ゾンビパニック物でリレーSS part2

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1創る名無しに見る名無し
このスレは、漫画・小説・アニメなどの作品を題材に「登場人物がゾンビに襲われる物語」をリレー形式で進めてゆく、
「ゾンビパニック物でリレーSS」という企画の為のスレです。 内容に流血や死亡を含みますので、それを予め警告しておきます。

前スレ。
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1241108988/

【舞台】セント・マデリーナ島 ↓地図
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0224.jpg

【島の設定】
1、島はグアムとバリ島を足して2で割ったような雰囲気。治安は良好。
2、電気は太陽光発電の設備が充実してるので基本自給できる。
3、ガスはパイプラインがひいてある。
4、水道は湖が地下水脈とつながっているから余裕。日本並みに上下水道完備してる。
5、民間人の銃所持については、日本より少し法律が緩い程度。
6、自動車は島のイメージアップのため、電気自動車や燃料電池車が導入されている。
7、電話は設備が無事なら、衛星・携帯・固定電話が使える。
8、港湾機能は中型フェリーが運用できるクラス。
9、空港機能はYS-11が運用できるクラス。ヘリや飛行船も運用可。

※ アメリカ西海岸沖に位置するという設定の架空の島。主産業は観光。
   風光明媚な土地で住人の人柄も良い。観光客に対しても親切なので、リピーターは後を絶たない。
  ただ、何かよく分からないが「訳あり」な事情があるとの噂が絶えない。

【終了条件】登場キャラ全員の島から脱出or死亡。

【脱出ポイント】港や空港。その他。

【ゾンビ】
・血液感染する。ゾンビに噛まれたものはゾンビになる(個人差あり)。
・潜伏期間は5〜12時間。死亡前に感染していた場合は死亡後30分〜2時間程度で発症。
・感覚器官の機能は大幅に減少、但し嗅覚・聴覚は発症前と同様かやや向上。
・思考・知能はほぼ皆無。ただし生前に行っていた習慣的な行動を反復する場合がある。
・生きた人間を積極的に襲う(動物全体に対する高い捕食性)。
・運動能力は全般的に低下。ただし力に関してはリミッターがかからないのかかなりの向上。
・重要器官(頭部など)の破壊により機能停止。手足等の破壊では死亡せず。

【期間】3〜7日の間。現時点では未定。
【ゾンビ以外の怪物たち】序盤は人型ゾンビのみ。中盤以後は展開次第で検討する。
【島以外の現状】平和。ゾンビ存在せず。マスコミのライブ中継支援はあり。救出部隊はオチ要員。それ以上の外部支援はなし。
2創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 23:25:30 ID:m+CQv7Ky
【キャラの行動制限】
・特定キャラの無双行為は禁止。
・魔法、超能力、極端な身体能力など超人・無双が可能なキャラは登場不可。
・ゾンビの攻撃を完全に防げる類の物、シチュは無敵になるから禁止。
・ショッピングモールなど施設での篭城は、人間のミスや油断があると、ゾンビが突破できる強度のバリケードしか作れない。
・人間の殺し合いは基本禁止だが、やむを得ない理由がある時は起こり得る。
・不眠不休で行動できるのは2日が限界。
・ゾンビの完全殲滅は参加者のみの力では不可能
・銃火器の種類、弾薬、使用などの描写は、キャラの能力の範囲内で、不自然でないように配慮する。
 (例:遠坂凛が、いきなり銃の名前や操作方法、弾薬の区別をつけられるような描写はNG。衛宮切嗣ならOK)
・弾数無制限の銃火器は禁止。
・上をふまえて、書き手は間違った銃描写をしないよう配慮する。

【登場キャラ】
・最大60人まで。誰を登場させるかは、序盤は書き手の裁量にまかせる。
・書き手1人が登場させる総数は、空気読む方向で。

【SSの予約&リレーについて】
・トリップ・SSタイトルは必須。
・予約の有効期間は2週間。キャラ変更連絡or延長申請があれば、1度だけ1週間延長可能。それ以上は自動的に破棄される。
・何の申請もなければ2週間で自動破棄になる。
・自己リレーは基本禁止。ただし書き手が少ない場合の非常措置として特例は認められる。

【状態表】
【(エリア)/(場所や施設の名前)/(日数と時間帯)】
【(キャラ名)@(作品名)】
 [状態]:(肉体・精神的状態)
 [服装]:(身に着けている防具や服類、特に書く必要がない場合はなくても可)
 [装備]:(手に持っている武器など)
 [道具]:(武器以外の持ち物)
 [思考]:(1から順にキャラにとっての優先事項や考えを書く。複数可)
 [備考]:(状態や思考以外の事項)

状態表に書く時間帯は、下記の表から当てはめる。
 深夜:0〜2時 / 黎明:2〜4時 / 早朝:4〜6時 / 朝:6〜8時 / 午前:8〜10時 / 昼:10〜12時
 日中:12〜14時 / 午後:14〜16時 / 夕方:16〜18時 / 夜:18〜20時 / 夜中:20〜22時 / 真夜中:22〜24時

書き手用状態表テンプレ

【//】
【@】
 [状態]:
 [服装]:
 [装備]:
 [道具]:
 [思考]:
 [備考]:
3創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 23:27:38 ID:m+CQv7Ky
書き手&読み手の心得

書き手の心得その1(心構え)

・無理して体を壊さない。
・この物語はリレー小説です。
・みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであれば避難所にうpしてください。
・自信がなかったら先に避難所の仮投下スレッドにうpしてください。爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない仮投下スレッドの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
・巧い文章ではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
・できれば自分で弁解なり無効宣言して欲しいです。

書き手の心得その2(実際に書いてみる)

・……を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
・ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・極力ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
・ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。

書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)

・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
・自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
・また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
・あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
・それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
・本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はイクナイ(・A・)!
・キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
・誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
・一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
4創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 23:28:23 ID:m+CQv7Ky
修正に関して

・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NGや修正を申し立てられるのは、「明らかな矛盾がある」「設定が違う」「時間の進み方が異常」「明らかに荒らす意図の元に書かれている」
「雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)」以上の要件のうち、一つ以上を満たしている場合のみです。
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
・ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。

議論の時の心得

・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
・意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう。

読み手の心得

・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
・同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
・修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
・やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
・丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・本スレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
・書き手にも生活があるので、新作を急かすのも程々に。
・書き手が書きやすい雰囲気を作るのも読み手の役割。

感想について

・良い所や感動した点を感想として書くには、文章力も読解力も不要です。感じたままに素直に綴るだけで書き手の心に届きます。
・貴方の熱いハートの音を遠慮無く書いちまってください。
・逆に、指摘や批判等は読解力と相応な文章力が必要となります。
・的外れな批判は自分が恥をかくだけでなく、標的にされた書き手さんにも迷惑を及ぼします。素人にはオススメできない!
・疑問に思ったこと、気になる点などはご遠慮なくどうぞ。素人でも安心!
5創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 23:40:13 ID:WGwEicSA
スレ立て乙!
6創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 23:47:57 ID:590Ol2gV
おーついに2レス目か
7創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 23:51:41 ID:m+CQv7Ky
失礼、wikiとしたらば貼るの忘れてました。

ゾンビパニックSS@wiki
ttp://www39.atwiki.jp/zombiea/

ゾンビパニック物でリレーSSしたらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12814/
8 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/10(月) 23:54:37 ID:eH1uN8mg
>>1
お疲れ様です。まだしばらく投下に時間がかかりそうです。
9 ◆uFyFwzytqI :2009/08/11(火) 20:50:41 ID:g60plo7O
>>1さんスレ立て乙です。容量の都合でこちらに投下します。
10作戦名「急がば回れ」 1 ◆uFyFwzytqI :2009/08/11(火) 20:52:16 ID:g60plo7O
 「……成る程な。大体そんなトコだろうとは思ってたが、他人から聞かされると改めて思い知らされるぜ。このいけ好かねぇ現実って奴をよ」
 互いの自己紹介の後、阿良々木暦が彼らの遭遇した出来事を話すと、次元大介(自称『観光客』)は忌々しそうに言った。

 阿良々木達3人は現在、出会った場所から少し離れた雑居ビルの一室に隠れている。
 イスや机で、表通りに面する入り口に即製のバリケードを作った(戦場ヶ原ひたぎも一応手伝った)が、かなり頼りない造りだ。
 
 阿良々木の目に映る次元は、紺のダークスーツにソフト帽を目深に被り、立派な顎髭をたくわえた渋めの男だ。
 本当に観光客かどうか微妙に疑わしいが、銃の腕前はさっきのゾンビの頭を吹き飛ばした手際から信用できる。警察か自衛隊員か?
 「それで、お前さん達はこれからどうするつもりだ?」
 次元の口調に動揺は見られなかった。阿良々木がゾンビ出現以来見てきた、逃げ回る大人達――もちろん立派な大人も大勢いた――に比べると、格段の落ち着きだ。
 
 「えーと、そうですね、とりあえずゾンビが来ない場所へ逃げようと思ってますが」
 「バカね、そんなの当たり前でしょう。次元さんが聞いてるのは、どうやってそこに行くかっていう意味よ。阿良々木君、恐怖で頭が北京原人クラスまで退化したんじゃない?」
 阿良々木が当たり障りのない答えをしたら、ひたぎが横から容赦ない暴言毒舌を叩きつけた。

 「なぜ北京原人!? しかもネアンデルタール人やクロマニヨン人はスルーかよ!」
 「彼らに失礼だからに決まってるじゃない。それに、ネアンデルタール人は人類の祖先では無い説がほぼ確定してるわ。もっとも、北京原人も微妙らしいけど」
 「言われ損じゃないか!」
 「事実の適切な比喩よ」
  
 「あー、お二人さん痴話喧嘩なら余所でやってくれ。俺は付き合いきれん」
 次元は2人が当てにならないと判断したのか、腰を浮かしかける。
 「次元さん、待ってください。阿良々木君は不手際の見本のような男なんです。許してあげて下さい。私が代わりに話します」
 そう言って、ひたぎは阿良々木の頭を押さえながら、深々と頭を下げた。
 「ふん……」 それを見て次元は座り直した。
 (なぜこうなる……)阿良々木の心に納得のいかない想いだけが残る。

 「改めまして、次元さん。私達は一刻も早く島から脱出するつもりです。今の所考えられるルートは2つ、空港か港です。両方とも現在地からは似たような距離ですが、
あなたはどっちに向かえば良いと思いますか?」
 ひたぎの説明と質問は簡潔で、要を得ていた。阿良々木はそれを居心地悪そうに聞いている。

 「そうだな、俺は港に行くつもりだ。連れの船があるんでな」
 「お連れの方がいらっしゃるんですか。お名前は?」
 「……ルパン三世って奴だ」 次元が心持ち歯切れの悪い答え方をする。
 
 「どんな顔か教えて貰えますか? もしかしたら見ているかも知れません」
 次元は当てにはしていない、という顔でルパンの容姿について大雑把に説明した。阿良々木もひたぎも見覚えは無かった。
 「残念ながら見覚えはありませんね。ところで次元さん、港に行くのなら私達も一緒に連れて行ってくれませんか?」
 ひたぎがいきなりとんでもない事を頼み出した。次元は胡散臭そうな顔でひたぎを見返す。

 「お前さん達相手にそんな義理は無いと思うがな」
 「同行させてくれるだけでいいんです。少なくとも私は足手まといになりません。阿良々木君は保証の限りではありませんけど」 
 「ちょっと待て! 誤解を生むような発言は……」
 阿良々木が抗議の声を上げかける。

 「いいだろう、ただし絶対に足を引っ張るような真似はするな」
 次元はアッサリと承諾した。
 「いいんですか?」
 ひたぎは少し意外そうな顔で確認する。
 「時間が惜しいんだよ。バリケードがそろそろ限界のようだからな、さっさとずらかるぞ」
 次元がマグナムを抜きながら言った。
11作戦名「急がば回れ」 2 ◆uFyFwzytqI :2009/08/11(火) 20:52:59 ID:g60plo7O
 ハッとして阿良々木はバリケードを見た。ドアの蝶番がミシミシと音を立てていて、今にも壊れそうになっている。いつの間にかゾンビ共が迫っていた。
 ひたぎもこれには気付いていなかったようだ。
 「私ともあろう者が、阿良々木君並みに気付かなかったなんて不覚だわ……」と呟いている。

 「なぜそこで僕を引き合いに出すんだ?」
 「ダメの基準だからよ。あのバリケード、あなたが造った所が弱かったんじゃないの」
 「そんな事はない、僕だってちゃんと造ったぞ。断固抗議する!」 阿良々木が異議を唱える。

 「お前ら、さっさとしろ。本当に置いてくぞ!」
 次元が裏口のドアに手をかけながら大声で言った。阿良々木とひたぎが弾かれたように立ち上がり、次元の所に行く。
 「よし、ここから外に出る。俺から離れるなよ。念のため言っとくが自分の身は自分で守れ。俺も道案内以上の保証はできねえからな」

 「任せて下さい。いざとなったら阿良々木君を人身御供に差し出します」
 「だから勝手に生け贄設定するな!」
 「おいお前、阿良々木とか言ったな。手ぶらで外に出る気か。これぐらい持っとけよ」
 次元は阿良々木に向かって何か放り投げた。慌ててキャッチしたそれは、ガスの配管のような鉄パイプだった。次元も左手に同様の物を持っている。
 
 「戦場ヶ原の分は無いんですか?」
 「さっきの大立ち回りを見てりゃ分かるだろうが。そいつは身軽な方がゾンビ共とやりやすいタイプだ。自分の女のクセぐらい知っとけ」
 「いえ、彼女、かも、しれませんけど……」 
 「まったくです。阿良々木君にはいつも苦労させられます」
 ひたぎも次元に同調する。

 (これじゃゾンビと戦ってる方がマシだ……)
 阿良々木は天を仰いだ。しかし、彼の目に入ったのは薄暗い天井だけだった。
 「いいか、開けるぞ。1、2、3!」
 次元が裏口のドアを開け放つ。同時に背後でバリケードが破られる音がした。
 3人は裏通りに飛び出した。表通りほどではないが、ここもゾンビがうろついている。早速「獲物」を発見したゾンビが彼らに近づいてきた。だが、次元が発砲する気配はない。
 
 「撃たないんですか? 奴らがこっちに来てますよ」
 「弾の無駄遣いはしない主義でな。こちとら映画と違っていくらでもぶっ放すって訳にゃいかねえんだよ。分かったら追いつかれる前に走れ!」
 次元は左手の鉄パイプで手近なゾンビを殴り飛ばすと、阿良々木とひたぎの方を振り向きもせず走り出した。  

 慌てて阿良々木が後を追う。ひたぎも後に続く。
 「ったく、いくら立場が上だからって、もうちょっと気を遣ってくれてもいいのに」
 「惰弱極まりない発言ね、そうやってすぐ他人に依存するなんて、なんて情けない態度かしら」
 「そんなつもりで言ったんじゃ……」
 阿良々木がひたぎの方を向くと、ゾンビの腕をかいくぐり、左手でハサミを振りかざす彼女の姿が目に入った。理想的な角度で突き刺さったハサミは耳の奥まで達していた。
 片方の三半規管を破壊され、バランスを失ったゾンビが地面に倒れ伏す。まだ死んではいないが、酔っぱらいのように立ち上がれなくなっている。

 「よし、私の攻撃パターンが1つ決まったわね。今度から錐も持ち歩くことにするわ」
 彼女は短い実戦経験から、早速自分流の戦い方を身につけつつあるようだった。阿良々木とひたぎの目が合った。かと思うと、ひたぎがいきなり右手の千枚通しを構える。
 「ちょ、何を……」
 うろたえる阿良々木の脇をひたぎが疾風のように駆けたかと思うと、彼女の千枚通しが突き上げられた。
 それは今まさに阿良々木に襲いかかろうとしていたゾンビの耳を刺していた。倒れるゾンビをひたぎは軽快なステップで躱す。

 「私に文句言ってる間に、ゾンビに襲われそうになって助けられるなんてやっぱり情けないじゃない。男の沽券に関わるわね」
 「……」
 阿良々木は返す言葉もなかった。
12作戦名「急がば回れ」 3 ◆uFyFwzytqI :2009/08/11(火) 20:53:41 ID:g60plo7O
 突然銃声がしたかと思うと、別のゾンビの頭がスイカのように飛び散った。。
 阿良々木とひたぎが驚いて振り返ると、次元が10mほど離れた所でマグナムを構えていた。銃口から硝煙が立ち上っている。
 2人の注意が自分に向いたのを確認すると、次元は無言のまま反転して前進を再開した。
 
 阿良々木とひたぎは急いで追いかける。 
 「なかなかやるじゃない」ひたぎが小声で呟いた。
 「ああ、そうだな」
 阿良々木はやっと気がついた。次元大介という大人は、未だ素性不明だが、少なくとも悪人ではない。
 「あなたもせめてあの人の10分の1は格好良くなりなさい。でないといつまで経っても私に相応しくないわ」

 「たった10分の1?」
 「努力してもそれぐらいが精々でしょ」
 「僕はどれだけレベルが低いんだよ!」
 ひたぎの自分に対する採点の低さに呪いの声をあげる。

 「ぐわあぁっ! クソッ、離しやがれっ」
 次元の罵声が聞こえた。阿良々木達が目を向けると、曲がり角からいきなりゾンビが現れたらしく、右腕を掴まれていた。
 次元は必死に鉄パイプを叩きつけるが、殴りにくいせいかゾンビに有効な打撃を与えられない。
 しかもゾンビ化すると腕力が強くなるのか、振り払うことさえ困難なようだ。マグナムの射線にゾンビを捉えられない。更に別のゾンビも次元に襲いかかろうとしていた。

 「大変だ! 助けないと……」
 阿良々木が反応するより早く、ひたぎは動き出していた。が、彼女の前にゾンビが3体立ちはだかる。
 「ちょっと阿良々木君、早く手伝いなさいよ!」
 ひたぎでも一度に3体のゾンビを相手にするのは難しいようだ。阿良々木も急いでひたぎの救援に駆けつけるが、焦りも手伝ってかなかなか倒せない。
 
 阿良々木達はようやくゾンビ3体を倒したが、次元は今にも首筋に噛みつかれようとしていた。
 (もうダメだ……)
 阿良々木が絶望的な思いで見ていた時、
 「待てい、そこのゾンビ野郎! 怪物になっちまったなら、さっさとくたばって成仏しちまえ!」
 聞き覚えのない怒鳴り声がした瞬間、噛みつきかけたゾンビに棒状の物が横殴りに叩きつけられた。

 それは首を直撃し、ゾンビは2mほども吹っ飛ばされた。頸骨が折れたのか、ゾンビの頭が不自然な方向を向いている。
 延髄が破損したらしく、ゾンビはまだ「生きて」いたが、体は麻痺したように動かなくなっていた。
 声の主は続いて、もう1体のゾンビに向き直り、再びスイングする。今度は頭部を直撃して完全に倒した。

 「すごい……」
 阿良々木はわずか数秒の間に起こった出来事が、あまりにも漫画的過ぎてそう呟くのが精々だった。声の主は次元に向き直る。
 「大丈夫か、さっきの銃声はあんたが撃ったのか?」
 「あ、ああ」 さすがの次元も驚きを隠せないようだ。

 「すごい……」
 今度はひたぎが呟いた。ただ、彼女の呟きは助けた行為よりも、声の主の全体的な姿に対してだった。
 声の主は、角刈で太い眉毛が目立つ男だった。身長は160cm程で阿良々木やひたぎより低いが、アロハシャツから出ている二の腕は逞しく毛深かった。
 そして、奈良の大仏のようにズッシリとした体躯から想像されるのは、相当タフで強靱な肉体だろうという事だ。 
 
 更に注目すべきは男の持ち物だ。
 両手で持っているのは、道路工事で使いそうな全長1mほどの大型ハンマーだった。次元を助けた時に、あれを普通に振り回していたが、それだけでも腕力の程が分かる。
 腰には工具ベルトを巻いていて、ドライバーやペンチ等の各種工具が差し込まれている。さらにそれとは別に、手斧が2本鞘に収まって腰の両側に着けられていた。
 背中に容量100Lはありそうな大型ザックを背負っていて、何が詰まっているのかひどく膨れあがっていた。
 ザックの頭からはシャベルや鍬等、長物の先端が覗いていて、ポケット部分にはレンチやバール、ハンマー等が入っている。
 総重量30kg近くありそうだが、男はそれを平気で背負っていた。
13作戦名「急がば回れ」 4 ◆uFyFwzytqI :2009/08/11(火) 20:55:33 ID:g60plo7O
 「助かった、礼を言うぜ」
 帽子の位置を直しながら次元が言った。
 「がっはっは! なあに、これでも警官だからな、市民を助けるのは当然の義務ってもんよ!」
 男の口から予想外の台詞が漏れた。

 「警察の人ですか?」
 阿良々木とひたぎが次元と男のそばに来て、確認するように尋ねた。地元警官にしては、日本の神社で御輿を担いでいるイメージが非常にしっくりと来るのだが。
 「おうよ、わしは両津勘吉、警視庁の巡査長だ!」
 「け、警視庁……」
 (この状況で警視庁の警官に出会う天文学的な偶然ってどれぐらいだろう)
 阿良々木はひたぎと出会って以来、久々に本物の「運命」に出くわしたと思った。

 「こんな所で立ち話も何だ、というかマジでやばいな。どうだお前ら、わしの隠れ家に来るか?」
 両津が豪放磊落な雰囲気を全開にして言った。
 「是非お願いします」
 すかさずひたぎが承諾する。

 (さすが抜け目ないな……)阿良々木の心に、呆れとも感心ともつかない感想が浮かぶ。
 「阿良々木君、何か言った?」 
 「いや何も(ど、どういう読心術だよ!)」
 「おい、不味いぞ。またまたゾンビ御一行様のお出ましだぜ」
 次元が油断無くマグナムを構えながら言った。

 「それじゃ急ぐとするか。おっとその前に、そんな鉄パイプじゃ頼りないだろう。これを使え。銃は最後の切り札にとっときな」
 両津はそう言って、ザックから長物を抜く。次元に薪割り用の斧を、阿良々木には鍬を渡すと、両津を先頭に4人は移動を開始した。
 信じられない事に、両津はあれだけの荷物を背負いながら、歩調は他の3人と何ら変わりなかった。むしろ軽快なぐらいかもしれない。
 不意にT字路の手前で両津が止まり、ポケットから手鏡を取り出した。

 「ふうん、見た目はそうでもないけど頭も切れるみたいね、あの両津って人」 ひたぎが言った。
 阿良々木がそれに反応する前に、両津は鏡を使ってT字路の先を観察していた。
 「ゾンビが右に5体、左に7体か。よし、右を通るぞ。わしの後に続け!」
 両津がハンマーを振り上げながら突き進む。
 (そうか、事前にゾンビの存在を調べておいて、遭遇を最小限にするためだったのか)
 やっと理解した阿良々木は、両津の冷静さに驚いた。

 ――しばらくそうやってゾンビの攻撃をしのぎながら進むと、4人は両津の隠れ家に辿り着いた。幸い、入る所をゾンビに見つからずに済んだ。
 隠れ家といっても荒れた民家の一室で、ガラクタが部屋の隅に乱雑に積み上げられている。
 「よし、ここまで来れば一安心だ。みんなゆっくりしてくれ、何か食うか?」」
 両津は床にドッカリと座ると、ザックを降ろすとファスナーを開けた。中から缶詰やペットボトル、果てはパン(ただし押し潰されている)や食器類まで出てきた。
 
 「おう、こりゃ有り難え」
 「がはは! 遠慮はいらんぞ。無くなったらまたどこかで調達するだけだ!」
 次元と両津は、缶詰を開けて食べ始める。
 しかし、阿良々木は到底食欲が湧かなかった。ついさっきまで、死と隣り合わせだったのだ。
 ひたぎはと言うと、食パンを少しずつだが口に入れて、飲み物で流し込んでいる。
 「阿良々木君、食べられる時に食べておかないと、後で動けなくなるわよ」
 彼女は無理矢理押し込んでいるらしい。仕方なく阿良々木もパンを手に取った。
14作戦名「急がば回れ」 5 ◆uFyFwzytqI :2009/08/11(火) 20:57:11 ID:g60plo7O
 「そういや3人の名前をまだ聞いてないな。改めて、わしは両津勘吉だ。よろしくな!」
 それを受けて、阿良々木、ひたぎ、次元の3人も両津に名乗った。両津は年長者の次元に向き直る。
 「お前達はどういう関係なんだ? 家族や友人、にしちゃ変な組み合わせだが」
 「ああ、それはだな……」
 次元がこれまでの経緯を手短に説明する。
 「両津さんよ、あんたはどうなんだ。ゾンビが発生してからずっと1人なのか。連れはいないのか?」
 
 「わしか? 実は一緒に来た奴らがいたんだがな……」
 今度は両津が阿良々木達に仲間――ボルボ西郷や、左近寺竜之介――と、この島に「観光」に来ている事を説明した。
 「……とまあ、こんな具合だ」
 5つ目の缶詰を空にしながら両津が話し終えた。
 
 「ところで話しを戻すが、そいつらを港まで連れて行ってやるそうだが、道中が安全て保証でもあるのか? 危険すぎるぞ」
 両津が忠告する。
 「そんな事は百も承知だ。だが、俺はコイツらを港……いや俺の船に乗せてやるって約束しちまったんでな」
 「ほう……」 両津の目が細められる。
 
 阿良々木は違和感を感じた。そんな約束なんかしたっけ? それに、次元さんは道案内以上の保証はしなかった筈だが……?
 「約束って? 僕たちが頼んだのは港まで一緒に連れて行ってもら痛たたたっ!」
 指摘しようとしたら、太股に激痛が走った。ひたぎが思い切りつねっていた。
 「何するんだよ!」
 「『男の子』は黙って聞いてなさい。『男』の会話を」 
 「え?」  阿良々木は訳が分からない。
 
 「そうか、約束したんじゃしょうがないな」 両津が仕方ないな、という顔で言う。
 「ああ、まったくだ」 次元も当然のように答える。
 「しかし、次元といったな。あんたの相棒のルパンって奴は捜してやらなくて大丈夫なのか?」
 「あいつは殺しても死ぬようなタマじゃない。あんたこそ相棒2人を捜さなくていいのか。」
 次元が問い返した。
 「わしらは市民の安全を守る警察官だ。ボルボも左近寺も自分の職務に忠実だろうよ」
 「警官の鑑だな」 
 「日本に帰ったら勲章と表彰と賞金をどっさり授与してもらうつもりだ」
 
 「え? あの、もしかして……」
 「島の地図はあるか? 見せてみろ」 「どうぞ」 
 手伝ってくれるんですか? と阿良々木が訊く前に、ひたぎが事前に察していたのか素早く地図を拡げた。両津がじっと地図を見つめる。
 その姿を見て阿良々木はようやく確信した。両津も協力してくれるらしい。次元やひたぎはとっくに気付いていたのか一緒に地図を見ている。

 両津が顔を上げた。
「よし、ルートが決まったぞ」
 「どうするんだ」 と次元。
 「ここから北西にある湖に向かう。そこからボートに乗って湖を突っ切る形で漕ぐんだ。ゾンビも泳げはしないだろうからな。
対岸の舗装道路に着いたら、そこから一端道を北上して回り込むようにして港に行くんだ。このルートの方がゾンビは少ないだろう。名付けて『急がば回れ作戦』だ」

 (成る程……)
 阿良々木は素直に感心した。確かに町中を突っ切るより距離は遠いが、ゾンビに遭遇する危険はかなり軽減できそうだ。
 「その方針で行くか。問題はボート乗り場への道だな。商店街かアスレチック場か、どっちの方から向かうんだ?」
 「それは出たとこ勝負だな。出来るだけゾンビが少ない道を選んで進む。それ以上は今考えても無駄だ」
 次元の問いに両津が答える。
15作戦名「急がば回れ」 6 ◆uFyFwzytqI :2009/08/11(火) 20:58:33 ID:g60plo7O
 「じゃあ、これを渡しておくぞ」
 両津は立ち上がると、部屋の隅に積み上げられたガラクタの山を掻き分け始めた。隠してあったらしいリュックサックを取り出して3人に渡す。
 「中に地図と、缶詰や飲み物が3食分入っている。とりあえずそれで足りるだろう」
 阿良々木の予想以上に、両津勘吉という男は用意周到だった。
 ひたぎが、「両津さん、錐みたいなのはありませんか? 武器に使いたいんですけど」 と尋ねた。
 両津は一瞬驚いた顔をしたが、ガラクタの中からアイスピックを見つけ出してひたぎに渡した。

 「早速出発する、暗くなる前に港に行くぞ。早めに引き返したいからな」
 「両津さんは船に乗らないんですか?」
 「馬鹿もん、警官が真っ先に逃げてどうする! ここを拠点にして救出活動しようと準備してたら、たまたまお前達が近くに来ただけだ!」
 「す、すみません」
 「すいません両津さん、阿良々木君は空気読めないタイプなんです」
 謝る阿良々木にひたぎが追い打ちをかけた。
 「おっと、俺も戻るつもりだぜ。ルパンを捜してやらねえと、たまに肝心な時にドジを踏みやがるからな」 
 次元も引き返すと断言する。
 (すごい人達だ。僕なんて戦場ヶ原と一緒に逃げるだけで精一杯なのに……)

 4人は隠れ家を出発した。両津が先頭ですぐ後ろにひたぎ、彼女の左右を阿良々木と次元が進む、魚鱗の陣(たった4人だが)に近い形だ。
 「あの、お二人は何故そこまでして僕達を助けてくれるんですか?」
 「……野暮なこと訊くんじゃねえよ。助けてやろうと思ったからそうしてるだけだ」
 阿良々木がひたぎの右側を歩きながら尋ねると、次元が決まり悪そうに言った。
 ひたぎが阿良々木の耳元に顔を寄せる。
 「阿良々木君、あの人達は私達のために男気を発揮してくれてるのよ。細かい詮索なんてするものじゃないわ」 

 「そりゃそうかも知れないけど……そういえば今の台詞『勘違いするな、別にお前達のためって訳じゃない』って意味にもとれるな、これも一種のツンデレかな?」
 阿良々木の言葉に、ひたぎはキッと眉をひそめた。
 「男気とツンデレを一緒にするなんて、互いへの冒涜以外の何者でもないわ。次にそんな事言ったら、『何も加えずに水と油を混ぜるまで食事抜きの刑』にするわよ」
 「宇宙に行かなきゃ無理……、ってか事実上餓死確定じゃないか!」
 「それぐらい罪深い発言という事よ」

 阿良々木は何かもうどうでもよくなった。右脳だけで組み上げられたような言葉が口をついて出る。
 「ああ、分かったよ畜生。これ以上マイナス評価は嫌だ。戦場ヶ原、こうなったら何が何でも君を助けてやる。船に乗せるどころか日本まで無事に連れて帰ってやるよ。
 それなら例え僕が死んでも合格だよな? その代わり君は絶対に死ぬな。僕が死ぬのは君を死なせるためじゃない。僕の命日に毎年花を飾って貰うためだ!」

 阿良々木の(半ば逆ギレ)宣言に、ひたぎは驚愕に目を見開き、少しうつむき加減になった。目元が髪に隠れてよく見えない。
 「いい線まで言ってたのに、残念。不合格だわ」
 「いいよ、君には一生かかっても合格させて貰えそうにないからな」
 「じゃあ、合格の秘訣を教えてあげる」
 「へえ、言ってみろよ」
 「私を助けるんじゃないわ。私達が助かるのよ」
 言うが早いか、ひたぎは阿良々木に唇を重ねた。

 何をされたのか一瞬理解出来なかった。理解した途端、阿良々木の全身を動揺が走る。
 「い、今のは何の呪いだ!」
 「乙女のキスよ、有り難く受け取りなさい」
 続けて、「ありがとう」という呟きがかすかに聞こえた。

 阿良々木は思った。もしかして、これは人生で最もハイリスク・ハイリターンなフラグじゃないか?
16作戦名「急がば回れ」 7 ◆uFyFwzytqI :2009/08/11(火) 20:59:40 ID:g60plo7O
【E−05/路上(湖のボート乗り場に向けて移動中)/1日目・日中】

【阿良々木暦@化物語】
 [状態]:疲労(小)。不安。ひたぎへの責任感と若干の困惑。
 [服装]:夏っぽい服装。
 [装備]:鍬(全長1m)。
 [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。缶詰と飲み物3食分)
 [思考]
  1:ひたぎ達3人と港に行き、船に乗る。
  2:ひたぎを守る。
  3:このフラグ、どうすればいいんだろう……。

【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
 [状態]:疲労(小)。阿良々木への深い信頼。
 [服装]:夏っぽい服装。
 [装備]:千枚通し。アイスピック。文房具一式。
 [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。缶詰と飲み物3食分)
 [思考]
  1:阿良々木君達3人と港に行き、船に乗る。
  2:阿良々木君と一緒に日本に帰りたい。

 [備考] 阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎの共通事項。
  1:ルパン三世、ボルボ西郷、左近寺竜之介の容姿や服装を把握しています。

【次元大介@ルパン三世】
 [状態]:疲労(小)。冷静。阿良々木とひたぎへの責任感。
 [服装]:いつもの服装。
 [装備]:薪割り用の斧(全長1m)。コンバットマグナム(357マグナム弾。6/6発。予備29発)
 [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。携帯食料数種。缶詰と飲み物3食分)
 [思考]
  1:阿良々木達3人と港に行く。
  2:阿良々木とひたぎを船に乗せた後、引き返してルパンを捜す。

 [備考]
  1:ボルボ西郷、左近寺竜之介の容姿や服装を把握しています。

【両津勘吉@こち亀】
 [状態]:健康。豪快にして冷静。阿良々木とひたぎへの責任感。
 [服装]:アロハシャツ。
 [装備]:大型ハンマー(全長1m)。シャベル。手斧×2。
 [道具]:大型ザック(レンチ、バール、ハンマー類。(缶詰、ペットボトル、パンなど15食分)、食器類。観光用地図。手鏡)。工具ベルト(ドライバー、ペンチ等)。
 [思考]
  1:阿良々木達3人と港に行く。
  2:阿良々木とひたぎを船に乗せた後、引き返して救出活動を再開する。
  3:ボルボ西郷、左近寺竜之介を捜す。

 [備考]
  1:ルパン三世の容姿や服装を把握しています。
17 ◆uFyFwzytqI :2009/08/11(火) 21:01:17 ID:g60plo7O
投下終了です。
18創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 00:32:16 ID:fzPvwqBI
>>17
お疲れ様です。道中でバラライカや仁村と出会う展開も面白いかもしんないですね。
19創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 18:55:59 ID:mFbv8lEt
投下乙です
両津も次元もかっこいいなw
しかし子供組がバラライカとか会って下手に合流したら切り捨てられそうw
20創る名無しに見る名無し:2009/08/13(木) 13:59:30 ID:Sc8qC21E
遅ればせながら乙
両さんはタフだなw
21創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 22:38:43 ID:Qf2sqPSD
予約状況 
2009/07/25 ◆7mznSdybFU 氏(延長申請あり):バート・ガンマー@トレマーズシリーズ 、辻本夏実、小早川美幸@逮捕しちゃうぞ、ジョン・コナー@ターミネーター2、
                              木手英一@キテレツ大百科  新5人。 期限 08/15まで 

2009/07/31 ◆eT6t2VPp6c氏(キャラ変更連絡あり):川添珠姫@BAMBOOBLADE(バンブーブレード)、坂崎嘉穂@よくわかる現代魔法 新2人。 期限 08/22まで

2009/08/03 ◆hguVhGB2temi氏:ケイシー・ライバック@暴走特急、リー刑事@ラッシュアワー 新2人。 期限 08/17まで

2009/08/03 ◆ubyc5N5K3uqR氏(キャラ変更連絡あり):ココ・へクマティアル、ジョナサン・マル(ヨナ)@ヨルムンガンド、御堂島優@クロックタワーゴーストヘッド 、
                                  花村陽介@ペルソナ4、桂言葉、清浦刹那@school days、蒲郡風太郎@銭ゲバ  新5+旧2人。 期限 08/24まで

2009/08/05 ◆kMUdcU2Mqo氏(キャラ変更連絡あり):アクセル・フォーリー@ビバリーヒルズ・コップ、ジョン・マクレーン@ダイ・ハード  新1+旧1人。 期限 08/26まで 

2009/08/10 ◆WfkxWy5nfs氏:ニコラス・エンジェル、ダニー・バターマン@ホットファズ(映画)、浦島景太郎@ラブひな、藤村大河@Fate/stay night 新2+旧2人。 期限 08/24まで
22創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 23:53:16 ID:F/aDrMCc
これは格好いい方の両さんw
化物語は良く知らないけど、キャラがたってていいね
23沈黙の脱出 ◆hguVhGB2temi :2009/08/15(土) 13:13:55 ID:fhUBboK+
その日、セント・マデリーナ島はほんの僅かな時間で地獄へと化した。
だが、一つの奇跡が起きた。それは最強のコンビが誕生したことである。

リーは追い詰めらつつあった。無数のゾンビたちに。
話は三十分ほどさかのぼる。
彼は、アロハシャツとハーフパンツ、肩掛けのバックとゆう格好で観光パンフ片手に島内観光を楽しんでいた。
時計が十二時を回った頃だろうか、彼は昼飯を食べようとレストランに入ろうとしたときだ、ゾンビが現れたのは。
観光客と地元住民で賑わっていた島は、瞬く間に地獄と変化した。多くの人々は逃げ惑い、ゾンビの餌食になっていく。だがその場に違う人間が一人。
「こっちだ!早く逃げろ!さぁ早く!」
そう彼、リーである。元々、香港警察の刑事である彼は、多くの修羅場をかいくぐってきた人間。最初はこの状況に動揺したが冷静になり、人々をゾンビがまだいない方向へ避難誘導を始めた。だが、彼は知らないもうすでに、この島には安全な場所などないことを・・・・
ともかく、避難誘導していた彼だが気づけばゾンビたちが目の前にへと迫ってくる。彼は近くにあった椅子で一番近いゾンビを殴りつけた。頭部に椅子は直撃。嫌な音がすると、頭部がありえない方向にへと曲がり
ゾンビは崩れ落ちた。
しかし、倒したゾンビは僅か一体。ゾンビたちは迫りくることをやめない。
リーは必死にゾンビたちと戦った。大声を上げつつパラソルでゾンビをなぎ払い、鉢植えでゾンビの頭部をかち割ったりなどなどと奮戦したものの、所詮は多勢に無勢、徐々に追いめつられっていった。

そして、至る今。
リーはゾンビの大群に囲まれ、逃げ道などはない。
もはや、死を覚悟した。そして彼は目をつぶり、襲い掛かってくるゾンビに備えた。だがゾンビは襲い掛かってはこなかった。
連続した銃声が鳴り響く。襲い掛からんとしたゾンビの大群は、大量の鉛弾を打ち込まれ次々とゾンビは倒れていく。そして銃声は鳴り止む。
銃声が止むとリーは、目を開けた。数十秒前までは存在したゾンビの大群はボロボロになって地に倒れていた。
そうすると、銃声が鳴った方向から銃を持った大柄な男がやってきた。
24沈黙の脱出 ◆hguVhGB2temi :2009/08/15(土) 13:15:32 ID:fhUBboK+
俺を助けたのはこの男か。男は徐々に近づいてくきた。
「大丈夫か?」
「あぁ、あんたのおかげで命拾いしたョ。俺はリー、あんたの名は?」
「俺か?俺はケイシー・ライバック。ただのコックさ。」
リーはこのライバックという男はとてもコックには見えなかった。2mはあろうかという巨体、それに見合った肉体、そして鋭い目つき。コックより軍人といわれたほうが信じられた。まあしかし、ライバックがいなけれリーは今頃ゾンビの餌になっていたことは確かなことである。
「リー、すまないが銃は使えるか?」
「もちろんさ!これでも銃の扱いには自信があるんだ。」
「ほぅ、そりゃあよかった。」
ライバックはそう言うと、背負っているリュックから、サブマシンガンと拳銃、それと予備マガジンをリーに渡した。
リーは二つの銃を受け取ると、拳銃と予備マガジンはズボンのベルトに挟みこみ、サブマシンガンは装備し、予備マガジンはバックに入れた。
「ライバック、ここで会ったの何かの縁だ。俺はあんたと一緒にいくよ。」
「よしわかった。ではいくとしよう。」
二人は地獄にへと歩みだす。最強のコンビが生まれた瞬間である
25沈黙の脱出 ◆hguVhGB2temi :2009/08/15(土) 13:17:16 ID:fhUBboK+
状態表】
【E-04 路地裏:日中:12〜14時】
【リー刑事@ラッシュアワー】
 [状態]:疲労 中
 [服装]:アロハシャツ、ハーフパンツ、肩掛けのバック
 [装備]:MP5KA1 30/30 予備マガジン×3 M92F 15/15 予備マガジン×2
 [道具]:地図、携帯、ミネラルウォーター、ペンライト
 [思考]:1 民間人を避難させる
     2 ライバックと協力して島からの脱出
     3 この男、本当にコックか?
 [備考]:なし

【E-04 路地裏:日中:12〜14時】
【ケイシー・ライバック@暴走特急】
 [状態]:健康
 [服装]:いつもの黒い服、リュック
 [装備]:M16A2 30/30 予備マガジン×4、コルト・ガバメント 7/7 予備マガジン×3、サバイバル

ナイフ
 [道具]:地図、食料及び水、ロープ、衛星携帯、工具一式
 [思考]:1 民間人を避難させる
     2 リーと協力して島からの脱出
     3 ゾンビの出現、テロリストの攻撃か?
  [備考]:なし
26 ◆hguVhGB2temi :2009/08/15(土) 13:21:23 ID:fhUBboK+
投稿終了です。
気づいた人もいるかもしれませんが
リー刑事=ジャッキー・チェン ケイシー・ライバック=スティーブン・セガールですw
27創る名無しに見る名無し:2009/08/15(土) 14:25:44 ID:mJCQyyW6
何という(ゾンビが)どうあがいても絶望
28創る名無しに見る名無し:2009/08/15(土) 22:50:41 ID:rVpLBYJc
29 ◆7mznSdybFU :2009/08/16(日) 18:33:24 ID:AAlkBBRV
規制に巻き込まれてしまいました
どなたか代理投下をお願いします
本当にお手数おかけして申し訳ありません
30代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 20:09:47 ID:7onbWTI0
 現在でこそ風光明媚な観光地として知られるセント・マデリーナ島であるが、
過去、アメリカ合衆国に併合される際には、血で血を洗う戦争があった。
19世紀末、『現地のアメリカ人の保護』を名目に始まったアメリカ軍と原住民の戦闘は、
当初、物量と装備の差により長くても1〜2ヶ月程度でアメリカ側の勝利に終わるとみられていたが、
原住民の反攻は熾烈を極め、アメリカ側が予想以上の犠牲を払いながらも勝利を収めたのは
戦争開始から実に11ヶ月と12日後のことであった。
アメリカ側が苦戦した理由の一つとして、兵士たちの間に「原住民による呪い」の噂が蔓延し、
戦意が著しく低下したという事情がある。曰く、「呪いによって原因不明の熱病が広がった」
「殺したはずの敵が再び起き上がって向ってきた」等というものである。
しかし現在では、前者はマラリヤ、後者は兵士の事実誤認か、相手が薬物による極度の精神高揚状態に
あったため、とされている。
 それから百余年、セント・マデリーナ島はほぼ完全に本土の文化に染められ、原住民族の文化は
島の東にある遺跡と、博物館の資料の中にその名残を残すのみとなった。
そして、かつてアメリカ軍の駐屯地があった島の南西部には現在射撃場が建っている。




――――A.M.10:00




 島の市街地から外れ、海沿いの道路を車で十数分走ると、シンプルな外観の白いコンクリート製の建物が見えてくる。
この射撃場は古い骨董品のようなものから最新式のライフルまで幅広い銃を取り揃えており、
国外の観光客のみならず、アメリカ本土からも銃愛好家たちがやってくる。
銃愛好家とは読んで字の如く、兵器である銃をこよなく愛する人々のことだ。
当然中には結構な変人も混じっていたりする。
例えば彼のような――――



「あの、お客様、当射撃場ではそのような銃の使用はお控えいただきたいのですが……」
「何が問題なんだ!? ここは銃の持ち込みはいいんだろうが! 所持許可証だってちゃんと持ってきてある!」

射撃場の受付で一人の男が職員に食って掛かっている。
サバイバルベストを羽織り、下半身は頑丈さと機能性重視のカーゴパンツ。
頭髪はいささか寂しいものの、それに反するように口ひげを蓄えた表情は非常に活力に満ちている。
過剰なまでに、と言ってもいいかもしれない。見る者のほとんどに『タフなオヤジ』という印象を与える。
男の名はバート・ガンマー。自称モンスター・ハンターである。
31代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 20:10:55 ID:7onbWTI0
「いえ、ですから、当射撃場は対物火器の使用は――」
「対物火器じゃあない。コイツはグリズリー・シングルショット50口径BMG、俺が大戦中の
対戦車ライフルを改造して作った対モンスターライフルだ。以前使った時にはシュリーカーを一発で
ミンチにしてやったもんだ。まあ、勢い余ってトラックをついでに一台オシャカにしちまったんだが……」

彼が熱く語っているのは背中に担いでいる巨大な銃のことだ。全長は1メートル半をゆうに超える。
人間はおろか、象相手に使うにしても威力過剰に見える。バートの主張は理不尽だが、彼がこの銃を
島に持ち込むために書いた膨大な書類の量を考えると、多少同情の余地はあるかもしれない。

「申し訳ありませんが安全上の問題ですので……」
「む……分かった、仕方が無い。じゃあコイツを預かっておいてくれ。くれぐれも扱いは慎重にな」

職員は明らかにホッとした表情を見せると、グリズリーを担いで施設の奥へと消えていく。
それを見て、バートは大きな溜め息を吐きながら受付ホールのソファーに腰を下ろした。
ホールに備え付けられたモニターには島のローカルニュースが流れている。退屈な内容だった。

パーフェクションで、日々を核戦争とグラボイズ対策に費やし続けていたバートが旅行を思い立った
のには、特に大した理由は無い。ただ女房と離婚し独り身になった自分をふと振り返った時、
たまには気晴らしが必要なのではないかと考えたのだ。
そこで射撃場のある観光地をピックアップし、その中からセント・マデリーナ島を選び出した彼は、
自慢のライフルを担いで意気揚々と上陸したのだが、出鼻をくじかれた形となった。

 メキシコでのグラボイド狩りで莫大な賞金を稼いだ今では、経済的に不自由することはない。
だが、何か物足りなさを感じるのだ。かつて共にグラボイドと戦ったバル・マッキーは結婚して
幸せな家庭を築き、アール・バセットは実業家として成功しつつある。自分には何が足りないのか。
女房が家を出る時、冷戦が終わってから自分は腑抜けたと言われた。当時は勝手なことをぬかすな
と思ったが、あれは当たっていたのかもしれない。自分は命懸けの局面に向き合って初めて――

 ふと正面玄関の方が騒がしいことに気づいた。視線をやると足元がおぼつかない男を警備員が制止している。酔っ払いらしい。警備員は穏便に事を済ませようと、酒気を帯びた状態での銃使用の危険性と
射撃場の規定を説明し追い返そうとしている。だが男のほうは聞こえているのかいないのか、生気のない表情で警備員ににじり寄るばかりだ。

(あんなアホの相手までしなきゃならんとは、警備もご苦労なこったな)

 受付を見ると、係員が書類を捲っている。自分の手続きが終わるまでにはまだ時間がかかりそうだ。
特にやることもないし、憂鬱な気分になっていたところへのこの騒ぎに少々苛立ったということもある。
警備員に加勢してやろうと立ち上がる。

「おい、そんなザマじゃ銃なんぞ撃っても当たらんだろうが。酔い醒まして出直したらどうだ、あん?」

 男はバートの声にも反応しない。ただ救いを求めるように警備員に向って両手を伸ばししがみついた。

「具合が悪いんですか? それなら医務室の方へ――っあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
32代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 20:11:40 ID:7onbWTI0
 突然男が警備員の喉下に噛み付いた。いや、噛み付くなどという生易しいものではない。警備員の悲鳴
にも臆せずその肉を食いちぎろうと歯を更に食い込ませ、顎と首の力で引きちぎろうとしている。
あまりの出来事に流石のバートも足が一瞬止まった。が、我に返ると男に向かい突進する。

「この野郎! イカれてんのか!」

男を警備員から引き剥がし突き飛ばす。男はその勢いのまま玄関脇の柱に頭をぶつけるとズルズルと
崩れ落ちた。

「そこのお前! 彼の首のところを押さえてやってくれ! それと誰か担架だ! 担架を持ってくるんだ!」

 ホール内は騒然となった。職員と利用客が何事かと駆け寄ってくる。周囲の人間に声を掛けるバートの
視界の隅に、立ち上がろうとする男の姿が映った。舌打ち一つ、自前のベレッタM92を引き抜き男の方に向ける。

「動くんじゃあない! これ以上妙なマネしてみろ、そん時ゃお前……!?」

 舌が強張るのをはっきりと感じた。背後の職員や野次馬の声が凍りつく。
 立ち上がった男の頭部は、柱に衝突した衝撃で大きく陥没し赤黒い中身をはみ出させていた。
傷口からは血と脳漿が混ざり合った粘性の液体を溢し続け、床にその染みを引き摺りながら尚も
バートに迫ろうとしている。
その異様な姿に戦慄しながらも更に怒鳴る。

「動くなって言ってんだろうが! 聞こえねぇのか!?」

 男は焦点の定まらない眼をバートのほうに向け再び手を伸ばす。死に掛けの蜘蛛のように曲げられた
指がバートの首にかかろうかというその瞬間、彼はトリガーを引いた。
 至近距離で放たれた銃弾が眉間に命中、脳をかき回しながら後頭部へと貫通、衝撃で男は後ろへと吹き飛び
今度こそ動かなくなった。
 荒い息を吐きながら銃をしまう。固まっていた回りの人間たちがようやく動き出した。奥の医務室へ
運び込まれる警備員、消防へと連絡する職員、客の一人がバートに声を掛ける。

「危なかったなあんた。もし後で警察に何か訊かれたら正当防衛だったって証言しとくよ」
「ああ、ありがとよ」

 ソファーに戻りどっかと腰掛ける。振り返ると職員が男の死体から野次馬を遠ざけていた。
 あの男があの重症でなぜ動けたのかは分からない、まるでゾンビのようだった。グラボイドとはまったく別の脅威だ。だがそれも死んでしまえばそれまでだ、後は警察にでも任せればいい。
 デイパックの中を探り携帯食料――女房と別れてからはこればかり食べている――を取り出した。
包装を破ろうとした時、モニターに緊急報道が流れた。
島の各地で起きている暴動。警官隊に撃たれ、重傷を負っているにもかかわらず動き続ける暴徒たちの
姿が映されている。
33代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 20:13:40 ID:7onbWTI0
(さっきのヤツで終わりじゃなかったのか!?)

 この島で何か異常な事態が進行している。それもグラボイドとは全く別のとてつもなくヤバいヤツだ。
先刻以上の戦慄がバートを襲った。
 しかし、同時に戦慄以上の何かが胸のうちに沸々とこみ上げてくる。
 バートは踵を返し、受付へと駆け込む。係員が驚愕のあまり身を引くのにも構わず怒鳴った。

 「オーナーを呼べ!!」




――――A.M.11:30



『いい? くれぐれも目立つ行動は避けること。それから――』
「大丈夫だって。来てみれば判るけど、この島は本当にのんびりした場所だよ。ママがしばらく身を
隠すにはちょうどいいよ」
『それならいいんだけど、どうも胸騒ぎがするのよ。何か良くないことが起こりそうな気がするわ』
「平気だって。それよりもママは自分の心配をしなよ、今までずっと戦い続けて、まだ怪我も治って
ないんだしさ。じゃあそろそろ切るよ」
『ええ、愛してるわ、ジョン』
「僕も」

 島の市街地の中央部から西部にかけては大規模なショッピングモールをはじめとした観光客向けの
娯楽施設が立ち並んでいる。島を訪れた観光客達は、午前中から昼間はビーチで泳ぎ、夕方からは
商店街やショッピングモール、映画館を回るというのが定番コースだ。
 映画館は、島の大きさから考えると、非常に大きい。建物は2階建て、遊園地のように派手な外観で
恐竜や宇宙船を模した看板が2階部分から突き出ている。内部は大小合わせて5つのシアターがあり、
各種売店も完備されている。 
 映画館の周りには「オズの魔法使い」を意識した黄色い石畳が敷き詰められ、土産物やファーストフードの
露店が並び、少し離れた場所には公園もある。
 その公園のベンチでジョン・コナーは電話を切った。
 
 T−1000との決着とT−800との別離から数週間。母であるサラ・コナーはサイバーダイン社
襲撃の犯人として指名手配されていた。そのサラはT−1000によって肩と脚に重傷を負わされ、
その怪我の治療に専念していたが、手配犯である以上、当然正規の医療施設を利用するわけにはいかず
思うようには回復していない。 
 そこで未成年ゆえ指名手配から外れたジョンが、潜伏兼療養先の候補としてこのセント・マデリーナ
島を下見に訪れたのだ。
34代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 20:14:25 ID:7onbWTI0
 ベンチに座ったままジョンは空を見上げた。雲ひとつない快晴。午後は暑くなりそうだ。わずかに
潮気を含んだ風が柔らかい前髪を弄ぶ。
 視線を下ろすと、公園の真ん中で父親と戯れている子供たちの姿が目に映った。グローブを構え父親に
ボールを投げるようせがむ子供。笑いながらボールを放る父親。幸せそうな家族の光景。
 それを眺めているとジョンの胸にかすかな痛みが奔る。
 父親のいない自分にとってT−800は初めて信頼できる大人だった。たとえそれがメタルとオイル
で構成されたターミネーターだったとしても。
でも彼はもういない。人類の未来を守るために自ら溶鉱炉の中へと沈んでいった。
その犠牲のおかげで何億何十億という人間が救われたのは分かっている。マシーンが人間を支配する
未来は回避されたのだ。しかし、それと自分の寂しいと思う感情はまったく別だ。
 そしてもう一つ、ジョンは幼い頃から人類の指導者となるべく、母に連れられ世界各地であらゆる
技術を叩き込まれた。戦闘、諜報、破壊工作、電脳戦etcetc。だが、人類の破滅が回避された以上、
自分が指導者になる未来は無くなった。これからどんな人生を送れば良いのか、漠然とした不安が
ジョンを包んでいた。

(……今は考えてもしょうがない。僕とママの体を休めることだけ考えよう)

 そのままベンチに横になる。飛行機の中でよく眠れなかったためか、うとうととし始めた。



 突如として響き渡った絶叫と共にジョンは跳ね起きた。状況を把握できないまま周りを見回す。人々
が走ってどこかへと向かっている。

(違う……逃げてるんだ!)

 人が逃げてきた方へと振り向く。公園の中央で倒れこんだ男性に大勢の人影が群がっている。最初、
男性がリンチにあっているのかと思った。だが違う、群がっている連中は男性に喰らいつき、その肉を
貪っていた。そのおぞましさに体が硬直する、こんな残虐な殺人方法などターミネーターでもやりはしない。
 デイパックを引っつかみベンチを乗り越え自らも逃げ出す。当てなどないがとにかくここを離れなければならない。
 
「うわっ!?」

近くを走っていた少年が足をもつれさせて倒れこむ。咄嗟にジョンは少年の手を掴み強引に引き摺り
起こした。
少年が何か叫ぶのにも構わずそのまま走り出す。答えたくても自分自身何も理解できてないのだ。
わき目も降らず公園の入り口へ向かう。
 入り口は大混乱だった。逃げようとする人々が団子のように固まってほとんど進んでない。

(先に逃げた人たちが進んでない……前にも『あいつら』がいるのか!?)

 推測を裏付けるようにはるか前方から悲鳴が聞こえてくる。入り口付近の混乱はさらに加速した。
逃げる人と戻る人が衝突し、もはや収拾がつかない状態だ。少年が不安そうに見上げてくる。

「こっちだ!」
35代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 20:15:20 ID:7onbWTI0
即座に決断できたのはサラからの指導とあの数日間の経験の賜物だったかもしれない。大通りに
面した柵を先に乗り越え、少年を引っ張りあげる。
 道路に着地、入り口の方を確認すると、そこは予想通り惨状と化していた。足を引きずるようにして
一様に虚ろな表情を浮かべた一団が人々に襲い掛かっている。中には内臓をはみ出させたまま人間に
食らいついているものまでいた。

「見るな! 逃げるんだ!」

 再び固まっていた少年の手を引いて走り出す。すでに大通りのそこかしこに奇妙な連中がうろついていた。だがなぜか走ろうとはしない。走れないのか。

(なら好都合だ!)

 不審者たちが接近する前に、裏路地へと滑り込む。こちらにはほとんど人の気配はない。このまま
上手く逃げられるかもしれない。念のため、母から護身用に持たされたスタンガンを取り出し、後ろの
少年の無事を確認する。
 今になって気づいたが少年はアジア人だった。メガネとサンバイザーを着け、年齢はジョンよりも
やや下のようだ。不安がらせないよう青い顔をしている少年に向かって無理に笑ってみせた。

「大丈夫だよ、僕はこの手のトラブルには強いんだ」

 自分のような子供に言われても気休めにしかならないだろうが、ともかく少年はうなずいた。
 ここには母もT−800もいない、自分の力で生き延びるしかない。深呼吸をする。

「僕についてくるんだ、行くよ!」

一気に駆け抜けようとした瞬間、人影が路地の出口を塞いだ。
加速がついて足を止められないジョンは、「それ」を間近で見てしまった。左半分が削げ落ち、筋肉
と骨がむき出しになっている顔。眼窩からは眼球がこぼれかけ、視神経によってかろうじてぶら下がっている。半分以上へし折れた歯の間からは、獣のようなうめき声が漏れていた。
攻撃によって金属骨格が剥き出しになったT−800を見たことはあるが、これはそれとは違う、
知性も何もない、まるでモンスターのようだった。
 「それ」がジョンを捕らえようと手を伸ばす、その腕をかいくぐりジョンはスタンガンを脇腹に押し付けた。激しい放電音と共に「それ」が全身を反り返らせ、硬直、倒れこむ。肉が焼けたような焦げ臭い
臭いがあたりに立ち込める。

(これ護身用って威力じゃないだろ!?)

 サラが改造していたらしい、一応感謝しつつ勢いのまま大通りへと飛び出した。だが、少年が「それ」
を飛び越えようとした時、体に躓いて再び転んでしまった。さらに――

「左から来る!!」

 手を貸そうとしたジョンは少年の叫びに振り向く。そこには2メートルほどの距離に迫る奇怪な一団が。
今から少年を引き起こしても捕まる。戦るしかないと覚悟を決め少年の前に立ちふさがったその時。
36代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 20:16:01 ID:7onbWTI0
「頭を下げて!!」
「どぉりゃああああああああぁぁぁぁ!!」

突然の謎の指示に訳がわからないながらも従う。咆哮と同時に飛来した何かが二人の頭上を通過し、
不審者達に直撃、後ろにいた数人も巻き込んで倒れこむ。それは露店の前に置かれていたベンチだった。
 思わず逃げ出すのも忘れて唖然とした。大部分がプラスチックとはいえ、四人掛けは出来そうな
ベンチを遠投するなんて芸当ができるのは、自分が知る限りターミネーターぐらいのものだ。
 飛来した方を確認する。そこにいたのは二人の女性警察官だった。長い髪を三つ編みにした方の女性が叫ぶ。

「また来るわ! 夏実、もう一回お願い!」
「りょお……っかいいいいいいいいぃぃっ!!」

ミディアムショートの女性がベンチを抱えあげた。さして筋肉がついているとは思えない両腕に力が
込められる。次の瞬間には再びベンチが宙を舞った。先ほど以上の不審者を巻き込みながらなぎ倒す。
 その隙にジョンは少年を助け起こし、女性警察官たちのほうへと走り出した。

「早くこっちへ!」

 彼女らに導かれるまま通りを走る。不審者たちはやはり走れないらしく、振り向くと姿はもう見えなかった。

「ひとまずあそこに身を隠しましょう」

 三つ編みの女性が指差したのは映画館だった。





「よーし、よく頑張った! えらいぞ男の子!」

 映画館内はひっそりと静まり返っていた。すでに避難活動は終了していたらしい。
チケット売り場前のソファーに座り込んで一息ついていると、ミディアムショートの女性に頭を
わしわしと撫で回された。かなり豪快な女性のようだ

「もう男の子って齢じゃないよ、これでも十三歳だ」
「ゴメンゴメン、あたしは辻本夏実。こっちのおさげの方が――」
「小早川美幸よ、よろしくね。そっちの君も日本人?」
「木手英一です」

 少年は思っていたよりもしっかりした返事を返してきた。見た目よりはタフなのかもしれない。

「それで君は、えーと……」
「ジョン、ジョン・リース」

 申し訳ないが念のため偽名の方を答えておく。なるべく無用な誤解やトラブルは避けたかった。
どうやって自分のことを説明しようか迷っていると、英一が口を開いた。
37代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 21:27:33 ID:7onbWTI0
「辻本さんと小早川さんは日本人ですよね。どうしてセント・マデリーナ島に?」
「よくぞ訊いてくれました。っていってもたいした理由があるわけじゃないんだけどね。あたし達は
日本の墨東署ってトコで働いてたんだけど、今はロサンゼルス市警に出向しててね。この島には仕事で
来てたんだ」
「たまたまこの事件に巻き込まれてね、私たちは島の警察の人たちと一緒に避難活動を手伝っていたの」
「ロサンゼルスに出向なんて凄いですね……あれ、じゃあ他の警察の人たちはどうしたんですか?
さっきはいなかったみたいだけど……」

 英一の指摘に美幸の表情が若干曇る。

「ごめんなさいね。私たちの方も避難活動で混乱している最中にはぐれてしまって……」
「そうだったんですか……」

場の空気が沈みがちになる、が

「だーいじょうぶ! 君達の事はあたし達がしっかり面倒見るから! そんな暗い顔しない!」

夏実が豪快に笑いながら子供たちの背中をはたく。その豪力に二人ともつんのめりそうになった。
その様子に美幸の表情もほころぶ。

「そうね、私達が責任を持って君達を安全な場所まで送りとどけるわ。その点は心配しないで」
「よし、じゃああたしたちは奥を確認してくるから、二人はここで待っててくれるかな」
「もし何かあったら大声を出して逃げるのよ。無茶はしちゃ駄目、約束よ?」

映画館の奥へと向かう二人を見送る。二人の姿が見えなくなるとジョンは肩を落とした。自分が万能
などとは思ったことはないが、それでも英一をつれてあたふたと逃げ回るので精一杯だった。T−800
と出会ってからも全く実感が湧かなかったが、自分が人類の指導者になるなどと言う未来は何かの間違い
じゃないのだろうか。現実にはプロの大人に助けられてばかりなのに。
 一人悶々と考え込んでいると英一が声を掛けてきた。

「さっきはありがとうございます、リースさん。おかげで助かりました」
「ジョンでいいよ。あと敬語も要らない」

 そう返しながらもジョンは少し驚いていた。英一はすでに冷静さを取り戻しているように見えた。
少なくとも表面上の動揺は見られない。先ほども思ったが外見以上に芯が強いようだ、この少年も場数
を踏んでいるのだろうか。

「ジョンは一人旅? 家族の人はいるの?」
「家族はママだけさ、今は怪我でこの島には来てないんだけどね。英一の家族は?」
「パパとママ、あと――」

 そこで英一は言いよどむ。
38代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 21:28:24 ID:7onbWTI0
「――あと、友達と一緒に住んでいたけど、その友達とは別れたんだ」
「……別れた?」
「別れたっていっても別に喧嘩別れとかじゃないんだ。辛かったけど、お互いに納得してそれぞれの
道を行こうって決めて別れたんだ」
「……その友達とはもう会えないのかい?」
「死に別れたわけじゃないけど、多分もう二度と会えないと思う……」

 奇妙な巡り会わせだった。この混乱の中で出会った少年は自分と同じように別離を経験していたとは。

「僕もさ」
「……え?」
「僕もこないだ友達、っていうか父親みたいな感じの人と別れたばっかりなんだ」

さすがにその友達が未来から来たターミネーターだとは言わなかった。そんなことを言えば昔のサラ
のように信じてもらえないだろう。

「もっとも僕の場合は最後の最後になるまで泣いてゴネて彼を困らせたんだけどね。だから英一は強い
と思うよ。ちゃんと相手の意思を認めて別れたんだからさ、すごく大人だ」
「そ、そうかな」
「そうだよ」

 言いながらジョンは多少吹っ切れた気分になっていた。自分よりも年下の子供が前向きに生きている
のに自分がいつまでも迷ってばかりもいられない。それに未来の指導者どうこうを今気にしても仕方が
ない、現在の自分に出来ることを探そう。

 とりあえず入り口の案内図で非常口の確認を済ませる。脱出口の確保は逃亡生活の中で体に染み
付いてしまっている。
 館内はジョンが想像していたよりも広く、入り口近くには土産物や食品の売店があった。
 ジョンは売店のカウンターを乗り越えると、クーラーの中から飲料水やジュースを取り出し、商品棚
に並べてあったパンをカウンターに並べる。

「え、これってお金は――」
「非常事態だから大目に見てもらうさ」

途惑う英一に食料を持たせる。彼はやや逡巡していたが食料を自分のリュックサックにしまいこんだ。

「君も僕も待ってる家族がいるんだ、お互い絶対に家族のところへ生きて帰ろう」
「……うん!」



映画館の規模に比例して、奥にある事務所はかなりの広さが合った。デスクとコンピューター等、ごく普通のオフィス器具が並んでおり、壁際には職員のロッカーが並んでいる。ここが最後の部屋だ、
ここにも人がいないということは、館内にいるのは自分たち4人だけということになる。夏実は大きく
安堵の息を吐いた。
39代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 21:29:40 ID:7onbWTI0
「この辺はもう避難が済んだみたいだね。それにしても研修の最後になってこんなことになるなんて
ホンットにツイてないわ。オフにはスキューバとかジェットスキーとか色々予定立ててたのに」
「文句言わないの。もっと大変な目にあっている人はきっと大勢いるわ。それにあの子達だってまだ
安全って訳じゃないのよ。何とかして警察署まで避難させないと――」
「分かってる。車かバイクがあればいいんだけど、道路がゾンビと壊れた車なんかで埋め尽くされてる
からちょっと厳しいかな」
「移動手段もそうだけど護身用の武器も足りないわね」

美幸は自分の銃の残弾を確認する。

「残り三発……、夏実は?」
「隣で援護してくれた人が弾切れになったから全部渡しちゃった」
「ほとんど丸腰ね……」

考えれば考えるほど悪状況に陥っているのが理解できてしまう。
 加えて元々美幸は怖い話やモンスターが苦手なタイプだ。昔に比べれば耐性がついたが、ゾンビと
正面から相対するのはあまり気分の良くないものだ。まあゾンビと接するのが好き、などという人間は
いないだろうが。

「あんたまでそんな暗い顔になってどーすんの相棒。いざとなったらあたしがゾンビなんか力技で蹴散
らしてやるから心配しなさんな!」

 こんな時でも夏実は変わらない、そのことに苦笑がもれる。相棒のポジティブさには本当に頭が下がる。

「ありがとう夏実。でも大丈夫よ、この程度でへこたれるほど私はヤワじゃないわ、それは知ってるでしょう?」
「そうこなくっちゃ!」

 現状はホラー映画のような状況だが、現実にゾンビがいる以上そこには何かの原因があるはず。それ
を突き止めれば被害の拡大を防げるかもしれない。それに島には逃げ遅れた人たちがまだいるだろう。
彼らの救出も行わなければならない。

「ひとまずあの子達のところへ戻りましょう。これから具体的にどうするのか決めないとね」
「オッケー。それじゃあ――」

夏実の言葉をさえぎるように轟音が響く。

「今のは!?」
「裏手の方よ!」

裏口に向かって二人は駆け出す。ゾンビの仕業か、偶然なのか、いずれにしても放置するわけには行
かない。生存者がいるかもしれないのだ。
 身長に外へ続くドアに近づくと、向こう側の気配を窺う。ゾンビのうめき声は聞こえない。二人は意を
決するとドアを開けた。
二人の目の前に現れたのは――
40代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 21:31:17 ID:7onbWTI0
「これはまた……」
「派手にやったなぁ……」

壁に激突して動かなくなった古い軽トラックと、

「クソ! なんてヤワな車だ! こんなことなら軍用トラックを借りてくりゃ良かった!」

トラックに蹴りを入れている中年の男性だった。

「大丈夫ですか!?」
「嬢ちゃん達、警官か!? ちょうどいい、荷物を下ろすのを手伝ってくれ!」

 美幸たちの心配に反して男性はピンピンしていた。荷台に上って人間が入れそうなほどの大きさのバッグ
を引っ張り出そうとしている。

「ああ、あたしやりますよ」
「気をつけろ、50kg以上はあるからな、二人がかりなら――」
「わ、ホントだ、結構重っ」

 夏実はひょいと荷物を担ぎ上げると、あっけに取られる男性を残してスタスタと映画館へ戻っていく。

「……あの嬢ちゃん、サイボークかなんかか?」
「れっきとした人間ですよ」

男性の問いに美幸は苦笑するしかなかった。





轟音を聞きつけた子供達と合流し、事務所に戻る。

「それでガンマーさん、この荷物の中身は何ですか?」

バート・ガンマーと名乗った男性が持ってきたバッグは部屋のデスクの上に置かれていた。その尋常
じゃない大きさは、異様な存在感がある。
 美幸の問いにバートはニヤリと笑う。

「季節はずれのサンタのプレゼントってとこか、開けてみりゃわかるさ」
「それじゃ、お言葉に甘えて、っと」

 夏実がバッグのファスナーを開け、ひっくり返す。その中出てきたのはから銃と弾薬だった。それも
一丁や二丁ではない。全部で十数丁の銃と大量の弾薬が入っていたのだ。
41代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 21:32:27 ID:7onbWTI0
「これって……」
「戦争ができそうね……」

 夏実達の呟きには驚嘆を通り越して呆れの色が含まれている。よくみると銃の種類はバラバラで、
なかには見るからに年代物の銃もある。

「どうしたんですかこれ?」
「なに、さっきまで射撃場に居たんだがそこのオーナーが話の分かる奴でな、島の連中と一緒にゾンビと
戦うのに銃が必要だって言ったら気前良く分けてくれたんだ。型がばらついてるのは勘弁してくれ、
手近にあった奴をかき集めただけなんでな」
「はあ……それにしてもよくこれだけの数を……9ミリの弾丸を分けてもらえますか?」
「おう、好きなやつを持ってけ」
「じゃああたしはこれにしよ」

夏実が大型の散弾銃を手に取る。

「でもよかったじゃない美幸、これだけ武器があればなんとかなるっしょ」
「そんなこと言っても人間の腕は二本しかないのよ。夏実の腕力がいくら強いからって、一人で何丁も
扱えるわけじゃないし、これ全部を持っていくと逆に動きが取れなくなるわ」
「そうだな、適当にいくつか持って行って、残りはあとからここにくる奴のために残しとけばいい。で、
お前らはこれからどうするんだ?」
「まずこの子達を警察署に避難させます。その後は他の警察の人と協力して救助活動にあたるつもりです。
ガンマーさんはどうされるんですか?」
「俺か? そうだな、とりあえずはっきりしたことは決めてなかったからな、警察署まではお前らに
付き合おう。それからのことはその後で決める」
「いいんですか? ガンマーさんも避難した方がいいのでは?」
「心配すんな、モンスターの相手は俺の専門だ。」
そういってバートは不敵な笑みを浮かべる。

「よっし! それじゃあ準備が出来たら警察署目指して出発! 君たちもそれでいいね?」

夏実の確認に少年たちがうなずく。

こうして奇妙な縁で交錯した彼らのサバイバルが始まる。



【F―04 映画館/一日目/日中】

【バート・ガンマー@トレマーズシリーズ】
[状態]:健康
[服装]:キャップ、サングラス、サバイバルベスト、カーゴパンツ
[装備]:SIG SG551(5,56ミリ弾 30/30 予備弾150)、ベレッタM92×2(9ミリパラベラム 弾数
15/15、15/15 予備弾30)
[道具]:ツールナイフ、デイパック(携帯食料×6、500ml入り飲料水のペットボトル×4、発炎筒×4、
マグライト、島の地図)
[思考・状況]
 基本思考:生存者を集めて島から脱出。
 1: 人手と物資を集める。特に銃! 銃がありゃなんとかなる!
2: ジョンと英一を警察署まで送る。
[備考欄]
・「トレマーズ2」以降からの登場
42代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 21:34:02 ID:7onbWTI0
【辻本夏実@逮捕しちゃうぞ】
[状態]:健康
[服装]:警察の制服
[装備]:モスバーグM590(12ゲージショットシェル 弾数9/9 予備弾45)、グロック26(9ミリ
パラベラム 弾数17/17 予備弾34)
[道具]:身分証、財布、伸縮式警棒
[思考・状況]
 基本思考: 生存者の救出
 1: 装備を整えたら警察署へ向かう。
 2: 物資の調達と安全な場所の確保。
 3: ジョンと英一を守る。
[備考欄]
・アニメ「フルスロットル」開始前、ロス市警に出向中の時期から登場

【小早川美幸@逮捕しちゃうぞ 】
[状態]:健康 ゾンビに苦手意識
[服装]:警察の制服
[装備]:シテス スペクトラ(9ミリパラベラム 弾数30/30 予備弾120)、グロック26(9ミリ
パラベラム 17/17 予備弾34)
[道具]:身分証、財布、伸縮式警棒
[思考・状況]
 基本思考: 生存者の救出
 1: 装備を整えたら警察署へ向かう。
 2: 物資の調達と安全な場所の確保。
 3: ジョンと英一を守る。
[備考欄]
・アニメ「フルスロットル」開始前、ロス市警に出向中の時期から登場


【ジョン・コナー@ターミネーター2】
[状態]:疲労(小)
[服装]:サマージャケット、ジーンズ
[装備]:改造スタンガン(残バッテリー95%)
[道具]:携帯電話、デイパック(ノートPC、500ml入り飲料水のペットボトル×4、携帯食料×4、島
の地図)、財布
[思考・状況]
 基本思考: 生存者たちと脱出。
 1: 自分に出来ることを探す。
 2: 島にいる間は偽名で通す。
 3: 木手英一になんとなく親近感を感じる。
4: 武器がほしい
[備考欄]
・「T2」終了後から登場

【木手英一@キテレツ大百科】
[状態]:疲労(中)
[服装]:原作と同じ服装
[装備]:なし
[道具]:リュックサック(発明用の工具セット、500ml入りジュースのペットボトル×5、スナック菓子
×5、クッキー、パン×5、島の地図)、財布
[思考・状況]
 基本思考:生存者たちと脱出。
 1:自分に出来ることを探す。
 2:ジョンになんとなく親近感を感じる。
[備考欄]
・ アニメ最終回後から登場
・ 奇天烈斎の発明品は島に持ってきていません。
43代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 21:35:29 ID:7onbWTI0

※ 以下の銃と弾薬が映画館の中にあります。
○ 銃
・ S&W M64(38spl弾 6/6))
・ コルト キングコブラ(357マグナム弾 6/6)
・ スタームルガー セキュリティシックス(357マグナム弾 6/6)
・ S&W M29(44マグナム弾 6/6)
・ タウルス レイジングブル(44マグナム弾 6/6)
・ SIG P226(9ミリパラベラム 15/15)
・ CZE CZ75(9ミリパラベラム 15/15)
・ ワルサー P99(9ミリパラベラム 15/15)
・ ジェリコ941(9ミリパラベラム 16/16)
・ ファイブセブン(SS190弾 20/20)
・ スタームルガー Mk.U(22LR弾 10/10)
・ レミントン M1889(12ゲージショットシェル 2/2)
・ スパス12(12ゲージショットシェル 6/6)
・ コルト XM177(5,56ミリ弾 30/30)
・ ベレッタ M70(5,56ミリ弾 30/30)
・ スプリングフィールド M1903(30-06弾 5/5)
・ M1ガーランド(30-06弾 8/8)
・ リー・エンフィールド(7,62ミリNATO弾 10/10)
・ スプリングフィールド M14(7,62ミリNATO弾 20/20)
・ グリズリー・シングルショット(オリジナル 1/1 予備弾15)
 ○ 弾薬
・ 9ミリパラベラム×450発        ・ SS190弾×60発
・ 22LR弾×50発            ・ 38spl弾×60発
・ 357マグナム弾×150発         ・ 44マグナム弾×150発
・ 12ゲージショットシェル×180発    ・ 30-06弾×150発
・ 5,56ミリ弾 360発           ・ 7,62ミリNATO弾 260発
どの銃を持っていってどの銃を残すかは次の人に任せます。
44代理投下 クロスポイント ◇7mznSdybFU:2009/08/16(日) 21:36:18 ID:7onbWTI0
一度さる喰らッたが代理投下終了です
45 ◆7mznSdybFU :2009/08/16(日) 22:02:08 ID:AAlkBBRV
ありがとうございます。
46創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 23:13:13 ID:alZyylyY
投下乙です
初めて、ゾンビ出現の理由?に触れましたね、これがどのように物語に絡むか楽しみです。
47 ◆7mznSdybFU :2009/08/16(日) 23:36:21 ID:AAlkBBRV
冒頭のアレはあくまで『噂』ですので、それによって展開を縛るつもりはありません
不都合ならば無視してくださっても結構です
48創る名無しに見る名無し:2009/08/17(月) 00:04:30 ID:alZyylyY
>>47
別に不都合ではないと思いますよ。このスレの住民と書き手で作っていく作品ですから、こういう設定は大歓迎ですw
49創る名無しに見る名無し:2009/08/17(月) 11:55:44 ID:FFxHK3nJ
2009/07/31 ◆eT6t2VPp6c氏(キャラ変更連絡あり):川添珠姫@BAMBOOBLADE(バンブーブレード)、坂崎嘉穂@よくわかる現代魔法 新2人。 期限 08/22まで

2009/08/03 ◆ubyc5N5K3uqR氏(キャラ変更連絡あり):ココ・へクマティアル、ジョナサン・マル(ヨナ)@ヨルムンガンド、御堂島優@クロックタワーゴーストヘッド 、
                                  花村陽介@ペルソナ4、桂言葉、清浦刹那@school days、蒲郡風太郎@銭ゲバ  新5+旧2人。 期限 08/24まで

2009/08/05 ◆kMUdcU2Mqo氏(キャラ変更連絡あり):アクセル・フォーリー@ビバリーヒルズ・コップ、ジョン・マクレーン@ダイ・ハード  新1+旧1人。 期限 08/26まで 

2009/08/10 ◆WfkxWy5nfs氏:ニコラス・エンジェル、ダニー・バターマン@ホットファズ(映画)、浦島景太郎@ラブひな、藤村大河@Fate/stay night 新2+旧2人。 期限 08/24まで
50創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 13:51:49 ID:0+YgEMNA
ここは予約期間が長いな
51創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 21:41:53 ID:U7ocTAko
http://c.2ch.net/test/--3.ll/news/1250669598/1#b
まさか本当にセガールがゾンビと闘うとはw
52 ◆7mznSdybFU :2009/08/21(金) 00:16:31 ID:Rvl768Dy
鷹山敏樹@あぶない刑事
大下勇次@あぶない刑事
ブラックジャック@ブラックジャック
水原暦、滝野智、榊、神楽@あずまんが大王
を予約
53 ◆uFyFwzytqI :2009/08/21(金) 07:26:22 ID:0t1jFYmm
吾妻玲二@PHANTOM、ルパン三世@ルパン三世、ジェームズ・ボンド@007 新1人+旧2人で予約します。
54創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 07:51:28 ID:elAfM/kD
ちょっと質問です。
この007は誰の007?
ショーン・コネリー?
ロジャー・ムーア?
ティモシー・ダルトン?
ピアース・プロスナン?
それともダニエル・クレイグ??
案外ジョージ・レーゼンビー?

デビット・ニーブンとかピーター・セラーズだったりして(笑)。
55 ◆uFyFwzytqI :2009/08/21(金) 23:00:30 ID:0t1jFYmm
>>54
一応決めてありますが、誰がモデルかはSSを読んで戴くという事で頼みます。
56 ◆uFyFwzytqI :2009/08/23(日) 23:10:51 ID:1xt5vDWY
ちなみに私の書くSSの舞台はE−06の予定です。
他の予約中の書き手さんと重なる可能性は低いですが、一応報告します。
57 ◆WfkxWy5nfs :2009/08/24(月) 15:30:37 ID:G+wuUDmQ
予約していましたが、PCが壊れてしまったので予約を取り消しします。
大変迷惑をかけてすみません。
58創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 18:26:02 ID:pcpAFRru
eT6t2VPp6c氏の連絡とかあった?
59創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 19:16:59 ID:1moXBDtW
>>57
何たる不運・・・・。早くPCが直るといいですね。>>58
連絡は今のところないですね。
60創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 20:09:17 ID:bLOS8j7z
>>57
それは残念。ホットファズは期待してたんですが。
PCが直ってモチベーションが残ってるようならぜひまた来て下さい。
61創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 20:18:50 ID:j/cmP1CU
>>57
USBとかにバックアップがあれば、学校or会社のパソコンからしたらばに投下する手もありますよ。

>>58
残念ながらない。破棄とみるしかないかな。
62 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/24(月) 21:04:17 ID:kcA18xz3
締め切りが今日までなんですけど、
ココ&ヨナ・風太郎編は書き終わってるんでそれ先に投下してもいいですかね?
63創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 21:15:26 ID:j/cmP1CU
>>62
もしかして複数のSSを投下する予定だったんですか?
その場合だと、今日中に投下できる分(ココ&ヨナ・風太郎編?)だけが有効になると思います。

他の4人はテンプレの通り、自動的に破棄になります。申し訳ないけど、そういう約束なので。
64 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/24(月) 21:24:37 ID:kcA18xz3
>>63
他の4人もあと一時間ほどで投下できる手筈ですから、とりあえず先に。という意味で
言ったんですけどね…話はちゃんとつながってますよ。
65創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 21:33:23 ID:j/cmP1CU
>>64
規制に引っかからない投下数(十回ぐらい)なら、全部書いてから投下すればいいんじゃないですか?
66 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/24(月) 21:42:23 ID:kcA18xz3
>>65
そうですね。そうします。もう少々お待ちください。
67創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 21:44:31 ID:1moXBDtW
まあ、何はともあれ期待してるぜw
68 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/24(月) 23:50:58 ID:kcA18xz3
すいません。桂言葉は破棄でお願いします。
69 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 00:02:04 ID:kMl/6gTc
「いやあ、素晴らしいラインナップですよ。ミス・へクマティアル」
「お褒めに預かり光栄です。あ、今回は観光も兼ねて来ているので、
何か解らない点があればこの番号まで。アドバイスしますから」
と言って笑顔で名刺を渡すのは、欧州に本拠を構える巨大海運会社・HCLI社に所属する武器商人、
ココ・へクマティアルだった。まだ20代半ば、しかも女性、しかも美人でありながら
あらゆる武器弾薬の知識を記憶し、それを仕入れ世界各国の様々な組織に合法価格で売りさばくのだ。

世界各国を部下の私兵9人と共に渡り歩く彼女が生まれたのは、病院などではなく、
コンテナ船の上だった。つまり、彼女には母国がない。愛国心と言われても何のことやら。
だからこそ彼女は世界の様々な国の組織に自分の武器を売るのだ。愛国心がないから、
どの国がどうなろうと知ったこっちゃない、かというと決してそうではなく、その理由を彼女はこう語る。

「世界平和のため」
武器を売り戦争を起こし更に武器を売るのが武器商人のセオリーだが、
それと真逆のことを語る彼女の真意が何処にあるかは彼女にしか解らない。
さて、ココを語る上で外せないことが3つある。1つは、いつも笑みを浮かべているということだ。
かつての部下と『ボスは常に笑っているべき』という約束を交わし、ココは今もそれを守っているのだ。
2つ目は、彼女の父親はHCLI社のトップ、フロイト・へクマティアルの実の娘だということだ。

ただココは、父親を『フロイトさん』と呼びかなりよそよそしいのだが。
そして3つ目。彼女が幼い頃から世界を旅して来た中でスカウトした9人の私兵だ。
ただ、彼らには休暇を出し、今回ココはその私兵の中でも最年少、元少年兵である
ジョナサン・マルを連れて来た。ちなみにジョナサンは仲間内ではヨナと呼ばれ、
ココも彼をそう呼んでいる。まだあどけなさの残る色黒な少年だが兵士としてのレベルは間違なく一流である。

それは、彼がココの手下になる少し前に引き起こしたある事件によって証明されている。
その事件を起こした原因に起因して彼は武器一切を果てしなく憎悪しているが、
同時に武器の頼もしさを誰よりも理解しているために武器を手放せず、
ココの元で今も兵士を勤めているのだ。また、ヨナは基本的に氷のような表情をしていて、
仲間以外に笑顔を見せることはまずない。というか、仲間ですら彼の笑顔を見ることは滅多にない。

今回ココがこのセント・マデリーナ島にやって来た理由は、アメリカで起きたテロ、
『ナカトミタワー事件』を受け、アメリカ連邦捜査局、通称FBIはアメリカ全土の警察の
武装強化を決定。そのための大量の武器弾薬の発注先がHCLI社だったというわけだ。
ココが乗って来た中型のコンテナ船には、拳銃はもちろん、ショットガン、マシンガン、スナイパーライフルなど
上手く運用すれば軍隊にも引けを取らないほどの武器が詰まっていた。

代金は前払いでもらっているため、ココはさっさと武器を引き渡し、ヨナと一緒にこの島で
観光を楽しもうと考えていた。
ココから名刺を受け取った若い警察官は、それを手帳にしまいココに笑顔を送り
武器をトラックに詰め込む作業を手伝いに行った。その様子を眺めるココは溜め息をつく。
70 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 00:03:04 ID:kMl/6gTc
武器とはその性能を使いこなす人間が持って初めて意味を成すものだ。

はっきりいって平和ボケしているこの島の警察がココの武器を使いこなせるようになるには
一年近い訓練期間が必要になるだろう。もっとも、ココの仕事は武器を売ることであり、
売った相手が売った武器で何をしようと彼女には関わりのないことであり、興味もないことだった。
「さて、仕事も片付いた事だし、行こうかヨナ。観光へ」
やはり笑みを絶やさずヨナに話しかけるココと、それとは対照的に氷の仮面を
被る少年はココに返す。「ココと一緒に旅するだけでもう観光だよ。別に今に始まったことじゃない」
「フフーフ。そう言ってくれると私もキミと旅をして来たかいがあったというものだよ」
このココの笑い方は彼女の特徴の一つである。埠頭から歩きだし、港湾施設に面する公道で
タクシーを引っ掛け、乗り込む2人。行き先は、セント・マデリーナ警察署だ。
納品後、署長に挨拶に行くことになっているからだ。
その警察署までの道中、運転手が後部座席に腰掛けるココに話しかける。

「その隣の男の子、お姉さんと違って色黒だけど、兄弟か何かかい?」
「そう!小さいのにすごい頭がよくて頼りになるんだよ。ね、ヨナ」
そう言ってヨナに微笑むが、ヨナは訝しげな表情でココと目を合わせ、
そしてまた窓の外の風景に目を向けるのだった。
「愛想はあんまりよくないみたいだね…」
ハンドルを握る運転手がバックミラーからその様子を見て苦笑する。

「それだけがネックなんだよね」
ココも笑いながら話す。その後、他愛ない雑談をするうちに、タクシーは警察署前へとたどり着いた。
料金を支払うココ。もともと小さい島なので、料金はそんなに高くない。10ドル程度だ。だが…
「運転手さん、お釣はとっておきたまえ。楽しい会話のお礼だよ」
ココがそう言って手渡したのは、100ドルだった。
「え?!いいのかい?最近不景気気味でお金は大事にしないと」

お釣の金額の多さから慌てる運転手。そんな運転手にココは
車から降りて窓の向こうの運転手にニッコリと笑っていった。
「フフーフ。ご心配なく。私の仕事はどんな時でも儲るからね。それじゃ縁があればまた会おう」
そして、警察署に向かう2人。背後ではエンジン音がして、先程のタクシーが走り去っていった。
「あの運転手、レームに似てなかった?」
歩きながらヨナが話しかける。レームというのはココの私兵の一人でヨナを含めた
9人のリーダーを勤める初老の男性だ。元デルタフォースという経歴の持ち主でもある。

「そう!私もそう思った。100ドルを握らせたのはそれが主な理由なんだよね実は」
などと会話しながら警察署受付にたどり着き、係員に用件を伝えるココ。
「申し訳ございません。署長はただいまFBIの捜査官の方と取り込んでおりまして…」
と、申し訳ないという表情で署長不在の旨を伝える係員。ココは彼女にニコリと笑って言った。
「では伝えておいてくれたまえ。あなたが待ち望んでいたモノは無事に送り届けたと」

「は、はぁ…」
今度は困惑の表情を浮かべる彼女にココは再び笑ってその場を後にした。
警察署正面玄関。そこで2人はこの島での今後の予定を立てていた。
壁に張り付けてあったポスターを見て、ココは呟く。
「なになに…射撃場にて射撃大会開催。優勝者には豪華賞品贈呈。面白そうだ。ヨナ!やってみないかい?」
「やだ」
即答するヨナ。取り付く島もない。彼は武器の類を果てしなく憎んでいるために
必要以上に武器に触れようとしないのだ。
71世界を踏みにじる蛇と銭ゲバ ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 00:04:11 ID:kMl/6gTc
彼の反応に苦笑いを浮かべるココ。だが、ここは不参加が妥当だろう。参加者は大方平和ボケした観光客か
ちょっと銃をかじってガンマンを気取っているカウボーイもどき程度だろう。
そんな所へココが認めた一流のソルジャーを送り込んだところで結果は見えているというものだ。
さて、射撃大会に参加しないのなら何をして過ごしたものか。
常に刺激を追い求め、退屈を嫌うココにとってこの状況はかなりまずいものだった。

ココが苦しそうに悩んでいるのを完璧な無表情で見つめるヨナ。
こんなことなら残りの部下に休暇など出さずに連れて来ればよかったのにと彼は思った。
しかも、この少しあとに起こる出来事によりその思いは更に強くなるのだった。
ココが地図を眺めながらう〜んう〜ん唸っている時、十数名の警官が署内から飛び出し
パトカーで出動して行った。もともと5台程度しかないこの警察署のパトカーは
先程の出動であっという間になくなった。

「何か事件みたいだね、ヨナ」
先刻のパトカーの出動により、事件のにおいをかぎつけたココは、再び笑みを取り戻し、ヨナに笑いかけた。

「この島で何が起きようと僕たちには関係ない。ターシンハイコンスやスケアクロウがいるなら話は別だけどね」
無表情の究極完全体という表情でココに返すヨナ。ターシンハイコンスとはココの商売敵であり、
スケアクロウとはココの逮捕とそれによる手柄、果ては懸賞金を狙うCIAのエージェントだ。
「まさか。いるはずないって。ターシンハイコンスは君とバルメが押さえたし、
スケアクロウにしたって
まさかこんな島まで追ってはこないさ」

「だといいけど。それはそうと、他のみんなも連れてくればよかったんじゃないかな。
あの程度の仕事だったらみんなも付いてきたと思うし、ココだって退屈せずに済むだろう?」
「フフーフ。私にも彼らの騒がしさから解放されてゆっくり過ごしたい時もあるのだよ、ヨナ」
しかし、この20分後にはそのココの企みは完膚なきまでに粉砕されることになるのだが。
ココとヨナが他愛ない世間話を繰り返してから10分、なにやら警察署内が騒がしい事に気が付く。

先ほどの受付に戻ると、オフィスの電話が鳴りやまず、署員の警官たちはてんわやんわという状況だ。
繁盛するのは結構だが歓迎できないものが4つある。消防、救急、軍隊、そして警察だ。
いったいこの平和な島で何が起こっているというのか。数々のデスラインを潜り抜けてきたココにとって
この状況が異常だというのは容易に想像がついた。しかし、事態を把握するには情報が少なすぎる。
警察関係者ではないココが署員に尋ねたところで何も得られはしないだろう。

情報に関しては先ほどパトカーで出動した警官隊がもたらしてくれるだろう。ならば、半ばパニック状態に
陥ってしまっている署内にとどまるのは得策ではない。表へとでて、自分の目で何が起こっているのか確認する必要がある。
いったいこの平和な島で何が?ココの頭はそれだけでいっぱいだった。テロ?確かにこの島は平和で
住民も危機に対する対応力が薄いのは事実だろう。しかしつい先日、米本土のナカトミタワーであれだけ
大きなテロが起こったのだ。警察も全土にて武装を強化することなどテロリストでも想像がつくというものだ。

しかし、考えていても結論など出ようはずもないというのもまた事実。百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。
「ヨナ。万一に備えて銃のセーフティをはずしておこう」
72世界を踏みにじる蛇と銭ゲバ ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 00:05:09 ID:kMl/6gTc
ココのその言葉にヨナは既にセーフティの外れたコルトMKWを彼女の完全に無言で見せつける。
「さすがはヨナ君だ。さて、事態を把握したい。表へと急ごう」

ロビーから駆け出し、先ほどの警察署正面玄関に飛び出した二人が目にした光景はつい20分ほど前と同じ場所とは思えぬほどに変わり果てていた。鳴りやまないサイレンの音、町中のいたるところから立ち上がる煙と炎。
絶えない人々の悲鳴、そしてなにより…
「ヨナ。ほっぺを抓ってみるといい。夢から醒めるはずだから」
ココに言われて彼は自らのほほを抓る。しかし、彼は一言「痛い」とこぼしただけで目の前の光景を
見ても冷徹な表情をかけらほども崩してはいない。

「だよね…だとするとこれは、現実ってわけか…」
ココが珍しく弱腰な口調でぼやく。ココとヨナが目にしたもの、それは腐り果ててとうに生命活動を停止したはずの人間の
無数の死体がこちらへと向かってくるものだった。そしてそれから逃げ惑う人々は全力でこちらへと向かってくる。
呆然と立ち尽くすココとヨナを尻目に人々は次々に警察署内へと逃げ込んでいき、署内のパニックはさらにひどくなる。

しかし、人々の話から事態の重大を把握した警察は武装警官隊を出動させる。正面玄関前広場にバリケードを構築する。
しかし、その手際は(ココの目から見れば)拙く、そのすきに生きた死体の接近を許してしまっていた。
さらに出来上がったバリケードも完成度はそれほど高くなく、彼らが大挙して押しかければおそらく突破されるだろうとココは読んだ。
やがて警官隊の配置が完了し、眼前の生きた死体、もといゾンビに銃を向けるがそれらはえてして
拳銃であり、機関銃といった連射性能の高い重火器を装備している隊員は一人としていなかった。

このことからわかる情報が一つある。先刻ココが納品した大量の最新鋭火器はまだ警察署に届いていないということだ。
ココは頭を抱える。おそらくこの異常事態であのトラックは立ち往生、あるいは横転してしまっているだろう。
つまり、今この警察署内にある火器がすべてだということだ。ココは愕然とする。セント・マデリーナ島という
平和な島の警察というその性質上、火力ははっきりいって期待できないどころか絶望的と言っていいレベルだ。
そんな体たらくでどうやってあのゾンビの集団を撃滅するというのか。状況的に焼け石に水以下だが、ないよりはマシだ。ココは懐に手をやり、STIイーグル6.0のセーフティを解除し、ゾンビの集団に向ける。
ヨナもそれに合わせて、懐のコルトMKWをゾンビの集団に向ける。そしてそれを黙認する警官隊。

ここでそれを咎める者がいたとしたらそいつはおそらく自殺志願者なのだろう。
ただ幸いなことに、
ここにはそんな狂ったやつは目の前のゾンビたちしかいないということだ。ここでこの警官隊の隊長らしき筋肉質の男が隊員たちに指示をだす。
「今から私が目の前の暴徒に最後通牒を行う。それに応じなかった場合、規定に基づき暴徒の射殺を許可する」
「イエス・サー!」
この異常極まりない状況でも警官隊の威勢はいい。悪くない。警察のお手並み拝見といこうか。
「暴徒諸君に告ぐ!今すぐ投降せよ!これは最後通牒である!繰り返す、これは最後通牒である!」
しかし、部隊長の最後通牒にも関わらず、止まる気配のないゾンビの集団。あたり前だ。ゾンビなのだから。
部隊長もそれを分かっていて建前上最後通牒などを行ったのだろう。管理職とは辛いものである。
しかしこれでゾンビの集団を暴徒として合法的に射殺する建前は整った。各々が自らの愛銃を構え、ゾンビに向ける。

「やむをえない。射殺に踏み切る。各員、構え!…発射!」
その部隊長の命令とともに自らの銃のトリガーを引く隊員たち。銃声とともに薬莢が飛び出し、鋼の塊が獲物を求めて解き放たれる。
そしてそれらはゾンビの体を悉く貫いていく。ドスッ!ドスッ!ドスッ!ゾンビの体には
瞬く間に多くの風穴が出来上がる。そして心臓を貫かれ、生命活動を維持できずに死んでゆくゾンビたち。
73世界を踏みにじる蛇と銭ゲバ ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 00:06:20 ID:kMl/6gTc
しかし、その屍を乗り越えてさらにゾンビは近づいてくる。目の前にはおよそ50体のゾンビがうめき声をあげてこちらへと向かってくる。イーグル6.0のトリガーを引きつつココは思った。
ゾンビはなぜうめき声をあげるのか。空腹?それもあるだろう。しかし、最大の要因は…
ココにはゾンビがうめき声をあげる理由は、苦しいからだと考えた。普通人間は苦しくなければうめき声など
あげないだろう。ゾンビも元は人間だったのだ。あり得ない話かもしれないが
ココにはゾンビたちのうめきが
自分たちを苦しみから解き放ってくれと声にならない願いに聞こえるのだった。いいだろう。
君達も望むべくしてその姿になったわけではあるまい。今楽にしてあげよう。せめて苦痛を感じぬように。
ココはゆっくりとイーグル6.0を構えなおし、傍らにて無表情で銃を撃ち続けるヨナに言った。
「ヨナ。頭を狙うんだ。彼らがなるべく苦しまないように。一撃のもとに成仏できるように。君ならできるはずだ」

ヨナは彼女を見上げる。ココのその表情に笑みはない。無言でうなずき、ヨナはいまだ近づき続けるゾンビたちの
頭めがけてコルトMKWのトリガーを引く。ヨナが憎みながらも頼りにしているその銃の口から解き放たれた弾丸は、
ゾンビの眉間を見事に貫いた。

ヨナの腕には警官隊たちも真っ青だ。無表情を保ち続け、トリガーを引きそして弾丸は悉くゾンビの眉間を貫き続ける。
ヨナのその手際をみて一部の警官もマネしようとするが、すぐに部隊長に止められる。

「やめておけ。彼だからできるのだ。お前のような訓練でしか銃を撃ったことのない奴が真似したところで
弾が無駄になるだけだ。わかったらさっさと銃を撃て」
そしてまた応戦を続ける警官隊。すぐに尻尾をまくかと思いきや、なかなかやるじゃないか。
ココは感心していた。しかし、そんな警官隊の尽力にもかかわらず、ゾンビはどんどん近付いていた。

そしてその背後に目を向けると、この島のマスコミだろう。その様子をリポーターが実況しながら
文字通り必死にこの様子を中継していた。ありがたい。この警官隊が必死に戦っている様子を見て
少しでも希望を見出してくれる住人がいればなによりだ。もっとも、今この瞬間にのんびりとテレビを眺めている
人間ははたして何人いるのだろうか。おそらく、ほんの数人だろう。ラジオでも中継されているならば話は別だが。

そして、とうとうゾンビたちはバリケードまでたどり着いてしまった。警官隊の尽力で当初50体近くいたゾンビたちは
20体までその数を減じていたが、この20体をせん滅する前におそらくバリケードは突破させるだろう。
間に合わない!どうすればいい?こんな時レームたちがいればどれほど心強いことか。
ココは彼らに休暇を出したことを今更後悔した。だが、後悔先に立たずという言葉があるように、
後悔ほど役に立たず、そしてしたくないものはない。今は警官隊と自分とヨナだけで目の前の異形を倒し、
生き残らなければならないのだ。

その表情に確実な焦りを浮かべる警官隊。バリケードがギシギシと悲鳴を上げている。正面玄関の屋根の上から
ゾンビを狙い撃ちにするが、正直もはやどれだけの効果があるかすらわからない。
そして、ゾンビが当初の5分の1になったとき、とうとうバリケードは突破された。
リロードにリロードを重ねていた警官隊の銃弾は枯渇していた。そしてそれは、ココとヨナも同じだった。

絶望の表情を浮かべる警官隊とココ。無表情で迫りくるゾンビを眺めるヨナ。これまでか…
ココがあきらめたとき、背後で何かシューと音がするのに気づく。驚いて振り返ると、
長髪の青年が前髪にその両目を隠して立ち尽くしていた。そして、その手には…ダイナマイトの束が握られていた。
74世界を踏みにじる蛇と銭ゲバ ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 00:07:22 ID:kMl/6gTc
「お姉さん、こんなところで死になくないでしょ?ならここは僕に任せてとっとと引っこんでてください」

見知らぬ青年になれなれしくお姉さん呼ばわりされた挙句、引っこんでてと言われココは正直
ご立腹だったが自分にはもう打つ手がないのもまた事実。
「期待しないで待ってるよ、坊や」
ありったけの皮肉を込め、笑みを浮かべヨナを引き連れ青年の言葉通り建物の中へと避難し、
ドアのガラス越しから青年の様子をうかがう。
青年の手に握られるダイナマイトの束の導火線はもう5センチ程度しかなかった。
「安心しなよ。全員まとめてあの世に送ってやるズラ」
奇妙な語尾を言い終えるとともに青年は手に握られたダイナマイトの束をゾンビたちに放り投げた。
放られたダイナマイトがゾンビの許へと届くのと、爆発するのはほぼ同時だった。
鼓膜を突き破るかのごとくに爆発音が響きわたり、それとともに燃え広がるのはすべてを焼き尽くす業火。
ココが玄関の扉を開け外へと飛び出す。それに続くヨナ。炎に包まれ、身もだえるゾンビたち。
炎はゾンビたちの体を容赦なく焼きつくす。その様子をただ茫然と眺めるしかないココと警官隊。

相も変わらずにヨナは無表情を保ち続けているが、ダイナマイトを放った謎の青年だけは只一人笑みを浮かべ呟いた。
「化け物は、はやく燃え尽きて灰になるといいズラ」

そして、10分ほどが経過したとき、炎はようやくその姿を消し、いずこかへと去っていった。
残していったのは、焼け焦げたアスファルト。そして…10の人の形をした炭の塊だ。
青年はその炭の塊へと歩いてゆく。そして、おもむろにかつて頭だった部分をグシャリと踏みつぶしていく。

ゾンビと化し、腐りかけていたその肉体は燃やされることでさらにもろくなり、容易に踏みつぶされてしまう。
そして最後の一つを踏みつぶし、ココの許へと戻る青年。青年は何かを言おうとしたが、
それよりも早くココが彼の頬に平手打ちを見舞う。先の光景を目の当たりにし、屋根から下りてきていた
警官隊も驚きの表情を隠せない。ヨナもこの時ばかりはわずかではあるが無表情を崩し、驚いていた。

ココが商売上のトラブル以外で他人に手を挙げることなどまずないことだったからだ。
ココが風太郎を殴ったのにはもちろん理由がある。ようやく死という永遠の解放を得られた
彼らの亡骸を踏みにじるという行為が許せなかったからだ。
そんな中、唯一表情を崩さなかった人間がいる。ココに平手打ちを食らった張本人である青年だ。
「痛いですよ。お姉さん」
はたかれた頬をさすりながら青年は無表情でつぶやく。
「お姉さんじゃない。ココ・ヘクマティアルだ。よく覚えておくんだね、坊や」
「僕も坊やじゃないですよ。蒲郡風太郎です。ココさん」

ココはその名前に心当たりがあった。日本の企業、三國造船の社長が最近亡くなり、その代りに
新たに社長に就任したのが確か蒲郡風太郎という青年だという話をHCLI社本部から小耳にはさんでいたのだ。
HCLI社は海運会社であるため、少なからず世界の造船会社とは縁があることだ。
ココは内心少し後悔していた。日本の企業とはほとんど接点がなかったココにとって彼は
ココの日本進出のパイプラインとなりえる存在だ。そんな風太郎を殴ってしまった以上、
もはや彼と友好的な関係を築くのは不可能だろう。

しかし、そんなココの考えとは裏腹に、風太郎の口から思いもかけない言葉が出てくる。
「ココ・ヘクマティアル。巨大海運会社・HCLI社の最高経営責任者であるフロイド・ヘクマティアルの実の娘ですか。
これからいいお付き合いができるといいです。先ほど殴られたことについてはなかったことにします」
75世界を踏みにじる蛇と銭ゲバ ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 00:10:29 ID:kMl/6gTc
なんと風太郎はココの素情を知っていた。しかも先ほど殴られたことについては水に流すという。

風太郎の器の広さにココは正直感心した。今までココと付き合ってきた商売相手の一部は、ココを小娘とたかをくくり
取引に麻薬などを持ち出し、そしてココはそんな奴らを悉く抹殺してきたのだが、
風太郎はそんな素振りは微塵も見せない。そういう人間にはココも相応の態度を取ることを流儀としていた。
「こちらこそ。この島から生きて出てこられたら早速提携を結びたいものだよ」
と、満面の笑みを浮かべて
右手を差し出すココ。そのシェイクハンドに応じる風太郎。二人の手が固く結ばれる。

この場にバルメがいたら多分やきもちを焼くだろうな、とヨナは心の中で思った。
「それで、これからどうします?部隊長さん」
唐突に風太郎が切り出す。突然に意見を求められ、一瞬困惑するがすぐに冷静になり、答えた。
「とりあえず我々も署内に避難し、今後の例の暴徒、これからはゾンビと呼称するが、対策を練ることにする」
そんな部隊長の返答に風太郎はあきれ顔を浮かべて言った。

「対策?武器弾薬の数はたかが知れているのにどうやってゾンビと戦うんですか?
連中はこれからも増えていくでしょう。こっちにはもうこの警察署にある武器がすべてなんですから」


風太郎のその言葉に眉をしかめる部隊長。しかし彼がどんな顔をしようとも
確かに風太郎の言う通りだった。結局のところゾンビを比較的安全に倒すには重火器の使用は絶対条件であり、
それが使えなければ危険を犯して刃物などで倒すしかないが、囲まれたらアウトだ。
どうすればいい?その場にいる人間全員が首をもたげる。
そんな時、普段は無口なヨナが珍しく大人数に対して口を開いた。

「武器ならあるよ。つい二時間くらい前にココが納品した重火器が」
ハッとした表情になるココ。目の前のゾンビを倒すのに精一杯で
それを完全に忘れ去ってしまっていた。武器商人ココ・ヘクマティアルが
この島の警察のために用意した重火器は多種多様化するテロに対応すべく
ラインナップしたものだ。あらゆる状況を想定し、打つ手がないなどということが
起こらないように。拳銃はベレッタ、トカレフ果てはデザートイーグル。
レミントンに代表されるショットガン。5.56mm機関銃MINIMI。
PSG1スナイパーライフル。さらには何かの冗談かロケットランチャーまで。
テロ対策部隊が100%の力を発揮出来るように質だけではなく量も申し分ない。

今回ココが納品した重火器だけで軍隊一個中隊が十分機能出来るレベルだ。
だが…恐らく重火器を積み込んだあのトラックは何処かで立ち往生しているだろう。
街中ゾンビだらけで島はパニック一色だ。はっきり言って今も
車が無事に通行出来る区間がどれ程あるかすら解らない。
もし万が一港から警察署へと続く道の全てが事故によって寸断されていたとしたら…
永遠に武器は届かない。そして自分たちは全員仲良くゾンビのご飯になるか、
あるいは彼らのお友達になるかのどちらかだ。言うまでもなくそんなのは
誰一人として望んじゃいない。しかし、それを回避するためには武器が絶対必要だ。

ここで突然今まで黙っていた風太郎が口を開いた。
76世界を踏みにじる蛇と銭ゲバ ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 00:12:05 ID:kMl/6gTc
「武器がある。だけどこのままじゃ届かない。なら答えは簡単です。
こっちから取りにいけばいいんです」
一斉に風太郎を見る一同。だが、いまだに両目を長い前髪で覆い隠した
このどこか不気味さの漂う青年の真意を推し量ることはさすがのココにも
出来なかった。取りに行きたいのは山々だが島中ゾンビだらけで
いつまた何時襲撃を受けるか解らない。何よりもうこっちには殆ど弾薬が
残っていないのだ。しかし、誰もが解っていることを口に出したと言うことは
彼には何かの策があるのだろう。そう考えたココは彼に問いただした。

「蒲郡くん。取りに行きたいのは山々だけど島の中はあのゾンビだらけだ。
私の武器を取りに行くというのは大賛成だけど何か考えでもあるのかな?」
そのココの言葉に風太郎は上着の長いシャツを脱ぎ捨てた。
そこに現れたのは…彼の体に巻き付けられた大量のダイナマイトだった。
ヨナを除く全員がそれを見てギョッとした表情を浮かべる。
そんな彼らの表情にもなんの興味も示さずに先程脱ぎ捨てた上着を
片手に携えて風太郎は言った。

「何を驚いてるんですか?あのノーベルが生み出した偉大な発明品ですよ。
これを使えばゾンビも撃退出来るし道を塞ぐスクラップも吹っ飛ばせるし
一石二鳥じゃないですか。ちなみにノーベル賞の賞金はこのダイナマイトの
利益から抽出されてるって知ってましたか?」
要するに風太郎の策は、ダイナマイトでゾンビを撃破しながら
恐らくは立ち往生しているであろうトラックを捜索するというものだ。
だがココはここで二つの疑問を持つ。それを口にすることはあえてしなかったが。

一つ目は、トラックが横転していた時風太郎がどうするかだ。
狡猾なこの青年がそれを計算に入れていないとはとてもではないが思えない。
たとえ横転していたとしても武器を警察署に運ぶ確固たる策があるのだろう。
ならば見届けさせてもらおうじゃないか。ココは風太郎に微笑みながら言った。
「大人しそうな見かけと違ってやること考えること結構エグいね。
面白い。私とヨナもついていこう。君の策、見届けさせてもらうよ」

風太郎はただ一言「どうぞご自由に」と言っただけで何ら表情を変えることはなかった。
「それじゃ行ってきます。お巡りさんたちは生きている住人の保護をお願いします」
そして、ジッポーにオイルを足しながら風太郎は武器と言う名の希望を
手繰り寄せるために半ば地獄と化した警察署の外へと足を踏み出した。
それを追いかけ、風太郎の両隣に立ち共に歩を進めるココとヨナ。
「生きるためなら、何でもするズラ」
極めて小さな声でそう呟いた風太郎。金のためならどんなことでもやるのが
銭ゲバならばさしずめ生きるためならどんなことでもやるのは生きゲバ
といったところか。しかし、そう呟くために動いた風太郎の唇をココは見逃さなかった。

そして彼女が先程首をもたげたもう一つの疑問。何故風太郎はこんな
大量のダイナマイトを所持していたか、だ。しかし、それを考えても
無駄だと思い返し、武器を探しに再び前を見据えながらココは歩くのだった。
そんな時、唐突に彼女に話し掛けた風太郎。
「ココさん。あなたは信用出来る相手と出来ない相手、どちらと商売をしたいですか?」
そんなの信用できる相手に決まっているし、実際ココはそう答えた。
「それは僕も同じです。だからあなたを信用出来るか確かめさせて下さい」
77結成!西園寺世界捜索隊 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 00:13:44 ID:kMl/6gTc
確かめる?どうやって?ココがそう口にすると風太郎は今まで
目を隠していた長い前髪を退けて両目を露にさせた。

その左目には…痛々しい傷を負っていた。しかも完全に肌と同化していることから
かなり昔におった傷だと言うことが解る。しかし、その傷を見てもココは
微笑みを崩さず、ヨナは無表情のままだ。
「どうやらあなた方は信用できる人間のようです。安心しました」
風太郎の左目の傷は彼が少年時代に父親の暴力によってつけられたもので
風太郎はその後その目の傷と貧乏が原因でいじめに遭い、さらには
病弱だった母親を失い、自暴自棄になり盗みを働くがそれを咎めた
仲良しの青年を撲殺してしまったのだ。以来風太郎は世の中金がすべてと
盲信するようになり、金のためならあらゆることをする「銭ゲバ」になってしまったのだ。

これまでの風太郎の人生でこの傷を見て気味悪く思わなかった人間と
出会ったことは一度もない。そして風太郎はそう言う人間を悉く
遠ざけてきた。しかし、今彼の人生で初めてその例に漏れた人間と出会った。
人を外見で判断せずに内面で判断しようとするこの二人に風太郎は初めて
信頼を覚えると同時にちょっとした驚きを抱いていた。
「信頼してもらったようで嬉しいよ。商売は信用の上に成り立つものだからね」
ココが風太郎の言葉に返す。信用、信頼。風太郎はこの言葉と自分は
生涯無縁だと思っていたが、運命のいたずらかまさかこんな地獄で
手に入るとは。しかし、信用、信頼は絆を育む。絆は希望を生み出す。
ゾンビに対する武器が銃ならば希望は絶望に対する武器だ。
そして、いまここに絆が一つ生まれた。


時間は遡り、ココが港にて武器を納品しているとき埠頭に佇み
潮風を浴びている少年と少女がいた。少年は髪を茶色に染め、ネックレスで
着飾るなどしているが少女の方はと言うと黒髪をヘアバンドで綺麗にまとめ
大人しい、控えめな服を着ている。はっきり言って対照的な格好の
二人が一緒にいるというこの構図は端から見ればおかしいものだった。
しかし当の二人は微塵もそんなことを思わずに雑談に興じていた。
その少年、花村陽介が少女、御堂島優と出会ったのは三日前に遡る。

稲羽市という片田舎で暮らしている陽介は自分がバイトで働いている
ジュネスというスーパーマーケットの福引き大会に参加した。
目当ては三等の原付バイクだったのだがガラポンを回したときに
出てきた玉は金色に光っていて、それと同時に係員は鐘を鳴り響かせた。
壁に貼り付けられた賞品一覧に目をやると、特賞(金色)
セント・マデリーナ島7泊9日の旅お一人様ご招待というでかい見出しが
真っ先に目に飛び込んできた。セント・マデリーナ島?どこそこ?
という疑問を抱くが陽介は真っ先に辞退を申し出た。
「いやいや。俺店長の息子じゃないすか。んな俺が特賞なんて烏滸がましいって」

しかし抽選係員を勤める定員のおばさんがいうには
「あら陽介くん。店長の息子だからって辞退しなきゃいけない決まりは
ないわよ。せっかくの機会なんだし、楽しんでいらっしゃい」
と、辞退を断られてしまったのだった。店長である父親に話しても
おばさんと同じようなことを言われた陽介は困り果てた。
「全くなんで俺がそんな名前も知らない…あ、知ってるか。
そんな島に行くことになったんだよ…しかもペアじゃなくてお一人様かよ…
これがペアだったらリーダーとか里中とか天城とか完二とかりせとか直斗とか
声かけんだけどな…まあいいか!いっちょやっちまいますかぁ!」

というノリでセント・マデリーナ島に降り立ったのが丁度三日前だった。
78結成!西園寺世界捜索隊 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 00:14:56 ID:kMl/6gTc
御堂島優と出会ったのはその日の夕食の席でのことだ。
陽介がホテルのレストランにて前菜のスープをすすっていると、
店がどんどん混んできた。カジュアルな服を着た男と神父らしき
格好をした男が入ってきて、陽介の後ろの席でムウがどうとか訳のわからない
話をしている。続いてカルパッチョを口に運んでいると今度は家族連れが
やって来た。陽介の見立てでは五歳くらいの男の子、その父親と母親。

母親の背中には赤ちゃんがおぶさっていた。そこまでは普通の家族だったのだが
この家族はひと味違った。男の子がウェイターの若い女性になにか言ったあと
母親が拳骨を男の子に食らわせた。苦笑いを浮かべつつ案内するウェイター。
案内したのは、陽介の隣の席だった。家族が席につく際に母親と目が合い、
会釈をかわす陽介。その後も店の混雑は止まらずに、ついに満席になってしまった。
携帯をいじりながらメインディッシュを待っているとウェイターが声をかけてきた。
「お客様、大変申し訳ないのですか相席をお願いしたいのですが…」
もともと顔見知りしないタイプだった陽介はそれを承諾した。

一礼したウェイターは入り口の方へと向かい陽介の席へと案内したのは…
陽介と同じ年頃の少女だった。ヘアバンドで綺麗に髪をまとめた
大人しそうなその少女は陽介の目の前の席に座るとメニューをさらりとみた後、
陽介に話し掛けた。
「あ、あの…相席に応じてくれてどうもありがとうございます…」
「ああ全然大丈夫っすよ。俺も一人きりの飯は寂しいって思ってたんで」
「あの、私は御堂島優といいます…もしよければお友達になっていただけないでしょうか?私、友達がいないので…」
陽介は驚いた。陽介の見立てでは彼の友人、天城雪子に並ぶ
美少女である優に友達が一人もいないというのは陽介の常識では考えられないことだった。

「もう全然いいっすよ。こんな俺でよければ友達にだってなんだってなってやるさ」
その言葉を聞いて優は初めて明るい笑顔を浮かべて、陽介に言った。
「ありがとうございます!それでは早速…」
と言って優がポケットから取り出したのは携帯電話だった。なるほど、友人なら番号・アドレス交換位は当然だ。
「あの…あなたのお名前まだうかがってなかったですね…なんておっしゃるんですか?」

「ああ自己紹介してなかったっけ。俺は花村陽介。よろしくな、優ちゃん。あとそれからタメ口でいいぜ。
歳近いみたいだし、友達同士なのに敬語使うなんておかしいじゃん」
陽介のその理論は至極当然のものなのだが、優は首を横に振った。
「私は…人と接するのがあまりうまくないので…私の言った些細なひと言で相手を傷つけるのが怖くて…だからこんな話し方しかできないんです…ごめんなさい…」

陽介は思わず髪をかきあげた。自分とは正反対のタイプの人間だ。こんな時、里中とかいてくれると
助かるんだけどな…と陽介は心の中で思い、まずは俺がこの子と接することで少しずつ変えていけばいい。
そう考えた。その後、電話番号、メールアドレスを交換したのち食事を終えて二人はそれぞれの部屋へと帰っていた。
それから三日間、二人は就寝時以外、ほとんど同じ時を過ごした。その過程で優がこの島にやってきた理由を陽介は聞くことができた。

ひと月ほど前、優は全く身に覚えのない暴行事件を起こし、転校を余儀なくされた。
しかし、転校に伴い引っ越した滞在先で恐ろしい事件に巻き込まれ、その心の傷を癒すためにやってきた、というのだ。
そして時間は再び今現在に巻き戻る。埠頭にて優の内向的すぎる性格を変えるために陽介はさまざまな話題を元に
雑談に興じているが、やはり3日程度じゃ人間はそう簡単には変わらない。
79創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 00:45:05 ID:WTAcaQIc
支援
80結成!西園寺世界捜索隊 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 01:15:43 ID:kMl/6gTc
とりあえず、時間も時間ということで昼食をとりにホテルへ戻ろうという話になり、踵をかえして、内陸部へと向かう二人。
「セント・マデリーナ警察署」と英語にて書かれたトラックの横を通り過ぎる時、運転手と助手席に座った二人の男、
おそらくは警官であろう、が苦しそうにうめき声をあげているのに陽介は気づいたが、面倒事に巻き込まれそうな気がしたので
そのままスルーした。ただ、遅かれ早かれものすごい面倒事に巻き込まれることになるのだが。

街中を歩いている途中、昨日までとは一変して町の雰囲気がものすごく奇妙なものになっていることに気が付く二人。
道を歩いていても、誰ともすれ違わず、住宅から聞こえてくるのは苦しそうなうめき声ばかりだ。
優は不安を隠せなかった。でも大丈夫、この「ミコシサマ」があれば…。「ミコシサマ」とは優が幼いころから
肌身離さず持っているお守りのことで、優をいろんな危機から救ってきてくれた。

そんな不安そうにしている優に陽介はできるだけ勇気づけられうように声をかけた。
「心配すんなって。何かあっても俺が守ってやるからさ」
といって懐から彼が取り出したのは…二対のナイフだった。それに驚愕の表情を浮かべる優。
「俺の町にだいだら。っていう骨董店的な店があんだけどさ。そこの親父さんが最高傑作だって
太鼓判を押したナイフなんだよ。いやあ、高かったなあ…」
聞いてもいないことを説明されても困るのだが、優には妖しく光るそのナイフを握る陽介が頼もしく見えた。

その後も奇妙な空気に包まれた街を進み、ようやくホテルの前にたどり着きロビーに入ろうとしたところで、
二人は信じられないものではなく、信じたくないものを目にしてしまった。入口のガラス越しから二人が目にしたもの、それは…
さながら人間の肌に青空の青を塗りこんだかの如くに蒼白になった肌を持ち、所々で筋肉組織が腐敗してそげ落ちてしまったのだろう。

骨が露呈してしまっていた。通常の人間であれば余りの激痛、状況の異常さに発狂しているだろうが、
彼らの顔を見る限りそんな様子は毛の先ほども感じられない。それどころか、その眼からは完全に瞳が
消え去ってしまっていた。だらしなく開け放たれたままの口からはよだれが垂れながされ、手をだらりと前方に垂らしたまま
ただロビーをさまよっている、人の姿をした異形。
「どうなってんだよ…これ…」
いつもは明朗快活な陽介もこのあまりの状況の異常さに、半ばパニック状態になりかけてしまっていた。

とりあえず警察に電話だ。いろいろな感情が混ざり震える手を押さえながら陽介は110をコールした。
しかし、携帯電話から聞こえてきたのは、「ただいま回線が大変込み合っております。おかけ直しください」
という機械のアナウンスだった。舌打ちし、携帯電話をポケットにしまう陽介。こうなれば自分たちが直接警察署に行くしかない。
幸いロビー内の異形はまだこちらに気づいてはいなかった。おびえる優を必死になだめて警察署に向かう旨を伝える陽介。

踵を返して振り返り、優の手を掴んで全力疾走する陽介。この3日間でいろんな所を優とともに歩き、
大体の地理を把握していた陽介。しかし…警察署へとつながる大通りに出てところで2人は
あの異形が大行進しながら警察署へと向かっているところに出くわしてしまった。
あわてて物陰に身を隠し、その様子をうかがう陽介。警官隊がバリケードを展開して必死に応戦している。

傍らではこの島のメディアがその様子を必死に中継していた。馬鹿やってないで早く逃げろよ!と陽介は一瞬思ったが
すぐに立ち消えた。この島に、もはや逃げる場所などどこにもないということに気づいたのだ。
「どうすりゃいいんだよチクショウ!」
陽介は大声で叫んだ。こんな時仲間がいてくれれば、そしてなにより…「ペルソナ」が使えれば…
81結成!西園寺世界捜索隊 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 01:17:37 ID:kMl/6gTc
ふと気がつくと、自分たちも5体の異形に囲まれてしまっていた。しかも壁を背にしてしまっているために逃げ場がない。
ここで陽介は完全に吹っ切れた。うっすらと笑みを浮かべ、優そっちのけで異形たちに啖呵を切った。
「てめえらと俺たちとじゃすむ世界が違えんだよ!とっととテレビの中に帰りやがれ!」
と、訳のわからないことを口走り陽介は異形に突進した。その動きに反応し、一斉に陽介に襲い掛かる5つの異形。
しかし、陽介のとても高校生とは思えぬナイフ捌きにまず一体の異形が心臓を一閃され、その場に崩れ落ち、動かなくなる。

2体目の異形の喉笛にナイフを突き立て、一気に引き抜く。その胴体を蹴り倒し、先ほどのさし傷を利用して
2対のナイフで首を一瞬ののちに切断した。首がごろごろと転がって行ったがそんなの気にしている場合じゃない。
3体目の異形には、「必殺ローリングスペシャル」をくらわせてやった。陽介自身が回転しながら、
その遠心力を利用して何度も切りつけるという大技だ。その技を受けて、吹っ飛んだところへすかさずとどめの一撃を見舞う。

これで異形の残りは2体だ。しかし、そのうちの一体が優に襲いかかった。大慌てで救出に向かおうとするが、
自分も異形の片割れにつかまれ、振りほどこうともがく。そうこうしているうちに異形は優に掴みかかり、
今にその喉笛にかみつかんとしていた。これまでかよ…守ってやるとかいっときながらこのザマかよ。
情けねえ…。と、異形を振りほどき、倒し優の許へ駈け出した陽介は落胆した。

しかし、次の瞬間陽介は奇跡を目の当たりにした。突如として現れた謎の人影が異形の脳天に
鉈の一閃をたたきこみ、間一髪のところで優を救ってくれたのだ。
「危ないところだった…怪我はない?」
優を救出したその人物、もとい少女がへたり込み半ば放心状態になっている優に手を差しのべながら言った。
その手をつかみ、起き上がる優。陽介もその許へ駆けつける。
「助かったぜ。サンキューな」
優を救ったその少女に真っ先に感謝の言葉を述べる陽介。まだ「マジギレモード」から抜けていないらしい。

初対面にも関わらずタメ口を聞いている。しかしその少女はそれを気にすることもなく、今度は陽介に話しかけた。
「助けに入りに走りながら見てたけど、見事な手際ね。何か武道でもやってた?」
武道というかなんというか。だが、陽介が稲羽市で経験したことをここでのんびり話している場合じゃない。
「話は後にしようぜ。とにかく、俺たちも警察署に一旦避難して…」

陽介が言い終える直前、ものすごい炸裂音が響きわたった。驚いて大通りに出る3人。警察署のほうから聞こえてきた。
見ると、警察署の門のところが真っ赤な炎に包まれていた。これでは警察署への避難は事実上不可能だ。
「ありえねぇ…どうなってんだよ…」
陽介が再び落胆する。それを見て少女がため息をつきつつ、あきれ顔で言った。
「浮き沈みの激しい人ね。人生楽あれば苦あり、っていうじゃない」

陽介からすればこの異常な状況下で冷静さを保っているこの少女も十分おかしいのだが、
今現在、こういうタイプの人間が一番心強く頼もしい人間であることもまた事実。
「だよな。ところで、あなたのお名前なんてーの?」
「清浦刹那と申します、とでも返せばいいかしら?」
「ノリがいいじゃん。気に入ったよ」
「どういたしまして。それより、こんな女の子を見なかった?西園寺世界っていうんだけど」

と言って刹那は一枚の写真を二人に見せる。その写真に写っている美少女は西園寺世界という少女で
刹那の親友なのだそうだ。だが、二人とも見ていないし、たとえ目に入っていたとしてもこの状況だ。
覚えているはずなどない。見ていない、と告げる優と陽介。
「そう…」
ただ一言そう呟き、今度は刹那が落胆した。それを見て陽介は刹那にこう提案した。
「刹那の人探し、俺たちも手伝うよ。君一人じゃ危険だろうし。それに、俺のナイフ捌きみただろ?きっと力になれるぜ」
陽介の突然の提案に一瞬面食らうが、すぐにふっとほほえみうなずいた。

「決まりだな。あ、この子は御堂島優。ちょっと暗い子だけど、よろしく頼むよ」
陽介に紹介され、無言でぺこりと頭を下げる優。そしてそれを見て苦笑いを浮かべる刹那。
しかし、内心少しうれしかった。あの時あの家族にかけた情けが帰ってきたような気がしたのだ。
「世界、無事でいて」
そう呟き、たった3人の西園寺世界捜索隊は今ここに結成されたのだった。
82結成!西園寺世界捜索隊 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 01:31:31 ID:kMl/6gTc
【G-5/警察署正面玄関前/日中】
【ココ・へクマティアル@ヨルムンガンド】
 [状態]: 肉体的・精神的疲労ほとんどなし
 [服装]: 白いスーツ。タイトなスカート。
 [装備]: STI イーグル6.0(装填数0/7、予備弾0、9mmパラべラム弾使用)
 [道具]: 携帯電話、パスポート、
 [思考]: 1、納品した武器の回収
     2、蒲郡風太郎、なかなかのやり手みたいだね。
 [備考]: ヨルムンガンド第6巻終了時の時間軸です。

 【ジョナサン・マル@ヨルムンガンド】
 [状態]: 肉体的・精神的疲労皆無
 [服装]: Tシャツ・半ズボン
 [装備]: コルトMKW(装填数0/7、予備弾0、9mmパラべラム弾使用)
 [道具]: パスポート
 [思考]: 1、ココについていく。
 
【蒲郡風太郎@銭ゲバ】
 [状態]: 肉体的、精神的疲労ほとんどなし
 [服装]: カジュアルな服
 [装備]: ダイナマイト×50本
 [道具]: 携帯電話、ジッポー
 [思考]:1、武器を回収する。
      2、生きるためなら、何でもするズラ

【G-5/警察署前大通り/日中】
【花村陽介@ペルソナ4】
 [状態]: 精神的興奮、やや肉体疲労
 [服装]: ペルソナ4にて来ていた、夏の私服。
 [装備]: ブリッツナイフ×2
〔道具] 携帯電話、島の地図、ウォークマン、
 [思考]: 1、西園寺世界の捜索
2、刹那、結構かわいいじゃん。
 [備考]:ペルソナ4の事件解決後という時間軸なので、結構強いです。ちなみに言うまでもありませんが、ペルソナは使えません。


【御堂島優@クロックタワーゴーストヘッド】
 [状態]: 精神的疲労
 [服装]: 麦わら帽子に水色のワンピース
 [装備]: 特になし
 [道具]: ポーチバッグ(パスポート、携帯電話、島の地図、ミコシサマ)
 [思考]: 1、西園寺世界の捜索
2、島からの脱出
 [備考]:御堂島優は二重人格であり、ミコシサマを手放してしまった時にピンチに陥ると         「翔」という冷酷非道な性格の持ち主が表にでてきます。
逆にいえば、ミコシサマがあれば「翔」は出てこれません。
 
【清浦刹那@SchoolDays】
 [状態]:やや肉体的疲労。精神的安定。世界を守る責任感。他人との協調。
 [服装]:目立たないような服。
 [装備]:刃渡り30?の鉈(革ベルト鞘を腰に着用済み)
 [道具]:ショルダーバッグ。日用品(パスポート、携帯電話、500mlペットボトル×2、観光ガイド兼地図)。
      非常用セット×2(1セットにブロック状の固形食糧×9個(3日分)、150ml飲料水パック×6個)。 2m四方の防寒・保温シート×2。
 [思考]
  1:西園寺世界を見つけて守る。
  2:野原ひろしとシロを捜す。見つかればみさえ達の無事を伝える。 
  3:花村陽介・・・何者なの?
83 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 01:33:34 ID:kMl/6gTc
投下終了です。だいぶオーバーしてしまいましたが、大丈夫ですかね…途中で
グッバイモンキー食らったりと。
84創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 02:05:30 ID:FJttpgfs
ちょっと問題があるんですが
花村の人や物をテレビの中の世界に入れる能力は「ゾンビの攻撃を防げるシチュ」「異能者」
の2つのルールに抵触してるとおもわれます
85 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 02:49:29 ID:kMl/6gTc
>>84
いや、あの能力が使えるのは稲羽市限定だと思うんですよ。稲羽市とテレビの中の霧に関する相互関係を考えると。
稲葉市で霧が出ると、向こうで霧が晴れてシャドウが凶暴化。普段はその逆、という具合に。
今回は遠く海を隔てた海外ですから、それ以前にテレビにすら入れないという考えで。
86 ◆WB4ih.bmzelP :2009/08/25(火) 11:15:08 ID:stMzgzOz
破棄があったみたいなので久しぶりに予約します。

山田奈緒子@トリック
上田次郎@トリック

以上二人を予約します。
87創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 16:22:39 ID:KxKYAQpZ
トカレフにロケットランチャーは無いと思った。
トカレフは高速弾ってだけで、使い易い西側の銃が有るし
ロケットランチャーは訓練する場所と人間が無い。
88 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/25(火) 21:59:16 ID:kMl/6gTc
>>87
う〜ん、これは僕の知識不足でしたね…
89創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 22:15:36 ID:yFNIBniK
>>88
清浦刹那ですが、
 [備考]
  1:野原しんのすけ、みさえ、ひまわり、ひろし、シロの容姿や服装を把握しています。
  2:桂言葉がセント・マデリーナ島にいるのを知りません。

これ入れといた方がいいんじゃないですか? データの引き継ぎみたいなものなので。
90 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/08/26(水) 08:41:06 ID:86BlLFOT
>>89
周知の事実だし、大丈夫かと思ったんですが、入れといた方がよかったみたいですね…
91創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 12:37:40 ID:pz+jTqnP
STI イーグルやコルトMkWは9ミリではなく45口径ではありませんか?
92 ◆kMUdcU2Mqo :2009/08/26(水) 21:58:10 ID:pz+jTqnP
申し訳ありませんが規制に引っかかってしまいました
したらばに投下しましたのでどなたかお手すきの方がいらっしゃれば
転載をお願いします。
93ラストアクションヒーローズ ◇kMUdcU2Mqo:2009/08/26(水) 22:25:46 ID:c7hZt2qF
博物館内部は時間の経過と共に混迷の度合いを増していった。
バスの激突によって崩れた玄関からゾンビが次々に侵入してくる。マクレーンはまだ
無事な裏口から観光客を逃がそうとするが、パニックに陥った人々を誘導するのは容易
いことではない。博物館の近くにいた警官が二人加勢に現れたが、すし詰め状態の
裏口からは中に入れず事態は一向に好転しない。出口に押し寄せる人の体がつかえて
身動きが取れないのだ。
博物館の裏口は元々スタッフら裏方の人間だけが使うもので、人が三人も横に並べば
いっぱいになってしまう程度の幅しかなかったのだ。その狭い廊下に逃げ道を求める人たち
がごった返していた。

「押すな! 押さないでくれ!」

「おかあさーーーーーん、まってーーーーーーーーー!」

「なんだよこれ? 映画の撮影かなんかじゃないの?」

「騒ぐんじゃない! ゆっくり進むんだ! そこのお前、子供を先に行かせてやれ!」

慣れない避難誘導に悪戦苦闘しながらもマクレーンは声を張り上げる。幸い動きのトロい
ゾンビたちは人々の気配を見失ったようで確認した限りでは展示室をただうろついているだけだ。
しかし、もし気づかれて大挙してこの狭い廊下に押し寄せられたらもう打つ手がない。
手持ちのベレッタに予備の弾はなく、残っているのはマガジンの中の5発だけだ。

「マクレーンさん、倉庫の搬入口ならここよりも広いです! そっちに回った方が!」

「そりゃいいが倉庫ってどこだ!? それと弾丸がもうねえ! 搬入口でも何でもいいから持って来れないか!?」

「パトカーに予備の弾があります!」

「よし! 今すぐ持ってきてくれ!」

警官に指示を出し、自分も倉庫を探そうとしたマクレーンの元に中年の女が駆け寄る。
94ラストアクションヒーローズ ◇kMUdcU2Mqo:2009/08/26(水) 22:27:58 ID:c7hZt2qF
ラストアクションヒーローズ ◆kMUdcU2Mqo:2009/08/26(水) 21:43:48
「ああ、お巡りさん、ジェーンが、うちのジェーンがどこにもいないんです! あの子にもしもの
ことがあったら私、わたし、おお神様!」

「ああ分かった分かったよ! あんたの娘さんは俺が探してくるからあんたは先に避難するんだ、
いいな!」

 一方的に言い捨てると、展示室に飛び込む。文化と歴史を知らしめるはずの部屋はすでに死者
たちが闊歩する悪夢の場と化していた。室内にいるゾンビは目算でざっと十体、まともに相手を
していたら弾があっという間になくなってしまう。ここには生き残っている人間はいないらしい。
囲まれる前にジェーンなる少女を見つけだし脱出しなければならない。
 どうしていつも自分はこんな最悪の状況の中に放り込まれるのか、うんざりするが悠長に嘆いて
いる暇はない。幸いなことに展示室は広く、展示物に阻まれて連中はバラバラに散らばって思う
ようにはこちらには近づけない。マクレーンは腹をくくるとゾンビたちの間めがけて突っ込んだ。

「どけえええええぇぇぇぇ!」

 マクレーンに気づいたゾンビたちが、彼を捕食しようといっせいに動き出す。揃って生気のない
青ざめた顔をして、それに反するように口だけは歯を剥き出しにしてその食欲を表しているのが
おぞましい。
 奴らの腕が獲物を捕らえようと伸ばされるが、陳列棚に体がぶつかってこちらにまで届かない。
その隙にマクレーンはショーケースを乗り越えて別の展示室へと向かう。
 入植者の歴史を展示するその部屋の中央にはすでに数体のゾンビがたむろしていた。
 犬歯を剥き出し、肉の削げ落ちた指をこちらに伸ばす。マクレーンは、傍らにあった等身大の
アメリカ兵の人形からレプリカの小銃をもぎ取ると、大きく振りかぶる。
 ゾンビが組み付くより早くフルスイングが炸裂、頭部を強打され接近していた一体が、他のゾン
ビも巻き込みながら倒れる。常人なら昏倒間違いなしの一撃だが、ゾンビはなおも立ち上がろうと
もがいている。
 
 「クソッ、本格的にヤバいなこいつは……! ジェーン! どこだジェーン!」

へし折れたレプリカを投げ捨て奥へと向かう。目的の少女は見つからない、焦りばかりが募って
ゆく。まさかすでに――
 最悪の状況を覚悟した時、案内板のトイレのマークが目に飛び込んできた。そうだ、自分もナカ
トミビルで追い詰められた時トイレに逃げ込んだではないか。個人差はあるだろうが、屋内での隠
れる場所でトイレという場所は思いつきやすいはずだ。すぐさまトイレへと向かう。
 混乱で展示物が散乱した部屋を抜けていくと、白い壁に覆われた区画に出た。突き当たりにトイ
レの看板がある。

(頼むからここにいてくれよ……!)
95ラストアクションヒーローズ ◇kMUdcU2Mqo:2009/08/26(水) 22:28:58 ID:c7hZt2qF
祈る思いで女子トイレへと入る。普段入ることのない女子トイレはいるだけで違和感を感じ、左
右に並んだ個室は、ゾンビが潜んでいるかもしれない危険もあいまって奇妙な圧迫感を感じさせる。
そんな中、奥の個室から何かが動く気配を感じた。

「ジェーン、いるか? お袋さんに頼まれて君を探しに来た。そこにいるんだろ?」

 ベレッタを構え慎重に近づく。そこに誰かがいるのは確かだが、返事が全く無い。そこにいるのはゾンビかもしれない、だが、もしかしたら怯えて動けない少女かもしれない。確認しなければな
らない。緊張で額に汗が流れる。
 と、突然個室から小さな影が飛び出す!

「!!……、なんだ、脅かすなよ……」

 現れたのは一匹のヨークシャー・テリアだった。気配の正体にマクレーンは思わず脱力する。

「こいつどっから紛れ込んだんだ? 首輪があるから飼い犬なんだろうが……ん? ちょっと待
て、まさか……」

 猛烈に嫌な予感がする。チョロチョロと動き回るヨークシャー・テリアを捕まえて持ち上げてみ
る。首輪の喉もとの部分には文字が書かれていた。『ジェーン』と。

「おいおい……犬かよ……」

 どっと倦怠感が押し寄せてきた。自分は犬のために危ない橋を渡ってきたのかと思うとやるせな
い気持ちになる。洗面台の鏡を見ると、実際、情けない表情の自分が映っていた。
 とにかくこんなところに留まり続けるわけにはいかない。犬を抱えてトイレを出ようとする。だが、
その判断は少々遅きに失した。入り口付近からうめき声が聞こえ、数体のゾンビが姿を現す。後を
つけられたのだ。
 怒号と共にベレッタを連続発射、うち出された9ミリ弾が次々とゾンビを抉る。最後のゾンビを
倒した時点でベレッタのスライドが下がったままになる。ついに弾が切れてしまった。
 トイレの外に出ると玄関口のほうからすでにゾンビたちが接近しつつあった。その数はとても
素手で相手できるものではない。たまらずにマクレーンは逃げ出す。
 
 「神様! こんな事! 言いたか! 無いんですが! この仕打ちはあんまりじゃありませんか!」

しかし、逃げた先にもゾンビがいた。道を切り開くべく、ゾンビの一体を蹴り飛ばす、が、その
方向がまずかった。吹き飛んだゾンビが先住民の櫓のレプリカに激突、壊れた櫓がマクレーンに
向かって倒れ掛かる。
96ラストアクションヒーローズ ◇kMUdcU2Mqo:2009/08/26(水) 22:29:46 ID:c7hZt2qF
「しまっ――」

 飛びのこうとするが間に合わない、倒れた櫓に足を挟まれてしまう。抜け出そうと必死にもがく
が、引っ掛かって抜けない。その間にもゾンビたちは徐々に迫ってくる。犬はさっさと自分だけど
こかへ逃げ出してしまった
 突然連続した銃声が響き、マクレーンの近くにいたゾンビが体に複数の穴を開け倒れる。ようやく
応援が来たようだ。

「助かった、けどもう少し早くこれないのか!?」

「遅すぎるって? そりゃ失礼。でも俺ピザの配達人じゃねえんだから時間厳守を一方的に期待されても
困るな。」

 現れたのは地元の警官ではなく、会ったこともない黒人の男だった。



 車ドロを追いかけてアクセル・フォーリーがこの島にやってきたのは3日前のことだ。犯人が
この島に逃げ込んだと確信した彼は、いつものように上司の許可を得ない強引な捜査で管轄外の
この島にやってきて、ゾンビ騒動に出くわしたのだ。

「外にいた連中から弾渡してくれって頼まれたんだがおたくそれそころじゃなさそうだな……っと」

ゾンビたちはさらに近づいてくる。櫓を引き起こしている暇はないと判断、持ってきた9ミリ弾
をマクレーンに放り投げるとゾンビたちをひきつけるべく大声を張り上げる。

「オーケー全員注目! いい子のみんなも悪い子のゾンビたちもよーく聞けよ! ここにいるのは
デトロイト育ちの新鮮なプリップリのお肉だ! 肌が黒いからって差別すんなよ! 先着一名様
にこのアクセル・フォーリーの肉をプレゼント! ルールは簡単、走って俺に追いつけた奴が勝ちだ!」

そこで大きく息を吸い込む。

「追いつけたらの話だけどな!」
97ラストアクションヒーローズ ◇kMUdcU2Mqo:2009/08/26(水) 22:31:04 ID:c7hZt2qF
ブローニングハイパワーをぶっ放しながら走り出す。マクレーンの近くのゾンビを排除し、残り
が全員自分を追いかけてくるのを確認すると、隣の展示室に駆け込む。展示物を利用し、ゾンビと
の距離を保ちながら一体一体倒していく。
 
「どうしたそんなんじゃ俺には追いつけないぜ!」

 大半は獲物の多い外へと出て行ったのか、ゾンビは徐々に数を減じていく。
 マクレーンが脱出するのに十分な時間は稼いだだろうか。思考がよそへ逸れたのがまずかった。
ゾンビの死体に蹴つまづいて転んでしまい、その拍子に銃を手放してしまう。さらに運の悪いことに、
彼がいた場所は行き止まりだった。

「よーし、ちょっと待て、いいから待て、落ち着こう。さっきのは実はアレ冗談なんだ、ジョーク、
分かる? 分かるわけないよな……」

 当然、ゾンビはアクセルの弁解など意に介さずその牙をつきたてようと迫る。

「いやでも待った方がいいのは本当だ、マジで、それも分かんない? だってほら……」

ゾンビの後頭部に銃口が突きつけられる。その銃を握っていたのは櫓の下から抜け出したマクレーン
だった。

「イピカイエ!」

 至近距離で放たれた9ミリ弾がゾンビの頭部を吹き飛ばす。ようやく博物館に静寂が訪れた。
98ラストアクションヒーローズ ◇kMUdcU2Mqo:2009/08/26(水) 22:32:26 ID:c7hZt2qF
 搬入口に接した博物館の倉庫、そこの床に二人は腰を下ろす。マクレーンはタバコを取り出し火
をつける。アクセルの方にも差し出すと「タバコは体に悪いぞ」と言われ返された。

「いやーお互いヒデェ目にあったな。おたくあのジョン・マクレーンだろ? オフのクリスマス
だってのにナカトミタワーでテロリスト相手にドンパチやってたってツイてないあの有名人!
アンタの奥さんがレポーターにかましたストレートは最高だったな! 俺すっかり奥さんのファン
だよ。あ、俺はアクセル・フォーリー、いつもはデトロイトでデカやってる。よろしくな」

「ホリィのファンかよ、まあいい。俺もお前の噂は聞いたことがある。デトロイトにわざわざ管轄
外のビバリーヒルズに出張って武器の密売組織を潰した物好きがいるって話だったが、まさかセント
・マデリーナくんだりで会えるとは思って無かったよ」

「まああん時は色々あったんだよ、昔世話になった奴がヤバかったりとかな。それにしてもどうよ
この状況。ゾンビだぜ? やっぱアレかな? ゾンビに噛まれたらゾンビになっちまうのかねぇ?」

「さあな、わざわざ好き好んで近づく奴がいるとも思えんがね」

「いやぁ分かんないぜ? 世の中死体相手におっ勃つ変態がいるんだ、ゾンビ見て興奮する奴がい
てもおかしかぁないだろ、骨がはみ出た脚がそそるとか、腐りかけのうなじが艶っぽいとか、抉れ
たオッパイがもうたまんねえとか」

「……やめてくれ、気分が悪くなってきた。そういや裏口で団子になってた連中はどうしたんだ?」

「とっくに避難したぜ。残ってたのはイヌっころ追いかけてたアンタだけだったってわけだ」

「……うるせえ」

大笑いしながら自分の肩を叩くアクセルに憮然とした表情で答え、タバコを床で揉み消した。
予想よりも時間をくってしまったが、これ以上ここに長居しても意味がない。最初の予定通り警察署
へ向かうべきだろう。
 ふと壁際の消火用設備に目が行った。ベレッタ一丁だけでは、また先ほどのように弾切れになる
かもしれない。消火用の斧を手に取る。アクセルも何か必要かと思って見ると、いつの間にかバール
を持っていた。運び込まれた展示品の箱をこじ開けるためのものだろうか、要領のいい男だ。

「そろそろ行くか、お前も警察署にいくんだろ?」

「ああ、同じデカ同士なかよくやろうや。アンタラップ好きか?」

「俺はロック派だ」

 どうでもいいことを話しながら外へ出る。久しぶりの日差しは目に痛かった。
99ラストアクションヒーローズ ◇kMUdcU2Mqo:2009/08/26(水) 22:33:35 ID:c7hZt2qF
【F−06/博物館外/1日目・日中】

【ジョン・マクレーン@ダイハード】
 [状態]:疲労(中)、冷静
 [服装]:Tシャツにジーパン
 [装備]:ベレッタM92FS(9ミリパラベラム弾 14/15 予備弾30)、消火用斧
 [道具]:たばこ、ライター、運転免許証、財布、博物館パンフレット(簡単な周辺マップあり)
 [思考]
 1:アクセルと警察署に行く
 2:銃と弾薬を手に入れたい
 3:要救助者は保護
 [備考]
※ マクレーンは警察官ですが、地元の警察官との知り合いなどはいません、ナカトミタワーの事件の
関係者であることぐらいしか知りません
※マクレーンの設定はダイハード1から2の間です

【アクセル・フォーリー@ビバリーヒルズ・コップ】
 [状態]:疲労(小)、冷静
 [服装]:Tシャツにジーパン、スタジャン
 [装備]:ブローニングハイパワー(9ミリパラベラム弾 15/15 予備弾37)、バール
 [道具]:ポケットナイフ、運転免許証、財布、ガム、観光ガイドマップ
 [思考]
 1:マクレーンと警察署に行く
 2:銃と弾薬を手に入れたい
 3:要救助者は保護
 [備考]
※登場時期は「ビバリーヒルズ・コップ2」の後です。
100創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 22:35:17 ID:c7hZt2qF
代理投下終了ですノシ
101 ◆kMUdcU2Mqo :2009/08/26(水) 22:40:47 ID:pz+jTqnP
ありがとうございます。お手数おかけしましました。
102創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 00:40:33 ID:YBma5y2G
乙!
103 ◆uFyFwzytqI :2009/08/27(木) 22:25:20 ID:p383HVCU
投下開始します。
104バトル・オブ・消防署 1 ◆uFyFwzytqI :2009/08/27(木) 22:26:12 ID:p383HVCU
 「なあ吾妻、ちょっと聞きたいんだがよ」
 「どうした、ルパン?」
 先頭を進むルパン三世が、背後の吾妻玲二に声をかけた。
 「俺たちってよ、傍から見たら少しカッコ悪いって気がしないか?」
 「心配するな、誰も見ていない。残念ながら、さっきから生きてる人間に1人もお目にかかってないからな。それに、外見にこだわっている場合じゃないぞ。
 小回りが利いて、音も出さず、ゾンビに追い付かれない。この非常事態下では、理想的な交通手段だ」
 玲二が何でもないような口調で応えた。

 「ま、そりゃそうだけんど」
 ルパンも本心で言っている訳でないらしい。ちょっとした世間話のつもりなのだろう。
 玲二が言う交通手段とは自転車のことで、彼等はそれに乗って移動中だった。
 今の所、快調に飛ばしていた。ゾンビに出くわしても連中が集団だったらUターン、まばらだったら間を擦り抜けてやり過ごせばいい。

 「そうだ、知ってるか吾妻。アメリカにはママチャリって感覚があまり無いんだぜ。主婦が買い物行くのも自動車使うのが普通なんだってよ。
 てことは、みんな日本みたいに自転車で買い物行くようにすりゃ、CO2かなり減らせるんじゃないか。おお、俺って今かなり良いこと言ったんじゃねえの?」
 ルパンが、新しい彗星を発見した天体マニアのような調子で言った。
 「悪くないアイデアだ。首尾良く脱出できたら、インタビューついでに呼びかけたらどうだ?」
 などと掛け合いながら漕いでいく。

 それはそれで良いのだが、玲二は少し前から気になっている事があった。
 「ルパン、念のため訊きたいんだが」
 「何だぁ、ケツでも痛くなったか?」
 「先頭を走るのはいいが、道は分かっているのか?」
 「……」 ルパンの返事はなかった。
 「もしかして、迷ったのか?」 玲二が追い打ちをかける。
 
 「やはりそうか。先頭切って進むから、道を知っているのかと思っていたが……。道理でさっきから風景が変わらない訳だ」
 港に向かっているつもりが迷子になっていたらしい。
 「いやー、最初は分かってたんだけどよ。ゾンビ避けるの優先してたら方向が無茶苦茶になっちまったんだわ、これが」
 「そうか……幸い周囲にゾンビはいない。ひとまず止まって、現在地と状況を把握しよう。」
 この状況でルパンに抗議するのは時間の無駄だ。
 「ああ、そうすっか」 ルパンも悪びれる様子もなく賛成した。

 「しかし、実際ここは何処なんだ?」
 自転車を十字路の中心に停めて、玲二が四方を見回した。だが、周囲には民家がまばらに建っているだけで、ゾンビも人間も見当たらなかった。目印になりそうな物もない。
 ただ、家のドアが開けっ放しだったり、窓ガラスが割れていたりと、ゾンビと戦った形跡はそこら中に残っていた。地面には家財道具などが散乱している。
 「まるでゴーストタウンだな」
 「どっちかってーと、嵐の前の静けさって感じじゃねえの」
 油断無く周囲に目を配りながら玲二とルパンがセリフを交わす。

 「ここに居ても埒が開かないな。移動しよう」
 「待った、何か聞こえるぜ」
 玲二がペダルに足をかけた時、ルパンがさっきまでの飄々とした雰囲気から一転して、鋭く言った。
 それを受けて玲二も耳をすませた。確かに、遠くから喧騒らしき音が聞こえてくる。
 
 「こっちからだ、行ってみないか?」
 ルパンが提案する。玲二に異存はなかった。 
 再び自転車を漕ぎ出してからしばらくすると、喧騒はハッキリと聞こえてきた。近づくにつれ悲鳴や怒号だけでなく、何かの破壊音やシャワーのような音まで識別できるようになった。
 そして、大通りに面した角を曲がると、騒ぎの中心に遭遇した。
105バトル・オブ・消防署 2 ◆uFyFwzytqI :2009/08/27(木) 22:27:10 ID:p383HVCU
 「あれは消防署か?」
 自転車を停めた玲二の目に、「FIRE STATION」と壁に書かれた建物が映った。赤と白を基調にした、教科書的なまでに典型的な消防車が数台、消防署を囲むように停まっている。
 1台の消防車からホースが何本も伸びていて、消防隊員が群がってくるゾンビに放水していた。強烈な水圧で、ゾンビが無様に吹っ飛ばされる。
 その隙をついて、他の隊員や住民らしき人影が多数が飛び出した。

 彼らは家や消防署内から調達したと思われる家財道具や瓦礫類、果ては自動車(廃車か?)のボンネットやタイヤまで使ってバリケードを構築しようとしている。
 時折ゾンビが至近まで近づくが、同様にかき集めてきた拳銃やライフルを発砲して撃退していた。中には救助活動に使う斧やハンマーで、ゾンビの頭を砕いている者もいる。
 まるで戦国時代の攻城戦を見ているようだった。 

 「おおーやるじぇねえの、さすが地元同士。俺達みたいな余所者と違って見事なチームプレイだな」
 ルパンが素直に感嘆の声を漏らす。だが、玲二の耳には届いていなかった。
 「まずいな……あの消防車、放水してないぞ」
 「何?」
 玲二の視線の先をルパンが追うと、1台の消防車がポンプが故障したのか放水を止めていた。その隙を突くようにゾンビが隊員達に襲いかかる。
 
 ルパンがペダルを漕ぎ出した。
 「ルパン、何処へ行く!?」
 「もっちろん、アイツらを助けてやんだよ。ほれ、なんだ『義を見てせざるは勇無きなり』っつーだろ。このまま見捨てたら寝覚めが悪すぎるってもんよ」
 「そうか、なら俺も手伝おう」
 玲二は内心安堵していた。ルパンは自分と同様、堅気の人間ではないと思っていたが、人情は人並み以上にあるようだ。
 「お、吾妻もいいとこあんじゃねーの。んじゃ行くぜ!」
 2人は自転車を飛ばして消防署に向かった。彼らの接近に気付いた住民が何か叫んでいる。消防隊員がこっちに向けて放水しようとしていた。
 
 「おおっと、ちょっと待った。俺達は人間だぜ!」
 ルパンが声を張り上げる。その声に反応した一部のゾンビが玲二達に標的を変えた。結果的にオトリになったらしい。
 「こいつぁ面白くなってきやがった!」
 (大した度胸だな……)吾妻は、ルパンのテンションに少し呆れていた。暗殺を生業とする彼にすれば、もう少しクールになった方がいいと思うのだが。

 2人の目の前にゾンビが迫る。いきなりルパンが自転車の後ろに飛び降りた。加速がついた無人の自転車が、数体のゾンビをボウリングのピンのように弾き飛ばした。
 「よぉし、ストライク!」
 ルパンが叫びながら右手を懐に忍ばせる。ワルサーを抜いたかと思うと、流れるような動作で銃口をゾンビに向けて発砲した。
 至近距離も手伝ってか、ゾンビの頭に一発必中と言っていい確率で命中させる。撃ち尽くすとマガジンを素早く交換。空になった方は捨てずにポケットに入れていた。

 その間、玲二は自転車の速度を落としてルパンの走るペースに合わせていた。手にはデザートイーグルが握られている。
 (いい動きだ、ルパンはワルサーを自分の手足と同じレベルまで馴染ませているな。銃の細かい癖まで覚えているらしい。まさに愛銃といった所か)
 彼は周囲に注意しながらルパンの射撃センスを冷静に分析していた。

 「おーい吾妻、お前は撃たないのか? 今なら入れ食いだぜ」
 「必要なのは、消防署にいる連中と合流するまでの安全だ。ルパンの射撃はそこまでの道を進むのに充分な技量だ。今は弾を温存しておきたい」
 「オーケー、んじゃそういう事で。次元ほどじゃないが、お前さんもそこそこ当てにできる奴で良かったぜ」
 ルパンが言った時、玲二達の眼前には唖然とした表情の隊員や住民の姿があった。
 
 「よお、ちょっくらお邪魔させてもらうぜ」
 ルパンが人懐っこい笑顔を浮かべて彼らの中に紛れていく。
 「あんた達、何者だ?」
 消防隊員の中で比較的年長の男が尋ねた。
 「ん? 俺達ゃ野郎2人で観光に来た寂しい旅行者さ。俺はルパン三世、でコイツは吾妻玲二ってんだ、よろしくな。ぬひひひ〜」
 ルパンはぬけぬけと嘘をついた。
 「そういう事だ、俺達もゾンビ撃退に協力する。人手は大いに越したことはない筈だ」
 玲二が落ち着いた口調で話しを合わせる。
106バトル・オブ・消防署 3 ◆uFyFwzytqI :2009/08/27(木) 22:28:21 ID:p383HVCU
 「いいだろう。ゾンビでさえ無ければ今はネコの手も借りたい状況だ。私は消防長のジョージ・スチュアートだ」
 年長の男――スチュアート消防長――が名乗った。
 「それで、俺達は何をしたらいい?」 玲二が質問した。
 「銃に自信があるなら使ってくれ。ただし、弾の無駄遣いには注意だ。余裕があるわけじゃ無いんでな」
 「了解した」 「おーし分かった。にしてもよ、ここはむさい野郎ばっかだな、カワイ子ちゃんはいないのか〜?」
 ルパンが緊張感の欠片もない事を聞く。

 「女子供は2階と3階に避難させてある。女達には怪我人の手当や、島の各施設に電話で連絡を取って貰っている」
 「念のため聞くけどよ、ゾンビに噛まれた怪我人はいないよな?」
 「いないさ、全て止めを刺してある。私自身の手でな」
 スチュアートが心の底から懺悔するように言った。
 「よせやい、俺は神父じゃねえぜ。ゾンビになっちまったのは運が悪かったんだ。あんたは正しい行動をした、それだけだ」
 ルパンは爽快なまでに消防長の告解を受け入れた。

 「ハハッありがとう、少し気が楽になったよ」
 そう言うと、スチュアートは踵を返して部下に向き直った。
 「よし、諸君! 21世紀のアラモ砦に援軍が来たぞ。我々はここを死守する。しかる後に反撃に移る。神の御加護があらんことを!」
 それを聞いた隊員や住民は、一層奮起してゾンビに戦いを挑みだした。

 (ルパンも消防長もいい性格をしている。俺にあんな真似はできないな。これだけ絶望的な状況で、結果的に即興で士気を鼓舞してのけるか……)
 玲二はモーゼルM98ボルトアクションライフルを調整しながら思った。彼は消防車のポンプが故障したエリアで戦うつもりだった。
 「吾妻、銃は決まったか? お、モーゼルか。お前さん狙撃が得意なの?」
 「ああ、仕事だからな。ルパンはどれにする? 拳銃・ライフル・サブマシンガン色々あるぞ」

 「いんや、俺はこれで充分だ。こいつより信頼できる銃は世界中どこ捜したって見つかんねえよ」
 ルパンはワルサーをかざして見せた。
 「そうか、9ミリ弾の弾薬箱は向こうにあったぞ」 「サンキュー」
 ルパンは散らかったままの弾置き場に向かった。

 玲二は8mmモーゼル弾を装弾子ごと機関部に押し込み、ボルトを前後させ初弾を薬室に送り込んだ。射撃姿勢を整えて、照準線の向こうにゾンビの頭を捉えて発砲する。
 弾丸が命中して、後頭部から脳漿をまき散らしながらゾンビが倒れた。素早くボルトを操作して次弾装填。5発とも正確にヒットした。
 「いい腕じゃねえか、吾妻」
 玲二が振り向くと、ルパンが9mmパラベラム弾をワルサーのマガジンに詰めている最中だった。
 「呑気なものだな。早く加勢してくれ、ゾンビはいくらでもやって来る」
 「まあ焦りなさんなって。ほらよ、デザートイーグルの弾はコレでいいか?」
 そう言ってルパンが差し出したのは、44マグナム弾の弾薬箱だった。

 「ああ、すまない。そうだ、弾に余裕ができた今の内に試しておくか」
 玲二はモーゼルを傍らに置いて、ショルダーホルスターからデザートイーグルを抜いた。無造作な動きでゾンビに照準を合わせて引き金を引く。
 轟音と共に発射された弾丸は、ゾンビの胸部中央に命中し、背中の射出口から人体組織が飛び出す。のけ反って倒れたゾンビはしばらくもがいた後、動きを止めた。

 「うひょう、拳銃とは思えねえ威力。だけんどよ、吾妻の腕なら頭に当てんのも楽勝じゃねーの?」
 「俺が試したかったのは、ゾンビは頭以外でも有効なダメージを与えられるかどうかだ。どうやら心臓を破壊してもゾンビは倒せるらしいな」
 再びモーゼルライフルでゾンビを倒しながら――今度は頭を正確に狙っている――玲二は説明した。

 「ほお、そいつぁいいニュースだ。他の連中にも教えてやろうぜ」
 「それもいいが……、心臓というのは意外と小さな標的だ。素人では胴体に命中させらてれも、心臓をピンポイントで狙えるかどうか怪しい。
 それでも人間相手ならルパンのワルサーでも充分ダメージが与えられるが、ゾンビだとそうはいかない。あれを見てみろ」
 玲二が指摘した方向をルパンが見ると、住民が最初に見かけた時と同様、放水・射撃・白兵戦の3パターンで戦っていた。
 しかし、注意して見ると、住民の射撃は乱射に近いのがわかる。ゾンビは手足どころか胴体に命中してもなかなか致命傷にならないし、外れ弾も多い。
107バトル・オブ・消防署 4 ◆uFyFwzytqI :2009/08/27(木) 22:30:58 ID:p383HVCU
 「撃つ事で恐怖をごまかしているな。放水や白兵戦担当の連中も、味方の銃声で勇気を得ている感じだ。緊急事態にしては上手く対処している方だが」
 「あー、ありゃマズイな、すぐ弾切れになっちまうぞ。鉄砲玉なんぞちょっと気前よく撃ってりゃ、すぐ無くなっちまうモンだかんなー」
 玲二とルパンは、眼前のゾンビに銃撃を加えて、味方を援護しながら会話を続けていた。さすがというべきか、彼等の射撃に無駄弾は少ない。

 「そのお陰で、バリケードの構築は比較的順調だ。不幸中の幸いだな」
 玲二の言うとおり、部分的にバリケードが出来つつある。そこではゾンビが立ち往生しており、射撃と白兵戦は一旦中断で、放水のみで対応していた。
 「全体の完成度は70%ぐらいか、今のペースなら1時間ほどで完成させるのも不可能じゃないな」
 いつの間に取り出したのか、地図を見ながら玲二は何事か考え始めた。その間、ルパンはワルサーでゾンビを撃退している。
 「ルパン、港に船がどれぐらい停泊していたか覚えてるか?」
 「さあって、どうだったかな〜。観光地だけにヨットやクルーザーは沢山あったっけな。他は中型フェリーも停まってたと思うが、よく覚えてねぇや」
 
 「そうか……ルパン、俺はスチュアート消防長に現状を詳しく聞いてくる。提案したい事もあるしな。すまんが留守を頼む」
 地図を畳んだ玲二は、モーゼルを持って立ち上がった。
 「おう、晩飯までには帰って来いよ〜」 
 (気楽な奴だ……) 玲二はスチュアート消防長が指揮している所へ向かう。
 
 「消防長、ちょっと話しがあるんだが時間をもらえるか?」
 「ああ、手短にならかまわんぞ」
 「それじゃ早速だが、バリケードが完成した部分に配置されている消防車の放水を、一部こちらに分けてくれないか。まだポンプの故障が直らなくて、少し苦戦しているんだ」
 「ふむ、いいだろう。4本中2本のホースをそっちの応援に使わせる」
 スチュアートは承諾すると、部下の隊員に指示を下す。隊員は素早くホースを延長させると、玲二達の現場に駆けだした。

 「ありがとう、あれでだいぶ楽になる。後いくつか質問がある。まず、女達に施設に電話してもらっているらしいが、連絡はとれたのか?」
 「それがな……、あまり芳しくない。手当たり次第電話させているが、ほとんどの施設と連絡がとれないらしい。全くの不通か、呼び出し音はするが誰も出ないのが大半だ。
 確実なのは警察と放送局だ。警察は現在防戦中だが、救出活動もある程度しているようだ。放送局は、警察からの実況中継がテレビで流れていたから、スタジオは健在だろう。
 あとは射撃場ぐらいだな、詳しい状況は不明だがとりあえず無事らしい」
 ただしこれらの情報は少し古い、とスチュアートは断りを入れた。

 「分かった(他所で生き残った人間との連携は不可能じゃないな……)。それでは消防車以外に使える乗り物はあるか? 乗用車でもバスでも何でもいい」
 「救急車と、人員機材の輸送に使う多目的車が何台か残っている。だがそんな事を聞いてどうする?」
 スチュアートが怪訝そうな顔をする。
 「何、大したことじゃない。明日以降の脱出に備えて装備を確認して、計画を立てておきたいと思ってな」
 「待て、ここに避難している人々を連れて、島を脱出する当てがあるのか?」
 「一応考えてある、上手くいくか保証はできないが」 玲二が言った。
 「構わん、詳しく聞かせてくれ。協力は惜しまんぞ」 スチュアートは真剣な表情で玲二を見ている。
 
 「まずはここの防御の完備だ。バリケードの完成と、ゾンビの侵入阻止を最優先にする。次に水と食料の確保だ。最低でも1日分、できれば2日分用意したい」
 玲二は説明を始めた。
 「妥当な判断だな」
 「そして、とにかく一晩持ちこたえる。そのために夜に備えて照明が欲しい。懐中電灯やサーチライト、蛍光灯でも何でもいい。徹夜で奴らを見張るんだ。
 ゾンビの手薄な所を突破して、民家などで入手する。窃盗になるが、そこは緊急避難を拡大解釈するという事でどうにかならないか?」
 「いいだろう、私が直接指示してできるだけ調達させる」

 「最後に脱出についてだが、ルパンによると港にはそれなりの数の船舶が停泊している。女子供を優先して、無事な船に避難させる。
 移動手段はさっき言っていた救急車や多目的車を使ったピストン輸送だ」
 スチュアートは眉をひそめた。
 「港? ほとんど島の反対側だぞ。空港の方が近いじゃないか」
108バトル・オブ・消防署 5 ◆uFyFwzytqI :2009/08/27(木) 22:33:15 ID:p383HVCU
 「空港はすでにゾンビで溢れかえっているらしい。それに、避難できる場所もない。飛行機の機内は無理があるし、パイロットもいない」
 玲二はルパンが飛行機を操縦できる事を知らない。もっとも、仮に知っていてもルパンが無理と判断している以上、空港に向かう策は放棄するしかなかった。
 「ううむ……選択の余地は無いのか……分かった。港へ行こう。ルートはどうする?」
 スチュアートは苦渋に満ちた決断を下した。

 玲二は地図を拡げた。
 「最初は北東に進んで古代遺跡の横を通る。そして、海岸線沿いの道、つまり洞窟やコテージに面した道路をぐるりと大回りして行く。
 自然公園を突っ切って公園管理事務所を経由する方が近道だが、ゾンビとの遭遇率は海岸沿いの方が低いと思う」
 「商店街経由で行かないのか?」
 「俺達は博物館の方から来たが、中心地ほどゾンビが多いようだ。道が事故車で塞がれているリスクも高いだろう」
 「なるほど、それなら納得だ」 スチュアート消防長は理解してくれたようだ。

 「ルートはそれでいいとして、船に乗れなかった場合はどうする?」
 「南下して放送局に入れてもらう。もしここも駄目なら更に南下して射撃場に避難させてもらおう。事前に電話で打ち合わせしておけば、協力が得られるかもしれない。
 どこに逃げるにしても、最悪でも数日間耐えれば本土から救援が来るはずだ」
 「よし、あんたのプランに賭けよう。どうせここに籠城してもじり貧になるだけだしな」
 
 その時、ルパンの切迫した声が響いた。
 「大変だ玲二、早く戻ってこい! 突破されるぞ!」 「!?」
 玲二とスチュアートが驚いて振り向くと、油断した白兵戦担当者がゾンビに噛まれていた。それを助けようとする住民が別のゾンビに襲われる。
 放水しても、ゾンビだけを吹き飛ばすのは難しいし、何より(残念ながら)手遅れだ。
 1番問題なのは射撃担当だった。恐慌状態になった男達が乱射するが、すぐに弾切れになる。慌てて装填しようとするが、恐怖で手が震えてマガジン交換ができない。
 ゾンビが彼等の目の前に迫ってくる。
 
 「危ない、下がれ!」
 玲二はバリケードの間を縫って侵入してくるゾンビに向かって、モーゼルをオートマチック並みの速度で発砲した。
 モーゼルが弾切れになると、玲二はそれを捨ててデザートイーグルを抜く。強烈な反動を、慣れた構えと銃自体の重さで抑えて連射する。
 しかし、ゾンビ侵入を完全に防ぐには至らない。ルパンも協力しているが、2人では限度がある。
 「限界だ、署内に退避させるしかないか……」

 スチュアートが苦しい決断を迫られた時、遠くから爆音が響いてきた。
 「この独特の排気音は……」
 玲二が爆音のした方角に目をやると、音の主は予想通りハーレーダビッドソンだった。しかも車体の左側に乗車用スペースを設けたサイドカー仕様だ。
 運転しているのは、40半ばぐらいの白人男性だった。男はハーレーを巧みなハンドルテクニックで操り、サイドでゾンビを次々と跳ね飛ばす。
 そのままバリケードの隙間から突入して、玲二達の直前で見事なスピンターンで停車させた。

 「やあ紳士諸君、私もパーティーに参加させて貰えるかな?」
 男はブラウンの髪とブルーの瞳を持ち、ベージュの半袖トラベルジャケットを上手に着こなして、全身から野性と知性を兼ね備えた魅力を溢れさせていた。
 それでありながら、タキシードを着て上流階級のパーティーに出席しても違和感のない雰囲気をも漂わせている。
 驚く玲二達を尻目に、肩にかけていたFN P90サブマシンガンを素早く構えて、セミオートで正確にゾンビに銃弾を叩き込む。バリケード内側のゾンビがたちまち駆逐されていった。

 さらに胸ポケットのボールペンを抜いて、なぜか3回ノックしてゾンビの群れに放り投げる。それは信じ難いことに、かなりの威力で爆発して数体のゾンビを四散させた。
 (あれはボールペンの形をした手榴弾だったのか?)
 玲二は男彼が持っている異様な装備に驚いた。
 
 「よし、今の内に態勢を立て直すんだ! バリケードさえ完成させればゾンビの脅威は一先ず収まるぞ!」
 P90を撃ちながら男が叫ぶと、我に返った男達は慌てて動き出した。
 「銃の腕は一級で、特殊な武器を持っている。さらに人を従わせるカリスマ……。あの男、一体何者だ?」
109バトル・オブ・消防署 6 ◆uFyFwzytqI :2009/08/27(木) 22:34:11 ID:p383HVCU
 「あちゃー、アイツなかなかやりやがるなあ。おいしいトコ取られちまったぜ」
 ルパンは一体男の事をどう思っているのか、脳天気な賛辞を送っていた。
 「ルパンはあの男のことが気にならないのか?」
 「んー? まあ、気にならないっちゃあウソだけどよ、あまり突っ込まないでやろうぜ。俺達だって立場は似たようなモンだしな。それより手伝ってやろうぜ」
 ルパンはワルサーの射撃を再開して援護に加わった。それもそうだ。玲二はモーゼルを拾った。

 ――しばらくして、どうにかゾンビの侵入を困難にする程度のバリケードが張り巡らされた。万全とはいえないが、油断しなければ当面の安全は手に入れられそうだ。
 ゾンビはバリケードの前をウロウロしている。時々(意識しているのかしないのか)バリケードを押し破ろうとしているが、隊員や住民が素早く撃退している。
 「今日は飛び入りの訪問者が多いな……、あんたのお陰で助かった、礼を言う。私はスチュアート消防長だ、現在ここの指揮を執っている」
 「礼には及ばない、自分の職務に忠実に従っただけだ。私はジェームズ・ボンド、英国海軍中佐だ」
 ジェームズ・ボンドは悠然とした態度で自己紹介した。

 ボンドの言う肩書きは、嘘はついていないかもしれないが、本当のことを言っているとも思えない。おそらく、真の肩書きは隠しているのだろう。
 しかし、玲二は深く追求しない事にした。今は生き残るのが先決で、そのためにもボンドの能力は貴重だ。
 「ではスチュアート消防長。早速だが、現状を説明してもらえないだろうか。私としては出来るだけ協力するつもりだ」
 「ああ、それなら彼に説明してもらおう。彼は吾妻玲二、明日以降に予定している脱出計画の発案者だ」

 「吾妻玲二だ。よろしく、ボンド中佐。俺から説明しよう」
 玲二が説明を始めると、ルパンも話しの輪にさりげなく加わって、説明の邪魔にならない程度にボンドに話しかけている。次元の事を訊いているらしい。
 ボンドの反応からすると次元を見ていないようだが、ルパンは(内心はともかく)表面上は残念そうな態度を見せなかった。

 「成る程、よくできた計画だ。それならこれが役に立つだろう」
 ボンドはポケットから携帯電話のような物を2つ取り出した。
 「これは特殊な長距離無線機だ。この大きさの島なら、端から端までクリアに送受信できる性能がある。籠城チームと移動チームの連絡がとれるぞ」
 「よくそんな物を持っていたな」
 玲二の口から疑問が自然に流れ出た。

 「上から運用試験の命令があったんでね。本当は機密なのだが」
 ボンドがもっともらしい理由を言った。
 「それじゃあ、1人は協力者が必要だろう。その人はどこにいるんだ?」
 「ゾンビに殺されたよ。2時間ほど前のことだ」

 「それは、すまなかった……」
 「気にしないでくれ、彼は軍人らしく戦って死んだ。介錯は私がしておいた。本望だっただろう」
 と、ボンドは言いながら、束の間遠い目をした。
 「よし、さっそく夜に備えて物資を調達するチームの編成にとりかかるぞ。それとは別に放水・射撃・白兵ごとに消防署を守るチームも作る」
 湿っぽい話しを打ち切るようにスチュアートが宣言した。

 人々が打ち合わせを開始するのを横目に、ルパンがボンドに近づいた。
 「なあ、ボンドさんよ、あんたの本命は無線機なんかじゃないんだろ?」
 「何のことかな?」
 「とぼけなさんなって、コレがただのシガレットケースじゃないのは見りゃわかる。ここには俺達3人しかいねえ。諦めて白状しなって、楽になるぜ」
 そう言ってルパンが差し出したのは、一見ただのシガレットケースにしか見えないものだった。
 「な……! いつの間に!?」
 ボンドが狼狽する。信じられない事に、いつの間にかルパンはボンドの懐からコッソリと頂戴していたらしい。玲二も全く気付かなかった。
110バトル・オブ・消防署 7 ◆uFyFwzytqI :2009/08/27(木) 22:35:29 ID:p383HVCU
 「ハハハ、これは1本取られたな。分かった、白状する。それは現在開発中の特殊爆弾だ。それ1つで自動車1台を吹き飛ばす威力がある。
 タイマーをセットするか、さっきの無線機で起爆コードを送信すれば、爆破させられる」
 言いながら、背中のナップザックから同様の品を2つ取り出した。全部で3つらしい。
 「正直で助かるぜ。ま、アンタが只者じゃないってのは、さっきの大立ち回りから大体分かっちゃいたがな」
 「そういうお前も、世間に公表できないような何かを背負っている雰囲気がするぞ。お互い様だな」
 「違ぇねえ」
 意気投合した2人が声を上げて笑った。

 玲二は心の中で呟いた。世界の裏舞台で暗躍していた人間が妙に脚光を浴びつつある現状は、やはり異常なんだろうな。

【E−06/消防署/1日目・午後(14〜16時)】

【吾妻玲二@PHANTOM】
 [状態]:疲労(小)。冷静。真剣。
 [服装]:作中で着ているいつもの服装。
 [装備]:モーゼルM98ライフル(8mmモーゼル弾。5/5発。予備100発)。IMIデザートイーグル(44マグナム弾。8/8発。予備60発)
 [道具]:日用品数種。ペットボトルのお茶。観光用地図。
 [思考]
  1:消防署で一晩持ちこたえる。
  2:消防署の人達(ルパン、ボンド、その他)と協力して港に向かう。
  3:船で脱出できなくても、救出まで可能な限り彼等と協力し合う。
  4:銃の手入れでもしておこう。
  5:ジェームズ・ボンド、本当は何者なんだ?

 [備考] 1:次元大介の容姿や服装を把握しています。

【ルパン三世@ルパン三世】
 [状態]:疲労(小)。冷静。呑気。
 [服装]:ご存知の赤ジャケット。
 [装備]:ワルサーP38(9mmパラベラム弾。8/8発。予備80発)
 [道具]:日用品数種。携帯食料数種。
 [思考]
  1:消防署で一晩持ちこたえる。
  2:消防の連中(吾妻、ボンド、その他)と協力して港に向かう。
  3:船で脱出できなくても、救出まで可能な限り彼等と協力し合う。
  4:その後、次元と合流して島から脱出。次元が見つからなければ、港に書き置きだけ残して脱出。
  5:カワイ子ちゃんいねーかなー、ぬひひひ。

【ジェームズ・ボンド@007】
 [状態]:疲労(小)。冷静。 カリスマ。
 [服装]:ベージュの半袖トラベルジャケット
 [装備]:N P90サブマシンガン(5.7mm専用弾。23/50発。予備200発)。シガレットケース型特殊爆弾×3(タイマーか遠隔操作で爆破可能)。
 [道具]:非常用セット×1(ブロック状の固形食糧×9個(3日分)。150ml飲料水パック×6個)。長距離無線機×2。
 [思考]
  1:消防署で一晩持ちこたえる。
  2:消防署の人達(吾妻、ルパン、その他)と協力して港に向かう。
  3:彼等を脱出させた後の行動は、その時になってから考える。。

 [備考] 1:次元大介の容姿や服装を把握しています。

 [備考]  玲二、ルパン、ボンド共通事項
  ※ 玲二の自転車と、ボンドのハーレーは使用可能です。
  ※ ジョージ・スチュアート消防長はモブキャラです。
111 ◆uFyFwzytqI :2009/08/27(木) 22:37:03 ID:p383HVCU
投下終了です。
112創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 23:33:09 ID:uLRdmKDm
投下乙です
このボンドはロジャー・ムーアでしょうかね
侠気のある裏稼業の人間はかっこいいですね
113 ◆WB4ih.bmzelP :2009/08/28(金) 00:51:51 ID:3AXNAm2J
>>111
お疲れ様です。夢のような3人組の誕生ですね。これからの活躍にも期待です。
ところで、あなたの作品「作戦名 急がば回れ」がウィキの方で見られないみたいです。
僕の愚作「全ての人が、人であるために」さえ載っているというのに。
114 ◆uFyFwzytqI :2009/08/28(金) 01:05:36 ID:tu7C6Jm8
千葉紀梨乃、桑原鞘子@バンブーブレード。2人予約します。場所はD−06です。

>>112
ピアース・ブロスナンがモデルでした。

>>113
SSの感想&wikiの指摘、ありがとうございます。wikiは直しておきます。
115創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 06:09:01 ID:IFRfPQNf
ピアースボンドなら、P99が無いのはチト不満ですな
イメージ的に
116創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 13:13:33 ID:0NaYPTir
唯一つ難クセをつけるなら、ボンドの自己紹介は「マイネーム・イズ・ボンド。ジェームス・ボンド」が定式ですね。
日本語で表記するなら「僕の名はボンド。ジェームス・ボンドです。」ということになるでしょう。
117創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 22:13:15 ID:wiy2MnGO
先読みになるが今の所は共闘出来るけど刑事と犯罪者がどこまで纏まれるだろうか気になる
118 ◆uFyFwzytqI :2009/08/28(金) 22:55:57 ID:tu7C6Jm8
>>115

状態表に書くの忘れてました……。「持っていたけど撃たなかった」という事で頼みます。
ボンドの装備↓追加です。
[装備]:ワルサーP99(9mmパラベラム弾。16/16発。予備48発)
119創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 23:24:38 ID:BXkswaVM
細かいことだけど、マップの一マスは何キロ四方なの?
120 ◆WB4ih.bmzelP :2009/08/28(金) 23:51:30 ID:3AXNAm2J
>>117
刑事・警官キャラ 両津勘吉・左近寺竜之介・ボルボ西郷・南空ナオミ・リー刑事・ジョン・マクレーン
         アクセル フォーリー・辻本夏美・小早川美幸・鷹山敏樹・大下勇次・

犯罪者キャラ 結城美智雄・蒲郡風太郎・西園寺世界・ルパン三世・次元大介・バラライカ・吾妻玲二・
       
と、刑事・警官キャラ優勢です。       
121 ◆uFyFwzytqI :2009/08/28(金) 23:53:05 ID:tu7C6Jm8
>>119

成人男性の平均歩行速度が約4kmなので、個人的には4キロ四方と思っています。
ただ、ゾンビがいるから円滑な移動は難しいと思うので、「書くときの参考にする」程度の目安に留めています。
122 ◆WB4ih.bmzelP :2009/08/29(土) 00:36:20 ID:OOKbEieY
綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!、福路美穂子@咲-saki-、を追加予約します。

>>114
彼の演じるジェームズ・ボンドを見ながら育ってきたので、これはうれしいです。
僕個人としてはあなたのことをこのスレッドのエース的存在という風に認識しています。
実際、書いているSSの数も抜きんでていますし。これからも期待しています。
123 ◆kMUdcU2Mqo :2009/08/30(日) 22:06:06 ID:HaSdvHn8
浦島景太郎@ラブひな
藤村大河@Fate/stay night
吾妻玲二@PHANTOM
ルパン三世@ルパン三世
ジェームズ・ボンド@007
を予約。
124 ◆7mznSdybFU :2009/09/01(火) 21:00:03 ID:+T78fvzu
予約の延長を申請します。
125 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/04(金) 15:01:10 ID:EhTQIGtG
予約します。
戦場ヶ原ひたぎ&阿良々木暦@化物語、次元大介@ルパン三世、両津勘吉@こち亀、バラライカ@ブラックラグーン、仁村@ドラゴンヘッド
126 ◆uFyFwzytqI :2009/09/05(土) 20:50:15 ID:AqQii2bv
投下開始します。
127サムライガール・サバイバル 1 ◆uFyFwzytqI :2009/09/05(土) 20:52:10 ID:AqQii2bv
 セント・マデリーナ島名物の美しい自然公園に囲まれて、ひっそりとたたずむペンションがあった。
 外見はB&B(Bed and Breakfast)スタイルの西洋風建築の宿泊施設で、部屋数は10部屋だった。
 普段なら、その優雅なたたずまいは来訪者を優しく迎え入れて、ゆったりとした気持ちにさせてくれた事だろう。
 だが、現在ペンションのロビーにいる人々の間には、そのような気配は微塵もなかった。

 (んー、こりゃ気まずいなんて月並みな表現じゃ到底追っつかないねえ。まるで冤罪で死刑判決を言い渡された被告みたいだよ) 
 千葉紀梨乃は似たような境遇でありながら、比較的落ち着いた様子で周囲を伺っていた。
 彼女の衣装は、キャミソールの上にカーディガンを羽織り、7部丈ジーンズというものだった。
 このペンションには紀梨乃も含めて、約20人がゾンビから逃れて避難していた。ほとんどが自然公園目当ての観光客らしい。
 テレビはさっきから警察発のライブ中継ばかり放送していた。ゾンビの群れと、必死に立ち向かう警官達が、交互に映しだされている。

 「ねえキリノ、これって現実なの? さっき襲ってきたアレってゾンビ? あたし達どうなっちゃうの?」
 紀梨乃の幼なじみにして親友(自信をもって断言できる)の桑原鞘子は、涙目になりながらすがるように言った。かなりの動揺が見られる。
 彼女は胸に自信があるのか、チューブトップに薄手のジャケット、そしてタイトジーンズと、やや大胆な服装だった。

 「うーん、そうだねえ、やっぱりゾンビ……だと思うよ。動きは鈍いし頭悪いけど、腕力があって人間を襲うっていう、ポピュラーなタイプの奴だね」
 「そんなぁ、あたし嫌だよ、死にたくなんかない。キリノ、怖いよぅ」
 「おーよしよし、泣かない泣かない」
 紀梨乃は赤ん坊をあやすように鞘子をなだめる。紀梨乃は鞘子に比べて、比較的落ち着いていた。

 (にしてもホント、サヤじゃないけど、どうなっちゃうだろうねー。あの時の福引って何か呪われてたのかなあ)
 紀梨乃はこの島に来ることになった経緯について回想していた。
 彼女と鞘子がセント・マデリーナ島を訪れるきっかけは、何気ない会話から始まった。

 いつものように剣道部の部活を終え、帰る時に鞘子が誘ってきたのだ。
 「ねえキリノ、商店街の福引券があるんだけど一緒にやらない? あたしってくじ運悪いらしくてさ、いくらやってもハズレばっかなのよ。
 キリノが引いてくれたら、ガラガラの引きも変わるかな〜ってね」
 「あー、お安いご用だよ、行こ行こ。ま、そんな変わるとも思えないけどね」
 そう言いつつ、紀梨乃が引いた時、「特賞 セント・マデリーナ島ペア1組2名様ご招待!」が当たったのだ。

 2人は思わず抱き合って喜んだが、同時に問題が発生しているのに気付いた。他の部員はどうしよう?
 彼女たちが通う私立室江高校の剣道部は、男子2人に女子5人、ついでに顧問が1人の、計8人の小世帯だ。
 部員同士の関係は和気藹々(わきあいあい)としたものだが、それでも「セント・マデリーナに行く」などとバレたら、一緒に行くとか何とか一騒動起こるだろう。
 結局2人の秘密で、家族に伝言だけ残して出発した。今頃大騒ぎかもしれないが、「一生に一度のチャンス(大げさ?)だし、思い切りはっちゃけよう!」と2人で決めたのだ。
 
 セント・マデリーナに着くと、ホテルのチェックインもそこそこに、外に飛び出していろんな所で遊び回った。遊ぶのに夢中で、ゾンビ発生に気付くのが遅れるぐらいに。
 紀梨乃達は幸いにもゾンビが同時多発的に(いつ、どこで?)発生した時、その場にいなかった。だからゾンビの発生原因は不明だが、いきなり襲われることも無かった。
 でも、もし「その瞬間」に立ち会っていたら、自分たちは何か出来ただろうか。もしかして、惨劇の火種を1つでも消せたのかも……。

 (なワケないかー。あたし達、剣道好きなだけの女子高生だし、サヤがテンパってそれどころじゃなかったよ)
 実際、ゾンビが人を襲っているのを見た時の、鞘子の反応は大変なものだった。泣くわ喚くわの大騒ぎで、1人で明後日の方角に逃げ出しかけた程だ。
 すんでの所で紀梨乃が鞘子の手を掴んで引き止めて、離れ離れにならずにすんだ。
128サムライガール・サバイバル 2 ◆uFyFwzytqI :2009/09/05(土) 20:53:57 ID:AqQii2bv
 それから後は必死だった。ヒステリー状態の鞘子をなだめたりすかしたりして、どんどん増えるゾンビの襲撃から逃げ回る一方だった。
 目印に乏しい自然公園を駆け回る内に、偶然このペンションを見つけた。幸い周囲にゾンビの姿はなかった、と思う。
 こんな時でも、屋根があるという安心感は何よりも耐え難い魅力がある。鞘子はゾンビがいるかどうかの確認もせずに、ドアを激しくノックした。
 「もしもし、誰かいますか。開けて下さい!」
 だが、ドアが開く気配はなく、中から口論が聞こえて来た。
 
 (もしかして、ゾンビと間違えられてる?)紀梨乃がそれに気付いた時、
 「あたし達はゾンビじゃありません! 本当です! 早く、早く助けて!」
 鞘子が必死に呼びかけると、やっとドアが開いた。開けたのは警官の制服を着た壮年の男だった。
 
 ……そして現在に至る。
 なぜ、地獄のような事態が島に襲いかかったのか? どれだけの人が不安を抱きながら、生き残っているのだろう。いや、生きて島を脱出できるかどうかも怪しい……。
 
 (うわ、思考がネガティブになってる。ま、考えてもしょうがないね、今はサヤの安全が大事だし。余裕があったら他の人達も助けてあげたいけどねー)
 紀梨乃は、まだ不安そうにしている鞘子と手をつなぎながら、取り留めもないことを思っていた。
 剣道部部長の紀梨乃は、普段から「みんなのため」を基準にして行動する事が多い。今も自分より鞘子や他人のことを気にかけている。
 もっとも、それは部長という肩書き云々より、本来の面倒見のいい性格がそうさせていた。

 ペンションの至る所からトントンカンカンと金槌の音が聞こえてくる。紀梨乃達が避難した後、ドアや窓などの出入り口を塞いでゾンビの侵入防止をする事が決まったのだ。
 ロビーに残っているのは、紀梨乃達を含む女子供8人だ。しばらくすると、金槌の音が止んだ。
 「よし、これで出入り口はすべて塞いだぞ。ゾンビも見当たらないし、しばらくは安全だ」
 警官を先頭に汗だくになった男達が板や金槌、釘を手にして入ってきた。
 
 「あ、どうもお疲れ様です。はい、どうぞ汗拭いて下さい。冷たい飲み物はいかがですか?」
 紀梨乃があらかじめ用意しておいた、冷やしたタオルと飲み物を差し出した。
 「おお、ありがとう。気がきくね」

 「いえいえ、大したことじゃありません。まだ冷蔵庫が使えたおかげですよ」
 「このペンションも他の施設と同様、太陽光発電を取り入れているからね。電気については心配いらないよ」
 ペンションのオーナーが汗を拭きながら気さくに答える。ロビーの雰囲気が少し明るくなった気がした。
 
 「そういえば、まだ君達の名前を聞いてなかったね。私はロバート・フォスター、当ペンションのオーナーだ」
 「初めまして、あたしは千葉紀梨乃といいます。よろしくお願いします。で、あの子が桑原鞘子です」
 紀梨乃はフォスターに鞘子を紹介する仕草をした。
 「あ、く、桑原鞘子です」 
 鞘子は慌てて立ち上がって挨拶した。身長170cmと日本の女子高生としては大柄な彼女だが、この中ではやはり低い方だ。
 もっとも157cmの紀梨乃に至っては、小学生と間違われそうになった。(この面子じゃ仕方ないけどねー)それを思い出して、紀梨乃は内心苦笑する。
 
 「2人ともよろしく。ところでテレビはどうなっている。状況は好転してるか? 警察署との電話はどうだった?」
 フォスターが警官に尋ねた。警官は眉間に皺を寄せる。
 「……駄目だ、今までと同じだ。応援を出す余裕はない、現場で持ち堪えろ、の一点張りだ」 雰囲気が再び重苦しくなった。
 
 「(ありゃりゃ、これはマズい。えーと、話題話題)あのー、何かあたしに出来ることありますか? あ、サヤは休んでていいよ。疲れてるでしょ」
 紀梨乃はフォスターに明るい口調で訊いた。同時に鞘子への気遣いも忘れない。
 「いや、特にないな。心配しなくても、ここにいれば安全だよ」 フォスターは気を取り直して言った。 
 「うん、キリノありがとう……」 鞘子は沈み込むように座り込んだ。
129サムライガール・サバイバル 3 ◆uFyFwzytqI :2009/09/05(土) 20:54:59 ID:AqQii2bv
 紀梨乃はフォスターを説得する。
 「まあまあそんな事言わずに、あたしもちょっと体動かした方が気がまぎれて良いんですよ。日本で剣道やってたし」
 「ケンドー? もしかしてサムライの技を現代に伝える、あの武術か?」
 「はい、日本の剣術です。カッコ良いですよー」
 紀梨乃は愛想良く笑った。
 
 「そうだったのか! 私はトーマス・クルーズの『ファースト・サムライ』を見て以来、日本のサムライのファンになったんだよ! いやあ、あの映画はいいね、感動したよ!」
 「ええ、ホントいい映画でしたねー(背景の自然が微妙に日本じゃないのが、少し気になったけど)」
 「そうと分かれば話しは早い」
 フォスターはいきなりロビーから出て行った。

 紀梨乃は呆気にとられた。
 「サヤ、今あたし何か変なこと言った?」 「いや、言ってないと思うけど……」
 すぐに戻ってきたフォスターは、二振りの日本刀を差し出した。
 「さあ、コレをプレゼントしてあげよう。以前日本の刀鍛冶に特注して作って貰ったものだが、存分に使ってくれ!」
 
 「(……! おお、これは良いチャンス!)ありがとうございます。これがあれば百人力です!」
 紀梨乃は2本とも受け取ると、「はいコレ、サヤの分ね」と1本を鞘子に渡した。
 「え、ちょっとキリノ、コレ重いよ」
 鞘子は戸惑っているようだ。普段部活で使う竹刀はせいぜい500g程度だが、刃渡り80cmほどのそれは1.5kgはありそうだった。
 
 「ま、本物だからねー。それよりサヤ、疲れてるかもしれないけど、ちょっと構えてみようよ」 「え?」
 言いながら紀梨乃は刀を抜かずに「んっ!」と中段に構えてみた。確かに少し重いが、慣れれば扱いに困るということは無いだろう。
 「ほらほらサヤも早く〜」 「わ、分かったわよ……」
 仕方なく鞘子も紀梨乃の隣りで構えてみせる。2人の予想以上に様になっている構えを見て、周囲から感嘆の声が漏れる。

 「どう、落ち着いた、サヤ?」 紀梨乃が優しく声をかける。
 「う、うん」
 鞘子は扱い慣れた道具――厳密にはかなり違うが――に触れて、自信を取り戻したらしい。表情が明るくなっていた。
 (良かった、サヤはかな〜り繊細だからねえ。まあ、回復力はあるから、キッカケさえ掴めれば元気になるのも早いし、それほど心配しなくていいけど)
  
 その後、警官とフォスターを中心に、籠城のための食料分配や、24時間態勢の見張りについてのシフトについて話し合った。
 また、フォスターの計らいで、ペンションに備蓄してあった防災グッズが全員に配られた。
 紀梨乃はフォスターを手伝いながら、ペンションを歩き回り、「万一」に備えて部屋の間取りや備品について、さりげなく把握しておいた。
 
 ――しばしの間、平穏な時が過ぎる。温かい食事も食べられた。今の紀梨乃や鞘子にとって、100カラットのダイヤモンドより貴重な休息が与えられた。

 しかし、彼女達が対策を練っている間にも、人の形をした破局は着々と迫っていたらしい。
 ロビーにいた紀梨乃達の耳に、階段を慌ただしく駆け下りる音が聞こえた。
 「あれ、見張りの人だ。何かあったのかなあ?」
 鞘子が呑気な口調で紀梨乃に話しかけた。とりあえず、いつもの調子に戻っている。
 「あったんだろうねー、このまま救助されるまで平和に過ごしたかったけど、儚い望みかな」
 紀梨乃は日本刀に向かって何やら作業をしていた。刀の鍔と鞘を下げ緒で結んで、抜けなくしている。
130サムライガール・サバイバル 4 ◆uFyFwzytqI :2009/09/05(土) 20:55:56 ID:AqQii2bv
 「キリノ、何でそんな事してるの?」
 「ちょっとしたゾンビ対策だよ。ああ、そんな怯えた顔しなくても大丈夫だって。いやさ、あたしたち剣道やってるけど、本物の日本刀なんて使ったことないでしょ? 
 ぶっちゃけうまく斬れるとも思えないんだよね。だからフォスターさんには悪いけど『重くて頑丈な竹刀』として使うつもりなんだ。多分この方が上手に扱えるから」
 「……そういうもんなの?」 
 「うん、そういうもんなの」
 鞘子の質問に、紀梨乃はオウム返しで答えた。まだ納得しかねる表情の鞘子だが、彼女の不安を上塗りするつもりで、紀梨乃は日本刀を握らせた。
 
 そこに警官達が深刻な表情で入ってきた。
 「みんな、落ち着いて聞いてくれ。ゾンビの群れがこちらにやって来る」
 「えっ!?」 鞘子の顔が青ざめる。
 「数はどれぐらいですか?」 紀梨乃は鞘子の不安を和らげるために、鞘子の肩に手をそえながら尋ねた。
 
 「最低でも50だ。心配無用、我々は必ず守ってみせる」
 警官は断言すると、男達に迎撃準備を指示する。彼等が打ち合わせ通りに持ち場につくと、「女性陣は子供をつれて2階に避難するといい」と言った。 
 「あたしも戦います」 紀梨乃は静かに立ち上がった。
 「それは危険だ、君も2階に行きなさい」 警官がたしなめる。
 
 「お役にたてる自信はあります。なんたってサムライガールですから!」
 爽やかな笑顔で、かなり恥ずかしいセリフを言ってのけた。それでも構わない、鞘子や他の人達を守るためなら、いくらでもアピールするつもりだ。
 「素晴らしい、まさにサムライの心がけだ! いいじゃないか、彼女なら立派な戦力になるぞ」
 フォスターが賛成した。
 「……いいだろう。ただし、くれぐれも無理はしないように」
 「ありがとうございます」 紀梨乃は深々と頭を下げた。

 「キリノ……」 「サヤ、女性陣はまかせたよ」
 正面玄関にドシンと重い物がぶつかる音がした。続いて窓ガラスが割れる音がする。
 「奴らが来た。畜生、殺されてたまるか!」 
 割れた所から入ってくるゾンビの手を殴りつけながら男が叫ぶ。
 
 本格的な攻防が始まった。ゾンビの侵入を阻止するため、彼等も可能な限りの手段を取った。扉は板の補強、窓はゾンビを直接攻撃で対処する事になっていた。
 バットやゴルフクラブなどで殴ったり、包丁や鉈を叩きつける。警官とフォスターは自前の銃――警官は拳銃、フォスターはライフル――を発砲した。
 紀梨乃は小手打ちの要領でゾンビの手を打ち据えた。手応えからすると、骨折させているかもしれない。

 序盤は比較的順調だった。ゾンビの襲撃は単調で、何のひねりも無かった。しかし、徐々に危険な兆候が表れていた。
 奴らは疲れを知らない。こちらがいくら撃退しても、懲りずにやってくる。銃で撃ち殺そうとしても、警官の拳銃とフォスターのライフルの2丁しかない。
 困ったことに、ゾンビは弾が命中しても簡単には死なない。頭部か心臓へ命中させる必要がありそうだった。

 反対に「こちら側」は疲労が貯まっていく。(こりゃかなりヤバい事になりそうだね)紀梨乃が不安を感じた時、どこかから絶叫がおこった。
 向かいの部屋で戦っていた男が疲れて息をついた瞬間、ゾンビに腕を噛まれたのだ。それを助けようと他の場所から応援が駆けつける。
 「待て、そいつは私が対処する。持ち場に戻れ!」
 警官が慌てて言ったが手遅れだった。1番脆くなっていた裏口が無人になっていた。そこにゾンビが体当たりしたらしく、裏口のドアが観念したように倒れてきた。

 「まずい、2階に退避しろ!」 
 警官が全員に呼びかける。噛まれた男は――ゾンビによって外に引きずり出されていた。断末魔の絶叫が聞こえてくる。
 紀梨乃は束の間目を伏せた。そして顔を上げ2階に駆け上がった。背後からさらに新しい悲鳴が聞こえてくる。何人か逃げられなかったようだ。
 2階では男3人が部屋からクローゼットを担ぎ出していた。殿だった警官がそれを見て「よし、そいつを食らわせてやれ!」と叫んだ。
131サムライガール・サバイバル 5 ◆uFyFwzytqI :2009/09/05(土) 20:57:07 ID:AqQii2bv
 男達は階段をノロノロと上がってくるゾンビに、クローゼットを投げつけた。それに巻き込まれたゾンビが数体、転がり落ちていく。
 それから何度もゾンビの襲撃を防いだが、投げつける物が減ってきた。男達の疲労はさらに貯まってくる。その間、紀梨乃は(申し訳ないが)休ませて貰っていた。
 「限界か、最後の手段を取るしかないな」
 警官が呟くと、最後の弾倉を交換してスライドを引いた。フォスターが頷いて、鞘子たちが隠れている1番大きな部屋のドアを開けた。
 
 (最後の手段?) 紀梨乃が事情が分からずに戸惑っていると、
 「体力がのこっている内にペンションから脱出する。窓から庭に下りるんだ」
 フォスターがペンションにいる全員(すでに14、5人しかいない……)に宣言した。
 「庭に? 一体どうやって下りるの!?」
 避難していた女性観光客の1人が素っ頓狂な声を上げる。年齢は50代、少し、もとい、かなり太っている。  
 警官の銃声が聞こえる。発砲の間隔が長い。慎重に狙って撃っているようだ。
  
 「この部屋に集めてあるベッドのマットレスや毛布などで即製のクッションを作ります。地面まで3mもありませんから、衝撃はそれほど無いでしょう」
 「そんなこと言って、もし怪我でもしたらどうするの!」
 女性はヒステリックに叫ぶ。
 さすがの紀梨乃も呆れた。そんな事を心配してる場合じゃないのが、分からないのだろうか。いや、そんな判断力さえも失っているのかもしれない。

 「議論している暇はありません。皆さん、手伝って下さい」
 「分かりました。サヤ、そこのマットレス持って」 「う、うん分かった」
 
 紀梨乃は中年女性に反論の隙を与えずに、鞘子に声をかけてマットレスを引っ張った。新製品なのか、思ったより軽い。すぐに男が1人手伝ってくれた。
 窓辺まで持って行き、窓を開ける。幸い庭にゾンビはそれほど居なかった。代わりにペンション内にかなり侵入しているのだろうけど。
 「よし、投げるぞ、そぉーれ!」
 男の掛け声で庭に放ると、ゾンビが1体下敷きになった。モゾモゾとうごめいていたが這い出してくる。
 「その調子だ。時間が惜しい、どんどんいくぞ!」
 フォスターが続いてマットレスを落とした。それからはバケツリレーのように立て続けに物が流れてきた。時折、液晶テレビや椅子をゾンビに投げつけて牽制する。

 そして、庭に大量の寝具や毛布などが散乱した。そこは一時的にゾンビの空白地になっている。
 「準備ができたぞ!」
 フォスターが警官に呼びかけた。「分かった」警官は答えて、行きがけの駄賃とばかりにテーブルを階段に蹴り落とすと、すぐに部屋にやって来て鍵をかけた。
 「おお、良い具合に散らばってるな。それじゃあ、私とフォスターがまず飛び降りてゾンビを蹴散らす。その間にみんな飛び降りろ。防災グッズを忘れずにな!」

 「ねえキリノ、他に方法はないの?」
 鞘子が心細げに紀梨乃に尋ねる。紀梨乃は安心させるように微笑んだ。
 「う〜ん、無さそうだねー。あれば良かったんだけど」
 紀梨乃は部活の時に身につける、長い水色のリボンで髪を縛った。よし、気持ちが引き締まった。
 
 「行くぞ!」
 警官が銃と金属バットを手に飛び降りた。一瞬膝をつくが、すぐ立ち上がり、ゾンビに向かって発砲した。続いてフォスターがライフルを持って飛び降りる。
 「おお、凄ぇじゃないかあの2人。もし生き残れたら勲章を申請してやろうぜ」
 1人の男が言いながら飛び降りて加勢した。さらに男女混合で数人が続く。その時、扉にゾンビがぶつかる音がした。
 「ちっ、ここもあまり保たないぞ、急げ!」
 残った男2人が扉を押さえながら、紀梨乃達に言った。
132サムライガール・サバイバル 6 ◆uFyFwzytqI :2009/09/05(土) 20:58:47 ID:AqQii2bv
 「キリノ……」 
 「サヤ、行くよ。大丈夫、あたしに続いて」  
 紀梨乃は1度だけ深呼吸する。次の瞬間、身を翻して1番柔らかそうな所に飛び降りた。
 楽な着地ではなかったが、クッションのお陰でかなり衝撃が和らいだ。素早く立ち上がり、日本刀を中段に構える。
 (怖くない怖くない、いつもの部活と一緒、相手が少し違うだけ)
 自分に言い聞かせて、1番近くにいたゾンビに向き合う。狙いを定め、右足を踏み出して、両手を内側に絞りながら剣先をゾンビのみぞおちに突き出した。
 現在の剣道では、胸突きはルール違反だが、ゾンビ相手に遠慮は無用、というよりそんな余裕はない。みぞおちを突くと、ゾンビが体をくの字にしてのけ反って倒れた。

 「キャア! あ痛たたたた」
 紀梨乃の横に鞘子が尻餅をつきながら着地した。
 「やっほーサヤ、よく来たね。残ってるのは何人?」
 紀梨乃はゾンビに視線を向けた訊いた。
 「えっと、5人、だったかな」

 「りょーかい! もう少し持ち堪えるよ!」
 紀梨乃はマットレスに登ろうとするゾンビの腹を突く。鞘子も立ち上がって中段に構えるが、まだ立ち向かう勇気が湧かないようだ。
 「キリノ、ごめん、あたしやっぱり怖い……」
 「んー、しょうがないねサヤはー、じゃあゾンビ見張ってて。あたしからは離れちゃダメだよ」

 などと台詞を交わしている内に、更に母子連れが飛び降りてきた。これで残っているのは中年女性と、男2人の計3人のはずだ。
 「急げ、後はアンタだけだ!」
 「ちょ、ちょっとあたしには無理。どうにかしてよ!」
 この期に及んで、中年女性はまだ渋っている。
 「どうにもなるか! さっさと降りうわあああっ!」
 男の絶叫とドアが破られる音が同時にした。中年女性の悲鳴が聞こえる。紀梨乃が見上げると、飛び降りようとした所を後ろからゾンビに噛まれていた。
 
 「これまでだ、我々だけで脱出するぞ」
 生存者は庭にいる十数人だけと判断した警官が宣言する。それだけではない、庭にもゾンビが集結しつつあり、ここに留まるのも限界だった。
 前衛と後衛を男達が務め、紀梨乃達女子供は真ん中を進む。

 だが、ペンションの庭から、市街地に至る道路に踏み出す瞬間、
 「ぐあぁっ!」
 前衛の警官が突然現れたゾンビと衝突した。思わず拳銃を落としてしまい、そこに別のゾンビが襲いかかる。
 反撃する間もなく、警官が噛まれた。さらに致命的なことに前進が止まってしまった。たちまちゾンビが群がってくる。
 殿でライフルを撃っていたフォスターも、弾切れの隙にゾンビ3体にのしかかられていた。
 
 「そんな……、キリノどうしよう!? このままじゃ殺されちゃう!」
 オロオロする鞘子を見て、紀梨乃は決断した。最悪でもサヤだけは助けたい。
 「サヤ、今からゾンビの群れを突破するよ」
 「え、ど、どうやって?」
 「あたしのリボンを目印について来て。他は何も見なくていいし、やらなくてもいいから、それだけは守って。約束だよ」 「う、うん」

 紀梨乃は残った全員に向かって言った。
 「聞いてください! あたしが先頭に立ってゾンビを蹴散らします。皆さんはその後に続いてください。いいですね、行きますよ!」
 言い終わるや、紀梨乃は走り出した。目の前のゾンビに続いて突きを繰り出した。続いて胴を叩き込む。ゾンビがよろめいて倒れた。
 チラリと後ろを振り返る。鞘子の他に数人がついてくるだけだった。他は反応する前に襲われたらしい。
133サムライガール・サバイバル 7 ◆uFyFwzytqI :2009/09/05(土) 21:00:38 ID:AqQii2bv
 「よーしサヤ、偉い、その調子だよ!」
 鞘子に声をかけながら、紀梨乃は出来るだけゾンビが少ない場所を選んで走り続けた。
 そして、無我夢中でゾンビの群れをかいくぐって、2人はようやく連中を撒くのに成功した。後は、駄目だったようだ……。
 (皆さん、助けてあげられなくてごめんなさい。今の私はこれが限界でした……) 紀梨乃の心に悔恨が残った。

 ――さすがに座り込んでしばらく肩で息をしていたが、ようやく呼吸が整って紀梨乃が鞘子に向き直る。
 「サヤ、大丈夫?」 
 「う……あ、ああ……」 頷きかけた鞘子の目が恐怖に見開かれた。
 「どうかした?」
 紀梨乃が鞘子の視線を追った先に、1体のゾンビがいた。距離は1mもない。

 「!?」
 咄嗟に立ち上がって日本刀を構えようとするが、両肩を掴まれる。振り払おうとしても、異様な怪力でどうにもならない。
 「ん、くうぅ……」
 苦悶の表情を浮かべる紀梨乃に、ゾンビが濁った目で紀梨乃を見つめ、赤黒い口を開けて噛みついてきた。
 紀梨乃が思わず目をつぶった時、
 「てやああぁーっ!」
 背後から掛け声が聞こえた。耳元をビュンと風を切る音がしたかと思うと、何かが潰れる音がして、肩の圧迫感が消えた。 

 「……?」
 紀梨乃が目を開くと、こめかみを砕かれたゾンビが仰向けに倒れていた。しばらく痙攣していたが、すぐに動かなくなった。
 「ハア、ハア、や、やった……キリノを襲うゾンビ、倒した……」
 鞘子が荒い息を吐いて、日本刀を突き出したまま立っていた。紀梨乃の安全を確認すると、力が抜けたのか、両膝をつく。
 
 「あ、ありがとうサヤー!」
 紀梨乃は鞘子に思い切り抱きついた。
 「キ、キリノ!?」 
 鞘子がうろたえたような声を出す。(おそらく)運動以外の理由で、顔が赤くなっていた。
 「ううー、やっぱりあたしは幸せ者だよ。人生最大のピンチで、助けてくれる友達がいるなんて!」
 
 鞘子は少しまんざらでも無さそうな顔をするが、すぐに落ち込んだ表情に戻った。
 「でも、やっぱりダメ。これだけゾンビだらけなんて、今頃島で生き残ってるのはあたしたちだけよ、きっと……」
 「そんな事ないって、まだ無事な人はたくさん残ってるよ」
 紀梨乃は元気づけようとして言ったものの、もちろん彼女にも確証があるわけではない。鞘子は半泣きになっている。
 
 (う〜ん、どういう風に言えばいいのかなあ……そうだ!)
 「サヤ、逆に考えるの。何が原因か分からないけど、いきなりゾンビにならずに済んであたし達は幸運だったんだよ。
 しかもゾンビ発生から今までの襲撃を躱せたんだから、二重に運が良かったとも言えるでしょ」
 「そうかなあ……」
 鞘子はまだ納得しきれていないようだ。

 (こうなったら奥の手、発動!)紀梨乃は片膝をついた状態で鞘子の頭を抱え込むと、自分の胸に抱きしめた。
 「ちょ、ちょっとサヤ!?」
 「ほらほら〜、サヤの泣き虫さん。今ならあたしの胸で思いっきり泣いてもいいよ。あたしが守ってあげるからねー。
 う〜ん、サヤの髪はいつもサラサラで良い匂いするねえ。何ならこのまま撫で撫でしてあげよっか〜?」
134サムライガール・サバイバル 8 ◆uFyFwzytqI :2009/09/05(土) 21:01:30 ID:AqQii2bv
 「……」
 (あれ? 反応がない)
 鞘子は無抵抗でされるがままになっていた。強ばっていた鞘子の体から、力が抜けていくのが感じられる。
 紀梨乃が何となく鞘子の髪を撫でてあげていると、鞘子の両腕が彼女の腰に回された。鞘子の成長した胸が、紀梨乃に腹部に押し当てられる。

 (ええー! これはまさかの百合展開!? ってかゾンビの警戒しないと)
 紀梨乃は慌てて周囲を見回す。ゾンビは見当たらないし、気配も感じられない。しばらくこの体勢が続いた。
 随分長い時間だったように紀梨乃には感じられたが、実際はせいぜい1分ぐらいだっただろう。鞘子がゆっくりと紀梨乃から体を離した。

 「ありがとうキリノ、あたし、もう大丈夫だから。キリノに抱かれてるとね、何だかとっても安心してきたの」
 さっきまでの不安そうな雰囲気は消えて、落ち着いた表情になっている。
 「そ、そりゃ良かったよ(百合じゃなくて、安らぎが欲しかったわけね……)。それじゃ、行こっか」 
 この状況であるはずのない展開を想像していたのを誤魔化す様に、紀梨乃は立ち上がった。

 「どこ行くの?」
 「とりあえず、無事な人を探そう。きっとどこかで生き残ってるよ、少なくともあたしはそう信じてる。そして、協力してゾンビに立ち向かって、島から脱出しよう」 
 「OK、その方針で行きましょ」
 鞘子も立ち上がると、歩き出した。軽やかなステップだった。

 (ポジティブスイッチが入ったかな。ま、サヤが元気になって何よりだよー)
 紀梨乃は鞘子の横に並びながら歩く。サヤ、一緒に日本に帰ろうね。


【D−06/ペンション近くの森/1日目・日中】

【千葉紀梨乃@バンブーブレード】
 [状態]:疲労(小)。前向き。鞘子を守る強い気持ち。
 [服装]:キャミソール、カーディガン、7部丈ジーンズ。
 [装備]:日本刀(刃渡り80cm、刀身と鞘を下げ緒で固定している)
 [道具]:防災グッズ(乾パン・缶詰×6食分、250ml飲料水パック×6)。日用品数種。携帯電話。観光用地図。
 [思考]
  1:サヤを守る。
  2:安全な場所を見つけて一休みする。
  3:無事な島の住民や観光客を助けて、協力し合う。
  4:サヤが元気になってよかったー。

【桑原鞘子@バンブーブレード】
 [状態]:疲労(小)。前向き。紀梨乃への依存。
 [服装]:チューブトップ、薄手のジャケット、タイトジーンズ。
 [装備]:日本刀(刃渡り80cm、刀身と鞘を下げ緒で結んでいる)
 [道具]:防災グッズ(乾パン・缶詰×6食分、250ml飲料水パック×6)。日用品数種。携帯電話。観光用地図。
 [思考]
  1:キリノについていく。
  2:安全な場所を見つけて一休みする。
  3:無事な島の住民や観光客を助けて、協力し合う。
  4:キリノ、ありがとね。
135 ◆uFyFwzytqI :2009/09/05(土) 21:02:39 ID:AqQii2bv
投下終了です。 予約状況
2009/8/21 ◆7mznSdybFU氏(延長連絡あり):鷹山敏樹、大下勇次@あぶない刑事。ブラックジャック@ブラックジャック。水原暦、滝野智、榊、神楽@あずまんが大王。
                     7人。期限2009/9/10まで

2009/8/25 ◆WB4ih.bmzelP氏(キャラ追加連絡あり):山田奈緒子、上田次郎@トリック。綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!。福路美穂子@咲-saki-。4人。期限2009/9/14まで

2009/8/30 ◆kMUdcU2Mqo氏:浦島景太郎@ラブひな。藤村大河@Fate/stay night。吾妻玲二@PHANTOM。ルパン三世@ルパン三世。ジェームズ・ボンド@007
                    5人。期限2009/9/13まで

2009/9/04 ◆ubyc5N5K3uqR氏:戦場ヶ原ひたぎ&阿良々木暦@化物語、次元大介@ルパン三世、両津勘吉@こち亀、バラライカ@ブラックラグーン、仁村@ドラゴンヘッド
                    6人。期限2009/9/17まで
136ムジカ・エクス・マキナ ◆WB4ih.bmzelP :2009/09/05(土) 23:51:24 ID:/HQT0Ne0
「おい待て上田!私を置いてくな!」
アメリカ合衆国西海岸沖に佇むリゾート地、セント・マデリーナ島。
その中心部に位置する商店街でそう叫びながらスキップのように走る貧乳の女がいた。
彼女の名前は山田奈緒子。自称超一流のマジシャンだが、
彼女がアルバイトで出演するテーマパークの手品ショーはいつも閑古鳥が
鳴き、そのためすぐに首を切られてしまうのだ。そのせいで家賃の支払いが
滞っているために大家のおばさんとはうまくいってない。
そして、その奈緒子に追いかけられている長身の男。彼の名は上田次郎。
日本科学技術大学の教授であり、幼い頃から数々の伝説を作ってきたとされる男だ。
科学的観点から、これまで数々のインチキ超能力者のペテンを暴いてきた
彼だが、その影には常に奈緒子の存在があり、上田も何かと付きまとう
奈緒子を疎ましく思いながらも結構信頼しているのだ。
所謂、腐れ縁という奴だ。さて、そんな二人が日本を飛び出し遠く離れた
観光地にいるのはもちろんれっきとした理由がある。
一月程前、上田の研究室に一通の手紙が届いた。差出人はかかれていなかった。
ふん、おおかたまた超常現象を解明してくれという類いの依頼だろう。
この多忙を極める日本科学技術大学教授、上田次郎はいちいち
構っていられないのだ。そんなことは警察に任せておけばいい、

的なノリで一応はその手紙を読んでみた。依頼者に恨まれるのも
ばつが悪い。読むだけ読んで、さっさと断りの連絡をくれてやるのだ。
ちなみに彼がそう考えて実際に断ったことは一度としてない。
手紙の文面は達筆な英語で書かれていた。どうやら海外からの手紙のようだった。
その手紙の内容はこうだ。
「最近、住民の一部が突然発狂して近所の人間を襲撃するという事件が
起こった島があります。その島はセント・マデリーナ島というのですが
観光地でこの事件を公に出来ずに困っています。そこで是非
上田次郎先生の優秀な頭脳をお借りしたいと思い、ご連絡差し上げました。
この手紙を見せれば上田先生を含め二人までVIP待遇を受けられるよう
ホテルに手配しておきました。では、ご来訪、お待ちしております」
137ムジカ・エクス・マキナ ◆WB4ih.bmzelP :2009/09/05(土) 23:52:47 ID:/HQT0Ne0
…ちょっとまて。私は物理学者であり生物学にはあまり詳しくないのだが。
そんなのは生物学者かあるいは精神科医の仕事だろう。
物理となんの関わりもないではないか。だが…このホテルでVIP待遇と
いうのは大きな魅力だ。自分を含めて二人までという話だが…
こんな時役に立ちそうな女が一人いるじゃないか。大方あのぼろアパートで
今も暮らしているのだろう。一人で行くのも寂しいものだ。
仕方ない。誘ってやろう。携帯電話を取りだし、アドレス帳から奈緒子の
番号を探し、電話をかけた。最近携帯を買ったと奈緒子から連絡があり、
丁度や行が一人もいなかったことから仕方なく登録してやったのだが…
これは同時に上田が初めて女性の番号を登録した瞬間でもあった。
初めての女性がよりによって山田とはなんたる不覚!まあいい、
これから私が世界的有名人になるにつれてどんどん増えていくのだからな。
そんなことを考えつつ、携帯の発信ボタンを押す上田。
TELLLLLL…ガチャ。

「おお、どうした上田。お前の方からかけてくるなんて珍しいな。
飯でもおごってくれるのか?私はカルボナーラと牛丼がいいな」
飯のことしか頭にないのかこの女は!だいたいカルボナーラと牛丼が
一緒においてある店などあるのか?まあいい、本題に移ろう。
「当たらずとも遠からず、と言っておこう。実は仕事で海外に行く
ことになってな。助手であるお前も一緒につれていってやろうと電話した」
「私がいつお前の助手になった!だが、海外に行くというのは初めてだな。
一人で行くと寂しいのが辛いっていうなら着いていってやるぞ」
お互いにお互いの上に立とうとするのがこのコンビの特徴である。
138ムジカ・エクス・マキナ ◆WB4ih.bmzelP :2009/09/05(土) 23:54:05 ID:/HQT0Ne0
「とにかく、今から車で迎えに行くから支度しておけ。
12時間後には外国の地を踏んでいるだろう」
「おい!?今から行くのか!それはまた急だな!?」
電話の向こうでギャーギャー騒ぐ奈緒子を尻目に上田はさっさと電話を切り
荷物をまとめそれを愛車「次郎号」のトランクに詰め込み奈緒子の
ぼろアパートへと向かった。車を走らせること一時間半、ぼろアパートの
前へとたどり着いた。既に奈緒子はやたらでかいトランクを両手に
ぶら下げて待っていた。上田は直感した。もしや、外国人相手に
あの小学生でもタネが解りそうなクソ手品を披露するつもりなのか?
恥をかくだけだからやめておけと忠告しようと一瞬考えたが
その方がいい薬になるだろうと思い直し、トランクの中身は
敢えて聞かないでおくことにした。奈緒子の前に車を止める上田。
後部座席にトランクを放り込み、助手席に腰かける奈緒子。
行き先は羽田空港だ。都合のいいことにあの手紙は飛行機のチケットの
引換券が二枚同封されていた。行き先はハワイ・ホノルル空港経由、
セント・マデリーナ島行き、となっていた。
「セント・マデリーナ島?どこですかそこ」
ハンドルを握る上田からチケットの引換券を受け取った助手席の
奈緒子は思ったことをそのまま口にした。
上田が説明する。
「アメリカ西海岸沖に佇む観光地でな。そこで一部の住民が発狂して
人を襲うと事件が起こったらしく、その調査を俺に依頼してきた。これがその手紙だ」
懐から件の手紙を取りだし、奈緒子に手渡す上田。
「あれ、この手紙差出人が書かれてないですね。まあでもどうせ
いつものようにインチキ超能力者がトリックを使って人を操ったんでしょう。
パパッと暴いて観光を楽しみましょうよ」
お気楽口調で話す奈緒子に上田は真剣な口調で返事をした。

「だといいがな。今回はどうにも嫌な予感がする。大勢の人が
悲惨な目に合う。そんな気がしてならないんだが」
真剣な口調、表情でそう語る上田に奈緒子もなにかを感じ取ったのか、
その後は何も言わずに無言の時間が流れた。そして一時間後。
羽田空港にたどり着いた二人はフロントにて先の引換券を職員に手渡した。
ホテルでVIP待遇と言うくらいだから飛行機は多分エコノミーで我慢してくれと
いうと思いきや、職員から手渡されたのはファーストクラスのチケットだった
139ムジカ・エクス・マキナ ◆WB4ih.bmzelP :2009/09/05(土) 23:55:40 ID:/HQT0Ne0
奈緒子は大喜びだったが上田はというと少しショックを受けていた。
何てことだ。私の人生設計ではファーストクラスに乗るのは
ノーベル物理学賞を受賞する時となっていたのにまさかこんな
半ばどうでもいい依頼のためにライフプランが前倒しになるとは。
などと考えつつ、上田と奈緒子は飛行機に乗り込んだ。
最近の不景気と言うこともあり、ファーストクラスの乗客は
上田と奈緒子の二人だけだった。やがてテイクオフの時を迎え、
飛行機は大空へと飛び立った。その後出された機内食を食べて
しばしの眠りにつくのだが…
意味不明の寝言を連発する奈緒子のせいで上田はなかなか寝付けなかった。
ようやく上田が眠りに落ちたのは奈緒子が夢も見ないほど深い眠りに
ついた時、2時間後だった。そして、眠りから覚めるとハワイ・ホノルル空港
到着一時間前とのアナウンスが日本語と英語で流れる。

再び意味不明の寝言を連発する奈緒子をゆり起こし、到着一時間前だと
言うことを伝える。それを聞いて奈緒子は目を擦りながら言った。
「一時間前ならも少し寝かせといてくださいよ…あと少しで
一キロステーキ完食できたのに…」
やはりこの女は飯のことしか頭にないらしい。呆れた顔で上田はトイレに行った。
それからしばらくしてハワイ・ホノルル空港に到着した二人は、
荷物をカウンターにて受けとると、セント・マデリーナ島行きの
小型機に乗り込んだ。一時間ほどのフライトを経て、二人が
セント・マデリーナ島の地を踏んだのはあの悪夢から29日前のことだった。

そして時間は冒頭に巻き戻る。あらかたの調査を終え、帰国の途に
就くことになった二人だが、奈緒子が土産を買いたいとだだをこね、
仕方なく上田もその買い物に付き合ったのだが、奈緒子があまりにも
買い物に迷っているので痺れを切らした上田は彼女を置いて一人で
ホテルに戻ろうとしたところを買い物を済ませた奈緒子が追走したところだ。
その後、ホテルのスィートルームに戻り、身支度を整える二人。
ここで上田がこれまでの調査結果を振り返る。まず上田が調べたのは
この島の歴史だ。その土地がこれまでどんな発展を遂げてきたかを
知ることはその土地を調べる上で必ず押さえておかねばならないポイントだ。
さて、その歴史だが19世紀末にアメリカ本土が現地のアメリカ人の保護を
口実に侵略を開始。圧倒的な物量と兵器にものを言わせて、
二月足らずで島を占領する計画だった。しかし…実際に占領が完了したのは
作戦開始から実に11ヶ月後のことだった。だが、上田が手に入れた資料から
解る情報はこれだけで、それと今回の事件の因果関係は解らずじまいだった。
続いて上田と奈緒子が調査にやってきたのは病院だ。襲撃されたというくらいだから当然被害者は負傷し、
入院しているのだろう。事件の当事者から詳しい話を聞くことにしたのだ。しかし、名前がわからない。
140ムジカ・エクス・マキナ ◆WB4ih.bmzelP :2009/09/05(土) 23:56:33 ID:/HQT0Ne0
そこで上田はフロントの看護師にこう尋ねた。
「看護師さん、ここ最近暴行事件の被害を受けて入院された方がいるはずですが、お見舞いに来ました。
入院している病室を教えていただきたいのですが」
しかし、看護師が口にした答えは二人に衝撃を与える内容だった。
「ああ、レオン・オドネルさんなら…お亡くなりになられましたよ」
被害者はすでに死亡していた。あまり詳しい話を聞くと疑われそうだったので二人はそのまま病院を後にするしかなかった。
となると…残るは警察だ。依頼主も言っていたとおりこの件を公にすればこの島へやってくる観光客は激減するだろう。

この島のウリの一つは治安のよさだ。
今回の事件を白日の下にさらせばこれまでこの島が誇ってきた様々なものが
水泡に帰すだろう。
上田と奈緒子も今回の調査のためにこの島に滞在し、この島があるゆる意味ですばらしい場所だと
いうことを実感していた。ならばマスコミ関係者という可能性がある以上住民に聞き込むのは得策じゃない。
マスコミというのはこの類の事件が起こったとき面白半分に取り上げて大勢の人間に迷惑をかけ、
「報道の自由」の名のもとに行ったと主張し何の責任も取ろうとしない。そんな連中にこの島を破壊させてなるものか。
それが上田と奈緒子の共通の見解だった。セント・マデリーナ島警察署に乗り込み、件の手紙を示し事情を説明する。
すると、応対した係員は今回の事件の詳細な資料を持ってきてくれた。禁退出であるために持ち出しはできなかったが、
事件の起こった様子などが事細かに記されており、今回の事件の解明に大変参考になった。
今回の事件の全貌はこうだ。某日未明、住人の一人が突如発狂、深夜徘徊していたところを通りかかった
レオン・オドネルさん(18歳)を襲撃。巡回中の警官がその現場を発見し逮捕しようとするも
抵抗を示した犯人を取り押さえようとしたところ、不自然な形に首が曲がったというのだ。
しかも、信じがたいことに犯人はそれでも向かってきたためにやむを得ず射殺したのだという。
自然公園付近で近隣に住居が少なく、しかも深夜ということでその事件が起こったことは一般人はほとんど知られてはいない。
犯人の死体を解剖した病院はこれを未知の奇病と判断し、ある医者にこの病気の解明を依頼したという。
原因が病気であるのならば物理学者である上田にできることは何もない。その医者に事後を任せ、この島を後にすることにしたのだ。
だが、この件を依頼してきたクライアントとは結局会えずじまいだ。
手紙に書いてあった通りVIP待遇を受けることは出来たが、依頼主は
この話をホテルに通すために当然このホテルを訪れる必要がある訳で、
フロントの係員なら知っているはずと聞き込んでみたが有力な情報は得られなかった。
何か釈然としないものを抱えながらも上田と奈緒子はこの島を後にするべく部屋の扉を開いた。
141ムジカ・エクス・マキナ ◆WB4ih.bmzelP :2009/09/05(土) 23:58:18 ID:/HQT0Ne0
上田と奈緒子が部屋をあとにしたまさにその時、ハヤテと美穂子は
ホテルの廊下にてゾンビの軍団と対峙し苦戦を強いられていた。
ハヤテのそのパッと見少女と見違える外見とは裏腹に彼の戦闘力は
並外れているのだが、いかんせんゾンビの数が多すぎる。
さらにまずいことに、今のハヤテには守らなければならない人がいる。
美穂子を守りながら圧倒的多数のゾンビと懸命に戦うハヤテ。
先ほどなぜか部屋にあった木製バットを見事に使いこなし、ゾンビの頭部目掛けそれを振り下ろす。
首の骨が折れ、脊椎を損傷して身動きが取れなくなるゾンビたち。
バット一本でゾンビの息の根を止めるのは相当な時間がかかる。
もとよりこの数だ。一体のゾンビに割ける時間など長くて5秒だ。
ならば、殺すことは出来ずとも首の骨を折り脊椎を切断し行動を
封じるというハヤテの頭脳プレーだった。自らの知恵とバット捌きを
駆使し、確実にゾンビを駆逐していくハヤテ。しかし、当初20体いたゾンビが残り5体までその数を減じたとき、
とうとうハヤテの息が切れる。しかし、それでめ美穂子を守ろうと
彼女の盾のごとくゾンビの前に立ちはだかる。しかし、そんなハヤテの勇姿を
あざ笑うかのごとくにゾンビはどんどんこちらに向かってくる。
美穂子だけでも逃がしたかったが、壁を背にしてしまっているために
それも叶わない。ハヤテの心臓はもうこれ以上動けないと悲鳴を上げ、
それは鼓動としてハヤテ自身に伝わる。
「もう少しだけ…頑張って…くれないかな…」
途切れ途切れの声で呟くが心臓は聞く耳を持たない。
ハヤテの服を震える手で握りしめる美穂子。その感触を受け、ハヤテの頭に
多くの人たちの顔が浮かぶ。ナギお嬢様、マリアさん、西沢さん、ヒナギクさん、
他にも三千院家の執事として働いてきた中で出会った多くの人達。そのみんなにもう二度と会えなくなる。
それは…嫌だ。そう思ったとき、頭の中のみんなが口を揃えてハヤテに言った。

「なぜベストを尽くさないのか?」
そして我に帰るハヤテ。そうだ。まだ僕はベストを尽くしていない。
心臓がどんな悲鳴を上げようが知ったことじゃない。
僕の主がナギお嬢様であるように君の主はこの僕だ。主の命は絶対だ。
諦めかけていたハヤテの瞳に熱い何かが蘇る。美穂子にはその姿が
物凄く頼もしく見えていた。そして、ハヤテがバットを構え、
ゾンビに突進したその瞬間、目の前のゾンビのうち2体が
横薙に吹き飛ばされた。何故かと状況確認するよりも早く、バットの
一閃をゾンビの頭に見舞っていた。これでハヤテが打ち倒した
ゾンビは16体。撃墜王も見えてきた。残り2体を片付けようと
その方向を向いたとき、既にゾンビは謎の二人組によって倒されていた。
「ありがとうございます。助かりました」
二人に歩み寄りながら礼の言葉をのべるハヤテ。しかし、二人は
それをそっちのけで口喧嘩を開始した。

「山田。お前もう少しコンパクトに振れないのかそのトランク。
勢い余って俺にまでぶつかるところだったぞ」
「そういう上田だってあの回し蹴りもう少しで私にまで当たるところ
だったぞ。だいたい、この訳のわからない怪物を階段から見たときに
真っ先に逃げようとしたお前に言われたくない!」
「まさか人が襲われているとは思わなくてな。君子危うきに近寄らず、
というやつだ。お前のようにただ猪突猛進するだけじゃ
これから先命がいくつあっても足りなくなるぞ」
「でも実際上田も入ってきたじゃないか。そんなこというなら黙ってみてればよかったのに」
「お前に死なれてしかもこの化け物の仲間入りなんてことになったら
寝覚めが悪すぎるからな。仕方なく加勢してやったんだ。ありがたく思え」
その後も口喧嘩が絶えない二人。その様子を苦笑いを浮かべ眺めるハヤテと美穂子。
「あ、あの〜…」
その口喧嘩を止めようと声をかけるハヤテ。すると若い女性と
長身の男は口論をやめ、ハヤテの方に向き直った。
142ムジカ・エクス・マキナ ◆WB4ih.bmzelP :2009/09/06(日) 00:00:37 ID:iRmu2dK3
「ああごめんね。少年少女よ、怪我はないかな ?」
明るい笑顔を浮かべその女性がまず二人に話しかける。
「ちょっと疲れましたけど大丈夫です。それより助けていただいてありがとうございます」
改めて二人に礼を言うハヤテ。美穂子もそれに続く。
「気にしないで。困っている人を助けるのは当然のことだから。
あ、私は山田奈緒子。超一流の手品師。よろしくね?で、こっちのでくの坊が…」
「誰がでくの坊…まあいい。俺は上田次郎。日本科学技術大学の教授だ。
よろしく頼む。あと、本を書いていてな。これも何かの縁だ。君たちに差し上げよう」
といって上田は鞄から取り出した本を一冊ずつ美穂子とハヤテに
手渡した。美穂子の本に書かれていたタイトルは
「日本科学技術大学教授 上田次郎の どんとこい!超常現象」
であり、表紙には上田本人が写っていた。苦笑いを浮かべる美穂子。
一方、ハヤテの本はというと、
「日本科学技術大学教授 上田次郎の 何故ベストを尽くさないのか?」
というタイトルであり、同じく上田本人が写っていたが、
ハヤテはその本の表紙をじっと眺めていた。何かの偶然か、
この本のタイトルは先程彼の頭の中で大勢の仲間たちに呼び掛けられた
台詞と全く同じものだということに気付く。偶然にしては出来すぎていた。

この二人に何か奇妙な縁を感じながらハヤテはゆっくりと口を開いた。
「ありがとうございます。あ、自己紹介がまだでしたね。僕は綾崎ハヤテ。
執事をやってます。そしてこちらが…」
「福路美穂子といいます。風越女子高校の3年生です。あの、よろしくお願いします」
自己紹介を済ませる4人。そして話し合ったのはこれからの行動についてだ。
「なるほど。事情はわかった。つまり下にいる君の仲間と合流したあと、さらに君の後輩3人も見つけ出し合流して態勢を整える、ということだな」
上田がこれからの行動を整理する。もし一人も死ぬことなく
合流することが出来れば人数は9人。この状況下において
この人数は頼もしく感じられるのだが、実際に戦えるのは
執事と言いながら見事な立ち振舞いを披露した綾崎ハヤテとそのガールフレンド?
の桂ヒナギク。聞くところによると彼女は剣道の達人らしい。
それとトランクを容易く振り回しゾンビを薙ぎ倒した山田奈緒子。
最後に通信教育で空手をマスターした上田次郎の4人だけだった。
しかし今は考えるよりも迅速な行動が先決だった。その3人の少女は
今もせまりくるゾンビに怯えているのかもしれないのだ。
「ヒナギクさんと池田さんが待ってます。早く行きましょう」
ハヤテのその言葉を皮切りに4人は再び歩き出したのだった。
143ムジカ・エクス・マキナ ◆WB4ih.bmzelP :2009/09/06(日) 00:02:16 ID:iRmu2dK3
【G‐04/ホテルの廊下/一日目・日中】

【上田次郎@トリック】
 [状態]: 疲れ・緊張などほとんどなし
 [服装]: 劇場版トリック2にてきていた服
 [装備]: 特になし
 [道具]: 大きめのリュックサック(調査資料・自分が書いた本・筆記用具・
パスポートなど)、携帯電話・手帳
 [思考]: 1、福路女史の後輩を探し出す
2、下にいる、綾崎少年の仲間と合流する
3、山田、死ぬなよ。
 [備考]:劇場版トリック2終了後の設定です。関係ない話ですが、上田が二人に渡した本は実在するのでよかったら探して読んでみてください。

【山田奈緒子@トリック】
 [状態]: 疲れ・緊張等ほとんどなし
 [服装]: 劇場版トリック2にてきていた服
 [装備]: 手品道具一式が詰まったトランクケース
 [道具]: トランクケース(手品道具一式)、パスポート・携帯電話
 [思考]: 1、美穂子ちゃんの後輩を探し出す
2、下にいる、ハヤテくんのお友達と合流する
3、上田、生きて帰るぞ。
 [備考]:劇場版トリック2終了後の設定です。

【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく】
【状態】やや疲れ・緊張などほとんどなし
【装備】木製バット
【服装】ハヤテのごとく!の執事服
【所持品】旅行用の道具一式 (着替え・洗面用具・携帯電話・パスポートなど)
【思考】
  基本:ヒナギクさんと合流してから、この人(福路美穂子)の後輩を探す
  1:この偶然、なんなんだろう?


【福路美穂子@咲-saki-】
【状態】疲れ・緊張などまったくなし
【道具】特になし
【装備】特に無し
【服装】制服
【所持品】無し
【思考】
  基本:皆で無事に島から脱出する
   1、面白い人たちですね。山田さんと上田さん。
144創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 01:27:51 ID:DWcO/ECg
二人とも乙
145創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 23:41:45 ID:HRFlFdj3
ハヤテはアウトじゃね?
146創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 00:07:14 ID:aKeJsBo/
ぎりセーフっしょ
147創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 06:54:48 ID:RtmGJ1jh
ところでこれって実在の人物とかもOKなの?
例えばお笑い芸人とかタレントとか
148創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 07:58:08 ID:52QQkcsv
>>145
ハヤテは普通の人より体力があるぐらいだから大丈夫かと
>>147
>>1に漫画、小説、アニメってあるからダメだと思う。しかし、実在の人物でも映画で創作されたキャラクターを演じてるなら、その演じてるキャラクターをだせば問題はないとは思うな。
149創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 10:05:47 ID:LstCq/zF
議論時に実在の人物はNGという結論が出ていますよ^^
(実写はOK)
150創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 11:56:09 ID:+G+AQMC/
442 :Trader@Live!:2009/08/17(月) 19:03:56 ID:iMtm0Mqi
>>394  なるほどー。
今も騒いでる香具師が、なんで児童ポルノ規制法案がでてきたのか、その目的を勘ぐってくれればいいんですが。
自民党と民主党じゃ、児ポ法を打ち立てる目的が全く違う。

民主党のバックには中共・韓国がいるが、この二国、二次元文化(アニメ・漫画・ゲームetc)が金になることを知ったんだよな。既に日本の輸出産業の一角を担うって麻生総理も言ってたし。
だから、民主党を通して二次元文化を規制する。今は商業ベースだけかもしれないが、将来のクリエイターを育てる土壌となる、一次二次創作も規制するかもしれない。

自民党が児ポ法たてた理由の一つに、北朝鮮利権があるんだってな。
安倍総理や麻生総理がクスリやらパチンコやらサラ金やら、北朝鮮利権をシメてる間に、北朝鮮の連中が児童ポルノ作って売りさばいてたらしい。
児童を護るのも大事だが、北とそれに群がる汚物も一緒に排除する気だよ、自民党は。
---------------
>北朝鮮の連中が児童ポルノ作って売りさばいてたらしい
これはプチエンジェル事件とか、ヒルズでも噂される児童売春との繋がりのことかもね。
151創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 21:20:22 ID:GsPXEdVh
ちなみに最新SSで登場人物は、上限の60人になりました。
152 ◆dAC3Tv9pFY :2009/09/09(水) 20:47:05 ID:2YFP6EHJ
西園寺世界@SchoolDays
結城美智夫@MW
賀来巌@MW
南空ナオミ@DEATH NOTE
一樹守@SIREN2
予約します
153創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 19:45:36 ID:b9rcZxjg
>>152
FBI捜査官と凶悪犯罪者がどんな立会いを見せてくれるのか期待です。
154邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/10(木) 23:54:23 ID:m8scyNhA
 島の市街地のほぼ中央に位置する巨大ショッピングモールは、今から7年ほど前、島の行政府が大々的に打ち出した観光
産業強化政策を受け、某世界的製薬企業が巨額の資金と政府からの補助金を投じて作り上げた複合商業施設だ。当初、その
あまりの大きさに住民からは「カネの無駄遣い」「閑古鳥が鳴くのが落ちじゃないか」などと経営を危ぶむ声が少なく
なかったが、本土にもあまり見られないほど多種多様な店舗が充実していたことから、マスメディアに何度か取り上げられ、
今では島の観光の目玉の一つとなっている。
 建物は東館と西館に分かれており、南から北に向かって鳥が翼を広げたような逆ハの字型に建てられ、その間には噴水
広場が造られている。
 その東館に、悪化する状況を食い止めようとする3人の男たちがたどり着いた。

 物音一つしない静まり返ったモール内を、鷹山ら3人は慎重に進んでいく。天窓や側面のウィンドウから燦々と夏の日差
しが降り注ぐが、辺りに漂う血臭と所々に倒れている死体が空気を澱んだものにしている。モール内の店舗は、日本人の
彼らでも一度は訊いたことがあるような有名ブランドやチェーンのものがほとんどだ。誰もが知っている高級ブティックの
マークが店先で輝き、CMで話題の玩具屋のマスコットキャラクターが愛嬌ある笑顔で客を呼び寄せようとしている。だが、真っ白なタイルの床に死体と血がまだら模様を作っている光景がその印象を不気味なものに変えてしまった。3人とも職業柄
死体を見ることには慣れているが、これだけの数の死体を見ると流石に暗澹たる気分にさせられる。

「見ろよタカ、ここにある死体全部頭がブチ抜かれてる。ここの警察の連中、かなり頑張ったらしいな。キッチリ後始末し
てくたぁいい仕事しやがる」

 賛辞とは裏腹に大下の表情は硬い。頭部に銃創のある死体は年端の行かない子供や警察官のものもあった。撃った人間は
その瞬間に何を思ったのだろうか。

「汚れ仕事はキツかったろうな、同僚の死体にまで穴開けなきゃならなかったんだ。本当に胸クソ悪い事件だぜ」
「ああ、しかし警官の死体があるっていうのは不味いな。ただでさえ少ない戦力がさらに減ったわけか、武器を調達したら
さっさと警察署に向かったほうが良さそうだ。先生、ついて来てるか?」
「私の心配なら不要だ。それよりも急いだ方がいい、分かっている限りゾンビは視覚ではなく嗅覚や聴覚を頼りに行動して
いる。夜になってしまえば人間の方が不利だ」
「暗がりの方が奴らにとっちゃ過ごしやすいってのかよ、痴漢みてぇな連中だな」
「痴漢ならまだ可愛げがあるんだがな……」

 周囲を警戒しながらモールの中央へ向かう。このモールは観光客をメインターゲットにしているだけあって、周辺には観光客を
目当てにした商業施設が軒を連ねている。道路は綺麗に整備され交通に支障はない。逆に言えばゾンビの餌である人間が多く集まり、
その移動を妨げるものがほとんどないということでもある。もたもたしているとゾンビに囲まれてもおかしくはない。足早に奥へと進む。

 閉め切られたモール内に風は吹かない。
 外の風にあおられ揺れる椰子の木の影を除けば動いているものは彼らだけだ。華やかな人工物に囲まれながら、全く生の
気配がしない、悪夢のワンシーンの様な光景だ。
 修羅場慣れした彼らだからこそ冷静さを保っていられるが、何の心構えもしていない常人がここにいればそれだけで精神
の平衡を欠いたかもしれない。
155邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/10(木) 23:55:48 ID:m8scyNhA
「以前に来た時は賑やかだったのに、今はこんなシュールな場所になっちまうなんてな」

 呟いた鷹山の視線の先には無人の中央ホールがあった。サービスカウンターには当然誰もいない。

「確かにな、俺たちもグズグズしてるとそのシュールな風景のシミになっちまうかもな。けどいくらなんでも静か過ぎやしないか?
誰か一人ぐらい生きてる奴がいても良さそうなもんだけどな」
「いや、生存者は残っていたようだ、あれを見ろ」

 ブラックジャックの指し示した方向は、ウインドウの外、モールの西館だった。距離があるためよくは見えなかったが、
目を凝らすと入り口付近にバリケードを組み立てているいくつかの人影が見えた。バリケードはすでに大人の背丈ほどまで
積み上げられている。急ごしらえである以上、万全には程遠いだろうがあれなら多少の衝撃には耐えられそうだ。

「生き残った連中はもう向こうに集まったのか。ま、ショッピングモールに立て篭もるのはゾンビ物のお約束だしな」
「俺たち完全に出遅れてないか? 早いとこガンショップを探そうぜ」

3人はホールの案内板を見る
1F――――本屋、レコードショップ、電器屋、薬局、ブティックetcetc……
2F――――文房具屋、スポーツ用品店、アウトドアショップ、ガンショップ……

「ビンゴ! なあ、俺の言ったとおりだったろ。やっぱ俺の日頃の行いが良いせいだな」
「日頃の行いってのは女泣かすことか? 西館にあるのはスーパーマーケットにフードコートか、あいつら食料を抱えて救助を待つ
つもりらしいな、一理ある」
「だがおそらく丸腰で篭城するつもりはないだろう。私たちよりも先にガンショップの銃を持ち出されている可能性もある」
「本格的に出遅れてるな俺ら、急ごうぜ!」

 危険を冒してまで寄り道をしたのに収穫なしでは救われない。彼らは案内板にある階段へと駆け出した。



「なんだよ、本場のガンショップなんだからもっと凄いマシンガンとかバズーカとか期待してたのに案外普通だな」
「離島のガンショップなんてこんなもんだろ。とにかく使える銃と弾が手に入ったんだ、贅沢言うのは無しにしようぜユージ。
先生、あんたは銃を扱えるのか?」
「ああ、いくらか心得はある」
「そいつは結構、どこで覚えたのかは訊かないでおく」

 モール二階の端に店舗を構えていたガンショップは、大下が文句をこぼしたとおりそれほど規模の大きいものではなかった。
店の持主はウエスタンマニアらしく、店内の壁や天井は木目調で覆われ、まるで西部劇に登場するバーのようだ。
ショーケースに並んでいる銃はほとんどが狩猟用か護身用の散弾銃やライフル、拳銃で、突撃銃のような威力と連射力に優れる銃
は置いていない。セント・マデリーナ島の規模を考えれば平時はこれで十分なのだろうが、島にゾンビが溢れかえる現在の
状況ではやや心許ない。
156邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/10(木) 23:56:35 ID:m8scyNhA
 店内のケースのいくつかは割られ、銃が持ち出された形跡があるがその数は多いものではなかった。銃が多く残っているのは
ありがたいが、同時にそれは持ち出した生存者の数が少ないということでもある。この付近が危険であるということに変わりはない。
 357マグナム弾のケースをカウンターに並べながら鷹山がブラックジャックの方を見やると、自己申告の通り危なげない
手つきで散弾銃に弾をこめている。どこで技術を習得したのか、謎の多い闇医者だ。

「タカ、ちょっと来てみろよ」

 外に面したウインドウから表の様子を窺っていた大下が呼びかける。その場所へ向かうと、そこはちょうど噴水広場と西館
の入り口が見下ろせた。その西館の入り口に4人の若い女がいる。声はここまで届かないが身振り手振りで西館の中にいる
誰かに何かを訴えているらしい。

「新手のストリートパフォーマー、じゃあ無いよな。多分避難してきたんだろうが……」
「それにしちゃ様子がおかしくない? 中に入れねぇみたいだし」

 突然、彼女たちの動作があわただしいものになる。彼女たちの視線を追うとゾンビの一団が噴水広場の端に差し掛かって
いた。にもかかわらず西館の扉はいまだに開く気配はない

「ちょっとちょっとヤバいんじゃないの!?」
「本気で閉め出すつもりか!? 行くぞユージ!」





「お願いします入れてください!」
「頼むよ邪魔にはならないから!」
「今からバリケードを除ける時間なんかあるか! 他所に行け!」

 うず高く積まれたベンチやテーブルの向こうから血走った目の男が唾を飛ばす。
 人の集まりそうな場所を目指して移動するというのが、当初暦たちが立てたプランだった。特殊な訓練を受けたわけでも
ない彼女たちが生き残る可能性を探るなら、自分たち以外の誰かと協力するほかない。いきなり自分たちのいた日常が、
乾ききったまま放置された紙粘土のようにぼろぼろと崩壊していく中で、必死にゾンビの襲撃を時にかわし時に退けながら、
粘り強さとチームワークでどうにかここまで無事たどり着いたが、まさか助けを求めた人間に突き放されるとは思ってもみ
なかった。

「ヤバいもうそこまで来てるよ!」

157邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/10(木) 23:57:41 ID:m8scyNhA
 智が上ずった声で叫ぶ。ゾンビたちは噴水広場の中にジワジワと侵入していた。その数ざっと50以上、あんな数はとても
自分たちの手に負えるものではない。暦はパニックになりそうな頭を無理やりに鎮める。鎮めたと思い込む。とにかく逃げ
なければいけない。でもどこへ? 今までの強行軍で体力はともかく精神的に限界が近い。この近くで人が集まりそうな場所
は警察署だが、そこまでたどり着けるのか自信がない。観光ガイドだけを頼りに不慣れな土地をさまようのは彼女たちの精神を
大きく磨耗させた。
 仲間たちを見ると榊は青褪めた表情で散弾銃を持ち上げた。抗戦の覚悟を決めたらしい。智と神楽はまだなかの人間に食
って掛かっている。中には男のほかにも10人程度の人間がいたが、誰も暦たちに手を差し伸べようとするものはいなかった。

「何でだよ私らが死んでもいいっていうのかよ!?」
「うるさい!」

 パァンと発砲音が響いた。暦は榊が撃ったのかと思ったが、榊は強張った表情でモールの方を向いているだけだった。
さかんに叫んでいた智や神楽も絶句している。
 銃を撃ったのはモール内にいた男のほうだった。正気と狂気のギリギリの境にいるような獣の表情で拳銃を天井に向けて
いる。その銃口から紫煙が立ち上っていた。
 
「これ以上ゴネるんならこっちにも考えがあるぞ、入ってこようとしたらその時は……」

 その先を言葉にしない程度の羞恥心は残っていたらしい、暦たちにとっては何の救いにはならなかったが。
 暦の頭の中からはショックで一切の感情が抜け落ちていた。一種の諦めに近いものかもしれない。分かったことはここに
いても仕方がないということだった。足が自然と後ろへ下がる。胸中で必死に挫けそうな自分を叱咤した、これからまたゾンビ
たちの中を突破しなければいけないのだから。鉛のように重く感じる足を引き摺り扉から離れようとする。

「こっちだ!」

 その声は力があった。美しいわけでも威厳に溢れているわけでもなかったが、うつむいていた彼女たちが顔を上げる程度には。
 サングラスをかけた二人の男性が反対側の建物から駆け寄ってくる。

「向こうの建物まで走るんだ! 速く!」

 聞き終わる前に全員の足が動いていた。残っていた全ての力で走り出す。

「ユージ! 援護だ!」
「っしゃあ! やったろうやないけぇ!」

場違いなほど明るい声と立て続けに響く銃声に押されるようにひたすらに走る、走る、走る!
 あと少しというところで疲れがたたって足がもつれた。バランスを崩し石畳が眼前に迫る、が転倒の直前で誰かに支えられた。
黒いマント姿の男性が暦の体を支えていたのだ。顔面に縫合痕が走り、殺し屋のようにも見える風貌だったが不思議と恐怖
は感じなかった。
158邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/10(木) 23:58:28 ID:m8scyNhA

「振り向かずに走るんだ!」

 男性に叱咤され、自分でもこんな力が残っていたのかと思うほどの力で走った。モール内に飛び込むと、後ろから銃を
撃っていたサングラスの二人が駆け込んできた。マント姿の男性が素早く施錠する。
 走りすぎて心臓が破裂しそうに痛い、仲間たちを見ると皆無事だったことが確認できた。智が床に這い蹲ってあえいでる以外は。

(ゾンビは!?)

 追いかけてきたはずのゾンビたちは、なぜか彼女たちを見失ったかのように強化ガラスのドアの前をうろうろしているだ
けだった。こちらに気づいているのかいないのか、時折ガラスを叩くがそれ以上の行動はしてこない。

「これで全員か、しかし何でこいつらは急におとなしくなったんだ?」
「おそらく臭いが途切れて私たちの居場所を知覚できなくなったんだろう。これは仮説だが、ゾンビは蚊と同じように動物
の汗の臭いで獲物を探し当てている。だが人体の構造上、ゾンビはイヌのような鋭い嗅覚は持ち合わせていない。この建物
は比較的密封性が高いようだからそのせいもあるだろう。なんとなくこちらの方に人間がいるらしい、程度の認識はあるが
確信が持てない、といったところか」

 サングラスの男性の問いにマントの男性が答える。何がなんだか分からないがひとまず安全ということなのか。はっきりした確証がもてず戸惑う暦たちの前に、サングラスの男性たちがやってくる。

「大丈夫か? 女の子にはちょっとばかりハードな状況だったがよくがんばったな」
「ここに医者もいるし、後はお巡りさん達に任せてゆっくり手当てしておいで」

お巡りさん。
 つまりこの人たちは警察官らしい。
 そう分かった瞬間、安堵のあまり暦はその場にへたり込んでしまった。



「とりあえず、夜用に明かりの類と、あとはロープかなんかありゃいいのか? どうでもいいけど夜用っていうとちょっと
響きがいやらしいよな」
「お前は中学生か? リュックサックは欲しいな、銃が使えるように両手はフリーにしときたい」

 出会った少女たちの治療をブラックジャックに一任し、鷹山と大下はこれから必要になりそうなものをアウトドアショップ
で物色していた。島全体が混乱している以上、ここ以外で補給できる保証はないのだ。出来るだけの準備はしておきたかった。
小さな山が出来るほどの物資をカウンターに積み上げていく。犯罪者相手の捜査なら自分たちはプロだという自負があるが、
サバイバルとなると少々勝手が違う。いくら用心しても用心しすぎるということはない。

「にしてもこれは多すぎない?」
「やっぱり?」
159邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/11(金) 00:00:10 ID:m8scyNhA
 などとやっていると治療を終えたブラックジャックがやってきた。

「よう先生、健康診断の結果はどうだった?」
「全員軽症、ゾンビ化の心配もない。精神的な疲労については専門外だからなんとも言えんがね」
「ゾンビ化ね、噛まれればゾンビになるっていうのは本当なのか」
「ゾンビの体液は非常に危険だ、血中に入ればきわめて高い確率で感染する。正直この感染力は異常としか言いようがない。
致死率の高さもエボラウイルスと同等かそれ以上の危険性がある。ラクーンシティで起きたアンブレラ事件と非常に酷似しているな」
「そんなやばいモンを抱えた連中が千人単位でその辺をうろついて人間を襲いまくってるわけか。たまんねぇな」
「手洗いうがいで防げるレベルじゃないしな、治療法はなんか無いのか先生?」
「残念ながら現時点では無い。だが院長が生前公衆衛生局にサンプルを送っていたと聞いている。もしかするとその結果が
病院の方にメールか何かの形で届いているかもしれない。その内容次第では何らかの対策が取れるかもしれないな。できれば
確認しておきたいところだ、余裕があるならあんたらも付き合ってくれ」
「ちょっと待て、そこまでお前に尽くすほど俺たちがお人よしに見えるか?」

その問いかけにブラックジャックはニヤリと笑う。

「いいや、だが私を助けるのも職務のうちなんだろう? 私個人としては強制はしないがね」
「ハァ……、ま、病院の方の避難誘導もするつもりだったからべつに構わないが、えらい医者に出くわしちまったもんだ」
「ここまでサービス過剰な警官は俺たちぐらいのもんだな。サービスついでにスープとサラダもお付けしましょうか?」
「それは遠慮しておこう」
「そういえば腹が減ったな、昼を抜いたままだった」
「西館にいる連中は腹いっぱい食ってるんだろうなぁ、バカヤロー!」

3人はウインドウから噴水広場と西館のほうを見る。噴水広場には先ほどよりも多くのゾンビが集まっていた。西館の方
からはかすかな銃声とマズルフラッシュがここまで届いてくる。ゾンビを撃退するつもりらしい。建物の角度からこちらに
弾が飛んでくる可能性は低いが、2,3体のゾンビが倒れているだけでとても成果が上がっているとはいえない。

「どうするタカ、あの子達を見捨てたお仕置きついでにいっちょ殴りこみにいって食料ぶんどってくるか?」
「それはおもしろそうだが、途中にいるゾンビが邪魔だな。向こうにいる連中がもう少し数を減らしてくれるのを待った
ほうがいいな」
「……警察の言う台詞とは思えないな」
「あんたが言えたことじゃ……待て、あの子達はどこ行った?」

少女たちを待たせていたはずのガンショップ前には誰もいない。まさかゾンビで溢れかえるモールの外に自分たちから出
て行ったとも思えないが、精神的に衰弱していたのなら何かとんでもない行動に出てもおかしくはない。

「まずいな、ヤバいことにならなきゃいいが」
「俺は二階を探すからタカは先生と下を――」
「あ、いたいた。鷹山さーん、大下さーん、せんせー」

 声は階段の方から聞こえた。3人が振り向くと少女たちがダンボール箱を抱えてこちらにやってくるところだった。4人
ともいたって元気そうで、特に取り乱した雰囲気もない。心配は杞憂ですんだようだ。リーダー格の暦に声を掛ける。

160邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/11(金) 00:01:10 ID:BHMWHSCV
「ここで待っててくれっていっただろう、どこに行ってたんだ?」
「食料を探しに行ってたんです。ブラックジャック先生がさっき朝から何も食べていないって行ってたので」
「食料? 東館には飯屋もスーパーもないんじゃないのか?」
「なんだ鷹山さん知らないの? 薬局に普通にカロリーメイトとかペットボトルとか売ってますよ」

 神楽が横から口を挟む。
男3人は顔を見合わせた。薬局=医薬品というイメージしかなく、そこで食料を探すという発想が無かったのだ。この辺
りは女子高生の方が一枚上手らしい。

「どう? 私らも役に立つっしょ?」

 智が胸を張る。
 思わず苦笑する男3人。ダンボールの中を覗くと確かに様々な健康食品やペットボトルが入っていた。大下が栄養ドリンク
を一つ取り上げる

「確かにこいつは助かるわ、最近の女子高生はいろいろ知ってんだな」
「当然、特によみにダイエットサプリは必須アイテムだし」
「……智、お前シメっぞ」
「いまさら隠したってバレバレだっつーの。知ってるぞー、脇腹が軽くヤバイんだろ? こないだも学校帰りのコンビニで
ダイエットフードの棚ガン見してぐえええええええぇぇぇぇ」

 現職の刑事から見ても鮮やかなチョークスリーパーが決まる。

「ちょ、ギブギブ!」「お前はいっぺん痛い目見とけ!」「いや死ぬからこれ私死ぬから!」

そののどかな光景に全員が笑った。
実にいいチームだと鷹山は思う。彼女たちだからこそここまで生きてたどり着けたのだろう。

「あの……鷹山さん、大下さん」

 今まで一歩引いた場所に立っていた榊が声を掛けてくる。その瞳にはどこか思いつめたような光が浮かんでいる。
その手に握られた散弾銃を見て、彼女が何を求めているのか大体の察しはついた。

「銃の使い方を教えろ、か?」
「……はい」

 波が引くように笑い声が静まった。榊のあとを追うように次々に少女たちが身を乗り出してくる。

「わ、私も!」
「お願いします!」
「自分の身ぐらい自分で守れるようになりたいんです!」

161邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/11(金) 00:04:34 ID:BHMWHSCV
 必死に訴える少女たちはひとまず置いておいて、二人は視線を榊に戻す。日本人の平均を上回る身長の持ち主で、見たと
ころ筋肉のつき方も悪くはない。彼女が素人にもかかわらずある程度散弾銃を扱えたのはその辺りが理由だろう。
 だが、素人が銃を持ったところで命中率は高が知れている。おそらく5メートルも離れれば狙った場所に命中させるのは
無理だろう。動きが鈍いとはいえ、相手が動き回るゾンビならなおさらだ。誤射の可能性も考えれられる。普通ならとても
認められる話ではない。ないのだが――
 鷹山は相棒を振り返る。

「お前はどう思う?」
「んー? ま、この際しょうがないやな」
「マジで!? やった大下さん話が分かる!」

喜ぶ少女たちとは反対にブラックジャックはあきれ声をあげた。

「そんなに簡単に決めていいのか? 民間人に銃を渡す警察官など聞いたことがないぞ」

 もっともな台詞ではあるが、生憎この二人は模範的な警察官とは程遠かった。

「それはそうなんだけど、女の子が腕力だけで切り抜けるのはちょっとキツい状況だし、第一民間人云々なんて言ったら先
生まで追及しないといけなくなるじゃないの、ねぇタカ?」
「もちろん、法を守る警察官として当然のことだな」
「やれやれ、一理あるにはあるが……えらい刑事に出くわしてしまったもんだ」
「じゃあ私コレ!」

智がケースの中からコルトガバメントを取り出す、が

「おっと、そいつは没収〜」

 大下が横から取り上げてしまう。

「え、なんで?」
「初心者には45口径は無理、使うならこっちにしなさい」

そう言って大下が取り出したのは小型の回転式拳銃だった。

「えー、なんか弱そう……」
「誤解するな、俺たちが君らに銃を持たせるのは戦わせるためじゃない、あくまで護身のためだ。まずゾンビにあったら逃
げることを考えろ。銃は最後の手段だ、賭けてもいいが君たちの腕じゃまず動く標的には当てられない。俺かユージの許可
が出るまでは触るな。警察署についたら向こうの警官の指示に従うんだ。それが出来ないならこの話は無しだ」
「それにこんな小さな銃でも当たれば人が死ぬんだ。もし間違えて君の友達に当たったら……分かるだろ?」
「う……」
「智、あんまりこの人たちを困らせるな」
 暦の声に智はようやく引き下がった。
 鷹山たちにも不安はある。だが彼女たちが本当に追い詰められた時、何も出来ずにむざむざと死を待たせるようなことに
はしたくなかった。

「じゃあ説明を始めるぞ、時間が無いからよく聞いてくれ」
162邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/11(金) 00:08:11 ID:BHMWHSCV
 それから30分ほどかけて最低限の銃のレクチャーを行った。
 体力に自信のあるという神楽には水平式の散弾銃を持たせ、暦と智には回転式拳銃を渡した、自動式にしなかったのは
万が一排出不良が起きた場合、彼女たちでは対応できないだろうし、連射力の強い銃を持たせて変に好戦的になられると困るからだ。

「何度も言うが銃は本当に最後の手段だ、まず逃げることを考えろ」
「絶対に人に向けないこと、お巡りさんとの約束だ。破ったら逮捕しちゃうぞ!」

集めた物資を分配し出発の準備を整える。

「あ、あれ! あれ見てよ!」

神楽の上ずった声に全員がウインドウに駆け寄った。噴水広場に集まっていたゾンビたち――暦たちが逃げ込んで以降
少しずつ増えていった――が西館に堰を切ったようになだれ込んでいた。篭城していた人間の発砲音が散発的に聞こえてく
るが、ゾンビたちの勢いは止まるところを知らない。

「なんで……バリケードも作ってたのに……?」

 青ざめた顔の暦の呟きに、ブラックジャックが答える。

「おそらく銃を撃つための隙間から臭いを嗅ぎつけられたんだろう。餌を探していたゾンビにしてみればようやく訪れた食事
のチャンスだ。臭いめがけて突き進むのは道理だろう。あれだけの数が集まっていたのも悪かった。あの数相手では銃を少々
撃ったところでゾンビに自分の居場所をアピールするのと同じことだ。銃声を聞きつけて他のゾンビたちも集まってくる。
悪循環だな。他の出口から逃げ出すしか手はないだろうが、あの様子では別の出入り口もバリケードを作っているだろう。上手く逃げられるかどうか」
「中途半端な抵抗は逆に自分の首を絞めるだけか、厄介な話だ」

 鷹山が苦い表情で呟く。銃があるだけでは万全には程遠いことがこれで証明されてしまった。否応無しに自分たちが危機的状況にいることを思い知らされる。
 少女たちはみな一様に青い顔をしていた。一度見殺しにされかけたとはいえ人の窮地を喜べるほど非情ではないようだ。
銃を手にしたときの高揚が吹き飛んでしまった。
その陰鬱な空気を振り払うように大下が声を張り上げる。

「よし、とにかく早くここを離れようぜ! 目指すは警察署だ!」

 その声にどうにか気力を取り戻した暦たちは出口へと向かう。

 彼らのサバイバルはまだ終わらない。


163邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/11(金) 00:11:55 ID:BHMWHSCV
【F-05/ショッピングモール東館/一日目・日中】

【鷹山敏樹@あぶない刑事】
 [状態]:軽い疲労  真剣
 [服装]:サングラス サマースーツ
 [装備]:べネリ M3(12ゲージショットシェル 7/7 予備弾77)、S&W M586(357マグナム弾 6/6 予備弾48)、
S&W M49(38Spl弾 5/5)
 [道具]:リュックサック(健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、栄養ドリンク×5、ライトスティック×6、
12メートルのロープ、発炎筒×3、L字型ライト)、KENT マッチ 警察手帳 財布
 [思考]:1、水原暦ら4人を警察署まで送り届ける。
     2、1が済んだらブラックジャックと病院へ向かう。
     3、引き続き生存者の保護と情報の収集


【大下勇次@あぶない刑事】
 [状態]:軽い疲労  真剣
 [服装]:サングラス サマースーツ
 [装備]:レミントン M11-87(12ゲージショットシェル 7/7 予備弾77)、コルトローマン(357マグナム弾 6/6
 予備弾48)
 [道具]:リュックサック(健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、栄養ドリンク×6、L字型ライト、包帯、各種
医薬品、ビニールテープ、ライトスティック×4)、十徳ナイフ LARK ジッポーライター 警察手帳 財布
 [思考]:1、水原暦ら4人を警察署まで送り届ける。
     2、1が済んだらブラックジャックと病院へ向かう。
     3、引き続き生存者の保護と情報の収集


【ブラックジャック@ブラックジャック】
 [状態]:背中に打撲  緊張 真剣
 [服装]:黒のマント姿
 [装備]:イサカ M37(12ゲージショットシェル 4/4 予備弾48)、SIG P228(9ミリパラベラム 13/13 予備弾39)
 [道具]:マントの下にメスを始めとした手術道具多数、デイパック(各種医薬品、カルテ、健康食品×6、飲料水入り500ml
ペットボトル×4、懐中電灯)、運転免許証 、財布
 [思考]:1、ゾンビ化の原因を突き止め治療法を探す。
     2、水原暦ら4人を警察署まで送り届ける。
     3、2が済んだら病院へ向かう。
     4、余裕があればホテルに一度戻り『ビニールケース』を回収したい。


【水原暦@あずまんが大王】
 [状態]:軽い疲労 擦り傷(処置済) 責任感 緊張。
 [服装]:活動的な服装。
 [装備]:金属バット、コルト コブラ(38spl弾 6/6 予備弾18)
 [道具]:ショルダーバッグ。日用品→パスポート、携帯電話、お菓子、500mlペットボトルなど、以下同じ。懐中電灯、
観光ガイド兼地図、健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、各種サプリメント、栄養ドリンク×2
 [思考]
 1:みんなで警察署へ避難する。
 2:島から脱出する方法を探す。
 3:水、食料を確保する。できれば武器も。
 4:無事な島の住民や観光客を助けて、協力し合う。
164邂逅 ◆7mznSdybFU :2009/09/11(金) 00:15:58 ID:BHMWHSCV
【滝野智@あずまんが大王】
 [状態]:軽い疲労 擦り傷(処置済) 不安。
 [服装]:活動的な服装。
 [装備]:シャベル、S&W M37(38spl弾 5/5 予備弾15)
 [道具]:小型リュックサック。日用品。懐中電灯、お土産、健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、懐中電灯、
ツールナイフ
 [思考]
 1:よみの言うことを聞く。
 2:みんなで警察署へ避難する。
3:もしかしてかなりヤバい?
 

【榊@あずまんが大王】
 [状態]:健康。擦り傷(処置済)。不安。
 [服装]:活動的な服装。
 [装備]:ベレッタ682上下二連式ショットガン(12ゲージショットシェル 2/2発 残弾30)
 [道具]:トートバッグ。日用品。観光ガイド兼地図。懐中電灯、デジカメ、健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、
懐中電灯、メモと筆記用具、発炎筒×3
 [思考]
 1:彼女(水原)の判断は信頼できる。
 2:みんなで警察署へ避難する。
 3:なぜゾンビが現れたのだろう……。
 [備考]
・鷹山から銃の扱いについて指導を受け命中率が多少改善しました

【神楽@あずまんが大王】
 [状態]:軽い疲労。擦り傷(処置済)。不安。
 [服装]:活動的な服装。
 [装備]:斧(全長80?) ウィンチェスターM21(12ゲージショットシェル 2/2発 残弾20)
 [道具]:デイパック(日用品。懐中電灯、小型双眼鏡、健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、懐中電灯、
12メートルのロープ)
 [思考]
 1:みんなで警察署へ避難する。
 2:早く逃げないとヤバい!

※ガンショップにあるのは拳銃、散弾銃、狩猟用小銃などです。短機関銃、突撃銃及び突撃銃の弾丸は置いてありません。
※あずまんがキャラが把握しているのは手持ちの銃と弾丸についてのみです
165 ◆7mznSdybFU :2009/09/11(金) 00:17:21 ID:BHMWHSCV
以上で投下を終了します
166 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/11(金) 23:44:16 ID:ocC4+OaZ
千葉紀梨乃&桑原鞘子@バンブーブレード
追加予約します。
167創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 01:06:27 ID:d7pV2/NI
>>165
乙です。カッコ良い&可愛い日本人チームの今後に期待です。
それにしても一気にすごい重装備になりましたね。

>>166
1度に8人のキャラが動く……期待。
168創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 11:46:18 ID:x1Wjwjr5
>>165
お疲れ様でした。
なんというか、いろいろ個人的にツボをつかれてますw
169 ◆kMUdcU2Mqo :2009/09/13(日) 23:06:50 ID:FhVZ8gJ+
予約の延長を申請します。
遅れて申し訳ありません。
170創る名無しに見る名無し:2009/09/15(火) 00:19:56 ID:vOTD0QNM
age
171 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/16(水) 08:23:46 ID:wd3mA2Oh
Wikiの件なんですけど、参加者名簿についてですが、ネタバレありのほうは60人で確定しているのに
通常の参加者名簿は56人のままなんですよね。何か治せない事情でもあるのでしょうか?
172創る名無しに見る名無し:2009/09/16(水) 20:26:55 ID:H/EXiECT
>>171
答えは簡単。wiki作った私が修正してなかっただけですorz
先ほど修正したので大丈夫でしょう。
173創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 07:17:51 ID:1Mkaq/1e
参加者に何でらきすた無いんだ?
たしか、前スレで投下されてた筈だが。
174創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 12:17:12 ID:D6UagHK2
誰も投下してないよ
175創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 19:22:49 ID:1Mkaq/1e
成田で飛行機に乗るの無かった?
176創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 20:35:22 ID:/7/ABc10
>>173-175

wikiに過去ログを貼りつけました。
ゾンビパニック物でリレーSS【クロスオーバーOK】
ttp://www39.atwiki.jp/zombiea/pub/%a5%be%a5%f3%a5%d3%b2%e1%b5%ee%a5%ed%a5%b0%201.html

この121レス目に「らきすた」はありますが、これは本編スタート前の小ネタという解釈でいいと思います。
だから、今回のリレーSSとは無関係なので、参加者ではありません。
177創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 21:25:10 ID:aW1qCxbX
乙です
178 ◆kMUdcU2Mqo :2009/09/22(火) 05:49:07 ID:lU7oCkS/
申し訳ありませんが実生活の多忙によりSSの執筆が困難な状況です。
すでに期限をオーバーしていますが、正式に予約の破棄を宣言します。
本当に申し訳ありません。
179世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 15:39:49 ID:8DtJYo/w
自然公園のコテージ前、陸上自衛官の仁村はコテージの中にいるであろう生存者を救出すべく、小銃を携えコテージに向かい駆けていた。
しかしその直後、事態は一変する。唐突にコテージのドア前のゾンビ数体が倒されたかと思うと、ドアをぶち破って女性が駆け出してきたではないか。
咄嗟に木の影に隠れ、その女性が横切るタイミングを見計らって声をかける仁村。それに気付いたらしく、立ち止まるが同時に
銃も向けられ、仁村は多少動揺するが、すぐにいつものお調子口調で女性に切り返した。

「おいおい何トチ狂ってんだ?俺は人間だぜ姉ちゃん」
と言ってヘラヘラ笑いながら両手をブラブラさせる仁村。そのふざけた態度を見て女性は銃を降ろして仁村の所まで歩いてきた。
「こんな異常時でも笑っていられる貴様の方が余程狂っていると思うがな」
鬼のごとき形相で仁村を睨み付けながらそう囁いた謎の女性。しかもその左目にはひどい火傷の痕があり、それが相乗効果となり
仁村を恐怖させる。しかし、次の瞬間には自分自身もクククと笑みを漏らし、仁村に言った。

「冗談だ。むしろあいつらに恐れない分その方が心強い。その格好…軍人のようだが、役職と階級。あと名前はなんという?」
初対面の女性にいきなり恐れを抱かされ、からかわれ、あげくの果てに質問攻めに合い完全に場のイニシアチブを持っていかれた形の仁村。
「仁村。陸上自衛隊中部方面駐屯隊第13輸送師団所属、階級は陸士長」
「なるほど、運び屋の上等兵か。私はバラライカ。元ソ連軍大尉だ。今は…お前になら話してもいいだろうな。ロシアの巨大マフィア、
ホテル・モスクワの幹部を勤めている」
仁村は心の中で思った。何でこんな島まで来てマフィアの姉さんとバッタリ鉢合わせなんて事になってんだよ。しかも元ソ連軍大尉だって?

勘弁してくれよ…それにあの火傷何なんだよ?ソートーな修羅場潜り抜けてきてんぞあれ。でもあれのせいで美人が台無しだなこりゃ。
などと考え、今度は仁村がバラライカに聞いた。
「マフィア、ね。そんなのどこの国にもいるし姉さんがマフィアだろうと俺には関係ねえ事なんだけど一つ聞きてえ。何でロシアのマフィア、
しかも幹部がこんな島にいんだ?別に答えたくねえってんならいいけどよ」

「ああ、それはだな…」
バラライカは自分がこの島にやって来た理由を仁村に語る。
「なるほどな。そいでその部下はどうしたんだ?姿がみえねえけど」
「死んだ。ゾンビに噛まれてな。治す術もなくゾンビとなるのは時間の問題だった。奴は最後まで誇らしく散っていったな…」
そしてひどく悲しげな表情を見せるバラライカ。
「すまねえ…悪い事聞いちまったな…」
バラライカの表情に謝辞の言葉をのべる仁村。そんな彼にバラライカはフッと笑いかけ仁村に返す

「気にするな。それよりお前は何故この島に来たんだ?」
仁村もこの島に来た理由、バラライカと出会うまでの経緯を語る。
「なるほどな。とすると3日程度で救助が来るわけだな」
そのバラライカの言葉を否定し、仁村は語る。陸上自衛隊上層部は平和ボケした腰抜け親父の集まりだ。んな連中が藪をつついて蛇を出す

ようなマネをするはずがない、と言うのだ。それを聞き、苦笑するバラライカ。
「お前も災難だな。私の組織ではこの状況で見捨てるなど極刑に値する行いなのだがな」
「ああ。だが前にイランだかそっちらへんで旅学生がイスラム狂信者のバカ共に拉致られた時小泉は見殺しにしやがったしな。つまりはそういうことだよ」

そう言い終わると同時に仁村は突然9mmを素早く取りだしそのトリガーを引いた。放たれた弾丸はバラライカの顔の真横を横切り、彼女の背後に
突如として現れたゾンビの眉間を見事に撃ち抜いていた。驚いて周囲の様子を窺うバラライカ。見ると、人間の臭い、更には先程の銃声を
察知してやってきたのだろう。15体ほどのゾンビに囲まれてしまっていた。
180世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 15:42:15 ID:8DtJYo/w
舌打ちし、ハードポーラーを構えるバラライカ。
お気に召さない銃はさっさと使い終わって身軽にしようという考えだった。しかし、それを仁村が制する。
「おっと姉さん。この状況じゃ弾は温存が得策だぜ?ここは俺に任せな!」
バラライカの返事も聞かずに仁村は5.56mmの銃撃をゾンビの集団に浴びせる。慣れた手つきでマガジンを交換し、そしてまた銃撃を浴びせる。

仁村たった一人の手により15体いたゾンビは五分の一まで駆逐されていた。しかもかかった時間は10秒強で、バラライカは全く予想外の
展開に呆然としているだけだった。仁村はその真横を通り過ぎ、ゾンビに蹴りを入れ倒れたところをその心臓めがけて銃剣を突き刺した。
動かなくなったのを確認して、もう一体のゾンビに再び5.56mmを浴びせる。そして最後の一体を、と思い辺りを見回すがいまだ動いている
ゾンビは一体もいなかった。バラライカの方を向くと彼女が携えたハードポーラーの銃口から硝煙が立っていた。笑うバラライカ。

「お前だけに格好つけさせる訳にはいかないのでな」
そして仁村も笑う。しかし…見事な手際だったな。日本などで腐らせておくにはあまりに惜しい逸材だが…この島を共に生きて出られたらロアナプラに誘ってみるか。
こいつの性格ならあのレヴィとも上手くやれそうだしな。などと考えるバラライカ。そんなバラライカの考えを読んだのかどうかは解らないが仁村が口を開いた。
「姉さんの組織にスカウトしてえってんならいつでも歓迎だぜ。あのクソ忌々しい上官のもとで働くよりは姉さんの下の方が100億万倍は人生楽しめそうだしな」
そしてバラライカに向けてニッと笑う。バラライカはというと、ポーカーフェイスを保ちながらも内心かなり驚いていた。
この私が心を読まれた?この仁村という男、いったい何者だ?…面白い。必ずロアナプラへと呼び寄せよう。こんな男と出会うのは随分久しいものだ。

「で、これからの動きだがなんかあんのか?姉さんの方が階級上だし、俺は姉さんの命令でついてくぜ?」
「そうだな…まずはこの島から脱出することを考えなくてはならないのだが…まずは港に向かい使えそうな船があるかどうかを確かめ、
もしあればある程度人間が集まったら脱出だ」
バラライカがそう言ったのは理由がある。仁村は陸上自衛隊員、自分は表向きは元ソ連軍大尉だ。つまり、率先して生存者の救出に当たらなくてはならない立場であり、
仁村とバラライカだけでは身分を尋ねられた時、困るのは二人だ。そこへ行くとある程度生存者を伴い脱出すれば、救助活動を行ったと堂々と言えるわけである。
実際のところは、船の中で向こうから勝手に集まってくるのを待つだけなのだが。仁村も彼女のその考えをくみ取った、というか保身主義ゆえに同じ考えにたどり着き、頷いた。

仁村がこの世で唯一恐れているもの、それは自分が死ぬことだ。実際のところこの島の住人がどうなっちまおうが自分には全く関係のないことであり、これまでこの異世界と化した島で行動してきた時も、
彼がふだん読んでいるSF小説や、ゲームのような感覚だったのだ。先ほどバラライカを救った時も、彼女を救うという考えよりもゲームの主人公に自分をだぶらせ、カッコいいヒーローを
演じてみたかっただけなのである。彼にとって自分に関わりのないことは全てが他人事であり、何ら興味も持たず、言ってみればドライなプラグマティスト。それが仁村という男だ。
ただ、彼の先の行動により、バラライカの信頼を得ることができたというのは紛れもない事実である。

「ここからだったら見晴らしのいい湖畔を歩いていって、ボート乗り場でいったん休憩したあと、改めて港に向かうっていう方法が得策だと思うけど、姉さんはなんかあるか?」
仁村が湖畔を歩こうと言ったのにも理由がある。森を進めば木が生い茂り、いつまたゾンビと遭遇するかわからない。これから何が起こるか分からない。先ほどはああだったが今後は弾丸を温存したかったのだ。
そこへ行くと、湖畔は広い湖のおかげで見晴らしがよく遠くまでよく見渡すことができる。万一自分たちの進行方向上にゾンビがいたとしても事前に回避することができるのだ。
181世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 15:43:36 ID:8DtJYo/w
「異論はない。お前の提案、採用しよう。それに、そろそろ葉巻も恋しくなってきたところだ」
「そん時は火、つけさせてくれよ」
「ああ、お願いしようか。ところでお前はタバコはやらんのか?」
「自衛隊員は体が資本なんでね。自分からそれを削るようなマネはしねぇさ」
そして笑いあう二人。コテージ前からバラライカの持つ地図を頼りに湖畔まで歩くことができた。かなり大きな湖だった。思惑通り見晴らしがよく、かなり遠くまで見通すことができた。

あとはボート乗り場まで歩いてゆくだけなのだが、ここで二人は森のほうが何か騒がしいことに気付く。振り向くと、先ほど仁村がその大半を打倒したゾンビの集団と同数程度のゾンビが
群がっていた。その距離は二人がいる位置からだいたい100mほどで、そのゾンビと戦っている二人の人影が見えた。バラライカの見立てでは銃火器の類などは持っておらず、
なにか長い棒のようなもので戦っているようだった。しかも何か心得のようなものがあるらしい。なかなかのさばきを披露していた。バラライカは感心していた。一方、仁村はというと…

すでに89年式を携えて、二人の許へと駈け出していた。仁村もバラライカと同じようにあの二人が戦う能力を有していることを認め、即座に援護に入ったのだった。
別に純粋に救出するという正義感からではなく、あの二人を味方に引き入れることで今後の作戦行動を楽にする、そして何より自分が生き延びる可能性を高められる。
保身主義ゆえの行動だった。苦笑し、バラライカもそのあとを追いかける。一方、二人組はというと突然の援護に驚くものの、この機を逃すまいと一気にたたみかける。

5.56mmの銃撃と打撃を受け、見る見るうちに駆逐されていくゾンビたち。結局、バラライカがその場にたどり着いたときにはすべてが片付いてしまっていた。
見るとその二人組は2人ともまだ高校生程度の少女であった。背の小さな金色の髪をした少女と、
それとは対照的に背の大きな、といっても仁村と比べればまだまだ低いのだが、である茶髪の少女の二人組である。顔は、二人とも別嬪さんと言っていいレベルだった。
「怪我はねえかい?お嬢ちゃんたち。でもまさかこんな所でゾンビ共相手にチャンバラを繰り広げる場面に出くわすとは思ってなかったけどよ。ところで、名前はなんつーんだ?」

「あの、助けてもらってありがとうございます。あたしは千葉紀梨乃っていいます。それでこっちがあたしの親友の桑原鞘子。よろしくお願いしますね?ところでお二人の名前はなんてゆーんですか?」
「仁村。陸上自衛隊中部方面駐屯隊第十三輸送師団の隊員。階級は陸士長。さて次は姉さん、頼んだぜ?」
「元ソ連軍大尉、バラライカだ。子供だてらに見事な戦いを披露していたな。感心したよ」
「いや、感心だなんて、そんな…」
と言いつつ、顔を赤らめる紀梨乃。一方、鞘子はというと…半ば放心状態で木の隙間から映える青空を眺めていた。苦笑いを浮かべる3人。キリノがそんな鞘子を正気に戻す。
「ほらサヤ!助けてもらったんだからお礼いわないとだめでしょ!」

「…あ。あの、危ない所を助けてもらってどうもありがとうございます」
と言ってぺこりと頭を下げる鞘子。仁村は心の中で思っていた。こんな女が彼女にいたら人生もっと楽しくなったろうな。だがヤローばっかの自衛隊じゃそれも叶わねえか。
などと考え、ため息をつきながら仁村は二人に言った。

「気にすんなよ。お前ら日本国民の安全を守るために俺たち自衛隊は存在してんだからな。俺は俺の責務を果たしただけだよ」
もちろんこんなのは建前であり、本音は前述のとおりである。バラライカにもそれはお見通しであり、仁村の隣で苦笑いを浮かべていた。しかし、キリノと鞘子は彼のその言葉を真に受け、
あろうことか目を輝かせていた。おいおい、なにこんな出まかせ真に受けてんだコイツら。俺は俺が死んじまうのが怖ええからお前ら助けただけだよ。…だが、たまにはこういうのも悪くねえな。
仁村は決して訓練成績は悪くなく、むしろ同期の中ではかなり優秀な成績を収めており、岩田、山崎、大池に慕われているのはそれが主な理由なのだが、彼の上官は彼がどんなに
優秀な成績を収めようが決して誉めることはなかった。
182世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 15:44:47 ID:8DtJYo/w
それどころか、彼を目の敵にするかのごとくいびり、しごき続けた。仁村が上官を「クソ忌々しい」と表現するのはそれが理由である。

だが、今彼は彼の人生で初めて、しかも二人の美少女から憧れにも似た眼差しを向けられたのだ。このとき、彼の心境に大きな変化が生まれていた。俺以外の人間がどうなっちまおうが
知ったこっちゃねえと思ってきたが、今決めたぜ。コイツらを絶対生かして日本に帰してやる。まあでも、日本に帰ったらたぶん二度と会うことはねえんだろうけどな。

「さて、これからの行動について説明する。まずは…」
これからの行動をキリノと鞘子に説明するバラライカ。二人も納得した様子で頷いた。そして、4人は当面の目的地であるボート乗り場まで歩いて行った。隊列は、地図を持つバラライカ
が先頭。2番手はキリノ。3番手は鞘子。特に理由はない。そして殿に仁村。5.56mmを構えて後方を警戒する役目だ。道中、何度かゾンビと出くわしたがその数は2,3体であり、
弾丸を温存するという理由で戦闘はキリノ・鞘子両名に任せていた。そしてまた歩き出す、という流れを繰り返すのだが、道中キリノと鞘子が今度は不安そうな目で
仁村を見つめているのだった。それに気づき、二人に声をかける仁村。

「お前ら二人に戦うのを任せちまってるのはすまねえとも情けねえとも思ってる。だから、頼むからそんな目で見ねえでくれよ。やりにくくて仕方ねえ」
「いえ、私たちが戦うのは全然かまわないんです。なんて言ったらいいのかわからないんですけど…」
と言って鞘子は仁村たちと出会う少し前に自分たち2人が体験した出来事を仁村とバラライカの二人に語る。大量のゾンビに襲撃され、頼りにしていた警官やペンションのオーナーが
悉くゾンビに食われてしまったこと、そして結局そのペンションにいた人間のの中で生き延びることができたのは自分たち二人だけだということを。
二人が危惧しているのは、仁村やバラライカも彼らと同じような末路を辿るのではないかということだ。
しかし、仁村はそんな二人の心配を笑い飛ばして二人と肩を組んで語る。
「心配してくれてお兄さん嬉しいよ。だがお二人さん、それは杞憂というもんだ。ペンションのオーナーさんや
警察官と自衛隊じゃ身につけてる技術だって全然違うんだぜ?こーゆう時に組織的行動が出来るのが俺達自衛隊だ」

たった一人の自衛官で組織的行動も何もあったもんじゃなく、しかも高校生の少女にそれを求めるのは絶望的なのだが。
それにしても…そのペンションから先程の場所までは結構距離がある。彼女たちの話を統合すると、
ペンション事件から50分程度でここまでやって来たことになる。結構なスピードを維持しつつ、
かつ立ち止まることがなければあるいはいけるかも知れないが…それを可能とするにはかなりの
スタミナを要する。この少女の体のうちにそんスタミナがあるとはバラライカには思えなかったが、
事実として彼女たちはそこにいた。人は見かけによらないというがまさかここまでとは…バラライカは驚嘆していた。
それをバラライカが二人に尋ねると、キリノはさも当然といった風に答えるのだった。

「別に全然大したことじゃないですよ。ほら、剣道は持久力がいるから日頃から鍛えられてるだけですよ」
バラライカは納得した様子で頷くが、すぐに仁村に耳打ちした。
「仁村。お前の体力で例のペンションから先程の場所まで50分で走ってこられるか?」

「あんま自信ねえな」
この答えにより解ったことは一つ。キリノと鞘子は少なくとも陸上自衛隊員に勝るとも劣らない持久力を
有しているということだ。きっとこいつらは幼い頃から剣道とやらに打ち込んで来たのだろう。
そして、積み重ねてきたものは時としてすごい力を発揮する。つまりはこういうことなのだろうな。
「あの、今度は私がおばさんに質問していいですか?その火傷、どうしたんですか?」
183世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 15:46:22 ID:8DtJYo/w
キリノがバラライカに質問するが、おばさん呼ばわりした挙げ句、一番触れてはいけない場所に触れたキリノだが
バラライカは別に怒ることもなく、フッと笑ってキリノの今の問いに答える。

「軍隊ともなると当然仕事場は戦場だ。これはとある戦闘の時に負ったものだ。
それと、おばさんではなく、お姉さんと呼べ。まだそんなに歳を食っているつもりはない」
と言って、隣で必死に笑いをこらえている仁村の胸を裏拳で軽く叩く。そんなバラライカの言葉に、今度は鞘子が口を開いた
「じゃあお姉さんはそんな過酷な所から生きて帰ってこられたんですよね。
その火傷は勲章みたいなものなんですね。カッコいいと思います」
鞘子のそんな屈託のない言葉にバラライカは面食らう。ホテル・モスクワと対立するマフィアからは
フライフェイスなどと揶揄されるのだが、勲章などという表現をしたのは目の前の少女が初めてだった。
この異常事態に巻き込まれたときは最悪な気分だったが、こうも面白い連中に出会うとはな。悪くない。
だが、おしゃべりはこれくらいにしておこう。今は先を急がなくてはならないからな。

「話はこれくらいにしておこう。先を急ぐぞ」
というバラライカの号令のもとに4人は再び歩き出した。しかし…仁村は腕時計を確認する。午後3時。
太陽はすでに西の空へと少しではあるが傾いていた。日没までにはまだ少し時間はあるが、問題はそのあとだ。
日が沈み辺りが暗くなれば当然視界も効きにくくなる。つまり、それだけゾンビの発見、ひいては対処が
遅れる可能性があるということを意味していた。舌打ちしつつ、頭のなかで対策を考える。だが、妙案は浮かばない。
何しろ相手はこちらの常識が通じない相手なのだ。無理もない。だが、ただひとつ朗報があった。

当初の目的地である、ボート乗り場が見えてきたのだ。もう10分ほど歩けば到着し、休息を取ることができるだろう。
ところが、もう5分というところで先頭を歩くバラライカは驚きの光景を目の当たりにする。
ようやく休めると思ったボート乗り場にいたのは、50体ものゾンビと、そしてそれと戦うたった4人の人間の姿だった。
4人はかなりの健闘を見せていたが、銃をもっているのはそのうちの一人だけで、あとは刃物で応戦している。
しかもそのうちの2人はキリノや鞘子と同じくらいの年齢の少年少女である。この状況を見てバラライカが
下した決断は…4人の援護だ。ハードボーラーを携え、彼女は後ろの3人に宣告する。

「同志諸君、状況は見ての通りだ。今から我々は今も異形と戦う勇敢なる戦士たちを救いに行く。
死して今なおもこの世に踏みとどまる亡者ども全てに冥府へと導く裁きの鉄槌を降り下ろしたとき
我らはメシアとなる。さて、行こうか同志諸君。撃鉄を起こせ!!」
バラライカのあまりの迫力に圧倒されるも、同時に士気も最高に高まった3人。バラライカは大きな作戦を
始める直前には必ずこのような演説を行い、部隊の士気を高めていたのだ。もっとも、3人がいつバラライカの
同志になったのかは永遠の謎なのだが。しかし、そんなことは全く関係なしに4人はバラライカを先頭として、
ボート乗り場に突貫した。ボート乗り場の大きな休憩所の前、その建物はガラスバリになっているお陰で
中の様子を知ることが出来、今に至る。バラライカの指示のもと、配置に付く3人。まず仁村が突入し、
4人の生存者を巻き込まないように5.56mmを掃射。マガジン一つを撃ち尽くしたところで残りの3人が
加わり、一気に制圧するという作戦だった。切り込み役という、この作戦の正否に関わる大役を任された
仁村は、3人に笑いながら親指を立てるも、内心緊張で一杯だった。何故なら彼は彼の人生でほんの1、2回程度しか
背負ったことのないものを背負うことになったからだ。そう、責任である。緊張のあまり手が震え、
リロードがうまくいかない。そんな仁村の様子に気づいたキリノが配置を離れて仁村のもとへ歩み寄る。
184世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 15:48:25 ID:8DtJYo/w
「あの、仁村さん、緊張してるみたいですけど大丈夫ですか?」
キリノの面倒見のよさはこの男にまで及んだ。そんなキリノに仁村もこわばった笑顔で返事する。
「あんま大丈夫じゃねえな。平和ボケしてやがるとこんなところで痛い目見るんだよな。ハハハ…」
「大丈夫ですって!仁村さん、ほら、あの俳優の…なんていったか忘れちゃいましたけど、似てますから大丈夫です!」
キリノのいう俳優とは藤木直人のことだ。仁村が藤木直人に似ているのは事実だがそれとこの状況と
どう関係があるのか仁村には全くわからなかったがこれもキリノなりの励まし方なのだろうと割りきり、
その点は触れずにいて、ただキリノに謝辞の言葉を述べる。
「いえいえ。それともう一つ、緊張が一気に溶けるおまじないをやってあげますね。目を閉じてもらえますか?」
半信半疑に仁村が目を閉じると、唇に何かものすごい柔らかくて暖かいものが一瞬触れた。
驚いて目を開けると、キリノが少し頬を赤らめながら微笑んでいた。

「おまじないの効果、ありました?さっき助けてもらったお礼も兼ねてです」
自分の唇を指で撫でる仁村。ああなるほど。そういうことか。これは、効果覿面だな。最高の気分だ。
「ああ、ばっちりだよ。サンキューな」
「それはよかったです。じゃあ、頑張ってくださいね」
と言ってキリノは配置に戻っていった。仁村はというと完全に吹っ切れた様子で薄ら笑いを浮かべていた。
そしてそのまま右手を挙げ、突入の合図を3人に送る。頷く他の3人。それを確認すると同時に、仁村は中へと飛び込んだのだった。


一方、こちらは休憩所の中。50体ものゾンビと戦い、なんとか半数近くまでその数を減らすことが出来たものの、
阿良々木、ひたぎ、次元、両津の4人はついに壁際に追い詰められてしまっていた。そして、そんな4人に
ジリジリとせまりくるゾンビの軍勢。このまま突っ込めば瞬く間に囲まれ、噛みつかれてしまうだろう。
ただ、このままこうしていても遅かれ早かれ同じ末路を辿るのだが。万策尽きていた。しかし、それでも
阿良々木は決して絶望することなどなく、ゾンビに向かってありったけの声を出して啖呵を切った。
「お前ら、戦場ヶ原に指一本でも触れてみろ!その顔を二度と見られないようにしてやるからな!」
いつものひたぎならここで「はじめからそうじゃない。かっこよく決めたいならもっと言葉を選びなさい」
などとクールにツッコミを入れていたことだろう。しかし、今のひたぎはそんなことはせずにただ阿良々木に
寄り添い、彼を信じきっていた。横目でその様子を見て笑みを浮かべる両津と次元。両津が阿良々木と目を合わせ、彼にいった。
「よく言った!それでこそ男ってもんだ。じゃあワシも男を見せてやらなきゃならんな」

と言って両津は両手の武器を構える、阿良々木ならばおそらく両手でも持つのがやっとであろうハンマーを
片腕で軽々と使いこなす両津。彼一人の手で10体ものゾンビが倒されたのだった。
「お前さんだけにカッコつけさせてたまるかよ。俺もやるぜ」
と言って次元も銃と斧を構えて両津の右に並ぶ。
「僕もやります。戦場ヶ原を…守るんだ!!」
そう咆哮した阿良々木の目はこの異常事態に巻き込まれた当初にしていた怯えたものでは微塵もなくなり、
大切な、陳腐な言い方をすれば愛する者を守るために戦う一人の男の目だった。両津の左に並び武器を構える
彼の姿をひたぎはこの上なく頼もしく感じていた。両津が二人に目配せする。それに頷く次元と阿良々木。

「せーの…突撃!」
という両津の合図が発せられた瞬間、ゾンビの後方、出入口の扉が蹴破られ、それと同時に響き渡るのは
マシンガンの連射音。ゾンビ軍団の一番後ろの方に位置していた5体ほどのゾンビが今の銃撃によって倒された。
それに気づき、半数ほどのゾンビが入り口の方へと方向転換した。両津たちからはゾンビ軍団の
向こう側がどうなっているのかは解らない。
185世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 15:50:11 ID:8DtJYo/w
ただ、これだけははっきり言える。生存者がいると。
そしてその生存者はこの絶体絶命の状況を脱するまたとないチャンスをくれた。この機を逃すまいと
ゾンビ軍団に突貫する両津、次元、阿良々木の3名。しかも生存者は一人ではないらしい。このゾンビの群れの
向こうで戦っている複数の人間の気配を次元は瞬時に察していた。完全に挟撃を受けた形になったゾンビ軍団は
あっけなく瓦解し、気づけば両津達の足元には完全に物言わぬ屍と化したゾンビの亡骸が転がっているだけだった。
まさに奇跡だった。その立役者である生存者4人は、両津たちのすぐ目の前にいた。迷彩服を着てはいるが、
気味の悪い薄ら笑いを浮かべマシンガンを携える20代くらいの男。それとは対照的に冷静沈着を体現したような
風貌と表情、そして何より周囲を圧倒するオーラを醸し出す金色の髪をした女性。

そして何故そんな二人と一緒にいるのかが解らない、阿良々木、ひたぎと同年代の少女が二人。
二人とも、木刀のようなものを携えていた。そこまではいいのだが両津たち4人を差し置いて盛り上がっていた。男と少女2人はハイタッチを交わし、女性はというと、
その様子をやや苦笑いを浮かべながら見ていた。そして、女性は両津たち4人のもとに歩いてきて、両津に言った。
「危ない所だったな。しかしたった四人でよくここまで持ちこたえられたものだ。私はバラライカ。元ソ連軍大尉だ。あそこで騒いでいる迷彩服を着た男が仁村。陸上自衛隊員。
そして、あの娘二人。背の小さいほうが千葉紀梨乃。高いほうが桑原鞘子。よろしく頼む。さて、我々は名乗った。お前たち4人の名前と身分を聞かせてもらおうか」

この異常事態で威風堂々とした態度で両津たちに迫るバラライカと名乗るこの女性。今までごく普通の生活を送ってきた阿良々木やひたぎにもこの女性が只者ではないことがわかった。
「ワシは両津勘吉。日本の警視庁の警官だ」
警官という言葉にバラライカは一瞬だけ眉をしかめた。しかし、それに気づいたのは次元ただ一人だった。この女は何かを隠していると次元は直感したが、それを追及して
せっかく生存者同士で遭遇できたのに空中分解など冗談じゃない。次元はその点は一切触れずに自己紹介する。

「俺は次元大介。ただの観光客だ。よろしく頼む」
「観光客、ねえ。ただの観光客がなんで拳銃なんて持ってんだ?」
全く空気を読まずにずけずけと突っ込む仁村。そんな仁村にバラライカは今度は肘鉄をくらわす。怯む仁村。しかし、そうしながらもバラライカは仁村にボリス軍曹とはまた違う
親しみやすさを感じていた。一方、次元はというと、仁村の空気を全く読まない発言にも怒ることなどなく、いつもと変わらぬ口調で彼に答えるのだった。
「もうすでにこの異常事態で今更だがこの島はなにか訳ありだって噂だっただろう?備えあれば憂いなしというヤツだ」
あの時仁村が岩田、山崎、大池の3人に言った件と全く同じことを言う次元と名乗るこの男。感じることは同じのようだ。何か言い知れぬ奇妙な縁を感じ、仁村は次元に言った。
「野暮なこと聞いちまって悪かったな。姉さんから聞いてるとは思うが改めて。俺は仁村。陸上自衛隊員、陸士長だ。よろしくな。ところでそっちのコゾウと嬢ちゃん。名前は?」
名乗っていないとはいえ、「コゾウ」と呼ばれ阿良々木はムカッとして仁村に食ってかかろうとしたが、それよりも先にひたぎが仁村に食ってかかった。

「そんな呼び方やめてください。阿良々木君はもう一人前の男です。取り消してください」
大人しそうな外見には裏腹に初対面の大人にも物怖じしない態度で臨むひたぎ。面白い、それがこの少女に対する仁村の第一印象だった。ニヤッと笑って仁村はひたぎに言った。
「悪かったな。嬢ちゃんがそういうのなら阿良々木、君だっけ。は一人前の男なんだろうな。取り消すよ。ところで嬢ちゃんの名前はなんつーんだ?」
「戦場ヶ原ひたぎといいます。そしてこちらが阿良々木暦。よろしくお願いします」
阿良々木は思っていた。お巡りさんの次は自衛隊員だって?どんな奇跡だろう。でも両津さんと違ってこの人、いまいち信用できそうにないな…まあ、それはこれから確かめていけばいいか。
ところで、向こうのあの二人。どんな娘なんだろう。見たところ僕や戦場ヶ原と同じくらいの年頃だけど。
186世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 15:51:39 ID:8DtJYo/w
それに、この人たちがなんで一緒にいるかそのいきさつも気になるし…
「阿良々木暦です。よろしくお願いします。ところで、あちらのお二方は…

顔を見合わせるバラライカと仁村。そういえばこの8人の中で名前を名乗っていないのはあの二人だけだ。バラライカや次元と違い身分を隠す理由もない二人を仁村は呼んだ。
「おいお二人さん。自己紹介してないだろ。お二人さんの番だぜ?」
「あっと、申し遅れちゃいました。私は千葉紀梨乃。私立室江高等学校2年、剣道部主将です。よろしくお願いします」
と、紀梨乃は自己紹介を終えると同時に隣の鞘子にウインクする。次はサヤの番だよ、と言っているのだ。それに頷き、鞘子も自己紹介を始める。
「桑原鞘子。キリノと同じく私立室江高等学校2年。剣道部所属です。あの、よろしくお願いします」

さて、これで8人全員が各々の自己紹介を終えたわけだが、これからの行動はまず双方のこれまでの経緯を把握してから決定することになり、両津組は両津が、バラライカ組はバラライカが自分たちの経緯を語った。どちらも語りにかけてはかなり上手なので
残りのメンバーも実にたやすく理解することができ、スムーズに次の段階へと移行することができた。つまり、今後の作戦展開である。
両津たちは当初この湖をボートで渡りきり、この島の北端の道路から港まで遠回りするルートをとる計画だった。そうすることでゾンビと遭遇する確率を激減させるという狙いからだ。
しかし、新たにこの4人が加わったことで、ゾンビを駆逐しつつ最短ルートを通るという手も考えられるようになった。そうすることで、脱出経路をいち早く確保するという狙いだ。
到着が遅れれば先に住民に船で逃げられてしまう可能性がある。それよりも先に船を確保することでより多くの生存者を救出することができるのだ。この2つのプランのうち、どちらを採用するか。
両津は残りの7人に提案した。10秒ほどの沈黙の後、一番最初に口を開いたのは仁村だった。

「当初の計画で行ったほうがいいと思うね。こっちからみすみす飛んで火に入る夏の虫になることぁねえし、それに一般人に船を動かせると思うのか?」
確かにそうだ。自動車ならばまだしも、フェリーなどの船舶を一般人が動かせるとは思えない。旅客用の乗り物はコクピットやブリッジには入ることすらかなわない。
これは動かす動かせない以前にエンジンをかけられないというのが現実であろう。そもそも、どうすればエンジンがかかるのかわからないのだから。
そして、その仁村の意見に反対する者は一人もいなかった。こうして、この8人の今後の行動が決まった。まず、ボートでこの湖を縦断。北端の舗装道路を通り、港に向かい
たどり着いたところで脱出用の船を確保した上で、生存者の救出に向かうのである。そして、8人は桟橋へと向けて歩き出す。その時、阿良々木がポツリと漏らす。
「どうしてこんなことになったんだろう。ゾンビたちだってほんの数時間前までは普通の人間として、生きていたはずなのに…」
そんな阿良々木の言葉に、残りの7人はその答えを模索する。だが、答えなど見つかるはずもない。仕方ないなという風に仁村が彼に返した。
「世界は今までお前らが思ってたもんとは違った、ってことなんじゃねえの?あいつらがなんでこうなっちまったのかなんてことは誰にもわからねえ。だからそんな風に思いつめるのはよしなよ」
と言って仁村は彼の肩をたたく。苦笑いを浮かべて頷く阿良々木。彼が仁村に対して抱いていた小さな不信感はいつのまにか消えていた。絶対この8人で生きて帰る。阿良々木はそう決意していた。
187世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 15:54:14 ID:8DtJYo/w
【D-04/ボート乗り場/一日目・午後】

【仁村@ドラゴンヘッド】
 [状態]:やや興奮状態
 [服装]:陸上自衛隊の迷彩服、メットはなし
 [装備]:9mm拳銃(装填数8/9発、予備弾90発 )、89式5.56mm小銃(装填数30発、予備弾180発)銃剣
 [道具]:リュックサック、トランシーバー、ウォークマン(電池は3本)、
 [思考]
  1:港への到達
  2:島からの脱出
  3;紀梨乃と鞘子を絶対日本に生かして帰してやる。

【バラライカ@ブラックラグーン】
 [状態]:冷静。肉体疲労ほとんどなし
 [服装]:スーツ
 [装備]:スチェッキン(11/20 予備弾20)、マカロフ(5/8 予備弾8)
 [道具]:ハードボーラー(7/7 予備弾0) 携帯電話、島の地図、葉巻(残り5本)、ライター
 [思考]:1、港への到達
2、島からの脱出。
3、他の生存者とは必要に応じて協力。但し足手まといになるようなら見捨てることも厭わない。 

【千葉紀梨乃@バンブーブレード】
 [状態]:やや疲労。前向き。鞘子を守る強い気持ち。
 [服装]:キャミソール、カーディガン、7部丈ジーンズ。
 [装備]:日本刀(刃渡り80cm、刀身と鞘を下げ緒で固定している)
 [道具]:防災グッズ(乾パン・缶詰×6食分、250ml飲料水パック×6)。日用品数種。携帯電話。観光用地図。
 [思考]
  1:サヤを守る。
  2:港への到達
 
【桑原鞘子@バンブーブレード】
 [状態]:やや疲労。前向き。
 [服装]:チューブトップ、薄手のジャケット、タイトジーンズ。
 [装備]:日本刀(刃渡り80cm、刀身と鞘を下げ緒で結んでいる)
 [道具]:防災グッズ(乾パン・缶詰×6食分、250ml飲料水パック×6)。日用品数種。携帯電話。観光用地図。
 [思考]
  1:キリノについていく。
  2:港への到達。
188世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 16:38:38 ID:8DtJYo/w
【阿良々木暦@化物語】
 [状態]:やや疲労。ひたぎへの責任感。
 [服装]:夏っぽい服装。
 [装備]:鍬(全長1m)。
 [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。缶詰と飲み物3食分)
 [思考]
  1:ひたぎ達7人と港へ行き、船に乗る。
  2:ひたぎを守る。

【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
 [状態]:やや疲労。阿良々木への深い信頼。
 [服装]:夏っぽい服装。
 [装備]:千枚通し。アイスピック。文房具一式。
 [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。缶詰と飲み物3食分)
 [思考]
  1:阿良々木君達7人と港に行き、船に乗る。
  2:阿良々木君と一緒に日本に帰りたい。

 [備考] 阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎの共通事項。
  1:ルパン三世、ボルボ西郷、左近寺竜之介の容姿や服装を把握しています。

【次元大介@ルパン三世】
 [状態]:やや疲労。冷静。阿良々木とひたぎへの責任感。
 [服装]:いつもの服装。
 [装備]:薪割り用の斧(全長1m)。コンバットマグナム(357マグナム弾。6/6発。予備29発)
 [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。携帯食料数種。缶詰と飲み物3食分)
 [思考]
  1:阿良々木達7人と港に行く。
  2:阿良々木とひたぎを船に乗せた後、引き返してルパンを捜す。

 [備考]
  1:ボルボ西郷、左近寺竜之介の容姿や服装を把握しています。

【両津勘吉@こちら葛飾区亀有公園前派出所】
 [状態]:健康。豪快にして冷静。阿良々木とひたぎへの責任感。
 [服装]:アロハシャツ。
 [装備]:大型ハンマー(全長1m)。シャベル。手斧×2。
 [道具]:大型ザック(レンチ、バール、ハンマー類。(缶詰、ペットボトル、パンなど15食分)、食器類。観光用地図。手鏡)。工具ベルト(ドライバー、ペンチ等)。
 [思考]
  1:阿良々木達7人と港に行く。
  2:阿良々木とひたぎを船に乗せた後、引き返して救出活動を再開する。
  3:ボルボ西郷、左近寺竜之介を捜す。

 [備考]
  1:ルパン三世の容姿や服装を把握しています。
189 ◆dAC3Tv9pFY :2009/09/24(木) 02:11:43 ID:FDGyeU8F
予約の延長を申請します
190創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 21:29:50 ID:nEFyXEDx
hoshu
191創る名無しに見る名無し:2009/10/14(水) 23:59:08 ID:lVnpb8L1
age

192創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 16:27:58 ID:xfav8f5g
どうしてこうなった…
元々過疎ってたが最近はひどいな
193創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 19:47:32 ID:9nu7B3Kn
保守
194創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 21:18:32 ID:jTzHzpvu
あげ
195創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 16:05:35 ID:sB5znyoU
>>192
つまんないから
196創る名無しに見る名無し:2009/10/29(木) 10:41:21 ID:u7z6ZIZG



岡田外務大臣キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
h‍ttp‍:‍/‍/‍q‍b5.2‍ch.net/t‍est/rea‍d.cgi‍/sak‍u2ch/1256‍630318/1



早く記念カキコしないと埋まっちゃうwww
197創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 22:01:17 ID:izxY98PG
くそつまんねぇの上げた奴の責任だな。
198創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 23:30:23 ID:8KOwJDzf
キャラが大杉
199創る名無しに見る名無し:2009/11/05(木) 06:10:37 ID:Sqj2ZPWo
自己リレーOKにすれば進むだろう
キャラ数を制限しなければ間口はひろがる
そもそもリレースレにしたのが間違いな気が‥‥‥
200創る名無しに見る名無し:2009/11/05(木) 13:48:19 ID:6wktmfOf
リレー作家同士キャラが解らないとか言ってたしな、
201創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 20:56:34 ID:4txc33po
誰かいる?
202創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 11:06:47 ID:9t8sJAaE
ズルズル

「うー、あー」
203創る名無しに見る名無し:2009/11/14(土) 03:48:52 ID:KSOlv5tT
「マジで何だよあいつら」
「死にたくない〜」
「ぎゃ〜助けてくれ」
204創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 14:16:06 ID:+LxRKHP1
スクールデイズとか知らねえよ糞オタが
205創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 21:22:25 ID:i9Afuntr
wiki更新しました。
ttp://www39.atwiki.jp/zombiea/
206創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 22:28:12 ID:n2Iqru+j
>>205

けどもう人いないかもな・・・
207 ◆uFyFwzytqI :2009/12/07(月) 23:03:05 ID:i9Afuntr
どこまで出来るか分かりませんが、一人でも書き続けてみようと思っています。
自己リレーするかもしれません。
もちろん、他の書き手さんの復活&新規参入は大歓迎です。

現在、バート・ガンマー、辻本夏実、小早川美幸、ジョン・コナー、木手英一
リー刑事、ケイシー・ライバック、でプロットを考えています。
208創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 17:24:32 ID:XX+Usr7L
おや?
こっちも自己リレーOKに?
209 ◆uFyFwzytqI :2009/12/10(木) 22:50:33 ID:iMYIPQzx
>>208

テンプレ>>2
・自己リレーは基本禁止。ただし書き手が少ない場合の非常措置として特例は認められる。

とありますので、一応可能と考えています。
210創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 23:53:37 ID:1VQDYp49
>>209
自己リレーを批判しているわけではないですよ(笑)。
自己リレー完全禁止にしてしまうと伏線だとかも張れないし、トータルバランスの良いものにもならんでしょう。
がんばってください。
211 ◆kVEz2DhQVk2C :2009/12/12(土) 01:57:56 ID:/H7bpskD
>>207
期待してます。ムジカエクスマキナの作者です。トリを忘れてしまったので変更します。

またみんなも戻ってきてくれるといいのですが…
212創る名無しに見る名無し:2009/12/14(月) 15:11:27 ID:ODCLRUdG
チェックはしてるんだけどね
213創る名無しに見る名無し:2009/12/17(木) 18:43:50 ID:ciZ7EQEq
どこかにあった某ゲームスレと同じく早々と廃れてきておりますなあ(笑)
参加もしないのに口出すアホ共がいるのが原因だというのは明白だけど
そもそもルールがクソだと言うことに早く気付けよ
214創る名無しに見る名無し:2009/12/22(火) 12:46:03 ID:UEKTBW1q
「ルールがクソ」ということはなかろう。
ただこの手のスレだと、別の書き手に「続きを書きたい」と思わせる技量が必要になる。
書き手は自分の思い入れのあるキャラを登録してきてるのだから書けて当然だが、自分の思い入れが他人にも伝わっていかないと。「知らないキャラだけど書いてみたい」と思わせるのはなかなかに難しい。
 あと上の方でも書いたが、リレー型式だと複線が張りずらい。読んでいて「ああ、ここで複線張っとけば…」と思わせられるところがいくつかあったが、折角張った伏線に引き継いだ書き手が気づいてくれなきゃ水の泡(笑)。
 最後に、「自己リレー云々」の騒ぎで、一部の書き手候補が別スレに離脱してしまったのも痛い。結局こっちのスレも別スレも両方とも仮死状態になってしまった。戦力が分散してしまったら、戦線維持が難しいのは当然だろう。
215創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 19:58:53 ID:zrWJscpo
リレーというルール自体がクソなんだよ。
>>1の設定も非現実的で、説得力が無さすぎる。
陰謀で情報遮断がされてるとかなら兎も角。
外の世界が無事なのに救出部隊が来ないとか有り得ないし
状況を把握しててオチ要員っていうのも有り得ない。
YS11程度の滑走路(1200m)で観光地とか無茶だし。
イメージアップに電気自動車とかもアメリカだから無理。
武器の規制が日本より緩い程度とか、憲法違反だ。
216創る名無しに見る名無し:2010/01/13(水) 16:03:27 ID:kkxk5rJs
もうこんな状態になったら仕切り直しで初めからやった方がいいと思う。
gdgdわいわい喋ったり愚痴ったりするスレです。

【ここを改変】の部分を改変。

基本的に何でも有りなのでとりあえずレスをしてみてください。
【ここを改変】の如く人が増えていくはずです。
しまった、やりすぎたと思っても時既に【ここを改変】です。諦めて【ここを改変】してください。

【創作発表板まとめwiki】
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/

【創作発表板推奨アップローダ】
http://www6.uploader.jp/home/sousaku/
http://loda.jp/mitemite/

【避難所】
http://jbbs.livedoor.jp/internet/3274/

【過去スレ】
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/41.html

【関連スレ】
創作発表板 自治/ローカルルールスレ Part3
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1230477589/

スレを立てるまでもない質問スレin創発板
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220177427/

レス代行はここでおk【避難所版】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1236880541/
218創る名無しに見る名無し:2010/01/13(水) 23:42:50 ID:4O2++75o
こっちは仕切り直し?
せっかく二つあるゾンビ世界スレを並行世界にして、どさくさまぎれにキャラを送り込んでやろうと思ってたのに(笑)。
219創る名無しに見る名無し:2010/01/16(土) 07:50:33 ID:lsRc2R+h
test
220創る名無しに見る名無し:2010/01/18(月) 00:42:37 ID:zi+KyKcL
上げないと人すらこないぜ
221創る名無しに見る名無し:2010/01/28(木) 00:12:44 ID:nAwGI0Fl
復活希望
222創る名無しに見る名無し:2010/02/22(月) 00:16:20 ID:yqhFaWrj
あげてみる
223創る名無しに見る名無し:2010/03/15(月) 00:08:45 ID:AOxKlzzA
希望を捨てずにageるんだ!
224創る名無しに見る名無し:2010/04/17(土) 12:17:45 ID:/2XvLFMP
スクールデイズとかいうカスをバカが書いたばっかりに
225創る名無しに見る名無し:2010/04/24(土) 20:58:07 ID:Nw06hqHo
実は参加するつもりで書き進めていたけど、鋸で首パンが通ったのを見て破棄してしまった
226創る名無しに見る名無し:2010/05/11(火) 02:55:30 ID:4W+Y/l3Q
リレー小説の定義には反するが

>>1なり、ねたを持っている人が
出だしから最後まで書き上げて

その後時系列中に別の場所ではこんなことが!?って
いうパターンの方が良いかもな
227創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 10:30:41 ID:Ou4Rz1vY
>>225
今来たんだが
鋸で首パンってチェンソウ?
それとも肉厚が1センチくらいある変態のこを
大男がフルスイング?
228創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 03:04:43 ID:BqMHj0AH
ローカルルール定めないとムチャクチャになるべ
229創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 19:02:46 ID:DquSgIa7
aa
230創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 00:23:49 ID:CkrrJdet
上げたる!
ゾンビ創作全般スレとかあればいいのに
231名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 23:56:35 ID:PyZ9U6oR
アニメも始まったし『○○を学園黙示録の世界に放り込んでみた』という流れにしてみては?
232創る名無しに見る名無し
>>230

正直ここはもう過疎っているので

そういった使い方をしても問題ないと思うけどね