THE IDOLM@STER アイドルマスター part3

このエントリーをはてなブックマークに追加
377留守電(1/3) ◆KSbwPZKdBcln
 携帯を開いて、もう目をつぶっても出来る操作。短縮→001→CALL。すこしの時間のあと、
呼び出しメロディが聞こえる。
 あ、夢子ちゃん、新曲に変えたんだ。僕はそこから、ゆっくり秒数を数え始めた。1、2、3……。

 今は、もう彼女とはいい関係を保っている。ときどき二人でごはん食べたり、この間は映画を
見に行った。なんていうのかな、うん、そう、『親友』、って言ってもいいと思う。そのくらいの仲良しだ。
 先週だって一緒だった収録の時、いろいろアドバイスを貰った。バラエティのトーク番組だった
んだけど、僕の話題のキッカケを読み違えて焦ってたら、すぐ後ろに座っていた夢子ちゃんが
割り込んできてうまく流れを作ってくれた。別にあんたのためじゃない、とかおどけ役までして
くれて収録も盛り上がったし、いつも感謝してる。

 そういえばそれ以来かな?最近二人のスケジュールが忙しくて、直接会えてない。ここにきて
遅い収録もあったりして電話も、通話と言うより留守電のかけ合いみたいになっちゃってる。
 ……14、15、ぷつっ。うん?どっちだろ、ギリギリで電話に出たのかな?

「あ――」
『おはようございます、桜井夢子ですっ!ごめんなさい、今ちょっと電話に出られません』
「――っと」
『ご用件のある方は伝言を……』

 うん、ちょうどこんな感じ。マイクに入らないように小さくため息をついて、僕は話し始めた。

「……あ、夢子ちゃん、涼です。こんな時間にごめんね、大した用事じゃなかったんだけど……」

****

 直接会話するのも緊張するけれど、留守電はもっと苦手。人間関係のお作法に厳しい夢子ちゃん
は僕の言葉や振る舞いによく助言をくれるんだけど、録音されて言ってみれば証拠の残ってる
留守番電話は彼女に言わせればツッコミどころの塊みたいなのだそうだ。一言目で自分が誰か
名乗ってくれないと対処に困る、質問は1つに限定、入り組んだ用件の時はそこで話さないで
メールか直接話す、他の女の子の話をしない、録音時間が終わってまで話し続けない、締めの
挨拶も……そう、おとといだったかな。その前の晩に留守電残して、翌朝学校の校門の直前で
電話を貰った。

『あんたねえ』
「あ、おはよう夢子ちゃん」

 人にはいろいろ言うくせに、夢子ちゃんは僕にかける電話では名乗ったことがない。

「伝言聞いてくれたんだ?」
『もっと早く電話よこしなさいよ、まったく。寝ちゃったじゃない』
「え?あ、ごめん」

 校門前の電柱の影で10分くらい話をした。おかげで遅刻しかけたけど。そこでの最後の話題が、
その締めのことだった。