THE IDOLM@STER アイドルマスター part3

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274月ノ歌 (1/3)
 月が綺麗な夏の夜だった。

「……とうとう、ですか」
 ぽつり、と。何の脈絡もなく、助手席に座る四条貴音がそう漏らした。
 午後九時の車の中――貴音と共に、事務所へと戻っているときのことだった。
 貴音は今日、ある巨大オーディションに合格し――Sランクに昇格した。言わずもがな、
芸能界の頂点に立ったわけだ。
 だから俺は、彼女の“とうとう”という言葉は、ようやくSランクになれた感慨深さから
出たのだと思った。
「……あなた様。少し、よろしいでしょうか?」
 貴音が俺を向いて話しかけてきた。
「なんだ?」
「少し、寄っていただきたい場所があります」
 俺は横目で貴音の顔を見た。
 その綺麗な瞳は、なんだかいつも以上に透き通っていた。

 彼女が指定した先は、小高い丘だった。
 ビルの群れから少し離れた位置にあるそこは、地面に草が生い茂り、周囲を木々が囲っ
ていた。
 駐車場もない場所なので、適当に車を止めて貴音と一緒に歩く。
「……へぇ。こんなとこ、あったんだな」
「はい。以前、オーディション会場から帰るときに見つけました」
 貴音は俺より三歩先をゆっくりと歩く。
 丘を登り、一番上にたどり着いた。
 視界が開け、夜空が俺たちを包み込む。
「うわ……すごいな」
 純粋に、そう思った。
 今にも降ってきそうな星空――なんて陳腐な比喩しか浮かんでこない。360度のどこを
見ても、視界を輝きが埋め尽くしている。
 白、赤、青の光たち。それは、何色もの絵の具を使って埋め尽くされたカンバスのようだ。
 美しい風景を見せてくれたお礼を言おうと思って、俺は貴音の方を向いて、
「貴音、都会にこんなところがあったんだな――、」
 続きが言えなくなった。