THE IDOLM@STER アイドルマスター part3
月が綺麗な夏の夜だった。
「……とうとう、ですか」
ぽつり、と。何の脈絡もなく、助手席に座る四条貴音がそう漏らした。
午後九時の車の中――貴音と共に、事務所へと戻っているときのことだった。
貴音は今日、ある巨大オーディションに合格し――Sランクに昇格した。言わずもがな、
芸能界の頂点に立ったわけだ。
だから俺は、彼女の“とうとう”という言葉は、ようやくSランクになれた感慨深さから
出たのだと思った。
「……あなた様。少し、よろしいでしょうか?」
貴音が俺を向いて話しかけてきた。
「なんだ?」
「少し、寄っていただきたい場所があります」
俺は横目で貴音の顔を見た。
その綺麗な瞳は、なんだかいつも以上に透き通っていた。
彼女が指定した先は、小高い丘だった。
ビルの群れから少し離れた位置にあるそこは、地面に草が生い茂り、周囲を木々が囲っ
ていた。
駐車場もない場所なので、適当に車を止めて貴音と一緒に歩く。
「……へぇ。こんなとこ、あったんだな」
「はい。以前、オーディション会場から帰るときに見つけました」
貴音は俺より三歩先をゆっくりと歩く。
丘を登り、一番上にたどり着いた。
視界が開け、夜空が俺たちを包み込む。
「うわ……すごいな」
純粋に、そう思った。
今にも降ってきそうな星空――なんて陳腐な比喩しか浮かんでこない。360度のどこを
見ても、視界を輝きが埋め尽くしている。
白、赤、青の光たち。それは、何色もの絵の具を使って埋め尽くされたカンバスのようだ。
美しい風景を見せてくれたお礼を言おうと思って、俺は貴音の方を向いて、
「貴音、都会にこんなところがあったんだな――、」
続きが言えなくなった。