601 :
創る名無しに見る名無し :
2010/02/20(土) 01:28:24 ID:yF6M2AGu そしてロシア人というのも嘘だった。 彼女はきっすいの日本人である。 髪の毛は染色で瞳はカラーコンタクトだ。 ロシア人でも教師でもない。 いったいこの女、何者なのだろう……。
俺がぼんやりしているうちに女はしなやかな動作で衣服を全て脱ぎ捨て、たわわな裸身を揺らしながらバスルームへ消えた。 俺「欲情してるか?」 銀髪男「浴場だけにな。」 銀髪男は立ち上がり、懐から取り出した拳銃の先を俺の眉間に押し当てた。
603 :
創る名無しに見る名無し :2010/02/20(土) 14:43:45 ID:rzWEGnpf
???「ボールの恨みを晴らすまでは死ねない!」
銀髪男「残念だが私がこの銃の引き金を引く事によって君自身がミートボールになるのだよ。皮肉なものだな。」 俺「そいつは残念だ。だが俺は死なん。そう決まっているんだ。」 銀髪男「何を…うわっ」 いつの間にか銀髪男の後ろに立っていたロシア女が、素早く彼の首にベルトを回し、締め上げたのだ。
605 :
創る名無しに見る名無し :2010/02/23(火) 01:14:50 ID:689z8+iK
男は抵抗しようとするが、上手く力が入らないのかロシア女に押さえ込まれてしまっている。 男の事はロシア女に任せ、俺は部屋を出、仲間に連絡できる手段の確保に努める事にした。
606 :
創る名無しに見る名無し :2010/02/23(火) 14:01:33 ID:blKIZJ4/
「そうはいかないぜ!」
ギターを背負った男が立っていた。
608 :
創る名無しに見る名無し :2010/02/27(土) 15:41:56 ID:xOW5vGHO
男「俺を倒してからにしな」 俺「ふざけるな!」 男「ふざけてるのはお前の方だ。形勢逆転といこうか!」 というや否や男は指をさした。 ロシア女が2人組の男に連れてこられてきた。 男「降参すれば、この女のようにならずに済むぞ」
俺「わかった。君の言うとおりにしよう。だが一つだけ頼みがある。」 男「頼み?なにかね。」 俺「その女に、何か着せてやってくれ…すっ裸じゃあんまりだ。 そうだ、俺のジャケットを彼女に貸してやってくれ。」 男はニヤリと笑い、背を向けた俺から上着を受け取ろうとした。
610 :
創る名無しに見る名無し :2010/03/04(木) 10:25:56 ID:Hg6aa7+Z
その時だった! 上空から
カナダライが
何故か粉までもが
ダメだこりゃ でもそんなの関係ねえ でもそんなの関係ねえ でもそんなの でもそんなの でもそんなの関係そんなの関係そんなの関係ねえ《おっぱっぴ〜》
以上、ブライシンガーがお送りしました。
引き続き、水曜ロードショーをお送りします
番組の途中ですが、臨時ニュースを申し上げます。
うまい棒が2円値上がりしました
官房長官は思った。「これが俺の仕事か・・・」うまい棒の値段について記者クラブの面々の前で発表しなければならないなんて
619 :
創る名無しに見る名無し :2010/03/06(土) 16:38:11 ID:dO7Pa5dX
官房長官の目から涙が不意にこぼれ、ひざまくらの女の白い太ももに滴り落ちてゆく。 女「また辛い事があったのね」 官房長官「辛い・・・もう何もかもが辛くて生きているのも辛い。 このままこうして2人で氏んでしまいたいよ。」 若い女のひざに顔をうずめ、官房長官は子供のように泣きじゃくった。
コンコン、とドアをノックする音。 官房長官は慌てて涙を拭うと、女性秘書の膝から離れた。 「入りなさい。」 官房長官がドアに向かって言うと、筋骨隆々とした体をダークスーツに包んだSPが中に入ってくる。 「長官、総理が緊急の会議を行うので、至急官邸に足を運んで貰いたいとのことです。」 「緊急会議?」 怪訝そうに眉を寄せながら官房長官はSPに「何かあったのかね?」と訊いた。 「1時間ほど前に米国が正体不明の敵による攻撃を受け、ワシントンを含む主要都市が壊滅状態に陥ったとのことです。 これは未確認ですが、現地の大使館によると核兵器が使用された可能性も考えられると……」
そ の 時 、人 類 は 初 め て 絶 望 を 知 る
男は釣りをしていた。別にどうしても魚を釣りたいという訳でもなかった。 こうして湖にボートを浮かべ、ゆらゆら波打つ水面を見ていたかったのだ。 「波か・・・」 男は15歳の時物理学で博士号を取っていた。 将来を有望視されていた物理学者だった。 しかしある事件を境に男は全てのキャリアを捨てた。それは25の時だった。
湖面が揺れた。その揺れは轟音と共に大きくなっていく。 「博士!ウラジミール・ジリノフスキー博士!」 ヘリから声がした。ボートが沈没しそうなくらい揺れていた。 「私を殺す気か!」 ウラジミール・ジリノフスキー35歳の春だった。
624 :
創る名無しに見る名無し :2010/03/09(火) 15:46:24 ID:OUNAqT/F
ぎゃあああああああああああああああああ
「全く女って奴は急に騒ぎ出すんだから」ジャックは思った。 このエリアでは女の悲鳴など特に珍しいことではなかった。 しかし、今日は色んな所で悲鳴が聞こえやがる。 おかしな事だとはジャックは思わなかった。 なぜならジャックはジャックダニエルズのボトルを、驚いた事に封の開けていない、拾ったからだ。 ぎゃあああああああああああああああああ ぎゃあああああああああああああああああ ぎゃあああああああああああああああああ やけにうるさい日だなとジャックは思った。 サウスブロンクス、ニューヨーク
626 :
創る名無しに見る名無し :2010/03/10(水) 09:42:34 ID:XC8wzBHI
その頃、ウラジミールはヘリの中にいた
ヘッドホンを被らされたウラジミールは極めて事務的な女の声を聞いた。どこかで聞いた憶えのある声だ。 「昔の話をするわ。ウラジミール。10年前の話よ。憶えているわよね?忘れたとは言わせないわ」 「ああ、憶えたいるよ。エレーナ。君の事を忘れる事なんか出来ない」
628 :
創る名無しに見る名無し :2010/03/10(水) 20:04:03 ID:3r7+WPzP
だから・・・ 俺と付き合ってくれ!といい俺は彼女の股に手を伸ばした あっ!ああっう!あっ!やめて!今は駄目よ! 俺の耳にはもう彼女の声は聞こえない。 そして俺はズボンのベルトを外し 自分の息子をしゃぶらせた。
「お取り込み中失礼するよ。ジリノフスキー博士」大統領は言った。
さすが大統領。この状況でも一切の動揺がない。
首相官邸、第6会議室。 防衛省から出向していた押尾一佐は半年ぶりに着た制服がきつくなっていることに気がついた。 「ずっとデスクワークだったからな。押尾」 聞き覚えのある声だった。
「官房長官!」 押尾は慌てて姿勢を正すと、官房長官に向かって敬礼をした。 「俺とお前の間だ、堅苦しいことはぬきにしろよ。」 官房長官が苦笑いをしながら手を振る。 押尾は言われたとおりに敬礼を解くと、官房長官に目を合わせた。 「しかしお前は運が良いな、あと何日かあっちの大使館から戻ってくるのが遅かったら、 今回の騒動に巻き込まれていたぞ、2年前といい、お前は大した強運の持ち主だよ。」 「短期間で戻れたのも官房長官の取り計らいがあったからです、2年前といい本当に感謝してます。」 頭を下げる押尾の肩を官房長官は相好を崩して手で叩く。しかしそれから急に表情を曇らせると、声を落として押尾に尋ねてきた。 「今回の米国の件だが、やはりテロか?」 「有り得ますがこれだけの攻撃となるともはや戦争の域です、それにこんな大掛かりなテロを行うなら事前に何か予兆があっても良いはずですが……」
「ジリノフスキー博士。10年前の出来事はまだ憶えておいでですか?」大統領は言った。 「忘れる事が出来たなら、どんなに良いかと思うよ」 「あの出来事はどの国でも機密扱いですよ。博士。それは我が国においても、です」 「だから私はこうして自由の身でいられる」 「我々はあの出来事を”予兆”と呼んでいます。これは世界共通です」 「予兆?」 「ええ、あれから定期的に、ある等差数列で表される間隔で、同じような出来事が起きているのです」 「ニュースにはなっていないようだが?」 「隠すのに苦労していますよ」 大統領は笑った。
2年前、バチカン公国。
現在、日本
6年前、北京。
「このコピペが、そのパターンの一つか・・・」 「ええ、そうです。国によって内容は違いますが、一定の法則があります」 「”予兆”か・・・」 「わかっているのは、ここまでです。残念ながら」 そう言い終えると押尾一佐はいわゆるブレーンとされている者達を見た。彼らは一斉に目をそらした。
押尾は一度咳払いをすると、再び口を開く。 「ただ、ロシアのある大学に在籍している物理学者が興味深い論文を発表しています、 それによるとネット上での現象に限らず、テロや流行病の蔓延、戦争、飢餓 それらは全て人類以外の存在による意思が働いた結果だというものです、結論から言うとその存在とは……」 「結論から言うと何ですか?」 総理大臣が押尾に問いかける、総理は目下の物に対しても柔らかい物腰で接する人物であり、 その心遣いのお陰で、押尾がこのあまりにも突拍子のない結論を伝えることに対する抵抗もいくらか和らいだ。 「その物理学者、ウラジミール・ジリノフスキー博士は悪魔が現実に存在すると主張しています。」 眼鏡をかけた防衛大臣が押尾に向かって「馬鹿を言いたまえ君、我々はそんな与太話を聞いている場合じゃないんだよ。」と眉を顰めた。 押尾は防衛長官を真っ直ぐに見返すと、重々しい口調で答えた。 「確かに何も起こらなければただの笑い話で済んだかもしれません、 しかし問題なのは今回の米国での事件を彼は4ヶ月も前に予言していたということです。」
2000年、ロシア、チュクチ自治管区某所。 ゲオルグはさっきから鼻の頭の感覚がなくなりかけているのに気付いていた。 足は3時間くらい前から震えっぱなしで、 指先にいたってはそろそろ筋肉が、なにしろずっと握ったり開いたりの運動を繰り返しているので、痙攣しそうだった。 「中央政府のクソッタレめ!」とゲオルグは思った。 予算削減の影響で、この実験にはこんな最果てのしかも激寒の地域が割り当てられたと教授から聞かされていたのだ。 しかし、この地域がこの実験に割り当てられたのは予算のためだけではなかった。 それは2000年前から決まっていたのだ。
しかしゲオルグはそんなこと露知らず、極寒の地で一人凄まじい冷気と奮闘していた。 「……ゲオルグには、悪いことをしましたね……」官邸の第六会議室、押尾はポツリと呟いた。 「仕方のないことなのだ。宿命は、変えられないのだから…」防衛長官は呻くようにして言う。 故に、我々はなにも悪くない―――、長官はそう言葉を続けた。 それはただの責任転嫁であると、長官は知っていた。 「2000年前のアレが、我々を狂わせたのか」怒気を孕んだ口調で総理大臣は吐き捨てるように言った。 そして、会議室は沈黙に包まれた。おそらくこの場に居る全員が思い出しているのだろう。 2000年前の、現在は宿命と呼ばれている、一つの事象を………。
紀元前1年、パレスチナ自治区のある高原。 羊飼いの男はいつものように羊たちを鐘のついた長い杖で誘導していた。 いつものように犬を一緒だった。 羊飼いの男の父親も羊飼いで、その父親も羊飼いだった。 彼は何の疑いもなく羊飼いの仕事を継いだ。 仕事と生活には何の不満もなかった。それしか知らないからだ。 いつものルートをいつものように羊たちと犬と共に移動していた。 羊たちの動きが急に止まった。犬が低くうなり始めた。 「何だろう?」羊飼いの男は思った。 犬が鼻先を向けている方向を見た。遠くに男が一人立っている。 ごくたまにではあるが旅の者とすれ違う事がある。 旅の者は羊飼いの男の知らない事や見たことも無い物を持っていて、 いつも彼には優しくしてくれるのだ。もちろん羊の乳のおかげなのだが。 彼はその男の方へ向おうとした。しかし犬と羊が言うことを聞かない。
かつて、その羊飼いは狼に出逢ったことがあった。羊や犬よりはるかに大きかった。しかし果敢にも羊と犬は狼に立ち向かったのだ。 物怖じせず、強者の威圧にも屈せず、彼らは狼を殺そうとした。そして圧倒的な勝利を狼相手におさめたのだ。 その羊と犬が、狼よりも脆弱な人間一人に恐怖している。 羊飼いは怪訝に思った。今まで幾百の旅人と遭遇したが、羊も犬も彼らを威嚇することなどなかったからだ。 男が、近づいてくる。牧羊犬達の威嚇が激しさを増していく。
男の髪型が奇妙なことに羊飼いは気がついた。 奇妙なのは髪型だけではなかった。男は黒いのだ。黒い衣服を身に着けているのではなく、全てが黒いのだ。 羊飼いは今まで経験したことの無い感覚に襲われていた。 声にならない声を固まっている声帯から搾り出していた。犬は口から泡を吹き始める。 男はゆっくり、そして確実に羊飼いとの距離をつめて来る。 男の顔が見えた。羊飼いは悲鳴を上げた。恐怖と絶望が羊飼いから体の主導権を奪ったのだ。 その後、羊飼いは羊飼いを辞めた。 そして街へ出た。そして大工の職に就いた。 やがてある女と出会い恋に落ち、結ばれた。 その女の名前は「マリア」といった。
こんなストーリじゃだめだ!作り直し!!!!!!
ロシア、モスクワ大学地下8階、10年間の間閉鎖されていたジリノフスキー研究室に灯が点いている。 「新しいパターンだ」 「はい、教授。これが今後の傾向になるのでしょうか?」 「”あれ”は作り直すことを考えている」 「作り直し、ですか?」 「そうだ。作り直しだ。全て壊して、一から作り直すんだ」
教授の顔には、諦めともとれる悲壮感が張り付いていた。今までの予兆は全て、作り直し――リメイク のために起こっていると気づいたからだ。この研究室にいる他の6人も、おそらく気づいている。 「世界の、終わりか………」教授は呟く。落胆が口調に表れていた。 「いいえ。終わりでは御座いません」部屋中に声が響いた。教授は、否、研究室に居る全員が驚愕した。 この研究室には男しかおらず、今聞こえた声は、明らかに女のそれだったからだ。 七人は、声のした方向を見遣った。そして、再び驚愕した。そこにいたのは女ではなかった。 全てが黒に染まった男が、そこにいた。男は自らをマリアと名乗った、直後、男の体が女性に変形した。 「これら全ては―――始まりで御座います」男、否、マリアは残酷な笑みを浮かべて、言い放った。
ジャックは目を覚ました。 「合衆国特別立法により大統領命において、この地域は閉鎖されます。至急我々と共に避難して下さい」 スピーカーから抑揚のないアクセントで同じメッセージが先ほどから流れている。 「ちっ」ジャックは舌打してジャックダニエルのボトルを探した。あと1センチほど残りはあり、それは彼を安心させた。 ジャックは軍人が大嫌いだった。彼の父親はベトナム帰りで、いつも家にいて母親や彼と彼の妹に怒鳴りちらしていたからだ。 「俺の傷痍軍人恩給でお前らを食わしてやってんだ!」 彼の父親はいつもそう言ってワイルドターキーを義手を器用に使って飲んでいた。 「お前らの言う事なんか聞きたくない」ジャックは声がする反対の方向へ向かった。 確かトムの店がある筈だ。トムの店に行けば酒にありつける。 遠くで悲鳴が聞こえた。 ジャックは悲鳴がする方向を見た。しかしその目は空に釘付けになった。 ジャックは数十年ぶりにある言葉は口にした。 「神よ・・・」 雲が、かつて2010年前に十字架に掛けられた男の顔を空に形作っていたからだ。
全世界の人々が雲を見ていた。男の顔の形をした闇色の雲を。夜空も青空も、雲は支配していく。 日本、某所、押尾は空を見上げて呟いた。「はは、本当に悪魔が来やがったか」自嘲的な笑みを浮かべた。 ロシア、某所、ゲオルグは空をじっと見つめて呟いた。「……くそったれ」忌々しげに舌打ちをした。 ロシア、某研究室、七人の男達が口を揃えて言った。「世界の、終わり……」絶望に満ちた声音だった。 米国、NY某所、ジャックは心の中でふと思う。今日は変なことばかり起きるやがる、と。かすかに涙を見せながら。 地球に住む、67億の全人類は直感した。世界の破滅を。ある者は恐怖した、ある者は狂乱した。ある者は涙を流した。ある者は悲しげに笑った。ある者は 他者を強く抱きしめた。ある者は何もせずに、ただ終末が来るのを待っていた。 声が聞こえた。世界中に声は響きわたる。誰もが、その声を聞いた。女の声だった。喜悦に歪んだ声が、人類の鼓膜を震わせた。 「さぁ、みなさん。始めましょう。世界の破壊を、新世界の創造を――――」男の顔の形をした雲が、ニタリ、と笑みを浮かべた
歌声が聞こえる。 Ave Maria, gratia plena, Dominus tecum, benedicta tu in mulieribus, et benedictus fructus ventris tui Jesus. Sancta Maria mater Dei, ora pro nobis peccatoribus, nunc, et in hora mortis nostrae.
Amen
だが、一人だけ、たった一人だけ、あきらめない男がいた。 「エレーナ、チュクチへ行ってくれ」 「チェクチ?」 「ああ、チュクチだ」 ウラジミール・ジリノフスキーは空を見ていた。 「お前らの言う事は聞きたくない」 彼はそう言った。 だがヘリのローターの音でその言葉はエレーナにもパイロットにもヘッドホンの向こうの大統領にも聞こえなかった。
異変を最初に感じたのは、ジャックだった。――体が、ピクリとも動かない。石にでもなったかのようだ。手も足も腰も首も眼球も動かない。 「 」何だよ、これ。そう言おうとした。しかし言葉にならなかった。 視界が縮まっていく。そして、視界全てが闇に閉ざされていく。聴覚が失われる。嗅覚も味覚も冷覚温覚圧覚痛覚も無くなっていく。 ジャックは恐怖に襲われた。何も出来ない、何も感じない、何も判らない。やがて、恐怖しているのかも、判らなくなった。 生きているのか、死んでいるのか、それすらも判らない。何も、判らなかった………。 その現象は各地で、同時多発的に起こった。 その現象を、彼女、マリアは感覚隔離≠ニ呼んだ。
「発砲許可は下りている、撃て、怯むな、撃ち続けろっ!!」 爆音、阿鼻叫喚、それに銃声の中にあっても新島曹長の怒号はよく響いた。 一方隣にいる須藤は体の震えのせいで89式小銃の弾倉の交換に手こずっていた。 この男は大柄な体をしているが、隊では小心者で名が通っている。 遥は須藤から89と弾倉を取り上げると、須藤の代わりに交換してやった。 「いつまでびびってんのさ、もうやるしかないんだよ!」 遥は銃声にかき消されないように須藤に大声で言うと、89を須藤に付き返した。 アメリカが無くなって間もないうちに、この国にも奴らがやってきた。 人か獣かも判別のつかない形をした化け物共、遥はこちらに向かってくる異形の集団に狙いをつけると、 89の引き金を引いた。化け物の一匹が胸から青い血を吹き出させながら断末魔の悲鳴を上げる。 一方須藤はまだ震えていた……震えながら何かを呟いていた。 「これはきっと最終戦争だ……アルマゲドンが始まったんだ。」
ゲオルグは驚いていた。 10年前のあの実験以来、黒い鉄の塊と化した彼の手足の感覚が戻ってきたのだ。 手の指に意識を集中させる。何しろ10年の間指を動かした事が無いのだ。動かし方を忘れている気がした。 「・・・動いた・・・」 手の指も足の指も、驚いた事に動いたのだ。 しかし以前として黒い鉄の塊であることは違いが無かった。 「そう言えば」ゲオルグは思った。 10年前、あまりの惨劇に気が狂いそうになっている彼を見舞った、あの男の事を。 教授から「博士」と呼ばれていた、彼と同じ年の、あの全てを見透かしているかような青い瞳を持った男の事を。 「10年間の辛抱だ。ゲオルグ君。きっかり10年間だ」 その「博士」と呼ばれていた男はそう彼に言った。
なぜ、今になって彼を思い出したのだろう。世界の終わり間近な時に。 あぁ、そうだ。月も太陽も覆い尽くしているあの雲が、博士の顔に似ているからだ。闇の上からでも判る、博士の輪郭。博士の鼻梁。眼、唇、頬。 何かの皮肉だろうか。今更自分の指が動くようになったなど。ハハ、と彼は微笑した。 バラバラバラバラ………、ヘリのローター音がイギリスの街に轟いた。 街中に響く人々の叫び声と相成って、下手な合唱に聞こえた。 「さて、行くか」そう言ったのは、ジリノフスキーである。ヘッドホンは足元に投げ捨てられている。 直に街中の人々から、叫びの声が聞こえなくなった。感覚隔離の影響だが、彼はそんな事は知らない。しかし、訝しげにも、思わなかった。 彼にも感覚隔離は発動した、が、彼は動くことができるようだった。 彼もゲオルグと同じく、雲が博士の顔に似ている事に気付いた。 彼もゲオルグと同じく、微かな笑みを見せた。
日本はいまや、戦場と化していた。しかし、戦争にしては戦局が一方的だった。――異形の生物が圧倒的な優勢だった。 「怯むな! 」新島曹長は眉をひそめた。声が、出ない。「 」何度叫んでも声にはならない。 やがて、銃声が消えた。人々の怒号が消えた。異形の集団の咆哮も聞こえない。恐怖した、それすらも感じなくなった。 ―――――そして戦場を異形の生物が制圧した。そして日本もまた、感覚隔離に汚染され、異形達によって支配された。 マリアの使役するその生物、名をイレイス≠ニ言った。 ヘリが暗闇の空を飛んでいた。エレーナを乗せた一機のヘリだった。その中にはエレーナとパイロットであるジャンがいた。 「ジリノフスキーは、何故チュクチに行けと言うのでしょう」ジャンは尋ねる。 「知らないわよ。でも私達不死人形≠ヘマスターには逆らえない。そうでしょ?」 「その通りです」そういえば、とジャンは続ける。「マスター、ジリノフスキーの昔話、聞いたことありますか?」 「いえ、知らないわ。教えてよ、それ」エレーナの返答に対し、ジャンは「はい」と言い、語りだした。 「それは、マスターが10歳頃のことらしいです」二人きりの機内で、ジャンは彼から聞いた昔話を反芻した。
「バカばかりだ」ジリノフスキーはいつもそう思っていた。 モスクワ大学物理学科の講義中、彼はいつものように一番後ろの席に座っていた。 この席にいると講師や学生たちの様子がまるで芝居を観るように感じられた。 彼は10歳だった。しかし今は大学4年で、彼にとっては年次などどうでもいい事でだったが、大学院への進学を決めていた。 壇上では講師がある問題を黒板に書き終わった所だった。 「この問題が解ける者がいるか?」 生徒たちは一斉に目をそらすのがジリノフスキーにはわかった。 「いないのか?」 ジリノフスキーはゆっくり立ち上がり、両手をポケットに入れ、歩き出した。
石につまずき転ぶ
そのままジリノフスキーは気を失った。 「意識はいつ戻るのですか?」 「わかりません。外傷はほぼ無いに等しいのですが、なぜか意識が戻らんのです」 医師と教授は彼の寝顔を見ていた。 「今、表情が変わったような・・」 「きっと夢を見ているのでしょう」 「夢ですか・・」 ジリノフスキーは白い壁に囲まれた大きな部屋の中にいた。 ここは何処だ? 天井の部分が窓になっていた。彼は目をやる。 そこには地球の姿があった。 ここは、何処だ?
ことはなかった。 ジリノフスキーは講師の静止の声も聞かず、廊下に続く扉を開いてそのまま教室から出ていく。 単位なんてどうでも良かった。―――退屈だった。講義を聞いていても、その退屈はおさまらなかった。 彼は求めていた。変革を。自分を取り巻く日常を百八十度変えてしまうような変革を。 カツ、カツ、と大学の廊下に自分の足音がこだました。「退屈だ」声にして言ってみたが、退屈なことに変わりはなかった。 大学の外に出る。生温い風が彼の頬を凪いだ。モスクワの四月の風だった。心地いいな、と彼は思った。 「辛気臭い顔だね、超人少年」彼の後ろから声がした。顔を見ずとも声の主が分かった。 『超人少年』と自分を呼ぶのは、その人しかいないから。ジリノフスキーは彼の名を呼んだ。
うわしくった。 >>662は無視して
声がした。人間の声ではなく何か作られた声音だった。合成されたような。 「時空間は非連続体だ。無数の並列宇宙がその瞬間瞬間に生まれては消えていく。教室で転ぶ君をいれば、授業の途中で出て行く君もいる」 「そんな事知ってるさ。僕を誰だと思っているんだい?。そんなことよりさ、ここは何処なんだ?」
「一つの選択だよ。ジリノフスキー君」
「……どういう意味だ」 「君に選択するチャンスを与える、という意味さ」ククク、と何者かは笑った。 「一つ、私の研究の手伝いをする。一つ、このまま元の日常に戻り、退屈な日々を歩む。二者択一の選択さ」 「………何の、研究だ」 「それは手伝いをする、ということかな?」 ジリノフスキーは僅かに躊躇った、この得体の知らない誰かの手を取るべきか否かを。 しかし、元の世界に戻って何になる?くだらない講義を聞いて、くだらない知識を手に入れて、果たして何になるか。 答えは、最初から決まっていた。くだらないづくしの毎日は、もう、飽きた。 「あぁ、手伝うということさ」彼は確かな決意を持って、答えた。
「ここは非連続体である時空間の並列した時空間なのだよ。ここもまた生まれては消えてゆくのだがね。だが君のいる世界をコントロールする事はできる」」
「成程、理解した。――それで、お前は誰だ、姿を見せろ」ジリノフスキーがそういった直後、彼の眼前にそれは現れた。 全身が黒色の男だった。男は女の声色で言った。「はじめまして、少年。私の名はマリア。神を産む者の名だ」途端、男の体が女のものへと変形した。 「神でも創るつもりか?マリア?」彼は馬鹿にしたように言う。もちろん冗談のつもりだ。 「創るつもりだよ、新世界の神を」マリアはしかし、いたって真面目な口調で言い放ち、それから、とマリアは続けた。「私は『博士』と呼んでくれ」 「何故?」ジリノフスキーは問う。「君が助手だからだよ」とマリアは憮然とした口調で答えた。 「さて」とマリアは語を継いだ。「私はこれから世界を創るんだ、そのためには君の協力が必要だった」 「だから、僕をここに呼んだ、と」彼が言うと、マリアはそうだ、と肯定した。 「一つ、質問がある。ここが時空間ならば、門≠ェあるはずだ。この異空間に繋がる門≠ェ。どこだ、それがあるのは」 マリアは誰にも言うなよ、と前置きしてから、 「シベリアの、チュクチだ」はっきりとそう言った。
イギリス。 人間が黒い球体に変わっていく様をジリノフスキーは眺めていた。 「再利用する気ならば球体はかさばるな。俺なら立方体か三角錐にするが」 静かになってしまった街を彼は歩く。風が心地よい。 「人間なんかいない方が良いのかもしれない」 ジリノフスキーは目的地に着いた。 大英博物館だ。チェクチに行く前に手に入れなければならない物がある。
沈黙に閉ざされた街中をジリノフスキーは闊歩している。 空の闇はどんどん濃くなっていく。永遠に続く夜のようだった。しかし夜にしては、月も星もなかった。 彼が右手に持っているのは、懐中電灯である。それから放たれる光で闇を切り裂きながら、彼は迷わず大英博物館へ向かう。 「博士、本当に新世界を創るのかい?」ジリノフスキーは問うようにして口にした。 答えはなかった。だが無言の肯定を感じた。雲が喋ることが可能なら、「そうだ」という声が聞こえたに違いない。 「させないよ、博士。僕は案外、この世界に愛着があるんだ」彼は皮肉気に笑った。 「博士がいなくなって10年だ、10年。何を意味しているか分かるかい?」 彼は嘲笑うようにして続けた。「博士の恐れたあの不死人形≠ェ目覚める時なんだよ」 いつの間にか、彼は博物館の前に居た。「―――ゲオルグ、が」
ゲオルグは自分の身に起きた異変を楽しんでいた。彼の周囲の状況は限りなく絶望的なものであったが。 彼は10年ぶりに歩き走り物を投げ、つまり手足を使う動作を確認していた。 余計な雑音は無く、邪魔者もいない。 その上に、新しく手に入れた黒い鉄製の手足は彼が10年前の物より格段に”性能”が良かった。 恐らく時速100キロ以上で走る事ができた。その辺になぜかわからないがたくさんある黒い球体を落ちる所が見えない位遠くに投げることができた。 彼は気がついていなかった。もう2日間何も食べていなかった事を。もう2日間尿意も便意も疲労さえ感じていない事を。
じゃじゃじゃっじゃっじゃじゃじゃじゃっじゃっじゃぢううぇいうfgとぇふゅぺrfg7ぺr8y 「寄声か…」
否、それは奇声ではなかった。その声は咆哮だ。雄叫びだ。幾万の呪詛が込められた、異形の生物、イレイスの歓声だ。 「自分の回復を確かめるには、丁度いいな」ゲオルグは言い、声に向かって走り出す。 ゲオルグは笑っていた。狼のような強暴さを、悪魔のような狡猾さを兼ね備えていた。 「皆殺しに、してやる」ゲオルグは小さく呟いた。 カツカツ、とジリノフスキーの足音が、大英博物館内にこだました。 館内のそこかしこを懐中電灯で照らし出し、彼はある物をさがしていた。 「あった、これだ………」館内の最奥、そこで彼は足を止め、それを手に取った。
ジリノフスキーは非常用のコンソールを操作した。照明のスイッチを入れる。 それはこの前の”作り直し”の残骸だった。 「なぜアララト山に立ち入ることが出来ないのか、さすがにその訳は公表できないな・・」 大英博物館、地下60階にはサッカー場が丸ごと入るほどのスペースにそれはあった。 しかも完璧に復元され、”整備”されていた。 ライトアップされた、その姿は神々しくあった。文字通り、神々しく。 ノアの方舟だ。
「ノアは間違った使い方をした。これは逃げるための船じゃない。戦うための船だ」
ロシア、チュクチ北東部。一人の男、ゲオルグが幾百もの異形を相手に闘っていた。多勢に無勢だというのに、ゲオルグの優勢だった。 今のゲオルグを人間がみたら、誰もが思うことだろう。――化け物だ、と。 獣のような獰猛さを、殺人鬼のような狂気を、全身から醸し出している。瞳は純粋な殺意に燃え、体は純粋な殺戮を繰り返す。 十分もしないうちに、異形の生物達の敗北に終わった。そこかしこに体液まみれの屍骸が転がっていた。 「なんだ、この程度か………回復をはかる道具にもならんな」ゲオルグがそう呟いたと同時。 バラバラバラバラ………というヘリのローター音が聞こえた。音はどんどん近付いてくる。 やがて、ヘリは降下していった。ゲオルグから数十メートル離れた所に。ゲオルグは警戒した。あの機体の中から、自分と同種の何かの気配がしたからだ。
ギチギチ… 「ハロー、トム元気にしてたか〜い?」
ヘリから声がした。 へりから人間の足が出ている。ヘリはその足で立っていて、ゲオルグの姿を見つけたような動きを見せた。 そして向きを変え、こちらへ向かってくる。 ギチギチ・・ギチギチ・・ ヘリから直接生えている腕を振って歩いてくる。 「トム!久しぶりだな」 ギチギチ・・ギチギチ・・ 「ハイホーハイホー」 ヘリが歌っている。
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創る名無しに見る名無し :2010/03/19(金) 18:22:29 ID:fA0UYU9Y
イギリス、上空。闇色の雲に覆われた空の中を、一隻の船舶が―――ノアの方舟が飛んでいた。 それに乗っているのは、一人の男だけだった。ジリノフスキーだけだった。 「博士は一つ、間違いを犯した。この方舟を壊せば、人間は全滅していたんだ」ククク、と彼は笑った。慟哭のようにも、聞こえた。 「あぁ、博士」彼は続ける。「何でこの方舟を壊さなかったんだい?」 ジリノフスキーは悲しげに呟く。「そんなに俺と――闘いたいのかい?」 フィンランド、上空。一機のヘリが、空を飛んでいた。機内にはエレーナとパイロットのジャンがいた。 彼女達はチュクチに向かっていた。と、その時、ジャンが口を開いて、言った。
「鍵はお持ちですか?マスター」 「それは結果しだいよ」エレーナは視線を変えずに答えた。 全世界にある黒い球体、かつて人間だった、が、動き始める。 チェクチ北東部。 ジリノフスキーは戦いの中、女の声を聞いた。 「”試作品”の具合はいかがですか?」 さらに続けられる。 「次世代のモデルですのよ」
ゲオルグは、その声で思い出した。自らの使命を。そして、怒涛のようにゲオルグの脳内に過去の映像が、記憶が流れ込んできた―――。 生まれた時、そこには二人の人間がいた。一人は幼い人間だった。十歳そこらだろう。 一方、もう一人は老人に近かった。顔に刻まれた皺は深く、茶色くくすんだ肌からは、生気を感じられなかった。 「おっ、こいつ目覚めたぜ。博士」と幼い少年は言った。 博士と呼ばれた老年の男性はそれを無視して、自分を好奇の視線で見つめていた。 老人はゆっくりと口を開いた。「君の名前は、ゲオルグにしよう」老人は続ける。 「ある有名な指揮者のように、総てを、纏め上げる程の力を持てることを願って、ね」
「笑ってるぜ、博士。こいつは意外と勝ち残るかもしれないね。最後に立っている者かもな」 「ゲオルグよ。その時が来たらお前は我々を恨むかもしれない。しかしそれが運命であり使命だ」 ゲオルグが不思議そうに彼らを見ていた。 「さてと」ジリノフスキーが大きな欠伸をした。 「次を作ろうか?博士。今度はさ、サタンみたいなのにしようよ」 「サタンか・・・」 「そうさ、何か強そうじゃん」
「gwygdふぇゆrうぃ」なんだよ
「話が壮大すぎてついて行けん。」 俺はテレビをリモコンで消して、ビールを飲んだ。
一旦CMです。
「おい、エレーナ。夕飯はまだか?」俺はキッチンにいる彼女に言い放った。 「あと少しよ。ジリノフスキー」とエレーナは言ってきた。 ―――その時はまだ、『あと少し』が永遠に来ないなんて、思っていなかった。いや、思いたくなかった。 幸福に包まれた日々が続くと思っていたから。俺とエレーナ、二人の生活がずっと終わらないと、信じていたから。 「忘れましたか、ジリノフスキー?」突然、声がした。「あなたはもう、日常には戻れないということを」 その声は、幾度と聞いた声だった。マリアと名乗る、博士の声だった。 「忘れたわけじゃないよ」俺は続ける。「忘れてしまいたいだけさ」 「不可能です、何故なら―――」愉悦にまみれた声は「今から、世界の変革を行いますから」俺の日常を、壊した。
時空の歪みをが顕著になっている。まるで壊れかけたビデオだ。 ジリノフスキーは10年前に行った実験を思い出していた。 「世界、即ち宇宙の始まりは何らかの事情で生じた時空の歪みに対する復元力のエネルギーによるものだ」 ロシア科学アカデミー大講堂、1999年、モスクワ。 ジリノフスキーは続ける。 「エネルギー保存法則がここにも適用する。その最初の復元力は次の歪みを生み、そしてまた復元する」 「これを繰り替えすので宇宙は生まれ、そして消えるのだ」 彼の企てはそのエネルギーを小出しさせることだった。
小出しすれば、この次の”作り直し”の規模を少しだけ小さくすることが出来る。 うまくすれば、それには気の遠くなりそうな年月と天文学的な数値の予算が必要になるが、”作り直し”をなくす事が出来る筈だ。 小出しにしたエネルギーはジリノフスキーが開発した”磁場による籠”で捕らえられる筈だった。 しかし結果はチェクチに穴を作っただけだった。他の世界に通じる”穴”だ。 いつもは”磁場による籠”が栓の役目をしている。
様様な世界は幾億も並行して時間が流れている、と言ったのはマリアである。 ある世界では科学文明が劇的に進化した。ある世界では魔法が存在する。ある世界はまだ原始時代だ。ある世界は荒野が支配している。 ある世界は、人類滅亡の危機に瀕していた。その世界は全部で256在った。 核爆弾の影響によって、宗教対立によって、民族戦争によって、貧困によって、滅亡が近づいていた。 そして、この世界も滅亡が間近に迫っていた。たった一人の策謀によって。 その一人の名を、マリアと言った。
北極、上空1万メートル、ノアの方舟。 「博士、なぜ僕がチェクチに行くか分かるかい?」 ジリノフスキーはビューアを見ながら呟いた。 「要らない力はゴミ箱へ捨てるんだよ」 全く怪我の功名とはよく言ったものだ。彼は思った。 10年前の実験は失敗ではなかった。今にして思えば、あれはダストシュートを作ったのだ。 上手く行けば、全てに決着をつける事が出来る。 誰かに操られる人生なんてまっぴらだ。 「俺はお前の言う事なんか聞きたくない」
チュクチ、北東部。ゲオルグが女と相対していた。女は夕日を思わせる橙色の瞳で、髪も纏っている衣服も橙色だった。 ゲオルグと女の周りには、原型を留めていない、獣の屍骸が幾百と転がっている。 「こんにちは、ゲオルグ」女は高いソプラノの声で、敵意を漲らせて言った。 「………誰だ」ゲオルグは警戒をした。見たこともない女だったが、声音はどこかで聞いたことがあったからだ。 「ある羊飼いは、私をこう呼んだわ―――『マリア』と。だから、あなたもこう呼んでね」 「………何の用だ」ゲオルグが尋ねると、女は決まってるわ、を枕詞にして言い放った。 「あなたを殺しにきたのよ、ゲオルグ」
「あきらめたまえ。ゲオルグ」博士が言った。 「次世代のモデルはもう決まっているのよ」マリアが言った。 世界中の黒い球体が北極に集まっている。 空一面広がっている聖人とされていた男の顔は慈悲に満ちた表情をしていた。 チェクチ、ロシア政府及び国連によって閉鎖された某所、”穴”。 警告のメッセージとアラームが響き渡る。スピーカーが割れそうだ。 「オーバーフロー。オーバーフロー。総員避難せよ。総・・・員・・・・・・・・・避・・・な、、ん−−−」 磁場の乱れによって全ての電子機器類が沈黙した。
ロシア北北西部にあるアルハンゲリスク、上空。一機のヘリが空を飛んでいる。機内にはジャンとエレーナがいた。 「もう、まだチュクチには着かないの?」そう言ったのはエレーナである。不機嫌が口調に出ている。 「あ、後……20分で着くかと」とジャンは言う。エレーナはフン、と鼻で笑った。 「さっきも同じ様なこと言ったわよ」対してジャンはすいませんと静かに言った。 突然。がごんと衝突音がした。「な、何っ?何なの?」「わ、わかりません」 次いで、彼女達を襲ったのは、自由落下であった。「「うわあああああぁぁぁぁぁっっ!」」 轟音にまみれて、ヘリは地面に激突した。そして――炎上した。高度1万メートルからの落下の代償とも言えた。 燃え盛る烈火の中で、エレーナとジャンは、自分を作った者……博士の姿を見た気が、した。
「疲れたよ、博士。試作品だけどさ、あと何体作る気なんだい?」 ジリノフスキーはコーラを、これも彼が作ったものだが、飲みながら言った。 「あと少しだ。少し休みを取ると良い。ウラジミール」 「あのさ、博士」 「休みの話か?」 「否、そうじゃないんだ」 「?」 「実はさ、疑問に思っていたことがあってね。僕は、僕の様なポジションの人間は何人目かって、さ」 「ウラジミール。私も同じ質問をある人にした事があるよ」 「で、何人目だったんだい?」 「忘れたよ。昔の話だ」
「僕の予想はね、2人目だと思うんだ。最初の人の名前は――」ジリノフスキーは博士を見つめて続けた。「ノア、だろうね」 「さぁな」博士はくすりとも笑わず、冷たい声音で言った。「だが、私も2人目だろうな」 「知ってるかい?博士……アンデルセンの、言葉でね」 「何だ」 「『人生とは神によって書かれた童話に過ぎない』」 「それがどうした」 「僕と博士、二人は果たして、童話のような幼稚な関係だろうか」 僕は違うと思うね、と彼は語を継いだ。 「僕と博士、二人の関係はきっと―――ノアと神様のようなものだと思うんだ」
「ケッ!甘いことばっか言ってんじゃねーよwふざけんな」
「おまえらぜんぶぶっろしてやる」ゲオルグは叫んだ。 「ぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやる」 液体が目に入ったが構わない。 「ぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやる」 反撃に合って骨が折れた気がする。 「ぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやる」 俺は誰だ? 「ぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやるぶっころしてやる」 ここはどこだ?
わからない何一つ、わからないあぁぁぁ、壊れるわからない誰何処何時わからない壊れこわれ――… 皆、殺してやる。 「がああああああああああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁっっっっっっっ!!!!」 それは餓えに餓えた、獣のような咆哮だった。 大音量の轟きは、おそらく世界中に響いただろう。 ゲオルグは数メートル先の博士或いはマリアにギン、と殺意と狂気を向けて―――攻撃を仕掛けた。
「ゲオルグ。お前は運命を呪うか?」博士の声でマリアが呟く。 「ゲオルグ。それとも私を呪うか?」マリアの声で博士が呟く。 「消えろ」 「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」