だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ3

このエントリーをはてなブックマークに追加
1創る名無しに見る名無し
・これまでのガンダムシリーズの二次創作でも、
 オリジナルのガンダムを創っても、ガンダムなら何でもござれ
・短編、長編、絵、あなたの投下をお持ちしてます
・こんな設定考えたんだけどどうよ?って声をかけると
 多分誰かが反応します。あとはその設定でかいて投下するだけ!

携帯からのうpはこちら
ttp://imepita.jp/pc/
PCからのうpはこちらで
ttp://www6.uploader.jp/home/sousaku/

前スレ
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ2」
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1236428995/

これまでの投下作品まとめはこちら
ttp://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/119.html
2創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 22:09:44 ID:eacygrYn
一年戦争の話書こうと思ったが、これうろ覚えじゃまず書けないな
詳しい設定見ながらじゃないと無理だから諦めた
あの戦艦の主砲の口径は何mmだっけとか、絶対とっさに出てこない

ということで、金貯めて設定集探して買うことにする
購入したら、いつかまたこのスレに来るぜ
3創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 22:32:53 ID:hFuzoh2/
待ってる

一年戦争真っ最中を含めて前後数年はサイドストーリーだらけだから
自然と設定も固まってしまうのはしょうがない
矛盾した事とか書けないからなあ…
肝心の本編とサイドストーリーが設定破綻してるとかは置いといて
4 ◆30AKLWBIYY :2009/06/19(金) 23:24:03 ID:8ymxh4Rw
ついに3スレ目か…>>1乙 賑わってるようでなぜか嬉しい

とりあえず生存報告をば。現在長編に初挑戦中です。
プロローグと第一話は書きあげたので、来週にでも順次投下していきたいと思っております
5 ◆30AKLWBIYY :2009/06/19(金) 23:28:46 ID:8ymxh4Rw
>>2
あるあるwww
分からんところはぼかして書くorこのスレで聞くのも一つの手だと思うぜ
だからとりあえず書いt(ry
ttp://www.medianetjapan.com/town/internet_computer/derfuhrer/Kyouyou/Kyouyou_indx.htm
ttp://www.gundam-nyumon.com/index.html
ttp://siegzeon.client.jp/
ttp://members.jcom.home.ne.jp/zakupage/nenpyo/index.html
この辺は書いてるときによくお世話になるサイト
参考になるか分からないけど、良かったらドゾー
6創る名無しに見る名無し:2009/06/22(月) 20:59:49 ID:NzLBHOQ2
10レスまで伸ばした方が良いのかな
7創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 18:35:00 ID:ldNwtDwN
保守代わりにネタ振り
好きなガンダム作品を挙げてくれ
アニメ本編は勿論、外伝でも漫画でも小説でもゲームでも良いから
8創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 20:19:15 ID:0a9x+qDP
・ガンダム外伝 THE BLUEDESTINY
ガンダムで二次創作をやろう…もといやれると思ったきっかけのゲーム
あまりにも好きすぎて夢の中までイフリート改の機動を追うくらいはまった
寝ても醒めてもやっていたせいか、親指を疲労骨折したのは今では良い思い出

いつかここでも書いたヤツ投下したいな
9創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 20:44:07 ID:ldNwtDwN
ブルーディスティニーか…セガサターン持ってないんだよなー
小説版と漫画版はどうなん?
10創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 20:50:23 ID:0a9x+qDP
>>9
レスついてた。サンクス
小説版もマンガ版も出来いいと思うよ
少なくとも自分はどちらも好き
マンガ版のストーリーは第二部までなんだけど、尻切れな感じはないし
あれだ、評価が高くてこっちが原作とまで言われた種死のマンガ版描いてた高山瑞穂の作
興味がひかれるようならぜひにと言いたい
11創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 20:50:55 ID:HFULnNJT
>>9
どっちもゲームのストーリーに沿ってるが、若干内容が違う
小説版は最終決戦までやるが、漫画版は1号機が壊れた所で終了
Gジェネとかを見るに、小説版のが公式扱いなんかね?
12創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 20:57:17 ID:J3wWZjwp
公式か非公式かってのはたいした問題じゃないな
ようは面白いかそうでないか
俺は面白かった
13創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 21:09:15 ID:ldNwtDwN
>>10
そうなのか、漫画版だけでも探してみようかな…。

>>11
ちょっとwikiみたところ小説版はAランクのエンディングで
話が作ってあるらしいから、そうなのかもね。
でも無口設定はゲームの由来らしい。
14創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 11:29:02 ID:WGPnyWy9
1シーンぐらいなら書いてみたいな
でもガンダムにそんなに詳しくないからなぁ…
15創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 14:37:32 ID:wtiFmYtJ
ブルーディスティニー懐かしいな
全3部作で、データ引き継いでオールSランク取ると
ED内容がリ・ガズィに乗ってアクシズ落としを止めるやつに変化するんだよな

オマケにあったシミュレーターでのアムロ搭乗ガンダムとの対戦が、EXAM発動したブルーや
ラスボスのニムバスの3倍くらい強くて鼻水出たのもいい思い出
16創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 16:11:38 ID:AT7Z5K5e
ブルーはSまではなくてAまでだよぅ
あとリ・ガズィじゃなくてジェガンね。設定でもロンド・ベルにはリ・ガズィはアムロ機(その後ケーラ機)の一機しか配備されてないし
シュミレーターのガンダムにはてこずったよ
でも撃破時のメッセージも全部出したのよー
それだけは誇ってもいいはず(自画自賛)
17創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 01:22:57 ID:8ohTYAVP
久しぶりにきたらパート3かよ、すげーな
18創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 02:04:26 ID:tPufTu3T
Gガンなら、あんまり深く考えなくても勢いだけで二次創作書けそうな気がしないでもない

19創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 02:49:13 ID:gLKo0B9c
>>18
Gガンらしさを出そうとすると逆に面倒だよ
深く考えないで出来た勢いだけでは原作っぽくならないし

逆に宇宙世紀モノのが資料が多い分楽だろう
20創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 03:08:59 ID:N83kelcr
Gガン+北斗の拳的な世界観の
世紀末武闘伝ガンダムホクトみたいなのがあってもいい
もうSD向けの世界かもしれんがw
21創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 13:56:41 ID:Ot4VVdLH
モビルファイターがヒャッハー言いながら町を襲撃とか世紀末すぎるw

Gは元からいろんな意味でSDチックじゃね?
22創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 15:05:08 ID:jPeYywMo
どっちかというとXの序盤じゃね?
モビルスーツがひゃっはーいいながら街を襲うのって
23創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 17:47:55 ID:hfZ3o+5y
ユウが主役ならここで長編書いてるのがいるな
24創る名無しに見る名無し:2009/06/30(火) 12:45:01 ID:YoSD0tuw
流れをぶった切って、大昔に書いた「デス種、幻の51話」を曝す。
これは、当時の俺が本当に見たかった、俺の妄想最終話なんだ…
お目汚しスマン、供養の意味も込めてよかったら読んでくれると嬉しい。

因みに未完なんだけどな(汗)
25PHASE-51「閃光は運命をのせて」1/5:2009/06/30(火) 12:45:48 ID:YoSD0tuw
「副長、全軍に向けて停戦勧告が……副長?」

 呆然とモニターを見詰めるアーサーは、オペレーターの声で我に返った。振り返ればそこには、指示を求めるアビー・ウィンザー。不安げな瞳は確かに、今この場での最高責任者を見詰めていた。他ならぬアーサー・トライン本人を。
 今もうこの船に、ザフトが誇る高速艦の面影は何処にも無い。
 推進機関に直撃を受け、クルーの奮戦虚しく、月面へとその身を横たえるミネルバ。指揮を執る艦長の姿も今は無い。否、もう永遠に失われてしまった…崩壊するメサイアを目の当たりにして、アーサーはそう痛感していた。

「停戦勧告? ……わかった、艦内に放送して」
「了解」

 タリア・グラディスが去り際に、退艦を厳命したにも関わらず。いまだ艦内には多くのクルーが残っていた。
 誰もが皆、己の意思で持ち場に留まり、賢明の復旧作業に追われている。既に無駄と知りながらも、出来る限りを尽くさずには居られない……ここが暮らし生きる、居場所だから。
 ここへ帰るべき者がまだ、帰り着いていないから。

「ザフトの皆さん、私はラクス・クラインです。既にもう勝敗は決しました。これ以上無益な……」

 かつてザフトの歌姫だった、ラクス・クラインの声。
 言葉を選びながらの物悲しい響きが、ただ淡々とスピーカーから艦内に流れる。ある者は血が滲むほど拳を握り締め、ある者は嗚咽を噛み殺しながら……ミネルバの各所で各々が、戦いの終結を飲み込んでいた。
 戦争の根絶と約束された未来……その夢も今、この瞬間に見果てたのだ。

「私達は今、自由な未来を取り戻しました。二度と帰らぬ犠牲と引き換えに」
「……二度と帰らぬ、か。我々にとっては犠牲だけど」

 彼女にとっては全てが、対価に過ぎぬのでは? らしからぬ疑念を巡らしながらも、アーサーは手早く付近の艦隊分布を把握する。
 一応の終結を見た今、彼は大きな義務を負う。出来る限りの将兵を生還させ、故郷のプラントへ帰すという義務が。幸いにも後詰の艦隊は無傷で、ゴンドワナを中心に残存戦力の回収作業を行っているらしい。
 総員退艦の後、月面離脱を立案しかけた時、再びアーサーの思案をアビーが遮った。

「副長、救難信号キャッチ……インパルスです!」
「! ……回線、繋いで!」

 手近な端末を求めて、艦長席へと駆け寄るアーサー。肘掛に噛り付くようにして、小さな液晶画面を食い入るように覗き込む。そこに映るのは、ザフトレッドのパイロットスーツ。
 ルナマリア・ホークの無事が今は、何よりも朗報に感じた。ノイズが入り混じる画像と音声が、シン・アスカの無事も伝えてくる。僅かな安堵と希望…直ぐに救援を差し向けなければ。
 指示を出すべく面を上げたアーサーはしかし、メインスクリーン上の不吉な光点の瞬きに、再び絶望へと突き落とされた。
26PHASE-51「閃光は運命をのせて」2/5:2009/06/30(火) 12:47:07 ID:YoSD0tuw
「ミネルバ、応答せよ。こちらルナマリア……え?嘘、そんな……」

 大破したインパルスのコクピットで、ルナマリアがミネルバを呼び出している。その姿をぼんやりと眺めながら、シン・アスカは自問自答を繰り返していた。
 先程両軍に発せられた、ラクス・クラインの停戦勧告……自分の預かり知らぬところで、また戦争が通り過ぎてゆく。何もかも自分から奪いながら。
 それがお前の欲した力か、と。かつての盟友、アスラン・ザラは叫んだ。
 ザフト最新鋭のモビルスーツに、特務隊フェイスという地位……名実共に申し分ない、エースとしての自分。その全てを問われて、シンは揺らいでしまった。
 結果、アスラン・ザラに遅れを取り、完膚なきまでに叩きのめされ……デュランダル議長の理想を奉じて戦う、その心が折れたのだ。

「欲した力、か……」

 先の大戦で家族を失い、その身を復讐の炎に焦がした。ザフトレッドとして今まで、争いを憎み戦ってきた。だがしかし、失ったモノは余りに多い……疑念拭えぬ我が身の力も、今は欠片さえ残ってはいない。

「違うよな……きっと違う。本当は……」

 深く沈むシンの思考を、ルナマリアの悲鳴が現実へ引き戻した。コクピットに座る彼女は、すがるような視線をシンへ投げかける。ヘルメット越しでも真空を伝う、絶望と不安。
 すぐさま立ち上がり、寄り添うべく地を蹴るシン。

「ルナ、ミネルバは? 無事だったんだろ……ルナ?」
「ミネルバは大破、航行不能……でもクルーは大半が無事。今から救援、出すって……」

 僅かな重力を感じながらも、シンはインパルスのコクピットへ飛び上がる。身を乗り出したルナマリアは、両手を広げてシンを抱き止めた。無線を通して伝わる泣き声が、シンのパイロットスーツ内に満ちてゆく。

「艦長が……グラディス艦長が……」
「……そうか、メサイアに……レイは?」

 答える代わりに首を振るルナマリア。シンもそれ以上は、何も言葉を紡げなかった。
 声を詰まらせ押し黙る…次の一言を聞くまでは。ルナマリアの声は震えながらも、戦慄と恐怖を静かに告げる。

「副長が今……一部の敵艦隊が、撤退中のザフトに……」

 コズミック・イラの宇宙にまだ、平和の静けさは訪れない。
 統制を乱しながらも、撤退作業に追われるザフトの部隊へ、今まさに復讐の牙が向けられつつある。体を入れ替えインパルスのコクピットに収まり、シンはミネルバから送信されたデータを睨む。
 無秩序に散らばるザフトの部隊へ、明らかな敵意を向ける流れがあった。消えない怨嗟の炎、終わらない憎しみの連鎖……だが、シンの迷いは霧散した。

「ミネルバ、チェストとレッグはまだ有るか? 有るなら射出して欲しい……艦長!」

 本当は力なんて一度も、これっぽっちも欲しくは無かった。
 今なら解る……そして望まなかった力が、まだ自分に残っている事も。守るべき大事な、代え難い存在と共に。
27PHASE-51「閃光は運命をのせて」3/5:2009/06/30(火) 12:48:22 ID:YoSD0tuw
 艦長と呼ばれた、その一言に動揺して。身を乗り出して端末を覗きながら、決して艦長席には座ろうとしないアーサー。
 だがしかし、肩書きがどうであれ、この場の責任者は自分をおいて他に無い。突飛とも言えるシンの応答に、たじろぎながらもアビーに目配せ。通信内容を聞いていた彼女は、すぐさまモビルスーツデッキを呼び出した。

「すぐそっちに救援を出す。そして総員退艦の後、残存艦隊に合流する予定だけど……」
「その残存艦隊が危ないんでしょ? 反撃の素振りを見せる友軍もいる」

 ザフトの指揮系統は今、混乱の様相を露にしていた。
 中枢であるメサイアが陥落し、掲げるべき旗を失ったのだ。混乱に乗じて牙を向けられ、爪を剥いて応じてしまう……互いに退けぬ程、多くの物を奪い合い過ぎた両軍。
 デュランダル議長の熱烈な支持者達には、停戦勧告を無視して戦闘を継続する者さえ居た。

「もしかしたらオレにも……まだ出来る事があるかもしれないから」

 そこにもう、不遜で傲慢なミネルバのエースは居なかった。まだ年端もいかぬ少年の面影が、以前より顕著に見て取れる。あまりに脆く、頼りなげな……しかし真っ直ぐ、一点の曇りも無い真紅の瞳。

「モビルスーツデッキより! 予備が一対、10分後に射出可能との事です……艦長!」

 ヨウランやヴィーノを始めとする、整備班一同の答え。
 その想いも交えて、アビーの報告がアーサーの耳を打つ。
 艦長……その言葉は殊更強く響き、その意味はずしりと双肩に重い。既に翔ばぬ船で、既に居ない人に代わって。僅かに苦笑を零すと、アーサーは制帽を被り直し……意を決して艦長席に腰を据えた。
 全艦内へ向けてマイクを握り、高まる動悸を感じながら息を吸う。

「艦長代行のアーサー・トラインだ。全クルーに告ぐ……これより本艦は、最後の作戦行動を開始する」

 無論、既に総員退艦の命令が下っているから……意思無き者には去るよう、アーサーは何度も説得を試みる。だがしかし、その声を聞く誰もが、早くも行動を開始していた。
 非常電源の薄暗い艦内に、再び活気の火が灯る。たった一人のブリッジ要員を振り返れば、アビーは力強く頷き返してきた。

「よ、よし! コンディションレッド発令、ブリッジ遮蔽!」
「艦長、現在コンディションレッドは発令中、ブリッジは依然として遮蔽中です」
「……言ってみたかっただけだ。さぁミネルバ、もう一仕事だ。頼むっ!」
「予備電源、全投入。破損区画の人員は退避してください……送電止めます」

 残存する全てのエネルギーが、最優先でカタパルトへと送られてゆく。女神の名を冠する船は今、最後の力を搾り出そうとしていた。遥か上空、月軌道上で燻る戦火…その炎が再び燃え上がるのを阻止する為に。
28PHASE-51「閃光は運命をのせて」4/5:2009/06/30(火) 12:49:09 ID:YoSD0tuw
「シン、これよりチェストフライヤー、レッグフライヤーを射出します」

 計器の数値を確認しながら、アビーの通信に頷くシン。開け放たれたハッチからは、不安げにルナマリアが見守る。
 彼女はデュートリオンビームの照射を一度受けており、その乗機であるインパルスにはまだ、充分なエネルギーが残されていた。機体そのものは大破しているが、中心となるコアスプレンダーは無傷である。
 ただ……

「フォース・シルエットは……無いよな、もう。届くか? 艦隊まで」

 インパルスは各種シルエットパーツを装備する事で、様々な局面に対応する機体。そして今、機動力とスピードを特化させた、フォース・シルエットの選択がベストではあるが……唯一ミネルバに配備されていた物は、既に大破している。
 新たなチェスト、レッグと合体しても、翼がない。

「問題ありません、試験用のシルエットを回しました。エネルギー配分に気をつけて下さい」
「試験用?何でそんな物がミネルバに……了解、使ってみる。使いこなしてみせる!」

 予想に反して、アビーはシルエットパーツも射出し終えていた。しばらくインパルスからは遠ざかっていたが、どうやら第四のシルエットが配備されたらしい。

「……前に私が申請して、急いでミネルバに回して貰ったの」
「ルナ……そっか、ルナの機体だもんな。今のインパルスは」

 もうすぐ上空へ、インパルスのパーツ群が飛来する。少し遅れて、救援の内火艇も到着するだろう。死に逝くつもりは毛頭無かったが、しばしの別れを惜しんで。シンはルナマリアと抱擁を交わした。
 必ず戻る……そう呟く言葉が、真空を隔てる硬質硝子を僅かに曇らせる。

「私のインパルス、ちゃんと返しに戻ってよね……シン」
「ああ……ルナ、行って来る。みんなで一緒に、プラントに帰るんだ」

 第二の故郷、プラント……仲間達と過ごした日々。
 もう帰る事のない、友への想いも乗せて。ルナマリアがふわりと離れると、シンはハッチを閉じる。インパルスは細かな振動と共に僅かに浮かび、最後の力で虚空へと飛翔した。分離レバーを押し込むと同時に、背を押すような衝撃が走る。

「シン・アスカ、コアスプレンダー……行きます!」

 破損したパーツを振り解き、コアスプレンダーは漆黒の宇宙を切り裂き馳せる。
 救援に駆けつけたヨウラン達も、見送るルナマリアに倣って空を見上げた。引き絞られた運命の一矢は、今再び放たれたのだった。
29PHASE-51「閃光は運命をのせて」5/5:2009/06/30(火) 12:50:41 ID:YoSD0tuw
「駄目です、応答ありません……右翼、連合より合流した艦隊が前に出ます!」

 悲痛な叫びと共に、艦長席を振り返るメイリン。だがしかし、虚ろな瞳を虚空に向けたまま、ラクス・クラインは微動だにしない。

「やはり人は皆、憎しみの連鎖を断ち切れないのでしょうか…」

 ぽつりと一言。ラクスは呟くと同時に、目元に一片の輝きを零したように見えた。だが、それを拭いながら立ち上がると、再び全軍に向けてマイクを握る。
 慌ててメイリンは通信の周波数を切り替えると、固唾を飲んでラクスの言葉を待った。
 既にもう、ラクスには最初から解りきっていた。ディスティニープランという前代未聞の試みに対して、対話と対案を捨てた時から。
 今というタイミングでしか、暴走したデュランダル議長は止められなかった……もし話し合いのテーブルに付けば、長引く議論の影で、ザフトはより支配力を強めただろう。
 ロゴス崩壊後の混沌とした今こそが、磐石の態勢を築く前の議長を討つ、唯一にして最後の機会だったのだ。

「連合の皆さん、既にもう大勢は決しました。無用な追撃はおやめ下さい」

 落ち着いて言葉を選び、諭すように呼びかける。
 感情も露に泣き叫びたい、その気持ちを鎮めて。
 敵を示して旗を振り、自由を守れと力を奮わせた……それは紛れもない彼女自身。だからこそ今は、有り余る力の矛先を、再び収めなければならない。

「駄目です、艦隊止まりませ……あ、ザフト側が迎撃体勢に移行します!」

 ラクスの呼び掛けも虚しく、再び武力の応酬が繰り広げられようとしていた。力に応えるのはやはり、力でしかない……彼女が灯した戦火の炎は、激しく燃え盛って宇宙を照らす。
 あたかもそれが、人を導く光であるかのように。己が選ばせた未来の、その歪な輝き……その前では、言葉は余りにも無力。

「ラクス、僕が行く。もう誰も……誰にも撃たせない」

 不意にエターナルのブリッジに並ぶ、蒼い翼のモビルスーツ。それはラクスが解き放った、パンドラの箱の最後の希望。
 思わず立ち上がるラクスは、戸惑いながらも小さく頷く。憎悪渦巻く戦場へと、大切な者を送り出す……その痛みに耐えながら。数え切れぬ多くの者へ、その痛みを強要した自分だから。

「ごめんなさい、キラ……気をつけて」

 祈るような呟きに応えるように。ストライクフリーダムは身を翻すと、瞬く間に視界から飛び去った。一条の光を引き連れ、怨嗟の鎖を断ち切る剣となって。
30創る名無しに見る名無し:2009/06/30(火) 19:18:16 ID:lrEpvZ2z
乙!
未完とのことたが、悲壮感が出ていてイイ
結末が気になるね
31創る名無しに見る名無し:2009/07/02(木) 01:24:33 ID:AmSa5Anw
続けられるかあれですが、こんなの作ってみました
32紫のいない3年:2009/07/02(木) 01:25:35 ID:AmSa5Anw
書類上のミス、これは時たま起きる事だ。たいていの場合は訂正が実行される



「な、なにかの間違いではないかと・・・」
私に渡された辞令、ドロワを母艦とする第302哨戒中隊への配属
「私もそう思う。が、ソロモンでドズル閣下が亡くなられて、旧宇宙攻撃軍の下部組織の命令系統が混乱しているのが現状でな」
ア・バオア・クーでの決戦が近づく今、訂正よりも履行が優先されたのである
「は、はぁ・・・」
「敵の攻撃の集中が予想されるS・N両フィールドを避け、出来る限りの女性パイロットはEフィールド等を受け持つようになっていたのだがな」
済まなそうに人のよさ気な人事課の大佐が頭を下げた。私は覚悟を決める。他のみんなと行動を別にするのは不安だったけれども
「いえ、精一杯やってみせます!」
「そうか・・・精鋭というだけあって、あのソロモンで殿軍を勤め、生きて帰って来たエースも居る。前線指揮には問題なかろう。私に言えることはそれだけだ」
「はっ!」
敬礼を返す。いいわよ、エース部隊だろうがやってやろうじゃないの!
「ジオンの為に死んでくれ」
その時はわからなかったけれども、大佐の言葉の意味する事を、私はドロワで思い知らされるになった
33紫のいない3年:2009/07/02(木) 01:28:01 ID:AmSa5Anw
ドロワ



「ざ、ザクレロ!?私の機体ザクレロなの!?」
私は受領に持って来た技官の首を掴んで振り回した。
「ビグロはもう余ってないんです!このザクレロも、302という事で持って来れたんです!」
なんてこと!よりにもよってザクレロなんて。そう・・・ジオンが負けているというのはそういう事なのね
「せめて被発見率を下げるために黒に塗装してくれるかしら・・・というか、デフォルトの黄色にしなくてもいいでしょうに」
私がリアルorzをしていたその頃



格納庫通路
「ケリィの容態が気になるが・・・」
ガトーはいらついていた。ソロモンでソーラ・システムの照射を受け、負傷したケリィが収容されたのはキシリア旗下の艦で、連絡がつかずにいたからだ
「く、誰にケリィの代わりが勤まるというのか!」
補充を受けれるとはいえ、あまりにも大きな穴だった。ケリィのビグロによる火力支援で敵の足を止め、ガトーらMS隊が切り込む。それが302の基本的な戦い方だ。それを封じられたのだから
「302だ。補充の機体と人員を受け取りに来た」
しかし気をとりなおし、ガトーは用件を言って扉を開けた


プシュッ


「あ゛」


最初の出会いはそんなものだった
34創る名無しに見る名無し:2009/07/02(木) 01:31:59 ID:AmSa5Anw
一応これだけ投下
0083史上もっとも黒歴史かつ謎である紫との関係を別人にしてやってみようかと思うのですが、どうでしょう?割と歴史は変えた方がいいのでしょうか?それともなぞったほうが・・・えーん
35創る名無しに見る名無し:2009/07/02(木) 08:39:38 ID:h6kZkm2D
>>34
自分の描きたいやつを描けばいいじゃないかと・・・
36創る名無しに見る名無し:2009/07/02(木) 17:43:55 ID:+hBvkxT9
なぞった方が分かりやすいのは事実だけど
ifなんだから好きにやっていいと思うよ

ニナとガトーは無関係でも
バニングは負傷で死なずに途中退場しても
コロニーなんて落ちなくても大丈夫
37某武装勢力司令官:2009/07/03(金) 00:18:42 ID:Ddz6GP/u
いつの間にか新スレが。>>1乙です

オリジナルMS考えてるけど、なかなかカッコイイのは出来ませんな。
38創る名無しに見る名無し:2009/07/06(月) 05:26:33 ID:Y787a6tt
こう、王道っぽくだな
http://imepita.jp/20090706/191000
39創る名無しに見る名無し:2009/07/06(月) 18:01:18 ID:dYlKfEGm
なんか変形しそうな?
40創る名無しに見る名無し:2009/07/07(火) 20:44:33 ID:BifJNKEm
>>39
ザクの模倣だから変形は考えてなかったなぁ
41創る名無しに見る名無し:2009/07/07(火) 20:52:38 ID:cnXR9aqk
脚のスラスターの形状のせいかな
42創る名無しに見る名無し:2009/07/09(木) 05:12:36 ID:N8LT3UM7
現実からガンダム世界へってのは誰か書かないの?
43創る名無しに見る名無し:2009/07/09(木) 09:01:11 ID:cP/upCB0
>>42
昔書いてみたことがあるが、何度書き直してもダンバインになった
44創る名無しに見る名無し:2009/07/09(木) 09:04:27 ID:uvdmwCYJ
そういうのが読みたいなら自分で書けば良いのに。
45創る名無しに見る名無し:2009/07/09(木) 23:07:45 ID:9YO6cJYM
現実にMSがやってくるのは書いてみたことあるけどラプターとシースパローに全部落とされたよ!よ!
46創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 01:05:03 ID:ocgcorNs
ゼータとかから出たビームも弾くオーラ的な何かがあれば核だって防げる
間違いない
47創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 02:53:22 ID:QTDKhqE2
>>44
一応設定とかは妄想してるよ
けど文章にできないんだorz

主人公はジオン公国国民として生まれて流されるまま軍人に……
原作知識を生かして死なないように四苦八苦する的なの

後読みたいのと書くのは違うと思うんだ……
48創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 03:19:38 ID:NuKThRH7
ええい、蒼の残光の続きはまだか!!
49創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 13:52:09 ID:41Se1Z+0
そういうのが読みたければ自分で書けばいいのに
50MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/10(金) 15:04:46 ID:ptA409Hy
すまん
これから書く
51MAMAN書き ◆TIZ8.3DMwS9z :2009/07/10(金) 15:10:09 ID:ptA409Hy
あれ酉が
52MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/10(金) 15:14:17 ID:ptA409Hy
度々すいません
53創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 18:46:00 ID:ky723DBx
  _  ∩
( ゚∀゚)彡
 ⊂彡
54創る名無しに見る名無し:2009/07/11(土) 02:03:20 ID:7E+ERWa9
しかし、投下待ちだけってのもなぁ
スレタイ的に住人で作品を作るってのはどうだ?
投下してくれる人にはこれまで通りお願いしますってスタンスでさ
55創る名無しに見る名無し:2009/07/11(土) 02:54:47 ID:LfJV1fGU
宇宙世紀の日本の漫画文化はどうなってるんだろうね
56創る名無しに見る名無し:2009/07/11(土) 11:28:22 ID:YgSaj6bG
@廃れている
A斜め上の発展を遂げている
B相も変わらず
57創る名無しに見る名無し:2009/07/11(土) 12:21:41 ID:tpyFp2dh
続きを少し投下です
58紫のいない三年:2009/07/11(土) 12:23:45 ID:tpyFp2dh
「はぁっ、はぁっ・・・!」
正にSフィールドは地獄だった。Nフィールドと共に、連邦軍にとっての最大攻撃目標である空母ドロワが存在するからである
「っく!」
逆流しそうな胃の内容物をこらえる。それにしても目につくのは隊長、アナベル・ガトー大尉機の戦い方だ
「撹乱!」
不意に来たその一喝にボタンを押し込む
「はいっ!」
あの人は、味方がいる時は格闘戦を多用した。私を含めた若年兵には、疲労の割に撃墜効率が落ちる為に戒められたそれをだ
「カリウス!」
「はっ!」
そして私達が弾を撃ち尽くして何も出来ない的となったとき、カリウス伍長と共に盾として前線に残り続けるのである
「その聡明さは美徳であるが」
一度補給に帰還した時、自機の性能と腕に自信のなかった私は、ザクレロのランチャー全てにビーム撹乱幕を詰め込んだ。彼等を支援するにはこれが一番だと判断したからだ
「死ぬぞ」
戦列に戻った私に、武装を尋ねた大尉は険しい顔でいった
それが意味することはわかっている。私は大尉らと共に弾が切れたら支援無しの後退を行わなければならない。そして私にはその技量がない
「きゃっ!」
乱戦で流れて来たジムの突き出したサーベルを、危うい所で避ける
59紫のいない三年:2009/07/11(土) 12:29:35 ID:tpyFp2dh
「くぅっ!」
撹乱幕を使っているせいで、こちらのビームも使えない。今私には、ヒートナタ以外に武装は無いも同然なのである


ドンッ!


さっき私のザクレロを攻撃して、そのまま慣性に任せて流れていったジムが四散する。
「支援役が支援されては意味がないぞ」
「カリウスさん!」
カリウス伍長のリックドムが見越し射撃を行ったのだ。気付けば敵の攻撃が多少落ち着いて来ていた
「・・・敵の限界か?」
少なくとも今まで乱戦であったが、比較的優位にジオンは戦いを続けていた。戦闘というものは、崩れだせば早い。勝つにしても負けるにしても
「だと、良いのですが」





私達はこの時知るよしもなかった。連邦がドロワを撃沈した事で戦力の再編を行い、再びSフィールドへと襲いかかろうとしていた事も。
そして運命の銃弾がジオンの最高指揮権者の頭脳を貫いていた事で、それに対応すべき方策を放棄してしまっていた事も・・・
60創る名無しに見る名無し:2009/07/11(土) 12:38:08 ID:tpyFp2dh
投下終了
ジオンの防衛線が崩れていきます。ここまではまだ史実通りです。あと、今後の展開としては色々クロスしていくことに決めました。今後ともよろしくお願いします


・・・主人公の名前どうしようか(汗)
61創る名無しに見る名無し:2009/07/11(土) 18:39:26 ID:YgSaj6bG
意外と、兄上も甘いようで
62MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/12(日) 19:00:38 ID:3kNG96+c
wiki更新して来ました

「俺のが入ってない」という方いたらご報告ください

63創る名無しに見る名無し:2009/07/12(日) 22:14:18 ID:G7L81C5a
いつも乙です
64創る名無しに見る名無し:2009/07/14(火) 21:49:15 ID:MEFuASB0
>>60
紫のかわりってことでバイオレットとか
65創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 11:58:25 ID:GfdeM+94
イタリア語で紫の『viola』から『ヴィオラ』とかは
66創る名無しに見る名無し:2009/07/16(木) 05:29:24 ID:zhXVki6d
>>54
自衛隊スレやミリタリー系創作スレと協力して
「軍人がガンダム世界に〜」みたいなのはどうだろうか
スレ間を超えた板内合作って感じで

軍事や自衛隊の知識はあってもガンダムは全然知らねーよって人を
このスレで積極的にバックアップするとか
原作を提供して書いてもらうとか、
もしくは向こうに原作提供してもらうとか、
なんかそういうのできたら面白そうな予感はする
67創る名無しに見る名無し:2009/07/16(木) 08:31:04 ID:U6uofseE
面白そうだがこんな過疎ってたらなぁ……
68創る名無しに見る名無し:2009/07/17(金) 01:40:13 ID:G1IZVfXF
ちまちま、ぷつりぷつりと投下です
69紫のいない3年:2009/07/17(金) 01:40:59 ID:G1IZVfXF
グワデン



「ギレン閣下が戦死されたと?」
デラーズは指揮席から腰を浮かせる。ドロワが沈んだ時、デラーズは旗下の艦艇をかなり前線へ進出させていた。
背景はこうだ。ジオンはドロワの格納、そして整備能力をもってMS戦力を回転させ、数に劣る連邦に対抗していた。
故に連邦はドロワに狙いをつけたが、それをデラーズは見越し、その戦力をもって挟撃、連邦にかなりの損害を与えていた。ジオン統帥府がア・バオア・クー戦開始当初、戦勝気分にあったのは彼の働きがあったことに間違いは無い
だが、戦力が連邦より薄い事に違いはないし、不沈空母が存在しえない事もまた確かだった


「故にその時は、我々が兵を受け入れねばならぬ」


艦艇への前進命令をデラーズが下した際、彼はそういったという。グワジン級戦艦ならば、比較的多数のMSや兵を収容出来る。帰る処無くして戦闘なぞ出来ぬ、とも
「謀ったな・・・キシリアめ」
しかしその努力も、全ては水泡に帰してしまった。ア・バオア・クーは陥落してしまうであろう。そして、それの意味する所は言うまでもない。どうすべきか・・・
「全艦。および全MSを集結させる。我が艦隊は、この宙域を速やかに離脱する!」
70紫のいない3年:2009/07/17(金) 01:43:29 ID:G1IZVfXF
また一方の連邦にとっては、この混乱こそが唯一のチャンスであった


「邪魔だぁっ!」
ガトー機のビームライフルに貫かれたジムが爆発する。それに密集陣形を組んでいたボールが巻き込まれた「この乱戦に密集陣形なぞとるからこうなる!」
ガトーはそういって相手の不手際を吐き捨てる。連邦はとにかく戦力を集めて投入しました、でしかない。それに何の意味があるのか
「大尉!」
傍らを紫にカラーリングされたザクレロが通り抜ける
「ヴィオ!前に出過ぎるな!」
心配なのは無理についてくるこの新米だ、このような戦場であれば、ビスレィのようであればよいのであるが、あれとは全く逆で困る。ガトーはザクレロを援護するために機速を緩めた
「ぬおっ!」
本来彼が進むべき位置を流れ弾が貫いた。もしザクレロを見ていなければ、これに腕を持って行かれてたかもしれない
「天佑とはこの事か」
安堵したのもつかの間
「大尉!ヴィオが!」
ガトーのゲルググにカリウスのリックドムが近付いて指差す
「きゃああああああっ!!!」
マシンガン装備のジム二小隊になぶられている。何故だかわからないが、非常に怒りを覚えた
「カリウス、来い!」
「はっ!」
二機は戦場を駆けた
71紫のいない3年:2009/07/17(金) 01:47:12 ID:G1IZVfXF
「すいま、せん・・・お二人とも」
「喋るな、傷に触る」
ザクレロはマシンガンの乱射で半壊状態にされていた。中のヴィオも、破壊された計器の破片で負傷している。二機はふらつくザクレロを護衛しながら戦線を後にしていた
「大尉、近くにザクレロが着艦出来る艦が・・・発光信号?」
ムサイでは余裕がなさすぎる、大型艦・・・あの赤い艦、グワジン級に違いない!だが、発光信号は・・・
「撤退命令!?」
「馬鹿な!?私はまだまだ戦える。それにしてもどういう事か」
ザクレロさえ戻すことができれば、またとって返さねばならない。まだドロワの仲間が戻って来ていないのだ
「うっ・・・」
駄目だ、ヴィオの苦悶と共に、またザクレロがよろけた。選択肢はなかった
「グワデンに着艦する」

「大尉、撤退命令は・・・」
ガトーはカリウスの言葉にかぶりをふった
「そのような命令、聞けぬ」
言語道断。彼の口調からは、そんな強い思惟が感じられた
「グワデン、デラーズ大佐か・・・」
ギレン閣下からの信任も厚い大佐から発せられる、理不尽な撤退命令。一体この戦場で、何が起こっているというのか
「まさか、な。ありえぬ」
敗戦という言葉を、ガトーは頭から追い払った
72紫のいない3年:2009/07/17(金) 01:53:29 ID:G1IZVfXF
しかし、敗戦の現実はガトーらに突き付けられた
「私は行きます!」
「ならぬ!今は耐えるのだ。生きてこそ得る事のできる、真の勝利の日まで」
耐えねばならないというのか、この恥辱に・・・!
「負傷者を収容します!」
対峙する二人のむこうで、ヴィオが運ばれていく。デラーズが横目でそれを一瞥し、更に言葉を紡いだ
「再びジオンの栄光をつかみ取るその時まで、貴公の命、わしが預かる。」
ここで死ぬ事は決して許さぬ、と
「その日まで、私の命、閣下にお預けします」
デラーズはガトーの言葉に頷いた
「そして未だなお、戦士達は傷つき、命を失おうとしている。その彼等を我々は救わねばならない」
救出と撤退戦を効率的に行う必要があった
「現在Eフィールドが未だに戦線を構築、維持できている。我々はそこを脱出路となし、撤退する」
「そこで私が出撃するのですね」
ソロモンでの撤退戦、その再現を閣下は望んでおられるのだ





そして果たされるカスペン戦闘大隊と、デラーズフリートの運命の出会い。これが宇宙世紀に何をもたらすのか、今はようとしてしれなかった
73創る名無しに見る名無し:2009/07/17(金) 01:55:47 ID:G1IZVfXF
投下終了
名前はヴァイオレット、愛称はヴィオで行きたいと思います。



待たせたな、ヒヨッコども!
74創る名無しに見る名無し:2009/07/17(金) 07:37:24 ID:IXxreEnm
乙!
これから3年がはじまるのか
楽しみ
75創る名無しに見る名無し:2009/07/17(金) 12:27:07 ID:qn2H4NVs

やっぱUCは人気だな
76MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/18(土) 05:16:59 ID:zCGksfA4
蒼の残光 9. 連合艦隊編成 後編

今回は短いです。これで次は決戦近し
77MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/18(土) 05:17:41 ID:zCGksfA4
 コロニーレーザーと共に移動を続けるリトマネンのアクシズ残党軍では、ささやかな酒
宴がひらかれていた。
 連邦艦隊を殲滅して以来、彼らの元には各地に潜伏していた反連邦活動の士が馳せ参じ
ていた。全くの身一つで来る者、ジオン公国の艦艇やMSを持ち込む者、そして少ないな
がらもガルスJやRジャジャなどのアクシズ製MSを所有する者もいた。
 更に匿名ながらも資金援助を申し出る個人や企業も現れ、彼らの作戦行動は質、量共に
改善される事となった。
「我等の信念、我等の正義が受け入れられた証である」
 宴の始め、リトマネンは演説の中でそう言った。少なくとも援軍や支援者の存在が兵の
士気を大いに上げた事は事実だった。
 アラン・コンラッドは水割りのグラスを手にこの酒宴を他人事のように眺めていた。
 彼は彼の上官ほどには現状を楽観視していなかった。
 確かに人数は増えた。資金や整備もこれで改善されるだろう。しかしこれまでの戦闘で
失われた戦力を直ちに補填できるものではない。パイロットや艦艇のオペレーター、ガン
ナーとしての力量はこれから見極めなければならない。少々資金が増えたところでMSを
買えるわけでもなし、整備部品の調達が根本的に改善されたわけでもない。こうして酒や
食事が少し立派になるだけでは、皆もいずれ現実に気付く事になるだろう。
(それに、義勇兵の集まりも思ったほどではないような)
 それも気懸りだった。この宇宙に今でも連邦憎しと潜伏する旧ジオン軍人やその子弟は
決して少なくない。連邦艦隊でも最大規模の勢力をあれほどまでに一方的に虐殺して、そ
れでも呼応しようとしないならいつそれらは蜂起する気なのか。現実はアランが考えてい
る以上に冷めてしまっているのだろうか。
(あるいは、他にもジオンの意志を継ぐ組織が既に結成されているのか……?)
 そこまで考えた時、彼の前にスティーブ・マオが歩いてきた。
「どうしましたかな?難しいお顔をして。もっとお酒を召し上がってはいかがです」
「いえ……万が一攻撃を受けた時のために酔うほどに飲むわけには参りませんので」
「ふむ、隊長は生真面目なお方だ」
「手綱を緩める事は閣下がしてくれます。私は引き締める側を務めます」
 アランとしては気の利いた科白のつもりだったが、マオには通じなかったらしい。曖昧
な表情でシャンパンらしきものの入ったグラスを回していた。
「ヘル・マオ、そちらの方は?」
 マオの後ろにいる見慣れぬ人物に視線を向け、アランは訊ねた。
「おお、そうでした。隊長、こちらは我々に協力してくれる事になったドクトル・ゲオル
ゲ・ハジです。ハジ博士、こちらがハンニバルのパイロット、アラン・コンラッド隊長で
す」
「ハジです。お目にかかれて光栄です。私のことはゲオルゲとお呼び下さい」
 ゲオルゲと名乗る男は右手を差し出してきた。アランはその右手を握り返した。
「アラン・コンラッドです。ドクトルとの事ですが、お医者様ですか?」
「いえ、私は宇宙における運動制御理論を研究している者です。MSの医者、と言えば言
えるでしょうか」
 MSの研究者か。なんとなくだが木星の技術者には見えなかった。より都会的に洗練さ
れている。AEのスタッフか、とアランは判断した。驚く事ではない。奴らは戦争と金儲
けを結び付けられるならどこにでも出向く。
「ゲオルゲ博士のコネからジオン系の流体内パルス式駆動モジュールを用立ててもらえそ
うなのですよ。これは隊長たるあなたに早くお聞かせしたいとご案内した次第です」
「これは素晴らしい。感謝します」
 精一杯愛想よく感謝の意を伝えた。出所に興味はないがこれで小破、中破して稼動不能
となり、部品取り用のドナーとしてしか使い道のなくなっていたMSが再生できる。
「このくらいはお安い御用です。その代わりと言っては何ですが、私もここで整備を見学
する事を許可いただけるでしょうか。特に隊長の乗るハンニバル、あれは実に興味深い。
是非とも、この目で見ておきたいのです。研究者の性とご理解下さい」
 アランは内心、この申し出をよく思わなかった。協力者、と言ってはいるがその実は技
術を盗用するスパイのようなものである。特にオリバーのサイコミュや自身のIMBBL
のような技術を簡単に見せたくはない。しかし、断れる状況でないのも確かだ。
「どうぞ、現場には私から伝えておきます」
「ありがとうございます」
「時に隊長、もう一人のハンニバルパイロットは何処にいますかな?」
78MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/18(土) 05:19:54 ID:zCGksfA4
 マオが訊いた。オリバー・メツはこのパーティーを欠席していた。
「まだ調整中のサイコミュで戦闘を行ったせいでしょう、今は自室で休んでおります。丁
度今から様子を見に行こうとしていたところです」
「おお、これは失礼しました。お引き留めして申し訳ない」
 絶妙な口実でその場を離れ、アランはオリバーの部屋を訪れた。
「オリバー、入るぞ」
 返事を待たずドアに手を掛ける。鍵はかかっていなかった。
「オリバー、どうだ、少しは落ち着い――」
 アランの動きが止まった。
 オリバーはベッドの上に座っていた。膝を抱え、顔をその膝に埋めていた。手には何か
小さな瓶を持っていた。
「どうした、オリバー」
「なんでもない」
 予想外に即答が返ってきた。アランはそれ以上言わず相手を見ていたが、ふと、その手
の中の小瓶がほとんど空になっているのに気付いた。
「オリバー、お前、薬を――」
「なんでもない!」
 オリバーは先ほどよりも強く否定した。アランは再び黙った。
 オリバーの持っている瓶は一種の昂揚剤である。NTや強化人間の能力は精神的なもの
に左右される要素が強い。特に人工的に能力を引き出す強化人間は精神が不安定になりが
ちで、欝状態になると全く戦場で役に立たなくなってしまう。そのため、この昂揚剤で発
奮させ、能力を常に全開させるのである。
 オリバーは実験の副作用で視力を失って以降能力が急上昇し、かつ精神の安定性も高か
ったため失明以後はほとんど薬物は使用していなかった。そのオリバーの小瓶が空になり
かけている、と言う事は……。
「どれだけ飲んだんだ、オリバー」
「大丈夫だよ、アラン」
 顔を膝に着けたままオリバーが答えた。落ち着きを取り戻したようだ。
「奴に勝つには、今の僕の能力では足りない。戦場だけじゃなく、二十四時間常に感覚を
研ぎ澄まして能力を磨き続け、NTとして能力の底上げをしないと届かないんだ――ユウ
・カジマとマリオンの二人には」
「オリバー……」
「大丈夫、僕なら大丈夫だよ。奴に勝つまでだ、それまででいいんだ」
 オリバーはそう繰り返していた。
79MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/18(土) 05:30:11 ID:zCGksfA4
RGM-86R-LA ジムVライトアーマーA
第一次ネオジオン抗争終盤、AE社は連邦軍次期主力MSとして量産型百式改を提案するが、主にコスト面で折り合わず
不採用となり、AEは連邦軍開発のジムVをノックダウン生産しつつ、新たに生産性を重視した新型量産MS(ジェガン)
を開発する事で合意した。
しかし、支援機的性格の強いジムVはすぐに前線のパイロットの間から不満の声が上がり、急遽高速空間戦闘能力を
重視した改装型の設計、開発を要請された。
厳しいコスト面の制約の中、一年戦争期のジム・ライトアーマーをコンセプトとすることに決定、アーマーの削減と軽量化
を徹底する事で運動性と関節の可動域を広げる事を目的に改良が加えられる。
ムーバブルフレームを持つジムVはジム以上の大胆な装甲の省略が可能となったが、結果としてムーバブルフレーム
の露出したデザインは量産型百式改に拘ったAEの意趣返しとも言われる。
尚、本来はジェネレータ出力はベース機と変更はないが、一部のエース機の中にはジェネレータ出力をブーストアップ
した機体も見受けられる。

主に隊長とエースを対象に支給され、ルナツー基地のジャック・ベアードも本機を受領している。ジオン共和国駐留艦隊
も当然対象となるはずだったが、ユウは既にAZ-107のテストパイロットが決定しており、ルーカスはリックディアスからの
乗換えを嫌い、イノウエは元々対MS戦闘を専門外とするため、支給される事はなかった。


ここまで
80創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 07:40:59 ID:JH6oY6fX
まさに決戦間近
81創る名無しに見る名無し:2009/07/19(日) 00:43:47 ID:1GsNnVbu
こういうのは男の子として素直にワクワクするな
82創る名無しに見る名無し:2009/07/19(日) 08:53:00 ID:nG2KzBP1
すげえ
短いのにむちゃくちゃ盛り上がる
83Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/20(月) 21:54:48 ID:4Ki7p1KW
行けるか?!
84Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/20(月) 21:57:13 ID:4Ki7p1KW
 アステロイドベルト暗礁宙域。地球連邦軍とコロニー連合軍の戦争が始まる前から、双方が軍事衝突する際の
緩衝地帯として設けられた岩石の海。今でも大戦の名残……数多くのMSの遺骸が漂う、戦士の墓場。
 艦船が無事に通過するには航行速度を落とす必要があるが、時間的にも距離的にも、ここを通り抜けるのが木星に
向かう最短コース。しかし、それは同時に、ヴァンダルジアがペリカンに最も迫られる進路でもある。

 ペリカンに搭載されていたガンダムは全7機。
 土星の魔王に懸けられた破格の賞金は、出資者の目論見通り、十分な効果があった。
 討伐隊と連携を取ろうとしなかったゴートヘッズの4機は敗れ、現在出撃可能な機体は3機。
 高機動ΖU]、ガンダムヒマワリ、そしてバウンティハンターガンダム……。 

 バウンティハンターガンダムのパイロット、エルンスト・ヘル准尉は、セイバー・クロス中尉、リリル・ルラ・ラ・ロロ少尉と
共に、格納庫へと向かう。エルンスト・ヘル……銀髪の青年は“ガンマン”のパイロット。緊急討伐隊に参加する為、
陸軍から宇宙軍へ臨時転属した。一時的な措置ではあるが、階級も少尉から准尉へと降格されている。
 初の実戦に、やや緊張した面持ちの青年は、両の眼に静かな闘志を燃やしている。復讐に心を染めているにしては、
淀み無く澄んだ瞳。彼を突き動かす物の正体を知る者は居ない。

 先導のセイバーに数歩遅れ、リリルとエルンストが従う。
 歩みの速いセイバーは、己の意思を示すかの様に、決して後ろを振り返らない。
 リリルは負けん気を顔に表し、セイバーから遅れそうになる度に、小走りで追い掛ける。
 その様が気に掛かって仕方の無いエルンストは、セイバーとリリルを交互に見ていたが、無言の両者に話し掛ける
事は躊躇われ、何も言わずに付いて歩いた。

 格納庫に着くと、セイバーは歩みを止め、2人に向き直った。

「俺は新人と子供の御守をする気は全く無い。君達には1人のパイロットとしての役割を期待している。ギルバートが
 暗礁宙域を抜けてしまえば、ペリカンでは追い着く事は出来ない。これが最後の機会となる」

 彼の言葉に、表情を強張らせる少女と青年。セイバーは声高らかに続ける。

「個人的な感情は捨て、任務遂行に徹せよ。目標はギルバートとバウ・ワウの撃墜。己の役割を果たす事のみに
 全力を尽くせ」
「はっ!!」

 同時に敬礼をするリリルとエルンスト。3人はガンダムに乗込む。

 破損の痕跡は見られない、ΖU]とヒマワリ。そして、緑褐色のマントを纏ったガンマン。
 各々の思いを胸に、ペリカンから発進する3機。セイバーの後に、リリル、エルンストと続く。
 彼等は戦争の再開を止められるか……。
85Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/20(月) 22:03:03 ID:4Ki7p1KW
 エルンスト・ヘルは、名家の生まれである。裕福な家庭で育ち、何不自由無く暮らして来た。彼の歩む道には、常に
兄の影があった。勉強、運動……何をしても兄には及ばず、後塵を拝すばかり。劣等感から、宇宙軍に入隊した兄を
避ける様に、陸軍に入った。しかし、優秀な兄と比較されるのを嫌った半面、兄の存在は彼の誇りでもあった。

 その兄が死んだ。アステロイドベルトでコロニー連合軍のエース“土星の魔王”に戦いを挑み、勇敢に散った。父母の
ショックは大きく、エルンストも数日は何も考えられなかった。それから怒涛の様に日々は過ぎ、終戦を迎える。
 ある日、コロニー連合軍のエースが捕まったと言う報せを受け、面会に……。以後は知っての通り。

 あの結果に上司や同僚達はエルンストを軟弱物と非難したが、彼は全く気にしていなかった。軍の周到なやり方は
不満だったが、手加減などしていない。エルンストは感動し、畏怖に震えた。土星の魔王との決闘は、彼の中に眠る
“何か”を目覚めさせた。出来る事なら、もう一度、闘いたい。今度は堂々と、己の持ち得る全てを懸けて……。
 彼は緊急討伐隊編成の噂に、二も三も無く飛び付いた。

 兄が散ったアステロイドベルトで土星の魔王と相見える事に、エルンストは運命を感じていた。
 バウンティハンターガンダムはサーフボード型シールドに乗り、岩石の宙を行く。暫らく進むと、岩石群の隙間から、
黄土色の機体が前方に映った。焦がれる程に、待ち望んだ瞬間。武者震いを抑える。
86Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/20(月) 22:05:57 ID:4Ki7p1KW
 無数の岩石が浮かぶ暗礁宙域で、ヴァンダルジアに真っ直ぐ向かう、1機のMS。ハロルドとダグラスは直ぐに
迎撃に出た。見通しの悪い中、ハロルドはモニターに映るレーダー情報を確認しながら、静かに息を吐く。

「1機……か? しかし、余りに判り易い」
「確かに、お前さんの言う通りだ。物陰に隠れて進むなり何なり、見付からない様に接近する方法は幾らでもあるのに、
 これでは見付けて下さいと言っている様な物だ」

 ダグラスは慎重に頷く。障害物が多い中、高速で移動する物体があれば、嫌でも目に付く。囮と思うのが普通。

「……だよな。罠かも知れんが、今は目の前の敵に集中しようぜ」
「一応、クーラー少佐にヴァンダルジアの護衛に出る様、要請する。異論は無いな?」
「出来れば頼りたくないんだが、後顧の憂いは断つべきか……」
「元々、その為の補充人員なんだし、確り働いて貰わないと」

 ダグラスがヴォルトラッツェル艦長への連絡を済ませた後、ハロルドは接近して来るガンダムに向かって、ビーム
ライフルを構えた。ゆらゆらと宙を漂う岩石の陰から、不意打ち気味に狙撃する!

 バシュッ!

 ビームは真っ直ぐガンダムに向かったが……機体を覆うマントに当たって分散した。ハロルドは小さく溜息を吐く。

「ABCマントかよ……」

 モニターで先程の敵機の動きを再確認していたダグラスは、ガンダムの正体に気付いた。

「ハル、あれは……間違い無い! “ガンマン”だ!」
「ガンマン? 見覚えのある機体だとは思っていたが、もしかしてパイロットは……」
「動作の癖からして、同一人だと思う」
「何と言う執念……! 仇討ちの積もりか知らんが、この命は譲れんぜ?」

 バウ・ワウは静かにバーニアを噴かし、ゆっくりと巨岩の陰に隠れ、ジャイアント・バズーカを右肩に担いだ。
 ハロルドは物悲しそうに呟く。

「殺し、怨まれ、また殺す。何処まで行こうが、憎しみの連鎖は断ち切り難い物よ……。何故、殺されに来た?」

 バズゥッ!

 素早く飛び出すと同時に、ロケット弾を発射。反動で岩石に衝突しない様、バーニアとスラスターで姿勢を制御する。
 向かい来るロケット弾に対し、ガンマンは……サーフボードを足場に小さく跳ねた。続いてロケット弾を踏み付け、
更に高く跳躍! バウ・ワウの上方に移動し、蹴りを喰らわせるかの様に、足から降下する。

「信じられん……幾らモービルトレースだからって! しかし、無防備だ!」

 ガンマンの予想外の行動に驚きながらも、ハロルドは敵の隙を見逃さなかった。ガンマンは武器を構えて居らず、
下方向に対して攻撃出来ない状態。バウ・ワウの上半身はバズーカの砲口をガンダムに向ける。
87Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/20(月) 22:10:07 ID:4Ki7p1KW
 しかし、ダグラスは両脚を前方に投げ出し、足裏のスラスターを全開にして機体を後退させた。

「ハル、止めろ!!」

 狙撃し様としていたハロルドは、衝撃で姿勢を崩す。

「おわっ!? どうした!?」
「奴の脚を見ろ! 連装ビーム砲……“銀色の脚”だ!!」

 直後、ガンマンの脚が白銀に輝く!

 ドドドシュッ!!

 降り注ぐ眩い光の帯が、周囲に漂う小岩を砕きながら拡がり、バウ・ワウのモノアイの前を掠めた。
 ダグラスは感嘆の息を吐く。

「士、別れて三日なれば刮目して相待すべし……だな」
「いやいや、有り得んって! 別人だろう? 強化人間になったとかでも信じるぜ」

 ハロルドが動揺している間に、ガンマンはシールドを回収して背面に装備し、岩陰に移動した。瞬間、ダグラスが声を
上げる!

「来るぞ!」
「なっ……!?」

 ハロルドはガンマンが岩石群に身を潜めると思っていたが……違った。岩陰に隠れ様かと言う所で、ガンマンの
背負ったシールドが炎を噴き、急接近して来る。同時に、ガンマンがマントの下の右腕から飛ばした投げ縄状のビーム
ロープが、反応の遅れたバウの左腕を捕らえた。ガンマンはバウに切り払う間も与えず、ぐいっと力を込めて振り回し、
岩石の疎らな開けた空間に引き摺り出そうとする。

 ハロルドはビームロープで繋がれている事を利用し、崩れた体勢からジャイアント・バズーカを発射したが、ガンマンは
左腰のギガンティック・マグナムで早撃ちし、撃ち落とす。ハロルドは忌々しそうに吐き捨てた。

「くっ、何て奴だ!」

 不意を突かれてビームロープを避けられなかったハロルドを、ダグラスは強く叱咤する。

「ハル、どうした! お前らしくもない!」
「済まん……。どうも調子が狂う。本当に奴なのか?」
「相手が誰だろうと関係あるか! 油断するな!」
「そんなんじゃ無いんだがよ……」

 決闘の時とは明らかに雰囲気が違う相手に、ハロルドは動揺を隠せなかった。それでもダグラスの言う通りだと
思い直し、気を鎮める。バウはビームロープで左腕をガンマンの右腕と繋ぎ止められ、正面から睨み合う。
 ガンマンの威圧感は凄まじかった。隙を見せよう物なら、即座に撃ち抜かれてしまう様な気迫。バウは右肩に担いだ
バズーカを下げる事さえ出来ない。
88Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/20(月) 22:13:42 ID:4Ki7p1KW
 何倍にも思える数秒が過ぎた時、ダグラスは付近を移動する気配を感じた。

「ハル、これは陽動だ。他に2機、ヴァンダルジアに向かっている」
「……しかし、逃げ様にも背を見せられん」

 慎重なハロルドに、ダグラスは言う。

「……俺が行く」
「任せた。ショットランサーを持って行け」

 ハロルドはシールドを回転させ、下半身を隠した。4本爪の隠し腕が、ショットランサーを掴む。連結を解除した後、
バウ・ワウ・ナッターは高速で飛び去った。

「後で追い着けよ、ハル!」
「ああ、墜とされんじゃねえぞ!」
「そっちこそ!」

 2人は軽く言葉を交わして別れる。

「行かせるか!」

 ガンマンはナッターを逃すまいと左手の銃を向けたが、その射線をバズーカが遮った。

 カンッ!

 銃弾が当たり、バズーカは暗礁宙域の彼方へ弾き飛ばされる。同時に、ビームが一閃!
 ガンマンのマグナムを破壊した。

「おっと、他所見をするなよ……」

 ハロルドは何時もの不敵な笑みを浮かる。
 ガンマンがナッターに気を取られた一瞬の隙に、バウの上半身はビームライフルを構えていた。その上、ビーム
ロープを切断している!
89Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/20(月) 22:17:23 ID:4Ki7p1KW
 ガンマンのパイロット、エルンストは、迷う事無くナッターの追撃を諦めた。

(あれは仕方無いとしても、目の前の機体だけは絶対に逃がさない……“逃がさない”? いや、“倒す”んだ)

 彼はバウ・ワウのモノアイを見詰め、右腕の銃に手を掛ける。1対1の真剣勝負……だが、その前に……。

 カチッ……。

 共通回線を開いた。

「短距離交信……? 戦闘中に敵と話そうなんて馬鹿が居るかよ」

 ハロルドは小言を吐きながらも応じる。呼び掛けの信号を無視しても良かったのだが、相手が本当に“彼”なのか……
だとしたら、どう変わったのか、興味があった。

「何の用だ?」
「ハロルド・ウェザー連合軍特別大佐、もう一度、貴方と話がしたかった」

 生真面目なエルンストの声に、ハロルドは辟易した表情をする。

「悪いが、手前の兄貴の事なら答えられんぜ? ついでに、怨み言を聞く気も無い」
「そうでは無い。そんな事は……もう、きっと……どうでも良い事なんだ」

 エルンストは穏やかな声で、自身の胸中を語り始めた。

「兄は私の憧れだった。決して追い着けない夢の様な……。それは同時に悪夢でもあった。兄が死した事で……そう、
 貴方が兄を殺し……そして、決闘の日、“私を”殺してくれた事で、私は漸く夢から醒めたのだ」

 青年は独り、徐々に声を高くする。それは内から溢れ出た、自然な感情だった。

「あの時、私は見た! 貴方こそが、私のっ……! 私は貴方になりたい! 貴方を越えて、兄を越える!」
「そいつは結構! お喋りが済んだなら、死んでくれ!」

 通信を切る間際、冷たく放たれたハロルドの言葉に反応し、青年はマントを広げて右腕を突き出す。ハロルドは
“それ”を狙ってビームライフルを撃った。

 バシュッ……! キュゥウ……。

「何だ、これは!? ビームがっ!!」

 しかし、黄金のビームは、分厚い補強装甲を施されたガンマンの右手に命中する直前で分散し、吸い込まれて行く。
ハロルドはガンマンと対峙してから、驚き通しだった。ガンマンはミトンの様な右手で器用に掴んでいるマグナムから、
即座にライフルの倍近い威力のビームを撃ち返す!
 バウは避ける間も無く、ビームライフルを破壊された。

「また新兵器……性能テストを兼ねているのか? 本当に“連邦軍にとっては、どうでも良い部隊”なんだな……」

 ハロルドは苛立ちを見せた後、嘲る様に低く呟き、ガンマンと睨み合う。時間は静かに過ぎて行く……。
90Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/20(月) 22:21:07 ID:4Ki7p1KW
 他方、ヴァンダルジアを追うセイバーとリリルは、岩石群を分けて慎重に進行中。
 ΖU]のセイバーは、不満を隠し切れないリリルに声を掛けた。

「何か言いた気だな」
「……彼で大丈夫なのですか?」

 後方を気に掛け、心配そうな口調で尋ねるリリル。しかし、本心は別にある事を、セイバーは見抜いていた。

「任務に私情を挟む者よりは当てになる」
「私情と仰るなら、エルンストさんの方が……」
「ロロ少尉……。君のそういう所が、駄目だと言うんだ」

 食い下がるリリルに、セイバーは呆れて溜息を吐く。少女は、ハロルド受けた屈辱を熨し付けて返したい剰りに、
平静さを欠いていた。上官の命令だと割り切って、素直に決定に従えない。高い能力を持っていようが、未だ未だ
子供である。

 瞬間、セイバーとリリルは後方から迫り来る規格外のプレッシャーを感じ、戦慄した。

「……流石に、荷が重かった様だな。ロロ少尉、敵機の正確な情報は判るか?」
「は、はい。追跡者はバウ・ワウ・ナッター、単機。方角7時46分20秒、距離2542.3m、遭遇まで2分31秒です」

 サイコミュレーダー搭載のガンダムヒマワリは、通常のセンサーでは察知出来ない微細な反応も見逃さない。
同レーダー以外に逆探知される虞は無く、搭乗者のコンディションに左右されるという欠点を除けば、優秀な索敵
システムである。

「この暗礁宙域で、追い着くと言うのか……」

 リリルの答えを聞いたセイバーは、軽く舌打ちした。彼はハロルドよりダグラスを警戒すべきだと考えていた。
次の行動は既に決まっている。

「ロロ少尉、先に行け。ギルバートを撃墜するのだ」
「し、しかし……」
「相手はナッター1機。子供に気遣われる程、腕は鈍っていない。必ず敵艦を仕留めろ。良いな?」
「……はい」

 リリルは返事に惑いを滲ませながらも、ヴァンダルジアへと向かう。相手がダグラスと判った時から、彼女の心には
小さな迷いが生じていた。己こそが最強の能力者だと信じて疑わなかったリリルは、故に格上を相手にする場合の
戦い方を知らないのだ。彼女にギルバート撃墜を命じて先行させたセイバーは、全く正しい。

 ガンダムヒマワリが岩礁の向こうに消えたのを確認し、セイバーは深呼吸をする。

「ダグラス・タウン……。互いに能力者同士、MSパイロットとして、どちらが上か決めようじゃないか!」

 上げた目付きは鋭く、彼は“同じタイプ”のダグラスをライバル視していた。
91Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/20(月) 22:23:20 ID:4Ki7p1KW
 その頃、ハロルドとエルンストは、互いに牽制し合って動けない状態で数分を迎えていた。
 エルンストは戦いが幾ら長引こうが一向に構わないが、ハロルドの場合そうも行かない。

(……もう暫らくの辛抱だ)

 ハロルドは何度も息を吐き、気を落ち着かせる。ここで焦った者の敗北は確実。唯々、時を待つ。
 静かに耐えるのは、エルンストも同じ。何倍にも感じられる時間が、神経を磨り減らす。

(我慢比べだ。相手は必ず動きを見せる)

 好機は意外に早く訪れた。バウの上半身は、エルンストの目の前でアタッカーに変形し、飛び去ろうとする!

「貰っ……たっ!?」

 ドォン!

 エルンストは得意の早撃ちでアタッカーを狙ったが、突き出した右腕に何かが触れ、小規模な爆発を起こした。

「こ、これは……ステルス機雷!?」

 驚きと同時に、歯噛みをして悔やむエルンスト。睨み合いの間、ハロルドは密かにハイドボムを撒いていたのだ。

「あばよっ、鈍ガメ野郎!」

 バウ・ワウは去り際に左腕から1発、グレネードを発射した。榴弾は空間一杯に浮かぶハイドボムに触れ、連鎖的に
大爆発を起こす!

「不味いっ!!」

 ドドドドドォンッ!!

 エルンストは素早く防御体勢に入り、シールドとマントを犠牲にして爆発を乗り切ったが、既にアタッカーは彼方。
追い掛け様にも、サーフボードを失ったガンマンでは、離されるばかり。

「何と未熟な……!」

 エルンストは戒める様に己を貶し、間に合わないと知りながらも、遅い足でアタッカーの後を追った。
92創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 22:27:53 ID:4Ki7p1KW
これで12話だか13話だか終わり。
また長々と失礼しました。
93創る名無しに見る名無し:2009/07/21(火) 17:31:41 ID:KLcxN+pG
乙乙
94創る名無しに見る名無し:2009/07/22(水) 23:31:10 ID:mZVRE0A9
全長一万9800メートルのMAを考えている
宇宙空間用だけど
名前はジャイガ・ギー
95創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 21:22:48 ID:4undQUEJ
設定だけだけどスパロボっぽいガンダムを書いているけどあり?

概要
元はゼータの続編であるダブルゼータ
レビル将軍とエマさんとフォウが生存している
アクシズ、もといネオジオンの総帥はシャア
そのためエウーゴに参加したのはハマーン
アムロは死亡、そのためシャアとの戦いはジュドーが担当
プルは殺さない(俺がロリコンだから)
96創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 22:44:11 ID:W1Z8reLb
>>94
だいたい20`ぐらいか…目的とか用途とか乗員数次第だなー
これを貼らないといけない気がした
【名前】デビルガンダム
【属性】自己進化、自己再生、自己増殖を備えた金属生命体
【大きさ】日本列島並み、両翼は日本列島よりさらに巨大
【攻撃力】直径500m以上の5、6本の触手を展開し一本で東アジア周辺を一瞬で壊滅させる。
     半日で惑星破壊もできる
【防御力】大規模建築物破壊級のドラゴンガンダム等に近いガンダムが何百体集まっても、歯が立たない
     常にバリアを張っており、Gガン世界最強のビームも防げる
     エネルギー源はコロニーのメイン動力炉であるため、それを破壊されると活動を鈍る
【素早さ】巨大な両翼を展開し、数時間でラグランジュポイントから地球に到達できる
     反応速度は、超音速
【特殊能力】宇宙戦闘可能
     DG細胞(一種のナノマシン)を散布しこれに感染すると、常人は支配下のゾンビ兵となり肉体が強化される。
     コロニーのメイン動力炉、DGレインの精神エネルギーの両方を活動源としており、双方途絶えない限り無限に修復する
【長所】短時間での惑星侵食可能
【短所】内部侵入に弱い
【備考】元々はアルティメットガンダムといわれて、地球自然の再生を目的に開発された。そのなれの果ての姿である。

>>95
カミーユはリタイア?
それともエマとフォウが生きてるから精神崩壊せずにすんでるのかな
97創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 23:10:05 ID:4undQUEJ
>>96
一応セーフ
でもニュータイプ能力を使いすぎたため序盤は昏睡状態になってる
(そうしないとジュドーがゼータに乗る活躍できなさそうだし…)
98創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 23:30:01 ID:W1Z8reLb
アリもナシも、書きたいものを書けばいいじゃない!
あのキャラがどう動くとかIFモノの魅力だからね

とにかく投下あるのみ
がんばれ
99創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 23:31:03 ID:3w/Yxz1o
オリジナルと既存のIFは似て非なるものだと思うんだが
本当にここでいっしょくたに扱うべきかな?
100創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 23:38:44 ID:RWMnLoai
そこまで堅く考えないでいいと思う
101創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 23:39:27 ID:8T057k8y
>>99
宇宙世紀舞台にしてる奴も既存のIFみたいなもんだし
別に構わないんでないの?
102創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 23:41:21 ID:OoHCcdO1
>>99
以下、>>1から抜粋

>・これまでのガンダムシリーズの二次創作でも、
>オリジナルのガンダムを創っても、ガンダムなら何でもござれ

つまりIF展開だってこのスレでおk
103創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 23:59:48 ID:8T0LR47A
 一年戦争の話で、一年戦争末期にザクフリッパーによる
偵察任務で、単独地球降下して目標降下地点から
ずれてヨーロッパ戦域の森の中に落ちて
連邦軍に追跡される。
 んで最後は
*何らかのジオンの有利になる情報を入手して死ぬ、
*終戦を知らずに殺されるとか
*捕虜交換で宇宙に返される
*もしくは、はじめから目標降下地点に降下して
フリッパーは破壊されるが宇宙帰還はする
 そんな話を書くんだと意気込んでいるのですが
きっかけとなる偵察目標について、いい案はないでしょうか
104創る名無しに見る名無し:2009/07/24(金) 00:21:33 ID:wDEBlSur
なんかどっかの地上基地から打ち上げられる新兵器とか条約違反のNBC兵器とか・・・
あるいは連邦側のニュータイプ研究所とか
なんかすごいニュータイプに追いかけられてがんばってデータ収集してしぼんぬ
105MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/24(金) 00:27:46 ID:gtsWATXc
>>103
・ティアンム提督、レビル将軍らの宇宙艦隊合流(打ち上げ)場所の特定

・連邦軍決戦兵器(ソーラーシステム)の設計図、または計画書の奪取


ぱっと思いついたのはこの2つ
時期はどちらもオデッサの後、ソロモンの前。
106創る名無しに見る名無し:2009/07/24(金) 00:47:57 ID:1SCzQxxR
末期だと地球にMSで単体降下してまで撮るものがなかなか思いつかないなぁ…

MS出すくらいなんだから対象はそれなりに大きいものだったりしなきゃいけないわけだし
・ベタに核弾頭やG3ガス弾、細菌兵器の貯蔵庫の様な場所
・新型ガンダムや新型戦艦(NT-1一機相手にコロニーごと核で燃やそうとしたジオンなら、事前調査としてフリッパー出すくらいするんじゃなかろうか)

くらいしか思い付かない
107MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/26(日) 18:27:32 ID:QxPfz0cy
蒼の残光  10.蒼の残光  その1


一部設定を修正。ブライト配下のフランク・カーペンターを少佐から大尉に変更します
108MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/26(日) 18:29:39 ID:QxPfz0cy
 リトマネン一党に対する哨戒活動を続けさせていたルロワ提督が幹部を招集したのは一
月十七日の事だった。
 ユウがアイゼンベルグ、イノウエと共にブリーフィングルームに入った時、既にブライ
トもスキラッチも中で待機していた。ユウは軽く一礼して席に着いた。
「何か判ったんでしょうか?」
 秘書官として出席を許されたシェルーが小声で訊いてくる。ユウは無言で首を振った。
実際にそれ以外の理由で臨時召集などかかるはずはないが、では何が判ったのか、それは
全く知らされていなかった。
 あるいは知らないのは自分だけかもしれない。ユウは思った。今自分はルロワやホワイ
トから信用されていない。情報漏洩のリスクを軽減するためにユウへのリークを極力遅ら
せる事はするかもしれない。
 予定の時間になり、ホワイトが口を開いた。
「――今日集まっていただいたのは、当然ヤン・リトマネンとアクシズ残党の動向につい
て、新たに判明した事実を伝えるためであります」
 聴衆側にスキラッチがいる事に配慮してか、ホワイトは最低限の敬語で話し始めた。
「信頼すべき筋からの情報として、彼奴等の目指す進軍ポイントが判明しました」
 スクリーンに宙域図が表示された。地球周辺のエリアだった。その中の一点が赤く光っ
てポイントされた。
「地球圏?」
 ブライトが声を出した。その位置は地球に程近く、周辺にはコロニーも軍事的な施設も
存在しない。
「そう、彼奴等はここを目指している。ここは現在の針路の延長線上にあり、その点から
もこの情報は信頼に足ると判断している」
「その信頼できる筋とは、どのような関係なのか?」
 スキラッチの質問は当然のものだった。それに対するホワイトの回答は同じく予想でき
るものだった。
「残念ですが、それを明かす事は出来ません。連邦に対し善意を持つ者、とだけはお答え
しましょう」
「……ふむ。それで、そこで何を始めると?」
「そこまで掴む事はまだ出来ていないようです。しかし、いくつかの標的を類推する事な
ら可能です」
 ユウは既にいくつかの標的について見当をつけ、可能性を検討していた。衛星軌道上に
あるレーザー通信衛星を破壊して情報網を破壊するか。同じく太陽光発電衛星(サテライ
ト・パワープラント)を狙うか。それとも――。
「直接地上の施設を狙う、なんて事もあるんですかね」
 アイゼンベルグが挙手と共に発言した。ルロワやホワイトが答えるより早くブライトが
否定した。
「いや、それは無理なはずだ。以前ティターンズがグリプス2を地球めがけて照射した場
合の被害を算出したが、ほとんど衛星軌道上に近い位置まで近付いても深刻なダメージは
与えられない、という結果が出ていたはずだ。それならばコロニーを直接落としてしまっ
た方がはるかに確実だと言う。そうでしたよね?」
 ユウもその話は聞いた事がある。大気を覆う雲や水蒸気、塵の影響は彼らの想像以上に
大きく、超長距離から宇宙艦隊を壊滅させる巨大レーザーもその熱量の大部分を吸収、拡
散され、地表に到達する破壊力は到底費やされるエネルギーに見合うものではないという。
もちろん、エネルギーを吸収した大気の温度は上昇し、気候や気象に大きな影響を与える
が、ブライトの言う通りコロニーを直接落としてしまう方が遥かに安価かつ効果的である
とされていた。
 ブライトの言葉にルロワも頷いた。
「そう、コロニーレーザーと言えども根本は光学兵器、宇宙から地上へ照射すれば大気に
よる減衰は免れん。しかし――」
 ルロワは一度言葉を切り、一同を見渡した。全員が後に続く言葉をそれぞれに予想して
いるのを見て、再び言葉を継いだ。
「極めて短時間の連射が可能であれば、つまり、一発目のレーザーで大気中の水蒸気を飛
ばし、それが再び戻る前に二発目を正確に同じ場所に撃ち込めれば、地表までその力を運
ぶ事が出来るかもしれん」
 全員が息を呑んだ。ユウやブライトのような歴戦の古強者ですら眉が跳ね上がる事を止
められなかった。
109MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/26(日) 18:30:49 ID:QxPfz0cy
「もちろん大気は一発目で激しい気流を起こし二発目をピンポイントで標的に当てる真似
は不可能だろう。しかしその熱量は確実に大地を焼き山を抉る事だろう。海に落ちれば大
規模な水蒸気爆発と共に津波を引き起こす」
 その場にいる、特に地球出身の者たちの脳裏に共通の光景が浮かんだ。故郷の地、その
上空から巨大な光の柱が落ち、町も、畑も、一瞬にして消失する。後には真っ黒に焦げた
大地だけが残り、人を含めた生物はその痕跡すら残さず蒸発して……。
「そんな事は許さん!」
『韋駄天』フランク・カーペンター大尉が烈しい口調で吐き棄てた。彼のように態度には
出さずとも、この場にいる全員の総意だった。
 スキラッチがこの場をまとめるように口を開く。
「ルロワ提督、事実だとすれば事は一刻を争う。早急に出撃の準備を整える事を進言する」
 ルロワは頷いた。
「スキラッチ中将の言う通り、事は巧遅より拙速を尊ぶ。今より三時間後、全軍を挙げて
出撃、敵艦隊殲滅及び多連装コロニーレーザーの破壊を行う」



 各艦艇には糧食、医薬品、弾薬など必要物資の搬入が急がれていた。ジャクリーンら整
備チームもMSの運搬を忙しく指示している。
 そこにアイゼンベルグとシェルーが近づいてきた。
「お疲れ様です、少尉。これ、どうぞ」
 シェルーがジュースを差し出した。ジャクリーンはそれを受け取る。
「ありがと。ユウは?」
「先に奥さんの様子を見てくると言ってました。その間はアイゼンベルグ大尉が隊長代行
です」
「ルーカスが?」
 ジャクリーンはアイゼンベルグをちらりと見た。
「大丈夫なの?」
「たいした信頼だな、おい」
 アイゼンベルグが笑いながら言った。
「まあ小隊の再編成なんかはもう終わって連絡も済ませてるからな。後は間違える馬鹿の
尻叩くくらいしかやる事はねえ」
「そうでしょうね。それで、サンディは何しにここへ?」
「私は資料運びです。中佐の書類は私しか正確に把握している者がいないので」
「ところでジャッキー、お前さんは今回は同行するのか?」
 ジャクリーンは首を振った。
「今回は留守番よ。機体整備は終わらせてあるしあとは各艦のクルーに任せてあるわ。そ
れより、どう?勝てそうなの」
「わからん」
 アイゼンベルグはあっさりと答えた。
「ただ、勝てなきゃかなりの大事になるわな。コロニー落としと同レベルの災害をエネル
ギー充填さえすれば何度でも引き起こせる史上最悪の兵器の誕生だ」
「本当に可能なんでしょうか。コロニーレーザーを連射して地上を破壊するなんて」
 シェルーの質問には二人とも沈黙した。
「どの程度の被害になるかだな。正直に言うが俺はコロニー落としの被害を直接見たこと
はないんだ」
110MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/26(日) 18:32:02 ID:QxPfz0cy
「私もないわ。月生まれだし、地上勤務の経験もないからね」
 映像としては消失したオーストラリアの一部やその衝撃波の被害を見たものの、そもそ
も地上というものを実感した生活をしていないのでどこか他人事のような感情しか湧かな
い。その意味ではサイド7からの難民を経験し、その後は地球で生活していたシェルーの
方が戦争の悲惨さを体験しているという点で想像力が働くかもしれない。
「まあ、勝つための作戦は提督連中が考えてくれるさ。運がいいことに連邦じゃ一番まと
もな指揮官も来てるんだしな」
「戦争で勝つのも大事ですけど、皆さん生きて帰ってきてくださいね。ご遺族への通達を
するのも辛いんですよ」
 シェルーの言葉にアイゼンベルグは驚いたような顔貌で彼女を見たが、すぐに破顔して
彼女の背中を叩いた。
「なあに任せておけ、きっちり勝ってきっちり帰ってくるさ。伊達に十年こいつで飯食っ
てるわけじゃないって所を見せてやるよ」
 ジャクリーンも何か言いかけたが、声に出さずに止めた。シェルーはそれには気づかず、
時計を見ると暇を告げた。
「もうこんな時間。大尉、そろそろ各隊の巡回に」
「ん、そうか」
「それではこれで失礼します、少尉。お邪魔しました」
「……ええ、それじゃ、頑張ってね、ルーカス」
 シェルーが一礼して立ち去っていく。アイゼンベルグもそれに続いたが、その直前、ジ
ャクリーンの肩に手を置いて言った。
「安心しな、隊長は死なねえよ。死なせやしねえさ」
 ジャクリーンはピクリと肩を震わせ、軽く目を閉じた。
「…………ありがとう」



「これから出撃する。すまんがもうしばらくここで養生していてくれ」
 ユウはマリーに告げた。
 マリーの体調はほとんど回復していたが、また出撃中一人にして倒れられてはと心配で
任務に集中できない。マリーもそれを承知しているから素直に頷いた。
「悪いな、出来ればお前についていてやりたいのだが」
「気にしないで、ユウ。あなたと暮らすと決めた時にもう判っていた事よ」
「すまん」
 マリーは笑った。
「あなたはいつも私に謝ってるわね。悪い事なんてしていないのに」
「そんなに謝ってるかな?」
「そうよ。プロポーズの言葉を覚えてる?『すまないけど一緒に地球に来て欲しい』だっ
たのよ。それにグリプス戦役で半ば勝手に宇宙に上がる時にも私に謝っていたわ。正しい
と信じてるなら謝らなくてもいいのに」
 ユウは苦笑した。
「俺は俺の判断が全面的に正しいと思った事は一度もないよ。今まで誰にも言った事はな
いがな」
「そうなの?」
 意外だった。
「先の事を見通す事など俺には出来ないからな。スペースノイドのお前を空気がきれいな
わけでもない地球に連れて行く事が正しい事なのか判らなかったし、グリプスの時は正義
がティターンズにない事は自信があったが、それでも万が一負ければお前は戦争犯罪人の
妻にされる。俺のせいでお前の人生が狂うかもしれん」
111MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/26(日) 18:32:44 ID:QxPfz0cy
 マリーは軽く声を立てて笑った。
「笑うとはひどいな」
「ごめんなさい。でも自分が正しいと思うなら迷わないで。私はそれについて行くから。
これは本心よ」
「……すまん」
「ほらまた」
 ユウは再び苦笑した。
「だが、ありがとう。楽になった。この前の調子だとお前はこの戦いにあまり賛成してい
ないと思っていたからな」
「……あの人たちの主張は間違ってないと、今でもそう思ってるわ。でも、もうあんなや
り方が通用する時代じゃない。あの人たちは亡霊なの。時代に取り残された亡霊。誰かが
呪いを解いてあげなくては」
「その結果奴らが死ぬとしても?」
 あえて訊いた。
「それでも、死ぬことも出来ずに彷徨い続けるよりはいいと思う」
「……そうか」
 ユウは踵を返した。
「そろそろ行かないと」
「行ってらっしゃい」
 マリーはユウの後姿に向けて言葉をかけた。
「ユウ……これで終わるのよね?」
 ユウは立ち止まり、答えた。
「終わらせるさ……この戦いはな」
 ユウは最後にマリーの顔を見た。泣いているような微笑を浮かべていた。


続く
112MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/26(日) 18:35:48 ID:QxPfz0cy
【キャラクタープロフィール】

フランク・カーペンター;
第13パトロール艦隊(ブライト艦隊)のMS隊長。大尉。ユウ同様エウーゴにもティターンズにも所属しなかった
地球連邦軍属一筋だが、グリプス、ネオジオン抗争通じて地上軍の所属であり続けた。第一次ネオジオン抗争では
アッシマーに乗り、降下してくるアクシズのHLVやMSを迎撃した。その高速機動戦法から『韋駄天(ファスター)
フランクの異称を持つ。黒髪に黒い瞳と姓名に反して東アジア系の特徴を強く持つ。0089年まで地上軍に所属しながら
突然ブライトの宇宙艦隊に配属された事と、非常の癖のあるアッシマーを完璧に乗りこなす技術を持ちながらこれまで
無名であった事などその経歴には不明な点が多い。にんじんが嫌い。
113MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/26(日) 18:37:48 ID:QxPfz0cy
この章で最終章になります。もうしばらくのお付き合いを
114創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 19:55:03 ID:KmBNoXYB
やっぱ連射型コロニーレーザーは怖過ぎるな

レーザー全部地表に向けて叩き込んだ後に
そのまま全部コロニー落としに突入したら
100%地球終了だな
115創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 20:38:32 ID:4ysplvpJ
ザクフリッパーの人は案がまとまったのだろうか……
116創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 22:21:16 ID:bP7W0rvb
それでも…それでもユウとブライトさんなら何とかしてくれる…
117Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/28(火) 18:41:07 ID:JmE8J6Ha
投下開始します
118Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/28(火) 18:43:26 ID:JmE8J6Ha
 ダグラスは、周囲に強烈なプレッシャーを撒き散らしながら、敵の気配を追っていた。並みの能力者なら、竦んで
動けなくなる程の気迫。

(この感覚は知っている。一人は流星群、もう一人は……あの子か! リリル……彼女の気配は遠ざかって行く。
 どうやら流星群が足止めをする気の様だな)

 ナッターは岩石群を物ともせず、高速で移動する。行けども、行けども、岩の海……。
 何も変化の無い空間で、ダグラスは敵意を察知した。遥か遠方の岩陰から、幽かに青緑色が覗く。

(……来る!)

 バゴォオン!!

 岩石を砕き、真っ直ぐに虚空を裂く閃光。メガビームがナッターを掠める……が、発射したΖU]の姿は無い。
息を殺し、数多の岩石の何れかに身を隠しているのだ。

(くっ、簡単には行かせてくれそうにない……。艦長、クーラー少佐、何とか持ち堪えてくれ)

 ダグラスは心内で祈った。高火力兵器を多数搭載し、機動力と超遠距離攻撃に秀でたヒマワリは、艦にとって最大の
脅威。しかし、強引に突破し様とすれば、ΖU]に虚を突かれるのは必至。感覚を研ぎ澄ませ、殺気を探る。
119Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/28(火) 18:46:51 ID:JmE8J6Ha
 岩石の開けた場所を移動するヴァンダルジアは、迫り来る飛翔体群を捉えていた。レーダー管制官が声を上げる。

「ビット来ます! フィン・ファンネル、12基!」
「この暗礁宙域で、苦も無くファンネルを飛ばすか……。砲座、弾幕張れぃ! 操舵、ランダム回避! 動きを
 読まれるな! 直撃だけは何としても避けろ! 管制官、クーラー少佐に機関部の防衛に回る様、伝えろ!」

 ヴォルトラッツェルは指示を出した後、立体レーダー映像を見詰めた。岩礁で狙撃ポイントは限られる。急所を
守りながら慎重に進めば、ファンネルだろうと恐れる事は無い。暗礁宙域を抜ければ、連邦軍の輸送艦レベルでは
ギルバート級に追い着く事は出来ない。

 ヒマワリのリリルも、暗礁宙域でのギルバート撃墜が容易でない事は承知していた。36基のフィン・ファンネルは、
修理が間に合わず、半数の18基。今の彼女に油断は無い。3分の2を攻撃に向かわせ、3分の1ずつを
交替させる方法で、間断無く攻撃。自身もビームライフルで加勢する。

 ……しかし、リリルは極度の緊張感に包まれていた。失敗出来ない任務故に、精神的な負担は尋常では無い。
いや、l本来の彼女ならば、プレッシャーは寧ろ力を引き出す要素に成り得るのだが……。

(サイコミュ・コントロールが上手く行かない……。この私が重圧に負けている!?)

 焦りが募る。自分は冷静な筈なのに、ファンネルが思う様に動いてくれない。ギルバートを包囲したまでは良かったが、
放たれるビームは明後日の方向。修理を急いだ為、サイコミュが故障したのかと疑った。

 リリルがファンネルを思い通りに操れない事を見切ってか、艦の護衛に就いていたQザクが、Iフィールドでライフルの
ビームを弾きながらヒマワリに向かう!

「こんなの、何が恐ろしい物か!!」

 リリルはQザクを睨む。能力を持たない者が幾ら挑んで来ようが、雑魚は雑魚。Qザクからもギルバートからも、全く
プレッシャーは感じない。その時、彼女は漸く不調の原因に気付いた。

「もしかして……インターセプト!? ダグラス・タウン……? いいえ、有り得ない……有り得ない!」

 悪寒が走る。有り得ないのだが、そうとしか考えられない。
 不定期に動きを止め、艦砲の的になるフィン・ファンネル。パイロットの思念波で動くサイコミュ操作が裏目に出た。
心成しか機体の動きまでが鈍く感じられる。迫るQザクのヒート・ソーを、辛うじてシールドで防ぎ、後退する。
120Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/28(火) 18:51:31 ID:JmE8J6Ha
 セイバー・クロスは岩陰に身を潜め、レーダーでギルバート周囲の戦況を確認しながら、バウ・ワウ・ナッターを
見張っていた。ダグラスは気を張り巡らせて警戒し、ギルバートに追い着きもしないが、離されもしない程度の速度で
漸進を続ける。

「動かないのは有り難いが……ロロ少尉、何を手間取っている?」

 セイバーは微かに苛立ちの色を見せ、疑問の言葉を吐いた。ギルバートは速度を落としたが、依然健在で
ダメージを負った様子も無い。対して、リリルのガンダムは性能の劣る1機のMSに圧され気味。

(何故ファンネルを有効に使わない! ……いや、使えないのか?!)

 思い至り、2度目の戦慄。彼は理解した。ナッターが動かないのは、サイコミュを妨害しているから!

「ダグラス・タウン、化け物か!?」

 増幅された思念波がサイコミュ兵器を乗っ取る現象は知っていた。しかし、遠方の……況して、目視距離外の物を
狙い澄ました様に、そして悟られる事無く、実行出来るとは思わなかった。
 セイバーは迷い無く飛び出し、ナッターに攻撃を仕掛ける。

「貴様だけは、貴様だけは必ず、ここで倒さねばならない! その能力は脅威だ! 剰りに危険過ぎる!」
「何を恐れる? 君も同じ能力を持っているじゃないか……」

 セイバーの焦燥と敵対心を感じ取ったダグラスは、妨害を止めてビームを避け、一人哀しく答えた。
 岩石の宙で、2機が追走劇を始める。
121Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/28(火) 18:57:56 ID:JmE8J6Ha
 妨害が止んだ事で、リリルは本調子に戻っていた。フィン・ファンネルは既に6基にまで減っていたが、問題外。
それだけあれば、並みの敵相手に後れを取る事は無い。Qザクから距離を取り、ハイパーメガライフルを構える。

 ビーム攻撃を防ぐ為、Qザクは艦とガンダムヒマワリの間に入り、強力なIフィールドバリアを展開させた。
 救護機の防御能力は、戦艦主砲級のビームに耐える。
 
 ビシュゥッ!!

 しかし、眩い黄緑色のビームの帯が放たれた直後、3基のフィン・ファンネルが射線上で陣を組んだ。
 フィン・ファンネルが発生させたIフィールドを潜り、ビームは3方向に拡散。Qザクを避ける。

「しまった!?」

 クーラー少佐はビームの1つを目で追った。分かれたビームは各々、待ち構えていた3機のフィン・ファンネルに
反射し、艦に向かって進路を変える。

 ドドォン……。

 下手に強引な回避をしなかったのが賢明だった。ビームは艦体を掠めたのみ。
 実は、それが最良の選択。リリルは1つを避ければ、他の2つが直撃する撃ち方をしていた。

 安堵の息を吐いたクーラーは、ヴァンダルジアを逃すまいと移動するガンダムヒマワリの後を、MA形態で追う。

「これ以上は、させない!」

 背後からアトミック・シザースで掴み掛かろうとしたが……ガンダムヒマワリは、ハイパーバズーカを投げ付けた。

「誰かさんみたいな事を! こんな物で……!?」

 クーラーが右のアトミック・シザースで叩き払おうとした瞬間、サイコミュ操作のバズーカが火を噴く!

 ドォオン!!

「ぐっ……味な真似をっ!!」

 爆発と同時に、右の鋏が吹き飛ばされるが、Qザクは怯まない。艦とヒマワリの間に飛び込む。

「それは自殺行為。大人しくしていれば、死なずに済んだのに……」

 冷たく放たれた一言。クーラーの行動を、リリルは見抜いていた。邪魔をするならば、容赦はしない。
 ビームサーベルを引き抜き、自らQザクに接近する……瞬間、敵意を感じた。左のシザーを盾に突撃して来る
Qザクに向かってバルカンを放ち、反動で後退する。

 リリルの居た位置に向かって来るのは、メガ粒子砲。放ったのはバウ・ワウ・アタッカー!
 彼女は先読みしてビームを避けたと思っていたが、それは早計だった。Qザクは強力なIフィールド発生装置を
備えている。Iフィールドに沿って曲げられたビームが分散し、ガンダムヒマワリを襲う!
 咄嗟にシールドを構えたが、全身を守るには面積が足りない!

 バドォッ!

 頭部が融解し、リリルはメインカメラと広域レーダーを失った。

「くっ……ハロルド・ウェザー、またしても! オールドタイプが私を阻むのか! 見えないから何だ! 私は未だ
 戦える!」

 少女は怒りを燃やし、感覚を頼りに攻撃を続ける。
122Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/28(火) 19:07:11 ID:JmE8J6Ha
 その頃、バウ・ワウ・ナッターとΖU]は熾烈な攻防を繰り広げていた。
 足止めに徹するセイバーは、ナッターの行く先に立ち、ショットランサーを警戒しながら、漂う岩石を利用して
進路を阻む。時には岩石を撃ち砕いて破片を散らし、時には岩陰から奇襲。しかし……。

(当たらない……。速度を落とさず、その上で傷一つ負わないとは……!)

 ダグラスの操縦技術は、能力と相俟って、凡そ人が到達し得る限界を超えていた。
 それに加えて、常に付き纏う嫌な予感。強い能力者は、弱い者を己の側に“引き込む”。刷り込まれるイメージに、
必死に逆らうセイバー。能力者同士、呑まれた方の負けなのだ。
 彼は解っていた。“能力では”圧倒的にダグラスの方が優れている事に……。
 此方は彼方に引かれているが、彼方を此方に引き寄せる事は出来ない。格が違う。

 対するダグラスも、敵を実力者と認めていた。セイバー・クロスは能力の支配下にありながら、巧妙精緻な業で
裏切ってくれる。

(抗うか……。3人目、久方振りだな)

 放たれたビームを際どい所で躱し、他人には決して見せない優越の笑みを浮かべる。ダグラスはエース級との
1対1の戦いを愉しんでいた。

(ナッターの速度に合わせ、常に行く手を遮る様に移動し、攻撃を仕掛ける。俺の予測を外して……。蒼碧の流星群、
 成る程、強い。しかし……)

 封じていた暗い悦びが心の扉を叩く。強い相手を残酷に打ち負かした瞬間、彼は己の能力に酔うのだ。
 数時間も弄べば、敵の精神はプレッシャーに潰され、崩壊する。強靭な精神力の持ち主は皮肉な事に、それ故に
長期戦に耐えて、再起不能に追い込まれる。

 しかし、今のダグラスには何より守るべき物があった。邪念に心乱される事無く、抜き去る事だけを考える。
 その時……。

「ダグラス・タウン! お前は自分の行動が、どんな事態を引き起こすのか、解っているのか?」

 セイバーの思念が届いた。ここまで明確な言葉では無いが、彼は確かに問い掛けていた。
 戦争の再開。失われ行く命。全てを承知の上で抗うのか……。

 ダグラスは応える。静かに、冷たく。

「当然だ。戦争の始まりが何だったのか……“何の為の戦争だったのか”を知らぬ程、愚かではあるまい。
 まさか太陽系支配が目的だ等と吐かした、連邦政府の妄言を鵜呑みになんかしていないだろう?
 我々は奴等の横暴を許せなかったのだ。重力に魂を引かれた愚者は、終戦後も態度を改め様としなかった。
 ……ならば、為すべき事は自明」
「再び戦争を起こした所で、このままでは御互いにとって良くない結末が待ち受けている!」

 “良くない結末”……。ダグラスは僅かに動揺した。彼にとっても未知なる部分。勝利か、敗北か……。
 二度負ければ、完全に、そして永久に、連邦に支配される。蜂起の芽は悉く摘まれ、牙を抜かれるだろう。
暗黒時代の到来である。しかし、不安を表には出さず、突き放す。

「それで? 君が連邦政府を説得するとでも?」

 ……セイバーは押し黙った。兵卒に過ぎない彼は、政治的には無力なのだ。

「次は“本当の”戦場で会おう」
「待てっ!」

 答えに窮した彼は、不意に速度を上げたナッターの通過を許してしまった。
 気付けば、目視出来る位置に艦の影。MAに変形し、急いで後を追う。
123創る名無しに見る名無し:2009/07/28(火) 19:09:39 ID:egxww3/F
    
124Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/28(火) 19:11:53 ID:JmE8J6Ha
 その頃、ギルバート級ヴァンダルジア攻防戦では……。

 視覚を失ったリリルだが、彼女とガンダムヒマワリは、アタッカーとQザクを相手に互角の戦いを続けていた。
しかし、2機の相手で手一杯。ギルバートを攻撃する暇は無い。

「はぁ、はぁ、何とか戦えている……? 違う、これは時間稼ぎ!」

 気は急く一方。息を整え、集中力を取り戻す。気配を頼りに攻撃。傍には無意味としか思えない行動を何度も
繰り返し、隙を窺う。一歩間違えば撃墜される虞を孕みながら、それでも攻めの手を緩める訳には行かない。
 敵は既に逃げの態勢に入っている。ここで必死にならなければ、取り逃がしてしまう。

 そこに光明が差した。接近して来る、セイバー・クロス中尉の気配。
 これが最後の好機と、意気込んだ時……。

 ドォン! 

「わぁっ!?」

 衝撃がリリルを襲う。彼女には何が起こったか理解出来ない。
 バウ・ワウ・ナッターの放ったショットランサーが腰部を破壊したのだ。ダグラスは同じ能力者相手に気取られない
術を心得ている。不可避の距離からの一撃で、確実にヒマワリの動きを止めた。
 盲目に等しい状態で仕方が無かったとは言え、リリルは能力に頼り過ぎていた。

 ガンダムヒマワリが戦闘不能に陥ったのを確認したヴァンダルジアは全速前進。敵機の攻撃から身を守る為に
隠れていた、岩石の密度が高い空間から離脱。
 それに続いて、アタッカーとナッターは連結し、Qザクは変形。速度を上げた艦を追う。

 全ては決してしまった。セイバーは速度を落とし、追撃を諦めた。こちらは1機だが、敵はバウ・ワウ、Qザク、
ギルバート級……全機健在。それが一同に揃っては手が出せない。
 そして、既に周囲の岩石は疎ら。暗礁宙域は、ここで終わり……。

 速度を増して遠ざかるギルバートを、セイバーとリリルは唯々、茫然と見送った。
125創る名無しに見る名無し:2009/07/28(火) 19:13:42 ID:egxww3/F
    
126Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/07/28(火) 19:16:11 ID:JmE8J6Ha
 ……遅れて、エルンストが2人に追い着いた。何も言われずとも、結果は雰囲気で察する事が出来た。
 己が任務失敗の一因である事を自覚していた彼には、何も掛ける言葉が無い。

 暫らくして、気不味い沈黙をセイバーが破る。

「任務失敗だ。これより帰艦する」

 その声は淡々としていたが、彼が気落ちしている事は、ニュータイプでないエルンストにも知れた。

「無理だったか……。いや、気にする事は無い。君は実によくやってくれた」

 セイバーから任務失敗の報告を受けたバージ艦長は、大きく溜息を吐き、外の景色に目を遣った。

 幾ら大義があろうとも、主流派に逆らう動きなだけに、日和見な連中は協力を名分程度に留める。
 敵艦を追うのに、武装の無いスザ級など、嫌がらせ以外の何物でも無い。
 必要な人員を確保出来ず、スイーパー組織の手を借りたが、足許を見られて命令権を拒まれ……。
 地球連邦軍御用達を目指す、潰れ掛けの研究所の協力を取り付けても、高信頼性・高性能製品では無く、社運を
賭けた試作品を回される破目に……。
 始まりからして、無謀な試みだったのだ。

 ……再び、溜息が漏れる。仮に今度の戦争で連邦側が敗北した場合、その責任の一部は彼が負う事になる。
 如何なる理由があろうと、ギルバートを止められなかったのは事実。理不尽だが、言い訳が通用する程、甘くない。

(今となっては過ぎた事だ……。物事は成る様にしか成らん)

 俯いて首を横に振り、顔を上げて虚空を睨む。
 ……暗礁宙域を移動するスザ級。その遥か後方に、純白の艦が映った。
 バージ艦長は目を疑った。

「後発の艦がペリカンに追い着くだと? 我が軍に、スザ級を上回る航行速度の大型艦は存在しない筈……。
 まさか……新型! あれが、グィン級か!」

 白いドーム状の艦体から、スペースアーク級の艦首が突き出している。首の長いカミツキガメの様な外観。地球
連邦軍の最新艦、グィン級旗艦アルマゲスト。これの意味する所は……。

「終わりだ……。私に出来る事は、もう何も無い……」

 バージ艦長は悲嘆に暮れ、絶望に拳を震わせて嘆いた。
127創る名無しに見る名無し:2009/07/28(火) 19:18:12 ID:JmE8J6Ha
>>125
支援かな? ありがとう!
さて13話だったか終わりです。
話も折り返しに入りました。
128創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 21:35:23 ID:/v6PG8vK
おっつんつん
129創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 00:34:43 ID:EvGGGw54
IDがGGGだったのでこちらのスレに書き込むと良いと言われたのでパピコ!
130MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/07/30(木) 00:47:49 ID:QTk30spU
ガオガイガーとガンダムのコラボを書けと
131創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 00:49:32 ID:83LAg4tK
いや。
Gが付いてるってだけで薦めただけなんだよね。
132Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/01(土) 10:07:17 ID:EQ3dSOfT
ささっと投下
133Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/01(土) 10:08:10 ID:EQ3dSOfT
 ヴァンダルジアは真っ直ぐ木星へと進路を取る。
 帰艦したハロルドとダグラスは足どり軽くブリッジに向かった。

 任務は完了したも同然と、安堵の色を浮かべるローマンに、入室して来たハロルドが尋ねる。

「これから、どうするんだ?」

 ローマンは彼を一瞥し、久方振りの無表情で答えた。

「ヘーラーに向かう。そこで晴れて君達は自由だ」

 小惑星を居住基地に改造した不落の砦、木星衛星要塞ヘーラー。木星主要都市の1つでもある。
 ローマンの答えを聞いたハロルドは、ダグラスに声を掛けた。

「戦争再開まで、数日は猶予があるだろう。ミレーニアに戻って、家族を安心させてやれよ」

 ダグラスの生まれ故郷、ミレーニアは、人口1億を擁する木星圏最大のコロニー。ヴァンダルジアには、彼以外にも
ミレーニア出身者が数名いる。

 親友に気遣われたダグラスは、肯定の返事をする前に、彼に問い掛けた。

「ハル、お前は……どうする?」
「土星に帰る。俺を待ってる奴なんて居やしないが、それでも俺の故郷なんだ」

 ハロルドには身寄りが無い。自由の身になっても、彼は独り……。
 何処か悲し気なハロルドに、ダグラスは提案した。

「……その前に、ミレーニアの家に寄って行かないか? 俺の両親と妹にも、お前の無事な姿を見せたい」
「止してくれ。何て言うか……お前の家族は温か過ぎて、独り身には堪える」

 学生時代から、ハロルドはダグラスの家族と面識があった。実の息子とはタイプの違うハロルドを、ダグラスの
家族は自然に受け入れ、まるで幼少の頃からの知り合いであるかの様に扱った。
134Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/01(土) 10:13:37 ID:EQ3dSOfT
 ダグラスは照れるハロルドに、それとなく言う。

「約束したんだろう? 戦争から戻ったら、会いに行くって」
「手前っ、聞いてたのか!?」
「可愛い実の妹の事だからねぇ……」

 半回り若く、未だ幼さを残す妹を、ダグラスは所謂“出来た妹”と評する。
 ハロルドが突撃隊に参加してアステロイドベルトを越えると知った彼女は、戦争後に木星に立ち寄り、再び会いに
来る様にと約束させた。
 曰く、命を懸けて戦う者には、帰る場所が必要なのだと……。
 恋人同士と言うには浅い関係で、ハロルドは彼女を飽くまで“親友の妹”としてしか扱わなかったが、その真剣さに
負けて肯いてしまった。
 当のハロルドは、その場凌ぎに答えたので、口約束に過ぎないと破棄する気でいたのだが……。

 色を成したハロルドを冷やかしたダグラスは、不意に真顔に戻って詰め寄った。

「人の妹に手を出しといて、逃げるのか?」
「未だ何もしてねえよ!」
「……どういう意味だ?」
「どうって……」

 ダグラスは小さく笑って、言葉を濁したハロルドの肩に片手を置く。

「寄って行け。言い訳は本人の前でしろ」
「いや、それは……」

 ハロルドが返事に迷っていると、ダグラスはヴォルトラッツェルに真剣な声で命令した。

「……艦長、ミレーニアに向かってくれ」
「しかし……」
「直ぐに!!」

 戸惑うヴォルトラッツェルに向かって、声を荒げるダグラス。周囲の者は何事かと注目する。
135Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/01(土) 10:18:41 ID:EQ3dSOfT
「ど、どうした? お前ん家には行くから、落ち着けよ」
「違う、そうじゃない!!」

 凄まじい剣幕で怒鳴るダグラスに、ハロルドは鬼気迫る物を感じた。
 そこにローマンが口を挟む。

「何があろうと、進路は変更しない」
「貴様は黙っていろ!!」

 ダグラスは型通りの言葉しか発しないローマンに対して、怒りを露にした。艦橋内の空気が一変する。
 彼がここまで感情を剥き出しにするのを、今まで誰も見たことが無かった。射殺す様な目付きのダグラス。
 ハロルドが宥めに掛かる。

「……ダグ、何かを感じ取ったんだな?」
「悍ましい悪意がミレーニアに向かっている! 早く……早く止めないと……!」

 ダグラスは恐怖と焦燥で体を小刻みに震わせ、冷や汗を浮かべていた。表情は強張っている。
 ハロルドはローマンを睨み、己の意志を明確に表した。

「ミレーニアに向かう」
「許可しない」

 ……だが、そんな事で態度を変えるローマンではない。飽くまで冷淡に撥ね返す。

「手前が何と言おうが……」
「全てはコロニー連合総代表アーロ・ゾット閣下の意思だ」

 彼は続けてハロルドの言葉を遮った。
 “閣下の意思”……総代表に敬意を示すダグラスにとっては、究極の殺し文句。

「……従えない。仮令、それが閣下の意思だろうと」

 しかし、ダグラスは声を震わせて答えた。尊敬する総代表の名を出されても、家族や友人の命には代えられない。
揺らぐ心を抑え、彼は暗示を掛ける様に、心内で何度も繰り返す。

(従えない。あの御方が何を予期していたとしても……従えない)

 ダグラスの総代表に対する信頼と忠誠は、ローマンに劣らない。誰に罰せられる訳でないが、意に背く事は
罪悪とすら感じる程に……。総代表を“知る”者は、皆そうなのだ。

 ローマンは一瞬だが、僅かに驚いた表情を見せた。総代表を“知る”者で、その意向に大人しく従わなかったのは、
彼が初めてだった。
136Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/01(土) 10:21:04 ID:EQ3dSOfT
 一連の遣り取りを見ていたヴォルトラッツェル艦長だったが、彼はどちらの命令に従うべきか判断出来なかった。
 艦橋中の責める様な視線が、ローマンに集まる。
 突撃隊には、ダグラスの直感で窮地を乗り切った前例がある。誰もがローマンの命令変更を期待していた。

 やれやれと肩を竦めて見せたローマンは、両手を広げ、周囲に向かって言い放った。

「ミレーニアに行きたければ、行けば良い。但し、出撃は許可しない。理由は……その時に解る」

 心底、呆れた様な表情……。
 ヴォルトラッツェルは、不安を抱きながらも、ミレーニアに向かう様、操舵士に命じた。
137Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/01(土) 10:25:46 ID:EQ3dSOfT
 進路を変え、ミレーニアに向かうヴァンダルジア。不安を隠せない一同の中で、ローマンだけが無表情で佇んでいる。
 レーダー管制官が1隻の艦を捉えたと報告したのは、ミレーニア到着を目前にした時だった。艦橋内に緊張が走る。

「スクリーンに映し出せるか?」
「はい。しかし、これは……」

 ヴォルトラッツェルの問いに、管制官は震える手で映像を切り替えた。
 そこに現れたのは、白い巨艦。グィン級アルマゲスト……。
 全員が驚きの表情を見せる。ローマン以外。

 カラーリングからして、地球連邦軍の艦に違いない。それが何時、木星圏に来たのだろうか? そして何故、
ミレーニアに向かっているのか?
 疑問は尽きないが、ヴァンダルジアの乗組員の注目は、敵の新型艦には無かった。

 視線を釘付けにしているのは、アルマゲストから出撃する、24機の白いMS。
 漆黒の世界で、存在を誇示するかの様に往く。

 先頭を行く隊長機は、翼を持ったガンダム、ウィングガンダムパワーズ。
 その後に、横一列に並んで高々とビームフラッグを掲げた3機の量産型ガンダムFCC。
 統率の取れた行進で続く20機は、十字架を背負った咎人……量産型ガンダムXウィズクルス!

「X隊……!」

 ヴォルトラッツェルは蒼褪めた。血の気が引き、軽い眩暈に襲われる。
 乗組員の中には、気力を失い、膝を折って座り込む者までいた。

 “破壊のX隊”。コロニー連合軍突撃隊で、この名を知らぬ者は居ない。
 地球上での戦闘後、ユノーに一時撤退した突撃隊に差し向けられたのが、このX隊である。
 X隊は“ユノー諸共に”突撃隊を葬り去ろうとした。小惑星基地内部には、地球連邦に属する民間人が未だ多数
残っていたにも関わらず……。

 20機の破壊天使が放つ、40門のサテライトキャノン。
 何とか全艦避難させる事に成功した突撃隊だったが、最後まで時間稼ぎに残った者は全滅。“第2の月”は欠けた。
 その恐ろしさに大半の兵は戦意を失い、突撃隊は何も出来ず後退するしか無かった。
 終戦前日の事である。
138Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/01(土) 10:40:01 ID:EQ3dSOfT
 そのX隊がミレーニアに……。目的は明白。即ち!

「無抵抗の人間を皆殺しにする気か!?」

 声を上げたハロルドに、ローマンは得意気に言う。

「これで解ったろう? さ、ヘーラーに向かうぞ」
「待てよっ!! ミレーニアの人々を見殺しにするのか!?」

 拳を握り締めて熱り立つハロルドだが、ローマンの彼を見る目は冷たい。

「犬死したいのか? 相手は1個大隊相当。この戦力で、どうにかなる相手ではあるまい。諦めろ。それに……
 “こちらから”攻撃を仕掛けるのは好ましくない」

 正論だろう。しかし、ダグラスの感じた悪意は本物。X隊は間違い無くミレーニアを攻撃する。
 それを知っていながら、誰も行動を起こそうとしない。皆、俯いてハロルドから目を逸らした。
 ……仕方が無い。突撃隊が止められなかったX隊を、1隻と2機で相手するのは、無謀に過ぎる。
 
 ハロルドは黙ってローマンに背を向けた。

「ダグ、行くぞ」
「ああ」

 迷い無く答え、彼に続くダグラス。ローマンは焦った。

「ここまで来た以上、私には君達を無事にヘーラーまで送り届ける責務がある! 勝ちの無い戦いに、出撃は許可
 出来ない!」

 彼は正しい。腕に覚えがあるとは言え、ハロルドとダグラスもX隊を倒せるとは思っていない。退かせる事すら
不可能に近いと承知している。それでも黙って見過ごす訳には行かなかった。
139Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/01(土) 10:42:25 ID:EQ3dSOfT
 ハロルドはダグラスを先に行かせ、振り向いてローマンを一笑に付した。

「勝ち負けじゃねえよ……。男には一生に一度くらい、引けない時が……“引いてはいけない”時があるのさ。
 ここで逃げたら絶対に後悔する。自分を呪いながら生きて行くのは、御免だぜ」
「馬鹿な事を! 死が恐ろしくないのか! 況して犬死など……!」
「故郷と仲間を守って死ねるんなら、他には何も要らねえ! これぞ軍人、無上の誉れよ! 戦友がエリュシオンで
 待っているぜ……」

 全く聞く耳を持たないハロルドだが、ローマンは尚も食い下がる。

「一時の感情に流されるな!! 君達が行った所で、何が出来る!?」
「……“何が出来る”って?」

 ハロルドは再び足を止め、乾いた笑いで応えた。

「ははっ、そいつはユノーで俺が言った台詞だ。上官命令だってのに、あの馬鹿共は勝手に逝っちまった……!
 今度は俺が代わりに、あいつ等の故郷を守らないとな」

 ユノーから退避する時間を稼ぐ為に、命を捨てた仲間がいた。
 彼等は“決死隊”の先陣を切ろうとしたハロルドを止め、故郷の平和と未来を託した。
 強気を貫き通して来た自分を信じて逝った戦友を、裏切る訳には行かない。

 しんみりとした空気になり、ハロルドは最後に指揮座に声を掛けた。

「なあ、艦長……そうだろう?」

 返事は聞かずに踵を返し、格納庫へ走る。ヴォルトラッツェルは黙して静かに俯いた。
140創る名無しに見る名無し:2009/08/01(土) 10:48:25 ID:EQ3dSOfT
14話終。
連投失礼しました。
141創る名無しに見る名無し:2009/08/01(土) 20:20:19 ID:uE5iaxSR

age
142創る名無しに見る名無し:2009/08/01(土) 22:01:05 ID:65EW8IVA
supreme【形】
1:最高位の、the Supreme Court……最高裁判所
2:(程度・質が)最高の、最大の、a supreme artist……最高の芸術家

 アームレイカーにのせた手の指が、僅かに動いて機体に突出を命じる。
 瞬間、強力なGが華奢な痩身をシートへと押し込んだ。
 黒歴史より蘇りし、旧世紀の遺産が……シミュレーションに忠実に再現された、データ上のモビルスーツが漆黒の宇宙に吼えて翔ぶ。朱色に白地の人型は、その質量に倍する以上の推進器と火器で埋め尽くされ、既に四肢の区別は無い。
 それはどこか、歪なまでに正当な進化を続け、その袋小路に迷い込んだ恐竜のようだった。異形の竜に振られたインデックスの名は……ガンダム。
 モビルスーツ? これは司書の記録間違えではないだろうか? だが、確かにモビルアーマーではなくモビルスーツとして、この『MSA-0011 PLAN303E』のデータは冬の宮殿に眠っていた。

SUPREME――《最強》

 まさしく、このモビルスーツが頂く"S"の文字はそれだと、エンテ=ミンテは胸中に呟く。
 刹那、アラームと同時にフルスクリーンのモニターを火線の光が塗り潰した。長距離からの艦砲射撃に、動じる事無く機体を翻して回避運動。AMBACとアポジモーターを駆使して、巨体を感じさせぬ運動性能でメガ粒子の濁流をガンダムはすり抜けた。
 同時に、遥か遠方の虚空に浮かぶ艦影を電子の眼が探し当てる。ガンダムはまるで、意思ある生き物のように勝手に目標をロックオンすると、攻撃に最適な武器を選択するやトリガーを回してくる。機械然とした冷徹な判断に、エンテは妙な生々しい違和感を感じた。
 その正体を本能的に探り当てれば、言葉は勝手に口をついて出る。
「このモビルスーツは……母親気取りか、ガンダムッ!」
 スイッチと同時に、背部にマウントされた長大な砲身から苛烈な光が迸った。確か解読した記録では、当時の戦艦に艦載される主砲を、そのまま流用したとか。その威力は絶大で、スクリーンに光る光点が一瞬で爆散する。
 同時に、蜘蛛の子を散らすように発艦する機影、三。エンテがその数を確認した時にはもう、ガンダムの爆発的な加速が距離を食い潰していた。
 ――轟ッ!
 真空に伝わぬ筈の音を聞いて、散開する敵機の中央をガンダムが突破する。急制動、急旋回……激しいGに肺の空気を圧搾されながら、エンテは素直にセレクトされた武器に発射を命じた。速射式のビームスマートガンが火を吹き、ビームが縫い目となって宇宙を走る。
 回避中の敵機が光の礫を浴びて火を吹き、煌々と闇を照らす爆発が背後に遠ざかった。
「小回りは、利かないな。この間の、重装っ、フルアーマーッ! ガンダム七号機とやらに近い感覚だ」
 歯を喰いしばって横Gに耐え、背後に回り込んだ残りの二機を、振り向き様のビームカノンで叩き落す。相手が同じ時代からチョイスされた『RMS-154』だと知った時には、最後の一機は攻守が逆転して、目の前を必死で逃げ回っていた。
 頭部バルカン砲での牽制を提言するガンダムに逆らい、フル加速を念じたところで不意にシミュレーションの終了を告げる音。
「ふう、悪くない。スプリームガンダムか」
「スペリオルガンダムだよ、ミンテ少尉。今日のテストは終了だ。全く、君は任務を解っているのかね?」
 ノーマルスーツのヘルメットに響く上官の声へ、エンテは悪びれなく無邪気に、しれっと答える。
「ハッ、黒歴史に記録された『実際に実戦経験のないモビルスーツ』の評価試験であります」
「正解だ。解っているなら、この間のようなことはやめたまえよ」
「この間、と申しますと……あの、重装フルアーマーガンダム七号機の件でありますか?」
「そうだ! 今もやろうとしたろ! 主砲でゴン、零距離でドカーン! ……馬鹿か君は!?」
「お褒めに預かり、光栄であります」
 既に映像の消え失せたモニターに囲まれ、シミュレーターシートの中心でエンテは口煩い上官に舌を出した。
「それで、大佐。私は……次は何に乗ればよいのでありましょうか?」
 それだけ言い捨てて、ヘルメットを脱ぐ。絹糸がほころぶように長い黒髪がさらりと靡き、密封されていた汗の香る甘い体臭がコクピットに拡散していった。

143創る名無しに見る名無し:2009/08/02(日) 05:46:43 ID:I4FuHygA
かっこイイ!
強気なお姉さんは大好物です!
黒歴史ってことは∀?
144創る名無しに見る名無し:2009/08/02(日) 07:20:42 ID:29hPOiq1
>>143
ディープストライカー無双がしたかった、今は反省している。
∀世界、ムーンレイスの軍にこんな仕事ないかな、と妄想してみました。
今後も時々こっそり、勝手に趣味で色んな世界のMSを乗り回したく思います。
因みに皆さん、「設定しかないけど活躍が見たい!」ってMSあります?
145創る名無しに見る名無し:2009/08/02(日) 10:08:29 ID:kdto0psi
量産型ビグザム、量産型νガンダム、リ・ガズィ・カスタム、ヤマトガンダム、ウイングガンダムアーリータイプ、OOガンダムセブンソード……ガンダムばっかだけど挙げだしたらキリがないな
146創る名無しに見る名無し:2009/08/02(日) 13:02:01 ID:29hPOiq1
 今と同じセイレキ、しかし今の"正暦"とは違う"西暦”。
 太古の人類は嘗て、きたるべき対話に備えて挑戦を試みた……遠い祖先が挑んだのは『戦争の根絶』である。
 それはどこか、ディアナ=ソレルの目指す世界に近いと、エンテ=ミンテは素直に思った。
 最も、その目的が同じベクトルを向いていても、そこにいたる道程、手法が同じとは限らない。だからこそ、シミュレーション内でエンテを内包して大気に沈む、このガンダムが黒歴史に刻まれたのだ。
「これが、地球か。確か映像や環境データは、先の地球帰還作戦で得た物の流用とか」
 大気圏を突破した機体を蒼穹に翻して、緑の大地へとエンテは沈んでゆく。四肢を伸ばし、その空気を全身で浴びながら。迫る南アメリア大陸は直ぐに視界一杯に広がり、交戦ポイントが近付くや、エンテは細い指をアームレイカーへと走らせる。
 両肩にマウントされたGNドライブが光輪を滲ませ、機体に浮力が発生した。空に浮かんだ二つのゼロは、互いを結んで宙に∞を象る。そして――

 ガンダム、大地に立つ。

 機体越しに地球を感じて、それが虚構と知ってさえエンテは興奮に頬を上気させた。風がそよいで若葉が匂い、川は命を育み海へと注ぐ。厳しくも豊かな大自然を抱く、母なる星……地球。
「ミンテ少尉、呆けているのではないだろうな? 先ずは三機、腕前を見せたまえ」
 上官の声に思惟を現実へ引き戻されたエンテは、幾重にも連なりそびえる巨躯を見定めた。火線が殺到するや、躊躇わず地を蹴る。
 重々しい足取りで迫る《兵器》はモビルアーマー、『MA-09』……ビグザムとかいう要塞攻略用の量産型だ。対するエンテが駆るのは、七つの刃を携えた全身《武器》のガンダム。
「前にディアナ様が仰った。《武器》とは、戦いに本能が《文化》を求めた道具だと」
 尾を引き乱れ飛ぶミサイルを連れて、ガンダムが敵へと疾駆する。抜剣の煌きに粒子の刃が形成されるや、身を捩って背後の追跡者達を切り払う。
 爆風にあおられる事なく、そのまま体を逃がしてGNビームサーベルを投擲。それは一体のビグザムに吸い込まれ、僅かに体勢をよろめかせた。
「同様に《兵器》とは、知恵が《文明》に戦いを求めた道具……難しい仰りようをっ!」
 ツインドライブが唸りを上げて、ガンダムが吼えた。
 雌雄一対のGNソードUを腰から抜くなり、手負いのビグザムへと斬りかかる。左右の連撃を浴びせるや、見上げる巨体が崩れ落ちた。その瞬間にはもう、次のビグザムから迸る灼熱の光芒に照らされ、エンテのガンダムは大地を転がる。
 溶解した剣を手放し、両足のGNカタールを構えてガンダムが全身をバネに翔ぶ。見上げるビグザムの中心に十字傷を刻むや、エンテはフルパワーでその中心点に刃を捩じ込んだ。また一機、ビグザムが火柱を上げて沈黙。
「三機目は……上っ!?」
 突如、巨大な影が頭上を覆った。跳躍したビグザムが、巨体を揺るがし降ってくる。回避……間に合わない!?
 その刹那、エンテは黒歴史に記された変革者達の福音を聞いた……ような気がした。
「――トランザムッ!」
 轟音と共に着地するビグザムの下から、地を這う影の様に低い姿勢でガンダムが飛び出した。真紅に輝く機体が左手を伸べ、緑の大地を掴んで制動をかける。土色の直線を描きながら停止するや、右手がGNバスターソードUを掴んだ。
 最後の一振りを横に構えて、フル加速に身を軋ませ息を詰まらせるエンテ。眩い光となって、飛ぶように馳せるガンダムが雲を引く。
 剣気一閃――振り向くビグザムの胴を一撃で薙いで両断し、そのままガンダムは高速で払い抜けた。
 変革の紅い光が終息してゆくと、シミュレーション終了を告げる音が響いた。
「人を模して《兵器》を造り、《武器》を持たせて戦う。これが、黒歴史……ふう」
「何か言ったかね? ミンテ少尉。御苦労だった、後でレポートを提出したまえ」
 エンテは暗鬱さと高揚感がない交ぜになった気持ちを振り払うように、ヘルメットを脱ぎながらコクピットのハッチを開放した。
 提出したレポートで、彼女は『GN0000/7S』に対して、条件付でトリプルSの評価を下した。
147創る名無しに見る名無し:2009/08/02(日) 14:28:31 ID:kdto0psi
おお、すごい。本当に書いてくれるとは。しかもこんな短時間で。
乙でした!
148創る名無しに見る名無し:2009/08/02(日) 18:01:41 ID:29hPOiq1
>>147
読んでいただいてありがとうございます。
列挙されたMS、自分はどれも好きで迷いました。
リガズィカスタムや量産型ν等、CCAMSVも好きだし、アーリーもヤマトも好きだし…
もし、読んで楽しんでいただけたなら、これ幸いと存じます。
他の皆様もよければ、好きな「設定だけMS」を教えて戴ければ嬉しいっす。

因みに最初はヤマトガンダムで、スーツ着用シーンでエロエロ…
そんなことをついつい考えてしまったのは、ここだけの秘密です。
149創る名無しに見る名無し:2009/08/03(月) 17:43:13 ID:oll+aODB
設定だけって言うとF90シリーズとかガンダム8号機とかメガゼータ…とか?
150創る名無しに見る名無し:2009/08/03(月) 21:40:40 ID:WOb3yhI3
 究極の汎用性――それは即ち《万能》を意味する。
 戦場を選ばず、あらゆる戦局の全レンジに対応できるモビルスーツ。嘗て人類は、その命題に一つの答を見出した。マルチロール、マルチタスク……その到達点を今、エンテ=ミンテは飛翔させる。
 漆黒の宇宙にスラスター光を閃かせて、『F90』の一号機が背後の敵機を振り切った。
 ――筈だった。
「振り切れない!? 小回りはあっちが……上かっ!」
 フルパワーでの加速から一転、急上昇。エンテは華奢な痩身をシートに沈めながら、ロックオンを警告するアラートを聞いた。同時に衝撃がコクピットを襲い、オールビューモニターの映像が歪んでダメージを告げる。
 回復したモニターの隅を、一撃離脱で去ってゆく二号機が……『F90U』が通り過ぎた。
「五勝七敗……これで八敗目かね? ミンテ少尉」
「大佐、まだやれます。ミッションパック、強制パージ」
 火柱を吹き上げる背面のミノフスキークラフトユニットを強制排除、同時に両手両足のプロペラントタンクもかなぐり捨てる。
 エンテは軽くなった機体の腰部マウントラッチからビームバズーカを手にすると、旋回する敵機を目で追った。
 単純に今回は相性が悪かった。
 エンテが選んだミッションパックは、長距離侵攻用のアサルトタイプ……機動力と足の長さがウリだった。対する相手は、迎撃戦に特化したインターセプトタイプ。
 今回、評価試験の対象となった機体は、状況に応じて多種多様なミッションパックを換装し、様々な局面に対応できるモビルスーツだった。その欲張りな仕様もさることながら、一回り以上小型なことにも驚かされる。
「同じガンダムでこうも……ん? 今、私はガンダムと言ったか?」
 ビームバズーカから光が迸り、宇宙の深淵を照らして目標を擦過する。エンテはカートリッジを交換しながら敵機の機動を追って、己の口から出た意外な言葉を反芻した。

 ――ガンダム。

 それは黒歴史に刻まれた、特別なモビルスーツ達の名前。
 あらゆる時代に存在し、エンテ自身何度もシミュレーターで乗ってきた。先の地球帰還作戦でも、ギンガナム艦隊の暴走を止めたヒゲのターンタイプを、ガンダムと呼ぶ者は後を絶たない。
「世界は、ガンダムを……求めている? いや、ガンダムが世界を纏っているのか」
 敵機がエンテの射撃を嘲笑うかのように、急反転で突進してくる。最後の一発をお見舞いするや、エンテの操作でガンダムはビームバズーカを手放した。同時にビームサーベルを抜刀して構える。
「バイオ・コンピューター、システム介入……アシスト開始。いくよ、《A・R》っ!」
 ガンダムの双眸に光が走った。
 真っ直ぐにビームランスを構えて、敵機が突進してくる。対してエンテはビームサーベルを片手にフルブースト……真っ向から両者はぶつかった。
 同時にシミュレーションが決着のブザーを響かせる。
「ほう、引き分けに持ち込んだか……五勝七敗一分だな、ミンテ少尉」
「ミッションパック次第ですが、この機体なら戦場を選ばぬ柔軟な運用が期待出来るかと」
「まあ、コストを無視すればそうだろう。……ほう、今の一戦は相手に《C・A》を使わせたか」
 高性能かつコンパクトな機体に、バイオ・コンピュータの搭載……そして、戦局に応じた無数のミッションパック。これだけ見れば高評価だとエンテは思うのだが、どうやら大佐の意見は違うらしい。
 このガンダムは……ガンダムF90というシステムはあまりにもコストが高すぎた。他の時代の全てのガンダムと同じく。
「……大佐、ガンダムとは何でありますか?」
「それを調べるのも我々の任務だよ、ミンテ少尉」
 黒歴史は黙して語らず、ただその中に刻まれた戦いを、それを演じたモビルスーツを無言でシミュレーション内に再現するだけだった。
151創る名無しに見る名無し:2009/08/03(月) 22:25:02 ID:BwBF5EW2
F90の3号機は一応マンガになってたっけ
いやしかし文章の質と筆の速さに感服するッス
152創る名無しに見る名無し:2009/08/03(月) 22:27:26 ID:ce6LxULQ
F90ktkr!相変わらず短時間でこのクオリティは凄い
153創る名無しに見る名無し:2009/08/04(火) 00:11:25 ID:7r/fczm2
ちょ、すごいスピードだなw
イボルブを小説の企画にしたらこうなるんかねぇ

ともあれ乙
154創る名無しに見る名無し:2009/08/04(火) 01:25:55 ID:vMSsRXvx
これはまたすごい人が現れたな…わっふわっふる
俺はジム・スパルタンが見たいかなぁ…これって設定だけだったよね?
155150:2009/08/04(火) 07:22:50 ID:jQ/Ohw1D
読んでくださった皆様、ありがとうございます。
ガンダム8号機は設定画が見つけられませんでした…ホントに設計のみで終ってるんでしょうか?
メガゼータはアムロ&ジュドーの豪華タッグで、あのイデ○ンと戦っちゃったやつですよね。
そんな中、A〜Zまであるのに大半のミッションパックが設定オンリーなF90を今回はチョイス。

>俺はジム・スパルタンが見たいかなぁ…
了解、ちょっと資料を拝見しましたが、これは書きがいのあるいいジム…ゴクリ
156創る名無しに見る名無し:2009/08/04(火) 21:49:05 ID:jQ/Ohw1D
 頬を伝う汗を手の甲で拭って、エンテ=ミンテは蒸した空気に溜息を一つ。着崩した制服が汗で肌へと張り付く。
 普段より狭いシミュレーター内は、黒歴史が記録するモビルスーツを、それが運用された環境ごと再現している。
 ――息苦しい。東南アジア特有の高温多湿な空気が、焦れる気持ちを苛立たせた。
 正面のみの視界は激しいスコールに煙る。左右は計器類が埋め尽くし、狭いコクピットがエンテを心身共に圧する。否応無く、自分がモビルスーツの一部だと自覚させられた。
 前後左右、僅か1メートルもない空間に収められた、このモビルスーツの中枢。そう、パイロットはモビルスーツと一心同体……最も高価で、性能にばらつきのある《部品》だった。
 胸元の襟を掴んで、じっとりと濡れた汗の匂いに顔をしかめる。月で生まれ育ったエンテには、地球の気候がこんなにも多彩だとは思わなかった。普段から天空に仰ぐ水の星は、地域によってこんなにも違う顔を覗かせる。
「……来た。大佐、仕掛けます」
「よし、やれ。評価試験開始……君がガンダムに乗せられてるだけの腕ではないと、証明してみせろ」
 インカムに短く「了解」と呟くや、ジャングルに身を潜めていた乗機が僅かに身震いする。バイザー状の頭部センサーを跳ね上げると、全武装のセフティを解除。
 目の前をズブ濡れで撤退する歩兵と車列の中に、モビルスーツの巨体を発見……エンテは普段とは勝手の違う操縦桿を握る。
「ジムは確か、ガンダムの制式量産型と聞くが。妙な話だ、試作機より量産機の方が弱いのか?」
 それもしかし、実際に振り回してみれば解ること。フットペダルを押し込むや、『RGM-79S』ジム・スパルタンが背景の中から突如、切り取られたように跳躍した。スラスターを吹かしてジャンプすれば、その全身を覆う迷彩色の赤外線遮断シートがバタバタと靡く。
 長い撤退戦に加えてこの雨で、まるで疲れたように敵機が視線をエンテへと投じてきた。
 熱帯用のザクタイプが二機、ドムタイプが一機。その周囲では戦闘車両が泥を跳ねながら走り回り、歩兵達の怒号と悲鳴が入り混じる。
「――やらせてもらうっ!」
 エンテはまるでマントを脱ぎ捨てるように、真下のザクへと赤外線遮断シートを叩き付ける。そうして相手の視界を奪うと、着地と同時に容赦なく、右腕のガトリングライフルを突き付けた。
 低い唸り声を上げてシリンダーが回転し、鉛の礫を浴びたザクが雨に踊る。
 敵の動きは鈍い――振り向くもう一機のザクが浴びせてくるマシンガンを、今しがた蜂の巣にしたザクを盾に回避するエンテ。
 銃身の下部に装着されたグレネードランチャーが火を吹き、その軌跡を迷わず有線式ミサイルに追わせる。苦も無く二機のザクを屠ったところで、コクピットに警報が走った。
「っ! ……いるじゃないか、できる奴が」
 赤熱化したヒートロッドが、降りしきる雨にジュウジュウと煙を上げる。それを紙一重で避けたエンテは、乗機の握るライフルの銃身が、ドロリと溶断されたのに気付いて手放した。
 『MS-09D』……いわゆるトロピカル・ドムと呼ばれるバリエーションだろうが。現地改修を繰り返し、原型を留めていない深緑の機体は、歴戦の古参兵を思わせた。その構えには全く隙がない。
 エンテに鞭打たれて、局地専用のジムがぬかるんだ大地を蹴る。対するドムも、友軍の兵士が右往左往する中を滑るようにホバー移動で距離を詰めた。背部から巨大なナイフを抜刀するや、エンテはそれを両手で低く構えて突進する。
 ブォン! 紙一重で避けたヒートロッドが、ジムの通信アンテナを薙ぎ払った。それに構わず側面に回りこむや、体を浴びせるように肉薄して重金属の刃を突き立てる。火花を散らして寸胴のボディに、深々とナイフが突き刺さった。
 ――だが、ドムは止まらない。まるで取り憑かれたように、ヒートロッドを振り回して暴れる。戦慄に暑さを忘れ、エンテは背筋が凍てつく感覚に身を強張らせた。
 咄嗟にナイフを引き抜くや、手の内でクルリと遊ばせ逆手に持ち替える。同時に踏み込み、十字にモノアイが蠢く頭部へと、エンテは迷わず一撃を振り下ろした。
「状況終了……ふう、これが黒歴史に刻まれた、地球人の闘争本能」
「そうだ、そして触れれば我々ムーンレイスでも……前例もある。御苦労だった、ミンテ少尉」
 既にもう、エンテには小さな自覚があった。黒歴史に埋もれた様々なモビルスーツの記録を掘り出し、それを駆る度に感じる。闘争の愉悦、戦いの快楽……浅ましいとさえ思える程に。
 それを振り払うようにエンテはハッチを開放し、蒸し風呂のようなコクピットから荒い呼吸で這い出した。掻き上げた長い黒髪は汗を吸って、重く肩を撫でた。
157創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 00:08:04 ID:oZqjViGM
リク主じゃないけどGJ!
Z以降は可変飛行MAが普及してしまって
地上局地戦の取っ組み合いは一年戦争前後に限られるのは勿体ないよなー
蒸れた狭いコクピットは暑苦しそう
158創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 09:51:11 ID:Ms29eISl
ジムスパルタンが動いてる!
159創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 00:44:26 ID:X8wuNIqj
うおおおおお俺リク主!!!!
ありがとうありがとう!!特大級のGJを贈らせてくれ!!!
しかしMSの個性を殺陣に出すのが上手すぎて燃えてしかたないぜ
160156:2009/08/06(木) 07:02:23 ID:ntZVnOY7
皆様、読んでいただいてありがとうございました。
ジムスパルタンはネット上での資料も多く、好みなのもあって楽しく書けました。
結構泥臭い戦場で、MSが取っ組み合いをするシーンは大好きであります(笑)
次はジオン系(と言うか敵役)いってみようかと…またいずれ、投下させていただきますね。
161創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 20:02:45 ID:ntZVnOY7
 ――青き清浄なる世界のために。
 人類が戦争を演じて踊る為には、僅か一言あれば足りる。利害と理念を憎悪で練り上げ、それを凝縮した一言は、いつの時代も耳に心地よく響いた。甘美なただ一言が、人から思考する力を奪い去る。
 エンテ=ミンテはムーンレイスとして、そのことをよく知っていた。
 かつて地球を再生の手へと委ねて、月へと文明を持ち去った民の末裔であるムーンレイス。それが女王ディアナ=ソレルの名を奉じ、地球帰還を悲願と掲げて勃発させた戦争は記憶に新しい。
 それもまた、黒歴史が刻む人類の営み……その繰り返しの一部をなぞっただけにすぎなかった。
 人類の革新、完全平和主義、コスモバビロニア、戦争根絶――人は戦いに言葉の意味を忘れてゆく。
「青き清浄なる世界……か。人はしかし、清濁併せ持つ生き物ではないのか?」
 誰にともなく問いかけ、エンテは機体を安定させてモノアイを向ける。
 限りなく透明に近いブルーに抱かれた、フラスコの中の儚い世界。ガラスの中に『調律されし人類』を閉じ込めたプラントのコロニー群が、その独特な上下対称の姿を等間隔に横たえていた。
 エンテは遥か太古の光景に目を細めながら、シミュレーションの終了を告げる声を待った。その間にも彼女を内包する『ZGMF-1017M』は、要所に増設されたスラスターを閃かせて姿勢を制御する。
 量産型改修機としての信頼性や、空間戦闘時の機動性と運動性を、素直にエンテは評価した。
「ご苦労だった、ミンテ少尉。……ん、どうした? 何故シミュレーションが終らん?」
「大佐? 何が」
「システムを落せ! 何ぃ、止まらん? 馬鹿な……ミンテ少尉、データの再生が止まらん」
「……戦闘継続? 私に何を見せる気だ、黒歴史っ!」
 ヘルメットの無線越しに、上官の周囲が慌しくなる様子が聞こえる。敵機は全て撃墜、シミュレーションは『GAT-01A1』ダガーを相手にエンテの辛勝で終了――の、筈だった。
 だが、黒歴史が再現する世界は……まだ、動いていた。
 パイロットとしての本能がエンテを支配し、即座に残弾を確認してエネルギーや推進剤へ気を配る。同時に油断無く索敵すれば、大挙して接近する敵機にアラートが響いた。正面のモニターを埋め尽くす、無数の敵影。
「バッテリーは持つのか? 敵は……多い。しかしこの、おぞましさは……」
 悪寒にエンテは震え、全身の皮膚が粟立つ感覚に身を強張らせた。
 ――敵はデータ照合によれば『TS-MA2』メビウス……この世界では旧式の技術である、モビルアーマーだった。それが今、群をなしてプラントへと押し寄せる。
 惨劇の名を思い出し、そこへと回帰する閉じた輪のイメージがエンテの中で弾けた。絶叫する彼女を乗せ、余力を振り絞ってジンハイマニューバが飛翔する。漆黒の闇を眩いスラスターの煌きが照らした。
 四機一小隊でダイヤモンド編隊を組む、メビウスの群へと踊りこむやトリガーを操縦桿へと押し込む。JDP2-MMX22試製27mm機甲突撃銃が火を吹き続け、残弾カウンターが数桁あっというまに吹き飛んだ。
 撃てば当るが、数が多い……そしてメビウスはエンテに構う事無く、プラントを目指していた。
「弾切れ!? チィ、このままではっ! いやだ、よせ……ああ、駄目だ……やめて」
 MA-M3重斬刀を抜刀するや、エンテは手当たり次第にメビウスを斬り伏せてゆく。その無防備な背へと刃を突き立て、切り裂く反動で次の獲物へ……気付けば夢中で剣を振るう、エンテの鼓膜を無情にも警告音が撫でた。
 ――バッテリーが尽きて、ジンハイマニューバは音もなく停止した。
 その背後で、プラントが光に飲み込まれる。それは嘗て禁忌と戒められ、人類がロストマウンテンに封じながらも……完全には捨てられなかった黒い太陽だった。
 核の炎が暗い輝きで、プラントを飲み込んだ。
 青き清浄なる世界のために。その一言を最初に実行した、血のバレンタインが徐々に遠ざかり、すすり泣くエンテに応えるようにシミュレーションが……黒歴史が沈黙する。
「止まった、か。ミンテ少尉、大丈夫か? シミュレーターの誤作動のようだが……ミンテ少尉?」
 一瞬であらゆる生命を飲み込み消滅させる、核の光を間近に見てエンテは取り乱していた。それでも呼吸を落ち着け涙を拭うと……それがまだ、刻を超えて地球に眠る現実を受け入れた。
 胸の疼痛を抑えながら、か細く消え入るような声でエンテは小さくしゃくりあげた。
162161:2009/08/06(木) 20:04:40 ID:ntZVnOY7
ちと連投気味で反省です…リクあるまでちょっとお休み。
とりあえず今日という日に、核廃絶への微かな祈りを込めて。
もうみんな核持ち寄って、せーのでロストマウンテンに埋めればいいのに。
163創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 23:58:54 ID:A03D84fp
あと数分、間に合え
今回はハイマニューバに核メビウスか
基本的に過疎りまくってるからどんどん書いてもいいと思うけどね。やっぱ大変なのかな

今日の日に核の物語…本当に乙でした
164創る名無しに見る名無し:2009/08/07(金) 07:34:39 ID:4X7WdR4v
メビウス核ミサイル搭載型!
そういうものもあるのか!

貧弱なガンバレルだと思ってたのに
165創る名無しに見る名無し:2009/08/07(金) 10:59:59 ID:ROnd0cTQ
そりゃメビウスゼロだろ。メビウスゼロはメビウスの試作機。
核メビウスは死ぬ程放送された『血のバレンタイン』の回想とか最終回に出てきた
166創る名無しに見る名無し:2009/08/07(金) 18:01:11 ID:4X7WdR4v
ちょいとググッて見たところ,貧相なのは変わらないけど全然違うね
スマンごっちゃにしてた
SEEDは見逃してた回が多かったもので
核搭載型の部隊名ってピースメーカーっていうのか
167103:2009/08/08(土) 00:12:28 ID:8kTVgohx
まだまだまだプロット状態です

*導入部
*ムサイからママコムサイ(オリジンででてきた
大型のコムサイらしい)が切り離される。
*それにはザクフリッパー1機とザク2機が収容されている。
*大気圏突入
*末期だとムサイがやすやす地球まで近づけるか?
 そうなるともう特攻作戦
*じゃあ中期のほうがいいだろか
 ザクフリッパーははじめから廃棄予定でデータをどのように
 して味方に届けるのだろうか?
*MS06E3>生産台数に比べて同一機種間の形状の差異が激しいMS
 だそうですのでオリジナル的な装備をつけるのもありかと
*舞台変わって地上 大吹雪の雪原 
 ということは舞台はシベリアか?
*フリッパーも武装できるようです
*宇宙に送るためジムを運ぶ連邦のトレーラーが通る
*運転手がなんだあれは?!(吹雪のなかにブームを広げるフリッパーの姿が見える
*運転手が殺される
*ザクのジオン兵二人がトレーラーを奪う
*ジムに細工して打ち上げ基地を爆破テロ
*一方フリッパーやザクは林のなかに隠されていた
*爆破工作をおこなったジオン兵二人が混乱に乗じて手に入れた
偵察目標本命の重要な情報を持ち帰ってくる
*フリッパーのパイロットは待っていた
*そしてその地点へ向かう
*で上にソーラーシステムや新型ガンダムにしてはどうかという
案もあありましたが、そこはまだ案がまとまらない
*流れとしては連邦MSとザクの戦闘で次々やられていき
最後にフリッパーもどうなるか?フリッパー自爆させて
パイロットは脱出?なるか 
*いやそれより、連邦側のどんな部隊と戦うか
*新型ガンダムをこんな時期に地球でつくってるだろうか?
*プロットだけでおわりそう

 
168創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 00:38:39 ID:qWcgWWOf
あれ、ザクフリッパーって宇宙専用機だったような・・・・
169創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 01:15:57 ID:w3Dv+Ndv
>>167
> *舞台変わって地上 大吹雪の雪原 
>ということは舞台はシベリアか?
シベリアでもアラスカでもヒマラヤ山脈秘密基地でもどうぞどうぞ
>*フリッパーも武装できるようです
たしか初期Gジェネでマシンガン持ってたね
>*で上にソーラーシステムや新型ガンダムにしてはどうかという
>案もあありましたが、そこはまだ案がまとまらない>*いやそれより、連邦側のどんな部隊と戦うか
>*新型ガンダムをこんな時期に地球でつくってるだろうか?
ガンダム使う上で特に思いつかないなら公式設定でNT-1の他にNT-2、NT-3なんて機体もあったらしいからその辺を使ってみたらどうだろう。たしか名前だけで設定画や詳しい設定は無かったはずだから名前だけ借りて武装や外観は自由に表現できる。オヌヌメ
寒いところだけに寒冷地仕様とか。
> *プロットだけでおわりそう
がんがれ
170創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 02:31:03 ID:pjWRVOdA
ガンダムは8号機まで造られていたらしいし、
終戦まで新型MSを開発してたから何でもアリだと思うけどね
地上降下は魔法のミノ粉のお陰でそう難しくないはず
終戦後にジオンの地上残存勢力とかも出てくるし

作品毎の設定の違いにまで及ぶと何も言えないけど……
171MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/08(土) 03:52:42 ID:rD/ujnLg
>>167
ちょっと考えたのは逆転の発想、開戦前の地球にザクの重力下試験のために極秘降下する話とか
連邦軍に発見されて激しい戦闘になる話

当然歴史になぞるなら連邦軍はこの報告を受けることなくジオンはMSを開戦まで隠す事に成功するわけだけど
その経緯や結末は悲劇的(相打ちで全滅)でも無事帰還のハッピーエンドでも自由度は大きいと思う

172Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/08(土) 12:21:42 ID:wuGSMaLu
投下します
173Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/08(土) 12:24:56 ID:wuGSMaLu
 巨大木星コロニー・ミレーニアを遥か前方に見据え佇むグィン級アルマゲスト。
 その艦橋で、モニターに映ったミレーニアを前に、腕を組んで愉しそうな笑みを浮かべる一人の女性がいた。
連邦政府高官ベルガドラ・マッセン……。

「艦長殿、特等席で最高のショーを見物出来る気分は如何かな?」

 彼女に話し掛けられたアルマゲストの艦長は、その明るく軽い口調に無言で眉を顰めた。

「ここは愛想でも色好く答えて置かないと、偉くなれないよ」

 真面目な彼を揶揄して笑うマッセン。若い男性秘書官を1人従え、我が物顔で艦内を闊歩する様は、横暴と言う
他に無い。
 艦長は感情を抑え、静かに答える。

「これは見世物ではありません」
「失礼。気分が高揚していて、些か軽口が過ぎた様だ」

 これはしたりと、マッセンは口を閉ざした。しかし、その顔には堪えた笑みが表れている。

(気持ちは解らんでもないがな……)

 呆れ混じりの溜息を吐き、艦長は心内で同情した。グィン級完成は、戦争終結後。その目でX隊の実力を見るのは、
彼も初めて……。興奮と言うよりは、怖い物見たさに近い心情なのが、マッセンとの違いだが。

 そのマッセンは年甲斐も無く、浮ついた心を抑えられず、子供の様に目を輝かせている。纏う雰囲気は威圧感を
与える物でありながら、行動との落差が何処か魅惑的で……艦長は2度目の溜息を吐く。

(螺子の抜けた連中め……。真面目と言うのは、損な性格だ)

 役に立たない良識を捨て、この場の雰囲気を楽しめれば良いのだが、それが出来れば苦労しない。
 独り自嘲の笑みを浮かべた艦長に、女性管制官が声を掛けた。

「X隊、配置完了です」
「解った。レーザーウェイブ照射準備」

 艦長は内心の動揺を隠し、落ち着いた声で命令する。その一言で、また階段を1つ上ってしまった。
 民間人の大量虐殺は、人道に悖る大罪。任務命令と言って割り切れる物では無い。しかし、彼は“選ばれた”。
軍人である以上、為さねばならない。
 ふと、艦長はマッセンを窺い見た。彼女は口元に笑みを浮かべ、その覚悟を問うかの様に彼を見詰めている。

(罪悪感は無用か……。成る程、道楽で付いて来た訳でも無かった様だ)

 罪を罪として認識しない為には、責任を転嫁する都合の良い人間が必要だ。それが螺子の抜けた人間なら、
罪を擦り付けるに躊躇う事も無い。“あれ”は罰せられても良い部類の存在。寧ろ、罰せられるべき……。
 艦長は全てを知りながら、“責任から逃れる事を”決意した。

 マッセンも艦長も、人の心の仕組みをよく理解している分、相当な悪人である。
174Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/08(土) 12:43:58 ID:wuGSMaLu
 X隊を率いるは、ネロ・ノッテスクラ少佐。“力天使”のパイロットは、20機のガンダムXを砲撃配置に整列させた後、
通信でミレーニア市長を呼び付けた。

「一体、これは何事か!?」

 市長の声には焦燥が窺える。当然だろう。武装したMS隊がミレーニアに砲口を向けているのだ。
 しかし、ネロの声は場違いな程に軽い。嘲笑を含んだ、何処か嘯く様な調子で言う。

「市長殿、現在ミレーニアには、地球連邦政府が手配中のギルバート級ヴァンダルジア隠匿容疑が掛かっている」

 内容は冗談では済まない。寝耳に水の事態に、市長は反発した。

「その様な事実は無い!」
「白を切るのか?」

 既に容疑を通り越して、完全に決め付けているネロの口調。
 市長は湧き上がる怒りを抑え、言葉を慎重に選んで答えた。 

「ギル級は木星圏の標準巡洋艦だ。同型艦と見間違えたのではないか? 信用出来ないと言うなら、立ち入……」
「結構。そちらの意思は了解した」

 未だ市長が話している途中で、ネロは一方的に通信を切った。
 ミレーニア市長は、言い分が理解して貰えたのか、それとも無視されたのか判らず、不安気な表情でX隊を見詰め、
口を固く結ぶ。彼は知らない。先の会話は“話し合い”でも“交渉”でもなかった事を……。

「ミレーニア市長は容疑を否認。査察を拒み、反抗した」

 ネロはレコーダーに向けて喋った後、口元を歪めて独り笑う。螺子の抜けた人間が、ここにも1人……。

「各機、レーザーウェイブキャノン発射用意……構え!」

 彼の号令に合わせ、ガンダムXウィズクルスの背負った十字架が展開する。X字に十字を重ねた8枚の花弁が咲き、
後方のアルマゲストから照射されるレーザーウェイブを浴びて、白く輝き始めた……。

 その時、ネロはレーダーに飛び込んで来た機影を見た。敵と直感し、モニターにピックアップウィンドウを開いて、
姿を確認する。映し出されたのは、黄土色のバウ・ワウMA形態。土星の魔王!

「おいおい、これはどういう事だ? 打ち合わせ通りにやって貰わないと困るじゃないか……。ヴァンダルジアは
 土星の魔王とヘーラーに向かうんだろう!?」

 徐々に語気を強め、愉しそうに笑うネロ・ノッテスクラ。真顔に戻ると、量産型ガンダムFCCに乗った副官の
ドード・アーリア大尉に命令する。

「アーリア大尉、Xの指揮は任せる。お前等、付いて来い! ここで魔王を倒し、我が隊の名を上げてくれる!」

 ネロは意気込み、2機のガンダムFCCを引き連れて、バウ・ワウを迎え撃つ!
 隊長ネロ・ノッテスクラを始めとして、X隊は強化人間で編成された部隊。所属機は何れも、エース級のパイロットが
搭乗する高性能MS!
175Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/08(土) 13:02:33 ID:wuGSMaLu
 向かい来る3機のガンダムを確認したハロルドは、ダグラスに問い掛けた。

「どうする? 時間に余裕は無いぜ!」
「何とか振り切って、ガンダムXを叩く。チャージ中は無防備だ」
「……やるしかないか!」

 先ず、振り切るのが難しい。機動性に優れるガンダムFCCと、高い攻撃能力を誇るウィングガンダム。3対1で、
敵の攻撃を躱しつつ、ガンダムXに接近するのは困難の窮み。しかし、“やるしかない”のだ。

 牽制に放たれる、ウィングガンダムのバスタービームライフル。広範囲攻撃を避けた所に、量産型ガンダムFCCの
ビームランチャーが襲い来る。それすら突破した後に待ち受けていたのは、3機同時に発射した胸部マシンキャノン!
 完璧な連携攻撃に、バウ・ワウは足を止めざるを得ない。MS形態でバーニアを噴かし、後退姿勢に入るが……
バウはバランスを崩し、仰け反った。
 回避が間に合わない。一瞬の判断の迷い。“ダグラスが”後退を躊躇ったのだ。

「おい、ダグ!! 遅れるな!!」
「くっ、済まない!」

 シールドでマシンキャノンを防ぎ、続くバスタービームに耐える。
 しかし、ダグラスは眼前の敵を見ていなかった。
 彼の瞳に映っているのは、徐々に明るさを増す、ガンダムXウィズクルスの背面受信パネル……。

(こんな所で時間を食っている場合じゃない……!)
「ダグ、何をしている!! 敵機接近、2機!! 9時と3時だ!!」

 ハロルドの怒声で、ダグラスは正気に返った。
 レーダーには、高速で左右から挟撃を仕掛けて来るガンダムFCCが映っている。
 ダグラスが反応する前に、ハロルドが土星ロケットエンジンを瞬間的に噴かし、素早く上方に抜けた。
 次いで、ビームライフルを放ち、ウィングガンダムを牽制する。

「集中力が乱れているぞ!! 気を散らすな!!」
「済まない……」

 ダグラスの動揺は相当な物だった。ハロルドの注意も耳に入っていない様子で、項垂れるのみ。故郷の危機を
目の当たりにし、敵に集中出来ていない。

(ああ、その焦りは解る。こんな奴等に構ってる暇は無いよな……)

 ハロルドは追い縋るガンダムFCCを一瞥して舌打ちし、連結を解除した。

「……行けよ」
「しかし、お前一人じゃ……」
「今の手前に心配されたかぁないね! 俺を誰だと思ってやがる! この程度の連中にやられるか!」

 それは単なる強がりに過ぎないが、言い出したら聞かないのがハロルドだ。反論は無意味。
 ダグラスは唯々、ハロルドに申し訳無く思い、繰り返した。

「済まない……済まない……!」
「謝るんじゃねえーっ!」

 怒声と共に、ビームライフルを彼方に放り投げるハロルド。

「……有り難う……!」

 ダグラスはバウ・ワウの下半身をナッターに変形させ、隠し腕でライフルを回収して飛び去った。彼の目には、
ハロルドへの感謝と、己の情けなさを恥じる涙が滲む。自責の念を故郷を守る覚悟に変え、最大速度で駆ける!
176Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/08(土) 13:11:17 ID:wuGSMaLu
「通す訳ねえだろうがっ!!」

 しかし、分離したナッターの動きを黙って見過ごすネロではない。ライフルを持っていない左手の人差し指を
アタッカーに向け、無言で2機のガンダムFCCにハロルドの相手をする様、命じる。
 そして自身は乗機をバード形態に変形させ、ナッターを追いながら、バスタービームライフルで狙いを付けた。
最大出力で周囲の空間を巻き込み、宇宙の塵にする!

「……消え去れぇい!!」

 ドォン!

 しかし、ウィングガンダムはバスタービーム発射直前で、左翼の付け根に2発のグレネードを浴びた。
 片羽が吹き飛び、宙を舞う。直ぐ様MS形態に戻り、振り返ったネロの目に映った物は、右腕を突き出している
バウ・ワウの上半身。榴弾発射と同時に、その反動でガンダムFCCのビームライフルを避けている!

「何処へ行こうってんだ? 手前の相手は、この俺だぜ!」

 バウのモノアイは、真っ直ぐウィングガンダムを見詰め、挑発している。
 驚愕から我に返ったネロは、激昂して部下を叱り付けた。

「何をしている!! たった1機も止められんのか!!」

 続けて、バウのモノアイを睨み返す。ナッターの追撃は諦め、アーリア大尉に任せると“今”、決めた。

「良かろう……そんなに死にたければ、貴様から殺してやる!!」

 彼の怒りに呼応する様に、2機のガンダムFCCが淡い光を放ち始める……。

 ガンダムFCCは全身各所に小型ドライブを搭載している。それはフルドライブ状態で小規模な光の翼現象を
起こし、方向転換で出力を上下させる度に、機体色に可視光波長を合わせたドライブ粒子が数秒間残留して、
擬似的な“ビームの分身”を作り出す。

 高速で移動する本体と相俟って、何機にも見えるガンダムFCC。2機が踊る様にバウを追撃する!
177Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/08(土) 13:20:47 ID:wuGSMaLu
 ハロルドとダグラスがX隊に向かった一方で、ヴァンダルジアは密かにミレーニアとの交信限界距離まで
接近していた。ヴォルトラッツェル艦長は通信機を握り締め、努めて冷静に呼び掛ける。

「こちらコロニー連合軍突撃隊、第1突撃隊所属巡洋艦、ギルバート級ヴァンダルジア。応答願う」
「はい……」

 反応は直ぐに返って来た。しかし、後に続く言葉が無く、通信機の向こうが何やら騒がしい。

「退け!」
「市長……」

 やや間を置いて、不躾な声が飛んで来る。

「ヴァンダルジアだと!?」

 途切れ途切れに聞こえた単語から、ミレーニア側の状況は想像出来た。
 市長がオペレーターを押し退けて割り込んだのだ。

「……ミレーニア市長だな?」

 ヴォルトラッツェルの問いに、彼は怒鳴り声を上げて応える。

「私に何の用がある!? いや、そちらの用件を聞く前に、これは一体どう言う事か、説明して貰いたい!!
 連邦軍のX隊とやらは、我々が貴艦を隠匿していると言って来たのだが!?」

 それが単なる言い掛かりに過ぎない事を、市長は理解していなかった。
 ……正確には、半信半疑の状態だったが、直後のヴァンダルジアからの通信によって、容疑が正当な理由に
基く物かも知れないと思い始めた所。
 捲し立てる市長の言葉を無視し、ヴォルトラッツェルは言う。

「今直ぐ、住民に退避命令を」
「退避? 何処へ行けと言うのか! 全住民を乗せるだけの艦も無い!」
「……英断を願う」
「黙れ! お前達さえ来なければ、こんな事には……!」

 怒りに任せて罵声を浴びせる市長と、それを苦渋の表情で静かに受け止める艦長。
 艦橋の皆がヴォルトラッツェルと同じ思いで耐えているのに対し、ローマンは両者の会話に耳を傾けるのを止め、
外方を向いて溜息を吐く。

(無駄な事を……。判っていても、やってみなければ気が済ないのか? 全く、度し難い)

 この展開は容易に予想出来た。
 故に、ローマンは説得が失敗する事を前提に、ミレーニアから距離を取れと警告していた。
 ヴァンダルジアが、ミレーニアとの交信限界距離で留まっているのは、その為である。
178Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/08(土) 13:29:32 ID:wuGSMaLu
「真にミレーニアを救いたいと思っているなら、大人しく連邦軍に捕まれ! 今なら未だ、攻撃を止めさせられる!」
「本当に、そう思っているのか? 順序が逆だ。我々は奴等を追って、ここに来た」
「見え透いた嘘を吐くな!」

 市長はヴァンダルジア側の言い分を理解する気が無い。ヴォルトラッツェルの表情が徐々に険しくなる。
 押し問答をしている時間など無い。今は一分一秒を争うのだ。
 相互の理解より、優先すべきは民間人を避難させる事。全員は時間的に無理。ベストより、ベターを取るしかない。
 ヴォルトラッツェルは大きく息を吐いて、頑固な市長への憤りを演技に乗せる。

「……では、解り易く言ってやろう。我々は投降する気など、欠片も無い。これは変わらん」
「何だと!? ミレーニア1億の人々を見殺しにするのか!!」

 態度を急変させたヴォルトラッツェルに、市長は声を裏返して驚いた。ヴォルトラッツェルは心を鬼にし、冷たく返す。

「その通りだ。我々を捕らえたければ、武装したMS隊を出撃させろ。軍を解体させられたと言っても、ミレーニア程の
 コロニーなら、自警団くらいは持っているだろう?」
「無理だ! 下手な動きを見せれば、連邦軍に攻撃される……」
「このまま待っていても同じ事だ。X隊のMSを見て、未だ解らないのか?」

 市長は明らかに動揺し、迷っていた。このままでは良くない事は、彼も理解している。しかし、役人根性が自身の
迂闊な行動で取り返しの付かない事態に陥る事を嫌っていた。
 後一押し、決定打が欲しい。ヴォルトラッツェルは意を決する。

「……これよりヴァンダルジアはミレーニアを攻撃する。市長、直ちに防衛MSを出撃させ、住民を退避させよ」

 その言葉に、無関心を決め込んでいたローマンが、血相を変えて振り向いた。

「待て、艦長!! 今、何と言った!?」

 彼を無視し、ヴォルトラッツェルは艦橋中に響く声で、勇ましく命令する。通信機は繋がったまま……。

「総員戦闘態勢に入れ! これより本艦はミレーニアに対し、攻撃を仕掛ける!」
「了解!」

 誰一人として、異論を唱える者は居ない。ローマンは焦りの色を露に、ヴォルトラッツェルに詰め寄った。

「正気か!?」
「素面で突撃隊など、やってられません」
「な、な……にっ!?」

 嘯くヴォルトラッツェル。ローマンは激情の剰り、声を詰まらせる。
179Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/08(土) 13:32:38 ID:wuGSMaLu
 彼の狼狽振りを他所に、艦長は涼しい顔で言って退けた。

「御心配無く。貴方の指示通り、ここからは動きません。主砲、機銃、射撃用意! 標的、コロニー反射鏡!」
「愚かな! 威嚇射撃の積もりだろうが、命中射程外だ! こんな所から狙って、ミラーパネルに当たる筈が無い!
 ミレーニアに直撃する確率の方が高いぞ!」

 やっと反発の声を発したローマンだったが、その言葉は通信機を介してミレーニア側にも聞こえ、より効果的な
脅しとなった。思わぬ援護に、ヴォルトラッツェルは深い笑みを浮かべる。

「聞いたか、砲撃手! 少しでも逸れたら、コロニーの外壁に穴が開くと思え!」
「……狂っている!」
「ミレーニアを見捨て様とした人間が言えた事か!」
「貴様っ! 何をしても無駄だと、口で言って理解出来ないなら、もう好きにすれば良い!」

 応酬の末、ローマンは捨て台詞を吐いて、ヴォルトラッツェルの説得を諦めた。

 彼が地球圏から木星圏までの旅で学んだ事は、唯一つ。突撃隊は手に余ると言う事。
 無理を通して、道理を押し退けるのが、突撃隊。
 ……しかし、少なくとも地球圏に着くまでは、彼等はローマンの命令に素直に従っていた。
 陰で不満を溜めていたのかも知れないが、反抗し始めたのは、あの2人を乗せた後から……。

(ダグラス・タウン? いや、彼とは考え難い。ハロルド・ウェザーか……厄介な物だ)

 死を恐れず、率先して行動する勇気。兵士としては優秀だが、所詮は人の上に立てる人物でない。
 鉄砲弾。良く見積もって、現場指揮レベル。ダグラスとの2階級の差は、そこにある。
 感情に任せて暴走する上司に引き摺られる部下は、不幸としか言い様が無い。

(巻き添えは御免被りたいのだがな……。どうやら死ぬまで直らん様だ)

 ローマンは深く溜息を吐いた。
180創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 13:34:58 ID:wuGSMaLu
15話お終い。
失礼しました。
181MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/08(土) 16:19:38 ID:rD/ujnLg
蒼の残光  騒乱

初期からずっと入れるべきか迷っていて、前回までは入れない方向で考えていた展開。
やはりダイナミズムを重視していれる事にしました。
182MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/08(土) 16:20:30 ID:rD/ujnLg
 これより六時間前。
 アラン・コンラッドは部隊配置の最終確認を行っていた。モニターを見つめ、想定され
る攻撃ポイントの宙域図に敵の予想配置をポイントした画像に修正がないか再考する。
 実際にはこの行為にたいした意味はないのだ。彼我の戦力差は歴然であり、この巨大兵
器を運搬するためにデブリなどの密集した、守りに易い宙域を通っているわけでもない。
地上になぞらえれば、攻城兵器を運んで見晴らしのよい平地のど真ん中を通るようなもの
だ。敵の数は圧倒的に上、自分は虎の子の兵器を守るために半分以下の戦力で正面から戦
うしかない。そこに戦術の付け入る余地はない。
(つまるところ頼みはオリバーのサイコミュしかない……か)
 アランはおかしくもないのに笑いの発作に襲われた。人が手に武器を持つ事を覚えて以
来連綿と研磨され続けた戦略戦術、それよりもたった一人のきわめて個人的な資質の方が
遥かに戦況を左右すると言うのだ。士官学校で学んだものは何だったのだ?
 その時、仮の執務室のドアが開き、オリバー・メツが入ってきた。
「アラン、まだ仕事をしていたの?」
「ああ、ここが最後の難関だからな。いくら慎重でも過ぎると言う事はない」
「そうだね」
 オリバーは迷いなくソファーに向かって歩き、座った。調度品の位置は完全に記憶して
いた。
「――あの作戦はもう動いてるの?」
 オリバーの質問にアランは少し渋い顔をした。無論オリバーにその顔は見えないがその
内心を読み取って入るかも知れない。
「もう既に潜入に成功しているはずだ。――オリバー、本当にいいのか?」
 オリバーは声を上げて笑った。
「やっぱりやめよう、と言ってももう間に合わないんだろ?」
「……ああ」
「いいよ、もちろん。だって、この戦いに勝つのにどうしても不可欠なパーツなんだ、そ
うだろ?」
「そうだ」
 それは間違いない。この作戦には幾つかの必須要素があり、今二人が話している『作戦』
は当初の予定にはなかった。しかし、彼らの想定を遥かに超えた敵手の存在が彼らにこの
作戦の追加を決意させる事になった。
「それに、ユウ・カジマにも一泡吹かせたいからね」
 オリバーの笑みが歪んだものになった。アランはその笑みに危ういものを感じながらも、
言葉にする事は控えた。
「アラン、もう一度言うけど奴は僕の獲物だからね」
「判っている。だから今はゆっくりと休んでおけ。お前の力は急速に成長しているが、そ
れでも万全でない状態で勝てるほど甘い相手ではないぞ、『戦慄の蒼』は」
 あえて異称で敵手の名を告げたのは、ユウへの警戒を今一度喚起するためである。いま
やその異称はあの『赤い彗星』や『連邦の白い悪魔』にも匹敵する畏怖をこの残党軍全員
の心に刻んでいた。
 オリバーも素直に頷いた。
「そうだね、少し早いけど、休ませてもらうよ。アランも根を詰めすぎないで」
「ありがとう」
 オリバーが部屋を出るのを見届けると、アランは再びモニターを注視した。

 マリー・ウィリアムズ・カジマが病院から誘拐されたとの報がもたらされたのはユウが
妻を見舞った三十分後、出撃まで一時間を切った時だった。



183MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/08(土) 16:21:20 ID:rD/ujnLg



「一体どう言う事だ!?警備兵は何をやっていた!」
「B地区、C地区、発見できません!」
「港だ、港を封鎖しろ!!」
 司令部を怒号が飛び交っていた。
 シェルーは隣に立つユウの横顔をそっと見上げた。ユウは表情こそ落ち着いていたが、
顔は蒼白で両手は固く握り締められていた。
 本来なら舞台の最終点呼を行っているべき時間である。軍人の家族は常に最高のセキュ
リティによって守られている。軍人とはそれだけで敵を作る存在であり、最も恐れるのは
自分ではなく家族に危害が及ぶ事である。家族の安全を保障する事は組織としての軍隊を
纏め上げる絶対条件であり、これが崩れれば戦場での勇猛など期待する事は出来ない。
 今、その根幹が揺るがされているのだった。
「中佐、きっと大丈夫です」
 気休めにもならないと知りつつ、シェルーが言葉をかける。ユウは何か返事を返したが、
その声は小さくてシェルーには聞こえなかった。
「よりにもよってこんな時に!」
 ホワイトが毒づく。それは基地内の総意だった。
「港で不審な宇宙艇が発進シークェンスに入っています!」
 オペレーターの報告も怒声に近い。モニターに宇宙港からガイドラインに乗る小型艇が
映し出された。その小さな窓に、青い髪が確かに見えた。
「誰が許可した!」
「む、無断で発進しようとしています。停船命令にも従いません!」
「止めろ!発砲も許可する」
 この指示とも言えぬ扇動は現場に直に伝わり、待っていたというように一斉に銃を構え
る連邦軍歩兵の姿が確認された。
 先に発砲したのは小型艇の方だった。当然のように歩兵小隊も応射し、一年戦争時です
ら戦場とはならなかったジオン共和国首都の宇宙港は銃火によって蹂躙を受ける事になっ
たのだった。
 その間にも小型艇はガイドライン上に乗り上げ、リニアモーターによる加速を開始して
いた。
「前を塞げ!絶対に通すな!」
 共和国の港湾警察が駆けつけ、船の針路を塞ぐべくガイドライン上にパトロール艇を横
切らせた。
 小型艇は速度を緩めなかった。船それ自体の推力にリニアモーターの加速を乗せてパト
ロール艇の横っ腹に突撃を敢行した。
 パトロール艇は中央から船体を二つに折られ、船の残骸と化した。小型艇はほとんど傷
も負わず、再加速に入った。
「改造されているのか……!」
「リニアモーターがなぜ生きているんだ?なぜ電源を切らない!?」
 質問の答えは誰も答えなかったが、同時に誰もが気がついていた。

 内通者がいる。

184MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/08(土) 16:22:05 ID:rD/ujnLg

 軍施設である病院に意図も簡単に潜入し、拉致を敢行した手際のよさ。小型艇をまでの
逃走ルート。そしてガイドラインへの止まらない電源供給。事前に彼らを手引きし、協力
した人間がいる。それが軍内部とは限らない。病院と言えども全ての労働力を軍関係者で
運営するわけではない。清掃、食料や医薬品の搬入などは軍が契約した民間業者である。
もちろん人物照会は厳重に行われるが、ここは旧ジオン公国の首都であり、極論すれば現
在宇宙に散らばるジオン残党の誰とも一切の面識がない者など皆無だった。
 ユウがマイクのそばに近づき、整備ドックを呼び出した。
「ジャッキー、大至急BD−4を降ろしてすぐに使えるようにしてくれ」
 ジャッキーの表情は悲痛だった。
「――無理よ、ユウ。今から降ろしてたらとても間に合わないわ」
「なら今すぐ出せる戦闘機を用意しろ――いや、いい。艦から直接発進する。固定だけ外
しておいてくれ」
 そう言うや司令部を出ようとしたユウをルロワの声が止めた。
「その出撃は許可しない」
 振り向いたユウの顔貌には表情というものがなかった。シェルーが思わず「そんな!」
と声を上げたが、自分の立場を思い出すことに成功しそのまま口を閉じた。
 ルロワは努めて冷静に告げた。
「今の艦隊は出撃準備が最優先だ。その動きを遅らせる行動は許可できない」
 ユウの声も冷静だった。
「連中の行動には何らかの意味があるはずです。でなければこのタイミングで家内を誘拐
などする必要がありません。阻止行動は作戦の一環と考えます」
「果たして、本当に誘拐なのか?」
 ルロワの短い言葉は、しかし爆弾のような衝撃をその場にいた全員に与えた。ユウは無
感情な声のまま問い返した。
「家内が自分の意思であの船に同道していると?」
「その可能性を除外しないという事だ。全ての辻褄が合うとは言わないが、少なくともい
くつか、他に説明のつかない問題が解決する」
「…………」
 ユウは無言で司令官と対峙した。傍にいたシェルーは殺気に近いものを感じ、この寡黙
な上官に対し初めて戦慄を感じた。
「不審船、港を出ました」
「哨戒艇が外を回っているはずだ。そいつらで止めろ!」
「速すぎます!これは小型艇のスピードじゃない!」
 オペレーターと指揮を執る歩兵大隊長のやり取りがまるで遠くのように聞こえていた。
やがてオペレーターの絶望した声が聞こえた。
「……目標、見失いました」
 ルロワは目を瞑り、深く息を吐いた。そして目を開けると、ユウに告げた。
「ユウ・カジマ中佐。貴官の奥方は敵方の手に落ちた。そこに当人の意思がどう関ってい
たかはここでは無関係だ。重要なのは貴官にとって重要な人物の生殺与奪が敵の手に握ら
れているという事だ」
「…………」
「この状況で貴官を戦場に連れて行くわけにはいかん。貴官は一時的にMS隊隊長の任を
解き、我々の監視下で基地内に待機してもらう」
「提督!それはあんまりです!」
 異議を唱えたのはシェルーである。先程は自重したが、ついに我慢できなくなったのだ。
「隊長自ら奥様を助けたいはずです。それに隊長がいなければあの新型MSに乗る指揮官
やNTと戦えないのではないですか?」
「そうだ、中佐の実力は傑出している。それ故に戦場には出せんのだ」
「何を――」
 言いかけてシェルーは沈黙した。マリーを人質に取ったアクシズ残党がその命の保証と
引き換えに寝返りを命じた時、ユウはどうするだろうか?ただでもあのNTと互角に戦え
る唯一のエースが参戦しないだけでも厳しいのに、さらに敵に回られたら如何に数で勝ろ
うともMS戦で優位を取ることは不可能にさえ思える。それはシェルーよりむしろ実際に
戦場でユウを知るものの方が強く感じているはずだ。
 ルロワは周囲に向けて命じた。
「ユウ・カジマ中佐を監視下に置く。中佐は執務室で待機、基地に残る者は交代で見回る
ように――誰か、中佐を執務室に連れて行け、銃は取り上げろ」
 ルロワの命令は粛々と実行された。しかし、この命令を理不尽と思わないものは一人と
ていなかった。
185MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/08(土) 16:26:23 ID:rD/ujnLg
ここまで



なぜかキャラクタープロフィールとかメカ設定書いた文書がなくなっちゃった。本編は外部に記憶持たせてるけど
あっちはPC内にしか入れてなかったんだよなあ。重要なので未発表なのはマリーの設定くらいであとはまとめ
wikiに残ってるけど。ボツ設定が見れなくなった。
186創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 16:38:37 ID:w3Dv+Ndv
>>180
乙乙
187創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 18:36:26 ID:qWcgWWOf
188創る名無しに見る名無し:2009/08/09(日) 05:18:09 ID:jWMM8FNI
>>185
乙!
誘拐とは汚いなさすがジオンきたない
189創る名無しに見る名無し:2009/08/09(日) 20:48:19 ID:buj4FUcG
これが、リトマネンのアクシズ残党軍を内部から一晩で壊滅させた
マリー・ウィリアムズ・カジマ無双伝説の始まりだったのだ……

>>185
190MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/09(日) 22:29:29 ID:zkgsEeoC
蒼の残光  10.「蒼の残光」  その3 過去と現在


少しきりが悪かったので短いですが追加。次回からは戦闘ターン開始です。
191MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/09(日) 22:30:27 ID:zkgsEeoC
 マリーを乗せた小型艇――正確にはそう偽装された高速戦闘艇が着艦し、マリーが運び
込まれた。マリーは薬物で眠らされ、全くの無抵抗のまま担がれていた。
「隊長、連行いたしました」
「ご苦労」
 アランは短く返事し、それから念を押すように
「手荒な真似はしていないだろうな?」
 と訊いた。部下はその声の低さに一瞬脅えたような表情を浮かべたが、すぐに
「ハッ。薬を打つまでに抵抗されましたが、取り押さえる以上の事は行っておりません」
「そうか。よし、ご苦労だった。間もなく戦闘が予想されるが、それまで休め。飲酒も許
可する」
 部下を下がらせると、後ろを振り返りオリバーを見た。
「最後に聞いておく――本当にいいんだな?」
「うん」
 オリバーの返答には躊躇いがなかった。しかしその返答は逆にアランを不安にさせた。
「もう後戻りはできないぞ」
「マリオンもきっと判ってくれるよ」
 アランは諦めたようにため息を吐いた。
「……判った。では予定通り進める」
 それだけ言ってオリバーの元を離れ、司令部のリトマネンに報告しに向かった。
 アランがやろうとしている事は一言で言えば、マリオン・ウエルチの強化処置だった。
NTの力を失っているマリオンに薬物投与と催眠誘導により強化人間としてNTの能力を
復活させる。
 そしてその能力をコロニーレーザーの照準に使うのである。
 彼らの計画は既にルロワらが推察している通りだった。コロニーレーザーの最大出力連
射により大気の層を突き破り地表に深刻な破壊を与える、まさにその一点にあった。ルロ
ワらは狙いが多少逸れても地上に届くだけで成功と結論付けたが、彼らはより正確にニュ
ーヤーク市の巨大な像を中心とした半径二・五キロの範囲を一瞬にして蒸発させる計画を
立てていた。
 しかし、一撃目で大気は高熱を帯び、気流が乱れコンピューターでは予測不可能な屈折
率の層を作り出す。その条件下で初撃から五秒以内での修正を行うため、彼らはサイコミ
ュ技術を転用、コロニー一基当り二十八の制御用ロケットの操作をNTの精神波で行うと
いう荒唐無稽ともいえる計画を立てた。言わば、コロニーレーザーのサイコミュ兵器化で
ある。
 当初この制御にはオリバーが就くことになっていた。唯一のNTであり、彼の存在を前
提にしたシステムとも言えたが、同時にそれは残党軍でも最大級の戦力である彼と彼のM
Sが当然予想される防衛戦に出撃出来ない事を意味する。これはただでさえ数に劣る残党
軍にとって深刻な問題であった。しかも、作戦の実行段階になって敵の中に恐らくは現在
この宇宙でも五指に数えられる『戦慄の蒼』がいた事は、オリバーを巨大兵器の砲手とす
るこの計画をさらに危ういものにした。そこで、マリオン・ウエルチを強制的に味方とし、
彼女にコロニーレーザーの照準を行わせるという代替案が提出された。提案者はオリバー
である。
 しかし、短時間での強化処置は人格や記憶を破壊するリスクを格段に増大させる。まし
てこのサイコミュは実践データもなく、オリバーにあわせて調整されていたためマリオン
に予期せぬストレスを与える懸念もあった。もしそうなればマリオンはもはやマリオンで
はなくなる。
 アランには、今のオリバーがその意味を本当に理解しているか疑問だった。
 リトマネンはマオと一緒だった。リトマネンはアランに気づくと軽く手を上げ傍に招い
た。
「首尾よく事が進んだようだな」
「御意」
「いい報せがある。この一件でユウ・カジマが拘束、軟禁されたようだ」
「ユウ・カジマが?本当ですか」
 事実ならば大きな朗報である。これで事実上彼やオリバーに対し一対一で勝利しうる者
はいなくなった。いるとすればアムロ・レイが戦場に現れた場合のみだろう。
192MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/09(日) 22:31:11 ID:zkgsEeoC
 しかし、あまりにも情報が速すぎる。マリオンを誘拐した部隊が帰還してまだ三十分と
経っていない。情報が高速艇を追い越している。ミノフスキー粒子がほぼ最高濃度のこの
宙域でどうしてそのような事が出来るのか。
「確かな筋からの情報ですよ、コンラッド隊長」
 スティーブ・マオが慇懃な口調で請合った。つまりこの情報はマオからもたらされた、
という事になる。
 アランはこの件で深く追求する事をやめた。マオがどのような人脈を持っているにせよ、
今は自分達に有用に働いてくれている事に違いはない。こういう男は勝ち続けている限り
協力を惜しまないものだ。
「これは確かに朗報です。『戦慄の蒼』なき連邦艦隊など烏合の衆、我が軍の勝利は揺る
がぬものとなるでしょう」
「アランよ、お前がそこまで断言するとは珍しいな」
 リトマネンが珍しく軽口を利いた。アランは殊更真面目に
「これほどの好機、なお悲観論、慎重論を振りかざすはむしろ士気を落としましょう」
 マオが声を立てて笑った。アランはそれには構わず
「それでは私は持ち場に戻ります。閣下は全軍の掌握をお願いいたします」
 そう言ってアランはその場を立ち去った。



 ズム・シティを出発したルロワを筆頭とする連合艦隊は間もなく戦場に到着しようとし
ていた。旗艦『ハイバリー』では、ユウに代わりMS隊の指揮を委ねられたルーカス・ア
イゼンベルグが通信回線を開き、MS隊に最終的な訓示を垂れていた。
「いいか、俺は『お前らを生きて帰らせる』なんて事は言わねえ。生きて帰りたきゃ自力
で生き残れ」
 いきなりとんでもない言葉から始めたが、言い方こそ違えど、これはユウがよく言って
いる事である。ユウにとって職業軍人とは有事に死ぬために生かされてる存在なのである。
「だが忘れるな、この戦いに負ければ確実に軍人以外に数える気もおきねえような死人が
出る。アースノイドならその中に身内や友人が混じる奴も多いだろう。中には顔貌も見た
くねえ奴も死んでくれるかもしれねえがな」
 軽口にも反応はなし。隣にいたイノウエが目だけを動かしてルーカスを睨み、彼は小さ
く肩をすくめた。
「……とにかくだ、てめえの命惜しさに逃げ回っても、死ぬ必要のない連中が大勢死ぬっ
て事だ。生き延びるなら戦って生き延びろ。それが軍人として税金で無駄飯食ってる俺達
の唯一許された生き残り方だ!」
 訓示を終えてMSデッキに戻ったアイゼンベルグはドリンクを片手に愛機のコクピット
に潜り込んだ。
「あー……やっぱり俺は柄じゃねえ」
 つくづくそう思った。
 二十年前から軍人として生きてきて、いろいろな上官の下で働いた。中には後ろから射
殺したくなるような無能もいたし、逆にいつかこうなりたいと純粋に憧れるような高潔の
士もいた。今彼の上官となる男は極度の無口でシニカルな男だったが、偏屈でも変人でも
なく、戦場では最も頼りになる戦士だった。その強さ故に数少ない言葉にも説得力があっ
た。
 自分にはそんな説得力も、人徳もない。中隊規模の部下を相手にするのがせいぜいで、
こんな大部隊、それも複数の艦隊が集まった混成部隊の指揮をする日が来るなど想像して
いなかった。
 ちらと周囲を見回した。ユウのBD−4はない。彼の軟禁が決まると整備士のジャクリ
ーンは即座に彼の愛機を艦から降ろし、ジムVを積み込むよう指示した。
「いくら高性能でも誰も扱えない兵器を積んでおく余裕なんてない」
 という理由だった。今MS隊は切り札ともうべき人材を欠いたまま戦闘に赴こうとして
いる。その不安を払拭させるカリスマ性を自分が持ち合わせていないことは自覚していた。
「大佐……自分は大佐のようにはなれそうにありません」
 現在ではなく、過去の上官に向けて彼は呟いた。まだ一兵卒に過ぎなかった頃、彼が最も尊敬し憧れた上官に。自分の守るべきものを守るため、ただ一人最後まで戦場に残って散ったという武人に。その最期の戦いの場にいなかった事を心底無念に思った人生の師に。
193MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/09(日) 22:37:10 ID:zkgsEeoC
ここまで


マリオン拉致案を使うか使わないか迷ったのはデビルガンダムとレインの関係とかぶるから。でもこれを避けると
最終決戦が前の戦闘とあまり変わらなくなって緊張感がでないので。

後はGガンに負けない描写が出来るか自分の実力次第
194創る名無しに見る名無し:2009/08/09(日) 22:53:59 ID:kM8fG+8J
乙!
ユウ欠席でどうするの!?
最後はラブラブ天驚拳なの!?
195創る名無しに見る名無し:2009/08/09(日) 23:00:14 ID:ZMFjY7lv
>>193の発言のせいでいきなりユウが告白する展開を思いついてしまった、どうしてくれる
196創る名無しに見る名無し:2009/08/09(日) 23:03:22 ID:buj4FUcG
既に嫁さんなのに愛の告白するってのも……

しかしオリバー君は本当に駄目人間だな
197創る名無しに見る名無し:2009/08/11(火) 21:11:48 ID:EUYG/4YJ
乙!
198Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/13(木) 11:20:42 ID:Tr/ZMIGh
投下行きます
199Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/13(木) 11:21:54 ID:Tr/ZMIGh
 ミレーニアから出撃するMS、リガットの中隊。ゾロの後継機、額に第3の眼を持つ、深紅の鎧武者に囲まれて、
赤錆色の艦が出航する。ギルバート級に似るが、民間企業の輸送艦である。巨大コロニーの陰に隠れ、連邦軍から
隠れる様に、そしてヴァンダルジアからも遠ざかる様に移動する。

 肚を決めたミレーニア市長は、混乱を避ける為に、輸送艦の出航時刻を予定より早めるという苦肉の策を採った。
 真実を報せた場合、我先にと脱出する1億人で、押し合い圧し合いの大惨事となる事は必至。こうするより他に
無かったのだ。しかし、この方法で救える命は全体の0.1%にも満たず、大多数は死す。

 ……何も知らず死を迎える事は幸福だろうか?
 市長は責任者として、大多数の一人となる事を選んだ。

(良いぞ、早くミレーニアから離れろ! 次々と脱出するんだ!)

 ガンダムXウィズクルスの集団に向かう途中、ミレーニアから脱出する輸送艦をレーダーで確認したダグラスは、
急く気を抑えて祈る様に念じた。
 そして視線をガンダムXに戻し、隠し腕で掴んだビームライフルを前方に構え、狙撃モードに切替。
 攻撃態勢に入る……と同時に、ビームシールドを張った1機のガンダムFCCが、射線上に飛び出して来た。
 ダグラスはプレッシャーを放ち、威圧する。

「今の俺は止められない!」

 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドォッ!!

 速射モードへの切替無しで行われる、ビームライフル連射。威力を落とさず、且つ、最も速いタイミングでの“正確な”
狙撃。高機動を誇るガンダムFCCでも、全てを捌く事は出来ず、真っ直ぐ伸びた光の帯が、1機のガンダムXウィズ
クルスに向かった。砲撃配置から動かないガンダムXは、格好の的!

 ドォン!

 機体を掠めたビームが、左肩に担がれたレーザーウェイブキャノンの砲身を溶かす。

 移動しなければ、撃墜される。その動揺が味方に拡がる前に、指揮官は固定を解除し、レーザーウェイブの
チャージを中断するだろう。
200Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/13(木) 11:23:55 ID:Tr/ZMIGh
 しかし……そんなダグラスの考えは甘かった。
 攻撃を受けたガンダムXウィズクルスは、微動だにしていない。被弾したにも関わらず、宇宙空間で“動かない”と
言う事は、自らの意思で留まっている証拠。

「なっ……何なんだ、こいつ等は!?」

 それだけではない。他の機体も、味方機の損傷に関心を払う様子が、全く無い。ダグラスは空寒い物を感じた。

「墜ちろ! 散れ! 頼む、逃げてくれっ!」

 連射を続けるダグラス。ビームは、数機のガンダムXウィズクルスの受信パネルを、腕を、脚を、頭を落としたが、
彼等は石像の様に動かない。焦るダグラスの耳に、何処からとも無く、聖歌が聞こえて来た。

(母なる地を放れ、安息を求めて、彷徨う子等よ……)

 強化人間の精神を安定させる為の歌が、レーザーウェイブと共に、アルマゲストから発せられているのだ。
 暗示効果のある聖歌は、罪の意識を和らげ、任務を崇高な物と錯覚させる。
 割り込んで来る思念に対して拒絶反応が起こり、ダグラスは酷い悪寒と頭痛に耐え切れず、ヘルメットを抱えて
蹲った。

「ううっ……何だ、これは……? や、止めてくれ……」

 全てが、終わる……。
201Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/13(木) 11:29:22 ID:Tr/ZMIGh
 ハロルドの相手をしていたウィングガンダムパワーズと2機のガンダムFCCは、攻撃の手を緩めて母艦に
撤退し始めた。

 後退して行く敵機に気付いたハロルドは、追撃を止め、ガンダムXウィズクルスの集団に目を遣る。
 レーザーウェイブ受信パネルの輝きは、機体を完全に包み込むまでになっていた。

「間に合わないか……!」

 ハロルドはアタッカー形態でガンダムXの集団に向かう。この時点で、彼は何をしても無駄だと、心の片隅で
思っていた。それでも走らずには居られない。未だ、終われない。

(今、救済の時。主は全ての罪を赦し、魂は浄化され母なる地に還る)

 歌声は徐々に大きくなり、ダグラスの精神を蝕んで行った。鳴り響くチャーチベルが、思考を阻む。
 震える両腕では機体制御が上手く行かず、真っ直ぐに進む事さえ困難。
 苦痛に耐えて必死に狙いを付けた最後の希望は、空しく的を外れる。

 そして、遂に……。

「レーザーウェイブキャノン、発射」

 終わりが、始まった。
 ドード・アーリア大尉の声には何の感動も無く、その命令が任務に過ぎない事を強く感じさせる物だった。

「あ、ああ……止めてくれ、止めてくれぇえっ! うわぁああああああああああああ!!!」

 ダグラスの絶叫は、閃光に掻き消され……。

 白が世界を包んで行く……。
202Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/13(木) 11:40:29 ID:Tr/ZMIGh
 全てを眩い光が覆い、破滅を祝福するかの様に、聖歌がリリーズを迎える。

 一瞬の出来事だった。

 ミレーニアを覆うビームシールドバリアは、何の役目も果たさなかった。

 外見には、発動したのかさえ、判別出来なかった。

 巨大コロニーは劫火に屠られる紙屑。

 燃え滓一つ残らず、散り際の爆発すら押し流され、呑み込まれた。

 敵も味方も無く、全員が動きを止め、その光景に目を奪われた。

 一部始終が瞼に焼き付き、今日は忘れられない日となるだろう。

 滅亡の光は、ミレーニアから退避した艦とMS隊にまで届いて……。

 そこには、初めから何も無かったかの様に、消えた。

 唯々、広大なる宇宙の静寂が残るのみ。

 目標の消滅を確認し、X隊は悠々と去る。

 追う者は居ない。

 ……全てが終わった後で、ダグラスのナッターは、ミレーニアが在った辺りを、当所無く旋回していた。
 洪水に流された巣を捜す親鳥は、知らぬ間に消え去ってしまった巣を捜し、在った場所を飛び回る。
 何処までも虚しく、悲しく。

「ダグ、返事をしろ! ダグ!!」

 繰り返し呼び掛けるハロルドだが、応答は無い。
 ハロルドは並行連結で強制的にナッターを回収したが、もう何をする気力も残っていないのか、ダグラスは全く
抵抗しなかった。

 ヴァンダルジアへと帰艦するバウ・ワウ。
 ハロルドの目には、艦体が何時になく大きく見え、その分、自分が小さな存在に思えた。
203Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/13(木) 11:47:13 ID:Tr/ZMIGh
 ヴァンダルジアのブリッジは暗く沈んだ雰囲気に包まれていた。
 ミレーニア出身者の悲しみは筆舌に尽くし難く、掛けるべき言葉など見付からない。
 艦長のヴォルトラッツェルまで、無気力に俯いたまま黙していた。

 これは夢ではないのか……。誰もが、そう思った。そうであって欲しかった。
 ミレーニア1億人の住民全滅という惨劇を目の当たりにしながら、紙屑の様に燃え尽きた巨大コロニーは、剰りに
現実感を欠いていた。そこに残骸でも残っていたなら、何らかのリアクションが取れただろう。
 しかし、ここには何も無い。全て無くなってしまったのだ。

 流石にローマンも乗組員の心中を慮り、自ら声を発する事はしなかった。唯、無表情で佇むのみ……。

 そこにハロルドとダグラスが入室して来た。
 虚ろな目で何事か呟いているダグラス。心配そうな表情で彼を支えているハロルド。
 ……艦橋内に、2人に注目する者は一人も居ない。

 ハロルドはダグラスを壁に縋らせると、大きな足音を立てながらローマンに詰め寄り、両腕で胸座を乱暴に掴んで
高々と搗ち上げた。決して小柄とは言えないローマンの体が宙に浮く。しかし、彼は表情に変化を見せない。

 ガタン!

 ハロルドは、そのまま近くの壁にローマンの背中を押し当てた。

「手前、最初っから全部判ってたんだよな! 何が目的だ? 何故、ミレーニアを見捨てた! 地球圏でテロとか
 馬鹿な事やってる聖戦団の力を使えば、X隊を退かせる位、訳無かっただろうがよっ! 吐けっ、吐きやがれ!
 詰まらん答えだったら、この場で首の骨を圧し折ってやる!!」

 ハロルドのローマンを睨む眼は怒りに燃え、その首を押さえ付ける手は震えていた。
 首を絞められながらも、ローマンは抵抗らしい抵抗をせず、満足気な笑みを浮かべて答える。

「……全ては、コロニー連合総代表……アーロ・ゾット閣下の意思である……」
「そんな言い訳が通用するかっ!!」

 ハロルドの手に力が入る。ローマンは喉を半分潰されても、掠れた声で未だ笑っていた。

「フッ、フフフ……これで、コロニー連合軍の勝利は……揺るぎ無い物と、成った……!」
「このっ、気違いがっ!」

 ハロルドはローマンを床に投げ倒し、毒吐いた。
 そしてブリッジを見回したが……あれだけ彼が声を張り上げたにも関わらず、皆、枯れ花の様に首を垂れている。
 思わず溜息を吐いてしまう程、ハロルドは失望した。

 他人の不幸に同情している暇は無い。無力を嘆くのも、後悔も、自責も、全部後回しで良い。これでX隊の脅威が
消えた訳ではない事を、どうして理解しないのか!

 ハロルドが苛立ちを抑えて、2度目の溜息を吐いた時……。

「……艦長」

 ダグラスが重苦しい沈黙を破って、一言を発した。
204Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/13(木) 11:48:39 ID:Tr/ZMIGh
 ヴォルトラッツェルは顔を上げる。それに釣られるかの様に、全員がダグラスを見た。

「……ミレーニアに、向かおう」

 彼の言葉に、艦橋内の空気が凍り付く。誰もが言い間違いと思った。

「中将、ミレーニアは……」

 口にしたくない言葉を避け、暗に指摘するヴォルトラッツェル。しかし、ダグラスは聞いていなかった。

「ミレーニア! 行こう、皆が待っている」

 その声は明るく、目は純粋で、故郷を失った悲しみ等、欠片も見られない。
 ダグラスの異常な言動に、ヴォルトラッツェルは薄ら寒さを感じながらも、事実を声に出した。

「……ミレーニアは消滅したのです! 中将!」
「艦長、ここには何も無いじゃないか! ミレーニアは何処か他にあるんだよ!」

 常軌を逸した反論に、艦橋は静まり返った。
 ダグラスが燃え尽きるミレーニアを見ていなかったとは思えない。
 事実と掛け離れた空想は、激励でも慰めでもない。彼の精神は、喪失に耐え切れず、現実を拒んだのだ。

 ブリッジの者は唯々、茫然とするばかり……。

「皆、どうしたんだ?」

 尋ねるダグラスは余りに滑稽で、見ている者まで気が狂いそうだった。
 上官の痛ましい姿に、管制官は小さく絶望の声を漏らし、両手で顔を覆った。
205創る名無しに見る名無し:2009/08/13(木) 11:50:16 ID:Tr/ZMIGh
16話終わり。
鬱。
206創る名無しに見る名無し:2009/08/13(木) 21:15:55 ID:yk96z1Fy

死におった…
207創る名無しに見る名無し:2009/08/13(木) 22:14:29 ID:6ufD/403

悲惨ですね・・・・
208MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/15(土) 03:06:41 ID:XTDK4IRA
蒼の残光 10.「蒼の残光」 開戦

細かく投下していきます。
209MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/15(土) 03:07:30 ID:XTDK4IRA
 戦端を開いたのは連邦軍だった。
 コロニーレーザーを包囲したルロワは、通信回線を開き投降を呼びかけた。
「アクシズ司令官ミカ・リトマネン伯に勧告申し上げる。こちらは地球連邦軍ジオン共和
国駐留艦隊司令官ギィ・ルロワである。今すぐ投降されたし。貴公及び貴公の軍の行いに
一片の正義なし。いたずらに地球市民の命を危機に陥れ地球市民と宇宙市民の溝を深める
だけである。それは理解や対話とは対極に位置するものである。投降せよ、さすれば我が
名に賭けて貴公らの減刑に尽力する事を約束する」
 返答はなし。予想はしていた事だ。ルロワは回線を艦隊内のみのチャンネルにして号令
をかけた。
「撃て」
『ハイバリー』『ネェル・アーガマ』を初めとする全艦が主砲を斉射し、MS隊が発進し
た。対するリトマネン軍もMS隊を発進、宙域は戦場と化した。
「始まりましたな」
 マオがリトマネンに声をかけた。その声は陽気を装っていたが、わずかな震えをリトマ
ネンは読み取った。士官学校の同期とは言え、所詮戦場から離れた輸送屋なのである。
「スティーヴ、君には感謝の言葉もない。君がいたからこうして連邦軍を相手にジオンの
理念を賭けた戦いが出来る」
「いやいや、礼には及びませんよ」
「ここで死んでも悔いはなしだ」
 マオが眼を剥いた。リトマネンが軽く笑う。
「安心しろ、もちろん負けるつもりは毛頭ない。ただ、死に場所としては悪くない、そう
思っただけよ。軍人としての感傷という奴だ」
「…………」
「これより私は指揮に専念する。君はここで見ているかね?」
「い、いや、皆さんのお邪魔をしてはいけない。自室のベッドで布団を頭から被っている
事にしますよ」
「そうか、それならそれでいい」
 マオは司令部から退席すると、居住ブロックとは逆方向へと足を向けた。
210MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/15(土) 03:08:15 ID:XTDK4IRA
「――来るか」
 アランは乾いた唇を軽く下で湿した。
「オリバー、準備はいいな?」
「もちろんだよ、アラン」
 間髪入れぬ返答。多少高揚してはいるが、精神は安定しているようだ。
「奴ら、伏兵を潜ませてるよ。天頂方向にダミーのデブリを散布して」
「やはりな。予想はしていた事だ――それを感じ取れるのか?」
 オリバーの笑声が聞こえた。
「今の僕は最高に冴えてるんだ。僕から隠れる事なんて誰にも出来ないよ」
「そうだったな。では、そっちは任せた。数の上では俺達は圧倒的な不利である事は変わ
らんからな。あの『戦慄の蒼』がいない事を差し引いても」
「全く残念だよ。ここであいつを殺せると思ったのに」
 オリバーの声は本当に残念そうだった。
「マリオンを連れて来た時にその事は予想しておくべきだったかもしれんな。しかし、俺
の立場では好都合だ」
「判ってる。勝ち続ければその内僕の前に出てこざるを得ないだろうしね」
 そう返答したものの、やはりオリバーは口惜しかった。
 彼自身の目論見としては、マリオンを奪還すべく攻めかかってきたユウを返り討ちに屠
り去り、マリオンを名実共に取り戻すつもりだった。
 マリオンはユウに騙されている。
 それがオリバーの結論だった。どんな方法か知らないが、あの男はマリオンを洗脳し、
自分のために利用している。ならばマリオンのユウと知り合ってからの五年間を全てリセ
ットしてしまえばいい。強化人間調整用のプログラムは彼女の記憶を洗浄するのに役に立
つはずだ。その上でユウを討ち取ればマリオンの時は完全に巻き戻せる。
 そうすればまた、マリオンは僕に微笑んでくれる。
 そのためとは言え作戦にマリオンを巻き込むのには多少の躊躇いもあったが、今の自分
ならどんな死地にあっても彼女を守りきる自信がある。
「それじゃ、行くよ。僕たちの明日のために」
 オリバーのハンニバルが出撃した。
211MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/15(土) 03:09:29 ID:XTDK4IRA
 アイゼンベルグはタイミングを推し量っていた。
 ルロワ、ブライトら主力が戦端を開き、タイミングを見計らってスキラッチの奇襲部隊
が急襲、一気に旗艦とコロニーレーザーの制御室を制圧、無力化させる。これが基本方針
である。
 しかし、考えまいとしても一つの懸念がアイゼンベルグの心を乱していた。言うまでも
なくマリー・ウィリアムズ・カジマの事である。
 拉致されたマリーは間違いなくこの艦隊か、コロニーレーザーのコントロールルームか、
そう言った居住スペースを持つ場所にいる。無傷で占領できればいいが、撃沈でもしてし
まえば巻き添えで殺してしまうかもしれない。これは特にルロワ艦隊の将兵にとって共通
認識であり、他の艦隊の将兵から見ても無視できない要素になっていた。結果として、マ
リーの拉致は連邦軍の作戦の難易度を数段階一気に押し上げた事になる。
「ま、やるしかねえか」
 アイゼンベルグは呟いた。ユウなしで新型二機を相手にしなければならないというだけ
で困難なのだ。コロニーレーザーの無力化という第一目標のため、最悪はマリーの事を諦
める決断もしなければならない。
「数が多いな。ダミーか」
 センサーの熱源反応からも張子がある事は確認できる。相手も余力などなくギリギリで
戦っているのだ。
 アイゼンベルグの愛機が左腕を上げた。カウントダウン開始の合図である。
「――三、二、一、アターック!」
 天頂方向から一斉に襲撃を仕掛ける。この奇襲で一気にコロニーレーザーを制圧するの
が理想、最低でも敵戦力に打撃を与え本隊と挟撃体勢を作る。
「来るよ、アラン」
 オリバーが警告を発する。彼の直観力はこの奇襲を予期していた。
「任せろ」
 アランが方天画戟を構え直し前に進み出る。そこに襲い掛かるのはアイゼンベルグの一
隊だ。
「もたもたするな!やる事はたかが人殺しだ」
 一般的な感覚の者が聞けば眼を剥くであろう激を飛ばしつつミサイルを発射する。牽制
用の閃光弾はアランの目前で爆発、目が眩むほどの強い光を放った。
「む!?」
 さすがのアランも一瞬視界を塞がれる。ハンニバルのモノアイは瞬時に光をカットした
が、その一瞬の間にジムVが三機、間合いに入った。
「舐めるな」
 得物を横薙ぎに一閃し、ジムを二機一度に切り裂く。接近戦であれば彼のハンニバルを
凌駕するMSなどこの時代には存在しなかった。
「この画戟の届く限り全てを斬る!」
 反転しつつ三機目を両断。その時初めてアランはあまりにも手応えがない事に気づいた。
「罠か!?」
「遅い!」
 アイゼンベルグが会心の声をあげる。斬られたダミーの中から無数のショックワイヤー
が射出され、ハンニバルの自由を奪った。
「くっ……!」
「ダミーを持ち出すのはお前らだけじゃねえんだよ。今だ、一斉砲火!」
 数十のビームライフルと戦艦、巡洋艦の主砲。ほぼ全方位からの火線を逃れる術はなか
った。ないはずだった。
 しかし次の瞬間、後方に待機していたオリバーのハンニバルがニトロシステムを使用し
てアランの下に文字通り飛んできた。オリバーはアランに覆い被さるように重なると、両
肩の装置を稼動させた。
 高密度の十字砲火は二機のどちらにも届くことなく弾かれ、拡散した。
 アイゼンベルグほどの歴戦の士が完全に言葉を失った。それほどまでに衝撃的で、彼の
経験を超えた光景だった。
「……Iフィールドか!?」
 信じがたい事だが、二十メートル級のMSでありながらIフィールドを発生させること
が可能なのだ。サイコミュ兵器に大業物による格闘能力、さらにIフィールド。この二機
が揃えば無敵ではないのか。
「迂闊だよ、アラン」
「すまん、助かった」
 ワイヤーから脱出したアランは改めて前に進み出た。アイゼンベルグはビームライフル
を構え直し、死ぬまでにどれだけ時間を稼げるかを考え始めた。
212MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/15(土) 03:19:34 ID:XTDK4IRA
ここまで


アイゼンベルグはどちらも正規の軍人と言うより傭兵崩れのイメージで作っています。
物腰は粗野で、でも面倒見はいい。うるさい上官には逆らわない代わり近づこうともしない。戦い方は型にはまらない
変則的なもので不意打ち騙し討ちなんでもあり。そんなキャラです。ギドも近いキャラでしたね。
主役にはしにくいけど脇役で出すと男から人気が出そうな、そう言うところを狙っています。
ダミーにワイヤーを仕込むのはアイゼンベルグのアイデアです。
213創る名無しに見る名無し:2009/08/15(土) 09:02:15 ID:f+ADqVEX
乙!
やっぱりハンニバルはやべぇ…
214創る名無しに見る名無し:2009/08/15(土) 22:31:42 ID:jysWdb9m
 ――ニュータイプ、それは人の革新

 重力の頚城を脱した人類が、無限の広がりを持つ宇宙へと適応した姿。突出したコミュニュケーション能力を持つとされ、真に解り合い、分かち合える者達。
 だが、黒歴史が示すニュータイプには別の意味がある。

 ――ニュータイプ、それはモビルスーツに対して適性が高く、特殊な力を持ったパイロット。

 常軌を逸した空間把握能力と、超人的な感応能力、そしてモビルスーツという無機の体に、血を通わせ神経を張り巡らせるセンス……それらを先天的に持つ者達こそ、ニュータイプと呼ばれる人間だった。

 真実の程は、エンテ=ミンテには解らなかった。前者であればディアナ=ソレルがそうとも感じるが、月の女王は唯一にして無二。その御心を解り合うにも、分かち合うにも一人では不足だと感じる。
 無論、自分如き俗物ではとてもと思い、他の誰でも同様だと心に結んだ。
「ディアナ様が二人いらっしゃれば……あろう筈もないか」
「ミンテ少尉、真面目にやりたまえ。まったく何を馬鹿を、十五、六の小娘じゃあるまいし夢見がちな」
 上官の叱責に沈黙を無線へ返す。同時にアームレイカーを忙しく操作すれば、真紅の機体が彗星の如く宇宙を切り裂いた。煌々とスラスターの尾を引き、『AMS-120X』が目標を追う。
 視界に点となって逃げる白亜の機体は、エンテに全く性能の不利を感じさせない。直線的な操縦は稚拙で、技術的に数年先の最新鋭機を持余してるとさえ思えた。
「大佐に小娘呼ばわりされては面白くないな……落ちてもらう、一本角っ!」
 照準を付けるや、迷わずにトリガーを引いた。ビームライフルの光条が迸り、目標が出力に物を言わせて回避する。そのパワーだけは本物で、エンテは舌打を零しながらも機体をロールさせて後を追った。
「馬力に物を言わせるっ!?」
「少尉、アレを使わなければ今日の試験の意味が無い。サイコミュ、いけるな?」
「しかしアレは……大佐、私はその、ニュータイプがどうとかは、信じられないのですが」
「ギンガナム艦隊に残っていたデータを流用している。問題ない、やれっ!」
 やれと言われてしかし、了解と素直に応じることに躊躇いを感じつつ。機体に制動をかけるや、エンテは未知の武装へと心で触れた。瞳を閉じて瞼の裏へと、イメージを紡いでビジョンを具現化させる。
 閃きが脳裏を擦過する衝撃と共に、エンテはファンネルに攻撃を命じた。
 サイコミュ試験用のギラドーガから、筒状の小型砲台が放出される。それはまるで、意思ある生き物のように虚空を泳いで、何度も鋭角的なターンを繰り返しながら敵機の死角に潜りこんだ。
 白亜の一本角が、四方八方からビームを浴びて苦しげに身を捩らせる姿を見て、エンテは安堵の溜息を一つ。同時に、特殊なパイロットを前提に兵器を開発し、その兵器の為にパイロットそのものを開発する黒歴史の人類達に戦慄を覚えた。
「これがサイコミュ的な精神波の流れか……大佐、状況終了。これはしかし、一般のパイロッ――」
「気を抜くな、少尉っ! シミュレーションはまだ終ってはおらんっ!」
 エンテらしからぬ油断だった。彼女は脱いでしまったヘルメットを背後へ投げ付けるや、アームレイカーを握り直す。とめてあった黒髪がさらりと靡いて、無重力のコクピットに甘い香りを発散した。
「避けたのか? さっきの攻撃を全部……あれは!?」

 ――ガンダムッ!

 叫んだ時にはもう、エンテの赤いギラドーガは回避と同時に残る全ファンネルを放っていた。
 その目の前で、白無垢のモビルスーツが変形……否、変身する。全身から怒気をはらんだ真っ赤な燐光を発して、拡張したサイコフレームも露に身を強張らせる。一本角が左右に割れると、見慣れたツインアイの光にエンテは冷たい汗をかいた。
 勝負は一瞬だった。
 可能性の獣が吼える時、ガンダムがその真の姿を現し……あたかも、ニュータイプの禁忌に触れるモノを罰するように全てを蹂躙した。エンテは一人、自分が撃墜されたことを示すモニターの表示を眺めながら……その背後に浮かぶガンダムを睨んで、小さな拳を握る。
 しかし、拳を振り下ろす先も持てず、振りあげることも叶わず……エンテは黙って奥歯を噛むと、長い漆黒の髪を揺らして己の掌を叩いた。
215創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 00:07:41 ID:5dfCkIT9
逆シャアの時代の設定だけMSって最近ゲームとかで
よく登場するようになったね
量産型νガンダム(バンプレストオリジナル)って何人が知ってるかな
ユニコはアニメ化でどうなるのかな?
216創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 00:11:31 ID:1yHx7MH+
量産型νガンダムはパンプレストオリジナルじゃねえよ
217創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 08:20:00 ID:5dfCkIT9
知らないのか…
初出はMSVだけどスパロボFで登場した時、
映像作品になってなかったから登場作品の項目が
バンプレストオリジナルってなってたというネタなんだが
まあ誤解させたようでスマンヌ
218創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 08:52:40 ID:UjPVjynV
違う。M-MSVだ。
MSVとか昔すぐる
219創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 09:40:39 ID:4wfkZP9d
 ――ガンダム。

 黒歴史を生きた人類にとって、それは神話の名。
 ガンダム神話と呼ぶべき偶像崇拝を、エンテ=ミンテは司書達とのミーティングで何度も見聞きし学んできた。滅びし旧暦の数々に圧縮された、畏怖と畏敬、羨望と渇望。
 人は皆ガンダムを求めながら造り続け、同時に恐れながら潰し続けた。ペーパープランで終ったモビルスーツの中でも、ガンダムの数は常軌を逸して膨大。
 特別なモビルスーツとしてガンダムを崇めながら、制式量産機とは別に高級量産機として数を揃えたがる……それはどこか、信仰にも似た切実な妄念をエンテに感じさせた。
「これで量産機か? 過敏な」
 エンテはアームレイカーを操る、そのしなやかな指に追従する機体を翻した。『RX-94』が両手からダミーバルーンを射出し、幾重にも連なる分身の影から攻勢に転じる。
 量産型とはいえ、ガンダムの名に恥じぬ機動性が痩身をシートに押し付け、襲い来るGにエンテは奥歯を噛み締める。突出してきた『AMS-119』ギラドーガがダミーバルーンを処理する、その側面を突いてビームスプレーガンを斉射三連。
 漆黒の宇宙に炎が爆ぜて花が咲いた。
「っと、ライフルもあるんだったな。物珍しい武装を見るとつい――」
 概ね模範的なパイロットだが、少しだけ好奇心と探究心には自信がある……そんな自分の悪癖にちろりと舌を出しつつ、乗機にビームライフルを構えさせた。
 刹那、銃身の先端がこそげ落ちた。大口径の有質量弾頭による正確な狙撃。すぐさまエンテは、ライフルを手放し回避運動に移る。
 遥か遠方に『AMS-119』を見つけ出し、その背の巨大な砲身に目を細めつつシールドもパージする。エンテは僅かに唇を緩めて微笑むと、ニューガンダムの量産型に鞭を入れた。
「インコムとか言ったな……私ならこうだ、ガンダムッ!」
 背負うインコムユニットより、左右二基の小型有線砲台が放たれた。宇宙の深淵をワイヤーが切り裂いてゆく。それを追ってフル加速するガンダムが、両の腕を顔の前で交差して背へ伸べる。
 ――ニューガンダム。13番目の文字である《ν》を頂く、ガンダム神話の集大成。エンテは何度も、黒歴史が再現する《ν》の奇跡を映像で見た。地球の重力に掴まった巨大な宇宙要塞を、人の心の光で押し上げてゆく……彼女はこの記録映像が嫌いではなかった。
 同時にニューガンダムは、その背負う数字の呪縛に囚われたかのように、あらゆるバリエーションプランが時代に裏切られ続けた。ツインファンネル、HWS……そして量産型。
「ミンテ少尉っ! どうして君はそうなのだ、そもそもインコムとは――」
 上官の声が耳元から遠ざかる。ヘルメット内に興奮の吐息を刻みながら、エンテは左右のビームサーベルユニットを握った。抜剣と同時に小さな光が灯り、急接近に気付いた重装型のギラドーガがモノアイを向けてくる。
 即座に後退しながらランゲ・ブルーノ砲を射撃ポジションへと移行させる、ギラドーガの動きがガクンと止まった。
 エンテの放ったインコムのワイヤーが、その厳つい四肢を絡めとり自由を奪っていた。
「浮遊砲台でチクチク撃ち合いなどっ! 私は……嫌だな」
 真正面からぶつかった。二本のビームサーベルをギラドーガのコクピットへと押し付ける。同時に、光の剣が現出して刺し貫く。エンテはそのまま、ガンダムを大の字に開いて左右へと切り払った。
 胴を両断されたギラドーガが、爆光にガンダムのシルエットを浮かび上がらせる。
「……ミンテ少尉、エンテ=ミンテ少尉! 全く、士官学校なら落第点だぞこれは」
「お褒めに預かり光栄であります、大佐」
「まったく! 先日のサイコミュ試験型ギラドーガのレポート、読ませて貰ったが……」
 シミュレーターが停止するや、映像が消えてモニターが無機質な光を反射させる。エンテはヘルメットを脱ぐと黒髪をかきあげ、コクピットのハッチを開放した。
 目の前で上官が、片眉を痙攣させて待ち受けていた。
「サイコミュの類を用いた遠隔誘導兵器は、兵器として一定の効果が期待できつつも、その特殊性から安定した戦力としては運用が困難で……」
「よく書けてると思いますが、大佐」
 ここまではな、と溜息を零す上官にエンテは、悪戯を誇る童女のように微笑んだ。
「何より、遠隔誘導兵器の撃ち合いという戦闘スタイルは、ダイナミズムに欠け面白みがない、とある。馬鹿か君は!?」
「この年代を境に、サイコミュは徐々に衰退します。私はそれが原因なのでは、と……」
 しれっと言ってのけるエンテの黒髪が、湯気を上げる上官の怒声に揺れた。
 エンテは軍人でありながら《戦争》を嫌忌しつつ……《闘争》に趣向を凝らすこと、真摯にうちこみ己を高めることは、嫌いではなかった。
220創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 09:47:03 ID:4wfkZP9d
量産型ニューガンダムは、どうしてもスパロボで目立っている印象が強いですね。
自分が始めて知ったのは、コミックボンボンとガチャポンででした(う、歳がばれる…)
シャアの動乱長期化に備えての、高級量産機という設定だったと思います。

HWSやツインファンネル、Hiニューに量産型と、ニューはバリエーション豊富な人気者ですね。
CCA-MSV自体、リガズィカスタム等なかなかに魅力的なMSが多いと個人的には感じます。
221創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 10:17:56 ID:z3xbnvTn
>私はそれが原因なのでは、と……

ある意味正しいw
大人の都合って奴ですよね
222Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/18(火) 21:58:27 ID:TpvFkIrZ
投下行きます。読み飛ばし推奨。
223Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/18(火) 22:00:13 ID:TpvFkIrZ
 宇宙世紀の時代が終わっても、人類は相変わらず進歩しなかった。
 対立、支配、解放。戦う度に兵器だけが発達し、過ぎた力を振るう。小競り合いで幾つもの文明が滅亡し、果ては
人類存続の危機に陥るまで争ったが、それでも未だ厭きず、狭い輪の中で同じ事を繰り返す。
 その度に恨み辛みの澱が堆積し、ループからの脱却を困難にした。

 アステロイドベルト内での小さな争いに辟易した者達は、豊かな地を離れて自由を選び、木星から土星、天王星、
外宇宙を目指した。水と空気が不足する過酷なフロンティア時代、平穏な生活を脅かす外宇宙版戦国時代……。
時代毎の苦難を乗り越え、遂にアステロイドベルト外コロニー連合を結成する。

 外コロニー連合が結成される頃には、地球圏も安定を取り戻していた。地球連邦政府は、度重なる紛争で貧窮した
コロニー群を上手く抱き込み、生活必需資源の一部を地球に頼らざるを得ない構造を作り出して、間接的に支配。
財政支出と引き換えに優位を手にし、先ず平和と言える統治を続けた。

 しかし、アステロイドベルト内外の安定は、思わぬ事態を引き起こした。アステロイドベルト外コロニー連合は、
地球連邦政府のコロニー群支配を快く思わず、独立運動を支持。コロニー群は独立を仄めかし、連邦政府を
脅迫する様になる。
 独立志向コロニーの存在は、喉元に突き付けられたナイフ。我儘な子供の要求を受け容れるのにも限界があり、
地球連邦政府は遂に、全てのコロニー群に対して究極の選択を迫った。
 地球連邦政府の支配を甘受するか、“大好きな”アステロイドベルト外へ行くか……。

 外コロニー連合がコロニー群の住民を受け容れる姿勢を示した事もあり、その結果、一部の小惑星を除いた
大半のコロニーが地球圏を離れた。“巣立ち”である。
 アステロイドベルト外コロニー連合は、これを境にコロニー連合を名乗る様になる。
224Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/18(火) 22:15:25 ID:TpvFkIrZ
 無事に厄介払いが出来た地球連邦政府だったが、数年と経たない内に、新たな不安の種が芽を出した。
 発展して行くコロニー連合。準光速艇の完成、それに続く大型艦の準光速航行。アステロイドベルトを越えての
コロニー連合軍侵攻が、現実味を帯び始める。
 アステロイドベルト外からの侵略……過去に前例があるだけに、これを無視出来ない。

 地球連邦政府はコロニー連合に対して、不当な要求を始めた。最新技術の公開、軍事行動の制限、兵器破棄。
それは恐怖心の裏返し。当然ながら拒否され、疑心を深める悪循環。

 互いに敵対心を抱く様になり、十数年……。
 コロニー連合軍は合同軍事演習中、木星周辺宙域防衛軍の管轄領域に踏み込んだ連邦艦隊を攻撃してしまう。
両軍は互いに正義を主張して譲らず、後の大戦争の前哨戦とも言える戦闘は、こうして始まった。

 個々のMS性能で優る連邦軍は、この武力衝突を楽観視していた。災い転じて……と言う物か。度重なる内乱の
忌むべき産物が、外敵との戦いに役立つ。錬度の高いパイロットが操縦する主力MS“ガンダム”は無敵。敵地で
数的にも不利と言う状況ながら、負けるとは微塵も思っていなかった。
 その通り、序盤では自慢の質で確かに押していた。交戦直後、真っ先に脱落したのが、コロニー連合軍の司令艦。
連合軍兵の混乱に乗じて、ガンダムは次々と敵機を撃墜。数のハンデを無くし、勝敗は決したかに見えた……。
 しかし、早々に指揮官を失ったコロニー連合軍は、そこからが強かった。若い士官を中心に指揮系統を立て直し、
艦隊機動力で連邦軍を翻弄。消耗を狙う作戦に出る。
 ……終わってみれば、連邦軍の惨敗。連邦軍は被撃墜数こそ少なかったが、序盤以降は敵機を撃墜出来ず、
戦闘続行困難となり、撤退せざるを得なくなった。
 皮肉な事に、この結果は地球連邦側の危機感を煽り、後の全面戦争の切っ掛けとなる。
225Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/18(火) 22:24:25 ID:TpvFkIrZ
 先に攻め込んだのは地球連邦軍。アステロイドベルトを越え、総力を上げて潰しに掛かるも、迎撃態勢を整えた
コロニー連合軍を攻め切れなかった。
 機を逃さず、コロニー連合軍は突撃隊を編成して攻勢に転じ、アステロイドベルトにて圧勝。
 広大な宇宙空間では、艦隊機動力に優るコロニー連合軍が有利。この戦いで主戦力を失った地球連邦軍は、
火星と月に迎撃を任せて後退。MSの開発・生産を急ぐ。

 所が、地球連邦軍の思惑に反し、突撃隊は挟撃される危険を承知で、全速で火星を素通り。予想外の展開に月は
抵抗を諦め、突撃隊は占拠したユノーを根城に易々と地球に降下。
 背水の陣の地球連邦軍は、間に合わせの物量で強引に突撃隊を押し返し、畳み掛ける様にユノーにX隊を向けた。
 ユノーは欠け、突撃隊は退却……そこで、終戦。

 コロニー連合軍は、未だ本星に大軍を抱え、地球連邦軍は、これから一気呵成に攻め立て様という所。
 敗北を認められないコロニー連合軍、本土に攻め込まれた形では終われない地球連邦軍。
 互いに十分な余力を残した状態での政治的な幕引きに、両軍は強い不満を抱える事となったのである。

 戦争の“続き”……地球連邦軍の求める物は、コロニー連合の無条件完全降伏、或いは全滅。
 そこに横たわるは、一方的な不信感。未知への恐怖、解り合えぬ不幸。地球の重力は人の魂を放さない。

 ハロルド・ウェザーとダグラス・タウンが“聖戦団の艦で”アステロイドベルトを越えた事により、地球連邦軍は
本性を現した。
 X隊派遣、ミレーニア消滅……戦争は既に再開している。少なくとも“連邦軍は”、そう認識している。

 この戦争は……この世界は何処へ向かおうとしているのか……?
 結末を知る者は居ない。
226創る名無しに見る名無し:2009/08/18(火) 22:28:54 ID:TpvFkIrZ
17話終わり。駆け足で背景と歴史を説明。読まなくても支障は無い。
227Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/23(日) 12:32:02 ID:OugbV48k
止まるな。進め。
228Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/23(日) 12:37:12 ID:OugbV48k
 発狂したダグラスは、艦橋内を絶望の底に沈めた。全てが音を立て崩れ落ちる。泣き出す者、叫び出す者……。
起き上がったローマンさえ同情の色を見せていた中……。

「阿呆かーっ!!」

 疾かった。瞬きする間に、ハロルドはダグラスの顔を殴り飛ばしていた。容赦無く、全力で。
 勢い良く吹っ飛び、床に転げるダグラス。周囲の目は、ハロルドに集まる。

「……ハ……ル?」

 ハロルドは構う様子無く、頬を押さえて目を白黒させるダグラスの襟首を片手で掴み、引き上げた。

「手前が確りしなくて、どうすんだ!? 中将ともあろう者が、部下の前で情けない姿を晒すな! 呆けたけりゃあ、
 連邦軍を打ち伸めしてからにしろ!!」

 怒りの檄を飛ばした後、周囲を見回す。

「他に殴られたい奴は居ねえかーっ!? あのX隊は未だ近くにいるんだっ! 故郷を失った者は辛いだろう、
 悲しいだろう! 泣いても喚いても構わねえ……だが、止まる事は許さん!!」

 横暴を通り越して、狂気染みた言動。しかし、今は彼だけが頼れた。皆、そそくさと発進準備を始める。
 その時、襟首を掴まれていたダグラスが、ハロルドの手を軽く叩いた。
 
「……ハル、済まなかった。もう大丈夫だ。少し……気が動転していた」

 実際は傍目にも少し所の動揺では無かったのだが、今の彼の目には悲しみの色が宿っている。滲む涙は殴られた
痛みの所為かも知れなかったが……。

「頼むぜ、相棒」

 ダグラスが正気に返ったのを確認したハロルドは、固く握り締めていた拳を開き、漸く硬い表情を緩めたのだった。
229Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/23(日) 12:57:54 ID:OugbV48k
 皆が慌しく動き始めた中、ダグラスは独り艦橋上部の展望室に向かった。乗組員の中には彼に気付く者もいたが、
その心中を察し、誰も声を掛けなかった。……ハロルドも意図的に無視していた。

 広い展望室には、他に誰も居ない。それが彼には好都合だった。他人の前で、あれ以上は恥を掻けない。今の
内に心の整理を付けよう。そう思い、宇宙空間を眺める事にした。

 自身がニュータイプである事が関係しているのか、ダグラスは宇宙の静謐が好きだった。広大な空間に想いを
馳せると、世俗の万事が無意味な物に思われる。感覚が研ぎ澄まされ、思念だけで何処までも躍べた。
 ……人の命は儚い物。大いなる流れの前では、小事に過ぎない。言い聞かせる様に内心で繰り返す。

 気を鎮める為に瞑想していたダグラスだったが、虚空を漂う思念は、同じ所ばかりを飛んでいた。
 何も無い、変わり映えのしない、無意味な景色。先に進みたいのに、進めない。その理由に気付き、愕然とする。
彼は無意識に、消えたミレーニアを探していたのだ……。

(俺は……何をしているんだ?)

 ふと、我に返る。涙が自然に溢れていた。視界が歪む。瞳を閉じると、涙が人工重力に引かれて頬を伝うのが
判った。拭う事もせず、流れるに任せる。ここまで己が弱い人間だとは知らなかった。

「ダグ……」

 嗚咽を堪えるダグラスの耳に、優しい声が届いた。ダグラスは目を拭って顔を上げた。涙する所は見せられない。
 何事も無かった風を装って、周囲を見回したが、声の主は居ない。聞き覚えのある声だった気がする……。誰の
声だったか思い返そうとすると、再び涙が湧き上がった。

(空耳だよ。あの声は……)

 眼前に広がる宇宙に目を戻したダグラスは、首を横に振って半歩後退った。これは夢か幻か……。
 展望窓を隔てた向こうには、家族の姿。父、母、妹……。父を中心に身を寄せ合う3人には後光が差しており、
この世の者ならぬ雰囲気でダグラスに微笑み掛けている。

「ど、どうして……俺は……」

 幻覚を見ているにしては嫌にリアルで、振り払う気が起きない。どうすれば良いか判らず、彼は立ち尽くした。

 暫らく後、3人はダグラスから視線を逸らし、揃って彼方を見詰めた。釣られ見ると、その先には明滅を繰り返す
蛍の様な光が、無数に漂っている……。それはミレーニア1億人の魂の光。
 か弱い魂の光は、戯れる様に融合を繰り返し、徐々に巨大な星となって行く。穏やかな光を放つ魂の星は、
見惚れる様な美しさだった。
230Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/23(日) 13:02:46 ID:OugbV48k
 ダグラスの家族は頷き合い、名残惜しそうに長男を一瞥した後、魂の星へ向かって流れる様に飛ぶ。

「待ってよ! 行かないでくれ! 俺を独りにしないでくれよ!」

 思わず、ダグラスは強化ガラスに張り付き、叫んでいた。しかし、声が空しく響くだけ。3人の魂は星に接近する
過程で光となり、やがて輝きに呑まれ、完全に判別が付かなくなった。どうし様も無い孤独感に襲われたダグラスは、
哀れみを乞う眼差しで魂の星を見続けた。

(……何処へ、行くんだ?)

 全ての魂を取り込んだ星は、徐に艦から遠ざかり始める。ダグラスは向かう先に目を凝らした。

(嫌な予感がする……。X隊の時と同じ……? いや、何だろう……これは……?)

 X隊に劣らない、強大な悪意を感じる……が、悪寒や焦燥は起こらない。ミレーニアの悲しみが大き過ぎて、
無感動になっているのか……。ダグラスは己の感覚に自信が持てなかったが、取り敢えず彼方の輝く星を
追う事に決めた。
231Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/23(日) 13:05:58 ID:OugbV48k
「艦長、見たかい!? スクリーンを!」

 ブリッジに戻るや、ダグラスは興奮気味にヴォルトラッツェルに声を掛けた。スクリーンが虚空を映しているのを
確認すると、管制官の肩越しに操作盤に手を伸ばし、モニターを凝視して明るく光る星を探す。

「あれを追ってくれ!」

 ダグラスは画面を操作し、巨大スクリーンに魂の星を映して、それを仰ぎ見た。

 ……しかし、何時まで経っても反応が無い。不審に思ったダグラスは、振り返って指揮座に目を遣った。
 ヴォルトラッツェルは他所見をしていたのか、慌てた様子で態とらしくスクリーンを睨むと、困惑の混じった難しい
顔をする。

「艦長……?」
「す、済みませんが……中将、何があるのですか?」

 ダグラスは再びスクリーンを見上げた後、モニターに目を戻した。どちらにも妖しい輝きを放つ光球が映っている。
それは画面全体の20分の1を占めており、背景の星々と比して明らかに大きく、強い輝きを放っていた。他の何かと
見紛う事は、先ず有り得ない。画面をズームさせ、より鮮明に見える様にする。

「これだよ! これが見えないと……」

 ダグラスは再び振り返ったが、皆の視線に気付き、言葉を止めた。
 皆……艦長も、ハロルドまでも、怪訝な表情でダグラスを見詰めている。

「見えない……のか?」

 無言で疎らに頷く一同を見て、ダグラスは肩を落とした。魂の光が見えていたのは彼だけ……。
 皆の目に、巨大スクリーンは相変わらず、無限に広がる虚空を映していた。
232Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/23(日) 13:08:02 ID:OugbV48k
 ダグラスが正常だったなら、皆は“ニュータイプ”の一言で一切の疑問を片付け、動き始めただろう。しかし、直ぐに
正気に戻ったとは言え、一度精神に異常を来たした彼を、再び信用出来る者はいなかった。
 それに彼自身も、己を信じて良いか迷っていた。未だ夢見気分で、幻覚を見ていないとも限らない。

 艦橋が気不味い雰囲気に包まれた時……ハロルドが苛立ちの声を上げた。

「おい、ダグ!! 手前は未だ殴られ足りねえのか!?」
「……そうかも知れない」

 俯いて気の無い返事をしたダグラスに対して、ハロルドは大きな溜息を吐き、舌を打つ。
 そして鋭い口調でヴォルトラッツェルに話し掛けた。

「艦長、あの先には何がある?」

 その目はスクリーンの中央を睨んでいる。艦長は即座に操舵長に声を掛けた。

「操舵! 確認しろ!」
「この方角は……ヘーラーです!」

 レーダーマップを確認後、やや恐縮して答える操舵長。ハロルドは腕を組んで頷いた後、横目でローマンを見遣った。

「そこに何があるか知らんが、行ってみよう。元々、ヘーラーに向かう予定だったし……なあ?」

 当て付ける様に言ったハロルドだったが、ローマンは無言で不満を顔に表し、外方を向く。

(初めから大人しく従っていれば、余計な手間は掛らなかった物を……)

 彼にとっては、全て予定通りの出来事。ミレーニア消滅にしても、直接現場を見ない方が、乗組員のショックは
少なく済むと考えていた。それを気遣いと言うと語弊があるが……。
233Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/08/23(日) 13:12:07 ID:OugbV48k
 ローマンの内心の毒吐きを知ってか知らずか、にやりと不敵な笑みを浮かべたハロルドは、彼方まで続く虚空を
映すスクリーンを真っ直ぐ見据え、堂々と言う。

「これよりヴァンダルジアはヘーラーに向かう! 操舵はダグラス・タウン中将の指示に従え!」
「……りょ、了解!!」

 操舵員のタイミングの合わない返事が、命令の意外さを物語っていた。
 何故に、この状況でダグラスを信用するのか? 他人に見えない幻の星を追って、進路を外れたりしないのか?
誰もが不安に思った。皆の疑問をヴォルトラッツェルが代表して尋ねる。

「特別大佐、宜しいのですか?」
「宜しいも何もあるか! またトチ狂いそうなら、その度に俺が修正するから安心しろ!」

 啖呵を切ったハロルドに、ヴォルトラッツェルは、それ以上何も聞かなかった。結局の所、何の理由も保障も無いと
言う事なのだ。敢えて言うならば、ハロルドの直感。彼の“殴られ足りないのか”との問いに、ダグラスは自信喪失した
様子で、“そうかも知れない”と答えたが、自省出来るからと言って、全く問題が無いとは限らない。
 しかし、“それだけ”でハロルドには十分だった。学生時代からの付き合いで、ダグラス・タウンと言う人物については、
よく知っている。少なくとも、この艦にいる他の者よりは……。

 その彼が責任を持つと言ったので、艦長は黙った。ここで余計な質問を続ければ統率に係わる。この状況で、部下に
少しでも自分が、上官の決定に反感や不満を持っていると疑われる訳には行かない。取り敢えず、ハロルドから責任を
認める一言を引き出した事で、質問の意義は果たしていた。

 ダグラスは顔を上げ、ハロルドを見る。彼の心遣いは有り難いが、同時に不安でもあった。

「ハル……」
「へっ、何て間抜け面だ! 何度も言ったろうが! 人の上に立とうって奴は、自信が無かろうが堂々としてろ!」

 その胸中を見透かした様に、ハロルドは言い放つ。ダグラスは表情を引き締め、気を入れ直した。今度は謝らない。

「“有り難う”」
「漸く解った様だな。“どう致しまして”? 礼を言われる程の事でもねえよ」

 相変わらずのハロルドが嬉しい。そこには何物にも代え難い友情があった。

 ……遣り取りを傍で見ていたローマンは、面白く無さそうに息を吐いた。無謀なハロルドは、周りの者に救われている。
戦中、兵の士気を上げる為に、広告塔として特別大佐まで伸し上がったエース。現場での評価は知らないが、上層部の
間ではダグラス・タウンの“序で”扱い。制御不能な粗暴振りに、将官への昇進は阻むべしと抑えられ、故の“特別”。
 その肩書きだけの偶像を支える艦長。ハロルドは祭り上げられている事を自覚しているのか……。
 自覚していないだろうと、ローマンは小さく嘲笑った。
234創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 13:15:59 ID:OugbV48k
18話完。
そして誰でも次々ネタ振って投下しようぜage
235創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 15:19:17 ID:mrmnrssH
おっつんつん
ROMっててもしかたないから何か書くか…
236創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 22:52:27 ID:eRiS9NMD
refine【動】【他】
1:(不純物を除去して)…を精製する、精練(精錬)する、純化する、refine gold……金を精錬する
2:…にみがきをかける、…を洗練する、refine one's writing style……文体にみがきをかける

 人の心の光が持つ力は、無限。
 エンテ=ミンテは何度見ても、アクシズショックと呼ばれる黒歴史最大の一大イベントに目を奪われる。サイコフィールドとよばれる空間に満ちた光は、温かく柔らかい。
 しかし今、エンテをシートに押し付けフル加速する『RGZ-91B』のスラスター光は、暴力的な輝きで静寂の爆音を轟かせる。瞬く間に奇跡の光景が遠ざかった。
「ミンテ少尉、見惚れている場合ではないぞ? 試験開始……フッフッフ、今日の相手は手強いぞ」
「了解、大佐。まあ、もう何が出ても自分は驚きませんが」
 アームレイカーを握る手に自然と力が篭る。《Z》の系譜に連なる末裔が、エンテの操作で機首を翻した。
 それにしても、何と醜いモビルスーツだろう……否、モビルスーツ自身が醜いのではない。その出生に纏わる人の想念がおぞましいのだ。リガズィカスタム、正式名称はリファイン・ガンダム・ゼータ・カスタム。このツギハギだらけの名前が、エンテを内包する全てだった。
 ――Z、それは特別なモビルスーツ。
 ニュータイプと呼ばれる人間達の意志を、想いを力に変えるマシーン。故にある者は敬い崇め、ある者は恐れ慄いた。宇宙世紀と呼ばれる時代の支配層は、Zの名を冠するガンダムを恐れた。リファインと称して貶め、そのカスタム化を闇に葬った。
 それもまた、黒歴史に刻まれた人類の足跡だった。
「以前乗ったリガズィとはまるで別物だ、これは……む、邪気が来たかっ!」
 エンテはアラートと同時に、回避運動の横Gに顔を歪ませた。激しいロールに軋む機体を、四方よりメガ粒子の殺意が擦過する。オールレンジ攻撃の向こう側にエンテは、白い妖精の女王を見た。
 それは、嘗てこの時代を女で支配しようとした男の、怨嗟と憎悪が象る妄執だった。
「どうだね、ミンテ少尉。この『PMX-004』タイタニアに、そのモビルスーツで勝てるかね?」
「大佐、それが私の任務です。とくと、御覧あれっ!」
 上官に吼えるや、エンテが振り回す機体が変形する。人の形を為すリガズィカスタムが、ハイパービームサーベルでファンネルを切り払った。同時に距離を詰めて敵本体に、タイタニアへと直撃を試みる。
 しかし、無数のファンネルが乱舞する戦闘宙域で、その無謀な行為は至難を極めた。
「これだからファンネルは嫌いだ、安易な……気安いっ! ――変形? BWS、いけるなっ!」
 ビームアサルトライフルを乱射しながら、エンテは脳裏に閃く声を聞く。即座に変形したリガズィカスタムは、グレネードランチャーで弾幕を張りながら全スラスターを点火した。引き絞られた矢のように、真っ直ぐに……女王の偶像へとエンテは飛び込んでゆく。
「女で世界を支配などと……私達か? フッ、ディアナ様は支配などっ!」
 瞬間、エンテは全身に多くの英霊達が飛び込んでくるのを感じた。
 ――Z、刻を超えて。
 黒歴史が再現するリガズィカスタムに、バイオコンピュータが搭載されていたという記録はない。増してこの機体には、実勢経験は愚か建造された記録さえないのだ。しかしZの名を冠するマシーンは、シミュレーターに再現された世界に散らばる想いを集めて紡ぐ。
「これは……また大佐に大目玉だな。だがっ! 得意技だといわせて貰うぞ、ガンダムッ!」
 謎の燐光を纏って眩く輝く翼が、ファンネルの攻撃を妖しく弾き……機首を真っ直ぐ、深々と白亜の機体に突き刺した。エンテは迷わず、零距離でメガビームキャノンの銃爪を引き絞る。
 歪に単純化された《Z》を、改造し改良する……リガズィカスタムはそんなガンダムだった。
 エンテは予想通り、想定外の操縦と機動で大佐に小一時間叱られた。
237創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 22:58:38 ID:eRiS9NMD
>>222
>>227
長編の両氏、お疲れ様です。今後も御健筆を遠くよりお祈り申し上げます。

Gジェネでは愛機だった、リガズィカスタムの登場でございます…またガンダムか(笑)
格好いいんだけどなー、やっぱり地味なのがいけないのかなー、リガズィだしなー
Zの系譜は最近はリゼルなんかも増えましたが、あれはメタスとの私生児だろ…なんて。
アムロはCCA動乱時、Zガンダムを欲しがったが連邦上層部が危険視して却下した。
そんな設定も昔はありましたが、ZプラスやZ三号機の出現で黒歴史化してますね。

さて、次は何のMSを書こうかなー
238237:2009/08/23(日) 23:11:33 ID:eRiS9NMD
申し訳ないっ、よく見たら同一の作者様だった…失礼しました(滝汗)
239創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 07:38:51 ID:YPIzV0lp
リガズィ・カスタムとタイタニアとは何とも因縁を感じる組み合わせ
240MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/08/30(日) 00:53:14 ID:CXJE5GgN
本編が苦戦中なので、脇役のプロフィールと本編に出せそうにない没MSの設定を。


【キャラクタープロフィール】
ニコラス・ヘンリー
地球連邦軍ジオン共和国駐留艦隊旗艦『ハイバリー』艦長。大佐。短く切り揃えられた顎鬚を持つ、厳しい表情の軍人。
部下からの人望は厚く、上からも信任される。サイド2出身で、GGガスにより家族を失っている。そのため、スペース
ノイドながらジオンへの復讐心は高く、旧ジオン兵の多いエウーゴ関係者の事もよく思っていない。ルロワが中将に
昇進して以来常に旗艦の艦長を務め、戦場での判断はむしろ上官に勝っている。0048年生まれ、41歳。


【MSデータ】
AMX-107N サイコバウ
頭頂高 18.5m
機体重量 38,2t
ジェネレータ出力 2595kw
スラスター推力 91200kg

本編当時雌伏していたシャアが仮の専用機としていたサイコミュ対応バウ。バックパックに6機、ふくらはぎに2機
のファンネルを搭載(ふくらはぎのファンネルは回収不可)している。サイコミュデバイスを設置するスペースを
確保するため、コクピットをナッター側に移設され、分離変形時のアタッカーはそれ自体がサイコミュ兵器として
運用される。これには「バウのコクピット=上半身」の先入観による分離時のサバイバビリティ向上の意図も
あったようである。
これだけの仕様変更がありながら基本設計はバウのフレームをほぼ流用しており、バウの拡張性の高さが覗える。
とは言え性能的に見るべきところはなく、この機体からさらに発展する機体は現れなかった。


PFA-002 スパルタカス
ハンニバルと同様のコンセプトで設計・開発された、ハンニバルの一つ前の機体。構造材であるガンダリウム合金
の精製技術がやや遅れていた事から、ハンニバルに比べると太く、ずんぐりとした体型になっている。関節の
可動域が大きくとられ、アーマー内に隠し腕を備えたオプションも見られるなど、シロッコの研究データを流用
した形跡が見られる。

241名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 08:45:43 ID:8CAj1Mrr
続き待ってるぜ
没設定がどういう風に使われる予定だったのかも気になるね
242Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/01(火) 18:45:42 ID:UrPxDHM3
投下行きますよっと
243Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/01(火) 18:46:47 ID:UrPxDHM3
 皆の不安は杞憂に終わろうとしていた。ヘーラー到着まで後1時間を切ったが、ヴァンダルジアは進路を外れない。
 ダグラスは変わらずスクリーンの中央を見詰めている。本当の所は彼にしか解らないが、どうやら魂の星の目的地も
同じくヘーラーの様だった。

「中将には、本当に何か見えているのですか?」

 横から声を掛けられ、ダグラスは振り向いた。尋ねて来たのは、ファルメ整備班長。その隣にはクーラー少佐。
 よく注意して見ないと判らないが、ファルメの顔には泣き腫らした痕があり、クーラーは沈んだ暗い表情をしている。
2人もミレーニアの出身で、技術系の後輩先輩の間柄。故郷が消失したショックは大きい。
 ダグラスは、悲しみを負っているのは自分だけではないと、今更ながら気付き、深く恥じ入った。

「……何が、見えているんです?」

 繰り返し尋ねて来たファルメの態度は、興味本位と言う風でなく、真に彼が見ている物の正体を知りたい様子だった。
 ダグラスは真面目に答える。

「ミレーニアの人々の魂だ」
「それが何故、ヘーラーに向かって……?」

 疑問を挟まず、ファルメは問い続けた。
 ダグラスの突飛な発言に驚かない所を見ると、彼女達も何かを感じているのだろう。今まで2人共“それらしい”
反応を見せた事は無かったが、ニュータイプに成り得る素質は、誰でも持っている。何が切っ掛けで覚醒するか
知れない。

「……判らない。何かに誘われているかの様だ」

 一言で突き放すのは躊躇われ、思った事を添えたダグラスは、再びスクリーンに視線を戻す。
 その彼の袖を、クーラーが引っ張った。
244Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/01(火) 18:49:06 ID:UrPxDHM3
「中将……あれが魂の光なら、教えて欲しい。私達の家族は、あの中にいるのか……?」

 遠慮気味に尋ねるクーラーは、普段の態度からは全く想像出来なかった。形式と嫌味以外で“中将”と呼ばれた
事も初めて。余りに意外で、ダグラスは本当に驚くべき点を逃していた。彼女にも魂の星が見えている事を……。

「……なあ、どうなんだ?」

 驚いて石化したダグラスに、再び問い掛けるクーラー。ダグラスは咳払いをすると、袖を掴んでいた彼女の手を
優しく取った。

「クーラー少佐、俺は貴女の家族を知らない。御自分で確かめるべきです」
「そんな……どうやって?」
「あれが見えるなら、きっと応えてくれますよ」

 困惑するクーラーに構わず、ダグラスは意識を魂の星に飛ばした。繋いだ手が、彼女の魂を導く。

 クーラーの足先から頭まで、震えが走った。浮遊感に続き、視界が艦を突き抜けて虚空に躍ぶ。拡がる宇宙の
イメージが流れ込んで来る……!
 未体験の感覚に恐怖心を抱き、彼女は反射的に身を引いた。

「……嫌ぁっ!」

 咄嗟の事で、似合わぬ可愛気な声が出てしまった。常識の壁が理解を拒む。クーラーはニュータイプを受け
容れるには、少し“大人”だった。小さな悲鳴を聞いて集まった視線に、顔を赤くして、その場から逃げる。

 ファルメは不審の目で彼を睨み、クーラーの後を追った。
 唖然とするダグラス。突き刺さる周囲の眼差しが痛い。

(参ったな……)

 心内で独り言つ。人類全てがニュータイプになる日は、未だ未だ先の事の様に思われた。
245Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/01(火) 18:53:17 ID:UrPxDHM3
 順調にヘーラーを目指していたヴァンダルジアだったが、レーダー管制官が1隻の艦を捉え、事態は急変した。
 それはアルマゲストと同じグィン級。外観武装が異なるので、X隊の艦でない事は直ぐに判ったが、それで安心など
出来ない。寧ろ、脅威は増した。あのグィン級もX隊と同規模のMS隊を搭載している可能性が高いのだから……!
 進路からして、グィン級の目的地も、ヴァンダルジアと同じくヘーラー。到着まで、そう距離は無い。

 ヴァンダルジアの乗組員が見ている前で、グィン級からMS隊が出撃する。
 先導は、邪龍の名を持つシェロンガンダム。暗緑色の装甲、黄金のフレーム。巨大な槍型のロッドからビーム
フラッグを広げ、暗黒の宙を往く。
 後に続くは量産型スーパーアトミックガンダム。GP2号機と3号機の性質を併せ持つガンダム。その数、何と26!
 “恐怖のA隊”……X隊と並んで、地球連邦軍最強にして最恐、そして最凶のMS隊。旗艦はグィン級ラストディ!

 肩に担いだロングバレルのバズーカ、装備しているだけで機体の半分以上を覆い隠すシールド、極端に厚い装甲。
スーパーアトミックガンダムは一目で、その恐怖を見る者に理解させた。

「核!! 奴等め、本気でコロニー連合を全滅させる気だな……。今度こそは!」

 格納庫に駆け出すハロルド。しかし、後に相棒が続かないのに気付き、足を止める。

「ダグ!」
「……済まない、急ごう!」

 何か考え込んでいた様子のダグラスは、声を掛けられて漸く走り出した。それを見たハロルドは、小さく溜息を吐いて
眉を顰めたが、ダグラスには何も言わず、ローマンを睨む。

「止めるなよ」
「何もしなくて良いのだがな……と、言っても無駄なのだろう」
「よく解ってんじゃねえか!」

 既に諦めの境地に達しているローマンに、生意気に気を吐いて見せるハロルド。ローマンは、やれやれと首を横に
振り、呆れた様に息を吐く。そんな彼を無視して、ハロルドはヴォルトラッツェルに言った。

「後方から支援を頼む。決して出過ぎるな。敵機の射程内に入らない様に」
「了解です。特別大佐」
「良し。行くぜ、相棒」

 敬礼するヴォルトラッツェルに頷いて応えたハロルドは、続けて腕を大きく振り、ダグラスに合図する。
 その様はリーダー宛ら。中将のダグラスを差し置いて、彼が主動的役割を買って出たのには、理由があった。
246Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/01(火) 18:55:22 ID:UrPxDHM3
「……ああ」

 これから出撃だと言うのに、その中将から覇気が感じられないのだ。
 艦橋から廊下に出た後、立ち止まって振り返ったハロルドは、彼に疑問を投じる。

「大丈夫なのか? そんなんじゃあ、ナッターの操縦は任せられないぜ」
「いや、問題……無い」

 ダグラスは即答したが、気掛かりがある様で歯切れが悪い。ハロルドは真顔で問い詰めた。

「嘘言うなよ」
「……済まない。自分でも、よく分からないんだ。どうも落ち着き過ぎている。本当は焦る所なんだろうけど、嫌に
 醒めているんだ。沸き立つ様な感情が無い。でも、戦闘に支障は無いと思う」

 ここで戦わなければならない事は解っているのだが、気が乗らない。行動に感情が付いて来ない。本人にも理由は
判らない。それが辛い。それでも最後の一言で、意志だけは表した。さて、ハロルドの答えは……。

「結構じゃねえか。ここに来て、肝が据わりやがったな。落ち着いてるってんなら、前みたくヘマやらかさねえだろう?」

 彼はダグラスの状態を無神経に歓迎し、皮肉交じりに飄々と言い放った。親友が返事に困っていると、何時もの
調子で笑い飛ばし、背を向けて一顧だにせず、格納庫へと歩き出す。
 “肝が据わった”、“前みたく”、“ヘマをやらかす”……何れもダグラスを傷付ける言葉だ。それをハロルドは意図して
口に出した。彼の言わんとせん所を、ダグラスは解っている。悩んでいる暇は無い。今は、“やるしかない”のだ。
 ダグラスは心に鞭打って、己を奮い立たせた。悲劇は繰り返させない……!
247Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/01(火) 18:57:58 ID:UrPxDHM3
 バウ・ワウの下腹部コクピットに乗込んだダグラスは、発進準備中、ある事を思い出した。

(そう言えば……ハルには身寄りが無かったんだったな……)

 ハロルドがミレーニア公立校に転入して来た頃……最初の出会いから、彼は独りだった。
 噂では、事故で家族を失い、思い出から逃げる為に木星に来たと。直に真相を尋ねるのは憚られ、今までハロルドの
過去に触れる事は避けていたが、彼も同じ様な体験をして来たのだと思うと、先程の無神経な言葉も深い意味を持つ
物に感じられた。

「なあ、ハル……」
「どうした?」

 通信機から聞こえたダグラスの声に、ハロルドは手を止めて問い返す。意識しているのか、いないのか、余りに普段
通りの反応。

「……お前は強いな」
「何を言ってるのか、よく解らんが……お前の方が強いと、俺は思うぞ」

 それはMSの操縦技術の事だろう。ダグラスは軽く頭を振った。深くは考えまい。その方が良い。
 ハロルドには聞こえない小声で、否定の言葉を呟いた後、大きく深呼吸をする。

「準備完了。異状無し。ハル、そっちは?」
「こっちも異状無しだ。早く出ようぜ」

 カタパルトに乗ったバウ・ワウは、宇宙空間に飛び出す。
 今度の相手はA隊、彼等は連邦軍の暴虐を止められるか!?
248創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 19:01:33 ID:UrPxDHM3
19話完。終盤に入ります。
249創る名無しに見る名無し:2009/09/02(水) 23:23:16 ID:HSRYP9X9
乙age
いよいよ出撃か
250MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/04(金) 23:29:16 ID:r7i57IEV
蒼の残光 10.『蒼の残光』 シップエース

もう一人のエースが立ち上がる
251MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/04(金) 23:30:10 ID:r7i57IEV
 後にリトマネン側の資料にあった言葉から『フルガラッハの攻防戦』と呼ばれるこの戦
いに参加した戦力は、連邦軍が艦船二十九艇、MS二百十四機、アクシズ残党軍が艦船十
六艇、MS八十一機とされる。残党軍MSについては六十八機から百十三機まで異なる資
料も存在するが、少なくとも連邦軍は二倍以上の戦力を以てこの戦いに臨んだ事になる。
 しかし、戦局は数の差を覆す勢いで残党軍に傾いていた。アクシズは元々数の劣勢を前
提とした戦略戦術に長けており、MSもまた少数を以て多数を討つという思想の元、生産
性を犠牲にしてまでも性能を追求した設計の機体が多い。ザクVやRジャジャはジムVに
対して一対一ではほぼ無敗だった。生産性を重視しているとされるドライセンやガ・ゾウ
ムですらジムに性能では勝っていた。数に勝る連邦軍MS隊を巧妙に分断し、各個撃破で
数を減らしていった。
 さらに、二機の指揮官機――アランとオリバーは人型をした死そのものだった。彼らが
通った後には中隊規模のMSの残骸が漂うのみだった。
 現在戦闘の中心にあるものはコロニーレーザーではなく、ネェル・アーガマだった。
 ネェル・アーガマの艦底にあるこの兵器は、コロニーレーザーを一撃で破壊しうる唯一
の武装だった。コロニーレーザーの防衛と言う残党軍の戦術目標にあって最優先に破壊す
べきとされるのは、必然の事だった。
 もちろんそれは連邦軍にとっても計算の内である。ブライトが伏兵の指揮ではなくあえ
て正面に出たのは、敵戦力を自分に引き付けて少しでもコロニーレーザーの守備を手薄に
する事が目的だった。
「左舷、弾幕薄いぞ!MS隊、こちらに構うな、前に出ろ!」
 ブライトは声を枯らして指示を出していた。十代にして一年戦争を艦長として生き抜い
た歴戦の指揮官は、この危険な役回りにも敢然と立ち向かっていた。
 一方で、MS戦とも、ネェル・アーガマ防空戦とも違う別の戦いにおいて、小さいが重
大な戦果を持ち帰った者もいる。
 イノウエを隊長とする対艦対物攻撃部隊は意見の食い違いから小さな論争に発展してい
た。
「大尉、今は戦闘中です。作戦行動に影響の出る命令には従えません」
 小隊長の一人が頑強に反対意見を唱えた。スキラッチ艦隊のパイロットである。
 接触回線によりモニターに映ったイノウエの表情は変化がなかった。
「影響などはない。敵艦を無力化するという点ではなんら変わらない」
「撃沈するのと制圧するのでは全く違います!」
 思わず小隊長の声が荒くなる。イノウエは各部隊に対し、敵艦を沈めず、ブリッジを制
圧して降伏させる事を命じたのだ。
「艦をMSで制圧するには零距離で取り付かなければなりません。そこまで接近する前に
対空砲火で落とされるリスクが大きすぎます」
「承知の上だ。だからこそ我々でなければ出来ないと考えている。対艦攻撃の専門家たる
我々でなければな」
「大尉、我々の最終目標はコロニーレーザーの破壊です。敵艦を破壊する事なく接近し、
投降を呼びかけるなど、時間のロス以外の何者でもありません」
 別のパイロットが幾分穏当に意見した。イノウエは数秒考え、答えた。
「ならば投降を呼びかける事はしないでいい。しかし、撃沈はするな。最低限、カジマ隊
長の奥方がどの艦にいるかが判るまでは」
 小隊長が言葉に詰まった。イノウエはまず拉致されたユウの妻、マリーの無事を保証す
る事を最優先に考えているのだった。
「……言い難い事ですが、この際は大事の前の小事でしょう。数百万、いや数千万の無関
係な命が危険にさらされているのです」
 小隊長の言葉は正論である。優先順位をつけるならばコロニーレーザーの破壊は全てに
優先されなければならない。本来ならこのような論争が既に不毛にして時間の無駄なのだ。
 しかし、この老兵の意思は揺るがなかった。
「だが隊長の奥方も軍人の妻ではあるが軍人ではない。軍人が命を賭けて守るべき市民の
一人である事に違いはない」
「それはそうですが、しかし――」
「貴官は何を守るために戦う?」
 イノウエは訊いた。
「顔も知らぬ数百万の命か。国家の理想か。正義か。両親の、妻の、子供たちの幸福と平
穏ではないのか。自分の愛する者を守る、それが出来ない人間に何が守れると言うのか」
 その場にいた全てが返答する事も出来ず、沈黙した。イノウエの言葉は軍人としては明
らかに問題であったが、真理であった。
252MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/04(金) 23:30:58 ID:r7i57IEV
「……よろしい、貴官らはここで待機。小官一人で出撃する」
 イノウエはそう命じるとMSの手を離し、接触回線から抜けた。小隊長が慌てて手を伸
ばし、イノウエのジムの肩に触れる。
「一人でどうすると言うのです?」
「敵艦に取り付くのは危険だと言ったな?」
 イノウエは返答を期待していなかった。
「ならば手本を見せてやる」
 イノウエは突進した。目標はエンドラ級。ほぼ一直線の軌道で接近していく。
 エンドラ級『リュインドラ』は主砲と対空レーザーで迎撃を開始したが、イノウエはシ
ールドを前に突き出し、機体を隠すようにして真直ぐに接近していく。気付いたガ・ゾウ
ムがイノウエに向けて発砲したが、命中しなかった。
 ようやく回頭に成功した『リュインドラ』が主砲をジムに合わせた。六門のメガ粒子砲
が閃光を放つ。
「いかん!」
 小隊長が思わず声に出す。他のパイロットも同様だっただろう。
 イノウエは――どうもしなかった。自分に当たるはずはないと言わんばかりに構わず前
進し、少なくとも小隊長が見る限り一切の回避行動をとっていなかった。
 そして、そのままブリッジに貼りつき、そこで初めてバズーカを構え降伏を迫ったので
ある。ジムの肩は装甲が失われ、シールドは上半分が解けていた。
「正気じゃない……」
 小隊長の心に湧き上がったのは畏怖でも驚きでもなく、狂気じみた恐怖心だった。対空
砲火の弾幕を無策で潜り抜けるなど正常な神経ではとても耐えられない。真似など出来る
ものではなく、したいとも思わなかった。
 今にして彼はイノウエもまたユウ・カジマ同様伝説的パイロットである事を思い知らさ
れた。空母ドロアのブリッジに零距離攻撃を敢行して撃沈した最高の武勲を誇るシップエ
ースなのだ。

 そのイノウエはブリッジに向かってバズーカを構えたまま、投降を呼びかけた。
「ふざけるな、我々に降伏などない」
 リュインドラの艦長の答えは明快だった。イノウエは全く感情の読み取れない声でなお
も説得を続けた。
「投降すれば生命は保証しよう。この戦いを勝利したとして、貴君らに未来(さき)がな
い事は艦長に就くほどの人物なら理解しているものと思うが」
「未来か……」
 艦長は自嘲的な笑いを浮かべた。疲れたような笑みだった。
「そんなものは10年前にもう失くしている。ここにいるのはMIAとして戸籍を失い、帰
る家も失った者ばかりだ。かつて家族がいたとしても、十年も逃げ回りながら戦争の続き
をしていた男など、今更生きていられても迷惑なだけだろう。生き残ったところで未来な
ど始まらんよ」
「…………」
「俺たちは何もないんだよ。後はせめて、この十年という時が無意味で無価値でなかった
事くらいは信じたまま死なせてくれ。それすら否定されたらそれこそ死んでも死にきれん」
 イノウエはこの時初めて、ジオン軍人というものに同情した。イデオロギーに突き動か
されて戦い続ける闘士もいれば、その迷惑な情熱に巻き込まれるように人生を狂わされた
者もいる。正論でも人道でもなく、軍人としての感情が説得を諦めさせた。
「――ならばこれ以上何も言わない。だが、それとは別に訊ねたい事がある。サイド3か
ら女性を一人、連れてきたはずだ。彼女はどこにいる?」
「……知らん。だが、ここには乗っていない事は断言しよう」
「そうか……最後に貴官の名を伺おう」
「『リュインドラ』艦長、イヴァン・セルティッチ」
「ゲン・イノウエ。貴官の名は私が覚えておこう」
 イノウエはバズーカを撃ち、敬礼するセルティッチもろともブリッジを吹き飛ばした。
イノウエは短く敬礼し、次の標的に向けて加速した。
253MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/04(金) 23:31:40 ID:r7i57IEV
 イノウエが帰投したのは三艇の敵艦を沈めた後だった。全て一切の攻撃をしないまま敵
艦に貼りつき、投降を呼びかけた後、それを拒否されてブリッジを破壊したのだった。
『ハイバリー』に戻ってきたジムは右腕と左脚を失い、頭部も爆砕した艦の破片が突き刺
さっていた。
 降りてきたイノウエは陰鬱な顔貌をしていた。危険すぎる戦い方に神経をすり減らした
ようにも、投降を受け入れない敵に無常を感じているようにも見えた。
「こいつは派手に壊してくれたもんだ」
 メカニックのビリーが淡々と感想を口にした。基地に帰ればレストア出来るかもしれな
いが、少なくとも今は修理不可能だろう。
「旦那、休んでな。その間に予備のジム用意しておく」
「設定はデフォルトのままでいい」
「判ってる。普段誰が整備してると思ってる」
 ドリンクを持った若い士官がイノウエに近づいてきた。
「大尉、これをどうぞ」
「すまん」
「暫くお休みになってください、後は他の部隊が引き受けます」
「その前に、提督に話がある」
 そくブリッジに回線を繋ぎ、ルロワに報告がある旨を伝えた。ルロワが許可するとモニ
ターにイノウエが敬礼して待っていた。
「ご苦労だった、大尉」
「報告する事が二点あります。一つは彼奴等が死兵である事」
「やはり、な……」
「彼奴等は死に場所を求めております。恐らくは最後の一兵まで戦って死ぬ事を望むかと
思われます」
「――わかった。もう一つは?」
「カジマ中佐の奥方がどこにいるか、判明いたしました。コロニーレーザーの制御室です」
 回線はオープンになっていた。この報告を聞いたクルーが一斉にモニターに目を奪われ
る。ヘンリーが一喝してそれぞれの任務に戻らせたが、そのヘンリーでさえ目前の戦況に
集中する事は難しかった。
「奥方にはNTとしての素養が認められるのだそうです。彼奴等は奥方に強化処置を施し
コロニーレーザーの操作を行わせようとしています」
「ではあれは…あのコロニーレーザーは……それ自体がサイコミュ兵器だというのか。し
かも、それをマリーが操っていると?」
「そうなります」
 ガン!とルロワが指揮卓を叩いた。この男が感情を表に出すのは珍しい事だった。
「民間人を攫って、怪しげな薬物を使って兵器扱いだと!?どこまで人の命を弄ぶ!」
 ルロワは立ち上がった。
「ならば奴らの望み、叶えてやる。全軍に通達、コロニーレーザーのコントロールルーム
に人質あり、そこは狙うな!後は構わぬ、一人残さず生きてここから去らせるな!」
 命令と呼ぶにはあまりに感情的な言葉は、しかしそのまま伝えられた。数の上ではなお
優勢にある連邦軍は、人質の位置が特定出来た事でようやく誘爆や流れ弾も気にせず反撃
に移ることが出来たのである。


254MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/04(金) 23:36:13 ID:r7i57IEV
ここまで


「疲れ果て、死に場所を求めるジオンの亡霊」は書きたかった題材。
255創る名無しに見る名無し:2009/09/05(土) 06:42:22 ID:Mxvqa+Ah

ユウを欠いてどうなることかと思ったが
何とかなりそうな感じ
イノウエさんの功績は大きい
256創る名無しに見る名無し:2009/09/05(土) 10:50:35 ID:rhMb78NR
イノウエさん凄すぎるな
257Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/06(日) 08:39:20 ID:L7HWhyWc
投下開始
258Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/06(日) 08:40:35 ID:L7HWhyWc
 バウ・ワウ遥か遠方から、A隊の列に向けてジャイアント・バズーカを発射しながら迫る。反動を利用して、反撃の
狙いを絞らせない。しかし、幾ら正確に狙撃しようとも、誘導装置の無い弾では、長距離から命中させる事は困難。
精々、中距離からが限界で、それ以上になると簡単に対応されてしまう。
 ここで命中するか否かは関係無い。態と存在を知らせ、進軍を遅らせるのが目的。

 バウ・ワウの接近に気付いたA隊は、迎撃態勢に入った。
 隊長のリェン・ティエ・ガンが駆るシェロンガンダムが、右腕のドラゴンハングに内蔵されたビームキャノンで、
ロケット弾を迎撃する。A隊もX隊と同じく、強化人間で揃えられたエース部隊。迎撃に無駄弾は1発も使わない。
 龍の顎から放たれる炎が敵弾を全て喰らい尽くし、その後、隊長機と入れ替わる様に、4機のスーパーアトミック
ガンダムが進み出て、隊列の盾となる……と、思いきや……。

「撃て」

 シェロンガンダムが振る指揮旗に合わせ……。

 ドズゥン!!

 彼等は、その最大の武器を惜し気も無く使用した。

「うおぉっ!? 撃ちやがった!!」
「ハル、全速退避! 出来るだけ遠ざかれ! 早く! 間に合わない!!」

 目を剥いて驚くハロルドに、慌てた口調でダグラスが指示する。彼の言葉と同時にバウ・ワウの下半身の土星
ロケットエンジンが火を噴き、G軽減装置でも抑え切れない加速度がコクピットの2人を押し潰しに掛かる!
259Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/06(日) 08:43:44 ID:L7HWhyWc
 ……バゴォオオオン!!

 4つの核爆発が合わさって、1つの恒星となり、宇宙空間に煌々と灯った。バウ・ワウはブーストエンジン全開で
拡大する熱球から離れ、盾を翳して放射線から隠れる。跡には、半径数kmに亘って、灼熱の巨星が誕生した。

 流石のハロルドも冷や汗を掻く。モニターの片隅に表示された放射線値は真っ赤に染まり、警告音を鳴らして
危険域を報せていた。

「何て奴等だ……! ヴァンダルジアは!?」
「問題無い。既に退避済みだ。それより、“これから”を心配した方が良い」

 ダグラスはアトミックガンダムの隊列に目を戻した。
 緩やかに凋み、暗んで行く陽光……。レーダーが復活した敵は、再びアトミックバズーカを構える!

「なっ、何発撃てるんだよ!?」

 焦りの色を隠せないハロルド。核バズーカは、MS1機に対して明らかに過剰な兵器。それは余裕の表れか……。
1機の戦術級核兵器装備型スーパーアトミックガンダムが持つ核弾頭は計8発。単機が有する単純な破壊能力は、
並みのMSの比ではない。
260Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/06(日) 08:51:54 ID:L7HWhyWc
 対核装備で爆発の影響を物ともしないスーパーアトミックガンダムは、逃げ回るバウ・ワウを嘲笑う様にバズーカを
撃ち捲くる。その間に、一際重装備の6機のスーパーアトミックガンダムが、8機の護衛と共に隊列を抜け出した。
 その6機が何をするのか、見た目に明らか……。あれ等は惑星破壊級核兵器を装備しているのだ!

 惑星破壊級核兵器。この時代では、戦略核を大きく上回る破壊力の核兵器を、“そう”呼ぶ。1発で月の半面を
壊滅させる事が出来る威力の兵器。6発あれば、地球を滅ぼす事も可能。隊名に冠する“恐怖”は飾りではない!

「往かせてなるかっ!!」

 ハロルドはビームライフルを構えた。滅多に使わない狙撃モードで、迫り来る核弾頭を撃ち落としに掛かる。
 多量の放射線から機体を守る為に、シールドは常に爆心に向けていなければならないので、内蔵メガ粒子砲が
使えない故の行動。スーパーアトミックガンダムのバズーカ連発に隙は無いが、砲撃パターンからタイミングを
見計らい、攻撃の連携を挫く!

 ドバァッ!

 ビームが熱球を潜り抜け、核弾頭を貫く。
 運良く、ハロルドの読み通りに2発の核が沈み、爆発の連続に僅かな空白が生じた。

「良し! 行くぜ、ダグ!」
「止せ! 危険だ!」
「構うかっ! 俺なら出来る!」

 ハロルドはダグラスの制止も聞かず、ライフルを速射モードに戻し、上半身の土星ロケットエンジン全開で、惑星
破壊級核兵器装備型スーパーアトミックガンダムを追う。
 ここで進退を迷えば、命取りになる。ダグラスも覚悟を決め、ハロルドに従った。
261Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/06(日) 09:08:17 ID:L7HWhyWc
 バウ・ワウを通すまいと、行く手を塞ぐ様に核バズーカを発射する戦術級核兵器装備型のアトミックガンダム。
 進路、速度、距離……1発でも核爆発が起これば、退避は不可能。確実にバウ・ワウは消滅する!

「殺れるか……? 貴様等に、この俺が殺れるか!?」

 しかし、ハロルドとダグラスの操縦は神懸かっていた。照準に寸分の狂い無く、速射ライフルで悉く弾頭を破壊し、
いとも簡単に突破する。
 バウの次なる障害は、8機の護衛スーパーアトミックガンダム。左腕に据え付けられているシールド一体のビーム
バズーカを構え、同時に後方に引いた右手からサーベルを伸ばす。一撃離脱を基本戦術とする故に、如何にも鈍重
そうな外見に反し、機動力は高い。

「退け退けぇっ!!」

 気勢を上げて突撃を試みるハロルドだったが……。

「うわっ!? とっと……おい、ダグ! 何やってんだ!!」

 ダグラスは恐ろしいプレッシャーを感じ、無言で勝手に進行方向を直角に変え、敵集団から離れた。
 その後、緩やかに速度を落とし、遂に機体を停止させてしまう。先程とは変わって、惑星破壊級核兵器装備型
スーパーアトミックガンダムを止める気など、全く無いかの様……。
 相棒の理解不能な行動に、ハロルドは怒りを露にした。

「手前、どういう積もりだ?! 何とか言……」

 カッ……!!

 その時、彼の怒りを遮る様に閃光が疾り……次の瞬間には、惑星破壊核装備のガンダムは全て消えていた。
262Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/06(日) 09:09:24 ID:L7HWhyWc
 フラッシュの正体は、極大ビームの奔流。ヘーラーの方角から飛んで来たのだが、何者の攻撃なのか、ハロルド
には見当も付かない。バウ・ワウのレーダーに映らない様な距離から、全く察知されずに、重装甲のMSを消し去る
大威力のビームが届く訳が無いのだ。況して、分散せずに、狙い済ました様に等……。

 正体不明の攻撃を受けたA隊は、即座に撤退を開始する。
 急展開に唯々驚くしかないハロルドとは対照的に、ダグラスは全てを理解していた。
 地球連邦軍の侵攻、ローマンの言動、ミレーニアの魂が向かっていた先、落ち着いていた己の心、戦争の行方……。
世界を覆う大樹の如き力を感じた彼の心には、自然と畏敬の感情が浮かぶ。

 ヴァンダルジアの重力レーダーは、ヘーラーの方角に“巨大な質量塊”を捉えていた。
 それは全長500kmに及ぶ小惑星。天王星に流れて来た彗星を捕らえ、移動要塞に改造した物である。
 目視出来る距離までヴァンダルジアに接近して来た岩石の塊は、異様な外観をしていた。

 内部に無人工蔽を備えた巨大な妖花の群れ……小惑星の地表を覆う黒き秩序、ブラックコスモス。その中から
突き出る幾本もの巨砲塔。背面のプラネイトディフェンサーを翼の様に広げ、ビームカノンを携えた、数千の鋼鉄の
騎士、ヴァルキュリアスの護り。天騎士に護られ、小惑星を導く王、黄金色の巨大MA、パトリア・ジール……。
 ファンタジーとリアルが混じった世界。生物的だが、機械的な集団。相反する物が同伴した、その不気味さ。

 未知の“味方”の出現に、ヴァンダルジアのクルーは共通した想いを抱えていた。戸惑い。それより大きな安心感。
そして、畏敬……。皆が小惑星に注目する中、通信機から聞こえて来たのは、誰もが予想していた人物の声だった。

「ヴァンダルジアの諸君、よく戻って来てくれた。これで貴君等の任務は完了だ。御苦労だったな、ローマン」
「勿体無い御言葉です。私は何も……」

 主君から労いの言葉を受け、深々と頭を下げるローマン。
 紛れも無い。魂の光を放つ王城の主は、コロニー連合総代表アーロ・ゾット本人なのだ!
263創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 09:13:42 ID:L7HWhyWc
投下終了。20話完。
264AXIS:2009/09/09(水) 03:15:18 ID:ABYZUu7K
あらすじ小説だが、投下失礼

「機動戦士ガンダム ーEVORUTION Zー」

宇宙世紀0088年 2月20日
グリプス2と呼ばれるコロニーレーザー宙域のエゥーゴ艦隊はティターンズとアクシズの総攻撃を受ける。
僚艦ラーディッシュが撃沈される中、アーガマ艦長ブライト・ノアはコロニーレーザーによる敵艦隊の一挙殲滅を画策する。
コロニーレーザーを発射させまいとハマーン・カーン、パプテマス・シロッコは各々自らのMS(キュベレイ、ジ・O)で妨害するものの、カミーユ・ビダン、クワトロ・バジーナらの活躍によりエゥーゴは発射準備が整うまでコロニーレーザーを守り切ることに成功した。

宇宙世紀0088年 2月22日
エゥーゴとティターンズの長き戦いも、この日をもって終わりを告げる・・・
コロニーレーザーが発射されティターンズ艦隊は壊滅的な打撃を受ける。
その一方、戦いがまだ続く事を察知し、主要な艦を撤退させていたアクシズ艦隊の被害は最小限にとどまった。
パプテマス・シロッコは戦力の回復を図って撤退しようとしたが、死者の魂を取り込み超常の能力を発揮したΖガンダムによりジ・Oは撃破され、シロッコは戦死する。
最終的に、エゥーゴの勝利でこのグリプス戦役と呼ばれる戦いは終結した。

そしてそれから5日後・・・・

宇宙世紀0088年 2月28日
この日パプテマス・シロッコが最後を遂げ、ジュピトリスが消え去った宙域に、同じジュピトリス級だが一回り小柄の資源採取艦、「ジュピトリス3」が停滞している姿があった。
まだジュピトリスの残骸が広がる宙域に、木星からの長旅を終えて到着したその「ジュピトリス3」の乗組員である、オスバー・ザス中尉はまだ何が起こったかわからなく呆然としていた。
オスバーはシロッコの木星での側近的人物であり、シロッコを慕っている人物だった。
木星にいたオスバーに一ヶ月前、地球圏のシロッコから極秘の打電があった。
それはシロッコが戦況が思わしくないと感じたのか、木星で開発中だった彼の専用機「タイタニア」を運んでくるようにと・・・・
オスバーは言われるがまま、このジュピトリス3に乗り一ヶ月もかけて地球圏に到着したというのに、エゥーゴとの戦闘で激化しているはずの地球圏の静けさに状況が理解できない。
そう彼はシロッコが死に、ティターンズが敗北したという事実をまだ知らなかったのだ・・・
そんなジュピトリス3の姿をキャッチした連邦の部隊・・・・
ジュピトリス3をティターンズ残党と認識した彼らは、ジムUを初めとする多くのMSで、その大きな資源採取艦を取り囲んだ・・・

状況がわからないまま、オスバーは木星から連れてきたジュピトリス3内の、パイロット達に迎撃を指示する。
連邦のMSと木星のMSがジュピトリス3を取り巻き、戦いの火蓋があがる・・・・
グリプス戦役が終結してまだ3日、くしくもその戦いが決着した場所で再び上がる戦いの光・・・・
ほぼ互角の戦力での戦いは、長期戦の様相を物語っていた・・・
時を同じくして、すぐそばの宙域を大型の貨物シャトルが通り過ぎようとしている姿があった・・・・


エゥーゴのまだ新米パイロット、ロード・ヴァンス准尉とその同僚二人は、戦いの戦火を確認し驚きを見せる。
彼らもまたある指令によって、この宙域を航行していた・・・
大型輸送艦には、3機のMSが格納されており補給物資であるこの機体たちをある船に届けるように指令を受けていたのだ。


・B(バシレウス)ガンダム (Βασιλι?? gundam)
エゥーゴのエースに成長した、カミーユ・ビダン軍曹のために、Zガンダムのさらに上の戦力をと、アナハイムが開発したZガンダムの強化ヴァリエーション機。

・千翔(センショウ)
同じくエゥーゴのエース、クワトロ・バジーナ大尉用にと、デルタガンダムをベースに強化されたヴァリエーション機。

・Gフォワード(ネモ)
エマ・シーン中尉が失った、Gディフェンサーに代わる支援機。
量産機であるネモにも装備できるようのした、攻撃支援機。
265AXIS:2009/09/09(水) 03:17:40 ID:ABYZUu7K
ティターンズのみならず、アクシズにとの戦闘も激化していた中、
エゥーゴが苦肉の策としてこの3機を開発し、アーガマ隊の補給にとロード達が輸送任務に抜擢されたのだ。
月の施設で指令を受けてからというもの航行中に、グリプス戦役が終結したことは理解しているが、彼らはその機体を届けるべきエゥーゴの旗艦、アーガマに今その機体を受け取るべくパイロットがいないことにはまだ気がつかない。

しかしそんな彼らは、現在行方が知れないアーガマの姿を探すのに難儀していた。
アーガマを追ってその痕跡をたどってきた彼らが、この場所にたどり着いたのも必然だった。
そんな彼らは導かれるように、ジュピトリス3の戦いに巻き込まれていく・・・

連邦の部隊はすでに半数以上が姿を消していた。
たった一体のMSに殲滅させられていたのだ・・・・

それはジュピトリス3から飛び立ったMS「タイタニア」に・・・
シロッコに届けるべきそのサイコミュ搭載機の中には、オスバー・ザス中尉の姿があった・・・

無数のファンネルを自在に操りオールレンジ攻撃を仕掛けるタイタニア。
しかしオスバーはパイロットとして脳ではあるものの、サイコミュ能力は持ち合わせていないオールドタイプと呼ばれる人間である。
なぜ彼がファンネルを扱えるのか?
それはコックピット内の彼の後ろに座る、もう一人の存在が起因していた。

木星でもシロッコに素質があると見出された少女、ファンナ・リル軍曹がそれだった・・・
彼女もシロッコに会いたくてここまで来たが、まだ幼い彼女はパイロットではなく、サイコミュ能力を有したただの少女だった。


タイタニアの操縦をオスバーが担当し、ファンネルをファンナが操る・・・
二人でひとつとなり、シロッコのためにジムU達を次々と落としていく!!
全滅は免れない連邦の部隊の姿に、ロード達はいたたまれなくなり3機のMSを大型輸送シャトルから発進させてしまう・・・
補給物資である、B(バシレウス)ガンダムにロード准尉が、
千翔(センショウ)とGフォワード(ネモ)には同僚の仲間達が乗り込み、
タイタニアと対峙する。
しかしロード達はまだひよっこのパイロットであり、その最新型のMSを扱えるほど脳ではなく、ただタイタニアの攻撃に圧倒されるばかりだった・・・・

タイタニアのファンネル攻撃に、闇雲に動き被弾を余儀なくされ傷ついていく若いパイロットたち・・・
中でもロード准尉は、B(バシレウス)ガンダムの機動性に翻弄されながらも、タイタニアに猛然と挑んでいく!!
彼はこのとき自分が一人前のパイロットに成長しようと必死だった。

しかしタイタニアは、無情にもB(バシレウス)ガンダムの周りをファンネルで取り囲み、止めの一撃を食らわせようとする。
タイタニアのオスバーも、ファンナもまたシロッコのためにと必死で戦っていたのだ。

死の瀬戸際でロードは突如B(バシレウス)ガンダムのコックピットに響く少年の声を耳にする・・・
ロードと同年代と思われるその若い少年の声は、ファンネルの攻撃を的確に彼に伝えてくれる!!
それはこの機体に備わっているバイオセンサーの恩恵だったのかもしれない・・・
だとしたらエゥーゴのエース、カミーユ・ビダン用に調整されたバイオセンサーということもあり、その声はあのニュータイプの少年のものだったのかもしれない・・・

B(バシレウス)ガンダムの異常な動きに、タイタニアの中の二人は唖然とし今まで取れていた連携が微妙に狂いだす・・・
そしてロードからシロッコはもうこの世にいないということを知らされたオスバーとファンナの同様は計り知れないものだった。

そんなタイタニアにロードは最後の力を振り絞り、ビームの刃を突きつけた・・・・
爆発していくタイタニアの脱出ポッドが射出され、ジュピトリス3に消えていく・・・
ロードはそんな彼らを撃てなかったのは、彼らもまた自分達と同じような存在に思えたからだ。

オスバーたちの脱出ポッドを回収したジュピトリス3は、全部隊を回収し木星の方向に消えていく・・・
それはオスバーもファンナもロードが言うように、シロッコがもういないということを理解したからだった。

消えていったジュピトリス3を見つめながら、ロード達3体のMSがその場に立ち尽くす・・・
所々に深い損傷を負い、修理しなければもう戦えないような状況だった。
しかし彼らはなんとか脅威を払いのけたことに安堵する・・・
緊張が解けていく彼らに、あらぬことか複数の熱源反応が近づいてくる!!
266AXIS:2009/09/09(水) 03:18:44 ID:ABYZUu7K
呆然とする彼らの前に、白い優麗な姿のMSとそれを守護するように囲む3体のMSの姿が現れる。

なにもできないロード達の機体に、守護する3体のMSゲーマルクとガズR,ガズLが容赦なく攻撃を仕掛けようとする・・・
もう戦う力が残っていないロード達は、今度こそ死を覚悟する。

攻撃が加えられる瞬間、突如その白い優麗なMS(キュベレイ)から、
彼らを止める女性の声が轟き、3体のMSはその手を止める。
もはや身を預けるしかできないロード達に、キュベレイから威厳を感じる女の声が伝わってくる・・・

「このあたりでシャアという男を見たか?」

そのキュベレイの女性パイロットの問いかけに、ロード達は威圧感から返事もできない・・・
もちろん彼らもその男の姿も所在も知るわけがなかった・・・
そんな彼らの反応に、女性パイロットも聞くだけ無駄だったという態度で、彼らの前から姿を消していった・・・・

ロードたちは、後でその女性がアクシズを束ねる女性だったことを知ることとなる・・・・
彼女はここでその自分の手で殺めた男の姿をなぜ探していたのか?
そんなことはロード達に分かるはずもなかった・・・

傷ついた3体のMSを再び輸送シャトルに積み込み、
元来た月へと引き返していくロード達・・・・

アーガマに届けられることなく、動かなくなった3体のMSを見つめながら、ロードはエゥーゴの上層部に責任を問われるだろうと覚悟していた・・・

END

267AXIS:2009/09/09(水) 03:19:57 ID:ABYZUu7K
登場機設定


MSA−009  B(バシレウス)ガンダム (Βασιλι?? gundam)
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org121033.jpg

アナハイム製MS.


王(バシレウス)のガンダムを意味する。
Z系の強化系機でありZZとは別系統に開発されたカミーユ・ビダンの為の機体。

グリプス戦争終盤、アクシズのキュベレイなどのファンネル兵器などの強力なMSに苦戦しいられていたエゥーゴ。
もはやZガンダムクラスでは対応できないと考えていたエゥーゴは、更なる強化機を模索していた。
この機体はZ計画でのZ〜ZZへの進化ではなく、バイオセンサー類をエゥーゴのエース、カミーユ・ビダン用に調整し、更なる追従性の向上を目指したカミーユの為のZ系の強化機である。

主にSガンダムの開発陣が開発に携わっており、 随所にZガンダムとSガンダムの特性を盛り込んだ高性能機である。

ZZガンダムの再構成機がSガンダムであるに対して、
Zガンダムの再構成機がBガンダムということになる。

簡易ウェーブライダー変形機構も備え、火力、機動性、防御面とあらゆる面でZガンダムを上回っている。



ビームライフル、ロングビームサーベル、バルカン、バイオセンサー、シールド、ミサイルポッド、グレネード

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

MSN−0100E 千翔(センショウ)
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org121040.jpg


アナハイム製MS.

グリプス戦争時にエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉の百式に代わるMSを模索した機体。
グリプス戦争も終盤に入り、アクシズのファンネル装備のMSの台頭などから、エゥーゴはエースのクワトロ大尉用に、間に合わせの百式に代わる新たなMSを模索していた。

デルタガンダムを元に、Zガンダムの技術を盛り込んだ機体であり、
百式よりも全ての面で大幅な向上が見られる。
全身のシルバーのコーティング装甲も、百式のそれと同等であり、
また簡易バイオセンサーも備え、クワトロ大尉の能力を十分反映できる機体となった。
またウェーブシュータ形態にも変形することができる。
百式の上を行くようにと、千翔(センショウ)と名づけられた。


しかしアーガマに届けられる前に終戦を向かえ、クワトロ大尉の失踪によりその夢はかなわなかった。



ビームライフル、バルカン、ビームサーベル、グレネード、簡易バイオセンサー

---------------------------------------------------

Gフォワード(ネモ)
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org121045.jpg



268創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 12:03:39 ID:SSLaysVW
純粋に絵が描けるのが羨ましい…
折角の設定だし、これを生かした面白い話を期待させてもらうよ。
269創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 15:04:44 ID:RrmhXD48
ゴチャゴチャしてなくて上手い絵だ
270MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/09(水) 17:21:38 ID:l51kC9yS
BD-4のイメージイラスト描いて欲しい
271創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 17:43:51 ID:uPb4Sx10
BD-4って
ttp://www.geocities.jp/awushu/bawoo.htm
コレを蒼くしたイメージでいいんかね?
272MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/09(水) 17:59:31 ID:l51kC9yS
>>271
こんなものあったんだ、知らなかった

大まかなイメージは「バウのバックパックを外して、代わりにG-ディフェンサー背負わせた」スタイルです
細かい部分だと、翼は固定翼ではなくバウのウィングバインダーで、脚が連邦風に直線的なデザインに再設計されてます

頭部は写真のリ・ガズィ風は似合ってますね、これがいいです
273MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/09(水) 19:50:08 ID:l51kC9yS
連投すみません
頭これの方がイメージ近いかも
http://blog-imgs-27-origin.fc2.com/t/a/i/taicole/144bau1.jpg
274AXIS:2009/09/09(水) 22:28:24 ID:ABYZUu7K
>>270
一応バウ、ジム、リ・ガズィを中心を意識した、BD−4のイメージ描いてみた

かなり自分の趣味が入っちゃったし
多分イメージは違うと思うけど

http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org123305.jpg
275創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 22:38:44 ID:Bz6iH9SZ
>>274
おお、凄いなコレは
276創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 23:00:04 ID:SSLaysVW
>>274
いい腕だ、気にいって貰えるといいな。
277MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/09(水) 23:01:32 ID:l51kC9yS
>>274
これは恰好いい!自分の書いた話がビジュアル化されるのは凄く嬉しいです。
278AXIS:2009/09/09(水) 23:28:02 ID:ABYZUu7K
>>275
>>276
>>277

ありがと、よろこんでもらえてよかった

シールド持たせると結構サマになるかと
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org123620.jpg


279MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/10(木) 23:33:39 ID:zT1SG0un
>>278
シールドの字はBとDを一文字にしたような意匠なんですね

今更ながらブログでもSSは公開していたので、そちらでもイラスト・CG等募集してみる事にしました

http://coup-franc.blog.drecom.jp/archive/1391

ハンニバルやキャラについても大まかに特徴書いたテキストリンクしたので都合のいいところだけ使ってみてください
こちらでは普通にスレ上に投下していただいた方が盛り上がるのでスレ投下で。その上でブログで紹介してよければ
お書き添え下さい

280MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/12(土) 17:26:47 ID:ZgHJRqJr
蒼の残光  10.「蒼の残光」  出撃


主役、登場
281MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/12(土) 17:27:29 ID:ZgHJRqJr
 ユウ・カジマがNTであるか否か。
 後世にあってもしばしば議論の対象とされる問題である。当時の資料の多くがユウのN
Tの可能性を否定しているにもかかわらずなおユウのNTとしての可能性を主張する者は
その論拠としてこの〇〇九〇年における一連の戦いを挙げる事が多い。そして、ほとんど
例外なく彼らは戦場におけるNT最強論を唱える人々である事もまた興味深い。恐らくは
NTであるオリバー・メツを相手に終始圧倒した事実を、ユウ自身もNTであると考える
事で納得しようという心理が働くのだろう。
 ユウの実力がどれほど高かろうと、MSに乗る事さえ許されず、執務室に軟禁状態に置
かれたこの時のユウはただ無力なのみであり、何も置かれていないデスクに向かって考え
事をするように目を瞑っていた。
「――中佐、どうぞ。コーヒーです」
 シェルーがコーヒーを淹れて差し出してくれる。ユウは目を開くと
「ありがとう」
 と言った。
「君も一息つけ。と言うより、今の私に付いている必要もないだろう」
「いえ、私は中佐のお世話をするのが任務ですから」
 迷いなく即答した。
「……そうか、そうだったな」
 それ以上は言わず、また目を瞑る。シェルーはしばし躊躇したものの、再び話しかけた。
「……もう、始まっている頃でしょうか?」
 ユウは目を閉じたまま答えた。
「提督たちが出発して五時間だ。何か不測の事態でもない限り戦闘は開始されている」
「勝てるでしょうか?」
「……数の上ではわが軍は圧倒的に有利だ。負けはしないだろう」
 返答までの僅かな間が、ユウ自身自分の回答を納得していない事を暗示していた。シェ
ルーはさらに何か言おうかと迷っていたが、ついに決心して口を開いた。
「マリーさんは――奥様は戻ってくるでしょうか?」
 返事はなかった。目を閉じ、表情はなく、意図的に何も読み取れないよう努めているの
がシェルーにも判った。一度この質問を口にしては、シェルーも下がる事はできない。
「助けに行かないのですか?」
「……待機命令が出ている」
 今度はユウは返答した。その声もまた平坦だった。
「でも、中佐なら……中佐が行けばマリーさんを――」
「シェルー少尉」
 ユウが遮った。声には苦痛が混在していた。
「私は超人でもなければ救世主でもない。ただ他人より少しだけ生き残るのが上手い一介
の軍人だ。上官に逆らう事も出来ず、命じられるまま基地内で待機させられても文句も言
えないような、な。こんな男が一人戦線に加わったところで大勢に影響はない。戦いの帰
結にも、マリーの安否にもな」
 自嘲的とも、自棄とも取れる言葉だった。そしてシェルーは確信した。
 中佐はすぐにでもマリーを救いに飛んで行きたいと思っている。
「――失礼を申しました。もう何も申しません」
「少尉、すまないが席を外してくれ。やはり今は一人で考えたい」
 そう言うとユウは再び沈黙した。
 シェルーは何か言いかけたが、思い直し、そのまま何も言わずにドアに歩いていった。
282MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/12(土) 17:28:23 ID:ZgHJRqJr
 ドアの外には憲兵が二人立っていた。武装こそしていないが、よく見ると軍服の下に恐
らくは防弾か防刃のジャケットを着込んでいるらしい。ユウの逃走を警戒しているのは明
らかだ。
 シェルーは精一杯愛想よく笑顔で話しかけた。
「ご苦労様です。コーヒーを切らしてしまったので取りに行ってきます」
 憲兵は好きにしろと言いたげに一礼しただけだった。
 十分ほどで戻ってきたシェルーは銀のトレーにコーヒーとケーキを四人分乗せていた。
「お疲れでしょう?ついでなのでお二人の分も用意してきました。どうぞ召し上がって下
さい」
 憲兵は最初、固辞した。監視対象からの差し入れを受け取るなど言語道断である。しか
し、シェルーに
「これは中佐からではなく、私からの気持ちです。私も監視されているのですか?」
と、疑われた事に傷ついたような目で言われ、断りきれなくなってしまった。
「――それではコーヒーだけ」
「本来は関係者からの施しは全て禁止になっているのです、少尉。賄賂と言うだけでなく、
薬物などを混入されている場合もありますので」
「中佐がそんな姑息な事をするはずがないじゃないですか。戦場では常に最前線に立って
正面から敵を粉砕するのが『戦慄の蒼』でしょう?」
 シェルーは抗議するように少し口を尖らせて言った。その子供ぽい仕草に思わず憲兵の
口元に笑みが浮かぶ。
「いや、確かにその通り。あの高名な『戦慄の蒼』と同じ基地に配属されて私たちも誇り
に思っていたのですよ。この監視も決して中佐を疑っての事ではなく、任務上やむを得ず
である事はご理解頂きたい」
「もちろん判ってますとも。さ、冷めないうちにどうぞ」
 憲兵がカップを手に取り飲み干した。一気に流し込むように飲んだのはやはり規定違反
を気にしたのか。
 二人のうちの一人が違和感に顔をしかめた。その直後、急速に目の焦点が失われていく。
「こ、これ、は……」
「よく効くでしょう?病院船で重傷の傷病兵を手っ取り早く眠らせるための経口麻酔なん
ですって。あ、私の彼、病院船の軍医ですの」
「く、くそ……!!」
「中佐はいつだって正々堂々たる方ですけど」
 シェルーは屈託のない笑いを見せた。
「女の子は必要だと思うなら、どこまででも嘘つきになれるんですよ」
 その場に昏倒した二人には目もくれず、室内に入ったシェルーはユウに向けて言った。
「中佐、奥様のところに行ってください。中佐がいれば助けられるはずです」
「…………」
「外の憲兵さんは二人とも眠っていただきました。他が気づく前に早く!」
 ユウは目を開けた。
「……なぜそこまでする?」
「マリーさんは私にとっても友人です。私は私の友達を助けたいんです」
「こんな事をして……君もただでは済まんぞ」
「これは私の一存でやった事です。中佐にはご迷惑をかけないように身を処します」
「…………」
「行って下さい。お願いします!」
「……これは私が君を脅迫して手伝わせた事だ」
 ユウは自分に言い聞かせるように言った。
「これは君の意に沿う行為ではなかった。今から君を人質にしてここを脱出する」
そう言うと、『戦慄の蒼』はいすをけって立ち上がった。



283MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/12(土) 17:29:36 ID:ZgHJRqJr
「遅いわよ、何してたの?」
 ジャクリーンの第一声がこれだった。
 整備ドックに来るまでの間、無用な戦闘は避けたいと慎重に隠れながら移動したために
予想外の回り道をしてしまったのは事実である。しかし、ドックから出ていないであろう
このメカニックがユウがいつ部屋を抜け出たかなど知る由もない。つまり、「遅い」とは
部屋を出てからの所要時間ではなく脱走を決断するまでの時間を言っているのだろう。
「ジャッキー、すまんが足が欲しい。今戦闘が行われている宙域まで少しでも早く着ける
ような船は残っていないか」
 単刀直入にユウは切り出した。ジャクリーンの口ぶりから察するに、自分がここに来る
事は予想していたようだ。彼女の余裕は既に必要なものは用意できているという態度に見
えた。
 ジャクリーンは髪を掻き揚げながら
「船なんかよりいいものがあるわよ。速くて、しかもあなたにしか使えないものが」
 そう言って指差す先には――シュツルムブースターを装着したGチェイサーがあった。
「これは……」
「どうせあなたがいないんじゃ艦に乗せても邪魔なだけだしね。どう、これならバック
パックのスラスターまで全開で加速すれば戦場まで四十二分三十五秒で到着するわよ」
「凄いです、ジャッキー。こうなるって判ってたんですか?」
 本心から感動してシェルーが訊いた。ジャクリーンは当然と言うように
「メカニックの仕事はね、最適な道具を、相応しいタイミングで必要な相手に用意する事
なの。今、ユウ・カジマに一番必要なのは巡洋艦が四時間かかる距離を一時間で飛べる乗
り物だったって事」
 と言った。
「中佐、早く乗ってください。憲兵が追いかけてきたら私が時間稼ぎしますから」
 シェルーが急かした。ジャクリーンが思い出したように言った。
「あー、それ大丈夫じゃないかな。だって、本気で捕まえる気ならここは先回りで押えら
れてなきゃおかしいでしょう?」
「あっ」
 シェルーが声を上げた。言われてみればその通りである。
「じゃあ、これは、中佐に出撃していい、て事……?」
「どんな事情か知らないけど、少なくとも黙認する気なんじゃない?」
「ジャッキー、これじゃ駄目だ」
 ユウが言った。
「本体の推進剤まで使ってたら到着した時にはほとんど行動不能になってしまう。途中ま
では別の何かに引っ張ってもらわないと」
 ジャッキーはニッと笑った。まるでその質問を予想していて、当たったことが嬉しいと
いう感じだった。
「心配御無用。考えてあるわよ――」

 コクピットに乗り込み、機体を起動させる。それと同時に回線が開き、ローラン・ホワ
イトが画面に映った。
「中佐」
「准将、この一件は全て私が彼女らを脅迫して行わせたものです。彼女らには公正かつ寛
大な処置を」
「中佐、君の謹慎及び監視処分は私の権限において十五分前に取り消しとした。改めて貴
官に出撃命令を下す」
「……」
「提督に伝えてくれ。パラシオ提督の第四十五艦隊に救援を要請、協力を取り付けたと。
貴官の方が先に着くはずだ」
「了解しました」
 最低限の返答をし、そのまま発信シークェンスに移行する。
「ユウ・カジマ、BD‐4、出撃する!」



284MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/12(土) 17:30:18 ID:ZgHJRqJr
 通信を切ると、ホワイトは目の前に立つ人物へと視線を向けた。
「よろしいのですか?」
 その人物は問いかけた。ホワイトは頷く。
「彼がいなければ戦況は極めて危うい。必要な処置だと確信している」
「同感ですな。私も中佐の存在は不可欠と考えていたところです」
 本心から同意しているようだった。ホワイトは話題を変えた。
「ところで、貴官の用件だが、今回の黒幕が判明したとか。それは真かね?」
「黒幕、という言葉が適切かは判りません。ですが、この争乱を望み、コントロールしよ
うとした人物ならいます。それを突き止めました」
「名を聞かせてもらえるかね、リーフェイ大尉?」
「あなたですよ、ローラン・ホワイト准将」
 諜報部大尉レオン・リーフェイは直立不動のまま眼前の人物を見据えた。
285MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/12(土) 17:31:02 ID:ZgHJRqJr
ここまで


後は決戦と謎解き
286創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 18:02:16 ID:GkFYVUwm
「きた!」「メイン主役きた!」「これで勝つる!」
287創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 19:54:00 ID:VLzNqEIn
おお、意外な黒幕が!
288Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/13(日) 09:31:05 ID:dK14ZQ++
さて投下
289Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/13(日) 09:33:19 ID:dK14ZQ++
 話を進めるに当たり、先ずはアーロ・ゾットと云う人物について説明しなくてはならないだろう。
 コロニー連合の意思決定機関、連合議会の代表議員を束ねる総代表の地位にある彼は、老練の能力者である。
 その厳つい風貌は、100を越えた齢を感じさせない。若き日より、その能力は周囲を畏怖させる物だった。彼が
歩けば、その風格と威容に人々は首を垂れて膝を突き、敵対の意志を持って刃向かう者は、鋭い眼光の一睨で
発狂した。成人と同時に政治の世界に入ると、己が能力を余す所無く発揮し、対立派閥を次々と調伏。40と言う
若年で組織の頂点に立ち、総代表の座に就く。
 圧倒的な実力故に、代わりを務められる者など居らず、実権を握って随分と長いが、年老いて能力は衰える所か、
益々強大な物となり、民衆から狂信的な支持を集める様になる。
 それは最早ニュータイプとも呼べなくなった、突然変異の超人だった。

 アーロ・ゾットはニュータイプの“行き着く果て”か、或いは、誤った進化の方向か……。
 彼の出現により、人々の心は一つに纏まり、コロニー連合は大きく発展する事になる。地球連邦政府が、脅威と
感じる程にまで……。
290Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/13(日) 09:39:58 ID:dK14ZQ++
 ヴァンダルジアのブリッジに戻ったハロルドとダグラスは、管制官の一人に王城の主が誰なのかを知らされた。
 ハロルドは信じられないといった様子で驚いたが、既に感付いていたダグラスは浮かない顔で静かにスクリーンを
見詰めるだけだった。彼の気掛かりは唯一つ、総代表は小惑星を使って何をする積もりなのかと言う事。

 相棒に倣って巨大スクリーンに目を遣ったハロルドは、ヴァルキュリアスの行軍が整然とし過ぎている事に気付き、
小さく独り言を零す。

「あれは……MD?」
「いや、BMSだ」

 隣で彼の疑問に答えたダグラスの目付きは、やや鋭い物に変わっていた。
 BMS……ビットモビルスーツとは、旧い時代にニュータイプがフラッシュシステムを用いて使役した機動兵器。
思念波で動くMS。それを聞いたハロルドは、小首を傾げた。

「それにしたって、あの動きは機械的過ぎるぜ。よく訓練されている……と言って良いのか? あの何機だか数える
 気さえ起きんBMSだが、全部が全部、何者かの統一された意思に従っている様で……気味が悪い」
「ああ、その通りだよ」
「……え?」

 ダグラスの返答に、彼は間抜けな声を上げて尋ね返す。あの小惑星内には、総代表と志を共にしている何千、
何万と言う人間が、随行している筈……いや、そもそも何千機ものBMSを独力で操るのは不可能。
 オールドタイプ故に、アーロ・ゾット総代表の能力が如何程の物か判らないハロルドは、そう考えていたのだが……。

「あれは全部、閣下が自ら操縦なさっているのだ。護衛BMSだけでなく、あの要塞の機能は全て……」

 ダグラスは彼を更に驚かせる事実を述べた。普通なら有り得ないと笑い飛ばす所だが、総代表なら……と思って
しまう辺りが恐ろしい。

「総代表も結構な歳だろう。そんな事が出来るのか?」

 疑問に眉を顰めるハロルドだが、そもそもの問題は年齢云々に無い。全く的を外した質問だが……ダグラスは
彼の口振りに好感を覚えた。即否定するでなく、無条件に肯定する訳でもなく、可能不可能の前に老若を持ち出し、
人間の尺に収め様とする。
 ハロルドには判らない様に小さく表情を崩して笑ったダグラスは、再び表情を引き締めて小惑星を睨んだ。

「出来るんだよ……」

 そして、低い声で短く一言。彼の目には眩い光を放つ小惑星。

(出来るんだ。人々の魂が、あの御方を支えているのだから……)

 強い能力は重力の様に人の心を従える。ミレーニア1億人の魂は、総代表に引き寄せられていたのだ……!
291Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/13(日) 09:48:45 ID:dK14ZQ++
 ダグラスは暫らく小惑星を見詰めていたが、やがて何を思い立ったのか指揮座へと移動し、ヴォルトラッツェル
から通信機を受け取った。そして一瞬、躊躇う様を見せた後、口を開く。

「総代表閣下、御久し振りです」
「ダグラス・タウン中将! 良くぞ、無事だった。君は期待を裏切らない。後の事は私に任せ、ローマンに従って
 ヘーラーに向かってくれ。君達の功績を称え、それに見合った褒賞を与えよう」

 喜びを隠さない総代表の声に、ダグラスは沈痛な面持ちになる。

「……閣下、この艦内にローマン大佐の指示を聞く者は一人も居りません」

 その言葉だけで、総代表は全てを理解した。

「何と……辛い目に遭わせてしまったな。言わずとも解る。しかし、ローマンを責めるのは間違いだ。彼は任務に
 忠実だった。ミレーニアの事は、私の見通しが甘かった故の……」
「いえ、私が問題としているのは、その様な事では無く!」

 自ら責を負う態度を示した総代表に対し、語気を強めるダグラス。しかし、総代表は彼の話を聞こうとしなかった。

「君の怒りは受け止めよう。しかし、どうか私を信じて欲しい。これ以上、君達が戦う事は無いのだ。未来永劫に……」

 ……通信は一方的に切られた。小惑星はヴァンダルジアと擦れ違い、何処かヘと向かって行く。
 ダグラスは直ぐにヴォルトラッツェルを見て、要請した。

「艦長、あの小惑星を追ってくれ!」
「しかし、総代表は……」

 コロニー連合総代表は、軍の統帥権を持つ“元帥”。軍属である以上、何よりも総代表の意思が優先される。
 ヴォルトラッツェル自身も、長旅で疲れた乗組員達を休ませたいと思っていたので、難色を示した。
 艦長の心内を察したダグラスは、独り頷く。

「解った。ヴァンダルジアの皆を、俺の私情に巻き込む訳には行かない」

 彼は総代表が何をするのか、薄々感付いていた。今、総代表を独り往かせてはならない。その一心で、急いで
ブリッジを出ようとしたダグラスだが……彼の襟首をハロルドが掴み、止める。

「何を焦って独りで決めてんだ?」
「離してくれ、ハロルド。これは俺の個人的な問題だ」

 突っ撥ねるダグラスに構わず、ハロルドは手を放さずにヴォルトラッツェルに声を掛けた。

「艦長! 総代表を追え!」
「とっ、特別大佐まで何を仰るのですか!?」

 ハロルドの意外な命令に驚くヴォルトラッツェル。しかし、ハロルドは得意気に言って退ける。

「よく思い返せ……。今回の件に関して、艦長は何か思う所が無いか? 腑に落ちない点があるよな?」
292Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/13(日) 09:53:02 ID:dK14ZQ++
 ヴォルトラッツェルは押し黙った。彼とて、何も疑問が無い訳ではなかった。ミレーニアが攻撃される事をローマンは
知っていた様だったし、小惑星要塞も開戦からの数ヶ月間で用意出来る物ではない。
 何れも確証は無く、適当な理由を付けて言い訳されると追求は出来ないのだが……。気にすれば、限が無い。唾を
呑み込み、ヴォルトラッツェルは巡る考えを振り払う。

「総代表はヘーラーに向かう様、仰ったではありませんか……」
「佐官、将官にもなれば、決まった命令に素直に従うだけが能じゃねえだろうが! 俺等にも異議を唱える権利
 くらいは与えられてんだぜ! 唱えるだけでも行使しなけりゃ損だと思え!」

 トントン拍子に昇進したハロルドは、階級に対する認識が甘いのだ。ヴォルトラッツェルは頭を抱えた。ハロルドの
言う事は間違ってはいないが、世の中には暗黙の了解と言う物がある。徒に角を立てず、疑問や理不尽を見ぬ振り
して遣り過ごすのが“善い”時もあるのだ。しかし、それを言えば彼は激怒するだろう。
 ヴォルトラッツェルは、ハロルドが“偉くなれない”人間だと尽く尽く思い知らされた……いや、再確認させられた。

「全責任は俺が取る」
「……失礼ですが、特別大佐に負い切れる物ではありませんよ。解りました。私も肚を括りましょう」

 一歩間違えば反逆者になりかねないと思いながら、ヴォルトラッツェルは肯いた。
 ハロルドは偉くなれない人間だと、そんな事は出会った頃から判っていた。
 突撃隊は死と隣り合わせ。彼が賢しいだけの人間なら、突撃隊など疾うの昔に辞退している。偉くなれない人間
だからこそ、付いて行こうと決めたのだ。

「皆、聞いたな? 任務完了を宣告された後で申し訳無いが、少しだけ残業して貰いたい。しかし、残れば後悔は
 必至だ。拒否権は認める。不満のある者は、先にスペース・ボートでヘーラーに向かえ」

 ヴォルトラッツェルは言い切ったが、ブリッジの者は誰一人として動かなかった。ハロルドとダグラスを慕っていると
言うより、これは艦長に対する誠意である。
 全員が拒否する事も想定していたヴォルトラッツェルは、部下の信頼を素直に有り難く思う半面、責任の重大さに
息を呑んだ。いざと言う時には、覚悟を決めなければならない……。

 ヴァンダルジアは真実を求めて小惑星を追う。その先に、何が待ち受けているかも知らず……。
293創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 09:59:28 ID:dK14ZQ++
21話まで終わり。インフレここに極まれり
294創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 01:09:39 ID:9VGQ8jsQ
解が見えてきたって感じだな。
ってか総代表のスペックがチート過ぎる、筋力とかも東方不敗並みにありそうだw
295Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/20(日) 09:18:53 ID:BEjfgKrS
牧場のペガサス、街角のヴィーナス
296Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/20(日) 09:34:48 ID:BEjfgKrS
 小惑星を追っていたヴァンダルジアは、驚くべき光景に出会した。木星とアステロイドベルトの中間に位置する、
ヒルダ群暗礁宙域にて、地球連邦軍の大艦隊と、小惑星が対峙しているのだ。

 連邦軍の艦隊構成は、アルマゲスト、ラストディ、ネームシップのグィンを合わせたグィン級3隻と、スペース・アーク
級の後継に当たるアイランド・アーク級60隻、更にコーラル級の後継のリーフ・ラグーン級が231隻。小惑星の軌道
正面2万km先、1000km四方を占めている。搭載MSは軽く3000を越す、堂々たる大軍団。単純な兵力では、
小惑星の護衛を大きく上回っている。その中には当然、X隊とA隊の姿もあった。
 これ等は全てコロニー連合攻撃に向けられた物。戦中から用意された、謂わば“連邦軍の突撃隊”である。

 それがA隊ラストディの報告を受け、小惑星の迎撃に総力を注いでいる。
 地球に迫り来る巨大要塞が、遠い過去に幾度も乗り切った危機を思い起こさせるのだ。これは何を措いても、
この場で破壊すべき物。その認識で、連邦艦隊の意見は一致していた。
297Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/20(日) 09:39:52 ID:BEjfgKrS
 圧倒的物量を前に、アーロ・ゾットは大きな笑みを浮かべる。

「ガイアよ、この程度で私を止め様と言うのか? 貴様は最早、人類にとって不要な存在なのだ。過去、幾度と無く
 袂別を宣言されたにも拘らず、未だ解ろうとしない! その歪んだ庇護欲の犠牲となった、先人の積年の無念、
 今こそ晴らす時!」

 彼は自身の強大な力に陶酔し、地球を己と同等な一個の人格と見做す様になっていた。
 ニュータイプに生まれたからには、外宇宙を目指す物。その運命に従い、総代表としてコロニー連合を導いて来た。
 しかし、新たなる世界への船出を阻んだのは、地球の人間。重力に魂を縛られた、ガイアの子。妄執は歳月を重ねる
毎に深まり、“星”に敵意を抱くに至る。

 ヴァルキュリアスが編隊を組み、プラネイト・ディフェンサーを広げ、ビームカノンを構える。小惑星の巨砲塔が艦隊に
向く。“迎撃”準備は整った。

 暗黒の宇宙空間が眩く煌めき、夜明けの如く光る。無警告で始まった、連邦軍の攻撃。
 ミサイルとビームの豪雨を、プラネイト・ディフェンサーのバリアが堰き止める。
 分厚い結界に弾き返される爆光が、遠目には、飛び散る雨滴の様に見えた。

 ……小惑星側は、防戦一方で反撃しない。
 それを確認した連邦軍は、攻撃の手を緩めず、A隊を前進させる。
 惑星破壊級。全長500km程度の岩石塊なら、1発直撃すれば半壊。2発目には完全に破砕に出来る。

 ヴァンダルジアの乗組員は、黙って見守る事しか出来なかったが、不思議と危機感は抱かなかった。
 総代表の恐るべき能力が、皆の感覚を麻痺させているのだ。

 それは連邦軍も同じ……。攻撃を始めてから、彼等は小惑星要塞が脅威だとは、微塵も感じなかった。
 恐れを知らず、迷う事も無く、10機のスーパーアトミックガンダムが惑星破壊級核兵器を発射する。
 攻撃を続けながら後退する艦隊。メガビームシールドを展開させた1000機のV7ガンダムが、防御壁を作る。幾千、
幾万のミサイル群に紛れ、脅威の核兵器は、プラネイト・ディフェンサーの結界に触れる寸前で大爆発を起こした……。
298Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/20(日) 09:45:10 ID:BEjfgKrS
 惑星破壊級の威力を存分に発揮した一撃であった。大火球が小惑星の4倍近い大きさに膨れ上がり、全てを呑み
込んだ。膨大なエネルギーが、目に見えない微小な屑塵に伝播し、衝撃波を発生させる。
 遠方に待機していたヴァンダルジアは、その余波を受け、恐怖に怯えるかの様に小刻みに震えた。

 閃光の後……果たして、小惑星は無傷だった。幾千のヴァルキュリアスは、数えられるまでに減っていたが、BMSの
騎士は身を挺して王城と主君を護り切ったのだ。

 完全に小惑星を破壊出来たと思っていた連邦軍にとっては、意外な結果だったが、彼等は手を休めなかった。
 隙無く、既にチャージ完了したX隊の20機が進み出て、第2撃を放つ。禍々しくも美しい、滅亡の光……。
 ユノーを欠けさせた威力は、抑えられた物。フルパワーのレーザーウェイブキャノンは、攻撃範囲こそ限定的だが、
惑星破壊級核兵器に匹敵する破壊力を持つ。全長500kmの小惑星も、これを耐える事は出来ない!

「駄目だっ……!」

 艦橋でスクリーンを見詰めていたダグラスは、小さく声を上げた。
 悪夢の光は、小惑星を覆い尽くす勢いで、放射状に拡がり……拡がり……大きく拡がり……緩やかな弧を描いて、
宇宙にユリの様なラッパ状の花を咲かせる。そこからΕを描いて逆走! 見る見る収束して行き、連邦艦隊を襲う!

 ハロルドは目を見開き、ビームの軌道を凝視した。

「……あれは!」
「D・Iフィールド……」

 彼に答える様に、ダグラスが呟く。能力者が何人集まろうと及ばない程、強力なフィールド。そして有効半径……。
この一帯は完全に、アーロ・ゾットの支配下。ミレーニアの魂を取り込んだ彼の能力は、剰りに強大過ぎた。
 威力そのままに返されたレーザーウェイブキャノンは、V7ガンダムのメガビームシールドを紙細工の如く易々と打ち
破り、連邦艦隊のリーフ・ラグーン級とアイランド・アーク級の4分の1を撃墜。敵意を向けて放った攻撃が、己が身を
貫く様に、総代表の高笑いが聞こえる様だった。
299Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/20(日) 09:51:28 ID:BEjfgKrS
 ダグラスは頭痛に顔を歪め、額を押さえた。激しい怒りと憎しみを感じ取り、唯々、震える。小惑星の反撃は“今から”
始まるのだ……!

 手痛い一撃を受けながらも、連邦軍は攻撃を続けた。X隊を後退させ、入れ替わりに再度A隊を前進させる。
 ビームが返されるなら、“返し様の無い一撃”を……! しかし、その前に先手を打たれた。
 閃光と共に、スーパーアトミックガンダムは一瞬にして全滅。連邦軍側は、何が起こったのか理解不能だった。

 攻撃の正体が、パトリア・ジールの両肩の偏向メガ粒子砲と言う事すら、彼等には判らない。
 射程の遥か外から発射されたビームは、分散してレーダーでは捉えられない程に希薄化。D・Iフィールドに誘導され、
密かに敵機を取り囲んだ後、再集結し、急所を灼く……即ち、不可知の攻撃!

 ハロルドはスクリーンを強く睨む。ヘーラーに向かう惑星破壊級核兵器装備型スーパーアトミックガンダムを消した、
あの閃光の正体は、D・Iフィールドによって導かれたビーム。扱い難いとされていた対ビームフィールドは、驚異の
ニュータイプ能力者によって、想定外の性能を発揮し、無敵の兵器と化した。

 実弾は叩き落とされ、ビームは操られる。連邦軍は為す術無く、徐々に数を減らして行った。
 一方的に蹂躙出来る能力を持ちながら、態と核を撃たせたのは、最大威力の攻撃すら効かないと知らしめる為。
 最早、連邦軍に抵抗する術は無い。後退する連邦艦隊を更に追い詰める様に、ブラックコスモスが活動を始める。
花冠の中央が開き、小惑星の重力に引き寄せられた小岩石や敵味方の残骸を吸い込む。そして一度花弁を閉じ、
反芻するかの様に蠢いた後、再び花を咲かせると、その中には新たなヴァルキュリアスが!

 パトリア・ジールのメガカノン、小惑星の巨砲塔、ヴァルキュリアスのビームカノン。それ等から放たれる幾千万もの
ビームは、総代表の意に従い、生き物の様に敵機を仕留めて行く。
 怒れる鬼神の所業は、味方をも恐れさせる物だった。ヴァンダルジアの乗組員は皆、総代表が敵でなかった事に、
心の底から感謝した。
300Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/20(日) 09:57:49 ID:BEjfgKrS
 こうなっては戦線も何も無い。これ以上留まっても、小惑星を止める事は不可能。
 しかし、全速で離脱しても逃れられるかは不明。そこで半数が残留して決死の防壁となり、後の半数を撤退させる。
 それも自在に曲がるビームの前では、余り効果的な作戦とは言えなかったが……他に出来る事は無かった。
 撤退するのは、旗艦のネームシップとリーフ・ラグーン級。足の速い艦を逃し、戦艦は名の通り、最期まで戦う。
 地球連邦軍の突撃隊は、奇しくもコロニー連合軍の突撃隊と同じ境遇に置かれる事となった。

 X隊の旗艦アルマゲストも、残留組の1隻。戦闘を続行出来る最小限の人数を残し、他の者はスペース・ボートで
脱出する。この空間はビームが獲物を求めて蠢く地獄。撤退する味方艦に無事辿り着ければ良いが、後は運に任せ、
攻撃に巻き込まれない様、祈るしか無い。

 ……慌しく脱出を始める乗組員を他所に、ベルガドラ・マッセンは魅入られたかの様に、艦橋のスクリーンに映った
小惑星を見詰めていた。
 其処彼処で美しい花火が散り、終末の雰囲気が漂う。爆発は儚く尽きる戦士の命。その魂はアーロ・ゾットに引き
寄せられ、巨大な力の一部となる。魂の輝きを増し、小惑星は前進速度を上げる!
301Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/20(日) 10:01:13 ID:BEjfgKrS
 マッセンに随伴していた男性秘書官は、彼女の手を引いて退艦を促した。

「ここは危険です。早く脱出しましょう」

 しかし、マッセンは反応しない。秘書官は彼女を引き摺ってでも脱出させ様としたが、どうした事か、幾ら力を込めても
全く動かせなかった。スクリーンに映る小惑星は、徐々に大きくなって行き、秘書官は焦る。

「この儘では、小惑星に激突してしまいます!」
「逃げ出して……何処へ行くと言うんだい?」

 必死な秘書官の声に、マッセンは初めて応えた。その目は虚ろで、焦点が定まっていない。秘書官に悪寒が走る。
彼は理解した。この人は、もう駄目だと。
 説得を諦め、マッセンから手を放そうとした秘書官だったが……。

「は、放して下さい!」

 彼女は腕一つ、信じられないくらい強い力で、彼を留める。その瞳は秘書官を映していたが、彼の怯えた態度に
気付く様子は無く、茫然と恍惚の表情を浮かべていた。

「あれを見ろ。怒りと憎しみと悲しみ……狂気の塊だ!! あぁ、私は間違っていた……」

 そしてスクリーンの小惑星を再び見詰め、絶叫する。秘書官は何度も首を横に振り、引け腰になった。

「い、嫌だ……誰か! 誰かっ!!」

 彼は周囲に助けを求めたが、ブリッジに居る者は誰一人として振り返らない。
 戦闘に集中しているのかと思ったが……違う! その手は完全に止まっている。何もしていないのだ!

 ……よく見ると、彼等一人一人には、暗い影が掛かっている。

 それは人の姿をしていて……。
302Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/20(日) 10:03:10 ID:BEjfgKrS
 秘書官の両脚は、ガタガタと震え始めた。マッセンに掴まれている手を恐る恐る見ると、彼女の物とは違う1本の
腕が伸びていた。恐怖の剰り、声も出ない。その正体はミレーニアの亡霊。
 その掌から、悍ましい負の感情が秘書官に流れ込む。唐突に命を奪われた嘆き、奪った者に対する怒り……。
全ての感覚が、死者と重なる。彼は思い知らされた。自在に曲がるビームは、憎しみの力が顕在化した物。宇宙を
覆い尽くす程の敵意が、地球に向けられている。
 罪悪感と無力感が、秘書官の精神を死の世界へと引き込む。皆、同じ様に絶望へと沈んで行ったのだ。

 既に残留組の味方は全滅。撤退した艦も殆どが撃墜され、今は数える程しか確認出来ない。折れた心を死者の
怨念が喰らい尽くし、アルマゲストは生ける屍の幽霊船となっていた。
 死霊で溢れ返った艦内に、衝突警告のアラームだけが虚しく鳴り響いている。……抗える気力のある者は居ない。
スクリーンに小惑星の地表が迫る……。

「これは私の罪なのだ。私は逃げない。あの狂気に呑まれよう……。さぁ、憎かろう、憎かろう! 憎い私を殺せ!」

 マッセンの高らかな声と同時に、アルマゲストは小惑星に激突。玩具細工の様に拉げ、爆発を起こしながら醜く
崩れた。その破片をブラックコスモスが吸い寄せ、またヴァルキュリアスを生み出す。
 連邦艦隊は、グィン級グィンを残して全滅。小惑星はヒルダ群暗礁宙域の岩石と残骸を取り込み、質量を増して
行った。向かう先には火星……。
303Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/20(日) 10:12:02 ID:BEjfgKrS
>>300
冒頭3行抜けてた……。

> 小惑星が攻撃を始めてから半刻も経たない内に、連邦艦隊は半数以下になった。
> 防衛に出撃しているV7ガンダムのメガビームシールドも、D・Iフィールドの前では無力。強力な思念波は通常の
>Iフィールドを越え、シールドを形成しているビームにも干渉。連邦艦隊は防御の手段すら奪われていた。


これにて22話完。この作品のタイトルは「マッドナゲット」。
「Mad」は「狂った・狂気の」、「Nugget」は「純物質の“塊”」で、「狂気の塊」を意味します。
304MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/21(月) 22:45:18 ID:Mv+NOIfh
蒼の残光 10.「蒼の残光」 思惑



305MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/21(月) 22:46:02 ID:Mv+NOIfh
 一分間の沈黙があった。
 最後の発言者であるリーフェイと、次の発言者であるべきホワイトはお互い視線を相手
に合わせたまま、全くの不動を貫いていた。
 沈黙を破ったのはホワイトだった。
「根拠を聞かせてもらおうか」
「最初から何かがおかしいと感じていたのです」
 リーフェイの口調は遠い昔の思い出話をしているようだった。
「ヘリウム横領については非公開で捜査を行っていましたが、各地の基地でその噂は流れ、
またテロ行為との関連も囁かれていました。事実ユウ・カジマ中佐に対しルナツー基地の
ジャック・ベアード少佐がこの情報を伝えた事が確認されています。
「当然、噂と言えども相当量のヘリウムが何者かの手に渡っているとあれば、ましてテロ
に対する警戒が厳しくなっている時期の噂であれば一応は調査するのが常道と思われます
が、この基地では一切調査された形跡がなかったのです。私の調査で、この件に関する情
報が入ったその直後に別件のより具体的なテロに関する情報が匿名で入り、その調査に人
員を割いた事が判明しました。結果的には完全なガセでしたが、もしそれがヘリウムの一
件から目を逸らす事を目的としていたなら、それは完全な形で達成された事になります」
 無言のままのホワイトにリーフェイは静かに語っていた。
「匿名の電話を入れた人物、特定いたしました。そしてその人物は十二月三十日に死亡し
ていました。酒に酔った上での転落事故との事でした。
「私はその男の周辺を徹底的に調査しました。その結果、彼がかつてオデッサで捕虜と
なった元ジオン軍人である事、解放後は地球に留まりズム・シティに戻ってきたのはアク
シズ争乱後である事、地球でもここでも正業に就いていた形跡がないにもかかわらず生活
に困っていた気配がない事を突き止めました」
 一旦言葉を切る。ホワイトは黙って次の言葉を待っている。
「あなたが飼っていたのですね。個人的な情報員、あるいは工作者として」
 ホワイトに反応はない。リーフェイも反応を待つ事はしない。
「既に金の流れも掴んでいます。そしてその人物が最後の夜、准将と会っていた事も。こ
れは私の推論でしかありませんが、私はあなたが口封じをしたのだと考えております」
 初めて、ホワイトが口を開いた。
「よかろう、その男は私が十年前にスカウトし、個人的なスパイとして動かしていた。そ
れで話を進めて行くとしよう。しかし、何故だ?何故私がテロの発覚を遅らせる真似をし
なければならん」
 リーフェイの表情が微かに動いた。人によっては悲しげに映るかもしれない。
「もう一つ不自然だったのは、事件発覚後増援に遣わされたのがブライト大佐のパトロー
ル艦隊であった事です。確かに特定の守備宙域を持たないいわば遊軍ではありますが、正
式な増援要請の内容から鑑みて明らかに不十分な戦力です。数の上では損耗戦力の補填程
度にしかならない。何故ブライト大佐だったのか?するとこの人選にある連邦議会議員の
関与を見る事が出来ました。彼は大佐が提唱するジオン残党掃討専門部隊設立の後ろ盾と
なっている人物です」
 リーフェイは慎重にその人物の名を避けた。しかしあえて名を挙げる必要はなかったの
も事実である。
「准将、あなたもその計画に賛同しているのですな」
 初めてホワイトが目を閉じ、小さく息を吐き出した。
「私の考えはこうです。准将、あなたはブライト大佐のジオン討伐隊の必要性を強く感じ、
また同時に今の連邦がそれを認める可能性がほぼ皆無である事も判っていた。連中を動か
すには実例を持ってジオンの脅威を訴えなければならない。そんな時あなたは自身が守る
宙域でのジオン残党のテロを超えた規模の軍事的活動の情報を掴み、これを利用する事と
した。さらに、まずルロワ艦隊に痛手を負わせ、応援部隊としてブライト大佐を合流させ
事態収拾の功を与えれば、腰の重い連邦上層部と言えどもブライトの意見を容れ彼を中心
とした特別部隊設立を承認せざるを得なくなる――いかがです、ここまでで訂正すべき部
分はありますか?」
306MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/21(月) 22:47:20 ID:Mv+NOIfh
 ホワイトは何も言わず席を立ち、コーヒーメーカーに近づいた。身振りだけでリーフェ
イにソファーに座るよう促すと、リーフェイも無言で従った。ホワイトは二人文のコー
ヒーを持って対面のソファーに身体を沈める。
「――貴官は確か元は陸軍の諜報部員だったな?」
 リーフェイは頷いた。
「戦後三軍の解体と再編成の際に宇宙軍転属となりました」
「そうか。私は今でも地上軍からの出向という扱いだ」
 コーヒーに口をつける。リーフェイが手を出さないのを見て、薄く笑った。
「安心したまえ、薬など入ってはいない」
「それは信頼しております」
「そうか。……私はあの戦争が始まる前からレビル将軍に忠誠を誓っていた」
 ホワイトは昔の話を語り始めた。
「オデッサの勝利の後、閣下は決着を着けるため宇宙へと上がり、私はオデッサに残った。
しかし閣下は勝利を目前に非業の死を遂げてしまった。
「閣下こそは宇宙に長期に渡る平和をもたらすを可能にする唯一の人物だった。私は閣下
の理想を引き継ぐ人間になりたかった。しかし、そのためには私の地位では不足だった。
私は軍での発言力を増すため、ジョン・コーウェン中将の閥に入った。しかし……」
「存じています。私はずっと諜報部の人間なので」
「そうか、そうだったな」
 コーウェンも核兵器搭載MSの開発など、レビルには遠く及ばぬ人物だったが、その後
に軍を掌握する事になるジャミトフはもはや、その思考全てがホワイトには受け容れ難
かった。コーウェン派だったホワイトは冷遇されたが、彼もまたジャミトフに尻尾を振る
事は矜持が許さなかった。
「かくして私は、完全に栄達の道を閉ざされてしまった。それでもティターンズが排斥さ
れれば或いは、とも思ったが、実際にそうなってみれば、私はやはりコーウェン派の人間
として扱われたよ」
 ホワイトは笑って見せた。リーフェイにはこの時、ホワイトが老け込んだように見えた。
「ついには人事交流の名目でついに地上軍からも追い出され、火薬庫とも云われるここ、
ジオン共和国駐留基地に飛ばされてきたというわけだ。全てを諦めるつもりだったのだ。
一度はな……」
 ここでの生活は悪くなかった。基地防衛指揮官として、また市民に依然として残る反連
邦感情の緩衝役として、それなりのやりがいもあった。軍の中央ではなく、末端の中で改
善活動を続けるのも悪くないと思い始めていた。
「しかし、ブライト・ノアの論文を読み、彼の提唱する対ジオン残党用の専門チームの必
要性を認めた時、そしてそれが上層部(うえ)に理解されず握り潰されようとしていると
知った時、また私の中でくすぶっていた炎が勢いを増した。ブライトのような男を下らん
上層部の思惑で埋もれさせてはいけない。彼のような優秀で理念と見識を持った人材には
少しでも早く相応しい地位を与えるべきなのだ」
「それで、大佐の懸念が正しい事を証明するために、まさに大佐が警告している通りの事
態を引き起こした?」
 リーフェイの言葉にホワイトは首を振った。
「いや、最初は偶然だったのだ。偶然、木星でのヘリウム横領についての噂を耳にした。
幸運だったのはそれが恐らくは諜報部よりも速く、より詳細に情報を入手できた事だ」
 情報源はオデッサで捕虜にして以来彼が情報収集に使っていた男だった。ホワイトと共
にズム・シティに帰ってきたこの男に元同僚で今はアラン配下の旧ジオン軍人が接触し、
仲間にと誘ってきたのだった。ホワイトはこの男を通じ、他の誰よりも先んじてスティー
ブ・マオがサイド3宙域で逐電を図る事まで知っていたのである。
「私はこれを利用しない手はないと思った。AEにも密かに情報をリークし、内と外から
情報のコントロールを行った。事が露見しないよう、それでいて奴らが勝ちすぎないよう
に、な」
307MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/21(月) 22:48:03 ID:Mv+NOIfh
「……なるほど、秘密裏の捜査がなぜ噂が広まったのか謎が解けました」
 あくまでもホワイトの最終目標はブライトがアクシズ残党に勝利する事である。軍需を
掘り起こしたいAEとも目的は合致する。
「概は上手く行っていたのだ。いくつかのイレギュラーはあったが、結果的にはプラスに
転じていた。ブライトを参戦させられただけではなく、トリスタンが先走った事でリトマ
ネンが無視せざる脅威であると印象付ける事さえ出来た。あとは一気に決着を着ければよ
かった」
 イレギュラーはユウがホワイトの想像を超える規格外のエースだった事である。もし相
手にNTのオリバー・メツがいなければブライト登場前に鎮圧されていたかもしれない。
しかし逆にオリバーを相手に出来る戦士などユウ以外ではアムロ・レイくらいしかホワイ
トは知らなかった。彼は強者は強者の前に現れるという古い格言を思いだした。
 リーフェイが静かに指摘した。
「しかし、ついに修正困難なイレギュラーが発生した――カジマ中佐の奥方ですな?」
 ホワイトは頷くかわりにコーヒーに口をつけた。
「本当に知らなかったのだ」
 ユウの妻マリーがジオンに関係する者であるとして、それが事実ならユウにもスパイと
しての疑いをかけないわけには行かない。潔白が証明されるまで拘束という事もありえた。
それは勝利を極めて難しくする。連邦の物量を持ってすれば勝利は動かないが、ブライト
の功績が薄れてしまう。
「私の計画では、ユウは今や不可欠なピースなのだ。ブライトの主張する『少数精鋭、機
動力を持った遊撃部隊』が有効である事を示すには、必要以上の大軍を編成される前にこ
の叛乱を鎮圧しなければならない。それにはユウが必要なのだ」
 ホワイトは口を閉じた。リーフェイも何も言わなかった。長い沈黙があった。
 やがてリーフェイが口を開いた。
「……この戦いにカジマ中佐の力が必要である事、その点に関しては同意いたします。ブ
ライト・ノア大佐の提唱する精鋭部隊の有用性について私は意見を持ちませんが、大佐が
有能な軍人である事は存じております。
「しかし、それはそれとして准将は数千人単位の連邦軍人の死に対する責任と、数百万人
の罪なき地球市民の命を危険に晒した罪があります」
「承知している。しかし、それはこの先十年の平和で償却できるものと考えている」
「人の命を償却できるものとお考えか?」
「この先十年彼奴らの争乱に巻き込まれたら、死者の数がこの程度で済むと思うか」
 再び沈黙。今度それを破ったのはホワイトだった。
「それで、これをどう報告する気かね?」
「…………私が命じられたのは敵の首謀者及び背後関係の調査です。しかし、准将はとも
かくAEや、場合によっては政府高官まで巻き込む一大スキャンダルに発展するかもしれ
ません」
 ホワイトは何も言わない。彼と同様にブライトの計画に賛成する議員の関与も、AEの
内通者の名前も明かしてはいない。
「私のごとき一介の大尉には扱いかねますな」
 リーフェイの言葉は予想外で、思わずホワイトの目が見開かれた。
「見過ごす、と?」
「私もブライト大佐のような人物をつまらぬ事で失脚させたくないという思いは同じです、
准将」
 ここで初めてリーフェイはコーヒーに口を付けた。冷めて、美味くなかった。
「それに、准将ならばブライト大佐のためご自分がどうその身を処すべきか、お判りかと
思いますので」
 不味いコーヒーを飲み干し、リーフェイは席を立った。
「中佐が奥方を無事に連れ戻せるといいですな」
 返事はなかった。リーフェイはそのまま部屋を出た。

308MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/21(月) 22:49:33 ID:Mv+NOIfh
ここまで


ノート
「蒼の残光」は元々のプロットとしてユウを主役に新しいMSで暴れる話と、ロンドベル設立のきっかけとなる事件の話という
2つのテーマを一つの物語にまとめた物語になっています。なので、ブライトの登場はユウ同様に必然となっています。

存在自体伏線みたいな扱いのキャラなので、ユウ以外にもジャック・ベアードや
「コロニーの落ちた地で」のレオン・リーフェイなど他作品のキャラをスターシステムで登場させ、
ブライトもそういったサービス出演と思われるようにミスリードしてみました。意味ないかもしれませんが。
309創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 22:51:07 ID:bJH1XI2G

タイトルの意味への流れに鳥肌だぜ
どう主人公達が関与するかだな


あ、手書きだけどジムVライトアーマー書いてみた
http://imepita.jp/20090921/811911

露出しているムーバブルフレームが手抜きなのは秘密
310創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 22:57:19 ID:bJH1XI2G
見にくすぎるから修正

http://imepita.jp/20090921/825700
311創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 23:26:39 ID:8St5jKWh
面白い話だなぁ本当に
312創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 23:39:31 ID:Gtt0PvKV
ブライトさんは単なるゲストじゃあなかったと……
見事に騙されてたよ

>>309
GJ!カッコヨス
313MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/09/22(火) 17:35:02 ID:OUoEj3z+
>>310
これイメージぴったりです
314創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 05:59:27 ID:IFI662v0
保守
315Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/27(日) 11:08:33 ID:5PYAY0no
この板はスレ数的に未だ保守がいらないんだぜ投下
316Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/27(日) 11:10:56 ID:5PYAY0no
 所変わって、地球連邦軍火星基地。任務失敗に終わった緊急討伐隊は、地球への復路に就く前の羽休めに、一時
降下していた。

 火星周辺を警備していた彼等以外の討伐隊は、突撃隊へと所属を変え、コロニー連合攻撃に向かった後。
 果たして、連邦軍上層部の思惑通りに事が運ぶのか……。何も知らない彼等は、そればかりを心配していた。

 連邦軍内の派閥抗争での負け組みが確定したミッハ・バージ大佐は、基地内の食堂で悠々とコーヒーを啜っていた。
切り替え早く、既に諦めの境地。地球に帰れば、コロニー連合軍が最侵攻して来るまで、長い長い“休暇”を与えられる
事になる。彼は半ば自棄で、在職中最後のロングバケーションを満喫する気でいた。

(それとも、降格左遷前に退職願を出すかな……)

 突撃隊は連邦軍の全戦力の半分以上を投入した大軍団。終戦後に解体されたコロニー連合軍が、活動を再開したと
言う話も聞かず、当分の間……或いは最後まで出る幕は無いかも知れないと高を括っていた。
 まさか直後に緊急指令が下される等、思いも寄らず……。

 指令内容は単純な物だった。火星軍と共に、敵要塞の進攻を止めよ。その一文のみ。
 バージ大佐は指令の真の意味を、即座に理解出来た。大軍団でも止められなかった物を、止めて見せろと……。
詰まる所、捨石になれと言っているのだ。彼は溜息を吐き、心内で蔑む。

(やれやれ……浅謀な連中だ。敵の裏を掻いた積もりが、見事に嵌められていたのか)

 指令のメールと共に送られて来た敵勢力の情報は、移動攻撃要塞1基、大型MA1機、MS少なくとも2000機以上。
 数字だけ見れば、用兵次第で何とかなる様に思われたが……それが大きな誤りである事を、彼は理解していない。

(名誉挽回、最後の好機は命懸けと……。戦果次第では、リスクに見合ったリターンを得られるが、果てさて……)

 老獪な戦術家は腕を組む。緊急討伐隊は火星軍と共同戦線を張るが、直轄で無い為に指揮系統からは外される。
……外す様、“願い出る”。遊撃なら撃墜王が居る。他の者も、未熟ではあるが、戦力として計算出来る。
 流石にスイーパーは動いてくれないだろうが……勝算有りと、バージ大佐は考えていた。
 “彼は理解していない”。上手く指揮すれば勝ち戦、大金星になる? 否。それは有り得ないのだ。
317Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/27(日) 11:15:04 ID:5PYAY0no
 バージ大佐が異変に気付き始めたのは、緊急討伐隊のメンバーを呼び集めた時だった。
 ペリカンの展望室で待つ彼の元に、最初に到着したのはエルンスト。姿勢を正し、見本の様な直立不動で、他の者を
待つ。やや遅れて、ゴートヘッズ。相変わらず緊張感の無い面々だが、独りジェントは厳しい貌付き。
 セイバーとリリルは……何時まで待っても来ない。ニュータイプが2人揃って……。バージ大佐は不気味な物を感じ、
エルンストに2人の様子を見に行かせた。

 展望室から廊下に出た所で、エルンストはセイバーを発見したのだが……。

「セイバー・クロス中尉、大丈夫ですか!?」

 セイバーは壁に寄り掛かり、蒼褪めた顔で俯いていた。
 体調が悪いのか、重い体に鞭打って、展望室に向かう途中だったと見える。
 冷や汗がセイバーの頬を伝い、滴り落ちた。エルンストは彼に駆け寄って肩を貸そうとしたが、撃墜王は青年が差し
出した手を振り払った。

「済まない……。大丈夫だ。気遣うな」

 その後で、己の無礼に気付き、謝る。止まらない震えを知られたくないが故の、無意識の行動だった。弱った心まで
他人に見抜かれたくないと言う、エースとしての矜持。しかし、それは同時にニュータイプの杞憂でもある。傍目には、
セイバーの不調の原因までは解らない。勿論、エルンストにも……。

「どう見ても大丈夫とは思えません」
「……煩い。俺より、ロロ少尉を……彼女が心配だ」
「ロロ少尉が、どうかしたのですか?」
「早く行け……。俺は艦長に話さねばならない事がある」

 見た目、相当弱っていたセイバーだったが、その意志は挫けていなかった。
 無理に搾り出した掠れ声が、凄惨な気迫を感じさせる。エルンストはセイバーに気圧され、これは徒事ではないと
リリルの元へ急いだ。

 彼が去った後で、セイバーは大きく息を吐く。震えの正体は、長らく忘れていた恐怖の感情。強大な物に対する畏れ。
能力で他人に劣ろうとも、一個人としては負けない。その気で戦って来た彼にとって、刃を交える前に圧倒的な能力の
差に屈するのは、屈辱の極みだった。
 身が凍る様な、嘗て無い戦慄……ダグラス・タウンとは比べ物にならない。この相手は危険過ぎる!
318Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/27(日) 11:18:52 ID:5PYAY0no
 ニュータイプは何を察知したのか……エルンストに知る術は無い。不安を胸に、彼は走る。
 リリルの個室の前で、エルンストは足を止めた。軽くノックをし、反応を伺うが、全く音が無い。

「ロロ少尉、お迎えに上がりました。バージ艦長より召集が掛かって居ります」

 声を掛けても、応答無し。スライド式の自動ドアはロックが掛かっている。

「ロロ少尉! リリル・ルラ・ラ・ロロ少尉!!」

 エルンストは声のトーンを上げ、ドアを強く叩いたが、相変わらず無反応。リリルの身に何か良からぬ事が起こったと
確信した彼は、身分証をリーダーに通し、暗証番号を入力。非常手段にてロックを解除した。

 部屋に踏み込んで、先ず気付いたのは水音。バスルームから聞こえるが、シャワーの音とは違う。
 艦内の閉鎖生活では貴重な水、無駄遣いは御法度。エルンストはバスルームに駆け込んだ。

 ドアを開けると、そこには……濡れるのも構わず、制服を着たままで、水浸しの床に座り込んでいるリリルが居た。
彼女は頭を押さえて蹲り、苦しそうに呻き声を上げている。
 蛇口からは大量の水が流れっ放しで、排水口に渦を作っていた……。

 エルンストは水を止め、リリルに近寄って片膝を突く。

「ロロ少尉、具合が悪いのですか?」

 彼女は返事の代わりに、激しく身震いをし、嘔吐の仕草を見せた。既に何度も吐いた後なのか、小さな口からは
苦しそうな声だけが漏れる。
319Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/27(日) 11:24:24 ID:5PYAY0no
「今、医務室に……」
「怖い……殺される!」

 リリルの口から出た物騒な言葉に、エルンストは驚いた。少女は青年に掴み掛かり、気が狂れた様に喚き散らす。

「私が何をしたと言うの!? 殺さないで! 皆、殺されてしまう……何処にも逃げられない!!」
「お、落ち着いて下さい……」
「うぅ……助けて! 誰か、お願い! 助けて、助けて、助けて、助けて……助けてっ! 狭い輪の中に閉じ込められて
 死ぬなんて嫌っ!! 誰か、ここから出してよ! 私を逃がしてっ!!」

 能力の高い彼女は、遥か遠くに居る筈のアーロ・ゾットの敵意を、諸に受けていた。
 両の眼は宙を泳ぎ、開いた瞳孔で見えない物を見ている。エルンストは呆気に取られるばかりだった。

「助けて、助けて……うっ、ううっ……うえぇっ……」
「だ、大丈夫ですか?」

 彼は再び吐き気を催したリリルに触れようとしたが、彼女は急に敵意を剥きだしにして睨み付けて来た。
 青年は怯み、動きを止める。

「はぁ、はぁ、寄らないで! 地球の人間共……殺す! 殺さないで! 死にたい……止めて、死にたくないっ!!」

 感応と拒絶が少女の中で鬩ぎ合い、支離滅裂な発言を繰り返す。

「死にたくない、死にたくない……死にたい……死なせて……」

 やがて、リリルの声は弱々しくなり、事切れたかの様に失神した。狂気に耐えられず、自ら眠ったのだ。
 エルンストは何が何やら理解出来ず、暫し茫然としていたが、直ぐに我に返り、彼女の呼吸と脈を確認した。

(……意識を失っているだけ……か?)

 命に別状は無さそうだったが、狂乱振りからして、精神が無事である保障は無い。エルンストはリリルを抱え上げ、
医務室へと向かった。
 オールドタイプの青年は、ニュータイプの少女の安らかな顔を見て、独り思う。これから何が起ころうとしているのか、
知らない方が幸せなのだろうかと……。迫り来る絶望の正体が何であるか、彼には解らない。
320Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/27(日) 11:26:56 ID:5PYAY0no
 その頃、小惑星に追い付いたヴァンダルジアは、未だ総代表と話をする事が出来ていなかった。周囲に敵機は無く、
交信可能な距離まで容易に接近出来る状況に在るにも拘らず、誰も指示を出さない……いや、“出せない”でいた。

 総代表を知る者は、その志に疑問を抱く事すら罪悪と感じる様になる。
 皆、“知ってしまった”のだ。音に聞くより、その目で見るは尚、恐ろしい……。死者の魂を従える、彼の名はアーロ・
ゾット、人を超えた存在。

 何時もなら、この様な状況では真っ先に口を開くハロルドも、今回ばかりは艦長を急かさなかった。威勢の良い事を
言ったが、真実を追求した所で死人が生き返る訳でも無く……。有事の代償は己が命一つでは済まない。苛立ちを
隠す様に、誰に言うで無く、独り零す。

「あんなので片が付くってんなら、俺等の出番は無くなるな……。御飯の食い上げじゃねえか」

 自嘲の笑みを浮かべる彼の声は、何処か悲し気だった。

 ニュータイプの英雄譚……。神話を信じ続けた地球連邦軍は、MSの性能とパイロットの質で、コロニー連合軍に
戦いを仕掛けた。対する連合軍は艦隊機動力を用いた戦法で、これを打ち破った。しかし、それも連邦軍の物量に
圧されて敗れ……。攻防の末、最後は圧倒的な力を持った1人のニュータイプによって、全てが終わろうとしている。
 多くの人間が戦い、多くの命が失われたと言うのに、彼は余りに強大過ぎて……それは矮小な人間同士の争いの
虚しさを象徴するかの様で……。

(ああ、そんなのは認められないよな……)

 ハロルドの様子を見たダグラスは、寂しい表情で溜息を吐き、黙ってブリッジから去る。
 ……この場に総代表を止める者は居なくなった。真相は闇の彼方。心に晴れない靄を抱いた儘、ヴァンダルジアは
静かに小惑星を追う速度を緩める。
321Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/27(日) 11:32:46 ID:5PYAY0no
 アステロイドベルト暗礁宙域を前にして、皆、そろそろ引き揚げ時かと思っていたが……。管制官の一言で、事態は
急変した。

「格納庫、カタパルトハッチが開いているぞ! 責任者、応答せよ!」

 皆が何事かと注目する中、問い掛けから少し間を置いて、怒鳴り声が返って来る。

「Qザクが発進しますっ!!」

 応えたのはファルメ整備班長。管制官は困惑し、声を高くした。

「出撃は許可していない!! 誰が乗っている!? パイロット、応答……えっ、中将!? 何をなさる御積りですか!」
「どうした!? 何が起こっているか説明しろ!!」
「中将が! Qザクで!」

 慌てて尋ねるヴォルトラッツェルに、短い単語で返す管制官。それだけで判る者には判った。
 Qザクに乗込んだダグラスが、勝手に発艦したのだ。
 彼は何をし様としているのか……逸早く状況を理解したハロルドは、怒りの言葉を吐いて駆け出す。

「あの馬鹿っ!」
「特別大佐、何処へ!?」

 彼に気付いたヴォルトラッツェルが、再び声を上げた。

「止めて来る!」

 ハロルドは振り返る事無く、ブリッジを出て格納庫へ。
 皆、彼の発言に、安堵の息を吐いた。常日頃、無謀な特別大佐の歯止めとなっていたダグラスが暴走して、これに
本人まで加わっては、どうし様も無くなる所だった。自身の勇猛さを主張するかの様に、攻撃的な作戦を立案する事が
多いハロルドは、状況判断に於いては全く……と言う訳ではないが、余り信頼が無かった。
322Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/09/27(日) 11:36:55 ID:5PYAY0no
 格納庫に踏み込んだハロルドが目にした物は、外部から溶接して塞がれるカタパルトハッチ。
 どうあってもダグラスは独りで行く気の様だった。

「野郎っ!」

 ハロルドは作業用のスーツを着ると、退避していた整備班員達を押し退け、真空状態のフロアに飛び出す。跳ぶ様に
タラップを駆け降りて、真っ直ぐバウ・ワウへ!
 機体を囲むキャビネットに移ると、下腹部コクピットハッチを開き、片足を突っ込んで身を屈める。
 コントロールパネルを弄って、マニュアルからオートに切り替え、1人でも操縦出来る様にしたかったのだが……。

「パスワードだと!?」

 設定が変更されており、起動させる事すら出来ない。適当に思い付く限りの単語を入力したが、全て弾かれた。
 ハロルドは直ぐに頭部コクピットへと移動した。こうなったらナッターは置いて、アタッカーだけで出撃する。シートに
座り、コントロールパネルに触れると……。

「やられたっ!!」

 再び現れるパスワード入力画面。ハロルドは腹立ち紛れにシートを叩き、マイクを通して格納庫に声を響かせた。

「整備班、パスワード解除を頼む!! 早く!!」

 艦体修理用の特殊金属で溶接されたカタパルトハッチは、そう簡単には開けられない。MSのビームサーベルで
焼き切るのが手っ取り早いが、パスワードの所為で、それは無理。人の手では時間が掛かり過ぎる。

 ファルメはハロルドを退けてシートに座り、コントロールパネルにブルートフォースアタッカーを繋いで、解析を試みた。
他の整備班員は、カタパルトハッチを何とか開けられないかと、手を尽くしている最中。手持ち無沙汰のハロルドは、
ヴォルトラッツェル艦長にダグラスの追跡を命令した後、落ち着かない様子でパスワード解除を待つ。
 それから間も無く……。

「皆、済まない。俺の事は構わず、ヘーラーに戻ってくれ。後はハロルド・ウェザー特別大佐と、ジン・ヴォルトラッツェル
 艦長に任せる。自分でも無責任だと承知しているが、俺は……どうしても行かなくてはならないんだ」

 艦内中に、ダグラスの声が響いた。それはQザクの通信機から一方的に送られたメッセージ。
 ヴァンダルジア側からの呼び掛けには応じず、後に続く言葉も無い。

「何だよ、それ……。遺言みたいな……」

 ハロルドは愕然として項垂れた。彼の親友は、最後の最後で独りを選んだのだ。
323創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 11:40:47 ID:5PYAY0no
23話まで終了。間延び気味。
324MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/03(土) 01:40:17 ID:kpVLbmT0
蒼の残光 10.「蒼の残光」 信頼と仲間と

325MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/03(土) 01:40:59 ID:kpVLbmT0
 戦況の変化をリトマネンは気づいた
「敵の攻撃が激しくなったな。迷いがなくなったと言うべきか」
 開戦当初にはどこかぎこちなく、遠慮がちにも見えた連邦軍の攻撃が今は容赦なく襲っ
てくる。艦船に対する攻撃も熾烈で今MS隊は防御にも数を割く必要があった。これは言
うまでもなくイノウエがマリオン・ウエルチの収容場所の情報を持ち帰った事により攻撃
可能ポイントが特定されたためだが、リトマネンはそこまでの事情は判らない。
「コロニーレーザーのチャージは?」
「あと七五〇秒です」
「最悪完了前に撃てるよう用意しておけ」
「はっ」
「アラン、オリバー、あと十二分三十秒だ、その間持ち堪えろ」
『御意』
「頼むぞ。この一戦で失われた十年を取り戻すのだ」
『閣下の大願、成就に助力させていただきます』
 通信を切るとアランは眼前のリックディアスに集中した。ユウ・カジマがいない現状連
邦艦隊で最強のパイロットはこの男のようだ。
(よく機体を理解している)
 既に旧式なリックディアスで、性能では大きく勝るザクVやドライセン相手にも一対一
では無敵を誇っていた。正面から渡り合う事を避け、ダミーやデブリを盾にしつつ回り込
んでは接近し、確実に仕留めていく。劣勢で戦う事に慣れている戦い方だった。
「ユウ・カジマの副長か」
 ただでも数では負けているのだ。この上一対一の勝負でも数を減らされるようではなお
さら厳しい。
 画戟を持ち直しディアスに向かおうとすると、脇からオリバーが追い抜いた。
「僕に任せて」
「おい」
「アラン、指揮官が戦闘にのめり込むのは部隊全体を危険に晒すよ。ああいう面倒そうな
相手は下っ端に任せればいいんだ」
 そう言うと両腕のメガ粒子砲を励起させ、狙い撃つ。アイゼンベルグは間一髪で躱した。
「ちっ……そっちかよ」
 アイゼンベルグは音に出して舌打ちした。まだ長物持った方なら性能はともかく同じ土
俵で戦えるが、ファンネルの方は勝てる気がしない。
「ま、逃げるわけにもいかねえよなあ!」
 ビームライフルを撃ちながら間合いを詰めるように前進する。当然と言うべきか、工夫
もない射撃は容易に躱された。構わず牽制で発砲しながらジグザグに近づいていく。この
程度動いたところで先読みは容易いかもしれないが、何もしないよりはましだろう。イノ
ウエのように覚悟のみで突貫できるような胆力は誰にでも備わるものではないのだ。
 オリバーは背中のファンネルを射出した。それ自体が関節を持ち、AMBAC制御によ
り従来のファンネルには不可能な複雑な運動を可能にしたグラップラーファンネルは、同
時に六基のチルドファンネルを格納するマザーファンネルでもある。一度に中隊規模の敵
と戦うべく考案、設計されたこの新型サイコミュ兵器を単体を対象に使用すれば、相手は
破片も残さず蒸発するだろう。
「囲まれる気はねえよ」
 アイゼンベルグは直接にサイコミュ兵器を相手に戦った事はない。しかしファンネルを
迎撃する事がほぼ不可能である事は認識していた。指の付け根からダミーを撃ち出し、即
席の障害物を作る。ただの風船なので盾としての働きは全く期待できない。
326MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/03(土) 01:42:05 ID:kpVLbmT0
「ダミーと判って騙される馬鹿がいるか」
 ビームを使うまでもない。グラップラーファンネルのクローで引き裂く。瞬間、ビーム
ライフルが虚空を裂き、ファンネルの三十センチ横を掠めた。
「ちぃっ」
 ビームを撃たずダミーを直接破る事まで見越し、その瞬間に位置を特定しての射撃だっ
た。直撃しなかったのは純粋に運の問題でしかない。
「やってくれる!」
 ユウほどではないにせよ、間違いなく手練れだ。アランが警戒したのも頷ける。
 ライフルを外したアイゼンベルグだったが、落胆はない。相手に無闇にファンネルを飛
ばす事を躊躇させられればそれで意義はある。
「まだまだ行くぜ!」
 ミサイルを全弾発射する。今のオリバーにとっては撃ち落す事はそれほど難しい事では
ない。ファンネルに迎撃させる。十発のミサイルは一瞬で撃墜されたが、その中に先程も
使用した閃光弾がまだ残っていた。
 もちろんオリバーに目晦ましは通用しない。しかしサイコミュによって受け取る情報に
はモノアイからの映像データも含まれている。焼付くような強い光にオリバーの認知力が
一瞬遮られた。
「姑息な真似を!」
 一瞬の空白だが、古強者はこれを見逃さなかった。
 スラスターを全開にしたディアスが接近し、左腕のシールドからショックワイヤーを伸
ばした。ワイヤーはハンニバルの右腕に絡みつく。
「もらったぞ!」
 ショックワイヤーを通じた高圧電流がハンニバルに送られる。電流hMSの腕からコク
ピットまで到達し、電気ショックを与えた。
「うわっ」
 電気ショックに対する対策は十分に進歩していたが、それでもパイロットと本体の機能
を短時間麻痺させる事は可能だった。そしてその時間があれば格闘戦の距離では致命的と
なり得た。
「直接斬りつけりゃあIフィールドも役に立つめえ、終わりだ!」
 ライフルをいつの間にかビームサーベルに持ち替えたディアスがハンニバルに迫り、得
物を振り上げた。誰の目にも勝負は決まったと見えた。
 サーベルがハンニバルに届く寸前、ディアスの腕の動きが止まった。右腕をグラップ
ラーファンネルが掴んでいた。
「やべえ」
 アイゼンベルグは振りほどこうとレバーを操作しようとしたが、オリバーの方が早かっ
た。クローで掴んだままビームを撃たれ、リックディアスは右肘から先を失った。
「くそったれ!」
 こうなったらワイヤーで繋がり距離が取れないのはかえって不利だった。アイゼンベル
グはシールドごと機体からパージしその場を離脱した。直後、シールドは十字砲火を受け
て消滅した。
「舐めた事をしてくれる。お返しだ、死ね!」
 四基全てのグラップラーファンネルを飛ばし、さらにチルドファンネルも展開させ三百
六十度の完全包囲を完成させた。もはやアイゼンベルグに逃げ場所はない。
 リックディアスが左腕でライフルを構えていた。逃げられないと悟り、せめて一矢を報
いようとしているのだろう。その闘争心は素直にオリバーに感銘を与えた。
「苦しまずに終わらせてやる……!」
 ファンネルに攻撃命令を発しようとしたその瞬間、オリバーは凄まじいプレッシャーを
受けた。
 NTのものではない。しかし明確な殺意と意思の強さはオリバーにビームライフルを構
えた眼前の敵以上の危険を警告した。OTでありながらこれほどのプレッシャーを与え得
る人物はオリバーにとって一人しかいなかった。

327MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/03(土) 01:43:39 ID:kpVLbmT0
「ユウ・カジマ!」
 彼のNTとしての感覚は宿敵の気配を捕えたが、ハンニバルのセンサーはまだBD‐4
の接近を感知していなかった。まだアウトレンジのはずだ。しかしその殺気は間違いなく
攻撃の意思を示している。
「オリバー!気をつけて、あいつがどこからか狙ってる。超長距離から来るよ!」
 アイゼンベルグを無視してアランに警告し、敵の射線から外れつつユウの気配を探る。
――いた。
「十二時の方向、来る!」
 言葉と同時にオリバーが言ったとおりの方角から極太の光線が迸った。
それはオリバーにも、アランにも命中しなかったが数機のMSを巻き込みつつコロニー
レーザーめがけて直進した。エンドラ級が射線上に入っていたが、巡洋艦一隻をもってし
てもハイメガランチャーの威力を完全に殺す事は出来ず、コロニーレーザーのシリンダー
一基を直撃した。爆発が起こり、シリンダーが炎上するのが見えた。
「しまった!」
「一基潰された!」
 悪態を吐きつつビームの飛んできた方を睨む。まだレーザーは四基残っている。残りは
死守しなければならない。
 蒼い機体が迫ってくるのが見えたのはその直後だった。



 ハイメガランチャーを撃ったユウは既に戦場に向けて再加速を始めていた。
 バックパックの推進剤はもうほとんど残っていない。ビーム以上にスラスターの残り時
間に神経を使わなければならない。
 Rジャジャがビームサーベルを右手に迫ってきた。距離を取るべき相手だがユウは構わ
ず直線に進んでいく。
 Rジャジャの斬撃。ユウはシールドではなくサーベルで受けた。双方のビーム刃を形成
するIフィールドがぶつかり合いスパークを発する。鍔迫り合いは互角、しかしRジャ
ジャは左手にビームライフルを持ち替えていた。ライフルには銃剣が――。
「邪魔だ!」
 ユウのシールドのメガ粒子砲は既に励起されていた。サーベルを振り上げてがら空きに
なった右脇からメガ粒子の一撃を受けてRジャジャは爆発した。
 爆煙の中を潜り抜けるようにBD‐4が飛び出した時、既に右手にはライオットガンが
握られていた。
 その瞬間を狙い斬りかからんと迫っていたアランは背筋に悪寒を感じ距離を取り直した。
(何かが違う!)
 それが気迫である事は判っていた。しかし気迫と言うものがMSを通じて伝わってくる
など今までに経験した事がなかった。
 アランはリトマネンとオリバーに向けて叫んだ。
「閣下、『戦慄の蒼』です!守備に人員を割くよう指示を!オリバー、お前はこいつに当
たれ!」
 一方でユウもまたルロワに向けて回線を開いていた。
「提督、勝手をお詫びします」
「中佐――今は問わん。軍機違反とならぬよう手配しておく」
「感謝します。それと格納庫に予備のバックパックが積まれているはずです。それを射出
するようお願いします」
「予備?だがまだ弾薬も推進剤も積まれていないのではないか」
「ジャッキーが全て装填して搭載してくれたそうです。空中換装いたします」
328MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/03(土) 01:44:21 ID:kpVLbmT0
 ルロワは回線を開いたままハンガーのビリーを呼び出した。ベテランメカニックは即答
した。
「やっと来ましたか。待ってました!」
 ユウがビリーに直接話しかける。
「頼む、ビリー。もうこっちはプロペラントが空だ」
「判ってる、判ってる。ユウ、切り離したバックパックはこっちに向かって飛ばせ。ネッ
トで受け止める」
「出来るのか、そんな事が」
「なめるなよ、お前が寝小便して泣いてた頃から艦に乗ってんだぞ俺は。昔は戦闘機をそ
うやって着艦させるのが当たり前だったんだ。いいから言う通りやれ」
「判った。誘導にはどのチャンネルを使えばいい?」
「C‐8に合わせておけ――こっちは準備できたぞ、そっちの合図で出す」
「すまん」
 ハイバリーに向かって接近するユウをザクVが追撃する。ユウはライオットガンを構え
バックショットを一発。ザクVがその一撃で蜂の巣となった。
「今だ、ビリー!」
 言うと同時にバックパックのマイクロミサイルを全弾放出して周囲を牽制する。完璧な
タイミングと角度でバックパックが射ち出された。
「よし」
 ユウもバックパックを切り離し、ハイバリーに向けて弾き飛ばす。この瞬間BD‐4は
推力の大半を脚部スラスターに依存する。
 その時、ユウが空間を確保するためにばら撒いたマイクロミサイルが一度に撃ち落され
た。こんな真似が出来るのは一人しかいない。
「ユウ・カジマアアアアアアアアアアアアア!」
 マイクロミサイルを撃墜したオリバーが狂気じみた雄叫びを上げながらファンネルをユ
ウに向けた。アランも画戟を振り回しながら突進する。
 やられた、と誰もが思った瞬間、オリバーのハンニバルが回避行動をとった。一瞬前ま
で彼のいた位置をビームが通り過ぎていく。左手にライフルを構えたリックディアスがい
た。
「おいおい、俺と遊んでたのを忘れたのか?」
 聞こえるはずもないが、アイゼンベルグはそう言って不敵に笑って見せた。
 アランのハンニバルは方天画戟を振るいBD‐4に斬りかかったが、ユウはこれをシー
ルドで受けた。五層に重ねられたビームコーティングが刃と反応し激しい火花となる。
シールドを突き出したままメガ粒子砲を発射したが、これはアランがスラスターを逆噴射
させて回避、その代償としてユウとの距離を離してしまう。
「ちっ!」
 舌打ちをしながらもIMBBLを作動させBD‐4とバックパックの両方を狙い撃つ。
しかしその寸前にバックパックはユウのコントロール下に入った。
 バックパックと本体を同時に回避させつつ結合シークェンスに移行する。理論上は可能
とされていたが、実行するにはNTの力が必要と言われる空中換装をぶっつけ本番でやり
遂げたユウの操縦技術は、間違いなくこの宇宙で五指、いや三指に入るだろう。
 コントロールも推進剤も失った使用済みのバックパックは慣性のみでハイバリーの鼻先
を飛び去ろうとしていたが、カタパルトから高分子モノフィラメント繊維のネットが投げ
られバックパックを包むように捕えた。艦内ではビリーが当然と言った風情でウィンチを
巻き上げていた。
 再びフル装備となったBD‐4にアイゼンベルグと予備の機体で戻ってきたイノウエが
隣接する。
「いいタイミングで出てくるじゃないですか。どこかに隠れて見計らってたんじゃないで
すかい?」
 アイゼンベルグが軽口を叩く。
「隊長、奥方はコロニーレーザーの制御室にいます」
 イノウエが自ら命を懸けて入手した情報を伝える。ユウは妻がいるはずの方向を見た。
329MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/03(土) 01:45:02 ID:kpVLbmT0
「最優先はコロニーレーザーの発射阻止だ」
 ユウは即断で答えた。イノウエが訊ねる。
「奥方はどうするのです?」
「可能なら救助する。しかし、第一はコロニーレーザーの破壊だ」
「本気で行ってるのですかな、中佐」
 アイゼンベルグの声にはイノウエよりも露骨な非難の響きがあった。ユウはそれでも折
れない。
「私は軍人だ。無関係な地球市民を巻き込むテロは阻止しなければならん。それは全てに
優先される」
「奥さんも軍人じゃあありませんぜ?」
 ユウの返答が一瞬詰まった。次の返答は苦みを含んでいた。
「軍人の妻になった時、覚悟はするよう言ってある」
「中佐の覚悟は出来ているんでしょうか?」
 今度はより長い沈黙があった。
「助ける気がない、とでも思っているのか」
 ユウの声は苦しげだった。
「だが、簡単な事ではない。少なくとも俺一人で出来る事ではない。ほぼ全軍の協力が必
要だ。俺個人の問題で艦隊ごと危険に巻き込む事など出来るはずがないではないか」
 ほんの数瞬の沈黙の後、アイゼンベルグが口を開いた。しかし、その相手はユウではな
かった。
「だとよ。聞こえたか、お前ら?」
『任務了解、第三小隊はマリー・カジマ救出作戦に参加します』
『第四小隊、準備は出来ています』
『スキラッチ艦隊のルイジです。微力ながら支援させていただきます』
 ユウはオープン回線で通話していたわけではなかった。アイゼンベルグが自機で受信し
たユウの言葉をオープンで発信、それを受けた近場の僚機がさらに遠くまでリレー式にユ
ウの言葉を伝達していたのだ。
「中佐、これだけいりゃあ足りますかい?」
「隊長、少なくともMS隊の者たちは皆奥方を助ける思いでいました。隊長個人の問題と
は考えておりません。何なりと指示して下さい」
 ユウがヘルメットのバイザーを上げ、少し俯いた。すぐにバイザーを戻し、顔も上げて
指示を送った。
「よし、この新型二機は私が相手をする。アイゼンベルグ大尉はそれ以外の敵MSの掃討
の指揮を。イノウエ大尉は対艦対物隊を任せる。コロニーレーザーに取り付きその無力化
と人質の救出を行ってくれ。みんな……頼む!」
「了解」
「行くぜ、てめえら!」
 イノウエとアイゼンベルグが跳ねるように配置についた。ユウは無言のまま、その後姿
に向かって頭を下げた。
330MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/03(土) 01:48:39 ID:kpVLbmT0
ここまで


ノート
ここは単純にシーンとしての格好よさを中心に作りました。バックパックの空中換装は文章で書くと
もっさりしてしまってスピード感が出せなかったのが残念
331創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 02:01:14 ID:AB/PtL02
投下乙!

ロンドベルだけにいい思いはさせませんよ!を思い出した。
332創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 03:05:28 ID:jSXN2yow
良い人たちだなぁうん
333創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 12:04:27 ID:T/azameW
さあ盛り上がってまいりました!
334訓練兵:2009/10/03(土) 12:27:32 ID:jWrwpinT
はじめまして  蒼の残光面白いですどうやったらそんなにおもしろい小説が書けるんですか?
335創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 12:31:45 ID:Wy7/P00e
ランチャー狙撃の警告した時のセリフはオリバーじゃなくてアランだよな?

バックパック装着はZZのドッキングを彷彿とさせるな。スピーディーではないけど、ヒロイックって言うかなんていうかアランのハンニバルを書いてしまう位にテンション上がるって言うか

http://imepita.jp/20091003/438190
336MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/03(土) 23:30:47 ID:kpVLbmT0
>>335
ありがとうございます
彩色されたこれが見たいです
337Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/04(日) 10:26:23 ID:NTP7EnO1
行きます
338Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/04(日) 10:47:49 ID:NTP7EnO1
 Qザクを追っていたヴァンダルジアは、小惑星の前方約4万km先に大艦隊を捉え、再び速度を落とした。
 マゼラン級の後継ベンバー級戦闘艦が20隻、サラミス級の後継エビア級巡洋艦が40隻、そしてスザ級輸送艦が
1隻、展開している。総代表が故意に逃したグィンから報告を受け、迎撃に出た火星軍の艦隊である。

 ヴァンダルジアが止まっても、Qザクは戦闘に巻き込まれる危険を冒して、MA形態で真っ直ぐ小惑星に向かう。
Qザクが小惑星の重力の影響を受ける範囲まで近付くと、数機のヴァルキュリアスがクラッシュ・シールドからビーム
サーベルを突き出し、その行く手を塞いだ。
 ダグラスはQザクをMS形態に戻し、速度を緩めて総代表に呼び掛ける。

「閣下、お止め下さい! この様な事は間違っています!」
「ダグラス・タウン、君もニュータイプなら解るだろう? 人類が大宇宙に飛び立つには、あの青い星が邪魔なのだ!」

 返って来た思念は、聞いた者の心臓を握り潰す様な、強力な敵意に満ちていた。ダグラスは不快感に顔を歪めるも、
意地で食い下がる。

「貴方は狂気に囚われている! ここで地球を潰して、どうなると!? 故郷を失った地球の人々は、永遠に晴れない
 憎しみを抱く様になる! コロニー連合の未来を、終わり無き憎悪の輪に引き込む御積りですか!!」
「安心し給え。君達が戦う事は未来永劫に無いと、私は言った」
「……まさか、貴方は!?」

 総代表の自信に満ちた声に、ダグラスは悍ましい物を感じた。
339Mad Nugget ◆FFj5E18ZCE :2009/10/04(日) 10:51:55 ID:NTP7EnO1
 アーロ・ゾットは地球の人間を粛清するだけでは済まさない。己の総てを懸けて、先人が思いもしなかった事を
為そうとしている……。

「この大質量塊は、地球に落とす物ではない。アステロイドベルトの無数の岩石と共に、火星に打ち当てるのだ。
 火星は軌道を外れ、地球に落ちる……。そう、惑星パイルアップ! 地球も軌道を外れ、火星と共に、太陽へと!
 重力に引かれ、月も道連れだ!」
「そ、その様な事が……」
「可能だ。私の力を以ってすれば! その為に、長らく待った……。この惑星直列の時を!」

 目的の達成を前にして、アーロ・ゾットの心は高揚していた。ダグラスは拳を握り締め、声を震わせる。

「貴方と言う人は……その様な事の為に、ミレーニアを……」
「何を言う? ミレーニアを破壊したのは地球の人間ではないか! これは奴等の選択。受けて然るべき報いなのだ」

 総代表の言葉は、ダグラスが予想していた通りの物だった。彼は声高く、反論する。

「聖戦団、戦争の再開! ここまで周到な用意をして置いて、その様な言い訳が通るとでも!?」
「……解ってくれ、ダグラス君。これがコロニー連合の被害を最小限に抑える方法だった。地球連邦政府は絶対に
 敗北を認めない。戦争の勝敗に拘らず、戦闘は長引き、必ず総力戦になった。戦争を続けていれば、破壊される
 コロニーは1つや2つでは済まなかっただろう。如何なる責めも甘んじて受ける。死後の名誉も必要無い。大罪人と
 貶してくれて結構だ。咎は私一人が背負う」

 総代表は穏やかな声で、諭す様に言ったが、その落ち着いた態度は、ダグラスの逆鱗に触れた。

「黙れっ!! そんな事がっ! そんな事が……!!」
「君の怒りは痛い程に解る。私が憎いなら、どうか見過ごしてくれ……。裁きを待たず、私はガイアと共に死す」
「違うっ!! 貴方は何も解っていない!!」
「……下がり給え、ダグラス君」

 怒の声を上げるダグラスに、アーロ・ゾットは冷淡に言い放つ。Qザクに2機のヴァルキュリアスが接近し、両側から
罪人を取り押さえる様に、その腕を封じた。
 パトリア・ジールの全身が閃き……数秒後、遥か前方で爆発が起こる。火星軍の戦艦が数隻、撃沈されたのだ。
それを皮切りに小惑星の一斉攻撃が始まり、火星軍は反撃も逃亡も儘ならず、瞬く間に数を減らして行く。彼等が
連邦艦隊と同じ運命を辿るのは、火を見るより明らかだった。

 ダグラスの目には、憎悪の色に燃える魂の光が映る。愛する者が、親しい者が、醜い姿に変わり果て、怨みで人を
殺して行く。それが何処までも何処までも悲しく、彼は無言で涙を流した。
340Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/04(日) 10:57:18 ID:NTP7EnO1
 ザンッ!!

 突如、アトミックシザースが、Qザクを拘束していたヴァルキュリアスの首を刎ねた。
 飛んだ首が宙を舞い、Qザクのモノアイが真っ赤に灯る。

「ダグラス君……?」

 アーロ・ゾットはプレッシャーに戦慄し、己が僅かでも怯んだ事実に驚いた。過去、敵対する者は多く居たが、能力の
高さ故に、歯牙に掛ける程の存在は無かった。彼はダグラス・タウンの能力を高く評価していたが、自身に及ぶ物では
無いと、心の隅では見縊っていた。

 その一瞬に生じた隙を逃さず、Qザクは変形して全速前進。拘束から逃れる。

「俺の心が解りますか!? 解らないとは言わせないっ!!」

 ダグラスは何十機と言うヴァルキュリアスを振り切り、MS形態に戻したQザクを小惑星の地表……ブラックコスモスの
花弁の上に降ろした。

「な、何をする!?」

 総代表の問い掛けを無視し、ダグラスはシザースで黒い妖花を食い荒らす。
 怒りに狂い、闇雲に暴れ回っている様に見えるが、その真の目的は、花弁の下に隠された小惑星内部への侵入路を
暴き出す事。瓦礫の隙間から目敏くシャッターを発見すると、シザースとヒートソーを繰り返し叩き付ける!

 アーロ・ゾットはダグラスのプレッシャーから、激流の様な情動を感じ取り、気圧された。

「このプレッシャー!! それ程までに、私が憎いのか!?」
「憎い……? 貴方は、これが怨みや憎しみだと?」

 ダグラス・タウンは驚きと失望を表情に浮かべた後、大声で叫ぶ。

「どうして解ろうとしないっ!? 目を逸らすなああぁーっ!! 心を開けええぇーっ!!」

 激情が迸り、空間に拡がる。その思念は、総代表の敵意に比すれば小規模ながら、強さでは劣る事の無い物だった。

「憎悪や義憤とは違う……。これは……哀れみ? 私を哀れむのか!? ダグラス君!!」

 ダグラスの心に触れたアーロ・ゾットは、同情されたと感じ、反発した。
 気迫でプレッシャーを撥ね退けると、何十と言うブラックコスモスの何万と言うテンタクラーロッドをQザクに向ける。
群を成して畝る様は、宛ら大津波。余りの数の多さに、捌くのは不可能。総代表はQザクが上昇して逃れるのを見越し、
ヴァルキュリアスを先回りさせて完全包囲。これでチェックメイトの筈だったが……。

「何と……! 君は何処まで……」

 アーロ・ゾットは思わず感嘆の声を上げた。無数のテンタクラーロッドを躱し、巧みにヴァルキュリアスの間を縫って
抜け出したQザク。救護機の運動性能が天騎士に優っている訳ではない。ダグラスがBMS操作を妨害しているのだ。
彼の能力は偉大なる総代表に迫っていた。

「ダグラス・タウンは、ハロルド・ウェザーに出会わなければ、貴方の様な人間になっていただろう! 人を信じる心を
 忘れ、孤独に疲れて!」

 ダグラスは小惑星の周囲を飛び回り、心の儘に言葉を吐き出す。その想いが通じる様に……。
341Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/04(日) 11:01:22 ID:NTP7EnO1
 ミレーニアの中流家庭に生まれたダグラス・タウンは、両親に祝福され幸せに育った。成長と共に、その“異常さ”が
表れるまでは……。彼が言葉を覚え始めた頃から、それは顕著になった。
 他人の心を見透かし、本音を言い当てる。勘が良いでは片付けられない、確信めいた予言をする。それは高い
能力の表れ。未だ幼かったダグラスは、果てしなく肥大化し続ける能力を抑える術を知らず、彼の両親は、この
ニュータイプの鬼子を恐れた。

 人の心が知れる事は、不幸である。隠してある裏の部分ばかりを読み取るようになり、表を見なくなる。小学校に
入学する年齢には、ダグラスの人格は酷く歪んでいた。他人を侮り、実の両親すら蔑んだ。気に入らない相手は、
プレッシャーで黙らせ、機嫌の悪い時には精神が崩壊するまで弄んだ。
 息子が手に負えなくなった両親は、彼をニュータイプの訓練施設に預け、世間から隔離した。

 その事で益々人間不信が深刻になったダグラスは、施設でも横暴振りを発揮した。誰彼構わず喧嘩を売っては、
相手を精神的に再起不能にし、何度も懲罰を受けた。しかし、態度が改まる事は無く、孤独を深める悪循環。
 短期間に幾つもの施設を転々とし、最後には天王星へ……。そこで彼は人生を大きく変える人物に出会う。

 コロニー連合総代表、アーロ・ゾット。強大な能力を持つが故に、その危険性を知る彼は、ニュータイプの子供の
健全な成長を守る為、各地にニュータイプ施設を造り、定期訪問していた。
 総代表と出会ったダグラスは、身の程知らずにも、初対面で彼に挑んだ。
 結果は完敗。ダグラスは今までの報いを受けさせられたかの様に、何日も寝込んだ。屈辱的敗北、畏るべき存在、
そして初めての邂逅……。“同じ存在”に触れた彼は、総代表を畏れながらも、徐々に心を開く様になる。
 総代表はダグラスの能力を評価し、彼に新たな道を示した。人類を導く者となる、王者の道を……。

 それからダグラスは人が変わった様に大人しくなり、完全に更生したかに見えた。内心では他者を見下しながらも、
表面を取り繕う事を覚え、“優秀な人間”として社会復帰。木星のミレーニアに戻る。再び両親と暮らし、中学生活から
“人並みの”生活へ。
 しかし、仮面を被る事に慣れた彼が、他人に心内を明かす事は無かった。周囲に馴染み、才に恵まれ、人が集うも、
彼が心を開く相手は、総代表のみ……。
 温和で朗らかな“表の”顔。人に囲まれて明るく笑うダグラスの心には、寂寥感が何時までも残った。

 彼の人生を大きく変える2度目の出来事は、ミレーニア公立高等学校Jr.MS校内大会で起こった。
 文武両道、人望有りの天才として、クラスリーダーに君臨していたダグラス・タウンは、大会にも選手として出場し、
破竹の勢いで準決勝まで勝ち進む。
 さて、準決勝の相手は土星からの転校生、ハロルド・ウェザー。クラスは違うが、同学年。勝ち上がって来た試合を
見る限り、実力者ではあったが、ニュータイプの敵ではない……筈だった。

 2度目の敗北である。それもオールドタイプ相手に……。その後、ダグラスは3位決定戦で勝利し、何とか面目を
保ったが、胸中は穏やかでなかった。優勝トロフィーを掲げ、力強く笑うハロルド。土星から来た男は、ダグラスの
最初の障害となった。ニュータイプの天才は彼に目を付け、一応の打倒すべき目標と定めたのである。
 ……この頃は未だ、ダグラスはハロルドを更なる飛躍の足掛かりとしか思っていなかった。

 ダグラスの様子の変化に、最初に気付いたのは、彼の家族だった。何時も平静を装っていた彼が、感情を表す
事が多くなり、控え目ではあるが、自己主張を始めた。余り喜ばしくない事の様に思われるが、漸く“人間らしい”所を
見せた長男に、ダグラスの家族は安心した。
 それからハロルドとダグラスは何度も衝突し、果ては殴り合いの大喧嘩までした。
 ダグラスにとって驚くべき事に、ハロルドは彼と対等に渡り合い、単なる踏み台に過ぎない筈が、何時の間にか、
唯一肩を並べる好敵手となっていた。紆余曲折の末、2人は互いに実力を認め合い、無二の親友となる。

 ……気付けば、ダグラスの心から寂寥感は消えていた。家族、友人、過去に失くした全てが、身近に在ったのだと
知らされた。人を愛し、愛される幸せ。孤高のニュータイプは、一人のオールドタイプによって、一人の人間になった。
342Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/04(日) 11:07:29 ID:NTP7EnO1
 ハロルド・ウェザーはダグラス・タウンの恩人である。そして、ダグラスは今、もう一人の恩人を救いたいと願っている。
 過去、己と同じ様に人としての生を捨て、今も尚、ニュータイプの使命に生きる者。
 ダグラスは願っている。今度は、己がハロルドの様に、総代表を救いたいと……! それが出来るのは、同じ過去を
背負った自分を措いて、他に無い!

「貴方はニュータイプを誤解している! 能力は、そんな事の為にあるんじゃない!」

 ダグラスはヴァルキュリアスを仕留めながら、総代表に語り続ける。

「ニュータイプは人類を導く者!! 崇高な使命を、“そんな事”だと!?」

 鉄壁を誇る天騎士を相手に、両のシザースが折れ、腕が折れ、足が折れても、尚……。

「貴方は己を道具としてしか見ていないんだっ! 俺には解る! 自分の存在は、人々の幸福から遠い所にあると……
 そんな風に思っているんでしょう!? それは違う!! 貴方の言う使命なんて、孤独な者が己の存在価値を見出す
 為の方便に過ぎない!」
「……言いよるっ!!」

 彼等の会話は、ヴァンダルジアの者にも聞こえていた。ダグラスは真実を伝える為、音声を送りっ放しにしていた。
 しかし、ヴァンダルジアは動けない。小惑星に接近し、何千機と言うヴァルキュリアスを相手に出来る程の能力など、
ギル級には無い。加えて、カタパルトハッチは未だ閉じた儘……。

 ヴァンダルジアの皆が見守る前で、ダグラスは徐々に追い詰められ、再びヴァルキュリアスに掴まった。

「……君の心は、よく解った。しかし、私は止まれない」

 狂気に染まったアーロ・ゾットは、ダグラスの言葉を聞く気など、全く無かった。心は既に決まっているのだ。

「ここで君を死なせる訳には行かない。故郷を滅ぼした仇にまで情けを掛ける、その優しさは、これからの人類に
 必要な物だ。生きて帰り給え。君には、君の帰りを待っている仲間が居る」

 総代表の言葉に、ダグラスはヴァンダルジアを見る。心配して後を追ってくれた戦友の姿に、心が揺れ動いたが、
頭を振って迷いを払った。

「いいえ、私は貴方を止めなくてはならない!」
「ダグラス・タウン、君が望むならば、コロニー連合代表議員の席を与えよう。コロニー連合の……人類の未来を
 頼まれてはくれないか」
「そんな物は要らない!! 俺の声が聞こえないのかっ!?」

 ダグラスは必死に叫んだが、アーロ・ゾットは最早、意思の疎通を完全に拒んでいた。想いは擦れ違い、終末に
至る流れを止める事は出来ない。

「最期に偉大なる先人の言葉を借り、我が辞世としよう。人類よ! 寄る辺無く大宇宙を彷徨う旅人となれ!」

 パトリア・ジールが、ヴァルキュリアスが、小惑星全体が、眩い輝きを放つ。
 総代表がダグラスの相手をしている間に、火星軍は撤退を始めていたが、何処へ行こうとも同じ事。何百万kmにも
及ぶ、馬鹿みたいに広大なD・Iフィールドからは、誰一人として逃れられないのだ。
343Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/04(日) 11:16:56 ID:NTP7EnO1
 憎悪の光を睨み、ダグラスは声を振り絞った。

「止めろっ!! 人の心を、そんな風に扱うなああぁっ!!」
「何っ!? D・Iフィールドが……! ダグラス君!!」

 アーロ・ゾットは、ダグラスの思念がフィールドに干渉して来るのを感じ取った。ビームを曲げられ、“返される”!!
身の危険を察知した彼は、ビームを押し返す方向に、強く念じる。

「君の能力は素晴らしい……! しかし、私を越えるには未だ足りぬ!」

 ……アーロ・ゾットは理解していなかった。ダグラスは彼を攻撃し様としていたのではない。
 空間を満たしていたビームの粒子が、吸い込まれる様にQザクに集まり、Iフィールドに弾かれて、極彩色に煌めく。

「激情に任せて能力を振るう者の末路が、どの様な物か!! その目で、よく見るが良い!!」

 ダグラスは憎しみを受け止める様に、ビームを引き寄せ続ける。Qザクを抑えていたヴァルキュリアスは、膨大な
エネルギーに耐え切れず、一瞬で蒸発した。憎しみは徐々にダグラスを押し潰して行く。機体諸共に……。

「ダグラス君、何をしている!? 止めるんだ! 止めてくれっ!! そんな事をすれば、君は……」

 アーロ・ゾットは焦った。彼は己と似た境遇のダグラス・タウンを後継者と見込み、陰ながら支援して来た。それは
実の孫の様に……。ダグラスが地球圏から生還した時には、未来を託すのは、彼を措いて他に無いと決めていた。
 ダグラス・タウンは人類を導く者。今でも、その想いは変わらない。己が手で、未来の希望を摘み取りたくなかった。

 Qザクは光に包まれ、輪郭を見る事さえ出来ない。
 アーロ・ゾットはヴァルキュリアスを集め、ダグラスの救出を試みたが、強固な防御を誇る天騎士も、次々と憎しみの
光を浴びて溶かされて行った。伸ばした手は、届かない……。

「ダグラス君っ!!!」

 カッ……ドドォオン!!

 閃光と共に、Qザクは周囲数kmを巻き込んで、跡形も無く消えた。同時にプレッシャーも薄れ行く……。
 絶望と失意の涙が総代表の頬を伝った。

「何故っ……何故なんだ……。君は人類の……」

 ……最後の最後まで、アーロ・ゾットがダグラスの心を知る事は無かった。
 彼は恐れていたのである。後継者と目した者の、嫌悪の感情に触れる事を……。孤独故に、愛する者に嫌われる
事は、堪えられなかったのだ。
344創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 11:21:10 ID:NTP7EnO1
以上、24話まで終わり。トリ間違えた。
345創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 20:26:32 ID:yuID69Ho
乙!
現行は2人か
俺も何か書きたいな
346335:2009/10/05(月) 12:02:52 ID:OYolMDy9
>>336
どんな感じ?
347AXIS:2009/10/05(月) 14:28:36 ID:eek7XJOq
ちょっと流れ無視だけど、
以前上げた0095が完結できた

http://wato555555.blog120.fc2.com/blog-category-282.html

長編すぎて上げられないんで申し訳ない
348創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 14:46:47 ID:5wtsiXYa
>>347
>>347
老婆心だけど。メルアドは晒さない方が良い。
メール欄はsageを入れるんだ。

作品はゆっくり読ませてもらいますよ。
349AXIS:2009/10/05(月) 15:10:08 ID:eek7XJOq
>>348
間違えて自動でメアド入れちゃってた。
ありがとう。
捨てアドだからご心配なく


350MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/06(火) 22:45:34 ID:fGo2jW9U
>>346
ベースは水色で、IMBBLは銀(明るい灰色)、アクセントになる色は自由でお願いします
351創る名無しに見る名無し:2009/10/07(水) 19:59:03 ID:AxmBPM2m
>>349
俺は>>348じゃないけど読ませてもらったので簡単に感想を
ところどころの誤字がもったいない
単に俺の好みかもしれないが最終決戦の雰囲気に一番惹かれた
あと戦闘時の叫びとか掛け合いの回し方が好きだな
352AXIS:2009/10/07(水) 22:32:58 ID:iIJT4r7A
>>351
素直な感想ありがと
誤字はチェック行き届かなくて申し訳ない
なるべく訂正します

最終戦に力を入れたんでそういってもらえるとうれしい
掛け声は富野節が好きなんでなんとか近づければと
書いてみたけど好きと感じてもらえてよかった
353MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/09(金) 03:38:00 ID:PK/iCEBE
ちょっとだけ寄り道
短篇の導入部を書いてみた
続きは書くとしても蒼の残光が終わった後、短篇〜中篇くらいの長さで。




辺境の猛虎
354MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/09(金) 03:38:46 ID:PK/iCEBE
1.
 〇〇八二年、ルナツー。

 ユウ・カジマ大尉はテスト機体のレポートに報告するためのメモを走らせていた。
 整備班の女性下士官がそんなユウをからかう。
「仕事熱心ね、大尉」
「これで食わせてもらっているわけだからな」
 皮肉でも自嘲でもなく、本心でこう言っているのだという事を、ジャクリーン・ファンバイ
クは二週間の間に学んだ。彼女は訊いてみた。
「それで、どうなんですか、このザクもどきは?」
「ふむ……バランスはいいが、脚部スラスターの推力が不足気味だな。アドオンでいいから増
設したほうが空間戦闘用にはいいはずだ」
「あ、それなら試作品が出来てたわよ。どの道付ける気だったんじゃないかしら」
「そうなのか」
 ユウは素直に感想を述べ、メモから推力不足を削除した。
「他所はどうなっているのかしら?」
「映像では見たが、細かいベンチテストの結果は回っていないな。それはお互い様だろう」
 一年戦争後、ユウは統合作戦本部に新設された戦術兵器開発局所属となり、MSとその支援
兵器のテストパイロットとして勤務していた。予定では今後連邦軍の全ての兵器はこの部署が
研究や民間企業への協力要請を行う事になるはずだったが、現実は依然として地上軍は地上軍
の、宇宙軍は宇宙軍の独自プロジェクトによる開発が行われていた。
 その戦術兵器開発局最初の大型プロジェクトとなっているのが次世代汎用型主力MSの開発
だった。ジムに代わる宇宙、地上双方で運用可能な主力量産型MSの研究開発を目的とし、未
だ達成されていないRX‐78‐2をベンチマークとした量産機の開発という目標の達成をも
目指すと言う、このプロジェクトの成否が今後兵器開発局の存在意義にも関わってくるほどの
重要プロジェクトである。
「気にならないの?」
「技術者ならともかく、俺は気にならないな。そりゃこいつが不採用になったら少しはショッ
クだが」
「意外と冷めてるのね」
「他と比較するとお互いに似通ったものが出来るからな。それにプロジェクトの主旨としては
比較対象は他所じゃなくガンダムだ」
「なるほど」
「もう一つ言えば、もうすぐ他の機体も見る事になるからな。そのときに見ればいい」
「重力下試験ね」
 開発目的が汎用型MSの開発である以上、小惑星基地の周辺でのテストでは集まらないデー
タもある。重慶の基地で重力下での運用テストを行う事になっていた。グラナダ工廠の機体も
同時に降下する予定になっている。
「久しぶりの地上なんじゃない?」
「地球と言っても故郷からは離れているからな。まあ、テストにはいい場所だと思うが」
 そう言うとユウは現在の彼の愛機――RMS‐一一六ハイザックを見上げた。
355MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/09(金) 03:39:44 ID:PK/iCEBE
2.
 ユウたちルナツーのハイザック実験部隊が地上の重慶基地に降下したのはちょうど正午の事
だった。
 一行は先行生産型ハイザック三機を積み、メンバーはユウの他パイロットとしてケネス・キ
トソン少尉、ヤヨイ・リード少尉、技術将校サエジマ少佐、それに整備班として数名が随行し
ている。
 重慶基地の関係者が接近してきた。互いに敬礼を交す。
「遠路ご苦労様です。重慶基地のチャンであります」
「ルナツーのサエジマです。我々が最後でありましょうか?」
「既にグラナダ基地のチームは到着しております。基地をご案内します、こちらへ」
 チャンの後について歩こうとした時、ケンが見慣れぬジムを見つけた。
「あれは?ジムにしては少し違うような……」
「あれはジム・カスタムです。本日付で五機、重慶に配備されました」
「ジム・カスタム……あれが」
 ヤヨイも興味を惹かれたらしい。ユウも好奇心に逆らえず噂の新型機体を見た。
 連邦軍が推し進める次期主力MS開発計画は、同時にジオン系MS技術の吸収をテーマに掲
げていた。もっともスタンダードなモデルであるザクを基本としこれに連邦の技術を融合させ
生産性と汎用性、さらに拡張性を獲得する、というコンセプトである。しかしこれは一部の連
邦軍技術者の強い反発を呼ぶ事になった。その中でも強硬派と言われる北米オーガスタ基地の
工廠が独自プロジェクトとして企画、開発したものがジム・カスタムである。同じくジオン系
技術の流入に眉をひそめていた軍OB、連邦議員への根回しもあり、試験配備の名目でハイ
ザックに先んじて前線配備が始まっていた。
「それで、パイロットのフィッティング作業も兼ねて、皆さんの重力下テストに我々のジム・
カスタムも参加させていただきたいのですが」
 この申し出にサエジマは戸惑いを見せた。
「合同で……ですか。我々は構いませんが……」
「よかった、グラナダ基地の方々からはルナツーの皆さんの了解が得られればと言われていた
んです」
 ほっとしたように笑顔を見せる重慶の士官に一同は複雑な表情を見せるしかなかった。

「――ったく、妙だと思ったんだよ、急に重力下試験なんてよ」
 ケンがソファーに寝転がって愚痴た。
「最初からジム・カスタムとの性能比較をさせる事が目的だったのね。これじゃ当て馬だわ」
 ヤヨイも不愉快さを隠さない。実際、ヤヨイの言う通りなのだろう。ジム・カスタムの性能
が次世代機の水準に達している事をアピールし、ハイザックの開発を継続する意義を揺るがし
たいのだ。
「少佐、実際のところジム・カスタムとハイザックの性能差はどうなのです?」
 ユウはコンピュータに向かってなにやら入力中のサエジマに向かって質問した。サエジマは
手を一旦止め、別のデータを呼び出しそれをチェックしながら答えた。
「――あなた方が今乗っているハイザックと比較するならば、こちらの方がベンチマークテス
トでは高い数字を出しています。グラナダやここ重慶のモデルはわかりませんが、少なくとも
ルナツー基地のハイザックはより高性能である、と断言する事が出来ます」
「なんだ、そうなんですか?怒って損したな」
 ケンが拍子抜けしたように言った。サエジマは続ける。
「しかし、こちらはこれが初めての重力下運用ですから、スペック通りの結果になるとは限り
ません。それに現状では生産性、コストの面で大きく水を開けられています。特にコスト面で
は同じ水準で作れるかと言われれば難しいと答えるしかありませんな」
「そんなに違うんですか」
356MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/09(金) 03:40:36 ID:PK/iCEBE
「それでもジム改と比べれば問題にならないほど高価ですがね。うちは生産性やコストより要
求性能を満たす事を優先している段階ですから」
「でも不思議ですね。噂が本当ならハイザックより後から開発が始まった事になるのに、よく
そんな短期間にそれだけのものを作れましたね」
 ヤヨイの疑問は当然と言えたが、サエジマは淡々とこの疑問に答えた。
「開発者は上手くごまかしていますが、ジム・カスタムには一年戦争末期から研究されていた
MSの設計図やモジュールを流用しているようです。オーガスタという地理条件を考慮するに、
ガンダムのバリエーションモデルなのではないかと。それならばこの短期間に開発、量産に到
れたかの説明が付きます」
「て事はあれはガンダムそのものだって事かい?反則だろ、そりゃ」
 ケンが唸った。
「でも、設計図だけならともかくモジュールまで流用するとなると、ストックが尽きたら終わ
りなのでは?曲がりなりにもガンダムの工作精度で製造されたパーツを新たに製作すれば今ま
でと同じコストでは不可能でしょう」
「だから試験配備なんです。量産できないのは自分たちが一番判っているから隊長格専用とし
て少数をばら撒く。元々技量のある乗り手だから損耗率も少ない。目的はハイザックを潰す事
なんです。そうすれば後はゆっくりとジムの発展機を開発すればいい。今確実に言えるのは、
私が量産機仕様として想定していた性能ではジム・カスタムを見てしまった上層部を納得させ
るのは難しいと言う事です」
「……つまり、このテストで明確にハイザックの有用性を証明する必要があると?」
 ユウが確認した。サエジマは黙って頷いた。



 ハイザックの開発はルナツー、グラナダ、それにここ重慶基地の競作と言う形で進行してい
る。重力下試験にはこの三種類のハイザックと、ジム・カスタムが各一小隊ずつ参加して行わ
れる。
 ユウは初めてルナツー以外のモデルのハイザックを見た。
 印象としては、グラナダ機は兄弟、重慶は従兄弟と言う程度に似ていた。
 グラナダ製のハイザックは上半身に関してはほぼルナツー仕様と同型、ルナツーでは左右対
称とした肩装甲を右肩をシールドとしたためよりザクに近い印象がある。ルナツーは脚部スラ
スターを脱着式としていたが、グラナダは固定式としているのも違いだった。
 重慶機はさらに印象が違った。全体的に細身で、頭部もモノアイではなくジムのセンサーを
流用しているらしい。バックパックから伸びているのは放熱板だろうか。何よりも武装にビー
ムライフルではなくプルバックマシンガンを採用している事は、サエジマを失望させた。
「この基地の技術者はやる気がないのか。あれではザクの仮装をしたジムだ」
「どうやら競争する気なら重慶は気にしないでよさそうね」
 ヤヨイが言った。ケンも同調する。
「この場で白黒つけるか。グラナダとも、オーガスタとも」
 ユウが渋い顔で嗜める。
「二人とも落ち着け。今日はただのテストだ。コンペじゃない」
「いえ、構いません。全力で競ってください」
 サエジマが煽って来た。
「少佐」
「滅多に出来ない重力下試験です。限界地を発揮してもらうくらいでなければ必要なデータが
採れません。むしろ存分に暴れて下さい」
「話のわかる上官は嬉しいですねえ」
 ケンが本当に嬉しそうな声で言った。ユウは溜息を吐いた。
 テストは地形踏破、射撃、模擬戦闘をセットとして行われる。模擬戦闘は各小隊の対抗戦と
されていた。
 試験は順調だった。ユウたちのハイザックは予想以上に重力下の行動に適応していた。ユウ
らは改めてザクの設計の優秀さに驚いたのである。
357MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/09(金) 03:41:40 ID:PK/iCEBE
「あとは模擬戦闘だけね。銃はこれでいいの?」
 ヤヨイ機が手にしたのはビームライフルの銃身にレーザーポインターを装着したものだった。
「昔はペイント弾だったんだが、やっぱりビームには使わないんだな」
 もっとも、実弾銃を使用するジム・カスタムと重慶モデルはペイント弾らしい。
「ここまでの試験結果を見る限り、やはり重慶モデルは明らかに成績が落ちますな。うちとグ
ラナダ、それにジム・カスタムは横一線といった所です」
「ここで決着か」
 ケンが好戦的な笑みを浮かべた。
 模擬戦闘の舞台はかなり険しい場所だった。切り立った崖の谷にある湿地帯で、膝ほどの深
さの――無論MSの、である――川もある。MSを隠すほどの遮蔽物はないが、移動にはかな
り手間がかかりそうだった。
「ヤヨイ、気をつけろ。コロニーで人工的に再現した湿地帯とは根本が違うぞ」
 ヤヨイはテストパイロット一筋、地上でのMS操縦経験がない。いきなりこのような足場の
悪い地形は難易度が高すぎる。
 グラナダ基地のテストパイロットは地上戦の経験があるらしい事は、それまでの試験での身
のこなしで見当がついていた。ここまではパッとしない重慶チームも地の利がある分簡単な敵
ではないだろう。そして何よりもジム・カスタムだ。
 ユウとケンはヤヨイを守るように彼女の両脇に位置取った。この状態で開始の合図を待つ。
 合図の変わりに爆発音が聞こえた。
「!?」
「な、何だ!?」
 音の方向へ頭を巡らすと、重慶のハイザックが一機炎上していた。僚機が何が起きたのか判
らないという様に立ち尽くしている。ジム・カスタムが確認に接近していた。
 そこに光線が奔った。
 次の犠牲者はジム・カスタムだった。連邦の最新鋭機はシールドを構える暇さえ与えられず
その場に崩れ落ちた。
「敵襲!?」
「崖の上だ!あそこから狙ってる!」
 ユウは崖の上を見上げた。
 逆光の中、確かにそこにいた。大振りな銃を構えた人型の影が立っていた。その銃口はなお
も自分たちに向けられている。
「ケン、ヤヨイ、崖に貼り付け!奴の死角に回るんだ!」
 ユウが二人を振り返った時、ケンは既に行動を開始していた。しかし、ヤヨイはユウの指示
も聞こえていない様子で、
「あ、あ……」
 と声にならない悲鳴を上げたまま動こうとしなかった。
「ヤヨイ・リード少尉!」
「何してんだ、おい!」
 ユウとケンが両脇からヤヨイのハイザックを引きずるようにして崖の下に運ぶ。ヤヨイは完
全に操縦桿から手を離しているのか、全く反応しない。
「ヤヨイ、落ち着け」
「あ……も、申し訳ありません」
 やっと返事だけはした。しかしモニター越しに見ても顔面は蒼白で目の焦点が合っていな
かった。
 無理もない。テストパイロット一筋で実戦を知らないのだ。目の前で一方的に狙撃され爆発
する僚機を見て落ち着いていられる覚悟など備わっているはずがない。
「さてと、で、これからどうします?敵さんからは死角に入ったが、今はこちらに反撃手段は
ないですが」
 ケンはさすがに胆力が座っているが、彼の言う通り、戦況を膠着させただけで何一つとして
好転してはいなかった。ビームサーベルは装備していたが、飛び道具が一つもないので接近す
る手段がないのだ。
358MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/09(金) 03:42:22 ID:PK/iCEBE
 ユウはジム・カスタムを見た。モノアイを点滅させて暗号を送る。
(以前にもこの敵は出た事があるのか?)
 ジムも頭部ユニットのライトで返答してきた。答えは否だった。
「ま、知ってりゃああも無抵抗で二機もやられないでしょうよ」
 ケンが正論を言った。
「敵はあいつだけですかね?」
「わからない。しかし私なら――」
 言い終わる前に次の動きがあった。ユウ同様、敵もまた単独で行動するほど愚かではなかっ
た。どこに隠れていたのか六機のMSが湿地帯を歩いてきた。
 ユウは敵機データの照合を試みた。テスト機なので全データが入っているとは限らないがシ
ミュレーション戦闘に必要な機体データは入力されているはずだ。
「ハイゴッグにドムとグフか。ハイゴッグだけはデータが不足しているな」
「ど、どうするんですか、大尉……?」
 ヤヨイが訊いてきた。このままでは危険だという判断はついたらしい。
「せめて接近戦に持ち込めればいいが……」
「数ではこっちが勝ってますからね。でもどうやってそこまで持ち込みます?賭けてもいいが
連中が格闘戦を挑む事はないですよ」
「相手の飛び道具を封じられればな」
 その時ユウは一つのアイデアが浮かんだ。ジムカスタムに向かってモノアイで伝える。
(そのライフルを貸せ)
 意図は伝わっていないだろうが、相手は素直にペイント弾入りのライフルを投げてきた。ユ
ウはライフルの重量バランスを確認する。ケンが訊いた。
「どうする気です?」
「ケネス、信号弾は持っているな?」
「え?ええ、それはもちろん」
「それを崖の上の奴の目の前で発光するように信管を調整してくれ。俺の合図で撃つんだ」
 ケンは上官の狙いが判ったようだった。
「判りました。大尉、しくじらないで下さいよ」
 やはり新手は接近戦を仕掛けてくる事はなかった。狙撃手の銃が届く位置から射撃武器で一
方的に攻撃するつもりだ。ユウはライフルを単発モードに切り替えた。
「三…二…一…今だ!」
 ケンが信号弾を撃ち上げた。模擬戦の決着を告げるために用意していた信号弾は本来の位置
よりはるか低空で強力な光を発し、狙撃者の視界を一瞬塞いだ。同時にユウが飛び出す。
 敵MSがユウに狙いを集中する。ユウは地面を蹴りその射撃を躱しながらペイント弾を発射、
正確なヘッドショットでモノアイをペンキで塗り潰した。
 ライフルを投げ捨てたユウはビームサーベルを引き抜き一気に間合いを詰め、ハイゴッグを
横薙ぎに両断する。ここでようやく他の部隊も行動を起こし、数に勝り、しかも仮にも最新鋭
機である。グフはグラナダのハイザックに包囲され、ハイゴッグは大岩を背に抵抗したが復讐
心に燃える二機のジム・カスタムに両脇から貫かれた。
「後三機……いや四機だ」
 そうユウが思った時だった。
「危ねえ!」
 信号弾を放った後そのままヤヨイのそばにいたケンの警告が響いた。崖を見上げるとそこに
は崖から剣を振り上げ飛び降りる巨大な人影があった。
 連邦側の全機がその場から飛び退くと、上空からの襲撃者はそのまま大岩に斬りつけ真っ二
つに叩き割った。
「!!」
 敵MSは間髪入れずに右手のジム・カスタムに斬撃を浴びせかける。ジム・カスタムもビー
ムサーベルで応戦したが、切り結ぶ事二合、広刃のヒートソードに貫かれた。
359MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/09(金) 03:43:07 ID:PK/iCEBE
 倒れたジムを足で踏みつけ剣を引き抜くとスラスターを全開にしての地上滑走(ホバー)で
重慶基地のハイザックに肉薄、すれ違いざまの一刀でコクピットを切り裂いた。
「速い!」
 ユウはビームサーベルを構え襲撃者の次の攻撃を予測した。旋回しつつ速度を殺さずに一撃
必殺を狙っているようだ。つまり次の攻撃は……。
「そこだ!」
 重慶基地のハイザック最後の一機に斬りかかるヒートソードを間一髪、左腕のシールドで受
け止めた。しかし相手は両手で掴んだそのパワーでシールドごと圧し斬ろうとさらに力を込め
る。
「!」
 なんというパワーだ。ユウは右腕だけでビームサーベルを突き出した。腕だけでは斬りつけ
も浅い。装甲の一部を傷つけたものの、すぐに距離を取られてしまう。
(知らない機体だ。しかしこの戦い方……)
 装甲の大胆に省略されたMSだった。腰や肩のスラスターは露出しており、ゲルググのよう
なスカートアーマーや肩アーマーはない。しかし、胸部など必要な箇所の装甲は必要なだけの
厚さと強度が与えられているようだ。装甲は白と黒で塗り分けられ、さながら白虎のようだ。
手には黒塗りの広刃の剣を両手で構えている。
(来る!)
「虎」が突進してきた。ユウは下がらず逆に前に踏み込む。このMSをユウは知らないが、こ
の浮上滑走(ホバー)による高速突撃からの連続攻撃という戦法ならばかつて経験があった。
 サーベルの下端を握り、間合いを最長に使った突きを放つ。それを相手は身体を捻って躱し、
腕を伸ばしきって無防備となったユウにカウンターの一撃を浴びせようと剣を振り上げる。そ
の一瞬、ユウは一歩を踏み込んで急停止し、強引に横薙ぎに変化させてがら空きとなった胴に
斬り込んだ。振り上げる動作が入った分ハイザックが速い。
 だが、敵はユウの想像以上のパイロットだったらしい。相討ちも難しいと判断するや上半身
の動きを中断して肘打ちを割り込ませ、ハイザックの右腕を上から叩いた。
「ちぃっ」
 湿地故の足場の柔らかさが僅かに横薙ぎへの変化を遅らせたのだ。何とか追撃しようとした
が敵は深追いせず互いの間合いから離脱している。
 ユウの動きはハイザックの攻撃シークェンスとしてプログラムされていない。マニュアルで
強引に割り込ませたものだ。敵が見せた咄嗟の肘打ちも同じだろう。並の技量ではない。
 相手はユウを中心に弧を描くように移動し、隙を伺っていた。ユウも敵を正面から外さない
ようその場で旋回する。ユウはモニター上の敵の腰にあるものに気づいた。
「……!」
 ユウはシールドを構え自分から仕掛けた。敵MSは剣を両手構えのまま迎え撃つ体勢をとる。
 激突。シールドにヒートサーベルが食い込むのも構わず押し込む。下から全身で突き上げる
圧力に敵の上体が伸びる。ユウが必殺を期した突きを繰り出す。たまらず「虎」は後方へと飛
び退き、川の中程に着水した。
 ユウは追撃しようと踏み出しかけ――川に入る直前で停止した。機体の防水処理についてま
だ十分な確認が出来ていない。訓練ならともかく、実戦で致命傷となりうるショートの危険は
冒せない。
「虎」はユウが川に入っていない事を確信すると、構えを解き、突然にヒートソードで水面を
切り裂いた。
 高熱を帯びた刀身が一瞬にして川面を沸騰させ、水蒸気と高温の水しぶきの煙幕を生み出す。
ユウはそこからの奇襲を警戒し防御姿勢をとった。
 しかし、「虎」は襲ってこなかった。煙幕に紛れて川の対岸に上がり、そのまま撤退して
いった。
 ユウが振り返ると、残ったジオン機にも逃げられたようだった。あえて戦闘には参加せず、
ヤヨイの護衛に徹していたケネスが近寄ってきた。
「やりましたね、大尉」
 しかしユウは敵の去った方向を睨んだまま何も言わない。
「大尉?」
「気づいたか?奴は腰にマシンガンを提げていた」
「え?あ、そう言えば……」
「俺が仕掛けた時、奴は剣ではなくマシンガンで攻撃する事も出来たのにそれをしなかった」
「…………」
「――遊ばれたんだ、俺は。奴に」
 ユウは尚も「虎」の後ろ姿を追うように一方向を睨み続けた。
360MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/09(金) 03:46:04 ID:PK/iCEBE
まずはここまで

ケネス・キストン
連邦軍ルナツー基地所属。少尉。通称ケン。ハイザック実験部隊テストパイロット。一年戦争にはア=バオア=クー攻略戦からの参加のため、撃墜数は3機と少ないが技術は高い。
ブラウンの髪に緑色の瞳のやや軽薄な青年。名前はギャビン・ライアルの小説「違った空」の登場人物から。0056年生、26歳。

ヤヨイ・リード
連邦軍ルナツー基地所属。少尉。ハイザック実験部隊テストパイロット。一年戦争当時からのテストパイロットであり、ユウと異なり実戦テストの経験もない。
黒髪、瞳は黒と茶のいわゆるオッドアイだが、系統が似ているためほとんど気づかれることはない。0056年生、26歳。

RMS-116 ハイザック(ルナツー生産テスト型)
全高 18.0m
本体重量 40.8t
ジェネレーター出力1480kw
スラスター推力 55,600kg(脚部スラスター装着時63,800kg)
武装
ビームライフル
ビームサーベル
シールド

ハイザック開発計画のコンペに参加するルナツー仕様機。後に正式決定される量産機とも当時のグラナダ仕様機とも多少異なっている。
主な違いとしては
@ジェネレータがタキム社製ではなく、冷却装置もより高性能。故に出力が高い
Aビームライフルとビームサーベルを同時に携行可能
B脚部スラスターがデタッチャブルのアドオン式。未装着時は推力が不足気味
C肩アーマーが左右対称で且左右共用に設計されている
等がある。また、当然ながら全天周リニアシートではない。
武装は当時並行して開発中のRMS-117ガルバルディとの共通化が図られ、シールドは伸長式、ビームライフルも共通である。


あと、先にネタバレしますが敵MSの正体はケンプファーのバリエーション機です。
361創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 22:45:39 ID:b0BoWAgb
そういやゲームの方で設定だけ作りかけられて結局使われなかったマリオン専用モビルスーツって、
ピンク色なケンプファーそっくりさんだったなあ。
362創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 23:37:20 ID:5Z5XO7JZ
新しい短編ですか
続き楽しみにしてます
363Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/11(日) 11:12:43 ID:md67AUyN
投下行きます
364Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/11(日) 11:16:37 ID:md67AUyN
 ダグラスの死はQザクからの音声を通じて、ヴァンダルジアの皆に伝わった。
 ハロルドとファルメは、バウ・ワウの頭部コクピットで俯いた儘、一言も発しなかった。

 ピピッ。

 ファルメの持っていたブルートフォースアタッカーが、沈黙に水を差し、解析終了を告げる。
 ……しかし、彼女は反応しない。ハロルドは静かにファルメからブルートフォースアタッカーを取り上げ、パスワードの
文字を見た。何十桁にも亘り、長々と表示された無意味な文字と記号。その末尾に、ハロルドは注目した。

 ……SorryThankYouAndGoodbyeMyBestFRIEND

 すまない、ありがとう、さようなら、我が友よ。

 最後のエンドがハロルドには悲しく見え、彼は目を閉じて天を仰いだ。ブルートフォースアタッカーをシートの上に置き、
ファルメには何も告げず、コクピットを出る。友は死し、この場に留まる理由は無くなってしまった。

 ブリッジに戻ったハロルドは、その場の重苦しい雰囲気を気に掛ける事無く、真っ直ぐ指揮座に向かって歩いた。
 ヴォルトラッツェルから艦内放送用のマイクを奪い、堂々と声を発する。

「皆、聞け。これより“第1突撃隊”は、アーロ・ゾット総代表に対し、国家反逆罪を適用。最大級の反逆者と見做し、
 その権利を剥奪、拘束する。生死は問わん。異議のある者は、ヴァンダルジアから降りろ」

 艦内中の者が耳を疑った。先ず、ヴォルトラッツェルが口を開く。

「特別大佐! 御自分の仰った事の意味を解って……」
「ああ、これはクーデターだ」
「謀反です!!」
「総代表に正義は無い。文句があるなら降りろ!」

 ハロルドは言うだけ言うと、彼に背を向け、ブリッジから退室した。ヴォルトラッツェルは何とか説得し様と、後を追う。
皆が不安気な面持ちで待つ中……数分後、戻って来たヴォルトラッツェルは、静かに指揮座に就き、ハロルドが投げ
置いた艦内放送用のマイクを拾って、口元に運んだ。

「艦長より、各部責任者へ。至急ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す、各部の責任者は至急ブリーフィング
 ルームに集合せよ」

 淡々とした口調で召集を掛けた後、無言で立ち去る。
 ブリッジに居合わせた操舵長と通信長は、緊張した表情で、艦長に続いてブリーフィングルームに向かった。
365Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/11(日) 11:19:32 ID:md67AUyN
 それから約1時間後、ブリッジに戻って来たのは、操舵長と通信長のみ。通信長は、操舵長と顔を見合わせた後、
艦橋内の全員に向かって言う。

「我々は降りる。これ以上、若造の我が儘には付き合えん。同じ意見の者は、付いて来い」

 呆れと怒りを隠さない通信長の口振りは、皆を混乱させた。部下の返答を俟たず、2人はブリッジを後にする。

 どよめく艦橋内。不安は益々大きくなり、良からぬ憶測が飛び交う。艦長と各職長の間で、意見が割れたのか……。
今、判る事は一つ。組織が空中分解を起こした艦は、長くないだろうと言う事。暫らくして、数人が席を立った。
 その後も疎らに去り続け……最後に残ったのは4名。広いブリッジは、途端に寂しくなった。

 格納庫には、全乗組員の4分の3に近い人員が集まっていた。その中に、ヴォルトラッツェル艦長の姿は無く……
皆、彼は自分達の代わりに、特別大佐に最期まで付き合う積もりなのだと悟った。

 スペース・ボートは次々と発進し、ヴァンダルジアから去って行く。
 ……しかし、カタパルトハッチのビームサーベルで焼き切った痕跡に気付く者は少なかった。

 艦橋上の展望室で、ハロルドとヴォルトラッツェルは、去り行くスペース・ボートを眺めていた。

「特別大佐、これで宜しいですかな?」
「俺は“艦長に”降りろと言ったんだが……」

 尋ねるヴォルトラッツェルに対し、やや不満そうに返すハロルド。小惑星を追うと決めた時に、皆が艦長に従った
事から、ハロルドは彼を降ろさなければ、周りに流されて従う者が出て来ると考えていた。

「私に続いて皆が降りたら、特別大佐は独りですよ。どうなさる御積もりだったのですか?」
「オート機能があるだろう。後はボートに乗換えるなり、MSに乗換えるなり、どうにでもなったさ」
「ははっ、特別大佐らしい」

 強がりを言うハロルドに、艦長は笑って返す。彼なら見事やって退けたかも知れない。無謀だが、無策ではない。
この戦いにも勝算があるのだと、ヴォルトラッツェルは信じていた。しかし、それと同時に勝率が限り無く0%に近い
事も承知していた。だからこそ、ハロルドは艦長を降ろそうとしたのだ。ヴォルトラッツェルが自身の代わりに、信頼
出来る職長級の部下を降ろしたのは、特別大佐と同じ考えだったからに他ならない。

「……それでは、勝利へのシナリオを御教授願いましょう」

 艦長の気取った態度に、ハロルドは深い笑みを浮かべる。

「それは……」

 果たして、ハロルドの作戦とは……。
366Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/11(日) 11:23:33 ID:md67AUyN
 ハロルドとヴォルトラッツェルが展望室から廊下に出ると、正面の壁に寄り掛かってクーラー少佐が待っていた。

「……特別大佐、話がある」

 彼女の声には覇気が感じられず、その表情は翳っている。
 ヴォルトラッツェルは、自分が居ては言い難い事なのだろうと思い、ハロルドに断って先に艦橋へ向かった。
 空気を読んだ艦長に置いて行かれたハロルドは、決まり悪そうにクーラーに声を掛ける。

「何だ? 早く言え」

 冗談以外で、彼女がハロルドを階級で呼ぶ時は、その立場で応じて欲しい場合に限られる。それを承知している
ハロルドは、“上官らしく”高圧的に振る舞う。

 無遠慮な催促に、クーラーは重い口を開いた。

「私は……どうすれば良い? 特別大佐の考えは理解出来る。それに力を貸したいと思うし、そうするのが道理だとも
 思う。しかし、それと同時に、何もせず総代表の思う儘にさせても良いと思ってしまっている自分が居る」

 中将に淡い感情を抱いていた彼女は、ニュータイプに触れた事で半覚醒状態にあった。
 総代表の心、ダグラスの心、艦を降りた皆の心……。全てが混ざり、クーラーを惑わす。
 故郷を失った悲しみは消えていないが、ハロルドに協力したい気持ちも本心からの物。相反する選択に、彼女自身
どうすれば良いか判らず、自分を見失っている状態だった。

 ハロルドは何も答えない。腕を組んで、俯いたクーラーを見下す。
 沈黙に耐え切れなくなった彼女は、救いを求め、弱々しい声で哀願した。

「私には判らない……。命令してくれ。お前の命令なら、従える」

 クーラーは“特別大佐としての”ハロルドを必要としている。ハロルドは外方を向いて、やれやれと眉を顰めた後、
彼女の肩に軽く手を置いた。

「さっさと降りろ。足手纏いは要らん」

 そして感情を抑えた声で、はっきりと言って退ける。予想外の答えに、クーラーは目を点にしてハロルドの顔を
見詰めた。僅かな間を置いて、我に返った彼女は、大きな大きな溜息を吐く。

「ああ、ああ、そうだったな。お前は、そう言う奴だった。全く、何を期待していたんだか……」

 パシーンッ!

 直後、小気味良い音がし、ハロルドの首が90度右を向いた。

「私は残る。こうなったら地獄の底まで付き合ってやるよ」

 リアクションを取らないハロルドに向かって、クーラーは堂々と宣言した。
 気丈さを取り戻した彼女は、カツカツと軍靴の音を響かせて立ち去る。

(……何か拙い事、言ったか?)

 何故自分が打たれなければならなかったのか……。釈然としないハロルドは、ヒリヒリと痛む頬を押さえ、クーラーの
背を見送りながら、何度も首を傾げた。
367Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/11(日) 11:29:01 ID:md67AUyN
 左頬に赤い手形を付けたハロルドは、艦橋に戻ると、独り佇んでいるローマンに目を付けた。

「お前は降りないのか?」
「……理解不能だ。何故、貴様は閣下に逆らう?」

 ハロルドの質問に、ローマンは全く関係無い質問で返す。この期に及んでも、彼は無表情だった。
 嫌味で訊いた積もりだったハロルドは、皮肉で返されると思っていたので、肩透かしを喰らった格好。毒気の無い
相手に喧嘩を売っても虚しいだけなので、彼はローマンの質問に答えた。

「ミレーニアが連邦軍に攻撃されると判っていて見過ごした行為は、指導者として許される物じゃないだろう」
「訊き方が悪かった。何故、閣下に“逆らえる”? あの御方の偉大な力を目の当たりにすれば、誰でも……」
「知らんよ。俺はニュータイプじゃないからな」

 ローマンの言葉を遮り、ハロルドはスクリーンに映る小惑星に目を遣る。オールドタイプの彼は、総代表の恐ろしい
プレッシャーを感じられない。小惑星は単なる岩石の塊だった。

「オールドタイプでも、貴様の様に鈍感な者は、そうは居ない」
「どう致しまして」

 呆れ返るローマンに、にやりと笑みを浮かべて見せるハロルド。
 この時、ローマンは初めて彼を底知れない人物だと思った。総代表の絶対を信じているなら、何の未練も無く、この
場を去る事が出来ただろう。しかし、彼は己が正しい事をその目で確かめなければ、気が済まなかった。

「……私は全てを見届けたい」
「そうかい。邪魔さえしなけりゃ、何でも良いさ」

 再びスクリーンに視線を戻したハロルドの横顔を見て、ヒラル・ローマンは思う。この男の自信は、何処から来るの
だろうかと。総代表への信頼と忠誠は揺るがないが、一抹の不安の様な物がある。期待にも似た、奇妙な感情。
彼が見るのは終末の刻か、それとも……。
368Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/11(日) 11:44:52 ID:md67AUyN
 一方、ダグラスの御蔭で逃げ切る事に成功した火星軍の生き残りは、アステロイドベルトと火星の中間宙域で態勢の
立て直しを図っていた。
 しかし、司令部は先の小惑星の攻撃で壊滅し、この場で最も階級が高いのは、ペリカンのバージ大佐と言う有様。
士気はガタ落ちで、とても再戦を挑める雰囲気ではなかった。

 バージ大佐はペリカンの艦橋で、各艦長から報告を受け、現在の状況を理解し、連邦艦隊が火星軍に敵勢力の
詳細情報を提供しなかった事を恨んだ。セイバー・クロス中尉の忠告を聞き、後方待機していなれければ、ペリカンも
小惑星の攻撃で宇宙の塵と化していた。
 自らが逃げ切る為に、火星軍を囮にしたのか……。或いは、驚異の新兵器を前に、その正体も判らず、仕方の無い
部分があったかも知れない。それでも憤りは晴れなかった。

 約300隻もの連邦艦隊の内、逃げ切れたのはグィン級グィン1隻のみと言う事実を知る者は、この場には居ない。
火星軍とコロニー連合軍は、直接は戦闘をしていないので、有りの儘に情報を伝えた場合、火星軍は見逃して貰う
為に出撃を躊躇した可能性がある。それでは時間稼ぎが出来ない。地球連邦軍にとっては、勝ち目が無くても出て
貰うしか無かったのだ。

 幸いにも、小惑星はアステロイドベルトで停止している。流石に、ここまでは攻撃も届かず、火星に戻って対応策を
練る余裕はありそうだった。バージ大佐が、指示を待っている火星軍の中級士官に、その旨を伝え様と決めた時……。

「小惑星より、高速で飛来する質量塊あり! 5つ、何れも100m級の岩石です!」

 レーダー管制官の声が響いた。超長距離から直接標的を狙う、超大型マスドライバーキャノン! 艦橋内に緊張が
走る!

「……艦隊からは大きく外れています。命中の心配はありません」

 続く一言で、張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ。

「火星に落ちる様です」
「撃ち落とせっ!!」

 しかし、最後の一言に、バージ大佐は嫌な予感を覚え、大声で叫んだ。
 突然の命令に皆が驚く中、管制官が冷静に応じる。

「ペリカンに武装はありません」
「くっ……軌道計算!! 何処に落ちる!?」
「そこまでは……」

 バージ大佐は隔靴掻痒の思いに、低く唸った。強大な敵の出現で、皆が神経過敏になり易い現状を考慮すれば、
迂闊な言動は慎むべきである。しかし、そうと解っていても、肌は粟立ち、心は焦る。

「友軍に迎撃を命じろ! 全艦、この場に待機! 火星に後退は出来ない!」
「は、はい!」

 指示を出した後、バージ大佐は口元に手を当て、思考を巡らす。彼の予想が正しければ、敵の狙いは……。

 火星軍の情報収集艦からペリカンに、火星のシャトル発射基地が隕石によって破壊されたと報告が入ったのは、
それから数分後の事であった。
369創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 11:49:55 ID:md67AUyN
25話まで終わり。ラスボス決定。
370MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/16(金) 02:13:22 ID:F6L0Qboc
蒼の残光 10.「蒼の残光」  異変
371MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/16(金) 02:14:04 ID:F6L0Qboc
 戦況は何度目かの転機を迎えていた。
 アラン、オリバーはMSと相俟ってまさしく一騎当千の働きを見せていたが、一騎当千
はどこまで行っても一騎でしかない。この二人に対抗しうるユウの戦線復帰は両陣営の戦
力差を本来の比率に修正した。
 更にマリーを救出するという共通の目的意識は連邦軍の士気を更に高めていた。今やリ
トマネン軍はコロニーレーザーとリトマネンを守るのに精一杯となっていた。
 しかし、前線の士気が上がっても指揮官として必ずしも歓迎できる事態であるとは限ら
ない。
「戦いの目的が変わってるぞ……」
 ブライトは溜息混じりに呟いた。
 事前の作戦会議では、ネェル・アーガマのハイパーメガ粒子砲でコントロールコアを吹
き飛ばし、一撃で無力化させるという方針が決まっていた。それがユウ・カジマの攫われ
た妻がそのコントロールルームにいる事が判明し、作戦を決行するのに大きな障害となっ
てしまった。そして今、連邦軍MSはコロニーレーザーを包囲するように殺到し、ネェ
ル・アーガマの位置からは例えコントロールルーム攻撃を強行するとしても味方が邪魔し
て狙えない状況が出来上がっていた。
 言うまでもなくブライトは生粋の前線指揮官であり、兵の機微にも通じている人物であ
る。兵士が同僚の家族というより身近な対象の救出作戦により士気を高める心情は理解し
ていた。少なくとも彼の部下はコロニー生まれが多く、地球に対する思い入れがそれほど
強くない事も地球防衛と言う任務に対する熱が上がらない原因かもしれない。
「だがどうする。どれくらいの時間が残っているんだ」
 ブライトは敵の守り方が、積極的に迎撃すると言うより時間稼ぎを行っている事に気づ
いていた。だとすれば時間一杯まで守りきられたらコロニーレーザーが発射されてしまう
事になる。マリー救出に成功したとしても作戦としては完全な失敗となってしまう。
 ブライトは自分がこの反乱鎮圧に派遣された意図と期待を理解していた。ブライト自ら
提言する対ジオン残党専門部隊設立案。今回の叛乱はこの構想の有効性を証明する好機で
あった。ジオン残党の健在と脅威が明確になったところでこれを鎮圧、ブライトの士気能
力も合わせてアピールする。もしこの作戦を失敗すれば彼のみならず彼の構想を支援して
くれた人物の立場まで危うくしてしまう。
「提督、間もなくハイパーメガ粒子砲のチャージが完了します。いかがいたしますか?」
 トーレスが確認を求めた。エウーゴ時代からの付き合いとなるこの男はアムロを除けば
ブライトにとって最も信頼できる部下であり、友人である。
「トーレス、コロニーレーザーのシリンダーを三基、同時に潰せるタイミングを計算して
くれ。十分以内の全ての可能性を知りたい」
「判りました」
 トーレスが即座にコンソールに向かって入力を始める。ブライトは目前の戦況を見つめ、
場合によっては非常な決断も覚悟していた。



 オリバー・メツは自分の中の怒りの感情が膨れ上がって行くのを感じていた。目の前に
いるこの男は再びマリオンを連れ出し、縛り続けようとしている。やっと自分が彼女を解
放してやろうと言うのに!
「目障りだ、僕とマリオンの前から消えろ、ユウ・カジマァァァ!」
 凄まじいプレッシャー。NTならざるアランやユウにも伝わってくる程の純粋な殺気が
オリバーの駆るハンニバルから放出される。アランは一抹の危うさを感じオリバーに声を
かける。
「オリバー、冷静になれ。判断を鈍らせるぞ」
 しかし、オリバーは聞いてはいても届いてはいないようだった。
「アラン、これは僕の敵だよ」
「オリバー!」
「ここは僕に任せて。君は残りを片付けて」
 言うなりオリバーはファンネルを展開させる。
 ユウはライオットガンをスネークショットにあわせる。
「中佐、そいつはIフィールドを持っています」
 艦の通信が入る。ユウは黙って頷いた。
 四基のグラップラーファンネルからチルドファンネルが放出、BD‐4を完全に包囲す
る。ユウは前方に向けて一発発射、同時にビームを追うようにスラスターを全開で突進し、
そのまま後方に向けても一発撃った。
372MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/16(金) 02:14:50 ID:F6L0Qboc
 爆発を教える光球は一つも生まれなかった。
(全て躱すのか)
 初めてこのパイロットと相対したのはたった十八日前だが、その時には有効だったファ
ンネル迎撃が全く通用しなくなっている。
(これがNTか)
 自分の十年間に僅か十八日間で並ばれる事に無常を感じながら、それでも負けるわけに
はいかないと自分に言い聞かせた。
 ファンネルが追撃してくる。包囲が完成する直前にパイロットとしての本能が回避ルー
トを選択、ほんの僅かの差で包囲の遅れた一角に滑り込むように移動して火線の焦点から
外れた。
 十年間に染み付いた、脳を中継しない条件反射による行動は単純だがNTの反応すら超
える。ファンネルの一斉砲火は空を切り、偶然にユウの逃げた先に向けて発射されたビー
ムはシールドで防がれた。
「えぇい、くそっ」
 オリバーの声が苛立ちを含んだ。数度見れば単純なパターン行動に過ぎないこんな動き
は容易に予測可能になるが、その数度の回避すらも許すつもりはない。
「なら、これで!」
 二十四基のチルドファンネルを操作しての弾幕。ユウはその焦点から外れるべく後退し、
ライオットガンを構える。狙うはMS本体――。
「何!?」
 BD‐4の上下からグラップラーファンネルが襲い掛かり首と片脚をホールドした。そ
のまま関節を曲げる反動でBD‐4の全身を反らせる。ハンニバルでの初陣で『銀狐』ハ
ロルドに使った戦法だった。自由を奪われたユウにチルドファンネルが狙いを定める。オ
リバーはこの瞬間勝利を確信した。
「終わりだ、『戦慄の蒼』」
 オリバーの目の前で蒼い機体が真っ二つになった。彼の攻撃によるものではない。ファ
ンネルの一斉砲火は上半身と下半身の間に突然生まれた空間を空しく通り過ぎていった。
 この瞬間のユウの判断と操縦技術は経験や才能などと言う陳腐な言葉で括れるものでは
なかった。ユウはMSの自由を奪われたと認識したその一瞬後に自ら上半身と下半身を分
離したのである。
 BD‐4に加えられた力が上半身を半回転させる。その間もユウは上半身と下半身を同
時に制御していた。上半身が百八十度反転した時、トリガーを引いた。
 下半身からのビームガンが首を掴んでいたファンネルを貫く。同時にライオットガンの
一撃が右足を掴んでいた一基を破壊していた。
 この二基のファンネルを中継して制御されていた十二基のチルドファンネルがコント
ロールを失って周囲のファンネルに激突する。一瞬だがサイコミュ兵器がオリバーの意志
を無視した。
「落ち着け、お前達!」
 母機を失ったチルドファンネルを残った二基のグラップラーファンネルの制御下に切り
替えコントロールを取り戻す。今のオリバーにとって瞬きするほどの時間でしかない『作
業』だったが、それはユウにとって十分すぎる隙となった。 
 分離した機体を合体させず、そのままGチェイサーとフライングVに変形させて特攻を
仕掛ける。
 オリバーはファンネルではなく、本体のメガ粒子砲の砲門を開きビームの弾幕を張った。
ユウはGチェイサーに変形したままシールドを腕で引き出すと、メガ粒子砲をアイドリン
グさせた状態でハンニバル目掛けて投げつけた。メガ粒子砲はビームの方向を安定させる
ためIフィールドを発生させている。微弱とはいえIフィールドを帯びたシールドはビー
ム砲撃を打ち消しながらハンニバルに向かって飛んでくる。ただ投げたのではない。G
チェイサーの最大加速による慣性付きである。
373MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/16(金) 02:16:01 ID:F6L0Qboc
「うわっ!?」
 予想外の攻撃にハンニバルの前方視界が塞がれる。激突する寸前に辛うじて腕で払い除
けることに成功した。
 その隙を待っていた。フライングVがオリバーのハンニバルの脇腹に激突した。機体が
大きくバランスを崩す。
「し、しまった!」
 オリバー本来の能力ならばこの単純な特攻が成功する事はなかっただろう。必殺の確信
を持った攻撃を外されたショック、盾を投げつけるという予想外の攻撃に対する動揺、そ
れらが生み出す一瞬の意識の間隙を突いたのは紛れもなくユウの天才がなせる業だった。
「畜生!」
 ニトロを発動させ、Iフィールドで全身を覆う。しかし、それもユウの想定内だった。
 GチェイサーはIフィールドの効果範囲を突き破り零距離に迫っていた。バックパック
に固定されたライオットガンがハンニバルに押し付けられるようにポイントする。
「とった」
 ユウが確信を口にした。彼はトリガーを引き絞った
 ユウは視界の隅に強い光を感じた。それが何かを確認するより速く身体が反応した。回
避のためのローリング。アランのIMBBLによる攻撃が機体を掠めて虚空に吸い込まれ
たのと、回避行動によって射線のずれたビームライオットガンがオリバー機の肩口にある
Iフィールド発生装置を破壊するのと、同時だった。
「くそ、曲がった!」
 アランが歯噛みした。片側十六・五メガワットのビームは回避行動をとったGチェイ
サーの動きを予測していた。直撃を阻んだのは皮肉にもオリバーの展開したIフィールド
だった。
 ユウはオリバーから距離を取り、下半身を回収しMS形態に変形する。アランが奉天画
戟を振り回して襲い掛かり、ユウはそれをビームサーベルで受けた。
 アランがオリバーに呼びかける。
「オリバー、無事か?」
 オリバーは聞こえていなかった。勝利を確信したはずが逆に決定的な危機となり、彼の
NTとしてのプライドとアイデンティティが崩壊したのである。
「オリバー!返事をしろ!」
 アランは優秀なパイロットであり、彼のMSは格闘性能においてBD‐4を上回ってい
たが、それでもオリバーを振り返りながら戦えるほどユウは容易い相手ではなかった。ユ
ウのBD‐4は空いた左手でもう一本のサーベルを引き抜き下から斬り上げる。アランが
一度後方に飛んで避けるが、ユウが間髪を置かず距離を詰めてきた。二刀に構えたビーム
サーベルの連撃が反撃の間を与えない。
「くっ、貴様……!」
 槍の弱点である懐に飛び込んでの超接近戦、しかし接近戦で絶大な戦果を挙げたアラン
のハンニバルに対しあえて挑むその技量と胆力は『戦慄の蒼』の名に相応しいものだった。
 ユウにとってもこの戦法に自信があっての選択ではない。彼は勝負を急いでいた。
 仲間がマリー救出のため戦ってくれていると言っても、やはり友軍の命を彼の私情で危
険に晒す事は彼の軍人としての部分が許さない。そして男としての部分で、自分の妻は自
分の手で助け出したかった。ユウは戦場で初めて冷静さを失っていた。
 一方でアランもまたこのままやられるわけにはいかなかった。自分の敗北は全軍の瓦解
に繋がる事を彼は承知していた。そしてそれはユウにも言える事のはずだ。
「調子に乗るな、ユウ・カジマ!」
 画戟の中程を持ち月牙と石突の両端を使って反撃に転じる。BD‐4も両手のサーベル
で防御しつつ攻撃を継続する。アランは画戟を縦に構えると下から石突をコクピット目掛
けて突き上げた。この攻撃はユウの虚を突いたが、踏み込みが浅く寸前でユウの回避が間
に合った。しかしこれで上体が伸び無防備な姿を晒す事に。アランが勝機と看過した。
「もらったぞ、ユウ!」
374MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/16(金) 02:16:42 ID:F6L0Qboc
 画戟を半回転させビームの穂先が突き出される。アランは勝利を確信した。
「むっ!?」
 その穂先が勢いよく跳ね上げられた。上体を反らしたBD‐4は体勢を立て直さず、そ
のまま後方に倒れこむようにしながら逆に脚で突き出された得物を蹴り上げたのだ。ユウ
はそのまま後方に飛び退き距離を開ける。
「まだだ」
 ハンニバルのIMBBLは機体の姿勢に関係なく標的を狙える武器である。画戟を両手
で構え直しながらもBD‐4に向け砲身を形成した。相手が体勢を立て直すより速く撃つ
事が出来れば――
 その時、アランは敵の右手に握られている武器がサーベルからライオットガンに替わっ
ているのを見た。
 メガ粒子砲より一瞬速くライオットガンが火を噴いた。十二条のビームがアランに迫っ
たが、不自然な姿勢で撃たれた攻撃はその大半が標的を大きく外れ、残るビームもビーム
コーティングを貫通できずに消滅した。両者の距離が離れ、睨み合う形となった。
 アランはユウから目を離すことなくオリバーに呼びかけ続けた。
「オリバー、オリバー!まだ終わってないぞ、二人でユウ・カジマを倒すんだ」
 返事はない。しかし、オリバーが何かを呟いているのは聞こえた。アランはボリューム
を上げ、オリバーが何を言っているのか聞こうとした。
『僕はNTだ……誰よりも強い…………ユウ・カジマとは……違う……何故……マリオン
……渡さない……僕は、強い…………』
 アランは自分の顔から血の気が引くのを感じた。間違いない。薬物投与の影響で精神が
不安定になっているのだ。
 能力を引き出すための昂揚剤や中和薬としての安定剤、抗鬱剤など、ギドに死なれてか
らの彼はそれまでにも増して薬物に依存するようになっていた。NTの力は彼の誇りであ
り、OTのユウに敗れかけ、ギドの命と引き換えに命拾いをした事実が彼のオーバードー
プに繋がっていた。マリオンの拉致をアランが許可したのも、彼女の存在がオリバーの精
神を安定させるならと考えたためだ。
 だが今またもユウ・カジマはオリバーの上を行った。ユウ・カジマの経験からくる戦闘
スキルはまだ底を見せてはいなかった。NTであるオリバーの予測や反応を超えるだけの
経験とセンスをこのOTは持っていた。
 しかしオリバーはそれを認めることが出来ない。NTである事、そしてその戦闘能力を
己のアイデンティティとする彼にとって、OTに自分に勝る者がいると言う事実を受け入
れられない。現実と認識のギャップで彼の自我は引き裂かれようとしていた。
 アランの必死の呼びかけは叫びに近くなっていた。
「オリバー!今は考えるな!目の前の敵を倒す事に集中しろ!」
 声は届かなかった。
「僕の前に立つな、『戦慄の蒼』ォォ!!」
 オリバーの駆るハンニバルから異常なエネルギーが放出された。
375MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/16(金) 02:32:21 ID:F6L0Qboc
ここまで

ノート
オリバーは一貫してNTの能力を戦闘能力に限定して捉えています。長期間の実験室での生活が
NTの価値観を歪めてしまっています。「人類の革新」という概念は当然知ってはいるのですが。

その意味ではユウの方が正しくNTを理解しています。

376創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 05:48:27 ID:b9wbpJXp
ユウ強いな〜

あと、ブライトさんが胃を痛めてそうだ
377創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 05:56:38 ID:C6kP4nRU
オリバー……
378Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/18(日) 09:12:31 ID:eufJac2+
投下行きます
379Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/18(日) 09:20:43 ID:eufJac2+
 火星軍の者は皆……オールドタイプもニュータイプも関係無く、アーロ・ゾットの憎悪を感じていた。
 次々と火星に降り注ぐメテオは、地球に与した者を皆殺しにせんとする、悍ましい程の執念の塊。

「駄目ですっ! 岩石は強力な電磁場で覆われていて、ビームもミサイルも効きません!」

 バージ大佐は管制官の報告に、黙って俯くだけで応えない。この状況をどうするか……その事だけで、彼の頭は
一杯だった。戦うのか、逃げるのか、どれを選択しても、予想される答えは絶望的。
 それでも……いや、“だからこそ”尚、知恵を絞る。

 しかし、簡単に妙案が思い付くなら苦労はしない。
 徒に時は過ぎ、メテオの雨が降り注いだ火星は、今どうなっているのか、想像するだけで恐ろしい。
 難題を前にした時は、出来る事をすれば良いと言うが、それすら無いのが現状なのだ。
 誰もが、緩やかに拡がり行く絶望を感じていた……。

 ……その頃、リリルは医務室のベッドの上で悪夢に魘されていた。
 彼女は狂気から精神を守る為、自ら眠りに就いたのだが、憎悪は逃げ場を与えてはくれなかった。

 怨霊は少女を取り囲み、心を通して、その身に降り掛かった不幸を伝える。
 永遠の業火。終わり無き苦しみ。無論、本人に夢と言う自覚は無い。

(熱いっ、焼け死ぬっ!! 助けて!! 誰かぁっ!!)

 声にならない声を振り絞る。開けた口から、熱く乾いた空気が入り込む。喉から肺、胃の中まで焼け付く様な感覚。
呼吸が出来ない! 窒息死するかと思った、その時……。

(……大丈夫かい?)

 優しい、聞き覚えのある声が届いた。怨霊が道を譲る様に退き、一人の男性が進み出て来る。
 業火は消え去り、安らぎがリリルを包んだ。

(ダグラス・タウン!)

 地獄の責め苦から解放された安心感で、彼女の目からは涙が溢れた。
 ダグラスがリリルの肩を抱き寄せると、怨霊は2人を中心に輪を描いて飛び回る。
 怯えたリリルはダグラスに獅噛み付き、きつく目を閉じた。

(目を逸らさないで……。襲い来る憎悪の向こう、あれを見るんだ)
380Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/18(日) 09:23:26 ID:eufJac2+
 ダグラスの声に従い、リリルは恐る恐る目を開けて、彼の指差した方を見た。

(あれは……何? 嫌だ、怖い……!)

 少女は恐怖に身を強張らせる。そこには、どす黒い怨念が嵐の様に渦巻き、巨大な塊を形成していた。

(恐れず、目を凝らすんだ。渦巻く怨念の中心……。聞こえるだろう? 怨みでも、憎しみでもない……)

 囁き声に、リリルがダグラスを見上げると、ダグラスもリリルを見詰め返す。

(心を開いて……憎悪の向こう……心の底に潜め、埋もれてしまった、本当の心に)
(本当の……心?)

 再び視線を戻したダグラスに倣い、リリルも嵐の中心に目を凝らす。

 怯えながら、恐れながら、慎重に、時折、ダグラスの温かさを確かめながら……思いを馳せれば、嵐の内側。
 怒りと憎しみで荒れていた外側とは逆に、そこは静けさと悲しみが支配する空間。

(泣いている……? 誰?)

 リリルとダグラスの前には、一人の青年が佇んでいた。ダグラスに似た雰囲気の、虚ろな目をした……。

(悲しい人だよ。使命の為と、己を殺してしまった)

 青年はダグラスとリリルに気付くと、怒りの視線で2人を睨む。

(何者だ!?)

 次の瞬間、青年を中心に黒い嵐が巻き起こり、ダグラスとリリルを拒絶するかの様に弾き飛ばした。
 嵐は2人を呑み込み、引き離す。

(ダグラスさん!)
(リリル! 総代表を止める為、君の前に一人の男が現れる。どうか、彼の力になってくれ)
(それは、誰!?)

 強風の中で、ダグラスの姿は徐々に遠ざかり、暗黒の中に消えて行く。リリルの声は届かない。

「ダグラスさん!!」

 手を伸ばし、必死に彼の名を叫ぶと……そこは白いカーテンに囲まれたベッドの上。
 直ぐ傍で、中年の女性軍医が驚いた顔をしていた。それまで眠っていた者が、突然叫び出して起き上がったのだ。
誰だって彼女の様な反応をするだろう。

「……えーと、大丈夫?」
「あ……はい」

 困惑気味な軍医の問い掛けに、リリルは真っ赤になって俯く。
 冷静になって気付いたが、不思議な事に、アーロ・ゾットのプレッシャーに対する恐怖心は、嘘の様に消えていた。

 リリルが目を覚ましたのと時を同じくして、火星軍の情報収集艦にハロルド・ウェザーと名乗る人物から通信が
入っていた。そちらの指揮官と直接会って、話がしたいと……。
381Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/18(日) 09:29:13 ID:eufJac2+
 赤錆色の艦体をしたギルバート級が、白いペリカンの横に並ぶ。煤けた青紫色のベンバー級とエビア級に囲まれた
ド真ん中で、異彩を放つ赤い艦は注目を集めた。

 スペース・ボートに乗って、ペリカンの格納庫に降りた、ヴァンダルジアの4名。
 3人の部下を引き連れ、堂々と歩くはハロルド・ウェザー。連合軍の制服の上に、コート、マントを羽織り、両胸には
ジャラジャラと装飾過多な程の勲章。

 噂のエースを一目見ようと、艦内で手の空いている者の殆どが、この場に集まった。
 ハロルドは、流石は連合軍の特別大佐と思わせる威光を放っているが、その実、これが相手と対等に立つ為の
彼なりの精一杯の虚栄だと、誰が知るだろう。ヴァンダルジアには“ペリカンの”半分も乗員が残っていないのだ。

「初めて御目に掛かります、ハロルド・ウェザー連合軍特別大佐。私はミッハ・バージ。“現時点で”、“この場の”
 最高指揮者は私です」

 ハロルドを迎えるバージ大佐は、自ら名乗り、先ず儀礼的な挨拶をした。
 対してハロルドは、胸を張って腕を組み、軽く唸るだけで、一礼もしない。

「この艦が旗艦なのか?」
「そう……なります」
「結構。そいつは好都合だ」

 その口調からは、バージ大佐への敬意も読み取れない。
 傍観者は彼の態度を無礼と感じると同時に、不気味な威圧感を覚えた。

「それで、お話とは何でしょうか?」

 バージ大佐も、本来なら客室か会議室に場所を移して問うべき事を、“敢えて”この場で尋ねた。態度だけは柔らかな
物腰で……。さて、連合軍の特別大佐は、どう出るか? 機嫌を損ねるか、それとも丁寧に要請するか、ミッハ・バージ
の“人物を見抜く”観察眼が鋭く光る。

 所が、ハロルドは彼の無礼を全く意に介さず答えた。

「火星軍だけでは、あの小惑星を止める事は出来ない。いや、地球と月、連邦軍の総力を以ってしても不可能だ」

 見下す様に、高圧的に……。
 バージ大佐は厳しい貌付きになり、静かに問う。

「それで……我々に降伏しろと仰るのですか?」

 ハロルドの言葉は屈辱的な勧告に思えたが、それは同時に希望でもあった。確実に生き延びる事が出来る、
数少ない選択。ああ、しかし、ハロルドは表情を歪め、大声を上げる。

「はぁ? 寝言は寝て言え。コロニー連合が手前等を受け入れると思うのか?」

 挑発的な言動に、バージ大佐は滅多に見せない怒りの色を露にした。

「では、何の用だと? 我々を嘲笑いに来たのか!」
「そんな無意味な真似して何になる!? 奴を倒すのに協力してやるから、手を貸せっつってんだよ!!」

 怒鳴り返すハロルドに、皆が声を失った。
382Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/18(日) 09:36:56 ID:eufJac2+
 長い沈黙の後、最初に口を開いたのは、やはりバージ大佐。

「……どう言う事だ?」
「あの小惑星を動かしているのは、アーロ・ゾット“元”コロニー連合総代表だ。奴は連邦軍の強硬派と、裏で何らかの
 取引をし、戦争の再開を目論んだ。結果、木星の巨大コロニー、ミレーニアが破壊され、1億人の命が失われた。
 我々はアーロ・ゾットを反逆者として誅する」

 ハロルドは不敵な笑みを浮かべる。

「あんた等にしても……悪い話じゃないだろう?」

 ヴァンダルジアを追って来た緊急討伐隊は、戦争再開に反対していた派閥の部隊。即ち、強硬派と対立する存在。
ローマンとダグラスの話から、ハロルドは緊急討伐隊の事情を解っていた。

「本当に……」

 それだけの理由で動いているのか……? バージ大佐は喉元まで出掛かった声を何とか留めた。
 ハロルドの様子からは、何か他の理由がある様に思えて仕方無かったが、迂闊な事を口走って、心変わりされては
一大事。些事は捨て置き、話に乗る。

「……あれを止める良い方法があると?」
「ああ」

 ハロルドは自信あり気に深く笑う。
 その場に居合わせた者は皆、彼の次の言葉に耳を傾けた。
383創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 09:42:21 ID:X1Asi3Vx
しえん
384Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/18(日) 09:47:27 ID:eufJac2+
 ハロルドは小惑星要塞について、知る限りの事を話した。
 正体不明の攻撃は、ビームを自在に操るD・Iフィールドに依る物だと言う事。小惑星要塞内に居るのは、アーロ・
ゾット唯一人と言う事。彼の恐るべき能力は、全てを可能にすると言う事。地球、月、火星、アステロイドベルト内の
人間は、全て殲滅対象となっている事。そして、全てを終わらせる、驚異の惑星パイルアップ計画の事……。

 ペリカンの皆が驚く中、ハロルドは構わず、小惑星を攻略する方法について話し始めた。

「先ずはMSを先行させ、D・Iフィールドを無効化する。図体のでかい艦は、この場で待機だ」
「……ビームを受ければ、MSだろうが艦だろうが、関係無く撃墜されると思うのだが?」

 バージ大佐は合間合間に、尤もな質問を挟む。

「D・Iフィールドを利用したビーム攻撃は、事前に察知する事が困難で、Iフィールドさえも無効化するが、対ビーム
 コーティングなら、ある程度は耐えられると思う。塗装面積が小さく済むMSで、数を頼りに攻めれば、敵は独り……
 必ず隙が生じる」
「耐えられるとは、どの程度?」
「知らん。余り当てにするな。それと、小惑星は重力で、周辺の岩石を引き付けている。遮蔽物として上手く利用する
 事が出来れば、簡単には墜とされない」

 ハロルドの答えには確実性が無く、参考程度に留めた方が良さそうだった。しかし、他に妙案がある訳でも無く、
バージ大佐は、彼の言う通りに実行する前提で話を進める。

「武器は実弾か……」
「ビームを操られてしまう以上、他に方法は無い。しかも、遠距離からの攻撃では、軌道を読まれ、叩き落とされる。
 リスクは大きいが、接近するしか無い」
「しかし、ビームが使えないとなると、装備の大幅な変更が必要になる。数に頼むのなら、応援を要請して万全の態勢で
 臨むべきでは?」
「どれだけ時間を掛ける積もりだ? 小惑星は、火星の軌道を逸らすのに必要な質量を蓄えれば、直ぐにでも動き
 出すだろう。速度は準光速、火星に衝突し、地球到達まで1日と掛からない。今は一刻の猶予も無い。何としても、
 アステロイドベルトを抜ける前に止めなくては」

 小惑星の攻撃の正体と、その対抗策を連邦本部に報せれば、より確実な勝利が狙える。しかし、それでは手遅れに
なるかも知れない……。暫し逡巡した後、バージ大佐は答える。

「……解った。それで、標的のD・Iフィールド発生装置は何処に?」
「BMSの集団に護られた、巨大MAが居る。“そいつ”だ」
「待ってくれ! 大型MA相手に実弾兵器、その上、物資の十分な補給も無しでは分が悪過ぎる。何か考えが……」

 慌てるバージ大佐に向かって、ハロルドは真顔で一本指を立て、彼の言葉を遮った。

「ある。そこで、提案だ」
385Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/18(日) 09:51:31 ID:eufJac2+
 ハロルドは格納庫内をぐるりと見回しながら言う。

「そちらにD・Iフィールド発生装置を搭載したMSがあったな? 確か……ガンダムエピオンだったか」
「何っ!? 同じ能力で、あの化け物ニュータイプに対抗し様と言うのか!!」

 バージ大佐が驚くのは当然である。
 この場に、いや、世界中を探しても、アーロ・ゾットに敵う能力者など居ないのだから。

「化け物?」
「いや、失礼した。仮にも、連合の総代表に対して……」

 失言だったと恐縮するバージ大佐に、ハロルドはシニカルな笑みを見せた。

「フッ、別に構わんよ。何より、事実だからな。“対抗”なんて出来る訳が無い……が、“抵抗”は出来るよな?」

 彼の問いに、バージ大佐は答え倦ねる。ニュータイプでない彼には何も言えない。
 ハロルドは強気な態度を変えず、声に力を込めて続ける。

「D・Iフィールド発生装置とニュータイプを貸せ。D・Iフィールドを最も威力の高いビーム兵器と組み合わせ、至近距離で
 撃っ放す! 能力を使うのは、攻撃を当てる瞬間の数秒で良い。他の事は心配するな。そこまでは俺が運ぶ。後の
 連中は敵の気を引き付ける囮役だ」

 バージ大佐は、いよいよ困った。彼のアイディア自体に異論は無いが、頼りにしたい2人のニュータイプは、アーロ・
ゾットの能力に中てられ、揃って不調。残念だが、ニュータイプは当てに出来ない。
 バージ大佐が口を開こうとした時……彼の背後から声を掛ける者が居た。

「成る程、面白い。D・Iフィールドを破る役目、この俺が引き受けよう」

 ハロルドとバージ大佐が、声のした方を見ると……そこには、自信に満ちた笑みを浮かべる撃墜王がいた。

「セイバー君! 体の調子は大丈夫なのか?」
「……はい。戦う前に負ける等、撃墜王のプライドが許しません。それに大威力のビーム兵器と言う点では、ΖU]を
 措いて他に相応しい機体は無いでしょう。俺以上の適任者は居ません」

 バージ大佐に気遣われたセイバーは、心配無用と威勢良く振る舞う。
 ハロルドは2人の会話を聞き、声を上げた。

「ΖU]、撃墜王……“流星群”か!」
「直接顔を合わせるのは初めてだな。この様な時が来るとは、思いもしなかった。宜しく頼む」
「ああ、任せな」

 歩み寄り、握手を求めて来たセイバーに、ハロルドは快く応じる。“蒼碧の流星群”と“土星の魔王”、連邦と連合、
両軍のエースが手を組んだ瞬間だった。
386Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/18(日) 09:53:22 ID:eufJac2+
「ヘイヘイ、そこの兄さん方、勝手に話を進めないで貰えますかねえ……?」

 盛り上がりムードに水を差して来たのは、“ゴートヘッズ”のズー・カンバーノ。

「未だ俺等は協力するなんて言ってないぜ」

 同じくブラド・ウェッジも後に続く。協調性の欠片も無い態度に、誰より先にハロルドが切れた。

「この期に及んで何言ってやがる? チキン野郎は機体だけ置いて帰れよ」

 その余りな言い草にブラドは逆上し、ハロルドに詰め寄ろうと足を踏み出す……と、ミノ・カレンが彼の前に腕を
差し出し、制止した。

「リーダー!」

 抗議の声を上げるブラド。しかし、ミノは彼に軽蔑の冷たい眼差しを向ける。
 その澄んだ黒い瞳は、弱く醜い心内を見透かしている様で、目を合わせてしまったブラドは怯み、釈明を始めた。

「……お、俺だって解っていますよ! 今が、どんな状況かって位……。でも、俺等は軍人とは違う! 任務の為に
 連邦軍と行動を共にしていましたが、本質は飽くまで、軍とは無関係なスイーパー。そう言う契約だった。理不尽な
 命令に従う義理も道理も無いって……そうでしょう!?」

 同意を求められても、ミノは表情を変えない。実際、変えていないのだが、自らの発言に後ろ目痛さを感じていた
ブラドには、益々険しくなって行く様に見えていた。

「いや、ここで逃げる訳には行かない事くらい解ってますって! 火星も月も地球も無くなっちまうんですから……。
 初めっから、正式に要請があれば協力する積もりでしたよ!? しかし、無視された儘では!」

 無言の相手に必死で取り繕う様が、傍目には何とも滑稽で……。
 リーダーに睨まれて狼狽えるブラドを他所に、ズーはハロルドとバージ大佐に向き直る。

「……そう言う訳なんで、協力は惜しみませんから、成功の暁には報酬に色を付けて貰えませんかね?」

 戯けて謙る彼に、バージ大佐は苦笑しながら頷いた。
387創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 09:56:51 ID:eufJac2+
>>383
支援ありがとう!
これで27話まで終わりです。
388Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/25(日) 13:15:09 ID:v3NFSBet
自ら何か話題を振るべきか
389Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/25(日) 13:16:16 ID:v3NFSBet
 MSの大改装は、ヴァンダルジアの整備士も協力して、急ピッチで進められた。
 しかし、それに乗込むパイロットの表情は浮かない。

 この時代でもビームは主力兵器。完全なビームコーティングが普及しても、一撃で装甲を貫く威力は、他の兵器に
無い魅力。サーベルからマシンガン、ライフル、バズーカ、キャノンに至るまで、どれだけの兵器がビームに取って
代わられたか知れない。それを捨て、旧時代の様な装備で戦わなければならない不安は大きかった。

 加えて、サイコミュ兵器まで封じられるのでは、敵に傷一つ付けられないのではないか……。相手は自由にビームを
扱う事が出来るのだ。連邦兵士の憂慮は尤もである。

 不安はゴートヘッズの者も同じだった。ビームが通用しない相手に備え、専用の実弾兵器を用意していた事は幸い
だったが、今度の相手は桁が違う。性能差とか、実力差とか、そう言うレベルの問題では無いのだ。
 一撃当てれば、どんなに高性能だろうが、MSは所詮MS。ニュータイプもオールドタイプも無関係。しかし、アーロ・
ゾットは……。

「無理だ……」

 弱音を吐いたのは、ジェント・ルーク。パイロットスーツを着て、既に換装を終えた機体に乗込み、後は出撃を待つ
だけと言う状況で、彼はハッチも閉めずにコクピットで蹲っていた。

 セイバーやリリルの様に、ジェントも微かではあるが、アーロ・ゾットのプレッシャーを受けていた。
 それでも能力の低さ故に、影響は“嫌な予感がする”程度で済んでいたのだが、エピオンに乗込み、OZシステムを
起動させた事で、“予感”が“確信”に変わってしまった。
 OZは強大な敵を認識し、ジェントに圧倒的な能力差と暗黒の未来を見せ付ける。
390Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/25(日) 13:18:33 ID:v3NFSBet
 何時まで経っても動かないエピオンを気に掛けて、リーダーのミノ・カレンが機体から離れ、コクピットを覗き込む。
 外から差し込むライトを遮る人影に、ジェントは顔を上げた。

「……リーダー? 俺は駄目です……。あんな奴に勝てる訳が無い」

 変わらず無言のミノ。その真っ直ぐな瞳から、ジェントは目を逸らし、頭を抱える。

「駄目なんですよぉ……。ゼロは俺に絶望しか教えてくれない……」

 情け無い声を出すジェントを、ミノは憐れむ様な目で見詰めた後、そっと彼の頭を胸に抱いた……かと思うと、
ヘルメットの後頭部からOZシステムに繋がって伸びるコードを、力任せに引き抜く。そして、小声で一言。

「未だ見えるか?」

 唖然とするジェントを置き、さっさとフーマに戻ってしまう。

 感覚を“1つ”奪われた事で、益々不安になったジェントには、リーダーの華奢な背が、誰より力強く見えた。しかし、
彼女が何を思って戦うのか、ニュータイプの成り損ないには解らない。

「貴女は何故、戦えるんですか? 俺には解らない。解らないから、瞞かしの希望に縋る? それとも、貴女は俺には
 見えない物が……? 教えて下さい、リーダー。解らないから不安なんですよ……」

 ジェントは目を閉じた。格納庫には、重い空気が充満している。この艦だけでは無い。宙域全体を窒息死しそうな
程の靄が包み込んでいるのが解った。彼の精神状態を表すかの様な、巨大な靄。これがジェントの物でない事は、
本人も判っている。“成り損ない”の彼に、そこまで強い影響力は無い。詰まり、この靄の正体は……。

「これは……不安なのか? 皆の?」

 ふと気付き、ジェントは独り、笑い出した。
 この不安は皆が感じている物。彼はニュータイプとは何なのか、その本質を初めて知った。

 宙域を覆う暗雲の中心には、朧に光る小さな希望。皆、それを心の支えにしている。

「ハハハ、解りました……。解りましたよ、リーダー。目が覚めました。俺はゼロに頼って、他人より先を見る事に拘る、
 小狡い人間になっていた。もう、こんな物には頼らない。俺も皆と一緒だ……!」

 不安に揺れる心の光が、小さな希望の灯に集まって、明るく燃え上がり、闇を晴らす。吹っ切れたジェントには、
勝利へと続く未来が見えていた。
391Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/25(日) 13:22:08 ID:v3NFSBet
 他方、バウ・ワウとΖU]は、ハロルドの指示で、不細工な改造を施されていた。
 信じられるだろうか? バウ・ワウの右腕にMA形態のΖU]を括り付け、バランスを取る為に、左腕のシールドに
有りっ丈のスラスターを取り付けているのだ。一応、前には進むだろうが、非効率極まりない。その上、格闘戦は当然
ながら、射撃さえも不可能。バウ・ワウはΖU]を運ぶだけのMSになっていた。
 しかし、ハロルドは満足そうに頷いている。ペリカンの整備士だけでなく、ヴァンダルジア側からも、“これで良いのか”
と再三確認を求められたが、彼の考えは変わらなかった。

 これに乗込まなければならないセイバーからも、苦情が出るのは必至。しかし、この場に彼は姿は無い。
 不審に思ったハロルドは、近くを通り掛ったファルメ整備班長に尋ねた。

「班長、撃墜王を見なかったか? さっきまで居たんだが……」
「知りません」

 彼女の返事は素っ気無い。その態度に思う所があったハロルドは、物の序でに問う。

「一つ、聞いても良いか? 班長は……何故、残ったんだ?」

 ファルメは困り顔で溜息を吐いて見せた。

「……そんなどうでも良い事を訊かないで下さい。今は手を動かしていたいんです」

 そして、感情を抑えた口調でハロルドを突き放し、機体の改造作業に戻る。
 クーラーと同じく、故郷のミレーニアを失った彼女が何故、敵に手を貸す様な真似をしているのか、その理由は解らず
終い。冷たく遇われたハロルドは肩を竦め、それ以上の追求を諦めた。
392Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/25(日) 13:25:42 ID:v3NFSBet
 その頃、セイバーは自慢の愛機の現状も知らず、独り医務室に向かっていた。
 火星軍が小惑星と対峙する前、彼はバージ大佐に後方待機を進言した後、医務室で精神安定剤を服用した。その
御蔭で一時は落ち着いていたのだが、効力は長続きせず、ここに来て悪寒が振り返してしまった。
 元より応急的な処置で済むとは思っていなかったが、余りに短過ぎる。このプレッシャーはセイバーを意識した物では
無い。“それで”この様では、攻撃を仕掛ける際、アーロ・ゾットの目に留まり、敵意を浴びせられた時、平静を保って
いられる自信が無かった。
 未だ足りない……。大量の服用は危険と解っていても、セイバーに我が身を顧みる余裕は無い。この作戦は最後の
希望。土壇場で失敗は許されず、エースの彼を措いて、この大役を熟せる者は居ない。

 早足で急ぐセイバーは、医務室前の廊下でリリルと鉢合わせ、足を止めた。
 リリルは彼を見るなり、平然とした表情で尋ねて来る。

「クロス中尉、大丈夫ですか?」
「それはこちらの台詞だ」

 傍目に判る様な弱り方をしていたのか、それとも同じニュータイプだからなのか……。
 セイバーは顔を顰めて言い返した。エルンストから、彼女は狂乱して気絶したと聞いている。
 しかし、今のリリルはアーロ・ゾットのプレッシャーを全く問題にしていない様子。

「はい。御心配をお掛けして申し訳ありませんでした」

 涼しい顔で答える彼女に、何処か小憎らしさを覚えるセイバー。何故、この少女はプレッシャーの影響を受けない
のか……? 疑問の眼差しを向ける。

 そんな彼の態度を気に留める事無く、リリルは言った。

「所で……御来客の様ですね。今、何が起こっているのか、詳しく教えて下さい」

 彼女の真っ直ぐな瞳には、強い意志が宿っている。それは使命を負う者の眼。
 セイバーはリリルが纏う雰囲気に呑まれていた。何時の間にか悪寒も和らいでいる。彼はリリルから、彼女の物とは
違う、別の気配を感じていた。

(この感覚……俺は知っている? これは……)

 直感的に、ある人物が思い浮かぶ。
 セイバーは自分が医務室に向かっていた事も忘れ、これまでの経緯をリリルに語った。
393Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/25(日) 13:29:47 ID:v3NFSBet
 リリルを連れて格納庫に戻って来たセイバーは、バウ・ワウに括り付けられたΖU]を見て唖然とした。
 ハロルドが“運ぶ”と言ったのは、護送する等の比喩では無く、言葉その儘の意味だったのだと今更ながら知った。

 立ち尽くす彼を置いて、リリルは機体を眺めるハロルドに歩み寄る。

「子供が何の用だ」

 少女に気付き、悪態を吐いたハロルドに、リリルは溜息で応える。

「貴方だったのね……。まあ良いわ、私も“アレ”に乗せなさい」

 真っ直ぐに伸ばした彼女の右腕、人差し指の先にはバウ・ワウ。その傲慢な物言いに、ハロルドは怒るより驚いた。

「お前は突然、何を言い出すんだ? 自分の機体があるだろうがよ」
「残念だけど、ヒマワリは役に立たない。完全サイコミュコントロールだから、乗っ取られてしまう」
「じゃあ、大人しく引っ込んでな。それにコクピットに他人が乗込む余分なスペースは無い」
「あるじゃないの」

 バウ・ワウの下腹部コクピットを何度も指し、リリルは当然の様に言って退ける。
 そこは相棒の指定席。色を成し、声を発そうとしたハロルドだったが、セイバーが彼の先を封じる。

「俺からも頼む。そこには彼女を乗せるべきなんだ」

 撃墜王の申し出に、ハロルドは冷静になって一考した。“乗せるべき”との言い方は気に掛かるが、能力を利用する
ならニュータイプは多い方が良いのか? オールドタイプの彼には、よく解らない。同じニュータイプのセイバーが、
そう言うのなら、従った方が賢明なのだろう。思案の末、ハロルドは肯く。

「分かったよ。それは良いんだが、操縦は出来るのか? 無理ならオートに任せて座っていろ」

 余計な事はするなと暗に言ったハロルドに、リリルは自信あり気な笑みを見せた。

「私は“ニュータイプ”。この意味が解る?」

 “ニュータイプ”……環境に適応する能力。ある時代には、その様な使われ方をした言葉。
 ハロルドは彼女の侮る様な口調を不快に思いながらも、ニュータイプの言葉が持つ妙な説得力に反論しなかった。
394Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/10/25(日) 13:33:07 ID:v3NFSBet
 バウ・ワウ以外のMSは、既に換装が済み、何時でも発進出来る状態。バウ・ワウの改造が完了する目処が立った
所で、先ずは小惑星の注意を引く為に、囮攻撃の第1陣が出撃する。
 ゴートヘッズとV7ガンダム、総数100機に満たないが、これが囮に割ける全戦力……。
 3、4機の小隊に分かれ、高速で展開しながら接近しても、その動きはアーロ・ゾットに見抜かれていた。小惑星周辺
の岩石帯に辿り着く前に、全機がターゲッティングされる。

「高々数十機で、何をしに来た? 愚かな……」

 D・Iフィールドが粒子を導き、霧の様にV7ガンダムの一群を覆う。

「散れっ!」

 カッ……!

 何も無かった空間に、突如、無数の大光球が発生し、10もの小隊が呑み込まれた。
 しかし、ビームコートに包まれたガンダムは無傷! 何度も耐えられる物ではないが、第2撃が来る前に岩石帯に
取り付く事に成功する!

「対ビームコーティング! 知恵を働かせたか……賢しい!」

 本当の戦いは、ここから。ヴァルキュリアスの大群がガンダムに迫る。
 ガンダムは敵のビームに耐えながら、ヴァルキュリアスを引き付けなければならない!
395創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 13:36:44 ID:v3NFSBet
28話完。そして最終決戦へ。
396創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 11:00:33 ID:oUA1QtLU
なぜZをバウの中心に着けなかったのかわからないけど小さい事は気にしないぜ

過疎あげ
397創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 12:51:24 ID:2LfC1tQu
U.C300くらいってどうなってんのかな?
398創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 17:49:23 ID:R4nnW95D
Gセイバーが0220くらいだったはずだからとっくのとうに地球連邦もないな
399創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 17:58:44 ID:g9gt1HK/
マジカル騎士マリアちゃんがU.C.2011年放送になってた
400創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 22:27:03 ID:muDqtkkB
ガンダムが出てきて戦うから「ガンダム」っていうのは一番お粗末
401創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 06:23:06 ID:B0pmPQyL
Vガン外伝で外宇宙に植民成功するのがかなりの未来だったはず
402創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 07:32:32 ID:f0FSp2oy
宇宙世紀653年
だがそれは人類には関係のない物語である
403MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/29(木) 04:16:31 ID:/pk5kReU
蒼の残光 10.「蒼の残光」 告白

気が付けば400字詰原稿用紙600枚を超えている件について


404MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/29(木) 04:17:59 ID:/pk5kReU
 その時、スティーブ・マオは最低限の手荷物を纏め、自室を後にしようとしていた。
「さて、これでよし、と。それじゃ行きますかな」
 マオは後ろの研究者風の男女に声をかけた。
「準備は出来ております、どうぞ」
「急いで下さい、戦闘が激化して流れ弾も多くなっています」
「すいませんな。データコピーに手間取りました」
 マオは相変わらず鷹揚な態度を崩すことなく答えた。
「しかし、これで完璧です。あなた方の欲しがっていたものは残さずコピー出来ました」
「感謝いたします。ミスター・マオ」
「いやいや、このくらいはお安い御用ですよ。私を見捨てず拾って頂けるのなら、木星の
技術くらいいくらでもお見せしましょう」
 そう言ってマオはブリーフケースをポンと叩いた。
「ではミスター・マオ。そろそろ」
「そうですな、逃げ出す前に艦が落とされてはたまらない。急ぐとしましょう」
 そう言うと、マオはAEから秘密裏に派遣された技術者と共に脱出用ランチに向かって
歩いて行った。



 俗人の思惑はともかく、戦場ではオリバーがその力を暴走させ、敵味方問わず恐慌状態
に落としていた。
「死ね、死ね、死ね、死ねー!」
 両軍の将兵の中には適正試験でも発見出来ないほど微力ながらもNTの素養を持つ者も
数人いたのだが、そのような微弱な知覚力でさえオリバーの狂気を含んだ叫びが直接響き、
無駄と知りつつ両耳を塞ぎその不快感に耐えなければならなくなった。
 全く能力のない者ですら、ただならぬ敵意と危険を感じ本能的にオリバーから距離を置
こうとしていた。
「何者だお前は?一体何だその力は!OTのくせに!地球から逃れられない旧人類のくせ
に!」
 その声はユウには聞こえない。NTのオリバーを翻弄し、恐怖すら与えるほどの戦闘セ
ンスを持ちながら、それでも彼はOTであった。
 二十基以上のファンネルが宇宙を舞い、敵も味方も無差別に攻撃し始めた。オリバーと
ユウに比較的近い位置にいたジムが、ドライセンが、人間サイズの無人攻撃端末によって
蜂の巣にされていく。ハンニバルはこの世に週末をもたらす炎の巨人(ムスッペル)さな
がらに辺りに死と破壊を撒き散らしていた。
「オリバー!やめろ、やめるんだ!」
 アランが声を枯らして呼びかけ続けるが、オリバーは全くその言葉を受け入れていな
かった。もっとも、アランには全く攻撃が来ないところを見ると、アランだけは認識でき
ているのかもしれない。
 ユウはその時、この無差別攻撃を避けるのに全神経を集中させていた。
「くう!こいつは……!」
 攻撃が読めない。ユウは経験と自らの戦闘センスで相手の攻撃の先を読む。ユウがオリ
バーの攻撃を読み切り、躱す事が出来たのはオリバーの攻撃が理に適っていたためである。
正しく敵の死角から死角へと移動しつつ正確な攻撃をしてくるが故に、いかに速く、的確
であろうとも、いや的確であるからこそユウにはその攻撃ポイントを予測する事が可能
だった。絶対的な経験不足のオリバーの攻撃は素直すぎたのである。
 しかし、今のオリバーの攻撃行動には理も則もなかった。感情に任せてファンネルを飛
ばし、本能のままに撃ってくる。反応の速さに頼ったようなその攻撃は、思考がない故に
ユウにも先が読めず、そして単純な反応の速さ勝負ではNTのオリバーの敵になりえな
かった。直撃を避けているのはオリバーが周囲全てに攻撃を分散させているために密度が
下がっているからにすぎない。
「どうする――?」
 恐らく相手は動くもの、敵意や殺意を発するものに攻撃している。この場から動かず、
攻撃の意思を放棄すれば攻撃される事はない。しかしそれでは状況を打開する事も出来な
い。まして今、マリーのために戦ってくれている味方が撃墜されている。このMSは自分
が相手をすると自ら宣言したのだ。
「どこを見ている?俺はここだ!」
405MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/29(木) 04:18:53 ID:/pk5kReU
「どこを見ている?俺はここだ!」
 回線は繋がっていないが、構わずユウは声に出して挑発した。今の状態なら十分に伝わ
る確信があった。
 そして実際、方々に散っていたファンネルが一斉にユウ目掛け殺到してきた。
 ユウは全神経を集中し目視出来る限界の攻撃端末の動きを追跡した。頼れるのは目とセ
ンサーの捕捉音。
「そこだ」
 右上方の空間に向けてスネークショット。小さな火球が広がる。思った通りだ、とユウ
は呟いた。感情に任せた攻撃で制御に繊細さが失われている。ユウの攻撃を察知しても全
てを回避しきれなくなっているのだ。何度か繰り返せばファンネルの数を相当数減らせる
かもしれない。繰り返せるほど敵の攻撃に耐えられればだが。
 死角からの攻撃が左肩を掠めた。やはり狙撃ポイントも雑になっている。しかし桁違い
の速さ故に却って予測が難しい。
「!?」
 右後方からの斬撃に思わずライオットガンで受けた。アランの画戟とユウのライオット
ガンが激突し、鍔迫り合いの様な形になる。
「死ね、ユウ・カジマ!お前が死ねばオリバーも正気に戻る」
 接触回線となってアランの声がコクピットに流れてきた。ユウはそれには答えず、ただ
彼にとって最も重要な事柄を訊いた。
「何故マリーを攫った!」
「マリー?――そうか、そう呼んでいるのか――必要だからだ。我等の計画にも、オリ
バーのためにも!」
「勝手な事を!」
天地両方向からファンネルの攻撃があり、ユウとアランは弾かれるように飛び退き距離を
取った。
 機体を錐揉みさせながらもオリバーのMSの位置を確認し、スラッグショットに切り替
えて必殺の一撃を撃った。
 そのビームがハンニバルの手前でかき消された。
「何だと!?」
 Iフィールドなのか。しかし少なくとも一基は潰している。それだけではなく――
 ユウはもう一発スラッグショットを撃った。結果は同じだった。
「Iフィールドを常時展開しているのか?しかしそれだけの出力があのサイズのMSに積
めるのか……」
 ニトロシステムについては連邦は情報を得ていた。それを使えばIフィールドを稼動さ
せるだけの出力は得られるだろう。しかしニトロは長時間稼動させるシステムではない。
Iフィールドの常時展開など不可能なはずだ。
 理由はともかく、ビームは届かない事は確実だった。接近戦から零距離でミサイルを叩
き込むしか確実に墜とす方法はないようだ。
 しかし接近するにはファンネルの弾幕ともう一つ、危険な強敵からも身を躱さねばなら
ない。
 アランのハンニバルが大業物を振り回しつつ襲い掛かってくる。シールドを失ったBD‐4は左手に構えたビームサーベル一本でこれを受けるしかない。接近戦に特化させて調
整されたMSを相手に敵の間合いで戦えばいかにユウと言えども容易な戦いではない。
 アランにとってもギリギリの戦いである。オリバーのファンネルはアランを狙わないが、
アランがこうしてユウに格闘戦を挑んでいても構わずユウに攻撃する。常に流れ弾の危険
に晒されながら格闘戦においても非凡なこのエースを討たねばならない。
「怪物め」
 本心から口にしていた。OTでありながら異常なまでの洞察力と反応速度を持ち、NT
すら圧倒する戦士、NTとは別方向に発達した異能者。アランにはユウが自分達と同じ人
間とは思えなかった。
 アランはニトロのボタンを押した。出力、推力を二倍にBD‐4に襲い掛かる。
「くっ!……」
「くぅ……!」
 苦悶の声は双方から上がっていた。ニトロによる爆発的な加速とGは操縦者にとっても
負荷を強いられるのだ。
「さすがに、そろそろ堪えてくるな……」
 ユウが到着する前から数に勝る連邦MSを押し戻すのに何度もニトロを起動させている。
肉体が悲鳴を上げ始めていた。
406MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/29(木) 04:20:46 ID:/pk5kReU
「だが後一歩だ。この男を除く事が出来れば勢いを殺げる。それが出来なくても後六分で
コロニーレーザーのチャージは完了する」
 軋む肉体を奮い立たせ方天画戟を振るう。ユウはサーベルでその柄を斬ろうと反撃した
が、分厚い耐ビームコーティングが一太刀を堪えさせた。
「甘いぞ、ユウ・カジマ!」
 構わずパワーで押し切ろうとするハンニバルからBD‐4はギリギリで逃れた。
(このままでは負ける)
 ユウは現状に対しシビアに分析した。一対一で互角の相手を二機同時に、しかもそれぞ
れの得意とする距離で戦っていては劣勢を挽回する事は不可能に近い。
 ユウは勝てない状況では引く潔さも持ち合わせている。三対一、四対一でも滅多に遅れ
を取る事はないが、常に囲まれない位置取りをし、囲まれると判断した際には無理せず離
脱し仕切り直す冷静さがある。今彼の戦士としての嗅覚は一度距離を取って戦い方を再考
すべしと教えていた。
「ここで退く時間など!」
 初めて自身の鳴らす警鐘を無視して戦いを続行した。マリーを助けるタイムリミットが
残り僅かである事を感じていた。体勢を立て直す時間などない事を同じく戦士としての勘
が伝えていた。
 その覚悟をオリバーが知覚した。半狂乱と言っていい混濁した意識の中、ユウの気配を
察する能力と殺意だけはますます研ぎ澄まされていた。
「ユウゥゥゥゥゥ!」
 戦場一帯をオリバーの殺意が爆風のように走り抜けた。OTでさえ、肌が粟立つのを感
じるほどの強力な思念だった。
 全てのファンネルがユウを取り囲み、ハンニバル本体のメガ粒子砲が砲門を輝かせる。
巻き込まれる事を恐れたアランがユウから距離を取った。
「舐めるな!」
 ユウはスラスターを全開にオリバー目掛けて突撃する。被弾を覚悟で密着するつもりだ。
「同時――いや、オリバーが速い」
 アランが呟いた。彼にはオリバーに届くことなく四散するBD‐4の姿がはっきりイ
メージされていた。

――駄目。

 ユウ、そしてオリバーにのみ聞こえる声が響いた。
407MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/29(木) 04:21:28 ID:/pk5kReU
「!?」
「!?」
 オリバーの引鉄を引く指が一瞬遅れた
 ユウの手が操縦桿を僅かに押し下げた。
 必殺のオールレンジ攻撃はBD‐4を捉えず、決死の特攻はハンニバルの足下を通り過
ぎた。
「マリオン!」
「マリー!」
 二つの名で呼ばれる一人の女。返答は夫に対してのみ返された。

――ユウ。ごめんなさい

「マリー、無事か?どこも痛くはないか?」

――オリバーの声で意識が戻ったの。でも、あまり長い時間は……

「無事ならそれでいい。待ってろ、今助ける」

――ごめんなさい……あなたを騙すつもりはなかったの。でも……あなたとは、最初から
始めたかったの……

「後でゆっくりと話そう。あまり喋るな」

 マリーの声は弱く、苦しそうだった。どんな状態なのかわからないが、こうして思念を
飛ばすのはかなり消耗するのではないか。ユウはそれが心配だった。

――グラナダであなたを見た時……すぐに判ったわ。あなたがユウだと。……ずっと逢い
たいと思ってた……でも、私の事を知られるのは怖かった……

「いい。俺は何も気にしていない。俺にとってお前はマリー・ウィリアムズだ。それだけ
が真実だ」

――ありがとう、ユウ……ありがとう

「待ってろ、今助けてやる」

――もうすぐ……充電が終わるわ……そうしたら、もう……

「判った、その前に片を付ける」

――ごめんなさい。今の私では……あなたの力になれない……

「マリー、俺を信じているか?」

――?

「俺はお前を助けると言った。その言葉を信じるか」

――はい

「それで十分だ」
 ユウは不器用に笑って見せた。マリーに見えているかは判らないが、見えていると信じ
て笑って見せた。
「お前が俺を信じる限り、俺に不可能はない!」
408MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/10/29(木) 04:31:07 ID:/pk5kReU
あ、2頁目の1行目前の行が重複しちゃった


ここまで


さすがに「レイーン!」ほどのインパクトは出せないか。ユウとしては精一杯のクサイ科白だけど。

ノート
使わないまま裏設定になった設定;BD‐4のバックパック、下半身には仮設のコクピットを着ける事で
有人戦闘機として独立して運用できます。上半身にバウのバックパックを装着して、仮設コクピットに
Gディフェンサーと同じ自立飛行能力を持たせれば別個の戦闘機として運用した後合体する事も。
全くメリットは見出せませんがw
409創る名無しに見る名無し:2009/10/29(木) 21:46:59 ID:p7zOuG4S
ひゃっほう!言い切った!
410創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 14:03:57 ID:vtX41Gqh
最大の問題:オリバー君にこれが聞こえている可能性大であることw
411創る名無しに見る名無し:2009/10/31(土) 00:11:57 ID:dmt4cv/Y
初恋の女性が新婚さんになってた上に
目の前でイチャつかれたのだから
精神的に死んでてもおかしくはないな
412Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/01(日) 11:10:55 ID:UT1QYYDd
投下開始します
413Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/01(日) 11:13:22 ID:UT1QYYDd
 ガンダムは岩石に隠れ、小惑星を取り囲んだ。スラスターの炎が暗闇に灯り、ゆらゆらと舞う。
 各小隊は連携を最小限に留め、独立して行動する。隊列を組んで行動していては、先を読まれてしまう。効率は
悪くても、相手を撹乱する事を優先させた。

「ブラド、ズー、ジェント! レイジング・テンペスト、フォーメーション」

 銃火が飛び交う中、ゴートヘッズのリーダー、ミノ・カレンが声を発する。

「リーダー、あれをやるんですか!?」

 驚くブラドを無視し、ミノはMAに変形したガンダムエピオンWの背にフーマガンダムを乗せる。ミノとジェントは既に
覚悟を決めていた。ブラドとズーの答えを俟たず、ヴァルキュリアスの大群に向かって突撃する!

「なっ!? 待っ……」
「あらら……2人共、豪く気合が入ってんじゃないの」

 呆れ気味に呟くズーに、ブラドは溜息を吐いて愚痴った。

「……この戦いが終わったら、俺はスイーパーを辞める。連邦軍から大金をせしめて、絶対に辞めてやる。そんで
 以って、太平洋の小島で静かに暮らすんだ」
「そいつは良いな。俺は久方振りに故郷に帰ってみようか……。この戦いに勝って、英雄として凱旋するのも悪かない」

 ハイパー・メガ・カノンの代わりに大型ミサイルランチャーを担いだハイパーウェポンガンダムが、“フーマガンダムに”
照準を合わせ、大量のミサイルを発射。ブラスターの代わりにヘビーマシンガン付きランサーを携えたソードボーン
ガンダムが、そのミサイルの雨に紛れて進む。

 敵機を掻い潜るエピオン、擦れ違い様にフーマの刃が切り付ける。後からミサイルが追撃ちを掛け、取り零しを
ランスが貫く。4人揃って完璧なレイジング・テンペスト。荒れ狂う嵐が過ぎ去った後には、敵の骸が残るのみ!
414Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/01(日) 11:15:25 ID:UT1QYYDd
 ゴートヘッズを始めとして、囮の先鋒は健闘した。元々、V系統のガンダムはハンガー、ブーツ、コアの3機合体。
一部が破損しても、その部分を切り離して戦える。敵の武装がビームに偏重していた事も幸いし、簡単には戦闘
不能に陥らない。攻撃はヴァルキュリアスに留まらず、小惑星地表のブラックコスモスにまで及んだ。

(……手の内を知られている? 敵も必死か)

 敵ガンダム小隊には統制が見られず、その行動を体系的に捉える事が出来ない。しかし、アーロ・ゾットは深刻に
憂う事無く、敵の分析能力を認めた。これは“余裕”である。
 圧倒的な数の差と、内部無人工蔽。この程度の戦力では、ヴァルキュリアスの数を減らす事は出来ても、小惑星に
直接的な損傷を与える事は出来ない。出来るのは囮くらいの物。アーロ・ゾットは、この攻撃が陽動であり、本気で
小惑星を破壊する積もりが無い事を見抜いていた。

 これでは、囮にすらならない。

 ドゴォッ!!

 破損したブラックコスモスの残骸を、新たなブラックコスモスの蕾が突き破る。妖しく美しく咲いた花からは、またしても
BMS。数が足りない。何より、攻撃力が足りない。

「何時までも遊びに付き合っては居られないのでな」

 アーロ・ゾットが目を閉じると、思念波に惹かれて無数のコードが伸び、繭の様にコントロールルームの彼を覆う。
 最終手段……自身の中枢機能化。今まではBMSその他、小惑星の機能を脳波で意識的に操っていたが、自ら
生体コアとなる事で、敵を殲滅する為の行動を脳に機械的に判断させる。
 無意識の領域まで完全活用した演算、強力なニュータイプ能力、目的を決定する意志。全てが一体となった無欠の
コアは、より正確に、より効率的に、より無感情に、破壊の限りを尽くす。これで彼は本当に後戻り出来なくなった。

 ヴァルキュリアスの動きが見違える程に良くなり、繰り返し浴びせられるビームがコーティングを容赦無く剥ぎ落とす。
激化する小惑星側の攻撃に応じるのが一杯で、戦闘中の者は誰一人気付かなかった。
 小惑星が微速漸進を始めた事に……。
415Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/01(日) 11:19:38 ID:UT1QYYDd
「小惑星が動き出した」

 ペリカンのブリッジで情報収集艦から報告を受けたバージ大佐は、無線でハロルドに事実だけを端的に伝えた。
 直ぐに発進出来る様に、コクピットで待機していたハロルドは、小さく舌打ちして返す。

「未だ少し時間が掛かる。先に出た奴等は上手くやってくれているか?」
「……先程から敵機を減らせていない。これ以上は辛い」

 バージ大佐は苦渋に満ちた声で答えた。再生する敵を相手に、数の差は覆し難い。それはハロルドも承知していた。

「では、待たなくて良い。第2陣を向かわせ、第1陣と入れ替えろ」

 第2陣はバウ・ワウと同時に出撃し、囮と護送を兼ねる予定。バージ大佐は問う。

「良いのか?」
「貴重な戦力を見殺しには出来ん。D・Iフィールドを無効化して、それで終わりじゃないんだ」

 ハロルドは正義感で人命を惜しんだのでは無い。D・Iフィールド発生装置を破壊しても、小惑星を止められなければ
負けなのだ。終始、細い綱を渡るが如く、1つ欠ければ全てが台無しになる。彼の言葉は、この戦いが如何に無謀な
物であるかを物語っていた。

 バウ・ワウの出撃に備えて控えていた第2陣のリーダー、火星軍のエース、マーウォルス・ザンザストン大尉は、
ミッハ・バージ大佐の指示を受け、静かに呟く。

「漸く出番が来たのは良いが……さて、あれをどうした物か? しかし、他所のエースをアシストする位なら、この方が
 気楽と言える。我ながら難儀な性格だ」

 第2陣はV7ガンダムに加え、量産ディフェンダーガンダムと1機のバウンティハンターガンダムで構成されている。
マーウォルスは小惑星に突撃する前に、毛色の違う他所者に声を掛けた。

「おい、新人……本当に例の手を使うのか?」
「はい。ここで連合のエースに頼りっ切りでは、余りに情け無いでしょう?」
「フフッ、全く恐れ知らずよ。良いだろう、俺に付いて来い! 全機、全速前進!! これが最後だと思って、派手に
 暴れろ!!」

 マーウォルスの命令に従い、白いスラスターの炎が小惑星に向かって行く。
 魂の輝きを放つ星に吸い寄せられるガンダムは、夜光灯に集う夏の虫の様だった。
416Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/01(日) 11:23:51 ID:UT1QYYDd
 小惑星の重力に引かれ、直径10km級の岩石が2つ追従する。静かに速度を上げて行く、不気味な大球体。
 恐れを成したかの様に撤退を始める第1陣と入れ替わり、第2陣が矢面に立つ!

「交替を繰り返そうが、同じ事だ。我が方の兵力を削ぐ事は出来ん」

 コードに覆われたアーロ・ゾットは唸る様に低く呟いた。
 ガンダム1機に対して、ヴァルキュリアスが2、3機で応じる。それでも未だ小惑星を十分に守れるだけの余裕があり、
連邦火星軍側は徒に全滅までの時間を引き延ばして、消耗し続けるしか無い。
 装甲の厚いディフェンダーガンダムと言えど、これも強力なビームの直撃を何度も受けていれば、コーティングが
弱まって撃墜されるのは同じ事で、耐えられる回数が他のガンダムより2、3回多い程度に過ぎない。

 第2陣から遅れる事、十数分、第1陣が帰艦すると同時に、漸くバウ・ワウが出撃した。
 全身に隈無く分厚いビームコーティングを施された機体は、ヴァンダルジアと同じ赤錆色。これが意味する所を、
ハロルドは知っていた。赤は、木星大赤斑の赤。恐らく、ファルメ整備班長の指示なのだろう。木星の、ミレーニアの、
ダグラスの想いを乗せて……。連邦に与する事に、引け目は要らないと!

「流星群、行けそうか?」
「問題無い」
「良し!」

 静かに応えたセイバーに、ハロルドは深く頷き、続いてリリルに声を掛けた。

「小娘! 土星ロケットエンジン、ブースト全開だ! 何があっても絶対に緩めるな!」
「私にはリリルと言う名前がある」

 しかし、少女は冷たく反抗的に返す。瞬間的な怒りを抑え、ハロルドは溜息を吐いた。

「……ああ、ああ、分かったよ。リリル、最初から飛ばして行く!」
「了解、ハル」

 聞き違いだったか? 耳慣れた相棒の言葉が、少女の声と被って聞こえた。
 親しい訳でも無い人間を、ニックネームで呼ぶのはあり得ない。聞き違いだ。そうに違いない。

 ゴォオッ!!

 リリルに先程の事を問い質す前に、急加速の衝撃がハロルドを襲った。染み付いた経験で、反射的に体が動き、
機体を制御する。今は、どうでも良い事に気を取られている場合ではない。ハロルドは頭を振って思い直し、小惑星を
睨んだ。
417創る名無しに見る名無し:2009/11/01(日) 11:26:09 ID:UT1QYYDd
これにて29話完。もう少しのお付き合いを。
418創る名無しに見る名無し:2009/11/01(日) 12:47:38 ID:FC7slJch
419MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/02(月) 02:03:33 ID:7U5xEykw
蒼の残光 10.「蒼の残光」 相克


時代と運命に翻弄された男、その最期の時
420MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/02(月) 02:04:14 ID:7U5xEykw
 コントロール室の異変はモニターを通じ直ちにリトマネン司令部に伝わった。
「コントロールコアが意識を取り戻しました!」
 司令部に動揺が走る。リトマネンは極力冷静を保ち周囲を落ち着かせながら確認した。
「間違いないのか、それは?」
「照準の制御が停止しています。脳波も覚醒状態を示しています。肉体的な運動能力を取
り戻すのは先でしょうが既に催眠状態は解けていると見て間違いありません」
 幕僚達が呻いた。
「投与した薬物はそう簡単に切れる量ではない。一体何故そんな事が……」
「点滴は挿してあるのだろう?投薬量を増やせばもう一度眠らせられるのではないか?」
「これ以上の投薬増加は生命に危険があります。そこを乗り越えたとしても再びこちらの
指示を聞き分けサイコミュ制御だけが可能な意識レベルを保たせるのは難しいかと思われ
ます」
「ええい、この肝心な時に!これでは何のためにリスクを犯してまで拉致してきたのか判
らないではないか!」
 幕僚の視線がリトマネンに集中した。叛乱軍総司令官はしばし考え、決断した。
「やむをえん。NTによる精密射撃は放棄する。コントロールを艦に移行し、複数オペ
レーターによる通常狙撃に切り替える」
「しかし、それではピンポイントでの目標破壊は困難になります」
「このまま時間が過ぎれば発射のタイミングそのものを失う事にもなりかねん。ピンポイ
ントは無理でも地表にレーザーが届けば相当の被害を与えられる。それでも我が軍の勝利
を宣言するには十分だ」
「では、コントロールをこちらに移動させます」
「発射予定時間は?」
「あと二百九十秒です」
「発射時間に変更はなし。しかしギリギリまで照準は継続だ」
「ハッ」
(持ち堪えてくれ、アラン、オリバー)
 リトマネンはこれまでにないほど、時が早く過ぎる事を願った。



 
421MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/02(月) 02:05:56 ID:7U5xEykw
 マリオンはオリバーに語りかける事をしなかったが、ユウとの会話をオリバーは聞く事
が出来た。それはオリバーの狂気を加速させるに足るものだった。
「何故だ、マリオン……何故僕じゃなくそいつなんだ……」
 嫉妬と憎悪に歪められた思念はしかし、サイコミュと奇形的な相性を示しハンニバルの
出力とファンネルの動きを同時に増幅させた。
 もはや怨念の走狗と化したファンネルがBD‐4に迫り、MS本体も限界以上の出力で
メガ粒子砲を連続発射した。
「むうっ……!」
 ユウにはこの高密度のオールレンジ攻撃に対抗する手段はない。マリーの助けはその負
荷の高さを思えば借りるわけにはいかなかった。致命的な箇所へのダメージを避けながら
確実に反撃を当てていくしかないが、本体は謎のバリアーで守られている。ファンネルを
減らすのがやっとだった。
「お前なんかにマリオンは!OTの癖に!OTの貴様なんかに!僕こそが、NTの僕こそ
がマリオンには!」
 ハンニバルのメガ粒子砲はほとんど途切れる事なく連射され近寄る事も出来ない。ユウ
はライオットガンを速射したが、やはり見えないバリアーに拡散され本体には届かない。
小型ミサイルを撃ち込んでみたが、メガ粒子砲とファンネルに全て叩き落された。
「…………」
 劣勢にあって活路を見出そうと攻防のパターンを見逃さないよう凝視するユウ。しかし
その反応の速さ、弾幕の厚ささらにIフィールドに似て非なるバリアーと隙は見出せない。
「いい加減に落ちろ、ユウ・カジマ!」
 アランがIMBBLを撃ち込んでくる。危うく直撃するところを躱したが、右足の足首
から先が消失した。
「――問題はない!」
 左腕はファンネルの一発を受け大幅に機能を低下させていた。ビームサーベルを掴んで
はいるが、既に満足には振るえない。それに比べれば足首など些細な事だ。
 一方のアランには焦りがあった。オリバーの機体は明らかに異常な高出力を続けている。
それがNTのどのような能力によるものなのか彼には理解できなかったが、機体がこの以
上出力に耐えられないだろうという事は容易に予測がついた。作戦全体を考えればあと五
分弱時間を稼ぐだけだが、オリバーを考えれば一分でも早くこの難敵を撃墜しなければな
らない。
 再びニトロの起動ボタンに指を掛けた時、視界の隅でコロニーレーザーが動き出した。



「大佐、前方からランチが向かって来ます」
 ネェル・アーガマのオペレーターがブライトに伝えた。
「ランチだと?どこからだ」
「敵の旗艦からかと思われます――打電が来ています」
「何と言っている?」
「『コチラハスティーブ・マオ。我、正道ニ目覚メタリ。コレヨリ貴軍二協力ス』だそう
です」
「何を今更……罠なのか?」
 ブライトの不審ももっともだろう。投降ならともかく、たかだか脱出用ランチ一艇で協
力とは何の冗談か。タイミングも明らかに時機を外している。
 トーレスが警告を発した。
「大佐、このコースではコロニーレーザーへの射線軸に入ります。ハイパーメガ粒子砲に
巻き込んでしまいます」
「ったく、目障りな」
 ブライトは舌打ちして通信士にランチにコース変更を命じるよう指示した。
「コロニーレーザーが励起状態に入ります!」
 オペレーターの声が艦橋に緊張を取り戻させた。
422MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/02(月) 02:06:37 ID:7U5xEykw
「何だと!?」
 しまった、読みが甘かったか。ブライトは唇を噛んだ。事実は精密照準にマリーの力を
頼れなくなったため、手動で全長三十kmのコロニーの照準を付けるためにチャージ完了
前に動かしているのだが、どちらにせよ発射時刻が迫っている事をブライトは知った。
「ランチは?コースを変更したのか?」
「まだです。もしかしたら暗号回線のデコーダを持っていないのかもしれません」
「共有回線で呼びかけろ!敵に知られても構わん」
「わかりました」
 あとどれだけ待てる。一分か?三十秒か?一瞬、ランチごと吹き飛ばしても気づかれな
ければ問題ないのではないか、と危険な考えがよぎった。
 そのブライトの目の前でランチをビームが貫いた。
「あぁ!?」
 ビームは操舵室のすぐ後ろに命中していた。出火はしていないが操舵室のウィンドウが
外側に向けて破れ、ダメージがパイロットに及んだ事を想像させた。
「ランチからの応答は!?」
「ありません!通信そのものが切れたようです」
「どこから来たんだ、今のビームは?」
 トーレスの言葉が聞こえたかのように、フランク・カーペンターからの通信が入った。
「申し訳ありません、流れ弾が偶然に――」
「フランク……ええい、話は後だ、ランチから救難信号は出ていないか?」
「何も出ていません。恐らく生存者は……」
「くっ……!!」
「コロニーレーザーが位相を変えています。大佐、このままではシリンダーをまとめて破
壊する事が不可能になります」
 トーレスの報告がブライトに決断させた。
「……やむをえん。ハイパーメガ粒子砲発射シークェンス開始。射線軸上のMSは五秒以
内に退避するよう通達しろ!」
「了解。ハイパーメガ粒子砲発射シークェンス、同時に射線上MSに退避命令を送信しま
す……5、4、3、2、1……」
「てーい!!」
 ブライトの号令に合わせネェル・アーガマ船体に懸架されたハイパーメガ粒子砲から縮
退したミノフスキー粒子の光が迸った。光は直線上の空間を飲み込み、愚行の報いを受け
たランチも巻き込みつつ直径六・四キロ、全長三十キロの円筒に向けて伸びていった。
「命中です!シリンダー二基を大破、一基を中破させました。これでコロニーレーザーの
連射は不可能です!」
 思わず艦橋内に歓声が上がる。ブライトは自分が立ち上がって指揮を執っていたことに
今更気づき、深くシートに身体を沈め深く息を吐いた。
「それにしてもスティーブ・マオと言う男……何を考えて寝返りなど考えたのか。生き永
らえても重犯罪人として一生刑務所は免れなかったろうに。それとも何か取引できるあて
があったのか……」
 しかし、今となっては詮索も無意味だ。それきり、ブライトは木星公社の横領犯の事を
記憶の隅に追いやった。

 フランク・カーペンター大尉はメガ粒子砲がランチもろともコロニーレーザーを排除し
ていく様子を冷めた目で追っていた。そして一言呟いた。
「悪く思うな」
 しかしその言葉は他の誰の耳にも入る事はなかった。

「コロニーレーザーが……!」
 アランはその瞬間、作戦の失敗を悟った。これで唯一にして最大の切り札は失われた。
もはや戦線を維持する価値すらない。しかし再起も出来ないのに撤退する意味もない。後
は一人でも多くの連邦兵を道連れに玉砕していくだけだ。
423MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/02(月) 02:07:34 ID:7U5xEykw
「ま、この十年死に場所を探していたようなものだがな」
 不意にシニカルな感情が沸き起こり、アランは乾いた笑みを浮かべた。これでむしろ考
えがシンプルになった。指揮官ではなく一人の戦士としてこの宇宙最強のエースの一人を
倒し、ユウ・カジマに勝利したパイロットの名誉を得てから死ぬとしよう。
「覚悟しろ、ユウ・カジマ!」
 アランのハンニバルが方天画劇をしごきBD‐4に斬りかかる。オリバーは狂気の中か
ら殺意だけを抽出してファンネルに込め、ユウに襲い掛かる。二次爆発、三次爆発の光が
三機を照らしていた。
 アランの戦闘技量は高かった。少なくともこの場にいる全ての中で、ユウとオリバー以
外に彼を確実に勝利するものはいまい。一年戦争時彼が学徒兵ではなく正規兵として初期
から参加し、ほんの少しの運に恵まれていれば異称を持つエースとなっていただろう。
もっとも、後世に名を残す最後のチャンスとなる戦いでユウと対峙する悪運を見れば、そ
のほんの少しの運が微笑むかは怪しかったが。
 ユウは中間距離からライオットガンでバックショットによる牽制とスラッグショットに
よる一発狙いを交互に織り交ぜていた。
「そんな攻撃で!」
「僕に通じるか!」
 オリバーへの攻撃はバリヤーに、アランへの攻撃は回避され、更にアランからはIMB
BLの反撃を受ける。これはユウも同様に回避した。しかし回避した先にはファンネルが
――。
 しかし、突然ファンネルがコントロールを失い、糸の切れた凧のように彼方へと遠ざか
って行く。
「一体何が!?」
 アランは声に出したが、ユウには理由が判っていた。判っているからこそこの瞬間を待
っていた。
 ファンネルは人間サイズの攻撃端末に推進剤、エネルギーCAPによるビーム発射機構、
サイコミュとの送受信端末を組み込んだ兵器である。当然、サイズ内で収まる推進剤では
稼働時間は短く、コンテナに回収する事でエネルギーと共にリブートを行う。オリバーは
開戦以来ファンネルを展開し続けて戦っており、ユウが到着してからはコンテナ回収もせ
ず全てのファンネルを散布して攻撃していた。推進剤がついに切れ、オリバーの指示に応
答はしても実行が不能になったのである。
「ここだ!」
 ユウはオリバーに向けて反撃に転じた。ファンネルを失ってもハンニバルには全身のメ
ガ粒子砲が残されているが、それだけならば重MSにすぎない。バリヤーを突破さえ出来
れば。それがユウの勝算だった。
「させるか、ユウ・カジマ!」
 アランが間に割って入ろうとニトロに指を掛ける。
(あと一回、あと一回ならまだ耐えられる!)
 BD‐4を上回る加速でユウの前に回りこみ、勢いのままに方天画戟を突き出す。BD
‐4は左腕を上げ防御姿勢を見せるが、画戟は構わずその左腕を貫いた。
「!!」
 左の前腕を貫通した穂先はそのまま左肩も貫き、更にバックパックにまで達した。BD
‐4の左半身が串刺しにされて動きを止める。
 戟はバックパックの左ミサイルポッドのすぐ下に刺さっていた。ユウは素早くミサイル
ポッドをモジュールごと切り離し、誘爆を防ぐ。しかし、パージされたユニットは少し距
離が離れたところで結局爆発し、ユウは背後から爆発による強い衝撃を受けた。
「ユウ・カジマ、死んで俺の仇花となれ!」
424MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/02(月) 02:08:19 ID:7U5xEykw
 そのまま戟を捻り傷口を広げようとするアラン。その戟にMSが逆に押し付けてきた。
「何!?」
 BD‐4は動きを止めてはいなかった。右手に持ったライオットガンが振り上げられて
いた。
「近づきすぎたな、アラン・コンラッド」
 ライオットガンが斜めに振り下ろされ、肩と首の付け根、装甲の隙間に叩き込まれた。
首が不自然な方向に曲がり、コクピットのモニターが暗転した。
「ぐわぁっ!」
 更にもう一撃、今度はもっと垂直に近い角度で振り下ろす。銃身が潰れながらもハンニ
バルの肩にめり込み、引き千切るように裂いた。
 最後に蹴りを放つとハンニバルは踏みとどまる事も出来ず、肩口に銃をめり込ませたま
まコロニーレーザーの方角に飛ばされていった。
 オリバーはアランに一瞥もくれず、ただユウへの攻撃本能だけをむき出しに射撃体勢に
入っていた。
「死ね、ユウ・カジマァァ!」
 ユウは突き刺さった方天画戟を引き抜くと、投槍の要領でオリバー目掛けて投げつけた。
 ビームは全て周囲の見えないバリヤーにかき消されていたが、ミサイルはビームで撃ち
落していたのを見た。あのバリヤーはIフィールド同様ビームにのみ有効なのだ。画戟の
ビームは打ち消されても高速で飛来する正面からは『点』に過ぎない柄ならば届くはず。
 画戟はメガ粒子砲の弾幕を掻い潜り、真直ぐにオリバーのハンニバル目掛けて飛んで
いった。
「よし!」
 しかし、空気抵抗のないはずの宇宙で、方天画戟はハンニバルの手前で急速に失速し―
―ついに停止した。
「何!?」
 ユウほどの男が呆然とその光景に立ち尽くした。これより三年後、アムロ・レイの駆る
νガンダムはフィン・ファンネルの展開するバリヤーによりファンネル本体の侵入を阻止
したが、ユウはその現象の最初の目撃者となったのである。
 ユウは自分の勝機が完全に失われた事を悟った。原理など問題ではない。ビームも質量
物も届かない敵に対し、もはや攻撃手段を考える事が出来なかった。
「勝ったぞ、『戦慄の蒼』!」
 勝利を確信し、コクピット内で雄叫びを上げるオリバー。この瞬間、ついに両者の実力
は逆転した。
 その時、ハンニバルの背後に何かが突き刺さった。ユウの投げた方天画戟より速く、は
るかに巨大な物体が。機体が背中方向へ不自然なまでに反り返り『く』の字に折れた。
「え……?」
 何が起きたか理解できないまま、その衝撃をまともに受けたオリバーの口から血が吐き
出され、バイザーを染めた。
「…………!」
 ユウは何が起きたのかを見ていた。コロニーレーザーの二次爆発によりコロニーの外壁
が剥がれ、それが誘爆した制御用ロケットモーターの爆風に押し出されハンニバルに向
かって飛んできたのである。
 オリバーの能力はこの時歴代最高のNTに比肩するほど研ぎ澄まされていたが、殺気も
敵意も持たない鉄塊を知覚する事は出来なかった。BD‐4が投げた戟を止めたサイコバ
リヤーも相対速度秒速四・八キロ、長辺三十二メートル短辺十六メートルの構造体の運動
エネルギーを食い止める事は出来なかったのである。
 オリバーは震える手をレバーに伸ばし、ユウに向けて止めの一撃を放つべく引鉄に指を
掛けた。サイコミュの一部にダメージが及び脳に転送される映像データにブロックノイズ
が混じった。
「ユウ……カジ……マ、これ……でお…………終わり、だ……」
 引鉄を引いた直後、ハンニバルは爆発した。何故だかその時、ユウはオリバーの顔が見
えた気がした。オリバー自身の力か、マリーを介してか、ユウにオリバーの魂が流れ込ん
できたようだった。その最後の表情が笑顔だった事に、ユウは不思議な確信を持っていた。
425MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/02(月) 02:19:00 ID:7U5xEykw
ここまで


オリバーの最期については、書き始めの時からある程度この形をイメージしていました。
宿敵に勝利を確信し、笑みを浮かべながらしかし実際には止めを刺すことなく絶命する、というのは
デビルマンのシレーヌから着想しています。
理由の一つは夫が幼馴染に止めを刺す瞬間をマリーに見せるのは酷なんじゃないか、と思った事もあります。

オリバーは自分の死に満足していたか、正直僕にも判りません……
426創る名無しに見る名無し:2009/11/02(月) 09:24:40 ID:lj9LkP0o
ああ……オリバー君……

パイロット達の経験や本能を極限まで使った逆転に次ぐ逆転の闘いの勝敗を決めたのが、
偶然突っ込んできた漂流物だったというのが、何とも言えん結末でしたなぁ……
427創る名無しに見る名無し:2009/11/02(月) 19:00:21 ID:y/NgLj51
運も実力のうちと言うが……ううむ
428創る名無しに見る名無し:2009/11/02(月) 19:17:51 ID:b/yqr5/I
こんな設定考えたよ

新機動戦記ガンダム嵐
アイバーガンダム
サクラップガンダム
ガンダムニノ
ガンダムオーノ
MJガンダム

パイロットは嵐の五人

サクラップガンダムにはニュースゼロシステム搭載
429創る名無しに見る名無し:2009/11/02(月) 21:44:47 ID:FIVx1xz0
>>428
なんというやっつけな設定
430創る名無しに見る名無し:2009/11/02(月) 22:46:59 ID:VbP3ZVId
>>427
最期まで運命の女神が微笑んでくれなかったような人生だったんだろうなぁ
431創る名無しに見る名無し:2009/11/02(月) 23:50:50 ID:35joCnwE
新起動戦記ガンダムCOLOR

主人公機:ホワイトガンダム
真っ白でシンプルなガンダム
装備もビームサーベルに頭部バルカン、ビームライフルという標準装備
だが、ペイントという特殊なシステムを持っている
ペイントとは全く異なるウェポンを装備する事で様々な戦闘に対応させるよう作られたシステム(所謂換装)
ウェポンを装備する事で機体の色まで変化する事からその名が付けられた

ウェポン例
ボルケーノウェポン→レッドガンダム
近距離戦闘を得意とするペイント。巨大なソードの様な形状をしたウェポンを腕の甲の部分に装着する。
エクシアが近い形

スカイウェポン→ブルーガンダム
高速戦闘及び空中戦を得意とするペイント。背中に装着するウェポン。誘導型のミサイルが主な武器
ドラグナーが近い形

グランドウェポン→イエローガンダム
重装備型のペイント。体のいたる所にウェポンを装着し、破壊的な火力を持つ
F91(フル装備)が近い形

電童を見て思い付いた

実はこれより先にジムが出来ているという設定。しかも、主人公のメインは上のガンダムではなくジム
ジムに使われていた換装を改造し流用したのがペイント

ジム:主人公達の所属する軍の新型量産機。換装する事で様々な戦い方が可能
主人公のチームに実際の戦闘でのデータ収集も兼ねて先行配備される
また、先行型だけに実験段階のビーム兵器が装備されている
後に量産機にもビーム兵器を搭載したジム・セカンドが登場する
432創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 02:44:22 ID:xy9oJbVh
ついに宿敵を超えたと思った瞬間交通事故みたいな死に方するなんて……
433創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 02:57:36 ID:Kmk+ewgX
ユウ・カジマー!お前は俺のーー!!(爆発)
434創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 08:30:31 ID:RbNoBvM4
機動新戦記ガンダムDDD(トライダガー)
435創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 17:45:48 ID:SE4vpuBp
436創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 22:27:55 ID:xy9oJbVh
>>435
完成したか乙
そして誰からも死を悼まれないマオ哀れw
437MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/05(木) 12:33:18 ID:y02RKl2r
>>435
これはいい
ありがとうございます
438Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/07(土) 11:53:47 ID:Vwi5tAb/
投下開始します
439Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/07(土) 11:55:26 ID:Vwi5tAb/
 バウ・ワウは剰りにも目立ち過ぎた。
 遅れて発進した事で群から逸れてしまった機体は、その外見と相俟って“異質さ”を際立たせていた。

 これは何かある。そう感じたアーロ・ゾットは、パトリア・ジールに意識を集中しさせた。

(あのMSが奴等の切り札か? 解る……あれにはニュータイプが乗っている。しかし、あのプレッシャーは!?)

 パトリア・ジールを守っていたヴァルキュリアスが、それに応じて静かに配置を組み替える。
 ガンダムに紛れて発進していれば、これが特別な機体だと“直ぐには”覚られなかっただろう。

 それが幸いした。

「ここしか無い!」

 マーウォルスのディフェンダーガンダムが光の鎧を纏い、ヴァルキュリアスの警護の手薄になった部分を突いて
パトリア・ジールに突進する。

「……鬱陶しい。能力の無い者が粋がるな。退がれ」

 アーロ・ゾットの冷徹な一言で、ディフェンダーガンダムは強風に押されたかの様に突進速度を落とした。それと
同時に、纏っていた光の鎧が微細な粒子となって砕け散り、プレッシャーが物理的衝撃と共にコクピットの内部まで
伝わる。

「ぐっ……行けぇっ!」

 肺を潰されながらも、マーウォルスは歯を食い縛って叫んだ。光の鎧を剥がされたディフェンダーガンダムの背後
から、サーフボード型シールドに乗ったバウンティハンターガンダムが飛び出す!

「有り難う御座います、大尉!」

 エルンストは標的、パトリア・ジールを見据えながら、礼を言った。しかし、未だ遠過ぎる。彼の行く手を10機もの
ヴァルキュリアスが遮る。
440Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/07(土) 11:57:40 ID:Vwi5tAb/
 エルンスト・ヘル。フルネームはエルンスト=ハインリッヒ=ルトガー・ヘルデンローレ。兄の死後はヘルデンローレ
家の長となる定めだったが、そんな気には全くなれなかった。兄への劣等感から、今の儘では家長の資格は無いと
独り決め込んでいたのだ。
 その彼が自らに課した試練は、兄を倒した“土星の魔王”を仕留める事。しかし、それは失敗に終わってしまった。
これでは、兄が死したからと言って、のうのうと家督を継ぐ事など出来はしない。両親には悪いと思いながらも、生まれ
育った家を去る積もりでいた。

 今……再び兄が散ったアステロイドベルトで戦うと言う、運命の巡り合わせ。それが地球の命運を賭けた戦いなら、
何も言う事は無い。これは神が与え賜うた最後の機会。エルンストは本気で、そう思った。兄を越える。唯それだけの
為に、命を捨てる覚悟だった。

(生きて還れたら、その時こそ、ヘルデンローレを名乗ろう)

 彼は誓いを胸に秘め、バウンティハンターガンダムを駆る。
 前方からヴァルキュリアスが1機、シールドからビームサーベルを突き出して、突進して来る。アーロ・ゾットの能力で、
下手な動きは先読みされ、躱して通り過ぎる事は不可能。
 しかし、いや、“だから”なのか、エルンストは速度を落とさず、進路も変えない!

 ガガン!!

 激突すると思われた瞬間、ミサイル型の影がバウンティハンターガンダムを追い越した。
 それはディフェンダーガンダムの右腕。対ビームコーティングが施された右腕は、ショットランサーの様にプラネイト
ディフェンサーのビームバリアを突き抜け、ヴァルキュリアスに命中。押し退ける。

「これが俺に出来る最後の手助けだ! 後は自力で何とかしろ!」

 マーウォルスはエルンストに向かって叫んだ後、自機に迫り来る3機のヴァルキュリアスと対峙する。

「はい!」

 エルンストは振り返らず、真っ直ぐにパトリア・ジールを睨み付けて応じた。
 残るは9機、今度は2機同時に襲い掛かって来る!

 ヒュン……!

 ビームサーベルの間合いから遠く、約4倍の距離。光の帯がバウンティハンターガンダムの右腕から飛び出し、
ヴァルキュリアスの首に絡み付いた。それはビームの投げ縄。本来ならビームは操られるが……。

「何だ、これは!? D・Iフィールドの干渉を受け付けない……! GF用の擬似ビームか!」

 ビームに触れているにも拘らず、BMSに損傷が無いのを見て、アーロ・ゾットは理解した。
 如何にD・Iフィールドと言えど、その本質は特殊な電磁場に過ぎず、特性の異なる物は操れない。
441創る名無しに見る名無し:2009/11/07(土) 12:01:12 ID:UO0Sk70S
08に勇気要素を加えて再びリメイク
442Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/07(土) 12:01:36 ID:Vwi5tAb/
 首にロープを引っ掛けられたヴァルキュリアスは、迂回し様とするバウンティハンターガンダムに引っ張られて
バランスを崩し、もう1機のヴァルキュリアスと軽く接触する。長く伸びたロープが2機に巻き付き、行動を制限した。

 バウンティハンターガンダムは、その横を通り過ぎた後、ビームロープを切り離す。

 ……カッ!!

 それと同時に不可知のビーム攻撃が浴びせられたが、ABCマントを犠牲に耐えた。
 襤褸切れとなったABCマントを接近して来る4機目に投げ付け、マタドールの様に抜く。
 続いて、5、6機目! サーフボード型シールドを踏み締め、波乗りする様に機体を左右に滑らせる!

 ズバッ!

 ヴァルキュリアスの間を抜ける事は出来たが、避け切れなかったビームサーベルがバウンティハンターガンダムの
右首を掠めた。ぐらぐらと頭部が揺れる。
 センサー類は頭部に集中しており、更に都合の悪い事に、この時代のモビルトレースでは、機体の視界が搭乗者の
視界となる。映像は無線で送られるので、盲目には陥らないが、揺れる視界が直進を困難にする。不安定な首は、
何かの拍子に外れないとも限らない。

 エルンストはモビルトレース対応パイロットスーツのヘルメットを左手で強引に剥ぎ取った。その動きを機体は正確に
トレースし、自ら頭部を毟り取る。それを左脇に抱え、視界を確保。カメラ映像を切り替え、バイザーからコクピットに
映し出す。しかし、これでは左腕を封じられたも同然。

 バシュ、バシュッ!!

 2度、閃光が起こり、バウンティハンターガンダムのビームコートを濯ぎ落とした。高熱に灼かれ、外れた首の部分が
熔け出す。コクピット内にアラームが鳴り響き、コアにまでダメージが及んでいる事を操縦者に報せた。
443Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/07(土) 12:03:17 ID:Vwi5tAb/
 眼前の障害物……ヴァルキュリアスは残り3機。

 1機、サーフボード型シールドを衝突させ、その頭上を飛び越す。
 2機、両脚を斬らせ、背面スラスター全開。
 3機、ここまで来れば、見えなくても構わない。左腕と脇に抱えた頭部を捨てる。
 バウンティハンターガンダムは、胴体と右腕1本を残し、遂に標的パトリア・ジールに手が届く位置まで迫った。
 しかし、バウンティハンターガンダムは、この敵に対して有効な武器を所持していない。ギガンティック・マグナムの
銃弾も、巨大MAの装甲を貫く事は出来ないのだ。残る手段は……。

「見事だ。ここで自爆すれば、パトリア・ジールに傷を負わせる事が出来るだろう。しかし、詰めが甘い……!」

 アーロ・ゾットは、パトリア・ジールの腹部にあるメガ・カノンをバウンティハンターガンダムに向けさせた。
 対ビームマントとコートを失ったバウンティハンターガンダムは、これを耐える事が出来ない。

 ドッ、バァーッ!!

 至近距離。砲口からビームが溢れ出し、避け様も無く、ガンダムを呑み込む……当に、その瞬間! ビームが
バウンティハンターガンダムの右腕に吸い寄せられる!

「何っ!?」

 D・Iフィールドを使うまでもなく、防ぎ様の無い攻撃。そして、外し様の無い距離。これがBMAで、自身が搭乗して
いない事もあり、危機感が薄かった。オールドタイプを相手に、アーロ・ゾットは完全に油断していた。
444Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/07(土) 12:04:43 ID:Vwi5tAb/
「……危険な賭けだった。これで漸く、私はヘルデンローレになれる」

 苦悩から開放されたエルンストは、安らかな笑みを浮かべた。
 バウンティハンターガンダムの右腕には、ビームを吸収して蓄えるキャパシターが内蔵されている。倍の威力で撃ち
返すには、メガ・カノンの威力は剰りに大きかったが、それも彼は判っていた。
 伸ばした右腕が、メガ・カノンの砲口に突っ込まれる。最初から、これを狙っていた。暴発に巻き込んで破壊する!

 ドゴォオオン!!

 閃光が、2機を包み込んだ……。

 全てのヴァルキュリアスが動きを止める。
 爆発に吹き飛ばされ、エルンストの乗ったコア・ランダーが舞う。
 マーウォルスのディフェンダーガンダムが、それを右腕で掴んで回収した。火星軍のエースは、殊勲の英雄の功績を
認め、静かに称える。

「よくやった」

 応答は無かったが、マーウォルスは損傷したコア・ランダーを丁寧に抱えた。エルンストが本当にパトリア・ジールを
仕留めるとは思っていなかった。敵の注意を逸らす役割が果たせれば、それで十分だった。
 エルンスト自身も、仮に自分が失敗しても後に本命が控えていると分かっていたので、迷い無く行けた部分があった。

 腹部から2つに裂けたパトリア・ジールの残骸は宙を漂い、小惑星の重力に引かれ堕ちて行った。
445創る名無しに見る名無し:2009/11/07(土) 12:06:22 ID:Vwi5tAb/
これにて30話完。
446創る名無しに見る名無し:2009/11/09(月) 10:24:03 ID:0Hyx7aPh
熱いぜ、乙!
447創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 22:33:40 ID:MaFZ5eTt
保守
448創る名無しに見る名無し:2009/11/14(土) 09:05:35 ID:/dq0EEUF
age
449Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/15(日) 12:18:32 ID:Fuj5pJvi
そろそろ容量オーバーかな
450Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/15(日) 12:19:32 ID:Fuj5pJvi
「やった……のか?」

 ハロルドはパトリア・ジールが破壊されたのを確認したが、警戒を解かなかった。寧ろ、更に前進速度を上げる。
 BMSの停止はコントロールシステムの切替に因る一時的な物。機体が戦闘不能に陥っても、D・Iフィールドの
機能まで死んでいるとは限らない。その場合は即座に、止めの一撃を加える積もりだった。

「いえ、未だ!」

 プレッシャーを感じ、リリルが叫ぶ。
 静止していたヴァルキュリアスが小惑星の周囲に集まり、ビームバリアを展開。パトリア・ジールの残骸は、ブラック
コスモスの蔦に捕らえられ、その内部へと呑み込まれた。

「……詰めが甘かったのは、私の方だった様だ。しかし、惜しかったな。D・Iフィールド発生装置さえ無事なら、問題は
 無い。天佑は私にあった。この私を一驚させた貴君等の健闘を称え、小惑星要塞の真の姿を御覧に入れよう……。
 後悔するが良い。憖、抗ったばかりに、更なる絶望を味わう事になるのだからな……!」

 アーロ・ゾットを覆っていたコードが解ける。姿を現したのは、金属皮膜に身を包んだ青年。

「目覚めよ、アルティメット! 全てを終わらせる為に!」

 ズガァン!

 小惑星の地表が隆起し、巨大な……剰りに巨大な右腕が突き出る。卵から孵る様に小惑星を砕いて出現したのは、
真っ黒なガンダムの上半身。胸部中央には宝石飾りの様にパトリア・ジールが埋まっている。
 これが要塞の正体、アルティメットサイコガンダム!

 ガオオオオォォン!!

 怨嗟の咆哮は、悪魔の産声。それは衝撃波となって拡がり、アステロイドベルトを震撼させた。
 ヴァルキュリアス以外の機体は全て、塵芥の如く戦域外まで弾き飛ばされる。

「嬉しかろう! 貴様等のガンダムが、地球を滅ぼすのだ!!」

 キイィン!!

 戦意を強制的に高揚させられたアーロ・ゾットは、感極まって溢れる能力を抑えられず、想いの儘に思念を飛ばす。
 アルティメット細胞によって若返ったアーロ・ゾットのニュータイプ能力は、太陽系内を覆い尽くし、そこに住まう全ての
人類にミレーニアの悲劇を伝えた。

「恐れ戦け! 己が罪を自覚せよ!」
451Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/15(日) 12:22:54 ID:Fuj5pJvi
 ペリカンのブリッジで、バージ大佐は激しい頭痛に顔を歪めながら呟く。

「化け物、悪魔……どんな言葉も生温い。あれがニュータイプ? 否、希望と言うには、余りに恐ろしく、そして悲しい」

 人の業を知らせる様に、感情が流れ込んで来る。無残に死んで行った者の嘆きと、過ぎた力に溺れた者の驕り。
己の醜さを鏡に映して見せ付けられている気分になる。遠い過去より、私達は何度同じ事を繰り返すのだろうか?
 哭いているのだ。これは誰かの感情ではなく、皆に共通する想い。アーロ・ゾットは人類の嘆きを繋いでいる。

「……ああ、そうだ。人と人が解り合う希望の未来を願い、何時の日か、何時の日かと言いながら、私達は結局何も
 変えられず、変わる事も出来ずに、こんな時代まで来てしまった……」

 重力に魂を引かれた人間に、革新は起こせない。第2宇宙速度を超えられない者は、惰性に囚われ、同じ所を巡り
続けるのだ。

「アーロ・ゾットよ、貴方が終わらせようと言うのか? 確かに……確かに、貴方なら……」

 常識外れの強大な能力の前には、オールドタイプもニュータイプも無関係で、抗える者など存在しない。第2宇宙
速度を超えられない者が、第4宇宙速度を超え様とする者の相手になる訳が無い。

 虚無に囚われた心に、畏怖すべき者が救いの手を差し伸べる。その能力は“人と”比して余りに大きく、抗う術の
無い事が、恰も天災の様だった。そう、これは避け得ぬ災厄。巨大さの余り、恐怖を通り越して神々しい……!
452Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/15(日) 12:27:27 ID:Fuj5pJvi
(熱い……熱い……!)
「何だ? 頭ん中で声が木霊しやがる……」

 ニュータイプの能力には鈍感なハロルドですら、死者の声を聞いていた。コクピットモニターには、小惑星の映像に
重なって、燃えるミレーニアの幻影が浮かぶ。

「これは……ミレーニアの記憶? 邪魔だな。前が見難い」

 それだけなら未だしも、次第に感覚まで同化し始め、パイロットスーツ内が灼ける様に熱くなる。

「熱っ! こんなの俺に知らせて、どうしようってんだ? 死人は黙って死んでいろ」

 苛立ちを口に出した瞬間、不意に、自分が今まで殺して来た人々の事を思い出し、悪寒が走った。

(死にたくなかった……死にたくなかったのに……)
「仕方無いだろうが! 俺が手前を殺さなかったら、手前が俺を殺していた!」

 心の底から泡沫の様に浮き上がった罪悪感が、恨み声となって纏わり付く。死人に怒鳴っても意味が無い。舌打ちを
したハロルドは、何も聞こえない振りをした。それより、ニュータイプの2人が気に掛かる。

「流星群、変わり無いか!?」
「ああ」

 意外な事に、セイバーの声は落ち着いていた。ニュータイプの彼は、ハロルドより強く感応する筈なのだが……。

「リリル!」
「……大丈夫。あの人が守ってくれている」
(あの人……? ダグ、お前なのか?)

 リリルの答えを聞いたハロルドは、直感的に思った。しかし、オールドタイプの彼には、ダグラスの存在を感じられず、
推測は出来ても、確信を持つには至らない。この時、彼は初めて、少しだけ、自身がニュータイプでない事を呪った。
453Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/15(日) 12:31:24 ID:Fuj5pJvi
 赤いMSが小惑星の望遠機能で明確に捉えられる距離に入った所で、アーロ・ゾットは漸く、その正体に気付いた。

「ガンダムでない!? あれは……バウ・ワウ、ハロルド・ウェザーか!」

 何故を問うより先に敵意を向け、迎撃態勢に入る。問題はオールドタイプのハロルド・ウェザーでは無い。機体から
感じられるプレッシャーだ。

「このプレッシャーはダグラス・タウン……他にニュータイプが2人、残留思念を宿したとでも?」

 バウ・ワウがD・Iフィールド内に飛び込んで来たと同時に、ビーム攻撃を浴びせる。

 バシュ、バシュッ!

 しかし、バウ・ワウはアンバランスな体型ながら、宇宙空間に閃くビームを華麗に避ける。
 その動き、先の読み方を見たアーロ・ゾットは、これがダグラス・タウンであると確信した。

「ダグラス君、死して尚、私を阻むのか……!」

 恐れ半ば、アーロ・ゾットは全体の半数に当たる千機ものヴァルキュリアスを、1機の敵に向ける。

 アーロ・ゾットとダグラス・タウンは、よくチェスをして互いの能力を量り合った。盤上の駒を通した手の読み合いで、
ダグラスが総代表に勝った事は過去1度も無い。しかし、その事実にも拘らず、彼はダグラス・タウンの影を恐れた。

「……この儘では追い詰められる。後、210秒」

 リリルは起こり得る結果を、冷静にハロルドに告げる。先が読める分、読み合いでは勝てない事を判っていた。

「どうするの? 前進速度を緩めれば、未だ避けられるけど……それも直ぐに限界が来る」
「解っている。お前独りに任せっ放しでいる積もりは無い。進められるだけ前に進め」

 少女にはハロルドの考えが全く解らなかった。しかし、彼になら任せられると思う、奇妙な安心感がある。それは
ダグラスの思念が影響しているのかも知れなかった。
454Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/15(日) 12:47:39 ID:Fuj5pJvi
 しかし、セイバーは違う。彼はリリルに聞こえない様、他の回線を閉じてハロルドに訊ねた。

「どうするんだ?」
「元から子供を当てにはしていない。置いて行く」
「子供、子供と言うが、彼女はダグラス・タウンの思念を引き継いでいるんだぞ」

 素っ気無いハロルドの態度に、セイバーは眉を顰め、リリルの能力の正体を明かす。
 セイバーとしては、味方と逸れて出撃する事になってしまったマイナス分を補う為に、リリルの能力を今少し有効に
利用したかった。彼はダグラス・タウンの名を出せば、前進一択のハロルドの考えを変えられると思っていた。

「思念だ? そんなの知るか! 連邦のエース、“蒼碧の流星群”様は子供を頼るのかよ」

 所が、ハロルドは嫌味で返し、本気にしない。
 オールドタイプに、ニュータイプの事は解らないのか……。セイバーは溜息を吐く。

「子供の手を借りたくないからと言って、詰まらない意地を張るな」
「相手は能力者、易い手は読まれるんだよ。解ったら、余計な事には気を回さず、撃ち抜く事だけを考えていろ」

 リリルはダグラスの思念を受けて、彼女が本来持ち得る以上の能力を発揮しているが、確かにハロルドの言う通り、
今のリリルを当てにするのは安直過ぎる。何より、“その”リリルでも読み合いでは勝てない事実がある。
 しかし、上回る事は出来ていないが、あの化け物染みた能力を相手に戦えているのも、また事実。故に、彼女を
外せば、アーロ・ゾットの予測を外す事は出来るだろうが……。

「当初の想定と状況が違い過ぎる。意表を突くだけの奇策では通用しない」
「いや、それで良い。一瞬、0,1秒を奪う」

 ハロルドの声は自信に満ちている。それを聞いたセイバーは、ハロルドが前進を指示し続ける理由を理解した。

「……解った。信じよう」

 セイバーは目を閉じ、精神を研ぎ澄ます。己の役割は、一撃を与える事。他は彼がやってくれる。そう信じた。
455Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/15(日) 12:52:48 ID:Fuj5pJvi
 ヴァルキュリアスの大群と、ビームフラッシュを巧みに避け、バウ・ワウは進む。
 発進直後から土星ロケットエンジン全開で加速した事で、その速度は擦れ違ったヴァルキュリアスが追撃を諦める程。
 傍目には順調に前進を続けている様に見えるが、リリルには行き止まりが見えていた。そこに近付くに連れ、強まり
行くプレッシャー。しかし、ダグラスの思念が危機を伝える事は無く、それが逆に怖くなり、同調の乖離が起こり始める。
不安になったリリルは、堪らずハロルドに訊ねた。

「……何を、する気なの?」
「そろそろ1分を切った頃だな。カウントダウンを始めろ」

 しかし、ハロルドは答えない。リリルは大人しく従うしか無い。ここで迷ったり、躊躇ったりは出来ない。

「56、55、54……」

 益々激しくなるビーム攻撃。ヴァルキュリアスの合間を縫う道が狭まって行く。
 ルートは限られ、行く果てには態とらしい空白。そして今、アルティメットサイコガンダムが、マスドライバーキャノンで
岩石塊を放ち、空白を埋めに掛かった。最早、誰の目にも明らか。“追い込まれて”、“墜とされる”!

 それはリリルがバウ・ワウとの戦いで用いた、ファンネルを使った攻撃と似ている。

(あの時は、バズーカの反動と、ブーストエンジンの加速で乗り切っていた。同じ手を使うの?)

 シールドに取り付けられたスラスターは、その為の物だろうと、リリルは推測した。
 その後はハロルドに合わせる。ダグラスの助力があれば、あの時、自分でも読めなかった、“ガンダムヒマワリと
戦った時のバウ・ワウの動き”が再現出来るかも知れない。

 そうと判れば、不安は幾分和らいだ。自らの声が、刻を報せる。

「10、9、8、7、6……」
「流星群、リリル、衝撃注意! 土星ロケットエンジン、ファイア!」

 ガコン……!

 ハロルドの叫び声と同時に、機体が揺れる。直後、リリルの“背後から”衝撃!

(反動が逆!?)

 違和感を覚えたリリルは、我が目を疑った。巨岩が通り過ぎた後、モニターには炎を噴いて遠ざかるバウ・ワウの
上半身。バウ・ワウは上半身と下半身とに分かれて、岩石塊を避けたのだ。

「ハロルド・ウェザー!! 貴方って人は、どうして……どうして!?」

 余りにナンセンス。リリルは自分が置いて行かれた事が信じられなかった。ダグラスの能力を借りないで、どうやって
化け物ニュータイプを倒すと言うのか!?
456Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/15(日) 13:02:56 ID:Fuj5pJvi
 それは確かにアーロ・ゾットの予測外だった。しかし、これは嬉しい誤算。ダグラス・タウンのプレッシャーと正面から
向き合わずに済むのだから。

「血迷ったか? 彼でなければ、相手にならない。自惚れるな!」

 ヴァルキュリアスで取り囲むか、ビームで墜とすか、岩石を当てるか、料理の仕方は自由。彼は勝利を確信した。
先ずはBMSを動かし……動かし……?

「……ダグラス君、無駄だ」

 BMSは動かない。ダグラスと能力を合わせたリリルが、死力を尽くしてサイコミュ操作を妨害しているのだ。それでも
彼は無駄と言い切れる。ヴァルキュリアスは障害物としての役目を果たせれば良い。高が1機、ビームとマスドライバー
キャノンがあれば事足りる。

(させない……! 絶対に!)

 バウ・ワウに狙いを定めた時、ダグラスの思念と共に、少女の声がアーロ・ゾットに届いた。

「健気だな。その純粋さが、彼の心を呼び寄せたか……」
(ダグラスさん、私に能力を! あの悲しみに満ちた心を止める能力を!)

 敵意とは違う。それは“同情”。人を哀れむ心。

「利いた風な事を……不愉快だぞ! 魂を重ねても、他人に成り代わる事など、出来はしない! 貴様の様な子供に
 何が解る!?」

 彼は激昂し、BMSから逆流して来る思念を拒絶した。
 怒りの言葉と共に、プレッシャーがリリルに伝わり、心臓を圧し潰す。しかし、少女は怯まない。

「解るよ! だって、私はニュータイプだから……!」
「子供がニュータイプを語るか! その何たるかも知らぬ者が!」
「貴方の言う通り、私はニュータイプとは何なのかを知らない……。でも、人の心が解るだけでは半分、自分の心を
 伝えるだけでも半分と、あの人は教えてくれた! 人の心を解ろうとしない貴方は……!」
「小煩い!」

 アーロ・ゾットは苛立ちを顔に表し、リリルの声を無視すると決めた。子供と言い合いをしている場合ではない。今は
バウ・ワウの上半身に集中しなくては……そう思い、意識を向けると、何者かの声が聞こえて来た。
457Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/15(日) 13:07:24 ID:Fuj5pJvi
「どうせ聞かないとは思うが、一応、言っとく。こちらコロニー連合ハロルド・ウェザー特別大佐。元コロニー連合総代表
 アーロ・ゾット、あんたを国家反逆と背任の罪で拘束する。直ちに投降せよ。これ以上抵抗するなら、撃墜も辞さない」
「反逆罪だと!? 誰の命令だ!!」

 彼の知らない所で、何者かが指示を出したのか? 突然の勧告にアーロ・ゾットは驚いたが、ハロルドの答えは至極
簡単な物だった。

「俺が決めた」
「ハロルド・ウェザー!! 貴様、巫山戯ているのか!!」
「いや、本気だ。冗談で命を懸ける程、狂っちゃいない」

 ハロルドの態度は飽くまで冷静で、何処か見下しているかの様にすら感じられる。
 アーロ・ゾットは彼を屈服させるべく、強い思念を送って問い掛けた。

「ダグラス・タウンの仇討ちの積もりか? 底が知れるな」
「関係無い」
「では何故、出て来た? 貴様には解らないのか? 死者の叫びが! 人類の嘆きが!!」
「俺には何も聞こえない。聞く耳も持たない。あんたは地球連邦の強硬派と結託して、ミレーニアを滅ぼした。俺の前に
 ある事実は、それだけだ」
「……オールドタイプが!」

 しかし、ハロルドは伝わって来る感情を無視し、理屈で返す。彼に迷いは無い。
 上半身だけのバウ・ワウは進む。衝撃波に弾き飛ばされたガンダムを追い越して、アルティメットサイコガンダムを
目掛け、真っ直ぐ……真っ直ぐ!!
458創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 13:10:06 ID:Fuj5pJvi
ここまで、31話終。残り30KBくらい。
459MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/17(火) 23:52:02 ID:auoGH45f
蒼の残光 10.「蒼の残光」 救出
460MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/17(火) 23:52:57 ID:auoGH45f
 ユウはコロニーレーザーのコントロールブロックに向かってBD‐4を飛ばせていた。
 機体は左腕が動かず、銃も、剣も、盾すらも失っていた。残された武器は頭部に取り付
けられたバルカンポッドのみ、戦闘力どころか、今の機体では抵抗もままならない姿で、
それでも真直ぐに飛んでいた。
 その前方にザクVが立ち塞がりメガ粒子砲を構えた。ユウはスラスターを逆方向に向け
急ブレーキをかける。どちらに逃げる、右か、左か?
 しかしそのザクVはどこからか飛来したビームに頭部を撃ち抜かれ、更に数発のビーム
で爆散した。ビームの飛んできた方角を見ると片腕のリックディアスがライフルを構えた
ままユウに接近して来ていた。
「中佐、そのまま進んで下さい。目障りなのはこっちでどかします」
「すまない」
 それだけ言うと再び加速した。今更遠慮する意味がない。
 コントロールブロックは巨大な隕石の内部をくり抜いた最大幅一・五キロ程の岩だった。
恐らく資源採掘で破砕された小惑星の破片を改造したものだろう。それを中心に五基のコ
ロニーが同一円周上に配置されていた。
 側面に開けられた連絡艇を発着させるための小さなゲートから内部に侵入し、最深部で
着地した。しかし右を足首から失っている事を失念していたため、バランスを崩して無様
に倒れる。
 舌打ちをして起き上がったユウの顔色が変わった。目の前に肩にライオットガンがめり
込んだままのハンニバルが肩膝を突いた姿勢で待ち構えていた。
 ユウは反射的に遮蔽物となるものを探したが、宇宙艇やMSがスムーズに出入り出来る
事だけを目的にしたスペースに余計なものなど置かれているはずがない。再びハンニバル
に視線を戻したユウは、相手の胸のハッチが開きコクピットが開放されている事に気付い
た。
「……落ち着け、ユウ・カジマ。お前は戦場で取り乱す男ではないはずだ」
 声に出して自分に言い聞かせる。それ自体が異例で取り乱している証拠なのだが、今は
気が急いてその矛盾に気付かない。アランがここに辿り着いた。その事実が結うの不安を
駆り立てた。
「……マリー、迎えに来たぞ。どこに行けばいい?」
 返事はない。ユウは自分もBD‐4から降りて床に着地した。どうやらドアは一つだけ。
ユウは迷わずドアを開けた。
 ドアを出ると廊下が延びている。右か左か。ユウはマリーが自分を呼ぶ声を聞こうと意
識を集中させた。しかし何も聞こえない。ユウは初めて自分がOTである事を恨んだ。
 その時、手首に着けられた酸素センサーが反応した。メーターを見るがヘルメットを脱
げるほどの濃度ではない。つまり空気が抜けているか、逆に漏れ出しているかと言う事で
ある。ユウは腕を伸ばしセンサーを左右に振った。
 もし酸素のある部屋から空気が漏れ出しているのなら、漏れ出す部屋は『風上』になる
はず。その方角さえ判れば……。
 見つけた。
 ユウは右に向かって走り出した。




461MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/17(火) 23:54:14 ID:auoGH45f
 アランは足を引き摺りながらようやく部屋に辿り着き、コンソールにしがみつくように
して身体を支えた。
 もう感覚はほとんどない。足にも手にも力が入らず、ここまで歩いてきたのか、ただ浮
かんで漂ってきたのかもよく判らない。とにかく今目的の場所に着いた事だけは事実だっ
た。
「よし……待ってろ」
 自分の手とは思えないほどに言う事を聞かない両手でコンソールを操作する。のろのろ
と動く指先が必要なキーを叩く。
「……これで、あとは……」
「動くな!」
 アランがすぐに振り向かなかったのは竦んだわけでも、間を取ったわけでもない。身体
を動かすのが億劫だったためだ。
 振り返ると連邦軍エースの証である白いノーマルスーツを着た男が拳銃をこちらに向け
て立っていた。
「ユウ・カジマ?」
「そうだ、アラン・コンラッドか?」
「そうだ、こうして生身で会うのは初めてだな」
 アランはそう言うとコンソール台に寄りかかりながらその場に座りこんだ。ユウの拳銃
はアランの胸を正確に狙い続けている。
 アランは銃には全く関心を示さず、床に腰を下ろすと大きく息を吐いた。
「貴様がここに来たという事は、オリバーは負けたんだな?」
「……いや」
 ユウはそれだけ答えた。あの瞬間ユウにはどんな攻撃手段も残されてはいなかった。対
するNTはメガ粒子砲を自分に向けていた。勝負は完全に決していた。
 戦場で勝者とは生き残った人間を言う。だからユウは自分が負けたと言うつもりはない。
しかし同時に、自分の勝利と認める事はこの後も生涯なかった。
「強いなあ、お前は」
 アランはユウの返答を無視して言葉を続けた。
「何者なんだ、お前は?NTの判定テストは何度も行われた事は知っている。そして全て
の結果がOTだった事も。しかし現実にお前はサイコミュ積んだNT相手に常に互角以上
に戦った。どうなっている?なぜそこまで強い」
 ユウは答えなかった。自分にも判らなかったからだ。ユウは質問で返した。
「そこで何をしていた?」
「……ま、最後の手段、と言うところか」
 それ以上は答えない。ユウはゆっくりとアランに近づいていった。
「もう無駄だ。勝敗は決したぞ」
「だろうな」
 あっさりと認めた。
「これ以上何をしても無駄な死体を増やすだけだ。それも軍人ではないただの市民をだ」
「判ってるさ、そんな事。だが何も出来ずに終われば、俺たちは何だ?」
 アランの声は自嘲の笑いが含まれていた。
「俺はこの十年、死ぬ事も元の生活に戻る事も出来ないまま生きてきた。今はもう普通の
市民に戻る事は諦めたが、だからと言って宇宙の片隅で朽ち果てたいわけでもない。これ
は俺達にとっても死に場所なんだよ。何か俺達がジオンの理想を実現するために戦った証
が欲しいんだ。そのために無辜の市民を犠牲にする罪は判っているが、それは地獄で詫び
る事にする」
 アランはユウを見つめた。
「ユウ・カジマ、お前はどうなんだ。それほどの力を持ちながら、ただ上層部(うえ)か
ら便利に使われる生き方に疑問はないのか?お前が守るものはその力に相応しい守るに足
るものと胸を張れるのか?」
462MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/17(火) 23:54:56 ID:auoGH45f
「軍人が守るのは秩序と人命だ」
 ユウは目を逸らさずに答えた。
「理想や未来を守るんじゃない、慎ましくても現実に手に入れている幸福を、未来に繋が
る現在を守るのが俺の仕事だ。お前達の理想や理念が正しいのかどうかは知らない。だが、
お前達に殺される地球の市民は決してお前達の理想を支持する事はない。彼らの命と現在
の生活を守れるなら、俺はそれが守るに値しないものだとは思わない」
「……面白くない答だ。だが、本心で言っているようだな」
 アランはそう皮肉混じりに評した。ユウは次に本当なら一番に訊きたい質問をした。
「マリーはどこにいる?」
 アランは少し目を見開いた。質問の意味が判らなかったらしい。しかしすぐにもとの顔
貌に戻ると、首を左に振った。
「あんたの女房ならそこにいる」
 ユウはその時初めて、カプセル状の機器がそこに設置されている事に気付いた。カプセ
ルは人間が入る大きさで、そこからケーブルが延びているのが見えた。
「マリーと呼んでいるのか」
 アランが言った。ユウは答えた。
「そうだ。マリー・ウィリアムズ・カジマ。俺の妻だ」
「そうか……今はそんな名前なのか」
 アランは感慨深げにユウの口にした名前を口の中で繰り返し、そしてまたユウに話しか
けた。
「もう知っているかもしれないが、その娘の名前は昔からマリーだったわけじゃない。昔
はマリオン・ウエルチと名乗っていた」
「…………」
 アランが軽く声をあげて笑った。
「この場で俺が保証してやろう。彼女は俺達の今の仲間じゃない。俺やオリバーは今まで
何度もマリオンの消息を探したが、居場所を知ったのはここ一週間の話だ。誰の仕業か知
らないが、よくここまで完璧にマリオン・ウエルチとしての過去を消し去ったもんだよ」
 それからアランは再び笑った。
「感情の読み取れない男と聞いていたが、それは嘘だったようだな。安堵がはっきり顔に
出てるぞ」
 ユウは反射的に口元を手で覆った。
「……彼女を愛しているか」
「もちろんだ」
「即答とはな。あの娘は今お前と一緒にいて笑っているか?」
「――笑っている」
 ユウ自身、なぜ素直に答えているのか判らない。もしかしたらこのジオン残党の声に、
心からマリーの幸福を願う響きを感じ取っているのかもしれない。
「そうか。いい笑顔をするだろう?」
「ああ。それによく気のつく女だ」
「……そうだった、よく気のつく娘だったな」
 懐かしそうにアランは言った。思い出に浸るように目を閉じた。
「昔からそうだった。研究所でもいつも年少の子供達の世話を焼いていたっけ。……いつ
も周囲の幸せを願っていた……だから俺は、彼女の幸せを……」
 ユウはアランの声が途切れてからもなお銃口を向け続けた。しかし相手が死出の旅路に
就いた事を確認すると、短く敬礼をしてカプセルに近づいていった。
463MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/17(火) 23:55:44 ID:auoGH45f

 ユウがカプセルのカバーに手をかけると、何のセキュリティもなく開いた。
「マリー、……マリー!」
 恐怖と共に妻の名前を呼ぶユウ。まさか、遅かったという事は――。
 マリーが目を開いた。
「ユ……ウ?」
「マリー!」
 ユウがホッと息を吐く。
「ユウ……私……」
「もう大丈夫だ、帰ろう。立てるか?」
 ユウが支えてマリーがカプセルから出てくる。消耗してはいるが、意識はしっかりして
いるようだ。
「――アランも逝ってしまったのね……」
「……最後までお前を案じていた。知り合いだったのだな」
「ごめんなさい……」
「いい。その話は老後の楽しみにとっておこう」
 ユウはマリーの言葉を遮った。
「さあ、帰るぞ」
 ユウに促されたマリーの足が突然止まった。
「どうした?」
「ユ……ユウ!コロニーが……!」
「コロニー?……!」
 ユウの頭脳が夫から軍人のそれに切り替わった。自分がアランを見た時、奴は何をして
いた?コンソールの前で何を操作していた?最後の手段と言っていた。レーザーをほとん
ど潰されてまだ何が出来る?
 ユウはコンソールの奥の壁に投影されるディスプレイモニタを見た。
 半壊したコロニーレーザーが二基、地球に向かって落下を始めていた。
464MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/11/18(水) 00:07:12 ID:mIr39X5n
ここまで



初期設定ではアランもNTでした。NTとして高い力を持ちながらNT専用機の不足からやむなく
ドーベンウルフに乗っていると言う設定で、インコムが四基に増やされていたのもNTの力でOSの
力不足をカバーしている予定でした。

没にしたのはアクシズ本体もNT不足なのにこんな途中離脱に2人もNTがいるのはありえるのか?
という疑問があったから。そのせいでユウとオリバーが戦うと別次元の戦いに入っていけない事になりました。

でも彼の死のシーンも書き始めた時からイメージしていた形に収まっています。オリバーもギドも壮絶なので
彼だけは眠るように逝くようにしたかったので、まあ、なんとかそういう形に出来たかな。

次回、最後の攻防。ユウは活躍しませんw
465創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 17:54:54 ID:2WAQRWgo
>ユウは活躍しませんw

なん…だと…!?
466創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 06:05:03 ID:ZUCQabKc
機動戦士ガンダムSEEDエターニア
主人公:ヴェスペリアガンダム→エターニアガンダム
ヒロイン 可変式Zプラスみたいなの
仲間 ゲルググメサイアー
仲間2 ジムネクサススナイパーズカスタム
467創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 18:10:53 ID:g+oW2aYo
>>466
その昔、機動創聖記というのがあったのを思い出した
あれどうなったのかなあ

そろそろ容量が一杯になるっぽいので次スレ立ててみます
テンプレは>>1のままでおk?
468創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 19:21:07 ID:43rFkLuE
特にテンプレの変更は無しで良さそう
頼む
469創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 22:15:16 ID:g+oW2aYo
ではチャレンジしてみましょう
470創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 22:24:58 ID:g+oW2aYo
次スレは無事に立ちました
テンプレちょっと変えてみました

だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ4
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1258723294/
471Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/22(日) 11:46:17 ID:hrG/VpQm
埋めに掛かります
472Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/22(日) 11:47:56 ID:hrG/VpQm
 ハロルド・ウェザーとアーロ・ゾットは最早、互いに語る言葉を持たなかった。いや、初めから話さなければならない
事など無かった。為すべき事は一つ、眼前の障害を排除するのみ。

 整然と並んで動かないヴァルキュリアスの間隙を縫い、バウ・ワウは加速し続ける。機体をローリングさせながら、
回転する左腕シールドに取り付けられた多数のスラスターを器用に扱い、可能な限り速度を上げる。

 動かないヴァルキュリアスがマスドライバーキャノンの射線を遮っている上に、バウ・ワウは高速で移動している為、
狙撃が非常に困難。その姿を目で確認してからでは遅い。しかし、アーロ・ゾットには“見えていた”。

「如何に操縦技術が優れてい様が、所詮はオールドタイプ。思い知れ、これがニュータイプの能力だ!」

 ドドドドドドォッ!!

 幾つもの光球がバウ・ワウの行く先を示す様に出現した。哀れ、バウ・ワウは高速で移動しているが故に、急には
進路を変えて避ける事が出来ず、ビームの塊に突っ込んで行く。機体の赤いビームコートは、光球を潜る度に薄れ、
下地の黄土色が透けて山吹色になった。

 ハロルドはアーロ・ゾットの予測を外そうと、何度も移動ルートを変更したが、光球は的確に進路を塞ぐ。遂に、機体の
分厚いビームコートは完全に剥げ、バウ・ワウは黄土色の姿を曝露させられた。
 これ以上ビームを耐える事は出来ないが、アルティメットサイコガンダムは未だ遠い……。

「燃え尽きろ……!」

 止めの光球は、一際大きく、そして眩く輝き、バウ・ワウを待ち構える。呑み込まれたが最後、跡形も残らず消滅する
だろう。これを目にして、逃れる術は無い。回避は、間に合わない。

 ボン……!

 刹那の出来事だった。
473Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/22(日) 11:49:59 ID:hrG/VpQm
 バウ・ワウは光球から僅かに逸れ、ヴァルキュリアスに接触。小規模な爆発を起こした。
 一体何が起こったのか、ハロルド以外に判った者は居なかった。

 急造でシールドに取り付けられたスラスターが、繰り返し浴びせられるビームの高熱に耐え切れず、外れてしまった
のだ。ハロルドは、この“事故”が起こる事を期待していた。
 バランスの悪い機体を制御する為に、シールドのスラスターは欠かせない。故に、外れた時には予測される進路を
大きく逸れて、明後日の方向に飛んで行ってしまう。しかも、何時起きるか誰にも判らない。当のハロルドにすら、“対
ビームコーティングが弱まった後”と言う事くらいしか……。

 進路を逸れたバウ・ワウは、ヴァルキュリアスに向かって行った。“ハロルドにとっては”、不運な出来事と言える。
正面衝突を避けても、接触は免れない。しかし、不幸中の幸いか、“バウ・ワウの”加速は既に十分だった。

「撃ち抜けーっ!! 流星群!!」

 幸運か、実力か? 何れにせよ、奪った“一瞬”。アルティメットサイコガンダムの胸部に輝く、黄金色のパトリア・
ジールへの道は、ヴァルキュリアスの背後に“真っ直ぐ”見えていた。
 距離にして、約10万km。0,1秒、反応を遅らせれば、十分に足りる。その為の加速だったのだから……。

 小規模な爆発の正体は、威力調整されたグレネード。ハロルドはヴァルキュリアスと接触する寸前に、バウ・ワウの
右腕を前方……ヴァルキュリアスの肩を越えて、その背後に伸ばし、ΖU]を拘束から解き放った。
 爆発の後押しを受け、ΖU]は更に加速する。連邦軍最速の機体は、バウ・ワウの2段ロケットと、自身の速度を
足して、光速に迫った。

 精神を極限まで研ぎ澄ませていたセイバーは、半トランス状態で、夢とも現実とも付かない、奇妙な物を見ていた。
恨みの叫びを上げていた死者の魂が、怨念から開放され、彼の進む道を拓いているのだ。
 ダグラス、ミレーニアの人々、X隊、マッセン、連邦軍兵士、コロニー連合軍兵士、死者だけではない……リリル、
エルンスト、マーウォルス、ゴートヘッズ、ペリカンの乗組員、ヴァンダルジアの乗組員、この戦いを知る者の祈りが、
セイバーを導いている。人の想いを乗せて翔ぶ、その名はガンダム。彼は無意識に呟いていた。

「これが、ガンダム……」

 アーロ・ゾットが切り離されたΖU]に気付いた時には、既に遅かった。ビームですらΖU]には追い着けず、
防御する暇も無い。
 ΖU]の本体ジェネレーターに直結したメガライフルから伸びるビームが、D・Iフィールドによって巨大な剣となる。
アーロ・ゾットの驚異的な能力を以ってしても、“瞬きの間に”、意志の刃を折る事は出来ない。それ所か、ΖU]の
D・Iフィールドは、アルティメットサイコガンダムやヴァルキュリアスが撒き散らした周囲のビーム粒子を吸い寄せ、
更に巨大な物となって行く!

 ズバァーッ!!

 100kmに及ぶ長大なビームの剣がパトリア・ジールを貫き、D・Iフィールド発生装置を破壊した。
 アルティメットサイコガンダムを突き抜けたΖU]は、緩やかに速度を落とす。
 激しい疲労感に襲われたセイバーは、力無く笑みを浮かべてハロルドに感謝した。彼の御蔭で、セイバーは剣状の
D・Iフィールド形成に集中する事が出来た。

「アーロ・ゾット、孤高の王よ……。貴方の敗因は、独りだった事だ……」

 時が止まった様に、敵味方問わず、全ての機体が動きを止める。
 惰性で漂うΖU]を、端の潰れたバウ・ワウ・アタッカーが回収した。
474Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/22(日) 11:54:51 ID:hrG/VpQm
 ……しかし、勝利の余韻に浸るには、未だ早過ぎた。悍ましいプレッシャーに、虚空が震える。

 ガアアアアア!! グオオオオオ!!

 アルティメットサイコガンダムは死んでいない。再び、宙域一帯に衝撃波が走り、ヴァルキュリアスが動き出す。D・I
フィールド発生装置を破壊されたのみで、コアは未だ活きている!

「好い加減、しつこいぜ……簡単には終わらせないってか? 流星群、リリル!」

 ハロルドは退却しながら2人のニュータイプに呼び掛けたが、応答は無い。
 2人は能力の酷使で、気を失う程に消耗していたのだ。

「チッ、だらしない奴等だ」

 バウ・ワウ・アタッカーは下半身とΖU]を両手に提げ、ペリカンに帰艦。
 ハロルドは通信でD・Iフィールド発生装置の破壊に成功した事をバージ大佐に伝え、総攻撃を掛ける様に要請した。

 バウ・ワウが格納庫に入ると、F1のピットイン宛らヴァンダルジアの整備班員が機体を取り囲み、透かさず補修に
取り掛かる。味方機のリペアをしていたペリカンの整備士は思わず、鬼だと零した。
 激闘と大役を終えたばかりの英雄を、息吐く間も無く戦場に送り返そうと言うのだ。鬼でなければ、悪魔か……?
しかし、ここには本当の悪魔、“魔王”が居た。

「医務班! 薬寄越せ、薬ーっ!」

 頭部コクピットから身を乗り出して、向精神薬を要求するハロルド。ヘルメットを外した彼の顔には、至る所に紫色の
痣が出来ている。急激な加速や方向転換の繰り返し、更にヴァルキュリアスと接触した衝撃で、内出血を起こしたのだ。
自身の凄惨な容姿には気付かず、大声で指示を飛ばす様は、気絶して運び出されるリリル、グロッキーで声を返すのが
精一杯のセイバーとは対照的。

「ビームコートは掛け直さなくて良い! シールドを付け替えろ! 後はサーベルとライフル!」

 ハロルドはプロペラントの補給が済んだのを確認すると、メットを被り直し、コクピットハッチを閉めた。
 帰艦してから10分と経たない内に、再出撃しようと言うのだ。この上司にして、この部下あり。成る程、彼は“土星の
魔王”であると、ペリカンの乗組員等は肯いた。

 バウ・ワウ・アタッカーのコクピットで、ハロルドはナッターのコントロールを無線に切り替える。視界の片隅に映った
無人の機体が寂しく見え、彼は小さく息を吐いた後、微かな笑みを浮かべて呼び掛けた。

「一緒に飛ぼうぜ、相棒の相棒。ラストフライトだ」

 ペリカンの格納庫から並んで翔び発つ、黄土色のアタッカーと赤錆色のナッター。合体したバウ・ワウは、色違いの
上半身と下半身で小惑星へと向かう。
 バウ・ワウがビームサーベルを高く振り上げると、刃から粒子が散り、尾を引いてフラッグとなった。これはハロルドが
突撃隊の先鋒として出陣する際の定型行動である。多数のMS、MAを率いて現れる、この黄土色の機体を、連邦軍は
“土星の魔王”と渾名した。
 サーベルフラッグを靡かせ、ビームライトが乱れ飛ぶ戦場を突っ切る姿は、敵味方の注目を集める。コロニー連合軍
の黄土色のMS。あれが、あれこそが、“土星の魔王”!
475Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/22(日) 13:10:31 ID:hrG/VpQm
 D・Iフィールドを失っても、アーロ・ゾットの優位は揺らがない。MS数から見た戦力差は10倍近く、これに戦艦が
加わったとしても、焼け石に水。連邦軍に小惑星を止める事は出来ない……筈だった。

「最強の矛と盾を揃えようが、手前等には機動力が足りんのよ!」

 バウ・ワウは対ビームコーティングが施された盾で、プラネイトディフェンサーのバリアを突き破り、メガ粒子砲を発射。
ヴァルキュリアスに直接、ビームを浴びせる。ほんの一瞬、敵方の防御陣形が崩れた隙を逃さず、土星ロケットエンジン
全開。小惑星表面に取り付き、ライフルの連射でブラックコスモスを蹂躙する。
 ハロルド・ウェザーは魔王の名に相応しい働きを見せた。

「どうした連邦兵共! 付いて来いっ!」

 “土星の魔王”の存在が、連邦兵の闘志を焚き付ける。故郷を守る戦いを、他星人に任せては居られないと!

「ここが勝負の岐れ目だ! 後れを取るな! 火星軍の意地を見せろ!」

 マーウォルスは怒声混じりで味方に発破を掛けながら、心内で密かに思った。

(……地球の連中が“魔王”と名付けた訳だ)

 士気の高まった連邦火星軍は、ハロルドに続いて猛攻撃を開始する。ペリカンの格納庫で再出撃の準備をしながら、
その様子を見ていたセイバーは、悲し気に呟いた。

「あの巨大なガンダムは、アーロ・ゾットを象徴しているかの様だ……」

 偉大な総代表はアルティメットサイコガンダム。総代表に付き従う人間はヴァルキュリアス。BMSは決して主人に
逆らわない。強大な能力故に、彼は人に囲まれながらも孤独だったのだろう……。
 セイバーは交戟の瞬間、アーロ・ゾットの心に触れていた。彼は解り合えない人々の悲哀を、人類の嘆きと言った。
それが嘘だとは思わないが、発せられた感情の底流には、別の感情があった。それは“孤独”。哭いていたのは、
他の誰でもない、アーロ・ゾット自身なのだ。彼は独りを嘆いていた。“人”が自分に追い着かない事を、嘆いていた。

「“悲しい人”、か……」

 高い能力を持つ者が、全く能力の無い者に圧されている。能力故に……。
 アーロ・ゾットの能力は、余りに高過ぎたのだ。
476Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/11/22(日) 13:13:57 ID:hrG/VpQm
 それでも冷静に見れば、双方は拮抗戦を繰り広げていたが、数の優勢にも拘らず攻め切れないアーロ・ゾットは
息苦しい圧迫感を覚えていた。僅かな攻防の波の押し引きにも過敏になる。
 ここは一旦、攻撃の手を緩めて防衛に専念し、BMSの数を増やして、反転攻勢に出たい所だが、今は現状維持が
ベターな選択。短時間でも守りに回れば、敵を勢い付かせてしまう可能性がある。押し切られては元も子も無い。

 この様な状況に陥った全ての元凶は、ハロルド・ウェザー。彼を始末しなければ、惑星パイルアップ計画の成否に
係わる。アーロ・ゾットは、そんな気がしてならなかった。不確定要素は排除したい。しかし……しかし!

「何故だ!! 何故、奴の動きが読めない!? ダグラス・タウンのプレッシャーは既に消えていると言うのに!!」

 彼は自身の状態を客観的に判断出来ない程に疲弊していた。如何に強大な能力を持つニュータイプと言えど、一人
の人間。限界は来るのだ。アーロ・ゾットは飛び回るバウ・ワウを睨み、恨みがましく吠える。最早、彼は怨念のみで
全ての機能を動かしていた。

「ハロルド・ウェザー! オールドタイプ! 貴様も重力に魂惹かれ、青い星の虜になったか!?」

 強い思念波が届き、脳を絞られる様な苦痛がハロルドを襲う。

「地球の重力に引かれてんのは、あんたの方だろうが! 自分の様を、よくよく思い返してみろ!」

 怒鳴り返す彼は、回線を開いている訳でも無いのに声が響いて来る事を、疑問に思わなくなっていた。
 土星生まれのハロルドにとって、地球は巨大コロニーと変わらない。土星、木星に比して、地球は小さ過ぎる。
地球人ではないハロルド・ウェザーに、新旧の区切りは当て嵌まらない。それがアーロ・ゾットには解らない。

「何故、何故、奴は私の前に立つ? 私は奴に敗れるのか? 私が、ニュータイプが、オールドタイプに……!」
「年寄りが! 張り切り過ぎたんだよ!」
「私がオールドだと!?」
「ああ、オールドの中のオールドさ! 年寄りは人の話を聞かなくていけねえ!」

 ハロルドはアーロ・ゾットの息の根を止めるべく、ダグラスが暴いた小惑星内部への入り口に飛び込んだ。
477創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 13:17:01 ID:hrG/VpQm
32話終わる。これで放って置けば落ちるはず。
478創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 22:49:07 ID:S4SYSir3
この2作品がスレの中心だったから終わる雰囲気に物寂しさを感じるぜ
本当に乙
479創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 07:49:06 ID:KdUGrI84

2つが終わったら今以上に過疎るんだろうか…
メモ帳の習作を完成させるか
480創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 21:46:25 ID:4xVcVfER
 ガンダム、それは特別なモビルスーツの名前。
 ガンダム、それは伝説にして神話。
 ガンダム、それはあなた、そしてわたし。
「――尉、立ちたまえ少尉! 立て……立てぇ、エンテ=ミンテ!」
 マイクへ唾を飛ばす絶叫に、エンテの意識は浮き上がった。
 同時に四肢を走る神経へ電流が閃いて、手の感覚がアームレイカーを手繰る。明滅する
オールビューモニターは、重度のダメージにひび割れていた。その中央に歪んで映る敵が、
ゆらりと身を起こす。
 鋼の巨人達がぶつかり合う、月の海は今日も凪いでいた。
「大佐、私は何時間位、気を――」
「ものの数秒だ。もっとも、それが命取りになる」
「評価試験の方は」
「続いている。私が終らせんよ……黒歴史の研究はまだ、はじまったばかりだ」
 シミュレーターは未だ、黒歴史を、その一部を完全に再現していた。人類が紡いできた
闘争の歴史……その影に葬られた、数多のモビルスーツ達。月の女王がエンテ達へ命じた
任務は、その全容を明らかにする事。
 そしてそこから、学ぶこと。
 エンテは無言でダメージをチェックし終えると、大の字に伏した乗機にムチを入れる。
軽い震動と共にバーニアを吹かしながら、金色の巨躯が立ち上がった。増設された装甲が
次々とパージされ、地平線の彼方に昇る地球光に煌く。
「さあ、ガンダム。私は身軽になったぞ……百年でも二百年でも戦える。こいっ!」
 黄金の秋を髣髴とさせるモビルスーツの中心で、身を声にしてエンテは吼えた。
 ――遥か太古の昔、ある一人の男が一機のモビルスーツに夢を託した。百年間ずっと、
豊穣の黄昏に輝く機体を作ろう、と。それが今、数字の羅列として黒歴史から抽出され、
改良型としてシミュレーター上に再現されている。
 フルアーマーシステムを排除した百式改に、エンテはビームサーベルを握らせた。
「少尉、もうあまり余裕がない。次の評価試験が迫っているのだ」
「了解。……むっ」
 強張る痩身をシートへ押し込み、エンテは短く唸った。
 今や虚空に浮かぶ巨大な地球を背に、ガンダムもまた装甲を脱ぎ捨てる。紅白の彩りが、
次々と砂埃を上げて月面に舞った。背のプロペラントも、肩のバインダーもかなぐり捨て、
ガンダムもビームサーベルを抜くや半身に構える。
 その機体は灰色一色に塗り潰されていた。まるで暗く寒い冬のよう。
「うーん……」
「どうした、少尉?」
「いえ、やはりガンダムは白くなくては。そう、淡雪のように白く……」
「ええいっ! ごたくはいいっ、早くあれを……ガンダムMk3を撃墜してみせろっ」
 了解を呟くエンテの、桜色の唇が僅かにほころぶ。
 対峙する二機のモビルスーツは、同時に握る光剣にビームの刃を発振させた。お互いに
牽制するように、じりじりと時計回りに歩を進める。汗に濡れた肌がパイロットスーツに
吸い付き、滲む不快感……しかしエンテは、集中力を切らす事無く距離を詰める。
 ひりつくような緊張感が、弾けた。
「――っ! おおおっ! ユニバァァァァスッ!」
 地を蹴る巨体が加速する。振りかぶるビームサーベルが、一際眩く輝く。
 二体の巨人は、真空の宇宙に作動音を響かせ激突した。抉られた機体が幾重にも爆ぜて、
互いに相手へ寄りかかるように崩れ落ち……沈黙。
 瞬間、シミュレーションが停止してエンテは長い溜息を吐き出した。
 ガンダムMk3との戦いは終った……しかしそれは、新たなはじまりに過ぎない。
「少尉、御苦労……と、言いたいところだがっ! 相打ちではないかっ!」
 ヘルメットを脱ぎつつ、ハッチを開放してシミュレーターから這い出たエンテへと、
上官の怒声が浴びせられる。思わずはなじろんだが、エンテは僅かに頬を緩ませる。
 長い黒髪をかきあげれば、くすりと笑みが零れた。
「大佐が急げと仰るので。手早く片付けましたが……次、よろしいので?」
「ええい、相変わらず口の減らないっ! 次だ、続けて次の評価試験を開始する!」
 慌しくなる周囲の中、エンテは湯気をあげる大佐の背中に舌を出した。
481創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 21:47:38 ID:4xVcVfER
埋め記念カキコ、職人様方お疲れ様です。
クライマックスへ向けて、頑張ってくださいませ。
482創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 20:30:11 ID:R3EhD7Ij
GJ
シミュレータとはいえ連戦は辛いと思うんだが
自ら申し出るあたり何という鉄人
483創る名無しに見る名無し
Mk-IIIとかたまらん