THE IDOLM@STER アイドルマスター part3
「でね、カメラさんが『そんなわけないやーん』って言って、みんな大爆笑。ヒドイって思わない?」
今日の晩御飯はカレーライスだった。お父さんが早く帰ってくるというので私も手伝って、食卓
でそれを聞いたお父さんは自分のお皿に私が作ったサラダを山ほど入れてくれた。
「ええ?お母さんまで?私そんなにおかしい?ホントに?」
今は収録中にあったハプニングの話をしてた。お母さんはテーブルとキッチンをいったりきたり
しながらうまいタイミングで相槌を入れてくれ、お父さんはビールを飲みながら楽しそうに私の
話を聞いてくれてる。
「ありがとー、やっぱお父さんならわかってくれるよね!」
まあ、もとはといえば私のドジが始まりの笑い話だったんだけど、いつものようにお母さんが
からかって、お父さんは私の味方してくれて。
お父さんもお母さんもいきなりアイドルなんか目指す私を応援してくれて、多分いろいろ言いたい
こともあるんだろうけど顔には出さないで、ニコニコと私を見守ってくれてる。私はそんな二人が
大好きで、二人の後押しで夢への道を一生懸命進んでいる。
けど。でも。だけれど。
お父さん、ごめんね。
私はこんな家族の団欒のさなかに、他の男の人のこと考えてるんだよ。
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「ふぅ」
食事が終わって、洗い物を手伝って、お風呂のあと部屋に戻った。髪は乾かしたけど、ドライヤーの
熱で汗が止まらない。
ドアに鍵をかけて、部屋を暗くして、ベッドに腰掛けた。クーラーはもう止めていたけど、暗闇が
私の身体を冷やしてくれているみたい。やがて汗も引いてゆき、私はベッドの上で壁に背中を持たせ
かけた。
「……プロデューサーさん」
今日の、休憩中のこと。プロデューサーさんが、私の胸を触った。
もちろんわざとじゃない。例によって転びかけた私を支えてくれた時、偶然手のひらが胸のところに
あっただけ。勢いのついていた私を止めるにはその腕に力を入れなくちゃならなかっただけ。
『うひゃあっ!?』
『おわ?ご、ごめん春香っ』
『いっ、いえ私こそっ』
かなんか言ってお互いテレ笑いでお仕事に戻ったけど、もうそのとき私の心臓は破裂しそうだった。
「プロデューサーさん」
ずずず、ぱたん。壁からずり落ちながら、横になった。
「プロデューサー……、さん」
プロデューサーさんは、私のことをどう思ってるんだろう。ベッドに倒れた姿勢のまま考える。
765プロに来る前は、よその番組制作会社のプロデューサーさんだった、って聞いてる。初めは
番組を作る仕事、いくつかの番組でアイドル歌手の企画ユニットをプロデュースする機会があって、
そのお仕事にすっかり心を奪われて会社辞めて。フリーになってもしばらくはこれといった実績なくて、
ある日高木社長に出会って。
私のプロフィール見て、この子だって思って。そう、聞いてる。
聞いてる、けど。
「私……ちゃんとできてるのかなあ」
ベッドに横倒しになったまま、ひざを折って体を丸めた。両腕を足の間に挟んで、まるで赤ちゃん
みたいに小さくなって。
前の会社でプロデューサーさんが手がけた芸能ユニットは3つ。番組の企画だからどれも短期間の
活動だったけど、ちゃんと成果を残している。3つとも全部のCDがTOP10入りして、3つとも紅白出て、
3つともドームで解散コンサートやって。ソロの歌手に転身した人が三人、女優さんが一人、バラエティ
タレントさんが二人。最初のユニットは私も中学生の頃、大ファンだった。
この間の歌番組で、その一人と会った。ソロになってからもずっとトップアーティストの地位にいる人
で、それでいて人当たりがいい先輩で、収録の合間に新人の私にも気さくに話しかけてくれて。そこに
プロデューサーさんが来て、彼女の表情が変わった。
他愛のない世間話だけで終わったけど、彼女がプロデューサーさんの瞳を見つめる熱は横にいる
私にさえ伝わってきて、カンタンにこの人がプロデューサーさんのこと好きなんだってわかった。