THE IDOLM@STER アイドルマスター part3
夏らしい暑さも少し影を潜めた穏やかな午後。営業帰りのプロデューサーは、
小鳥が差し入れた麦茶で体を潤しクールダウンを済ますと、
目の前に仏頂面で立っている響に、普段あまり作らないかしこまった顔で
「はい。じゃ、座って」と、自分も腰掛ける事務所の接客用ソファに座るよう促した。
響は不満そうな顔のまま、特に返事をするでもなく、プロデューサーの隣にどすんと、
女の子(しかもアイドル)にしては多少乱暴な所作で腰を下ろした。
「……(隣かよ)」プロデューサーは内心呟いた。
これから説教をする相手が隣に位置しているのは少し“やりづらい”。
さらに、相手は国民的アイドルである美少女。
横を見ると、健康的な色気を醸し出している細いうなじと、尺に合わない豊な胸部にどぎまぎしてしまう。
情けないが、これが男だよなと、プロデューサーは目を閉じうんうんと一人唸った。
かといってわざわざ正面に座るように今から言うのも締まらないなと思ったプロデューサーは、
しかめっつらの担当アイドルに向かって「さて、響――」と外見では変わらぬ堅苦しさをまとった表情で話し始める。
「明るく元気なのは、響の長所。だけどな最近――うぬぉッ!?」
「? どうしたんだ? プロデューサー?」
取り乱すプロデューサーにあっけらかんと言い放つ響は、シャツの胸元に人差し指をかけて引っ張り、
そこから、片手に持ったうちわを扇ぎ『中』へと風を送っていた。
「……(み、見えてる、見えてれぅよ響ぃ)!!」
て、見てちゃまずいだろと我に返り、妙な汗をたらしながら機械的な動作で視線を外し、
プロデューサーは響の無防備過ぎる仕草を注意した。
「自分、暑いの苦手なんだよー」
でへへと、悪戯のばれた子供のように笑う響。そのヒマワリのような笑顔の前では、
暑いの苦手なら隣に座るなよなんて、照れ隠しでも言えはしないだろうと、プロデューサーの頬は不意に緩む。
しかし、彼女と自分の未来のため、今日はあえて厳しい態度を見せると決めた。
「う、ウホン! いいか響、そういう所なんだよ。それは響の魅力でもあるし、全部を変えろとは言わない。
けど、もう少しトップアイドルとしての自覚、落ち着きが欲しいんだ。
脱走したペット探しでスケジュールに穴を開けるなんて、あっちゃならないんだ。
もうちらほらと噂になってるの、響も知ってるだろ?
『人気アイドルとそのプロデューサー、獲物を求めて夜の街を徘徊!?』てな記事が、いつ踊っても不思議じゃない。
それくらい、響は注目されてるんだ」
「う……でも、今日だってちゃんと時間には間に合ったんだし……」
「今日大丈夫だからといって、次も大丈夫だという保証は無いだろ?
いいか、響、俺はそんなに難しい事は言ってないぞ。あれを見ろ!」