THE IDOLM@STER アイドルマスター part3
人の惚気話ほどつまらないものはない、とはよく言われるもので。
「それでね。ミキが抱きつくと、千早さん顔真っ赤にして。だからカッワイーって言ったらね」
おまけにそれが好きな、というか気になる人間からの話だったらなおのこと。
キーボードを叩く指が僅かに強くなっていくのを、冬月律自身も気づいてないようだった。
「それでそれでー」
うるさいっ!
面と向かってそう言えたらなんと楽なことか。
コロコロと楽しそうに表情を変える星井美希に律はそっぽを向くことしか出来ない。
この意気地なしめっ。
そっぽを向いた先、窓に映る自分の顔はお世辞にも良いものじゃなかった。
恋には何種類もある、ということを冬月青年は理解してるつもりだった。
それこそ音無小鳥嬢が趣味の一環として楽しんでいるアレやソレも、性倒錯とは古来より人間、特に日本人は寛容に接してきたわけで云々。とまあ何とも面倒くさいプロセスを踏んで解釈してるつもりだった。だったとも。
だけども割り切れないのが人の情。
実際に星井美希が如月千早にひっきりなしに絡んでいるのを見ていると、思春期特有の感情と思考のせめぎあいがあるわけで。
なにより不幸なのはこの青年にそういった経験が無いに等しい点。
自身もアイドルとして活動していること、流行りの眼鏡なんちゃらであることを一切合財有効活用してこなかったツケを今ここで払わされているのだ。のだ。のだ。
と、これまた何とも面倒くさいプロセスを経て律はそう結論づける。
一切の矛盾点など無いかのように、証明を終えた数学者然としている彼に奄美ハルは頭を抱えた。
相談があると、普段は鉄仮面とも言うべき仏頂面を僅かに曇らせる律を見てついに俺が頼られる時代。
ハル君は頼れる子! なんて息巻いたのも一時間前。というか一時間も経ってたんだと、ハルはあらためて肩を落とした。
要は一方通行な三角関係なんですね、とまとめると律はどこか不服そうながらも頷く。
そんな中学生じゃあるまいし。言いかける口をつぐみ、その三角形を思い浮かべる。
なによりハルにも無関係な三角形ではないのだ。だからこそ律も相談してきた。
りっくんはミキミキが好き。ミキミキはちーちゃんが好き。あとハルクンもちーちゃんが好き。
歪な四角形の終点は一体どこなのだろう。
沈黙の時間が続くかと思われたが、社長室から顔を出した高木順子女史に促がされて男二人の相談会はお開きとなった。
時計は十時を回ろうとしていた。