0026 サムライ・ドライブ
ガッキィィン!!!!
「あッぶね……」と、南は呟いた。
寸でのところで、星人の刀を、自身が手にしているソードで何とか防いだ。
今回の相手は少しでも気を抜いたら不味いかもしれないと察した。
だが、和泉の一撃を食らって瀕死のふぁいやー星人は依然動いている。
「デブ!そいつ、殺れ!」
「ふざけんな、こんな弱えヤツ、自分でやれ、ぶふッ」
「ガタガタうるせェッ!囲まれてんだぞッ!!早く殺れッ!!」
「ちッ」
渋々、茨木は瀕死のふぁいやー星人に向けてXの銃を構える。
ヒュッ!!!!
いきなりそこに何かが飛んできた。
思わず、茨木は後ろにジャンプした。
飛んできたのは、矢だった。
「……ンだよ、くッそッ、流鏑馬(やぶさめ)かッ!?」
援軍のうちの一体の侍が、馬に乗ったまま、茨木に目掛けて矢を発射したのだ。
すかさず、2射目の矢をセットし始めたので、茨木はその場から移動した。
南は、自分に攻撃を仕掛けてくる星人に向かい合ったまま、視線を動かす。
侍5人、そしてその5人がそれぞれ馬に乗っている。
10人の星人がいる、それプラス和泉に腹をやられたのが1人、そいつが乗っていた馬。
合計12体の星人を倒さなくてはならない。
和泉にやられたのは問題はない、が油断は出来ない。
援軍の侍のうち、矢を射る侍は茨木を狙ったヤツだけの様だ。その他のヤツは矢を持っていない。
1人は茨木を、3人は和泉を、そして残り1人を自分が相手している。
馬は匂いを嗅ぐ以外に特別自分から攻撃してはこない。
注意を払うべきは侍だけと見ていいだろう。勿論、馬は後で始末するが。
南は、向かい合う侍を見やる。そして、自分が手にしているソードに可笑しなものがあるのに気付いた。
「な……んだ、これ……ヒビか?ヒビが入ッてやがる!」
ほんのわずかだが、侍の刀の一撃でソードにヒビが入った。
南の注意がそれたのを侍は逃さなかった。
遠慮なく、侍の刀が風を切った。
「うォッ!!!!」
反射的に、手が動いた。
ガッキィィィィィン!!!!!!
両手に強烈な衝撃が走る。だが、切られてはいない。
またも侍の刀は、ソードで防げたのだ。
「くッそッ、てめェ、来るなら来るッて言えよ!!!!」
侍に、そんな事が通じるとは思えなかったが、思わず口走った。
そして、また可笑しな事に気付く。ソードのヒビがさっきよりひどくなった。
「………こいつ……同じトコ狙いやがッた………あの速さで……」
ヒュンッ!!!!
またも侍の刀が来た。ソードで受ける。
衝撃が走る。手がジーンと痺れそうだった。
ソードには1箇所しかヒビが入っていない。
が、そのヒビもどんどん大きくなっている。
「クソ………なんなんだよ、このヤロー……手練れじゃねーか!」
「ほッ!!!!」
風を切る音。刀が来た。ソードを構える。
金属音と共に、南の視界からソードの切っ先が消えた。
カランカランカラーンッ
ソードの先が床を転がっていく。
「はッはッはッはッ」
侍の耳障りな笑い声。
南は、信じられないという顔をした。
「……ウッソだろ、コイツ……!
こんなヤツ、今まで居なかったぜ………!」
侍は嬉しそうに刀を構える。
もう南には防御できないと決めているのか、隙があった。
南はソードを握る手を捻った。
ドシュッ!!!!!
ソードが伸びて、侍の腹部を貫いた。
「がァァァァァァッ!!!!?」
「でも、剣が伸びるとは思わなかッたろ」
和泉は両手にそれぞれソードを構える。
片方は折れているが、機能的にはまだ使える。
侍2人は馬に乗ったまま、和泉に向かって来た。
「おおおおおおおおッ!!!!」
雄叫びと共に、侍2人の刀が空を切った。
和泉は両手に持つソードをクロスさせる形で構える。
ガッキィィィィンッ!!!!
ソードは、侍の攻撃を防御した。
「………ち……ヒビが………」
和泉、南、茨木が侍たちを相手にしているのを他所に、
西は切り離された小型レーダーを手にして、距離をとった。
(……よし……レーダーは使える……接合部がやられただけか………)
油断はしたが、まだ点数を稼ぐチャンスはある。
侍の星人たちはあれが全部ではないだろう。
それに、まだ『すちーる星人』を見ていない。
恐らく、今目の前にいる侍たちは和泉たちが倒してしまうだろう。
だからこそ、発見されていない『すちーる星人』を一刻も見つけ出さなくてはならない。
レーダーを操作すると、直ぐ近くに1体の星人がいる。
視線をその方角にやると、明らかに星人と思しき者がいた。
侍の仲間らしいが、着物の色が微妙に赤っぽい。
何故だか分からないが、刀は持っていなかった。
(んだ、こいつ、こいつなら楽勝じゃん)
どうやって攻撃しようかと考えた。
持っていたXの銃は侍に切られてしまった。
和泉たちが持っている様なソードは持ってきていない。
何か手ごろな武器はないか、視線を床にやる。
(お………あの刀!)
西のXの銃を切った侍が落とした刀があった。
それを手にとる。自分でも使えそうだった。
(よし……あいつは刀持ッてねーし………今度はいけるだろ)
西が歩み寄る。赤い侍は気付いた。
だが、逃げようとはせずに、逆に西に近寄ってくる。
(おいおい、なんだよ、こいつ!)
「はい、それでは問題です」
「……ハァ?」
「ふにょふにょふにょふにょふにょ!」
ホステスは、すちーる星人の不気味な跳躍に思わずしゃがみこんだ。
すちーる星人はホステスをまたいで、その直ぐ後ろに着地した。
ホステスはXの銃を手にしたまま、振り向く。
「ふにょふにょふにょふにょ」
黒い帽子、黒いマント、ぎょろりとした大きな目。
すちーる星人の風貌に、ぎょっとした。
「なにコイツ、キモッ!!」
「ふにょふにょふにょふにょふにょ」
「ちッくしょうッ、この銃、どうやッたら弾が出んだよッ!!」
「ふにょッ」
「きゃあッ!!!」
またもすちーる星人は跳躍して、ホステスに接近してきた。
ホステスはさっと避けた。体はすちーる星人から離れようと必死だった。
無意識のうちに、停車したばかりの電車の中に飛び込んでいた。
『2番線、ドアが閉まります、ご注意下さい』
機械的なアナウンスと共にベルが鳴る。
「ふにょふにょふにょふにょふにょッ」
ホステスを追って、すちーる星人も電車に乗り込んだ。
ドアが閉まった。
「………あ、やべ……」ホステスは呟いた。
「なによ、あんたも結局乗るんじゃないの」
中年女性が呆れた顔で言った。
それを無視して、小型のレーダーを見やる。
まだ助かるチャンスはありそうだった。
今回のミッションのエリア内には、多摩川駅の次の新丸子駅もちゃんと入っている。
新丸子駅で停車した時に降りれば問題は無い。
そう考えたホステスの耳に、アナウンスが飛び込む。
『ご乗車ありがとうございます。この電車は、東急東横線、横浜行き、快速電車です』
「……は?なに?快速!?」
ホステスは耳を疑った。快速電車は新丸子駅には停車しない。
つまり、このままだと、電車はエリア内から出てしまうという事だ。
しかも、目の前にはすちーる星人もいる。
頭を抱えたくなった。
0027につづく
0027 電車でGO
ホステスはどうすればこの場を脱出できるか、視線を周囲に動かした。
ドアの直ぐ横にある文字が目に飛び込んできた。
「そうだッ………非常時の停止ボタンとか………そういうのあッたよな!電車ッて!」
ホステスの仕事を始めて人気が出てから、電車は全く使わなくなっていた。
だが、電車に非常時に乗客が使用する機能がついている事くらいは記憶にある。
それを探そうとしたところへ、すちーる星人は動き出した。
「ふにょふにょふにょふにょ」
「ッそッ、ンだよ、おまえ!」
すちーる星人は、自身が身に纏っているマントを両手で大きく広げた。
何処かで見た事があるポーズだと思ったが、それが何処だったかは直ぐには思い出せなかった。
確か同じキャバクラに勤めているホステスから薦められた映画の中に出てくる化け物。
あまりに長過ぎる映画だったので、途中で観るのを止めてしまったのだが。
他愛の無い事を考えているところへ、すちーる星人が前進してきた。
少しでも距離を置こうと、後退するが、乗客のひとりにぶつかって動きが止まってしまう。
「ッそッ、ジャマだッて!!!!」
「ふにょふにょふにょ」
「……ハ?」
ホステスは目を疑った。
ぶつかった乗客が、すちーる星人と同じ鳴き声を発したからだ。
振り向くと、乗客はすちーる星人と同じ顔をしていた。
サラリーマン風のスーツを着てはいるが、すちーる星人の仲間だった。
よく周囲を見やると、座席に座っているOLや中高生、お年寄りもすちーる星人だった。
「ウソッ、ウソッ、
うわッ、うわッ、うわッ!!なに、これッ!!!!」
「ちょ、ちょッと、なんなの、この人たち!?」
中年女性たちは、ようやく異変を察した様だった。
だが、もう後の祭りである。
快速電車はエリアの外に向かって、突っ走り始めた。
しかも、乗客は全員すちーる星人ときている。
「ちッくしょうッ!!星人だらけじゃん!!」
ガタンッ ガタンッ ガタンッ ガタンッ
「あ……あッれッ、みんな、何処?」
黒いスーツに着替え終えた『うっち〜』は、ホステスやその他の面々の顔を捜した。
が、発車し始めた快速電車の中に、ホステスたちの顔を見た。
「あ………あら、あらら?みんな、帰ッ……ちゃッた?」
呆然と電車が去っていくのを見ていた彼女の横から、スーツを来たスポーツガリが顔を出した。
「ちッ、何で動いてるのかと思ッたら、電車に乗ッてンのかよ……」
レーダーと電車を交互に見ながら、スポーツガリの男は舌打ちした。
何が何だか分からなかったが、ホステスたちは帰った訳ではなさそうだった。
「あ……の………他の人たち、電車に乗ッちゃったン……ですけど」
「なに?」スポーツガリは眉を顰めた。「まずいな………エリアから出ちまうぜ」
「エリア……エリアッて何ですか?」
「………いや……何でもねェ………忘れろ…」
「忘れろッて……電車にはあたしの先生も……居るんですよ!」
「………これ」と、スポーツガリは小型のレーダーらしき機械の表示画面を見せてきた。
「ここ、分かるか、ここだ」
スポーツガリが指し示したのは、一定の場所を囲む四角の線だった。
「………これ、なんですか、これ……ッて、ここの事?」
「……そうだ、こッから出たら………死ぬ…」
「死ぬ………ウソ…」
「まァ、信じないならいい……電車に乗ッた奴等は放ッとけ……」
「ま、まッ、まッ、待ッて!!それが本当なら、なんとかしないと!!」
「どうする気だ?追い掛けンのか?」
「みんな、エリアの事知らないんですよ!なんとかしてあげて!」
「俺がそんな事する義理ねェ、俺は俺で点数を稼がなきゃならないんだよ」
「電車の中には……先生も……あの女の人も乗ッてる!
あの女の人、同じスーツ着てたわ、あの人の仲間なんでしょう!?」
「仲間……ね……仲間……くだらん」スポーツガリは溜め息をついた。
『うっち〜』は、歯噛みしながら、電車が去っていった方角を見やった。
そして、フェンスの向こう側、駅の入り口近くにバイクが駐車してあるのが見えた。
自分の足だけではとてもじゃないが追いつきそうもない。
でも、あれなら、もしかしたら、と『うっち〜』は思った。
躊躇っている時間などない。モタモタしていたら、その間に電車はエリアの外に出てしまう。
『うっち〜』は線路を直接降りた。
「本気か、おまえ、やめとけ」
「助けてくれないなら、放っといてください」
「……バカが………おまえもエリアの外に出ちまうかもしれねーぞ」
「……それでも……あたしは行きます」
『うっち〜』はバイクにまたがった。
「えッと………キーなしなんだよね……どうしよ……」
勢いにのってみたのはいいもの、キーなしでバイクを動かした事などなかった。
映画ではよく器用にバイクを動かしてるのを観たが、実際になど出来そうもない。
「こうやんだよ」と、横からスポーツガリの手が伸びる。
器用にバイクをいじくって、エンジンをかけてしまった。
スポーツガリは別のバイクをいじくって、それに跨った。
「ち……これなら部屋からバイク持ってくりゃ良かったぜ」
『うっち〜』はスポーツガリの心境の変化に戸惑っていた。
そんな事などお構いナシにスポーツガリは振り向いて言った。「行くぞ、時間ないぜ」
「……あの……なンで……」
「俺は点数を稼ぐ、おまえは奴等を助ける、何かおかしいのか?」
「………いえ……ない…です」
ホステスは未だに使い方がよく分からない銃を不恰好に構えながら、
傍にいるコンビニの若い男に向かって言った。
「ちょッ、あんた!この電車止めてッ!!」
「え、オレッスか!?」
「てめェ以外に誰がいンだよ、童貞!早く電車止めろッつの!」
「ンなムチャクチャな……」
「この状況だッてムチャクチャなんだよ、止めろッつッたら止めろよ!」
ホステスがコンビニの店員に視線をやった瞬間、
サラリーマン風の星人がホステスに飛び掛ってきた。
「ふにょふにょふにょふにょ」
「うッわァァァァァッ!!!」
カチッカチッカチッカチッ
Xの銃の引き金を引くが、弾は出ない。
「うわ、うわ、うわわ」と、コンビニの店員は逃げ腰になった。
大学教授の山村や中年女性も、それに倣って、ホステスと星人の取っ組み合いから距離をとろうと動いた。
カチッカチッカチッカチッ
「やッめッろッ、このッ……変態ッ!!!!」
ギョーンッ
奇妙な音と共に、Xの銃口が光った。
パニックのあまり、上トリガーと下トリガーを同時に引いたのだ。
少し間が開いた。強烈な破裂音。
ババンッ!!!!
「ぎぇぇぇぇぇぇえぇぇぇッ!!!!!!」
すちーる星人の右腕が派手に吹き飛んだ。
撃ったホステス自身も、その威力に目が点になった。
「すッげッ、これ、すッげ!!!」
撃たれた星人に銃を構えて、ホステスは叫んだ。
「こいつッ、こいつ撃つぞッ、近寄ッたら撃つぞッ!!!!」
「ふにょふにょふにょふにょふにょ」
ホステスを囲う他のすちーる星人は訳の分からない言葉を吐きながら、なおも寄ってくる。
「てめェら、日本語喋れねーのかよッ!!
こッち来たら撃つッつッてんだ、ボケッ!!!!」
とても言葉が通じているとは思えなかった。
星人たちはホステスにじりじりと接近してくる。それも前後左右とだ。
「ざッけんな、なんなんだよ、おまえら!!」
完全に膠着状態だった。
そんなホステスの耳に、バイクの爆音が飛び込んできた。
「あれ……あれ?」
外を見やると、見知った顔がバイクに乗っていた。
「……ちッ、みんな、同じ車両かよ」スポーツガリ(河内)は舌打ちした。
「どッ、どッ、どうするんですか、これからァァァァッ!!!!」
河内の直ぐ後ろからついてきている『うっち〜』が叫んだ。
「……考えはあンだけどな……ん?」
「な、なんですかッ?」
「おい、後ろ見ろッ!!」
言われて、『うっち〜』は後ろを振り向く。
何かがついてきていた。目を凝らすと、馬だった。
「え……あれ、なんですか、何で馬!?」
「馬だけじゃねーな、なんか乗ってる、サムライか、あれ」
パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ
物凄いスピードで馬が『うっち〜』と河内の方に近付いてきていた。
馬には、侍が跨っていて、その手には刀があった。
「おまえ、あいつ何とかしろ!」と、河内。
「え?え!?えェ!?あたし!?!」
「オレはやることあんだよ!その間、あいつ、止めてろッ!!」
「そ、そンなァ!!!!!」
『うっち〜』は悲壮な表情をしたが、反論しても無駄だった。
振り向くと、更に更に馬はスピードを出していた。
0028につづく
>>480でも書きましたが、
Yahoo作って投下した後に規制解除されていたので、
Yahooはまた規制された時のための保険として同時使用します。
最新話投下しましたのでお知らせします。
0026
>>481-485 0027
>>486-491
493 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 18:52:23 ID:RJkRL/Go
河内とか南とかジーンズ星人とかの
名前ってルタボウが考えたの?
それとも前から公式設定として存在してたの?
GANTZ MINUS 見て普通に名前出てたんで
びっくりしたんだけど。
>>493 河内、南、茨木、ジーンズ星人といったキャラクター名は
ガンツマニュアルの中で紹介されてました。
だから、公式設定です。
GANTZ MINUSの作者サンも多分同じ様に資料として
ガンツマニュアルを見たんだと思いますよ。
和泉や西が出てくるんだったら、やっぱり
和泉が解放された時にいた3人とか新宿でのジーンズ星人戦とか
必然的に出す事になるでしょうし。
僕もGANTZ MINUS買いましたが、まだちゃんと読んでないんです。
どんな内容なのかドキドキ。
495 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/22(土) 12:00:02 ID:Noa3Y5+S
496 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/22(土) 14:04:20 ID:u3mks/N+
>>494 正直お前の小説のほうが面白いからwwwwww
昨日小説読み終わったけど、、、
完全にこっちのの方が面白い
MINUSよりこっちのが好きだ…
続き楽しみにしてます
499 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/29(土) 21:32:04 ID:CjwVJalK
楽しみだぜルダボウ
0028 ウルトラクイズ
西は、一瞬、きょとんとしてしまった。向かい合う1体の侍の星人の言っている事がおかしかったのだ。
星人はそんな西を意に介さず、勝手に話を続ける。
「4択問題です」
「………なン…だ、こいつ、なに………言ッて……」
「今から歌を歌います。
いんとぅ〜ざ♪ふぁいあっ♪あいむふぉぉぉぉぉぉぉぉりんっ♪
いんとぅざふぁいやっ♪あいむふぉぉぉぉりぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ♪」
(………なんなんだ、こいつ、隙だらけだ……)
西は、侍の星人が落とした刀を構えた。
それでも、相対する侍は微動だにせず歌を続けた。
待てよ。西はそこで動きを止めた。
若しかすると、敢えて接近させる様に誘っているのかもしれない。
だとすれば、このまま近付くのは阿呆のする事だ。
この離れた距離を保ったまま、攻撃出来ないだろうか。
西は握り締めた刀を見やった。
この刀をこのまま侍に目掛けて投げるというのはどうだろうか。
不恰好ではあるが、距離を保ったまま攻撃できる事は確かだろう。
それに、侍の星人たちのこれまでの動きから、接近しなければ攻撃は受けないと見ていい。
今、西が出来る最善の策はこれしか思いつかなかった。
(やッてみるか…………まだ点数はゼロの筈だし………
このままじゃ……0点だし……)
西は刀を侍に目掛けて狙いをつけた。
そこで、侍は歌うのを止めた。
感づかれたか。西も動きを止めた。
「この歌を歌っているのは次のうちどれでしょう」
「ハァ?」
「1、マイケル・ジャクソン。
2、RUN=DMC。
3、スティーヴィー・ワンダー。
4、ドッケン」
(………ンなン、オレが知るか、なに言ッてんだよ、このバカ)
「さぁ、正解はどれでしょうか?3、2、1、キューッ!」
西は、それを無視して、刀を構え直した。
しかし、侍は思わぬ行動に出た。
「ファイヤァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
侍は口をパカッと開けた。
口の中がカッと赤色の光を放ったかと思った次の瞬間、炎が放射された。
ボッ!!!!!!!
「おわッ!!!!!!」
『うっち〜』は自分の背後にどんどん近付いてくる馬とそれに乗る馬に視線を向けた。
そして、自分が今片手にしている銃らしき武器を見やった。
バイクに乗りながら、背後に迫る侍を撃たなければならない。
考えるだけで、とても出来そうにないと思った。
だが、自分の前方を走る河内と名乗る男は構わずに電車の追走を続けた。
自分が後ろの敵を倒すしかないのだ。『うっち〜』は舌打ちしたくなった。
冗談じゃないわ。何であたしが。
そもそも、一体、ここは何だっていうの。
何であたし、こんな事をさせられているんだろう。
当然ながらその問い掛けに対する答えは得られない。
それが余計に『うっち〜』を苛立たせた。
考えていてもしょうがない、と頭を振る。
今は電車に乗り込んでしまった山村先生を助けなきゃ。
このまま電車がエリアの外に出れば、先生は死ぬらしい。
だったら、電車を止めるべきだ。どうにかして。
そして、それをやるのは自分だ。自分をジャマしようとする敵は倒さなくてはいけない。
『うっち〜』は深く深く息を吐いた。腹を決めた。
振り向いて、背後にいる侍に銃を向ける。
途端に視界が揺れる。やはり片手でバイクを動かすのはまだ自分には難しい。
カチッ カチッ カチッ
「あれ……?」
引き金を引いたが、何も出ない。そこで河内の言った事を思い出した。
上トリガーと下トリガーを同時に引かなくては何も出ない。
確かそう言っていた様な気がする。
同時に引き金を引いた。
ギョーン!!!!!!
「うわッ、出たッ!!!!」
だが、目の前に迫った侍はすかさず横にずれた。
しばらくして、視界を横切った電柱の一部分が破裂した。
ドドドンッ!!!!!!!
「どうしよ………当たんない!」
河内に応援を求めようと思ったが、だいぶ距離が離れている。
声を張り上げたところで河内に届くとは思えなかった。
もう一度引き金を引こうとしたところで体が揺れた。
バイクが走っているのは線路上なので、あまりにも不安定だった。
何か硬いものにぶつかったのだろう。その衝撃に気をとられた。
「あッ!!!!」
気付いた時には、もう銃を手放してしまっていた。
銃を落としてしまった。他に武器は持っていない。
どうすればいいのだろうか。河内には、侍を何とかしろと言われている。
このまま逃げるしか、今の自分には手立てはない。
けれど、逃げ続ければ、後ろの侍はずっと自分を追跡するだろう。
だから、侍を倒す以外に自分がすべき事は今はない。
振り向くと、いつの間にか馬には誰も乗っていなかった。
馬に跨っている筈の侍の姿は消えていた。
「あ…あれ、あれッ!?」
「きぇぇぇぇぇぇえぇッ!!!!!」
奇声が耳に飛び込んできた。
咄嗟に視線を上にやる。
侍が刀を構えて、飛び掛ってくるところだった。
一瞬、ほんの一瞬だった。最早、考える余裕すらなかった。
『うっち〜』はバイクから飛び降りた。
その直後に侍の刀がバイクを真っ二つに切り裂いた。
ズバッ!!!!!
「ヒヒヒィーン!!!!」
馬の鳴き声。侍は、ハッと前方を見やった。
対向車線から電車が向かってきた。
侍がそれに気付いた時には、もう電車は目の前だった。
バギャッ!!!!!!!!!!!!!!!!!
電車が侍を跳ね飛ばした。
「ハァッ…………ハァッ…………ハァッ………」
バイクから飛び降りた『うっち〜』はそのまま転げまわった。
だが、怪我ひとつすらしなかった。それが自分自身でも不思議に思えた。
「……あ…………あたし…………生きてる?」
ホステスの言った事は本当だったのか。
ホステスは黒いスーツを着る様に薦めた。
スーツを着た人間はスーパーマンの様な力を得られる。
デタラメだと思っていたが、今の自分の様子を見ると、そうではなかったらしい。
「バイク………壊れちゃった……どうしよう……」
既に、自分と河内が追っている電車も、河内も見えなくなっていた。
もうすぐエリアの外に出てしまうかもしれない。
河内一人でどうにかなるのだろうか。
一応、侍は何とか食い止めたが、電車の中にも星人はうよいよいた。
「ヒヒッ」
馬の鳴き声。振り向くと、飼い主を失った馬がその場に立ち尽くしていた。
「…………そうだ、あれだ」
ホステスは今自分が居る車両をざっと見回した。
両隣の車両への通路も星人に塞がれている。
これでは電車を止めるのはとても無理だ。
「ふにょふにょふにょふにょふにょ」
ホステスが銃を構えているにも関わらず、
すちーる星人の群れはホステスとの距離を詰めていく。
「…………駄目だッ、もう…………」
ホステスは銃を構えながら、片手で窓を開けた。
途端に強い風が彼女の顔に当たった。
前回のジーンズ星人の時に、スーツの性能については少し学んだ。
このスーツさえ着ていれば、電車から飛び降りても耐えられるだろう。
中年女性や大学教授らしい男を見やった。
とてもじゃないが、自分ではもう彼等を助けられない。
ホステスは意を決して、窓枠に足を載せた。
「ちょ、ちょッと、あんた!」
中年女性がホステスに飛び掛ってきた。
「どこ行こうッてのよ!あたし達、おいてく気!?」
「………あたしはやれるだけの事はやッたけど……」
「ハァ!?何したッての?何にもしてないじゃないの!何とかしてよ!」
「うるせーなッ!こんな時だけ頼るんじゃねェよ!そのまま死ね!」
「……あんた、正気なの、この人でなし!」
中年女性はこのままホステスを逃がすものかとホステスの体を強く引っ張った。
「おいッ!コラッ!ふざけんなッ!!放せよ、ババァ!!!!」
ホステスは中年女性を引き離そうともがいた。
だが、それに気をとられて、すちーる星人の群れに囲まれている事に気付くのが遅れた。
「うわッ、うわッ、うわーッ!!!!」
ギギギギギギッ
急ブレーキが掛かった。
思わず、衝撃で体がつんのめる。
「あ………あれ?」
ホステスは何が起こったのかと周囲を見回した。
外の風景の動きがスローになっていく。
「電車………止まッた?」
「………運転士も星人かよ……どーなッてんだ」
河内はメチャクチャにした運転席で
既にボロ雑巾のごとくグチャグチャになった星人の死体を見て言った。
「………ふゥ………あとは……車内の星人どもか」
ズンッ
大きな衝撃音が聞こえた。
「……ンだ?今の?」
ズンッ
また衝撃音。今度は近い。体が少し揺れた。
ズンッ
「………なんか…来る………のか?」
ズンッ ズンッ ズンッ ズンッ ズンッ
音が次第に大きくなっていく。それと共に揺れもどんどん激しくなっていった。
河内は銃を構えながら、周囲を見回した。
何処からやってくるのか。河内の目はそれを捉えた。
今居る運転席の前方から大きなものがやってくる。
ズンッズンッズンッズンッズンッ
「…………なンだ、あいつ!!!!」
どう見ても身長が5メートルはありそうな巨人だった。
不気味に感じたのは、その顔についているたった一つの目だった。
ズンッズンッズンッズンッズンッ
「……………でけェ…………あいつ……ラスボスか?」
0029につづく
>>500-506 ↑最新話「0028」を投下しました。
遅くなってすいません。
>>495-499 どうもありがとうございます。
MINUSよりも面白いなんて言っていただけるなんて
書いた甲斐がありましたw嬉しいです。
MINUSちょこっと読んだんですけど、細かいかもしれませんが、
黒い玉の画面に表示される文字が少し違ってるのは、個人的には×ですね。
自分なりのアレンジをしたかったかもしれませんけど、僕はこういうトコで
違うことをされるっていうのは駄目だと思うんです。
これをやりたいんだったら、東京以外の部屋にしてほしかったですね。
全部読んだらもしかしたら感想書くかもしれません。
GANTZと関係ないんですが、最近タランティーノ監督の映画で
「イングロリアス・バスターズ」という映画を観ました。
これはとても面白い映画でした。このスレを楽しんでくれている人も
きっと楽しめるんじゃないかと思うので、暇があれば鑑賞してみて下さい。
うんうん俺もそう思ってた
ルダボウ…今更だが戻ってきてくれてありがとう…
ルダウボさん、あんたぁ最高だっ
>>507 俺も見てみたけどコメディだと思ってたからバッド殺しの所で青くなった。
でも確かにおもしろかった。
0029 一つ目の強襲
「おわッ!!!!!」
西は、侍の星人の吐いたを避けようと、思わず後ろに飛び退いた。
侍の星人は、そのまま前進してきた。
また火を吐かれると思い、西は更に後退する。
手にしていた刀を投げる事も頭の中から吹っ飛んでいた。
どうすれば、星人から逃れられるかしか考えられなかった。
星人が口を大きく開けた。
火を吐く構えだ。西は、左手にある小型の機械を操作する。
カチッ カチッ カチッ カチッ
「クソッ、クソッ、消えろッ、おいッ、消えろッ!!!!」
パニックの余り、機械の操作も上手くいかなかった。
そうこうしている間にも、侍の星人は距離を詰めてくる。
(やべェッ!!やべェッ!!!!ちッくしょうッッッ!!!!!!)
「おまえ………なにやッてンだ」と聞き覚えのある男の声がした。
振り向くと、ホッケーマスクがライフルを構えて立っていた。
すっかりホッケーマスクの事を忘れていたが、どうやらまだ星人に出くわしていなかったらしい。
「………あ………いや…」西はどう答えようか迷った。
後ろには、侍がいるし、目の前にはホッケーマスクがいる。
「…………コイツ………コイツが犯人」
咄嗟に思いついた言葉だった。
「ンだ?犯人?コイツが?」ホッケーマスクは首をかしげた。
「……そう、コイツ」
西は、背後に迫る侍の星人を指差す。
「コイツが………オレたちをあの部屋に集めた犯人…………」
「マジかよ……コイツが…?オレを?何モンだ、コイツ?」
「さァ…………」
ホッケーマスクは、ライフルの銃口を侍に向けた。
「てめェ!!そこで止まれ!!」
侍は、ホッケーマスクの威嚇を無視して、前進してきた。
ホッケーマスクは引き金に指をあてた。
「脅しじゃねーぞ、おいッ!!そこで止まれッ!!止まれッて言ッてンだぞッ!!!!」
ホッケーマスクが星人を相手にしている隙に、西は小型のレーダーに再度取り組んだ。
今度は慎重に操作した。火花が散った。
バチバチバチバチバチッ
「あッ!?」
西が消えたのが目に入ったホッケーマスクは素っ頓狂な声を出した。
「ガキッ!!コラッ!!どこ行きやがッたッ!?」
「ファイヤァァァァァァァァァッ」
侍の星人はホッケーマスクに向けて火を吐いた。
ホッケーマスクはもろに火を顔に食らった。
マスクを被っているお陰で、ひどい怪我にはならなかった。
が、あまりの熱さに、思わずライフルの引き金を引いた。
バンッ!!!!!!!
弾丸が侍の星人の肩に命中。
星人はそのまま後方に吹っ飛んだ。
「くッそッ、熱ッッぢぃぃぃッ!!!!!くそッ!!くそッ!!くそッ!!!!!」
ホッケーマスクは火を消そうともがいた。
(……今ならやれるな…………あのマスク野郎が撃ッたから………動きも鈍いし……)
西は、ゆっくりと刀を構えた。
そこに大きな衝撃音が耳に入る。
ズンッ ズンッ ズンッ
(…………なンだ?あの音?)
ババンッ
南の一撃で侍の星人の最後の一人の頭が破裂した。
「ふゥ………これで全部……か?」と、周囲を見回す。
侍の星人たち、そして侍たちが乗っていた馬たちの死体が床に転がっていた。
銃による攻撃、剣による攻撃での損傷が死体には見られた。
南は何体倒したか、頭の中で思い出そうとするが、出来なかった。
心臓の鼓動が速かった。それ位、必死だった。面倒臭いと感じ、思い出すのはやめた。
星人たちの死体が散乱した中、和泉は涼しい顔でレーダーを見ていた。
「今回も何とかクリアできそうッスね、ラスボスみてーなヤツはまだッぽいけど」
「……ぶふッ………終わッたか………」
バチバチバチッ
今まで透明化していた茨木が姿を見せた。
南は、汗だくの茨木の顔に冷たい視線を向けた。
「おまえ、ずッと隠れてたのかよ、ビビり過ぎ」
「敵の能力を観察してたんだ……でもたいしたことなかッたな……ぶふッ……」
「何もしてねーだろ、バカ」
ズンッ ズンッ
大きな地響き。音がするたびに身体が揺れた。
「うォッ、ンだ、これ!?」
「………あれ、見ろ」と和泉が指差す。やや離れたところに、でかい生物がいた。
「ンだ、あれ!でけェ!!!!」
「あれがボスか………」
和泉は嬉しそうに呟いた。
ズンッ ズンッ ズンッ ズンッ
運転席にいる河内は、巨大な一つ目の星人がどんどん接近するのを見て、
このままここに居るのはまずいと感じた。
「どたまかちわるどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!」
星人の咆哮が耳に響いた。
何処かで聞いた様な台詞を吐きながら、星人はどんどん近付いてくる。
運転席を出ようと、ドアに手をのばしたところで、
運転士になりすましていた星人の死体がズルズルッと椅子から転げ落ちた。
一つ目の星人の起こす振動で動いたのだろう。
だが、神経過敏になっていた河内は、まだ生きているのだと思い、死体に銃を向けた。
「どたまかちわるどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ハッと一つ目が来る方角を見やった。
もう一つ目は、自分の目の前だった。
それに気付いた時には、もう一つ目の右腕が大きく動いていた。
ドゴッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
一つ目の右パンチが、車両の横ッ腹にぶち当たった。
そのまま、河内のいる車両は丸々吹っ飛んでいった。
一つ目は構わずに2両車目に左パンチをぶち込んだ。
ドゴッ!!!!!!!!ドゴッ!!!!!!!!ドゴッ!!!!!!!!!
ホステスは、妙な振動を感じた。
電車が止まったのは良かったが、
すちーる星人の群れに囲まれている状況下に変わりはなかった。
この八方塞の窮地をどうすればいいのかと考えているところに衝撃音、そして振動。
「………は?なに、この音?」
ドゴッ!!!!!!!ドゴッ!!!!!!!ドゴッ!!!!!!!
衝撃音、そして振動はどんどん大きくなっていった。
何か大きなものが近付いてくる。
「…………うわ、うわ、うわ、なにあれッ!!なにあれッ!!!!!!」
窓を見ると、電車が1両丸々吹っ飛んでいくのが見えた。
車両はそのまま多摩川駅と新丸子駅の中間の位置にある大きな河に落ちていった。
「な……なンスか、この音……」
20代のコンビニの男は言った。それを無視して、ホステスは言った。
「……ドア開けて………」
「は?」
「は、じゃねェよ!早くドア開けろッ!!!やばいッつーの!!!!!」
コンビニの男の動きは非常に鈍かった。
衝撃音と同時に、隣の車両がそのまま姿を消した。
「どけッ!!あたしがやるッ!!!!」と、閉まっているドアの戸袋に手を突っ込んだ。
「どたまかちわるどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
でかい声が耳に響いたと思った瞬間、身体に大きな衝撃が走った。
ホステスたちのいる車両は一つ目の星人のパンチで宙を舞った。
0030につづく
最新話「0029」
>>512-516まで
投下しました。
>>508-516 どうもありがとうございます。
>>516 面白いと思う人がいて嬉しいです。
バット殺しのシーンから結構残酷描写が多くなっていくんで、
確かに青くなりそうですよね。
予想外の展開が多かったし、なかなか優れた映画だったと思います。
今週も乙
西くんらしくなってきたな
ホッケーマスク戦闘不能www
乙。今回も楽しかった
るーるーるーだぼおおおおおおおおおうっ!
ぐはっ!…
すいません。体調不良で寝てました。
近日中に最新話投下します。
524 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 07:10:59 ID:A73QPqby
>>523 自分のペースでごゆっくり!
ルダボウ!毎回楽しみにしてる!頑張れッ!!!
1っヶ月ぐらいなら待つ。
526 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 08:13:05 ID:S19j98e1
できれば玄野と加藤がくる直前まで頑張って書いてほしいな
ルダボウさん大丈夫?
体調悪いときはゆっくり休めよ
ッダボウ!
529 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 17:44:56 ID:zKbda9gC
ほほ
530 :
創る名無しに見る名無し:
ルタボウの近日って言うのは一体いつなのかな(°□°;)?