参加者リスト
5/7【LIVE A LIVE】
○高原日勝/○アキラ(田所晃)/○無法松/●サンダウン/●レイ・クウゴ/○ストレイボウ/●オディ・オブライト
6/7【ファイナルファンタジーVI】
●ティナ・ブランフォード/●エドガー・ロニ・フィガロ/○マッシュ・レネ・フィガロ/○シャドウ/○セッツァー・ギャッビアーニ/○ゴゴ/○ケフカ・パラッツォ
5/7【ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】
○主人公(勇者)/●アリーナ/○ミネア/●トルネコ/○ピサロ/○ロザリー/○シンシア
6/7【WILD ARMS 2nd IGNITION】
○アシュレー・ウィンチェスター/●リルカ・エレニアック/○ブラッド・エヴァンス/●カノン/○マリアベル・アーミティッジ/○アナスタシア・ルン・ヴァレリア/○トカ
5/6【幻想水滸伝II】
○2主人公/○ジョウイ・アトレイド/○ビクトール/○ビッキー/●ナナミ/○ルカ・ブライト
5/5【ファイアーエムブレム 烈火の剣】
○リン(リンディス)/○ヘクトル/●フロリーナ/○ジャファル/○ニノ
4/5【アークザラッドU】
○エルク/●リーザ/●シュウ/○トッシュ/○ちょこ
4/5【クロノ・トリガー】
○クロノ/○ルッカ/○カエル/●エイラ/○魔王
4/5【サモンナイト3】
○アティ(女主人公)/●アリーゼ/○アズリア・レヴィノス/●ビジュ/○イスラ・レヴィノス
【残り38名】
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
「地図」 → MAPのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に2エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0087.png 【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【予約に関してのルール】
・したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行います。
・予約は必須です。予約せずに投下できるとしても、必ず予約スレで予約をしてから投下してください。
・予約期間は五日です。
さらに、三話以上投下した書き手の方は、三日間の延長を申請することができます。
ただし、延長するときは必ずトリップをつけて、予約スレか本スレか避難所スレに延長すると一言書き込んでください。 ・修正期間は審議結果の修正要求から最大三日(ただし、議論による反論も可とする)。
・予約時にはトリップ必須です。また、トリップは本人確認の唯一の手段となります。トリップが漏れた場合は本人の責任です。
・予約破棄は、必ず予約スレでも行ってください。
【議論の時の心得】
・議論はしたらばの議論スレでして下さい。
・作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
【禁止事項】
・一度死亡が確定したキャラの復活
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
程度によっては雑談スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。
【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NG協議・議論は全て議論スレで行う。本スレでは絶対に議論しないでください。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は、修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
・誤字などは本スレで指摘してかまいませんが、内容議論については「問題議論用スレ」で行いましょう。
・「議論スレ」は毒吐きではありません。議論に際しては、冷静に言葉を選んで客観的な意見を述べましょう。
・内容について本スレで議論する人がいたら、「議論スレ」へ誘導しましょう。
・修正議論自体が行われなかった場合において自主的に修正するかどうかは、書き手の判断に委ねられます。
ただし、このような修正を行う際には議論スレに一報することを強く推奨します。
【書き手の注意点】
・トリップ必須。 騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので必ず付けてください。
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの一時投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に一時投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない一時投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はNG
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
携帯からPCに変えるだけでも違います。
【読み手の心得】
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
【身体能力】
・原則としてキャラの身体能力に制限はかからない。
→例外としてティナのトランス、アシュレーのアクセス、デスピサロはある程度弱体化
【技・魔法】
・MPの定義が作品によって違うため、MPという概念を廃止。
→魔法などのMPを消費する行動を取ると疲れる(体力的・精神的に)
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる人物。(敵味方の区別なし)
・回復魔法は効力が大きく減少。
・以下の特殊能力は効果が弱くなり、消耗が大きくなる。
→アキラの読心能力、ルーラやラナルータやテレポート(アキラ、ビッキー)などの移動系魔法、エルクのインビシブル
・蘇生魔法、即死魔法は禁止
【支給品】
・FEの魔導書や杖は「魔法が使えるものにしか使えず、魔力消費して本来ならばそのキャラが使えない魔法を使えるようになるアイテム」とする
・FEの武器は明確な使用制限なし。他作品の剣も折れるときは折れる。
・シルバード(タイムマシン)、ブルコギドン、マリアベルのゴーレム(巨大ロボ)などは支給禁止。
・また、ヒューイ(ペガサス)、プーカのような自立行動可能なものは支給禁止
・スローナイフ、ボムなどのグッズは有限(残り弾数を表記必須)
【専用武器について】
・アシュレー、ブラッドのARMは誰にでも使える(本来の使い手との差は『経験』)
・碧の賢帝(シャルトス)と果てしなき蒼(ウィスタリアス)、アガートラームは適格者のみ使用可能(非適格者にとっては『ただの剣』?)
・天空装備、アルマーズ、グランドリオンなどは全員が使用可能
【身体能力】
・原則としてキャラの身体能力に制限はかからない。
→例外としてティナのトランス、アシュレーのアクセス、デスピサロはある程度弱体化
【技・魔法】
・MPの定義が作品によって違うため、MPという概念を廃止。
→魔法などのMPを消費する行動を取ると疲れる(体力的・精神的に)
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる人物。(敵味方の区別なし)
・回復魔法は効力が大きく減少。
・以下の特殊能力は効果が弱くなり、消耗が大きくなる。
→アキラの読心能力、ルーラやラナルータやテレポート(アキラ、ビッキー)などの移動系魔法、エルクのインビシブル
・蘇生魔法、即死魔法は禁止
【支給品】
・FEの魔導書や杖は「魔法が使えるものにしか使えず、魔力消費して本来ならばそのキャラが使えない魔法を使えるようになるアイテム」とする
・FEの武器は明確な使用制限なし。他作品の剣も折れるときは折れる。
・シルバード(タイムマシン)、ブルコギドン、マリアベルのゴーレム(巨大ロボ)などは支給禁止。
・また、ヒューイ(ペガサス)、プーカのような自立行動可能なものは支給禁止
・スローナイフ、ボムなどのグッズは有限(残り弾数を表記必須)
【専用武器について】
・アシュレー、ブラッドのARMは誰にでも使える(本来の使い手との差は『経験』)
・碧の賢帝(シャルトス)と果てしなき蒼(ウィスタリアス)、アガートラームは適格者のみ使用可能(非適格者にとっては『ただの剣』?)
・天空装備、アルマーズ、グランドリオンなどは全員が使用可能
スレ立て乙です。
すいません、規制されたのかと思って
>>7貼ったら被っちゃいました。
>>9 いや、こちらこそ紛らわしい真似をして申し訳ない。
後、2の参加者リスト、●と最終集計は合っているのですが、作品ごとの生存者集計を修正し忘れてしまいました。
すみません。
遅くなりましたが投下します
どれだけ遠くへ進んだところで。
どれだけ速く走ったところで。
そいつはピタッと僕の後を追ってくる。
影のように張り付いて、お化けのように付き纏う。
嫌だ、嫌だと泣き叫んでも逃げきれるはずもない。
そいつは、僕が最も恐れ嫌う化け物<ベヒモス>は。
僕自身なのだから。
「はっ……はっ……はっ……はあ、はあ、はあ」
無様だった。
仮にも帝国軍諜報部の特務軍人が感情に振り回され、後先考えずにがむしゃらに走って息を切らせている。
軍学校で習った感情の抑制法や、体力配分の仕方はどうやらすっかり忘れてしまったみたいだ。
はははっ、なんだよそれは。
せっかくの紛いなりにも鍛えた肉体が宝の持ち腐れじゃないか。
全く、何をやってるんだろ。
僕がやりたいことは、僕がやらなければならないことは、一刻も早く姉さん達を助けることなのに。
こんなところで時間も体力も浪費していいはずがないのに。
なのに。
「ちくしょう、ちくしょうッ! ちくしょおぉぉッ!! 」
脚が止まってくれなかった。
身体と心がどこまでも逃げ続けることを選択していた。
無駄なのに。
一生ついてまわるのが自分自身だ。
逃げ切るにはそれこそ――
「わーいのー! おにーさんとかけっこなのー!」
全速力で後ろ向きに突っ走っていた思考が途切れ、一気に現実へと連れ戻される。
「誰だ!?」
声のしたほうに振り向けば一人の幼き少女の姿。
年の頃は6、7歳くらいか。
赤みのかかった二つのお下げを揺らしてにこにこしながら僕のすぐ隣を走っていた。
「何かおいしそうな匂いー。じゅる……」
日勝達からもらったタイヤキセットに視線を注ぐ幼児の緩んだ顔を見て、僕はまず自分自身に呆れた。
だってそうだろ?
こんな気配を隠しもしない少女に並走されていたことにさえ気付かなかったなんてあまりにも間抜けが過ぎるじゃないか。
でも、その呆れは間もなく疑念に変わった。
少女だって?
確かに子どもは風の子元気な子と言われはする。
けれどもいくらなんでも軍属である僕の全力疾走に息一つ乱さず平然とついてくるなんてこと有り得るだろうか?
「き、君は」
動揺しながらも身体は勝手に動き剣を抜き放っていた。
いくら警戒しているからって、年端もいかない少女に剣を向けることに躊躇のない自分を哂う。
ああそうさ、慣れている。
幼子を人質に取ったことも数え切れないほどあるさ。
ただ、これまで何度も繰り返してきた時と違って、剣を突きつけられた少女からは一片の恐怖も感じられなかった。
「ひとに名前を聞くときはまず自分の名前を言うの。あたしちょこ、よろしくなの。さあ、なのったわ。今度はあなたよ!」
状況を分かっているのか、いないのか。
腰に手を当て可愛らしく言い放つ少女を見ていると、なんだか一人シリアスにやっている僕が馬鹿に思えてくる。
いや、実際馬鹿以外の何者でもない。
馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、大馬鹿者だ。
こんな光景を誰かに見られでもしたら間違いなく僕は危険人物認定されるだろう。
周回遅れもはなはだしいが、ようやっと冷静さを取り戻してきた脳がさっきまでとは別の理由で僕を責めだす。
だからまあ。
「ちょこちゃん、それ、結局自分のほうから名乗っちゃってるわよ?」
前方からやってきた女性の第一声が危機感の感じられないどこかずれたものであったことには、心の底から安堵した。
▽
「うげ〜……からい〜」
舌を出してぺっぺと飲み込んだ海水を吐き出しているちょこちゃんの背を撫でる。
浜辺にいる理由は簡単だ。
ついさっきまで砂漠の暑さと殺風景に苦しめられた身には、地図から想起できた一面に広がる青い海が大変魅力的に感じられたからだ。
ブラッドくん達を吹き飛ばした方角から距離を取れることもありがたかった。
すぐ左隣の禁止エリアに引っかからないよう、川に沿って南下を開始。
ちょこちゃんが余りにも楽しそうに川に飛び込むものだから、わたしも海を待てずに少し川の水で身体を冷やしたりもした。
気持ちよかった。水遊びなんていったい何百年ぶりだっただろうか?
川だけじゃない。
浜辺へと辿り着くまでに横切った平野でだってわたしはうきうきしていた。
荒廃していく一方だったファルガイアで生き、死んでからも物質が存在しない世界を漂うだけだったのだ。
踏みしめた緑生い茂る大地の感触が嬉しくてちょこちゃんと一緒にスキップしてしまってもいいじゃない。
ま、まあ、年上のお姉さんとしてはあるまじき姿だったことは認めなくも無いけど。
そんなわたしの浮かれっぷりはちょこちゃんがイスラくんのことを教えてくれるまで続いた。
草原が知らせてくれたらしい。誰かがこっちに向かって必死で走ってくるって。
……よくよく考えてみればすごい話だ。
イスラくんがほんとに居た以上、ちょこちゃんは植物とも話せるってことになる。
全くもって何でもできる子だ。
そのちょこちゃんは今度は砂でお城を作り出している。
「随分呑気だね。殺し合いの場で呑気に水遊びだなんて」
あの後イスラくんはちょこちゃんに引っ張ってこられる形でここまで連れて来られたのだ。
血塗れの手を洗い、みんなでお菓子を食べた後は手持ち無沙汰だったみたいだけど、そこは女の子に付き合わされる男の子の常だ。
我慢して欲しい。
「ふふ、十歳くらいも年下の女の子に剣を突きつけるよりはずっと健全だと思うわよ?」
「そ、それは……。やれやれ、全くもってその通りだよ」
わたし自身も数時間前にちょこちゃんを絞め殺そうとした身が何を言っているんだか。
そのことを知る由もないイスラくんが項垂れる顔を少し可愛いと思ってしまう自分は中々にふてぶてしい。
うん、悪くない気分だ。
ブラッドくんの言うとおり。
こうやって年下の男の子をからかったり、子どもと海で戯れていたりする方が、ずっと、ずっと、わたしらしい。
できることならわたしだって殺し合いよりもこうやって年下の男の子をからかったり、子どもと海で戯れていたりしていたい。
海だけじゃない。もっと、もっと、この手で触れて、足で歩いて、楽しみたい。
施設を見て回りたいと思ったのもそんなささやかで、けれど、わたしにとっては真摯な欲望からなるものだったのだ。
何も誰かを殺してしまうことを僅かな時間だけでも遅らせたいということだけではないはずだ。
「ねえイスラくん。あなた、向こうの方から来たわよね? あっちにはどんな施設があったのかしら?」
「施設? そうだね、確かに施設を見て回るのは有用かもしれないね。首輪を解除する手がかりも見つけられるかもしれない」
イスラくんはわたしの言をそう解釈した。
まあ殺し合いには乗っておらず、守りたい人が居るというイスラくんには当然か。
殺し合いに乗っている人にだってわたし以外に施設を娯楽目的で回っている人はいないだろう。
夜明け前にわたし達を襲ってきた男の人――イスラくんが返り討ちにしたビジュという者らしい――みたいな方がいっそ分かりやすい。
でも仕方ないじゃない。
海だけをとってもこんなにも楽しいのだ。
イスラくんが呑気だって言うのはもっともだけど、本物の自然に触れてはしゃぐくらい許して欲しい。
「そうだね、僕が最初に意識を取り戻したのはF-1の教会だったね。特に目ぼしい物は見当たらなかったけど……」
「いいの。中がどんな様子だったかもっと詳しく聞かせて欲しいな」
△
こちらから情報を先に渡すのもどうかと思ったけど、知り合いの情報等ならともかく、なんら実りの無かった施設の情報だ。
惜しくは無い。
気にはしていなさそうだけど、出会いがしらの印象改善もふまえアナスタシアに請われるがまま僕は語り出した。
それからしばらく彼女はニコニコしたまま僕の話を聞いていた。
やれ見所は無かったかとか、景色はどうだったかとか、まるでこの島へと観光に来たみたいだ。意味が分からない。
別に突如訪れた非日常にあてられおかしくなっているわけではないようなのが尚更不気味だ。
クロノが建てたという墓の経緯を話した時、表情が僅かに沈んだことからすると、人の死を悲しめる程度にはまともな人間のはずなんだけど。
「そんなことを知ってどうするんだい?」
遂に耐えかねて僕はアナスタシアに問いかけていた。
アナスタシアは答える、笑顔を湛えたままで。
「あら、おかしい? 生きているのよ。一分一秒でも楽しまないと」
「楽しむ? この殺し合いの舞台でかい?」
「わたしからしたら何の備えもなしに殺人犯がいるかもしれない島の道のど真ん中を走る方が気が知れないけどなあ」
「もしも君がこの悪趣味な遊戯にのっていたなら僕は今頃この世にはいなかったろうね」
「……どうしてそんなことを笑って言えるの? 冗談にも聞こえないわ」
「……」
言われてみて気付く。
僕としては軽口で言ったつもりだったけれど、例えば目の前の女性にあの時殺されていたのならオルドレイクに殺された時のように無念と感じただろうか。
冷静さを取り戻した今からすれば、あそこで死んでは結局は大好きな姉さん達に何もしてあげられないままの無為な死だと判断できる。
しかし、あの時の精神的にかなり参っていた僕からすれば?
……。
…………。
………………。
なんだ、感情的なようで冷静だったんじゃないか。
どちらでも良かったのだ、僕にとっては。
あの時の僕は自分自身から逃げたかった。
それはつまり死にたかったということだ。
もしも殺し合いに乗っている人に会っちゃってたなら案外身勝手に喜んで死んでいたかもしれない。
だって、遅いか早いかの違いなのだから。
未だに僕は――
「そう……。イスラくん、あなた……生きたいと思ってないのね」
生きたいと思えていないのだから。
▽
「わたしには理解できないわ。わたしは死にたくない。どんなことをしてでも生き延びてみせる。
イスラくん、あなたに何があったのかは知らないけれどどうして生きようと強く望まないの?」
目を見開いた後わたしの言葉に納得いったかのように頷いたイスラくんにわたしは言葉を叩きつけていた。
「気安い哀れみは侮辱と同じだよ?
そういう言葉が僕にとってはたまらなく不愉快なんだ…ッ!」
「問題ないわ。わたしのこれはあなたの受け取っている通りの侮蔑よ」
鼓舞でも激励でも愛情でも憐憫でも同情でもないただの恨み言を。
生きることを諦めて<剣の聖女>という『生贄』を捧げた者達へのありったけの呪詛を。
「……っ。
君に、僕のなにがわかるっていうのさ?
毎日のように死の発作に襲われて、今度こそ死ぬかも知れないって怯え続けて……。
満足に眠ることだってできなくなってしまう。
そういう恐怖を、君は味わったことある?
手厚く看病をしてくれていた者たちが本当は、自分の死を願ってやまない。
それを知った時の絶望が、どれほどかわかるっていうの?」
分からない、分かりたくもない。
泣きそうな声で笑っている彼に物怖じすることなく返す。
偽ることの無い本音を。
「それでもわたしは生きてみせるわ。一日一分一秒、より長く。
だってわたしはもっともっとおいしいものが食べたいもの。友達とたわいの無いことをおしゃべりしたい。
おしゃれだってしたいし、恋だって成就させたいわ!」
わたしにはこんなにもやりたいことがあるんだもの。
「わかっていない!君は何も分かっていない!
そんな人並みの願いを叶えようとしても代わりにより大きなものを失ってしまうだけさ!
姉さんをずっと騙し続ける羽目になった僕のように!
だから僕はまた死ぬ方法を探し始めた! そして望まない形で死んだよ!
生き返ったところでなんだ? 今更生きる希望を持て、と?
僕が死んだところで誰も悲しまないでいい様に振舞う為の仮面がいつの間にか本物に成り代わってしまっていた僕に?
殺し合いに乗っていないと言いながら既に一人無残に殺してしまったような人でなしに?
あはは、あはは、あはははは!
ひどいじゃないか! 耐えられるわけないだろ!
なら姉さんやアティみたいな優しい人たちを助けることでせめてもの償いができたんだと自己満足できたところで死なせてくれよ!!」
虚無と羨望を浮かべた目で睨みつけてくるイスラくんと目を合わせる。
彼の瞳はわたしを映しているようでいてその実自分だけしか映していなかった。
自分しか映っていないのに自分からも目を逸らしていた。
「分かっていないのはあなたよ。
そうやってあなた自身は生きることを諦めてさぞかし楽でしょうね。
でも、あなたに生きていて欲しいって思う人達もいるでしょ?
ねえ、その姉さんやアティっていう人はあなたの為に身を削っていない?
生きる気がないあなたに希望を持ってもらおうと必死になっていなかった?
わたしはそうだった。
誰もが生きる希望を失った世界でも、わたしの大好きな人たちには生きていて欲しいって必死に足掻いたわ。
わたし一人生き残っても意味が無かったもの」
後先考えない極論で言えば生き残る為だけなら焔の厄災に我が身を省みず立ち向かう必要はなかった。
アシュレーくんが宇宙に放り出されても無事だったようにアガートラームの加護さえあれば最悪ロードブレイザーにファルガイアが砕かれても大丈夫だったのだ。
それでもわたしが戦ったのはファルガイアが大好きだったから。
あそこには大好きな人たちがいたから。
守りたかったのだ、わたしの命も含めたわたしの世界を。
イスラくん。あなたの命はあなたのものだけじゃないの。
あなたの大切な人たちの世界の一部でもあるのよ?
「なんだよ!? 僕が言っている通りじゃないか! 僕が死ねば姉さん達も頑張る必要がない!
悲しみだって時間はかかるけど退いてくれるはずだ!
それに何度も言っているじゃないか! 僕は頑張ったんだ! 姉さん達が悲しまないよう必死で頑張った!」
頑張って嫌われて、頑張って大好きな人たちを傷つけて。
それが何になるの?
よしんばあなたの言う通りでも不幸にならないだけじゃないの?
幸福には程遠いじゃない。
「……わたしはあなたが妬ましいわ。
誰かに心の底から想ってもらえるあなたが。
わたしはあなたが憎らしいわ。
ひとりぼっちじゃないのに勝手に自ら壁を作って引きこもって。
ねえ、必死で頑張ったってあなたは言ったわよね?
必死って何?
来るべき辛いことを我慢できずに諦めること?
ええ、ええ、そっちの意味ならお似合いでしょうね。
違うでしょ!? 必死っていうのは足掻いてでも生きようとすることでしょ!
あなたは生きようとしたの? 死にたい、死にたいって言っているけれどあなた生きようって努力はしなかったの!?
しなかったんでしょうね。そうやって安易な道に逃げた。戦わないで絶望して、あなた自身がしなくちゃならなかった戦いを押し付けた!」
誰も彼もが頼ってきてばかりで、聖女だなんて祭り上げて、その実アナスタシア・ルン・ヴァレリアという一人の少女を見てくれていた人は何人いただろうか?
ロードブレイザーとどんな形でもいいから共に戦ってくれた命はどれだけあっただろうか。
命は重い。たとえ不死の少女だろうと自分一人の分を背負うだけで精一杯だ。
わたしが死んで以来長いときを一人で過ごした少女のことを思い出し、語気が更に荒くなる。
生きることを放棄したからといって、その人の命がある、あったという事実まで消えるわけじゃない。
帳尻は何らかの形で合わされることになる。
あなたのしていることはあなたの命の埋め合わせを誰かの命の幾分かをもってさせているということなのよ?
そんなわたしの訴えをなぎ払うようにイスラくんは止めの言葉を言い放った。
「うるさい、うるさい、うるさい、黙れ!
誰もそんなこと頼んでなんかいない! 他人なんてそもそも信じちゃいなかった!
人は言葉でいくらでも本心を偽れるんだもの。
だから、僕は僕の決めたことだけしか信じない。
結果以外のものに価値があるなんて絶対認めない!
安易な道って言ったよね? だったらその方がずっと、ずっと、手早くていいじゃないか!
僕が死ねばみんな幸せになれる! だったら死んで何が悪い!」
理解した。目の前の彼が決して理解できない存在であることを。
腹が立つ。自己の全てを否定されているみたいでむしゃくしゃする。
自分が死ねば皆が幸せになる?
ふざけるな。
世界を救う為にわたしは死んだわ。
それでハッピーエンド? めでたしめでたし?
納得できるわけが無い。
だって肝心のわたしが救われていないじゃない。
あなたはどうなのイスラくん。
あなたは――
「あなたは救われたの?」
「……救われるさ。君みたいに生き残るために足掻いて周りの人を苦しめて――殺してしまって本当に一人ぼっちになるよりはね」
何をしてでも生き残るというのなら、一番難易度が低い方法はこの殺し合いで優勝すること。
首輪に加えて僕達を有無を言わさず時間と世界すらまたいで拉致することができる魔王相手に挑むよりも何倍も勝率はある。
あれだけわたしに本音をぶつけられたイスラくんがこちらの考えを読めていないはずが無い。
いやみったっぷりに――それでいて本物の怒りも湛えてイスラくんは直前までの激昂ぶりが嘘のように静かに言い切った。
イスラくんもまたわたしと同じ答えに辿り着いたのだ。
わたしと彼とが対極の存在なんだって。
ううん、一直線上にすらないのだからこれはもう平行線ね。
交わらないというのならいくら言説しあっても無駄。
わたしの方も一気に熱が冷めていく。
その間にもイスラくんはわたし達の方に注意を払ったまま距離をとりにかかる。
わたしは、動かない。
ちょこちゃんに頼もうともしない。
「僕を殺さないでもいいのかい?」
ブラッドくん達に続いてわたしが殺し合いに乗っていると知ってしまった人が増えたわけだ。
合理的に考えたら所謂始末をしておいたほうがいいのだけれど。
「必要ないわ。あなたみたいな人は放っておいても死んでくれるから」
わざわざ願いを叶えてなんてあげるものか。
繰り返し言うけれど平行線なのだ。
交わらないのなら殺し合いすら起きはしない。
「そうかい。ちょうど良かった。僕も死に方くらいは選びたいからね」
それは転じてイスラくんが危険人物であるわたしをビジュくんの時とは違い生かした理由だ。
うすうすちょこちゃんのことに気付いているのだろう。
今も彼の警戒はわたしよりもちょこちゃんへと向いているもの。
それともイスラくんは自分のようにわたしが罪悪感に耐え切れず押しつぶされる姿でも見たいのかな。
だったらその願いも叶いはしない。
今度こそわたしは何をしてでも、何があっても絶対に生き抜く。
「さようなら、死にたがりなイスラ君」
「ばいばい、生き急ぐお姉さん」
最後にわたし達は互いにありったけの毒を込めた一言を吐いて別れた。
ちょこちゃんには適当なことを言って誤魔化すことにしよう。
そう考えてふと思う。
わたし達は偽者の笑顔の浮かべ方だけは似ていたかもしれないと。
【I-5 浜辺 一日目 午前】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:不明支給品0〜2個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:イスラくんから聞いた場所の実物を見にいこうかな、それとも未知のところを優先しようか。
2:施設を見て回る。
3:『勇者』ユーリルに再度出会ったら、もう一度「『勇者』とは何か」を尋ねる。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
※アシュレーやマリアベルも参加してるのではないかと疑っています。
【ちょこ@アークザラッドU】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3個(生き残るのに適したもの以外)、基本支給品一式
[思考]
基本:おねーさんといっしょなの! おねーさんを守るの!
1:おにーさんからもらったお菓子おいしかったの。また会いたいなー
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
[備考]
※参戦時期は不明。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※放送でリーザの名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。
※ちょこの竜巻でH-5とH-6の平野の一部が荒地になりました。
【I-5 一日目 午前】
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストW 導かれし者たち
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式(名簿確認済み) 、ドーリーショット@アークザラッドU
鯛焼きセット(鯛焼き*2、ミサワ焼き*2、ど根性焼き*1)@LIVEALIVE、ビジュの首輪、
[思考]
基本:首輪解除と脱出を行い、魔王オディオを倒してアズリア達を解放した後安らかに死ぬ
1:これでいいんだ、これで
2:途中危険分子(マーダー等)を見かけたら排除する。
3:エドガーとルッカには会った方がいいかな?
4:極力誰とも会わず(特にアズリア達)姿を見られないように襲われたり苦しんでいる人を助けたい。
5:今は姉さんには会えない………今は。
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。
◇
やっほー、ちょこなの〜!
今日はねー、ちょこ、おにーさんとかけっこしたの〜。
そしたらね、おにーさん、ちょことおねーさんにばななのお菓子をくれたんだ!
美味しかったのー。
そのあとね、おねーさんとおにーさんが二人ではなしてたの。
とってもとってもむずかしそうなことでなにをはなしていたのかわからぬー!
でも、ちょこいー子だから、もっともっと別のことならわかったの。
それはね、おねーさんもおねーさんも大好きなみんなを守りたがっているやさしい人だってことなの!
○月△日その1 ちょこの日記より
投下終了
スレ立て&投下乙!
イスラとアナスタシアの対比が上手いなぁ。
どっちの発言も重みがあって、死生観の違いがよく伝わってきたぜ。
最初のイスラのモノローグがタイトルの元ネタの作品に少し似てたような気がしたが、意識してたのかなー。
投下乙!
生きたいアナスタシアと死にたいイスラか。それぞれに重すぎる理由があるから、この平行線は切ない。
激しい口論だけど、両者が実に『らしい』。特にイスラのセリフがうまい。
後半なんかは、原作ボイスで再現されてしまった。
ギスギスした2人に対して、ちょこのほのぼの具合がたまんないw
『わからぬー!』はやめぃw 確かに原作再現だけどさw
でもネタキャラで終わりようがないのが彼女の恐ろしいところだね、GJ!!
しかし、『マーダー』『対主催』って言葉じゃ測れないキャラが多くて楽しいねここは。
ちょこが覚醒して、話に参加してたらとんでもない事になりそうだな
保守
試験勉強とロロナのアトリエとドラクエ9が忙しくて予約が入れられないでござる、の巻
時期的に他の人も試験の季節だから予約が入らないんだろうな
社会人からしても盆休み近づいてきたら大変だろなー
予約きたな。これでミネアさんの運命が決まる。
まだだ……まだ慌てるような時間じゃない……(AA略)
たぶん、きっと……
そろそろかな…
さーて、葬式の準備でもするか
セーブ
来週には夏休み
これで書ける…!
保守
予約が二つ、だと!?
投下します。
低い地響きが、断続的に響いている。それに合わせて城は振動する。
廊下を駆けていたリオウは足を止め、揺れ続ける床の上、壁に手を当ててなんとかバランスを取っていた。
不意の地震にあたりを見回すが、特に何かが落下してくる様子はなさそうだった。
「誰かがこの城を動かしたみたいだね。トカがやったのかな」
リオウと瓜二つの声音と口調のゴゴは、揺れの中でも微動だにしていない。
卓越したバランス感覚を持っているというよりは、この状況に慣れているように見えた。
「動かしたって、どういうこと?」
尋ねるリオウに、ゴゴは頷いて答える。
曰く、この城は機械仕掛けで、地下を潜行し移動が可能らしい。
要するに、物凄く大きく高機能なからくりが搭載されているのだろう。
こんな巨大な城を動かせるなんて、確かに科学というものは魅力的なものなのかもしれない。
「アダリーさんやメグちゃんが見たら、どんな顔するだろ……」
思わず呟いたとき、擦れぶつかるような鈍い音が外から響いてきた。同時に、揺れが一際激しくなる。
硬い壁を握り締めるようにして、しがみ付く。
この強烈な振動はゴゴにも予想外だったようで、リオウとそっくりの動作で壁に触れて全身を支えていた。
強い揺れはすぐに終わる。
すると、ずっと響いていた駆動音や小さな振動も停止した。
不思議に思ってゴゴを見ると、小首を傾げていた。
「とにかく制御室へ行ってみよう。多分、そこにトカがいるはずだよ」
余りにもよく似た動作に苦笑するリオウに、ゴゴが言う。
それに頷いて、二人は全く同じ挙動で床を蹴り、制御室へと向かう。
静かになった城内に、硬い廊下を駆ける靴音が重なってよく響く。
ゴゴの案内があり、揺れが収まったおかげで幾分スムーズに走れたため、すぐ制御室に到着する。
その前で、自然と足が止まる。中の様子を窺おうと、二人が制御室を覗き込もうとしたときだった。
「浮上せず急に止まってしまうとは、我輩の家路の前に立ちはだかりよるのかッ!
よもやこれは機械帝国の大反乱!? 行き過ぎた科学は往々にして恵みだけを与えないトカッ!?」
聞こえてきた奇声で、室内に誰がいるのか瞬時に理解する。
リオウは溜息を漏らす。僅かな安堵を大量の不安で希釈したような、奇妙な感情の篭った溜息だった。
気を取り直す。
これからトカとは、手を取り合うための交渉を行わなければならないのだ。
色々な意味で型破りな彼との交渉が、上手くいくとは限らない。
だからといって、やらないつもりはない。
ルカ・ブライトと対峙したときのためにも、魔王オディオの目論見に抗うためにも、多くの力が必要だ。
力をくれるのは、友であり仲間だ。
そしてかつての敵であっても、同じ志を抱ければ、肩を並べ背中を預けられると、リオウは知っている。
一つ深呼吸をする。
ゴゴに視線を向けて強く首を縦に振ると、ゴゴも力強く頷いてくれた。
そして、二人は同時に制御室へ足を踏み入れた。
「だがしかーし、科学という荒馬の手綱を握ることこそ科学者の本懐ッ!
さあ、どうどう、どうどう。我輩の声が聞こえますかー? 聞こえたらお返事をしてくださーい!」
魔導アーマーから下りて、機械を撫で回し語りかけるトカゲの後姿に、リオウはゆっくりと近づいていく。
かなりエキセントリックな光景に面食らってしまうが、なんとかリオウは一歩一歩進む。
「……あのー、ちょっと、いいかな?」
トカは声を掛けづらい雰囲気を全身から立ち昇らせている。
トカの声が機械に届くのが先か、リオウの声がトカに届くのが先か不安になりながらも、おずおずと話しかける。
「む? 我輩に何か用ですかな? 優秀な助手なら熱烈絶賛大歓迎……って、貴様らーッ!?」
どうやら、リオウの声は予想以上に簡単に届いたらしい。
トカは回転するようにして慌てて飛び退り、半壊の魔導アーマーのコクピットへと駆け上がろうとする。
だが、彼はそのシートの前で急ブレーキを掛ける。
床に落ちそうになりながらも、なんとかしがみつくトカの視線の先、魔導アーマーのシートは、ゴゴによって占拠されていた。
しえn
「い、いつの間にッ!? まさか椅子取りゲーム無差別級チャンプだとでもッ!?
えぇーい、負けていられん! たとえ武士が相手でも、不屈の闘志を燃やす背中はとってもカッコイイんだトカ!
さぁそこの君、ミュージックスタート!」
突然指を指され、言葉に詰まるリオウ。
思考が停止する。ミュージックと言われて頭にまず浮かんできたのは、アンネリーの澄んだ歌声だった。
脳を流れるその歌声に流されるまま、音楽を口ずさもうとして、気付く。
緑色の亜人のペースに思い切り流されていることに、だ。
頭を振って思考を軌道修正する。
素敵な音楽を提供しに来たわけでも、椅子取りゲームをしに来たわけでもないのだ。
「えっと、音楽じゃなくて申し訳ないんだけど。
その、トカ……さん。あなたに、話があるんだ」
リオウの声に、トカは太い眉根を寄せる。考えるように腕を組むと、ねめつけるようにリオウを見下ろしてくる。
その視線を受け止め、リオウも視線を返す。真摯さと誠意が、その真っ直ぐな瞳には映っていた。
それを一蹴するように、トカは鼻息を吐き捨ててふんぞり返る。
「勇気と希望を与えてくれた魔導アーマーをボッコボコのボッロボロにしておいて、今更お話なんて冗談じゃねぇーッ!」
頭から湯気を出すくらいの勢いで叫ぶトカを前にして、リオウは、ついトカと戦ってしまったことを後悔する。
一度芽生えてしまった不信感や敵愾心を拭い去るのは容易ではない。
しかし、だ。
諦めるつもりなど毛頭ない。
たとえいがみ合っていても、戦場で相対してしまっても。
同じ目的を抱けるなら、同じ未来を見られるのなら、共に歩めると、リオウは信じている。
だから武器を構えずに口を開く。
「ぼくはもう、あなたと戦うつもりはない! それどころか、仲間になって欲しいと思ってる!」
説得の言葉を投げかけた先で、トカが疑わしそうな目でリオウをねめつけてくる。
値踏みするような視線を受けながら、それでもリオウは続ける。
「あなたの力が――知識が、必要なんだ。生きて、自分たちの居場所へ帰るために!」
そっと、リオウは首に巻きついた金属の輪に触れる。
爆弾が仕込まれたこの首輪がある限り、オディオの目論見から逃れられない。
呪われた首輪と呼んでも差し障りのないそれの解除は、打倒オディオ及び元の世界への帰還するための必須事項だ。
とはいえリオウは、首輪を解除するために技術や知識を持ち合わせていない。
だが、目の前のトカゲは違うとリオウは半ば確信している。
リオウの知識の範疇にないからくりを手足のように扱い、頭脳や科学といった単語を連呼していたトカなら、首輪への対策を講じられると思えたのだ。
「科学技術の結晶に優しくない輩に、我輩がすぐ心を許すとでもッ!?
遥か遠い世界の軍師は、三度目の礼でようやくその知識を貸し与えたトカ違うトカ。
あまりのしつこさに辟易したんでしょうな。世が世ならば御用となっていてもおかしくはない所業ですなッ!」
跳ねるように地団太を踏み、ぷりぷりと怒るトカに、リオウとそっくりな声音が語りかける。
それは、魔導アーマーのシートから聞こえてくる声だった。
「もしもしつこいと思われても、ぼくも、諦めないよ。
ぼくは生きて、帰らなきゃいけない。
信じてくれている人たちのために。
大切な人たちのために」
魔導アーマーに座っていたもう一人のリオウは言葉を区切ると、本物のリオウに目を向ける。
奇妙な衣装で全身を包んだゴゴの表情は分からないし、瞳にどんな感情を映しているのか窺えない。
それでも、ゴゴが今どんな想いで言葉を紡いでいるのか、手に取るように分かる。
今のゴゴは、リオウ自身なのだから。
だから、続けられる。
輝く盾の紋章が宿る右手を、強く握り締めて、リオウは言葉を継ぐ。
そうすべきだと、思った。
「――もう、いなくなってしまった人たちの分まで、ぼくは、生きたいんだ」
強く息を吸う。
機械が放つ独特な臭気と熱が、ツンと鼻をついた。
sien
「そのためにも、力を貸してください……!」
告げたのはリオウでもあり、ゴゴでもある。
全く同じ二つの声が完璧なタイミングで重なり合い、響き渡る。
紛れもない本心を込めた言葉には誠意がある。誠意を裏付ける、澄んだ瞳がある。
それを向けられたトカが、口を開きかけた、その瞬間。
「――見つけたぞ、トカゲ野郎ッ!!」
背後から怒号が響き、それに続いて空気が張り詰める。
強烈な気配にリオウが振り返ると、一本の棒を携えた赤毛の男が目に入った。
彼の鋭い目つきが捉えているのはリオウではない。
「真空斬ッ!!」
男が素早く、棒を振るう。
直後、空気が甲高く戦慄いて、リオウの真横を駆け抜けた。
その風は男の三白眼が捉える一点に向けて、愚直にも真っ直ぐ飛んでいく。
そしてそれは、魔導アーマーの上に立ちっぱなしだったトカをあっさりと吹き飛ばす。
細い緑のボディは受身も取れず、べちりと音を立てて床へと落下した。
「大丈夫!?」
心配げな声で呼びかけると、トカはふらつきながら立ち上がる。
「通り魔的犯行に巻き込まれるとは我輩の運気も急転直下気味!?
いやはや、物騒な世の中になったものですな。
『優しさ』が得意ジャンルである我輩でなければ今頃――って、はら〜〜〜〜ッ!?」
どうやら大丈夫そうなトカに向けて、男は繰り返し真空の刃を繰り出していく。
乱れ撃たれる攻撃を走り回って避けながら、トカはリオウを一瞥し、
「た、助けてーッ! 頼れるおにいさーんッ!」
その叫びにリオウは我に返って、頷いた。
更なる攻撃を仕掛けようとする男の前に、迷わず飛び込む。
制御室から出て行くトカを視界の端に捉えながら、天命牙双で牽制をかける。
男が舌打ちをして、目つきの悪い瞳でリオウを睨んでくるが、怯まない。
連撃が停止した隙をついて、叫ぶ。
「ゴゴ! トカさんをお願い!」
「分かってる! 気をつけて!」
既にゴゴは魔導アーマーから降りていて、トカを追って制御室を後にする。
「この、待ちやがれッ!」
怒声を上げて彼らを追走しようとする男の前に、リオウは立ちはだかった。
「あなたこそ待って!」
「うるせェ! 俺はあのくされトカゲに借りがあんだよ。
あいつの味方をしやがるってんなら、痛い目に遭ってもらうぜ」
男がゆらりと棒を構えると、その肩から淀みのない戦意が立ち昇る。
その隙のない動作に、リオウは背筋を震わせる。
――この人、強い……。
説得できるのなら、そうしたい。
だがそのために、戦いは避けられそうになかった。
立ち昇る空気や僅かな挙動から、リオウは理解する。
きっとこの男は、言葉よりも戦いを通した方が分かり合えるという人種なのだ。
――だったら、それに応じよう。
支援
息を吸い意識を研ぎ澄ませ集中させる。男の気迫に呑まれないよう、自分の戦意を確かめる。
手にあるのは、一本だけの天命牙双。
片割れを失っても戦い続けられるのは、きっと、もう片方が戻って来ると信じられるから。
そしてきっと、これを届けてくれた大切な義姉の想いが宿っているから。
「ガキだからって、手加減はしねぇぞ。武器を持って俺の前に立った以上、お前は俺の敵だ」
「ぼくも、手を抜く気なんてありません」
手加減など望んでいない。手を抜くつもりなど毛頭ない。
そんな中途半端な戦いでは、心を通わせられるはずがない。
面白ぇ、と男が口角を吊り上げる。それにリオウは、余裕を見せ付けるように笑い返す。
その頬を汗が伝うのは、その実それほどの余裕などなく、緊張感が溢れているせいだろう。
「じゃあ――行くぜ!」
駆け出す男に相対するように、床を蹴りつける。
駆動音の響く世界で、打撃武器が重なり合った。
リオウは知らない。
対峙している男が、ナナミと行動を共にしていた男――トッシュ・ヴァイア・モンジであることを。
意識の全てをトカに傾けた上、『リオウ』のことを口頭でしか聞いていないトッシュは気付かない。
立ちはだかる少年が、ビクトールの仲間でありナナミの大切な義弟であることを。
それ故に、二つの攻撃は止まらない。
止まるはずもなく、ただ加速していく。
◆◆
機械の城はそのシステマティックな構造ゆえに、いわゆる通常の城よりは複雑な様相を呈している。
たとえば、地下にはこの巨大な城を動かすための巨大なエンジンが眠っているし、そこにエネルギーを送るパイプが床にはのたうっている。
また、効率のよい運用及び保守のため、排熱や排気のためのダクトも存在する。
エンジンの稼働中におけるそこは、高温であったりガスが充満していて、とても人の近づけるような場所ではない。
しかし動いてさえいなければ、問題なく通行が可能だ。
そしてそこは、その複雑さゆえに、身を隠すには最適な場所となる。
機械の城には影が潜んでいる。
城の構造を知っているその影は、誰にも気取られず潜んでいるのだ。
影は見る。
黒髪の少年と赤毛の男がぶつかり合い、距離を取り、再び距離を詰めるのを。
影は聞く。
駆動音に包まれた、少年の息遣いと男の足音と木々の衝突音を。
静かに息を潜め、影は思う。
茶番だ、と。
互いが全力であろうことは、傍目にも分かる。
しかしそれでも、少年に殺意は感じられず、男は殺気を放っていない。
この殺し合いの場において、腕試しや試合に似た闘いなど、何の意味もなさないというのに。
微動だにせず身を隠し、影は思う。
そんな茶番劇など終わらせてやる、と。
その代償は無意味な闘いを繰り広げる命だ。
殺傷に迷いはない。殺害に躊躇いはない。
それこそが影の存在意義であり、影の胸にある覚悟と決意の証なのだから。
だが、影は動かない。まだ動くときではない。
闇雲な乱入や真っ向からの戦闘は、影の戦闘スタイルではないのだ。
故に、影は待つ。
自分が舞台に上がるべき瞬間を、刻々と、待ち続ける。
◆◆
しえんぬ
城の中を、騒々しい足音が反響する。
マントをはためかせ走り回る巨大なトカゲと、それを追う奇妙な衣装で全身を包んだ物真似師。
ある種大道芸のような雰囲気を醸し出しているが、どちらも伊達や酔狂で駆け回っているわけではない。
「トカさん、待って!」
ゴゴの呼びかけに、しかしトカは足を止めない。
「さながらカモシカの如く駆け抜ける我輩の停止、科学技術の発展の停止と同義ッ!
故に我輩、止まれません! 今なら分かりますぞ!
泳ぎ続けなければ死んでしまう、儚くも休み知らずなお魚の気持ちが!」
そしてついでに、そのよく喋る口も止まらない。
口はともかく、ドタドタと床を蹴る足は止めてやらなければならない。
ゴゴは先ほどトカの物真似をしたときのことを思い出し、彼が敏感に反応しそうなキーワードを探し出す。
探すのに時間はかからない。その言葉は、ずっとトカ自身が連呼しているのだから。
「えっと、時には立ち止まってあたりを見回してみてもいいんじゃないかな!?
きっと、新たな発見があると思うよ! ……その、科学的な」
とってつけたような価額という単語に、しかしやはり、トカは確実に反応し、ぴたりと立ち止まった。
急停止したその背中と衝突する寸前で、ゴゴも立ち止まる。
「確かに、一理ありますな。がむしゃらに突き進むだけでは、大切なものを見落としてしまうやもしれぬ。
思えば、科学発展へのがむしゃらさのせいで、愛するがまぐちと離れ離れになったような気もいたします。
科学の罪作りっぷりに、我輩惚れ直してしまうのココロ」
奇妙な悦に入るトカを眺めて、ゴゴは改めて興味深さを覚える。
しかし、同時にこうも思う。
先ほど現れた赤毛の男は、いったいどんな人間なのだろうか、と。
様々な人物の物真似をしてみたいと望むゴゴにとって、未知の人物との遭遇は心が躍るような出来事だ。
できるならばすぐに制御室へと戻り、あの男をもっとよく見てみたかった。
「……さっきの男はお前を狙っていたようだが、知り合いか?」
リオウの物真似を止め、念のために尋ねてみる。
「んまッ! 前触れもなくプライベートな質問とはなんて破廉恥なッ!
されど質問されると答えずにはいられないのがサービス精神旺盛な我輩の性。
彼とは一度、青春のぶつかり合いを交わした仲だトカ」
一度、ということは恐らく、トカはほとんどあの男を知らないだろう。
ならばやはり、この目で確かめなければならない。
「俺は制御室に戻りたい。来てはくれないか?」
「生きていることの素晴らしさを噛み締めている我輩を死地に追いやろうと!?
サイケデリックな覆面の下には非情なマスクが眠っているトカ!?」
「お前は死なない。お前を生かすために、リオウは戦っているのだから」
ゴゴの言葉に、トカはあからさまに視線を逸らす。
「それはほら、彼の善意に乗っかるからこそ、とんずらこくのが最善だトカ違うトカ。
そう、あたかも尻尾を残して遁走するが如く! では、これにて!」
まくし立てると、トカは片手を上げて颯爽と立ち去っていく。
ゴゴはその背中を追おうとしない。ただ、その代わりというようにして、口を開く。
「お前は何も感じなかったか? リオウの瞳を見て、言葉を聞いて、何も感じなかったのか?」
ゴゴは思い浮かべる。
言動、行動、思考、癖、表情、声色といった、リオウという人物を形作るあらゆる要素を。
その全てを、完全に物真似したはずだった。
にもかかわらず、ゴゴの胸には不完全燃焼のような悔しさが強く燻っている。
年端もいかないリオウという少年は、不思議と、人を惹き付けるような“何か”を持っている。
それは、指導者としての資質や才能などといった安っぽい言葉では片付けられない、運命さえ感じさせる“何か”だ。
それを感じ取ったゴゴは当然、その“何か”をも真似て見せるつもりだった。
だというのに。
物真似をし切った達成感や充足感が、湧き上がっては来なかった。
あらゆる人物の物真似を星の数ほど行ってきたゴゴでも、容易に再現できないその“何か”を、トカが感じていないはずがない。
何故ならトカは、リオウの瞳と声と、そこに込められた純粋な想いを、真っ直ぐに投げかけられたのだから。
マントに包まれた緑の痩躯が、立ち止まる。
4円
「我輩の感受性の高さは幼い頃から大絶賛ッ! 真実を映し出す鏡の如き心にかかっては、純真無垢な少年のハートを読み取ることなど朝飯前よッ!」
やはり、トカもリオウの意志を受け止めているようだ。だがそれでも、その心は動いていないらしい。
ゴゴは、思考する。
トカをもっと近くで見てみたいと思っていた。
これほどまでにエキセントリックで不可解な言動と行動を繰り返す存在を、ゴゴは知らない。
強いて言うならば、毒気を抜いたケフカが近いだろう。
そのような濃い人格を、トカが有しているからこそ、ゴゴは心から望むのだ。
もっとよく知り観察し、物真似をし尽くしたい、と。
それだけならば、リオウを捨て置き、この場から離れようとするトカと行動を共にすればいい。
迷わずそうしないのは、ゴゴは、リオウを捨てたくもなかったからだ。
リオウが持つ“何か”の正体を知り、物真似をしたく思う。
リオウが持つ“何か”に、確かに惹かれている自分がいる。
そして。
――俺は、ナナミの死に立ち会ったのだ……。
それだけあれば、リオウと行動を共にする理由は充分だ。
故に、ゴゴは口を開く。
彼自身の言葉で、トカを説得するために。
◆◆
トッシュの剣術は、威力や鋭さだけでなく、繊細さをも併せ持っている。
故に彼が振るう掬い上げるような一撃は、素早く正確だった。
なのにひのきで作られた棒は、リオウの身を打てずに空を切る。
舌打ちを漏らすトッシュに、片割れを失ったトンファーが回転し迫り来る。
遠心力が乗った攻撃は、得物を握る右手を狙ってくる。
読めていた。
ならば対処は難しくない。
振り切った腕を引き戻し、ひのきの棒を両手で握る。
間もなく叩き込まれたリオウの攻撃を、真正面から受け止めた。
両掌に痺れが駆け抜けるが、握力をフルに発揮し武器は手放さない。
もしもリオウの両手にトンファーが装備されていたなら、追撃が来ていただろう。
トンファーを押し返し肩をぶつけるようにして、トッシュは前に出ようとする。
応じるように、リオウはバランスを崩すより先に後ろへ跳ぶ。
深追いをせずに踏みとどまると、広い間合いが生まれる。トンファーもひのきの棒も届かない、遠い間合いだ。
しかしだからといって、アウトレンジに逃げられたなどと、トッシュは思わない。
深く息を吸い一瞬止め、解放する。同時にひのきの棒を、一閃させた。
真の一文字を刻むかのような気迫と同時に、不可視の刃がリオウに真っ直ぐ迫る。
狙いは、空いている左手だ。
武器や盾を持たないその手にダメージを負わないようにするには、右手のトンファーで身を守るか避けるしかない。
その結果生まれた隙に、一気に間合いを詰めて攻撃を仕掛ける寸法だ。
しかし。
トッシュは、眉を持ち上げた。
リオウが、防御も回避も選びはしなかったからだ。
左手であえて真空斬を受けながら、彼は逆に、トッシュに向けて突っ込んでくる。
それは、トッシュが防御姿勢を取っていれば容易に見切り反撃できたような、捨て身の動きだった。
トンファーが、トッシュの右手に牙を剥く。リオウの狙いはトッシュと同じようだった。
ひのきの棒の軽さと短さが幸いし、すぐに武器は引き戻せる。リオウの攻撃を再び防御し、今度はトッシュが後ろに下がった。
もう一度生まれた間合いを挟み、睨み合う。
トッシュの予想以上に、リオウは強かった。
こちらが防御の様子を見せれば的確な攻撃を行ってくるし、生半可な攻撃をすれば先ほどのように、痛みを恐れず捨て身を仕掛けてくる。
もしも下手にこちらが捨て身を仕掛ければ、手痛い反撃を受けるかもしれない。
丁寧でいて、かつ思い切りのいい戦い方だった。
面白さを、トッシュは感じていた。
「結構、やるじゃねぇか。まさか突っ込んでくるとはな」
だから、称えずにはいられなかった。
シエン
するとリオウは、ひたむきさを感じさせる真っ直ぐな黒い瞳でトッシュを見つめ、答える。
「さっき、トカさんに使ってた技と同じだったから。そのときの威力を考えれば、大丈夫かなと思って。
もっと強い武器で使われてたら、さすがに危なかったと思ってます」
それだけの判断を数瞬で行い、最適な答えを弾き出して即座に行動に移したという事実が、トッシュを驚かせた。
つくづく、面白い。
そう思うトッシュの視線の先には、強い意志が宿った双眸がある。
ふと、疑問が生まれた。
リオウの戦い方は、破壊や略奪のためにあるとは思えなかった。
彼はあくまでトッシュの武器やそれを握り締める腕を狙い、無力化を図っているようだった。
そんな少年が――そう、これほどまでに澄み渡った瞳をした少年が、何故、と、トッシュは思う。
「お前、なんでトカゲ野郎に肩入れしてやがる?」
疑問を口にし、トッシュは部屋の隅に鎮座する壊れかけの魔導アーマーを指差す。
「あの野郎は俺の仲間からそいつを盗んだ挙句、そのまま喧嘩を売ってきた奴なんだぞ?」
するとリオウは、少し困ったように眉を下げた。
「ぼくも、彼には襲われました。でも、そこまで悪いヒトには思えないんです」
何馬鹿なことを言ってるんだと、トッシュは思った。
なのに口を挟まなかったのは、リオウの瞳に宿る意志が、揺らぎを見せていなかったからに他ならない。
「ぼくは彼を仲間にしたい。殺し合ってちゃ、魔王の思う壺だと思うから。
そんなことをしてちゃ、ぼくらは大好きな故郷に帰れない。
ぼくは――」
リオウは一度言葉を区切り深呼吸する。
それはまるで、悲しさを飲み込み苦しさを吐き出す仕草のように見えた。
「――みんなのところに、帰りたいんです。大切な仲間と、友達と、一緒に」
愚直と言ってもいいくらいに、ストレートな言葉だった。
それは甘く温い理想論だ。その実現には無数の困難が立ちはだかる。
だからトッシュは、斬りつけるように口を開く。
理想論は茨の道と同義であると、理解しているかを試すために。
「甘すぎるな。そんな言葉が通用しねぇ殺人狂なんざ、掃いて捨てるほどいやがるぜ」
「……分かってます。決して避けられない戦いなら、迷いも躊躇いも戸惑いもしません」
「だったら、トカゲ野郎がどうしても敵になるのなら、叩きのめせるんだな?
この俺がお前とは相容れないのなら、ぶちのめすつもりなんだな?」
しえーん
リオウは、迷わず首を縦に振った。
やはり瞳は揺るがず、その強靭さと屈強さを主張し続けていた。
トッシュは、表情が緩むのを抑えられなかった。
強さだけではなく、思想も面白いと感じる。
理想論を振り翳しそれに捉われるのではなく、理想を実現するための手段を持っている。
その強さは、実際に武器を交えたトッシュはよく理解できていた。
嫌いじゃないと、心からそう思う。
そう思えれば、充分だ。
リオウの進む道に困難があるならば切り伏せよう。無数の茨は刈り取ろう。
そうするだけの価値を、トッシュはリオウに見出していた。
もはや戦う理由は存在しない。
借りを返すべきはトカゲであり、リオウではない。
そのトカゲも、もしもリオウの仲間になろうと言うのならば、鉄拳一発で許してやらないでもない。
故にトッシュは武器を下ろし、戦意を緩やかに落としていく。
「俺の名は、トッシュ。お前は?」
「リオウ、って言います」
リオウも同様に武器を下ろすと、安堵の表情を浮かべる。
対し、トッシュは驚愕に目を見開いた。
「……そうか、リオウか! なんだよ、早く言いやがれよ!」
言われてみれば、そうだ。
ナナミやビクトールから聞いていた特徴に、目の前の少年は合致する。
トカを発見して激昂さえしていなければ、もっと早く気付けたのだが、基本的にトッシュは一つの物事しか処理ができない男なのだから仕方ない。
不思議そうに目を丸くするリオウに歩み寄りながら、トッシュは微かに顔を伏せ言葉を詰まらせる。
懸念事項は、ナナミのことをどのように伝えてやるべきか、という点だ。
直接彼女の死に目に立ち会ったわけではない。
しかし、確かに行動を共にしていたのだ。伝えないわけにはいかないし、伝えたいと思う。
言うべきことは他にもある。
ビクトールのこと、ルカのこと。自分の仲間のことや、リオウと共に行動をしようと思っていること。
何をどのように話そうか脳内で整理をしようとする。
闘いが終わり武器が構えられていないそこの空気は、弛緩していた。
緩んだ世界の中、駆動音が響いていた。
戦闘中は意識を集中していたせいで気にはならなかった音が、ごとごとと響いている。
それが耳障りで、すぐに考えることが面倒になる。
だからトッシュは、思いのまま話すべく顔を上げた。
瞳に映ったのは、機械仕掛けの城と、リオウと。
その向こう側から音もなく飛び上がった、影だった。
支援
◆◆
何が起こったのか、全く分からなかった。
トッシュの心に言葉が届いたと確信しホッとして、名を名乗ったら彼が驚きを見せた。
とか思っていたら赤毛の男は困ったように俯き加減になり、すぐに顔を上げて。
トッシュがいきなり武器を構えて、空いた手でリオウを突き飛ばしてきた。
固い床の上で転がってしまわないよう、リオウは咄嗟に受身を取って手を付く。
「どうしたんです――!?」
尋ね声はトッシュの背中に飛び、返ってきたのは気迫で作られた叫びだった。
声と共に、トッシュがひのきの棒を振るう。
鈍い音と甲高い音が連続し、トッシュの足元に手裏剣――蒼流凶星が落下する。
サスケが愛用しているその武器は、トッシュによって弾き落とされたようだった。
その名の通り、天を流れる凶星のように手裏剣が降り注いでいる。
そして、リオウは見る。
手裏剣の雨を弾き、いなし、避けるトッシュに向けて高速で降下する、短剣を握った影――エイラを殺めた影を、だ。
「危ないッ!」
叫び、トッシュに向けてリオウは駆ける。
転がって見上げるトッシュの手にあるひのきの棒は、いつしかへし折れていた。
リオウが必死で固い床を蹴り飛ばす。
影が落ちてくる。
トッシュが体勢を立て直そうとする。
その左足にいくつもの手裏剣が突き刺さり機敏さを奪い取った。
ひのきの棒を構え迎撃しようとしたトッシュが、初めて武器が折れていたことに気付く。
トッシュの手から迎撃の手段が、喪失する。
そして、手裏剣の雨が止んだ。
代わりに、龍騎士の力を得て跳躍した影の刃が、トッシュへと肉迫する。
重力加速度を味方につけた鋭い刃が、トッシュの身を切り裂くその直前に。
リオウが、ヘッドスライディングのようにして、トッシュを吹っ飛ばした。
そのままバランスを崩し、床に滑り込む。
全身を擦り剥かせて、リオウは、妙に熱い床だと思った。
「馬鹿野郎ッ!!」
トッシュの怒声と、全く同時のタイミングで。
影の手にある、暗殺者の名を冠した刃が、リオウの皮膚を破り血管を引きちぎり肉を押し潰し臓器を貫いた。
影の体重と落下の勢いが乗った一撃は、死の気配を一気に強めるほどの激痛を呼ぶ。
体内に侵入してきた冷え切った異物の感触は、たまらなく不快だった。
そんなリオウの意識を汲み取ったかのように、その刃はあっさりと引き抜かれる。
直後、体内から熱い液体が噴出し身を汚していく。血液が喉に落ち、呼吸を阻害する。
酸素を求めた喉が、思い切りむせ返る。その動作で傷口が刺激され、鋏で傷をこじ開け掻き混ぜられるような激痛が迸る。
口の中に、粘ついた鉄の味が広がった。
全身を駆け抜ける悪寒が、血液の喪失を自覚させてくる。血の巡りが悪くなれば、意識が遠のくまで時間はかからない。
だから、気を失わないように、リオウは右手に意識を集中させる。
そこに在る、真の紋章の片割れに、意識を注ぎ込む。
◆◆
「この野郎――ッ!」
折れたひのきの棒を投げつけ、トッシュがシャドウに飛び掛る。
だが負傷した足では踏み込みが甘くなり、速度も勢いも低い。
そんな攻撃が、シャドウを捉えられるはずがない。容易に避けられ、付け入る隙を作ってしまう。
シャドウの攻撃が肩を深く切り裂いた。
それだけで済んだのは、トッシュの身のこなしが卓越していたためだった。
全力で殴りかかるが、当たらない。
世界支援2009
手を止めては駄目だと、トッシュは思う。
少しでも動きを止めれば、その隙を突いて死に至る一撃を叩き込まれるに違いない。
故にトッシュは、がむしゃらに殴りかかる。
動くたびに肩と足が痛み、血液が零れ落ちるが、不愉快さと痛覚を完全に無視をする。
当たれと、倒れろと念じただひたすらに拳を放つ。
一発、当たらない。
二発、当たらない。
三発、当たらない。
四発、当たらない。
五発、当たらない。
避けられるたびに反撃が飛んできて、徐々に傷が増えていく。
傷の数に比例して、心の悲鳴が大きくなる。
悔しさが、無念さが、情けなさが、無力さが、トッシュを食い荒らす。
誇りも仲間も護れなかった。
護りたくないと思ったことなど一度もなかったはずなのに。
必死だった。
護りたいと思い、望み、願い、そして動き続けてきた。
なのに、護りたかったものは全て、遥か遠いところで潰えて消えてしまった。
ならば今はどうだ。
肩を並べたいと思う男がいる。
そいつは仲間の義弟であり、自身の迂闊さのせいで喧嘩を売ってしまった男だった。
今度こそ護りたいと思った。すぐ側で護れると思った。
そう思ったばかりだったのに。
だというのに。
――俺は結局、何も護れやしねぇのか……。
拳は当たらない。
一発たりとも当たらない。
それでも拳を止めはしなかった。
止めたくなどなかった。
止めた瞬間、あらゆるものを完全に失ってしまうような気がしたから。
時折突き込まれる反撃を受けながらも、トッシュは拳を振り回す。
体中が傷だらけだと、気付かずに。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ――ッ!!」
その咆哮にどんな感情が乗っているのか、トッシュ自身にも分からなかった。
ただ獣のように叫び、子どものように殴りかかるだけ。
そんな体術とは決して呼べない攻撃で、いつまでも凌げるはずがない。
右腕が掴み取られ、動きが止められた。
慌てて振り払おうとするが、シャドウの力は思いの外強く、逃がしてはくれない。
トッシュを切り裂こうと、リオウを貫いた刃が翻る。
首筋を狙って突き込まれるその刃を避けるには、距離が近すぎた。
トッシュは、半ば反射的に左腕を前に出して盾にする。
腕の中に、鋭い金属が差し込まれた。
それだけでは終わらない。
シャドウは、トッシュの腕に突き立てた短剣を、引き抜かずにスライドさせたのだ。
腕の中を、刃が滑らかに進んでいく。
血管を、筋肉を、神経線維を切り裂く刃は、骨から全てをこそぎ落とそうとしているようだった。
想像を絶する激痛が、駆け巡る。
腕の中の組織が常に刻まれているせいで、痛覚が上げる絶叫は止まらない。
ナイフを差し込まれたバターのように、体組織が切り取られていく。
終わらない激痛を与えられ続けて、さしものトッシュも、意識を保てるはずがなかった。
体中から、力が抜けていく。
視界が完全に暗転する前に、トッシュが最後に捉えたのは、部屋中に広がる碧の輝きと、浮かび上がる『輝く盾』だった。
試演
◆◆
輝く盾の紋章によって生まれた光が、ゆっくりと薄まっていく。
仲間の傷を完全に癒し、かつ敵を灼く眩い光は、本来の効力よりも遥かに弱まっていた。
その証拠に、リオウの傷は全く癒えてはいないし、消耗した体力は少しも戻ってきてはいない。
だというのに、彼は少なからず安堵を覚えていた。
安堵する理由は、二つ。
一つは、リオウの狭まった視界の中、倒れ伏すトッシュの身に刻まれていた無数の傷が、確かに癒えていたこと。
もう一つは、エイラの命を奪ったあの影を、撃退できたことだった。
本当によかったと、思う。
今度は護ることができたのだ。
エイラが槍に貫かれる瞬間を目の当たりにしたときから。
冷たくなったナナミの姿を見つけたときから。
ずっと無力感が滞っていた。淀んだそれは、リオウにこびり付いていた。
だとしても、今度は救えた。護れた。その事実が、堪らなく嬉しかった。
それでいてリオウは、自分と同じ無力感に、トッシュも捉われませんようにと、願う。
そもそも、トッシュが先にシャドウの存在に気付き、リオウを助けてくれたのだ。
伝えたいことがあった。告げたいことがあった。
だから必死で、リオウは口を動かす。
例えトッシュの意識がなくて、聞こえないと分かっていても。
言わずにはいられなかった。
小さく動く口から、絶え絶えの息遣いと粘ついた血液が零れ落ちる。
その隙間を縫うように紡がれた声は、掠れていた。
「ありがとう……。あなたは……無力なんかじゃ……ない。だって……」
――あなたが助けてくれたから、今、ぼくはこんなに安心できている。
そう続けようとするが、消えない痛みと息苦しさが邪魔をする。
死の気配が、すぐ隣までやって来ていた。
その濃密な気配は、リオウの脳裏に生の思い出を浮かび上がらせる。
たとえば、都市同盟のリーダーとして、多くの仲間たちと戦ったときのこと。
辛いことも多かった。傷つき悲しみ、逃げ出したくなるときだって、あった。
それでも戦えたのは、仲間が支えてくれたから。ありがとうと思う。そして、申し訳ないとも、思う。
そして、ビクトールやビッキーが無事であるように願う。
彼らがゴゴやトカ、トッシュと手を取り合えますようにと、望む。
たとえば、ゲンカクに拾われて、温かな家族を得られたときのこと。
ゲンカクはとても厳しくて、それ以上に優しい人だった。
心から尊敬している。
彼のようになれていたらいいなと、思う。
たとえば、義姉と親友――ナナミとジョウイと共に過ごした、最高に楽しかった日々のこと。
こんな輝かしい日々が、永遠に続くと思っていた。
ずっとずっと三人で一緒にいられて、何だってできると信じてやまなかった。
一度は道を違えてしまっても、目指すところはいつも同じで、見つめるものはいつだって変わらなくて。
必ずもう一度、同じ道を歩けると思っていた。
だけど。
そんな夢のような時間は、悪夢じみた殺戮劇によって、呑み込まれてしまう。
――ごめん、ジョウイ。約束、果たせそうに、ないよ。
霞んだ視界がじわりと滲み、ほとんど何も見えなくなる。
寒気が止まらない。血が零れ落ちていくたび、生命力が零れる。
熱かったはずの床から熱を感じられなくなっていく。
身体の自由が効かず、感覚が徐々に失われ続ける。
叫び出したくなるような激痛に苛まれていたはずなのに、もう、それすらも感じられない。
死神の鎌は、既にリオウの命に食い込み始めていた。
このまま死んでしまうんだったら。
せめて。
せめて、右手の紋章が、ジョウイの元に届けばいい。届いて欲しい。
届けと念じながら、力を振り絞り、右手を翳す。
翳された拳に宿る紋章が、一際大きく輝いた。
それは目を傷めそうなほどに強い光だが、不思議な優しさに満ちた輝きだった。
その光に導かれるように、強い意志が宿り続けていた瞳が、閉ざされて。
天魁星は、輝きを失った。
【リオウ(2主人公)@幻想水滸伝U 死亡】
【残り37人】
◆◆
制御室へ足を踏み入れた瞬間、鉄臭さが鼻をついた。
それは、機械の城が放つ無機質な臭いではなく、生々しい臭いだった。
ゴゴは足を止め、顔を顰める。
制御室には、赤毛の男――トッシュが呆然と立ち尽くしていた。
彼の視線の先にあるのは、血溜まりの中に倒れ伏す、たった一人の少年だった。
もう彼は、ぴくりとも動いてはいない。
うつ伏せになったリオウの背中には、深い傷が刻まれている。
内部組織が覗いているその傷からは血液が止め処なく溢れていて、血溜まりを肥大化させ続けている。
「お、お客様のなかにお医者様はいらっしゃいませんかー!?」
後ろで何か騒いでいるトカに構う気にはなれず、黙ったままゴゴはリオウへと近づいていく。
もう二度と、あの“何か”が宿った瞳は見られないのだ。
彼の物真似を完璧に行うことは不可能になり、リオウの物真似は不完全燃焼のまま終わってしまった。
愛を知ったティナに続く興味深い対象の死に、悔しさを禁じえなかった。
ゴゴは想起する。
多くの思い出を、大切な仲間や親友、家族のことを語る、リオウの様子を。
彼は、大切な義姉と義父の側に行けただろうか。
そうであればいい。そうであってほしい。
そんな感傷めいたことを想うのは、彼に惹かれていた証だろう。
だがその事実も、もう、詮無い過去となって消え失せてしまう。
「お前が、やったのか?」
トッシュの前で立ち止まり、ゴゴは静かに尋ねる。
その抑揚のない声はどこまでも平坦で、性別すら分からない。
「あぁ……そうだな。コイツが死んじまったのは……俺のせいだ」
彼の声が微かに震えているのを、ゴゴは聞き逃さなかった。
無手であるトッシュの周囲には、へし折れた細い棒と、血に塗れた手裏剣がいくつも散らばっていた。
「そうか。ならば今度は、お前の物真似をさせてもらおう」
「……あァ? 何言ってやがンだ?」
三白眼に睨まれるが怯まず、トッシュの全身をくまなく観察する。
すると、ゴゴを取り巻く空気が、鋭いものに変わった。
不意に殺気立ったゴゴは、早足でトッシュに歩み寄る。
「腑抜けてんじゃねぇッ!」
迷わず、その横面を思い切り殴りつけた。トッシュの身体が吹き飛び、床を滑る。
「てめぇのせいでリオウが死んだんだろ?
だったら、こんなとこでボサっとしてねぇでやるべきことがあるだろうが!」
驚愕に染まった顔でゴゴを見上げるトッシュ。ゴゴはその胸倉を掴み、強引に立ち上がらせる。
接触しそうなほどに顔を近づけ、至近距離でトッシュを睨みつけた。
「てめぇの手で、けじめを付けやがれ」
凄みを利かせた低い声で告げると、トッシュを投げ捨てるように手を離す。
しえん……
「もしできねぇんだったら、俺が一人でやってやる。
リオウが死んだのは――俺のせいでもあるからな」
吐き捨て、トッシュに背を向けて歩き出す。
ゴゴもまた、リオウの死には責任を感じていた。
妄言を垂れ流すトカをもっと早く説得できていれば、すぐにここへ戻ってこれた。
あるいは、トカの説得を早々に切り上げて戻ってくるべきだった。
そうすれば、リオウを救えたのかもしれないのに。
そして、責任を感じているが故に、ゴゴは直感していた。
トッシュが直接リオウを殺めたわけではないだろう、と。
仮に手を下したのがトッシュなら、あの呆然とした様子や声を震わせていた様子や、『俺のせい』という言葉は不自然だ。
トッシュが、人を殺しておいて平然と演技が出来そうな男だったなら、その不自然さも作られたものである可能性も考えられた。
しかし、この見るからに不器用そうな男が、そんな演技ができるとは思えなかったのだ。
そして、その推測が確かなら。
この城の中に、リオウを殺した殺戮者がいることになる。
そいつに意趣返しをすることこそ、トッシュとなったゴゴと、トッシュ本人にとってのけじめのはずだ。
「おいトカゲ」
「は、はいッ!? めまぐるしい展開に置いてけぼりだった我輩に、ようやく日の目が当たったトカ!?」
「下らないこと言ってねぇで、リオウを弔ってやってくれ。お前に頼むのは癪だが、お前しかいねぇからな。
終わったら必ずここで待っていろ。
それでもし、誰かに襲われたなら、とりあえず騒げ。いいな?」
「わ〜〜〜おッ! もしかして我輩の期待度うなぎ上りの急上昇?
ならば応えないわけにはいきませんな。万事お任せあれ!」
胸を張るトカに、ゴゴは大いなる不安を覚える。
だが、最低限の常識はあるだろうとタカをくくり、制御室を後にすべく階段を上がる。
手がかりはないが、虱潰しに捜すしかない。まずは城を隅々まで回るべきだろう。
「……待てよ」
そう呼び止められたのは、駆け出そうとしたときだった。
◆◆
制御室から出て行こうとするゴゴを、迷わずに呼び止める。
振り返り見下ろしてくるゴゴの眼光は鋭く、まるで自分に見られているようだった。
「誰も、できないなんて言ってないぜ」
傷も痛みも疲れもなく、体調は絶好だと言っていい。
おそらく、あの碧の光のおかげだろう。
リオウの手に宿った『輝く盾の紋章』の力。
ナナミやビクトールから聞いていたそれが、今、トッシュを生かしている。
リオウによって、救われた。
言わばこの命は、リオウに貰ったようなものだ。
ならば、彼の無念を晴らすのは、紛れもなく自分の役目だ。
たとえ武器がなくとも、無様に腑抜けてなどいてはならない。
分かっていたはずだ。
それなのに、度重なる無力さや無念さが、トッシュをがんじがらめに縛り付けていた。
断ち切れたわけでは決してない。トッシュは未だ、それらを引きずっている。
だからまだ、果てしなき蒼は握れない。
それでも、トッシュは立ち上がり歩き、階段を昇る。
そんなトッシュに、ゴゴがデイバックから取り出した何かを差し出した。
それは何処にでも在るような変哲のない、細身の剣だった。
「丸腰でいられても、足を引っ張られるだけだからな」
「ありがてぇ……!」
軽いその剣は、何度か使えばすぐに壊れてしまいそうだった。
だが、構わない。
大層な名を持つ魔剣よりは、いくらか今の自分には相応しい。
何も出来ない無力さに完全に押し潰されてしまうのは、何も果たせずにこの剣が壊れてしまったときでいい。
「さぁ……行こうぜ。けじめを付けによ」
トッシュの声に、ゴゴが頷く。
そしてトッシュは、急ぎ階段を駆け上がる。
あらゆるわだかまりを、断ち切るために。
しええええん
【C−5地下北西 移動してきたフィガロ城内部制御室周辺 一日目 昼】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:トッシュの物真似中、健康
[装備]:花の首飾り、点名牙双
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済み。回復アイテムは無し)、基本支給品一式
ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:城の中の殺戮者を探し、リオウの仇を取る。
2:後に制御室へ戻り、トカと行動を共にする。
3:ビッキーたちは何故帰ってこないんだ?
4:トカの物まねをし足りない
5:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期はパーティメンバー加入後です。詳細はお任せします。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
【トッシュ@アークザラッドU】
[状態]:健康。
[装備]:ほそみの剣@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式 、ティナの魔石 、果てしなき蒼@サモンナイト3
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:城の中のシャドウを捜し、リオウの仇を取ってけじめをつける。
2:果てしなき蒼は使わない。
3:リオウに免じて、トカゲも許してやろうか……?
4:必ずしも一緒に行動する必要はないが仲間とは一度会いたい(特にシュウ)。
5:ルカを倒す。
6:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る。
7:基本的に女子供とは戦わない。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未修得です。
※ナナミとシュウが知り合いだと思ってます。
※果てしなき蒼@サモンナイト3はトッシュやセッツァーを適格者とは認めません。
※セッツァーと情報交換をしました。ヘクトルと同様に、一部嘘が混じっています。
エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。
◆◆
制御室ではやはり、機械の音がいつまでも響いていた。
もう動かなくなってしまったリオウを眺めるのは、リザード星の住人だ。
トカは覚えている。
強い意志の宿る、澄み渡ったリオウの瞳を。
トカは覚えている。
居場所に帰るために力を貸してほしいという、リオウの言葉を。
トカは覚えている。
いなくなった人の分まで生きたいという、リオウの叫びを。
されどもう、強い意志は潰えてしまい彼の望みは叶わない。
いくら天才科学者とはいえ、死者を甦らせられはしない。
リオウは既に、物言わぬ存在になり果ててしまったのだ。
しかし彼は、トカに一つの希望をもたらした。
それは、優勝せずとも故郷に帰れるかもしれない、というものだ。
故郷への帰還だけを夢見ているトカにとっては、手段や過程などどうでもよかった。
他者を利用した結果リザード星に帰れるのなら、それでも何ら問題はない。
あの金髪キザ野郎や野蛮な赤毛男と友好的な関係を築けるかは分からない。
だとしても、闇雲に殺しまわるのではなく、人脈を広げていくのも手だと、トカは思う。
その結果、やはり魔王には叶わず星に帰れないのなら。
そのときこそ、他の参加者を皆殺しにすればいいのだ。
うわあああああ試演!
「ありがとうリオウくん。我輩は君の犠牲を、決して無駄にはしない……!」
どのように弔おうか考えながら、トカはリオウの支給品を回収し、遺体を抱え上げた。
【C−5地下北西 移動してきたフィガロ城制御室 一日目 昼】
【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)、尻尾にダメージ小。
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、魔導アーマー(大破。一応少しずつ回復中?)@ファイナルファンタジーY
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)
天命牙双(右)@幻想水滸伝U、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーY、
閃光の戦槍@サモンナイト3、基本支給品一式×2
[思考]
基本:リザード星へ帰る。
1:リオウを弔い、とりあえず制御室で待つ。
2:フィガロ城を地上に戻したい。
3:金髪キザ野朗(エドガー)や野蛮な赤毛男(トッシュ)を含む参加者と協力し、故郷へ帰る手段を探す。
4:もしも参加者の力では故郷に帰れないなら皆殺しにし、魔王の手で故郷に帰してもらう。
[備考]:
※名簿を確認済み。
※参戦時期はヘイムダル・ガッツォークリア後から、科学大迫力研究所クリア前です。
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーのバイオブラスター、コンフューザー、デジュネーター、魔導ミサイルは使用するのに高い魔力が必要です。
※制御室に、蒼流凶星@幻想水滸伝Uがいくつか落ちています。
◆◆
ごとごと、ごとごとと、機械が動き続けている。
フィガロ城の地下奥に座り込み、機械特有の油臭さを感じながら、シャドウは回復魔法を詠唱していた。
あのまま腕を刻み、赤毛の男を仕留めるつもりだった。
なのに失敗したのは、少年を殺し切れていなかったせいだ。
詰めが甘かったとシャドウは反省する。
確実に少年を殺していなかったせいで、赤毛の男の傷は癒され、シャドウは光に灼かれてしまった。
本能的に危機を察知し、即座に撤退したため致命傷を負わずに済んだが、相手を侮っていたと言わざるを得ない。
「ケアルラ」
先ほどの熱を持った光とは異なる輝きが、シャドウを包む。
薄い光がもたらす回復力では、全快には程遠く、痛みも疲労も残っている。
だが、戦闘に支障がない。
音もなく立ち上がる。
やるべきことは明瞭だ。考える必要も迷う理由も立ち止まる道理も、欠片ほどに存在しない。
索敵と殺害を、果てしなく繰り返すのみ。
かくしてシャドウは気配を隠しながらも、移動を開始した。
感慨も感傷もなく、ただ獲物を求めて。
駆動音と油臭さと蒸気が溢れる機械の城には未だ、影が潜んでいる――。
【C−5地下北西 移動してきたフィガロ城地下 一日目 昼】
【シャドウ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:疲労(中)、左肩にかすり傷、腹部にダメージ(小)、軽い火傷。
[装備]:アサッシンズ@サモンナイト3、竜騎士の靴@FINAL FANTASY6
[道具]:蒼流凶星@幻想水滸伝U、エイラのランダム支給品0〜2個(確認済み)、基本支給品一式*2
[思考]
基本:戦友(エドガー)に誓ったように、殺し合いに乗って優勝する。
1:有利な現状を存分に活かしフィガロ城内の人間を殺す。
2:参加者を見つけ次第殺す。ただし深追いはしない。
3:知り合いに対して……?
[備考]:
※名簿確認済み。
以上、投下終了です。
支援してくださった方、ありがとうございました!マジで助かりました。
投下乙! ってリオォォォォオォォォッォォオオーーーーーー!
地下に暗殺者と一緒に閉じ込められた時点で誰かは死ぬかと思ってはいたが、まさかリオウが……。
しかしながら素晴らしい死に様。普通のよくある熱血とは違って、ジワリとだんだん熱くなってきた!
死と引き換えにしても仲間を立ち上がらせたのは流石天魁星。よく頑張った。
シャドウは暗殺というあっさり死がつきもののスタイルだったにも関わらず、ここまで手に汗握る展開を作り上げたのは見事としか言いようがない。
そしてゴゴ! こいつ素晴らしすぎる。モノマネをしつつも自我のターンでの心理描写が決まってる!
さて、立ち上がったトッシュたちはこいつ倒せるのか。そして、改心……ってか路線変更したトカ様は役に立つのか、見ものですねwGJ!!!!
リオオオオオオウ!
もちろんだけれど投下乙!
そうか、お前が死んぢまったか。
序盤の仲間たちを思い出すシーンがすごく良かったのがさらに拍車をかけてせつねえ
トッシュとの戦いも原作の一騎打ちを思い起こさせるナイス描写。
氏は原作のシステム面もうまく文中に取り込めてすごいなー。
シャドウはやっぱようしゃねえ!
手裏剣で切るに終わらず抉った時はうわあっと叫びそうだった。
トッシュの無念加減やトカも相変わらず冴えてる。
そして上でも言われてるけれどゴゴが、ゴゴがかっけえええ!
なんだ、ここのゴゴは!?
物まねと自我の両方が相乗効果を起こしてキャラを引き立てまくってるぞ!?
GJ!
投下します
洞窟。
この殺し合いの舞台に呼ばれた者たちの多くにとって馴染み深いものだろう。
ある時は地下深くに眠るお宝が目当てで。ある時はまだ見ぬ新たな大地を求めて。またある時は奥に潜む巨悪を討ちに。
様々な理由を胸に幾多もの洞窟を歩いてきた彼らのことを洞窟探検のプロと称したところで過言はあるまい。
では、彼らプロ達が洞窟を進む上で最も警戒していたことは何か。
やはり死角からのモンスターの襲撃か。
いや、仕掛けられた罠の数々か。
それとも奥に潜む強大な敵か。
そのどれでもない。
洞窟に潜る上で最も恐るべきことは即ち、閉じ込められることだ。
岩盤の崩落しかり、敵の策略しかり。
何らかの形で出入り口を塞がれてしまえば、死から逃れられるすべは殆ど無くなってしまう。
日の光も刺さない暗き世界では動植物はろくに存在しておらず、食料が尽きればそこで終わりだからだ。
怪我人がいても碌な治療もできないまま死を待つばかり。
かといって助けを呼ぼうにも、厚い壁に遮られ外に届かず、外からは中がどうなっているかなどと知る由も無い。
そういった最悪の状況に陥らないよう配慮されているという点では、このヘケランの洞窟は休憩場所にはもってこいだった。
エルクとアズリアがついぞ踏み入ることの無かった洞窟の最奥。
そこにはいざという時の脱出経路として使えるある仕掛けがあったのだから。
ある世界の現代と呼ばれる時代において一つの王国へと繋がっていた水路の入り口。
奇跡的な海流の絡み具合による水圧からの保護と窒息死するよりも早く海上へと打ち上げられる流れの速さが相まって、
何の準備もなく生身で飛び込んだ青年達が無事通過することさえ可能にした自然の神秘。
しかも出口である渦から飛び込んだところで跳ばされるのは洞窟の入り口付近への為、水路から直接敵に奇襲をかけられる事もない。
通じている先が『海に接しているあるエリア』と曖昧にしか説明されていないという欠点こそありはするが、脱出経路としては十分過ぎる。
そんな理想的な脱出経路の前で腰を下ろしている男からは安堵の表情も安らいだ様子も一向に見て取ることはできなかった。
全身に負った打撲や軽度の火傷も、洞窟へと流れ込む海水を紋章の炎により蒸発させ、
残る膨大な海水と地下故の涼しさを利用して冷却するすることで作り出した淡水により事なきを得ているはずなのに。
血こそ洗い流されてはいるが、その表情は険しいままだった。
当然だ。
男を、ルカ・ブライトを苦しめているのは肉体的なものではなく精神的な傷なのだから。
最悪の気分だ。
閉じていた目蓋を僅かに開き、ルカは舌を打つ。
夢を、嫌な夢を見てしまった。
母の夢を。
原因は言うまでも無い。
アキラが掘り起こした思い出したくも無い、だが忘れられるはずもなく、忘れようとも思わなかった幼き日々の記憶のせいだ。
「くそがっ……」
青年が見せた幻影の母は微笑んでいた。
――ルカが見た夢の中の壊れた母はもはや何の表情も浮かべていなかった
厳しくわが子をたしなめるように幻影の母は怒っていた。
――許してと、助けてと、過去の母は自らを辱める男達に泣き請うていた
慈愛に満ちた表情で幻影の母は子を抱きかかえんと手を伸ばしていた。
――無力な子どもにその手を掴み助け上げるすべは無かった
殺しあうよりも愛し合う方がいいと、誰かのことを語る母がいた。
――王座で震えているだけだった臆病者は己が妻を見殺しにした
夢が現で、現が幻。
現実と取り違えかねないリアリティを誇っていても、マザーイメージはあくまでも敵の戦意を奪うことを目的としたもの。
相手の脳中枢へと干渉し揺さぶり起こす幻は優しく甘いか、厳しくも温かいものばかり。
ルカにとってはどれもこれも遥か過去に追いやられたもので、全てが全て幼き日々の記憶に終始していた。
母はあの日以来笑うことなど無くなった。
失意と虚無に埋め尽くされた現と、フラッシュバックに苛まれ苦悶と悲鳴に彩られた毎夜の悪夢。
死に至るその時まで母は昼夜苦しみ抜いた。
思い出したくも無い、だが忘れられるはずもなく、忘れようとも思わない。
故に記憶の母は全てあの日の母へと帰結する。
ハッピーエンドという名の幸せな救いで上書きされることの無かった悲劇は、永遠に悲しい物語のまま幕を閉じ、ルカの魂へと刻み込まれた。
バッドエンド。
死んだ人間の物語にその先は無い。
では、二度目の生を受け、この世に戻ってきた自分は何だというのだ?
死者の蘇生。
不老不死と並び、富と名誉を手に入れた者たちが行き着く欲望の果て。
オディオには確かにその力がある。
己自身が紛れも無い証拠だ。
その力さえあれば母を――
「……くだらない」
トラウマに押しつぶされるがままだった心が一気に冷えていくのを感じながら、ルカはそう思った。
この殺し合いの箱庭で、いや、幾多の世界、ありとあらゆる時代で多くの命が欲した力を一笑に付した。
ルカに優勝して母親を蘇らせるという選択肢は初めから無い。
否、母を汚されたばかりの幼き日々でも、失った時でさえも元の母を取り戻そうなどと考えたことは一度も無かった。
何の意味があるというのだ、生き返らせたところで。
身勝手で汚らわしい人間共が跋扈している世界に。
妻を妻とも思わず、我が身可愛さを優先するような男が統べる国で。
幸せになれるわけが無い。
たとえルカが悲願を成就し都市同盟を完膚なきまでに滅ぼしたとしても後に残るは怨嗟の声が木霊する荒野のみ。
平穏など訪れはしまい。
サラ・ブライトの居場所はこの世のどこにもないのだ。
亡き母だけではない。
薄汚いブタ共が蔓延る世界に、弱者が生きるすべは無いのだ。
強きものが全てを奪い、弱きものは死ぬ。
それこそがこの世の真理。
偽善者達は綺麗ごとを並び立て覆い隠そうとしているが、無駄なことだ。
人もコボルトもウィングホードもエルフもドワーフも。
所詮は己の欲望のために他者を虐げる。
守るためにさえ誰かを傷つけなければ生きてはいけない。
「くだらぬ…………この世界も……」
あの日以来憎悪に駆られて生きてきた。
穢れた都市同盟の人間を、牙も無く生きている価値もない女子どもさえも、全てこの手で消し去らんと。
人を殺して、殺して、殺してきた。
斬り捨て、轢き殺し、焼き払い、毒を盛った。
人を殺して、殺して、殺してきた。
斬り捨て、轢き殺し、焼き払い、毒を盛った。
されど心は癒されない。
一人殺せば一粒、二人殺せば二粒。
朝露の水滴の如き潤いは得られても、その程度で身体の隅々、皮膚の下にまで渦巻く憎悪の炎が鎮火することはなく。
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。
だが、千殺そうが、万殺そうが、弱火になろうとも炎は何度でも憎悪という薪をくべられ燃え上がった。
足りないのだ。
どれだけの命を冥府に叩き込もうとも。
全てを消し去らない限りルカ・ブライトの渇きは満たされない。
ずっとずっとそう思っていた。
事実は違った。
ルカ・ブライトは覚えている。
自らが真に死の淵に立った時の感情を。
恐怖の先にあったもの――それは開放感。
他者に与えるばかりであった『死』を以って皮肉にもルカ・ブライトは永劫の疼きより解き放たれた……はずだった。
「ふん、オディオも余計なことをしてくれたものだ」
言葉通りルカにとって自らが生き返ったことは面白くは思えても嬉しいとは感じられなかった。
宴の開幕を告げる魔王を前にして黄泉路から連れ戻されたルカの心を占めていた感情は只一つ。
歓喜でも驚愕でもなく――憎悪。
この世に返り咲いた命は、玉座の間に幾多もの人間を認めるや否や再び憎しみの炎を上げた。
ルカ・ブライトと憎悪はもはや表裏一体。
片方が蘇ったのなら、もう片方がなりを潜めたままであるなど有り得ない。
ルカは解き放たれたはずの渇きに飲まれ、再び獣と化す。
そして、狼に自殺という選択肢はない。
一度味わった死による疼きの消失がいくら素晴らしいものであったとしてもだ。
ルカ・ブライトは自らを絶え間なく襲う渇きから逃れようと人を殺してきたのではない。
憎いからこそ命を刈り取ってきたのだから。
冷えた心を憎悪の熱が焦がしていく。
蘇らされた記憶とそのきっかけである男への怒りも相まって、憎しみは常以上に煮えたぎっていた。
その熱さに煽られるように、ルカは口元をつり上げ、中空へと声を放る。
「このおれの憎悪、貴様なら余すところ無く感じられるだろう?」
生き返ってまでトラウマを目にする羽目になったそもそもの原因、何らかの手で宴を見下ろし楽しんでいるはずの魔王オディオへと。
相手がただの人間であったのならオディオとて切り伏せていたところだった。
抗わなかったのはオディオに自分と同じものを感じたからだ。
――望むがまま邪悪に生き、裏切りの果てに敗れた者よ。今度こそ己が憎悪のままに浄化し尽くすのだ……汚れた人間の蠢く世界をッ!!!!
ごちゃごちゃとそのような趣旨のことを言われたような気がするが、どうでもいいことだった。
ジョウイの野心を見抜いており自分が裏切られたことくらい遅かれ早かれ気づくことのできたルカにはオディオの壮言に感じ入るものは無かった。
剣に名前なぞ不要。
ただ、斬れればいい。
言いつくろったところで大方オディオも心の底では自分同様そう思っていることだろう。
構わない。
オディオの思惑がどうであろうと、奴の目には憎悪の闇があった。
ならばおれの邪魔になることはないとルカは嗤い立ち上がる。
「ふはははははははははははははははは!!!!!」
誰かが洞窟に侵入してきたのなら殺せ殺せと騒ぐだろうから鳴子の代わりにくらいはなると踏んで傍らに突き刺していた剣を引き抜く。
打撲の圧迫治療用の包帯代わりに端の方を用いたため僅かに裾を短くしたマントが主の動きを追う。
ルカにも、アキラにも不本意なことだが、数時間かけて休んだことでルカは精神だけでなく体力をも回復させていた。
獣の紋章ならぬ浄火の竜もまた扱うことができよう。
ルカは一人で自身と渡り合った忌まわしい赤髪の剣客のことも忘れてはいない。
都市同盟を攻略するのにあたり、人っ子一人に阻まれるようでは話にならないではないか。
さあ、休息は終わりだ。
狼にとってだけではない。かの爪に裂かれる哀れな羊にとっても今の今までは安穏な時間だった。
それも、ここまでだ。
憎悪に狂いし狼は下げていた尾を上げ、牙を剥き、咆哮をあげたのだから。
「この数時間、生き延びたことを後悔させてやるぞ、糞豚共がッ!!!!」
狂皇子、再び――
【B-10 ヘケランの洞窟 一日目 昼】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]疲労(小)、精神的疲労(小)、全身打撲(、軽度のやけど。
[装備]皆殺しの剣@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち、
魔封じの杖(4/5)@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち、聖鎧竜スヴェルグ@サモンナイト3
[道具]工具セット@現実、基本支給品一式×3、カギなわ@LIVE A LIVE、不明支給品0〜1(武器、回復道具は無し)
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る4人及び、名を知らないがアキラ、続いてトッシュ優先。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。
※召喚術師じゃないルカでは、そうそうスヴェルグを連続では使用できません。
※ヘケランの洞窟のリーネ付近の渦に繋がっていた洞窟奥の水路は、本ロワの舞台では海に接したどこか特定のエリアに繋がっています。
出口である渦に飛び込んだ場合はゲーム本編同様、ヘケランの洞窟入り口近くに繋がっています。
状態表一部訂正。
[状態]疲労(小)、精神的疲労(小)、全身打撲(、軽度のやけど。
↓
[状態]疲労(小)、精神的疲労(小)、全身打撲と軽度のやけど(処置済み)。
投下終了
投下乙ッ!
ルカの体力も復活して殺戮劇再びか!?
逃げて、近くにいる対主催逃げてー!
しかし恐ろしいのが
>洞窟奥の水路は、本ロワの舞台では海に接したどこか特定のエリアに繋がっています
って次はどこに出るんだ!?
海岸近くの人間が丸ごと射程圏内かよw!
投下乙〜
やっぱルカ様はこうでなくっちゃww
これからの活躍に期待が膨らむ一方なんだぜww
果たして次の犠牲者は誰だ!?
そしてルカ様を止める事は出来るのか!?
投下乙!
ルカ様復活か。スヴェルグも使えるようになったようで、まだまだ大暴れしてくれそうだな。
こいつを止めるためにどれだけの犠牲が生まれるのか…楽しみでもあり不安だ。
仮投下スレに仮投下してきました
かなりアラと展開の不都合が目立つと思います。
ご指摘をお願いします。
あれ、どういうことなの……?
あ、トリップは違いますが本人です
はい、一応……おかしいなあ
OKw
気にせずにー
見てきます
かくれみの@LAL、データタブレット@WA2、オブライトの支給品が炎に巻き込まれました
これは破壊されたと判断していいのでしょうか?
それとも次の人任せ?
ほかは特に問題はないかと
感想は本投下時に
仮投下乙です。
思い切りましたねー。
また傲慢リレーかよw
うーん。ちょっとこれは…って感じですね…。
テンプレに完璧なクオリティはないとされてますが…後の展開をそう縛らないデータタブレットが退場してるし。
後……明確におかしいのは時間です。
昼になってますよ。どう考えてもおかしいし、放送後エキスパントレンジを使ったエルクよりジャファル達が早いのは有り得ないです。エルクどころかアズリア達の方が早く船に付くでしょう。
>>83 どうどう
データブレッドうんぬんはノーコメ
そんなこと言っていたらロワやってられないしね
ただ、おかげでわたしも突っ込みがいくらか出てきました。
まず、どうしてジャシンコンビはジョウイの名前を使ったのでしょうか?
加えて、エルクが相手が二人だと思ったのは根拠があってのことかな?
それともブラフ?
時間差は前の話の終了時間がエルクの方が遅かったからとかでどうにかなるけどもう少し細かい補足をする余地はあるかも
>>84 すまん。それは分かってるんだ(タブレットの件について)
でも前話の終了がエルクの方が遅いのも無理があると思う。
放送『直後に』洞窟から駆け出したエルク。
それに対してエドガーは放送後しばらく機械をいじってます。
後細かい突っ込み。
二秒、三秒、四秒…確かに十分過ぎる時間ですが……反応が遅すぎですよ…
>>85 いや、俺の方こそすっかり抜けていた、エルクが放送後にってのは
確かにあなたの言うとおりだ
そこは何らかの説明付けか描写変えるか必要ですね
って、作者さん抜きで会話になってしまってすみません
しばらく返答待ちします
どうも、ご指摘ありがとうございます。
>ジャファルたちがエルクより早いのはおかしい
コレに関しては完全に私の見落としです……すみません。
>なぜジョウイなのか?
シンシアがエドガーの名前を知らなかったこと、死人以外の名前を名乗る必要があったからです。
別にルカ等でもOKでした、あまり細かい理由はありません。
>エルクが二人と思った理由
シンシアを見かけたときの人影が二人分写ったこととからくるエルクのブラフです。
「二人いなかったら疑ってごめんなさい」とする予定でした。
時間軸のズレという大きな問題があり、話が大きく変わりそうなので一時的に破棄させていただきます。
お騒がせいたしました。
返答乙です。
あ、すいません他にも見つかりました。
ジャファルの尋問中に背後を警戒してるはずなのに何故かモシャスを唱えられてる。
当然術の気配も警戒するだろうし、『ドッペル』ではジャファルはモシャスの詠唱中に二度はシンシアを殺せるらしい。
エルクの最後の炎を『止めようとした』ジャファルとシンシアがノーダメ。
炎発生源のすぐ近くにいてこれはないかと。
まあ、シンシアは無敵になれますしエルクの体だから助かるでしょうが、ジャファルは炎の剣の斬撃も受けていて炎耐性が落ちてます。まず死ぬかと。
あと祈りの指輪が強力すぎるかなあとインビジブルは制限対象だしかなり消費が大きいはずです。
……何回祈りの指輪を使ったかは不明だけど。(エルフの飲み薬なら納得ですが)
って今更すいません。
返答お疲れ様です
完全破棄はするほどでもないと思うので修正お待ちしております
ただ、書き手諸氏のネタ潰しになるかなあっとおもって黙っていましたが、
インビシブルに関しては一部
>>88氏に同意です。
私からすればこの話で一度シンシアが使うくらいには問題ありません。
元からモシャス唱えたりと魔力はあるようですし
ただ、本家のエルクが一度使った後もう一度は無理だと言ってますので、
シンシアが船から脱出するのに使うのはそのままでは無理かなあっと。
『祈りの指輪があるので何度か使えば再びインビシブルも発動できるようになり脱出できるだろう』、という感じの一文で事足りそうですが
そういえば今日で一周年だっけ?
読み手ですがこれからもSS楽しみにしてます
おおっ!?
そっかそっか、今日で一周年なのかー!
>>90さんナイス!
すっかり忘れていたやw
いっつも色々楽しませてもらってます!
これからもレッツゴーです!
後WIKIのキャラ紹介更新してくれた人もサンクス!
おぉ、もう一周年か。早いなー。
ゆっくりだが確実に進んでるし、これからも楽しみだぜ!
一周年に乗り遅れた!
キャラ紹介更新してくれた人
ありがとー
あれ?この状況って予約していいのかな……?
アズリア姐さん、無法松、エルク、ジャファル、シンシア、ピサロなんだけど。
没話の要素を一部引き継ぎますが全然違う話になるので。
大丈夫かな?
本当だ!キャラ紹介が更新されてる!
知らないゲームのも分かるからありがたいなぁ
>>94 破棄宣言もあるので、多分大丈夫だと思いますー
>>95 う〜ん、ただ、『一時的に破棄させていただきます』と書き手さんは言ってますし。
もう少し待ってみては?
◆FRuIDX92ew氏ー。
返答求むー
キャラ紹介のページに、画像とかつけたら分かりやすいかな
あ、どうもすみません。
思ったより時間がかかりそうで数日内に仕上げることが厳しそうなので完全破棄にしようと思います。
どうもお騒がせしました。 またの機会にまた考えて投下してみようと思います。
12文字トリップ……か、この板は導入されてるんですね。
んー、わかりやすくはあるけれど、画像は流用ってわけにはいかないでしょうし。
自分で描いたもの以外はきついんじゃないかな?
それと◆FRuIDX92ew氏は返答ありがとうございます。
完全破棄になりましたので◆E8Sf5PBLn6氏、予約OKです。
ありがとうございます
それじゃ、予約に行きます
今回は仮投下する予定です
そういえばそろそろ地図更新してくれる頃かな?
保守ついでにトリビア
ビッキーに「重い」って言われたケフカ様の体重は48kg
ぶっちゃけティナと一緒だったりする
あらま、意外
まあ確かに道化師っぽくひょろりとしているから軽いのも納得かー
女の子からすれば重いだろうけど
へぇ、意外と軽いんだなぁ。
俺も負けずにトリビアを…と思ったがネタが思いつかねぇorz
延長がなければそろそろ投下か……
魔王やルッカとかの予約もそろそろ来てもおかしくないし、wktkするぜ
お待たせしました。
少し気がかりな点があり、仮投下とさせていただきました。
ご判断お願いします
仮投下乙です。感想は本投下時に。
特に問題はないかと。
ただ、細かいですが、
>>249の下から6行目の「ストレイボウ」は「オルステッド」ではないかと。
魔王の技は別に問題ないと思う。
記憶石はアークザラッドU知らないからなんともいえないが、まあありなんじゃないか?
108氏、指摘感謝です。修正しました。
さて、反対意見もありませんし、投下させていただきます
風が吹いていた。
地の底に引きずりこまれるような重く、不気味な風だった。
これが黒い風というものなのだろうか。
ルッカは対峙する銀の髪の男へと率直に問いかける。
「ねえ、あなたには今も聞こえるの? 黒き風の音が……」
黒い風。
類稀なる魔力を持つ男が凶兆を――多くは遠からず誰かに死が訪れることを予知した時に用いる表現。
転じて男が自らの手を汚すときにも行う死の宣告。
「……ああ」
故にその返答は男が自らと同じ称号を持つ絶対者が開いた悪魔の宴に興じている証拠に他ならない。
事前に聞いていた情報もあり、少女は動じることなく――少なくとも表向きは――頷いた。
「検討はついているけど理由、教えてくれないかしら?」
「…………」
他者に運命を握られることを嫌い、理不尽に暴虐をもって抗ってきた男が、大人しく他人の掌に乗せられている理由は唯一つ。
そのことを聡明な少女が推測できないはずがない。
男もそれを分かっているからこそ、数瞬の沈黙のあと、口を開いた。
「姉上を、サラを取り戻すためだ」
「……そう」
「ねえ、ジャキ。一つ聞いて欲しいことがあるの」
ルッカは切り出す、男を説得しうる研究中の一つの理論を。
それは極小ブラックホールを利用しての、“時のたまご”。
超重力の一点を自転させることにより、時空をすいよせ、全てをのみこむ特異点をリング状に変形させる。
これを次元転移のためのゲートとして利用すれば、異なる時空との行き来が可能となることを。
要点を絞った簡素な説明を聞き終えた魔王の内で一つの謎が解消された。
「……擬似ブラックホールを発生させられないのはそういうわけか。大方オディオの仕業だろうとは踏んではいたが」
「ブラックホールを!? そうね、魔力で生じさせたものに置き換えても理論は成り立つわ……」
魔王、しいては他の参加者を箱庭より開放する可能性をオディオは見逃さなかったのだ。
用意周到なオディオに悪態を吐きたくなるも、一先ず後回しだ。
ルッカはまだ魔王から説得自体への答えを聞いていない。
「それで? 言ったとおりこの理論が実用化されればオディオを頼らずともサラさんを助けにいけるかもしれないのだけど、まだ殺し合いを続ける気?」
「かもしれない、だ。今のところは机上の空論なのだろう。
それに理論的には間違っていなかったとしても無数の時間軸や平行世界の中から一人の人間を探し出せる可能性は限りなく低いのではないか?」
「……否定はしないわ」
科学の限界。
悔しいけれどそれは確かに存在する。
いや、限界があるのは科学では無くそれを扱う人間の方か。
時の卵さえ推測の領域でしかない今のルッカは魔王の言葉を否定できなかった。
無論嘘をつくこともできたが、それはルッカの性格が、科学者としてのプライドが許さない。
「ならば答えは決まっている!」
「……分かったわ。じゃあその前にもう一つ。これ、返しておくわ」
袂を別つと今一度宣言した己に向かって放り投げられた何かを、魔王は大して警戒することなく右手でキャッチした。
ルッカの性格からこの状況でだまし討ちをするとは思えず、危険物では無いだろうと判断したからだ。
例え害をもたらす物でもどうにかできるという自信もあってのことだったが。
その魔王の顔が投げ寄こされた物の正体を確認して歪んだ。
「これは、サラの……」
手の中に納まったそれを魔王が見間違えるはずは無かった。
虚空へと消えた姉が唯一つ残してくれたもの。
全てを奪ったラヴォスへの憎しみの炎を絶やさんがため、守ってくれると言ってくれた大好きな姉へと縋り付こうとした幼子の弱さ故に。
見知らぬ時代、人ならざる魔族の中での過酷な日々の中でいつ何時も手放さず身に着けていた首飾り。
「何のつもりだ?貴様ならこのペンダントに込められた姉上の力は重々承知しているだろう。それを敵である俺に渡すなどと」
姉は言葉通り傍におらずとも魔王のことを護ってくれた。
ペンダントに込められた祈りの力――毒や魔封といった災厄を撥ね退ける護りの力。
共に攻撃魔法を主体とする魔王とルッカが戦う上では確かに戦況に影響を与えない道具だが、有用な道具であることに変わりは無い。
敵となった相手へと無条件で渡すには余りに惜しい代物だ。
だというのに女は言う。笑みを添えて自分の行いになんら悔いはないとばかりに。
「関係ないわ。あなたが敵であることと、誰かが大切にしていた家族との思い出の品を返すこととはね」
「……そうか。貴様は、貴様たちはそういう奴らだったな。いいだろう、くれてやる」
「これって!」
今度はルッカが声を上げる番だった。
見るからに強そうな、その名もずばり究極のばくだんを5つたて続けに渡してきたのだ。
魔王にとってのペンダントとは違いルッカにとって思い入れのある物ではない。
しかしこれから始まる戦いにおいては間違いなくルッカの心強い戦力となる。
「一体いつからこんなにもサービスがよくなったのよ、魔王」
「ちょうどいいハンデだ。それに――」
それでも礼としては全く釣り合っていないくらいだからな。
ほんの僅かに笑みさえ零して見えたのは錯覚か。
そこに少しでも自分達との旅で培った何かがあってくれればと今から殺す相手に思ってしまったことにルッカは苦笑する。
「そう、なら遠慮は要らないわね。サイエンスを舐めてると痛い目見るわよ?」
「構わぬ。俺と同じ過ちを犯したくないのなら……、クロノを守りたいのなら……」
ペンダントを強く握り締め、友ではなく、されど敵でもなかった少女へと魔王は告げる。
「全力で来い、ルッカ・アシュティア。現代科学の担い手よ!」
空気中の水分が一瞬で凍結され魔王の背後にいくつもの氷柱が浮かび上がる。
「行くわよ魔王! カエルには悪いけどここでわたしがあなたを倒すわ」
ルッカの左手から迸った魔力が空気中の酸素を取り込み業火と化す。
「失ったものを取り戻すため」「もう二度と失わないために」
氷と炎。
取り戻すためと失わない為。
二つの相反する力と想いが
「「……勝負っ!!」」
森の木々を吹き飛ばしつつ中空で爆ぜ激突した。
少女を押しつぶさんとしていた氷塊が炎の嵐に飲み込まれ殆どが蒸発する。
男を焼き払おうと牙を剥いた炎もまたその時点で全てのエネルギーを失う。
二つの力の消失と同時に引き起こされたのは大量の蒸気の瀑布。
固体から一気に気化させられた氷の成れの果ての中煌く物があった。
水滴の散布に伴い現れるにはこれほどなくお似合いの虹という名を冠した剣が陽光を反射した光だった。
ジョウイ達を襲った時同様、アイスガを盾に魔王自身もまたルッカへと駆け出していたのだ。
「……っ!」
だが己が魔法を囮に次の手を打っていたのは魔王だけではなかった。
エイラやクロノ程でもないが魔王が自分よりは遥かに接近戦に強いことはルッカも承知済み。
「ほぅ……、早くもここで使ってくるか」
魔王の進路を塞ぐように設置されていたのは数分前までは彼の持ち物であった究極のばくだん。
マジックバリアを以ってしても軽減できない対魔王の切り札にもなる道具を惜しむことなくルッカは使用したのだ。
気付かれても避けきられないように間を開けて投じられていた爆弾は勿論火を宿し爆発寸前の身。
咄嗟にダークボムで爆風を相殺しようとするも、一発の魔法では二つ分の威力は防ぎきれない。
マントで全身を包むように守ったことで飛散した破片による被害は抑えられたが、足は完全に止まってしまっていた。
その隙をルッカが逃すはずがない。
「くらいなさい、魔王!」
格好の的へと無数の矢の雨降り注ぐ。
常に使う鎌とは違い回転して弾くだけの柄の長さを持たない虹では到底払いきれない。
魔王は剣による迎撃を諦め、魔炎によって乱射された矢の一群を焼き払う。
それだけではない。
ルッカお得意の機械仕掛けの武器に魔王もまた対策たる一撃を返す。
古代ジール王朝で生まれた為魔力で動かない機械には詳しくない魔王だが、クロノ達との旅で一つ知ったことがある。
――精密機械は電気に弱い!
「……サンダガ」
天破雷咆。
駆ける魔王を中心に広がった幾条もの雷光が獲物を求め爪を伸ばす。
素早く金属でできたオートボウガンを上空に投げ捨て避雷針代わりにし寸前のところで回避するも、これでルッカは丸腰だ。
魔王の進軍を阻むものも、距離を詰めた魔王の刃を遮るものもない。
「……!!??」
筈だった。
刃が届く距離にルッカを収め、剣を振るった魔王の表情に明らかな驚愕が浮かぶ。
「……正気か?」
「マッドサイエンティストってのも悪くはないけれどね。あいにく私はいつでも正気よ!」
速度が乗り、止めることも叶わない刃は。
ルッカが剣を受け止めるために取り出した3つ目の究極の爆弾を断ち切る!
超至近距離の爆発から身を守るためにバランスを崩してでも大きく後ろに跳ぶことを選ぶしかなかった魔王に対し、
事前にプロテクトを唱え備えていたルッカの動きは早かった。
究極の爆弾はあくまでも当初の想定外の戦力。
真に対魔王にと当てにしていた兵器は別にある。
爆風の勢いに逆らうことなく吹き飛ばされたことで魔王と距離を取ると地面を転がりならデイパックに腕を入れ真の切り札を取り出した。
「さあこれからがサイエンスの真髄よ!」
聞こえた声に嫌なものを感じた魔王は、直後、勘が間違っていなかったことを理解する。
ルッカのデイパックから響くのは小さいなれど明らかに機械の駆動音。
開けられた蓋から伸びるコードの先には共に旅したロボの胸に搭載されていた放電兵装を思わせる17の電極。
魔王が知る由もないが、それは彼の生まれた世界とは異なる世界における未来の時代において誕生した『学び』『考える』ロボットに内装された究極の武器。
安易な使用を諌める為に装着者のOSを極限までに更新し、高度な判断の元初めて使用が許可される程だといえば、その危険性が分かるだろう。
無論機械ならぬ人の身では17ダイオードの付属ソフトの恩恵は受けられない。
が、問題ない。
天才ルッカ・アシュティアは十分すぎるほどの知恵と知識、そして何より優しさ(HUMANISM)を持っているのだから。
「蒸気機関スイッチオン! エネルギー充填完了!」
本来なら自立小型ロボット――キューブの内部電力で賄うはずのエネルギーをフィガロ城で作ったバッテリーから搾り取る。
潜行中に蒸気機関が壊れた時用の予備機関から作ったものな為使い捨て式だが、一度限りの使用なら問題ない。
5つの世界の技術が入り混じった集いの泉を調べて得たノウハウを以ってすれば異なる規格の二つの機械を合一させることも朝飯前だった。
バッテリーが唸りを上げ、17ダイオードの砲身が展開される。
整流作用により迸るは過剰なまでに生み出された電気の渦。
圧縮され、束ねられ、方向性を与えられた雷はロボのエレキアタックさえ上回る電荷量へと到達する!
「HUMANISMキャノン、いきなさい!」
号令とともに砲身を溶解しながら解き放たれるは、天より降り注ぐ陽光さえ染め上げる圧倒的な白。
大地を切り裂く雷の槍は少しでも威力を減衰させようとして唱えられた魔蝕の霧を易々と突破し魔王へと突き刺さる。
「ぐがっ!?」
然しもの魔の王とて全身を一瞬にして駆け巡った高圧電流には耐え切れず膝を着く。
血液が沸騰しつくし、神経が残らず断ち切られたかのような衝撃だった。
目の前に火花が散る錯覚を起こしながら、魔王は身悶える。
否、錯覚ではない。
魔王の眼前には確かに破滅を呼ぶ赤い焔が集い始めていた。
ルッカの誇る最強魔法の予兆だと察知しても、感電した身体は動いてくれず痙攣するばかり。
詠唱の完了を妨害するどころか避けることも叶わないと判断し自由を取り戻せば即座に迎撃の魔法を唱えられるよう精神を集中することに努める。
それもまたルッカの計算の範囲内。
「今まで随分魔力を使ってくれたわよね? そんな魔力の少ない身で私のフレアを防げるかしら?」
全てはこの時のために。
離れた場所を攻撃するのに魔王は武器を使わない。
己が魔法の威力に絶対の自信を持っているからだ。
そう、威力。
確かに魔王の魔法はどれも高い破壊力を誇るものばかりだ。
が、その分一撃一撃が要する魔力も多い。
星を喰らう化け物、ラヴォスへの復讐の為だけに力を磨いてきた魔王は常に高みだけを目指して生きてきたのだら。
そこが付け入る隙となった。
無理に無茶を重ね己が魔力の消費を抑えつつ魔王に魔法を何度も唱えさせることに成功。
ジョウイから聞いた話を考えるに、ルッカと出会う前にも数度魔王は戦いをこなして来たことになる。
特にリルカという少女に対しては虎の子のダークマターまで使用したという。
それから後休憩したことを入れても恐らく今の魔王にはぎりぎり一発ダークマターを撃てるだけの魔力しか残っていまい。
そしてダークマター単発ではフレアには届かない。
魔法理論に加え、熱核融合の科学理論も取り入れたフレアにはその名に恥じぬ威力がある。
万全の状態ならファイナルバーストにそうしたようにマジックバリアを以って耐え抜けたろうが、今の彼は満身創痍。
ルッカの科学によるものだけではない。
ブラッドの拳が、リルカの魔法が。
魔王に刻んだARMSの意思がそこには残されていた。
「その怪我……。あなたが傷付けた人達が残していったものね」
苦悶の中、心を落ち着かせることに必死だからか、単に答える気がないだけか。
無言のまま動かない魔王を見下ろしルッカは思う。
もしも……もしもあの時、あの岬で。
クロノを失った悲しみのままに魔王を討っていれば一人の少女の命は失われなかったのではないのかと。
今、止めの一撃を放つことに涙なんか浮かべることもなかったろうにと。
知恵の実を食したアダムとイヴは楽園を追われた。
変えられないはずの過去を覆せると知ってしまったからこそ、優しい少女は苦しむ。
苦しんで、けれども得たものから目を逸らさず前を見る。
「なら、覚えておきなさい、魔王。あなたは敗れるのよ。私と、その人達に!」
全天に一際強く輝く魔を焼き払う神聖なものとされてきた星。
本物のそれとなんら遜色の無い無限熱量が空気を喰らいながら魔王へと迫る。
天と地の二つの太陽に照らされれば、いかな魔族といえど無事ではいられまい。
されど忘れる無かれ。
今、ここにいるのは太陽神殿の主が纏う炎さえ剥ぎ取る冥の力を従えし光の民だということを!
それは、大きなミスディレクション。
なまじラヴォスに魔力を吸い取られ弱体化した魔王と長く旅していたからこそ起きてしまった思い込み。
サンダガ、アイスガ、ファイガ、ダークボム、マジックバリア、ダークミスト、ブラックホール、ダークマター。
果たしてそれだけだったであろうか?
かって一度だけ少女が直接戦った魔王の手札は。
否。
足りない、魔王を魔王たらしめていた力はまだ他にもある。
魔王との戦いにおいて、特にルッカとマールが苦しめられた魔法があったではないか。
その力の名は――
「……バ、リア、チェンジ」
フレアが着弾する刹那苦しげに響いた言葉の意味を理解してルッカは唖然となる。
周囲の世界から色が抜け落ち、漆黒の闇が腐食をもたらす。
だがこんなものはこの魔法からすれば余波に等しい。
バリアチェンジとはその名の通り強力なバリアを張る魔法なのだ。
しかも万能性には欠けるがバリアの効果はマジックバリアよりも遥かに上だ。
何せ敵の魔法の威力を軽減するどころか、術者の体力に変換し吸収するのだから。
「……これで仕切りなおしだな」
フレアの光が収まり、冥府の闇が晴れた森の中。
HUMANISMキャノンによる感電が無かったかのように立ち上がる魔王の姿を認めてルッカは舌を打つ。
仕切りなおし?
冗談じゃない。
確かにここまでやってきたことは無駄ではなかった。
魔王の魔力の大半を消耗させることに成功し、フレアを吸収した割には魔王の傷は大して癒えてはいない。
対してこちらは体力、魔力ともにまだまだ余裕がある。
至近距離で爆発物を扱ったことで服はぼろぼろで、眼鏡にも皹が入っているが魔王に比べればずっと軽症だ。
それでいながら戦いは完全にルッカの詰みだった。
失態だった。
殺し合いに参加された者達の時間軸の違いに気付けたのなら魔王もまたその例に当てはめて考えるべきだった。
自分達と旅していた時、魔王はラヴォスに力の多くを奪われ、本調子ではなかった。
その力が長き時をかけて回復したことで、或いはそもそも力を奪われる前の時間から呼び出されたことで使える可能性も考慮に入れておくべきだったのだ。
『仲間だった魔王』を殺す。
戦いたくないと甘える自分を説き伏せようと強く心に誓ったことが裏目に出た。
ルッカが立てた対策は無意識のうちに仲間だった頃の魔王の能力を基準にしたものと化してしまっていた。
バリアチェンジにも弱点が無いわけでは無い。
魔王ほどの天賦の才をもってしてもバリアを完璧にすることはできなかった。
火、水、天、冥。
一度にそれら全ての属性の魔法を防ぐことはできないのだ。
しかしその弱点も、火の魔法しか使えないルッカからすれば突きようが無かった。
ルッカが魔王のように複数の属性魔法を扱えさえできれば、せめて火属性以外の力を持つ仲間と共に挑んで居れば。
話はまた違ったかもしれない。
詮無きことだ。
誰も巻き込まないようにと止めようとした青年の手を振り切り一人で魔王と戦うことを選んだのはルッカなのだから。
もっとも、
「そうだね、仕切りなおしだ。ここからは君対僕とルッカの一対二になるんだから」
振り切られた青年がそのまま言われたとおり引き下がったのかは別の話だが。
え、と少女が声の主を確認するよりも早く薄暗い夜色の障壁を漆黒の刃が穿つ。
刃はすんなりとバリアを通り抜け魔王に到達。
迎撃せんと振るわれた虹に叩き落されるよりも炸裂し黒き衝撃波となりて魔王の血肉を抉る。
「魔女の連れの小僧か……。どうだ、その後の調子は?」
「最悪だよ。君に心置きなく黒き刃の紋章を味わってもらうにはちょうどいいくらいにね」
「ジョウ、イ? あなた、どうして」
どうして、か。
魔王はここで倒しておくべき相手だから。
ビッキーを待とうにも一箇所に留まり続けていては情報収集にならないから。
損得勘定に基づいた理由がいくつも思い浮かんでは消える。
そのどれもが少なからずジョウイに魔王との再戦を選ばせる要因となったのは事実。
けれど最大の理由はもっと別の、一国の王としては失格な個人的感情によるものではなかったか?
自分とジョウイを庇い死んだナナミの姿が。自分を逃がすために死力を使い果たしたリルカの姿が。
ルッカに重るビジョンが浮かんでしまったからこそ、迷いの果てに追わずにはいられなかったのではなかったか。
『甘いよ!!!!!!少年!!!!!!!!!』
初めてすすんで手にかけた人の言葉がジョウイの脳裏をかすめる。
その通りだ。
いざという時に甘さを捨てきれず詰めを誤ってきた。
ただ、それでも。
その甘さを含めた全ての選んできた道に後悔だけはしてこなかった!
「いくよ、ルッカ。魔王を、ここで倒す!!」
「そうねよ、私にはフィガロの二人を探して首輪を外すって大仕事も残っているもの!」
命を削ることへの躊躇いを捨てたジョウイの手の甲で黒き刃の紋章が歓喜を上げる。
いかな属性にも染まらず赤と黒のみで形作られた刃は易々と魔王の障壁を引き裂いていく。
意気を取り戻したルッカも超過駆動により壊れたHUMANISMキャノンを魔王へと投げつける。
魔王もやられるがままではない。
掌から爆発的な濃紺の閃光を迸らせ、
「魔王ーッ!!」
「……どうやらつくづく今日は縁のある人間に出会う日らしい」
それをそのままルッカとジョウイの数十メートル後方、声を荒げ走り来る二人目の乱入者へと撃ち込む。
「カエル!?」
魔王への警戒を怠らないままルッカの声に振り返ってみれば後数メートルのところにそのものずばり剣を構えた蛙の姿が。
様々な亜人種が暮らす世界出身のジョウイは異様な容姿をすんなり受け入れる。
彼が注目したのはもっと別の部分。
魔王の名を呼ぶ声に込められた怒りを伴った殺気。
姿を見るや否や狙いを変えてまで魔王が攻撃したことも大きい。
二人の間に何らかの因縁があるのは誰の目にも明かだ。
加えて、事前にルッカから仲間の名前としてカエルのことを聞いていたのだ。
故にカエルの登場を魔王と戦う上で味方が増えたと喜んでしまった。
――甘いと、裏切り殺した人の言葉を思い出したばかりだというのに
「……っ!? ジョウイ、危なっ!」
ジョウイはデジャビュを感じた。
一人の少女が降り注ぐは数多の死の雨からジョウイを庇わんと覆いかぶさり代わりに全弾被弾する。
押し倒され地に伏せたジョウイに新たな影が落ちる。
咄嗟に上に載ったままの少女を抱きしめ、地を転がる。
直後、ジョウイが元居た位置に銃剣が突き刺し降り立つは異形の剣士。
「貴様、何のつもりだ……?」
「……俺と手を組め、魔王」
仲間だったはずの少女を撃ち貫いたカエルはそれが答えだと怨敵の疑問に提案で返す。
カエルのことをよく知る魔王にはにわかに信じがたいことであったが、続く言葉に納得がいった。
「俺は最後の一人になる。エイラを蘇らせ友と生きた時代を護る!」
ほんのかすかな過去の変化で未来が大きく変わることを、ルッカやカエルほどではないが魔王も多く見てきた。
他ならぬ魔王の差し向けた部下により先祖が殺されかけたせいで存在そのものが消えそうになったとおてんばな王女から文句を言われたこともある。
エイラの死によるガルディアの消失。
カエルの心を揺さぶった最悪の未来とそのことへの葛藤を魔王が想像するのは難しくなかった。
「……悪く無い話だ」
疑念さえ晴れてしまえばカエルの提案は魅力的なものだった。
遺跡で考えていた有用な仲間、その条件を見事にカエルは満たしている。
それにカエルの性格からして自分との決着は真っ向からつけに来る。
騙まし討ちをされないというのは精神的にありがたい。
組みたがっているのも、単なる戦力増強や余計な消耗の回避だけではなく、他の誰かに魔王を討たせない為だろう。
もっとも、目の前でルッカを奇襲したことで、その面の信頼はいささか下がりはしたが。
「よかろう。私達が最後の二人になるまで組む。それでいいな?」
「ああ。決着は他の参加者を殺した後、だ!」
カエルは一先ずの交渉の成立に喜ぶ顔もせずバレットチャージで弾丸を補充。
起き上がりルッカが息をしていることに安堵したジョウイへと銃弾を撃ち込む。
転がって避けた先を目で追い、魔導の力を引き出しながら魔王に叫ぶ。
「手伝えっ!!」
「連携か。あの程度の魔法を放つのに私の手を煩わせるなと言いたいところだが、仕方が無い」
三度、ジョウイの直上に影が落ちる。
銃弾によるものでも、人によるものでもなく、影を生み出したのは大量の水。
滝の如く怒涛の勢いで流れ落ちる水は、半ばから凍りだし、巨大な三つの氷柱と化してジョウイ達へと降り注ぐ。
アイスガよりも大きく、鋭く、重い氷の塊の群れだ。
つらぬく者の名を冠したジョウイの迎撃の魔法さえも逆に貫く。
「くっ……う……ううっ、こんな時に、また力が……」
更に絶望は重なるもの。
不完全な紋章の連続使用の反動が来たのだ。
脱力感に襲われたのは一瞬で、ルッカも落とさずに済んだが、元よりオディオに呼び出される前の時点で限界間近だった身体だ。
目前へと迫った氷の天蓋に抗うすべはもう残されていなかった。
「すまない……」
ジョウイに許されたのはたった一言の謝罪だけだった。
守ってくれた少女への、守れなかった少女への、そして、再会を約束した友への。
ジョウイの姿が消える。
連なる氷の塊に押しつぶされて。
それで、全てが。終わ――らなかった。
「へっへっへっへ、やっと追いついたな」
ジョウイ達を下敷きにしたはずの一本がぐぐぐっと持ち上げられる。
寸前のところで氷河の刃は受け止められていたのだ、ジョウイのものよりもずっと強く、逞しい二本の腕に。
タイタンの紋章があって初めて可能な力技を披露したのはジョウイ、カエルに続く3人目の乱入者。
「正義の味方、ただいま参上ってな!」
いつかのキャロの街でのように天狐星がそこに輝いていた。
「ビクトールさん!?」
「おうよ!」
そういえばこいつに名前を呼ばれるのは久しぶりな気がするな。
なんてとりとめもないことをビクトールは考えながら熱を奪って仕方が無い氷塊を横に放り投げる。
素手で触っていたらしもやけどころじゃ済まなかったはずだ。
超低音に晒され、凍り、砕けて用を足さなくなった手袋に心底感謝する。
とはいえ、これからすることを思うと、手袋以外も新調する羽目になりそうで頭が痛い。
なにせルカ・ブライトを思わせる程の炎を平然と防ぐ男達を相手するのだから。
「ジョウイ、ここはおれが食い止める。お前達は逃げろ」
それも、一人で。
「そんな、魔王一人でも厄介な相手なのに、それを一人でなんて無茶だ!」
「ああ、分かってる。こいつらただの人間じゃねぇ。
いや、外見からして人間離れしているが、とにかく強さがここまで届いてくるぜ。」
「だったらぼくとビクトールさんの二人で!!」
「ジョウイ、お前はよ。その嬢ちゃんを守ろうとしたんじゃなかったのか?」
ルッカさえ見捨てれば魔王とカエルの連携魔法をぎりぎりかわせた。
巻き込むことを厭わず黒き刃の紋章の最強の力を使えば一人逃げおおせるくらいはできたはずだ。
ビクトールが対応を決めかねているうちに走り出した時もそうだ。
ジョウイはビクトールが追いつくことを許さないほど、必死に全速力だった。
そこまでして救おうとした少女が死に瀕している。
にもかかわらず戦いにかまけて治療を怠ったら本末転倒だ。
ビクトールの言っていることは正しい。
正しいとおもって尚、ジョウイはもう一度誰かを置いて魔王から逃げたく無かった。
そのことを見透かしたかのようにビクトールは言葉を締める。
「それにおれはどうも女性を守りきるのは苦手みたいなんでな。……任せる」
ジョウイは黙って従うしかなかった。
ビクトールが守れなかった女性、そのうちの一人を殺したのは他ならぬジョウイだ。
その仇とも言える男に、ビクトールは言ったのだ。
任せると。
「おれは都市同盟が誇る優秀な軍師様公認のおせっかい焼きなんでな」
デイパックから奇妙な石を取り出し投げ渡す。
死に掛けの奴にでも持たせてやれといったことが書かれていた説明書が付いていたんだ、ほら見てみろ。
言って渡した裏返しの説明書には座礁船の文字。
ティナを守れなかった上に、ジョウイのことでも面倒をかけると松に心の中で謝る。
――悪いな、松。約束、少しばかり遅れそうだ
【ビクトール@幻想水滸伝U 死亡】
【残り34人】
「ハッ、ハッ、ハッ……!」
紋章の力を使ったからか普段よりも重い足に力を込めジョウイは森を走る。
逃げ延びるために、救うためにひたすら逃げる。
魔王達に行き先を悟られぬようあえて座礁船や北の城とは反対の方向である南の方向へと。
そうこうするうちに随分と南下したことに気付く。
どうやら追ってくる気配がないことに一先ず安堵。
だがどうする?
黒き刃の紋章は攻撃一辺倒の能力だ。
頭に宿しているバランスの紋章も、
ビクトールに渡された石はどうか?
駄目だ、見た限り目立った回復効果は見られない。
額に流れる汗を拭うことも惜しみ、ただただ思考の海に没頭するも打開策は浮かんでこない。
せめて出血だけでも止めようとズボンを切り裂き包帯代わりにしようとした矢先、足音がした。
「お、おい、あんた!」
息も絶え絶えに飛び込んできたのは必死にカエルに追いつこうとしていたストレイボウだ。
目に入った光景に体力があるとは言えない身体に鞭を打ったことで鳴りっぱなしだった心臓の鼓動が一気に冷える。
銃弾に傷ついた少女と、それを守るように睨み付けてくる青年。
数時間前に見たばかりの状況に嫌な予感が絶えなかった。
「なおり草か何かは!? 回復魔法は使えないのか!」
誰がやったと聞きたい心を必死に抑える。
変わろうと決めた、誰かを救おうと思った。
だったら、今は少女の命を助けることだけを考えろ。
そのストレイボウの意思もむなしく、静かにジョウイは首を横に振る。
同時に僅かばかりの落胆も見て取れた。
ストレイボウの問いは彼自身も回復手段を持っていないと言っているも同様だったからだ。
そのジョウイの様子にストレイボウは己を責めた。
嫉妬に駆られ、オルステッドに勝つことだけを考え、回復魔法に目もくれず、攻撃魔法ばかり習得していったツケがこんな所にも現れるとは!
鍛え抜かれた身体からして戦士であろうジョウイとは違い、自分は魔法使いなのに。
くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!
心の中で悪態を吐きつつも、ジョウイに習い纏っているローブでルッカの止血にかかる。
その時文字通り光明が射した。
眩くも暖かい碧色の光が。
何故か胸が熱くなる優しい光に包まれて、ルッカはまどろむ。
ああ、これは、この暖かさは、欠けていた何かが、居なくなってしまった誰かが戻ってきた時のものだと。
でも、あの時、死の山で感じたクロノのあったかさには、ちょっと及ばないか。
きっと、私に向けられたものじゃないからだわ。
ねえ、クロノ。
消えそうな意識の中、カエルの戦う理由が聞こえてきた時、ああ、ついにきちゃったんだと思ったわ。
未来を変え、本来は生まれてくるはずだった命を奪った私達への裁きが。
皮肉よね。
その歴史の改変を防ごうとする誰かが、あのカエルだなんて。
散々今まで歴史を思い通りにしてきたルッカにカエルを非難することはできなかった。
仲間の進む修羅の道を黙っておとなしく受け入れることもよしとしなかった。
今一度少女は強く誓う。
私は止めるわ。
あなたもジャキもオディオも。
私にだって守りたい人が、引き寄せたい未来があるもの。
置いてきちゃったマールのとこまでクロノを連れ帰って、ロボがまた産まれてこれるよう研究に勤しむんだから……。
理屈抜きで全てを許す光の色に、大切な友達からもらった宝石の色を重ねて。
ルッカはいつの間にか手に持っていた石を強く握り締めた。
「身体が、癒されていく?」
なんだ、これは?
いくつもの疑問がジョウイの頭の中を埋め尽くす。
左手に光るものの正体が分からない……のではない。
何故それが自分の左手の甲で輝いているのかが理解できなかったのだ。
輝く盾の紋章。
黒き刃と対を成す友の右手に宿っていたはずの世界の始まりの力の片割れ。
彼ら二人の命を削り、されどぎりぎりの所で生きながらえさせていたのもまた紋章の力。
互いに争いその果てに一つに戻すことで始まりの紋章を得たものが残り、失ったものが死ぬ。
そうではなかったのか?
それが、どうして、どうして!?
始まりの紋章としてではないとはいえ、ぼくの手に宿っている!?
ジョウイには納得できなかった。
理由なんて一つしかないのに認めたくはなかった。
「まだぼく達は約束を果たしていないのに!!」
天を仰ぎ絶叫する。
喜ぶべきことなのは分かっている。
今のジョウイは約束の場所でリオウに殺されるのを待っていた時とは違う。
オディオの力に新たな希望を見出し、再び刃を血に染め、罪を背負うことを決め立ち上がった。
相手が友でも手掛ける覚悟は決めていた……はずだった。
「ああああああああああああああああ!!」
止まることを知らない激情の渦に流されていたジョウイの肩をストレイボウが強く掴む。
「泣いている場合じゃないだろ!? 今の碧の光を使えばこの娘は助かるんじゃないのか!」
事情を知らないストレイボウにはジョウイを気遣う余地は無かった。
ジョウイもまた裏切り者で、でも、空間を越えて輝く盾の紋章が宿るという奇跡は消えることのなかった二人の友情が起こしたものとも知らずに。
変わろうとしている男は、変わろうとする焦りに囚われ、優しい言葉をかけるよりも誰かを救うという自分の願いを通そうとしてしまった。
もう叶うことのない願いを。
「そ、んな、死んで、る?」
早く、早くと急かし、少女の方へとジョウイの左腕を伸ばさせた時。
少女は、ルッカ・アシュディアは。
記憶石を握りしめたまま静かに息を引き取っていた。
【ルッカ@クロノ・トリガー 死亡】
【残り35人】
【G-8 森林 一日目 昼】
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(中)、呆然
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
0:そんな……
1:カエルの説得
2:戦力を増強しつつ、北の城へ。
3:勇者バッジとブライオンが“重い”
4:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]:輝く盾の紋章が宿ったことで傷と疲労は完治、激情
[装備]:キラーピアス@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
[道具]:回転のこぎり@ファイナルファンタジーVI、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:???
2:座礁船に行く?
3:利用できそうな仲間を集める。
4:仲間になってもらえずとも、あるいは、利用できそうにない相手からでも、情報は得たい。
[備考]:
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているときです。
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません
※G-8 森林に記憶石@アークザラッドUを握ったルッカの死体と、
基本支給品、究極のばくだん×2@アークザラッドU入りのデイパックがあります。
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。
目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます。
「……終わったか。言うだけのことはある渋とさだったな」
男は言葉通り心の臓を貫かれても止まらなかった。
ルッカを衰弱死させたヘルガイザーに体力を奪われ、ライジングノヴァに急所を撃ち抜かれて尚、突き進んだ。
振り下ろされた鈍器による打撃のなんと重かったことか。
得物が剣であったなら魔王かカエル、どちらかは断ち切られていたかもしれない。
現に強者二人をしてさえ空気が歪み赤いオーラを纏っているように幻視してしまったビクトールの最後の一撃は。
受け止めようと構えたバイアネットをひしゃげ折るに止まらず、そのままカエルの左肩を強打した。
後数秒わざと体勢を崩すのが間に合わなければ、今頃頭蓋をかち割られていたことだろう。
弾力と湿り気に富む蛙の身体、加えてマントが打点をずらしたことが功を奏し脱臼するだけで済んだのは幸いだった。
急いで応急処置をしなければならないことにかわりは無いが。
けれども異形の騎士は握ったままの銃剣の残骸を見つめたまま微動だにしない。
「……」
「その剣はもう使い物にならぬな。使え」
魔王とてカエルが黙ったままの理由が武器の喪失を嘆いてのことでないことは重々承知している。
だからといって優しい言葉をかけてやる関係でもない。
一向に差し出した刀を受け取ろうとしないカエルに何も言わず、魔王は男の死体が握ったままの鈍器へと目を向ける。
見たことも無い道具だったが、魔王はその才覚から一目で銀色に輝く鍵が何らかの魔導具であることを見抜く。
ちょうどいい。
回収済みの魔剣は沈黙を保ったままだ。こちらの方を使うとしよう。
「……ファイガ」
命を失った身体は抵抗することなく炎の海に消えていく。
あれだけ何度も立ち上がり、熊の如くカエルと魔王の二人を薙ぎ払った姿が嘘のようだ。
図らずも火葬になってしまったが魔王にとってはどうでもよかった。
カエルの傍に刀を突き立てると、目論見どおり燃え尽きずに残った魔鍵を持ち上げる。
その時になってようやくカエルが動いた。
「墓のつもりか?」
「……少なくとも俺には死者を愚弄するような一文を墓石に刻む趣味は無い」
骨も残さず焼失した男の遺体跡に壊れた銃剣類を墓石代わりに置きながら、支給されたのが銃を兼ねた剣でよかったとカエルは思う。
剣では動きが鈍っていたかもしれない。
引き裂く肉の感触に耐え切れず断ち切りきれなかったかもしれない。
銃だから。
引き金を引けば最後弾が止まることのない銃だからこそ、俺はルッカを殺せた。
ああ、そうか。
それでか。
俺が知る飛び道具の担い手はルッカもマールも優しかったのか。
引き金の重さを理解できない人間が握っていい武器ではないのだ、銃も、弓も。
「……感傷だな」
カエルは虹の柄へと手を伸ばし、自嘲する。
銃や弓に限った話ではない。
いかな武器も本当は自分のような人間が握ってはいけないのだ。
「だから、許せとは言わない。恨め、クロノ。俺は、お前が未来を切り開いた刀で過去の為に人を殺すっ!」
地面に刺さったままの刀を引き抜く一瞬。
虹色の刀身に写った顔は酷く歪んで見えた。
――涙よ凍れ。今だけは流れるな。
【F-8 荒野 一日目 昼】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
2:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。
※F-8の森林の部分は主にルッカと魔王の戦いが原因で荒野になりました
※壊れてF-8荒野に破棄されたもの一覧
オートボウガン@ファイナルファンタジーVI、17ダイオード(+予備動力)@LIVE A LIVE、
バイアネット@ワイルドアームズ2、使用済みバレットチャージ@ワイルドアームズ2
267 :約束はみどりのゆめの彼方に ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:46:40 ID:Usp.5Yx60
投下終了
________________
以上、代理投下終了
代理投下ありがとうございます
投下乙! ルッカアアアアアアアアアア!!!
知的なのに妙に熱血で、このロワで一番好きな女性キャラだった。それだけに、最期にここまで活躍してくれて嬉しい限り。
だがこれで銃使いは全滅。技術者も最早絶滅危惧種で、どうなる対主催?!
戦局のひっくり返し方が半端ない。魔王のバリアチェンジとか、カエルの奇襲とか。最後まで結末も死者も読めなかった。
そして熊さんも頑張った。あの2人を追い詰めるなんて相当だよ。
こちらの戦闘は一気に結果が伝えられたから、あまりの壮絶さに思わず鳥肌が立った。凄い!
後に残された人たちも上手いこと揺らがされて、これからどうなるか楽しみ。
しかしジョウイとキレイボウはかなりの強者のはずなのに、組んだところで誰にも勝てそうにないw
死んだキャラは格好良く、生き残ったキャラはひたすら悲しく、とても読み応えがあったよ、GJ!!!!
すみません、◆iDqvc5TpTIです。
仮投下時の話を読まれた方は気付いたと思われますが、一部、抜けている部分がありました。
>>125〜
>>131の間。
ここには本来ビクトールがジョウイを庇い逃がした様子が入ります。
ルッカの死因のヘルガイザーがかすった描写もある重要な部分です。
以下に投下しておきますが、WIKI収録時にはきちんと抜けていないものを収録させていただきます。
脱文、失礼しました。
デイパックから奇妙な石を取り出し投げ渡す。
死に掛けの奴にでも持たせてやれといったことが書かれていた説明書が付いていたんだ、ほら見てみろ。
言って渡した裏返しの説明書には座礁船の文字。
ティナを守れなかった上に、ジョウイのことでも面倒をかけると松に心の中で謝る。
「ビクトールさんもどうかご無事で!」
「なーに、大丈夫だ、心配するな。すぐに後を追う。行け!!! 死ぬなよ」
「逃がすか……。刻め、死の時計を!」
「やらせるかってんだ!」
髑髏の渦が飛来するも諸手を広げ立ちふさがったビクトールに大半が遮られ、かするに終わったジョウイはそのまま足を止めず走り去る。
南に向かったのが心配だったが、賢いジョウイのことだ、考えあってのことだろう。
これでいい。
後は足止めに励むまで。
「よう……、てめぇらの相手はおれだぜ?」
「大した魔力も持たぬ人間がよもやたった一人で我らの相手をすると?」
「そうだ、覚悟しやがれ!」
魔王が指摘したとおり、状況は二対一。
前衛に剣士、後衛に魔法使い。
定番だが敵の陣形は強力なものだった。
加えて剣士はビクトールがジョウイを説き伏せている間に、回復魔法を使っていた。
タッグとしては理想的と言えるだろう。
二人が組んだ理由も分かる。
だというのにビクトールは笑ったままだった。
二対一ならともかく、同じ二対二なら腐れ縁と組み、うるさい剣を握った自分が負ける姿が想像できなかったからだ。
「覚悟などとうにできている! 俺はお前達を殺し俺の願いを叶える!」
「あいにくと生き残る気満々さ。けどよ」
跳躍で得た落下速度を味方につけてのカエルの斬撃を見切り、カウンターの一撃を加える。
カエルは吹き飛ばされるも脚力を活かして無事着地。
その面に向かってビクトールは吐き捨てる。
「命さえ助かれば、願い事を叶えられれば、なんでも良いってもんじゃないのさ、少なくともおれはね」
「そうか。お前は俺よりよほど勇者に相応しい強い意志を持っているんだな」
「勇者? 違うね。俺はただの傭兵さ。人呼んで風来坊ビクトール! 耳ん中かっぽじってよおおっく覚えておきな!!」
カエルが頷き、魔王が興味なさげに鼻で笑う。
それを合図とするように、今度はビクトールが地を蹴りカエルへと大きく踏み出した。
「いくぜ! この心臓が破裂するまで、俺は戦いをやめんぞ!!」
以上です。
本スレで初めて読まれた方は、色々違和感を感じられたと思います。
申し訳ありませんでした。
ルッカ死亡か
どう転ぶか分からないところが良かった
そして魔王の絶望感もうまくかけてたと思う
対主催ピンチだな、これは優勝エンドもありうるか
あと機械いけそうなのは誰が残ってるかな
飛空挺の整備とかしてたんじゃね?なセッツァー
機械だらけの国出身、あやつりの輪とか開発してたケフカ
機属性が使えたら…なアティ先生、ぐらいしか浮かばない
WA2・ライブアライブはどうなんだ?
アシュレーはいけそうな気がするんだけど、やったことないから分からない
アシュレーよりマリアベルが適任だな。ノーブルレッドの科学力は世界一だぜ。更にトカ博士だっているじゃないか!
>>152 機属性の術が使える≒機械知識がある
だからアティ先生はない。
ケフカとセッツァーもマーダーだから望み薄い。
となると頼みの綱はマリアベルとトカぐらいなもんだな。
それにしても、折角ロレイラルの技術取得したのにルッカが死んだのは惜しい。
でもかっこよかったよ。
まあ首輪のロックを機械系から呪術系に変えることもできるけど。
いや、おまえら、首輪解除が手詰まりにならないための記憶石なんだないのか?
マリアベルの生存ロックしないようにも含めて
仮投下してきました。
色々やりたかったけれど段々不安になってきた。
指摘や意見あったらお願いします。
投下乙です
自分も仮投下スレの意見と同じですね
感想は本投下の際にさせていただきます
仮投下してきました。
大丈夫かどうか判断をお願いします。
◆iDqvc5TpTI氏
投下乙です。
有難うございます巧く繋げてくれて。
だんだん、無茶ぶり過ぎたか?とか思い始めていたので。
私はビクトールが幻水1の台詞を言ったのにはしびれました。
ルッカもよく頑張ったよ……。
少し誤字の指摘を
>>119 自分とジョウイを庇い死んだナナミの姿が
→自分とリオウを庇い死んだナナミの姿が
>>140 ルッカ・アシュディア→ルッカ・アシュティア
◆jU59Fli6bM氏
仮投下乙です。
全然問題ないと思います。
自分の作品と一緒に見てみると何かすごいことになってしまったけど。
>>154 あれ?エルクとブラッドは?
理論云々はともかく……
機械を分解とかモノをいじれる力を持ってるはずなんだけど。
まあ、ゴーレムマイスターであるマリアベル様やIQ1300スペース頭脳のトカ博士には劣るだろうけどね!
◆E8Sf5PBLn6氏、仮投下乙です
特に問題はないかと
ただ、細かい点ですがエルクの炎は威力自体は魔法専門キャラ(魔力がエルク同様低いリーザ、シャンテ等は除く)より弱いので、
ジャファルの炎への評価は威力よりも範囲に向けたほうが面白いかと。
烈火の剣世界には範囲攻撃は無かったはずですし
>>160 意見有難うございます。
確かに範囲に向けるのは面白いですが……
うーん駄目ですかね?
前も言ったと思いますが自分はシステムには囚われすぎない方向でいきたいんですよ。
(うっとうしいと思われたらすいません)
そんなこといったらマリアベル様は魔力が高くないとされるリルカよりSOR低いですし。
それにアークザラッド2の能力成長は適当としか思えないので(0.2 0.4 0.6の三択)
私はリーザ、シャンテクラスを魔力高いと見て、ポコ、ゴーゲンの魔力を超高いと解釈しているのですが……
リーザとシャンテが魔力低かったらお前ら何なの?って感じになるし。
二人のキュアは使えば一発全快してましたし。
それにエルクは白い家に連れていかれる直前ロマリア兵を一瞬で薙ぎ払ってましたし。(怒りと炎の精霊が近くにいた補正はあったけど)
世界中から白い家に集められた優れた子供達の中で最強の力を持つミリルと同格とガルアーノは評してましたし。
それにアーク世界でチートとされる精霊魔法ですしね。
(前の没話はやりすぎでしたけど)
意見求む。
遠まわしの忠告のつもりだったのですが。
仕方がありませんので直接的な言葉で言いましょう。
正直十分まだまだやりすぎです。
言いたいことに気づいてくれるかとおもっていたのですが、残念です。
所謂最強もののSSにしか見えません。
エルク>>超えさせたくない壁>>ジャファル臭がぷんぷんします。
なんとか取り繕って互角にしているようにしか見えません。
道具無しで扱える分アトス達よりも早いのは分かりますが、正直、彼らFE全体が貶められているように思えて腹立たしいです。
私情込みで失礼しました。
意見を求められているとのことなので議論スレに移ったほうがいいかもですね。
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11746/
ju氏の投下もありますからね。
原作終了後のエドガーさんのサンダガくらっても身体が一瞬痺れるくらいですむエルクってすげー強いんだな……
エルクが原作終了後から参戦だったらどうなってたことやら
ってかシステムに囚われないと言いながら意見への返しはシステムたよりなんだな……
>>166 横から口挟んですまんが、その指摘はロジックを誤っている。
書き手氏の対応も良くはないが、野次を飛ばすならせめて双方の意見を読み込んでほしい。
>>161 それをいうならFFYの魔法も伝説になってるチート技術ですよ
みんなこっちで言うなー
呆れてものが言えないからだろけど
最近になってアークUのキャラ紹介のセリフがおかしいことに気付いたww
ロリコンとかムチムチプリンとか絶対狙ってやってるだろwww
しかしマダンテの説明がよく分からんと思ったら4のネタではなかったんだ
ときのたまごもクロスのねただよな、そういえば
トリガー知らない人にはちんぷんかんぷんだったろうけど続く話で魔王の制限と絡めて説明されてたしいっか
意見に先入観はいってるというが、むしろ言い訳聞いてある程度受け入れてからでないと作者の言う内容には読み取れない
それでも納得いかん部分もあるが
先入観つうが、あの人の作品読むと誰でも文句言いたくなるよ
意図せずしたならそれはそれで怖い
返答遅れてすみません。意見ありがとうございました。
他に指摘も無いようなので投下しようと思います。
したらば管理人氏の正体、あの人だったのか
今まで完全に謎だったからちょっと不安だったわ
神殿を出発して、まず気になったのは目の前に広がる森の様子だった。
俺は無音の空間から、木が茂る山を眺めていた。
「……結構、でかかった気がしたんだけどな」
大きくうねりながら木々を飲み込んでいた炎。
それは既に姿を消し、代わりに焦げた木の黒が手前の緑の間から覗いている。
あれだけ燃え盛っていた炎は、いつの間にやら完全に鎮火していた。
さっきの男みたいなやべぇのがまだいるってことだろうか。それとも数人がかりで消したってだけだろうか。
どっちにしろ、このゲームに乗っているのかは分からないけど。
そういや、あの時使った拡声器の声は誰か聞いただろうか。
神殿には誰もいなかったから、無駄だったかもしれねぇなあ……。
いや、そんなのは大した問題じゃない。会えば分かる話だ。
俺は仲間を探してる。
森の中に人がいる、それだけで動く理由は十分なはずだ。
本当に問題なのは。
人のいる所まで辿り着けないことだ。
■
あんた……今、幸せか?
俺はもう、
疲れた。
(笑えねえ……)
心の底からそう思った。
心の底から全力で同意した。
いや、ないだろ。これはない。
木に寄りかかりながらぼそりと呟く。何度も否定はしてみた。悪態だってつきまくった。
だが駄目な物は駄目なようで。
水を含んでさらに足場の悪くなった森は、こちらを嘲笑うかのように依然として前に立ちふさがる。
今までその中を気力で進んできたんだ。だけれども。
足が疲れただけならまだいい。頭痛が痛い。間違った、頭痛は痛い。ん?
人がせっかく前に進もうとしてるのに足が言うこと聞かない。空気が重量を持ったかのように一息一息が苦しい。
そして、疲れが貯まる一方で進展は全く無い。
そんな悪循環ががりがりと気力を削いでいった。
立ち止まって振り返ってみる。まだ木々の向こうの神殿がうっすらと見える。って事は。
今まで、全然森の奥に入れないでこうしていたんだ。
人に会うどころじゃない。これじゃあ最悪、森から抜け出せなくて迷子だ。
……俺こんなに体力無かったっけ。
大体、迂闊にテレポートできないとか心読めないとか、この能力終わってるだろ。オディオの奴俺に恨みでもあるのか。
なんて、言っててもしょうがねえけど。
「道ぐらい、作ってくれてもいいじゃねえかよ……」
自然とため息が出る。
まあとにかく、人も見当たらない、移動もままならないで俺は途方に暮れていた。
そういえば、腹減ったし水も飲んでなかった。通りでふらふらするはずだ。
立ち止まりたくはなかったけれども、これは少し休んだほうがいいのかもしれない。
「……ったく」
……何だか、気持ちばかり急いでたのかもな。
悪態をつきながら、俺はゆっくりと木にもたれかかった。
■
「はぁ、はぁ、はぁ……」
どのくらい走っていただろうか。
あとどのくらいでこの森を抜けられるのだろうか。
私は神殿を目指して走っていた。
背の上のミネアの状態は変わらず深刻だった。それどころか体がだんだん冷たくなっていくように感じる。
不快な汗が、頬を這うように流れていった。
早く、早く薬か術士を見つけないと、手遅れになるかもしれない。
そう思うとたまらなくなった。
「誰か!」
込み上げる不安を吐き出すように、私は叫ぶ。
「誰かいませんか! 怪我人がいるの!!」
私の声は誰に届くこともなく、鬱蒼とした木々に虚しく吸い込まれるばかり。どれだけ叫んだところでそれは同じだった。
誰も現れない。誰も見つけられない。
術士や善人どころか、殺しに乗っている人さえも現れない現実。
当たり前か、こんなに広い会場なんだ。そう簡単に人に会えるはずがない。
そう、そんなことは分かってるのよ。でも、これじゃ――。
不安が重圧となって私を襲う。それがミネアの上から覆い被さっているような気がして、私は押し潰されそうになる。
ミネアを背負う手がちくちくと痺れる。汗ばんだ手の感覚が薄れてきた。
背負い直さないと。そう思って私は荒れた息で立ち止まる。
と、その時。
向こうの木の根元に、見慣れない色を見た気がした。……いや、確かに見えた。
私は半ば信じられないといった気持ちで近づく。
人だ。本当に人だ。変な格好だ。
今まであんなに探し求めてきたのに、いざ会うとこんな気持ちになるのもおかしな話だと思った。
「あなた、ちょっといい……」
声をかけ、思わず口をぽかんと開ける。
その男は眠っていた。殺し合いの場にもかかわらず、私があんなに必死になって叫んでいたにもかかわらず。
私は少しだけ苛立ちを覚えた。
「ちょっと!」
「あー……?」
「急いでるのよ! 起きてよ!」
「んー……。なんでー、ちゃんと人がいるじゃねーか」
私に気付くと、その男は嬉々として話を続けた。
「休んでみるもんだな。さっきまで寝てたらこれだもんよ」
「そんなことより! ……あなた、この殺し合いには乗ってる?」
「それを聞くか? ま、こんなナリじゃな……」
そう言うと彼は身に着けた武器を外し、デイパックと共に投げてよこした。
殺気は……感じない。まあ、道端で寝てるような人だし。殺し合いに乗っていないなら、こんなに嬉しいことはない。
……ただ、どう見ても回復術の使い手には見えないのが残念だ。
ミネアを地面に横たわらせて、私は投げられたデイパックに手をかける。
「俺のことはアキラでいーぜ」
「良かった。ねえ、薬か何か持ってない? 仲間を助けて欲しいの」
「薬は、ねーけど……」
ミネアの火傷の様子を見ながらアキラが答える。
確かに、それらしいものはない。中にあるのは、食料に水、変な機械、紙の束……。
そんな、とやっぱり、が同時に私の心に起きる。信じたくなくて、私はそれらを凝視し続けていた。
「その、ようね……」
「あー、ちょっとごめんよ」
私を見たアキラが苦笑いしたかと思うと、いきなり私の腕に触れた。
何事かと私は身じろぐ。そして何をしたかはすぐに分かった。
走っているうちに木の枝につけられた傷が、みるみるうちに消えていく。
私は呆然として腕をさすった。
「んー、まあ、事情は大体分かった。俺にやらせてくれねえか」
「……あなた、魔法使えるの?」
「いや、それとは少し違うけど……。そうだ、一つ頼んでいいか?」
「え?」
アキラが足元のデイパックから取り出し、渡してきたのはなにやら見慣れない機械だった。
ボタンを押せば声が大きくなる拡声器というものらしい。俺が治療する間、これを持って人探しをしてくれとのことだが。
それより、持ってけとは。私はここにいるつもりだったのだけれど。
「危ない奴がいたらこれを使って知らせてくれないか」
「……危ない奴?」
「まだ2人がいるかもしれないんだろ? あ、この先の神殿に行くなら気をつけろよ」
「神殿……! そこで何があったの?」
「いや、やべぇ男がいたんだ。戦闘になって、一人……死んだ。
もう神殿には誰もいねーけど、ここらへんにはまだそいつがいるかもしれないから」
「……そう、分かったわ」
神殿。そこに現れたという凄まじい力を持つ男。
断片的な、それでいて貴重な情報に私の心がわずかに揺れた。
私から皆殺しの剣を奪った男かもしれない。もっと聞けば、何か分かるかも知れない。
気にならないと言えば嘘になる。でも、今はミネアを優先しなければ。
正直ミネアの元を離れるのは、怖い。
そんな私の様子を楽しむように、目の前の男はにやりと笑う。
「俺が駄目だったら、その時はその時だが……。お前、俺を信用してねーだろ?」
「……信じていいのね?」
「ま、無理は言わないけどな。信じる気になったら、こいつを助けたいなら……、2,30分ほど後にまた会おーぜ」
一瞬、彼の言葉に刃のような鋭さを感じた。
それが何かはわからないけれど、彼の目は外見にそぐわず、真っ直ぐだった。
――どちらにしろ、今は彼に頼るしかない。
分かったわ、と呟き、私は踵を返した。
「あ、リンディス」
「……え?」
「そういや、こいつの名前は?」
「ミネア、よ」
「そうか」
ミネアの元を離れ、走りながら私は考える。
リンディス、と彼は確かに言った。
私はいつ本名を言ったのだろうか? そもそも、アキラに名乗っただろうか?
再びあの拭いきれない重圧が私を襲う。強くマーニ・カティを握り締める。
不安だった。何かが引っかかった。けれど、私は足を進めた。
神殿には誰もいないと言われた。
白い女の人やデスピサロも、あの様子では追い討ちを仕掛けてくるようには見えなかった。
この丸焦げの森に、まだ人がいるとも思えなかった。
ならばどうするか。そう考えて、私は真っ直ぐ西へ向かった。
先刻、2人と戦って荒れ地と化した――少女が倒れていたあの場所へ。
私たちが着く前に何があったかは分からない。
けれど、まだあどけなさが残るその少女の顔は、どこか寂しそうだった。
あの2人のどちらかと知り合いだったのだろうか。
そんなことを思いながら私は埋葬を進めた。
埋葬といっても、戦いで大きくえぐれた地面に彼女を寝かせ、葉や土で体を隠す程度のことしかできなかったけれども。
少女の傍らには、宝石のような石が落ちていた。
知り合いがいたなら、一緒に行動していた人がいるなら、形見になるかもしれない。
そう思って、私は宝石を拾い上げた。
「こんな弔い方でごめんなさい。どうか、安らかに……」
そして埋葬を終え、今私は走っている。
本当に、木ばかりだ。
右を見ても左を見ても、木が並んでいるだけ。
そんなの森だから当たり前なんだけれども、今の私にとっては邪魔でしかなかった。
この森に後押しされるように私の焦りはじわじわと高ぶっていく。
いっそ全部焼けてくれれば良かったのに。そんな気持ちにさえなってくる。
力任せに着けてきた木の印を頼りに、草を掻き分け、木の根を飛び越え、私は先ほど来た道を逆走していた。
神殿にも、行こうと思えばすぐに辿り着くことができた。
本当は寄りたい気持ちも強かったけれど、私にはあのまま少女の死体を野晒しにすることはできなかった。
神殿と反対方向なのが惜しいけど、今は仕方ない。
元々の目的だった皆殺しの剣については後回しにしていたから、神殿での経緯は詳しく聞かなかった。
私の気になっていた、アキラの言う危険人物は見受けられない。
人どころか鳥の一羽でさえ見当たらないし、当然なのかもしれないけど。
こればかりは、近くにいないことを祈るしかなさそうね。
私は支給された時計を見る。先ほどから経った時間が30分を越えている。
その時計は、時間が経てば経つほど私を不安にさせた。
アキラの言動が、遠回しに私をあの場から引き離そうとしているのには気づいていた。
そこには、私がいると駄目な理由が、隠したい理由があるはず。
私は、疑っている。
そんなことは分かってた。
アキラは、私に拡声器を持たせ、誰もいない森へと急かした。
彼は"運よく"現れて、"幸運なことに"回復術が使えた。
最初は自然と安心したはずだった。
嘘をついているような目ではないと、確かにそう思った。
けれども、今となっては曖昧な記憶に過ぎない。
もしも、私を遠ざけ、その間にミネアを殺すことが目的だったら。
――強い口調で私を行かせるはずだ。
もしも、私に持たせた拡声器が純粋に自滅を誘うための物だったら。
――私の居場所が割れるのはあっちにとっても有利なはずだ。
思考の渦の中で仮定と事実が交錯し、その奥から時折覗くのは過去の忌まわしい記憶。
他にも、彼には不可解な部分があった。
私達が戦ったのは二人だということ、私の名を知っていたこと。
信用するには、どうしても……。
そこまで考えて、私は頭を振る。そんなことは、そんなことは分かっている。
けれど、ミネアには時間がなかった。
アキラと会った時点で、ミネアの体温は微かに感じることしかできないほどに低下していた。
荒かった呼吸がだんだんと弱々しくなっていくのも、私は堪えられなかった。
彼を追い払ったところでミネアの運命は変わらないかもしれない。
そもそも、あの怪我を治せるか、再びミネアが目覚めることができるかどうかも分からないのだから。
結局私は、祈ることしかできなかった。
「ミネア……。どうか、生きてて……!」
その間にも、私は先ほどの場所に近づいている。
目印に付けた木の幹の傷が、力任せの雑な形に変わっていく。
まとわりついていた不安は徐々に危機感となって、きりきりと私の胸を締め付ける。
もしもミネアが死んだら。
そのifだけで、私の他の思考一切を止めるには十分だった。
そして、前方の木の間に見慣れたオレンジの布が横たわっているのが見えて――
――私は思わず、その場に立ち尽くした。
「…………え?」
■
『まあ、なんて綺麗なお花畑……』
『こんな場所もあるのね』
『そういえば私達、どこまで来たんだっけ?確か……』
『よっと!』
『あっ、もう!どこへ行くの?』
『ほらほら。早くしないと置いていっちゃうわよ』
『えっ、そんな!』
『あははは、捕まえてごらんなさぁい……』
『うふふふ、待ってよねえさぁん……』
や ば い。
今のミネアを表すのに、これより適任の言葉があるだろうか。
酷い状態なのは一目で分かりすぎるほど分かった。
首筋から肩を過ぎ、二の腕までを黒で覆うほどの火傷。そして、どう見ても一歩手前の心の中。
火傷は冷やせばいいんじゃねえの? とかそういうレベルじゃない。やばい。
俺はリンディスを半ば追い払うように遠ざけて、ミネアの傍に座った。
思わず目を背けたくなる大怪我に、思い切って水をかける。
消毒できればよかったのだが、酒は使い切ってしまったし仕方ない。
流れ落ちる水が焼ききれた肌を洗い流し、いつしか上腕は黒と白のまだらになっていた。
壊死した肌をぼろぼろと剥がしていくと、中から生気を失った土気色の肌が現れた。
それを見て俺は顔をしかめる。そして改めて思い知らされる。
この火傷は、普通なら医者に任せるしかないほどの大怪我なんだと。
体温は既に低く冷たくなってきていた。血の気の感じない寝顔は、死人と言っても差し支えがなさそうだ。
ミネアの上腕に近づけた俺の腕が止まる。
きっと、その肌に触れていいのか分からないんだと思った。
こんな森の中じゃ、どう見ても清潔とは言えない。なんとなく怖い。それもあるけれども。
正直、ヒールタッチではごまかす程度のこともできないだろうことを、自覚していた。
そもそも俺は医療に関してはさっぱりだ。正しい治療方法なんて知るはずがない。
回復を促進させることが本質のヒーリングで、全てどうにかなるものでもない。
ミネア自身の意識も無く、ただでさえ疲れて能力の効きが悪い今じゃ、こんな火傷は半分も治せないと。
そんなことは分かっていた。
「怪我の治療は無理、か」
だからこそ、笑ってみせる。
「それだけだと、思うなよ……」
リンディスは魔法かと聞いたが、魔法とは違う。超能力はイメージだ。
術の知識をもって、呪文を紡いで、そうなるように仕向けるのではない。直接相手に働きかける力だ。
例えば……、火傷を治療できなくても、ミネアの体に火傷を「忘れさせる」ことならできる。
下がった体温もフレイムイメージの要領で、思いっきり暖めてやればいい。
体が落ち着けば、なんとか奥にある意識を引っ張り出せれば、ヒーリングはそれからでも遅くない。
俺はミネアの額の上に手をかざす。
ミネアの脳に干渉して、無理やり俺の波長に合わせる。いわゆる「同調」を促す。
回復の促進とは違い、こっちは意識が無いほうが断然やり易い。
これが、今のショック状態を抑えるために、知識や力がなくても一番間違いの無い方法なはず。
その後は、医者でもないと……どうなるのか分からないけれど。
でも、何もしないなんてそれこそあり得ない。
俺はかざした手をそのまま額に触れて、ミネアの意識に呼びかけることにした。
炎や氷ではなく、声そのものをイメージにして送り込む。
こんなの普通は誰もが気持ち悪がるに決まってるから、使ったことなんて全く無いんだが。
「おい、お前……、ミネア!」
「聞こえるか? 聞こえたら、答えてくれ」
呼びかけても呼びかけても、なかなか俺の声は届かない。
意識は奥底に眠っているようで、先ほどのように読むのも精一杯だった。
心に直接呼びかけているんだから、少しくらい耳を貸してほしいものだが。
リンディスの心まで読まなきゃ良かったな。休んだから大丈夫だと思ったんだけどな。
「 」
何分経っただろうか。
額に針を刺されたような、鋭利な痛みが頭の中で響いた。
目の前の風景がかき混ぜられ、ゆっくりと1回転する。俺は慌てて片方の手で身体を支えた。
焼けつくような焦燥感が内臓を走り回る。俺は内心で舌打ちした。
ミネアの顔を見る。が、相変わらず生気が無い。
駄目だ。止まったら駄目だ。
俺がやると言ったんだから、こんな無理くらい――
『… …… …?』
……
……何だ?
今、
『姉さん?』
がくんと体が揺れた。
何かが聞こえた感覚と同時に。
顔にひやりと湿ったものが当たる。気付くと目の前にミネアの顔があった。それから俺は倒れたことに気付く。
息が苦しい。胃が大きな石でもつまってるかのように重い。
けれども、これは進展だと俺は確信する。
覚束ない意識に構わず、おもむろにミネアの手を握った。
組み上げるのは、痛みの消失、傷の完治、心の安定を促進させる、暖かいイメージ。癒しの思念。
今度は思念を強く強く送り込もうとして、意識を集中させる。
ミネアの身体はすぐに反応した。
同調した血液の流れが安定し、冷や汗は消え、手も徐々に暖かくなっていく。
俺はその状態に縄で縛りつけるように、必要以上に強く念じながら、再びミネアの意識を探る。
さっきのように2、3回呼び掛けるとすぐに、感情が動くのが分かった。
今ならいけるはずだ、そう思って。
俺は思念を送り込むのを止め、ミネアと対話するために全神経を傾けた。
「お、おい、聞こえるか!?」
『姉さん……じゃない……? あなた、誰? どこから話しかけているの?』
「そんなの今はどうだっていい! 目ぇ覚ますことに集中しろ!」
……声が届いた。
ミネアの感情が、目を白黒させているかのように上下に揺れる。
そして、ミネアの中から「姉さん」と呼ばれる人物のイメージが消えた。
困惑と動揺が嫌というほど伝わってきて、ぞくりと背筋に寒気が走るのを感じた。
こいつはこのまま夢でも見ながら死ぬつもりだったんだろうか。
直前の記憶を忘れたまま、この楽園を現実だと信じたまま。
『い、いきなり……、何なのよ。どういう意味?』
「そのまんまだ! お前が今まで何やってたか、よく考えろ。そんでなんとか起きてくれ!」
ミネアから伝わる感情に、苛立ちのようなものが加わる。
俺も焦ってるからなのか、こっちまで苛々してくる。
『何、言って……?だから私、ちゃんと起きてるじゃ……』
まあ、無理もないと思った。
ミネアが言いすくむと同時に花畑のイメージも消え、辺りは黒一色に変わった。
「……気ぃついたか?」
『起き、て……?』
困惑、動揺、苛立ち、焦燥、失望、疑問。それが突風のように吹き荒れ始めて、俺は顔をしかめた。
心が動くのはいい。意識の表層に浮かんでいけば、覚醒もそう遠くない。
『あ、れ?』
ただ、それはぶつぶつと穴が空いたようなノイズ混じりで。
俺は何故か、それがひどく不快に思えた。
『わた し……』
「……どうした?」
『そう、さ…っきまで森にいて、ぴサロさんとぁの白、いhいとと戦って……』
膨らんではしぼむような声、感度の低いラジオのような音。
なんだこれ、気持ち悪い。
それが聞き間違いとは思えなくて、俺は徐々に言い知れない不安を感じていた。
そしてそう考えている間にも、聴こえるのが声なのか雑音なのか、その違いさえも分からなくなっていく。
「お前、お前……何、言ってるんだよ。俺の声、聞こえるか?」
『私、そおとキ、気を……nあって……』
『そし……、リンさnい…うぉts……て……』
『……で■o……■■ッた■……り■■■ヲs■■■■』
『■…■■■■■■■ ■■ ■』
『 』
「……え?」
意味が分からなかった。
俺はしばらく、呆然と眺めていることしかできなかった。
額がぐっしょりと濡れて、汗が頬を伝っていくのを感じる。
おかしな話だと思った。
握った手は暖かい。なのに、心のどこを探っても意識が見つからない。
俺は首を振った。さっきまですぐにも目覚めそうだったのに、そんなわけあるか、と。
俺は考えた。次に何をすればいいのかを。ミネアには動く気配が無いというのに。
ふと、頭の片隅が囁く。
そもそもこれ、暖かいか?俺がそう思ってるだけ、思いたいだけなんじゃねえのか、と。
俺は目を閉じる。どういう意味だ、と強がりを言い返した。
けれど、実際俺は確信が持てなくなっていた。心を読むわけでもないのに、手先に神経を集中させる。
手をほどく。ミネアの手は力なく地に着いた。
もう一度握る。その強ばった指先が俺の手のひらを突いた。
……暖かい?冷たいんじゃないのか?冷たいってなんだ?
俺の手が震えた気がした。それが何故かは分からないけど。
仕方ねえな。もっと回復しないと駄目なんだよな?
何度もミネアの心を読んでみる。反応は無い。
そりゃそうだ、意識がないんだから。
俺はそう思うと同時に首を傾げたくなった。そして疑問を感じたことも疑問に思った。
意識がない、と思ったことは間違っていないはず。
なのに、何がおかしい。
頭では何か気づいているのかもしれない。
……いるのかもしれない、だと?すぐ分かることじゃないのか。
吐く息が震えた。
こいつ、もう――
――死んでるのか?
目の前のミネアがぐにゃりと歪んだ。周りの木も巻き込んでそれはかき混ぜられていく。
不思議だった。まるで別の部屋からテレビの映像でも見るように、俺はその景色を見ていた。
誰かが俺の視界をいじっているのではないかとも思った。
目を開ける。ミネアはすぐそこにいる。
目を閉じると、一切の存在が感じ取れなくなる。
じゃあ俺はずっと、死体相手にこんな事やってたことになるのか?
ついさっきまであいつの心と話していたのに、それなのに。
死なせたくないと思った。恩人を助けて欲しいと、リンディスは言っていた。それなのに。
なんだか、笑いたくなった。
なんだか、怒りたくなった。
なんだか、叫びたくなった。
「ざけんじゃねーよ……」
ミネアにも俺自身にも当たるような呟き声が出る。
それを皮切りに、感情が爆発した。
「お前、死ぬのかよ。こんなところで、リンディスの思いも無駄にして死ぬのかよ!
姉がいるんだろ? 帰る場所だってあるんだろ? 勝手に満足してくたばってんじゃねえよっ!」
異物が競り上がってくるような感覚で、息が詰まる。
咳き込みながら、構わず叫んだ。
「俺は……、帰りてえぞ。妹がいるんだ。俺がいてやらねえと、いけねえんだ。お前だって同じ……」
その時。
手のひらに何かが当たった。
そして、俺は確かに見た。ミネアの指先が動いたのを。
「……え」
心を読んでみるが、さっきまでと同様、意識は感じられない。
耳を澄ませてみる。
荒い呼吸が聞こえたが、これがミネアのはずがない。じゃあ、誰だろうか。
手を離そうとした。ミネアの指がまた動く。
驚いたのか、俺の指先がびくりと震えた。それきり動かす気になれなかった。
当然、死んでいるという訳じゃない。そして、蘇った訳でもない。
生きていて良かった。そう思うと同時に。
俺はなぜか怖くなった。
足元からじわじわと違和感が競り上がってくるような感覚。何かが頭の回路に引っ掛かっているような不快感。
ミネアの脈を感じ、俺は確信した。
頭のどこかで気づいていたけど、分からなかった正体。
今までなるべく考えないようにしていた。知らず知らずのうちに排除していた、もう一つの可能性。
「は」
「はは……」
何だ。
「何だよ……」
何て間違いしてたんだ。
ああ、そうか。
おかしいのは俺の方だったんだ。
限界なんて、とうに越えていた。
今倒れてろくに動けないのも、目の前が回り続けるのも、割れそうなほどの頭痛も。
ぶっ続けで読心術を使い、暗示をかけて、イメージを送り続けた結果だと。
そんな当然のことに、俺はようやく気付く。
そもそもそれを分かってたからリンディスを追いやったのではないか。
気付いて、一抹の疑問が生まれた。
じゃあ、こんな状態の俺がずっと思念を送って、ミネアに何も影響は無かったのだろうかと。
当然確かめることはできない。でも、それが気がかりに思えて。
その瞬間。
ぷっつりと、何かが切れる音を聞いた。
いや、本当に聞いたのかも分からなかった。痛みも無い、その感覚に違和感を覚える。
本当は音なんて鳴ってないのかもしれない。また勘違いでもしたのか。
そう思って目を開ける。
あれだけぐしゃぐしゃに混ざっていた世界が、静まっていた。
眩暈の激しさだけじゃない。頭の痛みも、胃の重さも、胸の苦しさも、心の動きも。
そんなもの初めから無かったかのように、音一つ無く静まっていた。
そして、照明を落としたかのように、周りの景色が徐々にフェードアウトしていく。
まずい。
そう思った時にはもう遅かった。
まだ駄目だと、もう少しなんだと訴えることもできずに。
次の瞬間、世界が暗転した。
■
「私、本当に帰って来れたのね?」
『何の話よ。旅はずっと前に終わったでしょ』
「ほら、えーっと……。あら、私今まで、どこかにいなかったっけ?」
『変なミネアね。帰りたかったの?』
「帰りたかったわ」
『トルネコさんはもういないのよ。アリーナだって、クリフトだっていない』
「……え?」
『勇者様にももう会えないかもしれない。全員が犠牲になって、やっと帰れるんだから』
「……それ以外に道はないの? 私は、他の方法を見つけたいわ」
『それで、今死にかけてるの? どっちにしろ同じことよ。その思いでも、人は殺せる』
『「それでも」』
『それでもあなたは、そんな無謀な生き方をし続けるのね?』
「それでも私は……、そうして皆と帰りたかった。姉さんのところに帰りたかった……!」
■
二人は隣り合って倒れていた。
いや、元々ミネアは体を横たえたままだから、そう言うには少し語弊がある。
何が起こったのか全然分からなくて、私は立ち尽くした。分かるのは、二人とも気を失っているということだけ。
我に返り、急いでその場へ駆け寄る。ミネアの顔を見て、身体に触れて、思わず身を引いた。
そのまま私の目はその隣へと移る。
「……ねえ、大丈夫? 何があったの!?」
私はアキラの肩を揺さぶる。ミネアに負けず劣らずぐったりとした身体は、何の動きも見せない。
心臓が早鐘を打つ。まさか、と上げたくなる声を押し殺す。
何度か呼びかけるとようやく、アキラはぼんやりと目を開けた。
私は息を飲む。先ほどから想像の付かないくらいに、虚ろな目と蒼白な顔が私を見ていた。
「あ……れ……?」
「大丈夫!?私よ、分かる?」
目が合い、私に気づいたと思うと、彼は苦しそうに顔を歪めた。
「あ……すまねえ。まだ……」
アキラがそう呟いたかと思うと、手を這わせて起き上がろうとするのが分かった。
私は咄嗟に手が出て、その肩を地面に押さえつけた。
「何、すんだ……。もう少し、なんだよ。だから……」
「……いいの。もういいのよ」
「どういう……ことだ?」
掠れた声が私の鼓膜を打つ。
何かが溢れてくるのを抑えるように、私の声は震えていた。
「ミネアは、……もう、大丈夫だから」
「……死んでないよな?」
「うん」
「……温かい、か?」
「うん」
大きなため息が漏れる。今までぴんと張りつめていた糸が切れるように感じた。
ミネアはまだ起きない。火傷も完治と言うには程遠い。
けれども、先程からは想像も付かないほど温かく、安らかな顔だった。
アキラを見ると、依然無表情なまま、こちらを向いてぼんやりと私を見ていた。
そしてまどろむように、彼の瞼は静かに下がっていき――
「ちょっと待って!まだ駄目!!」
瞬間、私は耐えきれず声を張り上げた。
アキラの身体がびくりと震え、忘れていたかのように私を見る。
「さ、叫ぶなよ、頭に響く……」
「だって!」
アキラは頭を押さえて、鬱陶しいといった調子で答える。
何故こうなったかは分からないけれど、一瞬そのまま死んでしまいそうにも見えた。
話しかけるのもためらわれて、しばらく、落ち着くまで私は空を見ていた。
てす
とりあえず大丈夫そうなので再開します。
代理の方本当にありがとうございます!
「本当に大丈夫なの?」
「死にゃしねーよ、多分」
「ねえ、一つ聞かせて。あなたはミネアの回復をして……こうなったのよね?」
「……悪かったな」
「分かってたんでしょ?だから私を離したかったのね?」
「一つって言ったろ」
「……ごめんなさい」
答えはない。その代わりにアキラはまっすぐ私を見た。
「あなたは、ミネアを助けてくれたのに……。私、あなたを疑ってた。自分が、情けないわ……」
音がするほど強く歯を噛み締める。
私は無力だった。
いくら剣の腕に自身があっても、この状況では人を頼ることしかできない。
仕方ないことなのにそれがとても嫌で、自分の不甲斐なさに腹が立った。
アキラはそんな私を一瞥して、目を反らした。
「すまねーな」
もし俺で駄目だったら、と先刻アキラは言った。今になってみれば、最初からそういうつもりだったのだろう。
確かにその場にいたら、私も止めようとすると思う。
そして、誤解も当然だと思っていたから謝ったのだろうか。
こんなに疲労していなかったら、私も悪態の一つでもついていたのに。
なんだか変な会話だと、私は思った。
すると、思い出したように、アキラが話を切り出す。
「……そいつ背負って、街まで連れていけるか?」
「え?」
「怪我自体は、治ってねえから……」
「あなたを置いて……ってこと?」
そう言うと、アキラは何も聞こえなかったとでも言うように押し黙る。
冗談じゃない、と思った。いくらミネアを助けたいといっても、私にそんなことができるわけない。
ただでさえ何も礼ができていないというのに。
「……お断りするわ」
「そうか」
じゃあ、これからどうするんだ?
アキラの視線が刺さる。口は動いていないのに、そう言われたような気がした。
そう聞かず黙っているのは、私が答えられないのが分かっているからだろうか。
そう思うと、悔しくなった。
「なら一つ……賭けを、しねえか?」
視線を戻す。今まで無表情だったアキラが、にやりと笑みを浮かべた。
この状況で何ができるのだろう。期待する半面、少し嫌な予感がした。
「賭けを……?」
「ここから……テレポートする」
「俺さ……、時々思うんだ」
「このまま……こんな場所も飛び越えて、家に帰れたら、って……」
■
『ミネア』
『起きろよ』
「ミネア!」
「起きてよ!」
誰かの呼ぶ声がした。
ふわふわと漂う感覚のまま、私はそれを聞いていた。
夢の中には姉さんがいて、とても居心地が良くて。
私はしばらく目覚めたくないと思った。なのに無理やり起こしてくるのだもの。
声が聞こえなくなったと思ったら、次には全身を冷水に叩きつけられたような感覚。
驚いた。驚きました。思わず起きちゃったわ。
……もちろん、今は感謝しているけれど。
「ここは……?」
「ねえ、しっかりして……!」
開いた瞼の中へ我先にと光が潜り込む。目覚めたばかりの瞳はその量に対応しきれず、見えるもの全てを白で覆った。
そんな身体の動きを意識がただ傍観する。私は目の前の真っ白な世界に感心さえ
していた。
直後、目は耐えきれず瞼を閉じ、強い白から逃げ出す。
再び現れる暗闇。
(外を、見たいんだけど)
眩しい。
眩しい。
暗闇でしか生きられなくなったのかしら?
だったら、このまま地底でひっそり過ごすのもいいかも……。
頭の片隅から出てきた仮定を聞いて、ああ、疲れているなと思う。
うんざりして、無理やりにも目を開けた。
光に怯む瞼は抵抗を続ける。
開ける。閉じた。開けた。眩しい。暗い。明るい。白。黒。
私の意識はただ黒と白を観察している。他人事のように私の身体に居座って、じっと見ている。
やがて身体は一つの色を映し出すことに決めたのだろうか、しばらくすると視界全てが一色で染まっていた。
「ここは……」
「もしかして、街の中?」
どのくらい虚空を見つめていただろうか。
重い腰を上げるかのように、傍観していた意識がようやく動き出す。
右にも左にも茶があった。いや、これ、壁だったのね。
そういえば、さっきまでここに誰かいなかったかしら?
その時私は、いまこうやっているように……
暗い意識の底から、真っ暗な無音の空間から。
空を眺めていたような気がする。
(あ、頭が動いた)
確か、森でピサロさんと白い女の人と会って……。
(左腕の感覚が無い)
そういえば、こんなことさっきもあったような……?
というより、何で私はここで寝ているの?
(ああ。そうよ、そうだった)
私、何言ってるのかしら……。
酷い火傷して、今まで気絶してたのね。うっかり忘れるところだった。
さっきまでリンさんが話してたの、聞いていたのに。
でも、変な気分。こんな怪我したのに、私はまだ生きてたのね。
ようやく目が慣れた頃にはもう、リンさんの姿はなかった。
代わりに見えるのは、規則正しく並ぶタイルに、水滴の張りつく浴槽。ここは風呂場なのかしら。
すぐに起き上がる気にはなれなかった。
またびしょ濡れになってしまった服が肌に張りつき、疲労感や倦怠感のようなものに変わっていた。
ただ目だけは、周りを見ようと世話しなく動く。
そういえば私は誰かを探している……はずだった。リンさんじゃない誰かを。
はずだったというのも、今ここには私しかいないから、そう言ってるだけだけれど。
そんなことを思っていると、扉の向こうから足音が近づいてきた。
「ミネア!」
上から、リンさんの声。
その声で私の中のぼやき声はかき消えた。
「リンさん?ここは……」
「ああ、良かった……!家の中よ。寝室もあったの。今、連れていくわ!」
言い終わるより早く、私の体はタオルを被り、リンさんに抱きかかえられる。
持ち上げられながら、私の目はリンさんの姿を追っていた。
すらりと伸びる足を過ぎ、ぴったりとした青い服と、揺れる緑の長い髪を経て、
焦りのような安堵のような表情を見た。
リンさんと目が合う。目を反らしたその顔が、ほんのりと紅くなるのに私は気付いた。
部屋を出て走りながら、リンさんは口を開く。
「ミネア、本当に良かったわ。そうだ、身体は、身体は大丈夫!?」
見慣れない天井を見ながら、私は内心首を傾げた。
正直、起き上がれないので体の様子がよく分からない。……そう、痛みがないのよね。
大火傷が何ともないのだから、大丈夫かと聞かれたら大丈夫ではないのだろうか。
「分かりません……。火傷した腕は全然感覚が無くて、動くかどうかも分からないのに……」
息を吸う。普通に話しているのに、何か違和感を感じた。
言葉を整理しているうちに次の部屋が開き、私はベッドの目の前にいた。
「なのに、意識はちゃんとしていて……。眠いとか全くなくて、今ずぶ濡れのはずなのに、身体が暑くて……」
「ミネア……?」
一言一言、ひどくゆっくりとした声が出た。
リンさんが私の腕に裂いたシーツを巻きながらも、不安そうに私を見る。
その時初めて、私は白黒まだらの自分の腕を見た。
そして、気づく。傷に触れられても感覚が分からないことに。あと――それを他人事のように眺めている私に。
そう、そうだわ。
本当は不安になるんじゃないかしら?
さっきまで死んでもおかしくなかったのに、体の不自然さに気づいたのに、変じゃないかしら?
そう思っても、心は何故か安心感で満たされていて、不思議と落ち着いていた。
単にぎりぎりの状態だと、こんな感じになるのかしら?
「私……、私、どうなっているの?これから大丈夫なんでしょうか?」
頭に浮かぶ純粋な疑問。
でも、本来ついてくるはずの感情は無くて、口から出るのも他人の言葉なのではないかと思えた。
「ミネア!」
タオルを私の体に巻いて、ぎゅっと、リンさんが私の手を握る。
身体の、手の暖かさは、確かに私に伝わってきた。
「大丈夫、大丈夫よ。ミネアはここで休んでいて。今度は……、私が守るから!」
「私は……え、リンさん?」
私が口を開いたときには、既にリンさんは走り出していた。部屋の外へ、風のような速さで。
私はベッドの上でその後ろ姿を見送るしかできなかった。
思わずため息が出る。
「ちっとも大丈夫じゃないみたいね……」
私は自分の手を見つめた。リンさんに腕を握られて、やっと気づいた。
私が火傷した、首筋から二の腕の部分全て、組織自体が焼け死んでしまっていることに。
だから痛みはもちろん、あらゆる感覚が分からないのだ。
火傷で壊死した部分を覗いた全ては、暖かさも、触れた感覚も当然分かる。
手首も指も一本一本動かせるし、肘から下なら無傷そのものだ。
火傷の軽い部分は……探したけれど、もう治っていた。変な話かもしれないけど、傷痕しかなかった。
ただ、体が熱いとか、変な気持ちとか、そういう理由はよくわからないけど……。
「これなら……」
私はベッドから降りた。そう、降りることができた。
ほら、立てるじゃない。
少しふらつくけど、意識して動かさないといけないけど、私は立てるし歩ける。
頭のぼうっとする感覚も、いつの間にやら消えていた。
そこまで確認して、ほっとため息が出る。そしてその瞬間から、私は身体より別のことが気になり始めていた。
まず、ここがどこなのか。どうしてこんな場所に飛ばされたのか。
リンが何も言わなかったのは不親切ではなく、単に分からなかったのだろう。
だから、今急いで出ていったのかしら?
あわてていたのはどうして?
何かもう一つ気になることがあったような気がして、私は部屋を見回した。
「……! あなた……!?」
(変な格好……)
第一印象はさておき、奥のベッドに見えたのは知らない男の人だった。
私はこの人の名前も知らない。でも声は知っている。
あの時確かに話をして、それより前にもどこかで聞いた気がした。それがどこなのかは分からないけれど。
でも一目見て分かった。この人こそが、先ほどから私が無意識に探していたその人だと。
そして、手のひらに残る暖かさ。これが、私を繋ぎ止めてくれたのだと私は気づく。
同時に、この人が倒れている理由も理解する。
理解して、肩身が狭くなった。私はそれも分からず、声を聞いても眠り続けてた気がしたから。
少しうつむくと、床のデイパックに私の目が留まった。
この人のものだろうか。気付くと私はそれに手を伸ばしていた。
勝手に覗くのはためらわれたけど、何だか中を見ないといけない気がして。
「っく……、よい、しょっ」
私は火傷の酷くないもう片方の手で、なんとかデイパックをベッドの上に引き寄せる。
すると、見覚えのあるものが転がり出た。
いや、見覚えのあるというには軽すぎるだろうか。
銀色のタロットカード。かつてそこに宿る魔力を戦闘にも使った、私の愛用の道具。
私はためらうことなく手を伸ばし、その一枚を引き抜く。
「こ、これって……」
思わず目を疑う。
これを引いた時、勇者様も笑ってたっけ。……だけど、まさか今出るなんて。
――くさった死体の、正位置。
「……昼寝しているとさがし物が出てきますが くさっているでしょう。
セーターの毛玉にだまされそう。
ラッキーナンバーは931。ラッキーカラーはえび茶色――
――案ずるより産むが易し、ですか」
産むが易しなんて。この状況で言うには、なんて無責任で軽々しい言葉だろう。
でも、誰に、何に対して言っているのかしら。私達三人のことなのかしら?
そもそも今のは、誰を占うか決めたわけでもない占い。本来ならこの結果は何にも使えない。
だけどそれを分かっているかのように、はっきりと未来を指し示すカードではなくて。そこに、私は少し引っかかった。
……まあ、このカードは気まぐれだから、深く考えても分かるわけもないのだけれど。
「そうよね。言っているうちは、気楽よね」
【A-5 村 チビッコハウス 一日目 昼】
【リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:腹に傷跡 、焦りと不安、疲労(小)
[装備]:マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣 、拡声器(現実)
[道具]:毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストW 導かれし者たち、 フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドU、
デスイリュージョン@アークザラッドU 、天使ロティエル@サモンナイト3
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ミネアを治療できる人、あるいは薬を急いで探す。
2:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
3:白い女性(アティ)が気になる。もう一度会い、話をしたい。
[備考]:
※終章後参戦
※ワレス(ロワ未参加) 支援A
【A-5 村 チビッコハウス寝室 一日目 昼】
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:気絶中。疲労(大)、精神的疲労(大)、神経衰弱
[装備]:激怒の腕輪@クロノ・トリガー
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1: -
2:ミネアを助ける。
3:高原日勝、サンダウン・キッド、無法松との合流。
4:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)の仇を取る。
5:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※拡声器はなんてことのない普通の拡声器です
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
【ミネア@ドラゴンクエストW 導かれし者たち】
[状態]:精神的疲労(中)。上腕、肩から胸元にかけて火傷(少し治療済み)、催眠中。
[装備]:ぎんのタロット@ドラゴンクエスト4
[道具]:基本支給品一式(紙、名簿欠落)
[思考]
基本:自分とアリーゼ、ルッカの仲間を探して合流する(ロザリー最優先)
1:十分に周りを警戒。リンとアキラの様子が気になる。
2:ロザリーがどうなったのかが気になる。
3:ピサロを説得し、行動を共にしたい。
4:ルッカを探したい。
5:飛びだしたカノンが気になる。
[備考]
※参戦時期は6章ED後です。
※アリーゼ、カノン、ルッカの知り合いや、世界についての情報を得ました。
ただし、アティや剣に関することは当たり障りのないものにされています。
また時間跳躍の話も聞いていません。
※回復呪文の制限に気付きました。
※ピサロがロザリーを死んだままであると認識していると思っています。
※アリーゼの遺体に気付いていません。
※暗示がかけられています。一定時間、火傷の影響を感じなくなります。
※アリーゼの死体はC-7に埋葬されました。
※A-5の村に、チビッコハウス@LIVEALIVEがあります。
【ぎんのタロット@ドラゴンクエスト4】
ミネアの専用武器。戦闘中に道具として使用するとさまざまな効果をもたらす。
カードを引いてみるまでは結果がいっさい予測できないので、中には味方に大ダメージを与えるものも。
普通に占いとしても使えます。
支援して下さった方ありがとうございます。
かなり半端なところで、さるさん喰らってしまいました。すみません。
>>281の下から10行目からなんですが…、どなたか代理してくれると嬉しいです。
変なところからで申し訳ないです。
341 : ◆jU59Fli6bM:2009/09/11(金) 19:36:14 ID:uFrX7Gpw0
そして再びさるさんへ
本当にすみません、残り3レスどなたかお願いします
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
代理投下完了です
投下乙!
読んでてどきどきしたぜ。
ミネアがひとまず復活したみたいでよかった。
とりあえず携帯から
代理に支援ありがとうございました!
これにて投下完了です
家庭医学大全は俺の嫁
代理中に何度かこちらもさるってしまい申し訳ない。
投下乙!
家庭医学大全……。
そうか、あのリアルな怪我や治療の描写はそれによるものか!
無理して治そうとするところを止められないようリンを引き離すアキラかっけえ。
リンも、アキラも、ミネアも人間的な弱さも出ててよかったなー
家に帰りたい、か。
図らずも変な形で微妙に叶った彼らだが先行きどうなる!? タロット的にも!
◆jU59Fli6bM氏投下乙です。
タイトルやばすぎです。
誰か死ぬかと思いましたよ。
かっこいい、かっこいいよ、アキラ。
そう言ったイメージものは大好きですね。
ミネアも何とかは復活してくれたし。
素敵な話を有難うございます。
そして自分の作品ですが。
すいません。
お手数掛けます。
仮投下スレの
>>342から修正版を投下しました。
最初から投下し直しました。ややこしくしてすいません。
騒ぎを起こして申し訳ない。
判断をお願いします。
前に比べたらだいぶましになったとは思う
普通にジャファルのが真っ向勝負だろうが経験豊富だろうと思うが
あくまでましだけどな
>>219と同じでジャファルのが真っ向勝負だろうが経験豊富だろう。
レイラを真正面から原作殺してるし。
他にもニノを護りながら正面から戦ってたぜ
報告します。
◆jU59Fli6bMのメイジーメガザルをWIKIに掲載しようとしたのですが、少し容量がオーバーしてしまっています。
お手数ですが分割箇所を提示していただくか、自ら軽量化して編集する等の処置をお願いします。
問題有り……と言うことですか?
少し書き方が悪かったかもしれません。
『量』は真っ向勝負の回数を言いたかったんです。
極端な話スライムを一日百体倒しても意味無いよみたいな。
ジャファルの経験については出来たらそのままがいいのですが……
ジャファルの方が数が多いとジャファルの暗殺技術に疑問が生じるので。
ジャファルの方が質が有るとも書いてますし。
必要ならもう少し表現を変えます。
ニノを守りながらというのは本文中にあります。(ウルスラ率いる)
レイラについては……前後の様子から判断して、あれは不意打ちに見えました。(真っ向勝負したところでジャファルが勝ってただろうけど)
原作で経験=ほぼ自分の年齢で最強の暗殺者でガチで強いというキャラに疑問もたれても
>>223 ジャファルがガチで強いのは判りますよ。
ただ相手が弱かろうが強かろうが暗殺すればいいのだから、真っ向勝負しないだろうと。
わざわざ真っ向勝負してやる必要はないでしょうし。(余裕で勝てる相手でも)
ジャファルが真っ向勝負すると言うことはそうせざるを得ないと言うことでしょう。
経験=ほぼ自分の年齢だったらもはやそれは暗殺者じゃありませんて。
うーんできたら、はっきりテンプレにある修正(NG)要望を書き込んだ上で言ってほしいのですが。
とはいってもそれだけが全てじゃないし、賛成意見もないし、このままじゃ時間を食うわけで、これ以上のキャラ拘束も気が引けるし。
というわけで日付が変わるまでに賛成意見が出なければ自動的に破棄でお願いします。
長期キャラ拘束申し訳ありませんでした。
破棄になったか……
なったね
まあ色々努力したことは認めるし、結果破棄になったのは残念だが
個人的な信条からすると違和感持たれた時点で負けなんだよな
亀レスですみません
>>204で駄目でしたか? それなら後で自分で入れようと思います
いつも編集ありがとうございますー
>>228 いえ、すみません。
こちらが分割箇所見落としておりました。
ケアレスミスごめんなさい
気付けば用語集が増えていた!
こつこつWIKIが充実していって嬉しい
◆jU59Fli6bMさん、かなり遅くなったけど投下乙!
タイトルでミネアさんがついにメガザってしまうのかと思ったら……俺歓喜!
心の状態の表現がすげぇ。アキラやミネアの精神がグラングランしているビジョンが鮮明に浮かんできた。
アキラも天国に連れて行かれるんじゃないかと思ったよw
登場人物、特にアキラの素直じゃない台詞が凄い『らしく』て、なんかニヤリとしてしまった、GJ!!
しかし、DQやFEの世界観をもってしてもアキラの服装はやっぱ変なのかw
お待たせしました、投下します
走れども走れども人っ子一人見つかりはしない。
隅々まで探索した船ももぬけの殻。
まるでお前のやっていることは全て無意味だと目に見えぬ誰かに嘲笑われているようで。
その誰かとはオディオや、リーザを殺した奴にしか思えなくて。
「ちくしょう……」
知らず知らずと言葉が漏れていた。
何度も何度も口にした言葉。
何度口にしてもちっとも気分がすかっとしない言葉。
「ちくしょう、ちくしょう、ちっくしょおおおおおおおおお!!」
止まらない、止まらない。
漏れ出る言葉も、がむしゃらに動かす足も。
一向に止まらない。
冷静になれとシュウの姿を借りて語りかけてくる己自身も蹴っ飛ばす。
無理だ、冷静になんてなれるはずが無い。
何が炎使いだ。
こんなにも近く、心の底から燃やし尽くさんとしている焦りという名の炎さえ制御できないなんて。
「誰でもいい、誰か、誰か出てきやがれええええええええええええええええ!」
矛盾、不一致、二律背反。
不条理な暴力で誰も傷つかないで欲しいと思っているはずなのに、行方を失くした想いを発散する為だけに被害者を、加害者を求めてる。
そんな嫌な奴な自分から逃げるようにエルクは更に速度を上げる。
魔法を用いるのでも走法を最適化していくのでもなくただがむしゃらに息を切らして。
ああ、なんて悪循環。
その走るという行為こそ、彼より殺人者達を引き離している大きな一因なのに。
考えてみて欲しい。
エキスパンドレンジの加護を受け、ペース配分も考えずに全力で走るエルクに追いつけるものは果たしてこの島に何人残っているだろうか?
追いつかれないということは剣や魔法を問わず如何な魔手からも逃れられる。
また、例えエルクに追いつけるもの――身軽な暗殺者と速度強化魔法を模写し扱える少女のコンビがいたとして、エルクを追おうと思うだろうか?
エルク個人に恨みを持っているのなら別だが、それ以外の殺人者が追いつくだけでも無駄な体力を使うこと必至な相手を。
見るからに頭に血が昇っていて放っておいても遠からず自滅してしいそうなことが明白な少年を。
思うまい、少しでも賢き脳があるのなら。なんとしても最後まで生き残らねばならない目的があるのなら。
こうして、救うべき誰かを、倒すべき人殺しを追い求めている少年は皮肉にも同時に逃れ続けていた。
長く、長く、数時間もの間。
ひたすらに逃れ続けていた。
せめて。
途中座礁船を探った後に南方へと進んでいたら彼の迷走も終わっていたかもしれないのに。
ヘクトル伝いにリーザの仇のことを聞いていたかもしれないセッツァーが居たのだから。
しかしながら既に運命の分岐点をエルクは通り過ぎてしまった。
西へと再度進路を取ったエルクの疾走の果てにあったのはグッドエンドには程遠い二つの壁。
B-5――禁止エリア。
そして魔王デスピサロ。
「……今ほど貴様達人間と出会えたことを幸運と思ったことはない。寄越せ、貴様の名簿を」
「っ、名簿だと? なんでんなもんを……。いや、それよりもその血、てめえ誰か殺したのか!?」
禁止エリアを警告する音声にはっとなりUターンし歩みを緩めたエルクは、現れた男を前にせっかく落ち着けた息を再び荒げる。
愛する女性が再びこの世に生を受けた可能性を知り休息を求める身体に鞭打って人が集まりそうな村に向かっていたピサロは。
当然のことながら返り血を洗い落としてなどいなかった。
その渇いた血に染まった己と剣を特に隠すことも無く魔王は淡々と事実を言い放つ。
「女子どもを二人程切り殺したと答えたらどうする?」
「許さねえ。お前も、同じ目に合わせてやる!」
ようやく巡り合えた怒りと悲しみを容赦なくぶつけれる相手にエルクは撒き散らすがままだった激情を炎と化して斬りかかる。
今、この瞬間、確かに。
エルクの頭の中はピサロへの殺意のみで埋め尽くされていた。
知らず知らずのうちにかわした凶弾が守りたかった人を襲ったことを知りもしないで。
▽
エルクがピサロと遭遇した同時刻、B-7エリア。
平野と森林の境にて一つの戦いの幕が切って落とされた。
木の上にて気配を消し潜伏していたジャファルが眼下を情報を交換しながら行くアズリアと松に襲い掛かったのだ。
エルクとすれ違った者と、エルクを追う者達。
当然といえば当然過ぎる邂逅だった。
▽
自分が避けた弾が当たり後ろにいた誰かが死ぬ。
戦場ではよくある光景だった。
だからこそアズリアはいつしか避けることを捨てるようになっていた。
避けず、されど殺されず。
選んだ手段は攻撃に先んじた反撃。
不朽の鍛錬の末に得た、言葉にするのは簡単だが、実践するのは難しいその技能こそがアズリアの命を救った要因だった。
「かはっ!?」
「……っ!!」
気配は察せ無くとも、自らの身に襲い来る攻撃という現象を経験と勘から感じ取った剣姫は考えるよりも本能の赴くままに槍を左後方に振るう。
槍の柄に打たれたがために暗殺者の凶刃の軌跡は狂い、一人の命も奪えぬままに終わる。
無意識のうちに放った一撃だったのが功を奏した。
既に後半歩の間にまで接近しており、刺突であったのなら刃より内側にいたジャファルには当たらなかっただろう。
吹き飛ばされいく中、空中で体勢を立て直し、何もなかったかのように着地するジャファル。
その身のこなしはアズリアにかって戦ったある犯罪組織の一員を彷彿させるものだった。
「暗殺者か。松、気をつけろ。奴らを不意打ちしかできないと見なしていれば痛い目に合うぞ」
暗殺とは何も敵の不意をついて殺すことではない。
公の戦い――戦争や決闘といった両者が認識・或いは合意した形以外で殺すことだ。
ガードマンで固めた富豪の家に真っ向から攻め入ろうとも事前に布告していなければそれは暗殺となるのである。
つまり真に優れた暗殺者とは真っ向勝負もまた常人を遥かに凌ぐ腕でこなせるのである。
知識でしかなかったこれらの事実をアズリアは無色の派閥に雇われた暗殺者集団「赤き手袋」との戦いの中で実感した。
だからこそ不意打ちを防ぎ暗殺者を闇から引きずり出しても剣姫に油断はしない。
「……」
敵を過小評価しなかったのはジャファルとて同じだ。
必殺だったはずの一撃を後出しの先制カウンターで防がれるのはさしもの彼も初の経験だった。
が、一度の奇襲の失敗で退く気は無い。
全く結果が得られなかったのなら話は別だが、ずれた斬撃は確かに深く左腕を抉った。
あれでは片腕で扱うには長すぎる槍は自由には振るえまい。
負傷した味方を庇う必要からもう一人の男も行動が制限される。
まだまだ戦況はジャファルに有利なのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
そう暗殺者が考えていた矢先、無法松が最初に動いた。
その両の手を覆うは既に輝きを失ったかに見える壊れた武具。
松も当初はオディオが嫌がらせにガラクタを寄越したのかと思い装備していなかったくらいだ。
他に至急品が無かったとはいえ、今になって身につけたのはひとえに道中アズリアから聞いた話があってこそ。
――私の元・右腕の得物はその程度の傷で使い物にならないようなやわな物ではないさ
なるほど、その通りだと松は拳を握り実感する。
ナックルは外見に反し力を失ってはおらず、剣姫を傷付けた者を殴らせろと本来の持ち主の代わりに松を急き立てる。
ああ、いいぜ、やってやる。
昭和の男の前で女を傷つけやがった真っ黒野郎を許せないのは俺も同じだ!
松は力強く踏み込み蛮勇を振るう。
「イナズマアッパー!」
相手の顎下から拳を振り上げ、かち割るつもりで叩き込んだ一撃は空を切る。
松の動作から次に来る攻撃を読んだ暗殺者は、突き上げられるよりも早く自ら上後方へと跳んだのだ。
着地するのはひょろりと伸びる木の枝の上。
人一人乗せるには細すぎて今にも折れそうな枝をたわませもせずジャファルは弾丸となり再度地へと飛来する。
されど狙うは松にあらず。
一度目にそうしたように、またしてもアズリアへと高所から放たれた暗殺者の牙が襲い掛かる。
「やらせるかよっ!」
獲物に察知されずに行えた初弾とは違い、今回は既に手口は割れていた。
左腕の負傷で迎撃が僅かに遅れたアズリアを松が守りに割ってはいるのも分かっていれば不可能ではない。
問題ない。
もとより狙いは庇いに入ると踏んでいた男の方なのだから。
「……しっ!!」
「うお!?」
繰り出された右拳にジャファルは刃を持った右手と持たざる左掌を重ねるように突き出す。
半壊していても尚頑丈な手甲を軸に再跳躍。
跳び箱を軽く超えるように松の頭を超え、その際に頭部へとダガーを突き立てようとする。
「させない!」
失敗。
ジャファルは刃の行く先を変えて寸前のところで投擲されたロンギヌスを弾く。
本来なら重量級の槍を短刀如きで叩き落とすのは難しいことだが、片腕で投げられた勢いに乗っていない物が相手なら話は別だ。
とはいえダガーを防御に回したということは松への攻撃は中断されたのは事実。
「ヘビーブロウ!」
仕返しとばかりに松がジャファルを渾身のブローで殴りつける。
当たれば意識を飛ばされかねない必殺拳をまともに受けるわけにはいかず、ジャファル横に跳んで避ける。
松は追撃を加えつつ足で地に転がったロンギヌスを助けられた礼と共にアズリアの方へと蹴飛ばす。
「へっ、悪いな」
「いや、元はといえば私が負傷したばかりに余計な世話をかけてしまっているんだ」
「なあに、気にするなって。昭和の男は女の前に出て守るもんさ」
体勢を整え切り込んでくるジャファル刃から背のアズリアを護りつつ時が過ぎるにつれ松は内心焦りだす。
まずい、と。
ジャファルの刃は文字通り全てが必殺。
防御か回避が少しでも遅れれば即死だ。
今はなんとか急所に当てられないよう凌いではいるが、暗殺者は外した刃さえ即座に向きを変え次の必殺の為の布石として松の体力を削いでいく。
タフさには自信があるが、アズリアに向けられた分も身代わりとなって傷を負っている為、そう長くは耐えられまい。
対して松の反撃は当たれば重いのだがその殆どが木々を利用して縦横無尽に立体的に駆け巡るジャファルを捉えられずにいた。
全力で追えば何とか当てられるかもしれないが、そうすると間違いなく松が離れた隙に槍を存分に振るえなくなったアズリアが狩られる。
護るにしろ攻めるにしろ待っている未来は暗い。
そのどうにもしあぐねた状況に頭を悩ませる松に、アズリアが笑いかける。
「松、ここは一つ女を立てて欲しい」
アズリアは護られてばかりをよしとする女ではない。
振り向くまでも無く背中に投げかけられる視線に篭った意思を感じ松は頷く。
「わあったよ!」
取り回しの易さを活かしてラッシュを畳み掛けていたジャファルが蹴りのモーションを読んで後退。
松の狙い通りその隙に剣姫が大きく前に出る。
「うおおぉぉぉっ!!」
相手が回避に長けているというならばかわし切れない量の攻撃で畳み掛ければ良い。
イメージするは点ではなく面。
槍頭で壁を無しその一突き一突きに必殺の念を込める。
狙うは秘槍・紫電絶華。
取り戻しつつある実戦の勘と、眼に焼き付けたエルクの槍使い。
成功率はそれらを考慮しても五分五分だったが目の前の暗殺者を倒せる確立としてはこれ以上高い数値は無かった。
「秘槍――」
穴の開いた左腕も添え捩れても構わないとまでに引き絞る。
弓手が砕けようとも馬手の一撃が通ればいい。
異様な音を立て左手が悲鳴を上げる中、覚悟と共に突き出された槍は今までの最速をもって主に応える。
「紫電絶華あああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
それでも、秘槍は秘剣の域には届かなかった。
槍の乱舞を受け止めながらも一歩ずつ近づいていった魔人同様、死神もまたファランクスもかくやという刃の壁を前に平然と歩を進める。
オディのようにタフさに任せた進撃ではない。
迫り来る嵐の間隙を潜り抜けつつ毒蛇のようにアズリアへと這い寄っていく。
全身全霊を賭けた奥義であるが故に攻撃以外に一切の気を回せない剣姫を仕留める絶好のチャンス、暗殺者は防ぐよりも攻めることを選んだのだ。
だが、乱れ舞っていたのは槍の穂先だけではなかった。
刃を掻い潜り、アズリアにダガーを突きつけんとしたジャファルの前に立ち塞がったのは短剣よりも更に出が早い拳の弾幕。
「どおおおおりゃあああああああ!!」
人を人とも思わず命を奪い行く者たちへの怒りが込められた松の鉄拳の奔流にジャファルが押し出される。
紙一重で避けようとしたのが暗殺者に災いした。
怒涛の四連打が生じさせる拳圧は軽く大気を伝い暗殺者を打ち据える。
そして懐から押し出されたジャファルを待ち受けるは桜花絢爛、紫電の華々!
「ぐッ!?」
電光石火の一撃は今度こそ暗殺者を捉え穿っていく。
何発かはアサシンダガーで受け流したが、舞い散る紫電の華を防ぎきることはいかなジャファルといえど不可能だった。
「……く」
黒き衣服の三割以上を赤く染めたジャファルは苦々しげに口内に溜まった血を吐き出すと戦闘を放棄。
当初の俊敏さをいささか欠いたふらついた動きで北へと逃走を開始する。
それを黙って許す気は松には無かった。
「逃がすかよ!」
今回はたまたま狙われたのがアズリアだったからこそ、助かった。
最初の奇襲の標的が自分だったなら、情けない話だが心臓を一刺しされていたに違いない。
直接戦ったことでそのことを痛感した松は逃がすわけにはいかないとジャファルを追いかける。
ここで取り逃がして新たな犠牲者が出るなんて冗談ではない。
「あ、が、は……」
アズリアも想いは同じだが、僅かに松に出遅れる。
無茶をしたせいで完全にいかれてしまった左腕がもたらす痛みに蹲ってしまったのだ。
抑えたつもりだった呻き声を聞きとめ、前を走る松が足を緩めかける。
乱暴でこっちを振り回すようでいて、こういう細かいことには気が周るんだなとアズリアは苦笑しつつ、発破をかける。
「私は大丈夫だ。それよりも奴を! この近くにいるかもしれないエルクも危ないんだ!」
「おうよ!」
気持ちいい返事と共に、止まりかけていた松の足に再び力が戻る。
少なくともアズリアと暗殺者の距離は大きく開いた。
この距離では一駆けで傷ついたアズリアを襲うことは無理だ。
むしろ下手にペースに合わせたほうが、やぶれかぶれになった暗殺者の反撃にアズリアを巻き込みかねない。
だったらと松はジャファルを追ってぶん殴ることだけを考える。
▽
もしもこの時。
松がアズリアの治療を優先しジャファルを追うことを後回しにしていれば。
これから先の展開は変わっていたかもしれない。
しかし現実には松はジャファルを追い、まんまと誘い出されてしまった。
先の3人の戦いに一切影も形も見せなかった暗殺者の同行者が待ち受ける場へと。
▽
いくら優れたポテンシャルを持つ肉体を模そうとも、シンシアには素人故の弱さが付き纏う。
場数を踏んでいないことによる瞬時の判断力の欠如、技術・経験の不足によりどうしてもモシャスをしたオリジナルよりも戦力的に劣ること。
何よりもジャファルにとって痛かったのはシンシアが気配を殆ど消すことができないことだ。
これではジャファルがどれだけ上手く気配を消して隠れていようとも、この会場で初めて戦った同業者級の相手には見破られる可能性が跳ね上がってしまう。
だったらわざわざ連れ歩く必要は無い。
ジャファルは発想を逆転させ、シンシアを補助・支援役へと徹しさせた。
司祭達が距離をおいて魔法を唱えるものであった世界出身だからこその発想である。
僧侶も前線で連れ立って戦う傾向のあったシンシアは面をくらったが、危険な戦いを全てジャファルが受け持ってくれるのはありがたく快諾した。
すぐ隣で監視されない時間ができるのも、いずれはジャファルを蹴落とす気であるシンシアには好都合だ。
ジャファルも少女のそんな企みくらいお見通しだが、少なくとも生存者が多い現段階ではシンシアが裏切ることはないと踏んでいる。
たとえ裏切られたとしても殺されるつもりはさらさら無いが。
ともあれ二人の思惑が一致したこの作戦は、事実有効だった。
ジャファルが紫電絶華を耐え切っのはフロリーナの支給品だった黒装束を身に纏っていたことに加えプロテスをかけられていた点にもある。
また、シンシアと合流しさえすれば、彼が受けたダメージも回復魔法によりいくらか軽減できる。
加えてもう一つ。
ジャファルはシンシアに大きな役目を与えていた。
それはジャファルが仕留め損なった時を想定しての固定砲台としての役目!
一際高い木の上にて合図を待ち構えていたシンシアは森の北側から打ち合わせどおり刀身により反射された太陽光の光を目にし、隠れ蓑を翻し姿を現す。
標的の姿は未だに見えてはいないが構わない。
敵が来る位置が分かっているのだから呪文を唱えだしておいてもなんら問題は無い。
シンシアが紡ぎ出すは最高位の超広域殲滅魔法――メテオ。
魔法が得意とは言いがたいエドガーの魔力をしても魔法抵抗力の無い相手を一掃するには十分な威力を誇るそれ。
ジャファルの相手をして疲弊しているだろう相手にはオーバーキルとさえ思える力を感じシンシアはほくそ笑む。
展開する魔方陣、歪む次元、繋がるは宇宙。
さあ来たれよ、蹂躙の使途達よ!
シンシアの視界にジャファルが現れ、準備が整っていると確認するや否やそれまでの弱ったふりを止め、全速で前へと離脱。
その急な挙動の変化に松がようやく疑問に思うももう遅い。
シンシアの気配に気付いた時には終わっている。
これはそういう作戦なのだから。
「メテオ」
魔方陣が消え、代わりに現れるは数多の隕石群。
膨大な熱を帯びた大質量の物体が松へと降り注ぐ。
「おいおい、嘘だろ?」
隕石が目前へと迫っている中、現実離れした光景に呆然と言葉を漏らし立ちすくむ松。
なまじ科学が発展しだした近未来に生きていただけに、彼は初めて目にする大魔法の壮絶さに一瞬だが飲み込まれてしまった。
その一瞬を突かれ、無防備を晒していた松は背後から強い力で殴られ押し倒される。
暗殺者が戻ってきたのかと地に伏せたまま振り向いてみれば、そこにいたのは追いついてきたアズリア・レヴィノス。
メテオを一種の召喚術と認識した彼女は予想しうる威力に青ざめつつも、冷静に手をうった。
あれだけの範囲で展開され、間近にまで来ている巨石からは今から走って逃げたところで間に合うまい。
かといって直撃軌道の隕石を払い落とそうにも完璧にいかれた左腕では頼みの綱の秘槍は使えない。
よって彼女が選んだ道は一つ。己が身を盾にしてでも誰かを守ること。
「おい、前をどけ! 昭和の男が女に庇われるなんざダサいにも程があるだろ!」
「そうか、それはすまなかったな。けどな」
腕一本ではろくに扱えない聖槍で松のマフラーを地面に縫いたて、アズリアが手に取ったのは聖なる剣。
あいも変わらず剣姫を担い手として認めていない剣は腕一本で持つには重過ぎるものだったが、盾として使うには問題ない。
アガートラームを地に突き立て、後ろから右掌を当て倒れないように支える。
「私はどうやら芯の底から軍人に染まっていたみたいだ」
抗議の声に悲しそうな、それでいて誇らしげな笑みで返し、
「女を護るのが男の役目なら。民間人を護るのは軍人として当然の責務だ!!」
アズリアはスカートを破ることなく、積み重ねてきたあらゆる思い出を背負ったままかってあるべしと望んだ姿に立ち返る。
戦う術を持たぬ者に代わって、理不尽な暴虐へと立ち向かう軍人に。
護るべきものが力を持っていたとしても、それでも生きていて欲しいと思ったのなら迷うことなく身を挺してでも護る剣姫に。
「お前もいわれのある剣の類なら……」
――私も元・軍人ならば……
「人一人くらい護ってみせろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ありったけの想いをぶつけてくるアズリアにもアガートラームは応えなかった。
それでも紫電の剣姫は降り注ぐメテオを一身に受ける中、決して剣を離そうとはしなかった。
隕石雨が止んだ時、そこには誰一人立っている人間はいなかった。
襲撃者二人は初めて使う禁忌クラスの魔法に万一巻き込まれないようにと警戒し、発動と共に場を離れた。
最後の最後で軍人へと戻ってしまった女性は見るも無残な血と肉片の塊と化した。
聖剣を盾にしたことで直接隕石群に抉られることは無かったものの、受け止めるには余りにも重過ぎる質量に押しつぶされてしまったのだ。
そんな彼女が守ろうとした無法松はメテオの着弾の衝撃で発生したクレーターの底、粉々に割れたピンクの貝殻を前に項垂れ、地面に拳を叩きつる。
「これだから軍人は嫌いなんだ。あいつといいアズリアといい頑固すぎんだろぉぉぉ」
地面に突き立ったままの聖剣だけが憎たらしいほど無傷で輝いていた。
【B-7クレーター 一日目 昼】
【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]ダメージ(中)、全身に浅い切り傷、やるせない思い
[装備]壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
[思考]
基本:打倒オディオ
1:エルクに追いついて協力する。暗殺者とその協力者(ジャファル、シンシア)も追う?
2:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。
3:第三回放送の頃に、ビクトールと合流するためA-07座礁船まで戻る。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナ、ビクトール、トッシュ、アズリアの仲間について把握。ケフカ、ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
ジョウイを警戒すべきと考えています。
※以下の荷物はアズリアごとメテオに粉砕されました。
(ロンギヌス@ファイナルファンタジーVI 、源氏の小手@ファイナルファンタジーVI(やや損傷)
不明支給品1個(確認済み)、ピンクの貝殻、基本支給品一式 )
※アガートラーム@WILD ARMS 2nd IGNITIONは無傷でメテオでできたクレーターの中突き刺さっています。
【B-7 一日目 昼】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:ダメージ(中)打撲と刺し傷多々
[装備]:アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドU
[道具]:不明支給品1〜2アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
0:まずはシンシアに回復させる
1:シンシアと手を組み(前線担当)、参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
2:いずれシンシアも殺す。
3:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]:
※名簿確認済み。
※ニノ支援A時点から参戦
支援
【シンシア@ドラゴンクエストIV】
[状態]:モシャスにより外見と身体能力がエドガーと同じ
肩口に浅い切り傷。
[装備]:影縫い@FFVI、ミラクルシューズ@FFIV
[道具]:ドッペル君@クロノトリガー、かくれみの@LIVEALIVE、基本支給品一式*3 デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
[思考]
基本:ユーリル(DQ4勇者)、もしくは自身の優勝を目指す。
1:ユーリル(DQ4勇者)を探し、守る。
2:ジャファルと手を組み(支援、固定砲台、後始末担当)、ユーリル(DQ4勇者)を殺しうる力を持つもの優先に殺す
3:利用価値がなくなった場合、できるだけ消耗なくジャファルを殺す。
4:ユーリル(DQ4勇者)と残り二人になった場合、自殺。
[備考]:
※名簿を確認していませんが、ユーリル(DQ4勇者)をOPで確認しています
※参戦時期は五章で主人公をかばい死亡した直後
※モシャスの効果時間は四時間程度、どの程度離れた相手を対象に出来るかは不明。
▽
隕石の大群に打ちひしがれ、押しつぶされる中、アズリアは三つのことを想った。
一つ目は迎えに行けないままだった弟への謝罪。
二つ目はライバルでもあり友でもあった女性への頼みごと。
三つ目は炎の青年が無事であって欲しいという祈り。
アズリアは知らない。
この地にいる友と弟が、それぞれ彼女が生き抜いた世界とは別の道を辿った、或いは辿るであろう世界から呼び出されていたことに。
要するに、本当の意味でのこのアズリアの弟は殺し合いに巻き込まれることも無く、優しい先生と共に今この時も日々を過ごしているのだ。
もう二度と帰ることの無い姉をずっと、ずっと待ち続けながら。
それがアズリアにとって幸運なことか不幸なことかは彼女が死んだ今、誰にも分からない。
では、残る三つ目の願いはどうだろうか?
▽
エルクは幸運だった。
度重なる戦いでピサロは全身に傷を負い、魔力もまた底が見え始めていた。
息切れ寸前まで肺と手足を行使していたエルクに比しても体調は目に見えて悪い。
ピサロを倒すのは今この時をおいて他にはないかもしれない。
けれども同時にエルクはどこまでも運が無かった。
それだけの好条件であって尚、エルクの剣は一太刀とて届かず、炎さえ霧散するがままだった。
無造作に振り上げられたヴァイオレイターに炎の剣の刀身を弾かれ、エルクがたたらを踏む。
そこに叩き込まれるピサロの回し蹴り。
剣を跳ね上げられガードが開いたエルクは受け止めることかなわず、突き刺さった爪先に内臓を揺さぶられる。
「くっ……! うっ! まだだ、怒りの炎よ、敵を焼き払え!!」
大気が爆ぜ、赤く染まり猛り狂う。
爆発の意そのままの紅蓮の炎がピサロへと吹きすさぶ。
数刻も経たずして自らを焼くであろう炎にしかし、
「随分とちっぽけな怒りだな、笑わせる」
言葉通り冷笑さえ浮かべてピサロは呪文を紡ぐ。
マヒャド。
魔王の口にする言葉はただの一言でさえ確たる力を持つ。
次の瞬間には破裂するはずだった炎の渦は凍える吹雪に飲み込まれエネルギーを失っていた。
「くそっ、くそっ!」
軽く攻撃をいなされたことにエルクは苛立ちを隠せない。
今の一幕だけでない。
戦いが始まって以来いくつも試みた攻撃は同様にかすりさえしていない。
明らかに手を抜いている相手に対してだ。
事実、エルクが未だに息をしているのも、ピサロが魔法を控えているからに過ぎない。
ただでさえ少ない残りの魔力の温存と名簿を巻き込み消滅させてしまわないようにと考慮しているのだ。
油断とも慢心とも取れるスタンスだが、二人の間に圧倒的な実力差があるのは事実。
ここにいたのが闇黒の支配者を打倒した未来のエルクならば。
いや、そこまでいかずとも炎の精霊から真相を聞き、ガルアーノと決着をつけ、アークに対する確執を捨て去った一皮剥けた後だったのなら。
勝負は違った展開を見せていたであろうに。
「どうした、その程度か、貴様の怒りとやらは?」
エルクを見下ろす魔王の目は冷ややかだ。
煩い羽虫をめんどくさげに手で払っている。
そんな印象さえ受けたエルクは無力感を募らせていく。
またか、また俺は何も守れないのか?
ミリルも、リーザも守れず、人殺しを止めることもできないまま終わるのか?
御免だった。
守れないことも、止められないことも、逃げることももう沢山だった。
燃え滾る想いを胸に、エルクは勝ち目が薄いと分かっていながらも退くことをよしとせず大勝負に出る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
選んだのは一発逆転の特攻。
何もやぶれかぶれになったのではない。
ピサロはこれまでの戦いで満身創痍なのはエルクからも見て取れた。
加えて数度にわたり炎の剣を受け流したヨシユキの刀身もまた熱により脆くなっている。
渾身の力を込めた炎の剣の一振りならヨシユキによるガードごとピサロを両断できる。
地力に確固たる差がある現状、エルクが思いつく限りピサロに勝つにはこの手しかなかった。
「うっとおしい、そろそろ死ね」
エルクの剣が届くよりも早く、ピサロの剣が振り下ろされる。
これまでの打ち合いから剣の技量が劣っていることが身に染みていたエルクはこうなることも想定済みだ。
「そんなに名簿が欲しいのなら、くれてやる!!」
顔面に向けて飛来するデイパックにピサロの気が僅かだが逸れる。
蓋の開いた口からは視界を覆う形で中身が飛び出し、鬱陶しいことこの上なかった。
かといって名簿混じりの荷物群を魔法で一掃するわけにもいかず。
ピサロは無駄な回避行動を取るしかなくエルクに一つの呪文を唱える間を与えてしまった。
インビシブル。
其は炎の近づくもの全てを焼き尽くし拒絶する側面を形にした精霊魔法。
ありとあらゆる災厄を無効化する無敵の盾。
一滴残さず魔力を費やした無敵の盾に阻まれ、エルクを両断しようとしていたヨシユキが――止まらなかった。
「え?」
無敵なはずの盾は無残にも剥がれ落ちていた。
魔王から迸った波動が精霊の加護を凍てつかせ無に帰したのだ。
「!?」
「……終わりだ」
動揺し剣先を鈍らせた神の名も冠さないハンターを魔王が切り捨てるのはいとも容易いことだった。
どすりと鈍い音を立て、上下に寸断されたエルクの身体が地に落ちる。
その様を見届けもせず、ピサロは散らばったエルクの荷物の方へと向かう。
風体も気にせずピサロは膝をつき一心不乱に名簿を探す。
笑い種だ。
魔王デスピサロともあろうものが勇者一味にたぶらかされ、たかが紙切れ一枚を求めてかように無様な姿を晒しているのだから。
心の中で自らをそう嘲笑いながらもピサロはランタンや地図をどける手を止めようとはしなかった。
そんなピサロを嘲笑うかのように。
ようやっとの想いで拾い上げ目を通そうとした名簿はそこに記載された名前を伝える前に灰となって大気に消えた。
しえん
「な、に?」
炎。
そう、炎だ。
炎と呼ぶのも憚られる火の粉が飛んできて名簿を裾から燃やしたのだ。
誰がやったのかは問うまでもない。
「へっ、ざまあみろ……」
ピサロの事情を露とも知らず。
文字通り死力を尽くして一矢報いたエルクは地べたに転がるがまま笑っていた。
「きさまああああああああああああ!」
魔力の消耗を抑えることも忘れ、死に体の相手にピサロは怒りのままに地獄の雷を迸らせる。
防ぐ手立てがあるはずもなく黒き極光に蝕まれる中エルクの脳裏をいくつもの情景が浮かんでは消えていく。
ピュルカ村が襲われるまでの両親達との平和な日々。
白い家でジーンやミリルと交わした約束。
シュウに拾われハンターとして生きてきたかいくぐって来た数々の依頼。
リーザと互いの過去を語り合ったヤゴス島での夜。
走馬灯の端々に現れる大切な人たちにエルクは謝っていく。
すまねえ、ごめんなと。
結局アークやガルアーノ、リーザの敵と誰一人討てなかったのが悔しかった。
「ちくしょう……」
これだけは離すもんかと炎の剣を手にしたまま、涙さえ流す間もなくエルクは炭化し崩れ去る。
最後に浮かんだのは置いてきてしまった知り合ったばかりの誰かの顔だった。
【エルク@アークザラッドU 死亡】
【B-6 森林 一日目 午前】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。激怒
疲労(大)人間に対する憎悪、自身に対する苛立ち
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:ロザリーの捜索。
2:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※名簿は確認していません。ロザリーが生きている可能性を認識しました。
※参戦時期は5章最終決戦直後
※エルクの死体と炎の剣@アークザラッドUは消滅しました。
※データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION 、オディ・オブライトの不明支給品0〜1個(確認済み)、
基本支給品一式(名簿焼失)がピサロのそばに転がっています。
投下終了。
タイトルは 『奔る紫電の行方、燃える炎の宿命(さだめ)』です。
支援してくださった方、ありがとうございます。
申し訳ありません。
アズリアの死亡表記が抜けていました。
松の状態表の前に
【アズリア@サモンナイト3 死亡】
を収録時に追加しておきます
投下乙!
ま、まさかこう来るとは。
エルクまわりは没ばっかりで難関でしたが、見事全然違う話しに仕上がってて面白かったです。ピサロはそりゃぶちきれるわw
投下乙です。
なるほど、ピサロはとりあえずマーダー継続か。
アズリア姐さんは紫電絶華完全修得ならずだったか……惜しい人を亡くした
しかし松よ、お前さん女に守ってもらってばかりだなw
いつか昭和の男の意地を見せられる日が来てほしいものだw
自分の命かけてまで女子供を守ろうとしたやつが逆に守られてばかりというのはすごく無念だろうなあ
保守ー
遅くなったけど投下乙! アズ姉さあああああああああん!
これは報われない話……。でも不意にこういう展開がやってくるのがパロロワの魅力って感じ。
アズリアの軍人としての生き様が悲しくもカッコいい。不器用な彼女らしい最期だった。
エルクパートはとにかく切ない。足掻いて足掻いてそれでも……って展開がまた上手く演出されてて悲しい。
ゲーム間の設定の差を上手く利用していて見ていて飽きないですね。
特にインビジブルを無力化されるところなんかはまさにそれだね。原作では発動したら勝ちゲーだからな、アレw
この難しい展開を圧倒的な説得力をもって書ききったのは見事、GJ!!!
しかしマーダーやばいw メテオまで登場して対主催無理ゲーもいいところだろw
そういえば、今更だけどピサロの時間表記が『午前』になっていますが、変え忘れとかではないでしょうか?
メテオは勿論、全体的にFF6の魔法は燃費が悪いから、シンシアじゃMP満タンでも2発ぐらいが限界だろうな。
まあアスピルをエドガーが修得してたらシンシア無双になりそうだがw
指摘ありがとうございます。
ピサロの状態表の時間表記を【昼】に修正しました。
また、シンシアの状態表に【魔力残量少】を追加しました。
エドガーがアスピル覚えてても問題ないだろうさ
モシャスの効果が切れたらメテオも使えなくなるし
放送後には切れてるんだよなー
昼組みも増えてきたがもうちょい先だな
予約来てるー!
では投下します
たぶん支援はいらないと思いますので
勇者とはいかなるものを持ってして勇者と呼ばれるか?
少なくとも、自称するだけでは認められない。
それに見合ったものが必要だと、ユーリルは考えていた。
何故なら、『自称勇者』などは、掃いて捨てるほどいたのだから。
ちょっとでも他人より腕っ節が強くて、ちょっとだけ他人に優しくすれば、勇者なんて名乗り放題だ。
勇者の持つネームバリューに目がくらみ、勇者を名乗って甘い汁を吸う連中なんてのをユーリルはいくつも目にしてきた。
だから、彼は勇者であろうと、誰よりも努力してきた。
勇者は誰よりも強くあらねばならない。
魔王に正義の一太刀を浴びせる存在が、ひ弱な人間では話にならないから。
毎日の血のにじむような努力の果てに、彼は勇者と自ら名乗るのにふさわしき強さを手にいれた。
勇者は誰よりも勇気あるものでなければならない。
勇者とは、文字通り勇ましき者――勇気の体現者。
戦場では、誰よりも早く魔物の軍団に突撃して、皆を鼓舞しなければならないのだ。
皆を率いるリーダーが後方でふんぞり返って偉そうにしているだけでは、誰もついてこないから。
だから、アリーナやライアンとはいつも競って、魔物を倒す数を争っていた。
勇者は誰もやりたくないことを率先してやらなければならない。
仲間の首をねじ切って首輪を取るなんて誰だってやりたくはない。
ザオリクやザオラルが使えるようになれば、トルネコだって生きることができたかもしれない。
でも、首輪を外すには、首輪の構造を知らないといけない。
首輪の構造を知るためには、首輪がないといけない。
生きた人間の首輪で構造を調べるのは無理だ。
なら、死んだ人間でないといけない。
誰かの大切な人の首を折るのはできない。
ならば、勇者である自分の大切な人の首を使うしかないと考えた。
ネネやポポロには自分が謝らないといけないが。
勇者は泣いてはいけない。
弱気なところを見せては、士気に関わる。
人々が、民衆が望んでいるのは泣いている勇者ではなく、強くて笑顔を振りまく勇者だから。
勇者とは、勇者たるもの、勇者であるからには……。
そうして、いくつもの困難を乗り越え、勇者になる努力を続けたユーリルは、これ以上ないくらい完璧な勇者になった。
強く、優しく、おごりに耽ることもなく、酒も飲まず、女に見向きもせず。
だがしかし、そこにいたのはもはやユーリルという個性はなく、勇者という仮面を被った人間でしかなかった。
強迫観念めいたものがユーリルを突き動かした結果、彼は確かに世界を救ったのだ。
それでよかった、それでよかったはずなのだ。
何も知らなければ、彼の心は苦しむことはなかった。
剣の聖女に会わなければ、彼は己の存在意義を問うこともなかったのだ。
でも、出会ってしまった剣の聖女の言葉が、ユーリルに何時までも問いかける。
クロノとマッシュが唱えた誰でもお手軽に覚えられるサンダラが、ユーリルの拠り所を木っ端微塵に打ち砕く。
もはや、そこにいたのは勇者などではなく、単なる一人の人間。
剣を振ることさえ怖かった、無力な少年の姿だった。
なんだ、みんな強くて勇気ある人ばかりじゃないか。
なりたくもないのに勇者になった僕なんか、全然必要ないじゃないか。
アナスタシアの言葉に、未だ答えの一つも見出せない僕なんかお呼びじゃないんだ。
さっきからクロノが何か言ってるけど聞こえやしない。
僕はさっき見つけた適当な民家のベッドに腰掛けて、教会でクロノたちを待っていたときのように何をする訳でもなくそこにいた。
しばらく、クロノは何か言っていた様だけど、気づかないうちにどこかへ行っていた。
もう、何もかもがどうでもいい。
オディオに言われた殺し合いも、止めを刺したはずのピサロが生きていたことも、シンシアやロザリーが生きていたことも全てがだ。
ここには強くてたくましい人がいっぱいいる。
僕が頑張らなくてもいいんだ。
ここで僕が得意げにライデインを披露しても、クロノやマッシュには笑われるだけ。
勇者など自称しても、その称号に意味などないことを剣の聖女との会話で思い知った。
ここでは、僕は特別でもなんでもない。
ライデインが初めて使えたとき、僕も僕の仲間も心の底から喜んだ。
仲間も惜しみない祝福をしてくれ、ようやく名実共に本物の勇者であると認められたんだ。
でも、ここではライデインを使えてもなんにもならない。
勇者だけが使える特権だと思っていたのは、実は特権でもなんでもなかった。
すごいね、みんな本当にすごいよ。
みんな戦う理由がちゃんと分かってて、それに見合った強さを持っているんだから。
本当の僕は全然強くなんかない。
魔物を戦うとき、本当はすごく怖かった。
次の瞬間には大きな顎が開かれ、魔物の鋭い爪や牙が僕の体を蹂躙するかもと思ったら気が気でなかった。
魔物が舌なめずりをして、涎を垂らすのを見ただけで僕は逃げたくなる衝動に駆られた。
いや、それだけじゃない。
僕はそもそも、剣を持つことさえ怖かったんだ。
でも、僕しかいないのだから、そう自分に言い聞かせて、なんとか戦うことができた。
魔物を倒し終わったとき、いつも余裕の表情だったけど、本当は今すぐにでも怖さで泣き出しそうだったんだ。
人々は、僕のことを勇者様と呼んでおだてれば、僕が勝手に魔王を倒してくれると思ってたのだろうか?
だとしたら、僕はとんでもない道化だ。
そんな道化でも世界を救ったのだから、少しは皆の役に立ったのか。
でも、誰も僕の苦しみを知らない、知ろうともしない。
そのことに、僕は怒りを覚えている。
なんで、僕だけがこんな苦しい思いをしなければならないんだ。
なんで、みんなで世界を守るために立ち上がらなかったんだ。
なんで、勇者なんてものが存在するんだ。
……もう終わってしまったことだ。
世界は救われ、そんな僕の叫びももはや意味を成さない。
言っても詮無きことなのだ。
勇者に全てを押し付けていただけだと、人々を責めても意味はないのだ。
そう、僕は頑張った。
頑張って頑張って頑張って、世界を守り抜いた。
勇者なんて、なりたくもないのになって頑張ったよ。
ここにはマッシュがいる。
クロノも高原も、その他出会ったことのない人たちも話を聞く限り強くていい人たちばかりだ。
僕が戦わなくても、皆が戦ってくれる。
僕が助けなくても、ロザリーやシンシアのようなか弱き人たちも助けてくれる。
僕がやらなくても、オディオは誰かが倒してくれる。
だったら、もう僕は必要ない。
そう、勇者である僕なんかいらないんだ。
僕よりも勇者らしい人はたくさんいる。
僕は、勇者になんてなりたくなかったんだ。
だったら――
勇者なんて、やめてやる。
【D-1港町東部にある民家 一日目 昼】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(小)。『勇者』という拠り所を見失っており、精神的に追い詰められている。
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@ファイナルファンタジーVI
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:何もする気が起きない。
1:勇者をやめる
2:何もかもどうでもいい
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※勇者をやめてどうするかは任せます。
【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:健康
[装備]:サンダーブレード@FFY
鯛焼きセット(鯛焼き*1、バナナクレープ×1)@LIVEALIVE、
魔石ギルガメッシュ@ファイナルファンタジーVI
[道具]:モップ@クロノ・トリガー、基本支給品一式×2(名簿確認済み、ランタンのみ一つ) 、トルネコの首輪
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ユーリルが心配。 ユーリルと情報交換がしたいのだが……。
2:打倒オディオのため仲間を探す(首輪の件でルッカ、エドガー優先、ロザリーは発見次第保護)。
3:魔王については保留 。
[備考]:
※自分とユーリル、高原、マッシュ、イスラの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期はクリア後。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。その力と世界樹の花を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※少なくともマッシュとの連携でハヤブサ斬りが可能になりました。
この話におけるぶつかり合いで日勝、マッシュと他の連携も開拓しているかもしれません。
お任せします。 また、魔石ギルガメッシュによる魔法習得の可能性も?
「固くて太い肌色の棒を使って、白いものを遠くに飛ばすんだよ!」
とまぁユーリルがこんな苦悩を心の中で展開してる一方で、こんな展開もある訳で。
マッシュ・レネ・フィガロにとって、高原日勝が言ったその一言は青天の霹靂にも等しかった。
ピシッと周囲の空気が、あたかもブリザドでも放ったかのように凍りつき、マッシュはしばし返事に窮する。
というか、そもそも返事したくない。
(……落ち着け、落ち着くんだ俺。 まず俺はマッシュ・レネ・フィガロ。
そして目の前のこいつは高原日勝。 オーケー、ここまでは問題ない)
マッシュが脳内で深呼吸を済ませ、状況の確認をしてしまう。
まず自分の名前の確認からしてしまうあたり、マッシュの動揺っぷりも推して知ることができるといえよう。
それほどまでに高原の言った一言は強烈だったのだ。
さらに、マッシュはそもそもどうしてこういう会話が飛び出してきたのか思い出すことにした。
(クロノとユーリルとはとりあえず、オディオの奴が死者の発表をするまで待つって決めたんだ)
クロノとユーリルとは、結局オディオによる二回目の死者の発表があるまで行動を共にすることにした。
チームを分割すること自体は高原もマッシュも反対ではない。
分割自体は発表の後にすればいいという考えたからだ。
理由はいくつかある。
まず、これはかなり特殊な事態だが、オディオによって高原たち四人以外のすべての人間の死者が発表された場合。
その場合はもう、仲間を集めるための分割が意味をなさなくなる。
二つ目に、これはかなり現実的な理由。
分割をする前に、近くにある港町の探索をしたかったというのがある。
発表までもう少し時間があったので、探索にちょうどいい時間だったのだ。
といっても、ユーリルは気分がすぐれないらしく、クロノと残って留守番をしている。
船があるかどうか、また、生存者の発見をかねた調査隊には高原とマッシュが選ばれた。
マッシュはユーリルの様子がおかしいことに気づいていたが、クロノに任せて、高原と一緒に行くことにしたのだ。
高原がユーリルの異常に気づいていたかはマッシュの視点からでは分からない。
(んで、時間も丁度いい感じに空いてたから、今いる場所から近い港町に俺と高原で探索に来て、それからそれから……)
港町の船着き場に足を踏み入れていた高原とマッシュ。
塩分を含んだ潮風が優しく二人を迎え入れる。
二人の眼に、はるか遠くにある水平線と水面に映った太陽が飛び込んでくる。
しかし、港町という名前ではあるものの、港町の象徴ともいえる船着き場には寂しさすら漂っていた。
なにしろ、船着き場にあるべき船が探しても探しても一艘もないのだ。
これは、船を使って海上に逃げるという方法を取らせないための、オディオの仕業だろうというのは二人にも容易に考えがついた。
この島から脱出することは不可能でも、ある程度陸から離れた場所まで船でいけば、襲撃を受ける可能性は格段に減るからだ。
とはいえ、二人はあまり落胆はしていない。
船が見つかるかも、というのはあくまでも希望的観測に過ぎなかったからだ。
高性能なナイスなボートどころか、粗末な手漕ぎの舟でも見つかれば儲けもの。
その程度の願望しか抱いてない。
むしろ、今回の探索の本命は船よりも、誰かに会うことができないかという望みだ。
(まあ船がないのは予想通りだったんだが……さすがに誰一人会えないと気が滅入るよなぁって高原と話してて)
しかし、彼らの努力も空しく、成果はまったくのなしに終わった。
船着場以外にも、さらにいくつも民家や怪しい場所の探索を進めたが、誰にも会うことなかったのだ。
生存者の発見には至らずついにクロノたちとの約束の時間が迫り、道を引き返さないといけなくなった。
(んで、高原が言いやがったんだ)
早くたくさんの人に会って、オディオを倒したいなと。
うん、まあ当然の思考だろうとマッシュも思った。
そのために多くの人間に会いたいというのはも分かる。
高原は未だ見ぬ格闘家との力比べ、技比べもしてみたかった様子だが、それに関してはマッシュにしても否定はできない。
高原ほどではないにせよ、やはりマッシュにも己より強いかも知れぬ格闘家を前にして、ボーっと突っ立っている趣味はない。
この辺はもう、最強を目指す格闘家のサガだ。
問題は、その後の高原の発言。
(集まった仲間たち大人数で何かやりたいな、だったか……)
自分は皆を信じることができるが、皆が自分やその他の人間を信じきれるとは限らない。
初対面の人間が不和や不信の種を抱えたまま、オディオに勝つことは難しいだろう。
そのために、大勢の人間で何かをなして、友情を深め合うの一つの手だろう。
同じ釜の飯を食べれば、自然と仲間意識は高められる。
同じように、何か一つのことを全員でやり遂げれば何をかいわんや、である。
マッシュも、こいつにしては気が利いたこと思いつくなと思ったものだ。
(俺がじゃあ何をやりたい?って聞いたら、ヤキュウしようぜ!って答えた)
野球。ベースボール。
高原のいる世界では割とメジャーなスポーツだが、マッシュには聞いたこともない言葉だった。
無論、マッシュにはどういうルールでやる遊びなのか疑問が発生したので聞いてみたのだ。
そして、返ってきた返事があれである。
「固くて太い肌色の棒を使って、白いものを遠くに飛ばすんだよ!」
ちなみに、高原のこの発言を受けて、マッシュがここまで思い出すのにかかった時間は1.5秒。
生死のかかった修羅場を幾多も潜り抜けただけあって、驚異的な速度である。
(固くて太い肌色の棒を使って白いものって……なぁ……)
マッシュももう20台後半、さすがに10台前半の目覚めたばかりの若者のように飢えている訳ではないが、その説明だけを聞くととてもアレでナニな意味を想像してしまう。
念のために注意しておくが、マッシュの想像力が逞しいのではない。
野球やろうぜ!と言い出したものの、どういうルールか説明するにあたって、上手く言語化できなかった高原に非があるのだ。
当の高原本人は、自分がそんなアウトな発言をしたことに全く気づいてないが。
「ちょ、ちょっと待ってくれ高原。 それは女もできるのか?」
開いた手のひらを高原の前に出し、ちょっと待ったのジェスチャーをする。
もう片方の手は自分の頭に置いて、念のために自分に誤解がないか考えてみる。
状況が状況だ。
顔色一つ変えずに言った高原がふざけたことを言ってる可能性はない。
ならば、どこかにきっと誤解があったのだろうと、マッシュはできるだけ前向きに解釈する。
「ああ、できるぜ。 大体男がやるもんだけど、女だってできないことはないし」
「……タマは使うのか?」
「? ああ、球がないとそもそも飛ばせないからな」
「そりゃあな……タマがないとな……」
「あと、9人同士のチーム戦だから最低18人は集めたいよなぁ」
「な、なぁ……攻めとか受けってやっぱりあるのか?」
「あるぜ。 交互に9回やる。 マッシュもやらないか? きっと楽しいぜ」
「きゅ、9回も!? …………い、いや……俺体力ないから止めとくわ」
「あぁん? だらしねぇな、そんないい体してる癖に。 男は度胸、何でもやってみるもんだろ」
高原自身もあまり野球の経験がないため、男は度胸と言ってみたのだが、完全に逆効果に働いたようだ。
ハハハ、と乾いた笑みをマッシュが浮かべて、高原から一歩離れた。
誤解が誤解を呼ぶ誤解スパイラルがここに完成。
大体男がやるもん、太くて固い棒とタマを使って白いものを、攻めと受けを交互に……そんな情報がマッシュの頭の中にグルグルと回っていく。
マッシュの頭の中で、ヤキュウというスポーツがとてつもなくおぞましい何かへと進化していく。
そもそも、タマを使って白いものを飛ばすのではなく、白い球を遠くに飛ばすのだ。
また、攻めと受けではなく攻撃と守備の間違い。
なんらやましいところはないごく普通のゲームなのだが、神がかり的な聞き間違えをしてしまったマッシュの誤解を解くものはいない。
(あ、アニキが言ってたよな。 金持ちとかの中には異性とするのに飽きて同性とする奴がいるとか。 アニキは狂気の沙汰だとか吐き捨てるように言ってたけど……)
そういう行為があるのはマッシュも知っていたが、まさか高原の世界では一般的な行為として認知されているとは。
お互いの住む世界の間に、こうも文化風俗の隔たりがあるものかと、異文化コミュニケーションの難しさをマッシュは垣間見た。
もはやマッシュの中で、ヤキュウというスポーツはこんなルールになり果てていた。
屈強の男たちが固くて太い肌色の棒を手で握りしめ力強く速く振り、白いものを飛ばすゲーム。
しかも、それを9回にもわたって交互に攻めと受けをするのだ。
(いかん、危ない危ない危ない……)
ガチムチでウホッな雄野郎共が裸で己の肉体を熱くぶつけ合う光景を想像して、さらにマッシュは高原から一歩離れた。
ちなみに高原は裸という単語は一切使ってない。
これもまたマッシュの脳内が勝手に想像した単語だ。
殺れんのか?と聞かれたら殺れますよと答える覚悟はマッシュにあるが、ヤれんのか?と聞かれるとヤりたくない。
そもそも、そんな覚悟一生したくない。
「やってみたら楽しいと思うんだけどなぁ……」
楽しい訳ないだろ、常識的に考えて……。
尻がムズムズするのを感じながら、マッシュと高原はユーリルたちの元へ戻っていった。
絶対、ヤキュウなんてやらねぇからな!
帰路に着く間、マッシュの脳内をひたすらその言葉を反芻していたのであった、まる。
【D-1港町中央部 一日目 昼】
【高原日勝@LIVE A LIVE】
[状態]:全身にダメージ(小)、背中に裂傷(やや回復)
[装備]:なし
[道具]:死神のカード@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:ゲームには乗らないが、真の「最強」になる。
1:クロノ達の待っている家へ戻り、チームを分割する
2:武術の心得がある者とは戦ってみたい
[備考]:
※マッシュ、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済。
※ばくれつけん、オーラキャノン、レイの技(旋牙連山拳以外)を習得。
夢幻闘舞をその身に受けましたが、今すぐ使えるかは不明。(お任せ)
※ユーリルの装備している最強バンテージには気付いていません。
【マッシュ・レネ・フィガロ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:全身にダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:スーパーファミコンのアダプタ@現実、ミラクルショット@クロノトリガー、表裏一体のコイン@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:クロノ達の待っている家へ戻り、チームを分割する
2:首輪を何とかするため、機械に詳しそうなエドガー、ルッカを最優先に仲間を探す。
3:高原に技を習得させる。
4:ケフカを倒す。
[備考]:
※高原、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期はクリア後。
投下終了です。
タイトルは 勇者? そんなことより野球しようぜ! でお願いします。
誤字脱字そのほか矛盾点ありましたらご指摘お願いします
後半部分悪乗りしすぎだろう……キャラのイメージじゃない……
全部読んだけど、確かに後半はキャラ崩壊しすぎ。
マッシュでウホネタをやりたかったんだろうけど、正直おかしい。2chのネタに毒されてるとしか思えない。
しかもそれを抜きにしても話が殆ど進行してない時点でどうよと思うわ。
せめてユーリルパートの最後に、自暴自棄になったユーリルが黙ってパーティから離れるくらいの
展開があればまだいいところ。
これはイスラの豚発言以来の改悪を感じる。
投下乙!
前半ユーリルの心情がひしひしと伝わってくるぜ…
今まで被ってた勇者の仮面が剥がれ落ちていく様は見事
物悲しいな、最後の独白が
後半、なにやってんだあんたはー!www
ちょ、はらいてえwww
さて個人的な意見ですが。
後半部はやっているキャラの片割れが日勝なだけに特に気にはなりませんでした。
が、
>>289氏のように思われる方や、また描写内容に引く方がいるのも不思議ではないかと。
ここはもう少しマイルドにするというかマッシュが思っていることの具体性を減らして曖昧にし、
日勝の発言を誤解してなんだか大混乱! って位に抑えれば適度なギャグになるかと
さる規制解除されてるかな
ご指摘ありがとうございます。
ではマッシュの描写を抑える方向で、あとはメタ発言も削りますね。
不愉快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした
修正を待つので感想は後にするとして、とりあえず
>>290の
>しかもそれを抜きにしても話が殆ど進行してない時点でどうよと思うわ。
はなんか違う気するんだけど
話が進行してないとダメなんてルールはないしな
最悪時間だけでも進めておく方法否定されたらやってられんわ
心情重視のつなぎはキャラの掘り下げになるし、後々の展開に大きなブースト効果をかける大事なもんだしね
ロワで書いたことがある人なら分かるだろうけど、展開の進行をわざと抑えて時間だけを経過させる話は確実に必要となってくる。
しかも、そういう話を面白く書くのは、かなり難しい。
今回の話はその点で素晴らしかったと思う。ただ、人を選ぶネタだったってことだね。
漫画やアニメ、ラノベと違って、RPG(特に昔のもの)はキャラクターが多く語らないから、どうしてもその性格解釈に個人差が出てきてしまうんだよなあ。
個人的にはギャグ時空とかも加味して普通に楽しめた。詳しい感想は修正後に。
これは解釈の個人差とか言うレベルじゃなく作者が悪乗りして滑っただけだろう
メタネタやパロディは、注意しないと滑るどころか叩かれるからお勧めしない。
他ロワでも時々KOOLになれとかのくだりをよく見かけるけど、正直冷めるし
キャラ崩壊するだけでいい事ないと思う。
腹がよじれるくらい笑った俺が悲しくなってきた
まあここは散々エルク関係のあの人がやらかしたからちょっとぎすぎすしてるんだよ
笑ったことは悪くは無いことだし気にするな、299
メタ、パロディに関してここは過敏になってる印象はあるな
それを差し引いても賛否両論ここまで分かれるのは珍しいというか面白いというかw
や、俺は好きだよ。でも嫌う人の意見も分かる
どちらにせよやっていいラインの見極めは慎重にね
修正版をしたらばの仮投下スレに投下終了しました。
修正したのはユーリルの参戦時期を間違えていた部分
メタ描写、パロ発言の削除、マッシュ側の描写の削減および細かい部分の修正です
まだ問題あるところありましたら指摘願います
お騒がせして申し訳ありませんでした。
乙です。ギャグの破壊力はパロディ等がなくなって減ったのは残念ですがこれでよろしいかと思います
修正乙です
そして予約もまた一つ!
◆jU59Fli6bM氏、「メイジーメガザル」で状態表では
A-5 村
となってますが、地図を見る限り村があるのはA-6ではないのかという指摘が入ってますよ
ついでに、現在はリンディスが拡声器持ってるのに、備考の
※拡声器はなんてことのない普通の拡声器です
がアキラの状態表にあります
もっとも、この備考はもう消してもいいかと思いますが
修正する暇がなければこちらの方で修正しておきますのでお返事願います
見落としていてすみません
備考欄と一緒に修正しました。指摘ありがとうございました
修正お疲れ様です
今日はうまくいけば投下2つあるし支援準備しながら待つとしようか
アティ先生に死相が出てるな。
えーと、期限ぎりぎりですいません。
内容に割と問題ありかもなので、仮投下の方に落としたいと思いますー。
仮投下終了しました。
誤字、指摘、ご意見等お願いします。
しまったorz
フィガロ城は大絶賛移動中でしたね、どこか移動後地点を変更します。
まず◆SERENA/7psさん、遅くなったけど修正乙!
ユーリルの心理描写がエグいw 彼の独白だけで構成された前半部の破壊力は凄まじい。
いままでに撒かれたフラグを圧倒的な説得力で繋いで纏めていて、最後の一言は鳥肌が立った。
んで、後半。馬鹿2人が実に馬鹿だなw死ぬほど笑ったw
同じ脳筋のはずのマッシュをツッコミに回すとは……知力25恐るべしw
ロワ内で変わり始めたユーリルと、ロワでも相変わらずな筋肉2人の空気の違いがまたお互いを引き立たせる、GJ!!
◆xFiaj.i0MEさん仮投下乙。
別にワープの設定は問題ないと思います。
フィガロ城の移動の件とは別に、指摘を1つ。
地下の城を始めとした地下施設は、地図には載っていないはずです。
投下お疲れ様です
自分は氏が気づかれたフィガロ城のことが気になっただけで後は問題ないかと思います
ロザリーとあの姫さんが出会ったらどうなるのやらw
まぁアキラいないと意味ないんだがw
自分も指摘された以外で特に問題はないかと。
色々使い道もありそうですし
すいません他にもあるかもしれませんが誤字の指摘を一つ
仮投下スレ
>>400でロザリーの名前がピヨリーになってる部分があります
感想、指摘ありがとうございます。
ゲートの移動先に関しては、教会に変更を考えておりますが、時間的にそこにいては問題があるといったことは大丈夫でしょうか?
自分としては体調の悪いロザリーを置いて遠出するとは思いにくいので、時間的にマッシュらと接触していないとおかしい、という事は無いと思うのですが、ご意見お願いします。
たぶん問題ないかと思いますよ〜
教会の周り誰も来ないし難しそうって気もするけど…
まあ、問題ないと思いますよ
教会で特に問題はないですよ。
でも、「心の行く先」ってタイトルの話、前になかったっけ?
「心の行き着く先」だね。前あったのは
その話もマリアベル達が出てることと、心のダンジョンが今回出てるから意図的にそういうタイトルにしたのならアリじゃね?
遅れてすみません、投下いたします。
どこまで走っても彼女はついてくる。
気にもたれかかっても、草に足をとられて転んでも。
背後に、足元に、眼前に。
太陽の光が当たることはない彼女がそこにいる。
彼女も私であり、私も彼女である。
そして私も彼女も、アティである。
じゃあ、私であることを証明するにはどうすれば良いのだろう?
アティという名前や容姿。それらはただの容器でしかなく。
傍から見れば私も彼女もなんら差はないのだ。
私と彼女。両方を知る人ならが見れば中身の区別がつくかもしれない。
先ほどの見知らぬ剣士のようにアティの言動が異常なら見抜けるかもしれない。
私と、彼女の間に決定的に違うものがそこにあるからだ。
if.
彼女がただ暴れるだけではなく、ごく普通に私のように振舞うことが出来たなら?
狂気を内側に秘めつつ私として過ごすことが出来るとすれば。
実は既に彼女が私として振舞っているなら――――――
とにかく、今は誰にも会いたくなかった。
今アティという入れ物に入っているのが彼女だったなら、また誰かを傷つけてしまう。
どこでもいい、誰一人として人がいない。ひっそりと過ごせる場所へ。
…………ああ、じゃあ「私」って何だろう?
ふと、そんな疑問が浮かんだときだった。
視界にぼんやりと黒い人影が映り、ゆっくりと振り向いてアティと向き合う。
気がつけばそこに立ち止まっていた。目に映る全てがスローモーションになる。
じわり、じわり。黒い人影を中心に視界が黒く染まっていく。
やがて視界全てが真っ黒に染まったとき、人型の口と思わしき場所が動く。
「ねえ」
全身が跳ね上がる。
「その体を」
目を閉じ、両手で耳を塞いだ。
「ちょうだい」
喉が潰れるほど、空気を引き裂くほどの大声で叫んだ。
「いやあああアアアアアァァァァァァッッ!!!」
人の気配を感じ取り、振向いたセッツァーを出迎えたのは叫び声。
そこにいたのは目を閉じ耳を塞ぎ蹲りながら叫ぶ女性。
突然の事態に思わず一歩退いてしまう。
女性が、ゆっくりと目を開く。
セッツァーの顔をまっすぐに捉え、一歩ずつ退こうとする。
が、何らかの理由でその足は動くことはなかった。
「い、いや……来ないで!」
怯えきった目と声で女性はセッツァーに訴える。
セッツァーは戦闘の態勢を解き、女性に話しかける。
「お、おい待ってくれ。何もアンタを取って食ったりなんて――――」
「違う!」
セッツァーの弁明が一喝される。
一瞬の気迫にもう一歩退いてしまった。
どうにも様子がおかしい。セッツァーは目の前の女性に違和感を感じずにいられなかった。
「早く、早く……早くどこかへ行って下さい!」
「……納得できないな、だったらなんでアンタが逃げない?」
セッツァーはふと浮かんだ疑問を女性にぶつけた。
理由はセッツァーだ。
アティの目に映るセッツァーが小刻みにもう一人の誰かへと姿を変えていく。
セッツァー、誰か、セッツァー、誰かと。
その誰かがアティの両足にに釘を刺したようにその場へと縛り付けているのだ。
ならば視界にセッツァーが入らなければいい。
身を翻しその場から逃げれば良かったのだが、セッツァーが視界に入らない真後ろに進んでいくのも抵抗があった。
先ほど自分を救ってくれた剣士がいるからだ。
いまはあの剣士に顔を合わせたくない。
彼女が動けないのは、そういうことだ。
しかしその理由が語られることは……無かったのだが。
「じゃあ質問を変えるか。どうして俺は逃げなくちゃいけない?
いかにも無害そうなただ泣いてうろたえてる女性から俺はどうして逃げなくちゃいけない?」
一瞬だけ流れる沈黙を打ち破ったのは女性。
「貴方を、あなたを傷つけたくないんです。私が、私の知らない私になったらあなたを傷つけることになる。
だから……私が変わってしまう前にあなたに逃げてほしいんです」
迫りくるかもしれない危機を伝えるために女性は口を開く。
目の前にいる人物を、傷つけないために。
「じゃあ、死ねよ」
一瞬目の前の人物が何を言っているのかわからなかった。
全く予想できない言葉、理解することもできない言葉が飛び出した。
「傷つけたくない? だから逃げてくれ? もう一人の自分が何をするかわからない? 全部アンタがやってることじゃないのか?」
止まらない、セッツァーの口は止まらない。
「傷つけたくないと思うならその原因を断てばいい、その原因がわかってるんだろ?
ならどうしてそれが出来ないんだよ!? あんたがウダウダやってるうちに誰か傷つくんだろうが!
傷つけたくない傷つけたくないと言っててもあんたがやってることは誰かを傷つけるかもしれねえんだ!」
セッツァーの言葉が、槍のように深く突き刺さる。
「仮にだ、あんたが生きたいとしても。誰かを傷つけるかもしれないリスクを乗り越えてまで成し遂げる何かがあんのか?!
危険性を理解した上で何かを成し遂げる覚悟があんのか?! なぁ?! どうなんだよ!!」
怒号。
そうともとれるセッツァーの言葉が終わる。
ゆっくりと、ゆっくりと女性が足から崩れ落ちる。
「私は……私は、私は! 私は!」
再び耳を塞ぐ、歯を鳴らしながらその場に座り込む。
「違う、そうじゃない。私は、違うの! 私は!」
崩れる。何かが音を立てて。
「あ……あ、うああああああああああああァァァァッ!!」
「俺はセッツァー、セッツァー=ギャッビアーニ」
槍を握り締め、女性へ近づく。
「一度はアンタのように何の目的もなく生きている人間だった」
目が濁り、全身の力が抜けている女性へと近づく。
「だが、今の俺は違う。俺は夢を取り戻すために今はやるべきことがある!」
届かない、その言葉は届かないと分かっている。
「そのための覚悟もした、リスクや代償なんざ承知の上だ……」
そして、ゆっくりと槍を振りかざす。
「はっきりとやることもない、自分が誰かもわからなくなるような今のアンタは死人同然だ」
鋼鉄の甲冑すら貫く槍が、背中から女性の心臓を貫く。
「俺はしっかり止めを刺させてもらう」
血が吐き出される音を聞いた後、セッツァーは無言で槍を引き抜きその場を立ち去る。
何かが倒れたような音にも決して振向かない。死人をちゃんと死人にしただけである。
躊躇うことは、ない。
「悪いな、俺はアンタみたいな傲慢なヤツじゃないんでね」
【D-7 一日目 昼】
【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:若干の酔い
[装備]:つらぬきのやり@ファイアーエムブレム 烈火の剣、シルバーカード@ファイアーエムブレム 烈火の剣、
シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:アティの答えを待つ。今のところは殺すつもり。
2:扱いなれたナイフ類やカードが出来れば欲しい
3:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレーと情報交換をしました。
暗黒。
先ほどよりも一層深みを増した黒の中で彼女は目を覚ました。
ここはどこなのだろう? 一体自分はどうなったのだろう?
そんなことを考える余裕などあるはずもなかった。
「あああアアアアアアアぁぁぁぁァァァァァ!!!!」
闇の中で見たソレ。
ソレは死後の彼女さえも襲っている。
彼女は誰も聞こえない場所で、一人叫び続ける。
「ソレ」に、見つめられながら。
【アティ@サモンナイト3 死亡】
投下終了です。
何かあればお願いします。
あと、セッツァーの状態欄ですが。
【D-7 一日目 昼】
ではなく
【D-6北東部 一日目 昼】
でお願いします。
思考欄は以下の通りでお願いします。
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:扱いなれたナイフ類やカードが出来れば欲しい
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレーと情報交換をしました。
あと、今後は子の書き込みのトリップで行くことになりそうです。
専用ブラウザの都合上とか12文字トリップの都合上での変更です。
お手数をおかけいたします。
>>329 おお、投下乙です。
アティ先生……最期の最期まで悲惨な……。
セッツアーのいう事もある意味では正解なのが悲しいところか。
さて、ニノ、ロザリー、マリアベルの修正したものを本投下しますー。
よろしければご支援お願いしますー。
『心の行く先』
四とは、最小の合成数である。
素数である2と3、素数ですら無い0と1の次に来る、最初の数。
無でしかないゼロ。
点としてのみの一次元。
平面として存在する二次元。
厚みを持ち、生命の存在する三次元。
では、四次元とは?
縦横高さの他に、『時間』を加えた概念とされる事もある。
四次元存在とは、時間をも超越した存在であると。
ただ、いずれにしろソレを証明する手段は無い。
二次元を俯瞰するのは三次元の存在であるように。
四次元の存在を知るのは、それ以上の次元を知る者のみだろう。
別に、大して意味のある話ではない。
ただ、『四』ならばたどり着けただろう、という話。
推測でも理論でもなく、唯の事実。
舞台の中の存在には知りえずとも、舞台を俯瞰する位置からなら知りえた事実。
仮に『四人』であったなら、知る事の出来た事実があった。
ただ、それだけのもの。
闇の中にまたたくは青白き灯火。
僅かにカビの匂いの漂う薄暗き回廊。
苔すら生えぬ石床には生命の気配すらなく。
多量の水気を含んだ空気は、どこまでも寒々として。
湿った空気の元である水路は何処から何処へ流れ行くのか。
ところどころ朽ちた石壁は、打ち捨てられた廃墟のそれであり。
その地に相応しい住人達は、そこにありながら最早誰にも省みられる事も無く。
手で触れども何も帰るものは無い。
この世の理は何一つ変わらない。
訴えかけられる無念を、誰が聞き届けようか。
後悔と悲しみは、唯一つの言葉を崇めるのみ。
そこにあるのは、憎しみ。
死者たちの声は、賛美歌のように唱和され、
『オディオ』という、至高の存在にして感情を崇め続ける。
だが、その声すら、誰にも届くことも無く。
時の流れすら無縁な墓所は、ただ静かに佇むのみ。
◇
そんな光景を、目にした気がした。
「ここは、何処じゃ」
「何処かの建物の中、みたいだけど」
一瞬の情景。
白昼の幻。
目の前に広がるのは確かに石壁だが、そこには温かみを感じる。
朽ち果てるには未だ数十年の年月を必要とする建物。
ほんの数日前までは、明らかに人の手の入っていたと思しき建造物。
並べられた長椅子は、人の来訪を待ち望み続けている。
未だに生の脈動を感じさせるもの。
「あの……今のは」
「うむ、中々貴重な経験をしたの。 ライブリフレクターとはまた趣の異なる、わらわも今まで味わった事のない感覚であった。
それほど嫌な感じは無いし、謀られたと思ったがこれはなかなかどうして、拾い物かもしれんの」
「あたしは、似たような感覚を知っているかな。
ワープとかレスキューがあんな感じで。 でも感じる力はもっとずっと大きかったかな」
「むむ、そなたはあの『うにょーん』として『ふわっ』で『ぴょん!』という感覚を知っているというのか?」
「うん、あたしの知ってるのは『うにょーん』はそんなに感じないけど『ぽわっ』てして『ぴょん』て感じかな」
「ふむ、わらわの知っている装置だとああでは無いのじゃ。
こう、『ピリッ』ときて『ビューン』として『ボワッ!』という感じがするもので……」
戸惑うロザリーを他所に、ニノとマリアベルはたった今通過したゲートの雑感を述べ合っている。
意味が判るような判らないような擬音をぶつけあう二人だが、ロザリーにも一応その意味は感じ取れる。
ちなみに、ロザリーの知る旅の扉は『ぐにょぐにょ』で『ふにゃふにゃ』という感じなのだが、今の彼女の関心はそこには無い。
「嫌な感じでは……無い?」
その、最大の関心事は、その『ふわっ』と『ぴょん!』の間に感じた気配。
判りやすく言うならば、黒であって黒では無い奇妙な空間を通過する最中。
心の芯までも凍てつくような、寒々しい気配に対するもので。
「うむ。 わらわは別に何とも感じなかったが……酔いでもしたか?」
「酔うって、お酒じゃないんだし」
「いや、そなたらの知る技術においてはどうだかは判らぬが、実際にああいう転移装置に酔うという事はあるのだぞ」
「へー……ってあたし酔った事無いからわからんないや」
「ふむ、お子様じゃな。
と、まあそれはさておき本当に酔ったのかロザリーよ。 顔色が悪いぞ?」
「い、いえ、酔ったという訳ではなくて……その」
マリアベルの心配も当然だろう。 今のロザリーの顔色は、重度の貧血でも起こしているかのように青白い。
まさか、何処か傷でも負っていたのかと、後ろでニノも、心配そうな表情を浮かべている。
「あの、お二人は、何か、その……墓……廃墟のような景色を見ませんでしたか?」
「廃墟?」
躊躇うように、恐れるようにロザリーが告げる。 その声には、微かな怯えが篭っていた。
だが、それはマリアベルにはまるで思い当たらない事。 隣のニノに顔を向けたが、彼女も首を横に振るだけだ。
「うーん……一瞬の事だったから、もしかしたらあたし達は見逃ちゃったのかもしれないけど」
「いや、わらわは目を瞑ってはおらんかった。 折角の経験なのじゃからそのような勿体無い事など出来んしの」
ニノの思いつきは、瞬時に否定される。
つまり、あの光景はロザリーのみが目にしたものである、という事になる。
「ふむ……そなたを疑う気はないが、慣れぬ感覚に幻覚でも見たという可能性もある。
あまり気にすると余計に気分が悪くなる、という事もあるぞ?」
ロザリーはそのような嘘を付くような性格では無い事はこれまでで知れているし、顔色が悪いのも事実である。
だが、マリアベルとてはもう1つの現実的な意見を述べる事も忘れない。
実際、酔って具合の悪くなることも、幻覚を見るという事も、多々あるのだから。
「それなら、もう一度通ってみるとか?」
「それはイヤじゃ」
「え、何で?」
「わらわ達は今こっちに来たばかりなのじゃぞ。 こんなにすぐに戻ってみよ、シュウとサンダウンに笑われるわ。
『寂しかったのか?』などと言われてみよ、わらわの誇りはどうなるのじゃ!
それに、原因が明白な以上、それを繰り返すというのはいかがなものか」
非常に簡単な提案に大して、誇り高きノーブル・ブラッドとしてそんな子供みたいな事は出来ん。 と主張するマリアベル。
どちらかと言うとそんな事を気にする方が子供っぽいと思ったが、ニノは黙っていた。 実に大人である。
とはいえ、マリアベルの言葉にも一応の意味はある。
ロザリーの症状がもし、『転送酔い』ならば(実際にそのような症状があるのかはさておき)もう一度それを行なうのは症状の悪化を招きかねない。
かといって、実際に何も感じなかったニノやマリアベルだけが再びゲートを潜ったとして、結果がある可能性はそう高く無い。
「……そうですね。 確かに私が幻をみたという可能性はあるかもしれません。
それに、どうせあれを使用する機会はまだあるでしょうから、今すぐ確かめる必要は無いと思います」
どうするべきかと思案する二人に、多少顔色の持ち直したロザリーが言う。
後ろ向きな意見ではあるが、現状では他に良案があるという訳でもない。
何より、当人であるロザリーが酔いかもしれないと言うのだから、本当にそれだけなのかもしれない。
「ふむ、わらわとして賛成じゃな。 そなたにこれ以上体調を崩されても困る。
一先ずわらわとニノが近くを見てくるから、そなたはここで休憩しておくのじゃ」
「ロザリーさん……顔色凄く悪いし、ゆっくりしててよ」
「ええ、申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせていただきます……」
心配そうなニノの言葉に微笑みを返して、ロザリーは並べられている長椅子に座り込む。
天窓から僅かに差し込む日の光に、飾り気の無い木目調の椅子、身体を冷やす心配は無いだろう。
「それにしてもここは何処なのかのう。
見たところそこそこ大きそうな建物であるし、この地図にも載っている施設だと思うが」
「ここは多分、教会、かな?
あたしが知ってるのはこんなに大きく無いんだけど、雰囲気が似てるかな。」
「ふむぅ、わらわの知るものとは多少違うが、ニノが知る知識でそれに近いならそうなのかもしれんな。
教会、と……これかのう。 町の中にある可能性もあるが、わざわざ地図に書いてある教会があるのじゃし、こっちの可能性が高いか。
しかし、そうなるとここは島の反対側になるの。 移動手段としては便利じゃな」
すぐに戻るから、とだけ告げて地図を取り出しながら、廊下へと向かう二人。
教会というなら、宿泊施設とまでは行かずともそこで寝泊りする人間の部屋は必要な筈。 ならばロザリーを休ませることもできるだろう。
それなりの大きな教会ではあるが、大声を出せば建物内ならどこにいても判るだろう。
ゲートホルダーをマリアベルが預かっている以上、これ以上の体調の悪化は起きまい。
ほどなくして、二人の声は遠くで響くのみとなり、ロザリーの側には少しの静寂が齎される。
そうして、そこでロザリーは小さく身震いをした。
幻覚?
ほんとうに、そうであって欲しい、そう考えながら。
出来るなら、もう一度あれを通りたいとも思えない。
あれはそう、
かつて味わった。
明確な、『死』の感触だったから。
投下乙!
ぎゃああああああああああああアティせんせえええええええ!!
前回からヤバそうな匂いがプンプンしてたが……orz
セッツァーはアシュレーに会った時もそうだが、のらりくらりと危機を回避しておいしいとこを持っていくなwこの外道めw
はやくもラス1になったサモン勢の明日はどっちだ!
最後にもう一度、投下乙!
【F-1/教会 一日目 午前】
【ロザリー@ドラゴンクエストW 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ 気分が悪い
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリル、ミネアたちとの合流
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。
【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(大)
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣、
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
0:付近の探索を行い、情報を集める。
1:ジャファル、フロリーナを優先して仲間との合流。
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバーは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WA2
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:付近の探索を行い、情報を集める。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アナスタシアの名前が気になる。 生き返った?
8:アキラは信頼できる。 ピサロ、カエルを警戒。
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※南東の城下町のゲートは北西の城に繋がっていました。 再び同じ場所に戻れるのかは不明です。
原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
また、ゲートは何度も使えるのか等のメリット、デメリットの詳細も後続の書き手氏に任せます。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレツィアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
投下終了しました。
支援してくださった方々、ありがとうございます。
誤字、脱字等問題ございましたら指摘お願いします。
投下乙!
一度死んでいるロザリーだからこそ感じ取れる感触って言うのも面白いですね。
パロロワは死後キャラが良く出てきますけど死ぬときの感触が出てくることってあんまりないですし。
心のダンジョンも……すごく大きな展開に繋がりそうです。
……投下中に申し訳ございませんでしたorz
そ、それはそうとこちらも投下乙です。
良くも悪くもピサロにフラグを依存していたロザリーにこういうフラグを持ってくるとは感心しました。
アキラに会えるとしてもかなり後になりそうだから、その時は楽しみですなぁw
アティのサモンナイト3本編での台詞。
「それからしばらく私は、まわりの世界を拒絶し続けたの。
そうしていれば、嫌なことを認めなくて済むと思って…
誰とも口を聞かずに長いこと、自分の世界に閉じこもっていたの」
「でもね?そんな私に村の皆は、ずっと言葉をかけ続けてくれた…」
「私が、私であることを忘れてしまわないよう何度も、何度も根気よく…」
「そのおかげで、私はなんとか自分のことを忘れずにいられた」
セッツァーとのやりとりは、まさにこの逆パターンですね?
「(前略)でもね?そんな私にセッツァーさんは、ずっと言葉をかけ続けてくれた…」
「私が、私であることを忘れてしまうように何度も、何度も執念深く…」
「そのおかげで、私は完全に自分を見失い、もう一人の私に飲まれた…。」
こうですねわかりますw
投下乙!
悩めばどっぷり落ちていくアティ先生の悪い面が存分に発揮されちまったか。
セッツァーの言葉攻めがえげつねえなあ
ちょっと前までなあなあで生きていた自分を見てるようで余計に力入れて攻めたんだろうけどw
ルクレツィア跡を見たか
ロザリーだけってのも面白いなあ
投下乙!
予約分を除外したら昼未到達は
アシュレー
ヘクトル、ブラッド組
イスラ
マリアベル、ニノ、ロザリー組
ってとこか
マリアベル組は三話書かれてるから無理にもう一回動かす必要はないかもしれないが
第二回放送が近づいてきたなw
結構進んだなあw
嬉しい限り
規制されてるので仮投下スレに投下しました。
タイトルはノーブルディザイア、でお願いします
さて、いつまでもここに留まっていては意味がない。
ちょこに、イスラは一緒に行けないことを適当な理由をつけて説明した後、アナスタシアは西進することにした。
自分の命を大事にせずに、死地を求めるような男の言った情報に従うのは気が進まないが、元々行ける方向が限られていたから仕方ない。
あの食べ物がもう食べられないことと、イスラも一緒に行けないことは残念がっていたようだが、しばらく歩いているうちに不満も言わなくなり、また無邪気な言動を見せ始めた。
それでいい、その方がアナスタシアには都合がいい。
ちょこには??外見とは裏腹に巨大すぎる魔力を秘めた少女には、まずアナスタシアを第一に考えてもらわねばならない。
仮にイスラと行動していて、イスラが見事ちょこを手なずけた場合には、厄介な事態が発生する。
緊急事態が発生して、イスラとアナスタシアのどちらかしか救えないような事態が発生した場合困るのだ。
そこで、ちょこに迷ってもらってはいけない。
ちょこには何が何でもアナスタシアを第一に考えてもらい、アナスタシアを守ることを至上の目的としてもらわねばならない。
だからこそ、ちょこに自分がいなくなったら悲しいかと、アナスタシアがいなくなったときのことを想像させ、ちょこに恐れを植えつけた。
一人ぼっちを嫌う少女に、何が何でもアナスタシア守ると誓わせた。
しかし、問題もあるといえばある。
どうやらちょこには同郷からの参加者がいたようだ。
オディオによる死者の宣告の時に、ちょこはリーザおねーさんだ!と反応していた。
そのリーザという女とちょこにどれだけの絆の深さがあるかは分からない。
ちょこにどういう関係の人だったか聞くと、リーザに会いたいとリーザのことを第一に考え始める可能性もあるからだ。
聞くに聞けなかった。
こんなことなら、燃やす前に名簿をちゃんと見ておくべきだったが、それはもう今更言ってもしょうがない
幸い、その少女はもう死んでしまったらしいが、まだちょこの知り合いはいる可能性もある。
他ならぬアナスタシア自身も、ブラッドやリルカと言った顔を知っている人間が参加させられていることを知っているからだ。
そういう意味では、イスラの情報に従って誰もいなかった西方へ脚を伸ばすのは悪くない。
誰かに会って、ちょこがその人物に懐くこともあるのだから。
出会った自分がちょこの知り合いならもう最悪だ。
マッシュやクロノという人物は北へ移動したようだし、会う確率も低そうだ。
また、人のいない方向へいけば、他の参加者が勝手に争って自滅していってくれる。
人間とは本当に愚かなもので、皆が一致団結すべきこんな時にも己の欲を優先させ、殺しあっている。
尤も、そのことについては、アナスタシアも否定はしないが。
何故なら、彼女もまた全ての人間が死に絶え、自分だけが生き残る未来を欲しているからだ。
彼らとの違いは積極的に戦場へ出るか否かの違いでしかない。
そして、誰よりも欲深きが故に、彼女は生き残ることを選択する。
『欲望』について、誰よりも理解が深いが故の獣道。
己の心の醜さを自覚して、なおもその道を進み続ける元・英雄。
彼女は昔と何一つ変わっていない。
生きたいという気持ちが誰よりも強かったために、アガートラームに選ばれて戦ったあの頃と。
姿も形も、服装も、胸に抱く気持ちも何もかも……。
状況が違うだけで、彼女は人類を救う<剣の聖女>にも他の人間全ての死を願う死神にもなれる。
これがファルガイアをかつて救った英雄の本当の姿。
口伝では伝えられることのなかった、アナスタシア・ルン・ヴァレリアの『欲望』の深さ。
◆ ◆ ◆
もう駄目だ。
もう我慢の限界だった。
もうこれ以上我慢なんてできない。
もう恥も外聞も知ったことではない。
ちょこの相手を適当にしつつ、海岸線に沿いつつ砂浜を西進していたアナスタシアはもはや己の欲求に耐えられなかった。
体中からあふれ出すこの感情に抗う術を、アナスタシアは持ち合わせてはいなかった。
先ほどから、アナスタシアを断続的に襲うある欲求があった。
その欲求ははじめは小さな波のようだったが、徐々に欲求は大きくなり、ついにはうねりを上げるほどの大波のごとくアナスタシアの心を刺激した。
もはや、止めることは誰にもできない。
それが心の堰を切った瞬間、アナスタシアは隣を歩くちょこに向かって満面の笑みを浮かべて、大きな声で言っていた。
「ちょこちゃん、泳ぎましょう!」
だって、これは反則的だ。
同じ砂のはずなのに、砂漠の砂と海岸沿いの砂浜を踏みしめる感触がまるで違う。
寄せては返すさざ波は、まるでアナスタシアを手招きしているかのようだ。
燦々と照らす太陽の光を受けて、透き通る海の色はまさにエメラルドグリーン。
それはまさにこの地上に残った最後の楽園。
無機質な空間で長い時を過ごしていたアナスタシアにとって、自然の息吹が感じられる母なる海はなによりも望んでいたものだ。
ちっぽけな川では決して得られることのないものが海にはある。
敵が来ても、大抵の敵はちょこを使えば迎撃が可能だから、心配はほとんどない。
海に来たからには、素敵な恋人と砂浜で追いかけっこをしたりしてみたかったが、アナスタシアはこの際贅沢はなしだと開き直る。
「泳ぐ? おねーさんもあのしょっぱいお水を飲みたいの? あれ全然おいしくないよー」
あの時の塩辛さを思い出したのか、ちょこが舌を出しながら嫌そうに答える。
「ふっふ〜ん、ちょこちゃん。 海の水は飲むものじゃないのよ。 まぁお姉さんに任せなさい」
ちっちっち、と指を振りながらアナスタシアはお姉さんぶって得意げにちょこに語る。
本音を言うと、アナスタシアにも泳いだ経験はないのだが。
アナスタシアも足がつくくらいの浅い川でしか遊んだ経験はない。
下級とはいえ、アナスタシアは一応貴族の生まれだからだ。
貴族の娘だから、やることは川や海での遊びよりもまず、作法や詩の練習をすることが多かった。
それに、貴族でなくとも、アナスタシアの住んでいたファルガイアにおいて、海で泳ぐ人はあまりいない。
人間のテリトリーである街から一歩出れば、そこは怪獣が闊歩する世界だからだ。
一度怪獣の世界に足を踏み入れると、バルーンなどの怪獣が何時でも何処にでも出没する。
そんな世界でのん気に海で泳ぐ人物はそうそういないのだ。
しかし、ここには怪獣がまるで出没しない。
魔王オディオはあくまで人間同士による殺し合いを望んでいるのだろうか、怪獣や魔物の類がまったくいないのだ。
そうとなれば、アナスタシアが海で泳ぐことを躊躇う理由はない。
「ちょこちゃん、そのバッグもう一度貸してくれる?」
「うん、いーよ!」
疑わずに、ちょこはアナスタシアにデイパックを差し出す。
アナスタシアも今回はちょこを騙す気はまるでないから問題ないのだが。
デイパックを受け取ったアナスタシアは、中身を探りあるものを引き出した。
最初にちょこと自分の支給品を入れ替えようとしたとき、真っ先に用なしと判断してちょこのデイパックに突っ込んだものだ。
「ほら、海水浴セット!」
男性用、女性用の水着を始めとして、浮き輪や体を拭くためのバスタオル数枚、日焼け止めのクリームまで入っていた。
さらに、子供用から大人用までサイズは様々、ワンピースタイプからビキニ、スクール水着まで種類は豊富だ。
いったいオディオは何を考えてこんなものを入れたのだろうか。
この支給品を見たとき、相当理解に苦しんだが、こうして活用できたのだからまぁよしとすることにしようと、アナスタシアはそう考えた。
「さぁ着替えましょ」
海の水にはあまりいい印象はないちょこだったが、これも新婚旅行の一環だと説明されると、一も二もなく頷いた。
スポーン!という気持ちいい音が聞こえてきそうなほどあっさりと服を脱ぎ、桃色のワンピースに身を包む。
ちょこが浮き輪に空気を入れようとする一方で、アナスタシアは水着のチョイスに悩んでいた。
「さて、どれを着ようかしらね……」
ハッキリ言って、ものすごく悩む事項だ。
特別見せたい異性がいるという訳ではないが、妙齢の女性にとって水着の選択というのは非常に重要な問題なのだ。
「というか、最近の子は進んでいるわねぇ……」
ヒモのような水着を掴み、アナスタシアは呟く。
アナスタシアの生きていた時代では考えられないほどの面積の少なさだ。
此方と彼方の狭間で、時折ファルガイアを覗いていたから、時代の流れと共に物事の価値観も文化も少しずつ変わっていったのはアナスタシアも知っている。
普段着一つとっても、アナスタシアの生きていた時代と今のファルガイアでは全然違うのだから、水着が違ってもおかしくはない。
だから、こういう水着があってもおかしくはないのだろう。
しかし、流行最先端の水着はなんというか、とても大胆だなとアナスタシアは思う。
こんなに肌を露出してしまっていいのだろうか。
今手に取っている水着なんかまさにそうで、肌を隠すのは胸部と臀部およびその周辺のわずかな部分のみだ。
一言で言えば、けしからん。
現代の性の乱れを嘆く老人のような考えがアナスタシアの頭に浮かぶが、すぐにそれは捨てる。
アナスタシアは現世にもう一度生を受けたのだ。
古臭い考えのままでは、いつまで経っても世間に馴染むことはできない。
そう、正しいのはこの水着のほうであって、間違っているのは自分の古臭い考えだと、アナスタシアは自分を納得させる。
「そう、これは仕方ないのよ」
ビキニタイプの水着を掴んだままゴクリと、生唾を飲む音がアナスタシアの喉から漏れる。
この水着を着た姿を想像するが、とても恥ずかしい。
顔から火がでそうなほど真っ赤に熱くなるのは、きっと気温のせいではない。
いっそ素っ裸の方がマシではないかとすら思える。
しかし、これはいわば社会復帰の一環だ。
古臭い価値観、偏見を捨てるための荒療治。
これを着ることによって、自分も流行の最先端に追いつくのだ。
見られる男もいないし、心配はない。
今進んでる方向に誰もいないはずだし、あれだけ悪態をついて別れたイスラが今更戻ってくる可能性もないはず。
嫌々、嫌々なのだと、自分に言い聞かせるように物陰に隠れて着替えを始める。
「まぁ、ちょっとくらいはこういう水着もいいな〜とか思ったりしないでもないけど」
悶々とした葛藤を繰り広げながらも、アナスタシアは着替えを終了した。
水色のビキニタイプだ。
セパレートのミニとどっちを着るか最後まで迷っていたが、こちらにした。
「うわ、恥ずかしい!」
自分で選んだものだが、やはり恥ずかしい。
女性的な体のラインが惜しげもなく晒されている。
思えば、こんなに肌をお日様の下に晒したのいつ以来だろうか。
そんなことを考えるアナスタシアだったが、やはり恥ずかしさが勝り、走って海に突撃することにした。
髪留めも外し、生まれてから一度も鋏を入れたことがないのでは、と思うような長さのアナスタシアの髪の毛が浮かび上がる。
「わーい! おねーさんムチムチプリンなの!」
浮き輪に空気を入れて待ちかねていたちょこを掴み、再び走り出す。
ちょこが言った言葉は幸か不幸かアナスタシアには届かなかった。
波打ち際に到達しても、アナスタシアは止まらない。
最初はバシャバシャと、次はザブザブと。
膝の辺りまで海水がきて辺りで、アナスタシアは静止。
そして次の瞬間、ちょこを下ろして全力で海へダイブを敢行。
アナスタシアは、海を抱擁する。
全身が海水に包まれ、お昼間際で高まっていた体温を海水が優しく冷ましていく。
「ぶはッ!!」
顔を上げて、思い切り空気を吸い込む。
なんという心地よさであろうか。
それは今まで食べたどんな極上の料理よりも、どんなに感動する物語を聞いたときよりもアナスタシアの心を満たした。
自由というものがこれほど素晴らしいものであったとは、思いもよらなかった。
この生を手放そうとするイスラと自分はやはり分かり合えない存在なのだと、改めて思いもした。
「おねーさん! あれ!」
ちょこが警戒の色を含んだ声をアナスタシアに投げかける。
何だろうと思うが、時すでに遅し。
いつの間にか眼前に迫っていた大きな波がアナスタシアに襲い掛かる。
波の高さは、実にアナスタシアの身長と同じほど。
深さはアナスタシアの膝ほどまでしかないほど浅いが、いきなりの不意打ちにアナスタシアは対処できるはずもない。
「ちょ……!」
ちょっと待ってよ、と言おうとしたが途中で波に飲まれてしまう。
叩きつけられた波は容赦なく足元をすくい、海の中でアナスタシアはどっちが上でどっちが下か分からなくなるほど混乱する。
ようやく自力で起き上がって、膝を突いたまま海面から顔を出したアナスタシアは盛大に咳き込む。
海水が喉の奥まで入り込んだのだ。
だが、それが不思議と気持ちいい。
我知らず、笑みが零れていた。
これは、この苦しみは記憶の遺跡では決して味わうことのできなかった感覚だ。
アナスタシアがちょこの方を見ると、こちらも被害は受けたようだが浮き輪を装着していたのが幸いだったようで、溺れることはなかった。
「ざっぷーん! ってきたあと海の中でぐるぐるーってしたのー!」
小さいちょこは海の中で回転させられたようで、先ほどと同じように海の水を飲んでしまっていた。
だが、咳き込むちょこを見ると、それさえも可笑しくて。
アナスタシアは心の底から笑った。
面積の少ない水着を着ている恥ずかしささえも、もはや忘れるほどに。
「おねーさんなんで笑ってるの? ねぇねぇ、面白いことあったの?」
「ふふっ、そうね……面白いわね」
「なにが面白いのー?」
「分からない? ならこうしてみれば分かるかも」
そう言うと、アナスタシアは両手を大きく広げ、大空に向かって大きく腹の底から声を出して叫ぶ。
「やっほーーーーーーーーーーーーーーー!」
叫びが大空に吸い込まれていく。
無限に広がる蒼穹がまるでアナスタシアの胸の中へ飛び込んできそうだ。
山彦が返ってくるわけでもないのに、アナスタシアは叫ばずにはいられなかった。
この自由を堪能せずにはいられなかった。
再び得た生を誰よりも謳歌したかった。
自分は確かにここにいると、世界中に宣言したかった。
ここには青く広がる空がある。
透き通る海がある。
小川のせせらぎが聞こえる。
アナスタシア以外にも人間がいる。
誰かいるということはとても素晴らしいことだ。
誰かを好きになるにしても嫌うにしても、まずは生きていないといけない。
人は、他者を介してようやく己の存在を認識できる。
誰もいない空間で生きるなんていうのは、死んでいるのと同義だ。
『欲望』を司るガーディアン、ルシエドではアナスタシアの心の寂しさを完全に埋めることは適わなかったのだ。
そう、彼女は今この瞬間、この生に酔っている、浸っている、溺れている……。
「やっほーーーーーーーーーーーーーーー!」
ちょこが真似して叫んでみるが、よく分からないようでアナスタシアに聞いてきた。
「うー、やっぱり分かんないのー」
「ちょこちゃんも大人になれば分かるかもね」
「本当!? 大人になるっていつ? すぐなれる?」
「うん。 すぐよ」
「わーいのー!」
ちょこの頭を撫でるアナスタシア。
その笑みには確かに聖女と呼ばれるだけの温かみがある。
それから、正午の数分前まで、アナスタシアとちょこはひたすら海水浴をして楽しんだ。
水の掛け合いをしたり、遠くまで泳いだり、海中でどっちが長い間息を止めてられるか勝負したり。
願っていた普通の女の子らしい遊びだ。
泳ぎの経験がないアナスタシアはバタ足か犬掻きに近い泳ぎだ。
クロールはもちろん、平泳ぎすらできないが、そんなことを咎めるものは誰一人としていない。
普通の少女らしい遊びをするアナスタシアとちょこ。
その間??わずか数時間の間のだが??のアナスタシアとちょこの気持ちを言い表すのは、残念ながらたった一言で足りてしまうのだった。
つまり??楽しかった、と。
◆ ◆ ◆
海から上がり、元の服装に着替えて髪を乾かしている最中、アナスタシアは心の中で思う。
自分は裁かれるのだろうか、と。
ユーリルに対して迷いを投げかける言葉を言った時を抜きにしても、そう思わずにはいられない。
ファルガイアを一度救ったのは、誰よりも『欲望』が強かったアナスタシア自身。
かつてファルガイアを救い<剣の聖女>と呼ばれたアナスタシアも、今ここで自分以外の全ての人の死を望むアナスタシアも、ちょこと無邪気に海水浴を楽しんだアナスタシアもすべて同一人物だ。
誰よりも生きたいがために、かつて焔の災厄と戦った彼女の行為は誰にも咎めることはできない。
たとえ、アナスタシアの行動原理が『欲望』に根差したものであってもだ。
では、今のアナスタシアはどうだろうか?
自分だけが生き残るために幼い少女を騙し、他の全ての人間の死を望む。
そこまで考えて、アナスタシアは自嘲せずにはいられない
なんという皮肉であろうか、と。
かつて、アナスタシアはアシュレーに言った。
『欲望』とは生きようとする意志の力ではないかと。
力は行使する人によって、奪うためのものにも守るためのものにもなる。
同じことが『欲望』にも言える。
食欲や睡眠欲を否定することはすなわち、生きることの放棄に他ならない。
性欲でさえも、後の世に子種を残すために必要な欲求だ。
誰かの食料を強引に奪うことや、異性に乱暴をはたらく行為が駄目なのであって、『欲望』そのものに罪はない。
『欲望』とは、決して忌避すべきものではないのだ、と。
今の自分は真っ黒ではないか。
生きたいという『欲望』に従って他者を滅ぼす。
かつて自分が忌避した生き方を、アナスタシアはなぞっているのだ。
(弱いなぁ……)
だが、それを自覚してもなお、その生き方を変えられない弱さもアナスタシアは持ち合わせていた。
またこの生を手放すことなど、絶対にしたくなかった。
焔の災厄の時にはいい方に転がった『欲望』が、今回は悪い方向に傾いている。
(たぶん、私は裁かれるんだろうな……)
神様とか天国とか地獄とか、最後の審判とかいうものがあったのなら、きっと自分は間違いなく裁かれるだろうとアナスタシアは思う。
願わくば、その審判が近い将来ではないことを願いつつ、アナスタシアは数分後に聞こえるであろうオディオの声を待つのであった。
【I-3 浜辺 一日目 昼】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:不明支給品0〜2個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:イスラから聞いた場所の実物を見にいく
2:施設を見て回る。
3:『勇者』ユーリルに再度出会ったら、もう一度「『勇者』とは何か」を尋ねる。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
※アシュレーやマリアベルも参加してるのではないかと疑っています。
【ちょこ@アークザラッド?】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品0〜2個(生き残るのに適したもの以外)、海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:おねーさんといっしょなの! おねーさんを守るの!
1:おにーさんからもらったお菓子おいしかったの。また会いたいなー
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
[備考]
※参戦時期は不明。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※放送でリーザの名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。
代理投下完了。
機種依存文字の文字化けはご容赦下さい。
代理投下ありがとうごさいます。
変換されてしまった部分は自分で直しますので、wikiに収録する際はそのままお願いします
360 :
sage:2009/11/10(火) 18:17:42 ID:3c4Dtr+L
放送か。確かに次の投下来たら行けそう
規制されてるので仮投下スレに投下しました。
タイトルは使い道のない自由でお願いします
362 :
代理:2009/11/15(日) 01:05:02 ID:bVLOsEz5
「ヘクトル、異常はないか?」
「ああ、こっちも異常なし」
ブラッドの声に、ヘクトルが退屈混じりの声で返事を返す。
ついでに、欠伸も混じった。
ヘクトルは欠伸を噛み殺しながら、森の中に混じり偵察を続けた。
ホルンの魔女に回復させられた時、疲労も消え去ったはずだが、退屈に殺されてしまいそうな気分になる。
眠たくもないのに眠気が襲ってくる。
ここは島の中央から南へと流れる川にかかった二つの橋のうち、南に位置する方。
アナスタシアとちょこによって、ひと時の空中遊泳を楽しむことになったブラッドとヘクトルは着地後、近くで見つけた橋の近くに陣取り、偵察をすることにした。
橋を渡っている人間からは見えず、されどこちら側からは橋を渡ろうとする人間はばっちり見える。
そういうポジションに腹ばいになって、深く静かに潜行するように、森の景色と一体化して未だ見ぬ人物との出会いを待つ。
「しっかしよ、本当に誰も来ねぇな。 本当に誰か来るのか?」
「来る。 この近辺に人がいるならほぼ確実にな」
ヘクトルの疑問に、ブラッドは視線は橋から離さず、そして確信に満ちた声で答える。
ゴツゴツとした岩を組み合わせたような肉体が違和感なく森の中に溶け込んでいる。
不平や不満を言わず、ただ黙々と、ただ一点を見つめて。
おそらく、相当場馴れしている。
ブラッドが偵察や監視という任務を数多くこなしていることをヘクトルは悟った。
泥まみれの戦場というものがブラッドという男には非常に馴染む。
ヘクトルもこういったことは初めてではないが、行動のあちこちにぎこちなさが残ってしまう。
「考えてもみろ。 9:00からはF-4とH-5が侵入禁止エリアになる。 西からこちらへ来ている人間は間違いなくこの橋を通る」
ブラッドに言われて、F-4とかH-5ってどこだっけ、とヘクトルが地図を取り出す。
程なくして、手に取った地図から言われた地点を見つけ出した。
ヘクトルがそれを見つけたのを確認して、ブラッドがさらに言葉を続ける。
「G-4、G-5のような砂漠を好き好んで通り抜ける人間はいない。 だとすると、残った道はここ。
つまり、今俺たちがいるI-6の橋だけだ」
「すげぇな、地図が完璧に頭の中に入ってるのか?」
「基本だ。 地図を見れば地形が分かる。 地形を見ればどのような行動をとるべきか自ずと分かる。
敵が待ち伏せをすることのできる場所、逆にこちらが待ち伏せするべき場所。 その他諸々も含めてな。
地図が不正確である可能性もある以上、過信はできないが一定の指標にはなる」
粗野な外見を持っているが、ブラッドはとても思慮深い。
もちろん、見た目どおりの戦闘力と、内に秘めた熱い心も有しているが。
外見通りの豪放磊落な性格であるヘクトルとは、その意味においては対照的だ。
364 :
代理:2009/11/15(日) 01:06:26 ID:bVLOsEz5
「あー、そうだよな。 地図覚えるってのはやっておかないとマズイよな」
バツが悪そうに、ヘクトルが呟く。
もう、兄がいた頃のように好き勝手をやる訳にはいかない。
オスティア候としての立場を受け継いだ以上、武術ばかりを鍛えるということもできないのだ。
退屈な算術の時間に居眠りをするのも、学問所を抜け出して闘技場で戦闘の訓練だけをするのも駄目だ。
候弟という立場にありながら、そこまで奔放に生きてこれたのも、全ては亡くなった兄ウーゼルのおかげ。
正直、オスティア候なんて立場に興味も執着もないし、性に合わないとヘクトルは思う。
だが、名君と謳われた兄をヘクトルは尊敬しているし、家族としても好きだった。
兄に少しでも追いつけるよう、苦手なこともやっていかないといけない。
戦術論の基礎として、戦場の地形を頭に入れることもやらなければならないのだ。
「橋を渡らずに、直接渡河をする可能性は低い」
ヘクトルの呟きを敢えて流して、ブラッドがさらに続ける。
それはブラッドに対して向けられたものではないと感じたからだ。
「ヘクトル、お前も一軍を指揮する立場にあるなら分かるはずだ。 渡河こそが行軍中におけるもっとも危険な時間の一つだと」
人間は水という脅威に対してとても無力だ。
水かきもヒレもない、ましてやエラ呼吸もできない人間は河を渡る際、水の抵抗を大幅に受ける。
そんな中、弓矢や魔法の嵐を受けると、人間はどうしようもない。
「おっ、それなら分かるぜ。 なにしろ俺たちオスティアが誇るアーマーナイトの天敵だからな」
難攻不落と言われたオスティア城を守るのは、固い鎧に身を包んだアーマーナイトやジェネラルの群れ。
そう、鎧というのはとても固く、そして重い。
アーマーナイトにとって、天敵といえるものの一つが河なのだ。
重い鎧に身を包めば、いかな水練の達人とはいえ、泳ぐのは難しい。
鎧だけに限らず、水を吸い込んだ衣服というのは意外に重いのだ。
ヘクトルが今着込んでいる鎧も、重騎士並みの厚さと重さだ。
これを着たまま渡河をするのは、無茶が売りのヘクトルでもさすがに躊躇われる。
「重武装をした兵士が通るのが難しいだけではない。 通常、渡河というのは最大級の警戒の下行われる」
まずは本隊が河の付近で待機。
偵察隊が周りを探索して、待ち伏せした敵部隊が確認。
先発隊が渡河を行い、無事対岸に着ければ、今度は先発隊がそのまま対岸付近を偵察。
そうして、ようやく本体が河を通ることができるのだ。
「多少でも身に覚えのあるものなら、直接の渡河というのはまずやらない」
「そんなもんか」
橋ならば、待ち伏せまたは襲撃されても、少なくとも走って逃げることはできる。
なす術もなく死ぬか、精一杯抗った後に死ぬかを選ぶとしたら、大抵の人間は後者を選ぶだろう。
しえん
支援
367 :
代理:2009/11/15(日) 01:07:54 ID:bVLOsEz5
「しかし、こうも代わり映えの風景ばかり見てると飽きるよな」
待つのに飽きた末に、気絶していたブラッドを担いで運ぼうとしていたヘクトルだ。
こういった、地味な作業はとても苦手である。
一方、こうすることを提案したブラッドはさすがに文句一つ言わない。
勝利をもぎ取るのは、気の遠くなるような地道な積み重ねの結果だと知っているが為だ。
そして、時間は過ぎる。
すでに、お日様はかなり上の方に昇っていた。
ブラッドにとっては取るに足らない時間。
しかし、ヘクトルにとっては永遠にも思われる時間。
それでもヘクトルが我慢できたのは、新オスティア候としての自覚が芽生え始めているからかもしれない。
「来たぞ」
「マジだ。 本当に来たな」
見つけたのはブラッドだが、喜んでいるのはブラッドだ。
ようやく誰かに会えたことと、この退屈さから開放されることが交じり合った喜び。
「男一人か。 よし、俺が行ってくるぜ」
「ヘクトル、油断はするなよ」
「分かってるよ」
起き上がり、砂埃を落としてからヘクトルは見つけた男の方へ走っていった。
ブラッドは現在位置のままで待機。
何かあればすぐにヘクトルに加勢できるように。
また、来ている男に不審な行動を感じればすぐに対応できるように。
368 :
代理:2009/11/15(日) 01:08:44 ID:bVLOsEz5
◆ ◆ ◆
橋を渡っていた男、イスラ・レヴィノスはイライラしていた。
先ほど出会ったアナスタシアとの会話を思い出すだけで、怒りにも似た感情が湧き起こる。
彼女の言っていたことには確かに正論もあった。
だが、正論が人を救うとは限らない。
イスラ自身がどんな苦痛を味わい、惨めな思いをしてきたかを、聞いただけでしか知らない女にとやかく言われるのは不快でならなかった。
だから、彼は橋を渡るとき、軍で習った基本を忘れていた。
頭の中で、彼女に対する反論をずっと続けていた。
彼は警戒もせずに、ノコノコと橋を渡っていた。
「おーーーーい!」
もし、そこで待ち構えていたのが一人だけで勝ち残ることを選んだ者なら、イスラは殺されていたかもしれない。
しかし、運のいいことに橋の付近で待ち伏せていたのは青い髪に精悍な顔つき、そして中々に重たそうな鎧を身に着けた男――ヘクトルだった。
無警戒に走り寄ってくるヘクトルを見て、イスラは我に返り、すぐさま男の値踏みをする。
今まで会った中で言うと、マッシュや高原と似たようなタイプに見える。
要するに、腹の探り合いなどは苦手そうだと。
「いやぁー、ずっとここで誰か来るかと思って待ってたんだけどよ。 退屈で死にそうだったぜ」
イスラが特に警戒してる風に見えなかったため、ヘクトルは親しげに声をかけながら近寄る。
しかし、イスラは剣に手をかけ、柔和な笑みで静止の声をかけた。
「そこで止まってくれるかな? 僕としても、友好的な態度を装って近寄ってきた男に後ろから斬られたくはないからね」
「お、おおう。 ま、そりゃそうだな」
イスラとヘクトル、二人はギリギリの間合いで対峙する。
両者共に殺しあう気はないのだが、その言葉一つだけでは信用できないほどに、この世界は世知辛い。
「僕はイスラ。 イスラ・レヴィノス。 イスラでいいよ」
「ヘクトルだ」
とりあえず自己紹介だけは問題ないと思い、してみたもののそれで二人の距離が縮まるわけではない。
そのまましばし、お互いの距離を測りかねた二人は立ち尽くすが、イスラから歩み寄ることにした。
「とりあえず、このままじゃ埒が明かないから、お互いに質問を一つずつしていくってのはどうかな?」
「お、いいなそれ。 じゃあ俺からいいか?」
「どうぞ」
「まず、お前が最初にいたのはこの島のどこだ?」
「西のほうにある教会だよ。 特に変わったところはないごく普通の教会」
「なるほどな」
しえん
370 :
代理:2009/11/15(日) 01:09:44 ID:bVLOsEz5
まず、ヘクトルは当たり障りのない質問からはじめる。
これに対して、さほど重要性を感じないイスラは正直に答える。
「それじゃあ今度はこっちだね。 僕のことを捜してる人に出会わなかったかい?」
「誰かいるのか?」
「今は僕の質問の番だよ?」
「あ、わりぃな。 いなかったぜ」
イスラの質問は空振りに終わる。
アズリアと出会えば必ずやイスラを捜していると言うだろうから。
「おし、また俺だな。 お前、今まで誰かに会ったか?」
「会ったのは会ったね」
「本当か? 誰だ?」
「……高原日勝とマッシュ、そしてクロノっていう人たちかな。 全員男だよ」
問いに対するイスラの答えには若干間があった。
だが、ヘクトルはそれに気づかず、マッシュという男の名前に反応した。
「マッシュか! セッツァーが言ってた奴だな。 あの金髪で何とかっていう格闘技を使う」
「へえ、君はマッシュの知り合いにあったみたいだね。 セッツァーの名前なら僕もマッシュから聞いたよ」
「何だ何だ、セッツァーの知り合いのこと知ってるなら問題ないじゃねえか」
今度こそヘクトルはイスラに近寄り、体育会系のノリでイスラの肩をバンバンと叩く
イスラは、柔和な笑みを崩さないまま、ヘクトルの無用心さに多少呆れた。
自分の知り合いならともかく、知り合いの知り合いも信じられるというのはどういうことかと。
「そうなるね。 じゃあ僕らのやっていたのは意味なかったのかもしれないね」
「考えるとすっげえ間抜けなやり取りだったなおい」
しかし、ヘクトルは知らない。
セッツァーの瞳に奥に隠された真実を。
一手先ならともかく、二手も三手も先を見据えたセッツァーの戦略に気づけない。
もし、ここでさらにエドガーやティナの人物像について語り合えば、二人は相互の情報の認識に齟齬があることに気づいたかもしれない。
もし、イスラが出会ったのがマッシュではなくエドガーであったら、こうはならなかったかもしれない。
支援
372 :
代理:2009/11/15(日) 01:10:33 ID:bVLOsEz5
全ては運。
ヘクトルとイスラがそれ以上語り合うことをしなかったのも、イスラが出会ったのがマッシュであったのも。
ギャンブルに生きる男、セッツァーが引き当てたカードは果たしてスペードのエースなのかジョーカーなのかあるいはそれ以外の何かなのか、今はまだ分からない。
「おーいブラッドー! 問題ないぜー!」
ヘクトルは無防備な背中をイスラに見せて、ブラッドを呼ぶ。
イスラはそのヘクトルの大きな背中を見て、ヘクトルをある程度信用することにした。
同時に、ヘクトルに対する認識を改める。
高原やマッシュとは似ているようで少し違うと。
「無闇に他人に背中を見せると危ないよ?」
「そん時はそん時だよ」
暗に自分が襲うかもしれないぞと言ってみたが、ヘクトルは気にしてないようだった。
こうして無防備な背中を晒している理由が、何となく他の人間とは違う気がするとイスラは思った。
仮に高原やマッシュが背中を晒しても、それは不意打ちされても対応できる自身と自負があったからだろうが、ヘクトルはそれとは少し違うような気がした。
確かにヘクトルにも実力はあるだろうが、だからといって己の実力をひけらかすように背中を見せているのとはまた違う。
殺されるようなら、所詮自分の人生はその程度のものだったのだという開き直りとも違う。
イスラはヘクトルの背中を見て、無防備だと思うより先に大きな背中だと思ったほどだ。
アティを見たときと同じような感覚。
あれは、あの背中は、導くものの背中だ。
仲間を率いて、率先して前に立ち、皆の期待に応える者の背中だ。
その背中を見ると、どんなに屈強な大男も小さな子供でさえもついていきたくなるような。
そうして、いつしか彼は大勢の人間の輪の中心にいて、笑っているのかもしれない。
だけど、そう感じてしまったのは一瞬だけのことだ。
それはまだ小さな、夜空に瞬く星のように儚い光。
けれど、何時かは強き光となって闇夜を照らすのかもしれない。
王道とは違う、未踏の道を歩むものの背中。
後に、兄ウーゼルに勝るとも劣らない名君と呼ばれる才能の片鱗をイスラは感じたのかもしれない。
そうして、自分自身がそういった人間には一生なれないことも意識した。
もちろん、当のヘクトルはそんなことを意識してないが。
「ブラッド・エヴァンスだ」
「イスラ・レヴィノス」
しえん
374 :
代理:2009/11/15(日) 01:11:28 ID:bVLOsEz5
ヘクトルよりも大柄なブラッドが現れて、イスラは邪気のない笑顔を維持したままブラッドの値踏みをする。
大柄な体躯、そして筋肉質な肉体の持ち主という点ではヘクトルと似ているが、ヘクトルよりも思慮深い性格に見えた。
「ブラッド、収穫だぜ。 こいつセッツァーが言ってたマッシュに会ったってよ」
「ほう」
目を細めるようにして、ブラッドがイスラを見る。
視線を受け止めながら、イスラが答えた。
「僕はやりたいことがあるから、一人にさせてもらってるんだけどね。 ユーリルっていう仲間もいるみたいだよ」
探るような視線だと、イスラはブラッドの視線を評する。
もっとも、ブラッド自身もそのつもりだったが。
与えられた情報を元に論理を組み立てるのは得意だが、ポーカーフェイスのやり取りはブラッドもそこまで得意ではない。
現状のイスラにそこまで不審な点を見つけることはできないので、ブラッドは本題に入ることにした。
「では、本題に入るか。 知っている限りの情報を教えてもらいたい。 もちろん、こちらも知っている情報は全て教える」
「ヘクトルに言ったのでほとんどだけどね。 教会で目覚めて、マッシュたちに会って、君たちにあった。 それくらいだよ」
イスラはアナスタシアのことは言わない。
協力関係にある人間でもないし、思い出すのは不快だったからだ。
まさかブラッドたちがアナスタシアの情報を欲しているとは知らないイスラは、しばらく経った後にようやくアナスタシアとヘクトルがイスラよりも前に接触していたことを知った。
が、しかし、今更正直に言っても仕方ないので黙っていることにした。
「アシュレー・ウインチェスター、カノン、マリアベル・アーミティッジは大丈夫だ。 俺が保証する。
トカについては保留だ。 あれは思考が全く読めない」
「こっちはリン、フロリーナ、ニノが安心だな。 危険かもしれないのがジャファルって暗殺者だ。 こいつと戦うときは要注意だぜ。
ちょっと瞬きしている間に自分の首を切り裂かれてもおかしくないくらいの凄腕だ」
「アティ、アズリアくらいだね、僕は。 アズリアっていうのは名前を見れば分かると思うけど僕の姉さんだよ。 知っている人間で特に危険な人物はもういないかな
「リーザって名前に心当たりはあるか?」
「悪いけど、ないなあ……」
「そっか。 ならいいんだ……」
さらに、三人がそれぞれ捜して人間、そして危険だと思われる人間の情報を交換する。
ここでも、セッツァーの言っていた情報とマッシュの言っていた情報の違いが明らかにされることはなかった。
共通の知識として、確認するまでもないと三人が考えたため、そして優先すべきはARMSのメンバー、リンやフロリーナ、アズリアの名前を交換することだったからだ。
「さて、と。 こんなもんだな」
場所を橋の真ん中から再び人目につかない場所に変えて、お互いの情報の交換もあらかた終わった。
ヘクトルが凝った肩を揉み解しながら、立ち上がる。
「で、俺たちとは一緒に行けないんだな」
「うん、セッツァーがやりたいことがあったみたいに、僕にもやることがあるから」
376 :
代理:2009/11/15(日) 01:12:26 ID:bVLOsEz5
念のために確認するようなヘクトルの問いに、明確な意志でイスラが答えた。
セッツァーの時もそうだったし、ヘクトルは無理に引き止めることはしない。
こうして、オディオに対する反抗の意志を確認できただけでも収穫はあるからだ。
クロノたちと一緒に行かないことを選んだときのように、今回もイスラは単独行動を選ぶ。
「姉には、会う気はないのか?」
「……もちろん、会いたいよ。 でも、今はまだ会えない」
「何か、会えない理由でもあるのか?」
「うん、まぁね。 ちょっとした姉弟喧嘩中みたいなもので、会うのが気恥ずかしいんだよ」
「なら、いいけどよ」
そこで、ヘクトルの眼差しに寂しさと厳しさが混じったような感情が含まれる。
「喧嘩できるのも、お互いが元気なうちだけだぜ。 ある日突然、心臓だか脳だかにウッときてそのままポックリ逝くことだってあるんだ。
ましてこんな状況ならなおさらだ。 今は会えないってんなら無理は言わないけど、いつか必ず会って仲直りしろよ」
兄、ウーゼルを襲う病魔の進行がもはや取り返しのつかないところまで進行してきた頃に、ようやく気づいたヘクトルの言葉は重い。
深い目をしたヘクトルの言葉はイスラの胸にもすうっと入り、染み込んだ。
そして、その言葉の意味を考え、刻み付ける。
「ああ、そうだね……」
表面上は肯定の意を示しつつ。
だが、それでもイスラはアズリアに会わないと決めた。
ヘクトルの言葉の意味を知り、ヘクトルが今言ったようなことを経験したのだろうとも想像はついた上でも。
死にたいというのは固い意志のもと、ずっと昔から思っていたことだ。
今更アズリアには会えない。
会って交わす言葉など、もうありはしないのだ。
イスラができるのは、二度目の生をアズリアのために使い、もう一度死ぬことだけなのだ。
「少し、いいか?」
と、そこで沈黙を保っていたブラッドが口を開く。
「何かな?」
「もし、アズリアという姉やアティが死んだら、お前はどうするつもりだ?」
「それは、もちろん――」
答えを言おうとしたイスラの口が、二の句を継げずに止まる。
ヘクトルとブラッドが何事かと問おうとした時、遅れて二人も状況を認識する。
支援
しえん
381 :
代理:2009/11/15(日) 01:14:34 ID:bVLOsEz5
風と、振動と、強い光。
まずは、東の空に明滅する光が見えた。
真昼でもなお認識できるほどの光量は、破壊の相を色濃く帯びている。
続いて、風。
東側の木々だけがざわめくのを感じた。
もしも鳥が木に留まっていたら、上空に逃げ出しただろう。
そして、振動。
「――!?」
「今……揺れたか?」
口にしたのはヘクトル。
静止してなければ感じ取れないであろう程の微弱な振動だったが、三人とも確かに地面が揺れるのを感じた。
ブラッドとヘクトルは顔を見合わせると、すぐさま震源地へと向かって走り出した。
「悪い、イスラ!」
ブラッドがイスラに声をかける。
あれだけの大規模な爆発か何かを起こせる実力を持った者など、ちょこあたりしか今のところ心当たりはない。
アナスタシアがいればいいという期待と、アナスタシアがついに殺人に手を染めたりしないかという不安を抱きながら、ブラッドは走る。
しかし、ヘクトルの他に、イスラも追走していた。
「僕も行くよ。 進んで殺し合いをするような奴がいるなら戦わないといけないからね」
今回ばかりは、イスラもあの光に危機感を感じて同行することにした。
もしも、あの光がアズリアに向けられたら……。
そう思うと、倒さなければならないという気持ちがどこからか湧いてきて、自然にブラッドとヘクトルの後ろを追っていた。
それは一見、正義感に燃える行動に見える。
でも、本当にそうなのか?
「ありがてえ。 恩に着るぜ」
支援
385 :
代理:2009/11/15(日) 01:15:28 ID:bVLOsEz5
イスラの行動に純粋に感謝をしつつ、ヘクトルはブラッドに負けないペースで走り出す。
だが、イスラは走っている最中、あることを考えていた。
アズリアが死んだ場合、自分はどうするのだろうか?と。
ブラッドに言われた時、答えに窮したのはあの光を見たせいだけではない。
純粋に、イスラはあの問いに対する答えを持ち合わせていなかったのだ。
その場合を考えるのを、脳が無意識に回避していたのだろうか。
アティもアズリアも、戦闘力やいざという時の行動力も目を見張るものがある。
だから、簡単には死なないと思う。
でも、死者は順調に増えている。
おそらく、あと少しで聞こえるオディオの死者の宣告時にも、また何人か死んでいるだろう。
そして、軍や暗殺者の部隊と懸命に渡り合っていた幼き少女でさえも、もう死んでいる。
あの島で死ななかったからといって、今回も死なない保証はどこの誰もしてくれやしない。
その上で、考える。
アティやアズリアが死んでいた場合、イスラ・レヴィノスはどうするのだろうか?
オディオを倒して生還して、レヴィノスの家を継ぐ?
そうだ、順当に考えれば、それが一番自然で妥当な考えだろう。
でも、理性とは違う別の何かはシックリこない、何かが違うといっている。
そうなった自分の姿を上手く想像できないのだ。
この島でさえ、誰とも友情を育むことなく一人で行動しようとしているイスラ・レヴィノスに、一体なにができるのだろうか?
それが自分の望んでいたことなのだろうか?
いや、違うと断言できる。
死にたいと思っていたイスラが生きて、生きたいと思っていたアズリアが死ぬなんて、絶対にあってはならない。
もう一度受けた生は、アズリアのために使うつもりだった。
イスラはここは自由だと、以前思った。
魔王に立ち向かうのも、その結果やられるのも自由。
自暴自棄になって首輪を外そうとして爆発しても自由。
逃げようとしても、何をしようとしてもここは自由なのだ。
でも、イスラはこの自由をアズリアのために使うと決めたのだ。
もしも、アズリアがこの先死ぬようなことがあれば――
もしも、もうアズリアが死んでいたのだとしたら――
使い道のない自由なんて、あったって何になるんだろう?
【I-6 橋付近 一日目 昼】
しえん
支援
389 :
代理:2009/11/15(日) 01:16:26 ID:bVLOsEz5
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:全身打撲(小程度)、疲労(小)
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドU
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、ビー玉@サモンナイト3、
基本支給品一式×2(リーザ、ヘクトル)
[思考]
基本:オディオをぶっ倒す。
1:東へ向かう。
2:仲間を集める。
3:フロリーナ達やブラッドの仲間、セッツァーの仲間を探す。つるっぱげも倒す
4:セッツァーをひとまず信用。
5:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)、エドガー、シャドウを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※鋼の剣@ドラゴンクエストIV(刃折れ)はF-5の砂漠のリーザが埋葬された場所に墓標代わりに突き刺さっています。
※セッツァーとイスラと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
ティナ、エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。
※マッシュとセッツァー情報の食い違いに気づいていません。
【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身に火傷(多少マシに)、疲労(小)
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI
[道具]:不明支給品1〜2個、基本支給品一式
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:東へ向かう。
2:仲間を集める。
3:自分の仲間とヘクトルの仲間を探す。
4:魔王を倒す。ちょこ(名前は知らない)は警戒。
5:アナスタシアを救う。
[備考] ※参戦時期はクリア後。
しえん
392 :
代理:2009/11/15(日) 01:17:22 ID:bVLOsEz5
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストW 導かれし者たち
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式(名簿確認済み) 、ドーリーショット@アークザラッドU
鯛焼きセット(鯛焼き*2、ミサワ焼き*2、ど根性焼き*1)@LIVEALIVE、ビジュの首輪、
[思考]
基本:首輪解除と脱出を行い、魔王オディオを倒してアズリア達を解放した後安らかに死ぬ
1:東へ向かう。
2:途中危険分子(マーダー等)を見かけたら排除する。
3:エドガーとルッカには会った方がいいかな?
4:極力誰とも会わず(特にアズリア達)姿を見られないように襲われたり苦しんでいる人を助けたい。
5:今は姉さんには会えない………今は。
6:もしも姉さんが死んでいた場合は……?
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。
※マッシュとセッツァーの情報の食い違いに気づいていません
※イスラたちが見たのはケフカによるアルテマの光です
代理投下ありがとうございます
394 :
代理:2009/11/15(日) 01:21:33 ID:bVLOsEz5
代理投下終了しましたー。
支援してくださった方々ありがとうございますー。
これは丁寧につながれましたね。
そしてイスラが何か危険というか難しい思考……
アズリアどころかアティせんせーも死んでるしこれは不味い。
ヘクトルもフロリーナ死んでるしここは放送後は地獄か?
投下乙!
ブラッドはさすがに頼りになるなあ。
ヘクトルも統率者としての片鱗見せ出したし。
そして揺れるイスラ。同じく兄弟なくしたヘクトルが放送後の鍵か。
そういえば放送ですよね?
これは書き手さんがたで早い者がち?
放送話書くのは、前回は0時解禁の予約合戦形式だったはず
俺は今回放送話書きたいから、予約合戦あるとしたら参加する予定
とりあえず放送は明日0時解禁でやってみるか?
それとも禁止エリア候補をここかしたらばで募集するのが先か?
そういえば禁止エリア忘れてたw
うーん、俺は特に思いつけないかな?
とりあえず放送予約より先に禁止エリア募集してみて案があったらそれ採用、無ければ放送書く人任せでいいかな?
俺も禁止エリアの希望は特にないから放送書く人に任せる
おっしゃあああああああああ規制解除きたあああああああああああああ!
投下乙です!
これはイスラやばい……っていうかヘクトルもブラッドもやばい
行った先にケフカとビッキーでもいようものならセッツァーの誤情報もあって地獄決定だぜ
三人とも死んでもおかしくないようなガクブル展開もあり得るか?
禁止エリアは特に望む箇所もないから書き手さん任せにします
俺も禁止エリアの希望はないなぁ。書き手さん任せにー。
んじゃ明日の0時放送予約開始でいいかな?
それでおk
>>401 以前投下された話読めばわかるが、現在ケフカは満身創痍の素寒貧だぞ?
マッシュからケフカの事を聞いているであろうイスラもいるのに、三人死亡は可能性低い。
ビッキー辺りがイスラ、ヘクトル辺りの暴走を抑えるだろうし。
よし、放送後注目のパート(予約したいパートに非ず)をみんな言ってみよう
俺はユーリルの動向が気になる
自分の拠り所を無くし無気力になったユーリルがどうなるか楽しみでたまらない
教会にいるマリアベルたちだな。
別れたばかりのガンマンコンビの死を知った反応が気になる。
回復したルカ様がどこで暴れてくれるのか気になるぜ。
海沿いの全てが射程圏に収まったからなぁ。
放送案をしたらばの仮投下スレにて投下します
放送案をしたらばに投下しました。
なお、雨に関しては完全の個人の趣味ですので、問題ありと判断されればすぐに消します
あ、少し説明不足なところとミスが。
>オディオは自身に与えられた役目をはたすべく、重い口を開けた
この部分、黒幕がいそうなニュアンスになってしまいますので後で変えます。
そして、雨が降る場所については書き手さん任せできたいと思います。
さすがに、そこまで禁止エリア決めのときのように投票形式にするのはだるいと思いますので
仮投下すれにて放送を確認しました。
氏本人が修正されたところ以外私はOKかと思います。
雨は演出描写に書き手さんがたで使えるかもしれませんし、いざとなれば誰もいなかったところで降っていたということでいけますし
投下乙です
自分もそれでいいかと
どうやら通しでいいみたいですね
SE氏気付いたときに本投下お願いしまーす
時計の短針と長針が頂点でピッタリと重なる。
同時に、オディオは自身の務めをはたすべく、重い口を開けた。
玉座に腰を下ろしたまま喋るオディオの声は、深い憎しみに彩られている。
天から降り注ぐように、
地の底から響いてくるように、
あるいは、風に紛れてどこからともなく、
どんな場所にいようとも、この絶望という名の宴の参加者である限り逃れられないような、オディオの声が響く。
「時間だ……一度しか言わぬから心して聞くといい。
まずは禁止エリアの発表だ。
13時からI-1とD-3
15時からB-9とA-5
17時からF-10とJ-8
そして、死者の名だ。
カノン
フロリーナ
エドガー・ロニ・フィガロ
シュウ
サンダウン
リオウ
ビクトール
ルッカ
アズリア・レヴィノス
エルク
アティ
前回と同じ11名がその命を落としている。
変わらぬ勢いを持続してお前たちも嬉しいだろう。
自分が生き延びる確率がまたも増えたのだ。
胸に灯ったその感情の命ずるまま、すべて殺し尽くせ。
なお、今回まで生き延びた者たちに少しだけ先のことを教えてやろう。
18時より次の日の0時まで、特定のエリアにて雨を降らせる。
水を己の領域とするものはそこに行くがよい。
お前たちにも見えてきただろう、人間の本性が。
分ってきただろう、隣にいる人間が何を考えているか。
獣とて、必要な時以外殺しはせぬ。
しかし、人間の欲は際限なく他者を巻き込む。
……ならば、勝ち続けろ。
歴史とは、人生とは勝者の物語。
敗者には、明日すらも与えられぬッ!
信用するな、手を取り合うな、戦い続けろ、奪い尽くせ!
53の屍の上に立ち、見事勝者になって己の望みを私に言うがいいッ!」
◇
『勇者』と呼ばれ、人類を救った若者のことを思う。
人間の醜さを知らず、ただひた向きだった頃の自分と彼は似ていた。
無知だという点において。
自らが生贄だと知りもせず、ただ請われるままに勇者であり続けた若者。
自らのなすべきことに疑いを持たず、ただ人々の期待に応え続けた自分。
彼もまた、この島で人間の愚かさに気付き始めている。
『勇者』も『英雄』も単なる生贄でしかなく、
平和を願う心だけは一人前なのに、そのくせ自分で戦うことをしない他力本願な民衆によって祭り上げられた存在だということに。
勇者を、完全無欠の神のごとき超常の存在だと勘違いしている愚民に踊らされた哀れな若者。
彼を見るのは、とても気分がいい。
かつての自分を見ているかのようだった。
彼は傷ついているのではない。
自分がどういう存在だったのか、人間がどういうものか気付き始めているだけだ。
若者の心に生まれた小さな暗闇を、オディオは決して見逃さない。
何故なら、その暗闇の権化がオディオそのものだからだ。
口の端を凄惨に吊り上げて、魔王は笑う。
それは悪魔でさえも震えあがるような、底知れない憎しみを孕んだ笑みだった。
投下終了しました
お早い投下乙です!
やはりオディオはユーリルやアナスタシアに自分重ねるか
さて、放送後の予約ですがどうしましょう。
今夜0:00では気付かない人もいるでしょうし、明日0:00ってとこかな?
明日だろうな
さすがに半日も経ってないのに予約解禁はしない方がいい
さて今回はいくつ予約がはいるか楽しみでならんぜ
5個くらいきたらいいなぁ……高望みだろうけど
/´〉,、 | ̄|rヘ
l、 ̄ ̄了〈_ノ<_/(^ーヵ L__」L/ ∧ /~7 /)
二コ ,| r三'_」 r--、 (/ /二~|/_/∠/
/__」 _,,,ニコ〈 〈〉 / ̄ 」 /^ヽ、 /〉
'´ (__,,,-ー'' ~~ ̄ ャー-、フ /´く//>
`ー-、__,| ''
即予約は二つ来たな!
ユーリルとルカ様、これは絶対何か起こるフラグ……!
6X氏きたあああああああ!
iD氏に続き久しぶりに氏の作品が読めるってんですごい嬉しいぜい
お待たせしました。これより投下します
若干長めなので支援いただけるとありがたいです
礼拝堂やステンドグラス、信仰の対象となる神を模した像。
そして、神の教えを書き綴った教典を収める書架。
この教会は城下町の中にあったそれとは違って、老朽化はしてないようで、腰を下ろして休むにはいい場所だ。
西を見渡せば海が、東を見渡せば森とそれなりの高さを持つ山が見え、北と南を見れば海岸線があった。
どうやら、ここはたしかにF-1にある教会で間違いないらしいということを教会の屋根に上り、それを確認したマリアベル。
忌々しい太陽を見上げ、マリアベルは目を細める。
思えば、カイバーベルトがファルガイアを侵食していた時、太陽の光は遮られ、着ぐるみを着る必要はなかった。
その点だけを取ってみれば、あの頃は悪くはなかったなと、今更になってマリアベルは思った。
もちろん太陽の光がなければ作物も育たないから、それは膨大なデメリットの中にあった数少ないメリットの一つに過ぎないのだが。
夜の支配者たるノーブルレッドにとって、太陽とは敵でもあり味方でもある。
海岸近くだけあって、この辺りは風が少し強めだ。
荒野には荒野の、海辺には海辺の風が吹く。
荒野とは違う、湿り気を帯びた風を感じながら、マリアベルは辺りを見回す。
誰かここに近づいてこないか視察しているのだ。
地図を見る限り、この近辺には建物は教会しかないため、人が訪れる確率が高い。
そのため、定期的にマリアベルは見張りと斥候を兼ねた行動をしていた。
今回も異常ないことを確認したマリアベルは、屋根から下りて礼拝堂に入っていった。
「もう一度! もう一度やってみる!」
ニノと酔い(?)から回復したロザリーは二人で呪文の勉強をしていた。
見事メラを使いこなしたニノのたっての希望だ。
ロザリーも快く承知して、根気よく教えていた。
しかし、今回は前回のようにはいかず、失敗続きだ。
今も新たな呪文の習得に失敗して、再度のチャレンジをロザリーに申し出たところだ。
「でも、眠くない?」
「う、ううん。 だ、大丈夫! まだいけるもん」
呪文とは、精神の力を注ぎ込み、物理法則に拠らない数々の奇跡を生み出すもの。
ニノの精神力が限界に近いのを見てとり、ロザリーが聞く。
瞼が重いのか、ニノは眠気と必死に戦っているようだった。
気を抜いてしまうと、船を漕いでしまいそうになるのをなんとか我慢して今までロザリーの教えを聞いていたが、それも限界が近づいている。
自分から呪文を教えてくれと言ったのに、眠たいから寝たいと言うのは気が引けるのか、ニノは続行の意志を表明する。
しかし、数秒もするとまたうつらうつらとした顔を見せるようになる。
と、丁度礼拝堂の中に戻ってきたマリアベルも状況を察して、ニノに休むよう言った。
「ニノ、もう寝るがよい。 お主のその様子では新しい呪文を覚えるどころか、メラも使えるか怪しいぞ」
「そんなことないよ! メラっ! ……あ、あれ?」
「……駄目じゃこりゃ」
ニノの手には蝋燭の灯りくらいの火しかつかない。
完全にガス欠状態だ。
ロザリーとマリアベルはしょうがないなという顔をして、ニノの傍によった。
そして、二人同時に――
「ラリホー」
「スリープ」
ニノの額に指をあて、眠りの魔法をかけていた。
いくら魔法に対する抵抗力がある程度高い魔道士といえど、疲労の限界に達していた状態で眠りの魔法をかけられてはしかたない。
全身から力が抜けるニノをロザリーが抱きかかえ、優しく礼拝堂の長椅子に横たえる。
スヤスヤと規則正しい寝息をしているニノは当分起きそうにない。
それも致し方なかろう。
エリクサーやライフドレインで疲労を回復したマリアベルやロザリーとは違って、ニノは時間の経過による自然回復しかしてない。
夜から起き続け、戦闘もこなした身では消費された体力や精神力ももう限界だったのだろう。
「いい子ですね」
「ふん、学ぼうという姿勢は認めるがな。 何ほどの者でもない、ただのちっぽけな人の子よ」
ニノの頭を優しく撫でながら、ロザリーが微笑む。
魔族の王の心を射止めるほどの美しさが、その笑顔には込められていた。
「どうします?」
「なぬ?」
「ニノちゃんが寝ると、行動ができません」
「ふむ……そうじゃな。 とりあえずオディオめの声がまた聞こえてくるまでは寝かしてやるかのう」
時間にして2時間弱、それがこの子に許されたわずかな安らぎの時間。
せめて夢の中だけでも、楽しく過ごせるようにと、ロザリーは願わずにはいられない。
そんなことを考えていると、オディオへの疑問も湧いてくる。
「魔王オディオは、どうしてこういうことをしようとしたのでしょうか?」
「単に人間嫌いではないのか? やたらと人間は裏切るだの何だの言っておったし」
「そう、ですね……。 それは間違いないと思います。 でも、人間が嫌いなら何故、人間全体を滅ぼさずに一部の人間だけにこんなことを……」
デスピサロという、これ以上ない身近な例があったロザリーとしてはそう思うのは当然のことだ。
あの時の変わり果てたデスピサロの姿を思い出すと、未だに胸が締め付けられるような思いになる。
愛する者のことも忘れ、自分が何故人間を憎んでいるかも忘れ、醜悪な怪物になり果てたピサロ。
憎しみが、一人の若者をあそこまで変えてしまうことにロザリーは恐れ、おののき、そして悲しんだ。
「……違いないな。 何故人間すべてを滅ぼさずにこのようなことを。 いや、人間嫌いなのは分かるが、それなら何故わらわやお主のような人ではない種族まで?」
人間については色々言ってはいたが、オディオはエルフやノーブルレッド、魔族については殺し合えという以外、特に何とも言わなかった。
そもそも、トカにいたっては二足歩行ではあるが、人間とは似ても似つかない種族だ。
「分らぬな……考えてもオディオ本人がここにいない以上、結論の出んことではあるのじゃが……」
「人選になんらかの意図がある、というのはどうでしょう?」
「宿屋でも話したことじゃな」
宿屋でパーティー分割の話をする際にも話したことだ。
いくつかの知り合い同士が固まってここに来させられているという。
ニノはネルガルと戦った仲間たち。
マリアベルはARMSのメンバーと、敵対していたオデッサの一員。
ロザリーは愛する者ピサロと、ピサロと戦っていた導かれし者たち。
明らかに、選出された人員に何らかの意図が感じられる。
また、シュウやサンダウン、ストレイボウと話した時に判明したのは、全員が漏れなく非日常の世界を体験、あるいは歴史などを左右するような戦いに身を投じていたこと。
生まれてきてから、ずっと平和な時間を過ごしていた者というのがいない。
サンダウンもつい最近までは普通――あくまでサンダウンの基準で――の生活を送っていたらしいが、ある日突然、謎の世界に連れてこられたらしい。
「個人間の戦力のバランスをとるためではないか? 強さに偏りが出ると、殺し合いというより虐殺しか起こらぬぞ」
「誰でも、最後の一人に残れるチャンスを残すためですか。 なるほど、それはそうかもしれません」
「妥当な考えだと思うが……いやしかし、となると知り合い同士で参加させられてるのや、わらわたち人間以外の種族が呼ばれた説明がつかぬ……」
堂々巡りの思考に陥ってしまい、またもや結論は出ない。
結局、分ったのは魔王オディオが筋金入りの人間嫌いなんだろうということだけだった。
判断できる材料が少なすぎて、オディオの内面を窺い知ることができない。
そこで、ロザリーが瞬間に思いついたことを言ってみた。
「では、その二つの要素を合わせて考えてみる、というのは?」
「なぬ?」
「はい、人間がメインで、エルフやノーブルレッドがオマケにすぎないのかもしれません」
「オマケとなッ!?」
オディオは人間が嫌い。
それは言動の端々から見てとれる。
何故嫌いなのかはさておき、人間が愚かな生き物だと思い知らせたい。
だから、こうして様々な世界から人間を集めて、殺し合わせる。
人間は、本当に苦しい時にこそ本音や本性が出る。
全員殺さなければ生き残れないという極限状態に放り込むことで、人間の心の奥底に潜む本性を引きずり出そうという考えかもしれない。
そこで、疑問に出てくるのが、ならば何故人間以外の種族まで?ということだ。
ロザリーは、この理由づけに知り合い同士で連れてこられてるらしいという事情を思い出し、そこに目を付けた。
「つまり、私たち人間以外の種族は、あくまでも勇者様やマリアベルさんのいう部隊の知り合いだから、つれてこられたのではないかということです」
「わらわたちは人間のとばっちりを受けたと?」
「はい、そしてあわよくば私たちにも人間の愚かさを思い知らせたい、という計算もある、かもしれません……」
そう言ったロザリーも最後は自身なさげだった。
所詮、こんなものは憶測の上に憶測を乗せ、さらに憶測を展開したものにすぎないからだ。
世間ではそれを、当てずっぽうという。
「ゆ、ゆ、ゆ……許さんッ!」
しかし、マリアベルにはどうも見逃せないことだったようで、拳を握りしめ、オディオに対する怒りを露わにした。
よりにもよってノーブルレッドをオマケ扱いすることとは何事だ、必ずや成敗してくれる、などということを大声で言っている。
「あ、あくまでそうかもしれないというだけです。 それに、ニノちゃんが起きてしまいます」
「む……わ、分っておるわッ!」
幸い、今の大声ではニノは起きなかったようで、相変わらず規則正しい寝息を立てていた。
それを確認したロザリーは安堵の息をついて、もう一度ニノの頭を優しく撫でた。
ロザリーの手の感触を感じたかどうかは定かではないが、ニノもわずかに頬を緩ませる。
ニノがロザリーに呪文の名前を聞いていた時、メモしていた紙を見る。
つい最近、ようやくニノは字の読み書きを覚えたらしい。
慣れない手つきで、メラやメラミと言った言葉を紙に書いていた。
マリアベルやロザリーにとっては、ニノの書いた文字は蛇ののたくったようなものに見える。
明らかにマリアベルやロザリーの世界には存在しない言語だった。
しかし、不思議なことにそれがちゃんとメラ、メラミ、メラゾーマと書かれていることが読み取れる。
もちろんロザリーもマリアベルもそんな翻訳能力はもってない。
オディオの底知れなさを窺わせる要素の一つだ。
文字だけではない。
言葉一つとっても、口の動きと実際に聞こえてくる言葉が全く合ってないのだ。
にも関わらず、正確に口を読んでメラを覚えたニノはさすがというべきか。
「こんな子に、どうして恨みを持つのでしょうか……?」
赤子のように邪気のないニノの寝顔を見ると、ロザリーもそう言わずにはいられない。
それを聞いたマリアベルは、ふと思うところもあって、ロザリーに聞いてみた。
「人間が好きなのか?」
「えっ……?」
戸惑いは一瞬の沈黙を生む。
ロザリーは思った以上に、答えが出せない。
ニノは好きだし、サンダウンもシュウも好きもストレイボウも、導かれし者たちも好きだ。
「分りません……」
なのに、答えはイエスでもノーでもない、曖昧な形になってしまった。
伏したロザリーの瞳からは、複雑な感情が渦巻いている。
マリアベルは着ぐるみを脱ぎ、素顔を出した。
「本音を言うていいのじゃ。 わらわは人間ではないし、嫌いだと言っても告げ口はせん」
そう、今ここに起きている人間はいない。
エルフとノーブルレッドだけの世界だ。
いくらでも本音を話してもいい。
ロザリーはしばし逡巡した後、マリアベルの顔を見て話を続けた。
「全員が全員、好きではありませんけど、この子みたいに澄んだ瞳をもっている人間がたくさんいることも知っています」
ロザリーヒルで、初めてユーリルやその仲間に会ったときにも思ったことだ。
ピサロがロザリーに対して酷い仕打ちをしていた人間を殺したときでさえ、何も殺さなくてもとロザリーはピサロに言った。
そういう優しさを持つのがロザリーという女性なのだ。
人間は自分を虐待するような酷い人しかいない訳ではない、そう信じていた。
そして、会えた。
だから、信じてピサロのことを頼み、万一のことがあれば殺してくれとも言った。
「世界樹の花を使って、私の御霊を呼び戻してくださったこともあります」
勇者やその仲間にも、世界樹の花を使いたい人が必ずいたはずだ。
例えば壊滅した勇者の故郷の村の人たち、例えばミネアやマーニャの父親。
そういった個々人に死者の国から帰ってきてほしい人がいたにも関わらず、自分を選んでくれた。
もちろん、エビルプリーストのおかげで真相を知った勇者一行が、ロザリーならピサロを元に戻せるかもしれないと思ったからという打算もあっただろう。
ロザリーという個人に、勇者一行が好意を抱いてくれていた訳ではない。
それでも、愛するピサロとの平和を取り戻せたことに対しては、いくら感謝してもたりないほどだ。
だが、それで昔受けた心の傷が完全に癒えるはずもない。
結局、人間全体に関する判断は保留のままだ。
それは、ずるいことなのだろうか。
「だから、ニノちゃんやシュウさん、サンダウンさんに勇者様たちだけは好きです。 もちろんマリアベルさんも」
「アホ抜かすでない」
急にそんなことを言われたマリアベルが少しだけ照れくさそうな顔をする。
ロザリーも微笑んで、今度はマリアベルに聞いてみた。
「マリアベルさんは?」
「わらわか……ふむ……」
マリアベルも礼拝堂の中で、人間に対する思いを考えてみた。
アナスタシアと戦っていた日々。
アナスタシアと別れてからの日々。
ARMSのメンバーと戦っていた日々。
それは一言では到底言い表すことのできぬ量の時間。
色んな出来事があって、色んな人がいた。
しかし、答えはロザリーと似たようなものだった。
「よく分らぬ。 人は生命の誕生を喜ぶ一方で、平気で他人を殺す。
世界のどこかで新たな命が生まれたとき、別の場所では誰かが死んでいく。 それこそイルミネーションのようにな。 なんと矛盾に満ちた幾億もの光か。
脆弱で、簡単に同族同士で傷つけあい、時には手を取り合う。 そして、強い絆で結ばれた仲間は決して裏切ることはしない。
ノーブルレッド永遠の課題じゃ。 人間とは強いのか弱いのか、如何なる存在であるか、というのは……」
ロザリーも頷かずにはいられない。
それはロザリーが人間に対して思っていたことと当てはまるからだ。
ロザリーを虐待する人間がいる一方で、ロザリーを救う人間もいる。
だからこそ、ロザリーも人間という生き物がどういうものか測りかねているのだ。
「ロードブレイザーと戦うとき、アガートラームの光のもと、ファルガイアの誰もが戦うために一丸となった。
あの時、わらわは人の心の光というのを確かに感じ取った」
「……」
「長き宿願が果たされたが、わらわは同時に思った。 人間は団結すると本当に強い。
それだけの強さがあるのに、どうしてこれほどの犠牲と時間が必要だったのかと……」
ロードブレイザーとは何のことかロザリーには分らない。
けれど、マリアベルが自分のいた世界で戦った敵だというのはなんとなく分った。
マリアベルもロザリーの相槌は必要としてないのか、構わずに続ける。
「そうよ、人間が団結すれば、ロードブレイザーなど敵ではなかったのじゃ。
何故、あの境地に至るまでに数百年もの歳月が必要だったのか……。
数百年前にも同じことができれば、あやつはああはならなかったのに……」
悔しげに、マリアベルは顔を歪ませる。
まるで、心に溜まった澱みを吐き出しているかのように。
人間には決して言えない不満が、エルフにぶつけられる。
数百年という、人間やエルフでは感じることのできない圧倒的な時の流れがロザリーを圧倒し、口をはさめない。
「無論、人間が進歩していることはいいことじゃ。 人間ほど多様性に富んだ生き物もいない。
そこが、人間の素晴らしいとこであり、厄介なところでもあるがな……」
エルフは穏やかな種族で、人間に関わることをよしとせず、平和に生きる種族だ。
ノーブルレッドはマリアベルを見れば分るように、強固なアイデンティティを持った誇り高き種族。
人間は、一言で表すことはできない。
暴力的な人間もいれば優しい人間もいる。
お金に意地汚い人間もいれば、富には全く関心のない人間もいる。
とにかく、色んな種類の性格、自己をもっている。
「ふうっ……」
大きく、マリアベルが息をついた。
少しばかり、呆れかえるような表情に変わる。
「わらわはたくさんの生と死を見てきた。 それこそ……数も、意味も、忘れそうになるほどな。
こんなことを企んでやった人間は今までもたくさんいたのじゃ。
今回は規模と、そんなことをやろうとしたオディオの力が飛びぬけておるだけでな」
歴史には名君も暴君もいた。
そんな暴君が人間を集め、人間同士で殺し合わせる。
馬鹿馬鹿しいと、マリアベルはそんな暗愚な指導者を侮蔑してきた。
もちろん、マリアベルは人の世には極力関わらないから、手を出すことはしなかったが。
それは、本当に『どこにでもよくあること』だったからだ。
マリアベルは神などではない。
スリから強盗、殺人、はてはオディオのような殺し合いを取り締まる義理も義務もない。
良くも悪くも『人の問題』だからだ。
ノーブルレッドが出しゃばることではない。
「今回の焔の災厄だって、アーヴィングがオデッサという脅威を用意して、ようやく人の心を繋げることができたのじゃ。
考えてもみい。 オデッサなんてものがなくても、人間に最初から心を繋げる強さがあれば、死ななくてもいい命がたくさんあったはずなのじゃ……。
人が団結するためには、まだそこまでしなければならなかったんだわさ……」
ARMS指揮官、アーヴィングの策略は確かに世界を救った。
でも、アーヴィングはオデッサという脅威を用意することで、死なくていい命まで死なせてしまった。
ファルガイア全体に生きる命全てが死ぬよりは、一部の人間が死ぬ方を選んだのだ。
アーヴィングのファルガイアを思う気持ちは本物だったし、マリアベルもそれを認める。
でも、だからこそ、マリアベルはその一点だけアーヴィングを許すことができない。
奴はファルガイアを思うあまり、人間を数字としてしか見なかったのだ。
そして、そうまでしないといけなかった人間の弱さと、ノーブルレッドの知恵では全ての人を救うことができなかったという自身の未熟さに、忸怩たる思いを抱えずにはいられなかった。
「そう、人はまだ……幼い。 目の前にある欲しいものが、我慢できない……。
結局な、人間の敵はいつまで経っても人間なのかもしれぬ……。
もしかしたら、例えこの先、人が星の海へ行けることになっても、星の並びが変わるほど時を隔ててもな。
わらわは人間を信用する。 でもな、時々歯がゆく思うこともあるのじゃ……。
やればできるのに、どうしてやらないのかと……」
「人間が……嫌いなのですか?」
初めて、ロザリーが口を挟む。
奇しくも、それは人間が好きなのかというマリアベルの質問と正反対のもの。
それを聞いて、マリアベルは一瞬考え込むような顔をした後、そうではないと軽く笑った。
「愚痴よ。 こんなことは人間には言えぬ故にな。
人間はあと数百年もせぬうちにまた戦争を始めるじゃろうて。
ああ、待つさ、待つとも、待つわい。
100年どころか1000年待っても惜しくないほどのものを、わらわは人間に見せられた。
だから、今のはこれから先のことを思っての、100年分の前倒しの愚痴じゃ。 ゴーレムに愚痴ってもうんともすんとも言わぬからの」
ロザリーは人間のことを全肯定できるほど好きではない。
それでも、ロザリーはマリアベルが人間が嫌いではないと言ってくれたことに安堵した。
マリアベルは待っているのだ。
人が犠牲なくとも、アガートラームを持つ強さを手に入れるのを。
誰もが英雄にすがらずに戦うことを選ぶ未来を。
人が自分自身の力に目覚め、自分自身の力に責任が取れるその日まで。
「わらわは待とう……。 たった一人でも、永遠に」
それこそが、最後のノーブルレッドであるマリアベルに課せられた使命の一つ。
命か、心か、時が尽きるまで生きるという、永遠を背負いし者。
それが、マリアベル・アーミティッジ。
この人はどれだけの苦しみを背負って生きているんだろうか、ロザリーはそう思わずにはいられない。
少なくとも、自分にはとてもできそうにないと、ロザリーは思った。
「ニノちゃんは……眠っている間、私たちがこんなことを話しているとは思いませんでしょうね」
「じゃろうな。 よいよい、お子様にはなんの関係もない話じゃ。 こやつは何も知らなくていい」
天井も壁もない、されど、確かにこの島は監獄なのだ。
首輪を嵌められた生贄たちが、たった一つの椅子を巡って争う奪い合い。
これはそんな有限世界で生きる少女たちの、ほんのひと時の安らぎの時間だった。
しえん
支援
支援
しえん
私怨
無法松は今時珍しく、精神論や根性論を頑なに信奉している人物だ。
困難があろうとも根性で乗り切り、難関には気合で立ち向かう。
1に気合2に根性、3、4がなくて5にド根性、そういう男だ。
それが、変わり行く現代の価値観には合わぬことも、松は当然知っていたが、それを変えようとは微塵も思ったことはない。
それでいいのだ。
変わっていく世相の中で、自分だけは変わらず馬鹿正直に自分というものを貫き通す。
汗臭い男だと言われようが、古臭い男だと言われようが構わない。
他人から理解を得ようと思ったことなどない。
流行り廃りなど、どうでもいいのだ。
そうして、松は世間の目など気にすることもなく己の肉体を鍛え続けた。
それは自分自身のためではなく、強きを挫き、弱きを助けるためのものだった。
弱き者――それは子供や老人、そして女だ。
戦う術を持たない人や弱き人を助けるのが自分の、いや男の役目だと信じて鍛えた。
今の世の中、男女は平等だと云う。
そうかもしれない、確かに男と女の社会的立場に上下があってはいけないだろう。
法整備が整い、肉体労働ではなくデスクワークも増えた。
女が男以上の能力を発揮できる環境もたくさん増えた。
そういった社会で、並の男では一生かかっても稼ぎきれないお金を稼ぎ出すやり手の女も現れ始めた。
男を下に見る女も増えてきただろう。
それは一向に構わない。
それでも、無法松は男は女を守るものだと、女は男に守られるものだという自己の主張を取り下げることはなかった。
男女平等というのは、法の整備が整った現代でしか通用しないと思っているからだ。
ここで一つの仮定をする。
年齢が同じ男と女が腕相撲をした。
さて、勝つのはどっちだろうと聞かれた場合、多くの人は男が勝つと思うだろう。
そう、法律ではいくら男女平等だと言われようと、フェミニストや人権団体が何と言おうと、男と女の間には力の差というものが純然たる事実としてあるのだ。
もちろん、今は女が男に勝つ方法はいくらでもある。
銃を持てば、女だって男に勝てるかもしれない。
銃じゃなくても、自分の得意分野に持ち込めば、勝てることは多いかもしれない。
しかし、男と女という以前の問題の前に、人間には絶対不変の真理がある。
人は皆、裸で生まれてくるのだ。
刀も鎧も、ましてや銃なんて持って生まれてこない。
それが、無法松にとって、何よりも大切なことだった。
本当に人が平等の状態に陥ったら、身を守る武器も衣服もなく、社会的に守ってくれる法律も仲間もいなかったのなら、女は男には勝てない。
ならば、男である自分が女を守るのは当然のことだと、松はそう思った。
稲妻のごとき鋭さを持ったアッパーも、燃えるド根性を込めた蹴りも、己の鍛え上げた肉体から繰り出される武器だ。
竹刀や木刀、銃には頼らない。
己の武器がなんらかの事情で没収された場合、守れるものも守れなくなる。
いや、一時期銃を手にしていた時もあった。
だからだろうか、その時期に犯してしまった罪は今でも無法松の中で消えることなく存在している。
守るはずのための行動が、いつから奪うための行動になっていたのか。
それに気づいたとき、無法松はクルセイダーズの組織を抜けた。
身寄りのない孤児たちの生活を救うために、タイヤキ屋も始めた。
今度こそ、この手で守りたいものを守るために。
そして、守れた。
本望だった。
死ぬのを怖いとは思わなかった。
そして、当然のように、今度も誰かを守れるのだと、根拠もなく信じていた。
だが、現実はなんと残酷なことか。
「ちくしょう……」
それは昭和の男が出すような気合の入った声ではなかった。
無法松が嫌っている軟派な人間が出すような、弱々しい声だった。
今の感情はそう、あの時と同じ。
ブリキ大王を動かそうと勇んで壽商会に乗り込んで、結局駄目だった時に感じた無力感に再び襲われていた。
守るものと決めていた女に、逆に守られたのだ。
それも二度。
無法松にとっては、これ以上ないほど屈辱的で、皮肉な仕打ちだった。
「情けないじゃねえか……」
遥か天空から降り注ぐ流星は容赦なく草も木も、そして人間でさえも押しつぶし、滅ぼしていた。
大気圏との摩擦熱で熱せられた隕石群はまだ熱を残しているのか、辺り一帯は熱気を保っている。
隕石との衝突で出来上がった数々のクレーターが、いかに凄惨な威力を持っていたかを物語っている。
そんな今だ戦場の熱が残った跡に、無法松がいた。
6時間ぶりに忌々しいオディオの声を聞いた後も、松は一歩も動くことはなかった。
意気消沈した昭和の男の背中は、とても小さく見える。
アズリアが死んだ。
アズリアが捜していたエルクが死んだ。
男の契約をしたビクトールさえも死んだ。
この拳をどこにぶつければいいのか、この怒りをどこに持っていけばいいのか、それすらも分からない。
また一人ぼっちになってしまった。
それどころか、人がたくさん死んだことで、状況は振り出しに戻ったどころかさらに悪化している。
無理だったのかもしれない。
オディオに反抗しようとすること自体が、そもそも間違いだったのかもしれない。
仲間を集めることができず、そして敵を打ち倒すことすら適わず。
あろうことか、仲間に守られてばかりだ。
守るために鍛えた強さも、ここでは何の役にも立たない。
それは、無法松という男を全否定するかのような事実だった。
もうどうでもいい。
どこかで酒でも呑んで自暴自棄になりたい、そんな衝動すら襲ってくる。
しかし、そこで松はようやく動き出した。
かつて、無力感から自棄酒を呷った経験があったからだ。
そんなことをしても何もならないことを、無法松は己の経験談として知っている。
あの経験がなければ、松はまた愚行を繰り返していたかもしれない。
そして、オディオを倒すという目標も、ビクトールと交わした約束が消えてなくなった訳ではない。
たとえ残り一人になったとしても、松はオディオに対して戦いを挑む。
倒すことはできなくとも、せめて死んでいった者たちの無念を奴に刻み付けてやりたかった。
ビクトールは死ぬ直前まで、大勢の仲間を集めて座礁船に行くよう言っていたかもしれない。
自分だってトッシュという男にそれを伝えているのだ。
ビクトールは死んだが、ビクトールと交わした男の約束はまだ死んではいない。
信じるのだ、ビクトールと、ビクトールの約束を。
座礁した船に希望を持った者たちが集まるのを。
そして、自分の弟分をもう一度守るのだ。
自分がこの手で殺してしまった男の息子が、今もまだこの島のどこかで生きている。
アキラも、超能力が使えるが、この島では強い方ではない。
無法松と同じくらいか、あるいは接近戦に至っては無法松より弱いかもしれない。
そう、まだ無法松の戦いは終わってはいない。
希望が全て潰えた訳ではない。
「行くか……」
後悔は終わりにして、無法松は動く。
6時間後には座礁船に戻らないといけないから、あまり遠くへは行けない。
それでも、限りある時間を無駄に過ごしたくはなかった。
足が棒のようになるまで駆けずり回って、誰かを探して保護か、倒すかしないといけない。
そう決意して走り出そうとしたとき、アガートラームのことを思い出した。
「……」
無言で考える。
皮肉な話だ、人を護るべき剣だけは無傷で、それを使う人は無残に死んでいくとは。
無骨で肉厚な灰色の剣は、大地に墓標のように突き刺さっていた。
あれだけ驚異的な死を撒き散らす破壊の魔法を受けても、剣は傷一つ付いてない。
剣に八つ当たりしたい気分にさえなる。
何故アズリアを護ってくれなかったのか。
何故自分はアズリアを護れなかったのかと。
剣の握りの部分を掴み、しばしそのまま立ち尽くす。
これを持って行くべきか?
持って行くのが当然の考えだ。
無法松は剣を扱えないが、ビクトールやトッシュのような男にとって、刀剣類はありがたい武器かもしれない。
メテオを受けても傷一つつかないほどの業物だ。
必ずや志を同じくする同士の心強い戦力になるだろう。
それに、ここに置いたままにすると、志を異にする者が持って行ってしまうかもしれない。
それは脅威だ。
そう、無法松の理性が持って行けと命ずる。
「……うるせぇッ!」
だが、松はアガートラームから手を離し、叫んだ。
「あいつはな、俺を助けるために死んだんだよ!」
芯から軍人だったアズリアのことを想う。
巨大な隕石に押しつぶされたアズリアの肉体は、見るも無残な肉塊になっていた。
降ってきた隕石の中でも、とりわけ巨大なものに押しつぶされてしまったのだ。
僅かに見える服装の切れ端や肉片と思われるものだけが、そこでアズリアが死んだことを示す何よりの証拠だった。
無法松にはこの隕石をどかすことも壊すこともできない。
「なら……ならよッ! 墓標の一つでもねえと、あいつが報われないだろうがッ!!」
そう、無法松は理屈より感情を取る男だ。
全てを理屈や計算で動かそうとするのなら、それはもはや機械か何かだ。
例え、これを積極的に殺し合いをする者がもっていく可能性を考慮しても、松はここにアガートラームを置いていくことを選んだ。
神や死者のために祈る言葉も持ち合わせてない松ができる、最大の弔いがこれなのだ。
もちろん、オディオも倒す。
倒して、アズリアやビクトールの仇も討つ。
無法松はまだ諦めない。
守るものがまだ残っている限り、無法松は無法松でいられる。
決意と拳を固くを握り締め、無法松は走った。
【B-7 一日目 日中】
【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]ダメージ(中)、全身に浅い切り傷、やるせない思い
[装備]壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
[思考]
基本:打倒オディオ
1:とにかく行動あるのみ。暗殺者とその協力者(ジャファル、シンシア)も追うかは不明?
2:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。 ただし、約束の時間が近いので探すのはできるだけ近辺で。
3:第三回放送の頃に、ビクトールと合流するためA-07座礁船まで戻る。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナ、ビクトール、トッシュ、アズリアの仲間について把握。ケフカ、ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
ジョウイを警戒すべきと考えています。
支援
そして、そんな無法松が去った後の戦場跡に、突然三人の少女たちが突如出現した。
突如出現したという言い方に語弊はない。
クレーターが発生した場所に、突如として揺らめく空間が発生し、そこから少女たちが現れたのだ。
「ここも違う……」
先頭に立っていたノーブルレッド、マリアベルが一人ごちる。
その声には明らかに落胆の色が含まれていた。
「じゃあっ! もう一回!」
緑の髪にあどけさなを残した顔の少女、ニノが言う。
ニノの顔にも焦燥感が浮かんでいる。
しかし、マリアベルはその提案を打ち切った。
「いや、もういい……これ以上は無駄じゃ」
「私はまだ大丈夫です」
マリアベルに対してそう答えたのは桃色の髪をしたエルフ、ロザリーだ。
顔色は蒼白を通り越して土気色にまでなっており、明らかに体調を崩しているのが分かる。
自分が気遣う故の、マリアベルの提案だと思ってロザリーは言ったのだが、そうではないとマリアベルは言う。
「見てみよ、ここは戦場の熱気もおさまらぬ戦場跡。
もう終わってはいるようじゃが、わらわたちを狙う不届き者がまだいるかもしれん。 とりあえず移動じゃ」
オディオの声を聞いたマリアベルたちは重大な事実を知った。
シュウ、サンダウン、フロリーナ、エルク、カノンが死んだのだ。
シュウとサンダウンを殺した下手人についてはカエルが真っ先に浮かんだが、確証がないだけで今は保留。
さらに、まだ再会してなかったフロリーナ、カノン、エルクなど、信用できる仲間がどんどん死んでいく。
これは方針転換したほうがいいかもしれないと、マリアベルは開けたクレーターの地から森の中へ身を隠し考える。
シュウも死んで、さらにシュウ本人が自分と同等、あるいはそれ以上に強いと断言したエルクまで死んでるのだ。
いや、エルクがシュウの知っている方かニノの知っている方かは分からないが、どちらも並大抵のことでは死んだりはしない実力の持ち主だ。
思った以上に強い輩がそこら中を闊歩しているのかもしれない。
「もうシュウとサンダウンを探すのは止めじゃ」
「そんな!」
「私のことなら気にしないでください」
二人の反論を聞きながら、マリアベルはシュウが死んだのは自分のせいかもしれないと思った。
あの時、まだシュウと二人で行動してた時のことだ。
マリアベルの隣にはシュウがいたが、シュウの隣には誰もいなかった。
こいつの信頼を得るのは今すぐはできないだろうと思った。
シュウはマリアベルがいつ敵になっても対応できるような距離をとって歩き、如何なるときもマリアベルやみんなに対して警戒していた。
ニノもロザリーも気づいてなかっただろうが。
それは宿屋にいた時も、カエルやストレイボウに初めて会った時もそうだ。
だから、別れた。
サンダウンに任せた。
いや、押し付けた?
マリアベル自身でもよく分からない。
何百年生きてようと、自分の気持ちさえ分からぬ時だってある。
それは心というのが深遠のごとき深みと広さを持っているからなのか、他のノーブルレッドに比べてマリアベルが未熟な若輩者なのだからか。
たぶん両方なんだろうとマリアベルは思った。
サンダウンもそれには気づいてたんだろう。
任せろと、あの時マリアベルにだけ言っていた。
私怨
「いや、ロザリーよ、何もお主を気遣ってのことだけではない。
考えてもみい、わらわたちはもう何回ゲートホルダーを使った? 何度目的の場所にいけずに地団太を踏んだ?」
「でも、次は行けるかもしれないよ!」
「そうじゃな、次は行けるかもしれん。 じゃがその確率は低い」
ニノの提案を再度マリアベルは退ける。
ゲートホルダーを使って教会から移動すれば、元の宿屋に戻るのが道理だと思うだろう。
だが、そうはならず、使った先はどこともしれぬ森の中。
それから何度もゲートを使って移動し、草原の中、砂漠の中、あるいはどこかの建物の中に移動したが、ついぞ宿屋に戻ることはできなかった。
ゲートの移動先が完全ランダムなのか、あるいはA、B、C、以下DEFというゲートがあったとして、AからBへ、そしてCへ、最後にFからまたAに戻るループ形式なのかすら分からない。
あるいは、時間に応じて行き先を変えるのかもしれない。
まったく判断が付かないのだ。
「ロザリーに無理をさせる訳にもいかん」
「私は大丈夫です」
未だ落ち着かぬ呼吸を繰り返すロザリーを、話は最後まで聞かんかと諭す。
何も、もうこの先ゲートホルダーを使わないというのではない。
ただ、シュウとサンダウンを探すために、ゲートホルダーを使って移動するのは止めようという話だ。
「ロザリーの体調、そしてゲートの行き先の法則が不明なこと。 以上からシュウとサンダウンの捜索は打ち切りじゃ。
酷なようじゃが、シュウとサンダウンが死んだのはもう決まっているのじゃ。 どうすることもできん……。
それに何度も転移を繰り返すと、今回は戦場跡じゃったが、戦場のど真ん中に出ることだってあるかもしれん」
「それはそうだけど……死んだっていうのが嘘の可能性もあるし…」
「それなら尚のこと無駄じゃ。 シュウとサンダウンが生きておるのなら、もうとっくに宿屋から離れとるわい。
今更宿屋に行ったって追いつけぬ」
もうロザリーもニノも反論はできなかった。
黙り込んで立ち止まってしまうと、ニノは死んでしまった人たちのことを思わずにはいられない。
ロザリーも、再び感じたあの感触を思い出さずにはいられない。
マリアベルも、わらわの許可なく死ぬなと言ったではないかと、シュウとサンダウンに悪態をつかずにはいられない。
カノンも積極的に戦う性格だ。
どこかで無理をしてしまったのだろうと、ぼんやりと予想できた。
もっと大勢で歩くべきかもしれない。
気を取り直して、マリアベルが今後の方針を練り直す。
ノーブルレッド一人はおろか、複数人で行動しても危ない状況なのかもしれない。
ストレイボウは生きているようだが、行方が知れないし、そもそも落ち合う約束すらしていない。
と、そこで戦場跡らしきクレーターで何かが光るのをマリアベルは発見する。
茶色の大地が広がる中で、灰色のそれはよく目立つ。
しかも、それはマリアベルにとって因縁あるものだった。
「お主ら、ここに少し待っておれ」
そうニノとロザリーに告げた後、クレーターの中へ走り出す。
人差し指ほどの大きさに見えなかったものが、段々と大きく見える。
それに近づくほど、マリアベルは己の確信を深めた。
「アガートラーム……」
そう、かつて剣の聖女が使った伝説の剣が、この不毛の大地と化した場所に突き刺さっているのだ。
よく見れば、近くには血痕らしきものや、焦げて押しつぶされた肉片らしきものが残っている。
肉片からは血の匂いはするがまだ異臭はしないし、ここには未だに戦場の熱が残っている。
おそらく、この肉片は少し前まで人間だったもので、アガートラームはその人が使っていたに違いない。
でも、そこまで考えてふと疑問に思い当たる。
「使えたのか……?」
死んだ人物はアガートラームを使えたのか疑問だ。
その昔、アガートラームはロードブレイザーを封印後、大地に突き刺さったままになったのだ。
大地に刺さったアガートラームを引き抜くことはいかなる英雄奸賊でも適わず、周囲の岩盤ごと掘り返されて、剣の大聖堂に安置されていた。
アシュレーの運命の輪が回り始めたのは、そんなアガートラームを抜き、自身の事象の彼方に宿したからだ。
大きく喉を鳴らして、マリアベルがアガートラームに手をかける。
そこまで力を入れずとも、アッサリとアガートラームは地面から抜けた。
剣に拒否されることも考えて身構えていたマリアベルは、思わず拍子抜けしてしまった。
繁々と、マリアベルは全容を現した聖剣を見る。
記憶にあるものと寸分違わぬ大きさと見た目。
マリアベルはかつての焔の災厄を思い出さずにはいられない。
アガートラームを持ったアナスタシアの姿がまざまざと瞼に甦る。
この剣を持ったアナスタシアは美しく、そして儚かった。
悠久の日々を生きて、なお忘れることのない遠き日々。
これを抜けたということは、マリアベルはアガートラームに選ばれたのかという疑問も当然発生する。
しかし、剣は何も応えてはくれない。
マリアベルの手の中で輝きを放つだけ。
「まぁよいか……」
レプリカだろうが本物だろうが、持っていて損はない。
レプリカならそのまま使うことなく、デイパックの中で眠ってるだけ。
本物なら、これを然るべき人物に届けるだけ。
デイパックの中にアガートラームを収める。
アガートラームの強大さを知っているマリアベルは、そんなもの支給するはずがないからレプリカの可能性が高いと踏んでいたが。
無法松がアズリアの墓標に使った剣だが、それはマリアベルの知るところではない。
むしろ、アガートラームという剣に関しては、マリアベルは無法松以上に縁があるのだ。
例え無法松の行動を知ったとしても、マリアベルは持っていくことを主張しただろう。
在りし日のことを思い浮かべながら、マリアベルはニノとロザリーの下へ戻っていった。
◆ ◆ ◆
そして、その間ロザリーは何をやっていたかというと、己の不甲斐なさに忸怩たる思いを抱えていた。
寒い、そう感じた。
例えて言うなら、心臓に直接氷水を浴びせられたかのような。
冷たい霧のようなものが肌にまとわりつき、身震いを抑えることがきなかった。
どこともしれぬ閉ざされた空間から聞こえてくるのは、怨嗟と怨念と憎しみの合唱曲。
気のせいだと信じたかった。
でも、ゲートを何度も通るたび、それはロザリーの心の底にある恐怖を煽った。
何をやっているんだろうか、そんなことさえ感じてしまう。
ニノやマリアベルは何も感じてないのに、自分はあるかどうかも分からない幻覚、はたまた酔いに翻弄されている。
あろうことか、二人の足を引っ張っているのが心苦しい。
今回も大勢の人が死んだ。
その中にはエルフや人間以外の他の種族もいたかもしれない。
ピサロは生きていたし、それはいいことだ。
でも、ピサロはきっと、いや、間違いなく殺しをしているのだろう。
一人でそれを成し遂げるだけの実力が、あの最愛にして魔界の若き王にはある。
自分もなにかしたい。
皆に、力を合わせるように声をかけたい。
ピサロに自分は無事だと、だから殺しをしているのなら止めて欲しいと伝えたかった。
「ロザリーさん、大丈夫?」
体調を心配してか、ニノが声をかける。
ニノだって、フロリーナという友達が死んでいる。
「私は大丈夫。 ニノちゃんは?」
友達が死んで悲しい思いをしているであろう子供にまで、気遣われている。
それがまた、ロザリーの心を苦しめる。
「あたしは……あたしは大丈夫。 だってあたしだって黒い牙だもん。 もう慣れっこだよ……」
どこか諦めたような表情で、ニノが言った。
やっと友達になれそうだった女の子が死んでしまった。
天馬に跨って、大空を駆ける少女と話したいことがたくさんあった。
ニノはフロリーナと何か特別なことをしたかった訳ではない。
一緒に朝ごはんを食べて、
一緒に昼ごはんを食べて、
一緒に夕ごはんを食べる。
そして、一緒に遊んで最後に『さようなら、また明日ね』って言う。
ただ、それだけでよかったのだ。
それはとてもとっぽけな願望だ。
それでも、それだけで幸せを感じることができるのがニノという少女なのだ。
「慣れちゃいけないことだってあるのよ……」
ロザリーは思わず、ニノを抱きしめてしまう。
そうなのだ、ニノはまだ子供なのに、時々すごく物分りがいいことを言うのだ。
そんなこと、思ってはいけないのに。
子供が、そんなことに慣れてはいけないのだ。
この子は、人の死に慣れすぎている。
それが、とても不憫だとロザリーは思った。
「でも、フロリーナを殺した奴は絶対に許せない……!」
ニノの心に灯った憎しみに、ロザリーは気づく。
進化の秘法を使って、怪物になり果てたピサロを見たときのことをロザリーは思い出した。
あのような憎しみに囚われてはいけない。
憎しみの行き着く先を知っているが為だ。
ニノの体を離し、ロザリーが言う。
「憎しみに囚われちゃだめよ。 そうなってしまった人の末路を私は知っているから……」
「……うん」
とりあえず頷いただけなのがロザリーにも分かった。
ニノの心からはまだ憎しみと怒りが消えてはいない。
この子にこんな瞳をさせてはいけないと、ロザリーはそう思った。
でもそのために何ができる?
言葉以外に、何をしてやれる?
どうすれば、殺し合いを止められる?
そんなことを考えていたときだ、ロザリーがある方法を閃いたのは。
「あった……!」
それはかつて、勇者ユーリルの集団と自分を引き合わせることができた方法だ。
やれる、自分にも今すぐできることがある。
ゲートを通り抜けるときに感じていた寒気も、吹き飛んだ。
これを使って、皆に呼びかける。
シエン
支援
支援
私怨
そう、人間を滅ぼそうとしていたピサロを止めるため、誰かに届けようと祈った想い。
あの時の力をもう一度使おうというのだ。
「済まぬな、ちと待たせた」
「あ、マリアベル。 何してたの?」
「なに、武器を見つけたから持ってきただけよ」
丁度そこにマリアベルが戻ってくる。
ニノの質問に対し、アナスタシアに関する思い出話は抜きにして、とりあえず事実だけをマリアベルは述べた。
そして、どこへ移動しようか、その前に今いる場所の確認が先か、そんなことを話す。
そこに、ロザリーは今思いついたことを話してみた。
「なぬッ!? そのようなことができるのか?」
「はい、もう一度やってみます」
テレパスマジックのようなことが感応石もなしにできるというロザリーに、マリアベルは聞き返すにはいられない。
できるのなら、現状ではこれ以上ない便利な意志伝達方法だ。
「あ、でも寝てる人にしか聞こえないんだよね。 それなら夜にでもした方がいいかも……」
「大丈夫、これは使った後しばらく効果は残ります。 今やったとしても、今日の夜に寝た人だって聞こえます」
ニノの当然の疑問に、ロザリーは問題ないと答える。
効果がある程度持続するのなら、伝言メッセージを伝えるようなもの。
今度はマリアベルが新たな質問をした。
「範囲はどうなのじゃ?」
「え?」
「それをやったとして、この島のどの辺まで聞こえるのじゃ?」
「それはやってみないと分かりません。 全体まで聞こえるかもしれないし、エリア一つ分にさえ届かないかもしれません」
どっちにしてもやる分に損はしないということだ。
マリアベルはGOサインを出した。
「よし、やるぞ。 ただしわらわたちの居場所を言うのはなしじゃ。
よからぬ輩が来る可能性もあるし、ここにいるから待っていろと言った場合、わらわたちは移動ができぬ。
今寝てる者にも夜に寝た者が聞いても問題ないことだけ伝えるのじゃ」
「はい」
ロザリーは大きく深呼吸をする。
今から大切なことを伝えるのだ。
自分にもやれることがあるのだと、気力が湧いてくる。
深呼吸を五回ほど繰り返して、ロザリーはこの声を聞いてくれる人がいることを願う。
ロザリーの、一世一代の大舞台だ。
人の悲しみが分かる優しさと
人の悲しみを救える勇気と
人の悲しみに打ち勝つ力を持った人を探して。
ロザリーの願いがこの島に響く。
【B-7 一日目 午前】
【ロザリー@ドラゴンクエストW 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ 気分が悪い
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
0:殺し合いを止めるようメッセージを伝える。
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリル、ミネアたちとの合流
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。
※ロザリーの声がどの辺りまで響くのかは不明。
また、イムル村のように特定の地点でないと聞こえない可能性もあります。
【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(中)
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣、
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
0:これが終わった後は現在位置の確認をして、周囲の探索
1:ジャファルを優先して仲間との合流。
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバーは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
しえん
支援
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WA2
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
0:まずは現在位置の確認。
1:付近の探索を行い、情報を集める。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アナスタシアの名前が気になる。 生き返った?
8:アキラは信頼できる。 ピサロ、カエルを警戒。
9:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
しえん
投下終了しました。
数々の支援ありがとうございます。
分割点はタイトルが変わってるところでお願いします
投下乙です。
これは新しいというか珍しい視点な話。
人以外の種族から見た人というのは凄く面白いですね。
そして実は行き先不明だったゲートに、喧嘩っ早い男が墓標代わりにした剣を抜いたり、テレパシーがあったりとフラグも盛り沢山。
しかしニノのフラグが何か凄く怖いな…
◆SERENA/7ps氏
投下乙!
人ならざる二人が語る人への想いに、なんだか一抹の切なさと温かさを感じた。
彼女らの想いは、オディオに対する一つの希望なのかもしれないなー。
対し、松の不器用さと無念さには胸を締め付けられた。
頑張れ昭和の男!
◆iDqvc5TpTI氏
仮投下乙!
特に問題は感じませんでした。
原作ネタを活かしていたり、クロスオーバーの醍醐味だと思います。
雑談スレでルシエドについての言及がされてますが、確かにちょっと便利すぎる気もしますね。
とはいえ個人的にはそれほど問題ではないと思っているので、もう少し他の人に意見がほしいとこですね。
色々感想はあるのですが本投下後にッ。
では私も投下していきます。
まるで、打ち寄せる波が引くように。
まるで、吹き抜ける風が凪ぐように。
まるで、反響する山彦が薄れるように。
僅かな過去に命を落とした者の名と、少しの未来に立ち入りを禁じられる場所だけを残して、憎悪に塗れた声が消えていく。
魔王の声が立ち去れば、波音がよく聞こえてくる。
止まることなくリズムを刻むその音が響く民家の中に、四人の男の姿がある。
二度目の放送が始まったのは、民家に戻ったマッシュと高原が、チーム分割の話よりも先にヤキュウの話題を切り出した直後だった。
そして放送が終わった今、どのような言葉も誰の声も、そこには浮かんでいない。
望まずして訪れた沈黙の中、赤いバンダナを巻いた黒髪の男――高原日勝は、とある男の姿を思い起こしていた。
葉巻とバーボン、くたびれた衣服がよく似合う男。
砂埃を孕んだ風を浴び、馬を駆り荒野を往く姿が絵になる男。
口数は少ないが、その胸に熱さと思いやりを抱いた男。
サンダウン・キッド。
卓越した動体視力で動作を見切り、驚異的な反応速度で銃を引き抜き、正確無比な狙いで標的を撃ち抜く。
そんな彼の姿が、瞼の裏に焼きついている。
たとえ最強を目指す挌闘家であっても、銃には勝ち目などないと思ったものだ。
それは、銃という武器そのものに対する先入観だった。
使い手が誰であろうと、銃口を向けられ引き金を引かれれば負けが確定すると思い込んでいた。
だが、実際は違う。
銃を操る敵と戦ったときに、高原は知った。
格闘技の世界と同じように、銃の世界にも達人と呼ぶに相応しい存在がいるという当然の事実を。
サンダウン・キッドは紛れもなく銃の達人と呼ばれるべき男だということを。
そして、もう一つ。
高原日勝の格闘技は、銃を前にしても通用することをも、知った。
なればこそ、高原がこう望むのは必然だった。
銃の達人であるサンダウン・キッドと、戦って勝ちたい、と。
しかし、その望みは叶わない。叶えるチャンスすら与えられない。
レイに続き、かけがえのない仲間を失ってしまった。
もう二度と。
もう二度と、あの芸術的ともいえる銃捌きは見れないのだ――。
――どいつもこいつも、勝手に逝きやがって。くそ、くそ……ッ!
内心で一人ごちても、そんな言葉は届くはずもない。
たとえ声に出していたとしても、届くわけもない。
届かせる術など、決してない。
そんな彼を鼓舞するように。
波が、鳴っている。
◆◆
嘘だと、そう思った。
そんなはずがないと、疑わずにはいられなかった。
だって、眼鏡がよく似合う幼馴染がそう簡単に死ぬなんて思えなかったから。
機械に詳しい彼女――ルッカ・アシュティアはとても聡明なしっかり者なのだ。
事実クロノは、彼女に何度救われ、幾度助けられたか分からない。
たとえば、千年祭のときに事故でA.D.600年に飛ばされてしまったとき。
たとえば、ガルディア王国の裁判で有罪となり、投獄されたとき。
そう、たとえば。
クロノ自身が、死んでしまったとき。
彼女が側にいてくれたから、今ここにクロノがいると言っても過言ではない。
彼女の知恵が、勇気が、優しさが、その全てが、クロノの力になってくれていた。
嬉しかった。頼りになった。誇らしかった。
そして、間違いなく大切に思っていた。
ならば。
ならばと、クロノは思う。
――こんなに助けられたのに。ルッカに、何をしてやれただろう?
胸にのしかかってくるのは、暗い後悔の塊だ。
ひたすらに重いそれは、クロノ自身の声で問いかけてくる。
ルッカがクロノを支えてくれたように、クロノはルッカを支えられただろうか。
もっと何か、色んなことをしてやれたのではないだろうか。
そんな問いに意味はない。答えを見つけたところで、全ては遅く、より深い後悔が生まれ出るだけ。
過去を変えることは不可能ではないと、そう知っていたとしても。
見知らぬ時間軸にある見知らぬ世界での過去を変えられるとは限らない。
そもそも本来、過ぎ去った時というものは変わるものではないのだ。
だから、クロノは思う。
過去に捉われて歩みを止め続けてしまうよりも、未来に想いを馳せて歩いていたいと。
そんなクロノを、きっとルッカは見送ってくれると思うから。
それは、死んでしまったルッカが望んでくれていることだと思うから。
だってルッカは、サイエンスの申し子なのだ。
そんな彼女がレンズ越しに見ていた世界は、先でしかありえない。
ただそれでも、今だけは。
あと、少しだけでいいから。
立ち止まり振り返らせて欲しいと、そう願う。
そんな彼を慰めるように。
波が、鳴いている。
◆◆
無意識のうちに、強く強く、拳を握り締めていた。
鍛え上げられた武骨な拳の中、平たい金属の感触だけがある。
皮膚に食い込んでくるそれを握りつぶしそうになっていることに気付き、マッシュ・レネ・フィガロは慌てて拳を解いた。
掌の上に乗っているのは、一枚のコイン。
表裏一体となったそれは、かけがえのない宝物。それは、マッシュだけの宝物では決してない。
このコインには思い出が詰まっている。
父が病に倒れ、死した夜。
マッシュはただ涙を流しながら、心から自由を求めていた。
父の死を心から悲しまず、悼まず、王位の話ばかりが聞こえてくる城から飛び出したかった。
兄もきっと賛成してくれると思っていた。
だから、兄を誘った。兄と共になら、寂しくないと思った。
だが、兄は大人だった。マッシュよりも、そしてマッシュが思っていたよりもずっと、大人であった。
兄は、このコインを使って計らってくれたのだ。
マッシュが望む道を――自由を選べるように。かつ、父の遺言を果たし、遺志を継ぐために。
申し訳ないと思った。少なからず負い目もあった。
だが、それに後ろ髪を引っ張られては、兄の思いやりを無碍にするように思えた。
だからマッシュは、迷うことなく城を出た。
全て、兄のおかげだ。その懐の深さは、まさに王の器だったのだろう。
そんな兄の力になりたくて、がむしゃらに身を鍛えた。
感謝している。尊敬している。
争いごとばかりの国を嫌って城を出た後も、マッシュはフィガロの名を捨てなかった。
それは、王族という身分に縋りついていたかったわけでは決してない。
大好きな父と、母と、兄の家族であるという繋がりを手放したくなかったからだ。
コインを見つめる視界が、不意にぼやける。
マッシュの脳裏に、兄の――エドガー・ロニ・フィガロの声がふと蘇る。
――俺は……親父が恥じないような王か?
当たり前じゃないか。当然じゃないか。
フィガロの王は、兄貴しかいないんだぜ。
なのに、なのに。
もう、彼はいないのだ。
――なんだよ。兄貴が死んだら、世界中の女が悲しむんじゃなかったのかよ。
あまりにも早すぎる、兄の死。
フィガロの名を冠する者は、もう、マッシュしかいない。
その現実は、寂しさは、悲しさは、どれほど身を鍛えていても重すぎて。
これから国はどうなるかなどといった賢しい考えは持ちきれなくて。
ただ、溢れ出る感情だけに流されて。
マッシュは、身を震わせる。大きな体を、ぶるぶると震わせて。
マッシュ・レネ・フィガロは、涙した。
そんな彼を抱き寄せるように。
波が、声を上げている。
◆◆
波の音に纏われたその部屋で、悲しみが落ちる部屋の中で、誰ともなく顔を上げた。
高原が外を一瞥する。
クロノがゆっくりと立ち上がる。
マッシュが太い親指で目じりを拭う。
三人は顔を見合わせると、同時に一つ頷いた。
彼らは知っている。
涙を流して塞ぎ込むだけが、死者に対する弔い方ではないということを。
大切な人のことを、大好きな人のことを想うのに、涙は似合わないと。
言葉では上手く伝えられない感情を、ダイレクトに伝える方法があるということを。
その全てを、もう一人――ユーリルにも伝えようとして、気付く。
いつの間にか、ユーリルが座っていたはずの椅子は、空になっていた。
【D-01 港町 一日目 日中】
【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:健康
[装備]:サンダーブレード@FFY
鯛焼きセット(鯛焼き*1、バナナクレープ×1)@LIVEALIVE、
魔石ギルガメッシュ@ファイナルファンタジーVI
[道具]:モップ@クロノ・トリガー、基本支給品一式×2(名簿確認済み、ランタンのみ一つ) 、トルネコの首輪
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ユーリルを捜す。
2:エイラのときのように、ルッカのことを皆に伝えたい。
3:打倒オディオのため仲間を探す(首輪の件でルッカ、エドガー優先、ロザリーは発見次第保護)。
4:魔王については保留。
[備考]:
※自分とユーリル、高原、マッシュ、イスラの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期はクリア後。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。その力と世界樹の花を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※少なくともマッシュとの連携でハヤブサ斬りが可能になりました。
この話におけるぶつかり合いで日勝、マッシュと他の連携も開拓しているかもしれません。
お任せします。 また、魔石ギルガメッシュによる魔法習得の可能性も?
【高原日勝@LIVE A LIVE】
[状態]:全身にダメージ(小)、背中に裂傷(やや回復)
[装備]:なし
[道具]:死神のカード@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:ゲームには乗らないが、真の「最強」になる。
1:ユーリルを捜す。
2:レイのときのように、サンダウンのことを皆に伝えたい。
3:ユーリルと合流後、チームを分割する。
4:武術の心得がある者とは戦ってみたい。
[備考]:
※マッシュ、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済。
※ばくれつけん、オーラキャノン、レイの技(旋牙連山拳以外)を習得。
夢幻闘舞をその身に受けましたが、今すぐ使えるかは不明。(お任せ)
※ユーリルの装備している最強バンテージには気付いていません。
【マッシュ・レネ・フィガロ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:全身にダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:スーパーファミコンのアダプタ@現実、ミラクルショット@クロノトリガー、表裏一体のコイン@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:ユーリルを捜す。
2:ティナのときのように、エドガーのことを皆に伝えたい。
3:チーム分割はユーリルの様子次第にする。
4:首輪を何とかするため、機械に詳しそうな人物を探す。
5:高原に技を習得させる。
6:ケフカを倒す。
[備考]:
※高原、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期はクリア後。
◆◆
外に出れば、波音が耳につく。
海は穏やかにも関わらず、寄せては返し砂浜を洗っていく波の音は、無遠慮に鼓膜を震わせてきた。
石造りの、だだっ広い港町は恐ろしく静かだった。
港町とは、様々な国の人々が行き交い、あらゆる国の物品が集まる場所だ。
数え切れない人が集まり無数の文化が入り混じれば、活気が生まれる。そこは騒がしいくらいに生き生きとしていて、活力と力強さに溢れているはずだ。
無論、港町の規模によって差異はあるが、この広い港町は活気がよく似合いそうだった。
だというのに、今聞こえる物音は波音だけ。海鳥の声すら聞こえはしない。
だというのに、今街道を歩くのは一人だけ。話し声すら聞こえはしない。
ユーリルは、感情の宿らない表情で町を行く。
石畳を叩く靴音を、わざと立ててみる。
それでも返ってくる音は他になく、空しさだけが募っていく。
ここは、空っぽだ。
中身など何もない、ただ港町のカタチをしただけの模型。
声を張り上げる商人も、豪快な漁師も、異国からの来客者もいない。
カタチだけの港町。
そんなものに、何の価値があるんだろう。
ぼんやりと思いながら、ユーリルは歩く。
オディオの放送が終わるとほぼ同時に、ユーリルはクロノたちのいる民家からそっと出てきていた。
三人とも悲しみに暮れていたせいか、彼を見咎める者はいなかった。
彼らと共にいるのが、ユーリルには辛かった。
ヤキュウの話で楽しそうに盛り上がる彼らの側は、自棄になりつつあるユーリルには温か過ぎた。
思わず、溜息が漏れる。
これから、どうすればいいだろう。
空っぽの街を、生きていない街を歩きながら、考える。
勇者なんて止めてやる。
そう決めたのはいい。もう、そんな称号なんて欲しくない。
だが、だからといって何もしたくない。何をすればいいのか分からない。
思考は前進を放棄し後退を忌避し、すぐに停滞する。
時が止まってしまったような世界の中、波音だけが時間の進行を証明している。
不意に、ユーリルは気付く。
――僕とこの街は、同じだ。
拠り所を、道標を失い、何もかもがどうでもよくなってしまった自分。
恐怖を悲哀を絶望を押し殺し『勇者』であろうとした反動で、いつしか、『勇者』という肩書きに縋らなければ立てなくなっていた。
その肩書きを、使命を杖代わりにしなければ歩けなくなっていた。
だがもう、その肩書きなど存在しない。否、始めから存在しなかったのだろう。
ただ、気付けず踊らされていただけで。
勇者。導かれし者。
そんな、甘く勇ましい肩書きを大切に思っている間は、進んでいけた。
だがユーリルは、それが虚構であり、身勝手に押し付けられた重荷だと感じてしまった。
一度転がり落ちれば、転落は止まらなかった。荷物が重すぎたせいで、止められはしなかった。
だから捨てた。いらないから。邪魔だから。
だが、 未練などない重荷は、その質量ゆえに、ユーリルの心にふてぶてしく居座っていた。
結果、彼は空っぽになってしまった。
この街と、同じように。
張りぼて。模型。
ヒトのカタチをしているだけの、死んでいない人形。
外枠だけあって中身のない、空虚の輪郭。
――そんなものに、何の価値があるんだろう?
波音は止まらない。
そこに身を委ねてみようか。
そんなことを考えて、ユーリルは、足を止めた。
圧力にも等しい強烈な気配が、左手側――埠頭側にあったからだ。
その気配に追随するように、音がする。
がちゃり、がちゃり。
石畳を金属で叩くような、重厚な物音が、波間を縫って聞こえてきた。
隠そうともしない足音。奇妙に穏やかな靴音。
仮に足音などしなくても、ユーリルはその誰かの存在に気付いていただろう。
何故ならそいつは、圧倒的な存在感を放っていたからだ。
獲物を前にした肉食獣のような獰猛さによく似たその気配は、酷く生々しく血生臭い。
その気配は、生々しさゆえに、空っぽの街の中で際立っている。
がちゃり、がちゃり。
足音は近づいてくる。気配が強くなっていく。
ユーリルはぼんやりと、無感情なまま、確かに距離を詰めてくる音へと目を向けた。
そこにいたのは、水を滴らせた、たった一人の男だった。
白銀の鎧に身を包んだ、黒髪の男。
呪われし剣を携え、ゆっくりと歩いてくる男。
ただ、鮮烈だった。
何処までも痛烈だった。
その男――ハイランド狂皇子、ルカ・ブライトは、ユーリルを認めると、唇の両端を吊り上げる。
純粋な笑みだった。
純粋な、たった一つの、強く深い感情から生み出された、暗い昏い笑みだった。
見ているだけで本能的な恐怖を駆り立てられるような、獰猛極まりない男が、禍々しい剣を片手に近づいてくる。
それなのに。
だというのに。
ユーリルは、胡乱な瞳でルカを眺めるだけだった。
恐怖も危機感もなく、無感情で無感動な視線を投げかけるだけだった。
ただ、単に。
空っぽになってしまった自分に、無価値な自分に、未練も執着も固執もなかった。
空っぽの街に現れた、空っぽではない男が振るう、皆殺しの名を冠した剣によって斬り殺されても。
別に、構わなかった。
価値など、ないのだから。
ユーリルの眼前で、男が立ち止まる。
皆殺しの剣が振りあがる。
数秒の後には、驚く間もなく呆気なくあっさりと殺されているだろう。
なのに、何の感慨も生まれない。
訪れるであろう痛みにも、失うであろう命にも、消え去るであろう自分にも。
興味なんて、ない。
呪われた剣に切り裂かれれば、痛いに決まっている。苦しいに違いない。
それでも、空っぽのまま生きるよりは、遥かにマシだった。
だからただ、ぼんやりと。
変わらない波音だけを聞きながら。
迫り来る死を、甘受する。
「……ふん」
それなのに。
不機嫌そうな声が聞こえただけで。
死は、いつまで経っても訪れてはくれなかった。
振りかざされた切っ先は、ユーリルへと落ちてはこず、静かに下ろされる。
感情の宿らないユーリルの視線の先、ルカの顔に笑みはなく、その双眸はユーリルを映していなかった。
「人間ですらないゴミか。下らぬ。斬る価値もない」
侮蔑するように吐き捨てられた、その言葉は。
皆殺しの刃よりも鋭くて、ユーリルを深く深く、抉り取った。
全身から力が抜けて立っていられなくなり、石畳の上にへたり込む。
そんなユーリルを一顧だにせず、ルカは立ち去っていく。
がちゃり、がちゃりと足音を立てて、ユーリルの横を歩き去っていく。
求める欲するように、思わず、振り向いた。
それでも、ルカ・ブライトが手を差し伸べるなどありえるはずがない。
彼の手は命を奪うためにある。人を壊すためにある。
そんな男と相対して死なずに済んだのは、人として認識すらされなかったからだ。
彼の手に在る剣は貪欲に血を求める。
そんな武器を前にして生き延びているのは、血を啜るだけの値打ちすらないと断じられたからだ。
憎悪の対象にすらならなかったユーリルに、ルカが振り向くことなど、決してしなかった。
【D-01 港町西部 一日目 日中】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]疲労(小)、精神的疲労(小)、全身打撲と軽度のやけど(処置済み)
[装備]皆殺しの剣@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち、
魔封じの杖(4/5)@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち、聖鎧竜スヴェルグ@サモンナイト3
[道具]工具セット@現実、基本支給品一式×3、カギなわ@LIVE A LIVE、不明支給品0〜1(武器、回復道具は無し)
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る4人及び、名を知らないがアキラ、続いてトッシュ優先。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。
※召喚術師じゃないルカでは、そうそうスヴェルグを連続では使用できません。
◆◆
取り残されたユーリルは、立ち上がることもなく俯いた。
視界に広がる、妙に小奇麗な石畳。生活感のない、空虚の街。
どうやらそこには、大きなゴミが落ちているらしい。
空っぽなままでは、生きているには辛すぎる。
それは、身をもって知った。
空っぽなままでは、死ぬことすら許されない。
それは、空っぽではない男から知らされた。
「どうしてだよ……」
意識せず、弱々しい声が落ちた。
「どうして、どうして、こうなっちゃったんだよ……」
その呟きは弱すぎて、簡単に波に攫われてしまう。
波音はユーリルを鼓舞しても慰めても抱き寄せてもくれず、それどころか、嘲笑し蔑み見捨てていく。
それは、世界の声であり世界の意思のように思えた。
無価値な存在には、世界すら優しくしてはくれない。
どうしてこうなった。
全てを投げ捨て自分を律し世界を救ったはずなのに。
どうしてこうなった。
望まれるまま期待されるがまま戦ったはずなのに。
どうしてこうなった。
どうして。どうして。どうして。
どんなに理由を求めても、どんなに答えを欲しても。
誰も答えてはくれない。導いてはくれない。
だから、答えは自分の中から探すしかなかった。
ユーリルは目を伏せて耳を塞いで、閉ざされた世界の中答えを探す。
真っ暗になれば、記憶が甦ってくる。
『勇者』として旅をした記憶。
ライアンと、アリーナと、クリフトと、ブライと、トルネコと、マーニャと、ミネアと共に旅をした、思い出。
記憶には、楽しかったことだって含まれている。
思い出には、嬉しかったことだって沢山ある。
だがそれらはもう、信じられない。
綺麗な思い出に『彼女』は介入してきて、囁くのだ。
『勇者』なんて綺麗な言葉は、『生贄』という本質を覆い隠しているだけだと。
耳を塞いでも、頭を振っても。
その声は、ユーリルの深奥まで根を張ってしまっていて、消えてなどくれない。
ユーリルは、彼女から目を逸らせない。
だからこそ。
ユーリルは、気付く。
――ああ、そうか。そうだ。そうじゃないか。
ユーリルが空っぽになってしまったのは、<剣の聖女>の亡霊に取り憑かれてしまったせいだ。
何故、取り憑かれてしまったのか。
そんなこと、考えるまでもない。
――あの女だ。
青い長髪をした、美しく凛とした女性の姿が思い出される。
アナスタシア・ルン・ヴァレリア。
ユーリルに<剣の聖女>の話を聞かせ、『勇者』は『生贄』と等しいと示唆した女。
――あの女のせいだ。
アナスタシアに出会わなければ、『勇者』が『生贄』であると考えなどしなかった。
考えず気付きもしないということは、無知で愚かなことなのかもしれない。
だとしても。
世界には、知らずにいるほうがよいことだってある。
考えなければ、失わずに済んだ。
気付かなければ、立っていられた。
――あの女がいなければ、僕は……!
空っぽの胸が、急速に満ちていく。
何も感じなかった心に、衝動的な激情が鎌首をもたげる。
始めて覚えるその感情は、ずっと出番を待っていたかのように、ユーリルの意識中に広がっていく。
その感情に衝き動かされて。
いつしか、ユーリルは立ち上がっていた。
いつしか、ユーリルは歩き出していた。
いつしか、ユーリルは。
歪な笑みを、その顔に浮かべていた。
まるで、ルカ・ブライトの憎しみに中てられたかのような様相で、ユーリルは呟く。
「――殺してやる」
彼を知る誰もが想像しないような、そのゾッとする声音は、波音の中で気味が悪いほどによく響き渡った。
かくして。
『勇者』の称号を捨て拠り所を失った少年は、たった一つの感情で空虚を敷き詰める。
『勇者』であったが故に、少年は、その感情を一度たりとも抱きはしなかった。
初めて抱く感情であったが故に、少年は、その感情を御する術を持っていなかった。
その感情は、御しなければ容易に暴走する、衝動的で暴力的で破滅的なものであるにも関わらず、だ。
だが、その生々しい剥き出しの感情は激烈で強い。
だからこそそれは拠り所となり、強烈な指向性を与えてくれる。
その感情だけで心を染め、人類を滅ぼそうとした、魔族の王のように。
その感情だけで心を浸し、人間を斬り捨て続けようとした、狂皇子のように。
その感情だけで心を潰し、殺戮の宴を開いた、かつて勇者と呼ばれていた魔王のように。
ユーリルは往く。
アナスタシアを殺した果てに何が待っているのか。
吹き荒れる感情の先にどんな末路があるのか。
そんなことを考える余裕もなく、ただ、感情に衝き動かされるままに、ユーリルは往く。
暗く深く生々く、純粋で強烈で、紛れもなく『人間らしい』感情。
その名は、憎しみ。
或いは――。
【D-01、E-01の境界。一日目 日中】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(小)。アナスタシアへの強い憎悪。
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@ファイナルファンタジーVI
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:アナスタシアを殺害する。
1:憎しみのまま、アナスタシアを捜して殺す。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※アナスタシアへの憎悪しか意識にはなく、彼女を殺害した後どうするかは考えてもいません。
※ヘケランの洞窟のリーネ付近の渦に繋がっていた洞窟奥の水路は、D-1港町近海に繋がっています。
D-1港町近海側の渦に飛び込んだ場合はゲーム本編同様、ヘケランの洞窟入り口近くに繋がっています。
最後で規制くらった…。
以上投下終了です。
ど、どうしてこ(ry
前半の三人は本当にアツイな!まさしく正統派対主催
ルカ様も相変わらず格好良かった
どうして(ry
よし、規制解除確認!
投下乙!
ぎゃあああああ、ユーリルが転んだー!!
空っぽのままで生きるにはルカ様を感じてしまったのは強烈過ぎたか!
ルカ様は歪みねえもんなー
そして主人公3人(FF6もLALもみんな主人公ゲームだし)はやっぱ熱い!
王道を行くこいつらは頼りになるよな〜
投下乙!
ユーリルの邪覚醒キタ―――――(゚∀゚)―――――!!
これはオディオの後継者フラグか!?
勇者や英雄がどんどん暗転していくな、このロワは。こ、これは堪らん。
各キャラの心情描写が巧みで面白かった。上手く魅せてくれて嬉しい。
特にマッシュなんて泣きそうになった。兄貴だもんなぁ、辛いよなぁ(つД`)
ルカ様はイイ男すぎるし。このままいったら三人と激突の予感か?
投下乙です
これは素晴らしい
マリアベルたちが移動して、いよいよ安全になったアナスタシアに危険信号点灯ですね。
マッシュたち三人もルカ様が近いのでピンチに。
いやー楽しいなーこういうキャラが堕ちていく様はw
どうしてこうry
とと、仮投下への反応抜けてた。
魔剣状態ならともかく自分もちょいルシエドは万能過ぎかと
お前らユーリル好きだなw
どうしてこう(ry
さっき気が付いたんだが。
対主催の殺害って、もしかして一度だけ?
エルクがオディ・オブライト殺しただけかね
そのエルクもすでに死亡という
お待たせしました、投下します。
修正につき、「そういえばアシュレーならルシエドの気配に気づくんじゃね?」という疑問が生じたため、ルシエドは未登場になっております。
ご了承ください。
『時間だ……』
地下の世界に反響するその声にアシュレー・ウィンチェスターは気を引き締める。
今の彼の姿は数十分前の化物染みたものではない。
セッツァーに薦められた通り地下へと潜ったことが功を奏した。
誤解から他者に襲い掛かられることを気にしないでよくなったアシュレーは心を落ち着かせることに専念できた。
ロードブレイザーが宣言どおり邪魔をしなかったこともあり、何とか魔神の意識を抑え、人の姿に戻れるに至ったのである。
だがせっかくの努力もこの放送を超えられなければ元の木阿弥になる。
放送直後の時間に押し寄せてくる大切な誰かの死を知ったことで起きる悲しみや怒り。
前回の放送時はそれら大量の負の念を喰らい力を大きく取り戻したロードブレイザーに身体をのっとられかけた。
二度と同じ轍を踏むわけには行かない。
そう心に誓い覚悟を決めていた。
無駄だった。
アシュレーを嘲笑うかのように今回の放送でも前と変わらない死者の数とARMSのメンバーの名前がまた一人呼ばれてしまった。
『良かったではないか、アシュレー・ウィンチェスター』
前回同様多くの負の念を吸収できたことで表層意識へと浮かび上がってきた焔の災厄が語りかけてくる。
「何がだ……ッ!」
『放送だよ。聞いただろ、11人もの死者の名を。その中の一人としてあの禍祓いの女の名を』
「カノン……」
赤い義体に身を包んだ女渡り鳥の姿が心に浮かぶ。
『くくく……。そういえばそんな名前だったか?まあいい。
もしも奴が生きてお前の前に現れていたら、今度こそお前も私ごと祓われていたかもしれないからな。
かってにのたれ死んでくれたのは私にとってもお前にとっても幸運ではないか』
禍祓い。
魔を祓うことを専門としていた彼女と魔神を身に宿したアシュレーは初めはロードブレイザーの言うようにぶつかり戦いはした。
だけど、だからこそ。そこに憎みあう心は無かった。
ぶつかって、戦って、手を取り合って、共に戦うようになった。
「黙れッ! カノンは僕の仲間だ。幸運なわけがないだろッ!!」
「仲間? ふん、そうだな。そういえばあの時、奴はそれが理由でお前を殺せなかったな?
だが果たして今回もそうだったのかな?
奴は聖女の末裔であることの呪縛から逃れ、自らの本当の願いを知った。
めでたい、実にめでたい話だ」
嘲りの気配を一切消すことなくロードブレイザーは続ける。
「だがな。だからこそ今度は英雄になろうとしてではなく、自らの居場所を守るために貴様を殺していたのではないか?
自分の意思で。お前一人を犠牲にしてでも自分の居場所を、他の仲間を守ろうとな」
カノンが真に求めていたのは魔を祓い英雄になることではなかった。
スラムで生き、母からも英雄の血族たることを求められた誰に顧みられることの無かった少女が欲しかったのは居場所。
そしてやっと見つけた居場所こそがアシュレー達だったのだとスピリチュアル・ミューズの試練を超えた後ぶっきらぼうに言っていた。
その彼女が魔神の言うようにアシュレーを殺しに来るとは到底思えなかった。
▽
薄暗い地下の世界に灯火が揺らめく。
フィガロ城の潜行が止むと同時に人の手に頼らず灯された蝋の炎。
迎えるべき主を失った光は城内の物を照らし、影を落としていく。
その影の中に一つ、明らかな厚みと質感を持つ異質な黒が紛れ込んでいた。
這うように蠢く幻影。
己が気配を一部たりとも漏らさないよう決して速くは無い動作で接近したそれは。
踏み込み一回で詰めれる距離に標的を捉えるや否や、それまでの緩慢な動作を捨て撃ち出された弩弓もかくやという勢いで襲い掛かる。
腕は弦、短刀は矢。
背後を取り、必殺の意のもと振り下ろしたアサッシンズは、
「チッ」
突如背に回された標的の剣に受け止められ首筋まで後一押しの位置で停止する。
まるで襲撃される瞬間を狙い済ましたかのような動きだった。
きっと本当に襲撃者の仕掛けるタイミングを把握していたのだろう。
暗殺者が此度命を狙ったのはそういう相手だ。
「……やはりお前には不意打ちは通用しないか、ゴゴ」
ゴゴの物真似は単に人や物の外見や動きを真似するだけに止まらない。
その性格に趣味や趣向も完全に把握し、外面だけでなく内面をも模倣する。
動きに中身が伴ってこその真の物真似だと考えているからである。
そんな彼からすれば城に潜みし襲撃者がシャドウとさえ分かっていれば、気配は読めずとも思考をトレースし襲撃に備えることは簡単だった。
そのトレースした思考の中には、シャドウが殺し合いに乗ったであろう理由も含まれている。
物真似師の口から紡がれた第一声は何故やどうしてといったものではなかった。
「エドガーが、死んだ」
刃は依然薄皮一枚で到達する距離のまま。
しかし一切の怯えも動揺も含まず、ゴゴは今一番に言うべきことを誰かの真似ではないゴゴ自身として口にする。
「……知っている」
知らないはずが無かった。
幾ばくか前に流れたオディオの声は地下の世界へも分け隔てなく届いた。
否、たとえ地上にしか声が降り注がなかったとしても、シャドウがその名前を聞き逃すことは決して無かっただろう。
「ティナも、もう居ない」
ゴゴが着込んでいる何枚もの布を重ね合わせた服。
そのうちに見慣れた、それでいて見たことの無い物が挟まっていることにシャドウも気付いていた。
魔石だ。
魔法は真似するものであり、覚える気のないゴゴがどこか大事そうに装備していることからシャドウはその魔石が誰が変じたものかを察する。
「その魔石はどうした?」
「物真似の一環として剣の礼代わりにお前とさっき戦った男から譲り受けた」
「……そうか」
「泣かないのか? ビッキーも、ルッカも、リオウもこんな時涙を流していた」
ゴゴは問う、自分の何倍も長い時間をティナやエドガーと共に過ごしてきた男へと。
自らの知らない彼らを知っている男へとほんの少しの嫉みも込めて。
「泣き方なんてとうに忘れたさ」
相棒を、ビリーを見捨てたあの日から。
クライドは誰かの為に泣くこともできない影人形となった。
だから今感じているもやもやは悲しみ等ではなく大口を叩いた割りにあっさり死んだ強敵への怒りだ。
そうに決まっている。
だというのに。
「俺は今のお前だけは真似したくは無い」
「殺し合う気がないからか?」
「……涙を流してしまいそうだからだ」
ゴゴは背を向けたまま言った。
お前の心は泣いていると。
本当は泣きたがっているのだと。
これではお前の真似をしようものなら、本物と違い身体の方まで泣いてしまいそうだと。
そうなのだろうか?
分からない。
ただ、たとえそうだったとしても皆殺しをやめる気の無い自分にその資格はない。
或いは、この泣く資格が無いという考え方そのものが、ゴゴの言うように自分の本心を押し止めているが為なのか。
考えてもせんないことだ。
シャドウは自嘲気味に吐き捨てる。
「……この三流物真似師が」
「一流すぎるのも考え物だと思って欲しい」
支援
確かにとシャドウは心の底で嘆息する。
自らの選んだ生き方<<物真似師>>にどこまでも従事するその姿勢。
エドガーをリーダーと見定めたように、その一点ではシャドウはゴゴのことを認めていた。
「ふん。今日はよくしゃべるな。お前がそこまで口を利いたのは初めてだ」
「当たり前だ。その為にトッシュに無理を言ってお前の前に立ったんだ」
――すまない、トッシュ。リオウの仇を討つ前に少し俺に時間をくれ。俺はシャドウと話がしたい
聞き出したリオウを殺した人物の風体や特徴が顔見知りの一人に当て嵌まった時、そんな台詞を自然と口にしていた。
トッシュの方は予想通りだという顔だったが、当のゴゴ自身にとっては自分の出した要望が意外だった。
ティナやリオウ、放送で呼ばれたルッカとは違い、シャドウは既に存分に物真似をし尽くした対称だ。
たとえこの手で葬ることになっても悔いは残るまい。
だというのに。
ゴゴはけじめをつける前に僅かばかりの時でもいいからシャドウとゴゴとして話しをしたいと思った。
それが説得ならまだ理解はできた。
しかしシャドウが一度決めたなら最後までその自分を貫き通す男だということをゴゴは知っているし、リオウのことを許す気にはなれない。
よってゴゴが望んだものは意味の無い雑談以外の何物でもない。
実際シャドウと対面を果たし望みどおり話しはできたがそれで何かが変わったという気はしない。
そのはずなのだが。
ゴゴは戦う前に話せて良かったと思う。
もしかしたらシャドウもどこか同じように感じていたのかもしれない。
何故なら常に比べて饒舌なのはこの黒尽くめの男も人のことを言えないのだから。
シャドウにゴゴ。共に素顔を隠し、本心さえも別の何かで覆った二人。
物真似なんかしなくとも彼らは元よりどこか似ていた。
「そうか。だがおしゃべりはここまでだ。お前も俺も……言葉でなく自らが選んだ道で語る方が性に合っているだろう」
言葉と共に示し合わせたようにシャドウが大きく後退し、ゴゴが180度身体の向きを変えて相対する。
「いくぞ、物真似師」
「来い、暗殺者」
ここから先に言葉は要らない。
地下の城にて暗殺者と物真似師が交差する――
▽
ゴゴからリオウ殺害犯が彼の仲間だと聞かされた時、トッシュは思いのほか動じなかった。
僅か数分後にはきつく握り締めることになる拳にもこの時点では力を込めてはいなかった。
――そうか。んで、ゴゴ、お前はどうしたい?
呆けるでもなく食って掛かるでもなく冷静に返していた。
トッシュ自身、つい先日親父と慕っていた男に裏切られ、守りたかった故郷の顔なじみ達を切り殺されたからだろう。
もっともゴゴの推測によるとその殺人犯は彼の親父とは違って100%自らの意思で殺し合いに興じたようだが。
セッツァーから聞いた情報からしても多分その推測は間違ってはいない。
死んだ親父がキラーマシーンとして蘇らされるのと、共に戦った仲間が誰に操られるのでもなく大切になりえた誰かを殺すのこと。
どっちの方がマシなんだろな。
馬鹿げた疑問だ。
どっちも最悪に決まっている。
くだらないことを考えてしまった自分に心の中で唾を吐き捨て、ゴゴの訴えに耳を傾ける。
ゴゴが口にしたのは至極当然のことだった。
話がしたい。真摯な目でゴゴはそう言って来たのだ。
そうだろなぁ。
そりゃあそうだろ。
仲間だっつうなら話したい事や言いたいこともあるよな。
モンジとの決着だけは他人の手に譲れなかったあの時のトッシュのようにゴゴにもまたシャドウとの間に譲れぬ何かがあるのだろう。
その後二つの大きなきっかけがありトッシュは心を決めた。
「行って来な」
この男が仇を他人に譲ることなんてそうそうない。
が、今回はモンジとのことに加えて二つの要因が重なり、トッシュはゴゴに順を譲った。
ゴゴは一度頭らしき部分を下げた後シャドウが退いたと思われる方に走っていった。
これでいい。
下手すれば、いや、ゴゴの奴が手早く上手くやればトッシュはリオウの仇を討てなくなってしまうがしゃあねえなあっと我慢した。
正直言えばやはりこの手でリオウの仇は取りたいという未練はある。
彼はリオウのことを気に入っていたし、ナナミのことやビクトールのこともあった。
けれども出会えば刀を交えるしかないトッシュと違って、ゴゴにはもう一つシャドウと交えるものがある。
死んでしまった人間とは二度と交えることのできない心と言葉がある。
「――――」
言葉にならない音が口から漏れた。
呼んだところで返事が返ってくる事は一生無い大切な仲間達の名前だった。
トッシュにゴゴの願いを聞き入れさせる一因となった魔王の放送で呼ばれた者達の名前だった。
すまねえ。
簡単に死ぬわけねえとたかをくくり積極的に探さなかったこと。
彼らの命を奪ったのがシャドウならその仇さえも譲ってしまったこと。
悲しいのに、涙ではなくどうして死にやがったという怒りの言葉の方が先に飛び出そうなこと。
そういった感情を整理することを後回しにしてでもやらなければならないことがあること。
全部全部口に出さずにたった一言で謝って。
トッシュはゴゴを見送っていた視線をずらす。
「よお、待たせたな」
そこにはトッシュをこの場に残らせた決定打が立ちすくんでいた。
「もう一度聞く。てめえは、なんだ?」
剣と言葉を突きつけた相手は一見ただの青年だった。
だがトッシュには青年を普通の人間としてみることができなかった。許されなかった。
見えるのだ、青年のうちに流れる気の流れが。
ロマリアの四将軍さえ可愛く思えるどす黒さを含んだ気の流れが!
「僕はARMSのアシュレー・ウィンチェスターです。あなたがトッシュさ「んなことを聞いてんじゃねぇえッ!!」」
そもそもこうもくっきりと気脈が見えていること自体おかしい。
人体に流れる気を精密に見極める技術が必要なモンジが開眼した奥義の域にトッシュは未だ至れていない。
それがこうもはっきりと見えるのは中てられているからだ。
アシュレーの内に潜む魔神ロードブレイザーのあまりに禍々しき毒気に!
支援
その毒気は否応なくモンジの身体に巣食っていたネクロマンサーの邪気のことを思い出させる。
仲間の死を告げられたばかりだったことが更に胸糞悪い想像に拍車をかけた。
「てめえはロマリアの野郎の仲間か?」
「ロマリア? すまない。何を言っているのか分からない」
「とぼけんじゃねえッ!! 俺には見えてんだよっ、てめえの心んうちから溢れ出しているどすぐれえもんがッ!!」
数々の情報を手に入れていながらも異世界の存在を当然の如く考慮していないトッシュからすれば他に考えようが無かった。
出会った人間の中にアシュレーの知り合いが誰一人いなかったのも不運だった。
そして不幸は加速する。
誤解を補強してしまう出来事が起きてしまったのだ。
「ウゥオオオオオォォォォォォォォッ!!!!」
トッシュがねめつけるアシュレーの背後。
雄たけびを上げながらそいつはやってきた。
「もう一体いやがったか!」
ぽっかりと胸部に空いた穴。
白い肌と僅かな衣服を盛大に赤く染める渇ききった血液。
何を映すでもなくただただ緑色に輝くだけの硝子球のような眼。
生気と共に色さえも失ってしまったかの如く白い肌と髪。
その全てが全て生きているもののそれではなかった。
にも関わらずそれは生者のように二本の足で立ち蠢いていた。
女。
人間という種族に無理やり当てはめるならそいつは女。
かってアティと呼ばれた教師の成れの果ての姿だった。
▽
振り向くことの無かったセッツァー=ギャッビアーニは気づかなかった。
彼の背後、突き殺した死人同然だった女の身体に起きた異変に。
同時に彼は恐ろしく幸運だった。
一度も脚を止めることなく殺害現場から立ち去ったからこそ、そいつの標的にされなかったのだから。
ぴくりと、死んだはずの女の手が動いた。
のろりのろりと虚空へと伸ばされた腕には先程までは無かったはずの一本の剣が握られていた。
透き通る美しい碧の色に反した禍々しさを纏う剣。
碧の賢帝シャルトスである。
そしてかの魔剣には死に瀕した契約者を無理やりにでも助ける一つの能力があった。
死亡覚醒。
分かりやすい言語で名づけるならばそう表すべきか。
瀕死状態で意識の弱まった主に一瞬だが魔剣が取って代わり身体を操作し強制的に剣を召喚させその魔力で傷を癒させるのである。
棺桶に片足を突っ込んでいる状態からの回復でさえ全ての世界の始祖と想定される超常の存在から汲み上げる力をもってすれば容易い。
いや、たとえどれだけ手間のかかっても幾星霜を経て漸く見つけた自らの身体になりうる適格者を魔剣が死なせはしまい。
しかし、である。
アティは死んだ。
魔剣に生かされること無く死に果てた。
何故か?
非常に限定的とはいえ死者蘇生にも通じる力であることを嫌い、オディオが制限を課したからか?
違う。
それがただ単にリスクの無い延命機能だったのならオディオも魔剣に細工しただろう。
だが、魔剣による復活は剣に込められた数多の死者の念による精神侵食という副作用がある。
人間の愚かしさを知らしめんとしている魔王にとってはむしろ喜ばしい特性だ。
故に魔王は死亡覚醒については剣から流れ込む怨念の量を十数倍にした以外は一切の制約を課さなかった。
そして結果的にはそのたった一つの制約がアティの命を奪うこととなった。
魔剣の力は共界線から取り込む世界の力以外にも適格者の意志力にもよるところがある。
適格者が自らの行いや信念に迷えば急激に力を失う。
現にこの島にいるイスラ・レヴィノスの世界では彼に精神的に揺さぶられ続けたアティの剣はあっさりと折れている。
それほどまでに剣から適格者にだけではなく、適格者から魔剣へと及ぼす影響も大きいのだ。
さて、ここで思い出してみて欲しい。
セッツァーに殺された時のアティの精神状況を。
海賊に襲われ、嵐に呑まれ、オディオの説明も聞けずわけも分からないまま殺人遊戯に巻き込まれた。
――最初から散々なものだった。次々と起こる事態に心休まる時も無かっただろう
殺人者に己が信念を否定され、守ってくれた人を見殺しにし、守りたかった生徒も彼女の目の前で殺された。
――殺人遊戯の前に彼女の寄る辺であった理想は瓦解した。後には守りたかった人達の死骸しか残らなかった
遂には怒りのままに暴走。心と言葉を捨てあれだけ否定していた武力に頼り止めようとしてくれた草原の少女を傷付けた。
――他者を傷付けるたびにアティの心も傷ついた。傷つき罅割れ女は自他と向かい合うこと無く逃げ惑った
度重なる不幸。度重なる迷走。その果てに出会ってしまった男によって齎されたのは死。
――皮肉にも彼女の心は止めを刺された。彼女が信じて止まなかった言葉の力で
ああ、これのどこを見て強く輝く魂といえるだろうか?
罅割れて砕け散った心の破片。
暴力と言葉で蹂躙され尽くし自他の双方から否定されてしまったアイデンティティ。
そのような状態ではいかに強大な魔剣といえど力を発揮できるわけがないではないか。
砕け散ったアティの心に引きずられ力を落とした魔剣は適格者の死に間に合わなかった。
間に合わなくとも主導権を握ることには成功してしまった。
支援
何もおかしいことではない。
魔剣の存在した世界ではこの世に残った怨念がその想いの強さゆえに年月をかけて実体化して人を襲うこともあった。
魔剣の片割れに触れ魔神に憑依された男の世界でも狂気山脈という剣に染み込んだテロリストの首領の妄念が生前の姿をとって猛威を振るった。
上二つに比べれば実体化するのではなく単に死して間もない身体に乗り移り操ることのなんと容易いことか。
元からそういった機能が備わっていたこと。
加えて魔剣に封入されていた死者の嘆きがそれらを為すのに十分な年季を得ていたことも醜悪な奇跡を可能にする助けとなった。
それが更なる悪夢の始まり。
アティが死後見たイメージは決して幻影などではなかった。
襲い来た「ソレ」は剣の意思そのものだったのだ。
「gいぎゃh■pkl……」
人の耳では理解できない音階の声を発し、アティだったものが立ち上がる。
図らずも剣の悲願であった適格者を取り込むことには成功したが、その表情に愉悦は無い。
あるのは生きとし生ける者への憎しみのみ。
――憎いいぃ……っ
――恨めしいぃぃ……
――苦しい、よぉ……
所詮は死した身。
遠くないうちに剣から溢れ出る共界ごしの魔力により自壊するのは目に見えている。
無理したところで適格者が死んだ身ではろくな戦いもできはしない。
些細なことだ。
動ける時間が短かろうと長かろうとやることに変わりは無いのだから。
「ご”お”お”ろおおしいいいてえええやああるうううう!!」
殺してやる。
それこそが彼らの願い。
唯一にして至上の行動原理。
その決して渇くことの無い願望を叶えるために、亡霊伐剣者は命の集うフィガロ城に現れた。
或いは――それは蒼き魔剣が導いたからだったのかもしれない。
▽
「まさ、かッ!」
『気付いたか、アシュレー・ウィンチェスター?
そうとも、奴もまた我のような存在に憑かれたのだろうなあ。
死んだのが憑かれた先か後かは知らんが。大方犯人はあの剣といったところか?
ほれ、覚えがあるのではないか? あの剣が発するおぞましい気配にッ!!』
分かる。
色も形も違うが今アシュレーが感じているのは紛れも無くあの時と同じ恐怖だった。
数時間前についぞ抜くことなく逃げるように置き去りにした魔剣。
やはり勘は正しかったのだ!
あれは、あの剣はロードブレイザーと同質の呪われた武器だったのだ!
『抜いてなくて助かったなあ、アシュレー。まあお前があの剣を放置したせいで他の誰かが生贄になったかもしれないのだがな』
魔神の皮肉に一気に心の臓が冷える。
そうだ、何故そのことを考えなかった!?
アシュレーが魔剣に感じた寒気は剣に降ろされたロードブレイザーのせいだけではなかった。
あの後誰かが剣を回収していたらその人に危機が及んでいることとなる。
最悪、アシュレー達の前に立ち塞がっている女性のように身体を乗っ取られている可能性もある。
どうする、どうすればいい?
我が身可愛さに逃げたツケを誰かに支払わせるわけにはいかない。
今から回収しに戻るか?
愚問だ。
気にかかるのは確かだがそれより先にしなければならないことがある。
死して尚恐らくは望まぬ戦いに駆り出された女性を止めねばならない。
「こ”お”お”わああしいいいてえええやああるうううう!!」
亡霊伐剣者から渦巻く暴風めいた魔力に飛ばされぬようアシュレーはディフェンダーを腰だめに構える。
『いいのか、我が力を使わないでも。手負いの獣は恐ろしいかもしれぬぞ?』
語りかけてくる魔神の声は無視。
吹きつけて来る風は目を開けることを阻むほどに強力だったが、
ロードブレイザーの言うとおりだったとしても、魔剣の犠牲者にこれ以上呪われた力を行使したくはなかった。
血と泥に塗れた足が踏み込んでくると共に碧の魔剣が叩きつけられる。
お世辞にも重いとは言えない一撃だった。
身体能力こそ魔力により強化されているが無理やり動かしている分、その力を上手く攻撃に転用する身のこなしが圧倒的に欠けていた。
よってアシュレーがたたらを踏んだのは剣撃自体にではない。
碧の魔剣をディフェンダーで受け流す刹那、いくつもの声が流れ込んできたからだ。
――ぎいやあぁぁぁっ!!
――いや……っ ひっ、あぁぁぁっ!!
――痛いぃぃっ!! し、死にたく……ながあぁぁぁっ!?
アシュレーが感じ取ってしまったのは魔剣の中核をなす亡者達の怨嗟の念だった。
剣の力に頼りすぎ剣の意識に飲み込まれつつある適格者にしか聞こえないはずのものだった。
ロードブレイザーだ。
負の感情を取り込み力に変える事ができるデミ・ガーディアンが魔剣に込められた憎悪を喰らいつつ、アシュレーへと内容を伝達しているのだ。
「くっ、これが、この人を飲み込んでしまった力なのかッ!?」
人間から取り込んだ負の念の総量だけなら魔剣はロードブレイザーには遠く及ばない。
島一つ分と星一つ分ではスケールが違いすぎる。
しかし一点のみ魔剣がロードブレイザーに勝っている部分があった。
魔剣は文字通り島の全ての痛み――山や木に川といった自然の痛みをも吸収していたのである。
ロードブレイザーから与えられたことの無い慣れぬ嘆きに動きを鈍らせるアシュレー。
亡霊伐剣者の肌の表層を這い回る碧の紋様が揺らめく。
刻一刻と形を変える光の刺青はどこか人間の表情のようで。
アシュレーには見下ろしてくる無数の顔が、お前も同じだ、仲間になれと叫んでいるような気がした。
その叫びを打ち消したのはそれ以上の怒号。
「ちっくっしょおおおおおおおおおおおおおおうッ!!!!」
体勢を崩しているアシュレーを尻目にトッシュが迎撃に放たれた魔力波を受け流しつつ亡霊伐剣者へと切り込んでいた。
何の冗談かその背に光るデイバックから零れ出たのは亡霊が持つのとそっくりの剣。
アシュレーは反射的にその蒼き剣へと手を伸ばし、直後予期せぬ衝撃に打たれ意識を失った。
▽
亡霊伐剣者が死に逝く身体を無理やり引き摺り一目散にトッシュへと飛び掛る。
アシュレーを苦しめる亡霊伐剣者の姿がぶれ、知った誰かと重なっていく。
最初はモンジの顔だったそれが、次々と失ってしまった人々のものへと変わっていく。
もし、もしもだ。
ナナミが、リーザが、エルクが……シュウの野郎が親父やこいつみてえな形で姿を現したなら。
トッシュは想像してしまった。
殺人マシーンとしてでももう一度あいつらの顔を見ちまったのなら。
俺は――
きっと驚いて、
やっぱそう簡単にお前が死ぬわけねえよなって一瞬喜んじまって、
けれども一切迷うことなくぶった斬っるんだろうなぁ。
……ちきしょお。
ちきしょお、ちきしょお、ちきしょお。
ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、
「ちっくっしょおおおおおおおおおおおおおおうッ!!!!」
自分でも整理のつかない悔しさを怒号と化し、剣に乗せて渾身の一撃を叩き込む。
狙ったのは腹立たしいまでに目に付く気の集約点。
意識した上ではなかったが、その動作は彼が親父と慕っていたスメリア一の剣豪が編み出した奥義に似ていた。
――似ているだけで本物には届かない出来損ないの奥義だった
無意識のうちに繰り出したその技が、完成された形であったならば。
凝り固まっていた所を両断されたエネルギーは力を失い霧散したであろう。
そうはならなかった。
見ようとして見たのとひょんな弾みで見てしまったのでは気の流れを読む精度が違う。
しかもトッシュに流れを読むきっかけを与えたのは性質は核識では無くロードブレイザーだ。
いくら性質が似通っているとはいえ、両者は別物。
事象平面に潜むロードブレイザーを見るつもりで境界から流れ込む核識の意思を視認しようにも正確に捉えられるはずも無く。
僅かに目測を誤った刃は気の集うところではなく、気が流れている経路の方を断ち切ってしまう。
途端膨大な力は行き場を無くし、送り込まれる勢いのままにゴーストの体外へと溢れ出し氾濫する。
制御を失った大量のエネルギーが城の隅々にまで浸透していく。
地下の閉じられた城内に充満した魔力が飽和状態に達するまでにそう時間はかからなかった。
▽
轟音と共に衝撃が走り天井が、壁が、床が、城のありとあらゆる部位が軋む。
揺さぶられたのはフィガロ城だけではない。
その中にいた人もまた等しく激しい振動に晒されることとなった。
ゴゴに頼まれリオウを弔おうとしていたトカもその一人だった。
制御室を漁って見つけてきたルッカが中身を持ち出したことで空になっていた予備動力炉を収めていた箱。
急造の棺代わりとしてそこに遺体を収めようとしていたトカは急な足場のぐらつきをもろに受け倒れてしまったのだ。
「な、何ですとー、この揺れは!?
まさかまさかの巨大ロボが地下より現れる前兆!?
であるなら我輩も呼ばねばなるまいッ! ブールーコーギードーンッ!
さあさ、みなさんごいっしょにッ! ブールーコーギードーンッ!!」
が、当然のことながら一緒に声を上げてくれる人もいなければ、返ってくる巨大ロボの駆動音も無い。
無人の制御室に一人寂しく延々と声が木霊するのみ。
まあ一人とはいえ十人分くらい騒ぎ立てているのだが。
「じ、地震だーーーーッ!!」
これはまずい。
非常にまずい。
地底で生き埋めになった日には二度とお日様を拝めないこと間違いないしだ。
しかも悪いことには常ならばコロコロとコミカルに転がっていたであろうその矮躯は、運び途中だった遺骸に押しつぶされていた。
リオウは決して大柄ではないとはいえ、人の子程度のサイズしかないトカからすれば全身を覆って余りある大きさだ。
鍛え上げられていることもあって中々重いリオウの身体をどかすのはインドア派のトカには手間取ること必須である。
「いよいよもって大自然の反乱ッ! こいつぁ、一級品のハードSFだトカ。
……おのれ、あじなマネを。だがしかしッ! 我輩達にはあるではないか、科学の力がッ!
そう、科学ッ! 科学が我輩を救うのだッ!!
ほら、ちょうどいい具合にあそこに緊急浮上レバーがあります。む、レバー?
何故かその単語を口にするだけでほのかな頭痛が。全身もこうぴくぴくと。
あれだトカ? 予知というものだですか?
否、そんな迷信に躊躇していては人類に進化はこーっず! それ、ぽちっと……ひゃい!?」
現状を打破しようと手短なスイッチに手を伸ばすも届かない。
というか手を伸ばす先にスイッチが無かったりする。
後ろだ。レバーはうつ伏せになったトカの後ろにあったのである。
人類からすれば打つ手なしの展開だった。
しかしトカはさっきまでとは打って変わって余裕綽々の笑顔だった。
彼は人間ではないからだ。
「ふっ、この程度の問題既に一度乗り越えておるわー!
さあ出番ですぜい、しなやかにして、たおやかな我輩のシッポ!
今度こそぽちっとな」
リザード星人特有のよくしなる長い尻尾を動かしてレバーを押す。
傷に響いて若干痛かったが、こんなもの、石像の口に尻尾を挟んで抜けなくなってしまった時に比べれば何とも無かった。
「ふう。これですこぶる良好ッ!
我輩のおしげもなくさらしたまばゆいばかりの智将っぷりに、亡きリオウくんもきっとご満悦の様子?
青春の虚像と我輩には、どこまで行っても追いつけぬものトカ。
地下の世界のセミ達よ、さなぎ時代最後の思い出に、去り行く我輩らの姿を節穴同然のドングリまなこに焼き付けたまえ。
アデュー、いつの日か星の海でッ!!」
程なくして鳴り響く駆動音を耳に、大したアクシデントも無くスイッチを入れられたという生涯でも数少ない功績に気をよくするトカ。
我が身に降りかかっていないだけで既に城内には問題人物だらけだということを彼は知る由も無い。
▽
いたる所で築き上げられた瓦礫の山が城が浮上する振動に揺れ、がらりがらりと音をたてる。
トッシュが頭を抑えつつ這い出てたのもそんな瓦礫の底からだった。
「っつう、いってえなあ」
飽和した魔力は爆発を起こしトッシュと伐剣ゴーストが居た位置を中心に周囲を球状にごっそりと破砕していた。
前後左右上下四方をだ。
その証拠に気配を感じ顔を上げてみれば呆れ顔で手を伸ばしてくる彼の仲間がいた。
「……随分と派手にやったものだな、トッシュ」
偶然にもトッシュ達はゴゴとシャドウが戦っていた階下まで落ちてきてしまったのだ。
ゴゴの身体や衣服に見られる傷、そして口は動かしつつも気を張り詰めたままな様子から戦っている最中だったことを察しトッシュは謝る。
「へっ、わりぃな。邪魔をしちまったかい?」
「問題ない。むしろちょうどいいタイミングだった。言いたいことは言った。後はけじめを取らせるだけだ」
「おっしゃあ!! そいつあいいところに乱入できたぜ! リオウの仇、やっぱ俺もこの手でとらねえと気がすまなかったからな」
手を借りて立ち上がったトッシュが浮かべたのは怒りと笑み。
変なところで器用な男だとゴゴは感心する。
感情に正直すぎるとむしろこうなるのか。
早速得た新たな情報に更新してトッシュの物真似に移行する。
「分かっているさ。焚きつけたのは俺なんだしよっ! にしてもこの爆発、何したんだ、てめえ」
「ちいっとばっかし厄介な乱入者も現れちまってな。けっ、噂をすればなんとやら。おいでなすったか!」
不協和音を撒き散らしながら魔力の風が吹き荒れ、トッシュが埋まっていたのとは別の瓦礫の山が爆ぜる。
舞い散る粉塵をものともせずゆらりと立ち上がるのは言うまでも無く伐剣者の亡霊だ。
「てめえトッシュ、厄介なもん連れて来やがって!」
「うっせえ!そういうならお前の方こそもうちょいあいつに傷を負わせておけ!」
トッシュを助け起こす間もゴゴが警戒していた方角。
二人を挟んで亡霊とは逆方向にシャドウは姿を現していた。
このままでは挟み撃ちにされてしまう。
素早く背中を合わせ、両者に剣を向けるトッシュとゴゴ。
されどことは単にシャドウに挟撃できる位置を取られただけでは済まなかった。
「おい、何かやばそうなもん構えてやがるぞ! あいつ投擲の腕はどうなんだ!?」
「必殺必中だ!!」
「めちゃくちゃまずいじゃねえかあああ!」
支援
ゴゴ同様ゴーストをゾンビと捉えたシャドウの判断は早かった。
敵二人に、敵も味方も無いアンデッドが一匹。
道を塞がれる形で逃げること叶わず、実質3人を相手にしなければならなくなったシャドウは遂にカードを切ったのだ。
クレッセントファング。
それこそがエイラから奪い取った最後の支給品にしてシャドウにとっては最強の支給品。
奇しくもある世界において修羅の道を歩んだ処刑人が使っていた武器と同じ名を冠した投擲具。
ただでさえ強力な月狼の牙を投擲のスペシャリストたるシャドウの腕で使用すれば、
かの一兆度の炎を操る百魔獣の王さえも半殺しにするは容易い。
ただ、抜け道もある。
「……幸いなことにあいつの投擲は精度を重視しているがために一人相手に使うのが前提だ」
「ああん? 何が言いたいんだ、てめえ」
「二手に分かれれば確実に一人は助かるはずだ。俺がつけた分の傷もある。もう一方を追おうとはしないだろう」
最善の結果を得れはしないが、確実に一人は生き残れる寸法だ。
そしてその一人とは恐らくゴゴではなくトッシュだ。
暗殺者が己が手の内を知り尽くしている輩を逃すはずも無い。
ゴゴとてそのことは承知の上だ。
分かっていて物真似を解いてまで提案したのだ。
だけどトッシュはふてぶてしい笑みを浮かべて申し出を一掃した。
「おい、ゴゴ。馬鹿言ってんじゃねえ。てめえ今俺の真似してんだろ? だったら俺がどういう奴か分かってんだろ」
さっき出会ったばかりで。
守りたかった人の敵の仲間でもある相手を。
トッシュは犠牲にすることを良しとしなかった。
面白い男だとゴゴは思った。
もっともっと真似してみたいと。
こいつの真似をし続ければ何だか炎の物まねをするのがより上手になりそうだとも。
「すまない。……いや、すまねえ。どうやら俺も焼きが回ったみてえだ!」
途中で物真似を再開して答える。
炎のように獰猛でけれどどこか清清しい笑い方は真似してみて気持ちいいものだった。
「へっ、わかりゃあいいんだよ。……てめえがどうしてんなことを言ったのかくれえは分かるつもりだ。
だがよお、死んじまったらこれ以上誰も守れはしねえんだ」
「ああ。要するに選ぶべき道は一つだけってことだなッ!!」
合わせていた背を離し、二人は並び立つ。
目指すは前。死人が手招く後ろにではなく、生者が立ち塞がる前へと進め。
「「避けられないなら正面から斬り捨てるまでッ!!」」
異口同音。
重なるは心、重ねるは刃。
剣の柄に手をやり二人ともが生き延びる最高の未来を目指してシャドウの方へと疾駆する。
ここが勝負どころなのはシャドウも変わらなかった。
シャドウにのみ狙いを絞ったことで、トッシュとゴゴは一時的にとはいえ二対一の形に持ち込めるようになる。
対してこのまま二人の接近を許せば彼らを背後から追いすがる亡霊伐剣者も含めた三人をシャドウは一度に相手しなければならなくなってしまう。
それだけは防がねばならない。
「シィィィィィイイイイイイイ……」
暗殺者らしからぬ雄叫びを上げ身体を引き絞る。
乾坤一擲。近づかれるより先に確実に仕留めなければ活路が無い以上、少しでも威力が上がるなら気合を入れることさえも怠れなかった。
イメージする。
この身は弓、我が心は弦。
放ち穿つは必殺の――駄目だ。
足りない、ただの弓矢のイメージでは足り無すぎるっ!!
もっとだ、もっと強い武器を。
暗示しなおせ。お前は知っているはずだ、複数体の的を一斉に射抜く機械の弓をっ!!
強敵が握っていたそれをっ!!
「ャャャャャヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
この身は弩弓、我が心は撃鉄。
オートボウガンをイメージに添えクレッセントファングが撃ち出される。
高速回転する人が手にした最も古い狩猟用兵器は数多もの残像を巻き起こし軌道を決して読ませない。
必要ない。
トッシュとゴゴに元より避けるための軌道計算なんて不要だ。
望むは直線。
シャドウを切り伏せられる最短距離。
その射程上さえ開いていればそれでいい!
「「真空斬――」」
トッシュが走る動きさながらに剣を抜く。
軽さと鋭さを重視した細身の剣では受け止めるのは不利。
なればこそその軽さと鋭さが生きる神速の抜刀により生じる大気の刃にて切り裂くことこそ漢は選ぶ。
ゴゴもまた壊れた誓いの剣にてオリジナルと寸分のずれも無い動作で技を為す。
どころかリオウやルッカの物真似をして得た他人と合わせる呼吸を活かし、即興で連携技を成立させる!
「「――双牙っっっ!!!!」」
生じた衝撃波が重なり巨大な一つの刃となる。
一太刀でさえ大樹を容易く切断する真空の刃を二つ束ねたのだ。
並みの武具や防具では受け止めようにも持ち主ごと切断していたであろう。
だが真空斬・双牙が撃ち落さんとするのもまた一級品の上を行く超級の代物だった。
月狼牙の名に恥じぬ白銀色をした巨大な飛去来器が空を舞い逝く。
直進するのみの真空斬・双牙とは異なり三日月の刃は円形の軌跡を描き回転しながら飛翔する。
その姿は三日月ならぬ満月の如し。
そしてその一撃が満月であろうものなら衝撃波如きが抗えるはずは無い!
どれだけ勢いがあろうとも、花鳥風月と並び証されようとも所詮は風。
夜天に一際映える真円の星を揺るがすには至らない。
そもそも月とは真空状態の宇宙において浮かんでいるものなのだ。
突発的な真空波など敵ではない。
豪ッ!!
真空斬が、引きちぎられた。
無残に、それでいて綺麗に。
双牙の名を冠された技は更に鋭き牙に食い殺された。
もう月狼の歩みを止めるものは居ない。
もうトッシュとゴゴに死から逃れる術は無い。
支援
飛来するブーメランが二人の視界を埋め尽くす。
直感が無駄だと叫ぶのを無視して、希望を掴み取る為に二人は振り抜いたばかりの刃を引き戻す。
その背後からもう一つの脅威が迫り来る。
亡霊伐剣者。
消え逝く蝋燭の最後の輝きさながらに威力を増した暴風を纏って、死者が魔剣を振り上げる。
トッシュとゴゴにその剣に応戦する余裕は無い。
二人がかりで挑んで尚勝ち目の薄い戦いを挑む彼らは眼前のクレッセントファングに集中するしかなかった。
たとえ必殺を防いだところで無防備な背を亡霊に晒すのは致命的過ぎた。
なのに
二人は諦めることをよしとはしなかった。
最後まで剣と己と仲間に賭けた。
目を閉じることなく勝負の行方を追い続けた。
だから
彼らは見た。
挟撃されんとするまさにその時に飛び込んできた一筋の光を。
蒼い魔剣を掲げたヒーローの姿をッ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!アクセスッ!!!」
▽
それはいつかの光景の再演だった。
極光に彩られた意識と無意識の狭間。
光の中に浮かぶ一人の女性。
彼女が口を開き、僕が今まで何度も何度も投げかけられた問いかけを口にする。
「あなたはもう知ってますよね。あなたが望んでいたもの。本当に守りたいものがなんなのかって」
「僕が望むのは平和な日常……。みんなの笑顔を、マリナの笑顔を、僕は守りたい」
僕はずっとその答えを抱いて生きてきた。
絶え間のない変化に触れて移ろい行くことはあったけど、それは僕の願いが僕と共に明日を歩み続けているということなんだ。
二十年間生きてきて、やっぱり僕は他に命をかけられるものを知らない。
――わたしにとって、アシュレーはアシュレーなんだから、ね……
だい、じょうぶだよ ふたり、どんなに、離れていても
アシュレーを見失ったりしないよ
だから……アシュレーも、見失わないで……自分の、帰る、場所を……
だったらその日常に、マリナの為に命を賭けるのが僕だ。
魔神に再び蝕まれようと、この手に聖剣がなかろうと、その想いを抱いている限り僕はアシュレー・ウィンチェスターだッ!
「その通りです。あなたのそれは正しい答えじゃないのかもしれない。
独りよがりのわがままと何も変わらないのかもしれない……。
だけどそれがあなたなんです。
その答えはあなたにとっては満点です」
女の人が手を伸ばす中、宙にあの蒼い魔剣が現れる。
極光の世界を優しく包み込んでいく蒼い光に照らされた顔には憂いを浮べていたアナスタシアとは違い温かい笑みがあった。
「ウィスタリアス、私だけの剣。
適格者であったとしても多分わたし以外には使えません。
今覚醒できているのも、もう一人の私とこの剣の前身が近くにあるからこそです」
もう一人の私とこの剣の前身。
その言葉の意味に気がつきはっとなる。
剣の類似性にばかり気を取られていたけれど、確かに光の中の女性の顔立ちは魔剣の犠牲者のものとそっくりだった。
「ごめんなさい。あの子のことは本当は私が、私の持ち主であるあの子とは別世界のアティが眠らせてあげないといけないのは分かってます。
けれど魔剣と引き離されたアティは異常に気付くことはできても、何が起きているのかさえ知りえません」
アティ。
その名前には覚えがあった。
カノンの名が最初に呼ばれた放送の最後の最後で告げられた名前だった。
そして同時にそれはこの人の名前でもあるということ。
「だからお願いです。みんなの笑顔を絶やすこの殺し合いを止めてください。
私も力を貸します。戦う力にはなれないけれど、ハイネルさんが私にしてくれたように、私があなたの心を魔神から守ります。
もしもあなたが私を信じてくれるなら。私に力を貸してくれるなら。
剣を、果てしなき蒼(ウィスタリアス)を手にして……」
僕は、迷わなかった。
迷わずに握りしめた。
光の中の女性の右手を。
「え……?」
「力は貸したり借りたりするものじゃない。合わせるものだッ!!
君が僕を守ってくれるというなら、今から僕達は仲間だ。一緒に、戦おうッ!」
彼女は笑った。笑って頷いてくれた。
そして僕達は剣を抜く。合わせたままの二人の手で。
「「アクセスッ!!!」」
▽
変身を遂げたアシュレーにシャドウとゴゴはその姿に一人の少女のことを重ねていた。
人と幻獣の間に生まれ、人形として扱われ、それでも最後には人としての心を得た少女のことを。
あの少女のように男もまた人ならざる身でありながらも人としての道を選んだのか。
修羅の道を歩む暗殺者と正体不明の物真似師は人としての心の輝きを眩しげに仰ぎ見る。
トッシュは仇に成り下がった親父から生前に託された大切な言葉を思い出していた。
『この世界には、こんな俺達にしか守れない者が、大勢いる。そいつを守っていく為に、お前は生きろ』
あんたもそうなのか? そんな邪悪なものに取り憑かれたあんたでしか守れないものの為に戦っているのか?
目に映る今のアシュレーの気の集中点には流れ込む黒い力も霞む程に煌く光が灯っていた。
ロードブレイザーは驚愕していた。
ありえない、何なのだこの姿は!?
変身したアシュレーの姿は魔神の知るどの形態にも当てはまらなかった。
姿だけならナイトブレイザーのそれだが、彩色は本来あるべき黒と赤とは真逆のものだった。
支援
即ち白と蒼。
全てを飲み込む絶望の闇の如く黒かった装甲は青みのかかった白に染まり、
万物を焼き払う赤き炎を模していたマントやゴーグルといった細部パーツは母なる海の蒼を思わせる色に輝いている。
まるで手にした魔剣の色を写し取ったかのように。
新生したナイトブレイザーはどこか優しい
名づけるのならば――蒼炎。
“蒼炎のナイトブレイザー!!”
その背部装甲は大きく切り裂かれていた。
亡霊の凶刃からトッシュやゴゴを我が身一つで庇った代償だった。
決して軽くはないはずの傷だ。
纏っていたマフラーの半分は千切れとび、白かった装甲には真紅が滴っている。
そんな状態で蒼炎のナイトブレイザーはトッシュとゴゴの二人の間に立ち、二本の剣で共にクレッセントファングを受け止めていた。
右腕に握られしは使い慣れた破壊剣ナイトフェンサー。
そして左腕にあるのは蒼い、蒼い綺麗な刀身。
全てを包み込む母なる海のような暖かさすら感じさせる果てしなき蒼の色。
破壊の力で亡霊伐剣者を葬送することを拒んだアシュレーが創造した新しい剣。
ウィスタリアスを模したこの剣は、アシュレーとアティの絆の証だった。
「ウィスタリアスセイバーッ!!」
“救い切り開く蒼き剣”
蒼炎の騎士が声高らかに宣名するのを待っていたかのように、アシュレー達三人の背後で何かが崩れる音がした。
それは屍が屍に返る音。
ナイトブレイザーを斬りつけた碧の賢帝は、直後生成された救い切り開く蒼き剣によるカウンターで両断されていたのだ。
果たして冠した名前通りにアシュレーの一撃が魔剣に翻弄され続けた女性の魂にとって救いになったのかは分からない。
ただ、数多の呪いを発していた彼女の口は今際の際には一切の断末魔も漏らすことなく静かに閉じられたままだった。
アシュレーは振り返らなかった。
悲しみと悔しさを蒼炎の仮面で覆い隠し前を見据えていた。
「二人とも、伏せろッ!!」
蒼炎のナイトブレイザーの胸部装甲が展開される。
そこから溢れ出す光は魔剣から発する蒼き光とは違いただ敵を焼き尽くす為だけの禍々しきもの。
アシュレーの号令にトッシュとゴゴは一瞬顔を見合わせる。
クレッセントファングの勢いは死んではいない。
三人がかりで受け止めて尚、じわりじわりと剣の刃に食い込んできている。
伏せるのであれば二人分受け止めている牙城が緩むこととなる。
自殺行為も甚だしい。
構わない。
悩むまでも無かった。迷う必要もなかった。
トッシュはアシュレーを信じることにした。
ゴゴはそんなトッシュの真似をすることを選んだ。
「「後で話くらい聞かせろよ!」」
二人は同時に素早く身を伏せる。
その上を極太の光の矢が貫いていく。
黒騎士ナイトブレイザーに内蔵された決戦兵器にして蒼炎の騎士にも受け継がれた必殺の一撃。
人ならぬ魔神の論理によって実現した荷電粒子砲。
名を
「バニシングゥゥゥウ・バスタアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
トッシュ達の命を刈り取る寸前だったクレッセントファングは光の奔流に打たれ押し戻されていく。
自らを投げ放った主、シャドウの方へと。
しかしブーメランが主の手に戻ることは無かった。
シャドウが手に取り盾として使うよりも早く、白き闇に呑まれて消し飛んだ。
もっともたとえ無事シャドウのもとへと辿り着いていたところで結果に変わりは無かっただろう。
クレッセントファングが光に消えた刹那の後に、暗殺者も滅びの焔の洗礼を受けたのだから。
爆発。いっそう眩い閃光。
世界が色を取り戻し、トッシュとゴゴが立ち上がった時。
そこには暗殺者の姿も白騎士の姿も無く、粒子加速砲が空けた大穴より差し込む陽光に照らされた一人の青年が立っているだけだった。
【G−3 砂漠に移動してきたフィガロ城 一日目 日中】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)、右肩から左腰にかけての刀傷
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドU
[道具]:天罰の杖@DQ4、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式×2、
焼け焦げたリルカの首輪、レインボーパラソル@WA2
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:トッシュ達ときちんと話がしたい
2:ブラッド、ケフカら仲間や他参加者の捜索
3:アリーナを殺した者を倒す
※参戦時期は本編終了後です。
※島に怪獣がいると思っています。
※セッツァーと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュを善人だと思い込んでいます。
ケフカへの猜疑心が和らぎ、扱いにくいが善人だと思っています。
※蒼炎のナイトブレイザーに変身可能になりました。
白を基調に蒼で彩られたナイトブレイザーです。
アシュレーは適格者でない為、ウィスタリアス型のウィスタリアスセイバーが使用できること以外、能力に変化はありません。
ただし魔剣にロードブレイザーを分割封印したことと、魔剣内のアティの意思により、
現段階ではアシュレーの負担は減り、ロードブレイザーからの一方的な強制干渉も不可能になりました。
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:トッシュの物真似中、ダメージ(小)、全身に軽い切り傷
[装備]:花の首飾り、疲労(中)、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝U
ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:アシュレーの話しを聞く。
2:後に制御室へ戻り、トカと行動を共にする。
3:ビッキーたちは何故帰ってこないんだ?
4:トカの物まねをし足りない
5:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期はパーティメンバー加入後です。詳細はお任せします。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
支援
▽
バニシングバスターの光条に触れ、クレッセントファングが溶解されていく。
いかな夜空の支配者といえど灼熱の太陽が相手では敵わない。
このまま光が到達すればシャドウもまた同様の末路を辿るのは目に見えていた。
「ああ、ようやくか……」
迫り来る白き闇を前に思う。
これで俺の悪夢は終るのだと。
ビリーの元へ行けるのだと。
今ならティナやエドガーも待っていてくれるだろう。
……エドガー?
――本当に俺はこのまま死んでもいいのか?
そうだ、エドガーは宣言した。
命を落とそうとも、全てを失おうとも、若きものを導くと。
だったらエドガーが死んだところであいつの誓いは続いていく。
あいつの意思に導かれた誰かが、あいつが残した何かが殺し合いを打破すればエドガーは誓いを果たしたことになる。
それに比べて俺はどうだ?
身一つしかない俺はここで死んだらどうなる?
……終わりだ。
俺が死ねばそこで俺の誓いは果たせなくなる。
戦友に応えることができなくなる。
ダメだ、俺はそのような結末を望まない。
友を裏切るのは二度と御免だ。
「俺は――」
ならば、足掻け。
「俺は、まだ」
死を受け入れるな。死に逃げるな。
「死ねない!!」
最後まで足掻いて見せろ!
殺した女から奪った最後の支給品を取り出す。
俺の命を脅かす光に負けずとも劣らない輝きを放つその石は太陽石。
紙に書かれていたその名前以外、用法も効果も一切示されていなかったアイテムだ。
未知数だからこそ状況を打開しうる希望だった。
その希望を……
――シャドウは投げた。
望みを捨てたとか、やはり諦めたという意味ではない。
太陽石を俺を射殺さんとする粒子の槍の穂先へと全力で投擲したのだ。
確証があったわけではない。
むしろはたから見れば余りにも馬鹿げた行いだっただろう。
だがシャドウには磨き続けたこの投擲技術以上に命を預けられるものはなかった。
「シャアアアアッ!!」
太陽石がバニシングバスターと激突する。
それは文字通り激突だった。
バニシングバスターの光線と衝突した瞬間、太陽石からその名に違わぬ太陽のエネルギーが開放されたのだ。
暗黒石に約六千五百万二千三百年もの時をかけて蓄積されたパワーが一気にだ!
星一つを焼き払う魔神の業火といえどそれだけの時の積み重なりを一蹴することはできなかった。
いずれも計測すら困難な程のエネルギーを持つ熱量が、その全てをぶつけ合い、反発し、瞬間的に放出される。
これがアシュレー達が見た爆発の正体だった。
彼らがシャドウの抗いに気づけなかったのも無理はない。
屋外で生じていたなら二エリア先にさえ軽く届くほど光は強いものだったのだ。
シャドウはこの機に乗じて目くらまし代わりの光に紛れて一度退こうと身を翻す。
その目がふと人影を捉えた。
――ゴゴにでも動きを読まれ先回りされたか?
真っ先に浮かんだ可能性に目を細めるが、よくよく見ればそれはあの奇特な衣装を来た仲間のものではなかった。
人間ですらなかった。
文字通り人間の、俺の影だった。
強烈な閃光によりフィガロ城の壁の表面に遮蔽物である俺の影をくっきりと残していたのだ。
その影が蠢きビリーの声で囁いてくる。
どうした、死なないのかと。
また俺を見捨てていくのかと。
――ああ、その通りだ。
過去は戻らない。クライドがビリーを見捨てた悔いは一生残り続けるだろう。
ならせめて俺は、シャドウはこの俺自身も友も裏切ることなく生き抜こう。
「だからお前はそこで眠っていろ、“死神”」
光が消えいく中、すんでのところで竜騎士の靴によっていつしか地上へと戻っていた城の外へと一気に跳び出す。
罪を背負い、逃げることを捨て、新たに芽生えた生きる意思を抱えて。
俺の背に死神はもういない。
支援
【G−3 砂漠 一日目 昼】
【シャドウ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:疲労(大)、全身に斬り傷、腹部にダメージ(小)、軽い火傷。
[装備]:アサッシンズ@サモンナイト3、竜騎士の靴@FINAL FANTASY6
[道具]:蒼流凶星@幻想水滸伝U、基本支給品一式*2
[思考]
基本:戦友(エドガー)に誓ったように、殺し合いに乗って優勝する。
1:どこかで傷を癒す。
2:参加者を見つけ次第殺す。ただし深追いはしない。
3:知り合いに対して……?
[備考]:
※名簿確認済み。
▽
『おぉぉぉのおおおれえええええええッ!!』
ロードブレイザーは激昂していた。
あらん限りの声で叫んでいた。
だがその声は今となってはアシュレーには届かない。
焔の魔神の意思は幽閉されてしまったのだから。
アシュレー・ウィンチェスターの内的宇宙に突き刺さる蒼き魔剣の中へと。
碧の賢帝(シャルトス)、紅の暴君(キルスレス)、果てしなき蒼(ウィスタリアス)。
これら3本の剣の本質は手にした者に莫大な力を与える宝剣、というわけではない。
世界を支える超存在――エルゴから流れ込む力をを人為的に制御することで世界の全てを支配できる人間「核識」。
魔剣はその核識や核識たりえる人物の意思を封じることでその膨大な力を振るえるようになったに過ぎない。
つまりだ。
剣自体の本領はその他者の意思を封印する能力の方にこそあるのだ。
果てしなき蒼に込められたアティの意識はその機能を利用した。
アクセスにより活性化されアシュレーを取り込もうと目論んだロードブレイザーを魔剣へと誘導。
取り込めるギリギリの範囲までを剣に閉じ込め封印することに成功したのである。
魔剣がロードブレイザーを封印する器足りえることは皮肉にもロードブレイザーを導いたオディオ自身が証明していた。
加えて他の二本とは違い果てしなき蒼に込められているのは怨念とは程遠い希望と優しさに満ちた強い意志。
絶望を力とするロードブレイザーにとっては糧にならないどころかマイナスにしかならない。
『行かせません』
今もアティの精神体はロードブレイザーが魔剣の戒めを破ろうとするのを防がんと両手を広げて立ち塞がっていた。
憎らしい。
これでは何のために魔剣のことをちらつかせアシュレーの後悔の念をかきたてたというのだッ!
思わぬ邪魔と自らの煽りが裏目に出てしまったことがロードブレイザーを更に苛立たせていた。
無論これで全てが丸く収まったわけではない。
力を取り戻しつつあるロードブレイザーを封印しきるのは魔剣一本では不可能だった。
未だにアシュレーとロードブレイザーは繋がったままなのだ。
またアティの精神体もいつまでも存在し続けることはできない。
力を増していくロードブレイザーに適格者と引き離され内包する意思の補充が叶わない果てしなき蒼の精神体は徐々に力を削がれていく。
現に碧の賢帝を破壊した時に散った核識の残留思念を取り込んだことでロードブレイザーは既に果てしなき蒼を圧迫しだしている。
このまま何もせず手をこまねいていれば自ずと焔の災厄は魔剣を乗っ取り我が物とするだろう。
そうでなくとも心のバランスが崩れオーバーナイトブレイザーになろうものなら。
マリナのいないこの島では今度こそアシュレーは暴走を抑えられないかもしれない。
忘れる事なかれ。
災厄は未だ去らず。
恐怖せよ。
果てしなき蒼が果てるその時を。
投下終了です。
投下乙!
蒼炎のナイトブレイザー、だと?
このロワならではの熱い展開! 個人的にこういうノリは大好物w
アシュレー&アティのアクセスに、胸の高鳴りは最高潮だった!
ゴゴは回を負う毎にいい味が出てくるな。トッシュも熱血通り越して、もはや炎そのものw
二人の真空斬・双牙は鳥肌立った。
シャドウはここにきて死神と決別か。エドガーとの約束もあるし、一皮も二皮も剥けていよいよ目が離せなくなってきた。
しかしロードブレイザーは何処に行っても、力ある剣に邪魔をされる宿命らしいww
そら叫びたくもなるわなww
投下乙!
もうね、マジで鳥肌モノだった。
シャドウにクレッセントファングとか真空斬・双牙、そして蒼炎のナイトブレイザー。
氏のクロスオーバーの上手さは異常。俺の腕のなさを実感してしまうくらいに。
熱すぎる展開は、熱いゲームを実際に遊んでいるときのようだった。
アクセスの瞬間、脳内でバトル・ナイトブレイザーが流れっぱなしだった。
心から言わせてもらう、超GJ!
投下乙!
俺たちのヒーローついにキターーーーーーーー! マジで手汗が止まらない!!!www
誰もが待ち焦がれていたナイトブレイザーを、予想を遥かに越える燃え展開で登場させてくれやがったぜ!
ウィスタリアスの中のアティ先生も、まさかの活躍!
もう一人のアティ先生は死後も完全に鬱展開だけどw
ゴゴのキャラも素晴らしい。ここまで人間臭い(いい意味で)キャラになるとは誰が予想しただろうか。
淡々と述べられた、「一流すぎるのも〜」の台詞が格好良すぎる。
本性もこんなにカッコいいのに、モノマネしたら真空斬・双牙とかゴゴさんマジでMVPw
シャドウもシャドウで、簡単にブレイザーのかませにはせずに逆に覚悟完了で面白くなってきた!
本当にすべてのキャラが格好良くて活き活きしていて、快心の一作でした、GJ!!!!!
考えたらシャドウって本人使えないような武器でも投げたら必殺技クラスの威力を発揮できるんだよな
確かに、遠距離から高威力で攻められるのはパロロワでは結構な武器だな
マッシュ・エドガー・シャドウ・セッツァーをスタメンにしてたから、
この4人が活躍する回は物凄くwktkして見られる
そのうち2名はマーダー、1名は死亡してるけどな!
>>533 4人とも輝いてるよな。
セッツァーは暗躍しつつも美味しいトコ持ってってるし、シャドウは積極的なマーダーとして申し分ない。
エドガーはちょっと早い退場だったがカッコいいシーンもあったし。
マッシュは今まで目立った戦闘はしていないが、今は側にルカ様いるからなー。
楽しみだ。
おまwwwwwwwwww テラバイオハザードwwwwwwwwwwwwwwww
保守
保守がてら
今幻水2やってるがルカ様の強さにワロタw
やっと倒すとこまでストーリー進んだが、マジで全滅寸前にまで追い込まれたw
レベル上げればそれほど大変でもないけどな
ただインパクトはあるよね
3連戦+一騎打ちだし
ルカ様はラスボスの風格だからなぁ。
初回プレイ時はマジで苦戦したわ。
幼き日の俺はルカ様で詰んだ
今はハンフリーですけどね
弓矢でめったうちにされた状態であの強さだからな…
あけおめ!
あけましておめでとう
今年中に完結とは言いませんが、第四回放送位まではいきますように
代理投下します
547 :
代理:2010/01/09(土) 03:20:43 ID:xBsVicpd
少女の死体に土をかける。
綺麗な白い肌を、少しずつ茶色が隠していく。
まるでその存在ごと、大地の下に封じ込めてしまうかのように。
「……はぁ…………」
両の手のひらで土をすくって、魔法で開けた大穴に横たわらせた少女の身体に乗せていく。
それだけの単純な作業なのに、酷く心に疲労がたまる。
一すくい毎に心がすり減らされていくのを、ストレイボウはひしひしと感じていた。
それに呼応して、だんだんと身体の力までもが抜けていってしまう。
抗いようのない虚脱感が自分を包んでいくのだ。
ふと、死して尚艶やかさを保っている少女の顔から、小指の先ほどの土の塊が転がり落ちた。
スゥゥ……と目元から頬を伝って、地面へと流れ落ちる。
無力感に苛まれていたからだろうか。魔導師の目には、それが少女の流した涙に映った。
黄土色の固形物は、大粒の涙に他ならない。
(すまない……な……)
少女の頬に残された、茶色い一筋の涙の跡。
これから土に包まれるのだから、そんな些細な汚れなど放っておいてもいいのだが……。
それでもストレイボウは、冷たくなった頬を親指で一拭いしてやった。
(彼女が泣くのも当然だ)
ちょっとは綺麗になった少女の顔を直視できずに目を伏せる。
彼女の生い立ちも、彼女の死に様も、彼女の強さも、何にも知らない。
その美しい死に顔意外……何も…………名前すら……。
それでも確かな事がある。
少女は若い。聡明そうな顔つきの中にも幾らかの幼さが残っていた。
この子には、まだ可能性があったはずだ。
混沌とした未来を変えてゆけるだけの可能性が。
この絶望を覆すことのできる可能性が。
(本当に死ぬべきなのは、償いきれぬ罪を背負った俺じゃないか……!)
なぜ、そんな少女が死ななくてはならなかったのだ。
唇を噛み締める。
虚脱に注ぎ込まれたのは、とろみを帯びた絶望。
鉄の味がした。
出会ったときには彼女は虫の息だったし、助けられる術など持ち合わせていなかった。
だから、どうしようもなかったのだ。
自分に責任があったわけじゃない。
それでも……それでも、目の前で散り逝く命を前に何もできなかった自分が情けなくてならない。
惨めで仕方がない。
(オルステッド。こんな俺を見て、お前は笑っているのだろうな……)
誰もいるはずもない青空を見上げる。その遥か向こうに、彼がいる気がした。
そこから、自分を嘲り笑う声が聞こえてきたような気がしたのだ。
この殺し合いの主催者でもある男には、今の自分の姿が滑稽に見えるに違いない。
得意のはずの攻撃魔法は糞の役にも立っておらず、未だこの無力な男は誰一人として救うこともできていない。
この少女だけではない。
ニノやマリアベル、ロザリー……血に染まった彼女たちを、ただ呆然と見ていることしかできないでいた。
それどころか、信じていた男にすらも裏切られる始末。
仲間だと信じていたはずカエルは外道へと墜ち、その凶刃を守るべきものたちに向けて振り下ろした。
自分自身がかつて犯してしまった『友への裏切り』という罪が、そっくりそのままこの身に返ってきたのだ。
これ以上ない喜劇。
自分の業の上で踊る自分は、道化師そのものじゃないか。
548 :
代理:2010/01/09(土) 03:21:57 ID:xBsVicpd
(なんて、情けない……)
もしかしたらこうして死体を埋葬しているのも本当は、少女を弔いたいのではなく自分の惨めさを地中に隠しこんでしまいたいだけなのかもしれない。
また誰も救えなかったという事実から目を背けたいだけなのかもしれない。
そんなことを、不意に思ってしまった。
(俺はもう、挫けそうだよ……)
目の前が霞んで、身体にはもう力は入らない。
死体を埋めることすらも、ままならないでいた。
無理もない。どれだけ頑張っても空回りするばかりで、彼の心労は限界を超えていた。
いつ倒れても、いつ挫けてもおかしくないところまで彼は来ていた。
(それでもまだ……)
それでも彼は踏ん張っていた。頼りない二本の足で、それ以上に頼りない上半身を支えながら。
倒れることなく、狂うことなく、今だ現世で戦っていた。
ニノやマリアベル、ロザリーは生きている。
シュウにサンダウンだっている。
まだ、全ての希望が潰えたわけじゃない。
(まだ、倒れるわけにはいかないんだよな)
力を振り絞って、両手で土を掬い上げる。
限界を迎えたはずの五体は、軋みをあげながらも彼の命令通りにちゃんと動いてくれていた。
ロザリーから貰った言葉がある。
彼女はこんな罪にまみれた男を、仲間だと言ってくれた。
そして、こんな男に道を示してくれた。
彼女たちがまだ戦っているのに、自分がこんなところで挫けるわけにもいかない。
少女の亡骸を冷たい自然の棺桶に眠らせると、ストレイボウは音もなく立ち上がる。
不意に、視界が揺れた。
酔っ払いのように二、三度よろける。
それでも、泣き言を言う両足に鞭打って不自然なほどの大股で歩き出す。
木に寄りかかり蹲ったまま一切動かない少年の元へと。
「そろそろ落ち着いたか? 話を聞きたい」
少年に近づき、できるだけ刺激しないように声をかけた。
少女の死を確認してから、ずっと彼はこうしてジッとしていた。
ただのしかばねのように、話しかけても返事がないため、情報交換すらできない始末。
おかげで、少女の名前すら知らないストレイボウが彼女の死体を埋める羽目になってしまった。
少年がゆっくりと顔を上げる。
木漏れ日を浴びた金髪が輝きながらユラユラと揺れた。
それとは対照的なのは、輝きを失った瞳。
焦点の合わさらない目線は、空虚の海を漂うばかり。
「俺はストレイボウ」
焦りつつも静かに語りかけた。
少年のうつろな目が自分の姿を捉えるのを待つことなく。
しゃがみ込んで、蹲った少年と同じ目線に合わせる。
もし少年が懐に隠し持ったナイフでも振るおうものなら、避ける術などないほどの至近距離。
今声をかけている相手が悪人である可能性は低い。先ほどの彼は、死んだ少女を必死に助けようとしていたのだから。
だが、彼が安全であるという確証だってない。
さっきほどの慟哭も、もしかしたら演技なのかもしれないのだから。
549 :
代理:2010/01/09(土) 03:22:50 ID:xBsVicpd
(この殺し合いを渡り歩くには、ちょっと警戒心が足りないな)
自身の行動をそう評価する。と、共に彼が思い出すのは、数時間前に殺し合いに乗った騎士の事。
シュウの『カエルに気をつけろ』という助言に声を荒げて反論したものの、結局はあの忍者の言う通り。
最終的には疑り深い男が正しく、信じ続けた男が馬鹿を見る羽目となったのだ。
ひたすら後悔し、傷ついた。
そのはずなのに、今彼は目の前の少年を信じようとしている。
「君の名前は?」
「……僕は…………」
ストレイボウの姿を見つけた少年がゆっくりと唇を開く。
獲物を待つ食虫植物のような緩慢な動作。
それでも彼の口から紡がれるだろう言葉を、ストレイボウは待ち続けた。
待つのは慣れている。
オルステッドに殺されてからずっと……あの暗い洞窟の中で立ち尽くしていたのだから。
ストレイボウは待ち続けるつもりだった。
一時間でも、一日でも。
やっとこちらの呼び掛けに答えてくれたのだから。
一週間でも、一ヶ月でも。
体力も精神も、とうに限界を超えている。
一年でも、一世紀でも。
それは、裏切り、裏切られた男に残された最後の意地であった。
『時間だ……』
しかし、現実は冷酷に彼の足掻きを踏み潰す。
少年の声を待っていた魔法使いの鼓膜を震わせたのは、一番聞きたくなかった声。
そして告げられたのは、待っていたはずの少年の名前などではなく……一番聞きたくなかった男たちの名前であった。
◆ ◆ ◆
突然の爆発音に驚いて、久しぶりに顔を上げる。
目に映るのは、一心不乱に穴を埋める男。
魔術師らしき身なりの男が、ついさっき力尽きた少女の死体を埋葬してくれていた。
どうやら今のは、遺体を眠らせるための穴を魔法で開けた音であったらしい。
(あの人…………)
先ほどまで、ジョウイは自分を助けるために重傷を負ったルッカを助けようと奔走していた。
あの魔術師はそのときに必死で手助けをしてくれた人物である。
その時の様子を思い出す限り、彼はあの発明少女のことを知らなかったみたいであった。
つまりあの男は、安全かどうかも分からない人間を助けてくれたのである。
その人の良さにジョウイは幼馴染みの姿を思い出した。
だからだろうか。あの魔術師に話しかけられても、返事をすることができなかった。
言葉を返してしまったら、親友のことを思い出してまた泣き叫んでしまいそうで……。
次々に襲い掛かる喪失という悲劇に、押しつぶされてしまいそうだったから。
(みんな、死んでしまったんだね……)
目を伏せる。そうすれば、全てから逃げてしまえるような気がしたからだ。
あの親切な魔術師からも、巡り合った人々が死んでいった悲しみからも。
どこかで、この殺し合いを主催した魔王の高笑いが聞こえてくるようだった。
自分と出会ってすぐに死んでしまった二人の少女。
この狂宴の中で失った大切な人たち。
ジョウイ・ブライトにとって、出会った人物は駒だった。
全ての人物は、彼がこの殺し合いで自分が優勝するための踏み台でしかない。
弱きものは利用し、強きものは同士討ちさせる。
五十余人ばかり、理想のためならば安い代償、のはず。
550 :
代理:2010/01/09(土) 03:23:33 ID:xBsVicpd
ジョウイ・アトレイドにとって、リオウとナナミは障害であった。
直接は戦う覚悟だってできていた……彼ら二人もまた敵なのだから。
自分の知らないどこかで勝手に死んでくれるならば……それはそれで。
自らが手を下すよりはその方がずっとまし、のはず。
それなのに。
「なんで僕は、こんなに……つらいんだ」
かすれ声で呟きながら、何か求めるように天を仰ぐ。
木々の隙間から見えるのは、誰もいない青空。
夜空に溶けた魔法も、土に眠る炎も、天寿の星も、緑の盾もそこには存在しない。
返事のない天を見上げるのがつらくなって、ジョウイは再び顔を伏せた。
大地と睨めっこをしながら、流した涙の理由を探していた。
ナナミの死体を前にしたとき、彼は確かに怒っていた。
そしてリオウの死を知ったときには、泣き叫んだ。
あの瞬間、彼は理想を忘れていた。
あふれ出した感情の波が、目指していたはずの平和の国を脳の外まで押し流してしまった。
彼は考える。
もしかしたら、理想なんてどうでもよくなってしまっていたのかもしれない、と。
この殺し合いが始まったときから既に、そんな願いなんか捨ててしまったのでは……。
敗れた願いをもう一度追うことよりも、もっと別の望みがあったのではないか?
例えば、リオウとナナミと……。
(ダメだッ!)
グッと強く目をつぶって、思い描いた可能性を必死に否定する。
……そんな勝手は許されない。
この理想のために、どれだけ死んだ? どれだけ騙した? どれほどの人が悲しんだ?
矛盾しているではないか。
かつての戦いでは、何千何万の死を平和のための犠牲として片付けてきた。
名もなき敵兵も、自軍の兵士も、ついてきてくれた家臣たちも。
遺された者たちの悲痛な叫びも。
それらのすべては未来のため。そう納得してきたのだから。
自分だけが絶望し、未来をあきらめる事など許されない。
何を失っても、どんな汚名に塗れようとも、理想のために走り続けないといけないのだ。
(そうだ……)
顔を上げる。
目の前で、あの魔術師が自己紹介をしている。
彼はストレイボウと言う名前らしい。
見ず知らずの人間のために、土塗れになってくれるようなお人よし。
この男もまた、自身の理想のために戦い続けているに違いない。
自らを犠牲にしても、この殺し合いを止めるつもりなのだろう。
でなければ、落ち込んでいる子供とはいえ、安全かどうかも分からない人物にこんなにも不用意には近づかない。
それができるのは、彼が危険を冒してでも誰かを救いたいと心に誓っているからだ。
彼には覚悟がある。ジョウイにはそう見えた。
それに比べて……。
「……僕は…………」
不意にこぼれた声。
誰に聞かせるでもない、ただの弱音。
だけど、ストレイボウにも届いてしまったようだ。
彼はジッと二の句を待ち続けている。
551 :
代理:2010/01/09(土) 03:25:41 ID:xBsVicpd
このまま、この人に全てを吐き出してしまおうか。そんな考えが過る。
争いのない国を造りたいこと。
そのために優勝を狙っていること。
そして、少女を騙した末に見殺しにしてしまったことも。
そのくせ自分は覚悟が揺らいでしまっていることも。
そうしたら正義に燃える魔術師はジョウイをどうするだろうか。
殺し合いはいけないことだ、と説得してくれるのか?
悪は成敗するべし、と殺そうとするかもしれない。
可愛そうだから、と少年を優勝させるために殺し合いに乗ってくれる可能性だってゼロじゃない。
そんな馬鹿な考えが現実逃避であることに気づいて、慌てて脳内から追い払おうとする。
だけど、そうするよりも先に、彼は無理やり現実に引き戻された。
『時間だ……』
魔王オディオの放送。
ジョウイとの対話を試みていたストレイボウが立ち上がり、放送に耳を傾ける。
それを確認した黒き刃の持ち主もまた、声の雨が降り注ぐ晴天を見上げる。
力なく見上げた空。何故だかさっきよりもずっと不愉快に見えた。
(ビクトールさん……やっぱり……)
放送ではリオウとルッカに加え、ビクトールの名前も呼ばれた。
魔王たち二人組に殺されたのだ。
ついさっき親友の死に泣き崩れた少年。その彼に追い討ちをかけるのは、命の恩人である男の死の知らせ。
(そして魔王たちは生き残ったようだ……それ以外にも、まだ危険人物はたくさん残っている……まずいな……)
しかし、今のジョウイにはさっきのような狼狽はない。
あーでもない、こーでもない、と生き抜くためにどうすればいいのかを冷静に試行錯誤していた。
彼にとって、優勝は夢でも目標でもなく、もはや義務だった。
平和のためだと人々を散々悲劇に巻き込んでおいて、気が変わったから別の未来を目指します。
そんな理屈がまかり通るわけがない。
そんな無責任が許されるはずがない。
だから忘れることにした。
三人で描くはずだった幸せな未来を。
一時の迷いであったのだと、記憶の奥底に封じ込めた。
理想を揺るがす迷いとともに。
(……優勝しなくては。僕のために死んでいった人のためにも)
スゥ……と立ち上がった。何かに操られるように。或いは亡霊が如く。
一転してしっかりとした足取りで、ストレイボウに歩み寄る。
背を向けたまま突っ立っている魔術師。ジョウイからでは、その表情を読み取ることはできない。
もしかしたら、知り合いの名前が放送で呼ばれたのかもしれない。
「あの……」
「……急がなくては!」
金髪の少年は、魔術師に接触を試みようとした。
しかし、その呼びかけはストレイボウの叫び声にかき消された。
蒼い長髪をなびかせながら振り返って走り出すが、焦るあまり真後ろにまで接近していたジョウイとぶつかってしまう。
「……え? ……ッ!」
「……ッ! す、すまない!」
尻もちをついた少年を見て、ストレイボウは回りが見えていなかった事をようやく自覚したようだ。
慌てて彼が差し伸べた手に、ジョウイは「大丈夫です」との言葉で答える。
自力で軽々と立ち上がって、ズボンに付いた土を叩き落とそうとした。
が、ルッカの血液で赤く染まってしまっていた事に気づいて、一瞬だけ目を細めると、すぐにストレイボウに向き直った。
552 :
代理:2010/01/09(土) 03:27:03 ID:xBsVicpd
「ストレイボウさん……でしたよね?」
「あぁ、すまなかった」
「いえ。気にしないでください」
さっきまで呼びかけても反応がなかった少年が話しかけてきたことに多少驚きながらも、ストレイボウは改めて謝罪の言葉を述べた。
その誠実さに笑顔で応じる。
いつの間に、こんなに演技が上手くなったのだろう。最終的に自分は、この男の死すらも望んでいるというのに。
リオウと一緒だったころとは随分と変わってしまった。
そんな自分自身が、酷く虚しく感じた。
「僕はジョウイ。ジョウイ・ブライトです」
差し伸べた手をストレイボウが軽く握る。
正義感だと思っていた魔法使いの手は随分と冷たかった。
◆ ◆ ◆
ジョウイと情報交換をしている間も、ストレイボウの鼓動は収まってはくれなかった。
バクバクと自己主張する心臓を「大丈夫だ」となだめ続けていた。
あのシュウが死んだ。
この殺し合いを生き残るための技術ならば、誰よりも優れているはずの男が。
サンダウンが死んだ。
そのシュウさえも白旗を揚げるほどの腕を持つ最高のガンマンが。
それほどの強者である男たちが二人とも殺されたのである。
彼らと行動を共にしているはずの少女たちのことが心配で、気が気じゃなかった。
本当ならば、この少年を無視してでも彼女たちの元へ駆けつけたかった。
だが、少女たちを保護しようにも、その居場所すらわからない。
ストレイボウがニノたちと分かれてから、もう既に数時間が経過していた。
積極的に仲間集めに動いていた一団が、会場の隅に位置する城にあのまま引きこもり続けているはずもない。
気が動転するあまり、勢いのままに当てもなく走り出そうとしてはみた。だが、スタート直後に少年を転倒させてしまうという有様だ。
相変わらず空回り続けている自分自身に呆れ返るが、そのおかげで冷静さをとりもどすことはできた。
(大丈夫。彼女たちを信じよう)
大量の唾を嚥下する。
心配そうにこちらを覗き込んでいるジョウイに、ぎこちない笑みを返すことが彼にできる精一杯であった。
落ち着いて考えてみれば、少女たちの名前は放送で呼ばれなかった。ということは、おそらくは命だけは助かっているということなのだろう。
……放送の時点では、の話ではあるが。
もしかしたら、放送直後に殺されたのかもしれない。
それとも、殺されていないだけでどこかに監禁されているのかもしれない。
ストレイボウはできる事なら彼女たちの無事を一刻も早く確認したかった。
しかし、ここまでずっと自分が空回りしてきていることは、ストレイボウも自覚していた。
『急がば回れ』の言葉を、熱暴走寸前の頭に刻み込む。
今は無闇に南下して入れ違いになるよりも、ジョウイから情報を得ることが先決だ。
その判断は正解だったかどうかは、今の彼には分からない。
だが、有益な情報を入手できた事は確かであった。
金髪の少年が言うには、この殺し合いに対抗する意志を持った参加者たちが次の放送までに北の座礁船に集うらしい。
今から向かえば、集合時間には間に合う。
少女たちもそこに向かっている可能性だって……僅かながら。
さらに、重要な事がジョウイの口から告げられた。
先ほどストレイボウが救えなかった少女……ルッカを殺したのは、皮肉にもストレイボウが追いかけていたカエルであった。
どうやら、あの異形の騎士も北に向かっているようであった。
553 :
代理:
ここから先は新スレに投下します