THE IDOLM@STER アイドルマスター part3
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アイドルデビューを果たして数ヶ月。三浦あずさが、よく道に迷うというのは、彼女と
親しい者のみならず、一緒に仕事をしたことのある業界の人間なら、誰でも知っている。
だが、彼女の所属する事務所の人間しか知らないこともある。
「あずささん、こっちです」彼女の担当プロデューサーが声をかけると、あずさは迷わず、
どんな場所からでも最短距離で彼のところへたどり着く。フロアが違っていても、部屋を
ひとつ隔てている場合でも、彼の声が聞こえている限り、その効力は変わらない。実に
不思議な現象だ。彼はある日、事務所でミーティングをしている時、そのわけを訊いてみた。
あずさは人さし指を口にあて、少し頭をかしげて考えてから話し始めた。
「あのう、病院の床って、青とか、赤とか、黄色とか、白とか、そういう色の線が
引いていたりしますよね」
「は?え、ええ、大きな病院だと、行き先を間違わないように、病棟ごとにラインで
色分けとかしてますね」彼はあずさがいきなり何の話を始めたのかと、首をひねった。
「プロデューサーさんの声を聞くと、その病院の色の線みたいなものが、ぱっと見えるような
気がするんです」
「線が?」
「はい、それをたどっていくと、プロデューサーさんのいる場所に着けちゃうんです。
不思議ですよねえ」
「うーん、なんかよくわからないんですけど、迷路の正解が床に書かれてるみたいな
感じでしょうか」
「はい、そうですね、そういう感じです」あずさはぱちんと小さく手を打った。「あ、あと、
迷わないように、って小石を道に落としていくお話がありますよね。お菓子の家が出てくる
お話。あんな感じの時もあります。…あれ、小石じゃなく、毛糸の玉を持って迷路に入って
行くんでしたっけ?」説明しているうちに、あずさは知っている話がごちゃまぜになって
しまったらしい。彼は助け船を出した。
「糸玉を持っていくのは、確か怪物退治のために迷宮に入るとかいう話じゃありませんか?」
「あ、なるほど、それだったのかも…。それじゃあ、きっとプロデューサーさんは、
迷路の出口で、そのはじっこを持っていて、私が迷いそうになると、引っぱってくれて
いるのかも知れないですね」
その話をなんとはなしに聞いていた事務所の人間たちは、『それは飼い主が犬の引き綱を
握っているのと一緒だ』と、いっせいに心の中で思った。ひどい例えだが、確かに見た目は
それに近いかも知れない。「あずささん」「はあい」とたとたとた。「あずささん、こっちです」
「はい、プロデューサーさん」とたとたとた。