THE IDOLM@STER アイドルマスター part3

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6あなたと、ずっと、一緒に(1/6)@雨晴P
少し寒いな、なんて思いながら息を吐いた。吐いた息は白くて、目の前が少しだけ霧がかる。
渡されたアルミ缶、温かいミルクティ。最初は熱いくらいだったけれど、もう私を温めてくれている。
ペコ、と軽い音。きっと無意識。手に力が入っていた。振り返って、見上げる。
数字。見慣れた数列。小さな事務所。私を育ててくれた場所。
もっと、もっと出来る。もっと頑張れる。もっとやれる。もっと居れる。もっと話せる。もっと歌える。もっと、もっと、もっと。
でもそれは全部私の我がままで、きっと規則は変えられなくて、きっとあの人も望まなくて。
だから私は背を向けて、温かかったミルクティも少しずつ冷めてきていて、でも私の体は温かくて。
だから私は、駅を目指した。

滑り込んできた電車は、乗り慣れた銀色。赤のライン。乗り込んで、空いていた席へと腰掛ける。
いつも繰り返してきたルーチンが、なんだかとても貴重なものだと感じる。思わず外の景色を眺めた。
奇麗な夕焼けが眩しくて、それでも目は逸らさない。刻みつけようと思った。
電車が鉄橋に差し掛かって、少しだけ川の水面が見て取れた。きらきら夕日に輝いて、けれどそれも、夜になれば無くしてしまう。
きっと、こんなにきらきら輝いている毎日も、夜が来れば終わってしまう。
そんな夜が、来なければ良いのに。

聞き慣れた駅名を告げたアナウンスに立ち上がり、改札は定期券。あと何回使うんだろう。
駅前の風景は今も昔も変わらないのに、なのにどうして、こんなにも違うんだろう。
家までの距離はそんなに無くて、けれど陽が沈むのはもっと早い。夜が怖くて、走り出した。逃げたかったのは、何からだろう。




「雪歩君のお別れコンサートの計画書、読んだよ」
タイムカードを切ってすぐ、高木社長に呼び止められた。
彼の表情は何となく複雑そうで、何か問題があったのだろうかと考える。特に思い当たる節は無い。
「あの、何か問題がありましたか?」
「いや、問題無い。それよりも」
彼が目を伏せる。何か言い辛そうにする仕草に、見当が付いた。
「1年のタイムリミットを設けた私が言うのも可笑しな話だが、雪歩君からこの仕事を奪って良いのだろうかと、そう思えてならない」
君ならわかるだろう、と同意を求められる。
「1年前のあの子は、もっと小心者だった筈だ。この1年、彼女の成長を支えたのは確実にこの仕事と君の力だろう」
「恐縮です」
「そんな子から仕事と君を奪ってしまうのが心苦しくてな、すまない」
言い訳がましいな、と言う彼の自嘲染みた笑みを見ながら、雪歩との1年間を思い返す。
思い返して、ひとつの結論に至った。
「大丈夫ですよ」
あの子は大丈夫だ。
「あの子は、確かに変わることが出来たのですから」