THE IDOLM@STER アイドルマスター part3

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貴音の休日(fly "with" me to the moon)

 四条貴音が、彼のプロデュースで再デビューしてから、早くも二ヶ月近くが経った。
もともと961プロ在籍時、すでにトップランカーだっただけあって、人気の伸びも順調だ。
ファンにしてみれば、若干のブランクなど、問題ではないのだろう。もちろん、人気の復調と
ともに、仕事の依頼も数多く寄せられるようになっていた。
 だが、プロデューサーは、貴音が961プロにいた時のように、無理に仕事を詰め込むという
スケジュールだけは絶対に避けていた。なるべく週一日は休日を設けるようにし、仕事も多くて
日に二つ。明らかにオーバーワークだった彼女の体調復帰も兼ねて、しばらくはゆったりさせて
あげたい、と思っているのだろう。
 ある日の夕方、帰り支度をしたままの貴音は、デスクワーク中の彼のところへやってきた。
「プロデューサー殿、少しお話が」
「ん?なんだ?」彼は書類の束から顔を上げた。
「明日は私の休日……プロデューサー殿も確か、お休みと伺いましたが、どう過ごされる
おつもりなのか、お聞かせ願えますか」
「えーと、明日の予定、ってこと?そうだなあ、家でゴロゴロしたり、その辺に買い物に
行ったり、かなあ」彼は自分で言ってから、しまらない返事だと思ったらしく、頭を
がりがりとかいた。
 貴音は、自分の胸に左手を添えると、
「もし差し支えなければ、少々お時間をいただけないでしょうか」と顔を近づけて言った。
 彼は「ああ、なんか買い物につきあってくれ、ってことか。オッケーオッケー、おやすい
ごようだ」とすぐさま答えた。
「あ、ありがとうございます!」貴音の声が、心なしかうわずった。
「で、どこへ行きたいんだ?」
 貴音は、持っていた雑誌を開き、彼に見せた。映画紹介の欄に載っているのは、お忍びで
街へ出たプリンセスと新聞記者の恋愛物で、モノクロの古い名画だ。
「あらすじを読んで、ぜひ観たいと思っていたのです」
「え、これ?相当昔の映画だから、映画館だとめったにかからないよ。……うーん、やっぱり、
どこでもやってないなあ」彼はそばにあったタウン情報誌をぱらぱらとめくって答えた。
「そうなのですか……」貴音は見るからにがっかりした。
「でも、DVDならうちにあるから、よかったら見る?」
「え、プロデューサー殿の部屋でですか?」
「あ、いや、そりゃちょっとまずいか……」彼は不用意な発言に、しまった、という顔をした。
「いえ、そうではなく、映画館には、その……」貴音は顔を赤らめた。
「ああ、わかった、わかった。ポップコーンは買っておくから大丈夫」
「お、恐れ入ります」考えを見透かされて、貴音は小さくかしこまった。
「よかったら、お昼もウチでラーメンを作ってあげるよ」
「ら、らーめんを、ですか」