THE IDOLM@STER アイドルマスター part3

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285勇気 1/4

 ギラギラと照りつける太陽。空には大きな入道雲。まさしく夏の空だ。そんな夏の空の下、川沿いの土手で
PVの撮影を終えた真と俺は、目と鼻の先を流れる川へ立ち寄った。市街地から少し離れた場所にあるこの川に
は、石の転がる川原がある。
「プロデューサーっ」
 両手でメガホンを作りながら、真が俺を呼んだ。真の立っているすぐ側には、石が小さな山を作っていた。
近寄って見てみると、集められた石はそのほとんどが──全てと言ってもいい──平たいものだった。
「水切りか」
「ええ、プロデューサーもやりませんか?」
 今日の撮影は上手くいった。その結果が、真の笑顔を一層爽やかなものにさせていた。
「よし、いいだろう。となると、もうちょっと石を集めないとな」
 遠めに見える鉄橋の上を、電車が猛スピードでかけていく。きっと、快速か特急か何かだろう。あの電車の
乗客にとっては、この川は通り道の景色に過ぎないだろう。川原で石を拾っている俺達のことなんて、目にも
止められないだろうし、止まらない。俺達にだって、もう走り去った電車に乗っていた乗客のことなんて、知
りようが無い。
「ん、だいぶ集まったな。そいじゃ、そろそろやるか」
 シャツの袖をまくって、右肩をぐるぐると回す。俺の頭一つ分低い所で、真も同じことをやっていた。水面
に水鳥はいない。対岸にも人はいない。それどころか、岸にいるのは俺と真だけだ。
「こういうのも、随分久しぶりだ。子供の時以来かもな」
「ボクも同じです。石の転がってる川原なんて、ウチの近所にはありませんし」
「都内に流れてる川の土手沿いも護岸されてて、石なんて転がってないもんな」
 集まった平たい石に手を伸ばし、小山の中腹にあったものを一枚拾う。
「ボク、先にやりますね」
 うずうずした様子で、掌で石を転がしながら、真が川岸に立った。短い後ろ髪が、吹いてきた風になびく。
「ていっ!」
 サイドスローで、真が石を投げた。水面に向かって石は飛んでいき……跳ねることなくボチャンと川に沈ん
でいった。飛沫の跳ねた後に、小さな波紋が幾つか、空しく広がる。
「あ、あれ……?」
「蛙の飛び込みだな」
 真は、納得がいかないといった様子で何度か首を傾げていたが、
「次はプロデューサーの番ですよ」
 と言って、俺を手招きした。
「いつ以来だろうな、こんなことをするなんて……」
 体を低く屈め、余計な力を抜いて、水平に近い角度で、指のスナップを効かせながら、石を投げた。パチン
と弾ける音と共に、俺の投げた石は水面を跳ねていく。石の作った波紋は、できあがった側から川の流れに飲
み込まれていった。
「おおっ、プロデューサー、上手ですね……!」
 石の行く末を見守っていた真が、感嘆の声を挙げた。
「体はまだやり方を覚えてるってことだな」
「ボクも昔はもっと遠くまで飛ばせたんだけどなぁ……」
「力んでたんじゃないか? もう少しリラックスしてやってみろよ」
「うーん、そうかもしれません」
 俺の投げた石が作った波紋も消え、静かな流れを取り戻した川の前に、真が立つ。何度か深呼吸してから、
ゆっくりと体を折り曲げ、肘を引いて、
「それっ!」
 放たれた石は一投目よりもずっと鋭角に飛んで行った。ぱしんぱしんと水面を叩きながら、不揃いの波紋を
生み出していく。石をリリースした瞬間からじっと水面を見つめていた真は、遠くまで飛んで行った石の最後
の波紋が消えた瞬間、ガッツポーズを作った。石は、俺の投げた時よりも遠くへ飛んでいた。
「やるじゃないか」
 白い歯を見せて笑う真の姿が、競争心に火をつけた。