1 :
覇火威神:
自分の書いた小説をここに載せようと思っています。
うざいとか思われても仕方ありませんが・・・。
感想、評価などよろしくお願いします。
ちなみにジャンルは恋愛感動系にするつもりです。
では・・・。
あ、あと、なるべく叩かないようにお願いします。
2 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:43:23 ID:xYo+H261
第1章「出会いは始まり」
そよ風が頬をくすぐり、暖かく照らされているコンクリートの道路。
俺はその上を行く当てもなく、自転車で飛ばしていく。
電柱、ガードレール、対向車など、次々と視界に入っては、視界から出て行く。
もうすぐ急カーブが見えるはずだ。俺はこの道路を何回も自転車で走っているから、
ここの地図は頭の中に記憶されていた。
そして、案の定、カーブが見えてきた。
そのカーブをドリフトで曲がろうと準備をすると、後ろのほうから風の切る音が聞こえ、
振り返ってみる。そして、みるみると俺との差を縮め、突然つむじ風がおこり、俺を追い越していく。
あれは・・・親父!!
俺を追い越したのは親父だった。親父は有名な自転車の走り屋で、「鎌鼬の風」と呼ばれていた。
親父は急カーブに差し掛かった瞬間に、ありえないほどに自転車を傾け始め、横滑りを始める。
唖然としてしまうほどに、親父はうまい。しかし、ちょっとしたミスが命とりとなった。
自転車を傾け過ぎたのか、親父は横転してしまった。
そして・・・。
車のクラクションとともに、親父は何トンもの力で突き飛ばされ、路上に叩き落とされる。
横転した拍子に、運悪く車が走ってきたから、親父はそれを避ける術もなく車にはねられた。
俺「親父!?親父!!おやじーーーーーー!!」
3 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:44:08 ID:xYo+H261
???「のした・・起きろ・・!木下、起きろーーーー!!」
頭を誰かに叩かれ、鈍い音が響く。気づけばそこは教室で、午後の最後の授業だった。
頭を叩いたのは先生のようだ。
先生「ははは!俺の授業で居眠りするとは、たいした度胸だな!」
教室のあちこちから、クスクスと笑い声が聞こえてくる。
木下「ゲッ!しまった!寝てしまった!!」
先生「“ゲッ!しまった!寝てしまった!!”じゃねーよ!人の話ってか、
人の授業ぐらいちゃんと聞いてろ!放課後、居残りな!」
先生の顔は笑っているが、怒ってるようなオーラが俺を押しつぶしてしまうような威圧感を感じた。
木下「はーい・・分かりました・・。」
先生「よし!その間抜けな返事が気になるが・・素直だな。ちゃんと放課後残っていけよ?」
そして、先生は教壇に戻り、授業を再開する。
俺の名前は木下 龍一(きのした りゅういち)。大学生で、寮に住んでいる。
両親は、俺が幼いころに他界。お袋は病気で、親父は交通事故だ。
両親が亡くなってからは、親戚の家に預けられ、親戚の家で育っていった。そして、
はるばる遠くから来て、寮を借りて、この学校に通っている。
4 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:46:25 ID:xYo+H261
まもなく、授業の終わりを告げるチャイムが校内を響かせ、生徒たちは一斉に帰り支度を始める。
嬉しそうに学校の玄関まで走っていくものや、友達同士で楽しそうに話してるものもいる。
しかし、俺は・・・。
先生「木下!居眠りした罰だ。ついてこい。」
くっそー!思わず授業中に眠ってしまったのは不覚だった・・。
俺は教室から職員室まで先生の後をついていき、先生の机のところまでつれてかれた。
そこで先生は、俺に振り返り、申し訳なさそうに手を合わせる。
先生「木下、すまん。書類の整理してくれないか?」
木下「わかりま・・って、なんだこりゃーーー!?」
先生の乱雑な机の上には、とんでもない高さで書類が詰まれていた。
とても1時間で整理が終わるような量ではなかった。
木下「先生!俺にこんな書類の整理させるんですか!?普通、居残りといったら・・」
先生の気合の・・なんだっけ・・?ゲンコツが俺の頭に衝突し、頭から足のつま先まで、稲妻が走る。
先生「ばかもーん!木下!!お前が居眠りするから悪いんじゃないか!頭いいからって、
油断していると、いつか痛い目にあうぞ!人間、油断するときが一番怖いんだ!
・・・というわけで、書類の整理よろしくなっ!」
うっ・・・先生の顔は笑顔だが、怒りをつめこんだグーの形の手が怖い。
しょうがない、やるか。
木下「わ、わかりました・・。」
5 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:47:51 ID:xYo+H261
先生に教えられたとおりに、俺は書類を手際よく分ける。
早く帰りたくて、窓の外に目を向けると、大雨が降っていた。
そういえば、今朝の天気予報では『午後から大雨が降りますので、
外出するときは傘を持っていってください』って
言ってたっけ。
ちくしょー!居残りさえなければ、大雨降る前に自分の寮まで飛ばしていったのに・・。
職員室には先生の話し声、電話の音などいそがしく聞こえてきた。
時計の針が5時をさしたころ・・・。
木下「ふぅ〜・・終わった終わった〜!あれ?先生は?」
書類整理に夢中になっていて気づかなかったのかもしれない。
いつの間にか先生がいなくなっていた。
木下「ちょ、まじかよ!先生がくるまで、俺ここで待たされるのか!?」
一人で興奮してるところ、となりにいた若い女の先生が俺の顔を見て微笑むと・・。
女の先生「あら、先生がこないのかしら?」
木下「あー・・はい。どうすればいいんッスかね?」
女の先生「そうね・・じゃあ私があなたの担任がきたら、言っておいてあげるわ。今日はご苦労様。
もう授業中に居眠りなんかしちゃダメよ?」
女の先生はクスっと笑うと、またパソコンとにらめっこを始めた。
てか、なんで俺が居眠りしたこと知ってるんだ?聞いたのかな?
まぁ、いいか。さてと、帰るとするか。
6 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:49:47 ID:WFzhCdxk
俺は、職員室を出て、教室まで一目散。そして教室のドアを乱暴にガラガラっと開けたら、
少し薄暗かった。
自分の席まで行くと、すばやく自分のバッグをとり、そして回れ右をして、玄関まで走る。
木下「うぉっと!?」
そういえば、大雨降ってたんだな。折りたたみだが、傘持ってきてよかった。
大雨が激しく玄関の屋根を叩く音が耳に入る。
俺は折りたたみ傘を開いて、雨の中、足をあるかせるが、勝手に足が止まった。
学校の玄関の屋根の下に、大人しそうな女の子が困った顔をして、雨宿りしていたからだ。
近づいてみれば、落ち着いた雰囲気の女の子で、白いロングヘアー。俺の学校の制服をきている。
木下「よぅ!お前、傘ないのか?よかったら俺がいれてあげようか?」
と、声をかけてみた。
女の子「・・・とう。」
よく聞き取れない。
木下「ん?なんだ・・?」
女の子「ありがとう・・・。」
木下「いいって、いいって、困ったときはお互い様だろ?ほら、入れよ。」
俺は、女の子に傘をいれてあげ、二人で帰宅路地についた。
7 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:50:41 ID:WFzhCdxk
木下「お前、見かけない顔だな。」
女の子「今度、ここの学校に転校するの・・。今日は先生との説明会だった・・。」
なるほど、転校生か。俺と同じぐらいの年に見えるんだが、同学年なのだろうか?
転校生には歓迎して自己紹介するのが礼儀だろう。というわけで・・。
木下「俺の名前は木下 龍一(きのした りゅういち)。よろしくな!」
女の子「私は、火村 美恵(ひむら みえ)。よろしくね・・・。美恵って呼んでね・・。うふふ・・。」
変わったみよじだな。美恵は、少し嬉しそうだった。俺が傘いれてあげたからなのかは
わからないが、彼女が喜んでくれるならそれでいいか。
それより、彼女は部屋決まっているのだろうか。もし決まってなかったら、俺の部屋に
泊めてあげようかな。
ここで、はっきりいっておく。やましい心で、こう思っているわけじゃない。親切で思ってるんだ。
木下「そういえば、美恵。お前、部屋決まってるのか?」
美恵「部屋・・・?」
寮のことは何も知らないのか?
木下「この学校、寮制になってるんだ。もしまだ決まってなかったら、俺の部屋とまれよ。」
美恵「え・・?いいの・・・?」
彼女は申し訳なさそうな顔をした。
木下「いっただろ?困ったときはお互い様って。それに、女の子を野宿させるわけにはいかんしな。
最近物騒だし、おまけに寒いだろ?」
美恵「う、うん・・ありがとう・・。お世話になるね・・えっと・・木下君・・。」
8 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:51:27 ID:WFzhCdxk
よし、これで一先ず、安心か。
今夜は、可愛い女の子と一つ屋根の下か。
俺にとっては、初めて体験するシュツエーションだった。
親戚のうちにも、女の子はいたが、おじいちゃん、おばあちゃん、お兄さんもいるからな。
気がつけば、もう寮が見えてきた。俺は寮に指をさして。
木下「あれが俺たちの住んでる寮だ。」
美恵「うん・・・。」
寮の玄関に入り、傘をたたむ。階段を彼女のペースに合わせてのぼり、
俺の部屋の前まで来た。俺が部屋に指をさして。
木下「ここが俺の部屋だ。散らかっているが・・気にしないでくれ・・」
女の子に散らかった部屋に入れるのは、申し訳なかった。しかし、彼女は笑ってくれた。
美恵「ふふ・・。」
木下「へへっ・・。」
こんな感じで、笑い流しておくか。ポケットをあさって、鍵をとり、ドアに差し込む。
そして、ドアを開けて、彼女と一緒に部屋の中に入った。
部屋の中は、乱雑に積み上げられた少年漫画、DVDなどに床が占領されていた。
美恵「本当に散らかってるね・・・。」
木下「いやはや・・申し訳ない・・。」
美恵は、自分から進んで片づけを始めた。
女の子一人に片づけをさせるのは、悪い気がして、俺も片づけを手伝う。
2人で片づけをしたせいか、すぐに散らかっていた床は、綺麗になった。
9 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:52:27 ID:WFzhCdxk
木下「いや〜すっきりしたな。片付けてくれて、悪かったな」
美恵は微笑んだ。
美恵「ううん・・・男の子はどうしても部屋を散らかしてしまうから・・・。しょうがないよ・・。」
なんか、俺が子供みたいに言われてる気がするが、そう言ってもらえると助かる。
木下「片付けしたら、腹減ったな・・。カップラーメンしかないんだが、美恵は食うか?」
美恵「カップラーメン・・・?」
台所の、ダンボール箱をあさるが、カップラーメンは空っぽだった。
こうなるなら、もっと早くカップラーメン買っておけばよかった。
今から買いにいくのもいいけど、外は大雨。
カップラーメンのために、大雨の中、のこのこと歩いていくのもだるさを感じる。
木下「悪い、美恵。カップラーメンなかった」
美恵「ううん・・・いいよ・・。私が作ってあげよっか・・・?」
え?料理作れるのか?と思うが、思わず・・。
木下「ああ、悪い。頼む。」
と言ってしまった。ちなみに俺が料理すると、ひどい味になるらしく、
同級生を、そのひどい味とやらで気絶させ、危うく昇天させることさえあった。
少し心が痛んだが、俺が料理をすると、ひどい味になるから、ここは彼女に任せておく。
彼女が晩飯を作ってる間、暇なので、綺麗に収めた本棚から少年漫画を引っ張って
読むことにした。
しばらくすると・・・。
10 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:54:22 ID:WFzhCdxk
とても美味しそうな匂いが、俺の鼻を刺激し、それが脳へと伝えられる。
木下「もうできたのか?」
美恵「うん・・・残り物で作ってみたけど・・・」
美恵はそう言いながら、とても残り物で作ったとは思えないほどの豪華な晩飯を
持ってきて、ちゃぶ台の上に置いた。
木下「す、すごい・・・!これ本当に残り物なのか!?これは、どんな一流の料理職人でも
まねできないぞ!!」
美恵はくすくすと笑う。
美恵「あはは・・オーバーだよ・・・。」
そして、気になるお味のほうは・・・。
木下「う・・・うまい!!こんなおいしい飯は初めてだ!」
美恵「あ、ありがとう・・。」
彼女は、少し赤くなって下にうつむく。あんまり俺がオーバーになるものだから、
恥ずかしいのか?
でも俺が一番嬉しかったのは、料理の隠し味だ。
俺のためにがんばって作ってくれたという気持ちがこの料理の一番のおいしい秘訣だと
俺は感じた。
美恵「木下君が、そんなに喜んでくれて嬉しいよ・・・」
木下「本当にうまいぜ!これで喜ばないほうがおかしいよ」
その時、玄関のピンポンが鳴る。
木下「ったく・・誰だよ、こんないいところで・・。はいはいー・・。」
11 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:55:08 ID:WFzhCdxk
俺はそう言いながら玄関のドアを開けた。俺の大学の友人、
古山 火助(ふるやま ひすけ)だ。
火助「よぉ、龍一、この前お前に借りた本を返しに・・・」
火助は奥のほうを見ると、フリーズ状態になり、火助の手から本が滑り落ちる。
や、やばい・・こいつ興奮すると・・。
火助「う・・・」
木下「う・・?」
火助「うおおおおおおおおおおーーーー!!」
火助は、暴走したまま勝手に俺の部屋に入り込んだ。そして美恵の目の前に飛び、着地を
決めると。
火助「龍一ぃーーーー!!この美少女は誰だぁああああーーー!!お前!いつの間にっ!!」
木下「お、落ち着け!つーか、人の部屋勝手にはいるな!!」
美恵「木下君のお友達・・・?初めまして・・・火村 美恵だよ・・美恵って
呼んで・・よろしくね・・。」
火助「は、初めまして!お、俺、古山 火助です!火助って呼んでくれ!」
このように火助は、可愛い子を見たりすると、一時的にフリーズ状態になり、暴走
する癖がある。気をつけないとやばいな・・・まじで・・・。
火助「それよりも、どうです?俺と付き合いませんかっ!?」
美恵「え・・・?そ、それはちょっと・・・」
その言葉を聞き、俺は火助の頭にかかと落としを決める。
火助「ふがっ!?」
木下「どこの世界に、初対面でそんなこと頼むやつがいるんだよ!!美恵が困ってるじゃないか!」
火助「いいじゃないかー!龍一!お前、女の子を独り占めする気か!?」
そういわれた瞬間、俺は顔が赤くなる。
美恵「木下君・・顔が赤くなってるよ・・・?可愛い・・・。くすくす・・。」
火助「ほらみろ〜!お前にもやましい心があるじゃないか〜!男ならつつみかくすな!」
何がやましい心だ!!この変態野郎!!
木下「こ、ここここここれは!違う!断じて誤解だ!!誤解しないでくれーーーーー!!」
俺の声が寮中にこだました。
その後、3人で学校の話や、俺たちのことでいろいろ会話が盛り上がる。
火助は、赤点課題があるため、自分の部屋へ帰っていった。
そして俺の部屋は、また俺と美恵の二人きりだけになってしまった。
12 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:56:55 ID:WFzhCdxk
美恵「明るい子だったね・・・。」
木下「いや、あれはただの変態野郎だ!」
美恵「うふふ・・・。」
美恵があくびをし始めて、時計を見れば、ずいぶんと話こんでたらしく、
とても遅い時間を示していた。
木下「そろそろ寝るか!」
美恵「うん・・・おやすみ・・・。」
木下「と、その前に、美恵、俺と一緒にベッドで寝るか?」
予備の布団は持ってなかったので、しょうがない。
美恵「うん・・いいよ・・・おやすみ・・。」
美恵はもぞもぞと俺のベッドの上に寝転んだ。
木下「おやすみ!明日からよろしくなー!」
俺は電気を消し、美恵と同じく、もぞもぞとベッドの上に寝転ぶ。
そして、俺と美恵は、意識を眠りの底へとしずめていく。
13 :
覇火威神:2009/09/18(金) 01:59:00 ID:luRkK69/
気づいたら、俺は自転車に乗り、暖かく照らされた道路の上を走っていた。
そして・・
親父「どうだ?龍一。たまには俺と道路を走るのも気持ちいいだろ」
木下「ああ・・。本当にいい天気だし、サイクリングにはもってこいだな。」
どうやら、親父と一緒に自転車で走っているようだ。
そして急カーブが見えたころ、親父は俺にニヤニヤと笑ってみせる。
木下「なんだよ、親父。ニヤニヤ笑ってきもいぞ。」
親父「龍一・・俺を追い越してみろ!」
そのまま親父は、スピードをあげで俺との差をぐんぐんのばしていく。
俺は向きになり・・。
木下「くそ!人のこと馬鹿にしやがって!親父なんかに負けるかよ!!」
そのまま俺もむきになって、自転車を飛ばしまくる。
しかし、追いつくどころか、親父は俺との差を広げる。
親父「はははは!俺を追い越すには10年早いな!」
木下「ちくしょう!!」
親父がカーブにさしかかったとき、車のクラクションとともに、
周りが真っ暗になり、まるで車と親父が衝突した大きな音ともに、
俺の視界にヒビがはいり、ガラスのように割れた。
そのガラスが割れる音は俺の耳に入り、次々と心に突き刺さる。
木下「親父!待ってくれ!俺を置いていかないでくれ!!」
暗闇の先に親父が自転車で走る後姿が見え、どんどん小さくなっていく。
木下「親父!!行かないでくれ!!親父ーーーーー!!!」
あわてて上半身を起こして、全速力で走ったように息がきれていた。
どうやら、夢をみていたらしい。
14 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:00:21 ID:luRkK69/
木下「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・親父・・。」
美恵「・・ん?木下君・・・?」
一緒に寝ていた美恵も起こしてしまった。
悪いことしたな・・。
美恵「大丈夫・・・?木下君・・すごい息切れだし・・汗もでてるよ・・・?」
木下「起こしてしまって悪いな・・悪い夢見てた・・・」
美恵は上半身を起こして、心配そうな顔をした。
いつの間にか、美恵は上着を脱いでスリップ姿になっていた。
美恵「もう大丈夫・・・」
木下「え・・?」
美恵は俺を優しく抱いて、優しく頭をなでる。
美恵「悪い夢を見るのは、心に暗い部分があるから・・・。」
その時、月の青い光りが、美恵の白い長い髪を照らし、白い髪は青白く見えた。
美恵「木下君の心の中には、傷があるのかな・・・。でももう大丈夫・・・私が、癒してあげるからね・・。」
美恵は微笑んだが、その微笑んだ顔はお袋そっくりだった。
木下「お袋・・。」
美恵「え・・・?」
木下「いや・・なんでもない・・。」
美恵が、窓のほうを向き、青い月を見る。
15 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:01:25 ID:luRkK69/
美恵「ねぇ・・木下君・・私ね・・会いたい人がいるの・・。でももう長い間あってなくて・・」
木下「美恵の大切な人なのか?」
美恵「うん・・・いつも私を大事にしてくれて・・・。」
その時、美恵が青く美しく輝き、俺を見る。
美恵「もし、その人と出会えたら・・・」
そして、視界がいっきにまぶしくなり、鳥の鳴き声が聞こえた。
目を開けると、朝のすずしい朝日が部屋の入り込んできて、
ホコリを反射させていた。
昨日の夜のことは夢だったのか・・・?
<第1章 終わり>
16 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:02:21 ID:luRkK69/
第2章〜約束の場所〜
俺は、まだふらふらの身体のまま、ベットから降りると、
包丁がまな板を叩く音が聞こえてきた。
誰かいるのか?と思い、台所に顔を出す。
美恵「木下君・・・おはよう・・・。」
木下「ああ、おはよう。」
そうだった、昨夜、美恵と寝たんだな。
美恵は、笑顔で朝飯を作ってくれている。
木下「朝飯作ってくれてるのか?」
美恵は笑顔のまま振り向くと、
美恵「うん・・!そうだよ・・!」
なんて美恵はいい子なんだ・・。俺の彼女にほしいくらいだ。
と、思いながら、洗面所へ足を動かす。
蛇口をひねり、冷たい水を顔にかけ、目を覚ます。
タオルを手に取り、顔を吹いて、洗面所を出る。
美恵「はい・・・!朝ごはんできたよ・・・!」
美恵は笑顔のままだ。テーブルの上を見ると、
ご飯、味噌汁、目玉焼きなど、朝のメニューが綺麗にならんでいた。
そして、おいしそうな匂いが俺の鼻をくすぐる。
木下「おお!うまそうだな!食べるぞ!」
美恵「召し上がれ・・・!」
味のほうは・・・。
木下「んまい!やっぱり美恵は料理うまいなぁ〜!いいお嫁さんになるよ!」
美恵は照れて、顔を赤くする。
美恵「え・・・あ・・そ、そんなことないよ・・・。」
いや、でも美恵なら、絶対いいお母さんになる。
掃除もするし・・料理もうまいし・・おまけに優しい・・!
これこそ男が求めている、理想の女の子!
と、思ってるときに玄関のチャイムが鳴り出す。
木下「あーもー!誰だよ!ったく!」
俺が出ようとすると、美恵が制してきた。
17 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:03:31 ID:luRkK69/
美恵「わ、私が出るから、木下君はゆっくりしてね・・・。」
なんていい子なんだ・・。美恵は、玄関まで走ってドアを開ける。
火助「美恵ちゅわわわわわ〜〜〜ん」
美恵「きゃあっ!」
美恵の悲鳴が聞こえた末、俺が玄関に飛び出すと、火助が美恵に抱きついていた。
木下「ひ・・火助・・てめぇ・・・」
火助「はっ!?し、失礼しました」
火助はあわててドアを閉め、自分の部屋に帰っていく。
開放された美恵は、驚いてフリーズしそうな感じだった。
火助は監視してないとまずいな・・。まったく・・。
美恵「驚いた・・・。」
俺は美恵を正気に戻し、テーブルについて、朝食をとる。
美恵のとてもおいしい料理が、俺のお腹をどんどん満タンにしていく。
木下「今日は初登校だな!大丈夫か!?」
美恵「多分・・大丈夫だと思う・・・」
自信なさげだった。緊張しているのかは分からないが、
少しでも緊張を解くのが男として紳士として、ほぐしてあげるのが
いいだろう。
木下「ま、まぁ、火助みたいな変なやつもいるけど、いいやつばっかだから
気にすんな!」
美恵「うん・・・」
木下「大丈夫だって!俺がリードするからさ!」
しかし、美恵はまだ自信なさそうだった。
転校生にとって、初登校は最初の試練ともいうべきであろう。
初めての人がたくさんいるところに、はいっていくのは
緊張するものだ。
特に人見知りの激しい人や、恥ずかしがり屋にはきついだろう。
もう時計の針がやばい時間を指していた。
学校に教科書などはほとんど置いてきてあるため、
学校へ行く準備はそれほど長くかからなかった。
18 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:08:37 ID:luRkK69/
木下「美恵!そろそろ行くか!」
美恵「え・・・?もうこんな時間・・・!?」
木下「転校初日から遅刻なんてまずいだろ?急ぐぞ!」
俺は美恵の手を引っ張り、一緒に玄関を出た。
そして、玄関の前にはニヤニヤと笑っている火助が待っていた。
火助「よぅ!美恵ちゃん!今日からよろしくな!」
美恵「う、うん・・・。よろしく・・・。」
全く、火助はいつも俺をおいて先に学校に行っちゃう癖に、
可愛い女の子と一緒の時は、わざわざ玄関の前で待っててくれてるのか。
現金なやつだ。
木下「学校まで走るぞ!遅刻だぁ!!」
火助「ゲッ!?もうそんな時間か!?」
木下「行くぞ・・・ってこら!!俺を置いてくな!!」
火助は美恵を無理やりおぶって、気づけば階段をあわてて下りるところまで走っていた。
俺も2人の後を追いかけて、追いついた後、3人は寮を後にする。
木下「俺らと同じクラスだったらいいな!」
美恵「うん・・・。」
火助は、美恵をおぶりながら走ってるため、息をきらして話せなくなるほど
必死だった。
美恵「火助君・・・?無理しなくていいよ・・・自分で走るから・・・。」
しかし火助は聞いていない。
木下「あー!学校めんどくせーなー!」
美恵「私は楽しみ・・・。」
木下「美恵は、学校楽しみでいいかもしれないけどさ、俺は退屈なんだよ・・・。
ってか、なんで、学校行くためにこんなに必死に走ってんだ・・?俺たち」
美恵が笑ってみせる。
美恵「学校遅刻するからじゃないの・・・?」
まぁ、それもあるが・・・。
その時、火助に限界が来たのか、美恵をおろして息切れをしながら、地面に手をついた。
19 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:10:44 ID:luRkK69/
火助「ぜーはー・・ぜーはー・・・もうむりぃ〜・・・!わりい・・・みえちゅわ・・」
木下「お前が無理するからだ!ほら立て!学校は目の前だぞ!」
火助「龍一の鬼!!」
俺は火助を引きずりながら、学校の中に入っていった。
木下「美恵!また後でな!」
美恵「うん・・・。」
玄関の前で別れて、俺と火助で教室まで走るつもりだったが・・。
火助「ぜーはー・・・疲れた〜・・!」
木下「そんなのろのろしてると遅刻するぞ!先に行くからな!!」
俺は火助を置いて、一人で廊下を走り、階段を上っていく。
火助「龍一〜!待て〜〜!!友達を置いてくなんてひどいぞー!!」
火助の声で振り返ると、火助が向きになって俺を追いかけてくる。
俺の教室がある階まで走り、教室に滑り込むようにして入った。
続いて、火助も教室に滑り込んできた。
木下「ふぅ〜・・ギリギリセーフ・・・。」
俺と火助が席に座ると同時に、タイミングよく、学校の朝のチャイムが
鳴り出す。
火助「なんとか間に合ったな!」
俺と火助の席は隣同士なので、授業中のときなどは、いつもおしゃべりしては
先生に怒られることも少なくはなかった。
木下「美恵と同じクラスだといいな!」
火助「そして、美恵ちゅわんと仲良くなって・・・」
木下「そして、お前は振られると・・」
火助はムッとして俺を見る。
火助「失礼だな!龍一!ハッ!?まさか、お前・・・美恵ちゅわんのこと・・・」
木下「馬鹿いうな!変態のおめーよりは数倍ましだ!」
勘違いもいいところだ。
火助「じゃあ美恵は俺のものできーまり!」
火助はえらそうにそういった。
こいつをビーチなどに連れてくと、いろんなギャルにナンパするかもしれないな・・。
そして、そのギャルには彼氏がいたとして・・・そのギャルにこいつが
ナンパをすると、彼氏にボッコボコだな。
注意しなければ・・・。
木下「なぁ、火助・・。」
20 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:11:27 ID:luRkK69/
その時、先生の足音が聞こえてきた。
そして、教室のドアを静かに開け、先生が可愛い女の子と一緒に
教室に入ってきた。
しかし、その可愛い女の子は美恵ではなかった。
というのも、その女の子は美恵と違って、黄色いツインテール。その上、
背も美恵より低かった。
先生「みんな!おはよう!今日は新しい仲間を紹介するぜ!」
火助が、固まったかのように口をあけて、唖然としている。
先生「さぁ!佐古!みんなに自己紹介してくれ!」
佐古という少女は、顔が赤くなって、ツンとした顔を下に向けて、
短いスカートを握っていた。そして、ボソボソと口を開く。
佐古「た、竹山 佐古(たけやま さこ)よ・・。よ・・よろしくね・・!」
そしてクラス中から、可愛いという合唱の声が波となって佐古に襲い掛かる。
先生「うむ!可愛らしい自己紹介だったぞ!」
佐古「な、なによ!その目は!別にあんたちのことなんて、なんとも思ってないんだからね!
先生も可愛らしいなんていわないでください!勘違いしないでよね!」
佐古がそう言うと、クラス中が大笑いした。
それと、俺は隣から、とてつもないオーラを感じた。
まさか・・。
火助「・・・つ」
木下「・・・つ?」
火助「つ、ツンデレかぁ〜〜!あの子は!可愛いなぁ〜!むふふふ・・。」
もうこいつの暴走はお約束だな。
先生「佐古は元気がよくていいな!で・・お前の席はと・・。」
火助の席の隣が都合よく空いていたのを先生が見つける。
まさか・・・。
先生「火助の隣が空いてるな。じゃああいつの隣がお前の席だ。火助!仲良くするんだぞ!」
まぁこうなるわな。
火助がどうなるか不安だ。
火助「やったぜ!先生!仲良くしますであります!」
ご丁寧に敬礼までしやがったよ、こいつ(火助)。
しかも日本語おかしいし。
佐古は、顔を赤くしたまま、火助の席の隣まで、
可愛らしい歩き方で歩いて座った。
21 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:14:25 ID:luRkK69/
先生「よし!それじゃあ、朝のHRをはじめるぞ!今日はだな・・」
先生はいつもより威勢よくHRを始めた。
木下「おい、火助・・。あんまり佐古にちょっかいだすなよ・・?」
火助「佐古ちゅわん・・!よ、よろしくな!俺、火助っていうんだ!」
って聞いてないし。
佐古「よ、よろしく・・。ちょ、ちょっと!あんまり見ないでよ!!は、恥ずかしくなる
じゃないの・・・」
火助「今度の休み俺と一緒にデートしないか?」
もうこりゃあ、自己紹介じゃなくてナンパだよ、火助。
可愛い子が、からむと本当に何しでかすか分からない変質者ヤローだ。
俺は火助に巻き込まれて、先生に怒られるのは嫌だったので、
素直にHRを聞くことにした。
佐古「ばっかじゃないの!?誰があんたなんかとデートなんかするのよ!!」
ぷ・・早速、振られてるよ・・。おっといけない、HRに集中、集中。
佐古「で、でも・・デートじゃなくて、遊ぶだけなら考えてもいいわよ・・。」
佐古は赤い顔のまま下を向く。
火助「ほ、本当か!?じゃ、じゃあよろしくな!」
佐古「本当に遊ぶだけだからね!デートなんてしないわよ!?」
先生「火助!木下!あんまり佐古にちょっかい出すんじゃねーぞ!?」
火助は、電撃が走ったかのようにビクっと驚いた。
ってちょっとまて!
木下「先生!俺は、ちゃんと先生のHR聞いてましたよ!!」
なんでちゃんとHR聞いてた俺まで、怒られなきゃいけないんだよ。
先生「む・・そ、そうか・・。じゃあHR続けるぞ。」
これから先、こいつら(火助と佐古)がエスカレートしないように、
祈るしかなかった。
22 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:15:55 ID:luRkK69/
そして授業が始まり、最初はよかったものの、昼休みが近づくにつれて、
空腹のせいか、だんだん眠くなってくる。
しかも、よりによって、昼休み直前の授業が古典だとは・・。
先生のお経のような、音読は、俺にとって睡眠作用だ。
集中して聞いてても、どこかで集中が途切れる。
さらに、だんだん眠くなる。
くそ・・・がんばって居眠りしないようにしなければ・・。
先生の、お経催眠術に負けるか!!
と思いきや、隣で睡魔を呼ぶかのようなイビキが聞こえる。
火助が居眠りを始めたようだ。
こいつ・・・俺ががんばろうとしてるのに邪魔しやがって・・・。
俺は少しムっとして、火助の肩をゆする。
木下「おい・・・!起きろ・・・!お前が寝てるとこっちまで眠くなるだろうが・・・!」
火助「水着のギャル・・・でへへへへ・・・。」
呆れた。一体、どんな夢を見てるんだ、こいつは。
火助と引き換え、佐古は真面目に授業を聞いている。
佐古「ん・・?な、何、人の顔ジロジロ見てんのよ・・・!?授業に集中しなさい・・・!」
おっといけない、つい佐古に見とれていた。
てか、俺より火助のほうが授業に集中してないだろ。
イビキかいてるうえ、ご丁寧に変な夢まで見てるんだしさ。
居眠りしてる奴が目の前にいるのに、なんでそいつを注意しないのか、疑問に思った。
間もなく、授業の終わりを示す時間を針がさしていた。
木下「10、9、8・・・3、2、1」
そして授業の終わりを告げるチャイムが鳴り出す。
今まで静かだったのが、いっきににぎやかになる。
23 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:19:50 ID:luRkK69/
火助「昼休みだぜー!」
さっきまで、お休みモードだった火助が、急に元気になった。
本当に現金なやつだ。
火助「木下!佐古!一緒にお昼にしようぜ!あ、そうだ!美恵も呼ぼうぜ!」
木下「じゃあ、俺が美恵呼んでくる」
そう言って、教室を出て行こうとすると、火助が俺の手をつかんできた。
火助「まて!俺も行く!!」
佐古「ちょっと!私も連れて行きなさいよ!」
佐古までついてくるのか・・。
火助が気持ち悪い笑顔になる。
火助「ほう〜・・佐古ちゃんまでついてくるのか〜!ひょっとして・・」
佐古の顔が赤くなる
佐古「な、何いってんのよ!!あんたのことなんか、どうも思ってないんだからね!!
ただ美恵って子が、どんな子か気になるだけよ!!」
火助にからかわれ、向きになる佐古。
これから先、にぎやかになるのは間違いないだろう。
木下「そういえば、美恵って同学年だろ?なら隣のクラスとかにいるんじゃないか?」
火助「ま、まぁそうだな」
俺は、火助と佐古を連れて廊下に出る。
昼休みのため、廊下は通勤ラッシュならぬ、昼飯ラッシュになっている。
食堂にいく人や、他の教室に移動する人が、行ったり来たりしているので、
昼飯ラッシュ。
俺たち3人は、廊下を歩き隣のクラスへと入った。
戸を開けて、中に入る。俺のクラス同様、昼休みはとてもにぎやかだ。
24 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:22:07 ID:luRkK69/
木下「あのー美恵ってしらないか?」
「美恵?火村美恵?あ〜・・転校生の?」
木下「うん」
火助が俺の後ろから顔を出す。
火助「俺たち、その子と一緒に昼飯食べることにしたんだけど、どこに行ったか知らないか?」
話し相手は少し間をおいてから口を開く。
「う〜ん・・・あ、そういえば、屋上で食べるって行ってたっけ。それで木下君に伝えておいてって」
木下「お、俺が木下なんだけど・・」
「なら、話は早い。早く行っておいで」
そのとき、後ろから火助が俺の首に腕をかける。
火助「おい!!龍一!!お前、一晩のうちに美恵ちゃんと、どうやってそこまで深い関係に!?」
木下「ち、ちが・・うわ!つーか、くるじいからやめろ!!」
佐古が呆れた顔で俺たちを見る。
火助「んじゃ、まぁ、ありがとな!俺たち屋上に行ってくる!」
「うん、じゃあね」
俺は火助に首をしめられたまま、廊下に出る。
あーもぅ!!変な誤解してないで、この腕といてくれ!!
「火助!!」
その時、タイミングよく男の先生の声が俺たち3人の耳にはいってきた。
振り向けば、古典の先生だった。昼休み直前の授業の・・・。
25 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:22:53 ID:luRkK69/
火助「な、なんでしょうか!?」
火助はあわてて、俺の首をふりほどいた。
苦しかった・・。こいつは要注意人物にしておこう。
先生「さっきは、よくもわしの芸術的ですばらしい授業で居眠りしてくれたな!」
火助「ギクッ・・・!」
今度は、古典の先生が火助の首をしめて、歩き出す。
先生「罰として、わしのすばらしい話を聞いておきたまえ!きっとためになる!」
火助が必死に暴れていた。
火助「龍一〜!佐古ちゃ〜ん!助けてくれ〜〜〜!!」
古典の先生はとてもおしゃべりで、一度口を開けば長話になる。
あの様子じゃあ、昼休み終わる頃に開放されるだろう。
火助君・・・ご愁傷様。
佐古「授業中居眠りしてたのが悪いんでしょ!!自業自得よ!!」
それは同感だ。しかも人の首しめた罰でもあるな。
火助「龍一と佐古ちゃんの・・・裏切り者ぉ〜〜〜!!」
という大声とともに、俺たちは階段をのぼる。
26 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:27:40 ID:luRkK69/
佐古「火助はいつも居眠りとかしてるの?」
木下「あぁ、授業中はな。時々俺と話とかしてて、先生に怒られるときもあるし・・。」
俺と火助って、実は不良だったりして・・・。
佐古が少し心配そうな顔をする。
佐古「授業真面目に聞かないと、ついていけなくなるわよ?」
木下「俺はもともと頭いいから、授業なんか聞いてなくてもいいんだよ!」
佐古がいきなり、俺の頭を殴る。
佐古「ばっかじゃないの!?あんたのこと心配して・・あ。」
人を殴っといて、佐古は急に赤くなる。
木下「心配して、なんだ・・・?」
佐古「な、なんでもないわよ・・・。」
階段の踊り場にさしかかった瞬間、他のクラスのやつが次から次へと現れて、佐古を囲んだ。
「こいつが、転校生?かわいい〜!」
「一緒に昼飯食うか?」
「いや!俺が一緒に・・」
「いやいや!俺だ!」
佐古はあっという間に見えなくなる。そしてあっという間に、取り合いっ子になった。
佐古もご愁傷様で。
佐古「ちょっと!木下!私を助けなさいよ!!」
俺は、佐古にごめんの合図をして、階段を慌てて駆け上がる。
あんなに人に囲まれてたら、助け出すのが不可能に近いだろう。
階段の一番上までのぼり、太陽の日差しがもれているドアを開けると、
そこは屋上だった。
27 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:28:21 ID:luRkK69/
屋上にはあんまりいかないのだが、ガラっとしている。
美恵を探し、顔をキョロキョロさせていると、
案の定、美恵はいた。俺には気づいてないらしく、
ずっと一人で座っていた。
俺は驚かそうと、音を立てないように美恵に近づき肩を叩く。
木下「よっ!」
美恵「わっ・・!!き、木下君・・・?お、驚かさないでよ・・・。」
木下「あはは、ごめん。美恵がぼーっとしてたからさ。」
美恵「あれ・・?火助君は・・・?」
あ〜あいつは、古典の授業に居眠りした罰で先生にしかられてるかもな。
木下「あいつはご愁傷様だ」
美恵「・・・?」
美恵はおかしな顔をする。当然か。
ところで・・何か忘れている気がする。
あ!!
木下「しまった!!昼飯忘れた!」
美恵が笑顔で俺を見る。
美恵「大丈夫だよ・・。弁当・・木下君の分まで作ってきたから・・・。」
渡りに船。本当に美恵はいい人だ。
木下「美恵!ありがとな!ありがたくいただくぜ!」
弁当箱のふたを早速開けてみる。
すると、おかずやご飯が丁寧にぎっしりつめられており、
栄養バランスも考えているようだ。
木下「やっぱりうまい!」
美恵「えへへ・・あ、ありがとう・・」
美恵は赤面しながら、下を向く。
あまり時間がたたないうちに、数分で弁当箱の中を空にし、
お腹を満腹にした。
そして心地よい睡魔が俺を襲う。
28 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:32:53 ID:luRkK69/
木下「ごちそうさま!ふぁ〜食った!食った!」
美恵は俺の眠そうな顔を見たのか、膝を差し出してきた。
木下「いいのか?」
美恵「うん・・・木下君、眠そうだったから・・・。」
俺は何も言わずに、お言葉?に甘えて、美恵の膝に頭をかけた。
優しい風が、俺の頬をくすぐり、さらに眠気をさそう。
美恵「木下君・・・放課後・・時間空いてる・・・?」
放課後は特に予定がないな。
木下「空いてるけど、何かあるのか?」
美恵「うん・・・。木下君に見せたい場所があるの・・・。私と木下君だけの、秘密の場所・・・。」
秘密の場所か。なんか楽しみだ。
ここは美恵の誘いにのることに決めた。
昼休みも終わり、俺と美恵はそれぞれの教室に戻った。
教室に戻ると、火助と佐古にボコボコにされる。
当然か。友人を見捨てた代償はあまりにも大きかった(大げさな)。
午後の授業は寝てても大丈夫なような授業が多かったので、
意識を眠りの底へと沈めていった。
・・・。
29 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:35:58 ID:luRkK69/
気づけば、もう外は真っ暗で、夜まで寝ていたようだ。
俺は、まだ重い頭を上げて、ようやく夜がきたことを悟る。
隣に人の気配を感じたので慌てて体ごと起こす。
美恵「きゃっ・・・!」
美恵だった。
木下「美恵か・・。驚かすな〜!」
美恵「でも・・・木下君なかなか起きないんだもん・・・。」
それは悪かったな。でも美恵のおかげで目が覚めた。
木下「俺が起きるまでずっと待っててくれたのか?」
美恵「うん・・・。」
火助と佐古は呆れたのだろうか、多分先に帰ったんだろう。
しかし美恵には悪いことしたな。
美恵「早くでないと学校閉まっちゃうよ・・・?」
それはまずいな。俺はあわてて、カバンをひっつかみ、帰り支度を
素早く終わらせる。
木下「美恵!早く学校を出るぞ!」
そして、美恵と一緒に教室を出て、廊下を走り、階段をおりて、
外に出れば、虫の声が聞こえてくる。
そういえば、美恵、放課後に秘密の場所につれてってくれるっていってたっけ。
木下「美恵、秘密の場所ってどこなんだ?」
美恵「え・・?あ・・う、うん・・・こっちだよ・・・。」
美恵が俺の手を引っ張り、校門をでて、茂みの中にはいる。
薄暗いし、気味が悪いな。
木下「美恵、こんなところに秘密の場所なんてあるのか?」
美恵「う、うん・・・。」
虫のにぎやかな合唱が聞こえてくる。
やがて、古びた看板を見つける。
美恵「よかった・・・この看板、まだあったんだ・・・。」
ここは昔、何かの散歩道だったのだろうか。
やがて、視界が開けて広場?に出た。
30 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:36:46 ID:luRkK69/
美恵「ここだよ・・・木下君と私の秘密の場所・・・。」
木下「綺麗だ・・・。」
そこは一本大きな桜が咲いており、夜景も見えて、絶景ともいえる景色だった。
木下「ここが、俺と美恵の秘密の場所・・・。」
美恵「うん・・・。」
美恵は笑顔だった。
木下「秘密の場所ってことは他の人には内緒だな!」
美恵「そうだね・・・。木下君にここの景色見てもらいたくて・・・。」
それは嬉しく思った。秘密の場所で、しかもこんな綺麗なところに招待してもらうのは
心地いい。
美恵には大変、感謝している。
俺の散らかった部屋を片付けてくれたし、うまいご馳走を俺に作ってくれたし、
悪い夢をみたときも、慰めてくれた。
そして今、こんな綺麗な場所につれてきてもらった。
どうしても、美恵に恩返しをしたい気持ちでいっぱいだ。
美恵「ねぇ・・木下君・・・」
木下「なんだ?」
美恵「ここ・・・秘密の場所であって・・約束の場所なんだ・・・。」
約束の場所?話が見えてこないので、質問で返事を返してみる。
木下「約束の場所・・・?」
美恵「うん・・・。昨日・・会いたい人がいるっていったよね・・・?」
昨日のことは夢じゃなく、現実だったようだ。
でなければ、美恵が“昨日、会いたい人がいるっていったよね?”
なんて言わないだろう。
31 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:37:41 ID:luRkK69/
木下「ああ・・。」
美恵「実はここで・・昔、その会いたい人と別れて・・・そしてまたここで会おうって
約束した場所なんだ・・・。」
それは初耳だ。
美恵「でも、何年経っても・・・その人は来ないの・・・。」
木下「・・・。」
美恵「私・・・どうしたらいいか・・・。分からなくて・・・。」
俺はそっと美恵を抱きしめる。
木下「美恵・・。俺がその会いたい人を探す手伝いをしてやろう。」
美恵「え・・・?で、でもどこにいるか分からないよ・・・。」
32 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:39:15 ID:luRkK69/
木下「なーにいってんだ!俺は美恵に感謝してるんだぜ!?おいしいご馳走作ってくれて、
俺の部屋を片付けてくれて・・・俺のためにいろいろ助けてくれたんだ。
だ、だから・・・。
今度は俺が美恵の手伝いをしたい!!頼むやらせてくれ!」
美恵の目から涙がこぼれ、美恵からも俺を抱きしめてきた。
美恵「木下君・・・。ご、ごめんね・・・ごめんね・・・。わ、私・・。」
木下「水臭いこというなって!俺たちは仲間だ!仲間が困ってるのに、何もしないわけには
いかないぜ!」
美恵「わ、私・・そんなこといわれたの初めて・・・。」
白い月は桜を照らし、この場所を照らし、美恵と俺を照らした。
その絵のような、光景はとても幻想的だ。
木下「ずっと・・・一人だったのか・・・?」
美恵「うん・・・。会いたい人と・・・別れてからずっと一人ぼっち・・・。」
俺は美恵の頭をなでながら、こういった。
木下『安心しろ・・・もう、お前を一人にはしない・・。俺はいなくならないからな・・。』
美恵はそのまま、泣き出して、俺の胸に頭をよせてきた。そして、俺は美恵を抱きしめながら、
頭をなでていた。
美恵「木下君・・・私、嬉しいよ・・・。一人だったときは、本当に・・寂しかった・・・。」
木下「ああ・・。でももう、お前は一人じゃない・・・。」
美恵「うん・・・。」
俺と美恵は抱き合あったまま夜も更けてきた。
<第2章END>
33 :
覇火威神:2009/09/18(金) 02:40:34 ID:luRkK69/
とりあえず今のところはここまでです。
第3章は、今書いてる最中です。
小説じゃなくて半台本形式だけど、頑張れ
投下乙
まだはじめの方らしいから作品に関してはなんとも言えないが続き頑張れ
ただ感想と評価のみ欲しくて叩きが嫌ならブログでやったほうがいいよ
ここは2chのなかじゃ優しいほうだけど匿名掲示板にはかわりない
36 :
覇火威神:2009/09/18(金) 17:49:33 ID:0dk65wsC
>>34 台本混じってましたか?すみません・・・。気をつけます。
>>35 はい、がんばります!ブログでやってたことが何度かありましたが、
中々人がこなくて・・・。で、今回は、人の多い2chならいけるかと
思って2chに投下することにしました。
ただやたらなところに投下すると、それは叩かれたり、板違いといわれるかと
思ったのでここにしました。
>台本混じってましたか?すみません・・・。気をつけます。
気をつけるとかって問題ではないw
小説形式であれば、会話の前に人物名は付けません
でも2chで形式に拘泥する意味はあまりないですし、
読みやすいから無問題ですよ。
台詞の前に人名ついてる小説も稀にあるけど、スレ違いだからどうでもいいか
39 :
覇火威神:2009/09/21(月) 16:27:02 ID:BPTd+am+
第3章は、途中ですが、ある程度書いて、投下いう形でこれからいきます。
いっきに1章分のせれないですしね・・・。
40 :
覇火威神:2009/09/21(月) 16:27:46 ID:BPTd+am+
第3章「デート」
「暴力団暴行事件」(新聞記事)
深夜1時。少年が救急病院に運ばれる。
その少年は、暴力団に集団暴行を受け、意識不明の状態。
110番通報され、警察が犯行現場に直行するも、暴力団達は逃走した後だった。
そして早朝4時17分。幼い命が失われる。
その後、暴力団の手がかりがつかめず、捜査は進まないまま。
???「これが、まだ残っている記事です。」
薄暗くて、煙草の煙が充満している部屋の中、二人の男が話し合っている。
サングラスをかけ、背広を着た男が新聞の切り出しを、もう一人の男に見せる。
???「もうあれから、数年後か・・・。ガキをボコボコにしたとき、
あの女には顔を見られてるからな・・・。
さっさと始末して、時効を迎えよう・・・。」
???「はい。」
そして、男たちは、煙草を取り出し、煙草の煙はゆっくりと、上にあがっていった。
・・・。
早朝の公園。朝の爽やかな日差しは公園を照らし、ちょうどいいぐらいに涼しく、
心地いいものだ。
その公園に一人、誰かと待ち合わせをしていた。
火助「佐古、遅いな〜・・。愛想つかして、来ないんじゃ・・・。」
古山火助。木下龍一の友人で、とても変態。というのも、女の子には目がない。
可愛い女の子を見るなり、一時的にフリーズして暴走してしまう、要注意人物。
今日は、休日。そして、火助と佐古のデート。
それは、この前のHRのことだった。
火助:“今度の休み俺と一緒にデートしないか?”
佐古:“ばっかじゃないの!?誰があんたなんかとデートするのよ!!
で、でも・・デートじゃなくて、遊ぶだけなら考えてもいいわよ・・・。”
火助:“ほ、本当か!?じゃ、じゃあよろしくな!”
佐古:“本当に遊ぶだけだからね!デートなんてしないわよ!?”
その後、関係のない木下まで火助と仲良く、佐古にちょっかいだすなと、先生にしかられた。
そして今、こうして公園で火助が、佐古が来るのを待っている。
公園の時計を見たり、周辺を見渡したり、落ち着きのない行動を繰り返している。
太陽が少し昇り、公園をまた少し明るく照らし出したとき、佐古が走ってくるのが見えた。
41 :
覇火威神:2009/09/21(月) 16:29:53 ID:BPTd+am+
火助「佐古ちゃん!?やっぱり来てくれたのか!!」
佐古「はぁはぁ・・寝坊しちゃったわ・・すまん。」
佐古は全力で走ってきたのか、とても息切れがすごいようだった。
火助は笑顔になって、グッジョブのポーズをする。
火助「いいって!俺だって、寝坊して毎日遅刻ぎりぎりだしな!」
佐古「それ、笑い事じゃないわよ!!自分のことぐらい自分でしっかりとやりなさいよ!」
火助「あはは・・。ま、まぁ適当にがんばるさ!」
今度はガッツボーズ。
佐古「ところで今日はどこいくのよ?」
火助は少し考えてから口を開く。
火助「う〜ん・・思い切って、ふうぞ・・いてっ!?」
佐古が火助の頭をおもいっきり殴った。
佐古「どこの世界で、デートにそんなところいくのよ!?ばっかじゃないの!?」
火助「悪ぃ!悪ぃ!じゃあ、ゲーセンいくか!」
ゲーセンもデートにはどうかと思うが、風○よりはましだろう。
学校や寮の周辺には街があり、いろんな店が並んでいる。
ゲーセンもあるし、デートスポットもいくつかある。
デートにはもってこいの街。
佐古「朝からゲーセン・・・?」
佐古はおかしな顔をする。
火助「でもこの時間ならこんでないだろ?いこうぜ!ゲーセン!」
佐古「まぁそれもそうね。じゃあ行きましょ。」
そこで納得するのか。
二人は公園を出て、散歩道を抜けて、
海の見える道路を歩く。明るくなったとはいえ、
空気が澄んでいるし、朝の海の景色はとても綺麗だった。
おまけに早朝なので、交通量も少なく、
海の波の音、鳥の声が聞こえてきてとても気持ちいい。
散歩にはかなり向いていた。
42 :
覇火威神:2009/09/21(月) 16:30:48 ID:BPTd+am+
火助「なぁ、佐古。お前、学校はもう慣れたのか?」
佐古「ま、まぁ、慣れたわね。」
火助「俺さ、佐古とデー・・じゃなかった、佐古と遊んでて、後日みんなにボコられないかな〜って・・」
佐古がいきなり笑い出す。
火助「な、なんだよ!」
佐古「あはは、愚問ね。これはデートじゃないのよ?私達は遊んでるだけよ?」
誰がどうみたってデートのように見える。
いや、むしろデートだ。
火助「あはは、まぁそうだな〜!」
火助は、誰かに見られてないかと、周りをキョロキョロと見渡す。
火助「でも、これって誰が見てもデートのような・・いてててて!?」
佐古が火助の足をちみくった。
佐古「何かいったかしら・・?」
火助「い、いえ・・な、なんでもありません・・。」
二人で無言のまま、しばらく海沿いの道路を歩く。
ちょうどいいぐらいに涼しく、さわやかな朝の風が、
二人の頬をくすぐる。
佐古「朝の空気は気持ちいいわね。」
火助「ん・・?あ、あぁ・・。あんまり考えたことなかったけどな。」
佐古がいきなり火助の手を引っ張る。
火助「な、なんだよ!」
佐古「見て!火助!街が見えてきたわ!」
佐古が指をさした方向を見ると、海沿いに、
たくさんの石造りの建物がならんでる港町が目にはいった。
朝日に照らされている港町は、絵にしたように
綺麗な光景をつくっていた。
43 :
覇火威神:2009/09/21(月) 16:32:26 ID:BPTd+am+
火助「おお!かなりいい景色だな!いつもは学校帰りによってくぐらいだもんな・・・」
佐古「そうね・・。デートってこうじゃないとね!あ・・・。」
佐古が、顔を赤くしたまま、下を向く。
そして、火助がニヤニヤしながら、佐古の顔を見る。
火助「おやおや〜?どうしたのかなぁ〜?デートっていったね・・?今・・。むふふ・・。」
佐古「う、うるさい!な、何もいってないわよ!」
佐古が火助の足を蹴る。
火助「いてぇ!?いてててて・・。」
佐古「ほら!いつまでも鼻の下のばして、デレデレしてないで、さっさといくわよ!」
佐古が、またもや火助の手を引っ張り、港町へのほうへと歩いていく。
港町に近づくにつれて、船の音が大きくなってきた。
道も、灰色のコンクリートから、白い石の石畳へと変わっていった。
佐古「すごいわ!これが港街ね!?にぎやかだし、涼しいし・・」
火助「朝早いから涼しいわなぁ・・そりゃ・・。あ・・!佐古ちゃん!ゲーセンはこっちだぜ!」
今度は火助が佐古の手を引っ張り、朝日に照らされた石畳の上を走る。
いろんな小道を走り、大きな石作りの建物の前までやってきた。
火助「ここのゲーセン、3階まであるんだぜ!?」
佐古「そんなに大きいの!?このゲーセン・・・。」
火助「やっぱり、朝早いからあんまり人は来てないようだな・・。」
火助がそう言いながら、中を覗き込む。
そして、佐古と一緒に中にはいった。
44 :
覇火威神:2009/09/21(月) 16:39:43 ID:BPTd+am+
火助「お!ブラックチェイスが空いてるな!」
佐古「何よ?ブラックチェイスって・・。」
火助が指をさすと、レース系のゲームが目にはいった。
火助「大まかな話、車と車をぶつけあって、お互いに車で闘いながらゴールを目指していくゲームだ!」
佐古「危ないゲームね・・・。」
火助「もちろん、先にゴールしたほうが勝ちだけどな!ほら!いこうぜ!」
佐古の手を引っ張っり、ブラックチェイスのほうまで走る。
佐古「わ、わかったから、もう少し落ち着きなさいよ!」
火助「でも、いつもは並ばなきゃいけないゲームをすぐに出来るんだぜ!?燃えてきた〜!」
そして火助は椅子に座りハンドルを握ると、佐古の顔を見た。
佐古「何よ?」
火助「佐古ちゃんはやらないのか?結構たのしいぞ!」
佐古は拒絶の意味で、首を横にふった。
佐古「だって、私、そのゲームやったことないし・・」
火助「大丈夫だって!ほら座って!座って!いろいろ教えてあげるから!」
火助は佐古に着席を進めると、佐古は気が進まないような顔で座った。
そして100円玉を佐古が座っているゲーム機にいれると、自分の座ってるゲーム機にも、
100円玉を入れた。
佐古「ちょ、ちょっと!何やってるのよ!?私はやんないわよ!?」
火助「いやいや!絶対楽しいから、佐古ちゃんもやってみなって!」
そして、お互いタイトル画面をゲーム機に映し、アクセルを踏んで、次の画面に進んだ。
火助が佐古のゲーム機の画面を見ると、車選びをしているようだ。
45 :
覇火威神:2009/09/21(月) 16:42:38 ID:BPTd+am+
火助(心:やっぱ女の子だからかな・・ヴィッツを選んだか・・ピンク色の・・・。)
佐古「あんたはどんな車選んだのよ?」
火助「俺?俺はS15!シルビアいちごー!!」
火助は得意げに言う。
佐古(心:うわ〜・・微妙に速そうな車ね・・・。)
火助「よし!佐古いくぞ!」
佐古は面食らったように、火助の顔を見る。
佐古「え!?しょっぱなから勝負なの!?」
火助「画面見ろよ!スタート地点に車がついてるだろ!いくぞ!」
火助がアクセルを思いっきり踏み、S15を発進させた。
佐古「ちょっと、待ちなさいよ!」
続いて、佐古も慌ててアクセルを踏み、ヴィッツを発進させる。
佐古のほうが、スタートは遅れたので、今は火助が前を走っている。
火助「ほらほら〜!早く追い越さないと先にゴールしちゃうぞ〜♪」
佐古「うるさいわね!」
2人の車は、山道を走っていた。走っている道路の右側は山。そして左側は崖だ。
道幅も狭いため、初心者の佐古にはきついコースだ。いっぽ間違えば、崖下へ転落。
火助がおちょくってばかりいたため、佐古が向きになりはじめた。
佐古「うるさいっていってるでしょ〜!」
ようやく、火助が乗っているS15に追いつき、佐古がヴィッツをS15にぶつける。
火助「うぉ!?やるな・・・。いくぞ〜〜〜!!!」
S15とヴィッツは激しくぶつかり合い、火花を散らせたまま、山道の崖上を走る。
火助「しつこいぞ!!おりゃ〜〜〜〜〜!!!」
S15の周りが火に包まれて、ヴィッツに思いっきりぶつける。
ヴィッツは崖にタイヤを脱輪させ、すべり落ちていくはずだったが・・・。
佐古「むっき〜〜〜〜!!ここで火助なんかに負けないわ!!」
佐古は更にアクセルを強く踏み、ヴィッツに崖を上らせる。
そして一気に、空高く舞い上がり、ヴィッツの周りに、青色のオーラが出てくる。
そのオーラは次第に鳥の姿に形を変え、S15めがけて、風のようなスピードで空から一気に
地上へ急降下する。
46 :
覇火威神:2009/09/21(月) 17:24:52 ID:BPTd+am+
火助「何!?しょ、初心者のくせによくやるな・・・。」
ヴィッツは空からS15に激しく突進して、S15は空中に舞い上がり大回転を始める。
佐古「初心者だからってなめないことね?」
火助「くっ・・このままではまずいな・・。」
S15は風に乗り、衝撃をやらわげて、地上に降りて走ったが、
ヴィッツに先を走られてしまった。
火助「俺の前を走るとはなかなかやるな・・・。」
その後、二人はかなり熱中して、しばらく時間がたった後、ようやくゲーム機から離れることができた。
結局、引き分けで終わった。
佐古「なかなか面白かったわ!火助!なかなかやるわね!」
火助「ま、まぁ、いつもここ来てるしな・・。佐古ちゃんこそ、初心者なのにすごいな〜!」
佐古「無我夢中だったから、よくわかんなかったわ!」
47 :
注目:2009/10/28(水) 11:54:19 ID:Ui1ul0sy
誰も使っていないようなので、スレを再利用。
幽霊が学級委員室でお茶を飲んでいます。
しかも普通のお茶じゃなくて昆布茶が好きらしくて、良く切らすのです。昆布茶は意外と高くて、私のお小遣いが時々心配になるときがあります。
それに、幽霊と言っても足がありますし、飛田中学校の学生服も着ています。
…本当に幽霊なのかと思って、他の人に会わせたこともありますが、霊感の多少ある人じゃないと見えないらしく、本当に幽霊みたいなんです。
あ、私の自己紹介が遅れました。牧野 春子といいます。2年3組で学級委員長をやっています。本当は学級委員長なんてやりたくなかったんです。でも、みんなが無理矢理…。
「春子〜。昆布茶入れて」
幽霊の時田君が、私を使おうとしています。お茶ぐらい自分で入れればいいのに。私が困った顔をしていると、横にいた高橋君がフォローを入れるように野太い声で言います。
「時田。お茶ぐらい自分で入れろよ。幽霊なんだからって、手ぐらい動かせるだろ。牧野は会計やってるんだし」
「徹。こんなにぽかぽか暖かいのに、僕ぁ動きたくないんだ」
「馬鹿じゃねえのお前。牧野はお前の小間使いじゃねえっていうの。さっさと自分で入れろ」
「徹。この道、数十年幽霊をやっている牧野 公彦様になんと言うことを。年長者の言うことは聞くものだよ」
「と、き、た。あ?」
高橋君が、大きな体で時田君にのしかかるように脅します。
時田君は仕方が無く、自分でお茶を入れることにしたようです。
ナイスフォロー! 高橋君。こんな時に、高橋君の大きな体が役に立つって言うものです。
そんなことを横目で見ながら、電卓を叩きます。春に行った文化祭の領収書と会計の数字がちっとも合わないのです。こんな事、先生がやることなんじゃあないのかなぁ。何で私がやってるんだろう。
「あーもう。数字合わないよ。どうしよう、徹君。3425円余っちゃった」
「まじで? 誰か領収書提出し忘れてるとかなんじゃね?」
「んー。その可能性あるかも。でも、もう領収書の提出期限2週間も過ぎてるんだよ。これじゃいつまでたっても、文化祭で使ったお金返せないよ」
「牧野、何度も会計の再計算やってるし、出し忘れっていう線で、先生に提出しようぜ。一緒に行ってやるからさ。俺と行けば無茶言われないよ」
「馬淵先生。そんな簡単に許してくれるかなぁ。あとで、私だけ呼び出されそうでやだな」
「最悪、俺んちの父ちゃんに領収書切ってーーー」
困ったなあと思って、学級委員室の扉を見るとポニーテールの真澄ちゃんが入ってきました。
いつも体操服姿で片手に竹刀袋抱えて、時田君の隣にどっかりと座る長田 真澄ちゃん。はつらつとしていて、さっくりとモノをいうので、私も見習いたいな。と、思っていたら。
「お。そろってるー。春子〜私にも昆布茶ちょうだい〜」
「長田ー時田にもいったが、牧野は小間使いじゃないんだぞ」
「あ。徹。居たんだ。相変わらず春子のお世話? いいじゃない〜春子のお茶入れる姿、様になってるよ。それ見たいんだし」
「長田、そういう問題じゃ無いんだけどな」
と、意外と高橋君が頑張ってくれてるんだけど、真澄ちゃんにはお茶入れてあげても良いかな。この前本貸してくれたし。本の内容? えっと、それはちょっといえないかも。
「真澄ちゃん。昆布茶だけでいいの? お菓子は?」
「ハッピーターン 三つ。ハッピーターンと昆布茶の取り合わせは最強だからね。乙女心をくすぐるわ」
何がくすぐるのかよく分からないけれども、ハッピーターンは確かに幸福な味がするかなと思いながら、お茶を入れることにしました。
「あれー? 大年は? まだ来てないの?」
「…また、どうせお札でも書いてるんじゃねえの? そこにいる幽霊の時田にゃあ、きかないつーのに」
「だよねー。あいつ、よくわかんない行動取るから、ま、でも面白い話しは拾ってくるからねー」
大年 伊角君。…この集まりの発起人なんだけど、ちょっと変人。でも面白いから許せちゃうという感じ。私に片思いしているのがバレバレで、ちょっと困ったなあって感じ。
「ああ。どうせ変人ですよ。悪かったですね。そもそも時田は例外に違いないんだよ、うちの神社で一番聞くはずのお札だって効かなかったんだから」
「わーい。変人〜変人が現れた〜。春子〜変人が襲ってくるよ〜でも春子の後ろに隠れればきっと大丈夫〜」
変人、大年君が、部屋の扉の前に現れました。真澄ちゃんはお茶入れている私に寄り添ってくるし、うーん、どうしたら良いんだろう。高橋君があきれ顔をしながら、
「まあ、メンバーもそろったことだし。そろそろ始めるか、ほら、大年座れよ」
そんな状態を察したのか適当に締めてくれました、トサ。
なんかほのぼのした文体だな
大年君は適当な椅子に座ると、やにわに話し始めました。
「さて、と。今日の七探しクラブの議題はと、トイレの花子さんだ」
「また、ベターなのをもってきたねー」
「もうちょっと、この前みたいなの無いのか? 馬淵先生がズラだったってのは判明してすげー笑ったけど」
「何十年も幽霊やっているけど、トイレの花子さんはしらないなー」
そうなんです。私たち、時田君、高橋君、真澄ちゃん、大年君で、七探しクラブっていう、学校にまつわる怪奇談を探す非公式なクラブを作ってます。部長は、幽霊の時田君…昆布茶飲んでいるだけの姿を見ると幽霊に見えないのが玉に瑕です。
でも1年間もこのクラブをやっていると、ネタがなくなってきてます。この前なんか馬淵先生がズラだということを証明しようとか、誰が誰を好きかとか、そんな話しばっかりになってきていてちょっと仲良しクラブ気味。
「あー。もう、愚民ども五月蠅い。これは結構角度の高い情報なんだ。実際にやった人間がいるっていう話も聞いた」
「えーでも、大年君さー。そういって、魔の鏡があるって言って、旧校舎へ行ったら鏡が割れてなかったよね。赤いちゃんちゃんことか言って旧校舎で夜まで粘ったことがあったけど、家に帰ったらおとーさんに大目玉食らったよ。大目玉の方がよっぽど怖かったよ」
「で、でも、どうするんだよ。本当に赤いちゃんちゃんことか魔の鏡とかあったら。う、噂だけでよかったじゃないか」
「大年、そんなときのためにお前が居るんだろう? その変なお札は、時田には効かないみたいだけどな」
突然と時田君が浮き上がり、真澄ちゃんの手にあるハッピーターンをかすめ取りもりもり食べながらあくびし、話し始めました。
「まー。本当にいたら困るんだから良いんじゃないか? まあ、そういう僕は本物の幽霊だけどね」
「あ、こら時ちゃん。私のハッピーターン奪わない!」
「いや、乙女心をくすぐる感じがどんな感じかしりたくて」
「時田、男に乙女心なんて無いだろ。それより、大年、余り期待してないけどどういう内容なんだよ」
高橋君が、とりあえず場を仕切り促すと、意気揚々と大年君は話し始めます。
「うちの学校の、トイレの花子さんは実在の人物らしいんだ。ほらこの記事を見てみろよ、1958年8月11日付けの飛田新聞」
そういって、大年君は新聞の切れ端をみんなの前に置きます。
" 昨日未明、飛田中学校の女子トイレにて女子生徒(14歳)が死亡しているのが確認された。県警によると、急性心不全による死亡と確認され突然死としてみられている…"
「時田、心当たりある?」
高橋君が、時田君に促します。
「僕が死んだ、1ヶ月ぐらい前じゃないかな。まーその頃の記憶全然無いんだけどね」
「意外と関連があるかもしれない」
「大年君、さあ。僕が死んだ前後の死亡記事が全て、僕に関わりがあるような関連づけやめようね。これじゃあ、世界中、僕の前後に死んだ人が全て、僕に関わりがあるみたいになっちゃうじゃないか」
「いやでも、この学校で、ですよ」
「まあ、そりゃあそうだけどね」
「大年、で、この記事がどうだっていうんだ? そっちの方が本題だろ?」
「ああ、そう。そっちのことなんだけど、この記事の死亡した女子生徒っていうのが、鈴木 花子っていう名前なんだ」
「へー。どうやって調べたのー?」
「まあ、飛田新聞に兄さんがつとめていてね。ふふん、コネですよ。コネ」
「わー。なんか、お兄さん迷惑そー」
「うっさい。まあ、ともかく。女子トイレの4番目の部屋で死んでいたらしくて、それ以降、4時44分にその扉を叩くと…」
みんなが、大年君を見ます。私もじっくり見てみます。意外とかっこいいのかも。変人じゃなきゃいいのに。
「はーい。って言葉が返ってくるらしい」
…そ、それだけ?
「おい、大年。それだけかよ。なんかもっと無いのかよ。誰か演技していたってだけじゃないのかよ」
「そんな事言ったって知らないってば。ともかく、そうらしいんだよ。そう聞いた」
高橋君があきれながら言葉を続けます。
「誰に?」
「松永に」
「一番あてにならねーやつじゃねーか。あいつ嘘ばっかりつくヤツだぞ」
「そりゃそうだけど、松永はこれは本当だって言い張るんだから、それに最近七探しクラブもネタ無くて困ってるだろ。こっちだって必死に探してきたんだよ。ちょっとはその辺認めてよ」
「でも、はーい、ってかえってきてそれで何もないって、どうするんだよ。どうもーとでも返せばいいのかよ」
「徹。まあ、いいじゃない。ネタ切れ気味なのは確かなんだしさー。松永ってところが、ものすごく気になるけどとりあえず行ってみない? もう、4時半なんだし」
「でもよぉ。っていうか、4番トイレがある女子トイレなんていっぱいあるんじゃないのか?」
「その辺は調査済み。南西の角っこのトイレ」
あ、そういえばあそこにしかない。でもなんで、大年君そんなこと知ってるんだろ。
「…なあ、大年。何でそんなこと知ってるんだ?」
「ここに来るまでの間、何してたと思う?」
大年君がガッツポーズをつけながら言う。
「女子便の数、数えてた!」
みんな引いてる。私も引いてる。…うわぁ、あんまり近寄りたくない。
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どうも、ペンネーム 名無しさんです。さて始まりました「優しい時間」というタイトルそのままぱくりながら、書かせて頂いています。
一応事前に申告しておくと、週一回の投稿になります。はい。
というか、その程度のペースでないと体が持ちませんので。
七不思議。中学生の時あこがれましてねぇ。探したのですが、現実世界は厳しく。そんなモノはどこにもありませんでした。この物語で語られていく彼ら、彼女らには、そんな現実ではなく不思議を味わってもらえたらいいなと思って書いています。
一応この小説のテーマはタイトル通り「優しい時間」がテーマです。
それでは、落ちなしな後書きですが、また来週。
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おつおつ
これからどう展開して行くのか楽しみにしてます
幽霊の面子交えて怪談探しとはまたw
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どうも、ペンネーム 名無しさんです。
一週間もたたないうちにどうしたのだと言われそうですが、案外早くできてしまいました。(というより引き延ばす能力がないという)
見直してないという話しはありますがまあ、そんなものです。
それでは、投稿してゆきます
------------
目の前に黒髪のおかっぱ頭の飛田中学校の学生服を着た、
可愛い女の子が居る。そんな女の子が、私たちに向かってぺらぺらと
しゃべりかけてくる。それも南西の隅っこのトイレの4番目で。
「ねー。ホントにトイレの花子さん? 悪い事言わないから、ホントのこと言ってごらん? 実は、ちょっと痛い子なんでしょ?」
「ほ、本当にトイレの花子さんです! 私が本物なんですっ!」
「ねー。春子〜どう思う? ちょっと痛い子にしか見えないんだけど…」
「と、言われましても…」
「ま、幽霊の僕から言わせてもらえれば幽霊だと思うよ。…一応補足しとくけど」
「なあ、大年、お前の札でも試してみたらどうよ?」
「そうだなぁ…」
ペタという音が聞こえそうな感じで、大年君はトイレの花子さん(?)に貼り付けてみせた。
「なあ、大年、その札本当に効果あるのか? 何も起きないぞ?」
「…うちでは3000円で売ってる札ですよ?」
「だから、私は幽霊ですっ! 鈴木花子! トイレの花子さんですってば!」
何でこんな事になってるんだろう。ついさっきまで、ちょっとどきどき
しながら南西のトイレに来て、4時44分に合わせて4番目の扉を叩いてみたら、はーいと言って、女の子が出てきたからなんだけれども。
けれども、なんか違う気がする。こう、幽霊っておどろおどろしく
出てきて、ほらみんなの噂にあがるトイレの花子さんですよ?
あ、でもそういう意味では時田君も例外かも。
「まったく。4時44分にわざわざ訪問する珍しい子がいるからと思ってでてみれば、こんな扱い。最近の子は全くどういう教育されてるのかしらねー」
やけに所帯じみたことを言う花子さん。なんか違う気がする。
「で、用事は何? わざわざ訪ねてきたんだから、何かあるんでしょう?」
「ねー。一応、本当に幽霊って事にしてもさー。その、何でわざわざこんなばっちいところで過ごしているの? 根暗なの?」
「根暗じゃないっての! それにばっちくない! いつも私がきれいにしてます! …私だって別にこんなところにいたい訳じゃないわよ。その…待ってるだけ」
「トイレは汚いだろ。ゴキブリだっているし」
「ゴキブリもいません! あ〜もー、こんなんなら出てくるんじゃなかった。ったく、それにそこのもう一人の幽霊のあんた!」
トイレの花子さんは人差し指を時田君に向けて言う。
「待ってたのあんたなのに何とぼけてんのよ!」
「え? 僕? いや、そんな話し振られても君に記憶無いけど…そんな可愛い子なら覚えているはずだけどなぁ」
「か…か、か、可愛い…」
花子さんの顔が真っ赤になって、何も言えなくなってもじもじしてる。んと、あれ? なんだか意外とストレートに弱い子だったりするの? そんな微妙な空気の中、大年君が話し始める。
「えっと、待ってるって、時田を待ってたの? 何で待ってたの?」
「え? あ、えーと…その、可愛い…ってホント?」
「は?」
花子さん、大年君ガン無視。
「んー。この時田 公彦の目にかけて、一番可愛いと思うよ?」
ボスンと頭の上から蒸気が浮きそうなほど真っ赤になる花子さん。……えっと、ここって告白の場でしたかー。でも、時田君全然考えず言ってるよねー。
「あー。なんだか、時田と花子さん二人にした方がいいんじゃねーの? なんか、ここすげー暑いなー」
「ほんとだねー。ここトイレだっけ? 私たち用事がないし帰ろうかなー」
「そういうわけだ、時田。よかったな幽霊やってて。幽霊恋人が出来たみたいだぞー」
「春子〜。そろそろかえろー」
ちょっと、みんな、声、棒読みだよ。みんな時田君おいて帰ろうとしてる。本気で帰る気だ。
私たち、新しい幽霊っていうすごい発見をしたはずなんだけど、なんだろ、全てがおじゃんになってる気がする。
「ちょっとまった! えっと、待ってください! あ、あの、お願いがあるんです!」
そういって花子さんは私たちの足を止めた。
「お願いがあるんです、時田君に昔の卒業アルバムを見せてあげてほしいんです。そうすれば…」
花子さんの口が、パクパクと金魚のようにあえいでいる。あれ、何してるんだろう。と思ったら、大年君の目が光る。どうやら得意分野が来たみたい。
「成仏っていうこと? 幽霊は何らかの思いを残して、それに縛られるっていうから…」
花子さんは、目を伏せた。違うみたい。
「…私は、これ以上を話すことが出来ないの。これ以上話したくても話すことが出来ないから」
「なんー」
「できないの! 誰かに話そうとしても、話すことが出来ないの! だからお願い…私が話せるのはキーポイントだけなの…。お願い、どんなにーーでも、ああっ! もうっ!」
時田君がまたふわりと空に浮く。前、時田君にふわふわするのってどんな感じ? って聞いたら、支える場所が無くて最初は不安だけど、ちょっとコントロールする方法を覚えると病み付きになるって、言ってた。ふわふわしながらぽつりと時田君が話し出した。
「で、そのアルバムどこにあるの?」
「旧校舎にあるはず。3年8組の教室の道具入れの裏側に貼り付けたから、多分誰も見つけてないはず」
「おいおい。旧校舎って、今は入れたか? 工事中だった気がするけど、っていうか、アルバムぐらいあるだろ、図書館に」
大年君が、また喜んでる。…なんかやーな予感がするんだけど。
「高橋。君は甘いな。昔のアルバムは最近処分されてないんだよ。ほら、個人情報なんたらとかで、持てないんだって。フフフフ、だが、旧校舎への入る方法なら…なぜか、ここに鍵があるんだなぁ」
「わー。なんでもってるのー? っていうか、まさか…この前旧校舎に入ったの先生に了承得たのじゃなかったの!?」
「フフフフ、先生が、まさか鍵を渡してくれるとでも?」
「大年…まさか鍵複製したのか?」
「フフフフ、The key masterと呼びたまえ。ここにKey Masterをたたえたまえ!」
大年君が、両手を大きく振り上げる。怪しい笑みを浮かべてるよぅ。やっぱり、キモイ…いえ、変人…。高橋君は呆れ果てながら、花子さんに話します。
「だけど、なんで喋れねえんだ?」
「それが話す事ができればどれだけ気楽な事、なんだけど…とにかくお願い」
「まあ、とってくるだけならなあ」
高橋君はみんなを見ます。
「あ、あたしはいいよー。面白そうだし」
「key masterの威力を見せてやるよ」
「まあ、付き合うよ」
「牧野は?」
「いいんじゃないかなあ」
という訳で、旧校舎に行く事になりました。本物の幽霊、卒業アルバム、話せない事情、うーんちょっとした冒険かな。
「そういえばさ〜なんで学校に七不思議なんてあるんだろうね」
旧校舎へ行く間にそんな事を真澄ちゃんが言い出した。あ、大年君の目がまた光ってる。
「長田さん、長田さん。学校というのは、何パターンか在るんだよ。一つ、昔から立っているパターン、二つ、高度経済成長期にたてられたパターン、三つ、これは最近の少子化によって学校統合されたパターン」
「ふ〜ん」
「昔から建っている学校といっても、明治以前の学校は余りそういう七不思議っていうのはないらしいんだよ。それより、明治以降に建てられた学校や、高度経済成長期に建てられた学校には色々いわれがあることが多いらしい」
「へ〜」
「まあ、明治の学校創立期には、政府も余りお金が無くて無理矢理没収しちゃった土地や、そもそもいわれのある土地の上に学校ぶっ立てちゃったとか。高度経済成長期は、安い土地や余りの土地に建ててたりとか、
もちろん安いとか余ってるとかだけあって曰くありまくりなのを無視して建てちゃったとか。そういうわけで、本当に幽霊が居るとかどうかはともかく、噂にはなるような建て方をした所があったんだ」
「ぽ〜」
「それに日本は、特に多神教でありとあらゆるものに神がいるという考え方をしているモノだから、その考えがこう歪んで、話しが始まったんじゃーー」
「ぺ〜」
「長田さん。…聞いてないでしょ?」
「うん。難しかった。で、それ誰に聞いたの?」
「うちの兄さん」
「またぁ?」
「またで悪かったですね。そういう長田さん、この前の宿題を見せてあげたのに、まだ、なにも、返ってきてないんですけど」
「なーに。男が小さいことにこだわらないって! ほら、春子に嫌われちゃうよ。仕方ないなあ、ほらほら抱きついてあげるから」
「…もっと胸の大きい人がいいです」
メシっ…と音がしそうな勢いで、竹刀を大年君の頭に叩きつける真澄ちゃん。大年君、真澄ちゃん気にしてるんだから言っちゃあ駄目だよ。ちなみに、私はCカップ。イェイ。
「おい、ついたぞ。大年、鍵貸せよ」
旧校舎は、工事用のシートに包まれていて、外装がよく見えない。周りを見渡したけれど、工事現場の人は今日いないみたい。そういえば、工事用のシートに包まれて見えないけれど、大時計が正門の上あたりにあって
昔名物だったーって話聞いたことがあるなぁ。と、大年君頭を抱えながら悶絶してる。
「…痛い。猛烈に痛い…はい、鍵」
「ふん。ばーか」
「開けるぞ」
高橋君が正門の鍵口に鍵を差し込んだとき、時田君がふわふわ浮きながら、誰に聞かせるでもなく小さな声でぽつりと言ったのを私は聞いた。
「大時計…なんだったかなぁ、誰かと一緒に行った気がするんだけどな」
時田君の顔が真剣だったので、私は何となく誰と言ったか聞くことは出来なかった。
扉を開けると、そこはほこりっぽい空気がまんえんする下駄箱があった。工事用のシートのせいで、外からの光が余りはこないみたい。ちょっと薄暗い。
「大年ー3年8組ってどこだ?」
「ええっと、この前来たとき、魔の鏡の前通っただろ? あそこの先だよ」
ギシギシと床がきしんでいて、歩くたびに、旧校舎中に響いている感じがして、何となくいい気分じゃない。
「そーいえばさー春子〜。旧校舎って、来年には新しい校舎に立て直すんだってー」
「そうなんだ。ねえ時田君。そういえば、この幽霊になってから長いんだよね。昔のこと覚えてないの? トイレの花子さん知り合いだったみたいだけど」
階段がギシギシ行っている。そろそろこの前見た、魔の鏡の前を通る。
「さあね。幽霊になって長いけど、死んだ前後の記憶はないんだ。いやー可愛い子だったなぁ。花子さん。昔知り合いだったみたいだし、もうちょっとお近づきになりたいよ」
「何言ってるんだ、時田。花子さんお前に興味津々どころか、恋してるって感じだったぜ。トイレの花子に正体不明な時田、いい取り合わせじゃないか」
「え。そうだったか? なんか顔が真っ赤だったけど、怒ってたんじゃないのか?」
あー。そうだった、時田君こういうことに疎い。というか、分かってない人だった。
魔の鏡はあいかわらず割れたままだ。ガラスの枠に少し鏡が残っているだけ。そういえば、何でこのガラスの枠、三角形なんだろう。四角形にすればいいのに。
「さて、そろそろだな」
私たちは、3年8組の扉を開けて唖然としている。教室が無いからだ。何か比喩のような表現をしているのじゃなくて、扉を開けたら床どころか、教室が丸ごと無かった。どうも工事が進んだせいで、教室の中が取り壊されて、その廃材ですらも片付けられたあとになっていた。
「あー。こりゃ、残念な結果だな。大年、お前の兄貴とか卒業アルバム持ってないのか?」
「うちの兄さんは何でも屋じゃないよ。さすがに持ってないよ」
「どうしようねー。真澄、いい案でもないかな」
「ねー。花子さんの同級生とかからアルバム借りてこればいいんじゃないの?」
あ、そうだ。と、みんな会得がいった顔になった。最初からそれにすればいいんじゃない。
「馬鹿だなー。俺たち。そうすればいいじゃん。とりあえず花子さんに話しして、もう今日帰ろうぜ。そろそろ暗くなってきてるし」
私は、その時
気のせいだろうか。
どこかから音が聞こえる気がした。
「ねえ…」
その音はまるで、
鈴を打ち鳴らすかのような。
「みんな、何かが聞こえない?」
「いや?」
「春子〜疲れてるんじゃない?」
「牧野さん。何かの幽霊が…」
時田君が、
「聞こえる」
と言った。
直後、旧校舎がうめきをあげるように、時計の刻を告げる音を打ち鳴らし始める。
時田君が、叫んだ。
「外へ出るんだ! 鳴り終わる前に!」
みんな、固まっていた。
「早くっ!」
誰というのでもなく走り出す。
床がゆれている? ううん、違う、旧校舎がゆれている。
「走れ! もっと!」
でも、その先には。
その先には割れた魔の鏡が。
なぜか分かった。
割れていない鏡が、そこにある。
「だめっ! その先はっ!」
みんなが驚いて振り返る。
あらゆる方向から、閃光が走る。
私たちを包み、光は眼前に満ちあふれた。
閃光がやんだとき、最後の時計の鐘が打ち鳴り終えた。
私は、目の前が暗くなり倒れた。
「…い、お…、牧野!」
目を開くと、みんなが私を見ていた。
「高橋君…」
「春子〜。びっくりしたよ。倒れちゃって」
「牧野さん。大丈夫ですか?」
「…春子」
みんな口々に話しかけてくる。でも、今はそんな事じゃなくて。
「何が、起きたの?」
時田君が、深刻そうな顔をしている。
「少し記憶を思い出したんだ。この学校の七不思議の一つに、大時計の話しというのがある。4時44分に大時計を止めると、止めた人間がどこか見知らぬ異次元に飛ばされてしまう。そして、そこから出ることも出来ずに死んでいくという話をね。外を見てごらん」
外は、あるはずの工事用のシートが消えていた。その代わり、どこか知らない、運動場があった。運動場の端っこに、白いボックスが建っている。あれは、百葉箱?
「ここ、どこ?」
「分からない。分からないけれども…」
大年君が話し始める。
「…牧野さん。3年8組の教室見てごらんよ」
みんなに連れられて、3年8組の扉を開いてみる。教室が、ある。さっきみたときは、取り壊されていたのに。大年君が続ける。
「牧野さんが、倒れたあと、みんなで、少しだけ調べてみたんだ。三角形の魔の鏡が元通りになっていて、大時計が動く音がするんだ。予想だけども…ここは、本当に異次元なんじゃないのかなって」
「異次元…」
「牧野。ともかく、俺達はよく分からないことになっている。ともかく、この異次元…なのかしらないが、出口を探すしかないのかなと思っている」
「うん…」
大年君が、時田君に話しかける。
「時田。出口の記憶はある?」
「…いいや。思い出した記憶は、そういう噂をしゃべりあっていたときの記憶だけ」
真澄ちゃんが、竹刀袋にもたれかかりながら思いついたように言う。
「大時計の話しで、異次元に飛ばされちゃったのなら、大時計の所へ行けばいいんじゃない?」
確かにそうかもしれない。
私たちは、入り口である正門まで戻ってきた。正門の上に大時計があり、その時計は5時を指していた。正門の外には、運動場が広がり、端っこには百葉箱らしきモノがたっている。空は、ミルク色をしていて明らかに太陽の光とは違う感じがする。
「動いてるな」
高橋君がそんなことをつぶやいた。
みんな戻ってみたものの何をすればいいのか分からず途方に暮れている。
「なあ、大年。どうしたらいいと思う?」
珍しく高橋君が、大年君に意見を求めている。
「…さっき、長田さんに学校の不思議の起源みたいなのを話してたよね。もし、それが本当なら、この世界は神が住まう世界と言ってもいいんじゃないのかな」
「それで?」
「今僕たちは神様と同じ次元にいると思っていいと思うんだ。神様の世界は、言霊をとても大切にしていた。言葉を操ることで世界は変容すると考えていたんだ。もしその考えがあっているのならば…」
大年君は、札を取り出す。お札に、大年君が書き込み始める。”元に戻る”とか、書いてる。
「…ほんとかよ。元に戻るってかいて戻れるなら、みんなに書いても戻れるんじゃないのかよ」
「何に戻るか分からないのに、書いてみるのか?」
時田君が話す。
「もうちょっと具体的に書いて見ればいいんじゃないか? 現代に戻るとか。そもそもこの世界がどこなの分からないけれども」
「うーん。そうだけれども、そっかあ、現代に戻るかぁ」
大年君が”現代に戻る”と書き始めた。真澄ちゃんが言う。
「でも、大年ー。現代に戻るって、この旧校舎が元に戻るだけじゃない? やっぱり私たちに貼り付けなきゃ意味がない気がするんだけど」
「うーん。誰か実験してみたい人、いる?」
みんな顔を見合わせるだけで、したいという人はいない様。大年君が話す。
「とりあえず試しに旧校舎に貼り付けてみるかぁ」
大年君は、学校に貼り付けてみた。
…
……
………何も起きない?
「何も起きないな」
「何も起きないねー」
「何も起きない」
大年君はなんだか気まずそう。
「うーん。ここ神様の世界じゃないのかなぁ」
「なあ、僕は幽霊なんだからあの大時計の所まで飛んでいって中を見ようか?」
「時ちゃん。それ名案」
時田君は、大時計まで飛んでいく。
「おーい」
と、時田君が大時計から顔を出す。
「大時計の裏に管理用の部屋があるみたいだぞ。こっちへあがってこいよ。鍵開けたから」
その部屋は今までの旧校舎の中で一番ほこりっぽい部屋で、みんなコホコホと咳をした。カチコチと動く音がして、部屋の突き当たり、つまり大時計が組み込まれているところだけれども、そこにはいろいろな時計の道具がクルクルと回っている。
「うわー。なんか、すごい部屋だねー。なんか部屋全体が時計になってるみたい」
「旧校舎の大時計は、有名な人が作ったらしいですからね。メンテナンス専門の人がいたらしいですよ」
「でも、一つ間違えれば、あの滑車の中に手でも突っ込んだら、手がちぎれちまいそうだな」
「幽霊だとほら、こうやって挟まっても大丈夫だぞ〜」
時田君が時計の部品の間を通り抜けている。ああいう姿を見ると確かに幽霊だと確信できるなぁ。
「で、どうするよ。確かに時計が動いてるけど。どう見たって正常に動いているっぽいぞ。なんかすごいことがあるわけでもないみたいだし」
「時ちゃん。こう、幽霊なんだからすごいこと出来ないの? 超能力! みたいな感じで」
「そんな事言っても。幽霊ってそんなに便利じゃないよ」
「確かに何か便利そうな姿は見た事ないなー。ん?」
と言って、真澄ちゃんは時計の部品の近くに何かの見つけたみたい。
「これってものすごく怪しいよね〜」
真澄ちゃんの指す方向には一つのレバーがあった。
「怪しいな」
「怪しいですね」
「なんかのフラグなんじゃないのか?」
みんな口々に話す。確かに怪しい。いろいろな意味で。こう何かが起きる予感を感じさせる。
「触らん方がいいんじゃないのか」
「だよねー」
あ、触らない方向になっちゃうんだ。
そういう訳で触らない事に。
みんなが出て行こうとしたとき、レバーが引かれる音がした。小部屋に大音量の刻を告げる音が鳴り響く。
「おいおい。まじかよ。今勝手にレバーが引かれたぞ。俺達何もしてないよなぁ」
「ここまで来ると、何かの存在を感じずには居られない」
「えー。もう、なんだかなー」
時田君があれこれ考え始める。
「うーん。たしか、何だったかなぁ……なあ、みんな今思い出したんだけど」
「時田、悪いことじゃねえよな?」
時田君がアハハと笑う。
「窓の手という怪談があってね…」
みんなが大時計の外の景色を見る。
「おい。おい。おい。ありゃなんだ。ありゃ、やばいんじゃないのか」
「だ、だよねー」
「なんて言ってる場合じゃないですよ。逃げるんです!」
窓の外の景色は、いわば不透明な手が1、2、3…なんて数えられないぐらい無数、こっちへ向かってくる。
不透明な手が、時計台のガラスを叩き続ける。そのうち割れてしまいそうだ。
みんなが駆け出す。
一生懸命駆け出す。
「おい。逃げるって言ってもどこへ行けばいいんだよ!」
「ともかく、窓の少ないところ! 手が追いついてこないところです!」
中二階を駆け抜け、二階の廊下を走る。不透明な手が、窓の外に現れる。
不透明な手は、こちらへ入り込もうと窓ガラスを叩きつける。
「なあ、この先って、正門だよな…正門、開けたよな」
不透明な手が、廊下の彼方に現れる。
「そこにともかく入って!」
みんなでなだれ込む。高橋君が扉を閉め、鍵をかける。不透明な手が、扉のガラスを叩き続ける。どう見たって不味い。
「どうするよ。どうする? おい! ガムテープ! 窓を十文字に貼り付けろ!」
「そんな事言ったって、ここ図書館みたいだよ! 図工室に逃げ込めれば…」
「おいおい。来たぞ」
図書館の窓のそこら中に不透明な手が、現れ窓を割ろうと叩いている。
「時田何か無いのかよ。思い出したこととかで、この状態何とかする術とか」
「だから幽霊はそんなに…」
「便利じゃない なんて言ってる場合かよ!」
窓にひびが入る。ああ、もう駄目な気がする。
「みんな固まれ。来るぞ」
真澄ちゃんは竹刀を取り出し、時田君と高橋君は椅子を持つ。大年君は…役に立つか分からないお札を出し、私は近くにあったはさみを持って構えた。
窓が、割れる。
不透明な手は、部屋の中に入り込んできた。
扉が吹き飛び、窓ガラスははじけ飛ぶ。
手が、すさまじい勢いでこちらを目指す。
「も、もしかして、体とか引きちぎられちゃうのかな」
「牧野。そんな想像はあとだ」
が、不透明な手が私たちの周りではじき返される。何度も手は私たちに近寄ろうとしてくる。でもそのたびにはじき返されている。そして、機会をうかがうようにジリジリと周りをうろつくばかりになった。
「どういうことだ?」
高橋君が椅子をおろしながら気の抜けたようにつぶやく。
「これは、もしかして…ちょっと待ってて」
そういって大年君が、札を一枚近くの壁に貼り付ける。
「ささ、みんなちょっと動いてみて」
みんなでゆっくりと、その札から離れてみる。
そうすると、その札の周りと、私たちの周りには手が近寄れないみたいだった。
「札の周りに近寄れないみたいだね」
「大年。お前初めて役に立ったな」
「なんで、僕は近寄れるんだろ?」
「時ちゃんは特別なんじゃない?」
「そういう問題なのかなぁ」
「大年、その札、部屋中に貼り付けてみようぜ」
貼り付けていくと新しい事実が明らかになった。四方に貼り付けると、その中には入ってこれないみたい。
「はあー。これで一段落できるな。こう、事態が一向によくなってないのは別として」
高橋君は、倒れた椅子を立て直して座った。
「ねー。どうする。これから?」
「どうするって言っても、これじゃあ何ともしようがないぜ、出口でもあれば別だけどな。それにしても、時田。お前があれこれ思い出すたびにろくな事が起きないのはいったいどういう事なんだよ」
「そんな事言われても」
「時田。実はこの事態はお前が引き起こしてるんじゃないのか? お前、死ぬ前後全然記憶がないと言ってたが、そのことが問題になってるんじゃないのか? いやそもそも、あの花子さんも何も話せないってのもおかしいだろ」
「まあ、そういうことになるのかなぁ」
「…はあ。大年、なんか無いのか…あれ、大年?」
大年君が、図書館の隅っこで何か読んでいる。
「これ。これを見てみて」
大年君が、興奮して何かを持ってくる。それは今の図書館にはないはずの、卒業アルバムだった。
「ほらここ。時田 公彦と鈴木 花子って書いてある。時田と花子さんは同級生だったんだ」
「あーこれー。花子さんから依頼受けてた卒業アルバムじゃない。そういえば、これを持ってきてくれっていわれてたんだよねー」
「ミッションコンプリートってやつか。元に戻る術がねーのに。こんなところで見つかってもなぁ」
時田君が考え込みながら話す。
「この当時学校の七不思議と言ったら、大時計の話、窓の手、魔の鏡、赤いちゃんちゃんこ、トイレの花子さん、ベートーベンの目、最後の一つは謎だったんだ」
「また思い出したのかよ。勘弁してくれ」
「いいから聞いてくれよ。この話には続きがある。七不思議の七つ目は決して明かされることがない謎なんだ。謎が、不思議であり得たはずなんだ。ところが、この学校はそうじゃない」
「七番目の不思議がこの学校に存在するって言うことですか?」
「そのはず。このアルバムを見て思い出した。七番目は存在する」
「時田よぉ。七番目が存在することが、この現状をどうにかするって言うのか?」
「七番目は、七不思議の作成者。自身を含めて、七つとしている。つまり、1958年に、七不思議が実在するようになったんだ。この謎は作られたモノだ。そして、作られた謎は何らかの方法で壊すことが出来たはず。そのためには、それぞれの不思議を…」
「調べる必要があるってか?」
「そういうこと」
「でもよ。あれだぜ。すぐそこにうろついているあの手は、あんな調子だし、おとなしく調べさせてくれるようには思えないぜ?」
「まあ、そうなんだけど…ほかに手がないしというのが、回答かな」
「んー。わかんないけど、その謎の本拠地へ乗り込んで、ずばっ! どばっ! ってやればいい感じなのかな?」
「長田…相手は七不思議だぞ。竹刀で度付き回すわけには…まてよ。長田、大年、竹刀と札を貸せ」
「え。うん」
高橋君が、竹刀に札を巻き付ける。不透明な手を一つ竹刀で叩いた。不透明な手が、消えた。
「どうやら武器は出来たみたいだな。さて、どこの謎へ最初に行こうかね。…危険そうなのは、赤いちゃんちゃんこと、魔の鏡っぽいなあ、時計台は何もしゃべりそうにない上に、窓の手はこんな状況、残ったのはベートーベンの目ぐらいじゃないのか?」
みんなでより固まりながら、そろそろと進むうちに、音楽室にたどり着いた。
「音楽室ってさあ、なんでこうも音楽家の肖像なんて掲げているんだろうな。無くたって別にかまわねーのに」
「コホン。それは君たちみたいに若輩者に先人の遺業を教えるのに一番簡単な手はずだからだよ」
と、ベートーベンの肖像画が話し始める。
「私の所に来たのはいい選択だよ。その竹刀を納めたまえ。何も襲いかかろうって言うことはしない。むしろ私からお願いがあるのだ」
「その前に教えてくれよ。この状況いったいどうなってやがるんだ? もしかしてあんたも花子さんと一緒でしゃべられない口かい?」
「幽霊を固定化するにはとても力を使うらしくてね、私はしゃべれる。
というか、何も知らないからしゃべれるのかもしれないがね。ああ、時田君じゃないか。ようやく君に再会できた。
それにこのまで到達できるメンバー。どうやら私も終わることが出来るようだ」
「どういうことだ?」
「そういうことだよ。霊感を持ったメンバーで札の力を働かせることが出来て、君たちは七不思議を消滅させることが出来る力を持っているんだ。それに時田君、君がこの謎の中心人物なんだぞ」
「え? 僕。えーとあなたどなたでしたっけ?」
「そこから記憶にないのか? 元々君の担任だぞ。君は、この七不思議の発生源だ」
みんなが時田君を見る。
「君は鈴木花子を覚えているかね?」
「いいえ。でも、トイレにいましたよ?」
「君と彼女の間には何があったか細かいことは知らないが、彼女とは恋人だった…と思う」
大年君が、ああそれで…とつぶやく。
「だが、彼女は死んだ。表向きは、急性心不全という形でね。だが実際は、元々あの子は体が弱い上に心因性のものに強くなかった。有り体に言えば、いじめられていたんだよ」
「つまりからだが悪かった上に、いじめが加わってあの世…この世にいますけど、しんじゃったと」
「うむ。そういうことだ。彼女が死んでから少ししてから、時田君が死んだ。その直後だ、彼女をいじめていた連中が一人ずつ消え始め、最後に私が消された。そして気がつけば、ベートーベンの肖像画になって
いたというわけだ。その時一人の男が、私の前に来ていった。いじめていた連中を札に変え、この学校の次元の狭間に放り込み、
七不思議は完成したと。笑ってたよ。楽しげに」
「でも、なんでそんな手間ひまかかりそうなことしたんだ?」
「そればかりは、何も言わなかったな。ただ、この状態から解放する方法は教えてくれた」
「それは、元に戻れるって事か?」
「そうだ。私の肖像画の裏に札が貼ってある。それを破ればいい。ただし、この学校に残った、赤いちゃんちゃんこと窓の手と大時計の札も同時に破らないと元の世界には戻れはしない。つまりいうなれば、
同時に破ることで、相互の関係を断ち切り、次元のゆがみを修整して、この状態を破壊するというわけだな」
「難しいことわかんないー。いっぺんに破らないと駄目って事? 一枚づつじゃ駄目なの?」
「論より証拠、一度破ってみるといい」
大年君がベートーベンの肖像画の後ろに貼ってある札を破った、と思ったら元に戻っていた。
「この通り、一枚だけ破っても元に戻るだけなのだ」
「全部集めて破ったら?」
「短時間で再生するようにも作られている」
「ちなみに赤いちゃんちゃんこと魔の鏡と窓の手は…」
「彼らは…憎んでる。この次元に落ちてきたものを壊して楽しんでもいる。彼らから札を奪うのはとても難しい」
「でも、奪わなきゃいけないんだろう?」
「ああ。そうでないと帰れない」
高橋君が、みんなを見る。
「やるしかないなら。やるんだ。方法を教えてくれよ」
「まず、赤いちゃんちゃんこの武器は鎌だ」
「…かま〜? あのズバズバ切ることが出来るやつー?」
「そうだ。だから、竹刀袋を持つ君。運動神経がいいだろう? 鎌を避けつつ、札を貼った竹刀で殴りつけるんだ。それで、思念体を消滅させ、札を取るんだ。赤いちゃんちゃんこは3年7組にいる」
「し、しんじゃわないの? ちょっとそれ困るんだけど」
「大丈夫だ、そのほかのヤツも負けず劣らずだ」
「魔の鏡、武器はよく分からんがタフさが必要らしい」
「そうだな。そこに仕切り屋君。君がいいだろう。がたいも良さそうだし。魔の鏡をたたき割り、裏に貼り付けてある札を取るんだ」
「…ああ。わかったよ」
「それと、札がかける君と、おっとりしている君。窓の手担当だ。多分、札がかける君は神社出身の子だな?」
「はあ」
「祝詞は読めるかね」
「ええっと、大祓詞までは一応」
「十分だ。窓の手は、運動場の百葉箱の中に札がある。君が持っている札の効力は、近くまでは続かないだろう。そのとき、大祓詞を読み上げるんだ。そうすることで、札以上の力を持つことが出来る。ただし注意が必要だ。とにかく一心不乱に集中しながら進むんだ。」
「あと、時田君。君は伝令役だ。私の肖像画を持ってほしい」
「あ、はあ」
時田君が、ベートーベンの肖像画を持つ。すると、直接頭の中に声が響く。
“聞こえるかね。これが、時田君の役割だ。全員が、札を取ったのを確認したら、全員に一斉に破るようにテレパスで通信する”
高橋君がみんなに話す。
「大年、札を分けてくれ。あと、みんな絶対に死ぬなよ」
大年君が札を割り振る。みんな顔が真剣だ。
「よし、行くぞ」
長田 真澄は、かなりおびえていた。みんな端から見る長田 真澄という像は、ラガーウーマンとでも言うべき事を想像していた。でも実際は、今の事態に泣き言を言いたかったし、実際半べそかきかけてもいた。
そのうえ、赤いちゃんちゃんことの対決まで加わる。
そもそも、七探しクラブに入ったのは変人、大年のことが好きだったからだった。なんだかんだいってお人好しで、その上優しかった。
春子の事など、実は二の次三の次だった。でも、もちろん自分が見られている像を知っていたので、大年に告白などするつもりはないに等しいし、今のこの関係を崩したくもなかった。
目の前を横切る不透明な手は、あいかわらず自分の周りをぐるぐると回っている。
気持ち悪いーーー。大年の札がなかったら、どうなっているか分からない。そうかんがえると、肝心なところでいつも大年に救われていると思うのだった。
いつも肝心なところで助けられてばかりの私が、本当に、こんな命がけになってしまった、いわば化け物退治なんてできるのだろうか。
命をかける。死にたくない。大丈夫なのだろうか。そればかりが頭の中をぐるぐると巡っていた。
3年7組。
この中に、赤いちゃんちゃんこがいる。竹刀を握る手が汗でにじむのを感じる。扉を開こうとする手が震えるのも感じる。少し中を覗いてからの方がいいんじゃないんだろうか。そっと、覗いてみた。
その刹那、目の前の扉が一刀両断された。
「き、やぁっ!」
長田は後ろも見ずに走り始める。後ろから声が聞こえる。
「おじょーーーちゃーーーん。あかーーーい、ちゃんちゃんこーーーおーーーはあーー」
「いりません! いりませーーーん!」
「いるよなーーーーーーーーあーーーーー!」
「いやーーーーーー」
後ろで鎌が空を切る音が聞こえる。
(無理っ! 無理だよ! こんなの殺人鬼じゃん!)
目の前に高橋が見える、あれは魔の鏡!?
高橋 徹は、魔の鏡の目の前に来ていた。
「…なにも起きねえぞ?」
なんだか凶悪なものを想像していたが、何も出てきはしなかった。
「そもそも、何でこの鏡三角なんだ。まったく気持ちの悪い鏡だぜ」
高橋は、コツンと鏡を叩いた。
“おい。ベートーベン。これどうすりゃいいんだ。たたき割ればいいのか?”
“のはずなんだが…ちょっとまて…その鏡の枠に札が貼り付けてー”
「おい? おい? どうしたんだ?」
通信が途絶するように、話しが突然途絶えた。
「まあ、いいか。とりあえずこの鏡を割ればいいんだな。ちょうどいいところに椅子もあるし。一度思いっきり殴ってみたかったんだよな」
高橋は勢いをつけると、鏡に向かって思いっきり振りかざし叩きつけた。突如、目の前に閃光が走った。
「お、高橋! たすけーーー」
高橋が、鏡に向かって思いっきり椅子を叩きつけようとしたときその姿が消えた。
(えっ! ええーー救いの神様はどこにもいないってわけーー!)
長田は後ろの赤いちゃんちゃんこを引き離すべくさらにスピードを上げる。階段を一気に駆け上り、どこかの教室に一気に逃げ込む。そして息を殺した。
「おーじょーちゃん。にげてもーむーだーだよぉおお」
どうやら、階段の下の方から声が聞こえる。赤いちゃんちゃんこは私を見失っているようだ。竹刀を両手で握る。もし、私が赤いちゃんちゃんこなら、赤いちゃんちゃんこなら、一つ一つ部屋を探って行くに違いない。
そこで見つかった私は鎌でぶった切られるに違いない。木製の扉が真っ二つになったのに、竹刀と私の体が真っ二つにならない意味はどこにもない。
(これって、もしかして追い詰められてる!?)
「おじょーちゃん、階段あがっちゃったよぅ。どこにいるのかなぁ」
ふと、教室の端にある給食を配る時に使うローラー付きの机が目に入った。
「…何が起きたんだ?」
高橋は閃光に包まれて目の前の景色がつかめるのに時間がかかった。だが、最初に飛び込んできた景色、それはー。
「割れたのか?」
三角の窓枠しかない魔の鏡だった。
「でも、なさそうだな」
窓枠があったが、割れた鏡がなかった。
「ここは…どこだ」
”ちょっと次元は違うけれど、君たちの世界に近いところに戻してあげたからもう関わらないで”
高橋の頭に声が響く。魔の鏡の主らしい。
「どういうことだ? どういう意味だ」
“ほかの子は、じゃまそうだからそのまま置いておいたけど、君だったらそのまま忘れて暮らせそうだから、似た世界に返しておいたよ。もうじゃましないでくれ。それじゃあ”
「おい。なにいってんだ? 俺を戻すならほかのヤツも戻せよ」
“うるさいなあ。僕にそんな能力はないよ。近い世界に戻すだけなんだよ”
「じゃあ。ごめんだな。みんな戻らないと意味ないんだ」
“と言ってもどうするんだい、札を貼った鏡はもうないんだぜ”
「高橋くーん。ここにいたんだー。そろそろ帰るよー」
「は、花子さん!?」
おかっぱ頭の花子さんがこっちに駆け寄ってくる、その後ろには浮いたり飛んだりしないーー時田がいた。
「なにやってんだ。帰ろうぜ。徹、最近ここに来なかったのにまた来るようになったのか?」
「い、いやーおまえー」
「また、お前。俺が幽霊だったとか、花子がトイレにいるだとか言い始めるんじゃないんだろうな。花子に、トイレの花子あいすぎだけど、こんなに可愛いのにそれはないだろ?」
「か、かわいい…」
花子さんが顔を真っ赤にして固まる。…こっちの世界でもこの反応は同じらしい。
「大年は、長田は、牧野は?」
「だれだそれ? なんか前も聞かれたな。知らないって」
…知らない振りをしている様子はない。
不透明な手がうにょうにょと、うごめいてこちらに襲いかかろうとしてぐにょぐにょしている。でも、札の効果で近寄れないみたい。
「大年君。大丈夫…かな?」
「あ、まあ、大丈夫だと思います」
大年君は、言葉少なげだ。緊張しているんだろうけど、何か話してくれないと私はもっと不安。
“もうじき、百葉箱が見えてくる。そこまでは大祓詞をあげながら行くんだ”
ベートーベンの声が私たちに響く。大年君は読み上げ始める。
「高天原に神留まり坐す 皇親神漏岐神漏美の命以て 八百万神等を神集へに集へ給ひ 神議りに議り給ひて …」
手が、一気に引き始める。すごい。日本の神道ってそんなに力があるんだ。
「言問ひし磐根木根 立草の片葉をも事止めて 天の磐座放ち 天の八重雲を 伊頭の千別に千別て 天降し依さし奉りき 此く依さし奉りし
四方の国中と 大倭日高見の国を安国と定め奉りて 下津磐根に宮柱太敷き立て 高天原に千木高知りて 皇御孫命の瑞の御殿仕へ奉りて 天の御蔭日の御蔭と隠り坐して 安国と平けく知食さむ 国内に成り出む天の益人等が
過ち犯しけむ種種の罪事は 天津罪 国津罪 許許太久の罪出む 此く出ば天津宮事以ちて 天津金木を本打ち切り末打ち断ちて
千座の置座に置足はして 天津菅麻を本刈り断ち末刈り切りて 八針に取裂きて 天津祝詞の太祝詞事を宣れ…」
わー。すごい。不透明な手が逃げてるなんだかゴキブリに薬かけてるみたいに逃げてる。
「大年君。やったね。いい感じに行けそうだね」
でも、大年君の額からは汗が滝のように流れ続けている。とても苦しそうだ。
「此く宣らば 天津神は天の磐戸を押披きて 天の八重雲を伊頭の千別に千別て聞食さむ 国津神は高山の末低山の末に登り坐て 高山の伊褒理低山の伊褒理を掻き別けて聞食さむ 此く聞食してば罪と言ふ罪は有らじと
科戸の風の天の八重雲を吹き放つ事の如く 朝の御霧夕の御霧を朝風夕風の吹き掃ふ事の如く…」
不透明な手は、どんどんと引いていく。でも、それは違う意味だった。
「なに、あの大きな手…」
小さな手が一つに固まって、大きな手を作り上げ始めていた。
外は、暗くなりつつあった。高橋は、どうすることも出来ずにその場を動かなかった。
「これじゃあ、なんともならないぜ。…さっき一緒に帰ってしまえばよかったかな」
さっきから何度も鏡の枠は調べてみたが、何も発見できなかった。
「そういえば。札がまだあったな」
まだ何枚か余っていた。
「信じるものは救われる…とは行かないかな」
札を鏡の枠に貼り付けてみる。
その直後、すさまじい絶叫が鏡の中からこだました。
“やめろ! その札をはがせ! 痛い! 何が望みだ!”
「やっと、答えてくれたか。まず俺を、みんなの所に戻せ! そしたらはがしてやる」
“戻したところで俺の札をはがすつもりだろう。そんなことに力を貸せるか”
「なら、もっと貼り付けてやる」
何枚も一気に鏡に貼り付けた。鏡の絶叫が頭にこだまする。こっちまで痛くなってきそうだ。鏡に貼り付けられる? 鏡の部分が札を貼り付けることによって復活している?
「この状態で鏡をたたき割ってやったら、札とれるんだろうな」
“お前も戻れないぞ”
「…どっちにしろ戻す気が無いんだろう?」
“そんなことはない。戻そうと思えば戻せる”
「なら戻せよ。戻しても、戻さなくても割るけどな」
“俺は消滅したくないだけなんだ。静かに黙って暮らしていたいだけだ”
「静かに黙って暮らしていたいだけか」
札が一枚床に落ちる、床が消える。
「…お前嘘ついてるだろ。ここは、別世界じゃないな? ここは、鏡の中の世界だろ?」
"なぜそれを…"
「床見てみろよ。馬脚をなんたらやらってのはお前の事だぜ」
高橋は鏡に向かって思いっきり体をぶち当てた。
気が付くと高橋は、砕けた鏡の前で見た事もない札を握っていた。
「はは…たいしたことねーじゃねえか…」
ふと、教室の端にある給食を配る時に使うローラー付きの机が目に入った。
「おーじょーちゃーんーーーこのきょうしつかなぁーーーあ」
長田の行動は早かった。椅子をひっ掴み机を移動すると待った。
(うまくうまく行きますように)
「おじょーちゃんーここだなあーーーアアおんなのにぃおいがするぅーーー」
(イチ、ニ、サン)
(イチ、ニ、サン)
(イチ、ニ、サン…あれ? 入ってこない?)
頭上から声が響く
「おじょーちゃんーこしふりふりなにまってるんだいーーー」
長田は不意をつかれた。そして見た。赤いちゃんちゃんこにズルむけの顔がのかった化け物の姿を、けれどその直後の長田の行動はまさに火事場の馬鹿力だった。
「いやあぁあー」
という叫びなのか雄叫びなのかわからないうちに、ローラー付き台車が、赤いちゃんちゃんこに飛んで行った。ローラー付き台車は赤いちゃんちゃんこの右腕の振り落とし切り倒され、長田はそこで冷静さを取り戻す。
次は左腕だ。長田はそう思い札をはがした竹刀で殴りつけ、左手で竹刀が切り落とされる。まだ、赤いちゃんちゃんこは空中にいる。
最後の一手だ。札を貼り付けた右腕で。
赤いちゃんちゃんこを殴りつけた。
ボフンという音がして赤いちゃんちゃんこは変な紙の札に変わった。
「ハ、ハハハハ。勝った。カッタヨー大年ー今度あったら告白してやるー」
「あれ…何」
目の前に大きな手ができた。わたしの身長よりずっとずっと大きい。あんなのにあんなのに攻撃されたら。
「大年君っ。あれまずいよ!」
「大津辺に居る大船を舳解き放ち艪解き放ちて大海原に押し放つ事の如く 彼方の繁木が本を焼鎌の利鎌以て打ち掃ふ事の如く 遺る罪は在らじと祓へ給ひ清め給ふ事を 高山の末低山の末より佐久那太理に落ち多岐つ…」
「ねえ! 大年君! 大年君! どうしたの! 時田君!」
“春子! そこから逃げるんだ。はやく! あんなのに叩かれたら。大祓詞とはいえで、持たないぞ。と言うのが、ベートーベンの一言だ!”
「そんなこといわれたって! 大年君とおかしいし。私どうしたらいいの!」
大年君が、口を大きくあげて叫ぶように続ける。
「早川の瀬に坐す瀬織津比売と言ふ神 大海原に持出でなむ 此く持ち出で往なば 荒潮の潮の八百道の八潮道の潮の八百曾に坐す速開都比売と言ふ神 持ち加加呑みてむ 此く加加呑みてば 息吹戸に坐す息吹戸主と言ふ神
根国底国に息吹放ちてむ 此く息吹放ちてば 根国底国に坐す速佐須良比売と言ふ神 持ち佐須良比失ひてむ 此く佐須良比失ひてば 罪と言ふ罪は在らじと 祓へ給ひ清め給ふ事を 天津神国津神八百万の神等共に聞食せと白す」
大年君が突然、私の手を握る。
「神名に嗣ぐ! 退散したまえ!」
その瞬間、何か大きな力が私たちを包み、放たれるのを感じた。
そのあとには、手は消え百葉箱がポツンと残っていた。
百葉箱の中には、奇妙な札が入っていた。
頭の中にみんなの声が入り交じっていた。
“はー。変態基地外が入った怪物ってヤーネー”
“こっちは、間違った世界に飛ばされたかと思ったぜ。花子さんと時田かよ。笑っちまうぜ”
「こっちだって怖かった。…手が大きくなるなんて思わなかったし」
とはいえ、みんなの報告の方がとても怖そうだった。私だったら、とても生きのびられた気がしない。
“さて、みんな札がそろったかな。時田君は大時計の札と私の札を持っている。一斉に破るぞ。一、二、三でやぶるぞ”
“一”
“そういえば、消滅しちゃっていいの? ベートーベンの人”
“二、もう50年もここにいれば飽きもするし、それに、時田君には悪いことをした。ここに残っているのは悪いやつばかりだし、安心して破るといい”
“三”
破った。ごくあっさりと。
そして瞬きするとそこは、全員3年8組の教室も前だった。
「もどったね」
「もどれたー」
「はあー」
「もどったなー」
みんな、その場に、どかっと座り込んでため息をついていた。時田君はふわふわしたままだけど。
「そういう時田は一番楽な役割だったんじゃないのか。ほらテレパシーって感じだったし」
「そうでもないよ、なんていうか力がギュルギュル吸い取られるような感じで持続するのは大変だったんだぞ」
「それにしても、大年ーあんた大活躍だったね。札といい、あの手のヤツといい。見直したよー。変人ってだけじゃないだーってかんじで」
「いやいや。元々、天才は理解されないものですから」
「ばーか」
真澄ちゃんが空になった竹刀袋でポスリと大年君の頭を叩く。確かに大年君すごかったな。
「なあ、みんな」
と、時田君が言う。
「記憶がよみがえった。花子の所へ行こう…みんなが来なくても僕は行くけど」
「おいおい。水くさい事言うなよ。なあ、みんな」
高橋君は、ほこりまみれの顔に笑顔を浮かべる。みんなの顔にも笑顔が浮かんでいた。ただ若干やっかみもあるような気がするけど。
そういうわけで、また南西のトイレに押しかける。
もう真っ暗だから、部屋のトイレの電気をつける。
「ねー。今日先生達見回りしないのかな。そろそろ気がつかれてもおかしくないよー」
「馬淵先生が今日見回りじゃなかったか? あいつなら見回りせずに帰っちゃうんじゃないのか?」
「まあ、いいや」
4番目のトイレは扉が閉じていた。
珍しく時田君が進み出て、4番目の扉を叩く。
「花子」
扉が開き、花子さんが出てくる。
「思いだした?」
「夏の糞暑いのに、校舎の屋上でめそめそと泣いていた女の子がはじめの出会いだったね」
「そこ? 最初に話すことは?」
「だって、その時好きになったんだから」
「うん」
「最初に僕に会ったから、友達が出来なくなっちゃったよね。僕に会わなければ、もっと違うことになってたかもしれないのに」
「ううん。そんなことないよ、さっちんも、なかちゃんも、ともよちゃんもいたよ」
「でも、それよりなにより…」
「うん」
「僕はあの人の”君の好きな人は君の記憶で取り戻せる”という言葉を信じた」
「うん」
「でも、これは違うよね。縛っただけだよね」
「…」
「ごめん」
「もし、今度あえたらね。ずっと言うと心にずっと誓ってた事があるの」
「なに?」
「時田君は、とっても大馬鹿だけど、とっても大好きだってね。ねえ、後ろの人たちが気まずそうにモゾモゾしてるよ。私たちだいぶ恥ずかしいこと言ってるはずなんだけど」
みんなニヤニヤ笑いが抑えられない。という感じで二人を見てる。
「よ。二人ともお熱いなぁ」
「なんと50年前からとは、なかなかお熱い」
「ひゅ〜」
時田君と花子さんは気がつけばさっくりと、手までつないでる。全くこりゃ手のつけようがありませんねー。時田君は、ほほえんでいる。
「これが、発動条件なんだ」
「なんの?」
「この世を去るための」
「オイオイ。何の冗談だ。時田。お前部長だろ、どうせなら花子さんも入れた…」
「徹、春子、真澄、大年。みんなごめん。中退みたいな形になっちゃうけどこういう事なんだ。すまない」
「…時田君。もうもどってこないの?」
「ああ、春子。時々昆布茶を飲んで忍んでくれると助かるよ」
それじゃあ…と、軽い挨拶を交わすように二人の姿は…消えた。
それから、3ヶ月がたった…学級委員室は昆布茶の最大消費者がいなくなってしまったので、昆布茶がちっとも減らない。それだけならともかく、七探しクラブもメンバーが集まるには集まるのけど、どーも気が抜けてしまっている。
「牧野。この前の会計の数字間違ってるって、馬淵先生から言われたぞ」
「あー。うん。ごめーん」
高橋君は、私の隣にどっかりと座る。
「まだ気が抜けてるのか?」
「そういう、高橋君だって、昨日、掲示板に間違えた会報そのまま貼り付けてたじゃない。馬淵先生ああいうところだけには細かいんだから。お互い気をつけないとね」
真澄ちゃんが、入ってきた。あいかわらず体操服姿で、片手には竹刀袋を抱えている。
「おー春子。昆布茶ちょうだい〜」
「長田。たまには自分で入れたらどうなんだ?」
「まーそんな細かいことは気にしない、気にしない」
大年君も後を追うように、入ってきた。
「あー。メンバーそろったみたいだね…ああそういえば旧校舎無事に取り壊されたみたいだよ」
「無事ねぇ、何をもって無事と言うんだか」
「まあ、高橋、そういうなよ。時田もあんなのが残っているのを望んじゃいないだろう」
と、そこにズラで有名な馬淵先生が嫌みたらしそうに入ってきた。
「牧野。この会計計算が違ってるぞ」
ちらりと高橋君に目配せをし、馬淵防衛ラインを張る準備をしつつ、ちょっぴりため息をついた。時田君いたら、あのズラをぺろっとめくってくれたかもしれないのに。…こう、願ったらならないかな。えいっ!
学級委員室に馬淵先生の嫌みが聞こえなくなったのは、その次の瞬間からだった。あれ? あのー馬淵先生、ズラがおちてます…。
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ペンネーム 名無しさん:
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ペンネーム名無しさんです。
と言うわけであっさりさっくり、適当な感じに終えてみました。
あれこれ設定はあったのですが未消化な部分が残ってしまいました。
やっぱりあれですね、実は小説初めてでして、この作品が処女作になります。
書き慣れた人たちの筆圧がほしいと、書いている途中思う日々でした…。