚助の打撃の痛みを無視して即座に攻撃に出たのだ。
無論、再び抜刀術の体勢を整える暇はなかったが、彼の剣術は抜刀術以外も超一流、問題はない。
「九頭龍閃!」

突進しつつの九連撃が甚助を襲う。余程の剣士でなければ回避も防御も不可能な飛天御剣流の大技だ。
だが、欲を言えば剣心は土龍閃のような技で、甚助が居合いの構えを取る前に攻撃を仕掛けるべきだったかもしれない。
林崎甚助は、熊野明神に居合いの奥義を神授されたという、居合いに関しては神懸かった達人。
納刀して柄に手を掛けるだけで、正に神に憑かれたかのような冴えた動きを見せるのだ。
甚助は、剣心が乱撃術で襲って来るのを見るや、大地に転げて剣心に近付く。
九頭龍閃は九種の異なる斬撃を同時に放つ技。しかし、地に転げた相手に横薙ぎや切り上げは通用しない。
その上、乱撃術はどうしても一撃一撃の深さに欠ける為、切り下げや突きでも十分な打撃は与えられないだろう。
このまま九頭龍閃を強行すればいたずらに隙を作るだけの結果になりかねない、そう考えた剣心は技を止める。
その間に甚助は剣心の足元まで転がり寄ると膝を着き、十分な鞘引きを伴う座居合で真上にいる剣心を狙った。

(居ない!?)
必殺の居合いを放った甚助だが、その時点で剣心の姿はそこにはない。
甚助は一瞬動揺しかけるが、どうにかそれを抑え込んで刀を引き戻し、再び抜刀術の構えを取った。
そうして感覚が冴え渡ると、すぐに真上に剣心の気配が感じられる。
迷わず真上に向かって居合いを放つと、ちょうど上空から甚助を狙った剣が振り下ろされ、再び両者の剣はぶつかり合う。
甚助が足元に潜り込んだ瞬間、剣心が天狗の如き跳躍力で上空に逃げ真上からの反撃を狙って来たのだ。

剣を咬み合わせたまま剣心は着地し、甚助の剣を絡み取って武器破壊技を仕掛けてくる。
ギリッ
己の剣の軋みを聞き取った甚助はその峰に手を添えて守り、そこを支点に身体を回転させ、柄で剣心を狙う。
しかし、剣を抜いた後の立ち回りではやはり剣心が数段上手。
甚助の動きに合わせて自身の身体を回転させると背後に回りこみ、その背中を峰打ちで強打した。
背中に衝撃を受けて吹き飛ぶ甚助。
吹き飛びながらも辛うじて剣を鞘に納め、背後から追って来る気配に向けて居合いを放つ!
対して、吹き飛んだ甚助を追っていた剣心は、甚助がこちらの位置を十分に確認せずに居合いを放つのを見て足を緩める。
甚助は頻繁に居合いを使って来るが、そもそも居合はかわされると敵に大きな隙を見せる諸刃の剣。
しかも、敵に背を見せた状態からの居合では、外した後に先程のような鞘による突きを放っても相手に届かない。
ここで剣心が甚助の居合いを見切ってかわせば、急所にもう一撃を叩き込んで打ち倒す事ができるだろう。
そう見込んで刀を構えた剣心だが、次の瞬間、腹部に衝撃を受けて逆に吹き飛ばされる。
背後の敵への居合いでは確実に相手を捉えるのは不可能と見た甚助が、鞘ごとの抜き打ちを放ったのだ。
結果、振られる刀の遠心力によって鞘が半ば抜け、剣の間合いの外に居た剣心を強かに打った。
吹き飛ばされながらも超人的な身ごなしで着地した剣心は、再び甚助に突進しようとし……
「うぐっ!?」
吐血してその場に膝を付く。
170活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 10:00:24 ID:/Pt971Ot
剣心は甚助に一撃を受けたが、その打撃自体は中空の鞘による物なのだから、高が知れている。
だが、それ以前に剣心の身体はもう限界に達しようとしていたのだ。
志々雄真実、三合目陶器師、林崎甚助と強敵との三連戦。
しかも、戦いの合間は休みも傷の手当てもせずに全速力で駆け回っていたのだ。
如何に武術の達人とはいえ、剣心も人の子。
これまでは薫への強い想いで痛みも疲労も無視して来たが、如何に思いが強くても生物学的限界をも無視できる筈はない。
その生物としての限界が間近に迫っているのだ。
それでも何とか立ち上がり、甚助を見ると、鞘を半ばまで抜いての異様な居合いの構えを取っている。
「卍抜けか……」
緋村剣心はかつて、抜刀術の全てを知り極めたと称して抜刀斎を名乗った程の剣士。
甚助が林崎流の剣客だという事はとうに悟っているし、その奥義である卍抜けについても知っている。
そして、甚助ほどの達人が使う卍抜けに対抗し得る技は、飛天御剣流の多彩な技の中でも一つしかないという事も。
飛天御剣流奥義――天翔龍閃。この技ならば卍抜けにも十分対抗可能だという自信が剣心にはあった。
だが、今の傷付き疲労した身体で、完全な天翔龍閃を放つ事が出来るかどうか……

「剣心!」
声に振り向くと、薫がこちらに向かって駆け寄って来ていた。
同時に、こちらの注意が逸れたのを感じた甚助も駆け寄り、卍抜けを放とうとする。
もし剣心が避ければ、代わりに薫が卍抜けの餌食になるかもしれない。
こうなれば剣心の選択肢はただ一つ。全身全霊を賭けた奥義で卍抜けを打ち破るのみ!

その交錯は常人には……いや、剣士として一通りの修練を積んだ神谷薫にすら感じ取れない刹那の出来事であった。
飛天御剣流「天翔龍閃」と神夢想林崎流「卍抜け」。二つの奥義が真っ向からぶつかり合い、倒れたのは緋村剣心の方。
傷や疲労のせいで天翔龍閃が不完全だった……という訳ではない。
むしろ、大切な人への強い思いが籠もった天翔龍閃は、師の比古清十郎すら眼を瞠るであろう程の超々神速を発揮した。
実際、単純な速度だけならば天翔龍閃が卍抜けを一枚上回っていたであろう。
しかし、林崎流の居合いは相手が戦闘態勢を整える前に討つ為の技であり、より重視されるのは速さよりも早さ。
天翔龍閃は左足の踏み込みで剣を加速するが、それは剣が鞘から抜けるまでの必要距離が長くなる事に繋がる。
対して、卍抜けでは天翔龍閃とは対称的に、抜刀の際に鞘を引く。
これによって鞘走りによる加速距離が短くなり、最終的な速度が抑えられる代わりに、剣が鞘から離れる瞬間は速くなる。
速度では天翔龍閃には及ばない為、もしも剣心が防御に徹していたならば、或いは凌ぎ切られた可能性も零ではない。
しかし、抜刀術の撃ち合いという事になれば、相手より一瞬でも早く刃を敵の身体に届かせる事が全て。
そういう勝負ならば、甚助の卍抜けはこの御前試合の参加者の誰にも負ける事はないだろう。
もっとも、甚助も無傷ではない。剣心の天翔龍閃によって右腕に深手を受けている。
卍抜けが剣心に届くのがあとほんの少し遅れていたら、骨にまで達していたかもしれない。
甚助は素早く刀を左手に持ち替え、剣心にとどめを刺そうとするが、ここで薫が二人の元に辿り着いた。
171活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 10:02:12 ID:/Pt971Ot
「やめて!」
そう叫び、神谷薫は無謀にも素手で林崎甚助に躍り掛かる。対して甚助は、薫に向けて何とも散漫な一撃を放ってしまった。
甚助が負傷した為に、剣心に対する卍抜けの一撃は完全ではなく、致命傷は与えていない。
腕に深傷を負って居合いが使えない状態で、もしも剣心が立ち上がって来れば、甚助の勝ちは覚束ないだろう。
よって、すぐに薫を排除して剣心の息の根を止める必要があるのだが、だからと言って素手の女を斬るのは主義に反する。
その辺りの葛藤が甚助に中途半端な一撃を放たせる要因となったのであろうが、これは剣客にあるまじき油断だ。
まあ、甚助にも言い分はあるだろう。動きを見れば明らかなように、甚助と薫では竜と子猫ほどの実力差があった。
仮に竜が油断したとしても、子猫がどうにかできる筈もない。竜にとっては気のない一撃でも、子猫は肉塊になるしかない。
しかし、ここは蠱毒の島。中で剣が打ち合わされ、血が流れる度に剣士達に邪なる力が流れ込む。
その結果、竜は大海を治める龍王にも勝る大竜となったが、子猫も猛虎ほどの力を手に入れた。
まともに戦えば勝敗は揺るがないが、猫も竜が油断をすれば眼球に牙を突き立てる程度の事は出来るようになっているのだ。
今回、猫は竜がいい加減に繰り出した尾を加え、牙を突き立てた。つまり、薫が甚助の刀を白羽取りで止めたのである。
「何!?」
実力差を考えれば有り得ない現象に動揺した甚助は剣を捻って薫を振り払おうとするが……
ギンッ
剣心との激闘で既に限界が来ていたのだろう。剣はあっさりとへし折れ、甚助と薫は揃って体勢を崩した。
そして、ここで倒れた龍の牙が風を巻き起こす。

天翔龍閃はただ速いだけの抜刀術ではない。その超神速の剣が真空の空間を作り、それが第一撃を凌いだ敵を縛る。
剣心は卍抜けに倒れたとはいえ、その時には既に、天翔龍閃は普段以上の速度で放たれていた。
それによってできた真空が、一拍の間を置いた今になって漸く元に戻ろうとしているのだ。
無論、剣心が斃れている以上、風に動きを封じられた甚助を切り裂く爪は存在しない。
その代わり、甚助と薫は真空を埋めようとする空気の流れに引き寄せられ……
172活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 10:05:35 ID:/Pt971Ot
神谷薫は信じられない思いで己の手を見詰めていた。林崎甚助の末期の血に染まった手を。
天翔龍閃で生まれた真空に引き寄せられた時、偶然にも薫が持っていた刀の切っ先が甚助の喉元に突き刺さったのだ。
自らの手で人を殺してしまうという、活人剣を標榜する者としてはありうべからざる大不祥事。
如何に偶然の事故とは言え、殺人という事実は、薫の活人剣士としての道を、非常に険しい物とする事だろう。
だが、今はそれを考えている時ではない。早く安全な所に行って剣心を手当てしなくては。
薫はそう思い直すと、剣心を抱えて歩き出す。血の臭いが充満した城下に、更なる血化粧を施しながら。

ここで疑問が一つ。今回の件は本当に偶然の事故なのだろうか。
甚助の負傷と蠱毒による力があったとはいえ、薫が林崎甚助のような剣豪を討つなどという事はまず有り得ぬ事だ。
無論、普通なら有り得ない番狂わせが時に起きるのが真剣勝負というものではある。
しかし、参加者の中で場違いなほどに技量で劣る薫が、たまたま金星を挙げるというのは少し出来過ぎではないか。
そもそも、神谷薫は何故もっと腕の立つ剣士達を押しのけてこの御前試合に招かれたのか。
緋村剣心は自身を追い詰めて積極的に戦わせる為の駒として薫が呼ばれたと推測していたようだが、
それなら剣心を呼んで妙な小細工をせずとも、歴代の比古清十郎の中から好戦的な者を呼んで来れば良い筈だろう。
薫には何か別の役割が期待されているのか、それとも普通に参加者の一人として招かれたのか。
どちらにせよ、薫が他の剣士と戦い、実力通りにあっさり殺されてはわざわざ呼んだ意味がないというものだ。
現に甚助を破った事と考え合わせると、薫には何らかの庇護が与えられているのかもしれない。
例えば、技量に劣る分を埋め合わせる分だけ幸運に恵まれているとか。
だとすると、今回の甚助の死も偶然ではなく、薫の意志が介在している可能性がある。
その場合、薫は二度と活人剣などと言えなくなるが。
果たして真実は何処にあるのか。そして、それが明らかになる日は来るのであろうか。

【林崎甚助@史実 死亡】
【残り六十四名】

【へノ肆 城下町/一日目/早朝】

【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】気絶、全身に打撲裂傷、肩に重傷、疲労大
【装備】打刀
【所持品】なし
【思考】基本:この殺し合いを止め、東京へ帰る。
一:川に落ちた神谷薫を探す。
二:志士雄真実と対峙している仲間と合流する。
三:三合目陶物師はいずれ倒す。
【備考】
※京都編終了後からの参加です。
※三合目陶物師の存在に危険を感じましたが名前を知りません。

【神谷薫@るろうに剣心】
【状態】打撲(軽症) 精神的ショック
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:死合を止める。主催者に対する怒り。
     一:安全な場所で剣心を手当てする。
     二:人は殺さない。
【備考】
   ※京都編終了後、人誅編以前からの参戦です。
   ※人別帖は確認しました。

※へノ肆に、林崎甚助の行李と折れた長柄刀が放置されています。
173 ◆cNVX6DYRQU :2010/02/28(日) 10:06:21 ID:/Pt971Ot
投下終了です。
174創る名無しに見る名無し:2010/02/28(日) 10:51:13 ID:V04fLvCm
抜刀術×抜刀術の描写に感嘆しつつ読んでたら……な、なああああにいいいいい!?
なえかが蝦蟇を殺った時以上のまさかの大番狂わせ。
しかも誤殺じゃない可能性があるとは……薫の前途はどうなるやら。
そして大乱戦の三人は、この分だと誰一人放送に耳を傾けなさそうだw
投下乙です!
175創る名無しに見る名無し:2010/02/28(日) 11:00:27 ID:IadzOIj+
投下乙です
そりゃショックだろう
176創る名無しに見る名無し:2010/02/28(日) 12:20:01 ID:/zyRkQI+
乙です
面白かった!
この後の女性陣気になるわー
177創る名無しに見る名無し:2010/03/01(月) 01:14:22 ID:P77qwWXj
赤音と以蔵って、なんかきっついの二人に囲まれているな伊勢守。
こっちはこっちで非常にヤヴァそうなのがいい。
考えても見れば、赤音は一応対主催?なんだよな。
178創る名無しに見る名無し:2010/03/01(月) 02:22:19 ID:TqmlQdTT
wiki収録と、各人の現在位置がわかるようにしてみました。
cgiとしばらく格闘したものの頭が悪くてさっぱりわからず、結局レンタルcgiを使用。
非常に見づらく&使いづらくて申し訳ないですが、ご参考になれば幸い。
しかし城下町人大杉だろjk……
179創る名無しに見る名無し:2010/03/01(月) 02:31:18 ID:JDvHmlej
投下乙です。最後まさかの展開で面白かった。
でも、なんの葛藤もなく真剣で天翔龍閃撃ってるのは納得いかない。
180創る名無しに見る名無し:2010/03/01(月) 03:08:53 ID:TqmlQdTT
なんか>>178は読み返すと誤解を招きそうな文だったな。
何がどう転ぶかわからぬ火薬庫、城下の今後の展開が非常に楽しみです。
181創る名無しに見る名無し:2010/03/04(木) 20:25:33 ID:Nj2twUwF
投下乙!
赤音らの三すくみはどうなんだろ、すっげえ気になる
そしてまさかのオチにはやられたぜ

ところで剣心の状態表 一:川に落ちた神谷薫を探す。  のままなんだけどもう見つけたし変えてよくね?
182 ◆cNVX6DYRQU :2010/03/07(日) 20:20:07 ID:OLZ9s67H
>>181
すいません、完全に見落としてました。
剣心の思考の一は、
一:川に落ちた神谷薫を探す。
から、
一:神谷薫を保護する。
に変更します。
現段階では剣心の方が保護されている側ですが。

それと、小野忠明、斎藤弥九郎、千葉さな子、仏生寺弥助で予約します。
183創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 21:12:12 ID:/jKgUvqC
予約続けてキター!
小野ナレフを始めとする危険マーダーに囲まれ、さな子涙目だなこりゃ。
184創る名無しに見る名無し:2010/03/09(火) 04:40:43 ID:sKX/25WK
まあ、陶物師に顔を狙われるよりはマシだよ……多分。
185創る名無しに見る名無し:2010/03/12(金) 18:33:34 ID:PFfqIwoz
そのあと女性の天敵の腐れ外道に拾われたりする事考えたら、
やはりマシなのか、な?
186創る名無しに見る名無し:2010/03/13(土) 22:51:35 ID:vdTZSuSx
再び偽夢想剣を炸裂させてくれるのか、小野ポルポルに期待!
187 ◆cNVX6DYRQU :2010/03/15(月) 04:35:59 ID:RJhLVljk
小野忠明、斎藤弥九郎、千葉さな子、仏生寺弥助で投下します。
188すれ違う師弟 ◆cNVX6DYRQU :2010/03/15(月) 04:37:22 ID:RJhLVljk
激戦の末に座波間左衛門を斃した千葉さな子は、仲間の元へ向かう為に歩きながらそっと腕をさすった。
物干し竿を使っての長時間の戦いは、彼女の腕に思った以上の負担をかけていたようだ。
もっとも、仲間を助けに行くという観点で見ると、腕の疲労は大きな問題にはならない。
志々雄なる怪人と戦う千石とトウカが二対一にもかかわらず苦戦しているとすれば、その最大の要因は武器の差であろう。
ならば、さな子が満足に戦えなくとも、持っている日本の名刀を二人に手渡すだけでも十分な助けになる筈。
一方、片目の妖怪を追い掛けた剣心は、薫を人質に取られて手を出せずに居る可能性がある。
この場合も、さな子がただ駆け付けて妖怪の気を逸らすだけで起死回生のきっかけになるかもしれない。
故に、腕の疲労が癒えるのを待つ必要はなく、ただ駆ければ良い……だが、どちらへ?
北の千石達か、南の剣心達か。どちらを優先すべきという根拠もない為にさな子は決断できない。
一方向に行きかけてはまた戻る、という事を繰り返していたさな子は、己に向けて駆け寄って来る足音に気付いて身構えた。

「これは、千葉のさな子様ではございませぬか」
「あなたは……仏生寺さん!?」
千葉さな子と仏生寺弥助。同時代に、共に江戸の道場を中心に活躍した二人であるが、特に親交がある訳ではない。
師匠同士には親交があった為、その関係で幾度か顔を合わせた程度である。
よって、さな子は弥助の人格については殆ど知らない。行状に問題があると風の噂で聞いた事はあるが。
にもかかわらず、さな子は弥助が殺し合いに加わっているとは全く考えなかった。
その根拠は、人別帖にあった斎藤弥九郎の名。
さな子が弥助と会ったのは数回に過ぎないが、それだけの付き合いでも彼が師の弥九郎を敬愛している事はよくわかる。
剣士としての聡さと武家の娘としての細やかさを併せ持つさな子でなくては気付かぬ仕草や言葉の端々に到るまで、
弥助の態度には弥九郎に対する感謝と尊敬の念が溢れていた。
真っ当な礼法からは外れているが、それだけに弥助の態度からは素朴な誠意が直截に感じ取れたものだ。
その弥助が、弥九郎と闘ってまで天下無双の称号を求める事など考えられない。
弥九郎だって、こんな故なき殺し合いなど絶対に認めはしないであろうし。
以上の理由から、さな子は弥助が自分と同様の志を持つと判断し、彼との出会いを幸運と考えて喜んだ。
彼と手分けすれば、千石達と剣心達の両方を助けられると。

「では、よろしくお願いしますね」
「は、わかりました」
さな子は弥助に手短に事情を話し、北の千石とトウカの援護に向かってもらう事にした。
剣心と薫の方は、何処まで行っているのか不鮮明な上に、あの妖怪の特徴を言葉で説明するのは困難だと判断したからだ。
顔に傷がある美青年という言い方だと剣心にも当てはまり、それで人違いをされては洒落にならない。
その点、北にいる志々雄は全身包帯という、間違えようのない特徴を備えていることだし。
という訳で、さな子は弥助に北を任せて、自分は南に居る剣心と薫の援護に向かう事にした。

弥助に背を向けて駆け出そうとしたさな子だが、背後の様子に違和感を感じて動きを止める。
特に不審な気配や物音を感じた訳ではない。それどころか、如何なる気配も音も、さな子は感じなかった。
しかし、それはおかしいではないか。さな子は弥助に、急いで北上し、千石とトウカを救うよう頼んだのだ。
ならば背後からは弥助が駆け出すか歩き出す気配が感じられて然るべき。なのに背後からは何の気配も音も感じられない。
つまり、弥助はわざわざこの場で気配を消し足音を忍ばせているという事か。その意味する所は……
189すれ違う師弟 ◆cNVX6DYRQU :2010/03/15(月) 04:38:23 ID:RJhLVljk
咄嗟に前方へ身を投げ出したさな子の頭上を孫六兼元の凶刃が掠めて行く。
「仏生寺さん、どうして!?」「ちいっ!」
奇襲を外された弥助だが怯む事なくさな子を攻め立てる。
さな子も童子切安綱を抜いて防ぐが、力の斎藤の弟子に羞じぬ猛撃に、受け止める腕が悲鳴を上げる。
だが、仏生寺弥助が力の斎藤の秘蔵弟子ならば、千葉さな子も技の千葉を受け継ぐ剣士。
左上段に構えた弥助の動きに毛一筋の隙を見出すと、一気に飛び込み峰打ちで胴を抜こうとする。その瞬間……
弥助の微妙な重心の変化から危険を感じ取って剣を引くさな子。その手首に、さな子の顔を狙った弥助の足が命中した。
さな子は刀を取り落としそうになるのを辛うじてこらえ、蹴りの勢いを利用して後ろに跳び、弥助の追い討ちをかわす。
身の軽さが幸いして、剣の振り下ろしは袂を浅く斬られただけで避けられたが、深刻なのは蹴られた手首だ。
先刻まで物干し竿を振り回していた疲労に加え、弥助の剛剣による衝撃、更に蹴りの打撃。
何ともないように見せてはいるが、実際には指先の感覚が完全ではなくなってしまっている。
この状態では、北辰一刀流の持ち味である精妙な技を十全に遣う事は難しいだろう。
まともに戦えば勝つのは難しい。そう考えたさな子は、いちかばちかの賭けに出る事を決意した。

下段に構え、蹴りを警戒した様子を見せるさな子に対し、弥助は大きく踏み込んで左上段からの振り下ろしを見舞う。
それを読んでいたさな子は、弥助と拍子を合わせて剣を振り上げ、弥助の剣に正面からぶつけた。
単純な腕力ならば弥助が勝っている上に、斬り下ろしと斬り上げだ。
通常ならば弥助の剣が振り勝ち、そのままさな子を切り捨てていただろう。だが、実際にはそうならなかった。
「!?」
孫六兼元の刀身が甲高い音と共に砕け、弥助は慌てて飛び退る。
武器破壊技……などという高等なものではない。単に力任せに己の剣を弥助の刀に叩き付けただけ。
互いの武器の質が同等ならば、さな子の方が刀を砕かれるか勢いの差で押し斬られたであろう。
しかし、さな子の手にあるのは鬼をも切り裂いた神刀、天下五剣の筆頭に挙げられる童子切。
弥助が持つ孫六兼元とて大業物ではあるが、さすがに童子切安綱と真っ向からぶつかり合うのは荷が重かったようだ。
ただ剣術のみを学んだ弥助と、刀の見立てなど武術家に求められる教養をも併習したさな子の差が出たと言うべきか。

とはいえ、まだ決着がついた訳ではない。
弥助の渾身の一撃と真っ向から打ち合った衝撃は凄まじく、支えきれないと見たさな子は童子切を手放し、物干し竿を掴む。
そして、弥助が下がりながら投げ付けて来た孫六兼元の柄を、居合いで両断する。
この光景を見た弥助は迷わず踵を返し、一目散に逃げ去って行った。
「あっ」
さな子は逃げる弥助をすぐには追えない。腕がもう限界に達しようとしていたのだ。
この状態で物干し竿を抜けたのは奇跡。弥助が逃げずにもう一本の刀で向かって来ていたら危うかったかもしれない。
しかし、このまま弥助を放置してはおけない。さな子は弥助に仲間達、特に千石とトウカの情報を漏らしてしまった。
悪いことに、弥助が逃げて行った方向は北。千石達に行き会う可能性は十分にある。
彼等が首尾良く志々雄を倒していたとしても、弥助がさな子に頼まれたと行って近付き、不意打ちしたらどうなるか。
とにかく、これで北か南か迷う必要はなくなった。まずは北へ向かおう。
そして、弥助を捕らえるか、千石達に合流して共に志々雄を倒し、弥助の事を警告する。剣心達はその後に探すしかあるまい。
しなくてはならない事は幾つもあるのに、随分と時間を消費してしまった。急がなくては。
刀を納めたさな子は、必死で腕をさすりながら北へと向かう。
190すれ違う師弟 ◆cNVX6DYRQU :2010/03/15(月) 04:39:41 ID:RJhLVljk
全速で走っていた弥助だが、さな子がすぐに追って来る様子がないと知ると足を止めて一息つく。
千葉さな子……鬼小町などと持て囃されるのは小千葉道場の娘に対する追従だと侮っていたが、眼鏡違いだったようだ。
とはいえ、剣の腕自体は自分が劣っていたとは思わない。後れを取った原因はあくまでも得物の差。
弥助の剣もかなりの業物だったが、さな子の剣は破格だ。まさかあの剣が真っ向からの打ち合いで砕かれるとは。
もう一本の長刀も、弥助が投げた柄を切断したあの斬れ味から見て相当の業物。
さすがに居合いの直後には隙が見られたが、あの長大な刃渡りがもたらす間合いの優位はそれを補って余りある。
特に見るべき点もない軍刀で渡り合うのは困難だし、まして蹴りは足が届く距離にすら近付けまい。
だが、弥助には成算がある。
さな子の話によれば、ここから北に向かえばそこでは彼女の仲間二人が包帯の怪人と戦っているそうだ。
しかも、包帯の男はさな子の仲間から奪ったという名刀を所持しているというし、他の二人も無手ではない。
三人が戦い始めてかなり経つというから、戦いが続いているなら全員かなり消耗している筈。
決着がついていたとしても、さな子の仲間が勝ったならば、その名を上手く使えば不意を打てる。
怪人が勝った場合でも、達人二人を相手にして無傷という事は考えられない。
何にしろ、上手くやれば、最小の危険で三本の武器を手に入れることが出来るだろう。
戦国の名将朝倉宗滴曰く「一本の名刀は百本の槍に如かず」。
学のない弥助はそんな言葉は知らないが、実戦において武器が消耗品であることはよく理解していた。
仮に、包帯男の刀が質においてさな子の剣に及ばなくとも、武器の数で勝れば、今度は有利に闘える筈。
そう考えて弥助が北に急ごうとした時、彼が弥助の前に現れた。

北へと急いでいたさな子は、行く先で叫び声と水音を聞いて走る。まさか、弥助が千石かトウカと接触したのか……
足を早めたさな子の目に飛び込んで来たのは、剣を抜いた弥助の後ろ姿。他の者の姿は見えない。
まさかさっきのは弥助が誰かを川に切り落とした音なのか。さな子は何時でも居合いを放てる体勢を取りつつ声を掛ける。
「仏生寺さん!今のは一体……」「せ……んせい……」
と、いきなり弥助の首から血が噴き出し、その身体が横倒しになった。
「え?」
突然の事に対応できず戸惑うさな子を現実に引き戻したのは、聞き覚えのある声だった。
「吉村!」
川の向こう岸にいたのは、弥助の師であり、さな子にとっても尊敬すべき剣の道の先達……斎藤弥九郎であった。

【仏生寺弥助@史実 死亡】
【残り六十三名】

【はノ伍 川沿い/一日目/早朝】

【千葉さな子@史実】
【状態】健康 疲労中程度
【装備】物干し竿@Fate/stay night 、童子切安綱
【所持品】なし
【思考】
基本:殺し合いはしない。話の通じない相手を説き伏せるためには自分も強くなるしかない。
一:斎藤弥九郎に事情を説明する。
二:久慈慎之介とトウカは無事だろうか?
三:緋村剣心を追う。
四:龍馬さんや敬助さんや甲子太郎さんを見つける。
五:間左衛門の最期の言葉が何故か心に残っている。
【備考】
※二十歳手前頃からの参加です。
※実戦における抜刀術を身につけましたが、林崎甚助、河上彦斎、緋村剣心といった達人にはまだまだ及びません。

【斎藤弥九郎】
【状態】:右手に打ち身。思案。
【装備】:木刀
【所持品】:地図
【思考】ひとまず殺し合いには乗らない。が…。
一:吉村豊次郎(仏生寺弥助)の死の真相を究明する。
二:名の知っているもの、柳生十兵衛らしい若者と会う。
三:兵法者として死ぬべきか…?
【備考】
※1855年、朋輩、江川英龍死去の後より参戦。
191すれ違う師弟 ◆cNVX6DYRQU :2010/03/15(月) 04:40:32 ID:RJhLVljk
斎藤弥九郎と千葉さな子が状況を掴めぬまま睨み合っている地点からしばし下流へ下った地点……
川面がいきなり弾けると、そこから人影が飛び出して岸に降り立つ。
ずぶ濡れの姿で咳き込むその人物は、将軍家剣術指南役にして一刀流継承者、小野次郎右衛門忠明だ。
彼がどうして川の中などにいたのか……忠明は先程の出来事を回想する。

一度は自分に恐怖を植え付けた怪物を破って自信を取り戻した忠明は、一路南を目指していた。
目的地は城。そこに柳生がいるかもしれないし、そうでなくても、天下一の剣客たる己には天守が相応しい。
そう考えて、忠明は南に向かって疾走していた。その途中で川を挟んで出会ったのがあのひょろ長い男。
忠明としては、あんなみすぼらしい男は無視して先を急いでも良かったのだ。
しかし、忠明の得物に眼をやった男の馬鹿にしたような舌打ちが気に障り、次の瞬間、忠明は跳んでいた。
まさかあの川を一跳びで越えられるとは思わなかったのであろう、男の対応が遅れて隙が出来る。
そのまま斬りかかろうとした忠明が男の仕草に危険を感じ取った瞬間、猛烈な勢いで石が飛んで来た。
男が足元の石を蹴り飛ばしたのだ。忠明は辛うじてそれをかわし、続いての斬撃も受け流す。
斬撃もだが、特に石の速度は相当なものであり、似た攻撃を受けた経験がなければさすがの忠明も危うかったかもしれない。
そして、この一撃で忠明は気付く。目の前の男の動きが、先刻会った老人の動きとよく似ている事に。

「そうか。貴様はあの爺いの弟子だな」
その言葉に、男……仏生寺弥助の動きが止まる。
「図星か。まあ、貴様は剣を用いるべき時にはあらずなぞと下らぬ事を言っていた彼奴より少しはマシのようだが……」
「先生に会ったのか!先生は何処に……」
複雑な表情で弥助は聞いて来る。師に会いたいのか、それとも会いたくないのか。まあ、忠明の知った事ではないが。
「あの爺いに会いたいか。ならば地獄で会うが良い。貴様も俺がここから地獄に送ってやろう!」
忠明としては、「あの爺いもすぐに地獄に送るから先に行って待ってろ」という意味合いで吐いた言葉である。
しかし、紛らわしい言い方なのは確かで、忠明が既に弥九郎を殺したという意味に取ったのは弥助が無学だった故ではない。
忠明にとっては弥助に誤解される事など何でもないと言いたい所だろうが、実際にはそのせいで酷い目に遭う事になる。

「あああああああああぁぁぁ!!」
弥助が感情と共に身体をも爆発させて忠明に切り掛かる。
「生意気な!」
一方の忠明も木刀を唸らせて迎え撃ち、二人は真っ向からぶつかり合う。
片や剣の力で、片や師への想いで潜在能力を開放し、奥義の限りを尽くして斬り合う二人の剣士。
しかし、勝負を分けたのは力でも技でもなく、先の千葉さな子と仏生寺弥助の戦いと同様に、武器の質。
短いが激烈な打ち合いの後、弥助の持つ軍刀の柄が、彼の握力に耐え切れずに砕け散ったのだ。
それを見て弥助の首めがけて剣を走らせる忠明だが、木刀の刃が届く直前に顎に衝撃を受けて意識を失う。

そして、忠明が次に気付いた時には川の中に居た。
溺れる前に辛うじて川から脱した忠明。あの場に落としたか、川に流されたか、行李や木刀以外の武器もなくなっている。
だが、悲惨な目に遭ったにもかかわらず、忠明の顔に浮かんでいるのは笑み。
あの時、忠明は男の、おそらくは蹴りを受けて意識を失ったが、今の忠明にとって意識を失う事は敗北ではない。
実際、木刀を握る忠明の手には、男の首を切り裂いた感触がはっきりと残っていた。
蹴られて意識を失いながらも、忠明は無想剣にて仏生寺弥助の命を刈り取っていたのだ。
「少しは出来る奴だったが、師に恵まれなかったな」
忠明は嘯く。敵に剣を振るいたくないなどという軟弱者の弟子が、無双の剣客伊藤一刀斎の後継たる俺に敵う筈がないと。
そして、忠明は再び南下し始める。柳生を倒し、一刀流こそが最強であると知らしめる為に。

【にノ伍 川沿い/一日目/早朝】

【小野忠明@史実】
【状態】:高揚、全身ずぶ濡れ、顎に打撲
【装備】:木刀・正宗、半首、手甲
【所持品】:なし
【思考】 :十兵衛を斬り、他の剣士も斬り、宗矩を斬る。
一:城に向かう。
二:斎藤弥九郎(名前は知らない)は必ず自らの手で殺す。
【備考】
※木刀・正宗の力で身体能力が上昇し、感情が高ぶっています。ただし、本人はその事を自覚していません。
※木刀・正宗の自律行動能力は封印されています。
192 ◆cNVX6DYRQU :2010/03/15(月) 04:41:18 ID:RJhLVljk
投下終了です。
193創る名無しに見る名無し:2010/03/15(月) 12:19:28 ID:ZsIymd6N
小野ポルポルの再覚醒キター?!
仏生寺暗躍も、ここまでか…。

しかし星を上げたと思ったら次に死んだりと、
誰がいつ死ぬか全く先が読めないなこのロワは…。
194創る名無しに見る名無し:2010/03/16(火) 00:39:02 ID:1r7UmWOz
投下乙です

ちょっ!!この展開にさな子と先生もポルポル状態ww
先が読めないいというか、とても面白かったです
195創る名無しに見る名無し:2010/03/17(水) 02:46:31 ID:uQXUT3qA
乙です!
この忠明が今の一刀斎と出遭ったらどうなるか・・・?
楽しみでたまりません。
196 ◆cNVX6DYRQU :2010/03/21(日) 20:46:13 ID:+jcgd7Zd
奥村五百子、佐々木只三郎、犬坂毛野で予約します。
197創る名無しに見る名無し:2010/03/21(日) 21:10:46 ID:S89Tr8eH
なんか次々予約キテルー?
198創る名無しに見る名無し:2010/03/22(月) 03:26:19 ID:qXSBLsu3
単純マーダーは1人とはいえ、何気に全員情け容赦ない連中だw
199創る名無しに見る名無し:2010/03/22(月) 18:12:12 ID:6phCFPGo
そりゃあここの参加者は人殺しを何とも思ってない連中が9割近いからなw
何にしても投下が楽しみ
200創る名無しに見る名無し:2010/03/22(月) 19:10:45 ID:E6giHOzw
>>162
しかし珠の文字が変わる時は常に八つの珠が揃いかつ
他の珠も連動して変わっています。それゆえに、今回仁の玉の
文字だけが変わるという現象は興り得ないのでは?
201創る名無しに見る名無し:2010/03/22(月) 19:30:24 ID:qXSBLsu3
ぶっちゃけ珠は当ロワに存在する数少ない不思議パワーなんだから、
こまけえことはいいんだよ! でいいんじゃないかと。
戦闘不能の怪我が完治したり死人が生き返ったりしない限りは。

原作原典に完全準拠云々言い出したら
史実連中の時代無視な言葉遣いやはっちゃけぶりはどうなのよって話になるし、
原作の八犬伝だってわりと都合良い不思議パワーとして珠が使われてるんじゃね。
202創る名無しに見る名無し:2010/03/23(火) 01:22:59 ID:yweoezE0
確か原作でも玉の文字が変化する原理は不明だったはずなので
特定の玉だけ変化することが有り得るかどうかは判定不能ではないかと。

そもそも登場している珠が同一の時間軸から来ているとも限らない訳で
実はあの仁の玉とセットになっている玉の文字も変化してる可能性もあるし。
203創る名無しに見る名無し:2010/03/23(火) 02:20:35 ID:4JB98Zry
まあ進行上どうしても問題になる事項なら、書き手トリのひとつも出して頂きたい
読み手様の重箱突きならば、速やかに当ロワよりお引き取り下さい
204創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 15:19:14 ID:F9U64khN
>>199
何かしらの感情は抱くぞ。
東郷だって殺した相手には畏敬の念は抱いていたし。

昆虫の補食とは訳が違うんだから。
殺人行為に禁忌や躊躇いがないものが殆んどというのが正確。
205創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 21:34:16 ID:MXDbBijN
文字が違うだけで意味同じじゃね?
206創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 21:54:11 ID:Dgpo7geV
禁忌や躊躇いがない≠何とも思ってない

いざとなったらバッサリやるのに躊躇しないが
色々と思うところはあるってことだな。
207 ◆cNVX6DYRQU :2010/03/29(月) 08:42:28 ID:DwgUf+eA
奥村五百子、佐々木只三郎、犬坂毛野で投下します。
208忠誠いろいろ ◆cNVX6DYRQU :2010/03/29(月) 08:45:59 ID:DwgUf+eA
犬坂毛野は早足で歩きながら、隣にいる女人……奥村五百子の顔をそっと伺う。
毛野の名を聞いた時に見せた妙な反応について、さり気なさを装いつつ、前に会った事があるのか聞いてみると、
「自分は見ていないが里見の八犬士は肥後でも有名だ」という、要領を得ない答えが返って来た。
犬士が既に八人揃って里見家に正式に仕官したような言い方であるのも妙と言えば妙だが、
それだけなら噂が肥前まで伝播する内に内容が歪んだと考えればまあ納得できる。
問題は、五百子の言葉を信じるならば、自分達の噂が遠く肥後にまで伝わっている事になるという点だ。
確かに自分達は多少は世間の評判になり得るような騒動を幾つか起こしはした。
しかし、その程度で肥後にまで噂が広まるというのはまず考えられない。
現に関東でも毛野の名はそうは知られていないし、里見家との縁まで知っているのはごく限られた者のみだ。
ここから考えると、五百子の言葉は疑わしく、実際は別の筋から自分の事を知ったと考えられる。
にもかかわらず肥後で噂を聞いたなどという虚言を使っているのならば、この女はかなり胡乱な人物だと言えるだろう。

以上は五百子の言葉を考察する事で得られる結論……だが、彼女の面相から得られる印象はそれと相反していた。
毛野には風鑑の心得がある。風鑑とは要は観相術の事で、表に出た相を分析してその者の内面や運命を知る技術だ。
見るべき相としては手相や黒子、声質などもあるが、最も重要なのは身体中の気が集まる顔の相。
毛野は先程から五百子の顔を見てその相を鑑定していたが、その結果は上の推測とはまるで一致しない。
信義に溢れ、有為の人物を多く救い、国に尽くし、生涯誠を貫く人物……それが五百子に関する毛野の見立てである。
言動から推測される人物像は大嘘つきなのに、相はこの上なく誠実な人物のもの。この矛盾が毛野を戸惑わせていた。

加えて、朧にいきなり斬り付けたあの行動も毛野の戸惑いの原因になっていた。
確かに朧の風体を見れば怪しむのも当然だが、素性を問い質す事もなく殺しに掛かるのは流石に乱暴すぎだ。
この行動だけを見れば五百子は粗暴で無思慮な人物だと断定したくなるが、ここでも風鑑がその判断に異を唱える。
朧……あの男の顔には主に刃を向ける不忠の相、そして兄を斬る不悌の相が浮かんでいたのだ。
但し、異形の耳を見るに朧は尋常な人間では有り得ず、遠い異国の出身か、禽獣が年を経て化けた者であろう。
禽獣や夷狄ならば、未だ教化が到らぬ故に人倫を知らず、性が善なのにもかかわらず不徳を為す事も有り得る。
この場合、朧に倫理を教えてやって、犯す筈の罪を犯さぬように導いてやるのが霊長たる人間の務め。
そう思ったからこそ朧を徒に疑わなかった毛野だが、実際には単に性悪な妖怪だったのかもしれない。
そして、五百子が何らかの手段で朧の本性を見抜いて斬り付けたのであれば、責めるいわれは何もない事になる。
五百子の言動と人相、互いに矛盾する二つのどちらが彼女の本質を表しているのか……毛野は惑っていた。
209忠誠いろいろ ◆cNVX6DYRQU :2010/03/29(月) 08:50:15 ID:DwgUf+eA
考え事をしていたせいか、毛野がその気配に気付いたのは五百子が立ち止まった後だった。
気配の源である森に目を遣ると、中から男が歩み出て来る。かなり憔悴した様子だ。
「肥前佐賀、奥村五百子と申します。率爾ながら、御名前を伺いたく」
そんな男を警戒する様子も、気遣う様子もなく淡々と呼び掛ける五百子。
だが、毛野は知っている。この何気ない様子から五百子は即座に相手を殺す事が出来るということを。
素早く男の人相を観察すると、忠烈の士の面構えだ。しかし、非業の死を暗示する凶相も出ている。
そう見立てた毛野はそっと五百子に近付き、「あれは忠烈の士だ」と囁く。
五百子が単に血を好むだけの女で、彼女に不意討ちされて殺されるのがこの男の凶相の由来ではないかと危惧したのだ。
その上で毛野は五百子の動きを警戒する。
こう釘を刺したのを無視して五百子が男を斬ろうとするようであれば、毛野の観相が外れであったと断じて良かろう。

「済まぬが、人別帖を見せて頂けぬか?こちらの人別帖には不審の点があってな。見ろ……」
毛野と五百子の尋常でない様子に気付かぬのか、男はそう言って行李から人別帖を取り出しつつ歩み寄って来る。
(人別帖か……)
そう言えば人別帖をきちんと調べていなかった事を今になって毛野は思い出す。
仲間の犬士達がこの場にいるのか、朧や五百子の名が人別帖に有るのかも確かめていない。
俄かにそれが気になり始め、男が五百子に手渡そうとする人別帖を覗き込もうとする毛野。
この時、男が仕掛けて来た。

前触れなく抜き打ちに切り込んできた男の刃を、五百子は素早く抜き掛けた刀で防ぐ。
間を置かずに二人は空いた手で互いの腕を掴むと、同時に繰り出した蹴足が衝突し、その勢いで互いに腕をもぎ離す。
この一連のやり取りの間、毛野は虚を衝かれて反応できなかった。
人別帖に気を取られていた上に、五百子の方が男を不意打ちする事を警戒していたのだからこれはまあ仕方がない。
逆に、不意打ちを受けながら、それを予期していたかの如き素早さで反応した五百子の方が異常だと言えよう。
もちろん、五百子は男の不意打ちを予期していた訳ではない。ただ、このような事態に慣れきっていただけだ。
葉隠に曰く、朝毎に懈怠なく死しておくべし。
鍋島武士でも実践している者は僅かであるこの教えを、五百子は忠実に守っている。
毎朝、観念の中で様々な死に方を体験し、死の覚悟を養う。
そんな生活の中で、五百子は己の考え得る限りの死に様を想像して来た。
親しげに話しかけて来た者に不意を討たれて死ぬ、などというありふれた死に方は、それこそ幾度体験したか数え切れない。
故に、男の突然の攻撃に対しても動揺する事も怖れる事もなく、即座に対応できたのだ。
210忠誠いろいろ ◆cNVX6DYRQU :2010/03/29(月) 08:55:13 ID:DwgUf+eA
不意打ちを奥村五百子と名乗る女に外された佐々木只三郎だが、状況は自分に有利だと考えていた。
攻撃を防がれたとはいえ、只三郎は五百子の間合いの内に入り込んでおり、この距離では小太刀を持つ彼が数段有利。
無論、五百子は間合いを離そうとするだろうし、もう一人の小柄な男も介入して来るだろう。
しかし、只三郎も小太刀の技に関しては絶対の自信がある。
五百子に間合いを離させず、逆にその身体を盾にして男の手出しを防ぐ……それを可能とするだけの技が、只三郎にはあった。
五百子が刀を抜き放つのと同時に、只三郎はソハヤノツルギを翻して攻め立てる。
十分に間合いが近ければ、取り回しの良い小太刀の方が太刀よりも手数の点で有利。
それを最大限に利用し、五百子を防戦一方にしてその動きを思いのままに操るのが只三郎の戦術だ。
だが……

ソハヤノツルギが走り、五百子の肌から血が飛沫く。
しかし、舌打ちして飛び離れたのは有利な筈の只三郎の方だった。
手数を活かした只三郎の攻めに対して、五百子は防御を放棄して反撃して来たのである。
慌てて飛び退いて五百子の攻撃をかわしたものの、そのせいで只三郎の攻撃も掠り傷を与えるに留まった。
それよりも重大なのは、せっかく詰めた間合いを自分から手放してしまった事。代償が掠り傷一つではとても割に合わない。
「貴様……死人か」「然り」
只三郎の呻きと五百子の短い答えが交錯し、それを掻き消すように男の気合が響く。
二人の身体が離れて同士討ちの危険がなくなった事に力を得た男が脇差を抜いて打ち掛かって来たのだ。

只三郎のソハヤノツルギと男の脇差が激しく絡み合う。
武器の質と小太刀の技では只三郎が優位だが、その体格に似合わぬ身体能力に支えられた激しい剣は決して馬鹿にできない。
まして、あの不気味な女を加えての二対一では……
退く事を考え始めた只三郎に対し、脇差の男が問い掛けて来る。
「お前、何者だ!?どうしてこんな事を!」
「……俺は佐々木只三郎」
事ここに到っては名を秘すのも無意味。そう考えた只三郎は名乗りを挙げる。
意外な事に、その名前に反応したのは無表情で刀を構えていた五百子の方であった。
「貴殿が佐々木殿か。御高名は聞き及んでいる。幕臣ながら骨のある御仁だと」
幕臣ながら……か。幕府を侮っているともとれる発言だが、幕臣に骨のある者が少ないのは只三郎も常々思っていた事だ。
「俺などはそう褒められた男ではないさ。主君がこのような愚行を為すのを止める所か、気付きもしていなかったのだからな
 せめて幕府の最後を美しく飾る為、迷惑であろうがお前達の命は俺が貰い受ける」
決意を発露して構えを取る只三郎だが、それを聞いた男は戸惑いを見せ、五百子の鋭い殺気も僅かに鈍る。
「何を……何を言ってるんだ、お前は!?」
叫ぶ男に対し、只三郎は二人の拍子を測りつつ答えを返す。
「どうも俺のような微禄の者が何を進言したとて、上の方々はまともに聞いてはくれぬようだ。だが、俺が勝ち抜けば……
 如何なる願いも聞き届ける……そうまで言った以上、俺が勝ち残れば献策が容れられる公算が高い。そういう事さ」
そう言うと同時に、只三郎は後ろに跳躍し、身を翻して森の中に駆け込む。
只三郎の言葉に呆れたのか怖れたのか、二人の殺気が薄れ、その場を離脱する隙が生まれたのだ。
211忠誠いろいろ ◆cNVX6DYRQU :2010/03/29(月) 08:57:34 ID:DwgUf+eA
「追っては来ぬか……」
森の中で二人が追って来るのを待っていた只三郎だが、その気配がないのを知って刀を納める。
木の茂る森の中ならば、二対一でもやりようがあったのだが……そう思いつつも、只三郎はどこかほっとしていた。
脇差の男はともかく、あの女は明らかにおかしい。自分で言っていたように本当に死人なのかもしれない。
清河の事も考え合わせると、この御前試合にはかなりの割合で亡霊が参加しているのだろうか。
「死人が相手となれば闘い方を変えねばならぬな」
そう、亡霊と戦う事を考えた只三郎が第一に感じたのは恐れなどではなく、ただ困惑。
既に死んでいる者は己の死を恐れぬのやもしれず、そうなれば尋常な人間との戦いを前提に編まれた剣術では不便がある。
清河の戦い方もあの狡猾な男にしては妙であったし、五百子には有利な状況を作りながら思わぬ不覚を取った。
死人を打ち破るには如何なる剣を用いれば良いか……只三郎の考えは既にそこに到っている。
全ては幕府の為に。幽鬼でこそないが、彼もまた一種の鬼と言えるのかもしれない。

【はの弐 森の中/一日目/早朝】

【佐々木只三郎@史実】
【状態】健康、精神的肉体的疲労
【装備】ソハヤノツルギ、徳川慶喜のエペ(柄のみ)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者の命に従い、優勝する
一:何故清河が…?
【備考】※この御前試合の主催者を徳川幕府だと考えています。
※斉藤一の名前を知りません。
※参戦時期は清河八郎暗殺直後です。
212忠誠いろいろ ◆cNVX6DYRQU :2010/03/29(月) 09:02:44 ID:DwgUf+eA
只三郎が逃げ去ると、五百子はあっさりと刀を納め、毛野もそれに倣う。
森の中では小太刀の達人である只三郎は手強い相手だし、視界が利かぬ為に同士討ちの危険さえある。
毛野としては、後を追って只三郎の発言の真意を問い質したい気持ちもあったのだが……
「あんたの目利き通りだったね」
いきなり五百子に言われて、毛野は意味がわからずに戸惑う。
「試合に優勝して己の進言を主に容れさせる為に闘おうとは、見上げた忠義の心たい」
目を細めた表情を見ると、皮肉ではなく本気で只三郎の心意気と毛野の風鑑に感心しているらしい。
「ま、待ってくれ。それはつまり……」
あの男の言う通り、この非道なる御前試合を開催したのが幕府だと認めるつもりなのか。
仮にそうだとしても、己の進言を容れさせる為に無関係の者を殺すのが忠と言えるのか。
まずはこのような非道な催しは即刻中止するように諌言するのが忠の道なのではないか。
御前試合に荷担して幕府に非道を為さしめれば、むしろその不徳の為に幕府が滅びる因を作る事になるのではないか。
言い連ねる毛野に対し、五百子は不同意のようではあるが、敢えて議論しようとはしなかった。ただ、
「崩れるものを無理に崩すまいとするのは見苦しいたい。その点、佐々木殿はさすがに潔い」
とだけ言い、その言葉がまた毛野を混乱させる。
つまり、五百子は幕府の崩壊が不可避だと言うのか。そう言えば、只三郎も幕府の最後を飾るなどと言っていた。
確かに、応仁の乱以来、幕府の権威の凋落振りには目を覆うものがあるが。
「だが、当代の御所様は有徳の君と聞く。そう簡単に幕府が倒れるとは……」
「盛衰は天然、善服は人の道。それとこれとは関係ないたい」
「なっ!?」
五百子の思わぬ発言に毛野は絶句する。盛衰は天然……つまり天、神仏の為す事。
それはその通りだが、何を栄えさせて何を滅ぼすか、それを神仏が定めるにあたっての基準は当然、その者の善悪だ。
毛野の印象としては五百子はかなり学の有る女人であり、この因果応報の理が理解できないはずがないのだが。
五百子には誠があり、只三郎には忠がある。毛野の風鑑はそう告げるが、その見立てと現実の間には何か違和感が有る。
もしや、自分と彼等では誠や忠といった徳目の基準に大きな差異があるのでは。
そんな有り得ない疑いを抱きそうになるほど、毛野の心は戸惑いに揺れていた。

【はの参 森の外/一日目/早朝】

【奥村五百子】
【状態】:左手に刃傷、肩に掠り傷
【装備】:無銘の刀
【所持品】:支給品一式
【思考】 ひとまず殺し合いに乗る気はない。
1: 犬塚毛野を名乗る少年と行動を共にする。
2: この凶事は妖怪やそれに類する者の仕業ではないか。
【備考】
※1865年、20歳の頃より参戦。
※犬塚毛野のことを、八犬士の犬塚毛野の役を演じている旅芸人か放歌師の類と考えています。
※オボロの事は、狐か狸の変化と考えています。また、それら妖物がこの凶事の原因かと考えています。

【犬坂毛野@八犬伝】
【状態】:健康、戸惑い
【装備】:脇差
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:主催者の思惑を潰し、仲間の元に戻る。試合に乗った連中は容赦しない。
一:五百子と同行する。
二:五百子が八犬士の何かを知っているのか気になる。
三:智の珠を取り戻す。
四:主催者に関する情報を集める。柳生十兵衛との接触を優先。
【備考】
※キャラクター設定は碧也ぴんくの漫画版を準拠
※漫画文庫版第七巻・結城での法要の直前から参加です。
※智の珠は会場のどこかにあると考えています。
※オボロを妖怪変化の類だと認識しています。
213 ◆cNVX6DYRQU :2010/03/29(月) 09:03:25 ID:DwgUf+eA
投下終了です。
214創る名無しに見る名無し:2010/03/29(月) 12:47:01 ID:zWeiI+no
おおう。惚れそうな程の漢っぷりだな五百子嬢は。
死人の意味を勘違いしてダイレクトに受け取った只三郎も
これからの暗躍が期待できそう。
うむ、投下乙!
215創る名無しに見る名無し:2010/03/29(月) 22:41:01 ID:Yyp0pPdy
>「貴様……死人か」「然り」

何このクール硬派同士のかっこいいやり取りw
只三郎はシグルイキラーのはてしなく長い男坂を登り始めるのか?
毛野も八犬士では一、二を争う硬派キャラなんだから頑張れ!
投下乙です。
216創る名無しに見る名無し:2010/04/01(木) 23:06:36 ID:NPnpjd0n
支援age
217創る名無しに見る名無し:2010/04/05(月) 23:48:32 ID:1qW2EMzu
 規制のせいでなかなか書き込めない。
 けどやはりこのロワは面白い。
 たまらん。
 
218 ◆cNVX6DYRQU :2010/04/09(金) 22:10:56 ID:/nT7HxtG
久慈慎之介、トウカ、志々雄真実、山南敬助、烏丸与一で予約します。
219創る名無しに見る名無し:2010/04/09(金) 22:45:52 ID:ED0LR6bn
いつも思うんだが地理感覚無視し過ぎじゃないか?
徒歩で瞬間移動し過ぎ
220創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 20:50:45 ID:DSn0f2QW
時間は若干余裕持ったほうがいいね、確かに。

しかし、第一回放送が想像すら出来ん。
221創る名無しに見る名無し:2010/04/16(金) 13:39:06 ID:506gb1d9
222創る名無しに見る名無し:2010/04/17(土) 00:40:30 ID:QepnWBsD
誰か第一回暴走書かないか?

黒幕書けねえから任せるしかないのが辛い。
かけるとしたら駿河大納言くらいだしな…。
223創る名無しに見る名無し:2010/04/17(土) 00:44:45 ID:lzN7yQda
ま、そのあたりは放送が近付いてからでいいんでないの。
224 ◆cNVX6DYRQU :2010/04/17(土) 07:24:53 ID:Oh9xq2JT
久慈慎之介、トウカ、志々雄真実、山南敬助、烏丸与一で投下します。
225修羅の道行き ◆cNVX6DYRQU :2010/04/17(土) 07:28:16 ID:Oh9xq2JT
「っらあ!」
志々雄真実に突進して木刀を振り下ろす千石。剣で払うかと見えた志々雄だが剣を持たぬ方の腕を上げて木刀を受け止めた。
常人なら骨が砕けてもおかしくない勢いだが、志々雄の鋼鉄の如き腕はびくともしない。
負けじと千石は力を籠めて木刀を押し付けるが、意外にも志々雄は逆らわずに退がり、出来た空隙を脇差が切り裂く。
千石の突進を見たトウカが時間差攻撃を仕掛け、志々雄は千石の力を利用して間合いを外し、空振りさせたのだ。
それを知り千石の気が逸れた一瞬の隙を突き、志々雄は斬鉄剣を大振りしてトウカを牽制すると、軌道を変えて千石を襲う。
「くそっ」
転がって斬撃を避けた千石は、咄嗟に鉢金――前に座波が叩き落した志々雄の鉢金――を拾って投げ付けるが、
志々雄が斬鉄剣を振るうと、それはまるで豆腐のようにあっさりと両断されて地に落ちる。

歯噛みする千石。志々雄の尋常でない技量を考えに入れたとしても、あの刀の切れ味は異常だ。
並の剣士なら、この切れ過ぎる刀を畏れ動きが鈍りそうなものだが、この男はそんな素振りもなく存分に使いこなしている。
こんな剣と剣士の組み合わせと打ち合う際に少しでも気を抜けば、たちまち木刀を切り折られてしまうだろう。
仮にどうにか刀をすり抜けて一撃当てられたとしても、この頑丈な怪人を木刀で倒すのは並大抵ではない。
トウカの脇差なら急所に当たれば志々雄を倒せようが、あの剣呑な刀に間合いの劣る武器で立ち向かうのは至難の業。
まして、彼女得意の居合いを放つ為に不可欠な脇差の鞘は、敵である志々雄の腰に差されているのだ。
無論、千石たちにも希望はある。何せ二対一なのだ。数的有利を十分に活かせれば、得物の差など無効に出来る筈。
しかし、現実には一方的に押されっ放し。その責が己にある事を、千石は自覚していた。
トウカは、多数の戦場を経験したというだけあって、こちらの動きを良く見て連携しようと試みている。
だが、自分は駄目だ。今まで幾多の戦いを経験して来たという点では同じだが、少数で多数の敵と戦うのが常だった。
仲間がいても連携して戦うというよりも、三手に分かれてそれぞれに斬りまくるのが自分達の流儀。
敢えて言うならば、三方面で同時に敵を減らして行く事でその士気を挫くのが一種の連携と言えなくもないか。
つまり、千石には現在の状況で有効な戦法の心得が殆どないという事であり、その為にトウカの足を引っ張ってしまっている。
何とかしなければと思っても、達人相手に有効な連携など、付け焼刃でどうにかなろう筈もない。
そんな状況に苛立った千石は、無謀ともいえる行動に打って出た。

「行くぞっ!」
そう言って八相の構えから身体全体を使った振り下ろしを繰り出す千石。
落ち着いて斬鉄剣で受け流そうとする志々雄だが、剣が千石の木刀と接触した瞬間、何の抵抗もなく木刀が切断される。
普通に考えればこれは驚く事ではない。金剛石さえたやすく切り裂く斬鉄剣と木刀で打ち合うなど普通は不可能なのだから。
だが、千石ほどの達人にかかれば、その不可能は可能になる。
微妙な力加減によって斬鉄剣の刃筋を狂わせ、志々雄が漫然と受ければ逆にその手から刀を叩き落す事も可能だろう。
だから、木刀が切れたのは当然の結果ではなく、千石があえて切らせたもの。
志々雄の受けによって木刀は切断されたが、あまりに抵抗なく切れた為、千石の勢いはそれによって全く殺がれなかった。
そのまま身を沈めて志々雄の懐に潜り込んだ千石は、切断されて切っ先の鋭くなった木刀を突き出す。
とはいえ、志々雄とてこの程度の策でやられるほど未熟ではない。咄嗟に片手を剣から離し、素手で木刀を掴んで止める。
「何!?」
だが、その突きもまた偽攻。志々雄が突きに気を取られた隙に、千石は手を伸ばし、志々雄の腰にある脇差の鞘を掴む。
そのまま力を籠めて鞘を引き抜く千石……しかし、次の瞬間、頭に強烈な衝撃を受ける。志々雄の拳撃を受けたのだ。
226修羅の道行き ◆cNVX6DYRQU :2010/04/17(土) 07:30:57 ID:Oh9xq2JT
岩をも砕く二重の極みに耐え抜いた相楽左之助を一撃で戦闘不能に追い込んだ志々雄真実の拳。
それをまともに受けてただで済む筈もなく、さしもの千石も意識を手放す。
しかし、千石自身は倒れても、志は繋がった。気絶する直前に千石が投げた鞘は、確かにトウカの手に渡っていたのだ。
倒れた千石の胸が上下しているのを見て息を付いたトウカは、鞘に脇差を納めて居合いの構えを取る。
考えてみれば、出会ってから今まで、自分は一度も居合いの技を見せられていない。
にもかかわらず、千石は命を賭けて自分が居合いを使える態勢を整えてくれた。
この信頼に応える為、自分も命を賭けてこの敵を倒さねば……
「エヴェンクルガのトウカ、参る!」

突進して居合いを放つトウカ。確かに相当のキレだが、抜刀斎の天翔龍閃ほどではない。
余裕を持って受け流し、反撃を叩き込もうと振り返る志々雄。だが、その眼前には居合いの構えを取ったトウカの姿が。
一閃!
トウカの再度の居合いをかわしそこねて志々雄の身体から血が噴き出す。
そもそも抜刀術は使いこなせば強力な武器となるが、技を放った後に隙が出来るという不可避の欠点を持っている。
故に、抜刀術を武器とする剣士達は、その欠点を補う様々な工夫をこらした。
或いは二段構えの居合い技を編み出し、或いは抜刀術をどこまでも研ぎ澄ませて何者も回避できないまでに高める。
だが、トウカのように大勢の兵士が入り乱れる戦場に生きる剣士には、その種の方法では不十分だ。
必殺の抜刀術で一人二人を倒しても、別の者に背後から切り付けられる危険が常にあるのだから。
それに対する一つの答えが高速で移動しつつの連続での居合いだ。
居合い切りを放ち、刹那の間に着地・方向転換・納刀をこなして再び跳躍して抜刀する。
四方を跳びつつ切り付けて来るトウカを、志々雄は持て余していた。
斬鉄剣の凄まじい切れ味も、守勢に回っては大した効力を発揮してはくれない。
どころか、鍔がなく柄が木製の斬鉄剣は、防御には向かない刀だと言ってもいいだろう。
ならばと志々雄は反撃に出るが、今度は斬鉄剣の凄まじい切れ味が彼に仇を為すことになる。

脇差を持つトウカは攻撃の際、間合いのかなり内側まで入って来ているので、反撃を当てるのは難しくなかった。
だが、斬鉄剣はあまりに切れ過ぎる為に人体も抵抗なく斬ってしまい、相手に衝撃を伝える事が出来ない。
その分より深い傷を与える事が出来るのだが、高速で駆け続けるトウカの急所を的確に捉えるのは相当に困難。
致命傷を与えられないならば、痛みと失血を無視できるだけの気迫さえあれば、斬鉄剣の傷は無視できるのだ。
長らく無限刃という、切れ味では劣る武器を使い続けていた志々雄にとって、この特性は厄介だった。
対して、トウカの武器はただの脇差なので、一撃を受ける度に衝撃で体勢を崩し、次の反撃と回避を難しくする。
まあ、斬撃を筋肉である程度止められるおかげで重傷を免れている面もあるにはあるのだが。
しかし、この調子で闘い続ければ、先に致命的な隙を曝すのは志々雄の方……そう思えた。
227創る名無しに見る名無し:2010/04/17(土) 07:32:41 ID:QepnWBsD
支援。
228修羅の道行き ◆cNVX6DYRQU :2010/04/17(土) 07:39:40 ID:Oh9xq2JT
志々雄真実とトウカ、両者が交錯して共に負傷し、飛沫いた志々雄の血がトウカに付着してその肌を灼く。
長引く戦いにより志々雄の体温が限界近くまで上がり、返り血を浴びるだけで火傷を負う領域にまで到ったのだ。
斬鉄剣による切り傷と血による火傷、そして志々雄の身体から発せられる熱気がトウカの意識を朦朧とさせる。
だが、トウカはその程度で止まる訳にはいかない。千石の想いに応える為にも、必ずこの男を倒す。
決意を胸に更に加速したトウカの前で、傷のせいか己の体温に耐えかねたのか、遂に志々雄が膝を付いた。
この機に仕留めようと飛び込むトウカだが、志々雄は地面から何かを持ち上げ、居合いに対する盾とする。
仮に、盾にされたのが例えば辺りに散乱している行李の一つだったなら、トウカはそれごと志々雄を両断していただろう。
いや、盾になったのが「それ」であっても、トウカにその気があれば、それごと志々雄を斬る事は可能だった筈。
しかし、トウカは止まった。盾にされた仲間を……千石を斬ることなど、彼女に出来よう筈がなかったのだ。
トウカの甘さか、志々雄の立ち位置を十分に確認していなかった失策か、そもそもこの怪物に脇差で挑むのが無謀だったのか。
何にしろ、トウカは志々雄の眼前で動きを止めてしまった。そして、志々雄にはこの好機を逃すような甘さは微塵もない。

「甘え!」
斬鉄剣が千石の心臓を貫き、そのままトウカの腹に突き刺さる。
そのままトウカの内臓を抉って殺そうとする志々雄だが、その前にトウカが後ろに跳ぶ……いや、突き飛ばされたのだ。
確かに心臓を貫かれていながらトウカを突き飛ばした千石は、そのまま斬鉄剣を抱え込む。
この異常な事態に志々雄は怯むことなく、千石の背を抜き手で貫き、とどめを刺す。
いや、普通に考えれば心臓を貫かれた時点で千石は死亡している筈なのだから、とどめという言い方は妙なのだが。
まあ、とどめを刺したのが斬鉄剣にしろ抜き手にしろ、とにかく千石は完全に死亡し動きを止める。そして、斬鉄剣もまた……
如何に斬鉄剣が切れ味が鋭い刀でも、刃を引かなければ切れないという性質では普通の刀と何ら変わりがない。
千石は死して尚がっちりと斬鉄剣を抱え込んでおり、押しても引いても微動だにしなかった。
このまま千石の筋肉が硬直すれば、その身体を砕かぬ限り斬鉄剣を抜く事は不可能になるだろう。
だが、その程度で諦めるには斬鉄剣はあまりにも惜しい刀。
志々雄は抜き手を千石の傷口辺りに刺し、己の熱でその肉を焼いて隙間を作り、無理に引き抜く。
そして、あらためてとどめを刺そうとトウカを見やれば、千石に突き飛ばされ倒れていた筈の彼女が立ち上がっていた。
彼女を立たせたのは世の理を曲げてまで千石が稼いだ時間か、それとも仲間の為にそこまでする気力か。
「ふん、もう少し楽しめそうだな」

立ち上がったといっても、トウカの目に光はなく、まだ意識を取り戻した訳ではなさそうだ。
だが、その身体には気迫が満ち始めており、殺気を向ければたちまち意識を取り戻して反撃して来るのは明らか。
全力の剣気を叩き付けて再度の開戦の花火としようとする志々雄だが、無粋な第三者の介入で水を差される。
「何をしているでござる!」
時代がかった言葉に振り向くが、そこにいたのはあの男ではなく、駆け寄ってくる見知らぬ二人の男。
志々雄としては、三人相手に闘ってもいいくらい気分が高揚していたが、以前の経験から己の限界が近い事を悟っていた。
戦いの果てに燃え尽きる……それも心地良い体験だったが、それはこの狂った殺し合いをもう少し楽しんだ後でも良い。
この地に幾人も居るであろう、己の血を沸き立たせてくれる修羅達と手合わせもせずに逝くのは非礼というものだ。
そう思った志々雄は剣を引き、手をゆっくりトウカに近付けるとその額に触れる。
「あああああ!!」
志々雄の内なる業火の一端がトウカに移り、その脳をも苛む。
「餞別だ。次に会う事があれば、少しはマシな剣客になってるよう、期待してるぜ」
そう言い残して志々雄は立ち去り、立ち向かうべき相手がいなくなったトウカは地に倒れた。
地獄の業火を撒き散らしながら修羅の道を進む志々雄真実。次にその道と交錯するのは、一体誰か。

【久慈慎之介@三匹が斬る! 死亡】
【残り六十二名】

【はの伍 河原/一日目/早朝】

【志々雄真実@るろうに剣心】
【状態】高体温、軽傷多数
【装備】斬鉄剣(鞘なし)
【道具】支給品一式
【思考】基本:この殺し合いを楽しむ。
1:土方と再会できたら、改めて戦う。
2:無限刃を見付けたら手に入れる。
※死亡後からの参戦です。
※人別帖を確認しました。
229修羅の道行き ◆cNVX6DYRQU :2010/04/17(土) 07:42:21 ID:Oh9xq2JT
戦闘の気配を感じて駆け寄って来た烏丸与一は、男の無惨な死体を見て立ち尽くした。
この男が何者なのかは知らぬが、誰であろうとこのような形で命を奪われて良い筈などない。
「女性の方は息があります。手伝った下さい」
呆然としていた与一は山南敬助の言葉で我に返り、応急処置を手伝う与一。しかし、その心は自責の念に囚われていた。
死体の様子から見て、男が殺されてからまだそう時間は経っていない。
つまり、与一達がもう少し早く仁七村を出発してここに来ていれば助けられたかもしれないという事だ。
村からの出発が遅れたのは土方歳三との戦いで疲弊した与一の回復の為。
だから、この男の死、そして女人の負傷は自分の責任だ……与一はそう考えて己を責めている。
無論、神ならぬ人の身で全てを救う事など出来る筈もなく、女性の方を救えただけでも良かったという考えもあるだろう。
しかし、山の中の狭い世界で育ち、大抵の事は己の力でどうにかできる環境が常態であった与一にそんな思考はない。
この世間慣れしていない少年にとり、己以上の実力の修羅が跋扈し、世界そのものが悪意を持つこの島はあまりに過酷な地。
そのような地で少年は果たしてどんな道を進むのか。或いは、道を選ぶ暇もなく強者の糧となってしまうのだろうか。

【トウカ@うたわれるもの】
【状態】:気絶、腹部に重傷、軽傷多数
【装備】:脇差
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:主催者と試合に乗った者を斬る
一:志々雄真実を斬る
二:神谷薫を救出する

【山南敬助】
【状態】健康
【装備】エクスカリバー@Fate/stay night
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:この死合からの脱出
一:トウカの手当てをする
二:与一と行動を共にする
三:日本刀を見つける。
四:芹沢や新見が本人か確認したい
五:現在の日本がどうなっているか情報を集める
【備考】
新撰組脱走〜沖田に捕まる直前からの参加です。
エクスカリバーの鞘はアヴァロンではなく、普通の鞘です。またエクスカリバーの開放は不可能です。
柳生宗矩を妖術使いと思っています。

【烏丸与一@明日のよいち!】
【状態】肩に打撲
【装備】木刀@史実
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:人は殺さない。
一:山南と行動する。
二:愛用の木刀を探す。
三:あの男(柳生宗矩)を倒す。
【備考】
登場時期は高校に入学して以降のいつか(具体的な時期は未定)
230 ◆cNVX6DYRQU :2010/04/17(土) 07:43:14 ID:Oh9xq2JT
投下終了です。支援ありがとうございました。
231創る名無しに見る名無し:2010/04/17(土) 12:34:52 ID:QepnWBsD
む?
トウカは額捕まれて、CCOの紅蓮腕で焼かれたのだよな?
トウカの負傷状態に顔面の火傷がなかったような…。


232創る名無しに見る名無し:2010/04/17(土) 14:55:53 ID:WbZEncFy
投下乙です
これは志々雄に全滅させられる可能性大だったんだが一人で済んでよかった
いや、死人出たのによかったはないけどw
トウカは生きてはいるが顔にやけどか…カワイソス
233創る名無しに見る名無し:2010/04/17(土) 17:07:21 ID:QWGbRLLH
久々に志々雄が来たか。千石頑張ったな、トウカは死なずに済んでなにより
与一は成長するか、喰われるか・・・さてどうなるやら
234創る名無しに見る名無し:2010/04/17(土) 21:02:00 ID:lzN7yQda
トウカ乙!
なんか女性陣の魔改造フラグが着々と立っている気がw
そしてセンゴクに合掌。そうか、多対一に慣れているからこその弱点か……。
235創る名無しに見る名無し:2010/04/18(日) 02:39:20 ID:3egrFKmM
>>230
投下乙です。
wiki収録時に、>>229の3行目を
「(略)手伝った下さい」→「(略)手伝って下さい」
に修正してもよろしいでしょうか。

それから、トウカと山南一行の座標は
志々雄と同じ【はの伍 河原】で合っていますか?
236 ◆cNVX6DYRQU :2010/04/18(日) 08:24:56 ID:OdSZL4Yr
>>231
トウカは紅蓮腕を受けたのではなく単に志々雄に掴まれただけで、
いくら体温が上昇していても触れただけで火傷する程かは微妙なので状態表には書きませんでした。
ですが、実は火傷していて、顔の火傷は「軽傷多数」の中に含まれていることにするのもありだと思います。

>>235
すいません。それでお願いします。
237創る名無しに見る名無し:2010/04/18(日) 10:08:48 ID:vJvSx9Ad
まぁ、仮に火傷したとしてもただれる程にはならないでしょうな。
マグマ原人じゃあるまいし。
238創る名無しに見る名無し:2010/04/18(日) 16:12:09 ID:U4qjWoha
これで第一放送まで残ってるのは何人?
239創る名無しに見る名無し:2010/04/19(月) 09:20:35 ID:pCJCZK4a
18人死亡だから残り62人だね。
剣術関連の資料が欲しい。書物、ゲームを問わず。
新紀元社の剣術関連の本はかなり分かりやすかったが、他に何かオススメはあるかな?
240創る名無しに見る名無し:2010/04/19(月) 19:39:01 ID:4XQRB+uI
時代劇小説でいいのがあればいいんだけど
残り人数は判ったけど放送に行ってない奴は何人だっけ?
241創る名無しに見る名無し:2010/04/19(月) 21:41:53 ID:gLNsvnhq
>>240
29人。
wikiの地図ページの現在位置速報を色分けしたので参考までに。
242創る名無しに見る名無し:2010/04/20(火) 00:46:31 ID:w0xRSNRN
剣術関連のゲームで刃鳴散らすより掘り下げたやつは見たことないな
あの薀蓄っぷりは異常w
243創る名無しに見る名無し:2010/04/20(火) 00:57:12 ID:sKNlU2SD
原典把握が出来てさらに書きやすくもなる訳か。
一石二鳥だ。
同じライターによる「装甲悪鬼村正」はその辺資料としてどうかな?
244創る名無しに見る名無し:2010/04/20(火) 01:40:53 ID:w0xRSNRN
>>243
前作よりもスーパー系、しかもプレイ時間極長だから
執筆資料のためだけに買うのは正直無謀。
ただ一部のシーンでは前作同様、一撃必殺でリアルな生身の戦いあり。
エンドロールには剣術監修の名前も。

ストーリー面でもテーマの重さ、登場人物の業の深さ、ついでにエロの少なさ薄さは
刃鳴散らすに優るとも劣らない。ノベルゲーとしてなら個人的には最高峰。
まあ18歳未満の人には薦められないけれども。

ハナチラも村正もメインは架空の流派(一応)だけど、
実在の剣術を下敷きにしてるから、概念や駆け引きなんかはかなり参考になると思う。
245創る名無しに見る名無し:2010/04/20(火) 22:58:03 ID:Lktf6WgU
>>236
方治は志々雄に洗礼(素手で額を掴まれた)された時に火傷してたよ
行動に支障が出る程じゃないし、自然治癒する程度の軽い物だろうけど。
246創る名無しに見る名無し:2010/04/21(水) 00:14:59 ID:3ejUk8Xm
>志々雄の内なる業火の一端がトウカに移り、その脳をも苛む。
まぁこの描写から考えてちょっと火傷しただけって事はないと思う。
247創る名無しに見る名無し:2010/04/22(木) 06:13:34 ID:CfAkDLhi
今まとめサイトで読みふけっている者です。
日本史に詳しくないので史実の人物も半分くらいしかわからずも楽しく読ませてもらっています。
一つ要望をいわせてもらうと、史実の人物が喋るとき現代的口語だとどうしても違和感を感じるということ。
書きづらく、かつ読みづらくてもいいのでそこは古臭い時代がかった台詞で通してもらいたい。
一部の話に見受けられたので、勝手ながら指摘させてもらいました。
248創る名無しに見る名無し:2010/04/22(木) 06:54:34 ID:9y+bo8vj
RYO-MAや小野ナレフみたいなのが生まれるカオスが面白いんじゃないか
読みづらくてもいいはともかく、書きづらくてもいいかどうかは書き手が決めることさ
249創る名無しに見る名無し:2010/04/24(土) 12:20:06 ID:H+BeWgrX
若き日の辻月丹の活躍を描いた小説って何かないかな?
断食と武者修行に明け暮れてた頃のやつ。

後年の世捨て人チックな描写をされてる作品はいくつかあるみたいだけど、
十代の時に返り討ちにした山賊のしゃれこうべを筒に入れて
自分の道場に飾って一生持ち続けた、なんて血生臭いエピソードもあるみたいだし。
250 ◆F0cKheEiqE :2010/04/30(金) 13:37:28 ID:pjaZe92Y
>>249
残念ながら知りませんねぇ…

ところで、久々に

三合目陶器師

で予約します
251創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 16:10:08 ID:OJ8sHRql
帰ってキタ-!!
あんまり根詰めないようにしてくださいな。
252創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 22:59:41 ID:6hiqFDfr
ウェルカムバック!
負け続きでも死なない陶物師にはここらで元気に猟奇に頑張って貰いたいなー。
253 ◆YFw4OxIuOI :2010/05/03(月) 10:30:34 ID:Qq7Hrh5j
では、こちらも久々に。

武田赤音、岡田以蔵、上泉信綱で予約。
254創る名無しに見る名無し:2010/05/07(金) 21:26:11 ID:t5FlYvfP
久々に来たら予約来てるw
255創る名無しに見る名無し:2010/05/07(金) 22:30:19 ID:tmXZJ+FS
test
256 ◆F0cKheEiqE :2010/05/07(金) 23:53:33 ID:tmXZJ+FS
三合目陶器師

投下します



こんな夢を見た。





そこでは、一組の武家の男女の祝言が、執り行われていた。
花婿は立派な裃姿の武士であり、花嫁は白無垢姿の妖艶な美女であった。

参列者たちは数も多く、また何れも立派で豪奢な服装に身を包んでおり、
彼らの面前に出された料理、酒の類も、庶民には手の届かぬ贅沢品ばかりであった。
今日、祝福されるこの男女の家の身分の高さ、あるいは財産の豊富さを覗わせる。

見れば、花婿の裃の肩衣には「三つ盛鱗」の紋が白く染め抜かれている。
と、すれば、この花婿は小田原北条氏の一族の一人と言う事であろうか。
それならば、この祝言の盛況ぶりも納得がいくという物である。

よくよく参列者の顔ぶれに目を向ければ、
何れも小田原北条氏の重臣の御歴々であり、
大道寺氏、松田氏、上田氏といった後世に名を残した一族の人々も見え、
花婿の主君である北条氏康公こそ姿を見せぬものの、その代理として弟の北条氏尭公の姿もあった。

来賓達は料理と酒に舌鼓をうち、互いに愉快に話し合い、笑い合ってはいたが、
何故であろう人々の花婿を見る視線には、祝福ではなく、
何処か冷笑・侮り・嘲り・嫉妬と言った陰性の感情を多分に含んでいた。

その理由は、花婿、花嫁の顔を交互に眺めれば一目瞭然だった。
前述したが、花嫁は実に美しかった。
妖艶…否、淫靡とすら言っていい程であった。
男であれば誰もが見惚れ、其れを物にする男を羨む程であった。

一方、花婿はどうであろうか。
花婿の顔に目をやれば、誰であろうとも、
来客達の視線の視線をたちどころに理解できるであろう。

花婿の顔は…あまりに醜かった!滑稽なほど醜かったのだ!

見よ、その飛び出した額!
見よ、その扁平の鼻!
見よ、その左右不揃いの釣り上がった眼!
見よ、その衣裳の裾のように脹れ上がり前歯をむき出した上下の唇!
見よ、その左半面ベッタリと色変えている紫色の痣!

類稀なる美女の花嫁の顔と並べて見れば、その醜さは一層引き立って見える。

参列者達の視線の意味…
それは分不相応にも、家中随一の美女たる花嫁―名を「園女」と言う―を娶る、
家中随一の醜男たる花婿―名を「北条内記」―に対する嫉妬と冷笑に他ならない。

なまじ、花婿・北条内記が、家柄だけでなく文武共に秀でおり、
幾つもの恩賞を上げた侍大将の筆頭である事実が、
少なくともその容貌以外が園女を娶るに足る資格を充分に有していると言う事実があるだけに、
人々の北条内記に向ける負の視線はより一層陰湿で、ドギツい。

(なんとまあ、不釣り合いな夫婦である事よ…)
(許婚であるとは言え、園女も随分不運な事よ)
(それにしても憎いは北条内記奴、不相応なモノに手を出しおって)
(貴様は狒々とでも、契っておるのが似あいの面だとわからぬか)

花婿の知る知らずは知らず、
来賓の心に浮かぶのは何れも、このような言葉ばかりであった。

一方、花婿・北条内記の心の内を覗いて見れば…
(俺の面相では、正直、園女も嫌になろう…)
(しかし、真心で、真心を込めて接し続けていれば…いつかは…いつかは)

成程、花婿も、自分の面相の悪さには気が付いていたようだが、
その心には、自身の力量へのうぬぼれか、どこか楽観があった。
この時はまだ。

宴も酣になったころ、
突如、奥の襖が蹴り破られた。

その音と様子に、一同は驚き、
何事かと皆、目を見遣る。

そこには一人の男がいた。
男は花婿と同じく裃姿だが、
その容貌は北条内記と対称を為すように、
男ならば誰でも羨み、女であれば誰でも溜息を付く、恐るべき美貌の持ち主であった。

男は驚く来客達を一瞥だにすることなく、男は北条内記の面前へと、
どしどし足を進める。

「無礼な!…何用だ伴源之丞!」

北条内記が無粋な乱入者へと向けて、一喝する。
果たして、乱入者の正体は、小田原北条氏家中随一の美男と言われる、
伴源之丞その人であった。

「何用だぁ、だと?……北条内記」
伴源之丞はニヤニヤと笑いながら、睨みつける北条内記の顔をしばし見ていたが、
唐突に耳まで裂けるほど口唇を釣り上げると、

「フフフ」
「ハハハ」
「アハハハハハハハハハハ」

と内記をゲラゲラと嘲笑しながら言った。

「冗談はその面だけにしとけや、北条内記奴!」
「貴様、本気で自分が園女を娶れると、そう思うておるのか!?」
「ナニッ!?」

祝言の席での、常軌を逸した暴言に、
坐していた内記が立ちあがる。
その顔は湯で蛸の如く真っ赤に染まっている。

「貴様の様な醜い男が、園女を娶るなど、園殿があまりに哀れ。
俺が貰って呉れるから、貴様はとく去ね」
「な、何を…キサマっ!」
「よく申して下さいました源之丞さま!」
「園女どの!?」

源之丞のあまりの物言いに、傍らに置かれていた刀を拾うや否や抜かんとする北条内記の隣で、
今まで静かに控えていた花嫁・園女が、突如立ち上がり、予期せぬ言葉を吐いた。
激昂から一転、冷水を浴びせられたが如く、慄然たる心持で、園女を見遣った。

園女は北条内記を見ていた。
その視線と、綺麗な口元は内記への嘲笑で歪んでいる。

園女はスルスルと歩を進めると、
源之丞の首に手を回し、枝垂れ懸る様にその頭を源之丞の胸板に預ける。
源之丞は、勝ち誇った顔で、園女の肩に手を回した。

「ああ…あああ、ああああ…」
「よう解ったであろう、内記。園女は俺の女よ。そうとも知らず、滑稽な男よなぁ」
「全く、侍大将の筆頭が、妻となる女の心にも気が回らぬとは、まこと情けなき輩です」

源之丞、園女、ともに顔を見合わせて、クスクスと内記を嗤うと、
彼に背を向けて、入って来た方へと歩き出す。

余りの出来ごとに、自失していた内記であったが、
正気に返るや、やおら段平引き抜いて、姦婦・姦夫へと叫ぶ。

「止まれ…止まらぬか、姦婦!姦夫!」

口角沫を飛ばし、顔を真っ赤にして叫ぶ内記の様相は、
まさに鬼気迫ると言う言葉そのままで、
源之丞、園女の態度次第では、今にも白刃を煌めかせんといった調子であった。

しかし、源之丞、園女、姦夫姦婦の二人連れは振り向く事すらする様子なく、
スルスル出口へと向かうのみ。

これに正に怒髪天を突く、北条内記、エェーイと一声、気勢を発すれば、
ダダダと踏み込み、右上段袈裟掛け、一刀のもとに姦夫姦婦纏めて斬り捨てんとする。
土子土呂之介直伝、一羽流の見事な太刀筋、姦婦姦夫、すわ血の池に沈みしか、と思えば…

「ヌ!?」

如何なる怪異か、内記の太刀筋はするりと二人の体をすり抜けて、
僅かに畳を髪の毛ほど抉るのみ。

間合いを誤りしかともう一太刀、今度は左の逆袈裟をしかけしも、
またも、太刀は霞を斬るが如く、姦夫姦婦をすり抜けて、空しく空を斬ったのみだった。

「ヌヌヌ、色小姓風情が…おのおのがた、その二人を、止めてくだされ、止めてくだされ!」

自分の太刀が何故かすり抜ける怪異にすら、その怒りにより気の留らぬ内記は、
未だただ控えるだけの来客たちに、姦婦姦夫を留めんと声をかける。

「おのおのがた、いかがなされた!?二人を…」

しかし動かぬ来客達に、再び声をかけんとした内記は、そこでハタと気が付いた。
自分を見つめる、来客達の視線、表情に。
そこにあったのは…

ハハハ
ヒヒヒ
ゲラゲラゲラ

確かに嘲笑と侮蔑であった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」

突如湧きおこる哄笑、哄笑、哄笑…!
ただ呆然とするしかない内記を余所に、
人々は笑う、嗤う、嘲笑う!

「北条内記の面相なら、連れ添う女房でも厭になろう」
「家中一等の美人の園女を、本当にモノに出来るなどと…笑止千万」
「旨くやったは伴源之丞、あの園女を手中に入れ、内記めを降すとは果報者だ」
「その又伴源之丞と来ては、家中一番の美男だからな。似合いの夫婦というやつさ」

そして人々は立ち上がり、
次々に姦夫姦婦を祝福す言葉を挙げれば、
手を叩きながら二人につられて歩き出す。

「おのおのがた、おのおのがた…お待ちくだされ、お待ちくだされ!」
「福島殿!松田殿!成田殿!」
「大道寺殿!垪和殿!富永殿!」
「上田殿!猪俣殿!清水殿ぉ!」
「左衛門佐様ぁ、左衛門佐様ぁ、左衛門佐様ぁっ!」
「お待ちくだされ、お待ちくだされ!」
「お待ちくだされ、お待ちくだされ!」
「 お 待 ち く だ さ れ っ ! 」

内記は絶叫する。
しかし誰一人振り向かない。
気がつけば、かつての祝言の席には、ただ、“元”花婿一人が残された。

しばし呆然と立ち尽くす北条内記であったが、
刀をごとりと取り落とし、がっくと膝を突くと、
真っ青な顔で呻くように呟いた。

「これは…夢だ…」
「夢を…見ているのだ」

しばし息苦しく喘ぎ、冷や汗を流すと、
発止と落ちた段平、再び握りしめて、内記は再度絶叫した。

「何事も無い!」
「何事も起こっては御座らん!」
「これは夢で御座る!」

「かかる悪夢に惑わされてはならぬ」
「今日、この日、この只今!」
「園女は、園女は!」
「確かに俺の、この北条内記の、妻となったのだ!」
「かような事のあり得ようはずはござらぬ!!」

「夢だ!」
「夢だ!」
「夢だ夢だ夢だ!」

「 夢 で ぇ 御 座 る ぅ っ ! 」
「 否 、 夢 に 非 ず 」

内記の絶叫を打ち消すように、
彼の背後より、冷たい言葉が走った。

内記が、バッと振り向けば。
そこにはいるはずの無い男が居る。

赤茶けた蓬髪、三角形の琥珀色の瞳。
まばらな針みたいな髭、高い頬骨、高い鼻梁―――新免無二斎

否、彼のみに非ず、
男臭い容貌、閉じられた右目―――柳生十兵衛
少女の如き美貌、頬の十字傷―――緋村剣心
剣心の身に枝垂れ懸る美少女―――神谷薫

何れも異様なる御前試合で、北条内記…否、『三合目陶器師』が対峙した人々。
その誰もが、内記を見ている。いずれも、目にこもるのは嘲笑!口元にこもるのは侮蔑!

「夢に非ず、北条内記、否、富士三合目の陶器師!」
「小田原北条の侍大将筆頭が、密夫されて浪人さ!」
「誰も憐れまぬ女敵討ち!哀れ、哀れ、哀れ!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」

「笑うな…」
「笑うな!」
「 笑 う な ぁ っ !」

内記は、
否、三合目陶器師は、
嘲笑う人々へと向けて又も絶叫する。
気がつけば、その姿はただ醜い北条内記の姿から、
利休茶の十得に、同色の宗匠頭巾、白皮足袋に福草履、
青白い、幽霊の様な、仮面の様な、
限り無く美しくも、限り無く醜い顔を持つ、陶器師の物へと変わっていた。

陶器師はケェッー、っと奇声を上げながら、
滅茶苦茶に無二斎、十兵衛、剣心、薫へと斬りかかる。

しかしまたも太刀筋はすり抜けて、ただ空を斬るのみ。
その姿を存分に嘲笑って、四人はやおら腰に手挟んだ段平を引き抜いて、

「ギャッ!」

まず十兵衛がその右目を、次いで剣心がその頬を、
次いで無二斎、薫がと、次々白刃を閃かせ、
なますの如く、嗤いながら陶器師の体を斬り苛む。

「ア、ア、アアアアアア」

声にならない悲鳴を上げて、
血だるまになりながら、陶器師はほうほうの体で逃げ出した。

其れを見て、四人、

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」

又も嘲笑う。
しかし、陶器師に、それを見返す力は既に無い。

邸より飛びだし、
何も無い暗闇を、悟り無き無明長夜をただただ、ひた走る。
終いには息が切れて、刀を大地に刺し、どっと蹲った。

その傍らに、如何様にしてか、突如人影が出現する。
疲れ切った頭を何とか起こして、その人影を見遣る陶器師。
そこには、

「おおお、月子殿!」
齢三十程の穢れ無き美女、白衣の面造師、月子の姿があった。

「月子殿、直してくだされ、俺の顔を、直してくだされ」

陶器師は月子の足に縋り付き、血まみれの顔で哀願する。
その姿を、月子は、しばし冷たい瞳で見ていたが、

「嫌でございます」
「エッ!?」
「貴方様にはホトホト愛想が尽きました。自力で何とか為されませ」

縋り付く手を冷たく拒絶すると、月子は陶器師に素早く背を向けて、
闇の向こうへと歩き出す。

「待ってくれ、待ってくれ月子殿!」
「待ってくれ、待ってくれ!」

陶器師は、立ち去る月子へと向けて、手を突きだしながら叫ぶ。

「待ってくれ!」
「待ってくれ、待ってくれ!」
「俺を見捨てないでくれぇ〜〜っ!」

最早、陶器師は泣いていた。
泣いて、泣いて、哀願していた。
しかし、月子は立ち止まらず、振り向かず、一言もかけず、
闇の中へと、闇の奥へと、霞の様に消えて行った。

闇の中に、陶器師が一人残された。
すいません、ちょっと用事が出来たので一旦席を外します。
30分後ぐらいに再開します

陶器師は啜り泣いていた。
蹲って、啜り泣いていた。
まるで女の様に、まるで少女の様に、
情けなく、みっともなく啜り泣いていた。

その背に、
「悔しいか」
ふと、しゃがれた声が掛った。

泣き声が止まり、陶器師が顔を上げると、
そこには、見覚えの無い老人が一人立っていた。

恐ろしく背の高い老人であった。
鶴みたいに痩せた、細長い体躯を、鶯茶色の唐人服で包んでいる。
髪は、墨の様に黒く、艶のある総髪で、顔は恐ろしく長く、かつ天竺人の様に浅黒い。
肌は皺が多い半面、未だ艶やかさを失わず、生命力に溢れている。
口の両はしには、泥鰌みたいな髭が、ちょろりと生えていた。
たいそう年を食っているいる事は確かな雰囲気を持っているが、
反面、髪は黒く、肌には未だ張りがあり、その年齢には見当が付かない。
ただ、目だけは――世にも珍しい翠玉色の瞳だ!――異様に若々しく、むしろ生臭くさえあった。

「悔しいか、北条内記」
老人は再度問うた。
陶器師は答えて云った。

「悔しい、悔しいぞ」
「どれほどまでに」
「斬らねばおれぬほどに、活かしては置けぬほどに!」

陶器師は立ち上がった。
その姿には、先ほどまでの弱弱しさは無い。
むしろ、妖気すら立ち上っているではないか。

「園女を、源之丞を?」
「姦夫姦婦、活かして置けぬ!」
「剣心を、薫を?」
「姦夫姦婦、活かして置けぬ!」
「柳生を、新免を?」
「憎きやつら奴、活かして置けぬ!」
「この試合に呼ばれし男ども…」
「姦夫ども奴、活かして置けぬ!」
「この試合に呼ばれた女ども…」
「姦婦ども奴、活かして置けぬ!」
「みんな殺すか。一体どこまで斬るつもりか?」
「斬っても、斬っても斬り足りぬ!一切衆生、活かして置けぬ!」
「それでは悟りは得られぬぞ、解脱は得られぬぞ」
「悟り?解脱?カ、カ、カ、」
「悟りとは何だ!解脱とは何だ!永世輪廻よ!永世輪廻よ!活き変わり死に変わり人を殺すのよ!」
「そうした果てにどうするかね?」
「そうした果てにか?そうした果てにか?やはり人を殺すのよ。」
「救われぬな、北条内記…しかし」

老人がニヤリと笑った。

「だがそれが良し」
「少し後押ししてやろう、北条内記、否、三合目陶器師…」
「貴様が、ちゃんと人を斬れるように」
「人を斬れよ、陶器師。うんと斬れよ、陶器師」
「屍山血河築くまで、斬って斬って斬り続けよ」
「そして播くのだ、憎悪の種を、殺戮の種を!」
「さすれば、さすれば」
「この世はもっと混沌として面白くなるのだ!」

そこで目が覚めた。
269創る名無しに見る名無し:2010/05/08(土) 01:11:06 ID:pKPKsIaP
支援



「夢か…」

まだ青い稲が風に揺れる水田の土手に、北条内記、否、三合目陶器師はごろりと横たわっていた。
どれくらい寝ていたのか、星の動き、月の傾きから、恐らく一、二時間といった所だろう。
僅かとは言え睡眠をとった為か、体力は、すこしばかり回復をしていた。
そして、身に纏う妖気は、奇怪な夢の為か、より一層、その強さを増している。

ふと、陶器師は気が付いた。
何時の間にか、自分の傍らの地面に突き立っているモノ。
それは…

「おお」

『新藤五郎国重』
彼の富士三合目の住処に置き忘れた、彼の愛刀では無いか。
手に取って二、三度振るうが、手に吸いつくように馴染むこの感覚は、
やはり愛刀に相違あるまい。

ここで、陶器師は、もう一つ、愛刀の傍らに落ちていたモノに気が付いた。

「面…か?」

それは面であった。
面と言っても、能面の様な、造りの立派な物ではなく、
木目もそのままの、のっぺりとした、
両目と口を、ただ横に引いた線だけで表現した様な奇妙な面だった。

しばし其れを眺めていた陶器師だったが、
何を思ったか其れを顔に被ったのだ。
するとどうであろう。

「おおっ!?」

まるで彼の為に造られた様に、
ビッタと嵌ったではないか。
成程、代わりの「顔」を手に入れるまで、
これはこれで悪く無い。

しばし仮面の感触を確かめていた陶器師だったが、
愛刀を右手にぶら下げると、
新たな獲物を求めて、何処かへと歩き出した。

その胸中には、かつてない狂気と憎悪が宿っていた。

邪淫許すまじ。
一切衆生、活かして置けぬ。

【へノ伍 水田/一日目/早朝】

【三合目陶器師(北条内記)@神州纐纈城】
【状態】右目損壊、顔に軽傷、全身に打撲裂傷、疲労小
【装備】新藤五郎国重@神州纐纈城、仮面?@出典不明
【所持品】打刀@史実
【思考】:人を斬る
一:顔を剥いで自分の物にすべく新たな獲物を探す
二:緋村剣心は必ず殺す
三:柳生十兵衛を殺す
四:新免無二斎はいずれ斃す
【備考】
※柳生十兵衛の名前を知りません
※人別帖を見ていません
※神谷薫と緋村剣心はお互い名前を呼び合うのを聞いており
 薫は無事であれば再度狙う可能性があります。
※仮眠をとった事により、体力が多少回復しました。

※陶器師が何処へ向かったかは次の書き手にお任せします。
※【仮面?@出典不明】の装備効果の有無、あるならばその内容は、
次の書き手にお任せします。


陶器師が闇に消えた後、
彼が先程まで横たわっていた場所に、
彼の夢にあらわれた、あの奇怪な老人が出現した。

少しばかり、陶器師が消えた方を眺めていたが、
ニヤリと笑うと、再び、闇に姿を消した。
272 ◆F0cKheEiqE :2010/05/08(土) 01:29:03 ID:qTw/+uoD

投下終了。
余談ながら、「新藤五郎国重」という刀工は実在しません。
「新藤五國重」という刀工が実在しており、
国枝史郎はこの刀工の名前を間違えたのだと思われます。

なお、陶器師が被った仮面の元ネタは、漫画版神州纐纈城の、
纐纈城主が被ってた代物です。
外見はこんな感じ。
ttp://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/neowing-r/cabinet/item_img_411/tfcc-86307.jpg
273創る名無しに見る名無し:2010/05/08(土) 01:41:33 ID:pKPKsIaP
陶物師はジョーカー化したか……主催が付け入るトラウマもあって確かにうってつけかも。
そして隠れ主催の果心居士キター! 何でもありだよこの人。
仮面がもし漫画版神州纐纈城出展だったらヤバイ、ヤバ過ぎる。剣客の皆さん超逃げて!
先が気になる展開でした。投下乙です!
274創る名無しに見る名無し:2010/05/08(土) 02:01:13 ID:UfJfxbre
投下乙です
気持ちを色々と揺さぶられて忙しかった
皆逃げてええ
275創る名無しに見る名無し:2010/05/08(土) 17:35:55 ID:CWp21am2
投下乙です。
三度もの苦渋を味わった末のさらなる狂気か…。
陶物師の今後が楽しみすぎる!!
276 ◆F0cKheEiqE :2010/05/08(土) 22:30:46 ID:qTw/+uoD
東郷重位、富田勢源、香坂しぐれ、高嶺響

予約します
277創る名無しに見る名無し:2010/05/09(日) 16:30:42 ID:o6H0tYn0
おお、更に予約してくれるのか
感謝!
278創る名無しに見る名無し:2010/05/10(月) 01:09:15 ID:v1oGi9Hf

避難所より転載

169 : ◆YFw4OxIuOI:2010/05/09(日) 09:02:58
すいません。武田赤音、岡田以蔵、上泉信綱ですが
予約延長願います。



あと、ついでにまだ予約されて無い黎明の人まとめ

椿三十郎、辻月丹、新免無二斎、オボロ
柳生十兵衛、志村新八、土方歳三、犬塚信乃(男)
足利義輝、川添珠姫、伊東甲子太郎、外薗綸花
徳川吉宗、秋山小兵衛、魂魄妖夢、新見錦
服部武雄、赤石剛次、白井亨、伊藤一刀斎
近藤勇
279 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/10(月) 05:29:50 ID:cao4qKcS
徳川吉宗、秋山小兵衛、魂魄妖夢、椿三十郎、辻月丹で予約します。
280 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/10(月) 05:34:24 ID:cao4qKcS
上記五名で投下します。
281夜明け前に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/10(月) 05:37:23 ID:cao4qKcS
時は夜明け前。日は未だ地平の下に在るが、空は徐々に白み始め、月明かりでは見分けにくかった風景を照らす。
島の東岸、仁七村沿岸の海面も、見る者にその実像……荒れ狂い、波が逆巻く凄まじい姿を見せ始めていた。
「これではとても脱出は無理ですな」
仁七村の船着場で海を眺めつつそう呟いた老人は、無外流の剣客、秋山小兵衛。
彼の言う通り、海がここまで荒れていては、最良の船と熟練の船乗りをもってしても、渡るのは至難だろう。
まして、ここにある小さな漁舟と操船に関してはほぼ素人の小兵衛達ではどうにもなるまい。
「ああ。それに、この件に妖術使いが関わっているのも間違いないようだ」
小兵衛に同意した青年は、征夷大将軍という高貴の身でありながら悪を討つ為に剣を振るう剣士、徳川吉宗。
荒れ狂う海だが、それは沖の方だけ。逆に、島の沿岸数間ほどは不自然な程に穏やかだ。
こんな現象が自然に起こる筈もなく、妖術などの人外の力が動いているのはもはや疑う余地がない。
「ええ。それもかなり強力な相手よ」
幻想郷でも感じた事のない禍々しい気配に戦慄する半人半霊の少女、魂魄妖夢の言葉に同行者二名も深く頷く。
小兵衛も吉宗も妖術などの人外の領域とは縁が薄かったが、そんな二人にもこの海を覆う異様な妖気は感じ取れたのだ。

とはいえ、妖の領域に関しては、この中ではやはり妖夢が一番の専門家。当然、妖気から得た知見も妖夢が最も多い。
例えば、妖気に覆われているのが海だけでなく、薄くはあるが島全体が妖気の影響下にある事を察したのは彼女だけだろう。
今までは妖気の密度が一定であった為に気付けなかったが、海辺で妖気の濃淡を感じ、内陸でも妖気が零にはならぬと悟った。
一度気付いてしまえば、今まで気付かなかった事を逆に不思議に思うほどの存在感が、この妖気にはあった。
密度が薄いとはいえ、こんな妖気に侵された空気を吸い続ければ心身の毒になるのではとも思うが、どうしようもない。
或いは、自分の力が抑制されているのは、島に充満するこの妖気のせいかとすら思えて来る。
だとすると、内陸の薄い妖気ですら自分の力をあそこまで制限する程の支配力がある事になり、
例え楼観剣と白楼剣を取り戻したとしても、妖気の本体の眼前では弾幕も飛行も半霊の力も使えなくなる公算が高い。
無論、剣術だけでも大抵の相手は倒せる自信が妖夢にはあるが、それでも一抹の不安が胸に広がりつつある事は否めなかった。

一方、海から漂ってくる妖気から、吉宗はかつて闘った盗賊玄海の怨霊の事を思い出す。
確かにあの時感じた不吉な気配と今回の妖気は、似ていると言えば似ていると言えなくもない。
しかし、それは水溜りと海が似ていると言うようなもので、凶悪さでも強大さでも今回の方が比較にならぬほど勝っている。
玄海ですらかなり手強い敵であったのに、今回の黒幕がそれを遥かに凌ぐとすれば、どれほどの力を持っているのか。
そして、これも玄海と同じく怨霊だとすれば、強い無念や恨みが力の源になっていると考えるのが道理。
己と子を無惨に処刑された玄海をも遥かに超える呪力を得る程の怨みとは一体……

妖夢や吉宗とは違い、小兵衛には妖怪や死霊といった人外の者と闘った経験はない。
敢えて言うならば、黄泉の国より来て杉本又太郎に憑いた狐の気配を感じたことがあるくらいか。
だが、報恩の為にこの世に戻った稲荷の神使と、この島を外界から隔離している悪霊とでは、性質が全く異なる。
それに第一、小兵衛は狐の気配を感じ取りはしたものの、それが何者かまではわからなかったのだ。
故に、小兵衛が海を覆う妖気から得た情報はそう多くない。むしろ、彼が注目した対象は陸にこそある。
いや、より正確に言うと、有るはず、或いは有っても良いものが「無い事」にこそ小兵衛の発見はあったのだが。
「妖夢。一つ試してみたい事があるのじゃが、手伝うてくれるか?」
282夜明け前に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/10(月) 05:39:38 ID:cao4qKcS
小兵衛と吉宗が波打ち際に足を踏み入れ、船着場にあった舟を押して岸から離す。
更に、岸に居る妖夢が精神を集中させると船上の人魂が妖夢と同様の形を為し、舵を操って舟を沖へ向ける。
そして、舟が荒れ狂う海の領域に入ると、半霊は即座に人魂に戻った。
半霊の変化が数秒しか保たないのはわかっていた事だが、今回の変化解除のタイミングは陸の時よりも明らかに早い。
この事は、妖気が制限の源だという妖夢の仮説を裏付けていたが、小兵衛の実験の目的は別にあるようだ。
三人が注視する中、荒れ狂う海に進み出た舟は波に揉まれ、転覆するかとも思われたが、結局はそのまま押し返される。
「妖夢。すまぬがもう一度頼む」

それから、小兵衛達は三度まで同じ事を繰り返した。
その度に半霊を変形させた妖夢はかなり疲労している筈だが、その顔に不満の色はない。
彼女にも、そして吉宗にも、小兵衛の意図が漸く読めたのだ。
あれだけ荒れた海にまともな船頭のいない舟が乗り出せば、船は翻弄され、高い確率で転覆する筈。
しかし、舟は一度たりとも転覆する事なく、必ず無事に押し戻されて来た。
「この舟も尋常の舟ではないという事か。さすがだな、小兵衛」
妖術か、舟の構造か、この舟に荒海に出ても転覆する事なく後に戻る仕掛けが施されているのは間違いなさそうだ。
「いえ、それがしもまさか舟にこのような仕掛けがあるとは……」
そう応える小兵衛の言葉は、まんざら謙遜だけという訳でもない。
彼が、舟が元々この村の物なら当然ある筈の生活感のなさに気付き、これを主催者が用意した物と疑ったのは確かだ。
しかし、まさか舟に転覆を防ぐ仕掛けがあるとは小兵衛にとっても意外……彼の予想はむしろその逆だったのだが。

結局のところ、この試合の黒幕共は、参加者が逃げるのは無論、剣以外によって死ぬのも好んでいないのだろう。
沿岸数間の海が荒れていないのは、海の様子を知らずに飛び込んだり落ちた者が溺れ死ぬのを防ぐ為。
船着場に沈まぬ舟を用意したのも、舟をなくして参加者が筏を作ったりして脱出しようとする危険を残すより賢い手法だ。
そう考えれば一応は納得できるが、それでもまだ疑問は残る。
参加者の逃亡と溺死を防ぐのが目的ならば、海を荒れさせるより、中心に向かう潮流で島を囲う方が簡単に思えるのだが。
主催者の強力な妖術にも制約があるのか、それとも思惑が異なる複数の術者がいるのか……
敵は天候を操るほどに強力な相手だが、その辺りに付け入る隙があるやもしれぬ。
283夜明け前に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/10(月) 05:42:24 ID:cao4qKcS
他にもう一つ、この船着場にはあってもおかしくないのに無い物があるのをを小兵衛は見付けていた。
それは人の痕跡。少なくとも、昨夜から今まで、小兵衛等以外にこの船着場を訪れた者はいないようだ。
仁七村自体を訪れた者が居ない訳ではない。
あらかじめ調べたところ、幾つかの家には家捜しされた跡があり、更に戦闘の跡や死体、村の中央には墓まであった。
幾人もの剣客がこの村まで来ながら、船での脱出を考えた者は誰もいなかったのか。
まあ、白洲で見た男女はどれも肝が据わっているように見えたから、それも不思議ではないのかもしれない。
だが、そうだとすると、白洲の場で少年の首を無慈悲に刎ねて見せた行いには何の意味があるのか。
参加者に恐怖を与え、萎縮させて言うままにさせるつもりだったとしたら、その狙いは外れた事になる。
主催者の妖術に恐怖を抱いた者がいたのなら、島を逃れよう船着場に来ている筈なのだから。
或いは恐怖の余り隠れて身動き出来ずにいる者がいるのかもしれぬが、それとて殺し合いを求める主催の意図にはそぐわぬ筈。

だが、本当にそうなのか。
参加者を溺死させない為に周到に準備した主催が、剣士を呪殺してまで為した計略が全くの的外れだったとは。
吉宗によると、彼は密かに江戸市中探索に出たところを連れて来られたらしい。
将軍のお忍びという幕府の最高機密まで掴んでいた主催者が、参加者の性格をこうも読み違えるものだろうか。
小兵衛は今一度はじめから考え直してみる。
もしも、主催者があの場で村雨なる少年を殺さずに、ただ御前試合の事だけを言っていたら己はどうしただろう。
(こうして吉宗公や妖夢と同行する事はなかったであろうな)
余計な危険を冒さぬ為に他者との接触を避け、隠れ潜みつつ主催者の意図と他の参加者の動向を探る、というのが妥当な所か。
しかし、少年の死によって喚起された義憤と危惧が小兵衛により積極的な行動を促した。
その意味では、吉宗や妖夢と同行したのも、佐々木小次郎との試合も、全てあの処刑の所産と言って良い。
(なるほどのう……)
つまり、あの惨殺の目的は、臆病な者を萎縮させる事ではなく、小兵衛のように慎重な者に行動を促す事にあるともとれる。

小兵衛の推測を聞いた吉宗と妖夢も、大筋では同意した。
「確かに、年端も行かぬ子供を殺して見せる事で、場の空気を殺伐とさせるのが目的だったというのは考えられるな」
それがなければ、見知らぬ老人にただ殺しあえなどと言われても、大半の剣士は冗談か狂人の繰り言だととったかもしれない。
まずは一人を殺して見せれば、とにかく事態が容易ならぬものである事は手っ取り早く認識させられる。
命の危険を感じれば、主催に従うにせよ抗うにせよ、行動がより短絡的・暴力的になるのが人情というもの。
「私も、最初に会ったのがあなた達でなければ斬っていたかもしれません」
魂魄妖夢は、この事態が起きた時、すぐに首謀者を斬る事を決意した。
仮に、好戦的な剣士に出会って勝負を挑まれていたら、主催者の手下と見なして斬り捨てていただろう。
まあ、妖夢には元々短絡的な所があるのだが、いきなりの殺人がそれを助長した事は否めない。
小兵衛の推測が正しいのならば、彼等三人は未だに主催者の掌から一歩も踏み出せていない事になるが……

「それがしの推測が正しければ、奴等は遠からず何かを仕掛けて参りますぞ」
あの白洲での殺人に触発され、小兵衛は普段よりも積極的に動き、短時間に幾人もの剣客と接触した。
しかし、その接触の帰結は斬り合いではなく、小兵衛は徳川吉宗と魂魄妖夢という頼もしい仲間を得る事になる。
この三人が力を合わせればよほど腕の立つ剣客が主催者の口車に乗って襲って来たとしても、軽く一蹴できよう。
無論、襲って来る剣客の方も、多少なりとも知恵が働くならば、いきなり戦いを挑むよりも隠れて隙を伺うだろうが。
これはつまり、小兵衛達が隙さえ見せなければ、参加者との無益な闘いを避けられるという事だ。
そんな状況が主催者の意に染むとは思えず、必ず何かを仕掛けて来る筈……そう小兵衛は結論した。
間もなく夜が明ける。この日が沈む時、立っているのは小兵衛達か、主催か、それとも……
284夜明け前に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/10(月) 05:44:52 ID:cao4qKcS
【にノ漆 船着場/一日目/早朝】

【徳川吉宗@暴れん坊将軍(テレビドラマ)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者の陰謀を暴く。
一:小兵衛と妖夢を守る。
二:妖夢の刀を共に探す。
【備考】
※御前試合の首謀者と尾張藩、尾張柳生が結託していると疑っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識。
及び、秋山小兵衛よりお互いの時代の齟齬による知識を得ました。

【秋山小兵衛@剣客商売(小説)】
【状態】腹部に打撲 健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:情報を集める。
一:妖夢以外にも異界から連れて来られた者や、人外の者が居るか調べる
【備考】
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者かもしれないと思っています。
 又は、別々の時代から連れてこられた?とも考えています。
※一方で、過去の剣客を名乗る者たちが主催者の手下である可能性も考えています。
 ただ、吉宗と佐々木小次郎(偽)関しては信用していいだろう、と考えました。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。

【魂魄妖夢@東方Project】
【状態】やや疲労
【装備】無名・九字兼定
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:首謀者を斬ってこの異変を解決する。
一:この異変を解決する為に徳川吉宗、秋山小兵衛と行動を共にする。
二:愛用の刀を取り戻す。
三:自分の体に起こった異常について調べたい。
【備考】
※東方妖々夢以降からの参戦です。
※自身に掛けられた制限に気付きました。
 制限については、飛行能力と弾幕については完全に使用できませんが、
 半霊の変形能力は妖夢の使用する技として、3秒の制限付きで使用出来ます。
 また変形能力は制限として使う負荷が大きくなっているので、
 戦闘では2時間に1度程しか使えません。
※妖夢は楼観剣と白楼剣があれば弾幕が使えるようになるかもしれないと思っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類が使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。

※船着場には舟がありますが、海は現段階では舟が渡れる状態ではありません。
285夜明け前に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/10(月) 05:48:13 ID:cao4qKcS
海から漂う妖気に圧倒され、或いは周囲の様子から主催者の意図を考察する剣士達。
それらに気を取られていた彼等が、少し離れた所に潜んでいる男に気付かなかったのは、無理も無いだろう。
(こりゃあ、俺の出る幕はなさそうだな)
隠れている男……椿三十郎は一人ごちる。
周囲の状況を確認する為に船着場を訪れた所、見知らぬ三人の男女の姿を見付け、隠れて聞き耳を立てていたのだ。
話を聞く限り、彼等は危険人物ではなさそうだが、三十郎は声を掛けようとは思わなかった。
それをして仲間に入るよう誘われでもしたら煩わしい、と考えたからだ。
いつかの若侍達のように未熟で危なっかしければ別だが、そうでなければわざわざ群れて行動しようとは思わない。
その点、船着場に居る三人は腕も立ちそうだし、こんな状況でも落ち着いていて彼の助けなど必要としていなさそうだ。
いや、そもそもこの島には彼の助けを必要とする者などいないのかもしれない。
白洲に集められた剣客の中に女子供が含まれていた事から、彼女等を守ってやる必要があるかと三十郎は考えていた。
しかし、船着場にいる女は、この異常な事態に怯える様子もなく、それどころか奇怪な妖術を使って見せたのだ。
思い出してみると、白洲に居た女達は、多くがこの女と似たような奇抜な格好をしていた。
あれが妖術使いの装束なのであれば、彼等は一見か弱い女子に見えても、恐るべき力を秘めていると考えられる。
(ま、俺にはその方が好都合だがな)
椿三十郎は本質的には一匹狼的な性向が強い男。弱者を守る事に気を遣わずに戦えるなら、その方がやり易い。
そして、三十郎は船着場での情報収集に見切りをつけ、城下に向けて歩き出す。
主催の妖術使いが海流を操る程の力を持つ事を確認しながら、同じ志を持つ男女に敢えて背を向けての単独行動。
(そういや、あの爺さんは今もまだ暢気に眠ってやがるのかね。豪胆と言うか無謀と言うか……)
自身もかなり無謀な選択をしたのだという自覚は、三十郎にはないようだ。

【にノ漆 仁七村/一日目/早朝】

【椿三十郎@椿三十郎】
【状態】:健康
【装備】:やや長めの打刀
【所持品】:支給品一式、蝋燭(5本)
【思考】基本:御前試合を大元から潰す。襲われたら叩っ斬る
一:柳生十兵衛から情報を得るため城下へ向かう
二:名乗る時は「椿三十郎」で統一(戦術上、欺瞞が必要な場合はこの限りではない)
三:辻月丹に再会することがあれば貰った食料分の借りを返す
【備考】
※食料一人分は完全消費しました。
※人別帖の人名の真偽は判断を保留しています。
286創る名無しに見る名無し:2010/05/10(月) 05:48:46 ID:iSAbUYtJ
念のため支援
287夜明け前に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/10(月) 05:51:47 ID:cao4qKcS
一方、島の西北の端にある伊庭寺……そこに寄宿した剣客、辻月丹は、三十郎の予想に反して起きていた。
殺し合いが行われている島で眠りこけているのはさすがにまずいと思い直した、という訳ではない。
月丹は仏の声を聞いたのだ。
と言っても、夢の中に仏が現れて何らかのお告げを下したとか、そんな劇的な展開があったわけではないのだが。
月丹が寝入ってからしばし、寺の撞木が再び動き出し、寅の刻を告げる。
その時だ、月丹が仏の声を聞いたのは。場を圧する鐘の音とは異なる音が、鐘とは別方向から聞こえて来たのだ。
眠っていた月丹は、夢うつつの意識の中でそれを仏の声と直感し、その認識によって覚醒した。
寝惚けた月丹の頭の中でのみ響いた幻聴とも考えられるのだが、悟りを開いたと自負する月丹はその説をとるつもりはない。
朧な記憶を頼りに仏の声が聞こえて来た方向……本堂の中に入ると、まず目に付いたのは床に転げた木仏。
内なる予感が囁くままに、仏像を仔細に検めると、背の部分の板が外れかかり、内部に空洞が見えている。
或いは、鐘の音がこの隙間から仏像の中に入り、内部で反響してまた出て来たのが仏の声と聞こえたのだろうか。
ともかくこれも仏の導きと、月丹が慎重に仏像の背板を取り外すと、中には経典らしき何冊もの書物が詰め込まれていた。

保存や運搬の便宜から、仏像を刳り抜いて内部に空洞を作るのは珍しい事ではない。
その空洞に、仏像の魂として仏舎利やそれを模した物をいれるのもよくある事だし、経典を入れる事もあるだろう。
しかし、この経典は明らかに違う。蓋が外れかけていた事から考えても、後から慌てて詰め込まれたもののようだ。
寺が荒らされる直前に、寺の人間が経典を守ろうと仏像の中に隠した、というところか。
元々の仏の魂は別に隠されたか、捨てられたか、鑿痕の荒さからすると仏像は未完成で魂はまだ無かったのかもしれない。
何にしろ、こうまでして隠してあるからには、これらの経典はよほど貴重な物なのだろう。
今回の件が片付いた後に、然るべき寺に寄贈しよう……そう考えてぱらぱらと経典を捲っていた月丹の手がふと止まる。
経典の群れの中に一冊、毛色の違う物があったのだ。
文字が小さいので読みにくいが、目を凝らして一部を読んでみると、どうもこの寺の住職が書いた日誌らしい。
それと知った月丹の目が輝く。この日誌を読めば島に起きた異変についてはっきりとわかるかもしれぬ。
そうでなくとも、この島の位置だけでもわかれば、黒幕の正体を探る上での大きな手掛かりになるだろう。

月丹は日誌を抱えて寺の外に出る。
暗く明かりもない堂内で日誌を読むのは難儀だが、幸いな事に、夜明けを目前に外は明るくなり出している。
「丁度良い刻限にこれを得られたのも御仏の導きか」
程なく夜が明ける。そして、日の出と共に、この御前試合の真相もまた、白日の下に曝されるだろう。

【いノ捌 伊庭寺境内/一日目/早朝】

【辻月丹@史実】
【状態】:健康
【装備】:ややぼろい打刀
【所持品】:支給品一式(食料なし)、経典数冊、伊庭寺の日誌
【思考】基本:殺し合いには興味なし
一:日誌を読む
ニ:徳川吉宗に会い、主催であれば試合中止を進言する
三:困窮する者がいれば力を貸す
四:宮本武蔵、か……
【備考】
※人別帖の内容は過去の人物に関してはあまり信じていません。
 それ以外の人物(吉宗を含む)については概ね信用しています(虚偽の可能性も捨てていません)。
※椿三十郎が偽名だと見抜いていますが、全く気にしていません。
 人別帖に彼が載っていたかは覚えておらず、特に再確認する気もありません。
※1708年(60歳)からの参戦です。
288 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/10(月) 05:52:30 ID:cao4qKcS
投下終了です。
289創る名無しに見る名無し:2010/05/10(月) 20:35:49 ID:1vBJi7cg
投下乙です!
御前仕合の正体にぐっと踏み込む展開、今後どうなることやら。
それにしてもやはりこのロワはつわもの揃い、通常のロワのセオリーが通じないw
290創る名無しに見る名無し:2010/05/11(火) 01:11:21 ID:JK5pTRzY
投下乙です

考察になるのかな? 通常のロワの考察とは違うような…
んん、今のところは平穏だけど…
291創る名無しに見る名無し:2010/05/11(火) 21:26:49 ID:9c32tigh
投下乙です。

月丹は本当にマイペースですねwww
しかし主催サイドが、小兵衛に何か仕掛けて来るか否か…気になる所です
292 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/13(木) 07:28:01 ID:7xvtjRHs
赤石剛次、明楽伊織、倉間鉄山、中村主水、伊良子清玄、白井亨で予約します。
293創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 20:26:28 ID:WDnHHwij
これは死人が出そうな…
294 ◆F0cKheEiqE :2010/05/15(土) 21:06:58 ID:BvBQ6LoQ
すいません。
思った以上の難産で、今日中に投下出来そうにありません。
ので、予約延長お願いします。
たぶん、明日の夜。場合によっては明後日の夜には投下出来そうです。
295創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 07:04:11 ID:gfnvzwh+
規制解除テスト
296 ◆YFw4OxIuOI :2010/05/17(月) 07:06:05 ID:gfnvzwh+
おお、ようやく規制解除されましたか。
若干強引な気がするので、一旦したらばに仮投下いたしました。
本投下前にご指摘等ございましたら仰ってください。
297創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 11:21:46 ID:w5N4m+xQ
仮投下乙です。

個人的には、伊勢守が少し小物すぎない?という印象も受けましたが、
それ以外は特に問題はないと思います。
298創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 20:26:18 ID:7vgwGLBR
仮投下乙です

俺も伊勢守が少し小物すぎない?と思ったがそれ以外はおkです
299創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 21:33:28 ID:GEJuw0ea
仮投下乙です。

俺も伊勢守が少し小物すぎない?と思った以外は通しでおkだと思います
300 ◆YFw4OxIuOI :2010/05/17(月) 21:49:25 ID:2GrAn6i9
やっぱりかぁー!
今回、危険人物達のアクが強過ぎる上に、
伊勢守が良い所なしの道化役だったので、
色々と不安がありましたが…。
確かに今回自縄自縛が祟っているとは言え、
戦国時代の修羅場を駆け抜けた剣聖にしては
あまりにも後手後手に回り過ぎですよね。

では、大筋は変わらないと思いますが、
その辺りを踏まえた上で修正致します。
もう少しお待ちくださいませ。
301創る名無しに見る名無し:2010/05/19(水) 23:20:35 ID:Z+RbB/SW
◆F0cKheEiqE氏から連絡来ないなぁ
◆cNVX6DYRQU氏はまだ時間あるけど…
302 ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 12:40:34 ID:yWKgNMJA
大変ながらくおまたせ致しました。
したらばの修正版を投下します。
303すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 12:41:16 ID:yWKgNMJA
 

――――なんかさ、違うんだよなぁ。


武田赤音には違和感があった。
これまでの己の所業に、ではない。
今目の前にいる、己を凌駕する剣客に対してである。


――――らしくねえ、っていうかさ。


赤音が気まぐれで人に優しくしたり、かばったりする事は多々ある。
瀧川弓との奇縁も、元はと言えばそのようにして出来たものだから。

だが、だからこそいざ邪魔となれば躊躇なく斬り捨てもする。
所詮は気まぐれの産物でしかなく、決して心通わせてなどいないのだから。
神谷薫を助け、そして今捨てた事もそういう意味では瀧川弓と同様である。

どこか三十鈴の面影のある彼女に、思い入れがないと言えば嘘になる。
しかし、だからと言って命懸けで守ってやろうという気概まではない。
せいぜい「出来れば助けてやってもいい」程度の気持ちである。

だからこそ、もし彼の目の前に雲耀の剣の使い手と神谷薫を一緒に並べられ、
「どちらか一人を選べ」などと神に選択を迫られたとしたら?

武田赤音は躊躇なく前者を選び取り、後者を切り捨てるだろう。
武田赤音の本質とは、純粋なまでの剣狂者。
剣以外の事など、所詮は余興に過ぎぬのだ。

だが、だからこそ。


――――こいつ、馬鹿なんじゃねえのか?


剣の本質を歪めているようにすら思える、
目の前の剣客の殺意のない手温い剣には、
違和感と憤慨の念を抱かずにはいられなかった。
304すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 12:43:35 ID:yWKgNMJA
武田赤音と傍にいる人斬りを二人同時に相手取る、
その腕前は“剣聖”と言ってすら過言ではないのに。
目の前の“剣聖まがい”の企図する行動は明らか。


――――ようは、似非活人剣を披露したいって所か。


有り余る力を持ちながら、全力を出し惜しみする。
そうすれば、二人諸共に殺してしまうだろうから。
それだけの腕前を、充分にこの老人は秘めている。
赤音にも、彼我の実力差程度は即座に分析出来る。
もう一人の人斬りも、同様に勘付いているだろう。


――――てめぇ、神様にでもなったつもりか?


武田赤音は憤慨していた。
己を凌駕しておきながら、妙な手心を加える剣者に。
この剣客、雲耀の太刀を用いるかの素晴らしき剣者と
おそらくはほぼ腕を等価とするだろう。
そうでなければ、これまでの立ち会いで既に死んでいる。
だが、目の前の剣聖に抱いた感情は度し難い欲情ではなく。
ただただ、形容し難い不快感であった。
興醒めすること甚だしい。

剣者として、ただ剣者として。
修羅道に堕した剣狂者として。
赤音にとっては珍しい、純粋かつ真っ直ぐな怒りをかの剣聖に抱いた。


ふざけるな。てめぇの活人剣ごっこに、これ以上付き合う義理はねえ。
だったらな?こっちにも考えってもんがある。


――――あんたのその剣、いかに無意味だって教えてやるからなァ?
305すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 12:44:24 ID:yWKgNMJA
そして遊びは終わりだ、と心中で呟くと赤音は構え直した。
 

          ◇          ◇          ◇


赤音は三人が向かい合う位置関係から、軽く助走を付けて二人の間に躍り出た。
大きく踏み込み跳躍を見せ、伊勢守と以蔵の二人に割り込み、挟まれる形を取る。
伝説の剣聖と、悪名高き人斬り。
共に後世にすらその名を轟かせる、二名の剣客を相手取り。

あまりにも命知らず。
あまりにも大胆不敵。

二つの刀刃が迫る。条件反射的に、もう一つは殺意を以て。
一つは驚愕と共に。止めなければならない。このままでは殺してしまう。
一つは激昂と共に。止めるつもりなどない。このままに斬り殺す。

その愚行の対価として、神速にも似た二つの斬撃が赤音へと迫る。
だが、赤音は一切狼狽などしない。それらは全て想定の内。

飛び込んだ姿勢のまま、着地と同時に左足を軸に右回転しつつ、
半円形へと横薙ぎに一閃――。

迫る刀刃は下がる。剣聖の自制と修練による即応が、その身体を後ろに退げる。
迫る刀刃は下がる。人斬りの本能が、踏み込めば相討ちとなると察したが故に。

二人の刃、決して鈍刀などではない。
だが、これは赤音の攻撃の失敗を意味しない。
あくまでこれは牽制の一刀。
流れをこちらに導き寄せるための、
言わば次なる真の攻撃の為の布石。

そして赤音は左手の、伊勢守の正面へと向き直り――。
すなわち、以蔵に完全に背を向けて――。

赤音は大上段につい、と構える。
あまりにもあからさま過ぎる、攻撃に特化した構え。
306すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 12:45:23 ID:yWKgNMJA
 
赤音は不敵に笑う。
口は半月に裂け、歯を剥き出しにして。
かの剣聖を蔑む。心の底から、侮蔑する。
赤音はこの先の、刹那の未来を予見している。
赤音はこの剣聖の人間性から、取るであろう行動を、
取れないであろう行動を、完全に読み尽くしている。

故にこそ笑う。貴様の温い剣ではおれに何も出来ないのだと。
故にこそ哂う。貴様はそこで指を加えて眺めるより他無しと。
故にこそ嗤う。おれの剣の一人勝ちとなると。

赤音は刹那の未来に確信を持つ。


――――死ね。


赤音は心中で呟く。
眼前の剣聖に対して、ではない。
真後ろにいる、人斬りに対して。

伊勢守は動けない。活人剣故に動けない。
赤音のこれからの企図全てを理解しながら、
なお一切の打つ手がない。
――不覚。

この構えは偽攻にして罠。伊勢守はとうにそれを看破している。
しかし、それは赤音も折り込み済。そもそも地力が違うのだ。
全ての動きは読まれて当然。赤音はそう断じている。

今の赤音には、伊勢守は倒せない。
それは赤音自身も理解している。
今の赤音には、だが。

だが、それには何の問題もない。
元より、そのつもりなどさらさらないのだから。
赤音の罠は、伊勢守を嵌める為のものではない。
これは背にいる人斬りを仕留める為のもの。
307すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 12:46:17 ID:yWKgNMJA
 
今、この場における位置と関係。
伊勢守と赤音、以蔵の三人は、直線状に並んでいる。
赤音は伊勢守と対峙し、その無防備な背中を以蔵に見せつける。
これ見よがしに。これが好機だと言わんばかりに。
だが、この背は釣り餌。以蔵を釣り上げる為の罠。

そして、伊勢守は動けない。
分かっていながら動けない。
今の位置関係で赤音を制圧すれば、以蔵までは止められない。
以蔵はその隙を逃さず、赤音を容赦なく斬り捨てるだろう。
『一人づつ止める』ならば、それはまだ可能。
だが、二人同時となれば、それは困難を極める。
だからこそ、この三つ巴の膠着は続いていた。
『二人を救う』その過酷な命題は、伊勢守へのこれ以上無い枷となる。
その剣聖の枷を武田赤音は剣狂者の嗅覚で見抜き、逆手に取ったのだ。

以蔵は地を駆け、背を向けた愚者へと斬りかかる。
そして、赤音は伊勢守の危惧した通りの暴挙に走る。
悪辣に、狡猾に。伊勢守の戸惑による、僅かな硬直すら利用して。
赤音は、伊勢守の呪縛より脱する。
今の赤音は、野に放たれた剣の獣。


――――あほが。


赤音は“二人”に心中で毒付く。
一人の甘さに、一人の愚劣さに。
赤音は高速で反転し、先程までの後方に向く。伊勢守にその背を向けて。
すなわち以蔵の方角へと向き直り、跳躍。逆刃刀を袈裟へと振り下ろす。


――――あっさり掛かってんじゃねえや。


跳躍のごとき踏み込みで敵の間合いを奪う、
飢えた虎の如き躍動する奇襲。
308すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 12:47:07 ID:yWKgNMJA
 

――――刈流 飢虎


それは、以蔵の野太刀の広い間合いを瞬く間に奪い、
以蔵の懐へと深く入り込んだ。
 

「「!」」


人斬りが息を飲む。
剣聖が歯噛みする。

――懐に飛び込まれた。
――見逃してしまった。

場を動かすものと、静観せざるを得なかった者、
策に嵌められた者との反応差が、此処に出る。

伊勢守は動けない。その赤音の意図全てを把握しながら。
以蔵は追いつけない。それは完全に虚を付かれたが故に。

防御は出来ない。身体は既に動き、回避にも間に合わぬ。
斬撃すら届かない。相手の運体がそれを凌駕するが故に。

先の先にして、後の先の一刀。
それは実に絶妙な、奇襲にして迎撃であった。

無慈悲な鉄塊が、高速で以蔵に迫り来る。
以蔵は身体を捻る。軌道から首を逸らす。
必殺を期した、古流剣術ならでは首筋への袈裟を、
かろうじてその動物並の勘にて避ける。

逆刃刀が降り落ちる。流石に躱し切れない。
結果、まだ閉じてはいない胸板の深い傷口に、
さらなる痛打を受ける事になる。


「グァガアアアアアアァァァァァ!!!」

309すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 12:47:52 ID:yWKgNMJA
筋肉がひしゃげ、胸骨が砕ける耳障りな音が響く。
野獣のごとき、聞く者全ての肝を冷やす絶叫をあげながら。
以蔵は地に伏し、その激痛にのたうち回る。
頚骨狙いの致死打は避けられ、打点も大きくズレはしたが、
鉄塊による打撃を胸板に受けたのだ。
肋骨の数本に、深い罅が入る。
しかもその場所は、先刻四乃森蒼紫の回転剣舞を受けた箇所。
これにはさしもの人斬り以蔵とて、堪えられる訳がない。
 
以蔵は傷口から再び血を流し、悶絶に身を捩る。
口からは泡と血を吐きながら。


だが。
だが、しかし。


以蔵は右腕の野太刀を杖に再び立ち上がり、眼前の男を睨み付けた。
全身を激痛に苛まされ、そして幾度ともなくよろめきながらも。
いつ死に至っても不思議ではないという、瀕死の状態だというのに。
その精神は不屈。それどころか、なお一層殺意と闘志は増していた。

武田赤音は、あえて追撃を行わなかった。
止めを刺す際に出来る隙を、今後ろにある剣聖は
決して見逃さぬだろうという計算も、当然にある。
無論、先程のような人斬り相手の偽攻なども一切通じぬだろう。
そもそも、実力が違うのだから。

だが、そんな事よりも。

目の前の敵が、己の背にいる食欲をそそらぬ不味い剣聖まがいより、
よほど食いでのある危険かつ刺激的な獲物であると認めていたから。
そして、これより速度が増し進化した己の魔剣を、
この人斬り相手に試してみたかったのもある。

故にこそ、赤音は以蔵の再起を待った。
そして余計な横槍を回避する為に。
赤音はこの場を誘導する。
今は剣では適わない。
だが、人間は読める。
ゆえに付け入る隙もある。
310すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 13:01:31 ID:yWKgNMJA
 
「…止めだ、止め。ったく、下らねえ。」

赤音は背中越しに、かの剣聖相手に無礼千万な軽口を利く。
林崎甚助がその場で聞けば激昂しかねぬ暴言を吐く。
あるいは、その恐れ多さに卒倒するかもしれないが。
赤音には一切関係がない。何一つ知った事ではない。
この老人が、たとえ神であろうとも。
赤音は神に唾を吐く。

「おい、爺さん。あんたじゃ全然そそらねぇ。
 何なんだその温い剣?死合うにも値しねぇ。
 耄碌してんなら、そこで休んで黙って見とけ。
 …興醒めったらありゃしねえ。」

赤音は不機嫌に鼻を鳴らす。
逆刃刀を裏返し、軽く己の肩を叩いて。

「…私相手では、御不満かな?」

赤音の礼節の欠片もない、傍若無人も極まる言葉に。
伊勢守は一切動する事もなく、ただ静かに言葉を返す。
――だが、闘志のみは増し、赤音を静かに威圧する。
だが、それに怯む赤音ではない。
赤音は天に鍔を返す剣客だから。

「ああ、ものすっげえ不満。
 まだ、マジになってる素人のが断然いい。
 こりゃ強い弱いとかじゃねえ。あんたにゃ殺意がねえ。
 それ以上に、なによりこれを楽しんでねえ。
 こっちはな、この遊びに生命張ってんだよ。
 それにマジに向き合えねえ、って何様のつもりだあんた?
 …気に入らねえんだよ。」

「…何ゆえ、そう死に急ごうとなさる?」

この青年、実力の違いを決して理解出来ぬほど愚鈍ではない。
むしろ、知り抜いた上で出し抜こうという覇気すら感じられる。
だが、今の状況は赤音に不利なものでしかない。
以蔵が倒れ、伊勢守と一対一となれば、赤音の命運は窮まる。
それが分からぬ訳ではないのだろう。
311創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 13:03:21 ID:O23yk2h3
 
312すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 13:04:09 ID:yWKgNMJA
 
――何故だ?

ならば、と伊勢守は彼の出方とその人間を見極める事にした。
その人を見極めずして、決して人はすくいきれないのだから。

「あぁん?おれの生命好きに捨てようが人の勝手だろ?
 おれが楽しめりゃそれでいい。そんだけのことさ。
 でもな、おれが楽しめねえ事はするつもりもねえ。
 ぶっちゃけな、あんたはつまらねえ。
 だからさ、もうどうでもいい。
 ま、そっちがどうしてもってなら続けてもやるさ?
 …その代わり、刺し違えてでも死んでもらうけどな。」

一切の気負いも虚飾もない、飄々とした赤音の返答。
流石に、これにはさしもの伊勢守も言葉を失った。

駆け引きではない。この青年、心底そう思っている。
生命乞いでもない。それにしては挑発的にも過ぎる。

ただ戯れに生命を賭け、そして賭けに外れれば
それもまた仕方なしと諦める徹底した享楽主義。
純粋に命賭けで刺激だけを求める、人格破綻者。

何かの目的の為に生命を賭ける覚悟や悲壮感とは、根本的に違う。
一切の迷いもなければ、戸惑すらもない。
何かを狂的に信じるが故の無謀とも異なる。
「獣」とはベクトルの違う、人格の荒廃状態。
青年の心の根本的な何かが、既に壊れている。
人の形をした、別の生き物になり果てている。

恐怖や迷いを感じる心や、生命を惜しむ気持ちがあれば、そこに付け入る隙はある。
だが、青年は一貫にして不動。純粋なる狂気に冒されている。
ある意味、純粋なまでの剣狂者の姿がそこにはあった。
こんな男に単なる生命の危機で脅しても、むしろ喜ばせるのみだろう。
剣狂者とは、己が生命でなく、戦場にこそ価値を見出すものだから。
その男の生命を摘まず、心のみを折るにはどうすればよいか?
313すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 13:05:03 ID:yWKgNMJA
 

――――わしは、この青年を果たして救えるのだろうか?


伊勢守をして、逆に戸惑を与えるほどの揺ぎ無い狂気。
そして、その思考する隙を逃さぬ赤音ではない。

赤音は仕掛けを打つ。
だが、伊勢守にではなく、以蔵に顔を向ける。
そして今赤音が使うものは、剣ではなく言葉。
己が望む行動を、人斬りに取らせる為に。
眼前の剣聖の、活人剣を穢す為に。

赤音は人斬りに、さも楽しげに語りかける。

「…それにしてもさ。
 あの爺さんと違って、あんたホントにすげえよな。
 おれの“飢虎”受けてさ、生きてる奴なんて初めて見たぞ。
 でもま、やりかけの勝負って奴はきっちり白黒付けねえとな?
 それにさ、あんたもやられっ放しじゃ収まりが付かねえだろ?
 こんな半端じゃ、お互いにやってられねえ。
 …違うかい?」

その態度は、剣聖に対してのものとは真逆。
伊勢守に対するような冷淡さは欠片もなく。
それどころか、どこかしら親愛の情すら帯びていた。
    
「…だったらさ。お互いやる事も一つだよな?
 ここより先は、おれとサシで殺り合わねえか?
 あの爺さんの邪魔入らずで、二人っきりでさ。
 これより先は、男と男の真剣勝負って奴だ。」

赤音は伊勢守を愚弄する。
伊勢守は男には非ずと、剣聖が志す活人剣を。
人と剣、諸共に軽侮する。かの剣聖を相手取り。
314創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 13:05:39 ID:O23yk2h3
 
315すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 13:07:42 ID:yWKgNMJA
 
「第一、剣士の真剣勝負、訳分かんねえ爺さんの活人剣なんぞで
 穢されちまっちゃ正直やってらんねえだろ、…な?」

――活人剣。
その言葉を吐いた時の、赤音の微かに歪んだ顔に気づき。
伊勢守は赤音の真意に気付く。
これは以蔵への会話ではない。伊勢守への報復であると。
己か以蔵の人死にを見せつけ、活人剣を穢す為にあると。
だが、もう遅い。
気付くのが遅すぎた。


「おう、ほりゃいい。そっちがこちらも楽しそうやき。」


以蔵もまた赤音の意図を察し、楽しげにその提案に乗った。
以蔵もまた、伊勢守の剣には度し難い不快感を抱いていたのだろう。
伊勢守に、見せつけるように嘲笑を浮かべる。
二人の剣鬼は、ともに剣聖による救済を拒む。
いずれかの死を望み、それをかの剣聖に見せつける事を望む。

以蔵が赤音の提案に承諾した理由。
それは、負傷した中で三つ巴の乱戦を行う不利より、
一人づつ倒すほうが確実に有利であるとの計算も無論ある。
乱戦とは、まず弱みを見せたものから確実に潰されていくものだから。
…だが、それ以上に。
 
この『人斬り以蔵』に完璧な隙を付いて一太刀入れた、
傲岸不遜も極まる少年をその剣にて凌駕して
剣者としての格の違いを知らしめたいという、
純粋な欲望が疼いた理由が大きかった。

あれが逆刃刀でなく真剣なら、本来は死んでいた筈の一撃。
剣者として、ただ剣者として。
剣以外に何一つの取り柄もなく、
ただ剣以外に縋るものがない半生を歩んだからこそ。
維新志士として決して見なされぬ、今だからこそ。
316創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 13:09:46 ID:O23yk2h3
 
317創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 13:10:32 ID:O23yk2h3
 
318すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 13:16:41 ID:yWKgNMJA
以蔵は赤音の剣を凌駕し、優位を示さねばならない。
己自身の、半生における剣者としての矜持に賭けて。
だからこそ、赤音の挑発に乗った。
眼前の剣聖に、一杯喰わせる為にも。

「…じゃ、決まりだ。おい、爺さん。
 休憩ついでに、決闘の見届け人になってくれや。
 まさか剣客同士が同意した喧嘩に、横槍なんぞ入れたりしないよな?」


伊勢守は、同意せざるを得ない。
己もまた、骨の髄まで剣者であるが故に。
双方合意の上での、一対一でのこの決闘。
それを止める無粋だけは、剣者として出来ない。してはならない。
己が非殺の信念を貫こうとも、この状況で伊勢守が割り込めば
それは二人の意を踏みにじる傲慢でしかない。
それは己の圧倒的武力を背景にした、二人の剣者に対する最大の侮辱。
己自身も剣に身を置く身であるからこそ、その禁忌を深く知る。
故にこそ、手を出せない。

一方で、赤音はほくそ笑む。
この老人がそういった武士の心意気を守る人間性の持ち主である事は、
二人を殺すだけの実力がありながら制圧を欲する、彼の剣筋から見ても明らか。
そうでなければ、二人の首はとうの昔に飛んでいるだろうから。
赤音は、その人情の機微を逆手に取った。

――して、やられた。こうなれば、見届けるより他に無し。
伊勢守は顔を苦悩に歪めながらも、頷くより他無かった。

「…そうだ。それでいい。じゃ、おれからもあんたへのお礼代わりだ。
『見事な太刀筋』ってやつ、これから特等席で見せてやるよ。」

そう言って赤音は首だけを伊勢守に向け、不敵に笑う。
だが、その心はすでに伊勢守にはない。
近くに控える人斬りに、既に心は移っている。

「…じゃ、楽しもうぜおっさん。朝も近い。
 お互い、最高の夜明けにしたいよなぁ?」
319すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 13:17:30 ID:yWKgNMJA
赤音は以蔵に向き直り、そう言って微笑んだ。
邪気のまるでない、純粋無垢な子供のように。

以蔵も赤音に釣られて笑った。笑ってしまった。
その心は世界への憎悪に満ちていたはずなのに。
生きとし生けるものへの殺意に満ちていたのに。
晴れやかに。そして、その瞳は闘志に満ちながら。

…以蔵は孤独であった。
身命を賭して尽くしてきた主には見捨てられ、
今の彼には剣以外なにも残されてはいないのだ。
だからこそ、今の以蔵は剣に拘泥している。
どうしようもないほどに、執着している。

この血臭漂う殺し合いこそが、今の以蔵の唯一の居場所。
それ以外のどこにも生きる場所はない。
その戦場で、己は認められた。
それが、何よりも嬉しかった。

己が世界から認められぬが故の憎悪。だが、しかし。
己とその腕をほぼ等価とする剣者が、ただ純粋に剣者として以蔵を認めた。
己と実力を隔絶する眼前の剣聖より、この以蔵こそを選び果し合いを求めた。
 
剣者として。ただ剣者として。
誰よりも、自分は全面的にその存在を認められた。
名も知らぬ剣狂者ではあるが、他人に認められた。

それが何よりも嬉しく、ただ自然に釣られて笑った。
今この刹那だけは世界への憎悪はない。妄執もない。
あるのは眼前の敵を凌駕したいという想いのみ。
それは恋情にも似た純粋なまでの思いであった。

――なんという皮肉。

剣聖の活人剣では以蔵の憎悪は薄れず。
野獣の殺人剣で初めて彼は心を開いた。

――なんという滑稽。

伊勢守は、以蔵の純粋な笑みを見て、苦悩をより深いものとする。
伊勢守は、この場にいる誰よりも剣において優れながら、
己が何一つ救えぬ道化であることを自覚せざるを得なかった。
320すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 13:18:22 ID:yWKgNMJA
 

          ◇          ◇          ◇


伊勢守は、ただ静かに見届ける。
二人は笑みを浮かべながら、対峙する。
至福の歓喜と闘志に満ちながら。
だがしかし、お互いにその生命を奪わんと。
瘴気さえ漂わせる、濃厚なる殺気を伴って。

以蔵は壊れた左腕を突き出し、右腕を突きに構え機を伺う。
その企図は誰の目にも一目瞭然。
負傷した左腕を盾代わりにして、残る右腕で赤音を刺し穿つ。
何も仕掛けないなら、そのままに先を取り敵を刺し穿つ。
いわば捨て身の戦法。肉を切らせて骨を断つ。

もはや壊れた片腕に、精緻な剣術など求めようがない。
ならばこそ、壊れた腕一本など盾にしかならぬ。
たとえ切断され、その結果死に至ろうとも。
今、この刹那。勝負に勝ちさえすればいい。
眼前の好敵手さえ倒せば、それで良し。
全てを投げ売ってでも、勝負を取る。
それこそが、眼前の敵への友愛の証。
 
野太刀は決して前には出さない。間合いの優位は捨てる。
片手で握りしめた剣、前に出せばそれを狙われるは必定。
両腕で振り下ろされる剣にて、弾かれる可能性が高い。
この難敵相手に、先制は至難の業。故にこそ後ろへ引く。
狙うべきは後の先。先の機はくれてやればいい。
以蔵はそう、覚悟を決める。

赤音はそれを待ち受ける。構えは指の構え。
赤音が最も得意とし、そして最も好む構え。

赤音は目を半眼に据える。
いつ敵が向かうか分からぬが故に。
目を見開いて眼球が乾き、瞬きの刹那を作らぬ為に。
赤音は意識を半ば遮断し、雑念を排除する。
321すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 14:11:23 ID:yWKgNMJA
 



――武田赤音が、その両眼を大きく見開いた!




岡田以蔵は地を蹴る。
武田赤音は迎え撃つ。

以蔵は地を駆け、土を穿ち、その間合いを急速に詰める。
赤音は即応する。最適な迎撃の刹那を、決して逃さない。
赤音は手をこまねいたりしない。以蔵に先など渡さない。

だが、このままでは。
そう、このままでは。

赤音は以蔵に倒される。
突き出た左腕は折れようとも、
残る右腕でその喉を抉られる。

以蔵の攻撃を阻止するには、左腕の盾をかい潜り。
後ろにある頭、あるいは残された右腕を壊すしか無い。

だが、左はまだ完全には死んでいない。
向かい来る刃をいなす、盾代わりには動かせる。
そして右は後ろに引いている。用心深く、周到に。
これでは右は狙えない。

以蔵は思う。
勝利の代償として、左腕は完全に壊されるだろうが。
切断されようとも同じこと。刹那の隙を奪えば充分。
一度の踏み込み、一度の呼吸において。
一度しか必殺の斬撃は生み出せない。
敵がニ撃目へと己が刀を巻き返す前に。
以蔵は確実に事を為し、敵の喉を貫く。
322すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 14:12:16 ID:yWKgNMJA
単に腕の力だけなら。
誰にでも一呼吸に二度以上、
刀刃を振り回すことだけは出来るだろう。
だが、腕の力だけでは剣は人を阻止出来ない。
それだけの破壊力を宿し得ない。
だから以蔵はただ押し通せば良い。
それは、極めて単純な剣の条理。

ならば、一度犠牲を決めれば赤音に打つ手はない。
以蔵の相討ち狙いの後の先が、圧倒的に早い。

以蔵は左腕を犠牲に、赤音に勝利を収めることが出来る。
以蔵は地を駆けながら、赤音に無言で笑いかけた。

――――腕一本などくれてやる。それでお前を敗れるなら本望。

以蔵は何も言わずとも、その顔には如実にそう語っていた。


なのに。
なのに、何故?
 

赤音もまた笑っていた。
赤音が狂したわけではない。
赤音は勝利を確信し、薄く笑った。
一足一刀の間合い、殺傷圏内に以蔵が入る。


「――――――――――ッッッ!!!」


赤音の後足が弾ける。逆刃刀が降り落ちる。
あたかも天空の雷雲の耀きが如く。
寸毫の時も赤音は逃さず。
寸毫に至る速さにて。

敵の先の機を、赤音は奪う。
323すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 14:13:15 ID:yWKgNMJA
 
――――刈流 強


赤音の剣は修練によって忽の域を超え。
今や、まさに毫の域にまで達していた。

その神速の一閃は、だがしかし以蔵の前に突き出た左腕に阻まれる。
左腕が壊れる。完膚なき迄に、粉々に。
その関節を、さらに一つ奇怪に増やし。
だが、赤音の一刀はその左腕を掻い潜る事は無く。
即死に至る頭や、首筋に触れる事も無く。

以蔵の顔が、これ以上無い程の激痛に歪む。
左腕の神経という神経が、破壊される。
だが、それでなお突撃は止まらない。


――構わない。それでいい。

以蔵は左腕を代償に、遠からぬ破滅と引き換えに。
ただ目の前の敵への勝利だけを求めたのだから。
 
残されたその右腕に剣は握られたまま、
その鋭鋒は一直線に赤音の喉へと迫る。

だが、赤音は恐れない。
だが、赤音は怯えない。
己が死が、敗北が迫ると言うのに。

赤音はただ両手の握りを変える。
右手の握りの中で、柄を回し。
左右の手の向きが互い違いの形となる、
異形の握りへと手の内は変する。

その両腕に、左腕を砕く確かな手応えを感じた瞬間に。
324すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 14:13:59 ID:yWKgNMJA
 

――鍔眼(ツバメ)が返る。


後ろ足を伸ばす。それにより生まれる、上体が起きる力に、
さらに踏み込んだ足が地面を打つ、接地の反動力を加える。
それらを総合して、ニ撃目の斬り上げに、人体を断つ破壊力に充てる。
振り落ちた一撃が勢いを落とすこと無く、天空へと跳ね上がる。
寸毫の神速にて。


――燕(ツバメ)は返る。


剣の担い手に迫り来る、死の運命と天に唾(つば)すべく。
勝利の為に犠牲を捧げた、敬虔なる人斬りに微笑んだ筈の勝利の女神に。
赤音はその女神の後髪を鷲掴みにし、不条理を以て陵辱の限りを尽くす。

武田赤音は、勝負の未来を捩じ曲げる。
天に鍔(つば)を返す、魔剣にて応じる。


――だから、そんな事は有り得ないのだ。


一つの踏み込み、一つの呼吸の間での、必殺の力を持つ二度の斬撃。
武田赤音は、その有り得ない不条理を成し遂げる。

伊勢守すら息を呑む。赤音の妙なる技に。
以蔵の剣が赤音の喉に届く、その寸前に。
以蔵の命運と右の手首とが、音を立て捻じ曲がった。


――――我流魔剣 鍔眼返し


それは赤音の即応能力の極限と、その刹那も逃さずただ一途に
相手を見つめ続け完璧に応じる、愛の如き執念を以て初めて可能とする。
325すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 14:16:14 ID:yWKgNMJA
剣聖の無想の境地とは対極にある、言わば有想の境地にして懸想の極致。
剣聖とは程遠い、むしろ対極に位置する赤音だからこそ可能とする絶技。
相手の先を取り、後の先に対して、更に先を取る不条理の剣。
外法の剣。
強欲の剣。
先を取る限りにおいて、
限りなく無敵に近い剣。


――――勝敗は決する。魔剣にて、赤音は勝利を強奪する。


武田赤音もまた、伊烏義阿と同じく。
人智を超えた魔剣を手に入れていた。


          ◇          ◇          ◇
  
「…殺せ。」

その顔を苦悶に歪めながら。
その身体を地に横たえながら。
両腕があらぬ方向へと曲がり。
身体から再び夥しい血を流しながら。
これまでの身体への無理を思い出し、
その心身を激しく衰弱させながら。

――だが、なおはっきりとした声で。

以蔵は赤音に満面の笑顔で、己が死を乞いた。

「…ああ、そうするよ。少し待ってな。」

赤音はそれに微笑で応じる。
まるで旧友に向けるかのごとく、親しげに。

赤音はゆるりと以蔵に近づく。
刀を裏返し、肩に担ぐようにして。
以蔵の心の臓を止めに、介錯の為に近づく。
赤音は振り返らずに、ふと伊勢守に尋ねる。
326すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 14:20:02 ID:yWKgNMJA
 
「…止めねえんだな、爺さん。」
「…止めはせぬ。それが、何よりの救いであるならの。」

伊勢守は理解していた。二人の立会の中で。
殺し合いの中でしか、すくいきれないものがいることを。

目の前の両腕の折れた剣客。手当すればまだ生き残ることは出来るだろう。
だが、彼は人としての第二の生よりも、剣者としての死を心より望む。
それは、その顔を見れば語らずとも知れる、剣者としての矜持であった。

故にこそ、この場は潔く以蔵の最期を見届ける事にした。
今ここで制止することこそ、己の恥の上塗りであり、
二人の勝負への愚弄でしかない。

二人をあの局面で止められなかった、己の不覚と未熟を噛みしめて。
伊勢守は二人の殺人剣との勝負に敗れたからこそ、何も語らなかった。
『殺すは容易く、活かすは難し。』などという生易しい話ではない。

人を活かし、その魂を救済しようという己の試みが破れ。
殺し、殺される道によって以蔵が魂の救済を得られる。
その事実こそが、剣聖の活人剣の敗北を意味していた。
『敗者は語らず』
伊勢守は、確かに二人の剣に敗北した。

「へえ?少しだけ見直したよ、爺さん。
 あんた、わかってんじゃねえか?」

赤音は背を向けながら、伊勢守に答える。
以蔵は正座の姿勢を取り、口を再び開く。

「じゃ、この首すぱっとやっとくれ。」
「オッケー。じゃ、死ぬ前に言い残したこととかねえか?
 折角だし、聞いてやる。」

以蔵に「おっけい」という言葉は分からない。
だが、その旨を了解したと理解したと見なし、
赤音に一つの願いを乞う。
327すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 14:21:05 ID:yWKgNMJA
「…ほいじゃ、辞世の句を読もうかのう。ちっくと待っちょくれんか?
 これでも武士じゃからの。それ位は頼きもいいか?」

「…ああ、良いぜ。武士の情けって奴だ。」

赤音は以蔵の願いに答える。
これから行われるのは、斬首という血生臭い処刑にもかかわらず。
二人はこれから釣りにでも出かけるような、気安さに満ちていた。
これこそが、彼らの本質なのだろう。
二人は共に親しき者の裏切りで人間性を失い。修羅道へと堕して。
剣以外の全てを喪失して。人でなしへとなり果てて。
だが、それが故に。同じ修羅にこそ心を許す。
修羅を理解出来るのは、同じ修羅だけだから。

「『君が為 尽くす心は 水の泡 消えにし後ぞ 澄み渡るべき』
 …どうじゃい?即興で考えたにしちゃ、いい出来ぜよ?」

以蔵は謳う。己が辞世の句を。
己が生きた証を立てんが為に。

それは、維新志士としての苦悩に満ちた人としての人生を捨て、
人斬りという獣に立ち返ったこの今こそ心の充足感を得られたという、
あまりにも人として悲し過ぎる歌であった。
その歌の深意を、赤音も伊勢守も知る由はない。

だが、歌った時に二人に見せた彼の笑顔は、
その満足を知るに充分過ぎるものであった。


「へえ、中々いい歌じゃないか。おれが今度死んだ時も、参考にするよ。」
「…今度?何を言うちゅう?」

赤音が一度死した存在であることを、以蔵は知らない。
だが、それは話す必要も、意味もない事だ。
第一、全て終わればすぐにでも後を追うつもりだから。
剣以外に、何も残されてはいない身の上であるが故に。

「あー、まあこっちの話し、こっちの話し。
 じゃ、これでもう悔いはねえな?」
328すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 14:22:52 ID:yWKgNMJA
赤音はひらひらと手を振って答える。
以蔵もまた、微笑して応じる。
 
「ああ、やっとくれ。最期は、しょうまっこと楽しかったぜよ。」
「おれもだよ、おっさん。」

以蔵はそう言って姿勢を正すが、ふと何かを思い出し。
赤音に名乗りを上げる。

「そういや名乗りがなかったが。わしは以蔵ぜよ。わしの事、絶対忘れきくれ。」
「おれは赤音、武田赤音ってんだ。じゃ、今度は地獄で会おうや。」

いぞう、の名に伊勢守は驚愕の表情を浮かべる。
だが、二人にはそれは与り知る事の無い事。
この場は、まさに二人の世界であるが故に。


――そして。


以蔵は正座の姿勢を取り、眼を閉じて待つ。
赤音は上段の構えを取り、無言にて近づく。


――やがて。


以蔵はいつ首を斬られたか分からぬほどに。
赤音は逆刃刀を裏返して静かに以蔵に近づき。
喉の皮一枚を残して切り、その首を胸元へ転げ落とした。
それは、本来は斬首でなく切腹に用いられる、葬送の剣。
死に臨む武士にのみ報いる、最大の礼節の剣。――『順刀』。
武田赤音は、岡田以蔵の最期に剣者としての礼を尽くした。


【岡田以蔵@史実 死亡】
【残り 六十一名】
329すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 14:25:19 ID:yWKgNMJA
          ◇          ◇          ◇
 
 
赤音と伊勢守の二人が、無言で近くの民家で丁重に以蔵を弔って後の事。

「さて、これからどうすっかね?
 爺さんがこの分だと、どうせあんたの連れも甘甘なんだろ。
 薫って女も…。ま、この分じゃ大丈夫か?」

赤音は逆刃刀を納刀し、余分な荷物を捨て。
以蔵の残した野太刀を手入れしながら、
後に残された伊勢守に問いかける。

「名乗りが遅れたな。おれは武田赤音。赤音でいい。
 本気になれねえ爺さん相手にしても、面白くもなんともねえ。
 どこへなりとも消えちまえ。って言いたいとこだが…。」

今の赤音に好戦的な気配は消えている。
敵とは見なされていないが故にだろう。
赤音は野太刀を腰に佩き、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、
聞き捨てならない事を言う。

「おれのいた近くの小屋に“神谷薫”って名前の女がいるから、
 そいつをあんたらに預けとく。…ま、拾いもんなんだけどな。
 でもま、おれの傍にいるよかよっぽど安全だろ?」

一人の女の身柄を預けようとする赤音。
そして、当の伊勢守の返答を待つ前に。

「…爺さん、人助けとか大好きなんだろ?
 じゃ、案内してやるよ。付いて来な。」

そういって伊勢守に背を向け、顎で示して先行する。
背後に特に用心はしない。大胆不敵にして傍若無人。
無論、それは伊勢守の人間性を分析した上での行動ではあるのだが。

伊勢守は押し黙り、赤音に付き従う。
赤音の非礼に激怒しているわけではない。
己の至らなさに対する無念は無論あるが、
それを愚痴にするなど意味がない。
330すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 14:27:30 ID:yWKgNMJA
伊勢守は、己の思考の渦に囚われていた。
伊勢守は、赤音の人間性を掴みそこねていた。
故にこそ、逆に興味と関心を持ちつつあった。
この者が、修羅道に堕した剣狂者であることは間違いない。
だが、その彼なりの奇妙な思いやりは決して偽善などではなく。
虚飾を剥いだ末にあるものであるが故、
ある種の潔さ、美しさすら感じさせた。
それは短く咲き誇り、そして舞い散る桜花のように。

少なくとも赤音の殺人剣はかの人斬りの魂を救い、
己の活人剣では以蔵をすくいきれなかったのだから。
それは、決して技量の優劣という浅薄な比較ではなく。
赤音の殺人剣に、その結果と価値を伊勢守は認めざるを得ない。

此度の敗北は、潔く受け入れる。
無論、己が敗れたままであり続けるつもりも、
決してありはしないのだが。
赤音の殺人剣と、己の活人剣との再戦を、伊勢守は切望する。
だが、その前に確認すべき事もある。

さらに赤音はここで出逢う前に。
既に一人の女性を助けていると言うのだ。
無論、それは赤音の嘘であり、罠である可能性も無くは無いのだが。
伊勢守は、赤音に嘘はないと判断する。そうする意味がないが故に。
赤音はそもそも、伊勢守を敵と見なしていないのだから。

だが女性の事が事実ならば、先程のこちらへの挑発も頷ける。
こちらの接近を知り、殺気を撒き散らして二人の気を引き、
かの女性から注意を逸らさんと欲したのではないか?

――ならば、この青年は一体何者なのだろうか?

決して善人ではないだろう。
だが、単なる人斬りでもない。
その思考は、実に複雑怪奇も極まる。
伊勢守の興味は尽きない。

伊勢守は同時に苦悩する。
己は活人剣という言葉の意味を取り違えてはいないだろうか?
何をして人を真の意味で救い切る事ができるのか?
殺人剣とは、常に忌み嫌うべきものなのだろうか?
…ただ考えても、一向に答えは出ない。
331すくいきれないもの ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 15:10:44 ID:yWKgNMJA
ならば、この奇天烈な青年を見届ける事により、
己に課す活人剣の解答を得るべきであろう。
それを是非、見極めたい。
その為には――。

この武田赤音という名の純粋な獣に、しばし付き合おう。
ただし、赤音に暴走があれば、その時は即座に制圧しなければならないが。
伊勢守は、興味と関心、そして苦悩を同時に抱きつつも
赤音の無礼極まる案内に、黙って付き従う事にした。

【へノ参 城下町/一日目/早朝】

【上泉信綱@史実】
【状態】疲労(軽度)、足に軽傷(治療済み)、腹部に打撲、爪一つ破損、指一本負傷、顔にかすり傷
【装備】オボロの刀@うたわれるもの
【所持品】なし
【思考】基本:他の参加者を殺すことなく優勝する。
     一:武田赤音の行く末を見届け、己の活人剣の解答を得たい。
     ニ:ただし、武田赤音に暴走がある時は、今度こそ阻止する。
     三:神谷薫と甚助に合流する。
     四:己の今回の敗北を認める。
     五:ただし、敗北のままでは終わらせない。赤音を救い、導く。

【備考】※服部武雄から坂本竜馬、伊東甲子太郎、近藤勇、土方歳三の人物像を聞きました。
    ※己の活人剣で以蔵を救えず、赤音の殺人剣でこそ以蔵が救われた事実に、苦悩を抱いています。
    ※己の活人剣の今回の敗北を率直に認め、さらなる高みを模索しようとしています。

【武田赤音@刃鳴散らす】
【状態】:健康、疲労(中度〜重度の間)
【装備】:逆刃刀・真打@るろうに剣心
     野太刀
     殺戮幼稚園@刃鳴散らす
【所持品】:支給品一式
【思考】基本:気の赴くままに行動する。とりあえずは老人(東郷重位)の打倒が目標。
     一:強そうな剣者がいれば仕合ってみたい。
     ニ:女が相手なら戦って勝利すれば、“戦場での戦利品”として扱う。
     三:この“御前試合”の主催者と観客達は皆殺しにする。
     四:己に見合った剣(できれば「かぜ」)が欲しい。
     五:一輪のこれ(殺戮幼稚園)、どうすっかな?
     六:後ろの爺さんとその連れ(甚助)に、神谷薫を押し付けて自由になりたい。
     七:休みてえ…。
【備考】※人別帖をまだ読んでません。その上うわの空で白州にいたので、
    ※伊烏義阿がこの御前試合に参戦している事を未だ知りません。
    ※道着より、神谷活心流と神谷薫の名を把握しました。
    ※上泉信綱とその連れ(林崎甚助)の名前をまだ聞いていません。
    ※現地調達した木の棒と竹光は、野太刀の入手と同時に近くの小屋で廃棄しました。
     傍に以蔵の死体が置いてあります。
332 ◆YFw4OxIuOI :2010/05/20(木) 15:11:32 ID:yWKgNMJA
以上で投下完了です。
333創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 19:31:35 ID:ZP2UEwnT
修正乙です

おお、これはいい修正です
前とは上泉が違うわw
334創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 02:35:01 ID:Xyrkz7Kw
赤音の奇妙な潔さと救われた以蔵、救えなかった上泉・・・つくづく、このロワの特異さ、独特の面白さというものを感じざるを得ない
GJ!
335 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/21(金) 07:25:46 ID:6ppV/XxC
修正乙です。
こちらも赤石剛次、明楽伊織、倉間鉄山、中村主水、伊良子清玄、白井亨で投下します。
336ただ剣の為に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/21(金) 07:27:15 ID:6ppV/XxC
「いぞう」なる殺人鬼が残した血痕を追って城下町を進む明楽伊織と倉間鉄山。
しばし進み、行く先に見えたのは、辻に立って周囲を見渡す白髪の男。
負傷した様子がなく、背にある得物が木刀である所を見るに「いぞう」とは別人のようだが。
「あんた達も鬼退治か?だが、どうやら追えるのはここまでらしいぜ」
そう言われて明楽と鉄山が地面を見てみると、今まで点々と続いていた血痕が、ここで途絶えてしまっている。
「いぞう」が傷を手当したのか、どこかに隠れたのか、とにかく血痕からこれ以上「いぞう」を追うのは無理のようだ。
気配や臭いで追おうにも、城下全体に異様な気配と血の臭いが充満していてそれも難しい。
「あんたもいぞうとかいう野郎を止めようと?」
とりあえず追跡の事は脇に置き、明楽は男に話し掛ける。
この異常な殺し合いの場にいながらの堂々たる立ち姿を見るだけでも、この男が相当な剣客である事は明らかだ。
出来れば仲間に引き込みたいところだが……

「あんなイカレた真似をする野郎となら、面白い勝負が出来そうだと思ったんだが、無駄足を踏んじまったな。
……だが、あんた等も相当に遣うようだ」
そう言って男……赤石剛次が好戦的な目を向けてくるが、明楽は前に出ようとする鉄山を制して言葉を紡ぐ。
「あんた、血痕を辿る時に、こいつのとは別の、古い血痕が所々にあるのに気付かなかったかい?
つまり、この御前試合とかを開催した連中は、この無人の城下町をまともな方法で調達した訳じゃねえってことだ」
明楽の指摘に、赤石の表情が僅かに動く。
やはり、口では物騒な事を言っていても、この男の心根は、ただの人斬りとは明らかに一線を画す。
希望を抱いた明楽は、赤石を説得しようと更に言葉を重ねて行った。
337ただ剣の為に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/21(金) 07:28:53 ID:6ppV/XxC
(ったく、あんな危なそうな奴を説得しようとは、相変わらず無茶してやがんな)
路地に潜み、明楽達の様子を陰から見守っていた中村主水は胸中で毒づく。あいつらに同行しないで正解だったと。
とはいえ、毒づく一方で、主水は明楽の説得が成功することを願ってもいた。
明楽の隠密としての調査能力には期待しているのだ、こんな所で死んでもらっては困る。
(それに、この刀の借りを返さねえ内に死なれちゃ、寝覚めが悪いからな)
明楽に譲られた流星剣を抜き、その刀身を眺める主水……だが、そこに映る怪しい人影に、さしもの主水もぎょっとした。
主水も闇の世界に長く身を置く歴戦の仕事人。驚愕しながらも咄嗟に跳び退って素早く剣を構える。
すると、いつの間に忍び寄ったのか、刀を杖のように構えた男が目の前に立っていた。
明楽達に気を取られていたとは言え、主水は決して周囲の気配を探る事を怠っていた訳ではない。
にもかかわらず、彼に気付かれる事なくここまで近付くとは……

「てめえ……」
主水は言い掛けた言葉を慌てて呑み込む。男の顔に両目を切り裂かれた傷跡を発見したからだ。
盲目の相手に声を掛けるなど、己の居場所を知らせるだけの愚かな行為。
つまり、この相手は言葉ではなく剣によって対処するしかないということだ。
とはいえ、盲目の剣士相手に、この場この時に闘うのは、主水にとって明らかに不利。
並の剣士には盲目は致命的な弱点となるが、隠れた主水を容易く発見した事を見るに、この男はそれを克服しているのだろう。
そして、当然の事だが、はじめから目が見えない相手に、主水が得意とする目くらましが効く筈もない。
いや、目が見えない代わりに他の感覚は発達しているだろう事を考えると、目くらまし以外の暗殺剣も通じるかどうか。
加えて、時刻と場所も主水の敵に回っていた。
夜闇で互いの姿をはっきりと視認できない環境で戦えば、元から目の見えない者が圧倒的に有利。
それだけなら守りを固めて夜明けを待てば良さそうな物だが、問題は二人の位置関係。
盲目の男の立ち位置は、主水から見て東……つまり、このまま日が昇れば、主水は太陽を真っ向から見る羽目になるのだ。
主水としては何とか位置を入れかえたいところだが、狭い路地で腕利きの剣士の脇をすり抜けるのは至難の業。
目の前の男の刀を杖のようについた奇妙な構えが、向かって行く者に対する必殺の構えとなっている事を主水は悟っていた。
待つのも不利、向かって行けば死となれば、主水の取るべき方策は一つのみ。

「やはり退くか」
盲目の男……伊良子清玄に言われて、主水はそろそろと後に下げていた足を止める。
後進して距離が開くのに比例させて剣気を増幅させ、逃走を悟らせまいという策だったのだが、この男には無駄だったようだ。
「それでこそ、新しき術技開眼の良き練習台になろう」
勝手な事を言いながら、男は杖をつく構えを解いて前に出て来る。
已むを得ず、主水が受けて立つ覚悟を決めたその時だった、彼が現れたのは。
「新技の練習台なら、私がなりましょう」
338ただ剣の為に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/21(金) 07:31:34 ID:6ppV/XxC
背後からの声に、咄嗟に後ろの気配を探り、そこに剣を構えた男を発見する伊良子清玄。
そちらを警戒しつつ前方に注意を戻した清玄は、切り裂かれた両眼を見開いた。
一瞬前までそこに居た筈の中村主水の気配が煙のように消え失せていたのだ。
清玄の気が逸れた瞬間を逃さぬ熟練の仕事人らしい見事な手際、とも言えるが、これは清玄の側にも原因がある。
この御前試合を勝ち抜く為に心眼を開く事を決意した清玄……その一つの答えが、極限に集中して気配を読む事だ。
清玄程の剣客が感覚と集中力を総動員すれば、対手の仕草から目配りまで、ほぼ完全に把握することが可能。
そして、一流の剣客とは常に周囲の地形・環境に気を配り、利用しようと動くもの。
よって、達人が集まるこの御前試合では、相手の動きを読めれば、それは地形や障害物の位置を把握する事に等しい。
だが、この方式には欠点もある。誰かに意識を集中させれば、必然的に他への注意が疎かになるという点だ。
現に中村主水に意識を集中させていた清玄は別の剣士の接近に気付かず、そちらに気を取られた隙に主水に逃げられた。
数十人の剣士が入り乱れ殺し合うこの御前試合において、それがどれだけ致命的な欠陥になり得るか……

「私は白井亨。貴方と同じく、この試合にて己の剣を研ぎ直さんと志すものです。では、始めましょうか」
清玄の気持ちを知ってか知らずか、男が語りかけて来る。
清玄としては、自分から向かって来る白井より隙あらば逃げようとするあの暗殺者相手に試してみたかったのだが。
とはいえ、ないものねだりをしても始まらない。清玄は気持ちを切り替えると、白井に対して剣を構えた。

先程の勇ましい発言とは裏腹に、白井は剣を正眼に構えたまま攻めて来る気配がない。
それも当然と言えば当然だろう。中村主水との立ち合いの時とは逆に、白井は清玄の東側に陣取っている。
つまり、白井としてはこのまま夜が明けるか清玄の集中が切れるまで睨み合っているのが最良なのだ。
もっとも、相手が待ちの態勢でいてくれるのは、逃げる敵をも討てる剣を模索する清玄にとっては好都合。
勇み立った清玄は、盲人とは思えぬ迷いのない動きで白井に向かって斬り込んで行った。

清玄は白井に向けて流れの一撃を放つが、狭い路地での横薙ぎでは剣に十分な伸びが出ないのも仕方なかろう。
白井はあっさり流れを回避し、更に清玄の追撃を二撃、三撃とかわすと、気合と共に鋭い突きを見舞って来る。
清玄も力を籠めて白井の斬撃を切り落とし……その剣は、大した抵抗もなく文字通り白井の刀身を切り落とした。
(これは!)
この時、清玄は初めて、白井の得物が真剣ではなく竹の刀であった事に気付く。
刀身を目で確認することが出来ないとは言え、清玄ほどの者が敵の得物を読み違えるなど通常は有り得ない。
白井の鋭い剣気と、彼自身も己が持つのが真剣だと思い込んでいるのではないかという程の気迫が、清玄を錯覚させたのだ。
鉄剣と思って竹刀に切り付けた為に体勢を崩す清玄に対し、白井は素早く懐に飛び込み、竹刀の柄を思い切り叩き付ける。
小兵の白井とはいえ、突進の勢いを乗せた一撃の威力は凄まじく、さしもの清玄もたまらず吹き飛ばされ……ない!
飛ばされそうになりながらも、清玄は咄嗟に足指で白井の着流しを掴み、剣を地に突き立ててその場に踏み止まる。
そして、その体勢から必殺の逆流れを放つ。
清玄の足指に動きを封じられた白井に回避は困難。まして、破損した竹刀で逆流れを受け止めるなど……
半ば勝ちを確信しかけた清玄だが、強い衝撃と共に剣を弾き返されて驚愕する。
清玄は片足を地から離したところに衝撃を受けた為に体勢を崩し、咄嗟に後に大きく跳躍して逃れた。
しかし、白井はあの状況からどうやって逆流れを防いだのか。隠し武器などを取り出す動作はなかった筈なのだが。
あらためて、清玄は目の前の相手が恐ろしい達人だと実感し……にやりと笑う。
新たなる剣の境地を開くには、このくらいの遣い手を相手にせねばならぬと。
339ただ剣の為に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/21(金) 07:34:02 ID:6ppV/XxC
(できた!)
白井亨は狂喜していた。己を敢えて絶体絶命の境地に追い込み、生死の狭間から新たな悟りを得んとの無謀な試み。
天佑か、才能か、白井は見事に新たなる奥義を編み出して見せた。
偶然に清玄の言葉を聞き、彼のような剣に真摯な者と立ち合えば何かが掴めるかと名乗り出たのは正解だったとみえる。
伊良子清玄の逆流れを弾いたのは剣気。剣気で作られた剣で白井は逆流れに対抗したのだ。
通常ならこんな事は起こりえない。何せ、剣気などというものは本当は存在しないのだから。
確かに、世には剣気を操ると称する武術が無数にある。
気で相手の動きを読み、或いは牽制し、更には剣気で人を金縛りにしたり失神させる術まであるという。
だが、剣気というものが現実に存在する訳ではなく、人の気迫が他者に与える影響力を仮想的にそう呼んでいるだけのこと。
飯綱と言い、気当たりと言うのも、要は気迫で圧倒する事で相手の身体の生理現象を操っているに過ぎないのだ。
だから、剣の先から火が出る輪が出ると言っても、その火や輪が物理的な破壊力を持っている訳ではない。
とすると、伊良子清玄の逆流れに対しては剣気による防御は無意味だと考えられる。
逆流れは、大地の反撥力を利用する事で、剣に己の力以上の威力を付加する秘技。
仮に清玄を気迫で圧倒し、逆流れを止めさせようとしても、一度放たれた逆流れは清玄自身にも止められないのだから。
にもかかわらず、白井は剣気によって逆流れを止めて見せた。実在しない剣気に物理的な威力を持たせたのだ。

無論、達人の繰り出す奥義は時としてこの世の理をも超えるもの。
しかし、仮想の存在に実体を持たせるというのは並大抵の技ではない。
木の葉をちぎり火を揺らめかせる程度の芸ですら、一流の剣客のみに可能な入神の技。
ましてや、虎をも両断する逆流れをも防ぐ白井の剣気は一体どれほどのものなのか……
清国の武術には氣を凝縮して発し、岩をも砕く威力を発揮する奥義があるとも言うが、白井の技はそれにも比肩するだろう。
幾多の武術者が数千年をかけて編み出した秘奥義を、白井は独自に短期間で身に付けて見せたのだ。
いや、剣気を刀として自在に操れるこの技は、使い勝手と言う点では遠当てより数段優れているとも言える。
己の新たなる奥義に満足し、清玄を追撃しようとする白井だが、ここで踏み出した足がぐらりとよろめいた。

(限界か……)
元々疲労が回復し切っていなかった上に、気力を大幅に消耗する技を使ったのだから、体力の限界が来るのも仕方ない。
これ以上の戦闘は無理と見切りを付けた白井は後ろを向くと、全力で逃げ始めた。
必死で駆ける白井だが後ろからは足音がぴったりと付いて来る。盲人とはとても思えぬ速さだ。
(簡単に逃がしてはくれませんか)
まあ、互いに修練しようと言っておいて、自分だけ新技を身に付けた所で切り上げる、なんて身勝手に過ぎると自分でも思う。
と言って、これ以上戦い続けて死んでしまえば、折角の進歩が無に帰してしまうのだ。
白井は更に足を早め、角を曲がった。
340ただ剣の為に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/21(金) 07:36:46 ID:6ppV/XxC
「わかった。この御前試合とやらを開催した連中をぶった斬るまでの間、あんた達に協力しよう」
中村主水の危惧とは裏腹に、明楽伊織による赤石剛次の説得は意外とあっさり成功していた。
口では人斬りのような事を言っているが、赤石の本質は卑劣を憎む好漢。この結果は必然だろう。
だが、彼らには親交を深める間も自己紹介の暇すらも与えられず、危険が迫っていた。
まずは付近で強烈な剣気が発されたのを感じて警戒する内に、二人の男が現れてこちらに向かって駆けて来る。
前方の男は破損した竹刀を持ち、後方の男は真剣を構えている所を見ると、竹刀の男が人斬りに襲われて逃げて来たのか。
しかし、竹刀の男が彼等の間近に迫った時、その口から出て来たのは救いを求める言葉ではなかった。

「御免!」
言葉と共に前方の男……白井亨が、破損した竹刀を赤石の顔面めがけて投げ付ける。
剣術と手裏剣術を究めた白井が投げれば竹刀の切れ端とて侮れぬ凶器となるが、赤石も簡単に打たれるほど未熟ではない。
木刀を振ると、竹刀は弾き返されて元来た軌道を跳ね返り、白井に向かっていく……というのは赤石の幻想。
確かに竹刀は元の軌道を帰ったが、その時には白井の姿は視界の何処にもなかった。
「何!?」
いきなり白井の姿が消えた事で戸惑う赤石。もっとも、白井の姿がいきなり消えたと思ったのは赤石だけなのだが。
何のことはない、白井は竹刀を赤石に投げ、その視界が隠れた一瞬に跳躍し、横の民家に飛び込んだのだ。
周囲に四人の剣士がいる中での赤石一人を対象にした目くらましだが、この状況ではそれで十分。
明楽と鉄山にとっては白井が飛び込んだ民家は赤石の身体の向こう側、すぐには追えない。
清玄も、木刀を抜いた赤石が目の前にいるのに、それを無視して白井を追う訳にはなかなか行かないだろう。
特に、清玄と赤石はどちらも好戦的な剣士。すぐに互いの性を見抜くと、白井そっちのけで睨み合った。

「三人か。まあ良かろう」
やはり逃げる相手を斬るのは難しいが、多人数を斬るというのもこの御前試合を勝ち抜くには必要なこと。
清玄は連戦の疲れも見せずに剣を構え、赤石もそれに応じる。
これを見て明楽と鉄山も動きかけるが、赤石は手の平を突き出してこれを止める。
「こういう時に、互いの腕を信じて任せられないようじゃ、仲間とは言えないと思わねえか?」
そう言われてしまうと、明楽も鉄山も手を貸す訳にはいかない。
ただ、鉄山は己の刀を鞘ごと抜き取り、赤石の前に立つとそれを差し出す。
「これを使え。君の腕は信頼しているが、木刀では力を発揮しきれまい」

赤石が木刀を背に戻して鉄山の差し出す刀を受け取り……次の瞬間、鉄山が跳躍した。
鉄山の跳躍に半瞬だけ遅れて白刃が走る。清玄が不意に鉄山を切り付けたのだ。
せっかく赤石が一対一の勝負を仕掛けて来たのを無にする行いだが、清玄の望みは多対一の戦いなのだからこうするのも当然。
しかし、清玄が多対一を望むのと同等以上に赤石は一騎討ちを望んでいる。
素早く抜刀すると清玄に切り掛かり、他の二人に手を出す隙を与えず、戦いに持ち込む。
こうなれば清玄も考えを切り替えるしかなく、ここに赤石剛次と伊良子清玄の死闘の幕が切って落とされた。
341ただ剣の為に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/21(金) 07:40:50 ID:6ppV/XxC
赤石の斬岩剣と清玄の逆流れが交錯し、互いに皮一枚でしのぐ。
相手が油断ならぬ強者だと悟った二人は、そのまま睨み合いに入った。
しかし、先程の白井戦と同様、夜明け前のこの時刻では、時が経つほど目明きの赤石が有利。
加えて、こうも連続して達人と渡り合い続けては、心眼に必要な集中力がいつまで保つか。
後に控える連中の事も考えると、ここで無駄に時間を掛けてはいられない。清玄は、乾坤一擲の勝負に出る事を決意した。

清玄は赤石に刀を投げ付けると、後を追うように跳躍した。
剣は赤石の胸元に向かい、自身はドロップキックのような形で赤石の膝元に足から飛び込んで行く。
だが、この程度の二段攻撃で慌てる赤石ではない。
刃を清玄に向けて剣を地面に突き立てると、棒高跳びの要領で宙高く舞い上がった。
この高さならば清玄の攻撃は当たらず、逆にこのままだと清玄は刀に突っ込み、自らの勢いで両断される事になる。
「何!?」
しかし、清玄の身体はいきなり空中で停止し、為に両断を免れた。
無論、何の支えも無く浮いている訳ではない。清玄は足指で赤石の刀を挟み、その強烈な力で自らの身体を止めたのだ。
更に、もう一方の足を伸ばして自身が投げた刀を掴むと、それをもって空中の赤石に切りつける。

一般に、剣士は足元への攻撃を苦手としている。
剣を手で構えれば足には届きにくく、灯台下暗しの言葉通り足元は人間にとって死角になり易いのだから、これは当然。
幕末における柳剛流の隆盛、駿河城下における屈木頑乃助の跳梁は、剣客のこの性質に負う部分が大きい。
他ならぬ清玄の逆流れも、下段からの切り上げという点ではこの系統に属していると言えるだろうか。
逆流れは数少ない例外だが、一般に相手の足元を狙う剣というのは、さして精妙にはなりにくい。
ただの薙ぎや切り上げでも十分に必殺剣になり得るのだから、それ以上に工夫を重ねる者が少ないのも道理だろう。
清玄の今回の技は、この傾向を利用したものだ。
己の足元への攻撃を誘い、漫然と為された攻撃を足指をもって止め、更に足で剣を操って攻撃する。
人間離れした足指の力と器用さを持ち、視覚に頼らぬ故に足元の様子を眼前と同様に知れる清玄にのみ可能な魔剣と言えよう。

清玄の奇剣に襲われた赤石だが、空中では避けようがないし、刀は清玄の足で抑えられている。
赤石は迷わず刀を押し放し、更に宙高く飛び上がった。
その程度で清玄の剣を逃れることは出来ないが、多少なりとも勢いを弱めることが出来ればそれで十分。
左腕で剣を受け止め、刀が腕に深く切り込んだ段階で右腕を使って左腕を大きく捻る。
如何に足指が器用だと言っても、さすがに柔軟性では手の指には劣るようだ。
捻られた刀は清玄の足からもぎ離され、彼方に飛んで行った。
だが、清玄の攻勢は終わらない。素早く立ち上がると赤石が手放した刀を掴み、再び逆流れの態勢に入った。
空中で逆流れを防ぐのは至難の業だが、赤石に恐れはない。どこまでも己の剣を貫くのみ。
赤石は背にある木刀を抜くと、右手一本で大きく振りかぶり……振り下ろす直前に逆流れが放たれ、そこで意識が途切れた。
342ただ剣の為に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/21(金) 07:44:02 ID:6ppV/XxC
戦いが終わり、一転して静かになった辻で、鉄山が倒れた赤石を診ている。
「腕の傷は深いが、他は心配ない。一眠りすれば眼を覚ますだろう」
その診立てにほっとしながら、明楽は清玄が死してなお握り続けていた刀を回収し、刀が切れ込んでいる薪を外す。
あの時、清玄の逆流れの軌跡に、何処からか飛来した薪が割り込んだのだ。
結果、清玄の刀はまずその薪に切り込み、そのまま薪で赤石を打つ形となった。
対手の動きを通して周囲を把握する為に、相手が気付いていない事は自身も気付けぬ心眼の弱点が出た訳だが、
赤石の得物が木刀であり空中にいる事を考えれば、それでもまだ清玄が優位と言って良かっただろう。
にもかかわらず赤石が生き残って清玄が死んだのは、二人のこの勝負に対する意識の差に起因している。
清玄にとってこの戦いは、御前試合で勝ち残るために必要な幾多の戦いの一つに過ぎなかった。
その為、こんな所で余計な負傷はするまいと、少々早めのタイミングで。逆流れを放つ。
無論、それでも真剣ならば赤石に致命傷を与えるに十分な一撃であったが、薪に邪魔されて、気絶させるに留まる。
対して、赤石は先のことなど考えずこの一戦に全力を注ぎ、清玄がかわせぬ間合いまで近付いてからの一撃を選択。
死を恐れぬ勇気と、己ならば死して後でも必殺の一撃を完遂できるとの自負があってはじめて可能な事だ。
そして、赤石は実際に、斬られはしないものの、打たれて気絶しながらも渾身の一撃を放ち、清玄を仕留めて見せた。
結局、命を捨てて戦った赤石が生き残り、勝ち残ろうとした清玄が命を落としたのは運命の皮肉かそれとも必然か。

「見事だが、危ういな」
この若者はある意味では「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」の言葉に表される武士道の極意を体現しているとも言えるが、
肉を切らせて骨を断つどころか、あっさりと骨を切らせようとしていては、命が幾つあっても足るまい。
この若者が持つ力と正義の心をもっと正しく発揮できるよう、自分が手助けをしよう……鉄山はそんな事を考えていた。
一方、明楽は先程から周囲の気配を探っていたが、白井の気配も、それ以外の者の気配も感じられない。
「ったく、この島には、一筋縄で行かねえ連中ばっかりが集められたようだなあ」
そう言って、明楽は赤石の命を救った薪をじっと眺めるのだった。

【伊良子清玄@シグルイ 死亡】
【残り六十名】
343ただ剣の為に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/21(金) 07:45:43 ID:6ppV/XxC
【へノ参 城下町/一日目/早朝】

【明楽伊織@明楽と孫蔵】
【状態】健康、町衆の格好に変装中
【装備】古銭編みの肌襦袢@史実
【所持品】支給品一式
【思考】基本:殺し合いを許さない
一:倉間鉄山、赤石剛次と協力して岡田以蔵を捕える
二:信頼できそうな人物を探す
三:殺し合いに積極的な者には容赦しない
四:刀を探す
[備考]参戦時期としては、京都で新選組が活動していた時期。
 他、史実幕末志士と直接の面識は無し。斎藤弥九郎など、江戸の著名人に関しては顔を見たことなどはあるかも。

【倉間鉄山@バトルフィーバーJ】
【状態】健康
【装備】 刀(銘等は不明)
【所持品】支給品一式
【思考】基本:主催者を打倒、或いは捕縛する。そのために同志を募る。弱者は保護。
一、赤石剛次の回復を待ち、赤石や伊織と共に岡田以蔵を捕え、その真贋を確かめる
二、宗次郎と正午にへの禄の民家で再会。彼が、死合に乗るようならば全力で倒す。
三、主催者の正体と意図を突き止めるべく、情報を集める。
四、十兵衛、緋村を優先的に探し、ついで四乃森、斎藤(どの斎藤かは知らない)を探す。志々雄は警戒。
五、どうしても止むを得ない場合を除き、人命は取らない。ただ、改造人間等は別。

【赤石剛次@魁!男塾】
【状態】気絶、腕に重傷
【装備】木刀
【道具】支給品一式
【思考】基本:主催者を斬るまでの間は、明楽伊織や倉間鉄山と協力する
一:刀を捜す
二:“いぞう”に会ったら斬る
三:濃紺の着流しの男(伊烏義阿)が仇討を完遂したら戦ってみたい
※七牙冥界闘・第三の牙で死亡する直前からの参戦です。ただしダメージは完全に回復しています。
※武田赤音と伊烏義阿(名は知りません)との因縁を把握しました。
※犬飼信乃(女)を武田赤音だと思っています。
※人別帖を読んでいません。
344ただ剣の為に ◆cNVX6DYRQU :2010/05/21(金) 07:49:06 ID:6ppV/XxC
「それで借りは返したって事にさせてもらうぜ、明楽さん」
赤石剛次と伊良子清玄の死闘があった場所から少し離れた位置でそう呟くのは、仕事人中村主水。
死闘の最中に薪を投げて介入し、明楽の仲間となった赤石を救ったのは、ずっと様子を伺っていた主水の仕業である。
目的は、明楽に流星剣を譲られた借りを、自分の中で清算する事。
これで、必要となれば何の気兼ねもなく明楽の口を封じられるという訳だ。更に……
「あんたの方は、この場を見逃す事で借りを返したと思わせてもらうぜ。そっちも親切で助けてくれたんじゃなさそうだしな」
そう一人ごちて、主水は明楽達の監視に戻るのだった。

一方、白井亨は主水に見られていた事もそんな事を言われているとも気付かず、休息場所を探して歩いている。
白井は、伊良子清玄が赤石剛次が立ち合い、命を落とす様子をその眼で見ていた。
自身と同様に剣の新たなる境地を求め、新技を編み出しながらも死んで全てを失った清玄は、白井の有り得た姿でもある。
清玄が死に、自分が生き残ったのはただ己が幸運であっただけ……そう思いつつ、白井は手の中の刀を見つめた。
これは元は清玄の得物であり、死闘の中で赤石によってもぎ取られ、白井がいた民家に飛び込んで来た刀。
その刀が手に入ったお蔭で、白井は民家の壁を切り破って、明楽達に見咎められる事なくあの場を脱せたのだ。
短時間に幸運が二度続けば、大抵の人間は天佑という言葉を思い浮かべるもの。
白井もその例に洩れず、己に神仏の加護があることを感じ、それに応える為にも、更なる修練を積む事を誓うのだった。

【とノ参 城下町/一日目/早朝】

【中村主水@必殺シリーズ】
【状態】健康
【装備】流星剣(清河八郎の佩刀)
【所持品】なし
【思考】
基本:自分の正体を知る者を始末する
一:明楽の後を尾けて、調査の進み具合を監視する
二:できるだけ危険は避ける
三:主催者の正体がわかったら他の者に先んじて口を封じる

【白井亨@史実】
【状態】左腕軽傷、疲労
【装備】打刀(鞘なし)、町人の着流し、掻巻
【所持品】「孝」の霊珠
【思考】
基本:甘さを捨て、真の剣客になる
一:自ら、この死合を仕掛けたものの正体を掴む。他者とは馴れ合わない。
二:更に修練と経験を積む。
三:命を落とすまで勝負を諦めない。本当に戦闘不能になれば、自害する。
【備考】※この御前試合を神仏が自分に課した試練だと考えています。
    ※珠の正体には気付いていませんが、何か神聖な物である事は感じ取っています。
    ※八犬士の珠は、少なくとも回復、毒消しの奇跡を発現出来ます。他の奇跡が発現するか、
     邪心を持つ者が手にすればどうなるか、また亨の怪我が完治するまでどの程度かかるか
     この場に参加する二犬士以外の珠が存在するかは、後続の書き手さんにお任せします。
345創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 08:14:23 ID:PmXc364L
投下乙です

どうなるかと思ったら清玄はここで脱落か…
二人の姿勢の違いが勝負を分けたか…このロワらしい展開だわ…
そして主水は主水らしいわw
346創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 14:42:02 ID:EmW337KC
YFw4OxIuOI氏、cNVX6DYRQU氏、ともに投下乙であります。

以蔵…最後に解ってもらえた分、史実よりは幸せな最後だったかもしらん。
剣聖、赤音の行く末にもいろいろと興味をひかれます。
後、どうでもいいけど赤音と芹沢鴨ってなんか似てると思う。

そして清玄まさかの敗退!
何気に駿河城勢は後藤木一人しか残ってないんですね。
藤木がんばれ、まじがんばれ

それと白井君は寺田先生クラスの領域へと足を踏み入れつつあるようです。
彼のいく末にも期待が高まります。

改めて両人共に、投下乙です
347 ◆YFw4OxIuOI :2010/05/22(土) 07:55:01 ID:YHUEDKPT
すいません。
過去作品読み直したら鍔眼返しの表記が一部おかしい
(鍔目になってる)ので、全部修正しておきます。

>>346
感想ありがとうございます。以蔵の史実は悲惨ですからね…。
348創る名無しに見る名無し:2010/05/22(土) 17:45:14 ID:PIz2UEzn
お二方投下乙です
349創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 08:27:54 ID:ssXlxuns
新作したらばに来てるー?!



どしゃり―――
と、何か重たい物が、地面に落ちる音が響き、続けて、
びしゃり―――
と、水か、あるいは水を多分に含んだ何かが、地面にまき散らされる音が響いた。

まき散らされた水が、液体が、地面へと音も無く広がり、そして吸い込まれていく。
液体は、水よりも遥かに濃い、粘質で、鉄錆びた異臭を放っていた。
それは大量の血液であった。

土がむき出しの地面に転がった物は大きく二種類。
大きな何かの塊と、それから延びたり散らばったりした、
細く長い何かや、小さな塊の数々であった。
小さかったり、長かったりするものの色は、赤であったり、
青であったり、黒であったりしたが、総じて何か粘質の液体に覆われ、生温かく、微かな湯気を放っている。
鉄錆びた異臭と、排泄物の悪臭が、混ざって立ち上った。
それは、臓物であった。
それは、下半身と泣き別れになった、誰かの上半身であった。
左肩口から一文字に、右の腰まで綺麗に通った一太刀に、その人物は肉体を両断されていた。
上半身と別れた下半身は、上半身より少し離れた所に転がっていた。

そんな誰かを、見下ろす一つの影がある。
影の右手には抜き身の段平一つ。切っ先からは滴る血の粒。

影は屈みこみ、転がった誰かの下半身の袴の裾で、
刀を濡らす血を拭い、パチリと、鞘に刀を納める。

そして影は、
ニィッ―――
と、薄く笑ったのであった。



夜空を背に、二人の剣客が対峙している。

片や、柄を長くとった細身の居合太刀を腰間に下げた、凛々しく、年若き少女である。
片や、二本の太刀を差した、総髪、茶筅髷の、雄々しい風貌の老人である。
六、七間ほど間を開けて対峙していた二人であったが、
少女、左手を腰間に、右手を柄への居合腰、
老人、大刀二本差しの上方の柄頭に左の掌に乗せながらも、右手はだらりと下がったままで、
臨戦態勢の少女と比べれば、些か、戦いへの消極性を感じさせる有り様であった。

少女が、ズズイ、と殺気立ちながら摺り足で間合いを詰める。
老人、僅かに縮んだ間合いを広げながらも、しばし逡巡していた様子であったが、

「止むを得ぬな…」

と、些か薩摩訛りを感じさせる言葉をつむぐや否や、
鯉口を切り、刀をスラリと音も無く引き抜くや、
右半開、切っ先を下に向けた、“逆八双”とでも言うべき独特の構えを取る。

「タイ捨流、東郷重位」
老人の名乗りに応えて少女曰く、
「無双真伝流、高嶺響」

少女、高嶺響は、憎悪の籠った瞳で、老人、東郷重位を睨みつけながら言った。
「人斬り…あなたを、斬る…」


両者の対峙は全くの偶然から始まった。
香坂しぐれを追う響と、武田赤音を追う重位とが、
ばったりと交錯してしまった事に端を発する。

両者ともに、追うべき者の逃げ足が予想以上に素早く、
尚且つ両者ともに追跡の開始に些か出遅れた事もあって、
二人揃って標的に追いつけぬまま、互いに接触そてしまったのが不運であった。
特に、東郷重位にとっては不運であった。

響にとって、香坂しぐれの殺害は、必要事項であっても最優先事項では無い。
一方、重位に取って武田赤音の抹殺は、御留流の太刀筋を守る為にも、
何にもまして優先されねばならぬ使命であった。



当初、重位は響の隣を素通りし、赤音の追跡を続ける予定であった。
響の方も誰かを追っていたらしい事を、重位は気配で察していた。
響の方も自身の標的の追跡を優先するであろうし、
故にここでは、敢えて戦う必要は無いと、先方も判断するだろうと、重位は考えていた。

しかし、重位に取っては不運な事に、上記したが如く、
響にとって、香坂しぐれの殺害は、必要事項であっても最優先事項では無かった、と言う事である。
そして、響が、重位の体から立ち上る人斬りの気配、
瀬田宗次郎を斬った際に染みついた血臭を一見で感じ取り、
斬って捨てるべき修羅の輩と判断してしまった事は、重位にとってはさらなる不運であった。

鷹は鷹を知り、狼は狼を知り、虎は虎を知る様に、
達人は達人を知る。

響が一見にして重位の『危険性』を認識したように、
重位もまた、響が相当な『使い手』である事を喝破していた。
そして、彼女を斬らずして赤音を追う事が、余りに難しい事も、また…

(女子を…ましてやこのような娘を斬る剣では無いが…黙って見逃してくれる相手ではない)
(無視して撒くにしても、迂闊に背を曝せば一太刀でばっさり…娘ながら、それぐらいの腕はある相手よ)

言葉尻より察するに、勝負に乗っているとも彼女が、
何故、重位に斯くも鋭い殺意を向けるのかは、彼には解らぬが、
剣士である以上、降りかかる火の粉は払わねばなるまい。

意を決した重位は、スルスルと間合いを詰める。
一方、響は居合腰のまま動かず、重位の一挙一動見逃すまいと鋭い双眸で睨みつけている。

(許せない…)

響は、東郷重位に激しい怒りを感じていた。
身に纏う血臭と、立ち居振る舞いに現れる強烈な殺気は、
男、東郷重位なる男が、この享楽的な催し物に参加した「人斬り」である事を如実に語っている。

これで既に二人目…
この「御前試合」ほうり込まれてまださして時間が経っていないにも関わらず、
相対した人間がことごとく人斬りとは…
この調子ではかの人別帖に記された剣士たちの一体どれほどが、
この茶番に付き合っているものか、先が思いやられ、陰々滅滅としてくる。

その反面、人斬り達への響の憎悪と、彼女の闘志は、弥が上にも高まりを見せる。
剣を玩具に淫する不埒者ども…残らず成敗してくれる。



そう、気炎を吐く響であったが、果たして彼女は気が付いているだろうか。
人斬りを許さぬ偏執的なまでの固陋なる精神、相手を人斬りとみるや容赦なく切り捨てる非情さ、
その有り様は、彼女が忌避する人斬り以上にあるいは人斬りのようである事に…


そんな双方の思惑をよそに、
否応無く、勝負は進み、双方の間合いは狭まる。
一たび必殺の意志を込めて剣を抜き放ってしまった以上は、
どちらか一方が血の海に沈まねばなるまい。それが立ち合いの摂理と言う物である。

双方の間は、すでに四間ほどになっていた。しかし刀の間合いには少し遠い。
柳生新陰流の「水月」にある様に、刀剣の射程範囲は、
自分の足さきからおおよそ三尺ほどであると言われる。
しかしこれはその場から動かなかった場合であって、踏み込みを行う場合はその限りで無い。
と、言えども四間はまだ双方共に遠い。

間が三間に詰まる。
その時、響が動く。
全身の筋肉が膨張し、右手が柄を掴む。

――『遠間にて斬る也』

無双真伝流の技の一つ。
俊足の、大股の踏み込みに乗せての横殴りの居合太刀。
常よりも遥かに長い射程を持つ彼女の居合太刀にとって、三間とは水月の内にも等しい。

響にとっての誤算は、敵手、東郷重位もまた、同じだけの射程距離を持っていたという事。

正に一瞬。
彼女が居合を、その鞘の内から放たんとしたその瞬間、
すなわち、彼女の注意が、ほんの一刹那、重位から刀・技へと移った瞬間、
重位は『飛行』し、白刃は彼女の目前に迫っていた。



(なっ!?)

『飛行』といっても、実際に空を飛ぶのではない。
翔ぶが如く、踏み出す勢いで足を滑らすのである。
示現流と言えば、その稲妻の如き太刀先の速さと、
受け止めた相手の太刀ごと敵を両断する太刀先の力強さばかりが著名だが、
上記した二つと同様に恐ろしいのは、その踏み込みの鋭さと速さである。
示現流に熟達した剣士は、大動脈が脈を一つ打つ間という、ほんのわずかな短い時間の中で、
三間の距離を三歩の大股の『飛行』で詰める事が出来るのだと言う。

重位のそれは、正に『飛行』、『縮地』と呼ぶに相応しい、見事な寄せ足であった。

「クウッ!」

抜くには間合いも時間も足りぬ、そう判断した響は、
右逆袈裟に襲いかかる重位の太刀筋を柄頭で迎え撃つ。

ギンッ!

と、鋼同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り、火花が散って、
柄頭が東郷の太刀を弾き飛ばす。
柄は斬り柄、柄頭は頑丈に造られた居合刀であったのが幸いした。
見事、重位の鋭い太刀筋を受け止めたのだ。

(チイッ!)

初撃を外された重位は思わず心中で呻く。
一刻も早く武田赤音を追わねばならぬと言う焦りが重位にはある。
故に、一撃で仕留めるべく、示現流の太刀筋の一部とも言ってもいい、
『飛行』を用いてまで繰り出した一撃が防がれてしまったが故である。

それは、『タイ』を捨てきれぬ重位の、無意識での踏み込みの甘さ故でもあったが、
示現流の太刀筋を前提に組まれた『飛行』の歩法と、タイ捨流の太刀筋の齟齬の為でもあった。

(エエイッ!)

太刀筋を封じられ、全力を出そうにも出せぬとは言え、それでもなお、やらねばならぬが武士の道。
一たび命を受ければ、腹を斬り、友を斬り、親を斬り、仏を斬る。
寡兵で大軍相手の殿をし、寄せ手を晦ます囮となり、段平一つで敵陣に食い込む…
それが、武士と言う生き物である。



毒づきながも、弾かれた太刀を右上段へと流し、二撃目を繰り出さんと足を詰める。
右上段からの袈裟掛け。今度は逃がさん!

しかし、そんな重位の目前で、響が取った行動は、
敵手に背を向けると言う物であった。

(!)

逃亡!?
否、この殺気は逃げる人間の出せるモノではない。
ならば罠か?
響の不可解な行動に、重位が『驚』の色を見せる。
普段の重位ならば、策ごと斬り下げんと、構わず飛び込み所を、
『タイ』を捨てきれぬが故に生じた一瞬の『見』の隙を、響は決して見逃さない。

響は、背を向けると同時に手繰り寄せた居合刀の柄頭を両の手で叩き、
後方へ疾風の如く押し込んだ。

――『水月を突く也』

敢えて背を見せることで相手の隙を誘い、
鞘の先で相手の水月(鳩尾)を突く技は、
響の体勢に合わせて、鳩尾では無く、重位の顎先を見事撃った。

その一撃は見事、重位の脳髄を振動せさしめ、
一瞬、ほんの一瞬、重位を『喪神』せさしめた。

これが勝負を行く末を決めた。
そして…





こんな夢を見た。



357創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 21:08:06 ID:7UV2ybMJ
sage




重位は不意に目を覚ました。
気が付けば、さる部屋の座布団の上で正座をしていた。

部屋、造りから察するに方丈であった。
畳張りの部屋の障子は全て開け放たれ、縁側と、一面が雪に包まれた庭が見える。
空にあるのは満月で、その月光は白雪に反射され、
外は、夜とは思えぬ、幻想的な青白い明るさに包まれていた。

しばし外を見ていた重位であったが、
正面に目を戻すと、自分の正面、少しばかり間を置いた場所に、
気配一つ無く、背を向けた坊主頭の僧形の男が座布団の上に胡坐を掻いていた。

その後姿には見覚えがあった。
部屋の間取りにも見覚えがあった。
この部屋は、京都西郊、保津川近くの万松山の天寧寺のそれに他ならない。
さすれば、自分の正面に座るこの男は…


僧形の坊主頭が振り向いた。
月明かりに曝された横顔は、年のころ三十程と見えた。
色白で鼻梁の高い、痩せ形の美僧であった。

「師匠…!」

呻く様に重位は低く叫んだ。
忘れるはずも無い、天真正自顕流が継承者、善吉書記、俗名・寺坂弥九郎政雅、
東郷重位の人生を変えた、剣の師匠その人であった。

「重位殿、久しいな」

そう言うと、善吉は微笑を浮かべながら重位の方へと向き直った。
天正十六年師走、杯を交わして別れて以来、時は流れる事既に二十年以上。
にも関わらず、善吉は容姿容貌が、別れを交わしたその時より一片たりとも変わってはいなかった。

「お久しゅうござる師匠!息災無い御様子で!」


359創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 21:09:02 ID:EEnWw/Kg
 
360創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 21:09:20 ID:7UV2ybMJ
sage

重位は破顔した。京都と薩摩は余りに遠い。
二度と相まみえる事は出来ぬと思っていた師匠であった。

「うむ、大事無い。所で重位殿…」

相変わらず微笑みながらも、善吉の双眸に鋭い光が宿った。

「そこもと、随分と無様な有り様じゃの。故に、こうしてまかり出て来たわけじゃ」
「よもやジゲンを棄て、タイ捨の太刀を使うとは…」

その言葉を聞いた瞬間、思わず重位は平伏していた。

「師匠、これには故が御座る!断じて、ジゲンの太刀を軽んじておる訳ではござらぬ!」

何故、二十年以上手紙すら交わさなかった善吉が、
本人ですら天狗に攫われたとしか思えぬ仕業で参加した御前試合の様子を知っているのか――
その不自然さに気が付く事も無く、冷や汗を流しながら、重位は事の次第を述べた。
善吉は黙って重位の言葉を聞いていた。
そして、重位の言葉を全て聞き終えると微笑みながら言った。

「重位殿、封印を解かれい」
「さ、されど師匠、拙者には…」
「――『満』の心」

善吉の一言に、重位の動きが止まった。

「そこもとに問う。『満』の心とは如何なるものなりや」
「それば――」



重位、答えて曰く。
「『満』の心とは、当流の意地なり」
「『満』の字義、開く所、三千世界に満ち、つづむる所、方寸のうちにあることなり」
「『満』の心、それは万事を知らぬ、赤子の心に似たり」
「生まれいずるその時にあふれいずる、一代の威勢に似たり」
「貴人高家を恐れずして足蹴にする心なる」
「いかなる名剣をも、足に当たれば踏み折らんとする心なり」
「この心にあらば、如何なるモノとて、斬れぬモノは無きなり」
「生まれいずる所、はや死の始めなり」
「死すれば大界は我が心のままなり」
「これ兵法の第一の心得なり…」

「されば、再びそこもとに問わん」
「今のそこもとに、『満』の心、在りや無しや」

「・・・・・・」
この問いに、東郷重位、答うる事あたわず。
答えぬ善吉は言った。

「ジゲンを封じ、しがらみで心を封ずるそこもとには、『満』の心は決して宿らぬ」
「この心こそ、当流の意地故にじゃ」
「いや、今のそこもとには、相討ちの剣法に過ぎぬタイ捨の意地、
体を捨て、待を捨て、対を捨てる心すら宿る事はあるまい。今のそこもとに、この戦は勝てぬ」
「しかし、ジゲンの太刀筋を曝せば、この東郷重位の忠義が立ちませぬ!」
「ならば死ぬか?」
「…ッ!?」
「死んで無様を曝すか?現に今のままでは、そこもとは間違い無く死ぬ」
「それは…」
「そんなものが、東郷重位の、薩摩隼人の生き様か?」

重位は、二の句を次がず、着物の裾を握りしめた。
沈黙が流れた。



沈黙を破ったのは、善吉であった。
「役目を全うするばかりが、忠義の示し方ではあるまい」
「そ、それは…?」
「それを考えるのは、そこもとであろう」

問う重位に、善吉は静かに答えた。
再び沈黙。鈍く澱んだ時間が流れた。

「重位殿、立ち会えい」

善吉は、どこから取り出したモノか、ユスの木の木刀を、重位に手渡すと、
自身は立ち上がって、すたすたと庭先に向かう。

「されど師匠、外は…」

うず高く積った雪でござる…そう言おうとして、
重位は、はたと言葉を止めた。

いかなる怪異か、つい先ほどまで厚い白雪に覆われていた庭先は、
雪一つ無い地面を曝している。

それだけではない。
確かに師走の雪景色であった筈の外の様相が、
青葉も初々しい、さわやかな皐月の春景色に変貌していた。
変わらぬのは、ただ満月だけである。
その有り様は、善吉と重位が初めて会った日の景色に酷く似ていた。

両者は対峙した。
善吉は、ジゲン唯一無二の構え、トンボに構えた。
一方、重位は、木刀の鍔元を顎の前に寄せ、刀身を真っ直ぐ立てる、タイ捨流・無二剣の構えであった。

双方、スルスルと間合いを詰め、水月の間合いに達した時…
先に、太刀を繰り出したの重位であった。
そして、木刀を跳ね飛ばされ、前のめりに地に伏したのも重位であった。

ジゲン流、『満』の心より繰り出される雲耀之太刀であった。

地に伏しながら、重位は一瞬『喪神』し、
覚醒して立ち上がった時には、心は『初心』に帰っていた。
即ち、『満』の心――

「世話を掛けました師匠。お陰で、大事な物を思い出しました」

剣客同士――
太刀打ちを通じてしか解り得ぬ事がある。
重位は、善吉の雲耀之太刀を通じて、師匠の『思い』を受け取ったのである。

重位の言葉に、善吉は微笑みを以て返答した。
それで、心は通じた。



「来たようじゃな」
不意に、林の方へ目をやった善吉につられて、
重位もまた善吉の視線の先を見た。

そこのは一人の女武芸者が立っていた。
無双真伝流、高嶺響――

「ゆけい、重位殿」

言葉を受けて、重位は響きと対峙した。
その構えは、タイ捨流の物では無く…

「“示現流”、東郷重位、推参―――」



そこで、東郷重位は覚醒した。
現実時間に換算して、刹那に満たぬ師との再会であった。




響は、『水月を突く也』を受け、たたら踏む重位に、追撃の一撃を仕掛けんとした。

『発勝する神気也』――
その一撃で、重位は血の海に沈む筈であった。

奥義を仕掛けんとした、正にその時、
一瞬の『喪神』より覚醒した重位には、先ほどとは別人の様な殺気が篭もり、

『キェェェェェェェェェェェェェェッ!』

猿叫一声!
並みの人間ならば是のみにて気死しかねぬ、
常軌を逸した気合いの一声に、響の体が刹那、金縛りにされる。

その最中、重位の構えは変わっていた。
柄を握った親指と人差し指は浮かせ、
中指は締めず緩めず、薬指、小指は締めて持つ。
右手を柄にやわかくそえた、八双に似た構え――

金縛りの解けた響は、怯まず、再度奥義を仕掛けんとするも、
それは叶わなかった。
なぜならば、響は見たからだ。幻視したからだ。
それは――

(金の…ッ!?)

それは一匹の龍であった。
黄金に輝く、雲を突き、天を翔する雷龍であった。

雷龍は顎門をカッと開いて響に喰らい付けば、忽ち、響の上半身は食いちぎらる。

幻の中、響の体に一瞬、灼金の様な感覚が突き抜けたかと思えば、
響は、意識を永遠に手放した。

示現流『雲耀之太刀』――
『満』の心より繰り出された無双奥儀太刀は見事、
高嶺響の肉体を両断していた。





刀を鞘に戻し、高嶺響の二つに別れた死体を再度一瞥すると、
ぽつりと一つの歌を詠んだ。

『稀にあう 峯に積れる 空の雪』
『鳥鳴く懐 清き雪山』

それは、離別の際、師より賜った帰去来の辞であった。

封印を破った事に後悔は無い。
ならば己の忠義は立つのか?

立つ、立たせる。

『満』の心のままに、重位は思う。

かくなる上は、示現の太刀筋にて、残れる武芸者をことごとく斬った後、
太刀筋を見たりし柳生の者ども、その背後にいるであろう徳川の者ども、
示現を盗み見し者、一族郎党に至るまでことごとく撫で斬りにし、
その上で腹かっさばいて果てるまで。

そもそも柳生の郎党が参加せしこの御前試合、
薩摩隼人が勝ち上がれば、元よりタダでは済むまい。

されば『不忠者』は『不忠者』らしく、
殺人刀にて推し通り、最後には一人の『狂人』として果てるのみ。

「それが、拙者の忠義でござる」

東郷重位は笑った。
それは、掃天の如く清々しい笑みであった。
同時に、殺気に満ちた恐るべき笑みであった。


【高嶺響@月華の剣士第二幕 死亡】
【残り五十九名】



【へノ陸 道の合流点/一日目/早朝】

【東郷重位@史実】
【状態】:健康、『満』の心
【装備】:打刀、村雨丸@八犬伝
【所持品】:支給品一式×2
【思考】:この兵法勝負で優勝し、薩摩の武威を示す
   1:次の相手を斬る。
   2:薩摩の剣を盗んだ不遜極まる少年(武田赤音)を殺害する。
   3:殺害前に何処の流派の何者かを是非確かめておきたい。
【備考】
※示現流の太刀筋を解禁しました。
※示現流の太刀筋を小袖の少年(武田赤音)に盗まれた事に対する危機感は消えましたが、
依然、優先的に狙います。





「むっ!?」
「どう…したの…?」
「いや、しぐれ殿、なんでもありません」

ようやく出会った目明きの少女、香坂しぐれは、
右手首を斬らた重傷者であった。
故に、着物を破いて包帯と為し、介抱していた富田勢源であったが、
その最中、盲目であるが故に発達したその鋭敏な感覚で、強烈な剣気の爆発を、
その肌で感じたのである。

そして勢源は視た。
北の空で、天に昇ろる金の龍の幻を。

そして理解した。
恐るべき兵法者が、この御前試合に降り立った事を。

【へノ陸 南部の道の傍ら一日目/早朝】

【富田勢源@史実】
【状態】健康、驚き
【装備】蒼紫の二刀小太刀
【所持品】支給品一式
【思考】:護身剣を完成させる
一:しぐれを介抱する
※佐々木小次郎(偽)を、佐々木小次郎@史実と誤認しています。

【香坂しぐれ@史上最強の弟子ケンイチ】
【状態】疲労大、右手首切断(治療中)、両腕にかすり傷、腹部に打撲
【装備】無し
【所持品】無し
【思考】
基本:殺し合いに乗ったものを殺す
一:右手の治療をする
二:武器を探す
三:近藤勇に勝つ方法を探す
四:高嶺響はいずれ殺す
【備考】
※登場時期は未定です。
※所持品は全て民家に置いてきました。
※高嶺響の死亡を知りません
368創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 23:46:25 ID:KmSALvvI
代理投下乙です

うわあ、この剣客同士の対決の空気がよく出てていいわ…
響はあっさり死んだな…でもこの状況だと死ぬ時は死ぬわw これが剣客同士の対決か…
東郷はもう覚醒したというか…師匠との会話が凄くいいです
GJです!
369創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 08:27:43 ID:ZynxDdaN
赤音逃げてー!
しぐれ逃げてー!
というか、みんな逃げてー!

剣聖レベルでも卜伝や伊勢守と違ってリミッターが完全解除された以上、
今一番遭遇してはいけない剣客になってしまったなぁ。
色々と怖過ぎて仕方ないです。
370創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 11:38:57 ID:UmwBELaz
さて、これでまだ予約されて無い黎明の人まとめ

新免無二斎、オボロ 、柳生十兵衛、志村新八、
土方歳三、犬塚信乃(男) 、足利義輝、川添珠姫、
伊東甲子太郎、外薗綸花 新見錦、服部武雄、
伊藤一刀斎、近藤勇

かな?
371 ◆F0cKheEiqE :2010/05/24(月) 16:03:33 ID:G3bZS5Yl
代理投下・感想、感謝します。

今、自分の物を改めて読み返して、誤字・脱字、説明不足な箇所がいくつか気になったので、
wiki収録時には修正しておきます。

それと、
オボロ 、柳生十兵衛、志村新八、犬塚信乃(男) 、足利義輝
予約

372創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 16:55:40 ID:ZynxDdaN
続けて予約キター!
しかしこれはまた濃いメンツだな。
373 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/27(木) 07:27:23 ID:a7RtJidc
伊東甲子太郎、外薗綸花、川添珠姫、新見錦、服部武雄で予約します。
374創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 07:53:08 ID:rw7N1AKd
おおなんか一気に活発化してきましたなぁ。
375 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/30(日) 06:52:23 ID:fXzoQ8I/
伊東甲子太郎、外薗綸花、川添珠姫、新見錦、服部武雄で投下します。
376迷いの剣 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/30(日) 06:55:14 ID:fXzoQ8I/

「龍馬さーん」「龍馬殿、どこですか」
甲子太郎達の声が空しく響く。あれから大分経つが、いくら待っても城下に一人残った坂本龍馬は姿を現さなかった。
あまりに遅いので、知らぬ内にすれ違ったかと、街道を外れてあちこち探しているのだが、どこにも龍馬の姿は無い。
城下周辺をいくら探しても居ない以上、龍馬の居場所として最も可能性が高いのは……
「やはり城下まで戻るべきです!手強い相手ですが、力を合わせればきっと!」
「龍馬殿ならきっと大丈夫。下手に私達が手を出す方が危険です」
「でも……!」
甲子太郎と綸花がこの手のやり取りをするのは何度目だろう。
龍馬を助けに戻りたいと言う綸花を甲子太郎が説き伏せるのが常だったが、時と共に綸花を納得させるのが難しくなっている。
時間が経てばそれだけ、龍馬なら自力で切り抜けられるという言の説得力が減じるのだからそれも当然。
だが、甲子太郎は言葉を尽くしてどうにか綸花を説得しようとする。
彼としても、龍馬を助けに戻りたいのは山々だし、綸花の言う通り、四人が力を合わせればあの二人に勝つ事は可能だろう。
しかし、それはあの二人を殺してでも打ち倒そうとした場合の事。
あれほどの達人を殺さずに取り押さえようとすれば、如何に数的な優位があろうとも、危険は測り知れない。
加えて、綸花は人を斬った経験がないと言うし、珠姫も実戦経験は皆無に等しいようだ。
人を殺す術すら知らぬ者に、己を殺そうとして来る達人を殺さずに打ち倒すなど出来よう筈もない。
更に、考えたくない事だが、龍馬が既に討たれていた場合、戻って綸花がそれを知れば、仇を討とうとするだろう。
彼女のように若く人斬りの経験のない剣士が、憎しみで人を殺してしまえば、その剣が致命的に歪んでしまう可能性がある。
だから、甲子太郎は彼女達を戻らせるわけにはいかず、綸花を思いとどまらせようと必死に言葉を紡ぐ。

そんな甲子太郎と綸花を、珠姫は少し離れたところから複雑な想いで眺めていた。
彼女としても戻って龍馬を助けたい気持ちはある。だが、果たして自分が戻ってどれだけの助けになるのか。
珠姫が学んだ剣道は、剣術を源流とする競技だが、生まれてより約百年、独自の進化を遂げて来た。
その技法はあくまで一定の規則の中で試合に勝つ為に練られたものであり、基本的に真剣での実戦など想定していない。
先程の老人のような者から見れば、剣術の堕落した不肖の子に見えるかもしれないが、それは違う。
剣道は敵を打ち倒す為の技術ではなく、己に打ち克ち、精神を鍛える為のスポーツなのだ。
剣術を親にしているのは確かだが、剣道は既にそこから離れ、独自の価値を持つ体系として成立している。
だから、実戦で剣道の技が通用しないことは当然だし、それは剣道家にとって決して恥ではないのだ。
しかし……そんな理念はこの島では通用しない。
人斬りが跋扈するこの島では、身を守り正義を貫く為に必要なのは、スポーツでも精神修養でもなく悪と戦う剣なのだから。
無論、実際には剣道の技法が真剣勝負で全く役に立たないというわけではない。
剣術を親とするだけに、ほんの少しの工夫をすれば、実戦でも十分に通用する技は剣道にもいくらでもあるだろう。
そして、若く剣才に恵まれた川添珠姫には、己の剣道を編み直し、実戦向けの技術とするだけの応用力は十分備わっている。
だから問題は技ではなく心。剣道の技を敵を倒すために使うことで珠姫の心に生まれるであろう逡巡が問題なのだ。
心の乱れが技の乱れに直結するのは剣道でも真剣勝負でも同様。
また、チーム戦では一人の動揺が仲間に伝わり、全体の足を引っ張ってしまうことも考えられる。
故に、珠姫は綸花に与して戻る事を積極的に主張する気になれず、と言って殆ど知らない龍馬を信頼しきることもできない。
珠姫はどう行動するべきか結論を出すことが出来ず、ずっと迷っていた。
坂本龍馬がうまくあの場を切り抜けてここに現れてくれれば、ひとまず迷いから解放されるのだが……
そう考えて、半ば無駄だと諦めながら、珠姫は周囲に眼を配り、龍馬に呼びかけるのだった。
「坂本さん、いませんか?」
377迷いの剣 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/30(日) 06:58:31 ID:fXzoQ8I/
「うん?」
人の声が聞こえた気がして、服部武雄は足を止める。
もっとも、聞こえて来たように思ったのは、おそらく女の声。
仮に誰かいたとしても、守るべき伊東や坂本でも、討つべき近藤や土方でもないという事だ。
それでも、あてもなく島を彷徨うよりは、声の主から有益な情報を得られる可能性に賭ける方が分が有るだろう。
服部はそう考えると、慎重に声の主の方に近付いて行く。
やがて、木々の合間から人影が現れるが、それが男であった事に服部は不意をつかれる。
あの声の主がこの男とは思えないが、服部の聞き違いか、それともこの男もあの声に誘われてやって来たのか……
服部がそんな事を考えていると、男の方から話し掛けて来る。
「失礼。自分は新撰組……」「何!?」
いきなり聞かされた仇敵の名に、服部は思わず身構えるのであった。

新撰組の名を出した途端に剣に手を掛ける男。この反応からすると、不逞浪士の類だろうか。
だが、この男の素性がどうであろうとも、今はこの狂った殺し合いに巻き込まれた被害者同士だ。
芹沢以外に信頼できる仲間がいない現状では無駄な争いは避けたいところ。新見は努めて穏やかな口調で、先を続ける。
「新見錦と申す者」
だが、その言葉を聞いて目の前の男が示したのは、敵意でも怖れでもなく、訝しみだった。
「新撰組の新見?そいつはとっくに死んでる筈だろ?」
訳のわからない事を言って来る。不逞浪士の間でそんな流言が流れたのだろうか。
だが、それにしては男の驚きが少ない。「新見は死んだ筈だが生きている事も有り得るか」そんな感じの反応に見える。
それに、この男の構え、どことなく見覚えがあるが……
「!」
ここで新見はある仮説に辿り着く。もしこれが当たっているとすれば由々しき事だが。
新見が男に対して殺気を向けると、男はつられて剣を抜いた。
「先に抜いたな!」
言葉と共に、新見は男に剣を叩き付ける。
と言っても本気ではない。推論が外れていれば、「君の腕を試したのだ」とか何とか言って誤魔化せる程度の一撃。
これに対して男は首への突きで迎え撃つ。新見がそこにわざと隙を作ったのだから、これは予想通りだが……
「やはりな!」
男の突きを避けて後ろに跳びつつ、新見は叫ぶ。
「その片手平突き、近藤と土方の手下か!」
「何だと!」
男が怒号するが、その態度こそ新見の推論が正しい証左。新見は再び剣を構えると、今度は本気で切り込んで行く。

新見錦は、先刻から近藤一派が芹沢と自分を狙っており、御前試合の主催者と繋がっているかもしれないと疑っていた。
後の歴史を知る者がみれば前者の推測は完全に的を射ている事がわかるし、
この御前試合における近藤等の行いを見れば後者の疑いもあながち的外れとは言えない。
そんな疑いを抱いていた新見は、出会った服部武雄の構えの中に天然理心流の手筋を見出した。
無論、新撰組隊士であった服部が、天然理心流の技を己の剣に取り入れていたとしても当然のことだ。
しかし、服部の新撰組加入は元治元年の事とされ、文久三年に死んだ新見の主観では服部は隊士では有り得ない。
隊士でなければ、服部は試衛館の弟子などの、いわば近藤の私兵という事になる。
そして、新見と沖田の初期位置が近かったこと、服部の「新見は死んだ筈」という言葉……
これらを繋ぎ合わせて新見は以下のような仮説を立てた。
近藤はやはり主催と繋がっており、その狙いはこの御前試合のどさくさに紛れて芹沢と新見を殺す事。
沖田が新見の近くに配されたのも偶然ではなく、沖田の手で新見を殺させるつもりだったのだろう。
だが、沖田は新見より芹沢を己の手で斃す事を望み、課せられた役目を放棄した。
そして、目の前の男はおそらく近藤が江戸から呼び寄せた刺客。
自分達だけでは確実に芹沢を討つ自信が無かったか、或いは上司である芹沢を自ら手に掛けるのはさすがに気が咎めたのか。
どちらにせよ、この男を討っておけば近藤一派の力を削ぐ事が出来る。
そう考えた新見は、奥義の限りを尽くして服部に剣を叩き付けた。
尚、上で述べた新見の推論だが、決して完璧なものではない。
例えば、近藤一派が主催と繋がっているのなら、どうして沖田の得物が業物ではなく木刀だったのか。
服部が芹沢に対する刺客だとして、どうして今頃の時間に芹沢が立ち寄りそうのない森の中にいるのか。
だが、思い込みの激しい性質である新見は己の推論の穴に気付かない。
まあ、仮に気付いたとしても本気で剣を向けた以上どちらかが死ぬまで戦うしかなく、余計な迷いなど邪魔なだけなのだが。
かくして、歴史においてすれ違う運命であった二人は、この島でもすれ違い、殺し合う事となった。
378迷いの剣 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/30(日) 07:02:13 ID:fXzoQ8I/
新見が大きな構えから振り下ろして来た剣を服部が受け止める。
反撃しようとする服部だが、新見は素早く飛び下がってこれを外し、その反動で再び跳躍して斬り付けて来た。
激しい一撃に服部の体勢が崩れると、新見の剣は服部の剣に絡み付いて抑えようとし、堪らず下がると今度は鋭い突き。
神道無念流の剛剣に、さしもの服部は苦戦していた。
もっとも、烈しい攻めは往々にして守りの甘さに繋がる。特に神道無念流が胴への攻めに弱いのはよく言われる事だ。
今の新見の攻撃にも、服部ほどの達人ならば掻い潜って胴を抜くだけの隙は見出せていた。
しかし、竹刀による試合ならばいざ知らず、真剣での斬り合いにおいて抜き胴というのは至難の業。
試合ならば、竹刀の物打ち部分で特定の打突部位をまともに打たれなければ一本にはならないが、
真剣勝負では相手の刀が己の身体に触れればそれだけで負傷する事になるのだ。
まして、新見程の達人の全力の剣ならば、急所を外れていようと当たりが浅かろうと十分に致命傷になり得る。
そこまではいかなくとも、新見の剣の勢いで体勢を崩されれば、胴にまともな一撃を見舞うのは困難だろう。
いや、それでも服部ならば敢えてやったかもしれない。上泉伊勢守と出会う前の服部ならば……
しかし、今の服部にそこまでの思い切りはなく、不利を悟りつつ、新見との真っ向からの打ち合いに応じるのだった。

一方、優位に立っているように見える新見にも、戦いが長引くにつれ徐々に焦りが生まれて来た。
焦りの原因の一つは刀の質。新見の刀は桂ヒナギクからいわば騙し取ったものだが、決して出来の良い刀ではない。
服部の持つ刀との質の差は明らかで、このまま粘り続けられれば、服部を倒す前に刀が破損する危険がある。
そしてもう一つは森の外にいる男女。そう、新見は服部より先に彼等の声を聞き、その存在を確かめていたのだ。
しかし、彼等の内二名が、前に会った桂ヒナギクとよく似た格好の女であった事が、新見に接触を躊躇わせた。
結局は声を掛けずに森の中に戻り、そこで新見は服部と出会い、闘う事になったのである。
このまま服部と戦い続ければ、いずれあの三人が気配を感じ取って様子を見に来る公算が高い。
服部が近藤一派の刺客というのは何の証拠もない話だし、服部を逃がすか、下手をすると悪役にされる危険もある。
何とか戦いを長引かせることなく服部を斃し、その現場を見られても新見に非があると思わせない方法は……
(よし!)
素早く策を樹てると、新見は大きく一歩下がり、追い打とうとする服部に対して剣気をぶつけた。
神道無念流は、飯綱権現に参篭して剣の奥義を悟ったという、福井兵右衛門なる剣客によって開かれた流儀である。
それだけに、剣気の扱いに関しても他の流派よりは長けている面が多い。
さすがに二階堂流のように剣気で相手を金縛りにする程ではないが、動きを一瞬止める程度の事は十分可能。
その隙に新見は更に下がると、刀を納めて逃げ出した。
目論見通り、むきになって自分の後を追って来る服部の足音を背後に聞きながら。
379迷いの剣 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/30(日) 07:07:17 ID:fXzoQ8I/
甲子太郎と綸花の言い争いに背を向け、一人森の中を眺めていた珠姫。
龍馬は方向を間違えて森に迷い込んだのでは、なんて考えもよぎるが、あの坂本龍馬がそんな間抜けの筈ないと打ち消す。
それでも、森の中から物音が聞こえ、誰かが飛び出してきた時、それが坂本ではないかと期待したのは人情であろう。
しかし、その期待は脆くも裏切られる。森から走り出て来たのは坂本とは似ても似つかぬ男。
「逃げろ!」
走り疲れているのか、男の声はかすれていたが、それでも珠姫にははっきりと聞き取れた。
そして、男の後に刀を構えた別の男の姿が見えた時、珠姫はその言葉の意味を悟った……悟ったと思い込んだ。
咄嗟に木刀を構えるもどう対応すべきか迷う珠姫の前で、前方の男はいきなり身を伏せ、剣に手を掛ける。

前方を走っていた新見がいきなり地に這ったのを見ても服部はさすがに見苦しくたたらを踏んだり転んだりはしなかった。
新見の魂胆は服部には読めている。
地に伏せた者を背後から討つにはかなり深く踏み込まねばならない。そこを、振り向きざまの居合いで仕留める気だろう。
だが、振り向きながらの居合いでは通るべき軌道が長くなる分、服部が駆け寄って心臓を貫く方が早くなるのが道理。
新見は急な挙動で服部を迷わせて先手を取るつもりだろうが、そうはさせぬと服部は迷わず突進しようとして……
(!?)
突如として服部の脳裏に上泉伊勢守の顔が浮かぶ。そして、伊勢守の老練の策によって敗れた自身の姿も。
この御前試合にはあれ程の剣士が参加している。それに比べて自分は未熟だ。
では、新見はどうか。近藤や土方が恐れたという芹沢鴨の腹心……それが使う詐術が果たしてこんなに単純な物なのか。
ここは立ち止まって新見の剣をやり過ごすべきなのではないか。
それとも、剣が届かぬ密着距離まで近付いて柔の技で抑え込む方が良いか。
土壇場になって服部の心の片隅に迷いが生じ、それが彼の踏み込みを少しだけ鈍くする……そこに、新見の鞘が襲って来た。
新見は、居合いを放つと見せて……いや、居合いも放っているのだが、同時に鞘を後ろに思い切り突き出したのだ。
鞘で打つ事によって服部の一撃を止めた上での振り向きざまの一撃、それこそが新見の必殺の策であった。
無論、伏せた体勢からの鞘による後突きでは大した威力は出ない。服部をよろめかせて一瞬だけ動きを止めるのが精々か。
新見としてはそれで十分という心積もりで放った技なのだが、案に相違して、鞘で足をすくわれた服部の身体が傾ぐ。
迷いが服部の踏み込みから力を奪い、為に大した威力のない一撃で服部は転げる事になったのだ。
しかし、この結果は服部よりもむしろ新見にとって計算外。
予想外の事態に、服部が直立している事を前提に放った居合いは空を切るに留まった。
空しく居合いを振り切った新見と倒れ行く服部の目が合い、服部の剣が新見の首筋に伸びる……
380迷いの剣 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/30(日) 07:09:15 ID:fXzoQ8I/
かくして、新見錦は斃れ、服部武雄が勝ち残った。
結果を見れば、上泉伊勢守との立ち合いによって生まれた迷いが服部を救った形となる。
伊勢守はそこまで予測して服部の中の迷いを呼び起こしたのか……まあ、それは考え過ぎだろう。
今回は慎重さが勝負を分ける流れとなったが、剣の勝負で何が決め手になるかは状況によって千差万別。
時には勇敢さが勝者の条件になる事もあるし、戦う者の性格とは無関係な要素が決め手になる事もある。
如何に剣聖であっても、そこまで読み切る事など出来よう筈もない。
ただ、服部が勝てたのは偶然でも、勝つ事でいつもよりも多くを得たのは、間違いなく伊勢守のお蔭と言えよう。
以前ならば、服部は強敵と真剣でやり合う場合、夢中になって剣を振るい、常以上の力を出す事で打ち勝って来た。
対して、今回は迷いが服部の興奮を冷まし、その為に服部は戦いながら自身と相手の動きを冷静に見究める事が出来たのだ。
そうして見た結果、己の剣にはまだまだ隙があり、新見に勝てたのは僥倖でしかない事を、服部は痛感した。
己の足らざる点を知るのは更なる進歩への第一歩。
迷いと向き合い事で更なる境地に進めるという伊勢守の言葉は嘘ではなかったという事か。

そういう訳で、新見との勝負で剣の道においては大きな収穫を得た服部だが、代わりに別の物を失おうとしていた。
「服部君!?」
聞き覚えのある声を聞いて前方を見やると、そこには服部が探し求めていた伊東甲子太郎の姿がある。
しかし、甲子太郎の表情は再会を喜ぶよりも目の前の状況に戸惑っている比率の方が高い。
戸惑っている甲子太郎はまだいい方で、共にいる二人の女……綸花と珠姫はあからさまに服部を警戒しているようだ。
まあ、現れたと思ったら目の前で人を殺して見せたのだから当然の反応だが。
加えて新見の策……刀を納めた状態で姿を現し、珠姫に逃げるよう伝える事で服部を危険人物に見せる策があった。
新見が死んだ以上、この策は既に無意味なのだが、それでも策が生んだ服部への不信感は生きている。
一方で剣技の更なる上達へのきっかけを得、他方で敬愛する甲子太郎からの信頼を失うかもしれない結果を生んだ今回の勝負。
服部にとって損だったのか得だったのか、それがはっきりするのはもう少し後の話になる。

【新見錦@史実 死亡】
【残り五十八名】
381迷いの剣 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/30(日) 07:10:53 ID:fXzoQ8I/
【ほノ弐 森の外れ/一日目/早朝】

【服部武雄@史実】
【状態】健康、迷い
【装備】オボロの刀@うたわれるもの
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:この殺し合いの脱出
1:伊東甲子太郎の誤解を解く
2:坂本龍馬を探し出して合流する
3:剣術を磨きなおして己の欠点を補う
4:土方歳三と近藤勇を殺す
5:上泉信綱に対しては複雑な感情

【伊東甲子太郎@史実】
【状態】上半身数個所に軽度の打撲
【装備】太刀銘則重@史実
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:殺し合いを止める
一:服部武雄に事情を聞く
二:外薗綸花と川添珠姫を殺し合いに巻き込まないようにする
三:同志を集めこの殺し合いを止める手段を思案する
四:殺し合いに乗った人物は殺さずに拘束する
【備考】
※死後からの参戦です。殺された際の傷などは完治しています。

【外薗綸花@Gift−ギフト−】
【状態】健康 
【装備】雷切@史実
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:人は斬らない。でももし襲われたら……
一:服部武雄を警戒
二:伊東甲子太郎、川添珠姫と同行する
三:坂本龍馬を助けに戻りたい
【備考】
登場時期は綸花ルートでナラカを倒した後。
名簿を見ていません。

【川添珠姫@BAMBOOBLADE(バンブーブレード)】
【状態】健康 首にかすり傷
【装備】木刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:殺し合いには乗らない 
一:服部武雄を警戒
二:伊東甲子太郎、外薗綸花と同行する
三:どうにかして脱出の方法を探したい
【備考】
登場時期は少なくとも部員全員が入部して以降
歴史上の人物が全員本物と認識
382 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/30(日) 07:12:24 ID:fXzoQ8I/
投下終了です。
それと、伊藤一刀斎、新免無二斎、東郷重位で予約します。
383創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 08:15:05 ID:mKR6qd4H
一刀斎、逃げて逃げてー!
って、なんという曲者ぞろい。
384創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 12:15:44 ID:DNrnTtQP
乙!
385創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 13:42:46 ID:VPEBEmq4
投下乙!
服部は結果的に、伊勢守の技に救われたか。
誤解はあるとはいえ、命の危機というわけではないし、今後の成長もありうるかな?
対する新見はまさに策士策に溺れる。
あれこれと頭を巡らせたわりには、何もできずに死んでしまったイメージだなあ。
386創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 21:02:51 ID:sPu0YmCI
なんつーかこの人の作品って敗者に冷たいっていうか
死ぬ側の心理描写がいやにあっさりしてるよね
387創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 22:34:52 ID:eSeen8FH
だがそれがいい。

行殺というか、無情感が恐ろしいほどに出ている。
確かに即死だもの。剣で斬られたら。
どれだけ強かろうとも、死ぬときはあっという間。
ある意味剣客ロワらしい死に方ですね。
388 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/31(月) 12:02:46 ID:rx/V6404
伊藤一刀斎、新免無二斎、東郷重位で投下します。
389有り得ざる邂逅 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/31(月) 12:06:14 ID:rx/V6404
人別帖を見ればわかる事だが、この御前試合には、複数の参加者が同一の名前を持っている例が幾つかある。
まあ、人別帖を見た参加者の多くはこれを重視せず、精々主催者に対する不審を募らせる程度であったが。
しかし、これらの複数ある同じ名前は書き間違いでも単なる同姓同名でもなく、間違いなく同一人物なのだ。
本来なら一つの世界に一人しか居ない筈の人物が狭い島に幾人もひしめき、時には刃を交わす。
この御前試合がまともなものではない事の一つの証左と言えるだろう。

ところで、彼等のような、俗に言う平行存在の出会いについては、ある仮説が存在する。
そうした有り得ない現象が起きるとこの世の理が乱され、宇宙全体に破滅的な波及効果が及ぶというものだ。
ただし、これはあくまでも仮説。そして、この島の現実はその仮説を真っ向から否定しているように見える。
何せ、二人の佐々木小次郎が出会い、それどころか斬り合っているのに何ら異変は起きていないのだから。
仮説は所詮仮説に過ぎなかった……これが最も合理的な考えであろう。
だが、そうだとすれば何故この御前試合には同じ名前の人物が幾人も呼ばれたのだろうか。
御前試合の参加者に相応しい者を選んだら、たまたま同名の者が混ざっていたという考えもあるだろう。
しかし、重複して参加した剣士の多くが、序盤の内に退場している事実が、この考えの説得力を失わせている。

この島に呼ばれた三人の佐々木小次郎の内、死亡した二人は宮本武蔵に敗れた、或いはこれから敗れる筈だった剣士だ。
無論、勝負は時の運であり敗れた事が剣士として劣っている事に必ずしも直結する訳ではない。
しかし、巌流島の決闘の勝敗を分けたのが、武蔵の戦術に乗せられた小次郎の未熟さである事はよく指摘されるところである。
他にも優れた剣士はいくらでもあるのに、どうしてこの二人がわざわざ呼ばれたのか。
同様の議論は、犬塚信乃についてより顕著に成り立つ。
二人の信乃の内、一人はこの島にいる他の剣客達に劣らぬ達人だが、既に死亡したもう一人は明らかに力量が不足していた。
真剣を持ちながら木刀しか持たない赤石剛次に手もなく敗れたのを手始めに、
参加者の中では未熟な腕しか持たなかった九能帯刀に圧倒され、最後は伊烏義阿の不意打ちに対応すら出来ず討たれたのだ。
この結果を見ると、死亡した佐々木小次郎や犬塚信乃の全てが公正な選考の結果として選ばれたとは考えにくい。
むしろ、「同名の剣士が複数参加している」という状況を作る事が主催の目的だったと考える方が納得できるのではないか。

先程、二人の佐々木小次郎が出会っても何も起きなかったと述べたが、それはあくまで表面上の事。
ひょっとしたら、常人には認識できない次元において、とんでもない事が起きている可能性も否定は出来ない。
もっとも、この問題についてこれ以上考えるのは無意味だという考えもあるだろう。
佐々木小次郎二名と犬塚信乃一名が死亡した以上、今後この島で同名の剣士が出会う事は有り得ないのだから。
同一存在の有り得ない出会いに如何なる効果があろうとも、今後はそれが発揮される機会はない……一見そう思える。
未熟な者が混ざっていたとは言え、彼等三人のこうも早い死自体が、或いは破滅を防がんとする世界の意志の顕れだろうか。
しかし、忘れてはならない。この御前試合の主役は剣士だが、他に欠かせぬ脇役が存在する事を。
390有り得ざる邂逅 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/31(月) 12:09:21 ID:rx/V6404
「剣か……」
そう呟いた新免無二斎がいるのは呂氏神社の本堂。
佐々木小次郎との戦いで十手の一本を失った無二斎は、神社に目を付け、家捜しの結果、御神体らしき大剣を見付けたのだ。
神社を荒らすなど罰当たりと思う者もいるだろうが、戦国期の人間にしては合理的な無二斎は神罰など信じない。
それよりも、探し回って漸く剣を見つけた事を喜ぶべきか、それが大剣だった事に失望すべきか、無二斎は考えていた。
大剣は間合いと威力に優れるが、当理流が十手や小太刀・二刀を含む事からわかるように無二斎の得意は小振りの剣。
こんな大剣で、無二斎本来の剣技の強みを十全に発揮する事が出来るかどうか。
むしろ、重い剣を携帯する事で疲労が増し、いきなり襲撃された際の俊敏さが損なわれる分だけ損かもしれない。
そんな事を考えながらも、取り敢えず剣の柄に手を掛ける無二斎。
その剣の名は村雨。神社に祀られるのに相応しい、破邪の剣である。

「霧?」
周囲を覆う靄に気付いた東郷重位は、霧が出て来たのかと辺りを見回すが、すぐにそれを作ったのが己である事に気付く。
より正確には、犯人は重位の刀の一本。
高嶺響との死闘の中で、重位が使った刀が水気を発し、それが霧となって周囲を覆ったのだ。
そこに思い至って重位は眉をひそめる。この刀を使って闘死した瀬田宗次郎の事を思い出したのだ。
重位が持つ刀の内でも、質においてはこの水気を発する刀がすば抜けている。
加えて、剣に付着した血や脂を刃から発する水が洗い流してくれるのは便利だし、火攻めなどを受けた際には助けとなろう。
しかし、良い事ばかりではない。現に瀬田宗次郎は剣から発した水気の為に手元が狂い、重位に敗れたのだから。
剣に頼り過ぎる者は剣の為に滅ぶのかもしれぬ。
雲燿の剣を解禁した今、下手に名剣にこだわって足をすくわれるよりも、質は並でも余計な仕掛けのない刀を使うべきか。
そんな事を考えながら、腰に差した刀の柄にそっと触れる重位。
その剣の名は村雨。鎌倉公方家に代々伝わる重宝である。

「何という事を……」
それを見付けた伊藤一刀斎の口から、思わず呻き声が洩れる。
ここは伊庭寺へと向かう街道脇の水田にある畦道。
街道や村の中を通って、また近藤のような者に出会ってはたまらないと、一刀斎は田の中を通って北へと向かっていたのだ。
そして一刀斎はこれを見付けた。無惨にも頭に刀を突き立てられた道祖神を。
刺されている刀はなかなかの上物。剣士がこれ程の刀をむざむざ捨てるとは思えぬから、これは試合の主催者の仕業だろう。
そう言えば、白洲の男は得物を自分で探せと言っていた。
あれはつまり、島内にあらかじめ得物が用意されているという事を含意し、これがその一本という事だろうか。
それにしても、剣をわざわざこんな形で置いておくとは、どうも主催者は神仏に含む所があるらしい。
もっとも、主催は神仏に興味などなく、単に剣を目立たせて見付けやすくしただけという可能性も皆無ではないが。
街道から外れた位置と夜の暗さの為、今までは発見されずに来たが、高い位置で刃が剥き出しにされたこの刀は目立つ。
もう少しして日が昇れば、光が刀身に反射され、名刀を求める参加者を引き寄せる恰好の目印となったであろう。
無論、一刀斎は、支給された太刀を自ら捨てたくらいで、剣が欲しいなどとは全く思っていない。
とはいえ、道祖神をこんな有様で放置しておく訳にもいくまいと、一刀斎は剣に手を掛けて引き抜く。
主催者の涜神の道具として使われたこの刀もまた、号を村雨といった。
391有り得ざる邂逅 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/31(月) 12:15:15 ID:rx/V6404
「村雨」を手にした途端、「彼」は間近に二つの気配を感じる。
気配は茫洋としていたが、その主が己に劣らぬ熟練の剣客である事が直感的にわかった。
そして「彼」は、反射的に「村雨」を構えると、必殺の一撃を繰り出す。
新免無二斎のゆったりとした動きでありながら測り知れない強さと大きさを内に秘めた流水の剣が、
東郷重位の光としか形容しようがない……もしかしたら光さえも超えているかもしれない超神速の雲燿の剣が、
伊藤一刀斎の一切の雑念がなくそれ故に何者にも防ぐ事ができない無想の剣が、同時に打ち込まれ、交錯する。

一撃を放った無二斎が我に返ると、そこは元の神社の中。人の気配など何処にも感じられなかった。
古来、聖域における神秘体験を通して剣術の奥義を悟ったと称する剣客は枚挙に暇がない。
しかし、合理的な無二斎はそのようなものは一切信じず、全て幻覚か流派に箔を付ける為の作り話と切り捨てている。
自分自身が奇妙な体験をした今回もその考えが揺らぐ事はなく、気配を感じたのは己の錯覚とあっさり断じた。
それでも今の出来事に収穫がなかった訳ではない。
大きさから敬遠していた神体の剣だが、実際に振ってみると、思いのほか使い勝手が良かったのだ。
神社に祭られてはいたが、本来は拝むのではなく実戦で使用する為の剣だったのだろうか。
何にしろ意外と良い拾い物だったと、無二斎は村雨を抱え、当初の予定通り、南へ、城下へと向かうのだった。

夢の中で師に諭され、剣法封印を自ら解いたばかりの重位。当然、今の一瞬の光景をただの錯覚とは考えなかった。
重位の認識では、これもまた師の導きか、それとも神の啓示か、とにかくあの気配は島内にいる剣客の誰かの気配。
善吉なり神仏なりがその気配をここで感じさせた意味は、この島には重位に劣らぬ剣客がいるのだという警告。
あの時、二つの気配が放った一撃は、重位の雲燿の太刀にすら劣らぬ凄まじい奥義、と見えた。
あれ程の剣客が相手では、示現流の奥義を尽くそうとも勝利は約束されず、少しでも質の良い剣を使うべきだろう。
名刀を持ちながらその為に敗れた少年を忘れた訳ではないが、あれは要は少年が天に見放された為に起きた事。
ならば、天が重位を見放そうとしても力尽くで捕まえておけるだけの強い意思さえあれば問題ない訳だ。
その結論に達した重位は、村雨を鞘に戻すと、武田赤音が向かったと思しき東方に向けて、真っ直ぐ歩き続けるのだった。

一刀斎は、かつて鶴岡八幡宮に参篭し、不意に感じた気配を斬る事によって無想剣に開眼した経験を持つ。
あの時の気配が果たして八幡神の啓示だったのか、それとも自身の心が見せた幻覚なのか、一刀斎にはわからない。
しかし、そこで得た無想剣の奥義は本物であり、一刀斎にとっては気配の正体よりもそちらの方が重要だ。
今回も同様、一刀斎にとって気配の正体は瑣末な問題に過ぎず、今の出来事でより重大な事実に気付いていた。
それは、刀を持った状態で剣客と出会えば、今の一刀斎はその者を斬ってしまうという事である。
再び剣を捨ててしまえば、他者を斬る心配は無いだろう。だが、それは「斬らない」のではなく単に「斬れない」だけだ。
ただ人を殺めぬ事だけを考えるのならそれでも良いが、一刀斎の目的は剣法を封印する事により悟りを開く事。
太刀を捨てる事で、物理的に剣を振るう事を不可能にするだけではとても剣法封印とは言えまい。
この鞘すらない抜き身の剣を持ちながら、如何なる状況でも決してそれを使わない……それでこそ真の剣法封印。
そこまでやってこそ、剣の無明を晴らし悟りを開く道が見えて来よう。
心を決めると、一刀斎は剣を持ったまま、北の伊庭寺に向けて歩き出す。

三者三様に納得し、それぞれの目標に向けて歩き出す剣豪達。
それにしても、島内の離れた場所にいるこの三人が邂逅したように見えたあの一瞬は何だったのだろう。
ただの錯覚か、同じ名を持つ剣が共振したのか、或いは島内に巣食う何者かの意志か……
言える事は一つ、仮に、同じ名を持つ複数の者が出会う状況を作ろうとしている者がいるのなら、
この御前試合の場では、人よりも剣を媒介とする方がずっと確実だという事である。
凄まじい技量を持つ達人がいくらでもいるこの島では、彼等三人のような大剣豪ですら、いつまで生き残れるかは計り難い。
しかし、もし彼等が討たれるような事があっても、優れた剣である村雨は、殺害者によって使い続けられるだろう。
故に、いずれ三本の村雨が一堂に会する時が来る可能性は、それなりに高いと言える。
その時、何かが起きるのか、何が起きるのか……。何処かで女の哄笑が響いた気がした。
392有り得ざる邂逅 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/31(月) 12:17:06 ID:rx/V6404
【ろノ肆 呂氏神社/一日目/早朝】

【新免無二斎@史実】
【状態】健康
【装備】十手@史実、村雨@里見☆八犬伝
【所持品】支給品一式
【思考】:兵法勝負に勝つ
一:城下に向かう
二:もう少し小さな刀が欲しい
三:陶器師はいずれ斃す

【へノ陸 水田/一日目/早朝】

【東郷重位@史実】
【状態】:健康、『満』の心
【装備】:打刀、村雨丸@八犬伝、居合い刀(銘は不明)
【所持品】:支給品一式×2
【思考】:この兵法勝負で優勝し、薩摩の武威を示す
   1:次の相手を斬る。
   2:薩摩の剣を盗んだ不遜極まる少年(武田赤音)を殺害する。
   3:殺害前に何処の流派の何者かを是非確かめておきたい。

【ほノ陸 水田/一日目/早朝】

【伊藤一刀斎@史実】
【状態】:健康
【装備】:村雨@史実(鞘なし)
【所持品】:支給品一式
【思考】 :もう剣は振るわない。悟りを開くべく修行する
一:刀を決して使わない
二:伊庭寺に向かう
三:挑まれれば逃げる
【備考】
※一刀流の太刀筋は封印しました

※村雨@史実:江戸時代の刀工津田越前守助広作の刀。八犬伝に登場する村雨との直接的な関係はない(多分)
393 ◆cNVX6DYRQU :2010/05/31(月) 12:19:48 ID:rx/V6404
投下終了です。
それと、近藤勇、土方歳三、三合目陶器師、果心居士、柳生宗矩、南光坊天海、徳川忠長で予約します。
394創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 13:38:08 ID:svXqfEI9
投下乙です! こ、これは玉梓出現フラグ!?
村雨は架空の刀とばかり思っていましたが、実在のものもあるんですね。
主催サイドの方も動き出したようで、どんどんやばそうな展開に……。

気になった点をひとつ。
武田赤音が向かった方角は東方ではなく西方の誤りかと。
395創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 17:23:23 ID:XvfvncU4
乙!
396創る名無しに見る名無し:2010/06/01(火) 07:58:35 ID:nEGAvm21
しかし、同じ並行世界の剣が何本も存在するって
確かに考えも付かなかったな…。

って、主催側来てるー!!
397創る名無しに見る名無し:2010/06/01(火) 13:07:24 ID:79YRY8+O
投下乙です。
剣と剣のつなぐシンクロニシティ!
そして主催がついに登場。

改めて投下乙
398 ◆F0cKheEiqE :2010/06/01(火) 14:38:35 ID:5RHGpwt0
投下遅れ申し訳ありません。

規制につき、本日夜ごろに、避難所に投下いたします
399創る名無しに見る名無し:2010/06/01(火) 19:48:01 ID:q/AzxapR
◆cNVX6DYRQU氏への質問ですが、
>>394の箇所はwiki収録時に直した方がよいでしょうか?
それともそのまま収録してしまっても構わないでしょうか。


>>398
了解です。お待ちしております。
400 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/01(火) 22:20:16 ID:cGsGSQKJ
>>394
確かに西方ですね。
地図の読み違えなんて単純なミスをするとは……

というわけで、>>391第三段落最終行の「東方」は「西方」に修正します。

>>399
できれば直しておいて頂けるとありがたいです。
401創る名無しに見る名無し:2010/06/01(火) 22:36:28 ID:bJpWFgzR
書き手不足とは言え
ちょっと一人で進めすぎな感もあるな
402創る名無しに見る名無し:2010/06/01(火) 23:13:48 ID:q/AzxapR
>>400
了解です、収録時に修正しました。

>>401
新規書き手はいつでも歓迎ですよ。
403創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 01:12:30 ID:9fi3iHIa
>>401
書いてくれるだけでありがたいものだと思うのですがね。
掛け持ちも過疎の身としては。
404創る名無しに見る名無し:2010/06/04(金) 10:59:50 ID:SfJ+exHT
F0cKheEiqE氏はどうしたんだろう…
405 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/05(土) 10:50:54 ID:5zbBlELe
近藤勇、土方歳三、三合目陶器師、果心居士、柳生宗矩、南光坊天海、徳川忠長で投下します。
406日の出 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/05(土) 10:54:44 ID:5zbBlELe
「ぶはははははは、何だそりゃあ」
凄惨な殺し合いの場に似つかわしくない朗らかな笑い声が辺りに響く。
笑っているのは、志半ばで処刑された後にこの島に呼ばれ、狂犬の如く出会う者悉くに切り付けている近藤勇。
笑われているのは、妖人果心居士に新たなる顔と牙を授かり、一切衆生を殺戮し尽くす事を誓った三合目陶器師。
この二人が出会った時点で、血の雨が降り断末魔の声が響く事態が起こるのは約束されたようなもの。
それなのに、近藤勇は陶器師の姿を見た瞬間からひたすら笑い続けている。
「有り得ねえだろ、その顔は。……くくく、相手を笑い死にさせようって作戦か?」
顔というものに対して陶器師がどんな葛藤と劣等感を抱えているのか、そんな事は近藤には知りようもない。
しかし、禍々しい妖気を発するこの男が危険な存在で、それを笑えばただではすまない事くらいはわかる。
それでも近藤は笑い続けた。
一度死に、天然理心流の宗家でも新撰組の局長でもなく、一介の剣士となった近藤に、恐れも遠慮も無縁の感情なのだ。

やっと己に合う仮面を手に入れられたと言うのに、いきなりそれを笑い飛ばされた三合目陶器師。
当然それを放置しておく筈もなく、最も手っ取り早い手段、即ち近藤を殺す事で口を閉じさせようとする。
陶器師が刀を抜くと、近藤も漸く馬鹿笑いをやめて剣を構え、今度はにやりと笑う。
三合目陶器師が使うのは、香取神道流開祖飯篠長威斎の弟子諸岡一羽が創始した一羽流。
対する近藤の天然理心流は、長威斎の末裔と称する近藤内蔵助が神道流を学んで創始した流派である。
つまり、二人が使う剣法は源流を同じくする、いわば親戚とも言えるものなのだ。
無論、一羽にしろ内蔵助にしろ、己の剣に長威斎の神道流の枠を超えた部分があると感じたからこそ新流を開いた訳であり、
同様に陶器師や近藤とて師に伝えられた剣技を墨守する事に終始している筈もなく、両者の剣は独自の進化を遂げている。
とはいえ、剣理の根幹から細かい手筋に到るまで、共通する部分が多いのもまた事実。
つまり、一羽流や天然理心流の技を繰り出したとしても、互いに読まれてしまう可能性が高い訳だ。
となると、相手の虚を衝く奇手などは、先読みされた場合の危険を考えるとなかなか使いにくい。
結果、陶器師と近藤は、それぞれの流派の技巧ではなく、剣士個人としての気組みを真っ向からぶつけ合う事となった。

国重と大包平がぶつかり合って火花を散らし、そのまま鍔迫り合いの体勢に入る。
そのまましばらく拮抗していたが、徐々に陶器師が押し始めた。
甲冑を着けて戦陣を駆け回っていた陶器師の膂力が、剛剣とはいえ素肌剣法の使い手である近藤に勝っているのか。
或いは、高揚状態にある陶器師の筋力が普段よりも底上げされていたのかもしれない。
こらえきれず、遂に近藤は膝をつく……いや、それにしては早すぎる。膝をついたのは近藤自身の意思だ。
力比べでは不利と悟った近藤は自ら膝をつき、陶器師の刃が追って来る刹那の間に剣を滑らせ、小手を狙う。
苦し紛れの反撃などあっさりかわされるかと思えたが、陶器師が片手を放すのが半瞬だけ遅れ、手首を削られる。
めげずに陶器師は片手斬りを放つが、近藤が地を転げて逃れると、国重はあっさりと空を切った。
「何だ、ただの間抜けかよ」
立ち上がった近藤は、少し拍子抜けをした顔で呟く。
407日の出 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/05(土) 10:57:00 ID:5zbBlELe
上段の構えから近藤が脛切りを放つ。
陶器師は辛うじて防ぐが、近藤が更に連続して足を攻めて来ると、足捌きに乱れが生じた。
そこに近藤の渾身の袈裟懸けが走り、陶器師は防ぐ術なく大きく後に下がるが、それでも胸元を掠られる。
足への攻めで相手の体勢を崩し、そこへ本命の一撃を叩き込む……柳剛流が得意とする戦法だ。
幕末に剣術界を席巻した柳剛流は勢力圏が一部天然理心流と重なっており、いわば商売敵であった。
近藤も柳剛流の剣士と戦った経験は一度や二度ではなく、彼が柳剛流の刀法を身に付けていても不思議はない。
だが、そもそも幕末に多くの剣士が柳剛流に敗れたのは、素肌剣法で脛打ちが滅多に使われない技だったからこそ。
実際、剣客達が足狙いの技に慣れ、対策を編み出すと柳剛流は途端に勝てなくなった。
そして、介者剣術では防御の薄い下半身を狙う手はさして珍しくもなく、陶器師程の武者なら防ぎ方ぱ熟知している筈。
なのにどうして、近藤の付け焼刃の柳剛流もどきに陶器師がこうも苦戦しているのか。
理由は単純、下段を攻める近藤の剣が、陶器師にはきちんと見えていないのだ。
仮面を着ければ視界が狭くなる。当然の事だが、そんなわかり易い弱点が放置されるとは考えられず、逆に攻めにくい。
しかし実際には仮面の死角を利用した攻めは覿面に効き、近藤はその事に少し失望していた。
陶器師が仮面を手に入れたのはついさっきなのだからそれも仕方がない事なのだが、
仮面がぴたりと陶器師の顔に嵌っている様子を見れば、ずっと以前から仮面を着けていたと思うのもまた仕方なかろう。
近藤としても他流の技で同系統の剣士を倒すのは不愉快だが、そうするのが最善手なのだから外す訳にはいかない。
「ちっ、つまらねえな!」
近藤の顔に侮蔑の表情を見た時、陶器師の中の狂気と憎悪が更に増幅され……ついに破裂した。

「ぬおっ!?」
近藤が再び脛に切り込んだ瞬間、陶器師は前方に大きく跳躍し、頭から突っ込んで行く。
ここで退いてはつけ込まれると、近藤は真っ向からこれを受け止める。
国重と大包平が打ち合う甲高い音と、近藤の頭蓋骨が陶器師の仮面とぶつかる鈍い音が同時に響き渡った。
但し、鈍い音が一度きりだったのに対し、刀が打ち合う音はその後も幾度となく連続する。
陶器師が潰した間合いを再び離されるのを防ごうと、大攻勢に出たのだ。
近藤としても、常々真剣勝負で最も大切なのは気組みだと言っているだけに、ここで下がる訳にはいかない。
かくして、二人は超近距離に留まり、激しく真っ向からぶつかり合う事となる。
これだけ間合いが近ければ、脛斬りは不可能だが、同様に片手切りや切り込みの緩急もほぼ無意味。
為に、戦いは精緻な技を使いこなす剣客同志の立ち合いにしては珍しく、正面からの力比べの様相を呈して来た。
408日の出 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/05(土) 11:00:01 ID:5zbBlELe
ピシッ
何十合目かの打ち合いで、拮抗していた二人の戦いに転機が訪れる。
異音が響き、近藤が持つ大包平に小さな亀裂が走ったのだ。
国重とて名工には違いないが、単純に刀の質を比べるならば、やはり名刀中の横綱と呼ばれた大包平に軍配が上がるだろう。
にもかかわらずどうして、力比べで大包平が競り負ける結果となったのか。
元々大包平が重ねが薄く軽量の刀で、耐久力という点ではさして飛び抜けている訳ではない、というのもあるかもしれない。
しかし、最大の要因は剣と剣士がどれだけ同調できているかの差。
新藤五郎国重は、陶器師と共に幾多の姦夫姦婦を葬った相棒であり、もはや半身と言っても言い過ぎではあるまい。
対して、近藤が大包平と出会ってから未だ数刻、一刀斎にあしらわれたのを含めてもこの闘いでやっと三戦目。
もしも近藤が手にしているのが虎徹……今は芹沢鴨が手にしている贋虎徹だったなら話は違っただろう。
だが、如何に良質でも、まだ手に馴染む程には使い込んでいない大包平では、近藤の気組みが剣勢に乗り切らない。
先程までは慣れない仮面の弱点の為に陶器師が劣勢に立っていたが、立場が逆転した形だ。

大包平の亀裂を見た陶器師はそこに己の剣を叩き付け、再び鍔迫り合いの体勢に持ち込む。
陶器師に押し込まれて更に亀裂が広まって行く己の剣を見た近藤は、大包平を支えるのではなく、逆に片手を放した。
近藤はその手を強く握り締め、拳撃の構えを取る。
危機に怯む事なく、死中に活を求める……近藤らしい選択だが、決して成算が高いとは言えない。
拳を打ち込む前に大包平が壊れれば死、拳撃を放ててもそれで十分な打撃を与えられなければやはり死だ。
大包平ならば横綱の意地を見せてしばらく陶器師の剣を支えてくれるかもしれないが、拳の一撃で達人を倒すのは至難の業。
仮に、拳を顔面に当てて仮面を破壊できれば、陶器師の心に衝撃を与えて剣を止めさせられるかもしれないが、
そうなれば、今より更に狂気を増した陶器師の憎悪を一身に受けることになり、素手で捌くのは難しいだろう。
第一、果心居士がわざわざ授けたこの仮面が、素手で破壊できるような代物なのか。
この辺りの事情は近藤の関知するところではないが、たとえ知っていたとしても行動は変わらない。
近藤は固めた拳をまっすぐ前に……

突然、近藤は攻撃の姿勢を崩し、身を伏せて陶器師の剣を受け流す。
やはり素手で陶器師に対抗するのは無謀だと思い直し、下方からの攻撃に切り替えたのか。
しかし、敵の目の前で屈み込んでの下方からの攻撃は神道流にある技であり、一羽流もそれを受け継いでいる。
近藤がこの手で来るかもしれない事も予測していた陶器師は、慌てずに剣を持ち替え、近藤を串刺しにしようと……
ここで、陶器師は漸く気付く。
仮面の弱点は視界が狭まる事だけではない。周囲の音をも聞き取りにくくしているのだ。
それは平時であれば周囲の密やかな嘲りから陶器師を守る盾となったかもしれないが、この島では弱点でしかない。
仮面の為に聴覚を制限された陶器師が、横合いから忍び寄っていた男に気付いた瞬間、男は横薙ぎを放っていた。
409日の出 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/05(土) 11:02:48 ID:5zbBlELe
地に伏せた近藤が壊れかけた大包平を倒れ行く陶器師の手に叩き付ける。
近藤は大包平を投げ捨てると、陶器師の手から零れ落ちた新藤五郎国重を空中で掴み、一転して立ち上がった。
しかし、陶器師の眼が向けられているのは近藤ではなく、横から切り付けて来たもう一人の男……土方歳三だ。
(そういうことか……)
男の構えが近藤のそれとよく似ている事、更に今の横薙ぎの手筋から、陶器師は近藤と男の関係を見抜く。
おそらく二人は同門。つまり、仲間である近藤を助けるために土方が助太刀に入ったのだと、陶器師は推測する。
だが、ならばどうして近藤が土方に剣を投げ付けたのか、そして二人が互いに剣を向け合っているのは何故か。
そこまでを考える必要も余裕も、陶器師にはなかった。胴を両断された人間に残された時間など数瞬に過ぎないのだから。
土方の事を考えていた為に、最後の瞬間に園女の事を思い出さずに済んだのは、彼にとっては幸か不幸か……

陶器師は事切れ、同時に剣を受けてはいない筈の彼の仮面も爆ぜ割れた。
だが、近藤勇と土方歳三は、その奇怪な現象には目もくれず、互いに見詰め合っている。
近藤と土方、彼等は無二の親友であり、師弟であり、同志であった。
今までずっと共に戦って来た二人だが、戦い抜いて果てた彼等には、既に道場も隊も国もない。
そうなると、親友・師弟・同志以外の隠されたもう一つの関係が表に出て来る……即ち、好敵手である。
共に闘い、激戦を乗り越える度に、彼等は互いの強さを実感し、本気で戦ってみたいという欲望を蓄積させて来た。
生前は立場を慮って胸の奥に秘めざるを得なかった想いだが、死によってあらゆるしがらみから開放された今、
彼等が宿願を果たす事を妨げる要素は何一つ無い。
二人は無言の内に互いの思いが同じである事を確認しあうと、本気で剣を繰り出す。
晴れがましい気持ちで戦う彼等を祝福するかのように日が上り、二人の姿を照らし出した。

【三合目陶器師@神州纐纈城 死亡】
【残り五十七名】

【へノ漆/村の中/一日目/早朝】

【近藤勇@史実】
【状態】健康 左頬、右肩、左足にかすり傷
【装備】新藤五郎国重@神州纐纈城
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:この戦いを楽しむ
一:土方と決着をつける。
二:強い奴との戦いを楽しむ (殺すかどうかはその場で決める)
三:老人(伊藤一刀斎)と再戦する。
【備考】
死後からの参戦ですがはっきりとした自覚はありません。

【土方歳三@史実】
【状態】健康
【装備】 香坂しぐれの刀@史上最強の弟子ケンイチ
【道具】支給品一式
【思考】基本:全力で戦い続ける。
1:近藤に全力で挑む。
2:強者を捜す。
3:集団で行動している者は避ける。
4:志々雄と再会できたら、改めて戦う。
※死亡後からの参戦です。
※この世界を、死者の世界かも知れないと思っています。
410日の出 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/05(土) 11:07:17 ID:5zbBlELe
ほぼ同時刻、島内のとある場所にて。
日の出と共に行う術式の為に呪力を集中させていた果心居士の精神の片隅で、何かが弾ける。
果心がその妖術で作り出し、参加者に寄生させた仮面が、自壊する事で宿主の死に様を知らせて来たのだ。
「三合目陶器師、討たれたか!」
そう呟く果心の声には、安堵の響きがあった。

三合目陶器師……その凄まじい狂気と剣技を見込んで果心がこの島に連れて来た男だが、その心根は剣客としては異端。
「剣に淫する狂人」武田信玄は陶器師をこう評し、それが本当ならば陶器師はこの御前試合に相応しい剣士と言えるが、
陶器師の行いを分析してみると、この評価は人間観察の名人たる信玄には珍しい眼鏡違いではないかと思えて来る。
そもそも、彼が主家を捨てて富士の裾野に潜み、人を斬るようになったのからして原因は剣ではない。
妻を寝取られた屈辱と、周囲の嘲りから逃れる為に樹海に隠れ潜んだという情けない理由なのだ。
本人は女敵討ちなどと言っていたが、それなら何故、敵が富士の裾野にいるという考えにああも固執したのか。
真剣に情報を集めれば、各地の大名と奥方を誑かして金を盗む、美貌の男女の噂が聞けたかもしれないのに。
だが陶器師はそれをせず、知己が妻と情夫の消息を知らせてくれた時には、それを止めようとすらした。
止めきれずに求める敵が八ヶ嶽にいると知っても、真っ直ぐそこに向かうのではなく、最初に訪れたのは病魔に襲われた甲府。
何より決定的なのは、そこで憎い敵の筈の伴源之丞と園女に行き会いながら、陶器師がそれと気付けなかった事。
無論、彼等が事前に月子の整形を受け、別人の顔に変わっていたせいもあるだろう。
しかし、陶器師が真にこの二人を追い求めていたならば、その程度で誤魔化されるものだろうか。
誤魔化されたとしても、後ろ姿で怪しいとは思ったのだから、尾け回すだけなんていう手緩い処置で済ます必要などない。
正体を明かして誰何すればボロを出したかもしれないし、本来なら疑わしきは斬ってしまうのが陶器師らしかった筈だ。
結局、富士の裾野に身を潜め無関係の男女を姦夫姦婦と呼んで斬るのは、逃避であり代償行為だったのだろう。
口では勇ましい事を言っていても、陶器師は本心では源之丞と園女と向き合うのが怖かった。
二人がその美しい顔を捨て、醜い姿となっても寄り添い続けている事を知ったら、陶器師の心はどうなってしまったか……

陶器師にとっては幸運にもと言うべきか、塚原卜伝の邪魔や、この島に呼び寄せられた事で真実を知らずに済んだ。
しかし、世の中は帳尻が合うように出来ているのか、この御前試合で陶器師は散々な目に遭っている。
柳生十兵衛には顔を傷付けられ、神谷薫には顔に醜い傷を持つ男への愛情を見せ付けられ、緋村剣心には剣で敗れた。
陶器師は拠り所を失って弱り、あのまま放置すれば、悪夢から目覚める事なく自滅していたかもしれない。
故に、果心は介入した。
顔を隠す仮面と、戦う為の刀を与え、陶器師の夢の中に入り込んで壊れかけた心を鼓舞したのだ。
そのような対処療法がどれくらい保つかは不明瞭だったが、誰かが早めに討ってくれたらしい。
お蔭で、果心が己の全てを賭けて為さんとしている、壮大なる蠱毒の儀式が潰える事はどうにか防げた。
そう、蠱毒は毒虫達が互いに殺し合ってこそ成立する術。
この御前試合も同様で、島にいる八十余名の剣客が殺し合い、優勝者一名を除いて討たれる事が肝要。
誰か一人でも、自害や事故死など、討たれるのではなく死ねば、この蠱毒は果心が望む効果を発揮してはくれない。
果心がやろうとしている儀式は、その程度の事で崩れる程の、ひどく脆い代物なのだ。
そんな不安定な催しに、陶器師のような内に弱さを秘めた剣士を呼ぶのは危うい事だが、それは仕方がないだろう。
蠱毒というものは、同種の虫ばかり使うよりも、珍奇な虫を混ぜる事でより強力な毒を養えるのだから。

(これで二十三人か)
果心が術の準備を始めるまでに把握していた死者は二十二名。これに陶器師を加えれば二十三名という事になる。
もっとも、この島の状況ならば、目を離していた僅かの間に、更に他の死者が出ていてもおかしくないが。
その意味では、良い具合に殺し合いが進んでいると言えるが、まだ不安要素は多い。
陶器師以外にも弱い一面を持った参加者はまだ多いし、逆に剣聖と呼ばれる程の剣客達の技と行動は時に果心の想像を絶する。
そんな者達が入り乱れる中での儀式の遂行は正に綱渡りだが、何としても成し遂げて見せよう。
固い決意を胸に、果心は手にした巻物を開き、そこに浮き出る名前を確認した。
411日の出 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/05(土) 11:09:33 ID:5zbBlELe
日の出。時を告げる鐘の音が島内に鳴り響く。
辻月丹が伊庭寺に留まっているのなら、またも撞木がひとりでに動いて鐘を撞く光景を見ているかもしれない。
だが、今までと違うのは、今回は鐘の音に混ざって太鼓の音もしているという事だ。
城の太鼓櫓に参加者の誰かが来ていれば、撥が浮き上がって太鼓を打つ姿が見れただろう。
日の出は、主催者にとっても一つの区切りという事だろうか。
それを裏付けるように、鐘と太鼓が鳴り止まぬ内に、今度は男の声が島中に響く。

「御前試合参加者の皆様、急な呼び出しに快く応じ、奥義を尽して下さりし事、まずは御礼申し上げます。
 上様も御悦びの御様子。日が昇り、これからは更に闘うに好き日和に為りますれば、更なる奮闘を期待致します。
 また、勝負が進み、参加者の数も御前試合開始時より大分減っておりますれば、それをお知らせいたしましょう。
 
 御前試合開始より日の出までの間に亡くなられた方は以下の通り。
 犬塚信乃殿の内、御一方
 岩本虎眼殿
 伊良子清玄殿
 林崎甚助殿
 新見錦殿
 河上彦斎殿
 高嶺響殿
 中村半次郎殿
 鵜堂刃衛殿
 岡田以蔵殿
 屈木頑乃助殿
 九能帯刀殿
 久慈慎之介殿
 仏生寺弥助殿
 斎藤伝鬼坊殿
 座波間左衛門殿
 佐々木小次郎殿の内、御二方
 三合目陶器師殿
 清河八郎殿
 四乃森蒼紫殿
 師岡一羽殿
 瀬田宗次郎殿
 以上二十三名の方々、既に修羅界へと昇られました。
 詳しくは事前にお渡しした人別帖を参照されたし」

この言葉を聞き人別帖を見る者が居れば、そこに連なる名の内二十三が、何時の間にか朱線で消されているのを見出すだろう。
男の話は更に続く。

「皆様には申し訳なき事ながら、今後一定の時刻毎に、立ち入りを禁じる区域を設けさせて頂きます。
 辰の刻よりへの壱、巳の刻よりほの伍、午の刻よりろの弐への立ち入りは御遠慮頂きたい。
 強いて押し入られるならば、その方には避け得ぬ死が訪れるでありましょう。
 これもまた、詳しくは先に配りし地図を御覧あれ」

その言葉と同時に、支給品の中にあった地図が変色し始める。
地図上の指定された三つの区画が黒ずみ始め、定められた時刻には完全に塗り潰されるであろう。

「連絡事項は以上。では、今後とも皆様の御奮闘を、陰ながら御祈り申し上げまする」
412日の出 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/05(土) 11:12:20 ID:5zbBlELe
何処とも知れぬ闇の中、無数の鏡が浮かび、島内の様々な景色を映し出している。
正確には、鏡の数は八十。ただし、内二十数枚は闇のみを映しており、遠見の鏡として機能しているのは残りの五十数枚。
そう、鏡は一枚につき一人ずつ御前試合の参加者を追跡し、ここにいながらにして全ての殺し合いが見れるのだ。
この場には、それぞれの心境で鏡を見詰める男が三人……いや、更にもう一人が闇の中に現れる。
「御苦労でしたな、果心殿」
南光坊天海が、参加者への申し渡しを終えて帰って来た果心居士に声を掛けた。

「ところで、あれは真ですかな?討ち死にした武芸者達の魂が既に修羅界に参ったというのは」
「さて、その手の事柄は、私などよりも大僧正の方がお詳しいのではありませぬか?」
妖人と怪僧の視線が絡み合い、火花を散らす。
場の緊迫感が高まり……いきなり調子の外れた笑い声がして二人の気が逸れる。
笑い声の主は大納言徳川忠長。どうやら、鏡の中でまた武芸者が討たれたようだ。
それを機に果心は視線を外すと、闇の奥へと歩き出す。
「少々疲れました故、少し休ませて頂きます。ああ、それと……」
果心は、端座して鏡を見詰めているもう一人の男……柳生宗矩に目を向けた。
「そろそろ柳生の方々に働いてもらう事になります。但馬守様、御準備は宜しいですか?」
宗矩の答えはない。が、果心はかまわずに一礼すると、歩み去る。
一方で、柳生宗矩は周囲の様子に少しも関心を示す事なく、ただ鏡に映る光景を見詰めていた。
彼が注視しているのは息子か、又甥か、流派の開祖か、同僚か、それとも……表情や視線からは何も読み取れなかった。

呉越同舟、一触即発。彼等の関係を一言で表すとそんな感じであったが、主たる忠長にそれを気にする様子はない。
ただ、狂気の笑いを顔面に張り付かせたまま、酒杯を傾ける。
何杯目かを飲み干すと、杯を置いてもう一つの、不恰好な金塗りの杯を取って侍女に酒を注がせる。
「楽しいだろう、兄上。貴方とは何から何まで意見が合わなんだが、この楽しみだけは同じだったからのう」
忠長は言うが、如何に武芸好みと言っても、彼の兄家光はこんな殺し合いを楽しむ狂気を持ち合わせてはいなかっただろう。
もっとも、生前にどんな性向を持っていようが、そもそも杯に改造された頭蓋が何かを楽しむなど有り得ぬのだが。
重苦しい闇の中、ただ狂人の笑い声だけが響いていた。
413 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/05(土) 11:14:29 ID:5zbBlELe
一応、投下終了です。
F0cKheEiqE氏の作品で死者が出れば>>411は修正する事になるでしょうが。
414創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 14:05:27 ID:JeRspRH4
家光死んどるwwwww
415創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 14:29:05 ID:Q/LvXwUu
投下乙です
陶物師は結局サラマンダーのまま退場か……
素朴な疑問だけど禁止エリア進入による死亡は討死に含まれるんだろうか
416創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 14:52:59 ID:BWsdZYc7
test
417 ◆F0cKheEiqE :2010/06/05(土) 15:02:43 ID:BWsdZYc7
投下乙です。

陶器師は死にましたか…
陶器師の解釈は個人的に面白かったです。
家光しんどるがなwwww


それでは、遅ればせながら、
オボロ 、柳生十兵衛、志村新八、犬塚信乃(男) 、足利義輝
投下します

418偸盗/藪の中 ◆F0cKheEiqE :2010/06/05(土) 15:05:35 ID:BWsdZYc7

「にノ参」、道祖神前。
道祖神の傍らに、でん、と置かれた大きな石に座って握り飯を食べている三人組がいる。

一人は年のころ三十程の武家姿の男で、柿色の小袖に濃紺の伊賀袴、腰間には打刀一振り、
髪は茶筅髷、右目を血が微かに滲む白い布で覆った、野性的な剽悍な顔立ちの偉丈夫である。

二人目は、縁の青い灰色の小袖に、藍色の袴、腰間には木刀、
ざんぎり頭に眼鏡の、些か地味で情けない風貌の少年である。

そして三人目は…

「なあ…」

握り飯を頬張りながら、三人目の男、
トゥスクルが皇、ハクオロの侍大将、オボロは、
傍らの隻眼の偉丈夫、柳生十兵衛に言った。

「ん、何だ?」
「飯の時ぐらい…コレを取っても構わんか?」
「んー…」

十兵衛は、自身も頬張っていた握り飯より一先ず口を離すと、

「だめだな」
「!…なんでだ!?」
「何処で誰が見てるか解らんからな…また狐狸の類と勘違いされたくはあるまい」
「むう…」

三人目の男、オボロの容姿は、
年のころは二人目、志村新八とさして変わらないが、
顔立ちは対照的に、若々しさと男らしさと荒々しさが同居した二枚目である。
腹掛けを思わせるピッチリとした焦げ茶色の着物に、
唐人の穿く様な独特の袴に、革の靴を履いている。
髪は蓬髪であり、本来は、その獣に似た独特の耳が人目を引くのであるが…

「でも…それほど変じゃありませんよ!意外と違和感無いというか」
「そ、そうか?」
「ええ、忍者みたいって言うか…」

その耳は柳色の頬被りで覆われて見る事は出来ない。
元は十兵衛の着ていた袖なし羽織だった物を、適当に折って、
頭と耳を覆い、鼻の下で結んだ「鼠小僧」スタイルの頬被りだ。
…素直に頭巾の様に顎の下に結び目を作る形にすればいい物を、
何故こんな盗人の様な恰好にしたかと言うと、
最初は頭巾形式にしたのだが、服装の地味な色も手伝ってドン百姓にしか見えず、
余りに恰好が悪いという理由で、現在の様な形に落ち着いたのだが…
なまじオボロが美丈夫なだけにその有り様はかなり間抜けだ。
419偸盗/藪の中 ◆F0cKheEiqE :2010/06/05(土) 15:08:38 ID:BWsdZYc7

「忍者…というより、盗人に見えるな」
「な、何だとキサマッ!?」
「十兵衛さん!アナタ、何煽ってるんですか!?僕が折角フォローしてあげてたのに!?」
「新八!?オマエ…“ふぉろー”と言う言葉は知らんが意味は解ったぞ!」
「いや、その、あの…」

オボロは怒るがあながち間違ってもいまい。
故あっての事とは言え、実際に山賊まがいの事をしていた時期が、彼にはあるのだから。

さて、意外に和気藹々としている三人組であるが、
出会った当初はむしろ緊迫した状態であった。

ここで、少し時間を巻き戻して振り返ってみる事にする。



道伝いに、城下へと向けて南下していた十兵衛・新八一行であったが、
ふと、十兵衛が道の傍らの藪に目を遣ったかと思えば、

「見えてるぞ、出て来たらどうだ?」

と、人気の無い厚く茂る藪にそう声を掛けたのである。
新八もつられて藪を見るが、藪はどこまでも藪である。
彼には人の気配は見えない。

「あのー…誰もいないように見えるんですけど…」
「んー…まあ、気配の消し方は及第に達しておるし、君では気が付けぬのも無理はないかな」

しかし周知の如く、家光に勘気を被って以来、
都合一二年以上に渡って諸国を隠密行脚した十兵衛相手に、
それが伊賀甲賀根来の上級の忍者でも無い限り、
他人が彼から気配を隠し通す様な事は殆ど不可能である。

「で、出て来るのか、出て来ないのか」

十兵衛が藪に向かってそう言って、しばし間をおけば、
ガサガサと藪の葉を鳴らして、一人の男がすごすごと出て来た訳である。
それがオボロであった。
420偸盗/藪の中 ◆F0cKheEiqE :2010/06/05(土) 15:10:20 ID:BWsdZYc7

腰帯に付いた腰掛け風の装飾の布を破いて、
奥村百合子に斬られた左手を撒いて即席の包帯とし、
取り得ず応急処置を果たしたオボロであったが、
百合子、毛野との遭遇を避ける様に、周囲を警戒しながら山林を抜け、
何とか無事に街道に出る事が出来ていた。

しかし先ほどの百合子の予期せぬ襲撃もあって、
トウカの様な信頼できる相手以外との接触を避けたいオボロは、
街道の脇に群生する藪伝いに、人の集まる可能性の高い城下へと向かう事にしたのである。

その途中で、十兵衛一行と遭遇したと言う訳だ。

「あれ…天人の方ですか?」
「むう…変わった耳だな。天竺人か?」

オボロの獣の様な耳を見た二人の反応は…意外と静かな物であった。
志村新八は「天人(宇宙人)」の存在に慣れ親しんでいる。
彼の同居人の「神楽」の様に人型の天人もいるにはいるが大半は、
半人半獣であったり、人型ですら無い異形であったりする上に、
彼のファーストキスがパンデモニウムさんであったりするから、
いまさら獣耳程度で驚きはしない。

一方、十兵衛は沢庵禅師の様な教養人を知人に持ち、
彼自身が後にしたためる数々の兵法書の内容から察せられるように漢籍にも暗く無い。
彼の時代の中国の地理書には非実在の「手長足長」の類の畸形の種族に関する記載も多く、
(この点に関しては、同時代のヨーロッパの地理書も同様である)
そういう畸形人間の国が明の南方西方には生活しているという「迷信」は、
少なくとも十兵衛の時代ではまだ充分に「事実」足り得ていた。
初見は驚いた物の、隠密時代に対決を強いられた忍法・妖術の類が発する、
独特なある種の妖気を感じなかった事もあって、十兵衛は、オボロを「手長足長」の類の、
遠国の「異人」である、と判断していた。

ちなみに「天竺人」、オボロを呼称したのは、
何も彼を印度人と思った訳ではなく、その周辺の人間、程度の意味でった。

この御前試合で初遭遇した人間に嵌められた(と、オボロは考えている)事もあって、
十兵衛、新八に対する警戒を解かなかったオボロであったが、
新八の危険感の無い地味で情けない容姿・性格、怪侠・十兵衛の気さくさもあって、
多少のすったもんだも有りながら、何とか打ち解けて情報交換・同行するに至った訳である。

何故同行することになったかと言えば、
数多の人斬りが蠢くこの戦場では、徒党を組む事は、
数を恃みに人斬りを避けさせる有効な手段であることは、三人共通の認識であり、
またオボロの当座の行動方針はトウカを探し出す事であるが、
ならば人の集まる可能性の高い城下にまずは共に向かうと言うのは、
自然な発想であると言えるだろう。

かくして奇妙な三人連れの珍道中が始まった訳だが、
その途中でまずは腹ごしらえ、といった話になり、
冒頭に話が戻る。
421偸盗/藪の中 ◆F0cKheEiqE :2010/06/05(土) 15:12:03 ID:BWsdZYc7



「しかし、コレは本当に必要なのか…?」
「言った通り、貴様を狐狸妖魔の類と勘違いする輩もおろう。我慢せぇ」

前述のオボロの頬被りは十兵衛の考案である。
百合子がオボロに斬りかかった理由にアタリを付けて、
余計な誤解を避けるべく、オボロの耳を隠す事にしたのだ。

(腕は立つようだが、心は未熟。新八を預けるには流石に危ういか)
十兵衛は、オボロの業前を見抜いていたが、
心の未熟さも見抜いたようで、しばしは三人で徒党を組む事を当座の方針とした。

(しかし、天竺からはるばる連れて来られて親父殿の酔狂に付きあわされるとは、不憫な…)

オボロより彼の主君、ハクオロの話を聞いた時、
十兵衛の頭に最初に浮かんだのは暹羅(シャム)の山田長政の話だ。
そのハクオロと言う男、恐らくは山田長政の様に野心を乗せて天竺へと渡ったのか、
あるいは古の素戔男尊(スサノオ)の様に流された先で王となったのか、
要するにそういう類の和人・明人の誰かであったのだろう。

(事が済んだ後は、帰れるように手配でもしてやるかな…)

親父殿とその輩(ともがら)を倒してなお、自分が生きていたならば、
彼の故国に帰れるよう、親父のしでかした事に、息子としてケリを付ける為にも、
尽力してやらねばならぬ、と十兵衛は思う。

(又十郎に跡目を押しつけて、俺も天竺に行くのもいいかも知れんなぁ…)

そんな事を飯を頬張りながら十兵衛は思った。

(地球を知らない天人のひとなんだろうなぁ…)

一方、志村新八は、オボロは天人であり、
地球の存在を知らない辺境の惑星(地球も辺境の惑星だが)の出身者であると勘違いしていた。
実際は、新八の住む地球と違う時間の流れを辿った遥か未来の地球こそオボロの故郷なのだが、
こればっかりはオボロ本人すらつゆ知らぬ事である。

(ハクオロさん、って人は、坂本さんみたいな商人の誰かなんだろうか…)

新八がハクオロの話を聞いて思い出したのは、
宇宙をまたに駆ける商人、坂本“辰馬”である。
ひょっとするとそのハクオロと言う男は、
何らかの理由でオボロの星に漂着した地球人なのかも知れない。

(まあ、他の星の天人なのかもしれないけど…)

案外、ハクオロと言う男の正体は、
どこぞに流れ着いて土着しているという某「マダオ」だったりして、
などと、愚にもつかない事を考えて、彼はクスリと笑った。
422創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 15:55:55 ID:JeRspRH4
しえん
423偸盗/藪の中 ◆F0cKheEiqE :2010/06/05(土) 16:00:29 ID:BWsdZYc7

(…一息は付けそうだ)
頬被りの姿のまま、オボロは飯を頬張った。
なんだ、まともな人間もいるではないか、と彼は一先ず安心した。

実は些細な誤解がもとのスレ違いでしか無いのだが、
十兵衛に、自分の様な耳の者は、却ってこの地では珍しく、
故に化け物か何かと勘違いされて斬りかけられたのだ、
と諭されたものの、依然、オボロは五百子、毛野を疑っていた。
それは百合子が見せた不気味な太刀筋に対する無意識の警戒が故であった。

(あの二人と違って、こちらの二人は信用できそうだ)
白と黒と並ぶ事で相引き立つ。
百合子一行への疑惑は、十兵衛一行への信頼を強める結果となっていた。

(トウカ…待っておれよ)
腕の立つ味方も手に入れた。
後は、トウカを見つけるのみである。

そう思って、オボロは静かに気炎を上げるのだった。


【にノ参 道祖神前/一日目/早朝】

【柳生十兵衛@史実】
【状態】健康、潰れた右目に掠り傷
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:柳生宗矩を斬る
一:城下町に行く
二:信頼できる人物に新八の護衛を依頼する
三:不憫よのぉ…
【備考】
※オボロを天竺人だと思っています。
※五百子、毛野が危険人物との情報を入手しましたが、
 少し疑問に思っています。

【志村新八@銀魂】
【状態】健康、決意
【装備】木刀(少なくとも銀時のものではない)
【所持品】支給品一式
【思考】基本:銀時や土方、沖田達と合流し、ここから脱出する
一:銀時を見つけて主催者を殺さなくていい解決法を考えてもらう
二:十兵衛と自分の知っている柳生家の関係が気になる
三:「不射之射」か…
四:天人まで?
【備考】※土方、沖田を共に銀魂世界の二人と勘違いしています
※人別帖はすべては目を通していません
※主催の黒幕に天人が絡んでいるのではないか、と推測しています
※五百子、毛野が危険人物との情報を入手しましたが、
 疑問に思っています。
424創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 16:01:04 ID:JeRspRH4
支援
425創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 16:02:42 ID:JeRspRH4
しええん
426偸盗/藪の中 ◆F0cKheEiqE :2010/06/05(土) 16:04:45 ID:BWsdZYc7

【オボロ@うたわれるもの】
【状態】:左手に刀傷(治療済み)、煤、埃などの汚れ、顔を覆うホッカムリ
【装備】:打刀
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:男(宗矩)たちを討って、ハクオロの元に帰る。試合には乗らない
一:城下町に行く。
二:五百子、毛野を警戒。
三:トウカを探し出す。
四:刀をもう一本入手したい。
五:頬被りスタイルに不満
※ゲーム版からの参戦。
※クンネカムン戦・クーヤとの対決の直後からの参戦です。
※会場が未知の異国で、ハクオロの過去と関係があるのではと考えています。


さて、十兵衛一行が道祖神傍で飯を食っていた頃、
彼らが今いる場所で邂逅を果たした足利将軍一行は、
特に蹉跌も無く、無事、城下町の入り口に到達していた。

「これは…」
「うむ…」

二人は感じていた。
城下に渦巻く、妖気、殺気、剣気、狂気に。
しかし…

「征くか」
「ああ」

破邪顕正の剣士二人は、
まだ薄暗い城下の町へと足を踏み出した。

―――悪霊と妖術師の嗤う無明の藪の中へ、二人の運命やいかに。

【ほノ参 城下町入り口/一日目/早朝】

【犬塚信乃@八犬伝】
【状態】顔、手足に掠り傷
【装備】小篠@八犬伝
【所持品】支給品一式、こんにゃく
【思考】基本:村雨を取り戻し、主催者を倒す。
一:義輝を守る。
二:毛野を探し合流。
三:小篠、桐一文字の太刀、『孝』の珠も探す。
四:義輝と卜伝、信綱が立ち合う局面になれば見届け人になる。
【備考】※義輝と互いの情報を交換しましたが半信半疑です。ただ、義輝が将軍だった事を信じ始めています。
※果心居士、松永久秀、柳生一族について知りました。
※人別帖に自分の名前が二つある事は確認していますが、犬塚信乃が二人いる事は想定していません。
※玉梓は今回の事件とは無関係と考えています。
信乃の名前が二つある事は確認していますが、犬塚信乃が二人いる事は想定していません。
427偸盗/藪の中 ◆F0cKheEiqE :2010/06/05(土) 16:06:05 ID:BWsdZYc7

【足利義輝@史実】
【状態】打撲数ヶ所
【装備】木刀
【所持品】支給品一式
【思考】基本:主催者を討つ。死合には乗らず、人も殺さない。
一:正午に城で新撰組の長と会見する。
二:卜伝、信綱と立ち合う。また、他に腕が立ち、死合に乗っていない剣士と会えば立ち合う。
三:上記の剣士には松永弾正打倒の協力を促す。
四:信乃の人、物探しを手伝う。
【備考】※黒幕については未来の人間説、松永久秀や果心居士説の間で揺れ動いています。
※信乃と互いの情報を交換しましたが半信半疑です。信乃に対しては好感を持っています。
※人別帖に信乃の名前が二つある事は確認していますが、犬塚信乃が二人いる事は想定していません。



以上、投下終了です。
待たせてしまった割には中身が無くて申し訳ない。
なお、>>411の修正は必要ありません
428 ◆F0cKheEiqE :2010/06/05(土) 16:07:45 ID:BWsdZYc7
なお、cNVX6DYRQU氏の放送回を見て、色々と思い付いたので、

果心居士、柳生宗矩、南光坊天海、徳川忠長

で予約。
多分、今日明日中に投下します
429 ◆F0cKheEiqE :2010/06/05(土) 16:08:45 ID:BWsdZYc7
後、支援感謝します
430創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 16:38:04 ID:Zg+h1Yia
ようやく最初の放送まで辿り着けて一安心。皆様乙。

>強いて押し入られるならば、その方には避け得ぬ死が訪れるでありましょう。
このロワの面々は「面白ぇ」と絶対自分から禁止エリアに向かいそうだよな
431創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 16:53:26 ID:0EtQv5Cg
両者とも投下乙です

陶物師も弱くは無いんだがあっさり死んだと思ったら…
それと呪術の類と思ったがけっこう不安定だな。成功するのか?
そして同門対決キター!

オボロは一息つけたな
擦れ違いもあるがこの二人はまだ大丈夫だけど…なんか更に二人来たぞ

やっと放送か…感慨深いな…
ところで放送投下後にしばらくしてから決められた時間に予約解禁の方法で進めるの?
432創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 17:49:42 ID:OozJQsUd
 久しぶりにのぞいてみたらずいぶんと死んだな。
 そしてついに放送が行われたんですね。
 新見は新撰組初の死者?
433創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 20:45:38 ID:SDJB+sGg
投下乙です。
家光が死んで、忠長が将軍になってるってことは、
このロワの主催宗矩は、ロワに呼ばれた十兵衛とは別世界の宗矩?
すると、この後主催側が働かすという柳生衆は・・・!?
ますます楽しみになってきました!
434創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 21:11:54 ID:Q/LvXwUu
隠し主催の果心居士の名前が正式に出てきたので
過去作に遡ってwikiの追跡表等に明記しました。不都合あらば戻します。
それと「偸盗/藪の中」の奥村五百子の名前が
数箇所違っていたので、勝手ながら収録時に直させて頂きました。
435創る名無しに見る名無し:2010/06/06(日) 00:00:56 ID:v1h+XKrs
家光さりげなく死んで死者スレにまで出張ってるw
しかし、良い放送だ。なんというか、濃いなぁ。

ふと思ったのだが、もしも赤音に真剣最初に支給してたら
「生きてるのもめんどくさいから」で早々に自殺されて
ロワが成り立たなかった事考えると、結構幸運だよなw
まあ焚きつける為にあんなもの渡したのだろうが。
436創る名無しに見る名無し:2010/06/06(日) 05:30:53 ID:RxB5UX3U
忠長は将軍じゃないだろ。大納言って呼ばれてるんだから。
むしろ果心居士が上様と言ってることに何か意図があるんだろう。

しかし、この流れだと主催者側剣豪が追加されそうだな。
437創る名無しに見る名無し:2010/06/06(日) 10:54:10 ID:X8iEVHTR
大納言と将軍を兼任してるんじゃないかな?
確か坂上田村麻呂や頼朝がそうだったはず

まあ、徳川将軍の位階としちゃ大納言は低すぎだし、上様は将軍以外にも使うらしいから断言はできんが
438創る名無しに見る名無し:2010/06/06(日) 13:55:34 ID:lw0pJ908
征夷大将軍と官位は別腹だろ
439創る名無しに見る名無し:2010/06/06(日) 17:45:22 ID:6P+IKc6r
この世界観だと「放送」という単語自体を知らない参加者が多いなw
「○○の術」とか山風っぽい名前をつけるべきか?
440創る名無しに見る名無し:2010/06/07(月) 00:47:02 ID:fhSqEvEz
乙!
441創る名無しに見る名無し:2010/06/07(月) 13:02:53 ID:o3IyNu0O
なかなか徳川忠長@柳生一族の陰謀は出ないものだなー
まぁあっちだと家光の方が主催にふさわしいけど
442 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/07(月) 21:19:32 ID:H+19ELkw
塚原卜伝、伊烏義阿、宮本武蔵、奥村五百子、犬坂毛野で予約します。
443創る名無しに見る名無し:2010/06/07(月) 22:38:03 ID:lmrM01CZ
うお、次々に予約来てるー?
444創る名無しに見る名無し:2010/06/08(火) 06:02:44 ID:wllYKwYD
自己リレーはなるべく避けて欲しいんだが、そうも言ってられんか…
445創る名無しに見る名無し:2010/06/08(火) 08:48:06 ID:GFPID0eN
自己リレーを避けてもらいたかったら自分で書けばいいじゃない
446創る名無しに見る名無し:2010/06/08(火) 13:18:30 ID:Nxpyan31
題材が面白い一方で書き手としていろんな作品を書くに当たって把握する範囲が広すぎるから自己リレー入っても仕方ないと思う
寧ろ少人数でも丁寧な作品が続々出てくれるこの状況はロワとしても作品としても面白い
書いて貰ってこそのロワだから自己リレーだろうがなんだろうが構わずに書ききってほしいなぁ
447創る名無しに見る名無し:2010/06/08(火) 18:07:31 ID:YMMzv/eX
第一回放送記念支援に今さらタイトルロゴなど作ってみた。
あんま大層なもんじゃないですが。パスはkenkaku

ttp://www1.axfc.net/uploader/Img/so/84965.jpg
448創る名無しに見る名無し:2010/06/08(火) 19:26:49 ID:0qRInrQb
GJ!
本編の雰囲気によく合ったいいロゴだと思う。
449創る名無しに見る名無し:2010/06/08(火) 21:13:01 ID:kwfPGTIL
GJ!
なるほど、このロワらしいな
450創る名無しに見る名無し:2010/06/09(水) 00:39:13 ID:EohPxKzB
タイトルロゴって管理者ログオンしないと変えられないのね
管理者権限持ってる方、いらっしゃればお願いできるでしょうか
451創る名無しに見る名無し:2010/06/09(水) 10:40:46 ID:n7D4kpr2
このロワは断続的に続いてくれるから好き
452 ◆F0cKheEiqE :2010/06/10(木) 21:27:47 ID:ozzaOpA6
果心居士、柳生宗矩、南光坊天海、徳川忠長

避難所に仮投下しました。
議論が有るべき内容だと思いましたので、
皆さまの意見を拝聴したい次第です。
453 ◆F0cKheEiqE :2010/06/10(木) 22:01:31 ID:ozzaOpA6
age
454創る名無しに見る名無し:2010/06/10(木) 22:11:42 ID:hTDruYd3
終盤はともかく序盤でこの大量乱入は無粋すぎる
自分の出したいキャラ出したかっただけだろうとしか思えなくなる
455創る名無しに見る名無し:2010/06/10(木) 22:21:01 ID:gIplS74S
仮投下乙です
主催者同士の化かし合いは面白かったです
八剣士は個人的には好みですが、
これ以上あまり剣客を増やしすぎるのはどうかという気も…
参加者もまだ60名弱いますし、史実剣客は資料調べるだけでも大変なので
456創る名無しに見る名無し:2010/06/10(木) 22:24:51 ID:OYFAsG6+
流石に主催が、干渉しすぎではないでしょうか
乱入者には反対
457創る名無しに見る名無し:2010/06/10(木) 22:32:28 ID:icOGNFXL
避難所でも書いたけど、一応こっちでも。
個人的にはワクワクした。
黒幕が手の内を見せだしたのもそうだし、
まだ出てない剣士を出せる余地が出たのは美味しいと思う。

ただ、友景とか義仙は@史実の扱いになるのか?
友景とか果心居士以上にチートだろ。
他の人も書いてるけど、それぞれの手勢も含めて、主催側のパワーが強すぎる気がする。
458創る名無しに見る名無し:2010/06/10(木) 22:34:25 ID:cHKZBwK1
主催の化かし合いはときめいたけど、八卦剣士は蛇足の印象を拭えなかったでござるの巻
だが八剣士の中に、見せ場なく冥府魔道へ堕ちた参加者がジョーカー枠として復活するかもしれない可能性まで
摘むのは少々惜しい気もするでござる

八人とは言わず、放送ごとに一人ずつで合計四人程度でもいいのではござろうか
459創る名無しに見る名無し:2010/06/10(木) 22:41:10 ID:fIUrSZgG
>>452
◆cN氏(略して申し訳ない)と貴方で伏線回収できるならいいと思います

今までの他の方の投下傾向から見ると
一二回の投下しかしていない書き手の投下作品に登場する人物は軒並み非史実出典、あるいは史実でもかなりの有名人に限られています
そこから察するに史実からの参戦が多くなるであろう今回の投入は、新規書き手のハードルを現状より上げてしまうものだと思います
ので、今後も基本2人が書けるというのであれば問題ないと思いますが
そうでない、投げっぱなしになりかねないのであればやめた方が無難かと…
実質、「他の書き手」=◆cN氏か刃鳴の人みたいな感じですので
460創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 00:02:48 ID:0AuFhT2e
>>452
んー主催者同士の手の内ばらしは面白かったですが、新規キャラの大量投入には反対です。

ロワという企画の性質上、残り人数の減少は即ち物語の終焉に近づくことを意味します。
一気には参戦しないとはいえ、ここで八人の新たな参加者を投入することは、
せっかく第一放送まで進んだ物語を、ある意味巻き戻してしまうことに繋がるのではないでしょうか。
また、>>455氏もおっしゃっていますが、まだ会場には60名弱の参加者が残っています。
減ったとはいえ好戦的な剣客もまだまだ多く、参加者同士の殺し合いが盛り上がる余地も十分。
仮に主催者が刺客を投入するにしても、早過ぎるような気がします。
461 ◆F0cKheEiqE :2010/06/11(金) 07:22:02 ID:9XAC4+lE
おはようございます。
数々の意見、有難うございます。

一先ず『蠢動する闇』は破棄いたします。
主催サイドの水面下の暗闘の話は、「乱入者」成分を抜いて、
また後日改めて再予約、投下します。
462 ◆F0cKheEiqE :2010/06/11(金) 07:23:13 ID:9XAC4+lE
そんでもって、主催サイド話は一先ず置いて、

山南敬助、烏丸与一、トウカ、藤木源之助

予約します
463創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 17:11:57 ID:wJ1XGGPX
トウカと藤木

冥府魔道な組合せが、山南と烏丸がどう処理するのやら
464創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 21:07:34 ID:+wQ2ikvW
このロワを知るのが遅すぎたぜ…

平手造酒を出したかった…
465創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 21:50:11 ID:7rwPUBbY
wikiのタイトル変更したよ
更新人任せでごめんね

管理者より
466創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 22:05:48 ID:p6Mb+A+h
>>465
おお、ありがとうございます! 管理お疲れ様です
467 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 20:43:55 ID:rJow9kHm
塚原卜伝、伊烏義阿、宮本武蔵、奥村五百子、犬坂毛野で投下します。
468過失なき死 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 20:46:01 ID:rJow9kHm
(正に剣聖!)
これが、その老人に出会った時の、犬坂毛野の感想である。
毛野も優れた武芸者と会った経験は数多いが、この老人は他の者達とは一線を画する、一目でそう悟った。
武術を究め、最高の名人として遥か後世まで崇敬を受け続けるであろう事が、はっきり人相に出ている。
分野は違うが、孔老や釈尊に比すべき聖者かもしれないと思える程だ。
「貴方は……」「率爾ながら……」
「武田赤音という者を知らぬか?長髪で背は低く声の高い、一見女のような男だ」
老人の威に圧されたせいか、毛野や五百子が話し掛けるよりも、老人の横にいる若い男が問い掛けるのが一瞬早かった。。
かなり切迫した様子だったが、毛野も五百子もそんな男は知らないのでそう答える以外にない。
「女のような男」と聞いて五百子がちらりと毛野を見た気がしたが、そこは敢えて流す。
それよりも毛野の心を捉えたのは、男の相。
卜伝に気を取られて気付かなかったが、よく見れば彼も相当の異相……いや、凶相だ。
毛野の観相に間違いがなければ、この男の剣は既に、罪なき幾人もの人の血を吸っている。
あの老人のような大人物が何故、こんな危険な男を連れ歩いているのか。或いは、大人物だからこそ連れ歩いているのか。

「奥村五百子と申します。率爾ながら御名前を伺いたい」
考え込む毛野とは対照的に、五百子はいつもの調子でいつもの言葉を吐く。
「儂の名は塚原卜伝」
武田赤音の手掛かりを得られずに落ち込む男を尻目に老人が答え、その一言で場の空気ががらりと変わる。
塚原卜伝……毛野にとっては知らぬ名だが、他の二人にとってはそうではないようだ。
名も知らずに同行していたのか、男の顔にははっきりと驚愕が表れているし、表情に乏しい五百子の眼も僅かに見開かれた。
まあ、卜伝なる老人が相当の達人なのは確かだし、どれだけ名が売れていても不思議はない。
毛野が知らないという事は、五百子の出身地だという九州辺りの剣客だろうか。
もっとも、毛野は五百子の言葉を必ずしも信用していないし、卜伝の言葉にも東国訛りが混ざっているようだが。
そんな事を考えていた為か、五百子が無言で前に進み出ていくのに、毛野は咄嗟に気付けなかった。
469過失なき死 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 20:48:07 ID:rJow9kHm
「ほう。儂が卜伝と知って挑みたくなったか」
さすが剣聖と言うべきか、彼女の性質を良く知る毛野すら見逃した、五百子が仕掛けようとする気配を卜伝は察知して見せた。
死を己の物とし、死人の如く気配が希薄な五百子だが、もとより死体が動く筈などなく、僅かに生者の部分が残っている。
そのごく僅かな生の残り滓が発する微かな気配を敏感に感じ取り、五百子の動きを事前に読んで見せたのだ。
「あなた様が塚原卜伝とは信じられぬ」
五百子はそう決め付けるが、その言葉に斎藤弥九郎を名乗った老人の時ほどの力強さはない。
卜伝が生きているなど有り得ぬ事だが、彼女も、この老人が塚原卜伝の名に相応しい腕を持つ事を感じ取っているのだろう。
まあ、オボロとの出会いを経て、五百子の側に、普通なら有り得ない事を受け入れる素地が出来ていたという面もあるが。

初対面の相手に己の名を否定されるという非礼を受けた卜伝だが、彼は怒るよりも先に嘲笑した。
「坊主でもあるまいし、剣士に信じる信じないなどという事は無用。儂の素性に疑問があるなら試せば良かろう。
 もっとも、お主に卜伝と騙り者を見分けられるだけの腕がなければそれも出来まいが」
鍋島武士は決して侮辱を看過しない。加えて、卜伝の言葉は、少なくともその前半は確かに合理的でもある。
卜伝の提案とも挑発ともつかぬ言葉に乗せられて更に進もうとする五百子だが、ここで漸く毛野が立ち塞がった。

今までは五百子の行いを見過ごして来た毛野だが、それは相手が胡乱な人物であったからこそ。
卜伝は、毛野の風鑑によればこの上なく立派な人物であり、それに切り掛かるのを見過ごす訳にはいかない。
そもそも、仮に卜伝が名を偽っていたとしても、こんな状況で初対面の相手にはそれも仕方ない事ではないか。
毛野の話がそこに及ぶとと、五百子の足が止まった。
彼女の認識では、毛野もまた本名を秘めて物語の登場人物の名を名乗る役者ということになっている訳で、
その毛野を同行者として受け入れておきながら卜伝を斬るというのは、確かに筋が通らない。
珍しく五百子が躊躇した隙に、毛野はさり気なく卜伝を促して、共にその場を少し離れる。

毛野が卜伝だけと話す態勢を作ったのは、五百子や伊烏という剣呑な二人が話をこじらせないようにする意図もあったが、
それ以上に、現在の混沌とした状況や、五百子の事、そして、ずっと感じていた違和感についての助言を求めたかった。
まずはこの島に来てから今までの出来事を掻い摘んで話し、伊烏の事をさり気なく警告する。
伊烏の危険性は卜伝も認識しているようだったが、毛野がそれを伊烏の人相から読み取った事に話が及び、
更に、五百子の相から読み取れる人物像と実際の行動の間の齟齬を毛野が持ち出すと、卜伝は
「人相見か」
と侮蔑的に言ったきり黙ってしまう。これは毛野にとっては意外な展開であった。
卜伝程の剣客ならば、武のみならず文にも通じているのが当然で、風鑑の有効性を知らぬなど考えにくいからだ。
更に違和感が増すのを感じつつ、毛野は和漢の故事を引き、人の性が如何に人相に表れるかを説き明かす。
卜伝は興味なさそうに聞いていたが、しばらくしていきなり「頃合か」と呟いた。
毛野が何の事か聞き質そうとした瞬間、いきなり卜伝がしゃがみ込み、光が毛野の眼を射抜く。
二人が話している内に時が過ぎ、夜明けが訪れたのだ。そして、卜伝が立っていたのは毛野の東。
はじめから卜伝には毛野の話を聞く気などなく、日の出を利用して隙を作る機会を待っていただけ。
一瞬視界を失った毛野に下方から卜伝の刃が襲い掛かり、毛野は咄嗟に身をよじるが僅かに胸元を掠られる。
夜明けを告げる鐘と太鼓の音がここでも響き、開戦を告げる銅鑼の代わりとなった。
470過失なき死 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 20:50:32 ID:rJow9kHm
同行者である卜伝がいきなり毛野を襲うのを見ても、伊烏に驚きはなかった。
そもそも卜伝の目的は御前試合の優勝であり、伊烏と手を組めたのは、彼が武田赤音を討つ事の外に興味を持たぬからこそ。
卜伝が赤音の捜索に協力し、伊烏と赤音が対決する時には手を出さない、という条件で伊烏は卜伝と組んだのだ。
二人が城下を出て北上して来たのも、少なくとも卜伝の言では、赤音を探す為ということになっている。
「城下に長く居た儂等が会わなんだのだから、武田赤音とやらは城下には居らぬのであろう」
という推測は、城下の広さを考えれば伊烏には必ずしも承服できぬ物であったが、
「その刀が真に赤音とやらの為の刀であれば、何処に居ようとも、剣と持ち手は必ず出会う道理」
というのは、冷静に考えると全く論理が成り立っていないにもかかわらず、妙な説得力があった。
「かぜ」と赤音の再会が定められているのなら、余計な邪魔が入り得る城下を離れた方が良いのは間違いない。
そういう訳で、とりあえずは北の山を目指す途中で、彼等は奥村五百子と犬坂毛野に出会ったのだ。

だから、彼女達が武田赤音の情報を知らぬとわかった時点で、卜伝が彼等を討とうとするのは当然の事。
不意打ちが成功して卜伝が毛野相手に優位に立ったのを確認すると、伊烏は五百子の方を振り向く。
卜伝が毛野を討つまで五百子を抑え、二人で彼女に掛かれば斃すのは難しくないだろう。
そんな事を考えていた伊烏だが、振り向いた途端に叩き付けられて来た刃を、辛うじて抜き付けて受ける。
五百子が伊烏の予想より遥かに早く、驚愕も躊躇もなく、駆け寄って切り付けて来たのだ。
更に続けざまの斬撃を放って来る五百子……この時には、彼女が恐ろしく厄介な敵である事を、伊烏は悟っていた。
激しい攻撃にもかかわらず、闘気も殺気もまるで感じられない。まるで死人のように。
伊烏のように精緻な剣を使う者にとって、気を読んで相手の動きを予想できないのは致命傷になり得る。
打つ手があるとすれば抜刀術により先の先を取る事だが、既に伊烏は後手に回ってしまった。
一瞬、このまま守勢に回って救援を待とうという弱気な考えが頭を過ぎるが、すぐにそれを打ち消す。
あの老人が、そんな役立たずをわざわざ救ってなどくれるものか。
相手の動きが読めないのなら、こちらで動きを誘導してやれば良いだけの事。
伊烏が僅かに隙を作ると、五百子は見事に餌にかかり、思い切り剣を振り下ろして来た。
如何に激しい攻撃でも、あらかじめ来る事がわかっていれぱそうそうやられはしない。
後に跳躍して皮一枚でかわした伊烏は、剣を振り切って隙を見せた五百子に対して反撃に出る。

五百子が足を引いて反撃をかわす気勢を示したのを見て、伊烏は手の中で剣を滑らせて間合いを稼ぐ。
これで致命傷を与えるまでは行かずとも、守勢に回らせる事が出来ればそのまま押し切れる筈。
伊烏がそう考えた瞬間、剣が強い衝撃を受け、柄が伊烏の指を叩き折って手から飛び去る。
衝撃の元は五百子の蹴り。そう、五百子が足を引いたのを見て防御の姿勢と取ったのは伊烏の誤認。
足を引いたのは防御ではなく攻撃の準備動作であり、五百子は伊烏の剣の側面を思い切り蹴飛ばしたのだ。
五百子にしてみれば、剣を空振りした直後で再度の斬撃では間に合わぬと見て、足で伊烏を迎撃したに過ぎない。
しかし、如何に間合い騙しの為に握りが甘くなっていたとはいえ、刀を足で迎撃するなど無謀の極み。
今も、伊烏が咄嗟に刀身を捻って刃を五百子の足に向けた事で、五百子の足は深く傷付いた。
五百子自身はその痛みを感じた様子も見せないが、足に傷を受ければ必然的に身体の機能は損なわれる。
刀を失った伊烏に対する五百子の追い討ちにおいて、踏み込みが甘くなったのは当然であろう。
並の相手ならそれでも問題なかったのかもしれないが、五百子が闘っている相手は伊烏義阿。
素早く「かぜ」に無事な左手を掛けると、そのまま逆手による抜き打ちを放つ。
足の傷による遅れの分だけ伊烏の居合いが先行し、五百子の刃が届く前に、その両手首を断ち切る。
その時、大きな水音が響き、ちらりとそちらを見やると、卜伝の剣を避けた毛野が川に飛び込むのが見えた。
471過失なき死 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 20:53:43 ID:rJow9kHm
両手首を失うというのは、殆どの剣士にとって、致命傷と言っても過言でない痛手であろう。
常人ならその衝撃だけで即死しかねないし、そうでなくてもすぐに手当てしなければ確実に命を落とす。
また、剣を持つ手が無ければ殆どの剣技は使えず、手を使わぬ剣術を新たに編み出すまでほぼ無力化される。
故に、この島にいる達人達であっても、両手首を落とされれば、その場は退く以外に生き延びる方策は有るまい。
だから、水音によって伊烏が一瞬だけ五百子から意識を逸らしたのを過失と言うのは酷だろう。
相手が奥村五百子……鍋島武士でさえなければ、伊烏が命を落とす事などなかったのだから。

「!」
伊烏が卜伝達に注意を移した瞬間、五百子は肩を伊烏に押し付け、相撲でやるような足技でその足を払う。
これだけの傷を受けて尚、五百子が反撃してくるのは伊烏にとって予想外であり、身体をぐらつかされる。
無論、伊烏もこの程度で容易く倒されるような事はないが、体勢が僅かに崩れるだけで五百子には十分だった。
伊烏が立ち直るよりも早く、五百子は首を伸ばし、歯で頚動脈を噛み切る。
葉隠に伝わる佐賀藩老臣の言葉に曰く、
「刀を打折れば手にて仕合ひ、手を切落とさるれば肩筋にてほぐり倒し、肩切離さるれば、
 口にて、首の十や十五は喰切り申すべく候」
これが誇張でもなんでもなく、その精神が幕末まで確かに受け継がれた事を、五百子は証明して見せたのだ。
文字通り喰切られた伊烏の首から大量の血が噴き出し、血と共に全ての想いも、妄念も飛び去る。
かくして、復讐に生きた男は、敵とは全く関係のない剣士によって命を失い、物言わぬ骸となった。
その時には既に五百子は卜伝に向かって疾走を始めてしている。
これだけの傷を受けて手当てもせずに闘い続けるのは自殺行為だが、五百子は止まろうとしない。
命と引き替えに卜伝を討ったとしても、他の参加者は助かるかもしれぬが、彼女自身には何の意味もないと言うのに。
だが、それも当然。タイ捨流の剣士に「退」の文字はなく、鍋島武士に「犬死に」という概念はないのだから。

【伊烏義阿@刃鳴散らす 死亡】
【残り五十六名】
472過失なき死 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 20:57:25 ID:rJow9kHm
生き残る機会を自ら放棄し、死へと向かい疾走する奥村五百子。
しかし、彼女の死は過失によるものとは言えない。そもそも、鍋島武士にとって死は決して忌避すべきものではないのだ。
死を厭い生を求めるのは生物として当然の本能。
しかし、鍋島武士はその本能が人の判断を狂わせ、生き恥を曝させる元凶だと考える。
そして、恥を避ける為に、生か死か二つの道があった時は、迷わず死ぬ道を選ぶのが鍋島武士という存在なのだ。
故に、五百子が退いて生き延びるより闘って死ぬ事を選んだのは当然であり、彼女の死は決して過失ではない。

対して、卜伝の方は死ぬつもりなど全くない。
この御前試合においても、他の参加者を皆殺しにして勝ち残る事を、卜伝は己に課している。
そして、駆けて来る五百子を見た時、その目的を果たす上で、彼女が大きな障害となる事を、はっきりと悟った。
両手と刀を失った五百子の姿を見れば、大抵の者は彼女はほぼ無力化されていると判断するだろう。
しかし、流石は剣聖。卜伝は、これほどの傷を負っていても、彼女の戦闘力は少しも減少していない事を一目で見抜く。
それどころか、燃え尽きる間際の蝋燭の如く、今の五百子は常よりも更に恐るべき戦士となっているようだ。
手がなくては剣を防ぐ事など出来ず、今の五百子に致命傷を与えるのは、卜伝でなくても容易い事。
だが、彼女は元々ほぼ死人のような存在であり、それを完全な死人にしたところで大した意味はない。
たとえ死しても五百子は止まる事なく、卜伝の喉笛に喰らい付き、噛み切るであろう。
ここは逃げるか……五百子と違って敵に背を見せるのが恥などという観念を持たぬ卜伝は思案する。
見れば五百子は足にも傷を負っており、彼女の血が流れ切るまで逃げ続けるのはさして難しくはあるまい。
但し、逃げた先に他の参加者などがいて足を止めさせられれば、その時は五百子の牙を防ぐ術がなくなるが。

「……奥義を尽して……」
戦いの途中から頭の中に響き始めた男の声。
まともに聞いている余裕などなかったが、そのなかに「奥義」という語が出て来た時、卜伝は上段の構えを取っていた。
一の太刀――奥義をもって身体を完全に破壊してしまえば、五百子と雖も為す術は無い筈。
しかし、この島に来て以降、卜伝の剣は精彩を欠き、特に奥義は一度も放てていないのだ。
伊烏との立ち合いの時のように、奥義の発動に失敗すれば、今度の相手には舌先三寸など通用するまい。
一の太刀による迎撃は危険な賭け……だが、逃げた場合も危険があるのは同じ事。
逃げて逃げ切れるかを決めるのは卜伝の運。対して、迎撃が成功するかを決めるのは卜伝の剣。
ならば、どちらを選ぶべきかは明らかだ。
そもそも、ここで卜伝が討たれれば、剣を究めるという使命を誰が果たすのか。
信綱か、義輝か、それともあの不動明王か……否、そのどれもが究極の剣術を編み出すには不足!
真の剣術を創始するに足る剣客は、過去未来十方世界を見渡しても、この塚原卜伝ただ一人!
故に、卜伝は剣術にとって欠かす事のできない存在であり、故に、剣が大事な時に卜伝を裏切る事は決してない。
五百子の気迫が伝染したか、漸く己の剣への確信を取り戻した卜伝は、裂帛の気合と共に太刀を振り下ろした。
473過失なき死 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 20:59:42 ID:rJow9kHm
卜伝は五百子が使っていた刀を拾うが、切断された二つの手がしっかりとその柄を握っているのを見ると、放り投げる。
投げられた刀と手首は回転して飛び、五百子の……一の太刀で縦に両断され倒れた五百子のすぐ傍に突き刺さった。
その気になれば無理に手首を引き剥がして刀を己の物とするのはさして難しくないだろうが、卜伝はそうしない。
死を恐れず闘った様への敬意か、一の太刀を目覚めさせてくれた事への感謝か、その刀を五百子の墓標代わりとしたのだ。
同様に、伊烏の死体が握る「かぜ」もそのまま残して置いておいてやる。
「運が良ければ、お主の恋焦がれた赤音とやらが、己の剣に招かれてここに現れるであろう」
こうして五百子と伊烏に一本ずつ残した為、卜伝が持っている剣は三本のみ。だが、それで十分だ。
一の太刀を放った時、五百子と同時に、今まで卜伝の動きを束縛していた何者かも切り裂かれた。
神域に行けば気分が変わるかと、伊烏を適当に言いくるめて神社へ向かっていた卜伝だが、
結局のところ、剣士の悩みを解決できるのは神などではなく、ただ剣を振る事だけなのだろう。
そして悩みを克服した今、卜伝の心身はかつて無い程に充実している。
今の己の一の太刀を持ってすれば、数十人程度の剣客を殺し尽くすには刀一本でも十二分。
漸く技と自信を取り戻した最強の剣客は、屍山血河を築く為に歩み出すのであった。

【奥村五百子@史実 死亡】
【残り五十五名】

【にノ参 川岸/一日目/朝】

【塚原卜伝@史実】
【状態】左側頭部と喉に強い打撲
【装備】七丁念仏@シグルイ、妙法村正@史実、井上真改@史実
【所持品】支給品一式(筆なし)
【思考】
1:この兵法勝負で己の強さを示す
2:勝つためにはどんな手も使う
【備考】
※人別帖を見ていません。

※奥村五百子と伊烏義阿の死体の傍に、無銘の刀と藤原一輪光秋「かぜ」@刃鳴散らすが放置されています。
474過失なき死 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 21:02:25 ID:rJow9kHm
参加者の多くはまだ気付いていないが、彼等は異なる多数の世界からこの島に呼ばれている。
それらの世界の殆どは、少数の相違点を除けばよく似ているのだが、中には他の世界と大きく異なる世界も含まれていた。
犬坂毛野がいた世界はそうした世界の最たるものだと言えるだろう。
そして、この世界間の齟齬こそが、毛野がこの御前試合で本来の技量を発揮できずにいる最大の原因なのだ。
これは、毛野の過失に負う部分が大きいように思えるかもしれない。
異なる世界から来たオボロや奥村五百子と出会いながら、彼等を信じきれぬ故に、出身世界の違いに気付けなかったのだから。
しかし、それでは毛野が彼等に心を開いていれば、世界間の致命的な差異に気付けたかと言うと、それは難しかっただろう。

仏教では三千世界、十万億土、十方世界などと言い、世界は一つではなく、無数に存在すると考えられている。
そうした教養に親しんだ毛野ならば、自分達が別々の世界から来たという事自体はすぐに受け入れられた筈だ。
しかし、そこに気付いたとしても、己の世界と他の世界との本質的な差を理解する事が出来たかどうか。
恐らく、文化や歴史といった、表面的な違いを発見するのが精々と考えるのが妥当であろう。
毛野の世界では、他の世界ではなかった戦が起きたり、鉄砲が他の世界より早く普及するなど、歴史の流れにも特色はある。
だが、その程度の差異は本質的なものではなく、他の参加者の世界には、もっと独特な歴史を持つ世界が幾つもあった。
そんな世界の中で、毛野の世界が最も異色だと述べた理由は、世界の理にあるのだ。

毛野の世界には、神仏が実在する。
まあ、それ自体はさして珍しくもないが、問題は、彼の世界の神仏には勧善懲悪を好む強い性向があった事。
その世界では多少に曲折はあれ、最終的には、善行には善果、悪行には悪果がもたらされるのだ。
卜伝を剣聖と見抜いた毛野が、彼が剣の腕のみならず道徳的にも優れていると信じ込んでしまった原因も、ここにある。
無論、毛野の世界でも、悪人が修練の末にそれなりの武芸を身に付け、無知な大衆に持て囃される例は幾らでもあったろう。
しかし、剣聖と呼ぶに相応しい腕を身に付けるには神の加護が欠かせず、必然的に剣聖は有徳の人という事になるのだ。
また、勧善懲悪の世界では、正義を貫いた男が世界の為に心正しい主に刃を向けざるを得なくなる悲劇は有り得ないし、
鍋島武士のそれのような、儒教的な道義と相容れない独自の道徳観の存在は、毛野の理解の外にある。
この根本的な理の違い、そこから派生した世界に対する認識の差が、毛野自身に気付かれる事なく彼を束縛していた。
それに気付けなかった事を毛野の過失と言うのは、あまりにも酷だろう。
仏の教えは無数の世界の存在を説いてはいるが、どの世界でも、因果応報の理は共通である筈なのだから。
それに、善行善果、悪行悪果の観念は決して毛野の世界にだけあるものではない。
むしろ、そのような考えは社会の中で生きる人間という生物が必然的に持つべき倫理観であり、
違いは、因果応報が他の世界では願望もしくは努力目標なのに対して、毛野の世界では神仏に保証された事実だという事のみ。
いや、そもそも、八犬士以外の者達の世界でも、因果応報の理が働いていないと証明された訳ではないのだ。
毛野の世界の神仏ほどあからさまにではなくとも、最終的には、善人には賞、悪人には罰が与えられている可能性だってある。
しかし、他の世界ではどうあれ、この島においては、毛野がいくら正義を為しても神仏の加護が与えられる事は決してない。
この、妖人怪僧悪霊狂君が支配する魔の島には、如何なる神仏の力も届く事は有り得ないのだから。
また仮に、神仏の力が届いたとしても、この島には神仏すらねじ伏せる強烈な自我と技を持つ剣客が存在しているのだ。
毛野を襲って川に落とした塚原卜伝もその一人。そして、この男もまた……
475過失なき死 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 21:04:52 ID:rJow9kHm
「はあっ、はあっ」
川に飛び込む事で塚原卜伝の奇襲をかわした毛野は、少し離れた川岸に辿り着いて大きく息を切らした。
水練にも長けた毛野がこの程度の泳ぎで疲れる筈はないし、卜伝との闘いもごく短時間で体力の消費は少ない。
にもかかわらず彼が消耗しているのは、肉体的なものではなく精神的な理由によるもの。
立て続けに理解できない出来事が起きた為に、それを受け入れる事が出来ずにいるのだ。
何故、卜伝ほどの剣客があんな卑劣な騙し討ちをしたのか、彼を剣聖と読んだ風鑑に誤りがあったのか。
そんな事を思い悩んでいる毛野の耳に、この島の仮借なき現実を告げる妖術師の言葉が入って来る。
「……御前試合開始より日の出までの間に亡くなられた方は以下の通り。犬塚信乃殿……」
「何だと!?」
毛野は叫ぶ。信乃が死んだ……そんな事が有り得る筈がない。
信乃は武芸に優れているのみならず、義に篤く道義を尊ぶ優れた武士だ。それがこんな所で命を落とすなど……
混乱する毛野が己を取り戻すよりも早く、哄笑が聞こえ、不動明王を思わせる容貌の男が駆けて来る。

(この男も剣聖だと!?)
毛野の風鑑ではそう読めた。
男が不動明王に似ていると言うより、不動明王がこの男に似ていると言う方がしっくり来る。それ程に稀有な相だ。
しかし、卜伝の事もあり、今の毛野は自分の風鑑を信用し切れない。
そして、男の言動は、毛野の己の技術に対する不信を後押しするものであった。
「おお、いたか。俺の剣を高める為の礎となれること、喜ぶが良い」
そう言って剣を上段に構える不動明王のような男……宮本武蔵。
咄嗟に剣に手を掛ける毛野。そこへ武蔵必殺の剣が振り下ろされた。

「ちっ」「くう!」
凄まじい速さと強さを兼ね揃えた武蔵の剣。
辛うじて脇差で受ける毛野だが、脇差はあっさりと砕け、武蔵の刀が身をかわそうとした毛野の肩に切り込んだ。
毛野は痛みに耐えながら武蔵の剣を素手で掴み、そのまま切り下げられるのを防ぐ。
すると武蔵はあっさりと打刀を放し、腰に差したもう一本の刀に手を掛けて居合いの構えを取る。
(こんな所で、死ぬ訳には……!)
必死に武蔵から奪った刀を振り、居合いの軌道に割り込ませる毛野。
しかし、居合いを放った武蔵の右手はそれに少しも邪魔される事なく振り切られた。
それもその筈、武蔵の右手が握っているのは剣の柄だけで、刀身は付いていなかったのだから。
毛野がそれを知った瞬間には、武蔵の左手が動き、毛野の心臓が貫かれていた。
武蔵の刀の仕込み柄の仕掛けに、毛野が気付けたかどうか。
どちらにせよ、次の瞬間には武蔵が刀をもう一抉りし、毛野の魂魄は永遠にその身体を離れる。
最後まで、世界の理の違いを克服することが、それどころか、気付く事すら出来ないままに。

【犬坂毛野@八犬伝 死亡】
【残り五十四名】
476過失なき死 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 21:08:21 ID:rJow9kHm
「やはりそう簡単には会得できぬか。だが、端緒は掴んだぞ」
粘り強く塚原卜伝を尾行した結果、武蔵はついに一の太刀を盗み見る事に成功したのである。
もっとも、武蔵は尾行の相手が卜伝である事も、その技が一の太刀である事も知らないのだが。
だが、名は知らずとも、それがとんでもない技である事は武蔵には一目でわかった。
と言っても、技の型自体はごく単純なものだ。剣を上段に構え、真っ向から斬り下ろすだけなのだから。
しかし、振り下ろしの一瞬、全身の筋肉と神経全てがその一撃の為に連動し、奥義と呼ぶに相応しい質を与えている。
一度放たれてしまえば、受け手が使い手より余程上手でない限り、止める事も避ける事も不可能だろう。
つまり、剣士として究極に限りなく近い位置にまで達した卜伝が使えば、何者にも防ぎようがないという事だ。
かと言って、一の太刀を使う隙を与えずに闘うとしても、そんな縛りを受けつつ卜伝と渡り合うのがどれだけ無謀な事か。
初見で武蔵が感じた通り、凄まじい達人であった塚原卜伝。
だが、あらかじめその奥義を盗み見た事で、武蔵には勝算が生まれていた。
あの老人の奥義を自分も身に付け、来るべき対決の際に使ってやれば良い。
同じ技、そして恐らくは剣士としての力量も五分。そんな勝負では、髪一筋程の隙が致命傷となる。
老人は自分の秘奥義を武蔵が使うとは予想もしていない筈で、驚きが老人に勝負を分けるに足る隙を作ってくれるだろう。

「だが、まだ先の事だな」
犬坂毛野との対決で見よう見真似の一の太刀を使ってみたが、脇差で受けられ、急所を外された。
疲れ負傷した毛野を、奇襲に近い形であったのに仕留め切れないようでは、とても奥義と呼べる代物ではない。
まあ、一の太刀のような最高峰の秘技を、一目見ただけで簡単に会得できる方がおかしいのだが。
それでも、あと二、三人に試せば一の太刀をモノに出来るという自信が武蔵にはあった。
技巧を凝らした技よりも単純な技を奥義とする卜伝の考え方が武蔵の性に合う事もあるし、もう一つはこの島の環境。
妖気が島全体を覆い、そちこちで剣気がぶつかり合うこの環境に在れば、剣士は総じて好戦的な気分になるもの。
武蔵も例外ではなかったが、卜伝の技を盗む為、戦いたいという衝動を必死に抑え込んで来た。
毛野と闘い、蓄積され熟成された剣気を開放した今、武蔵は人生最高に充実した状態にある。
今なら、奥義の一つくらい身に付けるのはさして難しい事ではあるまい。
「…… 以上二十三名の方々、既に修羅界へと昇られました。……」
島の状況を知らせる果心居士の話はまだ続いているが、武蔵はほとんど気にも留めない。
今の武蔵の関心事は、奥義を身に付けて己の剣を高める事のみであり、かつての好敵手の再度の死にすら心は動かなかった。
「なら、これで二十六人だな」
それだけを言って薄く笑うと、武蔵は次なる獲物を求めて歩き出す。

かくして、伊烏義阿、奥村五百子、犬坂毛野は命を落とした。
しかし、彼等の死は決して彼等自身の過失によるものではない。
塚原卜伝、宮本武蔵、これら剣鬼中の剣鬼達に行き会った時点で、どう足掻こうとも彼等の死は不可避だったのだから。

【にノ肆 川岸/一日目/朝】

【宮本武蔵@史実】
【状態】健康
【装備】打刀、中村主水の刀@必殺シリーズ
【所持品】支給品一式
【思考】
最強を示す
一:老人の奥義(一の太刀)を己の物とする
二:老人(塚原卜伝)を倒す
【備考】
※人別帖を見ていません。
477 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 21:09:21 ID:rJow9kHm
投下終了です。
478 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 21:12:42 ID:rJow9kHm
秋山小兵衛、徳川吉宗、魂魄妖夢、富田勢源、香坂しぐれ、果心居士、志々雄真実で予約します。
479創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 21:24:30 ID:0CChyKBh
う〜ん、ずっと思っているんですがどうもcNV氏の
毛野のキャラに違和感を感じてならないんですが。
オボロや五百子の時もそうですが、この人は八犬士随一の
現実主義者であって、自力救済主義者なんですぜ?
それが占い「だけ」を盲信したり、勧善懲悪の概念に
凝り固まってるというのはちょっと…。
世界観の違い云々を抜きにしても受け入れ難いものがあります。
480創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 21:35:14 ID:bzWugyQM
ストイックさが無いよね、確かに
某剣聖もそうだがそのつもりはなくとも、常識人や人格者=小物的な書き方になっちゃうのはなんとかならんもんか

どちらにせよ、この毛野は原作に比べてちょっと劣化し過ぎ。本当にただの人相見にしちゃまずいよ。
481創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 22:03:11 ID:fNw67rZF
話としていいだけにキャラの矛盾が鼻に付くと言うか…
悪くは無いんだけど…
482 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/14(月) 23:03:50 ID:rJow9kHm
>>479>>480
八犬伝の世界では、勧善懲悪はただの概念ではなく、現実に存在する確固とした法則です。
ですから、あの世界では現実主義で教養が深い者ほど、勧善懲悪を信じるのが当然だと思いますが。
毛野の態度も、観念に凝り固まってるのではなく、「自身の世界の根幹を理解している」と描写したつもりです。

風鑑にしても、八犬伝世界の観相は現実のものとは違って、実効のある技術です。
作中でも毛野の観相はぴたりと当たっていますし、風鑑の有効性に疑問を呈された時は長々と反論しています。
毛野にとって風鑑は、武芸や軍略と同様に頼れる技能な訳で、それを信じるのは当然でしょう。
私の話の中でも、毛野の風鑑自体は全て的中していますし。
ただ、風鑑が毛野の特色として描写しやすかったので、多用しすぎた面はあるかもしれません。
483創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 23:13:09 ID:QMzXRdFN
投下乙です
とりあえず伊烏はホモじゃないよw おまけのギャグネタEndのせいで誤解されがちだけど
484創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 10:07:23 ID:tjyy20vw
もしかして原典把握材料にした?
ここの毛野は碧也ぴんくの漫画出典なんだが。こっちをちゃんと把握に使ってればこんな理屈にがんじがらめにされるようなキャラになるはずないんだが。
485創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 10:34:58 ID:/aOCjVFo
伊烏が死んだか
赤音と戦わせてほしかったなあ
聖都のは再戦とは言い難いし

東郷に続き卜伝もリミッター解除か
486創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 10:57:56 ID:Dx/SJMkO
しかしなんというゾンビ剣術、というかもはや剣術ですらねえ。
昼の月は出された時点で無理ゲーな分、よく考えたとは思う。
投下乙です。
487創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 17:59:17 ID:ypxLA8+2
乙ー
488創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 19:34:15 ID:m5Es4TuD
伊烏死亡は残念だな
でもロワだから仕方ないか
それでもこれは下手したらもっと責められてスレが荒れるかと思ったがそれほどでもないな…
489創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 19:51:34 ID:i8kKd2Nl
伊烏死亡が色々と他の書き手さんの仕込みをぶっ潰してるとはいえ
ロワなんだから仕方が無いさ、問題は毛野さんのキャラが明らかにおかしい事

この人は漫画でも原典でも八犬士の中でも一番神仏の加護とかから無縁な人だし
(生誕時の奇跡以外は唯一伏姫や珠の加護を受けていないのが毛野)
前半生も勧善懲悪から程遠い生きかたしてきて、全部自分自身で
決着するしかないという思考に至った人なんだから、
自身の世界は勧善懲悪に支配されているなんて考えるはずが無い
仇討ちの因縁を絶つためには無辜の幼子や女中も手にかけるんだぜ?
他の六犬士と合流して間もない時期からの参戦だし、
この毛野の思考はどうかんがえてもおかしいと思うが

あと「強くなるために心の中で鬼を育てた」と公言してる人が
剣聖=人格者、神仏の加護が必要などと考えないだろ
もちろん他の人も指摘してる観相を妄信してるのもありえない
同じ八犬士の小文吾ですら、人相じゃなくて発言や実際の
人となりを見て、信頼感を抱くようになったわけだし、
碧也版では人に頼まれたときしか人相見はしてないしな

原典の犬塚信乃と里見☆八犬伝の犬塚信乃が別人なように、
この毛野も原典とは別人だという事を踏まえてくれよ
490創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 19:53:09 ID:i8kKd2Nl
まぁ、原典から見てもこの毛野はおかしいんだけどな
ヘイトのつもりはないとは思うけど、キャラ崩壊させたまま
退場は無いわ
491創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 20:00:35 ID:xUUL5+hj
まあ正直な感想として、今伊烏を殺すのは色々勿体無くはあったな
いつ赤音が伊烏参戦を知るのかも含め、
このロワではどう化けるか先が楽しみなキャラだっただけに
もちろんロワだから仕方ないけどね
492創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 20:11:55 ID:tjyy20vw
避難所でだれか言ってたけど剣鬼だからそれ以外の連中は死亡確定ってのも、そうじゃないよな・・・
それ以外の達人連中も寄って立つものがあるわけだし
剣狂者を凄く見せる事は悪くないっつーか、大歓迎(五百子のアレなんてゾクゾクしたし)だが今回の伊烏や毛野、前の伊勢守みたいにそうじゃない参加者を卑小化するのは違うよな
493創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 01:21:43 ID:zXlhh2sx
ごめんごめん、一つ言わせて

 読 み 専 如 き が ガタガタ抜かすんじゃねえよ
494創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 05:11:22 ID:1QGwKVIy
それを言ったら身も蓋も無いだろ・・・
今回の話はおかしいところがあったんだからそれ指摘するぐらいはしてもいいだろ
495創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 05:54:32 ID:m2t+T0pi
二次創作主体の企画ならキャラが違うっつーのもわかるが、このロワは明らかに
実在剣客のほうが主体だからなぁ
そこまででかい問題かと思う
感想も言わずに延々と指摘とか、そのキャラを書きたかった書き手が言うならわかるけど
ただの読み手だったら、お前このロワに合ってねーよとしか言えん
496創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 06:14:57 ID:mMA6NA6G
避難所に書かれてた前の話との矛盾は確かに気になるな
497創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 06:43:18 ID:1QGwKVIy
>>495
今回指摘が出てる二人は架空の人物なんだが
殺すの勿体ない云々はいちゃもんだろうけど
498 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/16(水) 07:08:03 ID:Y1KIH2uQ
>>489

八犬伝の世界では、勧善懲悪は考え方や主義ではなく、議論の余地なく存在する法則です。
ですから、一定以上の教養を持つ者が勧善懲悪を信じないなどという事はあり得ません。
実際、毛野は原作で蟹目前と河鯉守如が自害した際、孝嗣に「天道は善に福して、必ず淫に禍す」と言っていますし、
馬加郷武を討った際には、郷武らの死を「悪事の報い」と言うなど、きちんと因果応報の法則を理解しています。
加えて、仇を探す旅で神社仏閣に会う毎に冥助を祈念しており、決して敬神の念が薄い訳でもありません。

また、八犬伝においては、個人はその係累から完全に独立した存在として扱われる訳ではなく、
先祖の罪や徳は、子孫の罪や徳でもあるという事になっているようです。
物語の発端となる伏姫の受難にしてからが、伏姫自身は何ら罪を犯していないにもかかわらず、
父である里見義実の過失の報いを受けたものである、というのがわかり易い例でしょうか。
天の裁定ですらそうなのですから、仇の縁者を殺した事から、毛野が善悪に無頓着とするのは適切ではないでしょう。

そして、八犬伝の世界では、悪事はほぼ例外なく露見し、最終的には世人の知るところとなっています。
このような世界では、悪人が史実の卜伝のように死後何百年も名声を保っていられるとは考えられません。
ですから、あの世界の住人が剣聖イコール有徳の人、と考えたとしても無理はないと思います。

観相について。
まず、オボロや五百子といった正体不明の同行者を探るのに相を読んでみるのは合理的な行動でしょう。
そして、卜伝や武蔵の場合は、毛野が積極的に観相を試みた訳ではなく、
特に相を意識せずに見てもはっきりとわかるほど、二人の相が傑出しているという描写をしたつもりでした。
毛野の観相は本来非常に有効な技術なのですから、読んでしまえばそれを信頼するのは当然だと思いますが。
499創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 07:17:05 ID:mMA6NA6G
>>498
よければ避難所17の件もお聞かせいただけるとありがたいです
前の話からの繋がりに少し無理があるのではないかと
500創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 07:40:44 ID:1QGwKVIy
>>497
だから、毛野の出典は原作じゃない事について。
501創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 07:43:21 ID:1QGwKVIy
>>498
自己レスしちゃった
502創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 12:56:12 ID:aSgjw3B1
伊烏は若干の修正で問題はないとしても、毛野は挙げられた通りなら修正どころではないような。
毛野の事は知らないのでなんとも言えないが。
503創る名無しに見る名無し:2010/06/16(水) 22:01:19 ID:HN8FqlvW
>>498
まず大前提としてここに参加している毛野は原典ではなく碧也版の漫画から参戦している事をお忘れなく。
この漫画では八犬士を人道八徳の化身である以前に1人の人間として描いていますし、また原作と違い
勧善懲悪の摂理や、神仏の力が強く働いているわけではありません。毒婦船虫が成敗された描写が
まったく存在しないのがその最たる例です。
また、毛野が仇の親族関係者を殺害した事は、彼が善悪に頓着しないという事を言いたいわけではなく、
作中の彼が自力救済主義者、超能動派の人間である事を言いたかったわけです。
悪因悪果の報いを与え、縁者係累の因縁をたつのは「自分自身の手で」為さなければならないと
はっきり発言していますし、世界絶対の摂理としての「勧善懲悪」を認識しているとは思えません。
また八犬士の因縁すら最初は「くだらない」と一蹴し(自身の私闘に巻き込みたくない心理もあるわけですが)、
自身の仇討ちを優先させていますし。
また、いくら剣聖を前にしたとは言え、生い立ちから他人への警戒心が人一倍強く、
しかも状況が状況である中、無条件で卜伝を信用するとは思えませんが。
504創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 01:12:59 ID:o7BWewjC
>>503
わーった、わーった
文体隠す気もないみたいだし、読み手のフリしとらんで堂々と鳥出して戦争しようか?
505創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 01:23:56 ID:y+Yhq2Qj
戦争という表現は大袈裟すぎやしないか?
せっかく盛り上がってきたというのに。

少なくとも前後の話関連で明らかに変と思える部分
(卜伝が聞いてもないのに伊烏の事情を知り過ぎている)
は加筆または修正が必要だと思うが。

破棄にするには惜しいが、かといってこのままでも引っかかる。
506創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 01:53:22 ID:IJyKbmGW
基本把握難度が高い作品が多いことと、小数の書き手で進めてきた弊害が出てきた感じだな
507 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/17(木) 06:43:08 ID:r9HclfdI
>>499
「かぜ」が赤音の刀だというのは、教えて不利益が出る類の情報ではないのですから、
伊烏の卜伝に対する信頼度がどうであろうと、話していて不思議はないと思います。
二人の間に信頼関係がないというのは、注意をそらさないとか、不用意に技を見せないといった方向性を意図したもので、
教えて差し支えのない情報まで隠す、というほどに険悪な関係をイメージしていた訳ではありません。
伊烏から見れば、愛刀を見せるのは、卜伝が武田赤音がどんな人間かを理解する一助になり得るわけで、
真偽が怪しいとはいえ、卜伝が赤音捜索を手伝うと言っている以上、教えておいて損はない情報でしょう。
一方、卜伝の側は伊烏と再戦することを危惧しており、その際、伊烏の持つ武器の多さは大きな脅威になり得ます。
卜伝なら刀の話を振って一本くらい自分に渡すよう仕向ける、という程度の事は試みたでしょうし、
その過程で「かぜ」の素性に話が及んだとしてもおかしくはないと思います。
さすがに赤音との詳しい因縁までは話していないでしょうし、卜伝がそれを知っているという描写をした覚えもありませんが。
伊烏が、武田赤音を殺せれば死んでもいいというほど、強く想っている事は前話の時点で知っている訳ですし。

>>503
私の記憶によれば、そもそも信乃(男)と毛野の出典が原典ではなく漫画版の「八犬伝」になったのは、
原典は把握の面で難があり、原典に準拠した漫画があるのでそれで代用する、という事だったはずです。
それなのに、実は漫画版には重要な設定面で原典と大きなくい違いがあって、
原典の根幹を為す設定を棄却してまで漫画版の設定に合わせろと言われると……まあ、困りますね。
508創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 08:49:46 ID:4EBTeJiR
では、言い方は悪いが書き手の把握不足ではなく描写不足ということか。
まあバトル以外でだらだらやられてもだれますけどね。
509創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 08:58:45 ID:mxArnEPU
まぁ読み手の脳内補完で済ませても問題ないレベルだと思うけどね
道すがら話を聞いたって一文入れておけばいいんじゃないか?
510創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 09:17:52 ID:tuGTsFZm
「かぜ」は行李に入ってたんだし、わざわざ出してみせるかなという気はするが
>>509のいうように一文入れておけば問題ないんじゃないかと思う
511創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 09:22:15 ID:tuGTsFZm
赤音の刀をその場に残すのが目的なら、その素性を知ってるよりも
軽くて薄くて実用には堪えないと思われたという方がすんなり納得できるかな
もろ素肌剣法用の刀なわけだし
512創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 09:31:39 ID:vKZHIoQ/
これだけ反発ある中、作者も意固地で歩み寄る姿勢もない
完全に平行線だな
自分も毛野には違和感あるし
死亡者でこれだけ揉めたのも初めてだよな

このままじゃ揉めたまんまだし意固地にならんで修正するなり、破棄した方が無難なんじゃない?
513創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 09:55:41 ID:mxArnEPU
印象操作はやめておけ
514創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 11:43:32 ID:/peT7+uI
前から違和感があるってなら、なんで今頃言うの?というのはあるな。
途中で特に文句が出なかったから、今まで続いてたわけだし、
それがいざ死んでからあれこれ言い出す手合いは、
単に気に入ったキャラがあっさり死んだからゴネてるだけにしか見えん。

この話の毛野は前から風鑑と絡めた描写が続いてたから
今回の結末も別に違和感なかったけどな。
515創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 12:37:53 ID:c5gvw/we
毛野が生きているなら今後の為という事になりますが
退場している以上議論しても意味が無いと思うのですが
516創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 13:00:31 ID:A3V/wZxK
別に毛野が武蔵に殺されようが、ト伝に殺されようが構わないが
人物描写がおかしいのといのが納得できんよ
伊烏に関してもわけわからんという印象抱いた人が多いわけだし
描写を書き加えるか削るかした方がいいと思うが
517創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 13:24:31 ID:tuGTsFZm
少なくとも俺は>>511で書いた描写なら、伊烏に関してはまあ納得できる
赤音本人でさえ最初は頼りないと思ったほどの、赤音にしか使いこなせない刀だから
戦国時代の卜伝が見れば殺戮幼稚園と同レベルのオモチャに見えるかもしれん

人探しに赤音の特徴を伝えるなら、外見的特徴と簡単な性格だけで充分だし
無口で根暗で人付き合いスキル0の男が、殺されかけた初対面の爺さんに
ぺらぺらと自分のプライベートを話すというのはちょっと想像できない
518創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 19:50:26 ID:/z2/3FnK
もう通しでいい様な気もする
これ以上議論してもな…荒れるだけ
519創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 20:54:49 ID:vabDmIup
投下乙です、過失なき死を読みました
氏は多数の作品を投下されていますので作品把握や参加者達がどう戦うのか殺すかを考えるだけでいつも大変だと思います
ただ今回の作品は人物描写といい死に方といい氏の他の作品と比べてみると全体的にとても雑な印象を受けました

特に人物描写がト伝と武蔵以外別人過ぎてちょっと…

私の記憶によれば、そもそも信乃(男)と毛野の出典が原典ではなく漫画版の「八犬伝」になったのは、
原典は把握の面で難があり、原典に準拠した漫画があるのでそれで代用する、という事だったはずです。

仮にそういう経緯があったとしても、この毛野は漫画版ですよね?

520創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 21:24:07 ID:iMVG0dE+
伊烏の「これこれこうで説明つくから脳内保管しろっ」てのはちと乱暴じゃないの?
521創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 22:38:54 ID:c4Wh9Jxx
いや。もっともっと単純な矛盾と問題点を忘れてた。
伊烏と卜伝、果たして夜明けまでに着替えしていたか?
着替えて水でも浴びておかないと、凄まじい血臭を撒き散らすぞ?
伊烏も気にしていたし、毛野達なら人相以前に最初から警戒して交渉以前の問題になるはずだが?

522創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 22:47:58 ID:mxArnEPU
本人たちが気にしてて、毛野たちが不審に思わなかったって事は着替えたんだろ
523創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 23:08:00 ID:c4Wh9Jxx
着替えた描写が、果たして一文でもあったか?
あと気にしていたのは伊烏のみだから、卜伝が酷いことになる。
更に言うならある程度情報交換を着替えと同時に行えば時間もかかるし、
時間ももう少し動くことになる。放送直前に二人死んでいれば追加されそうだし、どうなんでしょ?
最低限、その辺りを踏まえた修正ぐらいはすべきでは?
524創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 23:55:18 ID:o7BWewjC
後から頑張って矛盾を見つけようとしてる時点でお前は企画を泥沼に引きずり込もうとしてるんだ
わかってやってるんなら別に止めない
525創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 00:00:09 ID:F+w9/5ZT
まあ矛盾の根本が、書き手にとって興味のないことが
あまりにもおざなり過ぎる点にある。
書きたいものを書くのは正義だが、
書かなければならないところが適当すぎるから、
一旦問題点が出来ると一気に噴出する。
526創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 00:13:41 ID:j0db6vjK
>>521みたいなのは、逆説的に方がつくと思うが
まぁ破棄させたいんだろうな
八犬伝厨なのか刃鳴り厨なのか知らんけど
527創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 01:05:36 ID:q6xvtc5C
こういうとき、どうすればいいか知ってるかい?
書き手同士で話しあって決めるんだよ
これ以上読み手が口を出さずに
528創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 02:09:16 ID:9EB0uytn
通ったSSでも冷静になってから読み返すと矛盾が出てくるのは多々あるよ
把握で読み直す時なんか特に
529創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 02:18:54 ID:q+nod6m1
書き込みテスト
530 ◆F0cKheEiqE :2010/06/18(金) 02:21:38 ID:q+nod6m1
規制のため、避難所に投下しました。

代理投下は・・・・議論が終わってからかな?
531 ◆EETQBALo.g :2010/06/18(金) 02:32:23 ID:P9VdFo/1
それでは、面倒なフラグを立ててしまった者として久々にトリ出します
>>510-511>>517は私です

赤音の刀の件については、赤音との再戦までは伊烏が死守すべき刀なので
行李から出してわざわざ卜伝に見せびらかすというのは考えにくいです
卜伝が刀の譲渡の話を振るとすれば、腰に差している二刀のみでしょう

>>511>>517で書いたように、時代の差による価値観の相違で
その場に残していくという流れの方が自然なように思います

>>521の返り血の件に関しては一文あれば問題ありません


>>530
仮投下乙です
532 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/18(金) 06:41:01 ID:/nXsRVcj
>>531
「かぜ」に関しては、確かに行李に入れたままの方が自然かもしれませんね。
では、「かぜ」関連の部分は削除し、「かぜ」は伊烏の行李に入れられたまま放置された、という形にしたいと思います。
ここの卜伝は本調子だと強気キャラのようなので、行李を中身も確かめずに無視してもおかしくはない、と思うので。

返り血に関しては、私としてはどちらも着替えずにそのまま、というつもりでした。
伊烏は返り血を気にしていましたが、卜伝は方針が皆殺しなので返り血には無頓着で、
卜伝が血まみれなのに伊烏だけ着替えるのは無意味だとおもったからです。
彼等が返り血を浴びた姿であったとしても、五百子や毛野が特別に警戒するとは私は思いません。
五百子も毛野も、(殺した相手が弟子や無辜の人でさえなければ)殺人自体を忌避している訳ではなく、
仮に、弥九郎やオボロ、只三郎に逃げられずに斬殺できていれば、彼等も卜伝たちと同様の姿になっていた訳ですし。
ただ、卜伝は伊烏にひそかに脅威を感じていたという設定なので、
伊烏が情報収集の為にどうしても着替えが必要だと主張すれば、従うかもしれませんが……

>>530
仮投下乙です。
あなたの作品の投下を妨げる形になってしまい、申し訳ありませんでした。
533 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/18(金) 06:48:55 ID:/nXsRVcj
あ、すいません。
ちょっと思い付いた事があるので、やっぱり二人は着替えようとしていた、という事で行きます。
書く前に少し調べ物をしておきたいので、修正部分の投下は月曜頃になると思います。
534 ◆EETQBALo.g :2010/06/18(金) 07:35:18 ID:P9VdFo/1
>>532
返答いただきありがとうございます。

「かぜ」の件はそれで納得できました。
返り血の件は、確かに現代人の伊烏とそれ以外の参加者とでは
価値観や常識に差異があるので、特に重視するほどでもないですね。
女子高生やよほど厳格な不殺主義の参加者でない限り、このロワの人達は無頓着でしょうし。
535創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 11:51:46 ID:T64chDfU
一応、議論には決着がついたようなので、
F0cKheEiqE氏の作品を代理投下します
536創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 11:52:29 ID:QCcKgNVj
支援

――虎よ!虎よ!
――ぬばたまの 夜の林に燃ゆる虎よ
――いかなる不死の眼 または腕の
――よくも作りし ながゆゆしき均整を




藤木源之助は姓も持たぬ百姓の倅である。
本来ならば、粟本村の松の木で縊れ死ぬ運命にあった愚鈍の子である。

そんな源之助を運命より拾い上げたのが岩本虎眼である。
凡百の百姓の一人として、声無き民衆の群れの一人として、歴史の波に消えていくだけの筈だった彼を、
藤木源之助という侍とし、『一虎双竜』の一角を占める剣士として育て上げたのは虎眼である。

故に、虎眼が如何なる理不尽を源之助に与えようとも、
人に対する物とも思われぬ酷い仕打ちをしようとも、
老いて曖昧となりて、醜さ無様を目前に曝そうとも、
源之助は一度たりとも師を軽蔑したり、憎んだりする事は無かった。

むしろ、師よりかかる扱いを受ける自身の未明を恥じ、
一層、虎眼流の鍛錬と、師の世話に粉骨砕身した。

故に、虎眼と柳生連也との戦闘で、師に物の様に扱われた事自体は、
源之助にとっては大した問題では無い。
士の命は士の命ならず、主君のものに他ならぬ。
さすれば、主君が士の命を如何様に扱おうとも、士はただ黙して主の命に従うのみ。
牛股権左衛門が両の頬と歯の半分を虎眼に斬り裂かれながらも、
さような事を仕出かした師に対し、一片たりとも怨みをいだいていなかったように、
源之助もまた、虎眼に斬られた事を怨むどころか、むしろ不用意に主の道行きを塞いだが故の無礼討ちと、
自身で納得するのみならず、むしろあの程度の殺気の籠らぬ太刀打ち一つで済まされた事に安堵した程だった。

現代人には理解できぬ思考様式だが、
藤木がかかる奇怪な思考様式に至るのも無理はあるまい。

士の命は士の命ならず。
主君のものなれば、
主君のために死場所を得ることこそ武門の誉。

封建社会の完成形は、少数のサディストと、
多数のマゾヒストによって構成されるのだ。

だとすれば、
百姓の生まれでありながら、その心意気は生粋の侍以上に侍である源之助が、
師である虎眼を怨むなど、天地がひっくり返ろうとも在り得ぬ事だ。

故に、体の未だ動かぬ源之助に去来する思いは、
自身の体が、虎眼の必殺の太刀を止めてしまった事、
ただ師が目前で討たれるのを見ている事だけしか出来なかった事への、
深海の如く深い慙愧の念に他ならなかった。



麻痺より回復した藤木源之助は、
当初、死せる虎眼の後を追って、
腹を十字に斬り喉を突き殉死するつもりであった。

実際、師の亡骸より木刀を引き抜き、
衣を但し、行李の内にあった手拭いを顔に乗せると、
その傍らで諸肌脱ぎになり、柄を外し、
行李より出した懐紙で覆った脇差を腹に当てる……所までいったのである。
(なお、目釘抜きと木槌は、連也の残した木刀を削って自作した)

師の仇を討たねばならぬ…そういう思いが無い訳ではない。
いや、柳生連也斎への復讐心は、藤木の体を突き破って飛び出さんばかりの強烈さがあった。

しかしそれ以上に藤木の心を支配していたのは、
自身の責任で師を死なせてしまった事への後悔と、虎眼への謝罪の念であった。

『史実』に於いては、虎眼の死骸を目前とした際、その死を認められず、
死骸の喉より血を吸い出すと言う奇行に至ったほどに乱心した藤木源之助である。
その源之助が、師の死を前にして『ただ見る』ほか無く、乱心すら出来きず、
ただ体の麻痺が解けるまで微動さえあたわず、ひたすら思い詰める他なかった…

虎眼の死を目前にした衝撃と、その死に臨んで何事も為し得なかった罪悪感は、
体の動きを封ぜられた時間の思索により熟成され、重しとなって源之助の心を押し潰した。


――追い腹切るほか無い


事に臨んで何も為せぬ木偶侍に残された奉忠のスベは、
主の黄泉への道程の供を務める事を除いて在りはしない。
源之助はそう決断し、殉死の決意を固めた。

そして、
さあ、いざ腹を横一文字に斬らん、とした正にその時、
遠方より鐘の音が、すぐ傍の城下より太鼓の音が鳴り響き、
しかと源之助の耳朶を打ったのである。
除夜の鐘は煩悩を払うというが、
予期せぬ鐘の音に、切腹の瞬間の集中をかき乱された源之助は、
一旦、腹より切っ先を外し、集中を乱す鐘・太鼓の音に耳を遣った。

暫時、鐘と太鼓の音を聞いていた源之助だが、
すぐに興味を失うや、再び、腹に切っ先を押し当てる。

鐘、太鼓の音が鳴り響く中、
源之助の脳内に、何処から聞こえて来たとも知れぬ不思議な老人の声が響く。

――御前試合参加者の皆様、急な呼び出しに快く応じ…

しかしその声を一切気にすることなく、腹に当てた切っ先に力を込め、

――御前試合開始より日の出までの間に亡くなられた方は以下の通り…
――犬塚信乃殿の内、御一方
――岩本虎眼殿

そこでピタリと手が止まり、

――伊良子清玄殿

その名を聞いた時、源之助は自身の心臓が高鳴るのを確かに聞いた。





――いかなるを ちのわだつみ または空に
――なんぢがまなこの焔ぞ燃えたる
――何の翼にそも神は乗りて行きし
――何者の手ぞ その火を敢て捕へたる
540創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 11:56:17 ID:QCcKgNVj
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川辺に造られた盛り土の上には、
小さな積み石の墓標が置かれ、その傍らに脇差が一振り捧げられている。

自身が造った師匠の墓を見詰めながら、源之助は初めて涙を流した。

「……先生」

――先生の跡目、この藤木源之助が見事継ぎ申します

源之助は、胸中でそう決意した。


宿敵、伊良子清玄の死を知らされた時、
この御前試合の中で初めて行李より人別帖を取り出し、見た源之助は、
亡き師、岩本虎眼と、伊良子の名の上に何時の間にか血の朱線が引かれている事に気が付いた。

――伊良子清玄が死んだ

藤木源之助の脳裏を過ったのは、
元和八年、虎眼流道場に初めて姿を現した、
まだ盲いる前の伊良子清玄の姿であり、
あの時感じた、彼の芳香であった。

次いで彼の脳裏に飛来したのは、

――虎眼流の跡目

と言う言葉である。

どうして今の今までその事に思い至らなかったのか。
清玄の魔剣により近藤涼之介、宗像進八郎、山崎九郎右衛門、丸子彦兵衛、
源之助の手に依る粛清により、興津三十郎といった有力高弟、“虎子達”をことごとく失い、
虎眼が名も知らぬ柳生の剣客に討たれ、
伊良子清玄が誰とも解らぬ剣客に討たれた今、
残された虎眼流を引き継げる者は…

――自身、藤木源之助を置いて、他に誰がいるであろう

源之助の耳に、あの白州の柳生の老剣客の声が響く。

――勝ち上がった者には、古今東西天下無双の称号を与え、また如何なる願いとて聞き届けよう……

源之助は理解した。
自身の真に為すべき事、それは仇たる柳生の剣客を討ち、
残れる剣客五十七名、その悉くを斬り殺し、
それを踏み台にして、

――天下の虎眼流と為す事である

それが、ただ一人残された己の役目…
藤木源之助はそう、認識していた。
542創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 11:57:24 ID:QCcKgNVj
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虎眼の墓に黙祷を捧げた源之助は、
その手の内の包みをあらためて見た。

師の墓を掘る際に、偶然、茂みの中で見つけたそれは、
細長い油紙の包みで、真田紐で厳重に雁字搦めにされている。

油に浸された真田紐の封を解き、
三重の茶色の油紙、二重のハトロン紙の厳重な包みを開けば、
中から大小の絣文様の刀袋が出て来る。

二つの刀袋から出て来たのは、
二尺四寸肥後拵えの打刀に、一尺三寸同拵えの脇差である。
抜けば刃紋も見事な玉散る利刃で、表に見事な『剣巻龍(倶梨伽羅とも)』の、
裏には『竹林虎』の彫り物がある。
この刀身彫りの見事な点は、その美術性もさることながら、
刀身の強度を出来るだけ損なわない用に工夫されている点だろう。

この大小と共に包みに内封されていた懐紙には、
かくの如く記されていた。

『 一竿子近江守二尺四寸
同作脇差一尺三寸 』

『一竿子近江守』なる刀工には源之助は聞き覚えが無かったが、
(これは当然で、元禄年間に活動した一竿子忠綱を、寛永年間に生涯を終えた源之助が知る筈がない)
彼も一流の剣客であり、美術的評価は兎も角、剣の良し悪しならば一見にて知れる。
些か華美のきらいはあるが、良き刀であることに違いはあるまい。

源之助、この差料を、己の血染めの腰間に差した。
今、源之助が来ている衣は、源之助自身の物では無い。
亡き師、虎眼の死に装束を、自身の衣を取り替えて着ているのである。
それは、この戦いに、師匠の魂を同行させたいという、源之助の思いがさせた事であった。

源之助は気づいていない。
虎眼の死に装束の深い血痕が、虎眼の血と、連也斎の返り血が為した血曼陀羅文様が、
虎眼の死相を描いていたことに。
師の魂は、確かに彼と共にある。

股立ちを取り、襷を掛け、鉢巻をしめる。
出陣の準備は済んだ。懐中の霊珠に少し手をやって、源之助は暁を仰ぎ見た。
しばし陽光を見上げていた源之助は、戦場への第一歩を踏み出す。

果たして彼が向かった先は…
544創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 11:58:20 ID:QCcKgNVj
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「―――ッ!?」
「あっ、目を覚ましましたか」

目を覚ましたトウカの目に飛び込んできたのは、
自分の顔を覗き込む二人の男の顔である。

片や、三十がらみの月代頭の温和そうな顔の男。
片や、首に襟巻きを巻いた、十代の爽やかな美少年である。

「ここは…?」
まだうすぼんやりとした意識で、トウカは二人に尋ねた。

「旅籠“やませみ”の一室です」
答えたのは、月代の男―山南敬助―である。
トウカが首を廻して周囲を見れば、
天井の木目と、山南、襟巻の少年―烏丸与一―両名の顔、障子の開けられた窓から覗く、
遠く東の空から昇らんとんとする暁の光を見る事が出来た。

(やませみ…?)
(ああ…たしか…)
(“センゴク”殿と最初に…)
(…センゴク?)
(…センゴク!?)

トウカの背中に冷たい予感が通り過ぎる。

「セ、センゴク殿はっ!?」
被せられた布団を撥ね退けて、発条の如くトウカは上体を起こした。
ジクジクと、腹部に痛みが広がる。

「――ッ!?」
「ダメです、そんな激しい動きをしては!貴方の傷は浅くないんですよ!?」

見れば、着衣が改められ、平素の唐風の服から、軽い無地の襦袢に着せかえられており、
腹には、サラシか何かが巻かれている様な感触がある。

「――センゴク殿は…」
「えっ?」
「センゴク殿は…某と一緒にいた墨染の着物の御仁は大丈夫でござるかッ!?」

腹部を右手で押さえ、顔を痛みに歪ませながらも、
トウカはハッキリとした口調で山南と、与一に問うた。

この問いに与一は顔を蒼褪めさせ、山南は顔を曇らせた。
両者の反応に、トウカは最悪の事態の気配を感じつつも、
敢えてその先を視線で問う。

「すまない…我々が君を見つけた時には…」
「申し訳ござらん…拙者達が…もう少し早くついておれば…」
546創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 12:01:07 ID:QCcKgNVj
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予感はしていた。
彼女の記憶に残る最後の情景は、
シシオマコトなる異形の武芸者の操る切っ先が、
センゴク、久慈慎之介の心の臓を貫きつつ、自身の腹を突きさした場面である。
心臓を貫かれて、その後も生命を全うできる可能性の殆ど無きが如し事は、誰もが知る所だ。

「そうで…ござるか…」

トウカは俯いて、布団の端を握りしめた。
余りにも強く握りしめたが為に、布団の布が破れんと思うほどであった。

「不甲斐…ない…」

トウカはそうしゃがれた声で絞り出すように言うと、そのまま俯いて沈黙した。

山南も、与一も、彼女に掛ける言葉を何一つ持っていなかった。



「貴殿達…その…名は何と…?」

暫時あって、トウカはおもむろに口を開いた。

「名?…ああ、私は山南敬助と言います」
「拙者は烏丸与一と申す」
「では、山南殿、烏丸殿…某はトウカ。エヴェンクルガのトウカ…」
「貴殿らに折り入って頼みがある。貴殿らの差料を一振りお借りしたい…」
「?…何故です?」

ここでトウカが口にした内容は、山南、与一の両名の想定をはるかに超えた物であった。

「…腹を切る」
「な、何と!?」
「な、何故です。若い娘があたら自らの命を粗末に…」
「――某はッ!」

叫んだが故に、腹の傷が痛んだが、トウカは一向に気にせず、言葉を続ける。

「某は、某はッ!センゴク殿を死なせてしまった!」
「センゴク殿は…あの剣鬼相手に最善を尽くしていた!」
「それなのに某が…某が…」
「センゴク殿の足を引っ張ってしまった」
「某が…某が…センゴク殿を…」

「センゴク殿を死なせてしまった…」


――浪子の病は治らぬか
――ごうごうごうごうなる汽車は
――武雄と浪子の別れ汽車
――二度と逢えない汽車の窓
――哭いて血を吐く不如帰
548創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 12:02:45 ID:QCcKgNVj
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血を吐く様な言葉を紡ぐトウカに、与一は何と言ってよいか見当が付かず、
山南は、ただ険しい表情で彼女の言葉を黙して聞いていた。

「だから…腹を切って…切って詫びを…」
「――士道不覚悟」
「…何ィ!?」
「や、山南殿!?」

予期せぬ山南の辛辣な言葉に、トウカは目をむき、
与一は思わず狼狽した。

「山南殿…何をいきなり…」
「与一君、お静かに!…貴方は桃香殿と言いましたな」
「…」

山南は、厳しい口調でトウカに言った。

「センゴク…と申す御仁と、貴方の関係を私は知りません」
「しかし」
「その仇討ちも済まぬ内に、腹を切るとは…士道不覚悟も甚だしい」
「ひょっとすると、センゴク殿を斃したであろうあの怪剣鬼…」
「彼を打ち斃す自信、覚悟が無いから左様な事を…」

「 山 南 ど の ! 」

ここで、与一が口を挟んだ。

「いくらなんでも言っていい事と悪い事が…」
「いや、いいのだ与一殿…」
「トウカ殿?」

トウカは山南に微笑んだ。

「良い人なのだな、貴殿は。見ず知らずの某に左様な言葉を…」
「いえ…」

トウカは山南の言葉の意図を理解していた。
山南は、トウカの慟哭を聞いて、彼女が性、善なる乙女であることを見抜いた。
そして、この少女を、このような場所で死なせるのは偲びないと思ったのだ。
そして死に急ぐ彼女に残った闘志を焚きつけて、トウカの生きる意思を呼び起こさんと思ったのだ。
これが同じ新撰組でも、芹沢鴨ならば、面白がって切腹を煽っただろうし、
近藤、土方、あれば、「介錯つかまつる」などと言っていたかもしれない。
(沖田はちょっと想像が付かない)

しかし山南は、新撰組きっての穏健派で、
その死に際し、鬼の副長、土方ですら涙したと言われる有徳の人である。
見ず知らずの少女とは言え、死に急ぐトウカをそのまま見ている事など出来はしなかったのだ。

「有難う…某、少し元気が湧いて来た」
「それならば…重畳」

与一は、予期せぬ展開に、少し狼狽した。



――そも亦何の肩 何のわざの
――よくも捩リしなが心臓の腱を
――またその心臓うち始めたるとき
――用ゐられしは何の恐ろしき手 何の恐ろしき足




「本当に大丈夫ですか?」
「山南殿…大丈夫でござる…」

少し苦しそうにしながら傍らを歩くトウカを、山南は気遣った。
血戦を潜り抜けて来た歴戦の新撰組隊士である山南は応急手当の方法ならばある程度通じているものの、
逆に言えば応急手当以上の事は、流石に外科の蘭医か、金倉医に頼らねばなるまい。

故にトウカの怪我の治療は、傷口に膏薬を塗り込んで、
ニカワを塗った紙で無理矢理傷口を塞ぎ、サラシで巻いて固定しただけなのだ。
本来ならば安静にしているべき所だが…

(二十三人…余りにも死人が多い…)

「やませみ」で情報交換をしていた彼らの耳に飛び込んできたのは、
鐘の音、太鼓の音、そして、死者を告げる忌々しい主催者の声であった。

告げられた死者の名は二十三。
その中には、山南の元同士、新見錦、
それ以外にも、仏生寺弥助、清河八郎といった良く知った名もあった。
トウカがこの御前試合で知り合ったという座波間左衛門もまた、その中に含まれていた。
(幸い、与一の知り合いの名は無かった)

トウカの目前で連れ去られたという、
神谷薫の名が呼ばれなかった事に安心したのもつかの間、
人別帖に何時の間にか引かれた朱の線を見たトウカが、
「怪我などに構っておれぬ」と、朋友のオボロを探さんと、
出立しようとしたのがそもそもの始まりである。

山南も与一も、最初は安静にするようにトウカを説得したものの、
センゴクに死なれ、知り合ったばかりの座波にも死なれたトウカは、
かつてない不安に駆られていたのだ。

「仕方ありません…私たち同行しましょう」
「そ、そんな!貴殿達に迷惑はかけられませぬ!」
「いや、困った女性を放っておくほど、拙者達は無情では御座らん!」

すったもんだあって、結局同行することになった三人は、
一先ず、トウカの朋友たるオボロを探す事を第一の指針に、
旅籠「やませみ」を出立した。
「少し休みましょうか?」
「いや、本当に大丈夫でござる。お気づかいは嬉しいが…」

そうはにかむトウカの服装は、紺の小袖に、灰色の伊賀袴、ゲートルに革足袋、
そして縞模様の入った道中合羽に着替えられており、腰間には、見慣れぬ無骨な差料がある。
見れば山南の腰の物も、エクスカリバーから普通の日本刀に代わっている。

これは、トウカの応急処置の為に膏薬や包帯を探していた山南が、
「やませみ」の奥の部屋の桐箪笥から見つけた物で、膏薬やサラシと同じ道具箱に入っていたものだった。
直ぐには見つからぬ所にこう言う物を仕込んでおく辺りに、主催者達の底意地の悪さが察せられる。

見つかったのは都合三振りの差料。
トウカの薩摩拵えの同田貫と、
山南の相州無銘の二尺五寸の大刀、
そして与一の腰に木刀並んで差された、日本刀ながら、見慣れぬ拵えの緑鞘の刀である。

刀身に使われている鋼にも見覚えは無く、
山南には正体の知れぬ差料であったが、
それもそのはず、与一の腰間にあるのは、
明治期に入って作成された、軍刀拵えの村田刀であったからである。

村田刀とは軍刀の一種で、『村田銃』で著名な村田経芳が造った刀で、
刀身にはゾーリンゲン鋼が使用されている。
錆に強いばかりか、折れず曲がらず良く斬れると評判の刀だが、
実用第一で美術性が乏しい為に、現在では余り評価されてない不遇の刀である。
(そもそも、軍刀というジャンル自体、刀剣史での扱いが全般的に悪い)

特に、与一の腰間にある物は、村田経芳が自ら鍛えた代物で、
最初は「不殺」の精神を持つ与一は差すのを嫌がったモノの、
念のためと、山南が念を押すので、差す事になったのである。

ちなみに、山南の腰間にあったエクスカリバーは、
結局「やませみ」のさる部屋の床の間に置いて来た。
名刀には違いないが、西洋剣は、彼の肌には合わない。

「山南殿―っ!人影がー!?」

少し先行していた与一―彼自信が、用心の為の先駆けをかってでたのだ―の声が、
山南の耳に入った。

見れば、確かに、少し先の路上に、
恐らくは男だと思われる人影が背を向けて仁王立ちしている。

近づいて仔細に眺めれば、男はずぶぬれで、
着物には――

「――!大丈夫でござるか!?」

赤々と広がる血痕。
それも見た所返り血では無く怪我によるものである。
552創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 12:05:00 ID:QCcKgNVj
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見れば、確かに、少し先の路上に、
恐らくは男だと思われる人影が背を向けて仁王立ちしている。

近づいて仔細に眺めれば、男はずぶぬれで、
着物には――

「――!大丈夫でござるか!?」

赤々と広がる血痕。
それも見た所返り血では無く怪我によるものである。

路上に突っ立っていたのは気にかかるが、
怪我人を放ってはおけまい。

あまり人を疑う事を知らない与一が、
男に駆けよらんとする。

男が、首だけ動かして、与一の方を覗い見た。
その横顔は――

「!」
――― イカンッ!

男の背に殺気は無かった。
目にも殺気は無かった。
だが、むしろ異様に殺気を感じさせぬ据わった目付きだった。
山南敬助は、こういう眼をした男を一人知っている。
新撰組きっての暗殺の名人、『人斬り』大石鍬次郎――
彼も、たしかあんな眼をしていた。

「与一君!危ない!」
「えっ?」

俊足で与一に駆け寄り、
右手でその襟首をつかんで引きもどす。
左手は既に鯉口を切っていた。

もし仮に、与一へ制止の促しは言葉で留めて、
右手で最初から太刀を引き抜いていれば、あるいは山南は死なずにすんだかも知れない。
与一を思ったが故の一手の遅れ。
それが致命傷になった。

男が、腰間に手を伸ばし、振り向いた。
まだ、刀剣の間合いには遥かに遠い。
ああ、されど…

――死の流星は、遠く遠く伸びた

(切っ先が伸び――ッ!?)

男の刀身が暁を裂いて飛ぶのを見た一刹那後、山南敬助が思考出来たのはそこまでである。
男、藤木源之助の動きに、ようやく右手を柄にかけ、半ばまで抜いた所で山南の動きが止まる。
彼の頭蓋に斬りこまれた一竿子近江守の切っ先は、山南の意識を永遠に刈り取った。

猫科動物が爪を立てるが如き異様な掴みより、振り向きざま、
飛び込み・抜き打ちの『流れ』一閃―――
虎眼流は最小の斬撃で敵手を斃す。三寸斬り込めば人は死ぬのだ。
554創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 12:06:32 ID:QCcKgNVj
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「キ、キサマぁぁぁぁぁぁっ!」

額より血の尾を引きながら、仰向けに斃れる山南の姿に、
トウカが激昂する。
気炎を上げながら、腰間の同田貫二尺三寸を正に抜かんとするが…

「アグッ…」

腹部の激痛に思わず立膝をつく。
気合い一声を上げ、居合の為に素早く腰を捩じったが故に腹部の傷が開いたのだ。
腰のサラシに、血がジワリと滲む。

一方、与一は蒼天の霹靂の如き山南の突然の死に、
刹那、茫然としていたものの、トウカの叫びに自失より返り、
反射的に村田刀を抜刀、青眼に構えていた。
殺さずを信念とする与一に、木刀では無く真剣を抜かせたのは、
年若くとも卓越した彼の剣士の本能である。
彼の本能は認識していたのだ。目前の剣士、藤木源之助の危険性を。
しかし、本人は瞬時、思わず真剣を抜いてしまった事実に驚きつつも、
次の瞬間には、

「トウカ殿!逃げられい!」

と、膝をついたトウカに叫ぶ。
そんな与一の顔面に、迫る一つの流星!

(脇差っ!?)

振り切った『流れ』は二の太刀を生み出せぬ。
隙を生じさせぬが為に、源之助の腰間から左手によって手裏剣の如く抜き撃たれた脇差であった。

「クッ!」

稲妻の如き見事な脇差手裏剣であったが、対する与一も浮羽神風流きっての俊英、
迫る脇差を即座に打ち払う。打ち払われた一竿子近江守の脇差は、少し離れた地面に突き立った。

(ま、まずい!?)

与一は、次いで来るであろう山南を斃した奇怪な『延びる神速の横薙ぎ』を警戒し、
入身青眼で剣を盾の如く立てる。

しかし飛んできたのは『流れ』ではない。
恐るべき俊足に乗せて、飛来したのは藤木源之助の肉体その物である。

「!?」

青眼からの摺り上げ面の太刀筋。
これを与一、真っ向から受け止めるも、

(し、しまった!?)

源之助の一竿子近江守は、村田刀と刃を擦り合わせながら下方に流れ、
鍔と鍔、ハバキとハバキ、刃と刃がガッキと組みあう。

――鍔迫り合い
藤木源之助の最も得意とする戦形である。

虎眼流と言えば、余人は得てして『流れ』などの遠間の剣を連想しがちだが、
虎眼流筆頭の剣士である藤木源之助が得意とするのはその我慢強い性格から来る、
入り間の粘剣である。
一度この男に間合い深く入られれば、その剣は蛸の足の如く絡み付き、容易に離れる事は出来ない。

(マズイ、相手にペースを完全に握られている!)

間合いを取って、切り返しの太刀を放とうにも、
源之助の鍔迫りはまるでニカワの様にしつこく粘りつき、与一の太刀を完全に封じている。
これでは、たとえ間合いを離せても、切り返しを放つのは相手の方が先なのは明白だ。

(足払いを――)

――掛ける事は出来ぬ。
源之助が足を巧みに動かして、足払いを掛けさせぬ。
むしろ、源之助こそ隙あらば足払いを掛けんと狙っており、
それを警戒しつつ鍔迫り合いを行わねばならず、
どうしても与一は受け身の剣を取らざるを得ない。
この『虎』を相手に、それは余りに致命的だ。

ギチギチ、ガチガチ、キリキリと、
鍔と鍔、ハバキとハバキ、刃と刃が鳴って、気持ちの悪い音を立てる。

絡みあう二人の剣士の足が、
ザッ、ザザッ、と円を描く様に忙しなく動き、
その度に、バッ、バッ、と土埃が宙に舞う。

そうした攻防が幾度か繰り広げられた後、傍目には互角に見える均衡が崩れる。

「グゥッ!?」

与一が、源之助の粘り気の強い難剣を前に、遂に膝をついたのだ。
この好機を逃す阿呆はいまい。
源之助は、柄頭の左手を刃半ばの峰に持って行き、
一層強い力で与一を押し潰さんとする。
対する与一も左手を切っ先近くの峰に移し、
身を刀架の如くしてこれを受け止めるも、劣勢は明らかだった。

(もし、木刀であったなら…)

しかし劣勢とは言え、ゾーリンゲン鋼で鍛えられた村田刀は、
恐るべき圧力を誇る源之助の太刀を見事に受け止めている。

もし木刀でこの男に相対していれば、
如何に刃筋を立たせぬように相手の太刀を受け止めようとも、
とうの昔に木刀ごと圧し斬られいた筈だ。
その事を瞬時に見抜いただけでも、与一が充分達人である事を覗わせる。
だとしても…

(このままでは…潰される…)
この期に及んで息一つあげぬ源之助の鉄面皮に慄然としつつも、
劣勢を返す一手を必死に考え続ける。
このままではジリ貧なのは明白なるが故に。
557創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 12:07:56 ID:QCcKgNVj
支援
「ガッ…ガガガ」

だが、立ち合いとは非情である。
与一の策が浮かぶより早く、その体勢が崩れる時が来ようとしていた。

(ト、トウカ殿…うまく逃げ…)

――与一が正にそう考えた時

「慮外者!こっちを向けぇ!!」

視線を背後に流した与一の双眸に、疾走するトウカの姿が見えた。


(動け…動けこの体!何故に動かぬ!)

膝をついたトウカは、襲撃者・藤木源之助と鍔迫り合いを始めた、
烏丸与一への助太刀をせんとするも、正体不明の金縛りに襲われていた。

それは、トウカが思った以上に深かった志々雄に付けられた腹の傷が開いた事、
それに伴って、何とか騙していた志々雄戦による体の疲労が一気に噴き出た事、
そして…

――源之助と与一が『鍔迫り合い』という密着した状態にあること。

トウカは無意識に恐れていたのだ。
もし自分が飛び込んで行った正にその時に、与一の体を盾にされるのではないかと言う事を。

一先ずは切腹を思いとどまったとは言え、トウカの胸中の罪悪感消えた訳ではない。
罪悪感と、センゴクを志々雄に人の盾にされたと言う記憶は、不可分に結びついている。

――もし、与一殿を盾にされたら…
そういう無意識の連想が、強烈な感情と結びついて、重しとして、彼女の体と心を縛る。

そんな彼女を余所に、与一と源之助の立ち合いは佳境を迎えていた。
与一が膝をつき、源之助が攻勢を強める。
今はまだ耐えているが、圧し斬られるのは時間の問題だ。

トウカの視線が僅かに泳ぎ、そして視た。
額に傷を横一文字、山南敬助の死骸の顔を。
そうして想起した、久慈慎之介の死に様を。
かくして見た、今まさに圧し斬られんとする烏丸与一の姿を。

トウカの胸中にて、何かがはじける。
かほど彼女を苦しめた金縛りは一瞬にして破られ、
全身を駆け巡る闘志は、モルヒネの如く痛覚すら麻痺させる。

彼女は居合腰に構え、走った、絶叫した。

「慮外者!こっちを向けぇ!!」

559創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 12:09:09 ID:QCcKgNVj
支援
藤木源之助の双眸に一瞬「驚」の色が映る。
初見の際に身を崩した事、その額に浮かんだ汗より重傷を察し、
動けぬと踏んで与一に鍔迫りを仕掛けた源之助である。トウカの行動は想定外であった。

しかし歴戦の『虎』は知っている。
立ち合いでは予期せぬ事、望まぬ事は常に起こりうると。
故に源之助の『驚』は一瞬。鉄面皮のまま、与一の刀身を強く弾き飛ばす。

「ヌゥッ!?」

その反動で後方に飛びつつ、源之助は瞬速の切り返しを放った。
しかし相手は与一では無くトウカ…

――ビュン!
――キイン!

風を切る二つの音と、一つの金属音が鳴る。
横殴りの飛燕の如き切り返し太刀は、トウカの居合太刀に見事、弾き飛ばされる。

しかし源之助もサル者。弾き飛ばされた太刀を燕返しの要領で返し、
居合の勢いそのままに飛び込んでくるトウカを迎撃せんとする。

「浮羽神風流剣術一の太刀……疾!」

源之助の耳朶を、与一の声が打つ。
同時に、突如降って湧いた様な強烈無比な突風が、源之助の体を襲ったのである。

「ッ!?」

吹き飛ばされながらも、トウカへの牽制の横殴り太刀を放ったのは、流石、虎眼流剣士である。
たたら踏みつつも、流れる様に体勢を直すと、素早く八双の構えを取った。

それを見て、トウカの動きが止まる。
驚くべき事に、トウカは既に納刀している。
一体何時の間に納刀したのか、居合使いとは幾度か立ち合った事もある源之助も、
その刀の『再装てん』の速さには驚いた。

トウカは居合腰に、左手を鯉口、右手で鍔元を握りながら、じりじりと間合いを測る。
トウカは居合からの続けての立ち技が使えぬ訳ではない。そちらも充分に一流である。
しかし、この恐るべき剣鬼に相対するには、それでは及ばぬと、トウカは判断した。
故に、牽制の横殴り太刀をいなしながら飛びこむのではなく、敢えて引いて、納刀するのを選んだのである。

これは正解であった。
迂闊に虎眼流剣士の間合いに、ましてや藤木源之助の間合いに踏み込めば、
たとえ太刀を封じても、すかさず虎拳が飛んで来るからである。
561創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 12:10:18 ID:QCcKgNVj
支援
562創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 12:40:43 ID:Xp4zY/Y4
支援
トウカの右隣、少し間を置いた場所に、烏丸与一が遅れて来る。
先程までの鍔迫り合いと、その後の渾身の『疾』を放ったが故に、
肩で息をしているが、何とか、まだ戦えそうではあった。

源之助から見て右にトウカが居合腰のまま、
左に与一が青眼の構えで、じりじりと間合いを詰めんとする。
これに源之助は依然、八双の構えのままである。

現代剣道では殆ど用いられる事の無い八双の構えだが、
この構えの目的は、太刀を立てる事による敵への威圧にある。

殺気が隈なく満ちた不動の八双は、殺気を増幅させて与一、トウカに浴びせかける。
もはや与一、トウカの眼には源之助は人と映っていなかった。


――虎よ!虎よ!
――ぬばたまの 夜の林に燃ゆる虎よ
――いかなる不死の眼 または腕の
――よくも作りし ながゆゆしき均整を


餌食を裂いて喰らう、太刀を加えた猛虎がそこにいる。
霊感のある人間には、その背後の、白い総髪を生き物の如く逆立たせ、
太刀を八双に構えた一人の老剣客の亡霊が見えたかもしれない。
これに対し、疲労困憊の与一と、腹部の傷の痛みが、闘志を上回り始めたトウカには、
遂に挑み、飛びこむ事が出来なかった。

『虎』は背を向けた。
しかし二人は追わない、追えない。

『虎』は路傍の藪に消えた―――



戦いが終わって、闘志が抜け切った二人は、
山南敬助の死体の傍にどっと崩れ落ちた。

与一は、村田刀を地面に突き立てて、
茫然とした様子で空を仰ぎ見ていた。

――拙者のせいで…
――拙者のせいで山南殿は死んだのだ…

彼の心をむしばんでいた追い目は、
ここに及んで、最高潮に達していた。
疲労心労に依る自失から還れば、彼はそれと向き合わねばならぬだろう。
トウカは、跪き頭を垂れる様子で、
もう動く事は無い山南を見た。

――センゴクも山南も、共に過ごした時間は短くとも
――素晴らしい好漢であった事だけは、間違い無かった
――決して、こんな所で死んでいい人間では無かった

そして、二人は死んだ。
しかし、自分はまだ生きている。

「某は…」
「某は…何をやっておるのだ…」

トウカは慟哭した。腹に血がにじむのも構わず慟哭した。
与一は、その慟哭を、その傍らで茫然と聞いた。




――浪子の病は治らぬか
――ごうごうごうごうなる汽車は
――武雄と浪子の別れ汽車
――二度と逢えない汽車の窓
――哭いて血を吐く不如帰


【山南敬助@史実 死亡】
【残り五十六名】

【はの肆 街道/一日目/朝】

【トウカ@うたわれるもの】
【状態】:腹部に重傷(治療済み、再出血)、火傷数か所、深い悔恨
【装備】:同田貫薩摩拵え@史実、脇差@史実
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:主催者と試合に乗った者を斬る
一:某は…何を…ッ!
二:山南殿の仇を討つ
三:センゴク殿の仇を討つ

【烏丸与一@明日のよいち!】
【状態】疲労困憊、深い悔恨
【装備】村田刀@史実、木刀@史実
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:人は殺さない。
一:山南殿…ッ!
二:愛用の木刀を探す。
三:あの男(柳生宗矩)を倒す。
【備考】
登場時期は高校に入学して以降のいつか(具体的な時期は未定)


※山南敬助の死体の傍に、相州無銘二尺五寸@史実が、
旅籠「やませみ」の一室にエクスカリバー@Fate/stay nightが放置されています。



藪より出でて、源之助は街道に戻った。

彼が二人を『見逃した』のは、無論故あっての事である。
与一の放つ奇怪な『遠当て』の如き技と、
手負いの猪と化したトウカを警戒したが故である。
虎は熟練の狩人だ。だから知っている。
手負いの猪は、時に百戦錬磨の獅子すら屠る事を。
故に討つのは、傷から血が抜け落ち、息が上がり、
窮死の意気込みが抜け切った、その時で良い。

「・・・・」

――『浮羽神風流』と、あの少年は言っていただろうか。
聞いた事の無い流名だが、恐ろしく奇怪な太刀筋を使う。

虎眼流にも『遠当て』に類似する技法は有るには有るが、
『晦まし』はあくまで殺気を固めて矢の如く放つ業であり、
あの少年の技の様に物理的実体を持ってはいない。

ふと、源之助は路傍の立木に目を遣った。見目麗しい爛漫の紅梅の木がある。
腰間の一竿子近江守を抜き、大上段に構える。
屹立した源之助の剣は、ある種の威厳を備えていた。
神然たる切っ先に暁の陽光がぶつかり、玉となって四方に散っいく。

――ビャッ

空気を引き裂いて、裂ぱくの大上段が雷の如く振り下ろされる。
否、振り下ろされていない、振り下ろされたのは柄頭を握る左の手刀のみ。

それど…

一瞬、紅梅の木が膨張した。
否、膨張したのではない。
梅の枝葉にに爛漫と咲いていた満開の花が一斉に飛び散り、

――吹きたるは一陣の風

千万の梅の花弁は、薄紅色の奔流となって中空を流れた。

この光景を見て、源之助の頬は何時になく紅潮し、
鉄面皮の動かぬ唇が柔い弧を描いた。

――この太刀筋、研鑽すべき物
――再戦はその後ならんや

一竿子近江守を鞘に納め、新たな敵を求めて源之助は歩き出す。
名も知らぬ柳生の剣客を斃す為には、少なくとも後数人は、
『生き試し』し、胆と業を練らねばなるまい。

暁、昇るなか、一人の侍が、猛き心を孤剣に乗せて、只征くは修羅の巷。

―――藤木源之助はもはや『虎子』ではない。
―――『虎』であった。餌食を引き裂き喰らう、一匹の『虎』であった。



――槌や何なりし 鎖や何なりし
――いかなる鎔爐に なが腦髄はありし
――鐡砧は何なりし いかなる畏き手のよくも
――その死を致す怖畏を握りし

――あまつむら星槍を投げて
――涙に空をうるはせしとき
――神その創りし汝を見て笑みしや
――仔羊を創りし彼または汝を創りしや

――虎よ!虎よ!
――ぬばたまの 夜の林に燃ゆる虎よ
――いかなる不死の眼 または腕の
――よくも作りし ながゆゆしき均整を


―――ウィリアム・ブレイク『虎』


【はノ肆 街道(にノ参との境界付近)/一日目/朝】

【藤木源之助@シグルイ】
【状態】背中に軽傷(回復済み)、不動心
【装備】一竿子近江守@史実、岩本虎眼の死装束@シグルイ
【所持品】「忠」の霊珠、支給品一式
【思考】
基本:勝ち残り、虎眼流の最強を示す
一:敵を探し、「生き試し」を行う。
二:虎眼の仇、柳生の男(柳生連也斎)を討つ
三:『遠当て』の剣を研鑽する
【備考】
※人別帖を見ました。


投下終了

劇中で引用されているウィリアム・ブレイクの詩は、
寿岳文章氏の訳に依りました。
同氏による、現代語訳は以下の通り。
ttp://www1.odn.ne.jp/~cci32280/PoetBlake.htm

代理投下終了
568創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 13:53:06 ID:Xp4zY/Y4
藤木が人間辞めました
蓮也に死兆星が見える

ここにきてマーダーの強化が開始されましたな。
569創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 14:03:57 ID:Xp4zY/Y4
忘れていました。
乙です
570創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 17:26:53 ID:Al+LBDxI
代理投下乙です

追い腹の可能性もあったがそっちに行ったか…
山南は長く生きられないとは思ったがここで死亡か。残されたのは未熟で不安定な若者二人…
殺人ありと非殺のコンビとか不吉と内紛な予感しか浮かばねえw
そして若き虎は野に放たれたか…
571創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 18:27:37 ID:j0db6vjK
駿河城/シグルイのラス1覚醒か
俺も切腹かなと思ってたけど、その辺の心理描写が無理なくて良かった
投下乙です
572創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 21:02:26 ID:hH7Ew4Xr
乙でした
あーやっぱり山南さん死んじゃったかー
やっぱり早い段階で死ぬだろうなとは思ってたけど
そして源の字も物扱いされたくらいじゃ虎眼への
忠誠は揺るがないとは思ってたがやっぱりこうなったわな
573創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 23:02:26 ID:qXN6TwAE
重位、ト伝に続き、藤木覚醒か。
やばい剣客が次々に正体を現しつつあるなぁ。
今回の梅花が一斉に散るシーンや
重位覚醒話の師匠との対話シーンなんかを見て思うが、
F0cKheEiqE氏は視覚的に美しい文章を書くのが上手い。
574創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 05:47:19 ID:ZntuG/Bi
代理投下乙です
覚醒した藤木や山南さんという導き手を失った若者二人らが剣鬼蔓延る修羅の島で辿る道は、はたして生か死か?
各々の心理描写も良かったですし
これからの展開が楽しみになるいい話でした
575 ◆F0cKheEiqE :2010/06/19(土) 12:29:55 ID:577RCqbI
数々の感想レス感謝します

剣桃太郎、坂田銀時、柳生連也斎、高坂甚太郎

予約
576創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 19:03:39 ID:N4KCpZj6
乙です!
577創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 21:09:50 ID:mFnPnsJj
先の読めない面子
頑張ってください
578創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 05:23:01 ID:cdHnxJqp
資料室見てたら、「過失なき死」の件で些細な矛盾を見つけてしまったので一言だけ。
卜伝の参戦は1570年からなので、足利義輝はもう亡くなってます。

>>575
ギャグから凄惨な殺し合いまでこなせそうな面子ですね、楽しみです。
579創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 05:26:13 ID:cdHnxJqp
失礼、卜伝の参戦は1566年でした。どちらにしろ義輝は1565年に亡くなってますが。
580 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/21(月) 21:44:52 ID:RN/6Y0HU
代理投下乙です。
こちらも、>>468-476の修正部分を投下します。

まず、>>470の一段落目と、二段落目の一〜三行目を削除し、
代わりに、>>470の冒頭に以下の二つの段落を挿入します。


(また返り血を浴びる事になるな)
状況を読み、己がどう動くべきかを目まぐるしく計算しつつ、頭の片隅で、伊烏はそんな事を考えていた。
同行者である卜伝が毛野を襲った以上、伊烏も一味だと、毛野や五百子に思われるのは避けられまい。
卜伝の暴走に巻き込まれた形だが、この程度の事は、伊烏の予想の範疇でもある。
この傲岸不遜の老人が、ただの親切で伊烏の赤音探しを手伝ってくれる筈もないのだから。
五百子は好戦的な女のようだし、毛野は伊烏を怪しんでいた様子だから、卜伝がいなくても彼等とは闘っていたかもしれない。
それを考えれば、卜伝のお蔭で機先を制して戦闘に入れた訳だから、卜伝には感謝してもいいくらいだ。
もっとも、卜伝が城下を出て北に向かう事を主張しなければ、彼等と出会う事もなかったと思われるのだが。

卜伝の目的が他の参加者を殺し尽しての御前試合優勝であるのに対し、伊烏の目的は武田赤音一人を討つ事のみ。
一見、伊烏の目的の方が達成し易そうに思えるが、必ずしもそうとは言えない。
伊烏はあくまで自分自身の手で赤音を殺す事を望んでおり、赤音が他の者に殺されてしまえば、その時点で終わりだ。
赤音が簡単にやられるとも思えないが、この島には達人が溢れているし、赤音の手元には愛刀である「かぜ」がない筈。
故に、伊烏は少しでも早く赤音を見付けねばならず、その為には他の参加者への情報収集が欠かせない。
すると、今の卜伝や伊烏の、返り血に塗れた恰好は、あまり望ましいものではない、という事になる。
出来れば着替えたいところだが、卜伝ははじめ、難色を示していた。
何処に敵が潜んでいるかわからない状況で着替えなどしたら、襲撃の隙を作るだけだと言うのだ。
血を恐れて警戒するような軟弱者は、力尽くで情報を吐かせれば済む事だろうとも言う。
そんな卜伝が意見を変えるきっかけとなったのは、地図を見ながらの会話。
「何故、旅籠などがわざわざ地図に特記してあるのか」
それが疑問だと、卜伝は言ったのだ。
伊烏にしてみれば、旅人の利便性を考えれば、地図に旅籠の位置が書いてあるのがおかしな事だとは思えない。
まあ、そもそもこんな小さな島で、宿屋の需要がどれだけあるのか、という問題はあるが。
……今思えば、卜伝は「旅籠」が宿屋の意である事を知らなかったのかもしれない。
もしも、己が塚原卜伝だという名乗りが妄言でないのならば、十分に有り得る事だ。
とにかく、伊烏と話す内に旅籠という物を理解したのか、卜伝は急にそこへ向かうと言い出した。
宿ならば着物の一つくらい置いてあるだろうし、地図によると「やませみ」なる宿の周囲に他の建物はなさそうに見える。
つまり、あらかじめ「やませみ」内を捜索しておけば、奇襲の恐れなく着替えられると言うのだ。
そうして北に向かう途中で、卜伝と伊烏は五百子と毛野に出会い、闘う事になった。
彼等を斬ればまた血を浴びる事になるが、着替えた後にまた血塗れになるよりはずっと良い。
(旅籠に行ったら、替えの着物を何着か調達しておくべきだな)
581 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/21(月) 21:55:45 ID:RN/6Y0HU
続いて、>>470の下行から三行目と、>>473の上から五行目にある「かぜ」を、井上真改に変更。
加えて、>>473の上から七行目の「三本のみ」を「二本のみ」に、九行目の「神社」を「神社の方角に」変更。
また、>>472の下から四行目の「義輝か、」を削除します。

塚原卜伝の状態表の装備欄は
【装備】七丁念仏@シグルイ、妙法村正@史実
となり、
にノ参に残された刀は、
・奥村五百子の死体の傍に突き立った無銘の刀(五百子の手首付き)
・伊烏義阿の死体が握っている井上真改@史実
・伊烏義阿の死体の傍にある、伊烏の行李の中に入れられた藤原一輪光秋「かぜ」@刃鳴散らす
の三本となります。

修正は以上です。
582創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 22:19:38 ID:RN/6Y0HU
容量が限界に近いようなので、次スレ立てを試みてみます。
583創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 22:23:19 ID:RN/6Y0HU
無理でした。
どなたかお願いします。
584 ◆cNVX6DYRQU :2010/06/21(月) 23:11:03 ID:RN/6Y0HU
容量が不安なので、予約していた分は仮投下スレの方に投下しておきました。
585創る名無しに見る名無し